ドラゴンクエスト・バトルロワイアルII Lv6 [転載禁止]©2ch.net

このエントリーをはてなブックマークに追加
231名前が無い@ただの名無しのようだ
投下乙です。まさかの10の勇者ビームw
そういや原作でもジャミが纏ってた衣をあれかどうかは分からんが剥がしてたな
こんな所で使われると思いもしなかったよ。GJです!
232 ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 22:56:14.12 ID:ZZLkQngY0
投下します。
233その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 22:57:09.84 ID:ZZLkQngY0
憎悪の塊となり、闇の化身へと上り詰めた修羅の大鎌の一閃が、周囲の闇をも裂いて此方を切り払わんと迫る。
究極のそれとなった、進化の果てである肉体の圧倒的な拳の一撃が、其処にある全てを壊すかの様に放たれる。
それは、誰もが逃れる事の出来ない運命である『死』の代弁。
感情がどんなに極まろうと抗うことは出来ない一つの事実。
だけれど。

「こっちも、行くぜ!」

それで終わる様な人間では無く、それだけでは絶望へ堕ちない人間だからこそ。
テリーと言う一人の剣士は、ここまで辿り着いた。
剣を下段に構え、打ち払われる拳を潜り抜ける。
すぐさま振り下ろされる刃の側面へ即座に迫り、一息に飛び乗る。
その真上、アスラゾーマの口から放たれるのは、先の破壊神と似て非なる吐息。
ひのいきというその特技を限界まで昇華したそれは、全てを焼け爛れさせる烈火となり彼へ迫る。

「溢る炎熱よ、眼前を貫け!
メラゾーマ!」

火球を目の前で炸裂させ、炎の流れを僅かに乱す。
生まれた空白地帯へ滑り込み、五月雨剣で更に道を開いてゆく。
捌ききれず、オーガシールドでも受け止められなかった火炎がその身を焼くも、決して止まらないその斬撃が全てを切り払う。
そうして烈火を切り抜け、テリーは再び大鎌を駆けた。
234その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 22:57:53.55 ID:ZZLkQngY0
が、修羅もまたそれを許しはしない。
鎌を担ぎ上げると同時に振り回し、爆風と負荷が小さな体を簡単に吹き飛ばす。
もう一人の魔王がそれを追い、追撃の拳を放つ。
辛うじて受け流すが、その衝撃と余波を殺しきれない。

「っ…!」

声にならない叫びを上げ、その口から鮮血が洩れる。
出来る限りの防御も、その圧倒的な力の前に突き崩された。
なるだけ体を守るように着地し、サイコピサロの放った地を薙ぐ冷気からすぐに後退する。
その手に握り直すのは大弓。
白銀の吐息の切れ間を見計らいつつ、その弦を引く。
瞬間、閃くは大鎌。
凶悪なその刃から逃げるように身を引き、その反動も活かして更に弓を引き絞る。
―――手を放す。
放たれた弓の行く先は、大鎌を振るうその豪腕。
だが、その矢は瞬時に身を引く憎悪の魔王に一撃を与えられず。

―――まずは、一撃…!

その背後にあったサイコピサロの顔面へと吸い込まれた。
全くの不意討ちに反応できず苦しみを見せる魔王へ瞬時に駆け寄り、足元へ斬撃を叩き込む。
その巨体を突き崩すべく振るわれた斬撃は、何れも数多の魔物を簡単に切り捨てる必殺のもの。
が、痛みすら凌駕する究極の進化の本能は、その渾身の刃を受けて尚沈まない。
地を蹴り払う魔王の足から瞬時に離れたテリーは、既に振り下ろされようとするその腕に驚愕する。
闇を打ち据える、破壊の一撃。
それでも直撃を避け、後方へ跳ぶ彼へと、死の宣告のように大鎌が迫る。
風を裂く鋭い音。
再び地を蹴り、間一髪で切り抜けて何とか態勢を整える。

「…ったく、頭オカシいよな、テメエ等」

そこにあるのは、圧倒的な魔の力。
全てを滅ぼしても未だ尽かぬその力が、さながら対の仁王像のごとく立ち塞がる。
235その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 22:58:27.69 ID:ZZLkQngY0
「テリーよ」

不意に、低い声が響く。

「何故、もがき生きるのだ?」

ゆっくりと修羅が問う。
その声音に込められているのは、心を蝕む闇。

「貴様は何も成せない。
最愛の姉を救うことも。
共に歩いた友を助けることも。
貴様は成せない。―――成せなかった」

「貴様は何も出来ない自分をずっと憎み続けている。
そして、いくら憎もうと、それが救えない言い訳にはならないと戒め続け―――絶望し続けている」

全ての言葉が、テリーの心を切りつける。
そうして魔王は、容赦なく彼へと告げる。

「諦めろ」

それはさながら、死刑宣告の様で。

「今ここで、何も成せぬ後悔に囚われ死んでゆけ」
236その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 22:59:40.37 ID:ZZLkQngY0
「テリーといったか」

今度は、異なる声が響く。

「私は、全てを思い出した」

ゆっくりと語るのは、進化の頂点。
数多の生物を超えた存在が、厳かに語る。

「力は、即ち無力だ」

力の果てであるそれが言い放つその言葉は、重石の様にテリーを縛りつける。

「どれだけ力を持ち、技を磨こうと。
それは何も救えない。
それは何も拓けない。
思い知るのはただ一つ、自分の無力だけだ」

全てに絶望したかの如く―――いや、実際に絶望に塗り潰されて。
その台詞は不協和音となり心を喰らう。

「自らの無力を嘆き、喘ぎ、呪いながら死んでゆけ」

能面の様に感情を押し殺した、絶望の塊が告げた。
237名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/16(月) 23:00:14.12 ID:pRJhXvhO0
 
238名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/16(月) 23:01:24.58 ID:pRJhXvhO0
 
239その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:01:56.92 ID:ZZLkQngY0
「は」

そうか。

「ははっ」

これが、自分の絶望か。
全く、なんて。
なんて―――

「下らない」

吐き捨てる。
その目は光を失わず。
その体は希望に満ちている。

「無力なのも無理なのも無茶なのも分かってるさ。
そんなのは自分が良く知っている」

魔王が語った事は間違っていない。
自分は無力だ。
何も成せない。
そしてそんな自分を呪い、だがそれを覆すことなど出来ないでいる。

「だけど!!」

―――だけど。

「そこで諦めたら、絶望したら、何も変わらないんだよ!
解ってても、進めば何かが変わるって、そう信じて行けば!
本当に変わるかもしれないだろうが、救えるかも知れないだろうが!」

歩き進んだその一歩は。
無理でも。
無茶でも。
無力でも。
240名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/16(月) 23:01:58.86 ID:pRJhXvhO0
 
241その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:02:48.48 ID:ZZLkQngY0
「例え何も遺せなくても、やるだけやってみたなら」

決して、無駄ではないから。

「そこには、何かがある筈じゃねーか。
後悔しない何かがな」

思い出す。
何故自分はあの小さい時、姉を追わなかったのか。
もしかしたら、そこで再開できたかも知れないのに。
何故自分はあの時、姉を見捨てたのか。
例え救えなくても、もう少し彼女は安らげたかも知れないのに。
何故あの時自分は、もっと早く立てなかったのか。
そうすれば、彼女はまだ生きていたかも知れないのに。
たらればの後悔は、全て後から気付くけれど。
それでも、全力を捻り出していれば変わったかもしれなくて。

「なら―――手前の絶望くらい、後悔しないレベルでぶっ壊すさ」

なら、もう諦めない。
魔力の一滴、力の一筋まで絞り出しても、目の前の道を開いて。
そうやって、後悔せずに突き進んだなら。
もうその時の後悔を全て破壊出来たなら。

「あいつらに、また会うためにもな」

そこに、彼女達がいる筈だから。
242その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:03:19.36 ID:ZZLkQngY0
「一つ、どうでもいい話をしよう」

何処かで、声がする。
声の主は青年。

「ある、魔王の話だ」

手元の分厚い書物を紐解き、彼は語り始めた。

「昔、あるところに一体の魔王がいました。
彼は入念に危険な存在を排除し、世界を征服しようとしていました」

「彼の目的は、人間の絶望。
とりわけ、人が死ぬ時に浮かべる、数多の絶望の混じりあった感情。
それが彼の生きる目的であり、悦びでした」

「そんな魔王は、ある時勇者という、未だに残っていた人間の希望を発見します。
地上で生まれたそれは、瞬く間に部下である魔物達を蹂躙し、地上の魔王とされていたバラモスさえも倒してしまいました」

「ならばと魔王は自分の存在を明かし、たちまち地上を再び絶望に包みます。
そして、やはり勇者はやってきました」

「勇者一行が着々と自分を滅ばす準備を終えて、遂に居城へと向かってくると聞き、魔王は悦びに震えました。
最後の希望である彼等を殺した時、どれだけの絶望を人間が抱くだろうか。
そして何より、その時勇者一行はどんな表情で絶望していくのだろうかと」
243その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:04:01.37 ID:ZZLkQngY0
「しかし、遂に玉座の前まで辿り着いた勇者一行を見て、魔王は驚愕しました。
一つは、その強大な―――破壊の神すら破壊しかねない、彼等のその力に。
そして、もう一つ」

「世界を救う勇者が抱くものとは思えない、深い深い絶望に」

「魔王は問いました。
『何故もがき生きるのか』と。
勇者は答えました。
『自由になる為だ』と」

「魔王には分かりませんでした。
ともすれば自分より深い絶望を負って生きる彼等が。
拳を交えても、その強大な力と絶望だけが伝わってきます。
そうして魔王は、疑問の内に滅ぼされました。
断末魔として投げ掛ける、最期の絶望として刻み込む筈だった言葉すら出てこない程に」

「魔王は死ぬ間際、考えました。
こんなものではない筈だと。
人間はもっと希望に溢れ、だからこそ散る間際に見せる、死にゆくものの絶望こそが美しい存在の筈だと。
そんな、夢を見ました。
闇の極みの様な、絶望そのものを望む夢を」

「そして―――」
244その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:04:34.50 ID:ZZLkQngY0
「一つ、どうでもいい話をしましょう」

また、何処かで声がする。
声の主は人外の少女。

「ある、男の話です」

手元にある、厳かな書物を紐解いて。

「彼は元々、人間を憎み、滅ぼそうとしていました」

「そんなある時、彼は一人のエルフと出会います。
彼女がルビーの涙目当てに人間に狙われていたのを助けたのが、始まりでした」

「最初は彼女を巻き込ませないようにした男でしたが、その内にお互いがお互いを大切に思う様になっていました。
そんな時、ある事件が起きます」

「人間が何処からか彼女の居場所を暴き、男が留守にしている間に彼女を襲ったのです。
そのやり方は、か弱いエルフの少女にとっては、致命傷となるものでした」

「男が駆けつけた時には、もう手遅れでした。
少女は、その腕の中で、最期に愛の言葉を捧げ、死んでいきました」

「男は自分の無力を心から呪い、人間を心から憎みました。
そして、未だ未完成だった進化の秘法を自らに施しました。
全ては、彼女の為に。彼女を殺した人間を滅ぼす為に」

