昔懐かし慟哭スレ P4

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彼女は段差に少し足をぶつけたみたいだったが、
目に見える大きなケガはないようだ。
間近で見る青木さんは、やっぱり可愛かった。
両足を床についた彼女の身体から、僕が腕を離そうと――
子鈴 「お、お怪我はありませんか!?」
上から長いメイド服の裾をひらひらさせて、子鈴さんが慌てて駆け下りてくる。
一也 「こ、子鈴さん! 危ないですからゆっくり…」
僕の注意も虚しく、子鈴さんの足が階段を踏み外すのが
はっきりと見てとれてしまった。
子鈴 「あっ…!」
一也 「わわっ!!」
僕は青木さんを支えていない半身で、子鈴さんを受け止めようと差し出した。

ぼふっ!!

ゆったりとしたメイド服の上からでもわかる豊満な胸が、僕の肩口に当たる。
それより衝撃的なことに、顔から落ちてきた子鈴さんの唇が、僕の頬にぶつかった。
温かい感触が頬に残り、驚いたような荒い息遣いが顔に当たっている。
千砂 「あ……」
女性とは言えど、2人を支えられるほど僕の身体は頑丈にできていないようで、
すでにしっかりと立って態勢を整えていた青木さんを残して
僕は子鈴さんを抱きかかえたまま、その場に倒れこんでしまった。
密着していた身体を慌てて離して、子鈴さんが心配そうに僕を覗きこんでくる。
子鈴 「時田さん、ごめんなさい! お怪我は…」
一也 「……大丈夫です。でもひ弱なもので、支えきれませんでした……すみません」
よっ…と、上半身を起こして笑って見せると、
子鈴さんは細い眉をハの字に曲げて、僕の顔や身体をさすり始めた。
子鈴 「どこか、痛いところはありませんか…?」
僕は子鈴さんより先に立ちあがって、彼女に手を差し伸べた。
それに掴まって子鈴さんが僕に倣う。
一也 「平気です。それより子鈴さんは…?」
子鈴 「え、ええ……私は時田さんに受け止めていただきましたから……」
弱々しく笑う子鈴さんに心配させまいと、
僕は彼女を受け止めた方の肩をポン、と叩いて見せた。
一也 「僕もたいしたケガはないし、青木さんも大丈夫みたいでよかった!」
その場を暗くさせまいと、僕は努めて明るく言った。
そんな僕を見て、子鈴さんも安心したようだ。
子鈴 「時田さん、ありがとうございました……私、つい慌ててしまって……」
千砂 「私も……ごめんなさい。時田さんに助けてもらいました……」
見ると、青木さんも済まなさそうに頭を下げている。
僕の場を明るくしようとした努力も空しく、2人は頭を垂れていた。
一也 「やだなぁ、みんな無事だったんだしそんな気にする事ありませんって!」
僕は『気にすることはない』という意味を込めて、彼女達の肩を軽く叩いた。
改めて感謝されるのが照れ臭くなって、そのまま背を向けて洗面所へと向かう。
そんな僕の考えを理解したのか、子鈴さんが後ろでクスリと笑ったように聞こえた。
僕は頬が熱を持ち始めるのを感じながら、早足で廊下を進む。
子鈴 「……うふふ……」
はっきりと、子鈴さんが笑う声が聞こえた。
洗面所の入り口へと到着し、僕は立ち止まった。
青木さんが下着を履くのを僕が見るわけにはいかないな…。
後から来る2人に『ここですよ』と示して、僕はその場に突っ立っていた。
すると青木さんが僕の横に来て、小声で何か呟いている。
一也 「何? 青木さん」
僕がそう聞くと、彼女は俯いてどこか素っ気無い態度を見せた。
その態度の意味が解からず、僕は少し戸惑う。
怒っているようにも見えるその表情には、言いも得ない迫力があった。
一也 「ど、どうかした……?」
たじろぎながら僕が聞くと、青木さんは可愛い口を尖らせて小声を発した。
千砂 「………さっき、子鈴さんと………」
青木さんが僕の片頬を見やりながら、じと…と睨みつける。
そこで初めて、彼女が不機嫌にしている理由がわかった。
子鈴さんを受け止めた時のあの現場、青木さんも見てたんだ……!
よく考えればあの場にいた青木さんも見てて当たり前なのだが、
あの時の僕は周りを見る余裕なんてなかった。
一也 「あ……!あ、あれは不可抗力で……」
子鈴 「どうかしたんですか?」
僕と青木さんが立ち止まって言いあっているのを不思議に思ったのか、
すぐ後ろにいた子鈴さんが僕の横に顔を出して聞いてきた。
いきなり現れた子鈴さんに驚きながら、僕は彼女にキスされた頬を押さえて取り繕った。
一也 「い、いえ! 何でもありません!」
子鈴 「……そうですか」
僕の慌てる様もさして気にする様子はなく、子鈴さんは洗面所に入っていく。
子鈴さんに気を取られたその一瞬の出来事だった。
千砂 「………ちゅっ」
一也 「っ!!?」
手で押さえていない側の頬に柔かい唇の感触。
一瞬何が起きたか解からずに固まってしまった僕に、
青木さんは『してやったり』という笑顔を向けた。
千砂 「あはっ、やりました!」
呆然と立つ僕を後にして、青木さんは洗面所に入っていった。
静かに閉まったドアを見つめながら、僕はまだ温かい感触の残る頬を
確かめるようにそっとなぞった。