【つぐみ】「だったら、見て」
【つぐみ】「目をそらさないで、見て」
【つぐみ】「全部……」
【つぐみ】「武にだけは……全部、見せてあげるから……」
ぱさり……。
衣ずれの音が響いた。
ほの暗いゴンドラの中。
わずかな月明かりが、深い海を青く照らしていた。
闇に浮かび上がったもの……
それは……
深く深く刻まれて、けれど今は何事もなかったように塞がっている、傷跡。
目を凝らして、よく見なければわからなかった。
指をそっと、なぞらせなければわからなかった。
傷跡――。
全身にくまなく、細かく刻まれた、数え切れぬ程の傷跡。
つぐみは肩を震わせて泣いた。声を殺し、静かに、泣いていた。
俺は彼女の肩を引き寄せた。強く強く、彼女を抱きすくめた。
涙が床を濡らす。
つぐみは俺の胸の中で、しばし子供のようにあえぎ、泣きじゃくった。
俺はつぐみを求め、つぐみは俺を求めた。
つぐみは俺のすべてを受け入れ、俺はつぐみのすべてを受け入れた。
俺達は重なり合い、ひとつになっていた。
………………。
…………。
……。
俺の頭は、正座したつぐみの両腿の上に、ちょこんと乗っかっていた。
やわらかな優しい感触を、俺は後頭部に感じた。