もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら19泊目
もう一回寝る
想像の勇者
目が覚めるとそこはドラクエ世界の宿屋。
メモ帳にそう一行書いたら、実際にドラクエの宿屋で目が覚めた。
どうして書いただけでこうなったかわからないが、ドラクエで遊ぶたびに不満や疑問があった。
自分なら絶対にもっと良い振舞い方が出来る─そういった想像ばかりしていた。
実際この世界へ入り込んだのは驚きだけど、夢か想像だろうしどうせだから思い通りにしてやろうと思った。
男は宿屋を出てまず城へ向かう。
ゲームなら勇者として僅かな道具を与えられほとんど着のまま外へ出されるはず。
その部分をまず正そうと思ったのだ。
「いや、お前を招いた覚えはない」
が、思い通りにいかなかった。
そもそも宿屋で突然現れ目覚めた男であって、勇者でもなんでもなかった。
衛兵にあっさり追い返される、名も知られていない一人の男であった。
いきなり計画を折られ途方に暮れていると、後ろから声がした。
「おーい。あんた、宿の代金もらってないぞ。さあ払いなさい」
宿屋の主人だ。
どうも急いできたらしく息が上がっている。
男は急いでポケットを探したが何一つ持っていない。
あれ、おかしいぞ、などと言ってみるが宿屋の主人はちっとも待ってくれなかった。
「衛兵さん。この男、金を払わず宿に泊まったんだ。捕まえて牢に放り込んでくれ」
「なんて大胆なやつだ。こっちへこい、逃げようとしても無理だぞ」
こうして、想像では与えられる僅かな道具を上手く言って良い物にしてやろうという企みは失敗に終わる。
金を持たず宿に泊まった代償は、じめじめした地下牢での三日間。
男は忘れていた。
城へ招かれるのは勇者だけだという事を。
朝日の眩しい街へ釈放される。
なにせ地下牢というくらいだから本当に真っ暗だった。
食べ物は粗末だし、布団はただの藁だし良い事なんて一つも無かった。
ああ散々な目にあった。
俺もうかつだったな。前提として勇者じゃなきゃいけなかったんだ。
宿屋から始まる勇者がいても、いいと思うんだけどなあ。
仕方がない、王様から良い物をもらうのは諦めて、モンスターを倒しに行ってみるか。
ゲームだとスライムごときに苦戦したりするけど、きっとそうはならないはず。
男は心が高鳴っていた。
一番の目的はモンスターとの戦いだったからだ。
カラスやスライムなんて本当に雑魚で、獣だって剣や盾があれば敵ではないと想像していた。
町の外へ出て周りを見回す。
山と海と、それ以外にはなにも見当たらない。
そういえば町から出る途中、宿屋の主人に睨まれたが男は堂々と主人の前へ行きこう言った。
「今からモンスターを倒して山ほど金を持ってきてやる」
男は忘れていた。
王からもらう些細な道具には、武器があったという事を。
あっ、いたた…石ころを踏んでしまったぞ。
装備はボロと藁草履か。武器になる物を忘れてしまったな。
だけどなんとかなるだろう。想像通りなら体力が尽きるまで無傷で戦い続けられるはずだから。
なるべく平らな道を選びながら進んでいると目の前にスライムが二体、あらわれた。
想像より大きく、目はゲームより尖って鋭い。
口の中にはキバが見え知っている姿とずいぶん違った。
男は少したじろいだが、それでも果敢に襲い掛かった。
武器は無いから握りこぶしで殴りかかった。
が、腕を振り回すだけで何にも当たらない。
当たらないばかりか、横から背中から激しい攻撃を受けている。
スライムは基本的に体当たりばかりだったが、時折その歯で噛み付いた。
ものの数分で男は血だらけになりうずくまって動けなくなった。
意識がもう、ふらふらだ。
想像だともっと動けたはずだけど、俺は普段デスクワークだから体力が無いんだった。
それに、思ってたよりスライムは素早い。
やっぱりボロと武器無しじゃ無理があったかなあ。
ああ胸が苦しい。きっと肺や内臓が潰れてしまったんだろうなあ。
目の前のスライム、あいつの次の攻撃で俺はたぶん死んでしまう。
でも、死んでもまた教会からやり直せばいい。
次はちゃんと装備を揃えて─
二体のスライムが同時に体当たりし、鋭い歯で男の喉を食いちぎる。
消えていく意識の中で、男は生き返った後の事を繰り返し想像した。
だが二度と、ゲームの中から目覚める事は無かった。
男は、忘れていた。
教会で生き返る事が出来るのは、神の加護を受けた勇者とその仲間だけだという事を。
おしまい。
新スレ記念に数年ぶりに書いてみた。
またスレが活気付きますように。
>>6 乙です!
今アラサーの俺が、このスレ始まった時たしか高校生くらいだった
スレ落ちちゃって寂しいなと思ってたのでタカハシさんが戻ってきて感無量
また読ませてもらいます!
つづきオナシャス
>>6 ありがとう。
このスレも初代1さんから数えて9年。歳を感じますよね。
でも、ドラクエはもっと続いていて、今後も展開していくと思うとすごい事です。
当時とは環境が変わりすぎてコンスタントに投下する事は難しいですが、当時の理想をいつか描ければと思います。
>>8 残念ながらこの主人公の冒険はここで終わったようです。
初代7さんを真似てみようと話を考えてみましたが、とても難しかったです。
書き出しは本当に悩むものですね。あえて言えばエンディングよりも。
いつか、新しい物語を続けられれば。
繰り返しになりますが、ここからまた新しい物語が語られることを祈っています。
10 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/03/12(水) 22:39:54.32 ID:7S3p7nzVO
☆age
11 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/03/16(日) 13:53:33.62 ID:0t6dUIZ80
保守
12 :
好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/17(月) 21:45:31.47 ID:AOSd79I9O
投下します。携帯なので改行が変かと思いますm(_ _)m
(はて、面妖な…)
目覚めた老爺は部屋を見回し、そう思った。
昨夜は箱根の宿(しゅく)に宿をとり、供の者とともに温泉に浸かり
床に就いた筈…。
当然、旅籠の一室の中、畳の上に敷いた夜具にくるまれて
目覚めるべきなのだが。
着物は宿で出された浴衣ではあるが、部屋の様子は旅籠とは似ても似つかぬ、
何と言うか、長崎で見た南蛮屋敷の様な部屋である。
畳も無く、板張りの床の上に、これまた南蛮屋敷で見た
寝台の様な物の上で目覚めたのであった。
(これは…。狐か狸にでも化かされましたかな?)
寝台の上に半身を起こし、再び部屋を見回してみる。
「ふうむ。起きてみたら肥溜めの中、という訳でも無い様ですな…」
寝台を軽く叩いてみ、床に降り立ち足を踏み鳴らして木の感触を確かめ、
そう呟いた。
何処かの草っぱらや打ち捨てられたあばら屋、ましてや肥溜めの中でもなく
ちゃんとした建物の中の様だ。
尤も見知らぬ南蛮屋敷(?)の中ではあるのだが…。
其処(そこ)へ…
「て、大変(てえへん)だー! 御隠居様ーー!!」
どたばたと、供の者の一人が息急ききって駆け込んで来る。
現れたのは、丸っこい体つきにこれまた丸っこくて人の良さそうな顔の、
小太りの男。
着物を端折って股引きを履いた、商家の手代が旅姿になった風である。
汗だくで肩で息をしながら部屋に飛び込んで来た途端、
その場にへたり込み
「てえへんなんですよう、御隠居様あ〜…」
と、半泣きで訴えかける。
「またお前さんの『大変だあ』ですか。狐にでも化かされましたかな?
少し落ち着きなさい」
老爺が笑いを噛み殺す。
「御隠居様は落ち着き過ぎですよぅ…。けど、外の様子を見れば
さしもの御隠居様も吃驚仰天…」
「(腰を抜かすどころかそのままポックリ…)」
「む、何か言いましたか!?」
最後の方は聞こえぬ様に口の中で呟いたのだが、
しっかり聞こえていたらしい。
この老爺、割と地獄耳である。
「へっ!? いえいえ、おいらは何も…」
言ってませんよ、と慌てて誤魔化す小太り。
「そうですか? まあ、そういう事にしておきましょう」
小太りが少しホッとする。
「そ、それより御隠居様! ほ、ほ、本当に大変なんですってば!」
どもりながら訴える小太り。
「まあ、少し落ち着きなさい。お前さんの言う『大変だあ』が何なのかくらい、
大体の見当は付きますよ」
と、小太りの慌てぶりに対し、老爺は余裕綽々である。
「ほ、本当ですかい!? 流石は御隠居様だ! そいつが判っててその余裕とは、
おいらにゃ到底真似出来ねえや!」
先程の失点を挽回しようと、やや大袈裟に老爺を持ち上げる小太り。
「ほっほっほっ。何事も平常心が肝心ですぞ」
と、白髭を撫でながら相好を崩す老爺。
この老爺、割と単純である。
「ところで、他の者達はどうしましたかな?」
と、老爺が訊ねる。
「へい、それが少し外の様子を見て来るって…。
みんな豪胆なんだか鈍感なんだか」
と、小太りが話している処へ…
「誰が鈍感だって」
そう言いながら、一人の男が部屋に入って来た。
「ひえっ!? あ、ああ、お帰りなさいやし」
のっそりと入って来たのは厳つい顔付きの大男。
小太りと同じ様な出で立ちで、やはり商家の手代風だ。
だが、筋肉隆々たる鍛え上げられた体である事は、着物の上からでも見て取れる。
大男は太い眉の下に鎮座する、ぎょろりとした目で小太りを一瞥すると、
それ以上頓着する事もなく老爺の方へ向い
「御隠居、お目覚めでしたか」
と、頭を下げる。
「うむ、して外の様子は」
「は、それが…」
大男の話によれば宿の中だけでなく、街の様子も箱根の宿場町とは一変して居り、
まるで南蛮にでも来たかと思うばかりだという。
「それに町人も皆、南蛮人のようですな。不思議と言葉は通じるようですが」
「ふうむ、益々もって奇っ怪な事ですな」
と、老爺は思案顔。
「こ、こりゃあ、あれですよ。ばてれんの妖術かなんかで南蛮に
拐(かどわ)かされて…」
小太りが震え出す。
「妖術なぞと言っても所詮、手妻で人を驚ろかすもの。
そんな事は出来はしませんわい」
老爺が一笑に付す。
「この奇っ怪な有り様、やはり狐が化か…」
そう老爺が言い掛けた処へ残りの供の者二人もやって来た。
「御隠居、お目覚めですか」
「お早うございます、御隠居様」
一人はやはり商家の手代風だが、小太りや大男とは違い、
すらりとした体躯に涼やかな目元の、なかなかの二枚目。
もう一人は女で、旅支度の町娘といった風情である。
尚、余談であるが、どこからどう見ても若い町娘に見えるこの女、
実はとうに還暦を過ぎているのであった。
正に妖怪とは女の事である。
「おお、二人とも参りましたか。して、何か判りましたかな」
二人の話によると、此処は“こなんべりい”という町で、
町の外には魔物が出るらしい事。
更に最近、近くに在る灯台に強い魔物が居座って船の航行を邪魔し、
町民一同難儀しているとの事。
だが、判ったのはそれくらいで、
何故老爺一行が箱根の宿からこの見も知らぬ場所へ一夜にして運ばれたのかについては、
何の手掛かりも得られなかった、という事である。
「ま、魔物ですかい!? こりゃあ、その魔物の祟りじゃあ、ありやせんか?」
またぞろ震え出す小太り。
「かっかっかっ! お前さんは先刻から妖術だ、魔物だ、祟りだと、
この年寄りより余程迷信深いと見えますな!」
またもや老爺が一笑に付す。
「妖術も魔物も祟りも有りゃしませんわい! これはですな…」
「これは…?」
一同、固唾を飲んで老爺の次の言葉を待つ。
「これは、狐 が 化 か し て い る に相違ありません!」
妖術や魔物や祟りは信じなくても、狐が化かす事は信じる老爺であった…。
小太りがおおっ! と目を見張る。が、他の三人は思わず顔を見合わせた。
魔物というのは大方、灯台を根城に悪事を働く輩が
余人を寄せ付けぬ為に流した噂であろう。
三人はそんな具合に考えて居たからだ。
「き、狐の仕業ですかい!」
小太りは合点が入った、という風に何度も頷く。
「狐ですと?」
ぎょろりと目をむき、疑り深そうな大男。
「狐…ねぇ」
やれやれ、といった風情の二枚目。
「狐でごさいますか?」
呆れ顔の町娘。
三人の頭に『呆け老人』の言葉が浮かんだのは秘密だ。
尚、繰り返しになるがこの町娘(に見える女)、
とうに還暦を過ぎている。
正に妖怪とは女の事である。
「まあ、狐でなければ狸か狢(むじな)の類でしょうな!」
と、老爺は自説に自信満々である。
小太り以外は納得しかねるといった顔だが、
さりとて他にこの異様な有り様には説明が付かない。
現状を打破する方策の見当も付かず、取り敢えず狐のせいにしておこう、
と暗黙の了解が成り立った。
狐も迷惑な話である。
「では御隠居、その狐を探しに…」
と、二枚目が気乗りしない様子で言い掛けた時てある…。
皆が集まっていた老爺の寝台、
その木の枠へ空気を切り裂く音とともに何かが突き刺さった!
「あっ! 親分だ!!」
小太りが嬉しそうな声を出す。
見ると、木の枠には一本の風車が突き刺さっているではないか。
そして風車には一枚の紙切れが結ばれている。
これは矢文の風車版であろうか。
果たして老爺がその紙を抜き取り開いてみると、それは手紙であった。
ふむふむと手紙を読む老爺。
「御隠居、その文には何と?」
大男が訊ねる。
「皆の衆、やはり狐は灯台に在り、ですぞ!」
老爺がにんまりとする。
「本当ですかい!? 流石は親分だ!」
小太りが小躍りする。
(小太りが小躍り…メモっておこう)
「はあ、良うごさいましたな…」
二枚目が気の無い返事をする。
大男は仏頂面で黙っている。
「では御隠居様、これから早速…」
町娘も嫌そうであった。
尚、しつこい様だがこの町娘(に見える年増)、還暦をとうに過ぎている。
正に妖怪とは女の事である。
という訳で一行は狐退治に出掛ける事と相成ったのである。。
さて、参るとしますかな、と老爺が音頭を取った、正にその時!
ぐうううぅ〜〜…
なんと、小太りの腹の虫が盛大に鳴った!
