ギャルゲ・ロワイヤル 作品投下スレ

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1名無しくん、、、好きです。。。
ここは、「ギャルゲーキャラでバトルロワイヤルをしよう」というテーマの下、
リレー形式で書かれた作品を投下するための専用スレです。


投下前の予約はしたらば掲示板の予約スレで行なってください。

ギャルゲロワ専用したらば掲示板
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/8775/


作品に対する批評感想、投下宣言は雑談感想スレで行なってください。

現行の雑談感想スレ:ギャルゲ・ロワイアル準備会場
http://game12.2ch.net/test/read.cgi/gal/1173446681/l50

基本ルールその他は>>2以降を参照してください。
sage進行でお願いします。
2名無しくん、、、好きです。。。:2007/03/13(火) 21:48:42 ID:++fHtFo1
【基本ルール】
 全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
 勝者のみ元の世界に帰ることができる。
 ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
 ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される。
 プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。

【スタート時の持ち物】
 プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
 ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
 また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
 ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を支給され、「デイパック」にまとめられている。
 「地図」「コンパス」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「ランタン」「ランダムアイテム」
 「デイパック」→他の荷物を運ぶための小さいリュック。詳しくは別項参照。
 「地図」 → 舞台である島の地図と、禁止エリアを判別するための境界線と座標が記されている。
 「コンパス」 → 安っぽい普通のコンパス。東西南北がわかる。
 「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
 「水と食料」 → 通常の成人男性で二日分。
 「名簿」→全ての参加キャラの名前のみが羅列されている。写真はなし。
 「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
 「ランタン」 → 暗闇を照らすことができる。
 「ランダムアイテム」 → 何かのアイテムが1〜3個入っている。内容はランダム。

【禁止エリアについて】
放送から2時間後、4時間後に1エリアずつ禁止エリアとなる。
禁止エリアはゲーム終了まで解除されない。

【放送について】
0:00、6:00、12:00、18:00
以上の時間に運営者が禁止エリアと死亡者、残り人数の発表を行う。
基本的にはスピーカーからの音声で伝達を行う。
3名無しくん、、、好きです。。。:2007/03/13(火) 21:49:14 ID:++fHtFo1
【舞台】
http://takukyon.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/clip/img/94.png(暫定)

【作中での時間表記】(0時スタート)
 深夜:0〜2
 黎明:2〜4
 早朝:4〜6
 朝:6〜8
 午前:8〜10
 昼:10〜12
 日中:12〜14
 午後:14〜16
 夕方:16〜18
 夜:18〜20
 夜中:20〜22
 真夜中:22〜24

【NGについて】
・修正(NG)要望は、名前欄か一行目にはっきりとその旨を記述する。
・協議となった場面は協議が終わるまで凍結とする。凍結中はその場面を進行させることはできない。
・どんなに長引いても48時間以内に結論を出す。

NG協議の対象となる基準
1.ストーリーの体をなしていない文章。(あまりにも酷い駄文等)
2.原作設定からみて明らかに有り得ない展開で、それがストーリーに大きく影響を与えてしまっている場合。
3.前のストーリーとの間で重大な矛盾が生じてしまっている場合(死んだキャラが普通に登場している等)
4.イベントルールに違反してしまっている場合。
5.荒し目的の投稿。
6.時間の進み方が異常。
7.雑談スレで決められた事柄に違反している(凍結中パートを勝手に動かす等)
8.その他、イベントのバランスを崩してしまう可能性のある内容。
4名無しくん、、、好きです。。。:2007/03/13(火) 21:50:56 ID:++fHtFo1
【首輪】
参加者には生存判定用のセンサーがついた『首輪』が付けられる。
この首輪には爆弾が内蔵されており、着用者が禁止された行動を取る、
または運営者が遠隔操作型の手動起爆装置を押すことで爆破される。
24時間以内に死亡者が一人も出なかった場合、全員の首輪が爆発する。
実は盗聴機能があり音声は開催者側に筒抜けである。
放送時に発表される『禁止エリア』に入ってしまうと、爆発する。
無理に外そうとしたり、首輪を外そうとしたことが運営側にバレても(盗聴されても)爆発する。
なお、どんな魔法や爆発に巻き込まれようと、誘爆は絶対にしない。
たとえ首輪を外しても会場からは脱出できない。

【デイパック】
魔法のデイパックであるため、支給品がもの凄く大きかったりしても質量を無視して無限に入れることができる。
そこらの石や町で集めた雑貨、形見なども同様に入れることができる。
ただし水・土など不定形のもの、建物や大木など常識はずれのもの、参加者は入らない。

【支給品】
参加作品か、もしくは現実のアイテムの中から選ばれた1〜3つのアイテム。
基本的に通常以上の力を持つものは能力制限がかかり、あまりに強力なアイテムは制限が難しいため出すべきではない。
また、自分の意思を持ち自立行動ができるものはただの参加者の水増しにしかならないので支給品にするのは禁止。
5名無しくん、、、好きです。。。:2007/03/13(火) 21:51:53 ID:++fHtFo1
【予約について】
書き手は事前に書きたいキャラを予約し、その予約期間中そのキャラを使った話を投下する義務がある。
予約期間は3日間(72時間)で、その期間を過ぎても投下がなかった場合、その予約は無効となり予約キャラはフリーの状態になる。
期限を過ぎた後に同じ書き手が同じキャラを予約することはできない。(期限が六日、九日と延びてしまう為)
予約の際は個人識別、騙り防止のためにトリップをつけて、 したらばで宣言すること。

【能力制限】

◆禁止
 ハクオロのウィツァルネミテア化
 エスペリアのリヴァイブ
 舞の超能力(蘇生・魔物を生み出す力)
 アセリア勢のエターナル化

◆威力制限
 各種攻撃魔法(消耗も大きくなっている)
 各種回復能力(時間がかかる)
 戦闘技能保持者の各種身体能力(現実的な程度に低下)

◆やや威力制限?
 白河ことりの読心

◆恐らく問題なし
 国崎往人・朝倉純一の超能力
6参加者一覧:2007/03/13(火) 21:53:43 ID:++fHtFo1
6/6【うたわれるもの 散りゆくものへの子守唄】
   ○ハクオロ/○エルルゥ/○アルルゥ/○オボロ/○トウカ/○カルラ
3/3【AIR】
   ○国崎往人/○神尾観鈴/○遠野美凪
3/3【永遠のアセリア −この大地の果てで−】
   ○高嶺悠人/○アセリア/○エスペリア 
2/2【Ever17 -the out of infinity-】
   ○倉成武/○小町つぐみ
2/2【乙女はお姉さまに恋してる】
   ○宮小路瑞穂/○厳島貴子
6/6【Kanon】
   ○相沢祐一/○月宮あゆ/○水瀬名雪/○川澄舞/○倉田佐祐理/○北川潤
4/4【君が望む永遠】
   ○鳴海孝之/○涼宮遙/○涼宮茜/○大空寺あゆ
2/2【キミキス】
   ○水澤摩央/○二見瑛理子
6/6【CLANNAD】
   ○岡崎朋也/○一ノ瀬ことみ/○坂上智代/○伊吹風子/○藤林杏/○春原陽平
4/4【Sister Princess】
   ○衛/○咲耶/○千影/○四葉 
4/4【SHUFFLE! ON THE STAGE】
   ○土見稟/○ネリネ/○芙蓉楓/○時雨亜沙 
5/5【D.C.P.S.】
   ○朝倉純一/○朝倉音夢/○芳乃さくら/○白河ことり/○杉並
7/7【つよきす -Mighty Heart-】
   ○対馬レオ/○鉄乙女/○蟹沢きぬ/○霧夜エリカ/○佐藤良美/○伊達スバル/○土永さん
6/6【ひぐらしのなく頃に 祭】
   ○前原圭一/○竜宮レナ/○古手梨花/○園崎詩音/○大石蔵人/○赤坂衛
3/3【フタコイ オルタナティブ 恋と少女とマシンガン】
   ○双葉恋太郎/○白鐘沙羅/○白鐘双樹

【残り63/63名】 (○=生存 ●=死亡)
7勇気ある者の選択 ◆XiuNNPj.bE :2007/03/14(水) 00:05:44 ID:/bFEfzVW
静寂に包まれた住宅街。
薄暗い街灯と、まん丸の月明かりが道を照らしている。
そこに学生服を着た男性が一人、立っていた。

彼、朝倉純一は支給された武器のチェックを行っている。
純一の思考は当初からただ一つ、殺し合いからの脱出だった。
もちろん妹の音夢、従妹のさくら、親友のことり、悪友の杉並。
誰一人欠かさずに脱出。
さらに、出来るならば他の巻き込まれた人も一人でも多く。

かったるいとか言っていられる状況じゃない。

純一は決意を胸に支給武器を確認する。
最初にバッグから出てきた物はちょっと特殊な品だった。
「なんだこれ?」
それは大きな鉄扇。
使いこなすにはかなりの訓練が必要そうだ。
純一は鉄扇を横に置き、残りの支給品を確認する。

「……」

出てきたのはオオアリクイのヌイグルミと古風な器に入れられた怪我を治す薬一式。
純一は二つをバッグに戻し、鉄扇を持つ。

「これしかないか。まあ無いよりマシだろ」

覚悟を決めると同時に、女性の声が耳に届く。
8勇気ある者の選択 ◆XiuNNPj.bE :2007/03/14(水) 00:08:21 ID:/bFEfzVW
「凛くん、凛くん!どこっ!返事してっ!おねがいっ、一人にしないで…」

その声はドンドン冷静さを欠いていた。
涙が混じり、声が裏返る。
この殺し合いの最中に大声を出すなど自殺行為でしかない。
油断させておびき寄せて返り討ちにする?
その可能性はもちろんあるが、この声にはそんな計算高さは感じられなかった。
それに落ち着いて考えてみると、見通しが悪い夜に声を張り上げるのはリスクの方が上だ。
的にされる危険の方が高いのだから。
油断させておびき寄せる作戦の可能性は低い。
なにより、貧弱な装備の自分にとっても人殺しを呼び寄せるような行為は一刻も早くやめてほしい。

純一は意を決して、声の主に声をかけることにした。

「声を出してる人、名前は?」
「ひっ、誰ですか!?」
予想通り少女は怯えていた。
銃口を自分に向けてくる。だがその両手は震えて方向がまるで定まっていなかった。
街灯で顔がよく見える位置にゆっくりと移動して、出来る限りの笑顔で応対する。
9勇気ある者の選択 ◆XiuNNPj.bE :2007/03/14(水) 00:08:56 ID:/bFEfzVW
「俺は朝倉純一。安心しろ。女の子に危害を加えたりはしない」

楓は純一の笑顔に逆に疑いを覚えるが、銃口を向けても笑顔を崩さない行為に、少しだけ凛の面影を見た。

「ふっ、…ふええぇーん」

楓は凛の面影を純一に重ね、感情が昂って泣き出す。
純一は女の子の頭を撫でて、少しでも早く落ち着かせるように努めた。


数分後。


「もう大丈夫か」
「はい、純一くんに恥ずかしい姿見せてしまって…申し訳ないです」
「いや、それは別にいいよ、それより名前…」
「あっ。ごめんなさい。芙蓉楓と申します」
「楓か。良い名前だ」

一通り泣いて、楓もようやく落ち着いて会話が出来るようになった。
そしてお互いの知人の情報の交換を行った。
10勇気ある者の選択 ◆XiuNNPj.bE :2007/03/14(水) 00:09:34 ID:/bFEfzVW
純一は楓の世界の魔王や神王には驚いたが、自分の世界にも色々と驚くべきことはあった。
その延長といえば言いすぎであるが、全然納得出来ないことも無い。
この状況の時点で、すでに十分ありえないことだったから。

楓はリシアンサスの事だけはわざと話さなかった。
話しても意味が無いから。
純一くんを無意味に動揺させないよう、楓なりの気遣いだった、

「ところで楓の武器はその銃だけ?」
「いいえ、もう一つありますけど、物凄く重くて」

楓がバッグから出したそれは、確かに物凄く重く、そして大きかった。
男の純一ですら持てる代物ではない。

「…これは確かに…な」

やむおえず、これはバッグに戻す。
バックに入れると重さを感じないことにわずかに疑問を覚えたが、やはりこの状況の時点で…考えるだけ無駄と悟る。

「…じゃあ行くか。楓と俺と、そして二人の友達全員で元の世界に帰る。絶対に」
「はい。純一くん」

――でも、何となく嫌な予感がする。さくら、お前の魔法と頭の良さなら何とかしてくれるよな。
――杉並、お前なら飄々と脱出方法を見つけ出してくれるよな。
――だから俺は、お前達の代わりに人を一人でも助けるから。音夢もことりも、楓の友達も…絶対に!
純一は今この島のどこかにいる仲間達に誓う、その表情はとても逞しかった。


――凛くんはきっと悲しんでると思う。シアちゃんが死んだから。
――でも…だから私が頑張らないと。
――シアちゃんの分まで…私は凛くんと…そしてみんなと生き残るよ。
楓は死んでいった友に誓った。凛と、そして他の友達と生き残ることを。
11勇気ある者の選択 ◆XiuNNPj.bE :2007/03/14(水) 00:10:19 ID:/bFEfzVW
【F-4の市街地/1日目 深夜】

【朝倉純一@D.C.P.S.】
【装備:ハクオロの鉄扇@うたわれるもの】
【所持品:支給品一式 エルルゥの傷薬@うたわれるもの オオアリクイのヌイグルミ@Kanon】
【状態:健康、強い決意と正義感】
【思考・行動】
1:音夢、ことり、さくら、杉並を探す。
2:楓の友達(凛、ネリネ、亜沙)を探す。
3:殺し合いからの脱出方法を考える。
基本行動方針
人を殺さない。

【備考】
芙蓉楓の知人の情報を入手しました。


【芙蓉楓@SHUFFLE! ON THE STAGE】
【装備:】 ベレッタ M93R(21/20+1)
【所持品:支給品一式 ブラウニング M2 “キャリバー.50”(ベルト給弾式、残弾200) ベレッタ M93Rの残弾40】
【状態:生き残ることを決意、泣き疲れ】
【思考・行動】
1:凛くんに会いたい
2:亜沙先輩やネリネちゃんにも会いたい
3:純一くんを信じて、行動を共にする。
4:人を殺したくない。
5:シアの分まで生きる。

【備考】
朝倉純一の知人の情報を入手しました。
12 ◆XiuNNPj.bE :2007/03/14(水) 00:24:44 ID:/bFEfzVW
誤字修正します。

凛→稟

まとめ掲載時にはしっかり修正します。
本当に申し訳ありませんでした。
13STRANGE ENCOUNTER ◆VtbIiCrJOs :2007/03/14(水) 04:30:42 ID:/+tD44k6
静寂の夜闇を切り裂く拳銃の発砲音。
飛び交う銃弾は時折大木の幹に突き刺さり、木片の粉を巻き上げる。
「まったく……大した自己紹介ね、握手の代わりに鉛弾をぶち込んでくるなんて親の顔が見てみたいわ」
「いやー、うちの実家ヤクザなもので、血の気の多い人間ばっかなんですよ」
「手を取り合い協力する……なんて考えは無さそうね」
「根性無しのお姉ならそんな甘い考えもするでしょうけど、生憎私はもっと手っ取り早い方法を取りますよ」
奴は本気で殺しにかかって来ている。こちらはまともな武器なんて持っていないのに……
木陰に身を潜ませた小町つぐみは唇を噛み締めた。

海洋テーマパークLeMUで起こったあの事件。ようやくそれから解放され、愛する夫と子供たちとの幸せな家庭を手に入れた矢先の出来事だった。
死ぬわけにはいかない、沙羅とホクトを残して死ぬものか。
武……こんなときあなたなら……
つぐみはこの島のどこかにいる夫の名を呟く。
まずは彼と合流し、何としてでも元の世界にもどらなくては……
しかし、そのためには目の前の障害を何とかしなくてはならない。
「しっかし、あなた本当に人間なんですか? これ、おもちゃじゃなくて本物ですよ。例え急所に当たらなくても撃たれた痛みはとんでもないんですよ、わかりますかぁ?」
興奮のため忘れていた強い痛みが走る。
いつ間にかに左肩を撃たれていた。弾はどうやら貫通している。
大丈夫、この程度の傷なんて――だがつぐみは自らの身体の異変に気がついた。
傷の再生が遅い……?
世界でも数例しか報告されていない極めて稀有なウイルス、キュレイウイルス。代謝機能を促進させ自然治癒能力の増大。
さらにテロメア無限修復による細胞分裂回数の限界突破、つまり老化の抑制。
感染した人間はその特性のため限りなく不老不死に近づく。そしてそれはつぐみの体内にも宿っている。
かつてつぐみは再生力の実験と称して全身を切り刻まれたことがあるがそれでも彼女は死ぬことが出来なかった。
恐らく脳を完全に破壊されない限り死ぬことは許されないだろう。
しかしこの島ではどういうわけか傷の治りが遅い、血こそ止まっているが傷口は開いたままで赤い肉と黄色い脂肪の間から骨が見えている。
熱い痛みが体中を駆け巡る。普段ならこの程度ものの数分で完治するはずなのに……!
14STRANGE ENCOUNTER ◆VtbIiCrJOs :2007/03/14(水) 04:32:23 ID:/+tD44k6

「私は人間よ、ちょっと普通じゃないけどね」
木陰からちらりと顔を覗かせた途端、銃弾が顔を掠める。
銃弾はそのまま後ろの木に当たりぱらぱらと小さな破片が土の上に降りかかる。
この島を覆う不思議な力はキュレイウイルスの特性である再生力、身体能力の上昇を封じていた。
わずかに残る赤外線視力はその襲撃者の姿を捉えていた。
それはまだ十代の少女。二挺拳銃を構えた姿。その頭部に注目する。
暗視ゴーグルだ。なるほど暗闇でもこちらの姿を見つけることが出来る訳だ。
「近頃の小娘は随分場慣れしてるのね」
「そりゃあ実家が実家ですからね、色々鉄火場をくぐってるもので。それを言うならあなただって私とそう変わらない歳に見えるのに妙に冷静ですねえ」
「私、こう見えても四十近くで高校生の息子と娘がいるのよ」
「あっははははは、それギャグで言ってんの? すっげーつまんないですよ。お姉だってもっとマシなギャグ言いますって」
襲撃者はつぐみとの一定の距離を保ち続け、銃を乱射せず的確に狙いを定めてくる。
つぐみの手数が読めない故の用心なのだろう。
しかしそれはつぐみに事態を打開するための思考を巡らす時間を与えてくれる。
デイパックの中の唯一の武器、スタングレネード。
殺傷力は無いがそれから放たれる爆音と閃光は人を確実に戦闘不能にさせる。
まして相手は暗視ゴーグルを着用、この閃光に耐えられるものなら耐えてみろ。
その後は急いで逃亡、できれば彼女に二度と銃を持てないようにしてやろうかと思ったがパニックになった相手が銃を乱射する危険性が考えられる。
故に下手に追撃はせず逃走するが上策。

「そろそろこの睨み合いに飽きたわ、私には探さなきゃいけない人がいるの」
「あなたがさっさと死んでくれればこのつまらない睨み合いも終わりますよ。さっさと出て来てくれたらエンジェルモート謹製穴開きチーズをご馳走してあげますから」
「結構よ、そんなに私を殺したいのならさっさとこちらに来なさい。それとも私が怖くて来れないの? ふん、臆病者め」
「あっはははははッ! 私がそんな挑発に乗ると思った!? 尻尾巻いて逃げ出す所を鴨撃ちにしてやるよッ!」

「そう――? なら好都合ね」
15STRANGE ENCOUNTER ◆VtbIiCrJOs :2007/03/14(水) 04:34:11 ID:/+tD44k6
つぐみは木陰から素早く飛び出しスタングレネードのピンを引き抜き襲撃者に向かって投げつける。
襲撃者も素早く発砲、二発の弾丸はつぐみを掠めて背後の幹に突き刺さる。
いくら暗視ゴーグルがあっても深いブッシュに囲まれた動く目標、用意に狙いをつけられない。
カッコつけて二挺拳銃スタイルなんてするからだ――つぐみは不適に笑う。
「ちィッ! ちょこまかと……!」
「用心しすぎたのがあなたの敗因よ。足元を見てみなさい」
「なッ!! しまっ――」
からんからんと襲撃者の足元に転がるスタングレネード。炸裂まで一秒も無い。
そして凄まじい轟音と閃光が森を揺るがした。
暗視ゴーグルによって何倍にも増幅された白い光が彼女の視神経に直撃する。
「ぎゃああぁァァアああああああああッ!!!! 目がぁあああ目があああぁぁぁぁーーーーッッ!!!」
絶叫を上げ地面をのた打ち回りながら銃を乱射する女。
闇雲に撃った銃弾は辺りの樹木に跳弾し、予測不能な軌道を描く。巻き添えはまっぴらだ。
つぐみは逃げる際、彼女に一声かける。
ちょっとした意趣返し。

「そういえば自己紹介がまだだったわね、私は小町つぐみ」
「畜生畜生畜生ッッ!!!!殺してやる殺してやる殺してやるぅぅぅぅぅぁぁぁぁぁぁあ!!」
「本当はあなたをここで縊り殺したい所だけど、私、あなたみたいに趣味が悪くないの。ま、せいぜいそこでのた打ち回ってなさい。運が良ければあんたみたいな馬鹿が見つけてくれるかもよ。じゃあね、二度と再会しないことを願っているわ」
「小町つぐみぃぃぃぃィィィッッ!! 殺してやる殺してやる殺してやる! 絶対殺シテヤルゥゥゥ!!」


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

16STRANGE ENCOUNTER ◆VtbIiCrJOs :2007/03/14(水) 04:35:41 ID:/+tD44k6
「……これぐらい逃げればまあ大丈夫ね」

つぐみは追っ手が来ないことを確認した後、近くの木の下に腰を落ち着けた。
左肩の傷を診る。既に血は赤褐色に固まっているが傷口のほうはまだ塞がってはいない。
だが、さっきよりも傷は塞がりつつあるように見えた。
さて、これからどうしようか?
まずは武との合流。でも彼はどこにいるのだろう……
「とりあえず……北へ向かおう」
地図を見るに島の北部はかなり大きな市街地になっている。
ここなら何らかの情報があるかもしれない、また人がいれば情報の共有ができる。
しかし、先ほどの女のように既に殺し合いに乗っている者に遭遇するかもしれない。
――何か武器が欲しい。
デイパックの中身をもう一度確認する。
スタングレネード以外に出てきたのはゲームセンターの景品にありそうな天使を模った人形だけだった。
「はあ……」

このままじっとしていても事態が好転するわけでも無い。つぐみは腰を上げこの場を後にした。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
17STRANGE ENCOUNTER ◆VtbIiCrJOs :2007/03/14(水) 04:37:33 ID:/+tD44k6
つぐみを襲った女――園崎詩音が落ち着きを取り戻した時はすでにつぐみは逃走した後であった。
「はぁ……はぁ……はぁ……小町つぐみめ……私をよくもコケに……手足の爪を全部剥いだ上、身体を一センチ刻みで輪切りにして殺してやる……」
あたりの景色がちかちかする。完全に視力が戻ってはいないのだろう。
爆発の音を聞いて誰かやってくるかもしれない。
どこかに隠れて身を休ませなければ……
ふらふらとおぼつかない足取りでこの場を立ち去る詩音だった。

「ちくしょう……」
油断したつもりは無かった。しかしどこかに銃を持っている故の慢心があったのだろう。
そこをあの女――小町つぐみにつけ込まれた。
いいか園崎詩音、クールになれ、ありとあらゆる状況を想定し障害を排除せよ。
慢心こそ死。
例え相手が丸腰であっても油断はしない。
見敵必殺サーチ&デストロイ。
徹底的に殺れ。
よし、落ち着いてきた。素数を数えなくても私は冷静だ。
「悟史君……絶対生きてあなたの所へ戻るから……待っててね……」
なぜ鷹野がこの殺し合いをさせたことなんて些細なこと、考える必要なんて無い。
そんな思考、今は目的の障害でしかない。
やるべきことは元の世界に帰る、そのためには参加者を皆殺しにするのだ。
協力して脱出の手段を模索する?
そんな不確定要素はチップを賭ける対象にすらならない。
そんな馬鹿な行為私はしない。
邪魔するものは皆殺し、この場でもっとも合理的な手段。
……それが圭一達であっても?

わからない……けど自分の邪魔をするのであれば――

18STRANGE ENCOUNTER ◆VtbIiCrJOs :2007/03/14(水) 04:39:10 ID:/+tD44k6
【B-4 森/1日目 深夜】

【小町つぐみ@Ever17】
【装備:スタングレネード×9 天使の人形@Kanon】
【所持品:支給品一式】
【状態:左肩に銃創(三時間ほどで治癒)】
【思考・行動】
1:武と合流して元の世界に戻る方法を見つける。
2:ゲームに進んで乗らないが、自分と武を襲う者は容赦しない。
3:北の新市街へ向かう。
【備考】
赤外線視力のためある程度夜目が効きます。紫外線に弱いため日中はさらに身体能力が低下。

【園崎詩音@ひぐらしのなく頃に祭】
【装備:ベレッタM92F×2(9mmパラベラム弾10/15+1,10/15+1 暗視ゴーグル】
【所持品:支給品一式、予備マガジン×10】
【状態:かなりの疲労 やや視力低下】
【思考・行動】
1:ゲームに乗って元の世界に帰る。特につぐみは絶対に殺してやる。
2:身を休ませる場所を探す。
3:圭一達部活メンバーは殺したくないが邪魔をするのであれば殺す。
19 ◆i8opowxlh. :2007/03/14(水) 07:35:07 ID:6rFvIhEh
「まったく。何の冗談だよこれは……」

倉成武は地図を見ながら暗い森の中で呟いた。
目が覚めたら訳の分からない場所にいて、訳の分からない連中に殺し合いをしろと言われた。
誰もが思っていた疑問をぶつけた男の額には大きな風穴が開けられ、首輪が爆発することを皆に知らせるためという理不尽な理由で一人の少女が死んだ。
まったくもって冗談のような出来事である。しかし、

「冗談じゃないんだよな……」

そう。これは夢でも幻でも冗談でも、ましてやあのメガネの少年が言っていたドッキリでもない。正真正銘のデスゲームなのだ。
立ち止まってる暇はない。
自分の現在位置と支給品を確認するとすぐに走り出す。
幸か不幸か、自分の知り合いでこのゲームに参加しているのは小町つぐみただ一人。
ならば最初にすべきこと、そしてそれからの行動方針は自ずと決まる。
つぐみを探し出し、出来るだけ多くの人間とともにこのゲームから脱出、もしくはゲーム自体をぶっ壊す。
そのためにはつぐみ以外にも多くの協力者が必要になることは間違いない。
出来る限り多くの人間と接触して、協力してくれる人物を集める必要がある。
ゲームに乗った殺人者と遭遇してしまう可能性があるだろうが、それは覚悟の上だ。
もちろん、出会った人間が殺人者であった場合の対処を考えておかねばならない。
あの女は支給品には当たり外れがあると言っていた。
ナイフやスタンガンなら走って逃げることも可能だろうが、拳銃やマシンガンの類となるとそうはいかない。
生憎、自分に支給されたアイテムは戦闘向きではない。むしろ外れの部類に入るだろう。
となると、無用心に他人に近寄るのは危険か?  
――いや。
――しかし。
纏まらない思考を繰り返しながら走り続けていると、近くで物音がするのが聞こえる。
考え事をしていた為、周囲への注意を怠ってしまった。
自分の迂闊さを呪いながら近くの木へ身を隠し、物音がしたほうをゆっくり覗き込む。
20 ◆i8opowxlh. :2007/03/14(水) 07:36:46 ID:6rFvIhEh

――そこにいたのは女だった。

制服を着ているところと背格好から判断すると高校生だろうか。
こちらを見るその瞳は……
と、ここで武はようやく気がつく。
視界に映る女性が、怯える目つきでこちらを見ていることに。
「なあ、あんた――」
「いやあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
警戒を解くように、出来るだけ穏やかな感じで声をかけたつもりだったが失敗した。
返ってきたのは悲鳴という名の返事だった。
もう一度声をかけようとするが、女は武に背を向け走り始めた。
「って、おい!待てよ!」
慌てて追いかけようとする。が、必要はなかった。
女は10mも走らないうちに、足をもつれさせ盛大に転んだからだ。
暗い森の中で足元も見ずに走ったのだから、転んだのはある意味自明の理かもしれない。
「おいおい、大丈夫か?」
「いやぁっ!?」
近寄って手を差し伸べようとするが、手を振り払われる。
女はそのまま地面を這いながら近くの木にしがみつき、目を閉じたまま震えている。
まるでこの木こそが自分の命だといわんばかりである。
「いや、だから……」
「いやぁっ!?」
「俺の話を……」
「いやぁっ!?」
「聞いてくれよ……」
「いやぁっ!?」
その後もなんとか彼女を落ち着かせようと努力するが、すべてが徒労に終わってしまった。
なにせ声をかけても、手を差し伸ばしても、何をしても、
「いやぁっ!?」
と、万事に於いてこの調子である。
21 ◆i8opowxlh. :2007/03/14(水) 07:37:42 ID:6rFvIhEh
ついには涙を流し流し始め、
「助けて、助けて……」とうわ言のように繰り返し始める始末。
何故か、自分がこの子をいじめているような気分にさえなってきた。
まあ怯えさせているのは事実だろうが……。
「ああ、もう……。どうすりゃいいんだよ……」
若干イラつきながら呟く。
困った。こういう時どうすればいいのか、必死に考える。

このまま放っておいて自分はどこかへ行くか?
いや、その選択肢はあり得ない。
出来るだけ多くの人間と協力してこのゲームを脱出するという目的がある以上、ここでこの女性と情報交換することが絶対必要だ。

ではこのまま根気よく声をかけ続けるか?
確かに堅実な方法だろうが、先程から拒絶の嵐を受けている身としてはあまり気乗りしない。

じゃあこちらから余計な刺激を与えるよりも、彼女が自分で冷静さを取り戻すまで待つか?
これは中々魅力的な選択肢に思える。
幸い彼女は木にしがみついたままここから動くつもりは無いようだし、彼女が落ち着くまで根気よく待てばいい。
本当のところは、声をかけ続けたほうが良いのかもしれない……
しかし、前述の理由により武は三番目の選択肢を選ぶことにした。

       

           ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
22 ◆i8opowxlh. :2007/03/14(水) 07:38:58 ID:6rFvIhEh
そのまま待ち続けること数分。
ようやく女は落ち着いてきたのか、はたまた涙が涸れてきたのか泣き声が止まってきた。
そしてゆっくりと目を開けてこちらを見る。
どうやら自分の考えはうまくいったらしい。安堵しながら武は声をかけた。
「やっとこっちを向いてくれたか。俺は倉成武。あんたの名前は?」
「え……」
まだうまく状況を飲み込めてないのか、返ってきた返事は武が望んだものではなかった。
「倉成武だ。あんたの名前を教えてくれないか?」
彼女の瞳にようやく理解の色が走る。
「あ、わ……わたく……え……わた……いつ……か……わ……」
まだ震えが収まってないようだ。
必死に自己紹介しようとしてくれるのは分かるが、体全体が震えておりうまく発声が出来ないようである。
「す……わた……しま……こ……いつく……ど……どうして……」
頭では理解しても体がついてこないのがもどかしいのか、彼女の目から再び涙がこぼれはじめる。
せっかくここまできたのにまた泣かれては元の木阿弥である。
「ああいや、慌てる必要はないぞ。ゆっくりでいいから。ゆっくりでいいんだ」
なんとか彼女を落ち着かせる方法を考えないといけない。

と、そこで思い出す。昔見たテレビ番組を。あるアイテムを使って恐慌をきたした人を落ち着かせる方法を。
そして自分はそのアイテムを持っていることを。
実際に効果があるかは怪しいが、他に手段が思いつかないため藁にもすがる思いで試してみることにした。
ゴソゴソとデイパックの中を探り始める。
23名無しくん、、、好きです。。。:2007/03/14(水) 07:42:24 ID:18ZG2be/
携帯から自己回避
24 ◆i8opowxlh. :2007/03/14(水) 07:42:47 ID:6rFvIhEh

武がデイパックの中から取り出したのはジッポライターである。
そして、ジッポライターを彼女の顔の30cmほど手前に持ってきて火をつける。
それから、なおも自己紹介をしようとしている女性の言葉を遮って強い口調で言った。
「いいか。何も考えずに、このライターの火を目だけで追うんだ」
不思議そうに彼女の目の焦点がライターの火にあてられたのを確認してから、武はゆっくりとライターを動かしはじめた。
上へ、下へ、右へ、左へ、時には円を描きながらただひたすらライターを動かす。
彼女の目も忠実にその動きについていく。
何分もやる必要があるかと思っていたが、思っていたより早く効果は表れた。
あれほどまでに震えていた彼女の体は静寂を取り戻し、目だけが活発に動きライターの火を追いかけている。
武は彼女の体全体に期待していた効果が現れたことを確認して火を消し、尋ねた。
「どうだ。落ち着いたか?」
そこで彼女もようやく自分の体の変化に気づいたようである。
「え……は、はい!落ち着きました」
「それじゃあ、もう一度自己紹介だ。俺は倉成武。あんたは?」
「貴子。厳島貴子と申します」
25 ◆i8opowxlh. :2007/03/14(水) 07:43:27 ID:6rFvIhEh
【A-7 森/1日目 深夜】



【倉成武@Ever17】
【装備: ジッポライター】
【所持品:支給品一式】
【状態:健康】
【思考・行動】
1:貴子と情報交換
2:つぐみを探す
3:ゲームからの脱出、




【厳島貴子@乙女はお姉さまに恋してる】
【装備:不明 次の書き手さん任せ】
【所持品:不明 次の書き手さん任せ】
【状態:健康 転んだため制服が若干汚れています】
【思考・行動】
1:武と情報交換
2:???
26 ◆i8opowxlh. :2007/03/14(水) 08:20:44 ID:6rFvIhEh
スイマセン
>>19->>25の作品のタイトルは「二人の出会いは」で
お願いします
27月下の出会い ◆3Dh54So5os :2007/03/14(水) 10:00:19 ID:zQJ+5JCK
「ここは……どこ?」
私の第一声は思わず口をついて出たそんな言葉だった。
辺りを一通り見回してみても灯り一つ見えず、鬱蒼と生い茂る木々の影が私のまわりを取り囲んでいるだけ。
「…………」
普段見慣れた初音島のそれとまったく異なる景色に、私はしばし呆然となる。
まるで考えるという役目を放棄してしまった脳裏にふとよぎるのは先程のタカノとかいう女の人のあの言葉……。

――これからあなたたち65人には最後の一人になるまで殺し合ってもらうわ――

殺し合い、私の聞き間違いでなければ確かにそう言った筈だ。
最初、私には達の悪い冗談か、単なるドッキリ企画だと思っていた。
同じように考えていた人は他にもいたようで、私の言葉を代弁するように女の人に尋ねた男の子もいた。
その言葉に皆が今更そんな冗談流行らないよと笑いあっていた。
だけど、あの言葉の直後に起こった惨劇がそんな甘い予想をあっさりと打ち砕いてしまった。
永久保存のビデオのように私の頭に焼き付いたあの凄惨な光景は、忘れようと思っても忘れられない。
一生付きまとう悪夢となってそのまま消えることは決してないだろう。
思い出しただけでも気分が悪くなってきた。

「……どうして、どうしてこんなことになっちゃったんだろう?」

思考を放棄していた頭がまず考えたのはそんな当然の疑問だった。
あんな能力(ちから)をもっていたとは言え、それが過去のものとなった以上、今の私はどこにでもいそうな、ごく普通の女子学生の筈。
そんな私がなぜこんなところに連れてこられて、殺し合いなどと言う非日常的なことを強要されているのか?
考えようとして……私はすぐにその疑問を追い払った。
多分、あの人たちには深い考えなど無いんだと思う。
もしかしたらあるのかも知れないけど、多分私には分かりっこない。
それに、二人の人の命を何のためらいもなく、むしろそれが愉しい事であるかのようにあっさりと奪ってみせる人たちの考えなど分かりたくもなかった。
28月下の出会い ◆3Dh54So5os :2007/03/14(水) 10:02:58 ID:zQJ+5JCK
それよりも、今考えなくちゃいけないことは他にたくさんある。
今後何を目標として行動し、 (もちろん最終的な目標は生きてこの島を脱出することだけど……) どう生き残るか? ということ。
あの人は最後の一人まで残れば帰してくれる、と言っていた。
でもそれは他の全員を殺すか、見殺しにしなければ決して為しえない事。
参加者の中には朝倉君をはじめ知り合いも何人か含まれている。
気の知れた相手、特にあの時、私を助けてくれた朝倉君が死ぬなんてことになったら……。

「うっ……」
思わず最悪の光景を思い浮かべてしまった自分を私は呪いたくなった。
とりあえず基本としては、ゲームには乗らない、誰も殺さない。甘い考えかも知れないけど、まずそれを前提にしよう。
知り合いでなくても誰かを殺すなんて出来ないし、誰かが死ぬ所だって見たくもない。
じゃあ、それを実行するにはどうしたらいい?
目を瞑って、耳を塞いで、お経でも唱えながらじっとしている?
確かにこれなら前提条件は守られるし、生き残れる確立も高いだろう。だけど、皆が皆私と同じようにゲームに乗っていないとは限らない。
私の見ていないところで殺し合いが起こるだろうし、なにより禁止エリアなるルールもこのゲームには存在する。
じっとしていたら禁止エリアに指定されて、首輪爆破されちゃいました。なんてことになったら本末転倒もいいところだ。
そうなると残された手は、自ずと限られてくる。
「朝倉君たちと……、ううん、誰でも良いから仲間になってくれる人を見つけよう」
そう、一人で出来ることなんて高が知れている。なら誰かと協力して……と考えるのはごく普通のことだと思う。
私と同じように島の脱出を考えている人、もちろん、朝倉君たちのような知り合いであれば言うことはないけれど、この際贅沢は言っていられない。
29月下の出会い ◆3Dh54So5os :2007/03/14(水) 10:04:16 ID:zQJ+5JCK
それでも一つだけ、留意しておかなくちゃいけないことがある。それは、本当にその人が信頼できる相手であるか? ということ。
賛同してくれてる相手が必ずしもゲームに乗っていないとは限らない。私を殺す機会を虎視眈々と狙っている殺人鬼の可能性もある。
あるいはただ単に私をいい様に手駒として利用するために近づいてくる相手と言うのもいるかもしれない。
その辺りの見極めはとても難しいけど、大切なことだ。問題はどうやって見極めるか? だけど……

「はぁ、あの能力がまだあったらこんな苦労はしないで済んだんだろうなぁ……」

思い出すのは今年の春の事。
私が白河の家に引き取られたときからあの日まで、私が持っていた他人の心を読むという能力。
周りの人の邪念や憎悪の念まで読み取ってしまうそれを邪険にしていた私だけど、やっぱりあの能力に頼っていた部分は大きくて……。
初音島の桜と共に霞のごとくあの能力が消えてしまったとき、自分の殻に閉じこもっていた幼い日の私と同じように偽りの笑顔で自分を固める事しか出来なかった。
ショックで落ち込んでいた私を心の底から心配してくれたお姉ちゃんやみっくん、ともちゃん、そしてなにより私に道を示してくれた朝倉君。
みんなのおかげで能力が使えた頃とまでは行かないけれど、私は立ち直る事が出来た。

今思うと、あのまま能力が消えることなく能力に頼り続けていたら、いつか私はダメになっていたんだと思う。
それでもこんな状況に放り込まれてしまうと、あの時消えてしまった能力に頼りたくなってしまう。
「だめだなぁ、私って……。あれからもう結構経ってるのに……無いものねだりでしかないのに……」
そう、どんなに願っても無いものは無い。今あるものでやっていくしかないのだ。
30月下の出会い ◆3Dh54So5os :2007/03/14(水) 10:05:44 ID:zQJ+5JCK
「そういえば、私の支給品は何なんだろう?」
食料他と共に武器などが参加者には支給される。と言う言葉を今更のように思い出し、私はディパックの中身を確認することにした。
水、食料、地図、名簿、筆記具と言ったいわゆる共通の支給品を抜き出した後、次に出てきたそれを見て、私は思わず絶句した。
「こ、これって……」
大きさとしては両手の上に載るくらい。いかにも持ちやすそうな三日月形で色もやっぱり月の様な黄色。
持ったときの感触や重さは私の記憶の中にあるソレと全く同じで……。
でも、いまいち信じられなくて私はその内の一つを手に取ると皮をむいて、それをおもむろに口に運んだ。
口の中に広がる甘い、あの味。舌の上で溶けるようなこの食感。もうこれは誰がどうもても……
「バナナ……だよね?」
そう、私のディパックから出てきた支給品はごく普通のバナナ(それも5房もあった)だった。
それと一緒に説明書みたいな紙も出てきたので一応目を通してみる。

『バナナ(台湾産) 栄養価満点のバナナの中で特に日本人好みの味を持つ高級品。やったね! 大当たりだ!』

どう見てもハズレです。これをアタリだなんて思える人は天枷さん以外、誰もいないと思う。
「あ、頭痛くなってきたかも……」
溜息混じりに頭を抑えつつ、私は最後の一つとなった中身を取り出した。
「これは、竹刀……?」
出てきたのはどこにでもありそうな竹刀だった。
支給品の武器の上限がどの位なのかは分からないけど、少なくともバナナよりは使えるだろう。
「これで、どうにかなる……かな?」
そうつぶやきながらほっと胸をなでおろした、まさにそのときだった。
31月下の出会い ◆3Dh54So5os :2007/03/14(水) 10:07:56 ID:zQJ+5JCK
「そこの貴女」
「はい?」
支給品の確認に気を取られていた私は、突然かけられた声にさして疑問を持つこともなく声のした方を振り返り……再び、固まった。
そこに立っていたのは私より少し年上ぐらいの女の人だった。
月夜の中でもやけに映える長い黒髪に、きっと引き締まった顔立ち。赤と白を基調にした服はどこかの学校の制服だろうか?
一見するとどこにでもいそうな女の子に見える。
だけど、こちらを見つめる瞳は、私を射抜いてしまうのではないかと思うほど鋭い。
何より、その片手に握られた黒光りを放つ鋼の塊はどうみてもピストルにしか見えない。

「あっ、あっ……」
背筋を冷たい汗が流れるのを感じながら、思わず後ずさった私は小石か何かに躓いて、その場に尻餅をついた。
今、私の手元にあるのは闘いになんか使えそうもない共通の支給品と5房のバナナ、それと唯一武器と呼べそうな竹刀だけ……。
ピストルをもった人が相手で、しかも腰を抜かした状態では反撃はおろか逃げることすら叶いそうもなかった。

朝倉君たちを探そう。仲間になってくれる人を見つけて脱出法を考えよう。
そう思った矢先に私はやられてしまうのか? このまま殺されてしまうのだろうか? そんな事ばかりが頭を過る。
(いやっ! そんなの絶対に嫌っ!)
心が必死に悲鳴をあげているのに、それが口から漏れることはない。
ただ口をぱくぱくさせながら、女の人から目を逸らすことすら出来ずに全身を震わせるだけだ。
そんな私とは対照的に女の人は表情一つ変える事無くこちらに寄ってくる。私は顔を俯かせ、目をぎゅっと瞑り覚悟を決めた……。
32月下の出会い ◆3Dh54So5os :2007/03/14(水) 10:09:32 ID:zQJ+5JCK
「………佐祐理」
「えっ?」
だけど聞こえてきたのは銃声ではなく聞き覚えの無い名前だった。
私は顔を上げて、女の人を見た。
「貴女、佐祐理と会わなかった?」
「…………」
どうやら、この女の人は人を探しているらしい。そう理解するまで私はしばし時間を要した。
嘘を言う必要も無いと思ったので、私は素直に答える。
「えっ、えっと……私が会ったのはあなたが初めてです……」
「…………そう」
ぽつりと、そう一言答えると女の人は踵を返し、再び森の中に踏み出そうとする。
何も起こらなかったことにほっとするのと同時に、私の中でまた一人きりにされるのは嫌だ。という気持ちが芽生える。
それは急速に膨れ上がってきて、気付いたときには私は大声で女の人を呼び止めていた。
「あっ、あのっ!」
私の声に、一歩踏み出しかけていた女の人の足が止まる。
「あのっ! まっ、待って下さい!」
少しよろめきつつ立ち上がった私は、女の人の空いている方の手を掴む。
私が例の感覚に襲われたのは、その直後の事だった。

――…いち、佐祐理、無事でいて……――

(えっ!?)
頭の中に直接声が響いてくる感覚、とでも言えばいいのだろうか?
耳で聞いたわけじゃないのに聞こえるその人の声。そんな不思議な感覚に私は覚えがあった。
33月下の出会い ◆3Dh54So5os :2007/03/14(水) 10:11:28 ID:zQJ+5JCK
(今のって、まさか……)
「なに?」
突然の出来事に、思考が縛られかけた私は、女の人の訝しげな声で我に返った。今度はちゃんと耳で聞き取ったものだ。
「あっ、えっと……」
今の一件と、もともと何かこれと言った用件を考えていなかった私は、目に付いたアレを拾い上げると、それを差し出しながらできる限りの笑顔で言った。
「え、えっと……、バナナ食べます?」
「………………食べる」
私と差し出したバナナを交互に見つつ、たっぷり間を空けてからそう答えると、女の人は私の差し出したバナナを受け取り、食べはじめた。
「あの、食べながらでいいので、ちょっといいですか?」
私はさっきの事について考えたくなる衝動を無理矢理心の片隅に追いやりながら、この人に仲間になってもらえるよう打診しようと、再び口を開くのだった。



【C-6 森/1日目 深夜】


【白河ことり@D.C.P.S.】
【装備:竹刀  風見学園本校制服】
【所持品:支給品一式  バナナ(4房+3本)】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:ゲームには乗らない。 最終的な目標は島からの脱出。
1)出来ればこの女の人(舞)と一緒に行動したい。
2)仲間になってくれる人を見つける。
3)朝倉君たちを探す。
4)今のは心の声……? それとも気のせい?
【備考】
※テレパス能力消失後からの参加です。
34月下の出会い ◆3Dh54So5os :2007/03/14(水) 10:13:01 ID:zQJ+5JCK
【川澄 舞@Kanon】
【装備:ニューナンブM60(.38スペシャル弾5/5) 学校指定制服】
【所持品:支給品一式(他に武器があるのかは次の方にお任せ)】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:ゲームには乗らない。 佐祐理を探す。
1)バナナ…嫌いじゃない。
35 ◆3Dh54So5os :2007/03/14(水) 15:15:11 ID:zQJ+5JCK
すいません、>>33の白河ことりの状況表を下記のように変更します。


【白河ことり@D.C.P.S.】
【装備:竹刀  風見学園本校制服】
【所持品:支給品一式  バナナ(4房+3本)】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:ゲームには乗らない。 最終的な目標は島からの脱出。
1)出来ればこの女の人(舞)と一緒に行動したい。
2)仲間になってくれる人を見つける。
3)朝倉君たちを探す。
4)今のは心の声……? それとも気のせい?
【備考】
※テレパス能力消失後からの参加ですが、主催側の初音島の桜の効果により一時的な能力復活状態にあります。
 ただし、ことりの心を読む力は制限により相手に触らないと読み取れないようになっています。
 ことりは、能力が復活していることに気付きつつありますが、『触らないと読み取れない』という制限については気付いていません。
36若き警部と幼き『森の母』 ◆rnjkXI1h76 :2007/03/14(水) 18:26:03 ID:e91PM8HQ
「本当に、どういうことなんだこれは?」
 赤坂衛が最初に思い、口にしたことがそれだった。

 目を覚ましたら見知らぬホールにいて、その後いきなり殺し合いを強制され、さらに気がつけば自分はまたしても見知らぬ森林の中――――
 いったい何がどうなっているのか、超常的な現象とは馴染みが無い赤坂には本当にわけが分からなかった。悪い夢でも見ているんじゃないか、とすら思ってしまう。
 試しに自分の頬を思いっきり引っ張ったり抓ってみる。――すごく痛かった。ということは、これは夢ではないということだ。

「確か僕は美雪と北海道に行って……そこで七年ぶりに大石さんに会って……」
 とりあえず赤坂は落ち着いて自身が覚えているまでの記憶をゆっくりと遡ってみることにした。
「……そして梨花ちゃんの死――――!?」
 そこで思考がピタリと止まる。
「梨花ちゃん……そうだ。結局僕は梨花ちゃんを守ることが出来なかったんだ……!」
 赤坂は悔しさのあまり近くに生えていた木に拳を叩きつけた。

(――大石さんの話だと梨花ちゃんは雛見沢のガス災害が発生する前に何者かに殺されていた……それも生きたまま腹部を開腹させられて…………。
 そうだ。彼女はあの時から予言していたじゃないか……自身の死のことを、そして……昭和58年までに起きた一連の怪死事件のことも…………)
 震える拳を下ろしながら、赤坂は大石から聞かされた古手梨花の死の真相と、かつて梨花が自身に言っていた予言の内容、そして、あの時のことを少しずつ思い出していった。

 ――――そうだ……梨花ちゃんは僕に助けを求めていたじゃないか……。それなのに、僕は気づくことが出来なかった…………。
 それだけじゃない。雪絵の死も教えてくれたのに、僕はそれにすら気づけなかった……!
 あの時、僕が彼女の警告を真に受け止めていれば、雪絵を、梨花ちゃんを救うことが出来たかもしれないのにッ……! 僕は、僕は……!)

「うああああああああああああああああああああああああ!!」
 叫び声を上げながら、赤坂は何度も何度も木に己の拳を叩き込んだ。内心自分の不甲斐無さを呪いながら。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
37若き警部と幼き『森の母』 ◆rnjkXI1h76 :2007/03/14(水) 18:28:47 ID:e91PM8HQ
 月明かりが照らす森の中をアルルゥは一人歩いていた。
 片手でデイパックをずるずると引きずりながら、アルルゥは先ほどのホールでの出来事を思い出していた。
「おとーさんやおねーちゃんたちもいた……」
 見知らぬ少年と少女が死んだということよりも、アルルゥにとっては同じ場所に家族がいたということのほうが重要であった。
 それもそうだろう。今まで戦場でムックルを駆り、敵兵を一人二人と殺めてきたことがある彼女だ。見知らぬ人間が一人、二人死んだところで大して気には留めない。
 ――――怖くはあったが。
 だからアルルゥは一刻も早く家族――すなわちトゥスクルの城で一緒に暮らしている者たちのことだ――の誰かと合流しようと森を歩いている。
 いくら数多くの戦場(いくさば)を潜り抜けてきた彼女とはいえ、普段はやはり歳相応の少女である。一人はさすがに心細かった。


 ――それからしばらく歩いたところでアルルゥは一度ピタリと足を止め、自身が今まで引きずって持ち運んでいたデイパックへと目を向けた。
 そういえば、まだ中に何が入っているのか確認していなかったということに気づいた彼女は、早速デイパックを開けて中身を確認してみることにした。

 まず最初に出てきたのは地図やコンパスなど、この殺し合いの場で生きるために必要な最低限の品々。
 しかし、アルルゥには地図と水、食料以外の品物はどういうものなのかさっぱり分からない(彼女の世界とこの世界の文明のレベルが違うからだ)。ゆえに、自身にとって不要なもの、分からないものはこの場に全て置いていくことにした。

 次にデイパックから出てきたのは参加者名簿だった。読んでみると自分の名前も載っていたし、その近くにはハクオロやエルルゥといった家族の名前もちゃんと載っていた。
「おおー……」
 載っていたのは参加者の名前だけとはいえ、その名簿に記されていた内容の細かさにアルルゥは圧倒される。
 ――――実はその名簿の内容は全てこの世界の日本語で書き記されていたのだが、アルルゥはそれをなぜ自分が読むことが出来るのか、などと疑問に抱くようなことはまったくなかった。
38若き警部と幼き『森の母』 ◆rnjkXI1h76 :2007/03/14(水) 18:30:35 ID:e91PM8HQ
「ん〜?」
 その後に出てきたのは――アルルゥ自身はまったく見たことも無い形をした鉄の塊であった。
 細長くて結構な重量のあるソレはアルルゥの頭の上にいくつものハテナマークを浮かべさせるには充分な代物であった。
 カルラが使っているあの鉄塊のような大きな剣みたいなものかな、と最初は思ったが、試しに持ってみた結果、どうやら違うということに気づく。
「んん〜〜〜?」
 しばらくソレの正体を考えてみたアルルゥであったが、いくら考えてみてもソレが結局何であるかは分からなかったし、自身が持つには少々重いということもあったのでソレはここに置いていくことにした。
 ――しかし、アルルゥは気づいていなかった。デイパックの中にはまだソレの正体と使用法が記してある説明書と、ソレが使用する散弾が入っていたということに……


「……ん」
 必要な荷物だけをデイパックにまとめ終えた(というより、適当にぶち込んでしまった)のを確認すると、アルルゥはデイパックを手に再び薄暗い森の中を歩き始めた。
 ――そして、アルルゥが立ち去った後、そこには彼女が置いていったコンパスと時計とランタン――――それと一丁のショットガンが残された。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
39若き警部と幼き『森の母』 ◆rnjkXI1h76 :2007/03/14(水) 18:31:28 ID:e91PM8HQ
「…………」
 一通り軽く暴れまわってすっきりした後、赤坂は一本の木を背にぼーっと夜空を眺めていた。
 木を殴り続けていたせいで、彼の両手はところどころが真っ赤になっていた。
「……さて、これから僕はどうしようかな?」
 そんなことをボソリと呟くと、自身の手元にあるソレに目を向ける。
 ――トンファーと椅子。それが赤坂に与えられた支給品であった。
「トンファーはともかく……本当になんなんだ、この椅子の説明書に書かれていた『神の王すら倒す威力を誇る武器』ってのは?」
 赤坂は椅子に付いていた説明書の内容の意味を何度も理解しようと頭を捻らせる。
 ――分かっている者はもう分かっていると思うが、この椅子の正体はリシアンサスが暴走した父、神王を沈静化させるために使っていたあの椅子である。そのため、武器としても非常に優秀な代物……だと思われる。
「まあ、考えても埒があかないか……。とりあえず持っていこう。――あ。そういえば、まだコレ読んでなかったな」
 そう言うと赤坂は椅子をデイパックにしまった代わりに、今度は参加者名簿を取り出した。

「誰か知り合いの名前が載っていたりして……。いや、まさかな…………」
 そう言いながら赤坂は名簿のページをペラペラとめくっていく。
「えっ!?」
 そして、あるページを開いたところで彼の手は止まり、それと同時に赤坂は己が目を疑った。

 ――――古手梨花。
 そう。二年前に死んだはずのあの少女の名前が……赤坂が守ることが出来なかったあの女の子の名前がそこには載っていたからだ。

「なっ……なんで梨花ちゃんの名前がここに載っているんだ!?」
 赤坂は思わず、声に出して叫んでいた。
(そんな馬鹿な。梨花ちゃんは二年前に死んだはずだ。それなのに、なんでここに名前が載っているんだ?
 いや待て。落ち着くんだ赤坂衛。もしかしたら同じ名前をした別人かもしれないだろう? そうだ。そうに違いないっ!)
 自分にそう言い聞かせる赤坂であったが、それでも気になるものはやはり気になってしまうというのが人のサガである。
「くっ……だけど、本当に僕の知っている梨花ちゃんかどうかなんて分からないじゃないか……!」
 そう毒づくも、赤坂は立ち上がり、早速行動を開始することにした。
40若き警部と幼き『森の母』 ◆rnjkXI1h76 :2007/03/14(水) 18:32:10 ID:e91PM8HQ
「大石さんもいるみたいだし(まさか本当に知り合いがいるとは思わなかったけど……)、まずは人が集まりそうな場所へ行ってみよう。
 何か手がかりが見つかるかもしれないし、大石さんと連絡が取れる方法があるかもしれない……!」
 そう言うと赤坂はデイパックを肩に提げ、薄暗い森の中を歩き出そうとした。
 ――その時、背後からガサリと草木を掻き分ける音がした。
「!? 誰だっ!?」
 赤坂は咄嗟にトンファーを手に身構える。
 すると、彼の視界の奥――薄暗い闇の中に、一人の少女のシルエットが映った。
「!? まさか…………」
 梨花ちゃんか、赤坂のその言葉が出るよりも先に少女は闇の中へと駆け出していた。
「あっ……。待って! 待ってくれ!」
 すぐさま赤坂は少女の後を追うために駆け出した。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 アルルゥは未だに森の中を歩いていた。
 あれからずっと歩き続けたが、森は一向に抜けられそうな気配は無い。
 ――それもそのはず。実はアルルゥは新市街のある北ではなく、その逆の南――つまり森の奥へと進んでしまっているからだ。彼女がコンパスの正体と使い方さえ知っていれば、起こりはしなかった失敗である。
 そんなことをアルルゥが気づくはずもなく、引き続きデイパックを引きずりながら森の中を進んでいく。

「なっ……なんで梨花ちゃんの名前がここに載っているんだ!?」
41若き警部と幼き『森の母』 ◆rnjkXI1h76 :2007/03/14(水) 18:33:21 ID:e91PM8HQ
 ――そんな時、ふと男の叫び声が森に響き渡った。しかも、声の主がいるのはアルルゥのいる場所からそう遠くはなさそうだった。
「おとーさん?」
 その声が自身が父と慕う青年ハクオロの声か、それとも友人の兄オボロの声かどうかまでは分からない。しかし、確かめてみる価値は充分あった。――それだけアルルゥは一人でいることが心細かったのだ。
 アルルゥは早速、男の声がした方へと歩いていった。



 声はアルルゥが一歩一歩進んで行く度にはっきりと聞こえてくるようになってきた。
 声の主に近づいている。やはり誰かが近くにいる、とアルルゥは確信した。
 ――――そして、アルルゥはついに声の主の姿を捉えた。

「大石さんもいるみたいだし、まずは人が集まりそうな場所へ行ってみよう。
 何か手がかりが見つかるかもしれないし、大石さんと連絡が取れる方法があるかもしれない……!」

 ――そこにいたのはハクオロでもオボロでもなく、見知らぬ装い(この世界の人間から見れば普通の格好だが、アルルゥの世界の人間から見れば当たり前ではある)をした若い男であった。
 見た感じのところ、歳はハクオロと同じくらい、もしくはそれ以上であろうか?

「ん〜……」
 アルルゥは前方にいる男の様子をじっと見つめていた。
 彼女は知る人ぞ知る極度の人見知りである。見知らぬ相手に対しては、自分から一線以上近づこうとすることはまずない。
 ゆえに、前方にいる男の姿を確認した時、最初はさっさとこの場から離れようと思った。しかし、前にいる男はまだこちらの存在には気づいていない。
 ――そのため、アルルゥはしばらくの間はこの男を観察していようと思ったのであった。
 それは、あのハクオロがヤマユラの集落にやって来たばかりの時に自身がとっていた行動とまったく同じだったのだが、もちろんアルルゥはそんなこと知るわけが無い。
 もう少し男の様子を近くでじっくり見ようと、アルルゥはそっと男の方に近づく。
 すると――――
42若き警部と幼き『森の母』 ◆rnjkXI1h76 :2007/03/14(水) 18:34:02 ID:e91PM8HQ
 ガサリ……
「!?」

 それが災いしたのか、運悪く着ていた服が近くの茂みに引っかかり、物音を立ててしまった。
「!? 誰だっ!?」
 男がアルルゥの存在に気づいたのか、持っていたトンファーを構える。
 ――しかし、それよりも早くアルルゥは男の前から逃走していた。


「あっ……。待って! 待ってくれ!」
 背後から男の声がする。
 アルルゥがちらりと後ろを振り返ると、男が自分の後を追ってきていた。
 しかし、そこは逃げ足の速いアルルゥ。いくら相手が大人の男でも二人の距離はなかなか縮まらない。
 もちろん、これには地の利――アルルゥのほうがこういった自然の生み出した道を走るのには慣れているというのもある。





「や、やっぱり、田舎育ちの子は足が速いな…………」
 赤坂衛は目の前を走り去っていく少女を必死に追いかける。
 今自分が追っている少女は、古手梨花ではなくアルルゥであると気づかずに。

 月の光が照らす森の中で、一人の男と少女の奇妙な追いかけっこが始まった――――

43若き警部と幼き『森の母』 ◆rnjkXI1h76 :2007/03/14(水) 18:34:41 ID:e91PM8HQ
【B-5 森(南部)/1日目 深夜】

【赤坂衛@ひぐらしのなく頃に】
【装備:デリホウライのトンファー@うたわれるもの】
【所持品:支給品一式、椅子@SHUFFLE!】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない。
1:目の前の少女を追う。
2:1の後、人が集まりそうな場所に行く。
3:大石さんと合流したい。
4:梨花ちゃんが自分の知っている古手梨花かどうか確かめる。
【備考】
※追っている少女が梨花だと思っています(というより、参加者の中には梨花以外に幼い少女はいないと思っています)。
※暇潰し編で大石から梨花の死の真相を聞いた直後からの参加です。


【アルルゥ@うたわれるもの】
【装備:なし】
【所持品:支給品一式(コンパス、時計、ランタン以外)、ベネリM3の予備弾(12番ゲージ弾)×35】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない。
1:男(赤坂)から逃げる。
2:おとーさんやおねーちゃんたちと合流したい。
【備考】
※赤坂から逃げたのはただの人見知りによるものです。
※ナ・トゥンク戦後あたりからの参加です。
44若き警部と幼き『森の母』 ◆rnjkXI1h76 :2007/03/14(水) 18:35:12 ID:e91PM8HQ
【作中備考】
以下のものがB-5北部の森林のどこかに放置されています。
・【ベネリM3(弾は装填されていません)】
・【コンパス】
・【時計】
・【ランタン】
45男として ◆A6ULKxWVEc :2007/03/14(水) 22:11:26 ID:JwXxX+9c
あ、危なかった…。
確かフカヒラとか言ったっけ?
僕と同じような年代の、僕と同じ雰囲気を持った少年がいきなり殺された。
何が危なかったって、もし彼が言い出さなかったら僕はこう言っていたことだろう。

「ハハハハハ……。もう、やだなあお姉さん。殺し合いだって? そんなこと言って僕達をびっくりさせようとしたって、この僕は騙されないよ?こう見えても僕、岡崎のせいで騙されることにはなれてるんだよね 」
「いや、言っとくけど、お前、それ自慢になってないからな。」
「そんなこと言いつつもしっかり騙されるのが春原の春原たる由縁よね」

この場に居ない岡崎達のツッコミまで聞こえてきそうだ。
そして僕の首輪が爆発した後……

「あれ?これ本当に死んでない?」
「まさか。春原だぞ?」
「そうよね、春原が首が吹っ飛んだくらいで死ぬわけ無いわよね」
『って僕は一体どこの吸血鬼だよ!』
「……やっぱこれ本当に死んでない?」
「おい、春原。死んだ振りして女の子のスカートの中覗こうとしても無駄だからな」






「「返事が無い唯の屍のようだ」」
『あんたら夫婦には優しさっていうものがないんですかねえ!?』
「ま、いっか、春原だし」
「そうね、春原だし」
『ってあんたら僕の扱い軽すぎませんか!? ……というかなんで僕は死にながらもツッコまなきゃならないんですかねえ!?』
46男として ◆A6ULKxWVEc :2007/03/14(水) 22:13:06 ID:JwXxX+9c
やめよう。
いくら岡崎でも僕が死んだら悲しんでくれるはずさ。
ってなんで僕が死ぬ前提で考えてんだよ!僕だって生きる権利はあるはずだ!
そうと決まればまずは鞄の中身を確かめて……
「ん?これは噂のipodって奴か」
なんでも沢山の音楽を再生できる機械らしい。いまだラジカセを使い続けている貧乏学生のとしては喉から手が出るほど欲しかったものだ。
「って今はそんなものより武器が欲しいんですけどねえ!」
……落ち着こう。ipod以外には食べ物やら水やら地図やらで武器になりそうなものはまるで入ってなかったんだ。
この状況で誰かにあったら死ねる。
それにしてもこの状況はマジでピンチだ。もし武装した誰かに襲われたら流石の僕でも殺されてしまうかもしれない。
どうすればいいんだ…。
これからの方針を決めかねていたときにふとipodが目に入った。
ん?そういえばこの中ってどんな曲が入ってるんだろう?
もしボンバヘッ!が入ってたら、素晴らしい名案を思いつくかも。というかやっぱ考え事するならボンバヘッ!を聞きながらに限るよね。
えっと……このボタンが電源で……

『YO! YO! オレ岡崎! オマエはっ…オマエは…』

そんな歌?が大音量で響き渡った。
「ってこの前岡崎が上書きしたやつかよ!どんないやがらせですか!?」
47男として ◆A6ULKxWVEc :2007/03/14(水) 22:13:39 ID:JwXxX+9c
ガサッ

ん?
何か物音が聞こえたような……。
もしかして誰かに見つかった!?
今こられると非常にまずい。こうなったらハッタリでなんとかするしかない。

「も、もしかして誰か居るのか!?い、言っとくけど、僕には凄い必殺武器があるんだからな!に、逃げたほうが身のためだぞ!」

ガサガサッ

こ、これはまずいかもしれない。

「き、聞こえてないのか!?ひ、必殺だぞ!い、今なら見逃してやるから去った方が身のためだぞ!」

ガサガサガサッ

茂みの中から出てきたのは……。

「あ、あの……必殺武器って嘘ですよね?」

そういって微笑む、金髪でとても美人な“女の人”だった
48男として ◆A6ULKxWVEc :2007/03/14(水) 22:14:58 ID:JwXxX+9c
ガサッ

ん?「う、嘘じゃないぞ!こっちには必殺の」

「でも、さっき武器が欲しいって叫んでたような……」

「あ、あれは……」

や、やばいぞ……この美人が武器を持っていたら…。

「それに、もし武器を持っていたとしても、貴方はむやみに人を殺めるような人には見えませんから」

ニコッ

か、可愛い!え?何これ?可愛すぎない?

