ドラゴンクエスト・バトルロワイアルII Lv4

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1名前が無い@ただの名無しのようだ
ドラゴンクエストのキャラクターのみでバトルロワイアルをしようというリレー小説企画です。
クオリティは特に求めません。話に矛盾、間違いがなければOK。
SSを書くのが初めての方も気軽にご参加ください。

※キャラの予約制あり。(任意、利用しなくてもOK)
予約をする際は捨てトリで構わないのでトリップを付け、使用するキャラを全て明記して下記のスレで予約してください。

DQBR予約スレ
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/30317/1333274887/

予約期間は10日(延長なし)で、予約の書き込みから240時間が経過すると予約解除として扱います。
「予約キャンセル」等、予約に関することは他の書き手さんが検索しやすいように必ず「予約」の文字を入れてください。

参加したいけどそもそも予約って何? という人はWiki内のこちらのページをご参照ください。
予約〜投下の手引き
http://w.livedoor.jp/dqbr2/d/%cd%bd%cc%f3%a1%c1%c5%ea%b2%bc%a4%ce%bc%ea%b0%fa%a4%ad

もし投下作品に不安があるのなら、総合掲示板の「DQBR一時投下スレ」でアドバイスを受けてください。
また、規制などで本スレに書き込めない場合も一時置き場をご利用ください。

DQBR一時投下スレ
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/30317/1335864807/

前スレ
ドラゴンクエスト・バトルロワイアルII Lv3
http://kohada.2ch.net/test/read.cgi/ff/1354629614/

【避難所】 DQBR総合掲示板
http://jbbs.livedoor.jp/game/30317/

まとめWiki
http://w.livedoor.jp/dqbr2/
2名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:44:49.35 ID:24MlmbQf0
----基本ルール----
 全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
 勝者のみ元の世界に帰ることができ、加えて願いを一つ何でも叶えてもらえる。
 ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
 プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。


----放送について----
 スタートは朝の6時から。放送は6時間ごとの1日4回行われる。
 放送は各エリアに設置された拡声器により島中に伝達される。
 放送内容は「禁止エリアの場所と指定される時間」「過去6時間に死んだキャラ名」
 「残りの人数」「主催者の気まぐれなお話」等となっています。


----「首輪」と禁止エリアについて----
 ゲーム開始前からプレイヤーは全員、「首輪」を填められている。
 首輪が爆発すると、そのプレイヤーは死ぬ。(例外はない)
 主催者側はいつでも自由に首輪を爆発させることができる。
 この首輪はプレイヤーの生死を常に判断し、開催者側へプレイヤーの生死と現在位置のデータを送っている。
 24時間死者が出ない場合は全員の首輪が発動し、全員が死ぬ。  
「首輪」を外すことは専門的な知識がないと難しい。
 下手に無理やり取り去ろうとすると首輪が自動的に爆発し死ぬことになる。
 プレイヤーには説明はされないが、実は盗聴機能があり音声は開催者側に筒抜けである。
 なお、どんな魔法や爆発に巻き込まれようと、誘爆は絶対にしない。
 たとえ首輪を外しても会場からは脱出できないし、禁止能力が使えるようにもならない。
 開催者側が一定時間毎に指定する禁止エリア内にいると首輪が自動的に爆発する。
 禁止エリアは2時間ごとに1エリアづつ増えていく。
3名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:45:37.89 ID:24MlmbQf0
--スタート時の持ち物--
 プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
 ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
 また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
 ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を配給され、「ふくろ」にまとめられている。
 「地図」「コンパス」「着火器具、携帯ランタン」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「支給品」
 「ふくろ」→他の荷物を運ぶための小さい麻袋。内部が四次元構造になっており、
       参加者以外ならどんな大きさ、量でも入れることができる。
 「地図」 → 舞台となるフィールドの地図。プレイヤーのスタート位置は記されているが禁止エリアは自分で書き込む必要がある。
 「コンパス」 → 普通のコンパス。東西南北がわかる。
 「着火器具、携帯ランタン」 →灯り。油は切れない。
 「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
 「食料・飲料水」 → 複数個のパン(丸二日分程度)と1リットルのペットボトル×2(真水)
 「写真付き名簿」→全ての参加キャラの写真と名前がのっている。
 「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
 「支給品」 → 何かのアイテム※ が1〜3つ入っている。内容はランダム。

※「支給品」は作者が「作品中のアイテム」と
 「現実の日常品もしくは武器、火器」の中から自由に選んでください。
 銃弾や矢玉の残弾は明記するようにしてください。
 必ずしもふくろに入るサイズである必要はありません。
 また、イベントのバランスを著しく崩してしまうようなトンデモアイテムはやめましょう。
 ハズレアイテムも多く出しすぎると顰蹙を買います。空気を読んで出しましょう。

--制限について--
 身体能力、攻撃能力については基本的にありません。
 治癒魔法については通常の1/10以下の効果になっています。蘇生魔法は発動すらしません。
 キャラが再生能力を持っている場合でもその能力は1/10程度に制限されます。
 しかしステータス異常回復は普通に行えます。
 その他、時空間移動能力なども使用不可となっています。(ルーラなど)
 MPを消費するということは精神的に消耗するということです。
 全体魔法の攻撃範囲は、術者の視野内ということでお願いします。

 ※消費アイテムならば制限されずに元々の効果で使用することが出来ます。(キメラの翼、世界樹のしずく、等)
  ただし消費されない継続アイテムは呪文や特技と同様に威力が制限されます(風の帽子、賢者の石、等)
【本文を書く時は】
 名前欄:タイトル(?/?)
 本文:内容
  本文の最後に・・・
  【名前 死亡】※死亡したキャラが出た場合のみいれる。
  【残り○○人】※死亡したキャラが出た場合のみいれる。

 【座標/場所/時間】

 【キャラクター名】
 [状態]:キャラクターの肉体的、精神的状態を記入。
 [装備]:キャラクターが装備している武器など、すぐに使える(使っている)ものを記入。
 [道具]:キャラクターがふくろなどにしまっている武器・アイテムなどを記入。
 [思考]:キャラクターの目的と、現在具体的に行っていることを記入。(曖昧な思考のみ等は避ける)
 以下、人数分。

※特別な意図、演出がない限りは状態表は必ず本文の最後に纏めてください。
4名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:46:08.64 ID:24MlmbQf0
【作中での時間表記】
 深夜:0〜2
 黎明:2〜4
 早朝:4〜6
 朝:6〜8
 午前:8〜10
 昼:10〜12
 真昼:12〜14
 午後:14〜16
 夕方:16〜18
 夜:18〜20
 夜中:20〜22
 真夜中:22〜24



【D-4/井戸の側/2日目早朝(放送直前)】

【デュラン@DQ6 死亡】
【残り42名】

【ローラ@DQ1】
[状態]:HP3/4
[装備]:エッチな下着 ガーターベルト
[道具]:エッチな本 支給品一式
[思考]:勇者を探す ゲームを脱出する


━━━━━お願い━━━━━
※一旦死亡確認表示のなされた死者の復活はどんな形でも認めません。
※新参加キャラクターの追加は一切認めません。
※書き込みされる方はスレ内を検索し話の前後で混乱がないように配慮してください。
※参加者の死亡があればレス末に必ず【○○死亡】【残り○○人】の表示を行ってください。
※又、武器等の所持アイテム、編成変更、現在位置の表示も極力行ってください。
※具体的な時間表記は書く必要はありません。
※人物死亡等の場合アイテムは、基本的にその場に放置となります。
※本スレはレス数500KBを超えると書き込みできなります故。注意してください。
※その他詳細はスレでの判定で決定されていきます。
※放送を行う際はスレで宣言してから行うよう、お願いします。
※最低限のマナーは守るようお願いします。マナーはスレでの内容により決定されていきます。
※主催者側がゲームに直接手を出すような話は序盤は極力避けるようにしましょう。
5名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 01:07:18.73 ID:h0OXEDhe0
 
6(再掲) ◆CruTUZYrlM :2013/04/11(木) 01:09:04.89 ID:24MlmbQf0
「ちっ、勝手にしろ!!」
ハーゴンから踵を返し、ソフィアの方へと走り去っていくハーゴンを見やり、ピサロは小さくぼやきながらも走り去る。
手負いの魔物は、失うものがない。
故に己を省みない行動へ、平然と躍り出てくる。
容赦なく降り注ぐであろう攻撃の数々をやり過ごせるかどうかは、正直言ってピサロにも自信はない。
ましてや、ミーティアを守りながらなど。

ああ見えて、あの女はアリーナに引けず劣らずの天才的な戦闘センスを持っている。
弱点や能率のいい打撃を本能でたたき込むアリーナとは、方向性こそは違う、が。
一瞬で大局を判断し、ふさわしい行動と号令を飛ばす。
だから、さっきもああ言ったのだろう。
それが彼女にとっての最良の判断だったのだから。

もちろんピサロも、彼女が死ぬとは思っていない。
なんだかんだいいながら、単騎でアレを撃破してしまうのではないだろうか?
最悪でも、うまいことごまかしながら逃げてくる、そんな気がする。
彼女は、死なない。
絶対的といってもいいほどの安堵が、自分の中にはあった。
だから、ここは彼女の言うとおり絶望の町へ逃げる。
ハーゴンは向こうへ向かってしまったが、彼女なら最良の判断ができるだろう。
自分は言われたとおり、ミーティアを安全に絶望の町まで送る。
「は、なして!!」
その時、脇に抱えていたミーティアが体を大きくよじって反抗する。
小さなものであれば無視して走り続けてもよかったのだが、ピサロの予想以上にミーティアの動きは激しい。
いったん窘めるために、ピサロはやむなく足を止める。
そばにある木を背負わせるように体をおろし、ミーティアの顔の両端をふさぐように木を押さえつけていく。
「ソフィアが言っていただろう。逃げろ、と」
「嫌です! ソフィアさんを放っておけません!」
予想通りの答え、そんなことだろうとは薄々思っていたが。
逃れようとする彼女に、ピサロは顔をずいと彼女の方に寄せ、わざと低いトーンで告げる。
「奴は私たち、特に戦えないお前を逃がすために一人残ったんだ。
 そのお前が自分から危機に飛び込んでは、奴の考えが無駄になる。
 ヤンガスから頼まれていることもある、私はお前の保護を最優先するぞ」
「ですがそれでも!!」
冷たい言葉に、ミーティアは声を荒げて反論する。
「危険に晒されている人を放ってどこかにいくなんて、出来ません!!」
その言葉まで読んでいた、と言わんばかりの冷たい目線をミーティアに向け、ピサロはさらに言葉を続けていく。
「……もう、忘れたのか?」
先ほどよりもさらに冷徹な声が、ピサロの口より零れる。
何もかも圧倒する迫力に押し負けないよう、ミーティアは少しだけ拳に力を入れた。
「お前がわがままを言わずにあのまま絶望の町に向かっていれば、ヤンガスは傷つかずに済んだのだぞ?」
はっ、とする。
無理を言ってヤンガスをつれてきたのは、自分だ。
彼に傷を背負わせたのは、自分だ。
それだけは、事実として消えない。
7名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 01:09:34.09 ID:h0OXEDhe0
 
8 ◆CruTUZYrlM :2013/04/11(木) 01:10:06.01 ID:24MlmbQf0
「でも」
だが、それはピサロを助けようと思ってのこと。
どうしても不安だった、という気持ちが隠しきれなかった。
「私なら大丈夫だと言ったはずだ。
 これが最善であり、最良の選択だと」
だが、ピサロはそんなことを知らない。
そこにあるのが善意だろうと何だろうと、最後の結果がダメなら何の意味もない。
「それとも何か? "私を信用する"というのは嘘だったのか?
 お前自身、納得してそう決めたはずだろう?」
「それは……」
「何かしら不満があるなら言えばよかっただろう。
 後で意見を変えたというのならば、それは"わがまま"だ」
覆い被せるように言葉を重ねていく。
説得と言うより、もはや恐喝に近い。
「これはお願いや提案という生易しいものではなく、警告だ。
 もう一度同じことを繰り返せば、次に命を落とすのはお前だからな。
 ソフィアがくれた時間を無駄にするわけにはいかん。絶望の町へ、逃げるぞ」
ようやく静かになったミーティアを見て、ピサロはホッと一息をつく。
再び走り出すため、彼女を抱きかかえようと手を伸ばした時だった。
「だったら……」
静かに、それでも上品な声でミーティアは告げる。
「ピサロさんだって"わがまま"じゃありませんか」
「何だと……?」
続くミーティアの言葉に、思わず喧嘩腰で反論してしまう。
「要は、自分は悪くなくて、全てこのミーティアが悪いと言いたいのでしょう?」
「落ち着け、ミーティア。今は時間がない」
だが、ここで逆上しては時間がなくなってしまう。
怒る気持ちを抑え、冷静にミーティアの言葉に対処しようとする。
「私だってただ守られるだけではないと、あの時言いました。
 ピサロさんだって、その私の言葉を信用してくれていないではないですか。
 三人で動いた方が、安全だとあれほど言ったのに」
「それは、お前を危険に晒さぬために」
「ミーティアは大丈夫だとあの時言いました」
が、一転してミーティアの語調が強くなる。
先ほどとは鏡写しになるように、ピサロの語調がどんどんと弱まっていく。
ミーティアの指摘ももっともであるからこそ、ピサロは言葉に詰まる。
「……嘘つき」
そして、呆れた声でミーティアは言う。
「私を信用しているというのも嘘、エイトが死んでいるというのも嘘、嘘嘘嘘と、ピサロさんは嘘で塗り固められているのですね。
 楽しいですか? ミーティアを翻弄させて、みんなを傷つけて、楽しいですか?」
先ほどのピサロのように冷たく、淡々とミーティアは言葉を続ける。
その目には、初めの頃の優しさなど微塵もこもっていない。
「もう、あなたには惑わされません」
本能に導かれるまま、ミーティアは動く。
先ほどミーティアを操ろうとしていた何かが、彼女を再び傀儡のように動かしていく。
何かを握りしめ、両手をまっすぐ延ばす。
見慣れぬそれにピサロが不信感を抱くと同時に。

ぱんっ、と軽い音がし、ピサロの体がぐらりと傾いた。
9名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 01:10:17.32 ID:5sgNljpN0
 
10名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 01:10:22.15 ID:RXaFJ1DzO
.
11 ◆CruTUZYrlM :2013/04/11(木) 01:10:49.20 ID:24MlmbQf0
ケーキを交換したときに、万が一を考えたソフィアが持たせていたもの。
黒い鉄の塊、この場にいるたいていの人間が知ることのない武器。
"銃"が、その手に握られていた。

どさり、と体が倒れる音がする。
素人同然の彼女でも、この至近距離ならば外すことは無い。
ミーティアが両手で支えていた銃からは、微かに煙が吹き出している。
だが、嘆くことはしない。
自分を惑わす存在を撃った、それだけだ。
時間がない、一緒にエイトを探してくれる"仲間"の保護を優先せねば。
「ま、て」
地に這い蹲りながら、ピサロは起きあがろうとする。
が、打ち込まれた場所がピンポイントだったのか、うまく起きあがることが出来ない。
ミーティアは、冷たい目線でピサロを見つめている。
彼女が走り去る前に名前を、名前を呼んで彼女を引き留めなければ。
「……リ……」
名前を。
「……リー」
彼女の名前を。
「……ザ、リー」
彼女の名前を呼ばなければ――――
「ロザ、リー!!」

あれ。

ちがう。

そうじゃない。

なんで。

かのじょは。

みーてぃあ。

なのに。



「ピサロ様の、嘘つき」



"彼女"がくるりと振り向き、ぴったりと額に銃を当て、引き金を引く前にそう言ったような気がした。


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12名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 01:10:58.75 ID:h0OXEDhe0
 
13名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 01:11:18.18 ID:lmtj15Z20
 
14名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 01:12:46.68 ID:RXaFJ1DzO
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15 ◆CruTUZYrlM :2013/04/11(木) 01:12:55.63 ID:24MlmbQf0
向こうの手には強力な槌と剣、尾には巨大なボウガン。
只でさえ強力な力も合わさって、一撃が致命傷になることはわかる。
鳥頭のトサカ野郎にバイキルトかけたぐらい――――それに匹敵するぐらいはある。
その圧倒的ともいえる戦力の前に立つ自分は、なんと表現すべきか。
舞い上がる砂埃の中、そんなことを考えていた。
正直言って勝てる気はしない、相手の攻撃を全てよけながらこちらの攻撃を全て有効打にするなんて、人間が人間である限り不可能だ。
それでも、まるでこの状況を楽しむかのように、ソフィアは不敵に笑う。
笑っていられるのは簡単な話で。
「ハッ、理由もなしに只動くだけの機械野郎にぶっ殺されるほど、こちとら甘かねーよっ!」
負ける気がしないからだ。

とはいえ、勝機があるわけでもない。
ギリギリのギリのギリのギリを攻めて、守る。
一歩間違えば即アウト、エビルプリーストと仲良く肩を組んで歩く羽目になる。
だから至って冷静に局面を見つめ、ふさわしい動きを選択していく。
頭の中でいくつもの"手段"を思い浮かべ、"結果"をはじき出す。
本能による戦闘ではなく、洗練された思考で動く。
対峙する魔物もソフィアの命を刈り取らんと、持てる全てを放っていく。
初めの一度以降、既に二度ほど獲物を逃している故の思考の変化だった。
もちろん、ソフィアはそんなことを知る由もないが。
瞬速で飛び交う無数の矢を、斬魔刀でなぎ払っていく。
あれだけ巨大なボウガンをこの間隔で打ち込める、ということからもあの魔物が只の魔物でないことはわかる。
だが、ここで遠距離戦の手札を消費させておけば、いざという時逃げ出すのが容易になる。
弓は素晴らしいかもしれないが、幸いにも矢は大したことはない。
斬魔刀の広い刀身もあって、次々に弓矢をへし折っていく。
難なく全ての鉄の矢を弾き飛ばしたところで、ソフィアは次の一手を撃とうと動く、が。
「――――ッ!!」
頬を掠めていく一本の矢。
すんでのところでかわせたからよかったが、もう一歩踏み込んでいれば直撃だった。
魔物は好き好んで只の鉄の矢を使っていたわけではない。
本命の矢をしっかりと当てるために、鉄の矢をバラ撒いていたのだ。
そして、放たれた本命の矢は。
ソフィアの心に、はっきりと"恐怖"を植え付けていた。
すれ違うたった一瞬に、まるで大魔神のような威圧を植え付けられた。
たった一つわかるのは、あの矢に当たれば"相当まずい"ということ。
「遠距離でチンタラしてる訳にも、いかねーなっ!」
カモフラージュの木の矢を飛ばす魔物に、ソフィアは一気に距離を詰めていく。
遠距離でグダグダしていれば、次こそはあの矢の餌食になってしまう。
自分にあるのは、そこまで得意というわけではない呪文だけ。
片や命なんて簡単に奪い去ってしまいそうな魔神の矢。
まさか近距離より遠距離の方が分が悪いとは。
計算を誤った自分に悪態をつきながら、ソフィアは魔物へと向かう。
16名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 01:13:22.17 ID:h0OXEDhe0
 
17 ◆CruTUZYrlM :2013/04/11(木) 01:13:43.97 ID:24MlmbQf0
「おおっ、るぁっ!!」
巨大なリーチを誇る斬魔刀の先端で薙ぐように、ソフィアはギリギリの距離を保つ。
これ以上踏み込めば剣や槌の餌食、と分かっているから。
それ以上先には、踏み込めない。
だが、魔物は違う。
魔物にしてみれば近づけば近づくほど有利であるし、遠ざかれば遠ざかるほど有利である。
ソフィアの攻撃の合間合間を縫い、そそくさと近寄っていく。
先端を掠めるように当てては後ろに飛び退き、当てては飛びのき。
時に振るわれる槌と、刃から飛び出す雷をもいなしながらの攻撃。
戦いのペースは疑うまでもなく、キラーマジンガが握っている。
「クソったれ……!」
只事では済まないだろうとは思っていたが、さすがに予想の範疇を超えていた。
このままでは自分の体力が追いつかず、ジリ貧になってしまう。
何かないのか、何かないのかと、戦いながらも思考を平行させる。
「……ん?」
その時、魔神の異変に気づく。
なんてことはないただの布切れ、正直ボロボロすぎて防具になるかどうかも怪しいくらいだ。
そう、そんな布切れに何故、圧倒される気配を覚えているのか。
いや、この圧倒される気配は、知っている。
そう、数刻前に味わったアレと。
「――――っつあっ!!」
酷似していた、だからとっさに刀を前に構えた。
刀が矢を受け止め、矢とともに激しい共鳴を繰り返し。
斬魔刀は矢を飲み込むように、ボロボロと崩れさっていった。
「マジかよ……」
思わず、言葉を失う。
武器という物が壊れるという場面に立ち会うことは多くはない。
ましてや、このような業物に関しては、世界中を探しても一人か二人ぐらいだろう。
そんな業物の刀が崩れさっていくのを見たソフィアは、正直言って驚きを隠しきれずにいる。
だが、驚いている暇はない、驚かせてくれる時間をくれるわけもない。
これを好機と見た魔神が、一気に距離を詰めてくる。
たった一瞬で距離を詰め終えた魔神が、両に持つ武器を振るう。
片や星すら砕くと言われた幻の槌。
片や雷神を宿し得る素質を持った刃。
ふくろから武器を出そうとしても、間に合わない。
アストロンも、間に合いはしない。
迫りくる武器を、ただ黙ってじっと見つめるしかない。

「唸れ、邪なる力よ」

そう、思っていた。
18名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 01:13:47.98 ID:lmtj15Z20
 
19 ◆CruTUZYrlM :2013/04/11(木) 01:14:26.59 ID:24MlmbQf0
まるで風を纏うように颯爽と現れた男が、闇を纏った拳で魔神を殴り抜いていた。
魔神の力はソフィアに向いていた、故に横から襲いかかる力に対応など出来るわけもなく。
武器を振りあげたままの姿で、転がりながら吹き飛ばされていった。
「ふむ、キラーマシンと似ていると思えば……。
 堅さも力も段違い、ということか」
呆気にとられるソフィアをよそに、魔神を殴り抜いた男、ハーゴンは震える拳を見つめる。
「ハー、ちゃ」
ようやく事態を認識し始めたソフィアが、ゆっくりと口を開いていく。
「アタシは、逃げろって、言ったのに」
「助けてやったというのにその態度か」
たどたどしく言葉を紡ぐソフィアに、ハーゴンは鼻を鳴らしながら即座に言い返す。
珍しく黙り込んでしまったのを好機と見たのか、淡々と言葉を重ねる。
「そもそも私は、あの程度の傷でどうにかなるほどヤワではない。
 そんな程度の神官ではシドー様に呆れられてしまうからな」
自分を頼れ、と言いたいのか。
どこか照れくささを含んでいるようなぎこちない言葉が、ハーゴンからソフィアへとかけられる。
信用していなかったわけではないが、彼の実力を少し甘く見ていたようだ。
しっかり人を見て判断せねばと自戒しながら、ソフィアは柔らかく笑う。
「……ありがとな」
ハーゴンは振り向かない、振り向くことをしない。
恥ずかしいからか、初めての感覚にどう接すればいいのか分からないからか。
「集中しろ、来るぞ!」
少し冷たい言い回しをする事にした。
「応ッ!」
帰ってくるのは、心強い返事。
ああ、これも初めてのことだ。
ひとつ、心の中で考え事をしながら。
ハーゴンはソフィアとともに魔神へ向かっていった。
20名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 01:15:15.06 ID:RXaFJ1DzO
.
21名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 01:15:56.96 ID:h0OXEDhe0
 
22天までアクセル踏み込んで ◆CruTUZYrlM :2013/04/11(木) 01:16:03.04 ID:24MlmbQf0
 


ここには太陽の輝きも、時に表情を変える空も無く、あるのはただただ禍々しく濁った妙に明るい空だけ。
微塵も変わる様子を見せない空だけを見ていると、まだ数分しか経っていないようにも思える。
実際にはそんなことはなく、支給された時計を頼りにするならば、もう半日にさしかかる辺りだ。
その間に、明らかに半日の量ではない様々な経験を重ねてきた。
きっとそれは誰だって同じなのだろう。
過ごしたこと、出くわしたこと、起こったこと。
そしてこれからに対して、受け入れていかなくてはいけない。
自分やゲロゲロはともかく、タバサは大丈夫だろうか?
こんな小さな体にそれだけの情報を詰め込んでも、大丈夫だろうか?
きっと今も耐えきれないほど辛いのだろう、彼女にとってこの半日は他の誰よりも濃く、そして厳しかったのだから。
自分が声を失った彼女にしてやれることは、何だろうか?
そのとき、コツンと何かがぶつかる音がする。
隣を見れば、うつらうつらしながら頭を揺らすタバサの姿があった。
子供の身には、半日という時間は長い。
ましてやあんなことがあったのだから、その疲労は自分たちの比ではない。
「無理しなくても、大丈夫ですよ」
眠気を見せるタバサに、ローラは優しく声をかけていく。
それと同時に、タバサはハッとして顔を振るい、頬を軽く叩いていく。
寝ていられる状況ではない、それを理解した上で無理をしているのだろうか。
続いて声をかけようとしたときに、タバサがペンをさらさらと走らせていく。
<ねたくない>
眠りたいけど眠れないのではなく、眠かろうがなんだろうか眠りたくない。
タバサはその意志を突きつけてから、そのままペンを走らせる。
<こわい から>
意味ありげに空白を挟み、一息ついてからその空白を埋めていく。
<こわいゆめをみるから>
夢、夢、夢。
この殺し合いが始まってから、初めの方に見た夢。
家族みんなが、ゲロゲロに殺される夢。
兄が死んだ今、あれが現実ではないことは分かっているのに。
23名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 01:16:03.34 ID:xHnoBHGd0
 
24名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 01:16:58.54 ID:RXaFJ1DzO
.
25天までアクセル踏み込んで ◆CruTUZYrlM :2013/04/11(木) 01:17:05.94 ID:24MlmbQf0
 
    ――――すきじゃなかったの

今眠りにつけば、あれよりももっと恐ろしい夢を見そうで。
それはいつしか現実とすり替わりそうで。
心が壊れてしまいそうだから、眠らない。
夢を見るわけにはいかないから、起きているしかない。
もう一度母に会うまで、母に会うまでは眠りにつくわけにはいかないのだ。
そこまで強く意志を決めたときに、暖かく柔らかな感覚に包み込まれる。
「大丈夫ですよ」
ローラがぎゅっと抱きしめてくれる。
それはまるで母親のように、暖かく、大きく、広く。
いつか自分に子供が出来ればこんな風に抱きしめてやりたい、なんて思っていたこと。
タバサの言葉の意味の全てを理解することは出来ない。
それでも、理解できなくてもしてやれることはある。
大きな柱を失って、グラついている彼女の心の支えになってやれるくらいのことは、できる。
逆に言えば、せめてそれくらいはさせてほしい。
戦う力を持たない自分が守れる、数少ないものだと思っているから。
あの人の代わりにはなれない、それはわかっているけれど。
この体全てを使って、できることぐらいは、しなくては。
そう、だから今は。
抱きしめさせて、欲しい。

「ぁ……」
その時、掠れた様な声が耳元で聞こえる。
ローラの肩の上に顔を置くように、そこから見つめていた風景に。
長い長い髪、すらっとした気品のある姿が写ったような気がして。
「おかぁ、さん」
出ないはずの声が漏れ、ゆっくりと手が挙がり、指を指す。

「ゲロゲロさん!」
「わかっている!!」
ローラが声を飛ばすのと同時に、ゲロゲロは人力車を引く力を増して行く。
目指すはタバサが指差した方角。
まっすぐ、まっすぐ。
26天までアクセル踏み込んで ◆CruTUZYrlM :2013/04/11(木) 01:17:37.18 ID:24MlmbQf0
一人から二人に変わるのは、すごく大きな話だ。
一人で出来ることより、二人で出来ることの方が多い。
当たり前の話だが、今はそれがこの上なくありがたい。
互いが互いの隙をカバーし、休むことのない攻めを続けていく。
向こうが一人に集中すれば、空いた一人がその隙を突く。
同時に何人も処理できないということが分かった以上、この単純かつ王道の戦法がとても有効だ。
さらに、初めて共に戦うというのが嘘だと思えるほどに二人の息はピッタリと合っていた。
片や世間に逆らい、人間を滅ぼそうと先陣を切った邪神官。
片や運命に逆らい、ただただ理由を求め続けた天空の勇者。
己の道を信じ、突っ走ってきた二人だからこそ、不思議と息が合っていたのかもしれない。
一人が攻める、魔神が動く、その隙をもう一人が攻める。
先ほどの攻めとは打って変わり、今度は自分たちのペースに魔神を陥れている。
だからといって、慢心しているわけではない。
近づきすぎれば槌と剣、遠退きすぎれば重圧の矢が襲ってくる。
ただ、それを許さないように絶妙なラインを守って攻め続けているだけ。
先ほどとは違う意味で「ギリギリのギリのギリのギリ」を攻め続けている。
故に、決定打を叩き込めない。
踏み込みすぎれば、この均衡が崩れるから。
持久戦になればあちらに分がある、何かこの状況を変えなければいけない。
何か、何か無いだろうか。
その時、ふと頭にあるものが過ぎる。
初めの支給品確認で感じ取った違和感から、これを使うのはやめておこうと思っていた物。
それが今、この瞬間を打破するのにピッタリの代物。
思いついたと同時にハーゴンは"袋の中"でそれを取り出し、地面を滑らせるように魔神へ投げつけていく。
投げつけたのは、あろうことか一本の剣。
しかも殺傷を目的としていないどころか、魔神の目の前にわざと突き刺しているかのように投げつけている。
一体何を考えているのか? 正直ソフィアにはそれが読めなかった。
「時間が出来る、逃げるぞ」
そして、続く言葉の意味も理解できなかった。
魔神が意気揚々とその剣に手を伸ばそうとするまでは。
突如として剣が姿を変え、宝箱の姿へと変わる。
ソフィア自身も何度も目にし、何度も煮え湯を飲まされた存在。
ミミックが、魔神へと襲い掛かっていた。
疑問点は多々あれど、このチャンスを逃すわけにはいかない。
そしてハーゴンに何やら策がある事を察し、魔神がミミックに手を焼いている間に一度退くことを決意した。
27名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 01:17:51.27 ID:xHnoBHGd0
 
28天までアクセル踏み込んで ◆CruTUZYrlM :2013/04/11(木) 01:18:07.74 ID:24MlmbQf0
 
「おい、ソフィア」
「あンだよ」
魔神から距離を置き、少し離れた場所でハーゴンはソフィアに問う。
「貴様、天雷の使い手だったな?」
「ああ、そうだけど」
古くから伝わる天来の呪。
先祖であるロトはそれを扱いこなしていたという。
先程、カーラを斬ったときにソフィアが剣に纏わせたのも、そうだ。
本物を見るのは初めてだったが、雷の呪をハーゴンは他に知らない。
実際に問いかけてみれば、それが正解だったわけだが。
土台がそろったことを認識し、ハーゴンは本題へと入っていく。
「試したいことがある、私の合図で"私に向かって"撃て」
「はぁ!?」
突拍子もない提案に、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
雷に焼かれたい自殺願望でも生まれてきたのだろうか?
「自殺願望者でないことぐらい、おまえも知っているだろう。
 策あってのことだ、上手くいけば奴を一撃で無力か出来る」
まるでソフィアの心を見透かしているかのように、ハーゴンはソフィアに返答していく。
にわかには信じ難い話だが、あのハーゴンがここまで自信を持って言っているのだから、よっぽどの策と"理由"なのだろう。
ソフィアは今度こそ、"彼"を信じる。
「……いいけど、ちょっと時間かかるぜ」
「どれくらいだ」
「まあ、集中すりゃちょっとだな」
「十分だ、詠唱に集中し、完成したら私に撃て」
必要最低限のことだけ告げると、ハーゴンは一目散に飛び出していった。
既にミミックは魔神の手によって完膚無きまでに砕かれ、再び自分たちを標的にしようとしていたからだ。
「ちょっ、ハーちゃん!!」
「任せろ、お前があの長時間稼いだのだ、私が短時間稼げぬ道理はない」
ハーゴンの心の中は未だに読めない。
だが、時間もない。
これほどまでに危険な賭けに出るに値する"理由"があるのだとすれば。
それが魔神を無力化させることができるというのならば。
乗らない道理はない。
29名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 01:18:13.55 ID:xHnoBHGd0
 
30名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 01:18:34.71 ID:xHnoBHGd0
 
31名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 01:18:45.23 ID:RXaFJ1DzO
.
32天までアクセル踏み込んで ◆CruTUZYrlM :2013/04/11(木) 01:18:49.61 ID:24MlmbQf0
 
「我は天導の勇者――――」
いつも通りの詠唱を、いつもより集中して始める。
飛びかかったハーゴンを認識した魔神が、標的を定めていく。
ハーゴンもそれを認識し、構えを変えていく。

「森羅万象怒りの叫びよ、今こそ我が元へ」
片や星すらも砕く破壊の槌。
片や幻と呼ばれた鉱物の棍。
砕く力が上乗せされた武器同士が、互いにぶつかり合う。

「闇を斬り裂き、光を齎すは我が右手」
はちきれんばかりの力に、互いの武器が跳ね返る。
その跳ね返りを生かして魔神は剣を振るい。
ハーゴンは地を蹴りあげる。

「光なき道を進む道標となれ」
最後の言葉を紡ぎ、出来上がった魔力を右手に込め。
その形をまるで槍のように変えていき、前を見る。
目指すは、たった一つ。

「――――ブチ抜け」

目を見開く。

「ギッガデイイイイイイイン!!」

一点を貫く槍を、ソフィアが大きく振りかぶる。

光が、一直線に進んだ。

「待っていたぞ、ソフィアアアアアア!!!!」

一直線に伸びる雷に応じるように、ハーゴンが片手を掲げる。
その手には、自身の体をまるまる飲み込んでしまいそうなほどの大きな闇の玉。
ソフィアの投げた雷が、吸い込まれるように闇の玉へと飲み込まれていく。



「おおおおおおおおっ!!」



視界が、白く塗りつぶされていく。
そのまぶしさに、ソフィアは思わず目を背けてしまう。
やがて、突き刺さるような光が弱まっていくのを確認し、背けていた目を元に戻す。
一時的に失っていた目という機能が、じわりじわりと形を取り戻していく。
33天までアクセル踏み込んで ◆CruTUZYrlM :2013/04/11(木) 01:19:42.23 ID:24MlmbQf0
 
「メドローアという呪文を、知っているか」
真っ先に聞こえたのは、ハーゴンの声。
「強力なメラとヒャドを合成することで完成する、伝説の極大消滅呪文」
何かを語りかけているハーゴンの声とともに、ソフィアの視界がじわじわと戻る。
「まぁ、端的に言えば」
ようやく全て戻ったとき彼女は二つ、認識する。
手を掲げて笑うハーゴン、地に倒れ伏している魔神と。
いや、正確に言えば三つだろうか。
「これはその上を行く破壊呪文だな!!」
ハーゴンの手の上で"空間"が"淀んで""歪んで""抉れて"いるのだから。
何が起こったのかは分からないが、ハーゴンが何をしたのかは大体分かる。
なぜなら、自分はアレに荷担している人間なのだから。
「くっ、流石にそう長くは操っていられんか。だが……」
掲げている腕を少しだけ引くが、直ぐに元に戻す。
溢れ出さんばかりの力を操っているのだから、魔力やその類の消耗は免れないだろう。
それでも、ハーゴンは笑い。
「そのまま放てば貴様のマホカンタの餌食になるのは分かっている。
 ならば、私はこれをこのまま手にし――――」
隙をさらけ出すように、魔神へ飛びかかっていった。
魔神はそれを認識しているのか、いないのか。
魔神もハーゴンに向かって真っ直ぐに飛びかかる。
「殴るッ!!」
魔神が振りかざすのは、星を砕く槌。
ハーゴンが振りかざすのは、握り拳。
両者が、激突する。



ふわりと右腕は空を切り、体は遠くの樹に叩きつけられる。
何が起こったのかというと、少し難しいが。
魔神が振りおろしたはずの星を砕く槌と、ほぼ右半身がごっそりと無くなっていたことだけは確かだ。
損傷を確認しながらも、魔神は動こうとする。
人間を、人間を狩らなくてはいけない。
幸い失ったのは右半身と槌だけ、尾の弩弓はまだ形を保っている。
近寄ってくる男と女、どちらに狙いを定めるべきか。
距離が近いのは男だが、隙があるのは女か。
魔神は計算する、残された時間と力をフルに使って。
たった一本の魔神の矢を当てるために。
そして、答えが弾き出されたとき。

「ソフィアさん!!」

割り込むように、もう一人の女の声が響いた。



引き金が、引かれる。


.
34名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 01:20:14.54 ID:RXaFJ1DzO
.
35天までアクセル踏み込んで ◆CruTUZYrlM :2013/04/11(木) 01:20:25.38 ID:24MlmbQf0
一人の女の叫びが響く。
勝ち誇っていた男の顔が焦りに満ちる。
一台の人力車が止まる。

何が起こったのか理解出来ないただ一人の女を。
飲み込むように放たれる一本の矢。

風を切る音と共に、肉が抉れる音が聞こえる。
自分の状況を理解していないのか、ごく普通に胸に手を当てる。
染まるは、赤。

理解すると同時に、体が曲がり、口から血の塊を吐き出す。
宙を舞いながら、ゆっくりと重力に従い落ちていく長い髪。
どさりという、何かが倒れ込む音。

誰も彼もが、それを見ていることしかできなかった。
何がどうなって、何が起こったのか、即座に理解できるものなどいるわけもなく。

ただ、彼女が倒れていく姿に。
"違う姿"を重ねた者が一人いて。

「■■■■■■■■■■■■■■ーーーー!!!」

音を出すことが出来なかった喉から。
声無き声、いや音を絞り出し。
単身、人力車を飛び出していく。

「■■■■■■■■■■■■■■ーーーー!!!」

息継ぎすらも忘れ、音で詠唱をしていく。
後ろから呼び止める声も、何も、もう聞こえない。
ただ目の前にいる魔物のことしか、見えない。

「■■■■■■■■■■■■■■ーーーー!!!」

彼女は怨念と怒りと悪を操るリュカの娘。
もし、彼女にも同じ力が備わっているとすれば。
もし、彼女が"操る"ことを捨て、悪をむき出しにしたならば。

どうなるかは、予想するまでもない。

ましてや、今の彼女は"母親"を奪われたと思っているのだから。

「■■■■■■■■■■■■■■ーーーー!!!」

掠れ始めた音と共に、タバサは真っ直ぐに手を突き出す。

小さな子供に圧し掛かっていたストレスや重圧が。

放たれた呪文と共に、爆発する。

再び、世界が白に包まれる。
36名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 01:20:30.06 ID:xHnoBHGd0
 
37天までアクセル踏み込んで ◆CruTUZYrlM :2013/04/11(木) 01:21:33.55 ID:24MlmbQf0
 


そう。
攻撃呪文。
イオナズンだ。
もう、分かるだろう。
タバサが知らない、知るわけもないたった一つの要素。
魔神の呪文障壁。
怒りで増幅された呪文。
けたたましく鳴り響く山彦。
向かうはたった一点。
言うまでもなく、それらは全て呪文障壁に弾かれ。
魔神どころか、そこら一体を綺麗に飲み込んでいった。



煙がゆっくり、ゆっくりと晴れていく。

右半身を失ってなお、魔神は動く。
命を狩るため、命を狩るため。
左手に残された刃を振るう。
ざくり。
切り裂いたのは、肉。
振りかざした刃は、魔王の右腕に深々と刺さっている。
緑色の皮膚から、紫色の血が流れる。
「――おおおおっ!!」
だが、彼は怯まない。
そのまま、魔神の腕を捻るように刃を奪い。
残された鋼鉄の左半身に広がる綻びを、更に広げるように引き裂いていく。
そして、払いからの一突き。
赤く光る目の部分を潰され、ついに魔神は動かなくなった。

魔神が動かなくなったことを確認することもせず、尾の弩弓だけをもぎ取り、魔王はその場を走り去っていく。
あの時、タバサが唱えた二回分のイオナズンは、マホカンタを介して自分達へと牙を向いてきた。
引いていた人力車を用いローラを庇うことは出来たものの、タバサは自分よりも遥かに前に居た。
考えなくても結末など分かっている、それでも、それでも微塵の可能性に賭けたい。
煙が引いていく中、魔王は走る。
「――タバサ」
魔神から、少し離れた場所。
魔王……否、ゲロゲロは探し人を見つけた。
いや、人というよりは"それ"だろうか。
皮膚は焼け爛れ、一部は炭化し。
蒼く透き通るような髪は、殆ど残っておらず。
帽子はおろか、小さな身体を包んでいた服ですら布切れ同然だ。

そして、それを抱きかかえているのは。
傷を負い、頬から血を流し、泥に汚れ。
それでも、まるでわが子を撫でるかのように"それ"を撫で続けている。

ローラの、姿だった。

道具も呪文も、何の役にも立ちはしない。

状況を理解すると同時に、刃が手からするりと落ち。

地面に、刺さった。
38天までアクセル踏み込んで ◆CruTUZYrlM :2013/04/11(木) 01:22:05.60 ID:24MlmbQf0
 


何度目かの視界の白化。
こう、短時間に何度も経験するのは初めてだが。
とにかく、また"視界を取り戻す"という感覚を味わうハメになった。
今回はデカい傷を負うというオマケつきで。
生きていられることに感謝すべきか、とは一瞬考えたものの。

取り戻した景色の所為で、そんなものは吹き飛んでいた。
「……おい」
傷が残る体を引きずり、痛みを堪えながら近寄る。
「おい」
分かってはいる、分かってはいるのだが。
「おい!!」
ボロ雑巾のようになった、ハーゴンの姿がそこにあった。
「待ってろ、今」
回復呪文を唱えようとした腕を、ハーゴンが掴む。
それがどういうことなのか、何を語るのか。
ソフィアもそこまで馬鹿ではない……いや、寧ろ彼女が一番"分かりすぎる"だろうか。
「私は……」
何かを喋ろうとするソフィアに人差し指を当て、震える口を動かす。
二発のイオナズンに加え、自身が制御していた"破壊呪文"が制御を失い暴走。
オリハルコンで出来た棍以外は、その破壊力に耐え切れず藻屑となっていた。
弾け飛ぶ力に裂かれ、イオナズンに焼き尽くされた体に、力が残っているわけも無い。
寧ろ身体が残っていることが奇跡と言うべきか、流石の邪神官と言うべきか。
「仲間、を……信頼、ということを、知らずに、生きていた」
自分は何を言っているのだろうか、今一分からない。
それでも、浮かんでくる言霊たちを止めることが出来ない。
「人類を、滅ぼすこと……それだけが、我が望み。
 私に、賛同し……従う者は……山のように、居た」
人類の根絶。
自分を筆頭にそれを望む者たちは多い。
故に破壊神を信じ、それに狂信する魔物は後を絶たなかった。
中には、人間も混じっているほどだ。
「だが……信頼というのは、無かった。
 我等は、人類を……滅ぼすことが、目的。
 それを成し遂げる、上での……仮初の姿……」
目的はただ一つ。
ならば、その目的さえ果たせれば他はどうでも良い。
それ以外はただの柵でしかないから。
「誰が、欠けようと問題は、ない。
 悲しむ、ことも……怒るこ、ともない。
 ただただ、人類を、滅ぼすこと、に向かう、それだけ、だ」
仲間意識、友情、連携、そんなものは何一つ無い。
死んだら終わり、何も残らない。
いや、残るとすれば人類根絶への道標か。
それだけを信じ、それだけのために生きるものとしては。
それが残ることだけでも、ありがたかったのだが。
「だから、生まれて、初めてだった……誰かに"信頼"されるのは」
だから、生まれながらにして彼は"誰も信じなかった"。
ただ信じていたのは破壊神の存在のみ。
だから彼の事を"誰も信じていなかった"。
魔物ですら、信じていたのは彼ではなく"破壊神"だったのだから。
「ソフィア、よ」
顔を見る。
泣いているのか怒っているのか、なんとも判らない顔をしている。
まあなんとも、それは彼女らしい顔で。
39名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 01:22:12.61 ID:xHnoBHGd0
 
40名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 01:22:23.62 ID:RXaFJ1DzO
.
41名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 01:22:29.67 ID:h0OXEDhe0
 
42天までアクセル踏み込んで ◆CruTUZYrlM :2013/04/11(木) 01:23:11.14 ID:24MlmbQf0
 
「ありがとう」

そのまま、あふれ出す言霊をぶつけていった。

「……まあ、この私の、優秀な、部下だ。
 私が居な、くとも……シドー様、の、復活は、約束され、ているだろう」

そう、自分が居なくとも。
"破壊神"を信ずるあの者たちならば、案ずることは無い。
所詮自分は"神"の偶像でしかないのだから。
"誰も信用していない"者が一人消えても、大局には変わりは無い。

ああ、気づいてみると空しいもので。

少し、笑えて来る。

「……時間か」

出来上がった笑顔のまま、その一言を呟いた。


.
43名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 01:23:21.64 ID:xHnoBHGd0
 
44天までアクセル踏み込んで ◆CruTUZYrlM :2013/04/11(木) 01:23:45.21 ID:24MlmbQf0
「……………………」

ハーゴンの亡骸を抱え、ソフィアは辺りを見渡す。
遠くには何かを悲しむ魔物と女性。
その少し離れた場所に、魔神の残骸。
自分の傍には無抵抗のまま受けたイオナズンでバラバラに千切れたミーティアの一部。

「どいつもこいつも…………」

取り残されたのは、自分一人だけ。

周りだけが加速していくように、取り残されていく。

「…………勝手に急いで、勝手に終わンな」

周りの景色が、いつかの光景と重なっていく。

それでも、コレだけのことが重なっても。

一滴の涙すら、この両目からは零れない。

「はっ」

短く、笑う。

ガラリと何かが崩れるような、彼女だけの音がする。

でもそれは、聞こえない。

「機械になっちまった方が、楽かもしれねーな」

魔神の残骸を見つめ、自虐のように一人ごちる。

彼女は気づかない。



笑ったつもりの自分の顔が、全く笑っていなかったことなど。



【ピサロ@DQ4 死亡】
【ミーティア@DQ8 死亡】
【タバサ@DQ5王女 死亡】
【キラーマジンガ@DQ6 死亡】
【ハーゴン@DQ2 死亡】
【残り27人】
45名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 01:23:51.25 ID:xHnoBHGd0
 
46名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 01:24:02.26 ID:h0OXEDhe0
 
47天までアクセル踏み込んで ◆CruTUZYrlM :2013/04/11(木) 01:24:51.81 ID:24MlmbQf0
 
【F-4/北部森林/夕方】
【ソフィア(女勇者)@DQ4】
[状態]:HP2/5 表情遺失(人形病)
[装備]:奇跡の剣@DQ7、メイド服@DQ9、ニーソックス@DQ9
[道具]:ソードブレイカー@DQ9、小さなメダル@歴代、オリハルこん@DQ9
     不明支給品(ソフィア(0〜1)、キーファ(0〜2)、カーラ:0〜1(武器ではない))、基本支給品*2
[思考]:
[備考]:六章クリア、真ED後。

【ゲロゲロ(ムドー)@DQ6】
[状態]:記憶喪失 HP1/7
[装備]:スライムの服@DQ9、スライムヘッド@DQ9、雷の刃@DQS
[道具]:支給品一式、超万能薬@DQ8、トルナードの盾@DQ7、賢者の秘伝書@DQ9、ビッグボウガン(矢なし)@DQ5、復活の玉@DQ5PS2
[思考]:ローラと共に行く、エルギオスの言葉を忘れない。
[備考]:主催者がムドーをどう扱うかは未知数です。主催からアイテムに優遇措置を受けています。

【ローラ@DQ1】
[状態]:HP3/5
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:アレフを探す、アレフへのかすかな不信感、ゲロゲロと共に行く

※一部支給品詳細
  ソフィア不明支給品:KBP GSh-18(16+0/18)@現実→F-4のどこか
  マジンガ不明支給品:ただのぬのきれ→消失
  ギュメイ不明支給品:木の矢→損壊、魔神の矢(3本)@トルネコ→損壊
  消失及び損壊:おなべのふた、エッチな下着、ピサロの外套、星砕き@DQ9、ミミック@トルネコ(ハーゴン不明支給品)
           山彦の帽子@DQ5、人力車@現実、斬魔刀@DQ8、ハーゴンの支給品袋(基本、不明(0〜1)含)
  その他放置(F-4南部平原):破壊の剣@DQ2、杖(不明)、マントなし、ピサロの支給品一式(ステテコパンツ、不明0〜1、基本支給品)



以上で投下終了です。
銃については前話にて描写はされていませんでしたが、ソフィアが事前に渡しておいたということにさせていただきました。
その他指摘などございましたら、お気軽にどうぞ。
48名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 01:26:00.67 ID:RXaFJ1DzO
.
49 ◆CruTUZYrlM :2013/04/11(木) 13:00:16.07 ID:iW7k0N6F0
改めまして、前スレ投下乙です。

容赦なく切り捨てて行ったなあ。
男魔法使いの考えに、さすがのホンダラも読めずにたじたじ……?
アリーナとミネアとサイモンのやりとりが、ほんとにいい。
うらやましいぜ!

とはいえ牢獄の町にはビアンカたちが……
ジャミリアもいるしまだまだ波乱が……

あ、ドルなんとかさんはお疲れさまです
50名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 17:16:55.88 ID:wJHoOgrN0
お二人とも投下乙です

>宴への招待状
あまりに最速で切り捨てられるドルマゲスはあまりに哀れだけど、相手が魔物とはいえ手が早すぎたな
男魔の失望ももっともすぎる理由だわ
しかし、劇中でアリーナも言ってるけれど、ドルマゲスは巡り会わせが悪かったとしか・・・
運命を呪い世界を憎むという境遇そのものは、このロワで悩んでる勇者やその仲間に多少近かっただっただけに
ちょっと違う出会いやタイミングがあれば、ドルマゲスにも何か変化が広がっていたのかもしれないねえ
そしてサイモン、完全にハーレムじゃないかそこを代わるんだ

>天までアクセル踏み込んで
一気に状況が動いたなあ
ピサロを圧倒するミーティア怖っ、とか、ハーゴンなんだよその合体奥義はwwwwとかいろいろあったけど
やっぱり山彦大反射のインパクトが強烈、そりゃあ大惨事が起こるわ
ハーゴンが、2勢のキーワードもなった「ありがとう」を使いながら笑ってあまりに綺麗に逝くのに対して
それを見送ったソフィアが笑えなくなってしまう、というのが切ないというか、なんとも皮肉
特に「いつかの光景と重なる」がもう辛い(そのシンシアも次で呼ばれちゃうんだよなあ)
51名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 20:30:56.91 ID:RXaFJ1DzO
>天までアクセル踏み込んで
少しずつ積み上がっていた死の気配が、ここに来て一気に爆発したこの感じ
タバサやミーティアはともかく、ミーティアに恋人を重ねていたピサロとか
いつしかソフィアとの絆を選ぶようになっていたハーゴンとか
爆発は一瞬のことだったけれども、それぞれがそれぞれに死を引き起こしたように見えて
ソフィアからすれば確かに、勝手に急いで勝手に終わってしまったんだろうなあ
置き去りにされることを受け入れられず、自らも終わりを選ぶ者が多い中、
一人何もかも背負っていかざるをえない、ソフィアの姿が痛ましい

改めて投下乙でした
52名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 22:54:09.05 ID:3zKx4wIr0
とりあえずこれだけ言わせてくれ。この2nd、病んでる(病む)奴多すぎだろw
1stが割と熱血路線だった反動か何かかこれはw
このまま進めば優勝エンドまっしぐらな気がしてならんぜ。別にそれはそれで構わんけどさw
53名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/12(金) 00:05:34.60 ID:ZC1CXuW50
レックスの後を追うことになってしまったタバサ
心を通わせた同行者ラドンが死の一歩手前なリュカ
同行者が影の騎士なフローラ
いろんな奴が集まってもうすぐえらいことになりそうな場所にいるビアンカ

5勢に希望が見えない
54名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/12(金) 00:18:26.39 ID://iBuq0A0
ソフィア…かわいそう…
ミネアリーナはどんどん友情を深めているというのに、ソフィアはどんどん孤独になっていく…この対比がつらい
55名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/12(金) 02:07:18.95 ID:4ky4iTXU0
全体的にもやもやーっと絶望的空気が漂っているけど、でもそれだけじゃなくて、
いろいろな出会いを通してすこしづつ前に進んで行ってるような感じもあって、
希望の芽もちょっとずつ出てきているような気がする
ここの書き手さんたちの手腕ならなんだかんだで綺麗に終わりそうだなーって思う
56名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/12(金) 19:46:13.44 ID:v/u9W0v9O
ミーちゃんの爆弾っぷりが凄い。
仲間殺して、自分やられて、それが大惨事引き起こして。
57名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/13(土) 00:45:51.09 ID:LQ5xSeJv0
大作投下乙です。

>宴への招待状
あぁ、ドルマゲスさん…リア様の柔肌に傷をつけたんだもの、仕方ないね。
男魔法使いの魅力が上がっているように感じる、彼にはとことんヒールでもらいたいところ。
アリーナ組は胸の奥がじんわりとあったかくなります、サイモンよかったね。
ろうごくの町にはバーバラという不安要素もあるので、どうなるのか楽しみです。

>天までアクセル踏み込んで
あまりの衝撃に、読んだあと動悸が…皆さんお疲れ様でした。
それぞれが大切なものを守りたかっただけで、誰も悪くないのにこの悲劇。
ただでさえボロボロなのに、ダメ押しの放送がきたらどうなってしまうのか。
あと、この話だけ見るとピサロが修羅場で彼女の名前間違えた彼氏みたいで…w
58梅花空木を髪に飾って(代理) ◇PnfI0WoaXs:2013/04/18(木) 23:54:37.50 ID:ktPC2IBC0
1、これからどうするか
2、欲望の街で何をどうするか
3、怪我の治療
4、そういえばさっき僕女性に担ぎ上げられたっけ
5、今も女性が力仕事してるしね…………
6、…………あれ、これでいいのか、僕は?

