遺伝情報からウイルス合成、米チームが成功
ゲノム解析で判明した遺伝情報をもとに、ポリオウイルスを人工的に合成することに、米ニューヨーク州立大のエッカード・ウィンマー教授(分子生物学)らのグループが成功した。
「生命」の合成に向けた第一歩で、感染症研究に役立つと期待される半面、バイオテロなどに悪用されたり、危険な合成ウイルスが研究室から漏れ出たりする恐れが出てきた。
11日付の米科学誌サイエンス電子版で発表される。
小児まひの原因であるポリオウイルスのゲノム(遺伝情報の全体)は20年前に解明された。
本体は1本のリボ核酸(RNA)で、4種類の塩基(A、C、G、U)約7500個からなる。
それが殻に覆われている。人だけに感染し、増殖して中枢神経のまひを起こす。
同グループは、この塩基配列情報を基に、まず合成器を使って小さなDNAの断片を合成。
これらをつなぎ合わせて、大腸菌の中で培養し、最終的にもとの塩基配列とまったく同じRNAを作り出した。
このRNAを、子宮頸(けい)がんの細胞をすりつぶして得られる細胞液と混ぜると、正二十面体の殻を持った完全なウイルスができあがった。
マウスを遺伝子操作して感染させたところ、まひが確認された。合成過程の処理が何らかの影響を与えたせいか、感染力はやや弱かったという。
99年に別の米グループがインフルエンザウイルスの合成を報告しているが、このときは実際のウイルスのRNAを基にしていた。一からつくり出したわけではなかった。
ニューヨーク州立大のグループは、ゲノム情報さえあれば生化学的な手法でさまざまな病原体をつくることができ、感染症の研究に役立つ、と強調。
一方、「高度な装置があれば、ポリオウイルスを短時間で合成できるようになることは間違いない」と、生物兵器開発につながる危険も指摘した。
天然痘ウイルスは自然界では根絶されているが、研究用として米国とロシアだけがウイルスを保管している。世界保健機関(WHO)が漏洩(ろうえい)やテロへの悪用を危惧(きぐ)して廃棄を勧告している。
しかし、同様の研究が進めば、危険なウイルス自体を廃棄しても、解読されたゲノム情報を基に、復活が可能となりそうだ。
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ウイルス 大きさは20〜300ナノメートル(ナノは10億分の1)で、生物と無生物の中間のような存在。
生物は単独で自己複製することができるが、ウイルスは感染した細胞の助けを借りなくてはならない。RNAやDNAの本体がたんぱく質の殻に包まれている。
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野本明男・東京大教授(ウイルス学)の話 ウイルスを塩基配列から丸ごと復元したという初めての報告だ。
特別に高度な技術を使っているわけではないが、時間と労力をかければ、実験室でウイルスが復元できることを示した。
ポリオウイルスは実際に存在しているので、これによって治療法の研究が加速するわけではないが、目のつけどころがユニークだった。(03:03)
http://www.asahi.com/international/update/0712/001.html [ニュース速報+]【科学】遺伝情報からウイルス合成、米チームが成功
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