【オカマ】萌えの最高峰・薔薇組【マンセー】

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1太田斧彦
いっちろぉ〜ちゅわぁ〜〜〜ん!
アタシ達について熱く語り合ってねん!!
板違いなんて言わせないわよ!心は乙女なんだから!!
さあ!愛と美について語りましょう!!
1000ゲットしたらご褒美にチュウしてあ・げ・る!
sage
菊乃丞萌え
いいかもな
5太田斧彦:02/05/23 00:28 ID:???
愛が足りないわ!
もっとよ! もっと!!

はあ・・・はあ・・・。
ヤシらが実は女だったという罠
菊、斧のみ女である可能性アリ
琴は男としての格好良さを持ってるので女である可能性は無い。
すごいスレだ・・・
スレのタイトルに激しくワラタ
斧彦は劇場版で凄い事になってる…
菊たん萌え
あの3人大好きだぞ。特に琴音は普通にカコイイ!!






萌えないが。
元ネタは犬神家の一族
4で大神を襲ったのはアリですか?
一郎ちゃん!
菊ちゃんをお嫁さんにしてあげるって話はど〜なったのよ!!

に〜がさないわよ〜ぅ!!

琴音「斧彦、地が出てるわよ」
16太田斧彦:02/05/25 07:07 ID:???
アナタ何真似してるのよ〜ぅ!
愛が欲しいの? いいわ! あげる!!

ふぅ・・・ふぅ・・・。
17名無しくん、、、好きです。。。:02/05/25 07:30 ID:tEA9Tg32
菊ってまじ可愛い
18太田斧彦:02/05/25 07:53 ID:???
あなた判ってるじゃないの!
よかったわね、菊ちゃん!
>>16さんがお嫁さんに貰ってくれるそうよ!!
19太田斧彦:02/05/25 07:54 ID:???
>>17じゃないの!
あら、いけない。あたしったらぁ・・・。
20名無しくん、、、好きです。。。:02/05/25 08:00 ID:tEA9Tg32
>18
はい、いいですよ。よろこんで!
21ゾリンヴァ:02/05/25 08:03 ID:???
ミナサン     オハヨウ  ゴザイマス!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
22名無しくん、、、好きです。。。:02/05/25 08:12 ID:tEA9Tg32
てゆーか正式に結婚を申し込みます
23太田斧彦:02/05/25 08:15 ID:???
>>14
何があったか聞きたいの? いいわよ。教えてアゲル・・・。
まず最初に三人掛かりで押し倒して身体の自由を奪うの。
おもむろに唇を奪ったらあとは○○○とか×××とか△△△とか・・・

ああ、思い出しただけで身体が・・・
ほああああぁぁっぁぁあぁあああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!
個人的には、2の菊たんの方が好きだった
4の薔薇組は歌謡ショウ仕様だった
age
1000まで逝くのか・・・w
せっかく?だから薔薇組関連のSSでも探して晒すか?
いいんじゃない。薔薇組なんて滅多にお目にかからんし。
30太田斧彦:02/05/25 23:27 ID:???
書き込まないとディープキスよ!

書き込んだらフレンチキッスに負けておいてあげる♪

むちゅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ・・・ちゅぽん!
31暮れ男@28:02/05/25 23:52 ID:???
んじゃ、以下コピペね。

―――――――――――――――――
太正十五年、初冬――。

日本は、帝都は揺れていた。今まで二度の大戦において勝利を治めてきた「帝国華撃団」の必要性が、今、問われている。亜米利加のダグラス・スチュワート社が、無人で動く人型蒸気を導入してきたがために。
しかし、それを知るのは未だほんの一部の者。とうの帝国華撃団関係者でも、知っているのは司令長官の米田一基と、副司令官の藤枝かえでのみである。

この時は。


マリア・タチバナは陸軍病院の待合所で本を読んでいた。いや、その本は開かれてはいたが、彼女は一向にページを捲ろうとしていない。
本の上に視線を落とし、ぼんやりとしている。
これで何度目だろう。この病院で世話になったのは。もう、随分この病院の事は知ってしまった気がする。
例えば、この時間帯は全くといって良いほど人が来ない事。
見回しても、長い廊下の向こうの端からこちらの端まで誰もいない。
マリアが背凭れのない長いソファに一人座っているだけだ。

左腕の袖を捲り上げると、針で刺したような赤い痣が見える。点滴の痕。
自分がこんなにも弱いなんて、思ってもみなかった。
いや、思いたくなかっただけだろうか。そうして、目を反らしていただけ……。

マリアは、ふっと溜息を吐いた。

「マリアさん……?」

俯いたまま動けないでいるマリアの頭上に、突然声が降って来た。聞きなれた声だ。
32暮れ男@28:02/05/25 23:54 ID:???
やべ。改行しすぎた。。。逝ってくる。
続きが気になるっす。
34暮れ男@続き:02/05/26 00:40 ID:???
マリアは、ゆるゆると顔を上げた。
やはり。その姿が確認出来ると、不意に笑みがこぼれる。
「琴音さん……」
「また点滴?」
「は……はい……」

躊躇いがちにマリアは頷いた。
「琴音さんは、どうして……」
「ええ。ちょっと書類を取りに来たのよ。人手が足りないから、結構使いっ走りにさせられるのよ」

琴音は小脇に抱えた書類袋を示して、笑って見せた。

彼は、総てを知っている数少ない人間の一人だ。しかも、この件に関しては他の誰よりも深く関わっている。
この一件で、崩れ落ちそうなマリアのココロを支えていたのは、他ならぬ琴音だったのだ。
35暮れ男:02/05/26 00:52 ID:???
琴音の笑顔を見て、マリアはふと視線を落とした。その意味を汲み取れるのは、琴音だけ。
「……仕方ないわよ。まだそんなに時間が経っていないんだから。身体が受け入れないのも無理のない事だわ……」
琴音はマリアの隣りに腰を下ろした。
「……はい……」

彼には、随分助けられた。マリアは、それを心から感謝していた。
「でも……ちゃんと食べてるんでしょう?」
「少しずつは」
「それは良かった。無理をする事はないわよ」

頷くマリアの表情は、しかし、決して明るくはなかった。
「まだ、怖いのね……?」
再び深く頷く。
「そうよね……。仕方のない事よ、本人がいないんじゃ」

琴音もマリアに習うように視線を落とした。マリアの震えるその肩が、か細く、酷く弱々しく見えて。
彼女の胸中は、痛いほどよく解った。
36暮れ男:02/05/26 01:20 ID:???

あの時……巴里へ行った時、大神の瞳はマリアの事を見てはいなかった。
別の少女を追っていた。
――少なくとも、マリアにはそう見えた。

彼が幸せになるのが、何より嬉しい。

だから、それならそうとはっきり言って欲しい……
この数ヶ月、苦しかった。こんなに身体が重く感じたのは初めてだ。
不安な気持ちは彼への疑念。そう思うと、自分があまりに醜く見えた。
37暮れ男:02/05/26 01:23 ID:???
「でも、大丈夫よ……」
琴音は優しく声をかけた。
「大神中尉が、好きなんでしょう?」

「……それは……」
はっきりと答えられない。それすらも怪しく思えてくる。自分の中に、“不安”がある限り。
「そんなに難しい事かしら? 貴方が大神中尉の事を愛しているというのは、揺るぎのない事実なのに」

「どうして……どうしてそんな事が解るんですか? 私は……隊長を疑っている……」
無理矢理顔を上げ、琴音をにらみつけた瞳から、涙が一筋、零れ落ちた。

「マリアさん……」

いつもの自信有り気な笑みを浮かべ、琴音はマリアを見詰めていた。

「……御免なさい……」
突然囁かれたその言葉を、マリアが理解するのは数秒後の事。
38暮れ男:02/05/26 01:29 ID:???

琴音は瞳を閉じた。
いきなり、けれど優しく、マリアは肩を抱き寄せられた。
途端、マリアの視界が遮られる。思考も。

唇に、唇が、触れ、た。

「ん……」

不思議な――意識の遠くなるような――刺激。儚くて、少し冷たい。
今まで、殆ど感じたことのないような。しかし、初めてではないような。
39暮れ男:02/05/26 01:36 ID:???
――が。

「ん……ん……――!!」

マリアは喉の奥で唸り、両手で琴音を押し戻した。
「って……あぁ……吃驚……しました……」

マリアは大きな溜息とともに声も吐き出した。琴音は壁に手をつき、よろめいた上体を支える。
「なんですか、いきなり……また……」

くすりと琴音は声を立てて笑った。
「解ったでしょう? 貴方は私を受け入れない。きっと、他の誰かでも。貴方がこ
んな事をされて素直に受け入れられるのは、彼――大神中尉だけ。あとは、中尉で
試して御覧なさいな。総て解るわ」
40暮れ男:02/05/26 01:40 ID:???
マリアは、唇を手の甲で抑え、決まり悪そうに俯いた。

琴音は、マリアの頭をぽんぽんと叩いた。
「年明けには帰って来るそうじゃない。守りたい物があるなら、敵前逃亡は赦されないわよ」
「…………」
「不安になるのと相手を疑っているというのは、似ているようだけど全く違う事な
のよ。それに、恋に不安はつき物だわ。今まで、不安になったりやきもちをやいた
事はなかった?それは当然の事で、醜い事でもなんでもないのよ……」
「…………」
「考えてみなさい。どうして貴方の手は今、紅くないの?」

はっと顔を上げたマリア。本を持つその手は、いつから白くなった? 真っ赤だった指が、いつの間に?
血の色は消えない。骨の髄まで染み付いているから。けれど、罪を胸に、戒めを
心に、そうしてあの真紅の手袋を外せたのは、誰のため……?
「それじゃ、私は行くわね。お大事に」

いたって自然な動作でマリアの頬の涙を拭うと、琴音はすっと立ち上がり、廊下の角を曲がっていってしまった。
41暮れ男:02/05/26 01:44 ID:???
大正十六年、一月。日本近海。

「大神。もうすぐ下船だな?」
加山は、キネマトロンで船室に籠もっている大神と向き合っていた。
「ああ。予定より十分ほど早く到着する予定だ」
「それじゃ、俺からの最後の通信だ。あとの指示は、港で待っている清流院から聞
いてくれ」
「それより……花組はどうなっているんだ!? 織姫君は、どうした?」
前置きのような加山の説明に、大神はじれったさを感じていた。
「そうだな。織姫君は、レニ君が捨て身で庇い、暗示は解かれたという通信が入っ
ている。織姫君、レニ君の光武・改は使用不能になっていたため、保管してあった
アイゼンクライトで戦闘。現在、光武・改五機、アイゼンクライト三機で交戦中。
戦闘不能機もあるかも知れないが、その情報は入っていない」

「ちょっと待ってくれ……」
加山がそこまで話したところで、大神はそれを制止した。
42暮れ男:02/05/26 01:48 ID:???
「光武の数が合わない。本当に五機なのか? 六機ではなく?」
「五機だ。今からその事について話すつもりだった。良いか、大神。落ち着いてよ
く聞け」
「あぁ……」
胸騒ぎがした。何か、嫌な予感が。

「現在、帝国華撃団銀座本部地下格納庫に、光武・改が一機格納されたままだ」
「どの……?」
「黒い機体。つまり――マリア機だ」
「……どういう……事だ……? マリアは、別任務についているということか? そ
れなら、どうしてさっきの通信の時に教えてくれなかった!?」
大神は、早口に加山をまくしたてた。
「落ち着け、大神。落ち着いて聞くんだ。さっき言わなかったのは、お前が取り乱
してしまわないようにするため……」
「取り乱す……?」

加山の額に、玉の汗が浮かんでいた。それは、画面越しにでも確認出来た。
鼓動が五月蝿い。加山は、何を言おうとしているのか……。
43暮れ男:02/05/26 01:52 ID:???
「落ち着いて聞け。彼女は……数時間前、敵のアジトに侵入した。そこまでは、確
実な情報だ。だが、それから行方解らなくなった。何の情報も入ってきていないん
だ。敵に捕らわれたとしたなら恐らく人質になっているはずだ。だが、敵にそうい
った動きはないため、その可能性は極めて低い。」

「行方……不明……?」
額に浮かんだ汗が、頬を伝って流れ落ちた。加山も、大神も。
「消息も、不明だ……」
「そんな……――」
「近くに水路があるから、そこを使って逃げた可能性も高い。マリアさんなら、大
丈夫だろう」
「水路……!?」

いくらなんでも……確かに、泳ぐ練習をするとは言っていたが、まだあれから一
年と経っていない。いくらマリアでも、それ程急激に上達するものか……。たとえ
泳げたとしても、服を着ていたらすぐに衣類が水を吸って沈んでしまう……――
44暮れ男:02/05/26 01:55 ID:???
「すまない、大神。月組も全員出動していて、それでも手が足りない状態なんだ。
マリアさんの捜索をしたいのは山々なんだが……。って、大神? 聞いているのか、
大神!?」

「だ……大丈夫だ……」
遅鈍な反応。
「あと五分ほどで到着だな……。俺は、通信を切る。こっちの作戦の目処がつき次
第、マリアさんの捜索を始める。必ずだ。だから……お前はお前の仕事に集中し
ろ! 大丈夫だ、マリアさんなら……」

加山の言葉は最後まで続かないまま、大神によって通信は無理矢理切られた。
最早、何も聞こえない。

落ち着け、落ち着け、俺の心臓……。
マリアなら大丈夫だ……。
大丈夫……。
大丈夫…………。

無事でいてくれ、マリア……――!!
45暮れ男:02/05/26 01:57 ID:???
横浜港――

「琴音さん……!!」
大神は、琴音の姿を見つけるや否や、叫んだ。
「お帰りなさい、中尉。早速だけど、加山君から聞いている通り……――って、聞
いてるの!?」
大神は、琴音の肩を引っ掴んでいた。
「それより、マリアは……マリアが、消息不明だと聞いて……」
「その話は後。集中しなさい。一刻を争うのよ!?」
まるで人の話を聞かない大神を、琴音は怒鳴りつけた。
「しかし……――」

大神の言葉は、そこで途切れた。一瞬、琴音が囁いた言葉が耳に飛び込んできた。

「……喰い縛りなさい」
その瞬間、琴音の拳が大神の頬を直撃したのだ。
46暮れ男:02/05/26 02:00 ID:???
ガキィッ!!!


「がぁっっ……!!」
嫌な音がして、大神の身体は、地面を転げた。
琴音の髪は振り乱され、水滴が雨のように大神の上に降ってきた。
呼吸がままならず、咳き込んだ口から、血が吐き出された。口内を切ったらしい。
「集中しなさい、大神中尉! 貴方は巴里で何を学んできたの!?」
「…………!」
「次は海に落とすわよ! 良いから、落ち着いて聞きなさい。これから光武に乗っ
て花組の戦闘に合流。敵を殲滅せよ!」
「りょ……了解……」
その返事に、琴音は微笑み、大神に手を差し伸べた。大神はその手に掴まって立
ち上がった。
47暮れ男:02/05/26 02:02 ID:???
「冷静に。迷いは戦況を悪化させる原因よ。それから……マリアさんは大丈夫よ。
そろそろ加山君が保護した頃でしょう」
大神の光武搭乗を確認しながら、琴音は言った。
「え……?」
「幾らか傷を負っているけど、命の別状はないわ。安心なさい」
「でも、さっき加山は……」
「五分もあれば情況は変わるわ。解ったら……状況を変えてきなさい。街にもかな
り被害が出てるから、あとは時間との勝負よ!」
「光武・改、起動準備整いました」
トラックにつまれた計器を確認しながら、状況が琴音に告げられた。

「いくつもの事を一度にしようとすれば、大切な物を失うだけよ。一つの事に集中
して。他の思いは、断ち切りなさい」
「大神機、起動します!」
「良し! 大神機、発進!!」
琴音が声を張り上げた。
同時に、大神の白い光武は宙に浮き上がった……。
48暮れ男:02/05/26 02:06 ID:???
大神機の白い翼が夜闇に消えたのを見送ると、琴音はキネマトロンのスイッチを
入れた。
「はい、丘菊之丞です」
「菊之丞? そっちはどう?」
「琴音さん! はい。こっちの作戦が終了したので、琴音さんの指示通り、加山さ
んと合流して……」
「私の言った通りになった?」
「はい。何故か……」
「そ。解ったわ。じゃぁ、“彼女”のこと、頼んだわよ」
「了解です」
「通信、切るわね」
琴音はキネマトロンを切った。
「ふぅ……。感謝しなさい、大神中尉。貴方の事だから、たとえ加山君でも他の男
がマリアさんに触れるのは嫌でしょう……? まぁ、菊之丞ならましじゃないかし
ら?」

大神の消えた空に向かって、ぽつりと琴音は呟いた
49暮れ男:02/05/26 02:07 ID:???
さて。これからが本当の通信だ。
「ちょっと、ちょっとそこの貴方。こっちに来てくれない?」
手招きして、手近にいた軍服の男を呼んだ。
「はい、なんでしょう、清流院大尉!」
「ちょっとこのキネマトロン、持ってて頂戴」
「はっ!」
キネマトロンを男に持たせて蓋を開けると、琴音は手早く加山のキネマトロンに
ダイヤルを合わせた。

通信が入ると、彼はいきなり踊りだしたのである……
50暮れ男:02/05/26 02:11 ID:???


