星原支援SS 『放課後には雨が降り……』1/2
「雨かぁ……」
上岡進は靴を履きながらぽつりと呟き、そして傘を取る。
以前、傘を持って帰り忘れたのが幸いした。濡れずにすむ。
天気予報では晴れと言っていたのだが、空はどす黒く、かなりの量が降っている。
予想もしない事態に、昇降口では傘を持ってきていない生徒がたむろしていた。
上岡はその中に天羽碧と星原百合がいるのを見つけ、そちらに向かった。
「星原さん、天羽さん、どうかしたの?」
上岡の声に天羽が応える。
「あ、上岡君。それがさぁ、傘持ってきてないのよ。天気予報って意外に当てにならないわね」
「星原さんも?」
「いえ、私は母に『持っていった方が良い』と言われたので持ってきました」
そう言って、星原は手に持っていた折り畳み式の傘を見せる。
「でね、小降りになるまで待とうと思ってたんだけど、
ちょっと百合ちゃんに話し相手になってもらってたの」
「ふ〜ん」
ここで、天羽が気付く。
「あ、上岡君も傘あるの? いつも抜けてるくせに、こんな時だけ準備がいいのね」
「いや、この前持って帰るのを忘れてたんだよ」
「な〜んだ。やっぱり上岡君は上岡君か」
天羽は『やれやれ……』と肩をすくめる。上岡は苦笑する。
「でも、碧ちゃんも持ってきてないんでしょ? 人の事は言えないよ」
ここで星原がフォローに入った。
「そうだけど。はぁ……百合ちゃんは上岡君の味方なのね。私、悲しいわ……」
天羽は一つ溜め息をついてから、心底落ち込んだように言葉を続ける。
「……」
上岡と星原がどう返せばいいか考えて沈黙していると、天羽は突然パッと笑顔になる。
「そう言えば、いつまでも引き止めるのは悪いわね。2人で先に帰っていいわよ」
『2人で』を少し強調して言う。
「い、いや、別に用事も無いし、僕も話に付き合うよ。遅くなっても構わないしね」
「私も用事はないから構わないよ、碧ちゃん」
2人は応じない。天羽は「むぅ……」と下を向き、少し考え込む素振りをした後、顔を上げる。
「ねぇ、百合ちゃん」
言いながら星原の方に近づき、やたらとニヤニヤしながら星原の耳元で何かを囁く。
天羽が何かを言ううちに、星原の頬が少々朱に染まる。
上岡は少し心配になった。天羽があの顔をする時は絶対何か企んでいるのだ。
しかも、それが分かっていても自分には絶対に抵抗できない。
敵わない相手っているよなぁ……と、上岡は思う。
星原支援SS 『放課後には雨が降り……』2/2
天羽はまだ何か話していたが、星原がコクンと頷いた事で話は終わったようだ。
星原から少し離れ、満足げに頷いた後、何かに気付いたように突然「あっ!」と声を出す。
「上岡君!!」
「な、何?」
上岡は『やっぱり来た!』と思いながら応える。
「私ね、忘れてたんだけど、今日は早く家に帰らなくちゃ駄目だったの。
でね、でね、もう時間が無いのよ。困ってるの!」
「あ、ああ……」
かなりの早口でまくしたてる天羽、たじろぐ上岡。
「って事で、傘借りるわね!!」
「へ!?」
言うが早いか天羽は上岡が手にしていた傘を一瞬で取り上げ、開きながら雨の中へと走っていく。
呆然とする上岡。そこに星原が声を掛ける。
「あの……上岡さん」
やはり心なしか頬が赤い。上岡はその顔を見て少し心拍数が上がる。
「何? 星原さん」
「……一緒に、帰りませんか?」
星原の頬がさらに朱に染まる。そして上岡の心拍数がさらに上がる。
「あ、でも、傘無いし……」
「……傘は、あります」
そう言って手に持っていた折畳式の傘を開いていく。
「えっと、それって……」
「さあ、どうぞ」
声は落ち着いているが、星原の顔は赤い。やはり照れがあるのだろう。
「え……で、でもさ……」
上岡が戸惑っていると。星原の顔が少し曇る。
「上岡さんは、嫌…………ですか?」
負けた。
「天地神明に誓ってそんな事はありません」
言葉が勝手に口から出ていた。これで相合傘で帰る事が確定した。
「それなら……どうぞ……」
星原の顔には微笑みが戻っている。薄暗い天気の中、その顔は眩しかった。
上岡は思う。やっぱり敵わない相手っているよなぁ……と。