【結論】
男としてのプライドとは一体?


◇◇


非常に下らなくアホらしい、但しそれなりに重要な男としてのプライドの話は頭の片隅に追いやり、カラカラと音を立てながら進む猫者の荷台で淡々と治療を進めることにする。
こんな状態でデュランとまた戦闘になっては正直勝ち目はない。
出来れば自身の目的があるマーニャは付き合わせたくはないし、傍に控えているこの狼にもどれほどの能力があるのか判断がつかない。
なんか鼠っぽかったあの魔物と相打ちにでもなってくれれば楽出来ていいのだが……まあ、あの様子では流石に期待出来なかった。
あれから時間が立ちすぎている。デュランが他の誰かを殺している可能性が高くなり続ける。
焦っては事を仕損じる。わかってはいる。
頭の中で堂々巡りする会議をどこか他人事のように感じていた。


「アンタ、実は隠れ真面目系学級委員長タイプでしょ」

マーニャの声。
前は見ているがこちらを見ないで放たれた言葉は唐突すぎて、意味すら理解出来なかった。

「……僕が真面目系に見えるの?」
若干小馬鹿にするような感じで反論してみる。
自慢出来るような事ではないが、まず自分は見た目からして真面目に見られることはない。誰が目に痛い配色の服を着たトサカ髪の優男の事を真面目系の奴だと判断するのか。
因みにマーニャもそう思うらしく、まあ見た目は反抗期の子供よね、なんて言ってきた。
59梅花空木を髪に飾って(代理) ◇PnfI0WoaXs:2013/04/18(木) 23:55:15.97 ID:ktPC2IBC0
反抗期になった記憶なんてありませんー(……本当に無くしているだけかもしれないが)とそれこそ駄々をこねる子供のように頬を膨らます。

「外見じゃなくってさ、こう……なんでもかんでも自分で背負おうとしてるトコ、っていうか」
マーニャの脳内に妹の顔が浮かび、続けて先ほど別れたばかりのフローラと目の前で死を選んだあきなの顔も浮かぶ。
共通して「しなくてはならない」という脅迫概念を抱いている3人だった。
今日はよくそんな人間に合う日だ……ロッシュだってそうだった。

「あのさあ、本当にしなきゃいけないこと、なんてのはそんな多くないのよ?
自分がやらなきゃいけない、自分しか出来ないって思い込んでるけどね、実際は他の誰かがすんなり終わらせていることだってあるのよ」
「…………え、いや、僕はそんなつもりはなi」
「自覚があろうがなかろうが、アンタは自分で自分を追い詰めてんのよ!自分の評価ってのは他人からしか下せないんだからね!
んで、今アタシはアンタに真面目系以下略って評価を下したんだから黙ってマーニャちゃんの有難ーーいお話を聞きなさい」
「横暴だよ!?」
「 黙 っ て 聞 き な さ い 」

ぐぐ、と押し黙ったロッシュに対する接し方は、まあ自分でもかなり横暴だとは思った。
それでも真面目な奴ってのは優しく諭す程度じゃ意見にヒビしか入らない。しかもそのヒビを直さないままに突っ走る。
どこまでいっても救われなかったあきなの姿。
もっと強く止めていれば、防げたかもしれない死。
うじうじ悩むのは自分の役目では無いとはいえ、学習しないわけではないのだ。
義務感なんてものは放っておけば膨らみ続けて最終的には ― ― ―踏み潰される。
妹と重ねているのかもしれない。
60梅花空木を髪に飾って(代理) ◇PnfI0WoaXs:2013/04/18(木) 23:55:53.80 ID:ktPC2IBC0
ただの同情からきているのかもしれない。
ひょっとすれば、自分が抱いた感情は的外れなものなのかもしれない。
― ― ―だからって。

「ギャンブルだって最初はアレコレ考えるわよ。 でもね、結局追い詰められたら小難しい理論なんて持ってるだけ無駄になるの。
“しなきゃいけない” ― ― ―?そ、ん、な、も、の、は、ね、え、 ― ― ―」
だからって、止められないし ……

「この世に存在してないの!てっきとーーーーーに暮らして、アンタがしたいかしたくないか、結局は判断基準はそれだけよ!!」

単に、自分がムカつくから言うだけだった。


◇◇


よくある理論ほど真理である。
考えすぎる癖に関しては自覚はあったが(というか仲間から大分指摘されたが)まさかここまでボロボロに言われるとは思ってなく、一瞬意識が明後日の方向を向いていた。
適当に、適当に……なんて考えている時点で適当になんて考えられるハズがないので、なんとなく項垂れてみる。
当のマーニャは言いたいことを言えて満足なのか相変わらず前を向いたまま猫車を引っ張っていた。
61梅花空木を髪に飾って(代理) ◇PnfI0WoaXs:2013/04/18(木) 23:56:26.60 ID:ktPC2IBC0
重くないのかなー、僕軽くはないんだけどなー、力持ちだなー、なんてズレたことを考えた。

あんだけ獣みたいにうーうー唸ってりゃ悩んでいることぐらいわかるわよ、と最後に突き付けられた言葉。
なんだろう、これが姉の包容力とでも言うのだろうか。こう、言葉は大分アレだったのだが暖かい気持ちになる。
…………同じく妹がいる身としては情けなくもなる。
いや、妹がいた、と言った方が正しいのかもしれない。二つの意味でも、だ。
亡くした妹と、無くした妹。

あーでも、僕としてはターニアにはまだ妹でいて欲しいしなあー、そりゃあ兄のように慕っていた人物が一国の王子とか、他人行儀になったって仕方ないんだけどさー!
いや、それでもだよ。あのパーティーのときにターニアはこれからお兄ちゃんって呼んでいい?って聞いてきてくれたわけだし、僕はそれを了承したわけだし、これは合法的にターニアが妹になったってことなんじゃないの?
…………ああ、いや、でも。僕の妹だったターニアとあのターニアは実質的には同じ人間でも、全てが同じわけではないんだ。
何も知らない無邪気なターニアじゃなく、どうしたってレイドック王子という肩書きが出てきてしまう。
いやいや、でもだy

「さっきから妹への愛がだだ漏れよ。シスコン」
生ゴミでも見るような目でマーニャがこちらを見ていた。
因みに僕は死にたくなった。
ウブな少女のように真っ赤になった顔を両手で隠しキャーキャー叫ぶ。
恥ずか死。恥ずか死。恥ずか死。
隣で大人しく座っていた狼が僕と同じポーズをして真似ていた。
本当に恥ずか死でも出来そうだった。

「まあ、でも……」
からり、と今まで途切れる事のなかった猫車の音が止まる。
マーニャが静かにこちらを見ていた。
「それがアンタのやりたいことならいいのかもね」
やかましいけど、と付け加えて再びマーニャが猫車を引っ張っりだす。
僕はと言えば首を傾げ、マーニャが言った言葉の意味を考えていた。
狼も同じように首を傾げて真似をしている。

………………ターニアを妹にしたい?

表し方が非常に犯罪臭いので直す。

ターニアともう一度仲良くなりたい?
62梅花空木を髪に飾って(代理) ◇PnfI0WoaXs:2013/04/18(木) 23:59:57.09 ID:ktPC2IBC0
すとん。
パズルのピースが綺麗にハマった気がした。
そういやそんなことをあの魔物と話をしていた時も考えていた気がする。方向性は随分と真逆になったが。

「うへ、うへへへー」

犯罪者みたいな笑い方だったが、まあ致し方ない。
よくある理論ほど真理である。まったくだった。
もちろん目標を立てた所で問題はかいけつしていない。デュランのこともデスタムーアのことも、この世界から脱出する方法も全然わかっていない。
…………ただ。
重かった心が少しだけ軽くなった。少しだけ。問題の量を見れば頭痛がするので目を背けた。

「マーニャお姉さーん、ありがとうー」

ママから姉へ、ランクダウンなんだかアップなんだかよくわからない変動を起こしつつも、きっかけをくれたことに礼を一つ。
マーニャはゆっくりとこちらを振り向き、非常に美しい笑顔で…………

「お礼は5割増しの大特価でいいわよ? ……犯罪者予備軍のシスコンお兄ちゃん?」
「違うその言葉はそんな笑顔で言う言葉じゃない!」
マーニャの中での僕はシスコンとして固定されてしまい、覆すのは不可能そうだった。
男としてのプライドとは一体。何回目かの自問自答にがう、と狼が楽しそうにに一回鳴いた。



【F-8/北部/夕方】
【ロッシュ@DQ6】
[状態]:瞑想中 HP6/10(回復中)、MP微消費、打撲(回復中)、片足・肋骨骨折(回復中)
[装備]:はじゃのつるぎ@DQ6
[道具]:支給品一式 、白紙の巻物@トルネコ、聖者の灰@DQ9、
[思考]:デュランとバラモスを止める 前へ進む マーニャと共に欲望の町へ

【マーニャ@DQ4】
[状態]:HP3/8 MP1/4
[装備]:なし
[道具]:猫車@現実、基本支給品一式
[思考]:ゲームには乗らないが、向かってくる相手には容赦しない。
     フローラと情報交換。一刻も早くミネアと合流するため、東へ。

【ガボの狼@DQ7】
[状態]:おなかいっぱい
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:ガぅ(ごはんくれたからロッシュに従う)

221 名前: ◆PnfI0WoaXs[sage] 投稿日:2013/04/18(木) 20:31:58 ID:???0
以上で投下終了です。
問題がないようでしたら代理投下の方お願い致します

222 名前: ◆PnfI0WoaXs[sage] 投稿日:2013/04/18(木) 23:07:04 ID:???0
盛大にミスを犯しました。
すみません、トリップキーの入力をミスしました、◆6UNSm6FHE6です。

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代理投下終了です。
ロッシュが目的を手にした……!
マーニャはお姉さんしてるなぁ
63名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/19(金) 17:58:42.95 ID:CinlTy5CO
投下乙です
マーニャ姉さんは本当になんでそんなに怪力なんだww
そしてこのクッソシリアスな状況でシスコン発動wwwwwおいロッシュwwwww
64名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/20(土) 15:47:08.48 ID:qu/JxaD2O
投下乙です
8組初キルがまさかこの人になろうとは
65自称ドライ男の懺悔 ◆CruTUZYrlM :2013/04/22(月) 19:51:24.03 ID:bHSsVx+v0
「嘘だ」

目をそむけていたリュカに、ラドンが告げる。
同時にラドンは大きな血の塊を吐き、辺りを竜の血で染めていく。
「嘘じゃあ、ないさ」
すかさず駆け寄ったリュカが、祝福の杖を当てながら言う。
妻のことなど愛しては居ない、それは本心だ。
事実、自分の今までの行動に愛は無く、そこにあったのはただの打算。
だからそこに、僕の人生の中で、彼女に対する愛情なんて無い。
「では、問おう」
分かりきっている事を聞いて来た竜は、そのまま言葉を続ける。
「何故、泣いているのだ」
その言葉を聞いた時に、ハッとする。
頬を流れる冷たくて暖かい液体が、双眸から流れ出ていることを。
まるでシャボン玉を触るかのように、人差し指の背で片方のそれを拭う。
「さぁ……目にゴミでも入ったかな」
もっともらしく、かつ不自然の無いように答えを誤魔化していく。
涙が流れる理由は無い、自分は彼女の事を愛していない。
だから、この涙は感情から来るものではない。
そう、言い聞かせていた。
自分に。



「リュカ、主が道を間違えようとしている時、それを正しく導くのは従者の役目だ」

竜の声が聞こえる。

「頼む、リュカ。いや、お願いします、リュカ様。
 貴方の行く道は、こちらではない」

その声は、今まで出会ったどんな魔物よりも落ち着いていて。

「愛していないと言うのならば、それでもいい。
 私は、正直に思ったことを言えば良いと思っている」

どんな魔物よりも、悲しみに満ちていて。

「だが、その言葉を伝える相手は、私ではないだろう。
 伝えるべき人の目を見て、ちゃんと伝えてくれ」

どんな魔物よりも、痛みが籠もっていて。

「初め、私の目を見てくれていたように!」

それは、叫び。

「目を見て告げられると言うのならば、私もそれを認めよう……」

悲しい、直線的な叫びだった。


.
66自称ドライ男の懺悔 ◆CruTUZYrlM :2013/04/22(月) 19:51:56.96 ID:bHSsVx+v0
「ビアンカは――――」
無意識に切り返すように、その名を告げる。
ビアンカは北にいる、彷徨う鎧から得た一つの情報。
そして、北にはあの魔鳥が向かっている。
目に見えた危機が、迫っている。
「私が向かう。必ず、必ずや守ってみせる」
考えている事を見透かしてくるかのように、ラドンは言葉を被せてくる。
「でも、僕は」
「頼む」
何度切り返そうとしても、ラドンは言葉を被せてくる。
「もう、主が行くべき道ではない道を黙って見ているのは、嫌なのだ」
まるで親の暴力に震える、子供のような声で。
「リュカ、頼む。私は、もう苦しみたくない。この毒よりも辛い痛みに、耐えられない」
かつて、仕えていた主君は道を踏み誤った。
人間の愛を知るために、人間の女性を片端から攫う。
ただ愛が知りたかっただけ、愛を知らずに生きただけ、皆が受けたものを享受したかっただけだという。
だが、その姿はまるで私利私欲に塗れた人間のように、堕ちていた。

誇り高き王が落ちる絶望が、ラドンの心には深く残っていた。
だから、今の主には道を踏み外して欲しくない。
生涯を賭けてでも尽くしたいと思った存在。
それがまた崩れて行くくらいなら、この命など惜しくは無い。
「リュカ……私を、貴方に、仕えさせてくれ……」
そう思えるくらいには、辛いことだから。




「……分かったよ」
折れた。
真っ直ぐな思いに、リュカの方が折れることを選んだ。
ラドンは思わず、嬉しそうな顔を浮かべる。
そしてリュカはそそくさと近寄り、ラドンの傷の手当てを続ける。
支給品であった毒消し草を傷口に詰め、少しでも毒の回りを弱くしていく。
「一つ約束してくれ、必ず……生きて戻ると」
治療を施しながら、リュカは言う。
「ああ、竜神王に誓おう」
ラドンが返答すると同時に、リュカはラドンの前足にバラモスの持っていた爪を装備させる。
そしてふくろに、薬草を上回る治癒力を持つと書かれていた草を詰めていく。
祝福の杖には及ばないにしても、草ならば一人で傷を癒すことが出来る。
だから、リュカはその草をラドンに託していく。
「リュカ」
荷物を詰め終わった後、ラドンはくるりと振向いて言う。
「思いを、欺かないでくれ」
そして、その一言と同時に北へと駆け出して行った。

「ぐっ……」
歩きだしてしばらくしてから、傷口がずきりと痛む。
治療が施されているとはいえ、完治に至っているわけではない。
しかも傷口からは、未だに致死の毒が彼女の体を蝕んでいる。
「リュカと誓っただろう、倒れている暇など無いッ」
もたつく体をふるわせ、ラドンは力強く前へと進んでいく。
少しでも体力を取り戻そうと、リュカより譲り受けた弟切草を噛みながらただ前へと進む。
「そして何よりも、私は見届けねばならん」
道は決まっている、光も見えている。
だというのに、止まっていられるわけがない。
ラドンは、ただひたすらに前へと進む。
「だから私は、生きるッ!!」
前へ、前へ。
67自称ドライ男の懺悔 ◆CruTUZYrlM :2013/04/22(月) 19:55:12.59 ID:bHSsVx+v0
「参ったな……」
駆けだしていったラドンを見送り、リュカは振り向いて進路を変えていく。
ここまで言われた以上、言葉を曲げるわけにもいかない。
ラドンは、自分を信用しているのだ。
主が従者を信頼するように、従者もまた主を信頼している。
その気持ちを裏切ることは、出来ない。
「何やってんだ、僕は」
信頼、という言葉に思わず苦笑する。
自分はそんな言葉を吐く価値のない人間だと、知っているから。
幼き頃から男手一つで育ててくれた父の言葉に背き、"偽り"で一人の女性に結婚を申し込んだ。
信頼なんて物は、今も崩れていると思っている。
ふと、先ほどバラモスから奪い取った支給品を取りだしていく。
手のひらに易々と収まるそれを手に乗せ、リュカはため息をつく。
「置き土産まで、君は悪趣味だね」
もう物言わぬ肉の塊と化したそれに向けて、リュカは皮肉をぶつけていく。
リュカの手に握られていたのは、どこにでもある結婚指輪。
結婚、という二文字が頭に浮かんだ瞬間、頭を抱えそうになる。
「最高の嫌がらせだよ」
このタイミングで、あの時のことを思い返させるとは。
狙ってやったのだとしたら、相当な未来予知だ。
だが、それを投げ捨てることはせず。
黙って袋に入れてから、リュカは歩き出した。
「僕は」
ある一つの言葉を。
「彼女を」
呪詛のように繰り返し。
「愛してなど――――」
自分に言い聞かせるように。

【B-4/東部/夕方】
【リュカ@DQ5】
[状態]:健康 MP微消費
[装備]:パパスの剣@DQ5
[道具]:支給品一式×3、祝福の杖@DQ5、王女の愛@DQ1、デーモンスピア@DQ6、結婚指輪@DQ9
[思考]:フローラと家族を守る、南へ。

【C-4/北東部/夕方】
【ラドン(ドラゴン)@DQ1】
[状態]:全身にダメージ(小) 致死毒(進行中)
[装備]:サタンネイル@DQ9
[道具]:支給品一式 不明支給品×1〜2(本人確認済み)、消え去り草*1、弟切草*4@トルネコ
[思考]:人と魔物が手をとる可能性を見届けるため、リュカに従う。北へ向かい、ビアンカたちを救う。
※ラドンの毒は本来即死効果のものであるため、キアリーによる完治はできません。
  定期的な解毒or治療の施しがない場合、第3放送頃に死に至ります。

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投下終了です。ご意見ご感想お気軽にどうぞ。

>Wiki管理人の方へ
投下のついでで申し訳ないのですが、なんかまた怪しいページ作られてるんで削除の方だけお願いします。
68名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/22(月) 20:09:00.14 ID:3iHv/pD2O
投下乙です

ラドンいいこと言ったなあ
ラドンの言うとおり、リュカは自分の気持ちやフローラからずっと目をそらしてきたんだろうな
ラドンが命を賭けた今、もう逃げることはできないだろう
今後が楽しみだ
69名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/26(金) 03:46:20.13 ID:1ucPJSe/0
彼女の体をむしばむ毒って…


ラドンって♀だったのか…
70名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/26(金) 16:55:57.71 ID:2ccGFWpt0
ほしゅ
71名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/27(土) 20:23:41.65 ID:Ifr6+37QO
投下乙です。

ついにリュカが腹を括った。
72名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/29(月) 17:31:52.34 ID:WRSJXk1P0
おつ!
73名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/29(月) 22:18:12.31 ID:2fEqTV0Q0
ほとんどのパートが夕方(放送前)に到達しており、数少ない午前のパートもそのまま放送でも問題ない状況、
そろそろ第二回放送の予約解禁を検討してもいい頃と思うのですが、いかがでしょう?

とりあえず、今月いっぱいくらいで放送前パートの予約を一旦締め切り。
その後、すべての予約が消化されたら、第二回放送の予約を解禁。
その投下を待って、放送後の予約解禁へ…といった流れを提案をしたいのですが

さすがにあと2日足らずしかない、今月いっぱいでの予約一旦締め切りというのは性急すぎるでしょうか
もう少し時間を取って、たとえば今週いっぱいくらいは見てからのほうがいいでしょうか?
みなさんの意見をいただけたらと思います
74 ◆1WfF0JiNew :2013/04/29(月) 22:24:30.09 ID:uXkppgBJ0
自分は今月いっぱいでも構いません。
もし、今週いっぱいを望む書き手様達が多数いらっしゃるのならば、
そちらでもよろしいですよ。
75 ◆CruTUZYrlM :2013/04/29(月) 22:28:40.97 ID:MMU5+0f40
>>73
私も大丈夫だと思います。
ルイーダさんだけ午後ぼっちなうですが、彼女はまだどうとでもできますしね。
氏の提案どおり、四月いっぱい予約一時締切り、◆50QT/sbUqY氏の投下の翌日くらいに放送予約解禁。
放送が本投下された二日後くらいから放送後予約解禁、でも大丈夫だと思います。
76 忍法帖【Lv=5,xxxP】(1+0:5) :2013/05/01(水) 11:43:08.59 ID:SeG9aYLI0
ほしゅ
77 ◆CruTUZYrlM :2013/05/01(水) 22:50:56.21 ID:LC56U9360
特に意見もなさそうですし、>>73-75の通り、一時的に放送前の予約を締め切ろうと思います。
◆50Q氏の投下が来て二日後ぐらいに放送予約解禁です、こちらは再び本スレでアナウンスさせていただきます。
78帰り路をなくして(代理) ◇50QT/sbUqY:2013/05/03(金) 14:33:55.88 ID:AOftmBLx0
タバサ。

タバサを、失った。

守れなかった。

止められなかった。

救ってやれなかった。



ローラは相変わらず、亡骸を撫で続けている。
自分の視点からでは、その表情を窺い知ることはできない。
彼女の頬を流れる赤と透明の液体がタバサの額に落ち、火傷を冷やすかのように濡らす。

バトルロワイヤルというこのゲームの、なんと残酷なことだろう。
戦う力を持たぬもの、未来ある幼きもの。願い、背負うもの、善悪すら関係ない。
参加者に待っているのは無常なる死であり、平等でないのは、それが訪れる順だけだ。
この瞬間に自分の命が繋がっているのも、偶然に過ぎない。
タバサの命が繋がっていないのも、偶然にーーー

数分前まで、この小さな人間の心臓は確かに動いていたというのに。


異形の自分を恐れることなく、声をかけてくれた。
嘘偽りのない言葉に、心惹かれた。
不安な様子も見せず、励ましてくれた。
彼女の手は、とても温かかった。
記憶のない自分に、名前をつけてくれた。
それは、確かに私への贈り物だった。
自分を信じて、守ろうとさえしてくれた。
気を失うほど張り詰めていたのに。
目を覚ました彼女は、太陽のように笑った。
純粋無垢な姿に、眩しささえ覚えた。

いまはどうだ。
彼女はもう動かない。
二度と笑うこともない。
その温もりも徐々に失われてゆくのだろう。
こんなにも一瞬の間に、こんなにも呆気無く、少女の命の火は消えてしまったのだ。
79帰り路をなくして(代理) ◇50QT/sbUqY:2013/05/03(金) 14:35:06.63 ID:AOftmBLx0
 
彼女と過ごしたのは目覚めてからの半日足らずで、僅かそれだけの間しかない。
けれどその半日は、記憶を失った自分にとっては、全てだ。
全ての中心にいたのは、タバサだったのだ。
ゲロゲロを構成し、大部分を占めていたものが根幹から揺さぶられる。
目の前が真っ暗になるとはよく言ったものだが、まさにその通りだった。
立っているのがひどく億劫になり、ゲロゲロはその場に腰を下ろした。

ゆるゆると首を回すと、離れた場所で少女が両手を組んでいる。
傍にはおおよそヒトの形をしたものが落ちており、どちらもぴくりとも動かない。
彼女も、自分と同じように失ったのだ。
かける言葉など見つからないし、かけようとも思わない。
ローラとタバサの間に割り入ることができないように、あの空間を邪魔することは、誰にもできない。
此方に危害を加える様子は無いようなので、とりあえずはそっとしておく。

手前に、ひとつ、首が落ちていた。
赤い水溜りの中に、長い髪が広がっている。
心臓が跳ねた。
タバサがお母さんと呼び、必死に追った女性だ。
(……違う。どことなく雰囲気は近い気もするが、母親ではない)
走っているときは、遠すぎて気付かなかった。
今改めて確認すると、その髪の色彩はタバサやフローラのそれとは異なる。
焼け縮れ見る影も無いが、元は美しい濡羽色だったに違いない。

全身の火傷は、休むことなく痛覚を刺激している。
特に鋭い痛みを覚え、右腕に視線を移した。
傷は熱をもち、ずくん、ずくん、と悲鳴を上げる。
傷だけではない。
殆ど風の吹かないこの場では、爆発の残した熱が、身体に纏わりつくようだった。
あつい。
頭はクラクラとし、息苦しく、こめかみを汗が伝う。
80帰り路をなくして(代理) ◇50QT/sbUqY:2013/05/03(金) 14:36:05.75 ID:AOftmBLx0
 


「……おい」

何故だろうか、思ったよりも遠くで聞こえたような気がした。
決して大きくない影が自分の足元に落ちて、次に、破れた黒いスカートが視界に入る。
面を上げることは、できなかった。
この惨劇を引き起こしたイオナズンは、元々タバサが放ったものである。
彼女と共闘していたらしい彼は、タバサの意図したものではないとはいえ、その犠牲になった。
もし、自分がタバサを止めることができていたら。
こんなことには、ならなかったのだ。

「………」

続く言葉は無かった。
こちらの返事を待っているのだろう。
自責の念に駆られ、無意識のうちに視線を落とした。
スカートの裾からすらりと伸びた脚には程よく筋肉がついている。
それだけではなく、真っ赤なものもついている。

あぁ、なんて、なんて。


(芳しい)




目を見開いた。

(芳しい?)

なにが。どうして。

熱に侵された頭でその感情の意味するものを探り当てる。
高い知能と僅かな記憶のおかげで、すぐに正しい認識に辿り着くことができた。
だが、それが幸か不幸かと言われれば、間違いなく不幸だろう。
その認識は、闇への片道切符だったのだ。

イオナズンによるものだと思っていた熱は、決して、そんなものが原因などではなかった。
それは、辺りを満たす「死」の所為。
咽せ返るほど強く漂う人間の血の匂いが、ゲロゲロの血を沸かせている。
もっと真紅の花を咲かせろと叫んでいる。
転がる首を見て心臓が跳ねたのも、フローラの心配などではなかった。
無残な姿に、心が躍ったのだ。
81帰り路をなくして(代理) ◇50QT/sbUqY:2013/05/03(金) 14:36:59.53 ID:AOftmBLx0
 

条件反射というものがある。
梅干を見ると唾液が出るのも、その一種だ。
ゲロゲロに影響を与えたのは嗅覚と視覚から得た情報だけだが、日常的に殺人を犯していたゲロゲロにとって、その情報は梅干そのもの。
身体は正直だ。
ムドーの至福の時には、必ずこの匂いがしていた。
地に吸い寄せられるように這い蹲り、やがて動かなくなるのも同じだ。
ゲロゲロに覚えが無くても、ムドーが覚えている。


目がチカチカする。
魔物としての本能が、大きな口をあけて、ゲロゲロを飲み込もうとしている。

手が震える。
抗おうとする意思を、強すぎる欲求が押し流していく。

息ができない。
先刻は押さえ込んだはずの衝動がこみ上げ、抑えられない。

当たり前だった。
誰かに煽られたわけではない。
誰かを甚振る場面を見たわけでもない。
汚い欲望が己の内から湧いたのだと認めたのは、他でもない自分なのだから。

目の前の少女が異変に気づいたようで、顔を覗き込んでくる。
構えてはいないものの、その手にはしっかりと剣が握られている。

あぁ…今、下を向いていてよかった。
もし、顔を上げていたら。
彼女の瞳の色を知ってしまったら。
きっと、自分は、彼女を。
82帰り路をなくして(代理) ◇50QT/sbUqY:2013/05/03(金) 14:38:16.58 ID:AOftmBLx0
 



「ーーーローラを、頼むッ!」

絞りだすように言い捨て、走り出した。

向かう先など決めていないが、その場から逃げ出すことさえできれば良かった。
後ろで何か叫んだが、ゲロゲロには届かない。
聞こえないわけではない。
それどころではなかっただけだ。
二人に危害を加えないよう、己を保つことで精一杯で。
痛みがブーイングするのを無視して、ゲロゲロは足を動かした。





《勿体無いことを。
 アレの腹を裂けば、さぞかし好い声で鳴くに違いない》

音も無く背後に忍び寄った死神が、しわがれた声で囁く。
姿など見ずともわかる。
忘れようがない、憎き相手だ。

《貴様も、今度こそ理解したであろう?》

そうだ。理解した。
理解したからこそ、逃げたのだ。
理性を失うのは、とても恐ろしいことだ。
自分が自分ではなくなってしまうような、得体の知れぬ不安。
負けはしないと、決意をしたはずだった。
なのに耐えられなくなる、まるで麻薬のように魅惑的ななにか。
そんなものが、自分の、全ての魔族の心の底に、大海のように広がっている。
まさに今ゲロゲロの心にぽっかりと開いた穴を満たそうとしている。

《ゲームを効率よく進めるためにいながら、何一つ「死」に貢献しない貴様の行動が今まで見逃されていたのも、
 いずれこうなることが必至だったからなのであろうな》

いやらしい笑みを浮かべたそれは、透けた身体の向こうに流れる木々を映しながらゲロゲロを囲むように回る。
言葉が出ない。
タバサに対し抱いた感情に名前をつけることは、未だできそうにない。
けれど、その感情を抱いている間は道を違えることはないと、根拠の無い理屈で思考を放棄してきた。
いずれ記憶が戻ったときに、向き合う必要があることはわかっていた。
わかっていたけれど、実際はどうだ。
記憶など戻らずとも、事実、自分は害悪な魔物だったではないか。
ボーダーラインは既に越えてしまっていて、意志の力だけでは引き返すことができないのは自覚している。
結局は自分もこの声の主と同類なのだ。
83帰り路をなくして(代理) ◇50QT/sbUqY:2013/05/03(金) 14:39:04.15 ID:AOftmBLx0
 

《何も戸惑うことは無い。躊躇う必要も無い。
 この世界では、多くの者がエゴで他人を殺しているのだ》

足が止まる。
なだらかなカーブを描く服を乗り越え、鈍色の腕が胸に差し込まれる。
言葉だけでは飽き足らず、物理的にも心の臓を捕らえようというのか。

《腹は減っていないか?》

そのまま全身が自分に重なり、身体を乗っ取られるような錯覚に陥る。
仮にそうだとして、誰が気づく?
誰も気づきはしない。

《奴等の臓物の味は知っているだろう?命を刈り取る瞬間の、絶望の表情を覚えているだろう?》

一度堕ちてしまえば、どんなに楽だろう。
苦しむことも無いし、我慢も葛藤も必要ない。
自分を縛るものは無く、欲望に身を任せ、自由に生きられるのだろう。

(…冗談ではない)

嫌だった。
波に流されたくはない。
渦に溺れたくはない。
認めたく、ない。

《ムドーよ。残虐なる魔王よ。大魔王デスタムーアの忠実なる僕よ。その力を行使するのだ》

「断る」

《何故だ。貴様は1匹の魔物であり、人間を殺める側の存在なのだ》

「その言葉は間違っていないのだろう。
 だが、そうだとしても…自分は、まだ「ゲロゲロ」でいたいのだ。
 タバサの信じた、エルギオスの信じた、「ゲロゲロ」で在りたいのだ!」

いつかくる、そのときまでは。

願いをぶつける。死神がたじろぎ、身体から這い出る。
乱暴に左腕を振り上げる。
迷いを断ち切るかの如く、刃で巨躯を二つに分かつと、醜い姿が煙のように揺らぎ霧散した。
84帰り路をなくして(代理) ◇50QT/sbUqY:2013/05/03(金) 14:39:54.20 ID:AOftmBLx0
 



近くに人の気配は感じられない。
自分の荒い吐息だけが、辺りの静寂を邪魔している。

(こんな幻につけ込まれるとは、我ながら情けない…)

傍らの大樹に背を預け、呼吸を整えながらゲロゲロは思う。

(ローラを置き去りにしたこともだ)

頭に浮かぶ彼女は、どれも泣き顔ばかりだ。
タバサを抱きしめては、涙を流している。
まだああしているのだろうか?

ローラも、かなりの怪我を負っていた。
箱入りである彼女だ。
あんなに酷いダメージを受けるのは、初めてではないだろうか。
命を脅かすほどの損傷ではなかったが、痕は残るかもしれない。
残っている薬を譲るのは、何も惜しくはない。
だが、届ける手段が見つからない。
あの匂いは自分には刺激が強すぎる。

(…大丈夫だ。少女に頼んだではないか)

魔物である自分を、隙だらけで居た自分を、彼女は斬らなかった。
尤も、この姿だからこそという理由かもしれないが。
どちらにしろ彼女がゲームに乗っている確率はないと判断する。
それに、二人は失った者同士だ。
きっと力になってくれる。

(大丈夫、大丈夫だ。問題ない)

自分の所業から目を逸らすように、言い聞かせるように繰り返す。

人力車の上でローラが見せた、人間が聖母と呼ぶものに似た表情。
そんな側面もあったと、ふと思い出した。
彼女の探し人は、日頃からそんな微笑みを向けられていたのだろう。
今は無理でも、いつかまた同じように笑えたら良い。
漠然と、そう思った。
85帰り路をなくして(代理) ◇50QT/sbUqY:2013/05/03(金) 14:41:01.05 ID:AOftmBLx0
 
(さて、これからどうするべきか)

もう来た道は戻れない。それだけははっきりしている。
多少は落ち着いたが、殺人の欲求は燻ぶり続けている。
血の匂いをさせる人間には、近づかないでおくべきだ。
次も逃げられる保証はどこにもないのだ。

思えば、今まではタバサを第一に行動してきた。
こうして独りになると、本当に自分がしたいことがすぐには思いつかない。
参加者との戦いで命を失うかもしれない。
主催の手の者が自分を殺しにくるのかもしれない。
先に、ムドーに支配されてしまうかもしれない。
残された時間の行動指針が必要だ。
悪を少しでも減らそうか。
今斬り裂いた仇だけは、許すつもりはない。
だが、バラモスだけを探し回ってなどいられない。
思索する。
何ができる。何をしたい。何をしたらいい?

(タバサの両親を探すのだ)

タバサの努力、優しさ、弱さ。
この半日に自分が知ったありとあらゆる一面を、懸命に生きた証拠を、彼女が愛する者へ余すことなく届けること。
本人を失った今、唯一自分ができる彼女への恩返しであり、償いでもあった。

そして、もうひとつ。
タバサは、父が魔物使いだと言った。
父を見つけたらなんとかしてくれるだろう、そうも言ったのだ。
魔物使いに寄り添う魔物は、邪気が消えるという。
もしかすると、自身に潜む闇も、振り払えるのではないか。
道を踏み外さないように、帰る場所を示してくれるように、自分の澪標となってくれるのではないか。
そう考えたのだ。
現状では、彼に一縷の望みを託すことしかできない。

(目標は定めた。あとは、そこへ向かうだけだ)

結局、やることは変わらないが、行動理由は異なる。
誰かのためではなく、自分のために。

深呼吸をすると、全身が痛みを訴える。
止血もせずそのままにしていた右腕は紫に染まっているものの、細かな傷は、既に塞がっていた。
86帰り路をなくして(代理) ◇50QT/sbUqY:2013/05/03(金) 14:44:22.34 ID:AOftmBLx0
 

(確かに、自分は魔物だ。自分の欲のため、罪無き者を殺める生き物だ。
 生まれ持った能力も、内に秘めるものも、人間とは異なる。
 それは紛れもない事実であり、逃れられない真実でもある)

殺戮が魔族の歩むべき道だというのなら、自分は違う道を探してみせよう。



「諦めなければ道は自ずと開かれる。そうであろう?エルギオス」





【F-4/北部森林/夕方】
【ソフィア(女勇者)@DQ4】
[状態]:HP2/5 表情遺失(人形病)
[装備]:奇跡の剣@DQ7、メイド服@DQ9、ニーソックス@DQ9
[道具]:ソードブレイカー@DQ9、小さなメダル@歴代、オリハルこん@DQ9
     不明支給品(ソフィア(0〜1)、キーファ(0〜2)、カーラ(0〜1(武器ではない))、基本支給品*2
[思考]:
[備考]:六章クリア、真ED後。

【ローラ@DQ1】
[状態]:HP3/5
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:アレフを探す、アレフへのかすかな不信感


【E-4/南部森林/夕方】
【ゲロゲロ(ムドー)@DQ6】
[状態]:記憶喪失 HP1/7 殺人衝動
[装備]:スライムの服@DQ9、スライムヘッド@DQ9、雷の刃@DQS
[道具]:支給品一式、超万能薬@DQ8、トルナードの盾@DQ7、賢者の秘伝書@DQ9、ビッグボウガン(矢なし)@DQ5、復活の玉@DQ5PS2
[思考]:タバサの両親を探す。血の匂いのする人間を避ける。エルギオスの言葉を忘れない。
[備考]:主催者がムドーをどう扱うかは未知数です。主催からアイテムに優遇措置を受けています。

ーーーー
以上で代理投下終了です。

投下乙です。
ついにムドーが来たか……ゲロゲロはあらがい続けられるだろうか?
残された二人も心配だけど……
87 ◆CruTUZYrlM :2013/05/03(金) 19:44:53.75 ID:Ip/j0mjT0
あ、それと放送予約は明後日に解禁でいいでしょうか?
翌日はやっぱ急かなと思いますし……
88名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/03(金) 20:55:09.03 ID:j7gZq21VO
投下乙です
ああ、ゲロゲロ…
タバサを失った哀しみよりも
毒のように魔王としての本性に蝕まれていく様子がなんとも切ない
是非ともフローラやリュカとの邂逅を果たしてほしいものだ
そして何気にハーちゃんの前で手を組むソフィアも泣ける……
89名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/03(金) 22:16:03.60 ID:j7gZq21VO
予約のことですが、明後日からで大丈夫だと思います。
90名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/03(金) 23:59:27.84 ID:86cxGBWlO
投下乙です。

記憶が戻らなくとも、体がその衝動を、その快楽を覚えている。
ゲロゲロはムドーに戻ってしまうのか、決別できるのか。
91 ◆CruTUZYrlM :2013/05/04(土) 00:17:21.95 ID:NWIW/to50
【アナウンス】
24時間後、5/5 0:00に放送予約解禁です。
予約は従来通り予約スレで行われます。
92 ◆CruTUZYrlM :2013/05/05(日) 13:37:53.12 ID:GxPmRRlF0
避難所の一時投下スレに放送案を投下しました。
特に問題なければ明日までには本投下したいと思います。
93第二回放送 ◆CruTUZYrlM :2013/05/05(日) 21:58:57.03 ID:a6UvLCz60
「デスタムーア様、定時放送の時間でございます。死者は17名、生存者は27名です」
薄暗い空間で、一人報告をするアクバー。
跪くその先には、この殺し合いの首謀者。
「して、今回の禁止エリアは、どのように……」
アクバーが問うと、同時に一枚の紙が投げて寄越される。
そこには、今回の禁止エリアが記されていた。
但し。
「二倍にしろ」
その数は、六つ。
始めに指定していた数の、二倍だ。
「死者が半数を過ぎたならば、事は終わりに近い。
 もっと加速させて行くべきじゃろう? 今回はそれで行け」
「はっ」
短く返事をし、アクバーは放送へ向かう。

卑しく笑う、主君の声を背にしながら。

「ゲームより12時間、半日が経過した。
 私の声を再び聞くことが出来た諸君、いかがお過ごしかな?
 第二回の定時放送を行うぞ。
 今回は間怠っこしい前置きは省略する、諸君等も情報が欲しいだろうからな。
 まず……禁止エリアだが、デスタムーア様のご意向により二時間に二つ、計六つを指定させて貰う。
 20時 E-3 E-7
 22時 D-5 B-3
 24時 E-8 G-4
 以上六つだ、数が多い故、聞き間違えの無いよう確認するのが良いだろう。
 次に……この六時間で命を落とした者の名を告げる。
 グラコス
 カーラ
 もょもと
 シンシア
 アレフ
 アルス
 バラモス
 ミレーユ
 アイラ
 デュラン
 オルテガ
 ドルマゲス
 ピサロ
 ミーティア
 タバサ
 キラーマジンガ
 ハーゴン
 以上、17名だ。
 ククク……貴様等がこれほどまでに殺戮を好んでいるとはな。
 初めの六時間で、命を奪う快楽に目覚めたか?
 ならば、より多くの命を奪えば良い。貴様等は、そうせねば生き残れぬのだからな……。
 では、殺人者の諸君、六時間後にまた会おう……」

そして、半日が過ぎた。

【残り27人】
94 ◆CruTUZYrlM :2013/05/05(日) 22:02:39.30 ID:a6UvLCz60
賛同レスがいくつかついたため、本投下させて頂きました。
予約解禁は二日後の5/7 0:00でいきたいと思います。
95 ◆CruTUZYrlM :2013/05/06(月) 00:56:59.34 ID:UR7TF4Q10
【アナウンス】
24時間後、5/7 0:00に放送後SS予約解禁です。
予約は従来通り予約スレで行われます。
96 ◆CruTUZYrlM :2013/05/06(月) 17:14:31.63 ID:h8vBdcK40
それと、第二放送に到達したので12日の夜9時からDQBR2ndラジオ、チャモっていいとも!! を行いたいと思います。
実況スレなどはまた張らせて頂きますので、宜しくお願いします。
97名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/06(月) 17:32:56.46 ID:DacJ/HlkO
ラジオきたー
98名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/06(月) 20:15:00.38 ID:KGu/6GXc0
放送乙です。
6時間で17人もか…結構脱落者多いのな。ペースは1stより早いのかな?
書き手の皆様方も乙です!
99名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/08(水) 22:45:58.40 ID:TE9w097aO
代理投下行きます
100恋愛のPaper Drivers ◇CruTUZYrlM:2013/05/08(水) 22:47:14.13 ID:TE9w097aO
 
「――――ローラを、頼む!」

一匹の魔物がそういい残し、惨劇の場所から逃げ仰せた後。
その場には、二人の女性が残されていた。
「……ったく、魔族ってのはほんとに、こー自分しか見えてないっていうか」
ため息をつき、舌打ちをし、ふんわりとした頭を掻きながらソフィアは言う。
いかにも気だるそうな発言だというのに、それに伴うべき感情が無い。
表情も、声も、まるで剥げ落ちたかのように。

この場に残るもう一人の生きた存在が"ローラ"なのだということは、アリーナでも分かる。
ローラ、聞き覚えのある名前。
それは、愛の証明に走る女性の名前。
なぜ、そんな彼女が魔物と連んでいたのか。
それは、分からない。
だから、その理由を問おうとするが、できない。
彼女は今、まるで聖母のような輝きを纏い、動かぬ少女を抱きかかえている。
とてもではないが、今の血まみれた自分では話しかけられそうにもない。

ふと、足下を見やる。
ミーティアに自分が渡した"銃"と呼ばれる武器が、転がっていた。
見るも無惨に肉塊に成り果てたミーティアとは対照的に、銃はその形を綺麗に残していた。
は、と乾いた笑いが零れる。
その顔はもちろん――――笑っていない。

自分が良かれと思って渡した武器、それが彼女を駆り立てることになったのか。
渡したのは自分の身を守る最低限の力であって、誰かを守る力ではない。
……力のない者は、力を手にした時、その扱いを必ず誤る。
エビルプリーストが経験したそれを、自分がミーティアに経験させた、とも取れる。
はは、と、無表情のまま乾いた笑いが続く。
「大量殺人犯ソフィア、いっちょ上がり……ってか」
"真実"を呟き、銃を力強く握りしめていた腕を引き剥がす。
それをぽいとそこらへんに投げ捨て、溜息を一つつく。
そして視線を動かし、聖母の姿を目に捉え。
そのまま、ぼうっとしていた。
何をするでもなく、ただ、ぼうっと。
101名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/08(水) 22:49:30.85 ID:4ikKZaaj0
 
102恋愛のPaper Drivers ◇CruTUZYrlM:2013/05/08(水) 22:50:20.01 ID:TE9w097aO
 
しばらくして、あの声が聞こえ始めた。
つまり、六時間が経ったということだ。
太陽のないこの場所では、時間の経過を肌で感じることは難しい。
十二時間という長い時間が経っても、空は一点の光もなく淀んだままだ。

特に動じるでもなく、地図を取り出し、読み上げられた禁止エリアに黙々と印を入れる。
その後ろで、あの声が名前を読み続ける。

「――――カーラ」

"終わった"バカ野郎の名前が読み上げられる。
他の誰でもない、この自分が殺した人間。
"終わり"を見て、"終わり"へ飛び込んでいった人間。

「――――シンシア」

もう一人、"終わった"バカ野郎の名前が読み上げられる。
彼女もいつの日か、自分に総てをかけて自ら"終わり"へと飛び込んでいった。
……きっと、この場所でもそんな風に飛び込んでいったのだろうか。
当然、涙は流れない。
悲しくはないから、というより悲しいとは?
それはわかんないから、後にしておこう。

「――――アレフ」

そこで、聞き覚えのある名前が飛び出す。
ソフィアは道具を漁る手を止め、ローラはビクリと何かに怯えるように跳ねる。
凍り付いていた時が、砕かれる。
ゆっくりと体を動かし、ローラの方を向く。

何度も見た顔、眼。
"終わり"へ向かう者が、"終わり"を見ているときのそれ。
「……アンタも、そうかよ」
ふぅ、と溜息を一つつき、顔についた血を乱暴に拭い。
ソフィアは聖母の元へと歩いていく。

残りの放送は、ほとんどノイズでしかなかった。
103名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/08(水) 22:51:33.59 ID:4ikKZaaj0
 
104恋愛のPaper Drivers ◇CruTUZYrlM:2013/05/08(水) 22:52:43.30 ID:TE9w097aO
 


軽い音とともに、何かが炸裂する。
それは物理的な要素ではない。
ローラの頭の中で、すごく簡単に砕けていった。

音と色が落ちていく。
何も聞こえないし、何も見えない。
ただ、もやもやとした何かが心を蝕んでいく。

愛の証明をする必要はなくなった。
この放送でバラモスの名が呼ばれたからだ。
つまり、バラモスはもう死に絶えているということ。

同時に、愛の証明はどうあがいても出来なくなった。
誓いあうべき存在の名も呼ばれたから。
どうあがこうが証明は出来ない。

……私は、あの人を愛していた。
そして、あの人も私を愛しているものだと思っていた。
だから、言って欲しかった。

この世で一番、愛していると。
魔物の甘言に惑わされそうになっている自分を、言葉でばっさりと斬り伏せて欲しかった。
何よりも、彼を信じきれない自分が、怖くて、惨めで、情けなかった。

だが、もうこの不安を拭うことは出来ない。
愛していると言ってくれるあの人はもう。
この世に、居ないのだから。

「……そうだよな、普通こーなったら泣けるんだよな」
その時、一人の少女の声が闇を突き破って耳に届く。
ふと顔を上げれば、目の前には傷を負いながらも雄々しく立つ給仕服姿の少女が居た。
少女の言葉に誘われるように、目元を拭う。
先ほどまで流れていなかったはずの涙が、止めどなく流れ続けている。
「羨ましいぜ」
その涙を見て、少女はぼそりとそう言った。
何が羨ましいというのだろうか、今のローラには全く理解できない。
そんなローラをよそに、少女は言葉を続けていく。
「あー……そうそう、フローラから聞いてるぜ、アンタのこと。
 "愛"を証明するんだったけか」
フローラ、という名前にぴくりと反応する。
始めの時、フローラはアレフを探しに行ってくれた。
しかし、間もなくして出会った少女に諭され、絶望の町に帰ってきた。
……きっと、目の前の少女がその時の少女なのだろう。
少女は依然として無表情のまま、自分を見つめている。
105名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/08(水) 22:53:02.72 ID:YJVq2UBP0
   
106恋愛のPaper Drivers ◇CruTUZYrlM:2013/05/08(水) 22:54:50.46 ID:TE9w097aO
「まさかさ、思い人が死んだから証明できませ〜ん☆ ふえ〜ん! とか言うんじゃねえだろうな」
ふざけた言い回し、でもそれに伴うべき感情がない。
無表情のまま繰り出されるおふざけは、ここまで怖いと感じる物なのだろうか。
恐怖心に駆られるまま、ローラは事実を認めていく。
自分の怯えた表情を察したのか、少女は一度首を傾げたが、そのまま話を続けていく。
「ずっと引っかかってた、会ったら言おうと思ってたんだ」
空気だけが、急に張りつめる。
無表情の少女の周りから、次々に感染するように。
「愛は、証明するもんじゃねーと思うぞ」
淡々と語られる言葉が、ローラの根幹を揺るがす。
「好きだっていったし、好きだって言ってもらったんだろ?
 じゃあ、アンタがそれを信じ続ければいいじゃねぇか」
 誰がなんと言おうと構わない、自分は相手が好きだって、信じ続ければいい。
 そして、それはアンタにしかできない。アンタが死んだら……それこそ愛の終わりだ」
まるで、心を見透かされているように。
少女は次々にローラの心を突き刺し、抉り、そして救っていく。
ああ、フローラもこうして心を動かされたのだろうか。
今なら、その気持ちが分かる。
「だからさ……終わんな、生きろ」
そして最後に差し伸べられた手を取り、小さく返事をしながら微笑んだ。
少女は未だに無表情のまま、けれど身に纏う雰囲気は柔らかくなっている。
「……ま、これは恋愛経験値0のレベル1野郎の考えだけどな」
ははっ、と声だけがする。
今まで無感情無表情だった彼女から放たれるその声は。
少しだけ、笑っているような気がした。
「あの……」
小さな声で、少女を呼び止める。
ローラには一つ、どうしても聞きたいことがあるから。
「お名前を、お教えいただけないでしょうか」
そう言われてハッとしたのか、少女は頭を掻く。
「っあー……悪い悪い、アタシはソフィアだ。
 よろしくな、ローラ姫」
無表情だけれど、申し訳なさそうに少女は名前を告げる。
ソフィア、ソフィア、その名前はローラの頭の中で渦を巻き、しっとりと染み込んでいく。
「よっしゃ、じゃあ生きようぜ。
 アンタが生き続けなければいけない理由は、もう証明したろ?
 だからさ、何でもいいから生き続けようぜ」
「……はい」
諭されるがまま、ローラは差し伸べられた手を取ろうとする。
だが、立ち上がれない。
もう一つ、まだ一つ、やることがあるから。
「すみません、後一つだけ」
申し訳なさそうに、ローラはソフィアへと問いかけていく。
「何だ」
「……この子を、せめて安らかに眠らせてあげたいんです」
そう、ローラの胸元で眠るように動かない小さな体。
先ほどまで元気に動いていたはずの、小さな命。
時間をかけた埋葬は出来なくとも、野ざらしではなくせめて何かはしてやりたいのだ。
「……いいぜ、しばらくやることなんてねーし。ハーちゃんとミーちゃんの分も、作ってやんないとな」
理由も、気持ちも伝わった。
だから、ソフィアも動く。
その気持ちを、返答に込める。

