----基本ルール----
全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
勝者のみ元の世界に帰ることができ、加えて願いを一つ何でも叶えてもらえる。
ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。
----放送について----
スタートは朝の6時から。放送は6時間ごとの1日4回行われる。
放送は各エリアに設置された拡声器により島中に伝達される。
放送内容は「禁止エリアの場所と指定される時間」「過去6時間に死んだキャラ名」
「残りの人数」「主催者の気まぐれなお話」等となっています。
----「首輪」と禁止エリアについて----
ゲーム開始前からプレイヤーは全員、「首輪」を填められている。
首輪が爆発すると、そのプレイヤーは死ぬ。(例外はない)
主催者側はいつでも自由に首輪を爆発させることができる。
この首輪はプレイヤーの生死を常に判断し、開催者側へプレイヤーの生死と現在位置のデータを送っている。
24時間死者が出ない場合は全員の首輪が発動し、全員が死ぬ。
「首輪」を外すことは専門的な知識がないと難しい。
下手に無理やり取り去ろうとすると首輪が自動的に爆発し死ぬことになる。
プレイヤーには説明はされないが、実は盗聴機能があり音声は開催者側に筒抜けである。
なお、どんな魔法や爆発に巻き込まれようと、誘爆は絶対にしない。
たとえ首輪を外しても会場からは脱出できないし、禁止能力が使えるようにもならない。
開催者側が一定時間毎に指定する禁止エリア内にいると首輪が自動的に爆発する。
禁止エリアは2時間ごとに1エリアづつ増えていく。
--スタート時の持ち物--
プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を配給され、「ふくろ」にまとめられている。
「地図」「コンパス」「着火器具、携帯ランタン」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「支給品」
「ふくろ」→他の荷物を運ぶための小さい麻袋。内部が四次元構造になっており、
参加者以外ならどんな大きさ、量でも入れることができる。
「地図」 → 舞台となるフィールドの地図。プレイヤーのスタート位置は記されているが禁止エリアは自分で書き込む必要がある。
「コンパス」 → 普通のコンパス。東西南北がわかる。
「着火器具、携帯ランタン」 →灯り。油は切れない。
「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
「食料・飲料水」 → 複数個のパン(丸二日分程度)と1リットルのペットボトル×2(真水)
「写真付き名簿」→全ての参加キャラの写真と名前がのっている。
「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
「支給品」 → 何かのアイテム※ が1〜3つ入っている。内容はランダム。
※「支給品」は作者が「作品中のアイテム」と
「現実の日常品もしくは武器、火器」の中から自由に選んでください。
銃弾や矢玉の残弾は明記するようにしてください。
必ずしもふくろに入るサイズである必要はありません。
また、イベントのバランスを著しく崩してしまうようなトンデモアイテムはやめましょう。
ハズレアイテムも多く出しすぎると顰蹙を買います。空気を読んで出しましょう。
--制限について--
身体能力、攻撃能力については基本的にありません。
治癒魔法については通常の1/10以下の効果になっています。蘇生魔法は発動すらしません。
キャラが再生能力を持っている場合でもその能力は1/10程度に制限されます。
しかしステータス異常回復は普通に行えます。
その他、時空間移動能力なども使用不可となっています。(ルーラなど)
MPを消費するということは精神的に消耗するということです。
全体魔法の攻撃範囲は、術者の視野内ということでお願いします。
※消費アイテムならば制限されずに元々の効果で使用することが出来ます。(キメラの翼、世界樹のしずく、等)
ただし消費されない継続アイテムは呪文や特技と同様に威力が制限されます(風の帽子、賢者の石、等)
【本文を書く時は】
名前欄:タイトル(?/?)
本文:内容
本文の最後に・・・
【名前 死亡】※死亡したキャラが出た場合のみいれる。
【残り○○人】※死亡したキャラが出た場合のみいれる。
【座標/場所/時間】
【キャラクター名】
[状態]:キャラクターの肉体的、精神的状態を記入。
[装備]:キャラクターが装備している武器など、すぐに使える(使っている)ものを記入。
[道具]:キャラクターがふくろなどにしまっている武器・アイテムなどを記入。
[思考]:キャラクターの目的と、現在具体的に行っていることを記入。(曖昧な思考のみ等は避ける)
以下、人数分。
※特別な意図、演出がない限りは状態表は必ず本文の最後に纏めてください。
【作中での時間表記】
深夜:0〜2
黎明:2〜4
早朝:4〜6
朝:6〜8
午前:8〜10
昼:10〜12
真昼:12〜14
午後:14〜16
夕方:16〜18
夜:18〜20
夜中:20〜22
真夜中:22〜24
例
【D-4/井戸の側/2日目早朝(放送直前)】
【デュラン@DQ6 死亡】
【残り42名】
【ローラ@DQ1】
[状態]:HP3/4
[装備]:エッチな下着 ガーターベルト
[道具]:エッチな本 支給品一式
[思考]:勇者を探す ゲームを脱出する
━━━━━お願い━━━━━
※一旦死亡確認表示のなされた死者の復活はどんな形でも認めません。
※新参加キャラクターの追加は一切認めません。
※書き込みされる方はスレ内を検索し話の前後で混乱がないように配慮してください。
※参加者の死亡があればレス末に必ず【○○死亡】【残り○○人】の表示を行ってください。
※又、武器等の所持アイテム、編成変更、現在位置の表示も極力行ってください。
※具体的な時間表記は書く必要はありません。
※人物死亡等の場合アイテムは、基本的にその場に放置となります。
※本スレはレス数500KBを超えると書き込みできなります故。注意してください。
※その他詳細はスレでの判定で決定されていきます。
※放送を行う際はスレで宣言してから行うよう、お願いします。
※最低限のマナーは守るようお願いします。マナーはスレでの内容により決定されていきます。
※主催者側がゲームに直接手を出すような話は序盤は極力避けるようにしましょう。
新スレ乙です
そういえば名簿ってテンプレに入ってなかったっけ
見返してみたら前スレにも入ってないしWikiがあればいらないってことかな
最近の2ch規制はクソだったから、テンプレも短めの方がいいのかもね。
乙
8 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/09/30(月) 12:15:23.39 ID:wOVmhwm20
乙
10 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/10/20(日) 19:05:05.25 ID:fbu7m2Ik0
過疎
11 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/10/23(水) 11:21:32.60 ID:2JxrFXCz0
保守
「改心……だって?」
投げかけられた言葉に、影の騎士は不快感を示す。
まさか、蘇るついでに神の使いにでもなったというのだろうか。
「オー、ザンゲナサーイ、クイアラタメナサーイ」なんて、無い鼻でも360度グルっと一周回ってしまうくらいクサい台詞を吐こうというのか。
相手の顔は依然涼しいまま、何を考えているのかすらわかりやしない。
チッ、と小さく舌打ちをしたとき、男の口が動き始めた。
「あ、少し語弊があったかな。何も君の今までの生活とここでの行動が悪だって言ってるわけじゃない。
魔物には魔物の生活がある、それくらいは分かってるさ。
ただ、君が求めるものを手にするには、魔物でいちゃだめなんだ。
今のままでいれば、君は手に出来るモノをずっと拒み続けることになる」
飛び出したのは、臭い台詞ではなかった。
いや、臭い台詞だった方が、まだ良かったかもしれない。
フザけてんじゃねえぞ、と、一蹴しながらもう一度あの世送りにしてやれたからだ。
けれど。
「……だったらよ」
けれど、一蹴できない。
「だったら、どうすりゃいいってんだよオラァ!」
縋ってしまう。
幸せになれる可能性に、ずっと追い求めていたものが叶う可能性に。
死人の世迷い言かもしれないと思っていても、それに縋りたくなる。
「簡単だよ」
男は手をさしのべる。
一匹の迷える魔物に、何の躊躇いもなく。
「僕の、仲間になってよ」
「はぁっ!?」
けれど、その差し出された手は、受け取れない。
人と魔物は相容れない関係、互いが互いに悪だと重い、迫害しあう。
そんな関係だとずっと思っているし、これからもそれは続くだろう。
だというのに、目の前の男はそれを把握してかしないでか、そんなことを言う。
「お前、脳味噌をウジ虫にでも食われたんじゃねーのか?」
「生憎、頭は凄く冴え渡ってるよ」
皮肉は冷静に返される。
どうやら、本気らしい。
本気で人間と魔物が手を取り合えると考えているらしい。
確かに、この男は魔王を倒す旅すがらも、悪しき心のない魔物には優しく接し、そして共に戦っていた。
そんなハッピーな星の元に生まれたのならば、魔物と手を取り合えると考えられたかもしれない。
けれど、自分はそうじゃない。
人間は口を開けばロト、ロト、ロト。
狂信的とも取れる勇者崇拝と、人間以外を全て悪だと断じる価値観。
手を取り合おうなんて、誰か考えていただろうか。
そんな可能性が微塵もない世界だったから、影の騎士の中での"人間"は、もう揺るぎない姿が出来上がってしまっている。
嘘だ、でたらめだ、あいつは俺を利用しようとしているんだ。
そう、言い聞かせようとする。
「人間には迫害される、一族の中に居場所はない。
誰かを殺しても幸せにはなれないし、誰かを蹴落としても何も変わらない。
君は、仲間と呼べる存在が居たかい? いなかったろうね」
そこに、まるで心を見透かしているかのように、その言葉を並べる。
いつだったか、"勇者"に向けてそんなことを言った。
驚くほど自分の言葉と一致していることに、影の騎士は不快感を示す。
お前に何が分かる、と、心の中で毒づく。
「だから、さ」
まただ。
また、心を見透かしているかのように言葉が投げかけられた。
その両目は、心まで見えているとでも言うのだろうか?
だとすれば……心を無にする他はない。
けれど、心は空っぽに出来ない。
男の言葉が、自分の心の鎧の隙間を、スルスルとすり抜けて入ってくるから。
そして、それについて考えてしまうから。
「あのさ……幸せって言うのをつかむのは、簡単なことでね。
誰かと一緒にいるとか、そういう些細なことから見つけるものなんだ。
見つける……いや、違うな。
探そうとして見つけるものじゃない、そこにあるもの。
誰かと共に過ごすことで、自然と生まれるもの。
君が思ってるほど、デッカイ夢が詰まったものじゃなくって、涙の粒みたいに、小さくて、けれど大切なモノなんだ」
言葉は続く。
これじゃあまるで、何かのリハビリテーションみたいだ。
向こうからすれば自分は一種の重病人、人を信じれない病の患者だ。
一体何が、どうして彼をそこまで駆り立てるのか。
「時間はかかるかもしれない、けれど、いつか必ず見つかるはず。
だから……僕の、僕の仲間になってくれないか?」
今、目の前に立っているのは、自分の妻を殺した相手だというのに。
「……待てよ」
言葉が漏れる。
それをきっかけに、まるで栓が吹き飛んだ酒樽のごとく、言葉が飛び出していく。
「何でだ? 何でそうなる? たった今テメーをぶっ殺した相手に、なんでそんなことが言える?
それだけじゃない、テメーは家族を殺されてんだぞ? しかもテメーにとっての最愛の人を、殺されてんだぞ?
何でそんなことが言える? 何でだ? やっぱり頭に蛆が沸いてんじゃねーのか?」
止めどなく溢れる疑問が言葉となって飛び出していく。
自分の世界では一生理解できない事柄を、目の前の男にぶつけていく。
「うーん……そうだな」
自分の根底にあった疑問。
それに対して男はしばらく考えこんでしまう。
それは、返答に困ったリアクションではない。
むしろ返答する事は決まっている、とでも言わんばかりだ。
決まっているからこそ、悩む。
どう言えば、伝わるのか。
うまくものを伝えられなかった人生だったからこそ、男は悩む。
そして、しばらくしてから、ゆっくりと口が開かれる。
「確かに過去にはいろいろあったかもしれない。
僕が君を恨んでないと言えばそれは嘘になるのも事実だ。
君の言うとおり、フローラは僕の妻で、君は彼女を殺した。
それは消えない事実として、確かにある」
そう、事実は消えない。
今ここで許しを施そうと、何をしようと、失われた命は戻らない。
そして、それが招いた感情や思いも消えることはない。
じゃあなんで、といいかけた口を遮るように、男は言葉を続ける。
「……でもね、違うんだよ。
憎しみに駆られてやることは、本当にやりたいことじゃない。
僕はもう、それで取り返しのつかない後悔をしてきた。
だから、もう、そんなことはしたくない。
憎しみに体を預けるなんて、二度としたくない」
男を支配していたのは、復讐の念と、背負いすぎていた使命感。
故に真実を伝えられず、故に仮面を被り、故に虚偽を語った。
どうしようもなく利己的で、自分勝手だった。
もう、そんな事はしたくない、起こさないと誓ったからこそ。
彼は今、こうしていられる。
「何よりさ、君は苦しんでるじゃないか。
そして、僕はその苦しみを解けるかもしれない鍵を知ってる。
だから、君を助けたいんだよ。
過去にあったことをどうこう言うより、今だよ。
未来と、"君"に向かい合いたいんだ」
「だっ、てめっ……」
「僕がいい、って言ってるからいいんだよ」
反論しようとしていた魔物の言葉を、半ば強制的に遮り、反論させないようにする。
言ってしまえば、これもある種の復讐なのかもしれない。
憎むべき相手に"幸せ"を与え、一生忘れられなくさせる。
そうだとすれば、自分はとても性根が悪いな、と考えて少し笑う。
「まあ、仲間と言っても一緒に戦ってくれなんて言うつもりはない。
君は生きて生きて生き延びたいみたいだし、出来れば危険を避けたいんだろう?
だったらそうすればいいよ、僕は僕で君を勝手に守るから」
「はぁっ!?」
理解できないことが続きすぎて、返す言葉も無くなっていく。
まあ、理解できなくて当然だろう。
経験したことのないこと、つまり未知のこと。
それが今起ころうとしているのに、堂々と待ちかまえて居られる方が異端だ。
影の騎士にとっては、男が施そうとしていることは"知らない"ことなのだから。
「誰かに守られたこと、ないだろう? だから、適当に過ごしてればいい。
危険からは、僕が守ってあげるよ」
「いや、だからちょっと待てよ!! なんでだよ! おかしいだろ!」
「おかしくないよ、だって僕にとってもう君は」
そこで、わざとらしく言葉を切る。
人間からは迫害され、同族からは常に隙を伺われ、ミスをすれば即座に上司に殺される。
そんな生活をくぐり抜けてきた彼が、その生涯で耳にすることはなかったであろう言葉を。
奇しくも"人を殺す"という、普段と何ら変わりないことをするべきこの場所で、聞くはずがなかった言葉を。
「仲間だから」
.
言い放つ。
その目は、本気そのもの。
一点の濁りもなく、透き通った目。
影の騎士というちっぽけな存在を、全て見透かす二つの球体。
言葉すら失い、ただただぼうっと立ち尽くす影の騎士。
その姿を庇うように、男が騎士に背を向ける。
ぱっと見は隙だらけ、いつでも殺せそうな背中だ。
「どうやら、喋ってられるのもここまでみたいだね」
同時に、男の纏う気配が変わる。
なんてことはない、人間の背中のはずなのに。
大魔王に匹敵するほどの恐怖と威圧。
そして、影の騎士が知らない"何か"が、背中から伝わってくる。
自分を守る、その言葉に嘘はない。
否が応でも、それを認めざるを得ない。
ゆっくり、視線をずらす。
そこにいたのは、もう一人の魔王。
目の前の魔物をリュカは知っている。
だが、同時に目の前の"魔王"をリュカは知らない。
「次会うときは敵だと思え……か」
去り際に伝えられた言葉を、小さく呟く。
その意味を、ゆっくりと噛みしめるように。
なぜ、"彼"はこうなることを予見できていたのか。
そもそも"彼"は、何だったのだろうか。
弱かった自分の心が見せた幻か、それとも一時の夢か。
なんであろうと、タバサの事を愛してくれていた"彼"はもういない。
「フン、あやつめ。つくづく余計なことを言いおって」
明らかに違う声のトーン。
喉を鳴らしながら響く低い声に混じるのは、明らかな敵意。
話し合いの余地なんて、微塵もない。
まるで、もともとはこの姿だったと言わんばかりだ。
ならば、あの姿は、"彼"はやはり幻だったのか。
だが魔王は、"彼"を把握しているかのような口振りではないか。
頭の中の謎は余計に深まるばかりだ。
「まあ、良い」
ニヤリ、と魔王が笑う。
刃と盾を構え、それはそれは卑しく笑う。
「たかが人間と魔物一匹、精々残りの生をあがくが良い」
「ちょっ、待てよ!」
確認とも取れる敵対宣言に、声を上げるものが一人。
「俺は魔物だぞ!」
「関係はない、我が務めは"参加者を減らすこと"だからな」
「クソが……!」
だが、その異議は却下される。
この殺し合いにおいては、魔物だろうが何だろうが命は命だ。
その命を減らし、狩り尽くせと命を受けている魔王たちにとって、相手の種族など関係はない。
そこで、確かめるように声を上げた魔物を見る。
この薄暗い世界に溶け込んでしまいそうな"影"を纏いながらも、恐怖からか小刻みに震えている。
所詮、雑兵は雑兵と言うことか。
ふ、と笑いをこぼしてから、震える魔物に向けて刃を振り抜いていく。
風を切る音、息を飲む音。
続いて聞こえたのは、金属がぶつかり合う音だった。
「……ほう、これは」
魔王が声を漏らす。
目に映ったのが無惨に散らばる騎士の体ではなく。
自らが振り下ろした刃を止めるように剣を構えている男の姿だったから。
キィンと甲高い音と共に刃を弾き、低く笑いながら男を見る。
「何故、そいつを庇う」
「仲間だからだ」
問いかけに対し、即答。
一切の迷いを感じないその瞳には、不快感すら覚える。
だが、その奥でいわば"守られている"存在を見て、静かに笑みを作る。
「そうか……だが、お前の仲間は、お前に対して随分薄情なようだが?」
逃げ出すか、逃げ出すまいか。
握りしめた武器を振るうことすら出来ず、ただ立ち尽くす。
自分に襲いかかっても、この男に襲いかかっても勝ち目はない。
そう分かっているが故の無力さ、男にとってのただの荷物という現実。
「僕が勝手に決めたことだからね、彼には彼の自由がある」
それを受け止めてなお、男は即答する。
彼が勝手に仲間だと決め、勝手に守っているのだ、と。
「なぜ、そんな奴に体を張れる?」
即座に沸いて出た疑問を、躊躇いもなくぶつける。
「二度も言わせないでくれ、仲間だからだ」
もちろん、即答。
相変わらずの澄んだ目に、再び苛立ちを覚える。
「ふむ、まあいい」
その苛立ちを押さえるように、言葉を吐き捨てる。
刃と盾を構え直し、男に向けて再び戦闘の態勢を取る。
「だが、そんな荷物を抱えながら、このムドーと渡り合えると思うなッ!!」
怒号に近い叫びが、森の中で響く。
それが、戦いの合図。
ごくり。
大きく唾を飲む。
完全に空気に飲み込まれている影の騎士には、それぐらいしか出来ることはない。
言わずもがな、圧倒されているのだ。
魔王が放つ気迫に、男が放つ気迫に。
魔王の一挙一動は地を鳴らし、その力を猛らせていく。
反面、男は凍てつく風のように流れ、力を受け流しながらも隙を見せない。
どちらの攻撃も有効打にならず、どちらの体にも隙はない。
「すげぇ……」
思わず、声が漏れる。
あの変態勇者のように、魔族に五分をつけられる人間はいる。
分かっていたことでも、目の前にしてみるとやはり違う。
ただただ、感動することしかできないし、ただただ、見つめることしかできない。
一瞬でも隙を見せれば、それが致命打になると言って間違いない緊迫した戦いが、続く。
魔王が踏み込み、高速で弧を描く。
その軌道線上に沿うように剣を滑らせ、生まれる隙を突こうとする。
それをもみ消す魔王の力に、男が退く。
ずっとずっと、その攻防は続いていた。
「フン、人間にしてはやるではないか」
わずかながらの軽蔑と疎ましさを混ぜた敬意の言葉を吐く。
「何かを守りながら戦うのは、得意でね」
やはり、即答。
少しの余裕を見せても、隙は見せないその姿。
守りながら戦うというのは、何も守る対象から攻撃をかばうだけがそれではない。
守る対象へ攻撃でもすれば、その瞬間に死ぬという恐怖と圧倒性を出せばよいのだ。
事実、魔王は今すぐにでもそこで震えている魔物を殺すことが出来る。
それをしない、できないのはそばにいる男が居るからだ。
下手に隙を見せれば、最悪のケースだと命はない。
故に、男に正面から付き合うしかないのだ。
正面衝突、力と力のぶつかり合いなら五分、いや少し有利か。
だが、じり貧に持ち込むほど余裕はない。
まだまだ自分には殺すべき命がたくさんあるのだから。
ここでの消費は出来るだけ、押さえておきたい。
「気が変わった……」
だから、戦う方法を変える。
ちまちまと攻めていれば、いずれは疲労しきってしまう。
ならば、少し疲労してでも大技で決めた方が、トータルの疲労は少ない。「猛る火焔よ――――」
そう踏んだ魔王は、片手に剣を構えながら静かに呪を唱える。
隙をさらせば致命傷になる、それは男とて同じ事。
呪文を好機と見て飛び込むほど、状況が見れていないわけではない。
「荒れ狂う風よ――――」
だから、自分も呪文を選ぶ。
魔王の呪文に追いつけ、追い越せと、口を素早く動かしていく。
「突き抜けろ! メラゾーマ!!」
「吹き荒べ! バギクロス!!」
両者の呪文が完成したのはほぼ同時。
魔王の指から放たれた火球は赤の直線を描き。
男の手から放たれた烈風は見えない渦を描く。
魔力にしても、ほぼ五分。
火球は烈風にかき消され、烈風は火球に止められる。
呪文の撃ち合いでも五分、やはり気の抜けない戦いが続く。
「フンッ、甘いわ」
「なっ――――」
その、はずだった。
魔王が手に携える一冊の書物。
それさえなければ、そのはずだった。
淡く光を放つその書物は、魔王に力を与えていた。
ある世界の賢者の極意、呪文の連続詠唱を可能とする書物を。
故に、男は気づけない。
メラゾーマは"単発"という思いこみが、連続詠唱には山彦の帽子が必要だという思いこみが、とても大きな隙を生む。
一発をかき消した時点で、次の呪文の詠唱に取りかかってしまったから。
二球目を認識したときには既に遅く、火球は形となりまっすぐに進み始めていた。
それが向かう先は、隣で立っていた一匹の魔物。
声を上げる間もなく、飲み込まれる。
あっけない終わり、彼がいつも覚悟していた突然の終焉。
巨大な火の玉が口を開け、大きく膨れ上がりながら、それを飲み込んだ。
何の変哲もない命が一つ失われ、場面は動く。
.
「だから」
ぽつりとこぼれた、一つの声。
「なんでだよ……」
それは、火球に飲み込まれたはずの魔物の声ではなく。
魔王と対峙していた、一人の男だった。
魔物を守るように両手を広げ、火球を受け止めていた。
その姿は隙の塊のようなもので、魔王はそれを見逃してくれるわけもなく。
焼け焦げた胸を刺し貫き、雷の刃が顔を出していた。
ごふっ、と大きく血を吐きながらも、男は笑う。
「怪我、無い?」
「んなこと気にしてる場合じゃねえだろ!」
背を向けながら、それでも魔物のことを気遣う。
そんな場合じゃないのに、今にも死にそうだというのに。
ともあれ、男は魔物が無事であることは確認できた。
ならば、それでいい。
勝手に守ると決めた以上、守ると言うことがどういうことかは知っている。
何せ、自分が一度"そうやって守られている"のだから。
どうすればいいかは、知っている。
「……お願いがあるんだけどさ」
だから、言葉を紡ぐ。
止めを刺さんと歩み寄ってきた魔王に語りかける。
相手の目を見て、揺らぐことのない両足を立てながら。
「見逃してくんないかな」
一つの要望を飲み込んでもらうために。
「彼と話がしたい、遺言……みたいなもんかな」
ただただ、言葉を紡ぐ。
魔王は、怪訝な顔をする。
命乞いをしようが何をしようが、もう助からないのは明白だ。
なれば、無理に力を使う必要もない。
どうせ隣にいるのは、無力な雑兵なのだから。
「貴様の道具を寄越せ、それで手を打とう」
「話が分かってくれる相手で助かるよ」
すっ、とためらいもなく差し出された袋を受け取り、魔王はその場から去る。
おそらく、あと数刻もすれば男は死ぬ。
魔王も、魔物も、そして誰よりも男が分かっている。
そして、男は"時間が無いこと"を知っているから。
魔王が南へ消えていくのを後目に、自分の成すべきことを成していく。
「どうだい? "仲間"が出来た気分は」
リュカとして、魔物に語りかける。
魔物はいまだに、ぼうっとその場に立ち尽くしている。
目の前の出来事が、全く以て理解できない。
そんな表情のまま、ただ、固まり続けている。
リュカは、それにかまわず言葉を続ける。
「……初めてのことだし、凄く戸惑うと思う。
未知のことっていうのは、それだけで怖いことだし、無理はない。
でも、大丈夫。君が君自身に嘘をつかないなら、その答えにはたどり着ける。
怖がらず、自分と向き合って答えを見つけてくれ」
"仲間"、それは魔物にとって未知の存在だ。
命を張って守ってくれたり、共に戦ってくれたり。
そんな存在は、魔物たちの中には、いないのだ。
だが、その"未知"を掴ませることは出来た。
そこにあったあのは一方的な関係だし、彼がどう思っているかは分からない。
ただ、きっかけは掴ませることが出来たと思う。
彼が変わるきっかけ、彼の夢を叶えるきっかけ。
……自分は、もう夢を、やりたかったことを成し遂げた。
だから、今度は。
誰かの夢のきっかけに、なりたいと思って。
動き、託すことにする。
「……おい」
ふわり、とやさしい光が魔物を包む。
常軌を逸した癒しの力、見る見る内に傷ついていた右腕が治っていく。
「何しやがった」
もちろん、黙って居られるわけがない。
情けまで掛けられるわけには、いかないのだから。
「餞別さ」
男は言う。
別に情けを掛けたいわけではない。
ただ、これから変わりゆく可能性を秘めている者に。
最大の幸福と、力を、与えてやる。
それだけの、こと。
「じゃあ……僕は家族の元に行くよ」
そして、男は魔物を置き去りにするように。
その一言だけを呟いて、静かに、静かに。
まるで眠るように、動かなくなった。
ひとり、取り残される。
「どうしろってんだ」
微かに見えた光の道は、まだ怖くて。
「クソが……」
しばらく、足は動いてくれそうにない。
【リュカ@DQ5 死亡】
【残り16人】
.
【E−5/森林/黎明】
【影の騎士@DQ1】
[状態]:健康
[装備]:メタルキングの槍@DQ8
[道具]:基本支給品一式、変化の杖@DQ3、ゾンビキラー@DQ6
不明支給品(0〜3)
[思考]:闇と人の中に潜み続け、戦わずして勝ち残る。
争いを加速させるためあらゆる手段で扇動する。
けど、どうしろってんだ。
【E-4/南東部/黎明】
【ムドー@DQ6】
[状態]:HP7/10 二重人格?(ゲロゲロの人格が残っている…?)
[装備]:スライムの服@DQ9、スライムヘッド@DQ9、雷の刃@DQS
[道具]:支給品一式*4、超万能薬@DQ8、トルナードの盾@DQ7、賢者の秘伝書@DQ9、ビッグボウガン(矢なし)@DQ5
パパスの剣@DQ5、祝福の杖@DQ5,王女の愛@DQ1,デーモンスピア@DQ6、結婚指輪@DQ9
[思考]:殺し合いに乗る
[備考]:主催者がムドーをどう扱うかは未知数です。主催からアイテムに優遇措置を受けています。
----
以上で投下終了です。
何かありましたら、どうぞ。
投下乙です。
リュカはここで逝くかぁ……
ある意味で、既にその葛藤を描き切られた後のキャラだっただけにそういう意味だと順当であるようにも思える。
影の騎士のこれからに残したものを考えても良い終わり方だったんだと思う。
だけど、それでもこれからを、もっと見ていきたいくらいに魅力的な奴だったなぁ……
仲間と認めた魔物のために命張るってのは彼らしい最期やなあ…
ビアンカさんまじ頑張れ
投下乙でした。
何が無くなって何が残るのか、残ったものが何を繋いでいくのかが楽しみだ。
乙
投下乙です。
ぬわー!
34 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/11/12(火) 21:50:29.71 ID:jdpmgmfJ0
乙!
凄く残念だったけど、本人に悔いはなかったんだろうなぁ...
影の騎士に期待
月報集計何時もお疲れ様です。
DQ2nd 135話(+2) 16/60 (- 1) 26.7 (-3.3)
乙です
乙
乙です
ギリギリですが、ゆったり投下します。
人間はいつだって間違いばかりだ。
すれ違い、行動の取捨選択を間違えるなど多岐に渡る。
だが、大抵の場合は取り返せる部類だ。
正しい方向にやり直すことであったり、諦めないことで変えていける。
この世界に来る前のカインならば、そんな風に間違いを見つけることなんて考えもしなかったことだろう。
固定概念に囚われて下を向いていた昔の自分は、過去にこだわり続けていたのだから。
「なんで、だよ」
だが、今直面している現実――過去は、どうにもならないものだった。
突然の妹の凶行。振りかぶれた刃。それらを前に、カインは何もできず立ち尽くしている。
何故、自分に対して刃を向ける? 何故、彼女は一緒に死んで欲しいと願う?
脳裏に浮かび上がる幾つもの何故に対して答えを出せないまま、カインはリアに手を伸ばす。
――嘘だと言ってくれ。
信じたくなかった。目の前に映る世界をから目を背けたかった。
嘘だったのか? あの閉ざされた王城で過ごしたかけがえの無い夢想郷は偽りだったのか?
「なんで」
血の呪いの象徴たるロトの剣にそっと触れる。前に触れた時にはルビスの加護があるのか、柄は冷たくもないがどこか安心させる暖かさが感じられた。
けれど、今の自分には安心どころか焦燥感、絶望といった負の感情しか感じられなかった。
行き止まりの絶望、手を伸ばしても、何の感慨も得られない。
こんなものがあるせいで、リアは怒ったのか。また、ロトの血が自分の道を塞いでしまうのか。
関係ないというのに思考はつらつらと何かに当たらなくてはやっていけない程に追い詰められていた。
「だって、おかしいじゃないか」
リアが禍々しい爪を左手に付け、一歩ずつ迫ってくる。
両の瞳には純黒の殺意を滾らせ、口元は三日月に歪んでいる。
狂おしい程の情愛、いや憤怒か。
どちらにせよ、今のカインには理解できなかった。
永遠の約束を誓った妹に刃を向けられる。そんなこと、一度も想像したことがなかったのだから。
「違う、間違っている」
嫌だと喚いても、鞘から剣を抜き放たなくても――二人の相違は変わらない。境界線にも至らない平行線だ。
――間違っているのはリアなのか? それとも僕なのか?
そんな簡単な問題の答えすら出せずに、僕は立ち尽くしていた。
抵抗する訳でもなく、受け入れる訳でもなく。
ただ、目の前の現実に背を向けて、両目を閉じている。
結局、どう足掻いてもロトの呪いからは逃げられなかったのだ。
自分達を取り巻く世界は、何一つ変わってはいなかった。
血の呪いは拭えずに、明日を見据えることさえできない。
「やめろ、やめてくれ」
遅すぎたのだ。世界は変えられる、真実を掴みとるなんて、最初から無理だった。
リアが止まることができなくなってしまう前に。彼女の箱庭が腐り落ちる前に。
せめて、一欠片の希望を放り込んでいたら、今のような事態にはならなかっただろう。
……僕のせいだ。
カインは、何度繰り返しても止むことのない自虐を重ね、刃を受け入れる。
だって、それが一番の正解だから。故に、カインは考えることをやめ、夢に溺れていく。
いつの時か願った穏やかな日常を脳裏に浮かべながら、死んでいく。
だから、この話はここでお終いなのだ。
ぽっきりと折れてしまった心は修復されることなく、粉々になって散らばった。
もう、見たくない。歩きたくない。楽になりたい。
カインは剣の柄から手を離し、ゆっくりと世界から隔絶されようとした時。
『カイン……はじめての、ともだ、ち…………ずっと、おれはお前の、みか、た……だから』
自分を護る為に、命を投げ出した青の親友の不器用な笑顔が頭に浮かんだ。
『―――』
死ぬ間際まで、自分のことを想ってくれた仲間の困ったような笑みが、カインの意識を現実に引き戻した。
……今の僕は、仲間が繋いでくれたものなんだ。
死にたくなかったはずだ、諦めたくなかったはずだ。
求めていた真実も、焦がれていた明日も、全部ひっくるめて自分に託してくれた人達がいた。
ロトの末裔としてではない自分のことを見てくれた人達がいた。
彼らの笑顔は、嘘じゃなかった。媚びへつらったものでも、張り付けただけのものじゃない本物だった。
そんな彼らを見て、こんな風に笑えたらって想ったのだから。
今は無理でも、いつかは心の底からの笑顔を、100パーセントの笑顔を。
「いつだって、未来は白紙なんだ。まだ、僕達は始まってすらいない」
……もょもと、アイラ。君達が、示してくれたんだ。
妹と過ごすこと以外に意味は無いと決めつけた人生に、彼らは新たな意味を加算してくれた。
箱庭の中に閉じ籠もっていた自分に、外の世界の可能性を教えてくれた。
彼らは行動をもって、未知なる可能性と世界を自分も掴んでみたいと思わせてくれたのだ。
「1パーセントの望みは、まだ僕の中に在るんだ」
諦観に慣れてしまい、抗うことを忘れていた自分を認めてくれた彼らの為にも、膝を屈することは嫌だ。
受け継いだ意志が、カインを前へと進ませる。そして、何よりもカイン自身、誓ったことがあるからまだ――戦える
「ああ、そうだ。僕は、簡単な事を忘れてたよ」
諦めて下を向くよりも、戦え。
戦わなければ、勝ち取れないものだってある。
何も失わない、そんな甘い結果は与えられないとわかっているけれど。
「戦わなきゃ、言葉を交わさなきゃ。まだ、間に合う。手を伸ばせばきっと」
抗わないで死ぬことだけは、間違っている。
ならば、今やるべきことは――刃を受け入れることじゃない。
「だって、僕の手は何かを掴めるんだから」
剣に誓った過去への決別が、動かなかった両手に力を灯らせた。
さあ、始めよう。そして、示そう。
――諦めない、絶対に!
「リア、ごめん」
「えっ」
カインは、ロトの剣を鞘から抜き出し、軽く横に凪いだ。
たったそれだけの動作で、迫る爪撃は方向をずらされる。
突き出された爪を弾き、後ろへと跳躍し、距離を取った。
「おにいちゃん……?」
「ごめん、リア。僕はまだ死ねない。お前と一緒に死ぬことはしない」
今度こそ、彼女から。こんなはずじゃない現実から。ロトの血から、絶対に目を背けない。
「僕はもう、逃げない。お前とも向き合うよ」
カインは、しっかりとリアを見据えて、剣を取る。
自然と剣を握り締める力が強くなるし、彼女を見ることで身体は微かに震えてしまう。
カインが相対しているのは、リアであり、ロトの呪いであり、自分だ。
もし、可能性と仲間に恵まれていなければ、こうなっていたかもしれないのは自分だったかもしれない。
「はっきり言うよ。リア、死ぬことは間違いだ。僕達は生きるべきだ。あのクソッタレな奴等を見返す為にも」
「……なんで、そんなこと言うの?」
「決まってる。お前と一緒に生きたいからだよ」
だから、否定する。ありえた未来を否定して、今を肯定する。
サマルトリアの王子でもない、一人の人間としてカインは想いを貫く。
「こんなどうしようもない世界で?」
「ああ」
「私達を英雄へと仕立て上げる世界だよ?」
「知ってるさ」
「……ッ! 私達には自由がないんだよ!? 戻っても、私達はずっとあの王城で……!」
「そんなこと、誰が決めたんだ。勝手に抜け出せないと諦めたのは、僕達だろう」
自分達は死が迎えるまであの王城に因われたままだ。
抜け出したとしても、世界はロトの呪いに包まれている。
最初からハッピーエンドなんて存在しない世界で、足掻いて――何ができる?
そう、思っていた。
「僕達を英雄に仕立て上げた世界が間違っていないとは思わないけれど。僕達だって間違っていたんじゃないか?
勝手に諦めて、失望して。こんな世界、醜いだけだ、滅んでしまえって喚き散らして」
けれど、間違っていた。自分達は悪くない、悪いのは環境だ。
そう決めつけて、抗うことをいつしかやめていた。流されるままにロトの呪いに溺れ、真実を見つけようとしなかったのは他ならぬ自分達だ。
目の前に広がる可能性から目を背けていた過去を、カインは語る。
「思い出したんだよ。小さな頃、僕は――この世界が好きだった。醜くても、どこか美しさを覚える世界がね。
木々がざわめく音も、川を流れる水のせせらぎも、大地を照らす陽の光も。僕は好きだ。
何の変哲もない、そこにあることが当然のように感じていた世界の営みがどうしようもなく愛おしいってね」
思えば、最初の願いは妹と平穏に暮らすことだった。誰にも邪魔されない、当たり前の日常を送ることだった。
いつからだろう、その願いが世界なんて滅んでしまえばよかったなどと変質してしまったのは。
期待はずれと罵られた時か、周りの才覚が自分を遥かに上回ると気づいてしまった時か。
「拒絶だけをしたって駄目なんだよ、リア。僕達の身体に流れるロトの血は、どうしようもなく僕達であることの証明なんだから。
理解して、それを背負って生きていく。僕達が生きる世界は、いつだって目の前にあるんだ」
こんな世界、なくなってしまえばいいのに。ただ自分の存在を呪って、諦めるのはどれだけ楽なことだっただろうか。
だけど、それじゃあ駄目なのだ。何も解決しないでただ自分の世界に引きこもるだけじゃ、世界は変えられない。
仮初めの幸せを得られようとも、いつかは必ず――終焉を迎えてしまう。
そんな結末をカインは認めたくない。立ち向かうこともせずに諦めるのは、もっとない。
故に、カインは剣を取り、どうしようもなく腐った世界を真正面から相対し、ロトの呪いに怯えているリアに言葉を投げかける。
それが、今の自分にできる一番のことだから。
「だから」
「……そう。そうなんだ」
しかし、その言葉が必ずしも届くとは限らない。
「結局……ッ! お兄ちゃんも、私を見ていなかったの! 私じゃない、世界を選んだのッ!?」
「違う! 世界じゃない、君を護りたいんだ! 僕が想うのはリアと生きていく世界だ!」
「そんなのない、ありっこない! 私達が生きていける世界なんてどこにも存在しないッ!
ずっとずっと、ずっと! 私達はロトの血に囚われたまま! 抜け出せるなんてできっこないんだよ!!!」
変わらない。否、変えられない。
リアの内部に巣くう絶望は、愛する兄の言葉を弾き返す。
「諦めない、立ち向かう……いい言葉だよね。英雄には相応しい綺麗な言葉だよ。
でも、綺麗なだけ。私達を勝手に見上げて、余計な感情を削ぎ落とさせて。その結果がハーゴン討伐の旅なんだよ? 嫌なものを全部押し付けた最低の言葉。
救われぬものに救いの手を。蒼き清浄なる世界に光を。あはっ、ロトの英雄に縋っている自分ってなんて可愛そうなんだ〜って勝手なヒロイズムに浸ってさ」
「……僕達だってそうだろう。あいつらと同じで、真実から目を背けていた」
「それでも、あいつらよりは頑張った! たくさんたくさん、頑張ったよ! お兄ちゃんだってそうでしょ!?」
国の期待に応えたくて。いつかは自分のことを認めてくれる。
今にしてみれば、夢物語のようなものだったが、当時のカインとリアは信じていた。
自分達には未来がある。無限に広がる可能性があると確信していた。
「私は知ってるもん! どんなに期待はずれって罵られても、お兄ちゃんは努力を欠かさなかったッ!
ローレシアやムーンブルクのようにはなれないけれど、必死に強くなろうって一人で頑張っていたお兄ちゃんを知ってる!
でも、あいつらは……! 頑張ってるお兄ちゃんを嘲笑った!」
だが、現実は厳しかった。誰も、兄の努力を認めようとしなかった。
ただ、嘲笑い、他の国の王子王女はもっと出来ると馬鹿にしているだけだった。
「まるで努力して当たり前のように振る舞って! 自分達の為に戦って当然だって顔をして!
そんなあいつらに、救う価値なんてない! だから、勝手に滅べばいい! ロトの血族が消えた世界で、絶望してしまえ!」
「なぁ、リア。僕がいつ“どうしようもないクソッタレ共を救う”って言った?
僕は僕達が穏やかな日常を勝ち取る為に戦うことを。抗うことを選んだんだ。
それに、僕達が死んで誰よりも救われないのは、僕達自身だろう」
……この世界で、僕が誓ったものだから。
もょもとは破壊衝動を打ち破って、大切な親友の為にその身を投げ出すことができた。
アイラは下を向くより前を向いていた方が物事を見通せることを教えてくれた。
彼らの意志が、煌きが、足を止めていたカインの背中をそっと押してくれた。
ならば、今度は自分の意志で。
「僕は、君を止める」
最愛の妹に、救いの左手を伸ばす。
「そんなの、無理だよ……。抗うことに意味なんてない。わざわざ負けにいくようなものだよ、お兄ちゃん?」
「無理じゃないさ。戦う前から負けを決めつけてどうするんだ? 僕達の終わりをこんな薄暗い世界で決めつけたら駄目だ」
「無理だってばぁ!!! 一度、命を握られてた私達が戦って勝てる訳ない! 最後の一人になって生き残れる保証もないし、死ぬしかないよ!」
「違うっ! 諦めて、膝を屈しない限りは可能性は残っているんだ! 1パーセントの望みは、生きてさえいればいつか必ず掴める!
僕と一緒に来いッ! 刃を向ける相手を見失うな! 僕達の明日を掴む為にも、戦うべきはデスタムーアなんだ!!」
「黙れ、黙れぇぇえぇぇぇぇええええええええええええええええっっ!!!!!!」
リアは、差し出された右手を跳ね除け、絶叫する。
違う、と。こんなはずじゃない、と。目の前にいる兄が、自分を否定する訳ない、と。
高ぶった感情はカインの言葉を遮り、彼女の中にある魔力を暴走させる。
「お兄ちゃんは、そんなこと言わない! 私を否定したりしない!! あは、ははははっ!
きっと、この世界で悪い夢を見ちゃったんだ、そうだよ、そうに決まってる。
そうじゃないと、今のお兄ちゃんはお兄ちゃんじゃないもん」
「リアッ! いい加減に」
「うるさいうるさいうるさいっ! 今更、綺麗事を語ったって戻れないんだ!
私は、私は――! もう、殺しちゃったから!」
魔力が外気に触れるのと同時に、右手に嵌められた爪に極光が集まっていく。
ツメの秘伝書による恩恵を受け、スキルが発動する。
ゴッドスマッシュ。魔力によって生み出された爪が、リアの右手へと装着される。
「だから――これしか、私には道がないんだよ!」
カインがスキルの発動を止めるべく両足に力をこめた時には、リアの右手は前へと振るわれていて。
右手による必殺の一撃を躱す時間も距離もなく、手遅れだった。
カインの叫んだ言葉は、轟音に掻き消され、極光の三爪痕に飲み込まれていく。
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「どうして」
本気だった。正真正銘、全力で振るった一撃だった。
「さぁ、ね。やっぱり迷った?」
それなのに。兄は、いつも通りの皮肉げな笑みを浮かべ、一歩ずつ歩を前に進めてくる。
腹部から流れ落ちる血を、回復呪文で無理矢理止血しながら、兄は止まらない。
「そんなはずない! 本気だった! 本気でお兄ちゃんを殺そうとしたもん!」
「だけど、僕は生きている。お前が本気なら死んでる技を受けても、まだ立ち続けているんだぜ」
極光によって抉れた大地の上で、カインはしっかりと両足で地面を踏みしめている。
服を血塗れにし、額につけていたゴーグルはどこかに吹き飛んでいるけれど、前を見据える眼光は少しも衰えを見せていない。
……お前のおかげだよ、もょもと。
ゴッドスマッシュが迫る直前、カインはデイバッグからとあるものを取り出したのだ。
オーガシールド。カインの手に渡るまではもょもとが使っていた大きな盾だ。
強度も従来の盾よりも格段に上であるオーガシールドの硬さは、ゴッドスマッシュの勢いを減衰させるには十分だった。
加えて、身体に限界までかけたスクルト、反撃として放ったロトの剣による斬撃。
幾つもの要素が重なった結果、カインの命脈は尽きず、今もこの世界に留まっていた。
「やだ……来ないで! だめったらだめ!」
「大切な妹のお願いごとでも、それだけは聞けないね」
「うるさい! もう、大人しくしててよ! どうせ、死ぬのに無駄だよ!」
「死なないさ。思ってるよりも傷は浅いんだよね」
嘘だ。刻まれた三爪痕はカインの身体を大きく引き裂き、多大なダメージを与えた。
今すぐ倒れてもいいのなら、倒れたいくらいに辛いし、視界は霞み、リアの顔をはっきりと見ることすら敵わない。
満身創痍。カインの身体は、限界だった。
「という感じだからさ。残念だったね、リア。僕は死なないよ」
「……ッ!」
「そう、睨まないでよ。僕は、怒った顔よりも笑っている顔の方が好きなんだからさ」
自分は何を口走っているのか。普段通りに喋れているかすらわからない程に、辛い。
痛みに喘ぎ、身体の動きは足を動かすだけでも一生分の体力を使った錯覚さえ覚える。
もう、止まってもいいのか。地面に倒れてもいいのではないか。
何度も、何度も。浮かび上がる諦めは、カインの体力を奪っていく。
????僕は、何を、護ると誓ったんだっけ?
自分の中にいる諦めが、囁く。
もう、十分やりきった、と。
????僕は、誰を救けると、誓ったんだっけ?
自分の中にいる絶望が、嗤う。
お前には無理だ、と。
「なぁ、リア」
それでも。それでも????!
カインは、倒れない。今までのどんな旅路よりも辛い路でも、止まらない。
ハーゴン討伐の時には横にいた二人がいなくても、リアが生きているなら頑張れる。
彼女が笑ってくれるならどこまでも強い兄を演じられる。
「僕が死なない理由なんて簡単なものさ。ロトの血なんて関係なく、リアと一緒に生きていきたい。
世界の奴等の為に、死んでやるのはもったいないだろ? 僕らは誰よりも幸せであるべきなんだからさ」
それが、兄というものだから。
少しの諦めで消えてなくなりそうな想いを必死に抱え込みながら、カインは言葉を紡ぐ。
「それに、僕が死んだら……誰がリアの面倒を見るんだよ」
「そんなのいらないもん! お兄ちゃんを殺した後にすぐ!」
「何度も言わせないでくれよ、僕は死なない。お前と、二人で生きるって決めてるんだ」
ふらつく身体を必死に保ちながら、一歩ずつリアへと近づいていく。
こんな所で、終われない。自分がここで倒れたら、誰がリアの涙を拭うのか。
誰がロトの呪いに囚われた妹を、救いに行けるのか。
死んでも救ってみせるという覚悟を胸に刻み、手を伸ばす。
「だから????泣くなよ」
「な、泣いてなんか」
「はっ、そんな潤んだ目で言われても説得力がないよ。
殺すだのなんだのってさ、今のお前に言われても全く怖くないね。数時間前に会ったバトルジャンキーの方がよっぽど怖かった」
額から滴り落ちる血は、一向に止まらないし、スクルトをかけていることにより身体の重さは半端じゃない。
足は棒のように固く動かないし、手に握っていたロトの剣はとっくに手放している。
コンディションは最悪だ、今までで一番ひどいとも言っていいぐらいだ。
「でも、これ以上、動いたら本当に死んじゃうよ?」
「……妹を残して死ねる訳ないだろ」
「死ぬよ! 本当に死ぬってば! これ以上動いたら、本当に……!」
「死なない!! 僕は、まだ死なない! お前を残して、死んでたまるか! 大好きな人にそんな思いは絶対にさせない!」
しかし、それがどうしたというのだ。
ここで最悪を超えなくて、いつ超える。彼女の涙を拭えなくて、何が兄貴だ。
「はっ、どうだい? これで大体は論破したと思うけど?」
一歩、一歩噛みしめるかのようにカインは、リアに近づいていく。
誰よりも辛い思いをしてきた彼女に、本物の幸せを教えるまで死ねない。
カインの中に生まれた意地は、彼の限界を踏み越えていく。
誰かに負けるのは仕方ないことかもしれないけれど、忌々しいロトの呪いにだけは負けられない。
「それに……やっと、辿り着いた」
「あっ……」
そして、カインとリアの距離が手を触れ合える距離にまで縮められた。
彼らを隔てていた距離はもう、ない。
「最初に言っておくとさ」
今度こそ、カインの手がリアへと届く。ふらふらになりながらも伸ばしてくる両手は、青白く生気が感じられなかった。
兄に怒られても仕方ないことをしてしまったのだ。
叩かれるかと思った両手は、リアの頬をすり抜けて、背へと寄せられていく。
次いで、ほんの少しの力が込められ、優しくぎゅっと抱きしめられた。
「僕は、リアのやったことについて、詳しくはわからない。この世界で何を想って、何を行ったか。
まぁ、大体は察することができるけどね」
カインは、この世界でリアがやってきたことはわからない。まともに会話をしていないのだから当然だ。
だが、血で真っ赤に染まった衣服に、魔物と一緒にいた事実から大体のことは察することができる。
あくまで、推測であるが、妹は自分の知らぬ参加者を排除して回ったのだろう。
自分と一緒に死ぬ為に、幾人もの参加者を切り捨てたマーダーだ。
そんな経緯が本当にあるのだとしたら、殺された参加者やその知り合いから恨みを掛けられてもおかしくはないし、実際に殺されても文句は言えない。
カインだってどんな理由があるにしろ、もょもとやアイラを殺した奴等を許すことはできない。
「それでも、リアと一緒に生きるっていう夢は、終わらない」
しかし、身内には甘くなってしまうのはカインの駄目な所なのだろう。
ああ、仕方ないのだとカインは自嘲する。
自分はリアの兄でもあり、大好きな人でもあるのだから。
どれだけの人を切り捨てて、ロトの呪いに侵されても、妹を突き放すことはどうしてもできなかった。
これは、兄として、一人の少女を愛する少年としてのエゴだ。自分勝手で、相手の気持ちを無視した個人的な感情だ。
だから、今の自分はロトの王子でも救世の英雄でもない――ただのカインだ。
「起きてしまったことは変えられないし、死んだ人達は蘇らない。皆、リアの想いを否定するかもしれない。
そんなの、悲しいよな。苦しいよな」
もう離してやるものかと言わんばかりに強く抱きしめる。
やっと、掴めたのだ。大切な人に届いたのだ。
「だから、僕だけはお前の味方になる。どんなにひどいことをしても、僕は許すよ」
「やめてよ……やめてってば!」
「ごめんな、僕がお前の想いにもっと早く気づいていれば。一緒に心中する程に追い詰められていたお前に、何か与えていたら」
「そんなことない! お兄ちゃんは私の為に十分過ぎるくらいのことをしてくれたよ!
怖い夢を見た時はずっとずっと、一緒にいてくれた! 政略結婚の道具でしかないって噂が流れた時は、私を慰めてくれた!」
薄っすらと笑みを浮かべながら、ただただ抱きしめるカインに、リアは耐え切れなかった。
右手にはめられていた爪が地面に滑り落ち、両手はカインの背へと回される。
「他にもお兄ちゃんにはいっぱい助けてもらったんだから!」
「もういいから。僕のことをどれだけ思っているか、よくわかったから」
「わかってないよ! お兄ちゃんは私のこと、全然わかってないよ……」
わかっていないという意味をカインは理解できなかった。
後は、ゆっくりとリアの心を解きほぐしていけばいいだけのはずなのに。
「あんな技を出して、リアの身体が耐えれる訳、ないんだよ」
妹の口から吐き出されたのは、どうしようもない絶望だった。
泣いているのか、笑っているのか。どちらとも言えない半端な表情を浮かべ、抱きしめられていた両手はそっと降ろされた。
何を言っているのか、カインには理解ができない。否、理解をするのを頭が拒んでいた。
「そんな訳ない、嘘だ」
「お兄ちゃんと違って、何の訓練もしていない私が……何の代償もなしに使えると、思う?」
思わない、とカインは口には出せなかった。
口にしてしまえば、認めてしまう。明晰な頭が導き出した答えを理解してしまう。
「違う……っ! そんな訳があるか! だって、だってさ……」
リアが使った技は、カインから見ても凄絶ともいえるものだった。
大地を薙ぎ、暴風を起こす爪技はもょもとの一撃並だ。
そんな一撃を、リアが代償なしに使えることができたならば、自分達の旅に付いてきたはずだ。
「これ以上、いいよ……自分でも、わかってやったことだから。
あの技はね、本来なら魔力で補うものだけど……私には補える程、なかった。だから、代わりに補填したのが」
「やめろ、やめてくれ!」
「私の、命だったんだ。生命力で無理矢理補って、発動させたの」
リアの掠れた言葉に、カインは頷くしかなかった。
妹が最後の力を振り絞って投げかける想いを、切り捨てるなんてできなかった。
……どうして。
心中で投げかけた疑問に答えてくれる者なんていない。
何度も繰り返して唱える回復呪文は効かず、リアの力は徐々に衰弱していく。
握り返してくれた手も、悲しそうに笑う顔も、数分後にはもう見れないものになるだろう。
「本気だったんだよ? お兄ちゃんと一緒に死ぬ為に、私の全力でお兄ちゃんを……倒そうとした。
私の中のお兄ちゃんが現実のお兄ちゃんと変わってさえいなければ、きっと……殺しきれた。
あはは……お兄ちゃんと死ねるなら、それで満足だったの。一緒に死ぬことで、私達の関係が永遠になれるなら――よかったのに」
リアが望んだ願いの根幹は、永遠だった。
ずっと、大好きな人の中に在り続けたい。兄と過ごす時間を刹那に凍結したい。
だから、殺した。ロトの先祖も、友達になってくれるかもしれなかったお姫様も。
兄以外、リアにはいらなかった。兄に抱く感情をこの殺し合いに侵されぬまま、死にたかった。
「結局、私は何一つ得るものなんて」
その願いが叶わぬものなら、もうどうでもいいのだ。
未練を抱え、永遠になれぬまま消えていくことに妥協してしまったから。
きっと、兄はこれからも自分を置き去りにして進んでいくことだろう。
その横には自分じゃない別の誰かがいる未来へと、振り向かずに。
諦観に満ちた後悔にリアが潰されようとした時。
「ふざけんな」
「おにい、ちゃん?」
「何、言ってんだ。一緒に死ぬことで永遠になれる? そんなことしなくても、僕達の愛は永遠だろ。
得るものはない? 散々に振り回しておいて、何にもなかったことになんてするなよ」
言葉が口から勝手に漏れだしていた。
妹の言葉を認めてはいけない。思うのはそれだけだった。
「で、でも」
「……ずっと、ずっと死ぬまで私達はいっしょにいよう。約束したよな、僕達が初めて自分を曝け出した夜に。
あの時交わした約束は、まだ僕の中で生きている。いや、むしろ更に強まったね。死ぬまで?
冗談じゃない、死んでからもずっと一緒だ。じゃないと、僕は嫌だ」
まだ、約束の履行は続いている。死が二人を分かつまで自分達の永遠は、壊れない。
これ以上、取り零してなるものかと、ギシリと歯を食いしばり、カインは回復呪文を唱え続けた。
「リアがどんなにひどいことをしてきたとしても、変わらない。
僕が好きだっていう事実も、これからの未来を望むことも」
例え、世界がリアを悪姫と呼び、蔑んでも。
周りの誰にも受け入れられず、元の環境よりも酷くなったとしても。
自分だけは変わらない。お互い、欠かすことのできない存在でなのだから。
「僕達の未来をロトの呪いにくれてなんかやるもんか。だって、ムカつくじゃないか。
そんなものがなければ、僕達は普通に愛し合えるのに。
お前と一緒に過ごし足りないし、もっともっと言葉を交わしあいたいし、この世界を抜けだした後は僕達が僕達でいられる場所を見つけて暮らしたい」
「……私だって、もっともっとお兄ちゃんと過ごしたいよっ。こんな場所で終わるなんて嫌っ!」
「なら、それでいいじゃん。僕達はまだ、やり直せるんだしさ。未来だって選択肢がよりどりみどりだしね」
故に、カインは願い続ける。
これから先の未来は、きっと明るいことだらけだ。
行き先の不安定さに悲観するよりも、楽しいことを考えた方が見える世界は綺麗で美しい。
「春が来たら桜を見に行こう。桜の下で僕の作った弁当を食べて、リアは最ッ高にいい笑顔を見せるんだ」
「うん」
「夏になったらさ、海に行こうよ。お前、ずっと王城に閉じ込められていたから見たことないだろ?
本当に綺麗なんだ、透き通るような青が一面に広がっているんだ、きっと驚くぜ」
「うん」
「秋になったら山に行こう。色とりどりの紅葉を見に行ってさ、のんびりとお茶を飲んでさ」
「……うん」
「冬になったら家でのんびりと暖炉の横で寝っ転がってさ。コーヒーを飲みながら雪を眺めてさ、何もせずに過ごすんだ」
「う、ん……」
しえ
無理な未来だってことは最初から理解している。
必死に取り繕ってる笑顔も剥がれかけ、いつもの軽口にもキレがない。
けれど、弱いな、とは思わなかった。大切な人がいなくなるというのに、悲しまない訳がない。
押し寄せる涙は拒まず瞳から流し、伝えたい言葉は惜しみなく声に出す。
ただ、それだけの行為が今のカインにはとても難しく感じた。
「やっぱり、お兄ちゃん変わったね。……昔のお兄ちゃんみたい」
「そうかな? でも、お前を想う気持ちは何一つ変わっちゃいないからな」
「ふふっ、わかってるよ。私だってお兄ちゃんのことずっと想っていたんだからね。愛憎入り混じってたけどさ」
「今じゃあ、こうして両思いだからね。本当に、わからないものだよ」
辛かった過去の中で見つけた拠り所だった。
永遠に続く世界だと思っていた。
だけど、それももうお終いなのだ。
「なぁ、リア」
「なぁに、お兄ちゃん」
それでも。それでも――。
「愛してる。死が僕達を離しても、ずっとだ」
「うん、私も。約束したもんね、ずーっと一緒だって」
二人が交わした約束は、永遠に破られることはないだろう。
その想い出だけで、カインはこれからも戦うことができる。
これから先、どれだけ辛いことがまっていたとしても、想いがこの胸に遺っている限り、ずっと。
「またね、お兄ちゃん」
少しの間だけ、離れ離れになるけれど――また、逢える。
カインがこれから先の人生を諦めず、自分らしく生きた先で妹は待っている。
だから、口にするのは――さよならじゃない、もう一度逢う為の言葉。
今、この瞬間だけは彼らが待ち望んでいた自由が其処にあった。
###
この世界は残酷だ。
たった一人、薄暗い空を見上げたカインは、なんの気なしにつぶやいた。
親友に護られ、仲間に救けられ、最愛の妹には最後まで心配をかけてしまった。
今だけは殺し合いのことなんて考えず眠りたい。ずっと、妹の思い出に浸りたかった。
生きる意味の大半を喪失してしまった今、カインが剣を取る理由はない。
ただ流れるままに受け入れて、死んでいく。
一緒に死ぬというありきたりな救いを否定した自分にはお似合いの未来だと、笑う。
「だけど、そんなのゴメンだね」
しかし、一番楽な方法だって知っているからこそ、カインはその方法を投げ捨てた。
精一杯、最後まで生き抜いた先でまた逢おうと、リアと約束をしてしまったのだから。
今は、少しの間離れてしまったけれど、想いを貫き、信じ続ければ逢えるだろう。
「またな……か。いつか、僕が最後まで進んだ先にお前が待っているのなら、僕は走れる。まだ、歩みを止めないでいられるから」
人によってはカインの行為を馬鹿にするのかもしれない。
ありもしない終着点に無理矢理に意味を見出しただけと否定するかもしれない。
されど、カインにとってはそれだけで十分なのだ。
他の誰から見ても意味のない約束だとしても、行為は永遠の愛と呼べるものだと信じているから。
――――寄る辺なきこの世界を終わらせた後に、君に逢いに行く。
もう、二人の永遠を邪魔するものはいない。
【リア(サマルトリア王女)@DQ2 死亡】
【残り15人】
【C-8/中央部/黎明】
【カイン(サマルトリアの王子)@DQ2】
[状態]:HP1/10 脇腹打撲 肋骨が折れる、内蔵微損傷、首輪解除、ゴーグル喪失、重傷
[装備]:プラチナソード、ロトの剣
[道具]:支給品一式×8、モスバーグ M500(2/8 予備弾4発)、オーガシールド@DQ6、満月のリング@DQ9
世界樹の雫@DQ6、エルフの飲み薬@DQ5、デュランの剣@DQ6、もょもとの手紙、毒入り紅茶、※不明支給品(後述)
竜王のツメ@DQ9、ツメの秘伝書@DQ9、不明支給品(リア確認済み)
[思考]:諦めない、最後まで。
※旅路の話をしましたが、全てを話していない可能性があります。少なくともリアについては話していません。
さるったのでけーたいから投下終了です、支援ありがとうございました。
投下乙です……ああもう、リア!
