星原支援SS 『その日の教室は……』1/2
星原百合は美人である。
腰まで届く長い髪。端整な顔立ち。均整の取れた肢体。
それに加え、その身に纏う落ち着いたお嬢様然とした雰囲気。
どことなくボーッとしているように見える表情がその理由の一つだろう。
「お人形さんのようだ」という表現がこれでもかってくらい合っている。
そして、今では星原に関する悪質な噂はもうない。他人に対して壁を作る理由も、ない。
だから、あの事件の前とは違い、星原自身も積極的に皆に溶け込もうとしていた。
勿論それは成功し、今では以前から仲の良かった天羽や弓倉の他にも友人が多い。
結論。星原百合は、男女問わず人気が高い。
上岡進は悩んでいた。
今、自分が陥っている状況を思うと、とても複雑な心境だ。
時間は昼休み、場所は教室、上岡と星原が椅子に座り、向かい合っている。
それはいい。問題は……
上岡は周囲を見回す。教室中の視線が自分達に集まっている気さえする。明らかに注目の的だ。
特にその中でも、男子生徒からの視線は痛い。と言うより攻撃的で、恐い。
視線を落とす。二つの弁当箱が並んでいる。
そして思い出されるのは、数日前の記憶。
「今度私が作ってきましょうか? もちろん進君がよかったら、ですが」
「ホント? やった! もちろんいいに決まってるよ!」
確かに約束をした。以前に少しだけ食べた感じだと、味の方も問題ないだろう。
上岡はもう一度顔を上げ、周りを見る。男子生徒の妬みの視線。
そして思い出されるのは、数分前の記憶。
午前最後の授業が終わり、上岡は一つあくびをした後、机の上を片付け始める。
それが終わり、それじゃ急いでパンでも買いに行こうかと、近くの友人に声を掛けようとする。
「進君!」
その時、教室に涼やかな声が響いた。
扉の方から、少し早足で星原が上岡に近づく。
「どうしたの?」
星原は上岡の近くまで来ると、息を整え、微笑みながら言った。
「この前約束した通り、お弁当を作ってきましたから、一緒に食べましょう」
「うん……って、ちょっと声が大きいよ!」
時既に遅し。「ギンッ」という効果音と共に、突き刺さる男子生徒の視線。
……もしかして、ブラックリストに載ったかな……?
上岡は、これから椅子や上履きには気をつけようと心に誓った。
星原支援SS 『その日の教室は……』2/2
弁当を作ってきてくれた事は、凄く嬉しい。これは嘘じゃない。
それどころか、むしろ小躍りしたくなるくらいに嬉しいのだが……
正直言って、上岡にはこの視線の中で、このままこの弁当を食べる勇気は無かった。
……やっぱり部室に行って食べよう。
そう思い、声を掛けようと上岡は星原の方を見る。
「進君、早く食べてみて下さい」
満面の笑顔だった。
上岡の中で音を立てて何かが崩れた。
「よし、じゃあ食べようか!」
パンッ! と一度手を鳴らし、勢いよく言う。
そうだ、別に気にする事はない。妬みたい奴は妬めばいい。
第一にこの笑顔に逆らえる訳が無い。最初から選択肢は1つだったのだ。
別に人の目など気にする必要はない。そうに違いないのだ。
上岡は弁当箱の蓋を開けた。手を合わせ、「いただきます」と声を出す。
そして、まずはコロッケを口の中に運ぶ。
「うん、美味しいよ。やっぱり料理上手だね、百合は」
「良かった……頑張って作った甲斐がありました」
この微笑みだけで御飯3杯はいけそうだった。
……数十分後、星原が自分の教室に帰ってから、
「てめぇ、羨ましいぞ」
「この幸せ者がぁ!!」
「上岡、短い付き合いだったな……」
と、上岡が他の男子生徒から小突かれまくったのは言うまでもない。