そしてローラはゆっくりと少女の遺体を寝かし、ソフィアと共に少しだけ作業に入ることにした。
107名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/08(水) 22:54:56.33 ID:4ikKZaaj0
 
108名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/08(水) 22:55:01.99 ID:YJVq2UBP0
      
109恋愛のPaper Drivers ◇CruTUZYrlM:2013/05/08(水) 22:57:08.66 ID:TE9w097aO
 


終わりを作るのは人だ。
終わりを決めるのは人だ。
終わりを受け入れるのは人だ。

死ぬではなく、終わる。
それは総て人が、自分が決めることだ。
だから、終わりたくないなら終わりを決めなければいい。

自分が決めた終わりが絶対に正しいわけではない。
それは時に間違っていることも、狂っていることもある。
でも、自分では正しいと思っているから気づけない。

だが、所詮は自分が勝手に決めた終わり。
破ったところで誰も文句は言いはしない。
だったら自分の好きにしよう、満足するまで生き続けよう。

終わりじゃない、理由がある限り人は生き続けられる。
人は、そう簡単には終わらない。
そう、思っている。

【F-4/北部森林/夕方】
【ソフィア(女勇者)@DQ4】
[状態]:HP2/5 表情遺失(人形病)
[装備]:奇跡の剣@DQ7、メイド服@DQ9、ニーソックス@DQ9
[道具]:ソードブレイカー@DQ9、小さなメダル@歴代、オリハルこん@DQ9
     不明支給品(ソフィア(0〜1)、キーファ(0〜2)、カーラ(0〜1(武器ではない))、基本支給品*2
[思考]:終わらない
[備考]:六章クリア、真ED後。

【ローラ@DQ1】
[状態]:HP3/5
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:生きる
110名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/08(水) 22:57:30.59 ID:YJVq2UBP0
        
111名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/08(水) 22:58:13.94 ID:TE9w097aO
代理投下終了です
112名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/09(木) 21:56:07.44 ID:u8pwHJyrO
投下乙です
すべてを失った二人がたどり着いた答えは終わらないこと、生きること
あまりに迅く終わっていくこの世界で、二人の決意は尊くて強い
反撃の狼煙をどうあげていくのか楽しみです
113 ◆CruTUZYrlM :2013/05/09(木) 23:39:21.24 ID:Ig+wFqGa0
テスト
114 ◆CruTUZYrlM :2013/05/09(木) 23:48:59.20 ID:Ig+wFqGa0
>>106

「好きだっていったし、好きだって言ってもらったんだろ?
 じゃあ、アンタがそれを信じ続ければいいじゃねぇか」
 誰がなんと言おうと構わない、自分は相手が好きだって、信じ続ければいい。
 そして、それはアンタにしかできない。アンタが死んだら……それこそ愛の終わりだ」

「好きだっていったし、好きだって言ってもらったんだろ?
 じゃあ、アンタがそれを信じ続ければいいじゃねぇか。
 誰がなんと言おうと構わない、自分は相手が好きだって、信じ続ければいい。
 そして、それはアンタにしかできない。アンタが死んだら……それこそ愛の終わりだ」


状態表を
【F-4/北部森林/夜】
【ソフィア(女勇者)@DQ4】
[状態]:HP2/5 表情遺失(人形病)
[装備]:奇跡の剣@DQ7、メイド服@DQ9、ニーソックス@DQ9
[道具]:ソードブレイカー@DQ9、小さなメダル@歴代、オリハルこん@DQ9
     KBP GSh-18(16+0/18)@現実、基本支給品*2
     不明支給品(ソフィア(0〜1)、キーファ(0〜2)、カーラ(0〜1(武器ではない))
[思考]:終わらない
[備考]:六章クリア、真ED後。

に修正します。
115おもひでぽろぽろ ◆CruTUZYrlM :2013/05/09(木) 23:51:24.52 ID:Ig+wFqGa0
 
悪魔の声が、二人に事実を突きつけていく。
死んだ人間の名前、それが淡々と読み上げられていく。
足が止まる、動かせるはずもない。

逃げられない事実、その中には知っていた事実と知らなかった事実。
片方は、一人の足をその場に縫いつけるのには十分すぎるナイフだった。
二人で、ぼうっとその場に立ち尽くす。
言葉も、会話も、何もない。

「……行くぞ。時間が、無い」

先に沈黙を破ったのは、テリー。
目に浮かぶ涙を拭い、いつもの真剣な表情を作り。
何もなかったかのように歩き出していく。

その足を止めるのは、マリベル。
テリーの服の裾をつかみ、先に進もうとしているテリーの足を止める。
テリーは、それを振り払うことはしない。
だって、その手はとても震えていたから。

「なんでよ」

マリベルの口から放たれた言葉は、とても震えていて。

「なんっ、で! アンタは! 嘘をっ、つくのよ!!」

誰が聞いても、泣いていると分かる声だった。

「お姉さんを、たった一人の家族を亡くしたんでしょ!?
 しかも、自分の手で殺しちゃうなんて、最悪の形で!
 なのに、なのになのに、なんでそんなにケロっとしてられるのよ!!
 家族よ!? 大事な大事な家族でしょ!? なんで!? ねえなんで!?」

まるで子供のように、泣きわめき、グズり散らして行く。
テリーの胸元に駆け寄り、その胸をグーで叩いていく。
あたりに何もない平野に、マリベルの鳴き声だけが響きわたる。

「アンタが、アンタがケロっとしてるから……友、なぐじたアダシが、泣げないじゃ、ない!!」

マリベルは、テリーを慰めようとしていた。
よりにもよって、たった一人の肉親を自分の手で殺めることになった彼の事を。
彼の側で歩くことで、少しでも心の支えになれればと。

でも、それは自分がしっかりしていればの話。
初めの放送、ガボとキーファという友達を失った彼女の心には、傷が深く残っていた。
それを隠しながらテリーとなんとか過ごしていたが、そこに先ほどの放送である。

アルスとアイラの死、その事実がハンマーのように、彼女の心の柱を叩き壊す。
116おもひでぽろぽろ ◆CruTUZYrlM :2013/05/09(木) 23:51:59.48 ID:Ig+wFqGa0
「もうやだ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!
 みんな、みんなアダシをおいでっぢゃうの!!
 キーファも! ガボも! アルスも! アイラも!!
 みんなバカバカバカ!! バカにバカを水増しした奴ばっかりじゃない!!」

より強く大きな声で叫び、喚いていく。
喉が枯れそうになっても、いつもはツンと澄ましている顔が涙と鼻水でぐしょぐしょになっても。
感情に衝き動かされるままに、泣き叫んでいく。

しばらく嗚咽が続いた後、マリベルはゆっくりと口を開く。

「でも友達、亡ぐす、ごとより、家族を亡くず、ことの、方がっ、づらい。
 だぶん、あだじも、パパと、ママが、死んじゃったら、まどもじゃ、いられない」

そこまで言い切ってから、再び嗚咽が続く。
テリーはただ、それを黙って聞いている。
短く息を吸い、涙を流し、肩を震わせながらも、マリベルは言葉を続ける。

「だがら……たっだ、一人のお姉ざん、亡くしだ、アンダには……泣いで、ほじい!!」

言葉が続く。

「じゃないと、アタシが泣けないの!!!」

命令であり、願望であり、希望。
これでもかというほど泣きじゃくり、テリーの胸をどんどんと叩きながらも願うこと。
マリベルの止まらない叫びが、澱んだ空に溶けていく。

「……悔しいんだ」

ふと、テリーが口を開く。
それに反応するように、テリーの胸の中でぐずっていたマリベルもぴたりと泣くのをやめる。

「どう、いう」
「いつか……いつか、姉さんが安心できるくらい強い奴になるって、あの日決めたんだ。
 何も心配しなくていい、俺一人で生きられるって、胸を張れるくらいに」

マリベルの目を見るわけでもなく、どこか一点をみるわけでもなく、テリーはただ遠くを見つめて言葉を紡ぐ。
何とか文章として成り立たせられる程度の、バラバラの言葉をつなぎ止めていく。

「でも結局、姉さんの認識は変わることはなかったんだ。
 姉さんが殺しに乗ったのは、俺が弱いと思われてたからだ。それはハッキリしてる。
 俺は……姉さんの中の俺は、あの日のまんまだ」

遠い遠い、いつか小さかった頃の光景を目に写し。
テリーはただひたすらに、言葉を紡ぐ。
その言葉を、マリベルは黙って聞いている。

「俺がもっともっともっと強ければ、姉さんは死なずに済んだんだ。
 俺が、弱いからいけないんだ。俺が弱いから、姉さんは死んだんだ。
 だから……悲しいより、悔しい。何もできない自分が、悔しい」

ミレーユを殺したのは、テリーという事実。
それは、物理的な意味だけではない。
様々な意味を伴って、ミレーユを殺したという事実が、テリーにのしかかっている。

「自業自得なんだよ――――」
117おもひでぽろぽろ ◆CruTUZYrlM :2013/05/09(木) 23:53:20.56 ID:Ig+wFqGa0
 
ぱしん。
軽い音と共に、頬にひりひりとした痛み。
ゆっくり前を向く、涙をぼろぼろとこぼしながらキッと睨んでいるマリベルがいる。

「バカ!!」

きっぱりと言い放つ。

「後悔とか自責の念を聞きたいって言ってるんじゃないの!!
 あだしは!! アンダに!! 泣いで欲じいだけ!!
 今! アンダは! 泣いていい、泣いていいの!! だから、お願い!! 我慢しないで、泣いて!!
 お願いよぉおおお……お願いだから泣いてよぉ……」

感情をむき出しにし、マリベルは訴えを続ける。
泣いていい、泣いていい時なのだ。
だから、泣いて欲しい。
我慢せずに、ぼろぼろと泣いて欲しい。
別に何ともないなんて、言わないで欲しいだけ。

再びテリーの胸をどんどんと叩き始めるマリベル。
その体が、ふいにテリーの方へと寄せられる。
マリベルの頭の後ろには、テリーの片手。
ぐい、と抱き寄せられ、押しつけられるような感覚。

「悪い」

短くぼそりと一言告げてから、言葉を続ける。

「しばらく、こうさせてくれ」

ぽろ、ぽろぽろと。
マリベルの頭巾に冷たいものが染み込んでいく。
それが何なのか、マリベルにはすぐ分かった。

だから、自分も思いきり甘えることにしよう。
涙という涙を、ここで流してしまおう。
もう、これから先に、悲しんでいられる暇なんて無いだろうから。

少女は喉が枯れるほどの大声を上げ、青年の胸で泣く。
青年は少女を強く抱き寄せ、声を押し殺して涙を流す。

真実というナイフはもう足には刺さっていない。
だけど、もう少しだけここにいよう。
もう少しだけ、あと少しだけ。

いっぱい、いっぱいいっぱい泣いたら。
それから、歩きだそう。
118おもひでぽろぽろ ◆CruTUZYrlM :2013/05/09(木) 23:53:51.06 ID:Ig+wFqGa0
 
【C-7/中心部/夜】
【テリー@DQ6】
[状態]:ダメージ(大)、背中に打撲、MP消費(中)、焦げ、"   "
[装備]:雷鳴の剣@DQ6、ホワイトシールド@DQ8
[道具]:支給品一式(不明支給品0〜1)(武器ではない)
[思考]:泣いたら欲望の町へ
[備考]:職業ははぐれメタル(マスター)
(経験職:バトルマスター・魔法戦士・商人・盗賊 追加)

【マリベル@DQ7】
[状態]:MP消費(小)
[装備]:マジカルメイス@DQ8 水のはごろも@DQ6
[道具]:支給品一式 (不明支給品0〜1)
[思考]:泣いたら欲望の町へ

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以上で投下終了です。
規制解けて本当に良かった……
ご意見ご感想など、お気軽にどうぞ!
119名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/10(金) 00:08:43.42 ID:PhQaWvp40
おおう……もう……
二人ともまじ頑張れ
投下乙でした
120名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/11(土) 20:15:13.04 ID:RhYGB4Li0
投下乙です

ソフィアの凶器にも思える言葉をちゃんと受け止められるローラ姫の強さが際立つなあ
しかし泣けない笑えないでソフィアは、安定してるのに危ういんだけど
「終わらない」「生きる」という二人の思考は何とも頼もしく感じますね

一方その代わりとばかりに大号泣するテリーとマリベル
後ろから隣へ、そしてようやく正面へ
悲しみを受け止めてまた再起してほしい二人です
121 ◆HGqzgQ8oUA :2013/05/11(土) 20:20:45.13 ID:RhYGB4Li0
 激情のままにオルテガを蹂躙しきったリンリンは、南へと足を進めていた。
 恐らくは絶望の町へと逃げ込んだであろう、アルスの同行者たちを追って、今度こそ殺す。
 殺意をオーラのようにその身に滾らせて、新たな一歩を踏み出そうとして――すっころんでいた。

「――あら?」

 思わず困惑するリンリン。その原因は明白だ。
 片腕の喪失、それは生半可な負傷ではない。
 歩くときには普通、少なからず腕を振る。
 それができなくなるのだから、当然、体の動きには違和感が生じる。
 まともに戦う以前に、まともに歩くことも、慣れるまでは難しい。
 これまでなんとか誤魔化せていたのは、思い込みやら、テンションやらによるところが大きい。
 オルテガに対して激情をぶちまけたことで、それまでのテンションはすっかり霧散しきっていた。
 落ち着いてしまえば、顔を見せるのは蓄積した疲労たち。
 この半日、ひたすらリンリンは戦い続けてきた。
 夢だから疲れない、そんな風な思い込みの元に、戦い続けてきた。
 ここが現実である可能性を指摘され、それを少なからず受け入れつつある今。
 そんな誤魔化しはもう、通じなくなっていた。

(しばしの休息と、調整が、必要ですわね……)

 予定変更を余儀なくされたリンリンは、そのままその場で休息することを選んだ。
 大嫌いな世界を殺し尽くすために、ほんの少しだけ意識を手放した。





 勇者アレルが、アリアハンを旅立つ。
 その一報を耳にした腕利きの冒険者たちが、続々とルイーダの酒場に集まってきていた。
 当然のようにアレルについていこうとしたリンリンの、はじめての冒険は酒場へのおつかいであった。
 仲間を募るから、それを伝えてこい、と。
 さすがに、二人旅では無謀だということは、アレルも理解していたのだろう。
 リンリンとしては別にそれでもよかったのだが、アレルがそう言うのだから仕方ない。
122孤高なる少女 ◆HGqzgQ8oUA :2013/05/11(土) 20:22:16.95 ID:RhYGB4Li0
 そうやって選ばれたのは、リンリンより少し年上の女戦士と、老魔法使いの二人だった。
 どうしてこの二人が選ばれたのかは、特に聴かされなかったし、どうでもよかった。
 改めてリンリンも指名されていた。
 喜ぶリンリンの裏で、選ばれなかった腕自慢たちはざわめいた。
 老獪な雰囲気を纏っているとはいえ、老魔は明らかに身体能力で若者に劣っていそうだし、
 残る二人はまだまだ華奢(に見える)女たちだ。
 さらにはそのうち一人は勇者アレルと昔からの顔見知りの人間ときている。

「ハナっから身内びいきの出来レースってか?」
「冒険はままごとじゃあないんだぜ、なめやがって」
「勇者サマの嫁探しにでも付き合わされた気分だぜ。くだらねえ」
「この見る目のなさ、勇者とやらは大したことねえんじゃね?」

 少なからず腕に覚えがあると自負した者たちが、あらぬ陰口を叩きはじめたのも、仕方のない部分はあった。

 そうした言葉は、町で最後の身支度をしているうち、いやでもリンリンの耳に入ってきた。
 戯言だと聞き流そうとしながらも、動揺は隠しきれない。
 アレルは確かに、リンリンの幼きころからの友達だ。
 しかし仲間を募る以上、アレルはリンリンを置いていくという選択肢を取ることもできたはずだ。
 リンリンとしては断固として受け入れない話ではあるが、実際アレルはそれをしなかった。
 それは暗にリンリンの実力を、ある程度は認めてくれていたことに他ならない。
 けれどもそうハッキリと断言をできるほど、当時のリンリンはまだ自信をつけていなかった。
 武術の鍛錬は十分に積んできたつもりだ。しかし実戦経験に乏しかったのも事実。
 取り組んできた修練が、ままごと同然のものかもしれないという懸念を、完全に否定しきれなかった。

「言わせておけばいいのだ」

 酒場の裏口、食料を纏めつつ唇を噛んでいたリンリンに、後ろから声をかけたのは一人の女戦士だった。
 外套から伸びる、すらっとした手足には、ところどころに傷跡が見える。
 相当な場数を踏んでいることは、容易に見て取れた。

「私たちは選ばれた。しかし奴らは選ばれなかった。
 そんな純然たる差にも気づけぬ耄碌どもに、何を苛立つ必要がある?
 なぁに、本当に"見る目がなかった"かどうか、これから証明してやればいいのだ。戦場でな」

 女戦士の言葉は、リンリンがほんのわずかに抱いていた不安を消し去った。
 どういう理由であれ、アレルが選んだ。それに勝る自信が、一体どこにあるというのか。

「そう、ですわね」

 そう言って笑みを浮かべたリンリンに、女戦士は満足したようだった。

「私はカーラ。職は戦士。
 此度の魔王討伐の旅、勇者に同行することになった。共に強くなろうではないか」
「……リンリンと申します。武術を少々。こちらこそ、よろしくお願いいたしますわ」

 それが、リンリンとカーラとの最初の出会いであった。
123孤高なる少女 ◆HGqzgQ8oUA :2013/05/11(土) 20:23:43.80 ID:RhYGB4Li0
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 戦闘においては、役割分担が重要だ。
 前に出るもの、後ろで呪文を唱えるもの、それらを補助するもの、全体を指揮するもの。
 リンリンが担う武闘家は、いわゆる前衛職だ。
 積極的に最前線に立ち、すばやい動きで敵を翻弄し、打ち倒す。
 カーラが担う戦士もまた、前衛職だ。
 積極的に最前線に立ち、重装備を率いて敵の攻撃を挫き、斬り潰す。
 端的にいえば、リンリンとカーラの戦いの中での役割は、思いっきり被っていた。
 アレルもまた前線での戦いを楽しむタイプだったので、前衛ばかりがまとめて三人。
 なんともバランスの悪い編成であったが、しかし一行にとってはそれが良かったのかもしれない。

「退け、そいつは私の獲物だ」
「そんな鈍い動きでは先制攻撃を許してしまいます!
 あなたにはそこで地を這うカニさんがお似合いですわ!」
「なんだと!」

 今日も今日とて、カーラのリンリンの最前線での獲物の取り合いが行われていた。
 リンリンが大きく跳躍し、空を舞うキラービーの群れを蹴り落したかと思えば、
 カーラは舌打ちしながらもぐんたいガニの群れに飛び込み、甲羅の隙間から次々に剣を突き立てる。


「「次!!」」

 互いに成果を挙げていることを確認して、挑発するように笑う。
 本能的に危険を察知し、怯える残る魔物たち。それらに向けて、二人は飛び掛っていく。

「おーい、俺の分も残しとけよ」
「こっちは別にかまわんがね、魔力が温存できるならそれに越したことはねえ」

 そんな二人を勇者と老魔は茶化しながら、やはり笑っていた。
 命を取り合う戦場という舞台でありながら、まるでゲームを楽しんでいるかのように一行は躍動した。
 それを可能としていたのは、それぞれの持つ圧倒的なまでの戦闘センスのおかげだったといえよう。
 重装備で身を固めたカーラなら、怪力を振るう暴れ猿の攻撃を、真っ向から受けて立つことができた。
 軽装備で戦場を飛び回るリンリンなら、中空から呪文を唱える魔女を、詠唱の間に手早く打ち落とすことができた。

 あれこれと言い合いつつも、自然とそれぞれが最適な相手を選び、それを倒す。
 思うがままに動き回ることで生まれる協調性が、そこにはあった。
 冒険の中で数多の衝突をしながら、リンリンとカーラは、お互いの実力を認め合い、力をつけていった。
124孤高なる少女 ◆HGqzgQ8oUA :2013/05/11(土) 20:26:23.18 ID:RhYGB4Li0
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「……賢者に、ですの?」
「ああ、転職をしようと思っている」

 ある夜、珍しくカーラがリンリンの元へ訪れると、相談を持ちかけてきた。
 その手には、悟りの書と呼ばれる古の書物が握られている。

「私たちがそれとなくしてきた役割分担にも、徐々に限界が見えてきたように思えてな。
 いや、不要になった、というべきか。
 リンリン、お前は力をつけた。何者にも遜色なく正面から立ち向かうことができるだろう。
 そして私も力をつけた。今や速さは敵ではない。お前という速さを真横で見てきたのだからな」
「だから次は呪文というわけですのね?」
「そうだ。攻撃呪文をヤツと共に使いこなせれば、より敵の殲滅は容易くなるだろう。
 そして回復呪文を使いこなせれば、より長きに渡って戦い続けることもできるはずだ」

 カーラのその目は、新しいおもちゃを与えられた子供のようにキラキラと輝いている。
 そんな顔をして語るのは、血なまぐさい戦場での自身の活躍だというのだから、末恐ろしい。
 リンリンも、人のことはまったく言えないが。

「確かに最近は、私たちにも生傷が増え、アレルの手を煩わせることも増えていましたわね。
 でも、それをどうして私に? アレルにはもう話してありますの?」
「いや、これからだ。なんとなくだが、お前に先に話しておきたかったのだ。
 これまで不本意ながらも、コンビのように戦ってくることも多かったからな。
 これからは前をお前だけに任せることも多くなるだろう。
 それがいきなりだと、ひょっとしたら不安がるのではないかと思ってな」
「なかなか面白い冗談を言いますわね」

 むっとするリンリンを見て、カーラは声を出して笑った。つられて、リンリンも笑う。
 ひとしきり笑ったあと、カーラはぽつりと呟いた。

「私は今、戦うことが特に楽しい。強くなることが、とても楽しい。
 こんなにも刺激に満ちた世界があったのかと、感服している。
 剣を一度でも多く振るうことが楽しい、それで敵を一体でも多く倒せることが楽しい。
 きっと呪文が使えれば、もっと楽しくなるのではないかと思うのだ」
「一から鍛えなおすことに、恐れはありませんの?」
「恐れ? そんなもの、あるものか。楽しむためにする努力は、努力とも思わんさ」
「……私、あなたのことを傲慢チキの頭でっかちだとばかり思っていましたけど……。
 意外と、がんばりやさんでしたのね」
「はっ、お前もなかなか面白い冗談を言うじゃないか。
 まあいい、そういうわけだ。明日から私は賢者として生きることになる。
 慣れるまでしばらく手間をかけると思うが、よろしく頼む」
「ええ、頑張ってくださいな」
125孤高なる少女 ◆HGqzgQ8oUA :2013/05/11(土) 20:29:04.12 ID:RhYGB4Li0
 それから、カーラは賢者として、めきめきと力をつけていった。
 戦士だったころとさほど遜色なく剣を振るい、それでいて新たに習得した呪文を事も無げに使いこなしてみせる。
 加えてその頃から、カーラはアレルと会話することが増えた。
 武器と呪文、そのどちらも使いこなすもの同士として、いろいろと語らうことが増えたのだろう。
 そうしたカーラの姿は、リンリンのさらなる闘志を燃やすのに大いに貢献した。
 その拳で貫けぬものは次々となくなり、その速さを捕らえられるものは次々といなくなった。

 そうして二人は魔王討伐のための、欠かせない力となっていったのだった。





(虫の知らせ、というやつだったのでしょうね)

 いつの間にか、夢を見ていた。
 ずいぶんと昔に感じられる、冒険の旅の夢。
 どうしてそこにアレルではなく、カーラばかりが出てきたのか。
 その意味を、リンリンは流れてきた放送を聞いてすぐに納得した。

 リンリンの世界のほとんどすべてはアレルで占められていたし、今だってそう確信している。
 けれど、それは百パーセントではなかったと、失った今になってそう思いはじめていた。
 アレルとの旅を一緒にしてきた仲間たち。
 カーラと、魔法使いのお爺さまもまた、ほんの僅かであれどリンリンの世界を彩る一部だったのだ。

(どうして、死んでしまったの、カーラ)

 アレルの強さを間近で見てきたように、カーラの強さもリンリンは間近で見てきた。
 剣さばきは鋭く、呪文は疾い。
 少なくともアレルの次くらいには強いはずだった。
 そのアレルでさえ死んだのだから、カーラが死なない道理なんてどこにも無いのだが、
 それでもリンリンは、叫ばずには居られなかった。

「――私が殺してやりたかったのに、どうして死んでしまったの、カーラ!!」

 一度声に出してしまえば、感情の奔流はもう、止まらない。

「あなたはいつまでだって、戦っていたかったのでは、なかったの!?」

 カーラはいつだって、命を賭けた戦場の中に身を投じることを望んでいた。
 死ぬことを恐れてはいなかった。
 だからといって、死に場所を探していたわけでは決して無かったはずだ。
 戦うことが楽しいと、目を輝かせた彼女の顔が浮かんで消えていく。

「私たちは、一緒に戦って、競うように強くなって――」

 魔物との戦いは、いつだってカーラとの戦いでもあった。
 気を抜けば、先を越される。
 戦いが終われば、どちらかより多くの魔物を倒したか、その数を競い合った。
 数で劣れば冷笑され、それがとても頭にくるのでより熱心に打ち込んだ。

「一緒にアレルを想えたあなたがいなければ、きっと私はここまで強くはなれなかった!」

 いつかアレルとも戦ってみたいものだと、カーラはその野望をリンリンに語ることがあった。
 それはリンリンも同じだったので、大いに賛同し、時には手を合わせた。
 もちろん、それらはカーラの望むような命を賭した戦いとは、ぜんぜん違うものであったから、
 彼女にとっては些細な、つまらない余興のひとつだったかもしれない。

「あなたとの戦いは、楽しかった! 冒険は、楽しかった……!」
126孤高なる少女 ◆HGqzgQ8oUA :2013/05/11(土) 20:31:17.22 ID:RhYGB4Li0
 しかしリンリンにとっては、それは十分に充実した、彼女との戦いの日々だった。
 アレルから自由を奪い縛り付けた、大嫌いな世界。
 そんな世界で過ごしたかつての冒険は、そう、楽しかったのだ。
 それは矛盾だった。
 勇者オルテガがいなければ、勇者アレルが生まれてこなかったように。
 アレルに勇者という肩書きがなければ、楽しかった冒険の旅は、そもそも始まらなかったのだから。
 勇者という鎖を作りあげたこの世界を、否定すること。
 それは、これまでの冒険の思い出のすべてを、否定することと同じこと。

「だからこそ、あなたは私の手で殺したかったのに……なのに……!」

 それでもよかった。むしろ、それが良かった。
 これから世界を壊すのに、楽しかった思い出なんてもう必要ないから。
 アレルに縛られなくなった、今ならわかる。
 カーラは唯一リンリンと“対等”に限りなく近かった、そんな好敵手だったのだ。

「うぅ、うああぁ……!」

 しかし、カーラは死んだ。
 大好きだった戦いを辞めて、リンリンを置き去りにしていった。アレルと同じように。
 殺したいという願いすらも、世界はかなえてくれない。

「うあああああぁぁあああぁあああああああぁああああああぁぁぁっ!!」

 慟哭。
 そこに如何なる感情が混じっていたのかは、リンリン自身にさえ、良くわからなかった。





 ひとしきり吐き出し終えてしまえば、後に残るのは虚無感だけだった。
 結局は、遅かれ早かれすべて壊してしまうもの。
 それが少しだけ早く、そして大いに楽になった。それだけのことである。
 そう思ったとき、リンリンの世界は再び静寂に包まれた。

 カーラと同じくして、魔王バラモスも、再び滅びたらしかった。
 オルテガ、バラモス、そしてカーラ。
 アレルを勇者たらしめた世界を彩った主要な人物たちは、既にほとんどが死に絶えつつある。
 残すは“おじいさま”だけだが、まあ、彼のことだ。
 食えない顔をして、いつもどおり、飄々とやっているに違いない。
 戦場に身を置いてさえいれば、いずれはめぐり合うことになるはずだ。
127孤高なる少女 ◆HGqzgQ8oUA :2013/05/11(土) 20:34:01.38 ID:RhYGB4Li0
 リンリンは、ゆっくりと歩き出した。
 亡くした腕をつい振ってしまおうとして、少しよろける。
 どうやら未だ不慣れなことを、認めざるを得ないようだった。
 すぐに放送が来てしまったので、休息の時間はほとんど取ることはできなかった。
 再び休み直してもよかったのだが、禁止エリアがそれを許してはくれない。
 今いるエリア【E-3】は、数時間後に禁止エリアになるという。
 このまま居座った結果、寝過ごしておしまい、なんてのは冗談にもならない。

 休むにしろ、片腕に順応するための特訓をするにしろ、動きだす必要があった。

 一歩、踏み出す。
 今度はよろけたりはしなかった。
 一歩。
 一歩。
 リンリンは進んでいく。
 終わりへ向かって、進んでいく。



【E-3/平原/夜】

【リンリン@DQ3女武闘家】
[状態]:ダメージ(中)、腹部に打撲(小)、軽度の火傷、左腕喪失
[装備]:星降る腕輪@DQ3
[道具]:場所替えの杖[8]、引き寄せの杖[9]、飛び付きの杖[9]、ふしぎなタンバリン@DQ8
    銀の竪琴、笛(効果不明)、ヤリの秘伝書@DQ9、釣り糸(テグス)@現実、支給品一式×7
[思考]:全員殺す 世界を壊す たとえ夢であろうと その為に休息しつつ、片腕に慣れたい
[備考]:性格はおじょうさま

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投下終わりです。
128名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/11(土) 22:33:56.30 ID:4rc4zc5qO
投下乙です
共に戦い、アレルを慕った女同士の関係にぐっと来た
リンリンだってここまで生きてきて、アレル以外に失うものもあるよなぁ、そりゃ
スイッチオンで戦い続けたリンリンの、つかの間の独白がどこか切ない…
129名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/12(日) 19:33:25.47 ID:aaM8BK7E0
投下乙です。
回想のカーラさんが凄く子供みたいで、とてもイキイキしていて。
いいライバルだったんだろうなぁって、凄く思います。

リンリンにもう捨てるものがなくなりつつありますね。
あとは、壊すだけ。
130名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/12(日) 19:35:42.71 ID:WLXdU6rY0
3のキャラはまともなやつがいねぇww
131名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/12(日) 19:39:15.95 ID:DUE0OfwF0
アレルのお母さんはどんな人だったんかなあ
132暗闇を掴んでしまった ◆CruTUZYrlM :2013/05/12(日) 20:52:03.71 ID:aaM8BK7E0
ヤンガスは、休息を選んだ。
今度こそ事を見誤らないように、状況を万全に整えていく必要がある。
傷ついた体では、正しい判断も鈍ると言うもの。
だから、ここに残って傷を癒す事に専念しようと決めた。

しばらくし、十分に傷も癒え、歩きだそうかとしていたころ。
少し遠くで、何かが爆発する音が聞こえた。
音のした方角は、ミーティアとピサロが向かった方角。
まさか、と一抹の不安を抱えながら、ヤンガスは軽く身支度をし。
一歩ごとにズキリと痛む傷跡に表情を歪めながらも、音のした方へ歩きだしていった。



そして、天に鳴り響く放送が耳に入る。



そこにあったのは、ヤンガスにとって一番聞きたくなかった名前。
ミーティア。
エイトの代わりに自分が守ると決めたはずの少女。
この殺し合いに勇気を持って、果敢に立ち向かっていた少女。
そして、誰よりも優しく慈悲の心を持っていた少女。

その名が呼ばれたという事は、どう言うことか。

「くっ、そおおおおおおお!!」

思わず、叫んでしまう。
回復した体力を使うことも惜しまず、天に鳴り響く声で叫んでしまう。
また、道を見誤った。
体がどうなろうと、ピサロについていくべきだったのか。
結局自分は、自分のことしか考えていなかったのではないか。
守る守ると口だけは達者でも、その行動はまるで真逆を行っている。

ミーティアを守るという誓いすらも、守れない。
もう、ヤンガスに守れるものなんて、何もない。
放送によって虚無を叩きつけられたその時。
大きな影が近寄ってくることに気がついた。

醜い獣の顔を持ち。
奇怪な衣装に身を包み。
手には黄色く雷をまとう刃。

"魔物"が、向かってきていた。

どこから? ミーティアたちの向かってきた方向から。
まるで逃げるように、こちらに走ってくる。
見れば新しい傷が多々残っている。

考えることは苦手、状況を察するのも得意ではない。
そんな彼でも、瞬時にたどり着く答え。
目の前の魔物が、ミーティアたちを殺した。

そして、手負いとなったところで逃げてきた。

「うおおおおおお!!」

気がつけば痛みも忘れ、斧を握りしめて魔物に飛びかかっていた。
それは、数刻前の鏡写しのように。
133暗闇を掴んでしまった ◆CruTUZYrlM :2013/05/12(日) 20:52:45.99 ID:aaM8BK7E0
 


ついに恐れていたことが起こってしまった。
弁明の余地すらなく、魔物と人の戦いが始まってしまった。
「待て! 話を聞け!」
短い刃と加護を受けた盾で、大振りの斧をいなしながらゲロゲロは叫ぶ。
だが、男は聞く耳を持たない。
ただ力任せに、斧を振るっていく。
「ぐっ……!」
斧が僅かに肩に食い込む。
有り余るパワーが相手、いくら加護を受けた盾とはいえ、それを防ぎきるのは難しい。
いや、そもそも手負いだというのに防ぐことが出来ているのは、彼が人ならざる者だからか。
対峙している男にとっては、しぶとい魔物という認識でしかない。
「頼む! 話を聞いてくれ! 私に戦意はない!」
「ドス黒いモン出しておきながら、そんな台詞がよく言えたもんだな!」
男に投げかけられた言葉と重なるように、ゲロゲロの頭の中で声が響く。
(やはり人間は野蛮よの……生かしておく価値もない)
「うるさいっ! おまえは黙っていろ!!」
斧を受け止めると同時に、ゲロゲロが叫ぶ。
頭に響く声、それは彼を惑わせる声。
ゲロゲロではない、ムドーの声。
(しかし、いつまでそうしていられるかな? 向こうが話に応じるわけもない。
 さっさと殺してしまわねば、お前が死んでしまうぞ?)
「黙れと言っている!!」
頭の声に向け、必死に声を重ねていく。
耳を貸してはいけない、心を奪われてしまうから。
「何ごちゃごちゃ言ってんだ!」
だが、さすがに声に意識を傾けすぎたか。
続くヤンガスの攻撃に、一瞬だけ反応が遅れた。
「ぐあッ……」
肩口に深く刺さり込む斧に、苦悶の声が漏れる。
力が抜け、ぽとりと盾をこぼしてしまう。
まずい、と思ったときには既にヤンガスは動いていて。
とっさに構えた刃も、意味を成すことはない。
きぃん、という軽い音と共に、刃が空を舞っていく。
僅かに軌道がズレた斧が、今度は横腹に突き刺さる。
溢れ出す紫の血、人のそれとは違う色。
「ま……って、くれ」
荒くなる息、霞んでいく視界、力が抜けていく感覚。
ダメージが蓄積されたゲロゲロの体には、ヤンガスの二回の攻撃は、十分すぎる痛手だった。
体を動かそうにも思い通りに行かず、盾を拾いに行くことも、刃を持つことも出来ない。
声を出しても、弱々しく空気に溶けていくだけ。
そして、ヤンガスの殺気は消えることはない。
こんな形で、惨めにも死んでいくのか。
魔物は魔物らしく、死んでいくだけだというのか。
そう思い始めた頃、突然視界がクリアになる。
やたらとスローモーに進んでくるヤンガスの斧。
その軌道は、ぴったりと自分の頭を捉えている。
もう、言葉を投げても届かないだろう。
無念を抱きながら、ゲロゲロは頭に斧が振り下ろされるのを待った。
134暗闇を掴んでしまった ◆CruTUZYrlM :2013/05/12(日) 20:53:18.71 ID:aaM8BK7E0
 


ざぎゅり。

肉を切り裂く音がする。

がぶり。

肉に食らいつく音がする。

えっ?
食らいつく? ははっ、何を言っているんだ。
そんなわけが、あれ。

動かなかったはずの腕が、動いている。
それどころか体中にあった傷も、疲労も消えている。
何故?
足下で復活の玉が砕けている事から、理解する。
いつ、復活の玉を出した?
覚えていない、覚えていない。
伸ばした右腕がヤンガスの両手を掴んでいることも。
伸ばした左腕がヤンガスの心臓を貫いていることも。
自分自身の口がヤンガスの喉元を噛んでいることも。
何一つとして、覚えてはいない。

(ふん、手間をとらせおって……)

頭に声が響く。
快楽と愉悦が、脳を支配する。
自分の奥底、どこかで知っている。
人の肉を切り裂く感覚を。
人の血を啜って味わう事を。
人の絶望に満ちた顔を。

「わ、わ、わ、わ」

断片的に蘇る記憶。
自分は確かに、魔物として。
この感覚を味わっていたという事を。

目の前に、肉の塊へと変わっていく、一人の人間。

体の奥底、心のどこかで。

ニヤリと笑っている、自分。

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!」

弾けるように、逃げる。
意識を一瞬でも手放したのが原因だったのか。
悪しき心に付け入られ、惑わされた自分の心の弱さ。
135暗闇を掴んでしまった ◆CruTUZYrlM :2013/05/12(日) 20:53:49.72 ID:aaM8BK7E0
 
(迷うな、受け入れろ……)

声が響く。

   "ムドー" "ゲロゲロ"
それは自分であり自分ではない。

だが、"ムドー"も自分であることは事実。

ならば――――"ゲロゲロ"とは何なのか。

思い出してしまったことと、支配されそうになる恐怖。
それら……いや、"自分"から逃げるように。
ゲロゲロはその場から、飛び出していった。

手についた血を拭うこともせず。
口に残った血の香りを忘れようと必死になりながら。
ただ、ただ、足を動かしていった。



「ち……く、しょ」
残された男、ヤンガス。
彼もまた、手負いの男だった。
しかし、手負いでも勝てるだろうという意志があった。
相手はたった一匹の"魔物"だから、後れをとることはない。
その認識が、甘かった。
最後の一撃を振り下ろす前、魔物がニヤリと笑い、身に纏う気配が激変した。
黒ずんだものが、外へ弾け飛んでいくように。
同時に今まで見せなかった機敏な動きが襲いかかり、反応が遅れた。
がしりと両腕を纏めて掴まれ、骨を砕かれる。
空いた片手は自分の腹を裂き。
そして、その牙は喉へ突き立てられた。

流れ出ていく血を、止められない。
力が抜けて、意識が遠のいていくのがわかる。
それでも、ヤンガスは拳を握りしめる。

「ちく……しょ、う!」

だが、間もなくして力は解かれ。
ぱたりと手は地面に落ちる。
何かを成すこともなく、何かを伝えるでもなく。
殺し合いという環境に惑わされ、踊らされ、あざ笑われた。
一人の山賊が、静かに眠っていく。

その胸に、大いなる悔いを残して。

【ヤンガス@DQ8 死亡】
【残り26人】

【E-5/北部/夜】
【ゲロゲロ(ムドー)@DQ6】
[状態]:記憶喪失(少し戻ってきた) HP9/10 殺人衝動
[装備]:スライムの服@DQ9、スライムヘッド@DQ9、雷の刃@DQS
[道具]:支給品一式、超万能薬@DQ8、トルナードの盾@DQ7、賢者の秘伝書@DQ9、ビッグボウガン(矢なし)@DQ5
[思考]:今は逃げる、西へ。
     タバサの両親を探す。血の匂いのする人間を避ける。エルギオスの言葉を忘れない。
[備考]:主催者がムドーをどう扱うかは未知数です。主催からアイテムに優遇措置を受けています。
136 ◆CruTUZYrlM :2013/05/12(日) 20:55:37.88 ID:aaM8BK7E0
投下終了です。
ご意見、ご感想などあればお気軽に!

そして、21時より、DQBR2ndラジオ「チャモっていいとも!!」です。宜しくお願いします!
URL:http://ustre.am/JFBT
実況:http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/5008/1368358661/
137名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/13(月) 00:24:12.00 ID:Lfc8g/VW0
ヤンガスは結局空回りしたまんま終わったな。
つーか前回活躍したせいか、今回の8勢はロクな目にしかあわねぇな
残りのゼシカに期待する
138名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/13(月) 01:50:03.77 ID:+zNOWxCgO
投下します
139いつか逢いにいこう ◆TUfzs2HSwE :2013/05/13(月) 01:52:06.17 ID:+zNOWxCgO
.


噎せ返るような血の臭いに、吐き気がする。
けれどもそれで屈するわけにもいかず、ソフィアは草を毟る手を必死に動かした。

その手を進めるたびに、ついさっきまで生きていたはずの身体に触れるたびに、厭でも思い返す景色がある。
あの日。
それまであった日常が突然失われ、いくつもの亡骸を目にした、あの瞬間。
ソフィアはただ、ただただ誰かを探そうと、さまよっていた。
シンシアが自分の姿になって、ソフィアを残して出て行って、頭では何が起きたのかなんてとうにわかっていて、
けれども心がわかっていなくて、ただその姿を求めていた。
誰か生きているはずなんだ、と。
シンシアが、死ぬはずなんてない、と。
探しながら。
一人ずつ、一つずつ、骸を確かめるたびに。
身体の中に残っていた胃液も何もかも全部撒き散らして。
流しても流してもとどまるところを知らなかった、滝のような、涙とともに。
その全てが、少女の内から、流れていった。





「……バカやろう」

思わずつぶやいた言葉は、一体誰に対してか。
タバサを葬るローラから少し離れて、ソフィアは森を歩いていた。
きっとそこにあるだろう、亡骸を、確かめたくて。

もしも陽の光があったなら、きっと散らばる銀に反射して、綺麗だったんじゃないか、と。
本当にどうでもいいようなことを思いながら、ソフィアはピサロの亡骸の傍らに立った。
あの日彼女から全てを失わせた男は、今あっさりと、守ろうとした少女に打ち貫かれて、
大きな体躯を枯れた森に横たえていた。
眠るように閉じた瞼を見つめると、今にも目を覚ますのではないかと錯覚する。
本当に、冗談みたいだ。可笑しいにもほどがある。
笑えることだと思うのに、まったく笑いは出てこない。
140いつか逢いにいこう ◆TUfzs2HSwE :2013/05/13(月) 01:53:53.47 ID:+zNOWxCgO
.
「勝手に死ぬことが許されると思ってんのか、手前は」

吐き出した言葉は、死者に対してのそれとは思えないほど辛辣だった。
けれどそこにあったのは、冷たい侮蔑や憎しみなどでは、決してない。

共に戦うようになって、バカだとかなんとかいくらでも罵ったけれど、彼女はもとより、ピサロを憎んでなどいなかった。
全てのことに理由があって、ピサロがソフィアから奪ったことさえ、理由があったのではないかと思って。
それが守りたいもののためだと、あの花の里で出会った少女と話して、明らかになったとき。
ソフィアはピサロを滅ぼすのではなく、救うことを目指していた。

「……取り戻したんだろ。お前はきっと、ロザリーと生きていくって……」

たとえ世界中が、世界を滅ぼそうとしたピサロを、糾弾し続けたとしても。
ソフィアだけはピサロを許すのだと、決めていた。
ソフィアが失ったもの、故郷と、友人と、涙の代わりに、
魔王とエルフの未来があの花の里にあるのなら、それがかけがえのない『理由』になると、思っていたのに。

そう、本当は祈るように。
ソフィアはピサロが生きていくことを、きっと誰よりも願っていた。
だから脅すような言葉で、無理やりにでも、共に行くことを決めさせた。
あのときも、この世界でも。

「こんなでっかい死体、埋葬すんのも一苦労なんだよ……」

死別を経ても、素直な言葉は出てこない。
相変わらず憎まれ口を叩きながら、その言葉に返す者がもう無いことが、ただただ虚しい。
穴を掘って埋めることはひどく困難に思え、ソフィアは周囲からなけなしの草を千切って集める。
少しでも覆ってやりたかった。
人間式に葬ることが、彼にとっては有難いのか厭味になるのかはわからないけれど。
否、例え厭味になったとしても、この手で覆おうと思った。

「……バカピサロ……」

自分に運命を連れてきたこの男を、放っておくことなんか、できるはずもなかったのだ。





名前と母親の顔以外には何も知らない、ただ哀れでならなかった、幼い少女を葬りたかったのは、
子をまだ持たなかったローラの中にある母性が、タバサに対して働いたせいだろうか。
フローラのように、タバサを守ってやることは、ローラにはできなかった。
失ったそのままに、命さえも落としたことが、ただただ哀れでならなくて。
せめてこの子の涙を、ぬくもりを、覚えていてあげることが、報いになるのかもしれない。

柳のようなしなやかな腕を泥土で汚しながら、ローラは必至で、タバサのために穴を掘っていた。
その全身を覆うには到底至らないが、少しでも埋葬の形を取られればいい。
ようやくできた地面の窪みに、冷たい身体を横たえる。

そうして改めて、少女の顔にかかった土を、そっと払ってやったとき。

ひやりと、なにか空気が揺れ動くものを、感じ取って。

「……え……?」
141いつか逢いにいこう ◆TUfzs2HSwE :2013/05/13(月) 02:01:38.22 ID:+zNOWxCgO
.
タバサが失った命が哀れだったから。
それ以上に失った、ローラにとってかけがえのないものから、今はただ目を背けようと。
そうでなければ引きずり込まれて、生きていくことさえできないと、わかったから。
ソフィアに生きると誓ったから。
ローラはただ、タバサだけに祈りを捧げていた。
その亡骸に誰かを重ねることなど、決してしなかったのに。

「……アレフさま?」

声が聞こえる。
その目を拭っても拭っても、いくら耳を塞いでも。
失ったはずの愛する人の、その声が。
張り付くように、張り付くように、鼓膜をうち震わせていく。

「……っ!」

一度気づいてしまえば、溢れるように存在感を増す。
歩くときの歩幅も、肩をそびやかす動作も、涼やかな笑顔も、声も、息遣いも、
覚えていたその何もかもがローラの外に渦巻いて、内にまで注ぎ込まれて。
何が起きているのかわからず、与えられる恐怖と歓喜を制御することもできず、
ローラはただ身体をかき抱きて、その場にうずくまるしかなかった。

「――ローラ!?」

異様な空間を破る声が響いたのは、そんなときだ。
戻ってきたソフィアが見たのは、何も変わらぬ光景の中、一人震えてうずくまるローラの姿だった。

「アレフさま、の」

駆け寄るソフィアの腕をとり、ローラは声を絞り出す。

「声が……気配が……」
「ローラ」

弱弱しく縋ってくるローラの肩を、ソフィアは静かに掴む。
彼女の状態は、先刻まで見たミーティアの状態にも酷似している。
目に見えなくとも、森の中になにかの思念が渦巻いているのを、ソフィアは感じた。
幾つもの死を刻んだ森が、その喜びを謳うようにして煽るそれに、ソフィアは舌打ちする。
142いつか逢いにいこう ◆TUfzs2HSwE :2013/05/13(月) 02:04:09.52 ID:+zNOWxCgO
.
気付いていれば、ミーティアやピサロに対しても、もう少しまともな対応ができただろうか。
彼らが狂わされていった原因が、彼ら自身に存在したわけではなかったことに。
そしてそれに気づいた今、ローラまで同じように狂わせることなどさせてはならない。
ソフィアは息を吸い、ローラの瞳を決して逸らさず、言い放った。

「……よく聞けよ。本当にそれは、あんたが知るアレフの声か?」
「え……?」

少女がとらわれつつある白昼夢を振り払うべく、ソフィアは言葉を重ねる。

「アレフは本当に“ここにいる”のか?
あんたの旦那は……こんな墓地みたいな場所に縛られて、
あんたを苦しめるようなことを、言うと思ってるのか、あんたは」
「それは……」
「いいか、心を鎮めるんだ。
よく考えれば、ちゃんとあんたの中に答えがある」

“あの日”の自分を、反芻するように。
全てを失ってから、幾日もかけて考えた果てに、たどり着いたソフィアの思い。

「あんたが信じた男は今、どこにいる?」

肩にかけた腕は、その先に、ローラの冷たい手に触れる。
引き寄せて握ると、凍りついたような指にもまだ、生きている人間の体温があって。
その命を震わせるように、力を込める。

渦巻いて混乱していた心が、落ち着いてくるのがわかる。
ローラは静かに目を閉じた。
とりついてくるかのような気配から離れて、ローラが愛した男を、思い浮かべた。

「……アレフ様は、ここにいます」

力ある言葉が紡がれる。
それはソフィアにも、ローラの胸の奥にも響く。
反芻するように、ローラは呟く。

「私の中に、います……」

涙が、あふれた。
不信のままに死別してなお、口にすることのできなかった思いが、今やっと形を成した。
愛していた。
たとえローラだけを選ぶことを、彼がしなかったとしても。
彼がローラに与えてくれたものは、彼を失った今になっても、確かにローラの中にあった。
彼の思いの矛先に関わらず、ローラはアレフという存在を、ただ思い慕っていたのに。

「ごめんなさい。私……」
「……いいんだ。あんたのせいじゃない」

泣き崩れるローラの肩を抱き、その背中をさすってやりながら。
ソフィアは静かに、虚空を睨み付けた。
彼女を取り巻こうとした思念が、離れていくのを感じとりながら。
143いつか逢いにいこう ◆TUfzs2HSwE :2013/05/13(月) 02:07:14.40 ID:+zNOWxCgO
.