リアが一人の女の子だったが故に、考えられないことがいっぱいで。
それを兄として正してやれたけど、もう遅くて。
それでも前を向く、前を向き続けるカインの背が、もうね……
リアちゃんお疲れ、お疲れさま。
乙
乙
あけましておめでとうございます。
本年もDQ2ndを宜しくお願いします。
事のついでといっては何ですが、当方規制中のため、どなたか一時投下の投下を本スレに投下していただけるとありがたいです……
「万を溶かす力、この手に宿れ――――」
「「メラゾーマ!!」」
「燃える勇気の力よ、悪を貫け――――」
交差するように木霊する両者の声と、巨大な火球。
相手を追いつけ、押し返せ、とせめぎ合う火球同士は、大きな音と共に破裂して消えていく。
飛び散る火の粉、燃えあがる草原。
それを微塵も気にしないまま、二人は次の呪文を放つ。
「地獄の火炎よ、全てを無に還せ――――」
「「ベギラゴン!!」」
「裁きの火炎よ、罪人に裁きを今――――」
燃えているなら、それを利用すればいい。
メラゾーマによって燃え上がり始めた地面に、まるで油を注ぐかのように炎が降り注ぐ。
ただでさえ強烈な火炎が、辺り一帯を包み込むように燃え上がっていく。
だが、互いの炎は消して消えない。
ぶつかり合っても、混ざり合うことなく、それぞれの形を保ったまま。
それはまるで炎で出来た決闘の場所、"コロッセオ"を具現化するように。
炎に囲まれながらも、両者は互いに相手を睨み、動かない。
「爆ぜろ、全ての記憶と共に――――」
「「イオナズン!!」」
「巻き起これ、全てを包む力――――」
少し遅れて、二つの大きな爆発が起こる。
二人を包んでいた、草原の炎は吹き飛ばされ、そこに残ったのはただの焦土。
だが、煙の中、二人の男女は確かにそこにいた。
煤を払うこともせず、目に入りそうになる土をのけることもなく。
まっすぐに、相手だけを見るため、目を見開いて。
「流石に、埒があかねえな」
「泣いて許しを乞うなら、今のウチだけど」
「ハッ、そりゃこっちのセリフだ嬢ちゃん」
両者の顔には、余裕。
相手を下に見るだけの力と、心持ち。
いや、それを出さなければいけない。
でなければ、"ナメられてしまう"から。
油断を誘うとか、そういう細かい問題の話ではない。
ただ、目の前の奴に"ナメられたくない"だけ。
お前なんかより、こちとら遙か上に居るんだ。
そう思っているからこそ、両者は動じない。
「……確かに魔術の筋はいい、だが」
その状況を動かすように、老人は口を開く。
マーニャは動かず、相手の様子を伺う、が。
「攻めに特化しすぎて、搦め手を想定してねえ」
集中して見ていたにも関わらず、次の瞬間には相手の姿が綺麗さっぱり無くなっていたのだ。
空を飛んだわけでも、地面に潜ったわけでもない。
文字通り"消えた"と表現するしかない。
驚きの表情を浮かべたまま固まっていると、どこからともなく氷柱が現れた。
ヒャドの系列の最上位、ブライがよく使っていた呪文――――
「何なの、よッ!!」
一人だけでなく二人までも、あのピサロのように多岐にわたる呪文を操る者がいる。
その事実に戸惑いながら、マーニャは飛び交う氷柱を避け、時には扇で弾いていく。
「何だァ? マヒャドは使えねえのか!?」
どこからともなく、声だけが聞こえる。
襲われているという事は分かっているのに、それに対処できない。
その現状と、相手に"ナメられている"という事実が、マーニャを焦らせる。
同じ性質の力をぶつけて打ち消すのは、まだ容易だ。
相手の放つ同等、ないしそれ以上の力を放てばよいのだから。
だが、違う質の力をぶつけて消すのは、少し難しい。
少なくとも相手の魔力よりも上の力であることはもちろん、どの質の力をどれだけ盛ってぶつければよいのか、というのは咄嗟に判断しにくい。
無用な魔力の消費は避けたい、だが現状を切り抜けなければ話にならない。
最悪なことに、向こうはまだ魔力をたっぷりと残している。
マホトラで魔力切れを狙う作戦は、狙えそうにはない。
どうするか、次の一手を――――
「だのに……俺より強ぇ魔法使いを、名乗ってんじゃねえよ!!」
考えていたとき、ついに裁ききれなくなった一本の氷柱が、マーニャのわき腹に刺さる。
体の芯から冷やされる感覚、凍り付いていく血液。
すぐさま小さな炎を生み出して対処をするが、想像以上に傷が深い。
体勢を立て直しながら、次の攻撃に備える。
「ムカつくんだよ! テメーみたいにちょっと魔法が使えるからって調子に乗る奴が!
俺からすりゃ! テメーの魔法なんざ屁でもねぇ! 」
響く怒号、巻き起こる氷柱の嵐。
肌を掠め、突き抜け、傷つけていく。
「だのに! アイツは! カーラは!!
魔法が使える前も、そしてちょっと魔法が使えるようになった後も!!
俺のことを見下して来やがった!!
さも俺より魔法が上手いです、みたいなツラしやがってなぁ!!」
そこで、聞き覚えのある名前を耳にする。
この殺し合いが始まって、はじめに刃を交えた相手。
赤く燃えるような瞳、ただまっすぐに闘争を追い求めていた、彼女。
そんな彼女の名が、こんなところで聞けるとは。
老人の言葉から、マーニャは次第に事態を把握していく。
「俺が、俺が真の魔法使いなんだ!! 魔法じゃ、誰にも、絶対負けねえ!!」
老人が魔物と連んでまで戦う理由。
自分に率先して刃を向けにきた理由。
そして、今ここまで怒り狂っている理由。
「……ククク、ハハハハ、アハハハハハハ!!」
その全てを理解して、笑う。
いや、笑わずにいられるだろうか。
目の前の男は、女々しくも死んでいった女の姿を、自分に重ね合わせているのだから。
「何がおかしいっ!!」
当然、男は怒る。
さも自分が"ナメられている"ように見えるのだから、無理はない。
それを分かった上で、この上なく楽しい表情を浮かべながらマーニャは追い打ちをかける。
「あれこれ御託を並べて、結局やってる事は女の尻を追っかけてるだけの変態エロオヤジじゃない」
「んだとォ!?」
「アンタみたいな自称天才じゃ、彼女には一生勝てないわ。そして……アタシにもね」
息をつく間もなく、次々に言葉を返していく。
火に油を注ぐような行為だとは自覚しているが、それでももう止まれない。
だって、こんなにも相手を"ナメきれる"のだから、止まれるはずがない。
さぞかし、怒りに震えているのだろう。
「……言ってくれるじゃねえか、だがよ、この状況を破れずにいるテメェが、どうやって俺に勝つ?」
響く言葉は、静かに、落ち着いている。
けれど、その奥底に秘められている感情を、マーニャが見逃すわけがない。
百戦錬磨、ギャンブルで鍛えた感情の読み合い。
ド三流のポーカーフェイスが、彼女に通用するわけがない。
「勝つ? 何を勘違いしてるのかしら」
だから、言葉という最高のカードで。
「今からは、アンタを全力で"ブッ潰す"」
三流の仮面を、引きはがしていく。
「ハハハ!! そりゃ笑い草だ! 今圧倒してるのは俺だってのによぉ! テメェの方が俺に泣いて詫びた方がいいぜ? 嬢ちゃん!!」
男は笑う。
マーニャの言うことが夢幻で、虚勢を張っているだけに過ぎないと。
まだ、余裕であると、見せつけている。
「……カーラは、あの人は」
「あ?」
ならば、マーニャは次のカードを切るだけ。
「誇り高き、戦士だった」
飛び出した唯一の名前、そして自身の知る全ての情報を使って。
「心に曲がらない一本の誇り、それを持って遠くへ、高くへ行こうとしていた。
どんな相手だろうと、誇りを持って、全力で、戦い抜く人だった。
だから、彼女は強かった、上へ登れた、新たな力を手に出来た。
……それに比べて、今優位に立ってるからって慢心しまくって相手を見下して、戦いに誇りのかけらもないようなアンタじゃねえ……。
いッ…………生彼女に勝てないって言ってんのよ!!」
JOKERを殺す最強の手札、ロイヤルストレートフラッシュ。
その絵面が、綺麗に揃う。
「五月蠅ぇんだよ雑魚がァッ!!」
余裕という仮面をかなぐり捨て、怒りに打ち震える声が聞こえる。
それと同時に、炎と氷の嵐が、辺り一面に巻き起こる。
二つの相反する力で、身が焼かれていく。
このまま立っていれば、いずれ死んでしまうだろう。
そんな中、マーニャは冷静に一つの呪文を唱える。
「ギラ」
それは、ちっぽけで、それでいて頼りになった、一筋の炎。
仇討ちだ何だと言って、必死こいて覚えた呪文の討ちの一つ。
力がほしかった、何もかもを圧倒する力が。
その切っ掛けになった、始まりの炎が、まっすぐに彼女の手から延びる。
「ハハハ! どうしたァ!? やっぱりテメェも口だけで、弱いじゃねぇか!!」
男は笑う。
あれだけ大見得を切っていた女が放ったのが、スライム一匹殺せるかどうかというレベルの炎だったからだ。
避ける価値も、潰す価値も、気にとめる価値もない。
「そんなカスみたいな魔法じゃ、俺には一生――――」
「見えた」
それが、最大の判断ミス。
「ガッ!?」
次の瞬間、自分の体がふわりと浮く感覚に襲われる。
ギリギリと音を立てて締め上げられる自分の体。
そして、それを成しているのは。
先ほど弱ったらしい呪文を放った女だ。
「……教えてあげるわ、今私がギラを使ったのは"節約"の為。
相手の出方を伺うための、必要な"チップ"でしかない」
姿が見えないなら、その姿を察知できればいい。
ならば、あえて弱い呪文を放つことで、それを叶えることが出来る。
慢心しきった相手ならば、"避ける価値もない"と判断すると確信していた。
だが、避けないと言うことは、"そこにいる"と自分から伝えているようなものだ。
わずかに曲がる炎を見て、マーニャは即座に駆けだし、全力を込めて腕を突き上げた。
「てめ……このや、ろ」
何もないところから、苦しい声が漏れる。
だが、マーニャにとっては違う。
今、両手には確かに、人の肌を掴んでいる感覚があるのだから。
捕まえた、そしてもう二度と逃さない。
「冥土の土産よ、私のような超天才が、努力したらどうなるかってことを、教えてあげるわよっ!!」
叫びと共に、それは始まる。
「我が身に宿る全ての力よ。今こそ、その真なる姿を放つ時」
それは、かつての敵の呪文。
己が内にある魔力を全て解き放つ、禁忌の魔法。
「吹き飛べ……」
悔しかった。
仇敵だと思っていた存在と、肩を並べて戦うことになることが。
だから、だからせめて、"アイツ"にだけはナメられたくないと。
来る日も来る日も、いつかの日のように、魔術の研究に勤しんだ。
そして、それは今。
「マッ、ダンテェエエエエエエエエエエ!!」
全て、全て、解き放たれる。
.
「……アンタも努力してたのかもしれないけど。
私も、カーラも、努力をサボってたわけじゃないのよ。
自分より努力が出来るから、強い。
その存在を認めなかったのが、アンタの敗因よ」
塵一つ残らない場所に向かい、マーニャはただただ呟く。
暴走する魔力が生み出した力は、全てを飲み込み、破壊していった。
ほぼ直接それを叩き込まれた男の体など、残る余地などあるわけがないのだ。
「……って、もう聞こえてないか」
ふと、笑う。
聞こえていない、聞こえるわけがないと分かり切っていたのに。
どうしても言いたかったからか、それとも事実関係をはっきりさせたかったからか。
まあ、それもどうでもいい事だ。
そこまで考えたところで、ふらつき倒れ込む自分の体では、その先にたどり着けそうにもないのだから。
「……っあー、やっぱ無理だったかなー」
魔族ですら有数の者しか扱えず、それでいてなお禁忌とされていた呪文。
半ば無理矢理血路を開き、習得したは良いものの、消費は思っていたより激しかった。
間違いない、魔力だけでなく体力まで持って行かれている。
結局、魔族の持つあふれ出る魔力にたどり着くには、彼女の体力すらも魔力に変換しなければならなかった。
これだけ頑張ってもたどり着けない場所、そこにヤツは居た。
……だからこそ、追いつけ追い越せと努力出来たのかもしれないが。
「まだ、アイツを、殴っ、てない……のに」
倒れ込み、拳だけを握りしめて天に掲げる。
そうだ、まだ倒れるわけにはいかない。
本当にぶっ飛ばさなければいけない相手が、まだいるというのに。
禁忌を開いた代償は、彼女の全てだった。
そこまでして、いやそこまでしなければ勝てなかった相手だった。
だから、禁忌を開いたことに後悔はない。
ただ、やっぱり"弱い"ままの自分に対して、悔しいだけだ・
「ごめ、ミネア……仇、とれそ……に、ない、や」
ゆっくりと、それだけを呟き。
目を閉じると同時に拳はぱたりと地につき。
頭に描くのは、一足先にそこにいるであろう仲間の姿と。
「そ、だ……けっ、ちゃく、つけな、きゃね」
あの誇り高き女賢者の姿。
それらを見て、彼女は笑いながら旅立っていった。
【男魔法使い@DQ3 死亡】
【マーニャ@DQ4 死亡】
【残り13人】
※男魔法使いのアイテムは全て吹き飛びました。
マーニャのアイテムにも余波が飛んでいるかもしれません。
代理投下を終了します
>>124 ありがとうございました。助かりました。
乙
127 :
◆m2xWOEex7. :2014/01/08(水) 23:49:08.00 ID:VGsIjasp0
「少し寝る。放送までには起こせ」
飯を食べ終わった後、そう言って、リンリンと名乗った武闘家は奥へと進んでいった。
「…はあ」
彼女が放っていた殺気から解かれ、やっと一息をつけたビアンカは、食器を洗っているリッカのもとへ向かう。
「あ、ビアンカさん!」
満面の笑みを浮かべ、入ってきたビアンカに声をかけるリッカ。
「もう少しで終わりますから、サイモンと一緒に向こうで休んでて下さい。後で掃除もしなきゃいけないし。」
そう言って笑うリッカ。本当に、ここが殺し合いの場だということを忘れているかのようだ。
「そう?じゃあ、お言葉に甘えて…」
そう言って、彼女は調理場から出た。
てs
サイモンは、一人隅で佇んでいた。
ビアンカは彼に近づき、その隣に座った。
「リッカは…強いな…」
「…そうね」
なぜ、彼女がそこまでするのか、二人には分からなかった。
「…彼女も、大事な人が死んだというのに…」
「…え?」
だが、サイモンのそのセリフで、ビアンカは顔を上げる。
彼女は、自分が放送を聞いていないことを思い出した。
「そうだ、忘れてた。サイモン、放送の内容を教えてくれない?」
「ああ、分かった」
「…ビアンカ。悪かっ―――」
「いいの、サイモンは悪くないし。ただ、ちょっと一人にしてくれない?」
そう言ってビアンカは外へ出る階段へ足を進めた。
―――フローラさんが…
彼女が、死んだ。
“彼”が伴侶として選び、その後共に石にされ、それでも最後には幸せを掴んだはずの彼女が。
そして、
「リュカ…」
“彼”の名を口にしたビアンカは、再び身を切られるような思いに駆られた。
もう彼は、その身に余るほどの傷を受けたはずなのに。
なぜ、家族を再び失わなければいけないのか。
なぜ彼が、ここまで傷つかなければいけないのか―――
そう思ったところで、彼女は外に出た。
そして、彼女は目にする。
こちらへ歩いてくる、一人の人影を。
そして、それは―――
「…リュ…カ…?」
今思っていた、幼馴染の形をしていた。
時は、少し遡る。
影の騎士は、今出来上がったばかりの、二つの土の山に目を向ける。
それは、リュカとフローラの、墓標だった。
「こんな事するなんて、俺もヤキが回ッたのかねェ」
だが、彼はそうした。
そうしないといけない、そんな気がしたから。
大した理由もなく、ただそれだけ。
「…さて、これからどうすっかねえ」
影の騎士は、改めて今後のことを考える。
自分をこれまで支えたものは、全て無くなっている。
どうするかは、彼にとって切実な問題だった。
「そういや、まだ…」
見てない支給品があった。
シンシアからせしめたものである。
「あんときはろくに見もせずに中身突っ込んだからな、焦ってたし」
そういいながら、彼が取り出したのは―――杖、指輪、そして少しの水が入った小瓶。
運悪く、説明書は入れる時に落としたらしく、入っていなかった。
「コイツは…魔法の聖水か。んで、残りの二つだが…」
指輪を翳してみると、僅かな旋風が巻き起こった。
水のリング。
かつて、目の前に眠る二人を結んだ指輪である。
「こいつは使えるな…さて」
この杖。
若干の魔力を感じるが、魔力が詰まった杖など何が起こるか分かった物では無い。事実、変化の杖も役には立ったものの、巻物が無ければ使い方が難しいなんてものでは無かった。
まして説明書もないのだ。リスクは高い。
「でもまあ、一応使ってみっか」
だが、ここで燻っているのも仕方がない。
そう思った影の騎士は、自らに向けて杖を振り―――
次の瞬間、光の球に包まれた。
「オ、オイ!?」
かろうじて荷物を掴み、そして、彼は何処へと飛んで行った。
影の騎士は平野に落ちた。
「……禁止エリアじゃなかっただけ、いいと思うか」
荷物は何とか持ってこれた。コンパスと地図、そして近くに見える大きな建造物から場所を把握する。
「A−4…か。となれば」
北にそびえる、ろうごくのまちへ。
彼は歩を進めようとし―――
「…変化、しとくか」
相手が知人だった時のリスクは大きいが、どの道この姿なら疑われる。
そして、彼は変化する相手を考えるが―――
何故か、彼には一つの顔しか思い浮かばなかった。
先刻死んだ男、リュカ。
他にも候補はいる筈だが、彼にはそれしか思い浮かばなかった。
「…もしかして、あれかねぇ。あいつになりたいのかね、俺は」
幸せを教えてくれたあの男になれば、自分もそうなれるのか、と。
そんな筈はないのに、彼はそうせずにはいられなかった。
冷静に考えれば、あと二時間もあれば放送で呼ばれる名前は、リスクが高すぎる。
ここは、ロッシュなどの方がいいと、彼の理性は告げていた。
だが。
「いいぜ、リスクぐらい背負ってやろうじゃねーか」
どの道一度死んだはずの命。
ならば、この姿で、理想を追ってみるのもまたいいかもしれない。
そう思い、杖を振った。
10分ほど歩き、彼はろうごくのまちの前にたどり着いた。
「ッタク、ボロボロじゃねーか…」
荒れ果てている町の外見に文句を言いながら進み、彼は一つの視線に気づく。
目を向けると、それを向けてくるのは金髪の女だった。
そして、よく見れば彼女は、こちらへ向かってきていた。
何者か。彼はとっさに身構える。
だが、相手はまっすぐこちらへ歩を進め―――
二人は、いつの間にか対面していた。
「オ、オイ…」
影の騎士が相手に話しかけようとして。
女、ビアンカは、影の騎士を殴りつけた。
「ぬがっ!?」
想像もしていなかった一撃に思わず仰け反るが、すぐに反応しようとして。
影の騎士は、自分が抱きしめられていることを感じた。
抱き寄せたビアンカは―――泣いていた。
「リュカ!!リュカああああっ!」
嘗ての思い人との再会。
それを前に、彼女は幼い子供の様に泣きじゃくっていた。
抱いている男が、偽物だと知らずに。
そして、それを前にして、影の騎士は。
(…一発目からアウトかよ)
と、悲嘆に暮れていた。
真実を知らす放送までは、まだ少し、時間があった。
:
【A−4/ろうごくのまち前/夜明け前】
【影の騎士@DQ1】
[状態]:健康
[装備]:メタルキングの槍@DQ8
[道具]:基本支給品一式、変化の杖@DQ3、ゾンビキラー@DQ6
バシルーラの杖@、水のリング@DQ5、魔法の聖水@シリーズ全般
[思考]:リュカの姿となり、理想を追ってみる。
目の前の女をどうしよう。
【ビアンカ@DQ5】
[状態]:健康、リボンなし
[装備]:女帝の鞭@DQ9、エンプレスローブ@DQ9
[道具]:支給品一式、炎のリング@DQ5、カマエル@DQ9
[思考]:リュカと会えて嬉しい。リッカを見守る。
[備考]:カマエルによって錬金釜の使用方法を教わっています
ビアンカの傷が治っているのはミネアのメガザルによる効果です。
第三回の放送内容をサイモンから聞きました。
【A-4/ろうごくのまち・居住区/夜明け前】
【リッカ@DQ9】
[状態]:右腕負傷(手当て済み)
[装備]:なし
[道具]:復活の玉@DQ5、大量の食糧(回復アイテムはなし)、支給品一式
[思考]:絶望しない、前を向く。
[備考]:寝ていたため、第二放送を聞き逃しています
【サイモン(さまようよろい)@DQBR2nd】
[状態]:騎士は、二人の"ともだち"。
[装備]:さまようよろい@DQ5、ミネアの頭の飾り、ミネアの首飾り、アリーナのマント(半焼)
アリーナの帽子、エイトのバンダナ、アレルのマント、ギュメイ将軍のファー
[道具]:なし
[思考]:リッカを見守る
[備考]:マホトーンを習得、今後も歩くことで何か成長を遂げるかもしれません。
胸部につけているミネアの飾りが光り輝いています。
【リンリン@DQ3女武闘家】
[状態]:HP1/20(回復中)、全身に打撲(重・処置済)、全身に裂傷(重・処置済)中度の火傷(処置済)、左腕喪失(処置済)、睡眠
[装備]:星降る腕輪@DQ3 オリハルコンの棒@DQS
[道具]:場所替えの杖[6]、引き寄せの杖[9]、飛び付きの杖[8]、賢者の聖水@DQ9(残り2/3) ふしぎなタンバリン@DQ8
銀の竪琴、笛(効果不明)、ヤリの秘伝書@DQ9、 光の剣@DQ2 ハッピークラッカーセット@DQ9(残り4個) 使用済みのハッピークラッカー
草・粉セット(毒蛾の粉・火炎草・惑わし草は確定しています。残りの内容と容量は後続の書き手にお任せします。)
※上薬草・特薬草・特毒消し草・ルーラ草は使い切りました。
支給品一式×10
[思考]:全員殺す 世界を壊す たとえ夢であろうと その為に休息しつつ片腕に慣れたい
睡眠をとる。
[備考]:性格はおじょうさま
----
以上で代理投下終了です。
影の騎士に明らかな変化が……
リスクを徹底的に避けてたはずの彼が、ここでその姿をとる。
そして、出会ったのはビアンカ……リンリンもいるし、波乱の予感がしますね。
指摘としては、一行目のリンリンのセリフがちょっと違和感があるかな、というのと
状態表の「夜明け前」が黎明なのか早朝なのかどちらかが分からない、という二点でしょうか。
投下乙です。
リュカの理想を追い求める影の騎士が、何とも辛い。
徹底的に影に徹していた彼が今此処で動こうとしているのはやっぱり影響されてるなあ。
そして、ビアンカと出会った彼がどうするか。今後に期待ですね。
後、一つ指摘なんですが、14話の少女Aで既に出ているのでそこだけは修正かと思われます。
あ、出ているのは水のリングです。
ここの組はほんと先が読めん状況になってきたなあ。ほんとどうなるんや。
投下乙です
乙
乙です
ああ、そうだ。
僕は――――
.
たんっ、と水面を歩くような軽いステップ。
そこから繰り出される、恐ろしいほど重い一撃。
特別大振りでもなく、何か魔力を込めているわけでもない。
ただ、集中して研ぎ澄まされている、それだけの一撃。
余分な力は必要ない、むしろ余りある力は無駄な消費を招くだけ。
最低限の力をしっかりと扱いきり、その全て乗せることが大事なのだ。
まるで棒きれを振るうかのように、軽く振られていく剣。
描かれる弧は、どれもがジャミラスの首を穫らんと迫っている。
無論、ジャミラスも黙って首を穫られる訳ではない。
大きな体を捻らせ、時には自らの剣で攻撃をはじき返し、やり過ごしていく。
カキン、カキン、と金属の軽い音が響き、剣戟がしばらく続いた時、ふとジャミラスが姿勢を崩す。
生まれた隙を見逃さず、いやただ単に連携が続いていただけなのか。
ともかく、ロッシュは特に興味も示さずにジャミラスへと斬りかかる。
先ほどと同じように、最低限の力だけをこめて。
「バカが!」
嘲笑の声と共に、ジャミラスの体が大きく翻る。
大きく振り抜かれたジャミラスの剣が、今にも首を穫らんとしていたロッシュの剣を弾いていく。
訪れた好機、そこを逃さず掴んでいく。
振り抜かれる、剣。
「グガッ!?」
剣によって生まれた横一文字。
それが赤く咲いたのは、魔の体。
最低限の力しか乗せていない。
ということは、逆を返せば「まだ力を乗せられる」ということだ。
ここぞとばかりに攻撃をはじき返したジャミラスの力を、殺すことなく受け止め、その力を使って新たな攻撃に転じた。
油断を誘ったはずのジャミラスが、逆に油断を誘われていたのだ。
「どうしたんだい」
余裕をたっぷりに、ロッシュはジャミラスに語りかけていく。
その顔は、ここぞとばかりに綺麗な笑顔が作られていて。
「息が上がってるよ」
「ほざけ!」
癪に障る。
逆上したジャミラスは、剣を仕舞い、両手に着けた爪での攻撃に切り替えていく。
何か嫌な予感がする。
一撃、最悪相打ちでも何か食らってしまえば、どうなるかは分からない。
ただでさえ相性は余り良くない爪撃と剣だというのに、向こうの攻撃を貰えないというのは余りにも厳しすぎる。
何か使えそうな武器をあの時取っておくべきだったか、と後悔してももう遅い。
今、この状況を何とかしなくてはいけないのだから。
「……なんともまぁ、辛いねッ!」
悪態を付きながら繰り出したのは、斬撃ではなく腕をまっすぐ延ばした刺突。
守りの面では広範囲をカバーできない爪相手だからこそ生きる、虚を突いた一撃。
相手の守りが届かず、かつ状況が悪くならない隙間を縫うように、腕を伸ばしていく。
だが、相手も黙って食らってくれるわけではない。
被害を最小限に食い止め、かつロッシュに攻めの機会を与えないように動く。
結果、刺突は皮膚を少し抉っただけになった。
幾度となく繰り出されたそれらは、どれも同じ結果を招く。
「やっぱ、ちまちま攻めてちゃだめかっ!」
すんでのところで避け続け、攻撃を繰り返すも決定打が生まれない。
このまま続ければ体力をいたずらに消費しかねないと判断したロッシュは、先ほどと同じスタイルに戻していく。
一撃、多少のリスクは覚悟の上で大きな切れ目から一気に攻め立てるしかない。
たんっ、と軽やかに踏み込んだ一歩から、目にも留まらぬ早さで剣を振るっていく。
一撃、二撃、三撃。
先ほどとは違い、ほぼ全力で振るわれる剣に、ジャミラスは応対を迫られる。
止まらない攻撃、流れるような連携。
一撃一撃が重く、弾こうにも上手く弾くことができない。
やがて、ジャミラスの焦りから生み出されたのは、カバーのしようがない大きな隙。
「もらったッ!!」
逃すことなく、ロッシュは再びジャミラスの体に大きな横一文字を刻む。
魔物独特の濁った声を漏らしながら、ジャミラスは苦痛に悶える。
止めを刺すなら、今しかない。
「終わらせる、これで!!」
加減も容赦もなく、ただ、剣を振るう。
目の前の命を、刈り取るために。
そして、剣が空を切り裂きながら、その首にたどり着かんとしたとき。
「――――ターニア」
その名は、発せられた。
ハッ、とロッシュの目が見開かれ、剣の勢いが弱くなる。
それを察知したジャミラスが、素早く爪を振るう。
なんとか反応したものの、ジャミラスの爪は確実にロッシュのわき腹を抉っていた。
被害を少なく押さえられたのは、不幸中の幸いか。
「…………確か、そんな名前だったな、ロッシュよ」
何かを掴んだのか、ジャミラスは途端に饒舌になる。
ロッシュは動かず、ただ、ジャミラスの顔だけを見据えている。
ククク、と低い笑い声が響くと同時に、ジャミラスの体が大きく傾く。
とどめを免れたからといって、受けた傷が消えるわけではない。
ロッシュが与えた傷は、確実にジャミラスの命の灯火を吹き消さんと迫っていた。
「しかし……流石だな、ロッシュ。一度はデスタムーア様を倒しただけはある」
だが、ジャミラスは笑う。
どこか余裕があるように。
両手を広げ、少しわざとらしく。
「このまま戦えば、貴様が勝つのは明白だろう。正直、今の状況で勝てると思うほど、私もバカではない。
……だから、だ。取引をしよう」
耳に囁かれる、悪魔の声。
できれば聞きたくはないし、目も合わせたくない。
だが、元はといえば"あの反応"が原因なのだ。
この状況を招いた以上、黙って聞くしかない。
できる事は、これ以上状況を悪くしないことぐらいだ。
「あの小娘はデスタムーア様の手によって閉じこめられている。
その管理を任されているのは、この私だ」
続く言葉は分かっていた。
というか、それしか考えられなかった。
どうせそんなことだろうとも、悟っていた。
一度滅ぼしたはずの相手が、一度滅ぼされたヤツへの策を講じていない訳がなかったのだ。
殺し合いに巻き込まれていないのだから、彼女は無事だと考えていたのが、甘かった。
「今から私がその封を解き、あの小娘をお前に引き渡してやろう。
デスタムーア様が用意された、お前に対しての切り札を、この俺が破いてやろうということだ」
ジャミラスは嫌味っぽく笑いながら提案を持ちかける。
嘘か本当か、それは分からない。
いや、きっとこいつの言うことだから、どこかしらに嘘が含まれているのは分かっている。
けれど、それらを嘘だと断定できる要素があるわけでもない。
「……だから、見逃せってことかい?」
「察しがよくて助かる」
笑う魔物の表情から、様々なものを感じ取れる。
個人的に言えば、限りなく黒に近いだろう。
そもそも、ここでジャミラスを逃がしたところで"本当に逃がしてくれる"保証はどこにもないのだ。
保証? その話をするならば、そんなものは何にだって無い。
ターニアが捕らえられているという事ですら、保証されていない。
ならば、全てを嘘だと叩き斬るべきなのだろう。
自分の不利な状況を覆すための、都合のいい嘘。
口八丁に自分を言いくるめて、体勢を立て直してから襲いかかりに来るに違いない。
そうだ、ここでヤツを叩き斬って、あとで自分で助け出してやればいい。
この殺し合いも、デスタムーアもぶっ飛ばして、それからターニアを迎えにいく。
この上なくカッコいいし、この上なく理想的な展開だ。
ここでジャミラスを逃がすリスクもなくなり、万歳三唱レベルの良いことづくめだ。
何より、ジャミラスにデスタムーアを裏切る気迫も実力もある訳が無い。
だから、そんな話はさっさと聞き流して、あの胡散臭い中途半端チキン野郎をぶっ殺すに限る。
そうだと、分かっている。
誰よりも自分が、そうすべきだと分かっている。
分かっているけれど、分かっているけれど。
.
チラつく可能性が、後一歩を踏み出させてくれない。
嘘だと断定できない以上、本当かもしれないという可能性は残る。
もし、もしだ。
何かの間違いでジャミラスが突然ド正直な魔物になったのだとしたら。
この僕に恐れを成して、どうしても死にたくないと考えたのだとしたら。
そんな考えが渦巻いて、思考を苦しめて。
自分の判断を、鈍らせる。
どうして、そんな簡単で分かり切った判断ができず、そんな可能性を考えてしまうのか。
簡単だ。
そこに、"ターニア"が絡んでいるからだ。
もし、もしだ。
ここでジャミラスを逃がさなかったせいで、ターニアが生き残れなかったら。
"もう一度仲良くなる"なんてこと以前に、何もかもが叶わなくなってしまう。
毎朝起こしてくれていた、あの天使のような笑顔も。
他人行儀ながらも、自分に優しく接してくれるあの姿も。
どっちの"ターニア"も、失うことになる。
いや、片方はすでに失っている。
だから、だからこそ、もう片方のターニアを、失うわけにはいかないのだ。
やりたいこと、叶えたいこと、まだまだ沢山ある。
やらなきゃいけないことが、沢山ある。
だから万が一、億が一の可能性を切り捨てる事なんて、自分にはできないのだ。
未練がましいとか、そういうのは重々分かっている。
けれど、それでも、自分にとってはやりたいこと。
それが出来なくなる可能性がミリでも存在する限り、決断は下せない。
「――――分かった、どこへなりとも、行くがいいさ」
ゆっくりと、受け入れる。
全て、全て嘘であることを願いながら。
ジャミラスがニタリともう一度笑う。
言葉もなく、そのままどこかへ飛び去ろうとしていたその時だった。
「そうだ、貴様の剣を私に貸せ。あの小娘を救うためには、少しでも武器が欲しい」
「……なるほど、ね。僕としても君に死なれると困るから、ここは素直に差し出すしかないわけだ」
「貴様ほど物わかりがいい人間ばかりだと、助かるのだがな」
唯一の武器、それを寄越せという要求。
爪もあるし、第一剣はすでに持っているのに、何故剣を要求するのか。
無力化のため? いや、相手は自分が"素手でも戦える"ことを知っている。
では、何がジャミラスにとっての懸念事項となっているのか。
「……でもさ、始めにも思ってたんだ。なんでわざわざ"剣"なんだい?」
思わず、疑問が口から出る。
けれど、そんな言葉なんて聞こえていないかのように、奴はゆっくりと跳び始める。
「……答える必要はない、急がねばならんのでな」
去り際に、そんな一言だけを残しながら。
「……これでいい、か」
徐々に小さくなっていくジャミラスを見つめながら、小さく呟く。
いや、これでいいというのは違うか。
"こうするしかなかった"が、正しいか。
選択による結末が見えるのは、まだ先のこと。
……願うならば、それが最悪の形では無いことを。
後ろと前の両方から、まばゆい閃光と耳をつんざく爆音が届いたのは、それを祈ると同時の事だった。
【C-7/C-8との境界/黎明】
【ジャミラス@DQ6】
[状態]:HP3/7
[装備]:ルカナンソード@トルネコ3、サタンネイル@DQ9、はじゃのつるぎ@DQ6
[道具]:剣の秘伝書@DQ9、超ばんのうぐすり@DQ8(半分のみ) 支給品一式*2
[思考]:?????
[備考]:支給品没収を受けていません。飛行に関して制限なし。
ターニアの件の真偽は不明です
【ロッシュ@DQ6】
[状態]:HP7/10(回復)、軽微の毒、MP微消費、
[装備]:
[道具]:支給品一式 、白紙の巻物@トルネコ、聖者の灰@DQ9、食材やら水やら(大量)、調理器具(大量)
[思考]:僕は……
----
以上で投下終了です。
感想、ご意見があればどうぞ。
乙です
投下乙です
さすがシスコン
149 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/02/25(火) 22:01:36.78 ID:fQvTwgpy0
乙
乙です
乙
FFDQロワでも見るが、保守代わりに乙と言うのが流行っているのか?
いや、流行っているという程の数じゃないが
読んだから乙って書いてるのかもしれないけど
違和感感じてたの俺だけじゃなくてよかった
まあどうでもいい話だけどな
154 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/03/05(水) 10:44:26.69 ID:U0YUm3eG0
乙は…お疲れの乙…まあどうでもいい…
牢獄の町、その深部。
「…良かったのかい、こんなに食べて」
ビアンカをなんとか宥めたリュカ―――に扮する影の騎士は、落ち着いた彼女に連れられて、食卓の前に座っていた。
食卓の上にあった料理は、彼らによってすっかり平らげられている。
「いいのよ、まだ食材もいっぱいあるし」
食器を片付けながらビアンカは言う。
食事中、彼らは、それぞれのこれまでの事を話していた。
無論―――影の騎士は、自らの行動を「いかにもリュカがしそうなこと」として話したのだが。
また、フローラの死のくだりも話してはいない。
ついでに、ビアンカの話にあったドラゴンの話も付け加えておいた。
…つうか、あいつも会ってたのか。
嘗て少し話を聞いたくらいだが、彼は魔族の中でもエリートだったはず。
彼も何か不満でもあったのだろうかと、僅かな疑問を覚える。
まあ、どうでもいいか。
そう結論付けた影の騎士は、改めて彼女に話しかける。
「それで、これからどうするんだい、ビアンカ?」
今後の事について、彼は少し焦っていた。
出来れば、放送が来る前に彼女の前から姿を消しておきたかった。
理由は簡単。リュカの事がバレれば、それは自分にとってリスクしか生まない、ということ。
そんな影の騎士の打算と裏腹に、ビアンカは笑みを浮かべた。
「まあ、それもいいんだけど、一つ質問いい?」
「一体なんだい?話せることは一応全部話したけれど」
「そのモノマネ、いつまで続けるの?」
ドアが開く音で、リンリンは目を覚ました。
「…何ですか?」
小さく問うと、音の主―――リッカは笑って、
「あ、起こしちゃいました?」
と言った。
彼女はディパックの中から、どこからか持ってきた治療道具を取り出した。
それを手慣れた様子で扱い、怪我の治療の準備を始めた彼女を見て、リンリンは僅かに嫌がる。
「貸しなさい、自分で出来るわ」
自らの身体を扱う武闘家として、彼女がそれを他人に預けることは少なかった。
まして治癒を任せる相手など、それこそアレルかカーラの魔法ぐらいのものだ。
だが、リッカは譲らない。
「いいんですよ、これは宿屋としてやらなきゃいけないことなんですから」
そう言って、薬を取り出すリッカ。
どうやら、どうしても譲る気はないらしい。
リンリンは、はあ、と息をつく。
「仕方無いわね…でも、傷の治療だけにして」
今後、身体に支障がでるようなことはされたくないと主張するリンリン。
それを受け入れ、リッカは慎重に傷の治療を開始する。
しばらくの無言のあと、リッカは問う。
「あの…あなたは、この場所でどんなことをしていたんですか?」
「…え?」
あまりの急な言葉に、リンリンは少し固まる。
「…それを聞いて、どうするんです?」
「いいじゃないですか。少しぐらい」
笑顔で答えるリッカに、リンリンは少し考える。
自らの服に付いた鮮血から、自分が人を殺した―――少なくとも、人が死ぬ現場に居合わせたことは分かるはず。
…まあ、自分から言い出したことですもの。
後悔したとて自業自得だ。
そう思い、リンリンは自らのこれまでを語ることにした。
C
「…気づいてたのかよ」
驚きに口を歪ませた影の騎士。それとは対称的に、笑みを深めてビアンカは言った。
「まあ、あいつとは長い付き合いだし…それに、サイモンのリボンにも何も言わなかったし」
そこで一旦区切り、ビアンカは笑みに僅かに憂いを含ませた。
「あなたの目に、見覚えがあるから」
「目?」
「そう、目。あいつに改心させられた魔物がたまにする、後悔とか葛藤とかがごっちゃになってる、そんな目」
―――彼女がかつて、初めてリュカが改心させた魔物を見た時もそうだった。
これまで人間と戦ってきたのに、共に戦うことが許されるのか、と。
それにビアンカが気付く事が出来たのは、やはり彼女がリュカの姿を見て学んでいたから。
「んで?どうすんだ?分かってんだろうが、あんたと仲が良かったリュカは死んだよ。
俺が、殺した。
なんなら、復讐でもするかい?大方、俺のことを憎んでんだろうが―――」
「あのね、」
ビアンカは、彼の言葉を遮って言う。
そんな目をしていた魔物に、彼女がいつか贈った言葉を。
「いつまでも、後ろ向いてんじゃないの!」
突然の強い言葉に、魔物が僅かに飛び上がる。
「あいつは、あんたを信じたんだから。
そんなに卑屈になるのは―――あいつへは、多分一番失礼よ」
その言葉を聞いた魔物は、しばらく無言だったが。
ふと、彼女に問いかけた。
彼がずっと求めていた幸せのカギが、見つかる気がして。
「…なあ。あいつは、どんな風に生きてやがったんだ?」
「…まだ話の途中ですわよ?人の話は、最後まで聞くものではないですか?」
立ち上がった少女に、リンリンは言った。
話は、丁度佳境に入り―――青髪の女と、桃色髪の少女を殺した話を終えたところだ。
どうやら知り合いだったようだと、リンリンは醒めた心で思う。
そもそも、いくら御託を並べたところで、人間が抱いた本気の人間への殺意は抑えられない。
事実、今話した少女がそうだったではないか。
彼女は、それが修羅の道だとすら自覚せず、仇を討たんとしていた。
自分自身が守ろうとした人さえ見捨て。
あまつさえ、自ら手にかけて―――
………ああ、それをしたのは私でしたわね。
と、思考が追い付いた所で、リンリンは改めて隣の少女に目を向ける。
「それで、一体どうするんですか?
仇討ちなら、いくらでもお受けしますが」
あくまで丁寧に、相手の反応を伺う。
それに対し、リッカはしっかりと前を向いて答えた。
「そんなこと、しません。」
「…あら、意外な返事ですわね。てっきり、あの娘みたいに襲い掛かって来ると思っていましたが」
リンリンは意外と思いつつ答える。
とはいえ、それが虚勢であるだろうことは分かっていた。
彼女の頬は紅潮し、手は固く握りしめられている。
ただ、それでもリッカが手を出してこない事に、リンリンは感心していた。
「別に、耐える必要はありませんのよ?ある意味では、自然な衝動なのですから」
その頑なな姿勢に対し、彼女は揺さ振りをかけてみることにした。
もしかしたら、彼女は無意識に、アレルを勇者に仕立て上げた「一般人」の思考が知りたかったのかもしれない。
だが、彼女から返ってきたのは、あるいはあったかもしれない彼女の疑問への答えではなく、質問への答えですら無かった。
「あなたはどうして、人を殺すんですか?」
小さな声の、質問だった。
「…それを聞いて、どうするつもりですか?」
「わかりません」
震える声で、リッカは答える。
「宿屋の仕事は、どんなお客様にも公平に癒しを与えること」
そう、そんなことは分かっている。
でも。
「でも、それだけじゃないんです。
元気になった人が、笑顔で出ていくのを見守ること。そこまでが宿屋の仕事です。
だから、そのために話を聞くのは、私の仕事なんです
私にできるのは、宿屋の仕事だけだから」
だから、彼女は、出来ることを。
宿屋の仕事を完遂する。
「…いいでしょう。その代わり、後悔してももう遅いとは言っておきます」
リンリンは、目の前の少女がただの少女ではないと、その肌で感じる。
彼女もまた、あるいは戦士なのかもしれないと。
それを認め、リンリンは語りだす。
血に塗れた、勇者の話を。
「そうして、眠っていた地獄の帝王を倒して、あいつはグランバニアに凱旋した…これが、あたしの知ってるリュカの全て」
長い長い、彼の人生を語り終え、ビアンカは一息を付く。
実のところ、彼女が知っているのはそのほんの一部だけである。
彼が道中に何を考えたのか、何を思ったのかなど、ただの幼馴染みである自分には分からない。
だが、今目の前にいる、この悩める魔物に道を示すために。
彼女が知っている彼の全てを、有らん限りの言葉として、伝えようとした。
だから、後は。
前を向くのも、逃げるのも、影の騎士次第だと。
ただ、その方向が自分と同じ事になる事を祈った。
しばらくの、無言のあと。
ふと、影の騎士が立ち上がる。
そして、傍らにある―――白銀の槍へと手を伸ばす。
………駄目、だったか。
ビアンカは動かない。
どんな選択をしようと、それは彼次第だと。
だから、彼がそれを選んだなら、悔しいけれど認めなければならない。
………あいつみたいには、できなかったな…
そして、ビアンカは顔を上げた。
それと同時に―――
「あンの、馬ッ鹿野郎ォォォォォォ!!!!」
咆哮が、そして槍を叩きつけた乾いた音が、町に鳴り響いた。
「なんなんだよそりゃ!!人には幸せを語りやがって、結局は自分が幸せになれなかったら意味ねーじゃねーか!!」
その叫びは、ある意味では懺悔だった。
「それともあれか?自分はどうでもいいってか?自分とは違う幸せなヤツを増やしてやりたい、救ってやりたいなんて思ってたのかよォ!」
彼の、儚い幸せを奪った自分への。
「…クソッタレが」
未だに荒ぶる気持ちを抑えられない様子で、影の騎士は走って行った。
その後ろ姿を見ながら、ビアンカは一人呟く。
「リュカ。あたしにも…出来たのかな?」
外に出た、未だリュカの姿を保つ影の騎士は、空を見て呟く。
「…いいぜ、まだ何もわかんねぇがよ…」
その手に、たった今填めた翠色の指輪を。
「テメエがそう思ってたんなら…掴んでやるよ、幸せって奴をよ」
そして、その目に輝きを伴って。
「テメエが、そっちで嫉妬する位に…な」
決意をした影の騎士は笑う。
「だから、安心して家族と寝てやがれ」
天へ向けた槍が、僅かに瞬いた。
「…」
「だから、憎くて憎くて堪らないのよ―――あなたみたいな、他人任せにして、自分は何もしない人が」
リンリンの言葉が、だんだんと熱を帯びる。
「アレルが、それにどれだけ縛られたか分かる?」
再び、あの怒りが燃え盛る。
「あなたみたいな人間に、分かりもしないでしょう」
言い放つ。
怒りに任せ、吐き捨てるように。
そして、リッカは答えた。
「分からなくは…ないです」
「…ふざけないでもらえる?冗談なら…」
「冗談じゃありません!」
リッカは思わず叫ぶ。
「私だって、最初にセントシュタインの宿屋を任せられて、お父さんと比べられることが、本当は怖かった!」
他人の期待の重さは、知っている。
世界中の人ではなくても。
背負うことは、辛すぎると。
「ずっと、誰にも言えないで、抱え込んでて!」
押し潰されそうになって。
独りでは、耐えられなかった。
「―――だけど、私には、いたから」
―――独りでは。
「一緒に笑える仲間がいたから、だから私はこうやって仕事が出来るんです」
でも、独りじゃなかったなら。
分け合えたなら、それはあるいは耐えられるものだと。
「陳腐だけど、私は、皆がいたから生きてこれたんです」
「なら、何で」
なら。
「何でアレルは、いなくなったの?」
何で、私の親友は。
「私はあの子と、ずっと一緒に過ごしていたのに―――」
私の前から、消えたの…?
「それは、私には分かりません。
でも、あなたなら、分かるはずじゃないですか。
あなたが、その人と一緒にいたなら」
「―――そんなこと、今更言って何になるの!?」
何デ、今更気付カセルノ。
「あの子はもういないのに、どうしろって言うのよ!!」
モウ、戻レナイノニ。
「もう遅いのよ!!何もかも!!」
私ハ、彼ガ望ンダ事ヲシテイルト、
「なら、どうするんですか?」
信ジテ、
「決まっているわ。あの子を縛ったこの世界を壊す、それだけ」
イタカッタノニ、
「でも、それじゃ」
ヤメテ。
「あなたは、ずっと」
ヤメロ。
「その人に…」
ダマレ。
「五、月蝿い―――!!」
リンリンは、瞬時に拳を振るった。
相手は鍛えていないただの人間。頭蓋骨を狙えば、すぐに即死する。
そして、事実そうなった。
少女は赤い花を頭部に咲かせながら、石の壁にぶつかり、動きを止めた。
「……行かなきゃ」
リンリンは立ち上がり、ドアに手を伸ばして―――
袋の中で、何かが、壊れる音がした。
それは、ある紳士に贈られた宝玉。
彼女はそんなことは知らず、ただ去り行こうとする少女に言った。
「その人に、自分を見て欲しかったんですよね?」
何故、自分はそんなことを言っているのかなど、分からない。
ただ、考えたことをぶつけるなんて、自分らしくもないことだ。
もしかしたら、それはささやかな復讐だったのかもしれない。
真実を突きつける、なんて、ちっぽけすぎる復讐。
―――だって、やっぱり本当の気持ちは、抑えられないから。
そんなことを考えながら、リッカは目の前に迫ろうとする拳を見ていた。
もしも。
真実を、彼女が認めたなら。
その拳は飛んでこなかっただろう。
だが、ある意味で純粋すぎたその少女が認めるには、重すぎたのかもしれない。
だから、その拳は放たれた。
彼女に理解させてしまった元凶を、打ち抜くために。
そして、銀色が閃く。
「おれは、もう」
白銀の盾が、拳撃を止めた。
「ともだちを、失いたくない」
マントを翻し、騎士は呟いた。
「頼む、もう…やめてくれ」
その硬直の一瞬。
外では、追ってきた女が魔物に追い付いた、その時。
彼らに、四回目の悪魔の声が訪れる。
【A−4/ろうごくのまち前/早朝(放送直前)】
【影の騎士@DQ1】
[状態]:健康
[装備]:メタルキングの槍@DQ8、命のリング@DQ5
[道具]:基本支給品一式、変化の杖@DQ3、ゾンビキラー@DQ6
バシルーラの杖@、魔法の聖水@シリーズ全般
[思考]:あいつよりも、幸せになってやる。
【ビアンカ@DQ5】
[状態]:健康、リボンなし
[装備]:女帝の鞭@DQ9、エンプレスローブ@DQ9
[道具]:支給品一式、炎のリング@DQ5、カマエル@DQ9
[思考]:影の騎士、リッカを見守る。
[備考]:カマエルによって錬金釜の使用方法を教わっています
ビアンカの傷が治っているのはミネアのメガザルによる効果です。
第三回の放送内容をサイモンから聞きました。
【A-4/ろうごくのまち・居住区/早朝(放送直前)】
【リッカ@DQ9】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:大量の食糧(回復アイテムはなし)、支給品一式
[思考]:絶望しない、前を向く。
[備考]:寝ていたため、第二放送を聞き逃しています
【サイモン(さまようよろい)@DQBR2nd】
[状態]:騎士は、二人の"ともだち"。
[装備]:さまようよろい@DQ5、ミネアの頭の飾り、ミネアの首飾り、アリーナのマント(半焼)
アリーナの帽子、エイトのバンダナ、アレルのマント、ギュメイ将軍のファー
[道具]:なし
[思考]:リッカを見守る
“ともだち”を守る。
[備考]:マホトーンを習得、今後も歩くことで何か成長を遂げるかもしれません。
胸部につけているミネアの飾りが光り輝いています。
【リンリン@DQ3女武闘家】
[状態]:HP7/10、全身に打撲(重・処置済)、全身に裂傷(重・処置済)中度の火傷(処置済)、左腕喪失(処置済)、思考停止
[装備]:星降る腕輪@DQ3 オリハルコンの棒@DQS
[道具]:場所替えの杖[6]、引き寄せの杖[9]、飛び付きの杖[8]、賢者の聖水@DQ9(残り2/3) ふしぎなタンバリン@DQ8
銀の竪琴、笛(効果不明)、ヤリの秘伝書@DQ9、 光の剣@DQ2 ハッピークラッカーセット@DQ9(残り4個) 使用済みのハッピークラッカー
草・粉セット(毒蛾の粉・火炎草・惑わし草は確定しています。残りの内容と容量は後続の書き手にお任せします。)
※上薬草・特薬草・特毒消し草・ルーラ草は使い切りました。
支給品一式×10
[思考]――――――――――
[備考]:性格はおじょうさま
代理投下終了です。
投下乙です
投下乙です。
果たして、影の騎士は幸せになれるのだろうか。
ぎりぎりの綱渡り状態だったけど、とうとう戦いが勃発してしまったなあ
みんなどうなるんや
170 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/03/17(月) 08:51:56.93 ID:vAlNCdp80
乙、がんばれ影の騎士超がんばれ
乙
乙です
「う、あ、いたた……」
目が、醒める。
瞬間、体に激痛が走る。
先ほどの戦いで受けた傷は、一晩寝れば治るようなものではない。
ましてや、吹きっさらしの道の上では。
「……あれ?」
そこで、違和感に気づく。
痛みが残っているとはいえ、傷が塞がっていること。
自分が寝ている場所に、ベッドのようなやわらかいものが敷かれていること。
そして、隣にいるべき存在が――――
「あ、目が覚めましたか」
まるで光を纏っているような麗しい女性に変わっていたことだ。
周りを少し見渡し、何から何まで分からないことだらけの中、ゼシカは隣の女性へ真っ先に問う。
「ねえ、竜王は!?」
本来隣にいるべき、竜人のこと。
その言葉に、女性の顔に分かりやすく陰が出来た。
「……私たちがあの場所に着いたときにはもう、貴方しか」
続く言葉を聞かなくても、分かる。
今思えば、あれは最後のお願いだったのかもしれない。
最後に見せた安らかな顔も、まるで悟ったかのような受け答えも。
もう、後がないと分かっていたからか。
「……勝手に納得して死んでんじゃないわよ」
叫ぶ気力は、沸いてこない。
自分にしてみれば、まだ答えにも何にもたどり着いていないのに。
相手は自分の中で答えにたどり着き、納得したのだろうか。
勝手だ、と思ってしまう。
けれど、本当に求めるものが手に入った、命を賭してでも手にしたい物だったのならば。
ああまで満足そうな顔が出来ても、不思議ではない。
「竜王さんは」
顔を落としているところに問いかけられる。
何かを感じているのか、それとも最適な言葉が見つからないのか。
少し、言葉を詰まらせてから彼女は申し訳なさそうに口を開いた。
「竜王さんは、何かを探していらしたのですか?」
ああ、それ。と微笑を漏らしながら、ゼシカは問いかけに答える。
「愛とは何か? 母親とは、子が注がれる愛情とは何か?
……そう言ってたけどね。私にしてみればタダのエロおやじでしかなかったけど」
そんなの、人間だって知るわけ無いのに。
ましてや、これという決まりきった答えもあるわけがないのに。
奴は、竜王は、一人で納得して逝ってしまった。
確かに、それは一つの答えなのかもしれない。
けれど、それがすべてというわけではない。
一つ掴んだくらいで、何を満足しているのかと、声を大にして言いたかった。
けれど、言えなかった、言うことも出来なかった。
もう、竜王はここにいないのだから。
「そうだ、すっかり忘れてた。私、ゼシカ・アルバートよ。傷の治療、ありがとう」
そういえば、と思い出したようにゼシカは感謝の気持ちを述べる。
傷の治療どころか、柔らかい寝床まで用意してくれていたのだ。
感謝をしなくては、人間が廃ってしまう。
「いえいえ、お気なさらず。私は……何もしてませんから
傷は外にいらっしゃるソフィアさんが治療されたので、お礼はそちらにお願いします」
申し訳なさそうに頭を下げ、言葉を濁らせ、外を指さす。
傷を治療したのが別人だとしても、助けてもらったことに変わりはない。
だというのに、彼女はどこか申し訳なさを捨てきれず、表に出してしまっている。
何か、心に引っかかることでもあるのだろうか。
「あっ、私はローラと申します。よろしくお願いします、ゼシカさん」
そのタイミングで思い出したかのように繰り出された自己紹介。
飛び出してきた名前に、ゼシカはすかさず反応する。
「ローラ? へぇ、貴方がラダトーム王女のローラ?」
竜王の口から何度も飛び出していた名前。
この世で最も美しく、そして何よりも可憐な女性。
そして、竜王自身がその手で誘拐し、軟禁をしていた女性。
「……こりゃ、あの変態が躍起になるのも分からんでもない、か」
納得したくはないが、納得してしまう。
確かに、絶世の美女という単語が似合うほどの美貌。
竜王が惚れ込んでしまうのも、無理はないだろう。
もし自分が男だったら、間違いなく惚れ込んでいる。
そして、彼女の持つ魅力はそれだけではない。
彼女から、絶え間なく溢れ出している母性が、自分を暖かな気持ちにさせてくれる。
……きっと、竜王はこれに何かを見いだしたのだろう。
自分がずっと願い続けた、"愛"を。
「あの」
そこで、ローラに再び声をかけられる。
気が付けば考え込んでいたようで、心配そうに彼女は自分の顔を見つめている。
ああ、大丈夫と小さく返事をし、次の言葉を待つ。
「竜王さんとは、どのような……?」
返ってきたのは、予想通りの言葉だった。
確かに、彼女たちの世界の人間からすれば、竜王は世界を滅ぼしうる魔王だ。
そうではない面を知っている……いや、竜王はローラの前では意外と奥手だったか。
何にせよ、世の人々を絶望に落とし込む姿が強い竜王と、自分のような普通の人間がなぜ行動を共にしていたのか。
その世界の人間なら、不思議で仕方がないだろう。
「ちょっとだけ長くなるけど、いい?」
返答は、静かな頷き。
ゆっくりと、ゆっくりと、思い出していく。
ちょっと思い出したくない始まりから、今までの全てを。
ゼシカは、ローラに語り始めた。
.
弧を描く。
何かを、忘れるように。
弧を描く。
何かに、逃げるように。
弧を描く。
何かが、暴れるように。
弧を描く。
ひたすら、無心で、何度も何度も。
弧を描く。
淀んだ空の下でも目立つ白銀を振るう。
弧を描く。
息が、上がる。
弧を描く。
手が、震える。
弧を描く。
汗が、流れる。
弧を描く。
噛みしめるのは、一つの真実。
弧を描く。
自分は。
弧を描く。
弱い。
弧が、途切れる。
.