「御隠居様、御隠居様、その前に朝飯にしましょうや!」
何故か小太りは嬉しそうである。
「またお前さんの食いしん坊が始まりましたな」
老爺が顔を綻ばす。
何のかんの言って、小太りは老爺に目を掛けられているらしい。
「腹が減っては戦は出来ぬ、と申しますな」
と、大男が同意する。
「急いては事を仕損じる、とも申します」
二枚目も賛同する。
「朝餉抜きは美容にも悪うごさいます」
と、町娘。
どうやら小太り以外の三人は、事を出来るだけ先延ばしにしたい様子。
尚、くどいと思われるかもしれないがこの町娘(に見えるオバはん)、
とうに還暦を過ぎている。
正に妖怪とは女の事である。
「御隠居様、この南蛮風の旅籠、二階が泊まり部屋で一階が飯屋になってるみたいですよ!」
こういう事に関しては目敏い小太り。
という事で旅支度を終えた一行は一階へ降りてみる事にした。
近隣の住民が朝餉を摂りに来ているらしく、飯屋の席は半分程埋まっている。
住民達はぞろぞろと降りて来た奇妙な風体の一行を見て目を丸くする。
中には子連れの客も居て、その子供などは
「うわー、ガイジンだー!」
等と此方を指差して居る。
「ねえ、御隠居様、ガイジンって何でしょうね?」
キョトンとする小太り。
「恐らく、異人という様な意味でしょうな」
と、老爺が応える。
「へっ!? 異人ですかい? そりゃこっちじゃなくて、そっちだろうに!」
小太りが素っ頓狂な声を上げる。
「おいおい、向こうからすれはば、こっちが異人だろう」
二枚目の言葉に一同が笑った。
「あ、そりゃそうだ」
小太りが額をぴしゃん、と叩き更に笑いが起きる。
本日はここまでです。お目汚し失礼しましたm(_ _)m
また独特な世界観ですね。
江戸時代風?のご隠居さん一行なのかな
楽しみにしてますよー
ほぼまんま某越後のちりめん問屋のご隠居一行だwww
お銀は妖怪、ここ試験に出ます
>>35 どうもです。
過疎ってるし、保守代わりにと書き始めただけなので、余り期待はしないで下さいw
>>36 まんま縮緬問屋の御隠居さんですw
女は化ける…w
>>33の続き
そんな普段と変わらぬ遣り取りを交わしていると、店の者が注文を取りに来た。
と言っても、この様な処で何を頼んだら良いのか皆目判らない。
が、案ずるより生むが易し、この刻限では
朝の定食の様な物しか出していないらしい。
その“もうにんぐせつと”なるものを人数分注文した。
運ばれて来たのは魚と野菜がたっぷり入った汁、ぱんと呼ばれる南蛮饅頭に
牛酪(バター)を塗った物、牛の乳、それに果実を絞った汁であった。
食べ物の味付けが口に合うか危ぶまれたが、そうでも無かった様である。
港町らしく魚は新鮮で、野菜も旨い。
魚汁の味付けは後に赤茄子と呼ばれるトマトと塩胡椒であるが、
トマトが本邦に入って来るのは御一新後であり、
一行は未だ知らなかった味に舌鼓を打つ。
牛酪も牛の乳も抵抗なく口に出来た。
小太りは予想通りと言うか当然の如くだが、老爺も旺盛な食欲を見せる。
実はこの老爺、国表では牛肉を焼いた物や牛の乳、清国風の蕎麦等をこっそり食べて居る。
余談であるが、かのジョン万次郎が仲間と共にメリケン船に助けられた折り、
肉のスープを出されたそうだ。
が、旨い旨いと食べたのは万次郎だけで、仲間達は『脂臭くて適わん』と、
殆ど手を付けなかったと云う。
鮪のトロでさえ、脂が敬遠されて畑の肥やしになっていた時代の人である。
南蛮風の食事に慣れている老爺や、何でも食べそうな小太りだけでなく、
全員が全て平らげたのは驚くべき事かも知れない。
尤も主菜が獣肉ではなく、魚だった事も幸いだったのかも知れぬ。
食後にはホヲピ(コーヒー)が出された。
「へえ、これが南蛮人が良く飲む、ホヲピってやつですかい?」
小太りが早速口にするが
「うわっ! あちちっっ! にがっっ! あちっ! にがっ!」
と、大騒ぎだ。
「これこれ、そんなに慌てなさんな。これはこうして…」
老爺が乳酪(クリーム)と砂糖を入れてみせる。
「は〜、ひぬひゃとほもいひゃした…」
と、舌を火傷した小太りが言う。
これは『は〜、死ぬかと思いやした』であり、
決して『は〜、ひんぬー社とホモ居やした』ではない。
さて、ひんぬー社と云うひんぬー好きが集うふざけた社中が実在するかはさて置き、
その場に【踊り:ひんぬー社中の皆さん】は居なくてもホモは居たかも知れないので一応念を押してはみたが、
しかし当時本邦に男色を指してホモと言う語彙は未だ無かった筈であり従って小太りがホモなどと言うわけもなく、
これは余計な蛇足だったと気付いたが後の祭り、
しかも余計な蛇足などと馬から落馬みたいなお約束の突っ込み待ちをかましてはみたものの大して面白くも無い、
という後の祭りのダブルブッキングでもある、はは。
皆、老爺に倣(なら)ってホヲピに乳酪をと砂糖を入れ、
その香りと甘さを味わい、心なしかほっとする。
小太りのどじっぷりも何時もと変わらぬ日常風景の様で心和んだ。
何だかんだと、やはり気を張っていたのだろう。
暫しの静寂が流れた後
「御隠居、件の狐めの事ですが」
頃は良し、と二枚目が口を開く。
老爺は無言で頷く。
「この在りようが狐の仕業かどうかはさて置き、
私めにはただ単に化かされているだけとは到底思えませぬ」
「今食べた物にしろ、雑草やら馬糞やらをそう見せ掛けているのではなく、
確かな物でした」
「周りの町人どもも幻などではなく、本物の人であると思われます」
「この場所も始めは南蛮かとも思いましたが、
書物に記された様子とは違うように思います」
「これは何者かが手を下したかは存じませぬが、私どもの知らぬ理の場所へ
連れて来られたのではないかと」
そう二枚目は具申した。
大男と町娘は我が意を得たりとばかりに大きく頷く。
小太りは腹が膨れたせいか眠そうだ。
黙って聞いていた老爺はゆっくりと口を開く。
「私も先刻よりそう思い始めていた処でしてな」
「狐のまやかしにしては余りにも真に迫って居りますからな」
「お前さんの言う通りまやかし等ではなく、
何処か別世界に連れて来られたのやも知れませんな」
「しかも裏には狐よりもっとタチの悪い輩が居て、糸を引いていると見ました」
老爺の言葉に二枚目、大男、町娘は顔を見合わせ頷き合う。
「そして、その裏に潜む黒幕は…」
老爺の言葉に息を飲む三人。
小太りは鼾をかいている。
「狐の妖怪、即ち妖狐!」
つくづく狐が好きな老爺である。
三人はもう諦めた顔をしていたが、いたずら狐を懲らしめる暢気な狐退治から
妖狐討伐に格上げ(?)された分、老爺も少しは用心深くなるだろう、
と無理矢理自分を納得させる。
小太りは鼾をかきながら、なんかにやにやしている。
「では御隠居、いよいよ妖狐討伐ですな?」
大男が訊ねる。
「うむ、では参るとしますかな」
四人は一斉に立ち上がった。
小太りは鼾をかきながらなんかにやにやしながら涎を垂らしている。
♪デッデレデデッ デレデデッ デレデデッデッデッ…
(ふいるど曲:あゝ人生に涙あり)
妖狐(?)討伐に出発した老爺一行、目指すは矢文にあった灯台。
町民から魔物が出ると聞かされてはいたが、そんな気配も無く、
天気も良く辺りには長閑(のどか)な風景が広がっている。
自然、話が弾む事となった。
「ねえ御隠居様、何でこんな事になったんでしょうね?
やっぱりゆうべ泊まった旅籠の名前が悪かったんでしょうかね?」
小太りが陽気に話し掛ける。
「旅籠の名前ですと?」
老爺が応える。
「へい、“ひょっとこ屋”なんて、なんだか妙ちきりんだと思いませんか?
なんでそんな旅籠に決めたんですかい?」
「お前さんは、ひょっとこの由来を知らぬと見えますな」
ひょっとこ屋に決めた張本人の老爺は少しムッとしつつも、
小太りに話して聞かせる。
「火男がなまってひょっとこ、そして火男は竈(かまど)の守り神。
何とも有り難い名前でしょうが」
「ひょっとこ様を侮るとバチが当たりますぞ!」
と、老爺が半ば脅しにかかる。
「ひえっ!? そいつぁ御勘弁を…ひょっとこ様ひょっとこ様、どうかお許しを〜、
なんまんだぶなんまんだぶ……」
小太りが真剣に祈り始める。
「おいおい、神様になんまんだぶは無かろう。それじゃあ仏様だ」
大男が突っ込み、一行に笑いが起こる。
笑いながらも先に立っている大男と二枚目、それに一番後ろから着いて来る
町娘は警戒を怠らない。
尚、馬鹿の一つ覚えと思われるかも知れないが、
この町娘(に見えるお婆さん)、とうに還暦を過ぎている。
正に妖怪とは女の事である。
だが、そんな暢気な雰囲気の中、突然がさがさと傍らの草村が揺れた。
素早く腰の道中刀を抜く二枚目。
大男は腰の物は抜かず素手で身構える。
そして俊敏な動きで後ろから前に出て匕首(あいくち)を逆手に構える町娘。
三人とも町人を装っているが只者ではない。
二枚目は一刀流免許皆伝の武士。
大男は柔術と拳法の達人でやはり武士。
町娘に至っては忍びの女頭領であった。
尚、虚仮(こけ)の一念と云う言葉が有るが、この町娘(に見える婆さん)、
とうに還暦を過ぎている。
正に妖怪とは女の事である。
草村から蛇が飛び出して来た!
たかが蛇と侮る無かれ、かなり大きな蛇である。
しかも頭には鶏冠の様な物が生えていて、正直気持ち悪い姿であった。
毒も持っていそうだ。
*魔物の群れが現れた!
*とさかへび 四匹
「むっ! 現れおったな!」
「こいつらが魔物とやらか!」
「毒が有りそうですよ!」
前衛が三人三様に叫ぶ。
「妖狐の手下の狐どもが化けているのかも知れませんな!」
飽くまでも狐に拘る老爺。
この老爺、かなり頑固者である。
「うひゃぁああ〜!」
老爺の影に隠れる小太り。
お前は一体、何の役に立つと言うのか…。
蛇が一斉に飛び掛かって来た。
二枚目は難なく刀で一刀両断! 見事に蛇を縦に真っ二つにする!
その体躯からは想像も出来ぬ敏捷さで蛇をかわした大男は、二匹同時に尻尾を掴み、
側に立つ木の幹に蛇の頭を叩き付ける!
頭を何度も叩き付けられた二匹は直ぐに動かなくなった!
トンホを切って蛇よりも更に高く跳ね上った町娘は
何時の間にやら取り出した苦無(クナイ)を投げ、蛇を地面に貼り付けにする!
そして降り立ちざまにのた打つ蛇の頭を踏み潰し止めを刺した!
戦いは呆気無く終わった。
尚、もうお忘れかと思うがこの町娘(に見える遣り手婆ァ)、
とうに還暦を過ぎている。
正に妖怪とは女の事である。
「やりましたね!」
小太りが嬉しそうに三人に駆け寄って来る。老爺も満足そうだ。
と、不思議な事に今し方倒した蛇から霧の様なものが立ち上り、
あれよあれよと言う間に消えてしまった。
「ありゃあ? 消えちまいましたよ!」
小太りが不思議そうに首を傾げる。
「ううむ、これはやはり狐のまやかしに相違無さそうですな」
もう意地でも狐の仕業にしたいらしい。
倒した三人は蛇がやられたふりをして何処かに潜んでいるのかと、
辺りを警戒している。
が、何処にもその様な気配は無い。
「あっ!? 御隠居様、銭が落ちてますよ!」
小太りが蛇の消えた辺りで銭を目敏く見付け、拾い上げて老爺に見せる。
見ると、朝に宿代と飯代を支払ったおり、小判と両替した銭と同じ物の様だ。
此処での主な通貨は“ごをるど”というそうだが、
地方によっては別の物が流通している事もあるらしい。
“ぎる” “まっか” “ぺりか” “がばす”等々…。
その為、多くの旅籠は両替商も兼ねて居て、金、銀、銅貨の純度を計る
特殊な薬液を用意している。
小判は純度が高く、しかもあまり見た事の無い珍しい金貨だとして、
多少の色を付けて両替して貰えた。
因みに
小銅貨 壱ごをるど
中銅貨 伍ごをるど
大銅貨 拾ごをるど
小銀貨 弐拾伍ごをるど
中銀貨 伍拾ごをるど
大銀貨 百ごをるど
小金貨 百ごをるど
中金貨 伍百ごをるど
大金貨 千ごをるど
となるそうだ。
「今の狐が落として行った物でしょう。店で使った途端に木の葉に変わって、
偽金使いとして役人に厳しく吟味されるかもですぞ」
はいはい、お空が青いのも狐のせい、狐のせい。
「本物のようですよ」
小太りが銭を噛んでそう言った。
老爺はまだ疑り深そうだったが渋々
「むう…。此処では路銀が尽きても国表から送ってもらう訳には行きますまい。
拾っておけば多少の足しになるでしょう」
と、取っておく事にした。
「合点でさあ!」
ホクホク顔で小太りは銭を財布に仕舞う。
「しかし驚きましたな。倒したと思ったら、たちまち消えてしまうとは」
ぎょろりと目を剥いて大男が言う。
「それに銭を落として行くとは。」
二枚目も苦笑いだ。
「蛇が一体何を買うつもりだったんでしょうねえ」
町娘も可笑しそうだ。
「仔蛇に水飴でも買ってやるつもりだったんじゃねえですか」
小太りが真面目な顔で言う
「はっはっはっ! 母親の幽霊が残した赤子に買ってやる怪談が有りましたな」
小太りが真面目な顔で言ったので老爺が大笑いする。
あっさり蛇を倒してしまい、魔物(老爺にとっては狐)恐るるに足らず、
と云う雰囲気になっている。
得てしてこう云う時にこそ火の粉が降りかかるもの…。
好事魔多し、案の定、大きな木の直ぐ近くを通りかかった時、それは起きた。
「グオオオオッ!!」
凄まじい吠え声が頭上から浴びせられる。
と、同時に木の上から降り立つ五つの影。
*とらおとこ 五匹
*魔物はこちらが身構える前に襲い掛かって来た!
…なんて事はなく、影が降り立つや否や後方から町娘の煙玉が飛ぶ。
忍びの女頭領の本領発揮である。
ぼ〜ん!
煙玉は虎男達の足元で炸裂、もうもうと煙が上がる。
*魔物は驚き戸惑っている!
魔物達が文字通り煙に巻かれて右往左往しているのを見て取り
「うおおおおっ!」
今度は逆に大男が雄叫びを上げ、煙の中へ突進する。
同士討ちを避け、二枚目は抜刀したまま油断無く身構える。
魔物が怯んでいるのに勇気付けられたか、
今度は小太りも拾った棒切れを及び腰で構える。
町娘は着物を脱ぎ捨てた!
「おおっ!」
と老爺が目を輝かせる!
しかし町娘は一瞬のうちに忍び装束に変わっていた…。
老爺はがっくりと肩を落とす。
この老爺、割と助平である。
煙が薄らいで来た。
どうやら大男が手当たり次第に暴れまくっている様だ。
その内、一匹の虎男を両の腕に抱え上げ、此方に投げて寄越す。
すかさず二枚目が斬り伏せ、絶叫と共に虎男壱(仮)は絶命した。
更に煙が晴れて来たので二枚目と町娘も参戦する。
小太りは老爺を守るつもりか、棒切れを構えて老爺の盾になっている。
老爺はまだ残念そうだ。
しかし戦いの渦中に居る三人の戦い振りの凄まじさよ!
