ドラゴンクエスト・バトルロワイアルII Lv6 [転載禁止]©2ch.net

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24名前が無い@ただの名無しのようだ
投下乙です!
いよいよ終盤戦…セカンドもついにここまで来たかと思うと感慨深いですね。
書き手の皆様方本っ当〜〜〜〜に乙乙乙です。
ロッシュ達はこの戦いをどう乗り切るんだろうか。
25名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/12/17(水) 19:42:35.85 ID:OW0vRbKQ0
 
26名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/12/17(水) 19:43:07.87 ID:OW0vRbKQ0
 
27 ◆1WfF0JiNew :2014/12/17(水) 19:43:09.08 ID:90pWOVch0
予約分、投下します。
28名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/12/17(水) 19:43:45.60 ID:OW0vRbKQ0
 
29名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/12/17(水) 19:44:16.91 ID:OW0vRbKQ0
 
30名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/12/17(水) 19:44:51.20 ID:OW0vRbKQ0
 
31名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/12/17(水) 19:45:41.60 ID:OW0vRbKQ0
 
32――遥かに貫け ◆1WfF0JiNew :2014/12/17(水) 19:46:44.77 ID:90pWOVch0
視界の先に、黒を黒で塗りたくった禍々しい魔物が鎮座していた。
撒き散らされた邪悪、果ての見えぬ力。
それら全てをひっくるめて、“絶望”なのだろう。
手が震える、足に力が入らない、顔つきが自然と強張っていく。
思わず乾いた笑いが漏れ出てしまう程に、この破壊神は――世界が違っていた。

「せめて死に様で“我等”を愉しませろ」

その言葉を皮切りに、“前座”が始まった。
豪腕から繰り出された鎌鼬を各人、散開して躱す。
一撃でも受けたら致命傷だ。
此処に集った七人の勇者達の目は節穴ではない。
幾つもの修羅場を潜り抜けた彼らは、破壊神の底知れなさを相対するだけで理解している。
なればこそ、温存だとかは愚策。最初から全力全開で、ぶち破る。

「――ハァッ!」

正面から行くと見せかけて迂回。撹乱してからの一斉に攻撃。
後衛であるゼシカとビアンカの護衛として残したゲロゲロとテリー以外の前衛組は迅速だった。
三方向から繰り出された渾身の斬撃はどれも必殺と称せられるものだ。
如何に破壊神とはいえこれを捌くのは容易ではないだろう。

「あぁ、いいぞ。夢は輝きを伴うものだ。強ければ強い程食べごたえがある」

だが、斬撃は両腕と尻尾によって受け止められる。
硬い鱗に覆われた体表は最高品質の武器といえども、安々と貫くことは敵わない。

「なら、呪文なら!」

斬りかかった三者は後退し、後衛のビアンカとゼシカが呪文を唱え、破壊神へと撃ち放つ。
メラゾーマの二重撃ち。魔術師の練り上げた炎は煉獄にも勝る。
33名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/12/17(水) 19:47:10.13 ID:OW0vRbKQ0
 
34名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/12/17(水) 19:47:41.05 ID:OW0vRbKQ0
 
35名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/12/17(水) 19:48:12.65 ID:OW0vRbKQ0
 
36名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/12/17(水) 19:49:06.08 ID:OW0vRbKQ0
 
37――――遥かに貫け ◆1WfF0JiNew :2014/12/17(水) 19:49:41.95 ID:90pWOVch0
       
「では此方は冷気で相殺しよう」

けれど。彼女達の本気は破壊神の口元から吐き出された冷気によって掻き消されていく。
その冷気はつめたい息と称するだけなのに、まるで光のように輝いて。
見るものを魅了する神々しさまであった。
氷の粒が炎を裂き、巻き起こる烈風が薄く渦巻いた熱を急速に冷ます。
ただのつめたいいきのように見えて、その実は苛烈。
“夢”を糧にし、成長でもしたのか。それとも、破壊神であるが故なのか。
どちらにせよ、メラゾーマは相殺され、破壊神には届かない。

「……僕達が戦った破壊神よりも、何倍も強いなんて反則だと思うんだけど」
「軽口が叩けるならまだ余裕だね」
「ンなこと言ってる場合かよ。あのクソッタレを殺し切るには骨が折れるぜ?」

一瞬の攻防で推し量ったものではあるが、幾つもの“悪夢”が重なったアレは正しく想像を超えるバケモノだ。
生半可な覚悟では、いとも容易く全滅してしまう。

「これで終わりか? なら今度は我らの番だな」

大気を捻切りながら振るわれる豪腕を躱し、口から吐かれる冷気を後衛の呪文で相殺しながらも、ロッシュ達は前へと疾走する。
岩場を悠然と踏み越えて、走って行く彼らに付随して後衛も同じく後を追いかけた。

「ま、どんな奴だろうが、殺ることには変わらねぇけどよぉ!」

叫びを上げ、速度を上げたソフィアは姿勢を低くしながら破壊神との距離を詰めていく。
射程圏内にはまだ遠い。
唸りを上げて振り下ろされた尻尾からも逃れ、鎌鼬を盾で防ぎながらでは中々に縮まらない。
直撃を受けるだけで致命傷と言える破壊神の攻撃は重い。

「ハッハーッ! ライ、デインッ!」

だが、ソフィアとて元いた世界では魔王と相対して打ち勝った勇者である。
軟弱な一般人とはかけ離れた戦士に、後退の文字はない。
掌から放たれた雷を牽制に、少しずつではあるが破壊神の麓へと近づいていく。
そして、一足一刀の間合いに入った瞬間、ソフィアはニヤリと笑い――。

「囮役ご苦労様っ」

背後へと回っていたロッシュとカインが後方から間髪入れずに剣撃を叩き込む。
当然、顔面へと直に繰り出される必殺だ。血飛沫と共に、破壊神の顔が鈍く歪む。
38名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/12/17(水) 19:50:28.71 ID:OW0vRbKQ0
 
39名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/12/17(水) 19:52:11.28 ID:OW0vRbKQ0
 
40――――遥かに貫け ◆1WfF0JiNew :2014/12/17(水) 19:53:18.40 ID:90pWOVch0
       
「まあ、念には念を押してねっ!」

一撃では終わらせない。そう言わんとばかりにカインの振るった銀光が翻る。
だが、破壊神もただでは殺られまいと急ぎの回避を行おうとする。
神速とも言える彼らの斬撃は脅威ではある。
しかし、破壊神の力を持ってすれば十分に回避が可能だ。

「良い判断だ。けれど、通すと思うか?」
「ああ、通すさ」

カインは口を釣り上げて笑い。

「――もっとも、僕じゃないけど」

言葉の末尾を言い終える前に、呪文と斬撃が破壊神へと降り注いだ。
後衛の呪文に、囮役だったソフィアの一撃。
縦横無尽に駆け巡る彼らは敵に的を絞らせない。

「あ〜、ったくよぉ……やっぱ強いわ、このデカブツ」

ソフィアの苦笑混じりの戯言を聞き流しながら、各々対応を走らせた。
先に行動を開始したのは破壊神だった。
連続して放たれた呪文を薙ぎ払いながら後衛を潰すべく破壊神は突っ走る。

「チッ、散開するぞ!」

テリーの叫び声を皮切りに、破壊神の突撃から逃れるべく左右へと別れて足を動かした。
逃げながらもゼシカ達は呪文の詠唱をやめない。
掌から放たれた呪文で阻害しながら、破壊の一撃を避け続ける。
このまま、押し切る。そう、思っていた。

「はっ、逃さん」

目にも止まらぬ早業で、破壊神の腕が伸びた。
伸ばされた掌がビアンカへと迫り、押し潰そうと硬く握り締められる。
寸前でテリーが前へと躍り出て、オーガシールドを掲げなければ即死だっだだろう。
盾越しでも十分な衝撃は、二人を後方へと吹き飛ばした。
顧みる余裕はない。残った勇者達も、次は自分に降りかかるかもしれないのだから。
41名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/12/17(水) 19:54:00.09 ID:OW0vRbKQ0
  
42名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/12/17(水) 19:54:31.25 ID:OW0vRbKQ0
 
43名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/12/17(水) 19:56:10.99 ID:OW0vRbKQ0
 
44――――遥かに貫け ◆1WfF0JiNew :2014/12/17(水) 19:56:21.99 ID:90pWOVch0
「全く、厄介この上ないね!」

舌打ちをしながらも、地面を蹴り上げて動くことをロッシュ達はやめなかった。
しかし、状況は刻一刻と劣勢へと塗り替わっていく。
後ろに回り込んだカインとソフィアは尻尾で薙ぎ払われ、術を唱えていたゲロゲロとゼシカは突進によって土煙を上げながら、大地を転がった。

「……ッ」
「我らが力、圧倒的ではないか。なぁ、ロッシュ」

攻撃をやめ、破壊神はその獰猛な口をゆっくりと開く。

「踏み越えた先に何があると信じている」
「ハッピーエンドさ」
「ほう、まだ信じることが出来るのか。このような結末を受けて尚、立ち向かえるのか」
「諦めだけは悪いんでね。闇の先には――」
「――光があるとは限らない」

それはいつかの時に問いかけられたものだった。
魔王を打ち倒しても、彼の居場所はない。
其処は、ロッシュであってロッシュでない“彼”の居場所だったから。

「ああ、知っている。よ〜く、知っているさ。それでも、僕はやりたいことをやるって決めてるんだ」

だから、創っていこうと誓った。
今まで築いてきたものをやり直して、零から始めようとロッシュは願った。
夢の端末でしかない自分“達”が再び会えるように。
そして、いつか現実で幸せを掴めるように。
ロッシュは幸せな“夢”の世界を消すことを選んだ。

「そのやりたいことをやった結果が、貴様の望むモノではないとしてもか」
「……どういうことだい?」

彼が望むのは暖かな陽だまりだった。
穏やかな村で妹と細々と暮らす日々が好きで、高原から見る夕焼けは今でも脳裏に残っている。
ロッシュの望むモノは、そんな永遠に続くとさえ錯覚する日常だ。
取り戻す為に戦うとは言っても、もう返ってはこない――世界。
彼が望むモノは永遠に、手に入らないのだから。
45名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/12/17(水) 19:56:55.60 ID:OW0vRbKQ0
 
46名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/12/17(水) 19:59:50.44 ID:OW0vRbKQ0
 
47名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/12/17(水) 20:00:41.34 ID:OW0vRbKQ0
 
48――――遥かに貫け ◆1WfF0JiNew :2014/12/17(水) 20:00:55.65 ID:90pWOVch0
    
「デスタムーア様は貴様や我らを凌駕しているということだ。
 我らなど可愛い部類に入るぞ。まだ、純粋な悪として成り立っている」
「ははっ。結局は、自分の親玉さん超素敵〜って自慢したいだけなんじゃないか」
「まさか。自慢など到底できんよ。もはや、あの方はどうしようもなく“終わっている”。
 悪でもなく、善でもなく――ただ、“夢”を滅ぼすだけの化け物と成り果てたのだから」

悔恨の思いを添え、破壊神はロッシュを真っ直ぐに見据えながら言葉を紡いでいく。

「本来ならば、貴様達も我らにも、続きはなかった。
 万事、終わったことをやり直す事はできない。死して敗北となった我等もそのルールに従い、闇へと消えるはずだった」
「そのまま消えてくれた方がよかったんだけどね。リターンマッチにしては規模が大き過ぎるよ」
「そうだな。幾つもの“夢”を重ね、一つへと束ねていくなど、我等には想像もつかなかった」

そして、言葉の末尾に深い溜息を付け加え、破壊神は問いかける。

「他の奴等はともかく、貴様は何故抗う」
「無論、取り戻す為に」
「ハッ、その願いを叶える過程でお前達が我らを踏破したとしよう。だが、その先で相対するのは絶望すら生微温いものだ。
 虚無だよ。帰る場所も、待っている人も、何もない世界。いや、世界と呼べるかどうかすらわからんな」

それはかつてデスタムーアを打倒すべく挾間の世界へと乗り込んだロッシュ達にも感じたことだった。
まるで、王道の御伽話をみているかのような勇者達。
友情、努力、勝利といったお約束の三原則を兼ね備えたリーダー。
終ぞの時まで、彼は初志を崩さず走り続けた。
アクバーを討ち滅ぼし、最終的にはデスタムーアを打倒するに至った彼は、紛れも無く本物だった。

「貴様らが相対するのは何せ、善悪といった概念、人の想いが宿る“夢”すらない化け物だ。
 そんなモノをどうやって踏み越えるというのか教えてほしいものだな」

それでも、破壊神はあえて問いを言葉にしたのだ。
眼前の“彼”はまるで――清廉なる皮を被った得体のしれない何かのようで。
その本物がどうしても見たいという欲求に逆らえず、言葉を弄してしまった。
49名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/12/17(水) 20:01:07.42 ID:OW0vRbKQ0
 
50名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/12/17(水) 20:01:47.62 ID:OW0vRbKQ0
 
51名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/12/17(水) 20:02:29.57 ID:tzkVVhDY0
  
52名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/12/17(水) 20:03:28.00 ID:OW0vRbKQ0
 
53――――遥かに貫け ◆1WfF0JiNew :2014/12/17(水) 20:04:07.81 ID:90pWOVch0
        
「だから、何度でも言ってるだろう? 僕はやりたいことをやるだけだって、ね」
「その結果が、貴様の住まう世界を滅ぼすことだったのか? そう考えると、貴様は恐ろしい奴としか言い様がない。
 諦めない、認めない、かといって――切り捨てることが出来る。
 あの世界に住まう人々を殺し、世界を救った。
 その中には大切な人がいるにも関わらず、手を伸ばさなかった。二者択一を、冷静に分析して選びとった」

デスタムーアを殺すことと夢の世界を滅ぼすことは同意義だ。
どちらかだけを選ぶなどできやしない。
しかし、ロッシュはその右手で、決断をした。
愛する妹、大切な友人、何にも替え難い故郷、そして――最愛の仲間を切り捨てた。

「何故、貴様は自分の居場所を無くしてなお……縋れるモノがない世界で、立っていられる?」
「はは、はっ、はははっ、おいおいそんな奇天烈な質問をしたいが為に他の皆を吹き飛ばしたのかい」

だが、そんな瑣末なことは通過点に過ぎない。
そう言わんばかりに、ロッシュはくつくつと笑い声を上げながら、目を細めて笑みを見せる。

「さっきから言ってるじゃないか。ないなら、創ればいい。奪われたら、奪い返せばいい。
 あの時下した諦めを、やり直せる。それができるだけの力が眼前にぶら下がっているんだ。
 幾つもの世界を統合した今のデスタムーアなら、僕の“夢”を再構築することぐらい、出来るよね?」
「貴様、まさか」

凄絶に、笑う。
ただそれだけのことなのに、どうしてこんなにも威圧されるのか。
これは、ジャミラスを傷めつけた時に見せたあの表情と同じだ。
願いを叶える障害は何の躊躇もなく打ち倒す冷徹な心。



「ああ、僕の目的は最初から唯一つ。喪った“夢”を現実にすることだ」



――――きっと、それは“魔王”と崇められるモノであり。



「――今のデスタムーアなら、できるんじゃないか? 死者を蘇らせる力を持つ彼ならば」

どうしようもなく、自分のやりたいことだけを貫き通す“人間”のモノだった。
54名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/12/17(水) 20:04:11.99 ID:tzkVVhDY0
 
55名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/12/17(水) 20:06:23.76 ID:OW0vRbKQ0
 
56名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/12/17(水) 20:06:25.88 ID:tzkVVhDY0
 
57名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/12/17(水) 20:07:00.46 ID:OW0vRbKQ0
 
58名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/12/17(水) 20:07:55.16 ID:tzkVVhDY0
 
59――――遥かに貫け ◆1WfF0JiNew :2014/12/17(水) 20:08:34.60 ID:90pWOVch0
「何もかもが元通り、失った夢と希望がまた舞い戻るなんてラブアンドピースそのものじゃないか。
 前のデスタムーアの力を奪っても、“夢”を細分の狂いなく維持するなんて無理だと思った。
 だから、僕は諦めた。存在するだけで害を及ぼす悪を滅ぼす為に、切り捨てざるを得なかったけれど」

確信に至ったのはデュランとの遭遇だった。
一度は完全に討滅したはずなのに、五体満足で記憶に不備もなく蘇っている。
それはロッシュからすると闇の中に見出した一筋の光だった。
あの時、切り捨てた“夢”が――もう一度見れる。
失い続けた過去をやり直せるかもしれない。

「あの時抱いた諦めが、無くなるんだ。これほど喜ばしいことがあるかい?」
「……何一つ諦めていない。言い方を変えれば、喪ったものを取り戻す、魔王の権限を奪って、夢の世界を再び――といったところか」
「強欲と罵り、身勝手な振る舞いとあざ笑うならご勝手に。僕はただ――やるだけだ」
「まさか。逆に好感を覚えるよ。かつて我等が忠誠を誓ったデスタムーア様のように、どうしようもなく――魔王のようだ」

故に、彼は諦めない。
一片の希望があるならば、最後まで戦い続けるだろう。
他の誰もが否定しようとも、もう一度が欲しいから。

「さぁ、吹き飛ばされた仲間達も復帰してくる頃合いだし、再開といこうか」

道化は心の奥底に“夢”を潜ませながら剣を取る。
誰もが恋焦がれる当たり前の思いを絶対へと変える為にも。
“人間”でありながら、“魔王”としての側面を持つ勇者は、右手を伸ばす。
その右手は――。

「だから、さ……頼むよ。君達は此処で、何の悔いも残さず死んでくれ」

――まるで、願いへと恋焦がれる殉教者のようで。



【はじまりの地】
【ソフィア(女勇者)@DQ4】
[状態]:HP9/10、首輪解除
[装備]:天空の剣@DQ4、メタルキングの盾@DQ6、メイド服@DQ9、ニーソックス@DQ9
[道具]:支給品一式
[思考]:終わらない
[備考]:六章クリア、真ED後。

【カイン(サマルトリアの王子)@DQ2】
[状態]:HP9/10、首輪解除
[装備]:ロトの剣、ホワイトシールド@DQ8
[道具]:支給品一式、剣の秘伝書@DQ9、もょもとの手紙、キメラの翼@DQ3
[思考]:妹へ誓った想いだけは違わない。
60――――遥かに貫け ◆1WfF0JiNew :2014/12/17(水) 20:09:22.20 ID:90pWOVch0
       
【ゼシカ@DQ8】
[状態]:HP9/10、首輪解除
[装備]:女帝の鞭@DQ9、わだつみの杖@DQ9、セレシアの羽衣@DQ9、奇跡の剣・改@DQ7
[道具]:支給品一式、賢者の秘伝書@DQ9、おふとん@現実、キメラの翼@DQ3
[思考]:"愛"を伝える"おかあさん"になるため、絶対に生きる。

【ビアンカ@DQ5】
[状態]:HP9/10、首輪解除
[装備]:モスバーグ M500(2/8 予備弾4発)、祝福の杖@DQ5、エンプレスローブ@DQ9、ブロンズナイフ、リッカのバンダナ@DQ9
[道具]:支給品一式、炎のリング@DQ5、カマエル@DQ9、調理器具(大量)、ふしぎなタンバリン@DQ8、聖なる水差し@DQ5
      小さなメダル@歴代、命のリング@DQ5、白紙の巻物@トルネコ、猫車@現実、結婚指輪@DQ9、キメラの翼@DQ3
[思考]:生き残り、彼らの分まで夢を叶える。
[備考]:カマエルによって錬金釜の使用方法を教わっています

【ロッシュ@DQ6】
[状態]:健康、首輪解除
[装備]:銀河の剣@DQ9、トルナードの盾@DQ7、星降る腕輪@DQ3
[道具]:支給品一式、
[思考]:諦めない。――――?

【ゲロゲロ@DQBR2nd】
[状態]:HP9/10、首輪解除
[装備]:メタルキングの槍@DQ8、地獄の魔槍@DQ9、パパスの剣@DQ5、サタンネイル@DQ9、スライムの服@DQ9、スライムヘッド@DQ9
[道具]:支給品一式、ヤリの秘伝書@DQ9、王女の愛@DQ1
[思考]:己が信念を貫く。
[備考]:ムドーが死に、彼が呼び覚まされました。

【ジェノシドー@DQBR2nd(DQMシリーズ)】
[思考]:絶望を、与える
[備考]:アクバーが"夢"の力とジャミラス、デュランの肉体によって変異しました。
61名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/12/17(水) 20:10:36.92 ID:OW0vRbKQ0
 
62 ◆1WfF0JiNew :2014/12/17(水) 20:10:44.76 ID:90pWOVch0
投下終了です、支援ありがとうございました。
63名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/12/17(水) 22:45:11.76 ID:vYUIDvc20
投下乙です。
まさかまさか、まさかすぎるぜロッシュさんよ……
最大の敵は味方にあり、か……
64名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/12/18(木) 00:19:11.75 ID:Cclfrv1r0
乙!
ロッシュのこの考えは予想外だったがすごい納得できるな
さあ、ここからどうなっていくのか
65名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/12/18(木) 02:33:42.28 ID:poMuTnSI0
より大きな力を持って蘇ったデスタムーアを前にして、バーバラは絶望に暮れ、ロッシュは希望を見出した
正反対のようで二人とも狂気という共通点があって、意味は違えどどちらも世界を背負ってた
果たして、ハッピーエンドはくるのだろうか……

ともかく乙です!すごいリレーだ……!
66名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/12/18(木) 02:34:42.53 ID:poMuTnSI0
ageてしまいました。すみません……
67名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/12/18(木) 19:34:50.60 ID:qG31F1Yo0
投下乙
ってかここに来て優勝エンドの可能性が出てくるかw
どうなることか、気になりますなw
68名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/12/20(土) 00:51:44.31 ID:nAtDn+8W0
投下乙!
まさかのロッシュ! でもまさかなのにまさかじゃないのはここまでの積み重ねと含みがあったからこそ
絶望こそが彼の希望
まさかデスタムーアの果てがロッシュの夢になるとは
69名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/12/21(日) 01:46:52.33 ID:srCHQtes0
ここにきてロッシュの狙いが明らかになってまるで先が読めんぞい……!
まじどうなるんや……
そして状態表が消えたテリーさん
70名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/12/23(火) 18:46:06.08 ID:KCr26A5s0
71 ◆KV7BL7iLes :2014/12/27(土) 15:28:05.41 ID:OfLq8k3C0
投下します
72―――絶望の中――― ◆KV7BL7iLes :2014/12/27(土) 15:28:59.41 ID:OfLq8k3C0
後方へ下がっていた六人が戻ってくる。
ロッシュは剣を構え直し、眼前を見据える。
不敵に笑い、ジェノシドーはその拳を握る。
戦士達が何事かを囁き合い、地を蹴った。
再び、戦いが始まる。


「ロッシュ!右腕を抑えろ!」

テリーは叫びつつ、自らも右腕へと攻撃を仕掛ける。
同様に左腕へかけ上がったソフィアとカインも、閃光と雷撃を放つ。
呪文と力による、両腕への同時攻撃。

「その程度か、勇者どもよ」

だが、羽虫を振り払うように払った腕は、その全てを打ち砕く。
右腕への渾身の一撃は、それ以上の力によって弾かれ。
左腕への魔力の奔流は、腕が巻き起こす衝撃によって打ち消される。
そのまま払われた腕は、勇者達を圧倒的な力で吹き飛ばさんと迫った。
だが、彼等も易々とその通りにはならない。
瞬時に態勢を立て直し、受け流しつつ次の攻撃へと繋げていく。
その後ろから飛来するのは火球。
それを翼の羽ばたきによって掻き消し、術者―――ビアンカとゼシカへと、その尾を放つ。
龍の顎から放たれるのは、本体からも発せられた零下の吐息。
とっさに逃げんとした彼女たちを守るように、ゲロゲロがその身を躍らせる。
同時に息を遮るのは、自然より生み出された純粋な電磁。
吐息と雷が織りなす、眩い光が周囲を包み込む。
それを潜り抜け、龍頭の口の中へと槍を突き込むゲロゲロ。
73―――絶望の中――― ◆KV7BL7iLes :2014/12/27(土) 15:29:38.60 ID:OfLq8k3C0
「それが狙いか、流石は歴戦の猛者共よ」

凶悪な笑みを浮かべ、ジェノシドーは呟く。
龍頭が飛び上がり、ゲロゲロを飛び越して背後の二人を狙う。
それを閃光の壁により遮りつつ、二人が後退する。
二人を射程の外に逃した尾へと、ゲロゲロが追いすがる。
―――待ち構えていたように、顎がゲロゲロへ牙を剥く。

後方へ跳ぶゲロゲロを追うように、再びその尾が跳ね上がる。
捉えた、と言わんばかりの笑みを浮かべるジェノシドー。

「なるほど、そーゆーこと」

その瞬間、右腕を抑えていたロッシュが躍り出る。
星降る腕輪の加護の下、巨体を一気にかけ登り一閃。
狙うは、先にも与えた傷痕。
それを受けつつも、迎撃の為零下の息を放とうとして―――

「地獄の、雷よ」

ズブリ、と。
尾の顎に走った鈍い感覚に、ジェノシドーの動きは止まる。
追撃に放たれたもう一撃が、その血で視界を遮らせる。

「貫け」

絶大な電撃が、その体を迸った。
74―――絶望の中――― ◆KV7BL7iLes :2014/12/27(土) 15:30:07.02 ID:OfLq8k3C0
絶望の塊が、あらん限りの叫びを上げる。
その尾は焼け焦げ、その先端にあった竜頭からは黒煙が昇る。
防御する様に翼に覆われてはいるが、その肉体にもかなりの痛手を負わせた様で、その体を痙攣させていた。

「…効いた、か」

反動で弾き飛ばされ、後方で立ち上がったゲロゲロは呟く。
誰が見ようと―――確実な、大ダメージ。
畳み掛けるなら、今。
既にビアンカとゼシカは詠唱を始め、前衛の四人もそれぞれに強力な一撃を構えていた。
ゲロゲロもそれに加わるべく、強く地を蹴る。









だが。
大きな一撃を与えられた―――だからこそ、彼等は安堵してしまった。
自分達でも、この敵と渡り合えると。
そして、その安堵は油断となって―――
75―――絶望の中――― ◆KV7BL7iLes :2014/12/27(土) 15:30:41.53 ID:OfLq8k3C0
―――ただ悲鳴を上げている訳じゃ、ない…?

会話を交わし、理性を残していると知っているロッシュは気付く。
その咆哮に、計算された悪意が隠されていることを。

「我は神。故にこれは天の意志。
破壊を以って再生を為すこれは、即ち神の導き」

翼の内側から、接近していた四人へと、確かにその詠唱が届いた。
その声音は正しく絶対零度。
聞くものの体に絶望そのものを叩き込む様な、圧倒的な言の葉の集合。

「伏、せろぉぉぉぉぉーーーッ!!」

その一声を放つと同時に握った剣が輝き、稲光と雷を纏って一回り大きな光の大剣と化す。
勇者の剣―――ギガスラッシュ。
並の魔物ならば灰塵に帰す様な神々しい一撃。
それを瞬時に練り上げ、ジェノシドーへと叩き込む。

「哀れな旧き者に、今救いの十字架を降り下ろさん」

だが、遅い。
体を覆うように閉じられていた翼が開き、その魔力が剥き出しとなる。
十字の形であるそれと、光を纏う斬撃がぶつかり合う。
数瞬の輝きの後、斬撃が打ち消される。
ロッシュは吹き飛び、それでも防御態勢を整え―――

「グランドクロス」
76―――絶望の中――― ◆KV7BL7iLes :2014/12/27(土) 15:31:11.58 ID:OfLq8k3C0
そして、それが降り注いだ。

【はじまりの地】
【ソフィア(女勇者)@DQ4】
[状態]:―――
[装備]:天空の剣@DQ4、メタルキングの盾@DQ6、メイド服@DQ9、ニーソックス@DQ9
[道具]:支給品一式
[思考]:終わらない
[備考]:六章クリア、真ED後。

【カイン(サマルトリアの王子)@DQ2】
[状態]:―――
[装備]:ロトの剣、ホワイトシールド@DQ8
[道具]:支給品一式、剣の秘伝書@DQ9、もょもとの手紙、キメラの翼@DQ3
[思考]:妹へ誓った想いだけは違わない

【テリー@DQ6】
[状態]:―――
[装備]:雷鳴剣ライデン@DQS、むげんの大弓@DQ9、オーガシールド@DQ6
[道具]:支給品一式、竜王のツメ@DQ9、ツメの秘伝書@DQ9、キメラの翼@DQ3
[思考]:先へ、進む。忘れない。
[備考]:職業ははぐれメタル(マスター)
(経験職:バトルマスター・魔法戦士・商人・盗賊 追加)

【ゼシカ@DQ8】
[状態]: ―――
[装備]:女帝の鞭@DQ9、わだつみの杖@DQ9、セレシアの羽衣@DQ9、奇跡の剣・改@DQ7
[道具]:支給品一式、賢者の秘伝書@DQ9、おふとん@現実、キメラの翼@DQ3
[思考]:"愛"を伝える"おかあさん"になるため、絶対に生きる。
77―――絶望の中――― ◆KV7BL7iLes :2014/12/27(土) 15:31:39.90 ID:OfLq8k3C0
【ビアンカ@DQ5】
[状態]:―――
[装備]:モスバーグ M500(2/8 予備弾4発)、祝福の杖@DQ5、エンプレスローブ@DQ9、ブロンズナイフ、リッカのバンダナ@DQ9
[道具]:支給品一式、炎のリング@DQ5、カマエル@DQ9、調理器具(大量)、ふしぎなタンバリン@DQ8、聖なる水差し@DQ5
      小さなメダル@歴代、命のリング@DQ5、白紙の巻物@トルネコ、猫車@現実、結婚指輪@DQ9、キメラの翼@DQ3
[思考]:生き残り、彼らの分まで夢を叶える。
[備考]:カマエルによって錬金釜の使用方法を教わっています
【ロッシュ@DQ6】
[状態]:―――
[装備]:銀河の剣@DQ9、トルナードの盾@DQ7、星降る腕輪@DQ3
[道具]:支給品一式、
[思考]:諦めない。ジャミラスには落とし前をつける(?)

【ゲロゲロ@DQBR2nd】
[状態]:―――
[装備]:メタルキングの槍@DQ8、地獄の魔槍@DQ9、パパスの剣@DQ5、サタンネイル@DQ9、スライムの服@DQ9、スライムヘッド@DQ9
[道具]:支給品一式、ヤリの秘伝書@DQ9、王女の愛@DQ1
[思考]:己が信念を貫く。
[備考]:ムドーが死に、彼が呼び覚まされました。

【ジェノシドー@DQBR2nd(DQMシリーズ)】
[思考]:絶望を、与える
[備考]:アクバーが"夢"の力とジャミラス、デュランの肉体によって変異しました。
78 ◆KV7BL7iLes :2014/12/27(土) 15:32:16.46 ID:OfLq8k3C0
投下終了です。
何かあれば
79名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/12/27(土) 18:52:07.72 ID:57s5CixE0
投下乙!
グランドクロスの描写かっけええ!
なんでこいつが覚えるんだってDQM2当時思ったんだけどなるほど、神だからか
脳内にどでかい十字がキラリと光る描写浮かんで絶望的だった
80名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/12/28(日) 11:38:39.47 ID:oZEM9SJY0
投下乙です。
好調か、と思えた戦いも大きな側面を迎えましたね……
直撃すれば致死は免れない一撃……はたしてどうなることやら
81名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/12/31(水) 05:36:46.36 ID:Q4lwWTc40
投下乙です。
倒せるとおもいきや、此処で大きな一撃を繰り出してくる破壊神、マジ破壊神。
依然として、状況は劣勢だけどここからどう巻き返すのか。
期待は高まる一方ですね。
82 ◆jOgmbj5Stk :2015/01/01(木) 01:09:54.37 ID:BHJBNXwc0
あけましておめでとうございます。
中々参加できずに申し訳ない気持ちですが今年もこのロワの発展を願っております。


おみくじは凶引いて宝くじは40枚全部ハズレたけれど多分いい年になると思う。うん。
83 ◆CruTUZYrlM :2015/01/01(木) 03:27:09.63 ID:H5KNdA2e0
あけましておめでとうございます。
残り少し、今年も全力で駆け抜けますのでよろしくです!
84 ◆CruTUZYrlM :2015/01/03(土) 17:25:50.16 ID:8zQ6hKEy0
 
85希望の扉 ◆CruTUZYrlM :2015/01/03(土) 17:26:22.46 ID:mfsP+gdp0
全ての色が抜け落ちて、染まる。
一点の黒すら、存在することを許されない。
全てを滅ぼし、救い、導く光。

輝く"絶望"から身を守ろうと、人々は足掻く。
けれど、そんな抵抗すらも許さないと言わんばかりに。
光は彼らを飲み込んでいく。

ただ、ただ、確実に。
傷つき、倒れ、死を待つだけ。
約束された近い未来が、間もなく彼らに訪れる。

書き換えられていく世界。
生が死へと、移り変わっていく。
このまま、黙って死んでいくというのか。

いや、違う。
そう否定したいけれど、否定できない。
自分たちはゆっくりと、一歩ずつ、一つずつ、絶望に近づいている。

そう、死ぬ。
少なくとも自分は、もう間もなく命の灯火を吹き消されることになる。
足掻こうが、何をしようが、それは変わらないだろう。

ただ、ただ、迫り来る死を受け入れる。
揺るぎない事実、現実、絶望。
振り払う事なんて、できやしない。



じゃあ、だからといって"何もしない"でいいのか?



