天羽碧支援SS
「じゃ、お先に失礼します。」
「ああ、気をつけて。」
部員たちを見送ると上岡はデスクトップに向き直り原稿の続きに取り掛かった。
部室には上岡ともう一人、天羽が入り口のほうでノートパソコンを叩いている。
しばらくはそういった静かな時間が過ぎていたが
「あ〜、もうっ!」
いきなり天羽が立ち上がり、不機嫌な表情でノートを手に上岡の方へ歩いてきた。
そして何が起きているのかもわからない上岡へ背を向ける形で
ドサッと席につくと何事もなかったように作業に戻っていった。
上岡は混乱していた。自分は何か天羽を怒らせる様な事をしたのだろうか?
「あ、あの…碧さん?」
恐る恐る声をかけてみる。
「何よ。」
「その位置だと西日でモニターが見づらくないですか?」
「そんなの私の勝手でしょ。」
とりつくしまもない。やはり自分は理由はわからないが西日を我慢してでも
視界に入れたくないくらい天羽を怒らせているらしい。
あきらめて自分も原稿に戻る。これを終わらせたらとにかく謝って機嫌を戻してもらおう。
しばらくして上岡は変な違和感に悩んでいた。
すぐ後ろに自分を嫌っている人間がいるというピリピリとした雰囲気が無いのである。
むしろ、暖かく安らぎを感じる雰囲気になっている。
意を決して、上岡は再び天羽の様子を伺った。今度は表情もしっかりと見る。
なんとその横顔は嬉しそうに微笑んでいた。もう少し待てば鼻歌でも聞こえてきそうだ。
「何でそんな嬉しそうな顔してるの?」
「そりゃあ、あなたが傍にいるからじゃない…ってちょっ、ちょっとぉ。」
おそらく無意識の内にしたらしい返事に天羽自身も驚いているようだ。真っ赤になって
「だから、この席に移動したのは、あそこだとついついあなたに目がいって
仕事どころじゃないとか、そんな自分にちょっと腹が立ってとか…いやそうじゃなくて、背中に感じるあなたの気配が結構心地良かったりとか、
今度からこの席をキープしてみようとかそういうことを考えていたんじゃなくて……」
どんどん墓穴を掘っていく天羽。
が、そんな天羽が無性に可愛く見え、それに振り回されていた自分がたまらなくおかしかった。
それからしばらく、新聞部員達はお互い背中合わせで顔もあわせない二人を喧嘩中だと誤解して
とばっちりを食わないように息を潜めていたという…。