179 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/03/29(土) 01:19:43.28 ID:q+DQu6Ac0
「なーるほど、ね……まるで何も知らない子供じゃない」
話し、話され、集まっていく情報。
竜王はローラを誘拐した後、特に危害を加える事はなかったのだという。
それどころか何か恥ずかしがるように口をまごつかせ、特に何をされるでもなく数日後に洞窟に軟禁された。
その手筈も乱暴なものではなく、非常に丁寧な扱いだった。
洞窟の暮らしもそこまで不自由することはなく、強いて言えば見張りのドラゴンに話しかけてしまうくらい暇だったという。
一連の話を聞きゼシカの中で、疑念が確信に変わる。
「母性、そしてその愛、か……」
竜王が知らなかったものは、親の愛情。
「おかあさん、ですか?」
「そうね……きっと、貴方の中にそれを見いだしていたんじゃないかしら」
誰しもが受けられるはずの権利がなかったとき、それを手に入れるにはどうすればよいのか。
そんな最適解など、存在しない。
はぁ、とため息を一つ、すこしゆっくりこぼす。
「おかあさん」
ぽつり、と聞こえた、溢れ出したかのような一言。
それからローラは、目はどこかを見据えたまま、声を上げるでもなく、ただただ泣いていた。
「ちょ、ちょっと!?」
「いえ、大丈夫です……」
「ボロボロ泣いてるのに大丈夫も何も無いわよ!」
突然の事態に困惑しながらも、なんとか慰めようとゼシカは慌てふためく。
だが、何故泣き始めたのかが分からないから、どうフォローしていいものかを迷ってしまう。
「母親というのは、絶対的な存在です」
そう、慌てているうちにこぼれた一言は、重く、ゆっくりとしたものだった。
"母親"、それは何よりも強く逞しく、絶対的な存在。
頭に強烈に残っている"母親"は、本当に強い人だった。
特に子供にとっては何者にも代え難い、かけがえのない存在だ。
その存在が奪われたとき、子供がどうなるか。
そんな光景は、もう嫌と言うほど目に焼き付けた。
……なれば、はじめからその存在がいないのならば。
それを欲し始めたとき、どうすればいいのかなんて誰にも分からない。
それは、親がいる者にしか分からない感情なのだから。
「私では……私程度では、その代わりを務めることなど出来ない」
からくり人形のように動く口から飛び出す、言葉たち。
単なる一人の王女に、出来ることなど限られている。
もし、本当に自分が母親の代わりとなれるのであれば。
彼女は、あんなにも苦しまずに済んだだろう。
「……竜王さんに、謝っておくべきでしたね」
その言葉の裏に、今は亡き少女への贖罪も含めて。
ごめんなさい、ごめんなさいと、涙と共に零していく。
187 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/03/29(土) 01:22:05.33 ID:q+DQu6Ac0
「……知らない人にとっちゃ、嘘が真実であることもある」
しばらくしてから、ゼシカが口を開く。
「むしろ、嘘が真実に変わることだってある。
それが真実で無かったとしても、それを真実だと受け止める事は出来る。
だから、いいんじゃない? 少なくとも、アイツはそれで満足してたんじゃないかな」
だからポックリ逝くのよバカヤロー、と。
悪友に向けるかのような言葉の裏にも、後悔と贖罪が隠されていた。
「そうですか」
「そうよ」
しばらくしてから、ローラもゼシカの言葉の意味を理解する。
そう、知らないことだったのであれば。
本人が"それ"だと認識さえしてしまえば、たとえ"嘘"でも"真実"に変わる。
言ってしまえば、気の持ちようだと言うことか。
話す機会を、もっと作っておくべきだった。
今後悔しても遅いが、ローラはただただ、そう思った。
「……母親、か」
そこで、唐突に響くもう一つの声。
特徴的な緑の頭、腰に携えた白銀の剣。
現れた第三者に、ゼシカは警戒心を反射的に抱く。
「あ、ソフィアさん!」
だが、ローラの口から飛び出した名前を聞いて、ゼシカは瞬時に警戒心を解く。
ソフィア、自分のこの傷を治癒してくれた者。
お礼を言おうと口を開こうとするが、思うように言葉が出ない。
「……何モンなんだろうな、そいつは」
いや、出せないと言った方がいいか。
彼女を見てから、ゼシカの心の中に強烈な違和感が生まれていた。
自分を治療している場合ではないくらい傷だらけなこと。
こんな場所だというのにメイド服を着ていること。
竜王の怪力でようやく持ち上がるような剣を振るっていること。
違和感の正体は、そのどれでもない。
けれど、現に違和感はそこにある。
それが邪魔して、なんと声をかければいいのかが分からない。
「あんた……孤児?」
「はっ、そんないいモンじゃねーさ」
滑り落ちるような言葉には、即答された。
そこで、ゼシカは違和感の正体を掴む。
今のソフィアの言葉は、明らかに自虐めいた意味を含めて放たれた言葉だ。
だが、足りない。
厳密に言えば「自虐めいた言葉に必要なモノ」が足りない。
声、表情、仕草、その全てに感情が無く、ただただ、淡々と言葉を並べているだけなのだ。
機械よりも機械らしいその行動に、ゼシカは少し、恐怖を抱く。
「アタシは」
それと同時に、次の言葉が放たれる。
態とらしく切られた言葉の合間、何かを躊躇うように見えても、無感情のまま。
母親、父親、両親。
そんな存在、気が付いた頃にはいなかった。
母親を恋しいと思ったことを、父親を頼ったことも、一度もない。
自分の暮らしの中にいたのは村のみんな、自分を育ててくれたのはあの村だ。
両親なんていなくったって、人間は育つことが出来る。
なのに、両親を知らないと言うことは、不幸なことだとでも言わんばかりである。
両親の愛情というモノは、求めたいモノなのか?
求められない、たどり着けない真実は、求めたくなるのか。
未知の存在、真実。
「そうだな、アタシは――――」
振り返ろうとした頭を、切り替える。
「――――後にすんぞ」
突如として迫ってきた、魔の気配に対抗するために。
.
「……天空の勇者、か」
ざくり、と土を踏みしめて、魔王は呟く。
現れた女が携えている白銀の剣。
天空の勇者のみが持つことを許される、たった一本の剣。
かつて、主を一度滅ぼした剣を見て、魔王は鼻で笑った。
相対する女は、動じない。
ただ、冷ややかに、無感情に相手を見つめているだけ。
「私もいるわよ」
にらみ合う両者、その空気に割り込むように、もう一つの声が響く。
天空の勇者の隣、豊満な胸と栗毛のツインテールが特徴的な女が魔王を指さして言う。
「引っ込んでろっつっただろ」
現れた女に対し、天空の勇者は冷たくあしらおうとする。
いや、守ろうとしているのか。
この魔王に対し、一人で勝負になると、思っているのか。
「おかげさまで怪我はそこそこ治ったのよね、私も加勢させてもらうわよ」
だが、栗毛の女も引かず、徒手空拳を構える。
どちらにせよ、問題はない。
か弱い人間が何人徒党を組もうが、構わない。
「あ……」
そして、もう一人。
構える二人の奥から、おずおずと出てきた一人の女。
まるで黄金のように光り輝くドレスと銀色のティアラからは、彼女が高貴な身分である事が分かる。
前衛を張る二人は、彼女が出てきたことを良く思っていないようだ。
きっと、彼女には出てきて欲しくなかったのだろう。
それがあからさまに分かるほど、栗毛の女の表情は変わっていた。
だが、もう片方の女、天空の勇者は違う。
そこにあるべきモノが、剥がれ落ちたと言うべきか。
我ら魔族ですら持っているモノを持ってないかのように、何もなかった。
それでも、思考が読みとれるのは何故なのか。
「……ゲロゲロさん?」
疑問に思っているうちに、最後に現れた女が吐き捨てた言葉。
それを聞き、怪しく笑みを作り、目を閉じ、天を仰ぎ。
「……ククク、ハハハハ、フハハハハハハハ!!!」
笑う。
それがどういう事か理解していない三者をよそに、高らかに笑い続ける。
いや、一人は理解しているのか。表情からは察せないが、気配からは察することが出来る。
ひとしきり笑った後に、笑みを保ったまま言い放つ。
.
.
「ゲロゲロは死んだ」
自分の言っていることが理解できないという顔。
何が起こっているのか分からないという顔。
そして、何も無い顔。
それらを見つめたまま、言葉を続け。
「"ここ"にいるのは」
ひとまずの絶望を植え付ける、最後の一言を。
高らかに、宣言する。
「魔王、ムドーだ」
【Fー3/仮設テント前/早朝】
【ソフィア(女勇者)@DQ4】
[状態]:HP4/5 表情遺失(人形病)
[装備]:天空の剣@DQ4、メタルキングの盾@DQ6、メイド服@DQ9、ニーソックス@DQ9
[道具]:ソードブレイカー@DQ9、小さなメダル@歴代、オリハルこん@DQ9
キメラの翼@DQ3×5、奇跡の剣@DQ7、ブロンズナイフ@歴代
基本支給品*2、不明支給品・キーファ(0〜2)
[思考]:魔王に対処 終わらない 殺し合いを止める 北へ向かうのは保留
[備考]:六章クリア、真ED後。
【ローラ@DQ1】
[状態]:HP4/5
[装備]:KBP GSh-18(16/18)@現実
[道具]:なし
[思考]:生きる 今は休息
【ゼシカ@DQ8】
[状態]:HP3/5
[装備]:さざなみの杖@DQ7、おふとん@現実
[道具]:なし
[思考]:魔王に対処 首輪を外し世界を脱出する。
【ムドー@DQ6】
[状態]:HP7/10 二重人格?(ゲロゲロの人格が残っている…?)
[装備]:スライムの服@DQ9、スライムヘッド@DQ9、雷の刃@DQS
[道具]:支給品一式*4、超万能薬@DQ8、トルナードの盾@DQ7、賢者の秘伝書@DQ9、ビッグボウガン(矢なし)@DQ5
パパスの剣@DQ5、祝福の杖@DQ5,王女の愛@DQ1,デーモンスピア@DQ6、結婚指輪@DQ9
[思考]:殺し合いに乗る
[備考]:主催者がムドーをどう扱うかは未知数です。主催からアイテムに優遇措置を受けています。
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以上で投下終了です、何かありましたらどうぞ。
Wiki収録とか、URL変更告知対応とか、諸々遅れて本当に申し訳ありません。
近いうちに纏めて対応するので……
うおお、ゲロゲロ……
投下乙です
そうか、もうゲロゲロのこと知ってるのってローラだけか
どうなってまうんやろか
乙
叶うならば、ゲロゲロのことを救ってやってくれ
乙です
乙
乙です
乙
乙です
乙
一体何に対して乙なんだろう
最近のパロロワは保守する時に乙と言うのが流行なのか?
どうでもいいよそんなこと
突っ込まないと死んじゃう病気なのか
213 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/06/02(月) 00:41:49.46 ID:0Jc/BoV/0
保守
支援
乙
支援
乙です
ほ
支援
支援
221 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/07/20(日) 16:45:34.68 ID:u/tAaGDa0
しえ
222
保守
目の前に立つ、とても邪悪な存在。
少しでも気を緩めれば、飲み込まれてしまいそうなそれを前に。
一人は足を竦め、一人は気を締め、一人は力を込め。
逃げられない大魔王へ、向かっていく。
先手を仕掛けたのはソフィア。
手元に取り戻した二度と手にしたくなかった相棒を、討つべき悪へと振るっていく。
縦、縦、横、縦、横。
羽を振るうような軽い動きなのに、一撃一撃が重い。
ソフィア本人の力と、上乗せされている補助呪文が、怒濤の連撃を作り出している。
対する魔王も盾と剣で、その連撃に対応していく。
大振りの縦の攻撃を、剣で僅かに逸らし。
避ける間合いを詰めんと放つ横の攻撃は、盾で逸らし。
隙間のない高速の連携に、間を作っていく。
かきん、かきんと甲高い金属音が数回鳴り響いた後、大きくソフィアの姿勢が揺らぐ。
好機と見た魔王は、すかさず息を大きく吸い込み、間をおかずに吐き出していく。
全てを白銀の世界へと葬る、凍てつく息。
呪文も、何も間に合わず、ソフィアはそれに飲み込まれる。
「――――ベギラゴンッ!!」
間一髪のところで、あたりを包み込む炎。
白銀へ向かう真紅の業火が、互いに反発しあい、無へと帰していく。
洗練された戦闘勘と、常人では成し得ない詠唱速度だからこそ出来る早業だ。
「ローラ」
長いようで短い初手を終え、ソフィアは短く告げる。
呆気に取られていたローラは、その一言にハッとする。
「逃げろ」
用件だけ、淡々と告げる。
「ですが」
「守ってる余裕が無ぇ」
食い下がろうとするローラに、必要最低限の言葉で返す。
この間に生まれている僅かな隙間が、今は命取りになる。
一言一句のために口を開く、この時間すら惜しい。
だが、ローラには引き下がれない理由がある。
今、目の前に立っている恐怖は、世界を苦しめ、陥れんとする"魔王"だ。
けれど、ローラにとっては違う。
目の前にいるのは、心の優しい存在。
自分を、他人を守り、力なき人のために牙を振るい、そして幼子の死に涙を流す、心優しき戦士。
今は、その面影が欠片も見えなくても。
ローラは、どうしても"彼"を重ねてしまう。
だから、引き下がれない。
"彼"が戻ってくるかもしれないから。
そして、それまでに。
――――ソフィアが魔王を殺してしまうかもしれないから。
「早くしろ」
地面に縫い止められているかのように、堅く動かないローラに、再三の警告が投げられる。
最低限の意識だけをローラに向け、あとは全て、魔王へと注ぐ。
「……退けません」
返って来たのは、強い意志のあらわれ。
危険だという事も、自分に抗う力がないことも、知っている。
けれどもローラは、この場所から退くわけにはいかない。
退けば、退いてしまえば、そこで"終わる"から。
「知らねえぞ」
「はい」
短いやりとりを終えるとほぼ同時に、ソフィアが再び駆けだしていく。
刻一刻と迫る時間、その時が迫るまでにローラは道を見つけなければいけない。
魔王が、この場所の全てを恐怖に染めるのか。
ソフィア達が、魔王を打ち砕くのか。
どちらの終わりにたどり着くにせよ、それまでに見つけなければいけない。
"彼"を、取り戻す方法を。
支援
支援
紫煙
再び、連撃へと転じるソフィア。
先ほどと同じ、大振りの連撃を繰り返していく。
縦、縦、横、横、縦。
先ほどと同じようで少し違う組み合わせで、魔王の思考を惑わせていく。さらに、攻めの隙間を埋めるために、ソフィアは剣に低級の火弾呪文を纏わせた。
剣を振り抜くと同時に飛び出す火球が、弱々しいながらも小さな隙間を埋めていく。
全身全霊を以て、魔王の意識を自分に向けようとしている。
魔王の心に余裕があれば、他者を攻撃する力も起こる。
ならば、魔王の心から余裕を無くしてしまえばよい。
一瞬でも自分に意識を向けよう物なら、即刻殺害出来るような状況を作れば、ローラ達を守ることに直結する。
ましてや、今は一人ではない。
マーニャやブライのような手練れの大術士が、自分の背中には立っているのだから。
足を止める、いや、それ以上の事は出来るはずだ。
……ローラが考えていることだって、きっと。
がきん、がきん、がきん、と絶え間なく続く金属音を近くで見つめているのは、一人だけではない。
大魔術師、ゼシカもまた、そのうちの一人。
補助魔法を途切れないようにソフィアにかけ続けてはいるものの、このままでは埒があかない。
補助魔法をかけ続けていて、五分よりすこしこちらが押している程度。
それが切れたら、どうなるかは想像に難くない。
自分が打撃に加勢する選択肢は、本来の専門分野でないことを差し引いても、選べない。
ならば、今の距離から呪文を叩き込むことは出来るのではないか?
そうは思う物の、現実問題上手くいかない。
魔王に向けて呪文を撃てば、ほぼ密着の状態で剣劇を繰り返すソフィアを巻き込みかねない。
大規模な呪文であればあるほど、そのリスクは大きくなる。
故に、彼女の補助をし続けることしかできない。
直接前衛にたてない苦しみは、もう嫌と言うほど味わったのに。
だから、肉弾戦も出来るようになったのに。
いざというときに、何も出来ないではないか。
何か、何か自分にも出来れば。
それと同時に、一発の甲高い金属音が響く。
弾かれる剣と剣、後ずさる両者。
戦況が変わっていることに気がつき、ゼシカは気を引き締め直す。
再び、じりじりとした間合い管理が始まる。
どちらが先に仕掛けるのか、どちらが飛び込み、どちらが退くのか。
先走っても、出遅れても、一瞬の判断を誤れば、待つのは死だ。
「おい」
そんな限られた集中力を、ソフィアはほんの少しだけゼシカに向ける。
そして、先ほどのローラの時と同じように、必要最低限の言葉だけを選んで放つ。
「ケリつけたい、多重詠唱できるか?」
「なっ!?」
突然すぎる要求に、ゼシカは思わず驚きの言葉を漏らしてしまう。
多重詠唱、複数の呪文の意識を頭の中に別々に管理し、それをまとめて放つという荒技。
メドローアやマダンテのように、"混ぜ"る多重詠唱とは違い、それらを"分け"なければいけないと言う、別の難しさがある。
魔物たちのように無意識レベルまで落とし込み、ただの固定砲台として放ち続けるのならばまだ出来るかもしれない。
だが、今ソフィアに要求されているのはそれではない。
補助と攻撃の同時詠唱。今の補助を保ったまま、攻め手を作れと言うことなのだろう。
即興で出来るかどうかは分からないが、やらなければ状況は変わらない。
すうっと息を吸い込み、意識を綺麗に二分に分け、二つの流れを作っていく。
支援
支援
それを確認したソフィアが、同時に魔物へと飛び込んでいく。
「攻めが出来たら、アタシに撃て!」
「っ!?」
とんでもない一言を、ゼシカに残して。
一瞬、気が乱れそうになるが、ここで乱しては補助が間に合わなくなってしまう。
冷静さを取り戻し、二つの流れを保ち続ける。
どういうことなのかは分からないが、ソフィアは「自分に撃て」と言った。
「――――フバーハ」
策あってのことなのか、いや、無いのならばただの自殺行為だ。
三人まとめて仲良く死にましょうなんて考えるバカだとも思えないし、策がある以外のことは考えにくい。
「――――ピオリム」
ならば、撃つしかない。
幸い、標的を一人に絞れることが、今の二重詠唱をギリギリのところで支えて居られる救いでもある。
「――――バイキルト」
彼女が何を考えているかは、後に分かるのだ。
今は、ただ。
「――――集え、深紅の炎」
出せる、全力を放つのみ。
「メラッ、ゾーーーーマ!!」
腹の底から絞り出す叫び、指先から迸る炎。
飛び出して行くと同時に、あたりの時間がゆっくりと遅くなる。
まっすぐ、まっすぐ、ソフィアへと向かっていく炎。
その間にも、ソフィアは魔王と剣戟を繰り広げている。
かきん、かきんと先ほどよりも間の空いた金属音が、ゼシカの耳に一個ずつ届く。
その間にも、炎はゆっくり、ゆっくりとソフィアへと向かう。
まだ、ソフィアは炎の方を向かない。
撃ったことを認識しているのか、自分の声は聞こえているのか。
極度の集中で、他に意識が割けないのか。
本当にソフィアにめがけて撃って良かったのか。
思考は高速でぐるぐると回る。
思考に反して周りの時間がゆっくりだから、考えなくていいことまで考えてしまう。
いや、彼女を今は信じるしかない。
策なしの気狂いで、あんな事を言えるわけがない。
というより、もう撃ってしまったのだから後悔しても遅いのだ。
何もなければ、彼女は炎に包まれる、ただ、それだけ。
そして、ゆっくりと加速し始めた世界につられ、火球がソフィアの元にたどり着かんとしたとき。
ソフィアはここぞとばかりに剣を両手で握り。
素人のような構えで、大きく振り抜いた。
もちろん、魔王を名乗る者がそんな攻撃を避けられない訳がない。
軽々としたステップで、素人の攻撃を避ける。
これでソフィアは隙だらけ、一気にとどめを刺すことだって出来る。
そう思っていられたのは、ほんの一瞬だけだった。
にやり、とソフィアが笑っていたことに気づいたのは、避け始めた直後のこと。
魔王の華麗なステップに合わせて振り抜かれた剣の軌道上に、それは見事に真紅の火球が入り込んできた。
かきん、と甲高い金属音が聞こえたのは気のせいか。
魔力を纏った剣によってねじ曲げられた火球は、速度をさらに増して魔王へと突き進んでいく。
斬撃を丁度のタイミングで避けていた魔王の体は、隙だらけだ。
慌てて防御の姿勢を取るが、間に合わない。
体を包む炎、身が焼ける臭い。
身をよじりながら、その炎を消していく。
当然、そんな姿を黙ってみているわけもなく、ソフィアはここぞとばかりに連撃を叩き込む。
五分で拮抗していたはずの攻めが、大きくソフィアへと傾いていく。
支援
支援
「調子にぃ! 乗るなァァッ!!」
黙って攻め込まれる訳にも行かず、魔王も大きく剣を振るう。
大振りの一撃は流しきれないと判断し、ソフィアは間合いをはなす。
戦局が再び振り出しに戻る中、ソフィアだけが涼しい顔をしている。
「すごいわね、どこで習ったの?」
若干の余裕が生まれたからか、ゼシカはソフィアに話しかける。
魔力を剣に纏わせて切りつけるのは、ギガスラッシュの類で見たことがある。
だが、剣で魔力をはじき返すのは、さすがに初めての事だった。
放たれた魔力を剣に纏わせ、それを瞬時に自分の魔力として放つ。
原理は分かっても、それを正確無比に行えることに、ゼシカは素直に感心していた。
「……ハーちゃんが教えてくれた」
相変わらず無表情で告げるソフィアの声が、少しだけ曇る。
教えてくれた、と言うよりは技術を盗み、応用したというべきか。
嘗ての仲間にもう一度感謝して、ソフィアは再び剣を構える。
「まだ、撃てるか」
ほんの一言、様子をうかがう言葉を投げる。
「正直キツいわ、出来てあと1、2回ね」
上手くできてはいるものの、通常の詠唱に比べて二重詠唱は精神的な疲労と集中力の削れ方が倍以上違う。
普段ならなんてことない軽い呪文ですら、彼女の力を蝕んでいる。
長期戦になるのは、避けなければならない。
「十分」
だから、一気にケリをつける。
感触は掴んだ、あともう少し、あともう一歩踏み込めば、倒すことが出来る。
じり貧でやられてしまう前に、倒しきることが出来る。
このチャンスを逃さないために、ソフィアは地面を蹴る。
「いくぜェッ!!」
一気に魔王に肉薄するソフィア、反応して対応する魔王、そして二重詠唱を始めるゼシカ。
舞台は、一度目の転換を迎える。
動揺していた。
天空の勇者とは言え、自分がたった二人の人間にここまで翻弄されていることに。
苦戦することはない、そう思っていたのに。
何でもない攻撃と、何でもない呪文に、ここまで翻弄されている。
「グルアアアアオオオゥ!!」
空から稲妻を呼び寄せ、四方八方に散らせていく。
そして稲妻が落ちる頃に、極冷の息と灼熱の息を織り交ぜながら吐いていく。
接近戦を挑まず、範囲攻撃で状況を打破する、その為の選択肢。
何より自分が体勢を整えるための、僅かな時間を生むための隠れ蓑。
熱気と冷気が入り交じる空気の中、魔王はゆっくりと心を落ち着かせ、剣を構え直す。
「イオラ」
程なくして、天空の勇者が呪文を唱える。
こもっていた空気が吹き飛ばされ、常温の世界が広がっていく。
攻撃の為ではなく、かき消すわけでもなく、進む道を作るための一手。
易々と接近されてしまい、再び剣の打ち合いに持ち込まれてしまう。
焼けた肌のせいで、剣と盾を上手く操ることが出来ない。
なんとか弾いている今の状況が続けば、より劣勢になるのは自分だ。
何か、何か無いのかと思考を張り巡らせる頭が、異変を感じ取る。
大きな魔力の流れと、ゆっくりじっくりと練り上げられるそれ。
先ほどと同等、いやそれ以上の火球が、迫ろうとしている。
支援
魔術師を叩くべきか、と一歩前に踏み出す前に、天空の勇者がその足を縫い止めてくる。
このままなら、先ほどよりもひどい形で直撃は免れない。
そうこうして数度の金属音を奏でているうちに、練り上げられた魔力が予想通りの姿で現れた。
それとほぼ同時に、会心の一撃を叩き込まんと飛び上がる天空の勇者。
勇者を止めれば、火球の餌食に。
火球を止めれば、勇者の餌食に。
二者択一、どちらを受けても致命傷。
ぐるぐるぐるぐると巡る思考の中、脱出の策を練る。
そして、もう少しで魔王の脳天に剣が叩き込まれんとしたそのとき。
「がッッ!」
「きゃっ!」
二つの苦悶の声が、ほぼ同時に漏れる。
天空の勇者の腹部には盾がめり込み、魔術師の肩には剣が鋭く突き刺さっていた。
回答は単純な事だ、武器を投げ捨てる事によって、たった一回の弾丸を放ったのだ。
飛ばすことに向いていない盾を近距離の天空の勇者に、鋭く真っ直ぐ飛んでいく剣を魔術師に放り投げた。
結果、自分に意識が向きすぎていた二人は、それをモロに食らってしまった、ということだ。
思考を張り巡らせて得た僅かな時間で、魔王は火球へと対処する。
火球を打ち消すのではなく、火球を我が物とすべく。
灼熱を含んだ口を大きく開け、熱と熱を触れ合わせて一気に吸い込んでいく。
すっかり勢いを失ってしまい、地へと落ちた天空の勇者へ、その熱を吐き出していく。
ほぼ無防備の体に、熱が襲いかかる。
だが、天空の勇者もそれを黙って受けることはせず、手に持っていた盾を素早く構えて薙ぎ払う。
補助が掛かっているとはいえ、真正面から炎を受け止めることには変わりない。
魔物とは違う、人間の肌が焼ける嫌な臭いが、一瞬であたりを包んでいく。
隙間を縫って取り出した水差しがなければ、腕の一本は失っていたかもしれない。
「……ずいぶん人間臭ェことするじゃねえか」
炎の始末を終え、ゆっくりと立ち上がり皮肉を吐く。
それに答えはなく、ただ魔王は天空の勇者をじっと睨んでいる。
両者ともに手札も体力も限界を迎え始めている。
魔王は新たに槍を構えて。
天空の勇者は剣と盾を構えて。
魔術師は息を整えて。
動き出す舞台が、終盤を迎えようとしている。
その舞台をただ一人、姫は見つめ続けていた。
手に――を握りながら。
「ちっ、めんどくせェ!」
魔王が取り出した槍の射程のギリギリ外から、ソフィアは攻めの切り口を作ろうと剣を振るいながら間合いを取る。
だが、根本的なリーチ差は解決しようがない。
ましてや、相手が持っている槍が「出来るなら掠ることも避けたい槍」なのであれば、なおさら難しい。
今、疲弊しているこの体に致死性の毒を入れるわけにはいかない。
となると、どうしても動きが退け腰になってしまう。
傷口を省みずに突っ込むことなら今すぐにでも出来るが、それでは明らかに自分の命が持たない。
槍の穂先を剣で懸命にずらし、肌に触れないようにしつつ対応策を考える。
そう、弱っているのは自分も相手も同じ。
自分の戦術もいつ崩れるか分からないし、魔王もいつ体勢を崩すか分からない。
たった一点の隙を突くためには、出来る限り優位に立っていなければならない。
だから、ソフィアは。
「ほう……」
呼吸を整え、自らの剣を槍のように構える。
相手とほぼ同等のリーチを得るために、攻撃の範囲を絞っていく。
仮に外せば、死に繋がりかねない状況が、再び両者共に生まれる。
はじめの激しい剣戟とは違う、じりじりとした間合いの詰め合い。
一歩退くのか踏み込むか、動くのか止まるのか。
似たようで違う駆け引きが、繰り広げられている。
「いつでもいい、ありったけを込めて撃て」
そんな中、ソフィアはゼシカに一言だけ投げる。
最後の最後、残された魔力を全て火球に注げという指示。
それでどうなるのか、何が変わるのか。
ゼシカには到底予測も出来ないが、もうやるしかない。
二重詠唱の時点で乗りかかった船なのだ、今更降りられる訳がない。
もうボロボロの集中力で、なけなしの魔力を練り上げて、火球を作っていく。
その間にも、睨み合う両者は動かない。
ただただ、じっと相手の動きを待っている。
スクルト ピオリム バイキルト フバーハ
"防御強化"も"速度強化"も、"筋力強化"も"防護壁"もいらない。
メラゾーマ
ただ、ただ、"特大火球"へつぎ込んでいく。
「荒れ狂え、地獄の使いよ――――」
真っ直ぐ、真っ直ぐのばした腕は、天空を掴むように。
「――――行ッッけェェェエエエエエ!!」
そして、その腕を地面へと一直線に、振り抜く。
飛び出した火球とほぼ同時に、両者が動く。
魔王は当然、その火球を避けながら勇者の虚を突ける隙間を探す。
火球の直線上を逃さず、かつ勇者を射程にとらえたまま、間合いを維持していく。
当然、ソフィアが打たせたメラゾーマはカモフラージュで、何か狙いがあるのだろうと、思っていた。
魔王も、仲間であるゼシカですらも。
だが、ソフィアは違う。
高速で迫る火球をちらと見てから、あろうことか"火球へ向かっていった"のだ。
だが、魔王はすぐに冷静さを取り戻す。
どうせもう一度、火球の進む向きを変えて奇襲をしようとしているのだと。
そして、自分はもうそれに対応できるのだと、自分に言い聞かせていく。
ゆっくりと槍を構え、これから起こることに対応しようとしていく。
そう、自分をめがけて真っ直ぐに飛んでくるのは火球。
それさえ処理できれば、あとは呆然とした勇者を処理するだけ。
そう言い聞かせたい、そう言い聞かせたいのに。
「おぉぉぉうりゃああああああ!!!」
ソフィアは、何の迷いもなく火球に向かっていた。
魔王に隙を晒すことすら厭わず、全力で駆け抜けていた。
襲い来る"何か"に、魔王の全身が身構えた瞬間。
ソフィアは、火球に向かって"跳び蹴り"をかました。
「なッ――――」
思わず、声が漏れる。
その一瞬の驚愕が、命取りであった。
ソフィアは、ただ火球を蹴りに行ったわけではない。
直前に火球に向かって投げたモノ、それは呪文に対し抜群の耐性を誇るメタルキングの盾。
その盾の正面を火球にぶつけるように投げ、そして自身はその盾をめがけて"飛びかかった"。
普通ならば、扱う者が盾の力を利用することで、少しの力を加えれば呪文をある程度弾くことが出来る。
だから、火球の進む方向に盾を投げ、それを足場にすることで、ある種の強力な"バネ"と変わる。
ぐぐっ、と足に力を込めて、折り曲げた足を一気に伸ばす。
反発し合う力の一方が瞬間的に弱まることで、まるで火球がソフィアを押し出すように吹き飛ばす。
その加速力を一心に受け、ソフィアは片手に持った剣を真っ直ぐに伸ばす。
狙いは魔王の心臓、ただ一つ。
「らぁああああ!!」
弾丸のように射出される彼女の体と剣が、一瞬で魔王へと迫っていく。
とっさに身をよじり、致命傷になることだけは避けたが、天空の剣は魔王の体に深々と突き刺さっていた。
先手を取られたが、逆を返せば今は"最大の好機"でもある。
右手に握った槍を、肉薄しているソフィアへと突き刺そうとする。
「呪文が飛ぶのは――――」
ぴくり、と力を込めたとき、ぼうっと青白い光が溢れ出す。
「――――後ろからだけじゃねえぜ」
それが、勇者の雷であることに気がついた時には。
「ギッガッ、デイイイイイイイン!!」
振り抜かれた拳と共に、魔王の体を雷が飲み込んでいた。
雷に身を焦がし、地に伏せた魔王の体は、黒に染まっていた。
倒れ込む前に剣を引き抜き、数歩後ろに下がった場所で、ソフィアは様子を伺う。
「ちっ……」
予想通り、と言えば予想通りか。
錆び付き今にも朽ち果てそうな動きと共に、魔王がゆっくりと立ち上がる。
「オノレ……」
禍々しい呼気と、どす黒い殺意が、あたりを一瞬にして支配していく。
「オノレェェェェ!!」
ソフィアは、魔王を滅ぼすために剣を構える。
そして、たった一歩を踏み出そうとしたとき。
「ガァァァァッ!!」
軽い炸裂音と共に、魔王が軽くのけぞり、苦悶の表情を浮かべる。
間髪入れず、数発の炸裂音が響く。
恐ろしいほど冷静な射撃に、魔王は耐えきれず後ろに倒れ込んでしまう。
「お前……」
「ソフィアさん」
無表情のまま驚くソフィアに、ローラは被せるように答えていく。
「ここからは、私に戦わせてください」
痛みに悶えながらも起きあがろうとする魔王を、その両目でじっと見据えたまま。
一息ついてから、落ち着いた声でソフィアが釘を刺す。
「手負いの獣は容赦が無ぇ、十中八九死ぬぞ」
忠告はもっともだ。
先ほどのソフィアへの攻撃の様から見ても、もう体裁など保っていない荒削りな攻撃を繰り返している。
そんな相手に、たった一人で戦いを挑もうとしている。
「それでも……私は、納得できないんです」
それだけの理由が、ローラにはあった。
「あんなに綺麗な涙を流せる人が、魔王だなんて」
今、目の前に魔王として君臨している彼は。
正義のために刃を振るい、友の死を悼み、小さな少女に優しく接することが出来る、少し不思議な魔物のはずなのだから。
「だから、私に話すチャンスをください」
ローラは、はっきりと覚えているその姿を、捨て去ることが出来なかった。
だから、最低限の武器だけを手に、彼女は"彼"を呼び覚ましに来た。
確固たる、意志と覚悟と共に。
「……殺されても知らねえぞ」
それを察したのか、ソフィアは短く一言、最後の忠告だけを告げる。
「大丈夫です」
にこり、と柔らかなほほえみと共に、ローラはソフィアに軽いおじぎをする。
「私には、アレフ様がついてますから」
そうして魔王へと歩みを進めていく彼女の姿に、"誰か"が重なる気がした。
「ちょっ、止めないの!?」
やたらあっさりと見送ったソフィアを、ゼシカは激しくなじる。
「あいつは――――」
だが、ソフィアは動じず、ゼシカの目を見て答えを返す。
「"理由"が、欲しいんだと思う」
ローラがこうまでして、対話を選んだ理由。
それは、他でもない"なぜ彼は魔王なのか?"というのを、突き詰めるため。
「それは"真実"でもあるんだ」
直結する"答え"。"ゲロゲロ"か"ムドー"か、本当はどっちなのか。
このまま"ムドー"のまま殺してしまえば、それは分からなくなる。
「……それを分からずに、有耶無耶にしたくないんだよ」
だから、ローラは前に出た。
ここで前に出なければ、もう一生前に出ることなんて無い。
理由を聞くことも、真実を知ることも、出来やしない。
「アタシには……いや、誰にも止められない」
ソフィアは、いやソフィアだから、余計に止められない。
自分だって、いろんな"理由"と"真実"を追い求めてきた。
彼女のそれを阻害する権利なんて、そんなものは世界の神にすらありやしない。
「見届けようぜ、アタシらは、もう主役じゃない」
息巻いていたはずのゼシカも、ソフィアのその言葉にあっさりと引き下がる。
舞台は最終幕、前座のにぎやかしが活躍する場面は、もう終わったのだ。
脇役は脇役らしく、その終演を見届けるだけ。
支援
「ゲロゲロさん」
ようやく起きあがった魔王に、ローラはやさしく声をかける。
それは、本当に聖母のような美しい声で、後ろで聞いている二人ですら、思わずうっとりしてしまうほど。
「覚えていますか? 初めて会ったときのこと」
魔王は両手をだらしなく垂らし、まるでゾンビのようにローラへと向かう。
そして子供でも避けれそうな速度で、腕を振るう。
「あのバラモスを相手に、あなたは果敢に戦ってくれましたね。
タバサちゃんを、みんなを、守ってくれましたね」
数発の炸裂音。
魔王は再びのけぞり、仰向けに地面へ倒れる。
「私も、あなたに助けられました」
ローラは銃を両手で真っ直ぐ構えたまま、言葉を続ける。
両目は、しっかりと魔王の姿をとらえながら。
「それも、一度ではなく、二度も」
吐き出すのは、言葉だけではない。
溢れ出すのは、感情だけではない。
飛び出すのは、銃弾だけではない。
「あの爆発の時だって、あなたは私を真っ先にかばってくれました」
数発の炸裂音。
数歩歩いてから腕を振り上げようとした魔王に、銃弾が刺さる。
「それから……タバサちゃんの死を、一緒に悲しんでくれました」
ローラは言葉を止めない。
ローラは射撃を止めない。
ローラは感情を止めない。
「……そして、私を守ろうとどこかへ走り去っていった」
前を向くと決めたから、自分の信じるものを信じると決めたから。
一人でしかできない、弱い考えを捨てて。
信じる道を、突き抜けていく。
「その先で何があったのかなんて、知りません」
涙はその悲しみを捨てるために。
銃弾はその怒りを捨てるために。
美声はその全てを捨てるために。
「けれど、何があったとしても、私は、私にとってあなたは」
彼女は、吼える。
「心優しい魔物、ゲロゲロさんなんです!!」
一筋の、涙と共に。
一瞬のことだった。
ゆっくり、ゆっくりとローラに歩み寄っていた魔王は、ローラを目前にして、不可避の速度で腕を振り抜いた。
何かに気づいたソフィアとゼシカが声を出す間もなく。
ざぎゅり、と鈍い音と共に、ローラの腹部が貫かれ、そのままゆっくりと持ち上げられる。
慌てて剣を手にし、駆け寄ろうとするソフィアの足下に届いたのは、一発の銃弾。
それは、確かにローラの銃から放たれた拒絶の一発だった。
「……やっと」
血の塊を吐きながら、ローラは笑う。
宙に持ち上げられても、激痛が身を襲おうとも、威嚇のような声をあげつづける魔王を見てもなお。
彼女は聖母のように、笑う。
「やっと、目を合わせてくれましたね」
今まで俯いて、目を合わせようとしなかった魔王が。
やっと、やっと、自分と目を合わせてくれたから。
「信じていますよ」
そして、その目からローラは全てを読みとる。
言葉も何も、必要としない。
たったそれだけで、全てが分かったから。
「"ゲロゲロ"さん」
どん。
魔王の胸に押し当てられた銃が奏でる音が、突き抜けるように天高く響く。
舞台は幕を閉じた。
優しき姫は眠るようにこの世を去り。
邪知暴虐の限りを尽くした魔王は、沈むように倒れ込んだ。
あっけない、あまりにもあっけない幕切れだった。
もし、ここに観客がいたのならば、今頃ブーイングの嵐だろう。
何を言ったところで、もう何も変わらない。
血の海に浮かぶローラは、起きあがらない。
彼女は、魔王の腕に貫かれて死んでしまった。
ただ、静寂だけがそこにあった。
ひゅうう、と冷たい風が吹く。
ざわざわと風に煽られた森がざわめく。
それは、まるで二人をあざ笑うかのようで。
「うるせえよ」
思わず、言葉が漏れてしまった。
.
支援
ちょうど、そのときぐらいか。
ぼうっと柔らかな光が、魔王を包み込んだ気がした。
その光で、ソフィアはどこか懐かしい気持ちになった時。
倒れ込んでいた魔王が、ゆっくりと起き上がり始めた。
┌────────────────────────────────────┐
|なんと!! 魔王ムドーがおきあがり、仲間にして欲しそうな目でこちらを見ている!!.|
└────────────────────────────────────┘
何が起こったのか、はじめは分からなかった。
だが、明らかに優しすぎる気配と、殺意を失った目。
あわてて戦闘態勢に入ろうとするゼシカを止め、ソフィアはじっと魔王を見つめる。
┌────────┐
| 仲間にしますか?.|
└────────┘
┌────┐
| はい |
| いいえ |
└────┘
.
支援
彼を信じ切り、全てを託した天使の力か。
はじめに彼に心を開いた少女の力か。
それとも魔物を愛し、全てを愛し通した男の力か。
今、そこで眠る姫が残した愛の力か。
はたまた、ここの誰でもない別の力なのか。
何が理由で、今こうなっているのか。
いや……そんなことは、どうでもいい。
「……名前を、つけてやる」
刻むべきことが、ある。
彼女が身を挺してまで成し遂げたことを、刻まなくてはいけない。
だから、ソフィアは"証明"を見届けた証を、刻む。
「お前は――――」
名付け、それは重要な儀式。
この地で、少女によって行われた、魔物と人を結びつける大事な儀式。
それを通じて、ローラとみんなが彼を愛し続けたことを。
他の誰でもない、彼に刻む。
┌────────┐
| 仲間にしますか?.|
└────────┘
┌────┐
|→はい |
| いいえ |
└────┘
「ゲロゲロ、お前の名は、ゲロゲロだ」
ぽとりと落ちた一粒の涙。
それは他の誰よりも優しい、透き通った一粒だった。
┌──────────────────┐
|ゲロゲロは、嬉しそうに仲間に加わった!!|
└──────────────────┘
愛するものを信じた王女の愛。
愛する者と誓った男と女の愛。
愛されるものが覚えていた愛。
いつか歌った歌は、ここにある。
【ローラ@DQ1 死亡】
【Fー3/仮設テント前/早朝】
【ソフィア(女勇者)@DQ4】
[状態]:HP2/5、MP1/4表情遺失(人形病)
[装備]:天空の剣@DQ4、メタルキングの盾@DQ6、メイド服@DQ9、ニーソックス@DQ9
[道具]:ソードブレイカー@DQ9、小さなメダル@歴代、オリハルこん@DQ9
キメラの翼@DQ3×5、奇跡の剣@DQ7、ブロンズナイフ@歴代
基本支給品*2、聖なる水差し@DQ5
[思考]:終わらない 殺し合いを止める 北へ向かうのは保留
[備考]:六章クリア、真ED後。
【ゼシカ@DQ8】
[状態]:HP2/5、MPほぼ0
[装備]:さざなみの杖@DQ7、おふとん@現実
[道具]:なし
[思考]:首輪を外し世界を脱出する。
【ゲロゲロ@DQBR2nd】
[状態]:HP1/5
[装備]:スライムの服@DQ9、スライムヘッド@DQ9、雷の刃@DQS
[道具]:支給品一式*4、超万能薬@DQ8、トルナードの盾@DQ7、賢者の秘伝書@DQ9、ビッグボウガン(矢なし)@DQ5
パパスの剣@DQ5、祝福の杖@DQ5,王女の愛@DQ1,デーモンスピア@DQ6、結婚指輪@DQ9
[思考]:ゲロゲロとして、生きる
[備考]:ムドーが死に、彼が呼び覚まされました。
主催者が彼をどう扱うかは未知数です。主催からアイテムに優遇措置を受けていました。
----
以上で投下終了です。
何かありましたら、どうぞ。
支援
おお……
愛が、愛が残っていたか
投下乙でした
単に言葉を投げかけるだけでなく撃ちながら、銃で撃ちながら、というのが心に来た
そして眼か。
こちらを見ている、だからこその眼か。やばいな、じんわりきた
投下お疲れ様です! やっぱりローラさんはすげぇや。
そしてソフィアの引き際が、何とも言えない。辛かったろうになぁ。
なんというか、胸を突かれる感じでした。
277 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/08/08(金) 00:57:42.89 ID:oaf09DdW0
投下乙。
名前を呼ぶことの大切さ、目を合わして言葉を交わす彼らの最後。
そして、ゲロゲロ復活とこれ以上に真っ直ぐな話。
ソフィアもいつかは救われるのかと期待させられるなあ。
ゲロゲロを助けられるのはもうローラさんしかいないだろうし、それはきっと命がけになるとも思ってた
それでもローラさんには生きていてほしかった
投下乙です
投下乙
これは予想してなかったなー、失われた命はあったけど清々しい読後感でした
現在位置ツールなのですが、現在@pagesがPerlの提供を止めているため更新できません。
サーバーの移転にも時間がかかるので、次回投下時に文字ベースで現在位置まとめを投下する予定です。
ついでといっては何なのですが、次の私の投下でほぼ全パート早朝入りするので、そのまま放送まで行きたいと思うのですがいかがでしょうか?
ジャミラスあたりに放送前にしかできない何かをさせたい方がいるとかでないなら、大丈夫かと思います
もう放送行きの時期とは……ほーう、そうなんですか。
問題ないかと思います
子供の泣き声がする。
耳をつんざく甲高い声が、こびりついて離れない。
どうにかしようと、泣き声のする場所へ足を向かわせる。
そこで泣いていたのは、輝く銀髪の、少し小生意気なつり目をした、そこらへんに居そうな子供。
そう、それは他の誰でもなく、自分だった。
ああ、小さな頃はよく泣いていた。
何かあれば姉に縋りついていたのは、今でもはっきり覚えている。
結局、そこそこの年齢になるまでは、ずっとそんな調子だった。
タイジュの国に行ったのは、その頃だったか。
ワルぼうに姉が連れ去られ、右も左も分からなくなっていた時に、ヤツは、わたぼうは現れた。
あのとき、間違いなく大変だっただろう。
姉が突然いなくなってしまった事実を受け止められず、わんわんと泣き続ける俺が話せるようになるまで、根気よく慰めてくれたのだから。
元々の狙いは姉さんだったから、手ぶらで帰るわけにもいかなかったのか。
仕方がないから俺を選んだ、ということだったんだろう。
でなければ、あそこまで根気よく慰める理由がない。
まあ、理由はどうあれようやく泣き止んだ俺は、わたぼうについて行くことにしたのだ。
そこから始まったのは、冒険の日々。
ちっぽけなスライム一匹から始まったそれは、とても不安な日々だった。
わき上がる不満、言うことを聞かない魔物。
初めての敗北も、挫折も、あの日々で味わった。
けれども、あの旅を続けられたのは、その先に姉さんがいたからだ。
姉さんを助けられるのは、自分しかいない。
そんな強い気持ちが、あの時の俺を動かしていた。
思い返せば、初めてのことだった。
姉を頼らず、一人で何かを成し遂げたのは。
そして、この時から芽生え始めていたのだろう。
姉を、自分のこの手で守り抜きたいという、気持ちは。
星降りの夜を経て、元の世界に帰ってきた俺たちを待っていたのは、残酷な現実だった。
あのクソッタレな王と、ギンドロ組の連中によって、姉さんは連れ去られた。
俺たちを養ってくれていた老夫婦に、連中に抗えるだけの力があるはずもなく。
小さな俺一人が刃向かったところで、結果は何も変わらなかった。
拳一発で吹き飛ぶ俺と、泣きわめく姉さん。
男たちは何のためらいもなく拳を叩き込み、姉さんを黙らせた後、連中は笑いながら俺たちの元から姉さんを連れ去っていった。
残されたのは、たった数枚の金貨。
あの時の金貨の輝きは、今でもはっきりと覚えている。
きらきら輝くものが一番汚いことも、あの時に覚えた。
そして、もう一つ。
どうしようもない悔しさが、俺の中に残った。
何が姉さんを守るだ、何が姉さんを救うだ、何が"モンスターマスター"だ。
何かがあったとき、他人は決して助けてくれない。
"助け"は、自分でつかみ取らなければいけない。
そう思って、いつしか俺は剣を掴んだ。
毎日毎日、遠くに写る城を睨み。
あの場所に居る姉を救えるほどの力を手にするために。
俺は、俺より強い奴に会いに旅に出た。
何千何万、戦いの場を潜り抜けた。
ただただ、強くなることだけを求めて。
剣も槍も拳も槌も牙も、武器と名のつくものは、片端から使い、鍛錬に勤しんだ。
いつどこで、どんな形で姉を救えるかは分からない。
そのときに、また力が無くて救えないなんてことを招かないために。
"姉が救えない"という可能性を一つ一つ潰すために、ありとあらゆることを極めた。
強さを求めるためだけに、魔物にも魂を売った。
奴を越えればもっと強くなれる、どんな存在にも、姉を奪われることは無くなる。
そう信じて、剣を振るい続けた。
どれだけ罵られようと、どれだけ迫害されようと、力を磨くことだけは、忘れなかった。
そんな日々を過ごすうちに、思いもよらないことが起きる。
まさか、知らない男と共に姉が突然目の前に現れるなんて、考えもしなかった。
そして、瞬時に味わう二度の圧倒的敗北。
たった一人で俺を下し、そしてデュランすらも圧倒した男。
ロッシュ、あいつに出会ったのはそれが初めてだった。
そして、姉さんはその男の傍にいた。
……ああ、姉は力がある男に救われたのだ。
結果と課程はどうあれ、ロッシュは姉を守り続けて来た。
俺よりも何倍も強い力で、俺よりも何倍も卓越した技術で。
かなわないと、初めて思った。
同時に、これではダメだとも思った。
まだ、自分は弱すぎる。
今はロッシュという存在がいるからいいものの、彼が居なければ誰が姉を守るのか?
いつまでもロッシュは姉の傍にいてくれるわけではない。
だから、俺が、この俺が、もっともっと強くなって、俺一人で姉を守れるようにならなくてはいけない。
ロッシュたちについて行ったのは、自分がもっと強くなるためだ。
こんな強い連中が倒しにいくのだから、"魔王"とやらはさぞかし強いのだろう。
そんな存在を圧倒できる、それだけの力を手に出来る。
そして何より、俺より強い人間と、手合わせをしてもらえる。
"強く"なるのに、これ以上ない好環境に、俺は飛び込んでいった。
迫り来る強敵たち。
新たな力、新たな武器。
ロッシュに追いつけ追い越せと、力を磨いた。
魔王デスタムーアを倒した後ですら、俺は単純に力を求め続けた。
どの世界でも、誰も俺に勝てないほど強くなるために。
そうして今、この殺し合いに巻き込まれた。
口うるさいながらも、寂しがり屋の女に出会い。
ハッサンに匹敵するほどの力を持ちながら、羽のように軽い動きを繰り出す女に出会い、追いつめられ。
おっさんを抱えて井戸に飛び込み、輝くオーブに飲み込まれ。
そして、目覚めた先から動いた先で出会ったのは。
ボロボロの体を引きずり、血眼になって俺の"仲間"を殺しにくる、姉の姿だった。
「――――ッ!!」
脂汗をにじませながら、飛び起きる。
この場所に招かれたから一睡もしていないとはいえ、少し長く寝過ぎたか。
相手は"夢"を操る魔王でもある、あまり"夢"に浸るのは危険かもしれない。
汗を拭い、頬を軽く叩き、目を覚ましていく。
ふと、隣で寝息を立てているマリベルを見る。
狼を枕にしてすやすやと寝息を立て、幸せそうな顔で寝ている。
自分の例もあるので、起こしてしまおうかと思ったが、十中八九文句を言われることは間違いないので、そっとしておくことにした。
ふぅ、と軽く一息をつく。
「あ、起きた?」
そこに飛び込んできたのは、眠る前に合流した男、カインの声。
「っ、何があった!?」
声のする方に振り向くや否や、テリーはカインを問いつめていく。
全身から流れ出している血、明らかに引きずっている手足、どう見てもただ事ではないのに。
「……"覚悟"の代償、かな」
少しはにかんだ笑いを浮かべてから、カインは顔を逸らす。
鼻を突くのは、"二つ"の血の臭い。
何があったのか、詳しく語ろうとしないカイン。
けれど、テリーは"分かって"しまう。
カインが逸らした目、少しだけ上擦った声。
少し前の自分と、全く同じだから。
「それより、さ」
察されたことに気づいたのか、カインは話題を切り替える。
とんとんとん、と人差し指で三度同じところを叩く。
テリーは最初は何を意味しているのか分からなかったが、ふとその違和感の正体に気づく。
そこにあるべきものが、無い。
「首輪、外し方分かったよ」
それと同時に、衝撃的な一言が告げられる。
この場所の、唯一にして最大の枷。
チャモロの命をいとも容易く奪った、この首輪を外すことが出来ると、カインは言っている。
そこで、テリーは一瞬にして顔色を変える。
「って、おい!? そんなこと、口にしていいのか!?」
「その心配はないよ」
柄にもなく焦りの声をあげるテリーに、カインは素っ気なく対応する。
両手に広げられたのは、外された首輪の残骸。
何もなく、ただ、首輪だけ。
「中には何も入ってない、僕と、もう一人の首輪がそうだったから」
呆気に取られている間に、カインの腕が素早く動く。
一瞬反応が遅れた間に、からん、と軽い金属音が響く。
「はい、外しといたよ」
足下に転がる、恐怖の残骸。
こんなものに振り回されていたのかと考えると、乾いた笑いすらわいてくる。
「分かってるかもしれないけど、そもそも盗聴といい即殺出来る仕組みといい、向こうにメリットがないんだよね。
ハッタリでも首輪を用意したのは、僕たちの恐怖心を煽るためじゃないかな、お前たちは支配されてるんだぞって」
テリーが疑問を抱いたのと同時に、カインが口を開く。
確かに、カインの言うとおり、盗聴や即殺のシステムは、向こうにメリットがあまり無い。
こちらを恐れているのであれば、もっと効率的な手段を取れたはずだからだ。
首輪による支配だけでも疑問点が残ると言うのに、それが"ハッタリ"だったとすれば、もう何が何やらである。
そこまで手を回すなら、本当に首輪を実装しておくべきなのに。
ハッタリだということが見抜かれれば、誰しもが即座に解除に回るというのに。
なぜ、ハッタリに拘ったのか。
いや、首輪を"解除して欲しかった"のか。
支援
「一体、何のために……?」
考えがぐるぐるとループに陥る。
答えのない思考、可能性の固まりが考えられる道を無数に増やし、実質的に道を塞いでいく。
「……"夢"」
一瞬、思わず呟いてしまった言葉。
夢を操る魔王、夢の世界、そうなりたいと願った形で汲み上げられた世界。
夢と感情、絶望、欲望、嘆き。
繋がるようで繋がらない、それら。
「え、何?」
「いや……何でもない」
不確定な要素で混乱させてもいけないと思い、テリーはそれ以上言葉を進めないようにする。
「それより、マリベルが起きる前に首輪を外そう」
「あ、ああ、賛成だ」
とにかく、首輪がハッタリだと分かった以上、それをいつまでも着けている訳にもいかない。
何より、起きてから外そうとすれば説得するのに時間がかかる。
であれば、寝ている間にさっさと外してしまうのが得策だと判断し、早々に外してしまうことを選択した。
その後、首輪を外す最中にマリベルがタイミング良く目を覚まし。
色々勘違いしてテリーに鉄拳を見舞うまでの一部始終は割愛させて頂く。
「……ところで、マーニャとロッシュはどこに行った」
痛む顎をさすり、テリーはカインに問いかける。
まだ頬を赤くしているマリベルと、まだ台車で眠っている狼と共に眠りに入る時には、この場には人間が五人いたはずだ。
そもそも、交代制の睡眠を取るはずだったのに、数時間も眠りこけていられたのがおかしいのだ。
「うーん、マーニャは風に当たってくるって言って、ちょっと遠くに行ったみたいだけど。
ロッシュはどこだろう? さっきまでは傍にいたんだけどね」
「お前が"覚悟"を決めてるときには、居たのか?」
「いや、その時には居なかったよ。気を利かせて外してくれたみたいだね」
重ねた質問にも具体的な答えは返って来ず、どうしたものかと考え込んだとき。
「あら、みんな揃ってお出迎え? 嬉しいなあ〜」
聞き慣れた軽い声が、後ろから聞こえる。
振り向けば、先ほどとはそう変わらない姿のままのロッシュがそこに立っていた。
「やけに遅かったね、マーニャは見てないの?」
カインが、休む間もなく真っ先に問いかけた。
その質問を受け、ロッシュは少し長めの間をおいて、首を横に振る。
答えは、ノーということ。
「じゃ、なんでそんなに遅かったの?」
答えを受けてさらに生まれた疑問を、立て続けにぶつけていく。
席を外したついでにマーニャを探しに行っていたのならば、この長時間も納得ができる。
だが、ロッシュはマーニャを見ていないと言う。
探しに行ったわけではないのか、そもそもマーニャが居なかったのか。
「……感傷に浸っててね」
得られた答えは、肩すかしのような回答だった。
先ほどと同じ少し意味ありげな間をおいた、どこかぎこちない言葉。
妙な違和感を覚えるテリーとマリベル、そして。
「ふーん」
ロッシュからわざと目をそらし、剣をくるくると回すカイン。
カインもまた、テリーやマリベルと同じように違和感を抱いているのか。
「ずいぶんどっぷり浸ってたんだね、あれだけの音が起きても何もないし、あげく剣まで無くすなんて。
もしかして、今の今まで寝てた?」
考え得る精一杯の間抜けの姿を、カインはロッシュに語っていく。
「まさか」
漏れるのは、苦笑い。
「だよねぇ」
カインもまた、苦笑いで返す。
それにつられて笑い出したマリベルを加え、三人の笑い声が少し続く。
「僕に嘘が通じると思った?」
ほんの一瞬、たった一瞬のことだった。
凍てつくような低い声と共に、あたりの空気が一変する。
そして、ロッシュの目の前に突きつけられているのは。
カインの片腕が支える、ロトの剣の切っ先だった。
「生憎、人の上っ面を見破るのは得意でね」
マリベルやテリーに割って入らせないほどの気迫を纏い、ロッシュに剣を突きつけたまま、蛇のようにじっと見つめて動かない。
ほんの少しでも怪しい動きを見せれば、ロッシュの首は宙を舞うだろう。
それほどまでに、カインの本気は剣から伝わってくる。
ごくり、と大きく唾を飲み込んで集中する。
「まだ……黙り通すつもりかい?」
再三の警告。
声はまだ低く、目線は冷たく、殺意すら滲み始めている。
次に嘘をつけば、どうなるかなんて考えるまでもない。
「絶望の中に希望があれば、誰だってそれを手にするだろう」
ロッシュは覚悟を決め、堅く結んでいた口を、ゆっくりとほどく。
剣を突きつけられたまま動じずに、カインの目を見据えて。
「でも、逆はどうだい?」
起こったこと、自分の気持ち、伝えなければいけない事。
その全てを言葉に変えて、吐き出していく。
「希望の中に、絶望があれば……大半の人はそれを無視するだろうね。
けれど、その絶望が、自分にとって"最も避けたい絶望"ならば。
……それを潰しにかかることは、不自然かい?」
すこしわざとらしく肩を竦める。
そして、伝えなければいけない"根底"を伝える。
「もう、何度も言っているけれど僕は妹が好きだ。
そして……妹と仲直りがしたい。
だから、ほんの少しでもそれが失われる可能性があるなら。
僕は、その可能性をすべて潰したい。
嘘だと、騙されていると分かり切っている。
けど、ヒトカケラでも不安があるなら、僕はそれを無くしたい」
大事な大事な、一番奥底にあるもの。
自分の気持ちを正直に、言葉へ変えていく。
これから伝える"真実"の上で、それが一番大事で、欠かせないことだから。
「そうさ、僕はジャミラスと戦っていたよ。
あと少しでとどめを刺せるときに、ターニアの話をされた。
デスタムーアがターニアを幽閉していると言われたんだ」
そこで息を飲み、少し笑う。
自分でもう一度言葉に出してみても、バカバカしいと思う。
けれど、それを切り捨てられない理由が、自分にはある。
「くさった死体でも分かるだろうね、それが嘘だって。
でもさ、あるんだよ、"ひょっとしたら本当かもしれない"って気持ちがさ。
僕がジャミラスを信じなかったせいで、妹ともう会えないのだとしたら、僕は死んでも死にきれない。
自分から妹と仲良くできるチャンスを手放したくない、そんなのは絶対に嫌だから」
愚かだと、バカバカしいと自分に言い聞かせながら。
それでも潰さざるを得なかった可能性を、一気に語りきる。
カインはまだ、冷たい目線をロッシュに向けたまま。
テリーとマリベルは二人を見守るように、一歩下がった場所で立っている。
もう一度覚悟を決め、すうと息を吸い込み、最後の一言を告げる。
「僕は、ジャミラスを逃がした。剣まで渡して、ね」
冷たい空気だけが、流れる。
誰も、誰も動けない時間が、ゆっくり、ゆっくりと流れていく。
「……これが、全てさ」
ようやく口からこぼれた、終わりを告げる言葉。
それとほぼ同時に、突きつけられていた剣先が、ゆっくりと下げられていく。
ふぅ、と三つのため息が漏れる。
「どうだい、スッキリしたかい――――」
すっかり安堵した表情で、ロッシュが口を開き、カインに問いかけようとしたとき。
一本の剣が素早く投げつけられ、ロッシュの眼前に深々と突き刺さる。
投げたのは、テリーでもない、マリベルでもない。
さっきとは違う表情を浮かべた、カインだった。
「取れよ、もう御託は聞きたくない」
声はさらに鋭く、冷たく、突き刺さる。
そして反論を許さないように、叫ぶ。
「僕だって妹と一緒に帰りたかった!
けど叶わなかった! 助けられなかった! 妹は死んだ!