天使は言った。
最期の最期、死を迎える瞬間に"信じている"と、言った。
どれだけ痛めつけられても、どれだけ絶望を突きつけられても。
希望を失うことを、決してしなかった。

少女は向き合った。

確かめるべき真実を見るために、向き合った。
一番信頼している者から突きつけられた言葉を確かめるために、幼いながらも立ち向かった。
結果こそ伴わなくとも、彼女は絶望に飲み込まれないように、戦っていた。

男は貫いた。
仲間を守ると、己が信じる道を貫いた。
一度は絶望に飲み込まれたものの、その縁から戻り自分が信じるものを証明した。
愛と、幸せを、その手につかみ、掴ませるために。

姫は信じ続けた。
自分が知っている、たった一つの真実を信じ続けた。
戦いを知らない、剣を持ったことすらない彼女が、その真実のために戦った。
そして、彼女の命と引き替えに"自分"はここにいる。



けれど、自分は死ぬのを待つだけなのか?
絶望に身を包まれ、迫り来る確実な死を、ただ受け入れるだけなのか?
誇りを見せた彼らとは違い、惨めに死んでいくだけなのか?
86名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/01/03(土) 17:26:32.45 ID:8zQ6hKEy0
 
87希望の扉 ◆CruTUZYrlM :2015/01/03(土) 17:27:27.23 ID:mfsP+gdp0
 


違う。



分かっている未来、突きつけられている現実。
けれど、それをただ黙って受け止めるわけにはいかない。
自分を、未来を、全てを、貫くために。



自分は、生き続けねばならない。



「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」



絶望の光を切り裂くための、叫び。
真っ白い世界に、低い低い声が響く。
だが、破壊神は手をゆるめることをしない。
平等に、破壊を齎すだけ。

やがて光が収束し、モノが色と形を取り戻していく。
煙が舞う一室の中、破壊神はただ煙が晴れるのを見ていく。

「……ん?」

故に、真っ先に違和感に気づくことが出来た。
光が収まり、煙が晴れた後の世界。
そこに残っているのは、七つの死体の筈なのに。
煙から少しずつ姿を現していくのは、一つの大きな体。

「貴様、一体……」

光に包まれる前にいた、六人と一匹。
そのどれにも属さない巨体に、破壊神は問いかける。

「私の名は」

巨体は答える。
凍り付きそうな破壊神の問いかけに、臆することなく。
敢然と、立ち向かう。

「"ゲロゲロ"だッ!!」

手にした、海神の体と共に。
88名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/01/03(土) 17:27:34.19 ID:8zQ6hKEy0
 
89名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/01/03(土) 17:28:35.82 ID:8zQ6hKEy0
 
90希望の扉 ◆CruTUZYrlM :2015/01/03(土) 17:28:58.56 ID:mfsP+gdp0
 


ゲロゲロの強き願いか、それとも天が味方したのか。
グラコスの破片を浴びたリンリン、アルスの両名に触れたテリーが居たから出来た、とも考えられる。
だが、それだけではない。強き力を求める、誰かを守りたいと願う力、夢が。
アクバーとは違う、"変化"を彼に齎したのだろう。

「ぬおおっ!!」

破壊神にも引けを取らない巨体が、広がる翼を押さえにかかる。
押さえられまい、と破壊神も押し返そうとするが、海神の力が予想以上に強く、一方的に押し返すことが出来ない。

「うおおおっ!!」

拮抗したバランスが一瞬崩れる瞬間を見計らい、海神が破壊神の体を横になぎ倒す。
破壊神のペースで進み続けていた戦局が、大きく崩れる。

「がァッ……!」

大きく姿勢を崩した隙だらけの体に、真っ先に飛びかかったのはテリーとカイン。
駆け抜ける風が、破壊神の翼を薙いでいく。
一本、そして二本。

「駆けろ、隼ッ!!」

いや、三本、そして四本。

「……サマルトリア仕立て、ってか」

ロトの刃と雷神の刃が、破壊神の両翼をもぎ取っていく。
響きわたるのは、この世のモノとは思えない絶叫。
怯んでしまいそうな絶叫の中、突き抜けるのは二つ、いや四つの火球。
手を取り合い、共に詠唱を重ねることで、賢者の極意を共有していく。
灼熱の火球は、煉獄の火炎となり破壊神を燃やしていく。

苦痛に次ぐ苦痛、破壊神の叫びはさらにおどろおどろしいモノへと変化していく。
目は真っ赤に染まり、残された両腕を振り回していく。
だが、その腕は振り抜かれることはない。
海神が一歩前に踊り出し、振り抜かれようとしていた両の腕を押さえにかかる。
再び、拮抗した力の比べあいが始まる。
だが、手負いとなった破壊神は、後ろ盾がない。
ここを退けば、待ち受けるのが敗北だと分かっているから。

「ぐうっ……!」

海神の体が少しだけ押し返される。
こらえるのがやっと、と言った所だろうか。
そう、長くは持たないだろうと、理解したとき。

「ボディが――――」

雷を纏った刃が一本、破壊神を縦に襲う。

「がら空き、だぜッ!!」

そしてもう一本、雷の刃が破壊神を横に襲う。
叫び、叫び、叫びが、部屋に響きわたる。
 ギガ・クロスブレイク
"交錯する勇者の雷刃"が、破壊神を焼き尽くしていく。
91名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/01/03(土) 17:29:47.71 ID:8zQ6hKEy0
 
92希望の扉 ◆CruTUZYrlM :2015/01/03(土) 17:29:55.44 ID:mfsP+gdp0
 
終わりか、とも思えた一瞬は、一瞬として過ぎ去っていく。
黒こげになった破壊神が、どす黒い"それ"をむき出しにして、その場にいる者たちへと"吼"える。

真っ先に海神が破壊神へと食ってかかり、その体を押さえつける。
はじめの数倍もの力に、海神ですら押し返されそうになる。
これ以上、もつれ込めばもつれ込むほど、状況の悪化を招く。

「"みんな"!」

だから、海神が破壊神を振り払い、人間たちに叫ぶ。
この五分の状況が何時までも持つとは限らない。
まだ、自分が押さえていられる内に、決定打を打ちたいから。

「デカいのを、頼む!!」

人間たちに、叫ぶ。
残された時間は、ほんのわずか。
それだけで、何が出来るのか。

「みんな、あたしに合わせろ」

瞬時に判断したソフィアが、仲間と手を繋ぐ。
繋がれたゼシカが、ビアンカが、さらに仲間と手を繋ぐ。
その手は、カイン、テリーへと繋がり。
最後に、ロッシュへと繋がり、一つの輪となる。

「神よ、我らの祈りを捧ぐ――――」

六人が同時に、目を瞑り、天へと捧げる。

「――――我らが進むは、希望の世界――――」

破壊神はそれを阻もうと、全身を振るわせる。
腕が、体が、そして炎と氷が、呪文の完成を妨害しようとする。

「――――悪しき者へ、裁きの光を――――」

だが、その全てを海神が受け止める。
人間を狩ろうと振り抜かれる腕も。
人間を押しつぶそうと迫る巨体も。
人間を滅ぼさんと広がる炎と氷も。
全て、全て海神が受け止める。

「見ろ、アクバーよ! これが、これが!!」

傷を広げながらも、人間を守るために。
両手を広げ、全て、全てを受け止める。
自分が信じたもの、自分が見せて貰ったものの為に。

「夢を見る力、人間の力だ!!」

破壊神に負けないように、叫ぶ。
決意の籠もったその声は、破壊神の体を揺るがしていく。
圧倒的な力を誇っていた破壊神が怯んだその時。
93名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/01/03(土) 17:30:23.20 ID:OjYoVQIy0
支援
94名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/01/03(土) 17:31:04.77 ID:8zQ6hKEy0
 
95希望の扉 ◆CruTUZYrlM :2015/01/03(土) 17:31:10.29 ID:mfsP+gdp0
 
「――――我らを、導け――――」

詠唱が、完了する。
一点の光が、きらりと光って。

「――――ミナ、ディィィィイイン!!」

天の柱が、落ちた。

巨大なそれは、一瞬で破壊神の全てを包み込む。
数刻前とは別の、真っ白な世界が広がっていく。
怨嗟の声が響きわたる中、白が全てを滅ぼしていく。

そして、再び世界に色がついたとき。

悪夢ともいえる絶望は、その姿を消していた。

「……やった、のか?」

確かめるように、声が漏れる。
消失、とも取れるそれは、俄には信じられない光景だ。
それを確かめる事は出来ないが、少なくとも一つ、分かっている事はある。
先ほどまで身を凍らせていた、邪悪な気配が無いと言うこと。
喜びを表すため、腕を振り上げようとしたとき。
どしん、と地を揺らしながら、巨大な音が鳴り響いた。

「おい!!」

慌てて駆け寄るソフィアが、海神へと叫ぶ。
見れば、その体は傷だらけであった。
焼け焦げた場所、凍り付いた場所、そして切り裂かれた場所。
無数の傷と、荒い呼吸が全てを語っている。

「残念ながら当然、ということか」

そう、当然といえば当然。
一撃でも受ければ、死を免れないであろう攻撃を、何度も、何度も受け止めていたのだから。
そして何より、あの聖なる光を全て受け止めた時から、それは全て分かっていた。
元より終わりに向かっていた命、分かり切っていた未来と絶望。
だから、だからこそ、ほんの少しの希望に結びつけるために。
残された、炎を燃やし尽くした。

「私が私として存在できたのも、この力を手に出来たのも、全てはおまえたち、人間の力だ。
 ……そう悲しむな、元より"ゲロゲロ"は居ない魔物だった」

落ち着いたその声に、焦りの類は見えない。
元より、分かっていたという事だろうか。
後悔の類など、欠片も存在しない。
そうしたいと思ったから、そうしたまで。
彼が今まで出会って来た、人間たちのように。

「……進め、振り返るな」

だから、自分もまた。人間のように死んでいく、それだけのこと。

「さらば、だ」

未来へ向かう、人間たちに向かって。
海神が、一言を残して眠りについた。
96希望の扉 ◆CruTUZYrlM :2015/01/03(土) 17:31:42.27 ID:mfsP+gdp0
 


それとほぼ同時、海神の体を中心に"世界"が割れていく。
響く地鳴り、とても立つことなど出来ない揺れ。
それぞれがそれぞれの立つ場所に、居場所を裂かれていく。

「何だよ、これっ!!」

崩れ去る足場に、抗うことすら許されず。
ただ、重力に沿って落ちていくのみ。
抵抗も空しく、六人はそれぞれの場所に、引き裂かれて。

どこかへ、落ちていった。



「ここは」

目を覚ました場所。
自分の姿さえも、見失ってしまいそうな。
黒、真っ黒な世界が、そこに広がっていた。

「ようこそ」

声と共に現れる、一つの姿。

「この、デスタムーアの元へ」

全ての元凶である、老人。
その姿を確認し、少しだけ剣に力を込める。

「……他のみんなは、どうした」

冷静そのものの声で、剣を突きつけて問いかける。
この真っ暗闇にいるのは、自分と元凶のただ二人。

「少々、"夢"を見て貰っている」

返ってきた答えも、また冷静そのもの。
彼の口からでる、"夢"が何を指すのか。
ロッシュは、誰よりもそれを理解している。

「私と向き合うには、あの"世界"を経験して貰わなければならないだろう?」

カイン、ソフィア、ビアンカ、ゼシカ、そしてテリー。
自分をのぞく誰もが、"夢"を経験していない。
そういうことか、と小さく呟く。

「まあ、いいや。好都合だよ」

にやり、と呟き、突きつけていた剣を構える。
自分の願う事へ、少し近づいただけの話。
たった一人でも、ここから先は成し遂げられる。

「だろう、な」

そんなロッシュに合わせるように、デスタムーアも笑う。
97名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/01/03(土) 17:31:45.74 ID:OjYoVQIy0
      
98名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/01/03(土) 17:31:49.43 ID:8zQ6hKEy0
 
99希望の扉 ◆CruTUZYrlM :2015/01/03(土) 17:32:27.50 ID:mfsP+gdp0
「私も、体裁を取り繕わなくていい」

意味深に告げられた一言と同時に、両手を構える。

「どういう」

その意図を探ろうと、ロッシュが問いかける。
だが、答えが返ってくる前に、一瞬だけ光があふれ出す。
手で目を覆い、光を遮っていく。

「……待ってたよ」

そして、光が消え、闇が世界に戻ったとき。

「"僕"」

そこに立っていたのは、自分だった。

【ジェノシドー@DQBR2nd(DQMシリーズ) 死亡】
【ゲロゲロ@DQBR2nd 死亡】

【残り 六人】

【????】
【ソフィア(女勇者)@DQ4】
[状態]:HP9/10
[装備]:天空の剣@DQ4、メタルキングの盾@DQ6、メイド服@DQ9、ニーソックス@DQ9
[道具]:支給品一式
[思考]:終わらない
[備考]:六章クリア、真ED後。

【????】
【カイン(サマルトリアの王子)@DQ2】
[状態]:HP9/10
[装備]:ロトの剣、ホワイトシールド@DQ8
[道具]:支給品一式、剣の秘伝書@DQ9、もょもとの手紙、キメラの翼@DQ3
[思考]:妹へ誓った想いだけは違わない

【????】
【テリー@DQ6】
[状態]:HP9/10
[装備]:雷鳴剣ライデン@DQS、むげんの大弓@DQ9、オーガシールド@DQ6
[道具]:支給品一式、竜王のツメ@DQ9、ツメの秘伝書@DQ9、キメラの翼@DQ3
[思考]:先へ、進む。忘れない。
[備考]:職業ははぐれメタル(マスター)
(経験職:バトルマスター・魔法戦士・商人・盗賊追加)

【????】
【ゼシカ@DQ8】
[状態]:HP9/10
[装備]:女帝の鞭@DQ9、わだつみの杖@DQ9、セレシアの羽衣@DQ9、奇跡の剣・改@DQ7
[道具]:支給品一式、賢者の秘伝書@DQ9、おふとん@現実、キメラの翼@DQ3
[思考]:"愛"を伝える"おかあさん"になるため、絶対に生きる。
100名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/01/03(土) 17:32:31.32 ID:8zQ6hKEy0
 
101希望の扉 ◆CruTUZYrlM :2015/01/03(土) 17:33:57.24 ID:mfsP+gdp0
 
【????】
【ビアンカ@DQ5】
[状態]:HP9/10
[装備]:モスバーグM500(2/8予備弾4発)、祝福の杖@DQ5、エンプレスローブ@DQ9、ブロンズナイフ、リッカのバンダナ@DQ9
[道具]:支給品一式、炎のリング@DQ5、カマエル@DQ9、調理器具(大量)、ふしぎなタンバリン@DQ8、聖なる水差し@DQ5
      小さなメダル@歴代、命のリング@DQ5、白紙の巻物@トルネコ、猫車@現実、結婚指輪@DQ9、キメラの翼@DQ3
[思考]:生き残り、彼らの分まで夢を叶える。
[備考]:カマエルによって錬金釜の使用方法を教わっています

【闇】
【ロッシュ@DQ6】
[状態]:健康
[装備]:銀河の剣@DQ9、トルナードの盾@DQ7、星降る腕輪@DQ3
[道具]:支給品一式、
[思考]:諦めない。夢を、かなえるために。

【"ロッシュ"@DQBR2nd】
[思考]:????
[備考]:主催・デスタムーア

※ロッシュを除く五人が、どこかへ飲み込まれました。
 デスタムーアは、"夢の世界"だと言っています。
※以下のアイテムがばら撒かれました。
 "夢の世界"に行ったかどうか、は後続の書き手にお任せします。

メタルキングの槍@DQ8、地獄の魔槍@DQ9、パパスの剣@DQ5、
サタンネイル@DQ9、スライムの服@DQ9、スライムヘッド@DQ9、
ヤリの秘伝書@DQ9、王女の愛@DQ1

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以上で投下終了です。
改めまして、今年もよろしくお願いします。
102名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/01/03(土) 17:33:58.39 ID:+hkA/Dhy0
 
103名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/01/03(土) 17:33:59.11 ID:OjYoVQIy0
      
104名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/01/03(土) 18:03:50.26 ID:rBvxlvUA0
投下乙!
ここでまさかのポセイドン!
海神VS破壊神、勝負を分けたのは仲間の存在か!
死亡表記がゲロゲロなのが憎い
しかしミナデインをここで使うということはこの先どうなるやら
デスタムーアはこれ、まさかの真ロッシュなのだろうか……
105名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/01/04(日) 00:33:09.81 ID:7pvv/YPf0
乙です!
すごい熱い戦い…ああゲロゲロ…
そして実に続きが気になる二人のロッシュ…
106名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/01/04(日) 01:54:35.06 ID:p8aAg0mX0
うおおおおおおお乙!!
ゲロゲロかっけえ…そしてついに見せ場がグラコスさんにもw
最後はこれどういう事だ…うわあ目が離せない
とにかく乙!
107名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/01/04(日) 22:19:34.24 ID:oTHqCjDT0
ゲロゲロを信じて逝ったエルギオスたちは間違ってなかった
ゲロゲロが信じた残されたみんなはどうか生還してくれ
108名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/01/10(土) 05:38:21.75 ID:iw50Af/70
109 ◆1WfF0JiNew :2015/01/13(火) 12:21:12.72 ID:Mquv+0Dt0
予約分ですが、まとまらなかったのでロッシュ部分だけを投下します。
長期のキャラ拘束申し訳ありませんでした。
110希望の魔王達 ◆1WfF0JiNew :2015/01/13(火) 12:25:27.32 ID:Mquv+0Dt0
「は、ははっ、ははははははっ。まさか、こんな所で再会するなんてね」

其処にいたのはかつての自分。
炎に焼かれる村で別離したはずの――現実だった。
予期せぬ再会にロッシュは思わずくつくつと声が漏れ出てしまう。

「その割には動揺もしてないみたいだね」
「口を弄するなよ、“僕”らしいって言えばそれまでだけど」

一言、二言。最初の交わし合いは張り詰めた空気とは裏腹に穏やかなものだった。
だが、お互いの顔に貼り付けられた形は百八十度違っている。
無表情の鉄仮面と薄く浮かべた笑み。そこに、親愛はない。
数秒間、沈黙が続く。鉄面皮な顔とは違って、放たれた言葉には情感が籠もっていた。
何かに急かされているかのように――彼は面を上げる。
自分と同じ顔に身体。鏡写しのような“彼”を見ても揺らがない姿は、底知れぬ怪異、もとい真実に手を伸ばす探求者だ。
その有り様は奇怪であり、どこまでもまっすぐだった。

「今更だろ。現実の君が再び僕の前に現れるなんて」
「終わったはず、そう言いたいのかい?」

かつての自分を捨て、夢を得たロッシュに現実はあくまで俯瞰的だ。
同じ人間から生まれたいわば兄弟よりも深い仲であるというのに、二人の会話は乾いていた。

「まだ何も終わっちゃいないさ」
「確かにね」

刹那、銀色が二つ交差した。
小気味の良い金属音が鳴り、銀光は白に溶ける。

「剣の腕、上がったんじゃない?」
「そりゃあそうでしょ。ライフコッドから闘って、時には膝をついて。
 それでも、剣を振るうことをやめなかったんだからさ」

戯れ合うかのように、彼らは殺気混じりの一撃の応酬を交わし合う。
まるで、演劇の演目をやるかのように何処か温く、冷たい。
111希望の魔王達 ◆1WfF0JiNew :2015/01/13(火) 12:28:24.84 ID:Mquv+0Dt0
「それで、わかったかい?」
「何がさ。もっと言葉にしてもらわないと。僕は他人の心が読める魔法使いじゃないんだから」
「惚けるなよ。この世界に放り込まれてからずっと考えていたことだろ?
 デスタムーア、僕、それらが成す総ての真実。君は“僕”なんだ、とっくに理解しているはずだ」

“ロッシュ”なら理解できる。その言葉は確かに的を得ていた。
彼の中に孕んでいた結論は既に固定されている。
後は口にするだけ。その答えすらも見破られているようだ。

「まぁね。あくまで予想だけど、君達の正体は掴んでいる」

ならば、もう隠す必要もない。
間違っていた所で、何も変わらないのだから。

「君達の正体は“夢”そのものだ。“デスタムーア”も“ロッシュ”もあくまで夢の多面体の一面に過ぎない」
「……ふぅん」
「そして、僕を待っていたってことは――僕を取り込む、いや……僕を主人格として一つの強大な“夢”を練り上げる。
 一つの強い塊となった“僕達”はその力で理想郷へと旅立つ、なんてね」

彼は何を思ってロッシュを待っていたのか。
そんなのわかりっこないし、知ろうとも感じない。
ただ、一つ。
自分を取り込めば今よりも更なる高みへと登ることが出来る。
現状に満足せず飽くなき向上を願う彼らは“夢”そのものと言えるだろう。

「ともかく、僕を核にしたい。だから、僕だけを通したんだろう?」
「理解しているなら話は早い。君は魔王を継ぐ資格があるモノだ。僕達と一つになり、総てを統べるとびっきりの逸材であり」
「……僕達の世界を滅ぼして創り直す神となる。そんな感じかい?」

にこりと笑みを浮かべながら口から吐き出した言葉は、剣呑だった。
それは途方も無いスケールであり、もはや自分達では手に負えないと考えてしまうぐらいに広大だ。
112希望の魔王達 ◆1WfF0JiNew :2015/01/13(火) 12:29:43.19 ID:Mquv+0Dt0
「さぁ、あの時と同じく僕達は生まれ変わるんだ。君の願いである大切な人達も戻ってくる」

そして、伸ばされた右手を握れば、そんな“夢”も掴める所まで来ている。
諦めないと誓った希望を、創造できるのだ。
だから、ロッシュは――。



「くっだらないね」



――その手を跳ね除けた。

「ははっ、何をそんな呆気にとられた顔をしてるんだい?
 僕がこの返答をするのがそんなにも意外だった、とでも言いたげだね」

ケラケラと笑いながら、ロッシュは向けていた剣の切っ先を軽く揺らがせて言葉を紡ぐ。
何故、と。眼前に立つ“僕”は心底訳がわからないといった風に目を見開き、問いかけた。

「同じ“僕”なんだ、言いたいことはわかるはずだろ。ま、言葉は口にしないと伝わらないからあえて言うけどさ。
 最初から、君達を統べる気なんて僕にはないんだ。口が酸っぱくなる程言ったじゃないか、僕はやりたいことをやるだけだって」
「ふ、ふざけるな! 世界を創造する程の力を捨てるつもりか!?」
「まさか。捨てる訳ないだろ。その力だけを奪って有効活用するつもりさ」

ロッシュにとっての境界線はたったひとつだ。
やりたいか、やりたくないか。
彼らと合わさることがやりたくないのカテゴリーに当てはまる。
それだけのことで、ロッシュは否定できるのだから。
113希望の魔王達 ◆1WfF0JiNew :2015/01/13(火) 12:31:04.43 ID:Mquv+0Dt0
「幾つもの“夢”をごちゃ混ぜにしないと存在を保てない君達が――僕に敵うとでも?
 笑わせないでくれ、僕の“夢”は君達よりも濃いんだ。束にならないと現界できやしない薄っぺらい君達が粋がるなよ」

だが、その立ち振舞はけして勇者と呼べるものではなかった。
強欲に、どこまでも自分勝手に。
自分の願うままに動く彼はきっとこう呼ばれるだろう。

「それじゃあ、まずは余分なものを削がないとね。
 幾つもの“夢”が混じってるみたいだけど――正直、邪魔なんだよ」

魔王、と。



【闇】
【ロッシュ@DQ6】
[状態]:健康
[装備]:銀河の剣@DQ9、トルナードの盾@DQ7、星降る腕輪@DQ3
[道具]:支給品一式、
[思考]:諦めない。夢を、かなえるために。

【"ロッシュ"@DQBR2nd】
[思考]:????
[備考]:主催・デスタムーア
※ロッシュを除く五人が、どこかへ飲み込まれました。
 デスタムーアは、"夢の世界"だと言っています。
※以下のアイテムがばら撒かれました。
 "夢の世界"に行ったかどうか、は後続の書き手にお任せします。

メタルキングの槍@DQ8、地獄の魔槍@DQ9、パパスの剣@DQ5、
サタンネイル@DQ9、スライムの服@DQ9、スライムヘッド@DQ9、
ヤリの秘伝書@DQ9、王女の愛@DQ1
114 ◆1WfF0JiNew :2015/01/13(火) 12:31:32.77 ID:Mquv+0Dt0
投下終了です。
115名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/01/13(火) 12:53:30.79 ID:3QeCwQt50
 
116名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/01/13(火) 12:59:47.33 ID:3QeCwQt50
投下乙です。
どこまでも直向きで、真っ直ぐだから。
故に、どこまでも邪悪なんだろうなあ。
117名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/01/13(火) 16:21:54.44 ID:V1xvChvd0
乙!
いやあ、黒い黒い
希望である夢の身勝手さ故の、純粋な黒さって感じだなあ
最終局面、どこへ向かうのか
118名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/01/13(火) 18:53:25.68 ID:wvlgTxIw0
投下乙です!
ロッシュが正に魔王…
彼は止まれるのだろうか仲間は止められるのだろうか
119名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/01/15(木) 08:35:16.70 ID:MULYU7CA0
120名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/01/16(金) 06:17:37.19 ID:ThQ9Spha0
121名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/01/22(木) 00:39:45.95 ID:n76Y76qt0
122 ◆KV7BL7iLes :2015/01/22(木) 20:07:12.66 ID:LH6ocAzU0
投下します。
123 ◆KV7BL7iLes :2015/01/22(木) 20:08:23.72 ID:LH6ocAzU0
―――冷淡で残酷だろうと

「お兄ちゃん、おっそーい!!」

前を駆ける妹からそんな言葉が飛んでくる。
今日も元気な彼女は白いワンピースに身を包み、はしゃぎ回っている。
その後ろには、ラフな格好をした二人の親友。
青を基調とした、その性格の様にシンプルさを強調するデザインの彼と。
最近はオシャレにも気を使い始めたらしく、中々のセンスでコーディネートした彼女。
最近付き合い始めた二人の、その男の方が話しかけてきた。

「遅刻は…感心しないな?」

「いやー、探したんだけどね〜」

いつもの堅物なお叱りに、こちらもいつもの軽口を返す。
そして―――

「甘いがっ!?」

いつもの鉄拳は今日もかわせない。
そんないつもの風景に、横の女性二人はいつもの様に笑い合う。
場所がピクニックに来た森でなければ、まるっきり同じ。
破壊神を討伐してから、定期的に繰り返しているいつもの交流。
変わらない、幸せな毎日だとそう思いながら、ふと思い出す。
かつて旅の中で聞いた、塔にある鏡の話。
全ての真実を映し出す鏡が、かつて毒の沼地だったとある場所にに隠されているらしいとのこと。
なんとなく興味を持っていたが、必要もなく探す事はしていなかったそれを、探してみるのもいいかもしれない。

「なあ、今度さ…」
124ユメトキボウ ◆KV7BL7iLes :2015/01/22(木) 20:09:30.45 ID:LH6ocAzU0
それから数日後。
四人は、とある平原を歩いていた。

「いつぶりですかね、皆でこんなに遠出するなんて」

少し疲れた様子が一人。魔物が出なくなったとはいえ、結構な距離を歩いているからか。
だが、妹はやたらと元気に走り回っている。可愛い。子供は風の子、いい言葉だ。
疲れた様子の彼女をちゃんと見てくれていてくれている青年は、ふとこちらを見る。

「…どうした」

不器用ながら、優しさがこもった言葉。

「ん、別に?」

少しおどけて返してみる。だが、真剣な目をした彼は、動じることなくこちらを見つめ返してくる。
不穏な空気を感じたのか、他の二人も寄ってくる。

「どうかなさいました?」

「お兄ちゃん、どうしたの?」

心配そうな表情をした三人に囲まれる。

「…何でもないさ」

自分でも呆れる程に白々しい言葉。
その。

「…なら、俺から言おう」

何故なら―――

「なにを…」

「何をしているんだ、だろ?」

分かってしまったから。
分かってしまったから、だからこそ答えるしかない。
それが別れ。
この、

「こんな夢を見ている暇じゃないって、そう言っているんだろ?」

夢との、別れ。

「まずは、鏡を手に入れてからにしない?
その方が、―――覚悟も出来るから」
125ユメトキボウ ◆KV7BL7iLes :2015/01/22(木) 20:10:19.32 ID:LH6ocAzU0
鏡が見つかるまでは、そんなにかからなかった。
元々の場所は何となしに覚えていたからであろう。
その鏡を抱え、四人は円を成して座り込む。
カインは三人を見回した後、ぽつり、ぽつりと話し始めた。

「どうやってここに来て、どうしてこんな関係になったかは分からないけど。
これが夢で、僕がいるべき場所じゃないのは分かる」



「…思い出したのは、ついこの間だよ」

あの鏡の話について、深く考えを巡らそうとした時に。
全ての苦々しい記憶が蘇った。
思えば、この鏡を嘗て使った時、自分はなんて愚かだったんだろうか。
そんなことを今更思う。

「憎んでいたのも、羨んでいたのも、見下していた事さえも思い出して。正直、気が狂うかと思ったよ」

出来れば、そのまま呑まれたかった。
あんな残酷な世界を無かったことに、夢にして、何も知らずにこの世界で生きていきたいとそう思ったのは、嘘ではない。

「でも、さ。仲間である二人に誓ったあの約束に嘘をつくのは、それよりももっと嫌だ」

でも。
仲間、とそう呼ぶ。
以前なら絶対に呼ばなかったであろう、その呼び方を。

「ここにいる二人だけじゃない。
アイラとも誓ったその約束を違えるなんてのは、絶対にしないから。
僕は真実を掴んで見せる。
僕たちがこんな運命を負わされた意味を、その理由を」

それが、自分のやるべきこと。
だから、こんなところで立ち止まっている訳にはいかない。
彼等に誓ったその想いは、曲げる訳にはいかないから。
126ユメトキボウ ◆KV7BL7iLes :2015/01/22(木) 20:11:08.35 ID:LH6ocAzU0
「…そして、リア」

「…お兄ちゃん」

そして、最愛の我が妹。
声を掛けるが―――言うべき言葉は、もう何もない。
あの森で約束した再開は、まだ先の事だ。
まだ、あの世界を終わらせていないから。
それが完結するまでは、まだ再開を喜ぶわけにはいかない。

「…約束をさせてくれ。
絶対に君達を忘れない、だから君達も僕を見ていてくれ。
僕が、真実を掴んで、生きていくところを」

三人が、頷く。
手を重ねる。
―――それは、約束。
妹と自分だけじゃない。
この四人が紡ぐ、永遠すら超える約束。
ロトの血筋なんて関係ない、ある少年少女の誓いが。
そして、鏡が輝く。

「じゃあ…な」

「さようなら、…お元気で」

「…バイバイ、お兄ちゃん」










「ああ、さよなら。
―――行ってきます」
127ユメトキボウ ◆KV7BL7iLes :2015/01/22(木) 20:11:52.09 ID:LH6ocAzU0
―――歩きはじめし者

空が青い。
野原に横たわりながら、そんな当たり前の事を考える。
隣を見れば、桃色の髪の彼女も同じような事を考えていそうな、呆けた顔をしていた。
不意に大きな声を出すと、飛び上がって左右を見渡す。
小動物のようなその仕草に思わず吹き出してしまう。
それを見て事情を理解し、膨れっ面を見せる彼女。
軽く謝り、たわいもない話の種を思い出して、それをまた彼女に話し始める。
不満そうだった顔が少しほころび、続きを催促してくる。
調子がいい、なんて呟きつつも、話を再開する。



ふと気付けば、既に回りは暗くなり始めていた。
彼女も今気づいた、といった顔をしており、思ったよりも長い間話していた事に驚く。
もう帰ろう、と彼女が言う。



そう、帰る時間だ。
だけど。
少しの寄り道位、許して欲しいなんて、そう思う。

「なあ。
最後に―――もう一つだけ、話を聞いてくれないかい?」
128ユメトキボウ ◆KV7BL7iLes :2015/01/22(木) 20:12:31.25 ID:LH6ocAzU0
全部語り終わる時には、空が再び白みがかっていた。
そんな長い間とは、不思議に感じなかった。
二日間に渡る、戦いとつながり―――そして別れ。
全て、全て語り尽くし、改めて横の少女を見る。
彼女は優しい微笑みを浮かべ、口を開く。

「…結局、心配かけてばかりで、ごめんなさい」

「いいんだよ、あたしの人生なんて心配を振り撒いてる様なもんさ」

空を見上げつつ、答える。
暫く言葉が途切れ、聞こえるのは風の音だけになる。
彼女が、不意に真剣な目をして言う。

「もう、いいのよ?
あなたは十分頑張った。だから―――」

「そいつは、出来ねぇな」

言葉を遮り、立ち上がる。
いつの間にか横に刺さっていた剣を、大地から抜く。

「アタシはここで止まる訳にはいかない。
止まってちゃ、戻ってちゃ、そこで終わっちまう」

寄り道はこれまで。
自分が寄りかかっていいのは、もうここまでだ。

「まだアタシは終わる訳にはいかないし、終わる理由もない。
それに、アンタはアタシが勇者であった、唯一の証明なんだ」

その剣を、天に掲げる。

「剣も鎧も盾も兜も、もうアタシが勇者であることを縛らないけど、だけどアタシが勇者であったのは―――忘れちゃ、いけない事だから」

日が昇っていく。
きらきらと光る世界は、ゆっくりとその姿を溶かしていく。
もう、時間はない。
だから、次が最後の言葉。



「アタシが、勇者として最後まで期待されて、勇者として助けられなかったアンタまで、忘れたくはないから。
だから、あたしは忘れないし、終わらない」

空が輝く。
全てを塗り潰し白で埋まる世界の、最後の欠片に。
彼女の困ったような笑顔が、残っていた気がした。
129ユメトキボウ ◆KV7BL7iLes :2015/01/22(木) 20:13:06.08 ID:LH6ocAzU0
―――love song is not finished

「こうして、わるいかみさまをたおしたおうさまたちは、じぶんのくにへもどりました。
たたかいは、おわったのです」

暖かい暖炉の前で、ゆっくりと語り終える。
聞き手である子供が、感動したのか、すごい剣幕で話し始める。

「すごいすごい!そのおうさま、カッコいい!
それに、そのおよめさんも、こどもたちも、モンスターたちも!」

「そうね、カッコいいわね」

適当にあやしながら、明日から読む本を考える。
まだ読み聞かせていなかったのは、夢と現実の世界の話か、一つの島の漁師の話、それに一人の天使の話。
最近出版されたという、勇者と盟友の話もいいかもしれないなんて思いながら、紅茶を啜る。

「…ねえ」

ふと、子供が呟いた。
ゼシカが「なあに?」と返事をすると、彼は不思議そうな顔をして言った。

「…おはなしのなかのおとうさんは、どうしてあそこまでわるいヤツのこうげきにたえたり、ずっといしになってもだいじょうぶだったんだろう。
いたかったり、つらかったりしなかったのかな」

問いかけられ、ゼシカは微笑んで答える。

「それはね?」


―――子供の事を、愛しているからよ
130ユメトキボウ ◆KV7BL7iLes :2015/01/22(木) 20:13:44.12 ID:LH6ocAzU0
「あいしてる…?」

「そう。親っていうのは、心から子供の事を愛しているの。
だから、子供が酷い目にあったりするのは、自分が同じ目にあうよりもずっと辛いし、子供の事を思えば、どんなに残酷なことも耐えられる。
それが、愛してるっていうことよ」

彼女はそこまで言って、子供を抱きかかえる。

「私にとっては、あなたがそう。
あなたが生きてさえいれば、私はどんな試練でも乗り越えられる」

その言葉に、嘘はない。
彼が生きていれば、自分は何でも出来るだろう。
―――だけど。
いや、だからこそ、ね。
そんなことを一人、思った。

「…おかあさん、どっかにいっちゃうの?」

ふと見ると、子供は泣きそうな顔をしてこちらを見ている。
もしかしたら、顔にでていただろうか。
ゼシカは微笑み、彼をあやすように言う。

「確かに、私はちょっと行かなきゃいけないところがあるの」

これは、確かに夢幻だ。

「でも、大丈夫」

だが、それが現実にならない訳ではない。

「少し、時間はかかっちゃうかもしれないけど」

だから、これを夢ではなく、現実にして。

「絶対に、あなたのところへ帰るから」

現実のあなたのもとへ、辿り着くために。

「だから、ちょっとだけ待っててね。
かわいい、私の息子」
131ユメトキボウ ◆KV7BL7iLes :2015/01/22(木) 20:14:15.39 ID:LH6ocAzU0
―――dream,hapiness,promise

急須から茶を注ぎ、一口。
夜も更けてきた山奥の村は静かで、ビアンカは一息を付く。
何気無いこんな毎日を過ごして、どのくらいだったろうか。
あの告白から数年、何も起こらない毎日がただただ続いた。
勿論リュカが行方不明になった時は、それこそあるだけの財産を使って各地を巡ったりもしたが、結局大陸を出る程ではなく、徒労に終わった。
その後見つかったと聞いた時は喜び、彼等が大魔王を倒した時は心から感謝しもした。
だが、他に何をしただろうか。
思い返せば、自分は何もしていない。
日々を無為に過ごし、そしていつか、このまま死んでいく。
そんな決まりかかった未来像を振り払うように、再び茶を啜る。

ノックが聞こえたのはその時だった。

―――こんな時間に、誰?

