ギャルゲ・ロワイヤル 作品投下スレ2

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1名無しくん、、、好きです。。。
ここは、「ギャルゲーキャラでバトルロワイヤルをしよう」というテーマの下、
リレー形式で書かれた作品を投下するための専用スレです。


投下前の予約はしたらば掲示板の予約スレで行なってください。

ギャルゲロワ専用したらば掲示板
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/8775/


作品に対する批評感想、投下宣言は雑談感想スレで行なってください。

現行の雑談感想スレ:ギャルゲ・ロワイアル感想雑談スレ2http://game12.2ch.net/test/read.cgi/gal/1175240775/

基本ルールその他は>>2以降を参照してください。
sage進行でお願いします。
2参加者リスト:2007/04/14(土) 21:00:11 ID:2iOHNwza
5/6【うたわれるもの 散りゆくものへの子守唄】
  ○ハクオロ?/●エルルゥ/○アルルゥ?/○オボロ?/○トウカ?/○カルラ?
3/3【AIR】
  ○国崎往人/○神尾観鈴?/○遠野美凪?
3/3【永遠のアセリア −この大地の果てで−】
  ○高嶺悠人?/○アセリア?/○エスペリア? 
2/2【Ever17 -the out of infinity-】
  ○倉成武?/○小町つぐみ?
2/2【乙女はお姉さまに恋してる】
  ○宮小路瑞穂/○厳島貴子?
6/6【Kanon】
  ○相沢祐一?/○月宮あゆ?/○水瀬名雪?/○川澄舞?/○倉田佐祐理?/○北川潤?
4/4【君が望む永遠】
  ○鳴海孝之?/○涼宮遙?/○涼宮茜?/○大空寺あゆ?
2/2【キミキス】
  ○水澤摩央?/○二見瑛理子?
5/6【CLANNAD】
  ○岡崎朋也?/○一ノ瀬ことみ?/○坂上智代?/○伊吹風子?/●藤林杏?/○春原陽平?
4/4【Sister Princess】
  ○衛/○咲耶/○千影?/○四葉? 
4/4【SHUFFLE! ON THE STAGE】
  ○土見稟?/○ネリネ?/○芙蓉楓?/○時雨亜沙? 
5/5【D.C.P.S.】
  ○朝倉純一?/○朝倉音夢?/○芳乃さくら?/○白河ことり?/○杉並?
7/7【つよきす -Mighty Heart-】
  ○対馬レオ?/○鉄乙女?/○蟹沢きぬ?/○霧夜エリカ?/○佐藤良美?/○伊達スバル?/○土永さん?
6/6【ひぐらしのなく頃に 祭】
  ○前原圭一?/●竜宮レナ?/○古手梨花?/○園崎詩音?/○大石蔵人?/○赤坂衛?
3/3【フタコイ オルタナティブ 恋と少女とマシンガン】
  ○双葉恋太郎?/○白鐘沙羅?/●白鐘双樹?
【残り59/63名】 (○=生存 ●=死亡)
3参加者リスト:2007/04/14(土) 21:00:52 ID:2iOHNwza
【基本ルール】
 全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
 勝者のみ元の世界に帰ることができる。
 ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
 ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される。
 プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。

【スタート時の持ち物】
 プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
 ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
 また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
 ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を支給され、「デイパック」にまとめられている。
 「地図」「コンパス」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「ランタン」「ランダムアイテム」
 「デイパック」→他の荷物を運ぶための小さいリュック。詳しくは別項参照。
 「地図」 → 舞台である島の地図と、禁止エリアを判別するための境界線と座標が記されている。
 「コンパス」 → 安っぽい普通のコンパス。東西南北がわかる。
 「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
 「水と食料」 → 通常の成人男性で二日分。
 「名簿」→全ての参加キャラの名前のみが羅列されている。写真はなし。
 「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
 「ランタン」 → 暗闇を照らすことができる。
 「ランダムアイテム」 → 何かのアイテムが1〜3個入っている。内容はランダム。

【禁止エリアについて】
放送から2時間後、4時間後に1エリアずつ禁止エリアとなる。
禁止エリアはゲーム終了まで解除されない。

【放送について】
0:00、6:00、12:00、18:00
以上の時間に運営者が禁止エリアと死亡者、残り人数の発表を行う。
基本的にはスピーカーからの音声で伝達を行う。
4名無しくん、、、好きです。。。:2007/04/14(土) 21:01:27 ID:2iOHNwza
【舞台】
http://takukyon.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/clip/img/94.png(暫定)

【作中での時間表記】(0時スタート)
 深夜:0〜2
 黎明:2〜4
 早朝:4〜6
 朝:6〜8
 午前:8〜10
 昼:10〜12
 日中:12〜14
 午後:14〜16
 夕方:16〜18
 夜:18〜20
 夜中:20〜22
 真夜中:22〜24

【NGについて】
・修正(NG)要望は、名前欄か一行目にはっきりとその旨を記述する。
・協議となった場面は協議が終わるまで凍結とする。凍結中はその場面を進行させることはできない。
・どんなに長引いても48時間以内に結論を出す。

NG協議の対象となる基準
1.ストーリーの体をなしていない文章。(あまりにも酷い駄文等)
2.原作設定からみて明らかに有り得ない展開で、それがストーリーに大きく影響を与えてしまっている場合。
3.前のストーリーとの間で重大な矛盾が生じてしまっている場合(死んだキャラが普通に登場している等)
4.イベントルールに違反してしまっている場合。
5.荒し目的の投稿。
6.時間の進み方が異常。
7.雑談スレで決められた事柄に違反している(凍結中パートを勝手に動かす等)
8.その他、イベントのバランスを崩してしまう可能性のある内容。
5名無しくん、、、好きです。。。:2007/04/14(土) 21:03:37 ID:2iOHNwza
【首輪】
参加者には生存判定用のセンサーがついた『首輪』が付けられる。
この首輪には爆弾が内蔵されており、着用者が禁止された行動を取る、
または運営者が遠隔操作型の手動起爆装置を押すことで爆破される。
24時間以内に死亡者が一人も出なかった場合、全員の首輪が爆発する。
実は盗聴機能があり音声は開催者側に筒抜けである。
放送時に発表される『禁止エリア』に入ってしまうと、爆発する。
無理に外そうとしたり、首輪を外そうとしたことが運営側にバレても(盗聴されても)爆発する。
なお、どんな魔法や爆発に巻き込まれようと、誘爆は絶対にしない。
たとえ首輪を外しても会場からは脱出できない。

【デイパック】
魔法のデイパックであるため、支給品がもの凄く大きかったりしても質量を無視して無限に入れることができる。
そこらの石や町で集めた雑貨、形見なども同様に入れることができる。
ただし水・土など不定形のもの、建物や大木など常識はずれのもの、参加者は入らない。

【支給品】
参加作品か、もしくは現実のアイテムの中から選ばれた1〜3つのアイテム。
基本的に通常以上の力を持つものは能力制限がかかり、あまりに強力なアイテムは制限が難しいため出すべきではない。
また、自分の意思を持ち自立行動ができるものはただの参加者の水増しにしかならないので支給品にするのは禁止。
6希望は爆発と共に ◆A6ULKxWVEc :2007/04/14(土) 21:05:18 ID:2iOHNwza
最初に.txt
バトル・ロワイアル攻略情報.txt
最後に.txt

「……これだけ?」
レジャービルの一角のネットカフェに辿り付き、早速FDの中身を確認した沙羅は少々落胆していた。
「もっとこう、フロッピーを一枚差してくごとに、ぶわ〜っと魔法が発動して光の柱が登ったりとか、何かそういうの無いわけ?」
どこの葉鍵ロワイ○ルだよ!
残念ながら、突っ込んでくれる筈の恋太郎や双樹はここには居ない。
「ま、いいわ。文句を言うのは中身を確認してからにしましょ」
まずは“最初に.txt”をダブルクリック。

『このフロッピーディスクにはこのバトルロワイアルを生き抜くために役に立つ様々な情報が入っています。やったね!』
「ふ〜ん。何か地味ね。」
“情報”という単語に探偵助手としてはあるまじき反応を見せる。
『ま、ここに入ってる情報が全部本当とは限りませんけどね(笑)ま、信用するもしないも貴方次第です。当たるも八卦、当たらぬも八卦みたいな?』
「何よそれ!ふざけんじゃないわよ!大体なにが“みたいな?”よ。人馬鹿にすんのも大概にしなさいよね!」
そんなのほとんど意味無いじゃない。
そうこぼしながらも次のファイルへと移る。

『このファイルを見ている人には三枚のフロッピーディスクが支給されたと思いますが、それの中身は全部一緒です。その意味は後で分かるかもね(謎)』
「なんなのよさっきから!いちいちむかつく書き方ね!」
その他にも☆とか♪とか 電柱│− ̄)とかありとあらゆる方法で、読み手を小馬鹿にしつつも様々な情報が羅列されていた。
それでももしかしたら役に立つ情報があるかも知れない、そう思った沙羅は辛抱強く文章を読み進めていった。
7希望は爆発と共に ◆A6ULKxWVEc :2007/04/14(土) 21:06:38 ID:2iOHNwza
「はぁ……疲れた……」
相手の挑発的な文章に律儀に反応していた沙羅は既に肩で息をしている。
「ほんっと、“これで全部嘘でした(爆)”とか書いてあったら絶対許さないわよ」
最早当初の意気も無く彼女はおざなりに“最後に.txt”をダブルクリックする。

いや。
正確には“最後に.txt .exe ”
を。

沙羅が“最後に.txt”を実行した瞬間、部屋中のPCが一斉に起動した。
「何?何なのこれ?」
そして目の前のPCからはやけに楽しそうな合成音声が流れてくる。
『尚、このPCは読了後爆破する。みんなもウィルスには気をつけないと駄目だぞっ☆』
「は?」

『3』
『2』
『1』
『どっかーん!』

【白鐘沙羅 死亡?】
8希望は爆発と共に ◆A6ULKxWVEc :2007/04/14(土) 21:14:20 ID:g/maANpY
PCが一斉に爆破され、廃墟になったネットカフェ。そこに奇跡的に無傷で佇む1人の少女が居た。
「……」
沙羅は、人間が本当に怒った時、言葉が無くなると言うのは真実だったのだと今日初めて理解した。
「泣かす」
それは静かな殺意。
「絶対に泣かしてやる。この白鐘沙羅をここまで馬鹿にしてくれた落とし前はキッチリつけさせてやるんだから!」
その形相に普段の面影は無く、そこに居るのは一人の修羅だった。

(大体何よ爆発って。漫画とかアニメだと良くみるけど、実際にそんなことできるの?)
もしPCを遠隔操作で爆発させるウィルスがあるとすれば山田さんどころの騒ぎでは無い。
JASR○Cは大喜びするだろう。
(ん?遠隔操作で爆破?)
そういえばとっさのことで身を隠すことすら出来なかったのに自分は怪我ひとつしていない。ピンポイントでPCのみ爆破したのだろう。
(もしかして……)
自分の首に手を当てる。
(この首輪と同じシステムなんじゃ?)
自分が使っていたPCだけなら兎も角、その他のPCも一斉に爆破されていた。つまりPCの外部からの電波か何かで爆破されたということだ。
(そうよ、遠隔操作で爆発させるなんてプログラム、何個も作ってるとは考えづらい。それなら……)
もしかしたら、“爆発”は一番大きなヒントかもしれない。他の情報は当てにならないけど、ここのPCは実際に爆発しているのだ。
(むかついたけど、……本当にむかついたけど、このフロッピーディスクって大当たりかもね)
9希望は爆発と共に ◆A6ULKxWVEc :2007/04/14(土) 21:15:21 ID:g/maANpY
その他の情報も真偽は定かではないとは言え、無視できない情報もあった。特に
『皆さんに支給された重火器類の中には実は撃つと暴発しちゃうものがあります♪特に銃弾・マガジンなどが大量に支給された子は要注意だぞ☆』
などは一応注意しておかないといけないだろう。
(後で試し撃ちしとかないと)
『廃坑の入り口は実は地図に乗ってる所以外にもあったりなかったり(ぉ』
とか
『海の家の屋台って微妙なもの多いよね〜』
等、当座は無視しても問題なさそうなのも多かったけど。
「とりあえず、探し人に1人追加ね」
(機械に詳しそうな人を見つけないと)
自分はもちろん、恋太郎や双樹もたとえ仕組みが分かった所で首輪を解除するのは不可能だろう。
(今優先して探すべきは技術者。恋太郎や双樹も心配だけど、双葉探偵事務所は不滅だもん。あの2人は絶対に大丈夫)
10希望は爆発と共に ◆A6ULKxWVEc :2007/04/14(土) 21:15:54 ID:g/maANpY
その腕に希望を握り、少女はレジャービルを出発する。
だが彼女は知らない。
自らの片割れ、白鐘双樹は最早この世に居ないことを。
だが彼女は知らない。
自らの愛する男、双葉恋太郎の手にある銃、それこそが『暴発しちゃうもの』だということを。
近い未来、彼女が双樹の死を知った時。
彼女は希望を捨てずに居られるのだろうか?
もしも、恋太郎まで死んだ時。
彼女はそれでも脱出を志すのだろうか?

それは誰にも分からない。
11希望は爆発と共に ◆A6ULKxWVEc :2007/04/14(土) 21:16:26 ID:g/maANpY
【D-1 レジャービル前/1日目 早朝】

【白鐘沙羅@フタコイ オルタナティブ 恋と少女とマシンガン】
【装備:永遠神剣第六位冥加@永遠のアセリア −この大地の果てで− ワルサー P99 (17/16+1)】
【所持品:支給品一式 フロッピーディスク二枚枚(中身は下記) ワルサー P99 の予備マガジン8】
【状態:健康】
【思考・行動】
1:首輪を解除できそうな人にフロッピーを渡す
2:恋太郎と双樹を探す。
3:前原を探して、タカノの素性を聞く。
4:混乱している人やパニックの人を見つけ次第保護 。
5:最終的にはタカノを倒し、殺し合いを止める。 タカノ、というかこのFDを作った奴は絶対に泣かす。
基本行動方針
一人でも多くの人間が助かるように行動する

※FDの中身は様々な情報です。ただし、真偽は定かではありません。
下記の情報以外にも後続の書き手さんが追加してもOKです。
『皆さんに支給された重火器類の中には実は撃つと暴発しちゃうものがあります♪特に銃弾・マガジンなどが大量に支給された子は要注意だぞ☆』
『廃坑の入り口は実は地図に乗ってる所以外にもあったりなかったり(ぉ』
『海の家の屋台って微妙なもの多いよね〜』
少なくともこの3文はあります。
※“最後に.txt .exe ”を実行するとその付近のPC全てが爆発します。
※↑に首輪の技術が使われている可能性があります。ただしこれは沙羅の推測です。

※双葉恋太郎の銃“S&W M60 チーフスペシャル(5/5)”は撃とうとすると暴発します。
12彼女の決断、彼の選択 ◆7NffU3G94s :2007/04/15(日) 23:08:13 ID:d18+aoyD
月の光が当たりを照らす、古手梨花は呆然とうず高く積まれたゴミ山を眺めていた。
彼女の求める人物である竜宮レナ、梨花はレナが向かいそうな場所をここと定め、真っ先に走ってきたというのに……彼女を出迎えたのは、レナとは似つかない容貌の少女であった。

「……こんな小さな子まで、参加させられてるんですね」

風が少女の長くて美しいストレートの髪を揺らす、大人びた表情だけ見れば梨花は彼女の年齢を誤認してしまったかもしれない。
そして、後れ毛の間から覗く特徴的な耳。『人間ではない』ネリネの証が目に入り、梨花は顔を歪ませた。
梨花はこのような特徴的な耳を見たことがなかった、しいて言うなら北条沙都子と二人で見るアニメにでも出てくるキャラクターのような印象を得る。
……もしくは、羽生のような神々しい存在。そんな可能性しか、梨花は見出すことが出来ない。
だがネリネが何者なのかという疑問など、梨花にも……そして、当の本人ネリネにさえも、今は全く意味のない類のものである。
お互いが首輪をつけているということ、バトルロワイアルの参加者を表すあるそれが二人を同等な立場であることを示していた。

「どうやら勘は外れたみたいね」

一つ息を吐きながら呟く梨花、話し合いの余地があるならば梨花は向かい合う少女に猫なで声を上げいつも通り媚を売るつもりだった。
しかし予想以上に冷たい視線が梨花を射抜こうとするかの如く向かってくる、梨花は甘い考えを捨てるしかなかった。
また、それ以上に梨花にとって脅威に思えたのが、ネリネの手にする槍であった。
美しい装飾は綿流しの祭の際梨花が手にする鍬を彷彿させる、梨花はそれに対し妙なプレッシャーを感じていた。

トンッと身軽な動作でネリネがゴミ山から舞い降りる構図、槍の出す雰囲気と相まってそれは本当に美しい情景を描きだす。
空からは降り注ぐ月の光、それを受けたネリネが少しずつ梨花を追い詰めるように歩みだした。

「ごめんなさい、最初に謝らせてください……容赦をする訳には、いかないんです」
13彼女の決断、彼の選択 ◆7NffU3G94s :2007/04/15(日) 23:09:14 ID:d18+aoyD
それは宣言であり、梨花がネリネに協力を求められないと理解するしかなくなる決定打でもあり。
言葉が終わると同時に、梨花は脱兎の如く一目散に今来た道を戻るように走り出していた。
追ってくる足音は勿論ネリネのもの、体格差だけを考えても梨花が逃げ切れる可能性などなかった。
でも、それでもあがくことしか、梨花にはできない。

「冗談じゃないわ、こんな所で終われないわよ……っ」

振り返ることなくただ前を見て、梨花は必死に走り続けた。
ネリネも無言で梨花を追う、その距離がどんどん詰まっていくことに対する罪悪感を勿論彼女だって感じている。
それを上回る目的達成への意志だけが、ネリネを凶行へと走らせていた。
……そして、そんな彼女等を見つめるもう一つの視線。
杉並もまた、無言で二人の後を追うのだった。





結論から言うと、事はやはり予想通りの展開を迎えた。
取り押さえられる梨花と、マウントポジションを決め梨花に槍をつきつけるネリネという図式はあっという間に構成される。

(もう、だから子供の体ってイヤなのよ……っ!)

心の中で毒づく梨花は、上がった息を隠そうともせず大きく呼吸をし続けていた。
それで少しでも同情してもらえれば儲けものである、実際息一つ乱していないネリネと自分の差という物を梨花は懸命に表現しようとしていた。
しかし、それでも表情を凍らせたネリネに隙は現れない。
無言で槍を振り上げるネリネ、梨花の心に焦りが走る。

「……みぃ」
14彼女の決断、彼の選択 ◆7NffU3G94s :2007/04/15(日) 23:10:02 ID:d18+aoyD
発せられるのはお決まりの台詞、梨花は最後の最後で命乞いを試みた。

「みぃ!」

ネリネの眉間に皺がよる、梨花はじたばたともがきながら懸命に訴える。
自分が弱者であることを、か弱い女の子だということをとにかくアピールするしかない、それで隙でも作らない限り梨花には勝機を作ることなどできなかった。
もしかしたら意味のないもので終わるかもしれなかったそれ、しかし諦めないでひたすら鳴き続けていた梨花の目の前でついに変化が起こり出す。

「……っ」

仮面が溶けかける、無表情だったネリネの顔に戸惑いの色が生まれ始めた。
ここがチャンスだと粘りを上げる、梨花はさらに声を張り上げネリネの感情を揺さぶりにかかった。

「みぃ、みぃ!」
「っ!」
「………みぃ、みぃみぃ!!」
「ごめんなさい……」

しまいには同情の言葉さえも口にするネリネの変容に、梨花は彼女の甘さを見る。
それは優しさと言い表してもいいかもしれない、しかしこの場でそんなものを出してくるネリネの人の良さは現時点では仇以外の何物でもなかった。
槍を振り下ろすことに対し躊躇しだすネリネ、今がチャンスだと梨花はもがいていた際咄嗟につっこんだスカートのポケットから取り出したそれをネリネに向かって噴射した。

「みぃー……なーんてね」
「え、きゃ、きゃあ?!!」

怯えて泣き叫ぶ一歩手前と言った梨花の表情が一瞬で変化する、その異変をネリネが悟りきる暇さえ与えず梨花はすぐさま行動に出た。
プシャーっと勢いよく放たれた霧状の液体を顔面に受け怯むネリネ、生まれた隙を有効活用するべく梨花はとっとと体勢を整え直す。
15彼女の決断、彼の選択 ◆7NffU3G94s :2007/04/15(日) 23:10:57 ID:d18+aoyD
「ふふっ、やっぱり油断したわね。こういう使い方なら、この容姿は本当に役に立つわ。誰でもこの手にひっかかるもの」
「いた、痛っ!! ……あ、あなた一体何を……!」

ほくそ笑む梨花に対し、痛みと共に溢れる涙が止められない状況に陥ったネリネは混乱するばかりである。
それが催涙スプレーだとネリネが気づく前に、梨花は離脱する準備を整えた。

「しばらく目は使えないわよ、残念だったわね。……ふんっ、非力な女の子に襲いかかった罰よ」
「ま、待ちなさい!」

そんなネリネの叫びを背に受けながら、梨花は振り返ることなくこの場から脱出するのだった。





「とんだ、失態です……」

視力の回復したネリネが、傍らに落としてしまった永遠神剣を拾い上げたのはそれから数分が経ってのことだった。
勿論周囲に梨花のいる気配などある訳ない、完全な凡ミスによる失態はネリネのプライドに一直線のヒビを入れる。
ネリネ自身、やはり相手がいたいけな少女だったということで気を緩めていた面があるのも自覚するしかないが、その結果がこれであるならば後悔してもしきれない。
ぎゅっと握りこぶしを作るネリネの表情は苦渋に満ちたものである、何せシアのために……そして稟のためにも刃を振るうという誓いを立てた矢先がこれである。
自分の不甲斐なさに対し、ネリネはやりどころのない怒りが込みあがっていくのを抑えることができないでいた。

「もう、容赦しません……例えどのような方が現れましても、全力で薙ぎ払ってみせます」

瞳を閉じて精神を統一するネリネ、再び眼を開けた彼女の瞳に映るのは真の殺戮者になることを決意した修羅のそれであった。
……梨花がどちらの方面に逃げたかを判断する材料をネリネは持ち得ない、また今更追うことも不可能であろうと判断したネリネは自分の進路を南部へと取った。
元々辿ってきた道を戻るのも仕方ないという、それだけの理由で、である。
しかしそれは、これでネリネがしばらくの間梨花に出会うことは無いことにないことを決定付ける選択となった。
そう、梨花が逃げるのに取った進路は北部であった。……結局、運を味方につけたのは最後まで梨花だった。
16彼女の決断、彼の選択 ◆7NffU3G94s :2007/04/15(日) 23:12:05 ID:d18+aoyD




去っていくネリネの背中を見やるのは、ここまで一切の主張を表に出さなかった杉並である。
すぐ傍のゴミ山にて、杉並はじっと一連の様子を窺い続けていた。
自身の危険を顧みてまで見知らぬ少女を助けようとするような善人でもない杉並は、あそこで梨花が尽きたならば尽きたでまた新しい策を考えるつもりであった。
しかし予想を裏切り、あの一見何の害も無さそうな少女は見事な反撃を繰り出したのだ。
あのようなやり口でネリネを退けた梨花を杉並も評価するしかない、人は見かけによらないものだと杉並は改めて認識するのだった。

梨花が逃げて行ったのは北部であり、今まで彼女と二人杉並も歩いてきた道である。
既に地図で確認を取っている、あの経路だと最終的にはC-1を通らなければいけないことは杉並も分かっていた。
相手は小さな女の子ということもあり追いつくことなら容易くできるだろう、そう踏んだ杉並はとりあえずネリネの観察を続けることにした。
杉並が今最も求めているのは「情報」である。
遠目から見てもネリネが危険人物だということは分かりきった事実であるが、杉並はそれを逆手に取り何か良い案を出せないかと必死に頭を動かしていた。

そこで杉並が思ったのが、力のある者の近くにいた場合自身がそのような人間と衝突した際に巻き込んで双方を処理できるかもしれないという一つの可能性だった。
ゴミ山の中から鉄パイプを見つけ、徐にそれを拾い上げる杉並の表情はひどく硬い……梨花がネリネを撃退できたのは、あのスプレーというアイテムがあったからこそである。
そう考えると利便性に優れたアイテムや武器の類を持たない杉並にとって、「いざという時」に対する警備を固めなければいけないという危機感は、否が応でも沸いてくるものだった。

……これ以上悩んでいる時間はない、既にネリネの背中も遠いものになっている。

一応安全策、いつでも追いつくことの出来る梨花か。
一か八か、明らかに殺し合いに乗っていると判断できるネリネか。

結局、杉並が選んだ尾行の相手は………
17彼女の決断、彼の選択 ◆7NffU3G94s :2007/04/15(日) 23:12:49 ID:d18+aoyD
【A-2 スクラップの山/1日目 黎明】

【古手梨花@ひぐらしのなく頃に祭】
【装備:催涙スプレー@ひぐらしのなく頃に祭】
【所持品:支給品一式、ランダム武器2つ不明】
【状態:健康】
【思考・行動】
1)部活メンバー及び羽生の捜索とL5発症の阻止
2)赤坂・大石の捜索
【備考】
皆殺し編直後の転生
ネリネを危険人物と判断(容姿のみの情報)

※梨花は北部(A-1方面)へと逃げました。


【ネリネ@SHUFFLE】
【装備:永遠神剣第七位“献身”】
【所持品:支給品一式】
【状態:健康、催涙スプレーの効果は何とか消えた】
【思考・行動】
1:稟を探す。その途中であった人間は皆殺し(もう容赦は一切しない)
2:稟を守り通して自害。
【備考】
ネリネの魔法(体育館を吹き飛ばしたやつ)は使用不可能です。
※これはネリネは魔力は大きいけどコントロールは下手なので、制限の結果使えなくなっただけで他の魔法を使えるキャラの制限とは違う可能性があります。
※永遠神剣第七位“献身”は神剣っていってますが、形は槍です。
※永遠神剣“献身”によって以下の魔法が使えます。
尚、使える、といっても実際に使ったわけではないのでどの位の強さなのかは後続の書き手に委ねます。
18彼女の決断、彼の選択 ◆7NffU3G94s :2007/04/15(日) 23:13:29 ID:d18+aoyD
アースプライヤー  回復魔法。単体回復。大地からの暖かな光によって、マナが活性化し傷を癒す。
ウィンドウィスパー 防御魔法。風を身体の周りに纏うことで、防御力を高める。
ハーベスト     回復魔法。全体回復。戦闘域そのものを活性化させ、戦う仲間に力を与える。

古手梨花を要注意人物と判断(容姿のみの情報)

※ネリネは南部(A-3方面)へ移動を開始しました。


【杉並@D.C.P.S.】
【装備:鉄パイプ】
【所持品:支給品一式、首輪探知レーダー】
【状態:健康】
【思考・行動】
1)主な目的は情報収集
2)他者と行動を共にするつもりは現状無い
【備考】
レーダーは半径500mまでの作動している首輪を探知可能。爆破された首輪は探知不可
古手梨花を要注意人物・ネリネを危険人物と判断(共に容姿のみの情報)


※杉並がどちらの尾行をするかは後続の方にお任せします。
19宣戦布告 ◆3Dh54So5os :2007/04/21(土) 20:04:20 ID:jgnOLRGF
「はぁっ、はあっ、はぁっ……」
逃走劇の第二幕が上がって早15分。
トータル30分を超える激走に流石の稟もばてかけていた。
息なんかとっくの昔に上がっている。足だってさっきから悲鳴を上げっぱなしだ。
正直、これ以上走ったら足がどうにかなってしまいそうな気さえする。
が、それでも稟が走るのをやめないのは、ここで止まることが即ち“死”を意味するからだ。
背後から鬼人の如く猛追してくる少女に捕まったが最期、その手に握られたマシンガンで全身に風穴を開けられるのは確実だろう。
馴染みも縁もない、絶海の孤島で、それも自分よりも幼く見える少女にむざむざ殺されるわけにはいかない。
(とは言っても……な……)
逃げ続けながら稟はちらと隣を走るきぬを見る。
きぬも同じように疲れ果てているようで、息は荒く、脚も何度かもつれさせている。ペースだってどうにか稟に追いすがろうと無理をしているように見える。
(流石にこれ以上走らせるのは無理だよな……)
じゃあどうすれば良い?

立ち止まって反撃を試みる?   手持ちの品が拡声器とギャルゲーじゃどう見てもマシンガンには対抗できない。よって却下。
立ち止まって説得を試みる?   ここまで執拗に、それも魔法を使ってまでして追いかけてきているのだ。多分やるだけ無駄だろう。やっぱり却下。
諦めて少女に撃ち殺される?   言うまでも無く絶対に却下だ。

(くそっ! 俺に出来ることは何もないのか!? あんな小さな子一人相手に…………ん? 一人?)
その時、稟の中で何かが閃いた。
追って来る相手はあの少女一人。で、逃げているこっちは稟ときぬの二人。
と、言うことは……
20宣戦布告 ◆3Dh54So5os :2007/04/21(土) 20:05:50 ID:jgnOLRGF
「……」
正直、かなり分の悪い賭けではある。が、他に手は無く、現状維持ではジリ貧確定、となればやるしかない。
「賭けてみるか……おい! 蟹沢!」
「はぁ、はぁ、……な、なに? なんか用?」
きぬは話しかけるなと言わんばかりに稟の方を一切見ることなく答える。
息が完全に上がってしまい、話すのも億劫なのだろう。
「このままじゃ逃げてても埒が明かない。捕まって二人とも殺されるのが関の山だ」
「なに? オマエもうバテたの? 貧弱だなぁー。ボクはまだ少し走れるぞー。……ほんのちょっとだけど……」
相変わらず口だけは減らないようだ。今ちょっと弱音が出ていた気がするが、まあ気にするまい。
「でだ。俺が合図したら蟹沢、お前は道の左側の茂みに突っ込め、俺は右側の茂みに入る」
「!?」
流石に驚いたのか、きぬは稟の方を見る。が、稟は構わずに続ける。
「相手は一人なんだ、ばらばらに逃げる二兎を同時には追えやしない。どっちかに食いついてくるかもしれないが、茂みや木を上手く使えば撒ける可能性が高い」
茂みの丈はどちらかといえば高い部類に入る。海岸付近ゆえ防砂林なのか木もあちこちに生えていて身を隠すにはもってこいだ。
とは言え、それは逃げるときの障害物も増えるということなのだが、今は敢えて考えないことにする。
「上手く撒けたらこの先の街……そうだな、病院で待ってる。日の出までに来なかったら置いてくからな」
「ちょっ、勝手に決めるなよ!」
「じゃあ他に何か良い案でもあるのか?」
「ぐっ……」
その言葉にきぬは黙り込んだ。全滅という最悪の事態だけは避けなければならないことはきぬ自身重々承知していたからだ。
「それともう一つ……、分岐したら絶対に振り返るなよ。どっちに食いつかれても恨みっこナシだからな」
「そっちこそ恨むなよ! 食いつかれて悲鳴上げても絶対助けになんか行かないからな!」
稟は後方に一瞬目をやり、追っ手との距離を確認する。目測でだいたい150メートル。
再び逃げ始めたときはもうちょっと距離があった気がするから、追いつかれつつあるのは間違いない。決行は早めの方がよさそうだ。
「ああ、それでいいよ。……それじゃあ、いくぜ!」
21宣戦布告 ◆3Dh54So5os :2007/04/21(土) 20:07:20 ID:jgnOLRGF

「いち……」
少女に聞かれないよう、少し小さめの声でカウントを開始する。狙い目は道の脇の茂みが一旦途切れる部分。
スピードを殺さず、かつ分岐によるかく乱効果を狙う為に、茂みには斜めに突っ込む事にする。

「にの……」
変針の為に体重移動をしつつ、ちらときぬを見るとばっちりと目が合った。
視線が何かを訴えかけているように見えたが、それがなんなのか確認する暇もなくその瞬間は訪れた。

「さんっ! そらっ、逃げろっ!!」

合図と同時にきぬは視線を外すと弾かれた様に茂みに駆け込んだ。その様を横目で見ながら稟もまた茂みに突っ込む。
茂みの途切れ目を狙ったとは言え、稟の逃げた道の右側はすぐそこが防砂林になっていた。
膝から太股まである草を掻き分けながら進む羽目になり一気に走りづらくなったが、二手に分かれた効果はすぐに現れた。
今まで一度たりとも追跡の手を緩めなかった少女が戸惑うようにその場に立ち止まり、稟ときぬの逃げた方をきょろきょろと見回し始めたのだ。
「よしっ! いいぞっ!」
読み通りの展開に稟は小さくガッツポーズをとる。あとは障害物を使って上手く撒くだけ、だったのだが……

「逃がさないんだからぁぁっっ!!!」
ぱららららららっ……!!
「!?」

目の前にあった木の枝がへし折られて吹っ飛び、続けて背後から軽い音が聞こえてきた。
見れば少女は左右の茂み目掛け所構わずマシンガンを乱射しているではないか。
その様子を視認するのと同時に、道向こうの茂みから悲鳴に近いきぬの罵声が聞こえてくる。
22宣戦布告 ◆3Dh54So5os :2007/04/21(土) 20:08:51 ID:jgnOLRGF
「ボクが殺されたら一生憑いて廻るからな! 七代先まで祟ってやるから覚えとけよーーっ!」
「滅茶苦茶うらんでるじゃねーか!」
思わず叫び返してしまったが、言わん事も分からなくはない。
確かに相手を戸惑わせることには成功したようだが、危険度は追いかけっこの時より何十倍にも跳ね上がっている。
好ましくない状態なのは確かだ。
「ちっ、しょうがないな……」
本当はやりたくなかったのだが、こうなっては仕方ない。
稟は今までずっと握り締めていたモノの電源を入れると、それを使うべくそのモノを口元に押し当てた。

  ◇  ◆  ◇

逃げていた二人が、二手に分かれた時、さくらは一瞬戸惑った。
大分くたびれてきていたのか、二人との距離が徐々につまりつつあった矢先にこれである。
純一を殺させない為、ゲームに乗った者は誰一人として生かしてはいけない。
だが、こっちの手駒は自分一人だけ。二手に分かれられてしまった今、どっちを追いかけても「二人を殺す」という目的は達成できなくなってしまう。
「逃がさないんだからぁぁっっ!!!」
さくらは小脇に抱えていたミニウージーを構えると両脇の茂み目掛けて扇状に乱射する。
反動で暴れまわるミニウージーを無理矢理脇で押さえ込み、逃げる二人を狙う。
同じ轍は二度は踏むまいというさくらの意気込みが伝わったのか、弾道は中々いい線をいっている。
細かい弾道修正をすれば仕留められるとさくらが確信したそのときだった。

かちっ、かちっ……
「!!?」

乾いた音が響くと同時に、ミニウージーの咆哮がぴたりと止まる。何が起こったのかは明白だ。
「弾切れ!? こんなときにっ!!」
ディパックから予備のマガジンを取り出し、空になったマガジンと交換する。
さくらとしては出来る限り素早く行ったつもりだったが、再び構えたときには二人の姿はさっきよりも小さくなっていた。
この距離ではさっきのような正確な射撃は期待できない。
命中を望むなら相手に接近しなければならないが、追いかけられるのはどちらか一人に限られてしまう。
23宣戦布告 ◆3Dh54So5os :2007/04/21(土) 20:10:20 ID:jgnOLRGF
「くっ……」
しかし、二人とも逃がす事だけは絶対に避けなければならない。
一人を逃してしまうのは不本意だが、ここは標的を片方に絞って一人だけでも確実に仕留めた方が良い。
「なら狙うのは……あっちの子だね」
さくらが標的として選んだのは、左の茂みに駆け込んだ小柄な少女、きぬだった。
脅威としては右の茂みに逃げた少年の方が高いが、さくらとあの少年では身体能力に大きな開きがある。
マシンガンがあるから負ける気はないが、逃げに徹されてしまうと逃してしまう可能性のほうが高い。
一方の少女は茂みに入った所為もあるのだろうが大分ペースが落ちている。捕捉は少年に比べてずっと容易だ。
あんな少女を狙うことに若干の引け目を感じたが、やらねばならない。
「悪いけど、ボクも形振り構ってられないんだ。容赦はしな……」
そう言いながらきぬの逃げた左の茂みに一歩踏み出した、その時だった。聞き捨てならぬ言葉が右の茂みから聞こえてきたのは……

『おーい、どうしたそこの性悪ちびっ子極悪魔女! 怖気づいたか〜?』
「!!!?」
刹那、さくらの頭にかっと血が上った。

『性悪』と『極悪』今は人殺しすら厭わないと決意した身だ。甘んじて受け入れよう。
『ちびっ子』、これも聞き捨てなら無いが、こればっかりはどうにも出来ない。それに年下に見られることもいつものことだ。
だけど、それよりもっと聞き捨てならない一言、それは……

       『魔女』

その言葉は桜の魔法の所為で周囲の子から虐められ、避けられていた幼少の頃の記憶を否応無く思い出させた。
いつもさくらなら軽く受け流せたのだろう。さくらは見た目こそこんなだが、中身はずっと大人である。
だが、中々相手を捕捉出来ない事に苛立ちを感じつつあった今のさくらでは、冷静な判断力を保つことは無理だった。
24宣戦布告 ◆3Dh54So5os :2007/04/21(土) 20:11:56 ID:jgnOLRGF

「……魔女って、……魔女って言うなぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!」

叫びながらさくらは右の茂みに突撃する。狙いは純一の敵であり、暴言を吐いた拡声器を持ちの少年。
さっきのさくらが亡霊なら、今の完全に頭に血が上ったさくらのそれはまさしく般若だった。

  ◇  ◆  ◇

『おーい、どうしたそこの性悪ちびっ子極悪魔女! 怖気づいたか〜?』

音量がかなり高めの設定だったのか、声はやけに大きく響き渡った。
使った張本人である稟でさえ、驚いたぐらいだ。
少女にも当然この声は聞こえたらしく、こちらを物凄い形相で睨みつけたかと思うと、猛然とこちらに向かってきた。
怒っている所為か、怖さとスピードが若干増したような気がするが、それも想定の範囲内だ。
怖くないといえば嘘になるが、分離行動を考えた時点で囮になるつもりでいた。
相手は小柄な少女とは言え魔法が使える上、マシンガン装備ときたものだ。よほどの運でもなければ、結果はおそらく……

と、その時、一連の流れを見て稟の意図を察したのか、再びきぬの罵声が聞こえてきた。
「馬鹿やろー! ヘタレのくせにカッコつけてんなよー!」
聞こえてくるが、こっちに来るという気配はない。
「いいぞ蟹沢、そのまま何が何でも逃げ切……」
「約束破るなよ! お前と違って置いて行ったりしないから絶対に来いよ! 来なかったら稟のこと『約束も守れない大馬鹿ヘタレ野郎だ』って言いふらすからなーっ!!」
「!!」
呟きかけた稟は次の瞬間聞こえてきたきぬの言葉にはっとなった。
状況が状況だった所為かどうもネガティブになりすぎていたらしい。
「大馬鹿へタレ野郎……か、そうだよな。この程度の約束が守れないようじゃ、皆に笑われるよな……」
手持ちの武器じゃ歯が立たない相手。走って逃げるには最悪の路面状態。体力だっていつまで持つか分からない。状況はこれ以上なく最悪だ。
それでも稟は諦めてはいけない。決して屈してはいけないのだ。
いつまでも待つと言ってくれたきぬとの約束を守る為にも、楓やネリネたちと合流する為にも、死んでしまったシアやキキョウの分も生きる為にも……
多くの想いをその背に背負いつつ、稟はそれを再び手に取る。
25宣戦布告 ◆3Dh54So5os :2007/04/21(土) 20:13:21 ID:jgnOLRGF
次に放つのは罵声でも囃し声でもない。それはきぬや少女への、いや、この狂気に満ちたゲームへの稟からの宣言。それはまさしく……

『俺は、俺や蟹沢のように大切な人を失って泣く奴をこれ以上出したくない。だから俺は何があろうが絶対に死なないし、誰も殺さない!』

『生きて生きて生き抜いて、このふざけたゲームをぶっ潰す!! 止められるなら止めて見やがれっ!!!』

宣戦布告だった。



【G-7 道路脇の林(海岸より) /1日目 黎明】

【芳乃さくら@D.C.P.S.】
【装備:ミニウージー(残り25/25) 私服(土で汚れています)】
【所持品:支給品一式 ミニウージーの予備マガジン×1】
【状態:左足首捻挫、右足首の骨に罅、右足打撲、疲労大、強い執念(飛行の魔法の根源)】
【思考・行動】
基本方針:環の予知した未来(純一死亡)の阻止。
0:えっ?今の言葉、一体どういう……
1:少年(稟)を逃がさない。殺す。
(2:純一を探す。)
(3:純一を殺害しうる相手は容赦なく殺す。)

【備考】
※芳乃さくらは枯れないの桜(ゲーム管理者の一人)の力を借りて魔法を行使できます。魔法には以下の制限がついています。

芳乃さくらの強い想いによってのみ魔法は発動します。
強い想いが薄れると魔法の効果は消滅します。
基本的に万能な桜の魔法ですが、制限により効果は影響・範囲ともに大幅に小さくなっています。

目の前を逃亡中の少年と少女(稟ときぬ)をゲームに乗った人間だと認識している為、稟の言葉に戸惑いを覚え始めています。
26宣戦布告 ◆3Dh54So5os :2007/04/21(土) 20:15:06 ID:jgnOLRGF

【土見稟@SHUFFLE! ON THE STAGE】
【装備:なし】
【所持品:拡声器】
【状態:疲労(大)】
【思考・行動】
基本方針:参加者全員でゲームから脱出、人を傷つける気はない。
1:蟹沢きぬを守る為、拡声器を使ってさくらを引き付ける。
2:芳乃さくらから逃げる。
3:さくらを撒いてから病院にいってきぬと合流する。
4:ネリネ、楓、亜沙の捜索。
5:もう誰も悲しませない。

※シアルートEnd後からやってきました。

【備考】
稟の“宣戦布告”は辺り一体に響き渡りました。
27宣戦布告 ◆3Dh54So5os :2007/04/21(土) 20:16:15 ID:jgnOLRGF
【G-7 道路脇の林(内陸側) /1日目 黎明】

【蟹沢きぬ@つよきす】
【装備:なし】
【所持品:フカヒレのギャルゲー@つよきす】
【状態:疲労】
【思考・行動】
1:芳乃さくらから逃げる。
2:稟のことが心配。
3:さくらから逃げ切り次第、病院で稟を待つ
4:鷹野に対抗できる武器を探す。
5:レオの事が心配。

【備考】
フカヒレのギャルゲー@つよきす について
プラスチックケースと中のディスクでセットです。
ケースの外側に鮫菅新一と名前が油性ペンで記してあります。
ディスクの内容は不明です。
28戦い、それが自由 ◆A6ULKxWVEc :2007/04/21(土) 22:05:20 ID:NTbNSAV5
「…少し急ぎの用事がありますのでそこを退いて下さらない?」

戦闘の現場に急行しようとしていたとき、いきなり斬撃を放ってきた人形のように無表情な少女に問いかける。
ただでさえ不調のお陰で足が遅いのだ、これ以上引き離されては追いつくのは絶望的になる。
「……」
対する少女は無言のまま構えを崩さない。
「ちょっと、聞くいてらっしゃる?私、あまり気の長いほうではありませんの。さっさと退かないと、力ずくで押し通りますわよ?」
最初の斬撃、そして今の構えを見るにかなり戦い慣れしているようだ。そしていきなり斬りかかって来たことから、恐らくこの殺し合いに乗っているのだろう
自分より強い、とは言わないが相手は刀、此方は酒瓶と人形。実力以前の問題だ。
だがそれでも下手には出ない。その様な生き方をカルラは好まない。
「好きにすればいい。あなたが何をしても、私は殺すだけ」
わかっていたことだが相手に引く気は無いようだ。そして当然自分にも引く気はない。
確かに戦闘している所でアルルゥ、エルルゥが襲われているかもしれない。
しかし、それを言うならこの危険人物を見逃したことでその二人が殺されるかもしれない。
どちらを選んでも危険があるなら楽しそうな方を選んでも問題にはならないだろう。
そして何より───挑んでくる強者に背を向けて、何が戦闘民族だ。
「では好きにさせていただきますわ。先にも述べたとおりあまり時間がありませんの。ですから───手短に行かせて貰いますわッ!!」
そう言いつつ酒瓶を投擲する。
当然そんな物は容易く切払われる、だがそれは計算の内。
砕けた破片が少女を襲い、その隙に拳で───
「───ッ!?」
だがその計算は破られた。確かに酒瓶の破片は少女を襲った。
しかし少女はその程度の破片など恐れない。まるで痛みを感じない人形のように。
ガラスの破片は少女を傷つけ、しかしそれに怯むことなく彼女はカルラへと肉薄する。
そしてその刃がカルラの胸元へと───
29 ◆A6ULKxWVEc :2007/04/21(土) 22:05:56 ID:NTbNSAV5
届く直前、カルラの拳が少女へと届いていた。
先に当たったとは言えその拳は振り抜きも踏み込みも足りないその場しのぎの物に過ぎない。
当然少女はすぐに立ち上がり刃を構える。
先ほどの酒瓶の所為で体中到る所に出血が見られる。しかし目の前に立つ少女はまるで痛みを感じてないかのように、気負うことなく、怯むことなく平然と構えている。
「中々いい根性してますわね。貴方、お名前は?」
故に、今こそカルラは眼前の少女を敵と認める。この闘いが終った後でも記憶に残しておく価値のある敵だと。
「アセリア。アセリア・ブルースピリット」
少女───アセリアは淡々と自分の名を告げる。
「アセリアですか。中々いい名前ですわね。私はカルラと申します。戦闘民族ギリヤギナの末裔にしてハクオロ皇の奴隷ですわ。それと───」
歌うように彼女は続ける。
「先程急ぎの用事があると申しましたが、あれはキャンセルしますわ。今はただ───貴方と全力で踊りましょう」
それで話は終わり?そう問いかける代わりにアセリアが切り込んでくる。
そう、最早私達の間に言葉は要らない。
相手はは刀、此方は拳で語るのみだ。
刀と拳。言うまでも無く絶望的なまでに不利なのはこちらだ。

だが、それでも。カルラの顔にははっきりと笑みが浮かんでいた。
30 ◆A6ULKxWVEc :2007/04/21(土) 22:06:36 ID:NTbNSAV5
体が思うように行かない苛立ちを斬撃に込め、目の前の女──カルラと言うらしい、に斬りかかる。
だがその斬撃は紙一重で届かない。そして相手の拳をハイロゥで受け流す。
もう何度このやり取りを続けたのだろう?
カルラの体には無数の切り傷があったし、アセリアも激しく動いた所為で最初の破片の傷がじわじわと効いてきていた。
もしも思う通りに体が動けばすぐにでもカルラを切り捨てられるのに。
どうもこの島に来てから思うとおりに体が動かない。
その所為で後一歩のところでぎりぎり攻撃を避けられてしまう。
そのことを疎ましく思う反面、少しだけ感謝もしていた。
本調子だったらすぐに決着がついてしまう。
それは───少しだけ勿体無い。

心底楽しそうに戦うカルラの笑顔が伝染したかのように、アセリアの顔にも小さな笑顔が浮かんでいた。
31 ◆A6ULKxWVEc :2007/04/21(土) 22:07:10 ID:NTbNSAV5
一体どれだけの時が立ったのだろう。
両者の集中力は極限に高まり、自分と相手以外の雑音は一切耳に入っていなかった。
当初両者互角に見えた戦闘は今や完全にアセリアが押していた。
出血による疲労、拳と刀の間合いの差、理由を数え上げればきりが無い。
しかし一番の決定打はアセリアの成長だろう。
当初アセリアは地獄蝶々を自らの永遠神剣“存在”と同じように扱っていた。
当然の事だが大剣と日本刀の扱いは大きく違う。
しかしアセリアは天性の才能と戦場で培った経験でその2つの武器の差を埋めていく。
少しずつ、しかし着実に彼女は日本刀を使いこなす。
徐々にアセリアの刃はカルラを捉えはじめ、カルラの拳は空を切りはじめた。
32 ◆A6ULKxWVEc :2007/04/21(土) 22:10:20 ID:NTbNSAV5

アセリアは思う。
こんなものか、と。
自分が優位に立っているにも関わらず喜悦は何処にも無く、ただ理由の無い失望感だけがあった。
最早当初の昂揚は何処にも無い。
唯、何時ものように刃を振り下ろす。
そしてその刃は───カルラを捉えた。
悲鳴ひとつ上げることなく、カルラは崩れ落ちる。
恐らくは致命傷。
仮に死んでなくとも、これ以上戦闘する力はないだろう。
故に彼女は倒れ臥した女に背を向け、次の敵を探す。
このもやもやした感情をぶつけれる対象を。

「おまちなさい、まだ勝負は終ってませんわ」

だが。
彼女を止める声があった。
33 ◆A6ULKxWVEc :2007/04/21(土) 22:10:53 ID:NTbNSAV5
「どうして?」
立ち上がれる筈は無い。
そして立ち上がったところで意味も無い。
振り向いてみれば、カルラは立ち上がった物の、満身創痍。
特に先程の一撃を受けた右腕はだらりとぶら下がっている。
それなのに。
「どうして?」
どうして彼女は笑っているのだろう。
「どうして、と聞かれましても何のことだが分かりませんわ」
息も荒く、今にも倒れそうな眼前の女は、しかし決して崩れないのだろう。
理由も無くアセリアはそう感じた。
「そうですわね……敢えて言うなら私が私らしくあるため、でしょうか」
自分らしくあるために戦う、というのはアセリアにはある意味で尤も分かりやすく、そして尤も分かりにくいものだから。
アセリアにとって戦いは自分そのもの。そもそも戦わない自分、というものが想像できない。
「あなたも……戦い以外に自分が無いの?」
ならば何故彼女は笑うのだろう。
何故彼女はあんなにも楽しそうなのだろう?
もしかしたら、自分も唯の義務や手段ではなく、戦いを楽しめるようになるのだろうか
しかしそんな少女の期待はあっけなく裏切られる。
「まさか。戦って、酒を飲んで、仲間と騒いで、トウカをからかって、そして夜になったら主様にご奉仕する。それら全てを含めて私ですわ」
結局、カルラも悠人と同じ種類の人間なのか。自分と同じ様に感じていたのは錯覚だったのか。なぜかは分からない、だがアセリアはカルラに裏切られたような気がした。
34名無しくん、、、好きです。。。:2007/04/21(土) 22:11:46 ID:LpsxmUv9

35 ◆A6ULKxWVEc :2007/04/21(土) 22:12:18 ID:NTbNSAV5
何度切っても立ち上がるなら、何度でも切ろう。
理由は分からない。
それでも、もうカルラを見ていたくなかった。
カルラの声を聞きたくなかった。
だがそれでも彼女は語りかけてくる。
「あなたは、戦いしか知らないんですのね」
煩い。
普段は誰に何を言われても気にはしない。
だが何故か眼前の女の言葉はやけに気に触った。
「だったら、何?」
目の前の女は不適に笑う。
「いえ、ならそんな女相手に私が負けることは無いと安心しただけですわ」
36 ◆A6ULKxWVEc :2007/04/21(土) 22:13:15 ID:NTbNSAV5
もはや問答する気は無かった。
ただ目の前の気に食わない女を斬る。
まるで何か吹っ切ろうとする一刀両断の一撃。
その一撃はカルラの左手を捉える。
そして刀を引き、今度こそ首を飛ばそうとする。
だが、刀が動かない。
そして、カルラの目は死んでいない。
37 ◆A6ULKxWVEc :2007/04/21(土) 22:14:17 ID:NTbNSAV5
「ギリヤギナを舐めないでくださいます?この程度の一撃、最初から覚悟してれば耐えられますわ」
肉を切らせて骨を断つ、と言う言葉がある。
しかしこの行為はその程度のレベルではない。
これは、骨を断たせて骨を断つ、という行為。
恐らくもう二度とこの左手は動かないだろう。
我ながら無茶をしていると思う。
だが、この小娘に負ける訳には行かない。
自分のためにも彼女のためにも。
そしてカルラは拳を振り上げる。
もはやまともに動かない右腕を。

「私に勝ちたかったら、戦い以外の自分を見つけて出直してくることですわね。」

その拳はアセリアの顔面を完全に、捉えた。
38 ◆A6ULKxWVEc :2007/04/21(土) 22:15:21 ID:NTbNSAV5
朦朧とする意識の中、アセリアは彼女の言葉を聞く。
「ここで立ち上がってこれるかこれないかが私とあなたの差ですわ」
何故私は立てないのだろう。
そして何故彼女は立てるのだろう。
「せん……ます………。」
もはや彼女がなにを言ってるのかほとんど聞こえない。
それでも最後の一言だけははっきりと聞こえた。
「次に会うときに、まるで成長してなかったらそのときは私があなたをぶち殺して差し上げますわ」
その言葉を聞き終わると同時に彼女の意識は途絶えた。
39 ◆A6ULKxWVEc :2007/04/21(土) 22:16:46 ID:NTbNSAV5
「少々お節介が過ぎたかもしれませんわね」
アセリアとの戦闘は思ったよりも時間を食った。
そして何よりも血を流しすぎた。
意識ははっきりとしないし、歩くのもままならない。
「……まあ、武器も入手したことだし、良しとしますわ」
『戦利品としてこの刀は貰っていきますわ』
一応そう告げて武器は貰っておいたし、誰かを襲うことは無いだろう。
「けっこう歩いたのですが…戦闘の跡らしきものは見えませ───」

その言葉を言い終わる前に、弾丸が彼女の胸を貫いた。
そして倒れ落ちる間に、2発、3発と弾丸が彼女を貫いていく。
アセリアの刃を受けても挫けることなく立ち上がった彼女は、突然現れた少女、咲耶の放った凶弾を受け、二度と立ち上がることは無かった。
40 ◆A6ULKxWVEc :2007/04/21(土) 22:17:22 ID:NTbNSAV5
「ごめんなさい、とは言わないわ。あなたも誰かを殺したんでしょうし」
咲耶が殺した女は全身血塗れで、刀を持っていた。恐らく誰かと戦って、負傷はしたものの勝利したのだろう。
───相手を殺して。
誰かを、妹達を殺しうる人間は殺さなければならない。
妹の為に、みんなでお兄様の所に戻る為に。
だから、後悔なんてしない。しちゃいけない。
全てが終る、その時までは。
41 ◆A6ULKxWVEc :2007/04/21(土) 22:18:37 ID:NTbNSAV5
【G-7海岸側1日目 早朝】



【アセリア@永遠のアセリア】
【装備:無し】
【所持品:支給品一式(ランダムアイテム残り不明)】
【状態:気絶・ガラスの破片による裂傷。殴られたことによる打撲】
【思考・行動】
1:???
※戦闘に集中していたので拡声器の声は聞いていません。

【G-81日目 早朝】
【咲耶@Sister Princess】
【装備:S&W M627PCカスタム(8/8)地獄蝶々@つよきす】
【所持品:支給品一式 可憐のロケット@Sister Princess S&W M627PCカスタムの予備弾61 肉まん×5@Kanon】
【状態:健康】
【思考・行動】
1:四葉、衛、千影を探し守る。
2:姉妹を傷つける可能性をわずかでも持つ者を殺す
3:脱出を具体的に計画している人物は放置。
4:脱出の具体的計画がなくとも、100%姉妹を傷つけない確証が得られた場合は殺さない。
5:3の際に脱出が現実味を大きく帯びた場合のみ積極的に協力する。
基本行動方針
自分と姉妹達が死なないように行動する

※カルラのディパックはG-8に放置されてます。

【カルラ@うたわれるもの 死亡】
42修正 ◆A6ULKxWVEc :2007/04/21(土) 23:42:17 ID:NTbNSAV5
>>30を以下の文に差し替えてください

体が思うように行かない苛立ちを斬撃に込め、目の前の女──カルラと言うらしい、に斬りかかる。
だがその斬撃は肌を掠るのが精々だ。
そしてその攻撃に被せて来る相手のカウンターは確実にアセリアを蝕んでいく。
しかしその攻撃はアセリアを止めるにはあまりに浅すぎる。
もう何度このやり取りを続けたのだろう?
カルラの体には無数の切り傷があったし、アセリアもカルラの拳が、そして最初の破片による傷の所為で着実にダメージを負傷させていく。
もしも思う通りに体が動けばすぐにでもカルラを切り捨てられるのに。
どうもこの島に来てから思うとおりに体が動かない。
その所為で後一歩のところでぎりぎり攻撃を避けられてしまう。
そのことを疎ましく思う反面、少しだけ感謝もしていた。
本調子だったらすぐに決着がついてしまう。
それは───少しだけ勿体無い。

心底楽しそうに戦うカルラの笑顔が伝染したかのように、アセリアの顔にも小さな笑顔が浮かんでいた。
43偽りの贖罪 ◆VtbIiCrJOs :2007/04/22(日) 12:09:36 ID:plgeM2bM
「うーん……服、無いなあ……。ここならありそうだと思ったのに」
 藤林杏を殺害した良美は血に汚れた服を着替えるため小屋を訪れた。
 小屋は粗末な造りの木造小屋で、小屋内部は簡素な木のベッドぐらいしか家具は見当たらない。
 雨風が凌げられればそれで良いと言う程度の粗末な小屋だった。
「結局ここにあったのはこれだけか……」
 小屋のあらゆる所を引っ掻き回したあげく手に入れた物は、
 500mlペットボトルに入った非常用飲料水一本、ただそれだけだった。
 杏のデイパックに入っていた食料や水はすでに自分のデイパックに移し変えている。
 今の所、水と食料は特に困る事は無い。
「でもこれはちょっと……ね」
 良美は小屋で手に入ったペットボトルを見やる。
 ペットボトルは開封された様子は無く、透明な水がなみなみと入っていた。
 しかし良美はそれを飲む気にはなれなかった。
「『毒入り危険、飲んだら死ぬで』って……」
 ペットボトルのラベルには赤い文字でそう警告されていた。
 良美はペットボトルを捨てようかと思ったが、それは考えはすぐに否定する。
 毒ならばそれはそれで役に立つ。何も銃で撃ち合うことが殺し合いでは無い。
 誰かに毒味させれば良い、死ねば邪魔物が一人消えるし死ななければ飲料水として役に立つ
 良美はそれをデイパックに詰め、小屋を発つ準備を行う。
 本当なら夜が明けるまでここに居たいのだが、生憎ここは地図に記載されている場所。
 同じ考えを持って不特定多数の人間が集まる可能性がある。
 狭い小屋に殺し合いに乗った人間が現れたらまず逃げることは不可能だ。
 よってここで夜を明かすことは却下と良美は判断した。
44偽りの贖罪 ◆VtbIiCrJOs :2007/04/22(日) 12:11:04 ID:plgeM2bM
「よいっしょっと……あんまり長居しちゃ危ないよね」
 デイパックを担ぎ上げ良美は山小屋の扉に手を掛ける。
 夜の涼しい空気が外からひゅうと吹き込みカビ臭い山小屋を満たしてゆく。
「やっぱり気持ち悪いなあ」
 べったりと血で赤く染まった服が素肌に貼り付き気持ち悪いことこの上ないが、
 泣き言を言っても始まらないので我慢我慢。
 良美は地図を広げ次の行き先を考える。
 小屋のそばには廃線となった線路が敷かれており、線路は川を渡り島の南部に続いている。
 とりあえず良美は線路に沿って南下する道を選ぶことにした。

 ※ ※ ※ ※ ※ ※

「遠野さんすまねえ、俺の我儘に付き合わせてしまって」
「……私、前原さんに手篭めにされちゃいました」
「ちょっ……遠野さん!」
「ぽっ」
「なぜ顔を染めるんだよっ」
「冗談……前原さんを一人にさせるわけに行きませんから。お姉さんの務めです。えっへん」
 自慢げに胸を貼る美凪。圭一と美凪の二人は病院を出発し、ある場所を目指していた。
 その場所は学校である。そう圭一達参加者が最初に集められた場所。
 圭一はあてもなく島内を歩き回るよりは最初のスタート地点を調べてみるべきだと思い、
 美凪に学校に行くように提案したのである。
「まあ病院にはメモを残してある、俺達と同じ目的を持ってる人が見てくれることを祈ろうぜ。
遠野さんの顔写真付き名簿がさっそく役に立ったな」
 病院のロビーに貼り付けておいたメモの全文はこうだ。

『俺達、前原圭一と遠野美凪は島を脱出するための仲間を探しています。俺達はこれから手掛かりを探しに学校へ向かうつもりです。
ここに俺達の顔写真を残しておきます。レナ、詩音、梨花ちゃん、国崎往人、神尾観鈴。そして俺達と同じ志をもった人達、
こんな馬鹿げたゲームをぶっ壊してやろうぜ!!!』

 圭一は病院を発つ前、仲間を集め島を脱出する目的の旨を記し、
美凪の支給品である顔写真付き名簿から自分らの写真を切り抜き、メモに添えておいたのである。
45偽りの贖罪 ◆VtbIiCrJOs :2007/04/22(日) 12:12:28 ID:plgeM2bM


「この道であってるよな……」
「大丈夫、へっちゃらへー」
 二人は学校に向かうため川沿いの道を西に向かって歩いていた。
 地図によると、この先に使われなくなった線路が南北に伸びており、川を渡って小屋に向かっている。
 この道が学校に向かうための最短ルートである。
 病院を出た二人は川の畔、対岸に伸びる鉄橋のたもとにやって来た。

「ふーっ、歩き詰めはさすがに疲れた……ちょっと休もうぜ」
 圭一と美凪は線路の上に腰を下ろし、デイパックから水を取り出し口に含む。
 ひんやりとした感覚が口内を包みこんでゆく。
 気分爽快リフレッシュ!
「ぷはーっ! 水がうめえぜ! あ、そういえばさ、遠野さん、アレ見せてもらえないか?」
「……アレ?」
「そうアレ」
「……えっち」
「だから何でそうなるんだよ! あれだよ顔写真付きの名簿」
「……どうぞ」
 美凪はデイパックから通常に支給品とは別に与えられた顔写真付きの名簿を取り出す。
 圭一は名簿のページをぺらぺらと捲り眺める。
 ふいにある写真とその人物の名前が目に留まる。
46偽りの贖罪 ◆VtbIiCrJOs :2007/04/22(日) 12:14:04 ID:plgeM2bM
 ――国崎往人。
 美凪が探している人物の一人。
 歳の頃は二十歳ぐらい
 特徴的な銀髪の髪と、その前髪の隙間から鋭い眼光を湛えている男だった。
「なんか目付きの悪い奴だなあ」
「目付きの悪い人ですが……とても優しく、そして強い人です」
「目付きが悪いのは否定しないんだな」
「彼は……私の長い長い夢のはざまから目覚めさせてくれた大切な人……」
「…………」
 圭一はそれ以上何も言わなかった。この人とその男の間には、きっと自分の計り知れない絆があるのだろう。
 圭一はさらにページを捲って自分の仲間が載っているページを見る。
「前原さんのお友達は……無事でしょうか」
「大丈夫だって! あいつらがそんな簡単に死ぬタマかよ」
 圭一はからからと笑いだす。あの部活メンバーとなら、あいつらと一緒ならこんなゲームなんて絶対ぶち壊せるはず。
「そう……ですね」
 美凪も圭一に釣られにっこりと微笑む。
 その可愛い仕草に圭一は顔が紅潮するのを感じた。
「どうかしましたか?」
「べ、別になんでもねえよ……」
 ひとときの平和。
 平凡な毎日がいかに平和で大切なものだったのか実に身に染みた。

 美凪は知らない。
 彼――国崎往人が神尾観鈴を救うため修羅となる道を選んだこと。
 美凪ですらその手に掛けることも辞さないと決心したことを。
 そして一人の少女を殺めたことも。
 圭一は知らない。
 大切な仲間の一人、竜宮レナは数多の世界と同じく雛見沢症候群をこの世界でも発症し、錯乱の果て、一人の少女の手によってその命を散らせたこと。
 大切な仲間の一人、園崎詩音はこの世界にルールに従い殺人鬼となったことを。
 いずれ彼らは知るだろう。
 世界はいつだってこんなはずじゃないことばかり。
 神は天に在り、世は全て事も無し。
47偽りの贖罪 ◆VtbIiCrJOs :2007/04/22(日) 12:15:23 ID:plgeM2bM

「遠野さん、足元気をつけて……ほら、手」
 圭一は美凪の手を取り真っ暗な川を貫く鉄橋を慎重に歩く。
 街灯の届かない川のど真ん中では圭一の手に握られたランタンだけが人魂のように闇に浮いている。
 まるで三途の川を渡る死者の魂のように――。
「こうしてみると……私達恋人同士みたいですね……」
「こ、恋人〜!? ごっごめん俺、つい手を」
 繋いだ手を緩めようとする圭一を美凪は優しく握り返す。
 そうだ、これがレナや魅音ならどうってこと無い、今までそれが普通だったから。
 でも美凪の立ち振るまいは否応にも彼女が女性ということを意識させてしまう。
(こ、これが年上の魅力……ッ! 親父……監督……俺はまだまだ未熟者だぜ……!)
「進呈……『お姉さんとらぶらぶで賞』……ぱちぱち」
 本日二回目のお米券受賞。
 圭一は何とも言えない雰囲気になってため息を吐いた。
 この人はまじで天然だ。

 ※ ※ ※ ※ ※ ※
48偽りの贖罪 ◆VtbIiCrJOs :2007/04/22(日) 12:16:49 ID:plgeM2bM
「えっと……この辺りは……」
 線路沿いを南に向かって歩く良美は地図を広げ、大まかな自分の位置を確認する。
 二百メートルほど離れた先に川とそれに架けられた鉄橋がある。
 その川を越えればE-6エリアに辿り着くだろう。
「ん……何あれ……?」
 良美の目に小さな光が目に入る。自分とは反対方向からゆらゆらと近づいてくる。
「あれはランタンの光……?」
 良美は急いで自らのランタンの光を消し、周囲の様子を伺う。
 光はだんだんとこちらに近づいてくる、風に乗ってかすかに話し声も聞こえる。
『……………………』
『……………………』
 声は二人、何を言っているかわからないが声のトーンからして男と女。
 今の所こちらに気がついている様子は無い。
 どうする? 相手は二人。いくら銃があっても自分の技量で二人は相手できない。
 かと言って血に染まった自分の服装では怪しすぎる事この上ない。
 自分の服装――。
 藤林杏の血に染まった――?
 相手が彼女並にお人好しならば――。
「いいこと思いついちゃった」
 手をぱんっと合わせ微笑む良美。彼女は一目散に二人に向かって駆け出していった。

 ※ ※ ※ ※ ※ ※
49偽りの贖罪 ◆VtbIiCrJOs :2007/04/22(日) 12:18:00 ID:plgeM2bM
「ようし川は無事に渡れたな、えと、ここの場所は……」
「E-5です……。学校まで約半分、ふぁいと」
「まだ半分か……遠いな……」
 実際歩いてみてわかったがこの地図の1マスはかなり距離がある、病院を出てから二時間近くが経過していた。
(くいっくいっ)
「ん? どうしたんだ遠野さん」
 ぼやく圭一の服の裾を引っ張る美凪。
「前原さん……」
「だからどうしたんだよ」
 美凪はゆっくり前を指差す。
「前……? って嘘ッ? うっうああああああああああ!!!」
 圭一が前を向いたのと、前方から物凄い勢いで走ってきた少女、佐藤良美とがぶつかったのはほぼ同時だった。

「つ〜〜〜〜〜何だよもう……」
 圭一は頭を抑え地面に転がったランタンを拾い上げる。
 ぶつかった女の子は大丈夫だろうか? 圭一は少女を照らす。
「大丈夫か……!? っておい!?」
 光に浮かび上がる少女の姿。
 長袖のセーラー服は赤茶色に染まり、誰が見てもそれが血であると疑えないものだった。
「いや……わ、たし……いやあああぁぁぁぁぁあああああ!!!」
 服を血に染めて怯え、恐怖する少女。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
 少女は地面に蹲ったまま、誰に言うまでも無くただひたすら宙に向かって謝罪の言葉を呟くのみだった。
50偽りの贖罪 ◆VtbIiCrJOs :2007/04/22(日) 12:19:05 ID:plgeM2bM
「……どう? 落ち着いた」
「う……ん……」
 怯える少女をなんとか宥め、落ち着きを取り戻させてやる。
 この子に一体何が? 服に血がべったりとこびり付いてはいるが目だった外傷は特別見当たらない。
「俺は前原圭一。そしてこっちが――」
「遠野美凪と申します。以後お見知りおきを……」
 圭一に続いてぺこりと頭を下げて挨拶する美凪。二人が自分に危害を加えるつもりがないと察したのか、少女もぽつりぽつりと自分の名を語る。
「私……佐藤良美……」
 良美は抑揚の無い言葉で名を告げた。
「なあ佐藤さん、一体何があったんだ……」
「……前原さん、いきなりそんな質問はデリカシーが無さ過ぎます」
「え、あっ、ご……ごめん……俺そんなつもりは……」
 うろたえる圭一を意に介さず良美は自分の身に起きた出来事をゆっくりと話し始めた。

「私……森で人に出会ったの……黄色っぽい色のブレザーを着た女の人……。
明るく気さくな人で……この人なら大丈夫と思ったら……いきなりナイフで切りつけきて……」
 圭一は良美の言葉に慎重に耳を傾ける。
「もみあって……気がついたら……私、ナイフを持ってて……」
 それは犯してしまった罪への悔恨の言葉。
 決して許されない重い十字架。
「気がついたら……女の人、血だらけで倒れてて……息をしてなくて……うぐっ……うあ……
私……わたし……うっ……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
 人を殺してしまった自責の念に駆られただひたすら嗚咽の言葉をもらす良美。
 そんな彼女に圭一は優しく声をかける。
51偽りの贖罪 ◆VtbIiCrJOs :2007/04/22(日) 12:20:26 ID:plgeM2bM
「佐藤さん……確かにあんたは殺人という絶対にやっちゃいけない事をやっちまった。例え向こうに非があったとしてもだ。
でもな、あんたはこうして俺達の前でその罪を告白してくれた。それってさ、すごく勇気のある事なんだぜ。
黙っていたい、逃げたい、隠してしまいたい、誰もがそう思う。でも、逃げたところで
自分の犯した罪という十字架は一生ついて回る。その重みに耐え切れる奴なんていない」
 圭一はかつて犯した罪を思い出しながら静かながらも力強い言葉で話しかける。
 ストレスの捌け口として関係の無い人々を傷つけた日々。
 その罪に気づいた時は遅く、自責と悔恨と贖罪の日々。
「それでもあんたは逃げなかった。俺達に罪を告白してくれたんだ。だからさ、謝ろうぜ」
「あや……まる?」
「そう、死んだ人間は帰ってこない。だからその人の家族友達にな。地面に頭をこすり付けてでも謝るんだ。
確かに怖い、怖いよ。何言われるか知れたもんじゃない。それで自分の罪が消える訳でも無い。
それでも謝るんだ。口汚く罵られても、無視されてもだ。
もし、この島にその人の知り合いがいて、その話を聞いたら逆上して襲い掛かってくるかもしれない。その時は俺があんたを守ってやるッ!」
「私を……守る?」
「ああ、そして無事に島を脱出したら警察に出頭しよう。そん時は俺も付いて行ってやるさ!」
「私、こんな……人殺しなのに……」
「ああ確かに人殺しだ。でもな! その犯した罪と罰を受け入れる勇気を見せてくれた。そんなあんたをここで見捨てて置けないッ!
俺があんたを守ってやる! だから生きよう、生きてこの島から脱出するんだッ!」

「前原……君……私、私……うあ……うああああぁぁああああん!!」
 良美は圭一に抱きつき堰を切ったかのように大粒の涙をこぼし号泣する。
(ちょ、うおっ……む、胸があたって……魅音よりもでけえ……)
「女の子に抱きつかれてウハウハで賞……進呈」
 この娘のためにも絶対に島から脱出を遂げなければ。
 頬を赤らめ少々しまらない顔ではあるが、決意を新たにした圭一であった。

