芹華の手によって扉が開かれた。
扉が開かれたその空間には声の主・・・、公がいた。
「・・・で、どうしたんだこんな朝早くに」
芹華の問いに公は手を前に突き出して答える。
公の手にはコンビニの袋が握られていた。
「・・・朝飯」
短くこう言った。
「え・・・、その、まあ入れよ」
芹華は公を招き入れた。
「缶コーヒーとパン、それだけだけど・・・」
「十分だよ、気遣ってくれて有難うな・・・」
二人は食事を取り始めた。
平凡とも取れる朝の情景、芹華はそれによって満たされていた。
「・・・昨日はすまなかったね、あたしのこと心配してくれてたんだよな」
芹華は言いながら俯いていった。
「えっ・・・、ああいや、こっちこそごめん。言いたくないことだってあるよね・・・」
公は、あまりしつこく訊ねた自分の非を詫びるつもりで来た。
それなのに、逆に謝られてしまったので戸惑ってしまった。
「ああ、ちょっと違うんだそれ、仕事に戻った理由だったよな、本当に無い・・・。
これも違うな、あるんだろうけど解らない・・・。
うん、そうだな、理由はあるんだろうけど解らないんだ。
だから答えられなくて苛ついてね・・・、とにかくおまえは悪くないよ」
このとき、芹華は公に対して素直になりきった。
探せば他に幾らでもありそうな朝の一コマ。
現在、彼らの境遇は決して平凡なものではない。
そして、彼らは平凡でないことも平凡であることも求めているわけではない・・・。