念のため、いつでもメラを使えるようにしておく。
ドアを開き、その外にいたのは。

「…あー、ビアンカ?ちょっといいか…ですか?」

「本当にすいません、こんな時間に」

「すまない…すこし、いっしょにきてくれ」

件の男とその嫁、そして何故か言葉の怪しい衛兵が。
どことなくぎこちない顔をして立っていた。

「…え?」
132ユメトキボウ ◆KV7BL7iLes :2015/01/22(木) 20:15:52.16 ID:LH6ocAzU0
「まず、だ。アン…君がいるべきなのはこの場所じゃない、っつーのは分かるか?」

ルーラで何処かへ飛んだ直後、魔法の絨毯というにわかには信じがたい物に乗せられ移動して。
ようやく着いた目的地らしい塔をひたすらに登っていくがてら、三人がやっと説明を始める。

「この世界が出来た、その理由はまだ分かりません…けど」

「少なくとも、夢ではなく、それ以外の何かによって作られている。だから」

何を言っているかは分からない。
理解がついていかず、只頷き返すだけ。
だが。

「テメ…君は、まだ負けていないって事さ。
あのふざけた夢にはさ」

納得は出来る。
頭のどこかで、実感として感じられる。
自分の真っ黒な感情も、それに抗った事も。

「…にしても、マジで…っと、本当に綺麗サッパリ諦めてたとはねぇ」

「へ?」

不意を突かれた謎の質問に、変な声が出てしまう。

「いや、…ぼ、僕の事をさ…」

「っく…」

「おいヨ…ピピン、文句あ…る?」

「何の事だ」

「…あの…」

「私がお聞きしましょうか?」

「…いや、それはどうかと」

唐突に始まった、緊張の欠片もないやり取り。
目の前にいる三人に、自らの記憶が一致しない事に困惑する一方で、彼らと友人のように話をする新鮮さがあり。

―――新鮮さ?

こうやって雑談を交わしたこと自体が無いわけではない筈の自分の記憶とは、一致しないその感情に、ふと違和感を覚える。
133ユメトキボウ ◆KV7BL7iLes :2015/01/22(木) 20:16:24.32 ID:LH6ocAzU0
「…話は終わりだ、着いた」

だが、その理由を考え付く前に、登っていた階段が終わる。
その先にあったのは、虚空へと続く道。
そして、一つの鏡と、それを持つ。

「こんばんは、元気そうで何よりよ」

自分の姿だった。

「行きな」

鋭い声が、背を押す。
ビアンカは決意し、一歩、また一歩と進む。
不可視の床は、しっかりと彼女の歩みを支える。
ゆっくり、ゆっくりと前に進んでいく。

「…」

そうして、それを歩ききって。
全く同じ姿をした二人は、向き合う。
さながら、鏡写しの様に。
「久しぶり、かしら?あなたとしては、この世界にどっぷり浸かっていたようだけれど」

「…そうね。なら、久しぶり」

"自分"が言い、それに答える。
違和感に溢れている筈のその対面は、しかしすんなりと受け入れられた。

「あなたにとっては―――どうだったのかしら、この世界は」

「え?」

質問の意図が分からない。
そんな声音に気付いたのか、彼女は「あら」と一言を漏らす。

「まだ気付いていなかっただなんて―――まあ良いわ。
なら、教えてあげる」

そう言って、彼女は鏡を翳す。
疑問に思い、ビアンカはそれを覗く。
そして、気付く。

そこに、"無"と、自分の顔しか映っていない事に。

そして、思い出す。

「思い出した?
これが、この世界があなたの夢だって」
134ユメトキボウ ◆KV7BL7iLes :2015/01/22(木) 20:17:06.30 ID:LH6ocAzU0
「…何故、思い出させたの?」

思い出したけれど、それは何の為になるのか。
妖艶な笑みを浮かべ、彼女が語り始める。

「あなたの夢は、まだ形として存在しなかった。
在りし日の面影に縋るのではなく、然りとて未来を切り開くようなものはない。
だけど、あなたはあの森で」

願った。
壊したいと。
殺したいと。
そしてそれが、夢と成った。
悪夢の様な感覚がフラッシュバックし、ビアンカは息を吐く。

「あなたの夢となった私は、この世界そのものになる筈だったわ。
それが、あのチカラを創るから」

息を付いて、彼女がビアンカを、そして背後の三人を一瞥する。
話が続く。

「でも、そうはならなかった。
こんななあなあな世界が生み出され、私はこうやって人間としての体を持って此所にいた。
なら、私がするべきは、この世界を壊し、あなたを支配すること。
その為に、あなたのその想いの真実を知る必要があったから―――だから、あなたを呼び起こしたのよ」

そう言って、彼女は改めて向き直る。

「さあ、教えなさい。
何故、夢もないあなたが、私すらを押しのけてこの世界を作れたの?」
135名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/01/22(木) 20:17:17.54 ID:YrsH+zHQ0
しえん
136ユメトキボウ ◆KV7BL7iLes :2015/01/22(木) 20:17:38.14 ID:LH6ocAzU0
その表情は、余裕。
どんな理由であろうと、その全てを呑み込めるという余裕がそこにあった。
けれど、ビアンカは。
毅然として顔を上げ、彼女と向き合う。
何故なら、その理由を思い出したから。
絶対に曲げない、曲げられないその理由を。

「約束よ。絶対に守ると誓った、約束」

決然として、言い放つ。
その言葉が、彼女の夢を退ける。

「それが、私の一部に過ぎないあなたに払われる訳がない」

何よりも強い、彼等との―――独りよがりかもしれない、だけれど繋がりを持つ誓い。
それは、完全に自己完結している夢に負けはしない、絶対の想い。

「だから、私は進む。
まだ、約束は果たせていないから」

そう言って、真実を移す鏡を掴む。
彼女の夢は完全に力を失ったように崩れ落ち、その鏡がビアンカの手に渡る―――と、鏡が輝きはじめる。
世界が段々と破綻し、消えていく中で、ビアンカは声を張り上げる。
ともだちであり。
仲間であり。
幸せを掴んでいった、彼等に向けて。

「―――ありがとう
私、絶対に幸せになるから」
137ユメトキボウ ◆KV7BL7iLes :2015/01/22(木) 20:18:09.77 ID:LH6ocAzU0
―――子守唄は、もういらない

切り捨てる。
何も言わせず、ただ切り捨てる。
既にどれくらい経っただろうか、気付けば血溜まりの中にいた。
荒くなっていた息を整え、ふと気配を感じ背後を見る。

「ふぅん」

向き合った、その先にいる自分が口を開く。

・・
「それがあんたの夢だってのは、分かってんだろ?」

頷く。
切り捨てた数多の死体―――最愛の姉の死体を振り返ることはない。
合間に混じっていた頭巾の少女の、その一閃された胴体を改めて見る必要はない。

「夢を切り捨てる、か。
我ながら、どうしてそんな事をしたか分からないね」

尚も笑いながら、ゆっくりと自分が降りてくる。
無邪気な子供の頃の自分の姿をしながら、彼はこちらを見る。

「…わからない、か?」

疲れ果てた口から出たその言葉に、首を振る自分。
その呆れ顔から、本当に分かっていない事を察する。




「なら―――それでいい」

目の前を薙ぐ。
一瞬前まで笑っていた筈の少年の顔が、驚きと苦悶に歪む。
世界が軋み、崩壊を始める。
その中で一人、テリーは空を眺めた。
138ユメトキボウ ◆KV7BL7iLes :2015/01/22(木) 20:19:11.93 ID:LH6ocAzU0
―――夢は欲望の裏返し。
そんな事を思っていた自分の前に現れたのが彼女だったのだから、つまりはそういう事なのだろう。
そして、それに一瞬でも心を惹かれた―――なんて。
あの女武道家に偉そうな事を言っておいて、なんて愚かしい。

「今の俺は、アンタ達を振り払わないと前を向けない」

そうだ。
そうしないと縋ってしまう程に、自分の心は弱い。
蜜の味の毒を飲んでしまう愚かな弱さを。
自分はまだ、越えられていない。

「だから、俺は強くなるよ」

―――そう、ならば強くなれ。
またこんな夢を見た時、こうやって振り払わなくていいように。
笑い合いながら、ありがとう、さようならとそう言えるように。

「いつか、またアンタ達に会えたら」

目的を見失い、ただ強さを探すのではなく。
心を切り捨て、後ろを見ないのではなく。

「絶対に、笑って別れられるようにするから」

哀しみを受け止め、傷だらけになりながら、それでも過去を糧にして、

「…じゃあな」

そうやって、前に進む為に。
139ユメトキボウ ◆KV7BL7iLes :2015/01/22(木) 20:19:39.78 ID:LH6ocAzU0
―――We are, the dream ,is steel alive in the real

また数回、剣を重ねる。
殺気が籠った剣の全ては、同じような剣撃で全て弾かれる。
まるで鏡と戦っているようだと、愚にもつかない事をふと思う。

「埒があかないね」

やがて、「夢」が剣を降ろす。
警戒しつつ、ロッシュもまたそれに倣う。

「…へえ、てっきりまだ向かって来るかと思ったのに」

「単純な戦いで君を殺ぐのは、随分と骨が折れそうだからね」

笑みを浮かべる自分の姿を見つめ、静かに言葉を返す。
スキを窺うが、簡単には見当たらない。
そして、その「夢」が衰えた様子もまたない。
闇の中に訪れる、静寂。

「ねえ」

ふと、口を開く。
ロッシュの呼びかけに応える意か、「夢」もその剣を降ろす。
話をしてもいいという事で捉え、彼は問いかけを始める。

「なんでさ、こんな回りくどい、しかも危険なことをしたのさ。
僕が目的ならもっと簡単に連れてくることが出来たろうし、その僕が死ぬリスクすらある殺し合いっていう場を作ることは逆効果だと思うんだけど?」

そう、それは根底からしておかしい事だ。
目的がロッシュだと言っておきながら、彼を失う危険があるこの方法はあまりに不自然だ。
笑みを浮かべ、先を促す「夢」を注視しながら、ロッシュは続ける。
140名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/01/22(木) 20:19:54.60 ID:YrsH+zHQ0
 
141ユメトキボウ ◆KV7BL7iLes :2015/01/22(木) 20:20:16.32 ID:LH6ocAzU0
「それに、あの首輪や、ゲロゲロだ。
力の強さを見せつけるには余りにも仕掛けがお粗末だし、後者に至ってはメリットが何一つない。
実際、君はアクバーという手下を彼によって打ち砕かれた訳だからね」

武力や脅威を示すには、徹底的に決定打が足りない仕掛け。
だが、それまでの話を聴いて、「夢」は唐突に笑い出す。
何事かと身構えるロッシュに対し、「夢」は語りだす。

「なあに、簡単なことさ。
君達がそうやって想像を膨らませる事が、何よりの狙いなんだよ」

何、とロッシュが言う暇も無く、刺突が放たれる。
不意を突いた一撃に驚きつつも、冷静に剣を躱すロッシュ。
そんな彼を嘲笑うように連撃を叩きこみながら、話が続く。

「君達はこの殺し合いの場で、何を考えた?
嘗ての友が殺しに来るかもしれないという疑心を覚えたか?
誰も知らない所で雑巾の様に朽ち果てる未来に恐怖を覚えたか?
こんな所に閉じ込められたという怒りは?抜け出す為に私を倒そうという義憤は?
あるいは、人を殺す快楽とか、
―――ああそうだ、妹が囚われたかもという不安もねぇ!」
142ユメトキボウ ◆KV7BL7iLes :2015/01/22(木) 20:21:14.46 ID:LH6ocAzU0
瞬間、ロッシュの剣が鋭さを増す。
正に疾風というその剣の舞をいなし、逆に踏み込んで一閃を放つ「夢」。
隙が出来たロッシュがそれでもその斬撃を防ぎ、後退する。
「夢」は嗤い、話を再開する。

「要するに、だ。君達のその感情のうねりは、夢想はさ。全て僕の糧になるんだよ。
人の心が生み出した幻影が、その人間と結びついてる内はただの妄想に過ぎないけれど。
もし一人歩きを始めたら、っていうのは、君が一番よく知っているだろう?」

「…成程ね。
つまり、そうやって他人の感情を吸い上げて、力を得ようとした訳だ」

ロッシュのその発言に首肯し、夢は嗤う。
その表情に浮かぶ感情は移り変わり、どれが彼の感情か等は分かりやしない。
いや―――そんなものなど、存在しないのかもしれない。
彼は飽く迄も夢であり、妄想であり、つまりは数多の感情の集合体でしかないのだから。
そして、ロッシュは同時に、二つの事実に気付く。

「じゃ、皆は今、君の中…いや、君を取り巻いている」

「ああ、この夢の中にいるよ。
彼等はそれぞれ、自らの望む夢の中にいる。夢と現実を混ぜ合わせているんだ」

唐突に火球が放たれる。
正面からそれを雷撃で打ち砕き、生まれた光は再び闇に呑まれていく。

「君が言った通り、僕は夢という存在であり、多面体さ。
つまり、僕が彼らの世界に投影した彼らは、多面体である僕の違う一面―――つまり、彼ら自身だからね。
望む世界で、再び生きている友と逢い、希望を掴んだ時」

最後まで残っていた光が、闇へと消える。

「誰がそこから、地獄のような戦いに帰って来れる?」
143ユメトキボウ ◆KV7BL7iLes :2015/01/22(木) 20:21:54.81 ID:LH6ocAzU0
静寂。
ロッシュは息を吐き、残るもう一つの疑問をぶつける。

「それと、もう一つ。君は優勝者と融合でもするつもりだったのかい?
その力で、優勝した者の願う世界を作り上げるといった風に」

「それは合っているし、間違っているね」

「夢」は嗤いながら、再び斬撃を放つ。
ロッシュは受け流し、一気に切り込む―――が、打ち砕くような回し蹴りが襲う。
どうにか全てを受けきるが、その体は防戦一方。
圧倒的な不利を呈す彼を見下し、「夢」は言う。

「夢、つまり僕こそがその世界そのものとなるのさ。要は僕という器の中ってことさ。
彼等の感情を得た僕なら、態々世界を創造する必要は無い。
何故なら―――」

堂々と、宣言する。

「無限に理想的な―――夢のような世界の神になれるのは。
僕か君位しか、いないじゃないか」

己が、神だと。
144ユメトキボウ ◆KV7BL7iLes :2015/01/22(木) 20:22:42.73 ID:LH6ocAzU0
だが。

「君が…神。神だって?」

それを聞いた男は、笑う。
高らかに高らかに、笑い始める。

「…何が可笑しいんだい?あるいは、神に対しての畏怖でおかしくなったか」

「可笑しいなんてもんじゃないさ。君は何も解っちゃいない。
人間も、人の夢も、その意味も、生きるっていうことさえね」

屈託なく笑い続ける男を、容赦なく銀光が襲う。
それを再び受け流すロッシュ。
彼の防戦一方なのは変わらない。
「夢」が圧倒しているのも変わらない。
だが、彼が纏うその気迫は。
純粋な狂気が、希望が纏うその体は。

「君は結局、他人の感情が作ったまやかしさ。
どんなに力を持とうと、どんなに偉くなろうと、そこに生はないんだよ。
最も、崇め奉られるだけの神様なら、それでいいのかもしれないけどね」

魔王。
神を貶し、その世界を純粋な欲望を以て傲慢に破壊する存在をそう呼ぶのなら。
いや、そうでなくとも彼は正しく魔王と形容されるべきものだった。

「人間が、どうして生きるのか、どうしてもがき苦しむのか考えたことはないのかい?
死にゆく、全てを受け入れたものが美しいなんてのは、人間が考えることじゃないさ。それこそ、魔族が考えるような事だね。
望む世界で、夢しか見ないなんて下らないね。
少なくとも、僕の望むターニアは、そんなことで簡単に返って来るものじゃあないんだよ」
145ユメトキボウ ◆KV7BL7iLes :2015/01/22(木) 20:23:14.08 ID:LH6ocAzU0
魔王は咆える。
神が世界を作るならば、それを壊さんばかりに。
その我儘を突き詰めたような存在に、「夢」は間違う事無き畏怖を覚え。
―――突如、「夢」の外見が破綻する。
その中から一つのピースがひらひらと宙を舞い、光を纏う。
その光が収束し、ゼシカが姿を現す。
同様に幾つかのピースが飛び出て、それぞれが虚無の大地に降り立っていく。
砕け散った欠片の一部は海神が持っていた道具となり、地面に落ちていく。
それを呆然として眺める、姿が未だ揺れ動く「夢」が呟く。

「何故、だ。
何故そうやって、お前らは自分の夢を拒絶するんだ?」

「拒絶じゃないさ」

ロッシュが微笑み、剣を掲げる。

「夢に溺れれば、破滅するのは道理さ。
夢と現実の狭間で悩んで。
思い通りにならない現実に苦しんで。
何度も簡単な妥協論に飛びつきそうになって。




それでも、自分の夢を現実にすることを諦めないから、生きてるって言えるんだよ」

そう言って、彼は剣を振るう。
「夢」はそれを躱して飛び退り、怒りに燃えた顔を見せる。

「貴様等、調子に乗るなよ。
望む世界を諦めたのなら、―――相応の覚悟は出来ているんだろうな」

そうして、遂に決戦が始まる。
この理不尽な夢から抜け出す為の、最後の闘いが。
そして、現実から逃げず、夢を掴む為の終わりなき最初の闘いが。
146ユメトキボウ ◆KV7BL7iLes :2015/01/22(木) 20:23:58.72 ID:LH6ocAzU0
【闇】
【ソフィア(女勇者)@DQ4】
[状態]:健康
[装備]:天空の剣@DQ4、メタルキングの盾@DQ6、メイド服@DQ9、ニーソックス@DQ9
[道具]:支給品一式
[思考]:終わらない
[備考]:六章クリア、真ED後。

【カイン(サマルトリアの王子)@DQ2】
[状態]:健康
[装備]:ロトの剣、ホワイトシールド@DQ8
[道具]:支給品一式、剣の秘伝書@DQ9、もょもとの手紙、キメラの翼@DQ3
[思考]:仲間達と妹との約束を守る

【テリー@DQ6】
[状態]:健康
[装備]:雷鳴剣ライデン@DQS、むげんの大弓@DQ9、オーガシールド@DQ6
[道具]:支給品一式、竜王のツメ@DQ9、ツメの秘伝書@DQ9、キメラの翼@DQ3
[思考]:本当の意味で強くなる
[備考]:職業ははぐれメタル(マスター)
(経験職:バトルマスター・魔法戦士・商人・盗賊追加)

【ゼシカ@DQ8】
[状態]:健康
[装備]:女帝の鞭@DQ9、わだつみの杖@DQ9、セレシアの羽衣@DQ9、奇跡の剣・改@DQ7
[道具]:支給品一式、賢者の秘伝書@DQ9、おふとん@現実、キメラの翼@DQ3
[思考]:未来を創り、また逢いに行く
147ユメトキボウ ◆KV7BL7iLes :2015/01/22(木) 20:25:29.29 ID:LH6ocAzU0
【ビアンカ@DQ5】
[状態]:健康
[装備]:モスバーグM500(2/8予備弾4発)、祝福の杖@DQ5、エンプレスローブ@DQ9、ブロンズナイフ、リッカのバンダナ@DQ9
[道具]:支給品一式、炎のリング@DQ5、カマエル@DQ9、調理器具(大量)、ふしぎなタンバリン@DQ8、聖なる水差し@DQ5
      小さなメダル@歴代、命のリング@DQ5、白紙の巻物@トルネコ、猫車@現実、結婚指輪@DQ9、キメラの翼@DQ3
[思考]:生き残り、彼らの分まで夢を叶える。
[備考]:カマエルによって錬金釜の使用方法を教わっています

【ロッシュ@DQ6】
[状態]:健康
[装備]:銀河の剣@DQ9、トルナードの盾@DQ7、星降る腕輪@DQ3
[道具]:支給品一式、
[思考]:諦めない。夢を、かなえるために。

【"ロッシュ"@DQBR2nd】
[思考]:????
[備考]:主催・デスタムーア

※以下のアイテムがロッシュたちの周りに落ちています。誰が拾うかは後続の書き手にお任せします。
メタルキングの槍@DQ8、地獄の魔槍@DQ9、パパスの剣@DQ5、
サタンネイル@DQ9、スライムの服@DQ9、スライムヘッド@DQ9、
ふくろ(支給品一式、ヤリの秘伝書@DQ9、王女の愛@DQ1)
148 ◆KV7BL7iLes :2015/01/22(木) 20:26:40.12 ID:LH6ocAzU0
投下終了です。
何かありましたら、どうぞ
149名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/01/22(木) 22:31:51.86 ID:eLt/DOHP0
投下乙です!
ついに、ついに最終決戦か……?
夢が夢であるかぎり、絶望となり魔王を生む。
勇者たちがいる限り、魔王は必ずそこにいる。
150名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/01/23(金) 01:19:06.08 ID:/NUW9/ml0
乙です!
連投規制なくなったんだっけ。支援しなくてもよかったか……

本当の最終決戦……!
「夢」の力はまだ明らかになってないし、ロッシュもどうなるかわからないし、油断ならないですな
151名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/01/23(金) 05:54:21.49 ID:CgcRw1lJ0
投下乙です!
もうみんなかっこいい!
152堕ちる、世界 ◆CruTUZYrlM :2015/01/27(火) 01:21:45.33 ID:KsoCIxP80
ぱりん、と"夢"が割れ、光が漏れる。
真っ先に飛び出してきたのは、栗色のツインテールに豊満な体の女。
目を閉じたまま、けれどもゆっくりと足を着け、一息ついてから目を開く。

「夢は夢、確かに気持ちのいいものよ。誰だって、理想の世界で溺れていたいわ」

ぱりん、と"夢"が割れ、光が漏れる。
次に飛び出してきたのは、三つ編みの金髪の女だ。
彼女もまた、ゆっくりと足を着け、一息をついて目を開く。

「だけど、私たちには夢がある。理想の世界の先に見るべき夢があるのよ」

ぱりん、と"夢"が割れ、光が漏れる。
青を基調とした服、透き通る銀髪の剣士。
剣を構え、先に具現化した女性二人の前に一歩出る。

「夢を夢で終わらせない、終われないんだよ。夢が叶うってことは、それは新しい始まりだから」

ぱりん、と"夢"が割れ、光が漏れる。
パイナップルの様な跳ねた髪の毛に、国を象徴する翠の法衣。
宿命の紋章を背負いながら、彼もまた一歩前に出る。

「そして新しい夢が叶い、新しい夢が生まれる。堂々巡り? そう思うだろう、僕たち人間は、どこまでも傲慢だからね」

ぱりん、と"夢"が割れ、光が漏れる。
緑色の特徴的な髪の毛、少し露出のあるレオタード。
血のさだめを背負う少女もまた、一歩前へ出る。

「終わっても終わっても終われない、続く道がある。だから、アタシらは生きるんだよ」

夢から舞い戻った、五人の戦士達。
それを背に、青年は"夢"へと笑う。

「どうだい? これが止まらない、"前"へ進む"人間"の力だ。
 全てを叶え、全てを飲み込み、そこで満足して足を止めているような君じゃあ……僕たちには勝てないよ」

そこまで言い放ったと同時に、ぶれていた"夢"が再び姿形を作る。
ロッシュのようで、ロッシュでない、他の、誰か。
人のように見えて人ではないその姿で、おぞましい声を上げる。

「ならば、終わらせてやろう。貴様等の夢は、ここで潰える」

どこまでも重く、低い声が闇を揺らす。
ずしん、と軽い地鳴りがしたと同時に、闇が割れる。
瞬時にそれぞれが手を伸ばそうとするが、届かない。
すぐ側にいるのに、触れることすら叶わない。
空間の魔術、屈折する光の幻想、可能性はいくらでも考えられる。
この空間すら、"夢"の一部だというのか。
困惑する暇も与えられないまま、"夢"が再び叫ぶ。

「"絶望"に、姿を変えてなァッ!!」

その声と同時に、響きわたる無数の声。
ごぼ、ごぼごぼ、と音を立てて、何かが底から沸き上がってくる。
ゆっくり、ゆっくりと形を作っていく"それ"。
闇に照らされ、光を吸い込み、出来上がった姿は。
"ひと"の、"にんげん"の形をしていた。
153堕ちる、世界 ◆CruTUZYrlM :2015/01/27(火) 01:22:24.37 ID:KsoCIxP80
 


目を開く。
地響きでバランスを崩し、ビアンカは後ろに倒れ込んだ。
と、いうところまでは覚えているのだが、目を開いたときには"立って"いた。
違和感を覚えたと同時に、一枚の羽が視界に飛び込んできた。
人はおろか、風すら吹いていないというのに、それはまるで流れるように自分の目の前に現れた。
一枚、一枚、そしてもう一枚と、次々に白き羽が飛び散る。
闇で埋め尽くされていた視界が、白で埋まっていく。
思わず顔を背け、飛びかかるそれから一歩引いていく。
そしてしばらくして、顔に当たる感覚が薄れた頃。
背けていた顔を戻し、目を開いていく。

そこに立っていたのは、変わった服に身を包んだ、桃色の髪の少女だった。
年は、タバサよりかは上だが、フローラよりは下といった所か。
こんな場所にいる、ということ自体がおかしいことなのだが、それでもビアンカは彼女に語りかけようとした。

「――――憎い」

一歩、踏み出した時。
少女が、口を開く。

「人間、が」

凍り付きそうな声に足が止まる。
同時に、少女が前を向き、ビアンカの顔を見つめる。

「人間が!!」

そして、真っ赤な目から、真っ赤な涙を流しながら。
この世のものとは思えない声で、叫ぶ。

「憎い!!」

そして、闇に包まれた世界の中で。
闇にも負けない漆黒の翼を生やし。
天使が、生まれ堕ちた。
154堕ちる、世界 ◆CruTUZYrlM :2015/01/27(火) 01:22:49.87 ID:KsoCIxP80
 


「エイ、ト?」

見間違えるわけがなかった。
赤いバンダナ、黄色い特徴的な服。
いつも見ている姿に、間違いは無かった。

「ククール、ヤンガス」

そして、その側にいる者達も、見間違えるわけがなかった。
長く、苦しい旅を共にした仲間の顔なんて、死んでも見間違えるわけがない。
そう、間違えるわけがないのに。

心にある、この違和感はなんだ。

姿形は一緒、間違いない。
けれど、違う、違う、何かが違う。
違和感の正体をつかみ取ろうと、口を開こうとしたその時だった。

見えてしまった。
その瞳が、漆黒に染まりきっていることに。
分かってしまった。
四人が四人とも、表情が削げ落ちた顔で自分を見ていることに。

そして、突きつけられる。

殺意の籠もった、刃。



ずしん。
大きな地鳴りが一つ。
法衣に身を包み、死の鎌を構えた魔王が一人の人間を睨む。

ずしん。
大きな地鳴りが一つ。
暗黒のマントで腕を包んだ、進化の秘宝の全てが一人の人間を睨む。

二人の、魔王。
存在し得たかもしれない、強大な"絶望"。
ぼんやりとしていた記憶が、はっきりと蘇っていく。

そうだ、先ほどアクバーが変異した魔王だって、自分は"覚えて"いる。
自分が、彼らを"生み出して"いたかもしれないことを。

「乗り越えろ、って事か」

自分が忘れていた過去さえ、牙を剥いてくる。
立ち向かわなければいけない、ということは嫌でも分かっている。
ただ、ただ、純粋な恐怖。

可能性の存在である魔王二人による、威圧。
誰もが逃げ出してしまうであろうそれを身に受け、テリーは暗闇を駆けた。
155堕ちる、世界 ◆CruTUZYrlM :2015/01/27(火) 01:23:20.92 ID:KsoCIxP80
 


「感動のご対面、感謝感激雨霰、ってね」

皮肉めいた言葉を、漏らす。
今、目の前に立つ四人の男女。
それは、カインにとっては伝記の書物の上でしか知らない存在。
勇者"ロト"、カインにとっては忌み嫌うべき己の血の祖先となるべき存在と、その仲間たち。
そんな彼らが、絶望として現れたという事は。
彼らもまた、自分と似たように、けれども少し違うように絶望してきたのだろうか。

「ま、そんな事はどうだっていいんだけど」

神なる竜すら圧倒しそうな気迫を受けながらも、カインはへらっと笑う。
いや、笑わずにはいられない、ということか。
こんな形で運命と戦うことになるなんて、考えもしていなかったからか。

「乗り越えてやるよ、アンタらも、アンタたちが残した血も」

少しだけ、語気を強めて言い放つ。
相手は四人、こちらは一人。
けれど今の彼には"みんな"がいるから、どんな困難だって打ち勝てる。
そんな自信の現れともとれる笑顔とともに、剣一本でカインは祖先へと飛びかかっていった。



「クソッ! おい、みんな!」

走る、走る、走る。
分断された闇の世界を、ただただ前へと進む。
それで合っているのかは分からない、ひょっとしたら遠ざかっているのかもしれない。
けれど、じっとなんてしていられない。
だから、前へ、前へ、前へと走る。

「いっ!?」

そして、何かにぶつかる。
何も写らない真っ暗闇の中、何かがソフィアの前を塞ぐ。
手を伸ばせば触れられる、壁のような何か。
気がつけば、"それ"に四方を囲まれていた。
半径百数十センチが届く距離、全てが"何か"に封鎖されていた。

軽い舌打ちと共に、邪魔するならば叩き割るまでと剣を抜こうとした時。
ぼんやり、と一つの影が浮かび上がった。
再び手を伸ばすも、何かに阻まれて届かない。
そうこうしている間に、影は形を作り上げていく。

「あ……?」

だんだん浮かび上がるそれを見て、戦慄する。
初めて見るはずの姿、面識などほんの少しも存在しないと言うのに。
知っている、いや、知らないわけがないと、心が警鐘を鳴らす。
緑の髪、青い服、少しだけ濁った瞳。
そう、そこに立っていたのは。
生まれることを許されなかった、自分だったかもしれない存在。

"天空の勇者"が、そこに立っていて。

何かが割れ、砕ける音が響き渡った。
156堕ちる、世界 ◆CruTUZYrlM :2015/01/27(火) 01:23:59.41 ID:KsoCIxP80
 


「……どうあっても、みんなを引き剥がしたいみたいだねえ」

再び、バラバラになった六人。
先ほどと同じように、一人残されるロッシュ。
目の前には、先ほどと変わらぬ姿の"夢"が立っている。

「理想の世界を拒むのならば、絶望が彼らを飲み込むまで」

にやり、と笑い、"夢"はロッシュへ答える。

「より深い、絶望を生み出すために」

自分と同じ顔で、邪悪な笑みを浮かべられるのも癪なものだ、とロッシュは思う。
下卑たそれに反応していないように見せるために、あえて冷静に受け答えをする。

「ふぅん、で、僕には何をしようって言うのさ」

そして、ロッシュも笑う。
自信たっぷりに満ちた顔で、精一杯の背伸びをしながら。
"夢"を、見下ろすように。

「どんな魔王だろうと、他人の絶望であろうと、僕は跳ね退けてみせるよ」

けれど、その余裕は一瞬で消え去ってしまう。
にたり、と笑った"夢"が姿をぶれさせ、形を変えていく。
そして、ゆっくりと形が象られていく。

「何のつもりだ」

それが出来上がるとほぼ同時に、ロッシュは"夢"へと肉薄し、剣を突きつけていく。
その表情は、今までのどれよりも鋭い。
魔王すらも超えた、冷酷な顔だった。

「いいのか」

それを少女は、"ターニア"を象った"夢"は、笑いながら見つめる。
勝利を確信した表情に、ロッシュの眉がぴくりと動く。

「夢を奪われた人間がどうなるか、お前がよく知っているだろう」

そう、人は誰しもが夢を抱く。
そんな誰もが持っている物を失った者が、人間で無くなっていく姿も、自分の目で見たばっかりだ。

「そうだ、ロッシュよ。お前の"望み"である小娘の"夢"も!! 私に繋がっている!!」

目の前に立つのは"夢"。
人々の願い、絶望、悲しみ、喜び、何もかもが詰まった存在。
故に、例外など存在しない。

"彼女"が願う夢ですら、目の前に立つ存在の一部なのだから。

「私を奪う? 上等だ。そのために私を弱らせるために何をする? 私を傷つける? その立派な剣でか?
 お前の望む"夢"ごと、切れてしまってもかまわんのならば、止めんがな」

笑う、笑う、笑う。
少女の姿の"夢"が、笑う。
157堕ちる、世界 ◆CruTUZYrlM :2015/01/27(火) 01:24:33.29 ID:KsoCIxP80
  
「さあ、絶望しろロッシュ!!」

両手を掲げると同時に、闇の中で無数の"影"が生まれる。
その一つ一つが、形を作っていき、"人"になる。
それらは、一つとして例外なく。
"ターニア"の、姿をしていた。

「お前の望む"願い"を、断ち切ってでも、この私を倒せるというのならば」

人の抱く"夢"は姿を変える。
時に美しく、時に残酷に。
願う形のままに、姿を変えていく。

「その刃を、振るって見せろ!!」

その"夢"が"絶望"に、変わっていく。
六人の夢見る者達を、"絶望"の担い手として、生まれ変わらせるために。


【"夢"】
【憎悪の堕天使@DQBR2nd】
[備考]:アンジェに良く似た姿

【ビアンカ@DQ5】
[状態]:健康
[装備]:モスバーグM500(2/8予備弾4発)、祝福の杖@DQ5、エンプレスローブ@DQ9、ブロンズナイフ、リッカのバンダナ@DQ9
[道具]:支給品一式、炎のリング@DQ5、カマエル@DQ9、調理器具(大量)、ふしぎなタンバリン@DQ8、聖なる水差し@DQ5
     小さなメダル@歴代、命のリング@DQ5、白紙の巻物@トルネコ、猫車@現実、結婚指輪@DQ9、キメラの翼@DQ3、王女の愛@DQ1
     パパスの剣@DQ5
[思考]:生き残り、彼らの分まで夢を叶える。
[備考]:カマエルによって錬金釜の使用方法を教わっています

【"夢"】
【絶望の呪われし戦士達@DQBR2nd】
[備考]:エイト、ククール、ヤンガス、ミーティアに良く似た姿

【ゼシカ@DQ8】
[状態]:健康
[装備]:女帝の鞭@DQ9、わだつみの杖@DQ9、セレシアの羽衣@DQ9、奇跡の剣・改@DQ7、サタンネイル@DQ9
[道具]:支給品一式、賢者の秘伝書@DQ9、おふとん@現実、キメラの翼@DQ3
[思考]:未来を創り、また逢いに行く

【"夢"】
【夢を砕かれし伝説@DQBR2nd】
[備考]:アレル、カーラ、男魔法使い、リンリンに良く似た姿

【カイン(サマルトリアの王子)@DQ2】
[状態]:健康
[装備]:ロトの剣、ホワイトシールド@DQ8、ヤリの秘伝書@DQ9
[道具]:支給品一式、剣の秘伝書@DQ9、もょもとの手紙、キメラの翼@DQ3、メタルキングの槍@DQ8
[思考]:仲間達と妹との約束を守る
158堕ちる、世界 ◆CruTUZYrlM :2015/01/27(火) 01:25:05.17 ID:KsoCIxP80
【"夢"】
【修羅たる憎悪@DQBR2nd】
[備考]:アスラゾーマ

【真なる進化@DQBR2nd】
[備考]:サイコピサロ

【テリー@DQ6】
[状態]:健康
[装備]:雷鳴剣ライデン@DQS、むげんの大弓@DQ9、オーガシールド@DQ6
[道具]:支給品一式、竜王のツメ@DQ9、ツメの秘伝書@DQ9、キメラの翼@DQ3、地獄の魔槍@DQ9
[思考]:本当の意味で強くなる
[備考]:職業ははぐれメタル(マスター)
(経験職:バトルマスター・魔法戦士・商人・盗賊追加)

【"夢"】
【導かれざる者@DQBR2nd】
[思考]:????
[備考]:男主人公によく似た姿

【ソフィア(女勇者)@DQ4】
[状態]:健康
[装備]:天空の剣@DQ4、メタルキングの盾@DQ6、メイド服@DQ9、ニーソックス@DQ9
[道具]:支給品一式、スライムの服@DQ9、スライムヘッド@DQ9
[思考]:終わらない
[備考]:六章クリア、真ED後。

【"夢"】
【"ロッシュ"であり、"ターニア"@DQBR2nd】
[思考]:絶望を生み出す
[備考]:主催・デスタムーア

【ロッシュ@DQ6】
[状態]:健康
[装備]:銀河の剣@DQ9、トルナードの盾@DQ7、星降る腕輪@DQ3
[道具]:支給品一式、
[思考]:諦めない。夢を、かなえるために。