「それじゃ〜ね」
画面が一瞬淀み、元の真っ黒な何も映っていない状態に戻った。取り敢えず派手
に通信をした後、琴音はキネマトロンを持ってくれた男に礼を言い、それを閉じた。
「有り難う。悪かったわね、こんな事させて」
「いえ。御命令とあらば」
男は恭しく敬礼をした。こんな軍人らしからぬ事に付き合わされてこの態度と
は。大した男である。
「貴方、出世するわよ」
「有り難うございます!」
きっちりとした態度に、思わず笑みがこぼれる。この態度こそ軍人にあるべき姿
なのだ。

確かに階級称は好きではないから「大尉」と呼ぶのはやめてくれとは言った。だ
からといって、いきなり「清流院」はなかろう。好きではないとはいえ、曲りなり
にも階級は上なのだし、年だって随分上のはずだ。……嬉かないけど。
やはり、好き嫌いはどうあれ、階級で呼ばせた方が良かったのだろうかと頭を悩
ませる琴音であった。
51暮れ男:02/05/26 02:13 ID:???
「あの、ところで、大尉……?」
キネマトロンを抱え、男が声をかけてきた。
「髪が濡れているようですけど、どうかなさいましたか?」
「え? まぁ、ちょっとね……」
琴音は、適当に答えて辺りを見回した。
「さ、こっちもさっさと片付けて、早々に引き上げましょう」
「はっ!」
男は再び敬礼し、光武を乗せていたトラックの方へ駆け出した。


「……やっぱり、そんなに早くは乾かないわよね。まだそんなに時間も経ってない
し……」
湿った髪を指先にくるくると絡ませながら、琴音は溜息を吐いた。

服はちゃんと予備の物を用意していたから(汚れたらすぐに着替えられるように
いつも準備している)良かったが、髪はそうはいかない。

まぁ、仕方のない事である。
52暮れ男:02/05/26 02:15 ID:???
「あら……」
不意に爽やかな薔薇の香りが鼻腔をくすぐった。香水だ。以前紅蘭が作った試供
品をもらったのだ。いつも琴音が使っている香水だ。香りがきつ過ぎるという事も
ないのに、一滴で長持ちする代物。洗ってもすぐには取れないので重宝している物
だが、まさかこれ程とは。

「あの水路の水、意外と綺麗なのね……」
そっと唇を撫で、琴音は笑みを浮かべた。
「まぁ……このくらいは役得よね」
53暮れ男:02/05/26 02:19 ID:???
総てが数台のトラックの中に納められた横浜港。琴音も自分が乗ってきたトラッ
クの助手席に乗り込んだ。
「出発します。大帝国劇場ですよね?」
琴音がシートベルトを締めた事を確認すると、運転席の男が言った。
「ええ。大神機の計器を戻さないといけないし……」

「大尉……」
「何?」
「先程、このトラックだけ出発を遅らせましたが、何処へ行っていたんですか?」
このトラックに乗っているのは琴音とこの運転席の若い男だけ。荷台には、大神
機を乗せていたが、今は殆ど空の状態である。
男は安全運転を心がけて硝子の向こうとミラーを確認しながら、声だけで訪ねた。


彼らは、大神の乗っている船の到着予定時刻より一時間早く着いて待機するよう
指示が出された。しかし、この指示を出した琴音が、突如飛び出していったのであ
る。
その上、一時間ほど経って、他のトラックがすっかり行ってしまってから帝劇に
走って戻ってきた琴音は、外套を肩に引っ掛け、真冬だというのに頭の天辺から爪
先までぐっしょりと濡れていたのである。しかも、シャツに血が付着している。
驚くな、気にするなという方が無理な話である。
だが、琴音はその場で着替え、髪を拭きながら出発の指示を出した。
予定時間の五分前にギリギリ到着。それから、別に不自然な様子もなく指示を出
し、大神を迎えた。
54暮れ男:02/05/26 02:22 ID:???

問われるのは、覚悟していた。
「出来れば……忘れてくれると嬉しいわ」
「気にするなというのは無理な話です。忘れろといわれても……」
そうね、と頷く。
「貴方、恋人はおあり?」
「え……?」
まるで関係のない問い。男は首を傾げたが、すぐに「はい」と答えた。
「貴方、その人の事を護りたいと思うでしょう? 私には恋人はいないけど、大切
なモノを護りたい気持ちは私にもあるのよ。この帝都を、この国を護りたい。大切
な人も護りたい。そう強く思うわ。そして、今回の事はそのためだった。それが答
えじゃ、駄目かしら……?」

それだけ言われて、「駄目だ」といえるだろうか、男として。その強き想いが何
処から来るものか、この言葉だけで十分解る。
「……はい」
男は、にっこりと微笑んだ。
「有り難う。助かるわ」
仄かに、爽やかな薔薇の香りが車内に満ちていた。
55暮れ男:02/05/26 02:24 ID:???
「言い忘れていたけど、この弾丸には霊力が込められているの」
風が吹き抜けたビルの屋上で、マリアは煙を立てる銃を下ろした。眼前に倒れて
いるのは、つい先程自分を追い詰めた謎の男・パトリック。
額と首の包帯も、ずぶ濡れの身体も、総て彼の所為。そして、この帝都を乱す一
連の事件にも深く関わっていた男。
「おやすみ、パトリック……」
囁いたマリアの髪を撫でた風は濡れ、音もなく消えていった。


街の中心部を見下ろすと、どうやら向こうも片付いたらしいという事が解った。
この弾丸を受け取る時、加山が言っていた。大神が戻ってきた、と。
マリアの頬に、微かな笑みが浮かぶ。

「お帰りなさい、隊長……」
56暮れ男:02/05/26 02:29 ID:???

あぁ、今すぐにでも駆け出したい。
此処から走ってあそこまで行って、彼の腕に飛び込みたい。
アイリスのようにテレポートが出来れば良いのに……
けれど……

マリアは柔らかかった表情を途端に硬くし、銃を胸にしまった。加山と共にいる
米田達に報告に行かなくては。
人を一人、殺してしまったのだから――

あぁ、このまま消えてしまいたい……
隊長に逢えるわけがないじゃない……
また、血の色が深くなる……
この手が……

彼のお陰で、血の色の手袋を外せるようになって久しいというのに。もう二度と
はめる事はないと信じ、罪を胸に、戒めを心に、白い指を曝していたというの
に……。

逢わない方が良いのかしら……?
“彼女”の事を思えば……

パトリックは、二度と動かない。ファミリアも。胸の仕舞い込んだ銃の重み。身
体も、酷く重い気がする。苦しい……。
57暮れ男:02/05/26 02:32 ID:???
――どうして貴方の手は今、紅くないの?

琴音の声が耳に蘇る。優しく、囁きかける声。さっき――“あの時”耳元で聞い
た声とよく似た声……

「紅くない? こんなに真っ赤じゃないですか……琴音さん……」


あぁ、まただわ……。

視界がぼやけ、足の先から力が抜けていく。
もう、何も見えなくなる。また、血の海に沈むのだろうか……?
気が遠くなるほど長い間沈んでいた海。泳ぐ事も出来ず、もがく事も出来ず、た
だ沈んで、漂っていただけの赤い海に……
「隊……長……」
そう囁いた唇に残っている、不思議な感触。
それは、意識の遠くなるような、刺激。
儚くて、少し冷たい……

冷たい……――

                     鮮血の唇 −The End−

 
58暮れ男:02/05/26 02:34 ID:???
コピペ完了っと。

何か感想とかあったらお願いします。

まだあるけど・・・<SS
晒す?
59名無しくん、、、好きです。。。:02/05/26 12:12 ID:QhXmTc/w
age
okama
61暮れ男:02/05/26 20:30 ID:???
SS探してきたよ。
結構気に入ってるヤシもあるので、載せときます。
62暮れ男:02/05/26 20:31 ID:???
あ、あげるの忘れてた
6328:02/05/26 20:34 ID:???
クリスマスローズ

大帝國劇場、夜。
鍛錬室にあかりがついていた。カンナだ。
だが、いつもなら聞こえてくるはずの、威勢のいいかけ声は全くなか
った。
カンナは悩んでいたのだった。クリスマスのたった一日だけの演目、
「奇跡の鐘」の主役候補に選ばれたことは、とても嬉しかった。なに
しろ、この芝居の演出担当は大神である。
大神とは、舞台の仕事を一緒にしたことがなかったから、みんな、本
当に楽しみにしていた。
・・・主役として、隊長の演出で、舞台に立てたら。
考えるだけでそれは晴れがましい、誇らしいことだった。きっと、素
晴らしい思い出になるだろう。・・・・だが。
「なんで、主役は女で、しかもよりによって、聖母さまなんだよお・・・」
6428:02/05/26 20:38 ID:???
台本を受け取って、ぱらぱらめくってみただけで、主役の聖母は、自
分の今までのイメージにはどうにもなじまないのは一目瞭然だった。
せめて台詞の練習をしてみようにも、この女言葉を舌が拒否する。
すみれやさくらをまねて、女らしい立ち居振る舞いを練習してみよう
としたが、鏡の中に聖母はいない。ただ、大柄な女が困った顔をし
て立っているだけだ。
「どういう風な根拠で、あたいに聖母さまができるなんて考えたんだ
よう、かえでさんよお。」
なまじ、主役候補になんて、選んでくれなければよかったのに。自分
が主役になれるわけがない。だったら、主役候補だなんて、ぬか喜
びさせなくたっていいのに。
ついさっき、事務室の前を通りかかったとき、中から聞こえてしまっ
た由里の言葉が、カンナの心をさらに重くしていた。
「大神さん、自分はお芝居のことよくわからないからって悩んでたか
ら、あたし、『大神さんの好きな人を選んだらいいじゃないですか』っ
て言っちゃったんですよね。だから、明日は大神さんの意中の人が
判明するってわけなんですよお!」

主役になれないのは残念だが、それなら次の機会もあるだろう。大
神の演出する舞台はこれっきりというわけではないだろう。だが、明
日大神が選ぶのは、主役という名の恋人なのだ。
6528:02/05/26 20:41 ID:???
大神が誰を愛そうが彼の自由だし、いつかはそれは明らかになった
だろう。でも、こんな形で知らされるのはたまらない。大神の心の中
に誰がいるのか、知らされなければまだ救われるのに。
「あんまりだよ、由里い・・・恨むぜえ・・・」
カンナ、俺が好きなのは君じゃないんだよ、という大神の意思を、目
の当たりにしなければならないのか。
「ちくしょー、つまんねえことばっか考えちまう。体動かさなきゃ、気が
変になっちゃうぜ!やめやめ!鍛錬が一番だよ!」
腹筋、背筋、ベンチプレス、空手の演武のひととおり。いつものメニ
ューをこなしていると、また、不安が頭をもたげてくる。
………あたいがもっと、さくらやすみれみたいに、女っぽかったら、
隊長はもしかしたら・・・
6628:02/05/26 20:42 ID:???
「ち、がーう!あたいは、桐島流二十八代目の継承者だ!あたいは
こんな自分を誇りに思ってんだ!性にあってるんだよ!」
大声を出して自分の考えをうち消してみる。それでも、不安はいつま
でも追いかけてくる。いつのまにか、涙がせり上がってきた。自己憐
憫に浸るつもりなどないのに。
「泣くこたねえのにさ・・・バカだよなあ、あたいって・・・。」
今さらどうにもならない。大神は自分がどんな女かなんて、とっくに
知っているのだ。大メシ喰らい、力自慢、図体だってこんなに大きく
て、大神よりも背が高い。組み手で大神を投げ飛ばしたことだってある。
「不釣り合いだよな。あたいなんか。」
でも大神は、自分が女っぽくないからといって、バカにしたりあきれ
たりはしない。ひとりの隊員として、対等に接してくれる。誰かを特別
扱いもしない。
6728:02/05/26 20:44 ID:???
「それで充分じゃねえか。高望みなんか、しちゃいけないよな。少なく
とも隊長はあたいを信頼してくれてるんだからさ・・・隊長の信頼が、
あたいの宝物じゃないか・・・。どのみち誰にも勝てないんだよ、結
局。いや、勝ち負けじゃねえな。始めから・・・えーい、やめやめ!や
ーめた!もう寝よう!だいたいあたいは考えることが苦手なんだっ
た!風呂はいって寝よう!」
こんな、くよくよした自分は好きじゃない。なるようになる、いや、もう
結果はわかりきっているのだ。だから、もう、悩むのはやめよう、明
日になれば、全部終わるのだから。付け焼き刃の女らしさの演技な
んか、いまさら練習したってしょうがない。