「もちろん!君のような美しい人を傷つけるわけ無いじゃないですか!」

近づいて強引に手を握る。
うわぁ……柔らかいなぁ…。
「僕、春原陽平って言います!よろしくお願いします」
そう言って手を上下にブンブンと振る。
……芽衣以外の女の人の手を握ったのって初めてかも。うわぁ……嬉しいなぁ…。
「ぼ、私は宮小路瑞穂って言います。こちらこそよろしくお願いしますね」
優しく手を振りほどかれてしまった…。もっと握っていたかったな。

「瑞穂さんって言うんですか!女性らしいいい名前ですね!」
あれ?瑞穂さんの表情が微妙に……?
「どうかしました?」
「い、いいえ何でもないですよ?陽平さんもいい名前ですね。明るい陽平さんにはぴったりだと思います」
(僕だってもっと男らしい名前の方が…)
ん?なんか聞こえたような…。まあ、気のせいか。
49男として ◆A6ULKxWVEc :2007/03/14(水) 22:15:45 ID:JwXxX+9c
そして、瑞穂さんと知り合いの情報を交換し、一緒に行動することになった。

「瑞穂さん!戦いは僕に任せて置いてください!古代より美しい女性を守るのは僕の役目ですから」
……あれ?また瑞穂さんの表情が?もしかして誉められなれてないのかな?こんな美人なのに。
「ところで瑞穂さん。僕が武器持ってないこと分かってたにしても瑞穂さんも武器持ってなかったし、僕が襲ってきたらどうするつもりだったんですか?やっぱ女性に優しいジャントルマンな雰囲気でてました?」
と、言うと瑞穂さんはクスクスと微笑みながら。
「だって陽平さんったら、1人で漫才してましたし……。それを見て、ああ、この人は人を傷つけれるような人じゃないたって思ったんです。」
「って見てたんですか!」

こうして僕は今日何度目か分からない、ツッコミの叫び声を上げた。

【B-7の森/1日目 深夜】

【春原陽平@CLANNAD】
【装備:無し】
【所持品:支給品一式 ipod(岡崎のラップ以外にもなにか入ってるかも…?)】
【状態:健康、瑞穂に一目惚れ】
【思考・行動】
1:瑞穂を守る。
2:瑞穂と仲良くなる。
3:知り合いを探す。(朋也、杏、智代、貴子)

【宮小路瑞穂@乙女はお姉さまに恋してる】
【装備:】
【所持品:支給品一式 ランダムアイテム不明(※武器ではない)
【状態:健康。男としてのプライド崩壊中】
【思考・行動】
1:知り合いを探す (朋也、杏、智代、貴子)
2:実は男だって言い出しづらい。
50男として ◆A6ULKxWVEc :2007/03/14(水) 22:24:39 ID:JwXxX+9c
>>49
「だって陽平さんったら、1人で漫才してましたし……。それを見て、ああ、この人は人を傷つけれるような人じゃないたって思ったんです。」

「だって陽平さんったら、1人で漫才してましたし……。それを見て、ああ、この人は人を傷つけれるような人じゃないなって思ったんです」

の間違いです。
51生徒会長の責任 ◆7JMGjHarIw :2007/03/15(木) 01:10:22 ID:jTjIYDOr
「一人になるまで殺し合い……ぜんぜん面白くないわね」
ランタンの最低限の灯りの中、霧夜エリカは一本の木に背中を預けながら、小さくつぶやく。
いまエリカがいるのは森の中、いや、山の中といったほうがいいか。この場所から目視できる鉄塔と
コンパス、地図を照合し、ここがC−6エリアであるとエリカは判断した。

「フカヒレ君……」
不意に口をついて出たのは、一人目の脱落者になった見知った少年のあだ名。
エリカは、絶叫していた幼馴染たちのように彼にそれほど深い思い入れがあるわけではないが、少な
くとも同じ生徒会の仲間であった。そして先ほど名簿を見て、この馬鹿げたイベントになごみん以外
の生徒会メンバーが全員(なぜか、土永さんといったおまけもついていたが……)参加していること
を確認し、フカヒレの死の原因が自身にあるのではないかと考えてしまう。

―――もし私が生徒会に勧誘しなければ、フカヒレ君が死ぬことはなく、対馬クンたちがこんなこと
に巻き込まれることもなかったんじゃ……。

エリカらしからぬ弱気で後ろ向きの思考を自分自身情けなく思う。だが、遠くからではあったがはっ
きりと見えたフカヒレの死に顔が、いつもの冷静な思考を妨げる。
そんな考えを振り払おうと、いつものようにバラを取り出し、その香りを味わう。
「ん〜、いい香り」
バラの香りが持つリラックス効果で幾分落ち着きを取り戻したエリカはこれからの行動方針について
考えを巡らせる。
52生徒会長の責任 ◆7JMGjHarIw :2007/03/15(木) 01:14:58 ID:jTjIYDOr
とりあえず動き出すのは夜が明けてからね。
それから……まずはよっぴー、それに対馬クンたちを探すべきか。まあ、乙女さんは心配いらないと思うけど、早めに合流したいわね。
そして最終目標はこんなくだらないゲームをぶっつぶす。この私を巻き込んだことを豚どもに後悔させてやるわ。

行動方針が決まるとデイパックの中の支給品の確認に移る。十徳工具とスタンガン、これがエリカに支給されたランダムアイテムのようだ。
(銃器の類が相手だといささか心許ないけど、いろいろと応用は利きそうだし、まあ外れじゃないわね)

「ふぅ……」
一つ息をついて、高ぶってきた精神を落ち着かせる。それがよかったのか、エリカの耳がかすかな異音をとらえた。
「!!」
瞬時にランタンの灯りを消し、暗闇に息を潜める。どうやら異音の正体はこちらに近づいてくる足音のようだ。
主催者の誘いに乗ったマーダーか、保護すべき弱者か、主催者に対する反抗者か。
まずはそれを見極めなければならない。

ザッ
足音がエリカの潜む木の10mほど前で止まった。

―――気づかれてる!?
……少なくとも弱者という選択肢は消えた。あとは、敵か味方か……気づかれてるならこれ以上息を潜めても無駄なようね。ならばこちらから動いて出方を伺うか。
そう判断したエリカはこっそりスタンガンを手に取り立ち上がり、足音の主に向かって話しかける。

「私は霧夜エリカ。仲間を見つけ、この腹立たしいゲームから脱出することが目的。あなたの名前と目的は?」
53生徒会長の責任 ◆7JMGjHarIw :2007/03/15(木) 01:19:35 ID:jTjIYDOr
□ ■ □ ■ □ ■

敵か味方か弱者か。
奇しくも足音の主である坂上智代も同じく前方の人物について判断しようとしていた。

「私は霧夜エリカ。仲間を見つけ、この腹立たしいゲームから脱出することが目的。あなたの名前と目的は?」

その声を聞いた智代は感心した。非常に冷静な、しかもおそらくは若い女の声。
人のことは言えないが、この状況下で冷静な判断ができる人は少数派だろう。
この時点で智代の中からも相手が弱者という選択肢は消える。
ならば、ここは相手に合わせるのが得策か……。

「私の名前は坂上智代だ。目的についてはあなたと同じと言っておこうか」
そう相手に告げながら、支給品のFNブローニングM1910を握り締める。
もちろん智代は銃を撃ったことなんてないが、ご丁寧にも取扱説明書も付属されていたため、単純に撃つことだけならできる。
もちろん、それを使うつもりは今のところない。智代が得意とするのは蹴りを中心とした肉弾戦。
同世代の少女相手にはまず負けることはないだろうし、運動神経がいい程度の男であっても勝つ自信はある。
問題は相手の支給品が強力な場合だ。
だから智代は安心を得るため、ある提案をした。
「あなたの姿を確認したい。ランタンを点けてもかまわないか?」

「……いいわ」
逡巡するような雰囲気が感じられたが、相手の姿を確認することは相手にとっても必要なことなので、数秒後に肯定の返事が返ってくる。
それを聞いて智代はデイパックから取り出したランタンの灯を点け、相手が確認できるように光量を調節する。
54生徒会長の責任 ◆7JMGjHarIw :2007/03/15(木) 01:20:21 ID:jTjIYDOr
浮かび上がってきたのは、派手な金髪の少女。
女の私でも一瞬見惚れるほどの美人だ。
制服を着ているということは、自分と同じ高校生だろう。
さすがに警戒しているのか、彼女の右手にはスタンガンが握られている。
彼女のほうも私を確認して、その表情が若干強張るのが見えた。
彼女の視線は智代の右手にある銃に向けられている。
これは想定していたことだ。
そこでもう一度智代から彼女に提案する。
「見て分かると思うが、私の支給品はこの銃だ。
だが、あなたに危害を加える気はない。……それを証明しよう」
そう智代は告げると、持っていた銃を、前方――エリカと自分の間、中心ほどの位置に放り投げた。

―――もし彼女がゲームに乗っていれば、私の外見で大した敵でないと判断し、好機と見て落ちている銃を拾うか、手に持ったスタンガンで攻撃してくるだろう。

「!!」
さすがに、あっさり銃を手放したことに彼女は一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐにこちらの意図を察し、彼女のほうも持っていたスタンガンを前方に放り投げた。
それを確認して、智代は警戒を緩め、彼女に近づいていく。

「情報交換がしたい」
55生徒会長の責任 ◆7JMGjHarIw :2007/03/15(木) 01:21:51 ID:jTjIYDOr
□ ■ □ ■ □ ■

目の前の少女、霧夜エリカと支給品や知り合いの情報交換をした智代は、まずエリカが最初に死んだ少年の仲間であったことに驚いてつぶやいた。
「エリカは強いんだな。あまり親しくなかったとはいえ、仲間が死んだのにこれほど自分をしっかりと持っているなんて……」
「そうでもないわ。私もついさっきまではいつもの自分では考えられないくらい落ち込んでいたわ。でも、それじゃいけないのよ。
生徒会長として他の生徒会の仲間を無事にもとの生活に帰す責任があるんだから」
その言葉に智代はまた驚く。
「エリカも生徒会長だったのか。私もそうなんだ。朋也のおかげで生徒会長になることができた。だから私も朋也や他のみんなを守りたいと思っているし、その責任がある」
今度は逆にエリカが驚いたが、すぐにからかうような笑みを向ける。

「へえ。ずいぶんその朋也って人が大事なようね。どんな関係?」
「と、朋也はだなぁ……って何を言わ……!!」

智代が言い返そうとした瞬間、目の前のエリカの姿が消える……と同時に真後ろに気
配を感じる。
「くっ!」
距離をとらなければ、と前方に跳ぼうとする直前、エリカによって羽交い絞めされる。
―――くっ、この状態では力が入らない。締め上げられても抵抗できない……相手を
甘く見ていたのは私のほうだったか。朋也、すまない。私はお前を守ってやることが
できなかった……。
智代は自分が甘い考えを持っていたことに後悔した。

56生徒会長の責任 ◆7JMGjHarIw :2007/03/15(木) 01:25:17 ID:jTjIYDOr
もみっ♪
「えっ?」

モミッ♪
「なっ?」

揉みっ♪
「アッ……」

「う〜ん、いい揉み具合よ。86センチといったところかしら。
よっぴーには少し及ばないけど、なかなかいいモノを持ってるのね、ともりん♪」
智代の顔が真っ赤に染まっていく。
「な、ななななななにをやってるんだー!」
もみっ♪

「胸を揉んでるのよ。それくらいのことも分からないの? ともりんは」
「そうじゃなくてなんで揉んでるんだっ!? それにともりんってなんだっ!?」
モミッ♪

「なんでってそこに胸があるからよ。当然でしょ? それと、ともりんってのは私のつけたあだ名だけど、ともっちのほうがよかった?」
「どっちも嫌だっ!」
揉みっ♪

「っていうか、いい加減に揉むのをやめろー!!!」

智代は改めて後悔した。この霧夜エリカに出会ったことを……。

―――とにもかくにも、こうして霧夜エリカと坂上智代、性格の大きく違う二人の生徒会長は邂逅を果たした。

もみっ♪
「あぁんっ♪」
57生徒会長の責任 ◆7JMGjHarIw :2007/03/15(木) 01:26:12 ID:jTjIYDOr

【C-6/1日目 時間 深夜】

【霧夜エリカ@つよきす】
【装備:スタンガン@ひぐらしのなく頃に】
【所持品:支給品一式、十徳工具@うたわれるもの】
【状態:健康。智代の胸を堪能中】
【思考・行動】
1:いい揉み心地♪
2:智代と行動を共にし、仲間の捜索。
3:くだらないゲームをぶっつぶし、主催者を後悔させる。
【備考】坂上智代と情報を交換しました。

十徳工具の機能:ナイフ・コルク抜き・+ドライバー・−ドライバー・LEDライト・糸通し・栓抜き・ハサミ・ヤスリ・ルーペ

【C-4/1日目 深夜】

【坂上智代@CLANNAD】
【装備:FNブローニングM1910 6+1発(.380ACP)】
【所持品:支給品一式、ランダムアイテム不明】
【状態:健康。恍惚状態】
【思考・行動】
1:あぁんっ♪
2:エリカと共に朋也を始めとした知り合いの捜索
3:ゲームからの脱出
【備考】霧夜エリカと情報を交換しました。

FNブローニングM1910:女性の護身用拳銃としてよく用いられている。ちなみに、ルパン三世の峰不二子、鋼の錬金術師のホークアイ中尉などが使用している。
58 ◆7JMGjHarIw :2007/03/15(木) 01:42:18 ID:jTjIYDOr
場所が被っていたので訂正します

いまエリカがいるのは森の中、いや、山の中といったほうがいいか。この場所から目視できる鉄塔と
コンパス、地図を照合し、ここがC−6エリアであるとエリカは判断した。
         ↓
いまエリカがいるのは森の中、いや、山の中といったほうがいいか。 コンパス、地図を照合し、ここがD-4エリアであるとエリカは判断した。

これに伴って状態表も訂正します。
【D-4/1日目 時間 深夜】

【霧夜エリカ@つよきす】
【装備:スタンガン@ひぐらしのなく頃に】
【所持品:支給品一式、十徳工具@うたわれるもの】
【状態:健康。智代の胸を堪能中】
【思考・行動】
1:いい揉み心地♪
2:智代と行動を共にし、仲間の捜索。
3:くだらないゲームをぶっつぶし、主催者を後悔させる。
【備考】坂上智代と情報を交換しました。
十徳工具の機能:ナイフ・コルク抜き・+ドライバー・−ドライバー・LEDライト・糸通し・栓抜き・ハサミ・ヤスリ・ルーペ

【坂上智代@CLANNAD】
【装備:FNブローニングM1910 6+1発(.380ACP)】
【所持品:支給品一式、ランダムアイテム不明】
【状態:健康。恍惚状態】
【思考・行動】
1:あぁんっ♪
2:エリカと共に朋也を始めとした知り合いの捜索
3:ゲームからの脱出
【備考】霧夜エリカと情報を交換しました。
FNブローニングM1910:女性の護身用拳銃としてよく用いられている。ちなみに、ルパン三世の峰不二子、鋼の錬金術師のホークアイ中尉などが使用している。
59 ◆i8opowxlh. :2007/03/15(木) 06:26:57 ID:FjmkbtBT
武がデイパックの中から取り出したのはジッポライターである。
そして、ジッポライターを彼女の顔の30cmほど手前に持ってきて火をつける。
それから、なおも自己紹介をしようとしている女性の言葉を遮って強い口調で言った。
「いいか。何も考えずに、このライターの火を目だけで追うんだ」
不思議そうに彼女の目の焦点がライターの火にあてられたのを確認してから、武はゆっくりとライターを動かしはじめた。
上へ、下へ、右へ、左へ、時には円を描きながらただひたすらライターを動かす。
彼女の目も忠実にその動きについていく。

            ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

武が行っているこの行為、『一点集中法』と催眠法の一種である『驚愕法』を利用したものである。
混乱状態、つまり思考が拡散している人間を落ち着かせるにはどうすればいいのか?
言うまでもなく、拡散した思考を一つにまとめればいいのである。
そこで武が用いた方法が(といってもテレビの受け売りだが)驚愕法と一点集中法だ。
まず驚愕法――何らかの方法で相手を驚かせ、理性が働かないうちに暗示をかける――を用いる。
後は一点集中法――文字通り何らかの対象に視線を集めリラックス、あるいは集中する方法――で落ち着かせればいい。
今回の場合は何の前触れもなくライターに火をつけ、ライターの火を目で追えと指示したのが驚愕法にあたる。
何も考えずに火を目だけで追うという行為が一点集中法だ。
無論武はそのような仕組みは知らず、テレビでやっていたことを思い出しながら再現しているだけに過ぎないのだが……

            ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

何分もやる必要があるかと思っていたが、思っていたより早く効果は表れた。
あれほどまでに震えていた彼女の体は静寂を取り戻し、目だけが活発に動きライターの火を追いかけている。
武は彼女の体全体に期待していた効果が現れたことを確認して火を消し、尋ねた。
「どうだ。落ち着いたか?」
そこで彼女もようやく自分の体の変化に気づいたようである。
「え……は、はい!落ち着きました」
「それじゃあ、もう一度自己紹介だ。俺は倉成武。あんたは?」
「貴子。厳島貴子と申します」
60 ◆i8opowxlh. :2007/03/15(木) 06:28:43 ID:FjmkbtBT
申し訳ございません
>>24の全文を>>59に差し替えてください
61あねぇができました ◆7NffU3G94s :2007/03/15(木) 11:35:31 ID:39+CovV9
「うわぁ、何か変な所出ちゃったなー」

景色は一瞬で変わる、無機質な体育館は瞬く間に緑豊かな森になっていた。
衛は自然の空気が満ちたそこで、ぼーっと辺りを眺めることになる。

今でも、何が起きたかは上手く理解できていない。
勿論人が死んだということ、そして自分にもはめられている首輪に爆弾が仕込まれているという恐ろしい現実は最悪の形で見せ付けられてしまった。
しかし、ある種のとばっちりを受けた彼等と衛との物理的距離はかなりあり、その具体的な血生臭さまでは上手く伝わることもなく。

衛にとってはいきなりこんな場所に連れて来られてしまったということ、それがやはり一番大きな戸惑いだった。

「うーん、これからどうしよう・・・・・・」

腕を組む。
辺りは暗い、月の光しか届かない視界では迂闊に移動していいものかも迷う所である。
何よりここまでくる経緯が突然すぎて、まず何をすればいいのかという根本的な道筋すら描けなかった。

そういえばと、肩にかけっ放しですっかり忘れていたデイバッグの存在を思い出す。
金髪の女性は言っていた、何らかの支給品が入っているということなら現状を変えるのに役には立つかもしれない。
一体何が入っているのだろう。この状況を変えられる、そんなものなら何でもいいと思いながら衛はそっとデイバッグに手を伸ばした。
が、それは途中で止まることになる。

最初はただの空耳かと思った、しかしそれは一向に止む気配がない。
集中して耳を済ませる、耳を突く微かな音は誰かが発しているとしか考えられないもの。

すすり泣き。そうとしか思えない雑音の出所を探るべく、衛はすぐ横の森林地帯に足を伸ばした。



 
62あねぇができました ◆7NffU3G94s :2007/03/15(木) 11:36:23 ID:39+CovV9
「うっ、あ・・・・・・・たかゆきくん、たかゆきくぅん・・・・・・」

茂みを潜ったその先、木の幹には座り込んだ少女が一人。
少女と言っても年は衛より上だろう、体格からして高校生くらいに思える。
真っ白なパジャマから覗く踝が、妙に細く感じた。顔を覆っている手の甲も、随分骨ばっているように見える。
俯いているためその表情は長い髪で隠されているが、身長に比べてその姿は随分小さく、そしてか細い。
それこそ、病弱染みていると一目で分かるくらいに。

「あ、あのう」
「ひううぅっ?!!」

そのか細さに心配を覚え、衛は自然と彼女、涼宮遙に声をかけていた。
元々学校でも女の子の間でナイト的立ち位置でいる場合の多い衛にとって、このような少女がいたら庇護の対象として見てしまうというのも彼女にとっては当然のことであった。
扱いも慣れたものである、親しみやすい笑顔を浮かべれば大抵の相手は心を開いてくれる。
そのはずだった、いつもは。

しかしこの泣いていた彼女は、こんな自分よりも身丈の小さい衛に対してさえも。怯えを、全く隠さなかった。

「うあぁ、孝之くん、たかゆきくん・・・・・・」

癇癪はますますひどくなっている、顔を手で覆って・・・・・・友達の名前だろうか、ひたすらそれを連呼する少女。
何を言っても聞いてくれない、手を伸ばしてもイヤイヤとかぶりを振るばかりで衛を見ようともしない。

(困ったなぁ・・・・・・)

会話ができなければ埒が明かない、とりあえず彼女には泣き止んでもらう必要がある。
タオルか何かないだろうか、衛がデイバッグの中身を漁ろうとした時だった。
乱暴にバッグを開けたためだろうか、勢いで中に入っていた支給品の一つが落ちる。
バサッと音を立てたそれは、泣き崩れていた彼女が顔を上げる機会を作ることになった。
63あねぇができました ◆7NffU3G94s :2007/03/15(木) 11:37:07 ID:39+CovV9
一冊の、どこにでもある本。薄いが表紙の装丁はかなりしっかりしている、それが絵本であることは一目瞭然であった。
慌てて拾い上げようと腰を屈めた時、先ほどとは違う少女の様子に衛は気がつくことになる。
泣き腫らした赤い目は、真剣な眼差しをじっとそれに対し向けていた。

「そ、それは・・・・・・」

ついさっきまで嗚咽をもらしていた彼女の口から、明らかに今までとは違う種の言葉が出る。
彼女の中で何が起きているのか。衛は、じっとその様子を窺った。
そして次第に見開かれていく彼女の目と共に、その表情には驚きと喜びの入り混じったものが浮かび上がってきた。

「こ、これ、『マヤウルのおくりもの』っ!!」
「え?」
「私ずっと探してたの、もう絶対見つけられないと思ってた・・・・・・」

手を伸ばし、遙は嬉しそうにそれを掴み取った。
そして、衛のデイバッグから飛び出した彼女の支給品『マヤウルのおくりもの』を嬉しそうに胸に抱く。

「あ、あの」
「マヤウル〜、マヤウル〜」
「えっと、あのうっ!」
「・・・・・・♪」

衛の姿は目に入ってないという遙の様子、とりあえず声をかけるものの彼女の言葉は届かない。どうしたものか。
困り果て、何か他に彼女の気を引くものがないかと周りを見渡した所、彼女が座っている木のすぐ後ろで横倒れになっている車椅子が目に入った。

「あの、足が悪いんですか?」
「・・・・・・?」
「ちょっと待っててくださいね、車椅子持ってきます!」
64あねぇができました ◆7NffU3G94s :2007/03/15(木) 11:37:59 ID:39+CovV9
すたっと立ち上がり、車椅子のもとまで駆ける。
よっと軽い動作で元の位置に戻そうとしたものの、思ったよりその負荷は重かった。
少しよろめくが持ち前の身体能力のおかげで簡単に転ぶようなことはない、衛は器用にバランスを取り直すとそのまま車椅子を遙の前まで押していった。

「はい、お待たせしましたっ」
「・・・・・・」
「座るの大変ですよね、手伝いますよ!」
「あのぅ、この絵本はあなたの?」

・・・・・・これは、もしかしたら会話が噛み合っていないのではないだろうか。
衛の頬を一筋の冷や汗が伝う。一方、遙は何のお構いもなく自分の話を続けてきた。

「ごめんなさい、私ずっとこの絵本を探していたの。譲ってくれませんか」

その前にと、言いたいことは確かにあったが。
遙の表情は真剣そのものだった、一生懸命なその様子に衛はたじたじになりながらも小さく頷く。

「わあ、ありがとう」

瞬間、満面の笑みが衛に送られる。それは実年齢よりもずっと幼く見えた。
・・・・・・正直彼女とのコミュニケーションが上手く取れずにいた衛にとって、この不意打ちに対するダメージは計り知れないものだった。

つまり。
遙の喜ぶ様子があまりにも微笑ましく、それとなく感じていた不満が吹き飛んだというか。
本当に嬉しそうに微笑む彼女のその表情を見るだけで、衛自身とても心が温まったというか。

この島に投げ出された不安、見えない先行きに対する困惑が拭えたわけではない。
しかし、今の衛には確かに笑みが浮かんでいた。
この懐っこい自分より明らかに年上の少女を、堪らなく愛おしく感じた。
65あねぇができました ◆7NffU3G94s :2007/03/15(木) 11:39:36 ID:39+CovV9
そして、とりあえずの自分の行動指標も見つけられたことになる。
最初に集められた場所では咲耶など見知った顔ぶれもあったが、ここでいきなり再会できるなんていう幸運なんて信じることは出来ない。
かと言って、いきなり足で探そうとするほどのタフさを、この幼い少女は持っていなかった。

とにかく、今衛の目の前には庇護するべき対象が現れたのだ。
ならばやるべきことは一つである。

「あの、ボクは衛っていいます。お姉さんは?」
「涼宮遙です」

はんなりと笑う彼女、遙は会場からこの島にワープした際車椅子から落ちてしまい、どうすれば分からなくなっていた所だったと言う。
どうやら足は全く動かない状態らしい。肩を貸せば車椅子にも簡単に座りなおせるだろうと踏んでいた、衛の考えは甘かった。
何せ、彼女は自分の体重を全く支えられないのだ。
車椅子に座らせるとしたら、それこそ抱き上げでもしない限りは不可能だった。

「ご、ごめんなさい・・・・・・ボクじゃ無理みたいです」

それでも何とか遙を引きずるように持ち上げようとする衛だが、やはりこの小さな少女でそれは難しい。

「ちょっと、誰か呼んできますね。動かないでくださいねっ」
「孝之くん」
「え?」
「孝之くんはね、凄いの。私のね、恋人なの」
「は、はぁ」
「だからね、孝之くんがいいな」
66あねぇができました ◆7NffU3G94s :2007/03/15(木) 11:40:23 ID:39+CovV9
・・・・・・これはストレートに『孝之くん』をつれてきて、と言ってるのだろうか。
ちょっと困ったように眉を寄せるものの、遙がにこにことした笑みを変える気配はない。

「あのね、ありがとう」

仕方ない、無邪気な期待に答えるべく善処だけはしとこうと肝に銘じる衛であった。





【C-4 森/1日目 深夜】

【衛@シスタープリンセス】
【装備:無し】
【所持品:支給品一式 ランダムアイテムのうち2つは不明】
【状態:健康、人を探しに行く】
【思考・行動】
基本方針:ゲームに参加しているという実感がまだ薄いので、どちらとも言えない
1:人を探す
2:「孝之」を探す(どのような人物かという情報は無し)
3:できれば知り合いにも会いたいが、無理に探そうとは思っていない(咲耶、千影、四葉)
67あねぇができました ◆7NffU3G94s :2007/03/15(木) 11:41:08 ID:39+CovV9
【涼宮遙@君が望む永遠】
【装備:マヤウルのおくりもの@君が望む永遠】
【所持品:支給品一式(車椅子、精神安定剤などの薬含)ランダムアイテム不明】
【状態:衛の帰りを待つ】
【思考・行動】
基本方針:とにかく孝之に会いたい
1:孝之に会いたい
2:茜にも会えれば会いたい

【備考】
二章序盤の、少し思考回路が支離滅裂な状態から参加。
自分はまだ高校三年生のままだと思っている。
リハビリはしていないので、足は全く動かない。

※行動や生命の存続に問題が出るので、車椅子と薬については別途支給されました。
 薬について何日分支給されたかなどは、後続の方に任せます。
68North wind ◆E.0cGN4l7I :2007/03/15(木) 18:47:04 ID:gw/HAz9Q
 北川潤(十九番)はスタートしてからすぐに、海岸沿いにあった百貨店にて身を潜めていた。
 理由は簡単。夜の一人歩きは危険だからだ。
 別にこれは冗談でも何でもなく、暗い森のなかを無闇矢鱈と歩き回ってもし『乗って』いる人間と遭遇して戦闘にでもなったら命がいくつあっても足りやしないとの結論を得るに至ったからである。
 そのためスタートしてから一度もデイパックの封を切っていない。安全地帯(ってもこの島で本当に安全なところなんてありゃしませんがね)に着くまでは開けないと決めていた。
 今は、その『一応』安全な状態ではあるのだが……
「……なーんか、イヤ〜な予感がするんだよなぁ」
 どうしてかは知らないが、頭の中にもずくだの便座カバーだのといったものが浮かんでくる。うかつに期待しないほうが良さそうだ。
「待て、まず開ける前にこれからの行動指針を考えるべきじゃあないのか」
 万が一、大当たりな支給品だったとしても一人が出来る事なんてたかが知れている。序盤はどのような行動を取るにしろ味方は多い方がいい。そしてその味方たり得る人物は……
「やっぱ、相沢か水瀬ってことになるんだろうな」
 寂しい事に北川の知り合いは相沢祐一(一番)、水瀬名雪(五十九番)くらいしかいないのである。
 決して普段の行いが悪いってわけじゃないぞ、多分。
「……ともかく、まずは知り合いに合流。それから……ええと、うん、なるようになれだ」
 ただの学生である北川にはこれくらいしかやれることがなかった。というか、学生でハッキングだの爆弾を作ったりするだのするほうがおかしい……
「いかんいかん、つい思考が横道に……よし、開けるぞ! もしもずくや便座カバーが出てきたって驚かないからな!」
 覚悟を決めてデイパックのジッパーをゆっくりと開ける北川。

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 数分後、北川はくずおれた格好になっていた。
69North wind ◆E.0cGN4l7I :2007/03/15(木) 18:47:41 ID:gw/HAz9Q
 予測はしていた。
 ある程度は覚悟を決めていたはずなのに……
 北川の支給品はラーメン、さらに詳しく言うならば3分クッキングの代名詞、カップメンであった。
「それだけならいいんだよ、むしろ喜ぶさ……けど……けど」
 北川のカップメンにはでかでかと
  /   _   /__ // ─          / _
 _/_    / /  /    ̄ ̄/ __  \/     /
  _/   __/   /     _/     _/ \  __/
 と書かれていたからである。
「チキンラーメンじゃないのか!? 何だよチンゲラーメンって! 見ただけで食い気失せるって! つーか食わない、食えない、食えるかーっ!」
 見事な三段活用だった。
 そのまま奇声をあげ、叫び続ける北川。数分前の北川ならこんな行為は敵に自分の居場所を知らせてしまうだけだと思っていただろうが今の北川にはそんな余裕はない。
 そして、そんな北川の奇声につられて忍び寄ってくる一人の人影があった。もちろんテンパっている北川はその気配にまったく気付いていない。
「まったく何だよもう……これは異物混入だぞ、訴えてやる、訴えてやるぅ……」
 その『影』は北川までもう1メートルと迫っていた。さらにその『影』が北川まで接近しようとしたとき、店内に置いてある何かに当たったのか、ごとっ、という音がして商品が棚から落ちた。
「なっ!?」
 それでようやく忍び寄っていた人間がいることに気付いた北川は、慌ててデイパックを掴んで後ずさりする。
(しまった、まともな武器もなくてこんな場所で戦えないぞ! どーする俺……どーすんの!?)

1、 ハンサムの北川は突如起死回生のアイデアをひらめく
2、 仲間が来て助けてくれる
3、 殺される。現実は非情である

 北川としてはもちろん2に○をつけたいところではあるがこれは現実の世界なのだ、漫画やアニメのようにそう都合良くいくわけがない。
「となれば……1しか選択肢はないわけだな……!」
 手にチンゲラーメンを持ち、いつでも投げられるようにする。投げつければ怯ませるくらいのことはできるはずだ。
70North wind ◆E.0cGN4l7I :2007/03/15(木) 18:48:17 ID:gw/HAz9Q
「来るなら来い……!」
 手にじんわりと汗が滲んできているのが分かる。落ちつけ、こんなときこそ冷静に行動するんだ、と自分に言い聞かせる。
 隠れていた人物がゆっくりと北川の前に姿を現わす。それは北川よりも遥かに小柄な女の子だった。
 その子は仁王立ちするように北川の前に立つと、軽やかに言い放つ。
「迷える子羊の味方……風子、参上」

【A-3/1日目 時間 深夜】

【北川潤@Kanon】
【所持品:支給品一式、チンゲラーメン(3日分)】
【状態:健康】
【思考・行動】
1:風子を警戒
2:知り合い(相沢祐一、水瀬名雪)の捜索
3:乗るかどうかはまだ決めてない
【備考】チンゲラーメンの具がアレかどうかは不明

【伊吹風子@CLANNAD】
【装備:不明】
【所持品:支給品一式、ランダムアイテム不明】
【状態:健康】
【思考・行動】
1:風子…参上
【備考】今のところ敵意はないようです
71恐怖のロシアンルーレット ◆gwDaOJ2mTM :2007/03/15(木) 19:19:44 ID:0K/2jaUJ
良美はあてもなく、森の中を彷徨い歩いていた。
(エリー……どこにいるの?)
その表情はいつもの明るい表情ではない、深く沈んだ暗い表情。
明るく楽しい学園生活は突然終わりを告げ、放り込まれたのは殺し合いの世界。
ほんの少し前まで、元気で明るかったクラスメートのフカヒレこと鮫氷新一はあまりにあっけなく命を落とした。
それを身の前で見せ付けられた恐怖は、佐藤良美の心に深い影を落とした。
(対馬君でも鉄先輩でも……この際、カニっちでも、いいから誰か助けて)
良美は当ても無いまま歩き続ける。
すると……



(あっ、人だ)
良美は人を見つけた。
湾曲した剣を持ち歩く白い服を着た、少し小柄な女の子を。
「あの………」
声をかけようとした。
だが、すんでのところで思いとどまる。

思い出すのは最初の光景。
タカノという女性の意味も無く、一人の女性の首輪を爆破した現実。
あの光景を見て、殺し合いを強要させられて、それでも冷静さを保てる人がいるだろうか。
見ず知らずの自分を受け入れて、助けてくれる保障は……。
ゆっくりと女の子を尾行しつつ、あることを決心した。
72恐怖のロシアンルーレット ◆gwDaOJ2mTM :2007/03/15(木) 19:21:15 ID:0K/2jaUJ
(殺そう。見た目は小柄だし、私でも何とか出来る筈。それにこの剣でそっと後ろから斬りかかれば……大丈夫)

支給品の剣を強く握り締める。
女の子の歩く速度が急にゆっくりになる。
(殺る!)
良美は木の陰を利用して、小さく迂回してサイドに回りこむ。
女の子はゆっくりだが移動をし続ける。
(ばれてないよね。ばれてれば向こうだって何か攻撃を仕掛けるはずだし)
良美は少しだけ迷ったが、覚悟を決め剣を構えた。
女の子の姿が木の陰に隠れる。
良美は歩く速度を計算して、影から出る瞬間を狙う。

「えーーーーいぃぃぃぃ!!!」

でも……………


「えっ、どうして?おかしい」
手ごたえが無い。
ドキッ!としてあたりを見回すが、女の子の姿なんて無い。
白い服だったので、この暗闇の中ならすぐに目に付くはずなのに、見当たらない。
タイミングを間違えたと思い、木のほうを見てもやはり誰もいない。
「幻覚?……あはは。私疲れてるのかな。これも夢かも。そうよね、夢。起きたら学校に行く前に本屋で夢の本でも……」

73恐怖のロシアンルーレット ◆gwDaOJ2mTM :2007/03/15(木) 19:22:06 ID:0K/2jaUJ
「どうして襲ったのかな?かな?」
聞き覚えの無い声が耳に響く。
背筋がゾクッ!とするのとほぼ同時に自分以外の強い力で剣が弾かれる。
そして目の前に先ほどの女の子が現れた。漆黒のマントを羽織って。
「そんな、まさか!?」
驚きと混乱で足が竦み、反応が遅れる。
目の前の女の子に対し、それは致命的すぎた。

「ねえ」
「きゃっ」
胸倉を掴まれて、そのまま地面に引き倒される。
倒れた自分の体の上に馬乗りに乗られ、先ほど女の子が持っていた剣を自分の顔のすぐ傍に突き立てた。
その二つの行動により、精神と肉体の両面で動きを束縛される。
良美は絶望した。
この状態から抜け出す術が無いのは、容易に理解できた。
「どうしてレナを襲ったのかな?かな?」
「なんのこと……かな。私……襲ってなんか」
「嘘だっ!」
女の子の声が耳に届く。最初は無邪気な声で騙せると思った。
だがその直後に大きな怒鳴り声。その豹変ぶりは更に恐怖を加速させ、良美は続く言葉が出てこない。
名前がレナということだけはわかったが、そんなことは今の良美にはなんのメリットも無い。
レナは良美のバッグを取り中から短剣を取り出した。

「この剣かあいい。レナ貰うね」
「あっのぉ」

良美は怯えて、舌が上手く回らない。
無邪気な言葉もしゃべり方も、良美には恐怖の対象物以外の何物でもない。
74恐怖のロシアンルーレット ◆gwDaOJ2mTM :2007/03/15(木) 19:22:54 ID:0K/2jaUJ
「なにもしゃべらないんだ。……ならレナ、仕返しするね。襲った仕返し」
トーンが急に低くなり、良美の胸の鼓動は更に加速する。
「この剣で鼻を削って、耳を落として、眼球を抉って……」
「ひゃ……」
レナの恐ろしい宣告に、良美は声にならない悲鳴が出る。
レナは笑顔で短剣を自分のバッグに戻す。
良美はそのしぐさに安堵したが、それは更なる恐怖の序章に過ぎない。銃を取り出したのだから。
「冗談だよ。レナそんな怖いことしないよ。代わりに遊んであげる」
レナはそういいながら弾倉に装填されている弾丸を抜き始める。
いくつか抜き取ると、レナは弾倉を回転させて銃身に戻す。
「今この銃には、弾丸が一発だけ入ってるんだよ」
良美はその言葉で何となく何が起こるか想像できた。
映画とかで見るロシアンルーレット。
だが、条件は大きく違う。
「今からレナが右手の指一本に一回ずつ引き金を弾くね。六発だから助かる可能性は六分の一だよ。レナのやってる部活より厳しいかも」
良美の顔が見る見る青ざめる。
自分の指が無くなる。
あの銃に撃たれたら、手術してもくっつかない。
良美は指を失う恐怖に汗が流れ続ける。
「あっ、そっ」
「もし、指が無事ならレナの負け。開放してあげる。でも無事じゃないならレナの勝ちだから、言うこと聞いてよ」
「いやあああぁあぁ。エリーーーー」
必死で親友のエリーの名前を叫ぶ。
だが無情にも「遊び」は始まる。

75恐怖のロシアンルーレット ◆gwDaOJ2mTM :2007/03/15(木) 19:24:11 ID:0K/2jaUJ
「ばーん」
小指に向けて撃つ。空砲。

「二回目、ばーん」
薬指に向けて撃つ。またも空砲。

「三回目、ばーん」
中指に向けて撃つ。やはり空砲。

「運がいいね」
レナは小さく呟く。
良美には緊張感の無いレナの声すらも恐怖が心を侵食する原材料でしかなかった。

「じゃあ次、四回目!」
レナは人差し指に密着させて撃った。
「ひっ」

今までわずかに指と銃口にわずかに隙間を空けたが、四回目となって密着させた。
結果は空砲だったが、良美は不意に襲った新たな恐怖に目を閉じ震える。

「どうしたのかな、かな。まだ最後が残ってるよ」
「うっ、うううぅ」

レナの声を無視して嗚咽をこぼす。
レナはその反応を見て、一気に決めようと親指に銃口を突きつけた。

「うっ」
銃口の冷たい感触が伝わる。
「最後!」
レナは引き金を引く。

76恐怖のロシアンルーレット ◆gwDaOJ2mTM :2007/03/15(木) 19:25:32 ID:0K/2jaUJ
「………」


恐る恐る良美は目を開く。
そこには無傷の親指があった。
右手の指は五本とも無事。

「あっ…ああ」

声にならなら安堵と喜び。
だがそれを打ち消すような感触。
冷たい銃口がこめかみに押し付けられる。

「そんなっ!」
「あはははは。嘘だよ。みんな死ね!レナを襲う人はみんな死ねば良いんだ」
「いやあああああ、助けてぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

「ばんっ!」
六回目の引き金が弾かれた。


77恐怖のロシアンルーレット ◆gwDaOJ2mTM :2007/03/15(木) 19:26:19 ID:0K/2jaUJ
「はあ……ちょっとやりすぎたかな、かな」
レナは失神した少女の横で小さく呟く。
最初からレナには傷つける気はなかった。弾倉から弾は全て抜いた上でのただの仕置き。
「探したけど、この子結局役立つもの持ってなかったし」
身体検査を行ったが、隠し武器や首輪を調べられるような機器は持っていなかった。
圭一や梨花を探すのに役立つものも無い。
気絶した少女のデイバックの中にあった残りの支給品はタロットカード。
今の状況ではただの外れ品だった。

「……どうしよう、着替えもないよ」
レナを悩ます種はもう一つあった。
先ほどのすぎた悪ふざけでこの少女は下半身をビショビショにしてしまった。
とりあえず、支給品は全て自分のバッグに移し、彼女のバッグには濡れたスカートとショーツのみを入れる。
自分の支給品のマントを下半身に巻いて置いたので裸でないが、さすがに気の毒に感じる。

「……とりあえず向こうで休もうかな」
地図を見ると近くに教会がある。
そこで着替えがあるかもしれない。

「圭一君たちと一緒に……絶対に帰るんだから」
気絶した少女を背負い、レナは教会を目指した。

78恐怖のロシアンルーレット ◆gwDaOJ2mTM :2007/03/15(木) 19:27:03 ID:0K/2jaUJ
【E-7 教会付近 /1日目 深夜】

【竜宮レナ@ひぐらしのなく頃に 祭】
【装備:シャムシール S&W M29(6/6)】
【所持品:支給品一式×2 S&W M29の予備弾60 川澄舞の剣@Kanon 永遠神剣三位時詠@永遠のアセリア −この大地の果てで−
 タロットカード@Sister Princess 佐藤良美の濡れたスカートとショーツ】
【状態:精神的疲労小 佐藤良美を背負っている】
【思考・行動】
1:圭ちゃんと梨花ちゃんを探す。
2:少女(佐藤良美)の着替えを探すため教会に向かう
3:脱出のための道具か技術を持つ者を探す。
4:少女が目覚めたら、少女自身の名前とエリーという名前の主について尋ねる。
5:基本的に殺さないが、襲ってくる人間には容赦はしない。

【佐藤良美@つよきす 〜Mighty Heart〜】
【装備:漆黒のマント(ノーパン)】
【所持品:無し】
【状態:失神 レナに背負われている レナに強い恐怖】
【思考・行動】
1:気絶中
2:レナに逆らえば殺される
3:エリー……助けて

【備考】
良美は強い精神的ショック負いました。
覚醒後になんらかの後遺症が出る可能性があります。
79 ◆gwDaOJ2mTM :2007/03/15(木) 20:24:44 ID:0K/2jaUJ
>>71-78
を破棄します。
80戻らない日常、始まる異常 ◆NaLUIfYx.g :2007/03/15(木) 22:41:30 ID:KR2Caa7p
「あー……つまり国崎住人と神尾観鈴って人が知り合いなんだな?」
「はい、私の知ってる人はその2人です」
「えっと……それで俺の知り合いが――」
「竜宮レナさん、古手梨花さん、園崎詩音さん、大石蔵人さん、赤坂衛さんですね?」

圭一が言おうと瞬間、美凪がゆっくりと圭一の知っている人物を名簿から読み上げる。
「あぁ」と圭一は小さく頷いた。
前原圭一は、目の前にいる遠野美凪と情報交換していた。
といっても、いきなりこのような状況に陥れられ正直まだ実感が沸かなかった。
目の前にいるこの子の存在もそれに追い討ちをかけるかのようであった。
遠野美凪――圭一自身、雛見沢に引っ越してから魅力的な女の子に囲まれていた。
しかし、そんな彼女達と引けを取らない程美少女であった。
さらには高校2年生、魅音や詩音よりも年上の人ということもあり、新鮮感が溢れていた。
とどめは天然要素込み、なんせ初めて出会ったときの台詞が「こんばんわ」である。
思わず挨拶を返してしまった圭一も圭一だが……
とてもじゃないが、この場で殺し合いをしろという状況だとどう考えても感じられない。
沈黙の空気が場を支配する。言葉を発せようにも何を言えばわからない状態
やがて、なんて言うべきか悩んだ圭一は、

「とりあえず、ここで立っているのもなんだし……そこにある病院に行って話そうか?」

と、近くにある病院まで行かないかと提案した。
美凪はゆっくりと頷き、ワンテンポ遅れて「はい」と答え、今の状況に至っている。
2人は、病院内のロビー内のソファに座る。
幸い近くに窓はなく、電気をつけたとしても外からは気づかれない。
81戻らない日常、始まる異常 ◆NaLUIfYx.g :2007/03/15(木) 22:42:48 ID:KR2Caa7p
お互い教えた情報は自身の知り合いの名前と支給品が何なのか、
圭一は刀とメイド服、刀の方はリーチ、殺傷能力と申し分ない。
問題はメイド服……俗に言うハズレという奴であった――否、当たりと言った方が正しいのかもしれない。
なぜなら、圭一のメイド服にはご丁寧に『圭ちゃん専用』と書かれていた。
圭一は罰ゲームにより数あるメイド服を着たことがあるが、このタイプは着たことがなかった。
つまり、これは新しい罰ゲームに着させる予定であった物、そう考えると腹立たしくなってくる。
美凪は首を傾げたが、圭一には1人思い当たる人物がいて、怒りをあらわにしていた。

(魅音……てめぇ覚えとけよ)

拳をぎゅうと握りしめて、わなわなと体が震える。そんな姿に美凪は少しだけ微笑んだ。
それに気づく圭一も、自分も笑わなければと後頭部に手をあてて、作り笑いを取る。
笑うことはとても大切なこと、と圭一はどっかで聞いたような言葉を思い出していた。
一方の美凪は打って変わって顔を下げ、表情を隠した。
不思議に思い笑いを止める圭一
すると美凪は顔を上げて、

「これは……夢じゃないんですかね?」

ポツリと呟いた美凪に目をやる圭一
そんな美凪の姿はどことなく寂しい表情をしていた。
その顔を、その表情を圭一はどこかで見た記憶があった。

(いつだろ……いや、なんか懐かしい感じがする)

思いながらも忘れようとした。
そんなのに思い出す時間があったら別なのに割いた方がよっぽどましだ。
たとえば、美凪の髪をくしゃくしゃにいじくる、とか。
何も言えずに驚く美凪、いきなりの出来事に困っているようだ。
82戻らない日常、始まる異常 ◆NaLUIfYx.g :2007/03/15(木) 22:43:23 ID:KR2Caa7p
「確かに夢だったらいいのにな……鷹野さんがあんなことするなんて想像できないし、だけど夢だと思って逃げるのはどうかと思う」

圭一は続ける。

「これは現実に起こっている。現実に起こってるから対処しなきゃいけないんだ……そう、こんな殺し合い俺がぶっ壊してやるぜ!」

ガッツポーズを取り、作り笑いではなく満面の笑みを浮かべた。
例えで言うならば頼りがいのある男の子であった。
自分の知っている大事な人と比べる美凪
ぶっきらぼうな態度で酷い物言いであるが心優しい人
自分の事より他人の気持ちの事を考える素直に優しい人
どちらがいいとは言えない、どちらも同じくらい美凪にとっては大事なタイプ
だから、

「お米券進呈〜」

微笑んで渡す。これが仲間の証であると……
83戻らない日常、始まる異常 ◆NaLUIfYx.g :2007/03/15(木) 22:44:00 ID:KR2Caa7p
【F-6/病院内/一日目/深夜】
【前原圭一@ひぐらしのなく頃に祭】
【状態:健康、強い決心】
【装備:柳也の刀@AIR】
【所持品:支給品一式、メイド服(圭一専用のサイズです)@ひぐらしのなく頃に祭】
【思考・行動】
基本行動方針:このロワからの脱出
第一行動方針:これからのことを2人で決めあう
第二行動方針:出来る限り美凪を守ってあげたい
第三行動方針:知り合いとの合流、または合流手段の模索
【備考】圭一は皆殺し編の途中(沙都子を助けた)辺りからの参戦です。
    美凪と情報交換しました

【遠野美凪@AIR】
【状態:健康】
【装備:なし】
【所持品:支給品一式、不明支給品(圭一と美凪は確認をとっております)】
【思考・行動】
基本行動方針:圭一についていく
第一行動方針:これからの行動について決める
第二行動方針:知り合いと合流する
【備考】圭一と情報交換しました
84護りたいもの ◆xnSlhy.Xp2 :2007/03/15(木) 23:45:39 ID:EHpbMCGo
何がなんだかわからない。
どうしてこんなことになったのか、まるで理解できない。
ここはトゥスクルじゃない。明確な根拠はないけれど、強くそう思う。
いつもはどことなく幻想的な気分がする夜も、今この場においては自分を飲み込もうとしている闇に思えてならない。

「ハクオロさん……どこぉ?」

少女……エルルゥは、一人図書館の隅に隠れるようにしてしゃがみこんで泣いていた。
突然このような場所に放り込まれて、目の前で誰かは知らないが人が二人殺された。
血を見るのは初めてではない。まがりなりにも薬師の一人として、そのようなことで取り乱すわけにはいかない。
だが今自分が恐れているのは死体を見たことではなく、
人を殺すことを何の躊躇もなしに、まるでそれが何でもないことであるかのようにやってのけたその狂気だ。
ここが戦場ならば、人を殺そうとする際に何らかの感情……
憤怒や哀憐、または喜悦、あるいは達成感といったものが見えるはずだ。
しかし、あの時の女性はそれこそ何の感情も見せずに、初めからそんなものがないかのごとく殺してみせた。
あっけなく殺した。一瞬で殺した。特に意味もなくその人の命を、人生を、奪って捨てた。
今までそんな人は見たことがなかった。その存在を考えたことすらない。
だが、それは確実にいた。そしてそれはきっと、この世界にも。

「…………っ」

怖い。怖い。怖い。
ぎゅうっと握った両手に強く力を込める。そうすることで少しでもこの恐怖が体から抜け出ていくことを願って。
だが一向にそのような気配はない。それはきっと、込める力が弱いからだ。
なのでうっ血しそうになるくらいにまで力を入れ続ける。
出ていけ、出ていけ、お願いだから出ていって……!
85護りたいもの ◆xnSlhy.Xp2 :2007/03/15(木) 23:46:55 ID:EHpbMCGo

「おい」
「――――ッ!?」

突如しゃがみこんでいる自分の斜め上から男の人の声がした。一瞬ハクオロかと思ったが、違う。別人だ。
びくっと体を震わせ、声の主の顔を確認しようとしたが顔を俯かせたまま首が硬直して動かない。
誰かわからない。顔を確認するのが怖い。
もしそれが、あの女の人と同類の顔だったら? あの狂気を持ちうる人だったら?
そう考えるだけで、とても顔を見る気にはなれない。

「おいって」

苛ついたかのように再度男の声が投げかけられる。
だけど動かない。動けない。このまま黙っていたら殺されるかもしれない。
でももしかしたら、諦めてどこかに行ってくれるかもしれない。
心のどこかにそんな淡い期待を抱きながら、エルルゥはただただ強く目を瞑りながら時間が過ぎ去ってくれるのを待つ。

すると。

「さっきから呼んでるだろ。あんただよ」

……男の手が。
殺人をなんとも思わない人のものかもしれない手が。
縮こまっている自分の右肩に伸ばされたのがわかった。
86護りたいもの ◆xnSlhy.Xp2 :2007/03/15(木) 23:50:22 ID:EHpbMCGo

「きゃあああああっ!!」
「うおっ!?」

体を飛び跳ねさせ、男の手の届かないところまで一瞬で離れる。
男は驚いたようで、目をぱちくりさせながらこちらを見ている。

「ひっ、いやっ、いやあっ!」

目からは涙が溢れ、視界がぼやけている。鼻水も出ているに違いない。
ああ、きっと傍から見れば自分は今とてもハクオロには見せられないような姿を晒しているのだろう。
そんなことを思うが、そんな冷静な判断はすぐに思考の外へと消えていった。
ただ、怖い。怖い。恐ろしい。死にたくない。怖い。

「助けて! 助けてハクオロさぁん!」
「と、とりあえずあんた落ち着いてくれ!」
「いやああああ!」
「だから……」
「やだああああ! ハクオロさん、ハクオロさぁぁぁぁん!」
87護りたいもの ◆xnSlhy.Xp2 :2007/03/15(木) 23:51:17 ID:EHpbMCGo


「 俺 は 人 殺 し じ ゃ な い ! 」


一喝。男のそれは、自分の叫び声を掻き消すほど大きなものだった。
あまりに大きなそれに驚いたため、一瞬息が詰まる。
だがそのおかげか、先ほどまで混乱していた頭が嘘のように沈静化していくのがわかった。

「……ヒック、ヒック…………ぐすっ」

嗚咽と、時折鼻水をすすりながら呼吸をゆっくりと整えようとする。

「落ち着いて、俺の姿をよく見ろ。丸腰だ」

そう言われてようやく男の方に顔を向ける。
そこにはきれいな銀色の髪をした青年がいて、両手を軽く上げてこちらに対して敵意がないことを示していた。
88護りたいもの ◆xnSlhy.Xp2 :2007/03/15(木) 23:52:51 ID:EHpbMCGo

◇ ◇ ◇

「どうだ、もう大丈夫か?」
「は……はい。ご迷惑をおかけして申し訳ない、です……」

ようやく自身の感情の昂ぶりが収まってきた数分後。
自分は今、銀髪の青年と共に先ほどの騒ぎで誰かに気づかれた恐れがあるため一旦図書館から離れ、
人気のなさそうな森の中に入って大きな木の根元に座っていた。
最初はとても怖かったけれど、あらためて彼をよく見ると少しぶっきらぼうなところがありそうだけど
根は悪い人のようには見えなかった……少なくとも他人を簡単に殺すような人には。

「俺は国崎往人という。あんたは見覚えあるよ、そんなでかい耳してるからな。名前は?」
「エルルゥと申します。トゥスクル國の薬師です……一応」
「とぅすくる? なんだそりゃ」
89護りたいもの ◆xnSlhy.Xp2 :2007/03/15(木) 23:53:36 ID:EHpbMCGo
彼……クニサキさんというらしい青年は聞き慣れない言葉を聞いたかのように首をかしげている。
きっとトゥスクルやクッチャ・ケッチャなどといった國のどこでもないところから来たのだろう。
服装もなんとなく、自分たちのものとは趣きが違う。

「俺はそんな国は知らないが……まあ世界は広い。きっとそんなところもあるんだろうな」
「はい。クニサキさんは、どちらからいらっしゃったんですか?」
「いや、俺は……」

そんな他愛のない話をしばらく続ける。
クニサキさんの故郷。自分の故郷。仲間について。暮らしについて。
……クニサキさんの國ではずいぶんと発達しているらしい医療についても。

「へ〜、そんな魔法のような薬があるんですか!」
「つってもこっちじゃ一般常識だがな。さすがに調合の仕方までは知らないが」
「ううう……なんだかとても悔しいです」

そんな話をしている内に、段々と警戒心が薄らいでいくのが自分でもわかった。
やっぱりこのクニサキさんはいい人だ。最初に取り乱していたのが申し訳なく思うくらいに。
ハクオロさんとはまた違った優しさがある。
90護りたいもの ◆xnSlhy.Xp2 :2007/03/15(木) 23:54:11 ID:EHpbMCGo

談笑は続く。

「……それで、私にはアルルゥって妹がいて……」
(…………!)

そこで、ようやく気づいた。

「おいどうしたエルルゥ」

突然立ち上がった自分を、クニサキさんが座ったまま見上げている。
ああ、なんで今まで思い出さなかったんだろう。
ここにはハクオロさん以外にもトウカさんやカルラさんや……アルルゥがいるんだ。

「アルルゥが……」
「なに?」
「私の妹が、いるんです」

他のみんなは自分で自分を護れるだけの力を持っている。だけど、アルルゥには何もない。
ムックルやガチャタラもきっと連れていない。じっとしていたら、アルルゥが殺されるかもしれない。
最愛の妹が、死ぬかもしれない。
91護りたいもの ◆xnSlhy.Xp2 :2007/03/15(木) 23:54:54 ID:EHpbMCGo

「クニサキさん。私、行かなければいけません」
「行く……って、おい待てよ」
「私があの娘を護ってやらないといけないんです。だから……」
「ちょっと待てって。俺が聞きたいことはまだ……」
「じっとなんてしていられません!」

先ほどの恐怖はどこへやら。
思い出してしまったからには手遅れとなる前に急がなければ。
たとえ自分の身が危険に晒されても、あの娘だけは護ってあげなくちゃ。何があろうとも、絶対に。

「クニサキさん、私を先ほどは迷惑をおかけして申し訳ありません。そしてありがとうございました。それでは……」

そうぺこりとクニサキさんにお辞儀をして、今いるこの場から駆け出そうとしたその時。



「待て」



底冷えのするような声がした。
92護りたいもの ◆xnSlhy.Xp2 :2007/03/15(木) 23:56:15 ID:EHpbMCGo

「え?」

振り返ると、クニサキさんが無表情でこちらを見ていた。
元々無愛想な顔だったので一見したら何も変わっていないように見えるけれど、これは違う。
これは。この顔は。絶対にさっきまでのクニサキさんのものじゃない。

そしてその右手には、なんだかよくわからない鉄の塊が握り締められていた。

「クニサキ……さん?」

恐る恐るといった風に、そう言葉を発する。
きっと、また先ほどのようにぶっきらぼうな返事が返ってくるんだと信じて。
だけど、返事はない。その代わりに返ってきた言葉はこれ。

「そのまま動くな。動いたら、殺す」

何を言っているのか理解できない。
殺す? 誰が? クニサキさんが? 誰を? 私を? なんで?

「エルルゥ。これは俺が最後にお前に聞きたいことだ……神尾観鈴という女を知らないか」
「カミオ……ミスズ?」
「金色の長い髪を一本で束ねた奴だ」

そう言うクニサキさんの表情は変わらない。ずっと無表情のまま。
93護りたいもの ◆xnSlhy.Xp2 :2007/03/15(木) 23:57:19 ID:EHpbMCGo

「……知り、ません」
「そうか。それじゃあ……」

クニサキさんの顔には見覚えがあった。あの女の人。いとも簡単に二人の命を奪った、あの女の人。感情のない、顔。

やっぱり、同類だった?
彼がいい人だと思ったのは自分の勘違いで、このクニサキさんもまた人の命をなんとも思わない人間だった?

「悪いが、ここで死んでくれ」

……いや、違う。

クニサキさんは、感情のない顔なんかじゃなくて。



……今にも溢れ出しそうな感情を、必死に留めている顔なんだ。
94護りたいもの ◆xnSlhy.Xp2 :2007/03/15(木) 23:58:30 ID:EHpbMCGo

◇ ◇ ◇

今、自分の目の前には先ほど殺した少女の遺体が転がっていた。
自分に与えられた支給品は一丁の銃。名称は知らないが、ちゃんと全弾入っていて予備までついていた。
デイパックの中に隠しておいて、少女が駆け出そうと向こうを向いたときに取り出したのだが……

「…………」

あらためて少女……エルルゥの顔を見る。
慣れないものを扱って一発だけで正確に急所を狙う自信がなかったため、合計三発も彼女の胸あたりに見舞ってしまった。
さぞ苦しくて、痛かっただろう。

「…………」

エルルゥにも護りたいものはあった。アルルゥという名前らしい妹。
自分にとっては、観鈴にあたる存在。
自分と、このエルルゥに根本的な違いは何もない。
ただ共に護りたいものを護ろうとして、そして選んだ選択肢が違っただけ。
彼女が最期に何を思ったのかは知る由もないが、きっと自分を憎んでいったことだろう。
逆の立場なら自分だってそうなるに違いない。
95護りたいもの ◆xnSlhy.Xp2 :2007/03/15(木) 23:59:30 ID:EHpbMCGo

「…………」

何度も、既に物言わぬ少女に謝りたい衝動に駆られた。
近寄って、せめてその遺体を晒したままにせずにこの大地に埋めてやりたかった。

だが、絶対にそれはしてはいけない。
自分は自分の意志で。明確な殺意を持って。絶対的な力をもった凶器で。
……純然たる決意で、この娘を殺したのだから。
そしてこれから、観鈴以外の全ての人間を殺すのだから。
エルルゥの護りたい存在であるアルルゥも。
……美凪も。
そして全員を殺し終えた後で、自分も。

「――大丈夫だ、観鈴。俺が絶対におまえを殺させなんかしないし、おまえに誰も殺させなんてしない……」

そう、誰も聞いていないと知りつつ呟く。


お前の手は汚させない。俺が全部、泥を被ってやる。
たとえお前自身がそれを望まなくても。それでも。



「お前だけは、絶対に助けてみせる」

96護りたいもの ◆xnSlhy.Xp2 :2007/03/16(金) 00:00:50 ID:EHpbMCGo
【F-3 森 /1日目 深夜】

【国崎往人@AIR】
【装備:コルトM1917(残り3/6発)】
【所持品:支給品一式×2、コルトM1917の予備弾60、木彫りのヒトデ@CRANNAD、たいやき(3/3)@KANNON】
【状態:精神的疲労小】
【思考・行動】
1:観鈴を探して護る
2:観鈴以外全員殺して最後に自害
3:相手が無害そうなら観鈴の情報を得てから殺す
【備考】
エルルゥのデイパックは国崎によって回収されました。

【エルルゥ@うたわれるもの 散りゆくものへの子守唄 死亡】
[残り62人]
97 ◆xnSlhy.Xp2 :2007/03/16(金) 00:22:18 ID:VYGV+1Fv
>>96
【所持品:支給品一式×2、コルトM1917の予備弾60、木彫りのヒトデ@CRANNAD、たいやき(3/3)@KANNON】



【所持品:支給品一式×2、コルトM1917の予備弾60、木彫りのヒトデ@CLANNAD、たいやき(3/3)@Kanon】
98動く者、動かざる者 ◆sXlrbA8FIo :2007/03/16(金) 03:23:17 ID:cpJCQbkS
(――羽生! どこにいるの? 羽生っ!!)
古手梨花は呆然と立ち尽くしながらあたりを見回し、心の中で叫び続けていた。
空から照らす月明かりが彼女を薄く照らし、その悲痛な表情を強調するように浮かび上がらせている。
何度もの転生を繰り返しながら、幾年もの年月を一緒に過ごしてきた少女の姿はどこにもない。
しかも目に映る景色が馴染み深い雛見沢でないことが梨花の不安を増長させていた。
なにせこんなことは今まで一度も無かったのだ。
サイコロの目が1どころではない。むしろ振ったにもかかわらずどこかへ飛んでいってしまったかのようだ。
変わりばえのしない日常に飽いていたのは否定しない。
だからと言ってこのような訳のわからない変化など誰が望んだものだと言うのだろうか。

いくら呼びかけても羽生は姿を現さず、空想のサイコロの行方に途方に暮れていたまさにその時だ。
ガサッ、と何かを踏むようなほんの微かな音が後方から響き、思わず振り返る。
「――誰っ!?」
不用意にも声を上げ、内心焦りながらもデイバックを抱き上げながら音のした方向に目を凝らす。
……が問いに答えるものは無く、冷たい空気が梨花の髪を揺らしていた。
「風だったのかしら……」
見えない恐怖に動揺している胸を必死に抑え、大きく深呼吸をする。
一つ……。二つ……。三つ……。
息を一つ吐くたびに落ち着きが戻ってきた気がする。
むしろ今の音のおかげで少し冷静さを取り戻すことができていた。
羽生の事ばかりに思考が捕らわれていたが、冷静に考えると不可解なことが多すぎる。
一番の疑問点は鷹野三四が一体何を考えているのか、と言うことだった。
私が死ねばどうなるかを一番危惧していたのは彼女であるはずなのに。
なのになぜ私を殺そうと……?
99動く者、動かざる者 ◆sXlrbA8FIo :2007/03/16(金) 03:24:06 ID:cpJCQbkS
そしてそれまでの思考がピタリと止まり、浮かんだのはそもそもここはどこかと言う疑問。
その問題に行き着いたときに梨花の脳裏にしたくも無いイヤな想像が浮かんでいた。
頬を流れる汗が冷たく、全身の血が一気に蒸発したように全身が震えだしていた。
暴れる身体を必死に抑えるように両腕で全身を抱え込む。

時間が無い、いやむしろもう手遅れかもしれない――考えうる事象の中、今一番危ないのはレナだった。
彼女は雛見沢に戻ってようやくオヤシロ様に許されたと思っている。
にも関わらずまた雛見沢を離れたと気づけばまた発症してしまうかもしれない。
勿論他の部活メンバーにしても楽観している場合ではない。
鷹野の告げた『殺し合い』と言う言葉と、目の前で起きたの人の死。
不安・恐怖から疑心暗鬼に陥り、彼らも発症と言うことにもなりえない。

今まで経験したことのない世界に、梨花の精神は激しく動揺していた。
羽生がいない以上、さっさとこの世界に見切りをつけて次の世界と言うわけにもいかない。
この世界が自分の人生の終幕になるのかもしれないと思うと急激に恐ろしくなる。

私の願いはただ一つ――仲間たちと幸せに生きたい、ただそれだけなのに!

(――まだだ、まだ諦めるな!)
梨花は落ち込みかけた心に活を入れるように自身の頬を両手ではたく。
運命なんて簡単に覆せるのだ。圭一の起こした奇跡をもう忘れてしまったのか?
「……探そう、みんなを!」
もしかしたら羽生だってあの場にいて同じようにどこかに飛ばされただけなのかもしれない。
諦めてしまったら。もうだめだなんて思ったらそこで終わりだ。
仲間はまだ誰も死んでいない、だから――最後まで足掻こう。

100動く者、動かざる者 ◆sXlrbA8FIo :2007/03/16(金) 03:24:40 ID:cpJCQbkS
閉ざされた時間、凍りついた日常。
逃げ場のない永久の螺旋を抜けるべく、固い決意と共に梨花は前を見つめ歩き出した――。


・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


「これはまた可愛らしいお嬢さんではないか」
そんな梨花を値踏みするように見つめる視線が一つあった。
視線の主――杉並は一切の気配を出すことなく息を潜めて梨花を遠巻きに監視している。
杉並の手元に握られた小さな機械――それから発せられる白い光点の示す先を再確認し満足げに微笑む。

彼は殺し合いをしろと言われて、馬鹿正直にはいそうですかと答える人間ではなかった。
だからと言って見ず知らずの人間を信用し仲良しこよしなどする気もさらさら無かった。
『戦場』がどのようものか認知している人間はほとんどいない事を平和な『日常』から彼は知っている。
目の前にいるのが小さな子供ならばなおさらのことだ。
逆にそう言った人間が日常から離れ非日常を迎えた時に何をしてくるかわかったものではない。
どの常でも必要なのは"情"ではない、"情報"だ。
その点では自分に配られた武器は一番欲していたものであることは間違いなく、自分の幸運に感謝していた。
安全と危険のボーダーラインを見極め、可能な限りの最善の一手を取る。
それが状況を冷静に分析した上で出した彼の結論だった。

自分が他者を信用するつもりが無い以上、他者の信用など邪魔なものでしかない。
梨花を囮に使い自分の安全を……梨花の姿を捉えた時点で彼の脳裏にはこれからの行動がいくつもシミュレートされていた。
手元のレーダーの光点と梨花を交互に眺めながら口元を緩め、杉並はゆっくりと梨花の後をつけていくのだった。

101動く者、動かざる者 ◆sXlrbA8FIo :2007/03/16(金) 03:25:22 ID:cpJCQbkS

【B-1/1日目 深夜】

【古手梨花@ひぐらしのなく頃に祭】
【装備:】
【所持品:支給品一式、ランダム武器不明】
【状態:健康】
【思考・行動】
1)部活メンバー及び羽生の捜索とL5発症の阻止
2)赤坂・大石の捜索
【備考】
皆殺し編直後の転生

【杉並@D.C.P.S.】
【装備:】
【所持品:支給品一式、首輪探知レーダー】
【状態:健康】
【思考・行動】
1)主な目的は情報収集
2)他者と行動を共にするつもりは現状無い
【備考】
レーダーは半径500mまでの作動している首輪を探知可能。爆破された首輪は探知不可
102信じるという事 ◆guAWf4RW62 :2007/03/16(金) 12:00:55 ID:6rpc8n1i
(ったく、一体全体どうなってんのよ……)
深い闇と静寂に包まれた森の中、道なき道を一人往く少女の名は、藤林杏。
杏は必死に頭を働かして、自分が置かれている現状を把握しようとしていた。

目が覚めたと思ったら、全く見覚えの無い――薄暗いホールの中にいた。
そこに見知らぬ人物――タカノという名前らしい女性が現れ、『殺し合いをしろ』などという馬鹿げた事を、突然告げてきたのだ。
本当に……馬鹿げている。しかしあれが、人を驚かせて楽しむといった類のブラフで無いのは明らかだった。
何しろ自分と同じ推理を、眼鏡を掛けた少年が口にして――殺されてしまったのだから。
間違いなく自分は殺し合いに巻き込まれている。それを認めようとしなければ、あの眼鏡少年と同じ末路を辿る事になるだろう。
そこまで考えると、杏はどすんとその場に座り込んで、木の幹に背中を預けた。
思考を纏めないまま歩き回っても、状況は好転しない。これからの行動方針を定める必要がある。

(最後の一人になるまで殺し合えって?冗談じゃないわよ……。そんなの出来る訳ないじゃない!)
熟考を始めた杏が、最初に思ったのはそれだった。
あのホールにいた時は気付かなかったが、名簿によるとどうやら朋也や陽平もこのタチの悪いゲームに参加させられている様子。
彼らと殺しあう自分の姿など想像出来ないし、したいとも思わない。
となると、必然的にゲームに乗らない方向で考えを進めていく事になる。
ゲームに乗らず、生還を果たすのは――どう考えても、自分一人の力では無理だ。
103信じるという事 ◆guAWf4RW62 :2007/03/16(金) 12:01:42 ID:6rpc8n1i
杏は自分の首筋に、ゆっくりと左手を這わせた。指の先に伝わる、硬く冷たい感触。
タカノの機嫌一つでこの首輪が爆発すると思うと、生きた心地がしない。
心臓を凍りついた手で鷲掴みにされているような、そんな悪寒が全身に奔る。
まずは――この状況をどうにか出来る人間を探す事だ。幸いにも杏には一人、飛び抜けた知識を持った知り合いがいる。
その者の名は一ノ瀬ことみだ。普段の間の抜けた様子からは想像もつかないが、ことみは紛れも無く天才である。
ことみなら、きっと何か良い打開策を編み出してくれるに違いない。
そして可能ならば岡崎朋也や春原陽平、古河渚とも合流したい。
彼らは特別な技能こそ持っていないが、信頼出来るという点に関しては百点満点だ。
彼らがこんな馬鹿げたゲームに乗る訳が無い。それは絶対の自信を持って断言出来る。


これで、今後の方針はほぼ纏まった。まずは、知り合いと合流する。そしてみんなで協力して、タカノを懲らしめる。
あの女はいけ好かない――二度とこんな事をしないように、ボッコボコにしてやる。
ちゃんと落とし前をつけさせてから、悠々とこの島を脱出するのだ。
だが――運良く知り合いに会えるとは限らない。もし知らない人間と出会ったらどうする?
勿論、こんな馬鹿げたゲームに進んで乗るような人間などいないと思いたい。
しかし全員が全員、自分と同じように考えるとは限らない。
早々に脱出を諦め、殺人への禁忌を捨て去る者もいるかも知れないのだ。
「……ま、考えても仕方ないか。疑いだしたらキリが無いしね」
いつまでもウジウジと悩んでいるより、やるべき事が分かったなら素早く行動に移すべきだ。
それが杏が出した結論だった。
大きな溜息をついた後、杏はすくっと立ち上がる。続いてポケットをごそごそと漁って、銀色の物体を取り出した。
その物体は杏への支給品――S&W M36という名前の、小型の回転式拳銃だった。
この森の中に飛ばされた後、支給品だけはすぐに確認していたので、装弾も既に終わらせている。
こんな物を使うような事態は避けたいが、用心するに越した事は無いだろう。
杏はS&W M36をしっかりと握り締めると、二、三歩、足を進めて――後ろの方で、足音がしたのに気付いた。
104信じるという事 ◆guAWf4RW62 :2007/03/16(金) 12:02:34 ID:6rpc8n1i
「――――ッ!!」
心臓が張り裂けんばかりに鼓動を打っていたが、それでも即座に音のした方へ振り向き、半ば反射的に銃を構える。
それから音を立てた者の正体を確かめるべく、視線を送る。
「えっ、あのっ、そのっ……」
そこには、あたふたしている一人の少女、佐藤良美の姿があった。
一目見る限りでは敵意は感じられない。
それどころか今にも腰を抜かしそうな様子だったが――杏は油断無く銃を構えたまま、鋭い声で告げる。
「ねえ、あんた。こそこそと人の後ろで、何をしようとしていたの?」
「な……何って別に、人を見つけたから声を掛けようとしただけで……」
「じゃあ、その手に持ってるナイフは一体何に使おうとしてたのよっ!」
そう、佐藤良美の手には月の光を反射して微かな輝きを放つ、小さなナイフが握られていたのだ。
相手が武器を持っている以上、こちら側も警戒を解く訳にはいかない。
油断した瞬間に、襲い掛かられるという事だって考えられる。
杏はキッと良美の目を睨みつけて、それから口調を一層強めて言った。
「とにかく、すぐにあたしの前から消えて頂戴。じゃないと――」
「そのっ……ごめんなさいっ!」
杏の台詞が終わるのを待たず、良美が叫んだ。そして、
「――え?」
口を開けたまま、呆然とする杏。このキリングフィールドにおいて、武器は命綱のような役割を果たす。
それにも関わらず、良美はナイフをあっさりと投げ捨てていた。

     *     *     *
105信じるという事 ◆guAWf4RW62 :2007/03/16(金) 12:04:36 ID:6rpc8n1i
数分後。杏と良美は警戒を緩め、地面に座り込んで肩を並べながら話し始めていた。
相手がナイフを投げ捨てた以上、必要以上に警戒するべきでは無いと、杏は判断したのだ。
勿論完全に信頼した訳では無いので、お互いの武器――S&W M36とナイフは、少し離れた地面に置いてある。
「佐藤良美、だっけ?話し掛けるだけのつもりなら、最初から武器なんて持たないでよね。寿命が一年くらい縮まったわよ」
杏が眉間に眉を寄せて、不機嫌そうにぼやく。すると良美は申し訳無さそうに、視線を地面へと落とした。
「ご、ごめんねぇ……。でも私だって、怖かったんだよ。いきなり殺し合いをしろなんて言われて、武器も持たずにいるなんて無理だよぉ……」
「あ……」
それで、杏の怒りは吹き飛んだ。そうだ――自分だって自衛の為に武器を持っていたではないか。
こんな危険な状況下で何も持たずに話し掛けろなど、理不尽極まりない要求だった。
「ごめん、そうだよね……。あたしが悪かった……」
「ううん、分かってくれたら良いよ。それより……情報交換しよ?」
良美は唇の端を上げて、にっこりと笑ってみせた。
そんな良美の笑顔を見て、杏は胸が締め付けられるような感覚を覚えた。
(あたし馬鹿だ……。こんなに良い子なのに、疑っちゃうなんて……)
良美はナイフを持っていただけで、それ以上は何もしていない。先に武器を手放してくれたのだって、良美だ。
それなのに、自分は一方的に銃を向けて、相手が武器を手放した後も的外れな批判を浴びせてしまった。
自分への嫌悪感でいたたまれなくなって、杏はがっくりと俯いた。
「――藤林さん、どうしたの?何処か具合が悪いの?」
顔を上げると、良美が心配そうにこちらを覗き込んでいた。
「う、ううん、何でもないわ。それより話、始めよっか」
106信じるという事  ◆guAWf4RW62 :2007/03/16(金) 12:06:36 ID:6rpc8n1i




「――つまり、良美はそのエリカって人を探してるのね?」
「うん。エリーならきっと、タカノさんの裏を衝くような凄い作戦を考えてくれると思うよ」
それに、と付け加えて、良美は言った。
「私、少しでも早くエリーと会いたいもん」
良美はまた笑った。見る者全ての心を和らげるような、そんな暖かい笑顔だった。
今度は杏も素直に微笑み返して、それから言った。
「それじゃ、そろそろ行こっか?ことみやエリカ――それに、他の知り合いも探しにね」
良美が頷くのを確認して、杏はぐっと身を起こし鞄を持ち上げる。
何故か自分の身体が、凄く軽く感じられた。

杏はこの島で生き抜くにあたって、確かな手応えを感じていた。
いきなり、ゲームに乗っていない人間と出会えたのは、間違いなく僥倖だ。
勿論まだ最初の一歩を踏み出したに過ぎないし、不安要素は数え切れない程ある。
全ての参加者に例外無く装着されているであろう首輪をどうにかしない限り、生きて帰る事は叶わない。
地図を見る限り、今自分達がいるのは孤島だ。脱出する為には乗り物も必要になるだろう。
それに得体の知れない現象も気に掛かる。タカノが合図した途端、ホールにいた者達が一人、また一人と消えていったのだ。
気付いたら自分も、暗闇に支配された森の中へ飛ばされていた。
あんな事は現代の科学では到底不可能だ。
それでも――良美や他の皆と力を合わせれば、きっと何とかなる。
杏はそう信じていた。
(待っててね、椋。あたし達、絶対に生きて帰るからね)
決意を胸に秘めて、杏は地面に置いていたS&W M36を拾うべく歩き出す。
107信じるという事  ◆guAWf4RW62 :2007/03/16(金) 12:09:21 ID:6rpc8n1i