「進化の秘法により、何も思い出せなくなった彼は、地底の山にて静かに力の完成を待っていました。
そんな時、ある人間達がそこにやってきたのです」

「何も思い出せない彼は、それもまた滅ぼすべき人間だと考えました。
ですが、その中にいた、生き返ったエルフの少女の涙を見た時、男は全てを思い出しました」
245名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/16(月) 23:04:56.10 ID:d7wxPlun0
 
246その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:05:35.50 ID:ZZLkQngY0
「自分を取り戻した男は、勇者であるその人間と共に元凶であった部下を倒し、再び少女の住む丘へ帰っていきました」

「男は、考えました。
今や誰よりも大切な彼女を守るには、どうすればいいのか。
そんな事を考えていた時、彼はその殺し合いに招かれました」

「殺し合いが始まった直後、彼は一人の少女と出会います。
彼は、その面影に、この殺し合いに招かれなかった想い人を探していました」

「勿論、そうしている自分には気付いていました。
ですが、それが最早執着である事に、彼は気付いていませんでした」

「少女はある一人の青年の死に壊れ、彼を殺そうとしました。
不意を突かれ地に伏した彼は、それでも呼び止めようとして。
ここにはいない、最愛の少女の名を叫びました」

「彼は気付きました。
自分が彼女に囚われ、どうしようもなくなっていたのだと。」

「ならば、自分はどうすればよかったのか。
ただ、助ける力が欲しかっただけなのに。
彼は死に際に、そんな夢を見ました」

「そして―――」
247名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/16(月) 23:05:36.03 ID:d7wxPlun0
 
248名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/16(月) 23:06:35.78 ID:d7wxPlun0
 
249その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:06:39.47 ID:ZZLkQngY0
「ふ…ふふふ…」

ふと、くぐもった笑いが響く。
それを洩らすのは、大鎌を握る修羅。

「は…はは…ふははははははははっ!!」

その笑いはやがて、周囲の闇をも包み込むような大音響へと変わる。
邪悪に満ちたそれを止め、修羅はテリーへと語りかける。

「成る程、それが貴様の生きる意味か。
いいだろう、何時かの絶望に囚われた勇者よりも面白い」

修羅が浮かべるのは、絶望を欲する欲望の笑い。
その一方で、進化の頂点である魔王は、僅かにその動きを止めていた。

「貴様、は…」

だが、目を閉じて、再び見開いた時。
宿りかけていた光は、再び見えなくなっていた。

「…何があったとしても。
私はもう終わっている。何も、出来ない」

そんな魔王達の言葉に、テリーは問いかける。

「アンタたち、単なる俺の記憶…って訳じゃあ、ねえのか」

問いに答えを返すのは、修羅。
嬉しそうに答えを返す彼の周囲に、紫電が踊るように舞う。

「どれ、そろそろ…余興は終いだ。
さあ、貴様の絶望を見せろ」

呼応するように、サイコピサロもまた光を纏わせる。
間違いなく―――これまでで、最強の一撃。
そして、テリーもまた目を瞑った。
250名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/16(月) 23:07:27.73 ID:d7wxPlun0
 
251その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:07:37.82 ID:ZZLkQngY0
「ふん、中々筋がいいな。結構な上達具合だ」

「…はっ、うるせえ…」

「おまけに威勢も溢れている。全く、面白い人間もいたものだ」

「…うるせえっつってんだろ!」

「そう噛み付くな、…そうだな。
単純な強さ、とは違うが、面白い物を教えてやろう」

「…なんだ、それは」

「児戯の様だが、それでいて地獄の雷を放てる―――まあ、遊びの一種だ。
どれ、やってみる気はないか?」

「その地獄の雷ってのがありゃ、あんたにも一撃叩き込めるか?」

「少なくとも、この私を以てして深手を負うようなものではあるな」

「…いいだろう、教えてくれ」

「ふん、本当に威勢がいい。
では、行くぞ」
252名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/16(月) 23:08:06.16 ID:d7wxPlun0
 
253その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:08:39.29 ID:ZZLkQngY0
「もう、やめてくれ」



「なんで、あんたは何時もそうなんだ」

「あの時だってそうだ、俺のことなんて考えちゃいない」

「オレは、もう姉さんに守られるほど弱くないんだ」

「なのに、なんで」

「なんで、オレを見てくれないんだ」

「あんたの中のオレは、ずっと固まったままなのか」

「答えてくれよ」

「なあ」

「オレを」

「見てくれよッ!!」



「……そうかよ」
254名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/16(月) 23:08:54.29 ID:d7wxPlun0
 
255その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:09:30.11 ID:ZZLkQngY0
右腕に宿すは、嘗て力を求めていた頃の一つの思い出。
今となっては遠く昔の様に思える、あの城にいた時の鮮明に覚えている数少ない記憶。
あの戦闘狂である魔王に戯れとして教わった「遊戯」を、今再び呼び覚ます。

「この力は、置いていく」

そして、それを使うのはこれが最後。
力への執着を断ち切る為に、今目の前にある、形となったそれを迎え撃つ。

「でもって」

そして。
左腕に宿すは、自らの姉を葬った業。
今もしっかりと心に刻まれたあの光景が、瞳の裏をよぎる。
はぐれメタルの職業、その極地に至った者が放てるその爆発を、今再び練り上げる。

「この未練も、置いていく」

その幻影を見るのも、これが最後。
戒めの光景に囚われ続けては、先に進む事は出来ないから。

「俺からの餞別だ…受け取りやがれ、絶望共」

―――そうして、彼は跳ぶ。
同時に、二体の魔王もその絶望の光を解き放つ。
地獄の雷と、創成の爆発が。
創成の爆発と、光の剣撃が。
ただ相手を貫かんと叫ぶ様に空気を震わせて。
256名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/16(月) 23:10:24.13 ID:d7wxPlun0
 
257名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/16(月) 23:11:08.15 ID:d7wxPlun0
 
258名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/16(月) 23:12:19.38 ID:d7wxPlun0
 
259名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/16(月) 23:13:03.10 ID:d7wxPlun0
 
260その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:13:23.19 ID:ZZLkQngY0
そして、その荒れ狂う風すら後押しにするように、剣士が舞い上がる。
その手に握られる剣の名は、雷鳴剣ライデン。
ビアンカが行った錬金によって生まれ変わる、その前の姿は―――雷鳴の剣と、そう銘打たれていたもの。

「天を貫く轟雷の咆哮よ、金色の光を呼び覚まし、共に振り下ろさん」

その剣は知っている。
溺れていた力への執着も、それを取り巻いた戦いも。

「地を照らす狂雷の雄叫びよ、漆黒の光を渦巻かせ、共に打ち砕かん」

その剣は知っている。
守りたいものを護れなかった後悔も、そんな自分への憎悪も。

「疾風召雷、火焔統雷」

そう、それは絶望の時、ずっと共にいた剣。
彼にとっては、全ての過去の悔恨を宿した刃。
だからこそ、この闇の中において。
その剣には、二重の電磁が絡みつく。
勇者の雷が、地獄の雷が、鮮やかに彼の姿を映し出す。
テリーにとっての全ての過去が、その光へ溶けていく。
彼を縛っていた全てが、雷の形となって明滅する。
            ギガスラッシュ   ジゴスパーク
そうして生まれたそれは、勇気の斬撃でも、地獄の雷でもない。
顕現するのは、巨大な覇王の剣。

「呑み込め、雷鳴剣…ライ、デェェェェェェェェェンッ!!」

そして、それは放たれた。
261その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:13:54.70 ID:ZZLkQngY0
渾身の一撃が叩き込まれた事を確認しながら、テリーはゆっくりと落ちていく。
その四肢に力はなく、握りしめていた剣がその手からこぼれ落ちた。
―――ふと、色々な事を思い出す。
嘗て、姉がいきなり変な魔物に連れ去られた事。
彼女を王に献上すべく拐おうとした盗賊団に挑み、呆気なくあしらわれた事。
力を追い求め戦い続けていた時に、いきなりあの魔王から呼び止められた事。
その魔王の下で力を磨いていた時に、突如現れた男達と戦い、そして負けた事。
魔王が屈し、敗北を選んだ時、最愛の姉が自分を呼んだ事。
彼女達と共に、世界を救わんと戦った事。
そうして全てが終わったと思った直後、この殺し合いへと招かれた事。
いきなり危なっかしい行動をする少女と出会い、共に歩いた事。
凶悪かつ強大なあの武道家といきなり戦い、何とか逃げ出した事。
血塗れとなり、それでも狂いながら襲いかかってきた姉を、自らの手で終わらせた事。
嘗ての戦友やその仲間と出会い、僅かな談笑を交わした事。
最初に戦った武道家と再び戦火を交え、共にいた、―した少女を喪った事。
―――全て、全てを思い出し、彼はそれが走馬灯であることに気が付いた。
既に光は収まり、その中で立ち上がった修羅が此方を見下ろしている。
その拳が、自らへと降り下ろされようとされている事が分かる。
262名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/16(月) 23:14:35.60 ID:d7wxPlun0
 
263その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:14:31.42 ID:ZZLkQngY0
―――なんだ、オシマイかよ。

心の中で、諦めが去来する。
結局、自分はもう進めないのか。
そんな言葉が、テリーの心を呑み込んで。

―――あー、畜生。
―――こんなんじゃ、顔向けできねーかな。

後悔する。
もう少し何か出来なかったかと。
もう少し何か成せなかったかと。
もう大して動かないその体が、精神すらもゆっくりと闇に包んでいく。

―――、なんだ。

そして、テリーは笑う。

「まだ、足掻けんだろうが…っ!」

万力を込めて、魔王の拳を打ち払う。
意外そうな顔をした修羅は、だけれど嗤う。
何故かとその視線の先を追い、テリーもすぐに理解する。
既に、もう一体の魔王も立ち上がり、拳を握っていた。

―――あ、ダメだ。
―――もう、動かねえや。

限界に達した体は、浮遊の風圧から満足に逃れることも出来ず。
264名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/16(月) 23:15:01.86 ID:ZZLkQngY0
「―――な」

だが。
拳がテリーへと届く事は無かった。

「悪いな」

それはある男の見た夢。

「だが、私もまた、気付かせてもらった」

あるエルフを想い、その復讐の為に力を得ようとして失敗した男。

「彼女の幻影を求め、戦った」

そして、ある勇者と愛したエルフに救われ、正気へと戻った男。

「全ては、再び彼女を喪いたくないが為に」

その男は、何も"彼女"に為す事が出来なかった。

「そして、"彼女"を裏切ったんだ」

幻影に囚われ、また彼女がいなくなるのを畏れて。
彼は、"彼女"に少女を重ねた。

「もう私は誰にも逢えはしない」

そして、悲劇は起きた。
自らの利己的な行動が、全てを壊してしまった。
それに絶望し、彼は無力を、弱さを嘆き、ここまで堕ちていた。
強さを求め見た夢は、結局全てを思い出させ、希望を打ち砕いた。