ピサロに出会ってから、一つ思い出したことがある。
かつて進化の秘法を使ったピサロは魔界に居城を構えて結界を施し、城の四方に結界を発する装置を据え、自身の手下に守らせていた。
気付いてみれば簡単なことだ。この狭間の世界の大陸もまた、あの魔界と似たような造りをしているように思えた。
四方に人里を置いて殺し合いの拠点にし、四方から死を増やすことで、何かの力を生み出そうとしているのではないか。

「南に絶望、北に牢獄。東に欲望ときて、西はさしずめ、快楽ってとこか」

禁止エリアを書き込むときに開いた地図を改めて眺め、ソフィアは胸の内に、皮肉な笑みを浮かべた。
悪趣味としか思っていなかった各施設の名前にさえ、意味があるように思える。
四方を囲う施設の、その中心にあるのがちょうど、この森だ。
幾つもの死と惨劇を生み出したこの森に、或いは最初から、仕掛けがあったとしたらどうだろう。
各地で生まれた死や絶望が、大魔王に造られた世界の中心に集まってきて、
たとえば死体のあるところに、白昼夢を見せるのだとしたら。
人を故意に絶望に追い込ませる、或いは夢で惑わせるような力が、この場所にあったのだとしたら。

「……ならば、私が見たのは」

平常心を取り戻したローラが、ソフィアの説明に眉をひそめる。

「私を死に追い込ませるための、幻想だったのでしょうか」
「まあ、あくまで仮説だけどな」

言いながらも、ソフィアの胸は確信に満ちていた。
亡骸が増えたせいか、森に渦巻く思念や気配は、先刻より明らかに増している。
そしてそれが、各地の死によって一層力を増し、破滅を生み出してしまうというのなら、
なんとしても止めなければ、ならなかった。
144いつか逢いにいこう ◆TUfzs2HSwE :2013/05/13(月) 02:10:05.14 ID:+zNOWxCgO
.
「森を出よう」

ソフィアは迷わず、そう決めた。
たとえ今は正気でいられたとしても、この先ソフィアでさえ、思念の渦に巻き込まれる危険がある。
ましてや愛するものを失ったばかりのローラの精神が、この森の毒に耐え続けられるとは思えなかった。

「ですが」
「生きているあんたを保護することが第一だ。一刻も早くここから出たほうがいい」
「あの方の埋葬が、まだなんです」

言いながらローラが示すのは、穏やかな笑みを浮かべたまま息絶えた、神官服をまとう一人の男だ。

「……いいんだよ」

ソフィアは静かに、ハーゴンの亡骸に目をやった。

「きっと、人間式に葬られるのは、イヤだろうから」

ローラは静かに、目を見はる。
ソフィアの言葉はピサロに対しての態度とはどこか、矛盾しているようでもあった。
それでもソフィアは、それ以上ハーゴンの亡骸に対して、何かを施すことをしようとは、思わなかった。

なぜかはよくわからない。
何の因果があってなのか、この世界に来てからずっと、二人は共にいた。
人々を救う立場にあった勇者と、滅ぼす立場にあった魔族。
けれども反発しあうこともなく、まるで長年連れ添った旧友のように、いくつもの言葉を交わしあった。
話しているうちに、理解できることも、できないこともたくさんあった。
そしてこんなにも短い付き合いの中で、二人は何かを深めていって。
彼が死んでしまった最後、二人の中にあったのは。
信頼であって。
絆、であって。
そこにはもう、言葉も、施しも、必要ないように思えて。

「行こう」

ソフィアはローラの手を引いて、歩き出す。
カーラの、タバサの、ピサロの、ミーティアの、そしてハーゴンの眠る森に、静かに背を向ける。

(……じゃあね、ハーちゃん)

死した者に引きずられることはしないと、ローラと共に決めたから。
最期の別れだと思っても、ソフィアはあえて振り切ろうとしていた。
交わした言葉も、過ぎ去ってみればそれは過去の一部で。
泣くことも、笑うこともできなくなった少女の胸に、過去の映像が焼き付いているとしても、
未来に時を刻む命がなければ、それはもう遺物でしかない。
ハーゴンが邪神を復活させなければならなかったように、ソフィアもまた勇者として、人を救わなければならない。
ソフィアにとってハーゴンはもう、思い出の一つでしか、ない。
145いつか逢いにいこう ◆TUfzs2HSwE :2013/05/13(月) 02:13:03.10 ID:+zNOWxCgO
.
(バイバイ)

足を進める。
離れていく、彼らの新しい墓場から。
確かに彼らが生きてきた、その最期が刻まれた、あの場所が遠ざかっていく。
ソフィアは最後に一度だけ、別れの言葉を放つ。

「バイバイ、ハーちゃん」





祈るように、生きていてくれることを、願っていた。
死ぬはずがない、生きているはずだと叫んでいた、あの日のソフィアから、
本当は今も、言うほど変わったのではなかったかもしれない。
狂うほどに泣き続けて、いつか涙は枯れきって、それからというもの、泣くことができなくなったけれど。
泣く理由が無くなってしまっただけで、置いて行かれることに慣れてしまっただけで、
涙や笑顔が永遠に失われてしまったわけでは、ないのかもしれない。


生きていた人の記憶を、畳み込んで。
いくつもいくつも、心の棚にしまいこんで、それに引きずられることもしないで、
生きて、生きて、がむしゃらにただ生きて、前に進んでいって。
そうしたら。


たとえ全てをすくえないとしても、いつか。


祈るように、祈るように。
勇者は未だ終わりを見ず、世界を生き続けている。





【F-4/森林南西部/夜中】
146いつか逢いにいこう ◆TUfzs2HSwE :2013/05/13(月) 02:16:05.02 ID:+zNOWxCgO
【ソフィア(女勇者)@DQ4】
[状態]:HP2/5 表情遺失(人形病)
[装備]:奇跡の剣@DQ7、メイド服@DQ9、ニーソックス@DQ9
[道具]:ソードブレイカー@DQ9、小さなメダル@歴代、オリハルこん@DQ9
KBP GSh-18(16+0/18)@現実、基本支給品*2
不明支給品(ソフィア(0〜1)、キーファ(0〜2)、カーラ(0〜1(武器ではない))
[思考]:終わらない 森を出る 殺し合いを止める
[備考]:六章クリア、真ED後。

【ローラ@DQ1】
[状態]:HP3/5
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:生きる 森を出る
147名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/13(月) 02:17:40.62 ID:+zNOWxCgO
投下終了です。
148名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/13(月) 04:50:56.99 ID:KfX7jEpv0
乙です
149名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/13(月) 08:04:51.53 ID:8LvO1mtt0
投下乙です。
ソフィアはもちろんローラさん、強いなあ。
前を向ける、ということが本当に力強く感じます。
ソフィアは既に経験しているっていうのが……もうね
150名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/15(水) 08:02:22.66 ID:PZybtkez0
月報集計いつもお疲れ様です。
DQ2nd 116話(+16) 26/60 (- 8) 43.3 (-13.4)
151クロス・ポイント ◆CruTUZYrlM :2013/05/16(木) 00:42:15.85 ID:tu+VCniN0
死者を告げる悪魔の放送を聞いてから、二人の会話は減っていた。
特に口数が減ったのはロッシュだ。
放送で読み上げられた名の一つ、ミレーユ。
偽物ではなく、本物のミレーユ。
嘗ての仲間が、また一人死んだ。
三人目ともなれば流石にショックは和らぐか、とも思っていたがどうやらそうではないらしい。
むしろ、ロッシュが案じていたのはその末路だ。
悪い言い方をすれば弟に盲目的なミレーユが、この殺し合いにおいてどう振る舞うかを考えるのは難しくない。
ちょっと弟バカの優しいお姉さんを、残酷な殺人者へ変える。
この殺し合いが更に憎く、そして潰すという決意がより強くなる。

「はぁーっ……ったく」

そんなとき、猫車を押していたマーニャが苛立つように溜息をつく。

「……どうかした?」
「世界が滅んでもこいつは死なないだろうなって思ってた、黒くてツヤツヤしたゴキブリみたいな奴が死んだだけよ」
「酷い言い種だねぇ」
「そう? これでもふんわりなめらかホイップソフトな表現よ?」

そういいながら、マーニャはピサロの事を考えていた。

思い出す、あの日のこと。
ソフィアがピサロを仲間に引き込むと言った日。
私は、ソフィアに猛反発した。
真の悪がいるならいるでかまわないし、ロザリーを蘇らせたこともそこまで抵抗があったわけではない。
だが、その一点だけはどうしても納得がいかなかった。
親の仇とも言える存在と、どーして肩を並べて仲良しこよしで過ごさなければいけないのか。
特に、ピサロに対して"仲間"という言葉だけは絶対に使いたくなかった。
真実を知り受け入れたが、許す許さないはそれとは別。
それは、個人の感情なのだから。
結局最後までゴネにゴネまくってはみたものの、ピサロと戦うということに反発していたのはマーニャだけ。
他の六人は理由こそちがえどそれぞれ納得していた。
いつまでも子供のように暴れている訳にはいかない。
その時マーニャは初めて自分を押し殺し、周囲に合わせた。

ただし、一つの条件をピサロに突きつけて。

「いい? 勝手に死んだら許さないんだからね?
 勝手に死ぬぐらいなら、このあたしがイジメにイジメにイジメ抜いて殺してやるんだから。
 覚えてなさいよ、私はあなたを許した訳じゃないわ」

そう、あくまで譲歩。
親の仇とも呼べる存在を、許すことはできない。
たとえ真実がどうだったにしろ、起こった事実に対する評価を改めるには至らない。
だからマーニャは、ピサロに許可なく死ぬことを禁じた。
罪の意識、という訳でもないが。
何かを背負って生きてほしい、そう思っていたから。

そんなピサロが、死んだ。
死を悲しむとか、そういった感情よりも真っ先に思い出したのはその約束だ。
ただで死ぬとは思っていなかったら、こぎ着けた約束だったというのに。
ある種、「生きろ」という約束でもあったのに。

ここが殺し合いの現場であるという認識。
目の前で少女が死んでも、自分が殺されかけても。
まだ、どこかで認めずにいられたこと。
既知の存在が死に絶えた、という事実というピースが。
マーニャの中の、認識というパズルを完成させる。
152クロス・ポイント ◆CruTUZYrlM :2013/05/16(木) 00:43:05.80 ID:tu+VCniN0
「おおい、マーニャ。あれが欲望の町だよ」

気がつけば、目の前には目指していた町が広がっていた。
ロッシュは戦闘が起こっている可能性を懸念していたが、目立った音はしないし、闘気も感じられない。
放送であの魔人の名前が呼ばれたのだから、コトはひと段落しているのは分かっている。
問題はその後の状況、それが最悪の結果でなければいいのだが。
誰かが生き残っていることを願いながら、マーニャたちは欲望の町へと足を向かわせていった。



地図に禁止エリアを書き込み、一通り確認してからカインは支度を進めていく。
放送は特筆することもなかった、側にいた人間達は放送で呼ばれる前に最期を見届けてしまったから。
強いて言えばもょもとに殺されかけていたあの女と、かつての仇敵が死んだことぐらいか。
面倒事が減った、その程度の認識でしかない。
「……ん」
足を取られている時間はない、まだやるべきコトがあるから。
そう思いながらカインは欲望の町を後にしようとした。
そんな彼の前に立ちはだかるように、二人組の男女が現れる。
猫車に乗せられた男、それを引く女、傍には一匹の狼。
なんとも珍妙な光景だが、万が一に備えゆっくりと剣を構えていく。
「あー……ひょっとして、アタシが人殺し系女子に見える?」
猫車の足をゆっくりと下ろし、頭を掻きながら女は言う。
それと同時に、猫車の中の男もゆっくりとこちらを向いた。
「と、いうか。アタシがそうならこんな荷物抱えてないって」
「荷物ぅ!?」
「あーら、変態犯罪者予備群のシスコンバブちゃん、否定できる立場かしら?」
「ちょっと待ってランク上がってない!?」
「幸せの靴もビックリの歩くだけで急成長ね」
突然始まった漫才に、カインは思わず口をぽかんと開けて見つめていく。
しばらく続くやりとりを、ただぼうっと見ていたが。
「ぷっ、く、ははは」
次第に、我慢できずに笑ってしまった。
おかしくておかしくて、たまらなかったから。
そして、これからは笑って過ごすと決めたから。
笑うべき絶好のチャンスに、笑わないわけは行かない。
「オーケイオーケイ、僕が悪かったよ。僕はカイン、君達は?」
「私はマーニャ、こっちの変態君はロッシュよ、よろしくね」
「せんせー、はじめてのひとにごかいをあたえるのはよくないとおもいまーす」
「いずれ知る事実じゃない」
「ぐぬぬ」
再び始まった漫才に、流石にカインも苦笑いを浮かべてしまう。
気まずい空気に気がついたのか、マーニャがロッシュをイジ(め)るのを中断し、カインへ語りかけていく。
「んで、さ……それはひとまず置いといて」
「……ここで何があったのか、だろう?」
「察しがよくて助かるよ」
言葉が返ってきたのはマーニャではなく、ロッシュ。
先ほどまでのチャラけた空気が霧散し、瞬時に緊張感が張りつめる。
威圧に飲み込まれそうになりながらも、カインは唾を飲んで堪える。
「是非とも教えてほしいね……特に、そこでもょもとが死んでることについて」
「あんた、もょを……?」
「ん、まあ、ちょっとね」
そういえばもょもとからは、この場所で何をどう過ごしていたのかは聞いていない。
自分と出会う前に、きっとロッシュと出会っていたのだろう。
ならば、知ってもらう必要がある。
153クロス・ポイント ◆CruTUZYrlM :2013/05/16(木) 00:43:37.48 ID:tu+VCniN0
「……どこかで話そうか、外は何だし」
「賛成だね、幸い民家は無事みたいだし……」
死と血の香りがする外ではなく、せめて腰の下ろせる家屋で喋ることを提案し、ロッシュもそれに乗る。
「運ぶのはアタシなんだけど」
ふぅ、とマーニャがため息をついてから腕を大きく回す。
流石に運んでもらってる身分だからか、ロッシュは何も言えないような顔をしている。
「……僕が運ぶよ、流石に女の人に力仕事をさせるわけにもいかないし」
そんなマーニャにカインは手をさしのべ、協力を提案していく。
「じゃあ、半分ずつ取っ手を持って二人でこのペドフィリアを運びましょうか」
「そうだね」
「待ってどんどん扱いが酷い」
再び始まりかける漫才の中、二人で猫車を押しながら民家を目指していった。



「そうか、彼は分かってくれたんだな」
はじめにロッシュがもょもとと出会ったときのこと。
そしてカインがもょもとと出会ったときのこと。
この欲望の町で起きた出来事。
その全ての話が一段落したところで、ロッシュがぼそりとつぶやく。
「うちのが迷惑をかけたみたいで、悪いね」
「いいんだ、気にしないでくれ。こっちこそ身内が迷惑かけたわけだし」
更に分かった事実、ミレーユは殺しに乗っていたと言うこと。
つまり、レックスの命を奪ったあの炎もミレーユによるものだったということだろう。
分かったところで、当のミレーユは死に絶えているのだが。
「しかし、本当によかったよ。これで僕がデュランを足止めできてて、もょもとと生きて出会えたら最高だったんだけどね……」
「ロッシュ」
「はい」
自虐モードのスイッチが入りかけたロッシュに、マーニャはしっかりと釘を刺していく。
「……あきなにも、会わせてやりたかったな」
その時、何となく口からこぼれたカインの言葉に、マーニャがはっと目を開く。
「あ、アンタ! あきなんの知り合い!?」
「へっ? ああ、あきなはかつての仲間だけど……」
突然語調を変え、強くカインににじりよってきたマーニャに驚きながらも、カインはゆっくりと肯定する。
それを聞き、マーニャは質問を重ねていく。
「あの子はさ……自分で結構背負い込むタイプだった?」
「……まぁ、ね。人の思ってる以上に自分を追いつめるタイプだったね」
「やっぱりか……」
はぁ、とため息をついて、顔に手を当てる。
完全に蚊帳の外のロッシュはともかく、話しかけられているカインですら話が飲み込めない。
「……あきなと、どこで?」
カインは気になったことを、ゆっくりと問いかける。
「これが始まって割とすぐよ、それが最初で最後の出会い。
 もう嫌だって言いながら、逝ったわ」
「……あンッのバカ」
マーニャの言葉、そしてあきなの人となり。
その二つを合わせれば、何があったのかは容易に想像できる。
ましてや、あのあきながとりうる行動なんて。
カインには嫌と言うほど分かる。
154クロス・ポイント ◆CruTUZYrlM :2013/05/16(木) 00:44:09.52 ID:tu+VCniN0
マーニャの言葉、そしてあきなの人となり。
その二つを合わせれば、何があったのかは容易に想像できる。
ましてや、あのあきながとりうる行動なんて。
カインには嫌と言うほど分かる。
「ねぇ、よかったらあきなの話を聞かせてくれない?
 あの子がどんな子だったのか……ちょっと知りたいから」
「あ、僕ももょもとについて知りたいかな。手っとり早く言うと君の身の上が聞きたいって言うか……」
苦虫をすりつぶしたような顔をしていたカインに、マーニャが言い、ロッシュも提案していく。
二人はカインの仲間に出会った、でもそれは短い時間でしかない。
だから、比べものにならないくらい、長い時間を過ごしてきたであろうカインにしか喋れないことがある。
「すごく、長いよ? それでもいいなら、歩きながら喋るけど」
その提案を聞き、カインも確認をとっていく。
この欲望の町はあと数時間で禁止エリアになる。
ここでベラベラと喋っていて爆死、なんて恥ずかしいにも程がある。
禁止エリアの都合上、進路は北に限られている。
北の町に着くまでには時間があるから、長話には最適だ。
頷いた二人に対し、カインはゆっくりと立ち上がり、猫車の取っ手を持っていく。

「アイツ、もょもとに初めて会ったのは、もうかなり前の話さ――――」

欲望の町を後にしながら、カインの長い長い話が始まる。
その一団は奇しくも、カインを入れて三人だった。
まるであの時みたいに、三人横に並びながら。

カインは、記憶を辿りながら言葉を紡いだ。

【E-8/欲望の町/夜】
【カイン(サマルトリアの王子)@DQ2】
[状態]:HP4/10 脇腹打撲 肋骨が折れる、内蔵微損傷
[装備]:プラチナソード、ロトの剣
[道具]:支給品一式×4、 不明支給品×1〜2(本人確認済み 回復道具ではない)、モスバーグ M500(2/8 予備弾4発)
    オーガシールド@DQ6、満月のリング@DQ9、世界樹の雫@DQ6、エルフの飲み薬@DQ5、デュランの剣@DQ6、もょもとの手紙
[思考]:妹を捜す。自分を貫く。泣かない。

【ロッシュ@DQ6】
[状態]:瞑想中 HP6/10(回復中)、MP微消費、打撲(回復中)、片足・肋骨骨折(回復中)
[装備]:はじゃのつるぎ@DQ6
[道具]:支給品一式 、白紙の巻物@トルネコ、聖者の灰@DQ9、
[思考]:前へ進む カインからもょもとの話を聞く

【マーニャ@DQ4】
[状態]:HP3/8 MP1/4
[装備]:なし
[道具]:猫車@現実、基本支給品一式
[思考]:ゲームには乗らないが、向かってくる相手には容赦しない。
     ミネアを探す、カインからあきなの話を聞く

【ガボの狼@DQ7】
[状態]:おなかいっぱい
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:ガぅ(ごはんくれたからロッシュに従う)

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以上で投下終了です。
感想やご意見など、何かありましたらお気軽に!
155名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/16(木) 01:14:13.83 ID:8shsYjpIO
投下乙です!
この三人が合流してどうなることかと思ったけれど予想外に面白いw
もょもと、あきなとそれぞれ縁のあった二人がカインと対面できたのは幸運と言うべきか
それにしてもマーニャのロッシュに対する扱いに笑うw
156幸せなら手を叩こう ◆HGqzgQ8oUA :2013/05/16(木) 23:41:12.77 ID:8DzCTrTR0
さて、まずは状況を整理しようか。

一番最初に出会い唆した、名前の読み辛いアイツは死んだ。
最初に姿を借りて、それなりに情報を聞き出すのに使わせてもらった、ミレーユも死んだ。
俺のことを大いにビビらせて、暫くは消えねェトラウマを植えつけてくださったデュランも死んだ。
そして、アレフガルドを我が物顔で歩き回ったロトの子孫の勇者サマも死んだ。
どいつもこいつもとんでもねえ強者だったハズだ。
少なくとも、風が吹けば吹っ飛ばされそうな俺なんかよりはずっと、“生き残りやすい”連中だったハズだ。
けれど死んだ。
腕にはデケェ傷が残ってるとはいえ、一応は五体満足でいる俺より先に、だ。
つまり、ここは単なる格闘場じゃあねえ。
生き残るのに大切なのは、ただ強いだけじゃいけねえってこったな。

ヒヒヒ。

まあ、こいつらがどうやって死んだのかは、気になるところではある。
特にデュランの野郎だ。
思い出すだけでいまだにゾクりときやがる、何回殺しても死なねェように見えたチート魔人。
アレが、あれからたった数時間の間にどういう経緯で倒れてくれたのか。
喜ばしい限りではあるが、逆に言えば、あれほどの強者を倒せるヤツがいる、ってことでもあるわけで。
見逃したもう一人の勇者サマ――ロッシュが、追いついて倒した?
いやいや、ねーよ。
俺でも殺せそうだったあの状況からじゃ、奇跡でも起きねえ限りは返り討ちに決まってら。
じゃあ、もょもとやミレーユと交戦して、相打ちになった?
考えやすい線ではあるし、一番望むシナリオではあるが、どうだろうなァ。
“デュランや勇者ロトの子孫を倒せるほどの未知なる強者は、まだまだ大勢居る”
そう考えとくのが、ちょうどいいってとこかね。
半日過ぎて、生き残りは残り半分。
ここからが本当の勝負のはじまりってことで、気を引き締めていかねーとな。

ヒヒヒ。

千里眼と、地獄耳。
この半日、俺のことを補助し続けてくれた二つの能力は失われていた。
ま、成果は十分に得られたといっていいだろう。
これまで暗躍してきた東までの道筋は、ついさっき敷かれた禁止エリアによって、間も無く分断される。
後ろから誰かが追ってきているような気配がなかったことは、地獄耳の最後のチカラで確認済みだ。
ロッシュがこれから俺を追いかけてくるとして。
これから北からぐるりと回ってこっちに来るのには、早くても半日くらいはかかるだろう。
“デュランを倒したまだ見ぬ強者”が欲望の町のあたりに居ると仮定して、これも同じだ。
少なくともその間はそいつらに出くわすことはねえってわけで、隠れ蓑を作る時間はたっぷりとある。
たまんねえくらいツイててよ、ほんとにいいのか心配になっちまうくらいよ、逆にな。

ヒヒヒ。
157幸せなら手を叩こう ◆HGqzgQ8oUA :2013/05/16(木) 23:43:06.04 ID:8DzCTrTR0
だってーのに、よォ。
さっきからどうにもテンションがいまひとつ上がんねーんだわ。
原因はまあ、わかってんだけどさ。
隣で放心状態になってるフローラっていうお母サマのせいな。
“善良な魔物のシャナくん”を助けてくれたレックス。
その生前の美談を聞く中で、幾度となく出てきた名前、タバサ。
レックスの双子の妹にして、フローラお母サマの娘な。
その名前もまた、放送で呼ばれていた。
なんともかんとも可哀想な話だよねェ。
一度はここで再会出来てたっつーんだから、なおさらさ。

魔物である俺からしてみれば、家族の繋がりだとか、そういうモンは正直よくわかりゃしねえ。
互いに騙くらかしあって、ただ明日だけを求めるような、そんなんが魔物の生き方だったから。
いつ死ぬかともわからねえ他者に情を残すだけ無駄だと、俺らはそうやって過ごしてきたから。
種によっちゃあ、後生大事に子孫を育てたり、同種の仲間意識だけは強ェようなのもいるらしいから、
そういうヤツらからすりゃあ、多少はすんなり入ってくんのかもしれないけどな。
少なくとも俺とは、価値観がちがいまーすってヤツだ。
そんなんでも、フローラのする話がどういう趣旨だったのかってことくらいは、わかる。

――こいつら家族は“幸せ”だったんだろうな。きっと。

ロッシュの言葉を思い出す。
『一番困るのは大切な人との別れだよね』
それは逆に言えば、大切な人の側に居られることは、それだけで幸せだっつーことだ。
レックスがいて、タバサがいて、旦那サマがいて。
間にどれほどの障害があったとして、根っこのところでフローラはいつだって幸せだった。
そういう話をずっとしてくださったわけだ、ご丁寧にな。

俺たち魔物がいつだって求めて止まなかったものを、こいつら家族は確かに持っていた。
そのことが無性に苛立たしくて。
同時に、どうしようもなく羨ましくもあって。
そんで考えちまったわけよ。
“幸せ”ってのは何て脆くて、儚いものなんだろうか、ってな。
死別。そんな俺らからすりゃ当たり前のことでも、幸せはすぐどっかに行っちまう。
まあそういうもんだからこそ、どうにかして手に入れようと躍起になってんだろーし、
“生きていたい”と必死になるんだろーけどよ。
そういう価値観だけは人間だって魔物だって、同じなんだろな、きっとさ。

……ヒヒヒ。


158幸せなら手を叩こう ◆HGqzgQ8oUA :2013/05/16(木) 23:44:33.58 ID:8DzCTrTR0
結果的に最期となってしまった会話は、タバサをどれだけ惑わせたのだろうか。
父親が、母親を愛していなかっただなんて。
ましてやそれを母親自身の口から聞かされただなんて。
子供にとってはどれほどの恐怖であっただろう、想像するに余りある出来事。
戸惑っただろう、苦しんだだろう。
あるいはその前に、命を落としてしまったのだろうか?
真相はわからない。
けれども、もしそうして惑わせたことで、彼女を死に至らしめたのだとしたら。
嗚呼、私はなんて駄目な母親であったのだろうか。

『お母さん、きっと10年もひとりぼっちでさみしかったよね。
 これからは一緒にいてあげようね』

自分のほうがずっと寂しかったろうに、それでも母を第一に気遣った、優しいタバサの言葉を思い出す。
その想いに何も返してあげられなかった、そんな抗いがたい無力感が全身を支配していく。

「――――」

ひゅう、と、もはや言葉にならない声が、喉から抜けていく。
襲い来る脱力感に、身を任せようとして。

「どうか、お気をたしかに」

同行する魔物“シャナ”の言葉で、すんでのところで留まった。

「私の命は、レックスくんによって与えられたようなもの。
 だからお子さんたちの代わりになれるなどと、大それたことは申しません。
 ですがせめて、あなたたち家族の悲しみを共に背負うことくらいは、したいと存じます」
「……ありがとう、シャナさん。レックスは本当に良い仲間と出会えていたのですね」

思い出す。
レックスが命を賭けて守ったというシャナはこうして生きている。
同時に、タバサがよく懐いていたゲロゲロもまだ生きている。
子供たちの想いの残滓は、まだいくつもこの世界に散らばっているのだ。

「……大丈夫です、私はまだ、大丈夫です」

それに、愛する人を喪失した悲しみにくれているのは、一人だけじゃない。
勇者アレフを喪失したローラ姫もまた、その一人だ。
そして何より大切な、同じ悲しみを共有しているだろう“あなた”だって。
他にだってたくさんいるはずだ。
十七人もの死者、そのすべてが誰とも他人であったはずがない。
159幸せなら手を叩こう ◆HGqzgQ8oUA :2013/05/16(木) 23:47:13.90 ID:8DzCTrTR0
なのに私だけが、こんなところでくじけてはいられない。

「このまま行きましょう、シャナさん。
 タバサは死んでしまいましたが……彼女が懐いた仲間がまだ、生きているようですから」
「もちろんお供しますよ、フローラさん」

俯いていたら駄目だ。
せっかく堪えた涙が、こぼれてしまうから。
背筋をピンとはって、胸を張って歩くんだ。
きっとどこかで見ていてくれてるだろう子供たちを、不安にさせてしまうから。





喪失。
それは心に大穴の開いた状態のようなもの。
大穴からは、怒りや悲しみといった大きな感情が絶え間なく滴り落ちてくる。
そのままでは堪らないので、人は必ず何かしらの手段を持って、その穴を埋めようとする。
方法については、その時々に因ってさまざまだ。
内へと閉じこもる者もいれば、感情に任せて攻撃的になる者もいる。
どうやらフローラは残された希望に縋ることで、感情に抗っているようだった。

(イカれちまって攻撃的になるでもなく、逃避して閉じこもるでもなく、ちゃんと現実を見てやがる。
 なんとも頼もしいことで。せいぜい利用させてもらうぜ、フローラお母サマ)

そうした“弱った人間”は共通して、非常に付け入りやすい。
諜報活動のエキスパートたる影の騎士は、そうしたスキを、決して見逃さない。
偽りの仮面を被った魔物“シャナ”は。
フローラの心のより深いところへと、忍び込もうと窺っている。


【D-6/焼けた森林/夜】

【フローラ@DQ5】
[状態]:全身に打ち身(小) MP2/3
[装備]:メガザルの腕輪
[道具]:支給品一式*3、ようせいの杖@DQ9、白のブーケ@DQ9、魔神のかなづち@DQ5、王者のマント@DQ5
    不明支給品(フローラ:確認済み1、デボラ:武器ではない物1)
[思考]:リュカ、ゲロゲロ、ローラを探す

【影の騎士@DQ1】
[状態]:右腕負傷
[装備]:メタルキングの槍@DQ8
[道具]:基本支給品一式、変化の杖@DQ3、ゾンビキラー@DQ6
    不明支給品(0〜3)
[思考]:闇と人の中に潜み続けて、戦わずして勝ち残る。
    争いを加速させるためあらゆる手段で扇動する。
[備考]:千里眼、地獄耳の効果は第二放送終了時に消失しました。
    「シャナ」という偽名を名乗っています。


---

投下終わりです。
そして投下乙です。
DQ2勢と関わってきた三人がこうして集まれたのには、なにやら運命的なものを感じますね
160名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/16(木) 23:51:55.12 ID:tu+VCniN0
 
161名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/17(金) 07:58:08.40 ID:+gJANkFI0
投下乙です
シャナ君を演じるチャモさん、飄々としてますなあ。
そして隣には幸せであったであろうと推測する母親。
どう転がるのか……
162(代理)◇MC/hQyxhm.:2013/05/17(金) 19:32:23.03 ID:gSgSMVWY0
 

一風変わった宴のお話をしましょうか。
まるでお城のような、いえ、要塞のような町。
そこに招かれし十の魂。
ですが、まだ宴は始まりません。
招待客が揃っただけでは、運命の女神様は満足なされないのです。
まあ、そんなお顔をなされずに。
気晴らしに、お客様の紹介などどうです?


***


<愛する兄を求める少女>


わたしが町に入ってからすぐ、あの放送とかいうやつが流れた。
おっきな音で流れてくる、やっぱりなんだか好きになれないあの声。
どんどん「禁止エリア」が増えていって、「死んだ人」の名前も増えていく。悲しいもんだね。
でも、わたしには関係ないよー!
だってだぁい好きなお兄ちゃんの名前は呼ばれてないもん。
それだけが確かなら他の人が死んだってどうでもいい。
でも、安心はしていられないの。
今、この瞬間にお兄ちゃんは生命の危機に瀕しているかもしれない。
死んでもらっちゃ困るんだよ?
お兄ちゃんを殺していいのは、このわたしと魔物さんだけ。
どっかの誰かに、勝手に殺されるなんて許さない。

お兄ちゃん、早く会いたいね。


放送が終わると、少女ーーリアは立ち上がる。
彼女の纏う愛らしいドレスは所々破れ、血にまみれ、素肌とそこに付いた赤い傷跡が覗いている。
先程の戦いで道化師に付けられた傷は、あまり大きなものではないが、リアを苛立たせる要因となっていた。
ジャミラスと分かれてしまった事に加え、本題である兄を見つける事すら果たせていないのだ。
スムーズに進んでいた序盤に比べると、順調とは言い難い。
それら全てが苛々を増幅させる。

兄はこの町に居るだろうか?
居ないのなら手間が増えるのだが、重要なのは経路ではなく結果だ。
兄を、殺す。
目的の為なら手段は問わない。
辺りを見回した彼女の瞳に、ふと、金色が映った。
163(代理)◇MC/hQyxhm.:2013/05/17(金) 19:33:24.81 ID:gSgSMVWY0
<叶わなかった恋に身を焦がした女性>


"タバサ"

放送が告げた名前は、かつての想い人の子の名。
六時間後のあの声が呼んだ、その双子の片割れ。
とうとう、二人共。
無慈悲な現実に、ビアンカはただ。
ただ、頭を垂れる事しかできなかった。

(リュカや、フローラさんは、今)

どうしているのだろう。
この短い時間の中で、家族を二人も失った彼らは。

力に、なりたい。
自分は死者を蘇らす事などできないし、この悪夢を今すぐ破壊する力も無いけれど。

「悲しみはね……分かち合うことが、できるのよ」

力に、なろう。
友の苦しみを、少しでも減らすことができるなら。


この町にこのまま居ても、二人に会えるとは思えない。
今こそ、この牢獄の町を出るべき時だ。
リッカとバーバラにその事を伝えようと、ビアンカはもと来た道を振り返った。
その瞬間。
今、角を曲がってきたのだろう、ビアンカの視界に、一人の少女が飛び込んできた。

血まみれのドレスを着、手には美しい短剣を握り、驚愕の表情を浮かべて。


「おかあ、さん」


少女は女を、母と呼んだ。
164名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/17(金) 19:34:03.53 ID:HtcaaPeh0
 
165(代理)◇MC/hQyxhm.:2013/05/17(金) 19:34:35.62 ID:gSgSMVWY0
 
<救済を下す魔女と眠れる少女>


リッカは穏やかな寝息をたてている。
そんな彼女の顔を、複雑な気持ちでバーバラは見つめていた。
リッカを、救ってあげなくちゃ。
彼女が、いや、この殺し合いの場に招かれた皆の悲劇は全て、自分の所為なのだから。
全員を「救い」、デスタムーアをもう一度闇に葬ることが、彼らへの償い。
つい先程の轟音から察するに、新しい戦いがこの町で起き始めたのだろう。

(私の所為でまた、罪無き犠牲が増えるのなら)

誰かの手を汚すくらいなら。
全て、この手で。


「救済して」あげよう。


バーバラの瞳は閉じられ、

「一つは千に、千は一つに」

その唇は紡ぎ始める。

「闇よ、光よ、総ての力よ」

ーーーー滅びの調べ、を。

「我は、今汝を解き放つ」


その時。


『ゲームより12時間、半日が経過した。
 私の声を再び聞くことが出来た諸君、いかがお過ごしかな?』

突然耳に飛び込んできた、聞き逃しようの無い声に、バーバラの集中が途切れる。
集っていた魔力が急速に引いていくのが分かる。

(しまった)

失敗した。
唇をかむバーバラに追い討ちをかけるかのように、声が悪夢を口にする。


『ーーミレーユ』
166(代理)◇MC/hQyxhm.:2013/05/17(金) 19:35:25.19 ID:gSgSMVWY0
<野望を抱く怪鳥>


地面に巨大な影を落としながらジャミラスは町の上空を旋回する。
名簿で確認したサマルトリアの王子の姿は、今のところ見当たらない。
どこかの建物に入っている可能性もあるが、戦闘が町で起こっているというのに隠れているだけ、という事は無いだろう。
あの娘の話を聞く限り、だが。
もしかするとこの町には居ないのではないか。
多少とはいえ犠牲は払ったのだから、何の収穫も無しでは癪にさわる。

「……とりあえず、そこらの奴でも殺して殺害数でも増やすとするか」

地上付近の微かな気流に乗り、ゆっくりと怪鳥は地上へと近づいてゆく。
そんな時、視界の端に、見覚えのある人物の姿が見えた。

知っている。
その顔も。
知っている。
纏う雰囲気も。
忘れるはずが無いーーかつてこの身を屠った、勇者の仲間。

丁度良いではないか。
復讐も、殺害数稼ぎも、同時にできる。

「素晴らしい」

ジャミラスはニヤリと笑うと、急旋回し風を巻き起こしながら、魔女の元へと一直線に突っ込んでいった。



ミレーユ。
まさか、彼女が、姉のように慕っていた、彼女が死んでしまったなんて。
信じられる?
信じられない!

ミレーユ、ミレーユ。
彼女まで、私の所為で。
嘘!
嘘?
嘘じゃない?
嘘、嘘、嘘!


放送で呼ばれた名を耳にした途端、バーバラは思わず外に飛び出してしまった。
信じられない、でも信じるしかない、抗いようの無い現実を突きつけられて。


……あ、リッカ。置いてきちゃった。

ふと、ショックで忘れていた少女を思い出す。
そういえば、自分は、彼女を、皆を、殺そうと。
そうだ、今度こそあの呪文ーーマダンテを。

再び呪文を唱えようと顔を上げたバーバラの目の前には、巨大な鳥が迫っていた。
167(代理)◇MC/hQyxhm.:2013/05/17(金) 19:36:35.85 ID:gSgSMVWY0
 
「……!、!?」


風圧に耐え切れずにバーバラの体が巻き上げられる。
目の端で、ジャミラスが向かってきているのが見えた。
剣を振りかざして。

間一髪。
魔女は空中で身を翻し、怪鳥の攻撃を避ける。

「ジャミラス……!」

残撃から逃れられずに切り取られた赤い髪の毛が宙を舞う。
くるくる。
くるくると。

バーバラは地面に降り立つと、皮の鞭を構え、同時に呪文の詠唱を始める。
マダンテは、使えない。
詠唱に、時間がかかり過ぎる。

「炎よ、集えーー」

せめて、逃げる時間稼ぎだけでも。

「ーーメラミ!!」

火球が、バーバラの掌から放たれる。
それを盾にして、バーバラは鞭を振りかぶりーー

「……え」

ジャミラスの一振りで、火球は一瞬にしてかき消される。
残撃は、そのまま。
鞭を振りかぶった事で、無防備にさらけ出されたバーバラの身体に。

「あっ」

鮮血が舞う。
くるくる。
くるくると。
宙に、深紅のリボンが描かれる。
見開かれた目に映るのは、追撃を放とうとしている怪鳥の姿。

一太刀。
魔女の身体は、ゆっくりと崩れ落ちてゆく。
その身から赤を撒き散らしながら。

状況が悪かった。
あの時は、仲間が、皆が居てくれたから。
一人で、不意を突かれ、この魔物と戦うことは、あまりにも無謀すぎたのだ。

「み……な、ごめ……ん」

せめて、最期に。
置き土産をくれてやろうと、唇が開かれーーーー
168(代理)◇MC/hQyxhm.:2013/05/17(金) 19:37:33.22 ID:gSgSMVWY0
 
ジャミラスは残忍な笑みを浮かべ、足元に横たわるバーバラを見下ろしていた。

「素晴らしい」

満ち足りた気分だ。
復讐も、殺害数稼ぎも、同時にできたのだから。

「素晴らしい!」

上々だ。
素晴らしく、上々。

(さて……あの娘の元へ、行ってやるとするか)

ジャミラスはニンマリ笑うと、風を巻き起こし飛び立った。
169(代理)◇MC/hQyxhm.:2013/05/17(金) 19:38:16.29 ID:gSgSMVWY0
<絆で結ばれた三人ーー肉体派王女、心優しき占い師、心を持った鎧の騎士>


アリーナ、ミネア、サイモン一行は、牢獄の町に少し入った所で佇んでいた。
ミネアの表情は冴えない。
いつも快活なアリーナも、俯き、黙り込んでいる。
先程流れてきた放送の衝撃が、まだ抜けきれずに。

「……ピサロ」

アリーナが呟いたのは、名を呼ばれたかつての宿敵の名。
そんな彼女らに、サイモンは尋ねた。

「知人が……呼ばれたのか」
「ええ……」

ミネアはそう答えると、サイモンに語り始めた。
ピサローー父の仇。
彼が仲間になるとソフィアから告げられたときは、姉と一緒に猛反対したものだ。
真の黒幕は彼じゃなかったとしても、一度根付いた感情????憎しみはそう簡単に消えるものではない。
そういえば、ろくに話した事も無かったのではないだろうか。
基本、ピサロは一人だった。
稀にソフィアが少し話しかける事もあったが、彼はぶっきらぼうに一言返して、また黙り込むだけだった。

「……本当は、許してあげたいという気持ちは、大分前からあったんです」
「……あたしも、あいつとはそんな喋ったこととか、無いけど」

また、一対一で戦ってみたかったなあと、アリーナは言った。
あのときの、武術大会の続きをいずれは彼に申し込むつもりだった。
今じゃもう、叶わぬ事だけれど。

「……てゆうか、ミネア。そういえばそんなにピサロのこと見てたの?」
「えっ」
「確かに、そのピサロという人物をよく観察していたのだなという事は感じたぞ」
「えっ」
「もしかして、ミネア」
「違いますっ!!!!」

顔を真っ赤にしてミネアはアリーナとサイモンを叱る。

「それより、ビアンカさんを探さなければいけないでしょう!!」
「あーっ!そうだった!!」
「はあ……」

やれやれと、ミネアは肩を落とした。


ピサロさん。
もう、ごめんなさいは言えないけれど。
いつか、逢うことができたのなら。
その時は勇気を出して話しかけますから、ね。
どうか、安らかに。
170(代理)◇MC/hQyxhm.:2013/05/17(金) 19:39:41.43 ID:gSgSMVWY0
<騙す男と騙された男>


恐怖は確実にホンダラを蝕んでいた。
自分のたった一人の甥が、先の放送で名を呼ばれた。
家族が、死んだ。
先程のドルマゲスの事と加わり、今、自分は「殺し合い」の場に居るのだという事実が。
その現実が、襲ってくる。


男魔法使いの頭は、ホンダラとは逆に物凄く落ち着いていた。
カーラ。
永遠の好敵手とも思っていた女性の名は、読み上げられた死者の名の中に入っていた。
死んだのか、カーラ。

あっけねえなあ。
お前は名を呼ばれ、俺はここに立っている。
何があったのか知らねえが、お前はそう易々とやられる奴じゃ無かったはずだ。
お前は死んで、俺は生きている。
そう言う意味では、俺の勝ちだなあ、カーラ。

少し浮かんだ笑みを偽りの仮面で隠し、男魔法使いはホンダラの方を向く。

「……俺の甥が、死んじまった」

聞いてもいないのに、ホンダラは語りだす。

「俺よりずっと強くて、"勇者"だった俺の甥が」

男魔法使いが『勇者』という単語に反応したことに、俯いて話すホンダラは気付かなかった。

「どうすればいいんだろうな、俺は」

思い返してみれば、自分は叔父らしいことを彼にしてやったことなど無いのではないか。
後悔と自責の念ばかりが、溢れ出す。

「簡単じゃよ」

老人は、ホンダラの肩に優しく手を置く。

「その少年の分まで、お前さんが生き残ればいいのさ」
「俺に……できるかな」
「できる。自信を持て、ホンダラよ」
「おう……。ありがとう、じいさん」
「礼はいらんよ、それより宝を探しに行こうではないか」

『優しい老人』の仮面に隠れて、男魔法使いは笑っていた。
なんて扱いやすいのだろう、この男は!

「……ま、有難く利用させてもらうぜ」

呟いた声は、ホンダラの耳に届くことは無かった。
171名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/17(金) 19:40:08.08 ID:HtcaaPeh0
 
172(代理)◇MC/hQyxhm.:2013/05/17(金) 19:41:03.17 ID:gSgSMVWY0
 

***


さて、これでお客さまの名は出揃いましたね。
魂の数は十から九つに減ってしまいましたが。
宴の舞台は揃ってまいりました。
さあ、物語は続きます。


***


いらいら、いらいら。
リアは苛ついていた。
目の前の女性が着ているドレスと、髪の毛の色の所為だろうか。
女性に、自分に愛情など一欠片もくれなかった女ーー母の面影を見出したことに、リアは苛ついていた。

最後にあったのは、何時だろうか。

(お兄ちゃんが、帰ってきたときかな)

歓喜にむせぶ国民の前に立つ『勇者』の肩書きを背負う兄に、形ばかりの笑顔を向け。
自分には一瞥もくれることの無かった女。


愛さないのなら、何で産んだの、お母さん。


理由は簡単。
ロトの血を絶やさないため。
ロト、ロト、ロト。
誰だって、それしか言わない。
思い出せば思い出すほどに、苛々は募ってゆく。


「ねえ、あなた……どうしたの?」

女性がゆっくりと近づいてくる。
少し驚いた顔で。
少女は俯き、黙り込む。

「ね、顔、上げて」

女性はリアの目の前にしゃがみこみ、優しく促してくる。
母の面影を纏った女性が。

「何かあったのなら、良ければ一緒にーー」

いらいら、いらいら。
また、この人も、リアの邪魔を、してくるんだ。
リアは体の後ろで、短剣をかたく握り締め、そしてーーーー
173(代理)◇MC/hQyxhm.:2013/05/17(金) 19:41:51.28 ID:gSgSMVWY0
 

「あっぶなあーーーーい!!!!」


突如現れた乱入者の蹴りで、リアの華奢な身体は吹っ飛ぶ。

「か、はっ……!!」

近くの建物の壁に勢いよく叩きつけられ、全身に衝撃が走る。
肺の空気が一瞬にして抜けていくのが分かる。
乱入者ーーアリーナは呆然とするビアンカに告げる。

「あの子に近寄っちゃダメ!あの子は……人殺しなの!」

リアはふと考える。
人殺し。
そっか、わたし、人を、殺したんだったね。

「え、でも、あんな女の子が……」
「ビアンカさん、ですね。私達は丁度、見たんです……あの子が、アレフさんを、殺すのを」
「アレフさんがっ!?」

アリーナに追いつき、息を荒げながらミネアが言った言葉に、ビアンカは驚いた声を上げる。
アレフ。
幾度と無く窮地を救ってくれた彼が、こんな少女に、殺されたなんて。
思わずリアを見ると、少女は彼女らを睨み付け、立ち上がろうとしているところだった。

「"勇者"アレフ、を……知ってるんだね」

鋭い目をこちらに向けながら、リアは言う。
その身に殺意をみなぎらせて。

「当たり前よ!だってアレフさんのおかげで私は」
「でもあなたは彼がいた所為で苦しむ羽目になった人が居るなんて、知らなかったでしょ?」
「!」
174(代理)◇MC/hQyxhm.:2013/05/17(金) 19:42:38.04 ID:gSgSMVWY0
思わぬ返答をされ、ビアンカはうろたえる。

「その人のために、あなたは人を殺してるの?」
「違うよ。リアはただ、邪魔してくる奴を殺してるだけ。リアとお兄ちゃんの邪魔を」

アリーナの問いを、リアは笑って否定する。

「でも……でも、あなたが人を殺しているという事をその人は喜ばないんじゃないかと、私は思います」
「別にお兄ちゃんがそんな事……」

許してくれる、と続けようとして、そうとは限らないことにリアは気付いてしまう。
これまでの自分は、いつだって普通の女の子だった。
自分の妹が人を殺しているなんて、兄は露にも思っていないだろう。
今のわたしを見て、お兄ちゃんは。
リアの心に生まれた微かな恐怖は、ミネアによって言葉にされる。

「あなたのこと、嫌いにならないとも……限りませんよ」
「うるさい!!」

そんな事はない。あってはならない。
兄に嫌われる。唯一の理解者に、嫌われる。
それは、リアにとって何事にも勝るーー恐怖。

「これ以上、リアとお兄ちゃんの邪魔をしようとするんなら……」

ナイフを構え、再び睨み付ける。

「あんたがやめる気が無いのなら、私達は止めるしかないっ!」

一気に臨戦態勢に入るアリーナたちの上に。


突如として、巨大な影が落ちた。
175名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/17(金) 19:42:41.94 ID:HtcaaPeh0
 
176(代理)◇MC/hQyxhm.:2013/05/17(金) 19:43:37.67 ID:gSgSMVWY0
「面倒なことになったようだな?」
「……遅かったじゃない、魔物さん」

頭上から降ってきた声に、ミネアは身体を強張らせる。
先程の恐怖が、再び。

「何、丁度良い獲物が居たから、相手してやっていただけだ」

返ってきたジャミラスの声はどことなく嬉しそうに聞こえ。
きっと何人か殺してきたのかなあと、リアは思った。

そんな怪鳥を見るアリーナの目には怒りが篭っている。
無理も無い、この魔物はミネアを……ともだちを、傷付けたのだから。

「とりあえず、こいつらは……悪い奴らなのね」
「そのようだ」

周りの様子を見て、ビアンカとサイモンも戦う構えに入る。
そんな彼らを一瞥し、リアはジャミラスに尋ねる。

「お兄ちゃんは?」
「居ないようだ」
「ふーん。じゃ、この町には用は無いね」

そう呟くとリアはジャミラスの背に乗り、怪鳥は翼を広げる。

「じゃあね。お姉ちゃん達」
「そういう訳にはいきません!」

飛び立とうとしていたリアたちを鋭い強風が襲う。
体制を崩したジャミラスは再び地面に降りる羽目になった。

「あなたはまだしも……その魔物を、野放しにしておく訳にはいきません!!」

ミネアが再びバギクロスを放つが、ジャミラスの翼によって防がれる。

「ふん……小賢しい」
「やっぱり、お姉ちゃん達もリアの邪魔をするんだ」

リアは顔を上げ、アリーナ達を見、短剣を振り上げーーーー

「なんで、どいつもこいつも、リアの邪魔をするのよっ!!!!」

ーーーー真直ぐに、ビアンカ目掛け、投げつけた。
177(代理)◇MC/hQyxhm.:2013/05/17(金) 19:44:04.47 ID:gSgSMVWY0
何故ビアンカに投げたのか。
それはただ、リアの目から見てビアンカが一番戦いなれていないように見えたからだ。

美しい装飾が施された短剣は。


「おっと、危ない」


ビアンカに届くことなく、突然現れた老人の手に収まった。
老人の急な登場に、その場の誰もが一瞬固まる。

「あなたは、一体……」
「なあに、通りすがりの魔法使いじゃよ。これでも昔、盗賊をやっておったんじゃ」

男魔法使いは笑って答え、呆然としているリアの方を見る。

「お嬢さんは、なかなか良い短剣をもっとるようじゃな。ほれ、わしも」

そう言うと、男魔法使いは自分の持っていた短剣を振ってみせる。

「じゃが、お嬢さんにはちと危ないんでな。没収じゃ」

そして、リアの短剣を袋にしまった。
178(代理)◇MC/hQyxhm.:2013/05/17(金) 19:44:38.16 ID:gSgSMVWY0
 
ホンダラは少し離れた建物の影から見ていた。
突如として老人が隣から消えたと思うと、いきなり少し先に現れたのだ。


あのじいさん、只者じゃねえ。


とりあえずホンダラは、戦いが終わるまでここで隠れていることにした。






***


とうとう、皆が一堂に会し、宴が始まりました。

私が皆様にお語りできるのはここまでです。
この先、どうなるのか?
それは、私には判りません。

ですが、一つ。
皆様に、覚えていて欲しいこと。

運命の女神様は、とても気まぐれだという事。
そして、彼女は何時だって。











最も残酷なシナリオを、好むのです。












【バーバラ@DQ6 死亡】
【残り25人】
179(代理)◇MC/hQyxhm.:2013/05/17(金) 19:45:00.98 ID:gSgSMVWY0
【A-4/ろうごくのまち/夕方】
【ジャミラス@DQ6】
[状態]:HP4/7、右翼に穴(小)、左手首損傷(使用に違和感)
[装備]:ルカナンソード@トルネコ3
[道具]:剣の秘伝書@DQ9 ツメの秘伝書@DQ9 超ばんのうぐすり@DQ8(半分のみ) 支給品一式*2
[思考]:リアを利用し、サマルトリアの王子(カイン)を労無く殺害。
隙ができ次第牢獄の町を脱出。殺害数を稼ぐ
[備考]:支給品没収を受けていません。飛行に関して制限なし。

【リア(サマルトリア王女)@DQ2】
[状態]:HP3/5 頬に傷 全体に切り傷
[装備]:なし
[道具]:支給品一式*2 不明支給品(本人確認済み)
[思考]:おにいちゃんを、ころす。
    隙ができ次第牢獄の町を脱出

【アリーナ@DQ4】
[状態]:健康
[装備]:竜王のツメ@DQ9
[道具]:フックつきロープ@DQ5、支給品一式 水筒×3
[思考]:デスタムーアを倒してゲームを終わらせる。
    ジャミラスを倒す、リアを止めたい

【ミネア@DQ4】
[状態]:HP4/5、疲労(小)、右肋骨喪失
[装備]:あぶない水着(下着代わり)、風のマント@DQ2
[道具]:支給品一式
[思考]:仲間や情報を集める。
    ジャミラスを倒す、リアを止めたい

【サイモン(さまようよろい)@DQ5+9+α】
[状態]:健康
[装備]:さまようよろい@DQ5、ミネアの飾り、アリーナのマント
[道具]:なし
[思考]:友達について考える。
    ジャミラスを倒す。
[備考]:マホトーンを習得、今後も歩くことで何か成長を遂げるかもしれません。
180名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/17(金) 19:45:15.04 ID:HtcaaPeh0
 
181名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/17(金) 19:48:31.16 ID:lGoLVN270
以上で代理投下終了です。
代理の際、機種依存文字の都合でケータイからではタイトルを明記できませんでした。
タイトルは一時投下スレをご参照ください
182名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/17(金) 19:56:16.39 ID:lGoLVN270
投下乙です、改めまして感想を。
ついに火種が……大乱戦の中、一人無念を抱えて死んでしまったバーバラ。
夢から救いたい、という彼女が一番夢に囚われていたんだろうなあ。
ラドンもくるし、どうなるやら……!
【男魔法使い@DQ3】
[状態]:MP消費(中)
[装備]:毒蛾のナイフ(DQ6)、杖
[道具]:支給品一式、不明支給品(確認済み×0〜1)、どくがのナイフ@DQ7
[思考]:ホンダラを利用し、世界を破壊する。
アリーナたちに協力する……?
[備考]:過去に盗賊を経験しているようです。
※名前、職歴、杖の種類は後続の書き手にお任せします。

【ホンダラ@DQ7】
[状態]:恐怖
[装備]:なし
[道具]:せかいじゅのしずく@DQ7(半分)、金塊@DQ9
[思考]:とりあえず隠れて、戦いが終わるのを待つ
ボディガードと共にお宝を探す

【ビアンカ@DQ5】
[状態]:健康 リボンなし
[装備]:女帝の鞭@DQ9、エンプレスローブ@DQ9
[道具]:支給品一式、炎のリング@DQ5、カマエル@DQ9
[思考]:リュカ、フローラに会いたい、彼らの為になることをしたい。
    ジャミラスを倒す、リアを止めたい
[備考]:カマエルによって錬金釜の使用方法を教わっています