その時、鍛錬室に入ってきた者がいた。
「カンナちゃん、まだトレーニングしてるの?」
薔薇組の三人だった。
ヴァカなッ!!
お前の好みのロリキャラがJOJOに出た事など、いまだかつて!
無イッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!
6928:02/05/26 20:58 ID:???
「カンナちゃん、今度、主役候補なんでしょ、おめでとう!しっかり
ね。」
「アタシ、カンナちゃんのドレス姿見たいわあン!」
「あたしも・・・影ながら応援してます。」
三人に取り囲まれ、カンナは苦笑した。
「いやあ、ありがとさん!でも、候補ってだけだからさ。」
「でも、八人の中の四人ですよ?すごいじゃないですか。」
「なみいる美女を四人も押しのけて!ああーん、もう、そのうえ演出
は一郎ちゃん!羨ましいわあン!」
一郎ちゃん、という斧彦の言葉で、落ち着かせたはずの心にまたさ
ざ波が立った。
「そうだよ、主役と演出は美男美女、一夜限りの特別公演!これ以
上の宣伝ってないよな。きっと盛り上がるぜえ。チケットもガンガン
売れるだろうな。あたいもがんばらなきゃな。」
「そうそう。がんばらなきゃね。その調子よ。」
薔薇組の三人は実に嬉しそうに笑う。一緒に笑いながら、カンナの
心はきりきりと締め付けられるようだった。
7028:02/05/26 20:59 ID:???
誤爆?w
7128:02/05/26 21:03 ID:???
「ちーがうって琴音さん、まだ決まってないからさ、よくわかんないけ
ど、あたいは大道具かなんかでさ、そっちでがんばるって。」
・・・選ばれなくてもいいんだ、あたいの手の中には、隊長の信頼が
ある。それでいいんだ、だから、誰が選ばれても、笑っておめでとう
を言おう。そして、みんなで一緒に、素晴らしい舞台を作ればいいん
だから・・・いつも元気で明るくて、細かいことは気にしない、それが
みんなの知ってるカンナなんだからさ・・・。
「まだ決まっていないじゃない。主役はあなたかもしれないのよ。ね、
今からそんなこと言っちゃ、だめよ。」
「アタシたちがついてるじゃないのおーン。」
「無茶言うなって。聖母さまだぜ?あたいのどこをどうしたって、聖母
さまなんかできねえって。そりゃ候補だからさ、主役になる“かもしれ
ない”ぜ。でもさ、こーんな、女らしさのカケラもない聖母さまなんか
さ。誰も納得できねえって。選ばれないのが当然ってもんじゃねえか?」
「そんな、そんな寂しいこと、言わないでください、カンナさん。」
「現実ってのはそんなもんじゃねえかなあ?だろ?琴音さん、そうだ
よなあ?やっぱ、聖母さまなんだから、女らしくなくちゃ、つとまらな
いよなあ?あたいみたいなヤツなんか、始めから全然無理だって。」
7228:02/05/26 21:06 ID:???
だが、琴音は首を振った。
「女らしさなんて、生まれながらに備わっていると思ってるの?そん
なわけないじゃない。みんな一生懸命に自分を磨いているっていう
のに、あなたったら、なに?はじめから努力もしないで投げ出しちゃ
って、そんなことでどうするのよ。女優でしょう!」
薔薇組の三人が、本気でカンナを応援してくれているようなのはわ
かった。とても嬉しかった。だが、カンナは、この話を早く終わらせた
くて仕方がなかった。やっと自分で踏ん切りをつけたと思ったのに、
やっと平らにならした心を、かき回されるのは辛かった。
・・・あんたたちは、主役のことを言ってるんだもんな。でもさ、隊長が
選ぶのは、恋人なんだよ。今さらどうにもなりゃしないんだよ。だか
ら、もうやめようよ・・・
7328:02/05/26 21:09 ID:???
「そう言って励ましてもらえるのはすごくうれしいけどよ、あたいはた
だ、自分の身の程ってのがわかってるだけなんだよ、どこをどうがん
ばったって、あたいが聖母様なんて、大笑いじゃねえか。あたいは
男役だからこそ、舞台に立てるんだよ。いいんだって、主役候補にし
てもらえただけで充分だよ。こんな男オンナ、主役なんかつとまりゃ
しねえさ。そういうことでこの話はおわり!あたいが女役なんて、真
っ赤な雪が降っちまうって、な!三人とも、心配してくれて、ありがと
な!」
そう言って、鍛錬室を出ていこうとした時、琴音が前にたちふさがっ
た。今までとはうって変わった、冷たい視線でカンナを見つめる。
「通してくれよ琴音さん、おっかない顔してどうしたんだよ。」
「女の子って自分が女だっていうことでそれ以上の努力をしないもの
なのよね。」
「そういうのって見ていてほんとに腹が立ちますよね。」
「すでに女の子だっていうだけで、どれだけ恵まれているかわかって
いないのよン、ずうずうしいわよねエ。」
「ちょ、ちょっと、どうしたんだよ、だからもう、あんたたちが怒るよう
なことじゃねえだろう、あたいが女のできそこないだからって、なんで
怒ることがあんだよ、な、もういいじゃねえか。あたいもう寝るからさ・・・」
7428:02/05/26 21:11 ID:???
「どうしても自分なんか女じゃない、っていいはるのね。それじゃ、」
一歩近づいて、琴音がじっとカンナを見つめる。その視線は本当に
冷たく、鋭い。どうしたのだろう、いつもの三人組らしくない。
「思い知らせてあげる。あなただってほんとはただの女にすぎないっ
て。」
「何言い出すんだよ、冗談はほどほどにして・・・」
「今ここで私たちがあなたを女にしてあげるわ。斧彦、菊之丞、押さ
えつけなさい。」
カンナが言うのを琴音の声がさえぎり、同時に、斧彦と菊之丞が飛
びかかった。何が起こったのか、一瞬わからなかった。自分が鍛錬
室の床に転がされ、組み敷かれていることを理解したときは、体の
自由はまったくきかなくなっていた。
「お、おいっ!ちょっと、なにすんだ、放せよ!放さねえとケガする
ぞ!冗談きついぜ!」
カンナは脚を押さえている菊之丞を蹴り飛ばそうとした。華奢で小柄
な菊之丞の手は、しかし、びくともしなかった。菊之丞はくすくす笑った。
7528:02/05/26 21:14 ID:???
「カンナさん、あたし、そんなにひ弱に見えました?残念ですけど、そ
れくらいではなんともありませんよ。」
「くっ!」
上半身をがっちりと押さえつけている斧彦に至っては、山が乗って
いるのかと思うほどだった。たったふたりの男に押さえつけられてい
るだけで、自分の身体が全く言うことをきかない。こんなことは初めてだった。
そのへんの男のひとりやふたり、小指の先ではね飛ばせるつもりで
いた。それなのに。何というざまなのだろう。
「バカにされてたものよね、私たちも。これでも、全陸軍から選び抜
かれたエリートなんだけど。見損なわないでもらいたいわ。」
カンナの上に琴音がかがみこんだ。手を伸ばして、カンナの顎をつ
かむ。細い指がくい込んで、痛い。
「焼けているわりに、きれいな肌をしているじゃない。どうせろくなお
手入れもしていないだろうに、素材がいいのね。日に当たっていな
いところは、さぞきれいでしょうね。きっと、なめらかな気持ちのいい
手触りでしょうね。」
「な、なにするつもりだ、てめえら!」
7628:02/05/26 21:16 ID:???
「口の聞き方が間違っているわよ、カンナちゃん。自分の置かれて
いる立場がわかってるの?」
琴音の顔が近づいてきた。そして、相変わらず身体はびくとも動か
ない。
この三人は、いつからこんなに強くなったのだろう?そして、いった
い何をするつもりなのだろうか?
「私たち三人で、あなたが女だってことを思い知らせてあげるわ。よ
けいな抵抗はしない方がいいわよ。」
「お、おい、お前ら・・・!」
琴音は、女にしてやる、と言った。お前が女だと思い知らせてやると
言った・・・その意味するところは・・・?まさか・・・。
ただの変わり者の三人組だとしか思っていなかった。いつもくねく
ね、なよなよしていて、男らしさのかけらもなかった。今の今まで、男
だとも思っていなかった。
その三人に蹂躙されるのか。自らの不覚が招いた結果なのか。あ
れだけ研鑽を重ねたのに、桐島流空手の奥義を究めたつもりだっ
たのに、何の抵抗もできないなんて。
ふいをつかれたからだ。三人がかりでよってたかって、あたい
を・・・。
7728:02/05/26 21:18 ID:???
「さ、三人がかりで、卑怯じゃねえか、放せよ、放しやがれ!」
「これは試合じゃないのよン、カンナちゃん。卑怯ものっていうのは、
道場にしかいないのよン。」
男なんて、簡単にぶちのめせるはずだったのに。今まではそうだっ
た。そこらじゅうの男、何人束でかかってきたって、負けやしなかっ
たのに。
「どんなに体格がよくたって、空手の技が達者だって、しょせんあな
たは女なのよ。それをわかっていなかったのね。」
琴音の手が、頬から首筋に下がってきた。指先が鎖骨のくぼみを弄
ぶ。
「張りのある肌よねえ。」
「やめろ、やめてくれよ・・・」
「往生際が悪いわよ、カンナちゃん。」
琴音の額がカンナの額に押し当てられた。
「筋トレだの修行だのって、汗くさいことばっかりしているのに、やっ
ぱり女の子の匂いがするわ。うふふ。」
抵抗のひとつもできないのなら、せめて醜態だけはさらしたくない。
それなのに。
「震えているのね。可愛い。」
7828:02/05/26 21:20 ID:???
カンナの眼が見開かれた。イヤだ、このままこいつらにいいようにさ
れたくない。でも、どうしたらいいのだろう。
「そんなにこわがりだったとは知らなかったわ。大丈夫よ、心配しな
いで。やさしくしてあげるわ、私はね。」
琴音の両手がカンナの顔を包み込む。
「でもあとのふたりは、どうかしら?保証できないわ、ごめんなさい
ね。」
カンナは固く目をつぶった。
これは何かの間違いで、あたいはきっと変な夢を見ているんだ、き
っとベッドから落ちて窮屈な格好で寝ているんだ、そうに違いない
よ。そして、マリアかアイリスかさくらが、カンナなんていう格好してる
の、ってあきれながら起こしてくれるんだ。そう、そうだよな?早くあ
たいを起こしに来てくれよ、なあ?
しかし、まるで彼女の心を読んだかのように、琴音の声が、カンナを
現実に引きずり戻した。
「夢じゃないわよ、現実逃避しちゃダメ。今あなたを支配しているの
は、私。」
7928:02/05/26 21:22 ID:???
カンナをパニックが襲った。
怖い。誰か、あたいを助けてくれ、イヤだ、怖い、怖い・・・!
こんな恐怖はどこの戦場でも感じたことはなかった。自分の腕力が
全く役に立たない、それはすなわち、桐島カンナという存在の否定で
しかなかった。桐島流第二十八代継承者、誰にも負けない腕っぷ
し、勝てなかったのは親父ただひとり、それがあたいだったのに、い
い気になっていたんだろうか、井の中の蛙だったのか。
「いや・・・だ・・・・」
カンナの眼から涙がこぼれ落ちた。こんなのはイヤだ、助けて、誰
か。お願いだから。あたいを、救っておくれよ、隊長・・・!
「なあに?なんて言ったの?聞こえないわよ。」
琴音がカンナの口元に耳を寄せた。そのまま、首筋に息をふうっ、
と吹きかける。

もう限界だった。カンナの喉から絶叫がふりしぼられた。
8028:02/05/26 21:24 ID:???
「イヤあああああっ、助けてえええええっ!隊長、たいちょおおおおっ!」

次の瞬間、呪縛がふっ、と解け、三人の大声が響き渡った。
「やったわーっ!」「言ったわよっ!」「成功よおおおおおっ!」
斧彦と菊之丞の手が放され、琴音がカンナの手を引っ張って起きあがらせた。
「カンナちゃんっ!やったわねっ!」
そして三人が一度にカンナに抱きついた。
「聞いたわよね?!カンナちゃんが、ついに!本音を叫んだわよ
っ!しかも、女言葉だったわよっ!しかもあの可愛い声!きれいな
涙!もうっ、可愛すぎてチュウしてあげたいわン!」
「琴音さん耳は?耳は大丈夫ですか?」
「大丈夫よ、ちゃんと耳栓をしておいたんだから。でもすごい絶叫だ
ったわね。」
「あたしたちはもう、カンナさんをいつまで押さえておけるかって、も
う、大変でした。」
「そうよねー。アタシも、いつぶんなぐられるかってもう気が気じゃなく
て。ほんっとに力が強いんですもン、カンナちゃんったら〜。」
薔薇組の三人からは、今までの男の顔がきれいに消えて、いつもの
顔に戻っていた。
「あ、あ、あんたたち・・な、何なんだよ、おい・・・・。」
8128:02/05/26 21:26 ID:???
「ごめんなさいね、カンナちゃん、怖い思いさせちゃって。」
「でもこうでもしないと、あなたって本音を出さないと思ったのよお
ーン。」
「やっぱり、カンナさん、とっても可愛いです!乙女です!やっぱり、
あたしたちなんか足元にもおよびません!」
「あなたの中の“女”を呼び覚ましたくて、こんな手荒なことしちゃった
の。どうせ自分は聖母さまなんてできない、大神少尉には釣り合わ
ないんだって悩んでるあなたを見ていられなかったのよ。」
「・・・ってことは・・・」
「お芝居よおーン。アタシたちも、結構やるでしょ?舞台に立てると
思わない?」
「し・・ば・・・い・・・だとおお!?ふざけやがってえええ!」
カンナの正拳づきが琴音の顔面に向かって飛んだ。だが。
琴音はなんなくそれをかわし、それどころか、カンナの右手首をがっ
ちりと捕らえていた。
8228:02/05/26 21:28 ID:???
「くっ!」
右腕は全く動かない。カンナは力を抜いた。
「このへんの実力はお芝居じゃないわよ。怒るのはわかるけど、ちょ
っと話を聞いてちょうだい。いい?カンナちゃん、あなたは女の子な
のよ。別にね、紅おしろいつけて、短いスカートはいてシナ作って男
に媚び売れっていうんじゃないの、それが女らしいことだと思ってる
人もいるけど、そんなんじゃないの。ここに・・・」
琴音の指がカンナの胸をさす。
「ちゃんと、ここに乙女がいるのよ。そうでしょう?照れちゃだめよ。
自分の中の女を大事にしなさい。恥ずかしいことじゃないのよ。大神
少尉が好きなんでしょ?ガラじゃないなんて言わないの。試合放棄
は卑怯なことよ、そうじゃない?」
「試合放棄・・・」
「そうよ、候補にならなかった四人はどう?私たちなんかもう関係な
いって態度してる?違うでしょ?みんな、それぞれにがんばってるで
しょう?さっきのあなたは、その人たちに対して失礼なことしてないっ
て、言える?なんでもおんなじよ、女を磨くのだって、恋だって、修行
と一緒よ。はじめから投げてしまってはいけないわ。」
「修行と同じ・・・。」
「そうですよ!解ってくださいました?」
「うん、なんとなく・・・・」
8328:02/05/26 21:30 ID:???
・・・試合放棄、か・・・そうか・・・どんなに強く見える相手だって、実際
に組み合ってみなければ、実力はわからないもんな・・・。
「うん・・・。そうだよな、試合放棄は、卑怯だよな。候補に選ばれた
んだから、全力でがんばらなきゃ、恥ずかしいよな・・・。」
主役候補だなんて、バカも休み休み言ってくれ、あたいは冗談には
付き合ってられないんだ、と抗議したとき、かえでは、なんと言った
か。冗談でもなんでもない、候補は遊びで選んでいるのではない、
私はあなたがどんな人なのかよく知っている、今までの舞台も知っ
ている、そして、そんなあなただからこそ候補に選んだのだ、と言わ
なかったか。
・・・・ごめん、かえでさん、あたい、間違ってた。
「やっと解ってくれたわね。大丈夫よ、あなたにだって、絶対聖母さま
はやれるわ。じゃあ、次は今日の仕上げといきましょう。斧彦、菊之
丞。」
「はい!」「はあ〜い!」
にっこり笑ったふたりから、差し出されたのは、タオル、石鹸、シャン
プー。
「風呂道具う?」
「そう、これからお風呂に入ってもらうわ。そうそう、忘れるところだっ
た、はい、これも。」
8428:02/05/26 21:33 ID:???
琴音がさしだしたのは、緑色のガラスびんだった。透明の液体と、乳
白色の液体が入っている。
「化粧水と乳液よ。香水なんかいらないけど、お肌があれないよう
に、これくらいのことはしなさい。男の人の指先って案外敏感なのよ。」
肌荒れ・・・指先・・・一瞬きょとんとしたカンナだったが、すぐに真っ
赤になって叫んだ。
「ゆゆゆ、指先って、な、なんの話だよっ!だいたい、こんな甘った
るい匂いの石鹸なんか使えるかよ!すみれやマリアにバカにされちまうよ!」
「あなたが気にするほど、人はあなたのことを気にしたりはしないわ
よっ!こういうことは、あなたを好きな人だけが気づくものなのよ
っ!バカにするわけなんかないでしょう!だいたいね、『女の子はお
花の香りでできている』っていうのよ、あなた、知らないのっ!」
「知るわきゃねえだろそんなことわざ!」
「ことわざじゃないわよっ!口答えすると、お風呂場に乱入するわ
よ、いいのっ!?」
琴音の視線に射すくめられて、カンナは沈黙した。こいつらなら、確
かに風呂場にまで入って来かねない。
8528:02/05/26 21:35 ID:???
「返事がないわよ。ちゃんと化粧水と乳液つけるのよ、わかってるわ
ね!?」
「なんでそんなもんまで・・・」
「つけないって言うの!?そんなこと言うと、私たちが力ずくで塗って
あげるわよ、それでいいのねっ!?」
考えたくもない光景が脳裏に浮かび、カンナはあわてて首を縦に振
った。
「うんうんうん、わわわかった、解ってるよっ!・・・ったくもうこんな布
っきれのふにゃふにゃしてんのじゃ、カラダ洗った気がしねえ
や・・。」
「そ、そんなあ〜、アタシがカンナちゃんのためにせっかく買ってきた
シルクのタオルなのに・・・。」
「ちゃんと使うってんだから泣くこたねえだろおっ!」
8628:02/05/26 21:37 ID:???
三十分後。
憮然とした表情でカンナが風呂場から出てくると、薔薇組の三人は
まだ廊下で「見張って」いた。
「タオルは差し上げますから、これからもずっと使ってくださいね。」
「風呂上がりのカンナちゃんって、なんだか、健康な色気があってい
いわン。チュウしてあげ・・・」
「いーらねえって!」
「カンナちゃん。」
琴音が歩み寄り、カンナの頬に口元をよせた。その瞬間、カンナは
自分でも気づかないうちに、身をひいて、琴音から逃げていた。
「ふふ、よっぽど怖かったのね、ごめんなさい。でも、その、一瞬の
おびえた表情がたまらなく可愛かったわよ。」
「・・・・・・・・・。」
「いい香りがするわよ、女の子の。じゃあ、しっかりね。」
「え?」
「バカねえ、もうすぐ大神少尉の見回りの時間じゃないの。しっかり
自分をアピールしなさい。それじゃ、私たちは行くわよ。」
琴音は軽くウインクすると、斧彦と菊之丞を連れて立ち去っていった。
カンナは、遠ざかる足音に向かって、深々と頭を下げた。
「ありがとよ、三人とも・・・」
ガラスびんを片手に持ち、いつもの癖でタオルを首に引っかけると、
花の香りがかすかに匂った。
8728:02/05/26 21:43 ID:???
今夜の見回りで、大神は自分の部屋を訪れるだろうか?その時、ど
んな顔をして、なにを話そう。この香りに気づくだろうか?
・・・どうだっていいか、あたいは、あたいだ。結果はどう出るかわか
んねえけど、今はみんなに、いや、自分に対して恥ずかしくないよう
に全力をつくす、それしかないんだよな。
「さて、あたいももう引き上げよう・・・あ、いけね、台本あっちに置き
っぱなしだ。」
鍛錬室に戻り、台本をとりあげると、カンナは一度出ていこうとした
が、思い直したように、そのまま座り込んで台本を読み始めた。
階上から、靴音がひとつ、こちらに近づいてきていた。

