【呼吸を】サクラVの昴タソ萌えスレ4【合わせろ!】
「すばる!ダンスの練習するぞ!一緒にするぞー!」
リカの声がドアの外から響いて来る。
それは、東日流火との戦闘の時の約束。
リカと一緒にダンスの練習をする、という約束だ。
勿論、約束は約束。
別にその場限りの、というつもりだったわけでもないし、僕も守るつもりだ。
だけど…。
「すばるっ!まだか!まだなのかー!!」
頼むから、朝から部屋の前で大声で叫ぶのはやめてくれ…。
よくウォルターに捕まらなかったものだ…。
「…すぐに用意するから、少しの間そこで待っていて。」
「おー、わかった!早くしろよー!」
朝食はシアターに向かう途中に何か取るか…。
「ふらっぷ、ふらっぷ、はんぷ!ふらっぷ、ふらっぷ…」
「ばっくふらっぷ…はんぷ!」
規定のステップを終えて、リカは満足そうに、うむ!と微笑んだ。
きっと、会心の出来だったんだろう。
リカはくるりと僕の方に向き直り、パタパタと手を振った。
「いししししっ!どうだ、すばる!リカ上手だっただろ!?」
嬉しそうな顔で、感想を求めてくるリカ。
舞台の上には、僕とリカの二人きり。
他には誰もいない、それだけにリカの声はよく響いた。
「そうだね、この短期間で見違えるほど上達したと思うよ…目覚しい成長振りだ。」
僕は素直に思った事を口に出す。
だけど少し伝わり難かったのか、リカは難しい顔をしている。
「よくわからん…リカ、褒められているのか?」
僕がそうだよ、と答えてあげると、リカは照れたように笑った。
「それじゃあ、それじゃあ、次のパートのダンスもやるから見ててな!」
言い終わるや否や、自分の立ち位置に向かって走り出し、こちらに向かって両手で大きな丸を作った。
その合図を受けて、僕は音楽の準備をする。
音楽が鳴り出し、リカが踊りだす。
よほどの練習をしたんだろうか…初めてリカのダンスを見たときより、かなり上手になっている。
それに、本番の舞台で踊っていた時に気になっていた部分も、今見たダンスでは殆ど気にならなくなっていた。
だけど…それはあくまで「以前のリカのダンス」に対しての事。
一つのダンスとして見れば、リカのダンスはとても上手とは言えない…プロのダンスではない。
だけど、今の僕にはそんな事は―――
踊るリカを見ながら、ぼんやりそんな事を考えていると、音楽が鳴り止み、ダンスが終わった。
ダンスを終えたリカは僕の視線に気付いたのか、小走りに近寄ってきた。
そしてずいっと、僕の前に詰め寄り、笑顔で言った。
「あのな、リカ、すっげーいっぱい練習したんだぞ!」
大きく、澄んだ瞳がキラキラと輝いている。
楽しくって、嬉しくって仕方ない、そんな瞳。
「そうだね…リカの上達っぷりは、見ていてよく分かるよ。頑張ったね。」
偉いよ、と僕はリカの頭を撫でてやる。
そういえば、以前練習の時に大河がリカの頭を撫でていたな。
あの時は、まさか僕がその立場に立つなんて思ってもいなかったけど…。
「いしししし…もっと褒めてくれていいぞ!」
嬉しそうに頬を赤らめるリカを見ていると、それも悪くは無いと感じる。
これも、僕が変わった所為…なのだろうか。
「そーかぁ…リカ、上手になったか…。」
「リカは、お客さんの為に頑張って練習をしてきたんだろう?」
だから、きっと舞台を観に来てくれたお客さんもリカのダンスを見て喜んでくれるよ、と僕は続けた。
「お客さんのため…?」
リカは、きょとんとした顔で僕を見つめた。
違うのかい?と聞こうとした僕を遮るように、リカが口を開く。
「うーむ…あのな、お客さんが喜んでくれるの、リカ嬉しい。」
そうだね、僕も同感だ。
「だからいっぱい練習した!…でも、それだけじゃないぞ。」
それ以外の理由?
「すばるは、リカのダンスが下手だから、一緒に踊ってくれなかった。」
…僕?