 ※ ※ ※ ※ ※ ※
52偽りの贖罪 ◆VtbIiCrJOs :2007/04/22(日) 12:21:15 ID:plgeM2bM
(まさかここまでうまく行くとは思わなかったなあ)
 圭一の胸に顔を埋め、ほくそえむ良美。
 人を騙すには事実を交えよと言ったものだが、この男があっさり信用したのは予想外だった。
 しかし良美には圭一に対する殺意が溢れ返っていた。
(よくもまあ……真顔でこんな事いえるね。対馬君でもここまで臭い事言わないんじゃないかな)
 例え演技でも心にも無い偽りの贖罪の言葉を口にし、苛立っているところに圭一の言葉。
 反吐が出るくらい虫唾の走る偽善的な言葉の数々。気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。
 良美はふつふつと湧き上がる衝動を抑えるのに必死だった。
 対馬レオの持論を思い出しつつ殺意を押さえる。
 一時のテンションに流されるな。
 そうだ、テンションに身を任せるとろくな事にはならない。クールになれ、佐藤良美。
 いつも通り、学校で演じている『佐藤さん』いや『砂糖さん』を心がけよ。
(そうそう……落ち着いてきた。この人の利用価値が無くなるまでは、ね)
 ホームラン級の馬鹿な前原圭一はもはや自分を疑うことは無いだろう。
 乳房の一つでも押し付けて自責と悔恨に囚われた健気な少女を演じればよいだけだ。
 後は……無表情な顔のせいでうまく思考を読み取れない遠野美凪の動向に気をつけるだけでよい。

 霧夜エリカと対馬レオ以外の人間は良美にとってただの駒。
 利用するだけ利用する。利用価値が無くなった駒はさっさと斬り捨てる。
 無論、この前原圭一という少年も例外では無い。
 偉そうに垂れ流す御高説は癇に障るがそれだけの言葉を吐くならその行動力に期待しようではないか。

(頑張ってね、前原圭一君)


53名無しくん、、、好きです。。。:2007/04/22(日) 12:25:28 ID:PwT0stXa
支援
54偽りの贖罪 ◇VtbIiCrJOs:2007/04/22(日) 12:42:21 ID:+CSCrscH
【E-5 南部/線路上/1日目 黎明】

【佐藤良美@つよきす -Mighty Heart-】
【装備:S&W M36(5/5)】
【所持品:支給品一式×2、S&W M36の予備弾15、スペツナズナイフ、錐 毒入りとラベルが貼られた500ml非常用飲料水】
【状態:健康、血塗れ】
【思考・行動】
基本方針:エリカとレオ以外を信用するつもりは皆無、ゲームに乗っていない者を殺す時はバレないようにやる
1:エリカ、レオ、ことみを探して、ゲームの脱出方法を探る
2:人は利用出来そうなら利用する
3:怪しい者や足手纏い、襲ってくる人間は殺す
4:最悪の場合、優勝を目指す
5:服を探す
【備考】
非常用飲料水の毒の有無は後の書き手に任せます。

【前原圭一@ひぐらしのなく頃に祭】
【状態:健康】
【装備:柳也の刀@AIR】
【所持品:支給品一式、メイド服(圭一専用のサイズです)@ひぐらしのなく頃に祭】
【思考・行動】
基本方針:仲間を集めてロワからの脱出
1:美凪と良美を守る
2:手掛かりを求め学校に向かう
3:知り合いとの合流、または合流手段の模索
【備考】
圭一は皆殺し編の途中(沙都子を助けた)辺りからの参戦です。
55偽りの贖罪 ◇VtbIiCrJOs:2007/04/22(日) 12:43:10 ID:+CSCrscH
【遠野美凪@AIR】
【状態:健康】
【装備:なし】
【所持品:支給品一式、顔写真付き名簿(圭一と美凪の写真は切り抜かれています)】
基本方針:圭一についていく
1:知り合いと合流する

【備考】
時系列は観鈴の放送の後です。なお三人は観鈴の放送を聞いていません
病院のロビーに圭一のメモと顔写真が残されています
56 ◆4JreXf579k :2007/04/26(木) 09:35:27 ID:OPJ3k7po
【B-7 温泉/1日目 早朝】

【霧夜エリカ@つよきす】
【装備:スタンガン@ひぐらしのなく頃に】
【所持品:支給品一式、十徳工具@うたわれるもの】
【状態:健康。乳ハンター】
【思考・行動】
1:( ゚∀゚)o彡゜オッパイ!オッパイ!
2:智代と行動を共にし、仲間の捜索。
3:くだらないゲームをぶっつぶし、主催者を後悔させる。
【備考】坂上智代と情報を交換しました。
十徳工具の機能:ナイフ・コルク抜き・+ドライバー・−ドライバー・LEDライト・糸通し・栓抜き・ハサミ・ヤスリ・ルーペ

【坂上智代@CLANNAD】
【装備:FNブローニングM1910 6+1発(.380ACP)】
【所持品:支給品一式、ランダムアイテム不明】
【状態:健康。エリカのペースに乗せられっぱなし】
【思考・行動】
1:ぬわああああああああああああああ
2:エリカと共に朋也を始めとした知り合いの捜索
3:ゲームからの脱出
【備考】霧夜エリカと情報を交換しました。
FNブローニングM1910:女性の護身用拳銃としてよく用いられている。ちなみに、ルパン三世の峰不二子、鋼の錬金術師のホークアイ中尉などが使用している。

※智代の貞操がどうなったかは後続の書き手に任せます
57温泉に集いし者たち  ◆4JreXf579k :2007/04/27(金) 00:38:35 ID:80NNelQQ
そこは温泉。それ以上の何者でもないはずであった。
もしもこの島が観光地などであったなら、ガイドブックには美辞麗句に彩られた宣伝がなされていたかもしれない。
日頃の疲れを体の垢と共に洗い落とし、夜はうまい酒でも飲み、浮世の世知辛さを忘れることもできたであろう。
しかし、ここはリゾート地などではなく殺し合いをさせられるという絶望の孤島。
そんな状況でのんびりと温泉を楽しむ余裕などありはしない。
地図を見渡せば百貨店、学校、図書館、その他etc……
温泉より重要そうな施設などそれこそ山ほどある。
しかし、何の因果かここに多数の人間が集うこととなる。
ある者は必要に迫られて、ある者は探し人を求めて、ある者は神様のちょっぴり意地悪な偶然とともに……
これは時の中に刻まれた、温泉に集いし7人の戦士の物語である。



――島の南西部に位置する森の中で二人の戦士が温泉を目指している――

 

「温泉に行くか?」

俺はなんとか情報交換をすることに成功してからも、どこか落ち着かない様子の貴子へそう問いかけた。
貴子は先ほど転んでしまったため、顔や制服が汚れていることが無性に気になって仕方がないようである。
幸いハンカチは没収されることなくスカートのポケットに入っていたが、生憎ハンカチでは全ての汚れを落とすことは叶わなかった。
貴子が上流階級の金持ちの間では有名ないわゆるお嬢様学校の生徒だということは聞いた。
着ている制服とかいかにも金がかかってますってかんじだし、最初会ったときから想像はついていたのでそれは別段驚くことでもない。
そしてそんなお嬢様学校に通う貴子もその例に漏れず芯からお嬢様なんだろう。
おそらく身体が汚れたまま行動したことなどほとんど無いに違いない。
もちろん貴子も「服が汚れたままではなにもできません」などというのは甘えに過ぎないと分かっているようで、それを口に出すことはしなかった。
しかし態度の端々に気にしている様子が見受けられる。
俺の方からすればそれがどうにも気になって仕方がない。
そこで先の提案をしたわけである。
58温泉に集いし者たち  ◆4JreXf579k :2007/04/27(金) 00:39:36 ID:80NNelQQ
「え!? な、何故でしょう?」
「いや、さっきから服とか顔の汚れが気になってるみたいだから」
「い、いいえ……お構いなく!」
「でもさっきから気になってんだろ?」
「はい。 ……って、そ、そのようなことは……」

慌てて言い直しはしたが本音はしっかりと聞こえてきた。
これはいよいよ連れて行かないといけないと心の中で強く誓った。
いつ敵の襲撃を受けるのかもしれないのに、汚れが気になって周囲への警戒を怠ってもらっては困る。

「ほら、つぐみとか貴子の知り合いの……瑞穂だっけ? ひょっとしたらそいつがいるかもしれないだろ?」
「そ、それはそうですけど……」
いまいち気乗りしない様子の貴子。
「あ〜、もしかするとあれか? 覗きとかされたりするとか思ってる? 俺ってまだそんなに信用されてない?」

場を和ませるための冗談のつもりだったが、これがどうやら大当たりのようで過剰すぎるほどの反応を見せてくれた。
それも仕方ないといえば仕方ないのかもしれない。
貴子が男嫌い――恐怖症というレベルではなくあくまで苦手の部類――というのもさっき聞いたことの一つである。
あれ程に泣き叫んでいたのは、殺し合いをさせられるという状況に放り込まれただけではなく、最初に出会ったのが苦手な男だったというのもあったようだ。
そんな男嫌いの貴子が、突然温泉に行こうという提案に下心を感じずにいられなかったというのは俺にも納得のいく話である。
しかしこのままでよいかといえばそれはノーだ。

「それなら心配ないぞ。 こう見えても新婚ほやほやの所帯持ちだからな。 覗きなんてしたら嫁さんに殺される。 いや、マジで」
このままでは埒が明かないので別の餌で釣ることにしたが、これが予想以上の食いつきを見せてくれた。
「ええ!!  しょ、所帯持ち!! ご結婚なさってるのですか!? お相手はやっぱり小町つぐみさんなのですか? で、でも武さんって私とそう代わらない年齢ですよね?
見たところ大学生位のようですし……  ということは学生結婚なのですか?  御両親に反対はされなかったんですか?」

それまでのおとなしい雰囲気から一転して、マシンガンのような質問の嵐。
俺は貴子に対する印象を一気に変えることになる。

59温泉に集いし者たち  ◆4JreXf579k :2007/04/27(金) 00:40:07 ID:80NNelQQ
「なんか……ものすごい反応の仕方だな。 お嬢様ってみんなこういうネタが好きなのか?」
「は!? も、申し訳ありません。 私としたことが……」
「いや、それはいいんだけどさ。 どうする? 温泉に行くなら詳しい話をするけど?」

思いがけない条件を突き付けられて迷いを隠せない様子の貴子だったが、最終的に温泉に行くことを決意した。
やはりいつの時代も、お嬢様であろうとなかろうと女の子は恋の話が大好きなんだろうか。



――そしてもう二人の戦士が温泉に向かっていた――



私、いや僕には一つ悩みがあった。 同行している春原陽平に自分の本当の性別を打ち明けるか否か、である。
本来なら出会ってすぐに打ち明けるべきだったのだろうが、今更そのことを後悔してもそれはしょうがない。
それから何度も打ち明けようとはしているのだが、なかなか機会に恵まれずここまできてしまった。
陽平さんはそんな僕の悩みなど全く気付かずに僕の外見を褒めてくれるのだが、これも厳しいものがある。
女性の人には散々綺麗だのなんだの言われてきたのでもう慣れたが、同性の人にこうも褒められると今までとは違った悲しさが湧き上がってくる。
それに陽平さんのこの態度。 
僕にも明らかに見て取れるほどの好意をぶつけてくるのだ。
もしかしなくてもやっぱり口説かれてるよなあ。
もし、この状況で打ち明けたらどうなるだろうか?

1、「変態!」と罵られる。 一応、その後も行動は共にしてくれる。
2、「こんな変態と一緒に行動なんかできるか!」と絶縁状を叩きつけられる。
3、「そんなこと気にしてないよ」と爽やかに受け入れてくれる。
4、「男でもいい!」と新たな道に目覚める。

やっぱり1番か2番だろう。 3番を期待するのはやはり楽観的過ぎるというものだ。
4番……これはない……これはない、きっと……たぶん。
こうなったら最後まで隠し通すしかない、そう決心したところで――
60温泉に集いし者たち  ◆4JreXf579k :2007/04/27(金) 00:40:38 ID:80NNelQQ
「温泉に行きましょう!」

能天気ともいえるほどの陽気さで陽平さんは提案さんしてきた。
そういえば、今は当面の目的地を決めているところだったのを思い出す。
なかなか決まらず思考が思わず脱線してしまったようだ。
当初陽平さんと行動を共にすることは決めたものの、どこに行くかはまだ決めかねている状態であった。
そこでお互いの探し人、貴子さんや陽平さんの知人の岡崎さんが行きそうな場所を探すことになったのだが、これがなかなか決まらない。
そもそもこのような状況に放り込まれた人間が、休日の午後と変わらないような気分で行き先を決めるとは考えにくいのだ。
無論温泉などというのは考えていた候補からは真っ先に消えていた施設である。

「温泉……ですか? どうしてそんなところに?」
「いや〜僕の知り合いの岡崎という奴がですね。 これがまた絵に描いたようなむっつりスケベでして……女物の下着を見ると盗まずにいられず、
温泉に入るとなると女湯を覗かずにはいられないようなしょうもない奴なんですよ。 だからあいつのことならこの島に温泉があると知ったらきっと飛んできますよ」

岡崎朋也本人がどういう人物か知らないのでとりあえず陽平さんの言を信じるしかないのだが、それ以外の意図を感じるのはきっと気のせいではないだろう。
先刻から「瑞穂さんの裸……やべっ興奮してきた」と呟いているのが聞こえる。
思わず溜め息をつくとともに温泉には絶対に入るまい、そう心に誓うのであった。

「分かりました。 それでは行きましょう」
「おおっと。 危ないですから瑞穂さんは僕の後ろからついてきてください。 大丈夫。 僕らの愛を邪魔するようなやつこの指先一つでぶっ飛ばしてやりますよ」

いつ二人の間に愛が芽生えたのか。 
そうツッコむことを考えた矢先に僕の背中に懐かしい声が届いた。

「瑞穂さん!!」

振り向きざますぐに走り出す。
確認なんてする必要はない。
この声は、何度も胸に刻んだ声。
何度も頭に叩き込んだ愛しい声
僕が一生を賭けて愛すると誓った人の声。
61温泉に集いし者たち  ◆4JreXf579k :2007/04/27(金) 00:42:23 ID:80NNelQQ
「貴子さん!!」
「瑞穂さん!! 会いたかった……」

制服が汚れているみたいだがそんなことは気にしない。
力いっぱいに愛する人を抱きしめる。 貴子さんには悪いけど今は力の加減はできない。
貴子さんもそれを察したようで、細腕ながら痛いほどに抱きしめてくれる。
よかった。 この人が無事で本当に良かった。 
この人のいない人生など何の意味もないのだから。
お互いの体を気が済むまで抱きしめあった後どちらからともなく体を離す。
そこでようやく貴子さんと同行していたと思われる男性の姿にも気が付く。
きっとこの人がいままで貴子さんを保護してくれたのだろう。

「宮小路瑞穂と言います。 この度は貴子さんをここまで守ってくれてありがとうございます。 貴子さんの分も含めて御礼を言います」
「守ったって別に何もしてないけどな。 俺は倉成武。 俺たちは温泉に行くつもりなんだが、どっか行くアテはあるのか?」
「それは奇遇ですね。 私たちも今から温泉に行こうとしていたところです」



――まずはここに四人の戦士が集まった――



温泉は4人が合流してから目と鼻の先の地点にあった。
元々4人の転移させられたスタート地点も温泉に近いところなので、他に誰にも会うことなく簡単にたどり着くことが出来た。
温泉は森の中にぽつんと湯が湧いてるのではなく、建物があってその中には番台や男女別の脱衣所といった部屋がある。
これでは温泉というよりむしろ銭湯に近い。
武たちとしても地べたに座り込むよりはこうやって建物の中でくつろげる方が助かる。
一通り中の捜索をして誰もいないことを確認して、今後の行動方針を決めるための話し合いをすることとなった。
皆ができるだけ簡潔に自己紹介をすませようとする中、一人だけ空気を読まず過剰な自己アピールをするものがいたが、
当然残った三者から冷たい眼差しを受けてバツが悪そうな顔をする羽目になった。
司会役は一番年長ということで特に異論もなく武が務めることになった。
62温泉に集いし者たち  ◆4JreXf579k :2007/04/27(金) 00:43:24 ID:80NNelQQ
まずは各々の支給品を確認することにしたのだが、武器は貴子に支給された投げナイフ10本のみ。
武はジッポライター、陽平はipod、瑞穂は手錠という使えるのか使えないのか分からないアイテムばかりである。
とりあえず投げナイフを各自二本ずつ持つことに決めた。

基本的に武が話を振り、貴子が相槌を打つ。
そして陽平が余計なことを言い、瑞穂がツッコむという形で話は進められていく。
この島に来て初めて安心する場所を得られたのか会話は概ね良い雰囲気で進められた。

しかし、ここに来て初めて意見が真っ向から対立することになり、雰囲気も険悪なものとなる。
発端は武の、ここで二手に分かれてより多くの協力者を得ようという発言である。
これに対して、正面から反論を仕掛けたのは瑞穂。
曰く、協力者を得るのは同意見、しかしあくまで4人全員で一緒に行動すべきだという。
ちなみに陽平は瑞穂と一緒ならどっちでもいいらしく、貴子は先程までは楽しそうに話に加わっていたのに今はだんまりを決め込んでいる。
当初は二人も冷静にお互いの意見を論じていたのだが、両者の一歩も譲らぬ態度に徐々に言葉に刺が混じるようになる。

「いいですか!そもそも私たちの武器と呼べるような代物は貴子さんの投げナイフだけなのですよ。
 そんな装備で少人数で行動して、銃を持った敵に出会ったらどうするんですか!? 危険すぎます!」
「それはこっちの台詞だ! こんな装備で4人も固まって行動して、マシンガンみたいなの持った奴に出くわしてみろ! 丁度いい的が4つあるだけじゃねーか!
 それとも投げナイフもった男女4人がかりなら銃持った奴にだって勝てるとでも言いたいのか?」
「そんなことは言っていません! 私は銃を持った敵を警戒するならなおさら周囲を警戒する人数が必要だといっているんです!
 二人だと二方向にしか注意を向けられないじゃないですか!」
「だったら俺は一人でも行かせてもらうぞ! 俺の行動を邪魔できる権利なんてないんだからな!」
「させません。 腕ずくでも私たちと一緒に来てもらいます」
「……やってみろ」

ついに火がついた。
あとはこのまま爆発するだけである。
63温泉に集いし者たち  ◆4JreXf579k :2007/04/27(金) 00:43:55 ID:80NNelQQ
――二人の行動指針はあくまでも同じ。 より多くの人を助けここから脱出する。
なのに、ここでお互いが相容れないのはたった一つのある事情。
それこそが今の武と瑞穂を決定的に分かり合えないものにしているのである。
それは――

「まあまあ二人ともそんなにピリピリしないで。 ここは温泉なんだからさ、温泉にでも入って気分をラフレシアさせましょうよ」
一触即発の状況を打ち破ったのは以外にも傍観を決め込んでいた陽平の一言であった。

――もっとも陽平はこの状況をなんとかしようという気など全くなく、ある一つの純粋な、いや不純な動機のためであったのだが――

一時休戦。
そもそもここに何をしにきたのか武は思い出す。
「ああそうだった。 悪いけど瑞穂、貴子をつれて入ってくれないか? 俺と陽平はここで見張りをする」
それからラフレシアじゃなくてリフレッシュな、とツッコミを入れることも忘れない。
瑞穂は貴子の格好を見てああ、と納得しながらも追求する。

「そんなことを言ってあなたは一人で――」
「分かってるよ。 一人で勝手に抜け出したりはしない。 約束する」
「……分かりました。 とりあえず信用します」
「やった!」

不承不承として顔で頷く瑞穂に対し一人だけ喜ぶ陽平。
やはり空気を読めない男である。
64温泉に集いし者たち  ◆4JreXf579k :2007/04/27(金) 00:44:26 ID:80NNelQQ



――戦士といえど、時には休息も必要である――



脱衣場で汚れた衣服を畳み、タオルを身体に巻き脱衣場を出る。
温泉に入る前にまずは身体の汚れた部分を洗い落とし、擦りむいた膝の怪我の具合を見る。
このぐらいならなんともない。
頭から湯をかぶり、いよいよ温泉に入る。
湯加減はまさに熱過ぎず温過ぎずといった感じで、身体の隅々まで染み渡る暖かさに息をつく。
もしもこんな状況にいなければ私はさぞかしこの湯を満喫していたであろう。
けれど私には先程から考えていること、いや、迷っていることがあった。
そのせいだろうか。 あまりこの湯を楽しむことができないでいる自分がいる。
瑞穂さんはというと私よりに先に入っているのだが浮かない顔をしており、こちらも温泉のありがたさをあまり堪能していない様子。
瑞穂さんも先程の武さんとのやりとりで色々と思うことがあるのだろう。
長い沈黙。
耐え切れずに先に話しかけてきたのは瑞穂さんのほうだった。

「貴子さんはどうお考えですか?」

何のこと? などとは聞かない。
武さんの言った二手に分かれて別行動をするべきだという考えと、あくまで全員で行動すべきだと主張する瑞穂さん。
あの時私は一言も口に出さずにいた。
今ここで私の考えを聞こうということなのだろう。
けれど、あのとき私が口を挟まなかったのはどうでもいいというわけではなく、私なりに考えていたことがあったからである。

「私は……私はお二方の意見のどちらが正しいとは断言できません。どちらの主張にもそれぞれ納得できるものがありますから」
ただ、と付け加える。
「瑞穂さんも武さんが何故ああも別行動に拘るのかを分かってあげてください」
65温泉に集いし者たち  ◆4JreXf579k :2007/04/27(金) 00:44:59 ID:80NNelQQ

そして私は話す。
小町さんが武さんの生涯の伴侶であることを。
驚きを隠せない瑞穂さん。
私もさっきあんな顔をしていたのだろうか。 そう考えると少しだけ笑いがこみ上げてくる。
私たちはこの広い島でこうも短時間で再会することができた。
それはきっと奇跡に等しい確率。
あとは仲間を守りつつ慎重に行動すればいい瑞穂さんと、未だ見つからぬつぐみさんを探すためできるだけ多方面に人を散らばせ、時には危険な戦場に飛び込む必要のある武さん。
二人の目的はできるだけ多くの人とここから脱出するという同じもの。
しかし、そのために執る手段は大きく異なってしまわざるを得ないのである。

「つまり今ここにいるのが貴子さんではなく、小町つぐみさんであれば僕と武さんの主張は全く逆になったかもしれない。 そういうことですか?」
「かも……しれません。少なくとも私にはそうみえました」
「そう……ですか。 後で武さんには謝らないといけないですね。 けど、安心してください。 たとえ一緒になっても、ここで別行動をすることになっても貴子さんは僕が守りますから」

やっぱり。
私の胸の中をその一言が駆け巡る。
そう。これこそが私がずっと考えていた葛藤の正体。
私はこの人と共に行動するべきではないのではないかという疑問。
この人はもう私を守る気でいる。
この人は本当に命に代えても私を守ってくれるだろう。
向かい風に両足を踏ん張って、炎の中に平気で飛び込み、濁流には正面から立ち向かう。
あの時だってそう。
誘拐されそうになった自分を救うため、迷いもすることなく大の男4人に挑んでいった。
そういう人なのだ。
そういう人だからこそ私はこの人を愛したのだ。
しかし、宮小路瑞穂にとって厳島貴子という女は希望であると同時に弱点にもなる。
きっと瑞穂さんは私を庇って命に関わるような怪我をしても恨み言一つ言わず、無事でよかったなどと言うだろう。
それだけはなにがあっても避けねばならない。
私はあらゆる対価を払ってでもこの人を守る。
たとえそれがこの人の庇護の下から離れることになっても。
少し自嘲気味に笑う。
66温泉に集いし者たち  ◆4JreXf579k :2007/04/27(金) 00:45:29 ID:80NNelQQ

会いたい会いたいといいながら、会った途端に離れることを考え始める女。

なんと浅ましい。 
けどそれでいいではないか。
愛する人を守れないような貞淑な女より、浅ましくとも愛する人を守れる女になることを私は選ぶ。
名実共にお嬢様として育てられた私ができる唯一の瑞穂さんを守る方法。
幼稚な方法だ? 笑いたいなら笑うがいい。
これが、これこそが私なりの瑞穂さんを守る戦い方。

「瑞穂さん……私……私、武さんと一緒に別に行動させてもらいます」

思いがけない言葉にざばり、と音を立てて湯船から立ち上がりこちらを見る瑞穂さん。
その行動は予測できていたので私はそのまま続ける。

「私がここで瑞穂さんに会えたのは武さんのおかげです。 ここに来るように決めたのも武さんです。
 もし私は武さんと会うことがなかったら今頃誰かに襲われて死んでいたかもしれません。
 だから、その恩返しをしてあげたいんです。 武さんの提案を受け入れてあげたいのです」

それは半分本当で半分は嘘。
恩を感じているのは本当だが、別行動をとるのはあくまで目の前のこの人の為。
そして、この人は私の頼みを断れない人。
それを知っているからこそ、私はこんなことを提案する。
ちょっぴり、ずるくなったなと思う。

「……分かりました、貴子さんがそういうのなら。けど約束してください。危ないことは絶対しないって」
「心配しないでください。私は死ぬために行動を別にするのではありませんから」

瑞穂さんの手を取り約束の指切。 そしてキス。
そのまま手を繋ぎ二人で脱衣場に向かう。
そういえば、と瑞穂さん。
67温泉に集いし者たち  ◆4JreXf579k :2007/04/27(金) 01:08:14 ID:80NNelQQ

「鼻血出なかったですね。 いえ、茶化すつもりはないのですけど、珍しいなと思いましたから……」

……はっ!? み、み、み、瑞穂さんの裸!?
男の人の裸!? それもよりによって瑞穂さんの裸!?
いや、落ち着け。 瑞穂さんの裸なんてきっとこれから何度も見ることになるんだから……
何度も!? 何度も見るって事はキスの先の行為をするわけで…… キスの先!?
きゅううううううううう〜っ  バタン!

「わわわ、た、貴子さん大丈夫ですか?」

結局、先程まで大丈夫だったのは余計な考えに囚われる暇がなかったかららしい。
無事帰ることができたら、この失神癖も早いところどうにかしないといけないようだ。  



―― 一方、見張りをしている陽平と武はその間何をしていたかというと――



ここまではうまくいった。
激しく言い争っていた二人を絶妙のタイミングで助け舟を出すことに成功した僕。
きっと瑞穂さんと貴子さんの僕に対する評価もグッと上がったに違いない。
おまけに当初の目的を果たすために二人を何の疑いも無く温泉に入れることに成功した。
さっすが僕。 普段は岡崎たちが横から口を挟んだりして失敗しがちだけど、邪魔さえされなければこうも上手くいくんだ。
我ながら惚れ惚れとするほどの頭のよさだね!
さあ、仕上げだ。
本来なら影から瑞穂さんと貴子さんの美しい淑やかな裸体をこっそり覗くつもりだった。
けど瑞穂さんはさっきのやり取りで僕に対する好感度がこれ以上ないほどに上がってる筈。
68温泉に集いし者たち  ◆4JreXf579k :2007/04/27(金) 01:08:45 ID:80NNelQQ
つまり!!

男湯と間違って女湯に入る→普通ならキャーと叫ばれ痴漢扱い→けど僕への評価が高まってる今なら、瑞穂さんたちは恥ずかしがりつつも一緒に入ることを勧めてくれる

こうなる可能性もあるのだ!
やべっ鼻血でそう。
「いや、色んな過程がスッポリ抜け落ちている上に、そもそもそんな展開はあり得ないだろ」
な、なんのことですか。 僕、覗きなんて不埒な真似をしようとなんてしていませんよ。
そもそも、どうして倉成さんは僕の思考を読み取ってるんですか?
「お前さっきからずっと口に出してるんだけど」
し、しまった。 ここまですんなり計画が上手くいってたから気が抜けていた。
これじゃいつもと同じパターンじゃないか。
「あはははは。 冗談ですよじょーだん。 僕が覗きなんてするような人間に見えます?」
気を落ち着かせるために大きく深呼吸をする。
すうーーはあーー、すうーーはあーー。
よし、これで大丈夫。 倉成さんもう聞こえてませんよね? 
倉成さんのバーカ。 よし、聞こえてない。
もう二度とあんなヘマはしないぞ。

気を取り直して瑞穂さんたちを覗き、もとい瑞穂さんたちとキャッキャウフフな関係になるために計画を進行させる。
とりあえず倉成さんに感づかれないようにうまくここから抜け出して女湯へと忍び込まねばならない。
これはトイレに行くとか適当な理由でさりげなく女用の脱衣場に入れば問題ないだろう。
「倉成さん、僕ちょっとトイレ行ってきますね」
そう言って脱衣場への扉に手をかける。
さりげなく、あくまでさりげなくだ。
「行ってもいいけどそこはトイレじゃないぞ」
くそう、見破られてしまった。 意外に鋭いじゃないか倉成さん。
次の手を考えないとな。
うーんと、あれでもない、これでもない……なにかいい手は……
「なあ、そんなにあの二人を覗きたいのか?」
あきれた顔で聞いてくる倉成さん。
69温泉に集いし者たち  ◆4JreXf579k :2007/04/27(金) 01:09:49 ID:80NNelQQ

「や、やだなあ、倉成さん。覗きなんて下衆のすることですよ。
 僕は二人を守るという崇高な使命のために草葉の陰からこっそりと見守ろうとしているだけですよ」

あれ? 上手く誤魔化したつもりなのに……なんでばれたんだろ?
僕の言葉を聞いたのか聞いてないのか、しょうがねえなあと呟きながら頭を掻く倉成さん。
「よし、俺も男だ。手伝ってやる」
へ? ……今なんていいました。 手伝ってやる?
なんだ、やっぱり倉成さんも興味あるんじゃないか。
そうだよね。美しいものを愛でるのは人として当然のことだよね。
裸を見てエロスしか感じ取れない人種なんて哀れなだけですよね。
「いい考えがあるからちょっと耳貸せ」
チョイチョイ、と手招きをする倉成さん。
はいはい、今行きますよっと。
「実はな……」
さあ聞かせてください、どんな素敵な策があるんですか。

「いい考えがあるっていったけどな……嘘だ」

ガチャン! という金属音。
そしてそれに伴う右手首に感じる違和感。
何だろうと思い違和感を感じた右手の手首に目をやるとはめられていた。
何をって? 瑞穂さんに支給された手錠が。

「って何で僕の手に手錠がかかってんですか!?」
「いいか!」
70温泉に集いし者たち  ◆4JreXf579k :2007/04/27(金) 01:10:21 ID:80NNelQQ

僕のほうにズイッと顔を近づける倉成さん。
怖えぇ! なんか知らんが怒ってる顔だ。
「今度状況も弁えずに覗きだなんてふざけたことぬかしたりやろうとしたら、その右手も繋ぐぞ!」
「は、はいぃっ!」
脊髄反射で謝罪の言葉が出てくる。
やっぱり不謹慎すぎたか。
倉成さんが怒るのも無理はないよね。

こうして僕の野望は脆くも潰えてしまうのだが……

「あれ? この手錠どうやって開けるんですか? なんか鍵穴そのものがないような……」
「ああ? そんな訳ねえだろ。 ちょっと見せてみろよ。 どうせ見落としかなんか……でもないな」
大慌てで瑞穂さんの鞄の中を探る倉成さん。
けど鍵穴がない以上、鍵がある筈もない。 あってもどうしようもない。

…………………………………………………沈黙。

「ほ、ほら……あれだよ。 市販の手錠は犯罪なんかへの悪用を防ぐために安全ピンがついてるだろ。 こいつも市販の手錠なんだよ、きっと」
「安全ピン……そんなのないですけど」

…………………………………………………再び沈黙。

「まあいっか。 春原だし」
「あんた出会ったばっかりなのに岡崎と同じこと言いますね!?」
「普通に動く分には問題ないからいいだろ。 よかったな、“すのはら に てじょう ふらぐ が たった”ってやつだ」
「そんなフラグたっても嬉しくないんですけどねえ!?」
71温泉に集いし者たち  ◆4JreXf579k :2007/04/27(金) 01:10:52 ID:80NNelQQ

ガラッ
「お待たせしました」

瑞穂さんと貴子さんが脱衣場から出てきてしまった。
ああ、やっぱり綺麗な人だ。
しっとり濡れた髪の毛。
湯上りで上気した肌。
風呂上りという状況が一層瑞穂さんの美しさを惹きたてるものになってる。
一度諦めたとはいえ、そのしなやかな肢体には未だに未練がつき纏う。
ってそんな暢気なこと考えてる場合じゃない。
この手錠をどうにかしないと。

「先程の話ですが武さん。 私が一緒に行きます」
先程の話って? ああ、一緒に行動するか二手に分かれるかって話ね。
「はあ!? それは有難いんだけど……せっかく会えたのに……瑞穂はいいのか?」
意外な援軍に戸惑いの声を上げる倉成さん。
「貴子さんの決めたことですから……私は陽平さんと一緒に行きます」

陽平さんと一緒に行きます。
陽平さんと一緒に行きます。
陽平さんと一緒に行きます。

頭の中でエコーが掛かりながらひたすらリフレインする瑞穂さんの言葉。
その言葉の意味を間違えるほど僕はバカじゃない。
つまり!!

陽平さんと一緒に行きます→陽平さんと一緒に行きたい→陽平さんと二人っきりになりたい→陽平さん愛してます
72温泉に集いし者たち  ◆4JreXf579k :2007/04/27(金) 01:11:22 ID:80NNelQQ

こういうことなのだ!!
分かってます、分かってますよ瑞穂さん。
きっと貴子さんの決めたことってのも嘘で、本当は瑞穂さんが言い出したことなんですよね?
ええ何も言わなくてもいいです。
今まで女の子と付き合ったことのない僕ですが、そのくらいの乙女心は理解できます。
けどそんなに恥ずかしがらなくてもいいんですよ。
僕の心はとっくの昔にあなたのものなんですから。
そして僕は瑞穂さんと身も心も一緒になれるアイテムを身に着けている。
それこそが倉成さんにかけられたこの右手の手錠だ。
最初手錠をかけられたときはどうなるかと思ったけど、このときのための伏線だったんだよ。
そう。 そして今こそその伏線が回収されるときなのだ。
さあ、瑞穂さん。 レッツコンバイン!!!

「待ってください。何か……聞こえませんか?」
耳をそばだてる貴子さん。
え? 本当だ。 聞こえる。 この声は……
「女の人の……これは……叫び声?」
瑞穂さんが僕の気持ちを代弁するかのように呟く。
確かに僕にも女の人の叫び声のようなものが聞こえる。

「誰か襲われているのか?」
外を警戒しつつ、投げナイフを取り出す倉成さんと僕。
この叫び声の主が本当に襲われているのなら今すぐにでも動き出して助けに行くべき。
でもおかしいことが一つ。
「いいえ、外ではないように聞こえます。 寧ろこれは、中……この建物の中から聞こえてきます」
73温泉に集いし者たち  ◆4JreXf579k :2007/04/27(金) 01:11:53 ID:80NNelQQ

貴子さんの言うとおり叫び声は外からではなく中から聞こえる。
そんなわけない。 今この中にいるのは僕ら4人だけのはず。
最初にこの施設を訪れたとき建物の内部はすべて調査した。

「きゃああああああああああああああああああああああああ」

けれど現実に聞こえてくるこの声。
もう聞き耳をたてなくとも十分なほど声は大きくなってる。
どうやってここに接近してるのか知らないが、もうかなり近いところまで来てるはずだ。
そしてどうやって接近しているかわからないので、対応の仕様がない。

「きゃああああああああああああああああああああああああ」

「来る……」
誰かが言った一言。
全員に緊張が走る。
と、次の瞬間――

バァンッ!!

前方の壁が隠し扉のように開いたかと思うと、叫び声を上げながら女が僕の方に転がってきたではないか。
あまりに突然のことに全く対応できぬまま、転がる女に激突される。
っていうか、こんなに真面目に解説してる暇があったら避けろよ僕!? って今更言ってもしょうがないか。
僕というクッションがあったにも関わらず、勢いは殺しきれず、女はそのまま後ろの壁に僕を巻き添えにして追突した。

「あいたたたたた……何なのよ一体……」
「それは僕が言いたいことだ! 何なんだよ一体……」
74温泉に集いし者たち  ◆4JreXf579k :2007/04/27(金) 01:12:27 ID:80NNelQQ

平時なら痛みを堪えつつ女の子の体の感触を楽しんでいただろうけど、今はそんな余裕などない。
もみくちゃになった女をどかせるために女の肩に手を置く。

「痛っ!? 引っ張らないでよ!?」
「引っ張ってなんかないよ! それよりも早く……ってあれ?」

右手に感じる違和感。 
違和感を感じるのは別におかしいことじゃない。
だってさっき倉成さんに手錠をかけられたんだから。
ほら、どこもおかしいところなんかない。
少なくとも“僕の右手”はね。
おかしいところはなぜか手錠のもう一つの輪に腕が通されてることだ。
誰の腕かって僕のじゃないよ。 女の左手が。

…………………………………………………沈黙。

まさかこうも予想外の形でこの伏線が回収されるなんて。
右手を上げる。 女の左手もついてくる。
女の顔を見つめる。 ははは、すごい間抜け面だ。 きっと僕もあんな顔をしているんだろうね。
うん、もういいよね。 現実逃避はこれまで。 それじゃ、せーの。 

「「「「「ああああああああああああああああああああああああああああ」」」」」

五人が全く同じ声を上げる。
今、僕とこの名前も知らない女は運命の輪で結ばれた。
75温泉に集いし者たち  ◆4JreXf579k :2007/04/27(金) 01:12:57 ID:80NNelQQ



――少し時間は遡る――



「ふう、疲れた。外に出たら温泉にでも入りたいわね」

真っ暗な廃坑の中に独り言が響き渡り、気分が一層空しくなっていく。
私は今廃坑の中を彷徨っている。
何も好き好んでこの廃坑に入ったのではない。気がついたらこの中にいたのだ。
おまけに支給されたのは国崎最高ボタンなる珍妙なアイテム。
つい先ほどまで己の不幸を嘆いていた私だが、立ち直りは早かった。
ともかく行動あるのみ、だ。 血を分けた姉や知人がこの島にいる以上ここに留まってる暇などありはしない。
生き残るにしても、なんにしてもまずはこの廃坑を出ることが先決。
そう思って移動を開始したのだが、この廃坑、思ったよりも厄介な造りになってる。
地図には西口と南口の二つしか示されてないため、当然道もこの二つの出口を繋ぐ一本しかないのかと思っていたがそうではなかった。
まるで巨大な迷路のように道が行く筋にも分かれているのだ。
もちろんそのことに気づいてからは迷うのを防ぐため鞄の中に入ってあった紙とペンを使って地道に手動でマッピングしているのである。
しかし、分かれ道は増えるばかりでこの廃坑は全貌はいまだにつかめていない。
唯一の救いといえば、ここが廃坑とは思えないほど綺麗な造りになってることだろうか。
足場などを気にせずにズンズン進んでいけるのが幸いだ。
床はもちろん壁から天井まで綺麗にコンクリートで塗り固められており、岩盤が露出したところなど今まで一度もお目にかかってない。
しかも、コンクリートはつい先日固められたといっても過言ではないほど綺麗な色をしている。
もちろんヒビの一つも見当たらず、老朽化という言葉にはあと10年は縁遠い言葉だと思った。

「本当にここって廃坑? なんかそんな気が全然しないんだけど」

いけない、また独り言が漏れてしまった。
76温泉に集いし者たち  ◆4JreXf579k :2007/04/27(金) 01:13:28 ID:80NNelQQ
自覚はないんだけど無意識に寂しいと感じているのだろうか。
まあそんなことを気にしても仕方がない。 
深層心理の問題など門外漢の私にはどうしようもないのだから。
それにここが廃坑であろうとそうでなかろうとここから出るという目的に変わりはない。
そろそろ出口も近いに違いないのだから。
実のところ私は先ほどからマッピングを行っていない。
つい数分前から分かれ道が一切ない直線に出たのだ。
それ以降はこうしてひたすら歩き続けているのである。
それにしても長い。もう何分この直線を歩いているだろうか。
これでこの先が行き止まりだったら今度こそ立ち直れないような気がする。
神様、いえ神様でも仏様でもなんでもいいです。どうかこの先が出口に続いていますように――

『出口まであと100メートル』

そう書いてある看板を見つけたとき私は思わず小躍りしそうになった。
外だ、外に出れる。 たった数時間、私がこの中にいた時間はそれだけだが、すっかり空が恋しくなってしまっていた。
とにかく空が見たい。まだ朝日も出てないだろうが、それでも構わない。
外に出たらまず何をしよう? 思いっきり叫んでみる? いやいや、さすがにそれは危険だ。ならばどうしようか?
そうだ。外に出たらまず食事を摂ることにしよう。
なんの味気もなさそうなパンと水も、空を見ながら食べればきっとおいしいに違いない。
僕は空がないと生きていけない。 そう言ったのは誰だったろうか。 
この言葉を聞いた当時、なんてクサイ言葉だと思って馬鹿にしたのだが、今、心の底からその言葉に感動する。
実に深きは先達の言葉かな。
私の顔はきっと情けないほどににやけているだろう。鏡を見るまでもない。
さあ、最後のラストスパートだ。あと100メートルを全力で駆け抜けよう。
77温泉に集いし者たち  ◇4JreXf579k:2007/04/27(金) 02:13:51 ID:xc+u7XDW

よーい、ドン。

心の中でそう呟くと同時に全速力で走る。
今までの疲れを微塵も感じさせないほど体が軽い。まるで背に追い風を受けているみたいだ。
100メートルのタイムなんて体力測定のときし以来測ったことないが、自己ベストが出せることは間違いない。
あと50……40……30……20……10……ゴール!

「ってあれ?」

目の前に広がるのは空ではなく壁だった。
ランタンで周囲を照らしてみるが三方は壁に囲まれおり、残った一方はもちろん私が今通って来た道だ。
強いて今までと違うところを挙げるとすれば、天井がランタンの光が届かないほど高いところまで続いているところだろうか。
しかし、そんなことを気にしてもしょうがない。私は人間であって鳥ではないのだから。
またこの馬鹿みたいに長い直線を通って、あの迷路の中に戻らないといけないのか。
そう思うと気が滅入る。
いやいや、慌ててはいけない。漫画とか映画だとこういう時――

「あった」

スイッチかなにかが壁にあったりするはず。 そう思って壁を調べたのだが意外にも早く見つかった。
壁と同じ色で塗装されており遠目では分かりにくいが一部分だけ不自然なでっぱりが出ているのだ。
ここにスイッチがあると知っていても見つけるのは難しい筈。
こうも早く見つけることができたのは運がよかったからだろう。
早速スイッチを押してみる、が何の変化も起こらない。
もう一回押してみた。 やはり何の変化も起こらない。
もう一回押そうとした次の瞬間――
78温泉に集いし者たち  ◇4JreXf579k:2007/04/27(金) 02:14:50 ID:xc+u7XDW

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

轟音と共に、床がどんどんエレベーターのごとく上に移動していく。
ビックリしたけど、どうやら当たりだったようだ。
憎き暗闇の迷宮を背にして私は新たなステージに向かう。
さようなら廃坑。 もう二度とアンタと会うことはないだろう。
そしてこんにちは地上。 あなたに会いたくて私はここまで来ました。 
どうか私を暖かく迎えてください。
床の動きが止まる同時に前方の壁が中央から左右へ二つにスライドして道を造る。
その先に見えるのは、なんというか、分かりやすい表現をするなら『物凄く巨大な滑り台』がうってつけだろうか。
その滑り台がずーっと先まで続いてるのである。
少なくともこの場からこの滑り台の終着点が見えることはない。
冷静に考えて私にはこの滑り台を使うしかない。
もう下に降りることは出来そうにないから。
おそるおそる近づく。 

「虎穴に入らずんば虎児を得られずってね。 行くしかないじゃない」

誰にともなく、いや、おそらくは自分に向かって言い聞かせるように呟く。
その決心の下に第一歩を――踏み出した。
「きゃああああああああああああああああああ」
長い、ひたすら長い。 長い直線といくつもの曲がりくねったカーブ。
もう何度壁に体をぶつけたか覚えていない。
「きゃああああああああああああああああああ」
後になって思い返したとき覚えていたことは、もっと心の準備をしておくべきだったという後悔の念だけである。
79温泉に集いし者たち  ◇4JreXf579k:2007/04/27(金) 02:15:59 ID:xc+u7XDW



――斯様にして五人目の戦士がここに集ったのである――



「というわけよ」

茜がここに来るまでの経緯を語る。
当の本人が出てきた隠し扉を丹念に調べてみる。
いつの間にか閉められていたその扉は一見すると普通の壁にしか見えない。
中を調べる為に扉を開けようとしたが、押しても引いても横に引いてもノックしても開く様子がない。
どうやらこちら側からは廃坑の中に移動することはできないようだ。
これ以上は時間の無駄と判断して、再び茜のここに来るまでの事情を聞くことにした。
なんというか、滅茶苦茶悲惨な道を辿ってきてるな。 
聞くも涙、語るも涙ってやつ。
あまりの不幸っぷりに俺を含めて皆深く同情したのだが、逆効果だったのか茜は思わず屈辱の涙を流しそうになったみたいだ。
俺も支給品がジッポライターなんてどうでもよさような――役には立ったけど――アイテムだったけど下には下がいるもんだ。
ボタンを出されたときなんてこっちとしても、もうどうすればいいんだという感じ。
生きていればそのうちいいことあるさ、とか強く生きろよ、とか俺の持てる限りのボキャブラリーを駆使して慰めの言葉をかけたんだが。
だが茜は笑われたほうがマシだと屈辱に肩をうち震わせてる。
だってなあ……国崎って誰だよ? とかツッコむところがあまりにも多すぎて洒落にならないくらいの不幸さだ。
そしてそんな不幸続きの茜に新たな不幸が襲い掛かってきたのだが――

「なんで手錠なんかつけてるのよ。 アンタ変態?」
「そういえばどうしてそんなものつけていたんですか?」
「私も気になります」
80温泉に集いし者たち  ◇4JreXf579k:2007/04/27(金) 02:17:01 ID:xc+u7XDW
瑞穂と貴子が追従する。
そもそもは陽平の不謹慎さをたしなめるために使ったのだが、こんな結果になるとは思いもよらず罪悪感を感じる。

「いや〜、て、手錠なんて刑事ドラマとかじゃよくみるけど実物は初めて見るからさ、
たたた、試しに使ってみたんだけど、はめてみてから鍵がないことに気がついたのさ。ははは……ははは……」

まあ納得できる言い訳だが、思いっきり後ろめたさを感じる態度だぞ陽平。 
それを不審に思ったかどうかは分からないが茜が聞いてくる。
「ナイフあるんでしょ? それで鎖の部分を切ったり出来ないの?」
当然の疑問だけどそれは俺も真っ先に考え、真っ先に諦めた可能性だ。
「無理だ。 投げナイフの刃物としての強度なんてたかが知れたもんだ。 下手したら貴重な武器が無駄になるだけだろう」
それどころかこの手錠、鎖の部分が思ったよりも太くて、日本刀ぐらいしっかりした刃物じゃないと切れそうにないかも。
「はあ……予想は出来てたけどね。 まあいいわ。 愚痴ってもしょうがないし……。 それで、これからどうするの?」
切り替えが早いのか諦めたのか受け入れたのか。 とにかくここは渡りに船とばかりに話を進めることにしよう。
「ああ、茜も加わったことだし一から確認するぞ。 これから俺たちは二手に別れることになる。 俺と貴子、瑞穂と陽平と茜の三人だ」
それからは様々な質問や議論のやり取りを交わして多くの事柄が決まった。

・まず協力者を募る為に人の集まる場所へ、俺たちは北東の住宅街、瑞穂たちは北の新市街へ行く。
 尚、道中にある各種施設は各グループの必要に応じて立ち寄るか判断すること。
・明朝6:00までに住宅街と新市街の両地点からほぼ等距離にある神社へ集合。
 但し、来れないと思ったときは無理して来る必要はなく、待っていたほうも気にせず次の行動方針を決めること。
 生きているかどうかはその時間に流れる放送で分かる。
81温泉に集いし者たち  ◇4JreXf579k:2007/04/27(金) 02:18:09 ID:xc+u7XDW
細かいことも大分決めたが、上の二つは最重要と思われる決定事項である。
「これでいいな? すぐに質問がなければ行動に移るぞ」
返事一つせずに立ち上がり出口へ向かいだす4人。 
ものわかりのいいやつらだ。
俺もすぐに支度を終えて出口へ向かう。

温泉の入り口で空を見上げる俺たち。
太陽の光が闇を駆逐するにはまだもう少し時間がかかりそうだ。 

「ここでお別れの前に……皆約束しろ。 絶対死なないってな。
 俺は、死なない。 死にたくない。 まだやりたいことが沢山あるからな。
 つぐみと新婚旅行に行ってイチャイチャして、ホクトにはもう一回くらいパパって呼ばせてやって、
 優と桑古木と酒飲みながら愚痴って、ずっとほったらかしにしてた両親には親孝行してやるんだ。
 俺はまだ死ねない。 俺の命はもう俺の物だけじゃないから……
 だから皆も死ぬな。 お前らの命も一人だけの物じゃないから」

握り締めた右手を皆の前につき出す。 
無言のままに俺の拳に添えられたもう一つの拳。 
それは貴子のもの。
「私も死ぬつもりはありません。 私にもやりたいことが沢山ありますから」
ここに来た頃とは明らかに違う決意を感じさせる。
温泉に入ってるときに瑞穂と何らかのやり取りがあったのは想像に難くない。
「言われなくっても」
「生きてやりますよ」
鎖につながれた二人も同調してくれる。 案外いいコンビかもな。 
そして最後に――
「はい、約束します」 
瑞穂の拳が突き出される。
82温泉に集いし者たち  ◇4JreXf579k:2007/04/27(金) 02:19:46 ID:xc+u7XDW

「俺たちは立ち向かう。 抗うことが俺たちの運命だから」
俺の手に――
「私たちは戦う。 守りたいものがあるから」
貴子の手が載せられる――
「私たちは恐れない。 一人ではないから」
貴子の手に茜のが――
「僕たちは止まらない。 止まることを知らないから」
その上に陽平のが――
「そして私たちは知っている。 この道の先に光があることを」
最後に瑞穂――
五人の手が一つに重なり合う。
その誓いを胸に今――

「行くぞ!」
「「「「おう!!」」」」

――走り出した。 

「さあ、まずは銃を持った人に会ってこの鎖をどうにかしてもらわないとね」
「引っ張るなって。 はあ……せっかく瑞穂さんと二人きりになれるはずだったのに」
「あの、二人とももう少し静かにしたほうが……そういえば陽平さん、岡崎さんを待たなくてよかったんですか?」
「ええ!? あ、あはは……あははははは。 おおお、岡崎もよく考えたらこ、この状況で不謹慎なことやるやつじゃないですからね。 
 ま、真面目に僕たちのことを探してくれてますよ。 きっと」
「何でそんなにどもってんのよ? なんか態度があやしいんだけど……」

「……瑞穂と一緒でなくてもいいのか? 」
「瑞穂さんは私がいると却って無茶をしますから……だから別に行くことにしました」
「……やっぱりなんか変わったな」
「守ってもらうだけの都合のいい女は止めることにしましたから。 私も戦うことにしました」
「成る程。 期待してるよ相棒」
「はい、よろしくお願いします」
83温泉に集いし者たち  ◇4JreXf579k:2007/04/27(金) 02:21:37 ID:xc+u7XDW
「いい度胸だ。 さてと、まずはどこから行くかな……」


【B-7の森/1日目 黎明】

【倉成武@Ever17】
【装備:投げナイフ2本 】
【所持品:支給品一式 ジッポライター】
【状態:健康】
【思考・行動】
1:住宅街へ行き、脱出のための協力者を探す
2:知り合いを探す。つぐみを最優先

【厳島貴子@乙女はお姉さまに恋してる】
【装備:投げナイフ2本】
【所持品:支給品一式】
【状態:健康】
【思考・行動】
1:住宅街へ行き、脱出のための協力者を探す
2:知り合いを探す
84温泉に集いし者たち  ◇4JreXf579k:2007/04/27(金) 02:23:33 ID:xc+u7XDW

【B-7の森/1日目 黎明】

【春原陽平@CLANNAD】
【装備:投げナイフ2本】
【所持品:支給品一式 ipod(岡崎のラップ以外にもなにか入ってるかも……?)】
【状態:健康、瑞穂に一目惚れ】
【思考・行動】
1:手錠をどうにかしたい
2:新市街へ行き、脱出のための協力者を探す
3:瑞穂を守る。
4:瑞穂と仲良くなる。
5:知り合いを探す
【備考】右手首に手錠がかかっており、茜とつながれています
    手錠の鎖は投げナイフ程度の刃物では切れない。銃ならたぶん大丈夫
    瑞穂が自分に好意を持ってると誤解

【宮小路瑞穂@乙女はお姉さまに恋してる】
【装備:投げナイフ2本】
【所持品:支給品一式】
【状態:健康】
【思考・行動】
1:新市街へ行き、脱出のための協力者を探す
2:知り合いを探す
【備考】陽平には男であることを隠し続けることにしました。 他の人に対してどうするかはお任せ
85温泉に集いし者たち  ◇4JreXf579k:2007/04/27(金) 02:24:55 ID:xc+u7XDW

【涼宮茜@君が望む永遠】
【装備:国崎最高ボタン、投げナイフ2本】
【所持品:支給品一式、手製の廃坑内部の地図(全体の2〜3割ほど完成) 】
【状態:健康 精神的に若干のダメージ】
【思考・行動】
1:手錠をどうにかしたい
2:新市街へ行き、脱出のための協力者を探す
3:知り合いを探す
【備考】左手首に手錠がかかっており、陽平とつながれています
    手錠の鎖は投げナイフ程度の刃物では切れない。銃ならたぶん大丈夫
   


※住宅地、新市街への道中にある各種施設に立ち寄るかは後続に任せます
※以上5人は2日目の6:00までに神社に集合する計画。 ただし行くのが無理だと判断した場合はいかなくて良い
※廃坑内部に温泉への出口があります。 ただし廃坑側から温泉へ行くことはできますが、温泉側から廃校の内部へは行けません
86温泉に集いし者たち  ◇4JreXf579k:2007/04/27(金) 02:26:51 ID:xc+u7XDW



――そして最後の二人がここを訪れる――



「誰もいない……か」
無人と化した温泉の入り口で智代は誰にともなく呟いた。
「おかしいな……あいつなら必ずここへ来ると思ったのに」
ほんの数十分前まで本当にいたのだから、素晴らしいほどの勘の冴え渡りである。 
もちろん智代にそんなことが分かるはずもないのだが。
「どうするの、ともりん?」
このままどうするかで時間を食うかと思われたが、智代の決断は早い。
荷物をまとめて急いでここから出ようとする
「よし、行こう。 春原はさっきまでここにいたに違いない。 さあ、行こう」
「あら、どうしてそんなことが分かるの? 根拠は?」
「カ、カンだっ!?」
焦る智代と、ゆっくりと智代を追い詰めるエリカ。
智代にとっては自身の貞操を守るため、一刻も早くここから離れる必要が智代にはあったのだが……
「その目……嘘をついてるわね。 嘘をつくような悪い子には私と温泉に入ってもらうわ」
エリカの気迫に一歩一歩下がる智代。
気づかぬ内に入り口の中へ入ってしまっていた。
「この状況で……ほ、本気でそんなこと考えてるのか?」
「あら? 私はともりんと違って嘘はついてないわ。 私の目をよーく見て」
智代はなんて馬鹿なことを訊いたものだと悟る。
本気かどうかなどエリカの目を見ればすぐに分かること。
本気と書いて、いやおっぱいと書いてマジだ。
87温泉に集いし者たち  ◇4JreXf579k:2007/04/27(金) 02:36:36 ID:L+pGS/jU
「さあ」
一歩。
「私と一緒に」
また一歩。
「温泉に入りましょう」
また一歩……下がれない。 もう後ろは壁。 逃げ場はない。
徐々に伸びてくるエリカの腕。
「うわああああああああああああああああああああ」
「あら、駄目よ。 女の子はもっとかわいい声を上げないと♪」
智代の脳裏には牡丹の花が散っていくという古典的な表現が浮かぶのであった。 



【B-7 温泉/1日目 早朝】

【霧夜エリカ@つよきす】
【装備:スタンガン@ひぐらしのなく頃に】
【所持品:支給品一式、十徳工具@うたわれるもの】
【状態:健康。乳ハンター】
【思考・行動】
1:( ゚∀゚)o彡゜オッパイ!オッパイ!
2:智代と行動を共にし、仲間の捜索。
3:くだらないゲームをぶっつぶし、主催者を後悔させる。
【備考】坂上智代と情報を交換しました。
十徳工具の機能:ナイフ・コルク抜き・+ドライバー・−ドライバー・LEDライト・糸通し・栓抜き・ハサミ・ヤスリ・ルーペ
88温泉に集いし者たち  ◇4JreXf579k:2007/04/27(金) 02:37:46 ID:L+pGS/jU
【坂上智代@CLANNAD】
【装備:FNブローニングM1910 6+1発(.380ACP)】
【所持品:支給品一式、ランダムアイテム不明】
【状態:健康。エリカのペースに乗せられっぱなし】
【思考・行動】
1:ぬわーっ!!
2:エリカと共に朋也を始めとした知り合いの捜索
3:ゲームからの脱出
【備考】霧夜エリカと情報を交換しました。
FNブローニングM1910:女性の護身用拳銃としてよく用いられている。ちなみに、ルパン三世の峰不二子、鋼の錬金術師のホークアイ中尉などが使用している。

※智代の貞操がどうなったかは後続の書き手に任せます
89 ◆xnSlhy.Xp2 :2007/04/27(金) 21:05:36 ID:3B9CmsM1
木の根に足をとられつつも落ち葉の混ざり合った乾いた土を強く踏みしめる。
冷たい夜空に吹く風が木々の葉を揺らす音を聞く余裕もない。
ただ、走る。

古手梨花……かつてその命を助けてあげられることができなかったあの不思議な少女と思わしき後姿を、
赤坂衛はいまだ息を荒げながらも追い続けていた。
森の中というだけあって足場は悪く、さらにはこんな夜中では視界もろくに利かない。
少し油断をするだけで盛大にこけてしまいそうだ。
一方条件は自分と同じだろうに、そんなことは意に介さないように
少女はひょいひょいと実に身軽に森の奥のほうへ、奥のほうへと走っていく。
差はじりじりと離れていくが、彼女の姿だけはなんとか見失うまいと必死だった。

それにしてもいくらこんな慣れない環境下にいるとはいえ、この体力の消耗具合は一体なんだというのだろうか。
一応はこれでも毎日欠かさずに身体は鍛えている。いつもならこの程度、鍛錬の一つとして軽くこなせるはずなのだが。
……だがしかしまあ、思い当たる節がないわけでもない。
それは普段からなるべく考えないようにしていることだ。即ち……

「ハア、ハア……ッ、……やっぱり、もう、年か、な……っ」

認めたくはないがきっとそういうことなのだろう。
いくら周りから『公安きっての武闘派』などともてはやされてはいても、純粋な体力では若い人にはとうてい敵わない。
いつまでもあの時のような公安の若僧でいられるはずもないということだ。
90 ◆xnSlhy.Xp2 :2007/04/27(金) 21:07:49 ID:3B9CmsM1
……もっとも、体力が衰えた分は長年の経験で補える。こと実戦においてはまだまだ誰にも負けはしない。
ただこの場に限っていえば、そんなものはさして意味を持たない。
なにしろ今行っているこれは経験もくそもない、1人の少女といい年した大の大人の追いかけっこなのだから。
客観的に今の自分たちを想像してその滑稽な姿に思わず苦笑する。
それにむしろ経験という観点で見るなら、自分よりも自然に囲まれて育った彼女のほうがよほど有利といえる。

ふとそんな思考を中断して我に還ると、梨花との差は更に開いていた。
彼女の後姿が少し小さくなっている。本当にすばしっこい。
もしかしてあの娘は本当に人間じゃなくて何か……たしかオヤシロ様とかいったか……の生まれ変わりではなかろうか、
などと馬鹿げた考えを一瞬だけしたが、そんなはずはないとすぐに思い直す。
古手梨花はかつて……あの昭和53年の夏、自身の死を含めた雛見沢に起こる惨劇を予言した後でこう言ったのだ。

――――私は生きたい、と。死にたくないと。
大好きな友人に囲まれて、楽しく日々を過ごしたいと。それだけがたった1つの望みだと。

仮にあの娘が本当に何かの生まれ変わりだったとしても、
あの時悲しげに語った言葉はたしかに1人のか弱い少女のものだった……1人の、人間のものだった。
だからこそ……今度は絶対に助けてみせる。
彼女の身に降りかかる惨劇を、この手で止めてみせる!

「梨花ちゃん……っ!」
91 ◆xnSlhy.Xp2 :2007/04/27(金) 21:09:32 ID:3B9CmsM1
そう、前方の少女に向かって叫ぶ。
数年ぶりの再会なのだから立ち止まってくれてもよさそうなものだが、
やはりあれから何年も経って自分のことを忘れているのかもしれない。
または……どういうわけだか生きているようではあるが……
昭和58年に助けに行ってあげられなかった自分に対して失望しているのか。
だがそれでも叫ぶ。過去への謝罪と、そして彼女の未来への道を作ってあげるために。

「梨花ちゃんっ! 私……いや、僕だ! 赤坂だ! 7年前の!」

もう1度叫ぶ。だが、相変わらず立ち止まってくれそうな気配はない。
こうなれば、本当に捕まえるしか道はないのかもしれない。

覚悟を決めると赤坂は自身の身体に鞭打って、走るスピードを上げた。
長くは保たないだろうが、追いつくには十分のはずだ。
自分の持ちうる全神経を足と目に集中。不要な思考は一切排除。ただ梨花に追いつくことその一点に絞り込む。
そうすることにより、赤坂の走行は常人には目にも留まらない韋駄天へと姿を変える。

風を切り裂き、土を跳ね上げ、梨花との距離をぐんぐんと詰めてゆく。
向こうもそのことに気づいたらしく、一瞬だけ目線をちらりとこちらに向けるとびくっと身体を震わせ、
更に逃げるスピードを上げてきた。
だがいくらこちらの体力が落ちたと言っても所詮は大人と子供。
またここまで近づけたとあって精神的な追い風がこちらにはある。
視界が狭まり、汗が真横に流れる。だが、決して足は止めない。
92 ◆xnSlhy.Xp2 :2007/04/27(金) 21:11:57 ID:3B9CmsM1
まだだ。まだスピードを緩めるな。まだ追いつけない。手を伸ばしてやっと届くくらいの距離じゃまだ甘い。
加速してゆけ、確実に梨花ちゃんを捕まえられる距離まで、スピードを上げてゆけ!
まだ、まだ、まだ、まだ、ま『ううぅぅおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ』

「うわっ!?」

――――この暗い森の中で、突然自分のものではない男の咆哮が響き渡った。
それに驚いた拍子で今まで動かしていた足をもつれさせてしまう。
だが今の今まで自身に働いていた猛烈な勢いまで足と共に止まるはずもない。
そうなった場合の結果は実に単純で明快。そして実に無慈悲。

「どわあああっ!」

赤坂の巨体が宙に舞う。この時、たしかに彼は無重力というものを体感した。
だがそれも一瞬のこと。地面がやけに近いと思った次の瞬間には、顔面から思いっきり突っ込んでいた。
しかし慣性の法則はそれだけでは許してくれなかったようで、なおもそこからごろごろと勢いに任せて身体が転り続ける。
何度転がったかはわからないがやがて、仰向けになった状態でようやく止まってくれた。
苦々しい土の味、そしてさっき転んだ時に唇を切ったのか鉄の味が口の中にじんわりと広がる。なんとも惨めな気分だ。

「……ッ、ゼッ、ッ……ハッ、ゼハッ、……ッハッ……ごほっ」

とりあえず仰向けのまま顔だけ右に向けて口の中に含んだ土を吐き出す。
やはり無理をしたためか相当疲れている。というより……身体全体がなんとなくだるい。
先ほどは年のせいかと推測したが、やはりこれはそれだけではない。この島に来てからどうもおかしいのだ。
何と言おうか、重力がいつもより負荷されているかのような感覚に包まれている。
身に着けているこの首輪あたりから何か身体に影響を及ぼす電磁波の類でも流れているのだろうか。
93 ◆xnSlhy.Xp2 :2007/04/27(金) 21:14:12 ID:3B9CmsM1
(……いや、今はそれは後回しだ!)

今はそのことについて考察するよりもやらなければならないことがある。
疲弊した身体をがばっとその場から跳ね起こさせると、慌ててあともう少しで追いつきそうだった少女の行方を探す。

「ん? これは……」

と、そこでようやく赤坂は目の前に高くそびえ立つ鉄塔の存在に気づいた。
彼が見たところこれは形状が四角錐になっている、いわゆる四角鉄塔というものだった。
多くの場所まで送電線を伸ばせる利点のある、最もオーソドックスな形だ。
これは多少錆びれてはいるが、既に使用されていないというのは考えにくい。
送電線が到るところに伸ばされているし、先ほど地図で確認してみたところこの孤島には数多くの施設があった。
それら全てに名称がきちんと『図書館』だの『ホテル』だのつけられていて、
何1つとしてその名称の後ろに『〜〜跡』という明記はされていなかった。
すなわちこれら施設は現在も電気が通っている可能性が高い、と赤坂は推測する。
もちろん、『〜〜跡』と書かれていないのは主催者の悪趣味で、実際はそうでないということも考えられるが。

悠然とあたかもその存在を主張しているかのように立っている鉄塔を眺めていると、
彼はそれの中腹あたりに小柄な影があることに気づいた。

「なっ……」

それは紛れもなく、先ほどまで追っていた少女だった。
転んだ隙に自分から逃げようとしてあんなところまで登ったのだろうか。実に思いきった娘だ。
はっしと鉄塔を構成する柱の一部を掴んだまま、じーっとこちらの様子を凝視している。
なんだか木に登った羊飼いの少年を食べようとその下で機会を窺う狼になった気分だ。この場合洒落にならないが。
94 ◆xnSlhy.Xp2 :2007/04/27(金) 21:16:21 ID:3B9CmsM1
しかもよく見ると、すっかり梨花だと思い込んでいたその姿は明らかに彼女とは違っていた。
どこかの民族衣装のような出で立ちをしているし、その耳は……獣耳? アクセサリーの一種だろうか……をつけている。
仮にあれから梨花が成長してこのような格好をしていると仮定しても、
どうにも自分の記憶の中にある彼女と今見つめてきている少女の姿は結びつかなかった。恐らく、別人だ。
この場には梨花くらいしか少女はいないと根拠もなく思い込んでいたが、
彼女の他にも何人か同じ年くらいの娘はいるというわけだ。
自分の勘違いに赤面、また年端もいかない少女を複数連れてきている主催者に対して怒りを覚えるが、
そのことは今はどうでもいい。それよりも……

「え、えーと君!」

とりあえずその場で呼びかけてみる。
すると梨花……いや梨花だと思い込んでいたその少女はびくっと身体を震わせ、そそくさとまたさらに1段鉄塔を登った。
少しでも自分から離れようとする意思の表れだろうが……これ以上登ると、下手したら電線に触れて感電する恐れが出てくる。
その前になんとしてでも降ろさなければ。

「私は警視庁公安部……ええと、つまりおまわりさんに所属している、赤坂衛という!
さっきは君を追い回してすまなかった……知り合いの娘と勘違いしてしまったんだ!
いいかい? 私は決して君に危害を加えるなんてことは考えていない!」

その言葉に、少女は律儀に反応してくれた……すなわちまたもう1段鉄塔を登ってくれた。
95 ◆xnSlhy.Xp2 :2007/04/27(金) 21:18:16 ID:3B9CmsM1
「君が今登ろうとしているのはとても危ない建物で、もしかしたら死ぬかもしれないものなんだ!
 だから頼むからそこでじっとしていてくれ! 今助けにいくから!」

言い終わると、赤坂はじっと少女の目を見つめた。
ここでじっとしてくれるという承諾を得られないと、自分が助けにいったところでパニックに陥られるのがオチだ。
誠心誠意、心から願うしかない。彼女が自分を信用してくれることを。

しばし、静寂がその場を支配する。走って流した汗が冷えて少し冷たい。
ちなみにここでぴくりとも動かないというのはむしろ逆効果だ。
この場合、自分が危険な人物ではないということを示さなければならない。一触即発の状態にするわけにはいかないのだ。

なので赤坂はにこっと笑いかけたり時たま手を振ったりする。
が、内心では相当焦っていた。当然そのような面は外側にはおくびにも出さないが。
また、静寂――――
数秒だろうか、数分だろうか、それはわからないが大抵の場合、実際の時間は体感しているそれより短いものだ……

(お?)
「……ん!」

やがて、赤坂にとっては幸運にも目の前の少女……年齢は本来の梨花よりも少し年上だろうか……はこくりと頷いてきた。
こちらの想いが伝わったのかはわからないが、いずれにせよこれで助けに行くことができる。
赤坂はほっと胸を撫で下ろすと、

「それじゃあ、そこで待っててくれ! 今そっちに行くから」

そう言って少女の元へ向かおうと、錆びててじゃりっとした嫌な手触りの鋼管に手をかけた。
……その直後。
96 ◆xnSlhy.Xp2 :2007/04/27(金) 21:20:55 ID:3B9CmsM1
(――――っ!?)

突如、激しい悪寒が左方より赤坂を襲ってきた。
首をそちらに向けることもせずに、瞬時に彼は足元の鋼管に右足を乗せて思い切りそれを踏み込む。
当然、鉄塔を動かそうと意図した行動ではない。自分自身を一気に後方へ飛び退かせるためだ。

赤坂のその判断は正解だったといえる。
次の瞬間には、彼が今いた場所の空気が実に耳ざわりの良い音で切り裂かれた。
警察の剣道大会などでよく耳にしていた音だ。もっとも、その音の鋭さはその時とは比べ物にならないが。
なにせその得物は竹刀や木刀などといった生易しいものではなく……真剣だ。
あと1秒も遅かったならば今頃命はない。

飛び退いた先で受身を取りつつ背中から着地すると、
今度はさっき転んだ時とは違って自ら身体を転がして間合いをとり、
その間にデイパックに手を突っ込んでこちらに支給された武器を取り出す。
沖縄の武道に古くから伝わる、攻防一体の使い勝手のよい……とされている……武器、トンファーを。
ほとんど扱ったことのない武器ではあるが、何もないよりはマシだろう。一般的には刀に対して有効と言われてもいる。

それを構えて立ち上がり、赤坂はあらためて襲撃者と対峙する。
鉄塔の上にいる少女を助けるのは、ひとまずこの襲撃者をどうにか処理したあとだ。
無視して鉄塔を登ろうとしたところを斬られてはかなわない。
殺し合いに参加した人間かどうかはわからないが、
事前に何の警告もなしに攻撃した時点でとても友好的とはいえないと赤坂は判断する。
そして先の一太刀。よほどの使い手でない限り、あれほどまでの鋭さを持った剣は振るえない。
少なくとも警察の同僚には誰1人としていなかった。かなりの使い手といえよう。
一体どこの屈強な人間だろうかと、その姿を見据える。
97 ◆xnSlhy.Xp2 :2007/04/27(金) 21:23:36 ID:3B9CmsM1
「むっ、某の一閃をかわすとは……お主、できるな?」

屈強という言葉とは程遠いまだ若くて長い髪を束ねている、
だがどことなくそこらへんの男よりもよほど日本でいう侍を連想させる雰囲気を持った女性が居合いの構えでそこにいた。
その耳は鉄塔の上にいる少女と同じようなアクセサリー。
最近、自分の知らない内に若い娘の間で流行っているのだろうかと赤坂は思う。

……そしてその顔は、明らかにこちらを敵だと認識していた。
じり、と僅かに詰め寄りつつ彼女は口を開く。

「某、エヴェンクルガがトウカと申す! 名乗られよ!」
「……警視庁公安所属、赤坂衛。聞くが、君はこの殺し合いに乗っているのか?」

軽く飛び跳ねながらリズムを取りつつ、赤坂はこのトウカと名乗る女性に問うた。
この質問は額面通りの意味もあるが……それともう1つ、
相手の力量を察して何手で沈黙させられるかというシミュレートをする時間を稼ぐ意味もあった。
勝負事において決して熱くなるなというのは誰の教えだったか……あるいは自ずから学んできたことかもしれない。
重要な局面でこそ、より一層クールにならなければならないのだ。

質問を問いかけられたトウカのほうはというと、侮辱されたように顔をしかめてきた。
剣の柄の部分を握る手に力が込められるのが簡単に見てとれる。

「某、悪逆非道な輩の問いに対する答えは持ち合わせてはおらぬ! いざ、我が剣技を受けてみよ!」

言うが早いか、彼女は先ほどこちらがあけた間合いを一瞬で……それこそ1度瞬きをする間に詰めてきた。
これは赤坂にとって予想外のこと。
98 ◆xnSlhy.Xp2 :2007/04/27(金) 21:25:27 ID:3B9CmsM1
(迅い!)