【リッカ@DQ9】
[状態]:右腕に重傷(矢が刺さったまま) 睡眠中
[装備]:なし
[道具]:復活の玉@DQ5、大量の食糧(回復アイテムはなし)、支給品一式
[思考]:宿屋を探す。今は休む。
[備考]:寝ているため、放送があったことを知りません。
184名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/18(土) 10:05:29.01 ID:lZwPx8+a0
投下乙
随分と一か所に集まったが、嫌な予感しかしないw
185 ◆CruTUZYrlM :2013/05/22(水) 01:45:33.84 ID:ekTfzh+l0
一時投下スレに投下しました。
少しご意見をお伺いしたいので、よろしくお願いします。
186名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/22(水) 22:01:37.61 ID:yPm7+gI1O
代理投下します
187魔宮にて ◇YfeB5W12m6:2013/05/22(水) 22:03:07.58 ID:yPm7+gI1O
誰かが言ってた。
本当に信じきれるのか、って。
盲信できるのか、妄信できるのか?
私は何でもないことのようにわらった。
大丈夫です。私が苦手なことは■■■■ことだから。
だから、大丈夫なんです。


その時は、いや、今でもそれは変わらない。

でも、そう言った事を本当に後悔していた。



◇◇



アンジェの足をとめたのは、無慈悲な声だった。



『アルス』

……覚悟はしていたはずなのだ。
信じようが信じまいが、彼が死んでしまう可能性は決して低くなかったのだから、ショックを受けるだろうことは覚悟、していたはず、なのだ。
―――動揺がゆっくり広がる。
街はもう見えているというのに、自然と足は止まっていく。
殴られたように視界が揺れる。
実際、流れる放送に殴られたようなものだった。
第二回放送、死者17名。
――――内、見知った人は1名。
リッカやルイーダが死んでいなくてよかったと思うべきなのか、死んだ人数が少なくても、悲しまなきゃいけないのかもわからない。
わかるのは、今自分が泣いちゃいけないということだけだ。
たった数時間前、決めたばかりなのだから、

「ごめんなさい、アルスさ、ん」
声が変に上擦っている。
「まだ、私、貴方のためには泣け、ないで、す」
きっと瞳には涙が溜まってる。
「でも、思いっきり、悲しみますし」
嗚咽が漏れる。
「後悔、してますし、」
頭によぎるのは、意味が無いと分かってしまっているもしも、で。
「でも、だからこそ、泣きません」
だからなのか、止まった一歩は進まなかった。
何をどうした所で、それこそ泣いたところで、進める気がしなかった。
―――先の見えない後悔の道が、とても怖くて進めない。

気分を晴らそうにも、全力だ突っ走っていたからか、一緒にいた仲間の姿は見えない。
ルイーダの元へと続く道のはずが、いつの間にか全く別の方向へと続いているような気がした。
このまま進んで、もし、……もし、ルイーダまでもが死んでしまったとしたら。
…………正直、耐え切れるとは思わなかった。


アルスが死んで、サンディも死んで―――

(…………そういえば、私、まだ一度目の放送聞いていませんでした)
188魔宮にて ◇YfeB5W12m6:2013/05/22(水) 22:05:03.69 ID:yPm7+gI1O
.
気分を晴らそうにも、全力だ突っ走っていたからか、一緒にいた仲間の姿は見えない。
ルイーダの元へと続く道のはずが、いつの間にか全く別の方向へと続いているような気がした。
このまま進んで、もし、……もし、ルイーダまでもが死んでしまったとしたら。
…………正直、耐え切れるとは思わなかった。


アルスが死んで、サンディも死んで―――

(…………そういえば、私、まだ一度目の放送聞いていませんでした)

それはつまり、ひょっとしたらアンジェの知人が他にも死んでいる可能性が、笑えないほどの確率で存在しているわけであって……
後ろから来るであろうゼシカ達を待つか、足がちぎれてでもルイーダの所へと向かうか。
出来るなら進みたいのだが、情けないことに未だに足は進まない。
合流して話を聞いて、それからルイーダに会いに行こう。
それに、きっと。
もしも他に色んな人が死んでしまっていたら、一人じゃ耐えきれないだろうから。
……少しくらい、頼ってしまってもいいかなって、そんな思いもある。

一回、深呼吸。

ぐちゃぐちゃに混じって、混ざった色の判別すら出来なかった心が、少しだけ落ち着いた。
それに、こればっかりはもう、欝になっていても仕方ない問題だ。
どうしようもないことで、どうしようもないことすぎるけれど、受け入れて進まなければ。
受け入れられないなら引き摺って、それも出来ないなら小さく砕いて少しづつ運んでいこう。
運ぶにもまだ足は動いてくれないけれど、きっと、そのうち。


「アンジェ!」


…………聞き覚えのある声が聞こえた。


◇◇


一人寂しく、溜め息を吐いていた所だった。

“探し物”は町の中央では見つからず、ならしらみつぶしに探していくしかないと町の出入り口に近い場所から調べていた。
そして、町中を歩き回って数時間。
189魔宮にて ◇YfeB5W12m6:2013/05/22(水) 22:07:04.48 ID:yPm7+gI1O
“探し物”のさの字すら見当たらなかった。
そんな簡単に見つかるものじゃあない……と、言うか何の手掛かりもなしに見つかるものではないのだが、数時間無駄な事をやらされていた感が拭えない感情と疲労した体はどんどんと苛立ちを募らせていた。
途中、握手見な放送が流れてきたのも苛立ちを募らせた原因の一つである。

死んだのだ。先ほど別れたばかりの男が。

自分が離れたから死んだ―――だなんてことは考えない。そもそもあれだけの力をもつオルテガが死んでしまった時点で、戦闘力にそれほど自信がないルイーダが居た所で戦況がひっくり返る筈がないのだ。
知識と知恵は与えられたかもしれない。
作戦は話せたかもしれない。
――――それだけだ。
圧倒的な実力があったオルテガは死んだ。
つまり、その力すら超える超絶的な実力を持った化物と遭遇したか、相手が想像を超えるような策士であったか。
他にも可能性はある。ただ、例えその内のどれかが正解だったとしても、ルイーダ諸共殺されていた可能性が高いだけだった。
――――それだけだ。

この世界に来て、初めての知人の死。
嘘だと笑えやしない、冗談はやめてとも言えない。
オルテガだけじゃない。
声を失ったあの女の子も。
本当に、冗談はやめてほしかった。

沈んでいた顔をなんとなく前へ向けてみる。本当になんとなくの行為だったのに、ルイーダの視界にいやに明るいその色が小さく映る。
トレジャーハンターとして鍛えられた視力の良さは、普通ならば絶対にわからないものを視界に入れた。
そして多分。
そこから先は――――偶然だった。
その色が探し物の一つであったのは、偶然だった。

いくら視界に映りにくい距離とはいえ、そこまで距離は離れていなかった。
町の出入り口で佇んでいたルイーダの足が真っ直ぐ町を抜け出して行く。
足音も聞こえていないのか顔を伏せている相手は気付かない。
一声。
走りながら出した声はそこまで大きいものではなく、まだ相手は気付かない。
目の前で、一声。
その小さな体が大袈裟なくらい勢い良く跳ねた。
ようやく上げられた顔は、やはりよく知っているものだった。
気が抜けた表情が、少しづつ感情を取り込んでいく。
そして、最終的には、

「ルイーダさんっ!!!」

犬のように飛び込んできた。
探し物の一つ、アンジェの突進は、なかなかの衝撃だった。



◇◇


放送が聞こえた瞬間、二人の足は同時に止まった。
聞かなければならない。何故か。生き残るために。
放送が終わる。一人の足は止まったままだった。
何も言わない。言わなさすぎて、逆に違和感を感じる。

「…………竜王?」

ゼシカの声にすら反応しない。
190魔宮にて ◇YfeB5W12m6:2013/05/22(水) 22:09:26.11 ID:yPm7+gI1O
.
風も吹かず、鳥どころか生物が殆ど皆無なここでは、二人の声が途切れるだけでうるさいほどの静寂が生まれる。

ゼシカもまた、一人失った。
しかも、まるでそれは愛した人を追いかけたように、消えていった。
精神的ショックがまた積もる。
魚が死んだことは、寧ろ嬉しいかもしれない。
一度死んだはずの仇敵が、また死んだことだって、喜べる。
ただ、同時に。
どんどんと、一人きりにされていっているような気がした。
この世界に来て何個目かの不安。
今までとは全くベクトルの違う不安なのに、それは一番大きい筈の“死”の不安よりも、尚不安だった。
だからこそ、竜王の名を呼んだ。
今、自分は一人きりじゃない。一人きりになる、なんてふざけた不安を振り払いたかったのに。

…………竜王の表情は、まだ固まったままだった。

それからゼシカは声を上げなかった。
動かない竜王の側でまた、彼女も動かない。
それから、ずっとそうやって。
数分間、放心して。
ようやく竜王が歩き始めた。
但し、何も言わない。
先程のように拗ねているからじゃない。
ただ、何も言えなかった。
そんな竜王の様子をみて、ゼシカも何も言えなかった。
言えやしなかった。

(これは…………なんだ)
竜王は思う。

(あのエセ紳士が死んだ。だからどうしたというのだ
寧ろそれは、喜ぶべき事の筈だ
そう、決して悲しむものじゃない

なら、この言い様のない感情はなんだ。
経験したことがあるのかないのかすら判らぬ、これは、なんだ

悲しみ?
それは知っている。いや、知らなくとも断言できる。決してそれではない
喜び?
普通ならば、そうだ。
だが、これは違う。そんな愉快なものではない。喜びなど、微塵も感じぬ











そうか。これは、――――怒りか

散々コケにして、挙句には死に逃げされたことに対する怒りか。
ワシが手を下す前に、さっさと死んでいったことに対する怒りか。
目的を散々にしてくれたことに対する報復がまだだと言うのに、どこかの誰かに殺されたことに対する怒りか。
それとも、全部か)
191魔宮にて ◇YfeB5W12m6:2013/05/22(水) 22:11:03.01 ID:yPm7+gI1O
間違いなかった。
それは紛れもなく、アレフに対する激しい怒り。
但しそれは、彼も良く知る憎悪という怒りではない。
ならば、何だというのか――――竜王には判断が出来なかった。
これもまた、知らない感情か。
それすら判らないまま、それでも怒りの炎は広がり続けていた。



――――ゼシカは、どうしてか言う事を戸惑った。
先程竜王は自分の中でそれを否定した。
だが、ゼシカの目に映る竜王の姿は、大きな怒りと、小さすぎて見失いそうになる、悲しみを感じたような気がしたのだ。
結局―――ゼシカは何も言わずに先へ向かったアンジェを追う選択をした。

うるさいほどに、静かだった。



◇◇


再び、アンジェの心は抉られた。
剣なんてものじゃない、大剣だ。
勢い良く刺され、勢い良く引き抜かれ、色々なものを飛び散らした。

ルイーダと再会出来た喜びは彼女の足を進めさせていた。
だからこそ、もう一度止められるにはそれなりの出来事が必要だ。
彼女が気絶し、聞き逃してしまった第一の放送は、足を止めるには十分すぎた。
ギュメイ将軍―――敵の立場ではあったけれど、しかし彼がどれだけ凄く、また優しい人なのかは、知っていた。
死後ですら仕えた国を心配して現世に降りてくるような人だった。
彼は3度蘇り、そして4度死んだ。
192魔宮にて ◇YfeB5W12m6:2013/05/22(水) 22:13:04.67 ID:yPm7+gI1O
.
まず、一突き。

そして二突き目。

どこまでも純粋だったが故に、悲劇に堕ちた大天使。
そんなあの人は、死んでしまった弟子を救ってくれと、願ってくれて。
それは同時に、アンジェを救ってくれて。
ようやく静かに眠れるか、という所で―――墓荒らし。
荒らされるだけ荒されて、彼は2度死んだ。

抜かれた所から色々なものが流れ出す。

そして、次。
三突き目―――致命傷と言ったっていいレベルだった。




どうして――――また置いてっちゃうんですか、イザヤールさん。



「ルイーダさん」

今にも消えそうな声でアンジェは呟く。
ルイーダはその先に何を言われるのか知っているのか、その声に返事はない。

「少しだけ、縋っていいですか」

弱々しく抱きついてきたアンジェを突き放す事なんてしない。
どこまでも突っ走って行って、自分の辛さに気付けないアンジェがこうやって縋るのは、とても珍しいことだ。
優しく抱き寄せる。頭を撫でる。
泣きそうな声で、アンジェが零す。

「なんで、みんな、置いていくんですか! 私、もう、おんなじ人にも何回も何回も置いていかれてるんですよ!?
いやですよ―――ようやく会えたと思ったらまた離れて、それで気が付いたらまた会えなくなってて!!
みんな勝手です、私を一人にする!」

色んな人が彼女を置いていった。
追いかけて追いかけて、ようやく追いついた。
そうしたら―――消えていた。
193魔宮にて ◇YfeB5W12m6:2013/05/22(水) 22:15:28.91 ID:yPm7+gI1O
心が刺される、貫かれる、抉られる。
それでも、泣かなかった。今だって、泣いていない。
その代わりの、泣き言だった。

「バカ、です、みんな…………!」

受け入れられなくなった悲しみ。
それぐらいなら、一緒に背負ってあげられる。
奇しくも、自分も先程失った。
悲しみを比べるのは間違いだろうが、約分ぐらいはいいだろう。
だから、今だけは。縋っても、いいんだよ。











その瞬間、背筋が凍り付いた。


「悲しんでいるのですね」

どこまでも優しい口調で、彼女は現れた。
フラフラとした歩きだったのに、それはとてもしっかりした足取りだ。
絶望の町から出てきたリンリンはどこまでも絶望的な無表情で、どうしようもなく絶望的な殺気を放ちながら、アンジェ達を見つめていた。

「わたくしも、先程色々失いました」

優しい口調と、徹底した無表情にはただただ恐怖しか覚えない。
脊髄に凍ったスライムを流されたように、生温い寒気を感じる。
アンジェもルイーダも直ぐに戦闘体制に入る。
――――とても、寒い。

「だからこそ、決めました」


「全部、壊そうと」


絶望的なまでに、寒い。




「アルスさんを殺したのは、あなたですか」

「ええ」

返事はとても簡潔なものだった。
それが余計に心を抉る。
194魔宮にて ◇YfeB5W12m6:2013/05/22(水) 22:17:13.00 ID:yPm7+gI1O
.
相手は今片手を失っている。
なのに―――勝てる気がしなかった。
数時間前にアンジェ達と戦った時とは何かもが決定的に違う。
雰囲気も状態も思考も覚悟も―――全てが、違っている。

「アンジェ……なんなの、この子……」

ルイーダの表情が引きつっている。
誰だって一目見ればわかるほどの異常性―――それは恐怖に繋がっていた。
対するアンジェの表情は、引きつってはいなかった。
ただし、緊張からか固まっている。
この状況で逃げ出すのを許してくれるような相手ではない。
…………戦うしかないのだ。


「ルイーダさん、私、色んな人が死んでとても悲しいです。 エルギオス様もギュメイ将軍もアルスさんもサンディもイザヤール様も死にました」

「……ええ」

「置いていかれました」

「…………ええ」

「また、追いつけるでしょうか」

「ええ」

「なら、大丈夫です」

「―――なら、安心ね」


置いていかれるのが怖くて。
一人になるのが怖くて。
追いついて、また離れられるのが怖い。
怖いけれど、止まれば後悔する。
怖いけれど、止まれば追いつくこともできない。
―――もう、置いていかれたくないから、追いつきたい。

アンジェが混を構える。
ルイーダもナイフを構える。
そしてリンリンも、

「懐かしい名前ですわね」


「イザヤール様…………わたくしが、初めて殺した方でしたね」

意図せずに、アンジェの心を突き刺した。

何かが、アンジェの中を過ぎる。
それは、最初から確かにアンジェの中に存在していたものだ。
だからこそアンジェはそれを見なかった事にした。
耐えられると、思ったのだ。

なのに、それは。

――――それは―――――――――――
195魔宮にて ◇YfeB5W12m6:2013/05/22(水) 22:19:04.84 ID:yPm7+gI1O
.


「自分に嘘はつけないのでしょう?」

最悪の言葉が、彼女を最後に貫いた。




――――マズイ。
どうしてそう思ったのか、と聞かれれば第六感が囁いたとしか言えなかった。
その第六感を疑うことはせず、自然とルイーダはアンジェへ声を掛け、彼女の傷口を傷つけないようにと慎重に言葉を選んでいた所への、突然の殴打、頭への激痛。
最初はあのいかれたお嬢様が攻撃を仕掛けたのかと思った。いや、そう確信していた。
だが、実際には、ぐらつく視界に映るリンリンの姿はおおよそルイーダを殴れるような距離ではなく、また動いた様子すらなかった。

そして、それを理解した瞬間、答えも自ずと見えてきた。

殴れる立場にいるのは一人だけだ。

その一人をちらりと見やる。


「あれ、 どう し て」

ポツリと呟いた彼女の表情は、信じられないものを見たように固まっていた。
その表情のままルイーダを見ていたのに、何故か彼女の足は真逆の方向へと向かうため反転する。
どうしてだろう。
本当に戸惑っている声音で呟くくせして、彼女の足はそのまま一歩を踏み出した。


アンジェの視界から倒れゆくルイーダの姿が外された。
代わりに映ったのはただの憎しみの対象。
自分が何をしでかして、これから何をしでかそうとしているのか理解していながら、さっきは踏み出せなかった一歩がどんどんと進まれる。
酷い頭痛が襲ってくるのに、頭はどんどん白く塗りつぶされていく。

ルイーダさんの手当を―――、
196魔宮にて ◇YfeB5W12m6:2013/05/22(水) 22:51:32.27 ID:r96btu9q0
「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


逆に走り出す。
武器を構えて、重騎士とは思えない早さで復讐すべき対象へと目標を定める。


止められないとわかっていた。
それでも止まろうとしたのは、間違いなく彼女の努力ではあった。
元々溢れ出ている慈悲の精神だった。
恨まないのではなく、復讐しないようにと押さえ
つける努力を、した。
だから、そう。
きっと、誰がなんと言おうとも――――
誰が、それを認めなくとも、許容せずとも――――


―――――………… 私は、悪くない。

◇◇

「アンジェ―――……ッ!」

致命傷になるような傷ではない。
だがお世辞にもか弱い女の子とは言えない力で殴られた頭はガンガンと痛みと警報を響かしていく。
走り出したアンジェを止めようとしても足どころか手の指一本すら動かない。
今、気を失ったら、アンジェは?
あのまま突っ走って行って―――止まらないだろう。

「待っ、ア――ェ――」

気が遠のく。
止めなければならないのに、意志の通りに体は動いてくれない。
痛みと共に視界が黒く潰されていく。

「…………アン、ジェ―――」



◇◇

誰かが言ってた。
本当に信じきれるのか、って。
盲信できるのか、妄信できるのか?
私は何でもないことのようにわらった。
大丈夫です。私が苦手なことは嘘をつくことだから。
だから、大丈夫なんです。
197名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/22(水) 22:52:09.80 ID:r96btu9q0
【G-3/草原/夜】

【リンリン@DQ3女武闘家】
[状態]:ダメージ(中)、腹部に打撲(小)、軽度の火傷、左腕喪失
[装備]:星降る腕輪@DQ3
[道具]:場所替えの杖[8]、引き寄せの杖[9]、飛び付きの杖[9]、ふしぎなタンバリン@DQ8
    銀の竪琴、笛(効果不明)、ヤリの秘伝書@DQ9、釣り糸(テグス)@現実、支給品一式×7
[思考]:全員殺す 世界を壊す たとえ夢であろうと その為に休息しつつ、片腕に慣れたい
[備考]:性格はおじょうさま

【ルイーダ@DQ9】
[状態]:気絶 MP微消費 手が泥だらけ ダメージ(中)
[装備]:ブロンズナイフ@歴代、友情のペンダント@DQ9、光の剣@DQ2
[道具]:基本支給品 賢者の聖水@DQ9
[思考]:絶望の町の探索、訪れるものとの接触。
      リッカを保護したい。
     殺し合いには乗らない。
 [備考]友情のペンダント@DQ9は、私物であり支給品ではない。
    『だいじなもの』なので装備によるステータス上下は無し。
198名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/22(水) 22:53:09.92 ID:r96btu9q0
【アンジェ(女主人公)@DQ9】
[状態]:HP5/10、MP9/10、背中に擦り傷、全身打撲
[装備]:メタルキングの盾@DQ6、オリハルコンの棒@DQS
[道具]:ハッピークラッカーセット@DQ9(残り4個) 使用済みのハッピークラッカー 支給品一式
[思考]:
[備考]:職業はパラディン。職歴、スキルに関しては後続の書き手にお任せします。

【ゼシカ@DQ8】
[状態]:健康
[装備]:さざなみの杖@DQ7
[道具]:草・粉セット(※上薬草・毒蛾の粉・火炎草・惑わし草は確定しています。残りの内容と容量は後続の書き手にお任せします。
※上やくそう1/2(残り1つ)
基本支給品
[思考]:絶望の町に向かう 最終的には首輪を外し世界を脱出する。

【竜王@DQ1】
[状態]:HP3/10、MP8/10、竜化により疲労(大)
[装備]:なし
[道具]:天空の剣@DQ4、キメラの翼@DQ3×5、基本支給品
[思考]:絶望の町に向かう ゼシカと同行する 最終的にはデスタムーアを倒して世界を脱する 激しい怒り
199名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/25(土) 18:47:18.38 ID:21UjRBFz0
投下乙です。
復讐にはしった天使…どうしてもエルギオスがちらついてしまう。
竜王達早く行ってあげてくれ…
200名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/25(土) 19:18:12.26 ID:zottZyet0
投下乙です。
あんじぇが……
201名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/26(日) 13:18:05.89 ID:yf8ZuRb50
このままではアンジェがエルキモス化してしまう
202 ◆1WfF0JiNew :2013/05/26(日) 23:22:29.17 ID:AxE2Cm2S0
投下乙です。
アンジェが遂に折れてしまった……。
あー、これは色々とヤバイフラグがってますね。
そして、竜王のアレフに対しての怒りがもう……どんどん感情を覚えていく子供を見ているようで。

それではギリできたんで投下します。
203名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/26(日) 23:24:20.16 ID:GNSZfk1z0
 
204 ◆1WfF0JiNew :2013/05/26(日) 23:25:35.48 ID:AxE2Cm2S0
「――こんなとこかな」

見果てぬ草原をひたひたと歩く三人を覆っていたのは重い空気だ。
道中に、散らばっていた支給品を回収したり、行進は概ね順調だった。
だが、精神的な疲れは全く取れやしない。彼の口から吐き捨てられた三人の『勇者』の話は聞くにつれて、陰鬱さを増していく。
カイン達の旅路が自分達が歩んできたものとの違いが歴然過ぎて。
底抜けに明るいロッシュとマーニャでも、とてもではないが笑えないものであって。

「あ、言っとくけど同情はやめてね。そんな安っぽいものをもらう為に話した訳じゃないし。
 最も、他の二人がどう思うかはわからないけどさ、少なくとも、僕はそんなのいらないから」

カインが何の気なしに放つ言葉の一つ一つが、重い。
血に縛られた勇者達の話は、真綿で首を絞められるようだった。
今だから笑って話せると言う彼であるが、其処に至るまでどれだけの苦痛を味わってきたのか。
やっとのことで手に入れたものさえも失くしてしまった彼が、まだ立っていることを、二人は強いなと思った。

「ねぇ、カイン」

少しの沈黙の後、マーニャが口を開く。
猫車に乗っているロッシュは依然と沈黙したままだ。

「アンタは今でも、あきな達のこと……嫌っているの?」
「あきなは、何も言葉をかわすことなく死に別れたから上手くは言えないけど。
 少なくとも、もょもとのことは……友達だと思ってる。ほんの少しの間しか、通じ合わなかったけれどね」
「そう……」
「だけど、内に燻っているものが全部消えた訳じゃないよ」

確かに、カインは自分を貫くと、前を向くと決めた。
しかし、この世界で起こったことは、あくまできっかけなのだ。
これまでのカインの鬱屈が全て消え去ったということにはならない。

「唯一無二の力があった彼らが妬ましいって気持ちは……簡単には消えないよ。
 僕は全てにおいて中途半端で、期待はずれと罵られ続けたから。そのこともあって、アイツらを嫌っていたことは、否定出来ないね。
 それに、すぐに振り切れる過去なら、僕達はこんなにも苦しんでなんかいないし、あきなも自殺なんて真似はしないさ」

人は変わることができる。されど、前の自分を簡単に拭い去ることはできやしない。
消えないからこそ、いつまでも付き纏う呪いだからこそ、自分達は長い間苦しんできたのだから。

「アイツらにも抱えている事情があって、決して恵まれた環境じゃないってこと。もょもとの純粋さとあきなの脆さ。
 全部……全部、僕は知っていたさ」

知っていても、カインにどうすることもできなかったし、するつもりもなかった。
何でも救うことができる勇者でない自分が、彼らの為にできることなんてある訳がない。
そう、思っていた。
205 ◆1WfF0JiNew :2013/05/26(日) 23:27:00.66 ID:AxE2Cm2S0
「だけど、アイツらは死んだ。それだけだよ、それ以上でもそれ以下でもない」
「それじゃ、今ならどうするのかしら?」
「死人にどれだけ思いを馳せても、其処から先はないからね……その質問に意味は、無いよ。
 伝えたい思いは、生きている内に言葉にしないと、駄目だったんだ」

――そうだろ、もょもと。

いつだって、後悔は取り戻せない時に生まれてしまう。
何故、もっと言葉を交わそうとしなかったのか。
考えるだけ無駄な後悔が際限なくカインを責める。

「そういう訳。だから、アイツらとの旅路はもう終わりさ。
 ここからは一人っわっ! いったっ!」

締めの言葉を言い終えることはなかった。
その前にマーニャが頬を軽く叩き、言葉を止めたからだ。
カインは、予想もしなかった衝撃に目を丸くする。

「馬鹿なこと言ってるんじゃないっての。一人でカッコつけるんじゃないわよ」
「それよりも痛いんですけど……あ、はい無視ですかそうですか」
「全く、イライラさせてくれるわね。何か引っかかるなーって思ってたけど! ようやくわかったわ。
 アンタ、そこのシスコンと似てるのよ! 全部一人で抱えちゃうとことか!」
「おいおい、どうして僕とカインが似ているんだよ。僕はもっとチャラけてるぜ?」
「アンタが喋るとややこしくなるから黙ってて!」
「ひどい……」

しゅんと項垂れるロッシュを尻目に、マーニャはカインをじっと見つめる。
思わず、少しだけ後ずさりしてしまいそうになるが、猫車を引いている手があるので余り後退することができない。

「それで、本当にこれ以上抱えているものはないの?」
「当たり前さ。元いた世界では正直者のカインとして通っていたからね」

嘘だ。そんな通り名なんて一度も呼ばれたことがない。
加えて、彼らに語った旅路の内容は完璧じゃない。
リアのことは勿論のこと、いくつか隠している事実も存在する。
206道化気取りの勇者達 ◆1WfF0JiNew :2013/05/26(日) 23:28:11.91 ID:AxE2Cm2S0
「……ならいいけど。勝手に抱えて自滅だけはやめなさいよ。
 それじゃ、カインが話したことだし次はあたしの番ね。
 長話第二号って感じで何かもやっとするだろうけどさ。一方的に聞くのもフェアじゃないし」

待ってましたと言わんばかりに、マーニャは自分の生い立ちからこの世界に至るまでの旅路を話し始めた。
だが、カインの耳には届いていない。彼女の話を聞くよりも、もっと考えたいことがあったからだ。
彼女達に気づかれないように思考の海へとゆっくりと自分を落としていく。

(あきなが死んで、もょもとが死んで、ハーゴンも死んで。それと……竜王のひ孫も死んだんだっけか。
 それなのに、まだ生き残ってくれているんだな、リア)

半分の参加者が息絶えたこの世界で未だ命を保ち続けている妹のことを、思う。
リア。サマルトリアの王女。自分の聖域であり、一生を共に生きようと決めた最愛の妹。
今までが激動の時間だった為か、彼女のことを落ち着いて考える暇もなかった気がする。

(まさか、最後まで生き残っているのが僕らサマルトリア兄妹って何処の三流の悪いジョークだよ。
 元の世界にいる奴等からすると信じられないだろうね。
 はっ、期待はずれの烙印の凡才野郎も運だけは一人前なのかも……なんて昔の僕なら言ってるよ)

その認識は間違っていなかった。
もしも、あの爆発でもょもとが庇っていなかったら。
もしも、デュランの最後の足掻きの対象がアイラでなかったら。
自分の生命はとっくにあの世行きになっていた。幾つもの可能性を掴み取った結果、カインはこの大地で未だ存在している。

(とはいっても、リアは違う。全く戦うこともできない非力な妹だ。どうやって今も生き残っているかは知らないけど)

カインは知らない。
リアが兄との心中の為に魔物と手を組んでいることを。
彼女の中に存在する闇が殺し合いの中で急速な勢いで深まっていることを。
一方のリアもカインが感じたこと、変わろうとしつつあることを知ることはない。
数奇な運命を辿っていながらも、邂逅していない二人はどうしようもなく離れている。

(関係ないさ。リアはリアだ。殺し合いに乗っていようがいまいがどっちでもいい。
 僕の最愛の妹であり、寄り添う女性であるのは変わらない。
 血と蔑みで彩られた嘘ばかりの人生だけど。これだけは『真実』なんだから)

だが、その程度で崩れる聖域など聖域足り得ない。
絶対に崩れぬ不変の絆であるからこそ、カインとリアは互いを最愛と断じているのだ。

(……ロッシュのことを馬鹿にはできないんだよなぁ、僕は。というか、僕の方がもっとヤバイだろうし)



#######


   
207道化気取りの勇者達 ◆1WfF0JiNew :2013/05/26(日) 23:30:15.79 ID:AxE2Cm2S0
(似ている、か)

一方、猫車の上で瞑想を続けていたロッシュも先程のマーニャの言葉を深く噛み締めていた。
カインと自分が似ている。それは単なる一人称や道化じみたものだけではない、内面的な所まで含んでいる気がしたのだ。

(出会ったばかりだから何とも言えないけれどね。マーニャの考え過ぎってのもあるだろうしー)

そもそも出会って数時間で人となりがわかっていたら苦労しない。
ハッサンみたいな筋肉筋肉ー! が合言葉のわかりやすい人間ばかりではないのだから。
ただ、ロッシュ自身、マーニャ達に対してまだ伝えていないこと、一人きりで抱えていることがあるのは事実である。

(ま、仕方ないか。全部を出していないのはホントのことだしねぇ。
 この世界から脱出する当てがあることとかさー)

まだ、旅の仲間が誰も欠けていなかったあの頃。
一度目のはざまの世界の旅ではこの世界から抜け出す方法は確かに存在した。
ヘルハーブ温泉を掻き分けた先にある井戸。
それは元の世界へと通じるきっかけとなったものだ。

(本来なら教えるべきなんだろうけどなぁ……下手に希望をちらつかせてもぬか喜びだったら困るし。
 そもそも、デスタムーアがそんな抜け道を残しておくはずがないんだよね〜)

何かの手がかりになる可能性を秘めているとは考えているが、無理に試すレベルには至らない。
とりあえずは、頭の片隅においておくことに決める。
使える時になったら存分に案を出して考察すればいい。

(あー、やだやだ。僕みたいな弱小勇者には荷が重すぎるって。
 早く元の世界に帰ってターニアに癒されたい……もうバーバラでもいいよ!)

考えるだけでも気が滅入ってきたので、ターニアやバーバラのエロい妄想に全神経を集中させようとした時、猫車の動きが止まる。
そして、前から漂う空気が瞬時に切り替わったのを肌で感じた。

「ロッシュ」

臨戦態勢だ。マーニャの声が、それまでの軽快な口ぶりとは違う緊迫感のある警戒に変わる。
ふと目を開ければ、横のカインは既に剣を構えていた。
前方から参加者が接近してきたのだろう。一応の戦闘準備をしておくといった戦い慣れた光景だ。
208道化気取りの勇者達 ◆1WfF0JiNew :2013/05/26(日) 23:32:08.75 ID:AxE2Cm2S0
「ちょ、アンタ!? 何笑ってるの!」
「さすがに剣を構えるぐらいしようよ……」
「んー、ちょいタンマ…………うん、全く問題なしだから剣とか下ろしていいよって、勝手に僕を盾にするのはやめようよ!?」
「問題ないならいいじゃない」
「死体は火葬でいいかな?」
「死なないよ!! というか、まだまだ僕は現役だからね!?」

だが、ロッシュは依然と剣を抜かず飄々と笑っている。
前の二人は、イラッとしたのかロッシュを置いて後方へと足を退かせた。
それでも、彼の表情に変化はない。
まるで、必然。誰が来るかわかっているかのようだ。

「ひどっ! この人達ひっど! 君もそう思わないかい、色男!!」
「はぁ…………。ったくよ、相変わらず道化を気取りやがってんな。真面目に働けよ、アホリーダー」

薄闇の向こうから現れたのは青い服に身を包んだ銀髪の青年とオレンジ色の頭巾を被った気の強そうな少女だった。
テリーとマリベルである。二人は放送のショックを抜いた後、欲望の街へ向けて行進を再開したのである。

「失敬な。これでも、とっても働いてたんだからね? それに、度重なる激闘で重傷負っちゃったからさ。
 ね? 僕にもっと優しくしてもバチは当たらないんじゃないかな」
「もう殆ど治ってるだろうがっ! お前がサボる分だけこっちに面倒事が回ってくるんだよ、さっさと働け」
「ベストコンディションじゃないからやだよ〜。これでも、最弱の勇者さんですんで。
 もうこの際だし、僕の代わりにリーダーやってよ。よっ、リーダー! イッケメーン!」
「断る。ますますお前が働かなくなるじゃねーか。第一、俺より強いのに何言ってるんだ! ざっけんな!」
「……ククッ」
「……変わらねぇな、お前は」
「これでも初志貫徹をモットーとしてるんで。ま、軽口はここらへんにしておこうか。お互い無事で何よりだね、テリー」
「バーカ、言ってろ。第一、お前が勝手に死ぬなんて思ってねぇよ、ロッシュ」

口でこそ軽口の応酬を交わす二人だが、実際の内心はほっとしているのだ。
これまで険しい道程を突き進んできたが、やっと完全に信頼出来る仲間に出会えたのだから。

「それじゃあ、ここで休憩にしよう! 情報整理、食事。色々とやっておきたいじゃん?」
「んな時間はねーだろ、アホリーダー」
「また言ったな! 第一、アホとはなんだ、アホとは。割と建設的な案だよ? どうせここにいる全員今まで飲まず食わずなんだろうしねー。
 休める時に休んでおかないと碌なことにならないのは君も知ってるだろ?」
「チッ、正論なのが腹立つな……」
「こんなこともあろうかと欲望の街から食料と水、ついでに調理器具一式もくすねてきたし」
「盗賊極めてないだろ、お前」
「生きているなら、神だって盗んでみせる! あ、女神専門の怪盗ってことでよろしく」
「そんなの盗める訳ねぇだろ!」

このようになし崩し的にしばらくの休養が決まった脇で、あぶれた三人がぼそぼそと会話を交わす。
209道化気取りの勇者達 ◆1WfF0JiNew :2013/05/26(日) 23:34:53.70 ID:AxE2Cm2S0
「……あたし達蚊帳の外じゃない?」
「ま、いいんじゃない? 久し振りの再会ぐらい楽しまなきゃ損でしょ」
「銀髪イケメン……! ロッシュの奴、何でそんな大事な情報を言わなかったのよ!」
「そんな性格だからでしょ? 僕の時もいたよ……こういう軽い女……ドン引きだね」
「か、軽くないもん! これでもあたしは純愛思考よ! その言葉取り消してってば!」
「「嘘つけ」」
「ハモらないでよ!?」

このように、某所某所で漫才みたいなやり取りを繰り広げながら、彼らは一時の休息に浸ったのだった。


【C-8/欲望の町/夜】
【カイン(サマルトリアの王子)@DQ2】
[状態]:HP4/10 脇腹打撲 肋骨が折れる、内蔵微損傷
[装備]:プラチナソード、ロトの剣
[道具]:支給品一式×4、 不明支給品×1〜2(本人確認済み 回復道具ではない)、モスバーグ M500(2/8 予備弾4発)
    オーガシールド@DQ6、満月のリング@DQ9、世界樹の雫@DQ6、エルフの飲み薬@DQ5、デュランの剣@DQ6、もょもとの手紙
[思考]:妹を捜す。自分を貫く。泣かない。休息。
※D-8のミレーユ、ククール、ピエールの支給品は回収されました。
※旅路の話をしましたが、全てを話していない可能性があります。少なくともリアについては話していません。

【ロッシュ@DQ6】
[状態]:瞑想中 HP8/10(回復)、MP微消費、打撲(ほぼ回復)、片足・肋骨骨折(ほぼ回復)
[装備]:はじゃのつるぎ@DQ6
[道具]:支給品一式 、白紙の巻物@トルネコ、聖者の灰@DQ9、食材やら水やら(大量)、調理器具(大量)
[思考]:前へ進む 休息。

【マーニャ@DQ4】
[状態]:HP3/8 MP2/4
[装備]:なし
[道具]:猫車@現実、基本支給品一式
[思考]:ゲームには乗らないが、向かってくる相手には容赦しない。
     ミネアを探す、休息。

【ガボの狼@DQ7】
[状態]:おなかいっぱい
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:ガぅ(ごはんくれたからロッシュに従う)

【テリー@DQ6】
[状態]:ダメージ(大)、背中に打撲、MP消費(中)、焦げ、"   "
[装備]:雷鳴の剣@DQ6、ホワイトシールド@DQ8
[道具]:支給品一式(不明支給品0〜1)(武器ではない)
[思考]:休息。
[備考]:職業ははぐれメタル(マスター)
(経験職:バトルマスター・魔法戦士・商人・盗賊 追加)

【マリベル@DQ7】
[状態]:MP消費(小)
[装備]:マジカルメイス@DQ8 水のはごろも@DQ6
[道具]:支給品一式 (不明支給品0〜1)
[思考]:休息。
210道化気取りの勇者達 ◆1WfF0JiNew :2013/05/26(日) 23:36:58.01 ID:AxE2Cm2S0
投下終了です。
状態表に誤りがあったので訂正しておきます。
正しくは
【C-8/夜中】
です。
211 ◆1WfF0JiNew :2013/05/26(日) 23:58:19.42 ID:AxE2Cm2S0
またまた追記忘れ。

【C-8/欲望の町/夜】
【カイン(サマルトリアの王子)@DQ2】
[状態]:HP4/10 脇腹打撲 肋骨が折れる、内蔵微損傷
[装備]:プラチナソード、ロトの剣
[道具]:支給品一式×6(特薬草を使用)、 不明支給品×1〜2(本人確認済み 回復道具ではない)、モスバーグ M500(2/8 予備弾4発)
    オーガシールド@DQ6、満月のリング@DQ9、世界樹の雫@DQ6、エルフの飲み薬@DQ5、デュランの剣@DQ6、もょもとの手紙
    毒入り紅茶 ピエールの支給品1〜3 ククールの支給品1〜3
[思考]:妹を捜す。自分を貫く。泣かない。休息。
※D-8のミレーユ、ククール、ピエールの支給品は回収されました。
※旅路の話をしましたが、全てを話していない可能性があります。少なくともリアについては話していません。


何度もすいませんでした。
212名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/27(月) 00:31:33.66 ID:qvg+NzGV0
213名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/27(月) 22:08:47.72 ID:9UfXU5d60
投下乙です。
似たもの同士の境遇、それと旧知の人間との合流。
気を許せる仲間ってのは、いいですね。

そしてついにマーニャさんがイジられ側に……!
214名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/27(月) 22:56:57.93 ID:Rf2GMcDD0
投下乙です!
各々隠し持ってるものはあるものの、良い雰囲気のパーティが誕生したね。
215もうどこにも帰れないなら ◆TUfzs2HSwE :2013/05/30(木) 22:13:13.45 ID:/vVf+3EnO
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父であるパパスが殺されてからの十年は、リュカにとって、永遠とも思えるときだった。

望郷。
奈落のような奴隷の世界で、どん底にあった少年を支えたのは、そのたった二文字の言葉だ。
いつかあの、きらきらと小川の水面や葉の朝露を照り返し、燦々と太陽の光の輝く、
あのサンタローズの村で、父と生きてきた思い出と共に過ごすのだと。
愛しい故郷のみんなと、父の面影を共有しながら、静かに時を刻むのだと、信じていた。
それだけを頼みに、希望の綱にして、ここまで彼は生き延びてきた。

十年後、リュカはようやく、求めていた故郷を訪れた。
そこには日の射す村が、暖かな人々が、リュカの居場所が、
幼いころの思い出と変わらぬ姿で、変わらずにリュカを待っていてくれるはずだった。
その、はずだったのに。

――もう、どこにも帰れはしないのだと、わかったとき。
僕はどこに行けば、よかったんだろう。


216もうどこにも帰れないなら ◆TUfzs2HSwE :2013/05/30(木) 22:15:23.59 ID:/vVf+3EnO
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時計によれば、とうに夕刻をまわっているらしい。
変わり映えしない明るさの中、遥かなる広野を越えた先には、
二対の岩山に挟まれるようにして、深い森が見えてくる。

――愛していないと、彼女に対して目を見て言え、か。
あの情け深い竜は、自分に対して随分と無謀な提案をしてくれたものだった。
そしてその無謀に押されるようにして、当ても薄い中リュカはただ、南方へと足を進めていた。

傷付きながらも自分のために北へ向かった竜を思えば、足を休める時間は惜しかった。
黙々とここまで歩き続けているのは、己に誓いを課した竜のためか、それとも彼女のためか。
この森を越えれば今度こそ、フローラと再会できるのかもしれないが、
そこに光明を求めていながらもどこか沈鬱さを拭えないのは、
先ほど再確認したばかりの、彼女への負い目のためかもしれないし、
リュカ自身に白黒つけることを望んだラドンの存在が、どこか重かったからかもしれない。

そう、たとえ彼女と再会できたとして、
今さらそんな傷つけるような言動を敢えてするべきとは、リュカには思えなかった。
ラドンとて、あの提案は一種のたとえ話として口にしていたはずだ。
リュカが見せた曖昧な態度が、ラドンはきっと嫌だったのだろう。
尽くす主に道を違えてほしくないと訴えた竜の思いは、彼の胸にたしかに焼きついていた。

けれども、ラドンが命をかけて願ってくれたとしても、
己がフローラへの想いを肯定するようなときが来るとは、リュカには到底思えないのだ。
彼女を愛してなどいない。
リュカの胸に刻まれたその言葉は、彼を動かそうとする何がしかに対して、
道を過つことの無いように、いつでもその心を縛ってきた。
自身の目的のために彼女を利用したという事実を忘れないために。
そしてそのただ一つの真実が、己にとって過ちであるとは、決して思っていない。

そんな自分を揺り動かしたのは、あのバラモスの存在だ。
彼がフローラのことを口にしたとき、リュカは確かに動揺し、周囲には滅多に見せない負の感情を顕わにした。
けれどそれは、リュカがフローラを守らなければならないという使命感から成ったものであるし、
その動揺が例えばラドンのような誇り高き竜を驚かせたとしても、いわばそれは偶然の産物でしかない。
迷うことは何も無かった。
リュカの中で答えはとうに出ていたのだ。
そしてその答えに付き従い、リュカはここまで生きてきたのだ。

(僕は独りだ。あの日から、独りで生きると決めている)

まるで呪文のように、胸の内に繰り返す言葉を噛みしめて、リュカが足を進めていたとき。

――放送が、鳴り響いた。
217名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/30(木) 22:15:51.40 ID:gjj8cuIL0
 
218名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/30(木) 22:16:24.25 ID:gjj8cuIL0
 
219もうどこにも帰れないなら ◆TUfzs2HSwE :2013/05/30(木) 22:18:10.26 ID:/vVf+3EnO



“お父さん、大丈夫……?”

思わず崩れ落ちてしまったのは、自身の身体のほうだ。
追いついていかない心とは裏腹に、くずおれた足と零れた涙が、あの日の記憶への痛みを訴えていたのだろう。
痛かった。
ずっとずっと痛かった。
胸のうちに焦げ付いた、父を失ったあの日の記憶が、悲しみが、とめどなく僕を痛めつけた。
――けれど、違う。
本当に痛かったのは父さんだ。
太い爪に切り刻まれて、二の腕ほどもあるような牙に引き裂かれて、自分の身体の全てを焼き尽くすような火球に炙られて。
けれども父さんは一度たりとも揺れ動かずに、逃れることを選ばずに、歯を食いしばって耐え切った。
地獄のような苦痛の中で、ただ一つ、果たせなかった思いを僕に残して、父さんは死んでいった。
僕のために、僕のせいで、死んでしまった。

“泣かないで。わたしたち、ついてるからね……”

フラッシュバックしてくるあの日の記憶に引き摺られる僕を、幼い声が引き止める。
思わず膝をつき涙を零した、父親の姿としては情けないような状態の僕を、すくいあげるように放たれた声。
それは小さくて、幼くて、少しだけ震えていて。
僕みたいな人間を心から憂いてくれる、優しい子。
――レックス。
タバサ。
フローラが生んだ、愛しい子どもたち。

その温もりを思わず掻き抱きながら、僕は罪悪感に胸を焦がす。
この子たちを親として抱きしめてやる権利など、本当は欠片も無かったんじゃないのか。
僕は自分の目的のためにフローラを妻として選んだ。
いわば彼女を利用しておきながら、都合の良いときだけ愛情を求めるだなんて、あまりにも卑怯な話だ。
フローラと、彼女が生んだ子供たちを守るだけで、それ以上あの中に立ち入ってはならなかったのだ。
お母さん、とささやいて、子供たちがフローラに抱きつく。
フローラはくすぐったいような、しかたのないような顔をして、二人の子供を受け止める。
暖かな、まるで天国のような、家族の景色。
けれども僕だけは決して、その景色には立ち入らない。
ただただ、永遠にその光景を、三人の家族を見守ることができるなら、それでいい。

――僕は、父さんが果たせなかったものを果たすためだけに、生きてきたのだから。
そのためには何だって利用すると決めていたのだから。
果たしたものが終われば、残された家族たちを守るのは、彼らを利用した僕の責任だ。
そこに愛情なんて、欠片も存在しないのだと、思っていたのに。
220名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/30(木) 22:18:38.39 ID:gjj8cuIL0
 
221名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/30(木) 22:19:13.07 ID:gjj8cuIL0
 
222もうどこにも帰れないなら ◆TUfzs2HSwE :2013/05/30(木) 22:20:10.09 ID:/vVf+3EnO
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不変だったにび色の空が揺れる。
哄笑と共に紡がれる、禁止エリアと、死んでいった者たちの名前。
かたく拳を結んでそれを聞いていた、リュカはやがて力なく、その場に膝をついた。

タバサが死んだ。

疑うことも叫ぶことも反発することもしなかった。
ぐらりと力を失くした身体を片腕で辛うじて支えた。
おぼつかない頭でなんとかその事実を受け止める。
――ああ、死んだのか、タバサ。

様々にこみ上げてくる想いがある。
あんなにも優しい、まだ幼い少女がどうして、とか。
もう憤る気力さえ湧いてこなくて。
ただ、その喪失だけが、雨のようにリュカの身にしとしとと降り注ぐ。
冷たい地面をおさえた腕から、身体が凍えていくような気がして、リュカは軽く身震いし、目を伏せた。

やがてその視界に、一つの景色がにじみ出す。
フローラの腕に抱きしめられる、あたたかな笑顔。
子供たち。
リュカが生涯守り通そうと決めていた。
二度と、帰ってくることのない。

「う……」

喉の奥が熱いのは、なぜか。
自分が彼らに対して抱いていた感情は責任感だけのはずなのに。

「ああぁあ……ッ!」

獣のような嗚咽が辺りに響く。震える身体を支えることさえできなくなる。
両手で地面に爪を立てる。微かに茂る草を乱暴に毟って叩きつける。
乾いた大地を濡らすのは、紛れも無くリュカがこぼした涙。

二度と戻ってこない時間が、ただ脳内を駆け巡る。
223もうどこにも帰れないなら ◆TUfzs2HSwE :2013/05/30(木) 22:22:46.90 ID:/vVf+3EnO
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血の臭いが、止まない。
何故ならこれは、己の手から発せられるものだから。
いくら拭えど、払えども、血の臭いがゲロゲロから離れることはない。
それは紛れもなく、人を殺した証拠。

一度振り払ったはずの幻が、再びゲロゲロに問いかけ始める。
やはり、そうだったであろう? ――と。
それを振り払う気力がもはや、今のゲロゲロにはない。
その“幻”とは、他者に与えられたものではなく、己の内に存在するものだから。
半日という時間は、ゲロゲロという存在を構成するにはあまりに短い時でしかなく、
元ある魔王の人格に立ち向かえるほどの因果が、今のゲロゲロには無かったのだ。

(タバサ、エルギオス……すまぬ)

もうろうとさえしている意識の中で、縋るように名を浮かべることのできる、二人の存在。
たった二つの死者の名だけに繋ぎ止められて生きることは、今のゲロゲロにはあまりに困難なことだった。

(すまぬ……)

目先の目的を果たすこともできないまま、このまま意識を乗っ取られようとしていた、その刹那。

ゲロゲロは、その男に出会った。


男は泣いていた。
手も足も張り付くようにして座りこんだ男の頬から涙がとめどなく溢れていた。
それはちょうど森と平野の切れ目のころで、
ようやく開けた森の先に一人うずくまっている、その姿に。

まるで月光のような光を、ゲロゲロは見た。

明けないはずの、不変であるはずのこの空で、どうしてか清涼に、輝きを放つ。
今にも縋りついて救いを求めて叫びたくなるような衝動が溢れ出す。
一歩踏み出そうとした身体はしかし、彼の本能に引き戻された。
闇に片足を突っ込んで、もはや元に戻ることのできない彼の本能が、目の前の男を激しく憎んでいるのだ。
光と闇と、目の前に横たわる二つの“未来”を、彼には選ぶことができず、
ただただ、そこに立ち尽くしていた。

(間違いない。あれが……)

ゲロゲロがそう思うと同時に、目の前の男もまた顔を上げて、ゲロゲロの存在を視認する。
涙に目を腫らしてはいたが、柔らかな眼差しに灯る光は、遠目で見てもすぐにわかった。
闇にとらわれた魔物たちの、一欠けらの良心をすくいあげ、共に往くことを許してくれる、あの瞳。
タバサの瞳と、同じ。
224名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/30(木) 22:23:19.41 ID:gjj8cuIL0
 
225名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/30(木) 22:23:57.08 ID:gjj8cuIL0
 
226もうどこにも帰れないなら ◆TUfzs2HSwE :2013/05/30(木) 22:25:04.29 ID:/vVf+3EnO
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「リュカ……か?」
「……どうして、僕の名を」

ゲロゲロが絞り出すようにして放った第一声に、リュカは涙を拭って立ち上がる。
目を凝らして見つめる先に敵意は無いと認識し、一つ間を置いて呟いた。

「君は、もしかして」

目の前の魔物が、自分のことを知っている。
それはつまり、彼がリュカの家族を知っている、話を聞いているということではないのか。
リュカが光明を求めて呼びかけると、案の定、魔物は頷いた。

「私は、タバサと……お主の娘と共にいた」
「……!」
「魔物である自分を、タバサは仲間と言ってくれた……」

息を呑んだリュカの眼差しに、一筋の光のようなものが宿る。
どんな残酷な死が彼女を待っていたのかと絶望に駆られていたリュカだったが、
少なくとも彼女には心ある同行者がいたのだ。
それが人間ではなく魔物だったというのが、タバサらしい。
少しだけ、すくわれたような気持になる。

「……タバサは、どうして?」

内心恐れを抱きながらも、やはり無視することはできず、リュカは問いただした。
ゲロゲロは思いつめたような表情になり、首を振る。

「あれは……いわば、事故だ。誰かに直接殺されたわけではない」
「……そうか」

不幸から逃れることはできなかったとしても、例えばバラモスのような卑劣な存在に手をかけられたので
なかったとしたら、リュカにとっては、少しでも慰めとなるだろうか。
死者に対して救いも何も無いかもしれないが、それでも尚、失われた命のことを想わずにはいられない。
祈るような気持ちでタバサを想うリュカに、どこか苦しげな様子で、魔物は問う。

