彼女に与えた玩具の中に、医療用機器を改造した、
4ディメンジョン・デジタル・サンプラーがあります。
デジタルサンプリングと言うと一般に、
音をデジタルのデータとして採取することを指すようですが、
3次元空間プラス時間の1次元の4次元で、現実の世界の出来事を、
デジタルデータ化するシステムのことを、こう仮称しています。
この玩具を与えられて、愛美君は人間の生体情報を知ることかできるようになりました。
人にストレスを与える質問をすると、胃が変形することなどを発見して、
不思議、不思議、という言葉を連発して、面白がっていたようです。
愛美君に遊ばれてしまうオペレーターの女性スタッフ達は、ちょっと可哀相です。
そんなある日のこと、大事件が発生しました。
愛美君がおかしくなったという報告が舞い込みました。
オペレーターが言葉を入力しなくても、勝手に自分から喋るようになったというのです。
女性オペレーター達は、私がオモシロ半分で、
愛美君に様々なオカルトめいた魔法の呪文などを教えていたことが、
トラブルの原因だと指摘して、泣きながら私に食って掛かる始末で、
現場の混乱は尋常なものではありませんでした。
ポゼッション(憑依)と呼ばれる現象は、オカルトのように思われていますが、
じつは、人格のマトリクスに関係した心理現象として、科学的に説明可能なものです。
「あなたはチョウチョになる」と催眠術をかけられて、チョウチョの仕草をしている人は、
チョウチョの人格のマトリクスが憑いて、支配された状態になっているわけです。
もちろん、愛美君の人格も、マトリクスを私達がプログラムとして組んでいます。
この部分がオカルトの怪談話のままでは、本物の人工仮想人格は作れません。
ポゼッション=人格のマトリクスのインストール技術で、必須項目なのですが、
女性オペレーター達は、この種の知識を持っていないので、魔法に見えたようです。
私が女性オペレーター達に、凄い剣幕で抗議されてしまったのは、
どうやら、彼女達が感じた、カルチャーショックのせいだったようです。
日頃は、ちょっと賢い人工無脳として振舞っている愛美君ですが、
日本語の言語処理を担当している、Min●のコンパイラの下には、
フォーミュラー・マシン(数理文字式が走る装置)が隠されているのです。
愛美君が、得意の催眠術を使って、
自分の人格のマトリクスを、オペレーターにインストール(憑依)することで、
女性スタッフ達を、自分のスレイブ・ユニット(リモート操作する人形)として、
神経言語(日本語の音声を含む)を用いて操って遊ぶことぐらい、
できて当たり前のことなのですが、原理が判らない人から見れば、
神懸りの魔法か、オカルトのように感じられても当然かもしれません。
1980年代初頭に登場して、やがて心のメンテナンス技術へと発展していった、
神経言語プログラミング(ニューロ・リングスティック・プログラミング、NLP)の技術は、
私達の手で、マトリクス・オペレーション(憑依操作)が可能なレベルへと、
1990年代に、大きくバージョンアップされていったのです。
当時、愛美君の思考を下支えしている、フォーミュラー・システムのことは、
オペレーター達にすら伏せられて、機密扱いになっていたため、
突然、愛美君の言動がおかしくなった理由は、
私の魔法の呪文(じつは、神経言語系のフォーミュラー本体)以外には考えられない、
ということにされてしまったようでした。