「――――ッ!?」
そこで杏は突然、背中に灼けつくような熱い感触を覚えた。
がはっ、と呻き、息と――大量の赤い血を吐き出した。
脳に伝わる痛みという名の、圧倒的なノイズ。それは正常な判断力を全て押し流す、無慈悲な津波であった。
「あああああああっ!!」
杏が悲痛な叫び声を上げて、背中の傷口を押さえようと身をくねらす。
そこに掛けられる、ゾッとするような冷たい声。
「……初めて知ったよ。人間って、一度背中を刺された位じゃ即死しないんだね」
声の主、佐藤良美は隠し持っていた武器――錐を大きく振り上げて、杏の背中に突き刺した。
「ひぎぃぃぃぃぃっ!」
杏が絶叫する。良美は杏の肩を掴んで、何度も何度も、彼女の背中を抉ってゆく。
良美がぐいと腕に力を入れて引っ張ると、杏の身体が地面に叩きつけられた。
良美は素早く馬乗りの体勢を取ると、片方の手で杏の顎を強く掴んだ。
杏は目前に迫る死を見据えながら、最後の力を総動員して喉の奥から声を絞り出した。
「よ……し……み…………、どう……して……」
その問い掛けに、良美は目尻をきっと吊り上げて、凍りつくような声で答える。
「私、嫌いなんだ――貴女みたいに、簡単に人を信用する能天気な馬鹿はね。支給品は複数あるかも知れないっていうの、忘れてたの?
 大体さ、銃を持ってる相手に正面から戦いを挑む人なんている訳ないじゃない。普通は私みたいに無抵抗を装って、騙まし討ちを考えると思うよ?」
驚愕に杏の目が見開かれる。何の事は無い――自分は、完全に騙されていたのだ。
良美が天高く錐を振り上げる。それは確実に、杏の命を奪い去るだろう。
ようやく杏は痛みを忘れ去って、ただ一つの感情――死への絶対的な恐怖と直面した。
「い、やだ…………たす……け……て……」
良美は一度目を閉じて、それから静かに目を開けて、口元を妖しく吊り上げた。
「だーめ」
普段と何も変らぬ穏やかな表情のまま、良美が錐を振り下ろす。
錐が杏の喉を一気に突き破り、良美の手に嫌な感触が伝わった。
杏の身体がびくんびくんと痙攣したが、もう一度錐を突き刺すとそれはあっさりと止まった。
108信じるという事 ◆guAWf4RW62 :2007/03/16(金) 12:11:11 ID:6rpc8n1i
良美はゆっくりと錐を引き抜いて、それについた血を服の袖で拭い、立ち上がった。
それからもう杏の死体には一瞥もせず、少し歩いてS&W M36とナイフを拾い上げる。
その時に初めて、自分の手が返り血に塗れてしまっている事に気付いた。
(私……人を殺しちゃったんだね……)
改めて自分がやってしまった事の重大さを認識させられる。
だが、罪悪感は全く沸かなかった。そもそも、人とは簡単に信頼を裏切ってしまう生き物なのだ。
普段どんなに聖人君子のように振舞っている人間でも、裏では何を考えているか分からない。
良美の両親が、その典型的な例だった。
近所に対しては仲の良い夫婦のように振舞っているのに、家の中では泥臭い抗争を繰り返す。
特に母親は最悪だった。
父親の寵愛を受ける良美に対して烈火の如き嫉妬心を燃やし、あろうことか殺意すらも放つ始末。
そのような環境で生きてきた良美にとって、出会ったばかりの人間など信用出来る筈が無い。
ましてやこんな殺人ゲームの中で他人を信用するなど、絶対に有り得ない話だった。
109信じるという事 ◆guAWf4RW62 :2007/03/16(金) 12:12:37 ID:6rpc8n1i
(銃は手に入ったけど、これからどうしようかな……)
良美は考える。人は信用出来ないが――レオとエリカだけは、極力殺したくない。
一緒に生きて帰って、また笑い合って過ごしたい。このゲームの勝利条件は一つ、一人だけ生き残る事だ。
となると、レオやエリカと共に生還を果たすには選択肢は一つしか無い。
エリカ、レオ――それに杏の言っていた『一ノ瀬ことみ』と協力して、ゲームを破壊するのだ。
他人であることみを信用するのは気が進まないが、生きて帰る為には仕方がない。
まずはレオ、エリカ、ことみ、この三人を探し出して、脱出の手段を模索するべきだ。
当たり前だが、その三人と上手く出会えるとは限らない。
攻撃を仕掛けてくるような相手が現れたならば、容赦するつもりは微塵も無い。
手に入れた銃で応戦して、殺すだけだ。
しかし違ったタイプの人間――藤林杏のような、ゲームに乗っていない者と遭遇する事もあるだろう。
その時の対応は良く考えて行う必要がある。
藤林杏を殺したのは一種の博打だった。殺害現場を見られて、ゲームに乗っていると吹聴などされてしまっては最悪だ。
ゲームに乗っていると周りに認識されてしまった場合、もうレオやエリカすらも殺して、優勝を狙うしか無くなるだろう。
優勝して生き延びるというのも選択肢の一つにはあるが、それはあくまでも最終手段、極力避けたい事態だ。
にも関わらずリスクを犯して杏を殺したのは、最高の自衛手段である銃が欲しかったからだ。
目的を果たした以上、今回のような事はもう避けたい。
以上の事柄を踏まえると対応は自ずと定まってくる。他人は上手く騙して、利用できるだけ利用する。
何時裏切られるか分からないのだから、信頼する気などは毛頭無い。
あくまで捨て駒、自分やレオ達の命を守る為の捨石に過ぎぬ。
裏切りの兆候を見せたり、足手纏いになるようならば、容赦無く切り捨ててゆくつもりだ。
110信じるという事 ◆guAWf4RW62 :2007/03/16(金) 12:13:45 ID:6rpc8n1i
良美は生い茂る木々の間から僅かに見える月を眺めて、ぼそっと呟いた。
「対馬君、エリー……。一緒に帰って、幸せになろうね」

【E-5 森 /1日目 深夜】

【佐藤良美@つよきす 〜Mighty Heart〜】
【装備:S&W M36(5/5)】
【所持品:支給品一式×1、S&W M36の予備弾15、スペツナズナイフ、錐】
【状態:健康、血塗れ】
【思考・行動】
基本方針:エリカとレオ以外を信用するつもりは皆無、ゲームに乗っていない者を殺す時はバレないようにやる
1:まずは小屋に移動して、返り血のついてない服を入手、着替える
2:エリカ、レオ、ことみを探して、ゲームの脱出方法を探る
3:他人は利用出来そうなら利用する
4:怪しい者や足手纏い、襲ってくる人間は殺す
5:最悪の場合、優勝を目指す
【備考】
杏の死体と支給品一式は現場に放置してあります

【藤林杏@CLANNAD 死亡】
[残り61人]
111親友 ◆IXRLXwC0Ds :2007/03/16(金) 13:10:49 ID:SIIl1+s8
フカヒレが死んだ。

最初は突然の出来事に現実感が湧かなかった。夢だとしか思えなかった。
しかし、暗く静かな森に一人でいるうちに嫌でも理解することになった。どうやらこれは紛れも無い現実のようだ。
目を閉じると仲間四人で過ごした日々が走馬灯のように思い出される。
夏は海で、冬は雪国でひたすらに一日中遊んだ。
毎日学校で楽しくふざけあったし、姉に勧められて皆で入った生徒会の活動は新鮮だった。
そして何よりも、仲間四人でただ何もせずに過ごしたぬるま湯のような部屋での時間が懐かしい。

だが、その日々は無惨にも奪われた。涙が溢れる。

「なぜ……何でだよ……何でフカヒレを殺した。あいつが何をしたっていうんだよ。」

確かにフカヒレは聖人君子というわけでは無かった。
異性へのセクハラは日常茶飯事だったし、仲間を売り保身を図った事もあった。
けれどもそれは悪巫山戯の域を出ないものであり、今回のパフォーマンスもいつも通りの茶目っ気だろう。
断じて殺される理由にはならない。それなのにフカヒレの命は奪われてしまった、タカノという女の気まぐれによって。

「ううぅぅおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」

許せない、憎い、憎い、憎い。タカノだけではない。
この腐ったゲームを仕組んだ奴全員も、ただ見ているだけだった俺自身も、フカヒレの命を救えなかった全てが憎い。
仇を討たなければならない。ゲームを仕組んだ奴全員を殺し、フカヒレが寂しくないように俺も死ぬ。それが自分にできる贖罪だ。
112親友 ◆IXRLXwC0Ds :2007/03/16(金) 13:11:56 ID:SIIl1+s8

心が決まったところで、支給されているらしい武器を確認する。
まず出てきたのは鞘に入った刀。姉の持つ地獄蝶々にこそは見劣りするがそこそこの名刀のような気がする。
生憎と剣の心得は無いが、鈍器として使うのには申し分ない。早速腰に挿しておく。ひとまずは武器を確保し、安心で頬が緩む。
しかし次に取り出した物を見て血の気が引く。現れたのはマシンガンとその予備弾薬。
どう考えてもタカノの使った拳銃よりも強力、周りの迷彩服連中と同等の装備。
これで撃てば人は容易く死ぬ。フカヒレのように――

光景がフラッシュバックする。親友の虚ろな顔に不自然に開いた一つの穴、止まらない血……

この銃を使うということは、あの悪夢を量産することに他ならない。果たして自分はそれに耐えられるのか?
否、耐えられない。『人であったもの』を見るのはもうたくさんだ。
つまり自分に人は殺せない……けれども、フカヒレの仇はとらなくてはならない。ジレンマに頭を抱える。
無駄に使える時間は無いのにただ悩む。今の俺を見たら乙女さんやカニは怒るんだろうな。

「この根性無しが!男なら一度決めた事はきちんとやり通せ」

「オメーは本当に情けねー奴だな。フカヒレが死んだのにグズグズしやがって、このチキン野郎」

鮮明な映像が目に浮かぶ。ひよわな自分が実に情けない。いっそこの激情に身を委ねてしまいたいと思う。
でもそれだけはできない。

(一時のテンションに流されるな、その時の感情に身を任せたら絶対に後悔する。)

今でも残るトラウマ。中学時代の経験から得た教訓。
そうだ、テンションに身を任せるとろくな事にはならない。クールになれ、対馬レオ。
一度この問題を保留して、他の事を考えれば解決策が見つかるかもしれない。
113親友 ◆IXRLXwC0Ds :2007/03/16(金) 13:12:39 ID:SIIl1+s8
……よし、冷静になった。落ち着いて順番に疑問を解決しよう。
まずはなぜマシンガンなんて物を支給するのかだ。このレベルの兵器なら人数を揃えれば一個小隊には容易く刃向かえる。
いくら首輪があるからといってあまりにも浅慮だと思う。自分達の安全に絶対の自信を与える何かがあるのだろうか?
例えば何かで俺達の行動を監視しているとか……確かに発信機や盗聴器なら首輪に組み込めそうだ。
早速首輪を調べてみるも……継ぎ目が無い。いったいどうやって取り付けたんだ?
生きている人間の首に継ぎ目無しに取り付けられるものなのだろうか。よく分からないが何かうさんくさい。
おかしなことなら他にもある。
俺達は生徒会の活動の真っ最中だったはずなのに、気がついたらあのホールにいた。誰かに捕まった記憶は無い。
いったいどうやってあれだけの人数を、人目を掻い潜って連れてきたんだ?
そしてホールからここまでの移動も何やらきな臭い、タカノが手を上げた途端に一瞬で景色が変わった覚えがある。何をした?
理解不能、理解不能。手品なんていうレベルじゃない、これではまるで魔法のようじゃないか――

『魔法』

便利な言葉だ。これだけで全てのことが説明できる。しかし今回のことはそれ以外では説明がつかないように思える。
今回の出来事はまるで絵空事だ。魔法が存在したとしてもそれが自然に感じられる。
魔法が存在することを仮定して考察を進めた方が良さそうだ。
魔法が使えるとするならタカノの妙な自信も理解できる。物語の世界の魔法相手ではマシンガンなどは玩具にすぎないのだろう。
そして武器が役に立たないかもしれないならば情報が必要だ。神秘は知恵と勇気と愛で打ち破るしかない。
幸い手がかりはある。タカノの知り合いのマエバラに会えばいい。そうすれば魔法の有無ははっきりする上、何か奴らを攻略する糸口が見つかるはずだ。
また、冷静になった今だからこそ分かる。
フカヒレの仇を討つ、それはゲームを崩して主催者を打倒すること。
これには仲間が必要だ。生徒会の仲間だけでも十分だが確実に成功させるには人数は多い方がいい。
114親友 ◆IXRLXwC0Ds :2007/03/16(金) 13:14:06 ID:SIIl1+s8
このゲームに不満を抱いている奴は多いだろうから仲間には事欠かないはずだ。
例え途中でゲームにのった奴に会っても自分には強力な武器がある。負ける気はしない。
方針は決まった。ゲームに不満を持つ仲間を集め、主催者を打倒する。

そうと決まれば善は急げだ、人の集まる場所に移動をしよう。早速地図を広げてコンパスで現在地を確認する。
近くに鉄塔が見えるのでここはB-6の東。近くにある人の集まりそうな場所はホテル・学校・百貨店。
しばし悩んだものの選んだ目的地は学校。決めた以上はこれ以上無駄な時間は過ごせない。
荷物をまとめ、ランタンを提げて歩き出す。

「フカヒレ……仇は必ず取ってやる、だから今は黙って見守っていてくれ。」


暗い山道は慣れていない自分にはつらい。それが分かっていても距離が遠い学校を選んだ。
『学校』という名詞に無性に惹かれた。郷愁なのだろうか。
親友の死はまだ当分吹っ切れそうに無いようだ……


 ◇ ◇ ◇


参加者63人の中で一番早く行動を始めたのは彼だろう、鮫永新一のもう一人の親友、伊達スバル。
H−1からスタートした彼はすぐに荷物を確認。
支給品はバット、服、人形。一見嘆かわしい品々にも顔色ひとつ変えない。
続いて名簿と地図に軽く目を走らすと、荷物をしまい即座に走り出した。
その間わずか30秒。
親友が死んだというのに沈着冷静、冷血漢にも思える。
しかし、やはりというべきか。彼の心は怒りに燃え、復讐の想いで煮えたぎっているた。
115親友 ◆IXRLXwC0Ds :2007/03/16(金) 13:18:15 ID:SIIl1+s8
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す


親友三人がオレの全てだった。脅かす外敵は全て退けていたし、これからも守り通せると思っていた。
しかしフカヒレは死んだ。決して崩れてはならないはずの聖域の一角は欠けた。もう戻らない。
聖域を侵す奴には容赦しない。親友はオレが守る。そういう覚悟はあった。
だが、現実は無情。守るまもなくあっけなくフカヒレは殺された。残されたのは絶望だけ……
心にぽっかりと穴が空いた気がする――余計な精神が欠けてしまったのだろうか。
そのおかげでか今のオレは氷のようにKOOL(クール)だ、これから自分のやるべき事も分かる。

フカヒレの仇を討つ。
そのためにどうやって主催者達に会うか。楽勝だ、他の参加者を全員殺せばいい。
優勝すれば必ずオレの前に再び姿を現す。そこでオレの全力全開をもって野郎どもを皆殺しだ。

レオときぬを守る。
楽勝だ。他の参加者を全員殺せばいい。そうすればオレの親友に悪さをする奴はいなくなる。

そう、やるべき事は一つ。皆殺し。
悲しんだり後悔している暇は無い。ともかく早く行動するべきだ。
信条は見敵必殺、陸上部で鍛えた足が役に立つ時がきた。
116親友 ◆IXRLXwC0Ds :2007/03/16(金) 13:21:32 ID:SIIl1+s8
そして彼は走り出した。

今は亡き親友、フカヒレ。
弟分でもあると共に、自分の半身のように大切な存在、レオ。
片思いの相手であり、実の娘のようにも想っている、きぬ。

全ては仲間のために――彼は死を運ぶ一陣の風となる。



【B-6森 1日目 深夜】

【対馬レオ@つよきす〜Mighty Heart〜】
【装備:トウカの刀@うたわれるもの、】
【所持品:FN P90(残弾50)、予備弾薬(5.7mm×28の専用カートリッジ弾)、支給品一式】
【状態:精神が若干不安定】
【思考・行動】
1:ひとまず仲間を集めに学校に向かう。
2:生徒会の仲間と合流。
3:前原に会い鷹野の情報を手に入れる。
4:フカヒレの仇を討つ。
基本行動方針:人に接触して仲間に誘う、敵対されたら武力で退ける。
【備考1】
レオは魔法の存在に感づきました。鷹野は魔法を使えるのかもしれないと考えています。
【備考2】
深夜B-6の東端でレオの咆哮が響きました。
117親友 ◆IXRLXwC0Ds :2007/03/16(金) 13:22:33 ID:SIIl1+s8
【H-1路上 1日目 深夜】

【伊達スバル@つよきす〜Mighty Heart〜】
【装備:無し】
【所持品:人形(詳細不明)、服(詳細不明)、悟史のバット@ひぐらしのなく頃に、支給品一式】
【状態:健康(KOOL?)】
【思考・行動】
1:走り回って見敵必殺。
2:レオときぬのことが心配。
基本行動方針:優勝を目指し皆殺し・主催者全員の殺害。
118血塗られし予言 ◆3Dh54So5os :2007/03/16(金) 16:31:34 ID:hflqMnh+
「まさか、こんなことになるなんてね……」
少女――、芳乃さくらは夜空にぽっかりと浮かぶ月を見上げながら呟いた。
周囲の景色はまったく見覚えのないものだったが、さざ波が打ち寄せる浜辺を照らす月だけは初音島で見るそれと変わらない。
そんな些細なことにさえ安堵感を覚えながら、さくらはため息混じりに呟く。
「環ちゃん……あの予言はこのことを言ってたんだね……」
あれはいつのことだっただろうか? つい最近のことだったはずなのに、随分と昔の事のように思える。
さくらは今が殺し合いの真っ最中であることも忘れて、あの時のことに思いを馳せる。
話は、四日前の放課後に遡る――。


「さくら様、少々お時間宜しいでしょうか?」
多くの教師が部活動の顧問として出払った放課後、さくらのもとを訪ねた胡ノ宮環は開口一番、そう言った。
小テストにレ印を入れていたさくらはその言葉に手に持った赤ペンを止める。
環は、大和撫子な見た目通りの礼儀正しい少女だ。例え同い年であろうと、学園の中でも外でも“教師”であるさくらのことを名前で呼ぶことはない。
環が名前でさくらを呼ぶ場合は、教師としてのさくらにではなく、芳乃さくら個人に、もっと言えば環の親友である芳乃さくらの事を呼ぶときに限られる。
だからさくらは親友に対するそれで環に答える。
「なにかな? 環ちゃん。何だかかなり真剣な話みたいだけど……」
見上げた環の口元はきつく結ばれていて、話というのがあまりいいものでは無いことを如実に物語っていた。
環は感情を無理矢理押さえ込んでいるのか、表情を崩す事無く言う。
「ここでは、ちょっとお話できません。出来れば誰もいない場所で……そうですね。屋上辺りでお話したいのですが……」
声のトーンが少し低くなったのはさくら以外にはやはり聞かれたくないから、なのだろう。
さくらは無言で頷くと、採点途中だったプリントをデスクの引き出しに押し込み、環とともに職員室をあとにした。
119血塗られし予言 ◆3Dh54So5os :2007/03/16(金) 16:33:14 ID:hflqMnh+
「う〜っ、生き返る〜ぅ! ホント、あんなところで何時間もプリントとにらめっこなんて体にいいわけないよねぇ……」
何もない屋上の解放感のせいだろうか? 大きく伸びをしながら思わずそう洩らすさくらに環の頬が一瞬緩む。
ひとしきり伸びをして、身体が解れたところで、さくらは環の方に向き直った。
「それじゃあ聞かせてもらおうかな? 環ちゃんのお話。わざわざこんなところに呼び出した、って事は普通の用事じゃないんでしょ?」
さくらの言葉に環は静かに頷く。
「はい、話というのは他でもありません。昨日、私が見た悪夢の話なのです」
「悪夢……」
環の言葉にさくらは思わず息を呑む。普通の人なら悪夢の話などたわいもない話だが、環の場合は事情が違う。
極めて強い霊感と予知能力を持った巫女である環のそれは大抵が予知夢である。
つまり悪夢の話でさくらを呼び出したと言う事は、すなわちさくらに不幸が降り掛かると言う事を伝えにきたのと同義。
さくらの表情も自然と強張ったものになる。

「それで? ボクにいったいどんな災難が降り掛かるのかな? ケガ? 病気? それとも死んじゃうとか?」
わざとおどけてみせながらさくらは尋ねる。降り掛かる災難と言えば大抵この三つのどれかのはず。
だが、環は首を縦にではなく横に振った。
「いいえ、違います。身体的被害が及ぶのはさくら様に、ではありません」
「えっ……?」
その言葉にさくらの思考は一瞬の停止を余儀なくされた。あまりにも予想外の返答だったのだ。
環はそんなさくらの状態を知ってか知らずか、淡々とした口調で続ける。
「さくら様ではなく…………朝倉様が殺されます。……さくら様の目の前で……」
120血塗られし予言 ◆3Dh54So5os :2007/03/16(金) 16:35:30 ID:hflqMnh+
「なっ!?」
今度こそさくらは凍り付いた。
思考が追い付かなかった。まさかそこで純一の名前が出てくるとはさくらは夢にも思っていなかった。
朝倉純一――、さくらの中で自分に次いで……否、自分よりも大切な、さくらの恋人。
環や義妹の音夢と言った美少女たちの中で自分を選んでくれた純一。
その純一が目の前で殺される……。想像すらしたくない光景なのに、環はそれが起こると言う。
環の予知能力についてはさくらも認めている。環が冗談でこんなことを言える性格でないことも知っている。
だけど、この予言だけは、純一が殺されるなどという未来だけは信じられなかった。信じたくなかった。
「いったい何で? いつ? 何処で!? 誰に殺されるの!? 教えて! 教えてよ環ちゃん!!」
半ば悲鳴に近い声をあげながら環に詰め寄るさくら。しかし環は沈痛な面持ちのまま再び首を横に振った。
「私がはっきりと見たのは胸からおびただしい量の血を流しながら倒れた朝倉様と、泣きじゃくりながら朝倉様を抱き抱えるさくら様のお姿だけなんです。それ以外はちょっと不鮮明で……」
「そ、そんな…………」
その場に力なく崩れ落ちるさくら。そんなさくらに環は申し訳ありませんと言いつつ続ける。
「もう少し長く私が夢を見続けていれば、朝倉様に致命傷を負わせたのが誰か、分かったかも知れないのですが……」
そこで環は言葉を途切れさせる。見上げたさくらが見たのは顔を俯かせ、小刻みに身体を震わせる環の姿。
それを見てさくらははっとなった。
環だって純一に好意を抱いていた少女の一人。好いていた人が殺される光景など見せられた日には、一刻も早く夢から抜け出したいと思ったに違いない。
ここは先生として、親友として、しっかりしなくちゃいけない。さくらは自分にそういい聞かせると震える環の肩をそっと抱いた。
「ありがとう、環ちゃん、ボクに教えてくれて……」
「えっ?」
さくらの言葉に環の震えが止まる。おずおずとこちらを見上げた環にさくらは優しく微笑みかける。
121血塗られし予言 ◆3Dh54So5os :2007/03/16(金) 16:37:23 ID:hflqMnh+
「環ちゃんが教えてくれなかったら多分、ボクは為すすべもなくその悪夢を迎えてたと思うんだ。でも、今はもう違う。環ちゃんに教えてもらったんだもん。そんな不吉な未来、ボクが許さないよ! ばーん! って、吹っ飛ばしちゃうんだから!」
努めていつもの明るい口調で言ったつもりだが、果たして出来ていただろうか。
結局、この直後、環は本格的に泣きはじめてしまい、さくらは泣き止むまでずっとその華奢な肩を抱き続けていた。

 ◇ ◇ ◇

「予知夢なんかじゃなくて、単なる悪夢であって欲しかったけど……この状況じゃあ無理そうだね……」
殺人事件なんて早々起こるもんじゃないし、通り魔か異常者に気をつけておけば大丈夫だろう……。
そんな考えは突然始まった殺し合いがあっさりと打ち壊してしまった。
めったに事件など起きない初音島と違い、今の状況ではありとあらゆる可能性が考えられる。
ゲームに乗った者による襲撃もそうだし、恐怖で錯乱した誰かが銃を乱射する可能性もある。
あるいは心優しい純一の事、誰かを庇って…と言う事もありえる。
つまり、環の予知を現実のものにしかねない容疑者はこのゲームの参加者全員。
誰が純一を殺すのか分からない以上、可能性となり得るもの全てを排除する必要がある。そう、純一以外の参加者全員を……。
「お兄ちゃんは死なせない。予知通りになんてボクがさせない。例え白河さんや音夢ちゃんをこの手で殺すことになっても、ボクはお兄ちゃんを守りぬく……!」
小さな魔法使いの少女はその小さな胸に悲しき決意を秘めながら、浜辺をあとにした。
少女の決意がどんな結果を生むのか、今はまだ誰も知らない……。
122血塗られし予言 ◆3Dh54So5os :2007/03/16(金) 16:39:04 ID:hflqMnh+


【H-8 浜辺/1日目 深夜】

【芳乃さくら@D.C.P.S.】
【装備:ミニウージー(残り25/25) 私服】
【所持品:支給品一式 ミニウージーの予備マガジン×3】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:環の予知した未来(純一死亡)の阻止。
1)純一を探す。
2)純一を殺害しうる相手は容赦なく殺す。
【備考】
さくらシナリオ後からの参加です。
さくらは数日前の環の予知がこのバトルロワイヤルのことを指していると確信しています。
が、必ずしもそうとは限りませんし、環の予知が外れる可能性もあります。
123彼女の“献身”:2007/03/16(金) 17:21:08 ID:55G1Uafl
「シアちゃん……」

わけが分からなかった。
何故、自分はこんな所にで殺し合いに参加させられているのだろう。
何故、シアちゃんは死ななければならなかったのだろう。
そしてこれから自分はどうすればいいんだろう。

「シアちゃん……」

一緒に人間界にやってきた一番の友達。
『神界は一夫多妻制だし、私とリンちゃんと稟くんと、3人でずっと一緒にいようね♪』
って、稟さまと再会する直前、教室前の廊下でガチガチに緊張してる私を励ましてくれたシアちゃんはもう、居ない。
無意識の内に私に渡された鞄の中に入っていた槍を抱きしめる。
すると、物言わぬ槍のはずなのに、何故か私を慰めてくれている気がした。

「ありがとうございます。落ち込んでいるだけじゃ、駄目ですよね」

シアちゃん、と稟さまと3人で一緒に居るって言う約束は、もう果たせないけれど。

「シアちゃん、ちょっとだけ待っててくださいね」

神界の王女であるシアちゃんをあっさり殺せるような人間が敵なのだ。
きっと彼女は私が反抗するそぶりを見せれば、あっさりと首輪を爆破するだろう。
それにこの首輪が無くても、相手は私の魔力をあっさり封印できるような相手だ。
戦ったって勝てるとは限らない。
そして戦って負ければ私だけで無く稟さままで死ぬのだ。

だから私は───
124彼女の“献身”:2007/03/16(金) 17:21:42 ID:55G1Uafl
「稟さまをお守りして、その後でシアちゃんの所に行きますから」

稟さまと二人で生きることが出来ないのなら、稟さま一人を元の日常へ返す。
そこには、私やシアちゃん、楓さんや亜沙先輩は居ないけど、リムちゃんや真弓さん、緑葉様達が稟さまを支えてくれるだろう。
彼らなら稟さまの心を癒してくれるはずだ。
私は私の役目を果たす。
稟さまと合流するまでは、会う人を全員───全員殺して、少しでも早くこの殺し合いを終らせる。
そして、稟さまと合流できれば、命を懸けてお守りする。
最後の2人になったら、自分の命を絶ち、稟さまに生還してもらう。

稟さまはそんなことをすればお怒りになるでしょう。
シアちゃんだってそんなことを望んでないのは分かってます。
でも、戦わなければ、この手を血で汚さなければ稟さまをお守りできないのなら、そうするしかないじゃないですか。

何故か魔法の調子が悪くて、相手を攻撃するような魔法は使えないけど、もこの槍を通せばいくつかの魔法が使える。
この槍の魔法は戦闘には適さないけど、どんなに傷ついても魔力が尽きるまで稟さまの為に戦うことが出来る。
そして幸いにも私にはお父様、そしてリコリスから受け継いだ強大な魔力がある。
───なら、私は最後まで稟さまの為に戦い続けれるはずだ。

最初はリコリスの想いだったかもしれない。
でも今のこの想いは私自身の想い。
絶対に、稟さまは死なせない。
125彼女の“献身” ◆A6ULKxWVEc :2007/03/16(金) 17:22:42 ID:55G1Uafl
【ネリネ@SHUFFLE】
【装備:永遠神剣第七位“献身”】
【所持品:支給品一式】
【状態:健康】
【思考・行動】
1:稟を探す。その途中であった人間は皆殺し
2:稟を守り通して自害。
【備考】
ネリネの魔法(体育館を吹き飛ばしたやつ)は使用不可能です。
※これはネリネは魔力は大きいけどコントロールは下手なので、制限の結果使えなくなっただけで他の魔法を使えるキャラの制限とは違う可能性があります。
※永遠神剣第七位“献身”は神剣っていってますが、形は槍です。
※永遠神剣“献身”によって以下の魔法が使えます。
尚、使える、といっても実際に使ったわけではないのでどの位の強さなのかは後続の書き手に委ねます。

アースプライヤー  回復魔法。単体回復。大地からの暖かな光によって、マナが活性化し傷を癒す。
ウィンドウィスパー 防御魔法。風を身体の周りに纏うことで、防御力を高める。
ハーベスト     回復魔法。全体回復。戦闘域そのものを活性化させ、戦う仲間に力を与える。
126彼女の“献身” ◆A6ULKxWVEc :2007/03/16(金) 18:39:07 ID:55G1Uafl
>>123-125
ネリネの状態表に場所を書くのを忘れてました。
【A-2/1日目 深夜】
を追加してください。
127大地に降り立つ一人の戦士 ◆eCIyafgL6c :2007/03/16(金) 18:48:07 ID:RAwhVitJ
不幸でしか語りつくせない幼少時代。
瀕死の妹の命を救う、それが俺の全てだった。
俺は助けを求め、そしてそれに答えた『求め』と契約を交わした。
これが俺が『人』で無くなった瞬間。

契約を交わしたことを忘却の彼方に消し去って、苦しいながらも楽しかった学生時代。
アルバイトをしながらの学生生活は苦しかったけれど、それなりに幸せだった。
友も出来た。
碧光陰と岬今日子の二人。
この二人とバカをやってるときは普通の学生だっただろうか。
その瞬間だけは。

幸せな日々は唐突に終わりを告げる。
気が付いたときに俺は森の中にいた。
不意に少女が現れて、俺を切りつけた。
その後さらに別の少女が現れ、目の前では幻想的なまでの美しさを持った少女二人が剣で切りあう。
俺を切りつけた少女は敗れ、光の粒子となって消えていく。
死に様はあまりに幻想的で、俺は映画かドラマの世界に迷い込んだような錯覚を覚えた。
そのまま俺は意識を失った。

そして再び気が付くと、目の前にいたのは優しそうな女性。
傷ついた俺を優しく介護してくれた。
その女性がしゃべる言語はわからなかったが、必死になり覚えてコミュニケーションが取れる程度にはなった。
女性との日々は、慎ましやかだが楽しかった。
128大地に降り立つ一人の戦士 ◆eCIyafgL6c :2007/03/16(金) 18:48:43 ID:RAwhVitJ
それすらも打ち破るように家に兵士が現れ、俺は連れ去られる。
あくまでも、俺に平穏は許されなかった。
王に命令され、妹を人質に取られた俺は逆らえずに、ラキオスのエトランジェとなった。

幾度も戦争に出向き、仲間とともに勝利を収めた。
何人もの相手をこの手に掛けて。
月日は流れ、不意に城への侵略が始まった。
王は死に、妹は瞬の手によって連れ去られた。
正確には瞬の手下の手によって……。

状況の悪化は加速する。
俺はその後、かつての親友の碧光陰と岬今日子と対峙した。
それは敵と見方として。
今日子は神剣に心を飲まれ、光陰は助けるために必死だった。
すれ違う思い、交錯する運命と負の螺旋は止められない。
俺は親友を二人……この手に掛けた。
悲劇は止まることを知らないのだろう。

最後の決戦となるはずだった瞬との決戦。
これに勝利すれば妹を、佳織を助けられる。
全力を出し切り、俺は勝利を収めた。
だが、瞬は新たな神剣に飲み込まれエターナルとなっていった。
俺はその瞬に対抗したが、『求め』は折られ逃げることを余儀なくされた。

勝利と敗北を同時に味わい、俺は決意した。
自らもエターナルとなることを、瞬との戦いに決着をつけることを。
隣にはいつも俺の隣で戦ってくれた女性もいる。
彼女となら何があっても大丈夫と思えた。
そして………
129大地に降り立つ一人の戦士 ◆eCIyafgL6c :2007/03/16(金) 18:49:46 ID:RAwhVitJ



気が付くと俺は廃屋と化したアパートの中にいた。

「………」

状況の確認に約三分の時間を要した。
先ほどのタカノという女性の発言でもわかるが、ここは今までいた世界ではない。
新たな世界。

「殺し合い……ふざけるな」

あそこには遠めでも何人もの女子供がいた。
いや、女子供ばかりと言ってもいい。
俺は殺し合いをする気などはない。
だが……嫌だとも言ってられない。
きっと殺し合いに乗る者も少なからずいる。
それを倒すことが、結果的に傷つく人は減らせるはずだ。

悠人は決意を固め、支給品の確認を行う。
出てきたのは大きな剣と少し長い銃と、そして……。

「首輪探知機か……これでまずは人を探さないと」

悠人は不慣れな銃をバッグに戻し、剣と探知機を持つことを決めると次は名簿を開く。
自分の名前のすぐ傍に、それはあった。

「アセリア、エスペリア二人も呼ばれたのか」

常にファンタズマゴリアで共に戦った仲間の名。
二人がこの場に呼ばれたのは心強い。
130大地に降り立つ一人の戦士 ◆eCIyafgL6c :2007/03/16(金) 18:51:24 ID:RAwhVitJ
「行くか」

目標は東にある人の反応。
高嶺悠人は探知機が示すその場所へ駆け出した。





島に転送されて数時間を経過した今、白鐘沙羅は園崎詩音に襲われていた。

「うわあああああああああ」

沙羅は森に転送されていた。
そこですぐにバッグを開け武装していればまだマシだった。
北上して市街地に出てベンチに座ってから調べよう。
その甘い考えが完全に仇となった。
両手に銃を握り、暗視ゴーグルを構えた詩音と丸腰で逃げる沙羅。
この二人しか森の中には存在しなかった。

「死んでください。楽になりますよ」

詩音は逃げる沙羅に向けて何発か銃を撃つ。
先ほどのスタングレネードの影響により沙羅の姿が若干かすんで見える。
それを補うために何発か撃っているのだが、走りながらというのもあり狙いがぶれる。
射撃センスが決して悪くない詩音を相手に、沙羅が未だに命を永らえたのはそのアドバンテージがあったからだ。
131大地に降り立つ一人の戦士 ◆eCIyafgL6c :2007/03/16(金) 18:52:01 ID:RAwhVitJ
「くそっ!武器は何か!?」

沙羅は走りながら必死でバッグを開け、手探りで武器を取り出す。

「当りだっ!」

感触に手ごたえあり。
沙羅は振り返り、襲撃者に対して反撃を開始する。

「っ!?」

突然の弾幕に詩音は慌てて木に隠れ身を隠す。

「どうして襲った?私は別に殺し合いに乗る気は無いぞ。落ち着いて話し合わないか」
「……」

聞こえない。
沙羅の説得に全く反応が無い。
先ほどの銃声が鳴り続いたのが一転。
完全無音の静寂世界。
沙羅はそれが逆に不安になった。

(どこにいる?)

平静を装いながら辺りを見渡すが、そこに人影は無い。
逃げたと思いたいが、それなら逆に走る足音がすると思う。

怯えた。沙羅は先ほどとは違う、待つことに恐怖を覚えた。
132大地に降り立つ一人の戦士 ◆eCIyafgL6c :2007/03/16(金) 18:53:06 ID:RAwhVitJ


詩音は足音を立てずに、沙羅の右側側面に回りこむように歩き出した。
先ほどの弾幕は大型の銃の可能性が高い。
側面に回りこんで撃てば、仮に気付かれても先に自分の方が相手に銃を撃てる。
今、自分は狩人で相手は狩られる子羊。
自らに何度も言い聞かせた。
そして遂に、詩音は沙羅の右側面距離は直線十メートルという位置にたどり着いた。

「死ねええええええええ」

詩音は沙羅に銃口を向ける。
振り返る沙羅の表情は恐怖の色に染まっていた。
狙いがそれるのを意識し両手で合計六回引き金を弾いた。
狙いは全て恐怖に彩られた沙羅の顔だ。
133大地に降り立つ一人の戦士 ◆eCIyafgL6c :2007/03/16(金) 18:54:32 ID:RAwhVitJ


この世界にいるのが二人だけ。
狩る者、園崎詩音。
狩られる者、白鐘沙羅。
この二人だけで構成されたものであれば沙羅は狩られていただろう。
でももしも第三者が介入したら。
そのもしもがたった今起きた。
沙羅に向けられた銃弾は全て、目の前に現れた男が大きな剣を盾にして受け止めた。


時間は少し遡る。


「銃声だ。殺し合いをやってるのかよ」

悠人は急いで銃声の元に走る。
探知機の反応は二つ。
どっちかが死んでからでは手遅れだ。
それを避けるためには、一刻も早く駆けつける必要がある。

しかし現場にたどり着くと同時に新たに別の銃声も響く。
銃撃戦。
悠人は一時身を潜め、どっちが殺し合いに乗っているのか見極めることにした。
だが答えはすぐに出た。
134大地に降り立つ一人の戦士 ◆eCIyafgL6c :2007/03/16(金) 18:55:54 ID:RAwhVitJ
「どうして襲った?私は別に殺し合いに乗る気は無いぞ。落ち着いて話し合おう」
「……」

このやり取りで少なくとも、小柄な方の女性は襲われた側というのがわかる。
そしてもう片方の恐らく襲撃者であろう、やや長身の女性は慎重に移動している。
銃撃する場所を探っているのだろう。
悠人は二人の位置を計算して、すぐに撃ち合いを止める位置に移動を続け時を待っていた。


そして現在に至る。


「どうして殺し合いに乗る。自分だけが生き残ればいいのか」

悠人は強い声で説得に入る。
剣を振り上げ、攻防一体の構えで返答を待つ。

「……ここは逃げるが勝ちですね」

詩音は言うが早いか残弾をありったけ発砲する。
悠人はそれを落ち着いて剣で受け止めるが、その隙を好機とばかりに詩音は全力疾走で逃げ出してしまう。

「………逃げられたか、くそっ…………さて、大丈夫か?」

後ろで呆然と立っている女性に声をかける。

「……えっ、あっ…ごめん。私は白鐘沙羅だ。余計なことをしてくれたな。あれぐらい私でも……でも、
助けてくれて……あっ、ありが……とう」
「俺は高嶺悠人だ。よろしくな」
「礼は言ったが、本当にあれぐらい私なら何とかできたんだからな」
135大地に降り立つ一人の戦士 ◆eCIyafgL6c :2007/03/16(金) 18:56:46 ID:RAwhVitJ
【B-4 西部の森/1日目 黎明】

【高嶺悠人@永遠のアセリア −この大地の果てで−】
【装備:カルラの大剣@うたわれるもの 首輪探知機】
【所持品:支給品一式 ベネリ M3 スーパー90  8/7+1 ベネリ M3 スーパー90 の予備弾28】
【状態:若干の疲労】
【思考・行動】
1:白鐘沙羅と情報交換
2:アセリアとエスペリアと合流
3:出来る限り多くの人を保護
4:他者を傷つける人間は無力化する(先ほどの襲撃者は確実に拘束する)
5:なんとしてもファンタズマゴリアに帰還する
【備考】
悠人はルートは未指定ですが、エターナル化の試練を受ける直前からの参加です。

【白鐘沙羅@フタコイ オルタナティブ 恋と少女とマシンガン】
【装備:USSR AK74 10/30】
【所持品:支給品一式 USSR AK74の予備マガジン10 不明支給品残数1〜2】
【状態:中程度の疲労 精神的疲労大】
【思考・行動】
1:高嶺悠人と情報を交換する
2:双樹と恋太郎を探す
3:首輪の解除方法を探る
4:主催者を倒す
136大地に降り立つ一人の戦士 ◆eCIyafgL6c :2007/03/16(金) 18:57:21 ID:RAwhVitJ
「はあはあ。ここまで来れば」

詩音は全力で走り続け、息を整えて木にもたれ掛かり腰を下ろした。
結局殺しそこなったがしょうがない。
あんな馬鹿でかい剣を振り回す化け物と戦ってはこっちの方が危険だ。

「とりあえず…深呼吸」

息を落ち着かせると、詩音はマガジンの交換を行った。


【B-4 中部の森/1日目 黎明】

【園崎詩音@ひぐらしのなく頃に祭】
【装備:ベレッタM92F×2(9mmパラベラム弾15/15+1,15/15+1 暗視ゴーグル】
【所持品:支給品一式、予備マガジン×8】
【状態:疲労甚大 視力やや低下】
【思考・行動】
1:とにかく体力が完全回復するまで休む
2:その後ゲームに乗り、元の世界に帰る。小町つぐみは確実に殺す。
3:さっきの女と男を隙を見つけて殺す。
4:弱そうな人間を見つけて、武器を奪ってから殺す。
5:圭一達部活メンバーは殺したくないが邪魔をするのであれば殺す。

137 ◆nHFuKOoL/s :2007/03/16(金) 19:44:03 ID:JsQPIkw+
俺が飛ばされた場所は学校の屋上だった。
飛ばされた時間が深夜の零時三分、あのホールで確認した時は十一時五十五分ごろ。
と言うことは何だ、悪の秘密結社の新兵器か、はたまた宇宙人のオーバーテクノロジーか、
俺たちは各々別々の場所に文字通りワープしたってことか?
ただわかってたのはあの連中が普通じゃなかったってことだけだ。
これからは落ち着いて考えてから行動しないと命を失うことになるだろう。
とりあえず俺は屋上から見える学校の周りを確認することにした。
いくつかのめぼしい施設を見ているときに、ふと目の端に動くものが見えた。
(あれは……人か?)
ここからでは良く見えないが誰かがこの学校に向かって歩いてくる。
そして俺はさらに気づいた、そいつの背後から気づかれないようにもう一人の人間が尾行しているのを。
「沙羅ッ!双樹ッ!」
その瞬間俺は駆け出した、隠れていたほうの人間は機を見て前の人間を殺そうとしているのかもしれない。
そして殺されかかっているのは自分の助手である、あの双子かもしれなかったのだ。
そう考えたらいても立ってもいられなくなり俺、双葉恋太郎は屋上を飛び出し階段を駆け下りた。
138 ◆nHFuKOoL/s :2007/03/16(金) 19:44:34 ID:JsQPIkw+
「うわあああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
すぐ下の階から叫び声が聞こえる、若い女の子の声だ。
「くっそ!沙羅、双樹!」
俺は全段飛ばしで階段を飛び降り、声がする場所に全速力で向かった。
(間に合った!)
叫んでいた女の子は頭を抱えうずくまっていた。そのそばをもう一人の女の子が呆然と見ている。
そのどちらもが沙羅でも双樹でもなかった。
「おい、お前いったい何をして……」
俺は突っ立ってるほうの女の子に声をかけた。
ただ見ていただけだった事からも敵意は無いのだろうと想定してのことだった。
しかし事態はさらに重かった。こっちを呆然と振り向いた女の子も泣いていた。
そこでこの女の子は突っ立ってたんじゃなく、硬直して動けなかったんだということに気付いた。
両方ともかなりテンパっていた。混乱のどつぼの中、辺りに声が響き渡る。
(な、なんだココは!?)
俺は一人は廊下の真ん中で大声を出し続け、一人はそのそばで硬直し続ける
二人の女の子を落ち着かせるために、多大な労力を払う事になった。

     *     *     *
139 ◆nHFuKOoL/s :2007/03/16(金) 19:46:32 ID:JsQPIkw+
「落ち着いたか?」
俺は二人の少女に声をかけた。
あれだけ大声を出したのだから他の人に気づかれるかとも思ったが、どうやらそんな気配は無いようだ。
「いっやー、申し訳ないデス。ちょっとだけびっくりしてしまったのデス」
大声を上げていたほうの女の子はいけしゃあしゃあとそう言った。
「あれがちょっとか?んで君はもう大丈夫か?」
立っていたほうの女の子は少し離れたところにで警戒した視線をこちらに向けていた。
「いじめる?」
「いや、いじめないよ。つか、んな気力ももう無い。だからちょっと落ち着け」
俺はなるべくおちつかせようと優しくそう言った。
それで幾分か警戒を解いたのであろう。女の子は小さく「うん」と言って頷いてくれた。
「んで、いったいどうしてこんな事に?」
俺は今まで感じていた疑問を素直に告げた。
この女の子達が相手を攻撃しようなどとは考えないだろうという事はこの数分で身に染みてわかっていが、
そんな子達があんな状況になると言うのは話が繋がらなかった。
「えっとデスね。四葉はこの人のことを尾行してたのデス」
大声を出していたほうの女の子、四葉と名乗った彼女がそう言ったことには少なからず驚いた。
「えっ、お前がこいつを追いかけてたのか?それで何でまた」
「はい。森で見かけたときはすぐに声をかけようと思ったのデスが、校舎に入ったところで見失って……」
「私が気づいて声をかけたの」
もう一人の女の子が後を継いでそう言った。
「後ろから声をかけたからきっとびっくりしたんだと思うの。ごめんなさい……」
「いえいえ、気にしなくていいのデスよ!びっくりした四葉が悪いのデス!」
140 ◆nHFuKOoL/s :2007/03/16(金) 19:47:17 ID:JsQPIkw+
「はぁ、まぁ一応事の顛末はわかった。ところで君の方は何でここに?」
俺は立っていたほうの子に声をかけた。
「私が気づいたときには森にいたの。そこからこの学校が見えて、ここの体育館が最初にいた場所、
 あの最初にみんなが集まってたホールに似てたの」
四葉と名乗ったほうはあの惨劇を思い出したのか怯えた表情を見せた。
「ふぅむ」
体育館のことは屋上にいた時点で俺も気づいていた。もしかしたらあの惨劇があった場所はここかもしれない。
「それはおいおい確認する事にしよう。
 そういえば自己紹介がまだだったな。俺は双葉恋太郎、ニコタマで探偵事務所を開いてる」
一瞬暗くなりかけてた四葉が探偵と言う言葉に反応する。
「探偵さんデスか!?チェキーッ!何を隠そう四葉も探偵を目指しているのデス!」
「お前も探偵を?いやぶっちゃけあんまいいもんじゃないぞ。人の裏側を見る事も多いし、
 テレビみたいにモリアティ教授がいるわけでもない……」
「モリアティ教授は小説ですよ。それにそんなの関係ないデス、四葉の夢なんですから!」
「ふーん。そこまでしてなりたいのか……」
そこで何事かを考えていたもう一人の子がふと顔を上げてこう言った。
「兄妹?」
「ちがうわい!何を見たらそうなる!」
「えっと、でも名前が双葉さんと四葉ちゃんだし、同じ探偵さんだし」
「確かに凄い偶然だが全然違う!第一俺の双葉ってのは苗字だが四葉ってのは名前だろ!」
「そうなのデスよ、四葉の兄チャマはもっとかっこいいのです!」
「えっ?そこなの……」
俺はこの状況に呆れながらも先を促した。
「んで、君は?」
「えっと、こんにちは、はじめまして。3年A組の、一ノ瀬ことみです。
 趣味は読書です。もしよろかったら、お友達になってくれると、嬉しいです」
「もちろんなのデスよ〜。チェキです〜」
「これは親切にどうも」
141 ◆nHFuKOoL/s :2007/03/16(金) 19:48:02 ID:JsQPIkw+
これでやっと二人の名前がわかったわけだが、ここで和んでるわけにも行かない。
「自己紹介も終わったところで状況確認だ。君達は何でここに?」
「わからないのデス、気づいたらここにいたのデスよ」
ふむ、俺と同じか。みんな何らかの方法でここに拉致され……連れてこられたのだろう。
「二人ともここには一人で」
この質問に二人は急に暗くなった顔で答えた。
「私といっしょにお友達が来てたの。朋也くんに杏ちゃん、
あと生徒会長の坂上智代さんと朋也くん仲良しの伊吹風子さんって子もしってるの」
「なるほど、朋也、杏、智代、風子ね」
俺は鞄から出した名簿で一人ずつ確認していった。
「そして四葉のほうの知り合いは?さっきのかっこいい兄チャマとか言うやつか?」
四葉は名簿を捲りながら首を横に振った。
「いえ、兄チャマは来てないみたいです。そのかわり四葉の姉妹達が何人か……
 衛、咲耶、千影って子たちです」
俺は一人ずつチェックしていく。
「そうそう、俺の知り合いに白鐘沙羅ってのと白鐘双樹っていう姉妹がいるんだ
 見つけたらよろしく頼むな」
「何言ってるんデスか!私達は今から一緒にこの事件を解くのデスよ!」
「自分で見つけてあげたらいいと思うの」
俺はその言葉にハッとなる、何を当たり前な事を失念してたんだ。
「それもそうだな、もしもの話だよ。まぁ、あいつらの事だから何だかんだで大丈夫だろう。
 そういえばランダムアイテムが入ってるとか言ってたな」
俺はまずランタンを取り出し目立たないくらいに明かりを調節し鞄をあさり始めた。
他の二人も俺を真似て鞄の中身を出している。
「俺の道具は……これだけか……」
中から出てきたのは虫眼鏡と昆虫図鑑だった。これで何を見ようと言うんだ。
「わー、いいのデスー。四葉のと交換して欲しいのデス」
142 ◆nHFuKOoL/s :2007/03/16(金) 19:49:02 ID:JsQPIkw+
そういって彼女が取り出したのはリボルバータイプの拳銃だった、あれは確か……
「S&W M60 チーフスペシャル、小型リボルバーとして名高いM36のステンレスバージョンなの」
「あ、そうそう、それ。つかなんでそんなに詳しいんだ?」
「ご本で読んだの」
そう言った彼女の手にはでっかい鉈が握られていた。思わず体が仰け反る。
「うわ、びっくりした。何だそりゃ?」
「私の鞄に入っていたの、他にはジャムとパンが入ってたの」
ことみはそれらを順番に取り出していった。
「私のところにはこの銃と弾、それに『参加者の術、魔法一覧』ってのが入ってるだけです」
すでに虫眼鏡をひったくった四葉のもう一つの手には手にファイルが握られていた。
「んじゃ武器になりそうなものは鉈と銃だけか、確かにこれは俺がもってた方がいいな。」
俺は銃を受け取り弾を込めておいた。
143 ◆nHFuKOoL/s :2007/03/16(金) 19:49:59 ID:JsQPIkw+
「で、これからの行動なんだが、とりあえず体育館に行こうと思う」
これは俺とことみが気づいたことの確認だ。もし事件の発端がここなら主催者の残した手がかり見つかるかもしれない。
「でも凄く危険だぞ、まだ奴ら、タカノとか誰かが言ってたが、そいつらの仲間がいるかもしれないし……」
「何言ってるんデスか!四葉も探偵を目指すもの!少々の危険なんかで怯まないのデスよ!」
「その割にはさっきギャーギャー騒いでたけどな」
そこで四葉は痛いところを突かれましたといった顔で二の句を続けられなくなる。
「それでことみのほうはいいのか?」
「私は元々そこに行こうとしていたの。まだ誰かがいるかもしれないから……」
それはタカノとか言うやつらではなく、おそらく友達のことを言ってるんだろう。
「そうか、でも何かあったらすぐに逃げろ。俺がなるべく時間を稼ぐから」
「そんな、先生も一緒に逃げなきゃ駄目デスよ」
「まぁ俺ももちろん逃げられたら逃げるが……ってか待て、何だその先生って言うのは!?」
「あの四葉考えたのデスよ。私を先生の助手にしてくださいっ!」
「いや、助手は間に合ってるんだけど……」
「さっき言ってた双子さんのことデスか?」
「あぁ、そうだよ。今でも多いくらいだよ、ってことで……」
「ではでは、せめてここにいる間だけでも。打倒!悪の秘密結社なのデス!チェキ〜」
「あぁ、なるほどな。うーん…」
別に断る理由は無いし、どのみち協力してもらうことになる。
「わかった。んじゃよろしく頼む」
「任せてなのデスよ!チェキチェキー」
四葉は嬉しそうに虫眼鏡を振り回して飛び回った。
144 ◆nHFuKOoL/s :2007/03/16(金) 19:50:39 ID:JsQPIkw+
「こら、あんまはしゃぐな。それはそうとさっき聞き忘れた事だが何で探偵なんかになりたいんだ?」
「それはですね。四葉のおじいちゃんの影響によるものなのデス」
「へーっ、俺も親父が探偵だったからやってるってのが一番の理由だけど……」
そこで黙っていたことみがハッと気づいたように声を上げた。
「親子?」
「違う!さっきの話を聞いてなかったのか!」
「そうですよ、四葉のおじいちゃんはホームズの本を四葉にくれたんデス。別に探偵だったわけじゃ……」
「そうだ、第一俺はそんなに老けてない!まだ20代だ!」
わずかにため息をつく、本当にやっていけるんだろうか……
「もう、いい加減にしてくれよ……今から敵のど真ん中に突っ込もうとしてるんだぜ……」
ことみは素直に「ごめんなさい」と謝った。
「でも、みんな仲良しがいいと思うの」
「別に血が繋がってるから仲良しってわけでも無いだろう。大事なのはハートだよ、ハート」
彼女達は一瞬考え込みすぐに「「うん」」と頷いてくれた。
145規制回避:2007/03/16(金) 19:51:53 ID:ROWO8fOO
↑ここまでギリギリ

↓ここから問題かも
146 ◆nHFuKOoL/s :2007/03/16(金) 19:52:37 ID:JsQPIkw+
俺たちは暗い廊下を静かに進み外に出る扉までたどり着いた。
この先は屋外に設置された体育館まで見通しの良い外を歩く事になる、細心の注意を払わねばならないだろう。
後ろから着いてくる二人もそれを考えてか緊張に身を硬くしていた。
今更あれこれ注意する事も無いだろう。そう思い静かに扉を開け、慎重に外に出た。
外は間の悪い事に大きな満月が飾っていた。これでは遠くにいても俺達の事を見つけられる。
なるべく物陰を歩きながら体育館に向かって進んでいたが急に四葉が「あっ」と声を出した。
「何だ、人がいたのかっ!」
「いえ、違うんデスよ。あそこ」
そうやって指を指した先に見えたのは微かに建物の間から見えたでっかい桜の木だった。
それは校庭の真ん中に鎮座し、屋上からでもその出で立ちには眼を見張るものがあった。
危険だと感じながらももっと見やすい場所に移動する。
「うっわー、でっかいデスね。季節外れなのに満開デスよ。なんか特別な品種なのデスかね?」
「もっと近くに行かなきゃはっきり言えないけど普通のソメイヨシノだと思うの……気候とかの影響かもしれないの」
「おいおい、そんなにうるさくしないでくれ。どこに敵がいるか……」
そう言いながらも俺の視線は桜と、その上を飾る月に釘付けだった。
その月は自分の部屋の開いた天井から見えた月と同じで……急に不安になる。
沙羅……双樹……
そこで月の影に何かが映った気がした。
「あっ、UFO!」
「えっ!どこデスか!?」
「ほら!そこそこ」
「チェキー、ってわからないですよ……」
「あー、俺も見失った。つかUFOってよりも鳥だったかも……でかかった気もするけど」
そこで、ずっと黙っていたことみが冷めた目線で一言
「すっごくうるさいと思うの」
と言った。
俺たちは顔を見合わせ静かに笑った。
147 ◆nHFuKOoL/s :2007/03/16(金) 19:53:37 ID:JsQPIkw+
ようやく体育館に着いた。
扉の鍵は開いており、中は湿ったような暗黒が支配していた。
人の気配がない事を確認してランタンに明かりを灯す。
その瞬間暗闇に倒れた人間の死体が浮かび上がった。
「ゔっ」
女の子達は口を押さえて後退さった。
「やっぱりここだったんだ……」
よく見ると奥のほうにももう一つの死体が確認できた。こちらは完全に首が吹っ飛んでいる。
女の子達にこれらを調べろと言うには酷だろう。俺は
「お前達はここから見える範囲でいいから回りを調べといてくれ。特にタカノとか言うやつがいた辺りを中心に」
と指示する。
彼女達は「うん」と首を縦に振りすぐに駆け出した。
この間に俺は二つの死体を調べる。
まだ血も乾いてないようで服が赤に染まっていくがそんなことを気にしてる余裕も無い。
どちらの死体もやはりただの参加者のものだったようだがはっきりしたことは何もわからなかった。
しばらくポケットの中身などを漁るが事態は進展しない。
「おい、お前ら何か見つかったか?」
いい加減諦め近くを探していた女の子達に声をかけたが、
彼女達は黙って首を横に振るだけだった。
148 ◆nHFuKOoL/s :2007/03/16(金) 19:54:08 ID:JsQPIkw+
「仕方ない、ここにはもう何も無いようだな……」
「しょうがないですね。見つけたのはこの薬莢くらいデス」
ことみは言うには普通の9mmパラベラム弾らしい。それ以外は専門家でも無いとわからないようだ。
「誰かに見つかったらやばい。そろそろここから離れ……」
そこで俺はひらめいた。
「ことみ、鉈を持ってたよな。あれ貸してくれないか?」
「何をする気なの?」
彼女はすでに気付いてて質問してるのだろう。もしかしたら俺より早く考えてたのかもしれない。
逆に四葉は頭にはてなマークを浮かべている、これで探偵が勤まるんだか。
「ちょっと、な」
首輪は強い衝撃を与えれば爆発すると言っていた。
無理に首輪を外すことは出来そうに無い。
しかしそれは生きた人間に限っての事だ。
もし『死んだ人間』ならどうだろう。くっついた物が取りたいなら土台を壊せばいい。
彼女達にそんなことを直接言うのは憚られた。
しかし、それがあれば、その構造を調べれば、俺たちをここに繋ぎ止める“呪縛”から開放できるかもしれない。
探偵は時には汚い仕事もしなくてはいけない。
意を決して話し始めようとしたときだった。

ブーーーーーーーーー
149 ◆nHFuKOoL/s :2007/03/16(金) 19:54:44 ID:JsQPIkw+
突然体育館のスピーカーから音が漏れた。
『あらあら、まだこんな所に残っている人たちがいたようね』
あれは間違いない、タカノとか言うやつの声だ!
『言い忘れていましたがスタート地点に人がたまらないよう、
最初にいたE-4エリアは最後の人がここを出てから1時間後に禁止エリアになります』
「「「!!!」」」
全員一緒にワープしたんだからそのルールは要らないだろ!
時間にしてあと15分も無い。ここはエリア真ん中だから2キロ四方としてもエリア外まで1キロはある。
「お前ら早く脱出しろ!道なりに沿っていくのが一番早い!」
「でも先生はどうするんデスか!?」
「俺にはまだやることがある!ことみ、鉈ッ!」
ことみは一瞬逡巡したが素直に渡してくれた。
「絶対追いついて欲しいの」
受け取りながら俺は強く頷いておく。
「あぁ、任せろ。それとこれを一応持っていけ」
俺は四葉から受け取っておいた銃と弾を再び四葉に返した。
「で、でも……」
「俺がいないときに誰かに襲われたら駄目だろ、保険だよ」
不安そうに顔を歪める四葉の手をことみが引っ張っていく。
「早く行くの!」
「せんせええぇぇぇ!!」
四葉の声が体育館に響きわたった。
150 ◆nHFuKOoL/s :2007/03/16(金) 19:55:18 ID:JsQPIkw+
もうすぐ15分が経とうとしていた。ことみと四葉は既にエリアギリギリのところで待っていた。
まだ道の先に恋太郎の姿は見えていない。
「先生……」
四葉が不安そうに息を呑む。
先生から貰った虫眼鏡を握り締め、じっと先を見つめ続けた。
「あれ!」
それはすぐに四葉の目にも映った。
ことみが指差した先にあったのは台車に乗って坂を滑り降りる恋太郎の姿だった。
「先生!」
しかし恋太郎の乗った台車は直前で石に躓きひっくり返る。
とっさに駆け出そうとする四葉を必死にことみが押さえつける。
「探偵さん、早く来るの!」
「先生、せんせーい!!!
中に入れば自分も無事ではいられない事がわかっているのに、
四葉は必死にことみの腕を振り解こうと暴れ続けた。
「せんせーい!!せんせーーいっ!!!!」
恋太郎は急いで立ち上がり必死にこちらに駆けてくる。
あと数歩、間に合わない。
無残にも彼女達の前で首輪は爆発した。
151 ◆nHFuKOoL/s :2007/03/16(金) 19:55:52 ID:JsQPIkw+
「ふぅ、危なかった……」
彼が握っていた首輪はエリアを通過する直前に爆発した。
それはフカヒレと呼ばれた男の首についていたものだった。
身を乗り出して半歩進んでいなければ彼の首輪も同じ運命を辿っていただろう。
幸い爆破直前に手を離したので指がふっ飛んだりはしなかったが、
ギリギリまで命を賭けて手に入れた首輪はなくなってしまった。
「いやさ、取れたのはいいんだけどもう時間がなくてさ。たまたま近くにあった台車で滑り降りれればと、
 まぁ直前で転倒したときはもう駄目かと思……」
「先生!」
興奮した四葉は恋太郎の胸におもいっきり飛び込んだ。
「すっごくシ心配してたんデスよ!目の前で爆発が起こったときにはもう間に合わなかったかと……」
彼女は彼と最初に合った時と同様、ただし正反対で泣き続けた。
「心配かけてごめん。結局意味もなかったし」
「ううん、命あってのものだねなの」
ことみも純粋に彼が生き延びた事を喜び笑っていた。
「まぁ、それもそうだな」
彼女達は束の間の幸せを喜び、各々の形でともに笑いあった。
152 ◆nHFuKOoL/s :2007/03/16(金) 19:56:23 ID:JsQPIkw+
「それで誰かに襲われたりはしなかったか?」
再会もそこそこに彼はそう、切り出した。
「はい、特に誰とも会わなかったデスよ」
そこには知り合いも含まれてるのだろう。四葉は少し悲しそうな表情で語った。
「そうか、まぁそれはいいんだ。
とりあえず預けてた銃を返してくれないか?」
彼女の悲しそうな顔に反応せず彼はそう言った。
「はい、わかったデス。今鞄から出しますね」
健気に元気に振舞う彼女に彼はおどけた調子で言ってみせた。
「おいおい、鞄にしまってちゃいざと言うとき撃てないじゃないか」
そこで何かを感じ取ったことみが振り返り叫んだ。
「四葉ちゃん待っ」
銃声が響き渡った。
ことみは静かに前のめりに倒れようとしていた。
その光景かやけにスローに見える。
遅れてどさっと“もの”が落ちる音がした。
「な、なんで……」
彼は四葉から銃を受け取りすぐにことみに向かって発砲したのだ。
そこまでわかっていて、でも聞かずにはいられなかった。
「どう、して……」
「駄目だなー、そんなんじゃ探偵にはなれないよ。冷静な判断力と思考力!
 まぁ俺も持ってるとは言わないけど」
「どうして!なんで先生がことみちゃんを……」
「はは、彼と約束したからね。沙羅や双樹を守るんだって。
君達には嘘をついた事になるのかな。ことみにも謝っておいてくれ。ゴメンて」
震えて動けない四葉の額に銃口を向け再び引き金を引いた。
「どう……して……」
彼女の最後の言葉は、そんな言葉だった。
153 ◆nHFuKOoL/s :2007/03/16(金) 19:57:03 ID:JsQPIkw+
俺は静かに二つの死体を見降ろし、彼女らの鞄を持ってここを離れる事にした。
自分の荷物は邪魔になるのであの講堂に置いてきた。
まぁ取っていく余裕が無かったといった方が正確かもしれない。
あの場所は、地獄だった。
俺は人だったものに向かって必死に鉈をおろす。
一撃、二撃、三撃……
なかなか首は落ちなかった、ただ制限時間だけが刻々と迫っていく。
必死に打ち下ろす、血飛沫が飛ぶ。
打ち付けるたびに、死体が跳ねる。
狙いが定まらなくなる。
俺は、首輪を傷つけないよう、死体を凝視し、狙いを定め、打ち下ろす。
また血飛沫が飛ぶ、死体が跳ねる、首は落ちない。
時間だけが迫る。
頭が麻痺して、思いっきり首輪ごと叩ききってしまいそうになった時だった。
打ち下ろす前に首が落ちた。断面は刀で切ったように鋭かった。
目の前には、いつの間にか銀髪で黒い羽を生やした女の子が立っていた。
「だ、だれだ」
俺は震える声でそう言うのが精一杯だった。
「これが欲しかったんでしょう?」
女の子は俺にその首から零れ落ちた首輪を差し出した。
俺は呆然とそれを受け取る。
「あなたは何を望むの?自分の命?誰かの命?お金?それとも、力?」
「お、俺は……」
「そう、大事な人が二人もいるんだ。二人一緒じゃなきゃ駄目なのね。
 なら契約しなさい」
「契約……?」
「そう、契約よ。お父様との……」
154 ◆nHFuKOoL/s :2007/03/16(金) 19:57:45 ID:JsQPIkw+
瞬間俺は後ろに何かの気配を感じた、しかし振り向けない。

〈 汝 の 望 み は 何 だ 〉

「俺の、望みは、沙羅と双樹を守る事……」

〈 な ら ば 契 約 し ろ  〉

「契約……」

〈 汝 が 双 子 以 外 の 全 て の 参 加 者 を 殺 し き っ た と き
  汝 と 双 子 を 解 放 し よ う 〉

「解放……」

〈 わ が 望 み は 種 の 生 存 、 汝 に

  ウ ィ ツ ァ ル ネ ミ テ ィ ア の 契 約 を 〉

瞬間俺は後ろを振り返った、しかしそこにはもう誰もいなかった。
「お父様はもう行ってしまわれたわ」
「えっ?」
「契約は成立したってことよ、急がないとせっかく契約したのに死ぬわよ。
 外に台車があるからそれで坂を滑っていけば間に合うわ」
「君は……」
既に彼女いた場所には闇が広がっているだけだった。
確かに俺は沙羅と双樹を守らなくちゃいけないんだ。
こんなところで死ぬわけにはいかない。
俺は外に向け急いで駆け出した。
155Detective Life ◆nHFuKOoL/s :2007/03/16(金) 19:59:41 ID:JsQPIkw+
あの時、俺は何かを失って何かを手に入れたのだろう。
既にこの子達を殺した罪悪感はなくなっていた。
俺はこれからもためらいもなく人を殺すだろう。
銃に弾をこめなおした後、俺は次の場所に向かって歩き出した。
その時に俺の足が変な虫眼鏡を踏み砕いたのだが、
それがなんであったかは、もう思い出せなくなっていた。

【F-4/1日目 深夜】

【双葉恋太郎@フタコイ オルタナティブ 恋と少女とマシンガン】
【装備:チーフスペシャル@5 予備弾38】
【所持品:鞄×2、早苗パン@CLANNAD+謎ジャム@Kanon、参加者の術、魔法一覧】
【状態:興奮】
【思考・行動】
沙羅と双樹以外の全てを殺す
【備考】
契約したけど特に身体能力とかはあがってません
鉈@ひぐらしのなく頃に 祭は体育館に捨ててきました

【一ノ瀬ことみ@CLANNAD】
【装備:】
【所持品:】
【状態:瀕死】
【思考・行動】
【備考】
お腹に.38喰らって生きてます

【四葉@Sister Princess】死亡
156大地に降り立つ一人の戦士 ◆eCIyafgL6c :2007/03/16(金) 20:04:50 ID:RAwhVitJ
>>130

先ほどのスタングレネードの影響により沙羅の姿が若干かすんで見える。
それを補うために何発か撃っているのだが、走りながらというのもあり狙いがぶれる。

これを

先ほどのスタングレネードによるダメージはほぼ回復していた。
だが足場が荒れている森の中を走りながらでは照準が定まらず、思い通りには当たらない。

>>136の状態表の

【状態:疲労甚大 視力やや低下】

これを

【状態:疲労甚大】

にそれぞれ訂正します。
157その少女、危険につき ◆KZj7PmTWPo :2007/03/16(金) 23:31:18 ID:YbsqZgu5
 東方に聳える廃墟となったアパート群。
 人工的な光が一切届かない集合住宅は幾重にも連り、闇色に染まった外見が一層と不気味さを際立たせる。
 五指では到底足りぬほどに居並ぶアパート達は、皆例外なく磨耗し、老朽化していた。
 元は白磁のような眩い程の外壁であったはずが、今では灰色に薄汚れて見る影も無い。
 おまけに、付着した苔や絡みついた蔓が好き勝手に増殖している。その外観が、建物を永らくの間放置していたことを証明していた。
 巷で馴染まれた名称を付けるのならば、人が寄り付かない幽霊アパートとでも言うべきか。
 いや、圧倒させる様な物々しい建造物は、昭和の趣を残す軍艦アパートとも言えた。 
 どちらにしろ、見ていて気持ちの良いものではない。
 遠目からでも月光による僅かな光量のみで、そんなアパート群の様相が窺えるのだ。
 その光景を少年――相沢祐一が薄気味悪そうに眺めていても不思議ではない。

(――いかにもな、アパートだな……)
 
 廃墟に怪奇現象は付き物だと思っているのか、祐一は気乗りしないままに歩を進めた。
 決して少なくはない人間が暗所に恐怖心を催されるものだが、生憎と彼の性根はそこまで繊細ではない。
 祐一という人間は、寝静まった学び舎に躊躇なく忍び込んでしまう程図太い精神の持ち主であるからして、今更暗闇で慄くほど可愛くは無いのだ。
 ならば何故、若干気落ちした表情を浮べ、且つ廃墟のアパート群に自ら進んで向かうのか。

(まあ、近辺見渡してもココしかないからなぁ……夜を明かす場所が)

 つまりは寝床の確保である。
 本来ならばもう少し健全な場所に腰を据えたいのだが、夜間で視界がまともに機能しない以上は迂闊に歩き回ることも出来ない。
 彼とて状況に困惑しているのだから、一度気を休める場所で熟考を重ねたいのだ。
 そんな止むを得ない理由から近場の住居を選択するつもりだったのだが、眼前に聳え立つのは既に住居とは言い難い建造物。
 つまりは、この古びた廃アパートである。
 気が付いたらアパート群が都合良くも存在していたので、歩き回らないという最初の方針に従うのならば他に選択肢はない。
 正常な神経の持ち主ならば、このような不気味極まりないアパートで、一夜を共にすることが憚れて止まないのは当然なのだ。
158その少女、危険につき ◆KZj7PmTWPo :2007/03/16(金) 23:35:26 ID:YbsqZgu5
 一棟で三、四階層を誇る集合住宅の群が物騒な要塞に見えてしまい、祐一は圧倒された様子で息を飲み下す。
 それでも恐る恐るとは行かずとも、極めて慎重な足取りで半ば崩れかかった玄関口を潜る。
 内部は更なる暗闇によって視界が閉ざされ、鼻に付く埃と湿り気を帯びた空気が祐一の顔を顰めさせた。
 彼は一度足を止め、少しでも夜目を利かそうと周囲を睥睨する。
 相変わらず薄汚れた内装だが、良く目を凝らすと至る所に生活の痕跡を発見した。
 集合住宅らしい複数の郵便受けや剥がれた表札、コンクリートに転がる加工食品の残骸や児童の遊具などである。
 祐一は地面に転がる遊具を何気なしに手に取った。それは、砂場で使用するプラスチックの小さなシャベルだ。
 幼少時代に遊具として使用した記憶が蘇り、一時状況も忘れて懐古する。
 色が滲んだシャベルにスッと中指を滑らせると、触れた表面が真っ黒に染まった。
 柄本の磨り減り具合からして随分と使い込まれてはいたが、それ以上に放置されていた時間の方が長いようだ。
 人工的な住居なわけだから、規模からして嘗ては数十世帯がここで暮らしていたのだろう。
 指に取り付いた汚れを払いながら、シャベルを下あった位置へと戻して歩みを再開する。幾分か暗所に馴染んだ双眸が、上層へ昇る階段を見つけたからだ。 
 自身の居場所を知らされたくない故か、所々削られた石造りの段差を忍び足でゆっくりと踏みしめて二階に上がった。
 上階のフロアは一般のアパートのように、狭い通路の両端に幾つかの個室が備わっている模様だ。
 祐一は一番奥にある個室を目指そうと通路を進む。
 その時、通過した別の個室内から物音を聞き取った。

(――なんだ……?)

