====ENGLAND====Premier (4)

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2001年6月28日 (木) イングランド

<プレミアリーグ・コラム >
 なぜ稲本はアーセナルなのか。なぜ田舎クラブを目指さないのか

by 原田公樹


 英国でも稲本潤一(21)のアーセナル移籍が本格的に騒がれはじめた。シーズン終盤から稲本がプレミアリーグへ来るかもしれないという噂があり、一部のタブロイド紙が「アーセナル入り」を報じていたが、26日にロイター通信が「ガンバ大阪の女性広報担当が契約はほぼ完了した」と配信。これを受け、英国の高級紙各紙も「稲本のアーセナル入り」を次々と報じた。

 結局このロイター電は“誤報”だったとして、ガンバ側が否定するなど、混乱しているが、ヴェンゲル監督が稲本に興味を持っているのは間違いないようだ。もともとヴェンゲル監督は中田英寿に興味を持っており、シーズン終盤にはローマ側へオファーを出していたが、コンフェデレーションズカップの期間中、フジテレビの解説者として日本に滞在中、気が変わったようだ。

 中田のプレーを見て、25〜30億円という移籍金が見合わないと思ったのか、それともコンフェデレーションズカップ期間中、パトリック・ヴィエラが「アーセナルを出たい」と発言したため、トップ下よりボランチの補強が先だ、と考えたか。真意は分からないが、関係者にヴェンゲル監督は「中田に興味はない。稲本がいい」といい残して英国へ帰国したいう。

 ヴィエラはマンチェスター・ユナイテッド(マンU)へ移籍したがっており、もはやこれは止められない状況だ。アーセナル側もいかにヴィエラをマンUへ高く売るか、のための抵抗をしており、交渉は最終局面。来週にも移籍金2500万ポンド(約45億円)程度でマンUへの移籍が決まるだろう。
 45億円でヴィエラを売り、代わりに4億円前後で稲本を買う。アーセナルにとってはうまい商売だ。金額面で折り合いがつけば、来週にでも「稲本のアーセナル入り」は正式決定するだろう。

 しかし欧州移籍最初のクラブがアーセナルというのは、稲本にとっては大きな障害だ。当然ロンドンに住むことになるわけだが、大都市なだけにまず生活に慣れるのに時間がかかるだろう。人間関係は希薄だし、日本人への差別もあり、食べ物はまずい。どんよりとした曇り空に慣れるのにも時間はかかるし、冬は寒い。いろんなストレスが一気に降りかかってくる。

 稲本は日本人のフィールドプレーヤーなかでは唯一、プレミアリーグで戦える可能性を秘めたフィジカルを持った選手だが、それでも肉体を「イングランド仕様」に変えるのにも半年ぐらいかかるだろう。激しく、早く当たってくる相手選手に対応できる身体を作らない限り、選手層が厚いアーセナルでレギュラーを獲るのは至難のワザだ。いまのままでは絶対にレギュラーになるのは不可能だろう。アーセナルのトレーニング施設は世界最高レベルだが、やるのは本人。最初の半年間は死ぬような毎日が待っている。

 中田がイタリアで成功した背景には、スタートが地方都市のペルージャだったからだ。中田はデビュー戦でユベントスから2ゴールあげて、鮮烈デビューを飾り、順調にセリエA生活を始めたように見えたが、人知れず相当なフィジカルトレーニングを行なっていた。中田の身体は日に日に変わり、とくに上半身は半年間で瞬く間に筋肉がつき、表情も変わった。言い方は悪いが、中田の身体は半年でまるで競走馬のような肉体へ変わった。気のいいペルージャの人たちが中田を支え、励ましていたからこそ、中田は成し遂げたのだ。

 大都会のロンドンの超メジャークラブで稲本が成功するのは、中田がペルージャで成功したより、はるかに難しい。まずは英国の生活とイングランドのサッカーに慣れるため、田舎の中小クラブで1〜2年レギュラーとして過ごすほうが将来は開けてくると思うのだが。