お前だけ、そんな方法で、自分だけ幸せになろうなんてッ!」
心の奥底からの叫び。
つい、先ほど起こった事。
残酷な現実は、自分に突きつけられた。
それを、目の前の男が避けようとしているなんて、耐えられるわけが無くて。
「僕は、絶対に認められない!!」
冷静さも何もかもを置き去りにして、全てを爆発させるしかなかった。
がきん、がきんと金属音と共に始まった戦い。
それを見つめることしかできない位置にいる二人。
それが起こる理由、その先に何が待っているかなんて、分かり切っている。
「マリベル」
だから、テリーは声をかける。
「行くぞ」
ここにいるべきではないから、立ち止まっている場合ではないから。
自分たちには、他にやるべき事があるから。
「ちょっと! テリー! 止めないの!?」
マリベルは、当然のリアクションを返す。
つい先ほどまで仲間のように語り合っていた二人が、剣を手に戦っているのだから。
仲間が失われていく様を、みすみす見過ごすわけにはいかない。
「……あの二人を止める権利なんて、誰にもない」
だが、テリーはそれを受け入れる。
仲間だとか、絆だとか、そんな話ではない。
あの二人は今、何よりも大事なものの為に戦っているのだから。
「特に、オレには」
そう、ましてやテリーに止められるわけがなかった。
「家族を助けたい気持ち、家族を助けられなかった気持ち。
どっちの気持ちも、痛いほど分かるから」
今、戦っている二人が持っている気持ち。
そのどちらもテリーは経験し、今も持っているものだから。
「あの二人で、決着をつけるしかないんだ」
「でも!」
「マリベル」
それでも食い下がろうとするマリベルを、テリーは小さい声で諭す。
頭の中に響きわたるようなその声に、マリベルは思わず黙り込む。
「行こう」
そして、ゆっくりとテリーは歩き出す。
荷車で眠りこける狼を起こさないように、静かに車を押しながら。
もう、それ以上何も語らずに、戦いの地を後にする。
「……ったく、どいつもこいつも、バカばっかなのよ」
兄弟、という感覚は自分には無いもの。
それを持っている彼らに、ほんの少しだけ妬みの気持ちを混ぜて。
前と後ろ、その両方を見てマリベルは一人、誰にも聞こえないように呟いてから、テリーの後を追った。
支援 しえん
【C-8/早朝】
【ロッシュ@DQ6】
[状態]:HP7/10(回復)、軽微の毒、MP微消費、
[装備]:プラチナソード
[道具]:支給品一式 、白紙の巻物@トルネコ、聖者の灰@DQ9、食材やら水やら(大量)、調理器具(大量)
[思考]:僕は……
【カイン(サマルトリアの王子)@DQ2】
[状態]:HP1/10 脇腹打撲 肋骨が折れる、内蔵微損傷、首輪解除、ゴーグル喪失、重傷
[装備]:ロトの剣
[道具]:支給品一式×8、モスバーグ M500(2/8 予備弾4発)、オーガシールド@DQ6、満月のリング@DQ9
世界樹の雫@DQ6、エルフの飲み薬@DQ5、デュランの剣@DQ6、もょもとの手紙、毒入り紅茶
竜王のツメ@DQ9、ツメの秘伝書@DQ9、不明支給品(リア確認済み)
[思考]:諦めない、最後まで。カインを――――
※旅路の話をしましたが、全てを話していない可能性があります。少なくともリアについては話していません。
【C-7/C-8との境界/早朝】
【テリー@DQ6】
[状態]:HP9/10、MP消費(中)、焦げ
[装備]:雷鳴の剣@DQ6、ホワイトシールド@DQ8
[道具]:支給品一式
不明支給品(0〜6、先ほど分配したもの、便宜上テリーのみに集中して明記)
[思考]:先へ進む
[備考]:職業ははぐれメタル(マスター)
(経験職:バトルマスター・魔法戦士・商人・盗賊 追加)
【マリベル@DQ7】
[状態]:健康
[装備]:マジカルメイス@DQ8 水のはごろも@DQ6
[道具]:支給品一式
[思考]:先へ進む
【うるふわ(ガボの狼)@DQ7】
[状態]:睡眠中 おなかいっぱい
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:ZZZZZZ
----
以上で投下終了です。
続けて第四回放送を投下いたします。
「ククク……」
響く、邪悪な笑い声。
諸悪の根元、デスタムーアは、何かを感じて笑う。
「ようやく、か」
何を見ているのかは、分からない。
そもそも、何が見えているのかも、わからない。
彼の周りには、ただ、邪悪な空気が立ちこめているだけ。
けれど、まるで起こっている何もかもを把握しているように。
彼は、その中心で笑っている。
「じゃが、まだ足りぬな」
そこで、笑みを消し、彼は地を睨む。
「アクバー」
「はっ」
声と共に現れた手下に、ごくごく手短に用件のみを伝える。
「準備しておけ、時は近いぞ」
「了解いたしました」
「では、行け」
先ほど告げた、戦いの時。
それが迫っていることだけを告げて、勤めに戻らせる。
何を考えているのか、何を見据えているのか。
表情や行動を見ても、傍で仕えているアクバーですら見抜けない。
ただ、アクバーはデスタムーアの望むとおりに動くのみ。
深く考える必要はない。
この先に待っているのは、人間たちにとっての、最高級の絶望なのだから。
それの為に、今は動くだけ。
ノイズめいた音。
少しだけ揺れる大地。
始まる、悪魔の声。
「……ごきげんよう、諸君。
この宴が始まってから、今で丁度一日が経過した。
まずは、これより禁止エリアとなる箇所を伝えよう。
8時 D-6 D-7
10時 E-5 E-6
12時 G-1 G-2
以上、六ヶ所だ。
くれぐれも、注意するように。
そんな下らないことで命を落とされては、折角の宴が台無しだからな。
続いて、死者の名を告げる。
リュカ
リア」
そこで、声が突然遠くなる。
「――――」
ノイズめいた音が、一瞬だけ流れる。
「マーニャ」
それからは、普通の声。
「ローラ
以上、5名だ。
そして、これまでに狩られた命は、合わせて四十八にも登る!
いやはや、ここまで手を血で染めて頂けて、私としてはとても嬉しい!
残りの命はたったの十二、これまでと同じように誰かを殺せば、自由になれる!
道は見えてきたではないか、迷うことはない、これまでと同じように、他者を殺すのだ!!
では、より一層の働きに期待することにしよう……」
悪魔の声が、途切れる。
【一日目 終了】
【残り12人】
以上で投下終了です。
支援ありがとうございました。
第四放送終了時点での現在位置を投下します。
【A-4】リッカ/リンリン(/サイモン)
ビアンカ/影の騎士
【ほぼC-7】ジャミラス
【ほぼC-8】ロッシュ/カイン
【C-7,8境界、C-8寄り】テリー/マリベル(/うるふわ)
【F-3】ソフィア/ゼシカ/ゲロゲロ
放送後のパート予約は今日の24:00に解禁でいきますので、よろしくお願いします。
投下乙です。
投下乙です!
ここに来てまさかの諍いが起き、どう転ぶかわからなくなってきましたね・・・。
きょうだい持ち3人の男の思惑がすれ違って切ないです。
すごいことやり遂げてるから意識しないけど、旅の期間を考慮しても一部除いて、殆どがいってて20半ばだもんな
そりゃ、やりきれないこととか色々あるよなぁ
投下乙です
いい忘れてたごめんなさい
けじめを付けなければ前に進めない、
それでも生きてほしいと願う。
いろいろな思惑が絡まって大変なことになってますねぇ。
悪魔の声、告げられる禁止エリアと死者の名。
始まったそれに、男の姿を借りる魔物は耳を傾ける。
頭に入れておいた地図に、足を踏み入れては行けない地区を刻んでいく。
「……道を、作ってる?」
その途中に、彼は気づいた。
禁止エリアによって、地図上に一本の道が出来上がったことに。
急いで地図を取り出し、再確認する。
禁止エリアを当てはめた地図は、明らかに一本の道へと変化していた。
何のために、と考え込んだ時。
背後からがらがらがら、と瓦礫が崩れる音が響いた。
「やべェなこりゃ……もう崩れンぞ」
度重なる戦闘、放ち続けられた特大の技と呪文。
ただの牢獄として作られた町が、それらを受けて無傷でいられる訳がない。
入り口は既に崩壊し、二階より先はほぼ全壊。
おそらく、地上部が崩壊し、地下への道を塞いでしまうのも時間の問題だろう。
「……っけない!! 私リッカに伝えてくる!」
「あ、おい!!」
そこまで考えて、ビアンカがすぐに懸念したのはリッカのこと。
地下で何か起きれば、地上にも影響がある。
細かいことを考えなくても、閉じこめられてしまう可能性が高い。
そうと分かればじっとしていられるわけもなく、ビアンカは一足先に地下へと走り出した。
「……何狙ってやがる、あのジジイ」
その後を追う、影の騎士。
地図に込められた秘密を、脳裏で探りながら。
走り出したビアンカを追い、階段を下っていく。
その道中でも、町の老朽化がありありと感じられる。
「……思ってたより、ヤベェかもしれねぇな」
今にも崩落してきそうな天井を見て、一言を漏らしたその瞬間だった。
「 !! !! !!」
声にもならない声が響き、全てを揺るがしていく。
思わずバランスを崩してしまうほど強力なそれは、階段の下、町の方から聞こえた。
「おい、ヤベェんじゃねぇか!?」
「分かってる、早く行かなきゃ!」
ビアンカの表情に、焦りが強く見える。
大魔王に匹敵するほどの叫びからは、恐ろしい殺意と気迫を感じた。
恐らくは、あの竜王にも劣らない。
そんな恐ろしい存在に、ビアンカはどうにも心当たりがあるようだった
「リッカ!!」
まずは戻ってきたことを伝えるため、ビアンカは即座に叫ぶ。
砂煙が立ちこめる町、少し遠くの方にリッカは居た。
その傍に、地に伏している騎士の姿。
そして、凄まじい闘気を放つ、"鬼"の姿。
やはりこうなってしまったのか、とビアンカは落胆の表情を浮かべる。
しかし、落ち込んでいる暇はない。
こうなってしまったという現実と、今目の前に映っている状況。
何が起こるかなんて、容易に想像できる。
走り出してリッカを守りにいく、間に合わない。
呪文を唱えて割り込んでいく、間に合わない。
だから、声を出す。
「やめて!!」
けれど、声も届かない、届く訳がない。
今の状況が、彼女が声を聞くことを放棄した証だから。
リンリンがゆっくりと起きあがる。
一歩、踏み出す足が向かうのは、リッカの元。
パンドラの箱を開けてしまった、愚かな女の命を終わらせるために豪腕を振るう。
「――――っしゃらぁあああ!!」
絶望を切り裂く、一つの叫び。
直線を描きながら、一本の杖が空間を切る。
そして正確にリンリンの胴体を捉え、こつん、と小気味のいい音と共に杖は折れた。
「走れ!!」
それとほぼ同時、影の騎士は叫ぶ。
恐怖に心を奪われ、立ちすくんでいたリッカが、その言葉にハッとする。
足を動かし、そこから逃げ出すために走り出していく。
だが、鬼がそれを黙って見ている訳もなく。
家畜を屠るように、片腕を振るおうとした。
「――――!??」
その瞬間、リンリンの体が宙に舞い上がり始めた。
何が起こったのか理解できないまま、空へ空へと昇っていく。
先ほど当てられた杖、それはバシルーラを引き起こす杖。
杖自身に残された魔力が、最後の力でその呪文を作動させた。
――――ルーラは屋内で使えば、天井に頭をぶつけてしまう。
一気に加速しきった瞬間に、勢いよく天井へと全身を打ち付け、鈍い音が響く。
状況をあまり理解できずに呆然としてしまっているリッカに、起きあがったサイモンが素早く駆け寄り、リッカを抱きかかえて走る。
ルーラの下りがゆっくりな事も相まって、なんとか影の騎士の元までたどり着くことが出来た。
少し得意げな表情を浮かべる影の騎士に、軽く一礼をしてから、サイモンは抱えていたリッカをビアンカに渡す。
「リッカを頼む」
こうしている間にも、リンリンはゆっくりと天井から落ちてくる。
残された時間は、そう多くない。
タラタラと話している時間など、あるわけもない。
だから、サイモンは短くそれだけを告げる。
影の騎士も、戦いに身を置いていた者の端くれ。
サイモンが何を考えているのかは、おおよそ分かる。
何かを守りながら闘うのは、危険を伴う。
つい先ほど、それを実感したから分かる。
だから、余計な言葉を挟まず、一振りの剣だけを、彼に託す。
「 ぃ ぁ !!」
剣を受け取ったと同時に、リンリンの叫びが町を揺るがした。
後ろの二人が走り出したのを確認する間もなく、サイモンは二本の剣を向かい来る敵へ構えて。
「――――ベホマ」
伸ばした剣先から、治癒の呪文を放った。
すう、っと光がリンリンを包み込み、痛々しかった傷の一部が、少しだけ癒えていく。
「どうし、て」
殺そうとしていた相手に治療される、そんな不可解な状況に、リンリンは思わず目前で足を止めてしまう。
サイモンは、剣を構えたまま、立ち尽くす彼女へと語りかける。
「俺は、モノだったから。
モノの声が、少し分かる」
元は、一つの呪われた鎧。
それが巡り会うことのない錬金術と出会い、鎧自身が知性を手に入れたのが、今の彼だ。
生まれの経緯もあって、モノに込められた"声"は、断片ながらも拾うことが出来る。
そこで、サイモンは身につけていた、紫のマントをゆっくりと手に取る。
それは、この地で無念の死を遂げた、一人の青年のマント。
「叫んでるんだ、こいつが。
悔いがないようにお前と闘いたい、と」
人が愛用し続けたモノには、魂が宿るという。
愛され続けたマントにも、彼の魂が少し宿っていたのだろう。
込められたそれが、サイモンに叫び続けている。
「だから、俺は」
そう、サイモンは一人だ。
だが、たった一人ではない。
誰かが残した、モノたちが。
「みんなの全力で、闘う」
彼を、支えてくれる。
大好きなマントだった。
いつも、いつもいつも、風に靡く、美しいマント。
敵を切り裂く風になるときも、普段何気なく歩いているときも。
彼の傍には、あのマントがあった。
「アレルを……」
けれど、今は違う。
そのマントを纏っているのはただの魔物。
許されない、そんなこと、あってはならないから。
ましてや、"アレルの声がする"なんて、絶対にあり得ないのだから。
「騙るなァアアアアアアアア!!」
まやかしを打ち払う為に、叫びと共に飛び出していく。
「ビアンカさん! 下ろして! 私はまだ、あの人と!!」
「ダメよリッカ! もう、話の通じる相手じゃないわ!!」
抱き抱えられた状態から逃れようと、リッカはビアンカの腕の中で暴れる。
相対するようにビアンカが冷静に諭しながらも、リッカを抱えて足を進める。
ビアンカ達がくる前、正気を失ったリンリンに対しても、リッカは言葉を投げることをやめなかった。
伝え切れていないこと、伝えなければいけないこと、それはまだ山ほどあったから。
一度死を経験したとしても、それでも。
まだ、引き下がる訳には行かなかった。
「お願いッ!!」
じたばたと暴れ続けるリッカ。
その時、ふと前を走っていた影の騎士が足を止め、ビアンカが抱き抱えていたリッカに向かう。
「……テメーもか」
そう、小さく呟いた後、少しだけ強い力で、リッカの頬を叩いた。
「テメーもか!! 他人の事ばっか気遣って、テメーがどうなろうと構わねえってクチか!!」
デジャブ。
つい先ほど、自分を守って死んでいった男のように。
誰かのためなら、自分の犠牲を問わない。
そんな姿勢に、今は苛ついて苛ついて仕方がないのだ。
大人げない、と思いながらも、どうしてもそれだけは我慢できなかった。
「まずはテメーの事考えろ」
それだけを言って、影の騎士は再び走り出す。
リッカがおとなしくなった事を確認し、ビアンカもその後を追うように走る。
頬の痛みと、投げられた言葉。
リッカがそれを理解するには、少し時間がかかりそうだった。
【A−4/ろうごくのまち前/朝】
【影の騎士@DQ1】
[状態]:健康
[装備]:メタルキングの槍@DQ8、命のリング@DQ5
[道具]:基本支給品一式、変化の杖@DQ3、
バシルーラの杖@、魔法の聖水@シリーズ全般
[思考]:あいつよりも、幸せになってやる。
【ビアンカ@DQ5】
[状態]:健康、リボンなし
[装備]:女帝の鞭@DQ9、エンプレスローブ@DQ9
[道具]:支給品一式、炎のリング@DQ5、カマエル@DQ9
[思考]:影の騎士、リッカを見守る。
[備考]:カマエルによって錬金釜の使用方法を教わっています
ビアンカの傷が治っているのはミネアのメガザルによる効果です。
第三回の放送内容をサイモンから聞きました。
【リッカ@DQ9】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:大量の食糧(回復アイテムはなし)、支給品一式
[思考]:絶望しない、前を向く。
[備考]:寝ていたため、第二放送を聞き逃しています
【A-4/ろうごくのまち・居住区/朝】
【サイモン(さまようよろい)@DQBR2nd】
[状態]:騎士は、二人の"ともだち"。
[装備]:さまようよろい@DQ5、ミネアの頭の飾り、ミネアの首飾り、アリーナのマント(半焼)
アリーナの帽子、エイトのバンダナ、アレルのマント、ギュメイ将軍のファー
ゾンビキラー@DQ6
[道具]:なし
[思考]:戦う、みんなといっしょに
[備考]:マホトーン、ベホマを習得、今後も歩くことで何か成長を遂げるかもしれません。
胸部につけているミネアの飾りが光り輝いています。
【リンリン@DQ3女武闘家】
[状態]:全身に打撲(重・処置済)、全身に裂傷(重・処置済)中度の火傷(処置済)、左腕喪失(処置済)
[装備]:星降る腕輪@DQ3 オリハルコンの棒@DQS
[道具]:場所替えの杖[6]、引き寄せの杖[9]、飛び付きの杖[8]、賢者の聖水@DQ9(残り2/3) ふしぎなタンバリン@DQ8
銀の竪琴、笛(効果不明)、ヤリの秘伝書@DQ9、 光の剣@DQ2 ハッピークラッカーセット@DQ9(残り4個) 使用済みのハッピークラッカー
草・粉セット(毒蛾の粉・火炎草・惑わし草は確定しています。残りの内容と容量は後続の書き手にお任せします。)
※上薬草・特薬草・特毒消し草・ルーラ草は使い切りました。
支給品一式×10
[思考]――――――――――
[備考]:性格はおじょうさま
----
投下終了です
投下乙!
サイモンの成長物語はここで潰えてしまうのか…?
"名付け"のほぼ直後、響いた悪魔の声。
読み上げられる、ソフィアの仲間の名前。
不思議と、何も沸き上がっては来ない。
慣れすぎたか、それとも諦めがついたか。
言葉が漏れることはなく、ただただぼうっと立ち尽くしていて。
少ししてから、老朽化した木のように、大きく後ろに倒れ込んだ。
「ちょっ!?」
突然の事に、驚くゼシカ。
それを全く気にも留めず、ソフィアは淀んだ空を仰ぐ。
気色悪い色で埋め尽くされた空は、表情を変えることなく、ぐねぐねとうねり続けている。
「何もない、何もない」
そんな空を見つめながら、相も変わらずのトーンで静かに呟く。
感情も抑揚も、何もない、抜け殻のような声。
「"何もない"が、ここにある」
この場所での彼女は、もう何も残されていない。
かつての仲間を、ここでの仲間を、人間が持つモノを。
全て無くしてしまった、何もない器。
「じゃあ、ゼロの空っぽに詰め込んで行くとしようぜ」
無くしてしまった物は、もう取り戻せない。
けれど、他のモノを詰め込むことは出来る。
空っぽになってしまったソフィアという一人の人間に、新しいモノを詰め込んでいく。
「なあ、ゲロゲロ」
「……ああ」
そして、それは隣にいる魔物も、同じ事。
終わりではなく、始まり。
新しい日々の、幕開けである。
「その第一歩だ、改めてよろしくな、ゼシカ」
「ええ、もちろんよ」
まずは一つ目。
先ほど共闘した新しい仲間を、空っぽの器に詰め込んでいく。
そう、生きていれば、生き続けていれば。
失うことはあっても、また得ることが出来る。
だから、彼女はまだ終わらない。
終着は、ここではないから。
少しして、ゲロゲロの強い希望でローラを埋葬することにした。
恩人の亡骸を晒しておきたくないという気持ちか。
はたまた、僅かながらでも贖罪の現れなのか。
「なあ、ゲロゲロ」
その穴を掘る作業の途中で、ソフィアはゲロゲロに問いかける。
「魔族、つってもいろいろいるじゃねーか。
全てを支配して、自分の世界を作る奴。
全てを破壊して、新世界を生み出す奴。
全てを攻撃して、世界へ復讐をする奴。
覚えてるかどうか分かんねえけど、"ムドー"は、どれだったんだ?」
魔族にも、色々いる。
この場所でも、新たな魔族と出会い、そして新たな考えに触れた。
では、絶望を振りまいた魔王ムドーは、一体何を目的としていたのか。
ムドーであった存在に、それを問いかける。
「そうだな……デスタムーアの目的が、彼の目的だった、と言うべきか。
彼はデスタムーアの部下の中でも、1、2を争うほど忠誠心が高い。
主の為なら、どんな手段でも問わんだろうな」
ただ、黙々と土を掘り返しながら、ゲロゲロはソフィアの問いに答える。
もう一人の自分、それが何を考え、どんな行動をしていたのか。
全てではないが、断片の記憶は、ゲロゲロにも残されている。
そのかけらを、ぽつぽつと無心でつぶやき続ける。
「夢と現、その境界を破壊し、全ての人類に絶望と苦痛を与え、そして骨の髄から支配する。
端的に言ってしまえば世界征服、ありとあらゆるモノを、その手に収めることが、ヤツの目的だ」
「……ふーん」
「だが、夢と現を行き来し、自我を取り戻した存在によって、彼は打ち砕かれた。
夢自身が、自我を持ち、現と交わるなどと、考えてもいなかったのだろうな」
「それが、ロッシュ?」
「ああ」
「そんで、どーにかして蘇った、ってことか」
「夢をも作り出し、具現化する魔王の真の姿は、誰も知らないと言う。
……倒されたのは、まやかしだったのかもしれんな」
穴を掘り続けながら、交わされる会話。
ロッシュ、あの始めの場所でデスタムーアに抗っていた者。
そういえば、まだ名前は呼ばれていない。
この場所のどこかで、生きているという事か。
頭の片隅にその情報だけを押さえ、ソフィアは作業を続ける。
「でも、復活してもなお目的は変わらず、世界の支配だとするなら、この殺し合いはどうして開かれたの?
とても繋がるようには思えないわ」
ふと、ゼシカの頭に一つの疑問が浮かぶ。
デスタムーアの望みは、世界の支配。
この殺し合いを開けるほどの圧倒的な力があるというのに。
かつて自らを滅ぼしたはずの存在を、この手で殺すことすら出来たのに。
どうして、こんな事をしているのか。
「目的が変わった、あるいは……」
「"これ"が、その目的の途中、って事か」
その疑問から、一つの答えを導き出す。
この殺し合い自体が、どのような結末を迎えたにせよ、デスタムーアの力となり、望みを叶えるのだとしたら。
もう、あらかたは進みきってしまっているのだろう。
「何にせよ、あのピンクジジイから聞かなきゃならねーってことだ」
御託は並べた、可能性も考慮した。
けれど、真実はここにはない。
理由を探るには、聞き出すしかない。
そして、ソフィアはいつだってそれを手に掴んできた。
だから、今回もそうするだけ。
決まっていた的を、改めて捉え直す。
掘り終わった浅い穴にローラを寝かせ、たっぷりの土をかぶせていく。
申し訳程度の花を添えて、彼女の安息を祈る。
「……っしゃ、そろそろ動くとしますか」
首を鳴らしながら、ゆっくりと立ち上がる。
改めて決まったやるべき事を、成し遂げに行く。
「行こうぜ、北によ」
目指すべき場所を見据えて、ゆっくりと歩き出す。
まだ終わらない、終われない者達に、出会うため。
【Fー3/仮設テント前/朝】
【ソフィア(女勇者)@DQ4】
[状態]:HP2/5、MP1/4表情遺失(人形病)
[装備]:天空の剣@DQ4、メタルキングの盾@DQ6、メイド服@DQ9、ニーソックス@DQ9
[道具]:ソードブレイカー@DQ9、小さなメダル@歴代、オリハルこん@DQ9
キメラの翼@DQ3×5、奇跡の剣@DQ7、ブロンズナイフ@歴代
基本支給品*2、聖なる水差し@DQ5
[思考]:終わらない 殺し合いを止める 北へ。
[備考]:六章クリア、真ED後。
【ゼシカ@DQ8】
[状態]:HP2/5、MPほぼ0
[装備]:さざなみの杖@DQ7、おふとん@現実
[道具]:なし
[思考]:首輪を外し世界を脱出する。北へ。
【ゲロゲロ@DQBR2nd】
[状態]:HP1/5
[装備]:スライムの服@DQ9、スライムヘッド@DQ9、雷の刃@DQS
[道具]:支給品一式*4、超万能薬@DQ8、トルナードの盾@DQ7、賢者の秘伝書@DQ9、ビッグボウガン(矢なし)@DQ5
パパスの剣@DQ5、祝福の杖@DQ5,王女の愛@DQ1,デーモンスピア@DQ6、結婚指輪@DQ9
[思考]:ゲロゲロとして、生きる。北へ。
[備考]:ムドーが死に、彼が呼び覚まされました。
主催者が彼をどう扱うかは未知数です。主催からアイテムに優遇措置を受けていました。
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以上で投下終了です。
投下乙です。では、予約分、投下します。
タイマン、リンリンとサイモン。
アレルのマントを纏い、剣を取るサイモンはリンリンを斬れるのか。
踏み越えられるか、それとも踏み越えるか。
心機一転、北へと方向を定めた喪い続きのパーティ。
乗り気な参加者もリンリン、ジャミラスしかいない中、
彼女達はまた戦って何かを喪うのか。
意味などない。正義などない。
ただ、其処に――剣を交えなくてはいけない相手がいるから。
踏み越えなければ前へと進めないと断じた思いを、ここで懸ける。
この刃こそが自分を貫く証明であり、覚悟。
努々、違えない意志を――乗せる。
「コンディションは最悪。だけど、気分は悪くない」
「そうみたいだね。戦意だけは溢れんばかり、僕を圧倒している。いつになく、マジな顔しちゃってさ」
放つ剣刃を幾重にも張り巡らせ、生まれた隙間を穿つ。
そして、次は何をするのがベストかを瞬時に判断。
呪文、剣技、トラッシュトーク。ありとあらゆる可能性を計算し、ロッシュの打倒に最適な解答を導き、実行する。
「当たり前だッ! こうすることでしか、決着の道はないんだ」
「はぁ、一応聞くけどさ。やめない、こういうの?
お互い、痛いのは嫌じゃん? 痛いのが好きですぅ〜っていうマゾヒストじゃないんだよねぇ、僕は」
「お断りだ。お前の軽口はもう聞き飽きたよ。黙って、僕に斬られてしまえ」
「交渉決裂かぁ〜。茹で上がった頭で得た答えじゃあ、虚しいだけだよ?」
「…………チッ」
「うっわ、舌打ちとかこっわ、こっわいって!」
けれど。ロッシュに限っては最適など存在しないのではないか。
あのもょもとを退け、魔王とも単騎で渡り合うことができる彼は、紛れも無く最強だと知っている。
元の世界で仲間だったテリーが、俺よりも強いと断言できる程に遥か高みへと上り詰めた男。
それが、ロッシュなのだ。伊達や酔狂でラブアンドピースを謳っている訳ではない。
その裏には確かな実力が秘められているのだから。
「おっと、危ないなぁ」
「ちょこまかと鬱陶しい!」
「如何せん、弱小勇者なものでこうやって小細工をしなくちゃって、ね」
「そんなのしなくたって強い癖に嫌味ったらしいんだよ!」
「ややや、毎回思うんだけどね。君達は僕を過剰評価しすぎだって。テリーにしてもさぁ、僕の力なんて大したものじゃないのにねぇ。
ある種、君達の方が強いと僕は感じているんだけどな」
「戯言を!」
痛む身体を回復呪文をかけることで押し留め、カインは思考を重ねていく。
自分のウリは速さと頭脳だ。現状、速さがまともに機能していないとなると頭脳で戦っていくしかない。
頭脳だけで――一世界の勇者を打倒する。
言葉にするだけで頭が痛くなりそうだ、とカインは自嘲した。
「戯言じゃないよ、真実さ。僕は本当に、自分のことを大した奴ではないって思っているからね」
「そんなに強いのに、そんなに揺らがないのに」
「僕は弱いし、ぶらぶらの宙ぶらりんで揺らぎっぱなし」
「ああ、よぉくわかってるさ。お前が嘘つきのクソッタレだってことは」
「嘘つきに言われると説得力があるけど……違うんだなあ、これが」
袈裟に振るった剣は受け止められ、掌から放った呪文は寸前の所でひらりと躱される。
有無も言わせず押し込んだ剣は受け流され、逆に刃を返されてしまう。
交錯、そしてすれ違い。何度も何度も離れては斬り結び、金属音が鳴り響く。
一方は感情のこもった剣、もう一方は掴みどころのない無明の剣。
まるで、互いの在り方を映し出しているかのような剣劇だった。
「僕は至って普通の凡人だよ。あ、不痛の男って訳じゃないからね」
「……何それ。笑えないね、趣味が悪いったらありゃしない。生憎とつまらないジョークに笑える程器量がないもので」
「そりゃ残念。でも安心しなよ、君もいつかは笑えるさ。何て言ったって」
「世界は愛と平和で満ちているから、かい?」
「ヒューッ、よーくわかっているじゃない。君が抱いていた感情も形はどうあれ愛だ。
愛を糧に生きてきた君達なら、特に身に沁みているはずだ」
口を釣り上げ、道化を演じるかの如く。
ロッシュは言葉を紡ぎ出す。
その立ち振舞いには余裕が潤沢に現れている。
「フザケているよ、ホント。魔王よりも質が悪い」
「お褒めの言葉、ありがとぉ〜。でも、魔王に例えられるのはちょっとショックだったり。
イケメン勇者様の呼び名の方が嬉しいんだけど?」
「そうやって、いつまで煙にまくつもり?」
「やだなぁ、これが素だよ。第一、僕には君と戦う理由なんて何処にもありやしないんだから当然乗り気になれないし」
「だけど、僕にはある」
「はぁ、過剰な想いに殉じて死ぬのが、君の抱く正しさかい? 料理もそうだ、焦がし過ぎは体に良くないだろ?
ここで僕を斬った後、君はどうする? それ以前に、僕と戦うことで何が得られる?」
「……お前だって妹を理由にして戦っている癖に。そんな言葉を言える立場かよ」
「うんそうだよ? けれど、僕自身を犠牲にするといった考えはごめんだね。
まあ……君みたいに―――――死んでも助けるなんて絶対に有り得ない」
「……ッ、馬鹿にするな! そんなに、斬られたいかロッシュ――!」
それが、カインには許容できなかった。
同じく妹を持つ兄であるのに、歴然とした差が表れているような気がして、腹立たしかった。
自分はもう永遠に間に合わず、ロッシュはまだ間に合う機会を残している。
そのことを考えただけでも、激情は吹き上がるというのに。
「斬られるのはお断り。痛いのは嫌だって言っただろ? それに、馬鹿にしていないさ。ただ……僕なら選ばない、それだけだって。
ま、カインが選びたいなら別に構わないよ。ラブアンドピースの意に反しているのは遺憾の意だけど」
幾重の白刃を結び、挑発しようとも、彼は動かない。
何故反撃しないのか。一向に攻めてこないロッシュに黒い淀みが胸に生まれていく。
理解している。ロッシュ自身、戦う理由なんて本当に無いことも。
こんなことをしている暇なんて何処にもないことにも。ここでロッシュを打倒してもリアは戻ってこないことも。
自分が今やっていることはただの八つ当たりだ。大切な人が残っているロッシュに対して嫉妬しているだけ。
よもや、ここまで惨めったらしかったのかと自分に嫌気がさしている。
「いい加減、僕も疲れてきたしはっきりと言わせてもらうよ」
それでも、それでもだ。
「安易なヒロイズムに浸るなよ、バーカ」
理性で抑えられないものが、あるのだ。
「下らないと思わないかい? その選択肢が。
死んでも助ける。命を引換えにしてでも、君をお護りします。お姫様の為にならこの生命、地獄の魔王様にだって売り払ってみせましょう。
ああ、全く――――ばっかみたい。自分を犠牲にして誰かを救うなんて、僕は嫌だね」
自分の中に滾った焔が、最高潮に達した。
叫んでいる。喚いている。きっと、知覚できていないが、声にも出しているだろう。
ただ、斬り伏せるのみ。眼前に立ち塞がる強者を、この手で。
無音。研ぎ澄まされていく感覚とは逆に、世界はどんどん狭まっていく。
けれど、彼の声だけは耳に響く。
風の音も、金属音も、痛みも、全て通り越して入ってくる。
「過去は変えられない。現実は変わらない。世界は揺らがない。
結局、唯一変えられるのは自分だったのさ。拒絶した所で、自分に返ってくるものは何もないし、世界は認めてもくれないんだから」
「何を、言っているッ! 訳のわからないことをごちゃごちゃと! そんな事情抜きにして妹第一に考えているんだろ!」
「うん、だけど、それは僕がハッピーになりたいからだ。一番っていう定義は違うんじゃないかなあ」
「ふざ、けるなッ!!! そんな理屈、認められる訳ないだろ!!」
「いいや、君ならわかるはずだ。僕に似ている君ならば。有り様も、結末も。
なればこそ、答えも自ずからわかるはずだ」
右に払われた剣には、反対側から剣を押しこむことで留め、突き出された刺突は横へと身体をずらす。
受けて、流して、捌かれて。
乱雑に組み合わされた剣技をロッシュは笑顔を交えて平然と躱していく。
「じゃあ、今度は僕からの質問だ。君は、僕のこの態度の理由を突き止められるかな?」
「ハッ、さっぱりだね。ただ一つわかるのは、お前がムカつくってことだけだよ」
軽く回転し、勢いをつけた横薙ぎの斬撃は正眼に構えられた剣に防がれる。
次いで、跳躍。天高く舞い上がった身体の重みを利用し、脳天を断ち切ろうとした剣筋は、バックステップにより空を切る。
着地、刹那に突撃。加速した身体から繰り出した刺突は、軽く横に振り切られた剣の腹に曲げられた。
そして、そのまま鍔迫り合い。ギチギチと耳障りな金属音が木霊する。
「それにさ。似ているって言ったけど、お前にわかるのか? 大切な人を喪う気持ちが、誰よりも慈しんでいた妹が、遠くへ行ってしまった気持ちが」
「わかるさ」
「いいや、わかってないね。現に、僕と違って可能性が残されているお前に、僕の絶望を読み取れるはずがない!」
剣を境界線に、互いの表情が歪む。
カインは怒りを露わに、ロッシュは苦虫を噛み潰したかのように。
滲み出る黒の怨嗟が収まらない。
兄として。人として。そして、一時ながらも行動を共にした戦友として。
絶対に言ってはいけないワードを、カインは吐き捨てざるを得なかった。
「妹を喪ったこともないッ! 恵まれているお前に、負けるものか!」
踏んではいけない地雷を、力強く踏んでしまった。
「あっ―――――――」
気がついたら、宙を舞っていた。
もょもとの本気の攻撃を受け流せないカインが、反応などできるはずがない。
全力の蹴撃が、カインの腹へと突き刺さっていた。
「…………言いたいことは、それだけかい?」
刹那、カインが見たロッシュの顔は――無表情だった。
今までの道化じみた気取りも、弛んだ空気もない。
まるで、研ぎ澄まされた刃のように鋭い声がカインにトドメを刺す。
ダメだ。これに逆らってはいけない。
今まで幾多の修羅場を踏み越えてきた自分の勘が警鐘を鳴らしている。
「僕は、かつての君だ。不条理を憎み、嘆き、苦しんだ。そして、その最果てで自分の立場を全部投げ捨てて、夢に逃げた男だ。
そんな男がラブアンドピースを謳うのは、さぞや可笑しいよね。自覚はあるよ、ここまで滑稽だと抱腹絶倒大爆笑って感じかな」
口調は全く変わっていないというのに、別人のように冷たい。
声を上げることすら叶わない圧迫感。
気圧された意識と疲弊した身体では到底に反発することができない。
「それに、喪ったこともない……だったっけ? あんまり人に教えたくはないけれど、拗れるのは嫌だしあえて言うよ。
僕はとっくに……彼女のことを……妹を“二度”喪っているんだよ。その上で、この選択肢を選び取っているんだ」
薄っすらと見えるロッシュの姿に暗く淀めいた深淵を感じ取ったのか、意識が勝手にシャットアウトする。
その瞳はどこまでも冷たく、全てを凍らせる様な無機質な輝きを灯していた。
「せめて、最後は幸福な結末を。されど、世界はそれを許さない。ならば、僕自身が変わらざるを――得なかった」
意識が閉ざされる寸前に滑り込んだ声に、ほんの少しの悲しみが混じっていたことに終ぞ気付かず、カインは世界から隔絶された。
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「夢は醒めるものだ。いや、醒めなくちゃいけない。現実に生きる僕達にとって、それは仮初なんだから」
「セーラを護ることができなかった僕は、強くなろうという想いに逃避した。魔王を倒すことに溺れてしまえば、忘れられると信じていた」
「けれど、忘れてしまうことなんてできやしないんだ。その証拠に、夢の世界で僕はターニアを生み出してしまったんだから」
「ターニアは僕の心の奥底に眠っていた理想そのものだった。デスタムーアを倒すことで、消えてしまう儚い泡沫。
選ばなくちゃいけなかった。夢の安寧を永遠にするか、お終いにするか」
「僕は選んだ。夢に、決別を叩き込んだ。ターニアが消えてしまうとわかっていながらも、デスタムーアを許容することなんてできやしなかった」
「我儘だよねぇ、心地良い夢なんていらないって啖呵を切ってしまったんだから。戻った現実に幸せがある保証なんてどこにもないのに」
「僕達は一つの世界を滅ぼした大罪人だ。否が応でものしかかる重みがある」
「けれど、けれど。ラストチャンスがまだ残されているなら。もしも、夢を夢のままで在り続けることを許容してくれる未来があるならば、願おう。
どうか、聞き届けて欲しい、と祈ろうって最後に思った」
「過去は無理でも、未来なら――無限の“夢”と“希望”を孕んでいるかもしれないと信じてるから」
「だから、こんな所で死ぬなんて。何考えているんだよ、馬鹿」
「……バーバラ」
【C-8/朝】
【ロッシュ@DQ6】
[状態]:HP7/10(回復)、軽微の毒、MP微消費
[装備]:プラチナソード
[道具]:支給品一式 、白紙の巻物@トルネコ、聖者の灰@DQ9、食材やら水やら(大量)、調理器具(大量)
[思考]:自分が満足できる結末を。我儘を貫く。
【カイン(サマルトリアの王子)@DQ2】
[状態]:HP1/10 脇腹打撲 肋骨が折れる、内蔵微損傷、首輪解除、ゴーグル喪失、重傷 、気絶
[装備]:ロトの剣
[道具]:支給品一式×8、モスバーグ M500(2/8 予備弾4発)、オーガシールド@DQ6、満月のリング@DQ9
世界樹の雫@DQ6、エルフの飲み薬@DQ5、デュランの剣@DQ6、もょもとの手紙、毒入り紅茶
竜王のツメ@DQ9、ツメの秘伝書@DQ9、不明支給品(リア確認済み)
[思考]:――――――
※旅路の話をしましたが、全てを話していない可能性があります。少なくともリアについては話していません。
投下終了です。支援、ありがとうございました。
投下乙です。
カインからすれば、へらへら笑ってるようにしか見えないけど、実は底に抱えてるんだよな……
踏み抜いた地雷は正確すぎて、もうね……
乙です。
6はな……バーバラ始め、仲良かった夢世界の住人とはもう会えないし、ターニアはどこかよそよそしいし、夢が主体だからレイドックが故郷と言われても記憶ほとんど無いし。
ハッピーエンドに見えるけど、ロッシュ視点だとあんまハッピーな終わりかたじゃないんだよな。
乙
「ここまで来りゃ大丈夫だろ」
少し遠くに見える牢獄の町を見据え、影の騎士は呟く。
そこまで長い距離を走ってきた訳ではないが、稼いで貰った時間で進んだ距離にしては上出来だ。
「戻ってくるかしら」
ふと、ビアンカが呟く。
いわば置き去りの形で逃げ出してきた場所には、一人の騎士が戦っている。
竜王にも匹敵しうるかもしれない力を持つあの女を相手に、無傷で戻ってこれるとは考えにくい。
ましてや、戦っている場所は今にも崩れそうな地下の町の中。
戦いに勝ったところで、生き残れると決まったわけではない。
「……最悪のケースだけ考えとけ」
だから、頭の隅に置くのは一つだけだ。
あの女と戦うハメになった時、それだけは今考えておかなければならない。
それ以外ならば、その時に考えても問題はない。
けれどそれだけは、襲いかかられてから考えていたのでは、命がいくつあっても足りないからだ。
持っている武器、戦える手段、限られた戦力。
それらで、如何にしてあの化け物に対抗するのか。
即興の戦術でどうにもなるわけがないから、今のうちから考えていく。
立ち向かうは三人、そのうち一人は戦力がないので、実質二人。
残った自分ともう一人も、戦闘のエキスパートではないので、半掛けして一人分。
手元にあるのは槍と鞭、遠距離と中距離の武器。
素手の間合いの外から攻撃は出来るが、懐に潜られれば終わりだ。
ならば、どうするか……?
「こういう事考えんのは、アイツの方が得意だったか」
ふとそこで、脳裏によぎったのは、エリートの顔。
ここに呼ばれ、そして死んでいった竜の事だった。
思わず笑いをこぼした、その時だった。
「おい」
かすかな足音が、ここから遠ざかろうとしているのが聞こえたのは。
地獄耳の効力が無くとも、元々耳はいい方だった。
かさり、と草木が擦れる音を逃さず捉え、音の方を向く。
「どこ行くんだよ」
歩きだそうとしていたリッカに、問う。
彼女が向かおうとしているのは、自分たちが逃げてきた方角。
何を考えているかなんて、分かり切っているけど、それでも問わねばならない。
「決まってます」
リッカは振り向かず、その問いかけに答える。
そして、しっかりとした力強い声で。
投げかけられた問いかけに、答える。
「戻って、あの人と話をするんです」
「まだわかんねえのか!!」
即座に飛ぶ怒号、立ち上がる影の騎士。
つい先ほど交わした言葉すら理解されていないことに、どうしても怒りを隠しきれない。
「見ただろ!! 話なんて出来る相手じゃねぇ!!
どうせ一発殴られて即死がオチだ、死にてェのか!!」
「私は!!」
怒号に負けないくらいの大きな声を張り、リッカは言い返していく。
数刻前のビンタ、その時に投げかけられた言葉。
何が幸せなのか? 何に命を投げ打つのか?
「私が、幸せだと思うのは!!
お客さんの、泊まってくれた人の笑顔なんです!!」
少し前に、魔女と会話したときに、決めたことを忘れていた。
今度は忘れないように、それを刻み込むように。
「他人でも知らない人でも、泊まってくれたなら、お客さんなんです。
あの人は、私のお客さん、おもてなししなきゃ、いけないんです」
叫びに、乗せていく。
自分か信じることを、貫き通す。
もう、後ろは向かないと決めたから。
「自分が幸せになるために、誰かを幸せにする。
それが、それが私の、リッカの幸せなんです!!」
「おい、待てッ!!」
制止を振り払い、リッカは飛び出していく。
けれど、影の騎士はそれを止めようとする。
何故、だろうか。
数刻前まで、どこで誰が死のうが構いやしなかったというのに。
今は、リッカが死ぬことを心の底から嫌っている。
蘇ろうとしているからだろうか。
あの時、あの男が、魔王から自分を救ったとき。
自分の中に芽生えた、言葉にできない感情が。
それを恐れているから、もう味わいたくないから、少女を止めようとしているのか。
答えはでないが、手は伸びる。
そして、自分もリッカを追おうと足が動いたときだった。
「きゃっ!!」
真後ろから、ビアンカの声が聞こえる。
急いで振り向けば、少し遠くに巨大な怪鳥の姿が見える。
その片手には……ビアンカの体を握りしめて。
「道具を回収しに町まで戻ろうと思っていたが……まさか貴様の方からノコノコと現れるとはな」
その姿に、二人は思わず足を止めてしまう。
そして、そのままそこに縫いつけられる。
下手に動けば、ビアンカの命はない。
考えるまでもなく、それを肌で感じ取ることが出来たから。
下手に動けない状況が続く中、怪鳥があることに気づく。
「……なんだ、貴様は魔物じゃないか。なぜ人間などと連んでいる?」
そう、目の前の人間のうち、一人は魔物であることに。
魔物には魔物のにおいをごまかすことなど出来ない。
しかし、それならそれで、と疑問が生じたのだ。
「私に構わないで!!」
生まれた疑問をぶつけたときに生まれた、僅かな隙間を使って、ビアンカは叫ぶ。
ビアンカは知っている。
この怪鳥ジャミラスは、どれだけ非道な手でも躊躇うことなく選んでくることに。
きっと、自分を使っていいように動き回るに違いない。
それが原因で二人が苦しめられるのが分かっているから。
その命を贄に、二人が助かる可能性が高い道を選ぶ。
その瞬間に、少し強めに体が握りしめられる。
こぼれる艶っぽい声と、軋む骨の音。
余計な事をするな、というサイン。
二人はまだ、動かないまま。
「まあ、いい。貴様が人間ならばこの女をダシに遊んでやろうと思ったが、魔物ならば仕方がない」
魔物相手ならば、人質は有効な手段ではない。
そう踏んだジャミラスは、ゆっくりと手を離す。
力なく倒れ込むビアンカに、銀色の影が迫る。
命の終わりを告げに、目前へと迫ってくるのは、一本の剣。
「早くッ……」
それを目にしてもなお、ビアンカは。
「逃げて!!」
二人を逃がすことを、選んだ。
かきィん。
甲高い、衝突音。
「何ッ……!?」
驚いたのは他の誰でもない、ジャミラスだ。
目前には、魔物であるはずの男。
その手に持つ白銀に輝く槍が、女に振りかざされようとしていた剣を、受け止めていた。
その顔は、俯いたまま。
「どいつもこいつも、似たような目ェしやがって……ムカつくんだよ……!!」
静かに、ゆっくりと、震える声で言葉を吐く。
せき止められていたものがあふれ出すように、それはだんだんと感情を帯びていく。
そして、怒りの形相を作り、ジャミラスを睨む。
「他人の幸せが自分の幸せだァ!? んなわけねえだろ!!
だのに、どいつもこいつもそれが幸せだとヌカしやがる!!
ムカツクったらありゃしねえし、どいつも折れやしねえ!」
ぐぐっ、と槍に込められた力が増し、ジャミラスの剣が弾かれる。
思わずよろけてしまうジャミラスと、その隙を見逃さずに逃げ出すビアンカ。
そして、その様を固まったまま見つめているリッカに、影の騎士は檄を飛ばす。
「行けよリッカァ! テメぇはテメぇの幸せを掴むんだろ!」
はっ、としか表情をして、即座に振り向いて走り出す。
やるべき事、前を向くために彼女は進む。
そして、影の騎士は。
「俺は、俺はそれを見極めてやるぜ。
"誰かを守る幸せ"ってのを掴んで、それが"幸せ"なのかってな!!」
ようやく見つけた"答え"のかけらを掴むために。
ビアンカを守るように、ジャミラスへと突っ込んでいった。
【C-4/北部/午前】
【影の騎士@DQ1】
[状態]:健康
[装備]:メタルキングの槍@DQ8、命のリング@DQ5
[道具]:基本支給品一式、変化の杖@DQ3、
バシルーラの杖@、魔法の聖水@シリーズ全般
[思考]:あいつよりも、幸せになってやる。
まずは、"守る"幸せを手に。
【ビアンカ@DQ5】
[状態]:HP9/10、リボンなし
[装備]:女帝の鞭@DQ9、エンプレスローブ@DQ9
[道具]:支給品一式、炎のリング@DQ5、カマエル@DQ9
[思考]:ジャミラスに対処
[備考]:カマエルによって錬金釜の使用方法を教わっています
ビアンカの傷が治っているのはミネアのメガザルによる効果です。
第三回の放送内容をサイモンから聞きました。
【ジャミラス@DQ6】
[状態]:HP3/7
[装備]:ルカナンソード@トルネコ3、サタンネイル@DQ9、はじゃのつるぎ@DQ6
[道具]:剣の秘伝書@DQ9、超ばんのうぐすり@DQ8(半分のみ) 支給品一式*2
[思考]:?????
[備考]:支給品没収を受けていません。飛行に関して制限なし。
ターニアの件の真偽は不明です
【リッカ@DQ9】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:大量の食糧(回復アイテムはなし)、支給品一式
[思考]:絶望しない、前を向く。北へ
[備考]:寝ていたため、第二放送を聞き逃しています
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以上で投下終了です。
乙
とうとう影の騎士が幸せ掴みに動き出したか
がんばれ超がんばれ
乙
投下乙です。初めて、自分から動き、前へ出た臆病者。
こういうシチュはいつだって燃えるとこがありますね。
では、予約分投下します。
槍を取り、敵を撃ち貫く。そして、背後に控えている仲間を護ること。
それが、矮小かつ魔物である自分にできるたった一つのこと。
相対する敵は魔王。こちらの手札はか弱い女性が一人。
圧倒的不利。勝てる保証なんて全くありやしない。
「ま、今まで影に生きていた分の借りを返済する時か」
軽く槍を回転させ、前へと落とす。
実にキレッキレに決まっている。自画自賛でカッコつけも一興だ。
「さぁ、来いよ格上。クソッタレな俺でも、テメェの足止めぐらいは訳ねーさ」
「随分と囀るなぁ、格下。見合った言葉を並べないと重みで潰れるぞ」
瞬間、弛んでいた空気が緊縮し、剣と槍が交差する。
一振り。ただそれだけのやり取りだというのに、影の騎士にとっては身が縮まる思いだ。
迷いも後悔もないが、いざ戦うとなるとここまでブルってしまうものなのか。
「どうした、ただの一合で限界か? 大口を叩いたんだ、この程度で参りました、許して下さいと言えると思うなよ」
これも半端者であるが故の苦難であろう。今まで鍛錬をサボってきたツケの精算だ、甘んじて受け入れよう。
口八丁で逃げることしか考えてこなかった自分が真正面から刃を交えるのは、正直愚策としか言い様がない。
絶対なる黒の意志を持った魔王――ジャミラスを越えるには、影の騎士は絶望的なまでに力が足りなかった。
相手の力量と自分の力量、それらを比べ勝率を計算。導き出された結論は――。
「もっとも、許すつもりはないがな」
――勝率、ゼロパーセント。
単独での打倒は不可能と決断。
影の騎士の道末はここで途切れることになる。
どれだけ希望的観測を打ち立てても、此処で自分が死ぬ以外の未来が見えてこない。
「ハッ、生憎とよォ、許されるつもりは全くねぇんだよ!」
だが、彼の後ろには仲間がいる。
今までは一人影で生きてきた頃には考えもつかなかった『人間』の仲間が魔力を練っていた。
運命に選ばれず、唯一人、平穏へと朽ちていく他なかった女――ビアンカが未だ息をしている。
「猛る火焔よ、善なる左手に集え。そして、太陽の如く――溶かせ」
左手を天高く掲げ、ビアンカは呪文の言の葉を並べ続ける。
魔力を収束させ、左手の先に生まれたのは火球。触れるもの全てを消し炭へと変える業火の一撃。
「穿ち、進め――ッ! メラゾーマッ!」
放たれた火球はジャミラスを飲み込もうと迫り、少しのダメージにはなるかと考えた影の騎士達だったが。
「微温い。これなら、あの老魔術師の方がよっぽど熱かったぞ」
火球はいともたやすく彼の爪に切り裂かれる。千切りにされた火球は、威力を弱め、霧散する。
これが魔王。これが魔物の中でも特段に戦闘と頭脳に長けた強者。
幾らビアンカが才能に溢れていたとしても、彼女には経験が足りない。
一方の影の騎士は経験こそ人一倍に足りていたが、才能が足りない。
「これで終わりか? ならば、今度はこちらからいかせてもらう」
圧倒的不利、死地での立ち振る舞い、戦闘の勘。
強い呪文も経験も、両方を兼ね備えていなければ、宝の持ち腐れだ。
「ほら、避けてみせろ」
そして、食らった炎を物ともせずにジャミラスは手に握る剣を縦横無尽に振り回す。
その目には嘲笑がふんだんに込められ、遊ばれていることが理解できた。
剣速は影の騎士でもギリギリで躱せる範囲内のスピードだ。
じわじわと首元を真綿で締めるように――嬲り殺す。
魔王らしい慢心と下衆な戦い方である。
……わかってんだよ、クソッタレッ! 俺じゃあこいつを倒せないことぐれぇ!
口には出せない悪態を心中でつきながらも、影の騎士は頭を回す。
生き残ることに関してはいつだって乗り切ってきた。
だが、今回は違う。
後ろに控えているビアンカを護り切らなければ、勝利とはいえないのだ。
もし、彼女に傷でも一つ付けてみろ。その時は、胸の淀みがもっと深みを増すに決まってる。
「なら、取れる戦い方は一つしかねぇってか。ハッ、畜生め」
影の騎士は背負ったふくろから杖を取り出して、ビアンカに向けた。
「あばよ。…………………………テメエは生き残れ」
「ちょっと! 待ちなさ」
ビアンカが杖に気付き、駆け寄る前に放たれたバシルーラの魔力弾は炸裂した。
何も言えず。何も残せず。
ビアンカは戦場から離れていく。
いくら手を伸ばしても、その手は影の騎士を掴めない。
「――――さぁ、邪魔者はいなくなった。再開といこうか。タイマンだ、逃げんじゃねぇぞ」
「お前、正気か? 一人で立ち向かうには力量不足ではないのか」
嘲り、戸惑い、見下げて。
ジャミラスは淡々と剣を構え、切っ先を影の騎士へと向ける。
当然、残った彼を逃すつもりはない。
放置をした所で面白いことになる訳でもない魔物だ、ここで始末をつけるのが最適と判断する。
「あぁ、もう後数秒足らずで死ぬかもしれねェっていうのに頭はフル回転だ。全然ッ、揺らいでいねぇ」
本気を出せば、一太刀でケリをつけることができる格下だ。
重ねて言うが、両者には歴然たる力量の開きがある、一魔物と一つの国を統べる魔王。
どちらが勝つかなんてハナから決まっていた。
「けど、自分が取った行動に後悔なんざはなっからしてねェ。ろくでなしな俺でも、女一人を確実に逃す“最低限”の成果は上げれた」
それでも、影の騎士は笑っていた。
口元を大きく釣り上げ、不敵な表情を崩さなかった。
「後はッ! テメエを倒すだけだ」
「くは、ははははっ。貴様、まだ大口を叩ける余裕があったのか! ここまで圧倒されながらも、まだ!」
「たりめーだ。最後の一瞬まで、俺は諦めねェ」
下ろしていた槍を再び構え、悪くなった状況を無理矢理に蹴飛ばして。
影の騎士は、一人きりなろうとも前を向くことをやめなかった。
「幸せになるってそういうことだろうが! 俺ァ勝手に目ェ背けて命の使い方間違ってばかりでよォ!
ああ、本当に馬鹿らしい。頭ん中空っぽにして前向けば何か転がってるのに気づきもしねェクソ野郎だったぜ!!!
そんなクソッタレが“幸せ”を掴める訳ねーんだよ」
「ほう、“幸せ”を司る魔王の前でよくもほざく。いいぞ、囀ってみろ格下。貴様の遺言を聞く程度には私の機嫌は上々だ。
それに、私を満足させたならば、その生命、取り計らってもいいぞ? 貴様とて無駄死はゴメンだろう?」
粘ついた笑みを浮かべながらも、ジャミラスはその言葉を遮ることはしなかった。
よもや、魔物風情が幸せの講釈を垂れるとは。眼前の魔物に対して、幾ばくかの興味が生まれた。
人間とつるんでいたからなのか、中々に戯言が上手い。
「ああん? テメエが司ってる都合のいい“幸せ”なんざこっちからお断りだ。
それに、遺言だァ? 舐めてんなよ。こっちは死ぬつもりねーんだからよ。
俺はまだやりてェことたっくさん残してんだ。こんな何処とも知れねェ世界で死ねっか、アホ」
だが、影の騎士はジャミラスの甘言に見向きもしなかった。
確固たる意志、自分だけの“幸せ”を見据えている。
ここで生き長らえても、それは自分が描く未来のヴィジョンとは大きくかけ離れているものだ。
「俺はお前をぶっ殺して自分の手で“幸せ”を掴み取る。
テメエの司る“幸せ”は願い下げだ。与えられた“幸せ”でへらへらする程、俺はキチってねェ」
だから、影の騎士は槍を振るう。
自分の足で進んで、自分の手で掴む。
影の騎士が欲しかった“幸せ”は、そこにある。
……まァ、ビアンカ、リッカ。お前達が生きてくれんなら、俺がここで壁役をやる意味もあるってもんかもしんねェな。
それに、自分がいたことを誰かが覚えてくれるなら、それは確かな幸せだと影の騎士は考える。
誰にも省みられず、ただ切り捨てられるだけだった一魔物が忘れ得ぬ記憶の一つとして残るなら、それも悪くはない。
「楽勝だぜ、魔王ッ!」
これは、自己満足でしか物事を成せない魔物の話。
けれど、成せることを成し遂げ、自分が生きた証を打ち立てた魔物の話。
「大切なもの……俺も見つけたぜ? なァ――――勇者サマ」
無慈悲に振るわれた一閃が、彼の身体を分断した。
【影の騎士@DQ1 死亡】
【残り11人】
【C-4/北部/午前】
【ビアンカ@DQ5】
[状態]:HP9/10、リボンなし
[装備]:女帝の鞭@DQ9、エンプレスローブ@DQ9
[道具]:支給品一式、炎のリング@DQ5、カマエル@DQ9
[思考]:――――
[備考]:カマエルによって錬金釜の使用方法を教わっています
ビアンカの傷が治っているのはミネアのメガザルによる効果です。
第三回の放送内容をサイモンから聞きました。
【ジャミラス@DQ6】
[状態]:HP3/7
[装備]:ルカナンソード@トルネコ3、サタンネイル@DQ9、はじゃのつるぎ@DQ6
[道具]:剣の秘伝書@DQ9、超ばんのうぐすり@DQ8(半分のみ) 支給品一式*3、メタルキングの槍@DQ8、命のリング@DQ5
変化の杖@DQ3、バシルーラの杖@、魔法の聖水@シリーズ全般
[思考]:?????
[備考]:支給品没収を受けていません。飛行に関して制限なし。
ターニアの件の真偽は不明です
投下終了です。
投下乙です。
一匹の魔物が覚悟を決めるサマは、カッコイイですね。
幸せの形は自分が決める、それに気づいたのが、死に際というのがなんとも惜しいですが。
さて、大変申し訳ないのですが「慟哭、そして……」にて消費していたバシルーラの杖を、(
>>310)
続きである「風向きを変えろNomad」でも所持しているとして明記してしまいました。
今回の話の根幹となるところにバシルーラの杖が出てくるので、
自作の一部(
>>310)の下りを修正する形で、バシルーラの杖を所持していることにしようと思います。
本来、過去作に遡っての修正はするべきではないのですが、今回は自作にて招いたミスであり、
◆1WfF0JiNew氏が修正するのは筋が通らないと思いましたので、この対応を取らせていただきます、ご了承くださいませ。
「――――っしゃらぁあああ!!」
絶望を切り裂く、一つの叫び。
直線を描きながら、一本の光が空間を切る。
そして正確にリンリンの胴体を捉え、その体を包み込んでいく。
「走れ!!」
それとほぼ同時、影の騎士は叫ぶ。
恐怖に心を奪われ、立ちすくんでいたリッカが、その言葉にハッとする。
足を動かし、そこから逃げ出すために走り出していく。
だが、鬼がそれを黙って見ている訳もなく。
家畜を屠るように、片腕を振るおうとした。
「――――!??」
その瞬間、リンリンの体が宙に舞い上がり始めた。
何が起こったのか理解できないまま、空へ空へと昇っていく。
先ほど当てられた光、それはバシルーラを引き起こす杖より放たれた光。
魔法の聖水をかけることによって復活した魔力で、その呪文を作動させることが出来たのだ。
――――ルーラは屋内で使えば、天井に頭をぶつけてしまう。
--以下、
>>310と同文--
このように修正させていただきたいと思います。
>◆1WfF0JiNew氏
お手数ですがジャミラスの状態表から、魔法の聖水を削除していただけないでしょうか?
後追いの整合性で申し訳ありませんが、よろしくお願いします。
了解しました、この度はご足労おかけしてしまい申し訳ありません。
では状態表も以下のように修正させていただきます。
【ジャミラス@DQ6】
[状態]:HP3/7
[装備]:ルカナンソード@トルネコ3、サタンネイル@DQ9、はじゃのつるぎ@DQ6
[道具]:剣の秘伝書@DQ9、超ばんのうぐすり@DQ8(半分のみ) 支給品一式*3、メタルキングの槍@DQ8、命のリング@DQ5
変化の杖@DQ3、バシルーラの杖@、
[思考]:?????