「……リュカよ、タバサの父よ。お主に逢えたならば一度、問いたかったことがある」
「え……?」

目を丸くするリュカに、切り込むように、ゲロゲロは問いを発した。

「お主が妻を、愛していなかったというのは、まことの話か……?」

突然の問いに、リュカは口を閉ざす。凍るように身体を硬直させて。
それは、ゲロゲロにとってはつい数時間前の出来事だ。
バラモスとの戦いの中でタバサとの再会を果たしたフローラが、愛娘に対して告げた言葉。
その後二人がバラモスの策略により引き裂かれてしまったために、彼女がそれ以上の真実を告げられることはなかった。
自分を信じ支えていた家族の中で、ただただその言葉が、タバサの心に大きな傷をつけてしまった。
そうしてそのまま、悲しみの中で、タバサは死んでしまった。
227名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/30(木) 22:25:06.78 ID:gjj8cuIL0
 
228名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/30(木) 22:25:44.39 ID:gjj8cuIL0
 
229名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/30(木) 22:26:53.70 ID:gjj8cuIL0
 
230もうどこにも帰れないなら ◆TUfzs2HSwE :2013/05/30(木) 22:27:04.25 ID:/vVf+3EnO
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「あの子の母親が、フローラがそう言ったのだ。
その後母親と引き離されてしまったタバサには、それ以上の真実がわからなかった。
あれから自分はタバサと共に、彼女の両親を、お前たちを探していた……」

黙って続きを促すリュカに、まるで縋るかのように、ゲロゲロは叫んだ。

「頼む、応えてくれ! お前はフローラを、タバサを、本当は愛していたのだろう?」

森の入り口と平原を挟み、沈黙が横たわる。
ゲロゲロの必死さとは裏腹に、リュカは身動き一つしない。
苛立ちが沸き起こってくるのは、単にリュカが何も言わないからだけではなかった。
こうしている間にも、リュカの存在を疎み、滅ぼすべきと訴える魔王の本性が、顔を出してこようとする。
それを必死に押し込めながら、タバサのために、祈るような思いで、ゲロゲロはリュカの言葉を待った。

「そっか」

やがてぽつりと漏れた、リュカの一言。

「タバサは、知ってしまったんだね……」

そう言って笑うリュカの笑顔はどこか寂しい。
氷柱のような衝撃がゲロゲロの胸を刺す。
では、やはりタバサが恐れたことは事実であったのか。
リュカとフローラを結びつけたのは天空の盾の存在ひとつで、それ以上の情はそこになかった。

「……もしかすると、タバサが死んでしまったのも、僕のせいなのかもしれないな」

言葉を失ったゲロゲロの様子に、リュカは寂しげに瞼を伏せた。
ゲロゲロは息を呑む。
あのときのタバサが、命を投げ出すほどに家族の存在を求めて駆けた、そんな風にまでなった切欠は、
元はと言えばフローラの言葉とその後の放送によって、心を不安定にしてしまったからではないか。
リュカの言うことは正答ではないが、完全に間違っているとは言えないのではないか。

「……そっか……」


――――違う。
こんなはずではなかった。


ゲロゲロの胸の内に、苛立ちが募っていく。
目の前の男が、タバサが愛した父親の姿とも、ゲロゲロが求めた崇高な魔物使いとも、異なるように思えた。
失ったタバサの代わりに、タバサの想いをその親に伝えることがせめてもの救いになるはずだと、
そのために自分は生きるのだと、思っていたのに。
231名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/30(木) 22:28:15.57 ID:gjj8cuIL0
 
232名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/30(木) 22:29:31.89 ID:gjj8cuIL0
 
233もうどこにも帰れないなら ◆TUfzs2HSwE :2013/05/30(木) 22:29:47.24 ID:/vVf+3EnO
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何もなかったのか。
本当に、何もなかったというのか。
信じがたい、信じたくないという思いが、ゲロゲロを貫く。
それはゲロゲロという存在を繋ぎ止めていた希望が、その心から剥がれていくように。


「……殺してくれ」

ぽつりと呟いたゲロゲロの言葉に、リュカははっと顔を上げる。

「なんだって……?」
「我をその手で殺してくれと言っている」

胸の内にすくう魔王を必死で押しとどめながら、ゲロゲロは言う。
ゲロゲロが感じた苛立ちと失望が、魔王を目覚めさせる餌となり、今にも溢れ出しそうだった。
それだけはなるまいと絞り出すようにして懇願する。
せめて――せめてこのまま、ムドーに乗っ取られる前に、“ゲロゲロ”として死んでいきたいのに。

「……どうしてそんなことを言うんだ」

無論、リュカにはゲロゲロの真意に気付けない。

「命を絶つべき存在があるとしたら、むしろそれは僕のほうだ」

ぐっと拳を握ったまま、リュカは首を振る。

「タバサが慕った君を、僕が殺せるはずないじゃないか……ッ!!」


剥がれていった心が、ぽとりぽとりと、地面に染み込んでいく。
最後に放たれた懇願は、叶えられることはない。

「……ならば、良い。望み通り殺してやろう……」

そう、おもむろに呟いたとき。
自分はもう『ゲロゲロ』ではないのだと、彼は、気付いた。





ふらりと、まるで亡霊のように、リュカは村中を歩いている。
後ろで呼びかける友人の声も、まるで彼には届かない。
――ここが、僕の、帰る場所だったんだ。
父さんがいて、サンチョがいて、村のみんながいて、明るい陽射しに、清流に……
十年の地獄を退けて、リュカはこの村に、帰ってくるはずだったのだ。

その故郷は、もう無い。
焼き付くされた民家、風化された瓦礫の残骸の、そのどこにも、かつての村の面影は残っていなかった。
優しい父さんも、おせっかいなサンチョも、そこに生きてきた人々の残り香さえ、感じられない。
父を失った時点で、リュカにはもう帰る場所などなかったのだと、初めて気づいた。
手がかりはないか、誰かいないかと必死に潜り込んだ洞窟で、リュカはパパスの置き手紙にたどり着く。
その手紙と、父が残した天空の剣だけのために、父が遺した思いだけに縋って、リュカは生きていくことを決める――
234名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/30(木) 22:31:53.86 ID:gjj8cuIL0
 
235もうどこにも帰れないなら ◆TUfzs2HSwE :2013/05/30(木) 22:32:03.58 ID:/vVf+3EnO
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それからというもの、自分の孤独を象徴するかのように、人ではなく魔物と道中を共にした。
ヘンリーはラインハットで生きる。
ビアンカとて山奥の村には父親がいる。
リュカとは違って、彼らにはたしかに故郷があって、誰かと共に生きている。
そんな中リュカに遺されたものは、父親が自分に託した思いだけだ。
ただそれだけが、世界とリュカを繋いでいたのだ。
彼らと共に往くことなんて、リュカの選択肢にはなかった。

きっとパパスはそんな生き方を強いるために、リュカに言葉を残したわけではないだろう。
パパスだけに縋って生きるようなリュカの姿を、パパスは認めたりしないだろう。
けれどもリュカには、そのたった一つの誓いしかなかったのだ。
この誓いを、勇者を探して母親を助けるという宿命を果たすために。
天空の盾を手に入れるために、リュカはフローラを結婚した。
情をもって選んだのではなかったことは、本人が一番よくわかっていた。
きっとフローラは、もうわかっている。
子供たちも真実を知れば、きっとリュカを許さなかっただろう。
天国にいるパパスだってきっと、リュカを許してはくれないだろう。

ああ、そうか。
レックスの、タバサの、フローラの、あの幸せな景色はもう失われた。
これ以上生きていても、パパスの遺志にとらわれただけのいわば亡霊である自分はいつか、誰かを傷つける。
ああ、そうか、だったら。

――――初めから、死ねばよかったんだ。
236名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/30(木) 22:32:25.79 ID:gjj8cuIL0
 
237名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/30(木) 22:33:12.82 ID:gjj8cuIL0
 
238名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/30(木) 22:33:57.23 ID:gjj8cuIL0
 
239もうどこにも帰れないなら ◆TUfzs2HSwE :2013/05/30(木) 22:34:03.38 ID:/vVf+3EnO
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雷の刃が、地面に突き刺さっている。
走馬灯でも、見たのだろうか。

目の前の魔物が振り下ろした剣が自分の胸に吸い込まれそうになったとき、
リュカはただ諦念の中で、自分が死ぬことを受け入れていた。
まるで永遠のような、一瞬の出来事だった。

リュカは、生きている。
一つたりとも傷つけられたところなく。
雷の刃はリュカを避けて、地面に突き刺さっていた。

「ふざけるな……」

震えるように絞り出したのは、魔王の声だ。

「タバサはお前を愛していたのだぞ……」

目を見開けば、怒りのあまりに全身を震わせている、相手の姿。

「お前を……お前がいた家族を……
失うことが怖いと、声も失うくらいに、心から愛しておったのだ!」

ゲロゲロは憤怒に身を任せて叫んでいた。
この世界に来てからずっと共にいたタバサ。
家族の存在に哀れなほどに振り回されて、心を揺らされたまま、死んでしまった。
笑顔を失ったままで。
ゲロゲロが救い上げたあの笑顔を、生涯あの森に取り落として。
記憶を失ったゲロゲロにとっては、タバサやエルギオスの存在が、ゲロゲロの存在を繋いでいたのだ。
両親の存在が、タバサを繋いでいたように。
そんなタバサの家族に絆が無いという真実など、認められようはずもなかった。

「なのに貴様は、タバサが愛したはずの父親が、死んでしまっても構わぬようなことを、口にする……!」

叩きつけられた言葉に、リュカはただ呑まれていた。
震える声で口にした言葉は、まるで子供が言い訳をするように、力がない。

「僕は……家族を、愛する資格も、愛される資格も、持ち合わせていないんだ。
父さんを失ったあのときに、僕は、独りで生きると決めた……」
「だから、愛していないというのか?
タバサもフローラも、貴様にとって家族ではないということか?」

雷の刃を地面から引き抜き、ムドーは言い放った。

「ならばなぜ、お前は泣いている!!」
240名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/30(木) 22:35:04.12 ID:gjj8cuIL0
 
241名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/30(木) 22:37:29.88 ID:gjj8cuIL0
 
242もうどこにも帰れないなら ◆TUfzs2HSwE :2013/05/30(木) 22:37:40.68 ID:/vVf+3EnO
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頬を熱く、伝うものがある。
縛りつけて、閉ざした心とは裏腹に、リュカの頬には涙が、伝っている。
気付いて指をはわせれば、幾度も幾度も流れていく熱い滴。

「家族を、失って……悲しかったのだろう、お前は? 親として……」

静かに告げられた言葉が、魔物のものとは思えないくらいに、情深い。
その声に導かれるようにして、自然と心の奥に浮かぶ言葉がある。

…………愛して、いた。
一度として、口にすることはなかったけれど。
僕は、家族を、愛していた――――


「戻れなくなる前に、今すべきことに気付くんだな……」

しばらくリュカの様子を眺めていたゲロゲロだったが、やがて身を翻した。
気付いたリュカは涙をぬぐって立ち上がる。

「待って、君は」
「追うな。次に会ったときは、敵同士だ」

歩み寄ろうとするリュカを背中で拒絶して、ゲロゲロは――ゲロゲロであったものは、告げる。

「我が名はムドー。この世界に刺客として配置された、四大魔王の一人よ」


去っていく背中を追うことができず、リュカはただそこに立ち尽くしていた。

レックスとタバサが死んでしまった。
二度と取り戻すことのできない時間を惜しみ、涙をこぼした自分。
もう否定しようもないほどに、あの頃がリュカには恋しかった。
243名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/30(木) 22:38:49.41 ID:gjj8cuIL0
 
244名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/30(木) 22:39:51.47 ID:CxEBhpQt0
     
245名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/30(木) 22:39:53.37 ID:gjj8cuIL0
 
246もうどこにも帰れないなら ◆TUfzs2HSwE :2013/05/30(木) 22:40:55.21 ID:/vVf+3EnO
いつだって、失ってから初めて気づく。
パパスが死んでしまったとき、パパスと共に生きていた時間が恋しかったように。
その想いがいつしかリュカを孤独に追いやり、愛なき生涯を決めさせた。
けれども、リュカはパパスと過ごした時間に恋焦がれていたように、
いつしか自分の子供たちと共に過ごした時間もまた、宝物のように思っていた。
フローラがいて、レックスがいて、タバサがいる光景を、確かにリュカは愛しく思い、守りたいと思っていた。

「戻れなくなる前に、すべきこと、か……」

去って行った魔物の背を思い浮かべながら、リュカは呟く。
レックスとタバサは、死んでしまった。
それで全てが終わりかと言えば、そんなことがあるはずもない。

“あなた”

あの鈴のような声を、覚えている。

“私はあなたを信じて、ずっとついていくわ”

風にはためく艶やかな水色の髪は、白百合のように咲く笑顔は、未だ失われていない。
この手で守れる可能性が、未だリュカには残っている。

「フローラ……」

守らなければならない人が、いる。
それでは決して義務でも、責任感でもない。
ああ、ここまできてやっと、自分は認めるのだ、と自嘲する。
誤魔化して、呪文のように繰り返して、けれども結局、答えは最初から一つしかなかった。
己の全てを懸けて守りたいと願うその女性は、愛するもの以外のなんであったというのか。


「……父さん、ごめん」

一歩足を進める前に、リュカは天を仰ぐ。
サンタローズの思い出は、懐かしすぎて、もはや細部を思い出すことができない。
今、彼の胸に焼き付いているのは、妻と子供たちと過ごした、グランバニアでの月日だった。
帰れるだろうか。たとえ子供たちを失ったとしても、フローラと共に元の世界に戻り、穏やかな未来を築いていくことができるだろうか。
思いを馳せるその頬に、最後の涙の一滴が伝った。

「僕は、いきます……」

――たとえ父に、許されないとしても。
それ以上に守りたいものがあったと、気付いてしまったから。
リュカは彼女を守るために、再びこの世界を歩き始める。
もうどこにも帰れないとしても、今度こそ、己の居場所を見つけるために。
247名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/30(木) 22:41:45.82 ID:gjj8cuIL0
 
248名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/30(木) 22:42:24.09 ID:gjj8cuIL0
 
249もうどこにも帰れないなら ◆TUfzs2HSwE :2013/05/30(木) 22:43:04.17 ID:/vVf+3EnO
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森をひたすら、東に急ぐ。
目指す先には、放送で予告された禁止エリア。
そこに飛び込めば、いやがおうにもゲロゲロは死ぬことになる。
先ほどリュカを殺さずに済んだのはいわば最後の気力を振り絞ったからで、
これからも正気で有り続けることのできる自信がもはや、彼には無かった。
ならばゲロゲロがゲロゲロであるうちに、己が身を滅ぼすことを、彼は望んだ。
しかし、やがてその足が止まる。
「ゲロゲロ」の望みとは、相反して。
足が思うように動かない。意識が塗り替えられていく。
そこにいたのはもう、半日をタバサらと過ごした、記憶喪失の魔物ではなかった。

「……ずいぶん煩わせてくれたものだな」

一見、独りごとのようにして呟かれた声は、ドスの聞いた低音だ。

「そんなことで、我を滅ぼせるとでも思ったか。
よほど愚かと見えるな……『ゲロゲロ』よ」

その顔に、笑みが浮かぶ。
この肉体が、この世界に落ちてから一度も見せたことのないような、正に魔王と呼ぶにふさわしい、邪悪な笑みだった。

「取り戻した以上、容赦はせぬ。
生きながらえた者たちはすべて、絶望に落としてくれようぞ――魔王ムドーとしてなぁッ!!」

森に、哄笑が響き渡る。
重い足音を伴って歩き出す魔王の、その意識の片隅で、誰かが何かの声を放つ。
それを煩わしそうに振り払い、魔王ムドーは森を往く。


――消えていく意識の片隅で、『彼』が囁いたその名前は。
彼女と共に過ごした時間は、たとえ絶望の世界にあっても、その笑顔を守りたかった、あの時間が。
灰色の空にまじって、塵のように霧散して、消えていった。




.
250名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/30(木) 22:43:34.79 ID:gjj8cuIL0
 
251名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/30(木) 22:44:05.18 ID:gjj8cuIL0
 
252名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/30(木) 22:44:46.39 ID:gjj8cuIL0
 
253もうどこにも帰れないなら ◆TUfzs2HSwE :2013/05/30(木) 22:45:17.13 ID:/vVf+3EnO
.


【E-4/北部/夜中】

【リュカ@DQ5】
[状態]:健康 MP微消費
[装備]:パパスの剣@DQ5
[道具]:支給品一式×3、祝福の杖@DQ5、王女の愛@DQ1、デーモンスピア@DQ6、結婚指輪@DQ9
[思考]:フローラを守る、南へ。

【D-4/東端/夜中】

【ムドー@DQ6】
[状態]:HP9/10 二重人格?(ゲロゲロの人格が残っている…?)
[装備]:スライムの服@DQ9、スライムヘッド@DQ9、雷の刃@DQS
[道具]:支給品一式、超万能薬@DQ8、トルナードの盾@DQ7、賢者の秘伝書@DQ9、ビッグボウガン(矢なし)@DQ5
[思考]:殺し合いに乗る
[備考]:主催者がムドーをどう扱うかは未知数です。主催からアイテムに優遇措置を受けています。
254名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/30(木) 22:46:51.61 ID:/vVf+3EnO
投下終了です。
支援ありがとうございました。
255名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/31(金) 18:03:18.85 ID:GoVHGlI10
投下乙です。
リュカはようやくスタートラインへ。
でも遅すぎたんだよなあ、魔物に諭されるっていうのが、また。
そしてムドー覚醒か……どうなるやら
256名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/01(土) 20:19:48.73 ID:iwkm8mnEO
投下乙です。

失われた家族、それでも伝えたい愛。

そして魔王は、在るべき姿へ……
257名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/02(日) 18:42:38.23 ID:BdRZSYc70
乙です。ここにも死にたがりが。
ゲロゲロが切ないなあ、救いはないものか…
リュカも幸せになってほしいけれど、フローラの同行者が怖い。
258名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/03(月) 15:20:29.78 ID:2I/+i8oQO
この先どうなるかわけわかんねえけど、せめてフローラとは生きて再会してくれぇ……
259無限大な夢の後で ◆CruTUZYrlM :2013/06/04(火) 00:09:50.25 ID:cLkDqtK70
魔術の都、カルベローナ。
その強大な力を持って、繁栄していた都は、魔王の手により滅び去った。
現にはとっくのとうに消え去っている、幻。

その都が、存在することを許されている世界があった。
殆どの人々は知らない、だが誰も知らない訳ではない。
知っている人間は、その世界の事をこう呼んでいた。

幻の大地、またの名を「夢」と。

では、その大地の住人は、いったい何者なのか。
現の人々の夢や願望が彼らを生み出したというのならば。
彼らもまた、夢の一部なのではないだろうか。

きっと、死ぬことなどないだろうと思っていたから誰も知ることはなかった。
夢の世界の住人が、"死"んだらどうなるか。
その真実を、あの世界の誰も知ることはなかった。

だって、彼らは夢から生み出された存在なのだから。

死ぬことなど、ない。

……ここは狭間の世界。
夢と現実の境界、人の悪しき感情が蠢く場所。
時にそれは牙を剥き、「夢」や「幻」として襲いかかる。

ある少女は恋人の姿を。
ある魔王は恋人の姿を。
ある魔王は自分の姿を。

映し出された虚像に、翻弄されることしかできない。
それは、この世界が生み出した夢。
本人の願望、希望が形となり惑わせていた。

そして、今。
一人の魔女が、生き絶えた。
幻の世界の住人であり、本当は既にいない存在が、死んだ。

幻の世界の住人が死んだら、どうなるのか?

知らない、それは誰も知らない。
ただ、分かっているのは。
怪鳥が飛び去った後、少女が横たわっていたはずの場所には。

何もなかった、ということ。
260無限大な夢の後で ◆CruTUZYrlM :2013/06/04(火) 00:10:21.67 ID:cLkDqtK70
ゆっくりと起きあがる。
少し固めのベッド、自分の体温で暖まっているシーツ。
大半の人間が屈してしまう眠気の魔力に、リッカはいともたやすく勝利していく。
寝ぼけ眼をこすり、あたりを見渡す。
すぐ近くには、側にいてくれた少女の姿。
だが、リッカはその姿に疑問を覚える。
と、いうのは何も髪が金髪になっているとか、そういう話ではない。
目を覚ますつい先ほどまで、"誰もいなかったような気がする"のに、目の前には少女、バーバラが居るからだ。
目を覚ました今でも、正直言うと人間の気配はしない。
でも、目の前には確かにバーバラの姿があるのだ。
「おはよ」
「おはようございます」
微笑みかけながら挨拶をするバーバラに、リッカは頷いて応じていく。
胸の中の違和感は、まだつっかえたままだ。
「あの……守ってくれて、ありがとうございました」
だが、そんな違和感よりも伝えるべきことがある。
自分が眠っている間、自分のことを守ってくれた彼女へ感謝を告げなくてはいけない。
自分も疲れているのに、それを押して自分の事を見てくれていた。
バーバラが居なければリッカは、とっくのとうに死んでいたかもしれないのだ。
ゆっくりと頭を下げ、バーバラへ感謝の意を示す。
「"守る"かぁ……」
その言葉を受け、バーバラはやけに深刻な顔をしながらも、苦く笑う。
何かが食い違っているかのような、そんな反応。
リッカは、バーバラのリアクションがいまいち理解できずにいた。
「結果的には、そうなっちゃったのかな」
そこでバーバラは笑うことをやめ、リッカの顔をまじまじと見つめる。
「あのねリッカ、あたし実はね……貴方を、殺そうとしてたんだ。
 殺す……ううん、違う。"救おう"としてた」
つらつらと語り出されたのは、衝撃的な告白。
共に過ごしていた少女は、自分の命を狙っていたと言う。
「……"救う"?」
どうしても引っかかった一言を、リッカは問い返す。
「うん」
リッカの問いに特に悪びれる事なく答え、そのまま真剣な表情で言葉を続ける。
「これは魔王の作った悪夢の続き。
 人々はもがき、憎み、苦しみ、絶望することしかできない」
この殺し合い開いた魔王、デスタムーア。
バーバラはかつて、その魔王と戦ったと聞いた。
だが、魔王は蘇った。
以前よりも強大な力を手に、人間を苦しめようとしている。
「だからあたしが、夢の住人である大魔女バーバラが。
 みんなを悪夢から救ってあげなきゃ、いけなかったの。
 みんなが苦しむ前に、絶望に打ちひしがれる前に、この手で……」
夢を描かせ、その夢を叶え、生まれた絶望を吸い取り、狭間へ押し込めていく。
だから、この場にいる人間が深い絶望を覚える前に。
人間として、醜悪な部分を見せてしまう前に。
みんなを、"救おう"と思っていた。
「ま、叶わなかったんだけど、ね」
そこでバーバラは、いたずらっぽく笑う。
それが叶わなかった、と言うことはどういう事か。
リッカが先ほどから感じている妙な違和感も、今の一言で少し分かった気がする。
「……私は夢の世界の住人、同時に誰かが思い描いた夢でしかない。
 そしてこの世界は夢と現の狭間の世界、夢は形を持ち、現から生み出され、人を惑わせていく。
 だから……私が夢となって、誰かの夢へ託したかった。
 いわば、無念の塊って感じかな」
261無限大な夢の後で ◆CruTUZYrlM :2013/06/04(火) 00:10:56.07 ID:cLkDqtK70
フフッ、と嘲るように笑ってから、バーバラはリッカへと向き直る。
リッカは、少し前から俯いたままだ。
「……悔しいよ」
ぽつりと、俯いたままのリッカへとこぼす。
それが引き金になったのか、自嘲的な笑いから一転、怒りに打ち震えるような声になっていく。
「でも! 何度倒しても蘇ってくる! 悪夢はいつまでだって続く!
 今回の殺し合いをどうにかしたとしても! またアイツを倒しても!
 また悪夢は続く! みんなは絶望する! 夢を良いように弄ばれる!!」
希望を手に、道を切り開いても。
また顔を出すのは絶望だ。
"たまご"は、何度でもそれを運んでくる。
終わらない終わりを、輪廻する悲劇を。
「だから、私が……みんなが絶望する前に、救わなきゃ、いけなかったのに……!!」
だから、悲しみの連鎖に巻き込まれる前に、その命を救わねばいけなかった。
けれどももう、それは叶わない。
死んでしまっては、元も子も無い。
バーバラは、まるで子供のように泣きじゃくる。
「バーバラさん」
そんなバーバラに、リッカが声をかける。
流れないはずの涙をぼろぼろと流しながら、バーバラは上を向く。

ぱしっ。

「どうして……」
軽い音と共に、バーバラの頬が叩かれた。
「どうして誰かを頼らなかったんですか!!」
ここは夢の世界、リッカの眠りの中。
「人は弱いです、一人じゃ何もできない」
分かっているのに、どんな攻撃よりも痛い。
「でも、人が人同士で支えあえば、それは大きな力になるんです」
そして何より、リッカの口から出てくる言葉たちが。
「バーバラさんも、そうやって魔王に打ち勝ったんでしょう?」
今までの人生の、何よりも痛い。
「どれだけ絶望が来ても、前が向けるなら。
 そして共に前を向いてくれる人がいれば、立ち向かっていける、私はそう思ってます」
知っていた、分かっていた、けれど頼ろうとしなかった。
「バーバラさんにも居たんじゃないですか? 一緒に前を向いてくれる人が、立派な仲間が!!」
幻を、"夢"を正さなきゃいけないのは自分だから。
そんな思いこみを抱え、一人でどうにかしようとしていたから。
「魔王が倒せるほど、何度絶望が来たって立ち向かえる、そんな素晴らしい仲間がいたんじゃないですか!?」
答えは簡単だった、けれど気づかない振りをしていた。
そして、今気がついても、それは遅いこと。
「バーバラさん」
涙をぼろぼろと流すバーバラに、リッカは言葉を続ける。
「真っ先に"救われるべき"は、貴方です」
放たれる言葉に、再びバーバラの心は縫い止められる。
「それも殺す殺さないじゃない、死ぬ死なない、絶望するしないじゃない。
 貴方が気に病む事なんて何もない、憎むべきは魔王、それだけでいいんです」
絶望は続く、終わらない悪夢が繰り返される。
だから、殺して終わらせるしか、救うしかなかった。
けれど、リッカはそうじゃないと言う。
「だから、もう、無理しないでください」
真っ直ぐとバーバラの目を見て。
「人間は、前を向けますから」
そして、その先の未来を見て、彼女は魔女に言った。
262無限大な夢の後で ◆CruTUZYrlM :2013/06/04(火) 00:11:41.49 ID:cLkDqtK70
「そっ……か」
全てを察し、そして気づいた。
見えないフリをしていただけだと言うことに、気づいてしまった。
遅すぎる後悔が、バーバラを襲う。
「……リッカ、お願い」
もう、自分には何もできない。
肉体はとうに朽ち、夢も斬り裂かれた。
だけど、だけど。
「みんなを」
彼女なら絶望を、永遠の闇を切り開ける。
そう、確信した。
「助けて!!!」
最後の叫びと共に、光が満ちていく。



ぱちり。
目が覚める。
夢の中でも夢を見ていた、と言うことなのだろうか。
腕の痛みをこらえながら、リッカは器用に起きあがる。
「バーバラさん……?」
先ほど、といっても長い間眠っていたからそう近くはないが。
確かに隣に居たはずの人間はいない。
だが、リッカは分かっている。
もう、バーバラはいないのだと。
さっきまで見ていた夢が、それを教えてくれたから。
「……行かなきゃ」
自ずと、足が動き出す。
絶望しない、誰かと共に前を向く。
夢の中でそう誓ったから、人間はそれができると言ったから。

彼女は、前を向く。

【A-4/ろうごくのまち・居住区/夜中】
【リッカ@DQ9】
[状態]:右腕に重傷(矢が刺さったまま)
[装備]:なし
[道具]:復活の玉@DQ5、大量の食糧(回復アイテムはなし)、支給品一式
[思考]:絶望しない、前を向く。
[備考]:寝ていたため、放送があったことを知りません。
263 ◆CruTUZYrlM :2013/06/04(火) 00:13:17.35 ID:cLkDqtK70
続けて投下します。次話のタイトルは
「"サヨナラ"って言えなかった事、いつか許してね」です。
264名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/04(火) 00:13:50.80 ID:JJMpxg/t0
支援
265名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/04(火) 00:14:05.48 ID:ofmhATs+0
 
266名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/04(火) 00:14:35.72 ID:ofmhATs+0
  
267名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/04(火) 00:15:05.99 ID:ofmhATs+0
     
268 ◆CruTUZYrlM :2013/06/04(火) 00:15:16.30 ID:cLkDqtK70
男は、純粋に恐怖していた。
血、怒り、殺人、躊躇いの無い眼差し、戦い。
今まで目にすることなど殆ど無かったものが、平然と行われている世界。
そして死にいく人間達の姿を見て、ふと頭に過ぎる。
次は、自分なのではないか?
「うわ、わあああああああああ!!!」
それを考えたとき、もう男に理性など残っているわけも無かった。
しばらく傍観していた場所から離れ、町から離れ、ただ只管に走り続ける。
どこが禁止エリアだったか? どこに向かうのが安全なのか? そもそもどこから来たのか?
そんなことを考える余裕がないほどには、男の精神は削り取られていた。



だってあんな惨劇を目にしたのなら、まともで居られるわけが無いのだ。



「ぐぬ……」
剣を片手に、ジャミラスは呻く。
それも無理はない、たった一人で複数人を相手にしているのだから。
目の前には強大な腕力を持つ少女、そしてたなびくマントが特徴的なさまよう鎧。
前衛の二人のコンビネーションを裁くだけでも一苦労なのだ。
しかもご丁寧に、腕力倍加呪文までかけられているから質が悪い。
さらに背後からの援護は強力呪文、極めつけに背中には戦えない荷物。
自分の思い通りに進まない現実に、ジャミラスは苛立っていた。
「どおりゃあ〜っ!!」
勢いよく地面を蹴り、両足を揃えて繰り出していく。
まるで弾丸のような一撃に、ジャミラスの体が大きく揺らめいてしまう。
その隙を逃さず、サイモンが一文字を加えていく。
致命傷ではないものの、ジャミラスの体力をしっかりと奪い去っていく。
「いけるよ、サイモン!」
即席のはずのコンビネーションを、瞬時に合わせながら次々に攻撃を仕掛けていく。
アリーナの類希なる戦闘センス、そして歩けば歩くほど経験を積むサイモンという存在。
この二人だから、できる芸当。

「おっほっほ、こりゃワシらの出番はなさそうじゃなァ〜」
まさに"ガンガンいこうぜ"と言って良いほどの進撃を見せる二人に、男魔法使いは舌を巻く。
同時に、前衛の二人に恐怖すら覚えていた。
在りし日のリンリンとカーラ、とまでは行かないにしてもそれに近い力はある。
今は仲間として後ろから援護している立場だが、自分が敵という立場に立ったとき。
ハッキリ言って勝算は無いに等しい。
隣で傷を癒しながら前衛を見つめる二人はともかく、前衛の二人は男魔法使いにとって一番やっかいな存在。
できるだけあの二人が傷を負い、かつ魔物も倒せるような展開に運ぶ必要がある。
老魔は呪を放ちながら、自分にとって都合のいい展開へ運ぶために、一挙一動を考える。
その時、背後に何かしらの気配を感じ、急いで振り向いていく。
「チッ、新手か!?」
振り向いた先にいたのは、傷だらけのドラゴン。
この殺し合いが始まってから、老魔が初めて魔法を撃った相手でもある。
だがそんなことなど、老魔がいちいち覚えているわけもなかった。
雑魚に割いてやる頭のリソースなど、ゼロに等しいのだから。
ともかく、乱入者を放っておいてもいいが、この位置だと真っ先に狙われるのは自分だ。
老魔は躊躇い無く、上級の呪文を練り上げていく。
竜は依然としてこちらに向かって走ってくる。
その足は決して止まることはない。
だから、初めの内に迎え打つ。
269名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/04(火) 00:15:37.36 ID:ofmhATs+0
       
270 ◆CruTUZYrlM :2013/06/04(火) 00:15:46.84 ID:cLkDqtK70
「……んあっ?」
だが、練り上げた呪文が形になることは無かった。
何故ならまるで自分には興味がないと言わんばかりに、ドラゴンは自分の隣を通り抜けていったからだ。
そしてドラゴンはビアンカのそばに近寄ると、まるで彼女を守るかのように前に立ちはだかり始めたのだ。
初めに出くわした老魔が、初見でドラゴンに襲いかかったのは仕方のないことだ。
人間と魔物は相入れない、互いに狩り尽くすべき存在だと、知っている。
だから、ドラゴンは決して老魔に襲いかかることをしない。
ビアンカを守るという約束と、願わくば自分の思いが老魔に通じることを祈りながら。
「……リュカの感じがする」
そんなドラゴンの姿を見て、ビアンカは一人の男の名を呟く。
その名を呟いたと同時に、ドラゴンが頷いたような気がした。
しかしビアンカの予測が当たっているとすれば、肝心のマスターはどこにいるというのか。
ドラゴンが来た入り口を見つめても、特に人の気配はしない。
「リュカは?」
言葉が通じるかどうかはわからないが、現れたドラゴンに問いかける。
すると、ドラゴンが少しだけ悲しそうな目をした気がした。
たまたまか、それとも意志が伝わったのか、それはわからない。
「……そう、でも大丈夫よ」
だが、ドラゴンが言わんとすることは分かる。
リュカは仲間を顎で使い、一人立ち向かわせるようなことをする男ではない。
ドラゴンがリュカの仲間という確証は「リュカの感じがする」というざっくばらんなものだが、それでもリュカの仲間だと思っていいだろう。
そして、何かしらの思惑があってドラゴンだけがここに来た。
そういうことなのだと、ビアンカは何となく感じる。
「ふふ、ありがと」
果敢にも前に立ちはだかろうとするドラゴンに感謝を述べ、ビアンカは優しく笑う。
「ミネアさん、彼の治療をお願いできますか?」
「はい、もちろんです」
そして傷だらけの彼の体を、二人の癒しの光が包み込んでいった。

「よくわかんねぇけど、面倒な事になったな……」
その光景を遠巻きに見つめ、前衛の補助をしながら舌打ちしていたのは老魔だ。
魔物が人間を守る、なんて話は長い人生の中で一度も聞いたことはない。
だが、目の前ではさもそれが当然かのように行われている。
前衛には強固な攻撃陣、そしてひ弱だった後衛に魔物という大きな守り。
ここまで揃ってから崩すのは、流石に厳しいだろう。
かといって、無理に裏切れば自分の身を追いつめることになる。
協力しつつ、かつこの集団を崩す。
老魔は、そんな最善の一手を考え続けていた。
271名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/04(火) 00:16:14.81 ID:ofmhATs+0
     
272名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/04(火) 00:16:16.45 ID:h7zQv8tA0
支援
273 ◆CruTUZYrlM :2013/06/04(火) 00:16:21.23 ID:cLkDqtK70
 


「そろそろ観念したらどう?」
強烈な蹴りをジャミラスに叩き込んだ後、足をトントンと整えながらアリーナは言う。
「ほざけ、この程度で圧倒したつもりでいるのならば、甘すぎるな」
「分かってたけど退く気ゼロ、か」
打撃に加え斬撃を加えても、まだまだジャミラスは立ち上がってくる。
サイモンとアリーナが手を抜いていたわけではない、ジャミラスがダメージを軽減する術をうまく駆使しているからだ。
しかし、それでダメージが無くなったわけではない。
じわじわと蓄積されているそれは、確実にジャミラスの体を蝕んでいた。
事実、今ジャミラスは少し荒目に呼吸をしている。
ダメージと疲労が体に溜まっている証拠だ。
「ふん……やはり人間の作りし武器などに頼っているのが間違いだったか」
ふと、ジャミラスはその一言と共に剣を投げ捨てる。
「やはり、この私の爪が一番良い。肉を裂くのも、潰すのも、この私の手ならば自由自在だからな」
剣で攻撃を防ぐという事を捨て、己の拳を武器にするという決意。
本気に変わった眼差しを受け、アリーナはグッと気を引き締める。
「サイモン、畳みかけるよ」
「御意」
仲間へ短く伝令し、ジャミラスの次の一撃に備えていく。
同時に、ジャミラスが羽を羽ばたかせながらアリーナ達へと近づいてい来る。
軌道は一直線、速度は上々。
だが、かわせない攻撃ではない。
アリーナとサイモンは、ほぼ同時に真逆の方へと飛び跳ねていく。
地面から空へ抉りとるようなジャミラスの拳は、空を切った。
怪しい、とアリーナが感づいたときにはほとんど手遅れだった。
黄金の螺旋を纏い、空へと上っていくジャミラス。
その腕に巨大な閃光を手にし、一直線に獲物へと向かう。
対象は、アリーナ。
飛び跳ねた際の着地の時間、その一瞬を突かれる。
慌てて防御の構えを取るアリーナ、構うことなく突っ切るジャミラス、駆け出すサイモン。
だが、間に合わない。
拳は無情にも振りおろされる。
「おいおい、ワシを忘れんとってくれ」
のほほん、とした気の抜けた声。
その声と共に、ジャミラスの目の前に一個の巨大火球が現れる。
このまま進めば、直撃する。
ジャミラスはチッ、と舌打ちをしながら手に貯めた閃光を火球へとぶつける。
一瞬のスパークと共に、その両者が弾け飛んでいく。
「危なかった……ありがと、おじいちゃん」
「ほほほ、こう見えてもまだ若いんじゃ」
少し遠くで笑っている老魔に、アリーナは感謝の言葉を述べていく。
あと少し遅ければ、どうなっていたかは分からない。
もう一度気を引き締め、ジャミラスへと向き合う。
「チッ、雑魚共が……」
「そう言ってられるのも今のうちだよ」
苛立ちを表に出すジャミラスに対し、アリーナは静かに告げていく。
攻め手が二人、援護の呪文もある。
たった一人のジャミラスに勝ち目などない。
そう、思っていた。
「サイモン、来るよ!!」
再び低空飛行を始めたジャミラスに対し、攻撃の構えを作っていく。
今度は避けるのではなく、空へと舞う前に叩きのめす。
相手の速度を利用して、己の拳の力を上げようと言うのだ。
すぅっ、と息を吸い、その時に備える。
「はああっ!!」
そして、最高速に乗ったジャミラスの体へ。
アリーナは真っ直ぐに拳を伸ばし、サイモンは渾身の一閃を放った。
274名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/04(火) 00:16:34.25 ID:JJMpxg/t0
 
275名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/04(火) 00:16:46.08 ID:ofmhATs+0
       
276 ◆CruTUZYrlM :2013/06/04(火) 00:16:57.18 ID:cLkDqtK70
それは、ジャミラスの体を傷つけることはなかった。

すんでのところで旋回したジャミラス。

空を切る剣と拳。

巨体が空へと舞った時、その先に見えたのは。

「邪魔だって言ってるのよ」

紫電を纏いし剣を構えた、一人の少女だった。



人間の武器は使えない。
ジャミラスのその言葉は本心だ。
だが、剣を投げ捨てたのはそれだけではない。
人間の作りし剣が手に馴染まぬと言うのならば。
手に馴染む人間が扱えばいいだけのこと。
そう、唯一ジャミラスに力を貸す人間、リアへと渡せば良いだけのことだ。
余裕を持った言葉はいわばブラフ。
意識を自分だけに向けてもらう為の都合のいい要素でしかない。
本来の目的はリアに武器を渡すことだった。
それを体よく理解してくれたのか、リアはジャミラスの思い通りに体を動かしてくれた。
そして彼女は曲がりなりにもロトの末裔。
その小さな体に微弱ながら魔力を蓄えている。
魔力があれば、この巻物を読み解くことが出来る。
ジャミラスの勘が当たっていれば、一回はこの巻物の力を引き出せる。
そして、ジャミラスの読み通りリアは巻物の力を引き出した。
非力な少女が放つとはいえ、古の奥義の内の一つ。
歴戦の戦士と言えど、無傷でいられる訳など、ない。



爆発音と共に舞い、その場にいたであろう全ての人間の視界を奪った砂塵が、ゆっくりと晴れていく。
後衛に居た者はなんとか被害を免れたが、前衛はどうなっているか。
避ける暇など無かった、考えるまでもない。
しかし砂塵が晴れ、後衛の人間の目に真っ先に映ったのは。
"なぜか倒れ伏している"サイモンだった。

防御体勢はとれなかった、だが動けなかったわけではない。
剣を振りかぶっていたサイモンに対し、アリーナは即座に力を極限まで絞り、必要最低限の力でサイモンを蹴り飛ばしたのだ。
防御をとれなかったサイモンは、アリーナの蹴りをもろに食らい吹き飛んだ。
だが、ある程度加減された蹴りはそこまで深手を与えたわけではない。
現に、サイモンは今ゆっくりと起きあがろうとしている。

では、蹴り飛ばした張本人はどうなったのか?

砂塵が、全て晴れていく。

煙が晴れた先、無情にも飛び込んできた光景。
真一文字に胴を斬り裂かれ、衣服を深紅に染めながらも立ちはだかる。
サントハイム王女、アリーナの姿。
普通なら、死んでいてもおかしくはない傷。
それでも立っていられるのは、何故か。
その時、ゴフッという音と共に大きな血の固まりを吐き出す。
277 ◆CruTUZYrlM :2013/06/04(火) 00:17:50.00 ID:cLkDqtK70
「うわ……流石、に……ヤバ、いかな」
ふらつく体に対し、必死でバランスをとり、地面に立つ。
その目は、剣を持つ少女を見据えていた。
「アリーナ!!」
仲間たちの叫びが、空に響く。
「おっと、お前たちの相手はこの俺だ」
キィン、と剣の交差する音が聞こえる。
剣を持ったジャミラスが、サイモンの前に立ちはだかっていた。
「く……」
ジャミラスの追撃を避ける為に、サイモンは大きく飛び退く。
リアに戦いの心得がなかったからか、それとも非力な少女だったからか。
後衛陣にはさほど被害がなかったようで、老魔をはじめ、ビアンカたちにはそこまで目立った傷はなかった。
だが、攻めの要とも言えるアリーナは今いない。
この状況で、どう動けばジャミラスを倒せるだろうか。
「……頃合いか」
サイモンがそんな考えを巡らせていた時、老魔が言う。
何が頃合いだと言うのか、サイモンにはわからない。
まぁ、わからなくても答えは向こうからやってきたのだが。
間を置かず、一発の火球がサイモンを包み込んだ。
その場にいる誰もが息を飲み、老魔はそのまま動く。
立て続けに閃光があたりを包み込み、爆発音が鳴り響く。
竜と二人の女が煙で見えなくなったと同時に、老魔はジャミラスの前へと進む。
「なあ……」
ジャミラスは、老魔を警戒しながら二の句を待つ。
「手を、組もうぜ」
飛び出したのは、予想もしていなかった一言。



「邪魔だって、言ってるでしょ」
二度目の爆発が近くで起き、砂塵が再び舞い上がる。
その中で、リアは冷たい眼差しでアリーナを見つめていた。
いつ死んでもおかしくはない、だというのにアリーナは立ち続けている。
「……悪いけど、ここは譲れない、かな」
そこまで彼女をつき動かすのは、何か。
一本の柱、それが彼女の心にあるからか。
突如、ゆらりとアリーナの姿が消える。
死にかけが倒れただけ、そう思っていた。
だが、次の瞬間にはリアの視界が暗く染まる。
それとほぼ同時、何かに抱きしめられる感覚がリアを襲う。
「……寂しかったんだよ、ね」
あと一歩で死ぬかもしれない、いやもう半分以上死んでいるはず。
そんな体のアリーナが、どこから振り絞ったのかわからない力を、全て移動に使った。
瞬時にリアの正面に移動し、傷だらけの体で抱きしめる。
突然の事態に、リアも反応することが出来ない。
「さっきの話、聞いてて思ったの」
小さなリアの体をやさしく抱きしめながら、不自然なほど流暢に言葉を滑らせていく。
「無理ないよ、誰も話を聞いてくれないし、自分達の気持ちなんて考えてくれない。
 そんな世界にいたら、私だってどうかしちゃうと思う」
リアは動かない、動けない。
そんなに力は掛かっていないはずなのに、なぜか体が動かない。
そんな彼女に、アリーナは言葉を続けていく。
「だから、さ。私はあなたの"友達"になりたいの」
「ッ!!」
ようやく、アリーナの体を振り払い抜け出していく。
真っ赤に染まり始めていたドレスに、真新しい血がべっとりとついている。
「ふざけないで!!」
弾き飛ばされたアリーナは、それでも体勢を崩すことはなく。
ブレることなく真っ直ぐ、リアを見つめ続けている。
278名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/04(火) 00:18:04.69 ID:fi1iwk4rO
支援
279名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/04(火) 00:18:25.54 ID:73+jg/W+0
sien
280 ◆CruTUZYrlM :2013/06/04(火) 00:18:43.53 ID:cLkDqtK70
「こんなになるまで辛いことを抱えてきたんだね。
 お兄ちゃんにしか話せなかったんだね。
 誰も彼もあなたを勝手に評価して、遠ざかっていたんだね」
リアの過去は一般人が想像する何倍も壮絶なもの。
小さな体には、無数の心の傷が残されている。
では、この小さな体を傷だらけにしたのは、誰なのか?
言うまでもない、リアの世界の人間達だ。
もし誰か、誰かがそうでなければ。
彼女の心の寄り所が、兄だけでなければ。
こうはならなかったのかも、しれない。
「私は、そうじゃない。
 私は、あなたの話を、あなたの言葉が聞きたい。
 私は、ありのままのあなたを見たい」
でも、アリーナは今からでも遅くはないと思っている。
彼女が暴れているのは、誰にも話を聞いてもらえないから。
誰も話を聞いてくれないのだから、話を聞いてくれる兄と、永遠に共にいようとしている。
だったら、誰かが話を聞いてやればいい。
必要なのは同情でも、哀れみでもなく。
話を聞いてあげる事、それがあれば今からでも戻れる。
そう、信じている。
「だから、お願い」
アリーナは、すっと手を差しのべる。
「友達に、なってくれないかな」
誰かと話す、そんなことを知らずに育ってしまった少女へ。



差し伸べたその手は、弾かれる。



「……ふざけないでって言ってるでしょ」
リアは、怒っていた。
ほんの少しの話だけで、理解したつもりになっているアリーナに、怒りを露わにしていた。
今すぐ殺してやりたい、心の底からそう思うほどに。
「……そっか、突然誰かに優しくされたら、どうしたらいいかわかんないよね」
だが、アリーナは申し訳なさそうに笑う。
そうだ、リアは今まで"話を聞いてくれる人"を知らないのだから。
突然そんな人間が現れたとしても、対応できるわけがない。
「大丈夫、"あなた"をしっかり見てくれる友達は、一杯いる」
故に、アリーナは言葉を残す。
願わくば、少女が元の道に戻れるように。
叶うなら、少女に無二の友ができるように。
「だから、怖がらないでね」
そして何より、自分の気持ちを伝えるために。
言葉を、しっかりと紡ぎ、残す。
「あー、もう。もっ、とお話、したい、のになぁ」
時間切れ、それは誰よりも自分自身がわかる事。
再び大きな血の塊を吐き、体を大きくフラつかせる。
だが、アリーナは倒れない。
倒れたら、リアの話を聞いてやれなくなるから。
崩れ落ちそうになる足を振るわせ、渾身の力を込めて地面へ突き刺していく。
少女の目をしっかりと立って、見据える為に。
そして、そのまま。
目をしっかりと見開いたまま、長い長い眠りに、ついた。
281 ◆CruTUZYrlM :2013/06/04(火) 00:19:14.27 ID:cLkDqtK70
「……何よ」
自分に特に危害を加えるでもなく、ただ言葉を吐き捨てて彼女は死んだ。
放っておくだけでもどの道、助からない命。
それが消えていった、それだけなのに。
「偽善者のくせに……」
どうして、心は晴れないのか。
どうして、心に何かが残っているのか。
この感覚、彼女ははっきりと覚えている。
勇者ロトを、この手で殺めたときと、全く同じ感覚。
動じる必要はない、何も気にすることはないのに。
何かがズシリと、心に残っていた。

