ギャルゲー板SSスレッド Chapter-4

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150突破してる・・・
冬の海・春の海 155

「だめだよ。離したりしちゃ」
メネシスはアンの目線に合わせて少し屈んで呟いた。それはふたりへと贈った
言葉だった。アンの手を包み込むように滑って下から亀頭をひと撫でして中指が
鈴口をなぞって離れていって、その手で自分の唇を撫でる。尖った頤は雫でまた
ぬらっと煌いた。メネシスは唇が指を撫でる時、「はあっ……」と熱い吐息を
洩らして舌をチロッと出し、濡れる指を舐めていた。

「メネシスって、エッチでしょう……?」
 細い褐色の指は頤から咽喉を辿って乳房へと行った。
「そうか?俺はアンの方がえっちな気がするな」 「ばか……」
「いいじゃない。えっちでもさ。生きてるって実感できる、人類の最高の言語さ」
「もう……。メネシスったら」
「ま、それは大げさかもしんないけど、あながち外れてもないだろ?」
 少しおどけながら、姿勢をしゃんとするとやさしい笑顔でふたりに声を掛けた。
ふたりはどうして、指を舐めていた艶っぽい貌からこんなにもやさしい貌が
できるのか不思議そうに見ていた。

「ん?わたしの貌になんか付いてるかい?」 「い、いえ……。なにも」
「なに、気になるじゃない。リョウ、答えてごらんよ」
 微笑みはそのままに、腰に両手を当てて小首を傾げる。褐色の素肌に
コケティシュな仕草は厭味ではなかった。そのアクティブな美貌は妖精のようでもある。
「なんか、赤ちゃんを抱いているおかあさんの笑顔みたいだなあって……。
すみません!」 「アンもなの……?」 「はい……」
「ふ〜ん」 「おこったの……メネシス?」 アンが恐る恐る聞いてみる。
「うんにゃ、嬉しいよ。ふたりがそう思ってくれたのもそうだけど、いっしょのことを
考えていてくれたなんて素敵だね。そいじゃあ、用意しといて。すぐに、戻って
来るからさ」 「はい……」  ふたりは声を揃えてメネシスに答えた。 「上出来だよ」  
メネシスは笑いながらシーツを取りに部屋を出て行った。
冬の海・春の海 156

「立てる、アン?」
 リョウのペニスを握り締めていた手を離して、椅子の肘掛から脚を下ろして
ふんばって立ち上がった。
「ほら、気をつけて」
 裸になっているリョウが、おぼつかない足取りで立ち上がったアンの手を取る。
「わたし、そんなにえっちなの……かな?」
 片方の手でアンはリョウの貌を撫でる。

「なんだ、そんなこと心配していたのか?」
「なんだはないでしょう。淫乱なんてやだもの」
「メネシスの言葉、聞いてなかったのか」 「あれはあれ。これはこれ」
「よくわかんないよ」
 アンは悪戯っぽく微笑み、苦笑しながらリョウはアンの背中を開いてナイトドレスを
床に落として、蒼白の裸身をあらわにした。暖炉の灯りに照らされて寄り添うリョウと
アンは創世の男と女のように睦み合う。

「俺の希望だよ」 「ん?なにが?」
「だから、アンがえっちかどうかって話しさ」 「もう、どうでもいいわ……」
 リョウがアンの背中を取って、後ろから豊満な乳房をやさしく愛撫して、首筋に唇を
這わす。アンは双臀にペニスを押し付けてくるリョウの引き締まった臀部を弄りながら、
首筋を舐めるリョウの頭も撫でていた。
「生きているって実感できると言ったろ」 「うっ、うん……」
「どっちが……えっちかといったら、俺の方だよ」 「ど、どうして……」
「前にも言ったろ……。血を見たら辛いんだ。見た後で、無性にアンを抱き締めたくなる。
悪いと思いながらも……この手で抱き締めたくなる。ごめん、アン」
「だったら、もっとえっちになるから……。もっと抱いて……リョウ」
「ダメだよ、アン。そんなに甘やかしちゃ、こいつ満腹になって飽きちゃうから」
冬の海・春の海 157

シーツを抱えたメネシスが部屋に入ってきて暖炉の傍にそれを敷く。
「そ、そんなことないですよ」
「ふ〜ん、だったらあんたは神様だね。なんなら、わたしが誘惑してみよっか」
 そういって立ち上がると、流し目で品をつくって頬から頤をすうっと撫で回した。
「メ、メネシス……」
 アンが心配そうに声を上げる。
「今日は、抱いてくれるって話で来たんだよね」 「そうだけど……」
 アンが少しだけ雲って拗ねていた。

「ほら、あんたが望んでた染料だよ。図案を見してごらんよ。アンの綺麗な躰に
くだらない落書きなんかしたら、あんたのチンポの毛を剃ってやっからね」
 そう言ってメネシスは今はぶら下がってしまっているリョウのペニスをぎゅっと掴んだ。
「痛っ……」
「なにが、痛いんだよ。あんな敏感な処の繊毛を剃られて、どれだけ痛かったと
思ってるんだよ。この、バカは!」

 掴んだペニスを上下に下腹に付けるようにしてぐいぐいと振ると彼の逸物は
ムクムクと膨らみ始める。
「ほ、ほんとに、痛くなかったから……。メネシス」
 メネシスはペニスをパッと離して、リョウの背中を手のひらでバン!と張る。
「ほら、さっさとナイトさまは図案を取って来い!」 「は、はい……」
 リョウはメネシスの言われた通りにアンの躰に書こうと思っていた図案を
テーブルへと取りに行く。

「ぷらぷらしてるね」 「えっ、あっ、ああ……」 
 アンはメネシスの方を見て、にっと笑う彼女の貌から視線を外して、赧く顔を
染め上げる。 「アン、うつ伏せになんなよ。ここはまだ無理そうだからさ」
 メネシスの指が無毛のスリットをそっと撫でた。 「んあっ……。もう」
冬の海・春の海 158

  メネシスの悪戯にアンは太腿を閉じ合わせて、そのまま腰を下ろしてしまう。
「あら、もう座っちゃうの……?つまんないよ」
「あ、あとで……」
 一旦は俯いていた貌を上げてメネシスをアンは仰いでいた。そのはにかんだ
表情がメネシスのど真ん中だった。
「こほん。そっ、あとでね……うん、うん」
 メネシスは眼鏡の端を掴んで直して、リョウの手前歓びをどうしたらいいものか迷っていた。

「どうしたんですか?風邪でも……」
「バカいうんじゃないの!さっさとよこしなさい!」
 アンは口元にかるく握った右手をあててクスッと笑ってから、メネシスが敷いた
シーツへと寝そべった。両腕を組んで顔をその上に横たえる。雪のように白い肌の
描くゆるやかなラインに瑞々しい双臀はいささかも卑猥な感じはしなく、むしろ
透度の高い波ひとつ立っていない湖水のイメージがする。

「なに、ぼけっとしてんだよ!あんたが用意するんだろ!早く銀のトレイを降ろしな」
「あっ、はい……」
 リョウはワゴンに載っている銀のトレイを持ち上げたが、手が振るえてカタカタと
鳴らしていた。メネシスは前屈みになって穿いていたタップパンツを脱いで
ワゴンの方へとポイッ!と投げてよこした。そしてアンの貌の近くに腰を降ろす。

「あんたがずぶ濡れになって、やって来た夜のこと思い出しちゃった」
「はい」 「ねえ」 「はい……?」 「心配ないみたいだね」 「えっ……?」
 メネシスはアンのほつれ毛を手櫛で整える。そして耳下の首筋をやさしく
マッサージするように愛撫していた。
「だって、あんたの背中に勃起してんだよ。んにゃ、かわいいツンと上向いているお尻にかなぁ……」
 アンは茶化さないでの「もう」は洩らさずに、やわらかい笑みとエクボをメネシスに向けていた。
 
605こうちゃん ◆T4ImKp7KZc :03/06/14 04:09 ID:???