さんざんに殴りつけた後、虎男弐(仮)の背後を取った大男が
魔物の首を締め上げる。
その内、ぼきっと嫌な音がして虎男弐(仮)の首が折れた。
虎男参(仮)がなんとかその爪で二枚目を引き裂こうとする。
が、二枚目は涼しい顔で虎男参(仮)をいなしている。
そして疲れて動きが鈍った魔物は頭に真っ向唐竹割りを受け、倒れた。
町娘は両手に苦無を持ち、目にも留まらぬ早さで虎男四(仮)を翻弄する。
魔物は何度も切り付けられ全身傷だらけである。
やがて喉笛がぱっくりと裂け、大量の血を吹き出しながら崩れ落ちた。
虎男伍(仮)は適わぬと悟ったらしく、小太りと老爺の方へ迫った。
そちらの方がまだ与(くみ)し易しと見たか、
先程の蛇とは違い多少の知恵は有る様である。
「うわーっ! うわーっ! うわーっ!」
小太りが棒切れをめちゃくちゃに振り回す。
それを見た虎男伍(仮)が不気味な笑いを浮かべて更に迫って来る。
と、ごく自然な感じで老爺が魔物の目の前へ進み出た。
虚を突かれ、ほんの一瞬動きの止まった魔物の鳩尾に
老爺が手にしていた杖が突き入れられた。
この老爺、割とただの助平ではない。
魔物は息も出来ず硬直している。
その延髄へ町娘の放った苦無が突き刺さり、虎男伍(仮)に止めを刺した。
終わってみれば正に鎧袖一触、蛇に引き続き完全勝利である。
「あっはっはっはっ! 皆、魔物魔物と恐れておるが、何の事も無し。
これはやはり狐が変化したものでしょうな!」
もうあんたは狐うどん専門店でも始めて下さい。
「いやあ御隠居様、本当に弱い奴らでしたねえ」
小太りは先程までの及び腰は何処へやら、一緒なって高笑いだ。
「あっはっはっはっ!」
「あっはっはっはっ!」
本日はここまでm(_ _)m
をつ
>>65 ども
>>63の続き
二人の高笑いは未だ終わりそうにない。
「あっはっはっはっ!」
「あっはっはっはっ!」
「御隠居、余り大きな声を出されますと、
魔物どもが寄って来るやも知れませんぞ」
大男が進言する。
「それもそうですな。いや腹が痛い腹が痛い、久方振りに大笑いしました」
老爺は漸く高笑いを止めた。
「あっはっはっはっ!」
小太りは未だ笑っている。
「お前は何時まで…」
笑っているのだ、と二枚目が言い掛けた時である。
ごうん… ごうん… ごうん…
頭上から奇妙な音が鳴り響いて来た。更に日光を遮る巨大な影。
すわっ、魔物か!? と、一行は身構えながら空を見上げる。
其処には見た事も無い巨大な“もの”が浮かんでいる。
更によくよく見ていると、何となく船の様な形をしている気がして来た。
それはゆっくりと頭上を通り過ぎて行く。
「ややっ! 狐め、
此度(こたび)はまた大掛かりなまやかしを…」
もういいです、勘弁して下さい。
「いえ御隠居、あれは恐らく…」
二枚目が町で聞いたと云う話では、この辺りには時々
“ひくうてい”なる空を飛ぶ乗り物が飛んで来るそうだ。
そして船乗り(?)達が食べ物等を買い込んでは
また何処かへと飛び去って行くという。
「なんと、空を飛ぶ乗り物ですと?
ううむ、狐の仕業では無かったとは…」
老爺は町娘の裸体を見損なった時よりも残念そうに見える。
「私めもこの目で見るまでは信じられませんでした」
と、言いながらも二枚目は“ひくうてい”から目が離せない。
勿論二枚目だけではなく、その場の全員が口をあんぐりと開けて
“ひくうてい”に見入っている。
「あっはっはっはっ!」
一人を除いては。
やがて“ひくうてい”は一行の近くに降りて来た。
「もっと近くに寄って見てみましょうかな」
興味津々な感じで老爺が言う。
「危のうございませんか?」
忍びである町娘は、まだ警戒を解いてないらしい。
「なに、普通に町で買い物をする者達が乗っているのです。大事有りませんよ」
と、老爺は先頭に立って歩き出す。
供の者達は慌てて老爺の後を追った。
「あっはっはっはっ!」
………。
やがて“ひくうてい”の傍まで来た。
皆、『はあ…』とか『ほお…』などと言葉にならず、
しきりに感嘆の溜め息を吐いている。
と、出入り口らしきものが開き中から人が降りて来た。
先ず若い男。若者と言うよりまだ少年の様だ。
手に大振りの剣を持ち、南蛮風らしいが、それとはまた微妙に
異なっている様な格好をしている。
しかも左右で長さの違う洋袴を穿いた珍妙な姿だ。
次にその少年と同い年くらいの少女。
こちらは着物に袴、と言いたいが、
これまた微妙に違う気がする。
何より下駄や草履ではなく、南蛮風の靴を履いていた。
長い杖を手にしている。
最後に妙齢の美女。これまた着物の様な、
そうで無い様なものを着ている。
頭には花魁の様に、これでもかと沢山の簪(かんざし)を
刺していた。
何やら人形の様な物を抱えている。
いきなり少年と少女が此方の方へ駆け寄って来た。
思わず身構える一行。
だが二人は一行の傍らをすり抜け、十数歩程行って立ち止まる。
そして…
「あっはっはっはっ!」
「あっはっはっはっ!」
腰に手を当てて高笑いを始めた!
「あっはっはっはっ!」
「あっはっはっはっ!」
「あっはっはっはっ!」
小太りも加えて高笑いの三重奏である。
否、これはもう高笑いでは無く馬鹿笑いであろう。
呆気にとられている一行の脇を妙齢の美女が申し訳無さそうに、
そして恥ずかしそうに軽く会釈をしながら、しずしずと通り過ぎる。
「あっはっはっはっ!」
「あっはっはっはっ!」
「あっはっはっはっ!」
馬鹿笑いの二人に追い付いた美女に促され、
馬鹿者二人は美女と連れ立って町の方へ歩いて行った。
後に残されたのは何がなんだか判らぬ、と云った体(てい)の老爺達…。
と馬鹿笑いする馬鹿者ひとり。
「あっはっはっはっ!」
「ねえ御隠居様、あいつら一体何だったんでしょうねぇ」
小太りが老爺に話しかける。
「お前さんが言いなさんな!」
と、叱り付ける老爺。
小太りは『あっはっはっはっ!』と笑って誤魔化そうと思ったが、
慌てて思い留まった。
触らぬ神に祟り無しである。
“ひくうてい”を四半時(約30分)程見物し、
再び灯台を目指しだした老爺一行である。
「しかし御隠居、良いものが見れましたな!」
と、大男。“ひくうてい”の事である。
「珍しいものが見れました」
これは二枚目の言葉。馬鹿笑いする馬鹿者達の事である。
「うむ、確かに珍しく、しかも良いものでしたな!
見ましたか、あの美しさを!! あの大きさをっ!!!」
老爺はかなり興奮している様だ。
「はい、本当に立派で美しうございました」
町娘が応える。これは“ひくうてい”の事である。
「そうでしょうそうでしょう、あの見事な形、大きさ!!
それに…」
老爺が続ける。
「柔らかそうな事と言ったら…」
「やわらか…?」
一同、鳩が豆鉄砲をくらった様な顔になる。
「あの後から来た妙齢の女性(にょしょう)、
あれほど形良く大きな乳の持ち主はそうそう居りませんぞ!」
この老爺、結構助平である。
老爺の好色一代男っぷりはさて置き、そろそろ日が西に傾く刻限になって来た。
「この分では灯台の妖狐と対決する時分には夜になっていそうですな」
もう直ぐ逢魔が時でもある。
老爺の言葉に一同身を引き締めた。
その時、周りの空気が変わった!
まるで辺り一面、ぐにゃりと曲がった様な感覚。
草も木も地面も空も、周りの空間全てが曲がったかの様な
異様な感覚。
そして目の前の一点に、ばりばりと音を立て四方八方から
雷が落ちる。
いや、この場合、落ちると言うより収束して行く、と言うべきか。
「おおっ!?」
それを見て思わず老爺が声を上げる。
そして雷の収束点から…
*アクマが現れた
*ヤマ・サキュバス 1ヒキ
「おおおおおっ!!??」
再び老爺が(嬉しそうな)声を上げる。
※18歳未満の夜魔サキュバスの画像検索は法律で禁じられています
*アクマは話しかけてきた
「アナタ、アクマを殺して平気なの?」
「おおっ! 見なさいっ! 良いおなごですぞ、これはっっ!!」
*だが老爺は
*アクマの話を聞いていなかった
「ちょっと、ヒトの話を聞きなさいよ!」
*だがアクマは人ではない
「ほんの少し、ほんの少しでいいから、その手を外してみてくれんかのう!」
*この老爺
*かなり助平である
「 だ・か・ら ヒトの話を聞きなさいって言ってるでしょっ!!」
*しかしアクマは人ではなかった!
「むおっほっほっ、“ひくうてい”のおなごとどっちがええかの〜ふ♪」
*老爺は全く人(ではないけど)
*の話を聞いていない
「アクマをナメてると痛いメ見るわよ?」
*アクマは怒っている
「な、舐め、舐めめめめ…っ! 舐めてもええのか!? ええのんかっ!?」
*御隠居
*相手は魔物ですぞ!
*と大男が言った
「狐だろうと魔物だろうと、良いおなごは良いものです!!」
*しかし正体を暴けば
*何百年も生きた
*しわくちゃ鬼婆あという事も…
*と、二枚目も何とか諫めようとする
「黙らっしゃい! こう見えてもおなごを見る目は確かですぞっ!!」
*そうですよ、何十年経とうと
*良い女というものは変わりません
*何故か老爺の援護に回る町娘
*御隠居様
*そろそろ腹が減って来やせんか?
*ちょっとお前は
*黙ってろ!
*いいえ、黙りません!
*女は幾つになっても
*女なんですよ!
*いや、お前ではなくて
*そっちのお前がだな…
*は? あなたにお前呼ばわり
*される覚えはござんせん!
「…なんかツマンナーイ。じゃアタシ帰るね、バイバーイ」
*アクマは呆れて帰っていった…
「おおおおぉ……」
がっくりとうなだれる老爺。
呆れて帰りたくなったのはサキュバスだけでは無いであろう…。
その後は何事も無く、と言っても普通に出て来た普通の魔物を
普通に倒しながら、ではあるが漸く灯台まで辿り着いた。
既に陽は沈みかけている。
「これが灯台のようですな…」
老爺が見渡しながら言う。
そして一階部分の入り口辺りを不審そうに見つめる。
「は、そのようですな。しかしこれは…」
二枚目も戸惑っている。
何故か入り口の上部には派手な看板が架かって居り、また入り口の周りにも
色とりどりの装飾がなされていた。
看板には
【GAME CENTER ARASHI】
と書かれていたが無論の事、一行には読めない。
警戒して周りの様子を調べているうち、すっかり陽は沈んでしまった。
と、いきなり入り口の看板や装飾がぴかぴか光り出す。
ただ光っているだけではなく、点滅したり流れる様な動きを
繰り返したりもする。
「な、何ですかい、こりゃあ!? 魔物の使う妖術ですかい?」
小太りが驚愕している。
「いや、妖狐の妖術でしょうな!」
狐うどん専門店【助平爺】近日開店!
他の者達は目を皿の様にして看板や装飾を見つめて居るだけで、
言葉も出ない。
そこへ突然入り口が開き、中から人が飛び出して来た。
大荷物を背負った髭で巨太りの男である。
巨太りは此方に気付くと一目散に駆け寄って来た。
「ひいひい… み、水…を下……さい…」
巨太りはがっくりと膝を着き _| ̄|○ ぜえぜえ言っている。
『み、水』と言われてミミズを渡す間違いを犯す事もなく、
巨太りに水の入った竹筒を渡した。
「いやー、こんな事態なのに灯台まで来る人がいるとは…。
助かりましたよ!」
一息ついた巨太りが話し始める。
巨太りは旅の武器屋で、海を渡って次の地へ行きたいのだが、
魔物のせいで船が出せない。
そこで自ら魔物退治にやって来たのだが…
「いやはや、灯台の中の魔物が強いのなんの…」
「私も商売柄、少しは腕に自信は有ったたのですが…」
こりゃ適わんと這々の体(ほうほうのてい)で逃げ出して来た、と言う。
「で、皆さんはなんでこんな所まで?」
と、訊くので理由を話してやると
「本当ですか! そいつは有り難い!!」
巨太りが小躍りする。
(巨太りが小躍り…イマイチだな)
「それはそうと皆さん、何か必要な物とか有りませんか? 勉強しますよ!」
この巨太り、商人(あきんど)の鑑である。
「ねえ御隠居様、おいらにも何か得物を買って下さいよ!」
小太りがねだる。
「そうですな、この先何があるやも判りませんからな。
お前さんでも居ないよりましでしょう」
「そりゃ無いですよお、御隠居様あ〜」
と、小太りは口を尖らせるが、どこか嬉しそうなのは無理もない。
今まで長い間一行と共に旅をして来たが、初めて拾った棒切れ以外の
まともな武器が持てるのだ。
「さようですね、アナタが装備出来そうな物は…」
巨太りが背中の大荷物を下ろし、中を引っかき回す、
のを小太りが目を輝かせて覗き込む。
「これなんかどうでしょう? なんと! ひのきの棒!!」
「…今までに拾った棒切れの方が強そうですぜ……」
小太りが巨太りを軽く睨む。
「えー、そうてすかあ? うーん、じゃあこの皆殺しの剣とか?」
巨太りが見るからに不気味な剣を取り出す。
「いやいや、なんか祟られそうですぜ」
「注文の多いお客さんだなー。じゃあこれ、黄金の爪!」
「あっ! こりゃあぴかぴか光って中々粋じゃねえですか!
御隠居様、これを買って下せえ!!」
「ふむ、いかほどですかな」
「はいはい、これは一歩毎に魔物を引き寄せる効果が有りますから、
稼ぎにはピッタリですよ! 大負けに負けて50万ゴールド!!」
「……止めておきなさい」
「へい…」
結局、『拾った棒切れと大して変わらないんじゃ…』とぶつぶつ言う小太りを
老爺が灯台の中に棒切れが落ちてるとは思えない、と宥めて
棍棒を買う事になった。
*小太りはこんぼうを手に入れた!
さて、小太りと一緒に巨太りの荷物の中を覗いていた老爺、
底の方に何か惹かれる物を見つけた。
「む、ご主人、これは何ですかな?」
と、引っ張り出して広げてみる。
「ああ、それは“えっちなしたぎ”ですね」
「ほうほう、“えっち”とやらがどういう意味かは判りませんが、
何やら心踊る響きですな!」
「残念ですがこれは女性専用の鎧なんですよ」
「ううむ、それは残念…」
と、老爺は手にした物を元に戻そうとした。
が、巨太りの次の言葉を聞いてぱっと顔が明るくなる。
「ても“伝説の(ある意味)勇者”なら男でも兜として
頭に装備出来るそうですよ!」
「おおっ! 先程から何故かわしが“えっちなしたぎ”に惹かれていたのは…」
老爺は震える手で“えっちなしたぎ”を頭に被ってみようとした!
なんと、“えっちなしたぎ”は老爺の頭から顔面にかけてをすっぽりと覆った!
「おおっ! まさしくアナタは伝説の(ある意味)勇者!
こんな所で出会えるとは!!」
「いいでしょう、伝説の(ある意味)勇者に敬意を表し、
特別に100万ゴールドでお譲りしましょう!」
*老爺は“えっちなしたぎ”を手に入れた!
老爺はいそいそと“えっちなしたぎ”を懐に仕舞う。
「あれ? 装備しないんですか?」
「いやいや、これは大事な伝説の(ある意味)勇者の証し。
それに百万ごをるどもしましたからな!
大切に取っておいて時々眺めるだけにしますわい」
「はあ…、まあご自由に……」
「さて、他の皆さんは何かご入り用の物はございませんか?」
揉み手をせんばかりの巨太り。
「いや、俺には必要無い」
と、大男が力こぶを作ってみせる。
「俺もこれで充分だな」
二枚目が腰の道中刀をぽんぽん、と叩く。
「あたくしも使い慣れたもので良うござんす」
懐から苦無を出して見せる町娘。
巨太りは
「そうですか…。うーん…」
と、町娘に目を止め
「そこの娘さんは武闘家タイプとお見受けしますが、
この鎧なんかどうでしょう?」
荷物から何やら取り出す巨太り。
「なんだい、鎧とか言って、ただの布切れじゃないか」
小馬鹿にした様な町娘。
「いえいえ、お若い娘さん、これは魔法のビキニと言って、
防御の呪文を封じ込んである逸品ですよ!」
「へえ、そりゃ大したもんだ」
「しかも打撃や斬撃などだけではなく、呪文によるダメージも減らしてくれる上、
動き易いので女性の武闘家に大人気なんですよ、
お若くて綺麗な娘さん!」
「でも高いんだろねえ」
「私もこんなお若くて綺麗でピチピチの娘さんのお肌に傷が付くなんて
耐えられませんからね、思い切って200万ゴールドまで勉強しましょう!」
*町娘は魔法のビキニを手に入れた!