後ろを振り向けば、煙が綺麗に晴れている。
その中央、まるで魔王のように君臨する一匹の魔物。
彼女は今の出来事を忘れようと、魔物へと歩み寄っていく。

決めきったはずの心には、綻びが生まれようとしていた。



「……手を?」
「そうだよ」
思わず問い返したジャミラスに、老魔は間を置かずに返答する。
先ほどまで敵として牙を向いていたはずなのに、なぜ。
「まあ、細かいことは抜きにすると、俺も片っ端から人間をぶっ殺そうと思ってるクチだ」
ヒゲをいじりながら、老魔は含んだ笑いと共に言う。
「……なぜ始めからそうしなかった」
「ハッ、魔物は揃いも揃って脳味噌がマヌケか?
 呪文が主体の俺が、あんな脳味噌まで筋肉の怪物に、真っ向から喧嘩ふっかけられっかよ」
ジャミラスの問いに対し、嘲るような笑いで答えていく。
思わず斬りつけそうになったが、グッと我慢をする。
「アリーナが死ぬまでその中に潜み、時が来れば内側から崩壊させる。
 だからそれまで待ってたって訳で、今がその時って事よ」
老魔は砕けた姿勢のまま、ジャミラスへとフランクに話しかける。
当のジャミラスは、まだ老魔の内心を探っている。
「では……貴様の誠意を見せろ」
「お安いご用さ」
ジャミラスの要求に対し、即座に返事をしながら老魔は動く。
振り向いた先には、一匹のドラゴンが老魔へと牙を剥こうとしていた。
だが、毒に蝕まれた体は上手く動かない。
よろり、と崩れた所を老魔は見逃さない。
老魔の手から放たれた氷刃が、ドラゴンの喉を貫く。
だが、ドラゴンは止まらない。
目の前の悪へ、狩るべき存在へ向かっていく。
一本、二本、立て続けに氷刃が体に突き刺さる。
それでも、止まらない。
かの男と約束したから、絶対に守ると約束したから。
目の前の男という悪から、彼女を守るために。
悪を見抜けなかったことを後悔しながら、一歩また一歩と進む。
全身に突き刺さった氷刃から血が流れでようと、毒が体を動かすことを阻もうとも。
ドラゴンはひたすら前へと進む。
一歩、また一歩、また一歩。
そして、ようやく男を射程に納める。
目の前の男、駆逐するべき悪。
それに向かって、躊躇うことなく爪を降り下ろしていく。
282名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/04(火) 00:27:32.32 ID:ZohLIXVL0
支援
283名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/04(火) 00:30:00.99 ID:ZohLIXVL0
支援
284 ◆CruTUZYrlM :2013/06/04(火) 00:33:06.31 ID:cLkDqtK70
「ふぅ、危なかったぜ……」
鋭利な爪を目の前にしながら、男は笑う。
氷刃を打ち込めど打ち込めど前へ進もうとするドラゴンに、初めは焦っていた。
どれだけ打撃を加えようと立ち止まる気配がなかったため、仕方なく手に持っていた杖の力を発揮させた。
砂柱の杖、どこからともなく砂の柱を発生させる能力を持つ未知の杖。
振りかざしたとほぼ同時に、自分の背丈の二倍ほどの砂柱が現れ、二人の間を引き裂いた。
そして、ドラゴンはその砂柱を引き裂き、そのまま息絶えていったのだ。
「さて、これで信用してもらえっかな?」
くるり、と振り向いて笑う。
呪文を打ち込んでいるときの容赦の無さ、そしてジャミラスの信用を勝ち得ようとしている姿勢。
ちゃっかりドラゴンの所持していた道具、装備を剥いでいる事実。
「なるほど、な」
否が応でも納得せざるを得ない。
差し出された爪を受け取り、事態が好転している事実に笑う。
「ねぇ、終わった?」
それと同時に、リアがジャミラスの元へと駆け寄ってくる。
より赤くドレスを染めた少女の手には、竜王の名を関する爪。
「……事情が変わった、だがもうすぐ終わる」
全てを察しながら、ジャミラスはニタリと笑い、リアに言う。
当のリアはジャミラスのその言葉には興味は無く、寧ろ隣の人間に不快感を示していた。
「よう嬢ちゃん、さっきはすまなかったな」
老魔……そう、先ほどリアの行く先を阻んだ男。
その男が何故この場にいるのかが、理解できなかった。
「これからは仲間だ、よろしくな」
先ほど奪ったナイフを、にこやかに差し出す老魔。
何を考えているのか、笑ったまま動かないジャミラス。
ぐるりと辺りを見渡し、状況を把握していく。
「……邪魔だけはしないでね」
「肝に銘じるぜ」
ぱしっ、と奪い取るようにナイフを受け取り、一睨みしてからジャミラスの元へと戻る。
こりゃ相当嫌われたなと思い、肩を竦めたとき、後ろで物音がした。
「あなた……なぜ……」
振り返ると、傷だらけになりながら自分を睨みつけている、先ほどまでの同行者の姿。
露出した褐色の肌には傷が増え、衣服は引き裂かれている。
……まあ、その要因は誰でもない、自分なのだが。
「全てを壊す、それだけよ」
短く、告げる。
息を呑むミネアを前に、老魔はちらと後ろを見る。
ニヤついているジャミラス、そして此方を意地でも見ようとしないリア。
「……なあ、助かりたいか?」
老魔はそれをチャンスと受け取り、ミネアに交渉を持ちかけていく。
「何を……」
「このままだと、オメーら全員あの鳥に喰われてオダブツだぜ?
 俺の言うことが聞ける、っていうなら助け舟を出してやっても構わねーが?」
老魔の言うとおり、このまま待っていれば間違いなくジャミラスに駆逐される。
サイモンと共に前衛を張ったとしても、勝てる見込みは薄い。
その要因は目の前の男であることだけは、確かなのだが。
悔しいが呪文の詠唱速度では勝ち目が無いし、攻め入る武器もない。
完全に、向こうのフィールド。
「……望みは?」
苦い表情をしながら、ミネアは老魔へと問う。
「まあ、待ってろ」
その返答を聞いてから、老魔はヘヘッと笑い、身を翻していく。
285名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/04(火) 00:33:21.06 ID:ZohLIXVL0
支援
286 忍法帖【Lv=22,xxxPT】(0+0:5) :2013/06/04(火) 00:33:45.07 ID:cLkDqtK70
「なあ、ジャミラスよ」
剣を持ち、今にも襲い掛かろうとしていたジャミラスを止める。
「あの姉ちゃんは、どーーーーしても仲間を見逃して欲しいらしい。
 その為には何だってするって言ってるぜ?」
「なッ……!?」
「だろ?」
勝手に話を進めていく老魔に思わず声を上げてしまう。
確かに手札は無いとは言え、魔物に屈することがあって良いというのか。
だが、今の彼女にはこの老魔に頼ることしか出来ない。
遠くで倒れているビアンカを守る事など、今の彼女には出来そうも無い。
「あの姉ちゃんは僧侶だ、回復呪文の心得がある。
 だからよ、俺たちを回復してもらう代わりに、姉ちゃんとあいつらを見逃すってのはどうだ?」
老魔の要求を耳に入れ、状況を理解していく。
つまり、傷を癒せば見逃してもらえる、と言うことだ。
しかし、ここで魔力を使い尽くしてしまえば、ビアンカやサイモンを癒す力が無くなってしまう。
だが、この要求を蹴れば間違いなく"死"が待っている。
残されたサイモンとビアンカがどうなるかは、考えるまでも無い。
「なるほど……ならば、命だけは助けてやってもいいだろう」
「……リアは良いよ。それよりお兄ちゃんに会うまで魔物さんに死なれたら困るし、魔物さんを癒して欲しいかな」
「フッ、ナメられたものだな」
一人考えている中、ジャミラスはニヤリと笑い、リアは気だるそうな表情を浮かべる。
リアが回復を拒否した、ということが引っかかるが、それを気にしている余裕は無い。
「じゃ、頼むぜ?」
「……はい」
とにかく、従うしかない。
ゆっくりと手を翳して魔力を込め、敵として立ちはだかっていた存在の傷を消す。
やはり治りは遅く、最上級の呪文を重ねてようやく一つの傷が治せる程度だ。
特に負傷の酷い左手首を重点的に、ミネアは魔法を重ねていった。



「これで、良いでしょう」
汗を拭い、脇腹の痛みを堪えながらミネアは言う。
重ねがけの甲斐もあってか、ジャミラスの手首の傷は塞がり、翼の出血も止まっていた。
ジャミラスは手首をグルグルと回し、使用に違和感がない事を確かめる。
「……約束どおり、見逃してくれるんでしょうね」
「ああ、そうだな。約束どおり命は助けてやろう」
ミネアは契約を履行したことを告げ、ジャミラスはにこやかにそれに答える。
だが、言葉はそれで終わりではなく。
「"命"は、助けてやろう」
ジャミラスは、残酷な言葉を重ねていく。
「回復呪文が使える存在は貴重だからな、貴様にはこれからこの私に従ってもらう」
「なッ……!」
「ヒューッ……」
突然の隷属宣言に、ミネアは思わず言葉を失い、老魔は額から汗をたらす。
「どうした? 仲間がどうなっても良いのか?」
「くっ……」
歯がゆい思いをしながら引き下がるミネアと、悪魔の要求を平然と良いのけるジャミラスに感銘すら覚える老魔。
魔物の中でも、ここまで正直に欲望を放てる存在は初めて目にした。
その直球的な感情に、老魔は舌を巻くことしか出来ない。
287名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/04(火) 00:33:55.91 ID:JJMpxg/t0
 
288 ◆CruTUZYrlM :2013/06/04(火) 00:34:56.07 ID:cLkDqtK70
「……我慢の限界です」
そんなジャミラスに、ついにミネアは本心をぶちまけていく。
「一度ならず二度までも、人を弄び踏みにじっていく」
ミネアがこうやって従わされるのはこれが初めてのことではない。
先ほどもジャミラスに蹂躙され、挙句の果てに肋骨の一本を毟り取られた。
そして今、自分に従えと強制してきている。
目当ては回復呪文、それ以外に価値は見出していないのだろう。
だから、自分が回復呪文を使わないと判断すれば、ジャミラスは即座に斬り捨てる筈。
これ以上悪事に加担したくない、そんな気持ちを正直にぶつけていく。
「そんな悪魔のクズの畜生に従うくらいなら、死んだ方がマシです!!」
ああ、こんな存在を少しでも信用してしまった自分が、憎くて仕方が無い。
せめて、せめて贖罪のために。
少しだけ取っておいたなけなしの魔力で呪文を紡ぐ。
その呪文は形となり、優しくミネアの体から離れ、ゆっくりと溶け出していく。

「ありがとう、そしてごめんなさい」

そんな声が、響いた気がした。



「下手に出ていれば良い気になりおって……」
首から上を失った死体を蹴飛ばし、ジャミラスは怒りを露わにしていく。
一瞬とはいえただの人間にコキ下ろされたのだ、正常でいられるわけも無い。
「契約は破棄された、ならば俺が奴の言う事に従う理由も無い」
剣を取り、ジャミラスはゆっくりとビアンカに近づいていく。
もとより守る気も無かった契約を投げ捨て、本能のままに剣を振るおうとする。
ビアンカはまだ目を覚まさず、傷一つ無い体で横たわり、天使のような顔で眠っている。
「死ねぇッ!」
そんな天使に、悪魔は刃を振るう。
だが、聞こえるのは肉が裂ける音ではなく、金属が衝突する音。
「貴様……ッ!」
ジャミラスの目の前に現れたのは、老魔の火球に身を包んだはずの鎧の騎士だった。
片手にビアンカを抱きかかえながら、ジャミラスの剣戟を裁く。
「アリーナが、オレを助けてくれた」
その背に背負っていたマントは、半分が焼け落ちている。
「そしてミネアが、俺に力をくれた」
その胸に下げていた飾りは、光を帯びている。
「"ともだち"のいないお前らには、分からんだろうな」
再び現れた邪魔者に、ジャミラスの怒りは天を衝きそうになる。
289 ◆CruTUZYrlM :2013/06/04(火) 00:35:29.42 ID:cLkDqtK70
 
「ねぇー、魔物さん」
そんな彼に、間の抜けた声が届く。
「リアはおにいちゃん探しに行きたいんだけど、まだやるの?」
そう、初めはアリーナとミネアが食い下がってきたので、仕方なく戦闘していただけ。
目の前には気絶した女と、鎧の騎士だけ。
彼らに構う理由など、何処にも無い。
ジャミラスにとっては参加者を殺す事は意義のあることだが、リアにとってはそうでは無い。
寧ろ、こうしている間にも兄に危険が迫っているかもしれないのだから。
不都合なこと、と言う方が正しい。
そうだ、怒りに身を任せて前を見失ってはいけない。
殺すべき存在はまだまだ居る、そしてその存在を殺すためにリアが必要なのもわかっている。
彼女の機嫌を損ねるのは、マズい。
「……命拾いしたな」
ジャミラスは剣を仕舞い、身を翻していく。
「言っていろ、クズめ」
サイモンもそれを追わず、じっと見つめていく。
ここで手を出すのは、あまりにも不利だ。
「行くぞ、魔力は温存しておけ、これから強敵と戦うからな」
「あいよ」
ジャミラスは二人となった同行者に一言だけ告げ、ほぼ全快と呼べる翼を広げ、大空へと飛び去っていった。
向かう方角は、東。
西より歩みを進めてきた自分達が進んでいない方角。
そして何より、禁止エリアの都合上、動きだす人間が多い。
ヘタに南に動くより、向こうから近づいてきてくれる可能性が高い方へと進む。
そこに求め人が居れば、更に良いのだが。
三者三様の考えをめぐらせながら、翼をはためかせて真っ直ぐに東へと向かっていった。



飛び去っていく怪鳥を見送った後、ゆっくりとビアンカを寝かせ、辺りを見渡していく。
全身に穴を空けながら横たわるラドン、首のないミネア、そして足を地面に埋め、立って死んでいるアリーナ。
動くことも無く、ただその場に立ち尽くし。
「……アリーナ、ミネア」
盾を置き、甲冑で出来たその腕を真っ直ぐ伸ばし。
「オレたちは、ずっと――――」
騎士は、ただ言葉を紡ぐ。





「"ともだち"だ」





それは、永久に続く誓いの言葉。





【アリーナ@DQ4 死亡】
【ラドン@DQ1 死亡】
【ミネア@DQ4 死亡】
【残り22人】
290名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/04(火) 00:36:03.11 ID:ZohLIXVL0
支援
291名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/04(火) 00:36:10.16 ID:JJMpxg/t0
 
292 ◆CruTUZYrlM :2013/06/04(火) 00:36:20.86 ID:cLkDqtK70
 
【A-4/ろうごくのまち/夜中】
【サイモン(さまようよろい)@DQBR2nd】
[状態]:騎士は、二人の"ともだち"。
[装備]:さまようよろい@DQ5、ミネアの飾り、アリーナのマント(半焼)
[道具]:なし
[思考]:思案中
[備考]:マホトーンを習得、今後も歩くことで何か成長を遂げるかもしれません。
     胸部につけているミネアの飾りが光り輝いています。

【ビアンカ@DQ5】
[状態]:健康、リボンなし、気絶中
[装備]:女帝の鞭@DQ9、エンプレスローブ@DQ9
[道具]:支給品一式、炎のリング@DQ5、カマエル@DQ9
[思考]:リュカ、フローラに会いたい、彼らの為になることをしたい。
[備考]:カマエルによって錬金釜の使用方法を教わっています
    ビアンカの傷が治っているのはミネアのメガザルによる効果です。

【A-4/南東部/夜中】
【ジャミラス@DQ6】
[状態]:HP6/7
[装備]:ルカナンソード@トルネコ3、サタンネイル@DQ9
[道具]:剣の秘伝書@DQ9、超ばんのうぐすり@DQ8(半分のみ) 支給品一式*2
[思考]:リアを利用し、サマルトリアの王子(カイン)を労無く殺害。
[備考]:支給品没収を受けていません。飛行に関して制限なし。

【リア(サマルトリア王女)@DQ2】
[状態]:HP3/5 頬に傷 全体に切り傷
[装備]:竜王のツメ@DQ9、
[道具]:支給品一式*2、ツメの秘伝書@DQ9、不明支給品(本人確認済み)
[思考]:おにいちゃんを、ころす。

【男魔法使い@DQ3】
[状態]:MP消費(中)
[装備]:毒蛾のナイフ(DQ6)、砂柱の杖@トルネコ
[道具]:支給品一式、不明支給品(確認済み0〜1)、どくがのナイフ@DQ7、ラドンの不明支給品(1〜2)
     消え去り草*1、弟切草*4@トルネコ
[思考]:ジャミラス達と共に、世界を破壊する。
[備考]:過去に盗賊を経験しているようです。
※名前は後続の書き手にお任せします。

【B-4/北西部/夜中】
【ホンダラ@DQ7】
[状態]:恐怖
[装備]:なし
[道具]:せかいじゅのしずく@DQ7(半分)、金塊@DQ9
[思考]:逃げる

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以上で投下終了です。
「やっちまったなぁ」規制に引っかかって忍法帖レベルを20下げられたンゴ……
まぁ、それはさておき。
ご意見などありましたら、お気軽にどうぞ。
293名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/04(火) 02:19:24.65 ID:SCp4JIf30
修正&投下お疲れ様です。
バーバラの思いを託されたリッカちゃん。
戦う力など無いに等しいが、 ほかの参加者たちがどんどん精神すり減らしてる中で、今も前を向いている彼女はみんなの希望となれるのかもしれない。
ミネアさんは姉と再会できなかったか……でも最後に意地を見せたな。
ラドンはお疲れ様やったなあ……。何とかビアンカさんは守られたで。
アリーナの優しさに触れて心に若干ほころびのできたリアさん。
ジャミラスは傷が癒え魔法使いさんも加わり戦力増強したマーダーチームだが後々どう影響するかな?
ビアンカさんは目覚めたらショックやろなあ……。リッカちゃんと共に強く生きてほしい。
そして、いろんな人の想いを受けて形成されていく完全なイレギュラーサイモンさんが熱い。
294名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/04(火) 03:36:23.95 ID:d/tSu8KN0
[状態]:騎士は、二人の"ともだち"。ってHPや損傷度はどうなの?火球で焼かれて無傷?
295名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/04(火) 07:07:33.27 ID:v77oSMkf0
ビアンカがメガザルで回復してるから、サイモンもそれだろ
296名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/04(火) 11:40:42.11 ID:xVNzstAhO
作中でサイモンも言ってるけど焼けたアリーナのマントとミネアの最後の魔力で助けられたって話やろう
297名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/04(火) 21:13:43.29 ID:Xq7ZL0DC0
皆様方投下乙です。そして修正も乙です。
リュカとフローラ、距離的には近いけど影の騎士が怖い…
カインとリアも再会近そうだし、東組には波乱の予感ですね
マーニャはミネアの敵を取れるのか。ロッシュにとっては因縁もあるジャミラスとの邂逅もどうなるのか。
何より男魔法使いが極悪パーティに仲間入りしたのが怖い。超怖い。

アリーナ、今回も熱い最期でしたね。しかし、アリーナも死んでしまってますますアンジェが心配だ…
298名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/08(土) 20:32:40.15 ID:UJH2RJ/Q0
age
299 ◆jOgmbj5Stk :2013/06/11(火) 01:43:58.04 ID:xYRDeiS90
えーすみません、報告です。
予約期限が迫っておりますが、諸事情により今夜は投下できません。
期限は本日の11:21だと思いますが、その時間は仕事であるため投下できません。
なので半日ほど期限を超過してしまいますが、夜に投下したいと思います。
どうかご容赦ください。

早ければ19:00くらいから。
遅けとも22:00くらいには投下開始できる見込みです。
300 ◆jOgmbj5Stk :2013/06/11(火) 21:17:00.87 ID:tsWgw0Zr0
22時に投下を開始します。
支援など頂けたら幸いです。
301ある愛の詩 1 ◆jOgmbj5Stk :2013/06/11(火) 22:00:00.74 ID:tsWgw0Zr0
「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


盾たる聖騎士――パラディン。
比類なき守備力はあらゆる攻撃を弾き返し、背後の仲間を守護する絶対堅固な城塞。
その城塞が今、あり得ぬ速度で華奢な少女へと襲いかかっていた。
口腔より発する叫びは悲痛。博愛に満ちていた筈のその瞳には暗い憎悪の火を灯して。
手にはヤリに見立てた黄金に輝く棒を握り、まさに暗き疾風となってアンジェは少女――リンリンへと迫る。

(疾い!?)

見立てよりも数段上の速度にリンリンは驚愕の色を隠せない。
槍技の一つ、疾風突き。堅牢な護りと引き換えに俊敏さに欠ける聖騎士だが、この特技はそれを補うことができるのだ。
一瞬にして間合いを詰められるが、リンリンは動揺を刹那に殺して雷速のような反応でアンジェの突撃を紙一重で回避する。

「はっ!」

すれ違いざまに、彼女の持つ盾に潜り込み廻し蹴りを腹部に叩きこむ。
だが返ってきたのはドン、という分厚いゴムを蹴打したような異様な衝撃。

(何、この人の身体は? まるで天然の鎧を纏っているかのよう)

かつて相対したイザヤールも高い守備力を持っていたが、アンジェはそれを遥かに上回る防御力を備えていた。
今の蹴打に対してアンジェはいかほどの痛痒も感じていない。

「あぁああっ!」

アンジェは怒りに任せて蹴り込まれた足を武器を持つ右手で抱えると、盾を装備した左腕をリンリンの頭蓋に振り下ろした。
右手の武器だけでなく、盾をも武器として扱う特技シールドアタック。
蹴り足を押さえられているためリンリンは回避不可能――ではなかった。
軸足となっていた左足を浮かせて自身の身体を宙に舞わせると、水平になった体を捻り死の速度で迫る銀塊の軌道から逃れる。
そのまま回転しながら右足を押さえているアンジェの腕を左足で蹴りほどき、反動でその場から脱出した。
受け身を取りつつ、転がり起きて再び対峙する。

「逃しません!」
「あら、怖い」

(少々侮っておりましたわね。しかし……)

確かにアンジェのポテンシャルは高い。
総合的な身体能力はリンリンと互角か、彼女の方に利があるかもしれない。
だがいくつかの特技を見たが、全て攻撃技。
防御技に長けているであろう能力であるのに、怒りが本来の戦法を見失わせている。
リンリンはそう分析した。

(あの様子では獣が怒りに任せて噛みついているのと大差ありませんわね)

これでは技の勝負の醍醐味など得られよう筈もない。

「うああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
302名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:00:06.50 ID:Zf5DtOCy0
 
303ある愛の詩 2 ◆jOgmbj5Stk :2013/06/11(火) 22:01:01.14 ID:tsWgw0Zr0
感情に任せ、怒号を上げながらアンジェは再びオリハルコンを突き出す。
それを左に回りこむ形で回避し――直後またもや追撃のシールドアタックが繰り出された。
リンリンは薄く微笑む。

(読みどおり……ですわ!)

今度こそメタルキングの盾がリンリンを直撃すると思われた瞬間。
ぐん、とアンジェの左腕は何かの抵抗を受けたかのように弾み、次の瞬間二の腕から切断されて宙を舞った。

「え――」

盾ごとあらぬ方向に飛んでいく自分の腕を見て、呆けた声を上げるアンジェ。
死角に隠し持っていたテグスを相手の腕に絡め、その動きの反動を利用して切断。
緑頭巾の少年・アルスから手痛い教訓とともに学んだ簡単な手品である。
信じられないという顔でアンジェの動きが止まった刹那。その一瞬をリンリンは見逃さなかった。

両の足が大地を踏みしめる。
足首が、膝が、腰が、肩が、肘が、手首が、回転するエネルギーを拳へと伝えていく。
地を土台にして彼女の体重と膂力と気功と技量の全てが拳へと収束し、
盾を失い、がら空きのアンジェの肝臓部へとめり込んだ。
斜め下からの天空へと突きあげる衝撃。

会心の一撃。


硬さに定評のあるアンジェの肉を穿ち、骨を砕き、内臓をひしゃげる。

「こふっ」

喀血。
鮮血がアンジェの咽喉に溢れ、零れる。
だが、そこまでだった。

「う、動かな――ッ」

リンリンの放ったリバーブローは確かに鋼鉄もかくやというアンジェの体躯にダメージを与えた。
だが、巨岩をも砕き散らすはずのその一撃をアンジェは大地を踏みしめたまま耐えていた。

ギン、と氷のような視線がリンリンを射抜く。
咄嗟の反応で、後方へと飛びのく――が、遅い。

「アルスさん、とぉ……イザヤールさんの、仇ぃ!!」

右手に握られたオリハルコンの棒が高速で撃ちだされ、リンリンの左肩を打つ。

「がぁっ」
「まだぁっ!!」

攻撃は終わらない。
そのまま胸を、脇腹を、鳩尾を穿たれる。
ヤリの高位技・さみだれ突き。反射速度の高さから防御に長けるリンリンをして
そのダメージを受け流すことは今度こそ不可能であった。
左肩にヒビが入り、腹部の打撲傷がさらに悪化する。
だがアンジェの攻撃をその程度のダメージに抑えられたのは流石というべきか。
並の戦士や魔物なら今の攻撃で肉塊と化していても不思議ではない。
304名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:01:20.50 ID:Zf5DtOCy0
 
305名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:02:27.45 ID:Zf5DtOCy0
 
306ある愛の詩 3 ◆jOgmbj5Stk :2013/06/11(火) 22:02:31.45 ID:tsWgw0Zr0
攻撃を受け、吹きとばされながらもリンリンは受け身を取って身を起こす。
全身を奔る激痛で身体が引き裂かれるような錯覚を起こすが、悠長に痛がる余裕は彼女に残されていなかった。
片腕を失い、確実に内蔵を破壊し、ダメージ量では自分以上の筈の少女がとどめを刺さんと迫っているのだった。
身を起したものの跪いた今の体勢ではろくな回避もできない。
あの黄金の棒の攻撃を素手で防御しきる自信もない。
リンリンは片手で器用に背負っていたザックから何かを取り出す。

「させない!」

リンリンの行動を見て何もさせじとアンジェの攻撃が繰り出された。

「貫、けぇええええええええええええええええええッッ!」

結果――アンジェの叫びは、呪いは、過不足なく実現した。
オリハルコンの先端は服の布地を散らし、皮膚を破り、肉を裂き、胸骨を砕き、内臓を穿ち、その背までを撃ち貫いた。
.                    . . . .
そう、致命傷を与えたのだ――「ルイーダ」に。

「え――」

アンジェの動きが止まる。

「なに、これ」

忘我したように呟き、手に持っていた武具を手放す。
大切な、家族も同然の人の名を呼ぶ。

「るいーだ、さん?」

「ぁ……ンジ、ェ……」

ルイーダもまたアンジェの名を小さく呼ぶと、ゆっくりと後ろに倒れていった。
それを支えようともせず、ただアンジェは見つめる。
倒れ、動かないルイーダを見つめたまま、その場にぺたんと座りこんだ。

「イヤ……なんで、私は――」
「あら、これは魔力の……。アレが試せるでしょうか」

アンジェの背後から軽い声が聞こえた。
呆けたままアンジェは振り向くと、そこには落ちていたルイーダの袋を物色するリンリンの姿があった。
その脇には先ほど攻撃する直前に握られていた杖が置かれている。
それは場所替えの杖。
リンリンはとっさに場所替えの魔法弾をルイーダに放ち、その位置を入れ替えることで致命の攻撃から逃れ得たのだ。

「さて、と……あら、どうしました? アンジェさん、でしたか。 ほら、続きをしましょう」

ルイーダの持っていた道具を自分の袋へと入れると、仕切り直すべくリンリンが構えをとる。
難を逃れたとはいえ、そのダメージは大きく攻撃を受けた部分の衣服は破れ、痣となっている。
腕も震え、動かせば痛みがリンリンの中を駆け巡ったが、彼女はそれがむしろ喜びであるかのように笑っていた。
しかしアンジェはそれを他人事のように見ると、立ちあがることもなく再び瞳をルイーダへと戻すだけだった。

「アンジェさん?」
「……嘘です、こんなの……あり得――」
307名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:02:50.15 ID:Z6ptXJV20
 
308名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:03:06.16 ID:Zf5DtOCy0
 
309名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:03:38.22 ID:+QzDk9500
 
310名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:04:03.65 ID:Z6ptXJV20
  
311ある愛の詩 4 ◆jOgmbj5Stk :2013/06/11(火) 22:04:12.05 ID:tsWgw0Zr0
呼びかけにも弱々しい呆とした応え。
リンリンはため息をついた。

「夢の世界へ行ってしまわれましたか……壊れるの早過ぎですわね。
 もう少し楽しみたかったのですが……」

「夢? そう、これは夢です、そうに、違いありま、せん……」

自分はおそらくルイーダの酒場で眠ってしまったのだろう。
確か一番近い記憶は宝の地図のダンジョンで魔王デスタムーアを倒して来たところだ。
だから酒場に戻ってきて、疲れて寝てしまって、こんな悪夢を見ているのだ。
目を覚ませばそこにはいつも自分を助けてくれる人間の仲間がいるに違いない。
スーパースターのヒューマが、魔法戦士のニムゲンが、賢者のピプルが卓を囲んでいる筈だ。

カウンターにはルイーダが冒険者の斡旋をしていて、リッカが宿泊客の応対をしていて、

レナが店の帳簿を付け、ロクサーヌが仕入れのチェックをしている。

ラヴィエルはいつも不思議に微笑みながら宿屋の隅で佇んでいる。

そんないつもの風景が、目を覚ませば広がっている筈で――

「目を、覚まさなくちゃ……」

アンジェはルイーダの腰に付けられている鞘からナイフを抜き出すと、自身の咽喉元に向けた。

「さようなら」

別れを告げるリンリンに応えることなく、アンジェは躊躇うことなく咽喉に刃を突き立てた。
ぐらり、とその小さな体躯が揺れ、地へと倒れ伏す。



――あれ、痛い。痛いよ……何で目が覚めないの?

  みんな何処です? 私を一人にしないでください……暗い……真っ暗です……真っ暗なんですよ……



ドクドクと流れる血液が広がり、アンジェの瞳から光が失せていく。
やがて動かなくなった少女を見てリンリンは静かに瞳を伏せた。

「おやすみなさい、良き夢を……」

自分は悼んでいるのだろうか? そう自問するがすぐに答えは出た。

(私は憐れんでいるのですね)

この世界に来たばかりの自分と同じ逃避を行った少女に。
もうリンリンはこの世界が現実であることを受け入れていた。
その残酷な現実を徐々に徐々に受け入れていたが、今この時になってようやく完全に覚醒した。
自分と同じ少女を見て夢から覚めたのであった。
312名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:04:37.53 ID:Zf5DtOCy0
 
313名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:04:45.59 ID:kN93gznd0
 
314ある愛の詩 5 ◆jOgmbj5Stk :2013/06/11(火) 22:05:33.33 ID:tsWgw0Zr0
――「なんと素晴らしい――『夢』! 」

――「夢ではない、これは『現実』だ!」



かつてこの世界で最初に殺した男の言葉を思い出す。
そうこれは現実。
アレルは死んだ。カーラは死んだ。バラモスも死んだ。オルテガも死んだ。
その誰もが、もう蘇ることはない。
自分の夢も、憧れも、憎悪も、全てが壊れた。

「だから」

壊すのだ、全てを。
ルイーダと呼ばれた女性の胸からオリハルコンの棒を抜きとり、携える。
武闘家の嗜みとして棒術は心得ている。今まで使っていたヤリよりかはまだ使いやすいだろう。
棍棒やあの海魔のような力に任せた撲殺武器も嫌いではないが、今この場でそれを求めるのも詮無いことだ。
もっとも自分が信頼するのは自身の四肢なのだが、その一角が欠けてしまった以上保険は必要だ。
どんな手段を使ってでも、自分は生き延びなければならない。
何故なら――

「世界を、壊します」

再び決意を口に出す。
それが、その新たな「夢」が「現実」となるように。

「この命尽き果てるまで――ねぇ、素晴らしい夢だと思いませんこと?」
「ぜんっぜん思わないわよ、この殺人鬼」

リンリンの背後。
そこにいたのはようやく追いついてきた竜王とゼシカであった。
315名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:05:47.10 ID:Zf5DtOCy0
 
316名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:06:22.61 ID:Z6ptXJV20
   
317名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:06:35.77 ID:Zf5DtOCy0
 
318名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:06:43.15 ID:+QzDk9500
 
319名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:06:49.00 ID:4CzVw4m10
 
320ある愛の詩 6 ◆jOgmbj5Stk :2013/06/11(火) 22:07:02.57 ID:tsWgw0Zr0
◇◇◇



別れてから2時間も経たぬうちに物言わぬ亡骸となった少女をみてゼシカは顔を歪めた。

「…………」

竜王の表情は窺いしれない。
ただ黙したままリンリンを睨みつけていた。
何処ですれ違ったのか解らないが彼女は自分たちを追い越し、先行していたアンジェと接触した。
実際はリンリンは途中、数十分ほど意識を手放していたのだが、それでもゼシカたちに先行できたのは
起きた後は片腕の動きに慣れる為に、断続的に疾走して町を目指していたからであった。
そうしているうちに身体のバランスの取り方に短時間ながらも慣れ、戦闘に耐えることができた。
そのことをゼシカたちは知る由もない。
だが悠長に歩いていた自分たちの迂闊さを呪うには今の状況をだけで充分だった。
彼女の足から生み出される速度が尋常でないのは知っていたが、これは完全に思考の外の展開である。
竜王の疲労を押してでも走るべきだったのだろうか?
そんな後悔が脳裏をよぎるが、ゼシカは小さく頭を振ってそれを払った。

(そんなのは単なる結果論だわ。この結末を予想するなんて誰にも出来なかった。
 今はそんな後悔よりもやるべきことがある!)

「竜王、やるわよ! アンジェの、そしておそらくはアルスの仇を討つわ!」
「よかろう、あ奴には借りがある。我が眷族を愚弄した罪、今ここで贖って貰おう」

「うふふ、歓迎いたしますわ! 先ほど是非とも試してみたいことが出来ましたので!!」

リンリンは速い。
だからこそ警戒するのは広範囲攻撃であり、呪文使いであるゼシカであった。
数時間前の戦闘でゼシカが呪文を使えなかったのはアルスと白兵戦を行っていたからであり、
距離のある今の状態で使わない訳がない。
だからこそ自慢のスピードで真っ先にゼシカへと疾走る。
詠唱をする彼女の喉笛にオリハルコンを叩きこもうとする瞬間。
ゼシカは詠唱を中断し、バックステップでその一撃から飛びのいた。
完全にリンリンの攻撃を予測した行動だった。
僅かに動揺し隙が生まれる。そこに背後から殺気の奔流が津波となって彼女に殺到した。
竜王の爪がリンリンの柔肌を引き裂かんと唸りを上げる。

ザシュウッ
「あぁッ」

流石の反射速度でリンリンは爪の軌道から急所を避ける。
しかし無傷というわけにはいかず、右の肩口から胸までを浅く斬り裂かれてしまう。
鮮血とともに胸が露出するが、そんなことはお構いなしに今度はその場から飛びのいた。
刹那、一瞬前まで彼女の居た場所にメラミの炎が炸裂する。

「おのれ、やりますわね!」

再びゼシカへと視線を移す。
今度こそその咽喉を潰さんと駆け出すが、軌道上にまたも竜王が立ちはだかった。

「おどきなさい!」
「無礼者が。誰に向かって口をきいておるか!」
321名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:07:07.20 ID:Zf5DtOCy0
 
322名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:07:44.02 ID:Zf5DtOCy0
 
323名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:07:57.61 ID:+QzDk9500
 
324名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:08:29.69 ID:Zf5DtOCy0
 
325名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:08:35.85 ID:kN93gznd0
 
326ある愛の詩 7 ◆jOgmbj5Stk :2013/06/11(火) 22:08:45.85 ID:tsWgw0Zr0
竜王の拳がリンリンへと振り下ろされる。
不意を打たれたならともかく、正面からの拳など満身創痍のリンリンであっても回避するに容易い。
一度後ろに大きく跳んでかわし、返すひと蹴りで神速の一撃を竜王に叩き込む――つもりだった。
だが置き去りにする筈の拳が、追ってくる。

「!?」

拳はぐんぐんと巨大化し、ついには巨竜の掌となった。

「ぐるぅぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

「きぁあああああああああああああああああああああああああああッ」

真の姿となった竜王の一撃を食らってリンリンは撥ね飛ばされる。
竜の腕が伸び切っていたため致命傷とはならなかったが、その衝撃はリンリンの今までのダメージを深刻なレベルまで悪化させた。
受け身も取れずに地へと落下し、激痛がリンリンの全身を高圧電流のように駆け巡る。

「くはっ、あぁああ……あああああああ」

文字通り身を引き裂く痛みに耐えかね、のたうちまわる。

「とどめだ」

竜王が遥かな高みから押し潰すかのようにその巨大な爪を振り下ろす。
リンリンは動けない。
もはやそのままではミンチとなる以外の未来はなかった。

「わ、たしは……死ねないッ! こんな場所でぇ!」

リンリンはオリハルコンの棒を小脇に抱えると、片手で器用に袋から杖を取り出した。
場所替えの杖――先ほどアンジェに対して行ったのと同じ戦法。
だが竜王たちはそれを見ていない為に充分に通じる筈である。
彼女は杖を振り、魔法弾を放つ。その動作に気付いたものの竜王は無視した。
自分とは見当違いの方向へと放たれたからである。
そして不運はゼシカの方にあった。
ゼシカは呪文を叩きこむ隙を窺いながら竜王の後方で待機していた。
そこに――竜王の巨躯が壁となり、死角から魔法弾が突如として現れた形となり、ゼシカへと迫ったのだ。
今までのリンリンの攻撃法とは異色だったこともあってゼシカの反応が遅れた。
咄嗟に回避しようとするも虚しく、その腕に魔法弾が接触してしまう。
瞬間、ゼシカの目の前にはまさに彼女のを押し潰さんとする竜王の掌底があった。

「きゃぁああああああああああああああああああああああああああああああ」
「何ぃい!?」

そして今度は幸運が竜王の方にあった。
アンジェの時はタイミングがギリギリだった為に同士討ちを避けることは叶わなかった。
だが今回は竜王の攻撃と、対象の距離に幾分かの距離があった為に入れ替わるタイミングに僅かながら余裕があったのだ。
竜王がかつてのアンジェよりも精神的に冷静だったこともある。

「くぉおおおッッ!」

腕の筋肉が断裂し、骨が悲鳴を上げる。
だが右腕の多大なダメージと引き換えに、竜王はゼシカを傷つける寸前で爪を止めることに成功した。
ハラリ、とゼシカの前髪が数本宙を舞い、彼女はその場にへたり込む。
327名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:09:13.74 ID:Zf5DtOCy0
 
328ある愛の詩 8 ◆jOgmbj5Stk :2013/06/11(火) 22:10:20.49 ID:tsWgw0Zr0
「フゥッ」

竜王もまた安堵のため息をつく。
それが決定的な隙となった。

ドンッ

竜王の鱗は生半可な魔法剣ならば簡単に弾く。
鋼鉄をも斬り裂くといわれたロトの剣。オリハルコン製の勇者の剣以外は決して通さぬとも噂されていた。
だが、彼女の持つオリハルコンの棒と神速の刺突は、彼の竜麟の強度を簡単に凌駕した。
背後から突き出された一撃は翼の付け根を穿ち、心の臓へと達せんばかりに肉奥へと食い込んだ。

「さすがに貫通はできません……わ、ね」
「おの、れ……貴様ぁ〜ッ!」

身体を大きく震わせ、背中に張りついた虫ケラを振り落とそうとする。
だがその前にリンリンは竜の背に足をかけると、力任せに食い込んだ棒を引き抜いて離脱する。

「たび重なる狼藉、もはや一辺の慈悲もないと知れ!」

リンリンを芥子炭とするべく竜王の口腔から灼熱の光が溢れ、一斉に吐き出され――なかった。
代わりに吐き出されたのは大量の吐瀉血。
いかな竜王とて先ほどの一撃は深刻なダメージであった。

「がぶぁっ、こ、このような傷など……」
「はぁっ、は、はっ……今こそ、試させていただきますわ。 ヤリの秘伝というものを!」

リンリンは身体の痛みを強引に噛み殺すと、袋から小瓶を取り出し1/3ほど口に含んだ。
それは賢者の聖水。魔力に満ち溢れた水は、飲んだ者の魔力をたちどころに回復させる効果を持つ。
だが彼女は魔力を持たないため、その魔力はすぐに拡散し無駄に消える筈だった――が、
その魔力が体内で拡散する前ならば擬似的な魔力として使用が可能であった。
呪文の詠唱であれば慣れぬリンリンが魔力の消失前に行うことは不可能であったかもしれない。
だがリンリンの行動には詠唱を必要としなかった。
むしろ彼女が最も得意とする攻撃動作こそがトリガーであった。
彼女がかつて海魔から強奪したヤリの秘伝書。その魔書は記された秘伝の技を文字による伝達ではなく
直接知識として所有者の脳へと刻み込む。
つまり秘伝書を持つだけで、所有者は秘伝を会得することができるのである。
しかしリンリンは今までその秘伝技を使用することはなかった。
何故ならその技に必要な魔力が欠けていたからである。
だが今彼女の中には魔力がある。例え、刹那に消えゆく儚いものだとしても。
そうなる前に彼女はオリハルコンの棒を槍と見立てて大地へと突き立てた。

「地の底より来たれ、暗黒の雷! ジゴスパーク!!」

力もつ言葉が地面に紫光の魔法陣を出現させ、そこから無数の雷の尾が現出しオリハルコンの棒へと絡みつく。

「竜王ッ勝負!」

雷を纏った棒をまっすぐに竜王へと突きだす。
棒の先端から放たれる紫電の波動。
それは竜王の巨躯に回避を許さず、防御も許さず、ただ無慈悲に彼の身体を縦横無尽に蹂躙した。
電撃の網に絡み取られ、幾度も紫光が明滅し、竜王の鱗が、肉が、血飛沫が火花とともに弾け飛んだ。
329名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:10:34.45 ID:+QzDk9500
 
330名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:10:39.19 ID:kN93gznd0
 
331名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:10:47.52 ID:Zf5DtOCy0
 
332名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:11:19.75 ID:+QzDk9500
 
333名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:11:20.44 ID:RpVeZwiJ0
 
334名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:11:47.16 ID:Zf5DtOCy0
 
335ある愛の詩 9 ◆jOgmbj5Stk :2013/06/11(火) 22:12:01.09 ID:tsWgw0Zr0
「がぅぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

竜王は苦悶の咆哮をあげる。
全てが終わった時、そこには朦朦と全身を焦げ付かせ黒く染まった竜が居た。
リンリンはニヤリ、と唇の端を上げる。
竜王は一度リンリンを睨みつけたが、すぐにその瞳は光を喪い――重い地響きを鳴らして巨竜は倒れ伏した。

「ウソ……竜、王?」

「うふふ、あはは、あはははははははははははは! やりましたわ! 素晴らしい技ですわ!!」

自分の位置が入れ替わってから僅かに数秒の出来ごと。
それをゼシカは信じられない想いで見つめていた。
あの規格外の強さを持つ竜王が、死んだ。

「違う、まだよ!」

そうだ、まだ死んだと決まったわけではない。
自分の袋の中にはまだ上薬草の他に切り札にするべくとっておいた特上の治癒薬があるのだ。

「あら、何をするつもりですの?」
「!?」

竜王へと駆け寄ろうとしたゼシカの前にリンリンが立つ。
足が、竦んだ。
衣服もボロボロで、片腕も失くし、全身痣だらけの傷だらけ。
半身を自分の血で染めながらも薄く笑うリンリンを前に――ゼシカは蛇に睨まれた蛙のごとく動けなかった。
竜王の援護を失くした今、この距離で呪文を唱えようとすれば即座に咽喉を潰されるだろう。
いや、そんな廻りくどいことをせず直接心臓を貫かれるかもしれない。
ならば極めた格闘術で応戦を――

(極めた? 極めたって何を?)

クイーン・オブ・グラップラーの称号を持つ彼女だが、自分が極めたと思っていたのは何だったのか。
自分の格闘術など目の前の鬼からすれば児戯に等しいのではないか?
そのような疑念が拭えない。
彼女の力が何一つ通用すると思えない。
竦みは怯えとなって彼女の肌を震わせる。

リンリンの纏う鬼気に完全にゼシカは飲まれていた。

「その袋の中に回復薬が入ってらっしゃるのですね? 渡して下さるかしら?」

それがさも当然というようにリンリンは微笑みを絶やすことなく手を差し出してくる。
渡さなければ……殺される。
恐怖がゼシカの両足から虫食むように這い上がってくる。

渡せば……殺されないのだろうか?
336名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:12:17.82 ID:Zf5DtOCy0
 
337名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:12:52.85 ID:d6Wu9Z25O
 
338名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:13:05.47 ID:Zf5DtOCy0
 
339名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:13:18.65 ID:kN93gznd0
 
340名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:13:29.58 ID:Zf5DtOCy0
 
341ある愛の詩 10 ◆jOgmbj5Stk :2013/06/11(火) 22:13:40.37 ID:tsWgw0Zr0
「あ、は……は」

唇が震えて上手く言葉が発せない。
おずおずと袋を手に取りながらリンリンの顔色を窺う。
そんなゼシカを見て、リンリンは小さくため息を吐いた。
その瞳に浮かんでいたのは――失望。
どくん、とゼシカの心臓が思い出したかのように鼓動を再開する。

(私は今いったい何をしようとしていたの?)

まるで奴隷のように媚びへつらい、命乞いをしようとしていたのか?

――その通りだった。

(誇りあるアルバート家の私が……サーベルト兄さんと同じ血を引く賢者の末裔たる私が!)

カッと頭に血が上る。
命がなんだというのだ。今この殺人鬼に降るということは人としての最低限の尊厳も失うということだ。
エイトが、ヤンガスが、ククールが、ミーティアが、そんな死に方をした筈がない。
もしあの世というものがあるとして、そこで彼らにどんな顔をして会えばよいというのか。

「ざっけんじゃないわよ!」
「あら?」

ゼシカの剣幕にリンリンは少し驚いたように差し出していた手を下げる。

「私はゼシカ・アルバート! 暗黒神ラプソーンを倒した大魔法使いにして格闘女王!
 あんたなんかにぃ……負けてなんかやるもんですか!!」

言うが早いか、ゼシカのハイキックがリンリンの側頭部を強襲する。
だがそれは簡単にスウェーで回避されてしまった。

「ウフ、そうですか。なら少しでも……楽しませて下さい!」

瞬時に目の前から小鬼の姿が消える。

「ピオリム!」

リンリンの神速に対して止まっていては的にされるだけである。
ゼシカは瞬時に判断して速度上昇呪文を唱え駆けだした。

(これで速度は互角の筈!)

視界の隅にリンリンの姿を見つけ、即座に体勢を反転させて手刀を放つ。
しかしリンリンは更に速度を上げ、ゼシカの視界から再び消え去った。

(嘘? まだ足りない!?)

速度差を残酷なまでに思い知り、一瞬動きが硬直する。
刹那、背後から迫る殺気。
ピオリムの重ねがけも、他の補助や攻撃呪文も詠唱している暇などない。
ゼシカはそのまま身体を沈め、地面を転がる。
一瞬前までゼシカの心臓があった場所をリンリンの貫手が通過した。
342名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:14:03.91 ID:Zf5DtOCy0
 
343名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:14:34.47 ID:Zf5DtOCy0
 
344ある愛の詩 11 ◆jOgmbj5Stk :2013/06/11(火) 22:15:13.97 ID:tsWgw0Zr0
(かわした!)

即座に起き上がり、追撃に備える。
しかしリンリンはどうしたわけか、その場に立ち止まり笑っていた。
始めは小さな含み笑い。だがそれは段々と大きな哄笑となっていく。

「うふ、うふふふふ、なんだ! 言ってくれれば良かったのに!!
 あはははは、やるんじゃないですか! ごめんなさい、私ったら貴方を見縊ってしまって……許して下さいね」

今までの微笑みとは違う、大きく口を裂いた笑い。
ひとしきり笑うと彼女は沈黙した。
もうその表情に微笑みはない。ただ、真っ直ぐにゼシカを捉える狩人の瞳。

「参りますわ」

ただ真っ直ぐにゼシカへと迫り、ただ真っ直ぐにゼシカへと貫手を繰り出す。
シンプル、ゆえに回避困難な神速の剣。
ゼシカは落ちついてその剣に手を添えて軌道を逸らす。
そのまま腕を掴み捻り落とした。
投げられるよりも先にリンリンは自ら地を蹴って飛び上がり、ゼシカの投げをいなす。
お互いに手を離して飛び退き、距離を取った。
次はゼシカから先に動いた。距離が開いたと見るや両の手刀で虚空を斬り裂き、真空の波を引き起こす。
格闘スキルの特技、真空波。
ひとたびこの真空の波にのまれれば全身をズタズタに斬り裂く筈だ。
だがリンリンは足元にあった何かを蹴りあげた。
それはアンジェの片腕。そしてそこに装備されたメタルキングの盾である。
リンリンはその盾の影へと身を潜め、真空波はそのほとんどが銀の盾に遮られた。
真空波が通り過ぎるや、リンリンは後はただ地へ落ちるだけだった盾をゼシカに向かって蹴り飛ばす。
当然ゼシカはそれを避ける。だが一瞬、盾に遮られた視界の外からリンリンの足刀が付きだされた。
狙いは咽喉。
ゼシカは両腕を交差させてその蹴撃を受け止める。
衝撃で骨が軋み、軽量なゼシカの身体は吹っ飛ばされるが致命傷には程遠い。
飛ばされている間もゼシカの視線はリンリンを捉えている。
次の行動を予測し、防御か、回避か、攻撃かを目まぐるしく脳内で計算し、戦術を組み立てていく。
速度も、膂力も、技巧も、全て負けている。
それでも、

(なんだ、できるじゃない。 あの殺人鬼を相手に結構戦えてるじゃないゼシカ・アルバート!)

ゼシカの覚悟が彼女の動きを冴えさせている。
それに加えてゼシカはリンリンの動きがだんだんと鈍っていることに気付いていた。
あのアルスがただでやられた筈がない。
あのアンジェがただでやられた筈がない。
そして――あの竜王がどれだけのダメージをリンリンに与えていたのか。
それを自分はこの目で見ている。
リンリンはすでに満身創痍。気力で動くことはできても、それは本来の動きとは程遠い。

(私は一人で戦っている訳じゃない!)
345名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:15:15.31 ID:Zf5DtOCy0
 
346名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:15:55.22 ID:kN93gznd0
 
347名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:16:04.44 ID:Zf5DtOCy0
 
348名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:16:37.41 ID:Zf5DtOCy0
 
349ある愛の詩 12 ◆jOgmbj5Stk :2013/06/11(火) 22:17:08.38 ID:tsWgw0Zr0
実力で勝るものの、深刻になりつつあるダメージの為動きが鈍らざるを得ないリンリン。
実力で劣るものの、心身ともに気力が充実し実力以上の力を発揮しているゼシカ。

互角の攻防は続く。
周囲の雑音も景色もだんだんの褪せていき、何も無い世界に二人きりになる錯覚。

幾度目かの攻防、その時リンリンの膝が崩れた。

(彼女の限界が、来た!)

ゼシカ自身もこれ以上の戦闘は限界に近い。
一気に勝負を決めるべく特技ムーンサルトを繰り出した。
変幻自在の跳躍から繋げる連撃。
体勢を崩したリンリンにこれを防ぐ術はない。

ドボォッ!

拳が彼女の腹へとめり込んだ。

「ゼシカ」の鳩尾へ。

「え――?」
「ふふ、ゲームオーバー……ですわね」

崩れ落ちるゼシカ。
倒れる途中で彼女は悟った。
膝を落とす動作は限界が来た為ではなく、こちらの攻撃を誘い込む為の演技。
囮だったのだ。


(最後の最後で……ドジっちゃったな……)

「ふふふ、楽しかったですわゼシカさん。それではその袋を貰いますね」

ゼシカから袋を奪い、中身を物色する。
中に入っていたのはいくつもの草と粉。
そしてそれぞれの効果を示したメモであった。
中でも目を引いたのは特薬草と特毒消し草。どちらも重傷をも癒すことのできる貴重な薬だ。

「ありがたく頂戴いたしますわ……私がこれからも戦い抜く為に」

リンリンはそれらを袋へ仕舞うと改めて倒れたゼシカを見下ろした。

「何か、いい残すことはありまして?」

そんなものない、と言おうとして――ゼシカは思いとどまった。
脳裏をよぎったのはこの世界の最初からずっと側にいた……相棒、ではなく。
友達、でもなく。恋人、断じて違う。
そう、いうなれば旅の連れあい。
あのスケベでおちゃらけていて、でも強くて、怖くて、愛を探しているなんてのたまう竜の王。
もう息絶えているであろうあの竜王に一言、言ってやりたくなった。
350名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:17:35.30 ID:Zf5DtOCy0
 
351名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:18:11.66 ID:kN93gznd0
 
352名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:18:13.17 ID:+QzDk9500
 
353名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:18:23.33 ID:Zf5DtOCy0
 
354ある愛の詩 13 ◆jOgmbj5Stk :2013/06/11(火) 22:18:43.49 ID:tsWgw0Zr0
ゼシカはゆっくりと身を起こす。
全身が痛くてまともに身体を動かすことが出来ない。
これでは倒れている竜王の方を向けない。
仕方ないので最後の力を振り絞って大きく声を張り上げた。

「竜王の大馬鹿野郎ーーーーーーーーーーーッッ!!
 愛を知りたいだなんて言って結局死んじゃってるんじゃないのよぉおっ!
 悔しかったら生き返って私を護ってみなさい! そしたら愛を教えてあげる!! 胸だって揉ませてあげるから!!