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冬の海・春の海 159

  カタカタと顫える手で銀のトレイをゆっくりとリョウはアンの背中の傍に
下ろした。
「刺青彫るわけじゃないんだから、緊張しなさんな」
 メネシスは平手でリョウの背中をバシッ!とまた叩いた。
「痛っ!そ、そんなこと言ったって……」
「そんなに、わたしの背中は綺麗?」
「う、うん……」
 アンの暖炉の灯りに照らされてスタールビーの煌きがリョウの貌をみて
満足そうな笑みを浮かべる。

「ねえ、これホントに描くの?」 「なんか、へんですか……?」とリョウが聞く。
「綺麗なんだけど……フェニックスが翼を拡げてるように見えるけど、そうなのか?」
「いや、天使のつもりで描いたんですけど」
「染料の肌への定着は一時間てとこかな。んで二週間ぐらいで消えるみたい。
で、色は赤と青と茶と黒。あんた、この翼を赤で描く気なの?」

「はあ……」
「はあ、じゃないだろ。赤とか黒なら天使っていうイメージじゃないしね」
「じゃあ、青で描いたらいいんでしょうか?」
 メネシスはリョウの質問も上の空で、アンの方を見る。
「ねえ、アン。わたしもあんたのオッパイになんか描いてもいい?」
 両手を付いてアンの瞳を窺い、シーツからはみ出している膨らみを指の背で
すうっと撫でる。 「あんっ……。えっ、ええ……いいですよ」
「やっほう!」 メネシスは両手を握り締めて貌の横に持ってきて歓喜していた。
「メネシスさんてば……!」 「なんだい、うるさいなあ」
「うるさいって……青にしますッ!」 「あっそ。んじゃ、カップで練り状に溶かした物を
この袋に詰めてよ」  「これ、なんなんですか」 「なにって、なにだよ。あんた知らないのかい?」
 そういってアンの方にメネシスが目をやると彼女は困ったようにして笑っている。
「動物の腸をなめして干した奴だよ。ほら、詰めな」
冬の海・春の海 160

「この、白と緑は使えないんですか?」
「ん?うん。ちょっと発色があんまり良くなくてね。小さい部分だけなら使えるよ」
 リョウに一応顔を向けてメネシスは話してはいたが、すぐにアンの方を見て顔を
落として正座する格好で腹ばいになって頬杖を付く。
「な、なんですか……メネシス」 「なんですかはないよなあ」
「なにを話しているんですか、ふたりして?」
「あんたにゃ、関係ないの!残りの絵の具もちゃんと詰めときな」
「わ、わかりましたよ……」 「男は拗ねたりしない」 「はい」

「この間と随分と話が違うね。赤ちゃん出来ちゃうよ」
「あ、赤ちゃん……」
 メネシスは幸せそうなアンをからかうつもりで言ったのだったが、意外な反応が
返ってきて、しまったと思っていた。
 愛するものを絶えずゲートを隔てた戦地へと送っている特異な状況に加え、
説明はつかなかったが過去からの来訪者という、やっかいな因子が絡まっていた。
忘れられない過去を失くした淋しさ、そしてそれを思い出してしまったことへの怯えを
メネシスは思いやることの出来た数少ない親友だった。

 メネシスは両手をついて上体をゆっくりと起こした。
「ごめん。言いすぎたみたいだ」 「ううん。そんなことないです」
「いいんだよ。擦り切れるくらいにやりまくって、赤ちゃん作ってさ、こいつが生きて
還ってこれるように、どっしりと構えてりゃね」
 アンは淋しそうに笑っていた。
「なんならさ、わたしが箱ごと買ってプレゼントしたげようか?」 
 アンは一瞬何を言われたのか分からなかったが、ぷっと吹き出す。
「やっと笑った。でも、本気も本気だかんね」 「ごめんなさい」 
「アンが謝ることなんかないの。オイ、出来たかい!」 
「なに、ヒソヒソ話してたんですか?」 
冬の海・春の海 161

「あんたにゃ、関係ないの!ってこともないか。ほら、あんたは反対側に行く」
「ええ。わかりましたっ、うぅうっ!わわっ!」
 メネシスはペニスをぐいっと引っ張って急かせ呻かせる。態勢を崩してアンの
真直ぐに揃えられて伸びてキュッと引き締まった臀部から太腿……。
そしてふくらはぎへのまろやかな涙形の曲線に細い足首のぴたっと
揃えられた美脚を跨ぐ格好でふんばっていた。

「あんまり、無茶しないでください」 「そ、そうですよ……」リョウも答える。
「さっさと座る。ペースト、こぼしなさんなよ」 「うっ、あっ、ああ……」
「こわれちゃいますっ……」 アンが心配そうに声を上げた。
 メネシスは掴まれて膨らんだペニスをかるく扱いてパッと離した。アンの言葉には
すぐに反応するのにリョウの言葉には、サラッと聞き流す。
「アンの綺麗な背の肩甲骨に絵を描くってんだから、ワンポイントになるように
ビシッと決めなよ」 「はい、メネシスさん」
 メネシスの手はやさしくアンの肩甲骨を愛撫していた。リョウは跪き、メネシスに
ペーストを腸詰めにしたブルーの染料を渡す。

「メネシスさんが翼の大きさを決めてください」 「メネシスでいいよ」
「俺は先に中央に紋様を描きますから」 「うん、わかった」
「アン、今から描くから」 「うん、おねがい」
 リョウもブルーを取って、アンの両肩甲骨の中央やや下にY字の天使の身印の
幾何学的な紋様を繊細な線で描いていった。紋様の中央をダイヤで補って三方
に分かれたラインに蔦が絡まるような処理を施していく。
「ふ〜ん、やるじゃん」 メネシスはリョウの筆遣いに見惚れていた。
「チンポの方はどうかな?」 「メネシス……」 「だいじょうぶ、こいつ熱中してるよ」 
「えっ」 「死にはしないだろうけれど、あぶない奴かもね」と言ってアンに
笑い掛け、アンもクスッと笑っていた。伊達に傭兵はやっていない。死なない。
その安心から来る温かい笑いだった。 「そいじゃ、わたしも描くね」 「おねがいします」
冬の海・春の海 162

  メネシスは画紙に記された図案の片翼を描いて行く。腕の内側をピタッと
合わせて手を拡げたようなカタチを描く。大きさは赤ちゃんの手の大きさぐらいの
蒼いつばさ。それに倣ってリョウもペーストを絞ってアンの白い肩甲骨に盛っていく。
そして蒼の翼のうえに放射状に白のラインを引いて、ふちの所に緑の小さな点を
落としていった。蝶々の翼のようでもある。

「できたよ。こんど、お尻にプリムラのシルエット描いてあげる」
 メネシスは赤の染料を取って、アンのヒップの肉を揉む。
「あぁあん、メネシス。やめて」
「それから今度、来た時はもっと色を増やしといてあげるから」 「あ、ありがとう」
 アンは羞ずかしそうにお尻のメネシスに答え、依然リョウは一心不乱になって
描いているようだが、貌は赧くなっている。

「おい。おいってば。あんた、これして、毎晩アンとやり捲くる気なのか?」
「あっ、ああ……!」  急にうろたえてライン取りを間違えてしまう。
「ありゃ。ほらタオルで拭き取って修正」
「もうすぐ、終わるから、アン。ごめん」 「うん、いいから。でも、綺麗に描いてね」
「わかった」 「煩悩に喰われなさんな。貌まっかだよ」
 メネシスはアンの双臀の片側に赤のプリムラの花を描き上げて、合図にポンと
かるく叩いた。そして、アンの貌へと寄っていく。

「アン、二時間ぐらいで完全に定着するようにしといたから。で、ほんとに
いいの?こいつを、わたしが借りても」 
 アンのとろんとしていた赫い瞳が、心なし大きくなったようにメネシスには見えた。
「ええ……」 「ホントだね」 「はい」 「わかった」
 メネシスはトレイの砂時計をひっくり返し、アンの貌のところで四つん這いに
なっていた躰を起こす。そしてアンの背中の完成した蒼い天使のつばさを跨いだ。
冬の海・春の海 163

「やった。できた。メ、メネシスさん……。なにを」 
 メネシスはアンの裸身を跨いだままで、リョウの肩をちょんと押して、彼は
バランスを崩して仰向けにぶざまに転がった。なにせ、小柄な褐色の美女が全裸で
前に立っているのだから。
「ちょ、ちょっと」 「アンの赦しが出たの。あんたを貰う」
 リョウは手にした染料とタオルに気が取られていて、メネシスに気が
廻っていなかった。褐色の裸身から微妙に視線を外している。メネシスはすぐさま
リョウの躰を跨いで腰を下ろす。右手で大きくなっているペニスを包み込んで腰へと
導いて、彼女は太腿で挟んだ。