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以上で投下終了です。
本当は続きも書こうかと思ったのですが、あえてここで切ってみました。
何かありましたらどうぞ。
159名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/01/27(火) 01:58:26.82 ID:BRiKbeuB0
乙でした
前回ジェノシドーwwwwwと思ったら
アスラゾーマにサイコピサロとか大盤振舞だなwwwww
あとはしん・りゅうおうだけかなDQM???の追加で出てないのは
160名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/01/27(火) 08:55:14.74 ID:QRrOOSDs0
投下乙
少し前から思ってたが、次の書き手に毎回とんでもないキラーパス出してるなアンタw
それを繋げる書き手も凄いけどねw
161名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/01/27(火) 18:29:46.32 ID:deCjG5me0
乙です
それぞれの相対者が面白い
162 ◆CruTUZYrlM :2015/01/27(火) 21:36:52.07 ID:N5TBb8+x0
一転修正。
王女の愛をゼシカの持ち物とさせてください。
163名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/01(日) 17:24:00.35 ID:Kz8tqh/40
164Hello, it's me. ◆CruTUZYrlM :2015/02/05(木) 00:15:51.99 ID:KiRN5li90
 
「……あた、し?」

自分でも、何を言っているのか分からなかった。
似ても似つかない、誰がどう見ても"別人"の男に向ける言葉ではない。
けれど、その言葉はまるで絞り出されるように飛び出した。
男が片手に携えるのは、自分と同じ天空の剣。
二本あるはずのない剣がそこにあって、それを使っている男がいる。
"天空の勇者"であることは勿論、そこに立っているのは、自分だと。
心の奥深く、どこかでそう理解していた。
手に持つ同じ剣を構え、向こうの出方をゆっくりと伺う。

「やあ」

ずっと俯いたままだった男が顔を上げ、ソフィアに語りかけてくる。
剣は持ったまま、けれども戦意を感じさせない。
まるで、親しい間柄と話しているかのように、男の話し口は軽い。
眉を潜め、未だに様子を窺い続けるソフィアに対し、男は少しほほえんでから手を差し出す。

「迎えに、来たよ」
「何、言って」

反射的に言葉が飛び出してしまうほど、相手の言っている言葉が理解できない。
いや、言葉としては理解できるのだが、意図が理解できない。
迎えに来た? 自分のようで自分ではない、似ても似つかない"自分"が?
理解できないことが、頭の中で渦を巻き続ける中、男は少し笑ったまま、ソフィアへと語り続ける。

「僕は、君の"願い"さ」

両手を広げ、全てを受け入れるように。
まだ立ち尽くしているソフィアに向けて、ありありと"それ"を誇示する。

「君が今まで願い続けてきたから、僕が生まれた」

かつて、来る日も来る日も願い続けた願い。
叶うわけ無いとわかっていても、叶えたかった願い。
既に諦め、とうに忘れかけた願いにこんな形で出会うとは。
ようやく、事態と状況を理解し、大きく息を吐く。

「だから、君の願い通り。僕は、君と代わりにきたんだ」

そして、続く言葉。
そこまで理解したのならば、その言葉が飛び出すことは分かり切っていた。
ああ、目の前の存在は"夢"であり、"絶望"である。
自分に、絶望を植え付けるために、呼び出されたと言った所だろうか。
かつての自分自身の願いが、こうして自分に返ってくることすら予想外だというのに。
まさか、その絶望が自分を殺しに来ているなんて、考えることがあっただろうか。
あまりにも予想外すぎる展開に、ソフィアは思わず笑ってしまう。
わずかに眉を顰める"夢"に対し、少し見下ろすような形で、ソフィアは言い返す。

「悪ぃが、そうはいかねえよ」

少し驚いた顔を見せながらも、特に慌てることはなく、"夢"はソフィアへ返答する。

「どうして? 君がずっと願い続けてきたことなのに」

当たり前の問いかけ、叶わないと願った夢が目の前にあるのに、それを拒絶している。
疑問に思われて当然の問いかけに対し、ソフィアは一息ついてから返答していく。
165名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/05(木) 00:16:23.81 ID:TjEfmFpX0
        
166名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/05(木) 00:17:03.66 ID:bWXnfoKf0
 
167Hello, it's me. ◆CruTUZYrlM :2015/02/05(木) 00:17:21.99 ID:KiRN5li90
 
「昔の話だ、もう願っちゃいない」

呆れた顔で、捨て去った希望を語る。
きっかけが生まれたのを皮切りに、ソフィアは口を閉じることを忘れ、語り続けていく。

「けれど……そうして"生まれて"来るくらいには、あたしは願ったし、絶望したさ」

いつか、願った希望。
誰よりも、何よりも願った希望。
そして、今はもう必要のない希望。

              だ れ か
「現れる訳のない、"天空の勇者"が現れることを」

ほんの小さな願いであり、何よりも大きな願い。
ただ、普通に生きていたいという願い。
世界に対して祈り続けた願い。

「強く、強く、誰よりも、願ってきた」

捨て去ったと思っていた、けれど捨てきれていなかった。
こうして語っていても、懐かしさが生まれてしまう。
だから、ここで捨てきるために、語る。

「血の宿命も、背負った力も、全部押しつけてさ。
 普通の女の子として生きる、それが、あたしの"夢"だった」

"夢"を、"夢"で終わらせるために。
これから生きる道の次の一歩を踏むために。
そう、新しい"夢"を見るために。

「でもよ、気づいたんだ」

これから、変わる。
そのために、もう一度理解する。
かつての自分の願いを、夢を。

「"勇者"であることに、縛られ続けていたのはあたし自身だったってな」
過去を、切り捨てるために。
止まることなく、振り返ることなく。
ソフィアは語り続ける。

「誰に何と言われようが、不思議な力を持ってようが、関係ねえ」

元の世界、そしてこの世界。
生き様を見た、死に様を見た、夢を見た。
そして、貫くべきは何かがわかった。

      あ た し
「あたしは"ソフィア"だ、それが第一で、全てだって、気づいたんだよ」

貫くべきは、自分だ。
自分を貫いて、生きて、生きて、生き通す。
そして、最後まで自分が自分であるために、絶望しない。
168Hello, it's me. ◆CruTUZYrlM :2015/02/05(木) 00:19:10.85 ID:KiRN5li90
 
          だ れ か
「だからもう、"天空の勇者"を望むことは無ぇ」

"夢"を叶えて、また新しい"夢"を見る。
曲がらない、曲げられない、信念を貫き通す。
そんなたった一つの道を歩くのは。

 あ た し
「"ソフィア"を生きられるのは、あたししかいねえから」

他人ではなく、自分しかいない。
だから、もう"だれか"を望むことはない。
たどり着いた真実の先の、新たな真実をその手に掴むために。

「前に進まなきゃいけない理由が出来た、先を見たいと未来を向いた、だからあたしは生きる」

一つに満足して"終わらない"ために。
暴くべき真実と、理由をその身に刻むために。
そして、何より。

「あたしを、全うするために」



止まることなく、流れ出す言葉。
その全てが吐き出され、ようやく"音"が消える。
互いの手には剣を持ったまま、間合いの少し外に立ったまま。
特に動きのない"夢"に、ソフィアは少し警戒を強める。
飛びかかってくるか、あるいは別の行動か。
表情が見えないように俯いたままの夢は、動かない。
何を考えているのか、それを探ろうとしたとき。

「……ふふ、はは、はははは」

"夢"は、笑い始めた。

「はは、あはははは、ははははははは!!」

そして壊れた玩具のように、笑い狂った。
何も見えない空間に、まるで壁があるかのごとく木霊し続ける笑い声。
一人ではなく、複数人で笑い続けているような錯覚すら感じてしまう。
甲高く割れそうな声が、頭の中で響き続ける。
しばらくしても、"夢"は笑い続けている。
腹を抱えて、のたうち回りながらも、ずっと、ずっと。

「何が、可笑しい」

笑い声の中、自分の声が届くように。
少しだけ重く、少しだけ語気を強めて、ソフィアは言う。
その声をを受け、笑い転げていた夢がちらとソフィアを向く。
真剣そのもののソフィアを見てもなお、笑うことをやめない。
むしろ、その姿を確認したからこそ、笑いを強めたといってもいい。
嘲笑、遙か高くから見下しているように、笑い続ける。
やがて、息苦しくなったのか、引き笑いになりながら、ゆっくりと立ち上がる。
顔はまだ醜い笑顔のまま、笑顔を隠そうともせず、ソフィアへと向き合う。

「ククッ……"自分"なんてものが、本当に存在すると思っているのかい?」
169Hello, it's me. ◆CruTUZYrlM :2015/02/05(木) 00:20:34.89 ID:KiRN5li90
 
起きあがった"夢"が告げたのは、咄嗟には理解できない一言だった。
"自分"が存在しない? 一体何を言っているのか?
真意を探ろうと、ソフィアは言葉に耳を傾ける。
その様子がおかしかったのか、"夢"はもう一度吹き出し、ひとしきり笑った後に、ソフィアに告げていく。

「君はさぁ、フフッ、"選ばれた"だけなんだよ」

何を、言っているのか。
ソフィアには、まだわからない。
そんなソフィアが呆けて見えたのか、顔を逸らし、明確に見下しながら、"夢"は語りを続ける。

「僕か君か、"二択"はずっと起こり続ける」

ここではない、どこか。
たった一つの選択、何でもない選択。
けれど、その選択は"片方を無かったこと"にする。
その世界では、存在を許されず、ただ、ただ、誰にも知られずに消えていく。
そんな"選択"は、今もなおどこかで行われ続けている。

「で、今回選ばれたのは君だ、"ソフィア"という名前をもらって、世に生を受けたつもりになって」

その"選択者"は、生まれ来る"天空の勇者"に名前を与える。
そして、ただ一つの存在として世界に放り込む。
あの世界でただ一人、"可変"の存在として。
いくつもの同じ世界に、違う天空の勇者が、生まれているのだ。

「決められた道を歩む事を強いられて、そして用意された結末へ向かう」

そして、歩むのは用意された道。
変わらない世界の、変わらない物語。
道は、たった一本。それ以外に逃げ道はない。

「見てごらんよ」

"夢"が天に向かって指を指す。
釣られるように上を向けば、いつの間にか映し出されていた"映像"が目に入る。
そこに映っているのは、"夢"と、自分と、同じ姿をした者達。

「――――シンシア!! シンシア! ちくしょう、デスピサロめ!!」

桃色の髪、白い服、切り刻まれた体。
動かぬ幼なじみを抱き抱え、泣き叫ぶ男。
その目には、はっきりと憎悪が浮かんでいた。
自分がはっきりと覚えている、けれど少し違う光景。

「――――これが、天空の、剣」

純白に輝く、たった一本の剣。
許されたもののみが、手にすることを許された剣。
それを初めて手にする、先ほどとはまた違う男の姿。
これもまた、はっきりと覚えているけれど、自分とは少し違う。

「――――僕は、勇者だ。だから、君を裁きに来たよ、エビルプリースト」

全ての悪の源、エビルプリースト。
真実を突き止め、悪事を暴き、そして裁くために。
かつての敵と肩を並べ、剣を振るっていく。
忘れるわけがない、はっきりと覚えている。
だが、全く同じ境遇のその場所に、立っているのは見知らぬ男。
170Hello, it's me. ◆CruTUZYrlM :2015/02/05(木) 00:22:43.77 ID:KiRN5li90
 
そのほかにも、無数に広がるヴィジョン全てが、自分が経験したことだった。
少し違うようで、何も違わない、揺るがない事実が、そこにあった。
今まで自分が経験してきたことを、どこかの誰かも経験しているというのか。

「どうだい? "選ばれたもの"が"決められた道"を歩み、"用意された結末"を迎えているだろう?」

浮かんでいたいくつもの映像が、急激に進んでいく。
山奥の村で過ごし、友の死を嘆き、占い師と踊り子を初めとした仲間たちに出会い。
数々の困難を打ち砕き、事実を突き止め、怒りに狂う魔王を正気に戻し、そして真なる悪を裁く。
起こること、そしてその結末、全てが同じ。
目で追い切れた分だけでも、両手に収まらない数のそれが、一気に過ぎ去っていく。

             だ れ か     と も だ ち    シ ン シ ア
「分かったかい? "天空の勇者"も、"導かれし者"も、"幼なじみの死"も、何もかも、全て用意されたもの。
 君という、器に当てはめられただけなんだよ」

"夢"が笑う。
今まで"自分"で"過ごしてきた"と、ソフィアが思いこんでいた物を、笑う。
だって、それは作り物で、どこにでも転がっていて、いくらでも作り直せるから。
たった一つのオリジナルなんて、そこには無い。
全て、何もかもが、用意されたシナリオ。
その物語を、ソフィアは歩かされていただけ。

「"君"なんて、どこにもいない、何度でも作れるし、生まれてくる」

だから、別に"ソフィア"じゃなくとも構わないのだ。
道は用意されている、あとは誰が歩くか? というだけ。
"ソフィア"でも、"ソロ"でも、"ユーリル"でも、別に誰でも構わない。
違いは、そこに立つ事に選ばれるだけ。
たった、それだけ。

「そんな存在が、"自分"を全うするだって? もう、笑うしか無いじゃないか!!
 君の歩んできた道は、"誰か"が用意した、踏み固められた道だって言うのにさあ!!」

じゃあ、"自分"はどこにあるのか? "自分"とは何なのか?
決められた道を決められたように歩き、起こった事をただ受け止め、そして決められた結末に向かうだけだというのに。
誰が歩んでも同じ道のどこに"自分"があるというのか?

「君のどこにも、"自分"なんてものは、存在しないんだよ!!」

"夢"が笑う。
ソフィアが今まで信じてきた道、過ごしてきた日々、経験してきた全て。
それらに価値など無い、ただの"量産物"だと、笑う。
空っぽの闇の中、笑い声がただただ木霊する。
ははは、ははは、はははははと、何度も何度も跳ね返って。
"何もない"一人の女へ、響きわたる。
ソフィアは答えない、ただ、ただ俯き続けて。
笑い声の木霊する闇の中で、立ち尽くし続けていた。

「どうだ、人形」

"夢"が笑う。
この世の者とは思えない、邪悪な笑みを浮かべて。
両手を広げ、勝ち誇った表情のまま。

「"絶望"したか」
171名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/05(木) 00:23:10.68 ID:TjEfmFpX0
     
172Hello, it's me. ◆CruTUZYrlM :2015/02/05(木) 00:23:53.93 ID:KiRN5li90
 
「"絶望"したか」

もう一度、笑う、笑う、笑う。
自分が"人間"だと思っていた滑稽な"人形"に対して。
真実という、凶悪な刃を振りかざしながら。

「お前が信じ続けた物は、全て"模倣品"だ」

心を、思いを、願いを、ズタズタに切り裂いていく。
あとに残るものなど、何もない。
空っぽの容器を作り上げるように。

「信じるもの、証明するものなど、存在しないッ!!」

"夢"が、笑い続ける。

「だったら」

小さく、それでもはっきりと聞こえる声と共に。
刻み込んだ希望をしっかりと両目で燃やしながら。
俯いていたソフィアが、顔を上げる。

「どうしたっつーんだよ」

まだ、その目に炎を灯したまま。
決して、屈する素振りは見せず。
あざ笑うように見下す夢を、睨みつける。

「何度も言ってるが、あたしはあたしだ」

退かない、退けない、退くわけがない。
分かっている、分かっているから。
目の前に立つ"夢"が言うことは、真実ではないと。

「造られた道だろうが、用意された運命だろうが、それを歩いてきたのはあたしだ」

自分の足で歩み続けた人生。
自分の手で掴み続けた真実。
自分の心で受け止めた全て。

「そいつらとあたしが、同じ道を歩んでいたとしても、どう歩んだのかまでは、一緒じゃねえ」

結末に至るまでの道のり、何を考え、何を過ごしたか。
細かい違い、けれども大きな違い。
定められた道を、たった一つの道にする、決定的な違い。

「そいつらだってそうだろ、あたしと同じで、あたしとは違う、そいつらだけのものがある」

そうだ、ソフィアが"ソフィア"であるように。
同じ道を歩んできた彼らだって、また違うのだ。
どんな人間で、どんな風に過ごし、どんな風に感じたか。

「過ごした日々、約束、戦い、思い、それは人一人の人生でたった一つだけだ」

どれだけ同じ事が繰り返されようと、どれだけ器が生まれようと。
全く同じ人生など、決して生まれることはない。
繰り返されれば、繰り返されるほど、新たな人生が生まれていく。
173Hello, it's me. ◆CruTUZYrlM :2015/02/05(木) 00:24:36.75 ID:KiRN5li90
 
「そして、"それ"が"あたし"を作る」

たった一つの、揺るがないもの。
ソフィアという人間が過ごした、たった一つの人生。
どれだけ同じ姿の人間が、どれだけ同じような人生を歩もうと。
"ソフィア"であるのは、この一度しか無いのだから。

「"あたし"を作れるもんなら、作って見せろよ」

宣戦布告に近い形で、剣を突きつける。
御託を並べる時間は終わった、ここからは証明の時間。
どちらが正しいか、それを決めるだけ。

「……いいだろう、そこまで言うなら見せてあげよう」

勝ち誇った笑みを消した"夢"が、ゆっくりと手をかざす。
その途端、あたりのありとあらゆる闇が光を持ち、姿を作り始めた。
ごぼ、ごぼごぼと厭な音を立てながら、闇から次々に生まれていく。
その姿、色鮮やかな緑髪を持ち。
その姿、透き通る青い瞳を持ち。
その姿、白銀の剣を片手に持つ。

「こんな風に、君を生み出すのは簡単だ」

寸分違わぬ"自分"が、そこに立っていた。
それも、一人ではない。
二人、三人、四人と、その数は次々に増えていく。

「いくらでも代わりが利く存在に、個なんてあるわけ無いだろう」

視界を埋め尽くすほどの勇者を従え、"夢"は笑う。
ソフィアは、いや"天空の勇者"は、こんなにも簡単に生み出される。
いくらでも代わりはいるし、いくらでも生み出される。
ソフィアは、そのうちの一人でしかない。

「それでも、君は言い張るのかい?」

まっすぐに剣を突きつけ、"夢"が再び笑う。
剣を構えたまま、動かないソフィアに対して。
明確な絶望を見せつけるように、笑う。

「君にしかない、"自分"があると!!」

個など存在しない、いくらでも生み出される、器のうちの一人だと。
机上の空論ではなく、現にそうであることを証明しながら。
希望を塗りつぶすように、"夢"は笑い続ける。

「ある訳ないよな!! 証明できる訳がないよな!!」

ゆっくりと、突きつけた剣が延びる。
それが合図だったのか、"夢"の背後にいた無数の"自分"が、一斉に歩き始めた。
ざく、ざく、ざく、と集団の足音がソフィアへと迫る。

「さあ、絶望に飲み込まれて、果てるがいい!!」

無数の天空の剣、無数の勇者の力、そして、無数の自分。
"自分だったかもしれない存在"が、着実にソフィアの首を狩らんと迫る。
あまりにも乱暴で、あまりにも巨大で、あまりにも残酷な絶望が、刻一刻と迫る中。
174Hello, it's me. ◆CruTUZYrlM :2015/02/05(木) 00:25:23.06 ID:KiRN5li90
 
「分かってねえな」

ソフィアは、天空の剣を地面に刺し。
ため息をついた後に、にやりと大きく笑った。

ざく、ざく、ざく。
足音を立てながら、絶望が迫る。
人一人なんて、あっというまに飲み込んでしまう軍団が、たった一人に迫る。
絶望が、着々と人一人を飲み込んでいく様を。
少し離れた場所、けれど絶望に飲み込まれた場所で。
"夢"は、笑いながら見ていた。

やがて、最前列が一人へとたどり着く。
一瞬にして一人を取り囲み、逃げ場を封じ。
前列の集団が剣を振りかぶり、その後ろでは無数の雷が練り上げられ。

その全てが、たった一人に向かおうとしているのに。
当の本人は、そんな光景を見て。
まだ、笑っていた。








どかん。
大きな爆発が、起きる。
振りかざされた、無数の剣によるものか? 違う。
練り上げられた、無数の雷によるものか? 違う。
かき集められた、無数の人によるものか? 違う。

それを、爆発を起こしたのは。

「な……」

紛れもなく、"ソフィア"だった。

彼女を取り囲んでいたはずの、無数の彼女が吹き飛んでいく。
最前列、およびその後ろで雷を練っていた彼女たちが、まず爆風の煽りを受ける。
それをきっかけに、まるで将棋倒しのように、その後ろ、その後ろへと伝わり、吹き飛ばされていく。
たった一回、されど大きな一回。
それだけで、ソフィアは状況を覆した。

「ば、バカな! そんな訳が!!」

勝利を確信していた"夢"が、うろたえる。
圧倒的な絶望を打ち破られた、というだけではない。
ソフィアが、武器も使わずに"素手"でその状況を作り上げたという事。
そして何よりも、この状況を切り開いた存在。

             そ  れ
「なぜ、なぜお前が"邪悪な気"を使える!!」

ソフィアの右手の、"あり得ないもの"。
轟々と燃え上がる、漆黒の闇。
天雷の担い手が持つことなど、起こりえないはずなのに。
どうして、その手に存在するというのか。
175名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/05(木) 00:25:53.86 ID:TjEfmFpX0
    
176Hello, it's me. ◆CruTUZYrlM :2015/02/05(木) 00:26:45.56 ID:KiRN5li90
 
「ええい、行けッ、かかれッ!!」

"夢"が慌てて指揮を執る。
初撃で動かなくなった大半の"器"を"闇"に戻し、再び"器"を生成させていく。
戦闘力は互角、使える呪文も、振るう武器も同じはずなのに。
生まれ来る"器"は、ソフィアを止めることは叶わない。
生まれた矢先から、闇を纏った拳に、吹き飛ばされていく。
一歩、また一歩、着実にソフィアが"夢"へと近づいていく。
そしてついに、一手で"夢"を捉えられる位置まで、進んできた。

「……あんたは、かつてのあたしの"願い"」

焦りきった表情でソフィアを見続ける"夢"。
ソフィアはそれをまっすぐに捉え、手に宿した闇を一度払い、自分の言葉を並べていく。
その目に、絶望は無い。

「光り輝く希望であり、それでいて深い深い海の底のように真っ暗な絶望だ」

"夢"が焦って呪文を放つ。
焼き尽くす炎の嵐が、ソフィアを飲み込まんと迫る。
だが、それは届かない、届くわけがない。

「でも、それはもう願い終わったこと、今は"死んでいる"願いだ」

炎がダメならと、無数の雷を放つ。
集中的に降り注ぐ雷が、ソフィアを裁かんと落ちる。
だが、それも届かない、届くわけがない。

「そんな"願い"が姿を作る場所なら」

かき分けるような手の動きだけで、炎は振り払われ。
無数の雷のうちの一本ですら、彼女に落ちることすら叶わない。
"幸運"だ、と言うかもしれない。けれどそれだけではない。
今の彼女の力、その全てを支えているのは。

「あたしと共に歩いてきた、今のあたしが願い続けている、"生きた"願いが叶わない訳ねえだろ」

彼女と、その仲間たちの"願い"なのだから。
誰かが願った、彼女が託された、そして彼女自身が願った。
その全てが"希望"として、この"夢"の世界で、力になっている。

「これが、あたしがあたしであることの証明。
 決められた道だろうが、まっすぐに信じ続けて、歩いてきた証拠」

泣いた、笑った、怒った、楽しんだ。
数々の出会いと、数々の経験、その中で見てきた、いくつもの願い。
はっきり、けれどもしっかり覚えている。
自分を助けるために散っていった、親友の願いを。
頑固で厳しいけれど、優しさを持った老人の願いを。
生真面目で、とても誠実な王宮の騎士の願いを。
目立たなくとも、影でしっかり支えてくれていた商人の願いを。
口に出さずとも、思い人を想い続ける神官の願いを。
いつも明るく、けれど寂しがりなおてんば姫の願いを。
気苦労の絶えない、心優しき占い師の願いを。
自由奔放でも、一本の芯を持った踊り子の願いを。
ただ、前を向き続ける強さを持った魔族の願いを。
177Hello, it's me. ◆CruTUZYrlM :2015/02/05(木) 00:27:30.19 ID:KiRN5li90
 
泣いた、笑った、怒った、楽しんだ。
数々の出会いと、数々の経験、その中で見てきた、いくつもの願い。
はっきり、けれどもしっかり覚えている。
自分を助けるために散っていった、親友の願いを。
頑固で厳しいけれど、優しさを持った老人の願いを。
生真面目で、とても誠実な王宮の騎士の願いを。
目立たなくとも、影でしっかり支えてくれていた商人の願いを。
口に出さずとも、思い人を想い続ける神官の願いを。
いつも明るく、けれど寂しがりなおてんば姫の願いを。
気苦労の絶えない、心優しき占い師の願いを。
自由奔放でも、一本の芯を持った踊り子の願いを。
ただ、前を向き続ける強さを持った魔族の願いを。

それだけではない。
終わりに向かっていった、賢者の願い。
愛と真実を証明した、姫の願い。
人間を信じ続けた、一匹の魔物の願い。

全部、全部、心に刻み、背負い込んできた。

        だ れ か      あ た し
「この拳は"天空の勇者"じゃなく"ソフィア"として振るう拳」

そして何より、破壊の神を蘇らせるべく、奔走していた邪神官の願い。
彼が成し得なかった願いを、何者にも決して屈しなかった強い願いを。
何よりも強く、心に刻み込んで。
今まで歩んできた"自分"の証明である拳に、全てを乗せる。

「砕けるもんなら――――」

ゆっくり、けれどとてつもなく早く走るソフィア。
慌てて剣を構え、"夢"は慌てて応戦体制を取る。
だが、ソフィアは気にもせず、突っ走る。
その足を止めるには、あまりにも弱すぎる。
だって、この拳は。
"ソフィア"という一人の存在の、全てでもあるのだから。

「――――やってみやがれェエエエエエエ!!」

"夢"が天空の剣を振るう。
それとほぼ同時に、ソフィアが拳を振るう。
万物を切り裂く天空の剣と、人一人の全てが込められた拳がぶつかり合う。
鳴り響く"金属音"と、一瞬の拮抗を経て。
天空の剣ごと、"拳"が突き抜ける。
そして、吹き飛ばされた天空の剣に引きずられるように。
一枚、二枚、三枚、見えない次元の壁を突き破りながら、"夢"が吹き飛んでいく。
その壁を一枚突き破るごとに、"夢"が崩壊していく。
やがて、姿を保つことすら叶わくなり。
ソフィアだったかもしれなかった者は、静かに消えていった。
178Hello, it's me. ◆CruTUZYrlM :2015/02/05(木) 00:27:57.61 ID:KiRN5li90
 


もう、何の気配も感じることはない。
真っ暗闇の中に、一点の光が差し込んでいるだけ。
暗黒の"闇"に、"証"が刻み込まれた。

「……忘れないぜ、あたしの他にも、あたしと同じ者が居たことを」

じわり、じわりと光が広まっていく闇の中、ソフィアは一人呟く。
誰に向けたものでもなく、ただの独り言と言えば、独り言だ。
誰も聞いていないし、聞いていたとして得などしない。

「そして、あたしになるかもしれなかった者が居たことを」

だが、ソフィアの中にまた一つ。
覚えておくべき事が、刻み込まれた。
生まれられなかった者、自分だったかもしれなかった者が、存在すると言うことを。

「あたしが生きて、覚え続けてやる」

だから、"背負う"のだ。
自分が生き続けて、忘れない限り。
彼らも、"いる"ことが出来る。
誰かの願い、夢、そして記憶。
それを守るためにも、自分は生き続けなくてはいけない。

「……さて、行くとするか」

光が、闇を埋め尽くしていく。
今立っている場所も、もう保たないだろう。
地面に突き刺していた天空の剣を引き抜き、にやりと笑う。

「"あたし"を全うするための初めの一歩を、踏むために」

向かうのは、新しい自分。
"未来"と、"これから"を、作るために。
満ちあふれる光へと、飛び込んでいった。

【導かれざる者@DQBR2nd 消滅】

【"夢"】
【ソフィア(女勇者)@DQ4】
[状態]:健康
[装備]:天空の剣@DQ4、メタルキングの盾@DQ6、メイド服@DQ9、ニーソックス@DQ9
[道具]:支給品一式、スライムの服@DQ9、スライムヘッド@DQ9
[思考]:終わらない
[備考]:六章クリア、真ED後。

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以上で投下終了です。
179名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/05(木) 12:29:24.29 ID:TjEfmFpX0
投下乙です。
与えられた立ち位置でも自分の貫いたものには偽りはない。
幾つもの願いが紛れも無く其処にあったと知っているソフィアには、過去は弱すぎる相手でしたね。
180名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/05(木) 12:53:14.72 ID:80yDsckb0
投下乙
色々とメタい内容だったw
所でソフィアが拳に纏った邪悪な気って何?ドルマか何かかしら?
181名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/05(木) 13:22:49.85 ID:x3T/M5ou0
乙です
まさに、我思う故に我あり。

ハーゴンがマジンガ戦で使ってたやつですかね?
182 ◆1WfF0JiNew :2015/02/06(金) 01:45:48.58 ID:o1hN6bdR0
予約分、投下します。
183ぼくの一人戦争 ◆1WfF0JiNew :2015/02/06(金) 01:50:00.99 ID:o1hN6bdR0
客観的に見て、勝機はなかった。
一対多という状況だけでも不利であるというのに、相手は歴戦の勇士であるロトのパーティー。
カインからすると、やり辛いとしか言い様がない。
この悪夢に呼ばれる前ならば、そう言って早々に諦めていたが、今のカインはそんな選択を選ばない。
血の宿命に抗うことこそが、彼らへの餞でもある。
そう彼らに誓ったし、今もその決意に揺らぎはない。

「やっぱ、四対一って卑怯じゃない?」

相対する敵が通常の魔物であるなら、特段に軽口をたたく必要性はないのだ。
凡才なれど、凡人であらず。
今のカインであれば、魔物程度なら複数相手でも打ち勝てる。

「君達もさあ、言葉がわかるんなら……いいんだけどね」

ただし、相手が普通の範疇で収まっているならば。
かつて、世界を席巻したロトの一味が眼前に立っていなければ。
カインはこんなにも頭を悩ませる必要はなかった。

「ま、倒すよ。あくまで僕らしく」

瞬間、銀の閃光が飛び交った。
『アレル』だ。一足一刀の間合いに入った途端、切っ先が飛んで来た。
一筋、二筋、三筋。数を重ねる事に速度は急激に上がっていく。
さすがは勇者ロトを模しているだけはある。
力強さも、靭やかさも一級の領域に達している。

(御丁寧に一対一を演出って、舐められてるのか。それとも――ッ)

首筋狙いの一撃を軽く打ち払いながら、カインは薄く笑みを浮かべた。
剣を持つ右手が汗ばんでいる。盾を持つ左手がいつもより力んでいる。
先祖達との戦いは思いの外、緊張を伴うものらしい。

(活きが良い獲物を長時間楽しみたい。はっ、死人崩れになっても本能は変わらないのかな)

一旦は距離を取ろうかとも考えたが、後衛に陣取る彼女達のことを頭にいれると、迂闊には下がれない。
ムーンブルクの王女に引けをとらない超絶技巧の魔術が飛んでくる。
ただそれだけで、自分の行動には相当な制限がかかるのだから。

「……れ、ない」
「はぁ?」

そして、数合打ち合ってそうは短くない時間が経過しただろう。
耳を澄ませば、剣劇の音に混じって微かな声が聞こえてくる。
それは、蚊の鳴くような声で、カインには最初呻き声としか思えなかったが、どうやら違うようだ。
184名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/06(金) 01:51:33.06 ID:x6LOMzs30
.
185ぼくの一人戦争 ◆1WfF0JiNew :2015/02/06(金) 01:53:11.10 ID:o1hN6bdR0
      
「終われ、ない」
「――チッ」

聞こえてきたのは悔恨。
志半ばで潰えた未来の夢を憂う怒りが、剣に伝わってくる。

「自由に、なりたいんだ……ッ!」
「……何を、言ってるんだよ」

死人の戯言に答えを返す必要なんて無い。
そう思っていながらも口元は勝手に言葉を紡いでいた。

「終わったんだよ、アンタ達は死んで、蘇生呪文でも蘇らなくて、現実ではもう存在し得ない幻想なんだ」

死者は蘇らない。喪ったものは二度と戻ってこない。
例え、戻ってくる可能性があったとしてもそんな甘えは許されないし、あの時流した涙も嘘になる。
確かに在ったモノがある。確かに受け継いだ剣がある。
夢の中とはいえ、彼らと誓った約束があるのだ。

「認めてくれよ、アンタ達は今も――」
「おわれ、ないッ」
「――闇に囚われているのかい?」

最後まで自分を貫けるように背中を押してくれた仲間達を。
優しい微睡みに背を向けて剣を取り、前を向くと決めたカイン自身を。
裏切ることなどできやしない。

「本当にさ、諦めの悪い先祖だよ」

カインは突き出された剣を側面から剣で弾き、勢いを殺さず上手く受け流す。
もっとも、相対するのはかの有名な『ロト』の夢。
その強烈な刺突に態勢が崩れてしまうも、盾で『ロト』を殴りつけ、無理矢理に吹き飛ばす。
この僅かな合間に、不利を覆す作戦を練らなければ。
そう、思った矢先、間髪入れずに別の影が入り込んでくることにより、カインは再び態勢を整えざるを得なかった。
軽く舌打ちをして、迎撃。四対一なだけがあって、休む暇すら与えられない。

「まだ、終われません……終われ、ません」
「同じことを繰り返して!」

飛び込んできた少女――『リンリン』の繰り出す拳を捌きながら、カインは声を荒らげて叫ぶ。
186ぼくの一人戦争 ◆1WfF0JiNew :2015/02/06(金) 01:54:57.71 ID:o1hN6bdR0
    
「どいつもこいつも、後悔を塗りたくった表情をするなよ。
 気取れよ、笑えよ、アンタ達は自由に生きて、世界を席巻した勇者じゃないか!」
「自由が、愛が、欲しい」
「応えろよ、応えてくれよ。これが、こんなのが……ッ! 僕達をずっと苦しめていた『元凶』なのか……!?」

彼らの苦渋に満ちた表情を垣間見て、自分がこれまで抱いてきたロトの幻想が崩れていくのを感じる。
傍若無人、天下無双。枠組みに囚われず、生きたいように生き切ったと思っていた彼らの真実は、重かった。

「何でかぶってるんだよ。自由になりたい、愛が欲しい。そんなありふれた願いを持たないでくれよ」

傍から見る彼らの姿はどうしようもなく運命に縛られ、自由に恋焦がれる一人の人間に見える。
打倒する魔王も、生きた時代も違う彼らと自分達。
だが、その実――変えられない因果が其処にあった。

「これじゃあ、まるで。アンタ達は――」

彼らが自分の絶望として充てがわれた理由をカインは真に理解する。

――僕じゃないか。

夢に満ちた伝説は、蓋を開けると夢が砕かれた伝説だった。
自由になりたくて、戦って。その果てに見たのがこんな苦渋の表情を浮かべる世界だったのだろうか。
これでは鏡に写る自分と戦っているようなものだ。

「畜生ッ、畜生……!」

口から出る悪態を尻目に拳と剣の応酬は激しさを増していく。
自然と剣を振るう手にも力が入る。
頬を滴る汗も、鏡写しの敵と戦うことで浮かぶ嫌悪感も。
カインの中に渦巻く葛藤が、剣劇に溶けていった。

「勇者っていうのは何時の時代も碌なもんじゃないってことかよ!」

人並みの人生すら与えられない不条理は、真綿で首を絞められているかのような窮屈さだ。
自分も経験していることだから、理解できる。
彼らも勇者というフィルターから見られることに、苦痛を覚え、束縛を感じたのだろう。
187ぼくの一人戦争 ◆1WfF0JiNew :2015/02/06(金) 01:59:12.30 ID:o1hN6bdR0
     
(どうしようもない、お誂え向きの絶望だ)

勇者に祭り上げられたモノに救いはない。
生きて帰れたとしても、待っているものは過剰な英雄思想。
だから、ゆっくりと闇に沈んでいけ。
その方が君も楽だろう?