「だが」

だけれど、テリーの言葉は、それを覆した。
無力でも、無駄にならないその行動は。
もう逢えない彼女が見たら、笑ってくれるとそう思えたから。

「無駄ではないなら、私にもまた―――進ませてくれ」

だから今、"ピサロ"は拳を振るう。
自分の憎悪をも喰らっているであろう修羅へ。
それが、少女と"彼女"への、せめてもの償いになると信じて。
265その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:15:38.30 ID:ZZLkQngY0
進化の頂点の拳が、修羅の顔面へと突き刺さる。
その一撃は、正しくこの世に越える物がないと言える剛力。
数多の生物を超越した真なる進化のそれは、アスラゾーマを易々と吹き飛ばした。
すぐさま潜り込み、二発目をその腹へ叩き込む。
痛恨という言葉すら形容出来ない一撃が、修羅の体躯を打ち崩す。
だが、アスラゾーマもまた闇の頂点。
放たれた真紅が咄嗟に翻したマントを焼き焦がし、その影の左腕を燃やし尽くす。
その一瞬は、されど形勢を逆転させるには十分な時間。
修羅の右足がピサロの下腹部に突き刺さる。
よろめく進化の頂点に、追撃が放たれる。
―――閃く、一筋の矢。

「まさか、よ」

それを放ったのは、力尽きたはずの男。
その目は再び闘志に燃え、光に満ちる。

「絶望にまで助けられるなんて、思ってなかったぜ」

そして、テリーは―――咆えた。

「なら、少しは根性見せねえとな!」

立ち上がる二人の目には、覚悟と希望が溢れ。
そんな彼らを見て、修羅が目を閉じる。

「まさか、絶望までもが、新たな希望の下立ち上がるとはな」

その声が表すのは、これ以上ないほどの―――悦び。

「貴様等―――素晴らしい、素晴らしいぞ!
その輝くような魂を今、絶望へと変えて見せろ!」

全ての目が一斉に見開かれ、絶大な雷が修羅を包む。
それが最後の一撃であろうことは、簡単に理解できた。
サイコピサロは、再び創世の爆発の詠唱を奏で。
テリーはある一冊の書物と共に爪を取り出し、渾身の力を込める。
元々覚えていた技ではなく、新しい道を往く為の、新たなる一撃を放たんと。
266名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/16(月) 23:15:39.30 ID:d7wxPlun0
 
267名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/16(月) 23:16:26.39 ID:d7wxPlun0
 
268その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:16:34.93 ID:ZZLkQngY0
―――そして、全てが放たれる。

最初に起きたのは、爆発と閃光の衝突。

ピサロが放ったビッグバンと、アスラゾーマが振るうギガスラッシュが、世界そのものを震わせるような音と共に輝く。

互いに全力を集い放ったそれは、激しい光の後、ゆっくりと消えていく。

その下で、テリーは駆ける。

構えた爪は徐々に魔力を集わせ、神の一撃を形作っていく。

―――笑う、アスラゾーマ。

大鎌に更なる雷が宿り、一瞬にして新たな斬撃が完成する。

修羅が目を閉じていたのが、攻撃を連続して放つ為の精神統一だと。

ようやくテリーが理解したその時には、すでに大鎌が降り下ろされていた。

ゴッドスマッシュは、まだ完成していない。

そして、爆風の中を、斬撃が駆け抜けた。
269名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/16(月) 23:17:03.17 ID:d7wxPlun0
 
270名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/16(月) 23:17:28.45 ID:d7wxPlun0
 
271その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:17:45.22 ID:ZZLkQngY0
究極の攻撃が生み出した爆風が収まり、再び闇に静寂が戻る。
まるで何事もなかったかの様に静まり返る、漆黒の世界。
―――ふとその中に響く、弱々しくも確かな息遣い。
テリーは目を見開き、自らの生を実感する。

「生きて、いるのか…」

自分でも信じられない。
あの激突の中、自分が生き延びたことも。
―――そして、その理由であると思われる、あの光景も。
ボロボロとなったその体に死力を込め、立ち上がる。
震える脚が、いや、その肉体の全てがとうに達した限界を訴えるが、構わず再び歩き出す。
暗い闇の中にまだよく見えない目を凝らし、彼はそれを見つけた。
斬撃の痕をその身に刻み、倒れ伏せた進化の頂点。
ゆっくりと巨大なその体躯へ歩み寄り、手を当てる。
感じるのは、微弱でありながら熱く響く脈動。
生きている事を確認し、テリーは自分でもよく解らない息を着く。

―――庇われた、のか。

あの衝突で。
放たれた二の閃光を受け止め、自分が爪の一撃をもう一体の魔王へと叩き込む為の道を開いたのは、紛れもなくこの魔王だった。
ともあれ、それで彼が死んでいないことに僅かに安堵し、改めて周りを見回して。
―――再び、それを見据える。

「…剣士テリーよ。
よくぞ、よくぞここまで私を打ち砕いた」

強大な光に貫かれ、今にも滅ぼされんとしながら尚威厳を失わぬ、修羅の姿を。
272その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:18:27.77 ID:ZZLkQngY0
「まだ生きてやがるのかよ、全く」

軽口を叩き、弓をその手に握る。
だが、憎悪の魔王はその顔を笑みの形に歪め、言い放つ。

「なあに、もう立てんさ。
貴様のあの一撃、なかなか効いたぞ」

「はっ、お褒めに与り光栄だな。
だけどよ、んなに簡単にくたばってくれるなんて話があるかよ」

「疑うのもいいが、嘘ではないぞ。
此方も先の奥義の連発には参ったからな。
それに、進化の頂点の拳など、まともに受けきれる訳があるまい」

「…ふん、どうだか」

語り合う戦士と魔王。
その声が静かな暗黒の中で響く。
自分が抱いた絶望と会話する、という事に違和感は感じない。
ある意味では『自分と話している』なんて風にも言えるのかもしれない。
それくらい、彼等は自然に語り合っていた。
だが、そんな会話も長くは続かない。

「…ま、話はこれくらいにしようや。
俺は、そろそろ進ませてもらうさ。
まだ、止まってはいられないからな」

何時までも話している訳にはいかない。
目の前の自らを乗り越え、あの幻想すら乗り越えて、いつか真の強さを手にする為に。
テリーは弓を構え、弦を引く。

「…テリーよ。最後に問おう。
その、貴様の進むという道について」

そんな戦士へと。
憎悪の化身は、最後の問答を仕掛ける。
273その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:18:52.98 ID:ZZLkQngY0
「貴様がその道を歩み、光を掴む時。
そこには必ず闇があり、新たな絶望が生まれていこう。
貴様がそうして生きていく限り、それは変わる事は無い。
何故ならば、光有る限り、闇もまた有るからだ」

その台詞は。
嘗てあの城の玉座にて、最期の言葉として勇者に言わんとした言葉。
その勇者が抱えていた絶望の大きさを感じ、言うことが出来なかった言葉と重ね合わせたそれ。

「貴様は、それでももがき生きるのか?
再び道の誘うまま闇に堕ちてでも進んで行くと、そう言うのか?」

嘗ての様に、また気付かぬ内に暗黒へと歩いていく事はないのかと。
それを問うのは、彼自身の絶望で。
そしてそれに答えるのもまた、彼自身だった。









「んなもん、俺が出来る訳ないだろうが」

最も、その解答は。
魔王が想像していたものとは、かけ離れたそれだったのだが。
274名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/16(月) 23:19:02.15 ID:d7wxPlun0
 
275その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:19:29.17 ID:ZZLkQngY0
「…何?」

思わず聞き返す。
恐らくは、もう負ける事はないと、そういった言葉が聴けるであろうと思っていた。
それならそれでいい、ただそれが出来るならだとも考えていたが、放たれたのはその考えも及ばぬ解答。
テリーはそんな疑問符を浮かべる魔王に対しニヒルに笑い、再び口を開いた。

「ハッ、意外そうなツラしてんな。
大方、もっと幸せ100%って感じの、あのロッシュの野郎みたいな答えを期待してたんだろうよ」

そこで言葉を区切る。
浮かべる笑みが自嘲へ変わった事が、アスラゾーマにも分かった。

「俺はそんな高尚な人間じゃないさ。
もしそうなら、あんな間違いだらけの道を突き進んで、しかもそれを正しいなんて思い込みはしないさ」

過去の彼は。
自分が間違っているなんて思いもせず、ただただ強さを求めていた。
それが善だと信じ、悪魔に魂まで売り渡したような人間。
それが、過去のテリーという男だと彼は言う。

「もし、後からいくら後悔と反省をしていたとしても。
そんな人間が、これは正しいと信じた道が―――
絶対に正しいし、闇に呑まれる筈がないなんて言える訳がないだろうが」

「ならば、何故貴様はこの道を進むとそう言える?
何故そこまで前を向いて進めるのだ?」

静かに魔王が言い放つ。
そこまで自分という存在を諦めて、尚も進むその訳が魔王には解らない。
その問いに、テリーは答える。
今度は、これまでのどれよりも明るい笑みを浮かべて。

「もう、俺は一人じゃないからな」
276名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/16(月) 23:19:37.25 ID:d7wxPlun0
 
277その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:19:55.67 ID:ZZLkQngY0
ずっと孤独だった剣士は、ずっと一人で戦ってきた。
戦闘の隊列を組んだとしても、その心は一人、誰よりも強いところへ向かおうと必死で。
ただただ一人だった剣士は、一人の少女に出会って。
初めて、支えあうという事を知った。

「もしまた間違えたとしても、そんな俺を止めてくれる人間がいる」

だから、嘗ての様に独り善がりの道を進むのではなく。

「だから、俺は先へ進む。
その中で挫けても、闇に堕ちそうになっても、俺は戻って来れるさ」

進む道を支え合える人が、今いると胸を張って言える。

 ここ
「心の中に、あいつらがいるから」

ロッシュが。
ハッサンが。
バーバラが。
チャモロが。
アモスが。
ドランゴが。
そして―――守りたかった姉と。
その命尽きるまで共にいてくれた、愛する少女が。
今、テリーを先へ進めてくれる。
だからこそ、彼はもう迷わない。
目の前の道を、まっすぐに進む。
もし間違っていても、迷ったその先で泣き崩れても、彼等がまた自分を導いてくれるから。