 アンは横を向いたまま、メネシスがリョウと抱き合っているのを見ないでいる。
「あっ、あぁああ……!」
 リョウはヴァギナにペニスが挿っているものと錯覚していた。
「なにしてんのさ、肩を抱きなよ。エスコートして」
「は、はい。メネシスさん……」
「メネシスっていったろ」 「すいません」 「いちいち、謝りなさんな」
 メネシスはリョウが握っている蒼い染料が付いたタオルを奪って、モカ色の
臀部をさっと隠した。

「二時間、こうしといて」 「えっ。動かなくてもいいんですか……?」
「うん。萎んできたら動くだけでいいから」
「それだけ」 「そうだよ。それだけ。まあ、ペッティングくらいはしてよ」
 そういってメネシスのつぶらな唇がリョウの唇に重なった。アンにとっては、
とても長い時間の始まりだった。口吻のピチャピチュっという唾液の立てる音と
メネシスの吐息が洩れてくる。そして時折聞えてくる床板の軋む音が、メネシスを
衝きあげるリョウの腰さばきだということが正直辛い。
 この動作がアンの背に染料が定着されるまでの二時間、繰り返されていた。
冬の海・春の海 164

「はあ……いい。うん、よかったよ……。アン、そろそろバスルームへ行って
かるく盛った染料を落としてきてちょうだい」 「は、はい……」
 アンの声は微かに顫えていた。そして、床に敷いた白いシーツからのそっと
気だるそうに起き上がる。

「アン……」
 リョウがそうアンを呼び止めようとしたとき、メネシスの手が口を塞いだ。
「ダメ。帰ってきてからだよ」
 リョウはメネシスとは繋がっていないとそう告げようとしていたが、メネシスに
制止させられてしまう。そしてアンにはメネシスが彼との行為に耽溺しようと
しているように思えて、ぴくっと細い肩を顫わして、アンはバスルームへと消えていった。

「ごめんよ……。ちょっと、ひどいね」 「いえ。俺たちが招いたことですから」
「そういってくれると、助かるよ」
「帰ってきたら教えたこと、アンに実践してあげな」 「おしえたこと……?」
「あんたは天然ボケかい。いましてることに決まってんだろ!」
 そういって、口から離した手でおでこをぺしぺしと叩いて躰の上で動く。
「ちょ、ちょっと」 顔をメネシスの攻撃からかわしはじめる。
「アホ、ちょっとじゃないだろ!わざとなら、承知しないよ!」 
 メネシスはバン!と床を両手で叩いて上体を起こして、太腿にペニスを挟んだまま
リョウの小さな乳首を唇に咥え舌で舐める。
「そうじゃなくて、う、動かないで……射精ちゃうから」 

『ねえ、アン。泣いているの。せなかのつばさ、わたしのより綺麗だよ』
 背中に描かれ浮き上がった紋様から、盛られた染料が流されて剥がれていく。
「ううん。そうじゃないのだけれど、泣いているように見える?」
 ピコが湯を掛けて染料を落としていたアンを心配する。
『う、うん……。帰ったらとっちめよ!』
冬の海・春の海 165

「いいの、約束だったから。でも、ピコ。わたし、おともだちに嫉妬しているの」
『嫉妬……?アンが嫉妬しているの?』
「そう、おかしいね」 『うん!なんで、怒らないの!イヤなら怒ればいいじゃない!』 
「ごめんね」 『どうして。ねえ、どうしてわたしにあやまるの!』 「ごめんね……」
 ピコは羽ばたいていってアンの哀しそうな頬を抱き締めて、アンの背中の翼も
泣いている。暫らくして染料を剥がしたアンは腰を落として床に付いていた右膝を
あげて立ち上がった。

「烈しくやる時よりも、いい時もあんだろ。すごい浮遊感があるからさ。戻って
きたらアンにやってあげて」 「はい……」 
「そう、あんたにだって相応の快感があるはすだよ。まあ、わたしがしてあげた
かったけど、まあそればっかりはね」 「……」 
「あと、ありがとね」 (あのヲタのおきみやげだったけどね、あんたたちにあげるわ)

 真直ぐに見てくるメネシスの瞳が眩しくて少しだけ視線を逸らした。
「じゃあ、ひとつだけ聞いてもいいですか……?」
「ん?わたしでわかることなら教えてやるけど」
 一瞬女の貌を見せていたメネシスが、すぐにいつもの彼女の瞳に戻っている。
「あの最中に昔の男の名前を呼ぶのって、やっぱり昔の男のことを好き……ってことじゃ」
「なんだ、おのろけかい」 面白くなさそうにリョウを睨む。
「真面目に聞いてください!」
「あんた、チンポ磨り潰されたいのかい?」 「気に障ったなら謝ります。俺、本気です」
「理由、わかんないのかい。この大きいので前後不覚になるくらいに愛してあげたんだろ」
 メネシスが太腿に挟んだリョウのペニスを尻を揺すって悪戯する。
「だったらそれでいいじゃんか。あんただって、むかしの女ぐらいいるだろ。それといっしょなんだってば。
いっしょだよ」
 そう言って、メネシスは人差し指でリョウの額を弾く。
冬の海・春の海 166

「いえ、ひとりですが。痛う!」 メネシスに額を裏拳で殴られる。
「あんた、ホントにナイトかい?」 「いえ、傭兵です」 「うりやあッ!」
 そう言ってしまってからリョウはメネシスの攻撃に腕で身構えて受け止める。
「あんた、死になさんなよ。いいね」
 メネシスがリョウの胸板に肘を付いて躰を起こそうとした時だった。

「さっきから、なにぐちゃぐちゃ喋っていたんですか」
「ん、アン……。言った通りに抱いたげなよ」 (やば、この前とおんなじだ)
 リョウの躰からさっと離れて、アンの方に褐色の裸身が駆け寄って行った。
「アン、おいでよ。今度はあんたが抱かれる番だから」
 あざといと思いつつも、アンの手をとる。
「いや……。やめて、メネシス!」 怒気の入り混じったアンの声に心が痛い。

「イヤなんていってないで、座ってよ。ね」
 メネシスはアンを引っ張ってリョウの傍に腰を下ろさせようと辛抱強く説得する。
背中からアンの躰に抱きついて、巻きつけていたバスタオルを床へ落す。
アンは振り返ってメネシスを睨んでいて、紅い瞳は怒りに染まっていた。
「アン、よせ!早まるな!」 リョウが咄嗟に叫んでいた。 「いいよ。ぶっても」
 メネシスがゆっくりと眼鏡を外す。アンは手を上げて頬を叩くことも、肩を突き
飛ばすこともできなかった。下ろされている手は拳になってぶるぶると顫えていた。
「そ、そんなことできるわけないじゃない……」 「ごめん、アン。甘えたわたしが
悪かったんだよ」

 アンの蒼い天使の翼が丸くなって、瞳からはぽたぽたと涙がこぼれ落ち、
リョウの両腕がそっと廻される。
「アン、座ろう」 「いやあ。離して……」
 リョウは左腕でアンの悲しみに喘いでいる乳房を抱えながら右手でアンの手首を取って、
リョウはペニスへと導く。 
冬の海・春の海 167

「いやあぁあ」 
 アンは細い肩を揺すりながら小さく吐いて、微かな抵抗を示していた。リョウは
アンをきつく抱いているわけではなかった。それなのに、処女のようにペニスに
ふれることをアンは拒み続ける。
「そんなこと言わないで、触ってごらん。たのむから」
 リョウのペニスは鎌首をもたげてアンの尻肉にふれてくる。
「ね、アン。おねがいだから、たしかめてみてよ」 「たしかめる……?」
 アンはメネシスを見て背中のリョウに首を捻って見ていた。メネシスは眼鏡を
掛け直すとアンに右手で人差し指と中指を揃えて敬礼してみせて、すまなそうに
笑ってテーブルの方へと下がっていった。

「メネシス……」
 灼熱の棒にふれるように怯えて、ちょっとでもふれるだけで火傷しそうなほどに
手を引いていたアンの細長い指が妖しく絡まって、その熱さと硬さを確かめる
ように扱いている。アンの乳房の喘ぎも動揺から性にゆさぶられるものに変っていた。
「ごめんなさい」 「いいって。気にしなさんな」 「ごめんなさい……」
 アンの声は顫えて赫い瞳は潤んでいた。

