昔懐かし慟哭スレ P2

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招待券を受け取って、一番最初の週末の土曜日に僕は梨代を連れ立って青木屋に
行くことになった。招待券を梨代にどうやって渡そうか?と考えたが、僕が言う前
に梨代から切り出された。どうやら事前に知砂から知らされていたらしい。
 昼に出発して青木屋に到着したのは夕方、僕らの住んでいる街から郊外の青
木屋までの間。その間、僕らは些細なおしゃべりをして時間を潰した。 
『楽しみだね。和也君・・・』
 梨代の笑顔が妙に艶っぽく見えた。何か普段の梨代と違う感じがしたが、たいした
ことはないだろうと、僕の中で沸いた疑問はあっという間に引いてしまった。
『お待ちしておりました。時田さん、笹本さん・・・』
青木屋に着いた僕等を出迎えてくれたのは、振袖をまとった知沙だった。
『ああ・・・どうも・・』
 僕は知砂の振袖姿に見とれて、なんともいい加減な相槌をうった。知砂はいつもの
ポニーテールにかんざしをつけていて、化粧もしていた。青い布地に鮮やかな紫を描
いた、なんとも上品な振袖であった。いや・・浴衣か。そのへんはわからない、いや
どっちでもいいか。なんと表現して分からないが、生きた日本人形のように美しい。
 僕達は知砂に案内され割り当てられた部屋に案内された。僕等の呼ばれた部屋は離れ
で、本館とは少し離れた所にある。ここは・・知砂を始めて抱いた部屋だ。そう言えば 
知砂は梨代とも挨拶を交わした。その挨拶は嫌悪感もなく、ビジネスストライクと
も違う。長い間親交を交わしていた友人達が久しぶりに会う。そんな感じだった。
 あの二人は廃屋の件以来あってないはずだ。僕の知らない間にあったのか?いや、
多分、僕の知らない間にどこかで会ったのだろう。気にする必要はない。その前に
嫌いな相手、会いたくないなら招待する必要はない。
 梨代、知砂、僕が二人同時に付き合っているのはお互いに知らないはずだ。言って
ないし、僕もそんなそぶりを自ら出してはいない。考えすぎだろうな。
628605:02/05/10 22:06 ID:???
『・・君。和也くん?』
 考え込んでいた僕は、梨代の呼びかけにまったくの無反応だったらしい。
『私、お風呂入ってくるね。食事の時間まで少し時間があるから・・』
 僕は『うん・・・』頷くと、梨代は支度をして部屋を出て行った。
 僕も風呂に入ろうかと思ったが、部屋の鍵は僕が持ってる。風呂に入った
ら、梨代が部屋に入れなくなってしまう。待ってるか・・・僕は畳に横になった。
 梨代が風呂に行って30分位たったのか、知砂が食事の用意が出来たので、食堂に
来てくれと内線で知らせてくれた。話によると梨代はもう食堂に行ってしまったらしい。
 一言言ってくりゃいいのに・・・まっいいか。
食堂には僕らの他にも多くの宿泊客が来ていた。青木屋があるリゾート地、僕等以外に
客がいるのは当然か。食事は和食だった。よくよく旅館にでてきそうな内容だ。別に文句を
言っている訳ではない。文句なくうまいからだ。
『和也君。ビール飲む?』
 普段は絶対に梨代に言われた僕は、狐につつまれたような感じだった。僕は梨代のお酌を
受けた。コップに並々と注がれたビールを僕はグイっと飲み干した。喉が渇いていたので、
胃に流れるビールは爽快だった。
 『まだ、飲むの?』
 梨代は僕の飲みッぷりに少し驚いたようだったが、クスっと笑ってビールを勧めてくれた。
 梨代からもう一杯、ビールを酌を受けて飲み干す。一気に飲んで頭がクラッとする。おか
しい・・普段はコップ二杯じゃ酔わないのに・・・僕は軽い立ちくらみを覚えた。
『どうしたの?気分悪いの?』
 梨代が心配そうな顔で僕に尋ねる。僕は部屋に戻ると言って、食堂を後にした。僕の後ろ
姿を見送った、知砂の頬が緩んだように見えたが、そんな事を気にしてる程の余裕は無かった。
そのまま部屋に戻って、用意されていた布団に倒れこむ。そして、そのまま意識を失う。そして
闇の中へ・・・