http://www.nikkei.co.jp/kansai/news/news007857.html サッカー王国が認めた大阪の名将
2010/02/26配信
シーズン半ばの解任はもとより、数試合での監督交代も珍しくないサッカー界で、
“長期政権”を保つのは至難の業だ。全国民がサッカー監督とさえ言われるブラジル。
世界で最も監督への視線が厳しい「王国」も認める名将が大阪にいる。
Jリーグで自らが持つ同一チーム最長記録を更新し、9年目に入るガンバ大阪の西野朗監督だ。
ブラジルで最も権威ある専門誌「プラカール」が昨年末の記事「永遠なる師たち」で選んだ世界の
長期政権ベスト5で西野監督は並みいる名将を押しのけ5位に。1位は一昨年のクラブワールドカップでも
対戦したマンチェスター・ユナイテッドのアレックス・ファーガソン監督だった。
「励みになる」。私が掲載誌を手渡すと白い歯をほんの少し見せた西野監督ではあるが、
この指揮官は名誉や記録に執着しない。
昨年12月のJ1リーグ最終節で、前人未到の通算200勝を達成。自らの最多勝利数を伸ばしても
口癖は「数字に興味はない。負け数も一番多いわけだから」。そんな西野監督も、昨年で満了となる
契約の延長については頭を悩ませた。
就任前まで優勝に縁がなく、存在感の薄かったクラブを一躍全国区に引き上げたばかりか、
良質の攻撃サッカーという哲学まで植え付けたのは、その手腕によるところが大きいが、
胸の内は「同じ選手で強くても魅力は感じない」である。
一方で続投の後押しとなったのも「成熟した選手たちと引きだし合いたい」というチームの
潜在能力への期待だった。
アトランタ五輪でのブラジル代表撃破や日本人監督初のアジア制覇などの偉業を果たした名将は、
強豪の座を保ちながらの世代交代という難問に挑む。
毎日、1頭の獅子を殺さないといけない――。王国のサッカー界は日々の奮闘をこう表現するが
西野監督も「2年契約が保証されていると思っていない」。緑のジャングルならぬピッチ横を戦場とする男の新たな「狩り」が始まる。
(スポーツライター 下薗昌記)