「どう?どんな雰囲気?」
「鍛錬室で話してるみたいです。なんとかなりそうですね。」
「カンナちゃんも世話が焼けるわよねえン。ほんとに。すこしさくらち
ゃんやすみれちゃんの自信たっぷりなところを見習って欲しいわン。」
「それを言うならマリアさんもよ。手の掛かる乙女が多いところよ
ね〜、帝撃って。みんな可愛い女の子なのに、どうし
て自信がないのかしらね。ところでマリアさんにはこの手は使えないわよ。どうし
たらいいかしら?」
「押し倒したりしたら舌噛んで自決しちゃいそうだわン。」
「もうあまり時間がありませんよ、琴音さん。」
「んもう、誰が選ばれるのかわからないけど、ほんとに、大神少尉っ
て罪な男ねえ〜。乙女たちにこんなに愛されて、私たちに
こんなに心配させて。まあ、そこが彼の魅力というやつかもしれないけれど
ね。まあとにかく、自信のないコが自分から身をひいたりしないよう
にするのが、私たちの目的なんだから、もうひとふんばりよ!さあ、
行くわよ!」
「了解!」
8828:02/05/26 21:45 ID:???
「それにしても、カンナちゃんはほんっとに強いわあ。もう、アタシ、
腕の筋肉がツりそう〜。」
「例の、手首と脚のツボのことを知らなかったら、この作戦は成り立
ちませんでしたね。さすがです、琴音さん。」
「恋する乙女のためなら、多少卑怯な手は使っても問題ないのよ。う
ふふ。バレたら半殺しにされそうね。」
「カンナさんなら、わかってくださいますよ。あたしたちの気持ちは。」
夜の大帝國劇場、三人の靴音が、廊下に響いていった。



                         ――終
8928:02/05/26 21:49 ID:QhXmTc/w
また改行多すぎだ・・・(汗

あんまり反応無かったらチョトサミスィ

何かあったら密かに貼っときます…
みんな!えみりゅんに追い上げられてるぞ!
まだの人はコクリコたんを応援しる!!お願い!!

http://game.2ch.net/test/read.cgi/gal/1021579159/l50
斧彦ちゃん、スレタイトルパクったんだし、コクリコに票入れてあげてw
入れてくれたらチューでもなんでもしてあげるから……。
92太田斧彦:02/05/27 00:02 ID:???
ちゃあ〜んと投票しておいたわよ!
勿論コクリコちゃんにね♪
お裁縫を手伝ってもらったんだけど、上手なのよ〜
あたしが男だったらお嫁さんにしてあげるのにぃ!!

それと、チュウするのはあ・た・しよ!
むちゅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!!

今ちょっと忙しいのよ。
SSはあとでゆっくり読ませてね。
>>92
うぅ、ありがとう!!
また応援してね!
>>91さんもありがとう!!
読んだぞ。薔薇組カコイイナ!
SS続きキボーン!
9728:02/05/28 19:11 ID:???
レスサンクス。(^^ゞ

いいのがあったらまたコピペするyo
そういや前どっかでやってた「サクラロワイヤル」も結構お気に。
アレで琴音好きになったし

とりあえず載せようか迷ってるのが二つあるんだけど…
・丘菊之丞SS「初恋」
・善男善女の夜
・決戦(※オリキャラ&設定)
・MIND MAZE

「初恋」の方は紅蘭と菊之丞メインっぽい。
「善男善女の夜」は大神&サブキャラメイン。
でも薔薇組はかなり脇役・・・

なるべくシリアスなヤシを選んでます。少ないけど。
ギャグなら沢山あるんだけどw

もうすぐ100だねage
98df:02/05/28 19:15 ID:QeygaQvA
-------風俗の総合商社・MTTどこでも-------

〇デリバリーヘルス〇デートクラブ〇女性専用ホストクラブ〇
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------------------------------------------------
99名無しくん、、、好きです。。。:02/05/28 19:16 ID:gx83zqls
おおもりよしはる=ロリペドオタ、アニオタ、モーツアルトオタ、ベートーベンオタ、ブルックナーオタ、セガ信者
ひまわりと幼女のすじまんこに異様な執着心を燃やしているロリペド絵描き
2浪して九州大学歯学科に進むがプロのイラストレーターになるために大学を中退、
同人活動とUOに専念する日々を送るが、その生活は苦しいらしい(藁
自らを画家と呼び、ともすれば不真面目なものと見られかねないアニメ絵
それも、無毛のすじまんこすらも「芸術」の域にまで高めようとしている(らしい)。
心の支えは自分の描いたひまわりの絵らしい(ぷ
マスコミ(西日本新聞)で写真付きで取り上げられたこともあるらしい。
最強のネットゲーUOではIzumoでKanae、SASAWOというキャラを使用。
http://yasai.2ch.net/test/read.cgi/doujin/1021463865/

@さぽーる
http://www.sub-all.com/test/read.cgi/dojin/019473696/
@MEGABBS
http://203.138.109.168/cgi-bin/megabbs/readres.cgi?bo=Baby&vi=1020753024
関連スレ
【すじ】 ようじょのすじ  【すじ】
http://www2.bbspink.com/test/read.cgi/erog/1017041827/
【抱き枕】すじ丸出し抱き枕ってどうよ?
http://mentai.2ch.net/test/read.cgi/otaku/1016198191/
■■■ロリ絵?おおもりよしはる■■■
http://www2.bbspink.com/test/read.cgi/erodoujin/1016297545/
48: 柳さんトコの抱き枕カバーとかって・・・2枚買
http://comic.2ch.net/test/read.cgi/sakura/1019402459/
100!
10128:02/05/28 20:21 ID:???
想いはどこへ行くものですか?
 いつか届くものですか?
 貴方の心に、私はいますか……

「MIND MAZE」

二月十四日。
 それは、乙女達にとって戦争のような日となる。
しかし、そんなに彼は良い男だろうかと訝らずにはいられない。女子高にいる男
の体育教師的存在なのかも知れないが、それを言ったらお終いなのだろう。つ
いでに、この時代にそんな風習があったかどうかも突っ込んではいけないところ
である。
 兎に角、聖ヴァレンタインディという日は、乙女達にとって大切な日なのだ。無
論、乙女に限らず、受け取る男にとっても。
10228:02/05/28 20:23 ID:???
太正十六年二月十四日、午前十時。
 街は、昨夜から降り続く雪に包まれ、幻想的に輝いている。この聖なる日に
は、申し分ない雰囲気である。
 そんな街を、大帝国劇場の自室から静かに見つめる女性の姿があった。懐か
しそうに眼を細め、何かを思い出したかのように、くすりと笑う。
「もう、あれから一年……」
 “思い出した事”……。“懐かしい事”……。少し恥ずかしくもあり、それでも嬉し
くもある。彼はあの日の事を、未だ覚えてくれているだろうか……。
 そう思うだけで、頬が紅潮した。
 「裏切り者」「嫌な女」「大神さんには相応しくない」そう言って泣きじゃくった。そ
っと、優しく囁きながら抱き締められた。あの日の事が、今でも昨日の事のよう
にありありと思い出される。
 赤く染まった頬を白い手で包むと、淡い桜色の唇から息が漏れた。耳元でさら
さらと音を立てる亜麻色の髪も、澄み切った碧の瞳も、あの頃と何も変わってい
ない。変えていないのだ。一年前のあの日の一ヵ月後、つまり、今から十一ヶ月
前、約束したのだ。ずっと待っている、と。そのために、今までずっと変わらずに
いた。
10328:02/05/28 20:26 ID:???
純粋な心を持つ乙女。名を、マリア・タチバナといった。
 帝国歌劇団花組を仕切る指揮者的存在であり、帝国華撃団花組の副隊長ほ
んの一月ほど前までは、隊長代行を務めていた。というのも、彼女らの隊長で
ある大神一郎が巴里へ留学していたからである。ついでといってはなんだが、こ
の大神一郎、実はマリアの恋人だったりもする。
 彼の事は追々話すとして、マリアに話を戻そう。マリアは、帝劇花組の男役の
トップスタァで、男装の麗人と名高い。日露ハーフだが、その外見は日本人のそ
れとは大きく違い、露西亜の血を濃く引いているようである。金髪碧眼の王子様
はいつの時代も少女達の憧れだ。彼女の人気が如何なものかは、容易に想像
がつくだろう。
10428:02/05/28 20:28 ID:???
今日は一日、特にする事はない。舞台もなければ稽古も休み。加えて、副隊
長だからといって何かと押し付けられる――もとい、任される仕事も、昨日の内
に死ぬ気で済ませてしまったのだ。
 それというのも、総てはこの日のため。これから、彼を誘ってどこかに出かけ
よう。子供っぽいかもしれないが、それでも良いじゃないかと何度も自分に言い
聞かせた。先日密かに作っておいたチョコレートも、ちゃんと渡さなくては。今度
は泣いたりなどするものか。笑顔で受け取ってもらいたい。

 そんなわけで、マリアは異常に張り切って部屋を出た。
 その時だった。
「マ〜リアっ!!」
 可愛い声がしたかと思うと、マリアは突然、腕に重みを感じた。去年と同じよう
な。……嫌な予感がした。
10528:02/05/28 20:29 ID:???
「アイリス……。どうかしたの?」
 腕にぶら下がっていたのは、アイリスことイリス・シャトーブリアン。フランス人
形を思わせる、愛らしい少女だ。
 極めて冷静に、平常心を保ってマリアは尋ねた。
「今日はヴァレンタインだよ! ケーキの作り方教えて!!」
「は……?」
 いきなり言われ、マリアは思わず声をあげた。
「もぅ、忘れたの? アイリスにケーキの作り方教えてくれるって、約束したじゃな
い!」
10628:02/05/28 20:32 ID:???
河豚のようにぷくっと頬を膨らますアイリス。そういえば、以前そんな話をした
気がする、と、マリアは頭の中で時間を逆戻ししてみた。

――マリア、帰ってきたら、今度……ケーキの作り方教えて!
――ええ。良いわよ

 マリアは頷いた。確かにそう言ったのだ。それはしっかり覚えている。
 あの時は、いずれアイリスもお嫁に行くかもしれないのだし、料理くらい覚えて
おいた方が良いと思った。今からそんな事をと思われるかもしれないが、アイリ
スの十三には思えない子供っぽさをやたらと心配した司令官の米田一基に頼ま
れた事もあり、自分も気にかけていたつもりだ。
 それにしたって、これはいささか急過ぎはしないか。本人ですらすっかり忘れて
いるものだと思っていた。
 何故なら……
「それって、私が巴里へ行く前の話じゃない……!!」
 その後、色々な事があったのだ。マリア達が特別コーチとして巴里へ。それか
ら、いつもの芝居とその稽古、戦闘訓練、さらに光武の改良やら修理やらを手
伝わされ、雑務に追われ、とか何とかやっている内にクリスマス公演。ラチェット
の件、ダグラス・スチュワート社との戦闘、事後処理に『海神別荘』。劇中でもゴ
タゴタがあったし、その後何故だか薔薇組を再び受け入れる事になり、また何
かと忙しくなった。
 そんなわけで、もうすっかり無効になったものだとばかり思っていた。
10728:02/05/28 20:33 ID:???
「でも、約束だもん」
「アイリス、今日はちょっと……」
「ダメ! ヴァレンタインは今日だもん。今日じゃなきゃダメだよぉ!!」
 マリアは溜息をついた。遠い嫁入りの日云々の話ではない。もはや、こうなっ
たアイリスは手がつけられないのだ。
「解ったわ……」
 早めに終わらせて、夕方からでも彼を誘おう。そう考えながら、それすら無理
になるであろう事はこの時点で既に解っていた。殆ど、諦めた。
「一時間くらいしたら、厨房に来てくれる?」
 溜息交じりのマリアの言葉に、アイリスは嬉しそうに首を振って去って行った。
「私にプライベートな時間は存在しないのかしら……」
 マリアは、壁に手をついてうなだれた。
10828:02/05/28 20:36 ID:???
「どうかしたんですか、マリアさん?」
 顔に縦線の入ったようなマリアに声をかけてきたのは、紅袴を穿いた、黒髪の
日本美人。真宮寺さくら。
「別に……。それより、さくらはどうしたの?」
「ふふふ。今日はヴァレンタインですよ、マリアさん」
 さくらは不敵な笑みを浮かべた。
「女の子には特別な日じゃないですか。好いた殿方に想いを告白する大事な日
ですよ。と、言うわけで、私も大神さんに再度アタックする事にしたんです。去年
はマフラーでしたけど、今年は念願のセーターを編んでみたんです!」
「でも、去年は確か、サイズが解らないって……」
「大神さんが帰ってきて、何日経つと思ってるんですか?」
「へ……?」
 マリアは目を丸くした。
 つまり、大神に直接サイズを取らせてもらったということか……?
 そんな話、聞いてない。いくら彼でも、その理由くらい解る筈だろう。さくらの気
持ちも察している筈だ。それなのに、一言も話してくれないだなんて……。勿論、
何でも話さなければならないというわけではないけれど、それにしたって。
10928:02/05/28 20:38 ID:???
「今年は負けませんからね、マリアさん」
 自身アリアリな笑みを残し、さくらは何処かへ行ってしまった。
 去年、彼女は確か大神に真っ向から告白して振られたのではなかった
か……? 強いというか、しぶといというか、侮り難いというか……。確かに、諦
めないとは言っていた気がするが。
「うぅん……」
 それにしても、さくらの事を話してもらえていなかったことを思うと、もしかして望
みがないのは自分の方なのではないか?
 マリアは再び溜息をついた。