「じゃ、早速着替えてみようか」
町娘が着物の帯を解き始めたので老爺が目を輝かせる。
が、次の瞬間には着替え終わっていた。
トルネコたん保守
老爺はさぞがっかりした事であろう……
と、思われるだろうがさに非ず。
「これはこれでまた…」
と、ホクホクしている。
「では皆さん、私は町で吉報を待つ事にしましょう…
そうだ、中で100ゴールドの小金貨が沢山要り用になると思いますが
両替しましょうか? 特別に手数料は取りませんよ」
と、巨太りが言うので手持ちの小判や道中で魔物が落とした銭を
全て百ごをるど金貨に替えて貰う。
「では私は本当にこれで…」
巨太りは町へ向かって歩き出した。
が、数歩行った所で振り返り
「そうそう、買った武器や防具は装備しないと
役に立ちませんからね! 気を付けて下さい!」
と、何故か当たり前の事を言って去って行った…。
今回はここまでm(_ _)m
>>89 見てる人がいたw
途中でさるさんが来たので暫く放置しちゃいましたm(_ _)m
☆
94 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/04/06(日) 05:27:01.20 ID:EnOZiJ5j0
「今夜はお楽しみでしたね」もできますか
続きまだー?
作者さんも新年度だから忙しいのかな
お!
新スレ立っていたんですね。
遅まきながらすれたて乙でした。
ほしゅ
ほ
投下期待ほしゅ
100
乙
乙です
乙
たまーに見に来てますよん
乙
待つぜ
ほ
こなくなっちゃった
>もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら
オレは感涙した
「マジか?夢なら覚めるなよぉぉ!!!」
おもむろに所持金と装備を確認
「ああ、銅の剣・・・まあ、こんぼうよりはましか・・・50G ・・・」
それから部屋の中を見渡すと仲間らしき人間とモンスターがいた
「くそ、男だ・・・あ、奥になんかうねうねしているのもいるが・・・」
こっそり呪文が使えるかいろいろ唱えてみる(但し火気厳禁で)
「バシルーラ!」
男が飛んだ
「おおお呪文使える!」
「ニフラム!」
うねうねが消えた
「オレ勇者系かな」
その時いきなり部屋の扉が勢いよく開いた
「おいアンタ、宿代ごまかそうとしても無駄だぜ」
宿屋のおやじは例の弱そうな男とうねうねを部屋に放り込んだ
以下、続かない・・・と思う
パニックになる
うねうねってww
ホイミスライムとか?
112 :
109:2014/06/24(火) 19:46:24.00 ID:ea8Deowg0
>>109 が続いた!
「しめて30Gになります。」
「LV1で30は高けーよ。」
「まあ、今後はちょろまかそうなんて考えないことだな。」
ひょろひょろの男とうねうねは宿屋の出口で、
何事もなかったようにニコニコしながらこっちを見ている。
「くそっ」
毒づきながらオレは渋々宿屋のオヤジに30Gを支払った。
こんな奴らのために痛い出費だ。だいたい力もなさそうだし、役に立つのか?
ん?待てよ。パティーは4人のはず。ということは、あともうひとりは自分で選べる!
いっそ全員取り替えよう。屈強な戦士とか?いや、どうせなら女3人で・・・・・・。
その考えに急に元気が沸いてきたオレは、宿屋のオヤジに詰め寄った。
「おい宿屋、この辺にルイーダの酒場はないか?仲間を増やしたいんだ。」
「この街にはないよ。ははーん。あんた田舎者だろう?」
「な、なんだとぉ?!」
宿屋はオレの言葉をかわすかのようにくるりと背を向けた。
「悪いことは言わん。ルイーダには行かん方がいい。」
先ほどの冷笑とはうって変わって、言い放つその声は低く物静だった。
「どういうことだ?」オレは身を乗り出した。
「本当に知らないのか?」オヤジが振り向いた。
「ルイーダは今や魔王の支配下にある。あそこに行って帰って来た者はいない。」
「な、ナンだってへぇェえ?」
オレは自分の計画が全否定されたショックで、思わず声が裏返った。
113 :
109:2014/06/24(火) 19:48:57.88 ID:ea8Deowg0
>>112 「魔王を倒さなければルイーダは使えないのだ。」
ちょっとまて!魔王を倒すためにルイーダがあるのであって、
ルイーダが使えなければパーティを組めないじゃないか。
「あっ」
オレは熱い視線を背後に感じた。ひょろひょろとうねうねが淋しげにじっとこちらを見ている。
オレはため息をついた。一人旅がしたくてもルイーダがなければそれも叶わない。
「ルイーダを使う」という過程と「魔王を倒す」という目的が逆の気もするが、
ルイーダに行きたいというオレの思いは、今や熱意というより意地になりつつあった。
しかし、ルイーダを占拠し、勇者にパーティを組ませないとは魔王も考えたものだ。
魔王・・・・・・で、その名は?
「おやじ、その魔王の名前はなんていうんだ?」
「魔王の名か?ハーレムだ。この世界の若い美女はすべてルイーダに集められ
魔王ハーレムの元にいる。このままでは少子化が進み、いずれこの世界は滅んでしまうだろう。」
オレは天を仰いだ。うらやましい。ちがう。こんな暴挙は許せない。なんとしても魔王を倒さねば!
オレは宿屋のオヤジにルイーダまでの地図描いてもらい、ひょろひょろ、うねうねと共に
勇者としての一歩を踏み出した。
以下、続けられるかわからない毎回完結・・・・・・
>>111 ネタバレw読んでくれてありがとう
114 :
109:2014/06/25(水) 00:16:55.00 ID:uJuDlA7A0
>>113 気分が乗ったので続き・・・
かくして魔王ハーレムを倒すオレの冒険がはじまった。
オレの仲間はひょろりとした男とうねうねしているモンスター。
オレを慕っているのかどこに行くのもゾロゾロとついてくる。
(頼むから、トイレにはついてくるな。)
まずはレベルを上げないと話にならない。所持金は宿屋で違約金を取られて、
残額20G 。これでは装備を上げられないので、道具屋でやくそうを2個買い、
自分で持った。
ふと道具屋の裏手につぼがあったので覗いてみると、やくそうがあった。
失敗した。先に覗いとけばよかった。このやくそうはひょろり男に渡した。
街の外に出ると、見渡す限りの草原が広がっていた。ドラクエみたいだ。
いや、オレが今ドラクエの中にいるのだ。信じられないが、信じるしかない。
深呼吸するとオレは歩き出した。そう、何歩か歩けば魔物が出る。
どんな奴が出るのか?どうやって戦えばいいのか?剣の持ち方って
これでいいのか?自問自答しながら一歩一歩草原を踏みしめる。
その時だ。視界が暗転したかと思うと、魔物の群れがあらわれた!
スライム2匹だ。これがスライム。本物だ。家にあるぬいぐるみとは違い、
プリプリしていて目玉に光がある。思ったより硬そうだ。
それなのに体を揺らすたびにその形が微妙に変化する。
オレは青いモンスターの可愛らしい姿をしげしげと観察した。
鋭い音でオレは我に返った。ひょろりの先制攻撃だ。そうだ、戦わなくては!
スライムが負ったのはわずかなかすり傷。ダメージ2くらいか?
やっぱ、ひょろり弱えー。
オレはすかさずひょろりが攻撃したスライムを銅の剣で打ちのめした。
するとスライムは泡となって地面に溶け次第にその姿がわからなくなった。
115 :
109:2014/06/25(水) 00:19:41.76 ID:uJuDlA7A0
>>114 スライムを倒すとどうなるか初めて見た。これだけでもこの世界に来た甲斐が
あるというものだ。
溶けたスライムを覗き込むオレの後頭部に前触れもなく衝撃が走った。いてぇー!
もう一匹のスライムが体当たりしてきたのだ。思わず頭に手を当てると血が滲んでいる。
油断するとやられる。オレの中で初めて恐怖がうずまいた。
ドラクエ世界に紛れ込んだオレは、ドラクエ世界を生で見ることができる特権を得たのと
同時に、痛みという負の面も体験しなければならなくなったのだ。
痛みをこらえるオレの耳元で誰かのささやく声がした。え? 顔を上げると、
目の前で黄色いうねうねした触手から青白い光が広がりオレを包み込む。
その途端に後頭部の痛みが薄らいでいくのがわかった。ホイミか?!
視界の端でひょろりがもう一匹のスライムを攻撃をするのが見えた。
もう殴られるのはゴメンだ!
回復したオレは思いっきり(だが慎重に)銅の剣を振り下ろした。
オレは4Gを手にした。
以上。こんな感じで面白いのかわからないけど・・・
また思いついたら続き書けるかもしれません。
乙
>>115 今、オレたちは道に迷っていた。
正確に言うと、ルイーダに行くどころか元の街周辺から出られないのだ。
宿屋のオヤジが書いた地図はそれほど複雑ではないのだが、いつしか無限ループ
の道に入り、なんとまた元の宿屋のある街に戻ってしまう。
そもそもオレが現実世界からドラクエの世界に飛び込んだのは、あの宿屋である。
オレがどういう経緯でここに来たのか、あのオヤジなら何か知ってるはずだ。
それにルイーダの酒場がないのに、不本意ながらも無口な仲間がいることも謎だった。
おかげでそれなりにレベルも上がり、夜まで体力も持つようになっていた。
そして、3度目の無限ループにうんざりしたオレは、街に入るとあのオヤジを
問いただすべく宿屋を目指した。
酒場もなく、女っ気もない夜の街はしんと静まり返っていた。
つかつかと宿屋に入るなりオレは叫んだ。
「オヤジいるか?」
静けさの中、オレの怒気を含んだ声だけが大きく響いた。
が、カウンターを覗くと誰もいない。
宿泊の利用はいつも昼間で気がつかなかったが、夜間は営業していなかったのか?
暗い室内はガランとしていて、一階には鍵のかかった部屋もあったが、
鍵穴から覗いても人の気配がない。(鍵ということは宝箱でもあるのか?)。
二階を覗くが宿泊客もいないようだ。
>>117 どうなってるんだ? 定休日? それとも宿屋のオヤジの奴、逃げやがったのか?
まてよ、もしや何かのフラグがたったりして?
こういう時は、落ち着いてこの街をもう一度調べて回るのがドラクエの鉄則だ。
連れのひょろり男とうねうねモンスターは、先の戦闘でかなり疲れているようだが、
オレは我慢しろという視線を二人(?)に投げかけた。一人と一匹は文句も言わ
ず、よろめきながらも必死について来る。
だが彼らの努力も空しく、街中をさんざん歩き回ったものの、宿屋の不在という
以外に変わったところは見当たらなかった。これでは、宿屋に問いただすどころか、
回復もできない。
途方にくれ、しゃがみ込んだオレの視線の先に、一本の木が目に映った。
街はずれにあるその木はいかにも不自然で、ここに生えていますよと
自己主張しているかのように見えた。
ひょっとして、その木を回りこめる…?!
オレは飛び上がると、一目散にその木に向かって駆け出した。
案の定、その木の先は街の外へ出ることなく回り込む事ができた。
さらに進むとその先の木立の間に降りる階段が見えた。
そうそう、そうこなくっちゃ!
階段を降りると、薄明かりの中、石造りのカウンターが見えた。
カウンターの後ろに人影が見えた。目を凝らすと立っているのは髪の長い娘のようだ。
しかし女達は魔王に連れ去られたはず・・・・・・。
いや、よく見ると娘といっても人間ではない。
白い肌。若葉を思わせる緑の髪。しなやかに尖った耳。
それはまぎれもなくエルフだった。そして彼女はこう言った。
「旅人の宿に ようこそ。 こんな夜更けまで お疲れさまでした。」
>>118 「こんなとこに宿屋?」
「一晩6ゴールドですが お泊りになりますか?」
エルフの娘はオレの言葉が聞こえなかったかのように台本通りの言葉を続けた。
はい
いいえ
「はいだ!はい!」
訊ねたいことは山ほどあった。しかしそれ以上にオレたちは疲弊していた。
提供された魔法の聖水漬の食べ物と薬草がひきつめられたベットにオレたちは身
をゆだねた。
翌朝、聴きなれたチェックアウトのチャイムでオレは目が覚めた。出発の合図。
昨日の疲れが嘘のようにすっきりしている。
扉をノックする音がした。
「お客様、そろそろお時間なのですが・・・・・・」あのエルフの娘だ。
その声で昨夜のことを思い出した。ひょろりとうねうねはすでに出立の支度を
整えていた。遅れを取ったのはどうやらオレのようだ。
再びノックの音がした。ひょろりがすっと立ち上がり扉を開けた。
そしてエルフに何度か頭を下げた。オレが寝坊したのを謝ってるのか?
背の高いひょろりが頭を下げるたびにエルフの姿が扉越しにちらりと見えた。
オレの荷物をまとめる手が止まる。
彼女の腰まである黄緑色のさらさらした髪が、その透き通るような色白のなめら
かな肌に絡まる。大きなアーモンド型の青い瞳。艶やかな薄めの唇。鼻は高から
ず低からず、その端正な顔立ちに目立たず静かに存在していた。そして均整のと
れた肢体にある胸は、大きくもなく小さくもないいわゆる美乳で、腰は引き締ま
り、長い手足がそれにアクセントを加えていた。
昨夜は疲れから、彼女の容姿を気に留める余裕もなかったが、魔王ハーレムが彼
女を連れ去らなかった理由は、人間ではなかったから、という以外には考えられ
なかった。
うねうねの触手がオレの肩をぽんぽんと叩いた。
「わかってるよ。今急いで支度するから。」
>>119 オレたち二人と一匹はとりあえず荷物をまとめ、ぞろぞろと部屋から出た。とり
あえず、というのは、このエルフに夕べ訊きそびれたことがいろいろあったからだ。
オレは6ゴールドを支払いながらエルフに声をかけた。
「ちょっと訊きたいことがあるんだけど・・・・・・」
「なにかしら?」エルフは小首をかしげた。
「この街の宿屋のことなんだけど」
「私のお店がなにか?」
「いや、君の店ではなくて、上にある宿屋のことなんだが」オレは人差し指で上を指した。
「何を言っているのかよくわからないけど、この街にある宿屋はここだけよ。」
「え?」
「この街にある宿屋は私のお店だけよ。」
「いや、上にもあるよ。道具屋の隣に・・・・・・」
「違うわ。道具屋の隣は酒場よ。正確には昔はルイーダさんの酒場だった。
今は空家だけどね。」
「なんだって?」
やられた!どうやらオレはあの偽宿のオヤジにまんまと金を詐取されていたようだ。
その悔しさを晴らすかのように、オレは今までの経緯をあらいざらい彼女に話した。
彼女は表情ひとつ変えずにオレの話を黙って聞いていた。話終えると、しばしの沈黙が続いた。
が、それを破ったのは彼女だった。
「あなたなら、助けられるかもしれない・・・・・・」
そうつぶやくと、彼女はカウンターの奥にあった鍵をひょいとつかみ、
うねうねの後ろにすばやく並んだ。
思わぬ展開にポカンとしているオレの頭上で、ファンファーレが高らかに鳴り響く。
「さあ、行きましょう!」
エルフの娘が仲間に加わった!
・・・今日はここまでで完結
チラ裏かな?