「わかった。じゃあ、ゆるしてあげる。これで気が済んだかい」 「はい……」
 メネシスはアンの返事を聞くと部屋を出て行こうとしていた。
「行かないで、メネシス。ここにいて、おねがいだから」 
「アン……」 リョウがアンに心配そうに声を掛けていた。
「もう、だいじょうぶだから。ねえメネシス、いて欲しいの。メネシス……」
 ふたりに背を向けようとしていたメネシスがアンの懇願する赫い瞳をチラッと
見た。「う、うん……。後悔しないの?」 暫らくの沈黙があった。
「わからない。するかもしれないし、しないかもしれない。それが偽らざるわたしの
気持ちです」 「うん。じゃあ……ここにいるから」 「そうしてください」
冬の海・春の海 168

   メネシスは手に掛けていた椅子の背を掴んでテーブルから引いて座る。
メネシスはしなやかな脚を揃えて肘を膝に付いて眼鏡を外した。
「メネシス……」 「ううん。うれしいの。ありがとう」 
 涙声になっている。メネシスは貌を上げてアンにそう答えていた。
「アン」 「なに、リョウ?」 「メネシスを迎えに行ってあげて」
 アンはリョウの怒張を扱く手の動きを止めた。
「いいの?」
「俺はアンとメネシスが仲直りしているのを眺めているだけで満足だから」
 アンはくすっと笑ってリョウのペニスをむぎゅっと握った。

「ぐわっ、いっ、いきなりなにすんだよ……。メネシスとおんなじことすんなよ」
「あら、わたしはメネシスの弟子よ。でも、これでチャラにしてあげるから」
 アンはそう言って椅子に座って泣いているメネシスを迎えに行った。
「来て、メネシス」 「ダメだよ。リョウの処にいてあげな」
「あの人が言ってくれたの。迎えにいってって」 「あの、ばか……」
「さあ、行きましょう」 「いいの……?」 「いいもなにもないじゃない。ほらあ」

 アンがメネシスの手を引っ張り暖炉の傍に連れて行って白いシーツの波に
腰を沈めさせると、メネシスは膝を立ててアンの躰を迎え入れた。メネシスの
モカ色の腰がアンの蒼白の腰を受け入れてうねりだす。すぐにアンとメネシスは
女の世界へと没頭していった。

 リョウはメネシスの座っていた場所で、もってきた細長い木箱から楽器を取り
出して、弓を弦にあて静かな曲を奏で始めていた。
「メネシス、余所見なんかしちゃダメ」
「ちょっと、ちょっとまってよ。あいつなにしてんの?」 「弦楽器を演奏しているのよ」 
「アン!まじめに答えなよ……」 「ふふっ。やっぱり、気になるの?」 「うん」
「あれは東洋の楽器。リョウの大切な人が持っていた物なの」 
冬の海・春の海 169

「そうだったんだ。ごめんよ」 
 演奏を眺めていたメネシスがアンに貌を向ける。
「ううん。いいの」 
「なんか、物悲しい音色。というか……なんだろう。染み入るってかんじだね……。ここに」
 メネシスの手がアンの鎖骨のちょっと下のところにあてられた。
「もう、おしゃべりはいいでしょう」
 アンの手がメネシスの頬をそっとさわる。嫉妬に駆られていた弱さから一転して、
つよさを見せるアンに安心する。アンの恋は今も継続しているのだろうかと、
メネシスは瞳を潤ませていた。忘られぬ恋に、忘れることのできない笑顔……。

「どうしたの、メネシス?」
 アンはそう呟いていたが、なんとはなしに分かっていた。メネシスの頬を撫でた手が
アンの胸に添えられたモカ色の手に被さる。メネシスのぬくもりで胸が熱くなっていた。
「うん。むかしの男のことを思い出していてね」
 アンに気取られまいと話しを遠ざけるつもりが、それほど遠くにいけなかったことに
メネシスははにかんで見せる。

「ねえ、もうひとつだけ聞いていいかい?」
 アンの豊満な乳房がメネシスの小ぶりな乳房を押しつぶしていった。
メネシスの貌はアンの影になってリョウからは見えなくなっていた。
「どうやったら、そんなにオッパイが大きくなるの?」
「気持ちいい恋をしているから」

 メネシスはアンの耳元に唇を寄せた。アンの長い銀の髪が滑って背中から
蒼い翼があらわれる。 「わたし、彼のことが忘れられないの……」
「少しぐらい嫉妬させてやりな。それぐらいでちょうどいいよ、あんたたちは」
「うん」 アンは小さく返事をしてメネシスに頭を撫でられる。
617冬の海・春の海:03/06/26 01:47 ID:???
『170』

 メネシスの褐色の手はアンの銀の髪を滑って後方の蠢く蒼白の双丘を捉えて
ゆっくりとやさしい時を刻み始めた。
「んあっ……」
 アンの唇から濡れた吐息が洩れ、メネシスの唇を求める。ひらいた唇は
メネシスの唇をそっと挟んで、柔らかな女らしさに敬意をもって応えていた。
貌をアンは離して、めくれたアンの唇が戻ってゆく。そして唾液が糸を引いていた。
 アンは羞恥に染まる貌を真直ぐにメネシスへ向ける。そして、ピンク色の舌が
そっとさしだされ、メネシスの舌と顫えながら絡まって押し合って、蕩けるような
感覚が貌をさらに火照らしてゆく。そっと触れ合って、舌で押し合って、メネシス
が折れてアンの温かい舌を口腔へと招き入れる。

 メネシスの手はリョウの奏でる旋律に溶け合って、双臀から腰の部分を
やさしく撫でて脾腹へと這ってゆく。指頭から指、そして手のひらがアンの
しっとりと吸い付くような柔肌を早くもなく、遅くもなく胡弓の調べに合わせて
上下するのだった。アンはメネシスの躰の上で快美にのたうっていた。
それは組み敷かれたメネシスもおなじ。
「んあぁああっ!な、なんかへんな感じ……ああん」
 何度目かのメネシスの手が脾腹からアンの柔肉を迫り上げたとき、
堪えきれずにアンの唇を解いていた。音楽に合わせてセックスをするなんて
初めてのことだから。その妙かなる音色に感覚が研ぎ澄まされて行く。
総身が性感帯にでもなったような卑猥な感じに堕ちてゆくのに厳かな気がする。

 それがやがて、コットンキャンディのようなエロティックな夢をふたりに見させる。
アンの指がメネシスの躰を、メネシスの指がアンの躰をそっと這い廻る。
終わりの無い時のなかで。メネシスは腰をさらにひらいて、アンを受け入れようとした。
アンを子宮のなかに戻そうとするかのように愛し合って。
「だ、抱いて!メネシス」 「あっ、ああ……。あぁあああッ!」
 メネシスの喜悦の声が仰け反った貌からこぼれだしていた。メネシスの両手は
アンの脇から潜り込んで、肩甲骨に描かれた蒼の翼をしっかりと抱き締めていた。
618冬の海・春の海:03/06/26 13:51 ID:???
『171』

 アンの手が二胡を奏でているリョウへと伸ばされる。
「アン……」 「いいの。メネシスも誘ってちょうだい」
 アンの蒼の翼から手を下ろして、メネシスも下からリョウを求める。白と褐色の
腕がリョウへと伸びて、うっすらと汗を浮かべた女たちが妖艶な貌を向けて男を求めていた。
『ねえ、ふたりがリョウを誘ってるよ』 「えっ?ああ……。ほんとだ」
『で、行くんだ』

 ピコが姿を消すと楽器を木箱に入れて、テーブルに置くと、リョウは椅子から
立ち上がってふたりの女たちの裸身へと近づいていく。勃起は後退していたが
ボリュームはまだ維持されていて、垂れ下がったペニスがぷらぷらと揺れていた。
暖炉の炎に照らされて、鍛えられた肉体に女たちは頬を赤く染めるが、視線は
羞じらいにも逸らすことはない。リョウは折り重なっているアンのボトムに立った。

「抱いて……」
 アンが貌を向けて、その下からメネシスが右手を差し伸べていた。アンの
吸い付くような肌はうっすらと掻いた汗で滑らかさを増していた。桜色に染まる背中に
浮ぶ天使の蒼い翼。リョウは膝を付いて躰を重ねていった。双臀のあわいに
女たちの淫らな姿を見て勃起した怒張を一気に埋め込む。

「あっ、あああ……!」
 アンの背の天使はリョウの律動によって羽ばたいて、組み敷かれたメネシスをも
歔かせていた。その歔き声のメネシスも槍を刺されたような嬌声へと変る。
その時はまだ、メネシスは痛みが和らぐとは思ってはいなかった。ただ忘れたかった
だけなのだから。肉襞を押しのけて挿入されたペニスにあけすけな女の悦びで応え、
締め付けて離すまいとする。そしてストロークにメネシスの女が引き摺られ
快美に陶酔していっていた。
「ご、ごめん。アン」 メネシスはアンに赦しを請うていた。
「いっ、いいの!いいのッ!」 「あっ、あ、あっ、うあぁあああああああッ!」
619冬の海・春の海:03/06/28 20:33 ID:???
『172』