自分の推測する相手の力量の誤差はある程度考慮していたものの、それはそんな範疇には留まらない。
予想した一段や二段上なんかよりも、遥かに迅い。
これまで戦ってきた、試合形式などという安全の保障されたルールに基づいた相手はもちろん、
裏組織に属する用心棒などといった実戦的な相手などでも比べ物にならない。そういった連中とはそもそもの器の質が違う。
赤坂の立てていた、何手で彼女を倒せるかという先ほどまでのシミュレートはこの時まったく意味を成さないものとなる。

だが、相手の攻撃の型は居合いだ。ならば初撃くらいは予測がつく。
即座にトンファーを持った右の腕を脇に引き寄せ、襲い来る衝撃に耐えようと身構える。
……だが、それはあくまで中段に攻撃がくることを予想してのことだ。
トウカがもう一歩で攻撃を仕掛けてくるであろうその瞬間、赤坂は彼女の姿勢が異常に低いことに気づいた。

(これ、は……っ)

だが遅い。判断の遅れは時として致命傷となる。人は判断と行動は同時にはできないのだから。
赤坂が気づくのがもう一歩早ければどうとでも対処できたはずである。
いや、それよりも普段の赤坂ならば一歩どころか三歩早くそのくらいはできた。
ただ本人はまだ知る由もないが、この制限のかかった状況下においてはその一瞬の状況における判断すら鈍っていたのだ。
そう、トウカの狙った先は中段などではなく……赤坂の、足。
99 ◆xnSlhy.Xp2 :2007/04/27(金) 21:28:03 ID:3B9CmsM1
「ぐっ……!」

赤坂の左の腿がズボンと共に裂かれる。
ブシュッという水の詰まった袋から中身が吹き出るような音と共に鮮血の華が咲く。
だがそれでもなんとか身を捻り、致命傷となる傷をつけられることだけは避けた。
少なくとも、絶対に動けなくなるような傷ではない。反撃は……可能。
相手は剣を振り抜いていて、瞬時に攻撃をするのは不可能!

「く、おおっ!」

相手は女性だ。だが襲撃者であることに変わりはない。
さすがに殺す気はないが、多少眠ってもらうくらいは許されるはずだ。
そのような思考を終了させると、赤坂は右手のトンファーをトウカのわき腹に叩きつけんと身を引き絞る。

(!?)

……だがその直前、剣を構え直すかすかな金属音を赤坂の左耳は聞いた。
本当にかすかな音だったが、たしかに感知した。
右斜め下から左斜め上へ理想的な形で振り抜いたと思われていたその剣は決してそのようなことはなかった。
彼女は返す刀で二手目をも用意していたのだ。
右手だけで支えていた剣の取っ手には左手が添えられていて、攻撃の準備が完了している。
現在の彼女の剣の位置は中段。
そこから来る次の攻撃は下か、中か、上か!?

「せやあああぁぁっ!」

トウカの気合が耳に届く。
二の太刀が、来る!
100 ◆xnSlhy.Xp2 :2007/04/27(金) 21:30:04 ID:3B9CmsM1
(私が攻めるならば……っ)

ガヂィッッ!!

剣とトンファーのかち合う音がした。
赤坂は即座にしゃがみこみ、左のトンファーで再度足元を切り落とそうと狙ってきた剣を受け止めたのだ。
少し手を伸ばせば触れることができそうなほど近くにトウカの顔が見える。
自分は背丈があり、それ故に下からの攻撃には手が届きにくく防ぎにくい。
ならば、やってくる攻撃は下段。先は読み違えたが、今回は当たっていたようだ。
トウカは攻撃が失敗したためか至近距離で赤坂と瞳を合わせて直に睨みつけ、
小さく舌打ちをすると瞬歩で自分から間合いをとって離れた。

……そこを赤坂が逃がすはずがない。
向こうが遠ざかると同時、斬られていないほうの右足で地面を強く蹴り、相手との距離を零にする。
居合いとは基本的に一撃必殺。二手目は予想外だったが、今離れたところを見ると彼女もまたその例外ではなかったようだ。
ならば、むざむざと次の攻撃を仕掛けさせる間をやるなどという愚行はしない。
攻めて、攻めて、相手に付け入る隙を与えない。与えるものか!

「はああぁっ!」

両に構えた得物を次々と目にも止まらぬ速度で繰り出す。
だというのに、この目の前の女性はそれら全てをたった一振りの剣で受け止めている。信じられない技量だ。
だが受け止めているとはいっても、余裕というわけではなさそうだ。
一撃一撃の重い衝撃が彼女を襲うたびに苦しそうな顔をしている。
101 ◆xnSlhy.Xp2 :2007/04/27(金) 21:32:00 ID:3B9CmsM1
「おおおおおお!」

赤坂は繰り出す手数を更に上げた。このまま押し切れば、いける!
それは過信ではなく、確信のはずだった。

「あぐっ!?」

だが赤坂にとっての今のアキレス腱……斬られた左腿を、トウカは彼の猛攻が本格化する直前に全力で蹴りつけてきた。
さすがにそれによって足を抱え込むなどといった真似はしない。
しないが、赤坂の攻撃はその瞬間に一瞬だけ止まってしまった。
トウカにとってはその一瞬の間が得られただけで僥倖だ。
瞬時に赤坂から離れ、剣をまた居合いの型に収め直す。

(くそっ)

赤坂は胸中で悪態をつく。
彼女に対してではなく、手数で押し切ればいけると油断してしまった自分に対して。
だがすぐに思考を切り替えて、今度はそう簡単に踏み込ませまいと相手の動きを再度シミュレートする。
今のやり取りにおいての相手の力量を把握した上で、だ。

「ふぅーっ……」

落ち着いて、息を整える。
戦闘においてはリズムというものが大切だ。これが乱れれば動きも鈍る。
相手は自分と同等か、その上をいく相手だ。息吹きをしながら赤坂はそれを静かに認める。
真っ向から正々堂々と戦っては勝率はよくて五分といったところだ。

……だが、強者には強者への対応というものがある。
長年の実戦で培ったもの。それは何にも勝る経験。
そう―― 純粋な体力では負けても、こと実戦においてはまだまだ誰にも負けはしない。
102 ◆xnSlhy.Xp2 :2007/04/27(金) 21:34:17 ID:3B9CmsM1



強い。
トウカは賞賛でも嫉妬でもなく、ただ目前でどこか見覚えのあるトンファーを構えている男をそう評した。
繰り出す攻撃の1つ1つが必殺の威力を持っている上、その巨躯からは想像もできないほどの速さをも持ち合わせている。
そして何より、判断から行動に移すまでの時間の短さ。自分と同様、相当実戦で経験を積んでいないと不可能な領域だ。
このアカサカと名乗る男は間違いなく、自分と同等かまたはそれ以上の強さを有している。

あの時少女に襲われてからここまで一気に森を突っ切ってきたが、
その先でまさかこれほどの剛の者とまみえることになろうとは思わなかった。
ここまでの強さがあるならば、その力を人を護ることに役立てればいいものを、と歯噛みする。
勝算は五分五分といったところか。だが残念なことに自分はハンデというべき制限が課せられている。
理由はわからないが、この島に来てからどうも身体が重いのだ。おかげで自慢のスピードも鈍っている。
本来なら先の二手目は相手にそれを感知させる間もなく足を切り落とせられたというのに。
いや、それ以前に居合い斬りを一太刀どころか連続で放つことだってできた。
だというのにこの異様な身体能力の低下は一体どういうことなのだろうか。全くもってわけがわからない。
このような劣悪なる状況下で、果たして自分はこの男に勝てるというのか?

(……否)

トウカの瞳に鋭さが宿る。

(勝てるか、ではない。勝つのだ!)

聖上の大切な娘であるアルルゥをあのような高い建造物まで追い詰め、なおもそこから彼女を狙って
登ろうとしていたような悪漢ごときに、このエヴェンクルガの武士であるトウカが負けるはずがない!

「ゆくぞ!」

そう宣言すると、トウカは再び間合いを詰めんと大地を蹴った。
103 ◆xnSlhy.Xp2 :2007/04/27(金) 21:37:19 ID:3B9CmsM1


二人の戦いが白熱する一方、鉄塔の上に残されていると思われていたアルルゥはというと。

(トウカおねえちゃん、おじさん、あぶない!)

2人に気づかれることなくとっとと鉄塔から降りて
誰かに助けを求めようと、近くの森の中を1人で彷徨っていたのだった。

あの何故か自分を追いかけてきた男……何やら名前を名乗っていたが忘れてしまった……は
当初は驚いて逃げ出してしまったものの、鉄塔の上で観察して見た限りではどこか優しそうな雰囲気を持った人だった。
トウカに関しては言うまでもない。彼らはどっちも『いい人』なのだ。
だが、そんな2人が現在ケンカしている。
理由はわからないが、上から見た限りだとトウカが最初に襲い掛かったように見えた。
早くこの争いを止めなければ、どちらも大変なことになってしまう。
誰か助けを呼んで来なければならない。

その争いの元凶ともいえる存在が自分であることに気づくことなく、アルルゥはただただ走り続ける。
104 ◆xnSlhy.Xp2 :2007/04/27(金) 21:40:05 ID:3B9CmsM1


そしてその騒ぎとは無関係に森の中を学校目指して歩いている少年、対馬レオ。
先ほど赤坂が派手に転倒するきっかけとなる咆哮は紛れもなく彼のものだった。

やるべきことは見定まっている。頭はクリアだ。
仲間を集めて主催者の打倒。実にシンプルなこと。
地図によると、ここを真っ直ぐ行けばいずれ吊り橋に行き着くはずだ。
そこを過ぎると途中でホテルがあるが、今はまだいい。まずは何よりも学校に行くことが先決だ。
その途中で誰かに襲撃されたって、こっちには銃がある。刀だってある。遠距離も近距離もバッチコイだ。

「信用できる仲間を探さなくちゃな……」

裏切られるのはまっぴらごめんだ。
確実に仲間と呼べる人間は元から自分と同じ世界から飛ばされてきたみんな……フカヒレのいない、みんな。
あとはマエバラとかいう、あの時タカノに突っかかっていった男。
こいつは本当に仲間になれるかどうかはわからないが、
少なくともタカノに向かっていった以上は敵である可能性は他の連中よりも低いといえる。
このくだらないゲームについても何か知っているかもしれない。
信頼がおけるのなら、ここから脱出するための重要なキーパーソンにさえなり得る。

だが、それ以外の大勢の参加者たち。
最初から敵意丸出しでくる奴はまだわかりやすくていい。その時は撃退して終わりだ。
だが仲間になると見せかけてあとであっさりと裏切ってくるような、
単にゲームに乗った奴なんかよりよっぽど厄介な奴だってこの孤島にはいるに違いない。
そこら辺の見極めに関しては、自分の直感を信じるしかないのだろう。
どんなに推測したところで結局向こうが何を考えているのかわからないのだから。
常に相手の仕草や表情をチェックして、少しでも不穏を感じたら用心する……本当に信頼できると確信に至るまでは。
105 ◆xnSlhy.Xp2 :2007/04/27(金) 21:43:41 ID:3B9CmsM1
「…………」

なんだか自分がとても嫌な奴に思えてきて、レオは思わず自己嫌悪しかける。
が、なんとか思い直す。このくらいの疑心暗鬼はこんな異常な状況では当たり前のはずだ。
誰だって死にたくはない。そのために最善を尽くすだけだ。
どこにも最初から疑心なしに相手を全面的に信頼する人間なんていないだろう?

「ん?」

ふと、レオは立ち止まる。
最初は気のせいかと思ったが、こうやってじっと耳を澄ましていると揺れる草の音や虫の鳴き声に混じって
背後からかすかに草の根を踏む音が聞こえてくるのがわかる……誰か、いる。
振り向いてじっと生い茂る草木の向こうの参加者がいないか見つめるが、
木々、そして夜の闇に隠れてその足音の主の存在を確認することはできなかった。ただ音だけが聞こえる。
だがそれは今自分がこの場にいるということを把握してピンポイントで来ているわけではないようだ。
足音には迷いが感じられる。まさに探索といった感じで、サクサクと行ったり来たりだ。

「…………」

念のため、腰に差した刀を鞘をつけた状態で右手に持ち(あくまで鈍器として扱うつもりなので抜き身ではない)、
デイパックから支給された銃を取り出そうとそれを開けた。
なるべくならこれは使いたくはないが、そうも言っていられない。
もしもいきなり敵が飛び出してきて、ナイフか何かを持ってヤクザ映画よろしくこちらに突進してきたら成す術もない。
だから懐に潜り込まれる前にこれでどうにかするしかないのだ。
もしもゆっくりと余裕を持ってやってきたなら、銃を突きつけて『フリーズ!』とでも一喝してやる。
とにかく、主導権を相手に与えないことを第一としなければ。
106 ◆xnSlhy.Xp2 :2007/04/27(金) 21:45:42 ID:3B9CmsM1
「あっ!」

自分でも思っていた以上に動揺していたらしい。手が震えていた。
そのため、思わずデイパックから取り出した銃を地面に落としてしまう。
重い金属の落ちる音。その重みで地に伏している枯葉の潰れる音。
なんてことのない大きさのはずなのに、この時に限ってはそれがレオにはやけに大きく聞こえた。
慌てて落とした銃を拾って左手に持つが、問題はそんなことじゃない。
最大の失敗は音をたてて相手にこちらの位置を知らせてしまったことだ。

案の定、こちらの存在に向こうは気づいたようで草の根を踏む足音が速くなる。
それはどんどん大きくなり、こちらに近づいてきていることを十分すぎるほどにレオに示していた。

「ちっきしょっ……」

自分の不甲斐無さに、レオは思わず舌打ちする。
一体やってくるのはどこのどいつだ。
もしこれが探している仲間だったらいいが、世の中そんな都合のいい出来事なんて
そうそう起きやしないということをレオはわかっていた。
単にここに飛ばされただけの一般人? それとも……この殺し合いに乗った襲撃者?
どれが正解かはわからない。わからないからこそ心臓の音がうるさいほどに鳴り続ける。

……落ち着け。相手がどんな人間かわからないのならば、先に手を打つだけだろう?

レオは急いでFN P90に取り付けられてある紐を右肩から体にかけると左の脇に銃身を固定し、音のする方向へ向けた。
そして、叫ぶ。

「ふ、ふり……いやとま、止まれ!」

喉の奥から出てきた声が裏声の掠れたものであるということに自分でも驚いたが、
なんとかそれを他人にも通じる言葉に置き換える。
だが草を掻き分ける音は一向に止む気配はない。
107 ◆xnSlhy.Xp2 :2007/04/27(金) 21:49:04 ID:3B9CmsM1
「こ、こっちは銃で狙ってんだぞ!? いきなり飛び出したりしたら容赦なく撃つからな!」

もちろん、撃つといっても本人に当てるつもりはない。あくまで威嚇射撃だ。
自分の手でフカヒレのような犠牲者を出したくはない。
だから、レオはこの言葉で向こうの動きが止まることを願った。

……それでも。
見えない来訪者のたてる音は止まない。止んでくれない。むしろその足音はさらに早まった。
声を出したことで、さっきよりもはっきりと位置がわかったからだろう。

(くそ、せっかく警告してやってんだから止まれよ! マジで来るってのか!?)

トリガーにかける指に力を込める。
『撃つなら姿の見えない今の内に撃って相手を牽制しろ』という声と、
『もしそれで手違いで当たってしまったらどうするんだよ』という2つの声がレオの頭を駆け巡り、
その結果決断できずに硬直したまま時が一刻一刻と過ぎてゆく。
108 ◆xnSlhy.Xp2 :2007/04/27(金) 21:50:06 ID:3B9CmsM1
何しているんだ、今すぐ撃てよ。もし相手が殺人者だったらどうするんだよ。
お前が1番しちゃいけないことは、愚図愚図している内に自分が殺されることだろうが。

(……でも、誤射で相手に当たってしまう可能性が高いじゃないか)

そうなったらその時だ。大切なのは死人が出ることじゃない。
『自分があのタカノたちと同類になってしまうかどうか』が何よりも重要なんだ。
仮に間違って撃ち殺してしまったとしても、それは故意ではなくてただの事故。
誰もお前を責めやしない。

(でも……)

ここで躊躇して殺されてしまったら、誰がフカヒレの仇をとる?
お前はそう決意したじゃないか。
死んだら全てが終わりだ。もうこの世にはあいつがいないとはいえ、
残ったみんなと一緒に元の世界に戻ることすらできなくなるぞ。

(…………俺は)



――――目の前の茂みが、揺れ動いた。


109 ◆xnSlhy.Xp2 :2007/04/27(金) 21:52:07 ID:3B9CmsM1


あれから何合仕合っただろうか。徐々に赤坂はトウカの剣に押されて後退し始めていた。
なんとか彼女の攻撃を受け止め、いなし、かわしてはいるものの反撃の機がない。
それほどまでにトウカの攻撃の早さは異常だった。
トンファーでもう何度目かになるかも覚えていない攻撃を受け止め、彼女から離れる。
普段ならばともかく、身体能力の低下している今では長期戦となれば恐らく不利だ。
ふと、鉄塔に視線をやる。少女が送電線に触れたりすることなくその場でおとなしくいるかどうかを確かめるために。

そこでようやく、赤坂は気づく。

(!? いない……)

ずっと鉄塔の上にいると思っていた少女の姿が見えないのだ。
最初は夜の闇に紛れて見えないだけかと思っていたが、雲から月が出でて地上を明るく照らしている今となってはそれはない。
明らかに鉄塔にはいない。ひょっとすると転落した可能性もある。

「どこを見ている!」
(……っ)

気づくとトウカの振るう剣がすぐそこまで来ていた。
慌てて右手でガードするが、咄嗟の行動は大抵の場合良い結果を生み出さない。
衝撃により、唯一の武器といえるトンファーが片方弾き飛ばされてしまった。

(まずいっ)

こうなった以上、接近戦は厳しい。
襲い来る二撃目をもう片方の得物でなんとか防ぐと、先ほどトウカがしたように地を蹴って後方へ下がる。
だがこちらがその隙を逃がさなかったように、向こうもまたこの好機を逃すはずもなく。
110 ◆xnSlhy.Xp2 :2007/04/27(金) 21:53:50 ID:3B9CmsM1
「はっ、はっ、でやあっ!」

一閃。二閃。三閃。
それを防ぐ武器の片翼はもがれているため、赤坂はそれを避けつつなおも下がり続け、機を待つしかない。
だがそれをいつまでも許し続けるほどトウカも甘くはない。

「喰らえっ!」

トウカのそれは居合いではなかった。もっと単純で、基本的な動作。
相手側からすると、最も直線的であるが故に迅くて避けにくい厄介な攻撃といえる。
すなわち……突き。彼女の剣の切っ先が、確実に赤坂の喉元を捉えていた。

後方に下がろうとする赤坂と前方へ飛ぼうとするトウカ。その勢いの差は明白だ。
考える間もなく本能で首を左に曲げるが、正確にかわすことはできない。首の右側面の肉が削れたのがわかった。

「もらった!」

トウカは飛んだ先で右足1本で着地すると、更にもう1歩踏み込んできた。
そして剣を突き出したまま、赤坂の右肩口から体を一刀両断にせんとそれを振り下ろす!

「くっ!」

零距離から放たれるトウカの必殺の一撃。
これを防ごうにも右手にトンファーはない。
腕を1本犠牲にするのもありだが、彼女の全体重を乗せたこの攻撃はその程度じゃ防ぐことはできないだろう。
受け流すにしても体勢が悪すぎる。まともに喰らうしかない!

「でやああぁぁぁあああぁああぁあっ!」

ガギィィィン!

……人体を斬ったという割には、あまりにも不適切な音が響いた。
111 ◆xnSlhy.Xp2 :2007/04/27(金) 21:56:44 ID:3B9CmsM1
「!? なっ、なんと!」

ここでトウカは驚愕の表情を見せる。
彼女の気合と共に放たれた一撃は、確実に赤坂の体を骨も肉もまとめて両断するはずだった。
今この時には剣はきれいに振り下ろされていて、おびただしく血を噴き出して地に倒れ伏す赤坂が存在するはずだった。
だが現実は違う。
トウカが斬りつけたのは赤坂ではなく、その真後ろにあった鉄塔の鋼管。
赤坂は彼女の攻撃に押されて後退していると見せかけて、徐々に自分の背後に鉄塔が来るように誘導していったのだ。
そしてトウカの剣先が届く直前に体を一瞬沈めた。全てはこの瞬間のため。
いかに切れ味のいい剣とて、さすがに鉄を斬ることはできない。
結果、剣は赤坂を斬るどころかその体に触れることすらあたわず、
トウカの手元を離れて宙を舞った挙句に彼女の左方の地面に転がっていった。
112 ◆xnSlhy.Xp2 :2007/04/27(金) 21:57:56 ID:3B9CmsM1
だがトウカ自身はあまりに突然のことで何が起こったのかわからない。
状況を把握しようと努めるが、数瞬の間を置かず赤坂の右拳が彼女の鳩尾に飛んだ。

「ぐっ!」

衝撃が体を貫通する。
倒れまいと足を踏ん張ろうとするが、言うことを聞いてくれなかった。
全身から力が抜け、視界が暗転してゆく。

「む……無念」

その言葉を最後に、トウカの意識は闇に溶けた。



気を失ってこちらに預けてくる形となった彼女の体を抱え上げると、赤坂はすぐ側の地面に寝かせてやって
用心のために落ちていた剣とトンファーを拾い、自分のデイパックの中にしまった。
そして、呟く。

「やれやれ。やっぱり肉弾戦では慣れない武器を扱うより素手のほうが楽だな」
113 ◆xnSlhy.Xp2 :2007/04/27(金) 21:59:35 ID:3B9CmsM1


「も、も、も、申し訳ない! 某としたことが……」
「いえ、こちらこそ手荒な真似をしてすみませんでした」

鉄塔の周りには、少女の姿を確認することができなかった。あらためて目をこらして上空を見てもやはりいない。
となると、地上で2人が戦っている内に忽然と姿を消してしまったということになる。
どこに行ってしまったのかはわからないが、この場で意識を失っているトウカを置いていくのも忍びないので
赤坂はそこから立ち去って少女を探すことができずにいた。
戦ってみて思ったことだが、いくら突然襲ってきたとはいえ赤坂には彼女がただの殺し合いに乗った人間だとは思えなかった。
彼女はあまりにも太刀筋がきれいなのだ。心技体の備わった者にしか行き着けない境地。
ひょっとしたら何か誤解しているだけなのかもしれないと、彼女の息が吹き返すのを待って
目覚めたところを……相当取り乱していて、落ち着かせるのに数分を要したが……腹を割って話し合ってみたら案の定だった。

赤坂はある少女……トウカが言うにはアルルゥという名前らしい……を知り合いの娘と勘違いして追っていた。
トウカはその少女の知り合いで、たまたまその光景を目撃して赤坂を狼藉者と勘違いして彼女を護ろうと襲い掛かってきた。
正直、トウカにも非はあるが誤解されるような行動をとった赤坂も悪いといえる。
怪我した左腿の止血をしながら赤坂は己の軽はずみな行為を反省する。

その他に情報交換した結果、
赤坂は彼女が自分の知りうる昔の日本と酷似した、だが明らかに日本ではないところからやってきたことや
彼女の知り合いにはアルルゥの他、ハクオロやエルルゥといった人たちがいて、
名簿で確認する限り彼女自身を含め計6名が飛ばされてきたことも知ることとなる。
……ついでに耳につけているそれはアクセサリーなどではなく、自前であるということも。これには相当驚かされた。
職業上、超常現象や宇宙人なんかを信じるような立場にはいないが
あの梨花の不思議な言動を知る身としては心からそれを否定するわけにもいかない。
現に目の前に人間ではないヒトが存在しているのだ。
ひょっとすると、この殺し合いの主催者であるあのタカノ……どこかで見たことがあるような気もするが……も
この類ではなかろうか、などと思ってしまう。
114 ◆xnSlhy.Xp2 :2007/04/27(金) 22:01:44 ID:3B9CmsM1
「しかし、アルルゥ殿は一体どこへ行ってしまわれたというのか……」
「自分からどこかへ行ってしまったという可能性もありますが、もしそうでなければ……何者かに連れ去られたか」
「つ、連れ去られた!?」

トウカはあからさまにショックを受けた顔をしている。
なんとも感情の起伏の激しい人だ、と赤坂は思う。その分裏表のない人であるとも言えるが。
おたおたとしばし慌てていたが、やがて決意したようにトウカは立ち上がる。

「こうしてはおれぬ! アカサカ殿と申したか? 此度の非はいずれ必ず報いてみせる!
 だが某、これよりアルルゥ殿を探しに行かねばならぬ! それではこれにて失礼致す!」
「あ、トウカさん待ってくださいっ」
「否! こうしている内にアルルゥ殿や聖上らにもしものことがあれば某、とても会わせる顔がない!」
「……今あなた、丸腰ですよ」
「…………。なっ!? し、しまった! 某としたことが……武士たる者が己の武器の不在に気づかぬとは一生の不覚ッ!」
「…………」

トウカに関して赤坂が見つけ出したものはもう1つ。
この人は日常においては思い込みが激しく、いわゆるうっかり者に属する人間だ。
注意力が散漫といおうか、先の闘いでの集中していた姿とはまるで別人のようだ。

とりあえず赤坂は先ほど回収していた一振りの剣を手渡した。鋼管を斬りつけたせいか、多少刃こぼれしている。
それを見てトウカは少しがっくりしたようではあるが、気を取り直したようにそれを腰にしまい直す。

「では、アカサカ殿。今度こそさらばだ。某、これよりアルルゥ殿を探しに……」

再度トウカがこちらに別れの言葉を告げようとしたその時。
115 ◆xnSlhy.Xp2 :2007/04/27(金) 22:04:43 ID:3B9CmsM1
(――――!)

赤坂とトウカはほぼ同時に、一点の場所を向いた。
何者かが近づいている。数は1人だ。アルルゥかと思うが、それにしてはどうも様子がおかしい。
地に落ちている小枝や枯葉を踏み割る音が、彼女のような小柄な少女にしては明らかに重い。
これは成人男性、それもそれなりに体重のある男だ。

(……トウカさん)
(うむ)

互いに顔を見合わせると、やってくる男の姿を影から確認するため2人は相手に気づかれないように
散開してその身を近場に隠し、そのまま息を殺す。
いざとなれば飛び出して一気に取り押さえることも可能だ。

幸いにもこちらの行動に感づいた風もなく、その男はさほどの警戒なしに進んできていた。
他の参加者だろうが、一体どんな奴だろうかと影から顔を覗かせる。
やがて、茂みを掻き分けて『彼』は現れた。

(少年……?)

年の頃は17,8といったところか。学生服を着ていて、見た目的にはごく普通の若者といった風だ。
何やらキョロキョロと周りを見回している。
その右手に刀を納刀している状態で持ち歩いており、腕にはデイパックをぶら下げている。
そして本来そのデイパックがおぶられているべき場所には、獣耳の少女がぐったりとした状態で存在していた。
彼をそれなりに体重のある成人男性と勘違いしたのは、彼女を背負っていたためだということなのだろうが……
……獣耳の、少女。

(アルルゥちゃん!?)

それを赤坂が理解したと同時。
116 ◆xnSlhy.Xp2 :2007/04/27(金) 22:06:23 ID:3B9CmsM1
「アルルゥ殿!」

トウカが隠れていた木の陰からその姿を現し、怒りに震える声で叫んだ。
少年が驚いたようにびくっとしてそちらを向く。

「貴様ぁっ! アルルゥ殿に何をしたああああ!」

剣を抜いて一直線に少年に向かって襲い掛かってゆく。
彼は困惑しているようで、「え、え、え?」などと呟くだけであとは立ち尽くしているだけだ。
このままだとまず間違いなく彼女に斬られる。
正直、少年が何者であるかということがわからない内に飛び出したトウカのこの行動は
軽率であると言わざるを得ないが、こうなった以上は仕方ない。
トウカが少年に到達する前にこちらも飛び出して、彼女の激情を収めさせなければ。
117 ◆xnSlhy.Xp2 :2007/04/27(金) 22:07:27 ID:3B9CmsM1
(つっ……!?)

そう決断して今いるその場から飛び出そうとした時、赤坂は自身の足が一瞬動かないことに気づいた。
先ほどの闘いで斬られた左の腿だ。
戦闘中はアドレナリンが活性化していたためそうでもなかったが、一旦沈静化した後では
普通に動くならともかく咄嗟に急激な運動をしようとしても足としてのその機能を果たしてくれなかった。
それにより、赤坂のスタートが数秒遅れる。
そして俊足のトウカは、赤坂が痛みを抑えてようやく動き出す頃にはまさに少年に襲い掛からんとしているところだった。

「トウカさんっ!」
「うおおおお! アルルゥ殿の仇!」
「な、ちょ、待った! 俺は別に何もしてな……」

問答無用。聞く耳持たず。
トウカの振るう剣が少年の首を刈り取ろうとしたその時!

「……ぐう〜」

――背中の少女の、この緊迫した場面とは場違いななんとも能天気ないびきが聞こえてきた。
118 ◆xnSlhy.Xp2 :2007/04/27(金) 22:09:21 ID:3B9CmsM1


「も〜〜〜〜〜しわけない! 誠に申し訳ない! 某、かくなる上は割腹をもってお詫び申し上げ奉る!」
「いや! いやいやいやンなことやめてくださいってば! ほら俺、実際無傷だし!」
「しかし某、1度ならず2度までも勝手な誤解の末に罪の無い人に襲い掛かるとはまさに一生の不覚!
死〜ん〜で〜お〜侘〜び〜を〜!!」
「と、トウカさん大丈夫ですから! 私も彼も、もう特に気にしてませんから!」
「ぐ〜」

鉄塔の前で、赤坂とレオはさっきから罪の意識で切腹しようとするトウカをなだめるのに必死だった。
こんなに大声を張り上げることで誰かに見つかるかもしれないという危険性は今のところ全員の思考から抜け落ちている。
アルルゥはといえば、やはりこんな夜中にしばらく追いかけっこしたため疲れが溜まっていたのか
相変わらず側で幸せそうに丸まって眠りこけている。
男2人は心底、できることなら今アルルゥと立場を交代したい衝動に駆られていた。

「ほら、トウカさん! アルルゥちゃんが目覚めた時、貴女がいなくなったと知ったら悲しみますよ!?」
「アルルゥ殿には聖上やエルルゥ殿たちがおられる! 某1人いなくなったところできっと大丈夫であろう!」
「あ、あんた……ええとトウカさんだっけ? この娘を護らなくていいんですか?
あんたがいなくなったら、この娘の危険性が増すだけですって!」
「……ッ! む、むうう……ッ」

トウカの顔が歪んだ。

(ナイスだ、レオくん!)
「そ、そうですよトウカさん。そもそもアルルゥちゃんを護りたいという一心で私とやりあったんでしょう?
 そしてこの通り、アルルゥちゃんは無事です。ならば今こそ使命を果たす時じゃないですか!」
「使命……某の、使命……」
「今ここであんたが責任をもって命を捨てたとしても、誰も喜びやしませんって!」
「……たしかに、そうかもしれぬな……某、アルルゥ殿や皆を無事に元のトゥスクルに送り届けねばならぬ!
 礼を言おう。アカサカ殿に……」
「レオです。対馬レオ」
「レオ殿!」
119 ◆xnSlhy.Xp2 :2007/04/27(金) 22:11:37 ID:3B9CmsM1
どっと疲れが噴出して、2人はその場にへたれこむ。
なんとか説得することができたものの、まさかトウカがここまで思いつめる人種だとは思わなかった。
おかげでなだめすかして話を進めるのにかなり時間をくってしまった。
だが、これでようやく本題に入れる。
赤坂はあぐらをかいて体を丸めているレオに向き直り、あらためて質問を開始する。

「ゴホン……それで、君……対馬レオくん。君はここの近くでこのアルルゥちゃんと出会い、事情を聞いて
 私たちの戦闘を止めようとやってきてくれた、と。そういうわけかい?」
「あ……はい」

何故か少し物憂げにレオは返事をする。

あの時――アルルゥがレオの目の前に飛び出してきた時。
アルルゥからすると、ようやく2人のケンカを止められる助けを見つけたという気持ちでいっぱいで
極度の人見知りであるということも一時的に忘れて走ってきたのだが、レオからすればたまったものではなかった。
なにせ、危惧していたとおりに相手が何者かを確認する間もなく突然こちらに突進するのを許してしまったのだから。
今思えばやはり銃は撃つべきだった。納刀した刀で殴りつけるべきだった。
そうでもしなきゃこのアルルゥがもし殺人者だった場合、自分は確実に死んでいる。
……だが引き金を引きかけた瞬間にフカヒレの顔が思い出されて、指があと1歩のところで動かなかったのだ。
結果的には今回はそれでよかったものの、これから毎回このアルルゥと同じような奴が現れるとは限らない。
というかむしろ現れないだろう。
その時のためにも、たとえそれが威嚇目的であろうとも武器を扱うという覚悟が必要だったのに
自分はそれが足りなかったのだ。
その事実が、レオの気持ちを陰鬱とさせていた。
120名無しくん、、、好きです。。。:2007/04/27(金) 22:12:07 ID:+4D4Hb+i
さるさる対策支援
121名無しくん、、、好きです。。。:2007/04/27(金) 22:12:43 ID:+4D4Hb+i

122 ◆xnSlhy.Xp2 :2007/04/27(金) 22:13:05 ID:3B9CmsM1
「赤坂さんやトウカさんは、このゲームに乗っていないんですか?」
「ああ」
「当然! エヴェンクルガ族の武士として、このような馬鹿げた遊戯に付き合ってはおれぬ!」

2人は即答してきた。
レオの見たところ、嘘をついているようには見えない。
彼らは自分の探していた、信頼できる仲間なのかもしれないと。そう思えた。
しっかりと自分の意思を持った強い人間だ。この人たちを味方につければこれほど心強いものはない。
武器を扱う覚悟云々は置いておくにしても、そのような人物に出会えたことについてはレオにとって幸運なことだった。

情報交換は続く。

「私はここについてから今のところ、あなた方に出会っただけです。恐らくアルルゥちゃんも同じでしょう。レオくん、君は?」
「あ、俺もです。最初にこの……アルルゥ? に出会って、それからここに来たんで」
「……某は、アカサカ殿たちと出会う前に1度襲撃に遭った」
「襲撃っ!?」

2人は目を見開いて、トウカを見る。
トウカはその時のことを思い出しているようで、顔が憎憎しげに歪んでいる。
何かよほど嫌なことでもあったのだろうか。まあとはいえ、普通は突然の襲撃ほど嫌なこともないだろうが。
123名無しくん、、、好きです。。。:2007/04/27(金) 22:13:17 ID:+4D4Hb+i

124名無しくん、、、好きです。。。:2007/04/27(金) 22:13:54 ID:+4D4Hb+i

125名無しくん、、、好きです。。。:2007/04/27(金) 22:14:24 ID:+4D4Hb+i

126 ◆xnSlhy.Xp2 :2007/04/27(金) 22:14:47 ID:3B9CmsM1
「突如として刃物の投擲で狙われたが故に某、にっくき犯人のその姿を拝見することは叶わなかった……が!
この耳はしかとその卑劣な凶悪犯の声を聞き申した!
あれはまるで柄の悪い少年のような口調。しかれども某は確かに覚えている。
あの、最初に皆が一同に介した場において、ある1人の少年が殺されたときに近くに駆け寄っていた少女のことを!
その少女の口調もまた、某が聞いたものとまったく同じ口調であったことを! たしか体格は小柄だったはず。
アカサカ殿、レオ殿、これから小柄な少女を見かけたら重々用心召されよ!」
「え……」

唖然として口を開いたのはレオだ。それも当然のこと。
最初に殺された少年といえば、それはやはりフカヒレだろう。
そしてそこに駆け寄った柄の悪い少年のような口調の少女といえば、彼にとって思い当たるのはたった1人しかいない。

「ちょっと待ってくださいよ!」
「む? どうしたレオ殿」

昂ぶる感情を隠そうともせず、レオはトウカに向かって叫んだ。
心底不思議そうな顔で、彼女はこちらを見つめてくる。その顔がレオには信じられなかった。

「あんたの言う殺された少年ってのは、俺の親友だ! あいつが殺されたとき、俺もその場にいた!」
「むっ!? ……な、なるほど言われてみれば、そなたの顔にもどことなく見覚えがあるような」
「そしてフカヒレに駆け寄った少年みたいな口調の女っていえば、カニの奴しかいない。
こいつも俺の大事な親友なんだ! 俺はあいつのことを誰より知ってる。
馬鹿で騒がしくて乱暴者で負けず嫌いで馬鹿で仕方ない馬鹿な奴だけど、あいつは絶対に自分から進んで人を殺そうなんてしない!
適当なことを言うな!」
127名無しくん、、、好きです。。。:2007/04/27(金) 22:14:55 ID:+4D4Hb+i

128名無しくん、、、好きです。。。:2007/04/27(金) 22:15:29 ID:+4D4Hb+i

129 ◆xnSlhy.Xp2 :2007/04/27(金) 22:16:04 ID:3B9CmsM1
あまりのレオの剣幕にトウカは押されかけていたが、
しかしそれでも適当なことと言われては彼女も黙っているわけにもいかない。
自分はたしかに、その少女に襲われたのだから。エヴェンクルガ族の耳は伊達ではない。
レオの迫力に負けないよう、トウカもしっかりと彼の目を見据えて真っ向から反論する。

「否! あれは正真正銘そのカニと申す少女の声であった! 証拠もある! 現場に残されていたのを某が拾ったものだ!」

言いつつ、トウカはデイパックからスペツナズナイフの柄……本人はそれが何なのか正確にはわかっていないが……
という唯一ともいえる状況証拠を取り出してレオに堂々と見せつけた。
これがある限り、自分が襲撃されたという事実は揺るぎはしないと、そういう自負を込めて。
だがそれは一笑に伏されてしまう。

「はっ、それがあるからなんだってんですか? 元々トウカさんに支給されたものかもしれないし、
 たまたま落ちてただけかもしれない。いずれにしろこれだけじゃあ、あいつがあんたを襲ったっていう証拠にはなりませんよ!
 もしかしてトウカさん、何かの理由があってわざと誰かに罪をなすりつけたいんじゃないんですか!?」
「んなっ、なっ、なっ、なにを!? レオ殿! 言って良いことと悪いことがあるぞッ!」

トウカの顔が見る見る紅潮してゆく。
それは自信満々に出した証拠品を否定されてしまったことの恥からではなく、侮辱されたことへの怒り。
ブルブルと体を震わせ、剣の柄に手を掛けている。
130 ◆xnSlhy.Xp2 :2007/04/27(金) 22:17:10 ID:3B9CmsM1
「だってそうじゃないですか! 今んとこ、この場でカニがトウカさんを襲ったって主張してるのはあんた自身しかいない!
 目撃者は他に誰もいないんだ! 本当はトウカさんがあいつを襲って失敗して、それをごまかすために言ってるだけかもしれない!
 なんたって2回も無実の人を襲撃してますしねえっ!?」
「…………っ! それについての非はたしかにこちらにある……だがっ! それでも、某はたしかに襲撃された!
 そのカニと申す少女の手によって! これ以上侮辱するというのであれば、レオ殿とてただではすまさ……」


       「  落  ち  着  け  2  人  と  も  !  !  」


2人の言い争いを打ち消すかのごとく赤坂の怒号が轟く。
あまりの声の大きさに草木はざわめき、アルルゥは水を浴びせられたかのように飛び起きた。
トウカもレオも、次に口に出そうとしていた言葉を忘れてしまったかのように黙り込んで赤坂のほうを向いた。
一瞬場が沈黙し、そこに先ほどとは打って変わったかのような赤坂の冷静で静かな言葉が挿し込まれる。

「……レオくん。証拠がないとは言うけれど、それは君も同じだ。
 君の友達がトウカさんを襲わなかったという証拠は、どこにもない」
「そ、そうだ! アカサカ殿、某はたしかに……」

赤坂は自分の言葉に便乗して主導権を握ろうとするトウカのほうを向く。

「そしてトウカさんも。貴女は声は聞いたと言うけれど、肝心のその娘の姿を目撃していない。
 声だけで確信を持つのは、少々危険すぎると思いますがどうでしょうか」
「む……むうう……しかし……」
131 ◆xnSlhy.Xp2 :2007/04/27(金) 22:19:10 ID:3B9CmsM1
まだ何か言いたそうではあるが、とりあえずトウカは沈黙した。
正直に言うと赤坂は、彼女の性質上ただの勘違いということも十分有り得ると思っていた。
だがここまで確信を持っているとなると、頭から否定することも難しい。
いずれにせよ、まずは頭を冷やすことが先決なのだ。話し合うのはそれからでいい。

「……いいですよ、赤坂さん」

その時、黙り込んでいたレオが口を開いた。

「なにがだい?」
「トウカさんはまだカニの奴を疑ってるようですし。
だったら俺、あいつに直接問いただしてみせますから。本当に人を襲ったのかってね」
「……?」
「あいつがどこにいるのかはわからないけど、急がないと本当のことがわかる前に死んでしまうかもしれない。
 だから俺、一刻も早くあいつを見つけに行きますんで」

その言葉を最後にレオはこちらにぱっと背を向けると、自分のデイパックと刀を掴んで一気に駆け出した。
これは赤坂にとっても予想外のことだ。「待て」と声をかけようにも、あまりに突然のことで反応すらできなかった。

…………。

呆然とレオの後ろ姿を見送るだけの、残された3人。
その内、最初に静寂を破ったのはアルルゥの無邪気な質問だった。

「おにいちゃん、どこいったの?」

その言葉に弾かれたようにして、止まった時が再び動き出す。

「な、え、あ……す、すみませんトウカさん! 私、これからすぐにレオくんを追います!
アルルゥちゃんのことはよろしくお願いします!」
「お、お、お、あ、お、そ、そう、そうか! 了解致した! 任せられい!」
132 ◆xnSlhy.Xp2 :2007/04/27(金) 22:20:26 ID:3B9CmsM1
2人の取り乱しようが面白いのか、アルルゥはそれを見てけらけらと笑い出した。
それを見た赤坂は、とりあえずは彼女が元気そうでほっとする。
もう1人、本来の自分の探し人であるあの娘は無事だろうか。
そんなことが気にかかるが、今は対馬レオを追うのが先決だ。
怪我の出血はおさまったものの、この左足で彼に追いつくには少々時間がかかるだろう。

「もしも私が何らかの事情で1時間たっても戻ってこなかったら、その時はそちらも動いていただいてかまいません。
 そうなった場合、今日の昼の12時に神社で合流しましょう!」

神社を集合場所に指定したのは、もしかしたらそこに梨花がいるかもしれないという淡い期待を込めたからだ。
トウカが頷くのを確認すると、赤坂は急いでレオの後を追おうと自分の分の荷物を手に取った。
その時、突然トウカに呼び止められる。

「アカサカ殿!」

振り向くと、彼女は剣を掲げて何故か笑みを浮かべていた。

「そなたとの仕合、誠に楽しかった。いずれまたやり合おう……今度は、障害物のないところで」

それは再戦の約束。そして必ず生きてまた会おうという再会の約束。
赤坂もそれに応えて微笑み、握り拳を作ってそれを掲げる。

「ええ、きっと。その時はトウカさんに、空手の真髄を見せてあげますよ」
「カラテ? それはどういう……」

トウカが聞き返そうとした時には既に、赤坂は少々危ない足取りではあるものの走り出していた。
133 ◆xnSlhy.Xp2 :2007/04/27(金) 22:21:54 ID:3B9CmsM1


そしてこの場に、無機質な鉄の建造物と2人の同世界からの参加者が取り残される。
アルルゥは状況をいまだ把握していないようで、しきりに赤坂とレオの行方を聞いてきたがやがて眠ってしまった。
行ってしまった2人の身が案じられるが、きっと大丈夫だろうと信じるしかない。
それより、トウカはレオと出会ってからずっと気になっていたことがあった。

「レオ殿の持っていた得物……某の刀に似ていたような……」

134 ◆xnSlhy.Xp2 :2007/04/27(金) 22:22:52 ID:3B9CmsM1
【B-6 森(鉄塔付近)/1日目 黎明】

【赤坂衛@ひぐらしのなく頃に】
【装備:デリホウライのトンファー@うたわれるもの】
【所持品:支給品一式、椅子@SHUFFLE!】
【状態:トウカとの戦闘による疲労、左腿に怪我、首筋に軽い傷】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない。
1:対馬レオを連れ戻す。
2:1が達成次第、トウカとアルルゥの元に戻って一緒に人が集まりそうな場所に行く。
3:1が達成できなかった場合、昼の12時に神社へ向かう。
4:大石さんと合流したい。
5:梨花ちゃんが自分の知っている古手梨花かどうか確かめる。
【備考】
赤坂の怒号が周囲に鳴り響きました

【トウカ@うたわれるもの 散りゆくものへの子守唄】
【装備:舞の剣@Kanon】
【所持品:支給品一式、不明支給品0〜2(本人確認済み)、スペツナズナイフの柄】
【状態:赤坂との戦闘による疲労】
【思考・行動】
 基本:殺し合いはしないが、襲ってくる者は容赦せず斬る
1:アルルゥを守り通す
2:赤坂の帰りを待つ。1時間たって戻ってこなかったら行動開始、昼の12時に神社へ向かう
3:ハクオロ、エルルゥと早急に合流し守る
4:オボロ、カルラと合流、協力しハクオロ等を守る
5:次に蟹沢きぬと出会ったら真偽を問いただす
【備考】
蟹沢きぬが殺し合いに乗っていると疑っています
舞の剣は少々刃こぼれしています
135 ◆xnSlhy.Xp2 :2007/04/27(金) 22:24:00 ID:3B9CmsM1
【アルルゥ@うたわれるもの】
【装備:なし】
【所持品:支給品一式(コンパス、時計、ランタン以外)、ベネリM3の予備弾(12番ゲージ弾)×35】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない。
1:もう一眠りする
2:おとーさんやおねーちゃんたちと合流したい
【備考】
※状況をあまり把握してませんが、赤坂とレオのことは仲間だと認識しました

【C-6森 1日目 黎明】

【対馬レオ@つよきす〜Mighty Heart〜】
【装備:トウカの刀@うたわれるもの、】
【所持品:FN P90(残弾50)、予備弾薬(5.7mm×28の専用カートリッジ弾)、支給品一式】
【状態:精神が若干不安定】
【思考・行動】
1:カニに真偽を問いただす
2:ひとまず仲間を集めに学校に向かう。
3:生徒会の仲間と合流。
4:前原に会い鷹野の情報を手に入れる。
5:フカヒレの仇を討つ。
基本行動方針:人に接触して仲間に誘う、敵対されたら武力で退ける。
【備考】
レオは魔法の存在に感づきました。鷹野は魔法を使えるのかもしれないと考えています。
赤坂やアルルゥはともかく、トウカのことは微妙に信用しきれていません。
カニについては基本的にトウカの話を信用していません。
136悲しい決意 ◆A6ULKxWVEc :2007/04/28(土) 11:42:06 ID:zD87B4wK
「……ッ!?」

岡崎朋也を殺すため痛む体を押して走り回っていたオボロの足は、目的を達すること無く止まった。
あの男を放って置いてはいけない。
自分だけが危険人物とみなされるならまだいい。
だが、兄者達のことを尋ねてしまった以上、仲間にまで迷惑をかけるかも知れない。
自分の不始末に仲間を巻き込んでしまってはいけない。
そんなことは重々承知している。

「エルルゥ……」

それでも、仲間の死体を無視して岡崎を探しに行く事はどうしても出来なかった。

エルルゥの死体を埋めるための穴を掘りながら考える。
何故こうなってしまったのだろう、と。
もし、自分が岡崎との戦いに無傷で時間をかけずに勝っていれば間に合っていたのではないか。
あるいはそもそも岡崎と戦わず、仲間との合流のみを優先して行動していれば間に合ったのではないか。
そんな益体の無い考えが次々と浮んでは消える。
エルルゥを殺した相手が、そして自分の無力さが、憎い。
137悲しい決意 ◆A6ULKxWVEc :2007/04/28(土) 11:43:03 ID:zD87B4wK
きつく噛み締めた唇の痛みも、全身を苛む痛みもも今のオボロには何の影響も及ぼさなかった。
今は唯、心が痛い。
仲間であるエルルゥを守れなかったから。
そして間接的に最愛の妹であるユズハを守れなくなってしまったから。

ユズハは幼い頃から病弱で、優秀な薬師であるトゥスクルがそしてエルルゥが居なければ此処まで生きてくることは出来なかっただろう。
トゥスクルが死んだときに自分は何も出来なかった。
そしてまた何も出来ずにエルルゥは死んでしまった。
自分は守れなかったのだ。
ユズハの命の恩人も───ユズハの未来も。

遺品として回収したエルルゥのリボンを握り決意を固める。
せめてこの遺品は兄者かアルルゥに届けよう。
そしてその後は───エルルゥを殺した奴を、確実に殺す。

もはや生きて帰ろうとは思わない、生きて帰ろうとも仲間に、そしてユズハに会わす顔が無い。
もう自分の命は顧みない。
出あった敵は…殺す。
138悲しい決意 ◆A6ULKxWVEc :2007/04/28(土) 11:43:39 ID:zD87B4wK
【F-3 森/1日目 黎明】


【オボロ@うたわれるもの】
【装備:クロスボウ(ボルト残9/10)】
【所持品:支給品一式(他は不明)、エルルゥのリボン】
【状態:全身に擦り傷・中程度の疲労】
【思考・行動】
1:エルルゥを殺した犯人を殺す。
2:ハクオロ、アルルゥ、トウカ、カルラなどといった例外を除いた参加者の排除。
3:ハクオロ、アルルゥと一度合流。(殺し合いに進んで参加していることは黙秘)

【備考】
F-3にあったエルルゥの死体は埋葬されました。
139 ◆Noo.im0tyw :2007/05/06(日) 01:28:40 ID:z+f3Qhir
結局、杉並は、襲っていたほうの少女を尾行することに決めた。彼が欲しいのは情報――――。
ならば、北へ向かうより、より多くの施設がある南側へと移動した方が得策だと考えたからだ。
南には、ホテル、学校に病院といった重要施設がたくさんある。ならばここに参加者が集まるのも必然。

そして何より南東側には彼の故郷である『初音島』を彷彿させる数々の場所があったのだ。
彼だってあの不思議に満ちたあの島が好きなのだ。知らない場所をうろつくより、慣れしたしんだ場所に似ている場所にいるほうが、精神的にも休まる、そう考えていたのだ。
そしてあの島を思うと必然的に浮かんでくるモノがあった。『学校』、そして『同士』と呼んでいたあの男を……。

「誰かとつるむ気は全くないんだがな……」
フッ…と溜息をつく。言葉とは裏腹に彼の脳裏には一人の男子学生の姿が思い浮かんでいた。――――朝倉純一。彼もまたこの不条理なゲームに参加させられている。
杉並の悪友として、そして親友として彼を心配しないはずはなかった。『風見学園』では杉並とペアを組んで、風紀委員ブラックリストに載った程の奴だ、運動神経は良い。奴なら易々と殺させることはないだろう。
しかし、奴の優しさが時に他人を傷つけ、そして己を傷つけていることを杉並は知っていた。

「同士朝倉よ…お前はいったい今どこで何をしているんだ……」
朝倉のコトを頭の片隅に入れておきながら、杉並は尾行を続けようとした。――――が,それは既に失敗に終わっていた。
考えすぎていたのだろうか。彼のレーダーには、1つとして【点】がなかった。

140 ◆Noo.im0tyw :2007/05/06(日) 01:29:34 ID:z+f3Qhir
「……クソっ!!」
杉並は滅多に失敗をしない優秀な人物だった。たまに朝倉音夢や、天枷美春などの風紀委員にしてやられたこともある。ただ、その失敗とこの失敗は違う。ここでは、一度の失敗が己の身を滅ぼしてしまう危険があるのだ。
それ故に一度の失敗が彼の精神を大きく揺さぶっていた。傍にあった石を大きく蹴り飛ばし、地団駄を踏みながら思考を働かせる。
………落ち着け。落ち着くんだ。クールになれ。自分に言い聞かせ、精神を落ち着かせる。今、自分がすべき行動は何かを考えなければ……。

既に尾行すべき少女は見失った。彼女の速さと自分の速さを比べてみれば圧倒的に自分のほうが有利であろう。だが、この暗闇の中を探し回るのはレーダーを持ってしてもリスクが高かった。
参加者全員が杉並より弱いという可能性はとてつもなく低い。探し回る途中で強敵に見つかり、そのまま戦闘ということになったらタダでは帰れないだろう。
最悪の場合も考えなくてはならない。ならば、とりあえず身を隠しながら南下し、先程の少女を探しつつ各種施設を回れば良い。

――――方針は決まった。ならば後は行動するだけだ……。その時ふいに杉並の耳に波の音が聞こえてくる。その音はどこでも共通で杉並の心に深く染み渡る―――。俺はこんな所では死ねない。まだまだあの島には解明せねばならないコトがたくさんあるしな。
決意を胸に杉並は夜の道に姿を消していった。
141 ◆Noo.im0tyw :2007/05/06(日) 01:30:49 ID:z+f3Qhir
【A-3 スクラップの山/1日目 黎明】
【杉並@D.C.P.S.】
【装備:鉄パイプ】
【所持品:支給品一式、首輪探知レーダー】
【状態:健康】
【思考・行動】
1)主な目的は情報収集
2)他者と行動を共にするつもりは現状無い。だが朝倉に遭遇したらその時は保護。共に行動する。
3)南下し、各種施設を回りつつ、他者を見張る。
4)何がなんでも生き残り、あらゆる不思議を解明したい。
5)先程の少女が途中にいたら、尾行を続ける。

※ネリネの尾行に失敗しました。杉並がどこの施設に回るかは後続の書き手さんに任せます。

【備考】
レーダーは半径500mまでの作動している首輪を探知可能。爆破された首輪は探知不可
古手梨花を要注意人物・ネリネを危険人物と判断(共に容姿のみの情報)

142 ◆Noo.im0tyw :2007/05/06(日) 01:31:36 ID:z+f3Qhir
【ネリネ@SHUFFLE】
【装備:永遠神剣第七位“献身”】
【所持品:支給品一式】
【状態:健康、催涙スプレーの効果は何とか消えた】
【思考・行動】
1:稟を探す。その途中であった人間は皆殺し(もう容赦は一切しない)
2:稟を守り通して自害。
【備考】
ネリネの魔法(体育館を吹き飛ばしたやつ)は使用不可能です。
※これはネリネは魔力は大きいけどコントロールは下手なので、制限の結果使えなくなっただけで他の魔法を使えるキャラの制限とは違う可能性があります。
※永遠神剣第七位“献身”は神剣っていってますが、形は槍です。
※永遠神剣“献身”によって以下の魔法が使えます。
尚、使える、といっても実際に使ったわけではないのでどの位の強さなのかは後続の書き手に委ねます。

アースプライヤー  回復魔法。単体回復。大地からの暖かな光によって、マナが活性化し傷を癒す。
ウィンドウィスパー 防御魔法。風を身体の周りに纏うことで、防御力を高める。
ハーベスト     回復魔法。全体回復。戦闘域そのものを活性化させ、戦う仲間に力を与える。

古手梨花を要注意人物と判断(容姿のみの情報)

※ネリネは南部(A-4方面)へ移動を開始しました。
143 ◆Noo.im0tyw :2007/05/08(火) 20:17:13 ID:tc5IFYSX
二人の美少女が、和気藹々とそれぞれの手にバナナを持ちながら談笑している。既に夜は明け始め、二人を照らし始めていた……。


◇ ◇ ◇


―――――数時間前。
もぐもぐとバナナを食べる舞と、その場に座り込みソレを見ていることり。その光景は実に微笑ましく、このバトルロワイヤルには不似合いなモノだった。
「…あなたの名前は何て言うんですか?」
ことりが質問するが、舞はバナナに夢中で、聞いてないらしい。
「えっと……」
ことりは微笑しつつこのマイペースな少女を見て、自分の友達の姉を思い出していた。これは時間が掛かるかも…と思った矢先だった。
「…………い」
舞が小さな声でポツリとつぶやいた。
「えっ…?」
「……舞」
舞はバナナの皮を丁寧に土の中に埋めながらそう答える。しばらく呆気にとられたことりだったがすぐ様反応した。
「舞さんですかっ!? 私っ私はことり! 白河ことりです!!」
声を張り上げて、自己紹介をする。まともな会話が成立したことにことりは喜びを感じていた。
「舞って呼んでいいですか?」
「……構わない」
ことりは満面の笑みで舞に握手を求めた。舞が握手を返す。
――――――そんな時だった。


144 ◆Noo.im0tyw :2007/05/08(火) 20:19:36 ID:tc5IFYSX
『…ことり…』
舞の声がことりの頭の中で響く。その突然の出来事にことりは身体をブルっと震わせた。
「……どうしたの?」
「うっううん!何でもないよ」
舞に悟られないように元気に言ってみたつもりだった。だが、言葉とは裏腹に顔には冷や汗が流れ、心臓の音は舞に聞こえるのではないかというくらい、拍動していた。

どうして……?あの能力は失ったはずだった。でも、舞に初めて会った時もテレパシーが流れ込んだし、もしかしたらと思い舞の心の内を聞いてみようとする。
だが、ただ耳鳴りがするだけで心の声が聞こえてくることはない。そのことがことりの精神を不安定にさせた。
――――私の頭の中はパニック寸前だった。『どうして?』という単語ばかりが頭の中を駆け巡る。
わからない、わからない、わからない。いろいろな要素が混じり私はいつの間にか泣いてしまっていた。


一方、舞はことりの行動の一部始終を見て、ヤバイと本能的に感じた。ことりが何を考え、何を思っているのか―――それは私にはわからない。でも、何か話かけなければ…。
「……ことり?」
ことりの名前を呼んでみる。でも、ことりはチラっとこちらを見るが、またすぐに下を向いてしまう。
結局、舞にはその場にいることしかできなかった。ことりが泣き始めた時も、しばらくはそうするコトしかできなかった。
――――佐祐理ならどうするだろう?もっとも身近な存在である彼女を思い出す。……そして閃く。
(そうだ、佐祐理たちならきっとこうするはずだ…。)
頭で考えると同時に私の身体は自然と動きだしていた…。



145 ◆Noo.im0tyw :2007/05/08(火) 20:20:35 ID:tc5IFYSX
「―――――舞?」
私はいつの間にか、舞に抱きかかえられる形になっていた。そしてその手はまるで私をあやすかの様に私の頭をなでていた。
「どうして……?」
「佐佑理たちならきっとこうするだろうから……」
舞の言葉はとても不器用で――――。でも、その言葉はことりを落ち着かせるのには十分だった。また、ことりの頭の中に声が流れる。でもそれは、とても心地よくことりをパニックにさせることはなかった。


◇ ◇ ◇


「私、心の声が聞こえるんです。一種のテレパシーと言ったほうがわかりやすいでしょうか?」
ことりの発言に多少驚いた顔をする舞だが、
「……そう」
とポツリ呟いただけだった。それを確認して、ことりは話を続ける。
「でも、ある日を境にその能力は消えてしまったんです。でもここに来てから、初めて舞にあった時から時々舞の心の声が聞こえてきて……。黙っていてすいませんでした。それに驚かせちゃいましたね……」

―――――そういうコトだったのか…。
と、舞はことりの言葉をほとんど理解した。出会ってすぐに見せた不審な行動。それを見て舞は少しことりのことを疑っていた。でも、今のことりの告白はどこまでも透き通っていた。今ならことりを心から信じられるとも思った。だから舞は、ことりに言葉をかけた。

「……ことりがどんなチカラを持っていても構わない。ことりは…その…もう…」
顔を赤らめる舞に、ことりは真剣な眼差しで舞をみつめる。
「……友達だから……」
自分にはとても似つかない言葉だった。言った自分が一番恥ずかしくなり、下を向いて横目でことりの方を見る。ことりはまた泣いていた。
「う…ひっく…うう……」
ことりが低い嗚咽を漏らす。その光景に舞はまたしどろもどろになる。また振り出しに戻ってしまった…。だけど、
「……ありがとう…舞」
と、小さいながらもハッキリと聞こえた声に舞は安堵した。ことりは指で涙をぬぐい、その下から満面の笑顔が現れる。その笑顔のかわいさに舞は多少、赤くなりながらもしっかりと見つめ返した。


146 ◆Noo.im0tyw :2007/05/08(火) 20:21:18 ID:tc5IFYSX
◇ ◇ ◇


2人はこれからの行動について話し合った。『生き延びて、このゲームから脱出する』それは最優先事項で、成し遂げないといけない。そのためには頼りになる仲間が必要だった。

「では、私のほうは、朝倉純一君、妹の音夢さん、芳乃さくらさんに杉並君。舞さんのほうは、倉田佐祐理さん、相沢祐一さん、月宮あゆさん、水瀬名雪さん、北川潤さんの5人。計9人を探し出し、なおかつ脱出の手がかりも見つけましょう」
「………うん」
それぞれの参加者の特徴を教えあい(と、言っても舞のほうは全て曖昧であまりわからなかったが…)デイパックの中身を教えあう。
「私のは、さっきのバナナと食料や、コンパスなどの道具、それにこの竹刀だけっすね」
舞は?と尋ねる。
「この銃に…ことりと一緒の道具に…」
ガサゴソとバックの中を漁る舞。舞は突然ハッとした顔をする。
「何があったんですか?」
興奮して舞に聞くことりだったが、舞から返ってきた言葉は意外すぎたモノだった。
「…………バナナ……フィリピン産……」
これには苦笑するしかなかった。しかし、舞がバナナに見とれているのを見て、
「ちょっと休憩して、早すぎる朝食にしますか……?」
と、こめかみを押さえながら言うしかなかった。


147 ◆Noo.im0tyw :2007/05/08(火) 20:24:25 ID:tc5IFYSX
◇ ◇ ◇


―――――そして今に至る。
あんまり喋ることがない舞だったがそれでもことりは楽しかった。今だけは、このゲームのことを忘れていられたから……。もう少しでまた、新たな一日が始まる。木々の間から少し見えた光はどこまでも輝き、心を明るくさせた。

「おなかも膨れたことだし、そろそろ出発しましょうか。」
ことりは立ち上がり、身体の汚れを払いつつ舞に提案する。
「……うん」
舞の反応はいつもと変わらない。そのことがことりの精神を安定させた。
「……どこに向かうの?」
「教会に行きたいんです。今更だけど、お祈りしておきたいから……」
「……構わない」
ことりの意見に反論するつもりはない。だからこそ舞は賛成した。
「良かった。じゃぁ、行きましょうか」
舞も立ち上がり、ことりの隣を歩く。
「早く私たちの仲間が見つかるといいですね。」
ことりは明るく言う。

148 ◆Noo.im0tyw :2007/05/08(火) 20:25:33 ID:tc5IFYSX
だけど、ことりは知らない。自分が探している友達の半分は既に人殺しをし始めてしまったことを。
――――そして、何よりもその友達に自分の命を狙われているということを。


「……うん」
舞もしっかりと頷く。その瞳に光を宿しながら。
―――――だけど、舞も知らない。佐祐理は既に音夢と会っていて、しかも命からがら逃げ回っていることを。


―――――太陽の光がさっきよりも強くなり、2人の目の前にその姿を現そうとしている。
目の前に漏れている光は彼女達にとって希望の光となるのか…それとも……。
149 ◆Noo.im0tyw :2007/05/08(火) 20:26:03 ID:tc5IFYSX
【C-6 森/1日目 黎明】

【白河ことり@D.C.P.S.】
【装備:竹刀  風見学園本校制服】
【所持品:支給品一式  バナナ(4房+3本)】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:ゲームには乗らない。 最終的な目標は島からの脱出。
1)舞と一緒に行動する。
2)仲間になってくれる人を見つける。
3)朝倉君たちと舞の友達を探す。
4)教会のあるほうへと進む。
【備考】
※テレパス能力消失後からの参加ですが、主催側の初音島の桜の効果により一時的な能力復活状態にあります。
ただし、ことりの心を読む力は制限により相手に触らないと読み取れないようになっています。
ことりは、能力が復活していることに大方気付き、『触らないと読み取れない』という制限についてはまだ気づいていません。
150 ◆Noo.im0tyw :2007/05/08(火) 20:27:16 ID:tc5IFYSX
【川澄 舞@Kanon】
【装備:ニューナンブM60(.38スペシャル弾5/5) 学校指定制服】
【所持品:支給品一式  バナナ(フィリピン産)(5房)】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:ゲームには乗らない。 佐祐理を探す。
1)バナナ…いっぱい。
2)ことりと一緒に行動する。
3)ことりの友達と佐祐理たちを探す。
4)教会へ向かう。

151夢と決意と銃声と―― ◆Noo.im0tyw :2007/05/17(木) 00:12:36 ID:W5GntoGH
(……もうどのくらい走っただろうか?)
服には、ところどころに汚れが付き、顔面には大量の汗が噴いている。けれども走ることを彼はやめようとしなかった。走ることをやめてしまったら、そこで自分の人生が終わってしまう。そんな予感がしたからだ。

「こんなことになるなら、ちゃんと運動をしておくべきだったな…」
走るのに疲れ、それでも歩むことをやめないまま、彼――――朝倉純一は後悔する。普段から『かったりぃ』が口癖の純一だ。部活はもちろん毎日たいした運動もせずにダラダラ過ごしていたツケが廻ってきた。ただそれだけのコト。
純一は頭では理解していても、込み上げる怒りはどうしようもなかった。傍にあった木を殴りつけ、気持ちを静める。
そしてふと、後方を見つめた。民家があったであろう方角には、既に何も見えなくなっており、また、誰かが追ってくるような足音も聞こえてこない。


(大分離れることができたみたいだな…)
ふぅ…と1つ溜息をつき、歩みながら思考する。
…なぜあんなコトになってしまったのか?自分の注意は完璧だったはずだったのに…と、後悔ばかりが純一の頭によぎる。しかし、後悔以上に許せない事があった。
「水澤摩央って言ってたな…。クソっ!あいつめ……!」
事件の一部始終を思い出し、また怒りが込み上げる。水澤さえいなければ、自分は今頃、楓と共に行動しているはずだった。だが、そんなifの話を考えていてもしょうがない。
とにかく今は先に進むしかなかった。しかし、1つ腑に落ちない点があったコトで純一の歩みは止まる。
152夢と決意と銃声と―― ◆Noo.im0tyw :2007/05/17(木) 00:13:29 ID:W5GntoGH


「――――どうして俺は生きているんだ?」
(確かにあの時、俺は銃で撃たれていたはずだ。でも俺は生きている。銃で撃たれて死なない人間なんているのか…?いや、それはない。じゃあ何でだよ……?)
頭の中をグルグルと疑問が駆け巡る。しかし、純一は1つの結論に辿りつく。
(俺は生きている、ただ…それだけなんだ…)
答えとしては、限りなく不十分であっただろう。しかし、元々、頭を使うのが得意じゃない純一にとってそれは己がたどり着ける最高の答えだった。それにより脳内がクリアになり、また歩み始める。
だが、夜が明けていない上に、闇雲に走ってきたせいもあって今いる位置がほとんどわからなくなっていた。とりあえず民家のあった場所から北に進んでいたはずだったのだが、自分の周りは木の他に目印となるものがなく、途方にくれる。

「ふぅ…。かったりぃ…。」
こんな台詞はいている場合ではなかった。早くどこかに辿り着き、信頼できる仲間を探さなきゃならない。だが、染み付いた癖はなかなか離れないものだ。こんな時にこんなセリフを吐く自分に嫌気が差す。
けれども、久々につぶやいたそのセリフはどこか心地良かった……。



153夢と決意と銃声と―― ◆Noo.im0tyw :2007/05/17(木) 00:16:10 ID:W5GntoGH
* * *




どこかもわからない道を私は独りで歩き続けていた。身を隠しながら進んだ結果、ここまで参加者の誰にも会わなかったのは不幸中の幸いとでも言うべきなのか。
時計の針もビル前を出発してからそんなには進んでいなかったが、自分の居場所がビル前からかなり離れていることは、なんとなくだがわかっていた。

「何で誰もいないのっ!?」
小声だが、『白鐘沙羅』は怒気を含ませ言う。誰か人がいなければこのFDを渡すことも、一緒に脱出を計画することもできない。でも危ない人には逢いたくない。でもやっぱり、仲間は欲しいし……。
と、沙羅は苦悩する。年頃の女の子がこんな矛盾を抱えていても誰も文句は言えないだろう。
そして、これだけ人がいないと、もしかしたら、ここら辺付近の人は皆死んでしまったんじゃ…と、不安を募らせる。
(でも私だって、恋太郎や双樹と一緒にいろんなコトをしてきたんだ…。そんな簡単に殺されるなんてあるはずない!)
強がってみるが、ただの女子高生が、男の人や力の強い人に挑まれたら結局、何もできずに終わる。
それを嫌なくらい頭で理解していた。それが歯がゆかった。ドンドンと気持ちが沈んでゆき、次第に下がっていく目線が片手に握られている銃で自然に停止する。

154夢と決意と銃声と―― ◆Noo.im0tyw :2007/05/17(木) 00:17:07 ID:W5GntoGH
―――――手に持った銃は果たして、ちゃんと自分を守ってくれるのか。これから逢うであろう参加者は、私をどうするだろうか。双樹や恋太郎はまだ生きているだろうか…。もしかしたら二人はもう……。
沙羅は身体を震わせながら、その場に立ち止まるがそれも一瞬。
(ダメだ、ダメだ、ダメだ!こんなの私じゃない!)
自分に喝を入れ、ブンブンっと頭を振り、沙羅はネガティブな考えを払拭する。

(ここで私を守ってくれるのはとりあえず今、私しかいない。だったら、この銃はそう―――私自身だ。迷っていたら、『私』はきっと『私』を助けてくれない。だから…)
「この一発は、迷いを断ち切り、嫌な考えを二度としないように。そして、何よりも自分の決意のために――――」
沙羅は銃を天高く、持ち上げる。トリガーには既に指がかかっていて、いつでも撃てるような体勢になっていた。
「私は、この腐ったゲームから皆を助けだして、脱出する!!」
沙羅の決意と共に、トリガーが引かれ夜空に銃声を響かせる。思っていたより大きな音が響き、沙羅は思わず耳を塞ぎ、しゃがみこんだ。
「ちょっと、音が響きすぎたかな……?」
アハハ…と苦笑し、すっと頭の中に考えがよぎる。
「ヤバ…。これじゃあ、自分の位置バレバレじゃん…!?」
良かれと思ってやった行動は、客観的に見れば最悪だった。もしかしたら、凶悪な人が来るかもしれないという不安から沙羅は―――その場をダッシュで離れた。



155夢と決意と銃声と―― ◆Noo.im0tyw :2007/05/17(木) 00:17:58 ID:W5GntoGH
* * *



純一はようやく見つけた場所、『港』で休んでいた。ここまで歩むことをほとんどやめなかったせいもあって疲労はピークを迎えていた。港付近からは死角となっている場所で少しばかり休憩をすることにした。
(よく考えたら、このクソったれなゲームが始まってから最初の休憩だな…。)
ここに来させられてから本当にいろんなコトがあった。楓のコト、事件のコト。
(楓…俺が探すまで絶対にい…き……て…)
考えが終わる前に眠りについてしまう。ムリもないだろう、むしろ普通の高校生にしては良くここまで体力がもったと褒めるべきなのだから……。


◇ ◇ ◇



「純一……。起きなさい、純一…」
耳元で女性の声がする。だが、思考は働いておらず、虚ろなままで純一は返答する。
「かったりぃな…。疲れてるんだから寝させてくれよ…」
そう言って、もう一度目蓋を閉じようとするが、
「純一っ!!」
自分の名前を怒鳴りつけられて、ようやく目覚める。良く見るとさっきまでいた場所とはまるで違う。一言で言えば、そこは虚無の空間であった。しばらくして、純一はようやく理解した。