>>120 乙っす
宿屋に泊まると一晩で回復するのは、そういう仕掛けか…w
122 :
109:2014/07/05(土) 18:48:33.81 ID:U+vmxVCO0
>>120 オレたち三人と一匹は、元ルイーダの酒場に向かっていた。
あの宿屋のオヤジから渡された地図は、あながちデタラメというわけではなかったようだ。
空き家を宿屋と偽って不法営業していたとはいえ、とりあえず宿屋としての回復機能はあった。
しかし、「ドラクエ」の世界に突然入り込んだ歓喜で周りがよく見えなかったのか、
今思えば、粗末な食事に振りかけられた「魔法の聖水」は濁って妙な臭いを放ち、
ベットに敷き詰められた「薬草」はしなびていて、所々、枯れている始末だった。
レベルが低かったから、わからなかったが、
果たして今のオレたちのレベルで十分回復できたかは疑問だ。
そしてあのボッタクリ価格。エルフの宿屋は一晩6Gに比べての30G。
それを泊まるたびにあれこれ難癖をつけられて支払わされていた。
オレたちが十分な装備を整えることができなかったのはいうまでもない。
「さあ、入りましょう。」
オレの思考はエルフの少女の声で途切れた。気がつけば、あのいまいましい宿屋こと
元ルイーダの酒場の前にいた。
「入ってどうするんだ?」オレは彼女に訊いた。
その問いには答えずに、エルフは空き家の中にどんどん入っていった。
オレは肩をすくめるとその後に続いた。そして一階のあの鍵のかかった部屋の前で立ち止まった。
「そこは開かないよ」オレは忠告した。
彼女はブルーのふわりとしたワンピースのポケットに手を突っ込むと、
先ほどカウンターから持ってきた鍵を取り出した。
よく見ればその鍵の先端には目玉と羽がついている。最後の鍵?!
彼女はオレが驚いているのを楽しむかのように、その大きなアーモンド形の青い瞳でいたずらっぽく微笑むと、
鍵穴に鍵を差し込んだ。軽い複雑な金属の音がしたかと思うと鍵が回った。
彼女のしなやかな指がドアノブにかかり、扉が軋むような音を立てながら開いた。
部屋の中はうす暗く、窓ガラスが鏡のようだった。家具の他、床にはいくつかの宝箱が雑然と置いてあった。
エルフの少女は机の上の燭台に、近くにあった蝋燭を立てると、口元に手をあて何か呟いた。
彼女の白い指先に炎が灯り、その火が勢いよく蝋燭に燃え移った。メラの呪文だ。
部屋が先ほどより明るくなり見通しが良くなった。
広い部屋の奥に目を向けると、先ほどはわからなかったが地下に降りる階段が見えた。
「ここで準備して行きましょう。」彼女が言った。
「ちょっと待ってくれ」オレは口を挟んだ。
「準備って?いったいここは何の部屋で、何が何だかさっぱりわからないんだが・・・・・・」
「ここはルイーダさんの部屋よ。彼女は魔王ハーレムに対抗するため、
ここに必要な武器防具を少しずつ集めていたのよ。来たるべき日のためにね。」彼女は黄緑色の長い髪をかき上げた
123 :
109:2014/07/05(土) 18:50:08.53 ID:U+vmxVCO0
>>122 「来たるべき日?」オレは反芻した。
「ハーレムと戦う勇者がやって来た時のためよ。さあ、準備して。」そう言うと彼女は宝箱を開け始めた。
良く状況が把握できていないものの、彼女を真似てオレも宝箱を開けた。
最初の箱を開けると、ラーの鏡が入っていた。いきなりの高級アイテムに心が躍る。
次の箱を開けると鉄仮面が入っていた。実際に手に取るとまさにバイクのフルフェイスの金属版で、
その重量感に圧倒される。次の箱には祈りの指輪。確かにかなりいいものがあるようだ。次の箱には・・・・・・。
ふと後ろを振り向くと、ひょろりが頭をぽりぽり掻きながら照れている。エルフも何やら頬を染めて楽しそうだ。
え?何だこのムード?何やってんだこの二人は?
ひょろりの手にあるのを良く見ると、なんとそれは「あ・ぶ・な・い・み・ず・ぎ」!
おまえらなぁ!オレは理不尽な悔しさにちょいと切れた。
そもそも宿屋で出会った時からオレはひょろりが気に入らなかった。それは嫉妬というたぐいのものかもしれんが、
役立たずのくせに奴は現実世界のオレより遥かに顔のパーツが良く、俗に言う女に苦労しないタイプなのだ。
もちろん、この世界ではオレもかなりの男前で負けはしない。
とにかくだ。パーティの紅一点と他の奴が何やらイチャイチャしているのは、正直面白くない。
みっともないと言われようが、女々しいといわれようが、お子様と言われようが、構うものか!
オレは立ち上がり二人に近づくと、手に持っていた鉄仮面をひょろりの頭に勢い良くかぶせた。これで顔は封じたぜ!
いきなりのことで、ひょろりはよろめき、手にしていた破廉恥な防具を落とした。
エルフは唖然とした表情で驚いている。しまった?やりすぎたか?オレはひとりごちた。
少女は振り向くとやや怒ったような表情でオレの顔をじっと見つめた。ああ、嫌われたか・・・・・・
しばしの間があってから、エルフが口を開いた。
「あなたこそ、真の勇者さまです。」
オレは彼女の思いもよらない言葉にきょとんとした。少女は続けた。
「鉄仮面は強力な防具。最初に手に入れたとき、たいていの人は自分で装備するのに、
それなのにあなたは、自分より仲間の身を案じて装備させたわ。真の勇者でなければできない行為よ。」
そう言う彼女のオレを見る目が、真剣な尊敬の眼差しであることに気がついた。
なんだこの展開は?うれしい誤解もドラクエにはよくある勇者の特権なのか?! ブラボー!!
オレの心の声に呼応するかのように、前方で大きな音がした。
見るとひょろりが鉄仮面の重さに耐えきれず床に崩れ落ちていた。
身かわしの服を被ったうねうねが、ひょろりのそばにすかさずやってきて、触手を伸ばす。
オレはひょろりのそばに落ちている薄い方の防具を拾い上げると、
心を悟られないように硬い表情のままそっと袋にしまった。
今日は完w
>>121 読んでくれてありがとうです!
保守
125 :
109:2014/07/14(月) 21:20:07.48 ID:LY4P/Yqx0
>>123 オレが現実世界から、このドラクエ世界にやって来たきっかけのこの宿屋。
だがそこは元ルイーダの酒場だった。とはいっても今は空き家だが。
ルイーダはこの部屋で魔王ハーレム討伐に向けて、いつしか現れる勇者のため準備をしていたという。
オレたちは、ここで各々が自分に見合った装備をいくつか選んだ。
(結局、鉄仮面はオレが装備することになったのだが。)
「で、これからどうすればいいんだ?」
オレはエルフの少女に訊ねた。
「地下に降りましょう」
「あ、そういえば、階段があったな」
オレは部屋の奥に降りる階段があるのを思い出した。
オレたちは、オレを先頭に、ひょろり、うねうね、エルフの順で木造の部屋には不釣合いの
頑丈な石の階段を降り始めた。階段は思ったよりも長く続いたが、ようやくあと数段で地下というところまで来た。
妙に湿気があり、ひんやりとした空気が流れてくる。足元が滑るな・・・・・・そう思った瞬間、
「うにゅ!」
うねうねが足を滑らせ、ひょろり、オレとドミノ倒しになって階段を転げ落ちた。
「うにゅぴぃぃ!!」「!!!」「うわーっあ!!!」
重なり合ってぶざまに倒れているオレたちに向かって、エルフが少し面白がっているかのように声を上げた。
「大丈夫?」
かなり痛い。が、勇者ともあろうものがそうも言えない。
「た、たいしたことないさ・・・・・・」強がるオレ。
それにしても背中が重い。
「おい、後ろ!さっさとどけよ!まったく・・・・・・」
のろのろと立ち上がる一人と一匹。
ため息混じりに腹ばいで横たわるオレの目線の先には石畳の一本道が続いていた。
オレの視界にあったその石畳は、まもなくエルフの長い華奢な手でふさがれた。
「勇者さま。さあ、行きましょう」
差し出された彼女の手を借りて、オレは立ち上がった。
「あ、ありがとう」
握った彼女の薄い手の平は、その見た目よりはるかに柔らかく弾力があった。
身づくろいをすませると、オレは暗がりの一本道に目を凝らした。
並び順はオレ、エルフ、ひょろり、うねうね、に変えて、苔の生えた石畳を慎重に進んだ。
正面に石の壁が見え、行き止まりなのがわかった。地面に目を落とすと、渦巻くもやの中に青い池が見えた。
いや、池じゃない。水が渦を巻き、霧を出しているのだ。
「旅の扉よ」エルフが言った。
「ここから先は、ハーレムの領地。ここから先は、何があるのか私にもわからないわ」
これが旅の扉か。先ほどまで水かと思ったが、それは青空のようでもあり白い雲が台風の目のようにも見える。
「怖い?」背後から、エルフの声がした。
「え?」
「戻るなら、今しかないわよ。この先は多分、もう戻れないから」
オレは彼女を振り返ると、口元にちょっと不敵な笑みを浮かべてみた。
「戻ったところで何も変わらないさ」
そう一言つぶやくと、オレは渦の中に飛び込んだ。
126 :
109:2014/07/14(月) 21:23:32.74 ID:LY4P/Yqx0
>>125 オレは濁流に飲みこまれていた。いや、ぐるぐると滑空していると言った方がいいかもしれない。
体の感覚が全くない。オレは息をしているのだろうか?あるのはぼんやりとした意識だけだ。だが、それも次第に薄れていった。
気がつくと、先ほどの「旅の扉」の前にいた。いや、違う。扉は同じだが、視界が開けていた。天井は意外と高い赤黒い洞窟だ。
どうやら旅の扉の一角は岩に囲まれているようだ。その岩場から一歩離れると、ゆらゆらと炎が現れ旅の扉の前に立ちふさがった。
「わたしはルイーダの魂。勇者さま、お待ちしておりました。」
炎がオレに向かって語りかけて来た。
「その年月はあまりに長く、今やこうやって魂となり、あなたがいらっしゃるのをお待ちしておりました」
オレは絶句した。ルイーダには一目会いたかった。できればパーティーに加えたかった。オレが来るのが遅すぎたってことか?
こんなことってあるか!
魂となったルイーダは続けた。
「この先に魔王ハーレムがいます。まだ生き残っている娘たちを助けて下さい。そして世界に平和をもたらして下さい。
それができるのはあなただけです。これを、持ってお行きなさい」
ファンファーレ!オレは「賢者の石を手に入れた」。
ひょろりが炎に深々と頭を下げていた。
127 :
109:2014/07/14(月) 21:25:06.93 ID:LY4P/Yqx0
>>126 ルイーダの魂に名残を惜しみながら、オレたちは先へと急いだ。娘たちをなんとしても助けなければならない。
それがルイーダの意思であり、動機はどうあれオレがここに来た目的でもある。
じめじめとした洞窟は蒸し暑く不快だった。
すぐ後ろにいるエルフの肌も汗で濡れ、長い緑の髪がその白い首筋にねっとりと貼りついている。
途中で道が三本に分かれた。さてと、どっちへ行くか。
うねうねが左を指した。ひょろりが右を指した。迷わずオレは正面に進むことにした。
が、オレの足を抑える「うねうね」した手の感触がする。
「うるさいな!うねうね!いいんだよ、こっちで!」
オレはそう言い放ち振り返ると、うねうねは離れたところで笑ったまま顔を引きつらせ、首を懸命に横に振っている。
「あれ?うねじゃないのか?え?あっ!」
オレをつかんでいたのはマドハンドだった。
「やべぇ」
周囲を見渡すと、すっかりマドハンドに取り囲まれている。
「勇者さまは左側を片付けて!」
そういうなりエルフはしなやかに手を上げ、右側のマドハンドに向かってベギラマを放った。
閃光が炸裂する!まばゆい光が彼女の堀の深い顔に鮮やかな陰影を作った。もう一発!
オレだって負けてはいられない。足をつかんでいるマドハンドを一刀両断にすると、オレはすかさず左側のグループに斬りかかった。
「ひょろり!オマエもこっち手伝え!」
振り返りざま、オレは賢者の石をうねうねに放り投げた。うねうねはその触手を伸ばすとうまくキャッチした。
「頼んだぞ。うね!」
うねうねはうれしそうに何度もうなずくと、その聖なる道具を握り締めた。
マドハンドの気配に気がつくのが遅れたせいで、長期戦はやむおえなかった。やつらは、なんと自分たち以外の仲間も呼び始めた。
ゴーレムに、ドラゴンライダー!
まずいぞ!まずい!
エルフはマドハンドの増殖を抑えるのに手一杯だった。
間一髪!飛びのいたオレの地面に、ゴーレムの石拳がのめり込む。轟音と共に砂煙が上がる。
2体のドラゴンライダーが空で急旋回し、奴らの剣がオレの頭上をかすめる。ドラゴンが炎を吐いた。
うねうねがすかさず、賢者の石に祈りを込めた。
オレの鋼の剣が再び旋回してきたドラゴンの翼を運良く斬りおとし、モンスターはバランスを失って墜落した。
すかさずひょろりが鉄の槍でライダーの胴体を貫いた。ところが、ドラゴンライダーは何事もなかったかのように、
元通り空中に浮かんだ。
振り向くと、うねうねに似た赤いモンスターがこっちを嘲るようにニコニコしていた。ベホマスライムいつのまに!
ベホマスライムを切り倒すと、気を取り直して強敵に向かう。ここまできたら後には退けない。もう戦うしかないのだ!
128 :
109:2014/07/14(月) 21:28:08.59 ID:LY4P/Yqx0
>>127 一進一退の膠着状態が続く中、ひょろりが胸元から何やら羊皮紙を取り出すとオレに渡した。
「何だよ!こんな時に!」
丁寧に折りたたまれた羊皮紙を広げると、そこには汚い文字でこう書かれていた。
じゅもんをつかうな
(ついでに口もきくな)
その文字は汚いが見覚えがあった。そう、それはオレの字!
「おまえ、呪文使えるのか?」
ひょろりが頷く。
「そういうことは早く言えよ!」
オレはひょろりが差し出した羽ペンを引っつかむと、口をきくなはそのままにして、文字を書き換えた。
ガンガンいこうぜ
(口はきくな)
ひょろりは静かに微笑むと、目を閉じ手を口にあて何かを呟いた。そしてその手を天にかざし、
空中で旋回しているドラゴンライダーを指し示した。蒸し暑い洞窟なのに悪寒がした。
紫の霧がドクロとなり、飛翔するモンスターをその顎で飲み込むかのように包み込んだ。
ザキ
その瞬間、モンスターは真っ逆さまに地面に墜落しピクリとも動かなくなった。うは、すげぇ!楽勝じゃん!
しかし、良いことはそうは続かないものだ。
ザキザキザキザキザキ
ひょろりは狂ったように呪文を唱え始めた。うわ!ダメだこりゃ。オレは頭を抱えた。くそ、信じれるのは己の剣のみか。
オレは空中から襲う2匹目のドラゴンライダーの背中に飛び乗るとその尻尾を斬り落とした。そして、そのまま騎乗の
モンスターに飛びかかって引きずり下ろすと地上戦に持ち込みとどめをさした。この方が早いぜ。主を失ったドラゴンは、
そのまま逃げて行く。逃がすか!
「きゃー!」
悲鳴が聞こえた。振り返るとゴーレムの手にエルフが握られている!
「私に構わず攻撃して!」
129 :
109:2014/07/14(月) 21:29:26.50 ID:LY4P/Yqx0
>>128 オレは逃げるドラゴンを捨ておき、彼女を握っているゴーレムに向かった。
「くそ!おい、ひょろり援護しろ!」
「ザキ!」
「ちげーよォ!」
オレは近場の岩によじ登るとゴーレムに向かって飛び降り、その片腕を切断した。エルフはその腕ごと地面に叩きつけられた。
「うね!彼女を頼むぞ」
怒り狂ったゴーレムは、足でオレを踏みつけようと大股で足を振り下ろす。オレは転がりながらそれをかわし飛びのく。
が、その飛びのいた先は、やつの残ったもう片方の手のひらだった。
「しまった!」
今度はオレが彼女と同じ運命にさらされた。もがくが、びくともしない。ゴーレムの握る手に力が入ってくる。「これまでか?!」
その時だ!