「何を“反省”なさってますの……?」
 壁に手をついていたマリアに次に声をかけたのは、大胆に胸元が開いている
すみれ色の着物を着た、気の強そうな女性、神崎すみれ。
11028:02/05/28 20:40 ID:???
「昔流行りましたわよね。反省猿」
「む……昔……?」
 日光猿軍団の、と尋ねたかったが、やめた。昔って、いつの昔だ、と言いたくも
なったが、それもやめた。
「別に……。それより、すみれはどうしたの?」
「こ、これから少し出かけますの……」
 すみれはいきなりどもった。
「それは、去年と同じ用事なの……?」
 マリアに問われ、びくりと震えながら、何のことですの、としらばっくれようと
していた。
 しかし、じっとマリアに見つめられ、
「流石マリアさんですわ……」
 と、負けを認めた。
「よくお解りですわね。だって、今日はヴァレンタインですのよ……? わたくしだ
って、中尉に手作りのチョコレートを贈りたいと思いますわよ」
 頬を赤らめながらうつむくすみれ。可愛い。マリアはふと笑みをこぼした。
「やっぱり……去年もすみれの手作りだったのね」
 “一流シェフ”のどうのという話だったが、つまり、一流シェフに教えられて作っ
たものだったというわけだ。
11128:02/05/28 20:41 ID:???
「へ……えっとぉ……そ、それではマリアさん、ごめんあそばせ!」
 それだけ言い残し、すみれはダッシュで帝劇を飛び出した。
 一応、隠していたのだった。
「……今年も隊長の受難は続くのね……」
 マリアは苦笑した。
 マリアだけは知っている。彼は、すみれから受け取ったチョコレートを食べて数
日、腹の具合が良くなかった事を……。
「頑張って下さい、隊長!」
 思わず両手を握り締めたマリアであった。
11228:02/05/28 20:44 ID:???
午前十時三十分。
 マリアは、階段を下りた。すると、向こうから事務の榊原由里が走って来た。
「由里……。どうしたの?」
「どうしたの……って、今日はヴァレンタインなんですよ。マリアさん、大神さんに
何かあげるんですか?」
「それは貴方には関係ないでしょう」
 呆れたように、マリアは冷たく言い放った。
「ふぅん。怪しいなぁ。まぁ、そんな事より、マリアさんにもいっぱい届いてますよ、
チョコレート」
 嬉しそうに由里は言った。
「年々増えてますよ。今年一番多かったのは、カンナさんですね。でも、カンナさ
んには子供からのチョコレートが多いみたいで、値段と手作りの数では、マリア
さんが断然トップだと私は予想してるんです。その次はレニさんで、それから紅
蘭と続いてますよ」
「はいはい。そんなダービー、どうでも良いわ」
「もう、マリアさん。この話には未だ続きがあるんですよ。実は、質でも数でも、
カンナさんにもマリアさんにも劣らない人が一人いるんです。誰だと思います?」
 問われて、マリアは首をかしげた。ヴァレンタインといっても男性が女性に贈る
パターンも少なくはない。だから、すみれかと思ったが、そういえば、毎年その類
の贈り物は言うほど多くない。俄然女性からの方が多いのだ。
「解りませんか? 降参ですか?」
 嬉々とする由里に向かって、マリアは両手をひらひらさせた。降参だ、と。

「そ・れ・は……実は、大神さんなんですよ!」
11328:02/05/28 20:46 ID:???
「……隊長が……?」
 隊長、だが、もぎりだ。もぎりの青年が役者より人気がある、と……?
「そう。そういう事もあるのね」
 マリアは納得したように頷いた。
「そうなんです。大神さん、意外と人気あるんですよ。結構可愛い子からも来てま
すし、届いているの以外にも舞台の前後に直接受け取ったりもしてるみたいで」
「そ……そう……」
 マリアは、無理矢理笑顔を作った。
 さくらの事もそうだったが、そんな話聞いた事もない。どうして、彼は話してくれ
ないのだろうか。不都合があると思ったから? 知っても意味はないと思ったか
ら? それとも、気を使ってのこと……? 話す程の事でもないと思ったからだろうか。
 どんな理由にせよ、精神的な衝撃は大きかった。そんな自分の気持ちに、自
分の独占欲の強さを感じ、更に絶望した。
「マ〜リ〜ア〜さ〜〜ん!」
「……えっ!?」
 耳元で大声で呼ばれ、マリアはやっと正気に戻った。
「どしたんですか? トリップしてましたね?」
「そんな事はないけど……」
「そうですか? それなら良いんですけど。大神さん、巴里から帰ってきて、ます
ます恰好良くなりましたよね。人気があるのも解る気がします。さくらさん達もや
る気みたいですし、紅蘭だって“発明が恋人”みたいな事やっていながら、密か
に計画立ててるみたいだし。あぁあ、私、見込みないかなぁ……」
 由里は、大袈裟に肩をすくめて溜息をついて見せた。
「さぁね」
11428:02/05/28 20:47 ID:???
素っ気無く答えてはみたが、内心は冷静ではいられない。さくらが本気なのは
解っている。アイリスは……兎も角、すみれも狙っているクチらしい。
紅蘭も影ではそういう事らしいし、この様子では由里もそうだろう。
その上、帝劇に来る観客の中にも大神を狙っている女性がいるとは……!

「……どうしたんだい?」
 突然後ろから肩を叩かれて、マリアはびくりとした。
「た……隊長……!?」
 突如現れたのは、件の人、大神一郎だった。

 先程保留にしておいた説明をすると、彼は帝国華撃団花組の隊長である。
加えて、マリアの恋人……らしいが、それすら怪しい(とマリアが思っている)
のは先の通りである。
 決して、色恋事に対して鋭い方ではない。寧ろ、鈍い人間の部類に入るだろう。
この鈍さを痛覚で例えると、象に踏まれても痛みを感じない。若しくは、
腐った物を食べても腹を壊さない。
 ……言い過ぎではない。多分。
11528:02/05/28 20:49 ID:???
「大神さん! 探したんですよ!!」
「あ、大神さん。ちょうど良かった」
 二人の声が重なった。由里と同じく事務の藤井かすみと、売店の高村椿がや
ってきたのだ。
「どうしたんだい、二人共?」
「さっき、ファンの人が大神さんに渡してくれって、これ……」
「さっき、巴里から荷物が届いたんです。これです」
 椿は一つ、かすみは三つ、小包を大神に手渡した。
「有難う。今度は誰だろう……」
「今度は……とは……?」
「うん。仏蘭西にいた頃、みんなに日本ではバレンタインにチョコレートを贈る風
習があるって話したら、送ってきてくれたんだ。一昨日、コクリコと花火君とシー
君からから届いた」
 それというのはつまり、彼女らも大神を……という事か。
「ファンの方からももらえるなんて、大神さん、人気ありますね」
 椿が言った。かすみといい椿といい、何処か顔が引き攣っているように見えな
くも無いが、気にしすぎなだけだろうか? どうも頬の辺りがヒクヒクしているよう
なのだが。
「えぇっと、こっちはグリシーヌで、こっちはロベリア……毒入ってないだろうな。
それから……メル君もか」
 大神は気にせず送り主の名を見た。
「……エリカからは遅れて届くでしょうね……」
 マリアは、内心溜息をつきながら言った。
「そそっかしいからね」
 マリアの嫌味も解らず、大神はくすりと笑った。
11628:02/05/28 20:51 ID:???
「それにしても、みんな律儀だなぁ。こんなにして贈ってくれるなんて。義理チョ
コ」
「ぎ……義理……?」
「……だろう?」
 きょとんとする大神。マリアはこめかみを抑えた。
 義理チョコでここまでするとは思えないのだが……。花火は兎も角、ロベリアと
グリシーヌ。
「違うのか……?」
「さ……さぁ。本人達に確認してみたらいかがですか……?」
 殺されると思いますけど。
「そうしようかな……」
 ビタン。
「って、大丈夫か、マリア!? 何もないところでいきなり転ぶなんて、マリアらし
くもない! どうしたんだ!?」
「いえ……」
 マリアは顔面着地したために赤くなった鼻をなでながら起き上がった。
「私は約束がありますので、これで……」
「あぁ、それじゃ」
 にこやかに手を振る大神の視線を背後に感じながら、マリアは巴里花組を哀
れむのであった。
11728:02/05/28 20:53 ID:???
午前十一時少し前。
 アイリスにケーキの作り方を教えるのだから、先に準備をしておかなくては、
と、マリアは厨房にやってきた。
「ん……? チョコレート……?」
 厨房には、チョコレートの匂いが充満していた。
 そこで、鼻歌交じりにるんるん気分でチョコレートを作っていたのは、大和撫子
的黒髪の美少女――ではなくて、美青年。丘菊之丞。
「菊之丞さん……?」
「へ? あ、マ、マリアさんっ!!」
 菊之丞は慌てて調理台から飛び退き、エプロンで顔を隠した。嫌な虫――具
体的に何かとは言わない――でも出たような反応だ。それにしても……可愛
い。女のマリアから見ても、そう思えるような可愛さだ。というか、自分よりフリ
ルのエプロンが似合うのがなんとなく空しく思えた。
11828:02/05/28 20:54 ID:???
「チョコレート、作ってたんですね……」
「あの……だって、ヴァレンタインですもの。大神さんにチョコレートを渡したく
て。それで……」
 頬を真っ赤にして、口の中でもごもごと呟く菊之丞が、また可愛く思えた。
「そうなんですか。菊之丞さん、料理お上手ですね……」
 お世辞抜きで、何処か普通のケーキ屋なんかで売っていそうな綺麗なチョコレ
ートだった。
「そ……そんな事ありません。ただ、お料理は好きですから、その……」
 あぁ、もう。どうして彼はこう、普通の女の子よりも可愛いのだろう。
「大神さんに、是非手作りのを食べてもらいたいじゃないですか。例え、望みが
なくても」
「隊長は……人の気持ちを無下にはしない方ですよ」
「私にも、望みはあるでしょうか……?」
「それは解りませんけど……でも、きっと気持ちは通じます」
「きっと?」
「えぇ……いえ、多分……」
「多分?」
「その……恐らく……」
 隊長の鈍さは神がかり的なものがありますから……。
 マリアは脂汗を浮かべていた。
11928:02/05/28 20:57 ID:???
「ところで、マリアさんもチョコレートを?」
「私は、アイリスにケーキの作り方を教えるんです。約束していたみたいなので」
 まるで人事のようである。
「アイリスちゃんですか。彼女も本気ですよね。もう、十三ですものねぇ。よぉし、
あたしも頑張るわよ〜」
 菊之丞は元気一杯に拳を振り上げると、冷蔵庫にチョコレートをしまって、スキ
ップしながら出て行った。
「なんか最後の方、歌謡ショウ化してたような気が……」

 そういう事は気にせず、マリアは篩いやボール、材料を準備し始めた。
「あら〜、マリアちゃん!」
 そこへやってきたのは、内股で歩く巨体のオカマ。太田斧彦だった。
「さっき菊ちゃんがノリノリでスキップしてたけど、マリアちゃんがいたからな
の?」
「はい……? いえ、違うと思いますよ。さっきまで、大神隊長に渡すためにチョコ
レート作ってましたから。それに、私がいて、どうして喜ぶんですか?」
 マリアはくすりと笑った。
「あらぁ、私達の間で、マリアちゃんは人気者なのよ」
「私達って……薔薇組……ですか……?」
 いきなりの事に、マリアは頬を染めた。
「そうよぉ。凛々しくってカッコ良くって、菊ちゃんは密かにマリアちゃんのファ
ンなのよ」
「……あぁ、成程。有難うございます……というべきなんでしょうね」
12028:02/05/28 20:59 ID:???
「でも、貴方は一郎ちゃんの恋人ですものね」
「え?」
「大丈夫。ちゃぁんと知ってるのよぉ。だから、私達はライバルね。マリアちゃん
には負けないわよ〜」
 それだけ言うと、斧彦は去って行った。いったい、何の目的で来たのだろうか。
 怒涛のように現れ、怒涛のように去って行った。

 ということは、次は琴音が現れるのだろうか!?
 マリアは意味もなく身構え、準備を続けた。
「マ〜リア!」
 しかし、マリアの予想は良い意味で外れた。マリアの耳に飛び込んで来たの
は、少々しゃがれた男の声ではなく、高い少女の声だった。振り返ってこれで琴
音や菊之丞がいたら嫌だなと思いつつ振り返ると、そこにいたのはアイリスだっ
たので安心した。
「さぁ、ケーキを作りましょうか」
 アイリスは、嬉しそうに頷くと、いつものフリフリのエプロンをつけた。
 マリアも、例のボルシチの時のエプロンを……と思ったのだが、ふと脳裏をよ
ぎったのは、先程の菊之丞の姿だった。
 悲しいかな、彼の方がよく似合う(と、マリアは思った)。そんなわけで、マリ
アは何の装飾もない、シンプルな藍のエプロンを身につけた。
12128:02/05/28 21:00 ID:???
午後十二時三十分。
 焼きあがったケーキを見て、アイリスは満面の笑みを浮かべた。
「初めてにしては、上出来でしょう。アイリス、上手になったわね」
 マリアに頭をなでられて、アイリスは得意顔になる。ホントに十三かと思うよう
なあどけない笑顔である。
「暫く冷ましておきましょう。冷めたら、隊長を呼んでいらっしゃい」
「うん!」
 アイリスは首を縦に振り、エプロンをつけたまま厨房を飛び出した。