[備考]:支給品没収を受けていません。飛行に関して制限なし。
ターニアの件の真偽は不明です
お手数をおかけいたしました、ありがとうございます。
では、続きまして私も投下させていただきます。
片手には、ずっとずっと愛用し続けてきた、自分自身の剣。
片手には、前を向くものより受け継いだ、不死者を狩る剣。
盾を捨て、攻めに全てを転じるための、二刀の構え。
順手と逆手を組み合わせた、全く新しい形。
サイモン自身に、その知識があるわけではない。
ましてや、歩く途中で拾得した訳でもない。
呼応しているのだ、彼が背負う"声"に。
「……ふん、猿真似にしては上等よ」
当然、それはリンリンにとっても見覚えのある構え。
いつも後ろで、前で、隣で。
共に戦地に身を投げ込んでいるときの、彼の姿。
数が来ようと、巨大であろうと、全てを薙ぎ、切り捨てた最強の構え。
「貴方は本気で、私を怒らせに来ているのね」
彼にだけ許された"それ"を、ただの魔物がいかにもな形で使いこなそうとしているのが、頭に来て仕方がない。
何が狙いかは知らないが、"そこ"に立ち入るのならば、容赦など必要ない。
「本気で相手してあげるわ、だから」
袋から取り出すのは、数束の草。
それを迷うことなく口に頬張り、一気に飲み込んでいく。
そのまま動かなくなり、少しした後。
建物全体を揺るがす勢いで、左足を大きく踏み込む。
アレル
「"あの人"を騙った以上、中途半端は許さない」
起きた砂煙が晴れた先、その中心に立っていたリンリンの姿には。
めらめらと熱く燃え上がる炎が、彼女の"左腕"のように形を成していた。
飲み込んだ火炎草より生まれた炎を、血液の流れに乗せ、全て左腕から放出させた。
常人ならば口から吐き出すことしかできないそれを、己の意志と闘気で、半ば無理矢理にコントロールしているのだ。
突きつけられる炎を見据え、サイモンは二刀の構えのまま、動かない。
それを見据えたまま、リンリンも構えをとる。
いつしか、彼らと共に戦っていたときに使っていた、あの構えを。
元々の自分の腕と、今生まれた自分の腕で作っていき。
「潰す」
吐き捨てた言葉と同時に、両者が共に地面を蹴りだした。
初手。
最高速で上回っていたリンリンが先に拳を突き出し、先手を取る。
彼女の全体重がかけられたその拳を、サイモンは真正面から受け止める。
だが、黙って食らうわけではない。
拳の当たっている先は、十字に重ね合わせられた剣の腹。
表の剣で衝撃を吸い取り、裏の剣でそれをさらに殺していく。
一刀では支えきれないモノを、二刀で支える。
振りかざされた圧倒的な暴力を、一つ一つに紐解いていく。
しかし、それでもなお彼女の勢いは止まらない。
打ち出された大砲の如く、剣ごとサイモンを打ち砕かんと拳にさらなる力を乗せる。
あまりの力にずず、と後ろに押されてしまう。
踏ん張れない、そう判断して瞬時に切り替えていく。
一瞬だけ刀を引き、表に翳していた剣だけで押し返す。
それと同時に、空いた片手の剣で斬りかかっていく。
この一瞬、たった一瞬だけでも、リンリンの力の全てが片腕にのしかかる。
気を抜けばすぐにでも腕を持って行かれそうになるほどの力を、なんとかいなしながらも、サイモンは攻撃に転じる。
だが、リンリンは止まらない。
自分をめがけて振り抜かれようとしている剣すら眼中に入れず、捉えた剣をもぎ取らんと拳を振り抜く。
「――――チィッ」
そこで、両者が大きく弾き飛ばされる。
サイモンが攻め手を止め、受け止めようとしていた剣を大きく引いたからだ。
彼女の姿を縫い止める事は叶わなかったが、大きな痛手を貰わずには済んだ。
まともな人間なら、初撃を受け止めた時点で肉が裂け、全身から血が吹き出ていただろう。
彼が鎧だったから、受け止めていた手を引くことで、大きな被害を防ぐことが出来た。
それでも、サイモンの手にはしびれが残っていた。
まるで、人間の手のように。
「はあッ!!」
休む間もなく、リンリンが獲物を捕らえんと迫る。
先ほどとは打って変わり、手数で攻めていく。
片腕と両足、そして炎の腕から繰り広げられる乱舞が、着実にサイモンを追いつめる。
元々、スピードはリンリンの方が格段に上回っている。
先ほどは、一点に集中した攻撃だったから二刀の十字でやり過ごすことが出来たが、今度はそうもいかない。
おぼつかない手つきで振るわれる剣で、彼女の猛攻をなんとか捌くのでやっとだ。
もちろん、それにも限界がある。
じわりじわりと後ろに詰められ、逃げ場を失っていく。
ならば、と逃げ場を失う前に、サイモンは一度間合いを離すことを選ぶため、地面を大きく蹴って後ろへ跳ねた。
「甘い」
それを、リンリンは読んでいた。
まっすぐに伸ばすのは、炎の腕。
そして、届かないはずのそれは、一瞬にして"倍以上に"伸びた。
状況を理解する前に、伸びたそれに包み込まれるサイモン。
全てを焼き尽くす灼熱が、彼の鉄の体すらも溶かさんと迫る。
怯んだ時間は短かったが、リンリンにとっては十分すぎる猶予だった。
瞬時に胴体に叩き込まれる、渾身の一発。
ごぁん、と鈍い音が響きわたると同時に、サイモンの体が高速で吹き飛んでいく。
圧倒的な力で磔にされ、そして一秒と持たずに叩きつけられた壁が崩落していく。
もうもうと立ち上がる砂埃を全く介さず、リンリンはただ敵だけを見つめる。
「そんな程度で"それ"を背負わないで」
吐き捨てる、心。
こんな魔物ごときに、こんな言葉を言わされることすら、屈辱だ。
時間はない、無駄に使っていい体力も少ない。
けれど、それを分かっていても、ここだけは譲ってはいけない。
あのマントを、あの構えを、そして"アレル"を。
騙る罪は何よりも大きいのだから。
「……バギクロスッ!!」
崩れた壁の瓦礫を押しのけ、砂埃を砂塵の嵐へと変えながら、サイモンが立ち上がる。
呼応するのは、彼が身につけている首飾り。
巨大な渦が、リンリンを飲み込まんと迫っていく。
だが、全てを飲み込む風の刃ですら、彼女を傷つけることはできない。
両の腕が交差しり上げられる旋風が、呼び出された砂塵の嵐とぶつかり合い、立ち消えていく。
もはや、小細工をしている場合ではない。
もう一手も間違えられない中で、サイモンは声を聞く。
背負うマントの、そして手に巻いたバンダナの。
今、自分が身につけているモノ達の、"勇気"の声を。
声に導かれるように二刀を構え、迷うことなくリンリンへと向かっていく。
「集え、竜の雷ッ」
その少し手前、サイモンは手に魔力を込める。
元々そんなに多くはない、なけなしのそれを全てつぎ込み。
生まれた稲妻を、両手の剣に纏わせながら。
サイモンは、勢いよく地面を蹴り、宙を舞う。
「ギガッ――――」
振りかざした、渾身の一撃を。
「――――クロスブレイク!!」
交錯させる。
閃光を放つ十文字が、リンリンを、サイモンを、全てを包み込んでいく。
それは、裁きの、救いの、自由の雷。
薄暗い牢獄の町が、鮮やかな白に包み込まれていく。
それに応じるように、サイモンの全身から、ゆっくりと力が抜けていく。
やがて、閃光はサイモンの全てを埋め尽くしていった。
「……その雷までも、貴方は汚すのね」
光の中で、聞こえたのはそんな声だった。
どごん、ともう一度鈍い音が響く。
決定的な力が、光を、勇気を、救いを、全てを壊す。
無防備な体は、まるで玩具のように吹き飛んでいく。
壁に叩きつけられる感覚、二度目のこと。
慣れない魔力を扱うのに集中していた体に加えられた、全てを破壊する力。
サイモンの体が、無事である道理など、存在しなかった。
けれど、ヒビだらけの体で、まだ"鎧"でいられたのは何故か。
「まだ、立つの?」
破壊すべき存在が、まだ立ち上がることをリンリンは認識する。
その目は虚ろで、遠くどこかを見据えたまま。
それは、まばゆい閃光で視覚を潰されたからではない。
サイモンが放った雷、"勇者"の雷。
"ただの魔物"がそれを放ったという、現実を、受け入れないための技。
絶望と怒りで視覚を遮断していたからこそ、閃光の中で、渾身の斬撃に打ち勝つ一撃を繰り出すことが出来た。
「なら……遊びは終わりよ、孤独な騎士様。引導を渡してあげる」
剣は砕かれ、鎧はヒビだらけの相手に向ける、全力中の全力。
構えた拳は、この現実を、まやかしを、全て無かったことにするための。
"事実"を塵一つ残さないための、一撃の為に。
炎の腕と、己の腕を重ね合わせるように、技の構えを取る。
「……違う」
ゆっくりと起きあがる、文字通りボロボロの騎士。
武器という武器を失っても。
吹けば崩れ落ちてしまいそうな姿になっても。
これ以上無理をすれば自分が持たないと分かっていても。
彼には立ち上がる理由がある。
「オレは、一人じゃない」
そう、"孤独"ではない。
「みんなが、一緒だ」
背負う二色のマントが、首飾りが、帽子が、ファーが、バンダナが、身につけてきた全てが。
焼け落ちそうになりながらも、まだかろうじて残っているそれらが、ついている限り。
彼は、何度でも立ち上がれる。
「どこまで――――」
そして、その言葉はリンリンに"視界"を与える。
絶望から切り離したはずのそれを、取り戻すほどの殺意と憎悪。
許してはいけない、逃がしてはいけない。
この目で、捕らえて、この手で、潰す。
両目が、赤に染まり。
「――――馬鹿にするのよォォォォォッ!!」
弾丸よりも早い拳が、打ち出される。
不思議と、その攻撃を捉えることは出来た。
捉えることが出来た、と言うよりは、捉えざるを得なかった、と言うべきか。
スローモーションの世界で、細かく、細かく、動く存在。
その拳が自分に突き刺さる事も、それを避けることなど出来ないことも、瞬時に理解できた。
だから、ただ黙って食らう?
いや、違う。
これは、最後の時間。
許された、思考の時間。
何をするべきか? それを考える。
声が聞こえる、身につけたモノ、朽ちていったモノ、そして建物自体の声。
従者の声、占い師の声、姫の声、魔女の声、そして、勇者の声。
この地で消えていった人間の声が、サイモンの力となる。
頭に浮かぶのは、一つの呪文。
"仲間"を"背負う"モノのみに、許された力。
自らの全てを、それに乗せていく。
「「「「「「ミナ……」」」」」」
呼応する、仲間の"声"と共に!
「「「「「「デイィィィィン!!」」」」」」
鎧の拳から放たれた救いの雷が、再び世界を埋め尽くした。
支援
ぱちり。
目を覚ます。
自分は地に伏していて、今の今まで気を失っていたという事。
とどめを刺さなかった? それとも抵抗するだけの力など、あの鎧に残っていなかった?
それならまだ分かる、自分も疲労が溜まっていたのだから、何かのきっかけで緊張が切れてしまったのかもしれない。
そう、ただ気絶していただけならば、まだ理解できた。
理解できないのは、そこではない。
自分を撫でるのが、冷たく突き放してくる石の感覚ではなく。
やわらかく触れる草と、冷たくも生ぬるい風。
自分が"外"にいると言うこと。
そこが、理解できなかった。
痛みを堪え、ゆっくりと立ち上がる。
舞う砂埃と、崩れ落ちた城。
ああ、崩落したのかと納得すると同時に、さらに理解が出来なくなる。
"中"で戦っていたはずの自分が、どうして"外"にいるのか。
一歩、二歩歩き、晴れた砂煙の先。
「……どうして」
そこで、全てが理解できた。
瓦礫の山、城と牢獄を兼ねていた建物だった場所。
一点だけ、それに似つかわしくない姿。
「ここにいるの」
オレンジ色の、バンダナ。
自分に現実を突きつけた張本人である少女。
リッカが、瓦礫の山に埋もれていた。
「あ、よかった……」
頭から血を流し、半身は瓦礫に埋もれたまま。
けれど、彼女は笑う。
リンリンの、かつて自分を殺そうとした存在の、顔を見て。
「何で」
「決まってるじゃないですか」
思わずこぼれた疑問符は、即答される。
「貴方は、私のお客さんです。
宿泊客の安全が第一じゃない宿主なんて、いませんよ」
「そういう事を言ってるんじゃないわよ!!」
思わず、怒号をあげてしまう。
先ほどまでどうしようもなく殺してやりたかった存在の言葉なのに。
耳を傾ける必要なんて、これっぽちも無いはずなのに。
怒りを、感情を露わにしてしまう。
「これが、私のやりたいこと。
どうしても貫きたい、私の道。
貴方と、同じです」
ふふっ、と笑う。
理解できない、という顔のままのリンリンを見てもなお。
リッカはただ、笑う。
「……そう」
その一言が、始まりだった。
「貴方の言う通りよ、リッカ。私は、やりたいことを、やるべき事を、貫き通してきた」
ぽたりぽたりと、滴のように言葉が落ちてくる。
「でも、もう私にやることなんて無いわ。だって」
それはやがて勢いを増し、流れとなり。
「"ここ"に、アレルはいないじゃない!!」
とめどなく、とめどなく、涙と共に続いていく。
「そうよ!! 私はあの人に私を見て欲しかった!!
けれど!! もう叶わないの!! アレルは、アレルはもうどこにもいないの!!」
止まらない言葉が、ただただ、リンリンの心から流れ続ける。
「この願いが! 叶うことは! もう無いの!!」
言葉を投げかけている相手が、もう動いていないと分かっていても。
叫びを、この嘆きを止めるわけにはいかなかった。
吐き出す言葉が止まったところで、深呼吸を一つ挟む。
「……貴方が一番よ、この場所で私をここまで傷つけたのは。
ふふっ、復讐だとすれば、立派なものだわ」
そして、認める。
何よりも屈強で、何よりも残酷で、何よりも強い傷を与えた相手を。
どんな戦士よりも、どんな策士よりも、どんな魔王よりも、手強かった相手を。
「こんな傷を抱えて生きていけるほど、私は強くない」
彼女は敗北を認める。
願いが叶うことなど無い、この世界に"生かされた"事実を抱えて。
きっと、このままなら自分が壊れてしまうことも、認める。
「だから、壊すわ」
故に、先手を打つ。
「私が夢を抱いていた過去を」
自分の心を、体を蝕む事実を。
「アレルが死んだと叫ぶ現実を」
光のない、闇に包まれたこの世界を。
「私が願い望んでいた未来を」
濁った瞳で、空を仰ぎ。
「だから、どんな手を使ってでも殺さなくちゃいけない。
私を、こんな目に遭わせて、苦しめたのだから、それ相応の傷は負って貰うわよ」
すう、と息を吸い込み、叫ぶ。
「デスタムーアァァァアァァァアアアアアア!!!!!」
【サイモン(さまようよろい)@DQBR2nd 死亡】
【リッカ@DQ9 死亡】
【残り10人】
【A-4/ろうごくのまち前/午前】
【リンリン@DQ3女武闘家】
[状態]:HP1/7、左腕喪失(処置済)
[装備]:星降る腕輪@DQ3 オリハルコンの棒@DQS
[道具]:場所替えの杖[6]、引き寄せの杖[9]、飛び付きの杖[8]、賢者の聖水@DQ9(残り2/3) ふしぎなタンバリン@DQ8
銀の竪琴、笛(効果不明)、ヤリの秘伝書@DQ9、光の剣@DQ2 ハッピークラッカーセット@DQ9(残り4個) 使用済みのハッピークラッカー
草・粉セット(毒蛾の粉・火炎草・惑わし草は確定しています。残りの内容と容量は後続の書き手にお任せします。)
※上薬草・特薬草・特毒消し草・ルーラ草・火炎草は使い切りました。
支給品一式×10
[思考]どんな手を使ってでもデスタムーアを殺す
[備考]:性格はおじょうさま
以上で投下終了です。
支援ありがとうございました。
気づいたらいくつも投下されててびっくり。投下乙です。
影の騎士とサイモンは出た当初には思いもよらないキャラに化けたなあ。
リッカさんはまじ頑固一徹。
みんな自分を貫いた最期だった。
とうとう全滅作品も出始め、大詰めに差し掛かってきたかな。
投下乙です
脱落ラッシュになってるけど、ここ数話で死んでいったキャラは満足して逝ったように見えるな
それがせめてもの救い
足を、進める。
無言で、何も言わないまま。
いや、何も言えないまま。
気持ちが痛いほど分かるから、何も言えない。
言うべき言葉なんて、何もない。
だから、無言で今は歩く。
遙か高い空から、悪魔の声が響きわたっても。
二人は足を止めない、歩き続ける。
はず、だったけど。
「マーニャ」
死者を告げる悪魔の声が、その名を呼んだとき。
自分たちの目の前に、"それ"は飛び込んできた。
辺り一面が焼け焦げた場所の中心で、横たわったまま動かない。
綺麗な紫髪を無造作に投げ出したままの、マーニャの姿が。
不思議と、涙はこぼれなかった。
数刻前に言葉を交わしたとは言え、赤の他人だからか。
それとも、それよりも深い悲しみを二人が経験してしまったからか。
冷たくなった体、開かない瞼、止まっている呼吸。
死んでいるということを再認識しても、涙は出てこなかった。
それから二人は、野ざらしになっているマーニャの体を、山際に立てかけてやることにした。
埋葬まで時間を取るわけにはいかないので、持っていたベッドシーツを掛けてやることにした。
あんたら
「……何と戦ってるんだよ、"姉さん"は」
その時にテリーは涙の代わりに言葉をこぼす。
先ほど、マリベルの首輪を外す際に、カインから放送の中身は聞いていた。
そして、その放送でマーニャの妹の名が呼ばれたことも、聞いていた。
妹を失った姉の気持ち、家族を守れなかった者の気持ち。
ここでも表に出てくるのは、家族。
何よりも強くで、何よりも固く、そして何よりも脆い絆。
姉や兄というのは、そういう無理を厭わない者なのだろうか?
何が彼らを突き動かすのだろうか。
下の者には到底、いや一生分からないのかもしれない。
「ねえ、テリー」
そこまで考え込んだ時、マリベルに声を掛けられる。
振り返ればマリベルが何かを言おうと、口を開いたままで立っている。
「ううん、やっぱりやめた」
何事かと思っていた矢先に、マリベルはその続きを閉ざしてしまった。
口を開けば雨霰のように言葉が沸き出す彼女が、口を閉ざすというのだから、よっぽどのことなのだろうか。
なんでもない、といった風にマリベルは笑顔でごまかしていく。
「気になるだろ、言えよ」
そこまで気になるという訳でもないが、気にならないという訳でもない。
ただ、そのままにしておくのはどうしてもモヤモヤするので、少しだけ嘘を盛って返事をする。
それを受けて、マリベルは少し俯き、暫く黙ったまま、その場に立ち尽くす。
あれだけズバズバと物事を言う彼女がここまで押し黙るのだから、よっぽど言いにくいことなのか。
何か突拍子もないことを言われるかもしれない、とテリーは身構える。
「死なないで」
マリベルが前を向くと同時に放たれた言葉は、ある意味全く予想できない言葉だった。
テリーも思わず、面食らったような顔になる。
その一言を口に出し、心の中で言葉が溢れ出してきたのか、いつものマリベルのように、言葉の雨が降り始める。
「アルスも、キーファも、ガボも、アイラも、みんな簡単に死んでいっちゃう。
こんな世界にあたしだけを置いて、どっか行っちゃう」
長い時間を共にした仲間や、友人たちはもういない。
皆、この場所で名前を呼ばれてしまった。
死に目にも会えず、ただ一方的に、別れを切り出された。
「気がついたら、あたし以外ホントに誰もいなくなっちゃうんじゃないかなって、不安になるの」
つい先ほどまで一緒だった人間ですら、今目の前で物言わぬ死体になっている。
そして、目の前で人が死んでいく様も見た。
首輪がなくなったからと言って、この場所で絶対に生きて帰れる保証なんて、どこにもない。
そう、今目の前にいる、テリーでさえも。
「これは我が儘だって分かってる。けど、聞いて欲しい。
この世界にいる間だけでもいいから、あたしの心が壊れてしまわないように」
押しつぶされそうな不安を抱えながら、マリベルは震える声で訴える。
涙を堪え、テリーの方だけを真っ直ぐに見つめて。
「あたしのそばにいて、死なないで」
自分の心が、張り裂けてしまわないように。
「ひとりぼっちはイヤ、絶対、イヤなの!!」
絶対守られる保証はない約束を、突きつける。
「……いいのか、オレで」
「いい」
暫くして口を開いたテリーの問いかけに、マリベルは即答する。
本気のまなざしに、思わず圧倒されかけながらも、テリーは頭を片手で押さえ、ため息を一つつく。
「なら、オレから離れるなよ」
「うん」
了承代わりの指令にも、即答が返ってくる。
ふっ、とテリーが笑う。
どこかほっとけない彼女を、ここまで守ってきたのは何故か。
きっと、何かを"守る"ことで、"上"に立つ者の気持ちを味わおうとしているのか。
疑似的に、"兄"になろうとしているのか。
「……どっかの誰かじゃあるまいし、な」
よぎった考えを小さな独り言と共に振り払い、テリーは再び前へと歩きだした。
前を向く、死んで終わらないために、もっともっと生きて生き抜くために。
巨大な絶望を前にしながらも、決してくじけず。
去っていた彼らが生きた証を、忘れないために。
自然に伸びた片手を、固く繋ぎながら。
前へ、前へと歩く。
【C-5/東部/午前】
【テリー@DQ6】
[状態]:HP9/10、MP消費(中)、焦げ
[装備]:雷鳴の剣@DQ6、ホワイトシールド@DQ8、猫車@現実
[道具]:支給品一式
不明支給品(0〜5、先ほど分配したもの、便宜上テリーのみに集中して明記)
[思考]:先へ進む、マリベルから離れない
[備考]:職業ははぐれメタル(マスター)
(経験職:バトルマスター・魔法戦士・商人・盗賊 追加)
【マリベル@DQ7】
[状態]:健康
[装備]:マジカルメイス@DQ8 水のはごろも@DQ6
[道具]:支給品一式
[思考]:先へ進む、テリーから離れない
【うるふわ(ガボの狼)@DQ7】
[状態]:睡眠中 おなかいっぱい
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:ZZZZZZ
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以上で投下終了です。
投下乙。当たり前だが不安定だなマリベル
こんな状態でアルス殺した張本人であるリンリンに出会ったらどうなることやら。それ以前に気付くかどうかだけど
んで、残り10人になったけど今生存してるキャラは
DQ2:カイン
DQ3:リンリン
DQ4:ソフィア
DQ5:ビアンカ
DQ6:ロッシュ、テリー
DQ7:マリベル
DQ9:ゼシカ
ジョーカー:ゲロゲロ、ジャミラス
てな感じか。
気付けばマーダーはジャミラスだけとは。いや、リンリン関係で一悶着ある予感だが
いやいや、ロッシュがまだカインと衝突してるだろう
止められる保証もないぞ
ぽつ、ぽつ、と足を進める。
背中には、今し方自分が気絶させた相手を背負って。
「ちょっとやりすぎたかぁ。あ〜あ、こんなことなら僕が猫車借りとけばよかったな」
誰にも聞こえない、大きな独り言を漏らしてから、ため息をつく。
歩ける程度に、せめて口くらいは利けるぐらいに留めておくべきだったか。
どうにも一人というのは参ってしまう。
余計なことを考えてしまうし、どうにも落ち着かない。
仲間がいれば、変なことを考えずに済む。
軽口も飛ばせる、仮面を被ることだって出来る。
仲間、そう仲間さえいれば。
「不器用そうな顔してるもんなあ、君」
背負う男の事を考える。
彼の境遇はある程度聞いている、世界の話も、周りの人間の話も。
もょもとは決して悪いヤツではないし、あきなという少女もきっとそうなのだろう。
……だが、彼には憎むべきモノが多すぎた。
自分が変わるよりも先に、世界を変えてしまおうと願っていた。
だから、今の今になって自分を変えようとしても、心のどこかでは世界を変えようとしているのかもしれない。
世界が変えられないと気づくまでの、"自分を殺した"あの時までの自分と、そっくりだ。
「仲間、仲間かぁ」
ふと思い返す。
自分も、頼れる仲間が次々にいなくなっていることを。
はじめの場所でゴミ屑のように扱われて死んでいったチャモロ以外は、死に目にすら会っていない。
唯一姿を確認したのはミレーユくらいで、彼女もきっとロクな死に方はしていない。
ハッサンとバーバラに関しては、姿すら見ていない。
……この場所で出来た仲間も、みんな死んでいった。
目を離した隙に、デュランに気を取られているうちに、シンシアが死んだ。
さっきまで一緒にいたはずのマーニャも、どこかへ行って死んでしまった。
手からすり落ちるように、彼女たちの命は奪われてしまった。
唯一、頼れる仲間と言えば、テリーぐらいか。
「かーっ!! よりによって甘えられる相手がテリーかよぉ〜っ」
本人が聞いたら5秒で鉄拳が飛んできそうな大声を出しても、何も起こらない。
テリー達は自分たちよりも先にあの場所を出発している。
気を利かせてくれたのか、それとも別の思惑があったのかはわからない。
それからあれだけ長い間やいのやいのと言い合っていたのだから、かなり離されてしまったのだろう。
早く追いつかなくては、と思うのは、一刻も早く彼と喋りたいからか?
「……何考えてるんだ、僕は」
ふと、我に返る。
何かを失うことは、初めてじゃない。
仲間を、妹を、世界を。
何だったら、自分が"壊した"と言ってもいい。
もう、これ以上何かを失ったり、壊したりすること何て、造作もないことなのに。
何を、恐れているのか。
ああ、そうか。
破壊の先に、光が見えないことを、恐れているのか。
一度ならず二度までも、自分を変えてまでも選んだ道の先のコトを、恐れているのか。
現に、一度滅ぼしたはずのデスタムーアは、理由はどうあれ蘇ってしまった。
人が生き続ける限り、何かを夢見続ける限り、この悪夢が続くのだとしたから。
あと何度、選ぶことを強いられるのだろう。
あと何度、壊すことを強いられるのだろう。
あと何度、変わることを強いられるのだろう。
ここで再びデスタムーアを倒し、一つの"選択"をしたとしても。
ヤツが蘇れば、また同じコトの繰り返しだ。
「……ほんっと、余計なこと考えさせてくれるよね」
そこで、背負う男に愚痴をぶつける。
直接的な要因ではないにしろ、こんなことを考えてしまうきっかけになったのは、間違いなく彼だ。
どうしようもない怒りと悲しみを、未だ気を失ったままの男に少しぶつけてから、再び考える。
希望はある、未来に夢もある。
妹……いや、ターニアと仲直りする。
仲直り、というのも少し変な言い方だが、今はこれしか思いつかない。
自分のやりたいことを、やる。
そのために必要なことを、今はこなす。
それだけの、簡単なことのはずなのに。
夢見た先の希望よりも、それよりも大きな絶望が待っている気がするのは、何故なのだろうか。
人が夢を見続ける限り、未来に希望を抱く限り。
この絶望は終わることはなく、繰り返されるというのか。
悪は、打ち砕けないと言うのか。
答えは出ない、出るわけもない。
ただただ、足を進め、ぐるぐると回る思考を繰り返していくだけ。
誰に相談できるわけでもなく、誰に打ち明けていいわけでもなく。
ただ、一人、思考と可能性の渦に、飲み込まれる。
「ターニア……」
最愛の妹の名は、淀んだ空に飲み込まれる。
その言葉が含む意味は、誰も汲み取ることは出来ない。
風が、そんな男をあざ笑うように、びゅううと吹いた。
【C-6/中心部/昼】
【ロッシュ@DQ6】
[状態]:HP7/10(回復)、軽微の毒、MP微消費
[装備]:プラチナソード
[道具]:支給品一式 、白紙の巻物@トルネコ、聖者の灰@DQ9、食材やら水やら(大量)、調理器具(大量)
[思考]:自分が満足できる結末を。我儘を貫く。
【カイン(サマルトリアの王子)@DQ2】
[状態]:HP1/10 脇腹打撲 肋骨が折れる、内蔵微損傷、首輪解除、ゴーグル喪失、重傷 、気絶
[装備]:ロトの剣
[道具]:支給品一式×8、モスバーグ M500(2/8 予備弾4発)、オーガシールド@DQ6、満月のリング@DQ9
世界樹の雫@DQ6、エルフの飲み薬@DQ5、デュランの剣@DQ6、もょもとの手紙、毒入り紅茶
竜王のツメ@DQ9、ツメの秘伝書@DQ9、不明支給品(リア確認済み)
[思考]:――――――
※旅路の話をしましたが、全てを話していない可能性があります。少なくともリアについては話していません。
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以上で投下終了です。
投下乙です
投下乙です。
サイモンとリッカの意地、しかと見届けました。
最後まで己を貫く姿はリンリンにとっては尊いだろうなあ。
ロッシュも色々とナーバスになってはいるが、きっとまだ間に合うを信じて頑張って欲しい。
では予約分、投下します。かなり長いので支援お願いします。
「久方ぶりですわね」
果ての見えない草原を踏破した先に待っていたのは、この世界で初めて拳を交えた少女だった。
片腕を失くし、衣服も綺麗な部分は存在しない。
きっちりと着こなしていた武道着も今ではボロボロの布切れに成り下がっている。
此処に至るまでどれだけの激闘を重ねてきたのだろうか。
それでも、両足でしっかりと大地を踏みしめてる少女、リンリンの闘気は揺らぎもなく静謐さを保ち続けていた。
「……できれば、二度と会いたくなかったよ」
「今からでも引き返して逃げたいぐらいね」
もっとも、そんなことをしたら一瞬で自分達の命は彼女に刈り取られるだろう。
彼女は逃げるものを許さない。闘争なき世界を認めない。
彼女の手は何かを砕くものだから。誰かと手を繋ぐものではない血塗れの手を、ぎゅっと握りしめ敵を討つ。
ただ、それだけだ。説得などに費やす時間も無駄である。
彼女はもう止まれないし止まるつもりもないのだ。
「お覚悟はよろしいですか? 私、一刻も早く成し遂げねばならぬ望みがある故に、今度は逃がしませんわよ。
全てを砕いて辿り着かねばならない所があるので……手は抜きません。全身全霊をもって、砕かせて頂きます」
瞬間、空気の弛みが完全に消え去った。
リンリンから放出される殺気が場を一瞬で飲み込んでいく。
一心不乱の闘争を。飽くなき闘争を。魔王を砕く闘争を。
彼女の中で生まれた感情の淀みが余す所なく圧迫感となってテリー達へと襲いかかる。
これが、リンリン。彼女の正真正銘の本気。
幾重もの刃を、魔法を、拳を。その身で受け止め、踏み越えてきた彼女は紛れも無く最強。
全参加者の中でも魔王に匹敵するであろう強靭な力を持つ彼女を前に、テリー達は顔を歪め舌を打つ。
「別に、そこまで念を押さなくてもいいよ。そもそも、俺達は――逃げるつもりはない」
同時に、テリーは腰に差していた剣を引き抜き、勢い良く横薙ぎに振り抜いた。
鈍い金属音が辺りに響き渡る。リンリンが繰り出した拳と剣による衝突だ。
あいも変わらず、狙いは頭部といった急所で背筋が凍る。
数秒間の硬直から瞬時に距離を取るべきと判断。マリベルを抱え、後方へと跳躍する。
当然、追撃を防ぐ為にマリベルが放った呪文は足止め用の氷系呪文。
閃光や旋風とは違って、確かな実体を生むのでノータイムの追撃は不可能だ。
ダメージを与える事こそできなかったが、距離を取るぐらいはできる。
「そうやって煙に巻いていては、私を倒すことなんて到底不可能ですことよ?」
「焦んなよ。急いては事を仕損じるって言葉、知らねーのか」
「知ってはいますが、私ッ、悠長におしゃべりをしている程、気が長くないのでっ!」
だが、武道の最果てまで極め尽くしたリンリンにとって氷の壁など撫でるだけで砕け散る。
違う。こんな程度じゃあない。
自分達を閉じ込めていた箱庭は、自由すら許さなかった世界は――――もっと高く分厚かった。
「ホント、悪い意味で全開で嫌になる……! 少しは。お淑やかにしたらどうだよっ」
「そんな女でいては掴めるものも掴めません。夢も、未来も、…………彼も。
ですので、私は自分の手で手に入れる。貴方達が塞ぐ道、押し通らせて頂きます!」
低い、低いのだ。彼らが投げかける言葉も、この下らない闇の世界も。
今まで潜り抜けてきた明日なき地獄と比べたら、どうってことない。
鼻歌交じりに遊びと称せてしまう。
「そこを、退いてくれませんこと?」
「退けるかよ、クソッタレ!」
剣と拳が交差。引いて、旋回。突き出された掌底を剣の腹で受け止め、翻した斬光を横っ腹から殴りつけることによって閉ざす。
一瞬、合間が生まれる。一秒の隙に何を繰り出すか、何を繰り出してくるか。
先に判断を終えたのはテリーだった。
瞬時に最適の技を決め、隼の名に準じた閃光の袈裟斬りをリンリンに叩き込む。
次いで、流れるように五月雨剣。そして、最後の止めは疾風突き。
一人旅の頃から培ってきたテリーの必勝コンボだ。
だが、そのコンボは眼前の敵には通用しない。
袈裟に振るわれた剣を掌で捌き、五月雨の如き斬光雨は致命傷だけを躱す。
止めに放られた頭部狙いの光速の突きは軽く頭を撚ることにより薄皮一枚が斬れる程度に留めておく。
「人のこと言えた質じゃあねぇけど! 闘争がそんなに好きかよ!」
「この世界に呼ばれる前なら迷うことなく好きと答えましたが、今は――大嫌いでたまらない」
彼らの戦闘法は似通っている。互いに近接を主とするバトルマスターだ。
リンリンは勿論のこと、テリーも基本的には、重い一撃よりも速度と手数を重視しで敵を屠る前衛を確立している。
遠距離から呪文を唱える後衛ではないことも踏まえて、彼らは計算しながら戦っていた。
一足一刀の間合いの中でこそ真価を発揮する彼らは拳と剣を振るい、しのぎを削っている。
「へぇ、聞くからに闘争にこそ生きる理由を見出してたようだけど」
「貴方のおっしゃる通り、数刻前まではそうでした。この拳を振るえば、それでいい。
我武者羅に走り続けられた過去の私は、それで満足でした」
反転。そして、交錯。口を動かしながらも、互いの刃を下ろすことは決してしない。
突き出された拳と薙ぎ払われた剣。耳に響く残響を置き去りに、彼らは闘いを続行した。
そして、数回の交差の後、後衛のマリベルが呪文を唱え終えたのと同時に後ろへと跳躍。
発動された呪文を受けながらも、揺らがないリンリンに顔を苦くしながらも剣を再び構える。
「ですが、気づいてしまった。否、気づかされてしまいました」
やめない、止まらない、止まってなるものか。
口も、脚も、腕も。血潮の通ったリンリンの全てが熱く燃え滾る。
今、この瞬間だけは彼らだけの時間だ。何を囀っても、自由だ。
だから、リンリンの口から勝手に漏れ出した弱音はきっと戯言なのだろう。
「彼に自由を与えなかった闘争が、嫌い」
脳裏には、アレルの屈託な笑顔が浮かぶ。
「私の夢を盲目にしていた闘争が、悪い」
それ以外、何も見えなかった。善悪の区別なんてわからなかった。
「私の願いに霧をかけていた闘争が、憎い」
ただひたすらに、彼の背中を追い続けていた。
「だから、壊すのよっ! 全てを終わらせてやり直す! その先にいるアレルにッ、私は会いに行くのっ」
そうして、全てを無くしてしまった。
彼は何も残さずに遠い場所へと旅立ち、自分は一人取り残される形となってしまった。
そんな現実、誰が認めるものか。
これまで演じてきたおじょうさまの仮面もかなぐり捨て、体裁も厭わない。
「『理不尽』が溢れる世界を、私は絶対に認めない!!!!」
願う以上は、覚悟を決める。どんな災厄が巻き起ころうとも、どんな絶望が襲おうとも。
この拳で全てを打ち砕く。その果てに、彼が見た自由の世界が広がっているのだから。
強請るな、勝ち取れと何度も繰り返し、彼女は拳を握る。
「ハッ、何を糧に戦うのか黙って聞いていれば」
その思いの丈を何もかもぶちまけた叫び声を聞いて、テリーは薄く笑った。
「知るかよ、知ったことかよ」
あっさりと、彼女の思いを否定する。
明後日の方向へと投げ捨てて、振り返らない。
どうでもいいと言わんばかりにテリーは剣を振り翳す。
「要は、逃げてるだけだろ、アンタ。
どんなに大切なもんだろうと失くしたら終わりなんだよ。終わってしまったものはもう始まらねぇ。
例え、始まってもそれは別物なんだ。俺達が望んでいた未来とは断じて違う、妥協の未来なんだ」
手が届くはずだった。
ロッシュのようにはいかないが、自分がミレーユの前に立つ時が訪れた。
護られてばかりだった過去からは卒業して、これから先は、自分が護っていこうと誓った。
420 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/09/16(火) 00:26:05.63 ID:GI07YBWCI
ほ
支援
「この世界にいる奴等を殺しても、デスタムーアも一ミリ単位に刻んで殺しても。それでも、取り戻せないからこそ大切って呼べるんだろうが。
言葉を交わした所で平行線だ、アンタの言葉を俺が理解できる訳がない。いいや、したくもねぇ」
結局、そんな未来はやってこなかった。
姉はどこまでも愚直に幼い頃の自分を見ていた。
成長し、強くなった自分を視界に入れず、保護すべき対象として仲間に入れたに過ぎなかった。
停滞。彼女の世界は、無力にも離れ離れになってしまったあの時から全く進んでいなかったのだ。
どれだけの年数を越えても、大魔王と呼ばれる絶望を乗り越えても。
“護るべき弟”という認識は踏み越えられなかった。
だから、彼女は殺し合いに乗った。テリーの為にと理由を勝手に付けて、自己満足染みた承認欲求に身を任せた。
蔑むべきなのだろう。そんな同情は要らない、アンタの弟は昔とは違うんだと面と向かって言うべきだった。
「喪ったものは永遠に還らない。だからこそ、俺達はこの一瞬を後悔しないように生きるべきなんだ。
思った時には、全部遅かったけれど。それでも、今度はもう見失わない」
「下らないですこと。それって体の良い言い訳じゃないんですの? 諦めを綺麗事で包んで誤魔化しているだけ」
そんな、もしもの可能性をデスタムーアは奪っていく。各々が大切に持っていた夢を糧に、絶望を深めていく。
姉と対話をする機会は永遠にやってこないし、生きて帰れたとしても自分もロッシュも何かを失ったまま生きていくしかない。
眼前の少女が言う通り、体の良い言い訳で何とかやりくりしているだけだ。
「そんな人に、私が負けるとでも?」
「負けるさ。いつだって、化け物じみた執念を持った奴を倒すのは――人間なんだからよ」
今を生きる自分達が死者に囚われてはいけない。死者は何も語らないし、何も想わない。
つらつらと並べられた言い訳はどれも綺麗な飾りで彩られている。
口当たりの良い言葉だ、さぞや飲み込むのも楽だろう。
だが、そうやって生きていくしか人間には道がない。
死別という永遠の別れは、簡単には割り切れないから言葉で痛みを和らげていく。
「大体、俺は魔王様に頭を下げて叶う願いなんざ持ち合わせていねぇよ。その程度の重さが、姉さんと釣り合うものか。
幾つもの世界を犠牲にしてもお釣りが来るぜ」
そんな弱くて浅ましい男が、テリーだった。
過去に縛られ、強さを追い求め続け、本来の目的を忘却した憐れな戦士。
護るべき姉が隣にいなくては、磨き抜かれた強さに意味は無いことに気づかない馬鹿な男だった。
アホ勇者に一蹴されなければわからないどうしようもない弟だ、情けない。
これから先も、絶望はひっきりなしに囁くことだろう。
お前が弱いからだ、あの時こうしていれば救えたはずだ。
その度に、下を向いて、落ち込んでもいい。時には立ち止まって空を見上げる弱さを曝け出してもいい。
喪ったものの大きさに、膝を抱えて泣きじゃくるのも許してやろう。
けれど。けれど。
究極のリーダーバルザック星4かマデュラで迷ってんだけど究極でバルザック使ってる人いたら使い心地教えてアフィ
「俺が護り抜くと誓った姉さんは、後にも先にも一人だけだっ! この世界で、最後まで俺を顧みなかったバカな女が!!!!! それが、俺の姉さんなんだ!!」
――――過去ではなく、現在を培う。それだけは、決して違えない。
「……アンタの失ったもんはその程度だってことかい? やり直して戻ってくる程度のかっるいもんでさ。
どんなもん懸けたって、デスタムーアも百回倒しても絶対に返ってこないぐらいに大切なものじゃあなかったのか」
「……お黙りなさい」
「まあ、要はさ。そんな軽いもん背負ってる奴に負ける訳にはいかねぇなってことだよッ!!」
テリーは剣を強く握りしめ、念を送り込む。
雷鳴の剣。全てを貫き、焼き尽くす雷が封じられた剣。
その真価を此処に解放せしめんと、真名を叫ぶ!
「天を貫く轟雷の咆哮よ、金色の光を呼び覚まし、共に振り下ろさんッ! 疾風召雷、雷鳴の剣ッ!」
振るった剣からは雷光がぱちぱちと溢れ出し、暗がりを明るく照らす。
アークボルトの国宝とまで言われた魔剣は、空を裂き、敵を穿つ。
一度振るえば、雷鳴が轟くように。
内包した雷を剣に纏わせ、自由自在に操れる技量を持つテリーにはぴったりの剣だ。
「さぁ、往くぜぇっ!」
纏わせた雷を散らしながら、テリーは強く大地を踏みしめ加速した。
リンリンも拳を構え、繰り出される剣撃を瞬く間に捌いていく。
だが、これまでとは違い、今の雷鳴の剣には雷のエネルギーが纏わり付いている。
触れ合う度に燃える熱さと痺れがリンリンの右腕の動きに重りを締めていく。
舌打ちと共に、これ以上受け続けると腕が動かなくなると判断し、一旦距離を離そうとバックステップを取るが、そうは簡単には逃さない。
せっかくの好機、今を逃さずしていつ敵を斬るのか。
雷刃と拳が噛み合いながら、鍔迫り合う。肉の焦げた臭いが鼻に付く。
「っ、くうっ! 猪口才なっ!」
リンリンは刃から拳を離して何とか離脱しようと脚を動かすが、テリーの追撃が止むこと無く続くせいか思うように動かせない。
構えられた拳の力も徐々に落ちている。雷撃を捌いた影響だろう、痺れによる硬直が始まっていた。
胸部付近に放たれた突きを裏拳で叩き落とす。拳を握る力が落ちていく。
下段から上段へと浮き上がる斬撃を足刀で弾き返す。脚力の衰えを感じた。
足元から蹴り飛ばされ、弾丸の如き勢いで迫る石をその身で受けた。体内の大切な臓物が潰れた。
「アァッ! 負け、てたまる、かァッ! ッラァァァ……!」
起死回生と言わんばかりに放った正拳突きも雷の壁を貫けず、新しい火傷を負って手を黒くする他なかった。
限界が、近い。闇雲に殴り続けても当たらない。拳は空を切り、蹴撃は盾に阻まれる。
焦りとは裏腹に劣勢になっていく現状に、リンリンは顔を強張らせ、攻めに重視した戦闘スタイルへと変えていった。
「そこだ。吹き飛べ」
それが、テリーの狙いだと気付かずに。
構えの合間を縫った渾身の蹴り上げがリンリンの腹部へと吸い込まれていく。
ガードをすり抜けた衝撃は、彼女の華奢な身体を宙へと浮かせていた。
「マリベル、頼む」
「りょーかいっ」
そして、宙を舞い、無防備な彼女をテリー達は逃すはずもなかった。
テリーの後方で戦況を見守っていたマリベルが、言葉を魔力にくべて、世界を照らす閃熱を両の掌に集わせる。
「今此処に太古より蘇れ、創世の熱よ、純粋なる浄化の炎ッ、眼前の敵を喰らい尽くせ!!!」
練り上げられるは全力全開。
召喚したのは抗うものを焼き尽くす紅蓮の魔弾。
術の名は、誰もが崇め奉る閃熱の境地を司る極大閃熱呪文。
推して知るべし――その呪文。
彼女の両手から、燃え滾る炎が剥がれ落ちる。
「炎に焼かれて、枯れ落ちろ――ベギラゴンッ!」
展開された閃熱の世界は、空を茜色に染め上げた。
広がった炎の海は舞い上がった草花を焼失させ、黒へと変質する前に無へ還す。
純度の高い炎を伴った熱風は総てを逃さず、焼き尽くす。
激烈な炎がリンリンを包み込むその瞬間まで、炎は赤く吹き荒ぶ。
だが、刹那。マリベルより数メートル横に蒼色の魔力弾が突き刺さる。
「……?」
どうせ、悪足掻きの破れかぶれ染みた特攻だ。
当たらなければどうということもないのだから、気にするに値しない。
浮かんだ可能性を破棄し、隣のテリーに笑いかけようとしたその時。
「あ、」
初めは小さな声だった。
「あぁっ」
その声は段々と繋がりが生まれていき。
「ぁああぁあああああぁぁぁぁあぁぁああああああああああッ!」
叫びへと変貌した。
何故、お前が其処にいる。突き刺さった魔力弾の場所で雄叫びをあげたリンリンが一直線にマリベルへと向かっている。
離れた距離を一瞬で詰めるべく、比類なき破壊の右腕を解放せんと直走る彼女の姿が視界に入った。
テリーはそれを見て、驚愕。すぐさまこちらへ駆け寄ろうとするが、間に合わない。
「こっのォッ」
後衛が前衛に勝てる道理はない。
だからこそ、前衛が後衛に攻撃が届かないようその身を盾にして護るのだ。
それはテリーも承知している。マリベルが“非力な魔術師”と推測し、前衛を務めているのだから。
「舐めてんじゃ、ないわよ、ドチクショォォォォッ!」
だが、マリベルが“呪文をぶっ放す支援メインの魔術師”といつ誰が言ったのか。
彼女が緑の少年だけに前を立たせるのを嫌がり、武闘家を極めたという事実はいつ開示されたのか。
答えは、今。迫り来るリンリンへの対応で暴かれる。
「しぃっ!」
リンリンが放つ右ストレートを、マリベルは無理矢理横へと受け流した。
それは流麗さもなく、無骨な躱し方ではあったが、経験に裏付けされた戦場の武術だった。
流されるとは思っていなかったのか、リンリンは呆気に取られ、一瞬身体を硬直させる。
千載一遇の好機、これを見逃す程、マリベルは戦闘に鈍くはなかった。
小細工なしの正拳突き。がら空きだったリンリンの腹部へと思いっ切りぶち込んだ。
血反吐を吐き散らしながら吹き飛んでいく姿を見て、マリベルは鼻息を荒くして笑う。
「ぐ、はっ……」
そのままの勢いでリンリンは地面に転がり落ち、着地もままならぬ身体で何とか立ち上がる。
敗北は在り得ない。まだ、あのクソッタレ魔王に拳の一発も食らわせてないのに、死んでたまるか。
崩れ落ちそうな膝に込められる力の全てを注ぎ、前を見る。
「よぉ」
もっとも、リンリンに次の機会があるならばの話だが。
「濃縮――――稲妻斬り」
背後から聞こえた気軽な声がテリーであると認識する前に、激熱の斬撃が体内に滑りこむ。
暗闇が雷光の煌きによって罅割れる。
痛いと呻き声を上げる暇さえ与えてくれなかった。
口から漏れ出した涎と血反吐が汚れていた武道服を更に汚す。
声にならない叫びを上げながら、リンリンは空を掻き毟る。
疲労困憊の身体は雷の糸によって余す所なく焼き尽くされ、血管も臓器も総て破裂していく。
「アレ、ル、あ、ぇ…………ぅ」
もう何も見えないし聞こえない。
最後に残せた言葉も、呂律が回らない茫洋としたものだった。
落ちていく。見上げた暗黒に――堕ちていく。
暗黒へと飲み込まれていく意識の片隅で、最後に思い浮かべたつんつん頭の少年は――――不敵に笑っていた。
こんな死に際でも途切れることない彼への想いに、呆れる他ない。けれど、悪い気分ではなかった。ふわふわとした綿に包まれたそんな気分だった。
そして、自分の身体が崩れ落ちる音を聞くこともなく、リンリンは静かに目を閉じた。
「…………終わったね」
「ああ」
終わった。剥き出しの闘志を露わにして拳を握った彼女は、ようやく眠りにつくことができたのだ。
それが、どこか物哀しく思ったのか、テリー達の表情に明るさは戻らなかった。
死者に囚われるな。わかってはいても、すぐさまに割り切れる程、達観はしていなかったようだ。
自分達は一人の少女を踏み越えて、ここにいる。
交わらない平行線上の彼女を切り捨てて、ここにいる。
「なぁ」
「何よ」
迸る言葉に、温かみはなかった。まるで、事務確認のように淡々と紡がれていく。
成した事を悔やむでもない誇るでもない、ただ終わってしまった、と。
「……行こう」
「うん」
互いの顔を見合わせ、泣きたいなら泣けばいいと言外に示しても一向に涙は流れやしなかった。
【リンリン@DQ3 死亡】
【残り9人】
【B-4/午前】
【テリー@DQ6】
[状態]:HP9/10、MP消費(中)、焦げ
[装備]:雷鳴の剣@DQ6、ホワイトシールド@DQ8、猫車
[道具]:支給品一式
不明支給品(0〜5、先ほど分配したもの、便宜上テリーのみに集中して明記)
[思考]:先へ進む、マリベルから離れない
[備考]:職業ははぐれメタル(マスター)
(経験職:バトルマスター・魔法戦士・商人・盗賊 追加)
【マリベル@DQ7】
[状態]:MP消費(小)
[装備]:マジカルメイス@DQ8 水のはごろも@DQ6
[道具]:支給品一式
[思考]:先へ進む、テリーから離れない
【うるふわ(ガボの狼)@DQ7】
[状態]:睡眠中 おなかいっぱい
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:ZZZZZZ
【リンリン@DQ3女武闘家】
[状態]:健康、左腕喪失(処置済)
[装備]:星降る腕輪@DQ3 オリハルコンの棒@DQS
[道具]:場所替えの杖[6]、引き寄せの杖[9]、飛び付きの杖[7]、賢者の聖水@DQ9(残り2/3) ふしぎなタンバリン@DQ8
銀の竪琴、笛(効果不明)、ヤリの秘伝書@DQ9、光の剣@DQ2 ハッピークラッカーセット@DQ9(残り4個) 使用済みのハッピークラッカー
草・粉セット(毒蛾の粉・火炎草・惑わし草は確定しています。残りの内容と容量は後続の書き手にお任せします。)
※上薬草・特薬草・特毒消し草・ルーラ草・火炎草・“世界樹の葉”は使い切りました。
支給品一式×10
[思考]どんな手を使ってでもデスタムーアを殺す
[備考]:性格はおじょうさま
世界を司る樹の祝福が、陽の光無き世界から少女を連れ戻した。
幾多の闘いで負った傷を癒やし、活力を取り戻すまでにリンリンを蘇らせた。
気分は上々、体力は十全、振り絞る力は満杯。
此処に、暗黒から地上へと舞い戻った少女が完全復活を遂げる。
「あはっ」
その笑い声にテリー達は答えられなかった。
リンリンの右手には光り輝く破魔の剣。
勢い良く振りかぶって、投擲。直球勝負、ストライク目掛けてまっしぐらだ。
投擲された光の剣が、薄闇を切り裂きながら空を穿つ。
そして、到達点として設定された“蒼”に墓標のように突き立った。
「ぁ――――」
流れ出る血が、生の熱さを急激に奪っていく。
冷却された身体が、痛い。
脇腹から生えた刃が視界に入るのと、ごぼりと口元から血が流れ落ちる音を、テリーが聞くのはほぼ同時だった。
「テ、リィ?」
膝は勝手に折り合わさり、視界が暗転する。
骨は砕かれ、臓腑は千切られ、大事な大事な身体にぽっかりと穴が開いた。
意志とは無関係に、身体と精神は暗闇へと堕ちていく。
急速に薄れゆく思考を必死に掻き集め、手を伸ばすが空を切る。
「テリーィィィィィィィッッ!!?!?!?!?!」
大丈夫だ、心配ない。
それだけの言葉をマリベルに伝えることすらできぬ自分が憎い。
誰だ、誰がやった。
そんなこと、聞かなくともわかっているのに聞かずにはいられなかった。
奴は完全に心臓を停止させ、焼け焦げた死体へと変貌したはず。
そう思って振り返ると、奴は意気揚々と其処にいた。
負った傷を全て癒やし、顔艶の青白さが無くなった武の鬼神が、笑っている。
護ると誓った少女の甲高い叫び声をBGMにして、テリーの意識は完全にシャットアウトされた。
「こっのぉ、よくもぉ!!!」
崩れ落ちたテリーを尻目にマリベルは怒りのままに魔力を練り上げる。
高速詠唱。磨き抜かれた経験と魔力から織りなす高等技術をマリベルは惜しげも無く使う。
許すか、許してなるものか。あの歪みきった笑みに、自分達は負けてはならない。
沸騰した怒りが魔力の炎として顕現されていく。
「煉獄の大炎を以って、仇なす全てを溶かし尽くせッ! 生まれ落ちろ、業魔の炎ぉぉぉぉォぉぉぉオッ!!! 」
周りの空気を飲み込みながら柱の形へと固まった炎。
単純なものではあるが、それ故に強力。中心部分の熱はきっと魔物でさえ一瞬で溶かせる熱量だろう。
操ってるマリベル自身、炎の熱さで蕩けそうなぐらいなのだから。
「地動獄炎――――呑み込め、火柱ぁぁぁァッッ!」
伸ばされた炎の柱が地面を縦横無尽に跳ねながら、リンリンへと迫る。
一回でも当たってしまえば、骨の髄まで溶けてなくなるであろう火柱は虚空を揺らがせた。
だが、怒りに身を任せただけの攻撃など、彼女には通じない。
うねり狂う火柱をリンリンは軽々と避けていく。
「ふふっ、御免遊ばせ」
「スカラッ! 限界、重ねがけぇ!!!」
言葉を返すよりも前に、危機を察知した身体は勝手に飛び退いていた。
そして、火柱を潜り抜け、接近してきたリンリンに対処する為に、呪文による肉体強化を幾重にも身体に纏わせる。
彼女の一撃は必殺、一発でも当たる訳にはいかないが、保険をかけておく。
「通しますわ」
「通すかッ!」
ごきり、と掌を鳴らしながら、マリベルもその身を加速させ間合いに入った。
穿たれるは頭部狙いの正拳突き。当たれば即お陀仏という文字通りの一撃必殺だ。
それを頭を下げ躱し、浮き上がる掌底を決行。
だが、掌底は同じく掌底に止められる。
勢いを失った掌を戻しながら、再び間合いを詰め、踏み込んでいく。
「ふふっ、軽い掌打ですわね。あの方と同じ構えですのに、全く響きません」
「――――っ! アンタ、アルスと会ったの?」
「ええ、緑色の服を着ていらっしゃった方ですよね? アルス、そう呼ばれていました。
この左腕を抉り取った知恵も回る人……出会い方が違っていれば、仲良くなれましたのに」
マリベルの基本的な構えはあのちゃらんぽらんな幼馴染を模倣して修行を積んだ経験から成り立っている。
あいつ一人を前に立たせることを拒み、あいつの代わりができるよう学び、戦闘で使えるように昇華させたものだ。
当然、模倣しただけの自分とは違って、あいつの構えは正真正銘のオリジナルだ。
自分なんかよりも強く、リンリンを打倒しうるものであろう。
「アルス……あの方も紛れも無く強者でした。思い返せば、今の私が形成された始まりでしたわ」
だが、“そんなこと”はどうでもいい。
今の彼女を占めているのはあいつ。何処とも知れぬ場所で死んだ幼馴染だった少年。
殺し合いに巻き込まれてから、一度も出会うことも名前を聞くこともなかった彼が、何をしていたか。
それを眼前の敵は知っているのだ。
初めて聞く幼馴染の名前が出てきたことに驚愕を隠せなかったのは失態だ。
そして、言葉から察するにアルスと闘ったのだろう。
「言葉も、拳も。彼は破るには容易くなかった。ええ、貴方とは到底違う――破壊する人」
「御託はどうでもいい。そんなことはわかってるし、聞きたいことでもない。
ただひとつ、あたしが確かめたいのは――」
半ばまで予想はついていた。彼女の反応から真実が勝手に読み取れた。
だから、これは最終確認。彼女を■すか、■さないか。返答次第で、マリベルは決意を傾かせる。
「――アンタが、アルスを殺したの?」
「ええ」
にっこりとした笑顔で返された言葉は、マリベルの胸に深く突き刺さった。
ダメだ、我慢ができない。熱く煮え滾った怒りのままに撃った掌底を、リンリンはまともに受け止めた。
だというのに、微笑みも膝も崩すことなく悠然と立っている。
全身全霊、殺意まで込めた渾身の一撃は彼女にとって満足には至らないのか。
「あの方は私でした。鏡写し。手を伸ばして、何かを掴むことができたもしもの私」
「黙れ……っ」
足刀を交わらせ、手刀を交錯させる。
通す、捌く。貫く、逸らす。蹴る、返す。
届け、届いてなるものか。崩れろ、崩れてなるものか。
拮抗した意志が面を上げて、咆哮する。
許さない、と! 憐れだ、と!
「何という僥倖! 何という運命! 私と同じ魂の色を持った彼がいるなんて!
平穏を装っておきながら、その実誰よりも苛烈で!
逃した人をいつまでも忘れ切れない深い逡巡!
拳に込めた力を何処に向ければいいの? 力無く、下ろさざるを得なかった後悔!」
「黙れぇぇっ!巫山戯たことばかり口走って、いい気になるんじゃないわよ!
ハッ、言ってやろうじゃないの。アイツと一番近くにいたあたしが保証する!
