夏の夜、天では満月が照らし、満天の星がペンライトのように輝く。
もえぎの市は決して小さい町ではないので、このような夜空を見ることは殆どない。
「ほら、見てみろよ空が綺麗だぜ」
暗黒の室内に女性の声が響き渡る。
「芹華、落ち着いてる場合じゃないよ、もう結構長いよ、停電・・・」
答える声は男性のもの、言葉とは裏腹に落ち着いた声である。
「慌てたってどうなるもんでもないだろ、ほらそこに蝋燭だってあるし、コンロは電気が来てなくても使えるだろ」
芹華と呼ばれた女性の声に、青年は返答せぬまま、行動に移した。
それまで暗黒に閉ざされていた室内に光が燈る。
「この時期にすき焼きなんて変だよな・・・」
芹華の声は本当に済まなそうである。
「去年のクリスマスも似たようなこと言ってなかったっけ」
「そういえば、お前は気にしないって言ってくれたんだよな」
二人とも過去を回想する。
「・・・今の生活、退屈じゃない?」
沈黙を破り、青年が声を発した。
「退屈じゃないって言えば嘘になるさ、仕事をやってた頃は刺激だらけだったしな、でも、今だって結構楽しんでるさ(お前と一緒ならな)」
最後に呟いたことこそ芹華がいちばん伝えたいことだった。
「ん?」
「何でもない、気にするなよ」
青年はじっと芹華の目を見つめ、数秒の後吹き出した。
「・・・もしかして、聞こえてたのか?」
芹華が恐る恐る尋ねた。
「うん」
青年が短く答えると、芹華の顔が見る見る紅潮する。
「・・・ふう、駄目だなあたしも、お前に甘えたいって思ってるのに、素直になれないな」
芹華が自嘲気味に言う。
「別にそんな・・・」
青年が言い終わる前に芹華が次の言葉を続けた。
「本当、あの時伝説の坂で言ったことに、嘘は無いつもりなんだけどな・・・」
再びやってきた静寂、ただ蝋燭だけが自身を燃やす音をたて続ける。
「・・・なあ、そのさ、迷惑でさえなければ、あたしの親に紹介されてくれないか」
芹華の言葉の意味を、青年は咄嗟には理解できなかった。
数秒の後、理解はした・・・。
「ああ、うん、構わないけど・・・」
そう答えるのが精一杯のようだ。
「ま、家の親に一人前になったって宣言するようなもんだよ・・・、手伝ってほしいんだ」
芹華の声が突然落ち着きを取り戻したのは照れ隠しだろうか・・・。
動き出したばかりの二人の物語に幸あれ。
内容は支援用に書いたSSを書き直しただけですけど・・・。
こんな感じでいいんですか?