静岡県の富士山麓に広がる広大な林の奥に、鉄条網で囲まれた
広大な一角がある。
そんな、人里離れた森林の中に建つ、コンクリート作りの一軒
の小屋が、望の住処だ。
小屋の中は8畳くらいの部屋になっていて、部屋の中にあるのは、
何処までも深く、暗い正方形の穴。
壁には分厚い防弾ガラスの窓が埋め込まれている他は、厳重な金
属製の、大きさ30cmくらいの、外界と小屋の中を繋ぐ穴がある
だけだ。
その穴から毎日1回投げ込まれる、1日5kgあまりの食物を
むさぼり食い、暗い穴に止めどもなく脱糞をする。
それが、今の望の人生の全てだった。
食費や維持費といった、この小屋の運営費は全て、IOCの経費
で賄われている。でも、そんなのは当然の事だ。
奴らが、商業主義と歪んだ超大国の愛国心にまみれたオリンピッ
クの奴らが、望をここまで追いつめたのだから。
月に一度、自衛隊のトラックに揺られて、俺は望に会いに行く。
防弾ガラスの窓越しに顔を見せ、望がこちらに気づいてくれるの
を辛抱強く待つ。
その日は3時間ほど待っただろうか?