「メラミ!」
緑色の髪がふわりと舞い、ゴーレムの体を炎が包んだ。
傷つきながらもエルフは肩で息を切らしながら叫んだ。
「MP切れ!お願い!とどめを!」
マドハンドもドラゴンライダーももういない。
最後のモンスターだったゴーレムは炭化し崩れ折れた。
オレは奴の手からなんとか這い出し、まだヒクヒクと立ち上がろうとする煉瓦の塊に、最後の力を振り絞り鋼の剣を突き立てた。
本日はこれで完。
ひょろりがクリフトの仮の姿だったとは!(違)
支援
132 :
109:2014/07/23(水) 01:27:02.62 ID:jBNjq4Qy0
>>129 オレたち三人と一匹 ――現実世界からやって来たオレ、うねうねしたモンスター、ひょろりとした男、
それに紅一点の美しいエルフ――は、ごつごつした岩に囲まれた赤黒い洞窟の分かれ道に立っていた。
洞窟といってもその天井は高く、まるで赤黒い空が広がっているかのようだ。
先の戦闘でオレたちのHPやMPは大分減ってしまっていた。
回復ポイントがないか辺りを見まわしたが、それらしきものは見当たらなかった。
下手に動くのは得策ではないと判断し、うねうねのホイミで地道に回復することにした。
足りないMPはルイーダの宝箱にあった「いのりの指輪」で回復するしかなかった。
オレはひょろりを一瞥して言った。「おまえにまわす分はないからな」
指輪をエルフとうねうねに交互に渡す。無事、エルフのMPは満タンになったようだ。ほっと胸を撫で下ろす。
エルフがうねうねに再び指輪を渡す。うねうねは器用に触手をからませ指輪をはめるとそっと祈った。
空気がわずかに揺れ、指輪は音もなく崩れ去った。うねうねがすまなさそうな顔をした。仕方がない。
念のためオレはひょろりの羊皮紙に再び羽ペンを走らせた。
じゅもんつかうな
(私語厳禁)
ひょろりはお世辞にも綺麗とは言えないオレの文字を黙って見詰めていた。オレはこのドラクエ世界に来る前、
うねうねとひょろりとおそらくどこかで会っていたのかもしれない。そんな想いがふと脳裏をかすめた。
「行きましょう」
エルフがオレを現実に引き戻した。魔王ハーレムとの戦いはもうすぐだ。
オレは気を引き締めなおし、自分が選んだ中央の道を進んだ。
133 :
109:2014/07/23(水) 01:28:44.37 ID:jBNjq4Qy0
>>132 湿気が霧を生み前方の視界はあまり良くなかった。この一本道、いったいどこまで続くのだろうか。
急にエルフが声を上げた。
「見て!」
「どうした?」オレは訊いた。
「家が見えるわ」
「家?霧があるしそんなもの何も見えないけど」オレは憮然として言った。
「私たちエルフの視力は人間とは違うのよ」クスリと笑って彼女が反論した。
そんなもんかと半信半疑で目を凝らしながら足を早める。が、どう見ても見えるのはどこまでも続く道と岩だけだ。
ひたすら歩いていると前方の霧の一部が濃くなった。いや、何かがある。家だ。どうやらエルフの視力は確かなようだ。
その木造の家屋に近づくと、看板がぶら下がっているのがわかった。
INN
宿屋か!失敗した。宿屋があるなら、いのりの指輪を使わなければ良かった。
その宿屋は道の行き止まりに鎮座し、その手前で左右に道が伸びていた。
ひょっとするとこの左右に伸びる道は、先ほどの分かれ道とつながっているのか?
エルフは左右の道を交互に見渡しながら言った。「左側に黒い塔が見えるわ。中まではわからないけど」
オレには見えないが、エルフが指差した塔に向かう前に、オレたちはとりあえず目の前の宿屋を確認することにした。
静まりかえる室内に入ると、少し奥にカウンターが見えた。
「いらっしゃいませ」
背後から男の声がした。振り返ってみると、なんとその声の主はあの宿屋のオヤジだった。
オレがこのドラクエ世界に来た時にいた宿屋の主人。
「あ!オヤジ!コノヤロォ!」オレは思わず声を上げた。
小太りなオヤジはオレに向かってニヤリと笑うと、カウンターの裏に回ってオレたちを出迎えた。
「こんにちは。 旅人の宿に ようこそ。一晩300ゴールドですが お泊まりに なりますか?」
「泊まり来たわけじゃない!」オレは怒りを押し殺して言った。300Gだと?ふざけるな!
「宿屋、どうして逃げた?」おれは宿屋のオヤジに即効で詰問した。
「そんないきなり。逃げも隠れもしませんよ。ここにこうしているじゃないですか」オヤジは切り返した。
「隠したって無駄だ!上の宿屋はルイーダの酒場で今は空き家だってこと、もうわかってるんだぞ!」
「おやおや、そんなに怒鳴らなくっても」
「不法営業の上に、オマエが書いた地図のおかげで、さんざん苦労した。どういうつもりなんだ?
からかっているのか?」
「からかってなんていませんよ、お客さん。知っている通りに書いただけで・・・・・・」オヤジはやれやれと言わんばかりだ。
オレはオヤジの言葉をさえぎった。
「ルイーダはもういない。だが、オレは彼女に魔王ハーレムを倒し娘たちを救い出すと約束したんだ!」
「おや、そうなんですか・・・・・・」オヤジは俯いて机の上の宿帳をパラパラとめくり始めた。その声は淡々としていた。
「この洞窟のどこかにハーレムがいるはずなんだ。オヤジ、知っているなら教えろ。魔王はどこにいる?」
オヤジののらりくらりとした態度にイラついて、オレは大声を上げた。
134 :
109:2014/07/23(水) 01:30:04.72 ID:jBNjq4Qy0
>>133 宿帳をめくるオヤジの手がピタリと止まった。
「まだ、気が付かないんですか?」オヤジは俯いたまま言った。
「何がだ」オレはオヤジの言葉に眉根を寄せた。
オヤジはようやく宿帳から目を離すと、顔を上げオレの目を見て言った。
「お探しの魔王ハーレムはあなたの目の前にいるのに気が付かないとは、愚かな・・・・・・クククッ・・・・・・・」
「な、何だ・・・・・・と・・・・・・?」そう呟いたオレの声は声にならなかった。
その途端、ニヤリと笑ったオヤジの口が耳まで裂け、その口の間から伸びた犬歯の先によだれが滴った。
ことの次第を飲み込んだオレはとっさに身構えた。
「そんなにわしに会いたいとは光栄だな。勇者どの。ワハハハハハハハ!キヒヒヒヒヒヒヒィィ!」
体形は小太りな人間のままだが、形相が変化したその声は、もはやあのオヤジの声ではなかった。
耳をつんざくような不気味な嘲笑が宿屋の中を超え、天井の高い洞窟全体にこだましていた。
「出でよ。わしのかわいい娘たち!」
そう声高に叫ぶと、ハーレムは手にした宿帳を頭上に放り投げた。その勢いで帳面は破れ頁が宙に舞った。
その紙が宿の床の暗がりに消え、代わりに現れたのは大勢の美少女たちだった。
ハーレムが連れ去ったのはこの娘たちなのか?
目の前に出現した娘たちはそれぞれが、あまりに可愛く美しかった。オレは思わず見とれた。
特に2列目の右から3番目の娘。オレのストライクゾーンだ。ロングの赤毛でシミ一つない絹のような肌。豊潤な唇。
柔らかく張りのある乳房。くびれたウエスト。盛り上がる尻。それなのにどこかまだあどけなさが残る瞳に長いまつ毛。
そのすべてがパーフェクトだった。いや、良く見れば、その赤毛の娘の後ろにいる三つ編み金髪も捨てがたい。
いやいや、その左側の青髪ロングの娘もなかなかだ。まてまて、その左りの茶髪な活発そうな娘も・・・・・・。
こんな大勢の美少女たちを目の前にオレの心は動揺していた。
「勇者よ」ハーレムの声がオレの頭の中に響いた。
「もしわしの仲間になれば、娘たちの半分をお前にやろう。どうだ? わしの仲間になるか?」
はい
いいえ
とっさのことでオレは逡巡した。彼女たちのつぶらな瞳が一斉にオレを見詰める。
そう、ハーレムパーティを組むのがこの世界に来てからのオレの念願だった。うねうねしたモンスターやひょろひょろの
男といても楽しいわけがない。エルフは美しいが美乳よりやはり巨乳、いや、目の前の圧倒的人数には敵わない。
この際「はい」でもいいか・・・・・・?
135 :
109:2014/07/23(水) 01:31:02.48 ID:jBNjq4Qy0
>>134 「勇者さま!騙されてはいけません!」
背後でエルフの声がした。その両手には、ルイーダの宝箱にあった「ラーの鏡」が握られている。
エルフはラーの鏡を娘たちに向けた。すると美少女たちの姿に変化が現れた。彼女たちの容姿が崩れ始め、
腐った死体の群れになった。
「うげぇ」
オレの胃袋が動転し、吐きそうになるのを必死に手で押さえた。
「エルフめ!小賢しいまねを!」ハーレムは苦虫を噛み潰したような顔で一言つぶやくと、両手を広げて腐った死体
の群れに攻撃の合図をした。「勇者をお前たちの仲間に加えてやれ!」
オレたちは宿の外に飛び出した。オレたちを追って中から腐った娘、いや明らかに腐った死体が次から次へと出てきた。
「ベギラマ!」
エルフの先制攻撃!続いてオレとひょろりは一体づつ攻撃する。うねうねは必死に賢者の石をかかげた。
しかし如何せん数が多すぎる。オレたちはじりじりと取り囲まれていた。まともに戦っては消耗戦で負けてしまう。
いったいどうすればいい?
もはや接近戦の状態だった。鋼の剣を振り回し倒しても、次から次から別の奴がオレの胴体をつかんでくる。
「くそ、放せ!このやろう!オマエたちになんかモテたくないんだよぉ!」
突然背後から腐った巨乳の死体がオレの首に腕を絡めて抱きついてきた。その腐った頭の赤毛には見覚えがあった。
オレが気に入ったらしく、オレの首をぐいぐい絞めて放さない。う、息が苦しい!くそ、なんでこういうことになるんだ!
・・・・・・ふと、オレはこの世界に来た時、宿でニフラムを使ったことを思い出した。
「そうだ!ニフラム!!」
腐った死体たちに抱きつかれたまま、オレは空中に向かって呪文を放った。聖なる光があたりを満たし、
取り囲んでいたモンスターたちは次々と光の中に消えていった。おれはぜいぜいと息を切らしながら、
抱きついてきた腐った赤毛の腕の感触を消そうとばかりに首の辺りを手で懸命にさすった。
「くっそう!汚いぞハーレム!娘たちはどこだ!」オレは宿屋の中に潜んでいるであろうハーレムに向かって叫んだ。
「フフフ、オマエに娘たちは渡さぬ」くぐもったハーレムの声と共に板が軋む音がして、あたりに木片が飛び散った。
木造の家屋が轟音を立てて崩れ、その屋根から巨大な化け物が頭をもたげた。
ついに魔王ハーレムがその正体を現したのだ。
136 :
109:2014/07/23(水) 01:32:10.61 ID:jBNjq4Qy0
>>135 魔王は木造の家屋を踏み潰すと、その巨体で左側の道を塞いだ。確かその先には黒い塔が・・・・・・!
「ここまで良く来たな。褒めてやろう。だが、ここまでだ。この先を通すわけにはいかぬ」
そう言うとハーレムは淀んだ巨大な三つの目でオレを見下ろした。
「娘たちは塔にいるのか?」オレはハーレムに自分の疑問を投げかけた。
「ほほう。良くわかったな」ハーレムはオレの横にいるエルフに気が付くと目を細めた。
「なるほど。そうか、エルフ、おまえが見たのだな。オマエのような美しい生き物を見逃していたとは・・・・・・フフフ」
ハーレムはその三つ目でエルフの肢体を舐めまわすように見詰めた。オレは奴の視線から彼女を庇った。
「フン!わしを倒さぬ限り塔に入ることはできぬわ。わしを倒さぬ限りハーレムパーティはこの世に存在しないのだ。
ハハハハハァァ!!!」
魔王ハーレムは強敵だった。その醜い巨体はその顔面まで青白い金属の鱗でびっちりと覆われており隙間がなかった。
その頭部には太く鋭利な黒い角が不規則に生え、隆々たる筋肉の魂である二本の腕の先には丸々とした四本の指があり、
それには鋭く黒い爪が生えていた。
「メラミ!」エルフが呪文を唱えた。だが彼女が得意な火炎の呪文は効かなかった。
「小うるさいやつめ!」ハーレムが鋭い爪で彼女を引き裂こうとする。身軽な彼女はそれをうまくかわした。
「これならどう! ルカニ!」振り返りざま再びエルフが唱える。ハーレムの体を黄色い光が包みかけた。
が、それも束の間で消え失せた。
「ハハハ!馬鹿め!そんな呪文がこのわしに効くと思うか!」ハーレムは太い尻尾を左右に揺らしながらほくそ笑んだ。
金属の鱗がこすれ不協和音が洞窟に響く。
「ミスリルだわ」
エルフが愕然とした震え声で言った。「ハーレムの鱗は幾重にも重なった強力なミスリルでできているのよ」
ミスリル?聞いたことがあるな・・・・・・もしかしてメタルスライムとかの金属?だとすると、魔法は効かない。打撃のみ?
だが、相手はボスキャラ。HPは相当高いぞ。
オレは意を決して、やつの尻尾に鋼の剣で切りつけてみた。案の定、無傷だ。
会心の一撃でも出ろ!オレは渾身の力を込めて剣を振り下ろした。その瞬間、鈍い金属の音と共に鋼の剣が真っ二つに折れた。
剣先の無い剣を呆然と見詰めるオレにハーレムの豪腕が容赦なく振り落とされた。オレは反射的に目を閉じた。
潰れる音がする。だが痛みは無かった。目を開けると、目の前に見えたのは、二つになったうねうねだった。
「うねうね!」オレは叫んだ。
オレを庇いハーレムの爪で二つに割れたうねうねは、それでも笑っていた。「ウニュうぅぅゥ・・・・・・」
うねうねはスライムを倒したときのように、今や泡になって地面に消えていこうとしていた。
「うねうね!しっかりしろ!ダメだ!消えるな!うねェェェ!!!」オレの叫びは絶叫になっていた。
うねうねの泡は地面に溶けて消えた。跡には賢者の石が転がっていた。
137 :
109:2014/07/23(水) 01:37:03.81 ID:jBNjq4Qy0
>>136 四つん這いになって地面を見詰めるオレの頭上でハーレムの声がした。
「運のいいやつめ!」
「許さない」オレは食い縛った歯の間から静かに呟いた。
「何か言ったか?勇者ともあろうものが、往生際が悪いな」ハーレムが言った。「それとも気が変わったのなら
許してやってもいいぞ!わしの仲間になれば、ハーレムパーティも思いのもまま! ハハハハハァァァ!」
「ハーレムパーティなんでどうでもいい!」オレは吐き出すように言った。それが今のオレの素直な気持ちだった。
「なんだと?!」ハーレムが一瞬たじろいた。
「うねうねは、あいつは・・・・・・」
オレはそう呟きながら地面の聖なる石を拾い上げると、顔を上げハーレムを睨み付けた。
ひょろりが素早くそばにやってきて、自分の持っていた鉄の槍と鉄の盾をオレに差し出した。気が付かなかったが、
オレの鉄の盾は深い傷を負っていたのだ。丸腰になったひょろりにオレは賢者の石を渡し、
羊皮紙には「いのちだいじに」と書き直した。ひょろりは小さく頷いた。
三人になったオレたちに、うねうねの不在を哀れむ暇は無かった。打撃も効果がなくエルフの呪文も効かない。
どうすればいい?勝算はないのか?ハーレムに何か弱点は?