「夢の中か……。そうなんだろ?祖母ちゃん」
「そうだよ、純一」
『祖母ちゃん』と呼ばれた、女性は優しげな目で純一を見つめ返す。
「悪いねぇ、純一。まさかこんなことに巻き込まれるなんて……」
すまなそうに謝る祖母ちゃんに純一はあえて明るく答えた。
「どうして、祖母ちゃんが謝るんだよ?祖母ちゃんは何もしてないだろ?」
苦笑しながら純一は答える。
156夢と決意と銃声と―― ◆Noo.im0tyw :2007/05/17(木) 00:18:42 ID:W5GntoGH

「私は、お前がこのゲームに巻き込まれるコトを知っていた。でも、そのことをお前に教えてはならんかった。それは巫女である環ちゃんと一緒。未来を見通すコトができてもそれを伝えてはならん。魔女にとってもそれは同じなんじゃ」
祖母が歯がゆそうに言葉を紡ぐ。祖母が偉大な魔女だというコトを知っていたが、ここまでできるなんて…と、純一は多少驚いていた。

「私は、何にもできん。それにこの島には何か特別なモノが張り巡らされていてね、わかりやすく言えば、結界・フィルターみたいなモノさ。それが私を拒むんだ。だから、こう何度も夢の中に現れることもできないだろう」
今度はすまなそうに祖母から謝られる。
「最初からあまり期待してないさ。もうゲームは始まった。祖母ちゃんは何も悪くない」
初めてみる祖母の弱弱しさに、純一は戸惑いながらもしっかりと答えた。
「大人になったねぇ、ありがとう純一」
ニヤリと笑い、嬉しそうな声で祖母が答える。純一も照れくさそうにはにかむが、すぐに話を切り出す。

「わざわざ夢の中にやって来たんだ。言いたいコトは他にもあるんだろ?」
純一のその言葉に祖母の目がスッと細くなり、いつになく真面目な格好で純一を見つめる。

「私には、さっきも言ったが未来を教える権現などない。だけど、起こってしまったこと。これだけは話すことができる。冷静になって聞いてくれ。実はな……。」
「どうしたんだよ?続けてくれよ」
純一は祖母の話を促す。
「―――――さくらが殺人者になってしまった」

157夢と決意と銃声と―― ◆Noo.im0tyw :2007/05/17(木) 00:21:25 ID:W5GntoGH
――――さくらが殺人鬼?
祖母のその言葉に、呆然とするが様々な疑問が込み上げる。あれだけ真面目な表情で言ったのだ。性質の悪い冗談ではないことをすぐさま理解し、声を張り上げて祖母を問い詰める。
「どうしてだ!? なんでさくらが人殺しになってるんだよ!?」
「落ち着け、純一!正確にはまだ人を殺していない!お前を守るために、このゲームに乗ってしまっているだけなのだ」
「俺のため…?」
「そうじゃ。お前のために、ゲームにのっているだけなのだ。頼む!さくらはお前と同じ私の孫。あの子には手を汚して欲しくない。助けてやってくれ!」

祖母の迫力はすごかった。おとなしく話を聞いていた純一だったが、答えは既に決まっていた。
「さくらは俺の大事な幼馴染だ。アイツが暴走しているなら、それを止めるのは俺の役目だ」
しっかりとした口調で答える。それに安心したように祖母の顔が緩む。
「任せたぞ、純一…。さくらもそうだが、お前も自分の……」
突然、祖母の声が聞こえづらくなり、いつの間にか俺は現実へとフィードバックしていた。最後に何を言おうとしていたかはよくわからない。でも、やらなきゃいけないコトが1つ増えた、これだけは確かなことだ。
『さくらの救出』これだけは俺が、俺自身が成し遂げないといけない。
(任せろよ、祖母ちゃん…!!)
強い決意を胸に、立ち上がる。―――そんな時だった。
『パァァァーン!!』と銃声が遠くで響く。
「さくらかっ!?」
その音を聞き、純一はさくらを連想する。
「さくら・・・待ってろよ!!」
まだ見ぬ少女への思いを馳せながら、純一は音のした方向へと走っていった。


158夢と決意と銃声と―― ◆Noo.im0tyw :2007/05/17(木) 00:22:45 ID:W5GntoGH
【G-3 港付近 1日目 早朝】
【朝倉純一@D.C.P.S.】
【装備:無し】
【所持品:支給品一式 エルルゥの傷薬@うたわれるもの オオアリクイのヌイグルミ@Kanon】
【状態:体力回復・強い決意】
【思考・行動】
基本行動方針:人を殺さない
1.さくらの暴走を何としても止めさせる。
2.何としてでも音夢を探し出して守る
3.ことり、さくら、杉並を探す。
4.楓も可能なら探したい
5.殺し合いからの脱出方法を考える。
6.水澤摩央を強く警戒
7.音のした方向へと向かう。
【備考】
芙蓉楓の知人の情報を入手しています。
純一の参加時期は、音夢シナリオの初キス直後の時期に設定。
鉄扇を失くしたコトにまだ気付いていません。
159夢と決意と銃声と―― ◆Noo.im0tyw :2007/05/17(木) 00:23:59 ID:W5GntoGH
【F-2 道の上/1日目 早朝】

【白鐘沙羅@フタコイ オルタナティブ 恋と少女とマシンガン】
【装備:永遠神剣第六位冥加@永遠のアセリア −この大地の果てで− ワルサー P99 (16/16)】
【所持品:支給品一式 フロッピーディスク二枚枚(中身は下記) ワルサー P99 の予備マガジン8】
【状態:逃走中】
【思考・行動】
1:首輪を解除できそうな人にフロッピーを渡す
2:恋太郎と双樹を探す。
3:前原を探して、タカノの素性を聞く。
160 ◆Qz0e4gvs0s :2007/05/17(木) 14:06:27 ID:jfPO7V9V



走り出したスバルが最初に目指したのは、南方にある商店街だった。
西側の新市街も考えたが、距離が遠すぎるため断念した。
目指す理由は、物品補充のため人が集まるからだと考えたため。
あてもなく動くよりも、こういった場所で一気に殺したほうが時間短縮になると思ったからだ。
そのため、舗装された路上を走りながら、スバルは今後の方針や殺害方法を整理していた。
(この殺し合いには、大きく分けて5種類の人間がいる)
まず始めたのは、参加者の大きな区分けだった。

A.率先して殺す奴
B.理由があって殺す奴
C.殺すことができず殺される奴
D.殺されたくないため、他の参加者と協力する奴
E.殺すつもりでいながら、平然とDに加わる奴

(AとBは判りやすいから、問題なく殺せる。CとDは殺せなければ後回しでいい……問題は)
周囲に気を配りながらも、スバルは先ほどの忌々しい状況を思い出していた。
(Eに区分する奴らだ。あの場で集められた中で何人かは必ずいる)
スバルが危惧しているのは、レオやきぬがDにいる状況でEが加わることだった。
(二人がいなけりゃ、そのグループごと殺せばいいが、もし二人がいたら――)
そこまで考えて、スバルはゆっくり足を止めた。

「はは。アイツらに怨まれるかな」

怨まれてもかまわない……聖域は、すでに崩壊しているのだから。


161そして走り始めた影 ◆Qz0e4gvs0s :2007/05/17(木) 14:43:11 ID:5D4vOcxl
◇     ◇     ◇     ◇



住宅街が目で確認できるあたりに来た頃、大きな振動音が響いた。
「っなんだ!」
一瞬狙われたと勘違いして、近くの樹木に身を隠したスバルだったが、どうやらそうではなかった。
目指していた住宅街の一角から、微かだが煙が上がるのを確認できたためだ。
「先客がいたってことか」
殺しあってくれるなら都合がいい。スバルはバットを取り出し、軽いストレッチをすると静かに走り出す。
(何人いるかは知らないが、生きてるなら殺すだけだ)
殺意を隠すことなく、スバルは着実に住宅街へと進んでいく。
もちろん、道路の真ん中を歩くような無用心な行動はしない。
手負いなら好都合だが楽観視はできない。とにかく、見つけ次第殺せばいい。
(そうだ。見つけたら殺せばいい……それだけさ)
最初の一人目見つけるため、スバルは住宅街まであと少しと迫っていた。

162そして走り始めた影 ◆Qz0e4gvs0s :2007/05/17(木) 14:45:13 ID:5D4vOcxl
【G-3住宅街付近 1日目 深夜】



【伊達スバル@つよきす〜Mighty Heart〜】
【装備:無し】
【所持品:人形(詳細不明)、服(詳細不明)、悟史のバット@ひぐらしのなく頃に、支給品一式】
【状態:健康だがやや興奮】
【思考・行動】
1:走り回って見敵必殺。
2:レオときぬのことが心配。
3:住宅街に生き残りがいれば殺す
基本行動方針:優勝を目指し皆殺し・主催者全員の殺害。


【備考】
爆音が手榴弾だとは気付いていません。
163 ◆Qz0e4gvs0s :2007/05/18(金) 12:00:14 ID:JfcCrnmL
(稟くん。稟くん。稟くん。稟くん――)

焦点が定まらないまま、楓は知らず知らず住宅街を南下していた。
手には先ほど荷物の中から取り出したベレッタM93R。
先ほどの摩央のように、何の躊躇いもなく撃つ人もいるのだ。
自分は稟に会う前に死ねない。優しい稟に会うため死ねない。
だから武器を持つ。その綺麗な手は武器を持つためにある。
(稟くん。逢いたいです。稟くん。どこにいますか?)
手に持った武器は使ったことがない。使えばどうなるか分からない。
でも、使わないと稟に会えない。稟に会いたのだ。
その時、背後から爆発音が鳴り響いた。
「ひぃッ」
思わずしゃがみ込む楓。どうやらあちらで何かあったらしい。
やがて爆発音のした方向から、何者かが走ってくるのに気付いた。
(稟くんかもしれない!)
先ほどまでの恐怖や混乱を忘れ、楓は走ってくる人影に近づいていった。


◇    ◇    ◇    ◇
164 ◆Qz0e4gvs0s :2007/05/18(金) 12:00:59 ID:JfcCrnmL
あのやっかいな男(オボロ)からなんとか逃げ延びた朋也は、南に向かって走っていた。
しかし、脇腹が痛むためか思うように走れず、やがて小さな民家にたどり着くと、壁に背を預け座り込んだ。
「はぁはぁ、はぁ……ってぇ」
痺れる様な脇腹の痛みに堪え、朋也は胸のうちに燃える憎悪を必死で押さえ込んでいた。
「ふざけんなよ、くそっ、くそっ」
怒りの矛先は先程の男でもあるし、あのタカノとか言う女性でもあるし、この世界でもある。
彼はどちらかといえば不良と呼ばれる側にいたが、このような傷を負ったのは初めてだ。
だから、傷が浅いか深いかは判断できず、おまけに治療も出来ないため苛立ちは相当だった。
そんな折、少しずつ誰かが何かを呼ぶ声が聞こえていた。誰かが近づいてくる。確実に朋也を目指して。
「稟くん!」
そして叫び声とともに、一人の少女が現れた――銃を構えて。


◇    ◇    ◇    ◇
165 ◆Qz0e4gvs0s :2007/05/18(金) 12:01:56 ID:JfcCrnmL
稟の名前を連呼しながら、楓は住宅街を走っていた。
その際、血の跡のようなものが点々と続くのを楓は見逃さなかった。
その血痕を辿っていくと、民家に腰を下ろす青年を発見することができた。
暗くてよくは分からないが、もしかしたら稟なのかも知れない。
「稟くん!」
「くぅ…だ、誰だ!」
その第一声で解った。その青年は楓の望む相手ではない。楓は一瞬で興味を失った。
「誰だ……っつ」
脇腹を押さえながら、青年は楓の顔を見上げた。
「私は芙蓉楓と申します。稟くんを知りませんか?」
口調こそ丁寧だが、楓の言葉はどことなく機械的に聞こえる。
「稟くん?」
青年は、ゆっくりと立ち上がると銃口を自分から外さないことに悪態を付いた。
「その前に、うっ、銃を降ろしてくれ?」
脇腹を押さえながら、青年は顎で銃口を外せと促す。
「あ、ごめんなさい。動揺していたもので」
謝罪の気持ちがまったくない。形だけの謝罪だった。稟以外に謝る必要がない。
そもそも、いつ銃を構えたのかも分からない。悪いのは構えさせた相手だ。
「あのさ。喋りたくても銃がこっち向いてたら喋れないんだよ」
「ああ。すみませんでした」
銃口を下に向けつつ「稟くんと違って臆病」と呟くように付け足した。
「ではもう一度聞きます。稟くんを知りませんか?」
口調も何も変わらない。楓の声は、先程質問した時と何一つ変わっていなかった。


◇    ◇    ◇    ◇
166 ◆Qz0e4gvs0s :2007/05/18(金) 12:04:22 ID:JfcCrnmL
いつ相手が撃つか分からないが、いざという時のために立ち上がっておく。
「稟くん?」
立ち上がってみたものの、脇腹の痛みでしっかり立つ事は出来なかった。
壁に体重を預けたまま、朋也は楓と名乗る少女と銃口に視線を定めた。
「その前に、うっ、銃を降ろしてくれ?」
楓の銃口は、朋也の胸に向けられていた。お互い3mぐらいしか離れていない。
相手が目を瞑って適当に撃たない限り、ほぼ確実に当たる距離。
(落ち着け朋也。下手に動いてズドンじゃ洒落にならない!)
楓が銃口を下げるまで、朋也は頭を働かせ打開案を練っていた。
「あ、ごめんなさい。動揺していたもので」
しっかりと事務的な返答。相変わらず銃口はこちらを向いたままだ。
(なにが動揺してるだ! 動揺してるならそういった素振りくらい見せろよな)
楓の一挙一動に注意しながら、朋也はもう一度問いかけた。
「あのさ。喋りたくても銃がこっち向いてたら喋れないんだよ」
「ああ。すみませんでした」
今度こそ、楓は銃口を下に向けた。その間際、朋也は楓の呟きを聞き逃さなかった。
(ああそうさ臆病だよ。銃口を向けられて平気な奴がいてたまるか!)
心の中で舌打ちするが、思っていることを口に出すほど愚かではない。
「ではもう一度聞きます。稟くんを知りませんか?」
その言葉から、先程と同じ事務的で無駄な会話を許さない圧力を感じた。
(稟くん。こいつも人探しか……なら、上手くやり込めれば状況が変わるはず)
「あ、ああ。稟な。会ったよ」
「どこですか!」
167 ◆Qz0e4gvs0s :2007/05/18(金) 12:05:24 ID:JfcCrnmL
今度は違う。感情を露にした問いかけが返ってきた。
「さ、さっきの爆音を聞いたか?」
即答せず、朋也は答えるのを先延ばした。
「聞きましたよ! それがなんなんですか!?」
「実は、さっきの爆発は俺と稟を襲った男が仕掛けてきたんだ」
「えっ!」
楓は明らかに動揺した。顔面が蒼白になるのがよく判る。
(よし。ここからだ……)
「そ、それで、稟くんはどこにいったんですか!」
「稟と俺は、その男から逃げるため、北と南に分かれて逃げてきたんだ」
「じゃ、じゃあ、稟くんは北に行ったんですね!」
「ああ。地図を出してみてくれ」
稟の情報が得られるからなのか、楓は疑うことなく地図を差し出した。
「俺は病院、稟は図書館に一時退避して、ほとぼりが冷めたら……神社に集まろうって事なんだ」
「図書館ですか。分かりました、ありがとうございます!」
本当に感謝の気持ちが篭っているのが良く分かった。急いで地図をしまうと、楓は踵を返し走り出した。
「あ、待ってくれ!」
「なんですか?」
「その……稟のやつ、アンタを相当心配してたよ」
「り、稟くんが私をですか!?」
「ああ。だから、早く行ってやれ」
「分かりました。貴方も……そう言えば、お名前聞いていませんでしたね」
「お……春原だ。春原陽平」
「春原さん。ありがとうございました!」
深々と頭を下げると、今度こそ楓は図書館を目指して走り去っていった。
168 ◆Qz0e4gvs0s :2007/05/18(金) 12:06:58 ID:JfcCrnmL


「やれやれ。行ったか」
背中から流れる冷や汗を感じながら、朋也は深くため息をついた。
「稟なんて知らねーよ。だいたい俺、ここまでで会ったのはあの男だけだし」
折り畳みのキックボードと地図を取り出す。脇腹はまだ痛いからうまく動けるかは分からない。
痛いのは脇腹だけなのか。それとも、最後についた『二つの嘘』なのか。
「適当に言ったけど、病院なら手当てできるかもしれないな」
当面の目的は決まった。とりあえず治療だ。
「あーくそ。やっぱりいてぇ」
キックボードに乗り地面を蹴りつつ、朋也は南の病院へと移動を開始した。
「そういや、いつもの癖で春原の名前を名乗っちまったが……いっか」
この嘘が、吉と出るか凶と出るかはまだ分からない。


◇    ◇    ◇    ◇


朋也は告げていなかった。男が死んだ事もどんな男なのかも。
楓はひたすら走った。凛に会うために。こんな時まで自分を心配してくれる稟に会うために。
(稟くん。稟くん。稟くんっ。稟くんっッ。稟くん! 稟くん!!)
逢える喜びを抑えようともせず、楓は図書館を目指して走り出した。
169 ◆Qz0e4gvs0s :2007/05/18(金) 12:08:58 ID:JfcCrnmL
【F-4 住宅街南部/1日目 深夜】



【岡崎朋也@CLANNAD】
【装備:キックボード(折り畳み式)】
【所持品:手榴弾(残4発)・支給品一式】
【状態:脇腹軽症(痛み継続)・やや興奮】
【思考・行動】
1:何が何でも生き延びる。
2:悪意があると感じれば、容赦なく攻撃。
3:少しは知人の安否が気になる。
4:オボロが探していたハクオロのことを警戒。
5:とりあえず病院へ
【備考】
オボロは死んだ、もしくは瀕死だと勘違いしています。
170 ◆Qz0e4gvs0s :2007/05/18(金) 12:10:01 ID:JfcCrnmL
【芙蓉楓@SHUFFLE! ON THE STAGE】
【装備:ベレッタ M93R(21/20+1)】
【所持品:支給品一式 ブラウニング M2 “キャリバー.50”(ベルト給弾式、残弾200) ベレッタ M93Rの残弾40】
【状態:とにかく稟を探す】
【思考・行動】
基本方針:稟の捜索
1:何が何でも、最優先で稟を探す(図書館へ)
2:できればネリネや亜沙とも合流したい
3:凛を襲った男を……


【備考】
稟以外の人間に対する興味が希薄になっている
朝倉純一の知人の情報を入手している。
水澤摩央を危険人物と判断
岡崎朋也を春原陽平と思い込む(興味がないため顔は忘れた)
朋也と(実際にはいないが)稟を襲った男(誰かは不明)を強く警戒。
171おいてきたもの ◆H.0vwv7hVs :2007/05/19(土) 13:58:53 ID:IWELTdo9
俺、高嶺悠人は以前ファンンタズゴリアという世界でスピリット相手に殺し合いをさせられていた。
そして現在は地球(だよな?)に突然連れ戻され、再び殺し合いを強制されている。
短い一生の中で二回も異世界に望まぬ転移をさせられる事になった不幸な奴は全人類の中でも俺くらいだろう。
だが、以前にも召喚されたケ―スがあったことはこの場においては幸運なのかもしれない。まさに経験は偉大だった。
まず唐突な出来事にも関わらず、早めに平静を取り戻すことができた。殺し合いという単語にも混乱しなくてすんだ。
さらに偶然支給品に含まれていた今日子のハリセンが心の支えになり心を強く持つことができ、
メンタル面は正に絶好調! 順風満帆! 向うところ敵なし! 見えるのは輝かしい未来! 香織の元に戻るのなんて簡単さ! 
……そんなお気楽な事を考えた時期が俺にもありました。


アセリア達を探しに歩き出した俺を待ち受けていたのは苦難の道だった。
プ―ル、プラネタリウムと巡っても出迎えてくれるのはさざ波一つ無い水面と満天の星空のみ。
映画館に行けば、『闘争進化論〜人類が繁栄した理由(企画・監督・脚本・製作・編集「分身」)』
と開始五分で爆睡できそうな映画が俺を待っていて、、
博物館に行っても『現代生物〜闘争と進化の歴史(監修「分身」)』とこれまたつまらなそうな展示があるだけだった。
以上が最近四時間の悠人さんの動向だ――文章にすると簡単だが、実際には大した大仕事だった。
敵を警戒する、味方を捜索する、そのために視覚、聴覚を常時張り詰めらせる必要があり、
多くの場所を探索するために早く移動したい、だが足音は立ててはいけない、そんな矛盾に答えるには絶妙な足運びが必要で、
さらに、移動は物陰に隠れながら、探索する道はできるだけ多くとる、などの事も行わなければならなかった。
そんな無茶極まりない重労働を四時間ぶっ続けで行ったおかげで体はヘトヘトだ。それなのにさ……

「人が全くいないってどうよ……」
172おいてきたもの ◆H.0vwv7hVs :2007/05/19(土) 13:59:53 ID:IWELTdo9
人っ子一人見つけられなかったのである。
ハイペリアに興味を持っていたアセリアや市街での暮らしに慣れている地球の若者達とは、
繁華街をうろついていれば会えるかとも思ったが甘かったようだ。
だ―れもいません。進歩ゼロ、イベント無し、四時間を見事に無駄にしました! ……あまりに悲しい。
四時間歩きとおして得たものは、この辺りに人はいないという情報と精神と肉体の疲労だけ。……あまりに虚しい。
繁華街の路地裏のさらにその片隅で頭を抱えて座りこんでいる男が一人……ぶっちゃけ今の俺。……あまりに情けない。

「とりあえず一休みするか。…………その後は……どうするんだろな……」



店の搬入口の前、座りこんで動かない男。
遠目から見たらゴミ箱と変わらないかもしれないな、と自嘲する。
まるで神に見放されたかのような姿である。だがまだ神は見捨てていなかった。
休憩を続ける俺の耳に、小さな音が届いたのは空の色が変わり始めた頃だっただろうか。
――ガラガラガラガラ
最初は幻聴かとも思ったが、段々と音は大きくなっている。明らかに人が近づいてきている音だ。
理解するがいなや、すぐさま立ち上がり、左右を確認する――だが姿は見えない。
その間にもどんどん音は近づいてくる。
急いで近くの曲がり角を片っ端からチェックしていく、ひとつ、ふたつ。
みっつめの曲がり角、勢いのあまり通路に身を乗り出してしまったそこに、身を焦がして会いたがっていたもの――人がいた。


……訂正。かなりの速度で俺に向かって突っ込んできていた。

「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」」
173おいてきたもの ◆H.0vwv7hVs :2007/05/19(土) 14:00:45 ID:IWELTdo9
ぐほっ、吹き飛ばされたのか? 一瞬だが宙に浮いていた気がする。体の上の重みは――相手の下敷きということか。
ようやく人にあったと思ったらこれかよ……俺って何か悪い事したっけ。
ああ、そういえば敵国のスピリットをたくさん切り捨てたんだったな……恨まれてる!?
ごめんなさい、成仏してください。ごめんなさい、成仏してください。ごめんなさい、成仏してください。

「あの、ごめんなさい。怪我とかありませんか?」

少女の声に現実に引き戻される。怪我は――当たり所が良かったのか特に無いようだ。
服を払いながら立ち上がり、少女に答えを返す。

「いや、大丈夫みたいだ――――香織!? ………………悪い、勘違いだった。今の事は忘れてくれ」

気まずい空気が流れる。お互いに次の一言を言い出せない状況だ。
年上としてこの状況を何とかしたいが上手い言葉が思いつかない。
そして、そんな悩む俺を見かねてなのか少女の方から話しかけてきてくれた。結構活発な子なのかもしれない。

「あ、あの、ボクは衛っていいます。お兄さんは?」

「名前は高嶺悠人、職業は……普通の高校生だ。ところで衛は何であんなに急いでいたんだ?」

出会った時、衛は無防備にもロ―ラ―スケ―トで地面を鳴らしながら移動していた。
常識に則って考えれば殺し合いの最中に大きな音を出すのは自殺行為、だからそこには何か理由があるはずだ。

「そうですね……悠人さん、少し時間を頂けませんか? 頼みたいことがあるんです」

「探している奴はいるが……暇といえば暇だな。言ってみな、俺にできる事なら何でも手伝うよ」

「ではお願いが一つ、実は離れた場所にお姉さんを置き去りにしてきてしまっているんです。
 その人は足が不自由なんですが、ボク一人じゃ車椅子に乗せてあげることもできなくて……
 少しの間だけでいいんです、手伝ってもらえませんか?」
174おいてきたもの ◆H.0vwv7hVs :2007/05/19(土) 14:01:49 ID:IWELTdo9
「お安いご用さ、少しなんてけちな事はいわない。君達二人は俺が守ってやるよ」

ニッと笑いながら伝えると、不安そうな顔だった衛の顔も笑みでいっぱいになる。

「ありがとう、悠人さん。そうと決まったなら急がなきゃ! 待たせすぎちゃったからお姉さんも心配しているかも」

喋るやいなや衛はわき目も振らずに走り出す。ロ―ラ―スケ―トがカラカラと小気味良い音を奏でる。
その元気っぷりを見ていると、音について注意する気も失せてくるから不思議だ。
そんな事を考えている間にもみりみる小さくなっていく衛の姿、苦笑いしながらデイパックを背負い追いかけ始めた。


 ◇ ◇ ◇


掛替えのない大切な妹、香織。一見で見間違える程には衛は香織に似ていた。
だが似ているのは背格好と雰囲気のみで、声、顔、仕草などなど違う部分の方が遥かに多い。
第一に衛が履きこなしているロ―ラ―スケ―トは香織にはとても使えない。香織相手では出会いの衝突ですら発生しない。
おそらく明るい場所で普通に出会ったのなら衛を香織と見間違えることは無かっただろう。

でも、あの一瞬……たしかに衛と香織の姿がかぶったんだ。だからなのか衛のことが無性にいとおしく感じる。
ゲ―ムの乗った者によって衛に危害が加えられる――考えたくもない。絶対に許せないことだ。

どこか妹の面影がある少女――衛を絶対に殺し合いから守りきる、そう決意した。


 ◇ ◇ ◇

175おいてきたもの ◆H.0vwv7hVs :2007/05/19(土) 14:02:37 ID:IWELTdo9
高嶺悠人。
彼に対する最初の印象はどこかぼ―っとしている人。しかしそれは裏返せば落ち着きがあるということだ。
そしてこんな訳の分からない事態において、優しい彼は無償で自分と遥さんを助けると約束してくれた。
落ち着きがあって、優しくて、格好よくて――――まるであにぃのような人。
悠人さんは安心して頼れる人だ。悠人さんに会えたボクは幸運なんだ。それは分かるんだ。でもね、でもね。

(会いたいよぉ……あにぃ。)



悠人が人を探していた時間、衛も同じく人を探して走り回っていたのだ。
暗い夜にひとりぼっちで徘徊、少女にとってこれ程過酷なことはない。だが衛は震えながらもやり通した。
そして募っていった寂しさは、兄の面影がある悠人に出会った事で郷愁の思いとして爆発した。
だけど衛は泣かなかった。自分を信じて待っている遙がいたから……自分勝手に泣くことは出来なかった。
少女は皆が幸せに笑える世界が好きだ。兄は自分を幸せにしてくれた、その自分が他人を不幸にするなんてとんでもない。
衛は抱えきれぬ寂しさを笑顔の裏に隠して遙の元へと向かう――――遙の死を知らずに……。


少女は最愛の兄との再会を切に願う。



【C−3の市街地/1日目 早朝】
176おいてきたもの ◆H.0vwv7hVs :2007/05/19(土) 14:04:05 ID:IWELTdo9

【高嶺悠人@永遠のアセリア −この大地の果てで−】
【装備:今日子のハリセン@永遠のアセリア】
【所持品:支給品一式、バニラアイス@Kanon(残り9/10)】
【状態:好調、背中に軽い打ち身】
【思考・行動】
基本方針1:衛と遥を守る
基本方針2:なんとしてもファンタズマゴリアに帰還する
1:衛を追いかけて涼宮遙の元へと向かう
2:アセリアとエスペリアと合流
3:出来る限り多くの人を保護
【備考】
バニラアイスは小型の冷凍庫に入っています。

【衛@シスタ―プリンセス】
【装備:ロ―ラ―スケ―ト】
【所持品:支給品一式、未確認支給武器(1)】
【状態:やや焦り、健康】
【思考・行動】
基本方針:ゲ―ムに参加しているという実感がまだ薄いので、どちらとも言えない
思考:あにぃに会いたい
1:ひとまず高嶺悠人を連れて涼宮遙の元へと戻る
2:1の後で「孝之」を探す(どのような人物かという情報は無し)
3:できれば知り合いにも会いたいが、無理に探そうとは思っていない(咲耶、千影、四葉)
177 ◆Noo.im0tyw :2007/05/19(土) 23:11:29 ID:ULxcgwK/
(……もうどのくらい走っただろうか?)
服には、ところどころに汚れが付き、顔面には大量の汗が噴いている。けれども走ることを彼はやめようとしなかった。
走ることをやめてしまったら、そこで自分の人生が終わってしまう。そんな予感がしたからだ。

「こんなことになるなら、ちゃんと運動をしておくべきだったな…」
走るのに疲れ、それでも歩むことをやめないまま、彼――――朝倉純一は後悔する。
普段から『かったりぃ』が口癖の純一だ。部活はもちろん毎日たいした運動もせずにダラダラ過ごしていたツケが廻ってきた。ただそれだけのコト。
純一は頭では理解していても、込み上げる怒りはどうしようもなかった。傍にあった木を殴りつけ、気持ちを静める。
そしてふと、後方を見つめた。民家があったであろう方角には、既に何も見えなくなっており、また、誰かが追ってくるような足音も聞こえてこない。


(大分離れることができたみたいだな…)
ふぅ…と1つ溜息をつき、歩みながら思考する。
…なぜあんなコトになってしまったのか?自分の注意は完璧だったはずだったのに…と、後悔ばかりが純一の頭によぎる。しかし、後悔以上に許せない事があった。
「水澤摩央って言ってたな…。クソっ!あいつめ……!」
事件の一部始終を思い出し、また怒りが込み上げる。水澤さえいなければ、自分は今頃、楓と共に行動しているはずだった。
だが、そんなifの話を考えていてもしょうがない。
とにかく今は先に進むしかなかった。しかし、1つ腑に落ちない点があったコトで純一の歩みは止まる。
178 ◆Noo.im0tyw :2007/05/19(土) 23:12:47 ID:ULxcgwK/


「――――どうして俺は生きているんだ?」
(確かにあの時、俺は銃で撃たれていたはずだ。でも俺は生きている。銃で撃たれて死なない人間なんているのか…?いや、それはない。じゃあ何でだよ……?)
頭の中をグルグルと疑問が駆け巡る。しかし、純一は1つの結論に辿りつく。
(俺は生きている、ただ…それだけなんだ…)
答えとしては、限りなく不十分であっただろう。しかし、元々、頭を使うのが得意じゃない純一にとってそれは己がたどり着ける最高の答えだった。
それにより脳内がクリアになり、また歩み始める。
だが、夜が明けていない上に、闇雲に走ってきたせいもあって今いる位置がほとんどわからなくなっていた。とりあえず民家のあった場所から北に進んでいたはずだったのだが、自分の周りは木の他に目印となるものがなく、途方にくれる。

「ふぅ…。かったりぃ…。」
こんな台詞はいている場合ではなかった。早くどこかに辿り着き、信頼できる仲間を探さなきゃならない。だが、染み付いた癖はなかなか離れないものだ。こんな時にこんなセリフを吐く自分に嫌気が差す。
けれども、久々につぶやいたそのセリフはどこか心地良かった……。



179 ◆Noo.im0tyw :2007/05/19(土) 23:13:37 ID:ULxcgwK/
* * *




どこかもわからない道を私は独りで歩き続けていた。
身を隠しながら進んだ結果、ここまで参加者の誰にも会わなかったのは不幸中の幸いとでも言うべきなのか。
時計の針もビル前を出発してからそんなには進んでいなかったが、自分の居場所がビル前からかなり離れていることは、なんとなくだがわかっていた。

「何で誰もいないのっ!?」
小声だが、『白鐘沙羅』は怒気を含ませ言う。誰か人がいなければこのFDを渡すことも、一緒に脱出を計画することもできない。でも危ない人には逢いたくない。でもやっぱり、仲間は欲しいし……。と、沙羅は苦悩する。
年頃の女の子がこんな矛盾を抱えていても誰も文句は言えないだろう。
そして、これだけ人がいないと、もしかしたら、ここら辺付近の人は皆死んでしまったんじゃ…と、不安を募らせる。
(でも私だって、恋太郎や双樹と一緒にいろんなコトをしてきたんだ…。そんな簡単に殺されるなんてあるはずない!)
強がってみるが、ただの女子高生が、男の人や力の強い人に挑まれたら結局、何もできずに終わる。それを嫌なくらい頭で理解していた。それが歯がゆかった。
ドンドンと気持ちが沈んでゆき、次第に下がっていく目線が片手に握られている銃で自然に停止する。

―――――手に持った銃は果たして、ちゃんと自分を守ってくれるのか。これから逢うであろう参加者は、私をどうするだろうか。双樹や恋太郎はまだ生きているだろうか…。もしかしたら二人はもう……。
180 ◆Noo.im0tyw :2007/05/19(土) 23:17:13 ID:ULxcgwK/
沙羅は身体を震わせながら、その場に立ち止まるがそれも一瞬。
(ダメだ、ダメだ、ダメだ!こんなの私じゃない!)
自分に喝を入れ、ブンブンっと頭を振り、沙羅はネガティブな考えを払拭する。

(ここで私を守ってくれるのはとりあえず今、私しかいない。だったら、この銃はそう―――私自身だ。迷っていたら、『私』はきっと『私』を助けてくれない。だから…)
「この一発は、迷いを断ち切り、嫌な考えを二度としないように。そして、何よりも自分の決意のために――――」
沙羅は銃を天高く、持ち上げる。トリガーには既に指がかかっていて、いつでも撃てるような体勢になっていた。
「私は、この腐ったゲームから皆を助けだして、脱出する!!」
沙羅の決意と共に、トリガーが引かれ夜空に銃声を響かせる。思っていたより大きな音が響き、沙羅は思わず耳を塞ぎ、しゃがみこんだ。
「ちょっと、音が響きすぎたかな……?」
アハハ…と苦笑し、すっと頭の中に考えがよぎる。
「ヤバ…。これじゃあ、自分の位置バレバレじゃん…!?」
良かれと思ってやった行動は、客観的に見れば最悪だった。もしかしたら、凶悪な人が来るかもしれないという不安から沙羅は―――その場をダッシュで離れた。



181 ◆Noo.im0tyw :2007/05/19(土) 23:21:17 ID:ULxcgwK/
* * *



純一はようやく見つけた場所、『港』で休んでいた。ここまで歩むことをほとんどやめなかったせいもあって疲労はピークを迎えていた。港付近からは死角となっている場所で少しばかり休憩をすることにした。
(よく考えたら、このクソったれなゲームが始まってから最初の休憩だな…。)
ここに来させられてから本当にいろんなコトがあった。楓のコト、事件のコト。
(楓…俺が探すまで絶対にい…き…て…)
考えが終わる前に眠りについてしまう。ムリもないだろう、むしろ普通の高校生にしては良くここまで体力がもったと褒めるべきなのだから……。


182 ◆Noo.im0tyw :2007/05/19(土) 23:22:19 ID:ULxcgwK/
◇ ◇ ◇



「純一…。起きなさい、純一…」
耳元で女性の声がする。だが、思考は働いておらず、虚ろなままで純一は返答する。
「かったりぃな…。疲れてるんだから寝させてくれよ…」
そう言って、もう一度目蓋を閉じようとするが、
「純一っ!!」
自分の名前を怒鳴りつけられて、ようやく目覚める。
良く見るとさっきまでいた場所とはまるで違う。一言で言えば、そこは虚無の空間であった。しばらくして、純一はようやく理解した。

「夢の中か……。そうなんだろ?祖母ちゃん」
「そうだよ、純一」
『祖母ちゃん』と呼ばれた、女性は優しげな目で純一を見つめ返す。
「悪いねぇ、純一。まさかこんなことに巻き込まれるなんて……」
すまなそうに謝る祖母ちゃんに純一はあえて明るく答えた。
「どうして、祖母ちゃんが謝るんだよ?祖母ちゃんは何もしてないだろ?」
苦笑しながら純一は答える。

「私は、お前がこのゲームに巻き込まれるコトを知っていた。でも、そのことをお前に教えてはならんかった。それは巫女である環ちゃんと一緒。未来を見通すコトができてもそれを伝えてはならん。魔女にとってもそれは同じなんじゃ」
祖母が歯がゆそうに言葉を紡ぐ。祖母が偉大な魔女だというコトを知っていたが、ここまでできるなんて…と、純一は多少驚いていた。
183 ◆Noo.im0tyw :2007/05/19(土) 23:24:55 ID:ULxcgwK/

「私は、何にもできん。それにこの島には何か特別なモノが張り巡らされていてね、わかりやすく言えば、結界・フィルターみたいなモノさ。それが私を拒むんだ。今回は私の全魔力を駆使して何とかは入れたが、もう2度と夢の中に現れることもできないだろう」
今度はすまなそうに祖母から謝られる。
「最初からあまり期待してないさ。もうゲームは始まった。祖母ちゃんは何も悪くない」
初めてみる祖母の弱弱しさに、純一は戸惑いながらもしっかりと答えた。
「大人になったねぇ、ありがとう純一」
ニヤリと笑い、嬉しそうな声で祖母が答える。純一も照れくさそうにはにかむが、すぐに話を切り出す。

「わざわざ夢の中にやって来たんだ。言いたいコトは他にもあるんだろ?」
純一のその言葉に祖母の目がスッと細くなり、いつになく真面目な格好で純一を見つめる。

「私には、さっきも言ったが未来を教える権現などない。だけど、起こってしまったこと。これだけは話すことができる。祖母から愛しい孫へのたった一度の伝言だ。神様も許してくれるだろう」
「どうしたんだよ?続けてくれよ」
祖母の話が一時止まるが、純一は祖母の話を促す。
「冷静になって聞いてくれ―――――さくらが殺人者になってしまった」


184 ◆Noo.im0tyw :2007/05/19(土) 23:26:28 ID:ULxcgwK/
――――さくらが殺人鬼?
祖母のその言葉に、呆然とするが様々な疑問が込み上げる。あれだけ真面目な表情で言ったのだ。性質の悪い冗談ではないことをすぐさま理解し、声を張り上げて祖母を問い詰める。
「どうしてだ!? なんでさくらが人殺しになってるんだよ!?」
「落ち着け、純一!正確にはまだ人を殺していない!お前を守るために、このゲームに乗ってしまっているだけなのだ」
「俺のため…?」
「そうじゃ。お前のために、ゲームにのっているだけなのだ。頼む!さくらはお前と同じ私の孫。あの子には手を汚して欲しくない。助けてやってくれ!」

祖母の迫力はすごかった。おとなしく話を聞いていた純一だったが、答えは既に決まっていた。
「さくらは俺の大事な幼馴染だ。アイツが暴走しているなら、それを止めるのは俺の役目だ」
しっかりとした口調で答える。それに安心したように祖母の顔が緩む。
「任せたぞ、純一…。さくらもそうだが、お前も自分の……」
突然、祖母の声が聞こえづらくなり、いつの間にか俺は現実へとフィードバックしていた。最後に何を言おうとしていたかはよくわからない。
でも、やらなきゃいけないコトがまた1つ増えた、これだけは確かなことだ。
『さくらの救出』これだけは俺が、俺自身が成し遂げないといけない。
185 ◆Noo.im0tyw :2007/05/19(土) 23:28:25 ID:ULxcgwK/
(任せろよ、祖母ちゃん…!!)
強い決意を胸に、立ち上がる。―――そんな時だった。
『パァァァーン!!』と銃声が遠くで響く。
「さくらかっ!?」
その音を聞き、純一はさくらを連想する。だが、
――――――――――チリン。
鈴の音が頭の中に響いてくる。その鈴の音は妹に自分がプレゼントしたチョーカーが出す音そのものだった。その音に純一はハッとする。
(音夢…。クソっ!! どうしろってんだよ!? どっちか選べなんてできるはずないだろ!?)
恋人である『音夢』と幼馴染であり自分のために暴走している『さくら』、その二人を天秤にかけることが純一には出来なかった。
(迷ってたらどっちも救えないかもしれないだろ…!? 今は音夢の情報はまだ何もつかめてない…。だったら少しでも可能性のあるかもしれないさくらを探す!)
唇を血が出るくらいにかみ締め、苦渋の決断をするが、頭の中に音夢が寂しげに笑っているのが見えまた思いとどまる。

「許してくれ音夢…。少しだけ待ってろ。絶対にお前も見つけ出すからな!」
音夢に心の中で謝罪し、まだ見ぬ少女への思いを馳せながら、純一は音のした方向へと走っていった――――。




186 ◆Noo.im0tyw :2007/05/19(土) 23:29:47 ID:ULxcgwK/
【G-3 港付近 1日目 早朝】
【朝倉純一@D.C.P.S.】
【装備:無し】
【所持品:支給品一式 エルルゥの傷薬@うたわれるもの オオアリクイのヌイグルミ@Kanon】
【状態:体力回復・強い決意・音夢への謝罪】
【思考・行動】
基本行動方針:人を殺さない
1.何としてでも音夢を探し出して守る。
2. さくらの暴走を何としても止めさせる。
187珍道中の始まり ◆Qz0e4gvs0s :2007/05/20(日) 02:48:47 ID:SyronPVG

――Jの言い分

潤です。もう最悪です。
出会ったばかりの女の子に、俺の命の灯火を消されそうになりました。
しかも、迫ってくる別の女の子の真似して笑い出す。俺の迷惑を考えて下さい。
さらに、気持ち悪いとか言って逃げようとしてくれません。勘弁してください。
ま、俺様の起死回生のチンゲアタックにより無事だったと言う訳さ。えっへん。


――F子の言い分

風子です。もう最悪です。
出会ったばかりの変な男に、風子の大人なお尻を触られました。
しかも、触ったままお店の中を走り回ります。風子の迷惑を考えて下さい。
さらに、立ち止まったかと思うと乱暴に風子を地面に叩きつけます。外道です。
ま、風子の起死回生のヒトデパワーで無事勝利したと言う訳なのです。えっへん。



188珍道中の始まり ◆Qz0e4gvs0s :2007/05/20(日) 02:49:55 ID:SyronPVG

「北川さん。いくら素晴らしいからって風子のコメントをパクらないで下さい」
「ちょっと待て! パクってるのはどうみてもそっちだろ。つか、尻触ったんじゃなくておぶったんだよ!」
「うるさいのです。美貌と才能に嫉妬する気持ちは分かりますが、男なら潔く罪を認めて下さい」
「つか、お前のどこにそんな美貌と才能があるんだよ!」
「見えませんか? 風子から溢れ出る『知的美人』のオーラが」
「ねぇよ! 」
「そんな事言って、テレてます」
「さっきまで走ってたからな!」
「そんな誤魔化しで……さては北川さん、風子に恋しちゃってますね」
「いや、してないって!」
「でも駄目です。風子の相手になるためには、もっと己を磨かないといけません」
「聞いちゃいねー!!」
その後、数分間による不毛な言い争いが続くが、疲れたのか急に会話が途切れる。
「で、あの女の子が居る以上、百貨店には戻れないな」
「風子のバックがあるのです」
「そんな事言って、また追いかけられたらどうするんだ?」
「その時は、北川さんが体を張って風子を守るのです」
「なんでだよ!?」
「愛する女のために死ねる……モテない北川さんにあげられる。唯一の見せ場なのです」
「だから愛してないし、モテない訳じゃない……はずだし、第一そんな見せ場欲しがるかぁ!」
「駄目ですよ北川さん。ストレスは禿のもとなのです」
「うがぁぁぁぁぁぁぁ!」
なかなか会話が前に進まない二人だった。


   ◇   ◇   ◇   ◇
189珍道中の始まり ◆Qz0e4gvs0s :2007/05/20(日) 02:50:37 ID:SyronPVG


「とりあえず、どこか行きたい場所はあるか?」
「そうですね〜。風子はまずベットに入りたいです」
「そこまで具体的じゃなくていいんだよ! もっと、こう、地名とか」
「それならそうと言って下さい。北川さんは言葉が通じなくて困ります」
「通じてないのはお前だろぉぉぉ!」
「そういう事でしたら、どこかホテルに連れて行って欲しいです。あ、変な期待はしないで下さいね」
「しないしない。でも、ホテルつってもこの地図じゃどこにあるのかは……」
「それぐらい、ぱぱっと見つけるのが『出来る男』ですよ」
「こんなアバウトな地図だけで出来る――いや、地図?」
「? これは地図ですよ。まさか、それすら分からなくなったのですか?」
「違う違う。この地図より詳しくて、かつ色々情報収集できそうな場所を思いついたんだ」
「どこですかそれは?」
「ここさ!」
北川の指差したのは、小さく『役場』と書かれた丸だった。
「役場ってなんですか?」
「えぇ! そこから説明するのかよ!?」
自信満々に指を指したものの、風子の頭は役場を全く理解していなかった。
その後、支給品のメモや具体例や面白話で、なんとか役場がなんたるかを叩き込む。
「つまるところ、税金泥棒があぐらをかいてお茶をすする所なのですね」
「全ッッ然理解してないよな!?」
「理解しているのです。風子は一度言われたことは完璧に覚えられます」
「じゃあ、その役場に俺たちは何しに行くんだっけ?」
「そんなの風子に聞かないで下さい。それより北川さん。早くしゃがんで下さい」
「は?」
「特別に、役場まで風子をおんぶする権利を与えるのです。さあ早く」
(ああ、誰か俺を助けてくれ)
心の中で涙を流しつつ、結局おぶってしまう北川だった。
190珍道中の始まり ◆Qz0e4gvs0s :2007/05/20(日) 02:52:09 ID:SyronPVG



【A-3 百貨店と役場の中間/1日目 時間 黎明】



【北川潤@Kanon】
【所持品:支給品一式、チンゲラーメン(約3日分)】
【状態:多大な疲労】
【思考・行動】
1:風子を連れて安全な場所へ移動。そうしたらひとまず休みたい。
2:知り合い(相沢祐一、水瀬名雪)の捜索。
3:あの娘を見てしまった以上、殺し合いに乗る気にはなれない……
4:まずは、地理把握のため役場へ
【備考】チンゲラーメンの具がアレかどうかは不明
   チンゲラーメンを1個消費しました。
191珍道中の始まり ◆Qz0e4gvs0s :2007/05/20(日) 02:53:22 ID:SyronPVG
【伊吹風子@CLANNAD】
【装備:なし】
【所持品:なし】
【状態:健康】
【思考・行動】
1:北川さん……きつそう。
2:北川さん……風子に惚れてます?
【備考】今のところ状況をあまり把握してません。


【備考】
新市街での戦闘は知りません。
包丁の女の子(レナ)がまだ百貨店にいると思っています。
192珍道中の始まり ◆Qz0e4gvs0s :2007/05/20(日) 02:58:16 ID:SyronPVG
【伊吹風子@CLANNAD】
【装備:なし】
【所持品:なし】
【状態:健康】
【思考・行動】
1:北川さん……きつそう。
2:北川さん……風子に惚れてます?
【備考】今のところ状況をあまり把握してません。


【備考】
新市街での戦闘は知りません。
包丁の女の子(レナ)がまだ百貨店にいると思っています。
193猟人は鬼と獅子 ◆Qz0e4gvs0s :2007/05/22(火) 22:10:31 ID:yk4LB7Y5


辺りに朝靄が立ちこめた頃、詩音は未だ視力の戻らない事に苛立っていた。
(う〜ん。さすがにここいらで休まないと体が持ちませんね)
つぐみとの戦闘を引き分けた時に集中し過ぎたためか、疲労も溜まっている。
「こんな事なら、あの女を可能な限りの拷問で嬲って、ストレス発散しておくんでした」
だからと言って、今から死体のある場所まで戻る訳にもいかない。
それよりも、このまま下手に動き続けるより、一息入れるべきなのではと考える。
眠気と疲労が溜まっていく中、いざというときに頭が働かなくてはどうしようもない。
あれこれ考えた末、近くにあった木の枝や枯れ葉で身を擬態し、大木に身を任せる事にした。
もちろん、眠るつもりもなければ座るつもりもない。ほんの数分間だけ、少しの休憩を入れるだけだ。



    ◇    ◇    ◇    ◇



ひっそりと静まる森の中を、レオはひたすら走っていた。
トウカの言っている事は信用できない。だから、自分が身をもって証明するしかない。
そのためにはまずカニを捕まえる。そして、トウカの前に突き出すのが一番だと思った。
それに、もともとカニやスバル……生徒会の面々を探す予定だったのだ。その目的に変更はない。
(そう言えば、予定ではもともと学校に行くつもりだったんだよな)
先程四人で居た位置ならば、橋を経由して北上したほうが近道だったが、
怒りに任せて走り出した結果、見事森の中を突っ切る事になってしまったのである。
林の中は靄がかかった状態で、一見すると方向を見失いかねない。コンパスがあって助かった。
なにより駆け出した手前、方向転換して橋ある方まで戻るのが恥ずかしかった。
(学校にカニが居るとは限らないしな)
誰に言うでもなく、レオは自らの行動を正当化すると、休む事無く北を目指した。
194猟人は鬼と獅子 ◆Qz0e4gvs0s :2007/05/22(火) 22:11:40 ID:yk4LB7Y5



やがて、ハイキングコースと思わしき道を発見すると同時に、レオは視界の先にある物体があるのに気付いた。
(あれ、人だよな)
人間らしき物体に、木の枝や枯れ葉が上手い具合に積もっているので見落としやすいが、
偶然かなのか、それとも人を探しながらだったためか、レオは『彼女』を発見出来た。
ここが今までの日常だったら、カニ辺りが面白がって突っついただろうがレオはそんな事はしない。
(少なくとも、カニ……じゃないな)
あれが探し人ならば問題が一気に片付くが、見た限りどうもそうではないらしい。
(あそこまでキッチリ擬態できるとは思えない。むしろ、堂々と道路の真ん中で寝るのがカニだな)
それでも万が一という可能性が捨てきれず、ジャケットでFN P90を隠すと、レオはギリギリまで接近した。
だが、相手ばかりに気を取られていたからか、足元に並べられた小枝までは気を配れなかった。
静寂の中、小枝の折れる音が二人の間に確かに伝わる。
そして『彼女』は目を覚ました。その小さな狩りの合図で。



    ◇    ◇    ◇    ◇


195猟人は鬼と獅子 ◆Qz0e4gvs0s :2007/05/22(火) 22:12:54 ID:yk4LB7Y5
その小さな音を聞くと同時に、詩音は接近してきた相手の男に向かって銃を構えた。
そして続けざま発砲するも、焦点が合っていないためか命中はしない。
男は慌てて走り出すと、近くにあった樹木に身を隠した。
(チッ!! 油断し過ぎました!)
男目掛けて発砲するが、視界が定まらず思うように狙えない。
(小町つぐみ! このツケは大きいですよ!)
視界が戻らないのに加え、うっかり眠ってしまい脳が完全に活性化していない。
やはり、無理してでも拠点となる場所を押さえておくべきだったか。
「寝込みを襲うとは卑怯な男ですね〜!」
「襲ってない! 第一、俺はこんなゲーム乗ったつもりもない!」
「へぇ、なら――」
撃ち終えたマガジンを投げ捨てると、手馴れた手つきでマガジンを装填し走り出す。
「さっさと死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
隠れた男の姿を確認すると、詩音は容赦なく発砲した。
それに合わせて、男も場所を移動し詩音の死角まで駆け抜ける。
「ほらほらほらほらほらほらほらほらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
逃げた男をまた詩音が追う。男は反撃出来ずにひたすら逃げ回る。
(逃げ回ってるって事は、銃は持ってないんですかね? あるのは右手の刀ぐらいですか)
隠し持っている可能性もあったが、それならば使われる前に殺せばいい。
万が一跳弾する恐れがあるため、発砲はなるべく控える事にした。
立ち並ぶ樹木の位置を把握しながら、銃を構えて威嚇しつつ男を追う詩音。
男は攻撃の意思がないのか、ひたすら逃げに徹している。
闇雲に走り回る男と、徐々にだが戦場を頭に叩き込む詩音の差は段々と短くなっていく。
完全に詩音のペースだ。着実と、二人の距離はさらに縮まっていく。
「くけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけ!!」
この一方的な狩りが楽しいのか、詩音は興奮を抑えられず笑い出した。
そして、遂に一発の銃弾が男の足を捕らえた。
「ぅッがぁ!」
走っていた勢いが止まらず、男は盛大に転倒した。
「ぐぎゃぎゃぎゃぐげげぎゃぎゃで! 当たった! 当たったねぇぇぇぇぇ!!」
喉を掻き毟りながら、詩音は倒れた男へとゆっくり近づいた。
「ぐげげ、あの女に出来なかった拷問。ついでだから全部しちゃいましょぉぉねぇ!!」
196猟人は鬼と獅子 ◆Qz0e4gvs0s :2007/05/22(火) 22:16:04 ID:yk4LB7Y5



    ◇    ◇    ◇    ◇



(テンションに流されるな)
追いかけられる中、レオは必死に頭を落ち着かせていた。
だが、目を覚ましたかと思えば、その相手が突然銃を乱射。冷静になれというのも無理な話だ。
それでも、なんとか心を落ち着け出来る限りの状況判断を行う。
(問答無用に撃ってきた。つまりこのゲームに『乗った側』だ)
ならば、こちらも武力を持って退けるのが第一だ。
(撃てるのか……さっきみたいに躊躇してる暇はないんだぞ!)
ジャケットに隠れたトリガーに指をかけるが、そこから先に進めない。
(撃たなきゃ殺されるんだぞ! 撃つんだ対馬レオ!)
自らを奮い立たせるが、なぜか先程のアルルゥが飛び出してきた事を思い出してしまう。
197猟人は鬼と獅子 ◆Qz0e4gvs0s :2007/05/22(火) 22:18:09 ID:yk4LB7Y5
(撃てば怪我する。下手したら、死んじまうんだぞ……)
アルルゥとこの女は関係ない。それでも、嫌なイメージが頭から離れない。
その一瞬の迷いを狙うように、一発の銃弾がレオの太ももを貫通した。
「ぅッがぁ!」
焼けて痺れる様な感覚に戸惑い、足を滑らせ大きく転倒してしまう。
その際、右手に持った刀は抜き身のまま地面に放られた。
(痛い痛いッ痛いッ痛いッッ――)
頭の中が真っ白になる。今までに味わった事のない痛みだった。
「ぐぎゃぎゃぎゃぐげげぎゃぎゃで! 当たった! 当たったねぇぇぇぇぇ!!」
気味の悪い声が、レオを嘲笑う。
ゆっくりと、ゆっくりと……近付いてくる。
「ぐげげ、あの女に出来なかった拷問。ついでだから全部しちゃいましょぉぉねぇ!!」
朝日が昇り始める。陽の光を背負い、鬼が姿を現した。
「みぃぃぃぃぃぃつぅぅぅぅけぇぇぇぇたぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!!」



    ◇    ◇    ◇    ◇


198名無しくん、、、好きです。。。:2007/05/22(火) 22:18:35 ID:7OOLo2dE
支援
199猟人は鬼と獅子 ◆Qz0e4gvs0s :2007/05/22(火) 22:20:06 ID:yk4LB7Y5
少し時間は遡る。
市街地から森に入ったところを、悠人と衛は走っていた。
「悠人さん。早く早く!」
「ちょ、待ってくれ衛。そんな慌てなくても」
「駄目だよっ。遙あねぇ一人じゃきっと寂しいよ!」
「わ、分かった。急ごう」
「うん!」
衛のペースに乗せられっぱなしの悠人は、苦笑いを浮かべながらも走り続けていた。
周囲に誰かいるか警戒しながら走っているが、今のところそういった気配はない。
「で、その遙……さん? 誰を探してくれって言ってたんだ?」
「えっと、孝之って人だよ」
「孝之? その人も、このこ――参加しているのか?」
「え?」
「だから、その探してくれって言われた人物が本当にいるのかって事」
「あ!」
言われてから気付いた。衛は名簿でその名前を確認していなかったのだ。
その途端、衛は少し暗くなる。探すべき相手がいなければ遙の願いが叶わない。
「やれやれ。ちょっと確認してみようか」
「う、うん」
一度立ち止まり名簿を確認する二人。恥ずかしがりながらも、衛は悠人に顔を近づけて名簿を見始めた。
「孝之、孝之、孝之っと……お、これかな」
「どれどれ?」
衛がそこに目をやると、確かに『鳴海孝之』と記されていた。
「一応他の参加者も見てみたけど、タカユキって名前はこの人だけだ」
「じゃあ」
200猟人は鬼と獅子 ◆Qz0e4gvs0s :2007/05/22(火) 22:21:10 ID:yk4LB7Y5
「ああ。探せば見つかるって事だ」
「やぁったぁぁぁぁ!」
思わず悠人の手を取って喜ぶ衛。その直後、恥ずかしくなって手を背中に引っ込めた。
「ただ、この人がどこに居るか分からない以上、楽観視はできないな」
「え〜」
「それにほら、その遙さんは歩けないんだろ? だとすると、その孝之って人に来てもらうしかないなぁ」
(……第一、この孝之が遙さんの望む孝之じゃない可能性もある)
その言葉に、衛は不安な表情を浮かべる。
「あっでも、遙あねぇの傍にも誰か居た方が良いんじゃないかな」
「そうだなぁ。とりあえず、遙さんに会った後は孝之って人を探しつつ協力者も探そう」
「あっ、そうだね! それなら早く探せるし心細くないし。悠人さんスゴイよ!」
「いや、まー……ほら、いくぞ!」
「あ、ちょっと、まって――」
衛の言葉を遮る様に、森の奥から銃声が響く。
「遙あねぇ!」
「まて衛っ! くそっ!」
飛び出した衛を追うため、悠人は慌てて走り出した。



    ◇    ◇    ◇    ◇


201名無しくん、、、好きです。。。:2007/05/22(火) 22:21:28 ID:5uMXnYPq
よし、支援!
202猟人は鬼と獅子 ◆Qz0e4gvs0s :2007/05/22(火) 22:22:10 ID:yk4LB7Y5
倒れ伏したまま、レオは痛みを堪えていた。
立ち上がろうも上手くいかない。下半身に目をやると、足が不自然な方向に曲がっている。
(くそっ! 立ってくれ……立てよ畜生!)
拳を強く握り締めるが、レオの足は言う通りにはならない。
(もう撃たなくちゃ殺される! 撃つしかないんだ!)
近付いてくる女に悟られないよう、右手をジャケットの中に入れ、トリガーを指に掛ける。
「鬼ごっこはおしまいですねぇ」
気持ち良さそうに呟くと、女はレオの足に銃弾を放った。
「ぃぁ、ッ……」
「ほらほら、黙ってないで何とか言ってください……よ!」
再びレオの足に銃弾を浴びせる。
「ぅ、ッぐぁ」
「我慢しないで叫べばいいじゃないですか」
痛みで気を失いそうになるのを堪え、ひたすら機を見計らっていた。
そんな撃つたび痙攣するのレオが面白いのか、女はテンポ良くトリガーを引いた。
「――ぃ、やめ、ぁぁッ」
「これは、下手な玩具より面白いですねぇ。あはははははははははははははは!!」
やがて全弾撃ち尽くすと、素早くマガジンを取替えレオに近づく。
「さて、そろそろ飽きてきました。弾がもったいないですし、拷問もしたいですしね」
ボリボリと何かを掻き毟るような音を出し、女は銃を構えてレオの傍まで来た。
その一瞬。警戒を緩めて近付いたチャンスをレオは逃さなかった。
「っぁぁあああああああああああああ!!」
立つ事は出来ないが、体を起こすぐらいは出来たのだ。
レオは叫び声とともにFN P90を無我夢中で乱射した。
203猟人は鬼と獅子 ◆Qz0e4gvs0s :2007/05/22(火) 22:23:09 ID:yk4LB7Y5
銃を撃つのも初めてで、おまけに怪我をしていたため撃った反動に体が持っていかれたが、何とか堪えた。
そして運がよかったのは、女が避けようもない位置まで近付いてくれていた事だった。
「いぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
銃口から飛び出る銃弾が、女の両足や腕を貫通していく。
「あ、あが、ああっあぁぁああああいだいいだいいだいいだいいだいだあぁぁぁあぁ!!」
不意打ちを食らった女は、足の力が抜け勢い良く地面に倒れた。
「ァァ……としくん……いだぁい。いだぁいよぉぉぉ」
そして、何度か痙攣すると静かに目を閉じた。
「ぐ、や、やった……のか」
動かなくなった女を見て、レオは深々とため息をついた。
「くそっ、足が動かねぇ」
見るとレオの足は肉が削げ落ち、骨が剥き出しになっている部分ある。
「う、ぉおぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
グロテスクな自分の足に、思わず嘔吐してしまう。
「せめて、ぅッ……車椅子でもあれば」
この場から立ち去るため、這うようにして移動を開始するレオ。
「え?」
動こうとした矢先、背中に何かが突然重くのしかかる。同時に、抉り出される痛みがレオの体を走る。
「うぁぁぎゃぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァァあああああアアアアアア!!」
「逃がすかぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」



    ◇    ◇    ◇    ◇


204名無しくん、、、好きです。。。:2007/05/22(火) 22:23:31 ID:0+MkE6wi
205名無しくん、、、好きです。。。:2007/05/22(火) 22:24:22 ID:0+MkE6wi
206猟人は鬼と獅子 ◆Qz0e4gvs0s :2007/05/22(火) 22:24:23 ID:yk4LB7Y5
男の撃った弾で倒れた詩音は、咄嗟の判断で「死んだフリ」を行った。
気付かれないように、自分の体のダメージを判断する。
両足は肉片が飛び散り無残な事になっている。右肘もありえない場所が抉れている。
(畜生……糞野郎がぁ! 調子に乗りやがってぇぇぇ!!)
だが幸いな事に、内臓の詰まった中心部は無傷だった。
男が下手糞だったからか、それとも殺すつもりがなかったのか
(殺す殺す殺す殺す殺すコロスコロスコロスッコロスッッコロスッッッ――)
銃は痛みの衝撃で放ってしまったが、まだこちらには武器があるのだ。
腰に備えていた果物ナイフを抜き取り、気付かれないように息を潜める。
そして、こちらに背中を向けて這いずり去る男目掛けて飛び掛った。
「うぁぁぎゃぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァァあああああアアアアアア!!」
「逃がすかぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
果物ナイフが男の背中に突き刺さる。突然の事に、男は悲鳴を上げてのた打ち回った。
「ぃがぁい、ごぅっ、ごふっ、ぁッ」
その隙に、男に馬乗りになる詩音。
「よくもやってくれたな……何百倍にして返してやる!」
男は刺さったナイフを抜くため、必死で背中を掻き毟る。
その青くなった顔面目掛けて、詩音は近くにあった石を叩きつける。
「ぁあぁぐぃぃぃぎゃぁぁぁぁぁぁああああ」
「この! この! このぉ! このっ! このぉぉぉ!」
鼻の皮がめくれ、頬から肉壁が見え始めてきた。
「よくもッ! やってッ! くれたなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
石が砕けると、今度は相手の眼球目掛けて左拳を叩き込む。
「―――」
もはや悲鳴にならない言葉を放つと、男の動きがピタリと静止する。
それでも、詩音は殴るのをやめなかった。ただひたすら、男の顔を殴る。殴る。殴る。
207名無しくん、、、好きです。。。:2007/05/22(火) 22:25:18 ID:5uMXnYPq
再度支援。
208名無しくん、、、好きです。。。:2007/05/22(火) 22:26:26 ID:7OOLo2dE
またまた支援
209名無しくん、、、好きです。。。:2007/05/22(火) 22:26:38 ID:0+MkE6wi
210猟人は鬼と獅子 ◇Qz0e4gvs0s:2007/05/22(火) 22:44:44 ID:St6Jyw2H



    ◇    ◇    ◇    ◇



遠くなる意識の中、レオはまだかろうじて見える左目で、相手の顔を覗き見ていた。
鬼のような形相で、レオの顔に拳を叩きつける。
殴っては咆え、殴っては哂うその顔は、人間には見えなかった。
(昔話の鬼って、こな感じだったかな)
場違いで意味不明な疑問を浮かべながら、レオの意識は静かに閉じていく。
もう何も見えない。目を開けているはずなのに、暗すぎてよく分からない。
(終わって目が覚めたら、ドッキリだったりしてな)
意識が暗闇に覆われていく中、あの教室での悲劇を思い出していた。
(フカヒレ……仇とれなくて済まねえ)
無残に殺された親友は、どんな思いで死んでしまったのだろう。
(スバル……生き残ってくれよ)
兄貴分である親友は、自分の死を受け入れてくれるだろうか。
(カニ……お前が人を襲うなんてないよな。なにかの誤解なんだろ?)
ちっとも成長しない幼馴染は、この逆境を跳ね除けてくれるかもしれない。
(姫と佐藤さん……ここでも一緒に居るのかな)
憧れていた人と優しかった人は、このゲームでどうしているだろうか。
(乙女さん……俺、負けちまったよ)
自分を指導し、世話してくれた姉は、負けを認めてくれるだろうか。


――もう動かない体。
――働かない思考。
――疲れきった精神。
211猟人は鬼と獅子 ◇Qz0e4gvs0s:2007/05/22(火) 22:46:20 ID:St6Jyw2H

レオは限界を過ぎていた。


(あきらめるなよ!)
静寂を打ち破る力強い声が響く。誰の声か分からない。
(目を開けろ! お前はまだ負けちゃいない!)
その声は、必死にレオを呼ぶ。
(テンションに身を任せて戦え! 任せちまえ!)
体中を駆け巡る獅子の精神。
(ここで諦めちまっていいのか! 違うだろ!)
再び呼吸を始める思考。
(違うなら、最期まで戦い抜け!)
徐々に熱を帯びていく体。
(さあ、行け!)
その叫びが合図となり、レオの全てが覚醒した。



    ◇    ◇    ◇    ◇


212猟人は鬼と獅子 ◇Qz0e4gvs0s:2007/05/22(火) 22:47:44 ID:St6Jyw2H
気が済むまで殴るり終えた詩音は、もはや顔ではない物体に唾を吐きつけた。
殴れば怒りが収まると思ったが、一向に収まる気配がない。
むしろ、手の甲がボロボロになった事で、もっと大きな怒りを生んだ。
馬乗りのまま、憎々しげに男を睨む。血だらけの男は、息をしているとは思えなかった。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
そこで、詩音は鬱憤を晴らす不気味な名案を閃く。
(腹を掻っ捌いてあげます)
男の背中に刺さった果物ナイフは、未だ動く事無く存在していた。
上半身を倒し、男にかぶさるように倒れると、左手で果物ナイフの柄に手を伸ばした。
「えっ――」
「……」
世界が反転する。今まで地面を見ていた視界に空が広がる。
男が死んで油断したのと、突然の事で思考が真っ白になってしまう。
(あれ? なんで?)
軽いパニックを起こしかけたが、喉元の嫌な感覚で覚醒した。
死んだはずの男が、自分の喉に文字通り「喰らいついて」いるのだ。
ギチギチと鳥肌が立つ音を立て、男の歯は詩音の喉元に突き刺さる。
砕かれず残っていた歯は、鋭い牙となっていた。
「やめ、やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおお!!」
危険を悟った詩音は、男の頭を必死で剥がそうとする。
だが、どこにそんな力が残っていたのか、男の口は詩音の喉から離れる事はなく堪えた。
むしろ着実に危険領域まで牙を埋め、ガリガリと肉や筋を削り取る。
「はなっ、離せぇぇぇぇぇ! 死に底ないがあああああああああああああああ!!」
目に留まった果物ナイフを抜き去ると、男の頭目掛けて突き刺す。
無意識なのか、男は両腕で頭を守り迫りくる刃を腕で受け止めていた。
血と脂肪の付着した果物ナイフは、切れ味を失い刺さることはなかった。
そんな事はお構いなしに、詩音は男の腕や肩や背中を何度も突く。
背中から大量の血が飛び散っても、両腕や背中に点々と穴を開けられても、男は牙を立て続けた。
必死で逃げ惑う詩音。それを逃さない男。今度は詩音が悲鳴を上げる。
そう……狩る者と狩られる者が逆転していた。
詩音は気付いていなかった。自分が喉を掻き毟っていた事を。
そのせいで、首の血管の守りが薄くなっている事を。
213猟人は鬼と獅子 ◇Qz0e4gvs0s:2007/05/22(火) 22:48:33 ID:St6Jyw2H


――プチュ


可愛い音を立て、遂に詩音の血管が千切れる。
首に流れていた血は、行き場を失い辺り一面に飛び散った。
その光景を、詩音は理解できないまま惚けていた。
「え? あれ? あ、え?」
気付いた時には、男に目もくれず必死で飛び散る血に手を伸ばしていた。
「あ、あ、やだ……やめて」
左手で飛び散る血を受け止め、その血を首に戻す。
だが、今度はその何倍もの量の血が首から溢れ出る。
「なん、とまッ、やだ。出て行かないで!」
上半身を起き上がらせ、必死に左手で同じ行為を行う。受け止めては戻す。受け止めては戻す。
「あ、あは、あははははははははははははははははははッ――」
そして呆気なく、笑いながら地面に倒れた。
詩音の首から噴出する血は、やがて勢いを失い何事も無かったかのように終わった。



    ◇    ◇    ◇    ◇



214猟人は鬼と獅子 ◇Qz0e4gvs0s:2007/05/22(火) 22:49:14 ID:St6Jyw2H
悠人と衛が辿り着いた場所は、無残な光景だった。
「衛! 見るな!」
顔面蒼白になりしゃがみ込む衛を支え、悠人は激しい後悔に襲われた。
(間に合わなかった。くそっ)
まずは震える衛を何とかするため、悠人はこの場を離れ、血と死臭の臭わない場所に衛を休ませた。
「なにかあったら声を上げるんだぞ」
努めて優しく声をかけると、衛はなんとか頷き返した。
そして、再び二つの死体が並ぶ場所まで戻ってきた。
(まさか、この女の子が遙さん?)
目を見開き、首から全身が血だらけの女の子を見る。
(あのファンンタズゴリアの戦場でも、ここまで無残な殺され方をした者はいなかったはずだ)
これをやった奴は、本当に同じ人間なのかと言う疑問が浮かぶ。
まともな神経でこんな事をやれるとは思いたくなかったのだ。
(こっちの男は……)
もう一人の男は、背中を赤黒く染めて、うつ伏せに倒れていた。
悠人は、顔を見るため覚悟を決めて男を抱き起こした。
「うっ」
その顔は、もはや原型を留めてはいなかった。顔と言われなければ気付かない。出来の悪い粘土細工だ。
「……ぃ」
「え?」
男の口らしき場所から、何か聞こえた。
215猟人は鬼と獅子 ◇Qz0e4gvs0s:2007/05/22(火) 22:49:56 ID:St6Jyw2H



    ◇    ◇    ◇    ◇



レオが再び目を開けると、そこには懐かしい顔があった。
「ようフカヒレ」
「なんだレオ。お前もう来ちまったのか」
寂しい様な、だが少し嬉しそうにフカヒレは笑った。
「来ちまったって?」
「いや、分かってないならいいんだ。それより、あっちに来ないか?」
「ん?」
「うんめぇ食べ物もあるし、美人揃いだぞ〜」
「はは、なんだか長く会ってない気がしたけど、相変わらずだなお前は」
どこか懐かしむように、二人は会話を続ける。
「ま、最初に来ちまったのがレオなのはショックだったけどな」
「さっきから意味が分かんねーよ。大体俺まだやる事があるし」
「やる事って例の?」
「ああ。トウカさんの誤解を解くためカニを探す。あのまま二人を会わせたら危険だろ?」
「大丈夫だって! カニなら自力でなんとかするさ」
無責任な発言だが、なぜか怒る気にはなれなかった。
「う〜ん。あ、そう言えばスバルは来てるのか?」
レオの疑問に、フカヒレはいつもとは違う雰囲気で質問を返した。
「なあレオ。スバルに来て欲しいか?」
216猟人は鬼と獅子 ◇Qz0e4gvs0s:2007/05/22(火) 22:50:41 ID:St6Jyw2H
数秒の沈黙の後、レオはゆっくりと言葉を紡いだ。
「……いや、スバルは来なくていい気がする」
「そっかそっか。んまぁ、積もる話は向こうで聞くぜ」
そう言うと、フカヒレは口笛を吹きながら歩き出した。
レオも、それに続いて歩き始める。
そして、一度だけ後ろを振り返って呟いた。
「スバル……頼んだぜ」