そう囁く甘い声を、カインは振り切って、目を尖らせる。

(7僕は、絶望には屈しないし、真実を前にしても退かない)

別れた仲間達ともう一度会う為にも、この絶望――『真実』を乗り越えなくてはならない。
温存なんて甘い考えはさらさらない、此処で総てを出し切る覚悟で戦いに臨まねば、死ぬのはカインの方だ。

(けれど、奸計を使うぐらいは許してもらいたいね)

故に、決死の意志で道を切り開く。それが出来なければ、死ぬだけだ。

「敵わないな、四対一とかやってられないよ!」

『リンリン』の繰り出した貫手を躱す続け様に、カインは後方へと跳躍し、距離を取る。
『リンリン』と『アレル』は逃すまいと追撃の構えを見せて地面を蹴り飛ばす。

(よし、一つ目の賭けは通った)

この場面で、彼ら二人が前に出ず後方の術者二人に任せるようであれば、一つ目の賭けは失敗し、“作戦”を変えざるを得なかったが、結果としては良しとする。
ともかく、まずは前衛の動きを封じなければ後衛を潰せない。
本来であるならば、もょもとが前衛を相手している間に後衛を倒すといった戦法を取りたい所だが、生憎とカインは一人だ。

(二つ目の賭けもまだ通っている)

二つ目の賭けは、彼らがまだ“本気を出さず遊んでいる”ということだ。
ずっと戦っていたい。一気に仕留めずに、徐々にペースを上げていこう。
その末に、壊れるならば所詮はそこまで。
精々、散り様で愉しませてくれればいい。

(はっ、その余裕のおかげでまだ保ってられるっていうの、相当に皮肉だけど)

ならば、自分は機会が巡ってくるまで思惑に乗って踊ってやろうじゃないか。
だが、いつまでも踊ってなどやるものか。
油断している現状の程は把握した。後は、その油断が本気になる前に一気に切り捨てる。
反撃する暇など与えない、一瞬で終わらせる。

(それじゃあ、反撃といこうか)

反撃の一手目として、カインが大袋から取り出したのは、何の変哲も無い――キメラのつばさだった。
そして、手にとったキメラのつばさを上空に放り投げた。
188ぼくの一人戦争 ◆1WfF0JiNew :2015/02/06(金) 02:01:18.74 ID:o1hN6bdR0
        
「これで、逃げさせてもらうよ!!!!」

声を張り上げ、キメラのつばさで逃走を図る。どう見ても、それだけの動作にしか見えない。
当然、『アレル』もキメラのつばさについてはよく知っている。
だが、このような緊迫した戦闘で使われるものではない。
おちょくっているのか、それとも劣勢でヤケクソ混じりになっているのか。
どちらにせよ、『アレル』からすると下らないことだ。
思わず、目に取られる程に――滑稽だった。
戦えるなら、戦う。戦う意欲のない雑魚ならば、一刀で斬り捨てる。
『アレル』達は放り投げられたキメラのつばさに“気を取られ、数秒間だけ、カインから目を逸らした”。

――――その一瞬を、カインは待っていた。

数秒間だけ、視点が離れる。
加えて、自分が敵わないと見るや尻尾を巻いて逃げる臆病者と認識していた。
十分だ、今の彼らなら打倒できる。

「悪いけど、一撃だ」

その言葉と同時に、ロトの剣に光の渦が纏わり付き、やがては雷へと変化していく。
そして、天統べる雷が凝縮された斬撃が横薙ぎに振るわれる。
『アレル』達が気づいた時には時は既に遅かった。
声を上げる暇もなく、光の奔流が過ぎ去り、『アレル』達を吹き飛ばした。

「――ッ!」

前衛二人が一瞬にて倒された。
その事実は後衛の二人を驚かせるには十分なものだった。
けれど、勇者ロトのパーティとして、動揺も直ぐに落ち着いた。
少しの硬直こそあれど、すぐに立ち直る。
それができるからこそ、死地でも戦い続けることが出来た。

「遅い、マホトーンッ!」

しかし、その刹那ですら――今のカインを相手取るには隙となる。
魔術を封印された後衛などもはやただの木偶の坊だ。
無論、そのような時に備えて彼らも準備はしている。
『男魔法使い』が懐からナイフを取り出し、『カーラ』も腰に携えていた剣の柄に手を伸ばす。
189ぼくの一人戦争 ◆1WfF0JiNew :2015/02/06(金) 02:03:44.39 ID:o1hN6bdR0
        
「だから、遅いと言った!」

その時には、カインは既に彼らとの一足一刀の間合いに達していた。
抜刀と共に迸った銀色の閃光が『男魔法使い』の首元へと吸い込まれていく。
血飛沫と宙を舞う生首。それを気にも留めずに、カインは残る『カーラ』へと迫り、剣を振り下ろした。
だが、振るった剣は弾き返され、幾合か剣閃が火花を散らすが、徐々に防戦一方になっていく。

「賢者なのに剣技が前衛並なんて反則なんじゃないかなぁ!」

カインは軽口を叩きながらも、放たれた斬撃の雨を躱しつつ策略を練り直す。
よもや、賢者の職に就いていた者がここまでやれるとは。
大まかにしか伝わってない伝承に文句を言いたいぐらいだ。
再び、斬光が飛び交い、甲高い金属音が何度も響く中、カインは必死に食らいつく。
マホトーンの効力が効いている内に倒さなければいけない。
そう考えると、不思議と剣にも熱が篭る。

「後は、アンタさえ倒せば」

――終わる。

そう、言葉を続けようとした瞬間。
巨大な雷が、カイン達を飲み込んだ。
咄嗟に、『カーラ』の影に隠れ、ホワイトシールドを構えてなお伝わってくる魔法だった。
声を上げる間すら与えられず、吹き飛ばされる。

何が起こった?

カインは舌打ちをしながら、剣を支えに立ち上がる。
チカチカする視界が晴れ、双眸に映された世界。
そこにいたのは、悪鬼だった。
とても勇者が浮かべる表情ではない、獰猛な笑み。
嗤っている。衣服が焼け焦げ、頭部からは血が絶え間なく流れだしているというのに――頬を釣り上げている。
楽しくて楽しくて仕方がないといった風に、『アレル』は眼前の獲物に対して、狙いを定めた。
190ぼくの一人戦争 ◆1WfF0JiNew :2015/02/06(金) 02:05:39.99 ID:o1hN6bdR0
      
「よぉ、さっきのはいい一撃だったぜ。リンリン達をぶっ殺すたァ骨があるじゃねぇか。
 ま、カーラはオレが殺したようなもんか。かははっ」

咄嗟に、カインは剣を正眼に構えるも遅い。
振るわれた力任せの一撃はカインの体ごと宙に浮かし、払い飛ばす。
追撃はなかった。未だ舐められているのか、それともゆっくりと甚振るつもりなのか。

「オレは天才だからな、剣技だけじゃなく魔法も使えるんだ。
 その剣を持ってるんだ、この程度でくたばってるんじゃ話になんねぇぜ?」

勝てない。そんな弱音が思わず飛び出してしまうぐらい、『ロト』は強大だった。
倒れた身体を起こそうとするも、足は弱々しく震えるばかりで立ち上がることを許さない。
やはり血脈なのか。より濃く、戦闘に秀でた彼に敵うことなど、自分には不可能なのか。
ロトの血脈の中でも最弱であろう自分に、カインは数え切れない程に、嫌悪してきた。
けれど、血脈を否定した所で何も変わらない。
どう蔑んでも、カインがロトの血を引く者だという事実は――永劫に不変なのだから。

「とう、ぜん、だっ! 僕も、アンタには、負けたくないからね……!」

それならば、受け入れるしかないのだ。この忌々しき血も、自分であることを。
きっと、何があろうとも自分の中に眠るロトは消し去れないのだろう。
何かに縋らなくては生きていけない弱さが蔓延した世界で、ロトは何にも勝る救いなのだから。

「僕は、ロトの血を受け継ぐ者だ。サマルトリアの王子、期待はずれのカイン、それも含めて――僕だ」

サマルトリアに生まれ、常に期待という重りに繋がれた自分。
生まれながらに決められた宿命は、死ぬまで付き纏う。
どんなに否定した所で不変なモノなら。

「総てを背負った上で――――僕は、僕であることを貫く!」

ふらふらになりながらも、カインは震える足に活を入れる。
真実を知って尚、ロトを背負う覚悟を、此処に果たす。
191名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/06(金) 02:07:32.19 ID:x6LOMzs30
.
192ぼくの一人戦争 ◆1WfF0JiNew :2015/02/06(金) 02:07:35.07 ID:o1hN6bdR0
      
「この血を纏うことが何よりもの証だ」

それに呼応して、握りしめたロトの剣が輝きを増していく。
まるで、“今までの状態は劣化していた”かのように強く、強く。

「僕は、『ロト』だ」

カインがロトの血を受け入れたことに対して歓喜を覚えたのか、剣に嵌めこまれた宝玉が煌き、風玉を発生させる。
そして、風玉は爆ぜて風の刃を引き起こす。
それを正面から受けた『ロト』は切り裂かれながら後方へと吹き飛んでいく。
バギクロス。劣化する以前に刻まれた風の最強の呪文だ。

「最後の『ロト』として、終止符を打つ」

ロトの剣に埋め込まれていた呪文が、再び使える理由などただ一つしかない。
カインの血と意志が『夢』の想いを引き寄せ、本来の姿を取り戻した。
もっとも、彼が背負う覚悟、約束に剣は応えたに過ぎない。
この事態はあるべくして、なったことだ。

「往くぞ。僕が、アンタを終わらせる」

カインが生きた時代では先祖代々受け継がれた証としてロトの剣と銘打たれたものだが、本来の名称は違うのだ。
その名称はこう呼ばれる。

「それが僕にできる――『ロト』への決着だ」

――王者の剣、と。

漸く、カインは立ち上がる。その様は今にも消え入りそうな炎を想起させるものだけれど。
一方でこれから激しく燃え上がる炎にも感じ取れる。

「身体のコンディションは最悪。されど、戦意は上々、ってね――――!」

瞬間、カインは跳ねるように身体を動かし剣を横薙ぎに振るう。
鋭い斬撃を『ロト』は躱しながら、呪文を構築させる。
だが、その間髪すら与えないと言わんばかりにカインの掌からは閃光が迸った。
胸に突き刺さった閃光は『ロト』の身体を焼き、苦悶の声が上がる。
それでも、打倒には至らない。至ってはいけないのだ。
ベギラマ一発で消えるような弱い宿命ならば、とっくに消え失せている。
何代にも重ね続けた因果は、きっと――。
193ぼくの一人戦争 ◆1WfF0JiNew :2015/02/06(金) 02:10:38.63 ID:o1hN6bdR0
            
「そうだろ、もょもと、あきな、リア!」
     
――最後の壁だから。

「ざけんな……オレは、自由に……ッ!」

踏み込んだ足が地を削り、加速度が全身を水のように伝う。
剣は手に馴染み、風を纏わせながら大気を捩じ切っていく。
ぶつかり合う度に、世界が爆ぜる。
金属音と烈風が闇の中で唸り声を上げた。

「自由に、なって……!」

全盛期の力を取り戻した剣は、軽く振りかざしただけでも脅威だ。
闇を裂き、行く手を阻む者を風刃の下に斬り伏せる。

「世界を、見るッ!」
「それでも、アンタの世界はもう終わっているんだよ!!! どんなに願っても、叶わない幻想だ!」

その叫び声には不思議と熱が籠っていた。
“夢”から吐き出された人形に過ぎないのに、何故か一人の人間として自我が見受けられる。
少なくとも、カインには『アレル』は操られるがままの自我無き人形とは思えなかった。
双眸の焦点を合わせるでもなく、無意味に虚空へと視線を放散させていた他の三人とは違い、彼だけは強い意志を感じた。

「今のアンタは夢に摂取された死人もどきなんだぞ……? そんな様になってまで、生きたいのか」
「……ッ」
「本当はわかっているんじゃないのか。今の自分が、現状が、自分の最後が。
 というか、さっきから素が出てるんだよ、アンタ。正真正銘、アレルなんじゃないの?」
「――はァ、バレちまったか。今更取り繕う必要もねェな。改めて、挨拶するか。
 よう子孫サマ、どうやら時代が巡ってもクソッタレな運命は変わらねェんだな」

けれど、どうあっても認められないし、諦めきれないのだ。
自分が終わっていることを。

「まあ、細かいことはどーだっていい。オレは今、確かに生きている。それだけだ。
 与えられた機会は有効活用しねぇとな。まだ終われねえ。終わりたくねえ。
 くっだらねェ理屈なんざどーだっていい。テメエがオレを乗り越えたいならやってみな」

からからと笑う彼は、泡沫のような幻想であり、終わりを迎えている。
今のイキイキとした彼を見ている限りは信じれないが、彼は死者だ。

「もう遊びも十分に楽しんだし、後は一撃勝負だ」
「……一撃、ね。いいさ、今の僕なら――アンタを越えられる」
「抜かせ。その言葉、そっくりそのまま返してやる」

死者は死へと還さなければならない。
今此処にいる彼が悪意を持っていなかったとしても、倒さなくては終われないのだ。
それができないならば、自分はそこまでの人間だったということである。
194ぼくの一人戦争 ◆1WfF0JiNew :2015/02/06(金) 02:11:45.31 ID:o1hN6bdR0
       
「往くぞ、この一撃! 手向けとして受け取れ――――ッ!」

飛び込んでくる『アレル』の剣には雷が纏われていた。
先程、『カーラ』とカインを一気に吹き飛ばした魔法を、剣に乗せた一撃だろう。
天才と自称していたが、その言葉もビッグマウスではないという証明か。
生半可な一撃ではそれごと押し潰される。
ならば、こちらも全力で剣を振るう他ない。

「ギガ――」 「――ブレイク!」

奇しくも、両者の叫んだ技は重なっていて。
振るう剣撃も構えも同じだった。
ぶつかりあった雷光が闇を裂き、辺りを光に染め上げていく。
同じ『ロト』の繰り出すトドメの一撃は――星の輝きのようで、綺麗だった。

「ごめんね、先祖様」

きっと、このまま続けると『アレル』の一撃がカインを押し切りそのまま叩き斬られるだろう。
凡才がで身に付けたトドメの一撃と、天才が編み出したトドメの一撃。
どちらが強いかは明白である。

「僕さぁ、嘘つきだから」

けれど、けれど。
単体で敵わないなら、更に付け加えればいいのだ。
カインの繰るもう片方の手には盾ではなく“メタルキングの槍”が握りしめられている。

「トドメの一撃、二つあるんだよね」

手に握られた槍の矛先では黒の雷が唸りをあげていて、いつでも発射できる態勢だ。
『アレル』がそれに気づいた時には、既に二つ目の奥義は完成されていた。
カインは、ニヤリと笑い言の葉を告げる。

「爆ぜろ、獄雷。ジゴスパーク」

矛先から発射された黒雷は、一直線に星を掻き分けていく。
突き進んだ跡には、黒の残り滓をちらつかせて、どこまでも真っ直ぐに速く閃光のように。
予想だにしなかった一撃だ、避けれる訳がなかった。
星のを袂を裂いた黒雷は、源である『アレル』へと届き、破裂した。
黒雷が『アレル』の総てを焼き尽くす。
立っていることすら敵わぬトドメの一撃だ、勝敗此処に決したも同然だった。
『アレル』が崩れ落ちるのと同時に、光の斬撃も消え去り、後には満身創痍のカインと死に体の『アレル』だけが残る。
195ぼくの一人戦争 ◆1WfF0JiNew :2015/02/06(金) 02:16:34.89 ID:o1hN6bdR0
         
「……終わり、か。ったく、卑怯な手で勝ちをもぎ取りやがって」
「でも、僕の勝ちには違いないだろ」
「まぁな。及第点、ってとこか。ハッ、次は負けねぇよ」
「次があればだけどね」

大の字になって寝転がっている『アレル』の首元には生前に愛用した王者の剣が当てられていた。

――トドメなんざ刺さなくても勝手に死ぬのに、用意周到な子孫だ。

けれど、その周到さが『アレル』は嫌いじゃなかった。
勝つ為なら何でもする姿勢は、子孫に受け継がれた事を察し、くぐもった声で笑う。

「もう終わっていいんだ、アンタはもう――自由なんだから」
「ああ――違いねえ」

たった、一言。
互いの別れの言葉は、短かかった。
死者と生者に、それ以上はいらなかった。


【夢を砕かれし伝説@DQBR2nd 消失】



【"夢"】

【カイン(サマルトリアの王子)@DQ2】
[状態]:HP2/5、MP3/10
[装備]:『王者の剣』、ホワイトシールド@DQ8、ヤリの秘伝書@DQ9
[道具]:支給品一式、剣の秘伝書@DQ9、もょもとの手紙、キメラの翼@DQ3、メタルキングの槍@DQ8
[思考]:仲間達と妹との約束を守る
196ぼくの一人戦争 ◆1WfF0JiNew :2015/02/06(金) 02:17:52.07 ID:o1hN6bdR0
投下終了です、支援ありがとうございました。
197名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/06(金) 08:27:55.50 ID:SZ5ZNT1J0
投下乙です。
夢を乗っ取ってまでも掴みたかった自由と、生きたものが誓う強き未来。
カインは王者として剣を振るうことを決めて、前へ進んでいくのかもしれません。
198終わらない――歌を歌おう ◆CruTUZYrlM :2015/02/11(水) 00:07:56.94 ID:ni0jnIHc0
状況を整理する。
エイト、ククール、ヤンガス。見間違える訳のない三人が、こちらに刃を向けている。
ヤンガスが少し前、ククールが少し後ろ、そして、三人はミーティアを守る様に立っている。
屈強な三人に守られているミーティアは、座り込み、何かに祈りを捧げ続けたまま、動かない。
相対するのは四人だが、実質相手にしなくてはいけないのは三人である。
ふと思い出すのは、いつかの事。
暗黒神ラプソーンの手により、操られてしまったときの事だ。
そこまで明確には覚えていないが、あの時も自分はこの三人を相手にしていた。
暗黒神の力があり、三人が自分を助けるために手を抜いていたとはいえ、ほぼ互角に渡り合うことが出来ていた。
だが、今回は違う。
全力を出し切らんと威圧する三人に、神の力など無い自分という構図だ。
正直、戦力差は目に見えている。
勝てるか勝てないかを語れば、微妙な所だろう。

「……ナメられたものね、この程度で私が絶望すると思われてるなんて」

だが、彼女は笑う。
共に戦い、旅してきた仲間の力を、決して侮っているわけではないけれど、負ける気はしない。
だって、目の前に立つのは冒険を共にした四人ではなく。
その四人の皮を被る、有り体に言えば安っぽい"幻"なのだから。
彼らであって、彼らでない。
そんな存在を止める事なんて、いつも自分たちがやってきたこと。
そして、自分が彼らにしてもらったことでもある。
だから、退けないし、負けられない。

「さあ、行くわよ」

決意の一言と共に、退けない戦いが、始まった。

予想通り、前衛で押してくるのはヤンガスだった。
広範囲を刈り取ることができる斧の利点を生かし、ゼシカに逃げることも寄らせることも許していない。
反面、一挙一動の隙が大きいという弱点もある。
だが、そこを補うのが、ククールの弓だ。
ヤンガスが隙を晒すその一瞬に、ゼシカの体を貫かんと超速の矢が飛び交う。
正確無比なその射撃は、急所を狙い澄ましている。
一歩でも立ち止まれば、致命傷は免れないだろう。
それだけでも辛い所に、自由に動き回るエイトが加わってくる。
接近戦の剣、中距離の槍、遠距離のブーメランと、どの位置にいても戦える場所を保持し続けている。
ヤンガスに加担するもよし、ククールに加担するもよし、己で動くもよし。
いつも後ろで見ていたから、分かる。
この布陣がどれだけ堅く、強力なのか。
まさか、それを崩す側に再び回るとは、想像もしていなかったが。
まだ、安全な場所があるうちにそれを上手く使い、攻撃をかわしていく。
攻撃の当たらない隙間は、時間を追うにつれて狭くなってくる。
安全地帯が少しでも多く残っているうちに、一角は落としておきたい所だ。

向こう側の一通りの攻めが終わったところで、一息をつく。
予想通り、まともにやり合っていては埒すら開かない。
攻める暇など無く、向こうの攻めを回避するのがやっとだ。
このままでは、何も出来ることはない。
199終わらない――歌を歌おう ◆CruTUZYrlM :2015/02/11(水) 00:08:34.24 ID:ni0jnIHc0
「ごめんね、私、諦め悪いから」

が、ゼシカはもう一度笑う。
往来の諦めの悪さに、ここで学んだ"終わらない"事を、実践するために。
やることがないなら、視点と方法を変えればいいのだ。
保身に走るから、出来ることが少なくなっていく。
捨て身とまで行かなくても、まだやれることは沢山ある。
ここで出来るようになったこと、見たもの、学んだもの。
その全てを使って、彼らを止めるまで。

再び、ヤンガスが大斧を振りかぶってくる。
ゼシカの体を両断と迫る超速の刃に、ゼシカは鞭を構える。
今にも命を奪わんとする刃に向けて、狙いを澄まして振りかぶった。
ばちん、と空気の裂ける音がする。
そして、引き裂かれた空気によって生み出された刃が、迫り来る斧とぶつかり合い、その軌道がズレる。
ヤンガスの攻撃は大振り故に、僅かなズレでもフォローが難しい。
普段はズレを許さないように、大きな力を以て他を薙ぎ払っているが、ゼシカはその"隙"を知っている。
最高速に辿り着く瞬間、力がもっとも抜ける瞬間をめがけて力を加えてやればいいことを。
予想通り、ヤンガスの大斧は大きく軌道を逸らした。
勢いは生きたままだったので、大斧はそのまま見えない地面へと突き刺さった。
さらに、それだけではない。
素手だけでなく、鞭の扱いもそこそこであるゼシカ故に可能な事。
まるで、双竜の如き早打ち。第二刃がヤンガスの体をしっかりと切り裂いていく。
大きくよろけるヤンガス、近中距離が空いた僅かな時間。
この僅かで短い時間に、決着をつけるのが最短。

ヤンガスの壁が崩れたことを認識したエイトとククールが同時に動き出す。
生まれた隙をつけ込まれ、ヤンガスが崩れきってしまうことを恐れたのか、エイトが前線へと飛び出してくる。
だが、それもゼシカの読み通りだ。
懐に忍ばせておいた奇跡の剣で、切りかかってくるエイトへと対応していく。
押し返すことは出来なくとも、その軌道をずらすことぐらいなら出来る。
甲高い金属音が鳴り響く、押しているのはエイトだが、決定打を与えるには至らない。
数度の拮抗したやりとりの後、ゼシカは裏で作っていた呪文を放つ。

「メラッ」

初級中の初級、魔術を志す者なら、誰しもが真っ先に習得するであろう呪い。
その呪文で、屈強な戦士を焼き尽くそうというのならば、あまりにも滑稽な話だ。
無感情の奥、馬鹿にしたような気配を僅かに感じ取る。
そう、攻撃に使うのであれば、確かに無謀なことである。
だが、ゼシカほどの術士が、相手の力量も計らずにそんなことをするだろうか?
答えは勿論、ノーである。
エイトの横、斜め向かいの方角に向かって吐き出された火球。
直線上にいるのは、ククール。
遠距離から攻撃してくる彼を、まずは足止めしようと言う魂胆なのだろうか。
だが、低級呪文のメラ程度ならば、彼らにとってかすり傷にすらならない。
気に止めるべきではない、そう判断し攻めの手を緩めずに動く。
200終わらない――歌を歌おう ◆CruTUZYrlM :2015/02/11(水) 00:09:15.79 ID:ni0jnIHc0
 
もう一度言う、ゼシカほどの術士がこの場において"攻め"に低級呪文を使うだろうか?
答えは勿論、ノーである。
剣の先から放たれた火球をめがけ、ゼシカは片手を伸ばして握りしめる。
ほんの少し、何かが焦げる音がしながら、超速で飛んでいく火球がゼシカの体を引きずっていく。
攻めの一手ではなく、移動のための一手。
俊敏性において勝ち目がないことが分かっているからこその手段だった。
直前の戦いで、メラを足場にする彼女の戦いを見ていなければ、こんな事も思いつかなかっただろう。
今は別の場所にいる彼女に感謝しながら、ゼシカは火球に引きずられていく。
そして、最高速に近い所に達したとき、彼女の眼前にはククールの姿があった。

「はぁァァァッ!!」

一瞬の出来事、対応する時間などあるわけもなく。
速度を殺さずに懐に潜り込んだゼシカが、そのままククールの胴元をすれ違いざまに切り裂いていく。
そして着地、振り向きざまにもう一撃。
非力なゼシカといえど、与えた傷は決して浅くはない。
よろめくククールの手から素早く弓を蹴り飛ばし、そして即座に呪文を詠唱していく。
近距離、そして遠距離が欠けたことを認識したエイトが、ゼシカへと斬りかかりに向かう。
だが、その距離を詰められる前よりも、ゼシカの呪文が完成するのが早く。

「――――燃やし尽くせ、ベギラゴン!!」

ゼシカの周りを取り囲むように巻き起こる炎。
何を焼き尽くすでもなく、襲いかかるでもなく。
そこに、ただ"壁"として存在する炎。
接近しようとしていたエイトが、思わず後ろに飛び退く。

「吹き荒れろ、マヒャド!!」

息をつく間もなく、無数の細かい氷刃が吹き荒れる。
全てを切り裂く氷の粒達が、エイト達の足を確実に縫い止める。
致命傷を逃れるための、防禦の姿勢。
けど、それは滅びへの一歩。

「吹き飛べ、イオナズンッ!!」

追い打ちをかけるように、特大の爆発魔法が彼らを襲う。
一度ならず、二度。
挟み込むように巻き起こった爆発に、彼らの体が焼かれていく。
それだけではない、前後から同時に押される"圧"が、彼らの体を傷つけていく。
たった一瞬の間に起こった魔術の三連弾。
傷ついたヤンガスとククールはもちろんの事、無傷であったエイトがボロボロの体で立ち上がるほどだ。
既に傷を負っていた二人は、起きあがる気配すらない。

「……確信したわ」

小さな声。
それと同時にエイトの体が真一文字に切り裂かれる。
炎の壁から抜け出したゼシカが、炎を纏いながらエイトへと斬りかかったのだ。
その一撃は、最後の一撃と呼ぶにもふさわしいほど美しく、そして残酷だった。

「あんたたちは、彼らじゃない。姿形はよく似てても、足りないものがあるのよ」

崩れ落ちる、エイト。
その姿を見て、泣くでもなく、笑うでもなく。
仲間によく似た姿を見つめたまま、ゼシカは口を開く。
201終わらない――歌を歌おう ◆CruTUZYrlM :2015/02/11(水) 00:10:33.20 ID:ni0jnIHc0
 
「おやすみなさい、みんな」

ほんの少し、望みの形とは違うとはいえ、再会できたことに感謝しつつ。
彼女は、仲間たちに別れを告げた。

そして、残されるのは二人。
ゼシカと、未だに祈りを捧げ続けるミーティア。
彼女は、何に祈り続けているのだろうか。
それを探るべく、一歩足を踏み込んだそのとき。
ミーティアの目が、ゆっくりと開かれた。
きょろ、きょろと辺りを見渡す。
そして、彼女は気づいてしまう。
倒れ伏している三つの体、そのうちの一つ。
赤いバンダナ、黄色い兵士服、そして黒髪。

「■■■■■■■■■■■■■■■■――――――!!」

この世のものとは思えない絶叫。
目を見開き、手を頬に当て、顔に爪を食い込ませた絶望の表情。
とても人とは思えないそれは、気が狂ってしまいそうになる。
手で耳を塞いでも、その声は鼓膜を叩き続けるし、目を背けても呪いの表情がちらつく。
やがて、立っていることすら苦しくなり、意識を手放しかけてしまう。
こんなところで、倒れるわけにはいかないと言うのに。
そう思う気持ちとは裏腹に、体は少しずつ崩れていく。
そして、ゆっくりと地に伏し――――



ぱちり。
目が覚める。

「これは……?」

明らかに地に伏したはずの自分は、両足をつけて立っている。
そして、目の前には祈り続けるミーティア。
数刻前までの光景が、綺麗に再現されている。
これはどういうことか、と考えようとしたその時。

「なッ――――」

自分の首を刈り取らんと迫ってくる、一つの刃。
全てを両断する大斧が、ゼシカの肩口を掠めた。
咄嗟に反応できたのは、不幸中の幸いといったところだろうか。
だが、僅かに生まれた隙は、取り返しのつかない事態を招く。

「っつ、あッ……!」

よろめきながらも回避した方向、その位置を正確に捉え。
一本の矢が、ゼシカの足を貫いていた。
激痛に踏ん張ることもできず、倒れ込んでしまう。
誰がやったのか? そんなことは分かっている。
遠くに写る、鮮明な赤と銀が、その正体。

休む間もなく、一発の金属音。
倒れ込んだゼシカに止めを刺さんと迫ってきたエイトの剣と、ゼシカの剣がぶつかり合う音。
だが、倒れ込んだゼシカがエイトの剣を裁ききれるわけもなく。
振りかざした剣は、遠くに吹き飛ばされてしまう。
202終わらない――歌を歌おう ◆CruTUZYrlM :2015/02/11(水) 00:11:28.98 ID:ni0jnIHc0
 
一瞬、されど永遠とも思える隙。
それを見逃さず、エイトは剣を振るう。

「イオナズン」

同時に響く声と、爆音。
一度の詠唱で二度の詠唱が出来るのならば、普段の半分の速度での詠唱も可能と言うこと。
僅か一瞬で大呪文を完成させ、エイトの体を胴元から吹き飛ばしていく。

「イオナズンッ」

気づかれる前に、第二の大呪文を放つ。
標的はもちろん、遠距離のククール。
弓矢の構え、無防備なその体に爆発が直撃する。

「イオナズンッ!」

休む間もなく、第三の大呪文。

「イオナズンッ!!!」

続けざまに、第四の大呪文。
残るヤンガス諸共、何もかもを吹き飛ばす為に。
塵すら残さない勢いの、四連発。
吹き飛ばされたエイト達は、煙を立てながら横たわっていた。

「■■■■■■■■■■■■■■■■――――――!!」

そして、それとほぼ同時。
再び、その叫び声が聞こえた。
先ほどと同じ人物から、同じ声、同じ表情で。
人とは到底思えないそれが、再び空間を埋め尽くした。
無茶な四連発によって疲労がたまっているゼシカには、耳を塞ぐことすら許されない。
そして同じように、闇に落ちて行く。



分かっていた。
目が覚める事なんて。
分かっていた。
また三人が立っている事なんて。
分かっていた。
終わりなど、無い事なんて。

「は、ははは」

自分の傷と疲れだけが、そのまま残っている。
何度頑張って倒そうが、どうせ元に戻る。
なるほど、これならば確かに、絶望せざるを得ない。
搦め手も、正面衝突も出し切った。
あの三人に勝てる方法など、もう何もないのだ。
そうこうしているうちに、空間ごと切り裂く刃が、ゼシカに向かってきた。
203終わらない――歌を歌おう ◆CruTUZYrlM :2015/02/11(水) 00:11:59.94 ID:ni0jnIHc0
 
「ぐあッ、が」

認識していても上手く避けられず、肩口から袈裟懸けに斬られてしまう。

「あっ、つッ」

追い打ちをかけるように、傷ついていない片足を矢が貫く。
完全に動きが止まった時、ゼシカが次に覚えたのは。

「がっ、は……」

宙へ浮く感覚、腹部への鈍痛。
そして、自分に拳を突き立てているエイトの姿だった。
ふわり、と体が浮いたままになる。
エイトが自分の首を掴み、気道を塞ぎながら持ち上げているからだ。
ゼシカはただ、声にならない声を出しながら、それを見ることしかできない。
暴れたところで、エイトを止められない。
呪文を唱えることなど到底出来ない。
ただただ、その剣が自分の命を奪っていくのを見つめることしかできない。
ゆっくり、けれども確実に剣が持ち上げられる。

「助けっ……てよッ」

最後の最後、何を思ったのだろうか。
貴重だけれど、いずれどうでも良くなる酸素を全て吐き出して。
彼女は、叫ぶ。

「竜王ぉおおおおお!!」

剣が命を刈り取らんとした時、懐からペンダントがこぼれ落ちる。

それは、愛。

ある国の王女が、愛する者のために捧げた。

一つの、愛。
204終わらない――歌を歌おう ◆CruTUZYrlM :2015/02/11(水) 00:12:26.69 ID:ni0jnIHc0
 














「げほっ、ゲほっげホ」

どさり、とゼシカの体が地面に落ちる。
酸素不足による激しい咳込みをしながら、状況を確認していく。
どう考えても、死ぬしかなかった状況。
けれど自分は今、こうして助かっている。
助かったように見えて、実は死んでいるのかもしれなかったが、受けた傷の痛みがそれを否定する。
では一体、何が起こったのか。
思わず見上げた先、そこに立っていた者。

「え……?」

刺々しい堅い皮膚に覆われ、全てをなぎ倒す両腕を持ち。
禍々しくも雄々しく、凶暴さの中に凛々しさを潜ませた。
一匹の竜であり、王が、そこに立っていた。

ゼシカが見ていることに気がついたのか、竜はちらりとゼシカを見る。
言葉を喋ることが出来ないからか、はたまた偶然なのか。
少し長い一瞥の後に、竜はエイト達へと向かっていった。
一体、それは何を意味していたのか。
言葉はなくとも、感じ取ることは出来た。
傷ついた体に鞭打ち、彼女はゆっくりと足を進めていく。
向かう先は、未だに祈りを捧げる一人の姫。
輪廻の始まりであり、終わりを司る、その存在の元へ。



「ミーティア姫」

祈りを捧げ続ける姫の目前に、ゼシカは凛と立つ。
気迫の類は何もないが、にじみ出る王族の風格が、ピリリと肌を焼く。
目を閉じたまま動かずにいた彼女が、ゆっくりと目を開きゼシカの顔を捉える。

「邪魔を、しないで頂けますか」

落ち着いた、冷たい声がゼシカの耳を撫でる。
たった一言が、何重にも響きわたり、ゼシカの鼓膜を数度揺らす。
たじろいではいけない、と足に力を入れ直し、意識をミーティアへと向けていく。

「エイトは、エイトは生きているんです」

ゼシカの事を見据えながらも、壁に語りかけるかのごとく、淡々と口を開く。
輝きながらも濁りきった目で、優しいながらも恐怖を込めた声で。
"絶望"をその身に刻みながら、彼女は語り続ける。
205終わらない――歌を歌おう ◆CruTUZYrlM :2015/02/11(水) 00:13:12.55 ID:ni0jnIHc0
 
「私の為に微笑んで、私の為に戦ってくれて、私のために生きてくれる」

笑わない、泣かない、怒らない。
感情に伴う抑揚すら無く、平坦な声は続く。
それは不変で、当たり前のことだと言わんばかりに。

「……エイトが死んだなどと、許されてはならないのです」

"拒絶"を、口に出した。
それを聞くゼシカは、険しい顔のままミーティアを見つめる。
見えているはずのそれを知ってなお、ミーティアはゼシカから逸らすように手を動かす。

「ほら、今もああやって」

指さした先では、エイトたちと一匹の竜が激しい戦いを繰り広げている。
互いに一進一退の攻防を繰り返しながら、人は戦い、竜は吼える。
それを見て、初めてミーティアの顔が歪む。