 アンはベッドに脚を八の字に投げ出し、メネシスはその上に圧し掛かって
安らかな寝息を立てていた。リョウはベッドを降りるとリビングへ戻って
ワゴンの上の濡れタオルをとって寝室へと戻って行く。するとメネシスは
アンの投げ出されているあわいに胡坐を掻いて座っていた。

「ありがとう」
 そう言って、リョウへと細い褐色の腕をすっと伸ばした。
「ど、どうぞ」
「ほら、アンタもここへおいで」
 メネシスは白いシーツをぽんぽんと叩いて、にんまりと笑っていた。リョウから
タオルを受け取ると「何よこれ!ボディペイントの拭き取りにつかってたやつじゃないの!」と
文句を言って、あわてて立ち上がるリョウを引っ掴んでベッドに座らせてから
アンの始末を丁寧にしてやっていた。

「うっ、ううん……。リョウ……」
 ほら、見てみなという貌をしてメネシスはリョウを見る。
「安心しなって。この娘はアンタにゾッコンなんだよ」
「そうでしょうか?」
「まだ言うかい!」

「ううん、そんな汚い食べ方しないでぇ……」
 メネシスはぷっと吹き出してリョウも一緒に笑っていた。メネシスは自分のを始末して
タオルを見る。当たり前のことだが、リョウの射精したものと女たちの分泌物で汚れていた。
メネシスはタオルをテーブルへと投げる。
「アンタのはわたしが綺麗にしたげるよ。だから、ほんとに死ぬんじゃないよ」
 リョウの腰へ褐色の手が伸びて、汚れているペニスを手の平に乗せピンクの舌が掬うと
口腔へと含んだ。メネシスの貌が上下に揺れ、舌戯の蠢きが肉襞のような
快感をもたらす。 「射精ちゃいますって!メネシスさん!そんなにしたら!ううっ」
620冬の海・春の海:03/06/28 20:44 ID:???
『173』

 メネシスは砂漠で旅人がオアシスの泉に辿り着いて、夢中になって泉を飲んでいるような
動作を続けていた。正座して上体と貌を烈しく揺すって。
「で、射精ちゃいますって!す、すいません!メネシスさん!」
 両手を後ろに付いて腰を衝きあげていた。メネシスはリョウの全てを甘受して嚥下する。
「んはあ、はあ、はあ……。アンを前後……不覚にするぐらいの……弩級チンポなんだから。
自信持ちなってば……んっ」

「うわあぁああっ」
 アンがむっくりと起き上がって、獲物を狙う女豹のように忍び寄っていた。
「さっきから、なにぐちゃぐちゃ喋ってたんですか……!」
「いっ、いつから聞いてたの?」
「弩級チンポがどうのこうのって……ダメですから、これは渡しません……よ!」
 アンの白い指がペニスに絡まって、赤銅色の亀頭に唇を擦りつけた。

「アン、あんた寝ぼけてる……?」
「寝ぼけてなんかいません!」
「ほら、むかしがどうなんていいじゃんか、ねっ」
 メネシスがリョウの背中を平手で思いっきり叩いた。
「またあ、内緒話なんかしてぇ、お仕置きです」
 アンはグランスを摘んで横しゃぶりにすると歯を立てた。もちろん甘咬みを仕掛けて。
「おっ、おい!やっ、やめろってば!アン……ああっ」
 メネシスはアンの躰を覆うようにしてシーツに両手を付いて、白い背中に浮ぶ汗と
蒼い翼を舌で舐めていった。アンは陰嚢を揉みしだき、指をアヌスへと潜らせて
屹立を呑み込んでいった。
(わたし、むかしね……ともだちに一途だって言われたの。でもね、たぶん臆病な
だけだと思うの。あぶなっかしいかしら、ねえ、ほっておけないでしょう……リョウ?)
621冬の海・春の海:03/06/29 16:06 ID:???
『174 冬の海・春の海』

 戦況の好転はドルファンにかりそめの平和をもたらしていた。三年目のドルファン
はリョウにとっては平和な一年となった。小競り合いと節目となる戦いはあったが、
勢いに乗ったドルファンは強かった。
 そのなかで、アンとの日々はかけがえのないものとなっていく。ドルファン城の
クリスマスパーティでは、白いオフショルダーの白い大きく背中の開いた華のような
アンがいた。その笑顔に誰もが魅了され、エスコートする東洋人に嫉妬の目を向けていた。
そして蒼白の胸元には大きなブルートパーズが輝いていた。それを基点に下と左右にも
蒼い海の石を連ねて。

「綺麗ですね」 「ありがとうございます」
「その宝石も綺麗ですけれど、あなた自身が輝いて見えますよ。祈りが届いてよかったですね」
「プリシラさま……」
「もういちど、あなたの祈りを皆のものたちに聞かせてもらえませんか?」
「よろしいのですか?」 「みなに分けてほしいのです。あなたの祈りを」
 手の平で溶けてしまう雪……けれども、人の心になにかを残す。プリシラの願いにアンは
ダンスホールで廃れてしまった歌をうたい、集いしものたちに等しく祈りの
火を灯していったのだった。そして、ドルファンは新しい年を迎える。

「あの人、おかしいんです」 「ハハハ、俺も十分変だけど……」
 くだらない冗談だと思いつつも、そういわざるを得ない様相を少女は呈していた。
以前、メネシスのラボへ赴いた際、待ち合わせの場所、百花庭園で出会った少女。
港でチンピラに絡まれていたところを救った少女はソフィアと名乗った。あの百花庭園の
出会いに、奇妙でどこか心にわだかまりをつくっていたことを一気に思い出させ、
黒い霧が立ち込めていた。
「変って、いきなり言うきみがどうかしてると思うよ」「そ、そうですよね。ごめんなさい」
 ソフィアはなにも言わずにぺこりと頭を下げると、リョウから去っていこうとする。
「いっ、痛い!」
622冬の海・春の海:03/06/29 16:10 ID:???
『175』

 リョウはそんなソフィアの腕を咄嗟に掴んで引き止めた。
「す、すまない。でも、なにか話があるから、訓練所までわざわざ来てくれたんだろう?
その話、俺にちゃんとしてくれないかな」
 ソフィアは瞳を潤ませてリョウを見ていた。その大きなスパイシーブルーの瞳が哀れさを誘う。
「ご、ごめんなさい。やっぱりできません……。ほんとうに、ごめんなさい」「そうか」
 リョウはソフィアの腕を掴んでいた手を離した。ソフィアはその日、一日をぼうっと過し、
気が付けばアンの勤めている薬局の前に突っ立っていた。

「ソフィア……」アンは店の前に少女の姿を見つける。「どうしたの?」 「あっ、いえ、なんでも……」
「正直に言いなさい」 咎める風でなく同僚はアンを心配して言っていた。
「ともだちが来ているんです」「少しだけなら、いいわよ。話していらっしゃいな」
「すみません」
 アンは素直に好意に甘え、許しを得て裏口から出てるとソフィアの姿を追う。
「アン……」
 ソフィアの方から、アンに言葉を掛けてくる。儚げでか細いソフィアの声。
そのすぐ後にぽろぽろと泣き出して子供のように手の甲で瞳を拭いながら謝り出してしまう。
「どうしたの?この前のことは謝るから、赦してね」

「ち、違うんです。わたしは……わたしは……」
 ソフィアはとつとつと泣いている訳をアンに話し始める。馬鹿げていると思いつつも、
婚約者がいるにもかかわらずアンの恋人を好きになってしまったこと。そして
アンのひみつを知って、リョウへ打ち明けそうになってしまったことを包み隠さずに話していた。
アンは何の反論も聞き返すこともなく、ただうんうんと頷いて、時折それからどうしたのと
言うだけだった。

「ソフィア、あなた歌はいまも歌っているの?」「うたですか……?」
 ソフィアは泣きじゃくった貌を羞ずかしそうにあげる。
「そう、あなたのうたよ。あなたが祈る歌」 「わたしの祈り……?」
623冬の海・春の海:03/06/29 16:14 ID:???
『176』

