Lの季節 〜Block2

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天羽碧支援SS  「長い方が好き?」1/2


「はぁ。やっぱり、私も髪伸ばそうかなぁ……」

天羽の少し拗ねたような呟きは、隣で歩いていた上岡の耳にももちろん届いた。
「今のままでも、十分似合ってるよ」
上岡は進行方向を向いたまま、本当の事を言う。
「なんか、どうでもいいって感じね?」
「そんな事ないって。ショートヘアは好きなんだ、僕」
上岡は前を向いたままだ。それが気に入らなかったのか、天羽が上岡の方を睨み付け、
「へぇ、そんな事言っちゃうのは、この口かしら?」
天羽は両の手で上岡の顔を自分の方へ向かせ、左右の頬をウリウリと引っ張る。
「うほひゃないってふぁ」
嘘じゃないってば。上岡は思う。何故そんなに突っ掛かってくるんだ。
天羽は上岡の頬から手を放し、ジト目で言う。
「さっき学校のキャンパスで、弓倉さんの髪を見ながら『風になびく長い髪っていいよなぁ……』
 とかいって、ボーッと見とれていたのはいったい何処の誰かしらねぇ?」
ご丁寧に口真似までして上岡を責める天羽。
「……僕……だなぁ」
多少引きつった顔で答える上岡。
「でしょう? それを聞いてこの私が悩んでいるというのに、何なのかしら? その態度は」
「そんな事言われても……」
やはりジト目のまま言う天羽。さすがにちゃんと答えなければ駄目だと上岡は思い、
「確かにロングも好きだけど、碧はやっぱりショートの方が似合ってると思うよ」
少しだけ真剣な表情で答える。
それを聞いて、天羽の表情もいつものように戻る。
「そう?」
「そうだよ。……そう言えば碧って一年の時は髪長かったよね。何で短くしたの?」
上岡が天羽と初めて合った頃は、天羽の髪はもっと長かったのだ。
2年で同じクラスになった時には、もう今と同じ長さになっていたのだが。
「んー。どうしてだったかしら…………」
少し考えてから言葉を続ける。
「やっぱり、変わりたかったのかな。あの頃は結構落ち込んでたしね。
 気持ちを入れ替えたかったんじゃないかしら?」
過去を懐かしむように言う天羽。
その落ち込んでいた理由に、自分も関係しているのが上岡には少し心苦しかった。
「気にしなくても良いのよ。あれは上岡君のせいじゃなかったんだしね。
 今の百合ちゃんもとても良い子だし、仲良くできてる。だから、上岡君が気に病む事なんて何にもないわ」
上岡の心情に気付いたのか、微笑みながら言う天羽。

それだけの事で、上岡は救われたような気がした。
天羽碧支援SS  「長い方が好き?」2/2


「それで結局の所、本当はロングとショート、上岡君はどちらが良いと思ってる?」
暗くなった雰囲気を元に戻すように、勤めて明るい声で聞く天羽。
上岡もいつもの調子で応える。
「うーん、やっぱりショートだね。昔の髪型も嫌いじゃないけど」

「……そう。なら髪を伸ばすのはやめね!」
天羽はにっこりと笑うと、上岡の腕と自分の腕を絡める。
「ちょ、ちょっと! こんな所で腕組まなくても……」
慌てる上岡。まだ周りには下校途中の生徒もかなり見える。正直言うと恥ずかしい。
「別にいいじゃない。それとも、私と腕組んで帰るのは嫌かしら?」
意地の悪い笑みを浮かべ、結構な至近距離から上岡の顔を見る天羽。
「いや、別に嫌ってわけじゃ……」
上岡だって、別に嫌なわけじゃない。ただ、恥ずかしいだけだ。
天羽は恥ずかしくないのだろうか。上岡は聞いてみる。
「碧は、恥ずかしかったりしないの? まだ周りに同じ学校の生徒が結構居るんだけど……」
その言葉に天羽は飛びっきりの笑顔で答えてくれる。


「何いってるの。恥ずかしいに決まってるじゃない」


しかもウインク付きで。
「そうは見えないけど……」という言葉を上岡は飲み込んだ。
こういうのも、たまには良いのかもしれない。
上岡は腕を組んでいる方とは逆の手で、天羽の髪に触れる。
「うん、やっぱり碧はこのままの方が可愛いよ」
そのセリフに流石の天羽も少し赤くなる。
「上岡君こそ、かなり恥ずかしいセリフ喋ってるんだけど……」
「そうかもね」
照れている天羽もかなり可愛かった。
自然と顔が緩むのを感じながら上岡は提案する。
「それじゃあ、今日はこのままで駅まで送っていくよ」
「あら、ありがと。嬉しいわ」
天羽も笑顔で承諾した。


その日の夕焼けは、とても奇麗だった。