「私を守るために戦ってくれているではないですか」

汗を流し、血を流し戦うエイトの姿を見て。
それが愉悦と言わんばかりに、ミーティアは笑う。
そして両手を広げ、ゼシカへと告げる。

「エイトはここにいるんです、そして、私もここにいる。
 それは不変のこと、けれど、その不変を保つために」

                  "かお"
真っ暗闇の空を仰ぎ、狂った無表情のまま。

「私は、祈るのです」

高らかに、言い放った。



しばしの、沈黙。
遠くて近い、激しい戦いの音だけが木霊する。
両手を広げたままのミーティアは、動かぬまま。
どこか勝ち誇ったように、ゼシカを見つめ続けていた。

「……庶民の身ですが、失礼いたします」

俯き続けていたゼシカが、重く口を開く。
呼吸を一つ挟み、大きく息を吸い込む。
大きく、しっかりと地面を踏みつけてから。
206終わらない――歌を歌おう ◆CruTUZYrlM :2015/02/11(水) 00:14:10.82 ID:ni0jnIHc0
 
「ふっ、ざけんじゃないわよぉおおっ!!」

竜の咆哮にも負けないほどの大声で、叫んだ。

「黙って聞いてれば! 言いたい放題好き放題言って!!」

止まらない、止められない。
感情が激流のごとくあふれ出し、言葉となって口から飛び出していく。
それを加速させるのは、明らかな"怒り"だ。

「あなたのは"逃げ"よ! 認めたくないから、自分に都合のいい幻を作り続けて、それに浸っているだけ!!」

叫ぶ、叫ぶ、叫ぶ。
感情が、気持ちが、思いが飛び出す。
高まったそれらを止めることなど出来ない。

「エイトは死んでしまったの、もう戻ってこないの!
 それは変わらないし、変わりようがない!!」

事実を事実として、突きつける。
そう、死人は戻ってこないし、蘇ったりもしない。
自分がずっと思い、願い続けてきたことだから。
だからこそ、正面から否定していく。

「エイトと一緒にいたいと願うのは勝手よ、でもそれで"エイト"の幻を生み出して、夢を見続けても何も変わらない!!
 そんな偽物に縋ったって、何も変わらないじゃない!!」

後ろを向いても、何も変わらない。
むしろ、状況は悪化するばかりだ。
安っぽい快楽に身を預け、心を崩して過ごしていくだけ。

「ねえ、だから……お願い。もうこれ以上、あなたの自分勝手な夢と願いで――――」

それでは、そんなことではダメだと分かっているから。
ゼシカは、叫ぶ。
終わりを終わりとして迎え、次へと進むために。

「――――"エイト"をこれ以上傷つけないでよ!!」

思いを、弾丸にして、放つ。



再び、数刻の沈黙が訪れる。
戦いは終わったのか、それとも戦えなくなったのか。
鳴り響いていた金属音と、竜の咆哮はもう聞こえない。
ただ、ただ静かに、時だけが過ぎる。

「私は」

ミーティアの口が動く。
静まりかえった空間に、何度も何度も響くように。
小さくて、大きな呟きが跳ね返る。

「私はどうなるのですか」

ゼシカと同じように、飛び出した言葉を切っ掛けにまくし立てていく。
止まらない、止められない叫び。
その声には、確かに感情が籠もっていた。
207終わらない――歌を歌おう ◆CruTUZYrlM :2015/02/11(水) 00:15:06.73 ID:ni0jnIHc0
 
「私は!! 私の世界には! もう"エイト"はいないの!!」

赤い、赤い涙を流しながら、ミーティアは叫ぶ。
何よりも鋭く、何よりも深く突き刺さったナイフが傷つけた、心を庇うように。
己の安寧を得るために、ミーティアは叫ぶ。

「死んでしまった!? そんなこと分かってるのよ!!」

事実など、とっくに理解しているのだ。
理解しているからこそ、受け入れるわけにはいかない。
狂ったように振る舞わなければ、自分が本当に狂ってしまうから。

「だから、願うしかないの、エイトが、エイトが私の前に居てくれる、そんな世界を!!」

自分が自分であるために、せめてその世界だけは壊さないように。
彼女は、祈り続けるしかなかった。
でなければ、自分が自分でなくなってしまうから。

「夢でも幻でも何でもいい、私はエイトに側にいてほしいだけ!!
 エイトがそこにいてくれるなら、それで十分なの!!」

叶わない、叶う訳のない、二度と戻らない事だと知っているから。
この世界を、手放すことなんて出来ない。
ここでなら、自分は自分で居続けられるのだから。

「だから、邪魔しないでッ!!!」

断絶に近い拒絶を突きつけて、彼女は叫んだ。
最後の一声が、他の言葉より何重にも響き渡る。
三度の沈黙と、長い静けさが訪れる。
二人、共に動かないまま、次に時が動いたのは。

「……それが、ふざけてるって言ってるんですよ」

平手と共に放たれた、ゼシカの一言だった。
呆気にとられるミーティアと、涙を浮かべるゼシカ。
その意味を、まだミーティアは理解していないから。

「幻なんかに縋らなくったって、大丈夫なのに」

ゼシカが、言葉を続ける。
ただ、残酷な現実を突きつけたかったわけではない。
目的が、"理由"があってこそ、ゼシカはそれを突きつけたのだ。

「気づいてあげてください、ちゃんといるじゃないですか」

言葉だけでは伝わらない、その証拠にまだミーティアは呆けた顔をしている。
だから、ゆっくりともう一歩、ミーティアの方へと踏み込む。
とん、とやさしく彼女の胸に手を当て、小さくつぶやく。
208終わらない――歌を歌おう ◆CruTUZYrlM :2015/02/11(水) 00:15:49.48 ID:ni0jnIHc0
 









「「……ずっと、ここに」」










聞こえた声に、はっとした。
思わず辺りをきょろきょろと見回すが、ゼシカ一人しかいない。
だというのに、一人の声が明らかに"重なって"聞こえたのだ。

「ほら」

困惑するミーティアをよそに、ゼシカは笑う。
自身が証明すべき物は"そこ"にあると分かったから。
あとは、彼女をそこに導くだけ。

「思いは思い、所詮は形を保たない儚い物かもしれません」

ミーティアの手を取り、ゼシカは跪いて言葉を続ける。
それは、まるで王族への献上品のように。
淡々と、けれどもはっきりと心を込めて、言葉を続ける。

「ですが、私は知っています。
 思いを思いのまま貫き続け、最後まで信じ続けた一人の姫を」

献上物は"愛"。
ゼシカが見た、友が求めた、そしてある者が掴んだそれ。
真実の形と、信じるべき道を照らす、何よりも明るい光。

「形はない、だからこそいつまでも残る。
 ミーティア姫、あなたのエイトを想い続ける心があれば――――」

そこで、顔を上げる。
209終わらない――歌を歌おう ◆CruTUZYrlM :2015/02/11(水) 00:16:16.75 ID:ni0jnIHc0
 














「「――――エイトは、いつまでもあなたのそばにいます」」
















再び、重なる。
声だけではなく、その姿までもがはっきりと。
夢や、幻かもしれない。
けれども、何よりも儚くて消えてしまいそうなそれは。
何よりも強く、心に残り続ける"真実"だった。

「ほら、ね」

証明を終え、ゼシカが笑う。
それに釣られるように、ミーティアの瞳から一粒の涙が零れた。

「エイ、ト」

蹲る、ミーティア。
大粒の涙を流しながら、後悔と共に嗚咽を漏らす。
こんなにも側に、こんなにも近くにいたのに。
遠く遠くを見つづけていたから、気づけなかった。
だから、もう見失わない。

「エイト……私……」

教えてもらった、心を。

ゆっくりと、砂のように砕け散っていく。
光の粒子となりながら、闇の何処かへ溶けていくミーティアを見つめ、ゼシカは座り込む。
ふと、気がつけば、負っていた傷が少し塞がっている。
不思議に思ったそのとき、なんとなく向いていた方向に、彼らは居た。
210終わらない――歌を歌おう ◆CruTUZYrlM :2015/02/11(水) 00:16:41.80 ID:ni0jnIHc0
エイト、ヤンガス、ククール。
ゼシカのよく知る三人が、よく知る顔でこちらを見ていた。
グーサインを突き出すヤンガス、ニヒルに気取るククールと、輝く笑顔のエイト。
もう、縛るものなど、何もない。
自由となった三人も、ミーティアと同じように光の粒子となり、空へと登っていった。

「……ありがとう」

感謝の言葉は、空に登っていった三人へ。
そして、自分の側に立つ竜へ。

「約束、守ってくれたのね」

ふふっ、と小さく笑う。
そして、竜の大きな体へ、自分の体重を少しだけ預ける。
頑張りに頑張ったのだ、少しくらい休んだっていいだろう。
寄っかかられていることが満更でもないのか、竜は黙ったまま、動かない。
四度目の沈黙は、とても暖かい。
出来れば、ずっとこうしていたいくらいに。
けれど、そうはいかない。
前に進むと決めた、未来を掴むと決めたから、ここで立ち止まっていられない。

「うん、そうだね」

何を言われたわけでもない、けれどゼシカは同意していく。
未だに動かない竜が、彼女の背を押している気がしたから。
そう、自分は一人じゃない。
心の中に、忘れられない仲間たちが居るから。
前へ、前へと進める。

「……行ってきます」

ゆっくりと立ち上がり、広がり始めた光の方へと足を進めていく。
もう、傷は痛くない。
だから、彼女は前へ進んでいく。

未来へ、証明するべき"愛"を求めて。

真なる竜の王が、光へと姿を変えていく。
そして、気づかれないように、そっと。
未来へ進む、彼女の体を、優しく包み込んだ。

【絶望の呪われし戦士達@DQBR2nd 消滅】
【真なる竜の王@DQBR2nd 消滅】

【"夢"】
【ゼシカ@DQ8】
[状態]:HP3/5、MP7/10
[装備]:女帝の鞭@DQ9、わだつみの杖@DQ9、セレシアの羽衣@DQ9、奇跡の剣・改@DQ7、サタンネイル@DQ9
[道具]:支給品一式、賢者の秘伝書@DQ9、おふとん@現実、キメラの翼@DQ3、王女の愛@DQ1
[思考]:未来を創り、また逢いに行く

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以上で投下終了です。
何かありましたらどうぞ。
211名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/11(水) 02:48:25.46 ID:rcUvxQsT0
>>195
おお……剣復活痺れますね……
自由を求めた結果子孫を縛るという皮肉が辛いですね

>>210
真竜王がここできたか!熱い!!
エイトの声はうるっときました

ROM専ですが良作が続いて心が踊ります
"4主人公"、アレル、エイト
どれも主人公が大きなキーになっていて、なんだか妙な哀しみに襲われます

お二方投下乙です!

恐れながら指摘を一つだけさせてください
ミーティアの一人称は基本"ミーティア"であったかと思います
212 ◆CruTUZYrlM :2015/02/11(水) 07:51:27.50 ID:ni0jnIHc0
>>211
ご指摘ありがとうございます、収録時に対応させていただきます
213名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/14(土) 17:05:48.35 ID:tzv1BQBt0
214名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/15(日) 13:53:37.84 ID:wVoTcSEJ0
投下乙です。
現実から目を背け続けていたミーティアが救われる。
夢とはいえ、強く願われたからこそなのかもしれませんね。
ゼシカのピンチに駆けつける竜王さん、マジヒーロー。
215Be Alive  ◆t1zr8vDCP6 :2015/02/15(日) 23:37:15.47 ID:mm30hOT10
――何度も夢を見ていた。
それは例えば、
恋が叶ってアイツと結ばれたかったことだとか
あの二人には幸せになってほしいと思っていたことだとか
とにかく誰かの力になりたいと思ったことだとか
現実と空想を何度も行き来しながら、くりかえし、くりかえし、私は夢を見ていたんだ――






「人間が、にくい。ころしたい。こわしたい」
真っ黒な翼をひろげた影。修羅の形相から吐き出される言葉はおよそ可憐な少女のものとは思えない。
頭の中に呪いの声が反響する。それだけで心がどうにかなってしまいそうだ。
「あなたは一体……」
ビアンカが問うと少女がぐるりと顔を向けた。
「わたしは『アンジェ』。かつて、わたしは天使と呼ばれていた」
「天使……?」
「だけどわたしはおわってしまったの」

桃色の髪の天使は、ビアンカにとっては幼いころ夢見たおとぎ話の中の存在だった。
この世のどこかには天空の世界があってそこには翼を持った種族が住んでいるという。

――そ…ら…に…
――く…せし……ありきしか……

幼い日の夢。憧れの象徴。読めない字がたくさんあった本の続きの世界。
ビアンカが、その場所を冒険することはなかったけれど。
216名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/15(日) 23:38:33.78 ID:iftr45wt0
 
217Be Alive  ◆t1zr8vDCP6 :2015/02/15(日) 23:38:41.92 ID:mm30hOT10
立ちすくむビアンカに『アンジェ』が跳びかかる。
突き飛ばされ倒れこむ。首元に伸びる腕。締め上げてくる手の死人のような冷たさにぞっとした。




――時が過ぎゆけば、大人になれると思っていた。
少女の体が女性のそれへと成長し、やがて共に生きるべき伴侶と結ばれる。
誰もが抱くほのかな夢。叶うと信じて疑わなかった。
けれど現実はそうはならなかった。恋はかなわず想いは届かなかった。
選ばれなかった自分。
一人きりで何度も迎える朝。離れた想いをごまかしながら生きる日々。
父と過ごす山奥の村での生活は平和だけれど、ただそれだけ。
あの二人の幸せを願ってみせる偽りの自分――

(違う、嘘なんかじゃない。私は本当に二人の幸せを願っていたわ!)


「じゃあ、どうしてそんなに苦しそうな顔をしているの?」
「ぐぁっ!」
首を絞める手にさらに力がこめられる。
死の予感と投げられた言葉を否定したい気持ちで無我夢中で持っていたブロンズナイフで切りつけ反撃する。
グサリ、と相手の肌に深く入り込む味わったことのない嫌な感覚。思わず手を離した。
「はあっ、はぁ……!?」
わずかによろめいた『アンジェ』が傷を見つめる。傷口にゆるく引っ掛かったナイフを外す。
するとまるで何かを再現するかのように、ビアンカが傷つけた左手が腕ごとボトリとちぎれ落ちた。
光の無い瞳から血の涙を流しながら話し出す。
「わたし、こんなふうに死んだんです。そうやって人間にきずつけられて。
 たいせつな人が死んで、さいごに話をすることさえできなくて。
 まっくらな世界にひとりぼっちでおちていった――あなたも同じですよね?」
「違う、違うわ!!」
「ちがわないですよ。天使はぜんぶみてるんです。あなたいってたじゃないですか。
 人間がにくい、すべてをこわしたいって」
218名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/15(日) 23:39:49.41 ID:wVoTcSEJ0
       
219名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/15(日) 23:40:01.23 ID:iftr45wt0
 
220Be Alive  ◆t1zr8vDCP6 :2015/02/15(日) 23:40:19.09 ID:mm30hOT10
――私は何を望んでいたの?
あの二人の幸せを望んでたなんて、そんなのは嘘だ。
だって本当は私がリュカの隣に立ちたかったんだもの。
でないとこんなに胸が張り裂けそうな気持ちになんてなりっこないもの。
何度も見ていた夢は、本当は壊してしまいたかった、夢。
本当は初めから憎しみにまみれていた、夢――

「えらばれなかったから苦しいんですよね。選んでもらえなかったから。
 わたしもそうです。みんなみんな、わたしのことをおいていってしまうんです。
 あなたも同じですよね。おいていかれてひとりぼっち。この世界でもそう。
 ひとり生きのこったって何も残らない。だからもう、いいですよね?」

ブロンズナイフの先端がビアンカの喉元に突きつけられる。

「生きてたってなにもない。夢はまぼろし。だからもう希望なんて無いんですよ……」

なげき……悲しみ…………おそれ………………
『アンジェ』から発せられるなげきのさけびは、ビアンカから力を奪っていく。

(いや、いやよ。私は生きなきゃいけない!
 リッカちゃんやアイツ、みんなの分まで夢を叶えないといけないのよ――)
薄れる意識の中、この世界で出会った人たちの姿が脳裏に浮かぶ。
叶えないといけない。でもそれは誰が望んだこと?
みんな背を向けて去って行ってしまった。
彼らもこんな風に絶望に嘆いて死んでいったの?


リンリンと話をしたいのだ、と頑なに言い続け駆けて行ったリッカの姿。
幸せを掴んでやるんだ、と強大な敵ジャミラスに向かっていった影の騎士の姿。


死に目には遭えなかったけれどきっと彼らはこんな風じゃなかった。
こんな狂った世界で出会った人たちで、共に過ごしても心休まる時間はほんのわずかだったけれど、
だってそれでも思い出すのは、笑顔だったり、何かのためにひたむきに生きようとした姿なのだから。
221名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/15(日) 23:40:59.89 ID:wVoTcSEJ0
      
222名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/15(日) 23:41:06.74 ID:iftr45wt0
 
223Be Alive  ◆t1zr8vDCP6 :2015/02/15(日) 23:42:11.33 ID:mm30hOT10
(ああ、そうか。そうだったんだ)

私は今まで選ばれなかったんじゃない。選んでこなかったんだ。

成り行きに任せて、誰かの選択の陰に隠れて、物分かりのいい女でいようと本音を閉じ込めた。
嘘をついて心を覆い隠してきた。ただ純粋なままでいたくて。

願わなきゃいけない夢なんてそんなものは嘘
叶えなきゃいけない夢なんてそんなものは嘘
生きなきゃいけない命なんてそんなものは嘘

本当の夢は、叶えたいと声に出して、誰に邪魔をされても、その命をかけて追っていくんだ。
まっすぐに生きた彼らのように――


(未来か過去か。世界か自分か。私も――選ぶわ)








ビアンカの体が光をまとう。

光が『アンジェ』の闇の翼をはがしていく。

ある世界では、それは勇者の光と呼ばれた光だった。








「……私、ずっと今まで逃げてきたのね。
 もっと好きだって、言えば、よかった。好きだと叫んでしまえば、よかった。
 どんなにカッコ悪いことだったとしても全部全部アイツにぶつけてしまえばよかった」

リッカたちにあって自分にはなかったもの。
ずっと己の中に封じ込めてきた気持ちがよみがえる。
でも。

「でも、もう、できないのね」
224名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/15(日) 23:42:37.22 ID:wVoTcSEJ0
      
225名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/15(日) 23:43:28.43 ID:iftr45wt0
 
226Be Alive  ◆t1zr8vDCP6 :2015/02/15(日) 23:45:17.35 ID:mm30hOT10
倒れる影。
アンジェはまるで糸の切れた操り人形のようにピクリとも動かなくなっていた。
声を出すこともなく、ただ血に塗れた瞳がビアンカの方を向いている。
ビアンカはアンジェのもとに歩み寄った。

「あなたももっと言いたかったことがあるのよね。
 あなたを置いて行った人たちに。あなたが一人ぼっちだとあなたに思わせてしまった人たちに。
 そんな呪いの言葉なんかじゃなく、もっと単純で、純粋なことを――」

光が靄のようにアンジェの体を包み込む。白い光がだんだん黄色く、赤く変わっていく。
すでに死んだ者には、もう何かを成すことは許されていない。
言葉を発することも、何かを伝えることも、残すことも許されていない。
倒れたアンジェに手を差し伸べて、ビアンカは泣いた。
「ごめんなさい。
 私あなたを助けたい。絶望から救いたい。でもできなくてごめんなさい。
 そして――選ばせてくれてありがとう。私、生きるわ。最後まで戦うわ」

選ぶことは声に出して誓うこと。確かにそこにいた誰かと約束を交わすこと。
光が消えようとしている。
せめてもの思いで彼女のそばに跪き手を握った。
この空間の主であった『アンジェ』はもういない。

傍らから唐突に声がした。

「――ビアンカ様」
「カマエル?」
「大変申し上げにくいのですが、私をここに置いていってくださいませんか?」
「この場所、に?」
「はい。左様でございます。あと僅かな時間だとしても、この方のおそばにいたいのです」

アンジェお嬢様のおそばに――、とカマエルは小さな声で付け足した。

「それが、カマエルの選ぶ道なのね」
「ご理解いただき有難うございます」
「ごめんね、あなたに何度も助けてもらってうれしかったわ」
「もったいないお言葉でございます。こちらこそもう貴女様の力になれないことをお許しください。
 どうか、どうかお元気で。ビアンカ様」


ビアンカはアンジェのそばにカマエルをそっと置いた。
アンジェを包む光が消えていく。




「ありがとう、さようなら――」




ビアンカは桃色の髪の天使を見送った。






【憎悪の堕天使@DQBR2nd 消滅】
【カマエル@DQ9 消滅】
227名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/15(日) 23:45:21.32 ID:iftr45wt0
 
228Be Alive  ◆t1zr8vDCP6 :2015/02/15(日) 23:46:13.90 ID:mm30hOT10
――選ぶことがこんなにつらいことだなんて思わなかった。
自分が望んだことのはずなのに、切り裂かれるように胸が痛くなる。
ああ、きっとリュカもこんな風に選んだのね。私、何も知らずにいたのね。
でももう誰かのせいにはしない。









【ビアンカ@DQ5】
[状態]:健康
[装備]:モスバーグM500(2/8予備弾4発)、祝福の杖@DQ5、エンプレスローブ@DQ9、ブロンズナイフ、リッカのバンダナ@DQ9
[道具]:支給品一式、炎のリング@DQ5、調理器具(大量)、ふしぎなタンバリン@DQ8、聖なる水差し@DQ5
     小さなメダル@歴代、命のリング@DQ5、白紙の巻物@トルネコ、猫車@現実、結婚指輪@DQ9、キメラの翼@DQ3
     パパスの剣@DQ5
[思考]:生き残り、彼らの分まで夢を叶える。もう逃げない。
229 ◆t1zr8vDCP6 :2015/02/15(日) 23:47:13.97 ID:mm30hOT10
投下終了です。支援ありがとうございました。
何かありましたらどうぞ。
230名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/16(月) 00:06:00.59 ID:3X6F0Fr90
投下乙です。
誰かのために生きるのではなく、自分が生きる。
自分のやりたいことを全うするために、自分で選ぶ。
逃げないと決めたビアンカは、どう進むのでしょうか。
231名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/16(月) 11:50:53.64 ID:+xWLt2jP0
投下乙です。まさかの10の勇者ビームw
そういや原作でもジャミが纏ってた衣をあれかどうかは分からんが剥がしてたな
こんな所で使われると思いもしなかったよ。GJです!
232 ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 22:56:14.12 ID:ZZLkQngY0
投下します。
233その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 22:57:09.84 ID:ZZLkQngY0
憎悪の塊となり、闇の化身へと上り詰めた修羅の大鎌の一閃が、周囲の闇をも裂いて此方を切り払わんと迫る。
究極のそれとなった、進化の果てである肉体の圧倒的な拳の一撃が、其処にある全てを壊すかの様に放たれる。
それは、誰もが逃れる事の出来ない運命である『死』の代弁。
感情がどんなに極まろうと抗うことは出来ない一つの事実。
だけれど。

「こっちも、行くぜ!」

それで終わる様な人間では無く、それだけでは絶望へ堕ちない人間だからこそ。
テリーと言う一人の剣士は、ここまで辿り着いた。
剣を下段に構え、打ち払われる拳を潜り抜ける。
すぐさま振り下ろされる刃の側面へ即座に迫り、一息に飛び乗る。
その真上、アスラゾーマの口から放たれるのは、先の破壊神と似て非なる吐息。
ひのいきというその特技を限界まで昇華したそれは、全てを焼け爛れさせる烈火となり彼へ迫る。

「溢る炎熱よ、眼前を貫け!
メラゾーマ!」

火球を目の前で炸裂させ、炎の流れを僅かに乱す。
生まれた空白地帯へ滑り込み、五月雨剣で更に道を開いてゆく。
捌ききれず、オーガシールドでも受け止められなかった火炎がその身を焼くも、決して止まらないその斬撃が全てを切り払う。
そうして烈火を切り抜け、テリーは再び大鎌を駆けた。
234その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 22:57:53.55 ID:ZZLkQngY0
が、修羅もまたそれを許しはしない。
鎌を担ぎ上げると同時に振り回し、爆風と負荷が小さな体を簡単に吹き飛ばす。
もう一人の魔王がそれを追い、追撃の拳を放つ。
辛うじて受け流すが、その衝撃と余波を殺しきれない。

「っ…!」

声にならない叫びを上げ、その口から鮮血が洩れる。
出来る限りの防御も、その圧倒的な力の前に突き崩された。
なるだけ体を守るように着地し、サイコピサロの放った地を薙ぐ冷気からすぐに後退する。
その手に握り直すのは大弓。
白銀の吐息の切れ間を見計らいつつ、その弦を引く。
瞬間、閃くは大鎌。
凶悪なその刃から逃げるように身を引き、その反動も活かして更に弓を引き絞る。
―――手を放す。
放たれた弓の行く先は、大鎌を振るうその豪腕。
だが、その矢は瞬時に身を引く憎悪の魔王に一撃を与えられず。

―――まずは、一撃…!

その背後にあったサイコピサロの顔面へと吸い込まれた。
全くの不意討ちに反応できず苦しみを見せる魔王へ瞬時に駆け寄り、足元へ斬撃を叩き込む。
その巨体を突き崩すべく振るわれた斬撃は、何れも数多の魔物を簡単に切り捨てる必殺のもの。
が、痛みすら凌駕する究極の進化の本能は、その渾身の刃を受けて尚沈まない。
地を蹴り払う魔王の足から瞬時に離れたテリーは、既に振り下ろされようとするその腕に驚愕する。
闇を打ち据える、破壊の一撃。
それでも直撃を避け、後方へ跳ぶ彼へと、死の宣告のように大鎌が迫る。
風を裂く鋭い音。
再び地を蹴り、間一髪で切り抜けて何とか態勢を整える。

「…ったく、頭オカシいよな、テメエ等」

そこにあるのは、圧倒的な魔の力。
全てを滅ぼしても未だ尽かぬその力が、さながら対の仁王像のごとく立ち塞がる。
235その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 22:58:27.69 ID:ZZLkQngY0
「テリーよ」

不意に、低い声が響く。

「何故、もがき生きるのだ?」

ゆっくりと修羅が問う。
その声音に込められているのは、心を蝕む闇。

「貴様は何も成せない。
最愛の姉を救うことも。
共に歩いた友を助けることも。
貴様は成せない。―――成せなかった」

「貴様は何も出来ない自分をずっと憎み続けている。
そして、いくら憎もうと、それが救えない言い訳にはならないと戒め続け―――絶望し続けている」

全ての言葉が、テリーの心を切りつける。
そうして魔王は、容赦なく彼へと告げる。

「諦めろ」

それはさながら、死刑宣告の様で。

「今ここで、何も成せぬ後悔に囚われ死んでゆけ」
236その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 22:59:40.37 ID:ZZLkQngY0
「テリーといったか」

今度は、異なる声が響く。

「私は、全てを思い出した」

ゆっくりと語るのは、進化の頂点。
数多の生物を超えた存在が、厳かに語る。

「力は、即ち無力だ」

力の果てであるそれが言い放つその言葉は、重石の様にテリーを縛りつける。

「どれだけ力を持ち、技を磨こうと。
それは何も救えない。
それは何も拓けない。
思い知るのはただ一つ、自分の無力だけだ」

全てに絶望したかの如く―――いや、実際に絶望に塗り潰されて。
その台詞は不協和音となり心を喰らう。

「自らの無力を嘆き、喘ぎ、呪いながら死んでゆけ」

能面の様に感情を押し殺した、絶望の塊が告げた。
237名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/16(月) 23:00:14.12 ID:pRJhXvhO0
 
238名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/16(月) 23:01:24.58 ID:pRJhXvhO0
 
239その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:01:56.92 ID:ZZLkQngY0
「は」

そうか。

「ははっ」

これが、自分の絶望か。
全く、なんて。
なんて―――

「下らない」

吐き捨てる。
その目は光を失わず。
その体は希望に満ちている。

「無力なのも無理なのも無茶なのも分かってるさ。
そんなのは自分が良く知っている」

魔王が語った事は間違っていない。
自分は無力だ。
何も成せない。
そしてそんな自分を呪い、だがそれを覆すことなど出来ないでいる。

「だけど!!」

―――だけど。

「そこで諦めたら、絶望したら、何も変わらないんだよ!
解ってても、進めば何かが変わるって、そう信じて行けば!
本当に変わるかもしれないだろうが、救えるかも知れないだろうが!」

歩き進んだその一歩は。
無理でも。
無茶でも。
無力でも。
240名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/16(月) 23:01:58.86 ID:pRJhXvhO0
 
241その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:02:48.48 ID:ZZLkQngY0
「例え何も遺せなくても、やるだけやってみたなら」

決して、無駄ではないから。

「そこには、何かがある筈じゃねーか。
後悔しない何かがな」

思い出す。
何故自分はあの小さい時、姉を追わなかったのか。
もしかしたら、そこで再開できたかも知れないのに。
何故自分はあの時、姉を見捨てたのか。
例え救えなくても、もう少し彼女は安らげたかも知れないのに。
何故あの時自分は、もっと早く立てなかったのか。
そうすれば、彼女はまだ生きていたかも知れないのに。
たらればの後悔は、全て後から気付くけれど。
それでも、全力を捻り出していれば変わったかもしれなくて。

「なら―――手前の絶望くらい、後悔しないレベルでぶっ壊すさ」

なら、もう諦めない。
魔力の一滴、力の一筋まで絞り出しても、目の前の道を開いて。
そうやって、後悔せずに突き進んだなら。
もうその時の後悔を全て破壊出来たなら。

「あいつらに、また会うためにもな」

そこに、彼女達がいる筈だから。
242その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:03:19.36 ID:ZZLkQngY0
「一つ、どうでもいい話をしよう」

何処かで、声がする。
声の主は青年。

「ある、魔王の話だ」

手元の分厚い書物を紐解き、彼は語り始めた。

「昔、あるところに一体の魔王がいました。
彼は入念に危険な存在を排除し、世界を征服しようとしていました」

「彼の目的は、人間の絶望。
とりわけ、人が死ぬ時に浮かべる、数多の絶望の混じりあった感情。
それが彼の生きる目的であり、悦びでした」

「そんな魔王は、ある時勇者という、未だに残っていた人間の希望を発見します。
地上で生まれたそれは、瞬く間に部下である魔物達を蹂躙し、地上の魔王とされていたバラモスさえも倒してしまいました」

「ならばと魔王は自分の存在を明かし、たちまち地上を再び絶望に包みます。
そして、やはり勇者はやってきました」

「勇者一行が着々と自分を滅ばす準備を終えて、遂に居城へと向かってくると聞き、魔王は悦びに震えました。
最後の希望である彼等を殺した時、どれだけの絶望を人間が抱くだろうか。
そして何より、その時勇者一行はどんな表情で絶望していくのだろうかと」
243その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:04:01.37 ID:ZZLkQngY0
「しかし、遂に玉座の前まで辿り着いた勇者一行を見て、魔王は驚愕しました。
一つは、その強大な―――破壊の神すら破壊しかねない、彼等のその力に。
そして、もう一つ」

「世界を救う勇者が抱くものとは思えない、深い深い絶望に」

「魔王は問いました。
『何故もがき生きるのか』と。
勇者は答えました。
『自由になる為だ』と」

「魔王には分かりませんでした。
ともすれば自分より深い絶望を負って生きる彼等が。
拳を交えても、その強大な力と絶望だけが伝わってきます。
そうして魔王は、疑問の内に滅ぼされました。
断末魔として投げ掛ける、最期の絶望として刻み込む筈だった言葉すら出てこない程に」

「魔王は死ぬ間際、考えました。
こんなものではない筈だと。
人間はもっと希望に溢れ、だからこそ散る間際に見せる、死にゆくものの絶望こそが美しい存在の筈だと。
そんな、夢を見ました。
闇の極みの様な、絶望そのものを望む夢を」

「そして―――」
244その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:04:34.50 ID:ZZLkQngY0
「一つ、どうでもいい話をしましょう」

また、何処かで声がする。
声の主は人外の少女。

「ある、男の話です」

手元にある、厳かな書物を紐解いて。

「彼は元々、人間を憎み、滅ぼそうとしていました」

「そんなある時、彼は一人のエルフと出会います。
彼女がルビーの涙目当てに人間に狙われていたのを助けたのが、始まりでした」

「最初は彼女を巻き込ませないようにした男でしたが、その内にお互いがお互いを大切に思う様になっていました。
そんな時、ある事件が起きます」

「人間が何処からか彼女の居場所を暴き、男が留守にしている間に彼女を襲ったのです。
そのやり方は、か弱いエルフの少女にとっては、致命傷となるものでした」

「男が駆けつけた時には、もう手遅れでした。
少女は、その腕の中で、最期に愛の言葉を捧げ、死んでいきました」

「男は自分の無力を心から呪い、人間を心から憎みました。
そして、未だ未完成だった進化の秘法を自らに施しました。
全ては、彼女の為に。彼女を殺した人間を滅ぼす為に」

「進化の秘法により、何も思い出せなくなった彼は、地底の山にて静かに力の完成を待っていました。
そんな時、ある人間達がそこにやってきたのです」

「何も思い出せない彼は、それもまた滅ぼすべき人間だと考えました。
ですが、その中にいた、生き返ったエルフの少女の涙を見た時、男は全てを思い出しました」
245名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/16(月) 23:04:56.10 ID:d7wxPlun0
 
246その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:05:35.50 ID:ZZLkQngY0
「自分を取り戻した男は、勇者であるその人間と共に元凶であった部下を倒し、再び少女の住む丘へ帰っていきました」

「男は、考えました。
今や誰よりも大切な彼女を守るには、どうすればいいのか。
そんな事を考えていた時、彼はその殺し合いに招かれました」

「殺し合いが始まった直後、彼は一人の少女と出会います。
彼は、その面影に、この殺し合いに招かれなかった想い人を探していました」

「勿論、そうしている自分には気付いていました。
ですが、それが最早執着である事に、彼は気付いていませんでした」

「少女はある一人の青年の死に壊れ、彼を殺そうとしました。
不意を突かれ地に伏した彼は、それでも呼び止めようとして。
ここにはいない、最愛の少女の名を叫びました」

「彼は気付きました。
自分が彼女に囚われ、どうしようもなくなっていたのだと。」

「ならば、自分はどうすればよかったのか。
ただ、助ける力が欲しかっただけなのに。
彼は死に際に、そんな夢を見ました」

「そして―――」
247名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/16(月) 23:05:36.03 ID:d7wxPlun0
 
248名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/16(月) 23:06:35.78 ID:d7wxPlun0
 
249その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:06:39.47 ID:ZZLkQngY0
「ふ…ふふふ…」

ふと、くぐもった笑いが響く。
それを洩らすのは、大鎌を握る修羅。

「は…はは…ふははははははははっ!!」

その笑いはやがて、周囲の闇をも包み込むような大音響へと変わる。
邪悪に満ちたそれを止め、修羅はテリーへと語りかける。

「成る程、それが貴様の生きる意味か。
いいだろう、何時かの絶望に囚われた勇者よりも面白い」

修羅が浮かべるのは、絶望を欲する欲望の笑い。
その一方で、進化の頂点である魔王は、僅かにその動きを止めていた。

「貴様、は…」

だが、目を閉じて、再び見開いた時。
宿りかけていた光は、再び見えなくなっていた。

「…何があったとしても。
私はもう終わっている。何も、出来ない」

そんな魔王達の言葉に、テリーは問いかける。

「アンタたち、単なる俺の記憶…って訳じゃあ、ねえのか」

問いに答えを返すのは、修羅。
嬉しそうに答えを返す彼の周囲に、紫電が踊るように舞う。

「どれ、そろそろ…余興は終いだ。
さあ、貴様の絶望を見せろ」

呼応するように、サイコピサロもまた光を纏わせる。
間違いなく―――これまでで、最強の一撃。
そして、テリーもまた目を瞑った。
250名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/16(月) 23:07:27.73 ID:d7wxPlun0
 