「つ……疲れた……」
 なんだか、よく解らないが黒乃巣会や黒鬼会やダグラス・スチュワート社との
戦いより疲れた気がする。まだ、一日の半分しか終わっていないというのに。
 アイリスの純真さにあてられたのかも知れない。それ以上に、その純真ささえ
恋愛感情と結び付けて考えはしないであろう大神の鈍さを思うと、疲れがどっと
増してくる。
 決して、彼女らの大神への想いを心の底から応援する事は出来ないが、それ
にしたって、大神のボケっぷりは大したものだ、と、さっきの巴里花の件で思っ
た。
12228:02/05/28 21:02 ID:???
疲れ果て、調理台に突っ伏したマリアに次に声をかけてきたのは、情熱的な
真っ赤なドレスと着た、褐色の肌に長い黒髪を携えた少女。ソレッタ・織姫。
「どうしたですか、マリアさん?」
「え? あぁ、織姫……。別に、なんでもないわ」
「そうですか。ところで、それ、中尉さんにあげるですか〜?」
 織姫は疑い深げにふんふんと頷きながら、台の上においてあるケーキを指した。
「そうだけど……アイリスが作ったのよ」
「アイリスが!? マリアさんじゃないですか〜? へぇ……アイリスもやるもんで
すね〜」
「そうでしょう」
 マリアは、嬉しそうに笑った。アイリスが、確実に料理の腕を挙げている証拠
だ。明らかに、去年より上手い。
「ところで、そっちはなんですか〜?」
 次に織姫が指したのは、アイリスのケーキの脇に置かれた五つの小さな包み
を指した。見たところによると、これはアイリスが作ったものではないようだ。
「これは……私が作ったクッキーだけど、別に大神隊長にあげるわけじゃないわ
よ。加山隊長達に、日頃のお礼にと思ってね」
12328:02/05/28 21:03 ID:???
「って事は、中尉さんには別のものを用意してるって事ですか〜?」
「えっ!? あ、それは……」
 墓穴を掘ってしまった。
「成程です。マリアさんも……」
 と、その時。
「やぁ、マリアに織姫君」
 そこに、都合よく大神が現れた。
「あぁ、中尉さん。探したです。コレ、差し上げま〜す!」
 織姫は大神に何か包みを渡した。
「俺に?」
「そうで〜す」
 頬を染めて、織姫は言った。
「コレでも、私は本気ですよ〜。マリアさんにも誰にも、負けるつもりはありまっ
せ〜ん。中尉さん、覚悟するで〜す!」
「織姫君……」
「そ、それじゃ、私はコレで失礼しま〜す。チャオ!」
 自信満々に言い切った割には、その直後に顔を耳まで真っ赤にして、織姫は
慌てて出て行った。
 あまりにその仕草がらしくなく、あまりにその仕草が可愛らしくて、マリアは
微笑みながら、胸に一年前と同じ痛みを感じていた。
(織姫……)
 彼女も、大神の事を想っているのだ。本気で。しかも、今、この場で告白して
……。
 あぁ、隊長はどう想っているのだろう……
12428:02/05/28 21:05 ID:???
「……何の勝負をしているんだい?」
 ゴン、と鈍い音を立てて、マリアは額を調理台に打ち付けた。
「は……はい……?」
「勝負……なんだろ……? 俺も参加してる事になっているのかい? イマイチ覚
えが無いんだけど……」
 マリアは額を抑えて震えた。
「今……貴方は何を受け取ったんですか……?」
「なんだろ。開けてみるよ」
 本気で解らない様子で箱を開く大神。当然、中を見なくても解るが、大神が開
いた箱の中にあったのは美味しそうなチョコレートであった。
「チョコ……?」
「でしょうね。で、今日は何の日か知っていますか?」
「……ヴァレンタイン……だっけ……?」
「その通り。で、“ヴァレンタイン”に、“チョコレート”をもらう事の意味という
と……?」
「……………………」
 マリアは溜息をついた。
 大神の脳天からは、黒い煙がぶすぶすと上がっている。ショート寸前だ。
「もう、良いです……」
 巴里に行く前、彼はこんなに鈍い男だっただろうかと首を捻りたくなる。しか
し、これ以上言うのは野暮というものだ。本人の口から出なくては。
 マリアは先程打ち付けた額を抑えていた手を離した。すると、そこにはべった
りと赤い血が付着していた。
「マリア……血が……!」
「あ、本当……。医務室に行ってきます」
12528:02/05/28 21:07 ID:???
マリアは額にハンカチを充てて大神に一礼すると、そそくさとその場を後にし
た。
 マリアの速やかな行動に、大神は何も言うことが出来なかった。

 今更このくらいの傷、どうという事は無い。かなり強く頭を打ったから、怪我を
しても無理は無いが。
「それにしても、隊長ってホントにこんなに鈍かったかしら……」
 などとぼやいていると、疾風のごとく真横を通り過ぎていった人影。振り返る
と、長いお下げとチャイナ服。それが厨房に駆け込んでいったかと思うと、ほん
の数秒程で飛び出してきた。
「紅蘭……?」
 関西弁を操る中国娘、李紅蘭。
「はぁ、はぁ……マ……マリアはん……」
 肩で息をしながらも、紅蘭はニコニコしていた。
「どうしたの?」
「はぁ。うち、やっぱり今年もがんばろ思て、うちらしく発明で告白する事にした
んや。うち、意外と口下手やし……」
 チュドン!!
 彼方から響いたお約束の爆発音。
「……どないしたんやろ……」
 紅蘭は、脂汗をかいていた。
「隊長も医務室に来そうね……」
 予想通りの展開にマリアは肩をすくめ、すたすたと去って行った。だらだらと汗
をかきながら、焦げたにおいと粉塵の舞う遠くの方を見詰める紅蘭を置いて。
12628:02/05/28 21:09 ID:???
「ん? どうした、マリア?」
 医務室に行くと、人が二人いた。片方はマリア以上の長身で、赤毛の快活そう
な女性。マリアの親友、桐島カンナ。それに、銀色の髪を持つ、物静かな少女、
レニ・ミルヒシュトラーセ。
「さっき、頭を打ってしまって……」
 マリアは額に充てていたハンカチをとった。
「座って。手当てするから」
 レニは、椅子を指した。
「カンナは、どうしたの?」
「さっき、レニとちょっと鍛錬してたら、怪我しちまってさ。レニに手当てしても
らってんだよ」
 そういいながら、カンナは包帯を巻いた腕を示した。
「レニがカンナと鍛錬なんて、珍しいわね」
「たまには良い経験になると思った。でも、カンナの攻撃をよけたら、カンナは勢
い余って壁をぶち破って……」
「それで、コレなのね……」
 呆れてしまった。
「マリアこそ、なんだってそんなとこ怪我したんだ?」
 マリアの反応にむっとしながら、カンナが尋ねると、マリアは俯き加減に今まで
の事を話した。
12728:02/05/28 21:10 ID:???
「……と、言うわけで、なかなか大神隊長が鈍くてね。もしかしたら、私の気持ち
すら……」
 言いかけて、マリアはそれ以上言葉を継ぐ事が出来なかった。
 口に出して初めて、自分の不安が解った。女の子の気持ちをまるで理解して
いないというのもあるけれど、もしかすると、自分の気持ちすら解ってくれていな
いのではないか。それが、何よりも気になっていたのだ。
 こんな事を話せるのは、この二人だけだ。彼女達は、自分と大神の関係を知
っている……。
 そう思い、マリアは顔をあげた。
「……ふぅん。でもさ、隊長が鈍いのは今に始まった事じゃないだろ?」
「それは……そうだけど、巴里から帰ってきて、輪をかけて酷くなったような気が
するのよね」
「マリアの事を、想ってくれていないかも知れない……と……?」
「かも、知れないわね」
 レニの鋭い指摘に、マリアは苦笑した。
「私は、隊長が幸せなら、それで良い。誰を想っていようと、誰を選ぼうと……。
でも、気になるわ。私の事をどう想っているかは……」
「隊長が幸せなら……か……。そういえば、去年もそんな事言ってたっけな」
「ええ。まぁ」
「でも……さぁ。あたい、そんな話聞いてても全っ然面白くねぇんだけど……?」
「え……? あぁ、そうよね。ごめんなさい。こんな、個人的な話……」
「いや、そうじゃなくてさ。隊長の事がどうのっていわれても……。勘の良いマリ
アの事だから、あたいが隊長の事なんとも想ってないなんて、本気で思ってるわ
けじゃないんだろ……?」
12828:02/05/28 21:12 ID:???
「……え……?」
 冷たい目でマリアを突き放し、カンナはレニに短く礼を言って医務室を出て行
った。
「カン……ナ……?」
 カンナの後姿を追うマリア。彼女の額に包帯を巻きながら、その顔をじっと見
詰め、レニは呟いた。
「マリア……本当にそう思う? 隊長が幸せなら、誰を選んでも……って」
 レニの瞳も、いつも以上に真剣だった。どういう意味だろう? だが、正直に答
えた。頷くという形で。
「そう。じゃぁ……僕も本気になるから……」
 マリアの額の包帯を留めると、それだけを言い残し、レニもカンナ同様、行っ
てしまった。
「……レニ……」

 つくねんとたった一人取り残されたマリアは、何がなんだか、解らなかった。
 解るのは、花組(全員)と風組(多分全員)と薔薇組(恐らく全員)がライバル
だという事。
 どうすれば良いのか、解らない。
 マリアはふらふらと医務室を出た。
12928:02/05/28 21:13 ID:???
「……マリアさん……?」
 階段を上り、二階までやってくると、後ろから、少し距離を持って男の声が飛ん
で来た。今度は誰だと思いつつ振り返ると、髪をオールバックにしてギターを抱
えた男が立っていた。帝国華撃団月組隊長・加山雄一。
「加山隊長……」
 加山は、マリアの傍に駆け寄った。
「どうしたんだ、これ……? もしかして、未だ治ってなかったのか!?」
 マリアはびくりと震えた。加山の手が突然自分の方へ伸びてきたからだ。加山
はマリアの金色の前髪を掻き揚げ、先程レニに巻いてもらったばかりの包帯
に触れた。
「俺の手当ての仕方が拙くて、また傷が開いたとか……?」
 マリアは首を横に振った。
 最初はよく解らなかったが、加山は前回の戦いで負傷したマリアの手当てをし
てくれたのだ。その事を言っているのだろう。
「いいえ。その節はお世話になりました。これはその……そうではなくて……」
 マリアはどう言って良いものか解らず、考えた末に、
「ヴァレンタインだから」
 と答えた。
「それって……大神が原因って事か……」
 加山の鋭い判断に、マリアは肩をすくめてふふと笑った。
「あいつは、何処までも果てしなく鈍い男だからなぁ……。はっきりと“好き”とか
“惚れた”とかいう言葉を出さないと理解出来ない奴だし」
13028:02/05/28 21:15 ID:???
「……流石、よく解っていらっしゃいますね。私もそうですけどそれは兎も角……
他の娘の気持ちをどう受け止めているのか。沢山チョコレートをもらっているみ
たいですけど、どうやら総て義理だと思っているみたいで」
「成程。奴らしい……」
 そういうと、手すりから体を乗り出したマリアを真似て、加山も二階の手すりに
体をかけた。
「あぁ、そうだ。加山隊長。日頃のお礼にと思いまして、クッキーを作ったんで
す。持って来れば良かった。厨房の調理台に置いてあるんですけど……」
「そうか。それじゃ、あとで取りに行こう」
「そうしていただけると嬉しいです。加山隊長は、イマイチ所在が掴み辛いので」
「仕事上、いつでも居場所を明かしているわけには行かないからな……。それ
に、神出鬼没は俺の得意技だ」
「そうですね。まぁ、その……かえでさんからもいただいているでしょうから、要ら
ないかも知れませんけど」
13128:02/05/28 21:17 ID:???
しかし、その言葉はどうやら口にしてはいけなかったらしい。かえでの名前を
出したとたん、加山の顔色が変わったのだ。加山を取り巻く空気も、張り詰めて
ぴりりとしている。
「……どうか、したんですか……?」
 マリアは、加山の横顔を見詰めた。眉や眼がつりあがり、階下をじっと睨みつ
けている。マリアがそちらに視線を移すと、かえでが大神と階段を上ってくるとこ
ろだった。
「隊長……」
 下の二人もこちらに気付いた。マリアと加山という珍しい二人組が気になるの
か、大神は訝しげ眉を寄せ、かえでは作戦時より厳しい眼でマリア達を見上げ
ていた。いや、マリア達ではなく加山を……。
 加山とかえでの間では、見えない火花が散っているようだった。
13228:02/05/28 21:19 ID:???
「加山隊長……かえでさん……?」
 きょとんとしたマリアが二人の顔を交互に見比べていると、かえでは突然、大
神の腕を取り、自分の腕を絡めた。
「なっ……かえでさんっ!?」
「どうしたの、マリア?」
 見上げるかえでは、得意そうに唇の両端を吊り上げた。
「か……かえでさん……」
 戸惑う大神の腕を更に強く抱え、
「良いじゃない、今は仕事とか関係なく、プライベートな時間なんだから」
『そ、そういう事ではなくて……』
 大神とマリアの声が重なった。かえでは、大神君が言うのは兎も角……と、マ
リアを見上げた。
「どうしてマリアがそんなにうろたえてるの?」
「どうしてって、それは……」
 解っているくせに……などと口に出す事も出来ず、マリアはどもっていた。
「そんなにおかしい事? 私が大神君を好きだっていうのは……」
「え……?」
 驚いたのは、マリアだけではなく、大神もだった。そんな話は、聞いた事がな
い。大神は、彼女は加山と良い仲なのだとばかり思っていた。
「……行こう、マリアさん……」
 マリアと大神が目を白黒させていると(マリアの目が白黒するのかどうかは別
として)、今度は加山がマリアの肩を抱き、何処かへ行こうとした。
13328:02/05/28 21:20 ID:???
「困ります、加山隊長……」
「ど、どういうつもりだ、加山……!!」
 大神は声を張り上げたが、加山は涼しい顔をして、
「どういうもこういうも……マリアさんの惚れるのは、何もお前だけじゃないって
事さ」
 などという捨て台詞を残し、行ってしまった。抵抗する事も出来ず、何がなんだ
か解らない内にマリアはテラスに連れてこられていた。

「……かえでさんと喧嘩でもしたんですか……?」
「うぅむ……。流石マリアさん。しっかり痛い所を突いて来てくれるな……」
 加山は腕を組んでうんうんと頷いた。
「あんなあからさまで不自然な態度、誰だって解ります。……大神隊長以外は……」
「あぁ、恐らく大神は解っていないだろうな。でも、別に喧嘩というわけでもな
い……と思うんだが……」
「じゃぁ、なんなんです?」
「……というか、今回は俺は悪くない……」
「……では、かえでさんが悪いと……?」
「いや、それも違う。つまり、悪いのは大神と……」
 マリアさん自身。
 という言葉は、口に出す前に飲み込んだ。
「どういう事ですか……?」
「まぁ、その内解るだろう。今はあまり気にしないでくれ」
「気になります」
「それは尤もだが、本当に気にしないでくれ。あとでクッキーは取りに行くから。
それじゃ、アディオ〜ス!!」
 加山は大事なところを有耶無耶にしたまま、いつもどおり消えてしまった。
13428:02/05/28 21:21 ID:???
「……毎回思ってたんだけど、アディオスって二度と逢わないような別れの時に
使う言葉じゃ……」