「…ふっ。
いいだろう、その道を進め。
貴様の信じる人々と共にな」

「ああ、そうさせてもらうさ」

修羅は厳かに微笑み、戦士は静かに弦を引く。
―――決別の、時。

「もしも貴様がまた闇を抱えたならば、再び私が逢い見える事になるだろう」

「なら、あんたの顔はもう見なくていいって事か」

「貴様の荒んだ面を拝めるのは待ち遠しいな」

「安心しろ、もう見ることはないさ」

「ふん、『光有る限り闇もまた有る』のだぞ?」

「気に入ってんのか?その台詞」

「どうでもよかろう。…よもや、忘れるなどせんだろうな?」

「…忘れないさ、覚えとくよ」

「…さらばだ。また会おうではないか」

「もう会わないさ、永遠に」
278名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/16(月) 23:20:28.04 ID:d7wxPlun0
 
279その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:20:38.63 ID:ZZLkQngY0
「ぬ…ぐぅ…?」

「ようやくお目覚めかよ、全く」

ゆっくりと声を上げるサイコピサロへと、テリーは話しかける。

「アスラゾーマは、どうした…?」

「奴さんなら、ついさっきくたばったさ」

「…そうか」

心なしか少し明るくなった闇の中で、巨体がゆっくりと立ち上がる。
閃光の斬撃痕が爛れ、嫌な音を立てて燻る。
焼け落ちたマントの残骸が崩れ、ゆっくりと消えてゆく。

「庇ってくれたこと、ありがとよ」

「何、僅かにでも、貴様を先に進めるという結果を残すことが出来た。
それで、私は満足だ。胸を張るとまではいかないが、もう未練はない」

そして、彼は気付く。
その体表から、まるで夢の様に美しい輝きが漏れていることに。
魔王の体が、ゆっくりと光の粒子へ変わっていく。

「…時間、か」

ピサロもまた、呟く。
だがその言葉から感じられるのは、一つの達成感。
やるべきことを、成すべきことを最期に遺せたその心が、ゆっくりと満たされていく。

「ミー………ィ…ア、ロ……リー…」

最期の言葉は光に包まれ、テリーの耳に届くことは無かったが。

「…アンタの大切な奴に、届いたかよ」

それでもいいと、彼はそう思い、再び歩き出した。
280その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:21:11.14 ID:ZZLkQngY0
ゆっくりと光が差し込む中で、先程落とした剣を拾う―――と。
僅かに、その肉体が癒える。
気付くと、光の粒子が彼の体に幾つか入り込んでいた。
極まった進化の力が、その肉体を未来へと後押しする。

「…最後まで、助けられてばっかだな」

だが、少しくらいそれに寄りかかっても。
それで未来へ進めるならば、それでいいだろう。
光へと、彼はゆっくり歩み始めている。

【"夢"】
【テリー@DQ6】
[状態]:HP1/10、MP1/5 秘法の力を僅かに吸収
[装備]:雷鳴剣ライデン@DQS、むげんの大弓@DQ9、オーガシールド@DQ6
[道具]:支給品一式、竜王のツメ@DQ9、ツメの秘伝書@DQ9、キメラの翼@DQ3
[思考]:本当の意味で強くなる
[備考]:職業ははぐれメタル(マスター)
(経験職:バトルマスター・魔法戦士・商人・盗賊追加)
   サイコピサロの進化の秘法の一部が、僅かに肉体に取り込まれました。
281名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/16(月) 23:21:11.78 ID:d7wxPlun0
 
282その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:22:12.88 ID:ZZLkQngY0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
















「そうして魔王は、ゆっくりと消えていきました。
彼が死に際に見せるであろう絶望を、その目に焼き付ける事を楽しみに待ちながら」

そこは、果たして何処なのか。
延々と語り続けた青年が、遂に口を閉ざした。
そして、彼はおもむろに手を伸ばす。
その先にある一筋の刃を握り、無造作に引き抜く。
そうして、彼は振り返りながら、再び口を開く。

「そうして、再び闇に還った魔王を待っていたのは」

彼の目の前の空間が歪み、修羅がゆっくりと顕現する。
目を開いたアスラゾーマは、目の前にいる彼を見据える。

「自由になった、勇者でした―――なんて筋書き、どう思うよ」

「下らん」

語った全てを一息に否定され、アレルは笑う。

「おいおい、そりゃ流石に無粋じゃね?
こちとら、ご丁寧に解説までしてやったんだからよ」

「ふん、そんなものが必要だと思っているのか。
結論など、自分しか知っていればよい。
誰よりもその個人、人間らしい絶望こそに意味があるのだから」

「そうかよ、じゃあもうこいつは必要ねえな」

そう笑って、アレルは書物を切り裂く。
それは、全ての生命に存在する、その現実を綴った一つの物語。
霧散していく自らの冒険の書を眺めた後、修羅は再び彼と向き合う。

「これで私も完全に夢物語、か。
まあ、夢想の中にさえ絶望を見出だす人間が居てくれるお陰で、退屈はせんだろうがな」

「それなら悪いが、お前さんは退屈すると思うぜ」

修羅の言葉を受け、勇者は反論を返す。
283その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:22:46.60 ID:ZZLkQngY0
「なんせ、人間ってのは―――どんだけ絶望を描いても、最後には希望を作っちまうからな。
最も、勇者に頼りっぱなしの馬鹿共が描くエゴ丸出しの夢を見るのは、俺はもう飽きたけどな」

そして、剣を構える。

「ってことで何だが、暇潰しに付き合ってくれや。
なんだかんだ言っても、コイツは結構楽しいんだ」

その表情は、何時かのそれとは違う。
絶望を全て投げ棄てて、この夢の中で自由という希望を手にした彼の。
初めて味わう自由な闘争を歓迎する、満面の笑み。

「…成る程、いい希望の表情だ。
その希望を、とびきりの絶望に仕立てるのが楽しみだ」

それを見て、アスラゾーマもまた笑う。
その表情が絶望に変わる様を、この目で味わいたいと心から悦んで。

「アレルよ!!
なにゆえ、もがき生きたのだ?」

「テメェの自由を、何より楽しむ為だ!」

「滅びこそ我が喜び、死に行くものこそ美しい!」

「そうさ、死んで手に入った自由こそ楽しいぜ!
ま、だからと言って…」

「さあ、我が腕の中で息絶えるがいい!!」

「この自由は俺のもんだ!!
貴様なんぞにゃやれねえなあ!!」

そして、永遠の夢幻の中で。
自由と絶望が、終わりなき戦いを始める。
284その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:23:37.94 ID:ZZLkQngY0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――















「そうして、男は消えていきました。
最期にしたその行動は、恋人に少しでも届いた筈と信じて」

エルフの少女は、ゆっくりと読み終える。
その目から、ぽろぽろと涙を流しながら。
止まらないそれは、しかし暖かい手に遮られる。
見上げた、そこにいる男の姿を見て、少女は小さな声を上げる。

「あ…」

男は、ゆっくりと彼女が持っていた書物を取り上げる。
手に握られたそれが、一瞬にして燃え尽きた。

「…っ!?」

声にならない悲鳴を上げる少女に、男は笑いかけ。
ゆっくりと、口を動かす。
「ロザ、…リー…」

その声は、今にも消えそうで。
それでも、その感情を伝えるには十分な言葉を綴っていた。

「………愛、して…いる……」

その台詞に、少女は思い出す。
それは、あの時と真逆。
自分は、遺すのではなく、受け取り。
彼が、受け取るのではなく、遺す。
だけど、あの時と違うのは。
自分の様に、叶わぬ希望を、諦めを遺すのではなく。
彼がせめて何か、現実を遺そうとしている事で。
もう声もなく、それでも彼はゆっくりと彼女へ、その手を―――
285その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:24:07.81 ID:ZZLkQngY0
小鳥の声が、朝焼けに小さく響く。
ロザリーはゆっくりと目を開き、涙を拭いた。
数日前から姿を消していた、愛する人の夢。
只の夢である筈なのに、それを否定するのは出来ない。
恐らく、彼は戻ってこないと。
そう、彼女自身がよく解っていた。

「ピサロ様」

名前を呟く。
だけど、涙は流れない。
何故ならば。

「いつまでも、ずっと」

そこに彼が居なくとも。
自分が抱いたその夢の中の中に、彼はいる。

「私の、夢の中で」

それは、あの姫の様な狂気の様で、そうでない。
もう彼が姿を見せてくれる事が無いのは、解っている。
それでも、彼女は想う。
夢の中で、きっとまた彼に会えると。
現実ではなく、けれどそれは決してウソでは、『何もない』訳ではないから。
頭に乗った手の温もりが、まだここにあるから。

「…また、会いましょう」

男が遺した、遺す事が出来たその希望を抱き、彼女は生きてゆく。

【修羅たる憎悪@DQBR2nd 夢散】

【真なる進化@DQBR2nd 夢散】
286名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/16(月) 23:24:26.48 ID:d7wxPlun0
 
287その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:24:52.65 ID:ZZLkQngY0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――























「どうでもいい、本当にどうでもいい話を、最後に語ろう」

眠り続ける地獄の帝王が、夢の中で静かに声を上げる。

「彼は、この夢の終着点で、三体の滅びの化身と戦った。
真なる進化。
修羅なる憎悪。
破滅の極み。
そして、最後の滅びの化身である真なる竜の王は、赤毛の魔術師にその僅かな力を残した」

それは、あるいはただの妄想。
だが、夢と妄想は完全に異なるものか―――答えは、少なくともイエスではない。

「彼自身が得た進化の秘法に、滅びを齎す魔王の力の残滓。
そして、もはや決して潰えない、彼の心が全てを一つにした時。
―――何が、起こるだろうか」

その妄想は、意味を成すのか。
それすらもまだ解らないまま、地獄の帝王は再び深淵の眠りに落ちた。👀
288その為に生きた  ◆KV7BL7iLes :2015/02/16(月) 23:25:37.10 ID:ZZLkQngY0
これにて投下終了です。
289名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/16(月) 23:38:38.43 ID:d7wxPlun0
投下乙です!
すげえ、なんていうか、もうすげえ。
絶望から救いへ、そして前へ。
魔王よりも深い絶望が、魔王を砕くというワードも。
ゾーマ様の格好良さも、救われたピサロも。
そして何より、テリーがかっこよくて、もう……!
290名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/17(火) 00:04:06.74 ID:cG5YL3uZ0
最終決戦からめっちゃはしゃぎ回ってるアレルくんマジ自由人w
291名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/17(火) 03:29:23.25 ID:ShCf4tqp0
モンスターズの魔王達みんなかっこよすぎるだろう
292名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/17(火) 03:50:17.64 ID:GMUjMNer0
まるで大魔王のバーゲンセールだな……

登場人物がみんな格好いい。テリーが一番どう切り抜けるか気になっていたが、こんなに熱い展開になるとは。

「夢の世界」をこれでもかとうまく使いこなす書き手の皆様に感動を覚えると同時に、その設定を作り上げた堀井先生の偉大さをしみじみ感じます。

投下乙です!
293名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/22(日) 03:46:36.33 ID:0M9CwXbM0
294名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/22(日) 17:52:55.26 ID:0M9CwXbM0
 