251その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:07:37.82 ID:ZZLkQngY0
「ふん、中々筋がいいな。結構な上達具合だ」

「…はっ、うるせえ…」

「おまけに威勢も溢れている。全く、面白い人間もいたものだ」

「…うるせえっつってんだろ!」

「そう噛み付くな、…そうだな。
単純な強さ、とは違うが、面白い物を教えてやろう」

「…なんだ、それは」

「児戯の様だが、それでいて地獄の雷を放てる―――まあ、遊びの一種だ。
どれ、やってみる気はないか?」

「その地獄の雷ってのがありゃ、あんたにも一撃叩き込めるか?」

「少なくとも、この私を以てして深手を負うようなものではあるな」

「…いいだろう、教えてくれ」

「ふん、本当に威勢がいい。
では、行くぞ」
252名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/16(月) 23:08:06.16 ID:d7wxPlun0
 
253その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:08:39.29 ID:ZZLkQngY0
「もう、やめてくれ」



「なんで、あんたは何時もそうなんだ」

「あの時だってそうだ、俺のことなんて考えちゃいない」

「オレは、もう姉さんに守られるほど弱くないんだ」

「なのに、なんで」

「なんで、オレを見てくれないんだ」

「あんたの中のオレは、ずっと固まったままなのか」

「答えてくれよ」

「なあ」

「オレを」

「見てくれよッ!!」



「……そうかよ」
254名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/16(月) 23:08:54.29 ID:d7wxPlun0
 
255その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:09:30.11 ID:ZZLkQngY0
右腕に宿すは、嘗て力を求めていた頃の一つの思い出。
今となっては遠く昔の様に思える、あの城にいた時の鮮明に覚えている数少ない記憶。
あの戦闘狂である魔王に戯れとして教わった「遊戯」を、今再び呼び覚ます。

「この力は、置いていく」

そして、それを使うのはこれが最後。
力への執着を断ち切る為に、今目の前にある、形となったそれを迎え撃つ。

「でもって」

そして。
左腕に宿すは、自らの姉を葬った業。
今もしっかりと心に刻まれたあの光景が、瞳の裏をよぎる。
はぐれメタルの職業、その極地に至った者が放てるその爆発を、今再び練り上げる。

「この未練も、置いていく」

その幻影を見るのも、これが最後。
戒めの光景に囚われ続けては、先に進む事は出来ないから。

「俺からの餞別だ…受け取りやがれ、絶望共」

―――そうして、彼は跳ぶ。
同時に、二体の魔王もその絶望の光を解き放つ。
地獄の雷と、創成の爆発が。
創成の爆発と、光の剣撃が。
ただ相手を貫かんと叫ぶ様に空気を震わせて。
256名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/16(月) 23:10:24.13 ID:d7wxPlun0
 
257名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/16(月) 23:11:08.15 ID:d7wxPlun0
 
258名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/16(月) 23:12:19.38 ID:d7wxPlun0
 
259名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/16(月) 23:13:03.10 ID:d7wxPlun0
 
260その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:13:23.19 ID:ZZLkQngY0
そして、その荒れ狂う風すら後押しにするように、剣士が舞い上がる。
その手に握られる剣の名は、雷鳴剣ライデン。
ビアンカが行った錬金によって生まれ変わる、その前の姿は―――雷鳴の剣と、そう銘打たれていたもの。

「天を貫く轟雷の咆哮よ、金色の光を呼び覚まし、共に振り下ろさん」

その剣は知っている。
溺れていた力への執着も、それを取り巻いた戦いも。

「地を照らす狂雷の雄叫びよ、漆黒の光を渦巻かせ、共に打ち砕かん」

その剣は知っている。
守りたいものを護れなかった後悔も、そんな自分への憎悪も。

「疾風召雷、火焔統雷」

そう、それは絶望の時、ずっと共にいた剣。
彼にとっては、全ての過去の悔恨を宿した刃。
だからこそ、この闇の中において。
その剣には、二重の電磁が絡みつく。
勇者の雷が、地獄の雷が、鮮やかに彼の姿を映し出す。
テリーにとっての全ての過去が、その光へ溶けていく。
彼を縛っていた全てが、雷の形となって明滅する。
            ギガスラッシュ   ジゴスパーク
そうして生まれたそれは、勇気の斬撃でも、地獄の雷でもない。
顕現するのは、巨大な覇王の剣。

「呑み込め、雷鳴剣…ライ、デェェェェェェェェェンッ!!」

そして、それは放たれた。
261その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:13:54.70 ID:ZZLkQngY0
渾身の一撃が叩き込まれた事を確認しながら、テリーはゆっくりと落ちていく。
その四肢に力はなく、握りしめていた剣がその手からこぼれ落ちた。
―――ふと、色々な事を思い出す。
嘗て、姉がいきなり変な魔物に連れ去られた事。
彼女を王に献上すべく拐おうとした盗賊団に挑み、呆気なくあしらわれた事。
力を追い求め戦い続けていた時に、いきなりあの魔王から呼び止められた事。
その魔王の下で力を磨いていた時に、突如現れた男達と戦い、そして負けた事。
魔王が屈し、敗北を選んだ時、最愛の姉が自分を呼んだ事。
彼女達と共に、世界を救わんと戦った事。
そうして全てが終わったと思った直後、この殺し合いへと招かれた事。
いきなり危なっかしい行動をする少女と出会い、共に歩いた事。
凶悪かつ強大なあの武道家といきなり戦い、何とか逃げ出した事。
血塗れとなり、それでも狂いながら襲いかかってきた姉を、自らの手で終わらせた事。
嘗ての戦友やその仲間と出会い、僅かな談笑を交わした事。
最初に戦った武道家と再び戦火を交え、共にいた、―した少女を喪った事。
―――全て、全てを思い出し、彼はそれが走馬灯であることに気が付いた。
既に光は収まり、その中で立ち上がった修羅が此方を見下ろしている。
その拳が、自らへと降り下ろされようとされている事が分かる。
262名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/16(月) 23:14:35.60 ID:d7wxPlun0
 
263その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:14:31.42 ID:ZZLkQngY0
―――なんだ、オシマイかよ。

心の中で、諦めが去来する。
結局、自分はもう進めないのか。
そんな言葉が、テリーの心を呑み込んで。

―――あー、畜生。
―――こんなんじゃ、顔向けできねーかな。

後悔する。
もう少し何か出来なかったかと。
もう少し何か成せなかったかと。
もう大して動かないその体が、精神すらもゆっくりと闇に包んでいく。

―――、なんだ。

そして、テリーは笑う。

「まだ、足掻けんだろうが…っ!」

万力を込めて、魔王の拳を打ち払う。
意外そうな顔をした修羅は、だけれど嗤う。
何故かとその視線の先を追い、テリーもすぐに理解する。
既に、もう一体の魔王も立ち上がり、拳を握っていた。

―――あ、ダメだ。
―――もう、動かねえや。

限界に達した体は、浮遊の風圧から満足に逃れることも出来ず。
264名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/16(月) 23:15:01.86 ID:ZZLkQngY0
「―――な」

だが。
拳がテリーへと届く事は無かった。

「悪いな」

それはある男の見た夢。

「だが、私もまた、気付かせてもらった」

あるエルフを想い、その復讐の為に力を得ようとして失敗した男。

「彼女の幻影を求め、戦った」

そして、ある勇者と愛したエルフに救われ、正気へと戻った男。

「全ては、再び彼女を喪いたくないが為に」

その男は、何も"彼女"に為す事が出来なかった。

「そして、"彼女"を裏切ったんだ」

幻影に囚われ、また彼女がいなくなるのを畏れて。
彼は、"彼女"に少女を重ねた。

「もう私は誰にも逢えはしない」

そして、悲劇は起きた。
自らの利己的な行動が、全てを壊してしまった。
それに絶望し、彼は無力を、弱さを嘆き、ここまで堕ちていた。
強さを求め見た夢は、結局全てを思い出させ、希望を打ち砕いた。

「だが」

だけれど、テリーの言葉は、それを覆した。
無力でも、無駄にならないその行動は。
もう逢えない彼女が見たら、笑ってくれるとそう思えたから。

「無駄ではないなら、私にもまた―――進ませてくれ」

だから今、"ピサロ"は拳を振るう。
自分の憎悪をも喰らっているであろう修羅へ。
それが、少女と"彼女"への、せめてもの償いになると信じて。
265その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:15:38.30 ID:ZZLkQngY0
進化の頂点の拳が、修羅の顔面へと突き刺さる。
その一撃は、正しくこの世に越える物がないと言える剛力。
数多の生物を超越した真なる進化のそれは、アスラゾーマを易々と吹き飛ばした。
すぐさま潜り込み、二発目をその腹へ叩き込む。
痛恨という言葉すら形容出来ない一撃が、修羅の体躯を打ち崩す。
だが、アスラゾーマもまた闇の頂点。
放たれた真紅が咄嗟に翻したマントを焼き焦がし、その影の左腕を燃やし尽くす。
その一瞬は、されど形勢を逆転させるには十分な時間。
修羅の右足がピサロの下腹部に突き刺さる。
よろめく進化の頂点に、追撃が放たれる。
―――閃く、一筋の矢。

「まさか、よ」

それを放ったのは、力尽きたはずの男。
その目は再び闘志に燃え、光に満ちる。

「絶望にまで助けられるなんて、思ってなかったぜ」

そして、テリーは―――咆えた。

「なら、少しは根性見せねえとな!」

立ち上がる二人の目には、覚悟と希望が溢れ。
そんな彼らを見て、修羅が目を閉じる。

「まさか、絶望までもが、新たな希望の下立ち上がるとはな」

その声が表すのは、これ以上ないほどの―――悦び。

「貴様等―――素晴らしい、素晴らしいぞ!
その輝くような魂を今、絶望へと変えて見せろ!」

全ての目が一斉に見開かれ、絶大な雷が修羅を包む。
それが最後の一撃であろうことは、簡単に理解できた。
サイコピサロは、再び創世の爆発の詠唱を奏で。
テリーはある一冊の書物と共に爪を取り出し、渾身の力を込める。
元々覚えていた技ではなく、新しい道を往く為の、新たなる一撃を放たんと。
266名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/16(月) 23:15:39.30 ID:d7wxPlun0
 
267名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/16(月) 23:16:26.39 ID:d7wxPlun0
 
268その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:16:34.93 ID:ZZLkQngY0
―――そして、全てが放たれる。

最初に起きたのは、爆発と閃光の衝突。

ピサロが放ったビッグバンと、アスラゾーマが振るうギガスラッシュが、世界そのものを震わせるような音と共に輝く。

互いに全力を集い放ったそれは、激しい光の後、ゆっくりと消えていく。

その下で、テリーは駆ける。

構えた爪は徐々に魔力を集わせ、神の一撃を形作っていく。

―――笑う、アスラゾーマ。

大鎌に更なる雷が宿り、一瞬にして新たな斬撃が完成する。

修羅が目を閉じていたのが、攻撃を連続して放つ為の精神統一だと。

ようやくテリーが理解したその時には、すでに大鎌が降り下ろされていた。

ゴッドスマッシュは、まだ完成していない。

そして、爆風の中を、斬撃が駆け抜けた。
269名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/16(月) 23:17:03.17 ID:d7wxPlun0
 
270名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/16(月) 23:17:28.45 ID:d7wxPlun0
 
271その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:17:45.22 ID:ZZLkQngY0
究極の攻撃が生み出した爆風が収まり、再び闇に静寂が戻る。
まるで何事もなかったかの様に静まり返る、漆黒の世界。
―――ふとその中に響く、弱々しくも確かな息遣い。
テリーは目を見開き、自らの生を実感する。

「生きて、いるのか…」

自分でも信じられない。
あの激突の中、自分が生き延びたことも。
―――そして、その理由であると思われる、あの光景も。
ボロボロとなったその体に死力を込め、立ち上がる。
震える脚が、いや、その肉体の全てがとうに達した限界を訴えるが、構わず再び歩き出す。
暗い闇の中にまだよく見えない目を凝らし、彼はそれを見つけた。
斬撃の痕をその身に刻み、倒れ伏せた進化の頂点。
ゆっくりと巨大なその体躯へ歩み寄り、手を当てる。
感じるのは、微弱でありながら熱く響く脈動。
生きている事を確認し、テリーは自分でもよく解らない息を着く。

―――庇われた、のか。

あの衝突で。
放たれた二の閃光を受け止め、自分が爪の一撃をもう一体の魔王へと叩き込む為の道を開いたのは、紛れもなくこの魔王だった。
ともあれ、それで彼が死んでいないことに僅かに安堵し、改めて周りを見回して。
―――再び、それを見据える。

「…剣士テリーよ。
よくぞ、よくぞここまで私を打ち砕いた」

強大な光に貫かれ、今にも滅ぼされんとしながら尚威厳を失わぬ、修羅の姿を。
272その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:18:27.77 ID:ZZLkQngY0
「まだ生きてやがるのかよ、全く」

軽口を叩き、弓をその手に握る。
だが、憎悪の魔王はその顔を笑みの形に歪め、言い放つ。

「なあに、もう立てんさ。
貴様のあの一撃、なかなか効いたぞ」

「はっ、お褒めに与り光栄だな。
だけどよ、んなに簡単にくたばってくれるなんて話があるかよ」

「疑うのもいいが、嘘ではないぞ。
此方も先の奥義の連発には参ったからな。
それに、進化の頂点の拳など、まともに受けきれる訳があるまい」

「…ふん、どうだか」

語り合う戦士と魔王。
その声が静かな暗黒の中で響く。
自分が抱いた絶望と会話する、という事に違和感は感じない。
ある意味では『自分と話している』なんて風にも言えるのかもしれない。
それくらい、彼等は自然に語り合っていた。
だが、そんな会話も長くは続かない。

「…ま、話はこれくらいにしようや。
俺は、そろそろ進ませてもらうさ。
まだ、止まってはいられないからな」

何時までも話している訳にはいかない。
目の前の自らを乗り越え、あの幻想すら乗り越えて、いつか真の強さを手にする為に。
テリーは弓を構え、弦を引く。

「…テリーよ。最後に問おう。
その、貴様の進むという道について」

そんな戦士へと。
憎悪の化身は、最後の問答を仕掛ける。
273その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:18:52.98 ID:ZZLkQngY0
「貴様がその道を歩み、光を掴む時。
そこには必ず闇があり、新たな絶望が生まれていこう。
貴様がそうして生きていく限り、それは変わる事は無い。
何故ならば、光有る限り、闇もまた有るからだ」

その台詞は。
嘗てあの城の玉座にて、最期の言葉として勇者に言わんとした言葉。
その勇者が抱えていた絶望の大きさを感じ、言うことが出来なかった言葉と重ね合わせたそれ。

「貴様は、それでももがき生きるのか?
再び道の誘うまま闇に堕ちてでも進んで行くと、そう言うのか?」

嘗ての様に、また気付かぬ内に暗黒へと歩いていく事はないのかと。
それを問うのは、彼自身の絶望で。
そしてそれに答えるのもまた、彼自身だった。









「んなもん、俺が出来る訳ないだろうが」

最も、その解答は。
魔王が想像していたものとは、かけ離れたそれだったのだが。
274名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/16(月) 23:19:02.15 ID:d7wxPlun0
 
275その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:19:29.17 ID:ZZLkQngY0
「…何?」

思わず聞き返す。
恐らくは、もう負ける事はないと、そういった言葉が聴けるであろうと思っていた。
それならそれでいい、ただそれが出来るならだとも考えていたが、放たれたのはその考えも及ばぬ解答。
テリーはそんな疑問符を浮かべる魔王に対しニヒルに笑い、再び口を開いた。

「ハッ、意外そうなツラしてんな。
大方、もっと幸せ100%って感じの、あのロッシュの野郎みたいな答えを期待してたんだろうよ」

そこで言葉を区切る。
浮かべる笑みが自嘲へ変わった事が、アスラゾーマにも分かった。

「俺はそんな高尚な人間じゃないさ。
もしそうなら、あんな間違いだらけの道を突き進んで、しかもそれを正しいなんて思い込みはしないさ」

過去の彼は。
自分が間違っているなんて思いもせず、ただただ強さを求めていた。
それが善だと信じ、悪魔に魂まで売り渡したような人間。
それが、過去のテリーという男だと彼は言う。

「もし、後からいくら後悔と反省をしていたとしても。
そんな人間が、これは正しいと信じた道が―――
絶対に正しいし、闇に呑まれる筈がないなんて言える訳がないだろうが」

「ならば、何故貴様はこの道を進むとそう言える?
何故そこまで前を向いて進めるのだ?」

静かに魔王が言い放つ。
そこまで自分という存在を諦めて、尚も進むその訳が魔王には解らない。
その問いに、テリーは答える。
今度は、これまでのどれよりも明るい笑みを浮かべて。

「もう、俺は一人じゃないからな」
276名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/16(月) 23:19:37.25 ID:d7wxPlun0
 
277その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:19:55.67 ID:ZZLkQngY0
ずっと孤独だった剣士は、ずっと一人で戦ってきた。
戦闘の隊列を組んだとしても、その心は一人、誰よりも強いところへ向かおうと必死で。
ただただ一人だった剣士は、一人の少女に出会って。
初めて、支えあうという事を知った。

「もしまた間違えたとしても、そんな俺を止めてくれる人間がいる」

だから、嘗ての様に独り善がりの道を進むのではなく。

「だから、俺は先へ進む。
その中で挫けても、闇に堕ちそうになっても、俺は戻って来れるさ」

進む道を支え合える人が、今いると胸を張って言える。

 ここ
「心の中に、あいつらがいるから」

ロッシュが。
ハッサンが。
バーバラが。
チャモロが。
アモスが。
ドランゴが。
そして―――守りたかった姉と。
その命尽きるまで共にいてくれた、愛する少女が。
今、テリーを先へ進めてくれる。
だからこそ、彼はもう迷わない。
目の前の道を、まっすぐに進む。
もし間違っていても、迷ったその先で泣き崩れても、彼等がまた自分を導いてくれるから。

「…ふっ。
いいだろう、その道を進め。
貴様の信じる人々と共にな」

「ああ、そうさせてもらうさ」

修羅は厳かに微笑み、戦士は静かに弦を引く。
―――決別の、時。

「もしも貴様がまた闇を抱えたならば、再び私が逢い見える事になるだろう」

「なら、あんたの顔はもう見なくていいって事か」

「貴様の荒んだ面を拝めるのは待ち遠しいな」

「安心しろ、もう見ることはないさ」

「ふん、『光有る限り闇もまた有る』のだぞ?」

「気に入ってんのか?その台詞」

「どうでもよかろう。…よもや、忘れるなどせんだろうな?」

「…忘れないさ、覚えとくよ」

「…さらばだ。また会おうではないか」

「もう会わないさ、永遠に」
278名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/16(月) 23:20:28.04 ID:d7wxPlun0
 
279その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:20:38.63 ID:ZZLkQngY0
「ぬ…ぐぅ…?」

「ようやくお目覚めかよ、全く」

ゆっくりと声を上げるサイコピサロへと、テリーは話しかける。

「アスラゾーマは、どうした…?」

「奴さんなら、ついさっきくたばったさ」

「…そうか」

心なしか少し明るくなった闇の中で、巨体がゆっくりと立ち上がる。
閃光の斬撃痕が爛れ、嫌な音を立てて燻る。
焼け落ちたマントの残骸が崩れ、ゆっくりと消えてゆく。

「庇ってくれたこと、ありがとよ」

「何、僅かにでも、貴様を先に進めるという結果を残すことが出来た。
それで、私は満足だ。胸を張るとまではいかないが、もう未練はない」

そして、彼は気付く。
その体表から、まるで夢の様に美しい輝きが漏れていることに。
魔王の体が、ゆっくりと光の粒子へ変わっていく。

「…時間、か」

ピサロもまた、呟く。
だがその言葉から感じられるのは、一つの達成感。
やるべきことを、成すべきことを最期に遺せたその心が、ゆっくりと満たされていく。

「ミー………ィ…ア、ロ……リー…」

最期の言葉は光に包まれ、テリーの耳に届くことは無かったが。

「…アンタの大切な奴に、届いたかよ」

それでもいいと、彼はそう思い、再び歩き出した。
280その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:21:11.14 ID:ZZLkQngY0
ゆっくりと光が差し込む中で、先程落とした剣を拾う―――と。
僅かに、その肉体が癒える。
気付くと、光の粒子が彼の体に幾つか入り込んでいた。
極まった進化の力が、その肉体を未来へと後押しする。

「…最後まで、助けられてばっかだな」

だが、少しくらいそれに寄りかかっても。
それで未来へ進めるならば、それでいいだろう。
光へと、彼はゆっくり歩み始めている。

【"夢"】
【テリー@DQ6】
[状態]:HP1/10、MP1/5 秘法の力を僅かに吸収
[装備]:雷鳴剣ライデン@DQS、むげんの大弓@DQ9、オーガシールド@DQ6
[道具]:支給品一式、竜王のツメ@DQ9、ツメの秘伝書@DQ9、キメラの翼@DQ3
[思考]:本当の意味で強くなる
[備考]:職業ははぐれメタル(マスター)
(経験職:バトルマスター・魔法戦士・商人・盗賊追加)
   サイコピサロの進化の秘法の一部が、僅かに肉体に取り込まれました。
281名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/16(月) 23:21:11.78 ID:d7wxPlun0
 
282その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:22:12.88 ID:ZZLkQngY0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
















「そうして魔王は、ゆっくりと消えていきました。
彼が死に際に見せるであろう絶望を、その目に焼き付ける事を楽しみに待ちながら」

そこは、果たして何処なのか。
延々と語り続けた青年が、遂に口を閉ざした。
そして、彼はおもむろに手を伸ばす。
その先にある一筋の刃を握り、無造作に引き抜く。
そうして、彼は振り返りながら、再び口を開く。

「そうして、再び闇に還った魔王を待っていたのは」

彼の目の前の空間が歪み、修羅がゆっくりと顕現する。
目を開いたアスラゾーマは、目の前にいる彼を見据える。

「自由になった、勇者でした―――なんて筋書き、どう思うよ」

「下らん」

語った全てを一息に否定され、アレルは笑う。

「おいおい、そりゃ流石に無粋じゃね?
こちとら、ご丁寧に解説までしてやったんだからよ」

「ふん、そんなものが必要だと思っているのか。
結論など、自分しか知っていればよい。
誰よりもその個人、人間らしい絶望こそに意味があるのだから」

「そうかよ、じゃあもうこいつは必要ねえな」

そう笑って、アレルは書物を切り裂く。
それは、全ての生命に存在する、その現実を綴った一つの物語。
霧散していく自らの冒険の書を眺めた後、修羅は再び彼と向き合う。

「これで私も完全に夢物語、か。
まあ、夢想の中にさえ絶望を見出だす人間が居てくれるお陰で、退屈はせんだろうがな」

「それなら悪いが、お前さんは退屈すると思うぜ」

修羅の言葉を受け、勇者は反論を返す。
283その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:22:46.60 ID:ZZLkQngY0
「なんせ、人間ってのは―――どんだけ絶望を描いても、最後には希望を作っちまうからな。
最も、勇者に頼りっぱなしの馬鹿共が描くエゴ丸出しの夢を見るのは、俺はもう飽きたけどな」

そして、剣を構える。

「ってことで何だが、暇潰しに付き合ってくれや。
なんだかんだ言っても、コイツは結構楽しいんだ」

その表情は、何時かのそれとは違う。
絶望を全て投げ棄てて、この夢の中で自由という希望を手にした彼の。
初めて味わう自由な闘争を歓迎する、満面の笑み。

「…成る程、いい希望の表情だ。
その希望を、とびきりの絶望に仕立てるのが楽しみだ」

それを見て、アスラゾーマもまた笑う。
その表情が絶望に変わる様を、この目で味わいたいと心から悦んで。

「アレルよ!!
なにゆえ、もがき生きたのだ?」

「テメェの自由を、何より楽しむ為だ!」

「滅びこそ我が喜び、死に行くものこそ美しい!」

「そうさ、死んで手に入った自由こそ楽しいぜ!
ま、だからと言って…」

「さあ、我が腕の中で息絶えるがいい!!」

「この自由は俺のもんだ!!
貴様なんぞにゃやれねえなあ!!」

そして、永遠の夢幻の中で。
自由と絶望が、終わりなき戦いを始める。
284その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:23:37.94 ID:ZZLkQngY0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――















「そうして、男は消えていきました。
最期にしたその行動は、恋人に少しでも届いた筈と信じて」

エルフの少女は、ゆっくりと読み終える。
その目から、ぽろぽろと涙を流しながら。
止まらないそれは、しかし暖かい手に遮られる。
見上げた、そこにいる男の姿を見て、少女は小さな声を上げる。

「あ…」

男は、ゆっくりと彼女が持っていた書物を取り上げる。
手に握られたそれが、一瞬にして燃え尽きた。

「…っ!?」

声にならない悲鳴を上げる少女に、男は笑いかけ。
ゆっくりと、口を動かす。
「ロザ、…リー…」

その声は、今にも消えそうで。
それでも、その感情を伝えるには十分な言葉を綴っていた。

「………愛、して…いる……」

その台詞に、少女は思い出す。
それは、あの時と真逆。
自分は、遺すのではなく、受け取り。
彼が、受け取るのではなく、遺す。
だけど、あの時と違うのは。
自分の様に、叶わぬ希望を、諦めを遺すのではなく。
彼がせめて何か、現実を遺そうとしている事で。
もう声もなく、それでも彼はゆっくりと彼女へ、その手を―――
285その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:24:07.81 ID:ZZLkQngY0
小鳥の声が、朝焼けに小さく響く。
ロザリーはゆっくりと目を開き、涙を拭いた。
数日前から姿を消していた、愛する人の夢。
只の夢である筈なのに、それを否定するのは出来ない。
恐らく、彼は戻ってこないと。
そう、彼女自身がよく解っていた。

「ピサロ様」

名前を呟く。
だけど、涙は流れない。
何故ならば。

「いつまでも、ずっと」

そこに彼が居なくとも。
自分が抱いたその夢の中の中に、彼はいる。

「私の、夢の中で」

それは、あの姫の様な狂気の様で、そうでない。
もう彼が姿を見せてくれる事が無いのは、解っている。
それでも、彼女は想う。
夢の中で、きっとまた彼に会えると。
現実ではなく、けれどそれは決してウソでは、『何もない』訳ではないから。
頭に乗った手の温もりが、まだここにあるから。

「…また、会いましょう」

男が遺した、遺す事が出来たその希望を抱き、彼女は生きてゆく。

【修羅たる憎悪@DQBR2nd 夢散】

【真なる進化@DQBR2nd 夢散】
286名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/16(月) 23:24:26.48 ID:d7wxPlun0
 
287その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:24:52.65 ID:ZZLkQngY0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――























「どうでもいい、本当にどうでもいい話を、最後に語ろう」

眠り続ける地獄の帝王が、夢の中で静かに声を上げる。

「彼は、この夢の終着点で、三体の滅びの化身と戦った。
真なる進化。
修羅なる憎悪。
破滅の極み。
そして、最後の滅びの化身である真なる竜の王は、赤毛の魔術師にその僅かな力を残した」

それは、あるいはただの妄想。
だが、夢と妄想は完全に異なるものか―――答えは、少なくともイエスではない。

「彼自身が得た進化の秘法に、滅びを齎す魔王の力の残滓。
そして、もはや決して潰えない、彼の心が全てを一つにした時。
―――何が、起こるだろうか」

その妄想は、意味を成すのか。
それすらもまだ解らないまま、地獄の帝王は再び深淵の眠りに落ちた。👀
288その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:25:37.10 ID:ZZLkQngY0
これにて投下終了です。
289名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/16(月) 23:38:38.43 ID:d7wxPlun0
投下乙です!
すげえ、なんていうか、もうすげえ。
絶望から救いへ、そして前へ。
魔王よりも深い絶望が、魔王を砕くというワードも。
ゾーマ様の格好良さも、救われたピサロも。
そして何より、テリーがかっこよくて、もう……!
290名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/17(火) 00:04:06.74 ID:cG5YL3uZ0
最終決戦からめっちゃはしゃぎ回ってるアレルくんマジ自由人w
291名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/17(火) 03:29:23.25 ID:ShCf4tqp0
モンスターズの魔王達みんなかっこよすぎるだろう
292名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/17(火) 03:50:17.64 ID:GMUjMNer0
まるで大魔王のバーゲンセールだな……

登場人物がみんな格好いい。テリーが一番どう切り抜けるか気になっていたが、こんなに熱い展開になるとは。

「夢の世界」をこれでもかとうまく使いこなす書き手の皆様に感動を覚えると同時に、その設定を作り上げた堀井先生の偉大さをしみじみ感じます。

投下乙です!
293名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/22(日) 03:46:36.33 ID:0M9CwXbM0
294名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/22(日) 17:52:55.26 ID:0M9CwXbM0
 
295流星、銀に輝け ◆CruTUZYrlM :2015/02/24(火) 00:28:08.19 ID:+BD/GDnx0
時は少し遡る。
この最後の戦いが始まる、少し前の話。
決戦の地へと向かうため、ヘルハーブの井戸に飛び込んだ一行。
真っ暗闇の中、光を見つけたテリーが真っ先に叫んだ。

「みんな! こっちだ!」

そしてその光を見失わないように体を傾けながら、一番近くにいたソフィアの腕を掴む。
連鎖するようにソフィアがカインを、カインがゼシカを、ゼシカがビアンカを、ビアンカがゲロゲロを。
最後に、ゲロゲロがロッシュの腕を掴んだ。
そして、闇を切り抜けた先で最後の戦いは始まった。
ここまでは、皆が記憶しているとおりだ。

だが、ここで一つだけ、忘れていることがある。

「おい、ロッシュ」

ビアンカが錬金で道を切り開かんとしていたとき、テリーがロッシュに問う。

「うるふわ、どこ行った」

共に飛び込んだはずの、一匹の狼の所在を。
彼が一人の少女とこの世界を旅した、証明ともいえるその存在を。
だが、その問いかけに対し、ロッシュは俯く。

「……届かなかった、ゴメン」

伸ばした手は、届かなかった、と。
連れてこようにも、連れてくることが出来なかった、と。
後悔の表情を浮かべたロッシュを見て、テリーは察した。
それ以上を問いかけることはせず、今はやるべき事をやるべきだと、頭を切り替えていった。
296流星、銀に輝け ◆CruTUZYrlM :2015/02/24(火) 00:28:38.79 ID:+BD/GDnx0
 


ひとつ、嘘をついた。
だが、テリーはおろか、その場にいる誰もがそれを嘘だと知り得なかった。
井戸の闇の中から光へと向かう途中、その最後。
ロッシュは、その存在を認識し、あまつさえ手を伸ばして救うことすら出来たはずなのに。
その手を伸ばさず、狼が闇に飲まれていくのを、ただ、じっと見つめていた。



暗い、暗い、闇の中。
一人取り残された狼が駆ける。
一点の光すらない世界の中、ただ狼は走り続ける。
進んでも進んでも変わらない景色と、突き刺さるように冷たい空気の中。
めげることもなく、ただ前へと突き進んでいく。
その先に"いる"気がして、仕方がないから。
じっとなんてしていられなくて、ただ、前へ進んでいく。
終わりはおろか"光"すら見えない。
自分が向かっている方角は正しいのかすら、分からない。
けれど、構うことなく足を進める。
息が上がっても、足がどれだけ重くなっても。
気にも止めることなく、ただただ走り続ける。

けれど、何事にも限界がある。
狼とて、それは同じ事。
体力の限界は、等しく訪れるものだ。
鉄枷が着いたかのように重い足、上がりっぱなしの呼吸。
立ち止まってはいられないと分かっていても、体が言うことを聞かないのだ。
前に、前に進まなければと思っても、たった一歩すら踏み出すことも出来ない。
一歩進むために持ち上げようとしても、持ち上がらない。
ただ、そこに立っていることしか、出来なかった。

そして、ついに。
狼は止まることを強いられ、力なくその場に倒れ込んだ。
急激に意識が遠くなるのが分かる。
溜まりに溜まった疲れが、自身の体に警鐘を鳴らしているのか。
抗うことなど出来るわけもなく。
その意識を、闇に落としていった。
297流星、銀に輝け ◆CruTUZYrlM :2015/02/24(火) 00:29:04.50 ID:+BD/GDnx0
 


目が覚めた。
そこに広がっていたのは、闇ではない。
一面に広がる草原と、雲一つ無い綺麗な青空。
澄んだ空気が、胸一杯に染み渡っていく。
どれだけ長い間眠っていたのかは分からないが、立ち上がれるくらいには体力を取り戻したようだ。
それを理解し、狼はゆっくりと立ち上がる。

「あら、めずらしい……」

それとほぼ同時に、声をかけられる。
声のする方を向けば、太陽の用に輝くドレスに身を纏った妙齢の女性が、狼をじっと見つめていた。
女性はまるで一国の王女のように美しく、思わず見とれてしまう。
緑が生い茂る中だからこそ、ひときわ目立つ姿は、正直眩しいくらいだった。

「どこから、いらしたのかしら」

女性はゆっくりと屈み込み、狼に笑いかける。
野生の狼だというのに、全く怖じ気づく事なく、手を伸ばしていく。
怯えることも警戒することもなく、狼は差し伸べられる手を待った。
ふわりと毛皮を撫でる、やわらかくて暖かい手。
ああ、なんて心地よい感覚なのだろうか。
叶うことなら、ずっとこうしていたいと思うほどだ。

「ローラ、どうしたんだい」

ローラと呼ばれた女性の後ろから、壮年の男性が声をかける。
威厳を持ちながらも、優しさを兼ね揃えたその姿。
半ば見とれるように、狼はその男を見続けた。

「いえ、狼なんて珍しいと思って」

投げかけられた問いに答えながら、ローラは狼を撫で続ける。
ローラの隣に男もゆっくりと座り込み、彼もまた狼へと手を伸ばす。
少しゴツゴツしている大きな手が、狼を撫でる。
だが、狼は嫌がらず、それを受け入れる。
何故なら、男の手もまた、違う暖かみがあったから。

「ひどく……疲れてるようだ」

撫でる途中、男は小さく言葉を呟く。
手先からあふれ出した光が、すうっと狼を包み込んでいく。
ローラの手とも、男の手とも違う暖かさ。
体の奥底から、力が沸いてくる。
正直、自分にまだこんな力があったのかと、驚いているくらいだ。

「どこかへ、行くんだろ?」

男の問いかけに、狼はじっと目を見つめ、こくりと一度頷く。
言葉は理解できなくても、気持ちは何となくわかる。
生まれた種族こそ違えど、通じるものは確かにあるのだ。
男と狼のやりとりをみて、ローラが「まあ」と小さくこぼしてから、ゆっくりと立ち上がる。
298流星、銀に輝け ◆CruTUZYrlM :2015/02/24(火) 00:29:46.42 ID:+BD/GDnx0
 
「でしたら」

そして、両手を広げて、空を仰いで。

「この歌を、持って行ってください」

歌を、歌い始めた。
綺麗な青空に溶け込むように、澄み渡っていく歌声。
それに呼応するように、木と草が揺れていく。
いや、それだけではない。
水が、大地が、空気が、生きるもの全てが。
まるで、"愛"を象っているように。
ローラと共に、歌を歌っていた。

歌が終わり、唐突に静けさが訪れる。
誰に向けたものでもない一礼と同時に、男の拍手が響き渡る。

「……いい歌だろ」

狼を見つめ、自慢げに男は笑う。
男は、もう何度もこの歌を聴いているのだろうか。
だとすればそれは、とても幸せな事だろう。
こんなにも暖かく、こんなにも優しい気持ちになれるのだから。