「そうよ。歌っていないなら、歌い続けてね。あしたの正午に百花庭園に来て頂戴。
必ずよ、いいわね」 「えっ?ええ……」「あなたに渡したいものがあるの」
 アンはそれだけソフィアに言うと薬局へと戻っていった。


「ソフィアだね」 「はい……」
 ポーチでラボに尋ねてきた心配そうな貌をしているリョウとメネシスは話していた。
「ソフィアを決して嫌な奴だなんて思ったりしちゃダメだよ。あんたのことを愛しているんだから」
「な、なにを言っているんですか。俺にはなんのことだか」
 メネシスはリョウの言葉にすぐさま睨み返す。
(本来、あんたはあの娘を選ぶはずだった。アンがそこへ割って入ってあんたを愛した。
死ぬほどに。それで、必要以上にアンは苦しんだんだ!神なんか呪ってやるってね)
 メネシスは拳をつくってドアをおもいっきり叩いた。

「ごめんよ。実験中だったもんだから、気が立っちゃってね」
「す、すいません」
 メネシスの烈しい怒りにリョウは気おされる。
「あんたに忠告しといてあげるわ。もう、アンに深く関わらないことよ」
「どういうことなんですか!ソフィアもなにか言いたそうな……」
 メネシスはリョウの胸倉を掴んで背中を壁に押し付ける。その凄まじい力にリョウは驚いていた。

「どうして、どうして!すぐに否定しないんだよ!どうして……どうして……。アンには
あんたが必要なんだ。捨てたりなんかしたら、わたしが絶対に赦さないからね!」
 メネシスはカミツレの森中に聞えるような大声で叫んでいた。
「俺がアンを捨てるわけなんか無いでしょう!」
「じゃあ、なんで式を挙げないんだ!戦争やってるって引け目はわかるよ。で、でも
そんなことじゃないだろ……。真似事みたいなのでもいいからさ、どうなんだよ!」
「ちょ、ちょっと……」
624冬の海・春の海:03/06/29 16:17 ID:???
『177』

「なにがちょっとだよ!アンをほっとけないんだろ!愛しているんじゃないのか!」
「俺はアンを愛しています」
 メネシスは涙を流しながらリョウを見続けている。
「アンは死んでるんだ。いや、正確には今は生きているけれど……」
(ごめん、アン……いっちゃったよ)
「どういうことなんですか!詳しく説明してください!」「時が来ればあんたの前から
アンは消える」 「……き、消える」「蒼ざめているけれど幽霊じゃないよ。安心しな」
「でも、なんですね」
「調べたければ、図書館に行ってみな。アンはあの海難事故の船客だったんだ。
噂ぐらいはあんたも知ってるだろ」

「いつかは、わからないのですか……。いつかは!」
「明日かもしれない。ずっと先のことかも。でも、知ったのなら覚悟はしておきな」
「アンは……」
「蒼い翼を描いた時から知ってたよ。記憶が完全に蘇っているなら日は近いと思うよ」
「な、なんとか……なんとかできないのですか!」
 今度はリョウが錯乱する番だった。
「すべては人智を超えてるんだ。せいぜい……の、のこされてる……時間を愉しむんだよ。
はい、これ渡しておく……」
 メネシスがケープから染料の小袋を出してリョウに手渡す。

「じゃあ、アンはまた死の恐怖を味わうのですか……」
「あ、あんたがアンを殺す……?苦しまないで、なんてやさしさで殺すことができる?」
 リョウの貌が歪む。アンの白い頸に手を掛けると彼女が静かに瞼を閉じる映像が
浮んでいた。もし、いっしょに死のうと言えばアンは決して拒まないだろう。リョウの頬に
烈しい痛みが夢から引き摺り出す。
「アンが限りある時間をあんたとともに生きていこうとしてるなら、そうしてあげることが
あんたにできることじゃないのかい!」
625冬の海・春の海:03/06/29 16:22 ID:???
『178』

「ありがとう、メネシスさん」
「もういいだろ。柄にもなく熱くなったよ。それじゃあ。あっ、このことは」
「わかってます」 「頼んだよ」
 リョウを送り出して、扉を閉めると背をあずけて床に崩れて、膝を抱え眼鏡を雫で
濡らすメネシスだった。
「もう、時間はないよ。早くアンを抱き締めてあげて。そうすればアンは救われるよ」
 メネシスは号泣する。

 しかし、その日はダナンで軍団長を拘束したとの一報が入り、正規軍が武勲と褒章目当てに
大挙して出兵していた。
「ごめん。今日はいっしょに居てやれないんだ。ほんとうにごめん……。ピコ、お前は
アンに付いてやっててくれ」
 アンの只ならぬ思いつめたような様子は隠そうとしても隠せるものではなかった。
リョウがメネシスから話しを聞かされていたことにも多少は起因していたが、手薄になってしまった
城塞を維持し不足の事態に備えなければ、なんの意味もない。いやな雨だった。雨脚は
どんどんと強くなって。

「ご、ごめんなさい。これから、戦場に行くというのに……」
「いや、詰め所で備えているだけだから、大丈夫だから」
「ねえ、ピコもいってあげて」『アンといっしょにいるう……』
 アンとソフィアが話しをしていたのをピコは見ていて、固く口止めをされていた。そして、
なにかただならぬ決心をしていることもピコは薄々感じていた。

「ダメ!ピコはリョウの目になってあげなくちゃ。ねっ、そうでしょう?」
『う、うん……』 「いい子だから、そうしてあげて」
「手薄でも、傭兵なかまは磐石だよ。心配ないよ、アン」
「でも、ピコは連れて行って。安心だから」 「わかった。暫らく戻れないと思うけど、後を頼む」
626冬の海・春の海:03/06/29 16:24 ID:???
『179』

 その晩のうちにレットゲートはヴォルガリオの一点突破の猛攻を受けた。雷鳴と
閃光が夜空を裂き大粒の雨が大地を叩き、大地を血で穢し雨が流してゆく。
その繰り返しの悪魔の嵐がドルファンを強襲する。ながいながい時が過ぎていった。
「お頭……?」 「おい、よせって」 「でも、今日ぐらいは」
「すまん、早く帰って安心させてやりたいんだ」 「いっ、いいっすよ。すいません」
「ほんとうにすまない」
 リョウは仲間たちに東洋式の所作で深々と頭を下げていた。
「お頭……」
 リョウが扉から出て行こうとするとき、またひとりの仲間が呼び止めた。
「お頭!俺たち勝ったんすよね?勝ったんでよね!」
 その男は涙声になっていく。
「ああ、俺たちは凌いだんだ。この美しいドルファンを守りきった。みんな、最高の
ナイトだ!俺たちは勝った……俺たちは勝ったんだあぁあああッ!」
 酒場は歓喜の声の渦に呑み込まれていった。酒場から家へと還ると、アンの
最高の笑顔が出迎えてくれた。

次の日、アンはベッドに熟睡しているリョウの背をやさしく撫でてから身支度をして
百花庭園へと出向いていった。すでにベンチにはソフィアが座って待っていた。
 そして、ソフィアにとっては辛い言葉がアンから聞かされていた。アンはソフィアに
言った。

「わたしは冬の海に還らなければならないの。あなたが、リョウの春の海になってあげて」
「な、なにを言ってるんですか!わたしは……そんなつもりで……」
 ソフィアは確かにアンに嫉妬していた。どうして、そんなにまで嫉妬するのかさえもわからないままに。
「あなたに、これを受け取ってほしいの」
 ソフィアの手を取ってプリムラのブローチを手のひらに乗せる。そして指をゆっくりと折り曲げて握らせる。
627冬の海・春の海:03/06/29 16:28 ID:???
『180』

「春を一番はやく告げる花よ。あなたも華を咲かせてね」
 アンはソフィアにブルートパーズの首飾りを掛けてやると、おもむろに立ち上がった。
「いかないで!わたし受け取れません!」
「あなたが持つべき物だったの」 「なにを言ってるんですか!」
 アンへとソフィアは詰め寄る。
「ごめんなさいね。苦しい想いをせたりして」「な、なにをいって……」
 ソフィアにはそれ以上喋ることができない。自分の引き起こしてしまった事の重大さに
打ちのめされていた。


 リョウがけたたましいノックに起こされて、ドアを開くとそこにはソフィアが立っていた。
ソフィアのあやうさにも感ずいていたがアンの方が気懸かりだった。
「きみは、ここにいてくれ。帰ったら詳しい話しを聞くから、すまない」
 リョウは飛び出して行って、ソフィアは力なくポーチへと泣き崩れてしまう。
(迂闊だった!) 『ねえ、アンは海にいるんじゃないのかな』
(海か……。いや、きっとそうだ!そうに違いない!)