「だから、リカがいっぱい、いーっぱい練習して上手に踊れるようになれば、すばるも一緒に踊ってくれる、って思った!」
リカはそこまで言うと、急に目を伏せ、小さな声で言った。
悲しさと、不安の混ざった…そんな声で。
「なあ、すばる…リカ上手になったよな?リカと一緒に踊ってくれるか?」
うつむいたまま、僕の言葉を待つリカ。
この小さな少女が、僕の為に必死に練習してきた、その想いに応える言葉。
その言葉は、答えは一つしかない。
上手だとか下手だとか。
プロのダンスかとか、そうじゃないとか。
そんな事はどうでもいい、関係ないんだ。
そして僕は―――昴は、言った。
「…勿論だよ、僕で良ければ一緒に舞台で踊ろう。」
舞台の上には、僕とリカの二人きり。
他には誰もいない、それだけに僕の声もよく響いた。
聞き間違える事は、まずないだろう。
「ほんとうか、すばるっ!」
満面の笑みでリカが叫ぶ。
やれやれ…今泣いた烏がもう笑った、とは正にこれだな…。
「ふっ…。」
僕の返事を聞くまでの不安そうな顔とのギャップが激しくて、僕はつい笑ってしまう。
リカはどうして僕が笑っているのか分からないらしく、今度は不思議そうな顔で僕の顔を覗きこんだ。
「…すばる?何で笑ってんだ?」
コロコロ変わるその表情に、僕はますます笑ってしまう。
「ふふふ…何でもないよ。それより、リカ。」
何とか笑いを噛み殺し、さっきのダンスを見ていて思ったのだけど、と続ける。
「シャッフルの時に足に少し力が入りすぎている。あれだと音が濁ってしまうよ。」
ほんの些細な箇所だったけど、あえて僕は注意をする。
それは、リカに『プロのダンス』を求めるからではなくて。
ただ純粋に、リカのダンスを、リカの『リカとしてのダンス』をもっと完璧にしたかったから。
「ん?おー、やってみるから見ててな!」
そんな僕の想いを知ってか知らずか―まぁ、リカは気付かないだろうけどね―リカは素直に頷き、
僕が注意した箇所の少し前からダンスを始める。
「ふらっぷ、はんぷ、ふらっぷ、はんぷ!」
フラップとハンプの素早い動作を、足首の力を抜いて、スナップが利くように素早く行う。
リカには少し難しかったのかもしれない、やっぱり少し力が入ってしまっていた。
「いしししし…リカ、失敗しちゃったな。」
笑いながら、ちょっと恥ずかしそうに帽子を抑えるリカ。
その様子が何だか可愛らしくて、つられて僕も微笑んだ。
「大丈夫、さっきより音が澄んできている。もう少し練習すれば、もっと綺麗な音が出せる筈さ。」
その言葉を受けてリカはうーむ…と少し考え込むような様子を見せた。
「なんか、すばる、かわった。」
リカは続ける。
「前のすばるだったらな、リカが今みたいに失敗すると、こわい顔してな、
『リカ…どうしてこんな簡単な事ができないんだ?』って言ってた。」
そう、それが以前の僕―――
だけど僕は流れを受け入れ、そして…変わった。
僕は黙って、リカの次の言葉を待つ。
「でも、今のすばるは違うな!うまく言えないけど…すっげー優しい!」
眩しい程の笑顔で、そう答えるリカ。
素直すぎるリカの言葉に、少しだけ…気恥ずかしさを感じる。
つい何も答えられずにいると、リカが僕の顔を覗きこんできた。
「ん。どうした、すばる?なんか顔赤いぞ?」
「なっ…!」
まるで、心の中まで見透かされたような、そんな気持ち。
何だろう、この気持ちは…少しだけ、悔しい。
「…それよりもリカ。今は違うという事はつまり、以前の僕は優しくなかった…という事かい?」
心の中を見透かされた仕返しとして、少し意地悪にリカに尋ねる。
リカはきょとんとした顔で僕を見つめていた。
一呼吸置いて、リカの顔がみるみる変わっていく。
この顔は「しまったー!」…って顔、かな。
「ホットケーキやホットミルクを作ってあげていたのに…リカは中々傷つく事を言うね。」
さらに追い討ちをかけてみる。
…きっと、こんな事を言えるようになったのも、僕が代わった所為なのかもしれないな。
「えっと、えっとな!前のすばるも優しかったけど、今のすばるの方がもっと優しくって、それで、えーと…」
しどろもどろになりながら、必死になって否定するリカを見ながら、僕はそんな事を考えていた。
「だから、その、な!今までのすばるも好きだったけど、今のすばるのが好きだ!うん!」
「ふふ…そうかい、それはありがとう。」
若干論点のずれたリカの答えだけど、今の僕にはそれがとても心地良い。
「さぁ、リカも疲れただろう?少し休憩にしようか。」
「リカはまだまだ平気だぞ!」
「…ホットミルク、作ってあげるよ?」
「おお、すばるやるな!よし休憩だ、休憩だぞー!くるくるくるー!」
ふふ…まったく、リカは相変わらず現金だな。
はやく行こう、と僕の手をぐいぐい引っ張るリカ。
そういえば、誰かと手を繋いだのなんていつ以来だろう…。
「なーなー、すばる、はやくしろー!」
繋いだその手の暖かさを、僕はきっと忘れない。