「俺がお前に託すのは、勇気だ」

その言葉と共に、大きな手で狼の前足を握る。
じっ、とそのまま、祈るように男は固まる。
ただ、前足を握られているだけ、それだけなのに。
心の底から、力と勇気がどんどん沸いてくる。
先ほどまで、鉛のように重かったはずの足は、もう重くない。
何が起こったのかわからない、とでも言いたげに、狼は男の顔を見上げる。
そんな狼を見つめ、男は満面の笑みを浮かべて、頭を撫でる。

「じゃあ、頼んだぜ」

それ以上、言葉は必要なかった。
やるべき事がある、そしてそれをやるだけの力を手にした。
立ち止まっている理由など、どこにもない。
狼はぺこりと頭を下げてから、どこかへと駆けだしていった。

「……行ってしまわれましたね」

走り去っていく狼を見つめる、二人。

「ああ」

決して手が届くことのない場所へと向かう、一つの希望に全てを。

「後は俺たちの"未来"が、頑張るのを見届けるしかないさ」

最後まで、見守っていた。
299流星、銀に輝け ◆CruTUZYrlM :2015/02/24(火) 00:30:11.93 ID:+BD/GDnx0
 


抜け落ちる、色。
崩壊していく、世界。
だが、狼は目もくれずに駆けだしていく。
止まってはいけない、止まってしまえば、そこで終わりだから。
見えなくなっていく足場に、怖じることもなく。
ただ、ただ前へと駆けだしていく。
まっすぐ、まっすぐ駆け抜けた先、闇に光がともり、色を作っていく。
瞬く間にそれは世界となり、狼を包み込んで――――



びゅうう、と凍えてしまいそうなほど冷たい風が、吹き抜ける。
突き刺さるように冷えた石の地面が、その冷たさを加速させる。
打って変わって狭苦しい場所に、狼は少し警戒心を強める。

「狼……? こんな場所に?」

聞こえた声、咄嗟に振り向いた先。
そこに鎮座していたのは、一人の男。
二対の燭台に挟まれ、玉座に腰を据えたまま、狼を見ている。
禍々しい気が張りつめる中、狼は喉を鳴らし、男を睨みつけた。
そんな狼の視線は気にも止めず、けれども驚いたような表情で、男は狼を見続けていた。
睨み合いが、続いていく。
まるで凍ったような時の中、風だけが吹き抜けていく。
そして、両者共に動かぬまま、しばらく経ったとき。
かつん、かつんと、もう一つの足音が響き始めた。


.
300流星、銀に輝け ◆CruTUZYrlM :2015/02/24(火) 00:30:45.90 ID:+BD/GDnx0
石段を上りきり、辺りをぐるりと見渡していく。
最上階の開けた部屋に、ぽつんとそこにある玉座と燭台。
そして、そこに居るのはたった一人。
今もなお世界を恐怖に陥れんとする、邪神官として恐れられる男、ハーゴンの姿だけだ。

「どうした、ベリアル」

石段を上り、最上階へと現れた黄色い悪魔、ベリアルへとは問いかけていく。
その問いかけを受け、ベリアルはもう一度左右を見渡して、答えていく。

「いえ、何か気配がしたものですから」

わずかな気配、ハーゴンとは違う何かを感じ取り、異常かどうかを確かめに来た。
だが、登ってみれば、なんて事はない。
いつもと変わらぬ、ハーゴンの姿がそこにあるだけ。

「フン、破壊神様の怒りにでも触れたのではないか?」

呆れたように笑いながら、ベリアルに答えていく。
玉座に構えたまま、肘をついて笑うその姿は、何よりも悪魔と呼ぶに相応しい姿だった。

「……ハーゴン様がご冗談とは珍しい」

ベリアルもまた、笑い返す。
だが、ただ笑い返すだけではない。
妙なのだ、目の前の男がそんな軽口を叩くことも。
そして、未だに"違和感"が拭えないことも。
もっと何か、別の。

「おいベリアル! 何やってんだよ!」

そこまで考えたところで、紫の毛に覆われた悪魔、バズズが慌てて登ってくる。
彼ほどの者が慌てているのだ、何事かと考えることもなく、二の句は予想がつく。

「敵襲だ! アトラスが食い止めてるッ! テメェも早く来るんだよッ!!」

想像通りの言葉が、待っていた。
ロンダルキアを突破し、この神殿へとたどり着かんとする者。
そんな事ができる存在は、限られている。

「では、失礼いたします」

真実かどうかわからない"違和感"より、今目の前にある危機だ。
頭を切り替え、一礼の後、ベリアルはバズズの後を追うように最上階を後にした。
301流星、銀に輝け ◆CruTUZYrlM :2015/02/24(火) 00:31:29.27 ID:+BD/GDnx0
 


「上手く行った、か」

ベリアルが姿を消した後、鳴り響き始めた戦闘音を聞きながら、ハーゴンは言葉を漏らす。
玉座の裏、一歩ずつゆっくりと姿を現す狼を見て、思わず安堵のため息をつく。

「……何故だろうな、お前を見ていると懐かしさを覚える」

何故、疑われる危険を負ってまで、狼を庇ったのか。
腕を一振りすれば、その命を奪い去ることすら容易だったのに。
ハーゴンはそれをせず、部下から狼を庇うように立ち回った。

「まるで、共に旅をしていた仲間のような、そんな感覚すら覚える」

一時の感情の迷いか、それとも本当に懐かしんでいたのか。
少なくとも、命を奪うような真似をする気分には、なれなかった。
妙な日もあるものだ、と自分自身を振り返り。

「……くだらん、仲間など居る訳もないのに」

自分で自分をあざ笑う。
全てを破壊すると言っておきながら、目の前の命一つすら奪えない。
まだまだ、気持ちに迷いがあるという事なのか。
こんな様では、自分こそ破壊神に笑われてしまう。
自分が飛ばした冗談が、皮肉となって跳ね返ってくるとは。

「さあ行け、この世界が滅んでしまう前にな」

どこへ向かうでもなく、狼が駆けだしていく。
その後ろ姿をじっと見つめ、邪神官は再びため息をついた。
破壊神を蘇らせるという、夢。
それが叶うのは、まだ――――――――
302流星、銀に輝け ◆CruTUZYrlM :2015/02/24(火) 00:32:02.36 ID:+BD/GDnx0
 


突き破る、というよりはすり抜ける、といった表現が近かったか。
何かに誘われるように走り出した先の石の壁が、狼の足を遮ることはなかった。
一瞬の暗闇を経て、また違う景色が広がっていく。
草の一本すらない、荒れ果てた大地。
雪に包まれた先ほどとは違う、冷たい風が狼を撫でる。
今度は一体、何が待っているというのか。

「狼? 珍しい」

また、声をかけられる。
見つかると言うよりは、誰かの前に現れてしまう、と言った方が正しいか。
透き通る水色の髪、燃え上がるような赤い眼、そして凛とした佇まい。
今度の相手は、この女のようだ。

「……こんな世界で、お前のような生き物を見るとはな」

気がつけば、一歩退いていた。
殺意とも取れる何かが、肌を突き刺していく。
生存本能がけたたましく警鐘を鳴らすが、それを放つ当の本人にその気はないようだ。
無意識の、威圧。
安っぽい言葉になるが、それは"覇気"と呼ぶに相応しかった。
狼がそれに威圧されているのを知らずか、女は視線を落とし、姿勢を崩して狼を見つめていく。
逃げた方がいい、そうは思っていても足が全く動かない。
まるで大きな釘でも刺さっているかのように、ぴくりとも動かない。
ただ、差し出される手の行方を、見つめることしかできない。
そして、その手がゆっくりと狼の体に触れる。

「ひとり、か」

撫でられた。
それどころか、回復呪文までかけられている。
初めの男と同じようで、また違う暖かさが、狼を包む。
当の狼は、全く予想していなかった出来事に困惑することしかできなかった。
毛並みに沿い、付いている土埃を払うように、女の手が綺麗に流れる。
時を重ねるにつれ、初めに抱いていた警戒心は薄れ、安らぎへと変わっていった。

「ああ、そうか」

ふと、女が呟く。
狼に向けて、誰かに向けて。
感じ取ったというよりは、悟っていた。

「アレルは、自由になったのだな」

狼を撫でる手が、ぴたりと止まる。
そして、ゆっくりと座り込み、言葉を続ける。

「……私程度が縛れる存在ではない、とうに知っていた」

何者にも縛られず、自由を追い求める。
無法の強さの裏にあるのは、確固たる意志だった。
自分でさえも、その望みを絶ちきることなど、出来はしないのだろう。
303流星、銀に輝け ◆CruTUZYrlM :2015/02/24(火) 00:32:29.44 ID:+BD/GDnx0
 
「だからこそ、恋い焦がれる」

だからこそ、だからこそなのだ。
常に上に立ち続ける"強さ"があるからこそ、彼女は彼に惚れた。
追いついたと思っても、また離される。
けれど、それは追い続けられるということ。
終わらない鍛錬の道を歩み続けられるからこそだ。

「無駄話が過ぎたか、独り言が多くなるのは年を取った証拠と言えるな」

ゆっくりと立ち上がる。
そう、彼女にはまだやるべき事があるのだ。
こんな場所で道草をしている場合ではない。
けれど、その道草のおかげで再認識することができた。
自分が未熟であることと、自分が成長できることを。

「話を聞いてくれた礼だ、受け取れ」

懐から取り出した、一枚のカード。
それは、万物に勝ると言われている一枚のカードだ。
あの時、あの魔術師は自分をこのカードに例えた。
だが、今はそうではないと否定できる。
万物に勝る存在であると、自負するにはまだ早すぎるからだ。

「さあ行け、ここはお前の居るべき場所ではない」

狼がそのカードを落とさぬよう、袋に入れて背中に括り付けてやり、その背中をとん、と押す。
反射的に、狼は駆け出す。
薄暗く緑の一つもない、途方もなく広い荒れ果てた大地を。
遠く、遠く、遙か彼方に消えていくまで。
彼女は、狼の姿を見守っていた。

「……私はアレルと共にいられるほどの、存在ではない」

狼の姿が見えなくなったあたりで、女は再び口を開く。
事実を再認識するための、小さくて、大きな呟き。

「それは私が非力で、無力で、弱い所為だ」

一歩一歩、足を進めながら、今の自分を噛みしめていく。
自惚れを捨て去り、鍛錬に勤しむために。
自分は、弱いのだと認識していく。

「だから……彼の自由を邪魔せぬほど、私が強くなればいい」

そして、やるべき事を口に出す。
自分が弱いのだから、やることははっきりしている。
もっともっと、強くなる。
あの男の側に、いられるほどに。
304流星、銀に輝け ◆CruTUZYrlM :2015/02/24(火) 00:32:55.09 ID:+BD/GDnx0
 
「そう思うだろう、なあ」

そこまで再認識し終えたところで、剣を抜く。

「リンリン」

そして、剣先を一人の少女に向けてニヤリと笑う。

「まあカーラったら、呼び出しておいて何かと思えば、そんな独り言を聞かせる為でしたの?」

リンリンは、カーラを小馬鹿にするようにそう答えていく。
その顔に笑顔は、無い。

「はっ、まさか」

笑う。
ただただ、荒れ果てた大地が広がる、この地獄のような世界。
そんな場所で、カーラがリンリンを求めた理由。

「一度、真剣に向き合ってみたいと思っていた。訓練ではなく、実戦で、命を懸けて」

強くなるには、強き者と戦う必要がある。
目指す場所にたどり着くまでに、立ちはだかる壁を乗り越える必要がある。
そして、そこを目指しているのは自分だけではない。
目の前にいる彼女とて、同じ道を歩もうとしている。

「さあ行くぞ、私はアレルに相応しい女になる」

剣を構え、カーラは笑う。

「お言葉ですけど、それは私の台詞ですわ。
 タダで済むとお思いにならない方が、よろしくてよ?」

拳を構え、リンリンは笑う。

「その方が都合がいい」

地獄の中、たった二人きり。

「私が、強くなれるからな!!」

終わらない戦いが、幕を開ける。
305流星、銀に輝け ◆CruTUZYrlM :2015/02/24(火) 00:33:37.08 ID:+BD/GDnx0
 


地獄を抜け出し、三度目の闇を抜け出した先。
そこは、少し高い空の上。
着地しようにも地面が無く、一番近いところでもかなり遠く感じる空の上だ。
背中に翼があれば、話が変わるかもしれないが、無いものをねだったところでどうしようもない。
抗えない自然の摂理に沿って、ただただ、落ちていくだけ。
着地できるか? できたとして無傷でいられるのか?
そんなことを考えている間にも、自分の体は速度を増していく。
そして、あと少しで地面だと認識したとき。

「うわ、わわわわっ!!」

少し間の抜けた、少女の声が聞こえた。
間もなくして衝突音、幸か不幸か、少女がクッションになる形になり、狼は傷を免れた。
狼はゆっくりと立ち上がり、少女の姿を見つめる。

「痛たたた……あ、ご、ごめんね! 痛くなかった?」

少女もまた、痛みを押しながら立ち上がり、狼へと語りかけていく。
差し伸べられた腕は細く、けれども力強さを兼ね揃えていた。
大した外傷も無く済んだのは、やはり彼女のおかげだろう。
返事代わりに小さく吠えると、少女はとても嬉しそうに笑顔をこぼした。

「ちょっとアリーナ! 突然走り出してどうしたのよ!」

森の奥の方から、数人が駆け寄ってくる。
褐色の肌と紫の髪の双子と、リボンが特徴的な一騎の鎧。
きっと、彼女の仲間なのだろう。
特に怯えることもなく、狼は四人を見つめ続ける。

「ごめんごめん、何となく空を見てたら、この子が落ちてきそうだったから、助けなきゃって……」

ゆっくりと立ち上がり、えへへ、と小さく笑いをこぼしながら、両手を広げて無傷をアピールしていく。
安堵のため息をもらす双子に対し、鎧はその姿をじっと見つめていた。
そして、一歩前に踏み込み、アリーナの背中へと回り込んでいく。

「ベホイミ」

わずかに血が染み込んでいた背中を見逃さず、回復呪文を当てていく。
アリーナの体が暖かい光に包まれ、ゆっくりと傷が塞がっていく。

「無理は、するなよ」

治療の後、そんな彼女にかけられたのは、心配の言葉だった。
大事に思ってもらっている、それを再確認できただけで、十分である。

「ありがと」

恥ずかしそうに笑い、小さな感謝の言葉を届ける。
そして、心配をかけたことに対し、頭を下げて謝罪していく。

「サイモンさん、すっかり上手になりましたね」

回復呪文を放った鎧を見て、双子の妹の方が感嘆の声を上げる。
見て学んできたとは言え、これだけしっかりとした呪文を使えるのは、立派なものだから。
306流星、銀に輝け ◆CruTUZYrlM :2015/02/24(火) 00:34:57.03 ID:+BD/GDnx0
 
「ミネアのおかげだ」

鎧もまた、少し恥ずかしそうに感謝を述べる。

「ちぇ、アタシが教えてあげた時はそんなこと言わなかったのに」

反面、それを見ていた姉はつまらなそうに愚痴をこぼす。
何も彼に教えたのは回復呪文だけではない。
攻めのための呪文だって、彼女が教えていた。
戦闘で使える程度になった時でも、鎧はそんなことを言わなかったというのに。

「……すまない、マーニャ」
「あ"あっ! そうやってアタシが苦手なパターンに持ち込む!!」

気まずさに思わず謝罪してしまう鎧に対し、マーニャが怒りを露わにしていく。
皮肉を大まじめにとられるのが、一番苦手なパターンなのだ。
だから、いつもこうしてマーニャが一人で拗ねてしまうパターンに入る。
変わらない、なんて事はないやりとり。
それを見て、アリーナは笑う。
ずっとずっと、楽しい時間はこうやって続いていくのだ。

「もう、行くでしょ?」

視線を落とし、狼に問いかけていく。
空から降ってきたときから、普通ではないと思っていた。
けれど、それ以外にも何か、狼が使命を背負っているのは、薄々感じていたのだ。
こくり、と小さく頷いた狼に対し、アリーナは言葉を続ける。

「みんなに、伝えてくれるかな」

彼女が願うのは、ただ一つ。

「あたし達は、ずーっと友達だよ、って」

出会った者達と、いつまでも友達でいること。
ずっとずっと、忘れなければ、友達でいられるから。
自分は忘れない、出会った人々を、友達のことを。
だから、忘れないでほしかった。
仲間を、自分を、アリーナという一人の少女を。
友達として、胸に刻んでおいてほしかったのだ。

「行ってらっしゃい、頑張ってね!!」

アリーナの願いを背負い、狼はまたどこかへと走っていく。
その姿が見えなくなるまで、アリーナ達はその後ろ姿を見送っていた。

太陽が輝いている。
森の中、暖かい木漏れ日と共に、足を進めていく。
何の変哲もないただの森を進んでいく理由。

それは、"友達"を迎えに行くため。

「……やっと、見つけた」

こんな森の奥深くで、一人でずっと泣いていた、桃色の髪の少女に。

「迎えに、来たよ」

手を、差し伸べるため。
307流星、銀に輝け ◆CruTUZYrlM :2015/02/24(火) 00:35:52.10 ID:+BD/GDnx0
 


四度目ともなれば、もう慣れたものか。
抜け落ちていく世界も、生まれてくる世界も、特に驚くことはない。
自分は、それをただ駆け抜けるだけなのだから。
次なる場所はどこかのか、次こそは"光"を手にできるのか。
走らなければ分からないことだから、走り続けるしかない。
駆け抜けた先、そこは薄暗い洞窟の中。
次は、どこに向かうべきなのかと考えていたとき。

「あっ、狼さんだ!!」
「ホント!? どこどこ!?」

元気な二つの声が、洞窟中に響く。
間もなくして、どたどたと二つの足音が聞こえ、こちらに近づいてくる。
警戒するべきか、否か、それを考えるのに時間は必要なかった。
その正体は、輝くような笑顔の、二人の子供だったからだ。
むしろ、自分の姿に怖がらないのか、と狼が驚いているほどだ。

「か〜わいい〜〜!」

出会うや否や、首もとからがっしりと抱きついてきて、全身を撫でられる。
少し苦しいけれど、柔らかくって、暖かくて、優しい。
無邪気な二人の接触に、狼は満更でもない顔でそれを受けていた。

「ねえねえ、どこからきたの? あたし、タバサ! よろしくね!」
「僕はレックス、よろしくね!」

ひとしきり撫で終わった後に一歩退き、二人ほぼ同時に自己紹介をする。
言葉が通じる相手ではないというのに、何の疑いを持つこともない。
本当に純粋な、子供らしい眼をした二人に、狼は少しだけたじろいでしまう。

「ああ、やはりここにいましたか」
「あっ、ピエール!」

そんなとき、もう一つの声が響く。
呼びかけられたレックスの声とほぼ同時に現れたのは、一匹の魔物。
狼はその姿を見て、条件反射でうなり声を漏らしてしまう。
が、それに気づいたタバサが、微笑みながら狼を撫でる。
大丈夫、という無言のメッセージが籠もったその手に、狼はひとまず安心することにした。

「裏山探検もいいですが、そろそろお食事の時間ですよ」
「は〜い」

とても魔物とは思えないほど、優しい声。
とてとて、とついていくレックスの後を追うように、タバサもついていこうとする。

「あ、そうだ!」

そこで、何かを思い出したかのように立ち止まり、振り向いて微笑む。
再び、差し伸べられる暖かい手。

「ねっ、狼さんっ、一緒に行こうよ!」

受ける理由はなかったが、断る理由もない。
こんなにも優しく差し伸べられた手を、はねのけるほどの事も無い。
狼は、差し伸べられた手に答えるように、ゆっくりと前に進んでいった。
308流星、銀に輝け ◆CruTUZYrlM :2015/02/24(火) 00:36:31.39 ID:+BD/GDnx0
 
大まかな移動は転移呪文だった。
間もなくして目の前に現れたのは大きな城が一つ。
ここが、どうやら彼らの家のようだ。
招かれるままに、城へと足を進めていく。

少し太った召使いらしき男のお帰りなさい、という暖かい声。
それに反応するように、城中から声が聞こえてくる。
それだけでも、二人がどういう存在なのか、はっきりと分かる。

大通りを抜け、最上階のある部屋の前に立ったとき、子供たちと同じ青さの髪を持つ、綺麗な女性が現れた。
「おかあさん」と、二人が声を上げる。
どうやら、彼女が二人の母親らしい。
現れた彼女は、少し申し訳なさそうな顔をして、二人に語りかける。

「ごめんね、もうちょっとだけ準備に時間がかかるから、待ってくれる?」

二人は少しだけ困った顔を浮かべた後、さぞ名案が浮かんだかのように、顔を明るくさせる。

「じゃ、お城を探検しようよ!」

時間があるなら、できることはある。
大事な客人に、自分の"家"を案内できる時間になる。
そうと決まれば動きは早く、二人は狼を連れて階段を駆け下りていった。

真っ先に向かったのは、城の少し外。
そこで、黒髪の派手な女性が、複数の魔物を相手に剣を握っていた。
煉瓦で出来た巨人、刀と矢を手にした機械、
どれもこれも、屈強な魔物たち。
到底、一人で相手できるとは思えない、が。

「ゴレムス、ギーガ! 隙を意識しなさい!
 ロビン、エミリー! 守りが足りないわ!
 リンガー、オークス! 真正面を破られるわよ! もっと踏み込みなさい!」

戦いの主導権を握っているのは、常に女性だった。
鮮やかで、流れるような剣捌きと、荒れ狂い猛る呪文。
それらによる力強い攻めは、屈強な魔物たちを圧倒するに十分な技量であった。

聞けば、あの母親の姉らしく、旅で培った戦闘技量を買われ、つい最近、魔物たちの指導要員になったのだとか。
見た目とは裏腹に力強い攻めの数々が、何よりの証拠だろう。
魔物たちの戦いのクセを見抜き、正確に指摘している。

「ピピン、分かった?」
「あ、はっ、はい」
「もう、本当に分かってるの?」

その中に、一人混じっていた少し気の弱そうな男に、彼女は問いかける。
ピピンと呼ばれた男はこの城の近衛兵のようだが……正直、女性の方が力強く、心強いと思うのは間違いではなさそうだ。
小さなため息が漏れた後、彼女は子供たちに気がつく。

「あら、今日は珍しいわね。ありがと、もう行くわ」

おそらく、普段は先ほどの魔物が迎えに来るのだろう。
わしわし、と二人の頭を撫でた後、魔物たちに声をかけてから、彼女も城へと戻っていった。

次に向かったのは、城の地下。
広大な場所にいるのは、無数の魔物だった。
けれど、殺意も敵意も感じない、むしろ感じるのは優しさと暖かさだ。
309流星、銀に輝け ◆CruTUZYrlM :2015/02/24(火) 00:37:12.32 ID:+BD/GDnx0
 
「チロルーーーーっ!!」

タバサが、すぐ近くにいた大きな獣へと飛びついていく。
獣は嫌がるわけでもなく、むしろ満更でもなさそうな表情で、まるで猫のように転がっていた。

「あっ、レックス様!」

一匹のスライムが、レックスの姿を見て飛び跳ねる。
それに反応するように、次々に魔物たちがレックスの方を向く。

「お帰りなさいませ」

真っ先に反応したのは、赤い体と山羊の頭を持つ魔物。
そして、兜だけの魔物が嬉しそうに飛び跳ね、二色のリンゴもごろごろとあたりを転がっている。
子供たちの何倍も大きな姿の巨竜も、上から笑顔で見守っている。
空を飛ぶ蝙蝠や怪鳥や宝石、踊るスライム達など、誰も彼もが本当に嬉しそうな表情を浮かべていた。

「すごいでしょ」

そんな魔物たちに囲まれながら、レックスは自慢げに笑う。

「みんな、お父さんの友達なんだよ」

ここにいるのは、みなが仲間。
一人一人が、大切な彼の友達であり、仲間なのだ。
その証は、互いに信頼しあった表情と、安堵の顔。
そして何よりも笑顔。
暖かく、輝く空間が、そこに確かにあった。

そこで、ゆっくりと地下に、先ほどレックス達を迎えにきた魔物が降りてくる。

「レックス様、タバサ様、お食事の準備が整いましたよ。手を洗って、うがいをお済ませ下さい」

どうやら、食事の準備が整ったようだ。
子供たちは元気よく返事をし、仲間たちに別れを告げてから、最上階へと足を進めていった。

「いつもありがとう、ピエール」

最上階の広間の前、手を洗いに行った子供たちと入れ違いに現れたのは、ターバンの男だった。
スライムの騎士が、一礼をする。

「リュカ様、戻られたのですか」

リュカと呼ばれた男は、子供たちの目付役であったスライムの騎士の頭を撫でる。
母親と同じ、輝くような笑顔。
ああ、この笑顔が子供たちにも、引き継がれたのだろうと分かる。

「今し方、ね」

その笑顔が、自分にも振りまかれていることに気づき、狼は返事代わりに少し鳴いた。
腰を下ろし、狼に目線を合わせ、頭を撫でていく。

「今日はお客の多い一日だねえ」
「はい?」

その言葉がどういう意味なのか、騎士には分からなかった。
けれど、狼には何となく分かっていた。
と、いうよりは悟られていた、が近いだろうか。
310流星、銀に輝け ◆CruTUZYrlM :2015/02/24(火) 00:37:38.01 ID:+BD/GDnx0
 
「ふふっ、なんでもないさ」

頭を撫でながら、リュカは立ち上がる。

「……背中は押した、未練はないし、見送ってきたつもりさ」

ゆっくり、ゆっくりと、食事場に向かうリュカは独り言のように漏らしていく。

「けれど、もし許されるなら」

そして、狼へと振り向く。

「僕たちは変わらず、"幸せ"だと、伝えてほしい」

その言葉と、温もりを狼に乗せて。

「きっと、彼らの力になる」

己の"幸せ"を、託した。

「さ、行っておいで」

再び、背中を押す。
突き動かされるように、狼が走り出す。
石壁に生まれた裂け目、見えない闇に溶け込んでいくその姿を。
リュカとフローラは、じっと見つめていた。

「あれ? お父さん、お母さん、狼さんは?」

ちょうど戻ってきた、子供たちが彼らに問う。

「ああ、家に帰らなくちゃならなくなったみたいなんだ、だから、先に失礼するって言ってたよ」
「ええ〜っ、お別れしたかったなぁーっ」

残念そうな顔をする子供たちの頭を撫で、リュカは笑う。

「大丈夫、また逢えるさ」

どこかを、見上げて。

「そう、きっと、必ず――――」
311流星、銀に輝け ◆CruTUZYrlM :2015/02/24(火) 00:38:11.31 ID:+BD/GDnx0
 


「聞いてくれよミレーユゥ〜〜!! チャモロの奴ったらそれからビースカ泣いてよぉ〜!!」
「嘘に決まってるでしょう! ハッサン! どこまで嘘を……」
「おおっ、嘘だって言うならあの時の台詞を言ってやろうか? "お母さん、お母さん、おかおか"――――」
「だーーーーっ!!」

次の世界、真っ先に飛び込んできたのは、そんな酔っぱらいの声だった。
たき火を囲んで楽しそうに会話する、三人の男女。
モヒカンの男が茶化し、不思議な帽子の少年がそれに怒り、金髪の美女が笑う。
なんて事はない、とある仲間たちの夜。

「あら、迷子?」

それを少し遠くで見つめていた栗色の髪の少女が、狼に気づく。
これまでの世界の人間と同じように、少女もまた座り込み、狼に目線を合わせていく。

「少し、付き合ってくれない?」

そのまま手を後ろにつき、木にもたれ掛かる形で座る。
狼を横に、楽しそうに笑う仲間を見て、少女は一人呟く。

「こうやってさ、皆と笑いあえるだけで、良かったんだ」

乾いた笑いと共に、語り続ける。
その表情にはどこか影があって、わずかに涙が浮かんでいる。

「ずっと、ずっとこの楽しい時間が続けば良いなって、思ってる」

笑いながら語り合う仲間、それを遠くで見つめる自分。
何気ないこと、けれど一生は続かないと分かっていること。
だから、一歩離れた場所にいる。

「これは小さな幸せ、私が掴もうとして、掴めなかった、叶わなかった小さな"夢"」

願った、願い続けた。
だから、自身と同じ夢として残り続けている。
小さくて、叶いそうで、叶わない夢。

「大魔王を倒しても、こんな小さな夢すら叶わないのに、ね」

この世界を夢見て生きて、戦って、前に進んできたはずなのに。
手にした未来は、夢は、違っていて。
ただ、黒い未来を受け入れることしかできなかった。

「それに、さ。私はもっと大きな"夢"を、抱えちゃったんだ」

そんな小さな夢ですら叶わない世界で、彼女はさらに大きな夢を抱えていた。
夢は夢、願うことは自由。
小さくても、大きくても、願い続ける事は自由だ。

「……それは私がどう頑張っても叶わない」

けれど、それが叶うという保証はどこにもない。
環境、自身の力、時期。
現実という重くて変え難い壁は、いくつもの夢を切り裂いていく。
312流星、銀に輝け ◆CruTUZYrlM :2015/02/24(火) 00:38:37.66 ID:+BD/GDnx0
 
「だって、あの人の心は、一人で占められてるから」

そう、例えば――――恋心。

「ねえ、狼さん」

ふふ、と笑ってから、少女は狼に語りかける。
馬鹿らしいとは思うが、馬鹿らしいからこその夢である。
だから見続けられるのだし、追い続けられるのだ。

「もし、もし届けられるなら、届けてほしい」

けれど、それが叶わないと分かったとき。
"夢"だった"もの"を抱え続けてしまう。
だったら、だったら。

「"大好き"って」

それをもう一度、"夢"に戻すことくらい、願ってもいいのではないか。
自分勝手な願いだとは分かっている。
けれど、もう一度、もう一度夢が見れるのならば。

「……もう、行くんでしょ? ごめんね、呼び止めて」

夢を見れることに、賭けてみたくなったのだ。

「じゃあね」

その夢を叶えられる使者を、彼女は見送る。
一方的な話を黙って聞いてくれただけ、むしろ聞いていたのかどうかすら怪しい。
けれど、彼女は確信していた。
きっと狼は、その願いを届けてくれるのだろう、と。

「……どうしたの?」

談笑していた仲間のうちの一人が、心配そうに彼女の元へ寄ってくる。
浮かんでいた涙を拭い、彼女は笑って答える。

「願い事。ひとつだけ、ね」
313流星、銀に輝け ◆CruTUZYrlM :2015/02/24(火) 00:39:07.74 ID:+BD/GDnx0
 


長い、長い闇の中。
慣れにも近い感覚を覚えながらも、この場所をさまようのはまだ不安が残る。
だから、目の前にぼうっと光が見えたときが、一番安心するのだ。

「ああ〜っ!!」

今度の光の正体は、よく見知った顔。
小さな体に、欠けた歯、少しぼろぼろのローブに身を包んだ少年。
もとい、かつて同じ狼であった少年だった。

「久しぶりだな〜!! 元気してたか〜?」

わしわし、と自分のことを撫でる彼は、暗闇の中に確かに存在していた。
一体どうして? とは不思議と思わなかった。
様々な世界を転々としてきた所為か、そういうことに疑問を抱かなくなってきていたのかもしれない。

「お〜い! みんな〜!!」

少年が声を上げる。
すると、どこからともなく三人の男女が現れた。

「うるふわ! 心配したじゃない!!」

真っ先に頭巾の少女が狼に抱きつく。
いつだったか、こんな感じに抱きしめられていた。
あの時と同じように、少し首が締まっているのは相変わらずだった。

「う、うるふわ?」
 
狼に抱きついて離れない少女に、緑の服の少年が問いかけていく。
うるふわ、という名前の出所に対して、だ。

「そうよ、私が名付けてあげたのよ」
「センスの欠片も感じない……」

返ってきた答えに対するリアクションを受け、少女が少年の腹に拳をたたき込むまでにかかった時間は、わずかだった。
胸ぐらを掴み、この世の物とは思えない罵詈雑言が飛び交っている。
ぽかんとしている狼少年をさしおき、側で見ていた女性が苦笑いしながら少女を止めていく。

「はい、はい、どおどお」

女性に押さえられながらも、少女はまだ言葉を止めない。
まあ、こうなると分かっていただろうにそれを言い放った少年に非がないとは言い切れないが。

「よく……ここまで頑張ったな、えらいぞ」

そんな喧嘩を横目に、狼少年は自由となった狼を撫でていく。
体の所々に見える傷の跡は、彼に何かを伝えるには十分すぎた。
そして、少女を宥め終わった女性が、頭をなで続けられている狼にゆっくりと近づいていく。
314流星、銀に輝け ◆CruTUZYrlM :2015/02/24(火) 00:39:55.96 ID:+BD/GDnx0
 
「ここは、"願い"の行き着く先。
 人々の、誰もが願う"夢"の、終着点」

この場所の、この世界の真実を、狼に向けて放つ。

「私たちは、もう死んでしまった。だから、こうして叶わない"夢"だけがぼんやりと浮いてる。
 普通の人なら、ここまで来ることは無いわ。それまでにある、他の"夢"に捕まってしまうから」

狼が見てきたもの、そして出会った人々。
今目の前にいる彼らでさえも、幻であり夢である。
願う力が実体を持つ世界だからこそ、純粋な願いが生き続けていられるのだ。
もっとも、人間であればそれよりも上にある、表面上の願いの世界に引っかかってしまう訳だが。

「あなただったからこそ、こんな深くまで来れたのかもしれないわね」

まだ、願いが薄かった狼だったからこの"深層"までやって来れたのかもしれない。
誰もが持つ、"夢"と"願い"の根底へと。

「さあ、もう一踏ん張りよ、ここを抜ければ、もう近いはずだから」

背負った物の数は多い、切り抜けるための力も貰った。
だから、後少し、もう少し走れば、元に戻れる。
きっと、彼らは先に戦っているはずだから。
託された願いと共に、そこにたどり着かねばならないのだ。

「頑張れよ! オイラ、応援してるからな!」

今にも走り出そうとする狼を、少年が激励する。
それを受けて、狼は走りだそうとする。

「待って」

それを止める、少女の声。
振り向いた時に彼女は俯いていて、声も少し上擦っていた。

「言えなかったの、だから伝えてほしい」

これから"世界"へ戻る狼へ。
言いたくても、声に出来なかった、最後の"願い"を。
一人の男に向けた"言葉"を。

「"ありがとう"って」

託していく。
きっと、それが届くと信じるために。

「僕からもだ」

そして、少年も狼を呼び止める。

「"ありがとう"を、伝えてほしい」

彼女と同じで、でも少し違う。
そんな気持ちと、少しだけ共に戦った仲間に向けて。
同じ言葉を、託していく。

そして、狼は小さく頷き、走り出していった。
315流星、銀に輝け ◆CruTUZYrlM :2015/02/24(火) 00:40:27.17 ID:+BD/GDnx0
 
"願い"の集いし世界の奥深く。
そこで眠り続けていた、叶うことはない、いくつもの"夢"。
もしかしたら、現実になっていたかもしれない"それ"。
その"夢"たちの"願い"を背負い、狼は駆け出す。
"闇"を、切り裂くために。

【うるふわ(ガボの狼)@DQ7】
[状態]:"願い"をその背に
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:駆ける

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以上で投下終了です。
316名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/24(火) 20:37:09.65 ID:kTrYXLFe0
オ、オールスター…!
全員の夢を背に受けて、うるふわも決戦の地に進む。
乙です!
317名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/24(火) 21:50:39.15 ID:DzD1II920
いよいよ終焉が近づいてきた感じ
再び一堂に会する時果たして何が起こるのか
318名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/03/01(日) 07:56:55.48 ID:+5fg5A7E0
319名前が無い@ただの名無しのようだ
過去作見たらこのロワの5のキラーパンサーの名前プックルだったでござる
75話「対魔神戦用意!」と78話「追憶」で名前出とる
でもまあ夢の世界だし名前違うのも別にあり得るのか