 よく解らないが、マリアも雪の積もる寒いテラスから廊下に入った。
 本当は、もう今日は誰とも逢いたくないため、自室に戻りたいところなのだが、
そこまで歩く元気もなく、マリアはサロンのテーブルに突っ伏した。
 本当に、今日ほど疲れた事はない。きっと今までで最も長い一日だ。
「はぁ……」
 確か、今日は米田中将は何処かへ出かけた筈だから、あとこの帝劇内で逢っ
ていないのは……琴音だけだ。全く、最後の最後に濃いのが残ったものだ。今
まで逢った人ともまた逢うかも知れないが、此処まできたら全員に逢いそうな気
がする。こんな時に彼に逢えば、再起不能に成る程疲れるのは目に見えている。
 ……さっさと此処を離れて部屋に戻らなくては。
 そう、思っていた、その時。
13528:02/05/28 21:23 ID:???
「此処……良いですか……?」
 はっとして、マリアは顔を上げた。思いもよらぬ展開だ。以外や以外、声をか
けてきたのは菊之丞だった。
「き……菊之丞さん……」
 菊之丞は一礼して、マリアの隣の席にちょこんと腰を下ろした。
「あの……琴音さんじゃなくて、残念ですけど……」
「いえ……今日は清流院隊長以外の全員と帝劇内で遭遇しているので、もしや
と思いましたけど……ある意味こっちの方が……」
 二人は、目を合わせて笑い合った。
「大分お疲れのようですね……」
「まぁ……色々と……」
 一番安心したのは、菊之丞の性格がさっきと違う事だろうか。
「それにしても……どうしてそんなに疲れているんですか? 私はてっきり、そ
の……大神さんを連れ……あ、あの……だから……大神さんとデート……と、
思ったんですけど……」
「……何かと忙しくて……」
「そうですか。なんだか……怪我までされて、どうしたのかと……」
 マリアの額に巻かれた包帯を見留め、菊之丞は心配そうに呟いた。
13628:02/05/28 21:24 ID:???
「あぁ、これは、隊長が……」
 マリアは、此処で言葉を止めた。彼に話すべき事ではない。カンナとレニの件
もある。しかし、
「大神さんが……?」
「いいえ、別に、なんでもないんです……」
「あの……もしかして、私達の所為だったりしますか……? 私達が……そ
の……」
「何か心当たりでも……?」
「そうじゃないんですけど……あの……だって……」
 途切れ途切れに言う菊之丞。彼を見ていると、まるで話さない自分の方が悪
いように思えてきてしまう。
 マリアは苦笑して、口を開いた。
「だから……その、なんと言うか……隊長が余りに鈍くて、そのとぼけた反応に
思わず頭をぶつけてしまったんですよ……」
「思わず……ですか。でも、大神さんは以前から少し鈍かったような気がするん
ですけど……」
「それは、そうなんですけど、最近……巴里から帰ってきてから、更に酷くなって
いるんです……」
13728:02/05/28 21:25 ID:???
マリアは、この一日の事を一部始終菊之丞に話して聞かせた。疲れが、彼女
を普段では考えられないほど饒舌にしていた。それに、菊之丞自身も優しい瞳
で頷きながら、マリアの言葉を総て受け止めていた。思いの外話し易く、マリア
は必要ない事まで話してしまった。
「……っと、御免なさい。こんな話……菊之丞さん、聞きたくありませんよ
ね……」
 マリアは、先程のレニとカンナとの一件を思い出した。いつも笑って聞いている
カンナが、突然見せた鋭い眼――。
「いえ。あの……斧彦さんから聞きませんでしたか……?」
「何を……ですか……?」
「私、その……マリアさんの……」
 俯き加減で呟く菊之丞。マリアは、彼が何を言いたいのか、やっと解った。
「えぇ、聞きました。なんと言うか……有り難うございます……」
 他に言い方も無いらしく、マリアはそう言って菊之丞に頭を下げた。
「そんな……あの……私、だって、マリアさんの……」
「ファン……ですよね……? 有り難うございます」
 あんまり菊之丞の仕草が自分と違って可愛らしいものだから、マリアは思わず
微笑ってしまった。
 が、
「マリアさん……。その……少し、違うんです……」
13828:02/05/28 21:27 ID:???
「…………?」
「マリアさん……凄く、綺麗です……。男……の私でも、凄く惹かれて……。で
も……最近、解ったんです」
 菊之丞はマリアの顔を覗き込んだ。
「男の私でも……ではなくて、男だから……なんですよね……?」
「――――」
 菊之丞はそっと囁くと、躊躇いがちにマリアの頬に指先を触れた。
「菊……」
 マリアの頬が、急激に上気した。
「どうか、したんですか……菊之丞さん……?」
 菊之丞の漆黒に近い瞳は熱っぽく、しかし、真摯だった。
「解りませんか……?」
「何が……です……?」
 指先で頬をくすぐり、マリアの耳たぶ撫でながら、菊之丞はゆっくりとマリアに
顔を近付けていった。
「私の……本当の……気持ち……――」
13928:02/05/28 21:27 ID:???
「き……菊之丞さん……!? 何の冗談なんです!?」
「琴音さんなら冗談かも知れませんけど……」
 琴音がどうかは知らないが、菊之丞が冗談でこんなことが出来るような人間で
ない事など、解っている。いや、こんな風にいきなり迫ってくる事だって、出来る
はずの無い事だと思っていた――
「っ……」
「動かないで下さい。じっとして……」
 間近に青年の顔が迫り、マリアは無意識に瞳を伏せた。
「マリア……さん……」


「はい、そこまでっ!」
14028:02/05/28 21:29 ID:???
突然声が響いたかと思うと、菊之丞は首根っこをつかまれ、マリアから引き離
された。マリアはびくりと震え、そろそろと瞳を開いた。
「太田さん……。清流院隊長……」
 菊之丞を引き離したのは、斧彦。しかし声の主は別の人間。彼は栗色の髪を
指先で弄びながら、眼鏡の奥に光る黒い瞳で、菊之丞をねめつけた。
「や・り・す・ぎ!」
「す……すみません、琴音さん……」
 帝国華撃団薔薇組隊長・清流院琴音に責められ、菊之丞は肩をすくめた。
「もぉ、菊ちゃんったら」
「御免なさいね、菊之丞が可笑しかったから、さっきから様子を見させてもらって
いたの。でも、貴方も貴方よ、マリアさん。何その気になってるのよ……?」
「その気になっていたわけでは……。ただ……」
「のせられちゃったわけねぇ?」
 斧彦に指摘され、マリアは俯いた。
「さっき、一度菊之丞に会って、解ってるでしょう? 今回の菊之丞は……」
「歌謡ショウより質の悪い性格をしていますね……」
 マリアが大袈裟に息をつくと、菊之丞はぷくっと頬を膨らませた。
「ひっどぉい、マリアさん。私はいたって普通ですぅ」
 そういうところが普通じゃないというのだ。
14128:02/05/28 21:31 ID:???
「あの、琴音さん。それにしても、どうしていきなり登場したんですか?」
「ここで出なかったら出番ないじゃない。せっかくのヴァレンタインネタなのよ?
なのに……大体貴方の役、最初は私がやるはずじゃなかった? というか、凄く
良い所までいってた気がするんだけど、いつの間に原稿摩り替わってるわけ?」

「……それだけのために登場したんですか?」
 マリアの冷ややかな声に、琴音はぞっとした。
「そうですか。大体、私をからかうためだけに薔薇組は登場したんですね?」
「そういうわけじゃないのよ、マリアちゃん」
 斧彦がフォローを入れようとしたが、マリアは聞く耳をもたず、
「私は悪ふざけは嫌いですが……?」
 語尾が鋭く上がり調子だ。
「だって……その……このところマリアさん、急激にギャグキャラ化してますし、
このくらいは許されるかと……」
「してません。大体、薔薇組の方が可笑しいじゃないですか。歌謡ショウでは
っ!」
「そんな……。あの、あたしが振り付けした怪人で――」
「それはカンナの妄想! 私は関係ありませんっ!!」
 もう結構、とばかりにマリアは三人に一礼し、踵を返した。
14228:02/05/28 21:34 ID:???
「あぁ、ちょっと待って!」
 引き止めたのは、琴音だった。
「謝るわ、私達、おふざけが過ぎたわね……」
 マリアは足を止め、ゆっくりと振り返る。しかし、未だ眼は怒っていた。
「こんな事がしたかったんじゃない。貴方の……貴方の本当の気持ちを確かめ
たかっただけ……」
「本当……の……?」
 琴音は深く頷いた。彼の瞳はどきりとする程に真っ直ぐで、真剣で、嘘偽りな
く、マリアを思っての事だった、と語っている。
「大神中尉が鈍くて……と、貴方は言ったわ。でもね、それは、彼の心に届く声
が存在しないというだけよ。貴方以外に……。無論、今は、ね。いずれ、他の人
の声に心を動かされるかも知れない。例えば……菊之丞とかね」
 琴音は菊之丞に視線をやり、くすりと微笑んだ。菊之丞は、ただただ顔を紅に
染めるだけだった。
「でも……今は、貴方だけ。そういう事じゃなくて?」
「そんな事……どうしていえるんです……? 私の声も、届かないかも知れな
い……」
「あとは、貴方が確かめなさいな。無意識に菊之丞を避けて、どんどん体が椅子
からずり落ちそうになっていたような、彼の声しか届かない貴方の心でね。貴方
の心に、間違いはないわ。それに……どんな想いも、恥じる事はない。人を想う
というのは、そういう事なのよ」
 彼の口から出た意外な言葉にマリアは戸惑いながら、何も言えずに足早にサ
ロンから出て行った。
14328:02/05/28 21:35 ID:???
この後、此処で何が起こったかも知らずに。


「で……」
 琴音はにっこりと微笑んでいた。しかし、その額に青筋が浮かんでいるのが怖
い。
「どういうことかしら、菊之丞……? だぁれがあそこまでしろって言った?」
「だ、だって、かえでさんが……」
 その名を聞いて、琴音はぴたりと静止した。そして外套を翻すと、
「かえでさん……」
「まぁ、あのくらいはと思ったのよ」
 悪びれもせず笑いながらかえでは現れた。
「面白かったのに、止めんの早すぎだぜ、琴音さん」
「流石にあれ以上は笑えなくなると思ったのよ」
「僕も清流院隊長の意見に賛成。あれ以上は笑えない」
 かえでの両脇から、カンナとレニが意見する。
 そして、
「いやぁ、それにしても羨ましかったぞ、丘。マリアさんとあんな至近距離で〜」
 あからさまに悔しそうに見せたのは、加山。
「あらぁ〜、雄一ちゃんにはそこで睨んでる美人さんがいるじゃなぁい」
「そうですよ。ベストカップルじゃないですか」
「ホント、勿体無い」
 大神中尉もだけど、と琴音は付け加えた。言われ、満足そうに笑う加山を見上
げながら、レニは、
「ところで……あの作戦にはどういう意味があるの?」
14428:02/05/28 21:37 ID:???
「あの作戦とは……?」
「加山隊長とかえでさんが喧嘩してる振り」
 先程の階段での件を指しているらしい。
「そういえば」
 と、加山もかえでを見た。
「あれで大神隊長がかえでさんに本気になったらどうするつもりだったんだ?」
「そうなったらそれまででしょう。その程度だったという事よ」
「それってなんか酷くねぇ?」
「酷くないわ。というか、マリアの方が先に結婚したら癪じゃない。私だってもう行
き遅れ寸前なのに」
「行かず後家」
「どうしてそういう言葉を知ってるのよ、レニっ!?」
「なぁに言ってるんだよ、加山隊長がいるくせに」
「そろそろ身を固めても良い時期じゃない?」
「何言ってるのよ。加山君とはそんなんじゃないわ」
 かえでは困ったように笑った。
「よぉく言うぜ」
「ホントよぅ。だって、加山君は私の下僕だもの。ね?」
14528:02/05/28 21:38 ID:???
沈黙。

「誰だよ、あの二人がベストカップルだとか言ったの!?」
「あ……あれがベストな形なんじゃない……?」
「せ……清流院隊長に賛成……」
「かえでさん、怖いですぅぅ」
「時々ああいうキャラよねぇ」
 件の二人をよそに、ひそひそと話し始めた五人。

「っと、まぁそれはどうでも良いとして」
「どうでも良いのかよ?」
 カンナの突っ込みも無視して、
「これからマリアさんと大神中尉も良い感じになるでしょうし、この辺で締めちゃ
いましょうか?」
「良いんですか、そんな事して!?」
「まぁ、これ以上やっててもあたいら出番ねぇだろうしなぁ」
「そぉいう問題なの?」
「締りがないといえばないけどね……」
「台本とも大きく違う。台本では、久し振りに隊長とマリアのラヴラヴで終わると
か書いてある……」
14628:02/05/28 21:39 ID:???
「此処までも随分台本と違う事してなかったかしら? ほら、アイリスちゃんとさく
らちゃんの順番が逆……」
「さくら達はは台本持ってないから、希望的展開で書かれている。絶対こんな話
協力しないし。でも、最後くらいはきちんとした方が良いと思う」
 レニと琴音は、台本を見ながらうんうん考え込んだ。
「それじゃぁ、続きといきましょうか」
「よっしゃ。で、続きは何処だ?」
「えっと……夜の中庭。噴水の縁に腰を下ろして、舞い降りる雪を眺めるマリア
の元に隊長登場。あとは書いてない」
「結末は彼ら次第ってわけね」
「結末が解らないなんて、ドラマティックで良いですね」
「楽しみだわぁ〜」
「そんじゃ、まず照明落とさねぇとな」
 ひそひそ話の輪から外れると、カンナは艮の方角を見ながら手を振った。
「おぉい、照明係兼脇役――兼大道具兼小道具兼音響兼雑用兼かえでさんの
下僕の加山隊長ー!!」
『あんまり嬉しくない言い方だが、何だ?』
 何処からともなくマイク音声。
14728:02/05/28 21:39 ID:???
「あんまりなんだ……」
「私だったら絶対嫌だわ、あんな言われ方……」
「加山さん、意外とプライドありませんね……」
「菊ちゃん、きついわぁ……」

「照明落とせ、照明! これからラストシーンいくぞぉ! あ、あと雪な、雪!」
『了解した』
14828:02/05/28 21:41 ID:???
暗転。

 午後十一時三十分
 夜の中庭。噴水の縁に腰を下ろし、舞い降りる雪をマリアは眺めていた。
「綺麗……」
 救い上げるように掌を天に向けると、雪が指先で雫に変わる。
「はぁ……」
 結局色々な事がありすぎて、何があったのか解らない。ばたばたと一日が過
ぎて、何がしたかったのか、何をすべきだったのか、解らない。楽しかった? そ
れとも、つまらなかった? それすらも、解らない。
「もう……今日中には渡せないわね……」
 マリアの膝の上の小さな包みに、雪が積もり始めていた。この日のために、半月
も前から色々準備してきたのに……。
 今頃、隊長はどうしているだろう。さくらからセーターでも受け取っているのだろ
うか? 去年のように、もう誰かが隊長に何かをあげているのを見るのが嫌で、
わざわざ外に出ている自分が、酷く情けなく思えた。
14928:02/05/28 21:42 ID:???
さっき、やっと解った。琴音に言われて。自分は、彼の気持ちばかり追って、自
分の気持ちと向かい合おうとしていなかったのだと。逃げていた。自分の心が、
彼を束縛したいと望んでいる事から……。彼が幸せであれば……そう思う反
面、それでも自分だけを見て欲しいと、何処かで望んでいた。琴音は、解ってい
たのだ。総て。だから、「どんな想いも恥じる事はない」なんて言ったのだ。
「私は……」
 無理矢理顔を上げ、雪だけを見るようにしていた。そうでもしなければ、流れて
しまう。そうしていても、流れてしまう――涙。
「情けない……」
「……何が?」
 背後からの声に、マリアは反応した。しかし、そちらに顔を向ける事もなく、ぐっ
と掌で涙を拭った。振り向かずとも、解る。それが彼だという事くらい。
「泣いていたのかい……?」
 彼――大神一郎は、マリアの肩を両腕で抱き締めた。
「別に……」
 素っ気無く答える。
「何を……怒っているんだい……?」
「別に、怒っているわけではありません……。それより、隊長こそどうして此処
に……?」
15028:02/05/28 21:44 ID:???
「君を、探していた……」
 マリアの髪に頬を寄せ、呟いた。
「未だ、君から何ももらってないから……」
「みんなから、沢山もらってるじゃないですか……?」
「一番最初に食べるのは、君のだってずっと決めてた……」
「私はさくらみたいに器用じゃありませんから、チョコレートしか用意出来ません
でしたよ」
 意地悪く、マリアは包みを差し出した。
「さくら君……か……。今年はセーターだって言ってたっけ。未だ開けてないんだ
けどね」
「解っていたんじゃないですか? さくら、隊長のサイズを……」
「ん? あぁ、サイズ? 俺の戦闘服で測ったんだって。そこまでしてくれなくても
良いのに」
「……戦闘服!? あ……あぁ、そう……なんですか……」
 またしてやられてしまった。彼の事となると、さくらは妙に突っ掛かってくる。
当然といえば当然なのだが、時々はめられてしまう。
「他の人からの義理チョコより、君の本命の方が欲しいけどな。他の何より
も……ね……」
15128:02/05/28 21:45 ID:???
義理チョコ……。マリアはふっと溜息をついた。
「本当に……そんな風に思っているのですか?」
 マリアが鋭い瞳で睨みつけると、彼は真剣な瞳でこちらを見詰め返した。
「だって……他の人の気持ちを受け止める事は出来ないから……」
 だから、義理だと思うしかないだろう……?
 彼の瞳が、そう言っている。
「私だって、本気の贈り物なんて――今は――貴方以外には渡せません……」
 大神の腕をすり抜け、数歩歩いた雪の上で振り返った。
「怒ってる……?」
「何故……?」
「逃げるから……」
 大神は、マリアの足跡に自分の靴を重ねて歩いた。が。
「うわっ……」
 大声をあげ、大神は雪の上にしりもちをついた。
「カッコ悪……」
 そんな大神の姿を見て、マリアは呆れたように笑う。
「もう……」
 そっと、マリアは手を差し伸べた。だが、大神は無理矢理その手を引き寄せ、
バランスを崩したマリアの体を抱き止めた。
15228:02/05/28 21:46 ID:???
「た……隊長っ……!!」
「つかまえた……」
「は……離して下さい……」
 恥ずかしそうに、菊之丞に迫られた時以上に上ずった声で、頬を真っ赤にして
もがいた。思いの外大神はあっさりとマリアを放した。
 しかし、
「ちょっと……!?」
 マリアが油断した隙に、大神はマリアを雪の上にそっと押し倒した。厚く積もっ
た雪に、マリアは髪を埋められた。
「じっとして……」
 静かに顔を近づけてくる大神。
「さっき、菊之丞さんにも同じ事を言われて、同じ事をされかけました……」
「菊之丞君が……? されたの……?」
「されてません。清……琴音さんと斧彦さんが止めて下さいました」
 わざと、いつもと違う呼び方をしてみる。大神は拗ねたような顔をして、マリア
の額の包帯に口付けた。
「今日のマリアは意地悪だ……。今日は、かえでさんにまでからかわれて、散々
だったのに」
15328:02/05/28 21:47 ID:???
「かえでさん……ですか……」
「加山には……何かされた……?」
「貴方と同じ。からかわれただけです……。さぁ、もう離して下さい……」
「嫌……」
 そう言われ、諦めたようにマリアが目を閉じると、大神はマリアに唇に唇を重
ねた。
「ん……」
「冷たい……。どれだけ、こんな所にいたの?」
「秘密……」
 マリアが意地悪に笑うと、大神はマリアの耳元に唇を寄せ、何かを囁いた。
 マリアの頬が、また上気する。そして、今度は自分から彼の唇に触れた。
15428:02/05/28 21:48 ID:???
「あぁ、もう、見てるこっちが恥ずかしいぜ」
「書いてる方も相当恥ずかしいみたいだけど……」
「良いなぁ、マリアさん……」
「きっといつか、私達にもチャンスがあるわよ、菊ちゃん!」
「ないと思うわ……」
「そういえばさ、最後に隊長、何言ったんだろ?」
「それは、ご想像にお任せしますってとこね……。さて、それじゃ、私達も退散し
ますか」
「へいへい」
15528:02/05/28 21:50 ID:???
そんなわけで、

    Happy Valentine!