295流星、銀に輝け ◆CruTUZYrlM :2015/02/24(火) 00:28:08.19 ID:+BD/GDnx0
時は少し遡る。
この最後の戦いが始まる、少し前の話。
決戦の地へと向かうため、ヘルハーブの井戸に飛び込んだ一行。
真っ暗闇の中、光を見つけたテリーが真っ先に叫んだ。

「みんな! こっちだ!」

そしてその光を見失わないように体を傾けながら、一番近くにいたソフィアの腕を掴む。
連鎖するようにソフィアがカインを、カインがゼシカを、ゼシカがビアンカを、ビアンカがゲロゲロを。
最後に、ゲロゲロがロッシュの腕を掴んだ。
そして、闇を切り抜けた先で最後の戦いは始まった。
ここまでは、皆が記憶しているとおりだ。

だが、ここで一つだけ、忘れていることがある。

「おい、ロッシュ」

ビアンカが錬金で道を切り開かんとしていたとき、テリーがロッシュに問う。

「うるふわ、どこ行った」

共に飛び込んだはずの、一匹の狼の所在を。
彼が一人の少女とこの世界を旅した、証明ともいえるその存在を。
だが、その問いかけに対し、ロッシュは俯く。

「……届かなかった、ゴメン」

伸ばした手は、届かなかった、と。
連れてこようにも、連れてくることが出来なかった、と。
後悔の表情を浮かべたロッシュを見て、テリーは察した。
それ以上を問いかけることはせず、今はやるべき事をやるべきだと、頭を切り替えていった。
296流星、銀に輝け ◆CruTUZYrlM :2015/02/24(火) 00:28:38.79 ID:+BD/GDnx0
 


ひとつ、嘘をついた。
だが、テリーはおろか、その場にいる誰もがそれを嘘だと知り得なかった。
井戸の闇の中から光へと向かう途中、その最後。
ロッシュは、その存在を認識し、あまつさえ手を伸ばして救うことすら出来たはずなのに。
その手を伸ばさず、狼が闇に飲まれていくのを、ただ、じっと見つめていた。



暗い、暗い、闇の中。
一人取り残された狼が駆ける。
一点の光すらない世界の中、ただ狼は走り続ける。
進んでも進んでも変わらない景色と、突き刺さるように冷たい空気の中。
めげることもなく、ただ前へと突き進んでいく。
その先に"いる"気がして、仕方がないから。
じっとなんてしていられなくて、ただ、前へ進んでいく。
終わりはおろか"光"すら見えない。
自分が向かっている方角は正しいのかすら、分からない。
けれど、構うことなく足を進める。
息が上がっても、足がどれだけ重くなっても。
気にも止めることなく、ただただ走り続ける。

けれど、何事にも限界がある。
狼とて、それは同じ事。
体力の限界は、等しく訪れるものだ。
鉄枷が着いたかのように重い足、上がりっぱなしの呼吸。
立ち止まってはいられないと分かっていても、体が言うことを聞かないのだ。
前に、前に進まなければと思っても、たった一歩すら踏み出すことも出来ない。
一歩進むために持ち上げようとしても、持ち上がらない。
ただ、そこに立っていることしか、出来なかった。

そして、ついに。
狼は止まることを強いられ、力なくその場に倒れ込んだ。
急激に意識が遠くなるのが分かる。
溜まりに溜まった疲れが、自身の体に警鐘を鳴らしているのか。
抗うことなど出来るわけもなく。
その意識を、闇に落としていった。
297流星、銀に輝け ◆CruTUZYrlM :2015/02/24(火) 00:29:04.50 ID:+BD/GDnx0
 


目が覚めた。
そこに広がっていたのは、闇ではない。
一面に広がる草原と、雲一つ無い綺麗な青空。
澄んだ空気が、胸一杯に染み渡っていく。
どれだけ長い間眠っていたのかは分からないが、立ち上がれるくらいには体力を取り戻したようだ。
それを理解し、狼はゆっくりと立ち上がる。

「あら、めずらしい……」

それとほぼ同時に、声をかけられる。
声のする方を向けば、太陽の用に輝くドレスに身を纏った妙齢の女性が、狼をじっと見つめていた。
女性はまるで一国の王女のように美しく、思わず見とれてしまう。
緑が生い茂る中だからこそ、ひときわ目立つ姿は、正直眩しいくらいだった。

「どこから、いらしたのかしら」

女性はゆっくりと屈み込み、狼に笑いかける。
野生の狼だというのに、全く怖じ気づく事なく、手を伸ばしていく。
怯えることも警戒することもなく、狼は差し伸べられる手を待った。
ふわりと毛皮を撫でる、やわらかくて暖かい手。
ああ、なんて心地よい感覚なのだろうか。
叶うことなら、ずっとこうしていたいと思うほどだ。

「ローラ、どうしたんだい」

ローラと呼ばれた女性の後ろから、壮年の男性が声をかける。
威厳を持ちながらも、優しさを兼ね揃えたその姿。
半ば見とれるように、狼はその男を見続けた。

「いえ、狼なんて珍しいと思って」

投げかけられた問いに答えながら、ローラは狼を撫で続ける。
ローラの隣に男もゆっくりと座り込み、彼もまた狼へと手を伸ばす。
少しゴツゴツしている大きな手が、狼を撫でる。
だが、狼は嫌がらず、それを受け入れる。
何故なら、男の手もまた、違う暖かみがあったから。

「ひどく……疲れてるようだ」

撫でる途中、男は小さく言葉を呟く。
手先からあふれ出した光が、すうっと狼を包み込んでいく。
ローラの手とも、男の手とも違う暖かさ。
体の奥底から、力が沸いてくる。
正直、自分にまだこんな力があったのかと、驚いているくらいだ。

「どこかへ、行くんだろ?」

男の問いかけに、狼はじっと目を見つめ、こくりと一度頷く。
言葉は理解できなくても、気持ちは何となくわかる。
生まれた種族こそ違えど、通じるものは確かにあるのだ。
男と狼のやりとりをみて、ローラが「まあ」と小さくこぼしてから、ゆっくりと立ち上がる。
298流星、銀に輝け ◆CruTUZYrlM :2015/02/24(火) 00:29:46.42 ID:+BD/GDnx0
 
「でしたら」

そして、両手を広げて、空を仰いで。

「この歌を、持って行ってください」

歌を、歌い始めた。
綺麗な青空に溶け込むように、澄み渡っていく歌声。
それに呼応するように、木と草が揺れていく。
いや、それだけではない。
水が、大地が、空気が、生きるもの全てが。
まるで、"愛"を象っているように。
ローラと共に、歌を歌っていた。

歌が終わり、唐突に静けさが訪れる。
誰に向けたものでもない一礼と同時に、男の拍手が響き渡る。

「……いい歌だろ」

狼を見つめ、自慢げに男は笑う。
男は、もう何度もこの歌を聴いているのだろうか。
だとすればそれは、とても幸せな事だろう。
こんなにも暖かく、こんなにも優しい気持ちになれるのだから。

「俺がお前に託すのは、勇気だ」

その言葉と共に、大きな手で狼の前足を握る。
じっ、とそのまま、祈るように男は固まる。
ただ、前足を握られているだけ、それだけなのに。
心の底から、力と勇気がどんどん沸いてくる。
先ほどまで、鉛のように重かったはずの足は、もう重くない。
何が起こったのかわからない、とでも言いたげに、狼は男の顔を見上げる。
そんな狼を見つめ、男は満面の笑みを浮かべて、頭を撫でる。

「じゃあ、頼んだぜ」

それ以上、言葉は必要なかった。
やるべき事がある、そしてそれをやるだけの力を手にした。
立ち止まっている理由など、どこにもない。
狼はぺこりと頭を下げてから、どこかへと駆けだしていった。

「……行ってしまわれましたね」

走り去っていく狼を見つめる、二人。

「ああ」

決して手が届くことのない場所へと向かう、一つの希望に全てを。

「後は俺たちの"未来"が、頑張るのを見届けるしかないさ」

最後まで、見守っていた。
299流星、銀に輝け ◆CruTUZYrlM :2015/02/24(火) 00:30:11.93 ID:+BD/GDnx0
 


抜け落ちる、色。
崩壊していく、世界。
だが、狼は目もくれずに駆けだしていく。
止まってはいけない、止まってしまえば、そこで終わりだから。
見えなくなっていく足場に、怖じることもなく。
ただ、ただ前へと駆けだしていく。
まっすぐ、まっすぐ駆け抜けた先、闇に光がともり、色を作っていく。
瞬く間にそれは世界となり、狼を包み込んで――――



びゅうう、と凍えてしまいそうなほど冷たい風が、吹き抜ける。
突き刺さるように冷えた石の地面が、その冷たさを加速させる。
打って変わって狭苦しい場所に、狼は少し警戒心を強める。

「狼……? こんな場所に?」

聞こえた声、咄嗟に振り向いた先。
そこに鎮座していたのは、一人の男。
二対の燭台に挟まれ、玉座に腰を据えたまま、狼を見ている。
禍々しい気が張りつめる中、狼は喉を鳴らし、男を睨みつけた。
そんな狼の視線は気にも止めず、けれども驚いたような表情で、男は狼を見続けていた。
睨み合いが、続いていく。
まるで凍ったような時の中、風だけが吹き抜けていく。
そして、両者共に動かぬまま、しばらく経ったとき。
かつん、かつんと、もう一つの足音が響き始めた。


.
300流星、銀に輝け ◆CruTUZYrlM :2015/02/24(火) 00:30:45.90 ID:+BD/GDnx0
石段を上りきり、辺りをぐるりと見渡していく。
最上階の開けた部屋に、ぽつんとそこにある玉座と燭台。
そして、そこに居るのはたった一人。
今もなお世界を恐怖に陥れんとする、邪神官として恐れられる男、ハーゴンの姿だけだ。

「どうした、ベリアル」

石段を上り、最上階へと現れた黄色い悪魔、ベリアルへとは問いかけていく。
その問いかけを受け、ベリアルはもう一度左右を見渡して、答えていく。

「いえ、何か気配がしたものですから」

わずかな気配、ハーゴンとは違う何かを感じ取り、異常かどうかを確かめに来た。
だが、登ってみれば、なんて事はない。
いつもと変わらぬ、ハーゴンの姿がそこにあるだけ。

「フン、破壊神様の怒りにでも触れたのではないか?」

呆れたように笑いながら、ベリアルに答えていく。
玉座に構えたまま、肘をついて笑うその姿は、何よりも悪魔と呼ぶに相応しい姿だった。

「……ハーゴン様がご冗談とは珍しい」

ベリアルもまた、笑い返す。
だが、ただ笑い返すだけではない。
妙なのだ、目の前の男がそんな軽口を叩くことも。
そして、未だに"違和感"が拭えないことも。
もっと何か、別の。

