昔懐かし慟哭スレ P4

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無事に部屋から抜け出る事に成功してホッと息を撫で下ろしていると、
後ろからついてきていた子鈴さんが申し訳なさそうに声をかけてきた。
子鈴 「あの……すみません」
それは僕と青木さん、両方に言っているようだった。
一也 「どうかしましたか?」
千砂 「?」
子鈴 「いえ…急にお邪魔してしまって、時田さん方に
     ご迷惑をおかけしてしまっているのではないかと…」
悲しそうに目を伏せて、子鈴さんが謝る。
一也 「迷惑だなんて、そんな事…」
確かにノーマの強引な性格には少し戸惑う反面、
彼女が明るさが変わってなくて嬉しい、という気持ちもある。
ノーマのあの性格は相手を多少(?)困らせるものの、
不思議と不快には感じない。
千砂 「わ、私もそんな事思ってません。
     それより久しぶりに子鈴さん達に会えて嬉しいですよ。
     あれからどうしているか、気になっていましたから……」
青木さんも僕に同意してくれた。 
正直なところ、僕もそれは気になっていた。
あの”事件”に係った人達は、少なからずショックを受けたに違いない。
館でも出来事の直後は、僕も梨代も、真理絵先生も
”事件”のことを口にすることはなかった。
いや、口にするのも嫌になるぐらいに僕らの心に深い傷を残していたんだ。
だけど、時が過ぎると共にその忌まわしい記憶も風化され、
今では『みんな助かってよかったな』と振りかえられるほどに
冷静に考えられるようになった。
それはどうやら僕達だけではなかったようで、
青木さんや子鈴さんもどこか客観的にあの事件を
見れるようになっていると感じられた。
ノーマやいつみ達と顔を合わせると、どうしても初めて出会った夜を思い出すが、
それはむしろ、個性の強い彼女らと知り合いになれたという『良い想い出』となっている。
一也 「僕もそう思ってました。やっぱりあの出来事はそれなりにショックでしたから…。
     でもこうして尋ねて来てくれて嬉しい気持ちの方が強いですよ。
     ノーマの元気なところも相変わらずで…」
ははは、と子鈴さんに笑ってみせると、彼女も少し笑みを浮かべてくれた。
ノーマがあんな子だから、いろいろとフォローしないといけない事が多いんだろうな…、
なんて思いながらも、僕は周りへの気配りを忘れない子鈴さんに感心した。
子鈴 「そう言っていただけると……。」
いくらか表情が和らいだ子鈴さんに僕は安心して、2階の階段を降りていく。
僕はもう慣れているが、ここは少し急な勾配になっているので降りるには注意が必要だ。
一也 「あ、階段結構急だから気をつけ…」
先に降りた僕は、壁に手をついてゆっくりと降りてくる彼女達に注意を促そうとしたが…
千砂 「とっ、時田さん! 見ないでくださいっ!!」
僕が階下から彼女らを見上げた瞬間、青木さんが叫んだ。
スカートの裾を下へ引っ張り、ぎゅっと握り締めている。
しまった! 彼女は今……。
見れば青木さんは顔を少し紅潮させて、怒ったような表情で僕を見ている。
僕は何の為に1階まで降りてきたかを今思い出し、自分の迂闊さに後悔した。
一也 「ご、ごめん!」
慌てて僕が青木さんから視線を外した刹那、彼女の驚きと焦りが混じった声が聞こえた。
千砂 「きゃあ!」
子鈴 「あ、危ないっ……!」
ぐらり、と青木さんが傾くと同時に、その細身の身体が僕の上に落ちてくる。
僕は彼女を下から受け止めるべく両腕を広げて腰に力を入れた。
一也 「……っ!」
青木さんの柔かい身体が、僕の胸の中に落ちてきた。
思っていたよりもしっかりした重さに僕の身体がわずかによろける。
一也 「だっ…大丈夫?」
千砂 「ご、ごめんなさい!」