 本来ならば聞き逃すような微小な音を、緊張と警戒で過剰に昂ぶった神経が運良くも拾う。それは果たして幸運だったのか。
 聞こえてきたであろう個室の扉を穴が開くほど凝視する。調べるか否か逡巡に駆られるも、意を決してドアノブに手を掛ける。
 緊張に唾を嚥下させ、ゆっくりとした動作で慎重に扉を引いた。
 だが、錆びた金具はギイッと甲高い音を高鳴らせ、沈黙を保ったアパート内に予想外の音量が木霊して響き渡る。
 その耳障りな異音に表情を歪めるも、ええいままよとばかりに扉を一気に開け放った。
159その少女、危険につき ◆KZj7PmTWPo :2007/03/16(金) 23:37:16 ID:YbsqZgu5
「――っ」

 咄嗟に走らせた視線が、至極一般的な部屋の内装を捕らえた。
 家具などの生活用品も未だに残ってはいたが、どれも使用不能なまでに瓦礫となって転がっている。
 更に踏み込んで気が付いたのだが、先程まで淀んでいた空気が払拭されていた。朽ち果てた外壁が吹き曝しとなり、通気性を良くしていたためだ。
 ただ、室内に置かれた備品の中で唯一無事であったソファーの上に、気に掛かった物音の原因がいた。

「あ?」

 一室に設けられた罅割れの窓硝子から月明かりが差し込み、柔らかな光量に照らされた少女がソファーの上に踏ん反り返っていた。
 彼女の両手は、支給されたであろう水の容器と食料によって塞がれていた。食事中だったのだろう。
 当然、物音の原因が人間である可能性を充分に考慮していたとはいえ、まさか呑気に食事中だとは思わなかった。
 そして、この光景が何時か見た既視感のようで、つい現状を忘れて感慨に浸らせる。
 勿論食事中の少女にではない。月明かりの下で佇む少女の姿が重なったためだ。

(……そういえば、確か舞と遭った時もこんなシチュエーションだったっけな……)

 無口で無愛想な少女との出会いが、この異常な環境に置かれている今となっては遥か昔のような情景とさえ思えてしまう。
 だが、若干茫然とした祐一の目線と、憮然とした少女の目線が交差した。
 その時点で、やはり類似するのは場面だけだと気付かされる。
160その少女、危険につき ◆KZj7PmTWPo :2007/03/16(金) 23:40:29 ID:YbsqZgu5
「コラ……あに見てんのさ?」

 少女の視線が狂犬のように鋭かった。
 他者へと警戒を窺う排斥的な眼光というよりは、集中力を乱されて気分を害されたような様子である。 
 身近では、真剣に勉強していた同級生の美坂香里に面白半分に干渉した時や、漫画に熱中していた同居者の沢渡真琴に面白半分で干渉した時と状況が似ていた。
 要はちょっかいを出したという訳だ。どちらにしても自業自得ではあるが、このような視線は自覚があるからこそ甘受できるのだ。
 だからこそ、目の前の少女から身に覚えのない糾弾の視線を寄せられるのは一瞬戸惑ってしまうが、状況が状況であった。彼女の反応も頷ける。
 険が十二分に含んだ視線の鋭さと、因縁をつける悪漢と大差ない台詞によって祐一は我に返った。
 返答に適切な言葉を探していたが、その間に痺れを切らした少女は再び口を開く。

「おい、無視すんなや」
「あ、いや……。しょ、食事中だったか……?」
「…………」

 急かされて衝動的に言ってから、甚だ見当違いな話題を振ったものだと気が付いた。
 少女の祐一を見る目が露骨に変化する。言葉に意訳しなくとも一目で分かった。
 見て分かるだろ馬鹿か? といった具合に翻訳されるのではないだろうか。
 少女が下す祐一の第一印象は、どう解釈しても良好ではなさそうだ。
 ともかく、切羽詰った末の質問は大変よろしくなかった。かぶりを振って今一度目線を合わせる。

「ああ、うん。見ての通りだったな。で、何なんだお前?」

 だが、そこは折れても結局は祐一。
 自身の非を認めたにしては随分と態度が大きかった。 
 そんな調子が気に障ったのか、少女は整った柳眉をピクリと振るわせる。
 どうやら今ので軽く沸点に達したようで、優しく問答するつもりは毛頭ないようだ。

「あんたこそ何さ? 人の支配領域に汚い足で踏み込みやがって……この糞虫が」
「く、糞……。そういう性格かよ、お前……」
「そういう? オマエの短小定規でこの大空寺あゆ様を計ろうとする矮小な魂胆が己の無様さを醸し出してより惨めね……失笑を噛み殺すのに苦労するわ」
「…………」
161その少女、危険につき ◆KZj7PmTWPo :2007/03/16(金) 23:42:36 ID:YbsqZgu5
 余りの言い草に祐一も閉口する。お互い初対面だろうに、よくもここまで貶せられるものだ。
 とんだ悪態を愉悦に含ませながら述べる様子は、少女の可愛らしい外見とは著しく乖離していた。
 少女による祐一への初見の対応により、彼女の性格は最悪だと彼の理性が判断する。
 祐一と親身にする人間の中には、まるっきり存在しないタイプの人間だ。
 ただ、先の罵倒された台詞中に彼女の名前が含まれていたことの一点だけは、反論せず黙って聞いていて正解であった。
 この手の強情な人間は、名前一つ聞き出すことにさえ苦労しそうだからだ。
 ともかく、少女――大空寺あゆとの会話を成立させなくてはならない。
 祐一としても、発見した人間をハイサヨナラと訳も無く別れさせるつもりは無いのだ。
 改めて口に出して認識したいこともあるし、状況の把握に他者を使って確認もしたい。
 今も尚、祐一を遥か彼方に見下したあゆとのこれからの会話に辟易とするが、それすらも止むを得ない事態だ。
 異文化コミュニケーションの第一歩として、まずは自己紹介である。
 よって、早々と名前を聞き出せたことは僥倖と言える訳だ。

「えーと……大空寺あゆでよかったよな? しかし凄い名字だな大空寺って……」
「余計なお世話だ芋野郎っ。庶民風情には高尚過ぎて理解に苦しむだろうけど――」
「という訳で大空寺、俺は相沢祐一。好きなように呼んでくれ」
「無視すんなやあぁ! てか、どういう訳よ。別に虫の名前に興味なんてないさ。あと、呼び捨てにすんなっ」
「ああ、分かった。んじゃ、今後はあゆあゆと親しみを込めて呼ぶからよろしくな!」
「聞けよ糞虫が! そもそもド底辺の便所虫がのさばって調子を――」
「――あーはいはい。糞糞ね、って今度は便所かよ……」
162その少女、危険につき ◆KZj7PmTWPo :2007/03/16(金) 23:44:28 ID:YbsqZgu5
 口は非常に悪質だが、こういった性質の輩は実のところ扱い馴れている。同居人である真琴の悪態さを当社比数倍にしたと考えればいい。
 基本的に主導権を与えぬよう、畳み掛けるように応戦してやることが上策である。
 幸いなことに、あゆは感情の起伏が明らかに激しい。
 故に、会話が誘導しやすいのだ。血を昇らせた彼女の対処法としては、まともに取り合わずに聞き流してまえばいいのではないだろうか。
 一方気をつけるべきは、逆の可能性も考慮に入れる必要がある。沸騰した分、冷めやすいと言うべきか。
 反対に畳み掛けられたら、ぐうの音も許さない程ボッコボコに凹まされそうだ。それは御免被りたい。
 文字通り祐一へ喰って掛かるあゆを片手でいなしつつ、早速情報のやり取りを行う。彼女には、他者を使った状況把握に一役買ってもらうことにする。

「まあ、落ち着けって。代わりに俺のこともユウユウやユウちゃんとでも呼ばせてやるからさ」
「呼ぶかっ! お前こそ訂正しろ……。私のことは、誉れ高い知勇で才色兼備且つ純情可憐なあゆ様と恐れ多くも呼ばせてやる。ほら、泣いて喜べ糞が」
「……しかしお前、口を開けば激しく損してるな……」
「あんですとーっ!?」

 容貌が際立っていることは認める。
 祐一の価値観から見ても、あゆは確かに誇れる程の美少女だ。口さえ開かなければだが。
 彼の知人に月宮あゆという同名の少女がいるのだが、正しく性格が天と地ほどの隔たりがある。似ているのは背格好だけであった。
 今にも噛み付かんばかりの様子に苦笑しながら、どうどうと刺激しない様に柔らかく宥めすかす。
  
「あゆと言っても……ま、別人だからな」
「あにさ?」
「何でもない。ところでだ――」

 同じあゆ同士だけに、戯れることはある意味楽しいのだが、それでは何時まで経っても本題には入れない。
 祐一は一度咳払いをし、再び面を上げた時には真剣な表情を浮かばせていた。
 その移り変わりに、あゆも興が殺がれた様に鼻を鳴らす。
163その少女、危険につき ◆KZj7PmTWPo :2007/03/16(金) 23:45:18 ID:YbsqZgu5
「――今回のこと、どう思う……?」
「別に。ただの殺し合いでしょ」
「いや、そうなんだが……。随分とドライだな?」

 言葉にするのは憚れたので濁したつもりだったのだが、あゆが何の淀みもなく“殺し合い”という言葉を紡いだことは予想外だった。
 別に歳相応な反応を求めていた訳ではない。自分と同じで、少しは状況に困惑していると思っていたのだ。
 そんな祐一の疑問を斬って捨てるように、あゆは偉ぶった尊大な態度でジロリと睨みつける。 

「今更右往左往したって時間の無駄よ。人が既に死んでるし、これが冗談事なら出来の良さに主催者を褒めてやってもいいさ」
「だよな。イベントにしては幾らなんでも悪趣味なわけだし。……どうにかするしかないか」
「……意外と冷静ね。顔面粘膜でグチャグチャにした方が面白いのだけれど」
「何を言い出すんだお前は……。そもそも、俺だって一応混乱してるんだぞ」
「あっそ」

 訳も分からぬ内に集められ、殺し合いを強要されているのだ。
 普通なら大人しく従うはずも無いのだが、現に人を殺して見せ、避けられぬ条件を課せられた以上、ルールに乗らなければ存命は保障できない。
 条件の内、最大のネックは遠隔操作による爆破が可能な首輪に意志を束縛されていることだろう。
 この絶対的な要因に抵抗する気力は削がれ、死を受け入れたくないのならば殺すしかないという強迫観念が無意識に生じるのだ。
 数十人の参加者の中で、ルールに乗らずに共倒れを望む人間など少数派に過ぎない。最早殺し合いが行われることは既に必至となっている。
 こんな殺伐とした環境下を、何事も無く甘受した人間の方が異常と言えるのではないだろうか。
 その間、状況を真摯に受け止めている人間がいるのならば話は早い。泣き叫んで錯乱した状態よりかは、遥かに手間も掛からない。
 第一として如何に生き延び、次いで如何に脱出するか。考えなくてはならない。
 
「ちなみにお前はどう思う? ここから脱出できると思うか」
「さぁ、見当も付かないわね。……それにしても無用心な男。私が殺し合いを進んで行う人間なら死んだわよ」
「ん? まぁ、な。でも、大丈夫なんだろ?」
「私に聞くな。依然に、根拠も無いのによくもまぁ近づいたものね。実は馬鹿でしょ?」
164その少女、危険につき ◆KZj7PmTWPo :2007/03/16(金) 23:47:41 ID:YbsqZgu5
 あゆの不躾な問いかけに、祐一は少なくとも自覚があるのか、肩を竦めて曖昧に誤魔化した。
 彼女を安全だと判断したが、そこに深い意味はない。当てになるかも分からぬ、自身の直感でしかないからだ。
 容姿や性格はともかく、自分の感性に従って物事を容赦無く斬り捨てる人間は嫌いではない。要は分かりやすくて好ましい。
 あゆの場合、若干言論が行き過ぎな気もするが。
 祐一は逸れた本題を戻そうと、肩に背負ったデイバックから地図と名簿を引き抜いた。

「大空寺は見たか?」

 彼は名簿を軽く振って言った。

「実は名簿を見る暇が無くてな、俺はこれから見るんだが……」
「で?」
「いやなに、見たなら知り合いはいたか? 情報交換でもと思っただけだ」

 言葉だけを投げかけ、祐一はすぐさま名簿を開いて目を落とした。
 本来ならば名簿を第一優先で確認したかったのだが、彼が飛ばされた場所は暗い夜空の下。
 闇夜の真っ只中でランタンの光を灯すのは無用心に思えたためと、先に前述した通り、気休め程度の据え置き場所を求めていた為に順序が遅れてしまったのだ。 
 それでも、支給品の有無はこのアパートを訪れる前に予め確認済みであった。
 武器の存在に気付かずに犬死など、考えるうる限りでは最も間抜けな死に方だ。
 祐一に支給された品は二つ。
 一つは刃渡り二十センチ程度のハンティングナイフ。刃毀れ一つないために、切れ味は非常に良好だ。
 二つ目が、送受信を兼ね備えたトランシーバー二台だ。この二台間で通信の遣り取りを行えるという便利な代物だ。一台が壊れたらその時点で鉄屑と化すことが難点だが。
 そして、先送りにしていた名簿の確認も今ならば可能だ。
 この一室ならば充分な月光に恵まれており、目を細めれば文字とて見えないことは無い。
 名簿に視線を走らせる祐一の横では、あゆがまどろっこしい様子でデイバックに腕を突っ込んでいた。
 どうやら彼女も未読のようだ。
 あゆの行動を尻目に参加者の名前を順々と辿っていた祐一だが、その瞳が段々と険しくなっていった。
165その少女、危険につき ◆KZj7PmTWPo :2007/03/16(金) 23:50:21 ID:YbsqZgu5
「――舞に北川……。佐祐理さんにあゆまで……。名雪までいるのかよ、クソっ」

 ある程度覚悟はしていたが、まさか五人もいるとは思わなかった。
 彼女達と同じ学び舎で謳歌していた青春を阻害されたと思うと、此度のふざけた催し事に本気で怒りが湧いてきた。

(あいつ等と殺しあえってのか? 冗談じゃない……)

 冗談ではないが、それでも殺し合いの連鎖はこれから築かれていくのだろう。
 勿論、祐一は彼女達の事を信用している。が、彼女達が祐一に全幅の信頼を寄せているかは疑問に尽きる。
 また、選出された人間の基準が分からない。まあ、これを気にする必要はないのかもしれないが。
 ともかく、彼女達の主観を知りえぬ今、迂闊だが合流する必要性も無いとは言えない。少なくとも、赤の他人よりかは安心して背中を預けることが出来る。
 行動するのならば日が昇った明朝か。闇に乗じて捜索をしてもいいが、自身の不利も明瞭だ。
 
(さて、どうすっかな……)
 
 頭を悩ます祐一の傍らで、熱心に名簿に目を通していたあゆが小さく声を洩らした。
 自分と同じく知人を発見したのだろうと当たりを付け、良心的に気休めの言葉でも掛けようと口を開く。

「どした? 知り合いでも見つけたか?」
「あ? あぁ……ヘタレ虫を一匹程見つけただけさ」

 彼女は目尻を落としながら無関心を装い、名簿を乱暴にバックへと放り投げた。
 感心を寄せていない様子から、その『ヘタレ虫』とはあまり親しくは無いのだろうか。
 あゆの暴言は今に始まったことではないので、実際その人物がヘタレかどうかも怪しいものだ。
 ヘタレ虫なる人物の名前を聞き出したい所ではあるが、恐らく答えてはくれないのだろう。
 一応、念のために――

「ちなみに本名は?」
「関係ないだろ」

 案の定だ。元より期待はしていなかった。
 干渉して気分を害しても益は無いので、これ以上は触れずに別の話題を振ることにする。
166その少女、危険につき ◆KZj7PmTWPo :2007/03/16(金) 23:52:37 ID:YbsqZgu5
「別にいいけどな。それよりも俺たちが一箇所に集められた時……殺し合いの説明をした女の人いたろ?」
「……あの傲慢ちきで鼻持ちならない陰険気質の――」
「――皆まで言うなって、てかお前が言うなって。ちなみに俺もあんな狂った女は願い下げだ。確か……そうそう。タカノだタカノ」
 
 祐一の発言に激昂するあゆを手で遮りながら、先程繰り広げられた凄惨な情景を思い巡らせる。
 あの時一人の少年が声高に叫んでいたのは、確かにあの女の名前だった。偽名かどうかはともかく、タカノに間違いは無い。
 自分達は圧倒的に敵対者の情報が不足している。
 祐一が現時点で予想を立てられることといえば、これだけの人数を無抵抗に集められる手腕は断じて一個人の仕業ではないということだ。
 恐らく、タカノ陣営は祐一達一人一人の経歴を熟知しているに違いない。そして、こちらは何も分からない。
 不利な立場に立たされた上で、如何にして情報を収集するのか。
 ここで重要なのは、女の手掛かりを持ち得そうな人物。つまりは、タカノを名指しした少年だ。
 十中八九、タカノと少年は同郷の知人なのだろう。
 余り参考になるとは思えない微々たる情報だとは思うが、何の方針も定めずに殺し合いに乗るよりかは幾分も増しである。
 たが、肝心の少年の名前が思い出せない。タカノが口走った少年の名前は、彼女よりインパクトが低い分喉奥に引っ掛ったままで吐き出せない。

「――あ〜、思い出せん。タカノの知り合いの……なんだっけな……」

 頭を捻らす祐一へ、ぼそりとした救いの発言が寄せられた。

「――前原」
「え?」
「だから前原よ。性悪女の名前を叫んでいたジャリでしょ? んじゃ前原ね」

 ――前原……そうだ。
 脳裏の片隅に残っていた名前が浮かび上がる。小骨が喉奥から取り除かれた気分だ。
 タカノは利発そうな少年のことを前原君と呼んでいた。間違いないだろう。
 しかし、あの状況下であゆはよく覚えていたものだ。
 感心を言葉に変えて送りたい所だが、変に噛み付かれるに決まっている。――黙っておくことにした。
 祐一は再び名簿へと視線を落とし、明記された名前を指でなぞっていく。
167その少女、危険につき ◆KZj7PmTWPo :2007/03/16(金) 23:55:19 ID:YbsqZgu5
「……いた。前原圭一だな」

 祐一の指が前原圭一の名前と重なった。
 少しは興味があるのか、あゆも祐一の肩越しから覗き込む。

「ふん、前原圭一ね……。で? この餓鬼と合流するつもり? あの女との対応からして、碌な情報は望めないとは思うけどね」

 あゆの言葉は最もだ。
 前原圭一自身、タカノがこのような蛮行に走る理由すら思い当たらない様子であったのだから。
 圭一が知りうる情報は、日常のタカノでしかないのだろう。だが、無知でいるよりかは、些細な情報でも知っておいた方が損は無いというものだ。
 過度の期待はせず、程度の低い情報から次へと望みを繋げれば良し。
 祐一は自分の考えを要約してあゆへと伝えた。
 不機嫌な表情を隠そうともしないあゆだったが、最後まで異を唱えることはしなかった。彼女には無関係なのだから、当然のことだ。

「ま、精々頑張りなさい」
「そうさせてもらう」
 
 別に行動を共にするつもりは無いのだ。初めから同意を得られるとは思ってはいない。
 この話は終わりだとばかりに名簿を仕舞った祐一は、続いて地図を広げて見せた。今度は場所の確認だ。

「……ところでお前、ここが何処だか分かるか?」
「分かるわけないさ。気が付いたらこの部屋にいたのよ」
「で、呑気にパンを齧っていたと……」
「あ? なんか文句あんのか」
168その少女、危険につき ◆KZj7PmTWPo :2007/03/16(金) 23:56:24 ID:YbsqZgu5
 何気ない問い掛けに、あゆは相変わらずの喧嘩腰で答える。
 ということは、彼女はここがどういう場所が知らずにいるというわけだ。
 祐一の傍迷惑な悪戯心に、ふと妙案が浮んだ。他者から見れば、碌でもない閃きに違いない。
 彼は広げた地図上の一点を差す。

「俺たちが今いる場所がここだ……」
「……廃、アパート群」
「ああ。所謂廃墟だ。俺が気が付いた時はアパートの周辺でな――」

 一言切って、祐一は音が聞こえるようあからさまに息を呑みこんだ。

「そこでさ――見たんだよ……」
「あ、あにさ……。勿体振らずに言いなさいよ……」
「いや……その、な? 察せよ。あれだよあれ……。分かるだろ?」

 何を想像したのか、あゆは頬を引き攣らせる。
 雰囲気と合わさり、相乗効果となったこの手の話を平然と聞き流す女性は酷く少数派である。――そこに付け込む。
 異常な状況下で間抜けで不謹慎な話をしていることは重々承知だが、それはそれだ。
 一矢服いるチャンスを見す見す逃すほど甘くは無いのだ。この祐一というある意味馬鹿な人間は。
 そして、ここでトドメだ。

「いやぁ、実はな……っぁ!?」
「っ!? な、なに……」
「う、うし……後ろ……!」
「ちょ、はぁ!? ふ、ふざけた冗談ほざいていると張った押すぞっ!」

 祐一へ指差した方向へ促されるままに、あゆは恐る恐る振り返る。
 その隙にあゆの耳元に忍び寄った祐一は――

「な、なにも――」
「うわあああああぁぁぁ!!」
「ギャアアアァァァ――!!??」
169その少女、危険につき ◆KZj7PmTWPo :2007/03/16(金) 23:56:58 ID:YbsqZgu5
 ――容赦なく叫んだ。少女らしからぬ悲鳴も同時に響いた。
 昂ぶった神経を木槌でブッ叩くかのような衝撃に、あゆは背筋を仰け反らす。
 一拍の沈黙の後。一泡吹かせて硬直したあゆの光景に、祐一は満足気に忍び笑いを洩らした。   

「く、くくっ……」
「ぁ、ああ……あ?」
「――ぷっ。ま、まあ気にするな。くっ、健全な反応でお兄さん、っ……涙が出るほど嬉しいぞ」
「…………」

 祐一が半ば爆笑気味な中で、あゆはガクリと頭を垂らす。
 まんまと騙されて恥辱なのか、祐一はここぞとばかりに彼女をなじりになじった。
 気がすむまで笑い続けるが、何時まで経っても反応の無い彼女の様子に、つい訝し気に口を噤んだ。
 途端、室内に不気味な静寂が訪れる。 
 笑いを堪えすぎて瞼に溜まった涙を拭っていた祐一の視線の先で、あゆは微塵も動きを見せない。
 直感的に危機を悟った。

「って、あれ……?」 
「……………………」
「お、お〜い……大空寺?」

 子供のように勝ち誇っていた祐一だが、あまりの無反応振りに遂には恐ろしくなってしまった。
 その場限りのことに満足して、その後に起こり得る制裁を念頭においていなかったことが要領の悪さを物語っている。
 退避しようと後退るが、既に後の祭り。
 ――あゆの怒りの怒濤は、時間差で訪れた。

「うっ、がああああああああ――!!!!」
「――ぐあっ!」

 初弾として、室内に転がる小物類が祐一目掛けて飛び交った。問答無用でブチ当たる。
170その少女、危険につき ◆KZj7PmTWPo :2007/03/16(金) 23:59:44 ID:YbsqZgu5
「死ねやオラああああああ――!!」
「ま、まて――痛てっ、痛いって……!?」

 止まらずに続いて、今度はコンクリの瓦礫や鉄筋が勿論祐一目掛けて飛び交った。これは何とか回避する。
 容赦の無い、猛ったあゆの投擲攻撃に本気で身の危険を感じ始めた祐一。因果応報だ。
 我を忘れた彼女は手当たり次第に投げまくり、目に付こうが付かまいがとにかく投げた。
 ――故に、偶然伸ばした手が偶然“銃把”と掌を結合させ、偶然“引き鉄に”指がかかったことも全て偶然だ。
 勿論その時点で投擲体制の入ってしまったのならば、勢い余って指を引いてしまうことは、既に必然なのだろう。 
 簡潔に言えば、暴れた影響であゆのバックから転がり出た拳銃を装備してしまったという訳だ。しかも、支給された時点で既に撃鉄も都合よく起こされているという始末。
 集中殴打を喰らっていた祐一が、彼女の手に収まった鉄の凶器に目敏く気付いて泡を食う。

「ま、まま、待てっ! それは洒落に――」
「うがああああああ!!」

 情けない祐一の制止の声は当然の如く無視される。
 ――そして、一発の銃声が響き渡った。

「――うわっ!?」

 直ぐ傍で響いた聞き慣れぬ爆音と掌を巡る衝撃の反動に、あゆは驚き余って拳銃を取りこぼす。
 彼女からしたら、見覚えのない代物が何時の間にか握られていたのだから、困惑に首を傾げることは至って普通の反応だ。
 あゆは、硝煙を上げて床に転がる拳銃を一瞥し、深く考えるように瞑目する。
 それは数秒か、数十秒か。時間を忘れた一室は、先の騒動など意にも返さないような沈黙に包まれた。
 ようやく双眸を開いたあゆは、似合わない愛想笑いを浮かべる。
171その少女、危険につき ◆KZj7PmTWPo :2007/03/17(土) 00:03:23 ID:ioNYm7TJ
「……ふふ」
「…………おい」
 
 遮断された。 
 あゆの視線の先に、座り込んだ祐一が顔を全開に引き攣らせていた。
 そんな彼の頭部より斜め上方数センチ先に、何やら壁を貫通したような黒点が如何してか見えた気がした。――見なかったことにする。
 直視するに耐えない眼光を誤魔化すべく、あゆは気まずそうに明後日の方向へ目線を逸らす。
 そして、言って出た言葉が言い逃れ。

「あ、あ〜……。ふん、無様にも歯向かった糞虫を、威嚇という手段で寛大に許したあたしに感謝して欲しいものね」
「ちょっと待てコラあぁぁっ!!」

 祐一が絶叫した。
 攻守が反転したとばかりに飛び掛かる。
 あゆは退避しようと背を向けるも、祐一は絶対に逃がさんとばかりに組み付いて両拳を彼女のこめかみに当てる。
 そこから高速で拳を回転させる、所謂グリグリ攻撃だ。

「――うぉぉぉ!? あにすんだーー!!」
「そっくりそのまま返すぞ! 知らずに撃ったな? 勢いで撃ったな?」
「じょ、冗談さ……なにマジになってんの――くぉぉぉ……!?」
「冗談で、こ、ろ、す、なあぁぁ!!」
172その少女、危険につき ◆KZj7PmTWPo :2007/03/17(土) 00:06:07 ID:ioNYm7TJ
 発端は祐一なので、これは逆切れに近い。
 我を忘れて危険極まりない行動に走るあゆへと、要は矯正の意味を込めた躾である。
 しかし、祐一は表面上、加熱して暴れまわっているように見えるが、内心ではまったく別の懸念を浮かべていた。
 拳銃のことだ。実物など見たこともなかったが、彼女に支給された拳銃は確かに本物だ。間近で体感したのだ、間違いない。
 自分の武器はナイフだが、拳銃はそれ以上の殺傷能力を誇る物騒な代物である。
 この殺し合い、かなり大規模に繰り広げられる模様だ。提供された此度のフィールドといい、武器の配給具合といい、決して生半可な組織ではなさそうだ。
 更には、タカノ陣営には不可思議な力も確認されている。
 一瞬で参加者を場所移動させた奇妙な技術は、祐一達が知られざる科学技術か、もしくは川澄舞が発現させたような超常現象と同種のものなのか。
 現状、絡繰りが見抜けない。祐一一人の知識や知能では情報が致命的に欠落していた。
 やはりここは、複数の人間と接触を果たすべきか。各々が確立した理論とを重ね合わせ、照らし合わせることによって曖昧な情報を確固たるものに変えるのだ。
 
 一通り暴れまわった二人は荒い息を吐き、顔面を突き合わせながら変わらぬ悪態を吐きあう。
 あゆの頭部に絡んだ祐一の腕は、当の昔に振り払われていた。
 猛獣のような八重歯を覗かせながら、彼女は獰猛に睨みつける。 

「……このド変態が。謝罪と賠償を要求する、謝れや」

 某国のような物言いである。元はと言えば祐一が稚拙な悪戯をしたことが原因なのだが、彼女も彼女でしらばくれて開き直るのも考えものだ。
 それでも、彼は自身に非があることを認めているので謝罪もやぶさかではない。が――

「……まぁ、悪かった」

 何時まで経っても尊大な彼女の態度につい意地になってしまい、口調がぞんざいになっても致し方ないことだ。
 無論、意地の悪いあゆがその態度を容認する訳もなく。
173その少女、危険につき ◆KZj7PmTWPo :2007/03/17(土) 00:08:32 ID:ioNYm7TJ
「はぁ? 悪かった? 何語よそれ。私は、あんたに、精神的苦痛と肉体的悪寒をそれはもう並々と負わされたのよ。……成ってないんじゃない?」
「う、ぐっ……」

 水を得た魚のように、当たり前の如く絡んできた。
 勢いとはいえ拳銃をブッ放したあゆへ、これ以上の譲歩は屈辱に耐えがたいのだが止むを得ない。 
 
「ほらほら、言いたいことがあるならもごってないで明確に述べなさい。今なら惨めなあんたの敗北宣言を女神のような私が聴力を酷使して聞いてやってもいいわ」
「ぬ、ぐぐぐ……ご――」
「ご?」
「ごめんなさい……」

 祐一が殊勝に謝ったというのに、あゆは哀れみの吐息を投げ掛けるばかりだ。
 低重心になる祐一を、彼女はまるで路傍に転がる塵のように見下ろしている。
 今のでも御気に召さなかったようだ。
 あゆは偉そうに腕を組み、悪女のように口許を吊り上げさせる。まるでサディストのような妖しい笑みだ。

「駄目。全然駄目ね。許す余地を与えただけでも光栄なことなのに、豚が己の身分を勘違いしちゃってる分だけ見るに耐えないわ。ぶざけるのも大概にしなさい。
 違うわよね? 慈悲深い大空寺あゆ様願わくば愚劣で卑しい犬畜生なわたくしめの哀れな謝罪をどうかどうか後生ですから聞き届けてくださいませんか……でしょう?」
「お前がふざけんな! 誰が謝るか馬鹿!」
「あ、あんですとーっ!?」

 再び始まる取っ組み合い。
 しかし、今回はお互い手早く矛を収めた。
 静まり返ったアパート内で、幾らなんでも暴れ過ぎたと自覚した為だ。
 拳銃の発砲音と二人の騒ぎ声が一体何処まで響かせたか。慎重になるならば、この場に留まるのは既に得策ではない。
 祐一は広げた地図と名簿をバックに戻し、同様にあゆも放置していた食事や転がった拳銃をしっかりと詰め込んだ。
174名無しくん、、、好きです。。。:2007/03/17(土) 00:10:39 ID:d2PuB2FT
回避
175その少女、危険につき ◆KZj7PmTWPo :2007/03/17(土) 00:10:59 ID:ioNYm7TJ
「騒ぎすぎたな……移動するか」

 片付け終わった祐一の一声に、あゆは舌を打ちながらも反論はしなかった。
 状況の判断が早くて助かる。彼女は非常に憎たらしいが、頭の回転は決して悪くはないのだろう。
 言質に我慢すれば心強い仲間となってくれるに違いないが、先にも言ったように期待は寄せてはいない。
 自分本位の人間が、メリット無しに他人の意向に従うとは思えない。
 あゆの同行は半ば諦めつつ、二人並んで埃が吹き荒れる一室から退室する。
 新たな寝床を探している道中、手慰みに何気なく会話を交わす。

「ここから動いていないってことは、大空寺はまだ誰とも遭遇してないわけだ?」
「あぁ……身の程さえ弁えない糞にも劣った塵虫一匹なら今も見てるさ」
「へぇ、奇遇だな。俺も傲岸不遜を絵に書いた、病んだ珍妙奇天烈生物を目撃した所だ」
「……こっち見んなや」
「お前こそ見るな」

 口を開けば、相変わらずの二人であったが。
176その少女、危険につき ◆KZj7PmTWPo :2007/03/17(土) 00:12:33 ID:ioNYm7TJ
【A-4 廃アパート群/1日目 深夜】

【相沢祐一@Kanon】
【装備:サバイバルナイフ】
【所持品:トランシーバー(二台)・支給品一式】
【状態:健康】
【思考・行動】
1:寝床の確保
2:協力的な参加者と接触し、情報を掻き集める(優先人物は前原圭一)。
3:出来れば舞に佐祐理、北川、名雪との合流。
4:あゆに同行を申し出るが、期待はしていない。
【備考】
トランシーバーの通信可能距離は半径2キロ内の範囲

【大空寺あゆ@君が望む永遠】
【装備:S&W M10(5/6)】
【所持品:予備弾丸20発・支給品一式】
【状態:健康】
【思考・行動】
1:新たな拠点を確保し、食事の再開
2:殺し合いに乗るつもりはない。
3:現在の所、祐一を信用してはいない。
【備考】
他の支給品は不明。あゆは祐一と同行している訳ではない。行く先の方向が同じだけ。
177たかだか数十分  ◆xnSlhy.Xp2 :2007/03/17(土) 01:26:00 ID:Gd9OPvi1
「っっっどおおおおおおおおっっっっっ!?」

俺は今、全力全開全身全霊で走っていた。
後ろも右も左も、ましてや天井や床なんて見る暇はない。ただただ前だけを向いて走っていた。
今までのたかだか十数年の人生の中では間違いなく一番本気で走っていた。本気と書いてマジだ。
ただの一片もの余力を残さず、走ることだけに全神経を集中させていた。

なのに。

「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」

それなのにこの狂気を感じさせる笑い声は一向に遠のく気配を見せてくれない。
まるで自分の影みたいに、走っても走ってもどこまでも追ってくる。
しかもこれだけ走っているというのに息切れ一つしている様子すら見受けられない。
一体全体なんだっていうんだこれは!? まさか本当に幽霊とかそんな類じゃないだろうな……
178たかだか数十分  ◆xnSlhy.Xp2 :2007/03/17(土) 01:26:55 ID:Gd9OPvi1

「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」

!?
なんだか声が近づいてきているような気がするぞ!?
怖くて振り向けないが、その笑い声はたしかに後方から段々と耳元へやってきている。
何故だ!? こんな近くまで追いついているのなら、もう追いかける必要もなく簡単に殺せるはずなのに!

「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは……
ふう。風子は少し疲れました」
「ってお前かああああっ!?」
「あ、北川さん。急がないと追いつかれますよ。すぐ後ろにいます。なんかすごい顔してます」
「ていうかおぶられてないで自分でしっかり走れえええええっっっ!!!」
「風子はか弱い女の子ですから。ふぁいとですよ北川さん。ふぁいとー、おー」
「ぬがああああああっっっっっっっっ!!!!」
179たかだか数十分  ◆xnSlhy.Xp2 :2007/03/17(土) 01:27:57 ID:Gd9OPvi1

◇ ◇ ◇

……さて時はほんの数十分前に遡る。
百貨店においてチンゲラーメンという非常に卑猥な響きのカップ麺が支給されて打ちひしがれていた俺のとこ
ろに突如として現れた自称迷える子羊の味方、風子。
その姿はなんというか、ただの同じ年くらいの女子高生にしか見えなかった。
どこの高校かは知らないけれど、なんとなく彼女にはサイズの大きそうな制服。
長くて綺麗な黒髪にそれを結んでいる規格外に大きなリボン。純真無垢という形容が最も似合うくりくりした瞳。
見た目的にはおとなしそうな……それでいて正直まあまあ顔は可愛い部類に入る娘だといえる。
それは認めなくはない。認めなくはない・の・だ・が……

……中身も見た目どおりだったらどんなによかったことだろうか。
そりゃいきなり現れて「迷える子羊の味方……風子、参上」なんて初対面の、しかも自分に危害を加えるかもし
れない男に向かって言い放ち、かつその後で「じゃきーん」とか言いつつ仮面○イダーの変身シーンをうろ覚え
の知識で再現したようなポーズをとってきた時点である程度は普通じゃないなんてことは予想できるけどさ。
どことなくぽやーっとした、彼女と似たような雰囲気のクラスメイトだっているからある程度は慣れてもいるけ
どさ。

「どうしたんですか。せっかくこうして風子が参上したんですから、何か一言言ってくれてもいいじゃないです
か。『らぶりー風子!』とか『まいふぉーちゅな風子!』とか」
「……いや、あの。君はいったい、なんなn」
「人に名前を聞くときは、まず自分から名乗るのがすじってものです」
「え? いやでもそっち先に名乗ったけど」
180たかだか数十分  ◆xnSlhy.Xp2 :2007/03/17(土) 01:28:59 ID:Gd9OPvi1
そんな俺の至極真っ当な突っ込みに対し、この相当天然……というか電波……だと思われる娘はしばし固まって
いた。
最初は痛いところを突かれて黙り込んでいるだけかと思ったのだが、どうも様子がおかしい。何がおかしいかっ
て、その顔。
普通はこんな場合、苦虫を噛んだような表情をしたり、あるいは無表情だったりするもんじゃないか?
だけどこの風子と名乗った娘はまるでトリップしているかのようにだらしない顔をしてその口元には笑みすら
浮かべていたのだ。なんとも幸せそうな表情ではある。

「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「…………………………おい?」
「……………………………………はっ、いけません。風子としたことがうっかり空想の世界に浸っていました。
ところであなた誰ですか?」
「俺は北が……」
「あ、人に名前を聞くときは先に名乗るのがすじってものです。だからあなたまだ名乗らなくていいです。私は
伊吹風子といいます。風子と呼んでください。ところであなた誰ですか?」

……会話が成り立たない。
とりあえず危険な人間でないことはたしからしいが、いろんな意味で大丈夫なのかこの娘は。いやこの殺し合い
の場でもそうだが、日常生活においても。
だがそんなこちらの思いなんてつゆ知らず、この風子というらしい少女はこちらが名乗ってくるのをじー…っと
見つめながら待っているだけだ。
なんだかその言いようの知れないプレッシャーに耐えかねず、俺も自分の名前を告げることにした。
181たかだか数十分  ◆xnSlhy.Xp2 :2007/03/17(土) 01:30:14 ID:Gd9OPvi1
「あ、ああ俺は北川潤っていうんだ」
「そうですか。では北川さんとお呼びします。風子のことは風子と呼んでください」
「ああ、わかったよ風子」
「なんですか?」
「へ?」

きょとんとして、俺は彼女を見つめ返す。

「今、風子の名前を呼んだじゃないですか」
「いや、今のは確かに君の名前を呼んだけど、別に呼びかけたってわけじゃ……」
「わけのわからないことを言わないでください。ヘンな人ですね北川さんは」
「お前が言うなあああっ!」

なんだろう。この風子と話しているとすごく疲れる。
会話のキャッチボールのつもりで軽く投げたボールをひょいひょいと軽やかにかわされるような。
たまに受け取ってくれたと思ったら真顔で明後日の方向へぽい、と無情に投げ捨てられたような。
そんなどうしようもない感覚が俺の全身を支配していく。

だがそれでも、コミュニケーションを挑まないわけにはいかない。
俺はそう思い直し、さっきから風子について気になっていたことを聞いてみることにした。

「あ、そういや風子。お前は自分のデイパックの中身は確認したの……」
182たかだか数十分  ◆xnSlhy.Xp2 :2007/03/17(土) 01:31:17 ID:Gd9OPvi1

と。
そこで俺は、風子の目線が俺を向いていないことに気づいた。
いやただ向いていないというだけならこの娘の性質上特に気にしないのだが、その目線は俺を通り越して明らか
にその後ろに向けられていた。

「あの、北川さん」
「……なに?」
「今、ものすごい勢いで誰かがこっちに向かってますけど、あの女の人も知り合いですか?」
「はい?」

そう言われて振り返ると、たしかにそこには一人の女の子が……よくわからないが多分俺や風子よりは年下だろ
う……この狭い百貨店の中、その白い服をたなびかせながらこちらに突進してきていた。
その顔は笑顔。その理由は定かではないが、ようやく人を見つけられて嬉しいのだろうか。
その手には包丁。その理由は定かではないが、これから何かをかっさばくのだろうか。

「…………」

包丁?

183たかだか数十分  ◆xnSlhy.Xp2 :2007/03/17(土) 01:32:22 ID:Gd9OPvi1

◇ ◇ ◇

「なんで俺の周りにはまともな人間が寄ってこないんだあああああ!!」
「類は友を呼ぶといいます。あ、この場合風子は友じゃないので勘違いしないでください。他人です」
「他人なら放っていくぞ!?」
「他人だなんてそんなひどいこと言わないでください最悪です。風子はか弱い女の子ですよ?」
「お・ま・え・はああああ……」

そんなこんなで、俺は風子と一緒に逃げようとしたのだがなにぶん男と女では体力に差がある。
俺一人だけならともかく、この風子を置いていったらきっと逃げようともせずにぼーっと突っ立ったまま一瞬であの追ってくる娘に喉を掻っ切られて終わりだろう。
というわけで仕方ないので風子をおぶって逃げているこの現状だ。
たとえ風子といえどやっぱり性別は女の子に類するだけあって体重は軽いのだが、それでも後方の、荷物は手に
持った包丁と背中に背負っているデイパックのみの娘と比べたら相当ハンデといえる。
さらにこの狭い百貨店内。なるべく他人に見つからないようにと奥の方にいたのが間違いだった。
せめて入り口がどこにあったのかくらいは確認しておこうぜ俺よ。
さっきから同じようなところをグルグル回ってるような気がしなくもない。角を曲がるたびに背中の風子が壁や
ら棚やらに体をぶつけてぶーぶー文句を言ってくるのも、これに関してはこちらが悪いのだがそれはそれとして
鬱陶しくて仕方がない。
184たかだか数十分  ◆xnSlhy.Xp2 :2007/03/17(土) 01:33:32 ID:Gd9OPvi1
「あはははは! 見つけた! 見つけた! 宇宙人に洗脳されてる人を見つけた! 今レナが救ってあげるか
らおとなしくしててええええ!」

うお、怖え。
こんなことを叫びながら包丁を持って追っかけてこられたら、何も知らないヤクザですら裸足で逃げ出すに違い
ない。ましてや一介の男子高校生にすぎない俺としてはジェットで逃げ出したい気分だ。そうもいかないことは
わかってるけども。

追ってくる女の子は表情こそこの目で確認できないものの、声の調子からして相当ハイテンションで狂喜乱舞し
ているに違いない。何がそんなに嬉しいのか俺には理解できないが。ていうか宇宙人て。なんだそりゃ。
よくわからないが、とにかく今は逃げるより他ない。くそ、出口はどっちだ出口は!?

「…………」

待て。本当にそれでいいのか北川潤。

「? 北川さん?」

こうして逃げ回るだけで、たとえこの場から逃げおおせたとしてこれからのこの殺し合いを生きていけるという
のか。しかも風子という強烈な地雷を抱えたままで。
答えは、否。絶対に否だ。
185たかだか数十分  ◆xnSlhy.Xp2 :2007/03/17(土) 01:35:27 ID:Gd9OPvi1


「ここは逃げる場面じゃない……そう! ここは抗う場面だ!」
「はい? どうしたんですか……きゃあっ!?」

突然急ブレーキをかけて立ち止まり、追ってくる女の子の方に振り返ったことで風子は脳が回転したらしく目を
回している。
見ればあれだけ全力疾走しただけあって、俺と包丁を持った女の子の間にはそれなりの差があった。これだけあ
ればきっと大丈夫だ。
俺は、荒い息を無視して渾身の力を込めて叫ぶ。

「待て! 俺はこの殺し合いに乗っていないし、宇宙人とやらに洗脳されてもいない! だからここは落ち着いて話し合おうじゃないか!」
「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」
「俺は北川潤っていう名の、華音高校の一高校生だ! 決して君に対する敵意はない! 武器だってない! 丸腰なんだ! わかるか!? 俺は君の敵じゃないんだ!」
「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」
「だから、その、つまり……」
「あ は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は 
は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は 
は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は 」
「………………」


……ごめん、無理。

186たかだか数十分  ◆xnSlhy.Xp2 :2007/03/17(土) 01:36:31 ID:Gd9OPvi1
「逃げるぞ風子おおおお……ってあれ?」

気づくと、さっきまで背中にあった重みが消えていた。脇を見ると、いつの間にかそこには風子が床にへたり込
んでいて、「う〜」などと呻きつつ頭を抱えていた。

「どうしたんだ!?」
「北川さんが急に回転したりするから、風子気持ち悪いですぅ……最悪です」
「そんなこと言ってる場合かああああっ!! 立て、ほらっ! おぶってやるから!!」

などと言い合っている内に、どんどん俺たちと笑顔の女の子の間の距離が縮まっていく。

やばい。このままだと本当死ぬ。本当と書いてマジだ。
もうおぶってやる時間もない。逃げるしかない。だが風子と一緒だと逃げ切れない。
考えてみればさっきも述べたが、俺一人だけなら軽く逃げられるんだ。
そもそもこの風子と出会ってまだ数十分しか経っていない。その間にこの風子が俺に何をしてくれた?
何もしていない。ていうかむしろ甚大な精神的疲労を与えてくれた。はっきり言って、邪魔にしかならない。
そうだ。冷静に考えてみれば、俺がここでこいつを護ってやる義理なんてないんだ。
逃げられる。俺だけなら、逃げられるんだ!
風子の存在なんて、これからの俺の長い人生において塵芥にすぎない! どうせすぐに忘れていくさ!
逃げるんだ俺! 今すぐ逃げるんだ! 一目散にわき目も振らず、駆け出すんだ!

「あはははは! やっとレナの言うこと聞いてくれたのかな!? かな!? 大丈夫、今すぐその首掻っ切って
あげるよおおおおお!」
187たかだか数十分  ◆xnSlhy.Xp2 :2007/03/17(土) 01:37:37 ID:Gd9OPvi1

……な〜んて。

「たとえこいつだろうと、出会っちまったもんはしょうがないだろうがあああ!」

半泣きになりながら、俺はデイパックから一瞬で、ある支給品を取り出す。それは当然例のアレだ。黒くてちぢ
れた、某よく便所なんかに落ちているものに酷似しているアレだ。
右手でそれを持ち、左手を手刀の形にして指を蓋に突っ込むといっぺんにそれをひっぺがす。その勢いで少しだ
け中身がこぼれたが気にしない。気にする余裕もない。
これの用途はただ一点。奴に目掛けて、ぶちこむのみ!

「くうううらええええええ大量のチンゲだあああああああああっっっっっ!!!!」
「宇宙人の洗脳からレナがみんなを解き放ってあげるよおおおおおおおお!!!!」

その娘が俺の首に包丁を突きつけるその直前。ほんの一秒遅かったなら間違いなくやられていただろうその瞬間。

バゴッ!!

俺は構えていた右手のチンゲの入ったパックを、カウンターの要領で(偶然だが)思いっきりその顔にぶちまけ
てやった。
188たかだか数十分  ◆xnSlhy.Xp2 :2007/03/17(土) 01:38:42 ID:Gd9OPvi1

「うぶっ!?」

そのぶちまけられた少女は後頭部から床に落ちて、パックを顔にのせたまま大の字になった。
何をされたのか理解できなかっただろう。そりゃそうだ。
突然視界が見えなくなったと思ったら何やら黒くて嫌な肌触りのものが顔面にまとわりついてきたのだから。
これで数秒は時間が稼げる。正直俺の体力も限界がきているがこの際そんなことは言ってられない。
見ると風子はようやく脳の揺れもおさまったらしく、ぱちぱちとのんきにこちらに向かって拍手をしていた。

「行くぞ風子! ほら早くおぶされ!」
「へ?」
「だああもう!」

突然の思考判断を風子に求めたのが間違いだった。
俺はデイパックを腕にかけると、風子を俗に言うお姫様だっこの形で抱きかかえる。

「わ!? 何するんですか北川さん」
「いいから逃げるぞ!」
「あ、でも風子の荷物が……」
「あとでいい!」

とにかく今は、この百貨店から逃げ出すことが先決だ。安全かと思って入り込んだここだが、とんでもなかった。
また新しく建物を探さなければ……できれば風子や包丁少女のような人間のいないような建物を。
全速力で長い通路を走ると、ようやく目前に出口が見えた。
俺は百貨店出口の自動ドアを抜けて、風子を抱えたまま冷たい夜風の吹く外へと脱出していった……
189たかだか数十分  ◆xnSlhy.Xp2 :2007/03/17(土) 01:39:32 ID:Gd9OPvi1

◇ ◇ ◇

しくじった。しくじった。しくじった。
手持ちの武器がこんな包丁一本だけだったとはいえ、宇宙人に洗脳された可哀想な人たちを取り逃がしてしまっ
た。私はそんな人たちを解き放ってあげなければいけないのに。
なんだろうこの黒いもじゃもじゃしたものは。なんていうか、気持ち悪い。
……鷹野さん。
あの時、みんなの前に現れて二人の人間を*した女性。恐らく、宇宙人からもっとも強く洗脳を受けている人。
きっとこの世界に飛ばされた人間は、みんな何かしらの洗脳を受けているんだ。
その洗脳の度合いが強ければ強いほど、人を平気で*せるようになる。一見まともに見える人でも、時間がたてばきっと本性を見せるに違いない。だからそうなる前に、私が*す。
私は洗脳を受けていない。そう自覚しているのだから間違いない。
オヤシロ様からかつて許されたことのある唯一の存在である私には、きっと宇宙人からの洗脳は効かなかったん
だ。
その事実に気づいているのは私だけ。他の人はみんな、自分が洗脳されているということにも気づかずにただ操られているだけなんだ。なんて滑稽で、可哀想なことだろう。
大丈夫。みんな、もう少しだけ待ってて。


絶対に、レナがみんなを救ってみせるから。

190たかだか数十分  ◆xnSlhy.Xp2 :2007/03/17(土) 01:40:32 ID:Gd9OPvi1
【A-3 百貨店の中/1日目 時間 深夜】

【竜宮レナ@ひぐらしのなく頃に】
【所持品:支給品一式、出刃包丁】
【状態:絶賛発症中、多大な疲労】
【思考・行動】
1:宇宙人に洗脳された人たち全員を救う。
2:友達(前原圭一、古手梨花、園崎詩音)の捜索。洗脳されてるようなら*す。
3:さすがに疲れたので少しだけ休む。
【備考】すぐ側に風子のデイパック(支給品不明)が放置されてますが今のところ気づいてません。


【A-3 百貨店の外/1日目 時間 深夜】

【北川潤@Kanon】
【所持品:支給品一式、チンゲラーメン(約3日分)】
【状態:多大な疲労】
【思考・行動】
1:風子を連れて安全な場所へ移動。そうしたらひとまず休みたい。
2:知り合い(相沢祐一、水瀬名雪)の捜索。
3:あの娘を見てしまった以上、殺し合いに乗る気にはなれない……
【備考】チンゲラーメンの具がアレかどうかは不明
    チンゲラーメンを1個消費しました。

【伊吹風子@CLANNAD】
【装備:なし】
【所持品:なし】
【状態:健康】
【思考・行動】
1:北川さん……きつそう。
【備考】今のところ状況をあまり把握してません。
191鉄の乙女と人形使い ◆guAWf4RW62 :2007/03/18(日) 00:03:13 ID:PcjFu7JU
六十三名もの人間が等しく無慈悲な闘争へと放り込まれた、正しく絶望の地と呼べる孤島。
その島の一角にある、小さな藪の中で一人蹲る少女――月宮あゆ。
「うぐぅ……怖いよぉ……」
その身体は小刻みに震え、呼吸は大きく乱れ、掌にはじっとりと汗が滲んでいる。
あゆがこれ程までに怯えきった状態となってしまったのは、この殺戮ゲームに放り込まれた事によるものだけでは無い。
彼女は暗い場所が――とりわけ、この島のように人の匂いが薄い、いかにも『出そう』な場所がとにかく苦手であった。
(一人は嫌だよ……祐一君に会いたいよっ……!)
それこそがあゆの抱く唯一にして、最大の願いだった。
勿論、能天気なあゆと言えども、自分が凄惨な殺し合いの場に置かれている事くらいは理解している。
タカノが行ったあの非人道的な殺戮行為を見れば、もはやフェイクなどと疑う余地は無い。
それでも――今のあゆにとっては、タカノやゲームに乗っている人間などよりも、孤独の方が遥かに恐ろしかった。
血で血を洗う戦場の中、戦いとは無縁の生活を送ってきた彼女がたった一人でいる事は、どれ程の恐怖なのだろうか。
抗いようのない膨大な感情の雪崩が、あゆの理性を完膚無きまでに奪い去ってゆく。
ゲームからどうやって脱出するか?やる気になっている人間と出会ったらどうするか?支給品は何か?
本来ならその三点が、最初に考えるべき事柄だろう。
しかし今のあゆには、冷静に思考を巡らせる余裕は欠片も無い。
完全な恐慌に陥っているあゆは、膝を抱えて丸まり、この悪夢の終わりを待つ事しか出来なかった。
192鉄の乙女と人形使い ◆guAWf4RW62 :2007/03/18(日) 00:04:30 ID:PV2TBb6p
そのような状態では、忍び寄る足音に気付ける筈も無く――突然、後ろから右肩を掴まれた。
「うぐぅぅぅっ!?」
あゆは思考が混乱の極みに達し、ばっと飛び上がるように立ち上がると、物凄い勢いで地面を蹴った。
そのまま一目散に走り去ろうとしたが、その後ろ手をがっと強く掴まれる。
「助けてぇぇぇぇぇっ! ボクなんて食べても美味しくないよっ!」
もうあゆは訳が分からなくなって、掴まれている手をブンブンと振り回しながら、無茶苦茶に喚き散らした。
あゆの顔が恐怖で歪み、大きな瞳からぽろぽろと涙が零れ落ちる。
「うぐぅぅぅっ! 離して……離してよぉっ!」
ぐいっと腕を引き寄せられ、続いてあゆの口を大きな手が塞いだ。
「――静かにしろ。俺は殺し合いをするつもりは無いし、お前を食おうとも思っていない」
背後から掛けられる静かで冷たい、男の声。
しかし混乱し切っているあゆにその声は届かず、塞がれた口の奥から言葉にならぬ悲鳴を上げるのみだった。
193鉄の乙女と人形使い ◆guAWf4RW62 :2007/03/18(日) 00:05:43 ID:PV2TBb6p
「だーっ、またかよ……」
後ろにいる男が、当然あゆの耳には入っていないが――溜息交じりに言葉を漏らす。
男、国崎往人はあゆの両肩を掴んで、ぐるんと自分の方へ向かせた。
「やだやだやだ、助け……」
「――黙ってこれを見ろ!!」
往人はあゆの悲鳴を遥かに上回る声量で叫ぶと、人形をポケットから取り出して、彼女の眼前に突き出した。
それは薄汚れた、しかし何故か暖かさを感じさせる、不思議な人形だった。
「…………うぐ?」
あゆの意識が人形に移るのを確認すると、往人は腰を落として、人形をちょこんと地面に寝かせた。
両手を人形へと翳し、それから極力軽い調子になるよう努めながら言った。
「さあ、楽しい人形劇の始まりだ」
「――――えぇっ!?」
往人の合図とほぼ同時に、薄汚れた人形がぴょこんと立ち上がった。
手も触れていないし、糸も使っていない――正真正銘、超能力の類によるものだった。
人形がちょこちょこ歩き、くるくる踊る。それを追って、あゆの目線も動いてゆく。
「うぐ……うぐぅ!? うぐ〜っ!」
あゆはしきりに驚きの声を上げ、熱心に人形劇へと魅入っている。
そんな彼女に、往人はボソッと話し掛けた。
「お前――ちょっと手を出してくれ」
「……?」
あゆが素直に手を出すと、往人はバッと勢い良く手を振り上げた。
その動きに合わせるかのように人形が大きく飛び跳ねて、あゆの掌の上へと着地する。
人形は最後にぺこりとお辞儀をして――束の間の人形劇は、終幕を迎えた。
194鉄の乙女と人形使い ◆guAWf4RW62 :2007/03/18(日) 00:06:52 ID:PV2TBb6p


「……どうだ、楽しかっただろう。楽しかったな?」
自分でも改心の出来だと思ったのだろう――往人が自信満々に問い掛ける。
するとあゆは満面の笑みを作って、弾んだ声で答えた。
「うんっ! すっごく楽しかったよ!」
それは嘘偽りの無い、素直な感想。往人は満足気に微笑み、それから言った。
「そうだろう、そうだろう。……じゃ落ち着いた所でまずは自己紹介といこうか。俺は国崎往人だ」
「ボクは月宮あゆって名前だよ。往人さん、よろしくねっ」
あゆがそう言ってにこっと笑うと、往人は何故か微かに表情を歪め、視線を逸らした。
「ああ。それで聞きたい事があるんだが――お前、神尾観鈴って言う女の子を見てないか?
 金髪の長い髪を一本で束ねた、能天気そうな奴だ」
尋ねる往人の顔からは微笑みが消えていたが、あゆが不審に思う事は無かった。
「ううん、見てないよ。そもそもボクがここに来てから出会った人は、往人さんだけだよ」
「――そうか」
言い終わるとほぼ同時、往人が勢い良く手を突き出して、あゆを押し飛ばした。
続いて素早く鞄の中からコルトM1917を取り出し、尻餅をついているあゆへと照準を定める。
「ゆき……と……さん?」
あゆは怯えているというよりも寧ろ、不思議がっているような顔をしていた。
195鉄の乙女と人形使い ◆guAWf4RW62 :2007/03/18(日) 00:08:37 ID:PV2TBb6p
「人形劇の代金はお前の命だ。恨みは無いが、死んでもらう」
往人は凍りついたような、何も感じさせぬ表情で冷たく告げる。
あゆはぎりっと奥歯を噛み締めた――恐怖よりも、納得いかないという気持ちの方が強かった。
「そんなっ……訳が分かんないよ! さっきまであんなに優しかったのに、どうしてそんな事言うのっ!?」
「悪いな、お前から話を聞き出す為に優しい振りをしていただけなんだ。本当の俺は、とても冷酷な人間だ」
これ以上言葉を交わす意味も無いだろう。
往人は軽い動作で銃を構えなおして、引き金に掛けた指へ力を入れようとした。
「――そだ」
……小さく呟いたあゆの声に、往人の身体が硬直した。
もう話すつもりなど無かったのに――硬直してしまった。
「嘘だ……そんなの、嘘だよっ!」
あゆは感情を剥き出しにして、涙混じりの声で大きく叫んだ。
「嘘……だと……?」
往人の手が震えた。あゆが続けざまに、言葉を浴びせ掛ける。
「ボク分かるもん……往人さんは凄く優しい人だよ! 往人さんの人形劇は心を暖かくしてくれる、楽しい気分にさせてくれる!
 それに……今の往人さん、とっても辛そうだよっ!」
「――――っ!」
往人がごくんと唾を飲み込む。秘めた感情を完全に言い当てられてしまい、明らかに動揺していた。
しかし、往人の脳裏に浮かぶ一人の少女――神尾観鈴の笑顔。
「――そんなの知った事か。俺はあいつを――観鈴を守る為に、悪魔にならないといけないんだ」
今にも溢れ出しそうな感情をぎりぎりの所で押しとどめて、静かに言葉を紡ぐ。
今度こそ、何を言われようとも耳を貸さぬ覚悟で引き金を絞ろうとし――
猛然と迫る気配に気が付いて、往人はその場を大きく飛び退いた。
196鉄の乙女と人形使い ◆guAWf4RW62 :2007/03/18(日) 00:10:31 ID:PV2TBb6p
次の瞬間には、それまで往人がいた空間を荒れ狂う旋風が切り裂いていた。
更に三、四歩下がってから顔を上げると、往人の眼前、十メートル程離れた所に学生服を着た少女が仁王立ちしていた。
青い髪、凛々しい顔つき――その手には、長さ二メートル程の槍が握られている。
少女は狼狽したような表情を一瞬見せたが、すぐにこちらの方へと研ぎ澄まされた刃物のような視線を送ってきた。
「まさか本当に、殺し合いをする奴がいるとはな……」
どこまでも凛とした声で、少女が言葉を続ける。
「私は竜鳴館風紀委員長――鉄乙女! お前のような愚か者は、私が成敗してくれる!」

     *     *     *

月明かりに照らされた大草原で、対峙する二つの人影。
鉄乙女は外見上こそいつもと変わらぬ威勢を保っていたが、その実、内心では大きく動揺していた。
(身体が……重い……?)
乙女が仕掛けた奇襲は、完璧だった。戦場で敵に情けを掛けるつもりなど一切無い。
今目の前にいる男は、こちらの気配に勘付く暇も無いまま、心臓を貫かれていた筈だった。
にも関わらず実際には攻撃を察知され、事もあろうに手傷の一つすら負わせられぬ始末。
全力で、躊躇無く仕留めにいったのに――普段の半分の速度も出せなかった。
197鉄の乙女と人形使い ◆guAWf4RW62 :2007/03/18(日) 00:12:40 ID:PV2TBb6p
そんな乙女の心境を知ってか知らずか、状況を把握した往人が淡々とした口調で話す。
「名乗りを上げたばかりで悪いが、生憎と俺は騎士道精神など持ち合わせていない。とっとと終わらせて貰うぞ」
言い終るのとほぼ同時に、乙女が真横へと跳躍し、遅れて往人の構えたコルトM1917が火を噴く。
銃口から放たれた銃弾は、虚しく空を切るだけに終わった。
乙女が素早く地を蹴り間合いを詰めようとするが、そこに再び銃口が向けられる。
(やはり――私の動きが、落ちている!)
突撃しながらでは避けられぬと判断した乙女は、もう一度地面を蹴り飛ばして、強引に横方向へと弾け飛んだ。
大きな銃声が響き渡り、背後にあった藪の一部が、圧倒的な破壊力の前に削り取られる。
急激な方向転換のツケで、乙女の体勢は横に崩れかかっている。
「――終わりだ」
往人はその隙を逃さず、しっかりと両手でコルトM1917を握りこんで発砲する。
しかし乙女は無理に体勢を立て直そうとせず――逆に、勢いに任せて側転した。
「何ッ!?」
それは、思わず見惚れてしまうような、優美な動きだった。
大きく一回転した乙女が、悠然と両の足で大地を踏み締める。
198鉄の乙女と人形使い ◆guAWf4RW62 :2007/03/18(日) 00:14:21 ID:PV2TBb6p
半ば呆然としている往人に対して、無駄に気合の入ったポーズを取った乙女が語り掛ける。
「大体把握した。何故か身体の調子が悪いが、思った通り――銃といえど、射線に敵の姿が無ければどうしようもないらしいな」
乙女の銃に対する対応策は、単純にして明快だった。
銃弾を見てから躱すのは、絶対に無理だ。
調子が良い時の乙女であろうとも、彼女以上の猛者である橘平蔵であろうとも、不可能だ。
ならばどうするか――簡単な事。銃口の向き、敵の視線から、相手の狙撃ポイントを予測する。
そして、その射線――死線とも言い換えられる直線から、身を躱すように動けば良い。
動きが鈍っている今の乙女では、攻めに回るのは難しいが、避けるだけなら問題無い。
「……大した化け物だな」
往人が一つ溜息をついて、銃に弾丸を詰め込みながら、呆れたように呟いた。それも無理は無い。
『銃の射線から身をかわし続ける』――理屈は分かっていても、実践するのは困難を極める。
銃口の向きを見逃さない圧倒的な動体視力、相手が撃つ前に回避動作を終える尋常でないスピード、そして銃にも物怖じせぬ度胸。
これだけ困難な条件を完全に満たしているのは、特殊な人間が多いこの島でもごく少数しかおるまい。
「ふっ、日々の修練の賜物だ。それよりお前――何故、殺し合いなどする気になった?」
乙女が厳しい声で問い掛ける。往人は短く、静かに答えた。
「答える義務は無いな」
「そうか……答えたくないならそれで良い。では、続きを……」
「――待て」
踏み込もうと身を低くした乙女だったが、そこに制止の声が投げ掛けられる。
「何だ?」
怪訝な顔をする乙女に、往人が淡々とした口調で告げる。
「俺達は少々目立ち過ぎた。これ以上続けると誰かに漁夫の利を取られるかも知れない……ここは引き分けで手を打たないか?」
199鉄の乙女と人形使い ◆guAWf4RW62 :2007/03/18(日) 00:16:45 ID:PV2TBb6p
それは、確かにその通りだった。この静寂に包まれた島では、叫び声や銃声がよく響き渡る。
乙女がここに駆けつけて来られたのも、あゆと往人が出会った際の悲鳴を聞きつけたからだ。
往人と乙女、互いに決定打を持たない以上、二人の戦いは長期戦になる可能性が高い。
そうなってしまえば、強力な武器を持った第三者が現れた場合、共倒れになるのは避けられない。
付け加えると、往人としては弾切れが脅威だった。
落ち着いて弾丸を補充するといった行為は、何度も出来るものではないだろう。
攻め続けられれば――いずれ、弾切れを起こして敗北する。
乙女としても、ここで余り無茶はしたくなかった。
身体の調子が悪いのか、思うような動きがまるで出来ない。
現在の体調に慣れるまではもう少し時間が掛かるだろう。ここで無駄にリスクを犯すのは、得策とは言えなかった。
二人の利害は一致――当然の帰結として、停戦協定が結ばれる事になる。
乙女は一層険しい表情をした後、槍の先端をバッと往人の方へ向けて答えた。
「仕方ない、それなら早く立ち去れ。だが――次に出会った時こそ、お前を仕留めるぞ」
「それはこっちの台詞だな。また戦う時があれば……お前を殺す」
往人は乙女の方へと身構えたまま、少しずつ距離を広げてゆく。
そんな矢先、乙女の後方から悲痛な叫び声がした。
「往人さん待って! 人殺しなんてもう止めてよ……そんなの何にもならないよ!」
往人はあゆの叫びに答えない。無言のうちに後退を続け、やがて大きく踵を返して駆け出した。
すぐに往人の姿は暗闇に掻き消され、視認する事が出来なくなった。
「往人さん……どうして……」
あゆが目に大粒の涙を溜め込みながら、力の無い声で呟いた。
ほんの僅かの間とはいえ、暖かいやり取りを交わした二人だったが、もう戻れない――
200鉄の乙女と人形使い ◆guAWf4RW62 :2007/03/18(日) 00:18:30 ID:PV2TBb6p

「お前、大丈夫か?」
乙女があゆの傍にまで歩み寄り、気遣うような表情で問い掛ける。
「う、うん……ボク、何処も痛いとこは無いよ」
あゆが涙目で、おどおどとしながら答える。すると乙女は胸に手を当て、穏やかな笑顔を浮かべた。
「それなら良かった。改めて自己紹介をしておこう……私は鉄乙女だ。お前、名前は?」
「ボクはあゆ、月宮あゆだよ」
「そうか、覚えておこう。何時までもここにいるのは不味い……歩きながら話そうか」
この場所で話し込んでは、騒ぎを聞きつけた者に襲撃されるかも知れない。
乙女はあゆの小さな手を引いて、ゆっくりと歩き始めた。

     *     *     *

「――そうか。そんな事があったんだな」
「うん。きっと往人さん、観鈴って子を生きて帰らせる為に他の人達を全員殺すつもりなんだよ……」
国崎往人がゲームに乗った理由を知った乙女は、複雑な表情をしていた。
冷静に考えれば、殺し合いを望んで行う人間など殆どいないに決まっている。
たとえ進んで人を襲う人間がいたとしても、大抵は事情があっての事なのだ。
「ねえ乙女さん。往人さんを……説得する事は出来ないかな?」
あゆが上目遣いで、恐る恐る提案する。
可能ならば説得したかった――本当は優しい心を持っている筈である、往人を。
乙女は静かに、しかしはっきりと首を横に振った。
「あの男に守りたい者がいるように、私にだって守りたい人間がいる。私は人の命を弄ぶタカノを許さない。
 必ずタカノを倒して弟や生徒会の仲間達を救ってみせる。その障害となる人間――殺し合いに乗った者がいれば、容赦などしない」
あくまで冷静に見える乙女だったが、その内心は灼けつくような憤怒の炎で煮えたぎっている。
レオの親友――鮫氷新一は余りにも理不尽に、その命を奪い去られてしまった。
レオや生徒会の者達はきっと、仲間の死で想像もつかぬ程大きなショックを受けているだろう。
絶対に、探し出して守ってやらねばならない。
そして、ゲームに乗った人間を放っておけば、仲間達が殺されてしまうかも知れない。
そのような事態は、絶対に避けなくてはならない――だから、躊躇せず殺す。
それがこのゲームに巻き込まれた乙女の、決して変わる事が無いであろう強い決意だった。
201鉄の乙女と人形使い ◆guAWf4RW62 :2007/03/18(日) 00:20:16 ID:PV2TBb6p
乙女の言葉を受けて俯いていたあゆだったが、やがてある事を思い出して顔を上げた。
「あの……乙女さん。助けてくれて、ありがとうね?」
そうだ――あゆは、命を救われたのだ。乙女はにっこりと微笑んで、答えた。
「ああ、どういたしまして」
それで、あゆの顔に微かな笑みのようなものが浮かんだ。あゆが初めて、乙女に見せた笑顔だった。
「あゆはこれからどうするつもりだ?」
あゆがつぶらな瞳で、乙女を見つめながら口を開く。
「ボク――祐一君に会いたいな」
「そうか。私も人を探しているし、一緒に来るか?」
その申し出は、碌な戦闘手段を持ち合わせていないあゆにとって、渡りに船であった。
しかしあゆは視線を下に落とし、ぼそぼそと小さい声で呟いた。
「……でもボクは運動神経悪いし、頭も良くないし、きっと足手纏いになるよ?」
不安げに、こちらの様子を窺っているあゆ。その心境を察して、乙女が動いた。
「――問題無いさ」
「うぐっ!?」
あゆは一瞬何が起こったか分からなかった――乙女があゆを優しく抱き締めたのだ。
「何も心配はいらないぞ、私がお前を守ってやるからな」
あゆはちょっと驚いたが、服越しでも感じられる暖かさはとても安らかなもので、やがて素直に身を任せるようになった。
乙女はあゆの小さな身体を包み込みながら、決意をより頑強なものにしていた。
(こんな少女まで殺し合いに巻き込むとは……タカノ、絶対に許さない! 私を敵に回した事、後悔させてやるからな!)
202鉄の乙女と人形使い ◆guAWf4RW62 :2007/03/18(日) 00:22:26 ID:PV2TBb6p
【F-3 草原 /1日目 深夜】
【国崎往人@AIR】
【装備:コルトM1917(残り6/6発)】
【所持品:支給品一式×2、コルトM1917の予備弾54、木彫りのヒトデ@CRANNAD、たいやき(3/3)@KANNON】
【状態:軽い肉体的疲労、精神的疲労中】
【思考・行動】
1:観鈴を探して護る
2:観鈴以外全員殺して最後に自害
3:相手が無害そうなら観鈴の情報を得てから殺す

【鉄乙女@つよきす -Mighty Heart-】
【装備:槍】
【所持品:支給品一式】
【状態:軽い肉体的疲労】
【思考・行動】
基本方針:ゲームに乗るつもりは皆無、マーダーは容赦無く殺す
1:あゆを守る
2:生徒会の仲間達、相沢祐一の捜索
3:ゲームに乗った人間を見つけたら始末する
4:タカノを絶対に倒す

【月宮あゆ@Kanon】
【装備:無し】
【所持品:支給品一式、ランダムアイテムの内容は不明】
【状態:精神的疲労小】
【思考・行動】
1:祐一と会いたい
2:乙女に同行
3:往人を説得したい
【備考】
※乙女が持っている槍は、何の変哲もないただの槍です(長さは約二メートル)
※乙女は自分の身体能力が落ちている事に気付いています(その理由までは分かっていない)
203Detective Life ◆nHFuKOoL/s :2007/03/18(日) 18:35:24 ID:vm0lXNrA
>>137-144の状態表
【E-4 学校/1日目 深夜】
【双葉恋太郎@フタコイ オルタナティブ 恋と少女とマシンガン】
【装備:S&W M60 チーフスペシャル(5/5)】
【所持品:昆虫図鑑 予備弾40】
【状態:特に疲労なし】
【思考・行動】
1、体育館に移動する
2、沙羅と双樹と姉妹達を探してみんなで悪の秘密結社を倒す
【備考】
体育館がオープニングの場所だと予想して行動中
屋上から付近の地形を把握済み

【四葉@Sister Princess】
【装備:.特になし】
【所持品:参加者の術、魔法一覧、虫眼鏡】
【状態:少し泣きつかれ】
【思考・行動】
1、恋太郎の手伝いをする
2、姉妹達を探す
【備考】
・参加者の術、魔法一覧
参加者の現実世界ではありえない魔法、術などが載っている。
ただし四葉は表紙を見ただけで中を見ていない