ハーレムの吐き出す息は強烈だった。賢者の石だけでは回復が追いつかなくなってきた。
その時、エルフがオレに向かって何か叫んだ。
「あれ出して!」
「あれ?あれって何だ?」オレはエルフを振り返って叫び返した。
「あれって、あれよ!あれ!」そう言いながらエルフはジェスチャーを交えていた。身に着けるものらしい。
着る物?水着?あ!「あぶないみずぎ?」
エルフは首を縦に振った。
「あんな守備力の無いものどうするんだ?」オレは叫んだ。
「いいから!早く!」
エルフに急かされて、ハーレムの攻撃をよけながら袋にたどりつくと、中からルイーダの部屋でこっそり入れておいた
破廉恥な防具を取り出した。
オレはエルフにそれを放り投げた。エルフはそれを掴み岩陰に隠れると、すばやくその防具に着替えた。
布地の少ないその防具は、防具としての機能を全く有していなかった。胸と腰をなんとか隠しているにすぎない。
エルフはハーレムの前に進み出ると、その姿を惜しみなくさらした。
138 :
109:2014/07/23(水) 01:38:52.50 ID:jBNjq4Qy0
>>137 ハーレムは攻撃の手をやめ、その三つの目で彼女を値踏みした。
やがて彼女は小さいナイフを取り出すと、自ら胸元の水着を少しずつ引き裂きはじめた。ハーレムが身を乗り出す。
乳首が見えるか見えないかのまま布切れとなった水着の一部を胸の上に残し、今度は下腹部の布を少しずつ裂いていく。
ハーレムがさらにその身を前に乗り出す。
やがて水着の上下のつながりがなくなった。エルフは首をそらし、その色白の美しい首筋をハーレムに見せた。
そのはずみで布がずれ、薄いピンク色の乳輪が見えた。ついには胸がはだけてその美しい乳首がそそり立った。
腰の布も徐々にずり落ち始める。
その時だった。ハーレムの鼻の下がだらしなく伸びその下の醜い肌が見えた。
「勇者さま!今よ!」
「え?」
エルフの視線の先を見ると、だらしなく伸びたハーレムの鼻の下の赤黒い肌がミスリルの鱗から露出しているのだ。
「そういうことか!食らえ!このスケベ魔王!」
オレはひょろりから渡された鉄の槍をその赤黒い肌めがけて突き刺した。
「ぎゃぐゅぎょやぁぁ!!!!」ハーレムの絶叫が洞窟内に響き渡った。
ハーレムは伸びた鼻の下を元に戻そうとするが、刺さった鉄の槍は鱗に巻き込まれ、かえって奥深くに喰い込んでいく。
139 :
109:2014/07/23(水) 01:41:00.14 ID:jBNjq4Qy0
>>138 「オノレー!コロシテヤル!」ハーレムは怒り狂った。
魔王はオレに向かって、腕を振り回してきた。
「勇者さま!勇者の呪文を!」エルフは胸元を自分の長い緑の髪で隠しながら叫んだ。
そう言われても奴の攻撃を避けるのが精一杯だった。それに、勇者の呪文って?ハーレムに呪文が効くのか?
集中力が切れた一瞬、ハーレムの強烈な打撃がオレを襲った。「くそ!なんていう馬鹿力・・・・・・・くぅ、た、立ち上がれない!」
その時、ハーレムの腕に小石が当たった。
「ン?」ハーレムが振り返る。小石を投げたのは、ひょろりだった。賢者の石を片手に上げながら、
ハーレムの気を引いた。「こうるさいやつめ!」ひょろり目掛けてハーレムは頭の角を振り回した。
その一本が当たり、一面が血の海になった。
「逃げろ!ひょろり!」オレは地面に腹這いのまま叫んだ!
だが、ひょろりは静かに十字を切ると呪文を唱えた。青白い光がオレを包み体の痛みが消えた。どういうことだ?
ひょろりがこちらを見て微笑んだ。ハーレムはよろめくひょろりにメラゾーマを食らわした。
炎でひょろりの体は灰となって消えた。だが、その地面には賢者の石と例の羊皮紙、
それに銀の十字架のネックレスだけが残っていた。
ハーレムは満足げにその太い首をオレに向けると、その牙の間からどす黒い声を吐き出した。
「オマエモコロス!」
「勇者さま早く!今のうちに呪文を!」エルフが絶叫した!「早く!!」
動揺している暇はなかった。回復したオレはエルフの言葉に従い、心を集中し天を仰ぐと勇者の呪文を唱えた。
頼むぞオレ!
「ギガデイン!」
その声に呼応するかのように洞窟の中が暗さを増し、巨大な稲妻が走る。
稲妻は、魔王ハーレムの鼻の下に刺さっている鉄の槍に吸い込まれるように落ちた。
轟音と共に巨大な火柱があがる。己の灼熱のミスリルに包まれた魔王ハーレムは、
その醜い体をよじりながら悶絶し、ついには息絶えた。
本日は完(あとはエンディングだけかも)
>>130 どうしてわかったんです?(笑)
>>131 楽しんでいただければ(嬉)
いつか投下するけど今は支援
ほしゅ
ほ
ほしゅ
きたい保守
145 :
109:2014/08/16(土) 12:33:49.66 ID:Cuo1hntQ0
やっぱクリフトとホイミンでしたか
そにしても「ひ」って…ヒントハイム王国(マテ)
147 :
109:2014/08/18(月) 19:39:04.16 ID:6b/RGGg90
>>139 魔王ハーレムとの戦いは終わった。
黒焦げた大地に、ハーレムの鎧だった鱗状のミスリルが散らばっていた。
生き残ったオレとエルフには、最後の仕事が残っていた。
一刻も早く塔に囚われている娘たちを助けなければならない。
オレたちは身支度を急いで調えると塔を目指して荒涼とした道を歩き始めた。
ごつごつとした石を踏みしめながら進むと、次第に黒っぽい塔がぼんやりと見えてきた。
赤黒い洞窟の中、不気味にそびえ建つその漆黒の塔は、まるで地獄の入り口のように見えた。
塔の入り口は頑丈な石造りだが扉がなかった。見上げると入り口の上部には何やら大きな文字が
彫りこまれている。とはいっても、オレより下手くそな文字で読めたもんじゃないが。
「古代ルーン文字だわ」エルフがその文字を指差して言った。
「ルーン文字って確か魔法の文字か?」オレは舌打ちして訊き返した。
オレの問いには応えずエルフは指で文字を辿った。
「えーと・・・・・・ケ・オン・・・・・・カ・ノン・エ・・・・・・・イエ・・・・・・」
「おい、それ、どういう意味なんだ?」オレはじれったくなって彼女の読み上げる言葉を遮った。
彼女は振り返ると、その可愛い唇を尖らせた。
「もう、せっかちね。どうやら『永遠の宿屋』って書いてあるみたいよ。とにかく入ってみましょう」
「宿屋・・・・・・?」
オレの言葉が耳に入らないのか、エルフはさっさと塔の中に入っていった。オレもその後を追う。
148 :
109:2014/08/18(月) 19:40:38.96 ID:6b/RGGg90
>>147 中に足を踏み入れると、オレたちの靴で積もった塵が舞い上がり古い土の臭いがした。
塔の壁は所々に窓がくりぬかれており、外からの光で薄暗いながらも中が見える。
目を凝らすと周囲の壁が螺旋階段になっていて、上へと続いているようだ。
見上げると天井は中央が吹き抜けで、そこからも光が入ってくる。
正面を見ると無数の彫像が並べられていた。それもかなりの数だ。一体なんだこれは?
ひとつの彫像の前に立ってみると、それは少女をかたどった像だった。
薄い光が顔の陰影を浮かび上がらせる。その美しさにオレは思わず息を呑んだ。
一呼吸おき、隣の像を見る。これも女の子の彫像だ。
顔や服装、高さが少しずつ違うが、どうやらここにある彫像すべてが女性の石像のようだ。
オレとエルフは顔を見合わせた。ひょっとしてここにある石像が囚われた娘たちなのか?
周囲を見渡すと石像の隙間から反対側の壁に階段があるのが見えた。
どうやらそこから螺旋階段に上れるようだ。
オレたちは、石像の間をすり抜けながら奥の階段へと向かった。
石段を上がっていくと中央の吹き抜けから一階全体が見渡せた。娘たちの石像は思ったより多い。
モンスターが出るわけでもなく、淡々とオレたちは上へ上へと登り続けた。
所々にくりぬかれた窓からは遠くの景色が見える。
外を覗くと遠くにハーレムと戦った黒い楕円の焦土がぼんやりと見えた。
149 :
109:2014/08/18(月) 19:41:35.52 ID:6b/RGGg90
>>148 ようやくオレたちは建物としては五階ほどの踊り場にたどり着いた。螺旋階段はここで終わっていた。
黒い壁に巨大な窓がいくつもくりぬかれ、そこから生暖かい風が入って来る。
正面を見ると中央の地面が空中に浮いていた。いや浮いているのではない。
周囲の床から太いロープが張られフロアを浮かせているのだ。
中央に行くにはこのロープを渡るしかない。もちろん落ちれば一階が行きだが。
エルフと視線を合わせ、どちらが先に渡るか目配せする。
「わかってるって。オレから行くよ」ここは勇者の面目だ。
意を決してオレはロープに足をかけた。一歩足を踏み出す。ロープがしなる。
ふと下を見ると一階が手のひらの大きさに見えた。一瞬、めまいに襲われる。
「下見ちゃダメ!」エルフの声でオレはとっさに正面を見据えなんとかバランスを保った。危ない危ない。
その位置で乱れた呼吸を整える。ここは気合で、もう一歩・・・・・・。
・・・・・・と、風が吹き、ゆらりとロープがゆれた。
「うわ!」オレは思わず声を上げた。
ちょっと待て!こんなもん歩いて渡れねーよ!オレはとっさにロープにしがみついた。
結局、ドラクエの画面のように立ったままの華麗な綱渡りは断念し、やむなくロープにぶら下がると、
膝の裏にロープを引っ掛け、腕と足の力で中央のフロアを目指した。
実際と画面の中ではこうも違うものなのか・・・・・・。
ロープにぶら下って進んでいるオレの視界に後から渡ってくるエルフの姿が見えた。
悔しいが彼女は軽々とロープの上を立って歩いて来る。そしてついにはオレに追いついてしまった。
もたもたしているオレの上で立ち止まると「早く」と言いたげに小首をかしげた。
また風が吹いた。エルフの衣の裾がふわりと舞い、彼女の白い太ももがちらりと見える。
「何見てるの!ぼんやりしてないで早く進んで」エルフはロープの上にいるとは思えない身軽さで
腰に手をあて、上からかがんで催促した。
「わかってるよ」
オレはロープをギシギシとしならせて前進し、ようやく中央のフロアにたどり着いた。
その後からエルフもつま先立ちでぴょんぴょんと器用にロープを渡りオレと合流した。
150 :
109:2014/08/18(月) 19:42:39.47 ID:6b/RGGg90
>>149 立ち上ってフロアを見渡すと、一階と同じような石像がひとつあった。
石像のそばには錆びた剣と盾が無造作に置かれている。
錆びてはいるものの、元の造りはかなりしっかりしているもののようだ。
フロア中央の奥にはカウンターがあり、その上にはガラスの小物があった。
エルフは石像の前に立つと声を上げた。「・・・・・・こ、これは!!」
「どうした?」オレはアーモンド型の目を丸くしている彼女の様子に驚いて訊ねた。
「この石像は、ルイーダさんよ」
「なんだって?!」
「石だけど、この顔。エプロンの『Luida』っていう刺繍の飾り文字。間違いないわ」
慌ててオレはエルフをどかし、その石像の前に立った。一束に結んだ長い髪。優しい顔に知的な瞳。
まるで時が止まったかのように硬直し石になっている。
「ルイーダさん!」オレは石像に向かって叫んだ。
ルイーダさんは死んだんじゃないのか?
「ルイーダ ハ エイエン ニ ワシ ノ モノ」
いきなり声がした。
その声の方を見ると、中央のカウンターの後ろにゆらゆらとした黒い影がみえた。
黒い塔の壁よりもさらに黒く深い闇。その影の長い尾の先端は光と闇の狭間でよく見えない。
影にはくっきりとしたふたつの黄色い瞳があり、こちらをじっと見ている。
「なんだお前は!モンスターか!」オレはエルフを庇うようにその影に対峙した。
「ワシハ エイエン ノ ヤドヤ ノ アルジ ノ タマシイ」
オレとエルフに緊張が走る。
「トキ ノ スナ ツカエバ セキゾウ ノ ジカン モドル」
「時の砂?」
151 :
109:2014/08/18(月) 19:43:38.57 ID:6b/RGGg90
>>150 カウンターの上のガラス細工を良く見ると、ハート型で上部に紐の付いた栓があり中に砂が入っている。
時の砂だ。オレはそのガラス道具を手に取った。
「これを使えばいいのか!」オレは影に向かって叫んだ。
「ナカ ノ スナ ツカエ バ セキゾウ ハ モトニ モドル」影が応える。
「待って!」エルフがオレの腕をつかんで制した。
「時の砂は戦闘中に少しだけ時間を戻すの。その工夫がこのガラス細工に施されているのよ。
中の砂を出したら、きっと石像が元に戻るだけじゃ済まないわ」
「でもルイーダさんたちの時間をもとに戻すには他に方法がない」
オレは影の言う通り時の砂の栓をはずすと、中の砂をフロアにふりまいた。
一陣の生暖かい風が吹いた。キラキラとした細かい砂が舞う。やがて砂は渦を巻きながらフロアの下へと
広がっていき、しまいには塔全体を包み込んだ。風に舞う砂粒で目が見えない。
やがて、砂嵐がぴたりと止んだ。
目をこすりながら前を見た。すると、さっきの影が少しずつ変化しはじめていた。影は膨張しながら、
その色合いを薄め、やがてそこに乳白色の巨大なひとつの骨格が実体を現した。
「ファファファ・・・・・・・」巨大な骨格の上部に鎮座した頭蓋骨が声を発した。
目の前に現れた肉ひとつないその骨格には見覚えがあった。
しかもその頭蓋骨の鼻の下には一本の槍が刺さっている。
その姿は紛れもないハーレム。いや、ハーレムゾンビ!
「オマエ ノ オカゲ デ ニクタイ ガ モドッタ」ハーレムゾンビは自分の骨を見ながら満足気に頷くと、
カウンターの後ろに立ちこう言った。
「ヨウコソ。コノ ヤドヤ ニ。 タダ デ トメテヤル。
エイエン ニ ココデ スゴス ガ イイ!!」
ゾンビはそう叫ぶと、その角でいきなりフロアを吊っているロープの一本をたたき切った。地面が大きくゆれる。
呪文の詠唱を始めていたエルフが悲鳴を上げた。よろめきながらもオレは奴の攻撃をなんとかかわす。
空を切った奴の攻撃は、そのままフロアを浮かせているもう一本のロープを直撃した。
その勢いでロープが切れ、地面が傾き垂直になる。残りのロープもフロアの重みに耐えきれずに千切れ、
オレはフロアの地面ごと真っ逆さまに一階に落ちていった。
152 :
109:2014/08/18(月) 19:44:48.49 ID:6b/RGGg90
>>151 どのくらい気を失っていたのだろう。気が付くとオレは落下した地面と一階の壁の間にできた三角形の隙間にいた。
どうやらドラクエの法則は健在で落ちてもひどい怪我がないようだ。
落ちた地面のひび割れから外の様子を覗くと、ハーレムゾンビの姿が見えた。
その巨体の骨を振り回しながら誰かを追いかけている。追っている先を見ると、そこにはオレがいた。
身軽に逃げ回るのはまぎれもなくオレだ。ハーレムゾンビの攻撃をかわしながら右へ、左へと逃げている。
どういうことだ?