「来ないで!」
 砂浜で見つけたリョウは彼女へと駆け寄るが、座っていたアンは立ち上がって海へと後じさる。
「さあ、帰ろう」 リョウのなかに戦場以上のただならぬ緊張が渦巻いた。
「来ないでったらあぁああああッ!」
「ソフィアが泣いてたよ」 「わたし、あなたのことをソフィアに頼んだの……」
「どうして……。どうして、そんなことを言うんだ!」
 リョウは涙声になって喉を絞るように吐いていた。
「信じて!誰にもあなたを渡したくなんかないのよ!」
「だったら、帰ろうよ。家へ帰ろう!」 リョウが手を差し出して海を歩いてくる。
「ソフィアはあなたのことを好きなのよ……」 「な、なにを言ってるの?」
リョウが海へと脚を入れる。 「いや、いや……。おねがい、こないでぇ……!」
628冬の海・春の海:03/06/29 16:31 ID:???
『181』

「ぼくたちの家へ帰ろう、アン!」
「ダメ!もう全てを思い出したの。わたしが誰でどう生きていたかを!」
「それでも、いいから!」
「そんなの、いいわけなんかないじゃないのッ!いいわけなんか……。
リョウ、わたしはね……」
「きみの最後までいっしょにいたい。そうさせてくれ!」
「イヤなの。あなたが冬の海に戻るのはもっとイヤなのよ……だから、ソフィアに……
本来の時間に……」

「俺はもう……きみひとりだけだ。こんな想いはもう疲れたよ」
 アンは貌を振って口に両手をあてる。アンの瞳に出会った頃の自分が映っていた。
リョウは歯軋りをして烈しく後悔をした。
「いや、いや、いやあぁああああああああああッ!」
 ついにピコが我慢できなくなって、リョウの顔の傍で実体化するとアンの元へと
羽ばたいて行った。月明かりにピコの軌跡が燐粉となって、きらめいて暗い海へと
落ちて掻き消されていった。

『逝かないで!わたしの命をあげるから!リョウの傍にずっといてあげてよ!』
「ピ、ピコ……!ごめんなさい。わたし嘘つきになっちゃったわね。わたしはこの
時間にいてはいけない……因子なのよ……」
『そんなこと、ないよう!いていけない命なんかないよう!ねっ、わたしの命をあげるから、
そうすればきっと……きっと、リョウといっしょに生きていられるからあぁぁああああああッ!』
 アンの濡れた頬を小さな躰で両手いっぱいに拡げて抱き締めようとするピコ。
「ピコ、おまえ……なにを言ってるんだ……」
『リョウ、わたしがアンに命をあげれば、きっと生きていられるよ!レムレスだって、
思念体だって、それでも生きてるもん!いっしょに、いてほしいの……アン、おねがいだから、
生きてよう……、生きていようよ!』
629冬の海・春の海:03/06/29 16:37 ID:???
『182』

 ピコがアンの頬を抱き締めながら、リョウへ貌を向けて泣き叫び、アンの濡れた
頬へと崩れた。泣き続けるピコをアンの両手がやさしく包み込む。
「ずっと前にね、平凡な毎日なんてつまんないって思ったことがあったの。でも、
それがどれほど大切だったかということがよくわかるわ。少しずつリョウと時を経て
歳を重ねることがどれほど大切なことなのか」 「アン……」

「赦されるのなら、何も望みはしない……何もよ!でも、それがいちばん贅沢な願いだったのね」
「アンの祈りをもういちど俺に聞かせてよ……」
「さよならは言わないわ。桜の花、いっしょに見れなくてごめんなさい」
 リョウはすぐそこまでアンに近づいていた。しかし、アンはまだ後じさる。
「逝くな、アン!傍にずっといてくれ!」
 アンの躰がびくっとなって動きがとまった。リョウはアンの手を掴んで躰をぐいっと
引き寄せて、ありったけの気持ちを込めて引き止めようとする。
「わたし、生きていたよね。ねえ、リョウ……」 (ありがとう、ピコちゃん。あなた)
 アンの瞳に映る世界が別離の涙で霞んでゆく。アンはリョウの耳元に口吻をした。

「稜、わたしの名前を忘れないで。わたしの名前はアン・――」
 アンの探し出せなかった最後のピースがぴたりと収まった……。稜に廻されていた
アンの両腕が糸が切れたマリオネットのようにだらりと垂れ下がる。あんなに温かかったはずの
アンの躰は氷のように冷たくなっている。

『どうして……!』 「いま、アンは還って逝ったよ」 「言っちゃヤダ!うそだよう!
そんなのうそに決まってる!起きてよ!起きてよ……。だから、わたしの命をあげるって言ったのに……」 
「もう、眠らせてあげよう、ピコ」
『いやだ!いやだよ!ママ!ママアァアアア――ッ!わたしのママになってくれるって約束したのに!
起きてよ!眠ったりなんかしたら、いやだあぁあああああああッ!』
 稜の孤独を癒すために生まれた思念体は確かに生きて、いま自分の為だけに
号泣している。
630冬の海・春の海:03/06/29 16:41 ID:???
『183』

 ピコのなりふり構わない哀しみを前にして稜はどうにか立っていられた。しかし、
冷たくなったアンの躰の重さがふっと掻き消え着物だけとなった時、
海に膝を付いて跪いて、アンが残した数々のものを抱き締めて――。

 ゴンドラに乗ったアンは珍しくはしゃいで、稜に川の水を手で掬って掛けてきた。
「おい、よせってば。こら!」「だったら、仕返しをしてごらんなさいな。ふふっ」
「じゃあ、そうするよ」 稜は陽光にきらめく波に手を入れて動きが止まった。
「どうしたんですか?かまいませんよ、好きですから」
「調子に乗って泣かせちゃったんだ……」
 アンは稜の座っている傍に移ってきて言った。 「好きですから」 稜の腕に
しがみついて肩に頭を寄せる。アンの好きがリフレインして稜の水に濡れた手が
彼女の紅潮した頬にそっとふれる。「ほら、かけたよ」 「つめたい。もっと掛けてください」 
ゴンドラが橋に掛かった時、稜はローズピンクの柔らかい唇を奪う。そっと唇を離すと、
ゴンドラに陽光が降り注ぐ。
「イヌホオズキ」「俺たちがリンダの誕生会で出逢った日の誕生花。覚えているさ」
 ふたりの関係は真実だった。アンの貌が朱に染まる。稜はアンへ口吻をした。
瞼は閉じられていたけれども、口元は笑っていた。
「こら、笑うなよ」 稜も笑いながら鼻を擦り付ける。 
「だって嬉しくって。いろんなことがあったなあって。これから……」
「これからも、いろんなことがあるだろう?」
「はい……。そうですね。いろんなことが、いっぱい」
「うわあぁああああああああああああああああああッ!」
 潮の打ち寄せる調べを咲いて、男の慟哭が夜の浜辺に響きわたっていた。

そして――。
「ほんとにいいのかい?」
 ジーンは今更と思いながらもウエディングドレスの花嫁に尋ねながら、
ロング手袋の手を掴んで馬車に引き上げる。
「いいんです、早く行ってください!」
631冬の海・春の海:03/06/29 16:44 ID:???
『184』

「愚問だったね。まあ、落ち着きなって」
 教会からは人が飛び出してきて、馬車に乗った花嫁を見つける。それなのに
ソフィアの意志をジーンは確かめようとする。
「は、早く出して……!」「いまなら、まだ間に合うよ」
 ソフィアはロングコートを脱いでいるジーンの腕にしっかりと掴んで、瞳を
いっぱいに開いている。
「間に合わなくなっちゃう!おねがいだから……!」

「それから、このブローチは外しな」
 革のグローブがソフィアの胸元に触れる。
「ダメです。これは大切な人からの贈り物だから」
「そっかい、わかった。よっしゃ!じゃあ、これを着な」
ソフィアはジーンが差し出したコートを手にして躊躇っていた。
「早く!」
 ジーンはノースリーブのジャケット姿になってソフィアに重いコートを渡し、
両手で手綱をしっかりと掴む。ソフィアはドレスの上からコートを羽織った。
「さあ、わたしの腰に振り落とされないようにしがみついてるんだよ。いいかい、
決して喋るんじゃないよ!」
 ジーンの細い腰に華奢な腕が蔦のように絡み付き、ソフィアは黙って頷いた。
その間にも、馬車に気がついた男たちが鬼さながらに迫ってくる。
「上等、いくよ!ハイヤアアッ!」

