アキ姉「いってらっしゃ〜い」
アキ姉の声に送られ、慌てて玄関に駆け込む。
くそっ、こういう時に限って靴がうまく履けないものだ。スニーカーの踵を気にせずつぶして外に飛び出した。
創太「おい、鈴っ!待てよ!」
もうはるか前方を小走りで駆けている鈴に向かって叫ぶ。
鈴「待てないっ、早くしないと遅刻だよ!」
鈴の声が届く。もうそんな時間なのか?
創太「げ……」
洒落になってない時間だった。
くっ、朝飯抜きのダッシュは体にくるんだが…。
仕方ない…か?
創太「すぅ……」
息を大きく吸い込み、そして…
創太「俺ダッシュっ!!!」
体を大幅に傾け、陸上部もビックリな加速を見せる。
朝の今の時間にしか見せられない、見事なまでの立ち上がりだ。
あっという間に鈴を抜き去ってやる。
鈴「わっ!!」
路地の曲がり角、アウトコーナーからいきなり前に抜き出た俺に驚く。
学校までは、後はもうこの道をまっすぐなのだが…。
創太「ハッ、ハッ…鈴っ」
このままでは遅刻してしまうかもしれない。確認した時間は始業ベルまでギリギリで、俺を焦らせる。
ガシッ―――――!!!
鈴「――!!」
俺は鈴の手を無理矢理掴み、学校まで全力で引っ張って行った。
>>566 鈴「ちょ、ちょっと、にい…きゃあああ!!!」
少し大げさに言うなら、鈴を鯉のぼりのような状態で引っ張っていく。
疲労を感じない。心地よい浮遊感。これが俗に言うランナーズハイか…
まさに限界フルスロットル。俺は音速を超えた(気分)。
俺は今風と一つに! 誰も俺を止められない!
創太「って、のわぁっ!」
突然身体が宙に舞った。
低空飛行からのランディング。野球部も真っ青のヘッドスライディング。
…って、アスファルトなら誰でも真っ青か…
靴をちゃんと履かなかったのがこんな所で裏目に出るとは…
創太「てて…」
あれ、鈴は…いつの間にやら、校門を駆け抜けていた。
その瞬間、先生が校門をガラガラと閉めていった。
…我が義妹、鈴よ…強く生きろ…ガクッ。
先生「おい、港崎。遅刻だ。」
>>567 ――――キーンコーンカーンコーン…
【創太】「………くそ―、針山の野郎」ったく、ヤツは手加減というのを知らんのか?!
いくらハリセンだからって、あんなに振りかぶったら痛いっちゅーの!!
しかも3発もっ。
俺の姿を見ろよ。制服ボロボロ、顔から着地したせいで頬は擦りむけてんだぞ?!
今度はアイツの車に何をしてやろうか…
【??】「――――あっ!!いたっ!!!」
ん?この聞き覚えのある嫌な声は…
俺の本能が叫ぶ。逃げろ!!と。
>>568 【創太】「うぉりゃぁぁぁぁ〜〜〜!!!」
振り返らずに本日2回目の俺ダッシュ。さらに磨きがかかり、コンマ2秒とかからず全速力に達する。
【??】「あ!!待て、このバカそぅ……」
【創太】「……ハァッ、ハァッ、ハァッ」
フフフ、さすがの奴でも俺の足にはかなうまい。危機は去ったぜ。
上機嫌で教室の扉を開ける。
【信二】「お!やっと来たか。お疲れ〜」
教室に入ると昔から付き合いがある奴らの中でも1番の友達…いや、悪友か。信二が話かけてくる。
【創太】「おはよう、信二」
【信二】「……おまえ、相変わらずマイペースだなぁ」
お前にだけは言われたくない。
【信二】「って、ボロボロだな?ハリ先か?輝美か?」
【創太】「両方だ」
言いながら席につく。
【信二】「あははは!!そうか、そいつは災難だったな」
……と、待てよ?