自分を不幸と思う人ほど叶わぬ幸福の幻想を追い、その過程で自らの無力を知り、絶望する。
・・・神条 芹華、彼女は不幸であった。
しかし、叶いもしない幸福の幻想を追うことはなかった。
何があろうと自分を保つ覚悟、それが持てているうちは無間地獄を彷徨おうと、煉獄で魂を焼かれようと、幸せでありうる、そう信じていた。
・・・とはいえ、両親の身の安全、これこそ彼女にとっての最重要項、生きる目標だった。
この春その目標は達成された。
しかし、高校生活の中で彼女の意識も変わっていた。
何があろうと自分を保つ覚悟を持てば何処で何があろうと幸福で有りうる・・・。
それもまた幻想、強がりであり、願望であったにすぎないと・・・。
この願望が強くなりすぎ、孤独になり、独り寂しがっている状態、彼女はそれを『凍った心』と表現した。
溶かされた彼女の心が求めたことは、上坂 公との二人の未来の自由・・・。
他に何も求めなかった。
高校の卒業式の日、閉ざされた幸福への道・・・。
拒絶・・・。
そして、公との再会、入れ替わりのように変質していた公の心、『凍った心』。
現在、彼女が求めていることは公の『凍った心』を溶かすこと、それだけである。