昔懐かし慟哭スレ P2

このエントリーをはてなブックマークに追加
7308
そのとき、背後で水飛沫の上がる音がした。控えめな音。
何かが飛び込んだのではなく、逆に水中から飛び出したような。
振り向こうとした、その瞬間。
後頭部に衝撃を受け、体中から力が抜けていった。
ひっくり返る視界の中に、抜けるような青空を背後に立つ大柄な男のシルエットを一瞬とらえた後、僕は頭から水中に突っ伏した。
前にも、こんな事があったっけ……。

……頭が痛い。
「…あっ」
……風邪でもひいたっけ?
「…て下さいっ」
……そんなはずはない。今は夏だ。
「…ないでっ」
……そう、今は夏で、僕は千砂の田舎に遊びにきてて。
「助けてっ! 一也さんっ」
「千砂っ!」
目を開ける。朱。僕は不自然な体勢で、夕焼け色に染まる空を見上げていた。
なんだ、これは。
7409:02/02/06 06:38
「一也さんっ!」
声の方向に首をねじ曲げる。そこには砂浜に座り込んだ千砂がいた。そしてその後ろには、
「気が付いたか?」
「…桂さん?」
いつぞやの洋館で出会った男性だ。確か『柴田桂』という名前だったはず。事件の最中に行方が分からなくなり、切り裂かれて血で染まったコートだけが残されていた。
てっきり犯人に殺されたものとばかり思っていたが。いや、そんなことより、どうして此処に?
「では、本格的にはじめるとするかな」
「いやっ!」
桂さんの手が、千砂の胸に当たっている。…いや、違う。揉んでいるんだ。潰れるほどに。
よく見ると、千砂の手首と足首をまとめるように、銀色のテープが巻かれている。荷造りに使う頑丈な奴だ。女の力では、いや、おそらく僕でもちぎれまい。
桂は千砂が動けないのをいいことに、ビキニの上から胸をもてあそんでいる。
「やめろっ!」
慌てて二人に近寄ろうとするが、身体が全く動かない。そういえばさっきから景色も変だ。いったいこれは……?
改めて周囲を見ると、顎の直ぐ下に砂浜があった。右も砂、左も砂。
僕は首だけ出した状態で、砂に埋められていた。……桂が、あの男がやったのか!?
「なっ……」
思わず絶句したが、すぐに気を取り直して手足を動かそうとした。
コンクリートで固められたわけじゃない。少しづつ動かせば隙間が出来て、抜け出せるはずだ。
……はずなのだが、動かない。砂とは違った感触に手足を押さえられている。
そのとき首筋を、冷たい感触が襲った。水。海水。押し寄せる波。その意味に気付いたとき、僕の背筋は凍り付いた。