「おいベリアル! 何やってんだよ!」

そこまで考えたところで、紫の毛に覆われた悪魔、バズズが慌てて登ってくる。
彼ほどの者が慌てているのだ、何事かと考えることもなく、二の句は予想がつく。

「敵襲だ! アトラスが食い止めてるッ! テメェも早く来るんだよッ!!」

想像通りの言葉が、待っていた。
ロンダルキアを突破し、この神殿へとたどり着かんとする者。
そんな事ができる存在は、限られている。

「では、失礼いたします」

真実かどうかわからない"違和感"より、今目の前にある危機だ。
頭を切り替え、一礼の後、ベリアルはバズズの後を追うように最上階を後にした。
301流星、銀に輝け ◆CruTUZYrlM :2015/02/24(火) 00:31:29.27 ID:+BD/GDnx0
 


「上手く行った、か」

ベリアルが姿を消した後、鳴り響き始めた戦闘音を聞きながら、ハーゴンは言葉を漏らす。
玉座の裏、一歩ずつゆっくりと姿を現す狼を見て、思わず安堵のため息をつく。

「……何故だろうな、お前を見ていると懐かしさを覚える」

何故、疑われる危険を負ってまで、狼を庇ったのか。
腕を一振りすれば、その命を奪い去ることすら容易だったのに。
ハーゴンはそれをせず、部下から狼を庇うように立ち回った。

「まるで、共に旅をしていた仲間のような、そんな感覚すら覚える」

一時の感情の迷いか、それとも本当に懐かしんでいたのか。
少なくとも、命を奪うような真似をする気分には、なれなかった。
妙な日もあるものだ、と自分自身を振り返り。

「……くだらん、仲間など居る訳もないのに」

自分で自分をあざ笑う。
全てを破壊すると言っておきながら、目の前の命一つすら奪えない。
まだまだ、気持ちに迷いがあるという事なのか。
こんな様では、自分こそ破壊神に笑われてしまう。
自分が飛ばした冗談が、皮肉となって跳ね返ってくるとは。

「さあ行け、この世界が滅んでしまう前にな」

どこへ向かうでもなく、狼が駆けだしていく。
その後ろ姿をじっと見つめ、邪神官は再びため息をついた。
破壊神を蘇らせるという、夢。
それが叶うのは、まだ――――――――
302流星、銀に輝け ◆CruTUZYrlM :2015/02/24(火) 00:32:02.36 ID:+BD/GDnx0
 


突き破る、というよりはすり抜ける、といった表現が近かったか。
何かに誘われるように走り出した先の石の壁が、狼の足を遮ることはなかった。
一瞬の暗闇を経て、また違う景色が広がっていく。
草の一本すらない、荒れ果てた大地。
雪に包まれた先ほどとは違う、冷たい風が狼を撫でる。
今度は一体、何が待っているというのか。

「狼? 珍しい」

また、声をかけられる。
見つかると言うよりは、誰かの前に現れてしまう、と言った方が正しいか。
透き通る水色の髪、燃え上がるような赤い眼、そして凛とした佇まい。
今度の相手は、この女のようだ。

「……こんな世界で、お前のような生き物を見るとはな」

気がつけば、一歩退いていた。
殺意とも取れる何かが、肌を突き刺していく。
生存本能がけたたましく警鐘を鳴らすが、それを放つ当の本人にその気はないようだ。
無意識の、威圧。
安っぽい言葉になるが、それは"覇気"と呼ぶに相応しかった。
狼がそれに威圧されているのを知らずか、女は視線を落とし、姿勢を崩して狼を見つめていく。
逃げた方がいい、そうは思っていても足が全く動かない。
まるで大きな釘でも刺さっているかのように、ぴくりとも動かない。
ただ、差し出される手の行方を、見つめることしかできない。
そして、その手がゆっくりと狼の体に触れる。

「ひとり、か」

撫でられた。
それどころか、回復呪文までかけられている。
初めの男と同じようで、また違う暖かさが、狼を包む。
当の狼は、全く予想していなかった出来事に困惑することしかできなかった。
毛並みに沿い、付いている土埃を払うように、女の手が綺麗に流れる。
時を重ねるにつれ、初めに抱いていた警戒心は薄れ、安らぎへと変わっていった。

「ああ、そうか」

ふと、女が呟く。
狼に向けて、誰かに向けて。
感じ取ったというよりは、悟っていた。

「アレルは、自由になったのだな」

狼を撫でる手が、ぴたりと止まる。
そして、ゆっくりと座り込み、言葉を続ける。

「……私程度が縛れる存在ではない、とうに知っていた」

何者にも縛られず、自由を追い求める。
無法の強さの裏にあるのは、確固たる意志だった。
自分でさえも、その望みを絶ちきることなど、出来はしないのだろう。
303流星、銀に輝け ◆CruTUZYrlM :2015/02/24(火) 00:32:29.44 ID:+BD/GDnx0
 
「だからこそ、恋い焦がれる」

だからこそ、だからこそなのだ。
常に上に立ち続ける"強さ"があるからこそ、彼女は彼に惚れた。
追いついたと思っても、また離される。
けれど、それは追い続けられるということ。
終わらない鍛錬の道を歩み続けられるからこそだ。

「無駄話が過ぎたか、独り言が多くなるのは年を取った証拠と言えるな」

ゆっくりと立ち上がる。
そう、彼女にはまだやるべき事があるのだ。
こんな場所で道草をしている場合ではない。
けれど、その道草のおかげで再認識することができた。
自分が未熟であることと、自分が成長できることを。

「話を聞いてくれた礼だ、受け取れ」

懐から取り出した、一枚のカード。
それは、万物に勝ると言われている一枚のカードだ。
あの時、あの魔術師は自分をこのカードに例えた。
だが、今はそうではないと否定できる。
万物に勝る存在であると、自負するにはまだ早すぎるからだ。

「さあ行け、ここはお前の居るべき場所ではない」

狼がそのカードを落とさぬよう、袋に入れて背中に括り付けてやり、その背中をとん、と押す。
反射的に、狼は駆け出す。
薄暗く緑の一つもない、途方もなく広い荒れ果てた大地を。
遠く、遠く、遙か彼方に消えていくまで。
彼女は、狼の姿を見守っていた。

「……私はアレルと共にいられるほどの、存在ではない」

狼の姿が見えなくなったあたりで、女は再び口を開く。
事実を再認識するための、小さくて、大きな呟き。

「それは私が非力で、無力で、弱い所為だ」

一歩一歩、足を進めながら、今の自分を噛みしめていく。
自惚れを捨て去り、鍛錬に勤しむために。
自分は、弱いのだと認識していく。

「だから……彼の自由を邪魔せぬほど、私が強くなればいい」

そして、やるべき事を口に出す。
自分が弱いのだから、やることははっきりしている。
もっともっと、強くなる。
あの男の側に、いられるほどに。
304流星、銀に輝け ◆CruTUZYrlM :2015/02/24(火) 00:32:55.09 ID:+BD/GDnx0
 
「そう思うだろう、なあ」

そこまで再認識し終えたところで、剣を抜く。

「リンリン」

そして、剣先を一人の少女に向けてニヤリと笑う。

「まあカーラったら、呼び出しておいて何かと思えば、そんな独り言を聞かせる為でしたの?」

リンリンは、カーラを小馬鹿にするようにそう答えていく。
その顔に笑顔は、無い。

「はっ、まさか」

笑う。
ただただ、荒れ果てた大地が広がる、この地獄のような世界。
そんな場所で、カーラがリンリンを求めた理由。

「一度、真剣に向き合ってみたいと思っていた。訓練ではなく、実戦で、命を懸けて」

強くなるには、強き者と戦う必要がある。
目指す場所にたどり着くまでに、立ちはだかる壁を乗り越える必要がある。
そして、そこを目指しているのは自分だけではない。
目の前にいる彼女とて、同じ道を歩もうとしている。

「さあ行くぞ、私はアレルに相応しい女になる」

剣を構え、カーラは笑う。

「お言葉ですけど、それは私の台詞ですわ。
 タダで済むとお思いにならない方が、よろしくてよ?」

拳を構え、リンリンは笑う。

「その方が都合がいい」

地獄の中、たった二人きり。

「私が、強くなれるからな!!」

終わらない戦いが、幕を開ける。
305流星、銀に輝け ◆CruTUZYrlM :2015/02/24(火) 00:33:37.08 ID:+BD/GDnx0
 


地獄を抜け出し、三度目の闇を抜け出した先。
そこは、少し高い空の上。
着地しようにも地面が無く、一番近いところでもかなり遠く感じる空の上だ。
背中に翼があれば、話が変わるかもしれないが、無いものをねだったところでどうしようもない。
抗えない自然の摂理に沿って、ただただ、落ちていくだけ。
着地できるか? できたとして無傷でいられるのか?
そんなことを考えている間にも、自分の体は速度を増していく。
そして、あと少しで地面だと認識したとき。

「うわ、わわわわっ!!」

少し間の抜けた、少女の声が聞こえた。
間もなくして衝突音、幸か不幸か、少女がクッションになる形になり、狼は傷を免れた。
狼はゆっくりと立ち上がり、少女の姿を見つめる。

「痛たたた……あ、ご、ごめんね! 痛くなかった?」

少女もまた、痛みを押しながら立ち上がり、狼へと語りかけていく。
差し伸べられた腕は細く、けれども力強さを兼ね揃えていた。
大した外傷も無く済んだのは、やはり彼女のおかげだろう。
返事代わりに小さく吠えると、少女はとても嬉しそうに笑顔をこぼした。

「ちょっとアリーナ! 突然走り出してどうしたのよ!」

森の奥の方から、数人が駆け寄ってくる。
褐色の肌と紫の髪の双子と、リボンが特徴的な一騎の鎧。
きっと、彼女の仲間なのだろう。
特に怯えることもなく、狼は四人を見つめ続ける。

「ごめんごめん、何となく空を見てたら、この子が落ちてきそうだったから、助けなきゃって……」

ゆっくりと立ち上がり、えへへ、と小さく笑いをこぼしながら、両手を広げて無傷をアピールしていく。
安堵のため息をもらす双子に対し、鎧はその姿をじっと見つめていた。
そして、一歩前に踏み込み、アリーナの背中へと回り込んでいく。

「ベホイミ」

わずかに血が染み込んでいた背中を見逃さず、回復呪文を当てていく。
アリーナの体が暖かい光に包まれ、ゆっくりと傷が塞がっていく。

「無理は、するなよ」

治療の後、そんな彼女にかけられたのは、心配の言葉だった。
大事に思ってもらっている、それを再確認できただけで、十分である。

「ありがと」

恥ずかしそうに笑い、小さな感謝の言葉を届ける。
そして、心配をかけたことに対し、頭を下げて謝罪していく。

「サイモンさん、すっかり上手になりましたね」

回復呪文を放った鎧を見て、双子の妹の方が感嘆の声を上げる。
見て学んできたとは言え、これだけしっかりとした呪文を使えるのは、立派なものだから。
306流星、銀に輝け ◆CruTUZYrlM :2015/02/24(火) 00:34:57.03 ID:+BD/GDnx0
 