    ◇    ◇    ◇    ◇



「……ぃ……ぁ……」
「おい! しっかりしろ! おい!」
確かに生きている。もう虫の息だが、それでも男の方は息があった。
「くそ! 返事をしてくれ! 頼む!」
「……ぃ……ぁ……ぉ」
うわ言のように、男は何か呟く。
(なんだ!? なにか喋ってるのか?)
男の口元まで耳を近付け、全神経を集中させる。
「……カニ……と、トウカ……危険」
「カニ? トウカ?」
悠人の声が聞こえたのか、男は喋るのをやめた。
「頼んだ……ぜ」
217猟人は鬼と獅子 ◇Qz0e4gvs0s:2007/05/22(火) 22:51:21 ID:St6Jyw2H
そう最期に呟くと、男は静かにこの世を去った。
「なんで、なんで間に合わなかったよ! こんな……こんな!」
溢れそうになる悔しい気持ちを、必死で押し留める。
そして、目を閉じて気持ちを落ち着かせる。
(取り乱すな。俺が取り乱したら衛はどうなる)
溢れそうになる涙を堪えて、悠人は名簿を取り出した。
「いた。蟹沢きぬ……トウカ」
男の残した最期の言葉は、悠人の頭に深く残った。
(この二人が、この男と女の子を殺したんだろうか?)
二人の死体に上着をかけると、強く目を閉じ手を合わせて祈る。
目を開けると、視界の端に一振りの刀が投げ出されているのを見付けた。
近寄って持ち上げる。日本刀のようだが、重さはそんなには感じない。
「二人のどちらかの遺品か?」
鞘から抜いてみる。ウルカならば使えたかもしれないが、悠人には難しかった。
それでも、捨て去るつもりにはなれなかった。
落ちている二丁の銃には気付かず、悠人はその場を離れ衛のもとへ戻った。
218猟人は鬼と獅子 ◇Qz0e4gvs0s:2007/05/22(火) 22:52:02 ID:St6Jyw2H
遠目でも死体を見たショックからか、衛は小さく震えていた。
それでも、泣き叫ぶ事だけはしなかった。
「衛……」
悠人の言葉に、ビクッと反応する。
「遙さんは、あの女の子なのか?」
首を横に振る。
「は、遙ねぇと、髪が違う……し、服も違う」
「そうか」
幸か不幸か、この死体は遙ではなかった。とりあえず安堵する悠人。
「ゆ、悠人さん……なんで。なんであの人達死んじゃったの?」
「!」
「夢……だよね。こんな事現実に起こらないよね!?」
「……」
静かに首を振る悠人。それでも、衛は食い下がった。
「お願いだよ! 夢って言ってよ! ねえ!」
そこで、抑えていたものが堪えられなくなったのか、衛は静かに泣き出した。
悠人は衛を抱きしめると、安心するように肩を叩いた。衛の我慢はそこが限界だった。
「わぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
泣き叫ぶ衛を抱きしめるしか出来ない自分が、悠人は歯痒かった。
やがて、衛は泣き終えると、そっと悠人の体から身を離した。
「行こう。遙あねぇの所に」
「ああ」
衛の目は真っ赤に腫れている。それでも、強い眼差しを失ってはいなかった。
悠人は、二人の死体に目をやる。
(済まない。必ず供養するから……待っていてくれ)
頭を下げると、衛の手を握りゆっくり歩き出した。
219猟人は鬼と獅子 ◇Qz0e4gvs0s:2007/05/22(火) 22:52:45 ID:St6Jyw2H
【C-4 森のハイキングコース/1日目 時間 早朝】




【高嶺悠人@永遠のアセリア −この大地の果てで−】
【装備:今日子のハリセン@永遠のアセリア】
【所持品:支給品一式、バニラアイス@Kanon(残り9/10、トウカの刀@うたわれるもの】
【状態:やや精神不安定、背中に軽い打ち身】
【思考・行動】
基本方針1:衛と遥を守る
基本方針2:なんとしてもファンタズマゴリアに帰還する
1:涼宮遙の元へと向かう
2:アセリアとエスペリアと合流
3:出来る限り多くの人を保護
4:蟹沢きぬとトウカをマーダーとして警戒
【備考】
バニラアイスは小型の冷凍庫に入っています。
上着は脱いでいます
220名無しくん、、、好きです。。。:2007/05/22(火) 22:59:00 ID:JSqn8ySJ
【衛@シスタ―プリンセス】
【装備:ロ―ラ―スケ―ト】
【所持品:支給品一式、未確認支給武器(1)】
【状態:やや精神不安定、健康】
【思考・行動】
基本方針:死人を見た事で不安定になるが、ゲームには乗らない
思考:あにぃに会いたい
1:高嶺悠人と涼宮遙の元へと戻る
2:1の後で「孝之」を探す(どのような人物かという情報は無し)
3:できれば知り合いにも会いたいが、無理に探そうとは思っていない(咲耶、千影、四葉)


【対馬レオ@つよきす〜Mighty Heart〜 死亡】
【園崎詩音@ひぐらしのなく頃に祭 死亡】

*詩音とレオのディパック、及びとベレッタM92F2丁とFN P90はC-4ハイキングコースに放置
221 ◆3Dh54So5os :2007/05/25(金) 23:30:53 ID:AMbq7fT5
「放送室ッ……放送室は何処だ!?」
体育館からトップスピードで校舎に駆け込んだ双葉恋太郎はその場で立ち止まると左右に延びる廊下に目をやった。
『1年1組』『1年2組』『男子トイレ』などのプレートは見えたが、放送室のそれは何処にも見当たらない。
一刻も早く放送室に辿り着かなくてはいけない。
今こうしている間にも不戦を呼び掛けた少女が何者かの手により殺されてしまうかも知れないのだ。
恋太郎の中で焦燥感がみるみるうちに肥大化していき、冷静な判断力を侵食していく……
と、そこへ短い付き合いながらも聞き慣れたものとなった声が外から聞こえてきた。

「恋太郎さん、そこは西棟なの。放送室は中庭を挟んだ東棟の一階なの」

一ノ瀬ことみだ。恋太郎が全力で突っ走ってしまったため、四葉と共に置いてきぼりを食らったことみだが、冷静さでは彼女の方が上手だったようだ。
口振りからすると校内の地図か何かをあらかじめ確認していたのかもしれない。
「東棟……?アレかっ!?」
中庭に面した窓ガラス越しに同じような白い巨棟の姿が見える。ことみの言う東棟とはおそらくアレだろう。
「渡り廊下は1年4組の合い向いなの」
恋太郎の思考を読んでいたのか、ことみの言葉は今まさに恋太郎が欲しかった情報そのものだった。
1年4組、と言う事はこの1年生の教室の並びにあるはずだ。
そちらに目をやった恋太郎の視界が『1年4組』のプレートを視認するまで時間はかからなかった。だが……
222 ◆3Dh54So5os :2007/05/25(金) 23:32:09 ID:AMbq7fT5
「ダメだ……」
見た瞬間、恋太郎は渡り廊下経由で行くことを却下した。
距離が意外とあったのと、防火扉が閉まっているのが見えたからだ。
こういう場所の防火扉には小型の戸がついているのが大半であるが、タイムロスが生じるのは避けられない。
一刻も早く現場に向わなくてはならない今、そのロスを恋太郎は惜しんだのだ。

「となると……こうするしかねーよな!」
恋太郎は中庭に面した窓の一つを開け放つと、自身の胸の辺りまである壁をよじ登った。
直後にことみたちが昇降口まで駆けこんでくる。が、それより早く、恋太郎は中庭へのダイブを敢行していた。
「恋太郎さん!」
「先生ぇ!!」
ことみと四葉の慌てたような声が聞こえたが、恋太郎は無視して中庭を駆ける。
東棟に飛び込む上で邪魔な窓ガラスを割っておこうと、S&W M60を取り出す。
そのままS&W M60を構えようとした、その時だった。全く聞き覚えのない少女のが中庭に響き渡ったのは……

「そこの人! 止まって! 止まらないと撃つよ!」
「!?」

定番といえば定番の台詞だが、たいていの人間がそうであるように恋太郎も反射的に動きを止めた。
今のは誰の声だ?
223 ◆3Dh54So5os :2007/05/25(金) 23:33:13 ID:AMbq7fT5

ことみや四葉? ――二人はまだ西棟の中だし、今の声は明らかに彼女達のものとは違う。
放送をしていた少女? ――スピーカーの電子音声を通すと若干声が変わるが、それにしても違いすぎる。
ならば少女を襲った犯人? ――可能性としては高いが、蹴りがついたのなら普通は逃げる筈。いや、もしかしたらよっぽどの強武装で自信があるのかもしれない。

嫌な汗が流れるのを感じつつ、声のした方を見ると……誰もいなかった。
そこには学校の周囲を囲う緑のフェンスがあるだけだ。

「……?」
「どこを見てるのかな? 下だよ! し、た!」

再びさっきと同じ声がする。
言われたとおり視線を落としてみた恋太郎は、次の瞬間、固まった。
そこだけフェンスが破けて穴が開いていて、その穴から上半身だけ出した状態で、サブマシンガンを構えた少女が、こちらを睨み付けていた。
なんと言ったら良いのだろうか? 単純に見たままを例えるなら……
「匍匐前進の訓練?」
「ちっがぁぁぁぁぁう!!!」
思わずつぶやいた言葉にすかさず熱烈な突っ込みを入れた少女は、もそもそと匍匐前進で穴から這い出すと、再びマシンガンを構えた。
この間、マシンガンの銃口は恋太郎を捉えられていなかった為、逃げることも、反撃も十分出来たはずなのだ。
しかし、このあまりにも急すぎる展開についてこれなかった彼は、再び銃口を向けられてからそのことに気がつくという大失態を演じていた。
「その銃、ボクの足元目掛けて投げ捨てて、少しでもヘンなことしたら撃つからね」
「くっ……」
舌打ちしつつ、恋太郎は言われたとおりS&W M60を投げ捨てた。
下手に突っぱねて撃ち殺されては元も子もない。

(落ち着け、まだ大丈夫だ。銃を奪われても相手は見たところ普通の女の子、上手く隙をついて奪い返せば……)
224 ◆3Dh54So5os :2007/05/25(金) 23:35:12 ID:AMbq7fT5
などと言う恋太郎の読みは間もなく、盛大に外れることになった。
足元に転がってきたS&W M60をマシンガンの銃口を恋太郎から外さない様にしつつ拾い上げた少女は、次の瞬間、何を思ったのか……
「ん〜、えいっ☆!」

S&W M60を放り投げた。 東棟の校舎目掛けて……

ガッシャーン! という耳障りな音とともにガラス一枚を巻き添えにして東棟の中へと姿を消すS&W M60。
少女の一挙一動から、銃の行く末までばっちり見ていた恋太郎は背筋が凍るのをはっきりと感じた。

「残念でした。『隙を突いて奪還〜』とか考えてたんだろうけど、ボクの武器はこれで十分だからね。奪い返されるぐらいなら手出しできないようにしちゃったほうが得策だし」
そう言いながらあっかんべぇをしてみせる少女。
可愛い見た目に似合わずなかなかどうして侮れない相手のようだ。
「さて、物騒なものもなくなったところで、いくつか質問に答えてもらうよ」
「……」
お茶らけた雰囲気から一転、親の仇でも問い詰めるような少女の口調に恋太郎は一応両手を上に挙げた。
状況は大体つかめている。この少女は放送をしていた少女でも、少女を襲撃した犯人でもない。犯人なら、外から入ってくるわけがない。
放送を聞きつけて駆けつけてきた他の参加者だ。問答無用で撃たなかったあたり、ゲームに乗っている可能性は低そうだ。
となると、彼女がこのような行動に出た理由は容易に察しがつくわけで……

「さっき、この学校から女の子の声で放送があったと思うんだけど……」

少女の切り出し方から恋太郎は自分の考えが間違っていなかったことを確信した。
つまり、この少女は疑っているのである。放送の女の子を襲った犯人が恋太郎なのではないか? と……
225 ◆3Dh54So5os :2007/05/25(金) 23:38:05 ID:AMbq7fT5
少女が一人襲われた現場で銃を持った男が、よりにもよって窓から出てきたのだ。疑われても仕方がない。
仕方がないが、これはかなり痛い。あらぬ疑いをかけられたこともそうだが、切り出し方から察するにこれはどうも長期戦になりそうだ。
急がなくてはいけないこの局面でこの展開は何かとまずい。
どうしたものかと表情には出さずに恋太郎が思案し始めたところに質問が飛んできた。
「その女の子襲ったの、お兄さん?」

ずこっ!!

例えるなら、トリック解説抜きで「犯人はお前だ!」といきなり展開をすっ飛ばされたような感じというべきだろうか?
回りくどく外堀から埋めてくると思っていた恋太郎は余りにもストレートな質問に思わず脱力した。
この反応は少女の想定内だったのか、大して悪びれる様子もなく言う。
「あっ、ごめんね〜。でももし犯人じゃなかったら問い詰める分の時間が無駄じゃない? ここはズバッと言ったほうが良いかと思って」
「な、なるほど、確かに一理あるな……」
恋太郎としてもあらぬ誤解など一刻も早く解きたい。話がさくさく進むのは好都合なのだ。
完全に向こうのペースに乗せられているような気がしないでもないが……。
「あ〜、一応言っておくと俺じゃないぞ。探偵生命に誓ってやってない」
「へ〜、お兄さん探偵なんだ……」
「ああ、俺の名前は双葉恋太郎、ニコタマで私立探偵をやってる」
「ボクは時雨亜沙。国立バーベナ学園の三年生、こうみえても料理部部長!」
私立探偵に張り合ったつもりなのだろうか? マシンガンを構えた少女――時雨亜沙は自己紹介の最後にそう付け加えた。
「ん〜、それにしても探偵か〜、それなら信用できるかなぁ……」
226 ◆3Dh54So5os :2007/05/25(金) 23:41:50 ID:AMbq7fT5
そうつぶやきながら唸り始める亜沙。四葉たちのときといい探偵という職業のネームバリューも捨てたもんじゃないらしい。
が、相手がそれなりだと早々簡単にはことは進まないらしく……
「ちなみに何かそれを証明出来るもの、ある?」
「そんな都合のいいものはない。日本の探偵は私立だから免状なんかないし、こればっかりは自己申告頼りだ」
「そこ、そこなんだよねぇ、一番痛いのは……。状況が状況だからボクも 「はい、そうですか〜」 とは言えないんだよねぇ……なんたって命かかってるし」
それはこっちも一緒だがな……と恋太郎は声にこそ出さずに毒づく。
むしろ銃を突き付けられてるこっちの方が命がかかっていると言っても良い。
言い換えればこれも一つの勝負だ。
無実を証明し、亜沙の信用を得られれば勝ち、出来なければ負け。負けたときのチップは己の命……。
なんとも歩の悪い、そしてなんとも実のない勝負である。しかし、何もしなければ待ってるのは死だ。ここはなんとしても亜沙からの信頼を得なければならない。
冤罪で極刑を言い渡された人の気持ちが何となくだがわかった気がする。

(さて、どうしたもんかな……)
事態は完全にこう着状態になりつつある。良くない傾向だ。
それは亜沙も感じているらしく、気まずそうにこちらを見ている。
暫くそのままの状態が続き、気まずさが頂点に達しようかというまさにその時だった。恋太郎の聞きなれた声がドップラー効果全開で迫ってきたのは……
「ちょっと待つのデスぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーー!!!」
「ん?」
「げっ!?」
その声に、あっけにとられた表情で亜沙はそちらに目をやり、方や恋太郎は嫌な予感をひしひしと感じながらそちらを見た。
227 ◆3Dh54So5os :2007/05/25(金) 23:43:27 ID:AMbq7fT5
「先生を撃ち殺そうなんてこの四葉が許さないのデスよーーーーーーーーー!!」
案の定、こちらに猛突進を駆けてきているのは自称探偵志望少女の四葉だった。
おそらくは同行していたことみから奪ったのだろう。その手には大きな鉈がしっかりと握られている。
砂埃が起こるのではないかと思わんばかりの勢いで恋太郎と亜沙の間に割り込んだ四葉は鉈を構えながら怒気に満ちた声で言った。
「先生になんてことしてるんデスか! 事と次第によっては容赦しないのデス!!」
「なにをって……それはボクの台詞だったんだけど……」
度肝を抜かれるとはまさにこういうことを言うのだろう。
持っている得物では威力でも射程でも明らかにマシンガンを所持している亜沙の方が有利なのに、四葉の覇気にすっかり気圧されていた。
「四葉、その物騒なものをまず置け、っていうかそれことみのだろ?」
「で、でも、この人先生にマシンガンを向け……マシンガン!?」
カランカラン……

どうやら四葉は今の状況が良く把握できていなかったらしい。
亜沙の得物がマシンガンであるのを見るや四葉の手から鉈が滑り落ちた。さっきまでの覇気がすっかり消えうせ、その場にへたり込むと身体をカチカチと振るわせ始める。
「せ、せんせぇ〜……」
「あ〜、安心しろ、得物こそ物騒だがこの子は大丈夫だ」
「え、えっと、この子、お兄さんの連れ子?」
涙目になりつつある四葉をなだめながら恋太郎は頷くことで肯定を示す。
「え〜と、今更だけど、ボクの勘違いでした〜ってことで許してくれる? こんな子連れてる子が人を襲うなんて、フツーにありえないだろうし……」
ばつの悪そうな顔でそう申し出る亜沙に恋太郎は再び頷きつつ、亜沙が話の分かる相手で良かったと安堵した。
228 ◆3Dh54So5os :2007/05/25(金) 23:45:58 ID:AMbq7fT5

「恋太郎さん、終わったの?」
「ああ、どうにかな……って、ことみ!?」
胸をなでおろしつつ何気なく振り返った恋太郎はいつの間にか脇に立っていたことみを見つけ思わず声を上ずらせた。
「ごめんなさい、恋太郎さん……、四葉ちゃん止めきれなかったの……」
すまなさそうな顔でそう言うことみ。
四葉が乱入してきた時の様子から察するに、相当荒れたのだろう。恋太郎は何も言わず、ことみの頭に手を置く。
と、そこへ、四葉の問い詰めるような声が割り込んだ。
「今まで何してたのデスか!? 先生がピンチだったのに! いざとなったら先生をお守りするんじゃなかったのデスか!?」
「闇雲に突っ込むより様子を見てからのほうが良いと思ったの……」
「様子を見ている間に先生が殺されちゃったら意味ないのデス!! あの状況でどーしてそんな悠長なことが言えたのデスか!?」
腰を抜かしていなかったのなら掴み掛かっていたのではないだろうか? そう思えるほどの罵声だった。
その剣幕にことみは思わずひるみつつ、亜沙の持っているマシンガンを指差し……一言漏らした。


「……あの人のマシンガン安全装置(セーフティー)外れてないの……」


「「「あっ……」」」

それはある意味致命的で、ある意味決定的で、それでも遅すぎた冷静な指摘だった。
229 ◆3Dh54So5os :2007/05/25(金) 23:50:07 ID:AMbq7fT5

【E-4 学校の中庭/1日目 黎明】

【双葉恋太郎@フタコイ】
【装備:なし】
【所持品:支給品一式、昆虫図鑑、.357マグナム弾(40発)】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない
0・マジかよ……orz
1・放送室へ向かう
2・沙羅と双樹、四葉の姉妹達、ことみの知り合いを探し出してみんなで悪の秘密結社(主催)を倒す
【備考】
※校舎の屋上から周辺の地形を把握済み
※時雨亜沙は危険ではないと判断しました。

【四葉@Sister Princess】
【装備:鉈@ひぐらしのなく頃に】
【所持品:支給品一式、参加者の術、魔法一覧、虫眼鏡】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない
0・あっ、本当デスね……。
1・恋太郎たちと放送室へ向かう
2・恋太郎の手伝いをする
3・姉妹達を探す
4・みんなで悪の秘密結社(主催)を倒す
【備考】
※『参加者の術、魔法一覧』の内容は読んでいません
※時雨亜沙は危険ではなさそうと判断しつつあります。
230 ◆3Dh54So5os :2007/05/25(金) 23:52:23 ID:AMbq7fT5

【一ノ瀬ことみ@CLANNAD】
【装備:なし】
【所持品:レインボーパン@CLANNAD、謎ジャム@Kanon】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない
0・大事にらならくて良かった……。
1・恋太郎たちと放送室へ向かう
2・恋太郎たちと行動を共にする
3・朋也たちが心配
4・鉈、返して欲しいの……。

【時雨亜沙@SHUFFLE!】
【装備:イングラムM10(9ミリパラベラム弾32/32)】
【所持品:支給品一式、イングラムの予備マガジン(9ミリパラベラム弾32発)×8、他ランダムアイテム不明】
【状態:健康、ちょいと自己嫌悪】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない
0・うっわー、ボクなにやってるんだろ……///orz///
1・放送を流していた少女を助けに行く
2・稟、ネリネ、楓と合流
3・同志を集めてタカノたちを倒す
【備考】
※恋太郎たちは危険ではないと判断しました。
231代理投下:2007/05/25(金) 23:59:52 ID:UGI4RlOM
   ◆   ◆   ◆



「おい、君! しっかりしろ! 大丈夫か!? 君ッ!? …………ダメだ。完全に気絶しているな……」
揺すってみたが、うんともすんとも言わないのを確認したハクオロは呆れとも、安堵ともとれる盛大な溜息をついた。
「随分とひどい有様になってしまったな……」
今しがたまで恐慌状態に陥っていた少女、神尾観鈴が手当たり次第に取説やら台本やらを放り投げた為、放送室は見るも無残な醜態を晒していた。
乱雑に散らかった放送室を見渡したハクオロは散乱した冊子の山の中に、少女を気絶させた原因となったものを見付け、拾いあげた。
月光を受けて銀に光るソレを手に取りながらハクオロは思わず苦笑を漏らす。
「これが窓を破ってこの子の頭を直撃してなかったら、今頃はまだ梃子摺っていたかもしれないな……」
正直観鈴の荒れっぷりに相当手を焼いていたハクオロからしてみれば少々手荒とは言え大助かりだった。
あのまま喚き騒がれてはゲームに乗った者をおびき寄せる格好の目印に成りかねない。
誤解は観鈴が気が付いて、落ち着いたところで解けば良い。そうハクオロは考えていた。
まあ実際にはこの部屋がきちんと防音処置を施した放送室であった為、さっきまでの狂乱もほとんど外には漏れていなかったのだが、そんな事など知る由もない。

「それにしてもこれは一体なんなんだ?」
金属特有の質感を持ちながら、それでもやけに軽いソレをまじまじと観察しながらハクオロは訝しげな声を漏らした。
232名無しくん、、、好きです。。。:2007/05/26(土) 00:01:02 ID:UGI4RlOM
握り手を思しき柄に、穴の開いた円柱状の物体、そこから一本だけ伸びる細い筒、見れば見るほどなにに使うのか良く分からなくなってくる形状だ。
ソレは四葉の支給品として支給され、双葉恋太郎が装備し、時雨亜沙の手で投げ捨てられたS&W M60 チーフスペシャルなのだが、
銃という武器の概念がないハクオロにとってそれは未知の物体だった。
「窓を突き破ってきた……ということはこれを持っていた者は外にいたのか?」
そう呟きながら割れた窓ガラスの方を見やったハクオロはその向こう側、つまり中庭に二つの人影があるのを認め、とっさに壁の影に隠れた。

「……」
しばし間を空けてから再び外の様子を見る。
中庭の人影はさっきと変わらず対峙したままでこちらに気づいた様子はない。
見つからなかったことにホッとしつつ、ハクオロは二人の様子を観察する。
一人は20代くらいの茶髪の青年で、もう一人は翠色の短い髪が特徴的な少女だ。
なんともきな臭い、一触即発の雰囲気だが、どちらかというと青年の方が気圧されているように見える。
よく見ると青年は丸腰で、対する少女は脇に何かを抱えているのかさっきから構えを崩していない。
少女が構えているのは武器なのだろう、だからこそ青年の方が気圧されているのだ。
(遅かったか……)
二人の様子から、ハクオロは最悪の事態が起こってしまったと悟った。
233代理投下:2007/05/26(土) 00:01:43 ID:UGI4RlOM
おそらく外で対峙している二人は観鈴の放送を聞いてやってきた他の参加者だ。
それは別に構わない。第一ハクオロ自身、放送を聞きつけてここにやってきた口だ。他人のことを言えた義理はない。
だが、それがゲームに乗った人間となると話は別だ。
そういう人間がここに来る理由はただ一つ、放送により居場所の割れた観鈴の殺害。

(どうする?)
二人から視線をはずし、ハクオロは考える。
外の雰囲気は今にも火蓋を切りかねない程張り詰めている。
場合によっては今ここで殺し合いが始まるかもしれない。それを黙って見過ごしていいのだろうか?
いや、そもそも外にいる二人のうち、ゲームに乗っているのはどっちなのだろうか?

気になるのは武器を所持し、場の決定権を握りつつある翠髪の少女だ。
今の状況をざっと見ただけだと少女が青年を殺す目的で武器を構えている……と見るのが妥当だ。
だが、逆にゲームに乗っているのは青年の方で、少女は牽制のために武器を手にとっているだけ、という可能性も否定できない。
あるいは両方ともゲームに乗った人間で、獲物を巡って争っている……ということもあるかも知れない。
234代理投下:2007/05/26(土) 00:02:31 ID:UGI4RlOM

結局のところ分かったのは、今手元にある情報だけではあの二人に関して明確な判断は下せない。 ということと……
考えるのを一旦止め、ハクオロは自身の足元で気絶している観鈴を見る。
……ゲームが始まってから会った相手で唯一ゲームに乗っていないことが明らかなのは彼女だけ、ということだけだった。

「この子は、絶対に守ってやらなくてはならないな……」
自らの居場所を晒す真似をしてまで不戦を呼びかけた心優しい少女を殺させるわけには行かない。
それならばとるべき道は唯一つ、
「ここは一先ず引こう。 あの二人のことは気になるが、この子を危険に晒すわけにはいかないからな……」
そう呟くとハクオロは手に持ったままだった謎の物体をディバッグに仕舞い、刀を腰に差した。
それから気絶した観鈴の膝裏と背中に腕をあてると、そのまま抱き上げた。
本当は背負った方が何かと都合がいいのだが、観鈴が完全に伸びてしまっている以上、仕方がない。
所謂 “お姫様抱っこ” の状態で観鈴を抱き上げたハクオロは早々に放送室を後にした。

「この状態で襲撃を受けたらひとたまりもないな……」
苦笑しつつ、ハクオロは脱出ルートを頭の中で練る。校門へ抜けようと思ったら西棟の方に行かなくてはならない。
だが、西棟に行くには例の二人がいる中庭を突っ切る必要がある。あそこをこんな状態で突っ切るのは無謀以外の何者でもないだろう。
と、そのとき、屋上に行く前に校内を見回ったときのある光景がハクオロの脳裏に浮かんだ。
「ん? そういえば2階に渡り廊下があったな。よし、そこを通るとするか……」
そう呟くとハクオロは観鈴を抱いたまま階段に向かって歩き始めた。
235代理投下:2007/05/26(土) 00:03:23 ID:UGI4RlOM


だから、彼は見ていなかった。
中庭で繰り広げられていた誤解と言う名の滑稽な劇場の顛末を……

だから、彼は知らなかった。
中庭という舞台に上がっていた者に誰一人として、彼の恐れたような殺戮者などいなかったと言うことを……

そして、彼は気づいていなかった。
今、この校内にいる人間で傍から見て一番不審そうに見える行動をとっているのが自分自身であるということに……


【E-4 学校(東棟の階段)/1日目 黎明】


【ハクオロ@うたわれるもの】
【装備:オボロの刀(×2)@うたわれるもの】
【所持品:支給品一式(他ランダムアイテム不明)、S&W M60 チーフスペシャル(.357マグナム弾5/5)】
【状態:健康、観鈴をお姫様抱っこしている】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない
1・気絶した少女を守りつつ、学校から一旦離れる。
2・エルルゥ、アルルゥをなんとしてでも見つけ出して保護する
3・仲間や同志と合流しタカノたちを倒す
【備考】
※校舎の屋上から周辺の地形を把握済み
※中庭にいた青年(双葉恋太郎)と翠髪の少女(時雨亜沙)が観鈴を狙ってやってきたマーダーかもしれないと思っています。
236代理トウカ:2007/05/26(土) 00:04:12 ID:UGI4RlOM


【神尾観鈴@AIR】
【装備:なし】
【所持品:支給品一式、おはぎ@ひぐらしのなく頃に(残り3つ)、他ランダムアイテム不明】
【状態:健康、気絶中(ハクオロにお姫様抱っこされている)】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない
0・気絶中
1・往人さん助けて……
2・往人と合流したい
【備考】
※校舎内の施設を把握済み
237涙は朝焼けに染まって ◆VtbIiCrJOs :2007/05/27(日) 15:41:49 ID:mwV+e+h/
 空が、白み始めた。
 漆黒の空はゆっくりと瑠璃色に染まってゆく。
 長い夜が明けようとしている。
「はぁっ……はぁっ……」
 冷たい夜天の下、倉田佐祐理は一心不乱に走っていた。
 遠く、まだ遠く、
 あの人から離れなければ。
 朝倉音夢の狂気はことりやさくらはおろか、舞や祐一、参加者全てを飲み込んでゆく。
 誰でもいい、この事を伝えなければ。
 途中何度転んだだろうか膝は擦り剥き足首は捻挫し、赤く腫れ上がっていた。
 それでも立ち止まることなく走り続ける。
 後ろは振り返らない、振り返られない。
 ――朱に彩られた彼女が、すぐ真後ろにいるみたいで。
「はぁっ……ぁっ……ぐっ……」
 もう、体力の限界だ。徐々に速度が落ちてゆく。
 足首が悲鳴を上げる、もう走れない。意識が朦朧としていく。
「あ……」
 目の前に人影が立っていた。
 だが佐祐理にはそれを確認するだけの体力と気力は残されてはいない。
 意識が、闇に落ちる。
 気を失う寸前、優しい腕に抱き止められたような気がして――
「祐一……さん……」


 ※ ※ ※ ※ ※ ※
 

 オフィスビルが立ち並ぶ静寂の街、その一画に国崎往人はいた。
「…………」
 往人は無言で街を歩いていた。
 その表情は硬く、そこからは何の感情も読み取ることは出来ない。
238涙は朝焼けに染まって ◆VtbIiCrJOs :2007/05/27(日) 15:43:43 ID:mwV+e+h/

 ――今の往人さん、とっても辛そうだよっ!

「くっ……」
 脳裏に浮かんだ少女の声を必死に振り払う。
 決めたはずなのに、
 観鈴をこの狂気の島から救い出すために、
 参加者を皆殺しにすると悪魔に魂を売ったと決めたのに、
 残された良心がちくちくと往人の心を突き刺している。
 だが、往人はその良心を捨てるつもりは無かった。
 これは自分に与えられた罰、観鈴を救うために交わした契約の対価。
 罪の意識という罰。
 自分一人の魂が汚れる事で彼女を護れるなら、それでいい。
「命なんて安いものだ。特に俺のはな」
 往人は自嘲めいた笑みを漏らす。

 かつん、かつん、かつん、

 自分以外誰もいないはずの街に足音が響いた。
「――!?」
 誰か来る――。
 往人は耳を澄ませる。銃に手をかける。

 かつん、かつん、かつん、

 その音は往人のすぐ後ろ、首筋に嫌な汗が滴り落ちる。
 まずい――後ろを取られた。
「チィッ!」
 俺としたことが――往人は銃を構え即座に背後を振り向く。
 その人物は襲撃者では無かった。
 風変わりな学生服に身を包み、亜麻色の長い髪をリボンでまとめた一人の少女だった。
239名無しくん、、、好きです。。。:2007/05/27(日) 15:44:04 ID:gESmx5zE
240涙は朝焼けに染まって ◆VtbIiCrJOs :2007/05/27(日) 15:45:40 ID:mwV+e+h/
 服はどこかで転んだのか泥にまみれ、膝は血で滲み、おぼつかない足取りで近づいて来る。
「あ……」
 人と出会えたことの安堵か恐怖なのか、彼女は焦点の合わない瞳で往人の姿を確認すると、ゆっくりと崩れ落ちた。
「おいっ! しっかりしろ!」
 往人は咄嗟に少女が地面に打ち付けられないようその身体を抱き止める。
 その拍子にからん、と金属質の音が地面に鳴り響く。
「これは……」
 鋭いナイフが少女の服の下から滑り落ちた音であった。
 ナイフには別段使用された形跡は無かった。
 往人は少女を抱えつつ自らのデイパックにナイフをしまい込む。
 そして少女は口をかすかに開き言葉を発した。
「祐一……さん……」
「――ッ!」
 彼女はそう呟くと気を失った。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※


 往人は気絶している少女を抱きかかえ近くの公園に移動した。
 どこにでもありそうな児童公園、そのベンチに少女を寝かす。彼女は静かな寝息を立てていた。
「何やってんだ俺……」
 往人は少女の隣に座りこみ、空を見上げる。
 夜明け前の瑠璃色の空には星がまだ冷たい輝きを放っていた。
「この娘も殺さないといけないのに……」
 気絶する寸前彼女が発した言葉、それに往人は動揺していた。
 祐一さん、という言葉にでは無い。彼女の声そのものだった。
 髪型も容姿も雰囲気もまるで違うというのに――

 護るべき少女に似ている声が、往人の心をひどく掻き乱す。

241涙は朝焼けに染まって ◆VtbIiCrJOs :2007/05/27(日) 15:46:58 ID:mwV+e+h/
「う……こ……ここは――!?」
 少女は目を覚まし、慌てて上半身を飛び起こした。その表情は怯えの色が濃く浮き出ていた。
 無理も無い、目が覚めると黒ずくめの長身の男が隣に座っているのだから。
「……俺は何もしちゃいない、目の前で気絶したあんたを抱えてここに寝かしていただけだ」
 往人は彼女の顔を見据えることなく、空を見上げ言った。
「あ、ありがとう……ございます」
 少女は起きようと足を動かそうとしたが膝と足首に走る痛みに顔をゆがめる。
 膝には緑色の布が巻きつけてあり、そこには赤黒い血が滲んでいる。
 無意識に後頭部に手をかざす。
「包帯が無かったんであんたのリボンを使わせてもらった。もしかして大事な物だったか? それならすまない事をした。
ああ、それとあんたが服の下にしまい込んでいたナイフ、俺の荷物の中だ、取り出そうか」
「いえ……結構です。あの――」
「国崎往人だ」
 往人は初めて少女の方を振り向き名を名乗った。
「佐祐理は……倉田佐祐理と言います。佐祐理と呼んでくれて結構ですよ」
 佐祐理は屈託の無い笑顔で自己紹介をする。そこにはもう先ほどの怯えは無かった。
「そうか、ならそう呼ばせてもらう。俺はなるべく国崎と呼んでくれ」
 彼女の声で『往人』と呼ばれたくなかった。
 佐祐理の声は否応にも観鈴を思い起こさせる。
 それがひどく嫌だった。
「あははっわかりました国崎さん」
 あまりに眩しい笑顔が嫌だった。

(俺には……眩しすぎる)

242涙は朝焼けに染まって ◆VtbIiCrJOs :2007/05/27(日) 15:48:33 ID:mwV+e+h/
「で、何があったんだ」
 佐祐理は一瞬、往人にこれまでの事を話すべきか迷った。
 でも、往人になら話しても大丈夫だろう。
 鋭い目付きの奥に湛えた温かい感情。大丈夫、この人は悪い人じゃない。
 佐祐理は二人の友人の捜索、朝倉音夢との出会い、音夢の凶行、そして彼女からの逃走と往人と出会うまでの経緯を語った。
「あの人は……音夢さんは危険です……兄のためなら……どんなことも」
「そうだな……放っておくわけにはいかないな」
 往人は思う、似たような事を考える奴はいるものだと。
 朝倉音夢……彼女もまた自分と同じ、大切な人のために闇に堕ちた者。
 芳乃さくら、白河ことりを葬った後は彼女はいずれその殺意の矛先を参加者全てに向けるだろう。
 それで無くとも朝倉音夢は関係の無い人間二人を既に殺害しているのだ。
 放っておいては観鈴も危険に晒される。
「国崎さん……大丈夫ですか?」
 佐祐理は心配そうな表情で往人の顔を覗きこんだ。

 頼む、そんな顔で俺を見ないでくれ、優しい笑顔を向けないでくれ、
 俺はお前のその想いを踏みにじらないといけないんだ。
 悪魔に慈愛なんて必要無い、憎しみの感情さえ向けてくれればいい。
 憎悪の炎よりも慈愛の光のほうが遥かに俺の心を焦がす。
 だがこれが俺の罰、逃げるわけにはいかない。
 最期の時まで正気を保ってないと駄目なんだ。
 観鈴が最後の一人となるまで――

「大丈夫……俺は大丈夫だ……」
 往人は自分に言い聞かせるように呟く。その目はどこも見てはいなかった。
「国崎さん顔色悪いですよ……あの、水を……」
 佐祐理はデイパックから水を取り出し、往人に差し出す。
 冷たい水がゆっくりと往人の落ち着きを取り戻させてゆく。
「すまん……俺も相当まいってるようだ」
「この状況で平静を保っていられるほうが変ですよ」
「そう、だな……」
 言葉が続かない、二人とも押し黙ったまま時が流れる。
243名無しくん、、、好きです。。。:2007/05/27(日) 15:49:04 ID:gESmx5zE
 
244涙は朝焼けに染まって ◆VtbIiCrJOs :2007/05/27(日) 15:50:44 ID:mwV+e+h/
 往人は口を開く。

「神尾……観鈴という娘を知らないか? 長い金髪をポニーテールにした娘だ」

 先ほどの佐祐理の話から彼女は観鈴についての情報を持ち合わせていない事は解っていた。
 それでも質問する往人、まるで儀式のように。
「ごめんなさい……佐祐理は見ていなかったです」
「そうか……」
「お知り合い、ですか」
「ああ、俺の大切な人間だ……あいつは」
 やるべきことは全てやり終えた。
 残るはこの娘を殺すだけ、往人は握り締めた拳に力を込める。

(それでもせめて夜が明けるまでは――)


 それから往人と佐祐理は他愛の無い会話をするだけだった。


「舞は『さん』を付けるからすぐにしりとりに負けてしまうんですよ〜」
「マジかよ……観鈴に匹敵するアホちんだな」


「はえ〜不思議ですね〜この人形」
「どうだっタネも仕掛けも無いぞ」
「あははーっ、でもオチがありませんよー」
「……………」


「その話を聞いてる限りじゃ佐祐理、お前はその祐一って野郎のこと――」
「はい、そこまでですよ〜。あははーっ、佐祐理は祐一さんと舞が幸せならそれで幸せですから」
245涙は朝焼けに染まって ◆VtbIiCrJOs :2007/05/27(日) 15:52:04 ID:mwV+e+h/

 
 他愛の無い話、およそこのような場に似つかわしくない友達同士の会話。
 往人はこの時間が永遠に続けばいいと思っていた。
(だが永遠なんて無い、長い夢にも終わりは来る)
 瑠璃色の空はいつしか茜色の朝焼けの空に染まってゆく。
 そして夜が――明けた。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※


「きれいな朝焼けですね」
「ああ、こんなに……きれいな朝焼けは初めてだ」
 往人の声は若干震えていた。もうすぐ夢の終わりがやってくること、
 自らの手で彼女の夢を終わらせないといけないこと。
 自らの夢も終わらせなければいけないことを。
 往人はベンチから立ち上がって歩き出し、空を見上げる。
 曙光に照らされた空は本当に綺麗で、澄み切った空気は本当に綺麗で、最後の言葉を紡ぎだす。

「明けない夜の夢はもう終わった。夢は所詮夢、夢は覚めなければならない、俺も――そしてお前も」
 振り向いた往人の手には冷たい銃が握り締められていた。
「お前を――殺す」

246涙は朝焼けに染まって ◆VtbIiCrJOs :2007/05/27(日) 15:54:40 ID:mwV+e+h/
「国崎……さん……?」
 佐祐理は何かの冗談だと思った。嘘だと思った。
 目の前の光景を信じたく無かった。
「嘘……ですよね」
「本気だ、俺はお前を殺さなくてはならない」
「どうして……っ! 国崎さんは気絶した佐祐理を看病してくれました! 傷の手当てもしてくれました! 人形芸も見せてもらったのに……どうしてですか!」
 往人は今すぐ銃を捨てて彼女に謝りたかった。
 冗談だと言って、泣いた彼女に叱ってもらいたかった。
 往人は感情を押し殺した声で言葉を投げかける。
「全部演技だ。お前を助けたのも、人形芸を見せたのも、全て観鈴の情報を聞き出すためさ、用済みになればお前を殺すつもりだった」
「それで……観鈴さんが喜ぶとでも思ってるんですか!」
「わかってるさ、こんな事をしても観鈴は喜ばない。だがな……俺一人地獄に堕ちることで観鈴が救えるのなら釣りが来るぐらいだ」
 ゆっくりと引き金に力を込めていく。
 狙うは彼女の頭部、今度は苦しまぬよう一撃で決める。
「あなたに……佐祐理を撃てません、現にあなたは迷ってる」
「迷う? 俺が? 馬鹿馬鹿しい」
「だって……国崎さん、あなたのそれは何ですか、流してる涙は何ですか……っ」
「な……に……?」
 彼女は見た。感情の無い顔で銃を向ける往人の瞳、そこから大粒の涙が溢れていることを。
 朝焼けの光に照らされた顔から流れ落ちる涙はまるで血のようで、
 国崎往人は確かに泣いていた。

「あなたはこの狂ってしまった島で必死に戦ってる」
 佐祐理はベンチから立ち上がる。
 挫いた足首に激痛が走るがしっかりとした足取りで両腕を広げながら往人に歩を進める。
 光に照らされたその姿は聖母のように神々しかった。
「国崎さんは本当は優しい人だから……優しすぎる人だから」
(どうして……どうして……あゆも佐祐理も俺の本心を見破るんだ。俺はお前達を殺そうとするただの殺人鬼なのに……ッ)
「大好きな人のために無茶をしてしまうんです」
「俺は……俺は……ッ」
「ほら……その手を下ろして、ね」
 また一歩、また一歩と往人に向かって歩み寄る佐祐理。
247涙は朝焼けに染まって ◆VtbIiCrJOs :2007/05/27(日) 15:56:07 ID:mwV+e+h/


「往人さん」


 優しい笑顔を往人に向けて。


「やめ……ろ」


 全ての罪を許す慈愛の声は。


「往人さん」


 その手を彼に差し伸べる。


「―――――――――――」


 そして――乾いた銃声が公園に響き渡った。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※

248涙は朝焼けに染まって ◆VtbIiCrJOs :2007/05/27(日) 15:57:58 ID:mwV+e+h/
 朝焼けの茜色の陽光が降り注ぐビル街の一画、名も無き公園、
 硝煙が立ち昇る拳銃を手にぶら下げて、往人は空を見上げ立ち尽くしていた。
「……馬鹿野郎」
 佐祐理は制服の白いケープを朱に染め、往人の足元で仰向けに横たわっている。
 往人の放った一発の銃弾は佐祐理の眉間を貫いていた。
 即死だった。
 その表情はとても安らかで往人に対する憎しみは一片足りとも感じさせなかった。
 それがとても痛くて辛かった。

「どいつもこいつも……俺を買いかぶりやがって……」



【D-2 公園/1日目 早朝】

【国崎往人@AIR】
【装備:コルトM1917(残り5/6発)】
【所持品:支給品一式×2、コルトM1917の予備弾54、スペツナズナイフ、木彫りのヒトデ@CRANNAD、たいやき(3/3)@KANNON】
【状態:精神的疲労】
【思考・行動】
1:観鈴を探して護る
2:観鈴以外全員殺して最後に自害
3:朝倉音夢を危険人物と認識
4:相手が無害そうなら観鈴の情報を得てから殺す

【倉田佐祐理@Kanon 死亡】
[残り54人]

※佐祐理のデイパックはベンチ脇に放置しています
249せーらーふくをぬがさないで ◆tu4bghlMIw :2007/05/30(水) 13:57:08 ID:2B23iGEI
……ここまでは計画通り。
佐藤良美は様々な液体で濡れそぼった表情の裏側でほくそ笑む。
……涙って意外と簡単に流せるんだなぁ。
しかも効果は抜群だ。
女の涙。
まだまともに恋愛をしたことも無いような中学生を騙すのに、これほど適した道具は無いだろう。


美凪から少し離れた所で、良美と圭一は寄り添うように座っている。
傍目から二人を見れば仲の良い兄弟か、見ようによっては恋人同士にも見えたかもしれない。
だがどう見ても人畜無害を絵に描いたような少女が、既に自分の意志で同い年の少女を一人刺殺していようとは誰も思うまい。
……ひとまず、この二人を出来るだけ上手く使ってエリーやレオ君と合流しなくちゃ。
良美は数センチ程度の隙間しかないほど近くに座っている圭一の顔を冷めた眼で見やる。
顔はあり得ないくらい赤く、見ているだけで肩が凝りそうなくらい緊張している。

まず集団において大切なこと。
それはイニシアチブを握ることだ。
とはいえそのために必ずしも自分が先頭に立って行動する必要は無い。
自分の思うがまま、意志をそのまま反映して前に立つリーダーを立てる、という手法で十分な場合も多い。
どれだけ上手く立ち回ろうとも、率先して舞台の上で踊り続ければ必ず誰かに目をつけられる時が来る。
それならば時が来るまで私は舞台袖で傀儡を操る人形師になればいい。

今、自分の隣に前原圭一がいるのもそれが理由だ。
意志を代弁させるならばそれは出来るだけ力が強くて、なおかつ簡単に言うことを聞くような者がいい。
そしてもう一つ、男であること。これが絶対条件になる。
エリカのように女であっても集団のリーダーになることが出来るものもいるが、それは極稀な例だ。
名簿の名前を見る限り、この殺し合いに参加しているものの約三分の二が女。
つまり多数派を占める女性陣を小数の男がまとめる、という構図になる可能性が高い。
見る限りまだまだ若い彼がこの状況で船頭に成り得る人物であるかは分からない。
だが手駒に取るのならば各種条件から見ても、遠野美凪より断然こちらだ。
250せーらーふくをぬがさないで ◆tu4bghlMIw :2007/05/30(水) 13:58:08 ID:2B23iGEI
「……あの」
「ん、おお!!えーと……大丈夫か?落ち着いた?」
「……うん。まだ少し、自分が壊れて……しまいそうだけど」
「ああ、辛いのは分かる。でも何とか乗り越えるしかないんだ」
「うん……」

またも吐き出される気持ちの悪い偽善に満ちた台詞。
良美は喉元から不満が黒い土石流になって溢れ出そうになるのを必死でせき止める。

「……圭一君。この後はどうするつもりだったの?」
「俺と遠野さんは今学校に向かう途中だったんだ。
 多分あそこにはこの島から脱出する何らかの手掛かりがあると思う」
「学校かぁ……」

良美は焦った。
順当に行けばおそらくこのまま廃線に沿って北上。
その後、ペットボトルを見つけた小屋を経由して学校のあるE-4エリアに向かうことになる可能性が高い。
"犯人は現場に戻る"なんて言うけど、それは今の自分には当てはまらないみたい。
おぼろげながら藤林杏の死体を放置してきた場所は覚えてはいる。
とはいえ、100%の確証を持って位置を記憶しているわけではない。
先程の小屋に寄ったとしても大して問題は無い。しかし、藤林杏の死体の近くを通過する、となると話は別だ。

死とは強烈で、それでいてイマイチ不透明な概念だ。 
テレビや新聞というフィルターを通して見れば、非常に身近なものとも言えるが実際に自分の周りで死を体験したことがあるものは意外と少ない。
特に自分のような高校生だと未だに身内全員が健在な家庭も多い。
そして現代人の大半は病気で命を落とす。
目の前で人が血を流して死んでいる光景を目撃したことのある人間がどれだけ少ないかは想像に難くない。
良美が圭一に感じた嫌悪の理由はコレなのだ。
251せーらーふくをぬがさないで ◆tu4bghlMIw :2007/05/30(水) 13:59:13 ID:2B23iGEI
彼はおそらく、死を知らない。
皮膚を突き破り、肉を裂いて、血管を破裂させる感触を知らない。
人に突き刺さった刃物がどれだけ重く感じるかも、
死の淵に立った人間がその時どんな声を出してどんな表情をするのかさえ想像出来ないだろう。
『無知は罪』と断罪してしまうことも出来るが、さすがにそれは難しい。自分だって人を殺した経験はほんの先刻まで無かったのだから。
それなのにどうしてあそこまで偽善に満ちた台詞を吐くことが出来るのか。
解せない。

圭一が自分を信じ切っていることは確信出来る。
この遠野という変な女もとりあえず自分を疑ってはいないはずだ。
だがもしも二人が藤林杏の死体を見たとしたら?

おそらく彼らは良美を恐れることだろう。
藤林杏には『いきなり襲い掛かって来た危険人物』以外の役割は求めていない。
言葉でどんなに取り繕っても、本物の死体には有無を言わせぬ力がある。
そうなっても前原圭一の偽善が、遠野美凪の無表情が、今のまま続くとは到底思えない。
二人を藤林杏の亡骸と対面させるわけにはいかない。
私が上手く誘導すればその可能性は最小限まで抑えられるとはいえ、あの場所の近くに立ち寄るも正直な話回避したいものだ。
それならば。

「圭一君。お願いがあるんだけど…」
「ん?どうしたんだ、佐藤さん」
「ちょっと寄り道になってしまうかもしれないけど一回商店街の方に寄りたいんだけどなぁ」「商店街かぁ……んー遠野さんにも話してみないとなぁ。
 でも何でだ?誰かと待ち合わせしているとか?」
「その……ふ……」
「ふ?」
252せーらーふくをぬがさないで ◆tu4bghlMIw :2007/05/30(水) 14:00:19 ID:2B23iGEI
良美は身体を僅かに捻らせ、視線を散らす。
恥じらい、ためらっているように見せる演出も忘れない。
言葉と態度による焦らしは重要だ。
あくまで佐藤良美は弱く、可憐で、気の弱い少女だと錯覚させるのだ。
胸の奥にしまった刃は最後の一瞬まで抜き放つつもりは無い。
そのため使える武器は何であれ有効に使う。
それは銃器や刃物に限ったことではない。
自分が『女』であることを。
外見の力を最大限利用する。

「服……着替えたいから。ごめんなさいっ!!
 そんなの自分勝手だって分かってるけど……でも、血が……キモチ悪くて……」
「あ……ご、ゴメンっ!!俺、そういう、女の人の気持ちとかイマイチ分からなくて……。
 そうだよな。凄いことになってるもんな、佐藤さんの服……」

圭一は顔を更に赤くさせ、明らかに取り乱している。
ここまでくればしめたものだ。
最後のトドメとばかりに良美は圭一の手を両手で包み込むように握り締める。

「大丈夫……圭一君。
 あなたが凄く優しい子なのは私、十分分かってるから。別に気にしてないよ」
「佐藤さん……」
「だから……お願い。まずは学校より先に商店街」
「あ!!そうだ、忘れてた!!」


キラキラと瞳を輝かせながら、圭一が自分にメイド服を差し出していたためである。
奇しくも美凪の呟きは圭一の耳には入らなかった。
253せーらーふくをぬがさないで ◆tu4bghlMIw :2007/05/30(水) 14:02:08 ID:2B23iGEI
良美は頭が痛くなった。
一つはなんとここから学校へ向かわない口実が無くなったため。
そしてもう一つは。

「……前原さん……傍目には凄い光景です」

キラキラと瞳を輝かせながら、圭一が自分にメイド服を差し出していたためである。
奇しくも美凪の呟きは圭一の耳には入らなかった。




……おはこんばんちは。どうも遠野美凪です。
拍手、ぱちぱちぱちぱち。

突然ですが私達は殺し合いをすることになってしまいました。
実際既に目の前で男の子と女の子が一人ずつ亡くなっています。
……ええ、大丈夫です。
その瞬間は胸が張り裂けそうな気持ちになりましたが、今は大分落ち着いています。
亡くなったのはどちらも私の知り合いではありませんでしたし。
でも額を撃たれた男の子に駆け寄った方々や、
首輪を爆発させられた女の子の隣にいた男の子などは本当に辛そうな表情をしていました。

ずっと守っていた大切なものが壊れてしまった、そんな表情です。
『自分の半身を失ってしまった』
赤い長髪の男の子がそう心の中で叫んでいるように感じました。
……はい、この気持ちは私にもよく分かります。
彼にとってあの殺された男の子は、私にとってのみちるのような存在だったのかもしれません
254せーらーふくをぬがさないで ◆tu4bghlMIw :2007/05/30(水) 14:02:50 ID:2B23iGEI
少し話が逸れました。
その後訳の分からないまま、見知らぬ土地に放り出された私でしたが、早速お友達が出来ました。
前原圭一さんという中学生の男の子です。
私の方が少し年上で背も高いのですが……前原さんは島から脱出するために凄く頑張ってくれています。
目的地を決めて積極的に行動しようとしたり、病院にメッセージを残したりと大奮闘です。
二枚もお米券を進呈してしまいました。
……きっと、いえおそらく既に名コンビです。

さてそんな私達ですが、なんともう一人新しいお友達が出来ました。
名前は佐藤良美さん。
佐藤さんは病院から出て学校へ向かう途中で。
何ともびっくりな出会いでした。わお。


初めてお会いした時、彼女は白いセーラー服を赤黒い血で染めて北の方向から物凄い勢いで走ってきました。
……驚きでした。私達の前の前に現れた時の彼女は酷く錯乱していました。
まるで何かに憑りつかれたように謝罪の言葉を口にするだけ。
まともに話が出来るようになるまで少し時間がかかってしまいました。
……とはいえそれには大きな理由がありました。
彼女は"人を一人殺してしまった"と震える声で私達に打ち明けたんです。

……ショックでした。ガーンという擬音で表すのも難しいくらいに。
自分と同い年くらいの女の子がもう殺人を経験してしまったんです。
しかも殺してしまった相手もブレザーを着ていたらしく、おそらく同年代。
早くも悪意を持って他人に接する人間が現れた、そのことが凄く悲しいです。
255せーらーふくをぬがさないで ◆tu4bghlMIw :2007/05/30(水) 14:03:31 ID:2B23iGEI
「遠野さん?どうかしたのか?」
「……いえ。何でもありません」
「よかった。じゃあそろそろ行こうぜ。
 佐藤さんもようやく着替え終わったみたいだし」

ぼんやりと線路に座って名簿を眺めていると、少し疲れた感じの前原さんが立っていました。どうやら見張り役は終了のようです。
少し遠くのほうから未だ暗い表情をした(心なしかその他の要素が絡んでいるような気もしますが)佐藤さんが歩いてきます。
しかしどうして着替えるのは女の子なのに、私ではなくて前原さんが警備の役を仰せつかったのでしょうか。

……もしかして私、その筋の人だと思われているのでしょうか。
つまり同性愛者であると。
普通、女がこんな野外で着替える羽目になれば同行者の女性が出来る限りフォローするものです。
実際、私も佐藤さんが"アレ"に着替えるのを手伝うつもりでした。
ですが彼女は前原さんに見張りをお願いするだけに留まりました。
当然そんなことを頼まれた前原さんは何故か元から赤かった顔を更に赤く染めることになったのですが。
……不思議です。

…………まぁとにかく、佐藤さんの衝撃の告白から四十分と二十秒が経過。
その間、ほとんど前原さんは佐藤さんにべったりでした。
同じ女性として私がもっと親身になって支えるべきだった、今更ながら思います。反省です。
ただ少し言い訳をば。
中々彼女が前原さんに抱きついたまま泣き止まなかったこと。
そのため二人の世界が構築されているような印象を受けてしまったこと。
そんな理由でイマイチ声がかけ難かったんです。
……駄目ですね、私。残念賞。
気持ちを切り替えなくてはなりません。
256名無しくん、、、好きです。。。:2007/05/30(水) 14:04:03 ID:WdCs4TS6
     
257せーらーふくをぬがさないで ◆tu4bghlMIw :2007/05/30(水) 14:04:19 ID:2B23iGEI
「……それでは、参りましょう」
「あの、遠野さん。さっき一度私から圭一君にお願いしたんだけど、先に商店街の方へ寄ってもいいかなぁ」
「……商店街ですか?」

前原さんに寄り掛かり、恋人同士のように身体を寄せた佐藤さんから予想外の提案がなされました。
現在の私達の基本的な行動方針は島から脱出することだったはずです。

そのため病院に顔写真と"学校へ向かう"という意志を示したメモを残して来ました。
病院は人が集まる場所です。
あれを見た人間が私達の後を追って、学校へと向かう可能性はそれなりに高いと思われます。
商店街に向かうとなるとおそらく、相当なタイムロスになるでしょう。下手をすれば入れ違いになってしまうかもしれません。

「い、いやその!!佐藤さんの服、これは応急処置みたいなものだろ!!
 さすがにこの格好のまま歩き回れ、ってのも酷だし……」
「……えっちですね、前原さん。女の子の身体をそんな風に見てはいけません」
「え、ちょ、ま……コレは」

何故か前原さんが慌ててフォローに入ります。
チラチラと頬を赤らめながら佐藤さんの方に視線をやる前原さん。
……まぁ赤くなるのも仕方ないんですけどね。
258せーらーふくをぬがさないで ◆tu4bghlMIw :2007/05/30(水) 14:05:02 ID:2B23iGEI
先程までの赤黒いセーラー服ではなく、佐藤さんは圭一さんの支給品のメイド服に着替えていたのですから。
しかも……女の私が見ても恥ずかしくなるような。
水着とボンテージとメイド服を融合したかのようにアヴァンギャルドなデザイン。
眼を覆いたくなるほど強調された胸。スクール水着から切り取ったかのようなパンツ。
肩は完全に露出し、申し訳程度に配分された襟元と上腕部のレザーが余計にエロさを引き立てています。
一応、腰周りには腰蓑のようなフリル付きのエプロンがあしらわれているのですが、もうここまで来ると何もかもが卑猥に見える不思議。

丁度、前原さんと佐藤さんの身長が同じくらいだったからこそのミラクルフュージョンです。
……前原さんも男の子ですからね。
確かにコレは、中学生には色々な意味で刺激が強過ぎるかもしれません。
佐藤さんのプロポーションは女性の私から見ても非常に魅力的です。
私は背ばかりが高くて、胸に関してはそれ程でもないので……前原さんが意識してしまうのも無理はありません。

「……なんちゃって……冗談」
「え?と、遠野さん?」
「……オッケー。未来ある青少年の教育のためにも行くべきですね、商店街」
「分かってくれてありがとう!!遠野さん。圭一君も……私のためにごめんね」
「お……おう。なんか遠野さんの台詞が引っ掛かるけど……」
「……気にしない」

前原さんが何とも複雑な表情をしています。
さすがにセクシィなお姉さん二人に囲まれて緊張しているのかもしれません。
健全な中学生にはあまりよくない環境ですね。
おいおい慣れてもらうしかないのですが。
……まぁ、ともあれ出発ゴーです。
259せーらーふくをぬがさないで ◆tu4bghlMIw :2007/05/30(水) 14:05:43 ID:2B23iGEI


「くそっ、まだ痛むな……」

脇腹を押さえながら、市街地を南下する男が一人。
彼は岡崎朋也。先程出会った芙蓉楓と名乗る不気味な女と別れ、ひとまず南方の病院を目指している所だった。

移動手段としてキックボードが支給されたのは不幸中の幸いとも言えるだろう。
石弓を持った異様に耳の長い男に弓で撃ち抜かれた部分は未だ熱を持って、朋也の身体を蝕んでいる。
当たった場所が幸運だったのか、出血は思った程酷くはない。
しかし決して放置することは不可能なレベルではある。
とりあえず応急処置はしたものの、出来れば適当な消毒薬と清潔な布が欲しい。
沿岸に並ぶ都市部にて道具を調達しようとも考えたが、今は出来るだけあの男と出くわした一帯は距離を取りたい。
しかも薬品が確実に手に入る保証が無いのは痛い。見つからなければ延々と無駄に時間と体力を消費する危険性もある。
そう考えると自分が選ぶべき目的地はただ一つ。F-6エリアに位置する病院である。
ここならば確実に医療用品を手に入れることが可能である。

今現在の自分にとっての最優先事項は生き抜くこと。
いきなり見知らぬ人間に襲い掛かるような真似をするつもりは無いが、身を守るためならば少々荒っぽい手段に出るのも仕方が無いと思っている。
しかしただ"生きる"という目標を立てても、逃げ回っているだけでは埒が明かないことも分かってはいる。
これはぐだぐだとただカレンダーを消費するだけの生活とは次元が違うのだ。
ある程度の計画性と主体性を持って行動しなければならない。
そう考えると、やはり身体を考えられる限り最高の状態に近づけて置きたい。
見知らぬ人間にこの先全く襲われない、という可能性はおそらくゼロだからだ。

「とりあえず南に行って……川が渡れればそれに越したことはないんだがな。
 後は川沿いに移動するしかないか」
260せーらーふくをぬがさないで ◆tu4bghlMIw :2007/05/30(水) 14:06:27 ID:2B23iGEI


失敗だ。
…………違う違う、これは成功だ。
経緯はともかく、死体の近くを通って学校に向かう可能性は潰したのだから。
上々にいけば近いうちに"まともな"服も手に入る。これを成功と言わずして何と言う。
だから今私が半ば羞恥プレイのような衣装を身にまとっていることも些細な事象に過ぎないのだ。

そうだ、全ては上手く回っている。
相手に警戒心を抱かせる血だらけのセーラー服は捨てて来た。
前原圭一に支給品について尋ねられた時も『自分が持っている支給品は錐とナイフだけである』というラインで押し通すことが出来た。
拳銃の存在を隠し切ることが出来たのは大きい。
あとは情報だ。
レオ君とエリー、そして一ノ瀬ことみ。
三人の居場所さえ手に入ればもう怖いもの無しである。
クールだ。クールになれ佐藤良美。

現状に問題は無い。
261名無しくん、、、好きです。。。:2007/05/30(水) 14:06:59 ID:WdCs4TS6
     
262せーらーふくをぬがさないで ◆tu4bghlMIw :2007/05/30(水) 14:07:08 ID:2B23iGEI


「あれ、あそこにいるって……もしかして他の参加者の人じゃ……」
「え?」

圭一のその台詞につられて伏目がちだった視線を良美は持ち上げる。
遥か前方、確かに小さくぼんやりとではあるが人影が見える。
あと少しで太陽が昇る。遠方を見渡すのに支障は無い。
とはいえ良美はそこまで視力が良いわけではないので感覚的にそこに人がいる、程度にしか相手を認識出来なかった。

「……男の人ですね。黄色い……ブレザーを着ています」
「遠野さん、ここからそこまで見えるのか?眼、いいんだな」
「……特技です。……あちらも私達に気付いたみたいです。どうしますか?」

最年少ではあるが、やはりこの集団の中心人物は圭一である。
美凪も良美も心の内枠に大分差はあるものの、そのことは共通認識であった。
その視線に込められた感情は見事なまでに正反対ではあるのだが。

「そうだな……とりあえず一度話してみようぜ。俺達を攻撃するつもりがあるなら、あんな風に突っ立てたりしないだろうし」
「……オッケーです。手を振ってみましょう、ぶんぶん」

美凪が男に向かって大きく両手を振る。
こちらは戦うつもりは無い、という意志を込めてだ。
相手の男も一瞬動作を止め、何かを考えたようだが同じく手を大きく振って応える。

「大丈夫そうだな!!佐藤さん、行きましょう!!」
「う、うん……」

情報交換が出来そうな人間の出現に興奮する圭一。
何を考えているのか分からない美凪。
そんな二人とは対照的に良美は前方からやってくる男から強烈なデジャヴを感じていた。
263せーらーふくをぬがさないで ◆tu4bghlMIw :2007/05/30(水) 14:08:07 ID:2B23iGEI


朋也は戸惑っていた。

「なんだ、あの集団は……。
 やけにでかい女と学生服を着たガキ、それと……コスプレした女?ありゃあ露出狂か?」

病院に向かう途中どうやら他の参加者に出くわしたらしい。
相手は三人。しかもそのうち二人は女だ。
でかい女がこちらに向かって両手を振って……振り回している。
一瞬どうすべきか考えたが、とりあえずは交渉だ。
現状相手にも戦おうという意志は無いように見えるし、こちらには爆弾もある。

「まぁ妙なことにならねぇといいけどな……。ちっ、面倒くせぇ」


【岡崎朋也@CLANNAD】
【装備:キックボード(折り畳み式)】
【所持品:手榴弾(残4発)・支給品一式】
【状態:脇腹軽症(痛み継続)・やや興奮】
【思考・行動】
基本方針:何が何でも生き延びる。
1:この三人が信用できる人物か確かめる
2:傷を治すために病院へ
3:悪意があると感じれば、容赦なく攻撃。
4:少しは知人の安否が気になる。
5:オボロが探していたハクオロのことを警戒。

【備考】
オボロは死んだ、もしくは瀕死だと勘違いしています。
264名無しくん、、、好きです。。。:2007/05/30(水) 14:09:39 ID:WdCs4TS6
     
265名無しくん、、、好きです。。。:2007/05/30(水) 14:12:39 ID:WdCs4TS6
266代理:2007/05/30(水) 14:25:43 ID:TbseCcNm


……順風満帆とはいかないなぁ。
あの制服……杏ちゃんと同じ学校……と見て間違いないよね。
でも運が良いと言えば良いかぁ。
こんなに早く一ノ瀬ことみに繋がる手掛かりが見つかったんだし。
とりあえず、杏ちゃんを殺したことだけはばれない様にしないと。


【佐藤良美@つよきす -Mighty Heart-】
【装備:S&W M36(5/5)、メイド服(圭一サイズ)】
【所持品:支給品一式×2、S&W M36の予備弾15、スペツナズナイフ、錐 毒入りとラベルが貼られた500ml非常用飲料水】
【状態:健康、羞恥】
【思考・行動】
基本方針:エリカとレオ以外を信用するつもりは皆無、ゲームに乗っていない者を殺す時はバレないようにやる
1:エリカ、レオ、ことみを探して、ゲームの脱出方法を探る
2:悟られないように岡崎朋也から知り合いの情報を得る
3:人は利用出来そうなら利用する
4:怪しい者や足手纏い、襲ってくる人間は殺す
5:最悪の場合、優勝を目指す
6:まともな服を探す

【備考】
非常用飲料水の毒の有無は後の書き手に任せます。
メイド服はエンジェルモートを想定。
銃、飲料水の存在を圭一と美凪は知りません。
267代理:2007/05/30(水) 14:27:47 ID:TbseCcNm


……おはこんばんちは。どうも遠野美凪です。
拍手、ぱちぱちぱちぱち。

どうも前に居るのは他の参加者の方のようです。
私が手を振って合図をすると、しっかりリアクションを取ってくれました。
見た限りでは危ない武器などは持っていないようです。

ただ一つだけ、気になることが。
佐藤さんが初めて出会ったときに震えながら呟やいた台詞です。

『黄色っぽい色のブレザーを着た女の人に襲われた』


私達は慎重に彼女の言葉を噛み砕いていたつもりでした。
でも今の前原さんの様子を見るにこの発言を聞き流してしまった可能性が高いのです。
私でさえいきなり目の前に血塗れの女の人が現れて動転していましたし、
佐藤さんを一生懸命宥めていた前原さんにそこまでを求めるのは酷なのかもしれませんが。


268代理:2007/05/30(水) 14:29:08 ID:TbseCcNm
私の支給品は顔写真付きの名簿です。
佐藤さんと合流してから彼女が安定した精神状態になるまで、特にやることも無かったので私は一人でずっとコレを眺めていました。
世の中には知らない方がいいこと、と言うものが少なからず存在します。
ですが想像するのを止める、ということは難しいわけで。
考えてはいけない、考えてはいけない。
そう心の底で思っていてもソレは無駄な叫びでしかありません。

『佐藤さんが殺してしまったのはいったい誰なのだろうか』

……最低です。
とても口には出来ません。
とはいえ、元々黄色いブレザーなんて珍しいもの、そういくつもの学校が採用しているわけがないんです。
前原さんは気付いていないかもしれませんが。

佐藤さんが手にかけてしまった女の子ともうすぐ接触するであろう男の子。
二人の関係が気になるところです。
269代理:2007/05/30(水) 14:29:54 ID:TbseCcNm
【F-5 下部/平原/1日目 早朝】

【前原圭一@ひぐらしのなく頃に祭】
【状態:健康】
【装備:柳也の刀@AIR】
【所持品:支給品一式】
【思考・行動】
基本方針:仲間を集めてロワからの脱出
1:美凪と良美を守る
2:良美の服を探す
3:手掛かりを求め学校に向かう
4:知り合いとの合流、または合流手段の模索
【備考】
良美が殺した人物(藤林杏)と朋也の関係には気付いていません


【遠野美凪@AIR】
【状態:健康】
【装備:なし】
【所持品:支給品一式、顔写真付き名簿(圭一と美凪の写真は切り抜かれています)】
基本方針:圭一についていく
1:知り合いと合流する
2:良美と朋也の関係を心配
3:良美が誰を殺したのか気になる

【備考】
良美は美凪が顔写真付きの名簿を持っていることを知りません。
病院のロビーに圭一のメモと顔写真が残されています。


※良美の血濡れのセーラー服はE-5に放置
270 ◆Qz0e4gvs0s :2007/05/30(水) 16:50:40 ID:2o0lCe8D

自らを囮にして走る稟と、大好きなお兄ちゃんのために追いかけるさくらによる命懸けのレースは続いていた。




(殺し合いに乗らないってどういうこと!?)
目の前の男を追いかけながら、さくらは先程の叫びに混乱していた。
(だって、さっきまで殺すとか叫んでいたのに)
だから、さくらはその真意を確かめたかった。
もしそれが、自分の油断を誘う嘘ならば遠慮なく撃てばいいのだ。聞く価値はある。
それなのに、男はこちらの呼びかけを無視して走り続ける。
身勝手すぎるその行動に、さくらは苛立ちを隠せなかった。
こちらは話を聞くため呼びかけ、銃を撃つのもやめたのに止まる気配がない。
やはり、先程の言葉は嘘だったのだろうか。



    ◇    ◇    ◇    ◇


271 ◆Qz0e4gvs0s :2007/05/30(水) 16:51:22 ID:2o0lCe8D
「はぁ、はぁはぁ……」
「止まって! 止まってよ!」
少女は必死の形相で稟に迫っていた。
「殺されるのが分かっていて、止まれる訳無いだろう!」
その叫びを無視し、稟はひたすら前を向いて走っていた。
なぜかは分からないが、先程から銃の乱射はなくなっっている。
だからと言って、呼びかけ通り止まって何かされたら遅い。
少女を出来るだけ引き付けるという義務感が、折れそうだった稟の心を強く支える。
それは必ず会おうと約束した蟹沢のため、それにこの島にいるであろう楓やネリネと合流するため。
稟は一度だけ後ろを振り返る。そこには、未だ追いかけ続けてくる少女の姿だけが確認できた。
「あいつは、無事逃げ、切った、ようだな」
万が一蟹沢がこちらを追いかけてきたらと言う不安があったが、どうやら杞憂のようである。
ならば、相手が見失わない程度の速度で走る必要はない。
限界が近づく体に鞭打ち、少女を引き離しにかかった。



    ◇    ◇    ◇    ◇



その頃、カニこと蟹沢きぬは……方向を間違えていた。
「んだよ畜生。あのヘタレ、病院なんか見えてこないじゃないかー」
カニは稟の指示通り、二手に分かれたあの位置から北の病院向けて走ったはずだった。
だが、病院はおろか、明かり一つ見えやしない。
理由は簡単だ。本人は北に向かったつもりが、気付かぬうちに南西に方向修正してしまっていたのである。
「つーか、なんか塩くせーぞおい」
鼻を動かし、匂いのもとを辿り足を運ぶ。すると、目の前には海が広がっていた。
「あり?」
荒々しい波
「病院ねーじゃん」
カニは、未だに自分が南西に向かっていた事に気付いていなかった。
272 ◆Qz0e4gvs0s :2007/05/30(水) 16:53:01 ID:2o0lCe8D