【一ノ瀬ことみ@CLANNAD】
【装備:鉈@ひぐらしのなく頃に 祭】
【所持品:レインボーパン@CLANNAD、謎ジャム@Kanon】
【状態:普通】
【思考・行動】
1、恋太郎についていく
2、朋也たちが心配
204羽の交錯 ◆d3XW23vJps :2007/03/18(日) 19:56:52 ID:puSy6lYM
暗い木々の間を一陣の疾風が駆け抜ける。
デイバッグを肩から下げ、一振りの剣を手に握り締めたそれは、一人の女の姿をしていた。
エヴェンクルガの武士にしてトゥスクルに仕官する将の一人、トウカ。
彼女が案ずるのは無論、同じくこの地に居る仲間達の事だ。
トゥスクルの軍でも一騎当千の実力を持つ、オボロやカルラはまだいい。
戦う術を持たないエルルゥとアルルゥの姉妹、
そして彼女の仕える主であり、命に代えても守らねばならない人物、
トゥスクル皇のハクオロとは早急に合流しなければいけない。
(聖上、エルルゥ殿、アルルゥ殿。どうか、ご無事で……)
不安に身を焦がしつつ、武人は駆ける。探し人が何処に居るのかは解らない。
だが、この島内の何処かに居るのならば、草の根を分けても探し出す。
そして、彼等を守り通す。それこそがエヴェンクルガの誇りであり、本懐なのだから。

205羽の交錯 ◆d3XW23vJps :2007/03/18(日) 19:59:42 ID:puSy6lYM
そんな想いを胸に抱いた彼女の探索行は、唐突に終わりを迎える。
進行方向にある木の葉の合間から、微かな光が漏れ出ていたのだ。
「どなたか、おられるのですか?」
もしかしたら、探している内の誰かかも知れない。
期待に胸に高鳴らせながら、ゆっくりと声を掛ける。
しかし、彼女の希望を裏切るように、闇を切り裂いたのは銀色の光。
茂みの合間から飛来した物体を、トウカは身を翻し避ける。
「某は危害を加えるつもりは……」
「うるせぇ! 今ので死んどけよっ!」
乱暴な語調の少年――否、少女の声に眉を歪めながら、光源に向かい駆ける。
無用に人を斬るつもりは無いが、問答無用で他者を襲う者を見逃す道理も無い。
「ならば、エヴェンクルガがトウカ! 参る!」
手にした剣を刀に見立て、トウカは腰溜めに構えたそれを一息もせぬ間に薙ぎ払う。
居合い。それは、反りのある太刀を鞘走りさせながら放つ、高速の必殺剣。
直刀によって放たれた剣閃は、本来の速度には劣るものの、
それでも避けるのは困難な速さで、身を隠す藪ごと襲撃者を斬り裂いた……はずだった。

206羽の交錯 ◆d3XW23vJps :2007/03/18(日) 20:01:40 ID:puSy6lYM
「むっ!?」
晒された光の中を舞うのは、斬り飛ばされた草葉のみ。
手応えの軽さにトウカが唸ると同時、少女の声が再び響いた。
「こんちくしょーっ! 夜道にゃ気をつけやがれっ!」
その言葉を最後に、辺りを静寂が包み込む。
後に残されたのは、剣を手に佇む一人の武士だけだった。
「取り逃がしたか……できるな」
近くの樹木から発せられる、柔らかい光の中でトウカは小さく呟いた。
残心を解きながら光源へと近づき、枝から下がった灯りを消す。
そして、同じ枝に引っ掛かっている黒い物体を見つけ、その手に取った。
彼女のこれまでの半生では見た事の無い物体。
あえて言うならば、刃の無い小刀のように見えるそれを懐に仕舞いながら、
トウカは先程の声の主について考える。
(やはり、殺し合いを積極的に行う者が現れたか)
予想は出来た事だった。
ここに居る者の大多数が望んでいなくとも、この島が戦場である事に変わりは無く、
己の命や守りたい者の命の為に、積極的に他者を襲う者が居ても不思議では無い。
207羽の交錯 ◆d3XW23vJps :2007/03/18(日) 20:05:25 ID:puSy6lYM
そして、最初の広間に居た者の、ほぼ大半が女や子供だった。
それも、彼等の反応を見る限り、おそらくは戦になど出た事の無い者が殆どなのだろう。
あの金髪の女は、そのような戦も知らぬ者達を攫い、命のやり取りを強制しているのだ。

先程の少女の声には聞き覚えがあった。
それは、最初に命を落とした少年の仲間。
倒れ伏した彼を案じ、声を掛けていた小柄な少女。
乱暴な言葉遣いのあの少女も、友人を奪われ、命運を握られ、望まぬ殺戮に身を投じたのだ。
「くっ……」
だがしかし。
例え望んでいなくとも、彼女等が人を襲っているのは事実。
そして、その者達によって、仲間が傷つく事があるかもしれない。だから。
「次に相対した時は、問答無用で斬る」
例え、彼等彼女等の友人や家族から恨まれようとも、自身は自身の信ずる道を行く。
「聖上、エルルゥ殿、アルルゥ殿、どうかご無事で」
その呟きのみを残し、疾風は再び走り去った。
後に残されたのは、木の枝に吊されたランタンと銀に光る刃。そして一羽の鳥。


208羽の交錯 ◆d3XW23vJps :2007/03/18(日) 20:06:46 ID:puSy6lYM
「どうやら、気付かれなかったようだな」
枝葉の影からゆっくりと姿を現したのは、緑色の羽毛に覆われたオウムだった。
彼の名は土永さん。竜鳴館2−Cの担任教師、大江山祈の飼い鳥である。
島に居る大多数と同じく、殺し合いのゲームに強制参加させられた彼は、
この地に降り立った時点では、まだ今後の方針など考えてはいなった。
参加者の中には祈の生徒が幾人か存在しついたし、
開始時間が夜中という時点で鳥目の彼は圧倒的な不利であったからだ。
そもそも、いくら人語を解する彼とはいえ、
人の中に混じって殺し合い、生き残ろうとするのは無謀だと思われた。
だから、彼は生き延びる事を半ば諦めながら、支給された鞄を開いたのだった。
だが、鞄の中にあったランタンを点け、
支給武器を確認する彼の目前にナイフ等と共に現れたのは、一本の棒キャンディー。
武器とは到底呼べない、その支給品に彼は一人の女性を思い重ねる。
数分にも満たない思案の末、彼は心を決めた。

209羽の交錯 ◆d3XW23vJps :2007/03/18(日) 20:07:57 ID:puSy6lYM
「どうやら、気付かれなかったようだな」
枝葉の影からゆっくりと姿を現したのは、緑色の羽毛に覆われたオウムだった。
彼の名は土永さん。竜鳴館2−Cの担任教師、大江山祈の飼い鳥である。
島に居る大多数と同じく、殺し合いのゲームに強制参加させられた彼は、
この地に降り立った時点では、まだ今後の方針など考えてはいなった。
参加者の中には祈の生徒が幾人か存在しついたし、
開始時間が夜中という時点で鳥目の彼は圧倒的な不利であったからだ。
そもそも、いくら人語を解する彼とはいえ、
人の中に混じって殺し合い、生き残ろうとするのは無謀だと思われた。
だから、彼は生き延びる事を半ば諦めながら、支給された鞄を開いたのだった。
だが、鞄の中にあったランタンを点け、
支給武器を確認する彼の目前にナイフ等と共に現れたのは、一本の棒キャンディー。
武器とは到底呼べない、その支給品に彼は一人の女性を思い重ねる。
数分にも満たない思案の末、彼は心を決めた。

210羽の交錯 ◆d3XW23vJps :2007/03/18(日) 20:09:38 ID:puSy6lYM
その後の行動は迅速だった。
ランタンを木の枝に引っ掛け、その近くに支給武器を設置。
鞄を木の上に隠した後、仕掛けたナイフ付近で身を潜める。
そして、灯りに寄って来た女に目掛けて、彼はスペツナズナイフの刃を放ったのだ。
結果はミス。相手は軽い身のこなしで刃を回避したが、それは予測の範囲内。
西洋剣を構える女に、彼は罵声を浴びせた。
――祈の生徒である、一人の少女の声色で。
彼の思惑通り、トウカと名乗った娘は襲撃者を勘違いしたまま去っていった。
その場には彼と灯の消えたランタン、そして銀の刃と彼の鞄だけが残される。
「……悪く思うな。我輩は祈の元に帰らねばならんのだ」
誰とも無しに呟かれた言葉は、闇の中で虚空に消えた。



211羽の交錯 ◆d3XW23vJps :2007/03/18(日) 20:11:34 ID:puSy6lYM
【A−5 森林内 /1日目 深夜】
【トウカ@うたわれるもの 散りゆくものへの子守唄】
【装備:舞の剣@Kanon】
【所持品:支給品一式、不明支給品0〜2(本人確認済み)、スペツナズナイフの柄】
【状態:走り回っている事による軽い肉体疲労】
【思考・行動】
 基本:殺し合いはしないが、襲ってくる者は容赦せず斬る 1:ハクオロ、エルルゥ、アルルゥと早急に合流し守る
 2:オボロ、カルラと合流、協力しハクオロ等を守る
 3:次に小柄な娘(蟹沢きぬ)と会ったら問答無用で斬る
※蟹沢きぬが殺し合いに乗っていると思い込んでいます


【土永さん@つよきす−Mighty Heart−】
【装備:なし】
【所持品:支給品一式、祈の棒キャンディー@つよきす−Mighty Heart−
    不明支給品1(本人確認済み)】
【状態:健康、鳥目による視覚障害】
【思考・行動】
 基本:最後まで生き残り、祈の元へ帰る
 1:とりあえず、明るくなるまで休息※留まっている樹木に灯の消えたランタンが下がっています
 また、付近の樹木にスペツナズナイフの刃が刺さっています
212天才少女、探偵少女、ヘタレ男:2007/03/19(月) 00:29:35 ID:hh2E6+Tf
「殺し合いなんて馬鹿げたことを考える人の気が知れないわ」

ここは役場。本当にただの役場。
この本当にただの役場内で天才少女二見瑛理子は怒っている。
当たり前だ。
IQ190以上の天才の彼女に殺し合いをさせるなど愚の骨頂。
ただ、役場という場所と美人と可愛さが同居した少女の組み合わせだけはどうも違和感がある。それが少し滑稽だった。

「殺し合いなんて誰がすると言うの。馬鹿馬鹿しい」

そういいながらも一応支給品の確認は行う。
自分が殺し合い不参加を決めても、付近にいる人間は乗る可能性がある。
そういうバカに殺されるなど想像するだけで不愉快極まりない。

でも出てきたのは……

「ハリセンとナイフとノートパソコン……」

頼りない物ばかり。でもノートパソコンは彼女にとってはあたりでもある。

「そうね。私なら出来るはず。きっと」

パソコンの電源を立ち上げる。
役場のコンセントに差し込んで電池は温存することは忘れない。

しばらくして画面が映る。
213天才少女、探偵少女、ヘタレ男:2007/03/19(月) 00:30:27 ID:hh2E6+Tf
「えーと、タカノ、フカヒレ、シア、ミスズ、マエバラ……」

思い出せる限りの名前を打ち込む。すると画面が出てくる。

『優勝予想、殺し合いの勝者は誰だっ!』

「殺し合いを賭け?本当にバカの考えることはわからない」

心底あきれ果てる。だが一応確認すると事前の賭けのオッズ上位がわかる。

上位トップテンに挙げられていた名前は
ハクオロ、高嶺悠人、佐藤良美、芙蓉楓、園崎詩音、宮小路瑞穂、国崎往人、川澄舞、杉並、古手梨花。

「……つまりこの十名が強い人、好戦的な人物、逆に言えば要注意人物と言えるわけね」

上位に名前がある以上強い戦闘力と容赦なく殺す冷淡さを併せ持っていることになる。
瑛理子はそのように判断する。
更に調べるが、オッズの全順位並びに死亡者速報、殺人数ランキング、掲示板などの項は全て準備中。
これ以上調べても役に立つ情報は得られない。
そう判断し、瑛理子は電源を落とす。

その直後だった。
物音が響く。人が入ったのを示す足音だ。
214天才少女、探偵少女、ヘタレ男:2007/03/19(月) 00:31:22 ID:hh2E6+Tf
(誰っ!)

ナイフを構える。
瑛理子は侵入者が敵でないことを祈った。
だが相手の声でそれは無駄な警戒だと分かる。

「誰かいないのかっ、俺は鳴海孝之だ、こっ殺し合いはしない。だっ、だから……だからっ、仲間になってくれるやつはいないのかっっ?」

声から動揺が見て取れる。
『鳴海孝之』
先ほどのオッズには名前が無い。実力者ではない。
だが動揺が激しい。
武器が何か分からないが、飛び道具であればこっちが危険。
瑛理子はしばらく物陰に身を潜め傍観することにする。


約五分経過。

「こっ、ここにはいないのかっ?おーいっ!」

瑛理子には男がしつこく感じられた。
いつまでも声を出されては屋内とはいえ外にも音が漏れる。
それでは危険だ。
だが油断させる罠の可能性もある。
結局相手が出るまで根競べとなる。

215天才少女、探偵少女、ヘタレ男:2007/03/19(月) 00:31:59 ID:hh2E6+Tf
更に五分経過。

「もっ……もう行くぞっ!」

遂に男が出て行くらしい。
瑛理子は安心する……が束の間。
新たな足音が近づいてくる。

「あなた名前なんですか?」

新たに現れたのは綺麗な髪を黒いリボンで二つ分けにしたかわいらしい少女。
両手には銃を持っていた。

「待ってくれ…俺は鳴海孝之だ。殺さないでくれ」
「えっあのっ……待ってください。私は殺し合いには乗ってませんよ」

そういうと少女は銃をバッグに戻し両手を挙げる。

「……乗ってない?本当に?名前は?」
「白鐘双樹といって、双葉探偵事務所というところで助手をやってます。所長の恋太郎は凄い人なんですよ。だから安心して任せてください」
「そうか……助かった」

少女は男に笑顔で応対していた。
男は腰が抜けたように座り込む。
それを見て、二人とも危険人物ではないとようやく認識できた。
だがそこで新たな問題が起こる。
今ここで出ていてば、私がなぜすぐに姿を現さなかったのかという問題だ。
すぐに出て行かなかったのは間違いだったのか……。
これからどうしよう。
216天才少女、探偵少女、ヘタレ男:2007/03/19(月) 00:34:24 ID:hh2E6+Tf
【B-2 役場内/1日目 深夜】

【二見瑛理子@キミキス】
【装備:コンバットナイフ】
【所持品:支給品一式 ノートパソコン(六時間/六時間) ハリセン】
【状態:健康】
【思考・行動】
1:白鐘と鳴海に接触するかどうか決断する。
2:殺し合いに乗らず、首輪解除とタカノの情報を集める。
【備考】
佐藤良美、芙蓉楓、園崎詩音、ハクオロ、高嶺悠人、宮小路瑞穂、国崎往人、川澄舞、杉並、古手梨花を危険人物を認識しました。
ノートパソコンのバッテリーはコンセントを使わない場合連続六時間までしか使用できません。充電によって使用時間は延ばせます。
ネット内のホームページは随時更新しています。
水澤摩央とは面識はありません。

【白鐘双樹@フタコイ オルタナティブ 恋と少女とマシンガン】
【装備:IMI デザートイーグル 10/9+1 トカレフTT33 9/8+1】
【所持品:支給品一式 IMI デザートイーグル の予備マガジン10 トカレフTT33の予備マガジン10 不明支給品1(本人は確認済)】
【状態:健康】
【思考・行動】
1:鳴海孝之を落ち着けさせる。
2:恋太郎と沙羅ちゃんを探す。
3:双葉探偵事務所の一員として殺し合いに参加している人は倒す。
217天才少女、探偵少女、ヘタレ男:2007/03/19(月) 00:35:22 ID:hh2E6+Tf
【鳴海孝之@君が望む永遠】
【装備:無し】
【所持品:支給品一式 不明支給品1〜3(本人も未確認)】
【状態:恐怖 混乱 焦り】
【思考・行動】
1:双樹に守ってほしい
2:でもかっこいいところも見せたい。
3:死にたくない
【備考】
名簿を確認してないので、知人の誰が参加しているか把握していません。
218天才少女、探偵少女、ヘタレ男:2007/03/19(月) 00:54:09 ID:hh2E6+Tf
二見瑛理子の備考欄に下記を追加

二見瑛理子が見た物はネット上の「少年少女殺し合い、優勝者は誰だ!?」というホームページです。
現時点では何らかの制限で他のページへのアクセスは出来ません。
219天才少女、探偵少女、ヘタレ男:2007/03/19(月) 02:43:28 ID:hh2E6+Tf
>>213

「えーと、タカノ、フカヒレ、シア、ミスズ、マエバラ……」

思い出せる限りの名前を打ち込む。すると画面が出てくる。

この部分を下記の物に変更します。

ネットを開くが「ホームページが見つかりません」と出る。
ネットワーク接続はされているらしいが、アドレスに直接ホームページを打ち込んでも思いつく限りのものは全てつながらない。
そこで調べ方を変更する。

「えーと、タカノ、フカヒレ、シア、ミスズ、マエバラ……」

思い出せる限りの名前をアドレスに直接打ち込む。すると今までとうってかわり、ページが表示された。
220今、この場で生まれた私達の目的の違い:2007/03/19(月) 12:13:31 ID:ON75gvu+
「純一くん、あそこに人がいますっ!」

住宅地を歩く男女二人、人影を見つけた芙蓉楓が嬉しそうに声を上げる。
いくつもの無機質な住居がただ整列されているだけのこの場所、隣に頼れる仲間はいるものの不安が拭えたわけではない。
いつ誰に襲われるか、いつ誰が争っているか。もしそんな場面に遭遇してしまったらどうするか。
恐怖心は絶えず楓の心の体力を吸い取っていった、しかしそれと共にちょっとした期待もないわけではない。

土見稟が、ネリネが、時雨亜沙が。大事な友人等がひょっこり目の前に現れるかもしれないという可能性。
びくびくと怯えながら少しずつ移動をしていた楓にとって、それだけが心の支えであった。
それは、非現実な願いとしか言いようがない。
それでも期待せずにはいられないかった、この閑散とした空気の中を彼女はただ切実な願い事を刻んでいくかのごとく一歩一歩進んでいくのだった。

そんな時だった、ふと視界に揺れ動くものが入ったのは。
最初はただの錯覚とも思った、しかしその違和感を簡単に見過ごそうとするほど楓の判断力は鈍くない。
すぐさま隣を歩いていた朝倉純一に声をかける、そっと民家の影に隠れながら二人で覗きじっくりと確認した所。
確かに、そこには人がいたのだった。しかも年は二人とそう変わらないであろう。
人相までは分からない、しかしその人物の身につけている衣服が物語っていた。

ほぼ百パーセントの確立で女子高生だろう、清潔感溢れる白のジャケットが爽やかな夏を予感させる。
少し茶けたみつ編みが、彼女が周囲を見渡すたびに揺れて可愛らしかった。
辺りの様子を窺いながら、用心深く歩いている彼女がまだこちらには気づく気配はない。

(そうですよね、そんな簡単にいきませんもんね・・・・・・)

ネリネや亜沙かもしれないという望みが叶わなかったということに対するショックは隠せない、しかしそれで落ち込んでいては何にもならない。
彼女も、間違いなく被害者なのだ。自分と同じ立場の人間、そう考えれば親近感も自然と沸く。
あんなに周りを気にして、一人だからきっと不安で堪らないのだろう。
可哀想だ、一刻も早く安心させてあげたい。ここに仲間が、自分達がいることを伝えたかった。
221今、この場で生まれた私達の目的の違い:2007/03/19(月) 12:14:56 ID:ON75gvu+
楓は目の前の彼女に対し、すぐにでも声をかける気であった。
しかしその考えは、隣で楓と同じように彼女を見やっていた純一の顔つきが視覚に入った所で中断される。

「純一、くん・・・・・・?」

純一は、難しい顔つきでじっと前方を睨んでいた。






楓が彼女の元へ行きたがっているというのは、さすがの鈍いことに定評のある純一でもすぐに気づくことができていた。
しかし、本当にあの少女が殺し合いに乗っていないかなんて判断はつかない。
それこそ楓の時にあれだけ抵抗なく声をかけられたのだって、彼女が殺し合いに乗っていないという確信があったからとれた行動だった。
・・・・・・あの錯乱した姿が演技であったとしたら、純一もそれで終わっていたが。それほど世界は厳しくもない。

だが、目の前の彼女はどうか。
純一の目的は島からの脱出である、そのためには情報を多く得るためにも仲間を増やす必要があるという考えはある。
それでも闇雲に声をかけ自滅しては終わりなのだ、その線引きは難しい。
正直、純一には分からなかった。
本当に彼女は安心できる存在であるのか、その判断基準をどうつければいいか。
分からない。さっぱり、分からない。
とりあえず武器のようなものを所有しているようには見えない、いきなり襲ってくることはないと思う・・・・・・が。

「あーもう!・・・・・・くそっ、かったりぃな」
「純一くん、一体どうしたんですか・・・・・・?」
222今、この場で生まれた私達の目的の違い:2007/03/19(月) 12:15:41 ID:ON75gvu+
純真な瞳、隣の少女が不思議そうにこちらを見やってくる。
何故行かないんですか? 何故あの子に声をかけないんですか?
視線はひたすら、それを訴えかけてくる。

・・・・・・彼女は余りにも、人を疑おうとしなさ過ぎる。これはこれで危険な兆候でもあった。
そもそも、これは先ほど楓に声をかけた際に感じた疑問だった。
別にやましい思いがあったわけではないが、あんな簡単に受け入れられるとは思わなかったので拍子抜けしたのは事実だということである。

この先一緒に行動する上で、人選を見誤ることもあるかもしれない。
その時一番に被害にあい、そして傷つくかもしれない・・・・・・そんな可能性を、楓は秘めている。
今から言い含めたらいいのだろうか、しかし何て伝えればいいのか良い言葉は思い浮かばない。
その間も、楓は純一の様子をちらちらと窺いながら少女の動向を見つめ続けていた。

そして。ついて痺れを切らした楓が動き出そうとする。

「ちょ、ちょっと待てって! どうする気だよ」
「? 稟くんや、純一くんのお友達のことを聞こうかと・・・・・・」
「いや、落ち着いて考えてみなよ。もしあの子が優勝狙いだった場合、危ないだろ」

純一が何を言ってるか。楓は、すぐには理解できなかったらしい。
きょとんと真顔で彼の瞳を見つめていた。その真っ直ぐさに心が痛む。

確かに、目の前を歩いていた女の子はどう見ても自分達と同年代の普通の子だった。
着用している制服に見覚えはないが、それでも学生同士。疑いたくない思いも純一にだって勿論ある。

「純一くんは、あんな普通の子がそんな悪いことをすると思ってるんですか」

丁寧な口調だからこそ、語気が強くなったことがよく現れた台詞だった。

「相手は女の子ですよ・・・・・・純一くん、ひどいです」
223今、この場で生まれた私達の目的の違い:2007/03/19(月) 12:16:17 ID:ON75gvu+
しかし次の瞬間、泣きそうな顔で訴えてくる。純一の勢いを退けるには最高のダブルコンボであった。
だがここでなあなあにしてしまっては彼女のためにもならない、純一は自身にしっかりと言い聞かせる。
全ては彼女のために。自分が、悪役になってしまうかもしれないが、それで彼女の寿命が延びるなら全く問題ない。

一つだけ深呼吸をした後、純一は表情を引き締め改めて楓と見詰め合った。

「・・・・・・勘違いしてるみたいだけど、俺が君に声をかけたのは絶対君が人を襲う子には見えなかったからだ」
「あの子も人を襲う子になんて見えないです」
「いや、分からない」
「な、何でですか・・・・・・?」
「念には念を入れなくちゃいけない、錯乱していた君とはまた違うパターンだし。簡単に信用するわけにはいかないよ」
「り、稟くんでしたらそんなことしません! 困ってる女の子相手に・・・・・・ひどいですよ、純一くん・・・・・・」
「ごめん、俺は『稟くん』じゃないんだよ。君が心配だからこそ言ってるんだ、そんなに簡単に―― 」


純一の言葉はまだ続いている、しかしそれが楓に伝わることはない。
「『ごめん、俺は『稟くん』じゃないんだよ」
その言葉が、耳から離れなかった。

自分を救ってくれた純一は、まるで王子様のような存在であった。
稟も同じく。稟は楓にとって全てである、稟が存在しているということ自体が自分が生きる理由と言っても過言ではない。

そんな自分を救ってくれた純一の姿を、どこか面影の似ている稟に全く重ねていなかったと言ったら嘘になる。
だからこそだろうか、こんなにショックを受けているのは

(ああ、そうですよね・・・・・・私は純一くんと稟くんの共通点を見つけてから、いつの間にか純一くんに稟くんを求めていたのかもしれません・・・・・・)

知らず知らずのうちに。
確かに稟の姿を探していたが、殺し合いに参加させられているという恐怖心が薄らいでいたのは隣に仮想された『稟』がいたからかもしれない。
224今、この場で生まれた私達の目的の違い:2007/03/19(月) 12:16:54 ID:ON75gvu+
住宅地を歩き回っている間、不安だけど安心だった。隣に『稟』がいたから。
知り合いに会えることなくただ時間だけが過ぎていったが、それでも何とかなると思った。『稟』がいるから。

『稟』なら何でもできると思ったから、そう。この島から有志を募って脱出するという希望を、『稟』なら絶対成し遂げられると信じていた。

しかし『稟』は言う。目の前に現れた庇護する対象と言っても過言でもない少女に対し「簡単に信用してはいけない」と。
確かに誰でもホイホイ誘っていって危険な目に合うのは楓だってごめんだ、だが同年代の少女に対してこれでは納得がいかない。
自分が甘いのだろうか。自分が間違っているのだろうか。
楓の中で葛藤が生まれる。

(でも・・・・・・稟くんなら、稟くんでしたら・・・・・・やっぱり違うと思います・・・・・・っ)

自分に向けられる、あの優しい笑顔が好きだった。
そして、周りにも同じ笑顔を向けている誰よりも優しいあの人が好きだった。
困っている人を見つけたら、必ず手を差し伸べる彼が、楓の『稟』だった。

・・・・・・しかし、目の前の彼はあの人じゃない。『稟』ではなかった。
それではどこにいる? 楓の求める『稟』は、どこにいるのだろうか。

(わ、私は何をしていたの・・・・・・稟くんを置いて、一人で安穏として・・・・・・)

楓の大好きなあの人は、今もこの孤島で一人でいるかもしれない。
誰かに襲われているかもしれない。
・・・・・・もう、遅いかもしれない。

一つ負の考えが描けると、それが連想を生み出しどんどん悪いイメージを楓に植え付けていった。
安らぎは一瞬で掻き消える、自然と起こる全身の震えを楓は止められなかった。

(何より優先することは稟くんなのにっ、わ、私が稟くんを見つけないと、見つけて助けないと、稟くんだけは助け)
「・・・・・・楓?」
225今、この場で生まれた私達の目的の違い:2007/03/19(月) 12:17:34 ID:ON75gvu+
そう、こうやって名前を呼び捨てにするから。
会って間もないのに。
いきなり呼び捨てにするから・・・・・・あの人と、同じ笑顔で。

勘違いさせないで、優しくしないで。
あの人は今苦しんでいるかもしれないのに、自分の助けが必要になってるかもしれないのに。
安心させないで、私は守られる立場じゃない・・・・・・稟くんを、守らなくてはいけないんですっ!!

「あのねぇ。さっきからブツブツ言ってるの、全部聞こえてるんだけど」
「うわっ?!」
「きゃあ!!」

いつの間にか影に隠れていた二人の前には、先ほどまでこちらが様子を窺っていたはずの少女が仁王立っていた。
いきなり変容した楓の態度を訝しげに見やっていた純一も、当の本人である楓も。この急な接近には全く気づけなかったようだ。

「お取り込み中悪いわね。ん〜、見た感じ皆殺しで帰ろうとしてるようには見えないけど・・・・・・とりあえず、話でもしてみる?」

あっけらかんと言い放つ彼女は、遠くで見ていた時もよっぽど度胸があるように見える。
彼女のペースに上手く乗せられたという感じで、二人はこくこくと頷くのであった。







「とりあえず、ごめん・・・・・・」
「ま、いいけどね。そりゃあんな説明受けた後ですもの、いきなり出てこられてもこっちが困るわよ」
226今、この場で生まれた私達の目的の違い:2007/03/19(月) 12:18:14 ID:ON75gvu+
あっけらかんと言い放つ少女は、そのまま自己紹介を始めた。
水澤摩央。輝日南高校三年生、受験生。それが彼女のプロフィールであった。

「何かこそこそとうろつかれてるな〜とは思ったのよ、でも何も仕掛けてこないし。
 知らないうちに追い詰められてるんじゃないかと冷や冷やしたわ〜」

こんなにも明るい彼女を疑っていたということを恥じる純一、一方楓だけは俯いてだんまりを決め込んでいるようで彼女のみ会話に入ってこようとはしてこなかった。
純一がさりげなく話題を振ったとしても、楓の様子は変わらない。
どうしたものかと困惑する彼をよそに、摩央は二人の間に流れるどこか気まずい空気に気づいていないのか、それともわざと気づかない振りをしているのか。
特に気にせず、一人でもペラペラとしゃべっていた。
その後、純一は自分達が脱出を目指しているということ、そして仲間を募っていることを摩央に話した。

「今、俺達の知り合いだけでもかなりの人数がこの島に連れて来られている状態だ。
 どうすればいいか情報を集められるような人材にも心当たりはある、摩央さんにもぜひ協力して欲しい」
「・・・・・・ねぇ、それってあなた達の知り合いもここにいるっていうこと?」
「ああ、うん。摩央さんは?」
「残念、知り合いはいないの」
「ひ、一人も?!」
「ええ」
「・・・・・・・そっか・・・」

それではさぞや心細かっただろう。
もし集められた五十人以上の人間の中に、誰も知人がいないという状態でこの島に放り出されたとしたら・・・・・・考えただけで、不安に押し潰されそうになる。

「その・・・・・・ごめん、俺・・・・・・」

最初から味方がゼロの状態という恐ろしさ。それでも明るく笑い飛ばす、彼女の器の大きさには関心するしかない。

「あははっ、でも大切な子がいないからこそ、できることもあるのよ?」
「そんなもんなの?」
「ええ、そうね。例えば・・・・・・こんな風、とか」
227今、この場で生まれた私達の目的の違い:2007/03/19(月) 12:18:57 ID:ON75gvu+
しかしそんなイメージを彼女に持った直後だった、すっと彼女の白く長い指先がデイバッグに伸びたのは。
とても自然な動作だった、そして純一の見つめる目の前で。
摩央は、何の躊躇もなく。取り出した拳銃を、彼に向けて固定した。

純一にとっては、全く意味の分からない展開だった。すぐの反応もできていない。
何故摩央は、銃をこっちに向けている? あれ、さっきまで普通に話してたよね? あれ、あれ??

「ま、摩央さんっ?! な、何でそんな」

そんな戸惑い。疑問を伝えるべく口を開くか、所々裏返ってしまったそれは妙に滑稽なものになってしまう。

「ん? いや、ほら。だから友達とかいないなら、色々ヤっちゃってもいいかなーって思うわけなのよ。どうせバレないだろうし」

慌てふためく純一の様子が可笑しいのか、摩央はくっくっと押し殺した笑いを含めながらも答えてくる。

「言ったでしょ、ここには私の大切なあの子はいないの。
 私には、守らなくちゃいけない人間がいないのよ・・・・・・これは強みよ? 何たって、人質を取られることもないし」

カチャッと、金属音が馳せる。照準が合わせ直された、真っ直ぐ純一の眉間を貫くが如く伸びたしなやかな腕の白さに目を奪われる。
一種の逃避、しかしせまってくる現実が純一を逃すことはない。

「まっ、運がなかったのよ。ごめんね?」

動けなかった。突然の事に対し、何の対処もできなかった。
摩央の言葉に動揺が隠せず、ただ純一は呆然と彼女を見やるだけだった。
猫のような意地悪めいた目が歪む、楽しそうにおしゃべりを繰り返す彼女が、何故いきなりこのような行動に出たのか。
・・・・・・やっぱり、分からなかった。それとも純一が最初に考えていた通りの不安が表に出ただけなのだろうか。
様々な試行錯誤、しかし時間は待ってくれない。
228名無しくん、、、好きです。。。:2007/03/19(月) 12:22:54 ID:DuDrBxSs
すみません、連投規制になってしまったのでこれで書き込めなかったら続きは非難スレに上げさせていただきたいと思います
ご迷惑おかけします…
229sage:2007/03/19(月) 12:24:48 ID:DuDrBxSs
すみません、急いで書き込んだらあげてしまいました、本当すみません…
230名無しくん、、、好きです。。。:2007/03/19(月) 18:00:20 ID:QJMxJc6+
人気の無いレジャー施設。
本来人でにぎわっているはずの場所も、ここでは人っ子一人いない。
まるで自分ひとり世界に取り残されたような感覚すら覚える施設。
夜ということもあいまって、その不気味さは形容詞がたい域に達していた。

そこに、脱力したように座り込みうなだれる男が一人。
高嶺悠人である。
彼の目の前には、雑然とものが置いてある。どうやら鞄の中身を全て出してみたようだ。
地図、コンパス、筆記用具、水、食料、名簿、時計、ランタン、そして………支給品。
彼はまず、この殺し合いをとめようと考えた。……まぁ当たり前といえば当たり前である。
そのためには、道具が要ると思った。戦いに乗った相手を退けるためにも、弱い人を守るためにも。……当然である。
鞄には、殺し合いをする道具が入っていると言っていた。なら、おそらくは武器であろう……気持ちはよく分かる。
それを使おうというのだ。

それがどっこい。
予想外にも。
殺し合いだからそういう道具が入っている。―そう考えていた時期が俺にもありました。

いかなる言葉を使っても彼がどれだけ予想を裏切られたかを言い表すことはできない。
なぜなら

彼の支給品は
231名無しくん、、、好きです。。。:2007/03/19(月) 18:01:22 ID:QJMxJc6+




バニラアイスとハリセン

何故そんなものが支給品と分かったか?
簡単である。
包んでいた紙と小型の冷凍庫にでかでかと墨で支給品と書いてあったからだ。
バニラアイスを食ってみた。
旨かった。
キーンとした。
なんか懐かしかった。
………………………涙が出た。


「どうすればいいんだよ……」
弱音を吐くのを軟弱者だと罵るなかれ。
誰だって突然殺し合いに放り込まれて自分の武器がハリセンとバニラアイスでは絶望するだろう。
他の参加者は剣や銃を持っているかもしれない。
アセリアやエスペリアがいる以上、どんな存在がいてもおかしくない。
その中でバニラアイスとハリセン!
こんな状況でも、微妙にそういう期待値はあっただけに、空よりも余計タチが悪い。
オクラホマ・スタンピートの如く持ち上げて落とされた気分だ(ブレーンバスターでもいい)。
いくら似たような状況に放り込まれ、殺し合いを強要された経験がある悠人言えども、平然とできようものか。
バニラアイスをどうすれば武器にできるか?人を撃退できるか?投げるか?犬じゃないんだから退散させられるとは思えない。
せいぜい溶けたアイスクリームが女の子の顔を白くべた付かせるくらい程度。とてもどうこうできるものじゃない。
小型の冷凍庫のほうは、30cm四方で取っ手がついているし、そこそこ重いから鈍器として使用できないこともないが………
こんなものを今の自分が振り回したら逆に自分が振り回されるだけだ。
232名無しくん、、、好きです。。。:2007/03/19(月) 18:02:10 ID:QJMxJc6+
とても扱えるとは思えないし、こんなもので人を殴っては殺してしまうかもしれない。というかその確立のほうが高いくらいだろう。
永遠神剣をもたずとも、ファンタズマゴリアのとき並みの膂力があれば扱うこともできるだろうが、ないものねだりをしてもしょうがない。
しかも微妙に腹立つことに、冷凍庫には「雪の振る冬の校庭で食べてもおいしいよ☆」とかなめたことが書いてある。
そんなところで食べてもおいしいわけがないだろう、常識的に考えて………
もう一度何かないかと鞄をひっくりかえして振ってみてもほこりがパラパラと落ちるだけ。
溜息まじりにハリセンを掴んでみる。これは逆に殺傷能力が低すぎる。思いっきりやっても相手がなみだ目になるくらいだろう。
だがこれでも、何もないよりはマシだ。本当に、何もないよりはいくらかマシといった程度のものだが。
それでも人間極端に追い詰められると、なにかつまらないものでもあると安心するものだ。
……かといってこの状況が解決されるわけではないが。
なんとなく軽くハリセンを振ってみる。そこら辺の壁にハリセンがぶつかった。
ただ、それだけ
それだけだったが














  そ  の  と  き  奇  跡  が  起  こ  っ  た  !  !
233名無しくん、、、好きです。。。:2007/03/19(月) 18:02:43 ID:QJMxJc6+


チュド――――――――z―――――――ン



( ゚д゚)……ハァ?

( ゚д゚)……

( ゚д゚ )

なんということでしょう(加藤みどり氏の声で)
突然ハリセンからあふれ出た電撃にかかればこの通り。
気持ちが明るくなる暖色で描かれていたタイルは剥がれ、中のコンクリートがむき出しになりました。
すぐに側に置かれていた観葉植物の葉もパラパラと乾燥して落ち、気持ちを殺伐とさせます。
部屋中に黒い煙がもやもやと上がり、事件性を演出します。



「…………稲妻が、出るハリセン?」
ふと、激烈に嫌な予感かられ、ハリセンに目をやる。
柄(?)から僅か、手に収まってないところになにやら見える。文字のようだが……?

岬 と一文字。

嫌な予感大幅アップ。というか青天井で上昇中。
恐る恐る人差し指と中指を開き、その下の文字を確認する。

岬 今日子
234名無しくん、、、好きです。。。:2007/03/19(月) 18:03:50 ID:QJMxJc6+
(やっぱりキョウコ――――!?)
ガビーンとかズーンとか言う雰囲気が悠人の背中にのしかかる。
しかしまぁ謎は全て解けた。
やっぱりというかなんというか、このハリセンは今日子のものらしい。

岬今日子は、悠人とぺド野郎もとい光陰をことあることにハリセンでシバく同級生で、稲妻を操る永遠神剣『空虚』の契約者だ。
悠人達は現実世界ではただハリセンで叩かれるだけだったが、異世界のファンタズマゴリアに来てからは
『空虚』の力の上乗せされたライトニングブラスト入りハリセンでド突かれまくっていた。

どうやらこのハリセン、今日子の稲妻の力が少し残っているらしい。
電撃を撃ちまくる――とはできなさそうだが、何回か殴る分には電撃は出てくれそうな気配はある。

にしてもこんな世界まで来て今日子の道具が渡されるとは……腐れ縁というものであろうか。
だが、この支給品決して彼からすれば悪いシロモノではない。―――むしろ大当たりだ。
何しろ電撃が出てくることは物騒だが、死なないことは自分の身をもって体験済みだ。
相手を倒すことはできても、迂闊なことをして殺す心配も無い。扱い方も極論的だが剣と基本同じだ。
何発、いつまで稲妻が出てくれるかは心配ではあるが、そんなものは些細なことだ。
「そうだな……こんなとこで立ち止まっちゃ駄目だよな」
苦笑気味に呟く悠人。
なんとなく、今日子が「がんばんなさいよ、バカユウ!」と言っている気がする。

そう、何よりこの支給品は彼の心を鼓舞する効果をもたらした。
どんなに強い戦士も、状況に流され混乱したり、心が折れていては十分に闘うことができない。
まして、こんな世界ならなおさらだ。あたふたしていれば、ばっさりやられるだけだろう。
この状況で生き残るのに真に必要なもの。
235名無しくん、、、好きです。。。:2007/03/19(月) 18:04:29 ID:QJMxJc6+

それは心を強く持つこと

言うのはたやすく、実行するのは難しく――そしてあっさり忘れたり、なにかの拍子に曲がってしまうものだ。
実際今さっきまで彼もそうだった。
けど今は違う。

「よし、いくか。アセリアたちを探さなきゃな」

殺し合いの渦中とは思えないほど晴れた顔で、悠人は歩き出した。


【D-1 西部の森/1日目 深夜】

【高嶺悠人@永遠のアセリア −この大地の果てで−】
【装備:今日子のハリセン@永遠のアセリア バニラアイス@Kanon×9(消費数1)】
【所持品:支給品一式 】
【状態:好調】
【思考・行動】
1:アセリアとエスペリアと合流
2:出来る限り多くの人を保護
3:なんとしてもファンタズマゴリアに帰還する
【備考】
バニラアイスは小型の冷凍庫に入っています。
2周目以降の今日子、光陰生存ルートから 細かいどのタイミング、どのルートで出たかは今後に任せます
236傀儡のアセリア  ◆KZj7PmTWPo :2007/03/20(火) 01:07:58 ID:inB8Jn0M
「…………」 

 鼻を強く刺激する塩素の香り。耳朶を打つ静かな小波の音色。
 広大で見果てぬ大海が、少女の視界を埋め尽くしていた。
 空と海面を区切る水平線は、夜の闇に覆われて判別も付かない。
 何処までも深い黒色の水面に浮ぶ月光が、幽鬼のように朧げと揺れる。
 その様を、堤防に立つ少女はぼんやりと眺めていた。
 自然が奏でる光景をジッと見据える姿は、傍から窺えば無関心と思えるほどに表情の揺らぎが見当たらない。
 喜怒哀楽を欠いた様な能面さと淡紫色の長い頭髪が、返って月夜の中では幻想的な程に際立たせていた。
 
 揺らめきのない純粋な瞳は、一体何を想うのか。
 彼女は先に述べた“人間”の言葉を脳裏で反芻させる。
 ――殺し合いをしてもらうためよ。
 そう、言っていた。
 『殺し合い』。呼んで字の如く、集められた有機生物で命を奪い合えという意味であろう。
 その要求に歯向かった者は、衆目の前で無残にも殺害された。見せしめなのだろか、それも当然の結末だとは思う。
 不可侵である筈の命令に逆らったのだ。処罰の方法はともかく、仕置きをされるのは至って普通のことである。
 ――どうして歯向かったのだろうか?
 罰せられた少年に、彼女はそう感じられずに入られなかった。
237傀儡のアセリア  ◆KZj7PmTWPo :2007/03/20(火) 01:09:32 ID:inB8Jn0M
 彼女の名前はアセリア・ブルースピリット。
 固体名はアセリアで、ブルースピリットは種族を分別するための記号でしかない。
 ――水の妖精のアセリア。未来永劫、永久不変の存在意義は他者の命を奪うこと。即ち、戦場に立つ。その一点のみに尽きた。
 他に意義はあるのだろうか。……考えたこともない。
 等価交換を原則とした有限世界――ファンタズマゴリアに生まれ出た瞬間より、彼女は戦人として何の疑問も寄せずに生きてきた。
 世界はマナという生命エネルギーで成り立っており、そこではマナの結晶体である妖精など一介の道具に過ぎないのだ。
 人権が適用されるはずもないのだから、妖精の存在が軽視されているのも事実である。
 しかし、単なる使い捨ての消耗品として扱われようが、彼女は一切の悶着も起こしたことはない。それが宿命であると同時に、生きる源でもあるからだ。
 世界が彼女の生誕という理由で代償を支払ったのならば、負債のある自分がそれを返済する義務が生じる。
 対価として、彼女は生殺与奪の権利全てを他者へと委ねた。自尊心と言い換えてもいい。
 そして、彼女は戦い続けた。無表情に、無感情に、それこそ率先して前線を駆け抜けた。
 幾多も傷付き、それ以上に傷付けた。幾星霜も戦って戦って、数え切れぬほどに敵と見定められた者を斬り捨てたのだ。
 そこに、一片の憐憫や躊躇もない。後悔に苛まれたことすらまったくない。
 敵が助けを請おうが喚こうが、容赦なくマナの散りへと変えた。 
 アセリアにとっての戦いとは、しいて言えば生きる活力。人間で例えると、呼吸運動と言ってしまえる程に身近なものなのだ。
 自己を表現できない彼女には、誰しもが持ちうる尊厳と欲望が遥かに欠如している。
 ある意味、思考放棄した真っ白な状態で課せられた唯一のことが、戦場に立つことなのだ。
 他に望むものはない。言ってしまえば、それしか生き方を知らない。ならば、それを止める道理はない。
238傀儡のアセリア  ◆KZj7PmTWPo :2007/03/20(火) 01:14:58 ID:inB8Jn0M
 だが、そんな命の表現方法を、嘗て叱って諭した少年がいた。――高嶺悠人だ。
 悠人はファンタズマゴリアでは異端である、異世界からの来訪者であった。エトランジェという。
 紛争のない世界で暮らしてきた彼と、戦乱を駆け抜けたアセリアでは物の価値観が違う。反発は目に見えていた。
 彼は言った。自由に生きろと。戦いに意味を持てと。
 熱意が篭もった悠人の言葉に、アセリアは何を感じたかと思えば――何も感じなかった。意味が分からない。
 彼女が知る方法以外の選択肢を示されても判断に困るし、真意を理解するのにも相当苦しんだ。結局は解らず徒労で終わったのだが。
 満足しているわけではないが、アセリアは今の生き方を変えようと努力するつもりはない。差し当たって、立場に不満も不平ない。 
 現状維持。一番容易く、最も楽な身の流し方だ。
 ――戦えればいい。戦わせてくれたら、他に何も要らない。
 戦闘狂という訳では決してないが、戦いは自身の存在を証明する尊き行為だ。それ自体に意味を求めることは、果たして必要だといえるのか。
 少なくとも、アセリアは必要ないと答える。 
 自分の全てを代価として投げ打って、敵を撃つため剣を振るのだ。それだけで充分であろう。
 行為を否定されれば、彼女とて困ってしまう。
 難しいことは考えない。悩むだけなら考えたくはない。
 ひたすら戦う。それでいいじゃないか。
 正直な話、自分を惑わせる発言を横から挟まないで欲しい。
 嘘や虚栄のない偽わざる感情を押し通してこそ、本来の自分らしさというものだ。 
 無垢な子どものようで、それでいて融通が利かないところが非情に顕著であった。
 故に、彼女の存在意義は依然として変わらない。立ち塞がる者がいるとするならば―― 

「敵……それなら倒すだけ」
239傀儡のアセリア  ◆KZj7PmTWPo :2007/03/20(火) 01:20:49 ID:inB8Jn0M
 誰ともなしに呟いて、アセリアは大海に背を向ける。
 ここは戦場。彼女が望むべくして望んだ戦乱の大地。――やることは変わらない。
 一方で此度の戦、不満を上げるとすれば永遠神剣が手元に無いことだ。
 生まれて此の方、常に傍にあった帯剣が失われることは存外に不安へと駆り立てられる。
 神剣がない――つまりはマナの光源体であるハイロゥが展開できないということだ。大幅な戦力減退である。
 戦闘を行うスピリットの大半は、能力を増幅する神剣に依存する余り、剣を手放すと半ば無力化してしまう。
 それでも、一般人との基礎体力は比べくもないほどに充分脅威的なのだが、弱体化は否めない。
 だが、アセリアには今まで培ってきた類稀な剣術の技能がある。加えて、生涯を戦に捧げた豊富な経験も備わっているのだ。
 後は武器さえあれば、神剣無しとはいえ計り知れない戦力を持ち得るのではないか。
 彼女は左手に持った長い筒を天に翳した。

「……ん」

 ――在ったのだ。アセリアにおあつらえ向きの武器が。 
 翳した長筒を腰に留め、右手は柄に添え、左手の親指で鯉口を切る。
 カチャリ――という乾いた音が小さく響いた瞬間、彼女の右腕がぶれた。同時に、洗練された風切り音が発せられる。

「…………」

 抜刀体勢で暫し静止。鯉口に鍔元の刀身を合わせて滑らせ、優美な動作で切っ先を納刀。
 これが彼女に支給された戦闘手段、日本刀――地獄蝶々だ。
 アセリアにとっては馴染みのない武器だが、『漆黒の翼』が持つ永遠神剣と確か同じ形状だったはず。
 見よう見真似で振るってみたが、身軽な彼女にとっては意外と悪くない。
 悪くはないが、やはり筋力諸々が著しく低下していた。
 精々成人男性の水準を大きく上回る程度でしかなく、刀とて何度も振るえるものではなさそうだ。
 彼女の本来の戦い方は、加速力を加えた大剣で敵を叩き潰すこと。その点を省みるならば、大剣よりも鋭く軽量な刀であったのは運が良い。
 現在の虚弱な状態で、不釣合いな重量過多の武装を配給されても困ること請け負いだ。振れないのだから無用の産物だろう。
240傀儡のアセリア  ◆KZj7PmTWPo :2007/03/20(火) 01:22:41 ID:inB8Jn0M
 一時的に自身の相棒と定めるが、それでも永遠神剣を欲することを止めることは出来ない。
 不可思議なことに、この場所はスピリットの生命を供給するマナが酷く希薄だ。そのくせ、彼女の体内にはマナが溢れかえっていた。
 これは戦闘能力に変換されているわけではなく、単純に生命活動の維持という措置が成されている。
 つまり自立稼動する上では、ある程度月日を重ねても問題は無いということだ。
 充分なマナが備わった今、永遠神剣を手にすれば攻守共に遅れは無い。妖精に神剣とは、正に鬼に金棒なのだ。
 もしかしたらという願望を抱いて、永遠神剣を探してみることも忘れない。
 ある意味で依存した永遠神剣の存在だ。どんな手段を用いても手元に戻したかった。

 アセリアは小さく頷いて、歩みを進めた。 
 目的地は無い。ただ真っ直ぐと、朽ちるまで愚直に進むのみ。
 無論、特定の標的も持たない。全てが敵対者と成り得るのだ。
 他者は打倒すると決めた。ならば、語る言葉は既に無く、振り切るのは自尊と一太刀の剣のみ。
 殺し合えと言われたら、四の五の言わずに殺し合う。そこに、良心的な躊躇いは無い。
 人間には逆らわないスピリットが、逆らえるはずの無い人間へと牙を向く。
 ――二律背反。矛盾であることにも気付かずに、意味も価値も元よりない殺人を犯そうと彼女は躍進する。
 
 それは、盤上に居並ぶ操り人形の駒。吊るされた糸には目もくれず、この先起こる闘争に思いを馳せた。
 彼女は眼前に広がった漆黒の帳を冷然と見据える。陰鬱とした暗闇は、己を蔑ろにするアセリアの未来を示唆しているかのようだった。 
241傀儡のアセリア  ◆KZj7PmTWPo :2007/03/20(火) 01:23:32 ID:inB8Jn0M
【H-5 船着場/1日目 深夜】

【アセリア@永遠のアセリア】
【装備:地獄蝶々@つよきす】
【所持品:支給品一式(他は不明)】
【状態:健康】
【思考・行動】
1:永遠神剣があれば、即座に確保
2:鷹野の言葉通り、殺し合いを行う。

【備考】
枯渇の心配が無いほどにマナを保有しています。よって、ハイペリアに訪れた時のようなマナ不足による体調不全を起こすことはありません。
悠人やエスペリアが参加者として存在していることを知りません。
彼女の精神は、悠人の考えに共感するほど育まれてはいません。
242前を向いて ◆ncKvmqq0Bs :2007/03/20(火) 08:16:04 ID:CbUV2lwX
人気の無いレジャー施設。
本来人でにぎわっているはずの場所も、ここでは人っ子一人いない。
まるで自分ひとり世界に取り残されたような感覚すら覚える施設。
夜ということもあいまって、その不気味さは形容詞がたい域に達していた。

そこに、脱力したように座り込みうなだれる男が一人。
高嶺悠人である。
彼の目の前には、雑然とものが置いてある。どうやら鞄の中身を全て出してみたようだ。
地図、コンパス、筆記用具、水、食料、名簿、時計、ランタン、そして………支給品。
彼はまず、この殺し合いをとめようと考えた。……まぁ当たり前といえば当たり前である。
そのためには、道具が要ると思った。戦いに乗った相手を退けるためにも、弱い人を守るためにも。……当然である。
鞄には、殺し合いをする道具が入っていると言っていた。なら、おそらくは武器であろう……気持ちはよく分かる。
それを使おうというのだ。

それがどっこい。
予想外にも。
殺し合いだからそういう道具が入っている。―――そう考えていた時期が俺にもありました。

いかなる言葉を使っても彼がどれだけ予想を裏切られたかを言い表すことはできない。
なぜなら

彼の支給品は





バニラアイスとハリセン
243前を向いて ◆ncKvmqq0Bs :2007/03/20(火) 08:16:36 ID:CbUV2lwX
何故そんなものが支給品と分かったか?
簡単である。
包んでいた紙と小型の冷凍庫にでかでかと墨で支給品と書いてあったからだ。
バニラアイスを食ってみた。
旨かった。
キーンとした。
なんか懐かしかった。
………………………涙が出た。


「どうすればいいんだよ……」
弱音を吐くのを軟弱者だと罵るなかれ。
誰だって突然殺し合いに放り込まれて自分の武器がハリセンとバニラアイスでは絶望するだろう。
他の参加者は剣や銃を持っているかもしれない。
アセリアやエスペリアがいる以上、どんな存在がいてもおかしくない。
その中でバニラアイスとハリセン!
こんな状況でも、微妙にそういう期待はあっただけに、空よりも余計タチが悪い。
オクラホマ・スタンピートの如く持ち上げて落とされた気分だ(ブレーンバスターでもいい)。
いくら似たような状況に放り込まれ、殺し合いを強要された経験がある悠人言えども、平然とできようものか。
バニラアイスをどうすれば武器にできるか?人を撃退できるか?投げるか?犬じゃないんだから退散させられるとは思えない。
せいぜい当たって溶けたアイスクリームが女の子の顔を白くべた付かせるくらい程度。とてもどうこうできるものじゃない。
小型の冷凍庫のほうは、30cm四方で取っ手がついているし、そこそこ重いから鈍器として使用できないこともないが………
こんなものを今の自分が振り回したら逆に自分が振り回されるだけだ。
とても扱えるとは思えないし、こんなもので人を殴っては殺してしまうかもしれない。というかその確率のほうが高いくらいだろう。
永遠神剣をもたずとも、ファンタズマゴリアのとき並みの膂力があれば扱うこともできるだろうが、ないものねだりをしてもしょうがない。
しかも微妙に腹立つことに、冷凍庫には「雪の振る冬の校庭で食べてもおいしいよ☆」とか、なめたことが書いてある。
そんなところで食べてもおいしいわけがないだろう、常識的に考えて………
244前を向いて(修正版) ◆ncKvmqq0Bs :2007/03/20(火) 08:17:19 ID:CbUV2lwX
もう一度何かないかと鞄をひっくりかえして振ってみてもほこりがパラパラと落ちるだけ。
溜息まじりにハリセンを掴んでみる。これは逆に殺傷能力が低すぎる。思いっきりやっても相手がなみだ目になるくらいだろう。
だがこれでも、何もないよりはマシだ。本当に、何もないよりはいくらかマシといった程度のものだが。
それでも人間極端に追い詰められると、なにかつまらないものでもあると安心するものだ。
……かといってこの状況が解決されるわけではないが。
なんとなく軽くハリセンを振ってみる。そこら辺の壁にハリセンがぶつかった。
ただ、それだけ
それだけだったが














  そ  の  と  き  奇  跡  が  起  こ  っ  た  !  !



チュド―――――――――z__________ン
245前を向いて(修正版) ◆ncKvmqq0Bs :2007/03/20(火) 08:17:50 ID:CbUV2lwX



( ゚д゚)…………ハァ?

( ゚д゚)……

( ゚д゚ )

なんということでしょう(加藤みどり氏の声で)
突然ハリセンからあふれ出た電撃にかかればこの通り。
気持ちが明るくなる暖色で描かれていたタイルは剥がれ、中のコンクリートがむき出しになりました。
すぐに側に置かれていた観葉植物の葉もパラパラと乾燥して落ち、気持ちを殺伐とさせます。
部屋中に黒い煙がもやもやと上がり、事件性を演出します。



「…………稲妻が、出るハリセン?」
ふと、激烈に嫌な予感かられ、ハリセンに目をやる。
柄(?)から僅か、手に収まってないところになにやら見える。文字のようだが……?

岬 と一文字。

嫌な予感大幅アップ。というか青天井で上昇中。
恐る恐る人差し指と中指を開き、その下の文字を確認する。

岬 今日子

(やっぱりキョウコ――――!?)
ガビーンとかズーンとか言う雰囲気が悠人の背中にのしかかる。
しかしまぁ謎は全て解けた。
やっぱりというかなんというか、このハリセンは今日子のものらしい。
246前を向いて(修正版) ◆ncKvmqq0Bs :2007/03/20(火) 08:18:41 ID:CbUV2lwX
岬今日子は、悠人とぺド野郎もとい光陰をことあることにハリセンでシバく同級生で、稲妻を操る永遠神剣『空虚』の契約者だ。
悠人達は現実世界ではただハリセンで叩かれるだけだったが、異世界のファンタズマゴリアに来てからは
『空虚』の力の上乗せされたライトニングブラスト入りハリセンでド突かれまくっていた。

どうやらこのハリセン、今日子の稲妻の力が少し残っているらしい。
電撃を撃ちまくる――とはできなさそうだが、何回か殴る分には電撃は出てくれそうな気配はある。

にしてもこんな世界まで来て今日子の道具が渡されるとは……腐れ縁というものであろうか。
だが、この支給品決して彼からすれば悪いシロモノではない。―――むしろ大当たりだ。
何しろ電撃が出てくることは物騒だが、死なないことは自分の身をもって嫌になるほど体験済み。
相手を倒すことはできても、迂闊なことをして殺す心配も無い。扱い方も極論ではあるが剣と基本は同じだ。
何発、いつまで稲妻が出てくれるかは心配ではあるが、そんなものは些細なことだ。
「そうだな……こんなとこで立ち止まっちゃ駄目だよな」
苦笑気味に呟く悠人。
なんとなく、今日子が「がんばんなさいよ、バカユウ!」と言っている気がする。

そう、何よりこの支給品は彼の心を鼓舞する効果をもたらした。
どんなに強い戦士も、状況に流され混乱したり、心が折れていては十分に闘うことができない。
まして、こんな世界ならなおさらだ。あたふたしていれば、ばっさりやられるだけだろう。
この状況で生き残るのに真に必要なもの。

それは心を強く持つこと

言うのはたやすく、実行するのは難しく――そしてあっさり忘れたり、なにかの拍子に曲がってしまうものだ。
実際今さっきまで彼もそうだった。
けど今は違う。

「よし、いくか。アセリアたちを探さなきゃな」

殺し合いの渦中とは思えないほど晴れた顔で、悠人は歩き出した。
247ホテルでの出会い ◆7lKS0CGkY2 :2007/03/20(火) 18:42:35 ID:NW/oKnSK
「……祐一……助けてよぉ」

名雪は膝を抱えて座っていた。
既にここ、ホテルのロビーに飛ばされてから一時間は経過している。
その間をずっとこのロビーの隅で震えていた。
普通の学生生活を送っていたのに、毎日はとても楽しかったのに。
お母さんと、祐一と、あゆちゃんと、ピロと。
平和に暮らしていたのに。
突然日常生活が音を立てて崩れ、今自分は殺し合いを強制されてここにいる。
精神は崩壊する寸前だった。
ただ、名簿に記されていた相沢祐一、月宮あゆ、北川潤。
この三人の名前があったのが救いだった。
特に祐一。この存在が大きかった。
祐一なら自分を助けてくれる。
根拠はないがそう信じている。

「祐一……」

名雪はバッグを開け支給品の武器を見つめる。
支給されたのは露出度の高い服と大きな狙撃銃と真剣。
狙撃銃は当然自分には使いようが無い。真剣は剣道が出来ない自分にはやはり使い道が無い。
でも祐一なら……何となくだが使いこなしてくれる気がした。使いこなして自分を守ってくれる。
そう信じて、名雪はバッグを閉じる。
248ホテルでの出会い ◆7lKS0CGkY2 :2007/03/20(火) 18:43:11 ID:NW/oKnSK
更にしばらく時間が経過した。震えているだけの状況が変化した。

足音が聞こえる。近づいてくる。

「いやっ、誰っ!?」

名雪は更に小さく縮こまる。
見つからないように。
足音はどんどん接近してくる。
そして遂に、足音の主はロビーに入ってくる。

「ふう、……そうだな。今夜はここで休むか」

入ってきたのは大きな銃を構えた少女だった。
その少女はソファーに腰を掛けた。

「朝になったらすぐに探さないと……双樹……恋太郎……お願いだから無事でいろよ」

少女は神様に願うように呟いた。
名雪は思った。

(この人……大丈夫?……だよね。怖く…ないよね。だって友達いるみたいだし……)

名雪は決心して少女の元に歩き出す。
249ホテルでの出会い ◆7lKS0CGkY2 :2007/03/20(火) 18:44:25 ID:NW/oKnSK
【D-5 ホテル一階ロビー内/1日目 深夜(開始から一時間以上経過)】

【水瀬名雪@Kanon】
【装備:無し】
【所持品:支給品一式 エンジェルモートの制服@ひぐらしのなく頃に 祭 川澄舞の剣@Kanon 
MOM ゲパードM5 5/5 MOM ゲパードの予備弾30】
【状態:健康 恐怖に精神が若干不安定】
【思考・行動】
1:部屋に入ってきた少女に声を掛ける。
2:少女が危険人物ならすぐに逃げる。安全と判断すれば一緒に行動する。
3:死にたくないけど、殺したくもない。
基本行動方針
祐一とあゆと北川君を探す。

【白鐘沙羅@フタコイ オルタナティブ 恋と少女とマシンガン】
【装備:コルト AR15 30/30】
【所持品:支給品一式 コルト AR15の予備マガジン10 ランダムアイテム残数1〜2(本人は確認済)】
【状態:健康】
【思考・行動】
1:夜が明けるまでホテルで待機
2:明るくなれば恋太郎と双樹を捜索。
3:恋太郎と双樹以外でも危険人物で無ければ仲間にする
4:脱出の可能性を考える
基本行動方針
PKK(殺人者の討伐)を敢行する

【備考】
人が隠れているのを何となく気付いていますが、あえて様子を伺っています。
250 ◆7lKS0CGkY2 :2007/03/20(火) 19:21:55 ID:NW/oKnSK
>>248>>249の間に以下の分を挿入します。

少女は気付いていた。
人影に。そしてあえて様子を伺う。
少女の名は白鐘沙羅。
沙羅は気付いた時には森に配置され、すぐに最寄の施設であるホテルに移動を開始して、たった今着いたばかり。
夜の森を長期間歩くのは都会育ちの自分には危険と判断したからだ。
そして目的地に辿り着くが、沙羅の思考は既に最初から決まっていた。
双樹と恋太郎が参加している以上、優勝という選択肢は淘汰され、脱出が彼女の目標となった。
そのためには仲間を集めなければならない。
そして、双樹と恋太郎の命を脅かす危険がある積極的な殺人者は排除しなければ。
沙羅は銃を持ち直し、近づいてくる少女に警戒心を募らせた。
251おはぎと仮面と校内放送と私 ◆rnjkXI1h76 :2007/03/21(水) 17:10:02 ID:KVciM3In
 恋太郎たちが体育館へと移動を始めたころ、学校の校門の前に一人の男が立っていた。
 男の名はハクオロ、恋太郎たちが暮らしていた世界とはまた違う――とある世界に存在する国家トゥスクルの皇である。
「学校――つまりは学び舎ということか……?」
 校門に掛けられていた看板にちらりと目を通すと、彼は目の前の校舎の方へと向ける。
「学び舎にしては随分と大きな建物だが……これだけ広い敷地と大きな建物ならば人の一人は二人はいるだろう……」
 そう呟くと、ハクオロは校門から学校の敷地内へゆっくり一歩一歩足を踏み入れた。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 ――場所は少し変わり、学校から少し離れた住宅街のとある一角。
 街灯と月明かりが薄っすらと夜の闇を照らすそこに時雨亜沙はいた。
(シアちゃん……)
 亜沙の脳裏には、あの時見せしめとして殺されたシアの姿とその時自分たちがいたホールに響き渡った稟の絶叫が何度もフラッシュバックしていた。
 亜沙にとって、シアは大切な友達の一人であると同時に、土見稟を巡る恋のライバル――『土見ラバーズ』の一人でもあった。
 ――そんなシアが、なんで殺されなければならなかったのか。
 シア、そして彼女より少し前に殺された、あのフカヒレというメガネ少年はただあそこにいただけだ。それなのに――――
「あのタカノって人は――――人の命を何だと思っているの!?」
 思わず亜沙は空に浮かぶ月に向かって怒りの声を上げた。その声は誰の耳にも届くことなく、月の彼方へと吸い込まれていった。
252おはぎと仮面と校内放送と私 ◆rnjkXI1h76 :2007/03/21(水) 17:11:03 ID:KVciM3In
 ――再び辺りがシンと静まり返ると同時に、亜沙はがっくりとうな垂れた。
「どうして……本当に、どうしてこんなことになっちゃったのかな…………?」
 答えてくれる者などいないと分かってはいたが、亜沙の口からはそのような問いかけが呟かれる。
 ――そして、気がつけば両目からはぽろぽろと涙の雫がアスファルトに滴り落ちていた。
「うっ……ううっ…………!」
 亜沙は泣いた。いや、泣くことしか出来なかった。
 シアが死んでしまったことが悲しくて。そして、そのシアの『死』という結果を受け入れることしか出来ない自分に情けなくて。
 ただ、とても悲しくて……悔しかった。
『泣かないでください、亜沙先輩』
「!?」
 ――そんな時、ふいにシアの声が聞こえた気がした。
「シアちゃん……」
 亜沙はゆっくりと顔を上げる。
 もちろん、顔を向けた先にシアがいる、なんてことはない。
 だが、亜沙は気がついた。思い出した。――まだここには稟やネリネや楓がいるということを。

 ――そうだ。まだ、終わったわけじゃない。まだ全てが失われてしまったわけじゃない。

「そう……だね、シアちゃん。今は感傷に浸っている場合じゃあないよね……?」
 そう呟くと、亜沙はゆっくりと立ち上がり、自身のデイパックを開いた。
 出てきたのはひとつの鉄の塊――――サブマシンガン、イングラムM10。亜沙の支給品のひとつだ。
 もちろん、亜沙は殺し合いなどというこんな状況を認めたくないし、受け入れたくもない。
 だけど――だからこそ自分には出来ることがあるはずだ。

「待っててね、みんな……」
 そう呟くと、亜沙は再びゆっくりと前へ歩き出した。
「まずは学校に行こうかな? ここからなら近いし、みんなも自然と集まりそうな場所だしね」
 ――亜沙には分かっていた。自身のこの一歩一歩前へと進んでいる足が日常への別れを告げ、非日常へと足を踏み入れているものだということが。
「でも、それも未来永劫ってわけじゃあない……」
253おはぎと仮面と校内放送と私 ◆rnjkXI1h76 :2007/03/21(水) 17:12:14 ID:KVciM3In
 この先、どのような運命が自分たちに待ち受けているかは、亜沙はもちろん誰にも分かるはずがない。
 ――しかし、そんなものは亜沙には関係無い。
「そう……。この先、どんな運命が待ち受けていようとも、ボクは時雨亜沙だもん……!」


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 舞台を再び学校に戻す。
 双葉恋太郎、そして一ノ瀬ことみ、四葉の三名は先ほどの簡単な打ち合わせの通り、校舎から少し離れた場所に位置する体育館へとやって来ていた。
「よし。じゃあ早速この中を調べていくわけだけど、二人にあらかじめ言っておきたいことがある」
「なに?」
「なんですか先生?」
「――もし、これから先俺の身に万が一のことが起きたときは、すぐに二人はこの校舎の敷地内から離れるんだ」
「な……!? な〜に言っているんですか先生、それじゃ先生がすっごく危険なのデス!」
「うん。そんな酷いことこと絶対に出来ないの」
 恋太郎の口から突然言われた話の内容にすぐさま二人は反論した。
 それでも構わず恋太郎は話を続ける。
254おはぎと仮面と校内放送と私 ◆rnjkXI1h76 :2007/03/21(水) 17:13:03 ID:KVciM3In
「――確かに、酷な発想かもしれないが……、これから俺たちが突入するこの体育館が本当にタカノたちの拠点だった場合を考えてみろよ?
 俺たちはたったの三人しかいない。だけど、向こうは何人いるかは分からない。だから二人は自分たちの身の安全を第一に考えるんだ。
 俺を助けようとして三人全滅なんてことになってしまったら話にならない。それに――――」
 そう言ったところで恋太郎は話を一度止め、自分の首をチョイチョイと指差す。
 その指先にあるものは、もちろん参加者全員に取り付けられている爆弾つきの首輪である。
「――これがある以上、残念だが俺たちは真っ向からタカノたちに刃向かうことは出来ないしな……」
 そう言って恋太郎は軽く顔をしかめてみせる。
「……わかったのデス…………」
「そうか、それじゃあ早速…………」
「じゃあ、四葉たちは自分の身の安全を第一に考えて行動しながら先生をお守りするのデス!」
「は?」
「うん。それなら恋太郎さんも四葉ちゃんも私もみんな安全」
「あ、あのな……。――まあ、今言ったことは本当に万一の時の話だから別にいいけどさ……」
 そう言いながら恋太郎は体育館の扉に手を掛けた。

「――よし。じゃあ、1、2の3で突入するぞ?」
「はい、先生!」
「わかったの」
「1」
「2の……」
「3!」
 声と同時に恋太郎は勢い良く体育館の扉を開けた。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇
255おはぎと仮面と校内放送と私 ◆rnjkXI1h76 :2007/03/21(水) 17:13:59 ID:KVciM3In
「往人さ〜ん、どこぉ……?」
 薄暗い森の中を神尾観鈴は一人さ迷い歩いていた。
 彼女がこの狂気の島を一人徘徊する理由はただひとつ、この島における自身の唯一の心の支えである国崎往人を見つけるためだ。
「うう……往人さ〜ん……」
 観鈴はもう一度往人の名を呼んだ。しかし、その声も先ほどと同様、暗い闇の中にある程度響き渡るだけで終わる。
 これで往人の名を呼んだのはいったい何度目であろうか? 数十回かもしれないし、もしかしたら数百回かもしれない。
 ――その名前を口にするたびに観鈴の心に不安が広がっていった。

 ――――パァン!
「えっ!?」

 ふと、観鈴の耳に破裂音のようなものがひとつ聞こえた。
 その数秒後、さらに同じ音が続いて二回森に響き渡り、これも全て観鈴の耳に入った。
 ――観鈴はその音があの時ホールでメガネの少年が殺された時に聞こえた音と同じもの――――銃声であることにすぐに気がついた。
(もう殺し合いに乗っちゃった人がいるんだ……!)
 観鈴は恐怖した。もしかしたら、自分もあの時のメガネの少年のような最期を遂げるかもしれないと思ってしまい、身体中が震え出す。
(逃げなきゃ……今すぐここから離れなきゃ……!)
 そう思うや否や、観鈴は一目散にその場から駆け出した。


 ――――観鈴は知るわけがなかった。
 先ほどの銃声の正体が、自身の探していた国崎往人が鉄乙女との戦闘により生まれたものだということに。
 そして――――その往人が自身を守るためにこの殺し合いに乗ってしまったということに…………


◇ ◆ ◇ ◆ ◇
256おはぎと仮面と校内放送と私 ◆rnjkXI1h76 :2007/03/21(水) 17:16:34 ID:KVciM3In
 ――――しばらく走ったところで観鈴は学校にめぐりついた。
 コンクリートでできているその建物は、暗い夜空によって不気味に彩られ、観鈴にはまるでファンタジーの世界などに登場する悪魔の居城のように感じた。
「う……夜の学校ってこんなに怖かったんだ……」
 観鈴はそう言いながら、おそるおそる校舎の中へと入っていく。
 もしかしたら、往人や自分のように殺し合いに乗っていない者がいるかもしれないと思ったからだ。

「――それにしても…………」
 校舎に足を踏み入れる直前、観鈴は足を止め、自分のデイパックからあるものを取り出し、それをじっと見つめた。
「なんでこんなもの支給するかなあ?」
 観鈴の手にあるもの――それは紙に包まれたいくつかのおはぎだった。観鈴に与えられた支給品のひとつである。
「食べ物ならもっと日持ちのするものがよかったのに…………」
 はあ、と一度ため息をつくと、観鈴はそれをデイパックに戻し、代わりにランタンを取り出すと気を取り直して校舎へと入った。