「ミネアのおかげだ」

鎧もまた、少し恥ずかしそうに感謝を述べる。

「ちぇ、アタシが教えてあげた時はそんなこと言わなかったのに」

反面、それを見ていた姉はつまらなそうに愚痴をこぼす。
何も彼に教えたのは回復呪文だけではない。
攻めのための呪文だって、彼女が教えていた。
戦闘で使える程度になった時でも、鎧はそんなことを言わなかったというのに。

「……すまない、マーニャ」
「あ"あっ! そうやってアタシが苦手なパターンに持ち込む!!」

気まずさに思わず謝罪してしまう鎧に対し、マーニャが怒りを露わにしていく。
皮肉を大まじめにとられるのが、一番苦手なパターンなのだ。
だから、いつもこうしてマーニャが一人で拗ねてしまうパターンに入る。
変わらない、なんて事はないやりとり。
それを見て、アリーナは笑う。
ずっとずっと、楽しい時間はこうやって続いていくのだ。

「もう、行くでしょ?」

視線を落とし、狼に問いかけていく。
空から降ってきたときから、普通ではないと思っていた。
けれど、それ以外にも何か、狼が使命を背負っているのは、薄々感じていたのだ。
こくり、と小さく頷いた狼に対し、アリーナは言葉を続ける。

「みんなに、伝えてくれるかな」

彼女が願うのは、ただ一つ。

「あたし達は、ずーっと友達だよ、って」

出会った者達と、いつまでも友達でいること。
ずっとずっと、忘れなければ、友達でいられるから。
自分は忘れない、出会った人々を、友達のことを。
だから、忘れないでほしかった。
仲間を、自分を、アリーナという一人の少女を。
友達として、胸に刻んでおいてほしかったのだ。

「行ってらっしゃい、頑張ってね!!」

アリーナの願いを背負い、狼はまたどこかへと走っていく。
その姿が見えなくなるまで、アリーナ達はその後ろ姿を見送っていた。

太陽が輝いている。
森の中、暖かい木漏れ日と共に、足を進めていく。
何の変哲もないただの森を進んでいく理由。

それは、"友達"を迎えに行くため。

「……やっと、見つけた」

こんな森の奥深くで、一人でずっと泣いていた、桃色の髪の少女に。

「迎えに、来たよ」

手を、差し伸べるため。
307流星、銀に輝け ◆CruTUZYrlM :2015/02/24(火) 00:35:52.10 ID:+BD/GDnx0
 


四度目ともなれば、もう慣れたものか。
抜け落ちていく世界も、生まれてくる世界も、特に驚くことはない。
自分は、それをただ駆け抜けるだけなのだから。
次なる場所はどこかのか、次こそは"光"を手にできるのか。
走らなければ分からないことだから、走り続けるしかない。
駆け抜けた先、そこは薄暗い洞窟の中。
次は、どこに向かうべきなのかと考えていたとき。

「あっ、狼さんだ!!」
「ホント!? どこどこ!?」

元気な二つの声が、洞窟中に響く。
間もなくして、どたどたと二つの足音が聞こえ、こちらに近づいてくる。
警戒するべきか、否か、それを考えるのに時間は必要なかった。
その正体は、輝くような笑顔の、二人の子供だったからだ。
むしろ、自分の姿に怖がらないのか、と狼が驚いているほどだ。

「か〜わいい〜〜!」

出会うや否や、首もとからがっしりと抱きついてきて、全身を撫でられる。
少し苦しいけれど、柔らかくって、暖かくて、優しい。
無邪気な二人の接触に、狼は満更でもない顔でそれを受けていた。

「ねえねえ、どこからきたの? あたし、タバサ! よろしくね!」
「僕はレックス、よろしくね!」

ひとしきり撫で終わった後に一歩退き、二人ほぼ同時に自己紹介をする。
言葉が通じる相手ではないというのに、何の疑いを持つこともない。
本当に純粋な、子供らしい眼をした二人に、狼は少しだけたじろいでしまう。

「ああ、やはりここにいましたか」
「あっ、ピエール!」

そんなとき、もう一つの声が響く。
呼びかけられたレックスの声とほぼ同時に現れたのは、一匹の魔物。
狼はその姿を見て、条件反射でうなり声を漏らしてしまう。
が、それに気づいたタバサが、微笑みながら狼を撫でる。
大丈夫、という無言のメッセージが籠もったその手に、狼はひとまず安心することにした。

「裏山探検もいいですが、そろそろお食事の時間ですよ」
「は〜い」

とても魔物とは思えないほど、優しい声。
とてとて、とついていくレックスの後を追うように、タバサもついていこうとする。

「あ、そうだ!」

そこで、何かを思い出したかのように立ち止まり、振り向いて微笑む。
再び、差し伸べられる暖かい手。

「ねっ、狼さんっ、一緒に行こうよ!」

受ける理由はなかったが、断る理由もない。
こんなにも優しく差し伸べられた手を、はねのけるほどの事も無い。
狼は、差し伸べられた手に答えるように、ゆっくりと前に進んでいった。
308流星、銀に輝け ◆CruTUZYrlM :2015/02/24(火) 00:36:31.39 ID:+BD/GDnx0
 
大まかな移動は転移呪文だった。
間もなくして目の前に現れたのは大きな城が一つ。
ここが、どうやら彼らの家のようだ。
招かれるままに、城へと足を進めていく。

少し太った召使いらしき男のお帰りなさい、という暖かい声。
それに反応するように、城中から声が聞こえてくる。
それだけでも、二人がどういう存在なのか、はっきりと分かる。

大通りを抜け、最上階のある部屋の前に立ったとき、子供たちと同じ青さの髪を持つ、綺麗な女性が現れた。
「おかあさん」と、二人が声を上げる。
どうやら、彼女が二人の母親らしい。
現れた彼女は、少し申し訳なさそうな顔をして、二人に語りかける。

「ごめんね、もうちょっとだけ準備に時間がかかるから、待ってくれる?」

二人は少しだけ困った顔を浮かべた後、さぞ名案が浮かんだかのように、顔を明るくさせる。

「じゃ、お城を探検しようよ!」

時間があるなら、できることはある。
大事な客人に、自分の"家"を案内できる時間になる。
そうと決まれば動きは早く、二人は狼を連れて階段を駆け下りていった。

真っ先に向かったのは、城の少し外。
そこで、黒髪の派手な女性が、複数の魔物を相手に剣を握っていた。
煉瓦で出来た巨人、刀と矢を手にした機械、
どれもこれも、屈強な魔物たち。
到底、一人で相手できるとは思えない、が。

「ゴレムス、ギーガ! 隙を意識しなさい!
 ロビン、エミリー! 守りが足りないわ!
 リンガー、オークス! 真正面を破られるわよ! もっと踏み込みなさい!」

戦いの主導権を握っているのは、常に女性だった。
鮮やかで、流れるような剣捌きと、荒れ狂い猛る呪文。
それらによる力強い攻めは、屈強な魔物たちを圧倒するに十分な技量であった。

聞けば、あの母親の姉らしく、旅で培った戦闘技量を買われ、つい最近、魔物たちの指導要員になったのだとか。
見た目とは裏腹に力強い攻めの数々が、何よりの証拠だろう。
魔物たちの戦いのクセを見抜き、正確に指摘している。

「ピピン、分かった?」
「あ、はっ、はい」
「もう、本当に分かってるの?」

その中に、一人混じっていた少し気の弱そうな男に、彼女は問いかける。
ピピンと呼ばれた男はこの城の近衛兵のようだが……正直、女性の方が力強く、心強いと思うのは間違いではなさそうだ。
小さなため息が漏れた後、彼女は子供たちに気がつく。

「あら、今日は珍しいわね。ありがと、もう行くわ」

おそらく、普段は先ほどの魔物が迎えに来るのだろう。
わしわし、と二人の頭を撫でた後、魔物たちに声をかけてから、彼女も城へと戻っていった。

次に向かったのは、城の地下。
広大な場所にいるのは、無数の魔物だった。
けれど、殺意も敵意も感じない、むしろ感じるのは優しさと暖かさだ。
309流星、銀に輝け ◆CruTUZYrlM :2015/02/24(火) 00:37:12.32 ID:+BD/GDnx0
 
「チロルーーーーっ!!」

タバサが、すぐ近くにいた大きな獣へと飛びついていく。
獣は嫌がるわけでもなく、むしろ満更でもなさそうな表情で、まるで猫のように転がっていた。

「あっ、レックス様!」

一匹のスライムが、レックスの姿を見て飛び跳ねる。
それに反応するように、次々に魔物たちがレックスの方を向く。

「お帰りなさいませ」

真っ先に反応したのは、赤い体と山羊の頭を持つ魔物。
そして、兜だけの魔物が嬉しそうに飛び跳ね、二色のリンゴもごろごろとあたりを転がっている。
子供たちの何倍も大きな姿の巨竜も、上から笑顔で見守っている。
空を飛ぶ蝙蝠や怪鳥や宝石、踊るスライム達など、誰も彼もが本当に嬉しそうな表情を浮かべていた。

「すごいでしょ」

そんな魔物たちに囲まれながら、レックスは自慢げに笑う。

「みんな、お父さんの友達なんだよ」

ここにいるのは、みなが仲間。
一人一人が、大切な彼の友達であり、仲間なのだ。
その証は、互いに信頼しあった表情と、安堵の顔。
そして何よりも笑顔。
暖かく、輝く空間が、そこに確かにあった。

そこで、ゆっくりと地下に、先ほどレックス達を迎えにきた魔物が降りてくる。

「レックス様、タバサ様、お食事の準備が整いましたよ。手を洗って、うがいをお済ませ下さい」

どうやら、食事の準備が整ったようだ。
子供たちは元気よく返事をし、仲間たちに別れを告げてから、最上階へと足を進めていった。

「いつもありがとう、ピエール」

最上階の広間の前、手を洗いに行った子供たちと入れ違いに現れたのは、ターバンの男だった。
スライムの騎士が、一礼をする。

「リュカ様、戻られたのですか」

リュカと呼ばれた男は、子供たちの目付役であったスライムの騎士の頭を撫でる。
母親と同じ、輝くような笑顔。
ああ、この笑顔が子供たちにも、引き継がれたのだろうと分かる。

「今し方、ね」

その笑顔が、自分にも振りまかれていることに気づき、狼は返事代わりに少し鳴いた。
腰を下ろし、狼に目線を合わせ、頭を撫でていく。

「今日はお客の多い一日だねえ」
「はい?」

その言葉がどういう意味なのか、騎士には分からなかった。
けれど、狼には何となく分かっていた。
と、いうよりは悟られていた、が近いだろうか。
310流星、銀に輝け ◆CruTUZYrlM :2015/02/24(火) 00:37:38.01 ID:+BD/GDnx0
 