                             The End
15628:02/05/28 21:52 ID:Fahkb6lI

「……やっぱりしまらない終わり方ね……」
  「かなり遅いしな……」

という訳で、「MIND MAZE」でした。
157名無しくん、、、好きです。。。:02/05/28 21:52 ID:ctP.oOL6
女性専用びあん
完全無料の安心アドレス非公開
本音が話せる出会いのサイト
オープン5/29びあん専用サイト
http://61.120.55.179/bian/
ん?SS書き?コピペ?
ヤヴァい・・・菊之丞可愛いw
16028:02/05/28 23:48 ID:???
>158さん

コピぺです^^;
薔薇組関連のSS探して載せてます。
何かあったらコピぺ宜しくです。

138の所…「耳たぶを」ですね(汗
訂正しとけば良かった…。
わざわざコピペしなくてもアドレス貼ってくれれば・・・

とか言ってみる
16228:02/05/29 00:56 ID:???
やっぱり荒らしとか怖いので…<アドレス貼り
兎に角読んで欲しいSSも沢山ありますし。

ここまでやったので知ってるものがある限りコピぺします

読んでくれる人がいればいいけど…
薔薇組萌え〜♪
28サン、これからもヨロシコ!
164名無しくん、、、好きです。。。:02/05/29 04:26 ID:XP5D3YOE
圧縮対策あげ。
16528:02/05/29 22:22 ID:???
ども、ヨロシコ>163さん

さて、今日もSSコピぺします。
タイトルは「善男善女の夜」です
薔薇組はチョト脇役…
でも載せときます。
16628:02/05/29 22:24 ID:???
その日は朝から厳しく冷え込んで、夕方にはとうとう雪が降り始めた。この分だと
帝都は明朝、この冬初めての雪にすっぽりとくるまれることになるだろう。
 そろそろ帝劇内の見回りに出ようかという夜10時少し前、大神の部屋がノックされ
た。
 ドアの外に立っていたのはカンナとマリアだった。カンナは両手に酒瓶を提げてい
る。
 「なんだい、ずいぶん勇ましい様子じゃないか、カンナ」
 カンナはへへっと笑い、
 「いやさ、初雪になったことだし、ひとつ酒盛りでもって話になったんだよ。かす
みさんや由里も一緒にさ」
 「酒盛り?いいねぇ、でも…」
 マリアが素早く察して口を開いた。
 「米田支配人とかえでさんにはお許しをいただきました。年末年始の忙しい時期も
どうにか一段落しましたし、いかがでしょう、隊長」
 この数週間は新春公演やら何やらで本当に慌ただしく、皆大車輪で働いた。そろそ
ろ骨休めしても確かにいい頃だ。
16728:02/05/29 22:26 ID:???
「よし、そういうことなら喜んで参加するよ。この後だね?」
「そうこなくっちゃ。隊長が見回りから戻ってきた頃合いに適当に始めるからさ。
場所は薔薇組の部屋な」
酒やつまみは用意しておく、と言って二人は階下に降りていった。
薔薇組と聞いて少々剣呑な気もしたが、何はともあれ楽しい夜になりそうだ、と思
ったその時。
「いやあ大神、雪の降り積むこの夜長にお前と飲み明かせるとは、俺は本当に幸せ
だなあ」
「…加山…お前、いつものことながらどこから湧いたんだ」
月組隊長加山は、ギターを抱いたお馴染みのいでたちで流麗にポーズを
決めて見せ、
「男なら細かいことは気にするな。それより大神、早く見回りに行って来るがいい」
「単に早く酒盛りを始めたいだけだろう…。第一お前、参加することになっている
のか?」
16828:02/05/29 22:27 ID:???
「何を言う大神、俺はお前の行く所必ず現れる。俺達は親友じゃないか」
「…わかったわかった、じゃ後でな」
軽くいなして大神も自室を出た。
それから小一時間後、地下は薔薇組の部屋に本日の面子が全員集まった。
「あれ?菊之丞君は?」
盃を片手に大神が室内を見回して問うと、琴音が優雅に答えた。
「あの子は未成年ですからね、この席には出せないのよ」
「はぁ、そうでしたか…」
太正11年に、未成年の飲酒を禁止する法律が施行されているためである。
「あらぁ一郎ちゃん、菊ちゃんがいなくちゃご不満?
あたし達がいるじゃなあい」
艶めかしい仕草で大神にすり寄りながら斧彦が尋ねる。
「い、いや、そういう訳では…はははは」
たじたじとなる大神に助け船を出すようにマリアが、
「それを言うなら三人組の中で椿も来られませんしね、かすみさん」
16928:02/05/29 22:30 ID:???
「そ、そうですね」
「そうそう、今夜は大人の集まりってこと!ね、カンナさん」
「由里、支配人もかえでさんもいねーしさ、
どっちかっつーとこりゃ”中間管理職”って顔触れかも知れねーな、
ハッハッハ」
「その通り、我々は”最もこき使われる世代”だ」
と膝を乗り出して加山。
「上にはいびられ、下からは突き上げられ」
これは大神だ。
「あちらこちらに頭を下げる。実る程頭を垂れる稲穂かな」
意外なことにかすみである。早くも酔っているのか、
日頃よほど辛いことがあるのだろうか。
「はっはっは」
「はっはっは」
ひとしきり笑った後、場が静まり返った。
「…カンナ…」
「ごめん、ごめんってマリア!わああっ、冷たい手で襟首つかむのよせってぇええ」
「ささ、マリアさんもお仕置きはそのくらいにして、
何はともあれ楽しく飲みましょうよ、楽しく」
17028:02/05/29 22:32 ID:???
「そうだそうだ、さあ飲み明かすぞ大神!」
加山がギターをかき鳴らし、和やかな酒宴が始まった。
日本酒あり、カンナが持ち込んだ泡盛あり、琴音秘蔵のブランデーあり、
皆どっしりと腰を据えて呑んでいる。酒の肴の話題も実に多岐にわたった。

由里と斧彦の美容談義。由里が資生堂の「七色粉白粉」の斬新な使い方を披露すれば、
斧彦が実践面から日頃のケアの大切さを鋭く迫る。
 あちらでは加山が大神を捕まえ、江田島時代の思い出話に無理矢理花を咲かせるのを、
カンナが茶々を入れながら面白そうに聞いている。
 こちらではマリアとかすみと琴音が驚くべきハイペースで杯を重ねつつ、
西洋と東洋の美術史をごちゃ混ぜにして論じ合っている。
17128:02/05/29 22:34 ID:???
酒が進めばお約束の恋愛話も出るというものだが、
この一癖も二癖もあるメンバーで、その手のネタが分かりやすく
展開するはずもない。
 「あたしに言わせればあ、大神さんは弱腰すぎますよぉ、いったいに。
そんなことじゃ幸せが逃げて行っちゃいますって」
 べろんべろんに酔った由里が管を巻く。
「え、由里くんは幸せに逃げられたの?そりゃけしからん、責任者出て来い!」
聞き返す大神の方もかなり怪しい。
「おうおう由里、聞き捨てならねえぞぉ、きりきり吐けぇ」
「他人のことなんかいいじゃないですかぁ、カンナさんはとっくに幸せ
なんだからっ」
「そりゃあたいは幸せだよ、うん。しかし世の中ってやつぁ、
あたいの幸せが皆の幸せってことにはなってないのが残念ながらも仕方ないんだな、これが」
「んま、さりげなく個人主義に走りつつのろけたわね、カンナちゃん」
「うむ、この場合他人に分け与えるものなどないというのが真理だな」
「加山、なんだその余裕ある発言は」
17228:02/05/29 22:35 ID:???
「そうですねえ、御意見無用の年中青信号、他人様など構っている暇は
ありませんものね」
「…そういうもんなのか、男は哀しいな…」
「別に今男女の区別をして話してませんよ、隊長」
「そうよ一郎ちゃん、貴方にはあたし達がいるじゃないの」
大神がありがちな言葉をいくら場に持ち出しても、
男女問わず多士済々が入り混じって、とことんわやくちゃにして行く。
17328:02/05/29 22:36 ID:???

ふと気付けば、とっくに日付が変わっていた。
「雪、どれくらい積もったんでしょうね」
マリアの一言で皆いっせいに顔を巡らせたが、地下室のこととて窓はない。
「見に行ってみようか」
「いいな、河岸を変えて今度は雪見酒と洒落込もう」
一同はぞろぞろと階段を上がり、中庭に足を踏み入れた。
17428:02/05/29 22:37 ID:???
「おおっと、見事に積もったな」
「ほんとねえ、噴水が隠れそう」
「こりゃあ明日の雪かきが大変だなぁ」
そう言いつつもなんとなく楽しげな大神を、皆笑って振り返る。
「いや、アイリスがさぞかし喜ぶだろうと思ってさ」
「そんなこと言うとまた”アイリス子供じゃないもん!”って
怒られてしまいますよ、隊長」
「それもそうだ」
「雪の多い年は豊作になるというが、今年はどうかな」
「東北の方じゃもう随分降ってるようよ」
とりとめない話が、凍るような寒さの中でもまだ続く。
17528:02/05/29 22:39 ID:???
「なあかえでくん、あの若年寄どもはなんとかならねぇかい」
「え?」
陸軍本部との打ち合わせから深夜になって戻ってきた米田とかえでが、
中庭に集う彼らを目に留めたのだった。庭への出口のポーチの影に
二人は立って、しばらく眺めていた。
「ふふ、楽しそうじゃありませんか」
「全くいい若い者が、ぞろぞろ寄り集まりやがって色気もへったくれも
ありゃしねえ」
「でも、皆この帝劇を支える頼もしい顔ばかりですよ」
米田は仕方なさそうに笑って、
「まぁな。そういう言い方も出来るかもしれねぇけどな」
「それに、若年寄とおっしゃるなら私もそうなりますけど?」
「おっといけねぇ、こりゃあ失言だったな」
「さ、御老体にはこの寒さは毒ですよ、中にお入りになってくださいな」
17628:02/05/29 22:39 ID:???
 
善男善女の夜が、ふかぶかと更けてゆく。
明日の朝は雪もきっと止んで、青空が広がるだろう。

            ――終――
17728:02/05/29 22:45 ID:???
というコトで、「善男善女の夜」でした。

・・・もう薔薇組が目立ってるようなSS無いかもしれないです・・(汗
ギャグなら沢山あるんですけど…個人的にそういうのは好きじゃないので^^;

次回は「決戦」です。
かなり長いお話です。オリキャラ&設定。
加山&かえでさんメイン?
そういうのが嫌な方は見ない方がいいかも(´−`;

では
なんだか凄いスレに来ちまった
薔薇組で一番陰茎が大きいのは誰ですか?
180名無しくん、、、好きです。。。:02/06/01 23:16 ID:g2y9l5xA
age
181 :02/06/01 23:20 ID:???
>>179
琴音=普通サイズ
菊乃丞=巨大チンポ
斧彦=実は極小包茎
コピペはまずいんじゃないの?
ほんとに読みたい人なら題名だけで検索していくだろうし
ノワールでしょ?
うわーながい(・∀・)
age
age
よきひこたん萌え
187名無しくん、、、好きです。。。:02/06/20 09:35 ID:h8UeL3SU
age
188etc. ◆yGKIJetc:02/06/20 10:26 ID:???
保守はsageでも出来るんだよ
189名無しくん、、、好きです。。。:02/06/27 21:42 ID:i8N6wUyU
ホシュ
190名無しくん、、、好きです。。。:02/07/02 07:11 ID:UaMFp9ws
発表age
最初、菊を見て萌えたが声を聞いてすぐに萎えた
192名無しくん、、、好きです。。。:02/07/30 10:11 ID:5YsUwQpg
>>191
漏れもw
顔は可愛いと思うんだが・・・
>>191,192
君達はホモなのか女なのか?
菊たんで毎晩抜いていますが何か?
斧彦×金剛で(*´Д`)ハァハァしてますが何か?
>>194
同士よw

>>195
なかなかマニアックな組み合わせですな
197名無しくん、、、好きです。。。:02/08/08 16:07 ID:2YlUs7sQ
age
大神「琴音さん、俺は貴方を全力で守る!」
琴音「大神中尉・・・感謝するわ」

大神「斧彦さん、苦しくなったら呼んでください!」
斧彦「一郎ちゃわぁん、もう好きにしてぇ〜ん!」

大神「菊之丞さん、たまには守られたっていいですよね?」
菊之丞「大神さん、ありがとうございます・・・・」
199名無しくん、、、好きです。。。:02/08/12 08:48 ID:KeWU0esS
菊って胸さわったらどうなんの?
200名無しくん、、、好きです。。。:02/08/12 08:50 ID:KeWU0esS
すいません。↑の聞き方は悪いでね。
菊之丞の胸を触ったらどうなるんですか?
>>200
200ゲトおめ

4の事?
もしそうだったら、さくらが来て激しく信頼度ダウンか、
エリカが来て激しく信頼度うpだと思ふ
違ったらスマソ
>>199
恐らくパッドか注射でしょう。
203名無しくん、、、好きです。。。:02/08/12 11:31 ID:y8nK7FQj
だから、薔薇組は三種の神器を守るのが使命なんだろ
三種の神器がなくなった後は存在価値はないのに
いつまで帝劇の地下にいるんだよ?
とっとと出てけよ
204名無しくん、、、好きです。。。:02/08/12 11:33 ID:CsuYw822
おい、オマエら歌謡ショウで他のグッズは一切買わないで
薔薇組のウチワだけ10枚買え
>>204
10枚と言わず全部買い占めろw
206名無しくん、、、好きです。。。:02/08/12 16:38 ID:KR/ZULT4
ありがとうございます。
胸を触ったらどういうリアクションをするんでしょうか?
207名無しくん、、、好きです。。。
>>206
菊「あ、ありがとうございます大神さん・・・。」
斧「菊ちゃんばかりずるいわ。一郎ちゃん私のも!」
琴「大神中尉、私の胸も揉んでくださる?」