 馬車は追っ手を引き離して駆けて行った。後には花嫁のベールだけが残されていた。
それを白いグローブが拾って大事そうに土を払う。
「なにをしている!追うぞ!」「もういい、追うな」
「なにを馬鹿なことを言っている!花嫁に逃げられるなどエリータス家の恥さらしもいいとこだ!」
「このまま、追いかけることの方がよっぽど恥ずかしいではないか!」
 新婦に逃げられた新郎は掴まれた胸倉の手を叩き落す。
632冬の海・春の海:03/06/29 16:46 ID:???
『185』

「間に合ったかい?」「えっ、ええ。ほんうにありがとうございます」
 ソフィアはジーンのコートを脱いで彼女へと手渡す。
「じゃあな、がんばんな」
 手綱を掴んだまま、膝に肘を付いてジーンはソフィアにエールを送る。しかし、
その言葉は港へ掛けて行く花嫁の背に掛けられたもの。ジーンはニッと笑うと
馬車を走らせた。

「待ってください!」 ソフィアが稜の背に声を掛ける。
「きみは……どうして、ここに」ウェディングドレス姿のソフィアに稜は目を丸くする。
「わ、わたし、あなたのことが好きなんです。いっしょに連れて行ってください」
「俺はきみのことをなにも知らないんだぜ」
「ここに来られた時に助けていただきました……。でしたら、はじめまして。
よろしくおねがいします。イヤならどこかの国で降ろしていただいても構いませんから」
 場違いな花嫁に稜は微笑んでいたが、ソフィアは必死だった。
「強引なんだな。まるで、まるで……」
 長い付き合いのともだちを思い出そうとしても、その存在も名前も思い出すことができなかった。
「いかがされましたか?」
「いや、たいせつなともだちの名前を思い出そうとしても……思い出せなくて」
 稜は花嫁の前で格好悪くぽろぽろと涙をこぼしていた。
「でしたら、わたしがその女(ひと)の代わりになってさしあげます」
 ソフィアは彼の中にいるアンをイメージしていた。
「だとしたら、これで泣くのは最後ということになるな」
「わたしの前でだけ見せてくれる姿なら、それは嬉しいものですよ」
 しかし、男はそのあとは女とともに歩み、女の前で弱みを見せることは無かったという。
この日、彼女の前で泣いたのを最期にして。

 稜の肩に腰掛けていて、笑うピコの姿がゆっくりと透けて夕闇へと融けていって
完全に彼の世界から消失した。
633冬の海・春の海:03/06/29 16:49 ID:???
『186』

 男にはピコが存在していたという記憶すらも失われていて、ピコはそれでも満足だった。


「ねえ、レズリー?」
 ロリィはレズリーのアトリエで絵を眺めながら彼女に尋ねていた。
「なんだ」「この綺麗なお姉さん誰なの?」
 レズリーはクロッキーを置いてロリィが眺めている絵に視線をやる。
野外円形劇場の舞台に立って唄っている女性の姿が描かれていた。
「記憶にないなあ」「ねえ、ここにアンって描かれているけど」
「それでもよく覚えてなくてね」「ふーん。でも、このお姉さん綺麗だね」
「そうだろ。しあわせそうで、とても綺麗なんだ。とても忘れられない笑顔なんだよ」
 クロッキー帖に描かれた素描の忘れられない笑顔。ロリィもなつかしい不思議な
気がしていた。

「レズリー、この絵をコンクールに出品すればいいのに?」
「最初はそう思っていたけどさ、そっとしておいてあげた方がいいかなあって思ったのさ」
「そうなの。残念だなあ。誰に向けられた笑顔なんだろうね」
「誰に向けられた笑顔……。そんなふうには考えてなかった」

「どうして。レズリーが笑うのだってお父さんとお母さんを待っているからでしょう?」
 レズリーは絵を眺めているロリィを母のような眼差しになって、少女から女へと
変ろうとしている躰をぎゅっと抱き締める。
「いたいよう、レズリーお姉ちゃん。ねえ、お姉ちゃん?レズリー……お姉ちゃん。
泣かないで」
「うん……。わかってるんだけど」
 レズリーの風景画に混じって壁に貼られていた、史跡の野外円形劇場の舞台に立って
唄うアンの姿にスティゴールドの輝きを留める。
「でもね、レズリー。描いてコンクールに出してみようよ。このなかのお姉ちゃんも
きっと歓ぶよ。うん、きっとだよ」
634冬の海・春の海:03/06/29 16:53 ID:???
『187』

 アンの不安と哀しみのなかで時が紡ぎ出したしあわせの歓びをレズリーの絵は
画紙に定着させていた。
「ねっ、お姉ちゃん」「そうだね。うん。そうするよ。彼女と対話してみるよ」 「うん!」
 レズリーは画架を立て、キャンパスを立て掛けた。
「ロリィ、ありがとう」「ねえ、レズリー。ありがとうは、このお姉ちゃんにね」
「そうだったね」

『リョウの胡弓の妙かなる音色、もういちど聞きたかったなあ……』
『アン、きみの愛の祈りも』
『夢も心もここへ置いて逝くね。それでわたしを赦して。ほんとうにありがとう』

 稜の手がソフィアの胸に付けられていたプリムラのブローチを見つけて伸びて行くと
ソフィアは差し出された稜の手にそっと触れた。

『ねえ、アン。花は誰のために咲いているのか……な?』
『すくなくとも、人のために咲いているのではないでしょう』
メネシスは窓の外の景色を眺めながら誰かと会話していた。もう、いなくなってしまった誰か……。
「ねえ、あきらめちゃうのかい?」「いいえ、ソフィアに託したんです」
 アンのやさしい声が力強く心に響いて来る。
「あいつ、とうとう品物になっちゃったね。それぐらい我慢してくれなきゃ、割りに合わないしな」
 アンの困った貌がメネシスには見えるようだ。「うまくいくでしょうか……?」
「いくさ。いくに決まってるよ。あんたの教え子なんだろ、あの娘は。きっとアンの心も唄い続けるさ」
「そうでしょうか……?」

 メネシスは返答に窮する。答えていいものか迷っていた。その暫らくの間がアンをいたずらに
不安にさせることに気がついて、咽喉から絞り出すような声で答えた。
「ああ……本来の時の流れに収まれば、指先のタッチだけで恋ははじまるよ。
アン、あんたの時みたいにね」
 ラボで夕焼けを眺めながらアンに語りかける。
635冬の海・春の海:03/06/29 16:57 ID:???
『189』

「そろそろ魔女のカミツレの森の汚名は返上しなくちゃな」
「ふふっ、メネシスったら」
「よいしょっと。実験の続きでもするか」
 行きかけて、メネシスはもういちど外を振り返った。

「アンは自分の為に綺麗な華を咲かせたよ。とても綺麗な華だったよ」


                                          ――おわり

 長々と居座ってしまって申し訳ありませんでした。それと端折ってしまったのでちょっと
わかりにくくなってしまったと思います。
乙━━━━━(゚∀゚)━━━━━ !!

パチパチパチ
完結おめ。
久々にみたら終わってた。
お疲れ様〜
ウホっ…いいSS!

(また) や ら な い か ?
しずんじゃうよ〜
641直リン:03/07/12 09:06 ID:ToHlmfOP
642山崎 渉:03/07/15 10:38 ID:???

 __∧_∧_
 |(  ^^ )| <寝るぽ(^^)
 |\⌒⌒⌒\
 \ |⌒⌒⌒~|         山崎渉
   ~ ̄ ̄ ̄ ̄
643山崎 渉:03/07/15 13:30 ID:???

 __∧_∧_
 |(  ^^ )| <寝るぽ(^^)
 |\⌒⌒⌒\
 \ |⌒⌒⌒~|         山崎渉
   ~ ̄ ̄ ̄ ̄
よく沈まないね。
645名無しくん、、、好きです。。。:03/07/24 18:30 ID:QLYzpsfA
お宝モロ動画
http://66.40.59.93/xxxpink/
646_:03/07/24 18:31 ID:???
647名無しくん、、、好きです。。。:03/07/24 18:35 ID:zE2CusmW

期間限定!もうお目にかかれない!

http://alink3.uic.to/user/angeler.html
おまいらはギャルゲー板の事を何も分かっちゃいない