    ◇    ◇    ◇    ◇



「ああ、なんかこう、嫌な予感がする」
カニが方向を間違えているのを第六感で感じ取ったのか、稟は徐々に不安になってきた。
嫌なイメージを振り払うため、稟は頭を左右に振る。
「いかんいかん。そんな事より今はこっちだ……しかし、まずったな」
走り続ける稟の目の前には、病院がそびえ立っている。
少女を引きつけ、適当な場所で煙に巻くつもりが見事病院まで引き連れてしまったようである。
幸い少女はまだ遠くに居るため、ここから離れる事も可能である。
だが、思考とは反対に稟の体は休息を求めていた。
無我夢中なうえ、義務感と強い意志からここまで走り続けてきたが、それではもう騙し切れない。
ならば、この病院を上手く利用して少女を追い払う事は出来ないだろうか。
そうすれば、持久戦で消耗する事も無く体を休める事も出来る。
「でも、なにも知らない蟹沢が到着したらまずいよな」
運悪く蟹沢と少女を鉢合わせては、今までの苦労が水の泡になる。
もし何かあったら、せっかく生きる決意をした稟の心がまた揺らいでしまう。
ならばやはり、病院を離れ再び逃走を始めるか。否、そんな事をしたら数分も持たない。
タイムリミットは着実に迫ってきている。稟は覚悟を決め拡声器を握った。
『お〜い! 俺は疲れたから病院の上のほうで休んでるからなー!』
病院に逃げ込むにしても、入り口付近でなく屋上の周囲で逃げていれば蟹沢に被害が及ばない。
だからこそ、稟はあえて自らの目的地を少女に伝えた。
『じゃあなちびっ子! 悔しかったらついて来いよー!』
最後にもう一度拡声器で叫ぶと、稟は病院の中へと入っていった。
273名無しくん、、、好きです。。。:2007/05/30(水) 16:54:06 ID:N5TMHnEP
支援
274 ◆Qz0e4gvs0s :2007/05/30(水) 16:55:01 ID:2o0lCe8D



    ◇    ◇    ◇    ◇



「待てぇ!」
さくらが叫ぶのもむなしく、男は病院の中へ入っていった。
相手の言う事を信じれば、屋上から行けば追い詰める事は出来る。
しかし、思った以上に疲労も強いためか、屋上まで飛び上がる余力がない。
それに、男の言葉が嘘だった場合、屋上から進むさくらを尻目に外へ逃げ出すかもしれないのだ。
ならば同じように正面から入り、下から上へ追い詰めたほうがリスクが少ない。
意を決したさくらも、男の後に続いて病院へと入っていった。


中に入ると、薄暗い非常灯以外の電灯は消えていた。男が消したのだろうか。
どこかに潜んでいるのではないかと警戒しつつ、エレベーターまで進む。
残念ながらエレベーターは動いていない。どうやら階段しか上る手段はない。
もう一つ階段があったが、バリケードが張り巡らされている。
わざわざバリケードを越えて進むとは思えない。さくらは最初に見つけた階段を進んだ。
二階、三階と進んで違和感を覚える。音が聞こえないのだ。
(もしかして、どこかの部屋に隠れている?)
275名無しくん、、、好きです。。。:2007/05/30(水) 16:55:15 ID:N5TMHnEP
支援
276 ◆Qz0e4gvs0s :2007/05/30(水) 16:56:52 ID:2o0lCe8D
多少は遅れをとったものの、さくらと男にそこまで距離があったとは思えない。
宙に浮いて進むさくらと違い、男には足音がついて回る。
これだけ静まり返った建物ならば、よほど遠くない限り響いて聞こえるはずだ。
さくらが病院に入ったと同時に一番上まで上りきったという案も考えたが、現実的でない。
どこかの病室、または診察室など部屋に隠れた可能性の方が高い。
(もう一度二階から調べてこようかな)
だが、隠れていないなら時間のロスだ。下手したら外に逃げられるかもしれない。
階段を見張っているという方法もあるが、長期戦にするつもりはない。
さくらの目的は純一を殺そうとする者を沢山殺す事である。
それなのに、一人に時間をかけすぎるのは効率的ではない。
(とりあえず、この階から見ていくしかないよね)
結局、階段を上るのを止め、近くの病室から調べていく事にした。



    ◇    ◇    ◇    ◇


277名無しくん、、、好きです。。。:2007/05/30(水) 16:57:35 ID:N5TMHnEP
支援
278 ◆Qz0e4gvs0s :2007/05/30(水) 16:58:15 ID:2o0lCe8D
銃を持った少女が病院に入っていったのを、摩央は身を隠して見ていた。
住宅街で失態を犯した摩央は、場所を変えるため南下していたのである。
地図を確認したところ、無理せず相手を殺す事が出来る場所を発見したからだ。
「病院なら手負いの人間が向かうと思ってたけど、ビンゴみたいね」
先程の少女も、おそらく怪我の治療を目的に訪れたのだろう。
浮いていたような気がするが、薄暗いし目の錯覚だろう。
健康的な相手を殺すのは大変だが、怪我をしているならばグッとリスクも下がる。
ある程度近付いて麻酔銃を撃てば簡単だし、外しても相手は手負いだ。問題ない。
あらかじめ麻酔薬入りの注射をコッキングしておくと、摩央も病院へ足を踏み入れた。
中は薄暗く、目が慣れるのに苦労した。
(電気がついていると思ったけど、あの娘が消したのかしら)
意外と足音が響くため、摩央は注意深く足を運んだ。
一階は外来の患者の診察所がある。だが、少女の足音や声は聞こえない。
(上の階かしら?)
階段の案内板を見るが、二階以降一部を除き入院患者の病室だけしかない。
治療でなく、休息のために立ち寄ったのだろうか。
(私なら、相手に見つかる危険を少しでも下げるため一番上に行くかな)
一番上に居れば、侵入者が来ても時間に余裕がある。
方針が決まると、摩央は忍び足で上の階へ進みだした。
279名無しくん、、、好きです。。。:2007/05/30(水) 16:58:31 ID:c3TNSYe2
支援
280 ◆Qz0e4gvs0s :2007/05/30(水) 16:59:24 ID:2o0lCe8D



    ◇    ◇    ◇    ◇



(ブレーカーを落として正解だったかな)
階段を上る前に、会計カウンターに入ってブレーカーを落としておいた。
明るかった病院は暗くなり、視界がなれるのにやや苦労した。
稟は周囲を確認しながら、最上階である五階で逃げ出す算段を考えていた。
だが五階まで来たものの、予想外のアクシデントに見舞われていた。屋上のドアが開かないのだ。
当初の予定では、屋上に避難用のロープを垂らして、どこかに逃げ去ったよう細工するつもりだった。
だが、屋上のドアには鍵がかかっており、蹴破ろうにも鉄製のドアはビクともしなかった。
(こういった鍵なんかは、事務室とかにあるんだろうけど)
おそらく下からはあの少女が迫ってきている。そんな所にわざわざ向かう馬鹿ではない。
だが、鍵がなければ見つかるものまた時間の問題である。
しばらく悩んでいると、稟は一つ閃いた。
(そうだ、病室のシーツを結んで窓から放れば、脱走したように誤解させられるかもしれない)
別に自分が逃げ出すのでないのだから、適当な作りでいい。
近くにあった窓を開け、下との距離を目測する。
(うわ、高いぞこりゃ)
そろそろ朝日が昇る時間帯なのだが、廊下は日が差す方向とは逆になっているため未だ暗い。
コンクリートの地面は、薄暗さも相まって不気味な模様に見えた。
281 ◆Qz0e4gvs0s :2007/05/30(水) 17:00:28 ID:2o0lCe8D
(いや、そんな事よりシーツを結ばないと)
運が良い事に、備品室のドアは鍵がかかっていなかった。静かに中へと進入する。
電気をつけられないため暗いが、ドアを開けっ放ししておけば何とか見える。
目を慣らし、シーツの積まれた箱を取り出す。そこから一山抱えて立ち上がる。
(シーツを結ぶにしても、ここじゃ暗すぎる)
ドアは開けたまま、稟は向かい側の病室に入り込む。
暗いには変わりないが、シーツを結ぶくらいの軽い作業ならば問題ない。
床に座り込むと、黙々とシーツの端と端を結び始めた。
ある程度結び終えた頃、稟はおかしな音を耳にする。それは、何か擦っているような音。
警戒した稟がそっとドアをスライドさせ廊下を覗くと、少女が歩いてくるのが確認できる。
(もう来たのか! いや待て……違う?)
近付いてきた少女は、今まで稟を追いかけていた少女とは違う。警戒は解かないが、一安心する。
その少女は、備品室の扉が開いているのに気付いたのか早足でこちらに向かってくる。
(気付かれたか!?)
だが、少女はこちらに背を向け備品室を覗いた。手に持っていたランタンで室内を照らす。
(あ、馬鹿っ!)
考えるのと同時に、稟は部屋を飛び出し少女の口と体を抑えた。
「んんんんんーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
(あ、まずったかも)



    ◇    ◇    ◇    ◇


282名無しくん、、、好きです。。。:2007/05/30(水) 17:01:13 ID:N5TMHnEP
支援
283 ◆Qz0e4gvs0s :2007/05/30(水) 17:01:32 ID:2o0lCe8D
備品室を覗いていた摩央は、自分の口と体を押さえられパニックになる。
「んんんんんーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
必死で抵抗するが、相手もガッチリとこちらを押さえ込んでいた。
とても少女の力とは思えなかった。いや、そもそも手の形が少女とは思えない。
「頼むッ、静かにしてくれ」
それにしても、男のような声の少女である。
摩央が後ろを盗み見ると、どうみてもそれは男だった。
「殺すつもりもなければ、どうにかするつもりでもない」
耳元で小さく囁く、見方によっては一種のプレイのようだ。
相手に麻酔を撃ち込むのも考えたが、失敗する可能性もある。
それに、殺す気が無いというならば反撃の機会はまだあるはず。摩央は静かに頷いた。
「とりあえず、声を出さない事を約束してくれ」
再び頷く。
「良かった。悪かったな」
口と手を離したので距離をとる。見ると男は申し訳なさそうな顔をしていた。
「とにかく謝る。こっちも理由があってな」
そう言いながら、男はこちらに背を向け病室に入っていく。
どうやら、こちらを警戒してはいないようだ。ならば、まだ急ぐ事はない。
「自己紹介がまだだったな。俺は土見稟」
「私は水澤摩央。ずいぶん乱暴ね」
「だから悪かったよ。時間に余裕が無くてな」
「あら、私の体を弄る時間はあるのに?」
「いッ――」
「冗談よ。それより、時間に余裕がないって?」
「あ、ああ。実は……」
稟が言うようには、銃を持った少女(おそらく摩央が見た少女)が稟を追ってきたと言う。
284 ◆Qz0e4gvs0s :2007/05/30(水) 17:02:34 ID:2o0lCe8D
稟もここで待ち合わせている人間が居るため、少女を追い出したい。
そこで、こちらが脱走したと思わせるため、何枚かのシーツを結びロープ状にして放るのだと言う。
「しかし、摩央さんが居るとは思わなかった。ともかく、ここは危険だから隠れていてくれ」
「あら。私も戦えるわよ土見君」
廊下の鉄柱にシーツを結びつける凛の背中に銃を向ける。
そして、何事も無かったかのように麻酔銃を撃った。
「ばいばい。ま、土見君も最後に私の体を触れたんだし、良い冥土の土産になったんじゃないかな」
うつ伏せに倒れ、気を失った稟に冗談を言う。
「さて……と、殺す前に一度試しておきたかったのよね」
支給品である麻酔の他にあった、もう一つの注射器である。
再び注射器を装填しコッキングすると、稟の背中に撃ち込んだ。
そしてしばらく様子を見ていたが、変化が訪れる様子が無かった。
「おっかしいわね。毒薬じゃないのかしら」
もしかしたら、服の上からでは効果がないのかもしれない。
今度は、同じ注射器をはだけさせた稟の胸に撃ち込んだが、やはり効果が表れない。
「遅効性なのかしら……ま、結果が見たいけど目が覚めたら困るし」
デイパックから鉄扇を取り出し、稟の喉に狙いを定める。
「あんまり手は汚したくないんだけど」
鉄扇を広げ、大きく振り下ろす。稟の喉は切り裂かれる……はずだった。
「見つけたッ!」
突然の声で狙いが外れ鉄扇は地面にぶつかる。その反動で、摩央の指が切れた。
指を伝って、血の雫が稟の首にゆっくりと落ちる。
声の発信源を睨み付けると、それは先程追いかけていたはずの少女だった。



    ◇    ◇    ◇    ◇
285 ◆Qz0e4gvs0s :2007/05/30(水) 17:03:35 ID:2o0lCe8D



五階まで到達したさくらは、曲がり角の向こう側にいた二人を確認して叫んだ。
「見つけたッ!」
ようやく見つけた目標に近付く。だが、よく見るとその様子はおかしかった。
男は地に伏して倒れており、その首には血の跡がある。
「殺したの!?」
「殺してないわよ」
少女の声はさくらの耳に届いていなかった。
(そっか、この男死んじゃったんだ)
殺し合いに乗らないと言っていたが、その結果がこれだった。
別に男に固執はしていなかったが、なにか嫌な気分なのは間違いなかった。
もしかしたら、純一も同じような行動を起こしているかもしれない。
その想像が、目の前に倒れる男と重なり恐怖を覚えた。
と、視界の端で少女が手を後ろに回したのを見た。
「動かないで!」
さくらは銃を構え、少女の心臓を狙う。
「今後ろに隠したものを床に置いて」
しばらく睨み合うと、諦めたのか少女は銃を床に置いた。
「それでこの男を殺したんだね」
「だから、殺してないって言ってるでしょ!」
先程と同じ質問に、少女は怒声を挙げて答えた。
「殺したんだ」
「殺してない!」
「殺したんだ!」
「殺してないわよ!」
「そうやって、今度はお兄ちゃんを殺すんだ!」
「!?」
286 ◆Qz0e4gvs0s :2007/05/30(水) 17:05:02 ID:2o0lCe8D
「お兄ちゃんを殺す奴は……死んじゃええええええええええええええええええええええ!!」
構えていた銃を撃つ。だが、弾切れだったマガジンは軽い音しか鳴らさなかった。
「!」
地面に置いた銃を取り返そうと手を伸ばす少女。
だが、先に気付いたさくらは空になったマガジンを投げつける。
「痛ッ」
怯んだ隙に銃を蹴り飛ばす。そしてデイパックから予備のマガジンを取り出した。
反撃を諦めた少女は、逃げるため縛ったシーツ握り窓に手を掛け飛び降りる。
だが、鉄柱を縛る結び目はあっさりとほどけ、シーツは少女と共に外に放り出された。
「――ぁ」
そしてそのまま、シーツだけがひらひらと地面に舞っていった。
少女の手は、かろうじて窓の外枠に爪を立てている。



    ◇    ◇    ◇    ◇


287名無しくん、、、好きです。。。:2007/05/30(水) 17:05:19 ID:N5TMHnEP
支援
288 ◆Qz0e4gvs0s :2007/05/30(水) 17:06:12 ID:2o0lCe8D
窓に指をかけ、必死で助けを請う少女に、さくらは困惑していた。
殺すつもりでいた。純一を殺しかねない相手は殺すつもりである。
しかし、いま目の前で泣きながら助けを請う少女が、その決意を揺さぶった。
殺す事が何を意味するのか。さくらはその意味を垣間見ていた。
「いやだ! 帰りたい! 光一……助けてよ光一ぃ」
その言葉にさくらは胸が痛くなる。
(この人も、逢いたい人がいるんだ)
自分も純一に逢いたい。だから、この状況で出るその言葉の意味が理解できた。
そう、こんな時純一はどうするだろう。
常にかったるいと呟く彼は、この状況でどうしただろう。
簡単だ。彼は有無言わず手を伸ばすだろう。
このまま見殺しにするのは、何か大切なものを失う気がした。
さくらは意を決した。
「助けるから!」
「え?」
そう叫ぶと、さくらは少女の左手首を握った。そして、力一杯引っ張る。
「助けて……くれるの?」
「一緒に、探して、欲しい、人が、いるのッ!」
「探す! 何でも手伝うから!」
額に汗を浮かべながら、さくらは懸命に引き続けた。
「お兄ちゃん、純一って、いう、ひと!」
「純一君。あ、あの……私、純一君に会ったの!」
「え?」
思わぬ言葉に一瞬だけ力が抜ける。だが、すぐにまた強く握り締めた。
「お兄ちゃんに、会った、のッ!?」
「あ、朝倉純一君。私が会ったの人がそうなら……会った」
「お兄ちゃん、は、どこ!?」
「そ、それは」
言葉が繋がらない。沈黙が訪れる。
289 ◆Qz0e4gvs0s :2007/05/30(水) 17:07:22 ID:2o0lCe8D



(殺したんだ――違う)
(この女はお兄ちゃんを殺した――違う!)
(じゃあ、あの男はどうなの――あの男?)
(さっきまで追いかけていた男は何で死んだの?――それは……)
(あの女が殺したんだよ――言わないで!)
(それなのに助けるの?――違う! 何か理由があったんだよ! お兄ちゃんだってきっと生きてる!)
(あ〜あ。お兄ちゃん死んじゃった――やめてよ!)



「お兄ちゃん……殺したの?」
その静かな問いに、摩央は動揺を隠せなかった。
「こ、殺してない! 本当よ、殺してなんかいないわ!」
「じゃあ、お兄ちゃんはどこ!?」
「わ、分からない」
「どうして!?」
思わず握った手を強めてしまう。
「ゆ、許して……本当に、本当に殺してないの!? 純一君、走っていっちゃったから!」
「どこに!?」
「そ、そんなの分からないわよ!」
少女は再び泣き出してしまった。そこで、さくらも冷静になる。
(お兄ちゃんは死んでないんだ。この人だってそういったよ)
疑心に陥っていた心が落ち着きを取り戻す。
「……約束して。お兄ちゃんを一緒に探すって」
「する! 一緒に探すって約束するから! お願い、お願いします……ぅぅ」
嗚咽を漏らしながら、少女は必死に懇願する。
290 ◆Qz0e4gvs0s :2007/05/30(水) 17:08:47 ID:2o0lCe8D
(この人を助けたら、お兄ちゃんを探そう。そうだ、殺すだけじゃなく仲間を集めるんだ)
殺さなければ助からないと言う、かつての思いは溶けかかっていた。
(みんなでお兄ちゃんを探して、本当に悪い人から守るんだ)
なぜ初めからそうしなかったのか、自分の行動に呆れてしまう。
(そして……お兄ちゃん)
自然と顔がほころぶ。この少女も好きな人がいるようだ。恋の話が聞けるかもしれない。
だが、その心とは裏腹に『力』は急激に弱まっていった。
浮いていた体が地に落ち、薄れていた両足の痛みが蘇る。
(そんなッ――)
さらに、緊張から汗をかいていたさくらの手は、ずるずると少女から離れ始めていた。
また少女も、指が変色し痛みが堪えられず、力が抜けてしまう。
このままでは、落ちるのは時間の問題だった。
せっかく純一を知るものと会えたのだ、死なせるわけにはいかない。
少女に心配かけまいと、笑顔を作って落ち着かせる。
(そうだ、両手で引っ張れば!)
なぜ今まで気付かなかったのか。さくらは銃を手放すと左手も突き出した。
だがそれが結果的に悪い方向に結びついてしまう。
体勢を変えたさくらに対応できず、少女の指は窓枠を手放してしまう。
そして、汗ばんださくらの手から、少女の手首がゆっくりと抜ける。



――ゆっくりと


――羽のない少女は


――何も理解できずに地面に散った
291名無しくん、、、好きです。。。:2007/05/30(水) 17:09:30 ID:N5TMHnEP
支援
292 ◆Qz0e4gvs0s :2007/05/30(水) 17:10:23 ID:2o0lCe8D




「いやぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
どこかから悲鳴が聞こえる。
さくらは、目の前が真っ白になった。
助けるつもりだった。助けたら一緒に純一を探すつもりだった。
だが現実は少女を地面に叩きつけた。
(どうして最初から両手を差し伸べなかったの?)
心の中で誰かが問いかける。
(本当は殺すつもり? それとも事故? そうじゃなくて自殺かな? でも……)
「違う」
(もう穢れちゃったね)
「あ」
地面に広がる解体図は、なにかを象徴するかのように不気味だった。
自分の手には、まだ少女の温もりがあった。
「ああ」
ふと下を見ると、二人の人間がこちら見ている。いや、睨んでいるのだろう。
その一人が、こちらに向かって何かを叫んでいる。
見られていた。この光景をしっかりと見られていたのだ。
「あ、ああ、ああ」
床に捨てた銃を拾う。そして、窓から飛び立つ。地面でなく、空へ空へと。
「うぁ、ああ。ぁああ」
すぐに思い出せたはずの純一の顔が浮かばない。
泣いても泣いても、大好きな純一が見つからない。
ずっと逢いたいと思っていた純一と自分には、越えられない壁が存在するの事に気付いた。
「―――――――――――――――」
泣きながら、さくらは人を殺した事を受け入れる。
二度と大好きな人に触れられない、穢れた手になった事も。
293 ◆Qz0e4gvs0s :2007/05/30(水) 17:11:26 ID:2o0lCe8D



    ◇    ◇    ◇    ◇



温泉から住宅街を目指していた武と貴子は、予定よりだいぶ遅れて進んでいた。
その理由は、貴子の体力の消耗が激しい事だった。
何度か休憩を挟みながら、ようやく二人は病院まで辿り着いたのだ。
「申し訳ありません。私が体力不足であるばかりに」
「いや、気にする事はないさ。それよりあそこを見てくれ」
「あれは、病院でしょうか」
「地図通りだとそういう事になるな」
「調べていきますか?」
「ん〜」
出来れば無駄な時間は省きたいが、万が一仲間になりそうな人間が居た場合、こちらに加えたい。
悩んだ末、武は病院を軽く見てみる事にした。
「ま、病院なら役立つ備品もあるだろうしな」
「ええ。確かにそうですね」
言葉を交わしながら、二人は病院へと近付いていった。
そこで、誰かの叫び声を耳にする。
「武さん!」
「しっ――」
声を挙げる貴子を制し、武は耳に神経を集中して声の出所を探った。
「……て。お……んを…………て」
「する……って……ら……しま……」
「あっちだ」
貴子も頷くと、武の後に続いて走り出した。
294名無しくん、、、好きです。。。:2007/05/30(水) 17:12:26 ID:N5TMHnEP
支援
295名無しくん、、、好きです。。。:2007/05/30(水) 17:14:36 ID:c3TNSYe2
支援
296代理:2007/05/30(水) 17:59:53 ID:Y6e2JdyK
二人がその場に到着すると、最上階では一人の少女が片手で窓にしがみついていた。
それを、もう一人の少女が助けているように見える。
(え?)
だが次の瞬間、武の予想とは違い建物内にいる少女が相手を突き放したのだ。
「いやぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
隣にいた貴子は、地面に叩きつけられた少女の残骸を見て気絶してしまう。
慌てて支えた武は、建物の中に居る少女に目を奪われた。
(笑って……いるのか!?)
遠目でも分かる。あの少女は、突き飛ばした今も笑顔を浮かべていた。
「ふざけるなぁぁ!」
武が叫んでも、少女は顔色一つ変えずに笑い続けていた。
(どうする。逃げるにしても貴子が気絶しているんじゃ動けない)
だがその心配を他所に、少女は窓から飛び立った。
「なっ!!」
しかし先程と違い、少女は空を飛んでどこかへと飛び去っていった。
「マジかよ……」
居なくなったのは幸いだが、飛んだ事は脅威だった。
もし本当にあの少女が殺し合いに乗っているのならば、非常に危険である。
「ともかく、まずは貴子を休ませるか」
貴子を背負って、武は病院の入り口をくぐっていった。



    ◇    ◇    ◇    ◇
297代理:2007/05/30(水) 18:01:19 ID:Y6e2JdyK
二階の病室に貴子を寝かせ、近くのテーブルに「すぐ戻る」と置手紙を残すと、武は五階へ足を運んだ。
あの少女が飛び立った場所を確認しておくためだ。
駆け足で階段を上り曲がり角を曲がると、そこに一人の男が倒れているのを発見した。
急ぎ足で男のもとに駆け寄る。首に血の跡があるが、幸いな事に呼吸は正常だった。
「おい!」
声をかけるが、男はなかなか目覚めようとはしなかった。
その隣に、デイパックと拡声器。そして鉄扇と銃が無造作に放置されているの見付ける。
それを無言でデイパックにしまうと、武は男を背負って歩き出した。
「うお、重てぇ……男なんか背負ってもうれしかないなぁ」
文句を言いながらも、武は丁寧に二階の貴子と同じ部屋まで運んだ。
そして、部屋から何枚かのシーツを抜き取り、一階へと降りていった。
直前まで経営していたのか、一階の売店には物が豊富に備わっていた。
その中にあった線香と菓子折りを二つを手に取ると、周囲を警戒しながら外に出て行く。
武が向かったのは、突き落とされた少女の所だった。
顔が割れ、ゼリー状の物体が地面を這って蠢いている。
少女の遺体を覆うようにシーツを広げ、その横に菓子折りを置き、ライターで線香に火をつけた。
「俺はアンタと会うのは初めてだけれど、祈られてもらうぜ」
数秒間黙祷を捧げると、その場を後にした。
298代理:2007/05/30(水) 18:02:21 ID:Y6e2JdyK
再び病院内に入ったところで、武はようやくブレーカーが下げられている事に気付く。
ブレーカーはすぐ見つかった。場所は、会計カウンターの少し奥だった。
カウンターを乗り越えブレーカーを上げると、病院が一斉に明るくなる。
「ここは電気が生きてるのか」
周囲を確認する武の目が、ロビーの一点に集中する。
メモを見ると、自分たちと同じように行動している旨が記されていた。
「前原圭一……か」
武は有力な情報が得られた事が嬉しかった。
まだ会った事がないが、この前原圭一という男に親近感を覚える。
「そろそろ時間か」
デイパックに入っている時計を確認する。
あのタカノという女の言った事が事実なら、まもなく定時放送が始まる。
その前に、武は二つの問題を解決しなければならなかった。
(貴子は気絶してるし、あの男も目を覚まさない。放送前に起こしたほうがいいよな)
この問題は難しい事ではない。もう一つの問題がやっかいなのである。
(このまま住宅街にいくべきか。それとも前原圭一に会うため学校か? それとも合流するため神社か?)
悩みに悩んだ末、結局は貴子が目を覚ましてから考える事にした。
299代理:2007/05/30(水) 18:03:48 ID:Y6e2JdyK



【水澤摩央@キミキス 死亡】



【F-6の病院二階/1日目 早朝】


【倉成武@Ever17】
【装備:投げナイフ2本】
【所持品:支給品一式】
ジッポライター、拡声器、ハクオロの鉄扇@うたわれるもの、
麻酔銃(IMI ジェリコ941型)、麻酔薬入り注射器×3 H173入り注射器×3
【状態:やや疲労】
【思考・行動】
1:住宅街へ行き、脱出のための協力者を探す
2:知り合いを探す。 つぐみを最優先
3:金髪の少女(芳乃さくら)をマーダーとして警戒

【厳島貴子@乙女はお姉さまに恋してる】
【装備:投げナイフ2本】
【所持品:支給品一式】
【状態:気絶】
【思考・行動】
1:住宅街へ行き、脱出のための協力者を探す
2:知り合いを探す
3:金髪の少女(芳乃さくら)をマーダーとして警戒
300名無しくん、、、好きです。。。:2007/05/30(水) 18:05:45 ID:N5TMHnEP
支援
301代理:2007/05/30(水) 18:05:50 ID:Y6e2JdyK
【土見稟@SHUFFLE! ON THE STAGE】
【装備:なし】
【所持品:なし】
【状態:気絶】
【思考・行動】
基本方針:参加者全員でゲームから脱出、人を傷つける気はない。
1:さくらを病院から追い出す(予定だった)
2:芳乃さくらから逃げる(予定だった)
3:さくらを撒いてから蟹沢と合流するため病院で待機(予定だった)
4:ネリネ、楓、亜沙の捜索。
5:もう誰も悲しませない。

※シアルートEnd後からやってきました。
【備考】
H173が二本撃たれています。L5の発生時期は次の書き手さんにお任せします。
302代理:2007/05/30(水) 18:07:45 ID:Y6e2JdyK
【F-6の空/1日目 早朝】



【芳乃さくら@D.C.P.S.】
【装備:ミニウージー(残り25/25) 私服(土で汚れています)】
【所持品:支給品一式 なし】
【状態:左足首捻挫、右足首の骨に罅、右足打撲、パニック状態、強い執念(飛行の魔法の根源)】
【思考・行動】
基本方針:環の予知した未来(純一死亡)の阻止。
1:純一に会いたい。けど会えない。
2:純一を探す。
3:純一を殺害しうる相手は容赦なく殺す。

【備考】
※芳乃さくらは枯れないの桜(ゲーム管理者の一人)の力を借りて魔法を行使できます。魔法には以下の制限がついています。

芳乃さくらの強い想いによってのみ魔法は発動します。
強い想いが薄れると魔法の効果は消滅します。
基本的に万能な桜の魔法ですが、制限により効果は影響・範囲ともに大幅に小さくなっています。


※芳乃さくらがどの方向に飛び去ったかは次の書き手さんにお任せします。
303名無しくん、、、好きです。。。:2007/05/30(水) 18:08:04 ID:N5TMHnEP
支援
304名無しくん、、、好きです。。。:2007/05/30(水) 18:08:27 ID:MFPPgdSF
支援
305代理:2007/05/30(水) 18:09:47 ID:Y6e2JdyK
【D-8 海沿い /1日目 早朝】

【蟹沢きぬ@つよきす】
【装備:なし】
【所持品:フカヒレのギャルゲー@つよきす】
【状態:疲労大】
【思考・行動】
1:病院を見つける。
2:稟のことが心配。
3:鷹野に対抗できる武器を探す。
4:レオの事が心配。

【備考】
フカヒレのギャルゲー@つよきす について
プラスチックケースと中のディスクでセットです。
ケースの外側に鮫菅新一と名前が油性ペンで記してあります。
ディスクの内容は不明です。
306 ◆Noo.im0tyw :2007/05/31(木) 23:02:13 ID:ZM1yCMKk
「とにかくこの場から離れなければな……」
仮面の男―――『ハクオロ』は少女―――『神尾観鈴』をお姫様だっこをしつつ思考した。
この放送室から渡り廊下を渡って反対側の館内に行くのは容易なコトだった。
しかし、一抹の不安が残っていたためなかなか行動に移すことが出来なかった。
(反対側に移動しても、結局はあの廊下を渡らなければならない……。それはあの者たちに見つかる可能性が上がってしまう……)
しばらく苦悩するが、ハクオロは決断する。
(とにかく今は、向かい側の校舎に向かうのが先決だろう…。そして、彼らに見つからないためには……)
ハクオロは少女を持ち直し、階段を上り2階の渡り廊下へと向かう。其処についた時、ハクオロはそこから見える景色にまた頭を抱えることになる。
「これは、いったいどういうことなんだ……」
放送を聞き、駆けつけてきたであろう翡翠色の髪を持った少女と、茶髪色をした青年…。たしかにあの時、二人は対峙していた。しかし、今はどうだろう?――青年のほうには、また新たに二人の少女が傍らに立っており、翡翠の少女はあっけに取られた顔で青年のほうを見ていた。

307 ◆Noo.im0tyw :2007/05/31(木) 23:03:28 ID:ZM1yCMKk
(気にしている暇はない…今はとにかく脱出を考えるのだ!)
ハクオロは自分に言い聞かせ、そくさに廊下を渡りきり、目の前にあった部屋に一時身を隠し、少女を隅に隠させる。そこまで終えるとハクオロはようやく一息つく。
(さて、ここからが本番だな……。いったいどうやってここから抜け出そうか…)
ハクオロは目を瞑り思考を開始する。
(あの者たちからできるだけ見つからないようにここから出るためには……そうか!)
ピンっとハクオロが閃く。
「あそこ、あそこから出ている階段からなら……!!」
ハクオロの考えている『階段』。それは、この校舎から門のほうへ向け出ている『非常階段』のことだった。
(あそこを通れば、青年たちから死角になることは間違えない。いや、そう上手くいかない可能性もある…)
常に2手、3手読むことを心がけているハクオロだからこそ、慎重になる。様々なパターンを考え、ついに最良と思われる策を見出す。
「やはり、あの娘にも協力してもらわなければならんか……」
ハクオロがつぶやき、ふと少女のほうを見たときだった。
『――――――――!!』
甲高い音がしたのと同時に、自分の皮膚から血が出ているのがわかった。寝ていたはずの少女の手には先程自分が解明した、『名のわからぬ武器』によく似ていたモノが握られていた。
(血…?私は死んでしまう、の、か……)
最後にみた光景は、身体を震わせながらも自分に近寄ってくる少女の姿だった。




308名無しくん、、、好きです。。。:2007/05/31(木) 23:03:54 ID:hQARScgu
 
309 ◆Noo.im0tyw :2007/05/31(木) 23:05:08 ID:ZM1yCMKk
◇  ◇  ◇




少女が目覚めたところ、そこはどこかの部屋の隅であった。
「アッ……アッ……」
震えそうになる体をどうにか押さえつけ、たぬき寝入りを敢行する。
無力な自分は、こうするしかないと悟った観鈴はただただ嘆いていた。それでも、
(……観鈴ちん、ピンチ!)
なんて思ってられる程、精神が回復できていたのは、観鈴にとって不幸中の幸いであった。

仮面の男に気付かれないように、自分のバックの中身を探る。手の感触から、おはぎのパック以外のものを探す。底の方に手を伸ばすと、何か冷たい金属が手に触れた。
(なんでこんなものがはいってるかなぁ……)
底から持ってきたソレは―――通称『Mk.22』と呼ばれる、消音効果の高い銃であった。
手にしてみてわかる、確かな重み。引き金をひけば、仮面の男は死んでしまうだろう…。
(でも、でも……!!)
一介の女子高生である観鈴にそんなことが出来るはずなかった。現に小刻みに手は震えている以外は、最初の格好となんら変わっていない。しかし、

『…………ならんか』
男が何かつぶやき、ふいにこちらを見たときに、観鈴の精神は一瞬にして崩壊した。張り詰めていた緊張が一気に解き放たれる。―――思考よりもさきに手が動く。
そして、自分が気付いた時には、仮面の男が血を流し倒れているところだった……。
310名無しくん、、、好きです。。。:2007/05/31(木) 23:05:13 ID:awVQ2qxU
支援
311名無しくん、、、好きです。。。:2007/05/31(木) 23:05:45 ID:lTI2aDf9
支援
312 ◆Noo.im0tyw :2007/05/31(木) 23:05:55 ID:ZM1yCMKk

その光景に、ハッとする。泣き出しそうになるのをこらえて、仮面の男に駆け足で近寄る。
「大丈夫ですか…?!」
男の傷は頬にしかなかった。それでも自分は撃ってしまったのだ。拭いきれない後悔が観鈴を襲う。身体を揺すってみるが、男の反応は無く、観鈴を不安にさせた。
「うっ…うっ…往人さん……」
自分ではもうどうしようもなくなり、ここにはいない、自分のもっとも信頼できる人物に助けを求める。
観鈴はただ、気絶しているのか死んでいるのかわからない仮面の男に泣きすがるしかなかった。



◆  ◆  ◆




「ハクオロさーん、ハクオロさーん!!」
どこかで聞いたことのある馴染みの声が聞こえてくる。
最初は誰かわからなかったが、特徴のある声に声の主に気付き、返答する。

「ん? どうしたんだい、エルルゥ?」
自分の大切な家族で、いつも自分のことを気遣ってくれた優しい娘『エルルゥ』。会うのはいつ以来だっただろう…。
実際に離れていた時間は数時間でしかなかったが、今はそれが、何日にも感じた。そんな風に思っている時にエルルゥが言葉を発する。

「今のハクオロさんの状況をどうにかしないと、大変なことになりますよ?」
今の状況といえば、女の子と一緒に放送室にいて確かそれから……と記憶を巡らせる。
そして、思い当たる節がないので、エルルゥに聞くことにした。
「エルルゥ……それはどういうことなんだ?」
「それは…内緒です♪」
返答時間はわずか0.2秒。最初から自分が聞くことをわかっていたかのような反応だった。
「いや、そんな可愛らしく言われても困るんだがな……」
可笑しそうに笑う彼女を見て、ハクオロは頭を抱え呟いた。
313名無しくん、、、好きです。。。:2007/05/31(木) 23:06:13 ID:awVQ2qxU
支援
314名無しくん、、、好きです。。。:2007/05/31(木) 23:08:09 ID:awVQ2qxU
支援
315名無しくん、、、好きです。。。:2007/05/31(木) 23:08:14 ID:lTI2aDf9
支援
316 ◆Noo.im0tyw :2007/05/31(木) 23:08:28 ID:ZM1yCMKk

「とにかく頑張ってください、ハクオロさん。約束なんですから……」
突然、スッ――と表情が硬くなり、その声はいつもより低くなっていた。
その様子に不審を抱くが、エルルゥの横からヒョイっと現れた『彼女』によって思考を止められてしまう。

「主さま、簡単に死んでしまったら許さないですわよ?」
髪を1つに束ねた美女『カルラ』。彼女に会うのも、久しく感じられた…。
「カルラ……お前もいたのか」
「えぇ……不本意ながら。それでもこっちでエルルゥさんと楽しくやってますわ」
楽しくということは酒を飲みまくっているのだろうと、苦笑いする。
「ちなみにこっちって、どっちのことなんだ?」
「それは、秘密ですわ。だけど、いずれ主も気付くことになるでしょう…」
カルラは微笑して答える。ちなみに返答時間はこれまた同じく、0.2秒。
彼女たちは私のことを見抜いているということに改めて気付かせられる。

(やれやれ…心を見透かされるとは皇失格だな…)
と、自分をたしなめる最中に、自分を見つめる1つの視線に気付く。
凛としたその目の持ち主、カルラは先程から何も言わず自分のことをずっと見ていた。
「カルラ……」
吸い込まれそうな瞳に思わず彼女の名前を呼んでしまう。彼女は何か言いたそうにしていた。言いたくて、言いたくて、でも言えなくて――――。
そんな彼女の思考が手に取るようにわかった。どれくらい時がたっただろうか。このまま時がすぎないのも悪くない、そう思った時だった。

317名無しくん、、、好きです。。。:2007/05/31(木) 23:09:42 ID:lTI2aDf9
支援
318名無しくん、、、好きです。。。:2007/05/31(木) 23:09:54 ID:awVQ2qxU
支援
319 ◆Noo.im0tyw :2007/05/31(木) 23:10:19 ID:ZM1yCMKk
「ハクオロさーん!! ちょっと私のこと忘れてませんか〜?」
しまった、と思ったときにはもう遅かった。エルルゥの顔は喜怒哀楽で言えば、『怒』。
しかも、髪は逆立ち、後ろにはメラメラと燃えるオーラ付きだ。
「すっすまない、エルルゥ」
すぐさま謝るが、エルルゥは頬を膨らませ、そっぽを向いている。
カルラに助けを請おうとするが、カルラはクスクスと面白そうに笑って見ているだけだった。
……その後謝り続けた結果、やっと機嫌が直ったのか、エルルゥはこちらに向き直り、しゃべり始める。

「ふんっ、もういいですよ…。とにかくハクオロさんは頑張らなきゃだめですよ? 私たちの家族として、そしてトゥスクルの皇として……」
穏やかな声。いつ聞いても安心できるその声はハクオロの心に染み渡った。
「わかっているさ……」
「安心しました…」
ホッと、胸を撫で下ろすエルルゥ。この子には心配をかけっぱなしだと、自分を咎めていたが、背後で『ドスン』という音が地面に鳴り響きハクオロはハッと振り返る。

「では主さま……あなたはもうすぐ起きますが、今私たちにあった記憶だけ消し去ってもらいますわ」
鉄塊にも見えるその剣をいとも簡単に振り回しながら、カルラは近づいてくる。カルラに気をとられていたが、よく見るとエルルウは鋭利な金属を片手に装備している。
「どうしてそんなことをするんだ…っておい、カルラ!! 剣を振るのをやめろ! それにエルルゥ、その危なっかしい金属は何だ!? 今すぐ捨てるんだ!」
怒気を含ませながら言うが、確実に彼女たちは近づいてくる。

「さようなら主さま……。できることならもう2度と会いたくありませんわ……」
カルラが別れの言葉を捧げつつ、その剣を頭上めがけて振り落とす。
「さようならハクオロさん。ずっとずっと大好きですから……」
一方、エルルゥは持っていた鋭利な金属を全身に向かって投げつけようとしている。
「止めろ、止めるんだ……!!!」
ハクオロは尻餅をつきながらも逃げようとするが、彼女達の攻撃のほうが早かった。カルラの剣は確実にハクオロの頭上に当たり、エルルゥの金属は全身に刺さっていた。
「ああぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!」
絶叫しつつ、目の前が真っ暗になるのを感じた……。



320名無しくん、、、好きです。。。:2007/05/31(木) 23:11:16 ID:awVQ2qxU
支援
321名無しくん、、、好きです。。。:2007/05/31(木) 23:11:21 ID:lTI2aDf9
支援
322 ◆Noo.im0tyw :2007/05/31(木) 23:11:32 ID:ZM1yCMKk
◇  ◇  ◇



『ごめんなさい…ごめんなさい……』

(ん…ここは…?)
目覚めると、少女が私の上で泣きついているのがわかった。
ハクオロは話すために彼女に呼びかけた。
「すまないが、少しそこからどいてくれないか?」
私の声に驚いたのか、少女がパッとその場からどき部屋の隅で私のことを見つめていた。そしてすぐに、
「ごめんなさい、ごめんなさい…」
と、まるでそれしか知らないオウムのようにひたすら謝り続ける。
必死に謝っている様子から察するに、この少女は自分を気絶させたのだろう、と思う。
(しかし、いったいどうやって…?)
ただの少女にどんな力が…、と思考するが、少女の手にある『武器』を見て納得する。
「そうか、これで私を…」
ポツリと呟いたのに少女は反応する。
「すいません、私が銃であなたを撃ってしまったから……」
少女は、まだ隅で怯えながら話す。

323名無しくん、、、好きです。。。:2007/05/31(木) 23:12:35 ID:awVQ2qxU
sien
324名無しくん、、、好きです。。。:2007/05/31(木) 23:13:03 ID:lTI2aDf9
支援
325 ◆Noo.im0tyw :2007/05/31(木) 23:13:06 ID:ZM1yCMKk
(銃…これは銃というのか……)
初めて聞く名前をあの黒い塊とリンクさせる。
「そうか……。少女の力でも人を殺せる武器なんだな」
ハクオロの言葉に少女はキョトンとする。
「銃を知らないんですか……?」
初めて少女からの質問。やっと、落ち着いてくれたと心底ホッとする。
「あぁ……私の国にはこんな武器はなかったからな」
「どこから来たんですか…?」
「トゥスクルというところからだ。私の名はハクオロ、そこの皇だ」
「王様!? すごいっ……」
少女は口に手を当てて絶句しているようだが、目は輝いていた。
「お前の名はなんと言うんだ?」
「神尾観鈴です」
「観鈴…いい名前だ」
「が、がお……」
ハクオロの褒め言葉に観鈴は奇怪な言葉を発し、紅潮する。
「観鈴…君はこのゲームに乗っていない。そうだな?」
ハクオロは念のため確認しておく。
「はい…だからみんなに呼びかけてやめてもらおうと…」
ハクオロは観鈴のことを本当に純真な子だと思った。その純真さ故、危険に晒されていることに気付いてないだけだと。
「なら、結果から言おう。君の呼びかけにこたえたのは、少なくとも私を含め5人。残る2人はこの学校内にいるが、まだ素性が判明していない」
観鈴は黙ってハクオロの話を聞いている。
326名無しくん、、、好きです。。。:2007/05/31(木) 23:13:43 ID:awVQ2qxU
sien
327 ◆Noo.im0tyw :2007/05/31(木) 23:13:48 ID:ZM1yCMKk
「私は、ここからの脱出を一番に考えている。だが、正直彼らに見つかることなく逃げ切るのは難しい。そこでだ、観鈴。君の協力が必要になる。やってくれるか?」
ここで断られたら、脱出案はすべて破棄。もう一度考えることになるんだがな…と思考するが、
「私は、ハクオロさんにすべてを任せます」
と、いう観鈴の返答に満足し、ハクオロは行動に移す。
観鈴の傍にあったマイクに目をむける。スピーカーの音量を最小限にとどめ、尚且つ設定を『校内放送』へと変える。これならば、外へ放送が漏れる音は最小限にとどまるだろう。
そして最後に、観鈴に言って欲しい最大のキーワードを彼女に教える。
観鈴は驚愕の顔をするが、「すごい!」と言いながら興奮していた。そんな様子を微笑ましく思いつつ、ハクオロは作戦を決行する。
「観鈴…はじめるぞ!」
「はい、ハクオロさん!」
目に力を込めて観鈴は返答する。それを確認したハクオロは、スピーカーをONにした――――。


328 ◆Noo.im0tyw :2007/05/31(木) 23:14:44 ID:ZM1yCMKk
◇  ◆  ◇




仮面の人が起きたとき、私は正直、戸惑っていました。
今考えてみると、私はこの人に何もされてないのに、私はあの人を発砲してしまった…。
(が、がお……)
どうしようもない虚しさが、観鈴の胸を締め付ける。それでも、そんな自分を許してくれたあの人を観鈴は信じようと決めた。
(――――だから、私はあの人に名乗った。『私は神尾観鈴です』、と……)
名前を呼ぶことは、相手のことを認識した証。
(往人さんの時もいっぱい時間がかかったけど、仲良くなれた。だからハクオロさんとも…)
単純な考えかもしれない。幼稚だと笑われるかもしれない。でも観鈴にとってそれは唯一無二な答えであった。

簡単な互いの自己紹介の後、ハクオロと共に行動することを決めた観鈴は、彼の行動の手伝い――マイクの準備や、部屋の掃除をすることに決めた。
誰でも出来ることだが今の観鈴は十二分に満足していた。様々な準備が整い、ハクオロからキーワードを教えられる。
(えっ!? でもそれって……)
と、混乱してしまうがハクオロの狙いに気付き興奮する。でもそんな興奮もつかの間、ハクオロの合図と共にスピーカーがONになり放送が開始された―――。



329名無しくん、、、好きです。。。:2007/05/31(木) 23:15:10 ID:lTI2aDf9
支援
330名無しくん、、、好きです。。。:2007/05/31(木) 23:15:19 ID:awVQ2qxU
sien
331 ◆Noo.im0tyw :2007/05/31(木) 23:15:52 ID:ZM1yCMKk
◆  ◇  ◆




『あーぁー。聞こえているか? 私の名はハクオロ。ここにいた少女、神尾観鈴は私が保護した』
校内に十分響く音量かつ、校外にはあまり漏れない音量。ここらへんは流石ハクオロといったところか。

そこまで言うと、観鈴が横から割ってはいる。
『私は大丈夫です。ですから、私の声に反応してくれた方たち、どうか争いをやめて下さい』
観鈴の切実な声がスピーカーを通して響く。

『この通りだ。私たちはお前たちと話し合う機会を求めている。私に賛同してくれるならば、一度、この部屋に集まって欲しい。時刻は3:30まで。それ以降は待たない』
『あ…放送室のことです!』
ハクオロの説明不足を観鈴が補う。
そして、最後に、

『願わくば、お前たちが私と違う道を歩んでいないといいんだがな…』
とポツリと呟き、放送がブツンと切れた―――――。



332 ◆Noo.im0tyw :2007/05/31(木) 23:16:43 ID:ZM1yCMKk
◇  ◇  ◇



ハクオロは観鈴の手を引き、廊下の隅にある扉に向けて走っていた。
扉を開くと目の前に現れる『非常階段』。その階段を一気に下り地面を駆ける。今聞こえる音は、自分たちの足音のみ。――――つまり、作戦は成功したのだ。

「ハクオロさん、あんな嘘ついてよかったんですか?」
息を切らしながら、観鈴はハクオロに質問する。
「構わないさ。嘘も方便というだろう」
にっこり笑いハクオロは観鈴に返答する。
ハクオロのついた嘘は2つ。1つは観鈴に放送中、わざと『放送室』にいるように言ってもらうこと。実際にハクオロたちがいた場所は『講師室』である。そこのマイクを使って放送をしていたのだ。
もう1つは、「3:30まで放送室で待つ」ということ。そもそも敵か味方かいまだに怪しい者を信用する気は初めからハクオロにはなかった。
仮に、あの場にいた青年たちがゲームに乗っていたとする。そうすれば、自分たちを殺しに放送室へと向かってくるであろう。
その隙をついて、この場所から脱出をすれば3階にいる人と2階にいるもの、どちらがより早く校門につくかは小学生でも計算できるだろう。

333 ◆Noo.im0tyw :2007/05/31(木) 23:17:29 ID:ZM1yCMKk

「ハクオロさん、校門です!!」
観鈴が興奮したように話す。
「あぁ! さぁ、ここから脱出して仲間を探すぞ!」
ハクオロもそれに元気よく答える。二人で同時に校門を抜け、そのまま朝日の照らす森の中へと突き進む。そしてしばらく歩んだ所の森の木陰で休むことにした。
「ハクオロさん、ぶいっ!」
嬉しそうに観鈴がピースをしてくる。
「ははは……こうか?」
ハクオロも微笑みながら返した。


―――照らしこむ月光が二人を包み、夜独特の柔らかな空気が流れ込む。時刻は3:00。
まだまだゲームは始まったばかり……。


【D-5 森の中/1日目 深夜】
【ハクオロ@うたわれるもの】
【装備:オボロの刀(×2)@うたわれるもの】
【所持品:支給品一式(他ランダムアイテム不明)、S&W M60 チーフスペシャル(.357マグナム弾5/5)】
【状態:健康・休憩中】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない
1・観鈴とこれからのことを話し合う。
2・エルルゥ、アルルゥをなんとしてでも見つけ出して保護する
3・仲間や同志と合流しタカノたちを倒す
4・観鈴を守る。
【備考】
※校舎の屋上から周辺の地形を把握済み
※中庭にいた青年(双葉恋太郎)と翠髪の少女(時雨亜沙)が観鈴を狙ってやってきたマーダーかもしれないと思っています。
※放送は学校内にのみ響きました。
※銃についてすこし知りました。
334 ◆Noo.im0tyw :2007/05/31(木) 23:18:26 ID:ZM1yCMKk



【神尾観鈴@AIR】
【装備:Mk.22(7/8)】
【所持品:支給品一式、おはぎ@ひぐらしのなく頃に(残り3つ)、Mk.22(7/8)・予備マガジン(40/40)】
【状態:健康・放送中】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない
1・ハクオロと行動する。
2・往人と合流したい
【備考】
※校舎内の施設を把握済み


335名無しくん、、、好きです。。。:2007/05/31(木) 23:20:25 ID:awVQ2qxU
sien
336名無しくん、、、好きです。。。:2007/05/31(木) 23:31:35 ID:lTI2aDf9
乙。聖上死亡回避できたか……あとは、うっかりマーダーに会わなけりゃいいが。
337名無しくん、、、好きです。。。:2007/05/31(木) 23:32:29 ID:lTI2aDf9
乙。聖上死亡回避できたか……あとは、うっかりマーダーに会わなけりゃいいが。
338 ◆Qz0e4gvs0s :2007/06/01(金) 22:37:32 ID:B69P85aY

「う〜〜トイレ! トイレ!」
今トイレを求めて全力疾走している僕は、殺し合いに参加するごく一般的な男の子。
強いて違うところをあげるとすれば泣きっ面に蜂状態なところカナー。
名前は春原陽平。
そんなわけで全力疾走でトイレを目指しているのだ。
ふと隣を見ると、顔を真っ赤にした少女が汚物を見る目でこっちを睨んでる。
ウホッ! なんでこんな事に……



    ◇    ◇    ◇    ◇



「そにれしても、なんでこんな手錠を」
茜は左手についた手錠に目を落とし、大きくため息をつく。そして、腹立たしそうに春原を睨みつける。
「だから、僕のせいじゃないだろ〜……うっ」
睨まれてビクつきつつも、一応反論する春原。だが、その声は小さい。
手錠をはめる事になった原因は自分にあるのだが、理由を言ったらもっと叱られる気がして言えなかった。
第一、それを吐露してしまう事は、せっかく良い雰囲気になってきた瑞穂に軽蔑されてしまう。
だがら、春原は茜の言葉をある程度受けて反省していた。
「まぁ、新市街まで行けば金物屋もあるでしょうから、そうしたら切れますよ」
二人を……主に茜をなだめるように瑞穂はフォローした。
かれこれ歩き始めて数十分。このまま行けば、十分約束の時間に間に合うはずである。
ところが森に入り、少し先に鉄塔が確認できる辺りからペースが落ちてしまった。
その原因は、またもや春原にあった。
いままで軽快に喋りつつ足を進めていたのだが、つい先程から無口になってしまった。
339 ◆Qz0e4gvs0s :2007/06/01(金) 22:39:00 ID:B69P85aY
おまけに、時々立ち止まっては意味不明な体操を始める始末。
最初は小言だけですんでいた茜も、次第に苛立ちが隠せなくなり遂には怒りを爆発させる。
「いい加減にしてよ! さっきから何やってるのよ!?」
「いや……くぅ」
「呻いてちゃ分からないでしょ! ハッキリ言いなさい」
「ま、まぁまぁ茜さん。陽平さんも何か理由があるんですよ。そうですよね?」
噛み付きそうになる茜を抑え、瑞穂は優しく問いかける。
そんな瑞穂の態度に興奮する春原。
(はぁはぁ……瑞穂さん良い匂いだぁ――って違う違う!)
慌てて首を振る。そして、遠慮がちに言葉を発した。
「じ、実はその、と、トイレに行きたい……と言ったら怒りますか?」
「「えぇええ!?」」
二人が同時に声を挙げる。先に我にかえったのは瑞穂だった。
「そ、それは我慢できませんか?」
「け、けっこうキツイです。はい」
「我慢してよ!」
「無理言うなよ! もう最終防衛ラインまで来ちゃってるんだよ!」
「男でしょ! なんとか出来るでしょう!」
「無理だって! お前だってトイレ我慢するのつらいだろ!?」
「女の子にそんな事聞くなぁぁぁぁ!!」
「ちょ、膀胱に暴行はまず、ぼべらッ!!」
「あ、茜さん落ち着いて」
目一杯春原の腹部(膀胱付近)に膝蹴りを放つ。
崩れかかった春原を支え、瑞穂は必死に茜をなだめた。
「茜さん。生理現象ですからここは……」
最初は嫌だと首を横に振っていた茜だったが、瑞穂の説得でしぶしぶ首をふった。
春原ならまだしも、同性(と思い込んでいる)瑞穂の言葉であれば仕方ない。
340名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/01(金) 22:39:59 ID:bAZCPJTQ
支援
341 ◆Qz0e4gvs0s :2007/06/01(金) 22:40:05 ID:B69P85aY
「しょうがないわ。後ろ向いててあげるから、草の陰で早く済ましてよ!」
これが茜の出来る精一杯の妥協だった。
だが、春原は苦笑いを浮かべたままその場に立ち尽くす。
「何してるのよ。これ以上譲歩できないわよ!」
これ以上何を望むと言うのだろうか。茜は顔を真っ赤にして背を向ける。
そんな茜をこれ以上怒らせたくなかったが、そうは言っていられなかった。
「お、おっきいほう……だったりして」
本人としては精一杯可愛く言ったつもりである。
「ふざけるなぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!」



    ◇    ◇    ◇    ◇



赤坂が戻るのを待っていたトウカは、アルルゥの寝顔を見て安心していた。
「アルルゥ殿が無事でよかった。何かあっては、聖上に顔向けできぬ」
あとは、エルルゥにカルラやオボロ、そしてハくオロに合流できればいい。
だが、島の地理に疎いうえ、この鉄柱のように見たこともない建造物もある。
それに、赤坂と戦ったときのような力に制限がかかった状態で戦うのは厳しい。
それらを考慮したうえで、トウカはもう少しこの場所に留まる事に決めた。
「しかし、アカサカ殿は遅いな」
約束の時間からしばらく経つが、未だその影は見えなかった。
他に気配もない。トウカはアルルゥが眠るっているのを微笑ましく見守った。
そして、周囲に誰も居ない事を何度も確認するとアルルゥをギュッと抱きしめた。
「ああ、アルルゥ殿は相変わらず可愛いでござる」
先程まで赤坂と戦っていた時とは全く違う、しまりのない顔だった。


342名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/01(金) 22:41:04 ID:bAZCPJTQ
支援
343 ◆Qz0e4gvs0s :2007/06/01(金) 22:41:28 ID:B69P85aY
アルルゥが目を覚ますと、周囲にはトウカ一人しか居なかった。
疲れているのか、アルルゥの袖を掴みながら寝息を立てている。
「?」
辺りを見渡すが、大好きな父が居ない。レオやアカサカもいない。
無意識のうちに三人を探すため立ち上がった。
寝ているトウカを起こさないように、アルルゥはそっと駆け出した。
しばらく走っていると、向こうの茂みから話し声が聞こえてきた。
父かもしれないと思ったアルルゥは、急ぎ足で近付く。
そして、三人の顔がしっかり判別できる辺りまできた。
どうやら、父ではないようだ。それでも、アルルゥは興味を惹かれたのか三人をジッと観察する。
特に、長髪の女の人がどことなく気になっていた。
「ふざけるなぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!」
突然の大声に驚いてしまう。その拍子に、隠れていた茂みを揺らしてしまった。
「誰ですか?」
長髪の女の人と目が合う。人見知りの激しいアルルゥだったが、女の優しい目に逃げるのをやめる。
「なんだこのチビ」
だが、突然現れた変な男に驚き、アルルゥは一目散に逃げ出してしまう。
「あっ」
「ちょ、何怖がらせてるんですか!?」
「な、何もしてないって! いやマジで! やめ、ぎゃぁああああああああああ!!」
「私、あの子を追いかけます。しばらくして戻らなかったら、新市街で落ち合いましょう」
「集合場所は!?」
「確か、博物館があったはずです! そこで」
「分かりました!?」
三人の声を背に受け、アルルゥは走り続けていた。
「待って!」
誰かが追いかけてくる。後ろを振り返る余裕がないアルルゥは、ひたすら走り続けた。
344名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/01(金) 22:41:53 ID:bAZCPJTQ
支援
345 ◆Qz0e4gvs0s :2007/06/01(金) 22:42:57 ID:B69P85aY



    ◇    ◇    ◇    ◇



叫び声で目が覚めたトウカは、隣からアルルゥが消えた事にショックを受けていた。
「あ、ああ、アルルゥ殿ーーーー!!」
呼びかけてみるが、返事は返ってこなかった。
「もしや先程の悲鳴は!」
真っ青になり、剣を片手に悲鳴のした方へ駆け出す。
(某とした事が、アルルゥ殿の抱き心地が良すぎて眠ってしまうとはッ)
人の気配がないか必死で探り当てる。と、前方に二人の気配を感知できた。
もしアルルゥが襲われていたならば一大事である。
確認する前に、トウカは二人の前に飛び出した。
「某、エヴェンクルガがトウカと申す! アルルゥ殿はどこにおられる!」
「は!?」
トウカの突然の登場に目を丸くした少女。もう一人は、股間を抑えて前屈みになっていた。
「アルルゥ殿をどこにやった!」
「いえ、いったい何の事だか」
「とぼけるな! 先程の悲鳴はアルルゥ殿に違いない!」
「いや、アレは――」
「言わぬと言うなら……斬る」
腰に備えた剣を抜き去り、相手に向け構える。
「だから、私達そんな人知らないって」
「問答無用!」
「場所を教えて欲しかったらその子を斬るな……って僕狙ってたのかよ!」
飛び掛るトウカは、背を向ける春原に剣を振り上げた。
だが、春原の叫んだ言葉に最後まで剣を振るうのを止める。
体に触れるギリギリ振るった剣は、春原の制服の背中を真っ二つにしていた。
「ちょっと待てぇぇぇぇ! 最後まで振ってるじゃないか! 嘘つくなぁぁ!!」
346名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/01(金) 22:43:13 ID:bAZCPJTQ
支援
347 ◆Qz0e4gvs0s :2007/06/01(金) 22:44:22 ID:B69P85aY



    ◇    ◇    ◇    ◇


制服の背中が斬られ、春原の逞しくない尻と背中の一部は風に晒されていた。
ズボンも股間の部分が左右に切断されており、手で抑えないとずり落ちてしまう。
「やべ、お腹の痛みが尋常じゃなくなってきた」
「アルルゥ殿はどこだ!」
「そ、その前に、えーと、あ、ぼ、僕らを攻撃しないって約束しろ! いや、して下さい。」
「良いだろう……だが、事と次第によっては斬る」
(約束になってねーーよ!!)
心の中で突っ込みながら、春原は慎重に喋りだした。
「アルルゥって奴は、えと……」
「私達の仲間が保護しています」
しどろもどろに答える春原に代わり、茜が言葉を続けた。
「すぐに会わせたいですが、場所が離れているため今すぐとは言えません」
「そうだったか。ならば、案内してもらいたい」
「ぶっぃえっくしょん!」
「いえ。私達も探している人物がいます。それが終わるまでは合流できません」
「むぅ。だがなぜお主らがアルルゥ殿を」
「う、今度は腹がキリキリしてきた」
「こちらに走ってきたのを保護したんです」
「なるほど」
「つーか、痛みを通り越して快感になりつつある、って違う! 違う!」
「……その代わり、その仲間の場所をお教えします。それならば自分で会いに行けるでしょう」
「おお!」
「地図は持っていま――」
「いてぇ、マジでいてぇ」
「春原さん、黙ってて!」
「は、はひぃ」
348名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/01(金) 22:44:28 ID:bAZCPJTQ
支援
349 ◆Qz0e4gvs0s :2007/06/01(金) 22:45:50 ID:B69P85aY
凄みを効かせた茜の眼に、春原は沈黙してしまう。
「すまぬが、地図は置いてきてしまった。暫し待って頂きたい」
「分かりました。ここで待っていますのでお早めに」
「かたじけない! それと、いきなり斬りかかってすまなかった!」
礼を言うと、トウカと名乗る女は前の道を戻っていった。
それを見送った茜は、緊張を解いて座り込んだ。
「はぁ〜。何とかなった」
「ま、僕の機転の利いた発言がなければやばかったよね……主に僕が」
別の意味で座り込んでいた春原が自慢げに語りだす。
「ま、その後しどろもどろになって危なかったけどね」
「ふゅ〜ふゅ〜」
トウカと違い、春原には敬語を使わない。
刺すような視線から目を逸らし、下手くそな口笛を吹く。
「でも、騙すみたいでなんだか悪い気がするわね」
「何だよ〜。斬りかかって来たのはあっちなんだぜ。僕達は何も悪くないさ」
「それはそうだけど」
「もうさ、お仕置きついでに二度と会わないよう、一番端っこの方に向かわせようぜ」
「良いのかな」
「いいっていいって! あの女。中身はうっかりしてそうだから、疑わずに目指すぜ。うへへ」
「あ」
茜の顔が失敗したという表情を浮かべる。その視線の先には。
「く、く、く、く」
地図を取りに戻ったはずのトウカが剣を構えて仁王立ちしていた。
「げぇ!」
「クケーーー!!」
怒りを露に切りかかってきた。
「おわ、なんでもう戻って来るんだよ!」
「どうせならここで地図を見せてもらおうと思ったのだが、戻ってきて正解でござった!」
ゆっくりと切っ先を春原に向ける。背を向けて走り出す二人。
「某を謀った報いを受けよ! きえぇぇぇええええええええ!!」
350 ◆Qz0e4gvs0s :2007/06/01(金) 22:47:04 ID:B69P85aY


『イャッホォォォオゥ! 国崎最高!!』


国崎最高ボタンを取り出した茜は、躊躇せずボタンを叩いた。
その音声に驚いたトウカの手元は狂い、こちらを向いた春原を斬るつもりが紙一重で避けられてしまう。
素人にしては反応が良かったが、完全に避け切れなかったため、春原の「あるもの」が切れてしまう。
同時に、強い突風が吹いて「何か」が遥か彼方へ飛び去っていく。
「い、い、い」
茜が目を背ける。
「!!」
斬ったトウカ自身も、突然現れた「それ」にショックを受ける。
「へ? あれ?」
ただ一人反応が遅れた春原は、自分自身を見下ろす。


どこも怪我していない。どこも斬れてない。うん。

でも、何か大切なものが無いような……

改めて自分を見下ろす。確かに無事だ。こうして肉眼でみても素肌は無事。あれ?

確かに無事である。何度見ても無事である。そう……生まれたままのその姿は無事だった。



「って、僕の服がねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええええ!!」
351名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/01(金) 22:47:08 ID:bAZCPJTQ
支援
352名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/01(金) 22:48:20 ID:bAZCPJTQ
支援
353 ◆Qz0e4gvs0s :2007/06/01(金) 22:50:25 ID:B69P85aY
最初に前を斬られ、先程後ろを斬られた春原の制服は、繋ぎ目を失い風に飛ばされてしまった。
今や春原を守るのは、手錠と靴だけであった。立派な露出狂である。
「あ、茜さん?」
「いやぁぁぁぁあああ!! そんな汚いものをこっち向けないで!」
「ちょ」
今度はトウカの方に正面向く。
「ど、どうしてくれるんすか!?」
「ひ、ひぃ」
全裸の春原は、股間を隠さずトウカに近寄る。それにあわせて、トウカはあとずさる。
「なあ!」
「く、来るな!」
「来るなってアンタ!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁんんんんんんんんんん!!」
そしてそのまま、踵を返して去っていってしまった。
「あ、あれ……はぅッ!!」
自ら立ち去ったのはありがたかったが、何か釈然としない。
と、思い出したように地面に座り込む。つられて引っ張られた茜が嫌そうに目を向ける。
「どうしたの? あッ」
腹部と尻を押さえ、大量の脂汗をかく春原を見て嫌な事を思い出した。
この男は、追われる前に重大な事を言っていた気がする。
「そ、そろそろ限界」
「待って、こんな所で嫌!」
「も、漏れる……も、ぁ」
「走るわよ! 早く!」
「アッー!!」
二人はひたすら走った。立ち止まったら悲惨な事が起こる。
もしこんな姿を警察に見られたら、ひとたまりもないだろう。
被害者である茜が一番不憫であるが、隣の全裸男に文句を言う気にはなれない。
もっとも、近くにいた本物の刑事はそんな二人に気付く事無く同じ方向を目指していた。
距離にして1km。開けたところでない森の中では、お互いを気付く事はなかった。
354名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/01(金) 22:51:26 ID:bAZCPJTQ
支援
355 ◆Qz0e4gvs0s :2007/06/01(金) 22:52:08 ID:B69P85aY




「う〜〜トイレ! トイレ!」
今トイレを求めて全力疾走している僕は、殺し合いに参加するごく一般的な男の子。
強いて違うところをあげるとすれば生まれたままの状態なところカナー。
名前は春原陽平。
そんなわけで全力疾走でトイレを目指しているのだ。
ふと隣を見ると、顔を真っ赤にした少女が汚物を見る目でこっちを睨んでる。
アッー! これが事の顛末さ……






【B-4の森の出口/1日目 早朝】

356名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/01(金) 22:52:13 ID:bAZCPJTQ
支援
357名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/01(金) 22:53:01 ID:bAZCPJTQ
支援
358代理投下:2007/06/01(金) 23:27:08 ID:07m6T7RI
【春原陽平@CLANNAD】
【装備:投げナイフ2本】
【所持品:支給品一式 ipod(岡崎のラップ以外にもなにか入ってるかも……?)】
【状態:全裸、瑞穂に一目惚れ、生理現象緊急指令発令中】
【思考・行動】
0:トイレを求めて全力疾走
1:手錠をどうにかしたい
2:衣類を手に入れたい
3:新市街へ行き、脱出のための協力者を探す
4:瑞穂を守る。
5:瑞穂と合流したい。
6:知り合いを探す
【備考】
右手首に手錠がかかっており、茜とつながれています
手錠の鎖は投げナイフ程度の刃物では切れない。銃ならたぶん大丈夫
瑞穂が自分に好意を持ってると誤解
現在靴を除いて全裸です

【涼宮茜@君が望む永遠】
【装備:国崎最高ボタン、投げナイフ2本】
【所持品:支給品一式、手製の廃坑内部の地図(全体の2〜3割ほど完成)】
【状態:健康 精神的に多大なダメージ】
【思考・行動】
1:手錠をどうにかしたい
2:春原をトイレにぶち込みたい
2:新市街へ行き、脱出のための協力者を探す
3:知り合いを探す
【備考】
左手首に手錠がかかっており、陽平とつながれています
手錠の鎖は投げナイフ程度の刃物では切れない。銃ならたぶん大丈夫
359代理投下:2007/06/01(金) 23:27:49 ID:07m6T7RI


【赤坂衛@ひぐらしのなく頃に】
【装備:デリホウライのトンファー@うたわれるもの】
【所持品:支給品一式、椅子@SHUFFLE!】
【状態:トウカとの戦闘による疲労、左腿に怪我、首筋に軽い傷】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない。
1:対馬レオを連れ戻す。
2:1が達成次第、トウカとアルルゥの元に戻って一緒に人が集まりそうな場所に行く。
3:1が達成できなかった場合、昼の12時に神社へ向かう。
4:大石さんと合流したい。
5:梨花ちゃんが自分の知っている古手梨花かどうか確かめる。
360代理投下:2007/06/01(金) 23:28:56 ID:07m6T7RI
【B-5 森の中/1日目 黎明】


【トウカ@うたわれるもの 散りゆくものへの子守唄】
【装備:舞の剣@Kanon】
【所持品:支給品一式、不明支給品0〜2(本人確認済み)、スペツナズナイフの柄】
【状態:精神的疲労】
【思考・行動】
基本:殺し合いはしないが、襲ってくる者は容赦せず斬る
1:アルルゥを探し出す
2:アルルゥを探すが、見つからない場合は一度昼の12時に神社へ向かう
3:ハクオロ、エルルゥと早急に合流し守る
4:オボロ、カルラと合流、協力しハクオロ等を守る
5:先程の二人組から情報を得る
6:次に蟹沢きぬと出会ったら真偽を問いただす
【備考】
蟹沢きぬが殺し合いに乗っていると疑っています
舞の剣は少々刃こぼれしています
春原の全裸を見てショックを受けています
361代理投下:2007/06/01(金) 23:40:05 ID:07m6T7RI
    ◇    ◇    ◇    ◇



瑞穂と少女の追いかけっこは、吊り橋まで来たところでようやく終わりを迎えた。
「待ってくれたのかしら?」
少女の目線まで屈んで、相手を警戒させないように微笑んだ。
「ね、大丈夫だから」
その言葉に、少女は逃げようか迷っていた動きを止める。そして、距離をとったままジッと瑞穂を見ていた。
飛び掛れば捕まえられない距離ではないが、そんな事をすれば少女が吊り橋から落ちかねない。
なにより、そんな乱暴な真似をしてまで追いかけようとは思わなかった。
「お話をしましょう。私は宮小路瑞穂と申します。よろしければ、お名前教えていただけるかしら?」
「ん……アルルゥ」
「アルルゥちゃん。良かったら近くでお話しませんか?」
「ん〜」
しばらく悩んだ末。一歩前進しアルルゥは少しずつ喋りだした。
「おとーさん」
「え?」
「おとーさんとおねーちゃん探してる」
「アルルゥちゃんの?」
瑞穂の問いかけに元気良く頷く。
362代理投下:2007/06/01(金) 23:43:49 ID:07m6T7RI
「あと、アカサカとレオも探してる」
「アカサカにレオ。その二人はアルルゥちゃんの家族かしら?」
今度は首を横に振る。
「いいひと」
「いいひとなのね」
「んふぅ〜」
屈託なく笑うアルルゥに、瑞穂は安らぎを覚えていた。
「良かったら、私にお手伝いをさせて貰えないかしら?」
「?」
「アルルゥちゃんのお父さんとお姉ちゃん、それとアカサカさんとレオさん。一緒に探して良いかしら」
「いい!」
その言葉に、アルルゥは元気良く答えた。
「それじゃあ」
そういって瑞穂は手を差し出した。おそるおそる、だがしっかりと手を伸ばすアルルゥ。
「よろしくねアルルゥちゃん」
「ん。ミズホおねーちゃん良い匂い〜」
握ったまま、アルルゥは瑞穂の胸に飛び込んだ。そんなアルルゥを、瑞穂は優しく抱きしめる。
昇りつつある朝日が、二人の姿を輝かせていた。
363代理投下:2007/06/01(金) 23:45:28 ID:07m6T7RI


【C-6吊り橋/1日目 早朝】

【宮小路瑞穂@乙女はお姉さまに恋してる】
【装備:投げナイフ2本】
【所持品:支給品一式】
【状態:健康】
【思考・行動】
1:新市街へ行き、脱出のための協力者を探す
2:アルルゥを守る
3:アルルゥの家族、それとアカサカとレオを探す
3:知り合いを探す
【備考】陽平には男であることを隠し続けることにしました。
     アルルゥにも男性である事は話していません。 他の人に対してどうするかはお任せ


【アルルゥ@うたわれるもの】
【装備:なし】
【所持品:支給品一式(コンパス、時計、ランタン以外)、ベネリM3の予備弾(12番ゲージ弾)×35】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない。
1:瑞穂と一緒にいる
2:おとーさんやおねーちゃんたちと合流したい
【備考】
※状況をあまり把握してませんが、赤坂とレオ、瑞穂のことは仲間だと認識しました
364それぞれの失敗? ◆56WIlY28/s :2007/06/02(土) 20:44:36 ID:MWuau8Rq
「……俺としたことが…………」
 新市街の外れ、廃アパート群が建ち並ぶ道を歩きながら杉並はそう口にした。
 あれから、自身が追っていた少女を引き続き捜索したが、自身の持つ探知機は何の反応も示すこともなかった。
 杉並らしくもない僅かな油断から生じてしまった完全なるミスであった。
(考えろ。考えるのだ俺。俺があの女を見失ったのは今から数十分ほど前だ。
 ならば、俺が見失った後に女が選んだ移動先として考えられる可能性は少なくとも二つ…………
 ひとつは市街を出て森に向かったという可能性。もうひとつは、急きょルートを変えて市街の別の場所へ移動したという可能性だ。
 さて……俺はどちらの可能性に賭ける…………?)