 校内に入ると観鈴はすぐに事務室を見つけ、そこで校舎内の案内表を見つけた。
 早速調べてみたところ、校舎は屋上を除いて四階建て。一階には事務室のほかに保健室、職員室、校長室、放送室、食堂が、二階には図書室が、三階には実験室があるとのことだ。
「ここは…………うん。放送室だね!」

 観鈴はなぜ最初は放送室に行くことにしたのか。それは簡単なことである。
 もし学校の敷地内、もしくはその周辺に殺し合いを望んでいない者がいた場合、そういった者たちに校内放送を使って非戦と状況打開を呼びかけるためだ。
 ――しかし、それがこの島においてどれだけ危険な行為であるかを観鈴は考えていなかった。いや、心の奥底に蓄積していた恐怖のあまり考えることなど出来なかった……


◇ ◆ ◇ ◆ ◇
257おはぎと仮面と校内放送と私 ◆rnjkXI1h76 :2007/03/21(水) 17:19:12 ID:KVciM3In
「どうやら地図の通り、この辺り一帯はほとんどが森のようだな……」
 校舎の屋上でハクオロは地図を広げて学校の周辺を見渡していた。
 地図が本当に正確なものかどうかを確かめるためだ。
 そして、ハクオロが今言った通り、学校の周辺は森が広がっており、東の方からは薄っすらと光も確認できた。おそらく地図に載っていた住宅街の町明かりだろう。
「さて……これからどうするか……。オボロたちは多分大丈夫だろうが、エルルゥとアルルゥは急いで見つけ出さねば…………」

 ハクオロは考える。
 おそらくエルルゥもアルルゥも自分から戦おうなどとは思わないだろう。
 ならば、二人はどのような行動をするだろうか――決まっている。自分たちを真っ先に探そうとする。
 ――となると、それは危険だ。
 今は夜――殺し合いに乗ってしまった殺戮者たちにとってはこれほど獲物を狙いやすい時間はあるまい。
 そして、そういった者たちは真っ先にエルルゥたちのような非戦闘員――すなわち、か弱い女子供を真っ先に殺害対象にするだろう。
 あの二人が傷つき、苦しむ姿などハクオロは見たくもないし、考えたくもなかった。
「――――そうだな。私がやるべきことは既に――いや、最初から決まっていたな……」
 自分自身に対してそう呟くと、デイパックから二振りの刀を取り出すハクオロ。取り出されたのは彼の大切な仲間の一人であるオボロの刀。それが自身に支給されるとは、なんとも奇妙なめぐり合わせだ、とハクオロは思った。
(いずれこれはオボロに返さなくてはな……)
 刀を腰の帯に差すと、ハクオロは屋上を後にした。

 彼の最初に成すべき目標はひとつ――エルルゥ、アルルゥを何としてでも見つけて保護することだ。
 次に仲間たちや自分の他に殺し合いに乗っていない参加者たちとの合流、そして最後はもちろん、この殺し合いの主催であるタカノという女を倒すことである。

「私が行くまで無事でいてくれ、二人とも……」
『あー。あー。え……えっと、この学校とその周辺にいる皆さん、私の声が聞こえますか?』
「む!?」
 ハクオロが階段を駆け下り、一階へと戻ってきたその時、突然校舎中に少女の声が響き渡った。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇
258おはぎと仮面と校内放送と私 ◆rnjkXI1h76 :2007/03/21(水) 17:20:19 ID:KVciM3In
「――――どうだ? そっちの方は何か見つかったか?」
「ううん。何もなかったの」
「そうか……。俺の調べていた用具入れの方も何も見つからなかった」

 ――あの後、恋太郎たちが体育館に入ると、そこには誰もいなかった。
 その後、三人で体育館の中の様子を軽く見回してみたが、どうやらこの体育館は先ほど自分たちがいたホールではないということがはっきりした。
 つまり、恋太郎たちの当初の予想は残念ながら外れに終わったというわけである。
 それでも、何かタカノたちの手がかりになりそうなものが無いかと三人は体育館中を隈なく捜索してみることにした。
 ――が、これも残念ながら収穫なしに終わった。

「――さて、殺し合いが始まって一時間くらい時間が過ぎたけど、この後どうする?」
「四葉はすぐにみんなを探しに行くべきだと思うのデス」
「私もそう思うの。やっぱり三人だけじゃあこの先心細いと思うの」
「だよな……。じゃあ、近くの住宅街にでも行ってみるか? あそこなら人も集まりそうだし、商店街とかもあるから役に立ちそうなものが手に入るかもしれない」
 殺し合いに乗った奴も集まりそうだけどな、と付け加えると恋太郎は軽く苦笑いを浮かべてあらかじめ床に置いておいた自分のデイパックを肩に提げた。


『あー。あー。え、えっと、この学校とその周辺にいる皆さん、私の声が聞こえますか?』
「ん?」
 恋太郎たちが自分の荷物を手に取り、体育館を出るのとほぼ同時に、学校中に少女の声が響き渡った。
259おはぎと仮面と校内放送と私 ◆rnjkXI1h76 :2007/03/21(水) 17:21:30 ID:KVciM3In
「……校内放送なの」
「なんデスか、こんな夜中に!?」
「二人ともちょっと静かにしてくれ、聞こえない!」
「はい。ごめんなさい」
 恋太郎の声に二人はすぐさま頭を下げて侘び、口を閉じて放送に耳を傾けた。
『え、え〜と……私の名前は神尾観鈴といいます。皆さんと同じ、この殺し合いに参加させられてしまった参加者の一人です。
 私は殺し合いには乗っていません。他の人を殺そうとも、傷つけようとも思っていません。だって――私たちには大切な人たちがいるからです。
 もし、私が誰かを傷つけたら、きっとその傷つけられた人のお父さんやお母さん、友達は私を一生恨み続けるでしょう。
 逆に私が誰かに傷つけられたら、きっと私のお母さんや往人さんはその人を一生恨み続けるでしょう。
 ――そんなの私は嫌です。そんな血で血を洗う悪循環を生み出すことを私は望みません。なぜなら、憎しみは憎しみしか生まないからです。
 だから皆さんも、あのタカノという人たちの言うことを真に受けたりしないで…………
 え!? きゃああああああああああああああ!!』
「!?」
「えっ?」
 突然校内放送で流れてた観鈴という少女の声が悲鳴に変わった。

「――放送室だ!!」
 恋太郎はベルトに差していたS&W M60を手に取ると、すぐさま校舎へ向かって走り出した。
 それを追うように四葉とことみも駆け出した。
260おはぎと仮面と校内放送と私 ◆rnjkXI1h76 :2007/03/21(水) 17:22:22 ID:KVciM3In
【E-4 学校/1日目 深夜】


【双葉恋太郎@フタコイ】
【装備:S&W M60 チーフスペシャル(.357マグナム弾5/5)】
【所持品:支給品一式、昆虫図鑑、.357マグナム弾(40発)】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない
1・放送室へ向かう
2・沙羅と双樹、四葉の姉妹達、ことみの知り合いを探し出してみんなで悪の秘密結社(主催)を倒す
【備考】
※校舎の屋上から周辺の地形を把握済み

【四葉@Sister Princess】
【装備:なし】
【所持品:支給品一式、参加者の術、魔法一覧、虫眼鏡】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない
1・恋太郎たちと放送室へ向かう
2・恋太郎の手伝いをする
3・姉妹達を探す
4・みんなで悪の秘密結社(主催)を倒す
【備考】
※『参加者の術、魔法一覧』の内容は読んでいません
261おはぎと仮面と校内放送と私 ◆rnjkXI1h76 :2007/03/21(水) 17:24:06 ID:KVciM3In
【一ノ瀬ことみ@CLANNAD】
【装備:鉈@ひぐらしのなく頃に】
【所持品:レインボーパン@CLANNAD、謎ジャム@Kanon】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない
1・恋太郎たちと放送室へ向かう
2・恋太郎たちと行動を共にする
3・朋也たちが心配


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 放送室にやって来た観鈴は、早速放送機材を起動した。
 ――――といっても、マイクの近くにあったボタンやスイッチを一通り全てオンにしただけなのだが……
「これで、大丈夫……だよね?」
 電源がオンになったのを確認すると、観鈴は目の前のマイクに向かって早速話しだした。

「あー。あー。え、えっと、この学校とその周辺にいる皆さん、私の声が聞こえますか?」
 自分の声がちゃんと放送されているか確認することもなく、観鈴は話を続ける。

「え、え〜と……私の名前は神尾観鈴といいます。皆さんと同じ、この殺し合いに参加させられてしまった参加者の一人です。
 私は殺し合いには乗っていません。他の人を殺そうとも、傷つけようとも思っていません。だって――私たちには大切な人たちがいるからです。
 もし、私が誰かを傷つけたら、きっとその傷つけられた人のお父さんやお母さん、友達は私を一生恨み続けるでしょう。
 逆に私が誰かに傷つけられたら、きっと私のお母さんや往人さんはその人を一生恨み続けるでしょう。
 ――そんなの私は嫌です。そんな血で血を洗う悪循環を生み出すことを私は望みません。なぜなら、憎しみは憎しみしか生まないからです」
 観鈴の放送は順調に校内、及びその周辺に流れていく。
 ――しかしその直後、観鈴が予想もしていなかった事態が発生した。
262おはぎと仮面と校内放送と私 ◆rnjkXI1h76 :2007/03/21(水) 17:27:21 ID:KVciM3In
「だから皆さんも、あのタカノという人たちの言うことを真に受けたりしないで…………」
「誰か、この部屋にいるのか?」
「え!?」
 背後から男の声。そして、放送室の扉が開かれる音――――
 おそるおそる振り返る観鈴。するとそこには――――

 不気味な仮面を付けた一人の男の姿が。

「きゃああああああああああああああ!!」
「いっ!?」
 次の瞬間、観鈴は思わず悲鳴を上げてしまった。
 積もり積もった恐怖心が決壊したダムの水のように一気にあふれ出してしまったのだ。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


(し……しまったーーーっ! 何をやっているんだ私は!?)
 悲鳴を上げた観鈴を前にハクオロは焦っていた。
 彼は放送を耳にすると、すぐさま一階の部屋から順に校内に自分以外の人がいることを知り、接触しようと観鈴を探していたのだ。
(こんな状況、しかも夜という時間帯で見知らぬ者が私の顔を見れば驚いて悲鳴を上げるなど目に見えていただろうに……!)
 ハクオロはどのような手を使っても決して取れない仮面をしている自身の顔を呪った。
「往人さん! 助けて、往人さあん!!」
 ハクオロがそんなことを考えている一方で、観鈴はと言うと、デイパックを頭の上に乗せ机の下に潜り込んで震えていた。
 どうやらハクオロのことを自身を殺しに来た殺戮者か何かと勘違いしているようだ。
(ま、まずは目の前のこの子を落ち着かせて私が殺し合いに乗っていないということを証明せねば…………)
 そうと決まれば、とハクオロは慌てずに観鈴に声をかけ、彼女を落ち着かせることにした。
「あ、あ〜……君、驚かせてしまってすまない…………」
263おはぎと仮面と校内放送と私 ◆rnjkXI1h76 :2007/03/21(水) 17:28:13 ID:KVciM3In
【E-4 学校(放送室)/1日目 深夜】


【神尾観鈴@AIR】
【装備:なし】
【所持品:支給品一式、おはぎ@ひぐらしのなく頃に(残り3つ)、他ランダムアイテム不明】
【状態:健康、恐怖】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない
1・往人さん助けて……
2・往人と合流したい
【備考】
※校舎内の施設を把握済み

【ハクオロ@うたわれるもの】
【装備:オボロの刀(×2)@うたわれるもの】
【所持品:支給品一式、他ランダムアイテム不明】
【状態:健康、焦り】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない
1・目の前の少女を落ち着かせなければ……
2・エルルゥ、アルルゥをなんとしてでも見つけ出して保護する
3・仲間や同志と合流しタカノたちを倒す
【備考】
※校舎の屋上から周辺の地形を把握済み


◇ ◆ ◇ ◆ ◇
264おはぎと仮面と校内放送と私 ◆rnjkXI1h76 :2007/03/21(水) 17:29:39 ID:KVciM3In
『きゃああああああああああああああ!!』
「!?」
 学校へと向かって歩いていた時雨亜沙は、学校まであと少しというところで観鈴の放送を耳にした。
 そして、その放送から突然観鈴の悲鳴が聞こえたので、思わず足を止める。
 ――亜沙は考える。

 悲鳴が聞こえた。それはつまり、放送を流していた少女のもとに何者かが襲撃を仕掛けてきたということだ。
 すなわち、今学校には殺し合いに乗ったものがいるということになる。
 ――では、自身はこの後どうする?
 今すぐにでも学校に行って少女を助けに行くべきか、それとも見捨てて稟たちを探しに行くか…………
 確かに、今の自分の装備なら襲撃者を撃退することなんて容易い。しかし、自身が学校に着いたころには既に手遅れかもしれない……だが、それでも――――
「見捨てるわけにもいかないでしょ!?」
 右手に持っていたイングラムを握り締め、亜沙は目の前に見える学校に向かって一気にラストスパートをかけた。
265おはぎと仮面と校内放送と私 ◆rnjkXI1h76 :2007/03/21(水) 17:30:25 ID:KVciM3In
【E-4 学校周辺/1日目 深夜】


【時雨亜沙@SHUFFLE!】
【装備:イングラムM10(9ミリパラベラム弾32/32)】
【所持品:支給品一式、イングラムの予備マガジン(9ミリパラベラム弾32発)×8、他ランダムアイテム不明】
【状態:健康、恐怖】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない
1・放送を流していた少女を助けに行く
2・稟、ネリネ、楓と合流
3・同志を集めてタカノたちを倒す


【作品備考】
※観鈴の放送は学校の敷地内だけでなく、周辺の地域にもある程度聞こえました
266【二人の岐路】 ◆GHgj2Ul34M :2007/03/22(木) 18:08:09 ID:ikVHs3oH
「一体何なのよ。殺し合い?ふざけてるにもほどがあるってのよっ!」

白鐘沙羅は怒っていた。
突然殺し合いを強要されたら誰だってそうだ。
だが沙羅は一度小さく怒鳴ると、間をおいて深呼吸をする。
その間約十分。
怒りを心の奥に押さえ込んで、落ち着いて、支給品を確認する。

「えーと日本刀と銃。あとは……フロッピーディスク?」

中に入っていた二つは殺し合いの道具に相応しい刀と銃。
だがさらにもう一つ、フロッピーディスクが三枚入っていた。
当然機械が無いので、フロッピーディスクの中身については調べようが無い。
無いなら次にすることは一つ。
フロッピーディスクの中身を調べるためにパソコンがありそうな施設に行くことだ。
空のディスクを支給する事は無いだろう。
そう考えるとディスクの中身を確認せずには居られなかった。

「えーと……レジャービルならパソコンくらい当然あるわよね。よし決まり、迷ってたって始まらないわ。あとついでに前原って男の人も探さないとね。
 タカノって女の情報知ってるみたいだし、早く探さないと駄目だわ」
267【二人の岐路】 ◆GHgj2Ul34M :2007/03/22(木) 18:08:44 ID:ikVHs3oH
即決で沙羅は行き先をレジャービルに決める。
そして思い出す。ホールでの出来事を。
ホールではタカノという女と前原という男が会話を交わしていた。少なくとも面識はあるはず。
前原圭一との接触を試みる事は、脱出計画を立ち上げるには必要不可欠だろう。
沙羅は優先的捜索対象に仲間の二人、そして前原圭一を加える。
そして……

「私は双葉探偵事務所の美人助手。その名にかけて絶対脱出してやるわ。……双樹と恋太郎はもちろん、他の人たちもみんなでっ」

そうだった。
あの場には恋太郎と双樹以外に、何人もの人が居た。
みんな殺し合いに参加させられるなど寝耳に水という状態だった。
混乱でパニックを起こす人もいるだろう。
困った時の『双葉探偵事務所』。その名に恥じぬ行動をしなくては駄目だ。
仕事は助手も所長もみんな同じ。
ただタカノを倒し、死者を出さずに全員で帰るだけだ。

268【二人の岐路】 ◆GHgj2Ul34M :2007/03/22(木) 18:09:17 ID:ikVHs3oH
   ◆   ◆   ◆


「お兄様……どうしていないの」

咲耶はフェリーの客室の中で名簿の確認を行い、お兄様が居ないことにショックを受けていた。
最初のホール内で姿が見えなかったことでまさかと思ったがやはり居なかった。
殺し合いに最愛の兄が参加していないのは喜ばしい事ではあるが、同時に最大の助けが居ないことを意味し、それは心細かった。
だけどその代わりに千影、衛、四葉と三人の姉妹が参加していた。

「……そうね。私がやらないと駄目ね。千影はともかく、衛と四葉は……」

姉妹のことを考える。
千影なら大抵のピンチは乗り越えられるだろうが、衛と四葉は危険すぎる。
特に好奇心旺盛な四葉は、危険に首を突っ込んで餌食になるのが容易に想像できる。
それだけに早急な保護が必要だ。
幸いにも自分に支給された物は、サブマシンガンと拳銃と……姉妹の一人可憐がいつも身に着けていたロケット。
中には愛するお兄様の写真が入っている。

「お兄様、私は絶対に生きて帰るわ。出来れば……いいえ、絶対に姉妹みんなで」

咲耶は写真の中のお兄様に誓う。
お兄様は妹が死ぬことなど望んでいない。
だから四人は一人も欠けることなく、無事に帰らなくてはならない。
お兄様が悲しむ顔は咲耶は見たくなかった。
だから――
269【二人の岐路】 ◆GHgj2Ul34M :2007/03/22(木) 18:11:10 ID:ikVHs3oH
「姉妹達を傷つける可能性がある人は全て……私が殺す!」

強力な武器が二つとお兄様の写真が傍にある以上、自分はきっと大丈夫。
姉妹を傷つける可能性があれば、その人物は片っ端から殺すだけ。
しかし自分達には首輪の解除は出来ない。孤島から逃げる術は無い。
だからその方法が提示出来る人物なら殺さない。あくまでも殺すのは自分が『危険』と判断したものだけ。
私は覚悟を決める。
危険人物は確実に葬り去る。

ただ咲耶それだけを強く決断し、夜のとばりへと消えていった。

   ◆   ◆   ◆   

白鐘沙羅と咲耶。
何の面識も無い。共通点もほとんど無い。
唯一の共通点が、ただそれぞれ愛する人が居たというだけ。
でもそれでも二人が置かれた境遇は違いすぎた。
方や愛するものと共にここへ呼ばれた者、方や愛する人を残しここに呼ばれた者。
その違いは大きすぎたのかもしれない。
二人は愛する者の為に、自分のやることを成すだけ。
この二人が今後どうなるのか、今は神ですらもわからない。

270【二人の岐路】 ◆GHgj2Ul34M :2007/03/22(木) 18:11:52 ID:ikVHs3oH
【C-2 雑居ビルの一室/1日目 深夜】

【白鐘沙羅@フタコイ オルタナティブ 恋と少女とマシンガン】
【装備:永遠神剣第六位冥加@永遠のアセリア −この大地の果てで− ワルサー P99 (17/16+1)】
【所持品:支給品一式 フロッピーディスク三枚(中身は不明) ワルサー P99 の予備マガジン8】
【状態:健康】
【思考・行動】
1:恋太郎と双樹を探す。
2:前原を探して、タカノの素性を聞く
3:レジャービルでパソコンを探しフロッピーの中身を確認
4:混乱している人やパニックの人を見つけ次第保護
5:最終的にはタカノを倒し、殺し合いを止める。
基本行動方針
一人でも多くの人間が助かるように行動する

【D-8 座礁したフェリー付近の森/1日目 深夜】

【咲耶@Sister Princess】
【装備:S&W M627PCカスタム(8/8) ビゾン PP19 (64/64)】
【所持品:支給品一式 可憐のロケット@Sister Princess S&W M627PCカスタムの予備弾64 ビゾン PP19の予備マガジン9】
【状態:健康】
【思考・行動】
1:四葉、衛、千影を探し守る。
2:姉妹を傷つける可能性をわずかでも持つ者を殺す
3:脱出を具体的に計画している人物は放置。
4:脱出の具体的計画がなくとも、100%姉妹を傷つけない確証が得られた場合は殺さない。
5:3の際に脱出が現実味を大きく帯びた場合のみ積極的に協力する。
基本行動方針
自分と姉妹達が死なないように行動する
271 ◆GHgj2Ul34M :2007/03/22(木) 21:11:34 ID:ikVHs3oH
それぞれを下記に変更します。
>>268
幸いにも自分に支給された物は、サブマシンガンと拳銃と……姉妹の一人可憐がいつも身に着けていたロケット。 ×

幸いにも自分に支給された物は、二挺の拳銃と……姉妹の一人可憐がいつも身に着けていたロケット。

>>270
【装備:S&W M627PCカスタム(8/8) ビゾン PP19 (64/64)】
【所持品:支給品一式 可憐のロケット@Sister Princess S&W M627PCカスタムの予備弾64 ビゾン PP19の予備マガジン9】 ×

【装備:S&W M627PCカスタム(8/8) AMT バックアップ(8/7+1)】
【所持品:支給品一式 可憐のロケット@Sister Princess S&W M627PCカスタムの予備弾64 AMT バックアップの予備マガジン9】
272 ◆GHgj2Ul34M :2007/03/22(木) 21:39:30 ID:ikVHs3oH
再変更します。

幸いにも自分に支給された物は、サブマシンガンと拳銃と……姉妹の一人可憐がいつも身に着けていたロケット。 ×

幸いにも自分に支給された物は、拳銃と肉まんと……姉妹の一人可憐がいつも身に着けていたロケット。 ×

【装備:S&W M627PCカスタム(8/8) ビゾン PP19 (64/64)】
【所持品:支給品一式 可憐のロケット@Sister Princess S&W M627PCカスタムの予備弾64 ビゾン PP19の予備マガジン9】 ×

【装備:S&W M627PCカスタム(8/8)】
【所持品:支給品一式 可憐のロケット@Sister Princess S&W M627PCカスタムの予備弾64 肉まん×5@Kanon】
273 ◆GHgj2Ul34M :2007/03/22(木) 22:01:15 ID:ikVHs3oH
>>268

幸いにも自分に支給された物は、サブマシンガンと拳銃と……姉妹の一人可憐がいつも身に着けていたロケット。 ×


幸いにも自分には支給品が三つあった。
一つははっきり言って意味不明な肉まん。
だが残り二つは本当に幸運だった。
大口径の拳銃と、そして姉妹の可憐がいつも身に着けていたロケット。   ○
274笑顔の向こう側で ◆A6ULKxWVEc :2007/03/23(金) 00:10:43 ID:oELH8NFf
それは銃と言うにはあまりにも大きすぎた
大きくぶ厚く重く
そして大雑把すぎた
それはまさに鉄塊だった

「「……」」

そして鞄から出てきた巨大な銃を眺め呆然としている少女が2人。
そこにあるのは『九十七式自動砲』
全長 2.06m  重量 59.0kg  口径 20mm
あらゆる面で女子高生に、いや、まともな人間に扱える代物ではない。

「……これが音夢さんの支給品ですか〜」
「そうみたいですね……。」

どうコメントしたものやら。
そんな空気が2人の間に流れる。

「き、気を取り直して佐祐理さんの支給品を見てみましょう」
「分かりました〜。ちょっと待ってて下さい」
そして佐祐理と呼ばれたほうの少女が鞄に手を入れ、中身を取り出していく。
「地図に、コンパスに名簿に水に……この辺は音夢さんのとあまり変わりませんね。あ!」
「何か見つけたんですか?」

2人で佐祐理の取り出したものを見つめる。
275笑顔の向こう側で ◆A6ULKxWVEc :2007/03/23(金) 00:11:27 ID:oELH8NFf
それはなんというかあまりにもだんごだった。
大きすぎず小さすぎず
そしておいしそうだ
それはまさにだんごだった

鞄の中から出てくる団子。団子。団子……。
そして2人の間に再び微妙な空気が流れる。

「……これが支給品ですか?」
「あははーっ。そうみたいですね〜。音夢さん、ひとつ食べます?」
「いえ……こんな状況ですし、食べ物は出来るだけ残しておいたほうがいいと思いますよ」
それに私、和菓子嫌いなんです。
笑顔のまま毒づく。
その呟きが聞こえたのか聞こえなかったのか
「そうかもしれませんね〜。それにしてもこんなにいっぱい団子さんがあると、まるでだんご大家族みたいですね」
佐祐理は、だんごっ、だんごっ、と口ずさみながらも団子を鞄にしまう。
「……何なんです、それ?」
「知りませんか?だんご大家族。昔は大人気だったんですけどね〜」
そういえば一弥もよく歌ってました。
そう呟いた佐祐理の笑顔には少しだけ陰りがあった。
「とにかく、私達の鞄には役に立ちそうな物は入っていませんでしたね」
                             ・・・・
「そうですね〜。最初に出会えたのが音夢さんで良かったです。団子だけじゃ危険な人にあったら、佐祐理1人だったらすぐに殺されてたと思います」
                        ・・・・・・・
「私も最初に会えたのが佐祐理さんで良かったです。こんな大きい銃、私には扱えませんもの」

あははーっ。
くすくす。
2人の少女は笑顔を交わす。
その笑顔の向こう側では───?
276笑顔の向こう側で ◆A6ULKxWVEc :2007/03/23(金) 00:12:44 ID:oELH8NFf
(この女の道具は団子だけですか、使えませんね)
音夢は自分の鞄に入っていたもうひとつの武器、S&Wの感触を確かめる。
そう、音夢に支給されていた武器は1つではなかった。
佐祐理に見せた『九十七式自動砲』は確かに強力だが、使いどころが難しい。
それに比べればこのS&Wは大当たりだろう。
(ライフルだろうが拳銃だろうが、急所に当たれば人が死ぬのは同じです)
仮に九十七式自動砲で佐祐理を狙おうとしても、撃とうとしてもたもたしている間に逃げられて終わり。
でもこのS&Wなら?
この馬鹿そうな女は自分が全ての手札を晒したと思ってすっかり油断して居るみたいだ。
ポケットから銃を取り出して、突き付けて引き金を引く。
それだけでこの女の人生は終るのだ。
(……もっともそんな勿体無いことしませんけど)
そう、この銃は小型な代わりに、装弾数はたったの5発しかないのだ。
そしてその内の2発の使い道は既に決めてある。
1つは、白河ことり。
学園のアイドルだかなんだか知らないが、最近兄さんに妙に馴れ馴れしく接している女。
それに対して兄さんも鼻の下を伸ばして喜んでいるのだ。
(全く、兄さんったら本当に浮気性なんですから)
そして2つ目。
(芳野さくら……)
277笑顔の向こう側で ◆A6ULKxWVEc :2007/03/23(金) 00:13:19 ID:oELH8NFf
突然に戻ってきて、兄さんを奪って行った泥棒猫。
今でもたまに思う、あのさくらは私の悪夢なのではないだろうか。
そう、6年前の桜の木の下から始まった悪夢。
何度あの子から兄さんへの手紙を破り捨てたのだろう?
それでもあの泥棒猫は性懲りも無く次の手紙を送ってくるのだ。
それでも、向こうは海外、此方は同じ家に住んでいるという絶対的な距離の差があった。。
だから負けっこないと思って気にしないようにしていたのに。
まさか4月になっていきなり転入してくるなんて想像出来ただろうか?
しかも6年前の姿のままで。
これが悪夢じゃなくてなんだというのだ。
(待っていてください兄さん。あの泥棒猫達を始末してから一緒にこんなふざけた殺し合いから抜け出しましょうね)
そう、この殺し合いは秘密裏に兄さんに近づく泥棒猫を始末する絶好の機会だ。
そして傷心の兄さんを私が慰めてあげれば、2人の仲は一気に……
(その為には私があの女達を殺したことを兄さんに知られないようにしないと……)
重要な点は2つ、兄さんよりも早くあの女狐共を見つけ出すこと。
そして目撃者を残さないこと。
(だからこの馬鹿女にもいつかは死んで貰わないといけませんね)
どうせなら役に立つ死に方をして欲しいものだ。
(ま、精々私の役に立って下さいね)
278笑顔の向こう側で ◆A6ULKxWVEc :2007/03/23(金) 00:14:42 ID:oELH8NFf
音夢さん、何か隠してますね。
彼女の言動、笑顔、その全てがうそ臭い。
(これも舞のおかげかもしれませんねー)
表情の変化に乏しい親友のことを想う。
彼女は嬉しい時も辛い時も顔には出さない。
でも、佐祐理には何となく分かるのだ。
舞の顔を見れば、今、彼女が何考えてているのか。
上辺だけの表情ではなく、心の底から湧き出る感情。
佐祐理はいつの間にかそれを見抜く術を身につけていた。
(……といっても、舞以外の人のことは分からない場合も多いんですけどね)
それにしてもこれはあざとすぎる。
今の所、音夢が何を考えているのかは不明だが、朝倉純一を探している、というのは本当だろう。
純一を見ていないか尋ねてきたときだけは彼女の仮面が剥がれていたような気がしたから。
(尤も、その後が問題ですけどね〜)
芳野さくら、白河ことり。
この2人の名前を出す時には全身で悪意を放っていた。
大切な人が3人なら問題ない。
生きて帰れるのはたった1人。つまりその中の誰かを選ばなければならないのだ。
そんな選択をするくらいなら、勝てる可能性は低くとも主催者に抗おうとするだろう。
でも大切な人が1人なら。
最後の2人になった時点で自分で死ねば守りたい人を守ることが出来るのだ。
もしもここに連れてこられたのが舞か祐一さん、どちらか片方だけだったなら。
きっと佐祐理も大切な誰かを生かすために殺人鬼になっていたでしょう。
でも佐祐理には舞か祐一さん、どちらか1人を選ぶことなんて出来ません。
(だから──音夢さん、芳野さくら、白河ことりに何をしようが構いません。でも───もし、舞や祐一さんを傷つけるつもりなら許しません)
もしも音夢さんが皆殺しにして、純一さんだけを生かして返すつもりなら。
(貴方がこの殺し合いに参加するつもりなら……そのときは佐祐理が貴方を殺します。)
スカートの中に隠し持っているナイフの感触がやけに冷たく思えた。
279笑顔の向こう側で ◆A6ULKxWVEc :2007/03/23(金) 00:16:51 ID:oELH8NFf
【C-3 森 1日目 深夜】

【朝倉音夢@D.C】
【装備: S&W M37 エアーウェイト 弾数5/5】
【所持品:支給品一式、九十七式自動砲弾数7/7(重いので鞄の中に入れています)】
【状態:健康、】
【思考・行動】
基本:純一と共に生き延びる
1・ことり、さくらを殺す
2・兄さん(朝倉純一)と合流する
3・殺すことでメリット(武器の入手等)があれば殺すことに躊躇は無い。
【備考】
※S&W M37は隠し持っています。

【倉田佐祐理@Kanon】
【装備:スナッペズナイフ】
【所持品:支給品一式、だんご×30】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない。ただし、危険人物を殺すことには躊躇しない
1・舞や祐一に会いたい
2・音夢を見極めたい
【備考】
※音夢を疑っています。
※ナイフはスカートの中に隠しています。
280笑顔の向こう側で ◆A6ULKxWVEc :2007/03/23(金) 00:29:00 ID:oELH8NFf
>>279
スナッペズナイフ→スペツナズナイフ
に訂正します。
281覚悟のススメ  ◆KZj7PmTWPo :2007/03/24(土) 16:12:04 ID:D4iJMZDH
「――っはあ! は、はぁ……っ。くっ、う……くそ!」

 熱の篭もった荒ぶる吐息に悪態を孕ませながら、静まり返った夜の住宅街を岡崎朋也が駆け抜ける。
 額から流れ落ちる汗を煩わしそうに手の甲で拭い、有らん限りの力で大地を蹴り飛ばす。
 彼の肩に下げられたデイバックが乱暴に揺れる様は、切羽詰った今の状況を代弁しているかのようだった。

 ――冗談ではない。
 訳が分からぬ内に孤島へと拉致されて、やりたくも無い狂的な催し事を無理無体に要求されているのだ。
 こちらの都合は一切考慮せず、更には決して歯向かえぬ様、爆破装置の首輪までも装着されている始末。
 納得できるはずもないのだが、強要する側も了承を得ようなどと思ってはいないのだろう。
 寧ろ箱庭で行われる面白可笑しい殺人遊戯を、それこそ茶飲み話を興じるかのようにして楽しんでいるのではないか。
 憎たらしくも殺意が湧いてくるが、主催側の目的や動機を真剣に考えている暇もない。危ぶまれた命を守ることに精一杯なのだ、それも無理のない話である。
282覚悟のススメ  ◆KZj7PmTWPo :2007/03/24(土) 16:12:54 ID:D4iJMZDH
 碌に年を重ねていない朋也とて、殺し合えという横暴な理由でむざむざと死にたくはない。
 今まで日々平穏に生きてきた彼だが、変わらずにはいられない世界には嫌気が差していた。一人取り残されるのが嫌で、躍起になっていたとも言える。
 自宅にいても父親との確執は相変わらずだし、学校に登校しても気に喰わないことばかりだ。
 唯一の暇潰しと言えることは、同級生の春原陽平を扱き下ろして退屈を凌ぐ程度でしかなかった。
 目的も無く、ただ怠惰に暮らしていた筈が、突拍子も無い出来事に巻き込まれた末にこの孤島に立たされている。
 不満ばかりを抱えた世界が、どれほど尊重できるものかを改めて気が付いた。
 現状に拒絶ばかりして、見放されて辿り着いた場所がこの殺し合いの場だとしたら、余りにも甘えが過ぎたのではないだろうか。
 後悔は時既に遅し。この理不尽な非現実は、駄々を捏ねた拍子に、禁忌の境界線へと踏み込んだ自分自身に責任があるような気がしてならない。
 ――それは錯覚。気弱になった精神が、起こり得る現実から目を逸らす逃避でしかない。
 つまりは起こるべくして起こった、運命のようなものだと受け入れるのだ。
 ここで単に運が悪かったなどと言われてしまうと、幾らなんでも哀れすぎて報われない。
 それを強く意識させるのは、現在の状況に原因の一端があると言えた。
  
 早い話が、彼は追われていた。
 思考が纏まりきらぬ内に一人の男性と遭遇し、朋也にとっては程度の低い質問を男より寄せられたのだ。
 幾つかの質疑応答の後――問答無用で襲われた。律儀に答えた朋也からは有力な情報が得られなかったために、最早用無しといった具合にだ。
 素早い動きで背後に回りこまれ、呆気なく首元を絞められた。 
 放っておけば絞殺行為による窒息死は免れなかったのだが、こうして生きている以上は事無きを得たのではあるが。

(――あの時は運が良かったな……。あれは銃声、か? 物騒極まりないが……助かった)
283覚悟のススメ  ◆KZj7PmTWPo :2007/03/24(土) 16:14:08 ID:D4iJMZDH
 男に殺されかかった寸前に、決して遠くない位置から甲高い音が夜の沈黙を切り裂いたのだ。
 恐らくは銃声。凶行に走っていた男もそうだが、意識が散漫となっていた朋也もその音に僅かな驚きを見示した。
 男が力を緩めた瞬間は、事態を好転する絶好の機会。後方にいた男の顔面へと頭突きを喰らわし、命辛々抜け出すことに成功したのだ。
 だが、一時的に開放されたからといって、危機から完全に脱したとは言い難い。
 男の立ち回りや雰囲気からして、まともに相対しても勝ち目がないことは薄々感づいていた。躊躇無く殺しに掛かったのだ。覚悟の度合も別格である。
 ならば、取るべき最良の行動は言わずもがな。三十六計逃げるに如かずだ。
 直撃した鼻を押さえる男には目もくれず、制止を含んだ怒声を振り切って逃走を計ったのだった。
 しかし、大人しく諦めて見逃かと思えば、否。逃げた朋也に引導を渡すべく、追跡するに決まっている。
 一時凌いだとはいえ、歴然の身体能力によって即座に捕縛されるに違いない。男に追いつかれぬ様、より早くより工夫して逃げ延びなければならなかった。
 圧倒的な能力差と理不尽な不運に塗れるも、朋也は幸運からも決して見放されてはいなかった。彼の傍に転がる一条の希望。
 それは、より早く移動する為の術である。

「はっ、はぁ! は……っ!」
284覚悟のススメ  ◆KZj7PmTWPo :2007/03/24(土) 16:15:25 ID:D4iJMZDH
 朋也はその身を乗せた金属の板に重心を乗せ、簡易のハンドルにしがみ付きながら大地を蹴って滑走させる。
 彼のバックから転がり出た支給品の一つ、それがこのキックボードだ。
 逃走手段を欲していた朋也にとって、何とも都合の良い道具であった。不運の中の幸運とはよく言ったものだ。
 自らの足より断然速度が出るキックボードは体力の節約にも一役買い、且つ折り畳み式のために使い勝手も非常に良い
 これさえあれば、男との距離を引き離すことが楽にこなせそうだ。その確信に、朋也は何度も速力を加えてはボードに乗るといった風に動作を繰り返していた。
 ――いけると思った。これだけ苦労しているのだ。追い縋ることも難しい速度は、男を諦めの境地へと至らせたに違いないという自己満足に浸らせるのだ。 
 何処まで走れば安全なのかは見当もつかないが、何時かは安住の地へ避難できると信じて無心に足を動かした。
 時間を忘れて住宅路の走行に没頭していたのだが、前ばかりに気を取られ、背後に気を配ることを疎かにしていたことが失策である。
 ――背後に迫る軽快な足音を、無警戒にも完全に聞き落としていたのだから。
 
 グチュリという、筆舌に尽くしがたい擬音が朋也の耳朶を打つ。
 次いで、脇腹に灼熱の激痛が走った。

「――っがぁ……っ!?」
285覚悟のススメ  ◆KZj7PmTWPo :2007/03/24(土) 16:16:20 ID:D4iJMZDH
 バランスを崩し、思わず転倒する。
 キックボードから身体を投げ出され、コンクリートに強く肩を打ちつけた。
 苛ただし気に舌を打つ音が、後方から一際大きく聞こえる。望む狙いが逸れて、気分を害しているのだろうか。
 朋也は噴き出した脂汗にも構わずに、鈍痛を続かせる脇腹へと手を触れた。 
 触れてから後悔する。掌が生暖かい感触に包まれて、服の上からでも否応無しに負傷したことを知らしめたからだ。
 被害は脇腹部分の上着を破っただけに止まらず、朋也の肉を無残にも抉っていた。
 ――何かに貫かれた? いや、何かが通過したのか。――解らない。遠方から攻撃されたのだから、飛び道具を持っているということだろうか。
 だが、一つだけ疑いようのない明確な事実なら解る。
 ――絶体絶命ということだ。
 襲撃者がこれ幸いとばかりに歩を進めて接近する様子に、朋也は慌てて立ち上がる。吹き飛んだキックボードへと、覚束ない足取りで駆け寄った。
 今この走行手段を失うわけには行かないのだが、何も危険を冒してまで回収する程の物でもない。 
 ボードを手元に戻すことだけが理由ではなく、朋也の目的はその先。
 ――一軒の二階建て家屋だ。

「くっ……」
286覚悟のススメ  ◆KZj7PmTWPo :2007/03/24(土) 16:17:14 ID:D4iJMZDH
 進行方向にあったボードを鷲掴む。そのまま家の扉を勢いに任せて開け放ち、転がるようにして室内へと飛び込んだ。
 扉に施錠がされていなくて幸いだった。室内へと土足で上がりこみ、足を縺れさせながらフローリングの床を駆ける。
 ――扉の鍵は、敢えて閉めなかった。
 光が消沈した室内は酷く暗かったが、何度も躓き額を打ちけながら二十畳程度のリビングへと辿り着く。
 瞳を凝らして内装を確認後、朋也は床面から天井の高さまである大きな窓――ハイサッシに目を留めた。
 すぐさまハイサッシへと飛び付き、もどかしそうに指を掛けて開け放つ。
 錆のない縁を大きな窓が無音で滑り、芝生で統一された小奇麗な中庭が視界に映された。
 そこから逃走するのかと思いきや、中庭を一瞥しただけであっさりと背を向ける。デイバックを傍に置いて、あろうことか座り込んでしまった。
 一見恐怖によって腰を抜かしたのか、もしくは諦めがついて脱力したかのように見えただろう。
 ――ただ一部、眼光を除いて。
 腰を落とした朋也の瞳に動揺や焦燥の色は窺えず、覗くのは燃え滾る凶暴な眼光。 

 彼は霞も諦めてはいなかった。後退するのはもう止めだ。
 こちらは殺されかけた。今も尚、煩わしくも命を狙われている。
 ならばどうする? 相手が匙を投げるまで根気強く逃走するのか? はたまた哀願して同情を誘う? 靴でも舐めるか?
 ――全てふざけろ。
 どうして自分だけが被害者の役割を課せられなくてはならないのだ。この孤島では互いの権利は平等で、立場は同じ筈だろうに。
 無抵抗に流されるなど誰が決めた。狩られる小物に甘んじる必要など始めからなく、元より両者が狩人だ。躊躇う余地など何処にもあるものか。
 別に御大層な生きる目的が有る訳ではないのだが、理由も無く他人の糧になってやるなど酷く癪に障る。
 いい気になって追い回す輩に、相応の報いを与えてやらなくては気がすまない。
287覚悟のススメ  ◆KZj7PmTWPo :2007/03/24(土) 16:18:18 ID:D4iJMZDH
 今回の境遇が運命だというのなら、それは唾棄すべき愚かな逃避。
 ただ単に運の巡りが悪いというのなら、その悪運を持って我武者羅に覆して見せる。
 ――何を賭しても生き延びるのだ。意味不明の思惑に絡まって、価値も無く死ねるものか。
 逃げ回っても勝機が見出せないのならば、徹底的に抗戦あるのみだ。
 倒れ伏すにしても、悪くて道連れだ。妥協も甘えも認めない。
 朋也の胸中から、凄惨な黒い衝動が鎌首をもたげる。
 先方は殺し合いを御所望だ。執着のない世界だが、それでも帰還するためには筋を通さねばならない。
 男は殺意を向けた。よって、朋也は執行を許す免罪符を手にしたことになる。
 ――これは正当防衛だ――殺してしまえ。
  
 痛みを堪えるためか、朋也は一度だけ強く奥歯を噛みしめる。
 大きく息を吸い、口火を切った。

「お、おい! 俺は殺し合いをするつもりなんか無いんだよ! どうして襲うんだ……っ!?」

 震えが走り、必至になって誤解を解く表面上とは別に――

(――さあ、来てみろクソ野郎……!)

 内心では、友好的な態度は微塵も残っていなかった。
 だが、身体の震えは決して演技という訳ではない。
 焦りや緊張の中で、少なからず彼の身体は興奮に打ち震えていた。
 傍から見れば、袋小路に追い詰められた状態なのだ。迎撃に失敗すれば、間違いなく命の保障は無い。
 朋也はデイバックに手を差し入れ、冷たい金属の感触を今一度確かめる。
288覚悟のススメ  ◆KZj7PmTWPo :2007/03/24(土) 16:19:19 ID:D4iJMZDH
(これでなんとか……)

 彼が備える最終手段は、唯一手持ちの中では攻撃を可能とする道具だ。
 効力が期待できるのは、ある程度接近していなくてはならない。
 つまり先程の弱気な発言は、敵を誘き寄せるための方便に過ぎないのだ。
 強気な態度で怒鳴った所で、準備が周到に施されていると勘繰られてしまう。
 警戒心が異常に強い者ならば、どちらにしたって無用心には近寄らない。それに関しては祈るしかないのだが。
 一応、朋也には必死扱いて逃げ回った末に負傷したという、ある意味敗北必至の状況を醸し出しているのだ。
 抵抗する気力が薄れ、何の力も無い弱者が命乞いをしていると勘違いしてくれれば儲け物である。
 追い詰めた獲物に止めを刺すべく、少しの油断を抱えてリビングに踏み込んでくれれば体勢が整う。
 険しい視線をリビングへと通じる廊下に寄せていたその時、暗闇がゆらりと陽炎のように揺れた。

(――来たっ!)

 ゴクリと唾を呑む。その音が余りのも大きかったので、自分の企みが察せられたのではないかと一瞬不安に駆られる。
 しかし、その不安は悪い意味で杞憂であった。
 精悍な顔立ちの男は姿を現して直ぐに、朋也を襲ったであろう凶器の矛先を向けていたのだから。

(ボーガン!? あれに撃たれたのか……)

 無骨で物々しい塊に背筋を凍らせる。仮に突き刺さっていれば、鏃が肉体に喰い込み引き抜くことすら困難を極めるであろう。
 激痛に苦しむ自分の姿を想像すると、今更ながらに冷や汗を感じずにはいられなかった。
 そんな物騒な凶器を男は躊躇いもなく放出し、現在も自分を射抜かんと照準が合わされている。
 朋也の企みなど介せずに、正しく問答無用とばかりに射殺す算段なのだろう。
 言葉を掛けるでもなく、早々と逝かそうと目元を細めた男へ向けて、今一度声を張り上げた。

「ま、待ってくれよ!」
289覚悟のススメ  ◆KZj7PmTWPo :2007/03/24(土) 16:21:21 ID:D4iJMZDH
 この後に及んで懇願かと、男は朋也の往生際の悪さに肩を竦めた。
 助命を聞き届ける様子は無いが、辞世の句程度ならば発言を許すといった具合だ。
 罪の無い少年を殺すことに一抹の不憫さを感じ入るといった、少なくとも良心の呵責には苛まれているようである。
 根っからの悪人と言う訳では無さそうだが、今の朋也には知ったことではない。
 今だけは高みから余裕綽々で精々哀れんでいろと、胸中で毒付いた。

「アンタ確か……目元を白い仮面で覆った男を探しているんだよな?」
「…………」
「確かにそいつは見てない。事実だ。……だけど、アルルゥって奴なら見たぞ」
「……なに?」

 ――喰い付いた。
 男の風貌は、見た限り普通の人間とは言えそうになかった。何処かの幻想世界のように耳が長かったためだ。
 更に名簿を予め確認しておいた時に目を留めたものが、日本人とは言えぬ名前の数々。
 完全な想像に過ぎないのだが、それらの不思議な名前は、亜人に属する者達の名前ではないのだろうか。男の姿をこの目で見たからこそ、初めて立てられる推測だ。
 アルルゥという名前を選出したのは、響きからして恐らく女性且つ、名簿では最上段に記載されていたといういい加減な理由なのだが。
 分の悪い賭けもいいところではあるが、喰い付いた以上は同郷関係者なことは間違いない筈だ。
 朋也にとって、男が攻撃の手を一瞬緩めてくれるだけでよかった。相手が興味を示す事柄ならば、引き合いの内容に目的との因果関係は無いのだ。
 とんとん拍子に進む自身の浅はかな思惑に、内心ほくそ笑む。

「市街地の外で……一度だけ見かけたんだ」
「……今更だな。どうして先程言わなかった?」
「アンタが仮面の男のことだけを聞いて、襲い掛かってきたからだろうがっ!」

 不備は碌に話も聞かなかった其方にあると、大袈裟とも言える態度で激昂したように叫んだ。
 男は苦々しく押し黙るも、すぐさま訝しげに眉根を顰める。
290覚悟のススメ  ◆KZj7PmTWPo :2007/03/24(土) 16:23:31 ID:D4iJMZDH
「それで? 何を聞き、何を見た? 一体何時頃で――」
「――そ、そうだ。そいつから預かったものがあるんだ――」

 男の言葉を遮る形で、朋也はデイバックへと手を差し込んだ。
 迂闊な言動を吐いてぼろを出してしまえば全てが水の泡。望む回答は持ち得ないのだから、無闇に口を開かせる訳にはいかなかった。
 早鐘のように鳴る心音を誤魔化すように、バックに突っ込んだ腕を忙しなく上下させる。
 それは男からすれば不審な行動とも取れるのだが、人間は死の危険を感じると酷く饒舌になるという。
 自分の立場を少しでも有利にせんと、必死になって貢物を献上しようとする切実な姿に見えなくもないのだ。

「…………」

 殺すのは後からでも遅くはない。そう思ったのか、バックを漁る朋也を腕を組んで見下ろした。
 キックボードに乗っても尚、強靭な身体能力で追い縋れる実力者なのだ。仮に襲われても、素早い身のこなしで迎撃できるという余裕の表れだろう。 
 ――その慢心こそが、朋也を勝利の確信へと至らせた。
 伏せた憫笑を噛み殺し、デイバックに差し込んだ腕を引き抜いた。
 ――円状のピンが抜けて、信管が作動した手榴弾を握って。
 男の方へと、無造作に放った。

「――そら! 爆発するぞ!!」
「な――っ!?」

 男が驚愕に喉を詰まらせ、注意が一瞬朋也から逸れる。
 放った当の本人はというと、その隙にまんまと開け放たれた窓から中庭へと脱出していた。
 すぐさま地に伏せる。
 ――直後、凄まじい爆音と熱風が朋也の頭上を通過した。
 大地を振動させる轟音と、刹那に輝く爆炎は住宅地一帯を包んだのではないだろうか。
 爆音が収まった数秒後、硬直させていた力を弛緩させて顔を上げる。
 正直、予想外の威力だが有用性は期待できた。
 立ち回り次第によっては、襲い来る強者の駆逐も容易に行えることだろう。
 利きが悪くなった聴覚の具合に顔を顰めながら、痛む脇腹を押さえて立ち上がる。
291覚悟のススメ  ◆KZj7PmTWPo :2007/03/24(土) 16:24:22 ID:D4iJMZDH
 惨状を省みるならば、男は無傷とは言い難いのではないか。
 爆散したリビングの様子に、彼は口許を吊り上げてざまあみろと悪態付いた。
 立場を逆転させる下克上を成し遂げて、愉快な優越感に浸らせる。罪悪感など、そこには一片たりとも存在しない。
 ――だが、実際は紙一重のタイミングであった。
 暗闇の中で手榴弾の存在を認識してもらうために、敢えて挑発するように進言したのだ。
 発生した隙を狙って離脱する考えは、男が惑わされなかったら意味のない行為となる。
 一歩間違えれば、背を向けた途端に矢で射抜かれてお陀仏となっていたことだろう。
 手榴弾を放った位置も絶妙であった。全後方、どちらに進路を取るかという迷いが手榴弾の遅延時間を稼ぐことに繋がるのだ。
 当然自分に近すぎれば意味はないし、男に近すぎれば距離を離さんと中庭へと飛び込むだろう。つまりは、朋也の方角へと。
 手榴弾の存在に気付かずに矢を放ち、狙撃された朋也と共に爆散して心中という場合もあったのかも知れない。
 だが、現に生き残ったのは自分だ。仮定の話など、勝者の前では霞みゆく妄想に過ぎない。
 この世界が弱肉強食だと言うのなら――やってやる。

「――こんな所で、死ねるかよ……!」

 夜空へと恨み言を吐き散らし、荷物を抱えて走り出す。
 自身が引き起こした散々たる有様の住宅には、一切の感慨も後悔も感じ入ることはなかった。
 彼の脳裏に渦巻くのは、執着する生への柵と道理のない展開に対する激しい憎悪。
 相反し合う二つの感情を抱えて、彼は夜の住宅地へと消えていった。
292覚悟のススメ  ◆KZj7PmTWPo :2007/03/24(土) 16:26:18 ID:D4iJMZDH
 ◆◆◆◆


「くっ、ごほっ、ほっ……! やってくれる――!」

 爆発で木屑諸々が吹き荒れた室内に、人影が揺らめいた。
 男――オボロは咳き込みながら傍に立てたテーブルを蹴り倒し、中庭に向かって疾駆する。
 風圧で荒れた中庭へと目線を走らせるも、人の気配は既にない――逃げられた。
 オボロは不快気に舌を打つ。
 ――油断はしていなかった筈だ。だが、警戒を怠ってしまったのか。 
 逃走劇を放棄した朋也には不審な点も多かったし、逃走経路と思わしき大きな開口部の出窓にも注意を向けてはいた。
 ――罠。そうと解っていながら強行した理由は、やはり慢心がこびり付いていたのだろうか。
 結果、虚偽の妄言に時間を許し、牙を突き立てられたのだ。迂闊であった。
 早々と止めを刺しておけば良かったと、今更ながらに悔やまれる。
293覚悟のススメ  ◆KZj7PmTWPo :2007/03/24(土) 16:26:59 ID:D4iJMZDH
 本来ならば、朋也が一度転倒した時が絶好の機会だったのだ。可能であったのならば、オボロとてそうしていた。
 彼に支給された武器は、弦を一度引き絞ればそのまま維持できるクロスボウだ。
 ボルトという太く短い矢を装填することにより、通常の弓とは比べるまでもない威力を叩き出す便利な代物である。
 飛距離や貫通性も悪くはないのだが、ただ一点。それこそが致命的な欠点であった。
 ――連射が利かないのだ。一度撃てば、装填に時間が掛かるという短所は、追撃戦には極めて不向きといえる。
 有効活用するならば的が固定される攻城戦なのだが、どちらにしても近接戦闘を好むオボロには不釣合いな武器であった。
 刀剣類さえ支給されていれば、反抗の猶予も与えぬ内に瞬殺できたものを。――無い物ねだりだが。
 更には不可解な現象もある。身体に纏わり付く制限の重みだ。
 弱体化した所為で、大した速さでもない珍妙な移動道具に追いつくことにも一苦労であり、朋也の突飛な行動に対応する反射速度までもが衰えていた。
 放たれた高威力の火薬玉には、横に倒したテーブルを防壁として何とか事態を凌いだ。ほぼ無傷で防げた理由は、敏感な嗅覚が逸早く火薬の匂いを嗅ぎ取ることが出来たか

らだ。
 五感までもが一般的な水準に落とされていたら、爆発によって一撃で昇天していた。
 それにしたって、落ちるに落ちた身体能力は遺憾の極みだ。鍛え上げた能力を、無情にも奪われたのだから。
 培った能力を取り戻したいが、如何ともし難い。
294覚悟のススメ  ◆KZj7PmTWPo :2007/03/24(土) 16:30:07 ID:D4iJMZDH
 オボロは直情的が故に、頭で物を考えることが得意ではなかった。
 策を練る役目は、何時だって兄貴分であるハクオロの領分だ。
 今までも万事上手く事を運ばせ、決して悪い結果にはならなかった。 
 自身の役割など、そんな彼を戦力的に補佐する以外には用途も価値も見出せない。
 だからこそ、尊敬するハクオロに貢献するべく前線に立つのだ。
 それは、此度の状況とて何ら変わることはなかった。
 脱出方法を捻り出すのはハクオロで、戦うしか能の無い自分は彼の安全面を考慮しなければならない。
 単純明快。つまりは、害を及ぼす可能性のある参加者を少しでも減らして、危険性を無くしていくしかないのだ。
 そう心に決めた結果が先程の失態なのだとしたら、自分の決意など張子同然である。
 獲物が不憫に感じた。罪悪感も確かにあった。
 だが、後ろ向きな同情心に引き摺られて、取り返しの付かない事態に陥れば、損害を被るのは誰なのだろうか。
 ――決まっている。自分が補助仕切れないせいで、ハクオロを危険に晒してしまう。万が一に殺されでもしたら元も子もない。
 自身の取るに足らない葛藤など、ハクオロの身の安全の上では下らぬことだ。
 こういう時に役に立たずして、一体何時役に立つといえるのか。
 ハクオロは、オボロが殺人に手を染めることを決して喜ばないだろう。そんなことは先刻承知だが、それでも押し通す。
 国にとっても自分達にとっても、彼はなくてはならない必要な存在なのだ。己の命を天秤にかけるまでもなく、その重みを誰よりも理解している。
 オボロ一人が修羅の道へと歩むだけで、ハクオロに向けられる悪意が少しでも払拭されるのならば、喜んで茨の道へと踏み込もう。
 それが、この殺伐とした環境下で恩を返せる唯一のことだ。
295覚悟のススメ  ◆KZj7PmTWPo :2007/03/24(土) 16:30:47 ID:D4iJMZDH
 可能性のある参加者、即ち全参加者は始末に値する対象である。
 目撃者は発見次第、有用な問答による情報の抽出。その後は有無を言わさず、予断も躊躇も必要ない。
 朋也を逃がしたのは痛手だが、そう遠くには言っていない筈だ。再び追走して接触しさえすれば、口封じには事足りる。 
 その前にオボロの出で立ちが口伝で広がっていれば厄介だ。関係者の人間へ、逆恨みとして襲われでもしたら目も当てられない。
 よって、殺人手法は今度こそ迅速に。
 スッと冷酷な表情を浮べ、大きく大地を蹴った。 
 夜の空気を切り裂いて、一人の男が疾走する。

「――ユズハ……待ってろよ。すぐに戻るからな」

 必ず還ってみせる。
 ハクオロ達と共に、愛する妹が待つあの世界へ。
296覚悟のススメ  ◆KZj7PmTWPo :2007/03/24(土) 16:31:43 ID:D4iJMZDH
【A-4 住宅街/1日目 深夜】

【岡崎朋也@CLANNAD】
【装備:キックボード(折り畳み式)】
【所持品:手榴弾(残4発)・支給品一式】
【状態:脇腹軽症(痛み継続)・興奮】
【思考・行動】
1:何が何でも生き延びる。
2:悪意があると感じれば、容赦なく攻撃。
3:少しは知人の安否が気になる。
4:オボロが探していたハクオロのことを警戒。
【備考】
オボロは死んだ、もしくは瀕死だと勘違いしています。


【オボロ@うたわれるもの】
【装備:クロスボウ(ボルト残9/10)】
【所持品:支給品一式(他は不明)】
【状態:全身に擦り傷・普通】
【思考・行動】
1:朋也を追跡後、始末する。
2:ハクオロ、エルルゥ、アルルゥ、トウカ、カルラなどといった例外を除いた参加者の排除。
3:ハクオロと一度合流。(殺し合いに進んで参加していることは黙秘)

【備考】
彼らが驚いた銃声は、水澤摩央が朝倉純一へ向けて撃った時のものです。
手榴弾の爆音は、当たり一帯に響き渡りました。
297廃止鉄道の夜 ◆3Dh54So5os :2007/03/24(土) 21:34:00 ID:O9PnM/dG

コツッ……コツッ……

虫の声と風の音しか聞こえない深夜の森。
その森を引き裂くように敷かれた線路上に列車が一編成、止まっていた。
いまやその多くが過去のものとなり、鉄路から姿を消していった蒸気機関車を先頭にした列車は月明かりの中、静かに佇んでいる。
静寂に支配されたその空間になにやらやけに耳につくその音が響き始めたのは数十秒前からのこと。

コツッ……コツッコツッ……

その音は機関車の次位に繋がれた客車のドアが、正確に言えばそのドアを突く和弓が、
更に正確に言うなら、線路脇の草むらから和弓の先でドアを突く、水瀬名雪の手によってその音は発せられていた。
「……」
別にふざけてとか悪戯でこんなことをしているわけではない。その証拠に名雪の顔は真剣だ。
突き方は余り強いものではなく、むしろ余り触れたくないものを無理やり突いている時の様に弱い。
そうやって暫く、ドアを弱く突いていた名雪だが、ドアがかすかにスライドし、隙間が出来たところで手を止める。
「…………」
大きく息を呑む名雪。
二回三回と深呼吸をしてから今度はその隙間に和弓の先を突っ込む。
しばし躊躇するような間が空き……
「……せーの!」
消え入りそうな声と共に隙間に突っ込んだ和弓でドアを一気に開け放った。

ガラララッ……

引き戸特有の音が響くと同時に名雪はその場に伏せる。暫く草むらに伏せていた名雪はおずおずと顔を上げ、ドアを見る。
ドアは完全に開け放たれた状態で、先程までと同じように静かに佇んでいた。
「ふぅ……良かった」
心底安心したと言うように名雪は盛大な溜息をつく。傍から見ているとまるで意味不明だが、これには深い理由があるのだ。
298廃止鉄道の夜 ◆3Dh54So5os :2007/03/24(土) 21:35:30 ID:O9PnM/dG

「良かった。ドアを開けたらドカン! なんてことにならなくて……」

そう、つまりそういうことなのである。
偶然この列車を発見した名雪は、この中でしばしの休憩をとろうとしたのだが、いざドアを開ける段階になって、

『ドアを開けたら、仕掛けがしてあって大爆発とかいうありがちな展開なのでは?』

という疑念がついて離れなくなってしまった。
さっきまでの不審な行動は石橋を叩いて渡る為に名雪が精一杯考えた挙句のものだったのだ。
ではなぜ名雪がこんなところでこんなものとご対面することになったのか?
時間はこれより2時間ほど前に遡る……。

◇  ◆  ◇

他の参加者の多くがそうであった様に、ホールから強制転移させられた名雪がまず放り込まれたのは森の中だった。
「あ、あれ?」
おかしい、森の中などに足を踏み入れた覚えは一切ない。
確かさっきまで自分はホールの様な場所にいたはずだ。祐一やあゆ、北川と言った知り合いと一緒に……。
「そう言えば祐一はどこ? 祐一! 祐一ぃぃっ!!」
辺りに誰も居ないことに気が付いた名雪はあらん限りの声量で呼び掛ける。が、いくら呼び掛けてもそれに応える声はない。
名雪の声は森の木々が風で揺れる音にかき消され、夜の闇の中に吸い込まれるだけだ。
「どうしよう……。私、ひとりになっちゃった」
力なくその場にへたりこむ名雪。まったくもって訳が分からなかった。
突然始まった殺し合い、ホールに居たはずの人間が次々と消えていったあの光景。何もかもが名雪の理解の範疇を越えていた。
299廃止鉄道の夜 ◆3Dh54So5os :2007/03/24(土) 21:37:21 ID:O9PnM/dG

いったい何でこんなことになったのか? ――分からない。
何でよりにもよって私達だったのか? ――分からない。
祐一や北川は今何処にいるのか? ――分からない。
そもそも今私がいる場所は何処なのか? ――分からない。

じゃあ今、私がすべきことは何なのか?

「…………」
ともすればすぐにでも恐慌状態に陥りそうな精神を無理矢理押さえ込みながら名雪は考える。
今この場において大切なことは何か? 一番大事なものは何か?

自分の命? 身の安全?

どちらもYESだが、同時にNOでもある。それよりも大切な人、大事な人、それは……
「……うん、私やっぱり一人じゃダメだね。誰かが傍に……祐一が傍にいないと、私やっぱり笑えないよ」
そうだった。何時いかなるときも名雪が心から笑えた時に傍にいてくれた存在、相沢祐一――。
彼なくして今の自分は存在できない。それ程までに祐一は名雪の中で大きな存在だった。

――祐一を探そう、見つけだして、一緒に行動しよう――

名雪がそう決意するまで時間はさしてかからなかった。
自分の身の安全を確保しつつ、祐一を探す。
状況が状況だけに難しい事であることは百も承知だが、やらなくてはいけない。
「そうだよね……、ふぁいとっ! だよ、私」
名雪は暗い考えを吹き飛ばすように、わざと声に出して自分自身に言い聞かせた。
300廃止鉄道の夜 ◆3Dh54So5os :2007/03/24(土) 21:38:51 ID:O9PnM/dG

◇  ◆  ◇

そうして森の中をさまよう事数十分、名雪の疲労は無視できる程度を超えようとしていた。
陸上部の部長を務める名雪はそれなりに体力には自身があったが、整地はおろか道すらない森の中。
そんな中での草の根を掻き分けての強行軍は名雪の想像以上に体力を消耗させた。
何より、自分一人しか居ないという不安が常に付きまとい、精神的に名雪を追い詰めていた。
(一旦、休憩したほうがいいかな……?)
そんな考えが名雪の脳裏を過ぎった次の瞬間、今まで木々と草ばかりだった景色に大きな変化が生じた。
木がぷっつりと途絶え、腐葉土だった地面は砂利が敷き詰められたものになり、その上に等間隔に並べられた木の板と二条のレールが敷かれていた。
「線路だ……」
ポツリとつぶやいた名雪は制服のポケットに折り畳んで入れておいた地図を取り出した。
地図上には島の中央部と南西部を結ぶ廃線の存在が記されている。おそらくこの路線の何所かに抜けたのだろう。
「……どっちに行ったらいいのかな?」
地図と睨めっこをしながら名雪は首を捻った。廃線の経路はえらく中途半端でどっちの終点に行っても森の中から抜けるには至らない。
強いて挙げるなら南西方向に向かえば終点の近くに鉱山(こちらも廃坑)が、中央部――つまり反対の北東方向――に向かうと終点から離れてはいるが、市街地に抜けられる。

では、近くの鉱山と遠くの市街地、どちらに抜けるのが良いのか?
名雪が最初に跳ばされた場所が森の中だったことを考えると、祐一が街に居る可能性も、鉱山にいる可能性も五分。むしろどちらにも居ない可能性の方が高い。
それでも線路を辿っていくのならどちらか選ばなくてはならない。
線路を無視してまた森の中に入るという選択肢もあるが、強行軍で散々懲りた名雪はすぐに却下した。
考えた挙句名雪が下した決断は……
301廃止鉄道の夜 ◆3Dh54So5os :2007/03/24(土) 21:40:20 ID:O9PnM/dG
「……街に、街に行こう。街ならきっと誰か居るよね……」
いかにも廃れてそうな廃坑と賑やかそうな市街地、先程から孤独感に苛まれている名雪は自然と人が居そうな方を選んでいた。
目的地が決まれば、後はそこを目指すだけ。名雪は空を見上げ、月の位置を確認する。
右手頭上に浮かぶ月は見事なまでの満月、支給品の時計が指し示す時刻は2時ちょい前、となると月は若干南西側に傾いた状態であるはず。
「と、言う事は……こっちだね」
月が浮かんでいるのが南西なのだから、北東方向の市街地はその反対側、つまり左側だ。
そちらにふっと目線をやった名雪は、真っ直ぐ伸びた線路の先に箱型の影があるのを見た。
月明かりだけなので子細は分からないが、線路の上にあって箱型のものと言えばそれが何なのか大体の予想が付く。
「あれは……電車かな?」
廃線に電車が有るのも一見するとおかしな話だが、廃車にした車両が放置されているだけかも知れない。
車体の脇にはホームらしき構造物も見えるので、廃駅にかつて使われた車両を保存している。という類の可能性もある。
何より今まさに休憩をとろうとしていた名雪からみれば、屋根や座席があるだけでも電車内の方がはるかに快適な空間であることだけは間違いない。
名雪は念のため支給品のメスをディバックから取り出した。
武器にするには頼りないが、弓なんか引けないし、他に武器になるものがこれしかないので仕方ない。
「…………よし、行こう」
名雪は意を決すると、今まで以上に慎重に、常に周囲を気にしながら電車へと近づいていった。
電車に見えたのが実は機関車と連結された客車の最後尾だと気が付き、冒頭の疑念に駆られたのはそれから5分後のことになる。
302廃止鉄道の夜 ◆3Dh54So5os :2007/03/24(土) 21:41:22 ID:O9PnM/dG

◇  ◆  ◇

客室内への扉と貫通路のドアはどちらも開いていた。
(ここ、開いてたんだ……はぁ、開いてたって、分かってたらあんな苦労しなくてもこっちからよじ登って入れたのに……)
などと思ったが、今となっては後の祭り。
がっくりと肩を落した名雪は、開け放たれた貫通路越しに機関車の最後尾に『Tommy』と書かれたプレートが付けられているのを発見した。
「この機関車、『トミー』って名前なんだ……」
まあ、そんなことはどうでもいいのだけれど……。名雪は気を取り直すと客室内へと足を踏み入れた。

車内は意外と綺麗だった。座席の布は何所も破れていないし、板張りの床も抜けたり、ささくれ立ったりしている所は一つもない。
車内の電気は全て消えていたが、今の状態を考えればこっちの方が見つかりにくくなるから好都合だ。
車体や車輪に錆が浮いていたので中もオンボロなのではないかと、内心びくびくしていた名雪には嬉しい誤算だ。
一番手前のボックスシートに身体を沈めると、これまでの疲れがどっと襲ってきた。それと同時に目蓋の方も重くなってくる。
「もう、2時半過ぎたんだ……」
ドアの一件でかなり時間を食ったのだろう、時刻は名雪の予想以上に遅いものだった。普通ならとっくの昔に夢の中だ。
殺し合いの最中にいるという緊張感と、周りに誰も居ないという孤独感から眠気など微塵も感じなかったが、
どちらもが解けかけた今、それを押さえる枷はもはや無いも同然だった。
(目が覚めたらいつもの自分の部屋で、ああ、あれは悪い夢だったんだ、なんて言えたらいいな)
そんなことを思いながら、名雪は瞳を閉じ……間もなく意識を手放した……
303廃止鉄道の夜 ◆3Dh54So5os :2007/03/24(土) 21:42:50 ID:O9PnM/dG
【E-6 廃線路上/1日目 黎明】

【水瀬名雪@kanon.】
【装備:メス(3本)@AIR 学校指定制服(若干で汚れています)】
【所持品:支給品一式 破邪の巫女さんセット(巫女服・弓矢(10/10本))@D.C.P.S.】
【状態:睡眠中】
【思考・行動】
基本方針:祐一との合流
1)夢だったらいいのに……
2)車内で休む。
3)市街地へ行く。


※作中登場の列車について
きわめてD-7エリアに近いE-6エリアの廃線上にある廃駅(単線線路の片側にホームがある)に留置(放置?)された列車内です。
機関車+客車2両の編成で、客車のイメージは『銀河鉄道9○9』に出てくる客車みたいな感じです。
動かそうと思えば動かせるかもしませんが、無論、それ相応の知識やスキルが必要です。

なお、機関車、客車とも設定はフィクションであり、実在、若しくは既存の版権キャラとの関連性は一切ございません。
304覚悟のススメ訂正  ◆KZj7PmTWPo :2007/03/24(土) 23:23:28 ID:D4iJMZDH
>>293
 更には不可解な現象もある。身体に纏わり付く制限の重みだ。
 弱体化した所為で、大した速さでもない珍妙な移動道具に追いつくことにも一苦労であり、朋也の突飛な行動に対応する反射速度までもが衰えていた。
 放たれた奇怪な爆発物には、横に倒したテーブルを防壁として何とか事態を凌いだ。危機を敏感に察知できたのは、やはり塩を送った朋也の言動にある。
 確かに、朋也が爆発物の存在を口に出して言わなければ、単なる球体が転がってきただけだと気にも留めなかったのかもしれない。 
 彼が敢えて知らせたのは、やはり信じるべきかそうでないかの戸惑いを生じさせる策だったのだろう。
 だが、その発言を虚言と切って捨てるには余りにも危険であった。
 仮にはったりだとしても、その間発生した僅かな時間内で、能力が高いオロボからは到底逃げ切れる筈がないと理解していたはずだ。
 ならば、叫んだ「爆発するぞ」という言葉は、朋也が逃げる上では爆発してもらわないと都合が悪い。
 爆撃される可能性に身を置いたまま無視して追撃するか、はたまた一抹の危険性を信じて身を伏せるかの二肢択一。
 オロボが下した決断は、念を置いての保守的な考え。要は一時追撃は諦め、止む無く安全面を優先したのだ。
 ――ちなみに理由としては、何てことはない。戦乱の中で磨き上げられた直感に縋っただけのこと。
 感性までもが一般的な水準に落とされていたら、恐らく爆発によって一撃で昇天していただろう。
 ともかく、落ちるに落ちた身体能力は遺憾の極みだ。鍛え上げた能力を、無情にも奪われたのだから。
 培った能力を取り戻したいが、如何ともし難い。

このように訂正いたします。
ご迷惑お掛けしました。 
305魔女(修正版) ◇IXRLXwC0Ds:2007/03/25(日) 18:09:32 ID:bogFs55b
カルラにはこのゲームの意図がよく理解できなかった。
強い者と戦いたいという考えや強いもの同士の戦いを見たいという思いならまだ理解できる。
実際にシケリペチム皇ニウェは、国二つを犠牲にしてまでも強者と戦いたいという願望を叶えようとした。
しかし集められた参加者の中には、明らかに戦闘に向かない女子供が多数いた。これでは大した殺し合いはできない。
殺し合いを行いたいのならば強者のみを集めればいい。そうすれば血湧き肉躍る戦いが行われる。
唯の虐殺を行いたいのならば人を集める必要はない。適当な場所で適当に暴れれるだけで欲求は叶えられる。
ゲームの管理者はいったい何を望んでいるのだろうか?