アンタみたいなイカれた奴とっ、アイツが似ているなんて、絶対にィッ、ありえるかァァああ!!!」」
マリベルが、捌く。突き出された拳を受け流し、勢いづいた手を鋭く尖らせ貫手を心の臓へと叩き込む。
リンリンが、揺らぐ。最短の動作で貫手を止め、握り潰そうとマリベルの手を掴もうとするが、そこにはもういない。
お生憎様、嫋やかな手は拳となっているのだ、砕けるなんて思うなよ。
歯を食いしばり、目を血走らせながら、マリベルは眼前の敵目掛けて、拳を思い切り振り抜いた。
肉を打つ音が響き渡る。同時に、浮遊する一人の少女。だが、致命傷には成り得ない。
吹っ飛びこそしたが、すぐに態勢を立て直された。
「幼馴染舐めんな、ばーーーーーーーかっ」
「かはっ、ふっ、ヒハッ。口だけは、御立派ですわね……っ」
情熱は足りている。リンリンを討とうとする気持ちは誰にも負ける気はしない。
想いに曇りはない。これ以上、この女に好き勝手させてたまるか。
だが、何よりも――圧倒的に力が足りない。
彼女を打倒しうる決め手を、マリベルは持ち合わせていなかった。
「では、そんな一番近くにいた幼馴染さんに問い返しましょう。
貴方に、彼の何がわかりますの? 彼のことを知った口を聞きながら。一番近くに寄せていながら。
誰よりも盲目でいたのは――貴方ではありませんこと?」
「そんなこと、当然」
「彼が闘う理由、彼の奥底にあった懊悩、彼が最後に見た世界。それら全てを並べて語り尽くせますの?」
即答はできなかった。思えば、自分は彼の口から何がしたくて、何が欲しくて、何の為に戦っているか聞いたことがない。
そもそも、アルスはいつものんべんだらりとしていながらも、心の中を漏らして弱音を吐いたりする奴ではなかった。
自分の我儘で振り回していた時も。ウッドパルナで不安な心境を曝け出した時も。度重なる冒険で辛い時があっても。
親の都合で、マリベルがパーティを抜けた時も。ボルカノが行方不明となった時も。
いつだって、いつだって。彼は困ったように笑っていた。大丈夫だよ、と曖昧に誤魔化していた。
そこに、自分が入る余地なんて何一つ無いのだと、言ってるかのように。
「敵として相対した私の方が、己を曝け出しあっていましたよ?」
自分では――――彼の奥底を引き出す人に、成り得ない。
彼女の言葉を戯言と一蹴するには、ピースが足りなかった。
「彼も、逃げたかったんじゃありませんの? 自分を縛る宿命、人々、世界から。
どの世界でも、人々は請い諂って、勇者様どうかお助け下さいと頭を垂れる」
人々を助け、封印を解いてきた。幾つもの世界を救ってきた。
それが、彼にとっては重みだったのだろうか。背負った世界は、逃げたいぐらいに辛くて。
「自由もなく、ぶつける相手もなく、やり場のない想いをずっと抱えて」
唯一、彼が素を曝け出していたであろう親友は、過去に消えてしまった。
残す言葉もなく、自分だけで勝手に宿命を決めつけて。
それに、自分やガボは涙した。ふざけるなと叫んで、不平不満を零した。
だが、アルスはどうだっただろうか。何を言うでもなく、事実を受け入れていた。
「だから、人間が憎い。身勝手で力ある者を縛りつけて馬車馬のように動かして。使い終えたら、差別する」
後の冒険でも、アルスは離脱してしまったキーファの分まで戦っていた。
誰よりも前で、剣を振るって。時には拳を掲げて。
その光景を見て、マリベルは思ったのだ。
彼もキーファと同じくどこかに行ってしまうのでないかと危機感を抱いた。
「ほら、私と同じですわ。私みたいにならなかったのはたまたま」
故にこそ、彼と同じく前線で戦うことをマリベルは決めたのだ。
彼の手を離さないように。もう二度と、キーファの時とは同じにはさせない。
絶対に離れてなるものかと磨きをかけたのだ。
「まあ、もっとも。私がトドメをさしたんですけれど」
「――ッ!」
けれど、いなくなってしまった。
末期の言葉を聞くこと無く、眼前の糞女に殺されてしまった。
あるはずだった未来、戻ってきたはずの日常。
全部が、どこか遠くへと行ってしまった気がする。
「憎いですか? ふふっ、そうですよね。私もアレルを殺した誰かが憎くて憎くてたまりませんもの」
「…………よくわかってるじゃない」
あの潮鳴の音はもう聞こえない。隣を歩く彼らが何処にもいないのだから、聞こえない。
彼らがいないグランエスタード島に帰っても、何か意味があるのだろうか。
それを考えるのが、怖かった。
いるはずだった人達がいない村。
それでも、過ぎていく毎日。
どうしてと投げかけても進んでいくしかない現実が、マリベルにとって恐怖以外の何物でもない。
「あたしは、アルスを貶すアンタの存在自体が憎い。
大切だったものを過去にして、忘却へとすっ飛ばすアンタが、だいっきらい」
「結構。ならば、語りなさい。その拳で私を越えてみせればいい」
けれど、それ以上にマリベルを恐怖させるのは忘却。
一分、一日、一ヶ月、一年。
時が経つにつれて、彼らの存在は忘れられていく。
欠かせない日常の一ページだった彼らが、本当の意味で死ぬのだ。
そして、最終的には自分も――忘れてしまうのだろう。
「構えなさいな。護りたいのでしょう、譲れないのでしょう? ならば、勝ち取ればいい、越えてみせればいい」
嫌だ。そんなのは、嫌だ。
自分が死んだら、彼らはどうなる。
何も残らない、誰の中にも強く映らない。
そんな悲しい結末を、マリベルは認める訳にはいかなかった。
「私を倒さないと、後ろに倒れてる人も、死んでしまいますよ?」
それに、約束したのだ。ずっと、一緒にいると。
彼は今も血溜まりに沈んでいるが、すぐ起き上がる。
このどうしようもないろくでなしを叩き潰したら、きっと。
「ざっけんじゃないわよ。これ以上、アンタに奪わせてなるもんですか」
だから、負けられない。
最後の最後まで、抗って――手に入れる。
だって、その手には比類無き彼らの思いが込められているのだから。
「それでこそお相手に相応しいですわ。では、再開といきましょうか!」
戦闘続行。再開の合図と共に、リンリンが勢い良く跳躍。
一足一刀の間合いへと踏み込んでいく。
対するマリベルも沈み込むような態勢で肉迫したリンリンの背を踏み、背面へと回りこむ。
そして、真っ直ぐの掌打を打ち込んだ。
「遅いっ」
だが、リンリンはその体を宙返し、安々と躱す。着地と同時に横薙ぎの足刀を一閃。
ガードしたマリベルの腕と衝突する。その勢いのままに体を捻らせながらリンリンは飛び上がり、空を踏む。
舞った空から、流星が降りてくる。マリベルの頭部めがけて圧砕の蹴撃を突き刺そうと足を伸ばす。
これを受けたら、拙い。そう察知したのか、マリベルも地面を蹴り、がら空きの前へと疾走。
大地が割れる音が響く。
次いで、爆音。マリベルが予め、練っておいたイオラを解放したのだろう。
爆発球をモロに受けたリンリンが虚空へと吹っ飛んだ。
「まだ、まだァ! 今此処に太古より」
「させませんわ!」
その隙にと、詠唱を始めたマリベルに向け、リンリンは取り出した杖を振り翳した。
杖先から穿たれる魔弾をマリベルは寸での所で躱しつつも、詠唱はやめない。
このまま押し切る。遠距離戦闘ならば、呪文を使えるこちら側の圧倒的優位だ。
勝利への確信を表情に浮かべ、マリベルは詠唱した呪文を放とうと――――、
「させません、と言ったでしょう」
――――ボキリ、と骨が砕ける音が体内から鳴った。
リンリンの掌打が、まともに入り、吹っ飛んだ。
「がっ、はァっ」
ああそうか、あの魔力弾は場所を瞬時に移動する補助の杖。
ついさっきの特攻もこれがあったから成り立った。
気づいた時には既に遅し。リンリンは間近に迫り、拳を突き出していた。
転がり、土塊に塗れた髪を手で払いながら、マリベルは漸くと立ち上がる。
眼前に嘲笑の表情を浮かべ、駆け出したリンリンに対処する為に、同じく構えを取る。
「いい加減、倒れなさい!」
「ハッ、それはこっちのセリフよ! マリベル様をこの程度で、殺せると思うなぁ!」
飽和しそうな殺気の中で、両者は再び激突する。
踏み固められた草が、土が、殺気に怯えて吹き荒ぶ。
姿が霞むまでに加速した速さ、泰然とその場を一歩も離れない点。
純粋なる力を伴った拳。魔力を帯びた拳。
両者の意地が、ぶつかり合う。
「風よりも、光よりも、何よりも速くッ!」
「――疾風怒濤。今此処に、一撃という概念に全てを懸けよう。この拳こそが最強最速の剣なり。魔力よ、伴え!!」
後、一メートル。五十センチ。
虚空を裂いてあらん限りに叫び声を上げる。
お前には負けないと、意地を謳う!
「正拳突きィィィィィィィッ!」 「魔人斬り改め、魔人突き――――ッ!」
疾風の曇りなき一撃と魔を断つ断罪の一撃が、炸裂した。
そして、相殺。爆風が辺りに吹き広がる。
「捌く!!!!」
「貫く!!!!」
必殺が必殺に成り得なかったと見受けた瞬間、両者は次の攻撃に移る。
蹴撃と蹴撃がぶつかり、掌底と右ストレートが跳ね上がった。
打倒には至らず。
流れるようにリンリンは手刀を繰り出し、マリベルはそれを捌く。
一閃、空を切る。二閃、身体の隙間を抜けるだけ。三閃、身体を穿つも止まらない。
「オ、オオオオォォォッ!」
たかが、身体に穴が開いたぐらいで、死ぬものか。
マリベルは胸部へと迫った拳を手で捌き、翻した手刀を相手に突き刺す。
刺さりはしたが、軽微。倒すには貫通力が足りない。
右掌、回転。
髪を掴まれ、そのまま頭部へとぶつけようとするリンリンを捌く。その勢いを利用して左腹部に重い掌底の一撃。
ダメージは軽微。血こそ吹き出したが、目は死んでいない。
左掌、魔力充填。
再び、魔人の名を冠とした一撃を発射。左肩を抉ることに成功したが、表情は笑みのまま。
両掌、気力解放。双腕をバツの字に交差させ、鎌鼬を起こす。
真空の刃が、リンリンの胸を深く切り裂いた。しかし、後退はせず。前進態勢にグラつきはない。
「本当ッ、しつこいわねぇ! いい加減、死んでくたばれ!」
「うふ、あはははっ、その言葉、あえて返しましょう! お前が、くたばれッ!」
拳が突く。掌が捌く。身体が奔る。脚が抉る。
「るっさぁぁぁあいいいっ! 何が悲しくてアンタに殺られなくちゃなんないのよ!」
「耳元で叫ばないで下さる!? 鼓膜が破けるじゃありませんの!!」
啖呵上等、お前より、アンタより――私は強い!
「あ!? 叫ばなくちゃやってらんないっつーーーーの! つーか、鼓膜破けてついでにぶっ倒れろ!」
「野蛮な言葉ですこと! 品位を疑いますわ!!!!」
はちきれんばかりの声を上げ、少女二人は拳を交わす。
相手が放つ全ての拳撃を捌いて、壊すのは自分だ。
意地なのだ、見栄なのだ。
こんな奴に私が負けるかといった闘争心が、うねり狂う。
「これでも、あたしはお嬢様よ!!」
「そんな口の悪いお嬢様がいてたまりますか! 私を見習ってはどうですか!」
「ハッ、言葉を返すようだけど、アンタみたいな馬鹿力なお嬢様の方がよっぽどよ!」
「は、ハア!? アレルにもそんなこといわれたことありませんのに!!」
身体は熱く、それでいて心は冷たく。
相手を撃滅するには、熱さだけでは足りないが為に。
「ハンッ、アレルとやらも見る目がないわね! こんなじゃじゃ馬怪力女に付き纏われていい迷惑だったんでしょうね!」
「お、まえぇぇぇええええぇぇぇえええっ!!!!」
――こうやって、頭を使うのだ。
安い挑発に引っかかった。リンリンは笑顔から憤怒へと表情を変え、拳を真っ直ぐに突き出した。
見分けのつきやすい単純な一撃だ、実に読みやすい。
「つぅかまえた」
「……ッ!?」
繰り出された真っ直ぐをその身で受けながら、左手でしっかりと掴む。
離れないように、逃げ出さないように、ぎゅっと握りしめる。
「は、離しなさい!!」
「嫌よ。あたしはもう、疲れたの。だから、こうしてるって訳」
「くっ、うぅぅううっっ!」
「終わりにしましょう? もう、これ以上長引かせることもないのよ」
そして、右手に収束するのは爆裂呪文を無理矢理球状に固めた珠玉の一発。受けるものを灰塵へと化す破壊の爆撃。
「術式解放。雷光轟音――爆ぜろ、イオナズン」
それは必殺であり、会心であり、絶対であり、渾身であり、全霊である。
全てを溶かす光が、放たれた。
「全魔力を込めた一撃よ。冥土の土産に持っていきなさい」
最後の叫び声は言葉にはならなかった。
固定されたイオナズンはリンリンを伴い、後方へと押し込まれていく。
紅蓮の花が、散華した。大気を揺るがす爆発に、大地が飲み込まれていく。
地面はめくれ、草土は塵になり、風は荒れ狂う。
爆発に噛み砕かれた大地が、消えていった。
「は、はは、あははっ」
想像以上の威力に、乾いた笑い声が口から漏れ出した。
何だ、これは。全魔力を込めたとは言ったが、ここまでの規模を誇ったのか。
世界を真っ赤に染め上げた爆発を、マリベルはじっと目に焼き付けた。
「これで、やっと終わり、」
「――――――ええ、貴方が終わりです」
その先の言葉を発することはできなかった。口元からせり上がった血液が、それを阻害した為だ。
何が起こったかと考える前に、視界に映ったのは自分の腹部の真ん中。
肉が刺し抉られた痕と、銀色の棒。
心臓一直線の致命傷だ。力が抜け、膝から崩れ落ちる。
「どんな苦難があっても、踏み越えてきたからこそ――勇者の、いや……アレルの後を付いて行けたから。この程度で、死ねません」
爆炎の中から出てきたリンリンに、マリベルは言葉が出なかった。
轟音と雷光に身体を浸したはずなのに、どうして。
尽きぬ疑問に、リンリンは静かに答えた。
「私は、魔王を殺す為に拳を振るう。抗いましょう、撃ち貫きましょう。まだ見ぬ夢の果てに辿り着くまで。意地ですよ、意地」
例え、どんな災難辛苦に巻き込まれようとも、倒れない。それが、勇者の仲間なのだろう。
全身を赤に染め、焼け爛れた姿でいながらも、リンリンは立っていた。
両足で、目を見開いて。生きていたのだ。
「だから、倒れませんわ」
自分の快楽の為だけに敵を砕いていた過去とはもうおさらばしてしまった。
集中しろ、過程で塞ぐ障害物は砕け。
歯を食いしばり過ぎたのか、口の中にたまった血反吐を吐き捨てて、彼女は拳を握る。
快楽を飲み込み、刹那の闘いに身を興じる余裕など今の彼女にはなかった。
拳に乗せる思いなんてデスタムーアに対しての憤怒だけで十全だ。
「やれば、できるじゃありませんの。くくっ、良い、一撃でした」
お伽話の絵本の中では、美しくお涙頂戴に彩って綺麗な思い出として飾っている。
大丈夫。君の意志は必ず継いでみせる。ああ、見守っておくれ天国で。自分達が輝くその瞬間を。
下らない。大切なのは力だ。そんな意志なんて軽いものだ。
そうやって、侮辱していたままだったら、リンリンはここで倒れていた。敗北の苦渋を味わって死んでいた。
「化け、もんね……ったく、最強名乗れるんじゃない?」
「生憎と、そのような称号には興味がございませんので」
リンリンはそんな人達の想いを跡形もなく叩き潰してきた。
だって、彼女は何よりも強い化物だから。
血の滲むような努力も、果てしない年月を経ること無く、最強を掴める天才だから。
その天才が、必死に力を研いで修行を重ねているのだ、最強を超えない訳がない。
故に、彼女にとって最強の重さなんて、今も手に携えている杖の重さにも及ばなかった。
ひょっとしたら髪の一房よりも軽いのかもしれない。
事実、リンリンにとって最強とは、肩書とは、その程度の認識にすぎない。下らないのだ、そんなものの為にマジになるなんて。
「それに、私の強さを見て欲しいのはアレルだけですの。他の人にどう想われようとも、ちっとも響きませんわ」
飽いていた。自分を燃やすものがない人生に。
だからこそ、彼に恋い焦がれたのだろう。
傍若無人ながらも、どこまでも突き進む幼馴染に。
もっとも、いくら自問自答を繰り返しても、リンリンはそれが“恋”だと答えを得ることは出来なかった。
けれど、それでもいい。アレルを大切に想っているのは変わらないし、伝えられなかったのならこれから伝えに行けばいい。
魔王をこの手で殺した後に、会いに行くことでリンリンの夢は達成されるのだから。
「ともかく、私の勝ちですわね。それでは、お覚悟は宜しいですか?」
「そうね、アンタとあたしの戦いは……そっちに軍配が上がったけど」
結局、生き残った方が勝者だ。そんな理屈、マリベルは御免だと喚きたいが、その元気もない。
魔力は空っぽ、血が抜けた身体の全身は弛み、力が入らない。
ああ、悲しい程に終わりかけている。テリーとの約束も、アルス達をずっと忘れないという決意も、闇の彼方へと沈んでいく。
自分の不甲斐なさに涙が出そうだ。満足な人生じゃなかった、クソッタレと叫べるものなら叫びたい。
「――――あたし“達”なら、どうかしら?」
けれど。最後に見えた景色に彼がいたから、まだ笑える。
不敵に笑って、リンリンに宣戦布告もできた。
敗北宣言も悔しくないといえば嘘になるが、リターンマッチは彼が果たしてくれるだろう。
その未来を想像して、そこに自分がいないことがかなりムカつくが、
「ぶちかましなさいよっ、テリー!」
「…………あァ」
まあ、これも一つの結末と納得して、マリベルは目を閉じた。
最後に、はにかむように笑って、潰れた肺を無理矢理に起こして声を張り上げた。
「負けるな、頑張れっ!!!!!!」
「あぁ。絶対に負けねぇし、頑張る!!!!!」
彼女が自分を護る為に戦っていたのは、知っていた。
薄っすらと見える視界でリンリンと殴り合うマリベルは、闇の中でも輝いている。
……加勢、しねーと。
護ると誓ったのだ。ずっとそばにいると言葉を交わし合ったのだ。
約束した男がこの体たらくでどうすると、テリーは鼻で笑う。
まずは立ち上がろう。力の入らない身体に喝を入れて、両腕に力を込めようとするが、全く入らない。
現状は厳しく、ふらつく身体は言うことを聞かなかった。
助けようと手を伸ばしても、掴めない。声を届かせようとしても、伝わらない。
「おい、おい……何、やってんだよ、俺」
震える身体が弱々しくも、もう休めと囁いている。
立ち上がる必要なんて無い。お前の役目は終わったのだ、と。
事実、ここで立ったとしても死にかけの自分に何ができようか。
信じた思いもすっからかん、今度こそと願った姉はもういない。
「だけどよ、だけどっ!」
彼処には、護ると誓った少女が一人戦っている。
どうしようもなく弱い自分を信じて手を握ってくれた馬鹿な女だ。
本当に、呆れてしまうぐらいに馬鹿だけど――最高にいい女なんだ。
「今ここで、並び立てねぇとか、ふざけろよ。情けねぇにも程があるだろ」
そんな女が自分を護るべく、得手ではないだろう格闘戦を繰り広げている。
前衛として培ってきた経験も、最強の称号を得るべく積んだプライドも全部くれてやろうじゃないか。
だから、立ち上がれ。最強の剣士とか、魔王討伐とか関係ない。
一人の人間として、テリーとして、あの女には負けられないと心の底から思ったのだから――!
「んじゃ、まァさ。あんな女にアイツと俺の命はやれねぇよなァ……」
テリーはまず、突き刺さった光の剣を力強く抜き放つ。
こんなものをぶっ刺したまま戦うような酔狂な輩でもない、邪魔な異物はさっさと取るに限る。
ぐちゅりと気持ちの悪い音を立てながら引き抜かれた腹部からは、血と粘液と臓腑が混ざり合ったモノが糸を引いている。
穴からは何処に溜まっていたのか、血液が再び流れ始めた。
拙い、このままだと立ち上がる前に出血多量で死んでしまう。
「しゃー、ねぇか」
取った決断は、止血。それも、火の呪文であるメラを利用して、焼く。
応急処置でもここまで乱暴なものはない。
できればしたくはないが、背に腹は代えられない。今すぐ戦線に復帰しなければ、マリベルが死んでしまうかもしれないのだ。
「燃えろ、メラ」
血肉を焦がす独特の香りが鼻に付く。
じゅわじゅわと音を立てながら焼かれる傷口と意識が吹っ飛ぶような痛み。
声にもならない叫びが出そうともしていないのに、勝手に出てしまう。
みっともなく、血反吐を吐きながら身を捩る。
頭の中で星屑が弾けたような激痛が、テリーに何度も道を照らす。
諦めろ、と。
それは花の蜜が垂れた甘美で解放なる光の道。
楽を許し、綺麗な想いのまま終末を迎えられる天への階段。
希望、夢、理想、幸福、あらゆる“正”が司る一筋の光。
止まってもいい、と。
だって、もう十分にやったじゃないか。
後のことはロッシュが全部解決してくれる。
自分の道はここまでだ、よく頑張りました。
けれど、テリーっていう負けず嫌いの剣士は、そんな綺麗な戯言で満足か?
知れたことだよ、クソ野郎。答えは――、
「アホ、か。俺の終わりは、俺が決める。大体ッ、ロッシュの馬鹿一人に背負わせるとか、かっこ悪すぎだろう、がっ――――!」
――つべこべ言わずに立ち上がれ!
「ァ、あぁァぁぁああああっ、ああっ、ぁぁあああああっああああぁぁぁァぁァァあああああああ!!!!!!!」
大地揺るがす雄叫びを上げながら、テリーはゆっくりと身体を起こす。
そして、両の足で大地をしっかりと踏みしめる。
生命無き貧相な大地の上で、生きていることを証明するが如く、一歩、二歩、三歩、足を進める。
彼女の叫びは確かに受け取った。そして、答えも返した。
ぶちかませ。上等だ、あの小生意気な女は一度ぶちかまさなきゃ気がすまなかった所だ。
体調は絶不調。魔力も霧散し、腹部には刺傷とついさっきできた火傷の痕。
見てくれが大事な色男が台無しだ。これではベストドレッサー賞は辞退せざるを得ないなと、軽く笑う。
「あら、立ち上がりましたのね。せっかくの色男が台無しな有り様ですが、大丈夫で?」
「それはこっちのセリフだよ。全身火傷と血で化物みてーな風貌の奴に言われたくねーよ」
けれど。けれど。
今にも死にそうな満身創痍のボロボロなのに、気分は最絶頂なのだ。
まるで負ける気がしない。信じてもいないが、天使様のご加護を授かったと錯覚してしまう程だ。
くくっと笑って、テリーは雷鳴の剣を拾い、強く、強く握りしめる。
「さぁ、この腹の傷を付けた落とし前、晴らすぜ」
「あらあら、そんな過去のことをぐちぐちと言う男の人は嫌われますわよ?」
「おいおい、馬鹿力だけが取り柄の暴力女も似たり寄ったりだろ。ま、軽口はともかくとしてだ」
「ええ、それはともかくとしましょう」
両者、荒い息を整え、頬を釣り上げて獰猛に笑った。
最後の戦いだと両者はわかっている。そして、これ以上に先延ばしにする理由もないことも。
次の瞬間、疾駆。力強い踏み込みにより、傾きながらも加速していく。
片方は剣を、もう片方は拳を武器にして一閃を決めた。
激突。極大な剣戟音が鼓膜を疼かせる。
「お前には、絶対に負けねぇ!」 「貴方には、絶対に負けるもんですか!」
数秒の停滞の後、剣が翻った。
目標は脚部。足の付根目掛けて振り抜かれた剣をリンリンは軽く飛び上がることで躱す。
飛び上がった勢いで、リンリンは身体をしならせながら足を廻した。
ガードは不可。剣による迎撃は間に合わない。
空中で撃ち放つ廻し蹴りを前に、テリーは身体を屈ませてスレスレの所を乗り切った。
立ち位置が変わる。両者めまぐるしく、立ち位置を変えながら小細工を含めた連撃を繰り広げる。
「ハッ、そこォ!」
構えの崩れを感じたのか、テリーは一旦後退。そして、剣を腰溜めに構え、居合斬る。
剣尖からは雷光が発せられ、リンリンを飲み込もうと顎を開けた。
無論、まともに受けては散々たる結末となるので、足を跳ね上げてバックステップ。
雷光は地面を焼くに留まった。
「厄介な武器ですわね。技量もさることながら完全に使いこなせてますね」
「元の世界で愛用していた剣でね。言わば、相棒ってやつさ」
再度、雷光が発射される。今度は突き出された剣尖から真っ直ぐだ。
先程とは違い、貫通力とスピードに特化したものらしい。
だが、リンリンにとってどちらもそこまで差を感じられない。
躱してしまえば、どうということはないのだ。
くるりと身体を横に投げ出し、雷光を避けながらテリーへと駛走する。
突き出された構えのままであるテリーを、穿つ。
「ですが、微温いですわ!」
「微温いのは、どっちだよ! 雷光隼斬りっ!」
正拳と斬撃がぶつかり、炸裂。パチパチと光の粒が咲き乱れた。
一瞬ではあるが、テリーは眩いそれに目を細め、意識を奪われる。
それが、隙とわかっていながらも生体反応は収まらなかった。
「貫かせて頂きます」
その刹那はリンリンにとって絶好の後期となる。
右腕を後ろに引き絞りながら、掌打の構え。
「頭を垂れて崩れ落ちなさい――掌底一閃」
爆裂呪文にも勝るとも劣らない音をセットに、テリーの腹部へと掌が突き刺さった。
「ぁ、がっ、はァ……!」
吐瀉物を撒き散らしながら地面を転がるも、連撃は終わらない。
リンリンは並走するように駆け出して、止まった所を止めをさす算段なのだろう。
鬼気迫る顔をしながらの突進は危機感を煽るのに十分だった。
「ちィくっしょうがァ! イオッ!」
転がりながら魔力を充填し、地面へと解放。
爆発と共にテリーの身体は宙を舞い、勢いを完全に殺す。
一方のリンリンは余りにも乱雑な止まり方に付いて行けなかったのか、加速を止めるのが遅れテリーを追い抜かす。
「背後、取ったぜ。雷光よ、太陽の如く融かせ」
それは致命的な隙だった。雷鳴の剣から放たれた極光が、リンリンにぶち当たる。
振り向く暇すら無かった。全身全霊の極光は光のシャワーを散らしながら、果てた。
後には黒焦げ一歩手前の人間だったモノ。
一般的に見て、死んでもおかしくない傷だ。
「まだ、終われ、ないッ! ここで、私は死ねない!」
だが、それでも。彼女は倒れない。
もはや、肉体的損傷を超越した鬼神とまで言っていいだろう。
魔王を倒すまでは絶対に負けないといった意地だけで、リンリンは冥府魔道の閻魔様を退けている。
「ああっ、そうだよなァ……誰だって、何処とも知れねぇ闇の世界で、死ねるかよって話だ」
「足掻いて、足掻いて、最後の一欠片まで足掻いて、私は諦めません」
「俺も同じさ。ま、このまま喋っても平行線。交わりはしない」
「そのよう、ですわね」
互いの身体に傷一つない綺麗な部分なんて存在しなかった。
血と草土がふんだんについた赤黒い衣服と焦げた傷。
幾つもの死闘の末に残った二人が歩んだ軌跡が、全て込められている。
だが、感傷に浸る暇なんて無い。
リンリンが死ぬか、テリーが死ぬか。それとも、両方が死ぬか。
選択肢は三択。誰の犠牲もなく終わるハッピーエンドは存在しなかった。
けれど、幕開けをしたのだから幕引きをしなければならない。
それが道理だ。この世界で定められたルール。
「だから、決着を」
「ええ、決着をつけましょう」
そうして、最後の幕引きが始まった。
二つの影が同じタイミングで疾走する。
武器は同じく、剣と拳。
勝利条件は相手の殺害。
補助として、最高最速の一撃を相手に叩き込むといった所か。
コンディションもほぼ同じ。どちらが勝つかなんて予測は不可能。
だが、お互いは自分こそが一番だと高らかに吠えている。
自分の勝利を自分が信じれないで何が戦士だ。
「雷光一閃――疾風突き」
剣を水平に構え、雷光の力を蓄えた剣が疾風の如く。
リンリンの首筋目掛けて放たれた。
そして、それを避ければ勝利はほぼ決まったようなもの。
全神経を研ぎ澄まし、刹那の一秒を引き寄せる!
「ァァあァぁァあぁぁぁああぁぁァァあああああああああああああっ!!!
殆ど偶然と経験からなる反射のようなものだった。
側方へ平行高速移動をしながら首の骨が折れるギリギリまで横に曲げ、金色の極光線を一ミリ単位で退ける。
そして、そのまま流れるように剣を持つ右手首に軽く掌打を一発。
指から離れ落ちる剣を見るやいなや、回し蹴り。
双腕でガードされたが、相手の武器を封じることができた。
後は、横転してくるくると回っているテリーにトドメの一撃を決めるだけ。
意気込みをそのままに、右腕を振り上げたリンリンに勝利の笑みが浮かぶ。
忌々しき二人との因縁も最後。傷だらけの重傷ではあるが、目的に一歩近づいた。
これで――――全てが終わる。
「私の勝ち、ですわ――――!」
「ああ、お前の勝ちだよ。俺とお前の勝負はな。
だけど、最初にアイツが言ったはずだぜ。俺“達”ならってな」
「そう、ねっ、あたし“達”が勝つのよ!!!」
――――信じていたぜ、マリベル。
瞬間、一筋の閃光がリンリンの腕へと着弾した。
見開かれたリンリンの瞳からは信じられないと驚愕の意志が伝わってくる。
何せ、死んだと思っていた奴が実は生きていて呪文を唱えたのだから。
背後から放たれた閃熱呪文がリンリンの腕を焼き落とすのと同時にテリーが起き上がる。
手には予備にと腰に差していた光の剣。自分の血霞に濡れた剣を武器にするのは気が進まないが、四の五の言ってられる状況でもない。
「“切り札は最後の使い所まで取っておけ”。冥府魔道に行ったら役に立つ格言だ、持って行きな」
視界の先には、マリベルがしてやったりという顔をして、中指を立てていた。
ああ、わかってると頷きをもって答えを返す。
こんなにいい女にお膳立てをしてもらったんだ、ここで決めなきゃ一生後悔してしまう。
「貫け」
全霊、渾身、必殺、最果て。テリーの全てを込めた一撃がリンリンへと吸い込まれていく。
光の名を冠にした剣が、闇を切り裂き、天を穿つ。
丁寧に、かつ豪胆に。
天翔ける剣尖が、リンリンを貫いたのを見て。
「やれば、できるじゃない」
マリベルはスカッとした表情で、笑う。
気づいたら、勝手に口が走って呪文を唱えていた。
致命傷で、後はゆっくりと眠りに落ちるしかないと思っていたが、身体は勝手に動いていた。
少しでも、テリーが楽をできますようにと願い、痛む喉を押し切って言葉を紡いでいた。
これもまた、絆の力なのだろう。
テリーが焦った表情を浮かべながら、こちらへ駆け寄ってくる。
剣を投げ捨て、痛む身体を押し切って、血反吐を口から垂らしながら。
馬鹿、と小さな声で囁いた。もうどうしようもない自分の為に無駄な体力を使うんじゃないと教えたかった。
けれど、何故だろうか。自分のことをそこまで思ってくれて嬉しいと感じてしまうのは乙女心からなのか、それとも――、
「負けるんじゃないわよ」
――もっとも、自分が残せるものなんて、もうない。
解答が返ってこないことなんてわかっていながらも疑問を問いかける。
これじゃあ、アルスにロマンチストだってからかわれてしまう。
だが、十全とまではいかなくとも、やれることはやれた。
それに、彼女が願う一人にしないという約束を彼は果たしてくれたのだから。
最後にテリーが寄り添って見てくれるなら、自分は安心した顔で眠りにつける。
けれど、テリーにした約束は果たせない。
それが、心残りで、強く悔いがうまれるものだけど。
彼の周りにはロッシュやカインがまだいる。
きっと、二人が自分の代わりにテリーの側で笑わせてくれるだろう。
――――でも、やっぱり死にたくないよ、テリー。
【マリベル@DQ7 死亡】
【残り9人】
【B-4/午前】
【テリー@DQ6】
[状態]:HP1/15、脇腹貫通痕(応急処置済み) 肋骨骨折、腹部重度打撲、MP消費(大)、焦げ
[装備]:雷鳴の剣@DQ6、ホワイトシールド@DQ8、猫車
[道具]:支給品一式
不明支給品(0〜5、先ほど分配したもの、便宜上テリーのみに集中して明記)
[思考]:先へ、進む。忘れない。
[備考]:職業ははぐれメタル(マスター)
(経験職:バトルマスター・魔法戦士・商人・盗賊 追加)
※リンリン、マリベルの支給品は死体と共に転がっています。
【うるふわ(ガボの狼)@DQ7】
[状態]:睡眠中 おなかいっぱい
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:ZZZZZZ
蒼穹の空の下、とある城下町の外れでリンリンは一人佇んでいた。
修業をするでもなく、うざったらしくヤジを入れる酒場の戦士達をぶちのめすでもなく、ただぼうっと空を見上げていた。
雑踏の賑いは神経質なリンリンにとって不快なだけだったので少し離れた場所で心を落ち着かせている。
「おっそいですわ!」
約束をしたはいいが、一向に現れない相手に対して小さく溜息をついて、リンリンは待ち続ける。
この待ち合わせ前の何とも言えない空気はいつになっても慣れるものではない。
それに、待ち合わせ時間は既に三十分を過ぎている。完全に遅刻だ。
案の定のことなので別段に気にしてはいないが、遅すぎではないだろうか。
もっとも、彼が先に来て待っているなどという殊勝なことをするとは思えないので残当だ。
これで、わざわざ先に待っていて手を振られでもしたら気持ち悪さで立ち直れなくなる。
「もう、せっかくのデートですのに」
空を見上げるなり、雑踏の下らない人の会話に耳を傾けるなりして暇を潰してはいるが限界は近い。
やはり、彼と一緒に出てきた方が良かったのだろうか。
だが、こういうデートというのは雰囲気が大事なのだ。そんないつもと同じことをしたら雰囲気ぶち壊しである。
それに、今の姿を彼にみせて驚かせたくもあったが故もある。
今のリンリンは、いつもの武道着とは違う白のワンピースを着て清楚なお嬢様の風貌をしているのだ。
せっかくのデートだということで、頑張ってオシャレに挑戦、実に乙女らしい。
参考にしたのが近くの町娘なので、そこまで違和感を感じさせないとは自分でも評価している。
ただ、道行く人が振り返り、目を点にして見つめてきたり、チャラい男が値踏みをして声をかけようかと迷っている場面にも遭遇した。
もっとも、そのような下賎な輩には拳をプレゼントしたのだが。
ちなみに、カーラと老魔法使いに見せたら腹を抱えて笑われた。何が可笑しいと正拳突きをぶちかましておいた。ざまぁみろ。
「本当に、変わりませんわね」
髪型も二つ縛りのツインテールではなく、下ろした形となっている。
リンリンは髪型まで変えなくてもいいかとは思っていたが、白のワンピースを試着した時にたまたま通りかかった旅の女僧侶にアドバイスを貰ったのだ。
『や、そこの店員に聞いたらさ。嬢ちゃん今度の週末にデートだってぇ? いいねぇ、痺れるねぇ。
でも、それじゃあ足りない。意中の男を落とすにはもうちっと工夫が欲しいさね。
どうだい? どうせだったら髪型も変えてみたらいいんじゃない? いつもとは違う魅力にそりゃあメロメロってね。
くひひっ、グッドなおねーさんのアドバイス、聞いておいて損はないと思うんだけどねぇ』
こういうことに関しては疎いリンリンであったが、何故かその女僧侶は色々と親身になって教えてくれたのが印象的だった。
その後、報酬代、3万ゴールドとか抜かしてきやがったのでグーの鉄拳で追い返してやったが。
「はぁ、大丈夫かしら」
宿を出る前に、鏡で何度も入念なチェックをしたがやはり不安は消し去れない。
ガラスの中に映るのは見慣れた顔と身体の上に、見慣れない衣服を包んだ一人の少女。
いつもとは違った自分に最初は驚きと不安が入り混じった負の情がふつふつと湧いてきた。
やっぱり、自分には似合わないとやめようかとさえ思った程だ。
だが、リンリンの性格である初志貫徹の精神がそれを許さなかった。
どうせ、やるならばとことん、と。
「私の姿を気に入ってくれるかなぁ」
正直、彼の好みはわからない。
綺麗な女であれば、ホイホイと付いていくアホ男だ、自分みたいなどうしようもない女が着飾っても鼻で笑われるだけかもしれない。
第一、自分で見た自分の感想はどうでもいいのだ。
唯一つの懸念は、彼が自分を見て可愛いと言ってくれるかどうか。それだけに尽きる。
意識すればするほど、恥ずかしさが増してくる。まさか、自分がここまで女らしい悩みで悶々とするなんて思いもしなかった。
紅潮した頬に手を当て、グルグルと身体を廻す。
ぴゃーぴゃーと連呼するその姿は鬼の武闘家とまで言われたリンリンとは違いすぎる。
「もももも、もっ、もし何も言われなかったら……」
ありえる。彼なら、ありえる。
近しい女性には無頓着な彼のことだ、きっと「はー別にどうでもいいし?」とか吐き捨てそうだ。
そのことを考えただけで気分が落ち、ずーんと重りを背負ったような気持ちになってしまう。
落ち着け、自分。リンリンは明鏡止水の心を取り戻すべく瞑想を始める。
照れと不安と期待がごちゃ混ぜの現状、何を考えても不確定にしか成り得ない。
テンパってる今の自分を彼に見せる訳にはいかないのだ。
「そうです、私、そうですよ、落ち着くのですよ」
「よーっす、遅れてわりィ」
「ひゃあぁぁぁぁああああああ?!!??!?!?!!」
――神様、私は何か悪いことをしたのでしょうか。
突如背後に現れた彼に対して、思わず正拳突きをしてしまったのは悔やんでも悔やみきれないものだ。
流れるような動作に、彼はドン引きオーラ全開で後ずさる。
そんなに怖がらなくてもいいのにとは思うが、乙女心と同じく男心も複雑なのだ。
「ったく、いつもとちげー服装と髪型だからわかんなかったんだよ」
眉を顰めながらぶつくさと文句を言う彼に対し、やっぱりかといった気分でリンリンは肩を落とす。
この男、普段はキビキビと綺麗な女性を発見するレーダーを作動するというのに。
ジト目で見つめるリンリンに対して、彼は頭をかきあげながら照れ臭そうに言葉を囁いた。
「………………………………それに、すっげー可愛かったし」
「へ?」
「うっせぇ! うっせうっせうっせーーーーー!!! テメエ何だよ、その格好!
何があったんだよ!! いつもの武道着はどうした!?」
がーっとがなり立てる彼の顔は赤く染まり、普段とは違う本気の慌てっぷりだった。
もしかして、相当に効果があったのか?
どっちにしろ、照れた彼の顔は相当にレアだ。
この役得は嬉しく受け取っておこう。
「ともかくだ!! 何だよ、呼び出した用って」
浮かれた気持ちを無理矢理に沈めて、リンリンは謳うように言葉を紡ぐ。
「今はナイショ、ですわっ。ちゃんと最後まで付き合ってくれたら教えてあげますことよ?」
「はぁ? ったく、めんどくせぇな。…………………………ちっきしょう、普段と全然違うからやりにくいっての」
「聞こえてますわよー」
楽しい。彼の色々な表情が見れて、思わず浮かれてしまう。
ささやかながらもちょっとした幸せだ。
ともかく、今は彼と僅かながらの休息を楽しもう。
「それじゃあ、行きましょうか」
「あ? 行くって何処によ」
「そうですねぇ、一先ずはランチにしましょうか。どうせ、何も食べずに出てきたんでしょう?
お腹が空いたままでは会話もままならないでしょうし」
そう言って、彼の手を強く握りしめる。
仄かに暖かくもゴツゴツとした力強い右手。
けれど、リンリンにとってはどんな手よりも心地良い魔法の右手。
「もうずっと、離しませんから」
青空の下で、彼らは喧騒の中に消えていく。
まるで一組のカップルのように何気ない会話を交わしながら、幸せへと沈んでいく。
命果てた死体が見る最後の夢よ、終わる世界達に夢幻の未来を与え給え。
果てに見えた理想を胸に――――どうか、安らかな眠りを。
【リンリン@DQ3 死亡】
【残り8人】
投下終了です、たくさんの支援ありがとうございました。
色々書くべきな気はするけどうまくまとまんないから一言だけ
最高に面白かった!
投下乙です!
あーーー、もう、もう! どこから感想を言えばいいのかわからないです!
バトル、バトル、そしてバトル!
アルスの顛末を知ったマリベルとか、何かを守ろうと動くテリーとか、信念を曲げないリンリンとか!!
ひとりじゃない、二人だったからこその勝利、けれど、けれど、失うモノが、大きくて。
そして最後に夢見た光景がね……もうね……
改めて投下乙でした! 本当にお疲れさまでした!
投下乙です
リンリンは正直な感想を言うと、「ぼくのかんがえたさいきょうのマーダー」感があってイマイチ好きになれんかったが
今回のラストで何だかんだで良いキャラだったかなと思った。終わりよければ全て良しとはこの事かw
てか1stに登場したグッドなおねーさん(フィオ)に全て持ってかれたよw 何さり気なく登場してんだw
乙です!!
同じくリンリンにはあまり良い印象を持ってなかった
でもそのしつこさやしぶとさというのは彼女の想いや信念、強さからくるもので、こうしてたった二人で倒せたところをみるに、運の要素もリンリンに大きく味方してたんだなと
その幸運すらも引き寄せるほど強かったんだろうなと思った
「心」においてだけ言えば、多分リンリンはこの殺し合いの中でも最も弱い部類に入るだろうなぁ
ただ、恐ろしいまでに強い精神と肉体でなまじ取り繕えてしまうからそれに気づかないし、誤魔化せもする
最期の夢はいたく普通の少女をしていて、結局のところ武闘家というのは彼女にとって天職であり、悪職でもあったということだろうか
寂しい余韻の残る、とても面白いお話でした
マリベルのことも存分に語りたいけども、これ以上はあまりに長くなってしまうので最後に一言だけ
狼お前は寝てんじゃねえ
投下お疲れ様でした
うん……むにゃむにゃ。
ずいぶん長く寝ていた気がする。
気がつけばお外は真っ暗で、テリーもマリベルもロッシュもカインもマーニャも、誰もいない。
みんなどうしたんだろう? と思って体を伸ばしてみる。
すると、ことん、と僕の体のそばで音が鳴る。
僕を隠すように何かを被せられてたみたいだ、一体誰がそんなことをしたんだろう?
わからないことがいっぱいだけど、とにかく僕は寝る前まで一緒にいたはずのマリベルを探すことにした。
すん、すんすん。
血の、においがする。
足がふるえて、うまく進めない。
なんだか怖いから、うなり声を出してしまう。
けれど、止まっていてもしょうがないから、僕はがんばって足を動かした。
血のにおいが強くなっていくほど、僕はどんどん怖くなった。
本当に、それ以上進んでも良いのかって、とても怖くなった。
見ちゃいけないモノが、あるんじゃないかって、そう思った。
その時に、テリーを見つけた。
ぼくは、ちょっとだけ安心した。
足が軽くなった気がしたし、気持ちも楽になった。
だから、テリーに走って近寄った。
でも、でも。
僕がそばに行ったとき、テリーは泣いていたんだ。
ぽろぽろぽろぽろ、大粒の涙を流して。
僕にはわからないけど、何か叫びながら、ずっと、ずーっと、泣いていた。
マリベルを、胸に抱きながら。
その時、僕にもわかってしまった。
大きな二つの血のにおい、そのうちの一つが、マリベルから来ていることを。
テリーと同じくらい、傷だらけで、ぼろぼろで。
自慢の頭巾は穴だらけ、服だって血塗れのまま。
目を閉じて、動かない。
どうしたらいいか、わからなくなった。
ずっと、ずっと何かを叫んでるテリーに、僕は何をすればいいんだろう? って思った。
「アオォーーーーーーーーン……」
誰かが教えてくれた。
悲しいときは、大きな声を出そうって。
だから、テリーもきっと、悲しいから、大声を出しているんだろう。
僕も悲しくなったから、お空に響くように、マリベルの名前を呼んだ。
それでも、マリベルは、ちっとも動かなかった。
もう、一緒に歩いてくれない。
もう、抱きしめてくれない。
もう、笑ってくれない。
どんどんどんどん、悲しくなるから。
僕は、大きな声で、お空に叫び続けた。
しばらくして、テリーが何かを言うのをやめた。
僕も、お空に叫ぶのをやめた。
やっぱり、マリベルは動かないままだった。
けれど、テリーの顔は、さっきと違っていて。
マリベルの体を、ぎゅっと抱きしめて。
僕の方からは、何をしているかは見えない。
けれど、テリーはマリベルの体を、つよく、とても強く抱きしめていて。
最後に、マリベルの顔をぐいと引き寄せて、何かを呟いて。
それから、マリベルを地面に寝かせてあげていた。
僕は、立ち上がって歩き出したテリーの後ろについていく。
傷だらけで、今にも倒れそうな体なのに。
それでも前を歩き続けるテリーの背中は、とても大きく、悲しそうだった。
これからどうなるんだろう? そんなことはわからない。
だから、僕はテリーの後ろを歩く。
そうしなければいけないような気がして、仕方がないから。
「アオォーーーーン……」
最後に、見えなくなる前にもう一度だけ、お空に叫ぶ。
――――ばいばい、マリベル。
【B-4/昼】
【テリー@DQ6】
[状態]:HP1/15、脇腹貫通痕(応急処置済み) 肋骨骨折、腹部重度打撲、MP消費(大)、焦げ
[装備]:雷鳴の剣@DQ6、ホワイトシールド@DQ8
[道具]:支給品一式、猫車@現実、マジカルメイス@DQ8 水のはごろも@DQ6
星降る腕輪@DQ3 オリハルコンの棒@DQS、賢者の聖水@DQ9(残り1/3)、ふしぎなタンバリン@DQ8
銀の竪琴、笛(効果不明)、ヤリの秘伝書@DQ9、光の剣@DQ2、ハッピークラッカーセット@DQ9(残り4個)
不明支給品(0〜5、先ほど分配したもの、便宜上テリーのみに集中して明記)
[思考]:先へ、進む。忘れない。
[備考]:職業ははぐれメタル(マスター)
(経験職:バトルマスター・魔法戦士・商人・盗賊 追加)
【うるふわ(ガボの狼)@DQ7】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:テリーについていく
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以上で投下終了です。
投下乙
タイトルでじわっと来た
代理投下します
ビアンカが気づいた時、そこは森だった。
よろよろと立ち上がり、彼女は近くを見回す。
しかし、見回したところで彼やあの魔鳥がいる訳でもない。
「…」
おそらくはあの杖の力で、自分が逃がされたと。
そんな真実を自らに突きつけてしまうだけだった。
自分の手で幸せを掴もうとしたばかりの彼を、死へ向かわせてしまった。
「…ごめんなさい…」
自分が代わりになれていたら。
元から知っていた友もいなくなり、未来もないような自分が、あの未来ある魔物に希望を託せていたらと。
そんな事は彼が許さないだろうと分かっていながら、いるからこそ後悔は渦を巻いて彼女の心を襲う。
「…本当に、ごめんなさい…」
涙がこぼれる。
取り残された者の哀しみが、森の深い霧と同じように彼女を包み込む。
「…ごめんなさい。そして、」
涙をこぼしながら、彼女は呟く。
幸せを求めて、最期まで戦っていた騎士を悼んで。
そして??????
「ありがとう」
「行かなくちゃ、あなたに顔向けできないわ」
いつまでも立ち止まったままでいる訳にはいかない。
それが彼の選択ならば、それに自分がしがみついている暇はない。
前を向くために。
彼の意志に応えるために。
「まずはリュカやフロー……あれ?」
はずだった。
「私、今…なんて…?」
僅かな心のスキマに、森に渦巻く霧が潜んでいなければ。
「…そう、そうよ、帰ったらまずは二人の墓を作らなきゃって思ったんだ」
じわりじわりと、霧は染み込む。
「行きましょう」
絶望を作るために。
ゲロゲロ、ソフィア、ゼシカの3人は、当初の予定通り北上していた。
ゲロゲロの、不意打ち警戒するべきという助言により、彼らが歩くのは禁止エリア沿い。
体の傷は、ゲロゲロが持つ杖、祝福の杖によって3人ともかなり回復していた。
もうすでに参加者は少ない。
これ以上無駄な被害者を出さないために、彼らはひたすら突き進んでいた。
ふと、草がすれ合う音がした。
とっさに身構え、質問を放つ。
「へい、そこのアンタ。ちょっと止まってくれる?
武器を置いて、名前を言ってくれるとありがたいね」
武器を置くような音の直後、返答が返ってきた。
「あたしはビアンカ。あなたたちは?」
「ソフィア、ゼシカ、それと??????にわかには信じられないかもしれねぇが、ムドー」
「…へぇ」
案の定、返事は訝しげだ。
それはそうだ。参加者の一覧に載っているムドーは魔物。
魔物が人間とともにいれば、疑われるのは当たり前。
どうやって説明するかと、3人は考えたが??????
「一つ質問」
事態はそう厳しくはなかった。
「リュカという人間を知っている?
知っていれば、その特徴も」
ゲロゲロが話した、リュカ、そしてその周囲の人々の旅路。
それは、ビアンカを信用させるに足るものだった。
だが。
「…つまり、リュカを殺したのは」
それは、リュカの最期の真実を彼女に伝える、残酷な物語だった。
「おい、こいつを恨むのは筋違いってもんだぞ。
こいつだって、やりたくてやった訳じゃ??????」
「いいのだ、ソフィア。これは私が受けるべき罰だ」
ムドーとしてやったこと。それは今の自分がゲロゲロだからといって、許されていいことではない。
「すまない…私は貴女の大切な人々を死に追いやってしまった」
魔王はひたすらに謝罪する。
彼らを??????タバサを、フローラを、リュカを。
死なせてしまった自らの不甲斐なさが、今更ながらに心を責め立てた。
「本当に、すまない…」
こんなに滑稽な王がいただろうか?
いないだろう。自分はもう王ではない。
惨めでちっぽけな情けない、只の魔物なのだ。
せめて今、ここで断罪が下るならば、甘んじて受けるのみだと。
そうして頭を下げ続けるゲロゲロを、ビアンカは。
ゆっくりと抱きしめた。
「…謝る必要なんてないの。だってあなたは今、私に謝れる程に心優しいじゃない」
赤ん坊をあやす母のように、ビアンカは語りかけた。
「いつまでも引きずっていても、前が見えるわけじゃない。
今ここでする事は、私に謝ることではないわ。」
先刻の影の騎士と同じように、リュカが言っていた事を思い浮かべて。
それに、彼女自身の気持ちをのせて。
「心を一つにして、デスタムーアを倒す。
そうして、皆で再び、幸せをつかめばいいんだと、私は思う」
そして、彼女は微笑む。
僅かな狂気を孕んだ顔で。
「それが、二人も喜んでくれるだろうし」
その独り言が、三人の耳に入る事はなかった。
(…どういうこった)
聞こえはしなかったが。
怪しんでいる者はいた。
ソフィアである。
(あの目、なんというか…既視感がある?
それに、さっきからちらちら、殺気が出てる…
やっぱり、ゲロゲロを憎んでるのかね)
だが、それなら。
ゲロゲロに語りかけた時に殺気が微塵もなかったのは不自然だ。
それに、殺気が発するポイントもバラバラだ。核心を突かない様な所でも関係ない。
まるで、心までバラバラになったかのようで。
(…そうだ、この違和感。
食い違ったことを受け入れて、しかもバカに機嫌がいい。この違和感は)
狂気に囚われた、ミーティアと同じ。
彼女と違って死を受け入れてはいるようだが、場所が場所だ。その可能性はかなり高い。
ならば。
確かめ、そしてもし思った通りならその目を醒ますため。
ソフィアはビアンカに近付こうとした、その瞬間に。
「伏せて!」
周囲を警戒していたゼシカの緊迫した一声が、静寂を切り裂く。
同時に放つのは、凍てつくような冷気の呪文。
それにより散らされたのは、深紅の業火。
そして、それを放ったのは??????
「貴様も、か。魔王の威厳まで無くし、無様なものよ」
魔鳥ジャミラス。
ジョーカーとして送り込まれ、今なおその役目を全うせんと飛び続ける、大魔王の忠君。
地上へと降り立ちながら、彼は
「何故人間なんぞと共にいる?ムドーよ、我らがここに来た目的を忘れたのか?」
「その名で呼ぶな。今の私はもうムドーではない。
私の名前は、ゲロゲロだ」
その目にある、魔王にはあり得ないような希望の光にジャミラスは顔を歪めた。
「ふん、そこまで面白くもない戯れ言を言えるなら世話はないな。
それと??????そこの女。さっきぶりだな」
話しても無駄だと思い、矛先を変える。
つい先程も勝てない事を見せつけてやったにも関わらず、希望を目に宿す女に。
「ヤツの犠牲も、大して意味はなかったと言うわけか。どうする?尻尾を巻いて逃げ出した方が、ヤツの意を汲んでいると思うがな」
「悪いけど、そういう訳にはいかないわ。
こんなところで諦めたら、皆に顔向けできないもの」
そして、彼女は叫ぶ。
「あいにく、諦めは悪いのよ!
猛る火焔よ、善なる左手に集え。そして、太陽の如く溶かせ!穿ち、進め! メラゾーマッ!」
ビアンカの手から、燃え盛る火球が噴き出す。
心からの想いが詰まった火球は、先程放った物より遥かに強い。
「諦めが悪いのは弱者の証拠とは、よく言ったものだな。
つい先程言ったはずだぞ、微温いと!」
だが通じない。
あっさりと火球は破られ、ジャミラスは一気に肉薄する。
そして、その爪を振り下ろそうとして??????
一閃の銀に、身を引いた。
「殺し合いやるってんなら、容赦する気はないんでね」
ソフィアが、天空の剣を改めて正眼に構える。
「ビアンカさん、こっちです!
荒れ狂え、地獄の使いよ!集え、深紅の炎!メラゾーマ!」
ビアンカに声を掛けつつ、火球を放ったのはゼシカ。
先程のビアンカと見た目は似た火球だが、ジャミラスはその危険度を瞬時に察知した。
業火から身を引いた魔鳥の上空で、音が生まれる。
イオン化した空気が放つ、はじけるような音。
ムドーの放った稲妻が、ジャミラスを襲う。
迸る光に身を引き、態勢を立て直す。
仕切り直し。
だが、尚もこちらへ向かって来ようとするビアンカに気付き、ジャミラスは呆れの視線を飛ばす。
「救えないヤツだな。女、ここまで力の差を見て、尚も向かってくるのか?
全く、愚かなものよ」
「さっきも言ったでしょう?諦めは悪いの」
だが、そこには確かな光があった。
自分の出来ることを見つけた、そんな光が。
「どいつもこいつも…呆れたものだ」
「余計なお世話だ」
「全くね」
それが合図になり、再び戦いが始まった。
ジャミラスに襲い掛かったのは、冷気と剣。
そして??????見分けのつかない、二つの火球。
「なっ…」
魔王と勇者の放つ殺気が、魔鳥に火球の危険度を教えない。
これが、ビアンカの見つけた『出来ること』。
これに対し、ジャミラスは。
「小癪な…!」
吐き出した炎で火球の一つを打消し、勇者と自分との狭間にもう一つの火球と冷気を挟む。
そして、そのまま後衛の二人へと突撃しようとして。
迫り来る三つ目の火球が、翼を掠めた。
完全な不意打ちに、ジャミラスは狼狽える。
いかに高速詠唱をしたとしても、呪文を放つには早すぎる。
何故??????そこでジャミラスは思い出す。
目の前にいる魔王が自分たちの主に与えられた書物。
呪文を一度の詠唱で2回放つことを可能とする、そのアイテムの名は。
「賢者の秘伝書か…猪口才な」
少し回復したとはいえど、ゼシカの魔力は残り少ない。
それを思い出したゲロゲロは、先程の稲妻の陰でそれを彼女に投げ渡していた。
「…厄介な」
ただでさえ強力な呪文を、連続で放ってくる赤毛の女。
さらにそれを見分けづらくする、金髪の女の攪乱。
近接攻撃で向こうへと踏み込ませない、翠髪の女。
そして、自らと同じ四魔王の一人。
一見すると不利極まりないが、敵??????特に翠髪と赤毛の女に魔力は少ない。
魔力が尽きてしまえば、翠髪はともかく、赤毛は無力となるだろう。
そして、そうなってしまえば、いくらでも突き崩す余地が出てくる。
それに、策を弄したところで、あの魔王は見破ってくるだろう。
つまり、??????逃げ場もない。
結論。
「ふん、いいだろう」
相手にとって、不足はない。
決死の戦いが始まろうとしていた。
殺しなさい 何を
あの2体を どうして
リュカとあの魔物を殺した なぜ 彼らは生きてる
いいえ 死んでる そう
なら? 殺せばいい
やつらを殺せ いや そんなことは
目の前の魔物が 二人を殺した
そんな ゲロゲロさんは 何故?
だってあれは ムドーが 本当に?
嘘じゃないの? 違う
皆 うそつき なら
みんな ころせばいい
「…違う」
自らの心を覆う闇を否定し、ビアンカは改めて眼前の魔鳥を見据える。
彼女の瞳の中に二つ、紫色のターバンが翻った。
【Eー4/森/昼】
【ソフィア(女勇者)@DQ4】
[状態]:HP4/5、MP1/4表情遺失(人形病)
[装備]:天空の剣@DQ4、メタルキングの盾@DQ6、メイド服@DQ9、ニーソックス@DQ9
[道具]:ソードブレイカー@DQ9、小さなメダル@歴代、オリハルこん@DQ9
キメラの翼@DQ3×5、奇跡の剣@DQ7、ブロンズナイフ@歴代
基本支給品*2、聖なる水差し@DQ5
[思考]:終わらない 殺し合いを止める 北へ。
ジャミラスを倒す。
[備考]:六章クリア、真ED後。
【ゼシカ@DQ8】
[状態]:HP4/5、MPほぼ0
[装備]:さざなみの杖@DQ7、おふとん@現実
[道具]: 賢者の秘伝書@DQ9
[思考]:首輪を外し世界を脱出する。北へ。
ジャミラスを倒す。
【ゲロゲロ@DQBR2nd】
[状態]:HP4/5
[装備]:スライムの服@DQ9、スライムヘッド@DQ9、雷の刃@DQS
[道具]:支給品一式*4、超万能薬@DQ8、トルナードの盾@DQ7、ビッグボウガン(矢なし)@DQ5
パパスの剣@DQ5、祝福の杖@DQ5,王女の愛@DQ1,デーモンスピア@DQ6、結婚指輪@DQ9
[思考]:ゲロゲロとして、生きる。北へ。
ジャミラスを倒す。
[備考]:ムドーが死に、彼が呼び覚まされました。
主催者が彼をどう扱うかは未知数です。主催からアイテムに優遇措置を受けていました。
【ビアンカ@DQ5】
[状態]:HP9/10、リボンなし、精神に異常(自覚あり、今は押し留めている)
[装備]:女帝の鞭@DQ9、エンプレスローブ@DQ9
[道具]:支給品一式、炎のリング@DQ5、カマエル@DQ9
[思考]:前を向かなければ でも…
ジャミラスを倒す。
[備考]:カマエルによって錬金釜の使用方法を教わっています
ビアンカの傷が治っているのはミネアのメガザルによる効果です。
第三回の放送内容をサイモンから聞きました。
霧のせいで精神に異常をきたしています。
【ジャミラス@DQ6】
[状態]:HP3/7
[装備]:ルカナンソード@トルネコ3、サタンネイル@DQ9、はじゃのつるぎ@DQ6
[道具]:剣の秘伝書@DQ9、超ばんのうぐすり@DQ8(半分のみ) 支給品一式*3、メタルキングの槍@DQ8、命のリング@DQ5
変化の杖@DQ3、バシルーラの杖@、魔法の聖水@シリーズ全般
[思考]:こいつらを殺す。
[備考]:支給品没収を受けていません。飛行に関して制限なし。
ターニアの件の真偽は不明です
ところで、今金髪の女が知っている事実として。
かつて、天空の勇者とその家族は、3つのリングを捧げ、暗黒の世界へ向かっていった。
今、そのリングは段々と近づきつつある。
1つは、女が持つ袋の中で。
1つは、魔鳥の持つそれの中で。
1つは―――数百メートル南東。
翠の髪の少女がその位置を知る、ある遺体の指に。
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以上で投下終了です。
投下と代理投下乙です。
いくら気丈に振り舞っても、心の綻びは隠せない。
形のない霧だからこそ、そこにつけ込めるということでしょうか。
敵は一人のはずなのに、安心できないのが不安ですね。
あと、細かいことで申し訳ないのですが、予約スレのトリップと本スレ書き込みのトリップが別のモノなので、
ルール上は別人が予約パートをかっさらって書いたということになってしまいます。
(多分ご本人だとは思うのですが)
お手数ですが予約スレにてIDを出した上(メールアドレス欄が空欄でID出ます)で、
投下のトリップと予約のトリップ両方で書き込んで頂けますか?
予約スレで確認しました。ありがとうございます。
投下乙です
パーティー的には余裕があるはずなのに、不安要素がこわいな……
すみません、今回の予約で普通の話と放送を入り混ぜて予約をしたいのですが、よろしいでしょうか?
ダメならダメで放送が絡まない部分までの投下にしようと思います。
いいよ
あーもう全員予約とかそういう時期ですか
どの道次は放送に行くような状況ぽいですし、合体させても問題ないんじゃないでしょうか
乙です
「しっかし、どこまで行っても、同じ道だねえ」
小さなため息と同時に、ロッシュは苦笑いを浮かべる。
成人男性一人を背負いながら、変化のない道をひたすら歩き続けるというのも、なかなか酷な道のりだ。
変化があるとすれば、それは死体くらいで。
ほんの少し前まで、元気に言葉を交わしていたはずのマーニャが、物言わぬ骸に変わっていた。
「……バッカ」
数々の説教を頭に思い浮かべながら、ロッシュは罵倒の言葉を吐く。
さんざん人に死にたがるなと言っていた人間が死んでどうするのだ、と。
「君には良いことを教えて貰ったよ、マーニャ。
だから、安らかに眠ってくれ」
先行していたテリー達が掛けていたであろうシーツを、もう一度かけ直してやり、ロッシュは再び歩き始める。
「で、君にはそろそろ起きて欲しいんだけどなあ」
まだ背中で眠り続ける男に苦笑を浮かべながら、ほんのわずかな望みを繋ぐために。
前へ、前へ歩く。
始まった戦いは、予想通りの展開を進んでいた。
傷ついているとはいえ、歴戦の強者に魔王が一人。
体調が良いとはいえ、一人で捌ききれる相手ではない。
ましてや、そのうちの一人は「天空の剣」を使うのだ。
何が一番貰いたくない攻撃かどうかは、火を見るよりも明らか。
故に、集中できない。
如何にそれを避けるか? そこに意識が向いてしまい、他の攻撃への対応が疎かになるのだ。
今もこうして、ほら。
「グァァッ!!」
天空の剣を避けるが故に、魔王の攻撃にまで意識が向けられない。
加えて、遠距離から飛来してくる呪文まであるのだ。
気を抜けば食らってしまいそうな剣を避ける意識。
それと同時並行でやり過ごすコトなんて、達人だとしても難しい。
とはいえ、後ろから飛来してくる呪文には限りがある。
後少し、魔力切れを待てばこちらにも目が見えるが。
「はぁっ!!