「ふふっ、なんでもないさ」

頭を撫でながら、リュカは立ち上がる。

「……背中は押した、未練はないし、見送ってきたつもりさ」

ゆっくり、ゆっくりと、食事場に向かうリュカは独り言のように漏らしていく。

「けれど、もし許されるなら」

そして、狼へと振り向く。

「僕たちは変わらず、"幸せ"だと、伝えてほしい」

その言葉と、温もりを狼に乗せて。

「きっと、彼らの力になる」

己の"幸せ"を、託した。

「さ、行っておいで」

再び、背中を押す。
突き動かされるように、狼が走り出す。
石壁に生まれた裂け目、見えない闇に溶け込んでいくその姿を。
リュカとフローラは、じっと見つめていた。

「あれ? お父さん、お母さん、狼さんは?」

ちょうど戻ってきた、子供たちが彼らに問う。

「ああ、家に帰らなくちゃならなくなったみたいなんだ、だから、先に失礼するって言ってたよ」
「ええ〜っ、お別れしたかったなぁーっ」

残念そうな顔をする子供たちの頭を撫で、リュカは笑う。

「大丈夫、また逢えるさ」

どこかを、見上げて。

「そう、きっと、必ず――――」
311流星、銀に輝け ◆CruTUZYrlM :2015/02/24(火) 00:38:11.31 ID:+BD/GDnx0
 


「聞いてくれよミレーユゥ〜〜!! チャモロの奴ったらそれからビースカ泣いてよぉ〜!!」
「嘘に決まってるでしょう! ハッサン! どこまで嘘を……」
「おおっ、嘘だって言うならあの時の台詞を言ってやろうか? "お母さん、お母さん、おかおか"――――」
「だーーーーっ!!」

次の世界、真っ先に飛び込んできたのは、そんな酔っぱらいの声だった。
たき火を囲んで楽しそうに会話する、三人の男女。
モヒカンの男が茶化し、不思議な帽子の少年がそれに怒り、金髪の美女が笑う。
なんて事はない、とある仲間たちの夜。

「あら、迷子?」

それを少し遠くで見つめていた栗色の髪の少女が、狼に気づく。
これまでの世界の人間と同じように、少女もまた座り込み、狼に目線を合わせていく。

「少し、付き合ってくれない?」

そのまま手を後ろにつき、木にもたれ掛かる形で座る。
狼を横に、楽しそうに笑う仲間を見て、少女は一人呟く。

「こうやってさ、皆と笑いあえるだけで、良かったんだ」

乾いた笑いと共に、語り続ける。
その表情にはどこか影があって、わずかに涙が浮かんでいる。

「ずっと、ずっとこの楽しい時間が続けば良いなって、思ってる」

笑いながら語り合う仲間、それを遠くで見つめる自分。
何気ないこと、けれど一生は続かないと分かっていること。
だから、一歩離れた場所にいる。

「これは小さな幸せ、私が掴もうとして、掴めなかった、叶わなかった小さな"夢"」

願った、願い続けた。
だから、自身と同じ夢として残り続けている。
小さくて、叶いそうで、叶わない夢。

「大魔王を倒しても、こんな小さな夢すら叶わないのに、ね」

この世界を夢見て生きて、戦って、前に進んできたはずなのに。
手にした未来は、夢は、違っていて。
ただ、黒い未来を受け入れることしかできなかった。

「それに、さ。私はもっと大きな"夢"を、抱えちゃったんだ」

そんな小さな夢ですら叶わない世界で、彼女はさらに大きな夢を抱えていた。
夢は夢、願うことは自由。
小さくても、大きくても、願い続ける事は自由だ。

「……それは私がどう頑張っても叶わない」

けれど、それが叶うという保証はどこにもない。
環境、自身の力、時期。
現実という重くて変え難い壁は、いくつもの夢を切り裂いていく。
312流星、銀に輝け ◆CruTUZYrlM :2015/02/24(火) 00:38:37.66 ID:+BD/GDnx0
 
「だって、あの人の心は、一人で占められてるから」

そう、例えば――――恋心。

「ねえ、狼さん」

ふふ、と笑ってから、少女は狼に語りかける。
馬鹿らしいとは思うが、馬鹿らしいからこその夢である。
だから見続けられるのだし、追い続けられるのだ。

「もし、もし届けられるなら、届けてほしい」

けれど、それが叶わないと分かったとき。
"夢"だった"もの"を抱え続けてしまう。
だったら、だったら。

「"大好き"って」

それをもう一度、"夢"に戻すことくらい、願ってもいいのではないか。
自分勝手な願いだとは分かっている。
けれど、もう一度、もう一度夢が見れるのならば。

「……もう、行くんでしょ? ごめんね、呼び止めて」

夢を見れることに、賭けてみたくなったのだ。

「じゃあね」

その夢を叶えられる使者を、彼女は見送る。
一方的な話を黙って聞いてくれただけ、むしろ聞いていたのかどうかすら怪しい。
けれど、彼女は確信していた。
きっと狼は、その願いを届けてくれるのだろう、と。

「……どうしたの?」

談笑していた仲間のうちの一人が、心配そうに彼女の元へ寄ってくる。
浮かんでいた涙を拭い、彼女は笑って答える。

「願い事。ひとつだけ、ね」
313流星、銀に輝け ◆CruTUZYrlM :2015/02/24(火) 00:39:07.74 ID:+BD/GDnx0
 


長い、長い闇の中。
慣れにも近い感覚を覚えながらも、この場所をさまようのはまだ不安が残る。
だから、目の前にぼうっと光が見えたときが、一番安心するのだ。

「ああ〜っ!!」

今度の光の正体は、よく見知った顔。
小さな体に、欠けた歯、少しぼろぼろのローブに身を包んだ少年。
もとい、かつて同じ狼であった少年だった。

「久しぶりだな〜!! 元気してたか〜?」

わしわし、と自分のことを撫でる彼は、暗闇の中に確かに存在していた。
一体どうして? とは不思議と思わなかった。
様々な世界を転々としてきた所為か、そういうことに疑問を抱かなくなってきていたのかもしれない。

「お〜い! みんな〜!!」

少年が声を上げる。
すると、どこからともなく三人の男女が現れた。

「うるふわ! 心配したじゃない!!」

真っ先に頭巾の少女が狼に抱きつく。
いつだったか、こんな感じに抱きしめられていた。
あの時と同じように、少し首が締まっているのは相変わらずだった。

「う、うるふわ?」
 
狼に抱きついて離れない少女に、緑の服の少年が問いかけていく。
うるふわ、という名前の出所に対して、だ。

「そうよ、私が名付けてあげたのよ」
「センスの欠片も感じない……」

返ってきた答えに対するリアクションを受け、少女が少年の腹に拳をたたき込むまでにかかった時間は、わずかだった。
胸ぐらを掴み、この世の物とは思えない罵詈雑言が飛び交っている。
ぽかんとしている狼少年をさしおき、側で見ていた女性が苦笑いしながら少女を止めていく。

「はい、はい、どおどお」

女性に押さえられながらも、少女はまだ言葉を止めない。
まあ、こうなると分かっていただろうにそれを言い放った少年に非がないとは言い切れないが。

「よく……ここまで頑張ったな、えらいぞ」

そんな喧嘩を横目に、狼少年は自由となった狼を撫でていく。
体の所々に見える傷の跡は、彼に何かを伝えるには十分すぎた。
そして、少女を宥め終わった女性が、頭をなで続けられている狼にゆっくりと近づいていく。
314流星、銀に輝け ◆CruTUZYrlM :2015/02/24(火) 00:39:55.96 ID:+BD/GDnx0
 
「ここは、"願い"の行き着く先。
 人々の、誰もが願う"夢"の、終着点」

この場所の、この世界の真実を、狼に向けて放つ。

「私たちは、もう死んでしまった。だから、こうして叶わない"夢"だけがぼんやりと浮いてる。
 普通の人なら、ここまで来ることは無いわ。それまでにある、他の"夢"に捕まってしまうから」

狼が見てきたもの、そして出会った人々。
今目の前にいる彼らでさえも、幻であり夢である。
願う力が実体を持つ世界だからこそ、純粋な願いが生き続けていられるのだ。
もっとも、人間であればそれよりも上にある、表面上の願いの世界に引っかかってしまう訳だが。

「あなただったからこそ、こんな深くまで来れたのかもしれないわね」

まだ、願いが薄かった狼だったからこの"深層"までやって来れたのかもしれない。
誰もが持つ、"夢"と"願い"の根底へと。

「さあ、もう一踏ん張りよ、ここを抜ければ、もう近いはずだから」

背負った物の数は多い、切り抜けるための力も貰った。
だから、後少し、もう少し走れば、元に戻れる。
きっと、彼らは先に戦っているはずだから。
託された願いと共に、そこにたどり着かねばならないのだ。

「頑張れよ! オイラ、応援してるからな!」

今にも走り出そうとする狼を、少年が激励する。
それを受けて、狼は走りだそうとする。

「待って」

それを止める、少女の声。
振り向いた時に彼女は俯いていて、声も少し上擦っていた。

「言えなかったの、だから伝えてほしい」

これから"世界"へ戻る狼へ。
言いたくても、声に出来なかった、最後の"願い"を。
一人の男に向けた"言葉"を。

「"ありがとう"って」

託していく。
きっと、それが届くと信じるために。

「僕からもだ」

そして、少年も狼を呼び止める。

「"ありがとう"を、伝えてほしい」

彼女と同じで、でも少し違う。
そんな気持ちと、少しだけ共に戦った仲間に向けて。
同じ言葉を、託していく。

そして、狼は小さく頷き、走り出していった。
315流星、銀に輝け ◆CruTUZYrlM :2015/02/24(火) 00:40:27.17 ID:+BD/GDnx0
 
"願い"の集いし世界の奥深く。
そこで眠り続けていた、叶うことはない、いくつもの"夢"。
もしかしたら、現実になっていたかもしれない"それ"。
その"夢"たちの"願い"を背負い、狼は駆け出す。
"闇"を、切り裂くために。

【うるふわ(ガボの狼)@DQ7】
[状態]:"願い"をその背に
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:駆ける

----
以上で投下終了です。
316名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/24(火) 20:37:09.65 ID:kTrYXLFe0
オ、オールスター…!
全員の夢を背に受けて、うるふわも決戦の地に進む。
乙です!
317名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/02/24(火) 21:50:39.15 ID:DzD1II920
いよいよ終焉が近づいてきた感じ
再び一堂に会する時果たして何が起こるのか
318名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/03/01(日) 07:56:55.48 ID:+5fg5A7E0
319名前が無い@ただの名無しのようだ
過去作見たらこのロワの5のキラーパンサーの名前プックルだったでござる
75話「対魔神戦用意!」と78話「追憶」で名前出とる
でもまあ夢の世界だし名前違うのも別にあり得るのか