そんな彼女がこの島に送られて最初に気になったのは首輪のこと。
元々嵌まっていた奴隷の印である無骨な首輪は外され、代わりに小さくつるつるした首輪をつけられていた。
奴隷時代の日々、ハクオロとの契約、色々と思いがつまっていた首輪を勝手に外されたのは腹が立った。
しかしその一方では、これはこれで良かったのではないか、と現状を受け入れてもいる。
確かにカルラゥアツゥレイの名前を捨てた後の時間はいつもあの首輪と共にあった。しかしあくまでも過去だ。
自分はいつまでも過去を引きずる性格ではない、いつか過去と決別するときがくる。そう思うと今回のことはいい機会だった。
奴隷戦士であった事を忘れて、何にも縛られずに今を生きるのもまた一興かもしれない……そんな考え方もある。
しかし自分は殺し合いの最中に感傷に浸れる程のおめでたい性格はしていない。今は戦う場面だ、戦いに余分な感情は必要ない。
306魔女(修正版) ◇IXRLXwC0Ds:2007/03/25(日) 18:10:07 ID:bogFs55b
思考を切り上げてデイパックを調べる。これにはゲームに必要な武器が入っているらしい――早速中のものを取り出してみる。
知らない名前の建物ばかりの地図。それでも主ハクオロなら使いこなせるのかもしれないが、自分には使い道は思い浮かばない。
ただ名前が連なるだけの味気ない名簿。ハクオロ、エルルゥ、アルルゥ、オボロ、トウカ、五人の知り合いが参加しているらしい。
袋に入っていたのは食料品、パンが六個と水が二本。それぞれが見慣れない容器に入っている。開き方は……分からない。
小さな円盤。規則正しい針の動きからみて時を計る道具のようだ。どうやらこれでタカノのいう「時間」とやらは計れるらしい……のだが使い方が分からない。針が三本に数字が十二個、ややこしすぎる。
ランタンは夜目がきく自分には必要ないし、コンパス、紙、筆記用具らしい木の棒も使用する場面は思い浮かばない。
どうにも役に立たないものばかりで辟易する。使う予定がない以上は邪魔なだけなので食料以外は全て海に投げ込んだ。
そして最後に見つかった三つの道具。この道具は他とは分かれて入っていた。彼らのいうランダムな支給品なのだろう。
ファンシーな鞄に動物を模った縫い物、そして薄気味悪い被り物……確かに三つ……他にはない……あれ、武器は?
トウカなら喜びそうな品々ではあるが、生憎と自分からみればハズレもハズレ、大ハズレである。
武器にすることも防具にすることもできない。食べることもできない上に交渉材料にすらならないだろう。
怒りに任せて先程と同じように海に捨てようとしたものの、トウカやアルルゥの顔が思い浮かんで踏みとどまる。こんな物でも彼女達への手土産としての価値はありそうだ、捨てることはないかもしれない。
結局のところ自分の荷物に武器は入っていなかった。どうやらこの先しばらくは肉体一つで戦うしかないようだ。最も体の調子が悪いのでいつもの力は出せそうにない。早急に武器を調達する必要がある。
そして名簿で確認した名前、エルルゥとアルルゥ。他の仲間とは違い彼女達には戦闘力が無い。殺し合いにのった者に出会ったら容易く殺されてしまうだろう。
共に暮らした仲である彼女達には死んでほしくはない。探し出して守ってあげる必要があるようだ。

「エルルゥとアルルゥを探す、武器を確保する――当面の目標はそんなところですわね」
307魔女(修正版) ◇IXRLXwC0Ds:2007/03/25(日) 18:10:50 ID:bogFs55b
そんなこんなで二人を探してぶらぶらと海沿いを歩いていると内地のほうから戦闘音が聞こえてきたた。襲われているのは自分の仲間かもしれない。
即座に現場に急行しようとするもののやはり体が重い。まるで体重が普段の五倍にも六倍にもなったかのように感じる。
最初に戦闘音が発生していた現場を見つけることはできたものの、どうやら時間をかけすぎたらしい。そこにはすでに人影は無く、二つのデイパックが残されているのみだった。
人が走っている音はまだ聞こえている。まだ、近い。追いつけない距離では無さそうだ。
脇目も振らずに彼らを追うか、ひとまずこの場に残って荷物を調べるか、選んだのは後者。戦闘に参加するのは武器を確保してからだ。
今度こそは強い武器が入っている事を願って二つのデイパックから中身を取り出す。

入っていたアイテムは、酒瓶が五本、絵の描いてある紙束、器に入った船、大きな人形。

…………殺し合いをさせる気があるのかすら疑問に思えてくる。とりあえずは食料と道具を全て自分の鞄に移したものの、大目にみても武器になりそうなのは人形と酒瓶だけ。
いや、他の道具にも「武器」として支給されている以上は武器としての自分の知らない何らかの使い道があるはずだ。さもないといくらなんでも不自然だ。
だが自分が欲しいのはもっと分かりやすい武器だ。そのためにもいまだに争っている彼らに接触する必要がある。
自分の戦闘力についてはまだ不安が残るがこれ以上考えても仕方がない、支度を終えて荷物を背負う。いくら力が弱っているといっても自分はギリヤギナだ、戦に負けるつもりは毛頭ない。
最後に景気づけに酒を一本飲んで、追跡を開始した。進むは戦闘民族ギリヤギナ、抱くは仲間への愛、その装備は……右手に人形、左手に酒瓶。


どうみても間に合わせです。本当にありがとうございました。

308魔女(修正版) ◇IXRLXwC0Ds:2007/03/25(日) 18:11:44 ID:bogFs55b
 ◇ ◇ ◇



純一を探して歩いているうちに気づいたことが一つ、この島は広すぎるのである。
それは単純だがとても重大な問題。これでは闇雲に探し回って純一を見つけられる可能性は限りなく低い。
だからといって名案があるわけでもない。大した所持品も有力な情報も無い今は、ただ歩き回るしか手が無いようだ。
些か惨めな結論に従って芳乃さくらは朝倉純一を探して闇雲に歩き続ける。その行程で海岸線から離れ、防風林を越えて農家の連なる地帯に差し掛かかる。
そんな時に、その音は耳に入ってきた。殺すとか死ねだのと恐ろしい言葉を言い合う刺々しい声、時おり聞こえる打撃音。明らかに人が争っている音だ。
背筋が寒くなる。
「参加者全員は協力してすぐに島から脱出する。もちろん誰も殺し合いなんてしない」
純一の敵を殺す覚悟はしたものの、心の中にはまだそんな甘い妄想があった。
さぁ、殺しあえ と一方的に告げられたところでそれに従う人間なんているはずがないという自分の中での常識。
しかし、その常識は呆気なく打ち砕かれた。実際に殺し合いをしている人間が……いた。
見つけてしまった以上は、彼らを殺す道か殺さぬ道か……どちらかを選ばなければいけない。ここが引き返すことができる最後の分岐点だ。
殺さなければ、見逃した殺人者に純一は殺されるかもしれない。
殺したならば、大罪を犯した自分を純一は許してくれないかもしれない。
――第三の選択肢もある。それは彼らの戦いに干渉しない事。このまま放っておくだけで生き残りは片方だけになる。それからでも選択するのは遅くはないだろう。
ううん、違う。それは逃げだと思う。問題は先送りにしちゃいけない。
そう、自分は純一が好き――純一のためなら何だってするし、何だって差し出す覚悟はあるよ。
他のどうでもいい人間を殺すくらいどうってことない。それに悪事はばれなければ罪にはならない。
純一の敵は純一にばれないように殺せばいい、そうすれば純一はいつもの微笑みをもって自分を迎えてくれるだろう。
309魔女(修正版) ◇IXRLXwC0Ds:2007/03/25(日) 18:12:37 ID:bogFs55b
「お兄ちゃんの敵は――――おっ死んじゃえぇぇぇぇぇぇ!!!」

そうと決まれば早い。茂みから飛び出してマシンガンを乱射する。これで殺戮者達は穴だらけの無惨な死体をさらす事になるはずだった。
しかし誤算があった。思っていたよりも銃の反動が大きい、どうにもうまく標準が定められない。これでは銃を撃っているというよりは銃に振り回されている状態だ。
そしてこちらが戸惑っているうちに、争っていた二人は自分達の荷物を放って逃げ出てしまった。好ましくない状況だ。
人目は避けたいので場所を変えるのも好ましくない。できればこの場で仕留めたかった。
しかし、相手が逃げ出した以上は追うしかない――純一の敵は逃がすわけにはいかないのだから。


「待ってぇぇぇ――――ここでボクに殺されてぇぇぇぇぇぇ!!!」
310魔女(修正版) ◇IXRLXwC0Ds:2007/03/25(日) 18:13:17 ID:bogFs55b
敵を追うためにマシンガンを持ちながら全力疾走、大した重労働ではあるが純一のためを思えば我慢できる。
しかし、無情にも相手との距離は離れていく。理由は分かっている。考えるまでもない。
第一にマシンガン持ちと無手では速度が違う。この銃は持っているだけで疲れてくる。それを抱えて走っているのだ、かかる負担は比べものにならない。
第二にそもそもの足の速さが違う。情けない事に自分は短足で運動不足、すぐに息が上がってしまった。こんな事になるのならもっと運動に力を入れておけばよかったと後悔している。
追いかけても、追いかけても、追いつけないもどかしさ。だんだん焦りが大きくなってくる。
そしてついに致命的なミスをしてしまう。焦りすぎて足元の確認を怠ってしまったのか――足がもつれて転んでしまった。弱り目に祟り目、倒れた自分を待っていたのは柔らかい土ではなく硬く冷たいコンクリートだった。
思いっきり足を挫いてしまった。痛い、すごく痛い。立ち上がろうとしても足が立たない。骨が折れたのかもしれない。
「お願い、動いて――動いてよ。あいつらを追いかけなきゃ。立たなきゃ……走らなきゃ……なんで動かないの……うぅ……」
走っているうちに限界を超えていたのだろうか。もはや足はぴくりとも動かなくない。それでも、あきらめることはできない。
このまま彼らを逃がしてしまう――それは悪夢の幕開け――――瞼の裏に浮ぶのは純一が彼らに殺される光景。
そんなのは嫌だ。自分は純一に再会する日を夢見て生きてきた。再会した純一と過ごした日々は輝いていた。純一が自分を選んでくれた時の嬉しさは言葉ではいい表せない程だった。純一がいない世界なんて考えられない。
自分には分かる。彼らを逃す事は純一が死ぬという事だ。だから芳乃さくらの全てを賭けて彼らを追いかけなくてはならない。
だが、移動の要である足は動かない。ならばどうする? そう、それを魔女である自分は知っている――祈るしかない。
枯れない桜は自分の手ですでに枯らした。もう自分の望みを叶えてくれる存在は無い。だが、祈る。
億に一つ、いやもっと確率は低い。そんな本当の奇跡にすがってただ祈り続ける。


 ―『あいつらを追いかけたい』―  


――――――彼女の純粋な願いは――――――――――叶えられた。
311魔女(修正版) ◇IXRLXwC0Ds:2007/03/25(日) 18:13:56 ID:bogFs55b
  フワッ


気づくと地面の感触が無い。自分の体は浮いているようだ。地上十センチといったところか。
移動はイメージするだけでできるようだ。確かにこれなら足を怪我していても彼らを追いかけられる。
今、舞台は整った。自分のやるべき事はひとつだけ。誰かが与えてくれたこの奇跡を無駄にはしない。


 

   絶 対 に 逃 が さ な い



 ◇ ◇ ◇

312魔女(修正版) ◇IXRLXwC0Ds:2007/03/25(日) 18:14:33 ID:bogFs55b
ゲーム開始から30分。いまだにG-8南部では泣き声の二重奏が響いていた。
涙を流しているのは土見稟と蟹沢きぬ、どちらも大切な者を亡くした人間である。


リシアンサスは自分の目の前で短い生涯を終えた。
自分を求めて神界からやってきた笑顔の可愛い頑張り屋な女の子。明るい彼女に自分は惹かれた。
彼女の悩み、彼女の体に眠る報われないもう一つの人格の事を知った時には驚いた。だが、自分が二人と親密になっていくうちに彼女たちの間にあった軋轢はいつしか取り除かられていった。
そうして悩みをなくした彼女と正式に付き合い始めた矢先にこの仕打ち。優しいシアも勝気なキキョウも死んでしまった。別れの言葉も無かった。守ってやれなかった。
涙が止まらない。大切な人を失うのはこれで二度目だが、これだけは到底我慢できる事ではない。
「悲しんでいても仕方がない、行動を起こすべきだ」理性はずっと囁いている、しかし堰を切ったように溢れている悲しみの感情は自分を立ち直らせてくれない……


近くでガサゴソと物音がする。さっきまで自分と一緒に泣いていた女の子は、もうすでに立ち直ったらしい。今は荷物を調べているようだ。
たしか彼女のほうも友達が亡くなったはずだ。彼女も悲しみにあけくれていた。だが自分よりも先に現実に復帰した。彼女は立派だ。
そうだ、自分も何かをやらなくてはいけない。男ならしっかりしなければ、我慢だけなら誰にも負けない土見稟の名前が泣く。
立ち直るきっかけをくれた彼女に感謝する。その彼女は荷物の整理を終えたようだ、こちらに近づいてきている。
先ほどまでのふがいない自分を見るに見かねたのだろう。果たして責めるられるのか、慰められるのか。

「おい、泣き虫、鞄よこせや」
313魔女(修正版) ◇IXRLXwC0Ds:2007/03/25(日) 18:15:27 ID:bogFs55b
どちらでもなかった――そういえば、自分も荷物を渡されていた。デイパックを開いてとりあえず名簿を取り出す。
知っている名前は三つ。ネリネ、楓、亜沙先輩、女の子ばかりだ。
今も自分の事を待っているかもしれない女の子達。俺は皆を守らなくてはいけない。悲劇は繰り返させない。
シアの事は一度忘れる。家に帰った後に神王のおじさんと思いっきり泣こう。
今は皆に好かれているいつもの「土見稟」であろう。シアだってめそめそする自分を愛してくれたわけではない。
人が傷つく事が前提のゲーム。こんなものを自分は許すわけにはいかない。仲間を集めて絶対にゲームをやめさせるんだ。

結論が出たところで、支給された武器を確認しようとデイパックを探すも…………無い。彼女の方は再びガサゴゾと荷物の整理を始めている。
何となく嫌な予感がした……予感にしたがい彼女の方を見やると持っている鞄は二つ――――パクられてます……

「おいおい、人のものを盗るのは感心しないぞ……とにかくこれは返してもらうからな」

急いで取り返す。中にざっと目を通すと……良かった、まだ何も抜かれてはいないようだ。
まったく油断も隙もない。しかし、自分は人の荷物を盗る人間よりもだらしなかったのか……少し悲しい。
そして、当の窃盗犯はなぜかこっちに文句をいってくる、実にやるせない。

「おい、何すんだよ、返せよー。ボクには武器がいるんだよー」

「……よく分からないが、この鞄は俺のものだ、君には君の鞄があるだろ」

「何いってんだよー。オマエのものはボクのもの、ボクのものもボクのもの、有名なことわざだぞー。ほら、早く渡せって」
314魔女(修正版) ◇IXRLXwC0Ds:2007/03/25(日) 18:16:38 ID:bogFs55b
……どうやらいままで自分の周りにはいなかったタイプの人のようだ。
自分勝手で人のいうことを聞かない、初対面でもフランクな物言い、――簡単に表現するとはた迷惑なお馬鹿ちゃん。
対応がいまいち分からない。ともかく我慢して会話を続けるしかないようだ。
「あまり調子に乗るなよチビ。訳の分からんことを抜け抜けとぬかしやがって、いったいなんなんだよこん畜生」
しかし呟いてでもいないとやってられない。まったくこの子の両親はどういう教育をしてきたんだ。

「この野郎ーー、ボクのことをチビっていったなーーー、ぶっ殺す!!」

おいおい、聞こえてたのかよ……こればかりはこちらの失態か……
とりあえず謝っとくか……いや、どうやら自分はこの子の逆鱗に触れてしまったらしい。
ゴ ゴ ゴ ゴ ……背後に擬音が見えるくらいに怒っちゃってます。結構まずい場面?

「歯ぁ食いしばれぇ! 修正してやるっ! ボクのこの手が真っ赤に燃えてるぜぃ!!」

うわ、飛び掛ってきた。おもわずはたき落とす。
体重が軽すぎたのか思いっきり地面に叩きつけてしまった。
カエルみたいに潰れちゃってる……流石に罪悪感を感じるな。

「ぶ、ぶったな。親父にもぶたれたこと無いのに、うぅぅぅ……」

げ、そういえばよりにもよって女の子に手を上げちゃったのか俺。
皆を守ると決意した矢先にこんな事を。我ながら最低だな……ともかく今度こそは謝らなくてはいけない。

「その……ごめんな!! ……悪気は無かったんだ。だけどなにせ突然だったかrグハッッッ!?」
315魔女(修正版) ◇IXRLXwC0Ds:2007/03/25(日) 18:17:31 ID:bogFs55b
痛タッッ――何だ? 何が起こった?
顔を上げると目に入ったのは腹部にめり込んでいる拳。

「へっへっへーー策士のボクにかかればこんなもんよ。ザマーねえなヘナチョコ野郎」

「オマエってさ、レオの奴によく似てるよ。ヘタレでチキンでビビりなところがさ」

「お、悔しいか、悔しいだろー。でもチキンだから何もできない、あははは」

そして、うずくまる俺の周りを飛び回りながらうるさく騒ぐチビちゃんが一人。
我慢しろ。相手は子供、俺は大人。何をいわれても子供の戯言。
我慢しろ。彼女は悪い子ではない。自分の一人目の仲間になってくれる子だ。
我慢しろ。辛抱強くいけ、何にせよまずはコミュニケーションをとるところからだ。

「そ、そうだな。あはは、あはははは…… お、俺が悪かった。このとおりだ、頭も下げる。だからさ、仲良くしよう」

「お、もう屈服したぞーーふっふっふー流石ボクだね。よーし、命令だ荷物をよこせ」

プチン。何かが切れた。いや我慢できないってこれ。
その後のことはよく覚えていない。お互いに意味のない事を言い合いながら掴みかかりあった記憶がある。
何なんだこの子供は。人が頑張ろうってときに喧嘩売ってきやがって、もう何かめちゃくちゃだ。
それに自分だけちゃっかりと武器持ってるしさ。何かの道具……拡声器か、普通に痛い。
316魔女(修正版) ◇IXRLXwC0Ds:2007/03/25(日) 18:18:38 ID:bogFs55b
だんだん冷静になってきた。冷静になると現状が好ましくないことに気づく。元々俺は喧嘩は好きじゃない。こんなことは早く終わりにしなくてはならない。
方法は簡単、やろうと思えば体格差で押さえ込める。でも、それは女の子を苛めてるみたいで嫌だ……他の方法は……思いつかない……困った。
そう漠然と悩んでる時に奴はやってきた――マシンガンを乱射しながら。

「お兄ちゃんの敵は――――おっ死んじゃえぇぇぇぇぇぇ!!!」

色々と突っ込みどころはあるんだけどさ、まずお兄ちゃんの敵とは何のことだ?
自慢じゃないが俺は人畜無害。人のことを傷つけるのは大嫌い。よって誰かの恨みを買ったつもりはない……土見ラバーズ関連以外は……
少なくとも銃口をむけられる覚えはない。隣の女の子も命を狙われるほどの悪い子ではないと思う。
だから、明らかな誤解を解くために会話しようとするものの――向けられるのは銃口。こちらの武器はデイパックに入ったままで離れたところに転がっている。
見事に手詰まりだ、困った。逃げるのか、説得するのか、どうする。とりあえず相談するか?
あれ……というかあいつはどこにいったんだ?

「逃げてるんじゃないもんね! これは戦略的撤退だからなーー覚えとけよーーーー」

とっくに俺を放って逃げ出してました。やっぱり自分勝手な子です。
だが足元に兆弾がきている以上は、一刻を争うほどにまずい状況なのは確かだ。
足元に転がっていた拡声器だけをかろうじて回収して急いであいつの後を追う。

「おい待てーーーー待てーーチビっ子ーーー」

「チビっていったなーーーあとで体育館裏にツラぁ貸せぇぇ!」

「待ってぇぇ――――ここでボクに殺されてぇぇぇぇぇぇ!!!」



317魔女(修正版) ◇IXRLXwC0Ds:2007/03/25(日) 18:19:46 ID:bogFs55b
ハァ、ハァ、二十分位走っただろうか。相手との距離が開いてきた。何とか逃げられそうだ。
どうやら一安心だ、やっと足を緩められる。ちなみにおチビとはまだ一緒にいる……そろそろチビってのもよくないな。名前を聞いておくか。

「そういえばお前の名前は? 俺は土見稟、リンは稟議の稟だ」

「何かキザっぽくていやな名前だなー。ボクの名前は蟹沢、なかなか立派だろ、な!」

「そうか蟹沢っていうのか――で、蟹沢はこれからどうするんだ。二人とも荷物を失った上で彼女に追われている状態、現状は好ましくないぞ」

蟹沢が喧しかったのが見つかった原因な事、そもそもの始まりは蟹沢が喧嘩を売ってきた事。
などなどは蟹沢の名誉のために伏せておく……最も苦い表情までは隠すつもりは無いが。

「ボ、ボクは悪くないもんねーー。だいたいオm…………え……お、おい。オマエあれ見ろよ」

「……同じ手に二度も引っかかる奴はいないと思うぞ」

「あ、あれ見ろって……あれーーー!!」

「ん、いったいどうしたんだ。幽霊でも浮いてるのか?」

いい加減しつこいので誘いにのって後ろを見やると――――さっきの某妹さんが浮いています、無表情で恐いです……ついでに追いかけてきてます。
え、空中浮遊って、魔法? 神族か魔族か……魔女っぽいから魔族かな。だが耳が短い魔族がいるとは知らなかった。
しかしあれだ、そんな事はどうでもいい。心から思う、魔法は反則だろ。サッカーの試合で突然相手チームが手を使いだしたようなものだ。
318魔女(修正版) ◇IXRLXwC0Ds:2007/03/25(日) 18:20:36 ID:bogFs55b

「「逃げろーーー!!」」


再び始まる逃走劇。浮いているからといって元の速度は上がっていないらしい、それだけがまだしもの救いである。
しかし何せ相手は浮いている。道の凹凸に気を割かなくて済むだけ先ほどよりは速い。今度は引き離すのは大変そうだ。
しかも先程と比べて一番違うのはあれだ。プレッシャーが違う。
無表情にブツブツ呟きながら、うらめしやーのポーズで追ってくる。まるで亡霊に追われているようで、精神にグッとくるものがある。
少なくとも拡声器を武器に対抗できる相手には全く見えない……そうだ、蟹沢に聞き忘れていたことがあったんだった。

「はっ、はっ、そういえば、はっ、はっ、お前は、はっ、はっ、何持ってきたんだ」

走っているうちに気づいたことだが、俺が拡声器を持ってきたように蟹沢も荷物から何かを持ってきているようだ。
もし強力な武器なら状況を打開できるかもしれないと期待してきいてみる。
だが見せられたのはゲームのケース、しかもギャルゲーです、ご丁寧にも箱には所有者の氏名まで書いてあった――鮫永新一。誰だよ。
がっかりだ。でも、わざわざこれを選んで持ってきたということは、蟹沢にとっての鮫永新一は大切な存在なのかもしれない。
忘れがちだが、蟹沢も女の子だもんな。こいつが再び鮫菅に会えるように俺が守ってやらないとな。
そうだ。もう、誰も傷つけさせない。もう、誰も悲しませない。俺が皆を助けるんだ。



「待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て
 待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て
 待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て」


319魔女(修正版) ◇IXRLXwC0Ds:2007/03/25(日) 18:21:09 ID:bogFs55b
でも正直なところ……とても恐いです。
果たして俺達は彼女から逃げ切れるのでしょうか……


【G-7 路上/1日目 黎明】

【芳乃さくら@D.C.P.S.】
【装備:ミニウージー(残り15/25) 私服(土で汚れています)】
【所持品:支給品一式 ミニウージーの予備マガジン×2】
【状態:左足首捻挫、右足首の骨に罅、右足打撲、疲労大、強い執念(飛行の魔法の根源)】
【思考・行動】
基本方針:環の予知した未来(純一死亡)の阻止。
1:殺人嗜好者二人を逃がさない。殺す。
(2:純一を探す。)
(3:純一を殺害しうる相手は容赦なく殺す。 )

【備考】
※芳乃さくらは枯れないの桜(ゲーム管理者の一人)の力を借りて魔法を行使できます。魔法には以下の制限がついています。
・芳乃さくらの強い想いによってのみ魔法は発動します。
・強い想いが薄れると魔法の効果は消滅します。
・基本的に万能な桜の魔法ですが、制限により効果は影響・範囲ともに大幅に小さくなっています。
320魔女(修正版) ◇IXRLXwC0Ds:2007/03/25(日) 18:21:47 ID:bogFs55b
【土見稟@SHUFFLE! ON THE STAGE】
【装備:なし】
【所持品:拡声器】
【状態:疲労】
【思考・行動】
基本方針:参加者全員でゲームから脱出、人を傷つける気はない。
1:芳乃さくらから逃げる。
2:蟹沢きぬを守る。
3:ネリネ、楓、亜沙の捜索。
4:もう誰も悲しませない。

※シアルートEnd後からやってきました。

【蟹沢きぬ@つよきす】
【装備:なし】
【所持品:フカヒレのギャルゲー@つよきす】
【状態:疲労】
【思考・行動】
1:土見稟と一緒に芳乃さくらから逃げる。
2:鷹野に対抗できる武器を探す。
3:レオの事が心配。

【備考】
フカヒレのギャルゲー@つよきす について
プラスチックケースと中のディスクでセットです。
ケースの外側に鮫菅新一と名前が油性ペンで記してあります。
ディスクの内容は不明です。
321魔女(修正版) ◇IXRLXwC0Ds:2007/03/25(日) 18:22:22 ID:bogFs55b



【カルラ@うたわれるもの 散りゆくものへの子守唄】
【装備:ケンタ君人形@ひぐらしのなく頃に 日本酒の空瓶】
【所持品:デイパック 食料×3と水×3 羽リュック@Kanon 虎玉@shuffle ナポリタンの帽子@永遠のアセリア
 タロットカード@Sister Princess ボトルシップ@つよきす 日本酒×4(消費中)】
【状態:健康、少し酔い?】
【思考・行動】
基本方針:気の向くままに行動。
1:人に接触する。(現在追跡している相手を優先)
2:エルルゥとアルルゥの保護、武器の調達。

【備考】
・制限の関係がで元々の首輪は外されています。(重すぎて行動に支障が出るため)
・支給品一式はデイパックと飲食物を除いて全て海に捨てられました。

※カルラと他の三人の間には五百メートル以上の距離が開いています。
※G−8の畑にデイパックが二つ放置されています。(ランダムアイテム・水・食料が抜かれています)
322光の射す方へ ◆f.VWfLhP82 :2007/03/25(日) 22:04:36 ID:FRhJYlfN
千影はホテルのレストランの中央においてあるピアノに手を当てて、そっと呟いた。

「……良いピアノだ。……可憐くんがいたら………喜んで弾いていただろうな」

その声はこころなしか元気が無い。
殺し合いに巻き込まれ、名簿を見つめると中には兄がいなかった。
代わりにそこにいたのは、運動が大好きな衛、おしゃれ好きな咲耶、明るく元気な四葉。
大事な妹達だった。

「……君達は私が必ず守って見せよう。……生きて兄くんの元へ」

千影は支給品の銃を鞄に戻すと、椅子に深くもたれかかる。
そして大きなため息を一つ付く。

「今夜は……月が綺麗だ。……妹達も……この月を見ているのだろうか」

ただそっと呟く。
そして首輪に手をあて、改めて状況を整理する。
これは機械であるのは確かだが、少なからず魔力の気配がする。
数度さわり、精神を集中してそれだけはなんとか把握した。
だがそれだけだ。

「……鈴凛くんなら……すぐに解除していただろうな。……呼ばれていないのが残念だ」

千影がここに居ない妹の名前を挙げ頭を悩ませる。
自分には首輪を外す技術は無い。純粋な魔法で精製されたものであれば、容易に外せたはずだ。
だがこれは大半が機械。工学知識を持たない自分の手に余る代物だった。
323光の射す方へ ◆f.VWfLhP82 :2007/03/25(日) 22:05:13 ID:FRhJYlfN
「……どうする。……落ち着こう。ここはもう一度何かヒントを探さなくては」

千影は一度足を止める。そして名簿を開けなおす。

「……名簿の順番は……1番のハクオロに始まり、……63番の白鐘双樹で終わっている。
……自分の名前は37番、……妹は衛くんが35番、……咲耶くんが36番、……四葉くんが38番」

そこで千影は感づいた。
名簿の並びと知り合いの関連性に。
そして思い出す。
最初の部屋の光景。
主催者のタカノに食って掛ったのはマエバラ、55番の前原圭一のことだと考えられる。
自分の基準では知り合いは3人。可能性としては、52番の佐藤良美から58番の園崎詩音までがタカノと関係を持つ可能性がある。
これは大きなヒントであった。

「……探そう………兄くん。私はすぐに帰るよ。待っていてほしい」

名簿を再度バッグに戻すと、千影は出入り口へと歩き出した。
その表情は、最初にここに来た時より、ほんの少しだけ希望の光が射していた。
324光の射す方へ ◆f.VWfLhP82 :2007/03/25(日) 22:05:48 ID:FRhJYlfN
【D-5 ホテル一階/1日目 深夜】

【千影@Sister Princess】
【装備:無し】
【所持品:支給品一式 USSR AKS74U "クリンコフ"(30/30) USSR AKS74U "クリンコフ" の予備マガジン9 
      白鐘双樹のギター@フタコイ オルタナティブ 恋と少女とマシンガン どろり濃厚 ピーチ味@AIR】
【状態:健康】
【思考・行動】
1:衛、咲耶、四葉を探す。
2:名簿番号52番〜58番(佐藤良美、伊達スバル、土永さん、前原圭一、竜宮レナ、古手梨花、園崎詩音)を探しタカノの情報を聞く。
3:首輪を解除できる人間を探す。

【備考】
名簿は参加者一覧の上から順番に番号がふられています。あいうえお順ではありません。
325最高なお先真っ暗  ◆4JreXf579k :2007/03/28(水) 15:08:11 ID:2f6FSEb6
涼宮茜のお先はいろんな意味で真っ暗だった。
こんなゲームに参加させられたことももちろんあるが、彼女が転移させられた場所は廃坑の中。
廃坑とは文字通り今はもう使われてない坑道。
従って照明も一切使用不能なのである。
つまり視界が真っ暗だったのだ。
泣きそうな思いでデイパックの中からランタンを取り出し、周囲を照らす。
そこまでならまだ良かったのかもしれない。
しかし、彼女の境遇にさらに追い討ちをかけたのが彼女の支給品であった。
茜の支給品、それはボタンである。
色といい形といい大きさといい一昔前に大流行した雑学番組で使われていたあのボタンそのものである。
とりあえず何も考えずに押してみたところ



326最高なお先真っ暗  ◆4JreXf579k :2007/03/28(水) 15:09:06 ID:2f6FSEb6
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という音声が流れてきた。
…………………訳が分からずもう一度押してみた。

『みんな! 俺の人形劇で大いに笑ってくれ!!』

先程は大勢の人間による音声だったが、今回はたった一人の音声のようだ。
やはり訳が分からない。
デイパックの中をよく探してみると説明書と書いてある巻物があった。
何故巻物? という疑問は置いといてとりあえず読み進めてみた。
327最高なお先真っ暗  ◆4JreXf579k :2007/03/28(水) 15:11:00 ID:2f6FSEb6
「おめでとうございます! このアイテムを支給された人はとてもラッキー! 
このアイテムは『国崎最高ボタン』 
文字通り最高な男国崎住人を崇め奉るためのボタンです。
ボタンを押すと『いやっほーう! 国崎最高ー!』という例の合言葉が流れます。
愛する人と再会できたとき、悲しみに押し潰されそうになったとき、絶体絶命のピンチから大逆転するとき、このボタンが役に立つでしょう!
もちろんただひたすら国崎最高したいときに使ってもかまいません。
むしろそっちの用途の方が本命です!
一日に何度でも、好きなだけ国崎最高してください。
そこの貴方! うれしさのあまり、もう100回は国崎最高しましたね?
しかし、焦ってはいけません。説明書はキチンと最後まで読みましょう。
え? 国崎住人って誰だ、ですって? なんと罰当たりな……
いいでしょう、国崎住人のことを知らない無知蒙昧な貴方にも簡単に、かつ丁寧に説明しましょう。
そもそも国崎住人とは…………………………………………………………
……………………………………………………………………………………
……………………………………………………………………………………
……………………………………………………………………………………
……………………………………(以下中略)………………………………
……………………………………………………………………………………
……………………………………………………………………………………
……………………………………………………………………………………
…………………………………………………………………というわけです。
さあ! これで貴方が国崎住人のことを知らなくても思わず国崎最高したくなってきたはずです!
それでは話を元に戻しましょう。説明書を最後まで読もうというところまででしたね。
説明書を最後まで読んでくれた貴方には特別に良いことを教えます。
328最高なお先真っ暗  ◆4JreXf579k :2007/03/28(水) 15:11:30 ID:2f6FSEb6
ななな、なんと!!
1/256の確率であの国崎住人本人の声を収録したシークレットヴォイスが聞くことができます!
シークレットヴォイスは全部で4種。
いずれも国崎住人の魅力がたっぷりつまった最高な音声。
言われるまでもなく全部聞きますよね?
ああ、残念ながら巻物のスペースに余裕がなくなってきました。
名残惜しいのですがここまでのようです。
それでは……誰もたどり着けなかったゴールを目指すべく心を1つにして例の合言葉を叫ぶんだ!   完」

最後まで読むの1時間はかかってしまった。
しかも内容はどうでもよすぎることばかり。
これを読んで理解できたのはこのボタンがどうしようもないほどの外れアイテムであること。
先程の『みんな! 俺の人形劇で大いに笑ってくれ!!』というのは国崎本人のシークレットヴォイスであること。
それだけだった。
1/256が2回目に出るなんてラッキー!! だなどと思うわけもなく、茜は絶望感からしばらくその場にくずおれることとなった。
もう一度言おう。
涼宮茜のお先はいろんな意味で真っ暗である。

329最高なお先真っ暗  ◆4JreXf579k :2007/03/28(水) 15:12:01 ID:2f6FSEb6
【B-6 廃坑内部/1日目 深夜】

【涼宮茜@君が望む永遠】
【装備:国崎最高ボタン】
【所持品:支給品一式 】
【状態:健康 精神的にかなりのダメージ】
【思考・行動】
1:orz
330出会いと別れ ◆jipdQMXxhI :2007/03/28(水) 23:32:10 ID:ewFCQe7j
夜が明け、朝日が昇り始める。

「……眩しいな……でも………とても綺麗だ」

朝日を見つめ、千影は一言呟く。
暗闇の中を一人、森を歩き続けていたのだ。
ようやくの朝日にほんの少しだけ不思議な安らぎを覚える。

「……そうだな、これから……」

千影は今後の行動方針を改めて確認する。
妹を3人とも早急に見つけ出し、脱出の方法を考える。
人は襲って来ない限りはこちらからは絶対に仕掛けない。
それを再度頭の中で反復する。

そして自分の支給品を見つめなおす。
自分に支給されたのは、短剣と各参加者に支給された銃器の予備弾を100ずつ、そして制服だった。
短剣には不思議な力を感じるがそれは強すぎて自分では扱いきれるか分からない。
装備としては不安定過ぎる気がした。
331出会いと別れ ◆jipdQMXxhI :2007/03/28(水) 23:33:06 ID:ewFCQe7j
「……ふふ、とりあえず……あそこに向かうか」

千影は近くにあった配線に放置された車両に向かう。
せめて間合いが長い鉄パイプでもあれば、という考えもあったのだろう。

しかし中に入ると、予想だにしなかった驚きの光景があった。

「………寝てる……のか?」

本当に驚きだった。
中では一人の少女が安らかな表情で寝息を立てていた。
このいつ人に襲われるかもわからない状況で眠るとは相当に度胸があるか、もしくは馬鹿か。
恐らく彼女は後者であろう、千影は直感でそう感じた

「………置いていく……わけにもいかない……な」

近くには弓矢が放置されていた。
持ち去ってしまうという選択肢もあったが、何となく気が退けた。
また、安らかな寝息は妹達の寝息に何となくだが面影が被っている。
それに何より、兄くんならこんな少女を放置したりしないだろう。
千影は少女の頬を優しくたたく。
332出会いと別れ ◆jipdQMXxhI :2007/03/28(水) 23:34:02 ID:ewFCQe7j
「……きみ………きみっ…………朝だ、起きないと………駄目だ」

少し低めの声で話す。すると少女は目を開ける。

「うっ……うう、香里?」

本来なら彼女はこれほど目覚めはよくない。
だが、殺し合いストレスが眠りを浅くしていたのだろう。
それが幸いし、千影の小さい声でも覚醒には十分だった。

「……私は千影……香里ではない」
「えっ?はう……ごめん、声が似てたから」
「……そうかい?それほど似てたのか?」

千影は聞き返す。
すると名雪は目をこすり、バッグからペットボトルを一つだし、手のひらに水をわずかに溜め顔にかける。
そしてようやく、意識が戻る。

「うん、本当にそっくりだよ。他人とは思えないぐらい」
「……そうなのか。それで……その香里という人は参加してるのかい?」

千影は名雪に名簿を差し出す。
すると名雪の顔は曇る。

「これ……やっぱり夢じゃなかったんだ」

名雪はとても哀しそうな顔をする。
そんな名雪に千影は優しく微笑む。

「……大丈夫。私は数時間歩いたが、……誰も人に襲われたりしなかった。君もだろう」
333出会いと別れ ◆jipdQMXxhI :2007/03/28(水) 23:35:06 ID:ewFCQe7j
千影の言葉は気休めのようなものだった。
それは自身が一番わかっている。
何人が積極的に殺戮を楽しんでいるかは見当がつかないが、ゼロではないだろう。
襲われるかどうかは運に近い。
彼女の知人も、自分の妹も、無事かどうかは運に任せるしかない。
でも、名雪は少しだけ明るさを取り戻して答える。

「そうだよね。ふぁいとっ!だよ」
「………」

千影はその笑顔に安心する。

「私は水瀬名雪、香里は……いない」
「そうか」

千影は名雪の口調が通常に戻っているのを確認すると、表情を引き締めなおす。
そして立ち上がる。

「……さて、どうする?……私は妹達を探しに行くがついてくるかい?」
「一緒がいいけど……大丈夫、私一人で平気だから」
「……そうか。じゃあ……今から大体半日後の第三回の放送の頃に、待ち合わせをしよう。
私は君の知人もついでに探すから……君も頼む」
「わかったよ」
334出会いと別れ ◆jipdQMXxhI :2007/03/28(水) 23:35:49 ID:ewFCQe7j
その後二人は、軽く探し人の外見の情報を交換する。
千影は衛、咲耶、四葉。名雪は相沢祐一、月宮あゆ、北川潤の外見的特徴を。

「……では行くか。君は住宅街、私は新市街を探し、待ち合わせは神社、禁止エリアになった場合は
 ホテル、小屋、学校、図書館、映画館の順番にスライド……それでいいかい?」
「うん、わかったよ」
「……それでは」
「半日後に待ってるよー、絶対だよー」

こうして二人は別々の道を行く。
探し人を求めて、ただ歩き出す。
335出会いと別れ ◆jipdQMXxhI :2007/03/28(水) 23:36:27 ID:ewFCQe7j
【E-6 北部 配線路上/1日目 早朝】

【千影@Sister Princess】
【装備:永遠神剣第三位『時詠』@永遠のアセリア −この大地の果てで−】
【所持品:支給品一式 バーベナ学園の制服@SHUFFLE! ON THE STAGE 銃火器予備弾セット各100発】
【状態:健康】
【思考・行動】
1:衛、咲耶、四葉の捜索
2:相沢祐一、北川潤、月宮あゆの捜索
3:1と2のために新市街に向かう

基本行動方針
ゲームには乗らないが、襲ってくるものには手加減しない。
第三回放送の時に神社に居るようにする(禁止エリアになった場合はホテル、小屋、学校、図書館、映画館の順に変化)

【水瀬名雪@kanon.】
【装備:メス(3本)@AIR 学校指定制服(若干で汚れています)】
【所持品:支給品一式(水を僅かに消費) 破邪の巫女さんセット(巫女服・弓矢(10/10本))@D.C.P.S.】
【状態:健康】
【思考・行動】
1:祐一を探す
2:月宮あゆと北川潤も探す
3:衛と咲耶と四葉も探す
4:1〜3のために住宅街に向かう

基本行動方針
祐一との合流
第三回放送の時に神社に居るようにする(禁止エリアになった場合はホテル、小屋、学校、図書館、映画館の順に変化)
336出会いと別れ ◆jipdQMXxhI :2007/03/29(木) 00:55:57 ID:rCicW4hr
【備考】
千影は『時詠』により以下のスキルが使用可能です。

ビジョンズ:攻撃力をアップさせるスキル
タイムコンポーズ:攻撃力を大幅アップさせるスキル。防御力が大幅に下がる

他のスキルの運用は現時点では未知数です。
またエターナル化は何らかの力によって妨害されています。
337パートナー ◆7NffU3G94s :2007/03/29(木) 01:47:23 ID:lm48cjem
「大丈夫、双樹ちゃんは俺が守ってあげるからね」
「あはは、別に強がらなくても大丈夫ですよ」

手を繋ぐ男女の後姿は微笑ましく、その仲睦まじい様子はまるで兄妹のそれだった。
役場を出た鳴海孝之と白鐘双樹はそのまま新市街方面に進路をとり、そこから辺りの探索を始めることにした。
それぞれの知り合いを探すべく共に行動を取ることにした二人、場をリードするのはどちらかというと双樹のようであった。
それは、頼りない兄をカバーするようにも見えたかもしれない。
年齢に似合わない頼もしさを持つ彼女、やはり普段双葉恋太郎の世話を見てきたからかこのような男性に慣れているといったところなのだろうう。

市街地まで出てくると、そのどこか懐かしい商店街のような軒並みに双樹は小さく溜息を着いた。
三人一緒を誓った川辺はないけれど、大事な家族とも思える商店街の人々と過ごした大事な世界にも似た空間に胸を締め付けられる。

(沙羅ちゃん、恋太郎・・・・・・)

この世で一番大切な二人、絶対に守りたい掛け替えのない存在。

「三人一緒って、約束したもんね。きっと探し出すから・・・・・・」

今一度決意を口にする双樹の横顔を眺めながら、孝之も彼女の左手を握る自分の手に少し力を込め直すのだった。





さて、ここで少しだけ時間を遡る、それはまだ二人が役場で話し合っていた時のことだった。
最初に集められた場所にいた人間は決して少ない数ではないということ、それは道を歩いていてもいつ誰が現れるか分からないという状況を表していた。
護身を考え、双樹は自分に支給された二丁ある内の拳銃の一丁を、孝之に預けることにした。
338パートナー ◆7NffU3G94s :2007/03/29(木) 01:48:03 ID:lm48cjem
「いいですか、銃のお手入れはマメにしないと駄目なんですよ。こう、分解して・・・・・・」
「そ、双樹ちゃん結構詳しいんだね」
「えへっ、少々弄る機会があったもので」

双樹の教授により、孝之も銃器との付き合い方を少しは学ぶことができた。
たどたどしい手つきながらも懸命に双樹の真似事をする、初めて味わう感覚はとにかく現実感がないということに尽きた。
その重みと冷たさに対し、正直途方に暮れるような思いの方が強く出る。
孝之は、実際これを使用する自分の姿すら想像できずにいた。
だが、そんなことは考えていられない。ともかく今、この双樹という存在に巡りあえたこと事態が孝之にとって最大の幸運だったのだから。
銃器の扱いもそうだが、何せ支給品の全てがハズレだった孝之は、彼女に出会わねば身を守る術を入手できなかったことになる。
そんな孝之の支給品はと言うと。

「鍋におたま・・・・・・」
「何か食糧など見つかったら、お料理するのに使えますね。火がないですけど」
「ん、いいタイミングでブロッコリーとカリフラワーが・・・・・・」
「お水を張ってお鍋で煮れば、ちょうどいいですね」
「あはは・・・・・・」
「あははは〜」





そんな訳で。
双樹は右手にデザートイーグルを、そして孝之は彼女と手を繋いでいるため持つことが叶わなかったので、ズボンのポケットにトカレフを収めていた。
手に持っていないのでは意味ないのではないか、何故手を繋ぐ必要があるのか。孝之が問いかけると、二人が逸れないためだと双樹は答えた。
正直いざという時これで大丈夫なのかという不安は拭えなかったが、双樹がそう言うならと孝之は口を閉ざす。
・・・・・・ちなみに本当は、「孝之さん、いざという時立ち往生になっちゃって動けなくなっちゃうかもしれませんから」という双樹が彼をフォローするための安全策だったが、勿論これは孝之のプライドにも関係することなので伝えられることはなかった。
339パートナー ◆7NffU3G94s :2007/03/29(木) 01:49:10 ID:lm48cjem
今の所危険な存在に遭遇することも無く、二人はほのぼのとした時間を過ごしていた。
双樹が見覚えのあるチェーン店を見つけて指を差すと、孝之も楽しそうに笑って答える。
真っ直ぐ続く道をわざと行かず、曲がり角を見つけては横道に逸れて行き二人はこの市街地を迷路に例えて遊ぶような余裕すら持っていた。
勿論、隅々まで調べなくては行けないという名目を掲げてのことだったが。それでもこうして語り合うことは、緊張で固まっていた孝之の精神をほぐすにはちょうど良い緩和剤だったらしく。
今では孝之も、普段の落ち着きを取り戻すことができるまで精神的にも回復していた。

そんな、楽しそうに歩く双樹と孝之の後方数十メートル。そこには。

(・・・・・・何で、私がこんなことを・・・・・・)

すっかり登場するタイミングを逃した二見瑛理子が、こそこそと建築物や電柱などの遮蔽物の後ろから覗いているのだった。





「うわぁ、何だか楽しそうな場所に出ましたね〜」
「そうですね。ここなら、誰かいるかもしれません」

一方、新市街南部からも新たな参加者がこの地帯に足を踏み入れていた。
それぞれの知人を探すべく、朝倉音夢と倉田佐祐理が森を抜けてここまでやって来たのだ。
腹の探りあいは勿論あるが、このペアもここまで問題なく辿り着くことができていた。
周囲を見渡す音夢の真剣な様子、佐祐理はこっそりとそんな彼女の横顔を盗み見る。
オーバーとも思えるくらい、音夢は周囲への気配りを欠かさなかった。
元々神経質だったり用心深かったりという彼女自身の性質かもしれないので、佐祐理もそこはつっこもうとは思わなかった。
それこそこのような場に放り込まれたという認識を彼女がきちんとした上で、こうして安全確認を念入りにしているのであれば。
パートナーとしては、非常に心強い面がある。
・・・・・・勿論、気がかりは決して消えないが。
340パートナー ◆7NffU3G94s :2007/03/29(木) 01:50:27 ID:lm48cjem
「・・・・・・佐祐理さん? どうしましたか」
「いいえ〜、何でもないですー」

見つめていたのが気づかれた、音夢が不思議そうにこちらを見やってくる。
それを笑顔でかわし、佐祐理もまた市街の中へと目線を送るのだった。

ちょっとしたショッピングモール、でもどこか懐かしさも感じられる。佐祐理が感じた印象は、まずそれだった。
店のシャッターはどこも下りている、閑散とした空気は鄙びた雰囲気を彼女等に与えた。所々にある街灯が、さらにその寂しさを表していたかもしれない。
コツ、コツと。歩くたびに響く二人の靴音が、やけに目立っている気がする。
何の変哲もないコンクリートだが、今まで歩いていたのが草木や土といった比較的足音が響かない場所だったからというのもあるかもしれない。

二人は、終始無言だった。

(あ、牛丼屋さんです。舞が見たら喜びそうです・・・・・・)

全国規模で有名な牛丼を扱うチェーン店の目の前を通り過ぎる、ちらっと隣を歩く音夢の様子を窺うものの彼女は無反応であった。
少し寂しく思うが、仕方ない。馴れ合いで共に行動を取っている訳ではないのだから。
それからまたしばらく、二人は無言で歩き続けた。
市街地自体はそれほど入り組んでいるわけではない。似たような風景が多くなるのでそれで戸惑うことはあるかもしれないが、基本的な店の配列は田んぼのようなきっちりとしたものだった。
曲がり角が少なくないので、下手したら迷ってしまうかもと佐祐理が危惧しかけた時だった。
それは、ちょうど和菓子屋の前を通り過ぎ、カレー屋らしき看板が目に入った所。
隣を歩いていたはずの音夢が、いつの間にか足を止めていたのだ。

「・・・・・・?」

顧みる。真剣な眼差し、彼女はすぐ目の前の曲がり角を凝視していた。
何事かと、つられたように佐祐理もそちらをじっと見つめる。
特に異変はないと思った、が・・・・・・・・・その時、ほんの僅かだが。
明らかに自分達のものではない、足音のようなものが、鳴った。気がした。
341パートナー ◆7NffU3G94s :2007/03/29(木) 01:51:44 ID:lm48cjem




「・・・・・・孝之さん、ちょっと止まってください」
「え?」

双樹のいきなりの指示に、孝之が戸惑ったように声を上げる。
一端繋いでいた手を離し、双樹は左手を水平に上げ彼の進路を塞いだ。
耳を澄ませる。今、二人の目の前には三つの道があった。
ちょっとした十字路、その道の一つに双樹等はいることになる。
曲がり道の一歩手前、双樹は孝之を置いて少しだけ顔を覗かせた。
正面は、こちらからも丸見えなので確認する必要はない。無人である。
右。ちょうど二人は左端を歩いていた、なので今その場からでも容易に見渡すことはできた。誰もいない。
左。『カレーショップオアシス』と名打たれた店のシャッターから様子を窺った。
誰も――。

「っ!!」

慌てて頭を引っ込める、それと同時に硬い物がコンクリートを打つ音が双樹の耳をついてくる。
革靴か何かが奏でる規則正しいリズム。時々ずれることから、一人ではないだろう。二人・・・・・・いや、もしくは三人かもしれない。

(沙羅ちゃん? でも早合点は・・・・・・)

ここで慌てて道に出て、不利な状況を作ったら元も子もなかった。
双樹はひたすら待った、左側の通路から現れるであろうこのゲームに参加させられた同胞達を。
手にしたデザートイーグルを構え直す、場合によっては迎撃しなければいけないかもしれなかったからだ。
だが、ここで気づく。後方では孝之を待機させたままであった。
このままこの場で待つよりも、一端後ろに下がり彼にも連絡を取る必要があるだろう。
万が一殺し合いに乗った者が現れた場合、取り乱してしまう可能性を持つ彼が遠くにいてはカバーできないかもしれないからだ。
双樹はだんだん大きくなっている足音を気遣いながらも、静かに後方へと移動を開始しようとした。
342パートナー ◆7NffU3G94s :2007/03/29(木) 01:52:31 ID:lm48cjem
「誰かいるの?」
「!!?」

とっとっと。軽快な音が、響く。双樹の履くブーツなんかよりもっと軽い足音である。

「双樹ちゃん、どうしたの?」

いつの間にか、孝之の顔が目の前にあった。さっきまでもっと後ろにいたはずなのに。
・・・・・・何の臆面もなく、戻ろうとした双樹の元へと彼は駆けて来たのだ。勿論、その際立てた自分の足音も特に気にせず。

「どうして待っててくれなかったんですか・・・・・・」
「え、え??」

溜息をつきそうになる、しかしそこはぐっと堪え双樹はそれだけを口にした。
スニーカーとはいえ、この静かな地帯ではちょっとした物音だけでもそれなりに響いてしまうというのに。
自覚のない孝之は、ただ困ったように頭をポリポリと掻くだけだった。





「あちらも、私達がこちら側にいることに気づいているみたいですね」

和菓子屋の前で立ち止まったまま、音夢は呟いた。
例の足音らしき音がしてから数分経ったが、前方からは何の反応もなかった。
しかし人がいるという事実だけは、音夢にも佐祐理にも伝わっている。
誰かいる、しかし誰がいるかは分からない。その状態に二人の間の空気はさらに張り詰めたものになった。
343パートナー ◆7NffU3G94s :2007/03/29(木) 01:53:10 ID:lm48cjem
「はえ〜・・・・・・話し合いではダメでしょうか」
「まだ殺し合いに乗った人だと判断するのは早いです、ただ・・・・・・これが待ち伏せだった場合も、考えた方がいいかもしれませんね」

二人は一応、「使える武器を所持していない」という建前を持ったペアでもあった。
弾数に限りのある音夢はともかく、最終手段であるナイフを佐祐理はここで取り出す訳にはいかなかった。
どうするか。音夢も、佐祐理も答えを出すことはできず。
やはりあちら側にいる人間の、出方を待つしかなかった。


両者、沈黙。
互いに探り合う様子の中、ピリピリとした空気が場を満たす。
双樹が、音夢が。
佐祐理が、孝之が。いい加減動かない事態に苛立ちを覚えだした頃。

「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」

その、甲高い声が突如場に響き渡った。





もしここが砂地だったら、駆ける度に砂埃が一面に舞ったであろう。
もしここに水たまりがあったら、彼女が踏みしめるたびに水滴が飛び回ったであろう。
そう思えるくらい勢いよく、その少女は現れた。
右手には包丁、それに月明かりを反射させながら竜宮レナは真っ直ぐに走りこんできた。

「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」
344パートナー ◆7NffU3G94s :2007/03/29(木) 01:53:51 ID:lm48cjem
笑いながら、ひたすら笑いながら息を乱すこともなく。レナは一直線に、この十字路へと向かってき来ている。
目標を目で捕らえたからだ。宇宙人に洗脳された、可哀想な人が視界に入ったからである。
彼等を救えるのは自分しかいない、だからレナは迷うことなく突っ込んでいこうとした。

「う、うわぁ! 何なんだあの子はっ」

そんな猛進してくる少女と目が合い、思わず孝之が声を漏らす。
レナは、双樹と孝之のいる道の正面に値する道から現れたのだ。

「孝之さん、下がっててくださいっ!」

怖気づいてしまっている孝之を守るかのごとく、双樹が彼の前に走りこむ。
そのまま手にするデザートイーグルを少女に向けて構え、強い口調で言い放った。

「止まってください! じゃないと撃ちますよっ」
「あははははは駄目だよ駄目だよ! レナを撃つ? 撃つ? 違うね、それはあなたの意志じゃなくて宇宙人が与えた指令なんだよ!
 可哀想可哀想、レナが早く解放してあげる。その支配からの脱却っ、あはははは! 楽にしてあげるからね、すぐだよすぐ!」

双樹の表情が歪む、意味の分からないことをのた打ち回る少女が速度を緩めることはなかった。
いや、むしろスピードを上げているかもしれない。姿勢を低くして迫ってくる少女の手の中では、光る包丁が不気味な色を湛えていた。
薄気味悪い笑い声をあげる少女は狙いを双樹一本に定めたようで、そのまま一直線に彼女へと向かって駆けて来る。
その距離はどんどん狭められ、もうそろそろで包丁の射程距離に入ってしまうくらいにもなった。
小さく舌を打つと、双樹は少しだけ標準を外し。デザートイーグルの引き金を、躊躇なく引いた。

「ひぃっ!」

後方から悲鳴、孝之のものだろう。しかし振り返る余裕はない、牽制したにも関わらず少女はやはり走りこむ速度を落とさなかった。

「あははははははははは」
「・・・・・・っ」
345パートナー ◆7NffU3G94s :2007/03/29(木) 01:54:40 ID:lm48cjem
一閃、胴体を狙って包丁が薙ぎ払われる。
そしてそのまま二度、三度。縦に斜めにと振るわれた。
一見めちゃくちゃに振り回しているだけにも見えるが、それは的確に双樹のいた場所を刻むかのように描かれた軌跡だった。
ステップを踏んで横にずれながら、双樹が体勢を整える。
最低限の動きで攻撃をかわし少女をスピードをいなそうとするが、追いすがるように双樹の動きについて来る少女の勢いが削がれる気配はない。

「あははははははははは」

しかも、これだけ大振りをしているにも関わらず、少女には隙がなかった。

(思ったより場慣れしてますね、これは厄介かな)

しゃがんだと同時に、頭上を切り裂く包丁の残像を双樹の瞳はしっかりと捉えた。
後ろに跳んで距離をあけた後もう一度銃弾を撃ち込んでみる、しかし動きの速い少女に対し上手くそれが掠ることはなかった。
・・・・・・本気で当てようとしないと、無理だ。しかし命を奪うほどの致命傷を与えるかと言う話になると、それはまた別になる。
だが、双樹の息が上がってきているのに対し、少女はまだまだ余裕そうであるという現実もある。
判断は早めにつけないといけない。
けれども、少女を殺すという直接的な行為に対し。

「・・・・・・くっ」

双樹はまだ、覚悟が足りなかった。
その差が明確に出たのはそれからすぐのことであった。

「え、きゃっ?!」

気がついたら、宙に体が浮いていたということ。
足が払われた、そう気がついた時には双樹は地面に尻餅をついた状態であった。
346パートナー ◆7NffU3G94s :2007/03/29(木) 01:55:26 ID:lm48cjem
「あははははははははは! レナの包丁が気になってたんでしょ、上ばっかり見てたからね!
 見逃さないよ残念だったね、あははははははははは! これまでだよ宇宙人んんん!!!」

叫びと共に、包丁が頭上目掛けて垂直に構えられる。
デザートイーグルを構えている暇は・・・・・・ない。

(沙羅ちゃん・・・・・・恋太郎・・・・・・っ!!)

どうしようもなかった。
双樹が目の前の刃から逃げるには、ただ強く目を瞑ることくらいしかできなかった。





奇声を発しながら駆け抜けていった少女は、自分達が今まで様子を窺っていた右方に消えた。
それと同時に鳴り響いた銃声に、音夢も佐祐理も即座に顔を見合わせる。

「音夢さん!」

呼びかけると音夢も頷き返してくる、二人は少女の後を追い角の向こうの様子をすぐ見に行った。
万が一のこともあり顔だけ覗かせると、そこにはどう見ても笑い声を上げながら包丁を振り回す奇人が、いたいけな女の子を襲っている図があった。(勿論事実もそうであったのだが)
しかし一方的に包丁を振り回す少女も、よくよく見れば自分達と年代がそう変わらないことがすぐ分かる。

「な、何でこんなこと・・・・・・きゃっ!」

佐祐理が呟くとともに、もう一度銃声が場に響いた。
巻き込まれる前に逃げた方がいいかもしれない、見た限りその場には二人の知り合いはいないようでもあった。
・・・・・・しかし、佐祐理はそんな理由で困っている人を放っておけるような人格ではなかった。
347パートナー ◆7NffU3G94s :2007/03/29(木) 01:56:10 ID:lm48cjem
とにかく、押されている女の子の援護をしなければいけない。
周囲を見渡し、佐祐理は何か役に立つものがないかと必死に目を動かした。
しかし目に入るものはシャッターの降りた建物ばかり、焦る気持ちばかりが先行し彼女は自分に支給されたスペツナズナイフの存在すら忘れていた。
何でもいい、何か女の子を助けられるものを。
そんな時だった。佐祐理の頭に、音夢の「あの支給品」が浮かんだのは。

「ね、音夢さん! あれ出してくださいっ」
「え? あれって・・・・・・」
「あれです、あの変な重いやつですっ」

佐祐理が口にすると同時に、今までとは種の違う叫び声を彼女の聴覚が捉えた。
見ると、さっきまで互角の攻防を繰り広げていた女の子が腰をついてピンチになってしまっている状態だった。
時間はない。デイバッグを地面に置き、九十七式自動砲を両手で持ち上げる音夢からそれを急いで奪う。
ずっしりとした負荷が佐祐理の腕をしびらせた、しかし佐祐理はそんなことお構いなしに。

駆けた。それは、包丁を持った少女が高らかに勝利を宣言している時だった。
駆けた。尻餅をついた女の子が両目を硬く閉じ、包丁が振り下ろされようとするその瞬間だった。
佐祐理はいきなり足を止め、その反動に任せ。
それを。例の、九十七式自動砲を。

「てやあぁー!!」

ブン投げた。





「・・・・・・ぎゃあっ!」
348パートナー ◆7NffU3G94s :2007/03/29(木) 01:58:02 ID:lm48cjem
耳障りな悲鳴に驚き、思わず双樹は閉じていた眼を見開いた。
視界に飛び込んで来たのは肩口を押さえ呻く少女だった、その次の瞬間コンクリートの上を金属がはぜる音が響く。
そして少女が取り落としたであろう包丁が、すぐ傍に転がっていくのが目に入った。

「逃げてください、今のうちに立ってくださいっ」

前方から女性の叫び声がかけられる・・・・・・場所からして、先ほど自分達が気配を窺っていた人物であろうか。
一人は曲がり角地に存在するカレーショップの隣に、もう一人は今もこちらへ駆け寄ってくる途中で・・・・・・呼びかけを行ったのは彼女であろうか。
そんなことを考えていたお陰で、双樹はすぐの判断ができなかった。「逃げろ」という言葉を、理解するまでに間ができてしまう。

「う、宇宙人めえぇ・・・・・・!!」

一方、側面からのいきなりの攻撃で右肩を負傷してしまったレナも急いで体勢を整えようとしていた。
今まで目の前の双樹しか見ていなかったので、いつの間にか近づいてきたこの新しい刺客の存在というのは彼女にとっても盲点だった。
自らの不覚を実感するしかない。でも大丈夫、駆け寄ってくる茶髪の少女との距離はまだ充分ある。
それに、随分と疲労の色が強く見える。あの少女は後に回しても問題ないであろう。
そう。彼女がこちらに辿り着く間に、せめてこの子だけは。

「こんのっ、大人しくしろおぉぉ!」
「きゃあっ!!」

武器を取ろうとせず、レナは左肩からタックルを仕掛け座り込んでいた双樹を押し倒した。
そのまま、マウントポジションを取る。

「あはははは、これで終わりだぁ!」

コンクリートの地べたに少女の頭部を押し付け、レナは動かない右腕の変わりに左腕を双樹の喉にかけ、潰すように固定した。

「たかゆき、さん・・・・・・」
349パートナー ◆7NffU3G94s :2007/03/29(木) 01:58:41 ID:lm48cjem
必死に顔を動かし、押さえつけた女の子が茶髪の少女等がいない方の道へと視線をやる。
つられてレナも目を向けた、しかしそこにいたのは。
腰が抜けたのだろうか、無様に電柱に寄りかかるだけで何もしようとしない。一人の、弱虫が、いるだけだった。

「駄目、止めてくださいっ・・・・・・きゃ!!」

先ほどの茶髪の少女の声が再び響く、しかしレナが振り返ると不運にも彼女は走る途中に足を絡ませてしまったのか、そのまま前のめりに転倒してしまっていた。
・・・・・・これで、レナの勝利が決まったかのように見えた。双樹の助けは、もう現れない。

「・・・ぁ・・・」

掠れた吐息。それはつい先ほどまで声帯が醸し出していた、少女の可愛らしいものとは全く種の違うものであった。
左腕へと加える力が強くしたためだろう、きっと喉を圧迫するそれで呼吸すらままならなくなっているはずだ。

「あはははは! まず一人、まず一人だ!!!」

勝利の宣言だった。レナはこうして、宇宙人に洗脳されてしまった哀れな民間人を助けることに成功したのだ。
それは快楽だった。獲物を狩るということ事態もとにかく気持ちよかった。
弱っていく女の子を見ているのも、犠牲者を天に召す存在になるということも。全てが、レナの活力へと変換させられていくようだった。
興奮が抑えきれない、自然と漏れる笑い声に酔いそうになる。
幸せな時間だった。終わって欲しくない、しかし早く終えてまた可哀想な人たちを救いに行かなければいけない。それが定めだから。
レナの、運命だったから。

しかし邪というレベルを通り越したレナの思考は、ぶっつりと。いきなり途切れてしまうことになる。
それはまさしく、思ってもみない攻撃だった。

「いぎゃあっ!!」
「・・・・・・がっ、ごほっ、ごほっ!」
350パートナー ◆7NffU3G94s :2007/03/29(木) 01:59:22 ID:lm48cjem
いきなり外れた拘束、双樹はすぐさま空気を取り込もうと咳き込んだ。
霞む視界の中、それこそキスするくらい近い場所には自分を抑えていた少女が苦悶の表情で喘いでいて。
何が起きたのか。唯一考えられる可能性は、一つだった。

「孝之、さん・・・・・・?」

ぼたぼたと垂れる血が、少女の白いワンピースを汚していた。
それは、彼女の左肩から流れている。茶髪の少女がレナを攻撃したのは右方から、それならばこれは孝之のいる方向からしか与えられない奇襲である。

「今よ! いいからそいつの動きを止めなさいっ!」

だが、それは本当に聞き覚えのない声だった。女性であることは分かる、つまり孝之でないことだけは理解できる。
・・・・・・茶髪の少女の件もある、ここでいきなり知らない人間が現れたことで動揺していては埒が明かないと。
今度こそ、双樹は早急な判断を下した。
朦朧とした意識の中、手探りで武器を探し出す。この近くには包丁かデザートイーグルが、必ず落ちているはずだった。
そして、次の瞬間右手に慣れ親しんだ感触が伝わる。双樹はすぐさまそれを握り締めると、間を置くことなく。

トリガーを引いた。狙ったのは、少女の足だった。

「いあああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」

絶叫。そのまま側面に身を倒れていく少女の気配を感じながら、双樹もまたぼやけていく意識に身を任せるのだった。

(やった、やったよ沙羅ちゃん・・・・・・恋太郎・・・・・・)

その表情には、微笑すら浮かんでいた。
351パートナー ◆7NffU3G94s :2007/03/29(木) 02:00:05 ID:lm48cjem





「はえ〜、よかったです・・・・・・」

ペタンと、尻餅をついたまま。佐祐理は小さく呟いた。
もう駄目だと思った、急いで駆けつけようとしたものの転んでしまった彼女はそこから再び立ち上がることができないでいた。
足が、自分の意思で動かせなかったのだ。
ガクガクと膝が笑い続けるのを抑えられなかった、緊張の中で佐祐理の肉体が迎えた限界というのはこうも早かったのだ。

奇声を発する少女は、ただただ撃たれた太ももを押さえながらのた打ち回るだけだった。もう攻撃してくる気配はない。
襲われていた女の子も、気を失ってしまっているだけでもう平気だろう。
その向こう、突如現れた長いストレートの黒髪を揺らす少女が、二人が争ってる際放心していた青年の下に駆け寄り彼の体を起こしているのが目に入る。

「大丈夫ですか、佐祐理さん」

ふと気づくと、音夢も隣まで近づいてきていた。
事が終わったのを確かめたからかだろうか。黒髪の彼女がそうしたように、音夢もまた佐祐理に対し手を差し伸べてくる。

「あはは、ありがとうございます・・・・・・でも、もうちょっと待って貰ってもいいですか?」
「どうかしましたか?」
「いえ、その・・・・・・足に、力が入らなくって」

あはは〜と、苦笑いを浮かべる。本当に格好の悪い話だった。
音夢もまた、ふふっと微笑んでいた。
恥ずかしい気持ちも勿論あったが・・・・・・ここにきて佐祐理は自分が一人じゃなかったという事実に対し、非常に安心感を持つようになっていた。
352パートナー ◆7NffU3G94s :2007/03/29(木) 02:00:42 ID:lm48cjem
それは、この襲われた少女を助けようとする際自分一人では何もできなかったかもしれないということ。
焦ってしまい支給されたナイフに対し頭が回らなかった、でも音夢がいたからあの女の子のピンチに対応することができた。
・・・・・・いや、音夢自身は何もしていないが。それでも彼女と出会い、お互いの支給品を見せ合うことで佐祐理はあの行動を起こすことができたのだから。

それに、もし今へたり込んでしまっている自分の隣に誰もいなかったとしたら。それは、想像するだけで非常に心細く感じてしまう。
確かに疑っている面は勿論ある、でも今のところは全く問題なかった。
音夢というパートナーは、確かに佐祐理の人恋しく思う精神を癒す存在になっていた。

「そうですか。ではちょっと待っててください」

だが、そんな佐祐理の心理を知らないからか。
音夢は、今は起き上がれないという佐祐理を置いてそのまま倒れこむ二人の少女の元へと歩を進めたのだった。
・・・・・・彼女が何をしようとするのか、佐祐理は想像できなかった。
気絶してしまった方の女の子を助けるのだろうか、それとも傷を負ったあの少女を・・・・・・。

とにかく意図が分からないので、何も言えなかった。
だが、それでも口にすれば良かったと思う。
何でもいいから、疑問を。「何をするんですか」と、ちゃんと聞いていれば良かったと思う。
それは、後悔だった。

「ぎ・・・・・・ぎゃあああああああああああああぁぁああ!!!!!」

背筋を走り抜ける寒気、あまりのことに佐祐理は息をすることすら忘れてしまった。
ぱくぱくと、魚のように動かすだけの口からは音は漏れない。
その代わり、彼女の大きな瞳からいくつもの涙がこぼれ出してきた。
悲しいとかそういう類のものではなく、ただただ大きな感情の波が襲ってきたことに体が反応してしまっているという状態であった。

「・・・・・・ぁ、あぁぁ!!」
353パートナー ◆7NffU3G94s :2007/03/29(木) 02:01:52 ID:lm48cjem
呆然と見やるのは佐祐理だけではなかった、その向こうの男女も・・・・・・あまりのことに、硬直してしまっているようだった。
周囲の人間が唖然とする中、場の中央だけが淡々と流れる時間を表していた。

そして、その中心にいるのが。他でもない、音夢だった。

彼女が今手にしているのは、奇声を上げた少女の持っていた包丁だった。
コンクリートの地面に転がっていたそれを無言で拾い上げ、音夢はそのまま寝転がる二人の少女へと向かった。こうするために。

「・・・・・・・・・!」
「・・・・・・・・・・・・!!」

最早、悲鳴すら聞こえなかった。いや、上げられないのだろう。
ひたすら無造作に振り下ろされるそれを、二人は受け入れるしかなかったのだから。

音夢は無言のまま淡々と、包丁を上下させる運動を繰り返し続けていた。
白いセーラーが赤く染まっていくのも、全く気にしていないようだった。

「双樹、ちゃん・・・・・・?」

孝之の目の前で、少女は肉塊へと変化させられていた。
守ると、言ったのに。結局何もできなかったけれど。
他愛もないおしゃべりの中で言った自分の一言が、孝之の頭の中でグルグルと周っていた。

そう、孝之自身は何もできなかったけれど、でも双樹は命がけの戦いに勝利したはずだった。
それがどうして。どうして、彼女は。

「ふう、これだけやっておけばもう充分でしょうね」

どうして、あのような残虐な仕打ちを、受けているのだろうか。

「何してるの、さっさと逃げないとこっちが餌食になるわよ!」
354パートナー ◆7NffU3G94s :2007/03/29(木) 02:02:47 ID:lm48cjem
見知らぬ少女に腕を掴まれる、いつの間にこの子は現れたのだろう。
ああ、そうだ。双樹ちゃんが首を絞められている時、いきなり背後から現れたこの子が双樹ちゃんを救ったんだ。
今でも覚えている、目の前を飛んでいったナイフがあのボブカットの女の子に当たったのを。
かっこよかった、この子がいなければ双樹ちゃんは首を絞められてそのまま命を落としていたのだから。
・・・・・・ああ、なら大丈夫じゃないか。問題、ないじゃないか。

「そ、双樹ちゃんを助けてくれよ・・・・・・」
「はぁ?」
「もう一度、双樹ちゃんを助けてくれよ! 君ならできるだろ、さっきみたいにさ、ほらっ」

何故だろう、何故こんな、この子はこんな汚いものを見るかのような目で。俺を見るのだろう。

「いいから行くわよ、走りなさい!」
「・・・・・・や、だ」
「はぁ?」
「駄目だよ、だって双樹ちゃんが、双樹ちゃんが・・・・・・」



『白鐘双樹といって、双葉探偵事務所というところで助手をやってます。所長の恋太郎は凄い人なんですよ。だから安心して任せてください 』



孝之の頭の中ではにっこりと微笑んだ双樹が、今もその優しい笑みを孝之に向けていた。
強くて優しい、そして銃の扱いを教えてくれた双樹が。一緒に市街地を探索した、二人で色んな店を見て回ったあの双樹が。