その時、耳元で囁く声がした。
「勇者さま」
声の方を見ると、いつのまにか美しい女性が天井と壁の空間にいるオレの傍にいた。
「勇者さま。私はルイーダ。あなたのおかげで『永遠の宿屋』の時間から開放されました。しかし、「時の砂」の力で
この塔の主、ハーレムの怨念もゾンビとして蘇ってしまいました。今こそこの勇者の剣と盾をお使い下さい」
彼女はその剣と盾をオレに差し出した。先ほどまで石像だった彼女のそばにあった錆びた剣と盾が時を遡り蘇ったのだ。
オレは頷き、その金属の輝きを取り戻した頑丈な剣と盾を受け取った。
「キャー!」エルフの悲鳴が聞こえた。
いや、悲鳴をあげているのは、遠くにいるもうひとりのオレだった。
どうやら彼女はモシャスでオレに化けてハーレムゾンビをひきつけ、時間を稼いでいたようだ。
だが、その彼女もついには壁際に追い詰められていた。ハーレムゾンビは彼女目掛けてその腕を振り上げる。
「ハーレムゾンビ!本物はこっちだ!」
オレは壁の間から抜け出し、勇者の剣を高々と上げて叫んだ。
巨大な骨の塊がこちらを振り返った。奴の空洞にある赤い目玉がぎょろりとオレを見た。
奴が大股でその骨をガタガタと鳴らしながらこちらに向かって来る。
オレはひるむことなく跳躍し、その目玉に剣を突き刺した。さらにオレは手の甲を返しながら剣の刃で奴の目玉を切り裂く。
ハーレムゾンビは苦悶し、その巨体をのけぞらせた。オレは剣を引き抜くと、そのままもう片方の目を狙った。
奴はオレの攻撃を振り払おうと新たな一打を繰り出す。オレはすかさず盾で身を守った。
今までの盾とはその強度がまるで違う。易々と奴の攻撃を跳ね返す。オレは間髪いれず、
盾の隙間から奴の残りの目を潰した。
153 :
109:2014/08/18(月) 19:45:47.49 ID:6b/RGGg90
>>152 両方の目を失ったハーレムゾンビは、骨しかない腕を振り回し闇雲に攻撃してくる。
「勇者さま。ゾンビの弱点は首よ!」ルイーダさんの声がした。
「わかった!」
オレは奴の隙をついて、その首に勇者の剣を振り下ろす。
「くらえ!ハーレムゾンビ!これが、みんなの想いだ!」
その時、剣がまばゆい光を放った。オレは光輝く剣で、ハーレムゾンビの首をたたき切った。
その途端、ガラガラと骨がくずれはじめ、巨大な骨格がバラバラになっていく。
地面に落ちた骨は元の黒い影になろうとした。だが、光を受けたその影は存在を失い、散り散りになり、
やがて光の中に消えていった。
するとどうだろう。黒かった塔の壁が明るさを増し剣の光に呼応するかのように白く輝き始めた。
吹く風はすがすがしく、窓の外からは青空が見える。
「勇者さま! 勇者さま!」
塔の外から大勢の声がする。それも女性の。娘たちだ。元の姿に戻った娘たちは、
ルイーダさんの機転で外に逃げていたいたのだ。彼女たちが次々に塔の中に入ってきた。
「ありがとうございます。あなたのおかげで、ハーレムの虜から開放されました」一人の娘がオレに駆け寄り
うれしそうに声をあげた。すごく綺麗な子だ。もう一人の娘がオレの手を握る。
「ほんとうにありがとうございます。これで、お父様、お母様に会えます」その娘のつぶらな瞳から涙がこぼれた。
娘たちはオレを取り囲み、皆がみな、口々に感謝の意をあらわした。
ルイーダさんがオレの前に進み出た。
「本当にありがとう。勇者さま。上の世界に戻ったら、パーティーを組むお手伝いをするわ。ぜひ、立ち寄ってね」
ルイーダさんのうれしいその言葉に戦いの疲れも吹っ飛んだ。
そんなオレを元の姿に戻ったエルフが遠くから見詰めていた。
154 :
109:2014/08/18(月) 19:46:56.42 ID:6b/RGGg90
>>153 ルイーダさんはみんなに向かって言った。「さあ、旅の扉を抜け、上の世界に急いで戻りましょう」
オレたち一行は、塔から出た。塔の外は別世界だった。赤黒かった洞窟には青空が広がり、
荒涼とした大地には草木があった。
オレたちは元来た道を旅の扉を目指して歩いた。娘たちは喜びのあまり歌を歌う者もいた。
その澄んだ声に合わせるかのように小鳥たちがさえずる。パーティーではないものの、まさにハーレム状態だ。
まさに勇者の勝利だな。そう思いながら娘たちを見渡す。ん?そういえばエルフの姿が見えない。
いや、遠くで見えなかったが、娘たちの集団の一番後ろから付いてきている。
なんか元気がないな。怪我でもしてるのか?
オレはエルフのそばに行き声をかけた。
「大丈夫か?」
「ええ」エルフが頷く。
「終わったな」
「そうね」
なんか会話が続かない。オレはふと心に沸いた疑問を口にした。
「なあ、不思議だと思わないか?」
「え?何が?」ようやくエルフが顔を上げた。
「あんなにたくさんの時の砂を浴びたのに、オレとお前は変わらないからさ」
「だって、エルフの寿命は人間より遥かに長いから。あのくらいじゃ私は・・・・・・」
「オレは?」
「あなたは勇者だから・・・・・・勇者の分身、魂だから・・・・・・」そういう彼女の声は消え入りそうだった。
「魂・・・・・・?」その言葉を口にするとオレは黙った。
「勇者さま、早く!」一人の娘がオレの手を取った。促されるまま、オレはまた歩き始めた。
分かれ道を何本か通り、最初にルイーダさんの魂と出会った旅の扉についた。
岩に囲まれていたその場所にも、今は草が生えている。
「この扉を抜ければ、もとの街に戻れるわ」ルイーダさんに促され、娘たちがひとりずつ旅の扉に足を踏み入れていく。
皆、オレに礼を言いながら一人、また一人と旅の扉に入って行った。
そして最後の娘が入り、残ったのはオレとエルフとルイーダさんだけになった。
155 :
109:2014/08/18(月) 19:48:10.09 ID:6b/RGGg90
>>154 「勇者さま、さあ、あなたも」ルイーダさんがオレを促した。
だが、オレは心の中でやり残していたことに気づいていた。。
「どうしたの?」ルイーダさんがオレの様子を見て訝しげに言った。
「うん、オレ、後から行くから、二人とも先に行っててくれないか?」
「え?」エルフが小さな声をあげた。
「ちょっとやりたいことがあるんだ。大したことじゃない。後からすぐに行から」オレは言った。
「そう・・・・・・。わかったわ。それじゃ、先に戻るわね。勇者さまも早く来てね。いろいろ話しましょう」
ルイーダさんは微笑むとそう言った。
オレは踵を返すと、小走りに道をまた逆戻りした。
一本道を抜け、三叉路にぶつかる。行くのは中央の道。その先には、魔王ハーレムと最初に戦った焦土がある。
いや、焦土と化した大地は今や花が咲き乱れ、あの激戦を彷彿とさせるものは何もなかった。
オレは地面に腰を下ろすと戦場だった草花の間を掻き分け、あるものを捜しはじめた。
あった。十字架。他にも何かあるはず・・・・・・。
しばらくそうして地面を捜していると、後ろから声がした。
「賢者の石ならここにあるわよ」エルフの声。振り向くと、彼女は白い手を泥だらけにして賢者の石を持っていた。
「先に帰ったんじゃなかったのか?」
「あなたのことほっとけないもの」エルフがにっこり笑って言った。彼女にはやっぱり笑顔が似合う。
「ねぇ!あそこ!」
彼女が指差した地面に視線を移すと白い花があった。その土の下に捜していたものが埋まっていた。
オレは花をどけ、土の中から泥だらけになった羊皮紙を引っ張り出した。
「あなたって意外と優しいのね。見直しちゃった」エルフがおどけて言う。
「からかうなよ」オレはわざとぶっきらぼうに応えた。「今のオレにできるのはこれくらいだし」
オレが勇者の魂なら、あいつらにだって魂はあるんだろう。オレとエルフはその場で土を盛りふたつの墓を作った。
うねうねの墓には、あいつのお気に入りだった賢者の石を突き立てた。
ひょろりの墓には近くに落ちていた二股の枝を突き刺し、それに奴の羊皮紙をはさみロザリオをかけた。
最初は邪魔だと思ったが、そう悪い奴らでもなかたったよな。
オレとエルフは粗末な墓の前に腰を下ろすと手を合わせた。
「オレたちはいつまでも仲間だぜ」オレは心の中でそっと呟いた。
156 :
109:2014/08/18(月) 19:49:02.88 ID:6b/RGGg90
>>155 ふと目を開け顔を上げると、オレの視線の中にキラキラと光るものが映った。
ハーレムの宿屋があったあたりの木立の間に何かがある。
「あれ、なんだろう?」オレは立ち上がり、それを良く見ようとその木のそばに歩み寄った。
木陰にあったのは旅の扉だった。こんなところに旅の扉があったのか。この扉はどこへ続いているんだろう?
オレは吸い寄せられるようにその扉に近づいた。
「行くの?」エルフが言った。
オレは足を止めた。「行く?いや、すぐに戻るよ。ちょっと見てくるだけさ」
エルフの表情が今までに見たことがないほど、切ないものに変わった。
「どうした? 心配するなよ」
二人の間に風がすっと通り抜ける。彼女の唇がオレの唇に重なった。
彼女の想いに優しい抱擁を返す。だが、今は扉への好奇心が勇者であるオレの心を支配していた。
「すぐに戻る」
オレは彼女から離れ微笑むと目の前の旅の扉に足を踏み入れた。
オレの意識が遠のく。
「さようなら」
渦に身をゆだねるオレの耳にその声がこだました。
ふと気が付くと、オレは布団の上で仰向けに寝ていた。木目の天井が目に入る。あれ、宿屋か? 辺りを見回す。
ノートパソコンがわずかな音を立てている。あれ、ここは・・・・・・。そうだ。今は出張先でいつも利用している
おんぼろ旅館に泊まっていたんだっけ。で、仕事が終わって、時間もあったし、ネットでこっそり手に入れた
ドラクエWのROMで遊んでいたが、どこかの街で宿屋に泊まったら本当に眠くなって・・・・・・。
自慢じゃないが、Wではいつもホイミスライムを仲間にせず一章をクリアしたし、邪魔くさいイケメン
僧侶は常時馬車組みだ。だがオレが本当に好きなのはVで、パーティーはもちろん・・・・・・って、
そんなこと言ってる場合じゃない。今、何時だ? いけない、こんな時間!列車に乗り遅れる。
パソコンを急いでしまう。なんだ?手に泥がついているじゃないか。おんぼろ旅館、畳くらい掃除しろよ。
そうひとりごちながら手の汚れを適当にこすり合わせて落とすと、オレは慌てて私物をかき集めカバンに突っ込んだ。
部屋を出ると急いで階段を降り、旅館のフロントに向かった。
「すいません!チェックアウトします。あのう、清算お願いします!」
フロントの奥からオヤジがのろのろと現れた。
「あんたね。いつもチェックアウトが遅んだよ。何時だと思ってるんだ。これだから男は困るんだよね。
女専用の宿にしようかと思うよ。その方が楽しいし・・・・・・・まったく・・・・・・」
そうブツブツ言って顔をあげたオヤジの長い鼻の下には大きなバンドエイドが貼られていた。
「完」
157 :
109:2014/08/18(月) 22:30:29.34 ID:6b/RGGg90
>>156 (一緒に投稿しようと思ったのですが書き込み規制のバイバイさるさんに拒否されました。)
あとがき:
実はドラクエのSSは(というかSS自体)書くのが今回初めてでした。(どっちかというと絵師なので。)
こんなに書き続けるつもりはなかったんですが、ここまできたら意地でもまとめたかったので、
やや強引でしたがなんとか終わらせることができました。
ちなみに作者は「ひ(ク)」と「う(ホ)」が割と好きなキャラでした。(書きやすい。)
うちの宿屋勇者は嫌っていましたが、彼らは一度勇者と旅がしたかったというイメージにしました。
あとエルフのイメージは「シ」にちょっと「マ」を足したカンジです(笑)
最後までお読み頂いた方々、ありがとうございました。
>>140 これからはROMになりますので、ご投下お願いします。
>>146 では、次回はヒントハイム物語でw
ほ
夢で見ただけのはずの内容や異世界で起きた筈の出来事が、現実のこっちの世界に影響している
こういうのってなんて言ったっけ
それはともかく、スケベな魔王というのがいい設定でした(ニコニコ)
朝、起きるとビアンカがアヘ顔でオレに股がり騎乗位・・・
ああ またか
嫌気がする、しかし体は正直だ ビアンカの中に吐き出す
オレは魔王軍につかまり勇者を量産、洗脳して手駒にするため生産装置として
あらゆる魔族、女性型モンスターに陵辱の限りを尽くされた
ただより能力の高い勇者の製造のため妻のビアンカや友人のフローラ、デボラと永遠と交わり
オレは考えるのを止めた
オレ
長くなりそうメンドイ
保守
支援
支援
支援
支援
支援
支援
ほ
支援
ほ
支援
174 :
たぶん続かない:2014/10/16(木) 03:10:08.42 ID:9T4HmgOi0
朝目が覚めたらそこはDQ世界の宿屋……のわけがなかった。
「しかし、ここはどこなんだ…。」
古びていて、きれいな、とは言い難いが、掃除が行き届いていて整頓のなされているカウンター。
俺はそこに突っ伏して寝ていたらしい。
そしてそのカウンターの向こうに広がる空間。武器や防具や箱などがそれなりに整理されて並べられた、床も壁も板張りの空間。
窓も扉もある。埃っぽいがそれを除けば穏やかな空気。のどか、という言葉が久しぶりに俺の心の中をよぎる。
そこへ人影が差した。
「あのう、親方…?」
目の前に現れたのは大きな口髭をはやし、腹の突き出た壮年の男。ストライプの服を着て、赤いチョッキを羽織り、同じ色のつばなし帽をかぶっている。
背には背嚢、そして手には奥さんか彼女の手作り弁当であることが見え見えの、きれいなナプキン包み。
ちくしょう、デブリア充爆発しろ。
しかも髪の毛も髭も青い。コスプレかよ。
俺が何も言わずにぼんやりと立っていると、そのおやじは
「それでは今日もいちにち宜しくお願いします。…親方、具合は大丈夫でしょうか?なんなら下で横になっていた方が。」
と言いながら、カウンターのこちら側に入ってきた。
そのときになってやっと気付いた。俺のすぐ後ろに、地下室に下りる階段があることに。
デブおやじは手で促し、俺をその階段へといざなった。
促されるままに下へ降りると、そこは石造りの穴倉で、ベッドや机などひととおりの家具が揃っている。そして天井近くに小さな明り取りの窓。
部屋の一角には牢屋の扉があり向こう側に宝箱があるのが見えるが、手は届かない。
ベッドに身を投げ出しながら、俺はトルネコの心配げな表情と、手にしていたナプキンの包みのことを思い返した。
くそっ、どうせドラクエ4の世界に来るなら、モンバーバラの団長になりたかったぜ…!
ほー
支援
ほしゅ
支援
保守
保守党
待ち保守
支援
目が覚めたらそこがドラクエ世界のぱふぱふ屋(夜の宿屋)で
しかも、ラッパだのおまじないだのじゃなくて本物のぱふぱふを提供するお店で
パフパフ嬢もとっても可愛かったりお色気ムンムンだったりして
部屋の内装もけっこう豪華でお洒落で
客の入りも良くて
そんな店で休む暇もなく受け付けの店員をしている……
なんてのはありませんかねぇ
もうちょっと考えたうちに、目が覚めたらドラクエ世界のぱふぱふ屋にいたものの
部屋に飾られている肖像画とか彫刻とかになっていた
なんてのも良いかなとは思ってみたんだが
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今年最後の支援
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196 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/01/11(日) 06:39:00.06 ID:V0uXDfZx0
美女さらいまくる
それぐらいしかないな
ついでに魔王になるぐらい
197 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/01/11(日) 19:11:21.95 ID:1ypSPDP40
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ほしゅ
200
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