 ■


 あの後、二見瑛理子と鳴海孝之の二人は博物館の中に身を潜めることにした。
 先ほどの惨劇が生じた場所から距離はそう離れてはいないが、大きく、そして広いこの建物は身を隠すならばそう悪くはない場所であったからだ。
 それに、ここを選んだ理由はもうひとつあった。少なくとも瑛理子には……

「な、なあ! 今すぐさっきの所に引き返そう! そう遠く離れた距離じゃないし、双樹ちゃんを助けに行けるはずだろ!?」
「…………ッ!」
 背後からうるさく声をかけてくる少年に瑛理子は軽く鋭い眼を向けた。
 そう。もうひとつの理由とは、鳴海孝之――この男と一刻も早く別行動を取りたいということであった。
 あの時――あの場から引っ張り出してきた時の孝之は自身の呼びかけにも答えず、ただブツブツと何かを呟くばかり。
 ――それなのに、この博物館についたら急に一変して瑛理子に意見を言い続けているのである。それも一方的に。
 その内容も今瑛理子に言ったこととほぼ同じ――先ほどの場所に引き返そうだの、双樹を助けに行こうだのというものばかりだった。
365名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/02(土) 20:46:29 ID:rvQuwLqo
支援
366それぞれの失敗? ◆56WIlY28/s :2007/06/02(土) 20:46:48 ID:MWuau8Rq
「そんなに行きたければ貴方だけで行けばいいでしょう!」
 さっきと同じ――この博物館に来てから言うのはすでに何度目になったか分らない言葉で言い返す瑛理子。
 だが、それに対する孝之の返答もまた先ほどと同じで――
「で、でもさ……あそこにはまださっきの殺し合いに乗ってしまった女の子たちがいるかもしれないんだよ!? 俺一人で行くなんて無理だよ……!!」
 ――これである。
 すでに孝之に対する瑛理子の感情は苛立ちを通り越して呆れてしまっていた。
 まあ、大の男――それも銃を持って装備も今のところ何の問題もない男が、自分が言いたい事ばかり言っておきながら実際はとんでもない弱腰なのだから当然といえば当然である。
(なんて情けない…………)
 その言葉は孝之に対するものなのか、それともそんな男と未だに共にいる自分に対してのものなのかは瑛理子自身にも分からなかった。

(……銃……?)
 だがその時、瑛理子はふとあることを思いつき、すぐさま孝之の方に振り返る。
「ねえ!」
「な、なんだよ!?」
 突然真剣な振り返ってきた瑛理子に孝之は思わずビクリとしてしまう。
「あなたの持っているその銃って本物?」
「え? ……これ?」
 そう言いながらベルトに差していたトカレフを手に取る孝之。
「それ以外のどこに銃があるっていうのよ?」
「そ、そういえばまだ調べてなかったな……。これもともと双樹ちゃんから貸してもらったものだし……」
「――ちょっと貸してみて。調べてみる」
「えっ? わかるの?」
「分かるわけ無いでしょ。見ての通り、私だって普通の女子高生なんだから。――ただ、マガジンの中に入っている弾が実弾かどうかを調べるだけよ」
「あ……そ、そうか……」
 納得したのか、孝之は次の瞬間にはトカレフを瑛理子に渡していた。


 ――それが失敗であった。
 いや、瑛理子のことを勝手に仲間だと決め付けてしまっていたことが孝之にとって最大の失敗だったのかもしれない。
367それぞれの失敗? ◆56WIlY28/s :2007/06/02(土) 20:47:30 ID:MWuau8Rq
「……これは……実弾?」
 トカレフからマガジンを抜き取り、その中に入っていた弾を一発取り出すと瑛理子は呟いた。
 さすがの瑛理子も実弾というものを見るのは初めてであった。もちろん本物の銃もだが。
「……となると、一応この銃は本物ってことね」
「じゃ、じゃあ、充分武器として使えるってワケだね!?」
 どこか嬉しそうに孝之は瑛理子に尋ねる。
「ええ……。そういうことになるわね…………」
 瑛理子は右から左に受け流すようにその問いにさらりと答えると、弾をマガジンに戻し、マガジンを銃に入れた。
 そして…………


「だから……あなたにはもう用はないわ」
 その銃口を孝之へと向けた。
「!? な、なに言ってるんだ!? それに、何の真似だよ!?
 さっきあんたは俺を助けてくれたじゃないか!? あんたは殺し合いに乗っていないんじゃないのか!?」
 慌てて瑛理子に対してそう言いう孝之の表情には間違いなく『恐怖』というものが浮かび上がっていた。
「――確かに、私は今のところ殺し合いには乗ってはいないわ。――だけど、他人を助けるというのは別よ。
 さっきあなたを助けたのはちょっとした気まぐれに過ぎない。それなのに仲間だなんて思われるのは御免だわ……」
「…………っ!」
 銃口をずいっと孝之の方へと押し付ける瑛理子。その先には孝之の眉間があった。
 銃が本物であった以上、この距離から撃てば孝之の顔に風穴が開くのは明白であろう。
「それに、仮に私が仲間を探していたとしても、あなたみたいな人は絶対に仲間にしないし、すぐに切り捨てるわ。
 あなたみたいな人が一人でもいると、あなた自身ではなく周りの人たちに被害が出る。
 思い返してみなさいよ、さっきあの女の子に襲われていたとき、あなたは何をしていたかをね……!」
 そう言うと瑛理子はさらに銃口を孝之に近づける。
 ――ついに、銃口が孝之の眉間とぴったりと密着した。
「ひっ……!? ひいぃぃぃ……!」
「だから…………さっさと残りの自分の荷物を持ってさっさとどこかに消えなさい!!」
368それぞれの失敗? ◆56WIlY28/s :2007/06/02(土) 20:48:20 ID:MWuau8Rq

 ――ズガンという一発の銃声が博物館に響き渡った。


「うわああああああああああああああああああああっ!!」
 その音が響き渡るのと同時に、孝之は近くに置いてあったデイパックのひとつを慌てて拾い上げ、博物館から大急ぎで去っていった。
 ――いや、こういう場合『逃げ出した』と言ったほうが正しいだろう。

「…………はあ……」
 孝之が去ったのを確認すると、瑛理子はその場にゆっくりと腰を下ろした。
(疲れたわね……いろいろと…………)
 そう思いながら博物館の天井へと目を向ける瑛理子。天井には一発の銃弾で生まれた穴が開いていた。
 瑛理子が銃の引き金を引く瞬間、とっさに銃口の先を孝之の眉間から天井に変えたため出来たものだ。
「さて、とりあえず銃も手に入ったからそう簡単にはやられることもなくなったでしょうけど、油断は出来ないわね……
 気を取り直してこれから先の行動を考え…………っ!?」
 そう言いながら近くに置いてあった自分のであろうデイパックを手に取り、それを開いた瑛理子だったが、次の瞬間、その顔に『驚愕』という表情が浮かんだ。
 なぜなら、デイパックの中にはノートパソコンではなく、ブロッコリーとカリフラワー、そして空の鍋におたまだったからだ。
「……あの馬鹿、人のデイパック間違えて持っていったわね…………」
 いくら慌てていたとはいえ、自分のデイパックくらい覚えていてほしいものだと思いながら、瑛理子は一度はあ、とため息をついた。
 ――いや、孝之を慌てさせたのは自分自身であるのだからそう文句も言えたものではないことぐらい自分でも分かっていたのだが…………


「…………」
 それから終始無言であった瑛理子だったが、ふとあることに気がつき口を開いた。
「あ……。そういえば、あいつに私の名前言うの忘れた………………ま、いっか」
369名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/02(土) 20:48:53 ID:rvQuwLqo
支援
370それぞれの失敗? ◆56WIlY28/s :2007/06/02(土) 20:49:02 ID:MWuau8Rq
 ■


「……日が出てきたようだな」
 右手には鉄パイプ、左手には探知機を持って市外の一角を杉並は歩いていた。
 彼は考えた末、森林地帯には行かず市外に残るという選択を選んだ。
 市外なら参加者も多く集まる可能性がある以上、殺し合いに乗ったネリネがそれを狙って市外に残っているという可能性の方が高いと判断したからだ。
「……それに、いつまでもあの女ばかりを追うわけにもいかんしな」
 そう自分に言い聞かせていると、突然探知機にふたつの反応が現れた。
「!? 他の参加者、あの女か!?」
 すぐさま探知機に目を向ける杉並であったが、反応はその場からピクリとも動いている様子はなかった。
(? どういうことだ?)
 不思議に思う杉並だったが、次の瞬間、探知機に新たな反応があったため、思考は中断させられる。
「もうひとつ反応!? しかも今度の奴は……」
 探知機に映し出されたもうひとつの反応はなかなかのスピードでこちらに向かって接近してきているようだった。
 まずいと思った杉並はすぐに近くの民家の塀をよじ登り身を隠した。殺し合いに乗っている者であった場合、今の自分にはろくな武器がないからだ。

 杉並が身を隠してしばらくすると、彼の視界には一人の少年の姿が映った。



「はっ……はあっ……!」
 ――鳴海孝之は走っていた。いや、『逃げていた』といっても間違いはないかもしれない。
 彼は今、大急ぎである場所へと向かっていた。
 先ほどの惨劇が起きた現場――双樹とレナが音夢に殺害されたあの場所へと――――
 悲しいことに、彼は未だに白鐘双樹は生きていると思っていたのだった。彼女の最期をその目に焼き付けておきながら…………
371名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/02(土) 20:49:56 ID:rvQuwLqo
支援
372それぞれの失敗? ◆56WIlY28/s :2007/06/02(土) 20:51:11 ID:MWuau8Rq
「…………どうやら、どこかへと向かおうとしているようだな。
 となると……殺し合いに乗っているという可能性は低い…………後を付けてみるか……」
 孝之が通り過ぎていった後、塀をよじ登りながら杉並はそう判断した。
 探知機が示すところによると、あの少年の走っていった方角は未だに何の反応も示さないふたつの反応がある方向と同じであったからだ。


 ――杉並は知らない。そのふたつの反応とは朝倉音夢に殺害され、既に骸と化した少女たちのものであるなど…………
 そして孝之は知らない。自分の後を追跡する一人の少年がいるということを…………


【B-3南東 新市街 1日目 早朝】

【鳴海孝之@君が望む永遠】
【装備:無し】
【所持品:支給品一式 ノートパソコン(六時間/六時間) ハリセン】
【状態:混乱】
【思考・行動】
1)双樹は本当に死んでしまった!? いや、そんな訳あるはずない……
2)瑛理子(名前は知らない)は仲間じゃなかったのか!? いや、そんなはずは……
3)死にたくない
373名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/02(土) 20:52:16 ID:rvQuwLqo
支援
374それぞれの失敗? ◆56WIlY28/s :2007/06/02(土) 20:54:51 ID:MWuau8Rq
【杉並@D.C.P.S.】
【装備:鉄パイプ、首輪探知レーダー】
【所持品:支給品一式】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本:主な目的は情報収集
1)他者と行動を共にするつもりは現状無い。だが朝倉に遭遇したらその時は共に行動する。
2)孝之(名前は知らない)を追跡し、情報を集める。
3)探知機に示されているふたつの反応が気になる。
4)各種施設を回りつつ、他者を見張る。
5)何がなんでも生き残り、あらゆる不思議を解明したい。
6)ネリネ(名前は知らない)のことは一時保留。
【備考】
・レーダーは半径500mまでの作動している首輪を探知可能。爆破された首輪は探知不可。
・古手梨花を要注意人物・ネリネを危険人物と判断(共に容姿のみの情報。名前は知らない)。


 ■


「……日が出てきたみたいね」
 博物館の外に出た瑛理子は、デイパックから地図を取り出して開いた。
「――役所の方に戻るのも何だし、別の場所に行くこうかしら。まずは東のほうから……」
 そう言って瑛理子は地図をしまうと、代わりにコンパスを取り出して歩き出した。
 もちろん、万一に備えて銃はいつでも取り出せるようにスカートの腰部に差し込んでおくことも忘れずに…………
375名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/02(土) 20:55:51 ID:rvQuwLqo
支援
376それぞれの失敗? ◆56WIlY28/s :2007/06/02(土) 20:57:48 ID:MWuau8Rq
【C-3 博物館 1日目 早朝】

【二見瑛理子@キミキス】
【装備:トカレフTT33 8/8+1】
【所持品:支給品一式 ブロッコリー&カリフラワー@ひぐらしのなく頃に祭 空鍋&おたまセット@SHUFFLE! ON THE STAGE】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本:殺し合いに乗らず、首輪解除とタカノの情報を集める。
1)とりあえず東に向かう。
2)仮に仲間を作り、行動を共にする場合、しっかりした状況判断が出来る者、冷静な行動が出来る者などと行動したい。
3)(2の追記)ただし、鳴海孝之のように錯乱している者や、足手まといになりそうな者とは出来れば行動したくない。
4)鳴海孝之には出来れば二度と出会いたくない。
377オンリーワン ◆7NffU3G94s :2007/06/03(日) 14:50:03 ID:w3a6KoXD
辺りの景色が大分肉眼でも判断しやすくなっていた、それは太陽の光がこちら側に当たり始めたからだろう。
目立たない茂みの奥で、鉄乙女は自分の膝に頭を預け熟睡する少女の頭を静かに撫でた。
余程緊張していたのだろう、あどけないその寝顔に見える疲労の色に乙女の胸が微かに痛む。

「ん〜……ゆういち、く〜ん……」

むにゃむにゃと口を動かす様が可愛らしい。
ふと、この幼い少女の顔立ちから連想された蟹沢きぬの姿が、乙女の脳裏に浮かび上がった。

(蟹沢は大丈夫だろうか、変な物食べてはいないだろうか……)

テンションの高いきぬの明るさが恋しくなる、大事な弟分である対馬レオやその他面々のことも気にかかり乙女の心中は複雑であった。
あれから辺りを少し探索した乙女だが、森に入ったところで目をしょぼつかせる少女の体力を気遣ってか今はこうして隠れるように休憩を取っていた。
少女、月宮あゆの幼い体つきはこの過酷になるであろうロワイアルの中で果たしてどこまで持つのか。乙女の不安は尽きなかった。
……年齢的には、あゆも乙女とほぼ同年代なのだが、さすがの乙女もそれを察することはできないようである。





あゆが目覚めたのはそれからすぐのことだった。
自分だけ惰眠を貪ってしまったことに対しひたすら頭を下げるあゆに笑みを浮かべながら、乙女はどこへ向かうかをコンパスと地図を取り出し確認しだす。
乙女とあゆが出会った草原地帯から、二人は真っ直ぐ南下してきた。
そして森林地帯に入ったことから、現在地はE-3、もしくはF-3辺りだと乙女も想像自体は簡単につける。
さらに詳細な判断を下すには、そう――地図上でも目立つ施設に、当たりをつければよかった。
378オンリーワン ◆7NffU3G94s :2007/06/03(日) 14:50:49 ID:w3a6KoXD
住宅地に図書館など、東へと進路を取ればこれだけ分かりやすいヒントが転がっている。
とにかく森を抜けることが先決であろう、乙女はあゆの手を取り迷わず歩き出そうとした。

「……」
「え、乙女さん?」

しかし、乙女の足はいきなりその場で動きを止める。
ただ一点、茂みの奥を睨みつけながら乙女はその場で固まっていた。
いきなりのことであゆが動揺の言葉を漏らそうとも、乙女が動き出す気配はない。
どうしたのか、不安そうにこといらを見やるあゆの視線に答えることなく乙女は叫ぶ。

「そこ、出て来い! 隠れてることは分かってるぞ」

ガサッと草木が音を立てる、思わず小さく悲鳴を上げるあゆを背後に庇いながら乙女は手にする槍を構え直した。
睨み合う、一分にも満たない僅かな時間が過ぎた後。
隙を見せることのない乙女の前に現れたのは、目を真っ赤に腫らした一人の女子学生だった。

「稟くんが……いないん、です」

枯れた声、鼻を啜りながら言葉を漏らす少女の様子に乙女も思わず拍子抜けする。
何事かと乙女の背中にしがみついていたあゆも、思わずと言った感じでひょっこり顔を出してきた。

「どうしてですかぁ、どうしていないんですかぁ……私は、稟くんにとって必要のない存在なんですかぁぁ……」

少女は、そのまま膝を崩しわんわんと泣き出してしまった。
周りを顧みず大声を出す少女に対し、さすがの乙女も慌てて彼女をあやしに行く。
背中を撫で、何があったのかと訊ねる乙女の声にも少女は答える気配がなかった。
おずおずと手を出してくるあゆと二人、乙女はしばらくの間そうやってずっと少女の体を撫ででいた。
379オンリーワン ◆7NffU3G94s :2007/06/03(日) 14:51:35 ID:w3a6KoXD
落ち着いてきたのか、少女のしゃくりあげる様子も大分収まってきた所で乙女は改めて彼女に対し疑問を投げかける。
あくまで優しく焦らせぬよう配慮されたの問いかけに対し、少女もぽつりぽつりと口を開いた。

「自分の名前、言えるか?」
「芙蓉楓、です……」
「芙蓉か。それで何があったんだ、誰かに襲われでもしたのか」
「稟くん、が……ひっくっ、稟……くんがぁ……」

土見稟、乙女に取っては全く聞き覚えのないその人物が楓にとっては何よりも大切な存在であった。
楓は稟の捜索を始めてから出会った人物、『春原陽平』から聞いた稟についての事のあらましを鼻声混じりで話し出す。
男に襲われ、その場から稟が逃げたということ。『春原陽平』曰く、稟は図書館へ逃げ込んだということ。

「私、すぐに向かったんです! 春原、さんに……聞いて、から……なのに、稟くんいなくて、どこにもいなくて……」

再び目じりに大粒の涙が浮かび上がる、何か拭く物でもあればと鞄を探るものの気の効いた物は特になく乙女は小さく舌を打った。
その間も、楓はぽろぽろと涙を流しながらひたすら嘆き続けている。

「どうして待っててくれなかったんですかぁ……稟くぅん……」

楓の訴えにより彼女がどれだけ悲しんでいるかというのは、乙女にも痛いほど伝わったようだった。
少し首を動かせばあゆの横顔も視界に入る、乙女はあゆに対し目配せをしどうしたものかと首を傾げる。
楓の言い分は細かいようで大雑把としか表し様がない面があり、さすがの乙女にも具体的な事項について推測の域を出るものが出せず少々考えあぐねていた。
あゆもと言うと、眉を八の字に寄せるだけでどう対処すればいいか困っているようだった。

「なんだ、その……その稟くんとやらが、図書館で待っていると言ったのか?」
「! 稟くんは誰かに襲われたんですっ。そんな、待ってるだなんて悠長なこと……」
「待ってるのではなくその場しのぎだとしたら、長時間そこに留まるとは思えないが」
「で、でも春原さんが……ふぇ……」
380オンリーワン ◆7NffU3G94s :2007/06/03(日) 14:52:48 ID:w3a6KoXD
その時、何か思い出したのか楓の表情が真顔になった。
ごくりと唾を飲むあゆの様子が乙女の目にも入る、そのまま乙女は楓が言葉を綴りあげるのをひたすら待った。
しかし一向に楓が口を開く気配が現れない、おどおどとした視線に込められた迷いに乙女は苛立つ思いを隠せなかった。

「しっかりしろ!!」
「……っ」
「私はお前がどういう状況に陥っているのかさっぱり分からないんだ、月宮もだ。
 ちゃんと説明してくれないと答えも出せないだろう、黙っていては伝わらないんだ」
「ふぇ……っ」

少し強い乙女の言葉に、再度楓の目じりに水が湧き上がる。
だが俯いて泣き出そうとする楓の頬をぐっと持ち上げ、乙女はしっかりと彼女の目を見ながら顔を近づけこう口にした。

「芙蓉をいじめようとしてるんじゃない、私は事を的確に捉えたいだけなんだ。
 安心するがいい、私はお前の味方だ。……さあ、教えてくれ」

言い終えると、乙女は人を安心させる柔らかい笑みを頬に浮かべた。
どっしりとしたその構え、器の大きさを表すかのような乙女の態度に楓もぽかんと口を開ける。
ふと気づいたのか、乙女は垂れ落ちそうになる楓の涙を拭うべく彼女の目じりへとそっと指を伸ばした。
一回では取りきれなかったのか、なるべく擦らないようにと乙女は楓の目元を優しくさすり続ける。
そんな行為に対し楓はというと、特に嫌な顔をすることもなく終いには気持ち良さそうに目を閉じてしまう程だった。

「……じゃ……」

一通り拭いきった所で乙女も指を引く、それと同時に呟かれた楓の言葉に乙女は再度耳を澄ます。

「神社に、ほとぼりが冷めたら……待ち合わせ、を……春原さん……稟くんと、待ち、合わせてるって……」
「そうか、なら神社に向かえばいいじゃないか。よしよし、焦って間違えてたんだな」
「……」
381名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/03(日) 14:53:24 ID:OnkpFhYZ
支援
382オンリーワン ◆7NffU3G94s :2007/06/03(日) 14:54:01 ID:w3a6KoXD
楓の頭を撫でていた乙女の胸に、ぽふっと当の本人である楓が飛び込んでくる。
乙女は嫌な顔一つせず、ぎゅっとその体をかき抱いた。
年頃の少女らしい体つき、柔らかさの中にか弱いと表せる華奢な作りに乙女は胸が痛くなる。
そのまま静かに、乙女は楓が満足するまでずっとその背中を撫で続けるのだった。





「すみませんでした、私ってば取り乱してしまって……」
「いいさ、気にするな。こんな所に投げ込まれて錯乱しない気持ちも分からないでもない」
「本当に、ありがとうございました」

あれからしばらく経った後、楓もすっかり落ち着きを取り戻すことができたようだった。
深々と頭を下げてくる楓の様子に、乙女も安心して優しい笑みをはんなりと返す。
そう、今の楓には乙女と出会った時のような不安定さは他者から見ても全く感じられないだろう。
泣き腫らしたことによる目元の赤みは消えていない、しかし楓の瞳に迷いは見えず乙女は満足そうに頷いた。

「いいか。焦ることで仕損じ、そこでミスが生まれた場合は全てが自分に返ってくると思うがいい。
 これだけ面積のある島で知人を探すのは大変なことだ、しかしそれで自分を見失うことだけはしちゃダメだ」
「はい」
「芙蓉は焦ると、本当に混乱してしまうようだからな。
 気をつけろ、とにかくこれだけは基本だという考えをもっと明確に持った方がいいな」
「はい、分かりました」
「なに、迷いを持たずに目的意識をちゃんと頭に置いとけば大丈夫さ。
 それに、芙蓉の稟くんとやらを思う熱い思いがあれば何だってできるだろ」
「……はい!」

元気の良い楓の返事、体育会系のノリについてきてくれるのが嬉しいらしく乙女の頬はさらに緩んだ。
383名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/03(日) 14:54:38 ID:0pCn380W
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384オンリーワン ◆7NffU3G94s :2007/06/03(日) 14:54:49 ID:w3a6KoXD
「私にも弟がいるんだ、心配する気持ちは分かる」
「そうなんですか?」
「ああ、自慢の弟さ」

楓は「稟くん」の居場所を知る情報を得ている、そのような意味では乙女は彼女が羨ましくて仕方なかった。
弟達の居場所など検討もつかない乙女にとって、いつ再会できるかなどの目処がつかないことに対する不安は決っして小さいものではない。

「乙女さん、本当にありがとうございました」

物思いに耽りかけた乙女の意識が現実に戻される、はっとなった乙女の視界に映ったのは改めて頭を下げる楓の姿だった。
どこか舌っ足らずな可愛らしさの残る楓の声、ぐっと両手で拳を作り力強さを表している彼女の様子は傍から見ても微笑ましいものである。

「乙女さんに教えていただいたことは決して忘れません。頭の整理もできました、ばっちりです」

肩にかけている支給されたデイバッグ、それをしょい直す楓から視線を外し乙女はあゆへと目を向けた。
ちょうどタイミングよくあゆも横目でちらっとこちらを見やってくる、乙女が小さく頷くとあゆは元気よく話しだした。

「あの、楓さん。よかったらボク達も一緒に……」

一緒に、神社までお供しようか。あゆが続けようとした言葉は、多分そのような類のものであったろう。
それは乙女とも思うところは同じなものであった、特に目的地を定めていない二人にしてもここで楓と別れる理由というのが特になかったからである。
また、乙女としても楓がこれだけ入れ込んでいる「稟くん」という人物に対し興味が沸かないわけでもなかった。

「私、決めました。その……混乱すると見境がなくなってしまいますし、時間も無駄にしてしまうということもよく分かりましたし。
 だからもっと、考えを単純化させなくちゃって思ったんです。稟くんを守るためにも、稟くんへの危険を消すためにも」
385名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/03(日) 14:55:31 ID:0pCn380W
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386オンリーワン ◆7NffU3G94s :2007/06/03(日) 14:55:36 ID:w3a6KoXD
だがそんなあゆの話を途中で遮り、楓は照れながらも笑って言葉を綴っている。
あゆはと言うと、タイミングの悪さに出鼻を挫かれてしまい乙女の後ろへと引っ込んでしまう。
まだ、楓の話は終わっていなかったのだ。
空気を読み間違えたことに対し、あゆは気まずさや恥ずかしさといった微妙な感情に苛まされたらしく乙女の背中にしがみつく。
思わず浮かんでしまう苦笑いを抑える気もなく、乙女はあゆの分も楓の口上を真摯に聞いてやろうと改めて彼女の方に目を向けた。

「稟くんを襲った可能性のある方は皆殺しにすればいいんですよね。
 つまり、この島にいらっしゃる春原さん以外の男性を全て排除すればそれは全うできます。簡単ですね」

……場の空気が、一瞬で凍りつく。
乙女も、そしてあゆも今楓が何を口にしたか瞬時には理解できなかっただろう。
一人、楓だけがこの期に及んで笑顔を浮かべていた。

「神社で会った時に稟くんに確認をとるのが正確なんでしょうけど……その前に出会ってしまったら、仕方ないですよね?」

楓の疑問符に、答える者はいない。
その笑顔の先からして乙女が口を開くべきなのだろうが、あまりの突拍子の無さに乙女もすぐの対応ができないでいた。

「ただ、困りまして……ここで問題が出てしまいました」

ごそごそとスカートのポケットへと手をつっこむ楓、呆然となる乙女はふと着用している制服が引っ張られる感覚を受ける。
乙女が背後に目をやると、後ろに回っていたあゆが力いっぱいセーラーの布地を掴んでいる様がその視界に入った。
あゆの表情、怯えに満ちたそれが驚愕へと変わると同時に乙女は嫌な気配を察知し、すぐさま視線を正面へと戻した。

「すみません、乙女さんは先ほど弟さんがいらっしゃるとおっしゃいましたね……私は、可能性を潰すためにその方をも手にかけてしまうかもしれないんです」

悲しそうな声、楓のものである。
その手には銃が、彼女の持ち物でもあるベレッタが握られていた。
387オンリーワン ◆7NffU3G94s :2007/06/03(日) 14:56:23 ID:w3a6KoXD
「恩を仇で返すような真似をしてしまいすみません。でも敵になる前に始末できれば、後々の面倒にはなりませんよね。効率的です」

両手でしっかりと銃を構えながら、にっこりと微笑む楓。
……理論的に楓の行動を導けるほどの時間はない、とにかく目の前の奇行を止める必要があると瞬時に乙女は判断する。

「あ、外れてしまいました。難しいですね」

しかし乙女が一歩踏み出そうとしたところでその顔の真横を銃弾が飛んでいった。
楓は、何の躊躇もなくその引き金を引いていた。
その現実に、乙女も思わず唖然となりかける。

「芙蓉! お前……」

低い乙女の唸り声、それでも楓が笑顔を崩す気配はなかった。
とにかく楓を止めなければ、手にしていた槍を握り直し乙女は楓へ特攻をかけようとする。
銃を構えてきた所で楓の狙う照準がそこまで正しいものにならないのは先ほどのことで検討はついていた、乙女は妙に重い腰を無視して走り出す。

「うぐぅ!!」

声は、腰の辺りから聞こえた。
何事かと乙女が目をやると、いまだ彼女の腰にしがみついたままであるあゆが乙女に引きずられる形でぶら下がっていた。
膝を擦りむく痛みにあゆが再び声を上げる、乙女は謝罪を口にしながら慌てて足の動きを止めた。
あゆを気遣う乙女の思い、しかしそれは隙以外の何物でもない。

「ぐあっ?! な……っ」

響く銃声、今度は二発。
慌てて体を捻るものの、腰にあゆを抱えていては乙女も大きな動きをすることはできない。
ましてや、この島に来てから乙女の体には妙な『負荷』がかけられていた。
そんな乙女の体を抉るもの、それは楓が放ったもの。
388名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/03(日) 14:56:26 ID:8NgfG0yx
私怨
389名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/03(日) 14:56:52 ID:0pCn380W
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390名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/03(日) 14:57:05 ID:OnkpFhYZ
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391オンリーワン ◆7NffU3G94s :2007/06/03(日) 14:57:09 ID:w3a6KoXD
「あ、今度は当たりました〜」

嬉しそうなその声に、憎悪が滲み出すのを乙女は止められなかった。
途端、力が抜けていく体に対しても苛立ちを抑えられず乙女は唇を強く噛む。
膝をつき、地に倒れるその感覚。乙女に被弾したという現実を、嫌でもそれは押し付けてくる。





地面に落ちる、叩きつけられる。
あゆは咄嗟にそれを避けるべく、今まで掴んでいた布地を手放した。
頼るものがなくなり手には一抹の寂しさが残る、しかし感傷に浸る暇などない。
そのような、状況ではない。

「可能性は一つではないかもしれません、その中で考えればこれが最善のことだと思うんです」

舌足らずな可愛らしい、あの声。楓のものであるそれが耳に入りあゆはゆっくりと顔を上げる。
楓は、相も変わらずにっこりと微笑み続けるだけだった。

「敵にまわる可能性のある方は皆殺しにすればいいんですよね。
 つまり、乙女さんと同じデザインの制服を着ていらっしゃる方を排除すればそれも全うできます。簡単ですね」

何故、こんな平和そうな顔をしてこれだけ残虐なことが吐けるのだろう。
あゆの中での楓像が崩れていく、いや、そもそも「楓像」とはどのようなものを指したものだったのか。
ぐるぐると考えあぐねるあゆの様子に気づいたのか、楓も少しだけ笑顔を崩してくる。

「どうしました、あゆさん?」
392名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/03(日) 14:57:43 ID:0pCn380W
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393オンリーワン ◆7NffU3G94s :2007/06/03(日) 14:57:57 ID:w3a6KoXD
ガクガクと震える膝を、あゆは抑えられなかった。
いまだ銃を手にしたままの楓、彼女が何を考えているのか理解できなくあゆは彼女に対し畏怖しか抱けないでいる。
きっと、楓もそれを読み取ったのかもしれない。
怯え、泣き出しそうになるあゆとの距離をゆっくりと詰めるよう楓はとぼとぼと前進しだした。

「ああ、あゆさんは乙女さんのお友達ですよね。
 乙女さんの敵討ちを考えられましたら困りますね、敵にまわる可能性のある方は皆殺しです。
 ん? それでしたらもっと早い方法がありますよね。そう、稟くん以外の方を皆ご」
「しない! ぼ、ボクは楓さんの敵には……ならない!」

とんでもない事を口にしようとする楓を止めるべく、震える声を隠さぬまま大声で叫ぶあゆ。
ここで楓の思考を変な方向へ持っていったとしたら、どうなるか。ただそれを恐れその場限りの言葉をあゆは口にした。
走って逃げ出したかった、しかし楓は銃を持っている。乙女も、放っておくわけにはいかない。
何が最善かなどあゆがすぐに思いつけるはずはない、とにかく今を凌ぐべくあゆはそのまま言葉を続けた。

「ほ、本当だよ! 約束するよっ、ボクは楓さんも稟さんも……絶対、傷つけたりなんかしない!」
「信じます」
「嘘じゃな……え?」
「信じますよ。あゆさんがそうおっしゃるなら、そうですよね」

それは、あまりにもあっけらかんとしたものだった。
ごそごそとベレッタをスカートのポケットに仕舞い直し、楓は改めてにこりと微笑む。
そこに邪気はない。
何が何だか、何がどうなってるのか。やはりあゆに伝わることはなかった。

「それでは、失礼します。私が言える義理ではないことは承知の上ですが、よろしければ乙女さんの埋葬をお願いします」

小さく会釈をして去っていく楓の背中を、あゆは見送ることしかできなかった。
394名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/03(日) 14:59:16 ID:0pCn380W
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395名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/03(日) 14:59:17 ID:8NgfG0yx
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396オンリーワン ◆7NffU3G94s :2007/06/03(日) 15:00:39 ID:w3a6KoXD




「……ごめん、乙女さん」

その場に残されたあゆが漏らす、涙混じりの謝罪の言葉。
へなへなと座り込み、地に伏せる乙女へとあゆはそろそろと手を伸ばした。

「ボク……それでもボクは、殺されたくなかったんだよ……」

ただの言い訳である、その利己的な考えにあゆの良心が悲鳴をあげる。
この島に来て最初に会った参加者でもある国崎往人に襲われたあゆは、乙女のおかげで生き残れることができたと言っても過言ではなかった。
あゆが居眠りをしてしまった際も、乙女はあゆを守り続けていた。
そのあゆが足かせとなり、乙女をこのような状況へと追いやった。

「ボクなんかいなければ、乙女さんは……!」

怖かった、恐怖で固まった体をあゆは動かすことができなかった。
また、あゆは乙女を頼りにしすぎていた。
確かに乙女は先導を切るタイプではある、しかしそれにあゆは甘えすぎている面もあった。
あの時、目の前に頼れる背中を見つけたあゆが咄嗟に掴み続けた乙女の制服。
そう、あそこであゆが乙女の制服を掴んでいなければ状況は変わったかもしれないのに。

「恩を仇で返したのはボクもだよ……っ」
「そんなことないぞ、月宮……」
「乙女さん!?」

零れそうになる涙を必死に抑えていたあゆの耳に、弱弱しくもはっきりとした乙女の言葉が入り込む。
慌てて乙女の顔を覗きこむあゆ、乙女は薄目を開けたまま確かに意識を保っていた。
397名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/03(日) 15:01:29 ID:0pCn380W
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398オンリーワン ◆7NffU3G94s :2007/06/03(日) 15:01:30 ID:w3a6KoXD
「ははっ、これ……くらいで死ぬほど、やわじゃ、ない……」

ぎりぎりで致命傷だけはかわせたようであるが、それでも乙女が受けたダメージは決して小さいものではないだろう。
被弾箇所は左腕と脇腹部であった、出血自体は止まっていないものの弾は無事貫通しているようでそれだけは乙女にとっても救いだった。

「内臓は、無事さ……」

微笑む乙女のそれには、しかしついさっきまでの威勢の良さは見当たらない。
ただただそれが悲しくて、あゆはボロボロと涙を零した。

「月宮……すまない、お前に負担をかけることになるが」

乙女の言葉。
力弱いそれがただ悲しく、しかしあゆは一言一句漏らさずよう泣きながらも耳だけはすませていた。

「私を、助けてくれるか?」

頼りになる存在、頼りにしていた乙女からあゆが受けたもその言葉。
今度はあゆが「頼りにされる」。
何の異議を持つこともない、あゆは、大きく頷いた。





「リンさんや亜沙先輩は、味方です。お二人が稟くんを傷つけることなんてありません」
399オンリーワン ◆7NffU3G94s :2007/06/03(日) 15:02:42 ID:w3a6KoXD
一人、黙々と歩きながら呟く楓の言葉に答える者はいない。
その手にはベレッタが、目標を見つけたらすぐに行動にできるよう今の楓には余念がなかった。
一度しまったものの、素早く行動に移るとしたら常に手にしていた方が利便的だと楓が判断したからである。

「稟くん……早く会いたいです。稟くんをお守りするのは私の役目です」

せかされるような思いを必死に抑えながら、楓は真っ直ぐに神社へと向かって行く。

―― 人を疑うことの無い、純粋な少女が取った道
そこに含まれる矛盾、だが楓はまだ気づかない。

―― 信用する、確かにそう口にしたあゆの姿がすり抜ける
もう、楓の脳裏からは「月宮あゆ」の面影など瞬時に掻き消されていた。

―― そこにあるのは、ただ一方的で清らかなる思い
「稟くん、待っていてくださいね。稟くんに害為す人は、私が消してみせますから」

―― 愛する者へ募る思いは深く、そこに込められた因縁は楓自身をも雁字搦めに縛り付ける
楓がそこから抜け出せる気配は、今の所皆無だった。
400名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/03(日) 15:03:24 ID:0pCn380W
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401名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/03(日) 15:03:26 ID:OnkpFhYZ
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402オンリーワン ◆7NffU3G94s :2007/06/03(日) 15:03:38 ID:w3a6KoXD
【F-3 森 1日目 早朝】

【芙蓉楓@SHUFFLE! ON THE STAGE】
【装備:ベレッタ M93R(21/18+1)】
【所持品:支給品一式 ブラウニング M2 “キャリバー.50”(ベルト給弾式、残弾200) ベレッタ M93Rの残弾40】
【状態:とにかく稟を探す】
【思考・行動】
基本方針:稟の捜索
1:何が何でも、最優先で稟を探す(神社へ)
2:稟を襲った可能性があるので、男性の参加者は皆殺しにする
  (岡崎朋也の話を信用しているので彼は除くが、朋也の顔は忘れているのであくまで『春原陽平』を信用している)
3:その男性に知人がいる場合、分かる範囲でその人物も殺す
  (竜鳴館のセーラー服を着衣している者は殺す)
4:できればネリネや亜沙とも合流したい

【備考】
稟以外の人間に対する興味が希薄になっている
朝倉純一の知人の情報を入手している。
水澤摩央を危険人物と判断
岡崎朋也を春原陽平と思い込む(興味がないため顔は忘れた)
朋也と(実際にはいないが)稟を襲った男(誰かは不明)を強く警戒→男性の参加者は稟と朋也(春原)以外全員警戒
鉄乙女は死んだと判断する
月宮あゆは自分に敵対しないと信用する(興味がないため顔は忘れた)
403オンリーワン ◆7NffU3G94s :2007/06/03(日) 15:04:25 ID:w3a6KoXD
【鉄乙女@つよきす -Mighty Heart-】
【装備:槍】
【所持品:支給品一式】
【状態:重傷。左腕、脇腹部に被弾】
【思考・行動】
基本方針:ゲームに乗るつもりは皆無、マーダーは容赦無く殺す
1:あゆに助けを求める
2:あゆを守る
3:生徒会の仲間達、相沢祐一の捜索
4:ゲームに乗った人間を見つけたら始末する
5:タカノを絶対に倒す

【備考】
乙女が持っている槍は、何の変哲もないただの槍です(長さは約二メートル)
乙女は自分の身体能力が落ちている事に気付いています(その理由までは分かっていない)
芙蓉楓を危険人物と判断


【月宮あゆ@Kanon】
【装備:無し】
【所持品:支給品一式、ランダムアイテムの内容は不明】
【状態:精神的疲労】
【思考・行動】
1:乙女を守る、乙女の怪我を何とかする
2:祐一と会いたい
3:往人を説得したい

【備考】
芙蓉楓を危険人物と判断
404名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/03(日) 15:04:33 ID:0pCn380W
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405名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/03(日) 15:05:52 ID:OnkpFhYZ
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406信じる声-貫く声-偽る声 ◆tu4bghlMIw :2007/06/03(日) 19:27:21 ID:8NgfG0yx
うっそうと茂った森。ここにも肩を並べて移動する一組の男女がいた。
共にほとんど言葉を発しようとしないが、傍目には手を組んだペアにしか見えない。

この場所に集められたものの大半は特別な力を一切持たない十代の少年少女だ。
故に"殺し"の舞台において、自らを守るノウハウを持つものは当然極少数である。
だが参加者の中には、現実では考えられないような力を持った者が確実に存在している。
一般人とはかけ離れた身体能力を持つ者、歴史に名を残すような天才、魔術や超能力を扱う者など様々だ。

それでは。
そのどれも持たない者はどうなるのであろうか。
血と狂気に彩られた空間に飲み込まれ、それでもなお元居た世界の日常を捨てきれない者はどうなるのか。

ある者は力を持つ者に嬲られ、その命を落とすことになるだろう。
またある物は他の人間と手を結ぶことでそんな運命に抵抗しようとするだろう。
即席のチームを結成する者が発生することは、こんな状況においては必然とも言える。
たとえソレがガラスのように儚く脆いステージの上で成り立っているとしても。
ある意味において誰と知り合い、誰と同行するかは究極的とも言える命題だ。

ではこの二人はどうだろう。
片や鮮やかな金髪と釣り気味のブルーアイズが印象的な超絶美少女。
片や正直どこにでもいそうではあるが、芯の強さを感じさせられる精巧な顔立ちの青年。
どちらも戦闘に長けているとは思えない。
少女の手にはその可憐な指先とはまるで不釣合いな拳銃が握られてはいるものの、
彼女がこれを100%使いこなせるのかと言えば難しい。
むしろ青年の腰にぶら下がっているサバイバルナイフの方が役に立つかもしれない。
使い方はいたってシンプル。相手に突き刺し、肉を裂き、血管を断ち切るだけ。
素人の銃が本当に戦力になるかはいささか疑問が残る。
407信じる声-貫く声-偽る声 ◆tu4bghlMIw :2007/06/03(日) 19:28:14 ID:8NgfG0yx
「……おい」
「…………」

無言。
いやこれは明らかに"無視"に近い。
祐一は彼女、大空寺あゆの態度に苛立ちを覚える。
今二人が隣を歩いているのは向かう方角が同じだから……ただそれだけである。
とはいえ祐一は自分が大して信用されていないことは重々承知してものの、それでも最低限の反応くらいは返してもらいたかった。

「あゆ、返事くらいしたらどうだ」
「……あ?」

人形のように整っていたあゆの表情が一瞬で歪む。
生来の釣り目故の強烈な目付きの悪さが更に酷くなる。
これほど『瞬間沸騰』という言葉がピタリとはまる人物も中々居ないだろう。
彼女はとにかくすぐキレる、怒鳴る、悪態をつく。
これほどの美少女だが、周りにほとんど人が寄り付かないのはコレが原因なのではないか。

「気安く名前で呼ぶんじゃないわよ、この糞虫」
「悪い悪い。呼びやすかったもんでさ、"あゆ"って名前が」
「……ああ、名簿の月宮あゆってアンタの知り合いか。
 そういえばあの時、ブツブツ呟いてたもんなぁ」

うんうん、と納得する素振りを見せるあゆ。

「……んで、あにさ?何か言いたいことあるんだろ。
 耳半分で聞いてやるからさっさと喋れや」
「……じゃあ遠慮無く。大空寺、オマエいつまで俺についてくんの」
「は?…………おいコラ、糞虫。……どうも私の耳がおかしくなったみたいさ。
 訂正させてやるからもう一回言ってみろや」

(特に問題のある発言をしたつもりは無いんだが……)
408信じる声-貫く声-偽る声 ◆tu4bghlMIw :2007/06/03(日) 19:28:56 ID:8NgfG0yx
一瞬の逡巡。
実際問題、宛も無くただ歩き回っているような状況は相当に好ましくない。
祐一の現在の目的はあゆに名雪、舞や佐祐理さん、それとまぁ北川といった知り合いと合流することだ。
ソレならば単独で行動したほうがより効率的である。
だが隣の彼女はどうだ。知り合いこそ参加者の中に存在しているらしいが、その人物に執着している様子はまるで見られない。
初めて会った時も堂々と食事を取っていたくらいだ。

(早めに大空寺とは分かれた方がいい。)

祐一としては自分の発言について、遠回しに別れることを示唆した程度の認識しか無かった。
「オマエいつまで俺につい……」
「うがああああああッ!!舐めんなやあああ!!殺されてぇのか、糞野郎!!」
「ちょっ、ま……銃はやめろって!!冗談にならん!!」

祐一が素直に同じ台詞を言おうとするも、あゆの怒号に掻き消される。
しかも右手のS&W M10を祐一に向けながら、だ。
廃屋で彼女が放った弾丸は結局、腐ったタイルに穴を空けるという結末だった。
状況はアホらしいほど似通っている。一応先程は冗談で済んだ。
しかし今回もまた最終的に軽口の言い合いと謝罪で解決出来るとは限らない。
物事に絶対は無い。

「くそ……ッ!!」

祐一の行動は迅速だった。
ひとまずは銃口を逸らすためにあゆの右手首を掴みにかかる。
いくらおそらくコレが一時の乱心であろうとも、発砲されるのだけはまずい。

彼女の銃―S&W M10―はリボルバーである。つまり安全装置が存在しない。
もしもオートピストルならば"本当に"殺すつもりが無ければ銃弾は発射されることは無い。
だがリボルバーは引き金を引けばそのまま弾が出てしまう。
特に祐一はガンマニアという訳でも無いが、それくらいの知識はある。
意味も無く銃で他人を撃とうとするのは自らをも危険に晒す行為だ。
409信じる声-貫く声-偽る声 ◆tu4bghlMIw :2007/06/03(日) 19:29:39 ID:8NgfG0yx
しかし。

「がッ!!だ……、大空寺!?」
「ボケお前、甘過ぎさ。ボディーがお留守になってるっつーの」

訪れたのは祐一がまるで予想だにしない展開だった。
銃を持つ手を掴みに行った祐一の腹を、あゆが思い切り蹴っ飛ばしたのだ。
しかもか弱い少女のソレではなく、しっかりと腰の入った蹴りで、だ。

(な!?この蹴りは……。)

急所からは外れているため、無様に地面とキスをするまでは至らない。
せいぜい軽く片膝を付いたくらいで済んだのは幸いだったかもしれない。
だが祐一にとってはそれよりも、"あゆが自発的に自分を蹴りつけて来た"ということの方が衝撃的だった。
彼はあゆが自分に銃を向けたのは一時の気の迷い程度にしか思っていなかった。
彼女が自分を襲うわけが無い、そんな根拠の無い確信が心の内に存在していたからだ。
だが現実はどうだ。
なぜならあゆの蹴りは完全に"攻撃"に分類されるものだったからだ。

「おい、何『幽霊』でも見たような表情してるのさ。
 まさか私がオマエみたいなカスに、あんな無礼な振る舞いをされて黙っているとでも思ったかい?」
「本気かよ……大空寺」
「あ?銃は勢いで撃つものじゃない、って最初に言い出したのはお前だろうが」
410信じる声-貫く声-偽る声 ◆tu4bghlMIw :2007/06/03(日) 19:30:26 ID:8NgfG0yx
それはほんの数分前では想像も出来ない構図だった。
ベルトに括りつけたナイフを取り出す暇も無く、地面に膝を付く祐一。
若干離れた場所、常人のスピードならば大体二足ほどの絶妙な距離に立つ銃を構えたあゆ。
そして、彼女の手の黒鉄の凶器は寸分違わず祐一の眉間に狙いを定めている。

(……こんなことになるのならば何も言わずに勝手に離れてしまえば良かった。)

祐一は下手な発言をした自分に激しい自責の念を抱く。
勿論あゆの台詞が全て本当だとすれば、後ろを向いた所で発砲してきた可能性も高い。
とはいえ所詮素人の狙いだ。距離を取ってしまえば直撃させることは困難だったであろう。少なくとも命を取られることは無かったはずだ。
彼女は殺し合いに乗っていない。早々に判断した自分が浅はかだった。まさか全てが演技だったなんて。

「最期に……最期に一言良いか」
「……ん、言ってみな」
「大空寺、お前がどういうつもりでこの殺し合いに乗ったのかは分からん。
 ただな……まだ人を殺したことは無いんだろう?
 さすがにソレくらいはさっき銃をぶっ放した時の仕草とかで分かる。
 まさか今から俺を逃がしてくれるなんて思っちゃいないよ。
 だけど考えてみてくれ。人が死ぬって事の重大さを」

それは半ば遺言に近かった。
祐一はこの時、栞や舞のことを思い出していた。
その中でも特に栞だ。彼女の命が助かったのは本当に奇跡としか言いようが無くて、そしてその時命の重さを彼は知った。
411信じる声-貫く声-偽る声 ◆tu4bghlMIw :2007/06/03(日) 19:31:09 ID:8NgfG0yx
「……くくく」
「…………?」
「ぷ、くはははははっ!!!アホ、軽い冗談に決まってんだろ。
 マジになってんじゃねぇ、ド阿呆」
「は……?」

自らの判断の失敗を嘆き、あゆの本性を知り、深い皺を刻んでいたその顔が一気に緩む。
祐一はこのとき、彼女が何を言っているのか全く理解できなかった。

「アレさ、さっきのお返しって奴。
 まぁ糞虫如きが、なんとこの私を出し抜けたという事実で、有頂天になってる間に死んじまってた方が幸せだったかもしれないけど。
 つーか仮にも男が女に良いようにボコられてどうするよ、無能にも程があんだろうが」
「ッ!!てめぇ、大空寺!!」
「あぁ言っとくが謝らんからな、糞虫。
 いくら凡夫の頭とはいえ、元々お前が餓鬼みたいな真似したのが発端なのは理解してるだろう?」
「馬鹿!!やって良いことと悪いことってものがあるだろ!!
 冗談なんかで済む問題か、悪ふざけにも程がある!!」

思わず祐一は手を振り上げる。それは完全に衝動的な行動だった。
女に手を上げるのは男として最低の行為。
極端なフェミニズムとは行かないまでも意識的にそんな風には思っていた。
しかし、この場合は例外だ。
こんな状況で、しかも拳銃を使ってやるおふざけとしては度が過ぎている。

「おい、相沢」
「!?」
412信じる声-貫く声-偽る声 ◆tu4bghlMIw :2007/06/03(日) 19:32:11 ID:8NgfG0yx
祐一の背筋に悪寒が走る。
加速した右手はあゆの頬に触れる寸前で緊急停止。
"糞虫"でも"お前"でも"害虫"でも無く突然あゆは自分の名前を、それも今までに無いくらい冷めたい声で呼んだ。

「甘いよ。甘過ぎさ、相沢祐一」
「…………俺が甘い?」
「そうさ。認識、行動、性格全部だ。お前小学生の餓鬼か、ボケナス。
 実際私が本当に殺し合いに乗ってたら、今頃眉間から血流して死んでんだぞ。
 同行者でも無い、まるで信用出来るか分からない人間相手でコレだ。
 もし悪意ある他人が感じの良い台詞と態度でもって近づいてきたら、それこそ寝耳かかれて終わりだよ」

(甘い?他人を信用することが間違いだとでも言うのか。)

こんな状況だ。ほとんどの奴は戦うことも出来ずに震えているに違いない。
そんな中で他人を信用できなくなったらどうなる?そっちこそ一貫の終わりだ。

「だからって全ての人を疑え、とでも言うのか?
 こんな状況なのに本気で一人でも大丈夫なんて言えるのかよ!!」
「一人で全て何とかなる……とは思ってないさ。
 私は戦士でも何でも無いんだし。戦って殺し尽くすなんて不可能さ。
 ただな。この島にはウサギだけじゃない、オオカミだっていることを学びな。
 勿論ウサギの皮を被ったオオカミだってウヨウヨしているかもしれない」
413信じる声-貫く声-偽る声 ◆tu4bghlMIw :2007/06/03(日) 19:33:15 ID:8NgfG0yx
あゆは断言する。
祐一の主張もあゆの主張もどちらも決して、間違っていない。
祐一の人を信じたいという心もあゆの誰もが搾取される立場でいるわけが無いという心も。
微妙に気まずい空気が流れる。会話は完全に止まった。
聞こえるのは木々の擦れ合う音と、鳥が飛び立った音ぐらいのもの。

何分ぐらいこの状態が続いたのだろうか。
時間の感覚も麻痺するほどの沈黙の後、あゆがゆっくりと口を開く。

「おい、糞虫……一緒にいる意味も理由もねぇ。この辺で別れるか」
「そう……だな。短い、付き合いだった」

(最後は糞虫か……。)

なぜか今更になって"糞虫"と呼ばれたことに祐一は深く心を抉られた。



「じゃあ私はこっちに行くから。
 一人でいるのが怖くなっても引き返して来んなよ。もう構ってやらねぇよ」
「そっちこそ。さっきの台詞、撤回するなら今だぜ?」
「あぁ?言ってろ、アホ」

二人は先程争っていた場所から少し先、丁度森が開けた場所に出てきた。
どうもここは地図で言うA-5とB-5の境界線付近らしい。

「……とりあえず、ここでお別れだな。俺はとりあえず鉄塔の方に向かってみようと思う。  大空寺は何処に行くんだ?」
「懲りねぇーなぁお前。そう行き先をその汚い口からペラペラ垂れ流すんじゃねぇ。
 それに誰が教えるか、ボケ。足りない脳味噌使って考えろや」
「……ああ、考えれば俺でも分かる場所ってことか?何だかんだ言って教えてくれてるじゃないか」
「……ッ、勝手に言ってろや。じゃあな……っと真夜中から歩きっ放しでダレてるのに。
 無駄に馬鹿の相手したせいで余計疲れちまったよ」
414名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/03(日) 19:34:08 ID:8NgfG0yx
そうボヤキながらあゆは西の方向に向かって歩いていった。
彼女は何処に行くのだろうか。祐一はぼんやりと考えながらその背中を見送る。

(方向的には……何だ。身体を休めるのに絶好の場所があるじゃないか。
 あそこなら寝床としては申し分ない。いっそ自分も行けば良かったと思えてくるくらいだ。)

「ま……アイツと一緒じゃ無理かな。
 意見が違い過ぎるのも問題だし」

あゆの姿が見えなくなると祐一も歩き出す。
目的地はとりあえず鉄塔。
いったいどんな建物なのか気になるし、同じことを考える人間も居るかもしれない。


【B-5 森/1日目 早朝】

【大空寺あゆ@君が望む永遠】
【装備:S&W M10(5/6)】
【所持品:予備弾丸20発・支給品一式・ランダム支給品x2(あゆは確認済み)】
【状態:健康】
【思考・行動】
1:ホテルに移動。
2:殺し合いに乗るつもりはない。
3:基本的にチームを組むつもりは無い

415信じる声-貫く声-偽る声 ◆tu4bghlMIw :2007/06/03(日) 19:35:05 ID:8NgfG0yx
彼はまず自分がこの殺し合いに参加させられた理由に疑問を持った。
人語を理解し、他人の言葉を真似、人並みに人権を主張したりはするものの、あくまで自分は鳥なのである。

(あのタカノという女は我輩に何をさせようというのだ。
 積極的に"殺し"を担う役目か?それともただの人数合わせか?
 人と人の醜き争いの中に鳥類が参加していていいのか……。)

『鳥であること』は長所にも短所にも成り得る。
まず自分が参加者であることがばれ難いというのは大きい。
首輪に関しても、余程接近されなければその存在に気付かれることは無い。
適当に木に止まって高見の見物と洒落込んでいればいいのだ。
だが問題は自分が『鳥であること』を知っている人物が数名参加しているということだ。
対馬レオ、霧夜エリカ、鉄乙女、佐藤良美、蟹沢きぬ、スバル……。
この六名がいる限り、時間の経過と共に自分のアドバンテージは消滅して行く。
そして危険ばかりが膨らんでいく。
自分はあくまでこの戦いにおいて勝者となるつもりだ。
それならば当然、確実に障害となるものは取り除いておきたい。

(心苦しいが、奴らに関してだけは積極的に"攻め"に回る必要がありそうだな。)

確かに彼は深夜、獣のような耳が生えた武人に蟹沢きぬの声で攻撃を加えているのだが、それ失敗に終わっている。
理由は彼女が一般人とは比べ物にならない反射神経を持っていたこと。
そして彼の支給品がスペツナズナイフという刃を一度だけ弾丸のように発射できる道具だったからだ。
通常この武器はナイフとして使用し、隠し玉として刃の射出を行う、という使い方がベターなように思える。
だが、彼の場合刃物を振り回して戦うことは逆に自分の命を縮める結果を招きかねない。
『空を飛んでいるということ』これが自分の最大のアドバンテージだからだ。
416代理投下:2007/06/03(日) 19:45:58 ID:FlWHe5Fj
「ッ!!てめぇ、大空寺!!」
「あぁ言っとくが謝らんからな、糞虫。
 いくら凡夫の頭とはいえ、元々お前が餓鬼みたいな真似したのが発端なのは理解してるだろう?」
「馬鹿!!やって良いことと悪いことってものがあるだろ!!
 冗談なんかで済む問題か、悪ふざけにも程がある!!」

聞き取れるギリギリの距離から男女の話し声が聞こえる。
二人とも相当ボルテージが上がっているのだろう。先程までは聞き取れなかった会話が筒抜けだ

(近いな。相手の性格な数も能力も分からん。
 攻撃するには条件が悪過ぎる。ひとまず偵察するべきか。)

太陽も昇り最低レベルの視野は確保出来ている。
彼は荷物と木の枝にぶら下げたままのランタンを置いて、声のする方向へと飛んでいった。


「だからって全ての人を疑え、とでも言うのか?
 こんな状況なのに本気で一人でも大丈夫なんて言えるのかよ!!」

声の主は一組の男女だった。
ド派手な金髪の少女と深い緑のブレザーを着た青年。何やら意見の不一致で言い争っているように見える。
彼は二人の会話を聞き取ることの出来るギリギリの高さの枝に着地。経過を見守ることにする。
「一人で全て何とかなる……とは思ってないさ。
 私は戦士でも何でも無いんだし。戦って殺し尽くすなんて不可能さ。
 ただな。この島にはウサギだけじゃない、オオカミだっていることを学びな。
 勿論ウサギの皮を被ったオオカミだってウヨウヨしているかもしれない」

(あの女、エリカに似ているな。
 見た目だけじゃない。言ってること、どこか筋が一本通ってそうな所もだ。
 顔つきはこちらの方が若干幼いが雰囲気も良く似ている。)
417代理投下:2007/06/03(日) 19:46:48 ID:FlWHe5Fj
確かに霧夜エリカと大空寺あゆは似ている。
バックに強烈なグループがついていること、常人とは比べ物にならない知性と行動力、そして何よりも彼女達を支える確固たる信念。
同じような素質を鉄乙女も持ち合わせているが彼女は優し過ぎる。
優しさ、甘さは時に人の身の破滅を招くことになる。
だがそんな心配は霧夜エリカには不要だ。彼女は自らの理想、目的のためにはとことんドライになれる人間だからだ。
故に彼の知り合いの中で最も強敵となるのはおそらく彼女、霧夜エリカだということは明らかだった。

「そうだ。そういえば支給品に"アレ"があったのを忘れていたなぁ。
 ……これは使えそうだ」

彼は誰にも聞こえない小さな声で呟く。
既に地上は完全な沈黙状態だった。金髪の少女もブレザーの青年も黙ったままだ。

(なるほど……。もう十分だな。)

そろそろ頃合である。
急いで"仕掛け"の準備をすることにしよう。
彼は堂々と羽音を立てながら、思いついた計画のために荷物のある場所へ引き返して行った。



あゆと別れた祐一はB-6エリアに足を踏み入れた。
この辺り一帯も一面森である。しかも今まで居た場所以上に森が深い。
今までは昇りつつある太陽の光が木々の隙間から漏れていたのだが、ここはあまり光が入ってこない。
早朝に近いというのにまだ黎明のような暗さだった。
これでは下手をすると、迷って目的地とは違う場所に着いてしまう可能性も出てくる。
418代理投下:2007/06/03(日) 19:47:32 ID:FlWHe5Fj
「ん……?アレは……?」

ぼんやりと、祐一の前方から光が差し込んだ。
時間的には太陽、という可能性もあるがソレは無い。明らかに方角が違っている。
もしかすると他の参加者がランタンか何かを使っているのかもしれない。

「おい!誰かいるのか?いるなら返事をしてくれ!」

祐一はゆっくりとその光に近づいて行く。
本心としては一気に駆け寄ってしまいたいのだが、あゆに言われた台詞が嫌でも胸の中に残っている。
考えたくは無いがいきなり隠れていた他人に攻撃される可能性もあるのだ。
慎重になるのは悪いことではない。そう自分に言い聞かせる。

「何だ、ランタンだけしか無いじゃないか……。ん……これは?」

予想通り、その光は木の枝に吊るされたランタンだった。
しかし辺りに人の気配は無い。周りを見回して見たものの目に入るのは適当に伸びた草木や、自由気ままに枝葉を伸ばした樹木ぐらいのである。
だがランタンが引っ掛けられた木の下に祐一にも見覚えのある物が落ちていた。

「これは……ボイスレコーダー?しかも最新のものっぽいな」

丁度手の平に納まる程のシルバーメタリックのボディに収納式のアンテナや、何やら様々なダイヤルが付いている。
419代理投下:2007/06/03(日) 19:48:14 ID:FlWHe5Fj
「なんでこんな物がこんな場所に。……録音済みが一件あるのか」

思わず祐一は右向きの三角形のボタンを押す。
ボディに内蔵されたスピーカーから再生が始まる。

『……くそっ!!えーと俺は対馬レオ。分かるか?
 最初のホールで見せしめに殺された男がいるだろ?そいつに駆け寄った二人の男の片割れだ。 俺は今ある奴に追われている。……そいつの名前は霧夜エリカ。俺と同じ学校の生徒会長だ。 いいかよく聞け。コイツは殺し合いに乗っている。今も俺は奴に追われているんだ。
 だけど一筋縄で行く相手じゃない。頭も身体能力もおそらく参加者の中でトップクラスだ。 いきなり襲ってくるかもしれないし、どこかの集団に紛れ込んでいるかもしれない。
 どちらにしろコイツは信用出来ない。何を言われても信じるんじゃないぞ!!
 …………ッエリカ!!こんな近くまで……』

「な……!?」

祐一は我が耳を疑う。
もう一度再生ボタンを押してみるが、当然流れてくる内容に変化があるわけも無い。
流れて来た声は確かに、最初のホールで聞いたような気がする。
おそらく対馬レオ、本人だろう。
先程あゆに対して"人を信じること"を力説しただけに、こんなに早く殺し合いに乗っている人間の存在を知ることになるとは思ってもみなかった。

「くそっ!!どうして皆そんなに殺し合いがしたいんだよ!!」

祐一はボイスレコーダーを掴んだまま駆け出す。
方向的には目的地であった鉄塔の方角にこそ向かっているが、既に"寝床を確保する"という目的は消え失せていた。
こんなに近くで襲われた人間がいるのだ。呑気にそんなことをしている暇は無い。
ひとまず霧夜エリカを探さなければならない。


420代理投下:2007/06/03(日) 19:48:59 ID:FlWHe5Fj
【B-6 森/1日目 早朝】

【相沢祐一@Kanon】
【装備:サバイバルナイフ】
【所持品:トランシーバー(二台)・支給品一式・多機能ボイスレコーダー(ラジオ付き)】
【状態:健康】
【思考・行動】
1:鉄塔へ向かう
2:霧夜エリカを止める
3:霧夜エリカと接触時、が不信な行動を取った場合攻撃する可能性有り
4:協力的な参加者と接触し、情報を掻き集める(優先人物は前原圭一)。
5:出来れば舞に佐祐理、北川、名雪との合流。
6:遭遇した相手がステルスマーダーである可能性を危惧

【備考】
トランシーバーの通信可能距離は半径2キロ内の範囲
霧谷エリカがマーダーであるという情報(偽)を得ています

多機能ボイスレコーダー(ラジオ付き)
様々な機能が付いています。
他に何が付いているかは続きを書かれる方にお任せします。

・ラジオ(周波数は様々)
定時放送チャンネル:過去の定時放送が延々と流れています。
ロワチャンネル:不定期放送。役に立つ情報が聞けるかも。MCは勿論あの人……。




421代理投下:2007/06/03(日) 19:49:49 ID:FlWHe5Fj
「悪いな坊主。……上手く掻き回してくれよ」

祐一が走り去った少し後、ランタンが吊るされている枝の上に土永さんが着地する。
オウムならではの能力……声真似。
先刻通り掛かった剣士には蟹沢きぬの、そして今回出くわした青年には対馬レオの声で嘘の情報を流した。
ちなみにレオの声を真似たのに深い理由は無い。
先程は蟹沢きぬの声だったので今回はレオにした、それくらいの軽い理由である。

「さてと……太陽が出て来たな。そろそろ移動するか」

彼は鳥であるゆえ、普通に行動していれば他人に見つかることはそうそう無いはずだ。
もしも見られたとしても首輪さえ見えなければ、野性の動物と勘違いされる可能性も高い。

とはいえ問題もある。デイパックの存在だ。
コレは何故かは分からないが重さを感じないため、持って移動することに支障は無い。
だがぶら下げたまま飛行していれば、どんな馬鹿であろうと自分が参加者であることに気付いてしまう。コレは厄介だ。
ならばどこかに網を張るのが良い。
縁日で売られていた彼としては巣を作った経験も無いのだが。
それでも自分にとって有利に行動出来る場所にベースを作るべきだ。
加えてまともに使える武器が必要である。手榴弾などの投擲出来る爆薬が手に入れば最高だ。
「祈……我輩は必ず生きてお前の元に帰るぞ。そのためならば何をしてもいい」

一匹の鳥が主のため、鬼になった瞬間だった。


422代理投下:2007/06/03(日) 19:50:30 ID:FlWHe5Fj
【A-5 森/1日目 早朝】

【土永さん@つよきす−Mighty Heart−】
【装備:スペツナズナイフ】
【所持品:支給品一式、祈の棒キャンディー@つよきす−Mighty Heart− 多機能ボイスレコーダー(ラジオ付き) 】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本:最後まで生き残り、祈の元へ帰る
1:自分でも扱える優秀な武器が欲しい
2:どこか一箇所留まったままマーダー的活動が出来る場所を探す
3:基本的に銃器を持った相手には近づかない



423紛れ込む悪意二つ  ◆sXlrbA8FIo :2007/06/04(月) 20:06:13 ID:z47aCjWb
バットを片手にスバルは住宅街を疾走していた。
先ほど耳に届いたけたたましい音が、彼の中に焦りを呼ぶ。
きぬやレオの姿が頭に浮かび、彼らの身に何かが起きたのではないかと思うと気が気ではなかった。
新一の死体と二人の姿が思わずダブり、彼の足はますます速度を上げ駆け続けていた。

荒ぶる呼吸をゆっくりと整えながら、たどり着いたのはつい先ほど朋也とオボロの戦闘によって荒れ果てた震源地。
身を隠しながら覗いたそこは、火薬の匂いが立ち込め、わずかに残る煙と抉られた地面が間違いなくここで何かがあったことをスバルに認識させる。
幸いにもあたりには誰の姿も見えなかった。
それでも警戒を一切緩めることなくスバルは一歩一歩近づき、周囲を見回す。
だが、何があったかを示すような手がかりはまったく落ちてはいなかった。
「ちっ……二人以外が死んでりゃ手間が省けたんだがな」
一人ごちながらもうここにいる価値は無いと判断したスバルは、両腕を伸ばし軽く伸びと屈伸運動をする。
少しダルさも感じていたが、まだそこまで体力は落ちてないことを確認する。
もうしばらくは影響なく動けるだろう。
とにかく人の集まりそうなところ――ここだと一番近いのは学校か? それとも商店街か?
悩んだ挙句にスバルは後者を選択した。
バット以外にも有用な武器が手に入るかもしれない、そう考えた為だ。
これからの姿勢を決めると、大きく息を吸い再び地を蹴って飛び出していた。



・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 



424紛れ込む悪意二つ  ◆sXlrbA8FIo :2007/06/04(月) 20:07:05 ID:z47aCjWb
「――前原圭一だ、よろしく」
目の前の男はそう名乗りながら俺に向かって真っ直ぐ手を伸ばしてきた。
不覚にもその行動に身体が震え、バックの中の手榴弾を握り締める手に力が篭った。
俺に対して向けられたその瞳は疑うと言うことを知らないのか、真っ直ぐと俺を捕らえて離さなかった。
とは言え信用はまだ出来ない。
正直こいつと一緒にいた人間を見ていなければ安易に近づくなんて真似すらしなかっただろう。
圭一と名乗った男の、少し後ろに立つ自分と同い年ぐらいの女が二人……その片方の格好があまりにも滑稽だった。
(……どう見ても痴女だよな、これは)
ほとんど素肌を晒したような怪しげなその服は、直視もする事もはばかられる。
恥ずかしさに必死に視線を背けようとしてはいるが、そのインパクトに引き寄せられるように目線はどうも追っていってしまう。
「好きでこんな格好してるんじゃないよぅ……」
「え……?」
気が付くと目の前の女は真っ赤になって縮こまってしまっていた。
「……す、すまん」
慌てて俺が頭を下げるのを見ながら、圭一ともう一人の女が小さく笑っていた。
思っただけのはずがどうやら呟いてしまっていたらしい。
(春原じゃないんだから……しくったな。でもおかしいだろう、この服は……胸なんか見てくださいと言わんばかりじゃないか)
「やだ! みないでぇ」
「うっ……」
胸元を抑えながら隠すようにしゃがみこんででしまった女を前に思わず身体が硬直する。
(また言ってたのか……?)
「言ってるよぉ」
涙を軽く貯めながら上目遣いに俺を見上げてくるその表情に罪悪感で一杯に――っておい、そこの二人!
笑いをかみ殺してるんだろうが、めちゃくちゃバレバレだぞ……ったく失礼な奴らだ。
「だからあんまりまじまじと見ないでってばぁ」
……自業自得だけどな。

425紛れ込む悪意二つ  ◆sXlrbA8FIo :2007/06/04(月) 20:08:16 ID:z47aCjWb
羞恥に震える女と、それを見守る二人の笑いのおかげ……かどうかは知らないが、幾ばくかの余裕が俺の中に沸き起こる。
そう思うとバックに入れた手とは反対の手を取り出し、圭一の手を握り締めた。
「……岡崎朋也だ」
握り返してくれたのが嬉しかったのか、圭一は満面の笑みを浮かべながら俺の手を強く握り返してくれていた。
なんだろう、悪い気はしなかった。

