「お待たせしました」
子鈴さんがコタツの上に料理を並べていく。ご飯、きのこのクリームスープそれにサラダだ。料理自体は単純だが綺麗に盛り付けられていておいしそうに見える。実際それらはおいしかった。
だが、それとは裏腹に食事中の会話は全然弾まなかった。さっきの出来事の所為でお互い気まずくなってしまったのだ。結局、二人とも一言も喋らずに食事は終わってしまった。
(折角、招待されたのにこのままじゃいけないよなあ)
僕は子鈴さんの方に向き直り素直に謝った。
「子鈴さん! さっきはすみませんでした……」
「いえ。私は気にしてませんから」
そう言ったものの下を向いてしまう。だが意を決したように僕の顔をしっかりと見据え、
「時田さん。さっきの見てしまったんですよね」
何処かで聞いたような台詞を吐いた。
「ええ……」
キッチンでの出来事を思い出そうとして首を振る。
「あの。勘違いなさらないで下さい。その……決して子供を産んだからというわけではありませんから……」
「は?」
子鈴さんは一体何を言っているんだろう。
(子供を生んだ?)
僕の頭の中での疑問には構わず子鈴さんは続ける。
「今のお仕事を見つける前の話なんです。私はベビーシッターをしてまして、そのときの旦那様がどうしても自分の子供は、その……母乳で育てたいといったものですから」
「そ、それでどうしたんですか?」
「……旦那様の奥様はお子さんを産んだときに亡くなってしまって。それで旦那様は私に頼まれたんです。ぼ、母乳を出してくれないか、と……」
「子鈴さんはそれに承諾したんですか?」
こくん、と静かに頷く。
「でもどうやって?」
「私も知らなかったのですが、子供を産んでなくても母乳が出るようになるお薬があるんです。それを投与されまして」
「はあ……」
ただ驚くしかない。まさかそんなものがあるなんて聞いたこともなかった。
「ベビーシッターの仕事をしていたときは、お子さんが飲んでいてくれたからよかったのですが、今は自分で、し、搾るしかなくて……その……」
そうか。子鈴さんはさっき自分の胸から母乳が出ているところを見られたと勘違いしてこんな恥ずかしい告白を始めたのか。
多分、僕が見たのは母乳を拭き取っていた場面だろう。
「じゃあさっきも?」
「いえ。あの時はスープに使おうと思って……あ!」
「スープ? じゃ、じゃあさっきのスープに子鈴さんの母乳が入っていたんですか!?」
「は。はい……その以前使ってみたらおいしかったので時田さんにもおいしいものを食べていただきたくて」
もはや子鈴さんの顔は真っ赤になっている。僕は子鈴さんに必要以上に恥ずかしいことを言わせてしまったのだろう。
だが、僕の頭の中はある種の興奮でいっぱいになっていた。
(子鈴さんの母乳を飲んだ……?)
それはひどくいやらしいことではないだろうか。
「時田さん? どうかされましたか?」
僕が急に黙り込んだので不安になったのだろう。子鈴さんが声をかけてくる。
「子鈴さん。その母乳が出るようになる薬というのはどんなのなんですか?」
「え? 粉薬ですけど、それが何か?」
「そんな薬があるなんてはじめて聞いたからちょっと興味が……」
子鈴さんは不思議そうな顔をして、僕らはそのまま黙ってしまった。
「あの……私、飲み物を買ってきますね」
沈黙に耐え切れなくなったのか子鈴さんはそのまま外へと出て行った。
一人になった僕はふつふつと湧き上がるどす黒い欲望を抑えられないでいた。