この間KIDより発売されたIrisのSSです。
発売して間もないのでネタバレは無し、エロもしておりません。
ゲームの舞台が冬なので、思い切って夏のお話を書いてみました。
ではどうぞ。
目の前には人、人、ヒト。大人から子供まで家族連れ、恋人同士などが男女問わずたくさんの人が
砂浜で、水中で思い思いに過ごしている。
そう、僕は今海水浴場に来ている。いや、今は僕一人しかいないが、正確には僕「達」だ。
「―――っ!」
どうして僕はこんなところに立っているのだろうと、突き抜けるような青空を見上げて
考えている時だった。突然背中に強い衝撃が走り、目の前には夏の太陽にきらめく細かな
砂の粒がせまっていた。
なぜ?と思う暇もなく僕はうつ伏せのまま頭だけ振り向き、この原因を作ったであろう人物に声をかけた。
「東雲、いいかげんにしてよ…」
そういって僕が振り返った先には「22cm」と掘り込まれたビーチサンダルの底を見せている
東雲がいた。
「何よ!さっきからずっと呼んでるのに気づかないアンタが悪いんでしょ!全く…
返事くらいしなさいよ。」
『着替えるから待ってなさい』と言われ、かれこれ20分近く暑い太陽の下で待たされた
人間に対する仕打ちがこれですか?
「だって、あんまりみんなが待たせるものだからついぼーっとしちゃって…」
『みんな』……そう、今日僕たちは夏実さんに連れられて来ていたのだ。
「で、他のみんなはどうしたの?まだ着替え中?」
と、東雲に問いかけた時だった。
「し、しのちゃん…ダメだよ。そんなに乱暴しちゃ…」
「し、しのちゃん…ダメだよ。そんなに乱暴しちゃ…」
そういって東雲の二歩後ろほどから顔を出したのは……さくらだった。
「わかってるわよぉ、あたしだって治樹以外のヤツにこんなことしないってば」
と、手をパタパタさせながらようやく僕の視界の半分近く覆っていたサンダルをどけた。
そこでようやく起き上がり、二人のちゃんとした姿を確認したのだが……僕は忘れていた。
ここが海である事を。
僕らは海に釣りをしにきたわけではなく泳ぎに来たわけだ。なら水着になるのは当然である。
けど、僕にはその普段目にしない光景を見る覚悟というか心構えが出来ていなかったのである。
東雲は、ナナメに青と黄色のストライプの走ったセパレートタイプのスポーティな
デザインの水着で、いつも活動的な東雲にはかなり似合っている。
それで、さくらの方は……薄いピンク色でビキニタイプにワンポイントで花柄の入った
シンプルなデザインで、モスグリーンのパレオをしていた。
そんな二人を見て僕は……正直ドキッとした。
「どう…かな治樹?……私、似合ってる…?」
不意に目が合ったさくらから突然尋ねられ、僕は思わず喉を鳴らした。
「に、似合ってるよ、すごく。さくらにピッタリだ。」
普段見ることのない水着姿。それは彼女達のまだ成長途中である体の曲線を
はっきりと浮かび上がらせ、普段より全然露出の高いその格好は、僕には――刺激が強すぎた。
「あれぇ?治樹ぃ、顔が耳まで真っ赤だよ?やっだぁ〜私達の水着見てやらしいこと
考えたんでしょう、治樹のヘンタイ〜♪」
そう、僕は自分で顔の温度が上昇していくのがわかったのだ。
「し、しのちゃぁん……」
それを聞いたさくらの方まで頬を染めていく。
「全く…そんな事でどうするのよ?男として情けないぞぉ。」
と、僕の背後から声が……夏実さんだ!
夏実さんの水着は以前何度か見たことがある。普通のワンピースだったはずだ。
本人曰く「あまり泳ぎに行く機会がないから水着にはそこまでこだわらないわ」とのこと。
火照った顔を覚ますためにも、夏実さんと今日の予定を話でもしてとにかく邪念を
追い払わないと…
「あ、夏実さ……」
後ろを振り返った僕は固まってしまった。
そこには、大きくヘソの周りの開いた黒のハイレグを身にまとってポーズをつけている
夏実さんがいた。
「わぁ…なっちゃんすごぉい、そんな水着持ってたんだ?」
東雲が感嘆の声をあげる
「ふふん、まあねん♪今年の最新流行なんだからぁ。フンパツしちゃった。」
そこで僕の意識が戻る。といってもまだ頭の中は混乱しているのだが。
「な、夏実さん!?フンパツしたって、じゃあ『今月キビシイわねぇ…お酒少し控えなきゃ』
とか言ってたのは――?」
「もっちろん♪この水着を買うためよ。」
当然とばかりに胸を張って言う。
「でも、どうしてわざわざ!?」
「そりゃあ、折角可愛い息子と海に行けることになったんだもん。ここは一つビシっと
決めて、治樹のコト悩殺しちゃおうって思って――ほら?実際見とれちゃったでしょ、
正直に言ってごらん?うりうり。」
そういって僕の額をつついてくる
「そ、そんなわけは……大体僕にはさくらが…」
って、なんでそこでさくらの名前が出てくるのだろう?
我ながら言ってることが支離滅裂である。しかもそれを聞いたさくらが余計に顔を赤くしていく。
「あぁ〜ん、照れちゃって♪ホントに可愛いんだからぁ、もうぎゅぅ〜ってしちゃうんだから」
そういっていきなり僕に力一杯抱きついてきた。
「ちょ、ちょちょっと?夏実さん!?い、息が……」
「夏実さん!?」
それまで成り行きを見守っていたさくらだったが、さすがに驚いた顔で抗議の声を上げた。
「わ、なっちゃんったらだいた〜ん♪」
逆に東雲はニヤニヤしながらこっちを眺めている。いや、そんなところにいないで助けて……?
「え〜〜、だって可愛いんだもぉん♪」
そういって更に力を込める夏実さん――そこで僕に限界が来た。
すっかり頭に血が上ってしまった僕はのぼせ上がってしまい、視界が暗転していった。
そんな中、
「んもう…なーちゃんったらぁ、着いて早々何してるのよ?」
あ…そう言えばもう一人来ていたんだった。
その人はオレンジ色のフリルがやたらとヒラヒラした、正直オトナの女性が着るような水着とは
思えない格好をしていた。
「ほらぁ瀬戸原クンだって嫌がってるでしょ?離してあげなさい。」
「えぇ〜、わかったわよぉれーちゃん。ちょっとふざけてみたかっただけなのに……って治樹!?」
ようやく僕の異変に気づく夏実さん。
「は、治樹……!?」
さくらもそんな僕に声をかける。
だけど既に時遅く、僕は意識を深い底へ押しやろうとしていた。
……今日も大変な一日になりそうだ……
薄れ行く意識の中そんな事を考えながら、最後に一人心で呟いた。
『五十嵐先生、その水着はあまりにも幼すぎるよ……』と。