「お邪魔しますー。」
「ノーマの家に比べると狭い家だけど。まぁ上がってよ。」
「うぅん、キレイな玄関やん。ウチこういう家好きやで。」
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今日は金曜日。土日と連休やし学校が終わってからクラスの友達と遊び行こ思たら、
皆彼氏とデートや言うねん。そんで「ノーマも彼氏とデートしたら〜?」とか言いよる。
ウチにはそんな大層なモンはおらへんっちゅーねん!
彼氏言われて浮かぶのはウチの中では1人だけや。
でも…最近一也、全然ウチと合ってくれへん。
たまに電話に出てくれてもなーんか余所余所しくて、
「ごめん、今から出かけなくちゃいけないんだ。」
とか言うてすぐ電話切りよる。
もしかしてこの前のコト後悔してるんやろか……。
男ってHしたら冷たくなるってホンマなんかなぁ………。
いや、一也に限ってそんなコトあらへん!
もうウジウジすんのはヤメや!こうなったら一也本人に聞かな気ぃすまんわ!
「もしもし、時田ですけ…」
「ウチや!今から一也の家に遊びに行くわ!エエやろ?!」
「えっ?ノーマ?そんな急に言われ」
ガチャ。
ふぅ……。よっしゃ、取りあえず第一段階成功や。
スマン一也、多少強引に行かんとまた切られそうやから。
そや、どうせやったらお泊りしよ。週末は特に予定ないし。御両親にも挨拶して…。
さ、そうと決まればさっさと用意せな。着くのが遅なってしまうわ。
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「でも急な話で驚いたよ。いきなり遊びに来るなんて……。」
「まぁまぁ、堪忍や。ちょうどヒマやったから、な?」
「あれ?そのカバン……?」
「あぁ、これな。せっかくやから泊まらせてもらお思て。
今からやったらそんな遊ばれへんし。エエ…かなぁ?」
「う…うん、まぁしょうがないね。ゆっくりして行ってよ。」
「うん…ありがとう。それじゃ、改めてお邪魔しますー。」
おっと、ちゃんと靴を揃えて……と。
何事も最初が肝心や。エエ印象を御両親に与えておかんと。
トレーナーとジーンズで来てしもたけど、もちょっとオシャレしてきた方が良かったかな…?
いや、変に気張って失敗したらかなわんわ。いつものウチを心掛けるんや。
「……一也の御両親は?ちょっと挨拶して行こかな…。」
「それが…昨日から旅行に行ってるんだ。
テレビの抽選に当たったって大はしゃぎで出かけたよ。」
「えっ!?そ、そうなん……?」
なんや…御両親おらんのかいな…肩透かしくらったなぁ……。
「うん。それで2人で子供放って仲良く旅行だよ?
でも、こんな時しか休もうとしないからいい機会なのかも。」
「そか。ウチの周りも連休前は皆『用事あるー』言うて
付き合い悪いんや。」
「そうなんだ。じゃあお互い暇人だったんだね。」
ん?……と、言うことは今日は……ふ、2人っきり!?
確か一也に兄弟はいなかったはず。
「な、なぁ……その…御両親はいつ帰って来はるん…?」
「えーと、確か月曜日の夜って言ってた。一応留守番してないといけないんだ。
ごめんね、外に遊びに行けなくて。」
「い、いやぁ…それはエエねん。一回一也の家に来たい思てたんや。」
「でも、無理に今日来ることなかったんじゃない?明日にしても…。」
「あ、あはは、はよ来たかったんや。一也と会うのは久しぶりやから…。」
あかん……なんかウチ、妙にあがってしもてるわ……。
「? なんか今日のノーマ、変じゃない…?」
「ど、どこがッ!?べ別におかしなことなんてあらへんっ」
「…………。」
「………っ。」
十分おかしいっちゅーねん……。あかんわ。正直に言おう。
「ごめん……。男の人の家入るん初めてやから、
なんかウチ緊張してるみたいやわ……。」
「えー?別に緊張することないのに。誰もいないんだし…。」
誰もおれへんから緊張しとるんや…。相変わらずニブチンやなぁ……。
「…………。」
「…………。」
ぼっ!!
「ごごごめん、そうかそうだよねいやでもそんなつもりじゃなくて
別に2人っきりだからヘンなコトしようだとかそういう考えは…」
あらら、いきなりカオ真っ赤にして。やっと解ったみたいやな……。
「……。」
「あの……ホントにごめん。やっぱりまずいよね…。」
……。ウチより緊張されてもなぁ。まぁ下心なかったのはほんまみたいやな。
いや、あってもそれはそれでエエねんけど。
「あの……ノーマ?怒ってるの?」
ばっちん!!
「いたっ!」
「なんかアホらしなったわ。それよりウチお腹空いてんねん、なんか
食べさせて欲しいなー。」
「………う、うん。」
すたすたすた。
一也の背中思いっきり叩いたった。ザマーミロ。
でも相変わらずあっちの雰囲気にはなりそうもないな…。ちょっと残念かも。
「ごちそうさま……。」
「はい、おそまつさまでした。」
一也の作ってくれた肉じゃがと味噌汁。
「…………。」
「やっぱり口に合わなかった…?ごめんね、ノーマがいつも食べてるような
ものはさすがに作れなくて………。」
「う、うぅん……すごい美味しかったて。何回も言うてるやん…。」
コ、コイツ……なんでこんな料理上手いんや…?
ウチの料理なんてこれと比べたら赤んぼの料理や……。
「一也…よく料理とかするん……?」
「え?あぁ、うちって共働きだから、2人とも帰りが遅くなったりすることが
よくあるんだよ。食事代はもらってるんだけど、ある材料使って自分で作ったほうが
安くつくし…そんな理由で料理はわりと作ること多いよ。」
「そ、そうなんや……。」
くっ。これは…間違ってもウチの手料理なんか食べさせられへんな……。
笑われんのがオチや。
「それじゃ、後片付けするから、TVでも見ててよ。」
「う、うん……。」
かちゃかちゃ。
「………。」
ざばー。がし、がし、がし。
「………。」
きゅっきゅっ。きゅっきゅっ。
「………。」
「はい、終わりっと。……ノーマ、どうかした?」
じーーーーーー。
「ノーマってば!僕の顔になんかついてる?」
「はっ!い、いやぁべ別に……。」
「……?」
あ、あかん!つい見とれてしもた…。こんな台所が似合う男は見たことあらへん。
洗いモンも手際がええし、家事能力はあっちの方が上か……?
言うてもウチは掃除洗濯は満足にできへんし、料理もつい最近始めたばっかりやし…。
「さてと、じゃあ何しようか?ノーマの家ほど遊ぶものはないけど…。」
「ウ、ウチ一也の部屋行きたいなぁー。」
「僕の部屋!?え、えっと……ぼ僕が呼ぶまでちょっと待ってて…!」
だだだだだっ。
何や…?走って2階に上がって行きよった。変な奴やなぁ。