その間に食らうであろう魔王の攻撃、加えて被弾してしまう火球の数。
確実に体力を削り取っていくそれらを受けてなお、魔力切れを待てるか?
いや、魔力が切れるよりも先に、消耗しきった自分の体に天空の剣が叩き込まれるのが先だろう。
数度の打ち合いで突きつけられた事実。
ならば黙ってそれを受け入れて、そのまま朽ちていくのを待つか?
答えはもちろん、ノーだ。
「逃げんな!!」
一回の跳躍で大きく距離を離そうとするジャミラスを、ソフィアが追う。
背中の羽の力もあって、飛び退いた距離は人間のそれとは比較できない。
生まれた隙間、次の攻撃が来るまでの時間。
そこでジャミラスは隠し持っていた剣を翳す。
負のうねりが、勇者を、魔王を、後ろの魔術師達を飲み込んでいく。
「ちっ!」
その正体が、防御低下呪文だと気づいたソフィアは、一旦退くことを選ぶ。
攻める機会が少ない故に、一回で与えられる傷を大きくしようと言うことか。
「大丈夫よソフィア、私の呪文で」
「待て」
即座に呪文を唱え、カバーしようとするゼシカをゲロゲロが止める。
きょとん、とした顔をするゼシカも、その指摘のおかげで気づく。
「ヤツの狙いはそこだ」
「フン、つくづく勘のさえるヤツだな」
そう、ジャミラスがこの局面で狙うのは魔力切れ。
一つでも多く、余計な呪文を放たせることで、残り少ない魔力を削っていく。
不利な状況を払拭するには、呪文で防がなくてはいけない。
しかし、呪文を使えば後方からの援護が出来ない。
ジレンマを抱えて焦るゼシカに、ゲロゲロは一回だけ力強く頷く。
「だが、分かった所で防げまい!!」
作戦を悟られた以上、早々にそれを成立させる必要がある。
一発のチャンスを大きくするために、ジャミラスはさらに剣を翳していく。
再び、負のうねりが剣から発せられていく。
「させるかよ!!」
ソフィアが勢いよく飛び出して行く。
これ以上の不利な状況を防ぐために、ジャミラスが剣を翳している手を狙う。
最悪でも、剣が弾ければこれより悪い状況にはならない。
「るぁぁぁっ!!」
そして、一気に詰め寄った先で、大きく剣を振りかぶる。
がきん、という金属音とともに、ジャミラスが手にしていた剣が弾かれていく。
軽く響く金属音、宙を舞うジャミラスの剣。
やった、という声がゼシカとビアンカから漏れる。
だが、弾いた本人とそばにいる者の表情は険しい。
それは、あまりにも無抵抗すぎたから。
まるで自分から剣を弾かれに行ったかのようにすら見えた。
何故、何故と、理由を探りながらも追撃の準備をするソフィア。
防ぐ術などない、たった一撃、されど一撃、それで全てを終わらせる勢いで、剣を振りかぶっていく。
ジャミラスの腕が動く、手に着けた爪で寸前まで剣を防ごうと考えているのか。
「おうっ……るああああぁぁぁぁっ!!」
ならば、それごと打ち砕くのみ。
渾身の力を込めた一撃を、ジャミラスの眉間に叩き込もうとしたその時。
ジャミラスは、笑っていた。
伸びた腕は剣ではなく、懐に伸びる。
盾か、それとも剣か。
構うものか、とソフィアはそのまま剣を振り下ろす。
「あれは……」
ジャミラスが構えたもの、一本の杖。
どこかで見たことがある、と思った瞬間に思い出す。
絶望の町、暴虐の限りを尽くした魔王が、卑劣にも逃げ出すときに使っていた杖。
本来は、翳した相手を飛ばす効力の杖。
そう、それは――――
「ソフィア! 退けっ!!」
ハッとして叫んだときには遅く、杖からは光が飛び出していた。
包み込まれるソフィアと、下卑た笑みを浮かべるジャミラス。
「うわ、うわわわ」
同時に、ソフィアの体が宙に縫いつけられる。
振り下ろされるはずだった剣は空を切り、まるで羽でも生えたかのように浮いている。
「なんだよ、これッ――――」
状況を飲み込む前に、ソフィアの声が遠くなっていく。
杖の力によって、遠く、遠くに飛ばされていく。
ソフィア自身がどれだけもがこうが、何をしようが、もう止まらない。
瞬く間に森の中を突き抜け、そして空へと飛び出していった。
「……ククククク」
飛び去っていったソフィアを確認し、ジャミラスは笑う。
ゲロゲロの額に流れるのは、一筋の汗。
状況が一変した事による、焦りがそれを生んでいる。
「女よ、感謝するぞ……あやつがお前を庇ったが故に、私が救われたのだからな」
ジャミラスがこの杖の効力に気づけた理由。
それは他でもない、先ほどの影の騎士とビアンカのやりとりだ。
あれがなければ、そして影の騎士が自分に刃向かってこなければ、こうはならなかっただろう。
ようやく天が味方をしてきたか、と確信のような何かを得て、ジャミラスは卑しく舌を動かす。
「さて、天空の勇者は居なくなった。後ろの魔術師は……持ってあと二発と言ったところか」
見つめる先は、ゲロゲロの後ろに構える二人の女。
方やただの女、方や魔力が尽きかけの魔術師。
二人とも、取るに足らない存在だ。
何故だか知らないが立ちはだかる魔王を倒してしまえば、後はどうとでもなる。
勝ち誇った笑みを消さぬまま、それでもジャミラスは慎重に事を進めていく。
「だが、バカ正直に貴様とやりあうつもりもない。
無駄な消費は避けねばならんからな」
杖を持ったまま、ジャミラスは相手を見据えて笑う。
これから何を考えているかなど、その場にいるなら誰でも分かる。
笑い声と共に、ジャミラスが一気にゲロゲロへと肉薄する。
横に薙がれた槍は、ジャミラスの手に押さえつけられ。
ゼシカ達によって唱えられる呪文も間に合うことはなく、あっという間に肉薄される。
「失せろッ、ムドーよ!!」
余った片手に握りしめられた杖が、まるで母が赤子を撫でるようにゲロゲロに当てられる。
杖が補充した魔力の最後のひとかけらを、直に魔王へと伝えるために。
ジャミラスの思惑通り、ゲロゲロの体が宙を舞い始める。
こうして邪魔者は居なくなり、あとは無力な女どもを処理するだけ。
そう思っていたところに、ずしりと重い衝撃が体に走る。
「ぬおおおおおおおっ!!」
振り向くと、今にも空を舞わんとしているゲロゲロが、自分の体を掴んで離さない。
「なっ、貴様ッ!?」
どれだけ振り払おうと、ゲロゲロは離れることはない。
傷だらけの両腕で、ジャミラスの体をがっちりと掴んで、離さない。
「ゼシカ! ここは私に任せろ!!」
「貴様ァッ! 離せッ!!」
「離してなるものか!!」
暴れるジャミラスを懸命に押さえながら、ゲロゲロはゼシカへと叫ぶ。
「おおおおおおおっ!!」
そうして、ゲロゲロの体が飛び出して森を突き抜けると同時に、ジャミラスの姿もその場から消え失せた。
ほんの一瞬、たった数秒の間に、三つの存在がそこから消え失せた。
正直、ゼシカまだ事態を飲み込めていない。
状況を整理しようと、思考を巡らせようとした時。
一つの違和感が、彼女を突いた。
「……ビアンカさん?」
顔を向けた先、立っている一人の女。
その周りには、まるで――――な――――が――――
「が、ああ」
割れそうな頭を、抱える。
逃げた逃げた逃
げた逃げた誰
が?奴らがリュカを影の騎士を殺した殺
した奴らが逃げたどこへ
共にどこかへグル
だった?ハナから共
謀していた?不利を鑑みて逃げ
出した新たな殺戮を重ねるためにも
っとも
っと殺すためにだ
から逃げた逃げ出したさも争って
いるかのような姿を演じて飛び
去った先で殺人をするためにもっともっと人
を殺すために逃げた逃げた許さない許
さ
ない許してな
るも
のか人をみんなを彼をリュカをリュ
カを
リュ
カをリュカをリュカをリュカを
殺した殺した殺し
た殺し
た殺し
た
殺した殺した殺した殺した
殺した殺した奴を逃がすな許すな追え追え
そして殺せ殺せ骨の
髄まで残
すことなく
全てを焼き尽
くして懺悔の言葉など聞き入
れることなく裁けその手で奴らを許されぬ罪
を犯
した者達を裁け裁け裁
けそれが彼へのリュカへのフローラへのリュ
カへの手向けになる行け走れ
裁け殺せ殺せ
「あああああああああ!!!」
空へと、叫ぶ。
一発の、火球と共に。
.
しえん
「……ビアンカさん?」
突如として空に放たれた火球と、頭を抱えてうずくまるビアンカの姿に、さすがのゼシカも不審がってしまう。
「来ないで!!」
ひとまず急いで駆け寄ろうとするが、ビアンカ自身にそれを止められてしまう。
苦しそうに胸を押さえ、荒々しく呼吸をする彼女が"ふつう"じゃないのは分かる。
けれど、彼女は自分が駆け寄ることを止めた。
「……怖い、さっきから怖いの。
自分が、自分じゃなくなっていくみたいで、何をするか分からなくて」
掠れるような声、今にも消えてしまいそうなほど、弱い声。
かといって目立つ傷があるわけでもない、ホイミの類でどうにかなるとは到底思えない。
どうすれば、何をすればいいのか。
「ゼシカ、さん。お願い……私が、私でなくなってしまう前に」
状況も、対処も、何も理解できていないゼシカに、ただ、ただ、ビアンカは力を振り絞って言葉を紡ぐ。
「私を――――」
自分を、自分自身を。
「――――殺して」
救って貰うために。
ずきり。
目を覚ましたと同時に、襲いかかる激痛。
今にも臓器を吐き出してしまいそうなそれと同時に、暖かい何かを感じる。
「あ、起きた〜?」
軽い、軽い声が、耳に届く。
そこでようやく、自分が背負われていることを認識した。
「なっ、お前ッ」
「わわ、暴れないでよっ。まだ傷も塞がってないんだから」
ロッシュの背中から無理矢理離れようとするカインと、それを離すまいとするロッシュ。
しかし、傷だらけとは言えカインも成人男性。
ロッシュの制止もむなしく、カインは己の足で地面を踏みしめてしまう。
「……自分で歩ける」
「そう? とてもそうには見えないけどぉ〜」
皮肉めいた笑顔が、いつもの数倍腹が立つ。
殴ってやろうかと思うが、それも出来ない。
まだ、覚えているからだ。
つい先ほどの、あの凍てつくような眼差しを。
とても同一人物とは思えない、あの魔王のような眼を。
仕方がないので、ストレスの溜まる顔をしているロッシュを無視するように、カインはゆっくりと歩き出した。
.
「……なあ、ロッシュ」
暫くして、カインが唐突に口を開く。
「何だい? 疲れないように気遣って話しかけてくれるなんて、案外優しいんだね」
こんな時でも飛び出してくる、嘲るような言葉をかみしめながら、カインは本題を切り出していく。
「……希望を見続けるのは、辛くないのか」
「おっ、意外と痛いところを突くね」
問いかけられたロッシュも意外だったのか、少し弱ったような顔を浮かべる。
一回、二回、額を人差し指で掻いてから、ゆっくりと語り出す。
「何もさ……脳天気にラブ&ピースを謳ってるわけじゃないよ」
語り出したその横顔は、今までのそれとは違う。
明らかな哀愁を帯びた、悲しみの眼。
「現実はそうも行かないし、君みたいに分かってくれない人もいる。
けれど、諦めたら負けなんだよ。もういいや、って思ったら、絶対に叶わない」
飛び出してくる弱気で夢見がちな言葉。
真面目に聞こうと思っていたが、思わず口が開いてしまう。
「「未練がましいな」」
飛び出した言葉に合わせるように、ロッシュも口を開く。
カインは思わずロッシュを睨んでしまうが、ロッシュは相反するように悲しそうな眼をする。
「……そう言うと思ったよ」
まるで、そう出ると分かり切っていたかのように。
ロッシュはカインから眼を背け、足を進めて言葉を続ける。
「けれど、僕は"夢"を見るんだ。
"夢"は願い続けてこそ叶うと知っているから。
いつか、"僕"が願い続けた姿が"僕"だから。
僕は夢見ることを、願うことを諦めない。
いつしか叶うと、信じているから」
そう、夢は叶う。
このロッシュという人格も、夢から生み出された人格。
どんな形であれ、願い続ければ願いは叶う。
それを、ロッシュは知っているのだ。
訝しげな顔をするカインに対し、ロッシュは優しく微笑み、両手を広げる。
「そう、いつか、いつの日かターニアが僕のことを――――」
「――――お兄ちゃん!!」
背中に届いた、一つの声。
聞こえるはずのない、声。
振り向く、飛び込んでくるのは、青。
思考をなんて出来るわけもない、している暇などあるわけがない。
何が起こったのかを認識すると同時に、僕の体は動いていた。
.
「くそっ、なんだよ、なんなんだよこれ!!」
ソフィアは超高速で空を舞う自分の体に、悪態をつく。
思うように動かせないどころか、何かしらの力でどこかへ運ばれている。
意図しないルーラのような状況に、ただただストレスを覚えるばかり。
ぐいぐいと引っ張られるなか、やがて地面が近くなっていく。
次第に足が地面へと向き、先ほどまでの超高速が嘘のように減速し、綺麗に着地する。
ここまでルーラと一緒だと、いかんせん気持ちが悪い。
相手を飛ばすルーラ、差し詰めバシルーラといった所か。
「どこだよ、ここッ……」
唇をかみながら、あたりを見渡す。
見慣れない景色に戸惑いながらも、しっかりと位置を確認していく。
「……結構飛ばされたな、こりゃ」
遠くに見える森を見て、おおよその距離を掴む。
走って戻ったところで、戦線に復帰できるとは到底思えない。
自分たちが負っていた傷、そして状況を鑑みるに、戻ったところでどうと出来る訳ではない。
最悪、三人とも死んでいる可能性だってある。
「ハ、冷たいもんだな、人間なんざ」
あえて自分に跳ね返ってくるように、皮肉を吐く。
そう、分かっていて見捨てるのだ。
この状況で、自分が戻ったところで、起こる事態を変えられるわけではない。
ましてや自分一人で戻るなど、自殺行為にも等しい。
こうなってしまったのも自分の責任だ。
だから、その文の命まで、背負って生きるしかない。
"誰かが死ぬこと"なんて、もう腐るほど見飽きたのだから。
生きてまた出会えればいい、それくらいに留めておく。
「ん……?」
そんなとき、後ろの方で何かが倒れるような物音が聞こえる。
念のため警戒しながらも、音の方へと振り向くと、そこには一人の傷だらけの男が倒れ込んでいた。
傍では、支えにされていた猫車の車輪がからからと回り、一匹の狼が悲しそうに鳴いている。
「おい、大丈夫か」
悩むこともなく、ソフィアは男に肩を貸してやり、軽い回復呪文を当てながら起こしてやった。
「あ、ああ。悪いな……助かった」
バツが悪そうな顔をしながらも、男はしっかりとソフィアに礼を述べる。
そこで、何かに気がついたようで、男はソフィアの手に持っていた物を見つめて、ぼそりと呟いた。
「……ラミアスの剣」
その小さなつぶやきは、しっかりとソフィアの耳に入っていた。
ソフィアもまた驚いた様子で、男へと問いつめていく。
「知ってるのか、こいつを……この剣を」
「知ってるも何も……それはアイツにしか使えないはず……」
ぐい、ぐいと大きく詰め寄るように問いかけを続けるソフィアに、男は少しだけたじろぎながらも答えていく。
・・・
「使えるのか、そいつは、この剣を、天空の剣を!!」
「そ、そりゃあな、むしろアイツにしか使えないと言ってもいい」
ラミアスの剣を天空の剣と呼ぶところに違和感を覚えながらも、男はただ聞かれたことを正直に答える。
ラミアスの剣を天空の剣と呼ぶところに違和感を覚えながらも、男はただ聞かれたことを正直に答える。
「そいつの居場所、知ってるか」
「あ、ああ」
完全にペースを飲み込まれたまま、頷いてしまう。
禁止エリアの都合もある、変な欲を出していなければロッシュ達は自分たちの後を追っているはずだ。
そうであれば、おおよその現在地は分かる。
地図を出して説明しようか、と思った時、体がふわりと浮く。
「ちょ、おい、何を」
「導いてくれ」
乗せられたのは、先ほどまで支えにしていた猫車。
まるで状況は飲み込めない、何がどうなっているのかすら理解できない。
けれど、たった一つ、一つだけは理解できる。
唐突にも現れ、天空の剣のことを問いかけてくるこの女は。
「――――"天空の勇者"の元に!!」
"本気"でロッシュに会いたがっていることを。
「……これで、貴様と一対一、存分に暴れることが出来るな」
飛ばされた先、傷ついた体に鞭を打ちながら、ゲロゲロは立ち上がる。
力強く槍を構える先は、両手に爪をつけたまま動かないジャミラス。
ゲロゲロはそんな相手を不審がりながらも、奇襲に備えて警戒を怠らない。
「……ククククク」
槍を向けられてもなお、ジャミラスはうつむきながら、笑う。
まるで勝ち誇ったかのように、下卑た笑みでゲロゲロを見つめる。
「全く、つくづく、私は"運"がいい」
「……どういう事だ?」
全く状況を理解できないゲロゲロは、ジャミラスに問いかけを投げる。
答えが返ってくることは、期待していないが。
「ふん、説明したところで何も変わらん。貴様の"死"はな」
「戯れ言をッ!」
予想通り、答えが返ってくることはなかった。
つきあっていられない、そう思い先手を打つも容易く避けられてしまう。
舌打ちと共に、素早くジャミラスの方を向き直す。
まだ、笑みを浮かべたままのジャミラスが、こちらをじっと見つめている。
「そうだ、貴様にチャンスをやろう!
私に従うというのならば、お前を助けてやっても構わん」
「断るッ!」
提案は即座に却下する。
何がどうなってジャミラスに従わなくてはいけないのか。
そんな道理などどこにもないから、拒絶の言葉を乗せて攻撃に転じる。
「だろうな、ならば――――」
ようやく、ジャミラスも諦めたのか、ゲロゲロの姿を捉える。
どんな攻撃を繰り出してくるのか? ゲロゲロはジャミラスの次の一手へ、全ての神経を集中させる。
そして、ジャミラスの腕が動く。
「"殺されて"しまえ」
取り出されたのは一本の杖。
一番邪悪な笑顔を浮かべていたジャミラスが、それを振りかざした先。
それは、ジャミラス自身だった。
煙のようなモノが巻き起こった後、現れたのは一人の少女。
いや、姿形は違えど、それは確実にジャミラスだった。
一体何を考えているのか? その少女の姿になることが、自分への必勝法だというのか?
怪しい笑みをふっと消し、ジャミラスは背を向けて脱兎のごとく走り出した。
「お兄ちゃん!!」
不可解な叫び。
一体何が目的なのか、まったく掴むことなど出来ない。
ともかく、あの邪悪なる命を刈り取らなければ。
「助けて!!」
槍を、伸ばす。
ゲロゲロが飛ばされた方角、そして回りの景色。
ゲロゲロは知らない、巻き添えにしたジャミラスはつい先ほどまでそこにいた事を。
ゲロゲロは知らない、そのジャミラスは、そこである交渉をしていたことを。
ゲロゲロは知らない、いや、残されたムドーの記憶でさえも覚えていないかもしれない。
ジャミラスの交渉の相手、勇者ロッシュは。
"妹"が、いることを。
叩き込まれる、衝撃。
肩口から袈裟懸けに切り裂かれたことを認識すると同時に、鋭い蹴りが意図も容易くゲロゲロの体を吹き飛ばす。
言葉を出そうにも、血の塊がじゃましてうまく口に出来ない。
目を向けた先、かろうじて見ることが出来たのは。
"魔王"のような眼をした、青い髪の青年だった。
疾風迅雷、神の如き素早さの一撃。
自分の数倍ほどもある図体の相手を、それだけで沈めてしまった。
恐るべき男だと、カインは改めて思う。
ロッシュの体から放たれる殺意は、少し離れたこの場所ですら、鋭く、突き刺さる。
故に、気づけなかったのかもしれない。
何かが、引っかかっている感覚に。
ゆっくりと解かれる殺意。
最愛の妹へ向けるための感情へと切り替わっていく。
和らいでいく刺激、その瞬間にカインが気づく。
「大丈夫かい、ターニ」
カインが手を伸ばした、ゲロゲロが起きあがろうとした。
そして、ロッシュが両手を広げて妹へと振り向いた。
「ア?」
全てが重なったその時。
助けを求めていたはずのロッシュの妹は。
その腕を、ロッシュの胸に深々と突き刺していた。
ずぶり、と腕が抜かれたと同時に、血があふれかえる。
同時に、ロッシュの体が力なく倒れ込んでいく。
爪に塗られた毒が、直接体内へと流し込まれたせいか。
「ククク、ハハハ、ハハハハハ、ハァーッハッハッハッハ!!」
少女の声で、魔王が笑う。
小さく、そして次第に大きく、顔をゆっくりとあげながら笑う。
今し方腕についた血をなめながら、ロッシュの方を見て、笑う。
「ロッシュゥ! 感謝するぞ! 私の手を煩わせることなくムドーを殺してくれた上に、貴様が自ら死にに来るなんてな!!」
笑いかける魔王に、ロッシュは返事の一つも打てない。
まずいと思い、カインは攻撃を仕掛けるが、軽やかな動きに阻止されてしまう。
外見は少女でも、中身はれっきとした魔王。
少女には宿り得ない力が、いとも容易くカインの体を吹き飛ばしていく。
「さらには今にも死にかけのサマルトリアの王子までいるではないか!!
上出来、上出来上出来だ! 出来すぎている!!」
ロッシュの手からこぼれた剣を拾い、魔王は懐から一つの道具を出す。
ゲロゲロとカインは、ようやく立ち上がることが出来た。
ロッシュは、未だに起きあがることが出来ない。
「せいぜい自分の愚かさを悔いながら、死にいくが良い」
まるで、ジャミラスだけが動くことを許されているかのように。
辺りの時が、凍り付いているかのように。
たった一人だけが、剣を構え、立ちはだかっていく。
もう、彼らには何も許されていないのだ。
「この――――貴様等人間の武器でな!!」
光り輝く、奥義の書。
ゲロゲロの、カインの、そしてロッシュの視界を包む。
無色の、絶望。
【B-4/南部/昼】
【テリー@DQ6】
[状態]:HP1/15、脇腹貫通痕(応急処置済み) 肋骨骨折、腹部重度打撲、MP消費(大)、焦げ
[装備]:雷鳴の剣@DQ6、ホワイトシールド@DQ8
[道具]:支給品一式、マジカルメイス@DQ8 水のはごろも@DQ6
星降る腕輪@DQ3 オリハルコンの棒@DQS、賢者の聖水@DQ9(残り1/3)、ふしぎなタンバリン@DQ8
銀の竪琴、笛(効果不明)、ヤリの秘伝書@DQ9、光の剣@DQ2、ハッピークラッカーセット@DQ9(残り4個)
不明支給品(0〜5、先ほど分配したもの、便宜上テリーのみに集中して明記)
[思考]:先へ、進む。忘れない。ロッシュの元へソフィアを導く。
[備考]:職業ははぐれメタル(マスター)
(経験職:バトルマスター・魔法戦士・商人・盗賊 追加)
【ソフィア(女勇者)@DQ4】
[状態]:HP4/5、MP1/4表情遺失(人形病)
[装備]:天空の剣@DQ4、メタルキングの盾@DQ6、メイド服@DQ9、ニーソックス@DQ9、猫車@現実
[道具]:ソードブレイカー@DQ9、小さなメダル@歴代、オリハルこん@DQ9
キメラの翼@DQ3×5、奇跡の剣@DQ7、ブロンズナイフ@歴代
基本支給品*2、聖なる水差し@DQ5
[思考]:終わらない 殺し合いを止める、天空の勇者に会う
[備考]:六章クリア、真ED後。
【D-4/南部・森/昼】
【ゼシカ@DQ8】
[状態]:HP4/5、MPほぼ0
[装備]:さざなみの杖@DQ7、ルカナンソード
[道具]: 賢者の秘伝書@DQ9、おふとん@現実
[思考]:首輪を外し世界を脱出する。ビアンカを――――
【ビアンカ@DQ5】
[状態]:HP9/10、リボンなし――――――――――――――――殺す
[装備]:女帝の鞭@DQ9、エンプレスローブ@DQ9
[道具]:支給品一式、炎のリング@DQ5、カマエル@DQ9
[思考]:殺してもらう――――殺す奴らを許さない――――殺してもらう
[備考]:カマエルによって錬金釜の使用方法を教わっています
ビアンカの傷が治っているのはミネアのメガザルによる効果です。
第三回の放送内容をサイモンから聞きました。
霧のせいで精神に異常をきたしています。
【C-5/東部/昼】
【ジャミラス@DQ6】
[状態]:HP3/7、ターニアに変化
[装備]:プラチナソード、サタンネイル@DQ9、はじゃのつるぎ@DQ6
[道具]:剣の秘伝書@DQ9、超ばんのうぐすり@DQ8(半分のみ) 支給品一式*3、メタルキングの槍@DQ8、命のリング@DQ5
変化の杖@DQ3
[思考]:勝ち残る。
[備考]:支給品没収を受けていません。飛行に関して制限なし。
ターニアの件の真偽は不明です
【ロッシュ@DQ6】
[状態]:――――――――――――
[装備]:
[道具]:支給品一式 、白紙の巻物@トルネコ、聖者の灰@DQ9、食材やら水やら(大量)、調理器具(大量)
[思考]:――――――――――――
【カイン(サマルトリアの王子)@DQ2】
[状態]:HP1/10 脇腹打撲 肋骨が折れる、内蔵微損傷、首輪解除、ゴーグル喪失、重傷 、気絶
[装備]:ロトの剣
[道具]:支給品一式×8、モスバーグ M500(2/8 予備弾4発)、オーガシールド@DQ6、満月のリング@DQ9
世界樹の雫@DQ6、エルフの飲み薬@DQ5、デュランの剣@DQ6、もょもとの手紙、毒入り紅茶
竜王のツメ@DQ9、ツメの秘伝書@DQ9、不明支給品(リア確認済み)
[思考]:――――――――――――
※旅路の話をしましたが、全てを話していない可能性があります。少なくともリアについては話していません。
【ゲロゲロ@DQBR2nd】
[状態]:――――――――――――
[装備]:スライムの服@DQ9、スライムヘッド@DQ9、雷の刃@DQS
[道具]:支給品一式*4、超万能薬@DQ8、トルナードの盾@DQ7、ビッグボウガン(矢なし)@DQ5
パパスの剣@DQ5、祝福の杖@DQ5,王女の愛@DQ1,デーモンスピア@DQ6、結婚指輪@DQ9
[思考]:――――――――――――
[備考]:ムドーが死に、彼が呼び覚まされました。
主催者が彼をどう扱うかは未知数です。主催からアイテムに優遇措置を受けていました。
「定時放送、禁止エリアなし。
死者、影の騎士、リッカ、リンリン、マリベル、以上四名
残り、八名」
やけに機械的な声だけが、放送として告げられる。
その責務を背負っていたはずのものは、すでにそこには居ない。
次に逢い見えるのは。
惨劇の、舞台。
【残り 8人】
※アクバーが会場に登場しました、いつ、どこで、どのように現れるかは不明です。
※アクバーの目的は不明ですが、デスタムーアの命であることは確かです。
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以上で投下終了です。
特に問題がなければ、9/28の0時には予約解禁にしたいと思います。
投下乙
とりあえず、ジャミラスはロッシュ達三人にギガブレイク放ったという事でいいんだよね?
奥義書光ってるし、そうじゃね?
投下乙
全生存者が入り乱れる展開、いやあ最終盤を実感するなあ
しかしジャミラスが本当に狡猾、アイテム使いが上手すぎるw
指摘を一つ
>>688 バシルーラの杖はシンシアの不明支給品→影の騎士が開示→ジャミラスが回収という経緯のアイテムなので
バラモスvsゲロゲロたちのときは登場していなかったです(あのときのバシルーラはバラモスの自前です)
なので杖を見た瞬間のゲロゲロのリアクションはちょっと変更が必要かなと思います
>>710 ご指摘ありがとうございます。
>>688を下記のように修正させていただきます。
〜〜〜〜
構うものか、とソフィアはそのまま剣を振り下ろす。
「杖……?」
ジャミラスが構えたものは、一本の杖。
何の変哲もない、ただの一本の杖なのに、嫌な予感が拭えない。
あの杖を見逃してはいけないと、本能が警鐘を鳴らし続ける。
ゲロゲロはそれに突き動かされるように、思考をかなぐり捨てて叫ぶ。
「ソフィア! 退けっ!!」
ゲロゲロが叫んだと同時に、杖から光が飛び出す。
光に包み込まれるソフィアと、下卑た笑みを浮かべるジャミラス。
〜〜〜〜
トリップを付け忘れていました。失礼いたしました。
乙!
いよいよ最終局面ですね
あと、サマルの状態表がそのままでは?
HPはともかく、気絶は治っていますよね
>>714 ご指摘ありがとうございます。
ロッシュやゲロゲロと同じ表記に修正させていただきます。
ジャミラス様狡猾さでは4魔王随一やなあ
乙
乙です
「そんなこと、出来るわけ出来る訳ないじゃないですか!」
突然の申し出に、困惑の表情を浮かべながらも、ゼシカはしっかりと拒否する。
状況が理解できていない、というのも大きい。
大きな叫びとともに頭を抱え、涎を垂らして小刻みに震えるビアンカ。
自分が、自分でなくなってしまう。
つまり、誰かに乗っ取られようとしているということなのか?
「おっ、おねねねががいいい!!」
頭の中で整理しようと考えたその時、ビアンカの叫びがゼシカの頭を揺らす。
震えが大きくなり、呂律も回っていない。
確かに少しずつ"壊れて"いくように、彼女が彼女ではなくなっていく。
「ころ、ころっ、し、し、てて……」
残された時間はそう長くはない。
ウダウダ悩んで居られるわけもないが、今明確に用意されている選択肢を選ぶことは出来ない。
それを選べば、確かに"終わる"だろう。
だがそれは、ただの"終わり"では無い。
ビアンカにとっての"終わり"でもある。
しかもそれを齎すのが自分だなんて。
「……生憎と、諦めの悪さだけはピカイチなんです」
出来るわけが、無い。
何も考えずに用意された選択肢に縋り付く事なんて、絶対にしたくない。
道はどこかに必ずある、そう信じているから。
「絶対に、助けます」
これから何が起ころうと、決して彼女を見捨てないと。
強い決意の言葉を、言い切る。
「あ……カ……」
それとほぼ同時、ビアンカが白目を剥き、大きくのけぞる。
手を出そうにも、辺りの空気から感じる謎の"圧"が足を縫いとめる。
「……霧?」
そこで気づいたのは、ビアンカの周りに霧のようなものが立ち込めていること。
ただ単に濃く立ち込めている霧、というわけではない。
周りに立つ木々が、森が、その霧を吐き出している。
それだけではない、まるで意思を持っているかのように、ビアンカの体へと集まってくる。
そして、ゼシカの視界が完全に遮断された時のことだった。
「どうして、貴方まで邪魔するの……」
背筋が凍りつきそうになる声と共に、立ち込めていた霧が一斉に晴れる。
ゼシカの目に再び映ったのは、ビアンカ。
いや、ビアンカであってビアンカではない。
「にくい、憎い、憎いッ!! 殺してやるッ!!」
声ははっきりと通っている、震えも止まっている。
パッと見は健康そうに見えても、ゼシカは安堵していない。
むしろ、今のビアンカの姿に、恐怖すら抱いている。
「私は、あの二人に幸せになってほしいだけなのに!!」
血走った目、甲高い声、別人のような息遣い。
まっすぐ見据えているようで、焦点の合っていない目が、ゼシカを捉える。
振り抜かれる腕が鞭と一体となり、牙のように襲い掛かる。
「早ッ――――」
先ほどまで共闘していたから、ビアンカの戦闘力は良く分かっていたつもりだった。
けれど、それが仇になるとは思いもしなかった。
ビアンカをはるかに上回る、まるで別人のような手さばき。
予想していなかった攻撃に、ゼシカは防御の姿勢すらとれずに一撃を食らってしまう。
空気が裂ける音と共に、ゼシカ口からくぐもった声が漏れる。
ビアンカの攻撃の手は止まらず、龍の頭のごとくもう一撃がゼシカに襲い掛かる。
怯んでいたゼシカも、それをもらうまいと急いで飛び退き、一撃をかわして行く。
「呪術の類? でも――――」
わずかに生まれた時間で、ビアンカの豹変の正体を探ろうとするが、考える時間が与えられない。
一息ついた場所にめがけて、巨大な火球が飛んできたからだ。
同時並行で唱えていたピオリムで素早さを上げていたことで、なんとか直撃だけは免れた。
だが、やはり"違う"。
先ほどビアンカが放った"それ"とは、明らかに魔力が違う。
禍々しい気を纏ったまま自分を睨むビアンカを見て、ゼシカは思考の糸を張り巡らせる。
まるで別人のように豹変する、強大な力、魔力のようなもの。
どこか、どこかで見たようなそれが、ゼシカの頭の中で引っかかり続ける。
そう、今のビアンカの姿に似た状況を、どこかで経験しているはずなのだ。
それも、自分自身が、かつて、どこかで。
「――――ひょっとしたら」
襲い掛かる鞭の一撃を避けると同時に、ゼシカははっとする。
似ているのだ、神鳥の杖によって自分が操られていた状況に。
暗黒神の力が宿った、強大な魔力を持った杖に、自分はかつて操られた。
暗黒神をデスタムーアに置き換えれば、ある程度は納得がいく。
とすれば、あの霧は「デスタムーアの魔力」ということか。
つまり、ビアンカは今、デスタムーアによって操られているも同義。
魔力の元を断ち切る、ないし引き離すことさえ出来れば。
「やれるかどうかじゃ、ない」
そこまで分かったところで、足並みをそろえる。
それ以上は悩む必要もない、ウダウダしていれば自分の状況が悪くなる一方だ。
ならば、早々に手を打つしかない。
「やる!!」
退路など、もとより用意されていないのだから。
残った魔力と賢者の秘伝書を生かし、まずは己の反応速度を限界まで高めていく。
それは、襲い掛かる音速の鞭と渡り合うため。
木々を薙ぎ倒すように振りぬかれるそれを、すんでの所で避けていく。
まだ、まだ焦らない。
一発の、たった一回のチャンスをゼシカはじっと待つ。
腕や、腹や、顔を掠める鞭に、冷や汗をかきながらも。
それをぎりぎりで避け続け、機会を伺う。
そして、飛び交う鞭の合間を縫うように、ビアンカの手から一発の火球が放たれる。
その火球にゼシカは全神経を注ぎ、急ごしらえで同じ呪文を放つ。
足が止まったゼシカの腹部を、鞭が抉っていく。
激痛で口が止まりそうになるが、必死の思いで踏ん張り、詠唱を続けていく。
残された魔力、その全てが注がれた火球がまずは一発、ビアンカの放った火球を打ち消していく。
呼応する奥義書が、もう一発の火球を呼び起こす。
まっすぐにビアンカへと向かう火球に、ビアンカが新たな火球を練り上げようとする。
それこそが、ゼシカの狙い。
「届ッ、けぇっ!!」
自らが放った火球を貫くように、拳を振りかざしていく。
渾身の一撃、その全てに思いを載せて。
完全に無防備となっているビアンカの腹部に、鍛えた拳を振るう。
「かっ、は」
くぐもった声と共に、ビアンカがわずかに白目を剥く。
気を失う少し手前、まだギリギリ正気を保っているところで止まっている。
そして、ゼシカは感じ取る。
ビアンカが纏っている力の流れが、変わったことを。
「ビアンカさん、ちょっと失礼!」
魔力の主、デスタムーアを叩くことは出来ない。
だが、彼女を蝕む魔力を、彼女の体から追い出すことは出来るかもしれない。
先ほどまで呪文を唱えていたビアンカの口にかすかに残る魔力。
半ば強引にその唇を塞ぎ、わずかな取っ掛かりから魔力そのものを引きずり出していく。
自身の体を、その魔力に呼応させるように、かつ一度掴んだそれを逃がさないように。
ビアンカの口から、ずるずると引きずり出し、吸い込んでいく。
やがて、ビアンカとゼシカの体を包み込むように、濃い霧が立ち込め始めた。
再びビアンカに纏わり憑かんとするそれを、ゼシカは素早く鞭で振り払っていく。
霧はビアンカに寄ることを諦め、ゆっくりと彼女たちの元を離れていった。
「なんとか上手くいったかな……?」
わずかに安堵したのも束の間、今度は霧同士が互いに呼応しあい、より濃度の濃い霧を作り始めた。
小さく、けれども強大に育っていくそれを見て、ゼシカは一歩退き、間合いを取る。
「ゼシカちゃん、これは……」
「読みが合ってれば……」
げほげほ、と咳き込みながら、正気に戻ったビアンカもそれを見る。
そんなビアンカを庇うように、ゼシカは彼女を後ろに追いやる。
「姿を現しなさい、邪悪なるものよ」
放たれた一言と同時に、立ち込めていた霧が一層濃くなる。
「邪、悪?」
そして、その一言と共に、ゆっくりと晴れていく。
「私が、悪?」
うっすらと浮かび上がるシルエット。
固唾を呑んで見守る、その先には。
「クククク、フフフフフ、アハハハハハハハ!!」
寸分違わぬ姿のビアンカが、そこで笑い狂っていた。
先ほどまでのビアンカのように、血走った目を浮かべ。
ゼシカたちを見下ろすように、狂い咲いていた。
「……私は、いわば彼女そのもの」
笑うのを止め、"彼女"は語り始める。
「人間が願う夢、人間が抱く希望、それが私」
自らの正体を、なんの躊躇いも無く。
「貴方が強く願い続けたから、私は造られた。貴方によって、ね」
ビアンカの姿で、ビアンカの声で。
「強く願う夢の気持ち、それが具体的なイメージを持てば持つほど、私たちの力は強くなる。
そして、貴方たちを乗っ取ることさえ出来る。
意志の弱くなった、あなたのような人間程度ならね」
けれどもビアンカではないように、語り続ける。
「貴方だけじゃない、この場所では何人も"夢"に体を乗っ取られている。
心の弱さと相反する願いが、私たちを呼び寄せる。
そう、貴方自信が、"夢"の私を呼び寄せるの……」
ゼシカやビアンカは知りえない事実を交え、彼女は語る。
この地では、今のビアンカのように、"夢"に乗っ取られた人間がたくさん居る。
強く願う気持ち、それが組み立てる希望や絶望が、人を内々から壊していく。
一番分かりやすい例を挙げるとすれば、ミーティアだろう。
彼女は願った、いや願いすぎた。エイトが生きていることを。
その思いが強すぎた故に、"ああなってしまった"のだ。
「あら、ちょっと多く喋りすぎちゃったわ。
こっちもこんな形で引きずり出されるなんて思ってなかったから、うっかりしてたわね。
まあ、それであのお方がどうなるというわけではないし」
「貴方……やっぱり、デスタムーアの手下なの?」
あのお方、というワードに敏感に反応し、ゼシカは問いかけをぶつけて行く。
その質問に対し、彼女はフフッと邪悪な笑みを浮かべて、返答する。
「そうといえばそう、でも違うといえば違う。
確かに夢を具現化するのはあのお方の力。
でも……さっきも行った通り、その夢を抱くのは貴方たち人間よ。
だから、私たちは貴方たちが願うように、動く、それだけ」
「じゃあ、なんで私たちを乗っ取る事を狙うの?」
彼女が語れば語るほど、疑問は沸いて来る。
その疑問に対し、嫌な顔一つせずに、彼女は語っていく。
"その手を明かしたところでどうとなるわけではない"と言わんばかりに。
「強い願い、それを叶えるには時として強力な力が必要になるわ。
だから、肉体と夢を一致させる。それによって生まれる力は、あのお方が一番知っているから」
かつて、とある勇者は自分の本来の肉体を取り戻し、新たな力に目覚めた。
その力は次第に大きくなり、やがて魔王を討つほどにまで成長した。
だから、デスタムーアが一番良く知っているのだ。
強く願う心が生み出した夢が、現の肉体と共になることで生まれる力を。
「私たちは、貴方たちの願いを叶えに来ただけなのよ」
「ふざけないで!!」
そこで、今まで黙っていたビアンカが大きく声を上げる。
それに少しだけ驚いた表情を浮かべてから、彼女は怪しく笑い、ビアンカへと答える。
「あら? お望みで無いとでも言うつもり? だとすれば、私は生まれないわ。
心の弱さであれなんであれ、ひとかけらでも生まれた希望のかけらが、私たちを生むの。
あなたは、願ったのよ」
それはとても残酷に、けれど淡々と。
今の状況を、分かりやすく説明するために。
「スベテを、殺したいと」
彼女は、事実を告げる。
.
「違うッ!!」
跳ね除けるように、飛び出す叫び。
その叫びの瞬間に、初めて彼女が表情を曇らせた。
それに気づいてか気づかずか、息を上げて涙をぼろぼろと零しながらも、ビアンカは彼女に訴える。
「確かに、そう思ったのかもしれない。だから、あなたは生まれた、それは間違いないかもしれない」
突きつけられた事実を、受け入れながら。
「けれど、だけれど、それは私の全てじゃない」
けれども、それに反論するだけの強さと共に。
「それは、私の全てじゃないッ!!」
強い気持ちで"真実"を、否定していく。
「……つまんないわぁ。ちょっと逆撫でし過ぎたかしら、こんなに強い意志を持たれては打ち崩せないわね」
いかにも不服そうな表情を浮かべ、彼女はビアンカを睨む。
だが、それも束の間のこと。
小さな笑みを浮かべて、狂った笑顔でビアンカを見て、言葉を突きつける。
「私たちはあなた達人間の傍にいつでもいる。
努々、忘れないことね――――」
「ッ、待ちなさい!!」
そして、ぐるりと後ろを振り向き、片手を振りながらその場を立ち去ろうとする彼女の背を、ゼシカは追おうとする。
だが、次の瞬間には前が見えなくなるほどの濃霧が立ち込め、森がざわざわと揺れていた。
視覚と聴覚、それを擬似的に奪われた少しの間。
たった数秒ともいえる短い時間に、まるで何もなかったかのように"彼女"は消えうせた。
一体、何だったのだろうか。
はっきりとした答えは無いが、今までのやり取りが現実に起こったことだというのは、ゼシカの傷が教えてくれる。
人々の夢、願い、それによって生み出される"もう一人の自分"という異次元の存在。
魔王は、一体何を企んでいるのか?
「……行きましょう、ビアンカさん」
今はまだ分からない、けれど、何を企んでいようともやることは一緒。
この殺し合いを開いたあの魔王を、企みごと潰す為に。
ただ、今は前に進むのみ。
「ソフィア達が、心配です」
晴れた霧の中、彼女たちは足を早める。
思わぬ形で引き裂かれてしまった、仲間達の下へ向かうために。
【D-4/真昼】
【ゼシカ@DQ8】
[状態]:HP2/5、MP0
[装備]:さざなみの杖@DQ7、ルカナンソード
[道具]: 賢者の秘伝書@DQ9、おふとん@現実
[思考]:首輪を外し世界を脱出する。ソフィアの元へ急ぐ
【ビアンカ@DQ5】
[状態]:HP7/10、リボンなし
[装備]:女帝の鞭@DQ9、エンプレスローブ@DQ9
[道具]:支給品一式、炎のリング@DQ5、カマエル@DQ9
[思考]:ソフィアの元へ急ぐ
[備考]:カマエルによって錬金釜の使用方法を教わっています
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以上で投下終了です、支援ありがとうございました。
乙です!!
投下乙です。
ビアンカ、一時は元に戻ったが、何かの拍子でまた闇堕ちする可能性を秘めてるなあ。
まだ安心ができない状態、他のメンツと比べて場馴れしてない弱さもある。
最後まで気が抜けない爆弾をどうやって保持していくのか。
予約に入っていたテリーとソフィアは余分と判断した為、投下からは外れます。
長期の拘束申し訳ありません。
では、投下いたします。
荒れた大地。吹き荒ぶ烈風。
其処に、希望はなかった。
天地揺るがす斬撃の波に飲まれ、倒れ伏したカイン達。
元より起き上がれないロッシュは当然として、何とか立ち上がったゲロゲロとカインも吹き飛ばされ、後方へと転がっていった。
「圧倒的ではないか、我が力は」
嘲笑を抑えきれぬのかジャミラスは握った剣を投げ捨て高々に大声を上げた。
この戦、我が勝利を得たり。
極上の美酒に酔いしれるかのように、両腕を高く掲げ、喝采する。
「御覧になられましたか、デスタムーア様! このジャミラスの活躍!
ロトの血を引く勇者も! 天空の勇者も! 裏切り者の魔王も!
私の前に無様に散っていった! くは、ははっ、ひはははははっ!」
何もかもが掌の中に在る。
正義も、勇気も、愛も、幸せも。
それを転がすのはジャミラスなのだ。
四天で残った最後の魔王として、この世界を絶望に包み込む。
「ひぃ、はっ、ひゅひゅっ、ははっ、はは!!!」
残る障害は緑髪の勇者と蒼の剣士のみ。
ここに転がっている人間共を人質にして取れば一瞬で片がつく。
完全勝利は近い。この結果を得る為なら、何度も計略を弄したかいがあったというものだ。
「ははははっ――――!?」
時は来たれり。ジャミラスの勝利をもって、この狭間の世界は終焉を迎えることになる。
「は、ははっ、な、ななっ」
「煩い高笑いだね」
そう、此処に集っているのは凡百の勇者と魔物であるならば。
「同胞だったものよ、記憶にある貴様と変わらぬ様だな」
彼らが潜り抜けた証である回復アイテムがなければ。
それで終わってしまった話だった。
だが、違うのだ。
ここには修羅場を経験し、大切な人との別れを味わい、死んでも死にきれない生き意地の悪さが固まったような参加者達しかいない。
「……あ、あっ」
そして、ゆらりと立ち上がり、その表情を冷酷に尖らせている勇者が一人。
世界樹のしずくと解毒呪文によって傷ついた身体は元の健康体へと戻っている。
「ロ、ロッシュ……っ」
「その姿で、口を開くな」
刹那、ジャミラスの腹には渾身の蹴撃が突き刺さっていた。
口から血反吐を吐き散らしながら、ジャミラスは土塊を纏わせながら大地を転がっていく。
そして、起き上がるのと同時に再び蹴撃。今度は逆方向に吹っ飛ばされた。
まるで、サッカーボールのように軽々しく蹴られたその体はたったの二撃でボロボロになってしまった。
「あ、がっ……」
「黙れ。息を吐くことすらおごがましい畜生が、調子に乗るなよ」
震える身体を起こし、何とか立ち上がろうとしても踏み砕かれる激痛で再度地面へと這いつくばってしまう。
「お前は越えてはいけないラインを踏み躙った。わかるな?」
その言葉には恐ろしいまでに感情がなく、表情も貼り付けたような笑顔だった。
戦慄した。逃げる時間さえも与えてくれなかった。
「だから、お前は――そこで、無様を晒して死ね」
最後に垣間見た彼の有り様はまさに、魔王。
慈悲も猶予もなく、一瞬にて掻き消されたアドバンテージ。
そもそもの話、彼を相手にして余裕があったと錯覚したのが間違いだった。
遊ばず、弄さず、淡々と殺せばよかった。
取り戻せぬ失態を悔やみながら、ジャミラスはいともあっさりと駆逐される。
「それ以上はやめてくれ、ロッシュ」
邪魔する者がいない限り、それは調和していた未来だった。
「……アクバー」
ふと視界を前へと変えれば、其処には一体の魔物がゆっくりと此方へと歩み寄ってくる。
アクバー。デスタムーアの側近とも言える存在が闇の中より現れていた。
「そいつにはまだ使い道があるんだ、離してもらおうか」
「おいおい、冗談が言える立場かい? 悪いけど、こいつだけは見逃せない」
「意見が合うね、僕もそいつには妹を散々に連れ回してくれた借りを返さないと」
「そもそも、逃がす道理がない」
今まで傍観していたカイン達も戦線に加わり、状況は更なる緊迫したものへと移り変わっていく。
「ともかく、この【玩具】は――消させてもらう。他の荷物を考えるに、そのふざけた姿の元凶はこれのようだ。
まさかこれにまた翻弄されるなんて、よっぽど僕は、嫌われているね」
ジャミラスが持っていたふくろを奪い取り、その中からへんげの杖を取り出した。
そして、燃え滾る炎を掌に込めて、杖を焼失させる。
「……苛烈にして冷静。デスタムーア様を一度は打倒しただけはある」
アクバーはくつくつと笑い、指を鳴らす。
瞬間、アクバーとジャミラスを闇の衣が包んでいく。
「ッ! これは!」
「……逃げるのかい? 一応、側近とも言える存在がそれでいい訳?」
「安い挑発には乗らんよ。そもそも、私の任務はこいつの回収だ。任務遂行の為ならプライドもへったくれもないさ」
徐々に闇へと同化していくその体に向けて、呪文を撃ち放つも、弾かれる。
デスタムーアの魔力を帯びているからなのか、闇の奥にいる魔物二人を護るように霧散していく。
「闇の先で待っているぞ、ロッシュ。それと裏切り者の魔王」
「ふん、己が信念に従ったまで。後悔はしていないさ」
これ以上は魔力の無駄遣いと判断したのか、ロッシュ達は彼らが消えていく様を黙ってみているしかなかった。
「そして、ロトの血をひく最後のものよ。貴様が見る夢の最果ては絶望に満ちている。それでも、征くのか?」
「そうだね、正直な所諦めちゃえば楽なんだろうけど……妹に誓った想いだけは――違えないって決めてるから」
だが、いずれまた相まみえることは知っている。
あるはずだった未来を飲み込んだ始まりの場所で、再び。
「ふっ。ならば、貫いてみせよ。世界が終わる瞬間まで、精々足掻くことよ」
【C-5/東部/真昼】
【ロッシュ@DQ6】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:支給品一式×4 、白紙の巻物@トルネコ、聖者の灰@DQ9、食材やら水やら(大量)、調理器具(大量)
剣の秘伝書@DQ9、超ばんのうぐすり@DQ8(半分のみ)、メタルキングの槍@DQ8、命のリング@DQ5
[思考]:諦めない。ジャミラスには落とし前をつける。
※近くにはじゃのつるぎが落ちています。
【カイン(サマルトリアの王子)@DQ2】
[状態]:健康
[装備]:ロトの剣
[道具]:支給品一式×8、モスバーグ M500(2/8 予備弾4発)、オーガシールド@DQ6、満月のリング@DQ9
エルフの飲み薬@DQ5、デュランの剣@DQ6、もょもとの手紙、毒入り紅茶
竜王のツメ@DQ9、ツメの秘伝書@DQ9、不明支給品(リア確認済み)
[思考]:妹へ誓った想いだけは違わない。
※旅路の話をしましたが、全てを話していない可能性があります。少なくともリアについては話していません。
【ゲロゲロ@DQBR2nd】
[状態]:健康
[装備]:スライムの服@DQ9、スライムヘッド@DQ9、雷の刃@DQS
[道具]:支給品一式*4、超万能薬@DQ8、トルナードの盾@DQ7、ビッグボウガン(矢なし)@DQ5
パパスの剣@DQ5、祝福の杖@DQ5,王女の愛@DQ1,デーモンスピア@DQ6、結婚指輪@DQ9
[思考]:己が信念を貫く。
[備考]:ムドーが死に、彼が呼び覚まされました。
主催者が彼をどう扱うかは未知数です。主催からアイテムに優遇措置を受けていました。
【???/真昼】
【ジャミラス@DQ6】
[状態]:HP1/7、ターニアに変化
[装備]:プラチナソード、サタンネイル@DQ9、
[道具]:
[思考]:――――。
[備考]:支給品没収を受けていません。飛行に関して制限なし。
ターニアの件の真偽は不明です
投下終了です、支援ありがとうございました。
投下乙
ようやくせかいじゅのしずくを使ってくれたか…
ひやひやしてたぜ
乙
投下乙です
アクバー何考えてるんや……
乙です
乙
投下乙
乙です
久しぶりに来てみれば新作がたくさん来てて話がだいぶ進んでた…!
たくさんの生き様と死に様を見せてくれたキャラ達に合掌。
マリベルとテリーは本当にいいコンビだった。テリー頑張れ超頑張れ
正直病んじゃうキャラ多くて全滅エンドもあり得るかと思ってたけど
やはりドラクエ、みんな前に進んでいこうとする姿がいい
書き手の皆様方、本当に乙です!
何も、何もない。
先ほどまで少女の姿をした魔王がいたはずのそこには、何もない。
現れた闇に飲まれ、そして姿を消した。
あるのは、奴が持っていた白銀の剣と、毒が塗られた爪だけ。
"くれてやる"、ということなのだろうか。
何の考えがあるのかは、わからない。
死にかけの魔王に、一体何が出来るというのか。
せいぜい弾避け程度か、それとも何かがあるのか。
考え始めれば、それは止まらなくなってしまう。
「……ところで、さ」
だから、ロッシュはそれを考えることをせず。
「君は、誰だい?」
もう一つの、疑問をぶつける。
「姿形はあのムドーそっくりだ、けれど君はムドーじゃない。
とすれば一体、君は誰なんだい?」
そう、目の前にいる"ムドー"のこと。
デスタムーアの忠実なる僕の一人であるはずの魔王が、どうしてデスタムーアの敵である自分を助けたのか。
ましてや、ジャミラスと刃を交えていたのだ。
あの忠誠心の塊のような魔王が、デスタムーアを裏切るとは、ロッシュには到底考えられなかった。
「……ゲロゲロ、私の名はゲロゲロ」
「そういうことじゃなくってさ」
殺意を感じない言葉で返ってきた答えを、やんわりと否定する。
何も名前を聞きたいわけではなく、ロッシュは抱いている"疑念"を正直にぶつけていく。
「ムドーでありムドーじゃない、"君"自身がどこから来たのか、って聞いてるんだ」
投げかけた質問に対する答えは沈黙。
短くて長い、永遠とも思える時間。
殺意はなく、穏やかな空気だけが流れる。
「……わからない、ただ、気がつけば、私はここにいて、記憶を失っていて。
頭に大きな傷があった、だから、どこかで大けがをして記憶を失ったのだと、そう思っていた」
ようやく絞り出された答えは、納得のいくものではなかった。
「……不自然、だね」
「ああ、私もそう思う」
漏れた言葉に、魔王も同意を重ねる。
デスタムーアが"そんなこと"をする理由が、これっぽちも見あたらない。
何の得があってムドーに傷を与えて、記憶まで奪ってこの場所に放り込んだというのか。
考えても何もひらめかないので、違う推察を繰り広げることにした。
「……僕はさ、もう一人"僕"がいたんだ」
思い返すのは、自分のこと。
「"僕"が願い続けた夢、それが僕。でも僕が僕である時間が長すぎたから、"僕"は消えてしまった」
自分が自分であり、自分ではないと言うこと。
夢が現を乗っ取ることが出来ることを、自分が証明してしまっている。
そして、この世界を司っているのは、夢の世界を作り出した魔王、デスタムーア。
となれば、一つの仮説は立てられる。
「何かのきっかけで生まれた"君"が、"ムドー"を乗っ取った。
"君"でいた時間が長かったか、それとも"君"の意志が強かったか。
何にせよ、"君"は"ムドー"に勝ったんだ」
そう、"夢"の存在が、魔王ムドーを打ち倒したのだと。
だが、そもそも"誰が"そんなことを願ったのか。
いや、誰がなどと考えなくてもいい、他人の願いは他人に干渉しない、それはわかっている。
ならば"魔王ムドー"がそれを、この心優しき姿を願ったというのか?
あり得ないが、それしかない。けれど、納得ができない。
現実として今目の前で起こっているとしても、どうしても腑に落ちないのだ。
「これ以上考えてもわからない、か」
最後のその一言だけは、誰にも聞こえないように。
小さく、とても小さく呟いた。
「ん? あれは……」
ちょうどその時、遠くを見つめていたカインが何かを見つける。
猫車に押されながら運ばれるテリーと、緑髪の少女。
よく見れば、テリーの姿は――――
「おいテリー! どうした、その傷ッ――――」
「ロッシュってのは」
心配するカインの声を遮るように、少女の声が被さる。
なんてことはない、抑揚も何もない無機質な声が、逆に怖くて。
「どいつだ」
押し黙ってしまったカインを払いのけるように、少女は言葉を続けた。
少しだけ流れる、沈黙の時間。
「僕が、ロッシュだけど?」
小さな声で、重い空気を打ち破る。
テリーと行動を共にしているということは、信頼はして良い相手なのだろうが、意図が全く読めない。
念のため、といつでも抜剣できるように警戒しながら、少女へと近づいていく。
支援
「手を、貸してくれ」
ただ一言、少女は要求する。
あまり予想していなかった展開に困惑しながらも、ロッシュは手を差し出す。
そこに乗せられたのは、一本の剣。
ロッシュが見慣れていた、あの刀鍛冶の少女が蘇らせた剣。
右手が、まるで刀に吸い込まれるように馴染む。
懐かしい感覚と、戦いの記憶が、一瞬のうちに蘇っていった。
「見つけた」
そして、少女が声を漏らしたのも、その時だった。
「やっと」
相変わらず感情のない声で、言葉を続けながら。
「やっ、と……」
両の目から涙を流して、崩れ落ちた。
「一体全体、なんだってんだよ」
一連のやりとりを横目に、カインはテリーの治療を続けていく。
あまり魔力を割くことは出来ないが、今にも死んでしまいそうな傷を前には、そんなことも言ってられない。
「……天空の勇者」
回復呪文による治療と、自らの瞑想で傷を癒しながら、テリーはカインに答えていく。
「選ばれし人間のみに扱うことが許された武具、それを身に纏えるものを称して呼ぶそうだ」
自分たちが知らない世界の、勇者と呼ばれた者の話。
テリーが運ばれている間に、断片的に語られたそれ。
再びテリーの口から飛び出し、カインへと語られていく。
話を聞くカインの頭の中には、一つの答えしか浮かばなかった。
「……あとは、見りゃだいたいわかるさ」
まるで、ロトの血筋じゃないか、と。
目の前で無表情のまま泣き崩れる少女を見れば、だいたいのことはわかる。
"勇者"という肩書きは、どこまでも"人間でありたかった者"を苦しめる。
きっとあの少女も、自分と同じように。
長い、長い間、苦しんでいたのかもしれない。
「なあ、テリー」
そこまで分かったところで、カインは話題を切り替える。
といっても、振る話題など一つしかない。
だが、わかりきっているそれを聞くにはあまりにも野暮すぎる。
「暫く、休んでろ」
「……悪いな」
だから何も聞かないことにしたし、テリーの目に涙が残っているのも見ないことにした。
聞いたところで分かっている、分かりきっている。
返る答えも、テリーの気持ちも。
「悪かったな、いきなり押し掛けて」
少女はバツが悪そうに頭を掻き、ロッシュの手になじみ始めていた剣をひょいと取り上げていく。
ロッシュは顔の前で両手を振り、気にしなくても良い、とアピールする。
それを見て、少女は上を向き。
「……ははっ、こんなところで"救われる"なんてな」
笑った。
まるで、能面のように張り付いていた無表情が、壊れていった。
きらきらと、まぶしいくらいに輝く笑顔が、そこにあった。
「願い事一つだけ叶えてくれるならって、ずっと思ってた。
誰かに全部押しつけて、アタシは"普通"に戻りたかった」
ぽろぽろとこぼれていく涙と言葉。
けれど、少女の表情は明るい。
初めの魔王のような表情が、まるで嘘のように。
「ホント、感謝してるぜ。"アタシ"はようやく、救われた。
あの頃の"アタシ"は、ようやく"終われた"んだ」
彼女は、"終わりたかった"のだ。
誰も彼もが夢を見て、終わっていく中。
終われずにただただ、"生かされて"いく。
まるで、自分が"特別"だと言わんばかりに。
"特別"じゃないことを願い続けたのに、世界は彼女を"特別"にし続けた。
そんな、ここにくる前からずっと続いていた連鎖が、終わりを遂げた。
自分は特別ではない、という証明が、ずっと願い続けてきて、一度はあきらめた夢が。
ここで叶い、終わりを告げた。
「これからは……"アタシ"が生きる。
この力で"見るべきもの"を見なきゃいけねえアタシが生きていく。
……あの"アタシ"とは、今でお別れだ」
終われた、もう悔いはない。
だから、新しく生まれ変わる。
"天空の勇者"という特別な存在ではなく、ただ一人の人間として。
彼女は、新しい道を歩み始める。
"真実"を、掴むために。
「なんか、話が見えないけど……納得してるならそれでいい、か」
すっかりついていけないロッシュだが、悪い気分ではなかった。
自分のおかげで"救われた"というほど、きっといろいろとあったのだろう。
それこそ、カインの世界における、"ロト"のように。
彼女もまた、血に苦しんでいたのかもしれない。
「遅れたけど、よろしく。僕が、ロッシュだよ」
前を向く少女に、今度は違った意味の手を差しのべる。
共に戦う仲間としての、信頼の証の右手を。
「ソフィア、ただの"ソフィア"だ。それだけであってほかに何でもねえ」
がしり、と握られた手と共に告げられた言葉は、明るく、暖かさがあった。
「ソフィアー!! ゲロゲロー!!」
ちょうどその時に、少し高い声が響きわたる。
全員が振り向けば、遠くから赤毛の少女と金髪の女性がこちらに向かってきている。
「おい、その傷ッ」
「平気平気、それより伝えたいことが……」
腹部の痛々しい傷のことなど気にしないように喰い気味で喋る少女に、ロッシュとカインはデジャブを覚える。
そこで、全員がハッと気がつく。
「七、か」
「ジャミラスを抜けば、これで勢ぞろいな訳だ」
先ほどの機械的な放送で告げられた情報に、現状を加えれば分かる。
今、この場にいる者達が、生き残りであると。
それぞれ、魔王を倒す志を抱えた者達が、ようやく"ひとつ"になった。
「……ひとまず、だ。情報交換をしよう。初対面の人間もいる、各々が持っている情報を共有して、手がかりを一個でも増やそう」
すかさず、ロッシュが情報交換を提案した。
否定する理由もあるわけもなく、その場にいる者達全員が、それに賛同した。
一面に広げられる道具達。
そして、同時に繰り広げられる自己紹介と、カインとテリーの手によって首尾よく解除されていく首輪。
回復アイテムをそれぞれで分け合い、それぞれの傷を癒していく。
そして、各々の口から語られるのは、各々が過ごしてきた時間と記憶。
それらが一つになり、それぞれに行き渡っていく。
知らなかった世界、知らなかった出来事。
散っていった者達の記憶、夢、絶望。
時に悲しみを、時に怒りを、そして、時に涙を。
このわずかな時間の間に失われてしまった命に、祈りを捧げながら。
短くて長い、休息の時を過ごしていた。
「ビアンカさん! 来ました来ましたよ! ついに、ついに! 好き放題やりたい放題の錬金の時が!