「……遠野……美凪です」
ちらりと圭一の後ろに並んでいた女を見やると、そのうちの一人がペコリと頭を下げて名乗ってきた。
「あ、さ、佐藤良美です」
一呼吸遅れながら、下からも声が聞こえて来る。
俺を見ながらどこか落ち着かない節を感じるが……やばい、変な奴と思われて無いだろうな。
――と、そこで美凪と名乗った女が何かを差し出しているのに気が付いた。
「ん、これは?」
目の前に出されたものをまじまじと見つめる……『進呈』?
「……お近づきのしるしです、ぺこり」
良くはわからないが恐る恐るそれを受け取り、圭一が生暖かい目で見つめる中それを開けてみた。
中から出てきたのは一枚のお米券……ホワッツ? ホワイ?
まったくもって意味不明な中身に美凪に顔を向けるも、満足そうに美凪は微笑を浮かべ足を一歩戻し後ろに下がっていった。

なにがしたかったのかさっぱりわからず考え込む俺の顔が、よほど間抜けな顔をしていたのだろうか?
圭一が俺の肩をバンバンと叩きながら笑いをこらえているのを見ると、なんとなく警戒していた心も緩み、知らず知らずのうちに一緒になって笑ってしまっていた。



・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



426紛れ込む悪意二つ  ◆sXlrbA8FIo :2007/06/04(月) 20:09:38 ID:z47aCjWb
とりあえずは情報交換をしようと言う圭一の提案に、朋也は黙って頷いた。
だが先ほどオボロに襲われたのは決して忘れてはいない。
最初は友好的に近づいてきて情報だけ引き出し、襲ってくる可能性はある。
目の前の3人はとても自分を襲うようには見えなかったが……それでもあくまで用心の為に少し距離を取り、地面に腰掛ける事を提案すると
圭一は明らかに不満そうな顔を浮かべた。
それをなだめながらも、何故自分がそのように慎重になるのかその理由を手短に説明する。
そして自分にはその意思は無いが、もしも俺がそう言う人間だったら圭一達も危ないだろうと言う事も合わせて示唆すると
なるほど、と感心した風に3人は頷いていた。
「んま、そこまで丁寧に話して襲ってくる馬鹿もいないだろ? 俺はあんたの事を信じるぜ。っと、岡崎……さん、か?」
完全にもう朋也の事を信用しているのか、距離を詰めながら圭一は朋也に笑いかけていた。
「朋也でいいぜ、俺も圭一って呼ぶからよ」
朋也は答えながら、手が何時の間にか握り締めていた手榴弾を離し、バックから取り出されていた事に気づく。
同時に今までの思考がバツの悪いものに感じ、気まずさを覚えながらも圭一がしたように笑みを返していた。

「それでこっちのほうだけど……」
圭一も今まで起こったことをかいつまんで説明する。
とは言え、朋也の経験から比べたら圭一の行動など特筆すべきことも無い平和そのものだったのだが。
一つほど平和とは言えない事もあったのだが――圭一は敢えて、良美が『人を殺した』、という事実は朋也には伏せた。
自分との出会いの話になった時に、良美がどこと無くそわそわし始めていたからだ。
仲間となりえる人物に隠し事はしたくない……がこれは良美の問題でもある。
良美はまだ朋也を仲間だと思っていないのかもしれないし、思っていたとしても知られたいはずはあるわけない。
それよりも良美の格好にばかり興味を示した朋也のおかげで、出会いの話題が一瞬で流れたというのもあったのだが。
話題がずれた時に良美がほっとした表情を浮かべたのを感じると、これが正解だったんだろうなと圭一は胸を撫で下ろしていた。



・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 



427紛れ込む悪意二つ  ◆sXlrbA8FIo :2007/06/04(月) 20:10:30 ID:z47aCjWb
岡崎さんと前原さんが話し合う傍ら、私は佐藤さんにそっと手招きをして呼びかけました。
「……佐藤さん」
「ん?」
変わらぬ笑顔で私に視線をくれた佐藤さん。
ちくりと胸が痛みましたが、聞かなければならないような気がしました。
勿論、その方を殺してしまったのが佐藤さんだと言う事自体を話すつもりはまったくありません。
でも佐藤さんが殺してしまった方が岡崎さんのお知り合いの方なら、その方が死んでいると言う事実だけはちゃんと告げなければいけないと思ったのです。
岡崎さんと前原さんの方をちらりと見ると、お二人は真剣にお話をしているようで私たちのことはまったく気になされていないご様子。
今なら聞けるかも、いえ、今しかない――
「あの方の制服ってもしかして……」
私の問いに、佐藤さんは悲しげな表情を浮かべると
「うん……多分……同じ……」
と、肩を落としながら呟くように言いました。
同時に目から一筋の涙が――。
再び私の胸にちくりと何かが刺さりました。
やはり興味本位で聞くべきではなかったです。
自己嫌悪でつぶされそうになりました。
「いいの。悪いのは私だから」
私が同じように肩を落としたのを見た佐藤さんが、慌てて涙を拭うと私に向かって微笑んでくれました。
「私の口からちゃんと朋也さんに言うから……心の整理がつくまで、待って欲しい……かな」
その顔を見て強いと思いました。
だから懐からあれを取り出して私は良美さんに渡しました。
安易に慰めることも出来ないけれど、少しでも力になりたかったから。
「……ごめんね、ありがとう」

――謝るのは私のほうです、本当にごめんなさい。


・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 
428紛れ込む悪意二つ  ◆sXlrbA8FIo :2007/06/04(月) 20:11:18 ID:z47aCjWb



渡されたお米券。
正直目の前で破いてやりたかった。
なんとか誤魔化せたようだけれど、もしあの後に変なことを口走られて岡崎朋也に聞かれたらどうなるものかわかったもんじゃない。
少しでも危険を減らしたいところなのに……会う人間全てが前原圭一のようにお人よしであるわけが無いのだから。
遠野さんに対する怒りがやまない……。
お米券を持つ手が震える。

ダメダメ、落ち着いて。深呼吸深呼吸……すーーはーーー。よし、おっけ。

心は落ち着いてきたけど、よくよく考えたら近いうちに彼女はなんとかしないといけない。
守られる対象が二人って言うのはどんなに強い人だって完全に守りきるのは難しいからだ。
圭一君にはなんとしても私を第一に見てもらわなければ。
それにやっぱり、変に勘ぐって和を乱すような人はいらないよ。
朋也君は……信用なんかしてないけど圭一君が完全に信用しきっているし、波風立てることも無いよね。
それに朋也君がことみちゃんの知り合いだったのは幸い。
ことみちゃんと出会ったときに信用されるにはやっぱ元からの知人がいるってのは心強いし。
殺し合おうとか思ってない男手はやはり欲しいしね。
遠野さんには口止めを頼んだし、圭一君もさっきのを見る限り多分大丈夫。
勿論もう一回念は押しておくけれどね。
なんとかして一緒に来てもらえるように出来ないかな。

「んじゃ俺はそろそろ行くぜ」
圭一君と二人で話していた朋也君は、そう言うとバックを持ち立ち上がった。
「え? 俺はてっきり一緒に行くもんだと思ってたぜ」
意外そうな顔で圭一君は朋也君に聞き返す。
「そ、そうですよ。一人は危ないんじゃ?」
私の言葉に同意するように遠野さんもコクコクと首を下げる。
429紛れ込む悪意二つ  ◆sXlrbA8FIo :2007/06/04(月) 20:12:54 ID:z47aCjWb
「別にあんたらを信用してないってわけじゃないさ。ただ病院に行きたいからな。あんたらは病院から来たんだろう?
だったら戻らせるのも手間だと思っただけだ。なに、こいつの治療終わらせたら俺も学校へ向かってみるさ」
私のほうを見ちゃいけないと必死に目線をそらそうとしてしてる朋也君が少し可愛かった。
「でも……あ、ほら、商店街には薬屋があるかもしれないし、なくても学校には保健室もあるんじゃないかな?」
「……む、それもそうか」
ここで朋也君を手放すのはかなり惜しい。
「ね、ほら。そうしよう? やっぱり一人は危ないよ」

――結果、私は不自然じゃない程度の呼び止めをし続けた結果、朋也君も同行してくれることになった。

まずは商店街を目指し、私たちは足を揃え歩き出した。
商店街についたらまず服を探して……そして隙があれば……。

輪を乱そうとしてるんじゃないよ。
きっとこれが私達ににとって最善の策。
こうでもしないと絶対生き残れやなんてしないから。
私を守ってくれれば、私だって出来る限りの事はするから。
頑張って、ね。圭一君。朋也君。



・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 



そんな4人に増えた一行を遠巻きに見つめる瞳が二つ。
息を殺し、バットを握る手に力を混めながら。スバルは注意深く一行を観察していた。
(また凄い格好してるよな、よっぴー)
佐藤良美の姿を目に捕らえた瞬間に彼の思考は中断していた。
きぬとレオ以外は殺せばいいと、ただそれだけを思っていた。
430紛れ込む悪意二つ  ◆sXlrbA8FIo :2007/06/04(月) 20:14:02 ID:z47aCjWb
彼ら以上に大事なものなんて自分にとってはありえないのだから。
彼らの存在。彼らと過ごした聖域。それさえ取り戻せれば良いはずだった。

迷いを払拭しようと慌てて頭を振って雑念を飛ばそうと試みる。
(違う、よっぴーだから躊躇ってるわけじゃない。ただ人数が多かったから、1対4でバットだけで飛び出すなんて単なる馬鹿のやることだ)
知り合いだからとか躊躇ってる場合でもないし、戦力差など省みてる場合でもない
立ち止まっているこの時間の中で、きぬやレオの身に何かが起きているのかもしれないのだから。
(そうなると……俺自身がEになるのが手っ取り早いか)
隙をつく時間すら待っているのが惜しい。
少なくともあの集団の雰囲気から察するに、有無を言わさず俺を襲うということも無いだろう――なら。
「よっぴー!」
最も効率よく参加者を排除できる方法として彼は結論を出し、隠れていた姿を晒すと大声で良美に向かって呼びかけた。




【F-5・G-5境界上方/川の近く/1日目 早朝】
431紛れ込む悪意二つ  ◆sXlrbA8FIo :2007/06/04(月) 20:14:47 ID:z47aCjWb
【岡崎朋也@CLANNAD】
【装備:キックボード(折り畳み式)】
【所持品:手榴弾(残4発)・支給品一式】
【状態:脇腹軽症(痛み継続)】
【思考・行動】
基本方針:何が何でも生き延びる。敵意がある者には容赦なく攻撃
1:完全に信用しきったわけではないが、三人が自分に対して今のところ敵意が無いと判断
2:怪我の治療に商店街の薬屋、なければ学校の保健室を目指し、圭一たちに同行
3:良美の格好に少し照れている
4:少しは知人の安否が気になる。
5:オボロが探していたハクオロのことを警戒。
【備考】
オボロは死んだ、もしくは瀕死だと勘違いしています。

【佐藤良美@つよきす -Mighty Heart-】
【装備:S&W M36(5/5)、メイド服(圭一サイズ)】
【所持品:支給品一式×2、S&W M36の予備弾15、スペツナズナイフ、錐 毒入りとラベルが貼られた500ml非常用飲料水】
【状態:健康、羞恥】
【思考・行動】
基本方針:エリカとレオ以外を信用するつもりは皆無、ゲームに乗っていない者を殺す時はバレないようにやる
       利用できそうな人間は利用し、怪しい者や足手纏い、襲ってくる人間は殺す。最悪の場合は優勝を目指す
1:エリカ、レオ、ことみを探して、ゲームの脱出方法を探る
2:圭一と朋也を出来る限り利用したい
3:美凪の存在がそろそろ邪魔に感じる
4:まともな服が欲しい
【備考】
非常用飲料水の毒の有無は後の書き手に任せます。
メイド服はエンジェルモートを想定。
銃、飲料水の存在は誰も知りません。
良美の血濡れのセーラー服はE-5に放置されています
432紛れ込む悪意二つ  ◆sXlrbA8FIo :2007/06/04(月) 20:16:05 ID:z47aCjWb
【前原圭一@ひぐらしのなく頃に祭】
【状態:健康】
【装備:柳也の刀@AIR】
【所持品:支給品一式】
【思考・行動】
基本方針:仲間を集めてロワからの脱出
1:美凪と良美を守る
2:良美の服を探す事と朋也の治療で薬屋を探す事の為に先ず商店街へ
3:手掛かりを求め学校に向かう
4:知り合いとの合流、または合流手段の模索
【備考】
良美が殺した人物(藤林杏)と朋也の関係には気付いていません

【遠野美凪@AIR】
【状態:健康】
【装備:なし】
【所持品:支給品一式、顔写真付き名簿(圭一と美凪の写真は切り抜かれています)】
基本方針:圭一についていく
1:知り合いと合流する
2:朋也に良美の過去を話すつもりは無い
【備考】
良美は美凪が顔写真付きの名簿を持っていることを知りません。
病院のロビーに圭一のメモと顔写真が残されています。
良美が殺した人物(藤林杏)と朋也が同じ学校だとは気付いているが、その関係や誰なのかまでは知りません
433代理投下:2007/06/04(月) 20:25:07 ID:WZnIEX+c
【伊達スバル@つよきす〜Mighty Heart〜】
【装備:悟史のバット@ひぐらしのなく頃に】
【所持品:人形(詳細不明)、服(詳細不明)、支給品一式】
【状態:多少の疲労】
【思考・行動】
基本行動方針:優勝を目指し皆殺し・主催者全員の殺害。走り回って見敵必殺。
1:4人の隙を見て襲撃
2:良美を見て少し動揺
3:レオときぬの安否が気になる


※朋也・圭一・良美・美凪のそれぞれの知り合いの情報を入手しました
※朋也は鷹野についての詳細は圭一からはまだ聞いていません
※オボロとの戦闘の経緯や外見などは圭一・良美・美凪は聞きました
※4人はスバルの声に気づきました
434そこには、もう誰もいない ◆Qz0e4gvs0s :2007/06/04(月) 23:21:14 ID:WaOcFjUl

「それは……」
ファンタズマゴリアでならば、戦いに赴くスピリットやエトランジェを蘇らせる事は出来る。
もちろん、まえもって術を詠唱する事と、永遠神剣第七位“献身”を用いるのが条件だ。
だがこの地はマナが薄く、治癒の力が上手く働くかすらも分からない。
それに、人間に術が効くかすらも未知数なのだ。
「ありえないとは言い切れません。が、少なくともそれは無いと思われます」
「ん〜、要するに、どちらとも言えないと言う事でよろしいですかな?」
大石の問いに答えたエスペリア自身、正しい解答を持ち合わせてはいなかった。
だが、その解答が気に入ったのか、大石は大いに笑った。
「ですよねぇ。私もそんな馬鹿な話はありゃしないと思ってるんですがね……ただ」
焦らすように、大石は言葉を切った。その度に浮かべる笑みは、エスペリアを警戒させる。
一見友好的に見えるのだが、その目は鋭く隙を見せれば危険に思えた。
「お話はそれだけでしょうか?」
「え。ああ、お引止めして申し訳ありませんでした」
相変わらず好意的に見えない笑みを浮かべながら、大石は道を譲った。
距離を開け、なるべく大石から離れて進もうとしたエスペリアの耳に、呟く声が聞こえる。
「いるんですよ」
「はい?」
思わず聞き返してしまう。
「何かおっしゃいましたか?」
「おや、聞こえてしまいましたか。んっふっふ」
興味を持った事が嬉しいのか、それとも別の理由からか、大石は先程と同じような笑みを浮かべた。
何がしたいのか分からないエスペリアは、十分に距離をとって警戒を続けた。
「いえなに、さきほどの答えなんですがね」
大石が言いたいのは、最後に聞いてきた「死人が生き返るか」と言う事だった。
「生き返っているんですよ。しかも、この島でね」
435そこには、もう誰もいない ◆Qz0e4gvs0s :2007/06/04(月) 23:22:25 ID:WaOcFjUl
「――」
大石の言い出した事実に唖然とした。この男は、死人が生き返りこの島にいると言っているのだ。
しかも、それはおそらくスピリットではなく人間をさして言っている。
「どうしてそんな事が分かるのですか?」
「いや〜、実はこの死んだはずの方々、私の知り合いでしてね」
知り合いとは言いつつも、その言葉からは友愛を感じる事は無かった。
むしろ、言葉の端々から受けるのは、敵愾心のような気がする。
「死んだはずの方々は古手梨花、園崎詩音。あとは……」
ここで一度言葉を切る。
「先程名前を聞いた前原圭一です」
真面目な顔でそう言い放つ。大石の顔からは、とって付けた様な笑みが消えていた。
「本当に死んだのですか?」
「はい。死体も見ましたよ私」
エスペリアには信じられないような事だったが、大石は真面目にそう答えた。
お互いに目を逸らさないまま、無言の時間が二人に訪れる。
先に動き出したのは大石の方だった。
「さて、お時間取らせて申し訳ありませんでした。お急ぎだったのでしょう?」
「あ、いえ」
「んっふっふ。またお会いできる事を楽しみにしてますよ」
そう言うと、大石はわざわざエスペリアが向かう方向に足早に去っていった。
「ああ、もしそのうちの誰かに会ったら、大石が探していたとお伝え下さい」
最後にそう付け加え、背を向けて去っていく大石。
その後ろ姿を、ただただ見送るエスペリアの目には、困惑の二文字が写っていた。
だが、目を閉じて頭を振るう。そしてエスペリアも歩き出す。
当初の目的地である『映画館』を目指して。



     ◇     ◇     ◇     ◇


436そこには、もう誰もいない ◆Qz0e4gvs0s :2007/06/04(月) 23:24:06 ID:WaOcFjUl
学校では、先程の放送を聞いて動き出した四人がいた。
「このまま行けば放送室に着くんだな!?」
「あとは進むだけなの」
「四葉が現場をチェキするのデス!」
「こら、そんなに急いだら転んじゃうわよ」
先頭の恋太郎に続き、真ん中をことみと四葉、後方に亜沙と列になり校舎を駆けていた。
スピーカーから聞こえる男女の指示通り、放送室を目指しているのだ。
「けど、この人達も同じ考えでよかったね!」
場を盛り上げるように、亜沙が喋りだす。それに勢い良く頷く四葉。
だが、対照的に恋太郎とことみは神妙な顔をしていた。
「どうしたのデスか先生?」
「いや。あの放送を鵜呑みにするのはまだ早いと思ってな」
「ほぇ?」
「私達を油断させる罠かもしれないの」
「そういう事だ」
ことみの言葉を支持する恋太郎は、走るのを止め三人に注意を促す。
「万が一に備えて、三人はドア越しに控えていてくれ。相手に敵意がないなら部屋に呼ぶ」
「も、もしボク達を騙してるとしたら?」
「その時は……逃げるしかないな」
お手上げといったジェスチャーをする恋太郎。だが、その目は逃げる事を語ってはいなかった。
重くなりつつある空気を打ち破ったのは、四葉だった。
「大丈夫デス! 先生と四葉とことみちゃんと亜沙さんがいれば無敵なのデスよ!」
「ははは……そうだな」
拳を高々と掲げ宣言する。その様子に、一同から重い空気が散っていった。
437名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/04(月) 23:24:15 ID:taIN2YXP
支援
438名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/04(月) 23:25:02 ID:taIN2YXP
支援
439そこには、もう誰もいない ◆Qz0e4gvs0s :2007/06/04(月) 23:25:15 ID:WaOcFjUl
自分がそんな事をしたとはつゆ知らず、四葉はせわしなく周囲を観察し始める。
厳しい目をしていた恋太郎の目は、穏やかなものに変わっていた。
緊張していたことみや亜沙も、肩の力を抜く事が出来た。四人は再び放送室を目指し歩き出す。
と、窓の外を見ていた四葉の目にあるものが飛び込んでくる。それは、校庭を走る二つの影。
「先生! 見るデス!」
四葉の指差した方を見る三人。そこには、校庭の真ん中を走り抜ける人間の姿だった。
「まさか、さっきの放送の二人!?」
「え、どうして校舎から出てっちゃうの?」
「置き去りにされたの」
「待つのデス!!」
「ばっ、行くな四葉!」
恋太郎の叫びを無視して、四葉は先程来た道を駆け下りて行く。
追いかけようとした恋太郎だったが、一瞬だけ思考を張り巡らせる。
「ことみ。この校舎であの出て行った二人以外に人がいると思うか?」
その質問に首を振ることみ。
「隠れていれば分からないけれど、その可能性は低いと思うの」
「だよな。放送室は俺達を上に固定させる罠だったって事か」
「おそらくそうなの。でも、不思議なの」
「ああ、俺達を上にひき付けるておく理由が見当たらない」
二人のやり取りに、一人だけ付いていけない亜沙。
「と、とにかく四葉ちゃんを追いかけようよ!」
「ああ」
そして三人も、四葉を追って一度来た道を戻っていった。



     ◇     ◇     ◇     ◇


440そこには、もう誰もいない ◆Qz0e4gvs0s :2007/06/04(月) 23:26:41 ID:WaOcFjUl
エルルゥを弔い、先程の男を追いかけようとしたオボロの耳に、懐かしい声が届く。
「兄者か!?」
だが、呼びかけても返事は無い。
「もっと遠くから聞こえたのか……」
オボロは悩んだ。先程の男を追うには建物の多い東に進むべきである。
だが、信頼する兄貴分であるハクオロの声は、西から聞こえてきた。
「エルルゥの事を告げねばなるまい」
思案した後、オボロは声のした方向に進んでいった。
聴覚を働かせ森を駆けると、目の前に大きな建物が広がった。
「ここか?」
だが、ハクオロの姿は無く、辺りは静まり返っていた。
(聞き間違えたのか? いや、兄者の声を間違う訳が無い)
茂みに隠れ、もう少し周囲を観察する事にする。するとそこへ、建物のほうから誰かが近付いてくる。
「どこに隠れたデスか!」
(何だと!?)
建物から走ってきた少女は周囲を見渡し、ゆっくりとオボロの方に足を進めてくる。
(馬鹿な……気配は消したはず)
だが、少女の足は確実にオボロに向かっている。もうあと僅かで見つかってしまう。
迷わず向かってくるその態度に、オボロの心は焦りを生んでいた。
なぜなら、見つけたものは殺すと決意した直後に現れた少女は、妹のユズハよりも幼いのだから。
「隠れても無駄なのデス! 四葉にはお見通しなのデスよ!」
その言葉で、オボロの心は決まった。そっとボーガンを絞り四葉に向ける。
二人の間に障害は無い、狙いを定めれば一発だった。



     ◇     ◇     ◇     ◇


441名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/04(月) 23:26:44 ID:taIN2YXP
支援
442名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/04(月) 23:26:45 ID:Qcs/Q5oO
支援
443名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/04(月) 23:27:55 ID:taIN2YXP
支援
444そこには、もう誰もいない ◆Qz0e4gvs0s :2007/06/04(月) 23:28:36 ID:WaOcFjUl
四葉は、突然辺りが暗くなって驚いてしまった。前後の記憶の曖昧である。
意識が朦朧としていて、今時分が何をしているのか把握できていない。
と、すぐ傍で誰かが立っているような気がした。
「兄チャマ?」
「…………ああ」
呼びかけると、それは四葉の兄だった。
眠たいのか目が開けられず、聞こえてくる声も遠かったが、それでも大好きな『兄』だった。
「兄チャマごめんなさいデス。四葉、眠くて目が開けられないのデスよ〜」
「そうか」
「でも、せっかく兄チャマが一緒にいるのだから頑張って起きるデス」
「いや。そのままでいい」
「そうデスか? あ、そう言えば兄チャマにご報告があるのデス!」
「……」
「四葉、本物の探偵さんの生徒になったのデス。これで四葉も探偵に一歩近付きましたデスよ」
「ああ……ッ」
四葉の顔に、幾つかの雫が落ちる。
「兄チャマ大変デス。雨が降ってきましたデスよ」
「大丈夫……よ、四葉が濡れない様に俺が傘に……なる」
それでも、落ちる雫は止まらなかった。
「あ、久しぶりなのデス」
けれど、四葉は嬉しくて濡れる事など忘れて喜んだ。
「兄チャマが四葉の事を呼ぶのが……懐かしく……聞こえ……」
「すまない。すまない!」
何かを詫びる様な兄の声。その声を頼りに、四葉はそっと手を伸ばした。
そして、兄の頬に手を当てる。
「兄チャマ……も……風邪ひく……デス」
その頬に触れた手を兄は力強く握り返す。
「ゆっくり休むといい。おやすみ……四葉」
「お……やすみ……なさい……デス」
そして、四葉は二度と目覚めぬ眠りについた。
445そこには、もう誰もいない ◆Qz0e4gvs0s :2007/06/04(月) 23:30:21 ID:WaOcFjUl




物言わなくなった四葉に、兄を名乗ったオボロは泣いていた。
額から矢を抜き取り、胸に手を組ませる。
もう引き返せない。大切な『妹』を手にかけ光ある場所に戻ろうとは思えない。
あとはただ進むだけである。進むしかない。
オボロの目指す先には、許される事の無い修羅の道しか見えないのだから。
ただ孤独のまま、オボロはここから去っていった。
目指すは西……ハクオロの声が聞こえた方向へ。


     ◇     ◇     ◇     ◇



校門から飛び出し、しばらく身を潜めていたハクオロと観鈴は北西を目指していた。
まずこの島の情報を得たいと提案したハクオロに対し、観鈴は博物館と役場を挙げた。
博物館をならば島にまつわる物が展示してあるだろうし、役場は資料が沢山あった。
それに、食料や安全区域を確保するためにも百貨店に行く必要がある。
最終的には博物館を経由し役場。その後百貨店へとの考えをまとめ、二人は走り続けていた。
だが、男であり大人であるハクオロと違い観鈴の体力は少ない。
しばらくは持っていたが、観鈴が苦しそうな表情になった所で走るのを止めた。
「大丈夫か観鈴」
問いかけるハクオロに対し、観鈴はVサインを作って答えた。
「にはは。大丈夫」
無理やり笑顔を作るが、どうみても疲れきっている様にしか見えなかった。
新市街まで距離はあるが、少なくともあの四人は巻いたはずである。
近くにあった平べったい岩に観鈴を座らせ、自身も適当な岩に腰を下ろした。
446名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/04(月) 23:30:34 ID:kUkeDyIF
 
447名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/04(月) 23:30:49 ID:taIN2YXP
支援
448名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/04(月) 23:31:30 ID:kUkeDyIF
 
449そこには、もう誰もいない ◆Qz0e4gvs0s :2007/06/04(月) 23:31:53 ID:WaOcFjUl
「少し休もう。実は私も疲れてしまってな」
実際にはまだ走れるが、休憩を取りたいのも事実だった。
そんなハクオロを見て、観鈴は頭を下げる。
「ごめんなさいハクオロさん」
「ん?」
「私のせいでこんな事になって」
しょぼくれる観鈴。だが、ハクオロは優しく諭した。
「いや、むしろ感謝している。こうやって志同じくする人間と会えたのだからな」
「が、がお……」
泣きそうな顔を伏せ、いつもの口癖を言ってしまう。だが、叩いてくれる者はそこにはいない。
「往人さん……無事かな」
「大丈夫だ。聞けばその青年、方々を巡って旅をしているらしいな。そんな男ならこの状況でも生きられるさ」
もちろん、その言葉に根拠は無い。それでも、観鈴を安心させる事がハクオロにとって大切なのだ。
「うん。私信じる……往人さんと、私を信じてくれたハクオロさんを」
「ありがとう。観す――誰だ!?」
何者かの気配を感じ、観鈴を庇うように立ち上がる。
すると、二人の向かっていた方向から一人の男が現れた。
「いや〜お邪魔でしたかな。んっふっふ」
男は笑いながら二人に近付く。
「何者だ?」
「ああ、警戒しないで下さい。私怪しい者ではありませんよ」
そう言って、警察手帳を取り出す。
「私……××県警興宮警察署の大石蔵人というものです」
エスペリアにしたように、大石はいつも通りに名乗った。
警察手帳が解からないハクオロだったが、観鈴はそれが何を意味するか解かっていた。
「警察官さん?」
「はい。そうですよお嬢さん」
「警察? 大丈夫なのか観鈴」
「はい。えっと、私の国では市民を守ってくれる人達です」
「民を守る……なるほど」
450名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/04(月) 23:32:26 ID:taIN2YXP
支援
451そこには、もう誰もいない ◆Qz0e4gvs0s :2007/06/04(月) 23:33:11 ID:WaOcFjUl
ハクオロが頷くのと同時に、大石は再び喋り始めた。
「ところで、よろしければお二人のお名前を聞かせていただきたいんですが」
即座にハクオロに目を向ける観鈴。しばらく考えたハクオロは、名乗る事を決めた。
「私はハクオロ。この少女は観鈴だ」
「神尾観鈴です」
「いやいや。これはご丁寧にど〜も」
顔こそ笑っているが、その視線はハクオロを強く刺したままだった。
いたたまれなくなった観鈴が、ハクオロの袖を掴む。
(とは言え、こう怯えている観鈴を前面に出す訳にはいかんな)
大石の視線から観鈴を遮るように、ハクオロが立ち塞がる。
「ところで……二、三お聞きしたい事があるのですが宜しいでしょうか」
「……内容によるな」
「あ〜、一つ目は赤坂衛という男性、または前原圭一と言う少年を探しているんですが。ご存知ですか?」
観鈴もハクオロも横に首を振る。もっとも、ハクオロは後者の名前に聞き覚えはあったがそれは伏せた。
(あのタカノと女性に向かって叫んだのが確か……)
だが、あれっきり前原圭一を見たことは無い。だから、これは嘘ではなかった。
「そうでしたか、んではもう一つ。あなた方、最初に飛ばされた場所はご存知で?」
「私は学校の近くだな」
「わ、私もです」
そう答えると、大石は地図に何か書き込み唸り声をあげる。
「なるほど〜。決して一マスにつき一人配置ではない……と」
「どう言う事だ?」
「あ〜いえ、この地図ご丁寧に64マスに区分けしてあるので、一マスに付き一人と思っていたんですがねぇ」
顎に手をやり考え込む。やがて地図をしまうと、再び喋り始める。
「こんな事を聞くのもなんですが、宜しいでしょうか?」
「手短に頼む」
どことなく気の置けない大石に対し、ハクオロは強く警戒していた。
「ええ、ではお聞きしますが……お二人は、死んだ人間が生き返るなんてことがあると思いますか?」
大石の唐突な質問に虚を突かれる。
「死んだ人間が」
「生き返る?」
二人は合わせた様に呟く。どちらも、言葉の真意を計りかねていた。
452名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/04(月) 23:33:43 ID:taIN2YXP
支援
453名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/04(月) 23:34:31 ID:kUkeDyIF
 
454そこには、もう誰もいない ◆Qz0e4gvs0s :2007/06/04(月) 23:34:46 ID:WaOcFjUl
「いえ、実はこの島にいるんですよ。死んだはずの人間が」
「ッ!!」
「何を根拠にそんな事を」
怖がる観鈴を抱きとめ、ハクオロは大石を睨んだ。
「まぁまぁ、その人間ってのが、先程聞いた前原圭一なんですよ。他にも古手梨花、園崎詩音もそうですね」
言葉が出なかった。もし大石の言う事が事実なら、タカノに食い掛かった前原圭一は誰なのだろう。
「もし、お会いしましたら大石が探していたとお伝え下さい」
言い終わっても、大石の目線はハクオロから外れなかった。
「そうそう。追加でもう一つ宜しいですか?」
「何だ?」
「なぜ、お二人は急いでおられたのですか?」
「それは……」
正直に言うべきか言い淀む。そんなハクオロを見た観鈴は、前に出て喋りだした。
「私達、学校にいた他の人たちから逃げてきたんです」
「それはどうして?」
「あ、あの……それは」
「そこにいた四人が、この殺し合いに乗っているかもしれないからだ」
キッパリと言い切る。だが、大石は疑いの目を向けたままだった。
そう、この時点でようやくハクオロは気付いたのだ。大石の目が友好的でないことに。
「本当にそうなのですか? もしかして、貴方が先に何かなさったのでは?」
言葉を濁し「襲い掛かった」とは言わない。だがその目は語っていた。
大げさな大石の態度を流し、こちらも正面から相手を見据える。
「ちょっと見て来ましょうかね。現場を見ないことには分かりませんから。んっふっふ」
ハクオロは困っていた。もし大石が一緒に学校まで来てくれと言い出したら、逃げた意味が無い。
ついていくのを拒んではこちらが怪しまれるし、拒みきれても無駄な時間を消費してしまう。
かといってこの場から逃げ出したくても、観鈴が居ては逃げ切れない。
悩みに悩んだ末、ハクオロはある決心をした。
455そこには、もう誰もいない ◆Qz0e4gvs0s :2007/06/04(月) 23:35:46 ID:WaOcFjUl
「私達は何もしていない。それが信じられないなら」
そう言って、デイパックから銃を取り出す。それを見た大石は、警戒して後ろに跳びさがった。
だが、ハクオロは銃を構えずに地面へと投げた。
「ぉ?」
「その銃を貸そう。確かめて、もし私の言っている事が嘘ならば、追いかけてきて撃つといい」
「……いいでしょう。貴方を信じます」
そう言って、銃を懐にしまう大石。
「ならば私達は行く。さ、観鈴」
「は、はい!」
「あ、最後にもう一つ……これからどちらへ?」
信じたものの、心のどこかでは信じ切れていないのが良く分かった。
「新市街地だ」
そう言って、ハクオロと観鈴は走り出した。
それを見送った大石は、二人の言った事を確かめるため学校を目指し歩き出した。



     ◇     ◇     ◇     ◇


456名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/04(月) 23:36:58 ID:taIN2YXP
支援
457そこには、もう誰もいない ◆Qz0e4gvs0s :2007/06/04(月) 23:37:18 ID:WaOcFjUl
校門を出た三人が見たのは、二度と目を覚ます事の無い四葉の遺体だった。
「四葉ちゃん!」
駆け寄った亜沙は、四葉を抱きかかえ必死で呼びかける。
「ねぇ! 返事して! 四葉ちゃん!!」
その横で、静かに震えることみ。目には、涙を浮かべていた。
恋太郎は、間に合わなかった事を悔いた。しかし涙は流さない。
「まだ、近くにいるかもしれない。ここは危険だ」
「……」
「とりあえず、一度校舎に戻ろう」
「……して」
「え?」
「どうして恋太郎さんは平気なの!? 四葉ちゃん、死んじゃったのよ!」
「分かってる」
「なら、どうしてそんなに冷静でいられるの!? おかしいよ!」
「俺だって悔しい!」
「!!」
「だがな、ここで俺達がすることは泣き続ける事じゃない」
四葉のデイパックを取り、校舎に戻る事を促す。
「これをやった奴……四葉の見た二人組を見つけて」
直情的になりそうな頭を必死で冷ます。短絡的な思考は危険である。
「見つけて……詫びを入れさせよう」
「ぐすッ……ぅぅ」
「亜沙さん」
泣き続ける亜沙をことみは強く抱きしめる。亜沙も、ただただことみを抱きしめるしかなかった。
一緒に居た時間は少ない。それでも、その死は衝撃的で悲しかった。



458名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/04(月) 23:38:21 ID:taIN2YXP
支援
459そこには、もう誰もいない ◆Qz0e4gvs0s :2007/06/04(月) 23:39:58 ID:WaOcFjUl
三人で用具室に戻り、スコップを片手に四葉の元に戻ってきた。そして、黙々と穴を掘り始める。
やがて、ひとが一人入る穴になると、三人は四葉をゆっくり持ち上げ、その中に埋めた。
その顔は、どこか安らかで笑顔を浮かべているように見えた。
最後に、近くにあった太い枝を盛った中心に刺し、近くにあった花を添えた。
その墓に黙祷を捧げる三人。だが各々の考えはまるで別々だった。
(四葉。悪かったな……先生として、探偵のイロハ教えられなかった)
(四葉ちゃん。ゆっくりお休みして欲しいの)
(ボク……仇を撃つからね。必ず!)
やがて黙祷を終え、立ち上がる三人の後ろから声がかかった。
「おや〜、聞いていたより一人少ないですね」
その声の主は、森の中からひょっこりと姿を現した。
「んっふっふ。こんな島で何度も人に会うのは珍しいですね」
その笑い方は、恋太郎や亜沙の神経を逆撫でる。
男は三人とは違い余裕の表情で歩み寄ってきた。
「どうして知っているの?」
最初に言葉を発したのはことみだった。
「どうしてことみ達が「四人」だって知ってたの?」
その言葉に身構える恋太郎と亜沙。双方に緊張が走る。
「ありゃ、失言でしたかな。しかし鋭いですねお嬢さん。もしかして探偵さんか何かですかな?」
「探偵は俺だ……」
噛み合っているようで噛み合わないやり取り。亜沙は、銃のトリガーに指をかけた。
「おおっと、撃たないで下さいね。二、三聞きたいことがあるだけなんですから」
と、顎に手をやった大石の腰の銃を、恋太郎は見逃さなかった。
(アレは――四葉が俺にくれたS&W M60か!)
これでほぼ確定だった。校庭から逃げ去り、四葉を殺したのはおそらくこの男である。
同じように銃に気付いたことみは、指示を仰ぐように恋太郎を見つめていた。
とりあえず男の隙を付いて銃を奪い返したかったが、どういう訳か隙が無かった。
ただ立っているのに、いつでも臨戦態勢をとれる状態なのだ。
無言の睨みあいが続くと思われたが、男の銃に気付いてしまった亜沙が最初に動いた。
亜沙はイングラムM10を大石に向けると、躊躇せず発砲した。
460名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/04(月) 23:40:07 ID:taIN2YXP
支援
461そこには、もう誰もいない ◆Qz0e4gvs0s :2007/06/04(月) 23:42:07 ID:WaOcFjUl
「四葉ちゃんの仇ぃぃ!!」
「やめろ亜沙!」
小気味いい音をたて銃口が火を噴く。だが、反動に耐え切れない亜沙は、地面に尻餅をついてしまう。
狙いも外れ、撃ったほとんどの弾があらぬ方向に飛び去っていく。
一方の男は、亜沙が撃ちなれていない事を見抜いたのか冷静にそれを避け亜沙に近付く。
亜沙の危険性を感じ取った恋太郎は、ことみから鉈を奪い取り大石に飛び掛る。
その攻撃を回避し、恋太郎の額に銃口を突きつける。
「いやはや。撃たれるとは思いませんでしたよ。なはは……あ、手は挙げてくださいね」
「くっ……」
余裕のある男と違い、恋太郎は背中から滝のような汗を流していた。
「俺達をどうするつもりだ」
「いえ、お話を聞きたかったんですが……どうやらそう言う訳にはいかないようですね」
尻餅をついていた亜沙は、今度こそ大石に狙いを定める。
だが、恋太郎を盾にするように立ち位置を変えるため発砲できない。
ことみも、動こうとすれば恋太郎が撃たれるのが分かっていたため動けない。
「先に聞かせろ」
「なんですか?」
「あの観鈴という女の子はどうした?」
「さぁて、どうして私に聞くんですかねぇ?」
「とぼけやがって」
「逆にお聞きしますが、もう一人はどこに行ったんですか?」
男の問いに違和感を感じる。
(まただ、何でこいつはこんな事を聞く? 殺したなら分かっているはず)
頭をフルで回転させる。必要なピースは揃っているはず。
(もしかして、殺したのはこの男じゃない?)
それならば、男の言動も辻褄が合う。試しに質問を投げかける。
「どこで四人だと知った?」
「ああ。貴方達から逃げる二人組からですよ」
462名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/04(月) 23:42:51 ID:taIN2YXP
支援
463そこには、もう誰もいない ◆Qz0e4gvs0s :2007/06/04(月) 23:45:36 ID:WaOcFjUl
(やはり)
今まで組み立てていた推理を一度崩す。恋太郎は慎重に切り出した。
「あんた騙されたな」
「は?」
「俺達の仲間を殺したのはそいつら……いや、男の方だ」
「……なんですって?」
その言葉に食いつく。僅かながら動揺しているのが分かる。
「さらに言えば、男か女の態度がおかしくなかったか?」
「むむ」
男は考え込む、こうなるのも恋太郎の考えのうちだった。この状況でこう言えば、大抵の人間は悩む。
さらに、恋太郎の中ではこの目の前の男はこちらを殺すつもりがないのも薄々感じ始めていた。
しばらく思案した男は質問を切り返す。だがそれも、恋太郎の計算の内だった。
「証拠は?」
「そのS&Wは俺が仲間から預かったものだ。弾もある」
そう言って、デイパックから予備の弾を取り出す。
「ふむ。確かに同じですね……これはまた」
そう言って、額に当てていた銃口を外し、差し出された弾を確認する。その瞬間を亜沙は見逃さなかった。
あと少しという所だったが、恋太郎の計算は仲間によって破られた。
「今だぁッッ!」
「駄目だ、やめ――」
亜沙を止めにかかるが、男にグリップで殴られ額が割れる。さらに、男は恋太郎を蹴り飛ばした。
恋太郎が離れた隙を狙ったつもりが、逆にまた男と亜沙の間に投げ出された恋太郎を見て躊躇してしまう。
男は、最初から恋太郎が隙を作るため喋っていたと判断していたのだ。
撃つに撃てない亜沙を尻目に、今度こそ男はトリガーを引いた。
だが、銃声は鈍い怒声を鳴り響かせ、次の瞬間には男の呻き声に変わっていた。
「ぐむぅ! むうぉう……」
「ぐおぉぉあああああ!!」
亜沙とことみが見たのは、二の腕から先が散ってしまった男と、目を押さえ地に伏す恋太郎だった。



     ◇     ◇     ◇     ◇
464名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/04(月) 23:48:33 ID:taIN2YXP
支援
465そこには、もう誰もいない ◆Qz0e4gvs0s :2007/06/04(月) 23:48:45 ID:WaOcFjUl



大石が発砲したのは、威嚇を意味してだった。
もともと当てるつもりはない。相手は素人なのだから、体一つで抑えられるはずだった。
だが、その結果は悲惨なものだった。
大石の片腕は半分吹き飛び、詰問していた男は目から血を流し気絶している。
二人の少女は、何が起きたのか分かっていない。どうしてこうなったか大石は気付いた。
(ぐぅ、っつぅ、暴発したみたいですね……)
そして、その怒りはハクオロに向いていた。
(道理で銃を手放すわけです。最初からこれが狙いでしたか)
確かにああすれば、大石の信頼も一時的にとれるし、何よりその場から離脱できる。
その後大石が発砲しようがしまいが、ハクオロには関係なかったのだ。
(よくよく考えてみりゃ、あのお嬢さんを喋らせないよう遮ったのも頷けるか)
目の前の男の情報と、大石の考えが同じ方向を示し始める。
血が流れ続ける片腕を抑え、大石は目の前の男に近付いた。
それを庇うように、銃を持って居なかった少女が立ち塞がる。
傷口を見て青くなりながらも、その場を引かない強い意志を瞳に宿していた。
どうやら、銃を持っていた少女は校舎に向かったらしい。
「なにも……しませんよ。む、むしろ、手当てして欲しいくらいです……っだだ」
「どうして撃ったの?」
「いえ、あつ、ぐぁ、い、威嚇のつもり……だったんですが、ぅつッ」
「原因は暴発?」
466そこには、もう誰もいない ◆Qz0e4gvs0s :2007/06/04(月) 23:50:46 ID:WaOcFjUl
「よく、ご存知です……あー、あだッ、ねぇ」
「銃を貴方に渡したのは」
「貴方達が……ごふッ、追ってた男の方です。どうやら、ッ私はめられたみたい、ッです」
「名前と特徴は?」
「女の子が神尾観鈴さん……でしたかな。男の、ぐふん、方はハクオロ」
「ハクオロ……」
「仮面付けて着物、ごぶッ、みたいな姿で……新市街に行きましたっ、よ」
尋問されていたのに気付かず、大石は聞かれた事を全て話していた。
「ちょっと、私でも、辛い、はッ」
咳き込みつつも、手馴れた手つきで応急処置を施す。
そして無くなった腕の先を抑え、その場から去っていく。
「どこにいくの?」
「いえ、病院まで、はぁ、行くんですが……来て下さいますか?」
大石からの質問に、ことみは寂しそうに首を横に振る。
「そうですか。では、ッぁ、さ、さようなら」
「さようなら。あ、お名前聞いてなかったの」
「なはは。大石……蔵人ですよ、お嬢さん」
ゆったりした動きで、大石はふらふらと立ち去って入った。



     ◇     ◇     ◇     ◇


467名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/04(月) 23:50:55 ID:taIN2YXP
支援
468名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/04(月) 23:52:43 ID:kUkeDyIF
 
469名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/04(月) 23:54:08 ID:kUkeDyIF
 
470そこには、もう誰もいない ※代理投下:2007/06/05(火) 00:00:50 ID:StAWluI+
ことみの指示通り、亜沙は保健室に向かった。
そこで、保健室から持てるだけの包帯と消毒液、タライ、痛み止め、それと救急セットをデイパックに詰め込む。
最後に、給水室にあった薬缶に水を汲み、それもデイパックに詰めた。
恋太郎とことみの所に戻ると、先程の男は居なくなっていた。
「あの男は!?」
「歩いていっちゃったの。病院に行くって」
「そう」
安心したのか、亜沙は座り込んで恋太郎の目をタオルで拭く。
割れた額の止血はすんだが、目の方は素人の判断では難しかった。
「ん」
何度か目を拭いたところで、恋太郎は目を覚ました。
「ここは……ってぇ」
「あ。お薬どうぞなの」
「これ、お水」
そんな二人から水と薬を受け取ろうとしたが、目に違和感を感じる。
目は開けているつもりなのに、二人の姿がぼやけて見える。
「なあ、俺の目……開いてるか?」
質問の意味が分からない亜沙。逆にことみは俯いてしまう。
「おめめ、見えてない?」
ことみの言葉に、恋太郎は納得した。今、自分は目を開けているのだ。
恋太郎の目を近くで見たことりは、その事実を突きつけた。
「たぶん、網膜剥離だと思うの」
「え!?」
「ああ、やっぱりそうか」
先程の男が撃った銃の暴発で、目に何かが飛び込んできたのは分かった。
咄嗟に避けたつもりだったが、無事ではすまなかった。
「ど、どうするの?」
「参加者に医者がいればいいが、名簿だけじゃ分からないしな」
「知識はあるけど、治療は出来ないの」
「いや、ことみの応急処置には感謝してるさ。それより、あの男何か言ってなかったか?」
471そこには、もう誰もいない ※代理投下:2007/06/05(火) 00:01:36 ID:StAWluI+
恋太郎の言葉に、ことみは先程のやりとりを聞かせる。
恋太郎の目に包帯を巻いていた亜沙は青くなり、自分の早とちりを後悔した。
「ごめん……ボクのせいだ」
「いや、亜沙は悪くないさ。そう自分を責めるな」
「でも――」
「それより、これからどうする?」
恋太郎の唐突な質問にキョトンとする。
「俺はそのハクオロって男を追う。観鈴って子も心配だし、四葉に詫びを入れさせたい」
「私も恋太郎といっしょ」
「ぼ、ボクは……」
亜沙は悩む。稟や楓など知り合いを探すべきか。だが、その考えはすぐに捨てた。
「ボクも一緒に行くよ!」
「そっか……じゃあ」
恋太郎はことみの手をかり、四葉の墓の前に立つ。
「いってくるぜ四葉」
「いってきますなの」
「待っててね。四葉ちゃん」
三人の顔を朝日が照らす。今、心は一つになった。




あれだけ騒がしかった学校……そこには、もう誰もない。





【四葉@Sister Princess 死亡】
472そこには、もう誰もいない ※代理投下:2007/06/05(火) 00:03:58 ID:StAWluI+




【D-3 映画館の北側周辺/1日目 早朝】



【エスペリア@永遠のアセリア】
【装備:木刀】
【所持品:支給品一式、他ランダムアイテム不明】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本1:ゲームには乗らず、スピリットとして人間のために行動する。
基本2:人間と戦ったり、傷つけたくはないが、万一の場合は戦う。
1:大石との話が終わったので『映画館』という所に行ってみる。
2:悠人、アセリアと合流。
【備考】
大石の話した「死人がいる」という言葉をどう受け止めていいか迷っています。
473そこには、もう誰もいない ※代理投下:2007/06/05(火) 00:04:54 ID:StAWluI+



【D-3 映画館の南側周辺/1日目 早朝】


【ハクオロ@うたわれるもの】
【装備:オボロの刀(×2)@うたわれるもの】
【所持品:支給品一式(他ランダムアイテム不明)】
【状態:やや疲労】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない
1・観鈴と新市街へ向かう。
2・エルルゥ、アルルゥをなんとしてでも見つけ出して保護する
3・仲間や同志と合流しタカノたちを倒す
4・観鈴を守る。
【備考】
※校舎の屋上から周辺の地形を把握済み
※中庭にいた青年(双葉恋太郎)と翠髪の少女(時雨亜沙)が観鈴を狙ってやってきたマーダーかもしれないと思っています。
※放送は学校内にのみ響きました。
※銃についてすこし知りました。
※大石をまだ警戒しています
474そこには、もう誰もいない ※代理投下:2007/06/05(火) 00:05:48 ID:StAWluI+



【神尾観鈴@AIR】
【装備:Mk.22(7/8)】
【所持品:支給品一式、おはぎ@ひぐらしのなく頃に(残り3つ)、Mk.22(7/8)・予備マガジン(40/40)】
【状態:疲労大】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない
1・ハクオロと行動する。
2・往人と合流したい
【備考】
※校舎内の施設を把握済み
※大石に苦手意識



【D-4 神社付近/1日目 早朝】


【オボロ@うたわれるもの】
【装備:クロスボウ(ボルト残8/10)】
【所持品:支給品一式(他は不明)、エルルゥのリボン】
【状態:全身に擦り傷・中程度の疲労】
【思考・行動】
0:ハクオロの声の聞こえた方向(西)を目指す。
1:エルルゥを殺した犯人を殺す。
2:ハクオロ、アルルゥ、トウカ、カルラなどといった例外を除いた参加者の排除。
3:ハクオロ、アルルゥと一度合流。(殺し合いに進んで参加していることは黙秘)
※四葉を殺した事を未だ後悔しています
475そこには、もう誰もいない ※代理投下:2007/06/05(火) 00:06:35 ID:StAWluI+


【F-4 住宅街外れ/1日目 早朝】


【大石蔵人@ひぐらしのなく頃に】
【装備:なし】
【所持品:支給品一式、ランダムアイテム不明】
【状態:右肘から先を損失。疲労大】
【思考・行動】
基本:不明
1:治療のため病院へ。(厳しいなら商店街の薬局へ)
2:1の後、別の場所に行く。
3:赤坂衛、前原圭一と合流。
【備考】
※綿流し編終了後からの参加です。
※ハクオロを敵視。観鈴がどういう立ち位置かは考えていない
476そこには、もう誰もいない ※代理投下:2007/06/05(火) 00:07:45 ID:StAWluI+



【E-4 校門の外/1日目 早朝】



【双葉恋太郎@フタコイ】
【装備:なし】
【所持品:支給品一式、昆虫図鑑、参加者の術、魔法一覧、.357マグナム弾(40発)、四葉のデイパック】
【状態:失明。額に傷。肉体疲労・精神疲労】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない
1・ハクオロと観鈴を追う
2・沙羅と双樹、四葉の姉妹達、ことみの知り合いや亜沙の知り合いを探し出してみんなで悪の秘密結社(主催)を倒す
【備考】
※校舎の屋上から周辺の地形を把握済み
※ハクオロが四葉を殺害したと思っています
※『参加者の術、魔法一覧』の内容は読んでいません


【一ノ瀬ことみ@CLANNAD】
【装備:鉈@ひぐらしのなく頃に】
【所持品:レインボーパン@CLANNAD、謎ジャム@Kanon】
【状態:精神疲労】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない
1・恋太郎と共に二人を追う
2・恋太郎たちと行動を共にする
3・朋也たちが心配
※ハクオロが四葉を殺害したと思っています
477そこには、もう誰もいない ※代理投下:2007/06/05(火) 00:08:34 ID:StAWluI+


【時雨亜沙@SHUFFLE!】
【装備:イングラムM10(9ミリパラベラム弾32/32)】
【所持品:支給品一式、イングラムの予備マガジン(9ミリパラベラム弾25発)×8、他ランダムアイテム不明】
【状態:肉体疲労・精神疲労】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない
1・恋太郎やことみと共にハクオロと観鈴を追う
2・稟、ネリネ、楓と合流
3・同志を集めてタカノたちを倒す
【備考】
※恋太郎たちは危険ではないと判断しました。
※ハクオロが四葉を殺害したと思っています
478そこには、誰もいない(改定) ◆Qz0e4gvs0s :2007/06/05(火) 09:22:57 ID:LlpVdYzs
あれだけ騒がしかった学校……そこには、もう誰もいない。





【四葉@Sister Princess 死亡】





【D-3 映画館の北側周辺/1日目 早朝】



【エスペリア@永遠のアセリア】
【装備:木刀】
【所持品:支給品一式、他ランダムアイテム不明】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本1:ゲームには乗らず、スピリットとして人間のために行動する。
基本2:人間と戦ったり、傷つけたくはないが、万一の場合は戦う。
1:大石との話が終わったので『映画館』という所に行ってみる。
2:悠人、アセリアと合流。
【備考】
大石の話した「死人がいる」という言葉をどう受け止めていいか迷っています。



479そこには、誰もいない(改定) ◆Qz0e4gvs0s :2007/06/05(火) 09:24:20 ID:LlpVdYzs
【D-3 映画館の南側周辺/1日目 早朝】


【ハクオロ@うたわれるもの】
【装備:オボロの刀(×2)@うたわれるもの】
【所持品:支給品一式(他ランダムアイテム不明)】
【状態:やや疲労】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない
1・観鈴と新市街へ向かう。
2・エルルゥ、アルルゥをなんとしてでも見つけ出して保護する
3・仲間や同志と合流しタカノたちを倒す
4・観鈴を守る。
【備考】
※校舎の屋上から周辺の地形を把握済み
※中庭にいた青年(双葉恋太郎)と翠髪の少女(時雨亜沙)が観鈴を狙ってやってきたマーダーかもしれないと思っています。
※放送は学校内にのみ響きました。
※銃についてすこし知りました。
※大石をまだ警戒しています
480そこには、誰もいない(改定) ◆Qz0e4gvs0s :2007/06/05(火) 09:25:07 ID:LlpVdYzs


【神尾観鈴@AIR】
【装備:Mk.22(7/8)】
【所持品:支給品一式、おはぎ@ひぐらしのなく頃に(残り3つ)、Mk.22(7/8)・予備マガジン(40/40)】
【状態:疲労大】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない
1・ハクオロと行動する。
2・往人と合流したい
【備考】
※校舎内の施設を把握済み
※大石に苦手意識



【D-4 神社付近/1日目 早朝】


【オボロ@うたわれるもの】
【装備:クロスボウ(ボルト残8/10)】
【所持品:支給品一式(他は不明)、エルルゥのリボン】
【状態:全身に擦り傷・中程度の疲労】
【思考・行動】
0:ハクオロの声の聞こえた方向(西)を目指す。
1:エルルゥを殺した犯人を殺す。
2:ハクオロ、アルルゥ、トウカ、カルラなどといった例外を除いた参加者の排除。
3:ハクオロ、アルルゥと一度合流。(殺し合いに進んで参加していることは黙秘)
※四葉を殺した事を未だ後悔しています


481そこには、誰もいない(改定) ◆Qz0e4gvs0s :2007/06/05(火) 09:26:11 ID:LlpVdYzs
【F-4 住宅街外れ/1日目 早朝】


【大石蔵人@ひぐらしのなく頃に】
【装備:なし】
【所持品:支給品一式、ランダムアイテム不明】
【状態:右肘から先を損失。疲労大】
【思考・行動】
基本:不明
1:治療のため病院へ。(厳しいなら商店街の薬局へ)
2:1の後、別の場所に行く。
3:赤坂衛、前原圭一と合流。
【備考】
※綿流し編終了後からの参加です。
※ハクオロを敵視。観鈴がどういう立ち位置かは考えていない


【E-4 校門の外/1日目 早朝】

【双葉恋太郎@フタコイ】
【装備:なし】
【所持品:支給品一式、昆虫図鑑、参加者の術、魔法一覧、.357マグナム弾(40発)、四葉のデイパック】
【状態:両目とも失明。額に傷。肉体疲労・精神疲労】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない
1・ハクオロと観鈴を追う
2・沙羅と双樹、四葉の姉妹達、ことみの知り合いや亜沙の知り合いを探し出してみんなで悪の秘密結社(主催)を倒す
【備考】
※校舎の屋上から周辺の地形を把握済み
※ハクオロが四葉を殺害したと思っています
※『参加者の術、魔法一覧』の内容は読んでいません
482そこには、誰もいない(改定) ◆Qz0e4gvs0s :2007/06/05(火) 09:27:22 ID:LlpVdYzs

【一ノ瀬ことみ@CLANNAD】
【装備:鉈@ひぐらしのなく頃に】
【所持品:レインボーパン@CLANNAD、謎ジャム@Kanon】
【状態:精神疲労】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない
1・恋太郎と共にハクオロと観鈴を追う
2・恋太郎達と行動を共にする
3・朋也たちが心配
※ハクオロが四葉を殺害したと思っています


【時雨亜沙@SHUFFLE!】
【装備:イングラムM10(9ミリパラベラム弾17/32)】
【所持品:支給品一式、イングラムの予備マガジン(9ミリパラベラム弾32発)×8、他ランダムアイテム不明】
【状態:肉体疲労・精神疲労】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない
1・恋太郎やことみと共にハクオロと観鈴を追う
2・稟、ネリネ、楓と合流
3・同志を集めてタカノたちを倒す
【備考】
※恋太郎たちは危険ではないと判断しました。
※ハクオロが四葉を殺害したと思っています


※四葉の遺体は【E-4】学校の校門前で埋葬されました。三つの花が手向けられています
483少女連鎖 ◆tu4bghlMIw :2007/06/07(木) 21:49:06 ID:p5Ifwf4U
「兄くん……君は今何処で何をしているんだい……。私達は……いったいどうすればいいんだろうね」

そんな自嘲気味な呟きは普段の千影からは考えられないものだ。
千影は純粋に不安だった。
時刻はもうすぐ六時。
そう、一日に四度行われるという定期放送の時間が近いのだ。
これまで自分は特別、敵意を持った人間と遭遇することは一度も無かった。
出会ったのは名雪という少女一人だけ。
彼女が眠っていた電車に辿り着くまで、相当な距離を歩いてきたが、それまで誰とも出くわさなかった。
だがそんな幸福の方程式が誰にでも当てはまるとは思えない。
姉である咲耶はともかくとして、妹の衛と四葉は戦う力を一切持たない非力な少女に過ぎないのだ。
二人ともに、こんな過酷な舞台に無理やり上げられ、そして戦うことを強制されている。
しかも、こんな首輪まで付けられて。

この首輪に関しても分からないことだらけだ。
外見は明らかに金属。だが、鉄や鋼と言った普遍的な材料で作られているようには思えないのも気掛かりだ。
それに完全な機械、というわけでも無いように思える。
僅かだが魔術の波動が漏れている……ような気もする。
実際はまだ良く分からない、というのが本音である。
自分以外に魔力を持つ人物がこの島にいるのならば何か分かるのかもしれないのだが。

だが動力や構造がどうであれ、爆弾を首元にぶら下げていることに変わりは無い。
姉妹も同じような目にあっていることを思うと、胸がチリチリと痛い。
どうして自分達がこんな状況にいるのか、まるで意味が分からない。
484少女連鎖 ◆tu4bghlMIw :2007/06/07(木) 21:49:48 ID:p5Ifwf4U

十二人姉妹に一人の兄。それが私達の正しい形。
確かに兄は大好きだ。いや、愛していると言ってもいい。
独り占めしたいと思ったことも何度もある。
それでも。
妹の笑顔を見る度に、
十三人で一緒に暮らす日々が積み重なる度に、
その度いつまでもこんな関係が続けばいいと思う自分が、そこにはいた。

「私が……守るよ。兄くんとそして、私達姉妹の領域を……」

また彼女にはある種の、確信めいた予感があった。
それは、この島のどこかにいるであろう咲耶もまた、自分と同じことを思っているに違いない、というものだ。
妹を守るのは年長者である自分達の役目。離れていもその想いは変わらない、はず。
これだけは分かる。

その時、声が聞こえた。

「……こっち」
「あ、ありがとう舞。そうだね、地図によると……もうすぐ線路が……」

「!?」

若い女の話し声だ。
遠くはない、近い。それもかなり。
方向は段々畑の横、丁度通行用に設けられた木製の階段の奥だ。丁度積み重なった土手が壁になってどんな人物が話しているかまでは分からない。
相手はおそらく二人組、一方でこちらは一人だ。
現在の局面、まさに蟲毒のような現状、それらから察するに、十二分に警戒する必要がある。だが。
そんな危機感に満ちた想像が全くの杞憂であることは千影には十分過ぎるほど分かっていた。
485少女連鎖 ◆tu4bghlMIw :2007/06/07(木) 21:50:34 ID:p5Ifwf4U
「噂をすれば何とやら……か。フフ……そういえば占いをする暇も無かった……な」

積み重なった土の隆起の山、その向こうから聞こえてきたのは毎日のように顔を合わせていた姉妹の声。
千影は走った。
山道を移動するには不向きなブーツとロングスカートがこの時ばかりは酷く邪魔だ。
息が乱れる。
たかが数十メートルの距離なのに。
普段から部屋に閉じこもってばかりだったからだろうか。少しだけ後悔した。
土肌が半分露出した芝生、何も生えていない畑。
それらを脇目に捉えながらも、その眼光は鋭く、薄紫色の瞳はただ前だけを見ていた。
彼女に限って心配は無い。
とはいえ、やはり自分と歳も近く、正反対の性格ながら誰よりも付き合いの深い彼女には特別なものを感じる。

「咲耶!!」

早朝。
朝日が昇り、気温も僅かに上昇し始めた。
それでも流れる空気はまだ冷たく、そして音波は良く、響く。

この瞬間、二つの音がこの空間を支配した。
一つは人の声。大切な、本当に大切な姉妹を見つけた喜びに満ちた声。
一つは無機質な空気の振動。火薬が爆発する音。鼓膜を震わす凶悪な振動波。
それは拳銃の発射音。

甲高い二つの音に遅れて、何か重い物体が地面に倒れる音が木霊した。
ゴトン。
それは、どこか鈍い、線路を踏み鳴らす電車のような音。
486少女連鎖 ◆tu4bghlMIw :2007/06/07(木) 21:51:15 ID:p5Ifwf4U





血に濡れたデイパックの奥、咲耶は先程自分が撃ち殺したカルラの所持品を物色していた。
しかし。
無駄に重い酒瓶やウサギを模したものだと思われる帽子。
羽根がくっ付いた悪趣味なリュックサック。
ガラスの大瓶に入った船の模型。
某大手FCショップのマスコット人形。
ボロボロになった灰色の猫のぬいぐるみなど、
場末のフリーマーケットかリサイクルショップの商品棚でしか見ないようなガラクタばかりだった。

咲耶は頭を抱えたい気分になった。
確かにこのデイパックは量も体積も自由自在である。何を中に入れようが自分への負担は一切無い。
とはいえ自分は、既に他の誰かと争いその結果疲弊していた相手を仕留めたのだ。
いわゆる漁夫の利の形になるわけだが、ソレにしては収穫が少な過ぎではないだろうか。
女の荷物には、少なく見積もっても三人分の食料と水が入っていた。
つまり二人。既に二人、他の参加者を仕留めている可能性が高い。
それなのにマトモな支給品は日本刀一本だけ。それ以外はまるで役に立ちそうな気配が無い。コレではあまりに報われない。

「酷すぎるわ、ホント。この女、よくぞここまでハズレを引きまくったって感じ。……ん。コレ……もしかして……」
487少女連鎖 ◆tu4bghlMIw :2007/06/07(木) 21:51:56 ID:p5Ifwf4U

しかし、その中でただ一つ咲耶の目に止まる道具があった。
タロットカード。
とはいえ彼女にはこのカードを使って占いをしたり、浮遊させて武器に使うなどといった芸当は、勿論不可能だ。
それは彼女の妹の一人、……いや妹という枠組みを越え半ば親友とも言える、千影の得意分野だ。

「千影……あの子、今頃何処で何やっているのかしら」

千影。
姉妹の中で自分と一番年齢の近い妹。
いつも訳の分からない魔術の実験をしては、お兄様を危険な目に合わせる所謂トラブルメーカー的存在。
何を考えているのかも分からないし、協調性だって皆無。
それでも、雛子や亞里亞のような年少の妹の面倒見は良くて、何だかんだ言って何かにつけ影から姉妹を支えてくれる大黒柱的存在。

「……まあいいか。千影ならどこかで上手いことやってるはず。気の緩みや迷いもあの子に限ってありえないし」

それよりも他の妹、四葉と衛の方が気掛かりだ。
二人はいったいどのような状況に置かれているのだろうか。
本当に、心の底から信用出来る庇護者が傍にいてくれるのが一番いいのだが、そうそう幸運な巡り合わせばかりでも無いだろう。
既に危険な人物から命を狙われている可能性も十分に考えられる。

(だから、私が……やらなきゃ。
 妹に危害を加える者は誰であろうと許さない。
 そのためならどんな汚いことだってやってやる。
 それに……既に自分は人を一人殺しているのだから。
 もう、後には引けない))
488少女連鎖 ◆tu4bghlMIw :2007/06/07(木) 21:52:46 ID:p5Ifwf4U
流れは上々なのだ。武器として大口径のマグナム、それに日本刀。
遠近共にこなせるバランスの良い組み合わせと言える。
ガラクタとしかいえない道具の数々は……持っていても明らかに邪魔なものくらいは捨てていこう。
とりあえずこの大瓶に入った船と羽根が付いたリュックサックは必要無い。
それと、この髭の生えた老人の人形も。
他はひとまずデイパックの中に突っ込んでおく。

「とりあえず……戦力の強化は欠かさずやっていかなくちゃ。倉庫。うん、次の目的地はここにしよう」


【G-81日目 早朝】

【咲耶@Sister Princess】
【装備:S&W M627PCカスタム(8/8)地獄蝶々@つよきす】
【所持品:支給品一式 食料・水x4 可憐のロケット@Sister Princess タロットカード@Sister Princess 
 S&W M627PCカスタムの予備弾61 肉まん×5@Kanon 虎玉@shuffle ナポリタンの帽子@永遠のアセリア 日本酒x3】
【状態:健康】
【思考・行動】
1:四葉、衛、千影を探し守る。
2:姉妹を傷つける可能性をわずかでも持つ者を殺す
3:脱出を具体的に計画している人物は放置。
4:脱出の具体的計画がなくとも、100%姉妹を傷つけない確証が得られた場合は殺さない。
5:3の際に脱出が現実味を大きく帯びた場合のみ積極的に協力する。
6:倉庫へ向かい、使えそうな道具を探す

基本行動方針
自分と姉妹達が死なないように行動する

※カルラの死体の近くに、羽リュック@Kanon、ボトルシップ@つよきす、ケンタ君人形@ひぐらしのなく頃に 祭、が放置されています。

489少女連鎖 ◆tu4bghlMIw :2007/06/07(木) 21:53:28 ID:p5Ifwf4U

「あの、す、すみません!!ほら、舞も謝って!!
「……ごめんなさい」
「……いや……いい。声があまりにも似ていたものだから……。驚かせてしまったな……でも本当に、本当に良く似ているんだ」

千影はことりに微笑を浮かべながら、噛み締めるように呟く。
そして二人の足元に落ちている、銀色の拳銃を一瞥。
銃口が自分に向いていなくて本当に良かったと思う。
いくら何でも飛んで来た銃弾を叩き落したり、回避したりすることは不可能だ。
もしも支給された儀礼刀の力を引き出すことが出来れば、それ以外の可能性も模索できるかもしれないが。

不思議な構図だ。違う高校の制服を着た二人の女性から一方的に謝られている。
自分は彼女達が階段を降りようとした所、いきなり目の前に飛び出してしまったらしい。
しかも二人にとっては全く見知らぬ単語を発しながら、だ。
結果、驚いた舞と呼ばれた少女が思わず右手に持っていた拳銃を発砲。
所謂、威嚇射撃という奴だ。
発射された弾丸は遥か上空、虚空の彼方へ消えたから良かったものの、その銃口が自分の方へ向けられていたら、と思うとゾッとする。
その後、彼女が弾丸を発射した衝撃で銃を取り落とした。
銃を撃つ反動とは想像以上のものらしい。
妹達が見ていた刑事もののドラマでも、片手で銃を発砲していたものは誰一人としていなかったことを、今更ながら思い出した。

「……?どうした、ええと舞くん?」
「……あなたは……美坂、香里?」
「……君も私を……香里と呼ぶのかい」

意外と声が似ている人間が多いことに驚いた。
咲耶とこの白河ことりという少女もまた、非常に似た声をしている。
そして自分の声も美坂香里という少女に似ているらしい。
まさか、この島には似たような声帯を持ったものが集められているのだろうか。
声だけでは個人を判断できないケースがこの先もあるかもしれない。
490少女連鎖 ◆tu4bghlMIw :2007/06/07(木) 21:54:21 ID:p5Ifwf4U



「え、それじゃあ千影さんは舞と同じ制服を着た女の子に会ったんですか!!」
「……千影、でいい。私は……まだ中学生だ。呼び捨てで、構わない」
「ちゅ、中学生ですか!?……とても、そうは見えません……」
「……よく言われるよ。ああ、舞くんと……同じ制服を着ていた女の子には確かに会ったよ。
 名前は水瀬名雪、聞き覚えはあるかい」
「……ある。よく祐一と、一緒にいた」
「そう、その祐一だ。
 ……名雪くんも彼を探していた」

何とも皮肉な話だ。
どうも水瀬名雪と川澄舞は同じ学校ではあるものの、直接的な交流自体は無いらしい。
更に言えば舞の方は名雪を知っているが、逆は成立しない。
二人を取り持つのは『相沢祐一』という存在のみ。
相沢祐一。いったいどのような男なのだろうか。少し興味が湧く。

「……佐祐理は?佐祐理には会った?」
「……佐祐理?」

これは初めて聞く名前だ。
かの『相沢祐一』を中心とした関係が作られており、その枝葉である彼女達はお互いのことを詳しくは知らないのかもしれない。

「あ、はい。ええと、佐祐理さんと言うのは舞の一番の親友らしいです」

どうも舞とは上手く話が繋がらない。
こう……何というか微妙にタイプが似ているからだろうか。
姉妹の中で、自分はポイントを抑えた箇所で会話をする機会が多かった。
自分が無口であるとは決して思わないが、勿論饒舌であるとは言い難い。だから、ことりがフォローに入ってくれたのは幸いだった。
491少女連鎖 ◆tu4bghlMIw
「……残念ながら出会っていない。私が今までに知り合った人間は、水瀬名雪ただ一人だ」
「……そう」
「逆に咲耶、衛、四葉という人物に会わなかったかい?彼女達は私の……大切な姉妹なんだ」

元々あまり期待はしていない。
なぜならおそらく、妹達も自分を探しているはずだからだ。
もしも出会っていれば、名乗った時になんらかの反応を示しただろう。
案の定、舞とことりは顔を見合わせ、すまなさそうに小さく首を横に振った。

「……気にすることは無い。そう簡単に見つかるとは……思っていない。
 そうだ、舞くん良い物がある。
 ……コレばかりは私が持っていてもまるで……役に立たない」
「……弾?」
「多分……それで合っているはずだ。
 私の支給品が……この島にある全ての銃火器の予備弾セットなんだ。
 ……気をつけたまえ。おそらく大多数の参加者に銃器が支給されている」

デイパックの中から舞が持っていた銃―ニューナンブM60―のものと思われる予備弾を取り出して彼女に手渡す。
予備弾などは、対応した銃本体が無ければまるで意味の無い支給品だ。
むしろ銃弾よりも予備弾に付属していた、他の参加者に支給されているらしい銃器全ての写真付きリストの方がよっぽど役に立つ。
航空母艦などに搭載されているような大型の機関銃から、
ロケットランチャーのような巨大な砲身の銃器など、とんでもない武器の数々がこの島には持ち込まれている。

「……ありがとう、千影。私も……コレ、あげる」
「……バナナ?フフ、ありがとう舞くん。有り難く受け取っておくよ」

結果的にバナナと銃弾をトレードしたことになる。
現実の世界ではおそらく、100%有り得ない非日常の出来事だ。
だが舞から渡されたバナナからは、どこか懐かしい日常の匂いがする気がした。