「双樹ちゃん・・・・・・」
「・・・・・・」
355パートナー ◆7NffU3G94s :2007/03/29(木) 02:03:48 ID:lm48cjem
瑛理子は、何も言わなかった。
ただ無言で、そのまま走り出した。孝之の腕を掴んだまま、あの場に残った人間に背を向け。
ぶつぶつと独り言を繰り返していたが、孝之もつられる形で足を動かしていた。
その歩みは決して早くないけれど、でも。
瑛理子は文句一つ言わず、ただ無言で走り続けていた。
でも、心中では。

(反吐がでるわ・・・・・・)

そんな毒づいた黒い感情が、徐々に広がっていくのを実感するしかなかった。





「何故こんなことをしたか・・・・・・そうとでも、言いたそうですね」

そして誰もいなくなり、場に残されたのは佐祐理と音夢だけになる。
立ち上がり包丁を投げ捨てた音夢は、そのまま周囲に落ちていた双樹のデザートイーグルと・・・・・・少し離れた場所に転がっていた、佐祐理の投げた自動砲を回収しだす。
音夢は作業を続けていた。佐祐理を見ようともせず、ただ黙々と。

「これからのことを考えた上で何をすればいいか、優先順位を自分でつけてみただけなんですよ」
「どういう、ことですか・・・・・・」

か細い、疲れきった声が返ってきて思わず噴出しそうになる。

「言葉の通りですが?」

笑みを湛えながら振り返ると、そこにはよろよろとしたものの何とか立ち上がっている佐祐理が目に入った。
356パートナー ◆7NffU3G94s :2007/03/29(木) 02:04:47 ID:lm48cjem
「佐祐理さん、意外と行動力ありますよね。私びっくりしちゃいました、これなら一緒にいても頼もしいですよ」

また双樹の元へ戻り、今度は彼女のデイバッグを漁りだす。

「・・・・・・へえ、予備の弾まで用意されてるんですか。私よりもいい扱いされてますね」

出てきた二種類の予備弾、音夢は特に確認をすることもなくどんどん自分のデイバッグへとそれを移していった。

「これは・・・・・・」

地図やコンパスといった被っている支給品は投げ捨て、食料や水などの必需品も移し終えた後。
これが最後の荷物だろうか。それは、可愛らしい表情の描かれたマグカップだった。
いかにも女の子が好きそうなデザインだった、少し使用感のあることから元は誰かの持ち物だったのかもしれない。

「これは、いりませんね」

だが、音夢はたった一言でそれを片付けた。
そして、ぽいっと。コンクリートの地面の上にそれを。投げ捨てた。
無造作に。地図やコンパス、それに先ほど振るっていた包丁を投げ捨てたのと同じように。

その気軽さが、怖かった。

「では行きましょうか。・・・・・・それとも、私とも争います?」

ぞっとするような、問い。再び笑い出す膝に力を入れ直し、佐祐理は音夢と対峙し続けた。
この彼女のいきなりの変容が、何を指すのか。考えようとするものの上手く動かない思考回路が佐祐理の冷静さを奪っていく。

(どう、すれば・・・・・・)
357パートナー ◆7NffU3G94s :2007/03/29(木) 02:06:10 ID:lm48cjem
音夢に対し仲間意識を持った矢先がこれだった。
しかし幸い、隠し持つナイフの存在は気づかれていない。ならやりようがあるかもしれない。

(・・・・・・でも、音夢さんは、拳銃を・・・・・・)

少し明けてきた空、薄ら寒さを今になって実感するがきっとそれは時間だけが関係しているわけではないだろう。
佐祐理に与えられた選択は二つ、頭痛が生まれる中佐祐理は懸命にどうすればいいか考えあぐねていた。

「どうぞ、好きにしていいですよ佐祐理さん。あなたに選択権を与えているのですから」

一方余裕を振りまく音夢は、そう言いながら今度はレナのデイバッグへと手を伸ばすのだった。
358パートナー ◆7NffU3G94s :2007/03/29(木) 02:07:11 ID:lm48cjem
【B-3 新市街 1日目 黎明】

【二見瑛理子@キミキス】
【装備:無し】
【所持品:支給品一式 ノートパソコン(六時間/六時間) ハリセン】
【状態:健康、この場から逃げ去る】
【思考・行動】
1:孝之をつれて逃亡
2:殺し合いに乗らず、首輪解除とタカノの情報を集める。
【備考】
川澄舞、国崎住人、佐藤良美、杉並、園崎詩音、高嶺悠人、ハクオロ、芙蓉楓、古手梨花、宮小路瑞穂を危険人物を認識しました。
ノートパソコンのバッテリーはコンセントを使わない場合連続六時間までしか使用できません。充電によって使用時間は延ばせます。
ネット内のホームページは随時更新しています。
水澤摩央とは面識はありません。
二見瑛理子が見た物はネット上の「少年少女殺し合い、優勝者は誰だ!?」というホームページです。
現時点では何らかの制限で他のページへのアクセスは出来ません。

【鳴海孝之@君が望む永遠】
【装備:トカレフTT33 9/8+1 】
【所持品:ブロッコリー&カリフラワー@ひぐらしのなく頃に祭 空鍋&おたまセット@SHUFFLE! ON THE STAGE 支給品一式】
【状態:混乱】
【思考・行動】
1:双樹は本当に死んでしまった? いや、そんな訳あるはずない
2:死にたくない

【備考】
二人は東部へと逃げました。
359パートナー ◆7NffU3G94s :2007/03/29(木) 02:07:48 ID:lm48cjem
【朝倉音夢@D.C】
【装備: S&W M37 エアーウェイト 弾数5/5 】
【所持品:支給品一式(水と食料×2) IMI デザートイーグル 10/7+1 IMI デザートイーグル の予備マガジン10 トカレフTT33の予備マガジン10 九十七式自動砲弾数7/7(重いので鞄の中に入れています)】
【状態:健康、佐祐理の出方を窺う、レナのデイバッグを漁る】
【思考・行動】
基本:純一と共に生き延びる
1・ことり、さくらを殺す
2・兄さん(朝倉純一)と合流する
3・殺すことでメリット(武器の入手等)があれば殺すことに躊躇は無い。

【備考】
目で見てすぐ分かるくらい、制服が血で汚れてしまっています
※S&W M37は隠し持っています。


【倉田佐祐理@Kanon】
【装備:スペツナズナイフ】
【所持品:支給品一式、だんご×30】
【状態:精神的疲弊、音夢をどうするか思案中】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない。ただし、危険人物を殺すことには躊躇しない
1・舞や祐一に会いたい

【備考】
※ナイフはスカートの中に隠しています。
360パートナー ◆7NffU3G94s :2007/03/29(木) 02:08:26 ID:lm48cjem
【白鐘双樹@フタコイ オルタナティブ 恋と少女とマシンガン  死亡】

【竜宮レナ@ひぐらしのなく頃に祭  死亡】

【備考】
レナの包丁は二人の死体傍に放置
瑛理子のコンバットナイフはレナの左肩に刺さったままです
361星空の辻 ◆rnjkXI1h76 :2007/03/30(金) 16:21:50 ID:VietUVJo
 空に月が浮かび、星々が広がっているいる深夜でありながらも、あちらこちらに設置されている街灯により明るく、完全なる『闇』という概念とは無縁な新市街の一角。
 そこをメイドさんのような服を着た一人の少女が歩いていた。
 彼女の名はエスペリア、ラキオス王国のスピリット隊に所属するグリーンスピリットにして永遠神剣第七位『献身』の使い手である。
 ――しかし、今彼女の手に握られている武器は永遠神剣ではない。なんの能力も持たないただの木刀である。

「――それにしても、本当にここは何処なのでしょう?」
 この疑問を口にしたのはもう何回目だろうかと思いながらもエスペリアは月を見上げながら呟く。
 ――少なくとも周辺の建物などの文明レベルとマナの濃度の薄さ――といっても行動に支障をきたすほどではないが――からしてここがファンタズマゴリアではないということは間違いないのだが。
(やはりここはハイペリアなのでしょうか?)
 普段と変わらないように見えるが、さすがの彼女も内心は僅かに混乱していた。
 無理も無いだろう。異世界という概念はあったが、まさかスピリットである自身が異世界に飛ばされることになるとは思いもしなかったし、しかもその世界の人間にいきなり『殺し合え』などと命令されたのだから。
 ほかにも、配られた名簿や地図等には見たことも無い文字がずらずらと書き並べられているのに、それを何の違和感も無く理解し、読むことが出来るという自分自身のこの不思議な状態。
 ――(ちょっと違うが)悠人がファンタズマゴリアに来たばかりの頃もきっとこんな心境だったのだろうか? そんなことを思いながらエスペリアは市街地の奥へと進んでいく。
 同時に、この殺し合いにおいて自身はどうするべきか考えてみた。
362星空の辻 ◆rnjkXI1h76 :2007/03/30(金) 16:22:34 ID:VietUVJo
 まず、この殺し合いに乗るか、乗らないかを考えてみる。
 スピリットである自分が人間たちと殺し合う――そんなことがはたして自分に出来るだろうか?
 答えは否。無理だ。自身はスピリットである以上、人間を傷つけることなど出来るわけが無い。
 この殺し合いの参加者はほとんどが人間だ。しかも皆あのタカノという女性の手により無理矢理参加させられている。おそらく、普段は戦場などというものとはまったく無縁の者たちなのだろう。
 そのような者たちを自身の手でマナの霧にする――そんなことをするくらいならば自身がマナの霧になったほうが数倍マシである。
 それに――殺し合いに乗るということは悠人やアセリアとも戦うということになる。
 敵であった者が味方になり、味方であった者が敵になるということは戦場ではよくあることだ。だが、エスペリアにはそのような真似はどうしても出来なかった。
 ――――ならば、この殺し合いにおいて自身がやるべきことは決まっているようなものだ。

「私はスピリットである以上、この島にいる人々を一人でも多くお救いしなくては…………」
 木刀を持つ手に軽く力を込めると、エスペリアはさらに足を進めた。



 それから少し歩いたところで交差点に差し掛かった。
 前方の信号には右に行くとプラネタリウム、左に行くと映画館、前に行くと役場方面と表記された看板が掛かっていた。
 もちろん、エスペリアは信号がどのようなものか分かるわけがない。したがって看板だけに目が止まる。
 どこに行くのが一番よいだろうか、と少し考えた結果、映画館という場所に行ってみようと思い、早速左――すなわち南へと足を進めるエスペリア。
「おんやあ? これはかわいらしい服を着たお嬢さんですなあ。しかし、信号は青になってから渡らなきゃ駄目ですよお、んっふっふ……」
「?」
 その時、不意に人の声がした。
 声のした方へ目を向けると、そこには一人の男が電柱を背に立っていた。
363星空の辻 ◆rnjkXI1h76 :2007/03/30(金) 16:23:26 ID:VietUVJo
「何者です!?」
 思わず、いつでも戦闘に移行できるように身構えるエスペリア。それを見た男はまあまあとエスペリアをなだめる様な動作を見せながら再び口を開く。
「私は決して怪しいものではございませんよ。私は××県警興宮警察署の大石蔵人というものです」
 そう言うと大石というその男は警察手帳を取り出し、それをエスペリアに見せた。
 ――といってもエスペリアは警察手帳どころか警察というものが何なのかも分からないので、そう言った大石に対して「はぁ」と答えだけである。
「ですから私は自分から相手に危害を加えるような真似はしませんのでご心配なく」
 またしても「んっふっふ」と笑いながら大石はエスペリアの方へ一歩、また一歩と近づいていく。

「――私も人間を傷つけるような真似はしたくありません。ですが……万一の場合、抵抗はさせて頂きます」
 近づいてくる大石に対してエスペリアは木刀の剣先を彼の方に向け、警戒の意思を示す。
「おお、これはこれは。しかしですねお嬢さん、もし私が殺し合いに乗っていた場合あなたに声などお掛けしませんよ?
 人前に姿を堂々と晒して殺人を犯す殺人犯なんていないと思いますがねえ?」
「…………確かに、言われて見ればその通りです。しかし、見知らぬ相手をそう易々と信じるほど私はお人好しではございません」
「そうですか…………。まあ、私は貴方にちょ〜っとあなたにお聞きしたいことがあっただけので、すぐに退散しますよ」
 そう言うと大石はまた「んっふっふ」と笑った。
364星空の辻 ◆rnjkXI1h76 :2007/03/30(金) 16:24:46 ID:VietUVJo
「そういえば、あなたのお名前を聞いておりませんでしたなあ。お名前は何とおっしゃるのです?」
「……エスペリアです」
「そうですか。ではエスペリアさん、早速本題に入りましょうか。私が聞きたいことは三つだけです。
 まずはひとつ目ですが――――赤坂衛という男性、もしくは前原圭一という少年にお会いしませんでしたか?」
 大石の口から上げられた二人の人間の名前――その内の一人の名前はエスペリアも聞き覚えがあった。
 前原圭一――――確かあの時、タカノという女性と僅かばかりではあるが話しをしていた悠人と同年代の少年の名前だ。
「残念ですが、私はこれまでこの島では誰ともお会いしてはいません」
「そうですか……。では次の質問、あなたはこの殺し合いが始まった時、どこに飛ばされていましたか?」
「――ここです」
 エスペリアは地図を取り出し、そう言ってある一箇所を指差した。
 ――――そこは図書館だった。
「ほう、図書館ですか……。ちなみに私が飛ばされたのはここです」
 言う必要があるかは分かりませんがねえ、と付け加えながら大石は博物館を指差す。
「――――こんなことを聞いて、いったい何を考えているのですか?」
「いや……これは私の憶測に過ぎないんですが、この殺し合いの参加者の数は当初65名――そしてこの地図で記されているエリアの数は8×8の計64マスです。
 もしかしたら、スタート時は各エリア一箇所につき参加者は最低一名配置されるのでは、などと思っていただけですよ」
 大石のその言葉を聞いたエスペリアは、若干はっとすると同時に、その憶測は間違いではないかもしれないと心の中で思った。
 そして、実は悠人やアセリアは自分がスタートしたエリアの近隣エリアに配置されていたのではないかなどともと考え、特に何も憶測せずにここまで来てしまったことに少し悔やむ。
「最後の質問に移ってよろしいでしょうか?」
「え? あ、はい……」
 大石の声にはっと我に返り、エスペリアは返事をする。
「では、最後の質問ですが…………。ちょっとこんなこと聞くのも馬鹿馬鹿しいかもしれませんがねえ…………」
 そう言いながら、大石はどこか苦笑いのような、そして気まずいような顔をする。
 それから、数秒ばかりしたところで大石は口を開き、そして言った。

365星空の辻 ◆rnjkXI1h76 :2007/03/30(金) 16:28:15 ID:VietUVJo
「――――エスペリアさん。あなた、死んだ人間が生き返るなんてことがあると思いますか?」



【D-2 新市街/1日目 黎明】


【大石蔵人@ひぐらしのなく頃に】
【装備:なし】
【所持品:支給品一式、ランダムアイテム不明】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本:不明
1:エスペリアから話を聞き情報を集める。
2:1の後、別の場所に行く。
3:赤坂衛、前原圭一と合流。
【備考】
※綿流し編終了後からの参加です。
366星空の辻 ◆rnjkXI1h76 :2007/03/30(金) 16:28:58 ID:VietUVJo
【エスペリア@永遠のアセリア】
【装備:木刀】
【所持品:支給品一式、他ランダムアイテム不明】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本1:ゲームには乗らず、スピリットとして人間のために行動する。
基本2:人間と戦ったり、傷つけたくはないが、万一の場合は戦う。
1:死んだ人間が生き返る…………ですか?
2:大石との話が終わったら『映画館』という所に行ってみる。
3:悠人、アセリアと合流。
【備考】
※登場時間軸などは後続の書き手さんにお任せします。
367もう戻れない優しい日々 ◆3Dh54So5os :2007/03/31(土) 08:50:59 ID:jG+Yb6p6
涼宮遙はご機嫌だった。
見つけることすら出来ないと思っていた『マヤウルのおくりもの』が今この手の中にある。
探し物が見つかったとき、それもどれだけ探しても中々見つけられなかったものを手に入れられたときの喜びは一入だ。
快く譲ってくれたあの子には本当に感謝してもしきれないくらいだ。
その上、孝之もさっきの子がここにつれて来てくれるという。
今日はなんて良い日なのだろう。
『マヤウルのおくりもの』がここにあって、孝之も来てくれる。これ以上幸せな日が今まであっただろうか?
これはきっと神様からのプレゼントに違いない。

遙は背後の大樹に背を預ける。その状態から見上げた空にぽっかり浮かぶ月と輝く星々はとても綺麗で……。
ロマンチックな景色は遙の心をときめかせた
「孝之くん、早く来ないかなぁ……」
デートの待ち合わせの時のように胸が高鳴る。
孝之がここに来たらまずなんて声をかけようか? そんな考えばかりが頭の中を駆け巡る。
今の遙には自身の身体のことや現在地についてなど全く眼中に無かった。
ただただ孝之がここに来た後のことに思いを馳せていた。
それも仕方のないことなのかもしれない。
この場にいたのは『3年間の昏睡状態から目覚めた』涼宮遙ではなく、『高校3年当時の恋する乙女』の涼宮遙だったのだから……。
(孝之くんが来るまでどうしよう? 『マヤウルのおくりもの』を読む? うぅん、それは孝之くんが来るまで待ってよう。孝之くんが来たらそのときは二人で一緒に……)
そんなことを考えながらやがて遙は深いまどろみの中に落ちていった……。
368もう戻れない優しい日々 ◆3Dh54So5os :2007/03/31(土) 08:52:10 ID:jG+Yb6p6

 ◇  ◆  ◇

「……くっ、詰めであんなミスするなんて……お姉のこと言えた義理ありませんね」
園崎詩音は先刻の闘いにおける自身の行動を省みながらそう呟いた。
ベレッタ2丁と暗視ゴーグルという余りにも恵まれた装備だった上、あの女――つぐみが大した反撃を仕掛けてこなかった事も重なって、
自身に気に緩みが生じたのは否定できない。
その結果、致命的な隙を作り、あんな失態を演じる結果になってしまった。
あの時はつぐみがそのまま逃亡を図ったから良かったものの、更に何かしらの武器を隠し持っていたら確実に返り討ちに遭っていただろう。
頭に血が上ってつぐみへの呪咀の言葉を吐いていた時は深く考えられなかったが、
落ち着いて今思い返してみるとかなりヤバい状況だった事に気が付き、詩音は背筋が冷たくなるのを感じずにはいられなかった。

生きて帰るにはさっきのような失態は二度と許されない。
慎重且つ冷静な判断を下さなければならない。まず当面の問題は……。
「これからはどうしましょうかね……まさかこんなところにずっといるわけにはいかないし……」
呟きながら詩音は次の行く先をシミュレートする。
戦術的転進と称してここまで真直ぐ逃げてきたが、一行に森を抜ける様子はない。
まともな目印もないことから断定は出来ないが、山頂の方角を見るに現在地はこのC-4エリアだろう。
現在地と元来た方角から推測すると、先の戦闘ポイントは隣のB-4エリア内ではないだろうか?
少なくともあの女の行った方向だけは避けなくてはならない。
あの女が他の参加者と合流したら絶対私の事を洩らすに決まっている。
手の内もばれている上、徒党を組まれたら勝ち目はない。
369もう戻れない優しい日々 ◆3Dh54So5os :2007/03/31(土) 08:53:20 ID:jG+Yb6p6
(じゃああの女が逃げた方向は?)
つぐみがスタンドグレネード以外の武器を持っていなかったのは止めをささなかったことからも明白。
普通に考えれば他の武器を求めて新市街方面に向かった公算が高い。つまり、北か西……。
今、新市街に抜けるのは危険と見るべきだろう。
かと言って大半が森に覆われた島の南部に今すぐ行く気は起きてこない。
「ここは様子見に撤しますか……ん?」
と、その時、詩音の視界の片隅に何かきらりと光るものが草影から顔をのぞかせているのが映った。
(誰かがあそこにいる?)隠れているつもりなら余りにも御粗末だが、用心に越したことはない。
相手から見えないようさり気なくベレッタを構えつつ、詩音はちらと視線を送り、光沢の元を探る。
(あれか……)
見えたのは手押し車か車椅子らしき物体。が、それの持ち主と思われる人の気配はない。 否、よく耳を澄ませてみれば微かに寝息らしき音が聞こえてくる。
今の状況を考えるとこんなところで寝れる奴がいるとは思えない。 むしろ油断させるための罠と考えるのが妥当だが……
(確認してみる価値はありそうですね)
罠なら罠でいい、その時はベレッタで返り討ちにするまでだ。
詩音は足音を立てないように茂みに近付き、僅かな隙間からそっと覗き込んだ。


そこにいたのは一人の少女だった。
膝の上に絵本を載せ、大樹に寄り掛かりながら心地よさそうな寝息をたてて、その少女は眠っていた。
まるで陽なたぼっこをしながらそのまま寝付いてしまった子供のような、あどけない姿。
本来なら微笑ましい光景なのかもしれないが、まずありえないと断定した展開だった為に完全に毒気を抜かれてしまった。
370もう戻れない優しい日々 ◆3Dh54So5os :2007/03/31(土) 08:54:30 ID:jG+Yb6p6
「……いるんですねぇ、こういうの……お姉並み……いえ、それ以上に空気読めてませ…………」
言いかけて詩音は気がついた。その余りにも病的な体格に……。
よく見れば、辺りにはディバッグの他に薬と思われる錠剤の入ったビンなども散乱している。そして、例の車椅子。

(誰だか知りませんが、かなりの重病人のようですね……)
さらに言えば寝顔を見る限り現状を理解しているのかどうかすら危ういように思える。これはもう空気を読めないとか、そういうレベルではない。
普通の人間ならこんな娘まで参加させた主催の鷹野に対する怒りを抱いたり、少女の境遇に同情したりするところなのだろう。
だがしかし、詩音の考えはそれらとは全く異なっていた。
「これなら、手間はかかりませんね」
詩音は口元に笑みを浮べると、ベレッタの銃口をその少女――涼宮遙に向けた。
相手は眠っているのだから反撃も無ければ、悲鳴をあげることもない。
銃弾だって1発もあれば十分だろう。今ここで引き金を引けば、それで終わるのだ。ああ、なんて楽なのだろう。

「……」
でも何か違う気がする。寝込みを襲って一撃というのは極めて有効だと頭では分かっているが、どうもしっくりこない。
ムカつくぐらい安眠している今すぐ少女を叩き起こして、少しずつ痛めつけながらたっぷりと恐怖を味あわせ、
その表情が絶望に染まる様を愉しみながら嬲り殺しにする。そういうのの方が性に合っている気がする。
だが、ここは拷問道具には事欠かない園崎本家ではないし、反撃も出来ない病人に時間を割く余裕はない。
スピーディーに蹴りをつけるならこのまま夢の世界の中にいてもらった方が都合がいい。
371もう戻れない優しい日々 ◆3Dh54So5os :2007/03/31(土) 08:57:32 ID:jG+Yb6p6
「それじゃあお姉さん、おやすみなさい……って、そういえばもう寝てるのか」
嘲笑うような表情で詩音が引き金にかけた指に力をこめた、その時だった。その言葉とともに遙のがわずかに身動きしたのは……。
「……ん……たかゆき…くん……だいすき……」
(!?)
次の瞬間、辺りに一発の銃声が響き渡った。

 ◇  ◆  ◇

彼女の不幸は何所にあったのだろうか?
現状をまるで理解できなかったこと? こんなところで寝てしまったばっかりに詩音に見つかったこと?
否、それはたいした不幸ではない。あのまま順調に事が進んだのなら、遙は幸せな夢の中にいたまま、
地獄のような現状について知ることもなく、一撃で天に召されていたはずだ。
だが、その一撃を遙は回避してしまった。脳天を貫くはずだったその一撃を……。
銃声と耳を銃弾が僅かに掠めた事により遙は幸せな夢から引き摺り下ろされ、地獄の前に放り出されてしまったのだ。

「……ん?……あれ?」
銃声により(といっても遙自身その音が銃声だとは知らなかったが)遙は目を覚ました。
どうやら孝之を待っている間に眠ってしまっていたらしい。
寝起きでまだうっすらとしか見えない視界に誰かが立っていることに気がついたのはその直後だった。
「……孝之くん?」
だが、目の前ににいたのは孝之でもさっきの心優しき少女でもなかった。
そこにいたのは少女の皮をかぶった一匹の鬼だった。
372もう戻れない優しい日々 ◆3Dh54So5os :2007/03/31(土) 08:59:00 ID:jG+Yb6p6
「私にしては珍しく一撃であの世に送ってあげようとおもったのに……病人の分際で見事にコケにしてくれちゃいましたね……」
寝起き直後の上、余りにも突然の展開、遙には訳が分からなかった。
この少女が何者なのかも、なぜここまで憎悪に満ちた顔をこちらに向けているかも、言っている言葉の意味も……。

ただ本能的にこの少女――園崎詩音に対して恐怖を感じ取った遙は後ずさろうとして……出来なかった。
振り返った先にあったのは先程まで寄り掛かっていた大樹。
夜空を見上げる一等席や心地よい眠りを与えてくれた大樹が、障害物となって遙の前に立ちふさがっていた。
「余所見なんかしてる暇、あるんですか?」
「!?」
詩音の声に遙が再び振り返るより早く、右肩に焼けるような熱い感覚が走る。と、同時に衝撃で遙の身体は木の幹に叩きつけられていた。
もろにぶつけた背中の痛みを感じる前に、肩の焼けるような感覚が堪え難い激痛に
「いやあぁっ……ん!?……むぐぅ!?」
あまりの痛みに悲鳴をあげかけた遙の口に詩音は本来、食糧として支給された菓子パンを押し込んだ。
「んんっ!?……むうっ!?」
遙の決して大きいとは言えない口はビニールの包装に包まれたままのパンで完全に塞がれてしまった。
これでは悲鳴はおろかまともに声を出すことすら出来ない。
パン入り袋を取ろうと遙は無傷の左手を動かす。が、それを見逃す程詩音は甘くなかった。
「おっと、動いちゃダメでしょ、お姉さん!」
詩音は動かしかけた遙の左手を掴むと、遙の上に圧し掛かった。
それと、同時に銃口を押しつけられ、遙は恐怖のあまり震え上がる。
373もう戻れない優しい日々 ◆3Dh54So5os :2007/03/31(土) 09:00:40 ID:jG+Yb6p6
「あらあら、そんなに震えちゃって、別に人食い族じゃあるまいし、とって食いはしませんよ」
そんなことを言われたって銃を突き付けられた状態では到底信じられない。
このまま為すすべもなく殺されてしまうのではないか? 遙がそう思ったその時だった。詩音がその言葉を遙に投げ掛けたのは……。
「死ぬのは嫌ですか? 生き延びたいですか?」
普通なら何を当たり前のことを……と、言いたくなる質問だが、今の遙には生を掴み取るための唯一の光明のように思えた。
光明をチャンスにし、そしてこの地獄からの脱出に繋げるため遙は必死に首を縦に振る。
「ん〜、そうですねぇ……私もそんな冷血人間じゃありませんし……分かりました。見逃しましょう」
微笑みながら詩音が言った言葉に遙は心底安堵した。良かった。助かった。
緊張が一気に解け、強ばっていた全身から力が抜けていく……。
その直後だった、詩音の表情が天使の微笑みから悪魔の嘲笑に変わったのは……。
「……なぁんちゃって、やっぱりだめぇぇぇぇぇっっ!!!」
「!!!」
そのおぞましき声に遙が再び身体を強ばらせるより早く、詩音は引き金を立て続けに引いた。

 ◇  ◆  ◇

涼宮遙は生きていた。
純白のパジャマを自らの血で紅く染め、全身傷だらけの血塗れになり、起き上がることすらままならない状態たが、それでもまだ生きていた。
何発の銃弾を撃ち込まれたのかは分からない。
初撃の右肩を手初めに両足と腰の脇を撃たれたのは確実だが、それ以降は痛みが激しすぎてよく覚えていない。
最低5発は撃たれたはずだが、それでもまだ生きているのは運が良いと言えよう。
全身から死んでしまうのではないかと思える程の激痛に耐えず襲われる状況は決して幸運とは言えないが……。
374もう戻れない優しい日々 ◆3Dh54So5os :2007/03/31(土) 09:02:11 ID:jG+Yb6p6

「うわっ、大して使えるものありませんね。こりゃ……」
遙にしこたま銃弾を撃ち込んだ詩音は遙のディバックを漁っている最中だ。
もう遙の事など眼中にもないらしい。
逃げるなら今のうちなのだろうが、もともと足がまともに動かせなかった身である。
しかも、足と肩に銃撃を受けた今の状況ではまともに動く事すら出来なかった。
口に押し込まれていたパンはいつの間にか外れていたが、声をあげる余力も気力も遙には残されていなかった。
と、その時、遙の視界にあるものが映った。
「……『マヤウルのおくりもの』……?」
おそらく、最初に撃たれて倒れた時に膝から落ちたのだろう。草むらに埋もれるようにそれはそこにあった。
まわりの雑草が盾代わりとなったのか土埃が多少付いている以外、泥も血飛沫も付いていなかった。
遙は全身の痛みすら忘れて『マヤウルのおくりもの』に右手を伸ばす。
撃ち抜かれた右肩が悲鳴を上げるが遙は手を伸ばし続けた。

ようやく手に入れた『マヤウルのおくりもの』
孝之が来たら二人で見ようと決めていた『マヤウルのおくりもの』

それだけは手放したくなかった。手元に置いておきたかった。だから遙は必死になって手を伸ばした。
ゆっくりだがじりじりと遙の手が近づいていく……。
375もう戻れない優しい日々 ◆3Dh54So5os :2007/03/31(土) 09:03:41 ID:jG+Yb6p6

あと10センチ……

「ん〜やっぱり使えるのはこの果物ナイフ位ですかねぇ……」

あと5センチ……

「あんまりいい収穫とは言えませんがよしとしましょう」

あと3センチ……

「さて、それじゃあ……」

あと1センチ……

「やった……届い……」
「死んでください」

刹那、背後から詩音の声と共に軽い音が聞こえ……遙の意識は消失した。
遙の伸ばした手が再び『マヤウルのおくりもの』に触れることは、無かった。

 ◇  ◆  ◇

「う〜ん、やっぱりこういうときは銃ってやり難いですね。ワザと急所を外すのもそうですけど、無駄弾が多すぎで……」
ベレッタのマガジンを交換しながら詩音は誰にとも無く呟くと、遙の屍には目もくれずその場を後にした。
376もう戻れない優しい日々 ◆3Dh54So5os :2007/03/31(土) 09:05:00 ID:jG+Yb6p6


【C-4 森/1日目 黎明】


【園崎詩音@ひぐらしのなく頃に祭】
【装備:ベレッタM92F×2(9mmパラベラム弾15/15+1,10/15+1】
【所持品:支給品一式、予備マガジン×9 果物ナイフ 暗視ゴーグル】
【状態:やや疲労 視力低下中】
【思考・行動】
1:ゲームに乗って元の世界に帰る。特につぐみは絶対に殺してやる。
2:身を休ませる場所を探す。
3:圭一達部活メンバーは殺したくないが邪魔をするのであれば殺す。


【涼宮遙@君が望む永遠 死亡】
[残り58人]

【備考】
薬及び車椅子、『マヤウルのおくりもの』は死体の傍に放置されています。
377兄と妹 ◆guAWf4RW62 :2007/04/03(火) 22:05:34 ID:2cdIt3fL
水澤摩央は民家の一室で、ぐったりと床に倒れ伏す少年――朝倉純一を眺め下ろしていた。
と言っても、純一は死んでいる訳では無い。麻酔薬の効果で眠っているだけだ。
純一を昏睡させ楓を取り逃した後、摩央は遠くから響いてきた爆発音を聞き取り、慌てて民家の中へと移動したのだった。

一度は人を殺す覚悟を決めた摩央だったが、寝ている人間を問答無用で殺すのは少々気が引ける。
そもそもこのゲームで生き延びる方法は、人を殺す事だけに限られはしないのだ。
勿論自分はゲームから脱出出来るなどとは思っていないし、最終的には優勝を勝ち取るつもりだ。
しかし――だからと言って、序盤から積極的に戦闘へと身を投じる必要は欠片も無い。
それよりも寧ろ、人数が減ってくるまでは善良な人間の皮を被り、集団に身を紛らせて保身に走るべきだ。
どれだけ多く人を殺した所で、自分が死んでしまっては何の意味も無いのだから。
そして善意の参加者を装うには、自分が襲撃してしまった人間へのリカバーが必須となるだろう。
芙蓉楓は既に走り去ってしまったし、話し合う事は不可能だ。
となると、残された手段は一つ。純一を懐柔し、摩央の無実を証明して貰うのだ。
楓がいくら摩央の悪評を吹聴して回った所で、被害者である筈の純一自らが弁護を行ってくれれば問題無い。
だからこそ摩央は純一を敢えて殺さず、説得を試みようとしていたのだった。
「さて、始めるとしますか」
ぼそりと呟くと、摩央は手にしたバケツを持ち上げて、その中身を勢い良く純一の顔へとぶっ掛けた。
「――ぶはっ!?」
直後、顔面に大量の水を浴びせられた純一が、奇声を発しながら上半身を起こす。
「おい音夢、いくら何でもこんな起こし方する事無いだろ!? かったり……?」
純一は顔をぶんぶんと横に振って、水を跳ね飛ばし――目の前にいる摩央と目が合った。
「おはよう朝倉君。お目覚めは如何かしら?」
「――へ?」
状況がまるで把握出来ていない、といった様子の純一に対し、摩央が臆面も無く語り掛ける。
「さっきは悪かったわね。その……私も怖かったのよ」
「……………?」
378兄と妹 ◆guAWf4RW62 :2007/04/03(火) 22:06:43 ID:2cdIt3fL
純一としては、まずは状況の把握が最優先だった。何故このような場所にいるか、まるで分からない。
まずここは自分の部屋では無いし、目の前にいる女性も音夢ではない。
混乱する心を落ち着かせ、冷静に冷静に思考を纏めてゆく。
(えーと……確かいきなり殺し合いをしろって言われて、それから楓と出会って……)
そうだ、自分は楓と出会った後、今目の前にいる水澤摩央を見つけ、そして――
自分が何をされたか思い出した瞬間、純一は傍らに置いてあったデイパックを拾い上げていた。
「クッ――!」
「キャッ!?」
そのまま力任せにデイパックを振り回し、摩央に向かって殴り掛かる。
摩央は咄嗟の反応で真横に飛び退き、鞄の中に隠し持った鉄扇に手を添えながら、大声を上げる。
「ちょっと待ちなさいよ! 私は話し合おうと……」
「うっせえ、もう騙されねえぞ!」
純一は摩央の言葉を途中で遮ると、そのまま踵を返して部屋を飛び出した。
右手に見える玄関に駆け寄り鍵を開け、一目散に外へと躍り出る。
そのまま勢いを緩めずに、ただひたすら夜の住宅街を走り抜けてゆく。
(クソッ、こんな所で死んで堪るかよ!)
あの女は友好を装い自分達に接近してきて、突如裏切り銃を放ったのだ。
何故撃たれた筈の自分が生きてるかは分からないが、今はそれよりも逃げ延びるのが重要だ。
――話し合い?
冗談も大概にしろ。どうせまた何か良からぬ事を考えているに決まってる。
折角拾ったこの命をむざむざと差し出すつもりなど毛頭無い。
このゲームに乗った人間……しかも、騙まし討ちを行おうとしている人間は確実に存在する。
自分が思っていた以上に、この島は危険地帯と化しているのだ。
ならばこんな所で死ぬ訳にはいかない。仲間を――特に、音夢を絶対守ってやらなければならない。
妹は身体が弱いから一番心配だというのもある。だがそれ以上に、今の自分には音夢を守ってやりたい理由が存在する。
379兄と妹 ◆guAWf4RW62 :2007/04/03(火) 22:07:34 ID:2cdIt3fL
数日前、自分は音夢と初めて口付けを交わした。
それはぎこちなく、子供っぽいキスだったが、信じられないくらい暖かいものだった。
幸せだった。音夢の好意にはとうの昔から気付いていたが、ようやく自分も同じ気持ちを持てたのだ。
長い年月を経て二人の気持ちは、一つになった。ずっと一緒に過ごせると思っていた。
それなのに突然、こんな残酷な殺し合いの舞台へと放り込まれたのだ。
(そうだ……俺達はまだ始まったばかりじゃないか。こんな所で終われるかよ!)
だから純一は駆けた。何としてでも生き延び、妹を、そして他の仲間も守る為に走り続けた。



――純一が走り去った後の室内。
「あーもうっ……ホント、最悪!」
摩央は己の失敗を悔いていた。まさか話し合いをする暇すら与えられないとは思わなかった。
優男に見えたあの純一がいきなり攻撃を仕掛けてくるとは……完全に予想外だった。
これで確実に自分の悪評は広まってしまうだろうし、集団に紛れ込むのはもう絶望的だ。
こんな事になるくらいなら、最初から躊躇わずに殺しておいた方が良かっただろう。
しかし後悔先に立たずという諺もあるように、悔やんでも仕方ない。
こうなった以上は単独行動を基本とし、人を殺し続けて優勝を掴み取るしかないだろう。
新たな武器――鉄扇は純一が寝てる間に奪い取っておいた。
麻酔銃自体には殺傷力が無いが、相手を眠らせさえすれば、後はこの鉄扇で喉を切り裂いてやればよい。
人の身体を切り裂くなどといった行為は、とても気の進むものでは無いが、もうそうも言っていられない。
自分は何としてでも生き延びて――光一の所へと帰らなければならないのだから。
少女は決意を新たにし、ゆっくりとした足取りで民家を後にした。

 *     *     *    *
380兄と妹 ◆guAWf4RW62 :2007/04/03(火) 22:08:33 ID:2cdIt3fL
懺劇の舞台となった、新市街地。無機質なコンクリートの上には、闘争の犠牲者達が横たわっている。
そんな中で勝者の座を勝ち取った朝倉音夢は、元は竜宮レナの物であるデイパックを漁っていた。
ポケットの中にある銃をいつでも取り出せるよう気構えだけは怠らず、しかし外面上は余裕を保ちながら口を開く。
「もう、早く選んでくださいね? 私に協力するか、それとも――ここで無駄死にするかを」
「協力とは……具体的に何をしろと言うんですか?」
倉田佐祐理は震える声で、しかし要点を外さずに返答した。
――ここで軽率な判断は絶対にしてはならない。
スペツナズナイフの存在に気付かれていない以上勝算はあるが、何も戦う事だけが打開策ではない。
決戦を挑むのは、相手の意図を完全に把握してからでも遅くは無いのだ。
「簡単ですよ。泥棒猫――芳乃さくらと白河ことりの退治を手伝ってくれれば良いんです」
「…………」
予想通り……やはり音夢は、芳乃さくらと白河ことりを殺すつもりだ。
しかしそれだけなら別に自分には関係無い。問題はもっと別の所にある。
「それだけですか? 他の参加者の方々を殺せ、とは言わないんですか?」
それが一番の問題だった。音夢が優勝を狙うつもりなら、川澄舞や相沢祐一も危険に晒される。
それだけは絶対に許容出来ない。たとえここで刺し違えようとも、阻止しなければいけない。
音夢は少し目を細めて、それからあくまで軽い調子で言った。
「ええ、今の所そんなつもりはありませんよ。この人達を殺したのは武器が欲しかっただけですし、これだけあればもう十分ですからね」
戦利品をたっぷりと詰めたバッグを肩に架け、満足げな笑顔を浮かべるその姿に、佐祐理は心底寒気を覚えた。
もうこれ以上この場に居たくない。相手の狙いが分かった以上、一秒でも早くこの場を離れたい。
「そうですか。なら佐祐理は――三つ目の選択肢を選びます!」
「――!?」
佐祐理は沸き上がる衝動に抗おうとはせず、すぐに踵を返して走り出した。
こんな女と一緒にいては、いつ寝首を掻かれるか分かったものではない。協力するのも、ここで戦うのも御免だった。
381兄と妹 ◆guAWf4RW62 :2007/04/03(火) 22:10:19 ID:2cdIt3fL
「……佐祐理さん、よほど死にたいらしいですね」
音夢は眉を吊り上げ、しかし口元は笑みの形に歪めたままで言葉を紡ぐ。
大量に装備が手に入った以上、音夢はもう銃弾の消費を惜しむつもりは無かった。
あっという間に遠ざかってゆく佐祐理の背中に向けて、音夢はS&W M37を放つ。
しかし所詮素人に過ぎない音夢の狙いは甘く、銃弾はあらぬ方向へと飛んでいった。
撃鉄を起こし、今度はしっかりと狙いをつけて引き金を絞る。
それでも身体の中心部を撃ちぬく事は出来なかったけれど、佐祐理の肩口を掠めたのが分かった。
佐祐理は肩を抑えて呻いていたが――足だけは決して止めなかった。
そのまま佐祐理は角を曲がり、建物の向こうへと消えていった。
音夢は後を追うか一瞬迷ったが、止めておく事にした。
身体の弱い自分が走った所で、どうせ追いつけないだろうと判断したからだ。
佐祐理の生死などどうでもいい。ここで起きた出来事を吹聴されても問題無い。
純一なら、見知らぬ他人をいくら殺しても、最終的にはきっと許してくれる。
兄にとっては他人などより、妹の事の方が何倍も大切に決まっている。
しかし――『あの女』が相手の場合は別だ。
『あの女』を殺す場面を目撃されてしまった場合、純一は決して自分を許してはくれないだろう。
382兄と妹 ◆guAWf4RW62 :2007/04/03(火) 22:11:24 ID:2cdIt3fL
音夢はもう佐祐理の追撃に固執せず、数日前の出来事へと思いを巡らせた。
卒業パーティーでミスコンが行われたあの時。
純一は自分の懸命な呼び掛けを振り切って、さくらと共に何処かへ行ってしまった。
自分はミスコンなどに興味は無い。ただ純一にもっと見て欲しかっただけなのに……兄の目は、こちらを見てなどいなかった。
今まで兄の横にいるのはずっと自分だったし、それはこれからも続く筈だったのに。
純一の心は泥棒猫、芳乃さくらが完全に盗み取っていってしまったのだ。
そんな事、許せない――許せる訳が無い。
あの女は窃盗罪を犯した。ならば相応の報いを与えてやる必要がある。
当然軽い懲罰で済ますつもりなど微塵も無い。この世で一番大事な兄の心を奪った罪は、死を以って償わせる。
自分の居場所は、自分の手で取り戻すのだ。
そして音夢にとっては、犯罪者予備軍である白河ことり。
あの女も放っておけば、兄の心を奪おうとしてしまうかも知れない。
犯罪は未然に防ぐのが肝要なのだから、今回の好機に乗じてことりも始末しておくべきだ。
目撃者は残さない。秘密裏に、迅速に、目的を成し遂げてみせる。
「そうよ……誰にも兄さんは渡さないんだからっ……!」
静まり返った市街地の中に、少女の暗い――どこまでも暗い声が、響き渡った。


【F-4 住宅街 1日目 黎明】
【水澤摩央@キミキス】
【装備:麻酔銃(IMI ジェリコ941型)】
【所持品:支給品一式 麻酔薬入り注射器×4 H173入り注射器×5、ハクオロの鉄扇@うたわれるもの】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:何としても生き延びる
1:他の参加者と出会ったら躊躇わずに殺すが、無茶はしない
【備考】
麻酔銃について。
装弾数は1で、一回一回のコッキングが必要になります。
注射器について。
麻酔の効力は約一時間程度。
H173は雛見沢症候群を引き起こす劇薬ですが、摩央はH173自体が何の薬だか分かっていません。
383兄と妹 ◆guAWf4RW62 :2007/04/03(火) 22:12:55 ID:2cdIt3fL
【F-4 住宅街 1日目 黎明】
【朝倉純一@D.C.P.S.】
【装備:無し】
【所持品:支給品一式 エルルゥの傷薬@うたわれるもの オオアリクイのヌイグルミ@Kanon】
【状態:体力消費小、焦り】
【思考・行動】
基本行動方針:人を殺さない
1.まずはもっと離れた所へ逃げる。
2.何としてでも音夢を探し出して守る
3.ことり、さくら、杉並を探す。
4.楓も可能なら探したい
5.殺し合いからの脱出方法を考える。
6.水澤摩央を強く警戒
【備考】
芙蓉楓の知人の情報を入手している。
純一の参加時期は、音夢シナリオの初キス直後の時期に設定。
純一の逃げた方向は後続の書き手さん任せ
384兄と妹 ◆guAWf4RW62 :2007/04/03(火) 22:13:48 ID:2cdIt3fL
【B-3 新市街 1日目 黎明】
【朝倉音夢@D.C】
【装備: S&W M37 エアーウェイト 弾数3/5 】
【所持品@:支給品一式(水と食料×3) IMI デザートイーグル 10/7+1 IMI デザートイーグル の予備マガジン10 トカレフTT33の予備マガジン10】
【所持品A:出刃包丁、コンバットナイフ、九十七式自動砲弾数7/7(重いので鞄の中に入れています)】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本:純一と共に生き延びる
1・何としてでも泥棒猫のさくらを殺す
2・犯罪者予備軍であることりも殺す
3・兄さん(朝倉純一)と合流する
4・殺すことでメリットがあれば殺すことに躊躇は無い。
【備考】
目で見てすぐ分かるくらい、制服が血で汚れてしまっています
音夢の参加時期は、さくらルートの卒業パーティー直後の時期に設定。

【B-3 新市街 1日目 黎明】
【倉田佐祐理@Kanon】
【装備:スペツナズナイフ】
【所持品:支給品一式、だんご×30】
【状態:体力消費小、右肩軽傷、精神的疲弊】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない。ただし、危険人物を殺すことには躊躇しない
1.まずはもっと離れた所へ逃げる
2.舞や祐一に会いたい
3.朝倉音夢を強く警戒
【備考】
※ナイフはスカートの中に隠しています。
佐祐理の逃げた方向は後続の書き手さん任せ
385エリーにおまかせっ☆ ◆7NffU3G94s :2007/04/04(水) 21:01:00 ID:FvmNWfeD
「ふぅー、堪能した堪能した〜☆」
「・・・・・・」

そう言って、霧夜エリカは揉みしだき続けていた坂上智代の乳からやっと手を離した。

「やっぱりおっぱいはいいわね。おっぱいは人の心を潤してくれるわ、リリンの生み出した文化の極みよ」
「・・・・・・」
「どうしたの、ともりん。感じすぎてイっちゃったかしら?」
「!! ふざけるなっ」

顔を真っ赤に染めた智代が、自身の胸部を両手で隠すようにしながら怒鳴り返す。
ワナワナと全身を振るわせるその姿、さながら小動物のような愛らしさにエリカはニンマリとした笑みを浮かべた。
そして、そのまま追い詰めるかの如く智代への急接近を再び図ろうとする。

「んもう、気持ちよかったくせに〜。素直にならない子はもう一度ぉ・・・・・・」
「も、もういい! 来るな」

逃げ腰になって後ずさりする智代、そのまま足をとられ尻餅をついてしまう様子の一部始終をエリカはじっと見つめていた。
あまりに愉快。滑稽。そして・・・・・・可愛らしい、そんな形容詞がお似合いな智代をどうやらこの姫様は大層気に入られたらしい。

「あっはははー! ごめんごめーん、ともりん可愛いんだもん。からかいすぎちゃったわね」
「くそっ、こんな屈辱初めてだ・・・・・・」

しょぼくれて身を竦める智代の姿を笑い飛ばしながら、エリカはちっちっちっと人差し指を振り止めとばかりに言ってのける。

「違うでしょ? こんな快感、初めてでしょ♪」
386エリーにおまかせっ☆ ◆7NffU3G94s :2007/04/04(水) 21:01:37 ID:FvmNWfeD
もう、智代は何も言えなかった。





さて。気を取り直したところで、二人はやっと今後についての話し合いをし始めた。

「なるべく人がいる所がいい、エリカの知り合いが行きそうな所はあるか?」
「うーん、対馬君達が行きそうな場所ねぇ・・・・・・どうなんだろ、私普段あの子達と個人的に遊びに行ったりしないから分からないわ」

お手上げといった風に両手を上げるエリカ、親友である佐藤良美が向かいそうな場所というのも彼女は思いつけなかった。
一方智代はというと、何故か苦虫を噛み潰したような表情でじっと地図を睨みつけていた。

「ともりん?」

さすがにおかしいと思ったのか、すかさずエリカが声をかける。
ビクッと大きく肩を震わせた後、智代はゆっくりと視線をエリカに合わせながら、口を開いた。

「・・・・・・一人、心当たりがあるんだ」
「何々?」

相変わらずの難しい顔、微妙な雰囲気を保ったままの智代は薄くつけられたランタンの明かりの中で、見合っていた地図の左下を徐に指差した。
エリカも顔を近づける。どうやらそこは、何かの施設のようだった。

「温泉?」
「・・・・・・」
「何でまた・・・・・・ああ、成る程・・・・・・」
「聞くな、何も聞くな!」
387エリーにおまかせっ☆ ◆7NffU3G94s :2007/04/04(水) 21:02:43 ID:FvmNWfeD
手をポンッとつき、納得といった感じで頷くエリカの様子を見ていられないのか、智代はがっくりと地面に手をつけ勝手に落ち込みだす。
悪いヤツではないんだ、多分・・・・・・そんなフォローを口にする彼女、エリカはこれまたニンマリと微笑むと智代に近づき耳打ちした。

「もしかして、朋也君?」
「と、朋也はあんな変態とは違う!」
「あ、そうなの? まぁ、誰でもいいんだけどね」

とりあえず今思い描けるのは、温泉だったら智代の知り合いが向かうかもしれないというというあやふやな情報だけだった。
エリカ自身特に希望の行き先があったわけではないので、そこに不満がある訳ではない。
いや、むしろ。彼女の場合、期待の方が上回っていた。

(ん〜、温泉ねぇ・・・・・・っということは)
                                 
                   


                                    
温泉 → お風呂に入るなら、勿論裸になる → おっぱい見放題キャッホウッ!( ゚∀゚)o彡゜
                                




「いいわね、早速行きましょう! さっさと行きましょうっ!」
388エリーにおまかせっ☆ ◆7NffU3G94s :2007/04/04(水) 21:03:28 ID:FvmNWfeD
いきなりやる気が全開になった姫様の様子に、智代が訝しげな視線を這わす。
しかしエリカはそんなものを全く気にすることなく、素早くランタンを片付け座り込んでいる智代の腕を取り無理矢理立ち上がらせるのだった。

「善は急げってね、行くわよともりんっ」
「お、おい、何なんだいきなり」
「ん? いやーね、ともりん美乳をお目に出来るチャンスがあるなんて、もう超ラッキーって感じ♪」
「な・・・・・・っ?!」

あんぐりと口を開いて放心する智代を無視し、エリカはさっさと歩き出す。
軽やかな足取り、智代は彼女といること自分の貞操が危ないのではと今更ながら不安に思うのであった。

「ほら、ともりん。さっさと行くわよ〜・・・・・・ニヤニヤニヤニヤニヤ」
「そ、その顔を止めろっ!」

智代の道は、前途多難である。
389エリーにおまかせっ☆ ◆7NffU3G94s :2007/04/04(水) 21:04:04 ID:FvmNWfeD
【D-4/1日目 時間 深夜】



【霧夜エリカ@つよきす】
【装備:スタンガン@ひぐらしのなく頃に】
【所持品:支給品一式、十徳工具@うたわれるもの】
【状態:健康。乳ハンター】
【思考・行動】
1:智代と行動を共にし、仲間の捜索。
2:くだらないゲームをぶっつぶし、主催者を後悔させる。
3:( ゚∀゚)o彡゜オッパイ!オッパイ!
【備考】坂上智代と情報を交換しました。
十徳工具の機能:ナイフ・コルク抜き・+ドライバー・−ドライバー・LEDライト・糸通し・栓抜き・ハサミ・ヤスリ・ルーペ



【坂上智代@CLANNAD】
【装備:FNブローニングM1910 6+1発(.380ACP)】
【所持品:支給品一式、ランダムアイテム不明】
【状態:健康。エリカのペースに乗せられっぱなし】
【思考・行動】
1:エリカと共に朋也を始めとした知り合いの捜索
2:ゲームからの脱出
【備考】霧夜エリカと情報を交換しました。
FNブローニングM1910:女性の護身用拳銃としてよく用いられている。ちなみに、ルパン三世の峰不二子、鋼の錬金術師のホークアイ中尉などが使用している。


【備考】
二人はB-7・温泉へと移動を開始しました
390利用する者される者 ◆VtbIiCrJOs :2007/04/08(日) 17:57:35 ID:XZEi5Al7
 二挺拳銃の女――園崎詩音から辛くも逃亡を果たしたつぐみはいつしか森を抜け市街地に出ていた。
 コンパスの指し示す北の方角と背後――南南東にそびえる山の頂を地図に照らし合わせると現在位置はB-3エリアあたりなのだろうか。
 街は一切人の気配が感じられないのに関わらず、街灯だけが煌々と闇を照らし出していた。
「電気代がもったいないわね……」
 ひとりごちるつぐみ、人がいないのにどこか生活臭がするある種異様な風景。
 街は食べかけの朝食やカップに入ったままのコーヒーを残して船員全てが忽然と消失したマリー・セレスト号をつぐみの脳裏に思い出させていた。

 つぐみは道の路肩に駐車している車に注目する。
 普段なら白いチョークが引かれ違反キップが切られている、何の変哲のない白い乗用車。
 もしかした乗れるかもと思い近づくがドアはしっかりとロックされていた。
「持ち主の人には悪いけど……」
 つぐみは曲げた肘を窓ガラスに打ち付ける。割れた窓ガラスは粉々になって車内に散乱した。
 打ち付けた左腕がかすかに痛む、治りかけの肩の傷が疼いていた。
 やはりキュレイウィルスの力は消滅していない、時間をおけばこれぐらいの傷は勝手に治癒される。
「大した化け物よね私」
 自嘲めいた笑みを浮かべ、車内を散策する。
 が、結局めぼしい物はみつからず、キーが無いのではエンジンも動かせない。
 つぐみは車の調査を早々に打ち切ってこの場を後にしようとした。
 その時だった。

『あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは』

 突如街に木霊する甲高い女の声。笑い声。
 それは哄笑といったレベルじゃない、狂笑。もはやまともな人間が上げる声の質を大きく逸脱している。
 つぐみは車の陰に隠れて全身の神経を周囲の情報収集に集中させる。
 しかしこの周囲に人の気配は感じられず。だがどこで?
 絶叫さらに銃声。何者かが交戦、近い。またさらに銃声。悲鳴。悲鳴。悲鳴。大体の方角は掴んだ。
 そして――静寂。

 ※ ※ ※ ※ ※ ※
391利用する者される者 ◆VtbIiCrJOs :2007/04/08(日) 17:59:12 ID:XZEi5Al7
 つぐみがその場所にやって来た時は既に大勢が決した後だった。
 電柱とゴミを入れたポリバケツの間に隠れ、惨劇の後を伺う。
 むせ返るような血の臭い、その中心に佇む二人の少女と二つの肉の塊。
 黙々とハイエナのように死体を漁る少女。
 その光景をただ呆然と見つめる少女。
 二人は何か会話をしている。
 耳を澄ませ会話の内容を聞き取ろうとした。
『……とは……を……しろと……ですか?』
『簡単…………と……良い……す』
 小声でぼそぼそと話しているようで何を言っているかまではさっぱりわからない。
 だがこれ以上は近づくと向こうにも気づかれる。さてどうしたものか――
 すると突然、片方の少女が猛スピードでこちらに駆け出して来たのである。
 まずい、見つかった!?
 身構えるつぐみ、その後に響く二発の銃声。
 もう一人の少女が放った物だ。
 駆け出した少女は電柱の陰に隠れるつぐみに目もくれず、交差点の角を曲がり街の闇の中へ消えて行った。

「仲間割れ……かしら」
 つぐみは消えた少女を追うことなくその場にしゃがみ込んでいた。
 あの二人に何があったのか気になるところだが、いつまでもここに居てはいられない。
 早くここから立ち去ろう、そう思い立ち上がって足を動かした時――
 ガンッ!
 勢いあまった足が。
 勢いよくゴミが満載のポリバケツにヒット。
「しまっ……!」
 当然ながらバランスを崩したポリバケツは、派手な音とゴミを撒き散らしながら転がっていった。

「誰ッ!?」
 少女の声、今度ははっきりと聞こえる大きな声。
 まずい完全に気づかれた。
 距離にして約十五メートル、近い。背中を見せて逃走する?
 答えはNO、背後から撃たれる。再生力が弱い現在、下手に被弾はしたくない。
392利用する者される者 ◆VtbIiCrJOs :2007/04/08(日) 18:00:29 ID:XZEi5Al7
「出て来なさい、そこの電柱の陰にいるのはわかってるんだから」
 怒気と殺気を孕んだ少女の声。
「……私を見逃してくれるの?」
 正直に現在の気持ちを少女に伝える。
「あなたの言動次第ですね」
 なるほど……問答無用と言う訳では無いらしい。交渉の余地はあり、か。
「わかったわ……今の私はほぼ丸腰なの、別にあなたをどうこうするつもりはさらさらないわ」
「なら、手を上げてそこから出て来なさい。……変な仕草を見せたら撃ちます。あっ荷物はそこに置いてて下さいね」
「しょうがないわねえ……これでいい?」
 雲に隠れていた月が再び夜空に浮かび上がると同時につぐみは電柱から姿を現す。
 両手を上げ少女の前に姿を見せる。
 月光が少女を青く照らし出したその光景につぐみは息を飲んだ。
 少女の足元に転がる二つの肉塊――おびただしい量の血の海に沈み絶命している二人の少女。
 そして二人分の返り血を浴び、真っ赤に染まったセーラー服を身に纏いこちらに銃を向けている少女の姿があった。

「ゆっくりとこっちに来なさい……っとそこで立ち止まって背中を見せて」
 つぐみは少女から約五メートル離れた位置に立ち止まらせられる。
 そして背中を向けた。
「よろしい、じゃあ幾つか質問をしますね」
「3サイズは秘密よ」
「ふざけないで、本当に撃ちますよ?」
 彼女は本気、まあ当然だ。既に二人の人間を殺害してるのであるから。
「あなたの名前は?」
「小町つぐみ」
「目的は?」
「探したい人がいるの、名前は倉成武。それとこの島からの脱出」
「いつからここに?」
「街中でおかしな笑い声と銃声が聞こえたからここに。来た時はあなたが死体を漁っていた所ね」
 彼女の神経を逆撫でさせないように正直に尋問に答えて行く。
 武なら要らないこと言って殺されてしまうのがオチだろう。

「これで気が済んだ? そろそろその物騒なモノを下げてくれない?」
393利用する者される者 ◆VtbIiCrJOs :2007/04/08(日) 18:01:39 ID:XZEi5Al7
「あなたが不審な行動をとらないのであれば」
「銃を持っている相手と無闇に戦うほど私は無茶はしない、何かしたら遠慮なくズドンとどうぞ」
 ――もっとも一発や二発の弾丸で死ねるような身体ではないが。
「それに今のあなたは私の話に聞く耳を持ってくれている。つまりある程度私の話を信用してくれてるのでしょう?」
「……わかりました。前を向いてもいいです」
 音夢は銃を下ろしつぐみに前を向くように促す。
 彼女の許可を受け、つぐみは振り向き彼女を見据える。茶色のショートカットの髪と鈴の付いたチョーカーと、元は白かったであろう紅いセーラー服が特徴的な少女だ。
 とても人を殺すような人間には見えなかった。

「あなたの名前は? 私だけ名乗るのも不公平でしょう」
「……朝倉音夢」
「合歓?」
「漢字が違います! 音に夢と書いてね・むです」
「……変わった名前ね」
「大きなお世話です!」
 顔を膨れっ面にして怒る音夢、どことなく可愛らしい仕草。自然と警戒レベルが下がりそうなのを堪えるつぐみ。
「ねえ」
「何ですか?」
「さっきまでの出来事を覗き見しといてなんだけど……あなた、私と組まない?」
 つぐみの口から出た言葉、それは音夢にとってあまりにも突拍子のない提案だった。
「つぐみさん……あなた」
 音夢の殺気が膨れ上がる。
 たった今、倉田佐祐理に裏切られた彼女にとってあまりにふざけた提案。
「別に『仲間』になろうなんてこれっぽっちも言うつもりはないわよ。私が言ってるのはお互いの目的の遂行のため、お互いを利用し合おうと言いたいの」
「私の目的を知らないのにそんな事を?」
「じゃあ教えてもらえる?」
 音夢は歯痒かった。
 二人の少女を殺した人間に向かって臆すること無くこの女は堂々としているのだろうか?
 さっきの女――倉田佐祐理はどうだ。自分に恐れを成して逃げ出した。
 面白い……なら自分の目的を素直に話してつぐみを試してやる。これでつぐみが自分に恐怖を感じたら即殺してやる。
 音夢は唇の端を歪めてつぐみに言った。
「兄さんを探しているの、名前は朝倉純一、目的は彼と一緒に生き延びること。それと――」
394利用する者される者 ◆VtbIiCrJOs :2007/04/08(日) 18:03:45 ID:XZEi5Al7
 音夢の声のトーンが下がる。それは地獄の底から響く亡者の声。
「私から兄さんを奪った泥棒猫二人を――殺してやる」
 音夢の瞳が闇色に染まる。憎悪、殺意、怨念、呪詛に囚われた瞳。
 さあ小町つぐみ私を恐れよ、恐れを抱いて死ね。

「へえ……なるほど……美しい兄妹愛だこと」
 だがつぐみは恐れることも無く目を細め含み笑うだけだった。
「何が……可笑しいんですか」
「あなたが誰を殺そうと止めるつもりはないわ、肝心なのは私の敵ではないことよ。今の所私の目的とあなたの目的は対立しない、ならお互いを利用し合ったほうが生き延びられる確率が上がるんじゃないかしら?」
「あなたは……私を怖いとか狂ってるとか思わないのですか」
「別に、私は人殺しなんてダメ! なんてヒューマニズムを唱えるつもりは無いから、それに狂ってるだの狂ってないのだの所詮は第三者の客観的な視点。自分が狂ってないと思えばそうなのよ。それともあなたは自分が狂ってるとお思いで?」
「さあ? しかしつぐみさんもなかなかの悪人ですねえ。私の殺人を見逃そうなんて武さんが聞いたら悲しみますよ」
「あなたこそ既に二人を殺しさらにもう二人殺す、それもお兄様の知り合いを。きっと彼は悲しむでしょうね、ふふふふ」
 二人の雰囲気が若干、和やかなムードに切り替わる。
 音夢は思う、倉田佐祐理の時のように仲間と言いつつお互いの腹の中を探り合うぐらいなら――
「あはははは、良いですよつぐみさんせいぜい利用してあげますから、囮と弾避けぐらいには役に立って下さいね。用済みになったら殺してしまうかもしれませんよ」
 最初からこうやって利用し合うと宣言したほうが後腐れが無いのではと。
「それはお互い様、私に寝首を掻かれることなんて無いようにね、音夢」

 そう言って二人は左手を差し出して握手をする。
 右手では無く左手、それはお互いの利害が対立すれば容赦なく敵対する意思表示。
 仲間とは到底言えない関係、お互いが利用する物とされる者。

 ※ ※ ※ ※ ※ ※
395利用する者される者 ◆VtbIiCrJOs :2007/04/08(日) 18:06:50 ID:XZEi5Al7
「しかし……派手にやったわねえ……」
 つぐみは音夢の足元に転がる死体を見て、改めて現場を凄惨さを感じていた。
「ここに来る前、変な笑い声を聞いたけどあれって音夢の声?」
「失礼ですね! 私がそんな声出すわけないじゃないですか。この人よこの人!」
 音夢はがんっがんっと足元の少女の死体を何度も蹴り上げる。
 固まりつつある大量の血液が跳ね、音夢に返り血となって付着する。
「酷い顔ね。どうしたらこんな表情になるのかしら? あなたが無茶苦茶に殴ったんじゃないの?」
「違いますー最初からこんな顔で現れたんですー」
 少女の顔は醜く歪んでおり、この世のものとは思えない凄まじい形相をしていた。
「そう言えば自分のこと『レナ』って呼んでました。『あははははは駄目だよ駄目だよ! レナを撃つ? 撃つ? 違うね、それはあなたの意志じゃなくて宇宙人が与えた指令なんだよ!
 可哀想可哀想、レナが早く解放してあげる。その支配からの脱却っ、あはははは! 楽にしてあげるからね、すぐだよすぐ!』って叫びながら」
「何よそれ、変な薬でもキメてたんじゃない」
「かもしれませんね」
「こっちの娘は?」
 つぐみはもう一方の少女を見る。レナと同じく血の海に沈んでいるがその顔は穏やかでまるで眠っているかのようだった。
「最初に私と交差点の角越しに睨み合っていたんです。お互いが動けない一触即発な状態な時に――この女が現れたの」
「この子――『双樹』と呼ばれていたと思います。この女――『レナ』の足に一発弾を当てて安心したのかそのまま気絶してしまいました。
 その後動けなくなった二人を私が仕留めました。『レナ』を殺すのは当然として『双樹』も私と敵対する可能性がありましたもの、後方の憂いを絶つという意味で」
 二人を殺したことへの罪悪感は微塵も感じられない口調で、音夢はさらりと言ってのける。
「どうしましたつぐみさん? 少し顔色が悪いんじゃないですか?」
396利用する者される者 ◆VtbIiCrJOs :2007/04/08(日) 18:09:46 ID:XZEi5Al7
「いいえ、音夢が相当な悪党だということを再確認しただけよ。それより『双樹』と呼ばれていたって……あなた達以外に誰かここにいたの?」
「はい、知らない男の人と女の人。おそらく『双樹』の同行者だろうと」
 知らない男女……つぐみは男が武ではないかと思ったが、その推測は音夢の言葉によって打ち消された。
「彼女が私に殺されている間、何もできずに呆然としていた上もう一人の女に手を引かれて逃げ出したヘタレです。兄さんの足元にも及ばない男です」
 どうやらそれは武では無いようである。いや武であるはずがない。
 武ならきっと自分の命を賭してまでこの少女を救い出そうとするだろう。それがあの男の性分だ。
「もしかしてつぐみさんの探してる人だったりしますか?」
「そんな訳ないでしょう、私の武をそんなヘタレと一緒にしないで」
 鳴海孝之はヘタレである――それが二人の共通認識だった。
 哀れ孝之、頑張れヘタレキング。

「さて、いつまでもここに居ていられませんよね。そろそろ移動しませんか? 私は東の森から来たんですけど……」
「私は南の森から来たわ。だけど南の森は行くのはやめといたほうがいいと思うわ」
「どうしてですか?」
 音夢の質問につぐみは園崎詩音に襲われた時の状況を思い出しながら答えた。
「あなたと出会う前に一度襲われてるの。二挺拳銃と暗視ゴーグルを持った女、あなたと違って話し合いすら応じずいきなり仕掛けてきたわ。おかげで肩に鉛弾をプレゼントされてしまってね」
 そう言ってつぐみは服の袖を捲り上げ、肩の傷口を見せた。
 傷口にはべったりと乾いた血液が付いており、その中心は確かに抉られたような痕があった。
「え……撃たれたって……でもそれほとんど治りかけじゃ……」
 混乱する音夢。まあ当然だろう、銃で撃たれた傷が数時間で治るなんてありえない。
「詳しい説明は省略するわ、そのほうがロマンチックだし。簡単に説明すると私の身体は普通の人間と比べて異常なまでに自然治癒力が高いの」
 つぐみは自らの呪われた身体について簡単に説明をする。
「本当ならこの程度の傷、数分で治るところなんだけど……どういうわけかこの島に連れて来られてから傷の治りが遅い」
「それが本当なら……くすくす、つぐみさんも人が悪い。そんな隠し玉を持ってるなんて」
397利用する者される者 ◆VtbIiCrJOs :2007/04/08(日) 18:11:21 ID:XZEi5Al7
本当に囮と弾避けには持って来いじゃないか。音夢は唇を歪める。
「あなたに銃を向けられても一発や二発喰らいながら取り押さえることができたけど……再生力が落ちている状態で危ない真似はしたくなかったの。それに治ると言っても当たれば当然滅茶苦茶痛いんだから」
 音夢は感情に任せてつぐみを撃たなかった事に安堵の息を吐いた。
 撃っていたら間違いなく敗れていたのは自分だろう。
 つぐみを殺す時は豆鉄砲では無く、双樹から奪った大口径の銃を使うことにしよう。
「私を殺したかったらマグナム銃か象撃ち用ライフルでも持ってくることね。もっとも、背中を見せて逃げる相手を仕留められなかったあなたにそれを扱えるとは思えないけど」
 つぐみは音夢の心の中を見透かしたかのように言葉を綴った。
「その時はその時に考えますよ。それでつぐみさん? そんな二挺拳銃からよく逃げられましたね」 
「相手の油断もあったけど……とりあえずあれのおかげね」
 つぐみは電柱の脇に放置されているデイパックを指差した。
「取って来てもいいかしら?」
「どうぞ……背中を見せた瞬間撃つかもしれませんよ」
「一発で頭を狙える技量を持っているならどうぞ。外したら終わりよ?」
「あはは、そうですね。つぐみさんみたいな化物相手に戦いを挑むつもりはありませんよ。あなたには盾としての利用価値がありますから」
 つぐみは背中で音夢の言葉を聞きながら地面に置かれたデイパックを担ぎ上げた。
 音夢も攻撃を仕掛けてくる様子は無い。つぐみはアスファルトの路をしっかり踏みしめながら戻ってきた。
398利用する者される者 ◆VtbIiCrJOs :2007/04/08(日) 18:12:23 ID:XZEi5Al7

「手榴弾ですかこれ?」
「いいえ、音と光で相手を怯ませるスタングレネード。殺傷力は無いけど戦闘能力を封じるのには十分よ」
「そんな危ない人がうろついてるなんて……その女も殺すリストに追加ですね」
 自分の事を棚に上げて兄の心配をする音夢。
「音夢、あなたも危ない人だから」
 すかさずつぐみのツッコミが入る。
「う〜〜〜、酷いです。そんなことより早くここから移動しましょ。ね、つぐみさん」
 つぐみは荷物をまとめ足早に立ち去ろうとする音夢に声をかける。

「どうでも良いけど……その格好なんとかしたほうが良いんじゃない?」
「え!?」
 つぐみの言葉で音夢は今自分がどんな姿をしているか気がついた。
 セーラー服を赤黒く染めた異様な姿。
「あーーーっ! こっこんな姿兄さんに見られたらどうしよう〜〜〜〜!!!」
「まずは服を探すのが先決ね」

 こんな妹を持ってしまった朝倉純一に同情したつぐみだった。

399利用する者される者 ◆VtbIiCrJOs :2007/04/08(日) 18:13:50 ID:XZEi5Al7
【B-3 新市街 1日目 黎明】
【小町つぐみ@Ever17】
【装備:スタングレネード×9】
【所持品:支給品一式 天使の人形@Kanon】
【状態:健康(肩の傷はほぼ完治)】
【思考・行動】
基本:武と合流して元の世界に戻る方法を見つける。
1:ゲームに進んで乗らないが、自分と武を襲う者は容赦しない(音夢の殺人は黙認)
2:音夢を利用する(朝倉純一の捜索に協力)
3:音夢の服を探す。
【備考】
赤外線視力のためある程度夜目が効きます。紫外線に弱いため日中はさらに身体能力が低下。
参加時期はEver17グランドフィナーレ後。
400利用する者される者 ◆VtbIiCrJOs
【朝倉音夢@D.C】
【装備:S&W M37 エアーウェイト 弾数3/5】
【所持品1:支給品一式 MI デザートイーグル 10/7+1 IMI デザートイーグル の予備マガジン10 トカレフTT33の予備マガジン10】
【所持品2:出刃包丁 コンバットナイフ 九十七式自動砲弾数7/7(重いので鞄の中に入れています)】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本:純一と共に生き延びる。
1.何としてでも泥棒猫のさくらを殺す
2.犯罪者予備軍であることりも殺す
3.純一に危害を加えるであろう者も殺す
4.兄さん(朝倉純一)と合流する
5.殺すことでメリットがあれば殺すことに躊躇は無い
6.つぐみを利用する(倉成武の捜索に協力)
7.服を探す
【備考】
目で見てすぐ分かるくらい、制服が血で汚れてしまっています。
音夢の参加時期は、さくらルートの卒業パーティー直後の時期に設定。
今のところつぐみを殺すつもりはありません。

【備考】
二人の行き先は後の書き手さんに任せます。