私、柄にもなく今興奮しております……なにぶん、今まで黙りっぱなしでしたから」
情報交換も落ち着き、暫くして各々が行動を取り始めたとき、真っ先に動いたのはビアンカだった。
一面に敷き詰められた道具、まずはそれらを使って"何か"を生み出せないか、と。
相手は強力になって蘇った大魔王、いくら歴戦の戦士達とはいえ、中途半端な武器では戦うことすらままならない。
だから、備えを万全にするために挑んでいく、が。
「……間違えば、引き返せないのね」
脳裏によぎるのは"失敗"だ。
ただで少ない道具が、錬金の失敗により減ってしまうことを、恐れている。
錬金の知識を持つ者がいない以上、下手に手を出さずに現状を維持した方が良いのではないか?
そんなことを、どうしても考えてしまうのだ。
「ビアンカさん」
そこに、カマエルが優しく、けれど少し厳しく語りかける。
「失敗を恐れてはなりません、失敗とは、恐れる人間の元に舞い降りるものです。
ですから、どうか、どうか私を信じてほしい」
一呼吸おいて、カマエルはいつもよりも微笑んで、ビアンカに告げる。
「何より、あなたはサイモンを生み出したではありませんか」
はっ、とした顔を浮かべる。
何の知識もなかった自分が、精一杯考えて編み出した錬金は、一つの"命"を生み出した。
カマエル自身ですら経験したことがなかったことを、彼女は成し遂げたのだ。
「そう、ね」
我に返ったかのように、ビアンカの顔に自信が満ちあふれる。
迷いは、そこには見えない。
「やるわよ、カマエル!」
「はいっ、喜んで!!」
そうして、無数の道具に立ち向かう彼女の背に、「がんばれ」という声が聞こえた気がした。
「ねえ、ロッシュ。"夢"について、教えて」
ビアンカが錬金に入ったところで、ゼシカが真っ先にロッシュに問いかける。
互いの話の中で、ロッシュの口から飛び出した"夢"の単語。
それは、ここに来る前にゼシカが聞いた単語でもあった。
「ここにくる前、ビアンカさんは"夢"に飲み込まれそうになった。
心の弱さが願った、小さな気持ちが膨れ上がって、ビアンカさんを乗っ取ろうとした。
魔力で組まれたそれだったから、なんとか対応できたけれど……一体あれは何なの?」
体を飲み込み、取り込んでゆく"夢"。
その存在には、ソフィアも心当たりがある。
それについて、唯一知識のあるロッシュに二人は寄っていく。
「……さっきも言ったけど、デスタムーアはかつて、僕の世界を支配しようとした。いや、一度は支配しかけていた。
人々の願いの力を使って、"夢"を切り離し、幻の世界を作った」
人々の希望の力を逆手に取った、夢の世界。
願いが強ければ強いほど、強大な力を持つそれは、同時に魔王の力にもなっていた。
「"夢"は強く願えば願うほど、より強くなる。それこそ、現を飲み込んでしまうくらい。
実際に……僕は元々、"夢"だったからね」
自身の経験をふまえて、ロッシュはビアンカの身に起きた出来事を解析していく。
的確な知識と解説で、ゼシカ達を納得させていく。
「……でも、僕は夢と現が乖離していた時間が長すぎたのもあったから、僕が"ロッシュ"になった。
だけど、いくら強い力だからって、"夢"自身が自ら現を乗っ取りにくるなんて……」
「心の弱いヤツなら、抵抗力も弱い。
だから、出来たんじゃねえか? 乗っ取り先が弱ってるなら、ある程度は合点が行く」
一つだけ、気になった点に即答したのはソフィアだった。
ソフィアもまた、ゼシカのように人が"壊れて"いくのを見た。
その時の彼女は、端から見ても分かるほどに弱っていた。
彼女もビアンカも、共通するのは"人の死"による動揺だ。
そこで生まれた心の綻びに、つけ込まれたという形か。
そこまで理解したところで、自分たちが立ち向かおうとしている存在の力を改めて噛みしめる。
「狙いは、殺し合いで絶望を招き、弱った人間を操るだけなのか……?」
思考が行き詰まる。
そもそも、デスタムーアは何故そんな回りくどいことをするのか?
自分たちを簡単に葬り去れるだけの力を持っておきながら、弱い人間を操るためだけにこんなことをしているとは思えない。
何か、こう、裏の目的があるはずだ。
「ま、そこはとっちめて吐かすしかねえだろ」
ぱんっ、と手のひらに拳を打ち付け、軽い音を鳴らしながらソフィアが言う。
目的はどうあれ、デスタムーアを倒すことには変わりない。
どうしても目的が気になるのならば、倒す間際に聞けばよいのだ。
「またそう簡単に言うね」
「やる前から負けること考える奴がいるかよ」
少し、呆れ気味に言い放ったカインの言葉に、ソフィアは至ってマジメに反論する。
その絶望を知らない表情に少しムッとしたのか、カインはかぶせるように反論していく。
「でも、乗り込むことすら出来るかどうかわかんないのに、どうやってやるっての――――」
「乗り込む道ならあるぞ」
少し強めのカインの言葉にかぶせるように、黙っていたテリーが口を開く。
ほぼ全員が、その言葉に反応するようにテリーの方へ向く。
「さっきは言わなかったが……ヘルハーブ、あそこの井戸に、飛び込んだんだ」
思い出すのは、追いつめられたあの時。
どうしようもなくなって飛び込んだ井戸。
その記憶をたどりながら、テリーは言葉を続ける。
「そしたら、初めの場所に飛ばされた。
あたりは暗くて、わかんなかったけどな。
そしたら、真実のオーブが輝いて……この世界に、戻された。
オーブがそんなことをしたのは、きっとその時ではないから、だろうな。
知ってるのはそこまでだ。初めの場所に戻ることなら、出来る」
はっきりとした記憶、初めの場所に戻る方法。
反逆への一手はテリーが持っていた。
首輪の解除とこの世界からの脱出。
真っ先にそろえておきたかったパズルはコレで全て揃った。
だが、そこまで揃ったところでロッシュの頭にさらに疑問が浮かぶ。
「不自然だ、どうして攻め込まれる隙をそのままにしておく?
首輪の件だってそうだ、殺し合いを介して僕らを支配しようとしているならば、あまりにも詰めが甘すぎる。
弱者を操っている件と比べて、動機がブレて見えなさすぎないか?」
まるで"解除してくれ"と言わんばかりの、張りぼてだった首輪。
抜け道を残したまま、始まった殺し合い。
そして、弱者を操る夢と、自分たちを葬り去れるだけの力。
この殺し合いの主導権を握ろうとしているとは、あまり思えない。
「デスタムーアは僕らが、この殺し合いを生き抜いた者達が刃向かってくることを望んでいる? あるいは――――」
ただ僕たちを殺すだけならば、初めの場所で出来ていたことは明白だ。
それをせず、かつこんなまどろっこしい手筈を踏んでまで開かれた殺し合いには、"裏"の理由があるはずなのだ。
"招かれている"とすら思える現状に隠されている考えが読めず、ロッシュは頭を抱える。
「ねえ、みんな!」
情報が纏まることで逆に思考が行き詰まりかけた時、錬金に勤しんでいたビアンカがロッシュ達の元へ駆け寄って来る。
「水のリング、知らない?」
「水のリング?」
ビアンカの問いかけに全員が疑問符を浮かべる。
はっとした様子でビアンカはあわてて指輪を一つ差しだし、言葉を続ける。
「この炎のリングの、水色っぽいやつなんだけどね。
昔、リュカが魔界に行くときに、三つのリングを聖像に捧げたの。
で、命のリングと炎のリングがここにあって、あとは水のリングだけ。
きっと、この場所でも大きな力になると思うから……」
「……知ってるぜ、よーく、よく知ってる」
終わり際、何かを思い出しながら、ソフィアが言う。
そう、この殺し合いが経って暫くした頃か。
死に化粧にしては綺麗すぎる"花嫁"を、彼女は見た。
その時に付けられていた、水色の指輪。
おそらく、ビアンカが指しているのはそれだろう。
「じゃあ、乗り込む前にそれを回収する。ひとまずはそれで決まり、だね」
明確な目的が一つ出来たところで、今後の方針がひとまず固まる。
水のリングの回収し、ヘルハーブの井戸を目指す。
そうと決まれば即行動、とロッシュが立ち上がった時だった。
「なあ、みんな」
それを止めたのは、ソフィアだ。
「ぞろぞろ歩いて指輪回収してはいよーいどん、って訳にも、いかねえんじゃねえか。
ここでやりたいこと、やり残したこと、あんだろ」
ひとまず敵は居ない世界で、七人が雁首そろえて歩く理由もない。
首輪という枷も無くなり、禁止エリアが意味をなさなくなった。
となれば、今は自由に動くことが出来る。
「少なくとも、アタシにはある。
だから、アタシはちょっと寄り道してから、ヘルハーブに行く。
やること済まして気が済んだらすぐ向かうし、その道すがら、水のリングは回収しておく」
見れなかった世界、会えなかった者。
既に死んでいるとしても、彼らが生きた証を、道を見たい。
そこに抱えられている"理由"が見たいから。
「色々と、さ。終わらしてこうぜ」
残りの全員に、"一時の猶予"を提案していく。
「まっ、いいんじゃない? 確かに焦って突っ込んでも危ないだけだし、傷を癒しながらゆっくりとヘルハーブに向かうのも悪くない」
「右に同じだ……言われれば俺も、ちょっと野暮用がある」
「ま、悪くはないかな……確かに、僕も何もないって訳ではないしね」
「そうね、私も、確かめておきたいことがあるわ」
ロッシュ、テリー、カイン、ゼシカ。
各々が各々の考えと、気持ちを抱え、ソフィアの提案に賛同していく。
彼女の言うとおり、"何もない"訳ではないから。
終わらせることを、終わらせていく。
「私、は……」
そんな中、ビアンカが一人だけ言葉を詰まらせる。
やりたいこと、やり残したこと。
いくら考えても、頭に浮かびやしないから。
「ビアンカよ」
そんな彼女に声をかけたのは、ゲロゲロだ。
「私に着いてきてくれないか、言い方は悪いが……私の、贖罪に付き合ってほしい」
贖罪、わずかな時間の間に犯した、少なくて、とても大きな罪。
"ムドー"を捨てて"ゲロゲロ"として生きるには、避けられない道だから。
ビアンカに同行を求めたのは、誰かにそれを認めてもらいたかったから。
「……わかったわ」
それを察したのか、ビアンカはゲロゲロの提案を了承する。
ゲロゲロの大きな体が、ゆっくりと礼の形を作るのを見てから、ビアンカが側に立ち寄る。
「皆様! 行動を開始する前に、ビアンカ様の傑作を是非ともご持参くださいませ!!
今までの武器とは、一太刀も二太刀も違いますよ!!」
それぞれが気持ちを決意したところで、ハイテンションなカマエルが集団に割ってはいる。
振り向けば、異次元の存在が絡み合うことによって生まれた、新たな武具達がそこに並んでいた。
ビアンカの天性のセンス、といったところだろうか。
失敗の組み合わせは、ものの一度として無かったのだ。
「ソフィア」
各々が武具を手に取る中、ロッシュが彼女に声をかける。
「この剣は、君が持った方がいい」
差し出されたのは、天空の剣。
彼女を縛り付けていた、唯一で最大の要素。
「この剣を扱えるのは、別に特別な事じゃない。そうだろ?」
でも、その"呪縛"はもう解けた。
他の誰かでも扱える、別に"特別"でも何でもない剣。
「ああ、ありがとな」
向き合う姿勢を変え、新たな気持ちでその剣を掴んでいく。
もう、悩む事は何もない。
向かうべき目的へ、向かっていくだけ。
「よし、やりてえ事済まして、すっきり気持ちの整理がついたら、ヘルハーブで合流だ。
じゃあ、みんな。後でな」
これから起こる決戦を前に、この世界に残された"もの"と決別するために。
ほんの少しだけれどとても長い時間を、これから過ごしに行く。
心に抱えた"何か"と、綺麗さっぱり別れを告げ。
何の悔いもなく、戦いへと向かうために。
それぞれがそれぞれの道を、少しの間だけ歩き始めた。
【C-5/東部/午後】
【テリー@DQ6】
[状態]:健康、首輪解除
[装備]:雷鳴剣ライデン@DQS、むげんの大弓@DQ9、オーガシールド@DQ6
[道具]:支給品一式、竜王のツメ@DQ9、ツメの秘伝書@DQ9、キメラの翼@DQ3
[思考]:先へ、進む。忘れない。やり残したことを済ませる
[備考]:職業ははぐれメタル(マスター)
(経験職:バトルマスター・魔法戦士・商人・盗賊 追加)
【ソフィア(女勇者)@DQ4】
[状態]:健康、首輪解除
[装備]:天空の剣@DQ4、メタルキングの盾@DQ6、メイド服@DQ9、ニーソックス@DQ9
[道具]:支給品一式、キメラの翼@DQ3
[思考]:終わらない 殺し合いを止める、やり残したことを済ませる、あきなの遺体から水のリングを回収する
[備考]:六章クリア、真ED後。
【ゼシカ@DQ8】
[状態]:健康、首輪解除
[装備]:女帝の鞭@DQ9、わだつみの杖@DQ9、セレシアの羽衣@DQ9、奇跡の剣・改@DQ7
[道具]: 支給品一式、賢者の秘伝書@DQ9、おふとん@現実、キメラの翼@DQ3
[思考]:やり残したことを済ませる
【ビアンカ@DQ5】
[状態]:健康、首輪解除
[装備]:モスバーグ M500(2/8 予備弾4発)、祝福の杖@DQ5、エンプレスローブ@DQ9、ブロンズナイフ
[道具]:支給品一式、炎のリング@DQ5、カマエル@DQ9、調理器具(大量)、ふしぎなタンバリン@DQ8、聖なる水差し@DQ5
小さなメダル@歴代、命のリング@DQ5、白紙の巻物@トルネコ、猫車@現実、結婚指輪@DQ9、キメラの翼@DQ3
[思考]:ゲロゲロの贖罪に同行する
[備考]:カマエルによって錬金釜の使用方法を教わっています
【ロッシュ@DQ6】
[状態]:健康、首輪解除
[装備]:銀河の剣@DQ9、トルナードの盾@DQ7、星降る腕輪@DQ3
[道具]:支給品一式、
[思考]:諦めない。ジャミラスには落とし前をつける、やり残したことを済ませる
【カイン(サマルトリアの王子)@DQ2】
[状態]:健康、首輪解除
[装備]:ロトの剣、ホワイトシールド@DQ8
[道具]:支給品一式、剣の秘伝書@DQ9、もょもとの手紙、キメラの翼@DQ3
[思考]:妹へ誓った想いだけは違わない、やり残したことを済ませる
※旅路の話をしましたが、全てを話していない可能性があります。少なくともリアについては話していません。
【ゲロゲロ@DQBR2nd】
[状態]:健康、首輪解除
[装備]:メタルキングの槍@DQ8、地獄の魔槍@DQ9、パパスの剣@DQ5、サタンネイル@DQ9、スライムの服@DQ9、スライムヘッド@DQ9
[道具]:支給品一式、ヤリの秘伝書@DQ9、王女の愛@DQ1
[思考]:己が信念を貫く、贖罪へ。
[備考]:ムドーが死に、彼が呼び覚まされました。
※ビアンカが不明支給品もろもろ含め錬金を行いました。
※回復系アイテムが全て消費されました
----
以上で投下終了です。支援ありがとうございました。
780 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/11/25(火) 23:46:27.16 ID:fdMgihKr0
乙です
ついに揃ったかあ
最終決戦目前にして謎だらけの主催者陣営
そんな中ビアンカの錬金の才能、爆発ってレベルじゃない
クライマックスに向けてどんな展開が待ってるのか、ドキドキです
投下乙です。
とうとうクライマックス近付いてきた感じですなー
「なあ、カイン。一緒に来てくれ」
そんな風に声をかけられたのは、全員が歩き出し始めてから暫くしてからだった。
まるで、皆が居なくなるのを見計らっていたかのように。
「どうしても、かい?」
「出来れば、だな。無理は言わねえよ」
そっぽを向き、先ほどのロッシュとの会話のように、気まずそうに頭を掻く。
できることなら、一人で動きたいという本心はある。
自分がケリを付けなければいけないことは、自分だけの問題だから。
そこに、他人が介入する余地はない、と思っている。
けれど。
「まあ、いっか。じゃあ一緒に行こう」
一人で抱えて動き続けることは、間違いだと教えられたから。
これから共に戦うであろう仲間と、それを共有しようと思った。
少し前の自分からすれば、考えられない話だ。
そんな変化に自分だけでフッと笑い、先に足を進めていたソフィアの後を追い始めた。
「マーニャ……」
初めに出くわしたのは、大樹に寄りかかるように眠るマーニャの姿。
言うべきかどうか迷っていたが、ギリギリでカインがそのことをソフィアに告げたのだ。
ぱっと見は、本当に眠っているだけのようにしか見えない。
美しい紫の髪も、浅黒い褐色の肌も、見てくれは生きている者のそれだ。
だが、違う。
刻まれるべき音も、伝わるべき熱も、そこにはない。
そして、ソフィアは一つの事を感じ取る。
「……使ったんだな、アレを」
外見からでは分からないが、手を掴んだときの感触。
まるでスライムのように柔らかく、押しつぶせてしまいそうな、弱り切った肉の感触。
精神力だけでない、体力だけでない、その身すらをも犠牲にして、何かを撃った。
そして、その"何か"は、容易に想像がつく。
「ホント、負けず嫌いだよな、オマエ」
ふっ、と笑い、その場から立ち上がる。
それ以上何も言う必要はない、ということか。
振り向かず、その場を後にしていく。
「ミネアとアリーナ、あとピー助によろしくな」
その一言と共に、風が流れていった。
「ここ、ここが絶望の町さ」
暫くしてたどり着いたのは、荒れ果てた町だった。
ざっと見渡しても三つ、いや四つ。
もう動かぬ躯が、横たわっていた。
「一息ついでに、手伝って欲しいんだけど、いい?」
休むついでに、と元々この町に用事があったらしいカインについて行く。
というのも、今までと同じように、野ざらしになっている死体を、せめて何かしらの施しをしようというだけだ。
探索ついでに見つけた一人と一匹を合わせ、町の中心に六つの遺体を並べていく。
そこらの民家から拝借した茣蓙やら布団で、その体を隠すように包んでいく。
「……もょもと、アイラ」
一番最後、青い服の少年と踊り子のような女剣士の前で。
「遅くなって、ごめん」
カインは、うつむきながらそう呟いた。
諸々の理由で今の今まで野ざらしだったことに対する謝罪だろうか。
それとも、別の事に関する謝罪か。
「なあ」
そこで、ソフィアは気になっていたことを問いかける。
「……仲間を、誰かを失うのは初めてか」
あまりにも、カインの表情の陰が大きすぎたから。
答えは分かっていたにせよ、どうしても聞かなければいけないと、そう思った。
「仲間……」
振り返る。
思えば、そんな事を思ったのは初めてかも知れない。
元の世界でもょもととあきなに対してそんな感情を抱いた事なんて、一度もなかった。
そもそも、誰かを失う、なんてこと自体、経験がない。
妹以外なら、誰がどうなろうと知ったことではない。
ついさっきまで、そう思っていたから。
「うん、そうさ。初めてだよ」
カインは正直に言う。
「仲間ができたのも」
ここに来たから出来た、初めてのことと。
「仲間を失うのも」
ここに来てしまったから味わった、初めてのことを。
重ねるように、ソフィアは問いかける。
まるで、何かに探りを入れるように。
カインは若干訝しみながらも、問いかけに答えていく。
「正直、安心したよ。こんなにも、心強いのかって、安堵した」
初めて人を信頼した、初めて人に信頼された。
誰かと助け合っていくことを、初めて経験した。
"協力"という一度も考えなかった事を、進んでこなしにいった。
「同時に、すごい不安にも襲われた。こんなに心強い味方が居なくなったら、どうしようって」
反面、それがどうしようも無く怖かった。
この世界だから、この場所だから、それがいつ無くなるかなんて分からなくて。
そして、現にそれが無くなったときに。
どうしようもない無力感に、襲われて。
ちっぽけな存在だと、言い聞かされている気がして。
「……守られる側ってのは、いつも無力なもんさ」
そこまで聞いてから、ソフィアが口を開く。
脳裏に浮かぶのは、かつての自分。
何も出来ず、ただただ誰もが殺されるところを見るしかできなかった、弱い自分。
「てめェじゃ何もできねえし、どうすることも出来ねえ。
手にした力なんざ、クソほどの役にも立たねえ」
そして、もう一人。
大事な誰かを守り通すかのように、力を振るい続けた男。
世界をも敵に回さんとしていた筈の彼ですら、守れないモノがあった。
「誰かを守るって言うのは、誰かを傷つけることなのかもしれねえな」
守る側も、守られる側も。
どちらも傷つくことを、ソフィアは知っている。
けれど人間は、生き物は、そうしないと生きていけないことだって、十二分に知っている。
きっと、目の前で眠る男も。
いろんな"傷"を背負いながら、カインを守ったのだろうか。
簡易式の埋葬を済ませるや否や、気がつけば町の外へと向かって歩き出していた。
ロッシュから聞いた話、情報、それがかみ合うのはこのあたり。
足を止める理由など、かけらも無い。
ふらふらとした足取りで絶望の町を後にするソフィアに、カインはまるで誘われるように後をついて行った。
それは、そう遠くない場所にいた。
木が生い茂る薄暗い森の中に、ひときわ輝く白と桃色と、赤。
何かを掴もうとしていたのか、手は伸びきったまま。
倒れて動かない、いや動く理由がない。
「よう、シンシア」
ここにいる訳がない、死んだはずの彼女がいた。
しばらく固まったまま、シンシアを見つめ続ける。
手を掴む、髪をなぞる、頬に手を当てる。
そのどれからも、人の熱は伝わってこない。
二度目の出会い、もう二度とないと思っていたのに。
こんな場所で、こんな形で。
一方的に出会うことになるなんて、考えもしなかった。
「……誰かを守れなかったとき、そこに残るのは何なんだろうな」
ぽつりと、呟いた言葉。
先ほどとは違う、逆の立場の言葉。
「守れるだけの力があったとして、守りたいモノを守れなかったら」
淡々と、淡々と、言葉だけを続ける。
「力は、何のためにあるんだろうな」
もう一度、あの黒いマントが脳裏をよぎる。
守るべきモノを守れずに、立ち尽くす。
そして、さらなる力を求め続け、自滅していく。
力とは、なんなのか。
「守る側も、時には無力なもんさ」
誰かを守れるだけの器量と力があっても。
時間、場所、運命までもは、操る事なんて出来ない。
次に出てくる言葉はいつもそう、"たら"と"れば"。
結局、自分たち人間は誰かに操られているだけなのかも知れない。
「アタシはここで、それを思い知らされた。
だから、せめてアタシ自身くらい、アタシで何とかしようって、そう思った」
だから、手の届く範囲。
どうがんばっても届く、"自分"だけはどうにかしようと、決めた。
そこでソフィアは、ずっと黙っていたカインに目を向ける。
「何があったのかまで、深く聞くつもりも無ぇけどよ。
守って守られたんなら、テメーのその命は、大事にしとけよ。
しょーもねえところでくたばってりゃ、守った奴も守られた奴も浮かばれねえからな」
うつむいたままだったカインは、その言葉で顔を上げ、笑う。
頭に浮かんでいたのは、守ってくれた仲間と、守るはずだった命。
そのどちらもあるからこそ、今の自分がある。
「ああ、勿論さ」
当然、忘れるわけがない。
「僕は、こんなところで朽ちない。生き続けるって、決めたんだ」
刻んだ決意は、彼らと共にある。
「……待たなきゃ、いけないから」
待つべき、未来のために。
「……大体ここらへん、だよな」
寄り道に時間を使いすぎてしまったことに焦りを覚えつつ、意識をあわせておもむろにキメラの翼を放り投げる。
デスタムーアの力が働かなくなったのか、それともそう仕向けられているのか。
ソフィアが思うとおりの場所に、たどり着くことが出来た。
「あきな」
そして、そこで見たもの。
マーニャやシンシアと同じように、壁にもたれ掛かったまま動かない。
光り輝く金髪と、純白のドレス、そして、赤。
三色で彩られたまま動かない、彼女の姿。
「綺麗だろ」
思わず言葉を持らしたカインに同意するように、ソフィアは言葉をかぶせる。
「アタシも、そう思ったさ」
思わず息をのむほど、美しい花嫁姿。
見るもの全てを魅了するそれは、神々しさすらまとっていた。
「同時に、なんでこんな綺麗な奴が死ななきゃいけなかったんだろうなって、思った」
もし、彼女が死体でなければ、きっと世の男は簡単に落ちたに違いない。
本人がそれを望んでいなかったとしても、この美貌を前にしては目が眩まない方が珍しいだろう。
「……見りゃ分かるだろうから、言わねぇけどよ」
そう、何より目立つ、首の傷さえなければ。
「ほんっと、お前はバカだよ、あきな」
話こそ聞いていたものの、実際にその姿を見て漏れたのは、そんな言葉だった。
「何にも、何にもならないだろ、そんな事したって……」
かつての自分なら、絶対に言わなかったであろう言葉を。
「ドジでマヌケで、背負いたがりで責めたがりで、心もそんなに強くなくて。
けれど、人を思う気持ちは一倍強くて、誰かの為になりたかったお前がさ、そんな事したって、何にもならねえだろ」
見ていなかった振りをしていたことを、一つずつ後悔して。
あの時間の中で、一度でもいい、彼女としっかり話をしていれば。
嫉妬を捨て、何か一つでも会話をしていれば。
こんな、絶望に満ちた死に方をしなずに済んだのかも知れない。
「……ちくしょう」
最後に漏れたのは、今の気持ちが凝縮された一言だった。
「カイン」
うなだれるカインに、ソフィアが声をかける。
「お前が、やってくれ。アタシには、たぶんその資格は無ぇ」
彼女が指をさした先、そこに輝くのは水色のリング。
おそらく、あれがビアンカの言っていた「水のリング」なのだろう。
それを前に、ソフィアはカインの肩を叩き、一歩引く。
ゆっくりと、一歩前に踏み出す。
まるで人形のように動かないあきなの手を取る。
冷たい、分かり切っていたことだが正直にそう思ってしまった。
その冷たくて、小さな手を、自分の両手で包み込んでいく。
「……借りるよ、あきな」
口を開き、言葉を続ける。
「見ててくれないか、僕が、この僕が」
決意の姿勢、まるでその姿は。
「前を向いて歩くところを」
聖母に祈りを捧げる、戦士のようだった。
すらり、と抜かれた指輪。
ゆっくりと立ち上がり、その場を後にしていく二人。
動かぬ聖母が、見守る。
二人の戦士が、未来を切り開くための死地へ向かっていく姿を。
【F-5/あきな遺体傍→ヘルハーブ温泉へ/夜】
【ソフィア(女勇者)@DQ4】
[状態]:健康、首輪解除
[装備]:天空の剣@DQ4、メタルキングの盾@DQ6、メイド服@DQ9、ニーソックス@DQ9
[道具]:支給品一式
[思考]:終わらない 殺し合いを止める
[備考]:六章クリア、真ED後。
【カイン(サマルトリアの王子)@DQ2】
[状態]:健康、首輪解除
[装備]:ロトの剣、ホワイトシールド@DQ8
[道具]:支給品一式、剣の秘伝書@DQ9、もょもとの手紙、キメラの翼@DQ3、水のリング@DQ2
[思考]:妹へ誓った想いだけは違わない
以上で投下終了です。
投下乙です
あきなん。。うるっときた・・・
一度目は心情を打ち明けたマーニャ達に「少女A」として、
二度目は同じく勇者の運命に翻弄されたカイン達に「あきな」として弔われるところが、切ないですね。
投下乙です。
797 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/11/29(土) 00:20:50.59 ID:w7jSgq2L0
乙です
二度目の出会いって二度死に目に会うってことか。辛いな……
乙
読み返しててあれ?って思ったんだけど、絶望の町じゃなくて欲望の町ですね
>>799 ご指摘ありがとうございます、収録時に修正いたします。
投下します。
不思議と、悩んでいる時間はなかった。
姉とも決別を済ませた、ハッサンやバーバラと別れを惜しんでも仕方がない。
ならば、やることなど何もないだろう? とは思っていたが。
頭の中に引っかかっていた、一つのこと。
ゼシカから聞いた情報と、マリベルが言っていた名前。
それが、偶然にも一致してしまっていたから。
ためらう理由なんて、どこにもなく。
誰よりも真っ先に、歩き始めていた。
ざく、ざく、ざく。
ただ、ひたすらに足を進める。
己がやるべきたった一つの事の為に。
だだっぴろい地面だけが広がる世界を、ただただ歩き続ける。
そして、しばらくして。
「ここ、か」
テリーは、たどり着いた。
その背に、マリベルの遺体を背負いながら。
リンリンが殺した、と言っていた人間、アルスの躯の側に。
「待たせたな、マリベル」
そう言いながらやさしく、そっと。
横たわったまま動かないアルスの隣に、背負っていたマリベルを寝かせてやる。
体を放り出すように倒れていたアルスの体を整えてやり、最後にマリベルの手をアルスの手をとり、指を絡めるように繋いでやる。
フードで隠れていた顔を出してやり、体についていた汚れを軽く拭いていく。
「なるほどな、マリベルがホレる訳だぜ」
顔立ちのいい姿を見て、テリーはぼそりと呟く。
別に張り合いたいわけではないが、お世辞抜きでも顔立ちのいい姿。
少し、幼さが残るあたりが、心を掴むポイントなのだろうか。
「……きっと、いい男だったんだろうな」
テリーはアルスのことを知らない。
せいぜい、マリベルの話の中に出てくるアルスという人物のイメージ程度しか持っていない。
彼がどんな風に生きてきたのか、どんな風に笑い、泣き、喜び、怒ってきたのか。
そして、その姿はマリベルにとってどんな風に写っていたのか。
テリーに、それを知る術はない。
「置いてくな、って言ったのは、お前だろうが」
テリーは、分かっていた。
幼なじみを、仲間を失い、マリベルが柱という柱を失っていた事を。
だから、その支えを作るために、自分を柱にしようとしていたことも。
……本来であれば、そこに居るべきは自分ではないのだ。
だから、きっとこの気持ちも本当は抱くべきではない。
彼女に別れを告げたときにした――だって、それをするべきは自分ではなかった。
「人の女に手を出す趣味は無ぇ」
現実を飲み込み、精一杯の強がりを言う。
自分もまた、柱を失って不安定だった。
壊れてしまいそうなところを、彼女に支えてもらった。
だから、彼女に頼り切ってしまっていた。
側に寄り添って、声をかけてくれると、いつでもそうだと、思いこんでいた。
けれど、もう彼女は息をしない。
微笑んでもくれないし、優しく包み込んでもくれない。
現実は、重い。
……それを受けるべきは自分ではなかったと分かっていても。
「何せ、俺には姉さんがいるからな」
精一杯、精一杯の強がりと本音を吐く。
もう、支えなど無くても生きていける。
だから、自分のことは忘れて欲しいと。
「……天国で、幸せに生きろよ」
一粒の涙が、静かに落ちた。
【E-3/アルス・マリベル遺体傍→ヘルハーブ温泉へ/夜】
【テリー@DQ6】
[状態]:健康、首輪解除
[装備]:雷鳴剣ライデン@DQS、むげんの大弓@DQ9、オーガシールド@DQ6
[道具]:支給品一式、竜王のツメ@DQ9、ツメの秘伝書@DQ9、キメラの翼@DQ3
[思考]:先へ、進む。忘れない。
[備考]:職業ははぐれメタル(マスター)
(経験職:バトルマスター・魔法戦士・商人・盗賊 追加)
----
以上で投下終了です。
大変申し訳ないのですが、容量が500KBに近いので、どなたか次スレを立てていただけると幸いです。
804 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/12/01(月) 01:47:00.07 ID:QevkxIbw0
うわぁ……
なんか、良い意味でうわぁ……
なんというか、すごい複雑な……うわぁ……乙ですうわぁ……
スレ建て無理でしたうわぁ……
投下乙です。
やり残した未練を清算していく参加者達。
簡単には片付けられないものを片付けなくちゃいけないのは、やはり辛い。
それでは投下します。
「久しぶり、バーバラ」
崩れ落ちた瓦礫。乾いた血飛沫。
かつては天真爛漫な笑顔を見せてくれた少女はどうしようもなく終わっていた。
その華奢な体は折れ曲がり、あどけない顔も土塊を被った木乃伊のようだ。
(ま、感傷だよねぇ。死者は生者とは大きな隔たりがある。今更、君に声をかけても――届かない)
ここにあるバーバラの身体は抜け殻で、彼女の魂は今もデスタムーアに囚われているのだろうか。
それとも、どこでもない無の世界へと溶けていったのか。
ロッシュ自身が言ったように、幾ら考えても感傷の領域を出ない。
ビアンカが彼女と同行していたというが、又聞きで詳しくもわからず本心はやはり闇の中だ。
(既に決着はつけているのに、諦めたくないと願うのは往生際が悪いけど)
喪ってなお、奪われてなお、それでも前へと進む意志は紛れも無く勇者のものだ。
理不尽に晒され、生きて帰ったとしても自分の居場所があるかどうかすら定かではない。
彼らが求めていたのはきっと、“夢”のロッシュではないだろうから。
(生憎と、諦めの悪さだけは世界一ってね)
ならば、道を切り開いて創るしかない。
泡沫のような存在である自分が未来を望むことができる世界を、何としてでも手に入れる。
喪ったなら、創り直せ。奪われたなら、取り戻せ。
理不尽を許容する世界に屈するな。
(だから、僕は――君にもう一度会いにいく)
夢を夢のままで終わらせるなんて、認めない。
旅の中で感じた喜び、怒り、哀しみ、楽しみは全部現実のものだ。
例え、自分達の存在が夢に過ぎなくても、抱いた思いだけは決して嘘じゃない。
胸に灯った温かな思いは、今もここにある。
仲間が死に、絶望しか見えない闇の中でさえ、ロッシュは膝を屈さなかった。
「というか……まだお互いの願い事、叶えてないし。そうだろ、バーバラ」
夢である自分達が願うのが痴がましいと想いながらも、幸せになることを焦がれたことがある。
人として当然のことではあるが、一緒に願った記憶は今も鮮明に残っていた。
夢を夢のままで終わらせない。
自分も、彼女も幸せを掴んでみせる。砕けた希望を拾い集めて、ロッシュはその夢を現実にする為にも。
(――僕達がまた笑顔で会えるように)
戦おう。絶望の果てまで走り抜こう。
(それに、伝えたいことがあるんだ。こっ恥ずかしいけれど、ね)
きっと、その“夢”は届くから。
「だから、さよならじゃない。“また”明日、だね」
【A-4/牢獄の町跡地/夜】
【ロッシュ@DQ6】
[状態]:健康、首輪解除
[装備]:銀河の剣@DQ9、トルナードの盾@DQ7、星降る腕輪@DQ3
[道具]:支給品一式、
[思考]:諦めない。ジャミラスには落とし前をつける、やり残したことを済ませる
投下終了です。
投下乙です。
また明日、別れはあえて告げないのがロッシュらしいですね。
指摘を一点、123話にてバーバラの死体が消失している描写があるので、
バーバラの死体の下りは何か別の描写にするかしないといけないですね。
了解しました。
該当の下り、もといバーバラの死体描写の文章を削除するといった形で対応させていただきます。
修正部分、したらばに投下しておきました。
振り返る。
思えば、ここに来てからと言うものの、仲間の死に目に一度も出会っていない。
エイトも、ククールも、ヤンガスも、ミーティアも。
皆、自分の預かり知らぬところで死んでいった。
なれば、自分のやるべき事は彼らへの弔いか?
いや、違う。
きっと、そんなことは望まれていないだろう。
後ろを向いて、過去へ恨み辛みを吐いていたら、彼らに笑われてしまう。
何よりも、湿っぽいのは好きではない。
きっと、どこかで見守ってくれている、そんな気がするから。
かつての仲間たちの元に行くのは、やめにした。
では、何故彼女は足を動かしているのか?
たった一つ、そうたった一つ。
この世界で、言いそびれた事がある。
腹の中に溜まったそれを吐き出さなければ、どうにも収まりが悪いから。
ぶつけたい思いを胸に、彼女は足を進めていく。
「やっぱり、ね」
たどり着いた場所は、死体が転がる荒れ果てた町。
その中で、ひときわ目立つ巨体を確認し、ため息を吐く。
あんな大きな"竜"を、見間違うわけがない。
「こんッの」
そこで言葉を切り、大きく息を吸い込み。
「大馬鹿野郎ぉおおおおおおおおお!!!」
辺り一面を揺らすほどの大声で、腹の底から叫びに叫んだ。
罵倒にごちゃごちゃした言葉などいらない。
勝手に突っ走って、勝手に満足して、勝手に逝ってしまう。
そんな勝手野郎には、これくらいで十分なのだ。
吸い込んだ息を全て吐ききり、喉が掠れるまで叫び終わったとき。
途方もない脱力感に身を預けるために、彼女は大きく前に倒れ込む。
その先にあるのは、竜の姿から戻らずにいる、王の体。
何よりも大きなそれは、やさしく、そして力強く、倒れ込んだゼシカの体を包み込んだ。
そのまま、両腕を竜王の体に延ばし、まるで枕のように抱きついていく。
「…………ありがとう、助けてくれて」
そこで囁いたのは、感謝の言葉。
首輪があったときには言えなかった、ありがとうの気持ち。
ずっと言えなかったこの言葉こそが、やりたかった一つのこと。
「私、絶対に生き延びる」
続ける、決意の言葉。
力強く、竜の体を抱きしめながら。
彼女は、言葉を続ける。
「"愛"を、あなたがずっと知りたがっていた事を、答えられるように」
竜が追い求めていたもの、人が誰しも知っていて、誰も知らないこと。
その答えこそが自分であると、いつか言い切れるように。
「そんな"おかあさん"になれるように、絶対に生きてみせる」
ローラとの会話で見つけた、自分なりの答えをちゃんと掴むために。
こんな場所で、死ぬわけにはいかないのだ。
「だから見てて。今度は私が、ちゃんと答えを教えてあげるんだから」
ゆっくりと立ち上がり、浮かんでいた涙を拭う。
後ろを向く時間は、もう終わりだ。
前を向いて、掴むべきモノを掴み、生きるべき時間を生きる。
そのために、彼女は足を進める。
倒すべき敵を、倒すために。
立ち去っていく彼女は、気づいただろうか。
倒れてもう動かないはずの竜の瞳に、まるで涙のように。
ひとつ、滴が流れていたことを。
【ゼシカ@DQ8】
[状態]:健康、首輪解除
[装備]:女帝の鞭@DQ9、わだつみの杖@DQ9、セレシアの羽衣@DQ9、奇跡の剣・改@DQ7
[道具]:支給品一式、賢者の秘伝書@DQ9、おふとん@現実、キメラの翼@DQ3
[思考]:"愛"を伝える"おかあさん"になるため、絶対に生きる。
----
以上で投下終了です。
>>813 現在地を追記します。
【G-3/絶望の町跡地/夜】
歩く。
暗い森の道は、その歩みを、とりわけこの森の中で心に傷を負った彼女の足取りを重くする。
けれど、立ち止まるわけにはいかない。
憎しみも何もかもを置いて、今を生きて切り抜けるために。
自分たちは、歩き続けなければいけないのだから。
(…私は、大丈夫なんだろうか)
ビアンカは一人、心の中でそう思う。
不安なのは、目の前の魔物と、自分の心の弱さ。
乗り越える為に必要だと分かっていても、今自分が彼と共にいるという事に、ビアンカは恐怖と罪悪感を感じていた。
「…すまない、ビアンカ。少し、話を聞いてもらってもいいだろうか」
ふと放たれたそんな言葉に、ビアンカは顔を上げる。
急な質問に戸惑いつつも、首肯して話を促す。
それを確認し、ゲロゲロもまたゆっくりと語り始めた。
「…『夢』について、どう思う?」
夢。
この世界における重要と思われており、『彼女』が自らを指していた言葉。
自分にとってのその意味とは、なんだろうか。
ゆっくりと進みつつ、ゲロゲロが話を続ける。
「…記憶が蘇った訳ではないが、少し覚えてはいる。
私は、かつて魔王ムドーと呼ばれ、畏怖される存在だった。
数多の魔物を統べ、人間を数えきれないほど殺し。
そうして、ある時勇者に殺された。それが魔王ムドーだった頃のおぼろげな記憶だ」
ゲロゲロは一旦そこで話を切り、目を瞑る。
その頃の事を思い出そうとし、しかし諦めたといった様子で首を振ると、彼は話を続けた。
「だが、私が覚えていないいつか、彼は夢を見たのだろう。
どんな夢かは分からないが、おそらくあの暴虐の限りを尽くしていない自分を見たのだと思う。
滅ぼすべき町のとある家族を見た時か、斃される直前であったか、はたまた玉座での思いつきか。
それは分からないが、その夢は…この場所において私を、『ゲロゲロ』を生み出した」
推測できる範囲での、彼のルーツ。
その意外な言葉に虚をつかれつつ、ビアンカは一つの疑問を抱いた。
「…何故、今そんな話を?」
「…すまない。ゼシカから話を聞かせてもらった」
…何故今話を始めたのか、理解した。
そして同時に、ビアンカの罪悪感は重みを増した。
ゲロゲロもまた、
「…ごめんなさい。分かっていた、筈なのに」
「貴女に謝るべきは私の方だ。私は、どうしようもない罪を犯したのだから」
そして、その贖罪のために、今自分たちは歩いている。
罪を受け入れ、背負うために。
後顧の憂いなく、前に進むために。
そこに偽りはなく、真実だ。
「だが、私達は夢を見てしまう。
叶わぬ夢を。
手に入らない、理想より安易に縋ることが出来る夢を見続けてしまう」
それは、あるいは、勇者が魔王を倒してくれるといったように。
あるいは、今は無邪気であっても、いずれは国を背負うような人間になってくれるといったように。
あるいは―――
「夢を見るのは、罪なのかもしれないな」
否定できない。
現に自分は、夢から怪物を生み出したのだから。
身勝手な幻想を抱いて、自分の心さえも欺いた。
それが夢を見る人間の、エゴにまみれた悪ならば、確かにそれは罪だ。
「私は…」
ビアンカは口を開く。が、言葉が出てこない。揺れ動く彼女は、ふと、何かを忘れていることに気付く。
そこに答えがある気がした彼女は、ゆっくりと考えようとして―――
「…な…?」
ゲロゲロの疑問の声に、ふと顔を上げる。
そこには、墓があった。
それを示す墓碑はなく、ただ土が盛られ二つの山を成しているだけだけれど。
そこにあったのは、確かに墓だった。
「…誰が、これを」
ゲロゲロが呟く。
場所が違うのか―――いや、間違いない。
彼を殺した魔王と同一の存在である自分は、彼を殺した感覚―――思い出したくもない忌々しい感覚と共に覚えている。
殺したのはこの場所であり、そこにその時はなかった墓があるということは、やはりそれは彼の墓なのだろう。
ならば、作ったのは。
「彼、か…」
「彼?」
ビアンカが問う。
「魔物だ。白銀の槍を持っていた、屍の騎士。
そう、恐らくは影の騎士と呼ばれていた魔物だろうな」
そこまで答えた所で、彼は気付く。
ビアンカが立ち止まり、涙をその目に貯めている事に。
「そうだ」
何故、忘れていたのか。
未来を、幸せをあの少女に託した彼の事を。
そうして、また思い出す。
こんな場所でさえ、自分が信じた道を曲げずに進んだ少女の事を。
そして、彼らは。
「そうだ」
彼らは、確かに夢を持って、自分の信じる道を進んでいった。
その姿を瞳の裏に幻視し、ビアンカは一粒の涙を零した。
そして。
それ以上涙を流さず、ゲロゲロの目を見て、彼女はゆっくりと話し始めた。
「…ねぇ、ゲロゲロ。
確かに、夢を見るのは罪かもしれない。
でも、夢を見るもの自身が何かを切り開くための光として仰ぐ夢は、絶対になくしてはいけないと思うの」
だって、あの騎士は。
叶わぬ夢に押し潰されそうになっていた彼は、それでも夢を捨てなかったから、夢を―――幸せを、掴みとれたのだから。
「…ごめん。まだ、行かなきゃいけないところがあった」
実の姿を見たことは無かったが、その特徴を聞かずとも、彼の姿は分かった。
たった一つの傷によって死化粧がなされた騎士の死体は、想像よりもきれいに残っていた。
「…ごめんなさい。そして、ありがとう」
幸せになりたいという、ほんの小さな夢を見た彼。
彼にとっては遠すぎるその夢を、それでも諦めきれずに追い続けて。
それが叶ったのは、飛ばされる前の最後の顔を見て分かっていた。
二人で埋葬をしていると、ふと声がかかる。
「二人とも、誰を埋めているんだい?」
見ると、青髪の勇者が歩いてきていた。
ゆっくりと近づいてきた彼は、その死体を見て僅かに目を見開いた。
「…この魔物、どうやって…いや、それよりも。
二人とも、彼がどうやって死んだか分かるかい?」
想像もしてなかった、思わぬ人物からの問い。
少し驚きながらも、ビアンカはすぐに返事を返す。
「私を庇って、自分だけ残って…場所が同じだから、多分そのまま、ね」
「そうかい。
…ねえ、すごく下らない質問をするよ。
彼、幸せに死んでいけたと思うかい?」
「…ええ、絶対に」
迷わずに、ビアンカは答える。
ニヒルな笑みを浮かべた騎士の姿が、妙に鮮明に心に浮かんだ。
もう一人埋葬したい人物がいると言うと、ロッシュはその手伝いを申し出てくれた。
この世界の北の果て、牢獄の跡。
崩れ落ちた瓦礫のその縁に、彼女はいた。
半身が潰され、それでもなお笑みを浮かべ死んでいる彼女の顔に、ビアンカは手を添える。
何も変わらない、彼女の笑みを見て少し安心する。
彼女は、やりたいことができたのだ。
そう分かり、ビアンカは一つ深呼吸をする。
夢を見て、その夢の中をただただ迷うことなく進んでいった彼女。
彼女は、もしかしたら誰よりも夢を見ていたのかもしれないなんて、ふと思う。
簡易な埋葬をし、形見としてバンダナを手に取る。
彼女がやっていたように髪を覆い、前を見る。
目の前に広がる現実を見据え、心を決める。
まだ、夢は見つからないけれど。
それでも、絶対に彼らの分まで、夢を叶えると誓う。
―――いってらっしゃいませ!またのお越しをお待ちしています!
ふとそんな声が聞こえた気がして、ビアンカは天を仰いだ。
「…さようなら。
また、来るわね」
【A-4/ろうごくのまち跡/夜中】
【ビアンカ@DQ5】
[状態]:健康、首輪解除
[装備]:モスバーグ M500(2/8 予備弾4発)、祝福の杖@DQ5、エンプレスローブ@DQ9、ブロンズナイフ、リッカのバンダナ@DQ9
[道具]:支給品一式、炎のリング@DQ5、カマエル@DQ9、調理器具(大量)、ふしぎなタンバリン@DQ8、聖なる水差し@DQ5
小さなメダル@歴代、命のリング@DQ5、白紙の巻物@トルネコ、猫車@現実、結婚指輪@DQ9、キメラの翼@DQ3
[思考]:生き残り、彼らの分まで夢を叶える。
[備考]:カマエルによって錬金釜の使用方法を教わっています
【ロッシュ@DQ6】
[状態]:健康、首輪解除
[装備]:銀河の剣@DQ9、トルナードの盾@DQ7、星降る腕輪@DQ3
[道具]:支給品一式、
[思考]:諦めない。ジャミラスには落とし前をつける、やり残したことを済ませる
【ゲロゲロ@DQBR2nd】
[状態]:健康、首輪解除
[装備]:メタルキングの槍@DQ8、地獄の魔槍@DQ9、パパスの剣@DQ5、サタンネイル@DQ9、スライムの服@DQ9、スライムヘッド@DQ9
[道具]:支給品一式、ヤリの秘伝書@DQ9、王女の愛@DQ1
[思考]:己が信念を貫く。
[備考]:ムドーが死に、彼が呼び覚まされました。
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投下乙です。
生きて夢を見ることが罪ならば、夢を叶えて死んでいくのが正しいのか。
終わってしまった彼らが、どこか誇らしげに映るのは、やりきったからなんでしょうね。
「……まさか、よりによって君と肩を並べて歩くことになるなんてね」
リッカの埋葬を済ませ、ヘルハーブ温泉へと進路を取る途中、ロッシュが唐突にそう漏らす。
元の世界では憎しみを抱き、打ち砕くと決めたはずの相手と、今は仲良く肩を並べている。
その相手は死んだはずの魔王。
しかも、蘇った魔王はどういった訳か心を入れ替えた、なんて誰が信じられるだろうか。
姿形は、ごまかしようも無く魔王そのものであるというのに。
「不思議なことも起こるもんだ、長生きしてみるもんだねえ」
あえて皮肉っぽく笑う。
お伽噺でもなんでもなく、目の前にいる魔王だった存在は今。
殺意のかけらも抱いておらず、人間と肩を並べている。
その瞳に宿るのは、まるで人間のような悲しみ。
それらを前にしては、疑う余地などほとんど残されていない。
「ロッシュよ」
そこで、魔王がロッシュに語りかける。
重圧感のある声は、やはり魔王のそれだ。
反射的に身構えてしまう自分に辟易しながらも、ロッシュは彼の問いかけに耳を傾ける。
「"悪"が死ぬのは、いつだと思う」
単純、かつわかりやすい問いかけ。
今の自分が"ゲロゲロ"であるからこそ、生まれている疑問。
悪であったはずの自分が今、こうして人間と肩を並べている。
だが、悪はまたいつ蘇るとも分からない。
今でこそこうしていられるが、不安が拭い切れている訳ではないのだ。
いつになるか分からないが、また誰かを手に掛けてしまうかも知れない。
そんな恐怖が、彼の中に消えずに残っている。
「難しいこと聞くねえ」
問いかけに対し、わざとゲロゲロから目をそらし、両手で頭の後ろを抱えて脳天気に歩き出す。
真面目に考えているのか、と思わず言ってしまいそうになったところで、ロッシュがゲロゲロへ向き直す。
「悪いことを考えてる奴は一生悪いこと考えてる。
……正直、あれだけ大暴れしてた魔王がケロっと寝返ったなんてね。
俄には信じ難い、それはあるよ」
正直な気持ちを、述べる。
何度も言うが、"ムドー"と言えば、それはそれは冷酷で、暴虐の限りを尽くしてきた魔王だ。
そんな存在が、人間を襲わないどころか、仲良く過ごしているなんて、誰が信じられようか。
最前線でムドーと戦い、そしてその手で止めを刺したはずのロッシュですら、その疑念を抱く。
言伝であれば、誰もが信じない話であろう。
「けれど、夢だろうがなんだろうが、今ここで起こっていることが"現実"だよ。それだけは変わらない。
だから、僕はそれを受け入れるだけ。
君を見て、どこをどう疑えばいいって言うのさ。
君の中の"悪"はもう死んだ、それでいいんじゃないかい?」
だが、現実というのはいつも残酷で、姿を変えてくる。
変わりゆくそれに適応していかなければ、ただ取り残されるだけ。
イヤと言うほど味わった経験のおかげで、頭の切り替えがスムーズに済むのは喜ぶべきなのか。
"そういうことらしい"で片づけられる考えが育ってしまったのは、いつからだろうか。
自分自身に少しだけ嫌気がさしながらも、ロッシュはうつむくゲロゲロの肩に手を置いた。
「"君"は"君"だ、さっきも言ったけど、君は"ムドー"ではないのだろう?
じゃあ、それでいいじゃん。気に病む必要なんかないよ」
ゲロゲロに檄を入れて、ゆっくり歩き出す。
並んでいた言葉は、まるで自分に言い聞かせているようで。
それに気づかぬまま、ゲロゲロとビアンカはロッシュの後を追う。
「……やっと着いたか」
ヘルハーブに着いたロッシュ達を迎えたのは、少しうんざりしたような表情のテリーだった。
見渡せば、ソフィア、ゼシカ、カインの三人。
自分たち以外の残り全員が既に集結しており、四者ともに同じような表情を浮かべているとなれば、誰だって状況は分かる。
「ごめんごめん、色々と、ね」
だが、こなしてきた事に一つだって余計なことなどない。
全て必要で、全て決着をつけなければいけなかったこと。
それが分かっているから、それ以上は言及されなかった。
そう、みんなそれぞれが、"終わらせて"きたのだ。
「ビアンカさん」
全員が揃ったところで、早速カインがビアンカに近寄る。
即座に差し出された、一つの青いリング。
頭に蘇ってくるのは、冒険の日々。
このリングを取りに行く、ほんの少しの間だけ、彼と冒険した。
彼は魔物達にとても慕われていて、そして誰にでも優しくて。
子供の頃と変わらない、同じ優しさをもった彼と冒険するのは、やっぱり楽しかった。
叶うのならば、そのまま彼と冒険していたかった。
けれど、それは叶わない"もし"。
彼の横を歩いていくのは、自分ではない。
薄々は、分かっていたことだった。
けれどやっぱり、ほんの少し。
彼と冒険していたかったと、思ってしまう。
「どうした? 使わねぇのかよ」
物思いに耽りかけたとき、声をかけられて我に返る。
手元にある三つのリング、かつてリュカが魔界への道を開いた鍵。
それが力になることは分かっている、分かっているが。
「……今じゃない、そんな気がするの」
その力を使うべきなのは今ではないと、心がそう告げている。
不思議がるソフィア達に対し、ビアンカはそのまま言葉を繋げる。
「この三つのリングは進むべき道を示してくれる。
けど今は、まだ進むべき道が見えてる。
道が見えなくなったら、使うべきだと思うの」
そう、あのときも。
開かれたのは三つのリングによる"道"だった。
今はまだ、自分たちの前に道が広がっている。
進むべき道があるのならば、まだこの指輪に頼るべきではない。
預かったリングを大事にふくろにしまい、ビアンカは他の全員に微笑みかける。
「それならさっさとしようぜ、もうこの世界に用なんて無いからな」
こうして七人の生き残りは、未練と決別し、戦いの準備を終わらせた。
その胸に、様々な思いを抱きながら。
彼らは、決戦の場へと足を向ける。
「おい、ホントにこんな井戸で大丈夫なのかよ?」
その入り口たる場所に導かれ、開口一番にソフィアが言葉を持らす。
どう見てもただの古井戸で、とてもではないが敵陣に乗り込める場所とは思えない。
「……言い切るのは難しいが、な」
テリーとしても、ソフィアの問いかけに断言していくことは出来ない。
飛び込んだ経験は一度だけ、その一度がもう一度起こる保証なんて、どこにもない。
ひょっとすれば違う場所に飛ばされるかも知れない、それどころか既に察知されて対策をされているかも知れない。
けれど、今の自分たちはそんな"確信できない道"を選ぶしかないのだ。
「あの時もデスタムーアは元の世界への道を残していた……そして、その道があったのもここ。
確かに、合点は行くね」
手元にある情報は、それくらいだ。
首輪の件といいなんといい、デスタムーアは"わざと"隙をさらしているようにも見える。
であれば、ここがあの場所に繋がっているというのも、考えられないことではない。
「……何であれ、行くしかないのだろう、我々は」
あれこれ考えていても、始まらない。
足を止めてしまえば、そこで話は終わりだ。
まだ終わらない、終われない者達がここに集っているならば。
こんなところで足を止めている場合ではない。
先へ進み、道を塞ぐ者を倒す。
今は、それがやるべき事だから。
「じゃ、行こうぜ!」
一人、また一人、そして一人。
それぞれが意を決して、底の見えない暗闇が広がる井戸へと飛び込んでいった。
落ちる、堕ちる。
重力のような、そうではないような。
ただ、真っ暗闇の中をひたすら落ち続けている。
体の自由はろくに利かず、ただただ"落とされる"感覚を味わう。
暗闇の中を、泳がされ続け、しばらく経つ。
風が切るような音のせいで、互いの声もうまく聞こえない。
このまま、終わりのない闇を泳ぎ続けるだけなのか。
「あの光は……」
その時、テリーが一粒の光を視界に捕らえる。
小さくて、消えてしまいそうで、けれどもしっかりとした輝き。
冷たい暗闇の中で、確かな温もりを持つそれを、テリーが目にするのは二度目のことだった。
「みんな! こっちだ!」
腹の底から叫び声を捻り出し、一番近くにいたソフィアの腕を掴む。
連鎖するようにソフィアがカインを、カインがゼシカを、ゼシカがビアンカを、ビアンカがゲロゲロを。
そして、ゲロゲロがロッシュの腕を掴む。
「絶対に! 離すなよ!!」
精一杯体を捻り、落ちる体を光へと向けていく。
小さかった光が、だんだんと大きくなり、暖かさが伝わってくる。
そう、間違いない、アレは、あの時の――――
気がつけば、暗闇を脱していた。
落ちる感覚もなくなり、両足はしっかりと地についている。
いつ、どのタイミングでそうなったのかは覚えていない。
けれど、自分たちが"導かれた"のは分かる。
七人の中心に位置する、輝きを残しながら砕け散っていったオーブによって。
「導かれた、のか」
初めの時は、きっと無駄死にするのを防ぐためだったのだろう。
そして、今は自分たちをこの場所に導くため。
破壊されないために灼熱の輝きを保ちながら、この場所でずっと待っていたのだろう。
「しっかし、お誂え向きに"何もない"場所だねえ」
テリーがオーブに対して感謝をしていたとき、他の五人はあたりを見渡していた。
初めの場所、何もない空間。
あるのは大の字に倒れているチャモロの死体くらいで、窓の一つすら見あたらない。
完全密室とも思えるこの場所から、どう先に進むか。
「カマエル」
「はい」
誰が言うまでもなく、ビアンカは動き出していた。
先ほどは躊躇った力を、明日へ進んでいく力を。
歴戦の戦士達と共に、前へ進むために。