★★怒涛のCMF Fulham稲本 Part81★★
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「日本」を捨てた稲本潤一
火事場の馬鹿力と言ったら失礼だろうか。いや、あえてそう言おう。それほど、稲本潤一はすごかった。4日、フルハムの本拠地で行なわれたFAカップ4回戦再試合、エヴァートン戦は稲本の「イングランドでの」ベストゲームだ。
「イングランド」と注釈をつけるのは、日本ではもっと別のベストゲームがあった、という意味ではない。イングランド流のサッカーとして、という意味である。
キックオフ直後から、ヘディングで競り合い、パスを前へ前へ出し、強引にドリブルで突破しようと試みた。日本サッカーの流儀からすれば、「何でそんな無理に勝負へ行くんだ。自分勝手なサッカーをするな。もっとパスでボールを回せ」という怒られそうなプレーだ。
日本とイングランドでは、「よい」とされるプレーが、まるっきり違う。サッカー発祥の地なのだから、「イングランド流」というのは、変かもしれないが、少なくとも「日本流」とはかなり異なる。
2年6カ月かかった。稲本がアーセナルへ移籍してから、この「日本流」を捨てるまでに要した時間だ。
稲本もずいぶん前から「レギュラーで出ているのは、ひとり抜いてから前へパスを出す選手だから、そういうプレーができなければ…」と話していたから、頭では分かっていたはずだ。だが、いざ試合になると、ついつい「日本流」が出た。
例えば、ボールを持って、敵をひとりかわす場面。日本人選手はワンツーパスで抜こうとする。「肉体的に劣るので、組織で対抗する」と教えられているからだ。この意図を察して、チームメイトも近寄って来る。
ところがイングランドでは、目の前の敵は、自己責任において、フェイントや縦へのドリブルで抜くのが基本だから、チームメイトはショートパスをもらうために寄って来ない。
稲本はパスの出しどころがなくて、躊躇している間にボールを敵にかっさらわれたり、安全なバックパスで逃げる、場面は少なくなかった。
チームメイトからは、勝負をしない奴。バックパスしかしないなら、と烙印を押され、だんだんボールは回って来なくなる。こうして稲本は、ゲームの流れに入れなくなり、監督から信頼を失っていった。