昔懐かし慟哭スレ P2

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春の訪れを感じさせるこの季節。
出会い、別れ、いろいろな想いが生まれるこの季節。
 「そういうワケで花見や!この場所に集合な。時間厳守!」
お祭り好きのノーマがこの季節を逃す訳がなく。
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 「えーと……この川沿いを歩いていけばいいのかな?」
僕は手に持っている地図を確認しながら歩く。
地図と言っても、目印になる建物が1つ2つ書かれているだけの
とても簡単なものだ。
 「全く…もうちょっと丁寧に書いてくれると有り難いんだけど…。」
読み手のことを全然考えていない地図を見ながら僕はブツブツと愚痴をこぼす。
もちろん本気で怒ったりはしてないけど。
ノーマはこういうところはだらしないからなぁ。どうせ僕が文句の一つ二つ言ったって、
 「無事に着いたんやからエエやん。結果良ければ全て良しや!」
とか言って、こっちの苦労なんか解ろうとしないだろう。
我が道を行くノーマに言ったって聞かないだろうし。
 「はぁ……まぁ良いんだけど。」
僕は春風が身体に心地良く当たる川辺をてくてくと歩く。
 「もしかして…迷ったかなぁ?結構歩いたぞ……。」
きょろきょろと辺りを見まわして、現在位置を確認する。
 「鉄橋があそこで、ホテルの看板があそこ……。
  うーん、間違ってないよな……?「
こうなったら、ノーマの携帯に電話するか?
……でもノーマって電話かけられるのあまり好きじゃないって言ってたし。
自分からはバカバカかけてくるのに電話とるのは嫌いって何でだ?
 「このまま待たせても文句言われるだろうし、しょうがないか……。」
僕が電話をかけようと公衆電話を探していると(携帯電話持ってないんだよね)、
何やら妙な出で立ちの人があちら側から歩いてくる…………。あれは……?
 「…………あっ!」
その人は僕を見つけると嬉しそうに駆け寄ってきた。
 「あれ……子鈴さん……?」
 「はいっ。お久しぶりです、時田さん…!」
あの洋館での出来事以来会うことのなかった白川子鈴さんだ。
顔を見るのは久しぶりだけど、こんなキレイな人はそうそう忘れられない。
 「あ、お久しぶりです……でも、どうして子鈴さんが……?」
僕は再会を懐かしむより先に、頭に浮かんだ疑問を子鈴さんに投げかけていた。
 「その…今日はノーマ様にお誘いいただきまして。
  それで、なかなかお姿が見えないのでノーマ様が探してこい、と……。」
 「はぁ……すみません。ここいらの土地には疎いもので…。」 
 「いえ、しょうがないですよね。でも会えてよかったです。
  行き違いになってたらどうしようかと思いまして。」
 「すみません、ご迷惑おかけしたみたいで……。」
 「そんな、いいんですよ。では、行きましょうか。こちらです。」
くるりと歩いて来た方角へ向き、歩き始める。
僕は子鈴さんの隣へ並んで歩く。
 「いい風ですね。もうすっかり暖かくなって……。」
 「…………あの〜、子鈴さん?」
 「はい?何でしょう?」
 「その服は…?」 
 「あ、これですか?ノーマ様に御用意していただいたものです。」
 「えーと……どうしてメイド服なんですか…?
  もう子鈴さんはノーマの家で働いていないのに……。」
 「ノーマ様が、私に一番似合うのはこの服だと仰られて…。
  それに、せっかく御用意していただいたので……。」
 「………。」
だからって、わざわざ着なくてもいいのに……律儀な人だなぁ。
 「あの……どこか変ですか?」
 「い、いえっ!とても似合っていると思います…けど…。」
 「?」
さっきからすれ違う人が皆こっちを見てる……そりゃそうだよ。
メイドさんなんて庶民にはめったにお目にかかれないし。
僕もノーマと付き合うようになってから、『ホントにいるんだ』って思うようになったし。
メイド……それは男のロマン。世の男性がきっと一度は夢見るものだろう…と僕は思う。
でも……ジロジロジロジロ見られるのは…悪い気分じゃないけど、かなり恥ずかしい。
しかし、メイドさんと歩くなんて普通じゃ経験できないだろうから、この機会を逃したら…。 
 「あの……子鈴さんは、恥ずかしくないですか?その格好……。」
 「えっ…いえ、別に。もう慣れてしまったみたいで…。
  あっ、時田さんはお恥ずかしいですよね、私がこの格好だと……。
  すみません、気づかなくて…。少し離れて歩きましょうか…?」
 「いっ、いいえぇ!!ぜひ並んで歩いていただきたく……っ」
子鈴さんは僕が急に大声を出したので一瞬ビクッとして身体を固まらせたけど、
にこっと優しい笑顔で僕を見て、
 「ふふふっ。じゃあ行きましょう。ノーマ様が待っています。」
と言ってくれた。
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 「遅い!おっそいでー!!何しとったんや?ウチをほったらかしにしてっ!!」
見事な桜が咲いている木の下、薄いブラウスと短いスカートのノーマが僕達に口を開く。
 「何って…ちゃんと真っ直ぐここに来たよ……。」
 「ウソやっ!こんな時間かかる訳あらへんっ!!2人で茶ぁしばいてたんとちゃうか!」
 「いえっ、ノーマ様をお待たせしておいてそんな事は絶対致しませんっ。」
ノーマがちょっとムキになって弁解する子鈴さんを見る。
 「そーか…子鈴がそう言うんやったらなぁ。でもウチ退屈で死にそうやったわ。」
なんだよぅ…僕の言う事には聞く耳持たないのに、子鈴さんが言う事はすぐに信じて……。
でも、この2人がそれだけ深い信頼関係で結ばれているのかな。
 「それよりノーマ、もうちょっと地図は丁寧に書いてよ。
  いきなりFAXでこんなの送られたって、僕この辺はよく解らないんだから。」
 「まぁま、無事に着いたんやからエエやん。終わり良ければ全て良し、やっ!」
……。
ほーら、思った通り。
 「何や?ヘンな顔して。気色悪いなぁ。それよりほら、座りぃな。」
ノーマが横にずれて、僕らに席を空ける。
 「でも綺麗に咲いてるね。ちょうど良い時に見れたみたい。」
 「本当ですね。風も暖かくて気持ち良い……。」
僕らはしばし春の匂いを楽しむ。
 「あ、僕手ぶらで来ちゃったけど何も持ってこなくて良かったのかな?」
 「エエねんエエねん。こっちで全部用意したから。
  取りあえず食べよ。さ、一也も子鈴も。」
そう言って、ノーマが脇に積んであった重箱の包みを僕らの輪の中で開く。
 「じゃーん!!どやこの料理!正月ぐらいしかお目にかかられへんで!」
重箱の中には色とりどりの料理がぎっしり詰められている。 
 「うわー……すごいねぇ。でもこんなに食べられるの…?」
 「ま、足らんよりマシやろ。でも全部食べんと作った子鈴が可哀想やなぁ。」
 「えっ?これ子鈴さんが全部…?」
 「はい…。時田さんのお口に合えば良いんですけど……。」
 「子鈴の料理は天下一品や!そんな心配いらんわ。」
 「へー、それじゃぁ頂こうかな。」
 「どうぞ、召し上がってください。」
僕は子鈴さんから割り箸を受け取って手を合わせる。
 「いただきまーす。」
 「どうや…?」
 「まだ食べてないよ……むぐむぐ。」
 「……。」
2人はじっと僕のほうを見ている。