 だから! 死んでんじゃないわよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」

「まぁ」

叫び終えたゼシカは全身の力を抜いて座り込んだ。
なんだか言いたいことを言い終えて奇妙にさっぱりとした気分だった。
自然と笑みがこぼれる。

「なんとはしたない事を……」
「ふんだ、今のあんたよりはマシだと思うわ……」


愛を知りたいと言った時の竜王。
悲しみを知らないと言った時の竜王。
そんな竜王がずっとゼシカの心に残っていた。
教えられるものなら教えてあげたい。
いつもふざけた態度の裏でその願いが真摯なものであることを感じ取れた。

「ま、私も愛なんて知らないんだけどね……」

放送を聞いて悲しみとも怒りともつかぬ竜王の寂しさを感じた時。
なんとかして慰めてあげたいと思った。

(アイツが喜びそうなことって言ったらやっぱり胸よね。何より私の胸は最強だし)

一緒に居る時は恥ずかしすぎてそんなこと口に出せる筈もない。

(今際の際くらいは、いいよね)


「ふぅ、最期の言葉としてはいささか珍妙ですが……まぁよろしいですわ
 それでは――さようなら、黄泉路にお気をつけて――」

リンリンはゆっくりと腕を振り上げ、そして一切の躊躇無く振り下ろした。
355名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:19:10.20 ID:Zf5DtOCy0
 
356名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:19:39.16 ID:Zf5DtOCy0
 
357名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:20:11.96 ID:Zf5DtOCy0
 
358名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:20:27.98 ID:+QzDk9500
 
359ある愛の詩 14 ◆jOgmbj5Stk :2013/06/11(火) 22:20:46.16 ID:tsWgw0Zr0
ゼシカの首が死神の鎌によって落とされる瞬間――その腕がピタリ、と止まった。
リンリンの腕が止まった理由。
それは何者かの手が彼女の腕をガッシリと掴んでいるからだ。

「な!?」
「ワシのものに何をしている」

リンリンの腕を鷲掴んでいるのは――竜王。
巨竜の姿から魔人の姿へと戻っているが、確かに生きてそこに居た。

「くっ、お離し……なさい!」
「よかろう」

竜王はリンリンの腕を掴んだまま彼女の腹へ拳をめり込ませる。

「カハァッ!!」
「離してやる」

そのまま力任せにリンリンを上空へと放り投げた。

「ひ―――――――ッッ」
「虚空の中でその歪んだ魂も身体も全て灰燼と化すがよい!!」

竜王の身体が再度巨大なる竜の姿を成す。
全身を焦がし、鱗は剥がれ、翼さえも裂かれ、傷だらけの巨躯はそれでもなお雄々しく美しい。
そして竜の顎溢れ出す煉獄の炎が紅蓮の濁流となって放たれた。
空に投げ出されたリンリンは、それを独力で回避する術がない。

「いや、嫌です! こんなところで死にたく――」

最後まで言い終えることなく、彼女は灼熱の奔流の中へと飲み込まれていった。
空へと流れる炎の河。
自分以外の全てを焦滅させる破壊の権化。しかしそれにしてはあまりにも美しかった。
その幻想的な光景をゼシカはただ息を呑んで見つめ続けていた。
やがて大河だった紅い河はじょじょに小さく、細くなり……ついには熱い空気だけを残して完全に消え去った。
後には何も残っていない。完全に焼き尽くされたのであろう、飲みこまれた筈の少女の名残さえも、何も。
静寂の余韻の中、気がつくと目の前には魔人の姿を取り戻した竜王が立っていた。

「無事か」
「え、ええ……」

静かに問いかけてくる姿を見る。足があるので幽霊ではなさそうだ。
そんなとりとめのないことを考え――不意にゼシカの思考が覚醒した。
360名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:20:47.02 ID:Zf5DtOCy0
 
361名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:20:47.72 ID:kN93gznd0
 
362名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:21:04.06 ID:+QzDk9500
 
363名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:21:36.57 ID:Zf5DtOCy0
 
364名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:22:12.95 ID:Zf5DtOCy0
 
365ある愛の詩 15 ◆jOgmbj5Stk :2013/06/11(火) 22:22:48.50 ID:tsWgw0Zr0
「って竜王!? あなた生きてたの?」
「勝手に殺すでないわ、ちょいと痺れて眠ってしもうただけじゃわい」
「し、痺れてって……死んだかと思ったじゃないの! 生きてるなら生きてるって言いなさいよ!!」
「なんじゃ、悼んでくれておったのか?」
「違うわよ!」
「じゃが、先ほど愛を教えてくれるなどと――」
「聞いてるんじゃないわよバカァ!!」

ゼシカは羞恥のあまり頭を抱えてうずくまってしまった。
竜王は処置なしといった体で肩をすくめる。

「やれやれ、死にはせんでも重傷を負ったことは事実なのじゃから
 もうちょっといたわってくれてもいいじゃろうに」
「うう、ごめんなさい。そういえば薬草袋とられちゃった……一緒に焼き尽くされちゃったかも」

うずくまりながらも申し訳なさそうにゼシカは謝罪する。
竜王は小さく頭を振った。

「必要あるまい、それ以上の癒しならホレ、ここに既にあるでの」
「え?」

不思議に思いゼシカが頭を上げると、竜王が手を差し出していた。

デジャ・ヴュ。

ふにっ

ゼシカの胸が揺れる。

「な……な、な……」
「うむ、癒される」

むに、むにゅう、むにょん

なんと竜王がゼシカの豊満な胸を揉みしだいていた!

「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

ゼシカは慌てて胸を両手で庇うと竜王に背を向けた。

「いきなり何するのよ、変態! ド変態! 大大大大変態!!」
「何って、さきほど胸を揉ませてくれると言っておったであろうが」
「お願い忘れて!」
「嫌じゃ」
「イヤぁあああああああああああああああああああああ!!」
366名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:22:52.75 ID:Zf5DtOCy0
 
367名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:23:31.85 ID:kN93gznd0
 
368名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:23:39.30 ID:+QzDk9500
 
369名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:24:07.03 ID:Zf5DtOCy0
 
370ある愛の詩 16 ◆jOgmbj5Stk :2013/06/11(火) 22:24:39.68 ID:tsWgw0Zr0
ゼシカは己の失言をたいそうに後悔する――が、後の祭りであった。

「揉ませてくれると言ったであろう?」
「2回も言わないで!」
「絶対揉ませてくれるって言ったもん」
「う、うう……」
「揉ませてくれなきゃヤじゃヤじゃヤじゃ!」
「ホントに魔王なのあなた!?」


駄々をこねる竜王を前にしてゼシカは顔のみならず全身を朱に染めて……折れた。
諦めて両腕を下におろす。

「もう……確かに助けてくれたし……本当に特別なんだからね?」
「わほーい!」

頑なに閉ざされていた岩戸がようやく開き、竜王は解き放たれた桃源郷へと
満面の笑顔で飛び込んで行った。



◆◆◆


「ぁんんああああッ! く、はぁあッ……ハァ! あああぁあ……」

暗く静かな森の中、少女の悶え苦しむ声が響く。
少女――リンリンは全身の熱に浮かされ苦しみながら、いまだにこの世界に存在していた。

あの時、灼熱の激流の中に飲まれる瞬間。
彼女は袋から杖をとりだし、振るった。
その杖の名は「飛び付きの杖」。魔法弾の当たった場所へ所有者を転移させる魔法具である。
魔法弾は炎に紛れて竜王たちから離れた茂みへと着弾、そのおかげでリンリンは炎から脱することができたのである。
だが一瞬とはいえ、竜王の火炎はリンリンに深い痛手を負わせていた。
もはや、まともに動くことも叶わず、彼女は屈辱に震えながら一つの選択をする。
幸いにして竜王とゼシカは自分の存在に気付いていない。
袋からある魔法草を取り出すと強引に口の中に押し込んだ。
ルーラ草が効果を発揮し、リンリンはその場所から瞬間移動する。
そうして彼女はこの森へと行き着いたのだった。
もっとも行き先を指定できるわけではなく、彼女もこの森が何処に位置するのかは分からない。
それよりもまずは今自身を苛む焦熱地獄をなんとかする方が先であった。
幸いにしてあのゼシカから譲り受けた袋には希少な治癒薬が入っていた。

特薬草。すぐれた回復力を持つ特別な薬草で、そのまま傷口に貼るだけでも出血を止め、痛みを取り除くという。
特毒消し草。恵まれた環境で育てられた毒消し草で、毒の浄化にも傷の回復にも効果がある。
(ドラゴンクエストVIII公式ガイドブック知識編より抜粋)

リンリンはもはや衣服の体を為していない身体に張りついた布切れを引き裂くと簡易的なサラシとする。
テグスで左腕の止血をあらためて行ってから、前に簡易的に処置していた布を取り去り水筒の水で傷口を洗った。
そして切断面に特毒消し草を貼り、片腕と歯を器用に使いながらサラシできつく縛る。
身体の特に酷い左肩周辺と腹部に特薬草を二つに分けて貼りつけ、そこもサラシで縛りつけた。
布地が足りない為、薬草を貼った部分と乳房の主な部分しか隠れていないがこの期に及んで贅沢などいえる状況ではない。
371名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:24:48.34 ID:Zf5DtOCy0
 
372名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:25:36.58 ID:Zf5DtOCy0
 
373名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:26:28.69 ID:Zf5DtOCy0
 
374名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:26:56.33 ID:Zf5DtOCy0
 
375名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:27:14.52 ID:+QzDk9500
 
376ある愛の詩 17 ◆jOgmbj5Stk :2013/06/11(火) 22:27:41.71 ID:tsWgw0Zr0
「早くどこかで何かしらの服を手に入れたいですわね……」

残されていた上薬草を口に含む。
途端に気持ち悪くなり、吐き出しそうになるが水で喉奥まで流し込むと口を手で押さえて強引に飲み下した。

「くはぁ、はぁ……ハァ、これで……」

応急処置が終わる。
確かに特薬草の効果は素晴らしく痛みはかなり和らげられた。
失った左腕もこれならば傷口を気にせず動けるだろう。
しかし体力が回復した気が全くしない。
薬草の効果とはいえ、全身の傷を治癒するためにリンリンの体力は現在進行形で消耗しているからだろう。
リンリンは身体を隠せるほどにうっそうと茂みに覆われた窪みを見つけるとそこへ身体を横たえた。
猛烈に睡魔が襲ってくる。
薄れゆく意識の中でリンリンはぼんやりと考えていた。
強力な薬草で誤魔化してはいるが、おそらく自分の身体は長くない。
おそらくは次に目覚めた時からが自分に残された最後の時間となるのだろう。

(大切に、使わなくては……夢を、叶えるために)

その思考を最後に、リンリンは深いまどろみの中へ身も心も委ねていった。



◇◇◇



「やだ、ちょっとあんまり強くしないでってばッ」
「うにゃふみゃらもにゃ〜〜極上じゃのう、気持ちええのう……」
「当たり前でしょ、私の胸は最強なんだから!」

竜王はゼシカの双丘の間に顔をうずめ、たるんだ顔で幸せを堪能していた。

「ふぉむぅ、これが母の感触というものなのだろうか、のう?」
「知らないわよ、フンッだ」

ゼシカは顔に朱を射しながらそっぽを向く。

「なんだ、釣れぬのう……おお、そういえば愛を教えてくれると言うておったな」

「愛って……知らないわよ私は」

そんなことを訊かれてもゼシカは誰かに恋をしたことなんてない。
答えることなどできなかった。

「そう、なのか? 人ならば誰でも知っておるものと思うておったが」
「まぁ人の居る所なら愛なんてそこかしこで囁かれてるわね、愛って」

ゼシカの仲間の女たらしのククールは『愛とは躊躇わないことさ』などと言っていたのを思い出す。
377名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:27:43.01 ID:Zf5DtOCy0
 
378名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:28:00.67 ID:kN93gznd0
 
379名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:28:42.43 ID:Zf5DtOCy0
 
380名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:28:45.60 ID:+QzDk9500
 
381名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:29:10.99 ID:Zf5DtOCy0
 
382ある愛の詩 18 ◆jOgmbj5Stk :2013/06/11(火) 22:29:30.68 ID:tsWgw0Zr0
.
「有名な戯曲の台詞でも『愛とは決して後悔しないこと』とか言っていたわね。
 何度も公演されて、そこかしこで使われて陳腐な台詞になっちゃったけど」
「ならば……それこそが真実かも知れんな」
「え?」
「愛とは……陳腐なものだろう? 人の数ほどにあるのだから……
 何度も使われたということはそれが王道だからこそではないか?」

そんな言葉が竜王の口から出てきたことが驚きで、ゼシカは少し返事に戸惑ってしまった。
何か軽口を返そうとしたが、思い浮かばず結局やめる。

「そうね、そうかも」
「で、あろ?」

得意げに笑う竜王。
不意にそれがたまらなく愛おしく感じてしまって、ゼシカかは胸に埋もれる竜王の頭をそっと抱いた。

「そうか……なら、ば……これが――愛、なのか」
「竜王?」

返事はなかった。
やすらぎに充ちた顔でただ、静かに瞳を閉じている。

「寝ちゃったのね……」

無理もない。
この短い時間で大きな事がありすぎた。
精神も身体も、魂さえも削られた濃密な時間。
それがようやく終わったのだ。

「今は、休んでも許されるよね――特にあなたは」

――私を護ってくれたから

「ありがと、おやすみ」

無邪気に眠る横顔にそっと口づけをして――

ゼシカもまた夢の世界へと旅立っていった。











【ルイーダ@DQ9 死亡】
【アンジェ@DQ9女主人公 死亡】
383名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:30:02.54 ID:kN93gznd0
 
384名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:30:19.51 ID:Zf5DtOCy0
 
385ある愛の詩 19 ◆jOgmbj5Stk :2013/06/11(火) 22:30:24.07 ID:tsWgw0Zr0
.
【???/森/夜中】
【リンリン@DQ3女武闘家】
[状態]:HP1/25、全身に打撲(重・処置済)、全身に裂傷(重・処置済)中度の火傷(処置済)、左腕喪失(処置済) 睡眠
[装備]:星降る腕輪@DQ3 オリハルコンの棒@DQS
[道具]:場所替えの杖[6]、引き寄せの杖[9]、飛び付きの杖[8]、賢者の聖水@DQ9(残り2/3) ふしぎなタンバリン@DQ8
    銀の竪琴、笛(効果不明)、ヤリの秘伝書@DQ9、ハッピークラッカーセット@DQ9(残り4個) 使用済みのハッピークラッカー
    草・粉セット(毒蛾の粉・火炎草・惑わし草は確定しています。残りの内容と容量は後続の書き手にお任せします。)
    ※上薬草・特薬草・特毒消し草・ルーラ草は使い切りました。
     支給品一式×10 光の剣@DQ2
[思考]:全員殺す 世界を壊す たとえ夢であろうと その為に休息しつつ、片腕に慣れたい
[備考]:性格はおじょうさま


【G-3/草原/夜中】
【ゼシカ@DQ8】
[状態]:HP1/8 MP4/5 睡眠
[装備]:さざなみの杖@DQ7
[道具]:なし
[思考]:絶望の町に向かう 最終的には首輪を外し世界を脱出する。






































【竜王@DQ1 死亡】
【残り19名】
386ある愛の詩 20 ◆jOgmbj5Stk :2013/06/11(火) 22:31:11.95 ID:tsWgw0Zr0
※竜王の道具はその場に放置されています(天空の剣@DQ4、キメラの翼@DQ3×5、基本支給品)
※メタルキングの盾@DQ6(アンジェの腕付き)、ブロンズナイフ@歴代もその場に放置されています。
387名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:31:58.17 ID:Zf5DtOCy0
 
388名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:32:05.38 ID:tsWgw0Zr0
投下終了です。
何かご指摘ありましたら、お手柔らかにお願いしますね。ドキドキ
389名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 22:32:37.02 ID:tsWgw0Zr0
途中送信すみません。
支援頂いた皆さま、本当にありがとうございました。
390名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 23:01:19.50 ID:Zf5DtOCy0
投下乙です!
ああ、もう、ああっ! もう!!!
自分を見失いかけていたアンジェさんは堕ちてしまうし……
グラグラし始めていた柱が一気に崩れた感じですね、いやもう、ホント……
そして竜王&ゼシカvsリンリンからのゼシカvsリンリン!
場所替えマジックをすんでのところで抜けた竜王はマジすげえ!
キレたゼシカもゼシカでリンリン相手に格闘術で渡り合うし!
でも、リンリンはそれを上回って行ったんだよなあ。

満身創痍ながらも生きているリンリン、そして眠るゼシカ。
そして最後の最後! 状態表がおかしいなと思ってたらああああああああああ!!!
竜王は愛を知って逝ったんだろうなあって思うと、もう……

改めて、投下乙です!
391名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 23:15:50.36 ID:bgMrW8Ne0
投下乙です
リンリンの圧巻のアクション!
彼女の荷物からは初期より不穏な気配を感じていたけど、ついに牙を剥いてしまったか
いやーリンリンつえーなさすがの貫録だわと思ってたのに
読み終えてしまえば竜王ですね、やっぱり
明らかに致命傷らしかったのに、妙に明るくコメディしてて嫌な予感はしたんだよ…

見事な「王の道」でした、本当に乙です
392名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/12(水) 01:23:37.68 ID:H4CV1vSk0
いや、壮絶な戦いやったわ……
アンジェはせめて相手がイザヤールの仇だと知ることがなかったら、もうちょい違った結果が待ってたかもなあ
竜王・ゼシカはええコンビやったなあ
これ、ラドンと竜王ちょうど同時期に人間の女性守ろうとDQV勢相手にして死んだんやな……
393名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/12(水) 20:08:00.90 ID:mqRmBjNTO
投下乙です。

愛とは、ありふれたもの。
だから、悲劇も奇跡もいくらでも重なり合う。

竜王は愛を知り、愛に包まれて一生を終えたんだな。
394名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/12(水) 20:59:13.46 ID:PHChMPxSI
投下乙でした。
最後の最後まで己を崩さなかった竜王には心打たれましたね。
己らしさを乱され欠いたアンジュは本当にかわいそうだった。
ルイーダさんも巻き添えとなってしまって、いい人を亡くした・・・
今後のゼシカが非常に気になるところ。
もはや悪鬼となったリンリンの足跡が完全に絶たれてどうなってしまうのか・・・
395名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/13(木) 17:30:14.80 ID:jnmdTa6h0
投下乙です。
立て続けに失っちゃったアンジェは不憫だったなぁ…もう少し何かが違っていれば、
アンジェなら前向きに戦えただろうに。

心が折れかけたゼシカが、それでも踏みとどまって立ち直ったところがかっこよかった!
リンリンは相変わらず脅威だけど、アルスやアンジェらが加えた攻撃が少しずつ積み重なって…ってな
ところに何とも感動しました。彼らの戦いも無駄ではなかったんだな、と。
竜王も流石の貫録を見せてくれました。
リンリン・ゼシカともに今後が気になるところです
396 ◆jOgmbj5Stk :2013/06/13(木) 23:46:15.27 ID:zzidmEuw0
投下から48時間経って特に指摘もなかったのでWikiに収録させて頂きました。
その際に行った修正箇所の報告です。


(この時点でゼシカはヤンガスの死を知らない為)
エイトが、ヤンガスが、ククールが、ミーティアが、そんな死に方をした筈がない。

エイトが、ククールが、ミーティアが、そんな死に方をした筈がない。
ヤンガスも必ず今もってあがき続けている筈だ。


(おかしい台詞、地の文の修正)
「まぁ人の居る所なら愛なんてそこかしこで囁かれてるわね、愛って」

ゼシカの仲間の女たらしのククールは『愛とは躊躇わないことさ』などと言っていたのを思い出す。



「まぁ人の居る所ならそこかしこで囁かれてるわね、愛って」

ふと女たらしのククールが『愛とは躊躇わないことさ』などと言っていたのを思い出す。
397名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/15(土) 18:26:22.80 ID:M3z/iREo0
何か実力がリンリン>>>(越えられない壁)>>その他大勢、みたいになってるのは気のせいか
398名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/15(土) 19:51:54.89 ID:sPk1c8WH0
気のせいだと思うよ
リンリンがトップクラスの実力なのは間違いないけど
ハンデあったり、精神状態がアレだったりして実力が出せなかったり
本来魔法使いのゼシカが格闘で戦っちゃったりと、まぁいろいろ相手に問題がある時も多いし

ぶっちゃけ星降る腕輪がチートなだけかと思う
399名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/16(日) 00:45:46.88 ID:INzplY9j0
3種の杖もうまく使えば状況が一変するし今回生き延びたのは完全に杖のおかげ
400名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/16(日) 01:07:38.78 ID:b/wz6R9R0
場所替えの杖は凶悪
飛び付きの杖でどんな状況からでも回避、移動可能
引き寄せの杖でアイテム拾ったり、盾にしたりもできるかもね
星降る腕輪もパラメータ上限があるゲームだとそんなでもないけど
このロワで上限なんてないからとんでもない性能になっとるね
ついにはジゴスパークまで使えるようになっちゃって……

アイテムに恵まれすぎっすわリンリンさん
使いこなしちゃうところがパねぇんだけども
401 ◆CruTUZYrlM :2013/06/17(月) 00:20:59.09 ID:LoSrKJgp0
仮投下スレの方に仮投下いたしました。
ご意見のほうを頂ければ幸いです。
402ワン・チャンスも無くて ◆CruTUZYrlM :2013/06/18(火) 20:56:00.86 ID:HWK5CxsQ0
 
――――生きていたい。

大体の人間は、常にそう思っている。
無意識の内だったとしても、呼吸したり食事したり色々するのは、言うまでもなく生きていたいからだ。
全員が全員そうというわけではなく、中には自ら死を望む人間もいる。
だが、彼はそうではなく、ごく普通の"生きていたい"人間だった。
酒におぼれるし女は口説くし仕事もしない、傍から見れば完全にダメな大人。
けれども、彼は普通に"生きて"いたかった。
人生の途中で、ちょっと良い思いがしたいからお金を求めていただけ。
自分の望むまま、自由に生きていたかっただけ。
好きなことをたくさんして、幸せかどうかはまだわからないけど大往生を遂げる、それだけでよかったのに。

「はあっ、はあっ、クソッ!!」
息を上げ、肩を揺らし、それでも前に走り続ける。
逃げる、逃げる、何も考えずにただひたすら逃げる。
何から? 非日常から。
この場所では、当たり前など存在しない。
あるのは彼が"非日常"だと思っていたものばかり。
戦闘と殺人、他者を蹴落とすことになんの躊躇いもない人間たち。
正義だ何だと綺麗事を言っても、人を殺そうとしていることには変わりはない。
正当防衛? 他者を蹂躙する悪? そんなことは関係はない。
ホンダラからしてみれば、どちらも差はない。
力を以て相手をねじ伏せ、自分が正しいと主張する。
自分と意見の通わぬ者は、敵なのだから。
同時に、ホンダラはこの上なく恐怖している。
死が隣り合わせになっている場所。
強者が蠢き、自分の主張を遠そうとする場所。
恐怖と同時に、それに巻き込まれて死ぬのだけは"ゴメン"だ。

戦うことどころか、人殺しを何とも思わない、頭のネジが外れてるというより元々ない連中同士で、潰しあってくれればいい。
自分は生きたい、ただ平穏に生きたい。
人よりちょっと良い暮らしで、ふわふわのソファにふんぞり返りたい。
だから、巻き込まれたくない。
誰もいないであろう遠く遠く遠くへ、とにかく走る。
狂人たちの宴が視界に入らない、どこか遠い場所へ。
とにかく、走り続ける。



「ぬおっ!?」
ふとその時、大きく何かに躓いてしまう。
前を見るばかりで足下を見ていなかった故に、そこに横たわる少女に気づくことができなかった。
バランスを崩し、大きなモーションで盛大にコける。
そのまま、少女に覆い被さるような形で、ホンダラは倒れ込んでしまった。
「いてててて……」
強打した顔面を押さえながら、ホンダラは躓いた少女の姿を見て、驚愕する。
生々しく爛れた皮膚、無数の傷跡、あるはずの腕が片方無い。
服は貼り付いていると言った方が正しいくらいで、もはやただの布切れである。
よほど疲れているのか、それともホンダラの蹴り程度では動じないと言うのか。
少女は苦悶に満ちた表情のまま、眠り続けている。

おそらく、アルスやマリベルとそう変わらない年齢。
すらっとしたボディラインと、とても整った顔立ち。
さらけ出された乳と、寝息をたてている今の姿。
少女趣味は無いホンダラでも、吸い込まれてしまいそうな妖艶さがある。

けれど、ホンダラが考えているのはもっと別のこと。
甥であるアルスは死に、先ほど目の前では人が人を殺そうとする様を見せつけられ。
そして今、アルスとさして年齢の変わらない少女が、今にも死にそうな姿で横たわっている。
403ワン・チャンスも無くて ◆CruTUZYrlM :2013/06/18(火) 20:57:04.79 ID:HWK5CxsQ0
これが、当たり前。
この世界では、こうなるのが当たり前なのだ。
幼いとか、非力とか、個人の気持ちとか、そんなことは考慮されることもなく。
ただ傷つけられ、痛めつけられ、殺される。
何故か? 力がないからだ。

再び、ホンダラを恐怖が襲う。
いずれ、自分もこうなるかもしれない。
戦う力なんてミリも持っていない自分がこうなるのは、目に見えている。
「ふざけんな……」
けれど、それを受け入れたくはない。
ホンダラはただ、生きたい。
純粋にただ、生きていたい。
こんな殺し合いなんかに惑わされて、命を落としたくはない。

突き動かされるように、少女の荷物を漁る。
傷だらけのまま寝息をたてる少女は、起きる気配を見せない。
よほど消耗しているらしいというのは、素人目に見てもわかる。
それほど激しい戦闘を繰り広げてきた……この少女も、人殺しなのかもしれない。
正義だ何だか知らないが、ホンダラにとっては恐怖でしかない。
無我夢中で、道具を漁り続ける。
「何やってんだ、俺……」
ふと、我に返る。
今にも死にそうなほど傷ついている少女をの荷物を漁り、使えるものだけをかっぱらって逃げ出そうとしていた。
なぜか? 生きたいから。
実際、ホンダラが生きる為に使えそうなものは、少なかったのだが。
「俺はただ、生きたくて……」
誰も責めていないのに、正当化を始める。
これは正しいことだ、生き残るにはこうするしかないのだ。
繰り返し頭の中に言い聞かせようとする。
「違う、違う!!」
そんな彼の考えをあざ笑うように、もう一つの声が聞こえる。
声は、彼を「人殺し」だと罵る。
自分が生きたいから、自分が生きるためなら他はどうなろうとかまわない。
だったら、自分のやっていることも、あの人殺したちと同じだろう?
生きている人間に手をさしのべず、手前のことしか考えない。
それは人殺しの思考なのだと、声は言う。
「ああっ、もう、クソッ!!」
その声を振り切るように、なりふり構わずにホンダラは駆けだしていく。
少女の身体はもちろんそのまま、袋の口は空きっぱなし、中身は散らかしたまま。

違う、自分は人殺しではない。
ただ、生きたいだけ、ただ生きたいだけ。
自分は悪くなくて、悪いのは人殺しの連中。
自分は悪くない、悪いのは、悪いのは――――
404ワン・チャンスも無くて ◆CruTUZYrlM :2013/06/18(火) 20:59:24.55 ID:HWK5CxsQ0
 
「立ち去れ……」

ふと、聞き覚えのある声がホンダラの足を止める。
無我夢中でところかまわず走り続けていた彼は、ようやくあたりを見渡した。
「……ここ、どこだ」
大して冒険もしたことはなければ、記憶力もそこまでよくない。
おまけにパニック状態と決まりに決まりきったホンダラが、目的地を定めながら動ける訳がなかったのだ。
そして、そんな彼が不幸にもたどり着いたのは。

「これより先は禁域、立ち入ることは死を意味する」

禁止エリア。
甥の死んだショックで禁止エリアを忘れかけていたこともあったが、そもそも禁止エリアと方角の管理は男魔法使いに任せていた。
だから、ホンダラはここへ来てしまった。
運悪くも禁止エリアの発動とほぼ同時に、このエリアのど真ん中へ。

「これより時を刻む、定刻までに抜け出さねば、死が訪れる」

突きつけられる最悪の言葉。
突然の死刑宣告、ただでさえ響く声にパニックになっていたホンダラの頭の中は、瞬時に崩壊する。
声ともならぬ声を上げ、方角の確認などろくにもせず。
ただ、ただ、走り抜ける。
禁止エリアの、さらなる奥へ。
一つ、二つ、死を告げる時が刻まれていく。
ホンダラは走る。
生ではなく、死に向かって。
一つ、二つ、死を告げる時が刻まれていく。
ただ、ただ、走る。
生きるために。
一つ、二つ、三つ、四つ……
時が刻まれていく間、ホンダラはずっと走り続ける。
生きたいから、死にたくないから。
生きる道へ向かって、走り続けていく――――

けれど、現実は残酷で。

「時は満ちた」

死が、突きつけられて。

「■■■■■■■■■■ーーーーーー!!!!!!」

声にはならない声が響きわたって。

一つの命が、失われた。

【ホンダラ@DQ7 死亡】
405ワン・チャンスも無くて ◆CruTUZYrlM :2013/06/18(火) 21:01:32.26 ID:HWK5CxsQ0
 








「…………あれ?」
死んでいない、生きている。
首から上は繋がっているし、足もかすんではいない。
禁止エリアに居るというのに、自分は生きているのだ。
「……は、ははは」
久方ぶりの声を出す。
もう、叫びきって枯れていたと思っていても、出るものなんだなと感心しながら。
「やったああああああああああ!!!!」
腹の底から声を出し、心の底から喜んだ。
首輪の動作不良? 単なる気まぐれ? 何だって良い、自分は今生きているのだから。
「はははは!! はははははは!! やったぞおおおおお!!」
「うるさい」
は、と笑い声が止まる。
おかしい、あり得ない。
もう一人誰かがここにいるなんて、しかも、それがよりにもよって。
「あれだけやったにも関わらず、禁止エリアに来るとは……
 まったく、余計な仕事を増やしてくれるな?」
この殺し合いの元凶、大魔王デスタムーアだなんて。
「あ……わ……」
今度こそ声がなくなる。
いや、今更声が出たところでなにも変わりはしないのだが。
だって、目の前には魔王が居るんだから。
ホンダラがどうあがこうが、勝てる相手では無いのだ。
「……なんで、という顔をしているな」
大魔王は顎に手を当てながら、震える石像と化したホンダラに問う。
もちろん、ホンダラは答えられるわけがない。
「……簡単な話だ、その首輪はほんの少し魔力か籠もって居るだけの、ハリボテだからな」
まともに話が聞けるわけが無いホンダラに、大魔王は淡々と語り続ける。
「初めの爆発は私の呪文だ、そして初めに"首輪は爆発する"と話せば、首輪は爆発すると、思いこむだろう?
 そもそも盗聴やら何やらを六十人も管理できるか? ということだ、出来なくもないがメリットがなさすぎる。
 私の貴様等に殺し合いをして欲しいだけだからな……まあ、それを知っているのは私とアクバーだけだが」
呆然としているホンダラに、次々に事実が語られていく。
動作しない首輪、嘘の情報に踊らされ、命を握られていると思いこまされていた。
ふと、心に一つのことが思い浮かぶ。
もう出ないと思っていた声を絞り出しながら、ホンダラは魔王に問う。
「なんでだ?」
不思議と、声は震えていなかった。
「なんで、殺し合いなんだ?」
「いい質問だ」
ニヤリ、と魔王は下卑た笑いを浮かべる。
「強大な力を持って蘇り、そのまま直ぐにでも世界を手に納められる。
 だというのに反抗されるとわかっていて、何故歴戦の勇者たちを集めてこのような殺し合いをわざわざ開いたのか? ということだろう?」
「いや、そこまでは……」
自分が思っていた以上の返答をつきつけられ、ホンダラは言葉に詰まってしまう。
何を考えているのか、正直言って分からない。
いや、大魔王の考えなんて、分かりたくもない。
「それは……」
もったいぶった表情を浮かべながら、大魔王はニタニタと笑う。
正直、気味が悪いと思っていたとき。
ぶち、ぶちぶちっ、と何かが裂ける音が聞こえた。
406ワン・チャンスも無くて ◆CruTUZYrlM :2013/06/18(火) 21:02:14.39 ID:HWK5CxsQ0
 


次に目に映ったのは、肩までしかない自分の体と。

「禁止エリアで死ぬお前には関係の無いことだ」

全く笑っていない、大魔王の姿だった。



「ふぅ、態々この場に現れんと手が下せぬというのは、厄介だな。
 しかしまだ……まだ、首輪は爆発する物だと思っていてもらわんと、困るのでな。
 ……時が来るまで、そう、"真実"を伝って奴等が"私の元に来る"にはまだ早いのだ」

意味ありげな言葉を、もう何も聞こえない男の傍で呟いてから、仕事は終わったと言わんばかりに"幻影"を消し、大魔王は去る。
「殺し合いが必要である理由」それを明かすことは無く。
ただ、そこに残ったのは。
あたかも爆発で死んだかのように見える、一人の男の死体だけ。


【ホンダラ@DQ7 死亡】

【B-4/小さな湖付近/真夜中】
【リンリン@DQ3女武闘家】
[状態]:HP1/25、全身に打撲(重・処置済)、全身に裂傷(重・処置済)中度の火傷(処置済)、左腕喪失(処置済) 睡眠
[装備]:星降る腕輪@DQ3 オリハルコンの棒@DQS
[道具]:場所替えの杖[6]、引き寄せの杖[9]、飛び付きの杖[8]、賢者の聖水@DQ9(残り2/3) ふしぎなタンバリン@DQ8
    銀の竪琴、笛(効果不明)、ヤリの秘伝書@DQ9、 光の剣@DQ2 ハッピークラッカーセット@DQ9(残り4個) 使用済みのハッピークラッカー
    草・粉セット(毒蛾の粉・火炎草・惑わし草は確定しています。残りの内容と容量は後続の書き手にお任せします。)
    ※上薬草・特薬草・特毒消し草・ルーラ草は使い切りました。
     支給品一式×10
[思考]:全員殺す 世界を壊す たとえ夢であろうと その為に休息しつつ、片腕に慣れたい
[備考]:性格はおじょうさま

※B-3、西部にせかいじゅのしずく@DQ7(半分)、金塊@DQ9が放置されています。
※首輪は盗聴機能も爆発機能も無い"ハリボテ"ですが、それを知っているのはアクバーだけです。

----
以上で投下終了です。
ご意見ご感想など
何かありましたら、どうぞ。
407名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/18(火) 22:49:57.66 ID:wPPEDz260
投下乙です
ほ、ホンダラぁーーー!
力ないパンピーの数少ない生き残りとして期待していたのに……なんてことに

それにしても首輪がハリボテだったとは
私の元に来るにはまだ早いってのは、いずれは来ることを望んでるってことか
その辺の理由がリレーでどうなるかに期待かな
ともあれホンダラ…南無
408名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/19(水) 00:30:16.85 ID:3Hf19gcp0
投下乙
ホンダラさんはなんかかんやで出会いの運で生き伸びてきたところがあったしなあ
あのまま牢獄に留まっていればリッカたちという新たな運も拾えたのだろうけど
そこから自ら遠ざかってしまったのが運の尽きだったってことかなあ

しかしデスタムーアが自ら会場に足を向けることがある、というのは突破口のひとつになるかも?
409名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/19(水) 20:29:29.88 ID:gOXkUbz9O
投下乙です。

禁止エリアに行けば主催を呼び出せるのか。

「真実」は、餌。


首輪は只のお洒落アイテム!
でもきっと、かっこよさは下がる。
410導きなんてないけれど(代理)◇MC/hQyxhm.:2013/06/25(火) 22:29:26.34 ID:5vw4CWfb0
 

てくてく。
二対の足は、大地を踏みしめて。
てくてく、てくてく。
勇者と王女は、森の外を目指す。
てくてく、てくてく、てくてく。
心に、それぞれの思いを秘めて。
てくてく、てくてく、てくてく、てくてく。
少女達は、前へと進む。


***
411導きなんてないけれど(代理)◇MC/hQyxhm.:2013/06/25(火) 22:30:12.09 ID:5vw4CWfb0
 


(ハーちゃん)

ふと、亡くした仲間の顔を思い浮かべてみる。
この狂った舞台に呼ばれてから、初めて出会った異世界の住人。
その世界では勇者に相反する立場にあったらしい、邪教の大神官。

(最初、すっげー顔色悪い奴かと思ったけど、魔物だったんだよな)

それくらい、人間くさい奴だった。
初対面は、確か自分が叫んでいた時だっただろうか。
全く無防備にも程があるぞ、と鼻で笑われた。

(そのくせ、アタシが逃げろって言ったのに、なんでか戻ってくるし)

いや、『なんでか』ではない、理由は解っている。
紛れも無く、彼は自分の『仲間』だった。


(ミーちゃん)

続いて出会った、黒髪の少女を思い浮かべる。
愛する人の死を信じれなかった為に、狂気に走った悲劇の姫君。
そういえば、後ろを歩くローラが同じ道を辿らなくて本当に良かったと思う。

(きわどい格好しちゃってさ、別嬪さんが。でも根は純粋でー…)

「あーん」と、素直に口を開けていた。
どっかの誰かさんはノッてくれなかったのに。
本当に姫君らしい、純粋な少女だった。
その純粋さ故、生まれてしまった狂気。
412導きなんてないけれど(代理)◇MC/hQyxhm.:2013/06/25(火) 22:31:35.63 ID:5vw4CWfb0
 
(ピー助)

一度は敵対し戦った、魔族の王。
かつての彼もまた、愛する者の死をきっかけに禁断に手を染めた。
それを乗り越えるのだと、取り戻すのだと、言っていたのではなかったのか。

(……コイツもハーちゃんと同じで大真面目野郎でさぁ、ほんと)

お陰で、冒険の間も、今回も、幾度と無く救われた。
どちらかと言うと考えるより先に動くタイプの自分には、彼のような冷静な者が必要だった。


(タバサ……だったよな、確か)

ローラと行動を共にしていたという、幼い少女。
話を聞くに、彼女は心に深い傷を負っていたらしい。
そして、あのフローラの娘だったそうだ。
彼女も、このゲームの被害者。

(……ったく、あのジジイはこんな事して何が楽しいんだか、××××がよぉ)

デスタムーアに対する暴言を心の中で吐き捨て、ソフィアは視線を地面から前へと向けた。
413導きなんてないけれど(代理)◇MC/hQyxhm.:2013/06/25(火) 22:32:24.37 ID:5vw4CWfb0
 
「おい、この森とももうすぐおさらばできるぜ」

数十メートル先には、木々が途切れる所。

「割と広かったですわ……」

少し疲れた声で、ローラが答える。

(そりゃそうだな。こいつもお姫様なんだ、森なんてそうそう歩かねーよな)

ここに辿り着くまでの間、よく後ろから「きゃっ」だの「あっ」だの「そんなひどい」だの聞こえていた。
その度に敵襲かと振り向くソフィアの前には木の根などに躓き体勢を崩していたローラが居た訳だが。

「すみませんわ、足手まといになってしまって」
「そんなこたぁねェよ。気にすんなって」

軽い口調だとはいえ、感情が篭ってないと少し恐いです。
ローラは心の中で呟いた。
そして、自分達の歩みが止まったことを好機に、気になっていた疑問を口に出す。

「ソフィアさんはなぜ、旅に、出たのですか」
「旅?」
「冒険……ですわ。世界を救うなんて、そう思い立ちませんもの。気を悪くしてしまったのなら、ごめんなさい」
「……」
414導きなんてないけれど(代理)◇MC/hQyxhm.:2013/06/25(火) 22:33:20.82 ID:5vw4CWfb0
最初から、世界を救う目的ではなかった。
では、何故。
何故、自分は、自分達は、世界を救ったのか。


「"導かれた"んだろうな、アタシ達は」

相次ぐ事件を解決するため。
世界一強くなるため。
伝説の剣を見つけるため。
父の仇を討つため。
全てを失った悲しみと、憎しみのため。

「みんな、それぞれ目的が違ったんだ、最初は」

不思議な運命の下、光は集い。
一つの思いを胸に抱いて。
それは、まさしく。
『導き』としか、言いようが無い。


「……導き」

ソフィアの言葉に、ローラは微かな既視感を感じた。
それは確か、あの人の言葉。
忘れる事などできない、運命の日。



***
415導きなんてないけれど(代理)◇MC/hQyxhm.:2013/06/25(火) 22:34:10.28 ID:5vw4CWfb0
「……今の音は、一体……?」
「!」

「お助けに参りました、ローラ姫様」

「あなたは……?」

「おっと、自己紹介もなしに、申し訳ありません」
「私の名はアレフ。まあ、巷では、『勇者アレフ』とは呼ばれておりますけれど、それ程では」

「勇者、さま……!」

「さあ、こんな薄暗い洞窟は姫様に似合いません、太陽の下へ行きましょう」

「一つだけ、宜しいですか」

「どうぞ、何なりと」

「勇者様は、なぜ私を助けて下さったのですか」

「旅に出るときに、姫様の噂を聞きましてね。尤も、抽象的な噂に過ぎなかったのですが」

「では、なぜここが……いえ、私が生きてなどいない可能性もありましたのに」

「簡単な話ですよ」
「私は姫様の事を耳にしたとき、不思議な縁のような物を感じました」
「そうですね、『導き』とでも言いましょうか、運命のような物を」

「導き……それは、やはり精霊神さまの」

「いえ、違うでしょう。ご先祖は精霊神の加護を得ていたと伝説にありますが、私は全く」

「でしたら、それは一体」
416導きなんてないけれど(代理)◇MC/hQyxhm.:2013/06/25(火) 22:34:59.10 ID:5vw4CWfb0
 
「『私』でしょう」

「?」

「いえ、感覚に過ぎないのですが」
「姫様の下へと、『私』が『私』を導いてきた、そんな気がするのです」

「『自分自身』が……」

「はい。時として、『自分』は自分以上の事を知っているものなのです」

「難しいお話ですね」

「いえ、これは私の祖母の受け売りに過ぎないのですが。お恥ずかしながら、私も良く解らないのです」
「さあ、ラダトームへ帰りましょう、ローラ姫様」

「…………ローラと、お呼び下さい」

「へっ、いえ、そんな」

「構いませんわ。何より……」

「?」

「私は、勇者様にそう呼ばれたいのです……」

「……!はい、解りました、……ローラ」





***
417導きなんてないけれど(代理)◇MC/hQyxhm.:2013/06/25(火) 22:35:45.63 ID:5vw4CWfb0
導き。

それは、誰かから与えられるものだ。
しかし、全てがそうとは限らない。


(今、解りましたわ、アレフ様)


自分を信じる気持ち。
誰かを信じる気持ち。
それらは全て、自分自身への導きなのだ。



「ここから、どうする」
「そうですね……」

ローラは首を傾げて考える。

「北、ですわ」
「北?」
「ええ、まだ一度も行ったことがありませんし、もしかしたらフローラさんに会えるかもしれませんし」

それに。

(あなたにも、会えるかもしれませんわ……アレフ様)

心の中でそっと、呟いた。
418導きなんてないけれど(代理)◇MC/hQyxhm.:2013/06/25(火) 22:36:36.96 ID:5vw4CWfb0
***





今、少女達を導く思いは唯一つ。




とても簡単な、それでいて世界一難しいこと。







ーーーー生きる。
419導きなんてないけれど(代理)◇MC/hQyxhm.:2013/06/25(火) 22:38:57.83 ID:5vw4CWfb0
 


【F-4/森の外、西/夜中】
【ソフィア(女勇者)@DQ4】
[状態]:HP4/5 表情遺失(人形病)
[装備]:奇跡の剣@DQ7、メイド服@DQ9、ニーソックス@DQ9
[道具]:ソードブレイカー@DQ9、小さなメダル@歴代、オリハルこん@DQ9
KBP GSh-18(16+0/18)@現実、基本支給品*2
不明支給品(ソフィア(0〜1)、キーファ(0〜2)、カーラ(0〜1(武器ではない))
[思考]:終わらない 殺し合いを止める 北へ
[備考]:六章クリア、真ED後。

【ローラ@DQ1】
[状態]:HP4/5
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:生きる 北へ

_____
以上で代理投下終了です。

投下乙です。
ローラの回想とか、ソフィアの振り返りが……
やっぱりローラはアレフにあいたいよなあ
でも北には……
420名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/12(金) 00:31:55.23 ID:jDzGHTkc0
421名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/12(金) 06:22:44.69 ID:eMo24xN40
422名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/12(金) 10:12:51.73 ID:pXArt6vO0
ほーたる来い
423名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/15(月) 00:05:02.40 ID:FDBZ9wct0
月報集計いつもお疲れ様です。
DQ2nd 127話(+11) 18/60 (- 8) 30.0 (-13.3)
424名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/19(金) 09:33:00.44 ID:OfghjzjZ0
425名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/20(土) 10:05:31.46 ID:3XemEkzR0
426名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/21(日) 19:09:14.12 ID:0IqrDIzGO
427名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/22(月) 14:45:04.77 ID:ByX4egDH0
428名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/24(水) 23:50:11.49 ID:Nz4zfwrA0
 
429ある愛の誓い(代理) ◇1WfF0JiNew:2013/07/24(水) 23:50:54.69 ID:Nz4zfwrA0
       





「「僕は彼女のことを愛していなかった」






#######





     
「やぁ、久し振りだね」

再会は、偶然で突然だった。
仲間にしたであろう魔物を引き連れて、暗い森から現れた蒼を僕が見逃すはずがない。
最初から重くなることはない、まずは気軽に。ちょっと散歩に行ってきたみたいに、彼女に声をかける。
約一日ぶりに見る彼女の姿は薄汚れていたけれど、美しさは違えていない。
両の瞳には清廉な意志を秘め、彼女は僕を真っ直ぐに見つめてくる。
こんな時でも、彼女は貞淑な妻を貫いていたのだろう。

「あなた……お身体の方はご無事ですか? どこか怪我などしておりませんか?
 ああ、もうっ、服が汚れていますよ?」

オロオロとコチラへと駆け寄ってくる彼女に対して、自分は笑えているだろうか。
自分の中にある苦い感情を抑え込めているだろうか。
愛してなどいなかった事実を、隠し切れているだろうか。
きっと、どれもこれも見抜かれているのだろう。
彼女は僕と違って、聡明だから。それを知ってなお、僕を支えてくれる人だから。

「僕の方はこの通り五体満足さ。それよりも、君の方が怪我をしているじゃないか。
 おとなしくしてるんだ、回復呪文をかけるから」
「そんなことありません! あなたの方が!」
「いいや、君の方こそ必要だ」

嘘と偽りの関係で生まれた夫婦なのに、互いのことを最優先に考えていることがおかしかった。
滑稽だ、と皮肉げに口走りそうになる。僕は彼女のことを愛していなかったというのに。
430ある愛の誓い(代理) ◇1WfF0JiNew:2013/07/24(水) 23:51:30.41 ID:Nz4zfwrA0
「ともかく、無事でよかった」
「はい……!」

心底ほっとした表情を浮かべ、笑みを向ける彼女が、痛い。
涙の粒を目元に溜めた彼女が、辛い。
愛しているという偽りを、曇りなく信じている彼女が、怖い。
護りたいと願った僕の気持ちが、愛ではなく贖罪なのかもしれないと想うぐらいに。
もしくは、そうなのかもしれないけれど。
誰よりも知ってるはずの僕自身のことが、僕はわからないのだから本当に救えない。

「ですが、レックスとタバサは……」
「死んだね」

でもい、僕よりも二人の子供達はもっと辛い思いをしていたはずだ。
死んだ、そう、死んだのだ。
レックスもタバサもこんな地獄の掃き溜めのような場所で死んでいい子供ではなかった。
勇者という責務に縛られた時間を、取り戻して欲しかった。
どうしようもなく雁字搦めに詰んでいる自分と違って、彼らには未来があったのだから。

「タバサに僕らの関係を教えたのは君かい?」
「……はい」
「そうか……今となっては終わったこと、なんだろうね」

できることならば、二人が大人になるまで、僕らの事実を受け入れることができるまで。
大人の暗いことを知らずに生きて欲しかった。彼らは彼らの人生を謳歌して欲しかった。
だけど、そんな思いは今となっては意味が無いことだ。
431ある愛の誓い(代理) ◇1WfF0JiNew:2013/07/24(水) 23:52:24.30 ID:Nz4zfwrA0
 
「死んだ人は蘇らない。どんなに想っても、忘れないと叫んでも、二人共……もう、取り戻せない」
「…………っ」
「幸せになって欲しかった。そんなの、当たり前さ。僕らは親なんだからね。
 勇者に縛られた運命から、やっと逃れられて。これからだって思っていたんだから」

未来はもう砕けてしまった。
欠けてはいけないピースを、闇へと落として行方不明にしたんだ。
勿論、僕達は神様じゃない。都合よく、子供達のピンチに駆けつける英雄にはなれない。
僕も彼女も、そのことを受け入れられない程弱くはないけれど。
既に、僕は子供達の死を過去とし、受け入れてしまっている。
今も胸にわだかまりを残している彼女と違って、大切な人との別れは経験の差がある。
目の前で燃え滓になった父に手を伸ばすことすらできなかったあの時。
人の住む気配のない廃墟と化した故郷を歩かざるを得なかったあの時。
僕は、慣れてしまっている。大切なものを落とすことに順応してしまっている。

「だから、レックスとタバサについて考えても……僕らにできることは、生きることしか残っていない。
 彼らの思い出を想うことで救えるなら幾らでも想うさ。だけど、想いだけで人は救えないんだ」
「…………」
「ねぇ、フローラ。僕の言ってることは戯言だろうか」

答えは返ってこなかった。当然だ、元々答えを求めるような言質じゃない。
いくら僕達が嘆こうとも、二人は還ってこない。
僕らと子供達の関係は徹底的に終わってしまっているのだから。
そして、今まで騙してきた僕と彼女の関係もそう在るべきなのだ。

「ああ。それよりも戯言で傑作で最悪なのは……僕なんだろうね。
 今まで続けてきた」

終わるべきなのだろう。嘘と偽りで続けてきた愛を、これ以上続けることはきっと良くない。
今まで築きあげてきたものを全て削ぎ落とす。
その果てに残っているのは、愛か、打算か。今となってはわからない答えだけれど。
432名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/24(水) 23:52:41.61 ID:gK+V5X7Q0
  
433ある愛の誓い(代理) ◇1WfF0JiNew:2013/07/24(水) 23:53:13.90 ID:Nz4zfwrA0
 
「僕らは……いや、僕は間違っていたんだ」

僕の気持ちに嘘偽りがないか確かめるためにも。
停滞していた愛と打算を。これまで積み上げてきた何もかもを終わらせる。
それだけは、間違いじゃないって信じたから。

「もう、止めにしようか。この関係を」

僕は、“初めて”彼女のことを正面から見つめよう。






#######






「私は彼のことを愛していた」






#######
434名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/24(水) 23:53:20.64 ID:gK+V5X7Q0
 
435ある愛の誓い(代理) ◇1WfF0JiNew:2013/07/24(水) 23:54:34.48 ID:Nz4zfwrA0
わからなかった。否、わかりたくなかった。

「フローラさん……私、少し離れた所にいますね」

気を利かしたシャナさんが私達に背を向けて離れていく。
「行かないで下さい」と言う余裕はない。
今の私の頭の中にあるのは彼から告げられた言葉だけだ。
ほんの少しの静寂。されど、この瞬間は永遠にも感じられるぐらいに長く、重かった。

「どうして、ですか。このままでいいじゃないですか!」
「……駄目なんだよ、それじゃ」
「駄目じゃありませんっ! 私は今のままで満足しています! 貴方の後ろをそっと歩くだけで!
 だから、いいんです……! もう、いいんです……っ」

やっとの思いで出した声はすごくかすれ、とてもじゃないが聞き取りやすいとは言い難かった。
これから先、聞くであろう言葉が恐ろしくてたまらない。嫌だ、聴きたくない。
ただ、それだけの思いで、彼の言葉を無理矢理にでも遮った。

「だからこそ、駄目なんだよ。
 僕なんかにそこまでする必要も、どこまでもひたむきに付いてくる必要だってない」

過去をバッサリと切り捨てる彼の目は、いつもよりも冷たい。
これまで見てきた彼のイメージとは百八十度違っていた。
否、もしかするとこれが彼の本当の姿なのだろう。
幼い頃に父を亡くし、数年の間は奴隷として使われて。やっとの思いで帰ってきた故郷は滅びていた。
羅列するだけでも、痛々しい過去だ。

「僕は“独り”に慣れてるしね」

違う、と叫びたかった。独りじゃないと、否定したかった。
けれど、彼の目が否定を許さない。
436名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/24(水) 23:54:39.60 ID:gK+V5X7Q0
 
437名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/24(水) 23:54:54.69 ID:h6Y8nMWPO
 
438名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/24(水) 23:55:39.39 ID:gK+V5X7Q0
 
439ある愛の誓い(代理) ◇1WfF0JiNew:2013/07/24(水) 23:55:43.37 ID:Nz4zfwrA0
 
「……君も気づいているはずだ。僕の気持ちを」

続く言葉は、私の胸の奥深くへと突き刺さる。
結婚してから現在まで、お互いに言い出さなかった嘘の関係。
病める時も健やかなる時も愛を貫くと誓った結婚式。
私が背を向けていた、唯一の嘘。

「子供達がいなくなった今だからこそ、言うべきだ。
 ここで全てを終わらせる。それが……子供達への何よりもの餞だ」

それでも、嘘と偽りで彩られた関係でよかった。
彼と子供達の傍にいられることが、私の幸せだったのに。
残酷で美しい世界で見つけた光が、消えていく。
掴み取った夢が砂となって零れ落ちていく。

「僕は君のことを愛していなかった。あの時、僕が君を取ったのは――」
「もう、いいです! やめ」
「――打算でしかない」

ぐらり、と世界が揺れた。私と彼が決定的に別れてしまった瞬間が、来た。
拒絶。排除。終焉。
これまで維持していた関係が壊れていく。
必死に取り繕っていた表情も歪み、苦渋へと変わる。

「もしもの可能性だ、僕らが無事にグランバニアに帰れたとしても……いずれは摩耗する。
 嘘でしかない愛で、続く関係じゃないんだよ、フローラ。
 関係に、小さなヒビはもう入っている。子供達も死んでいるしね」
「ちがっ」
「違わないよ。君自身理解できているはずだ。僕の嘘に気づいていた君ならね」

否定はできない。彼は正論を突き詰めて論を重ねていく。
これまで捩れていた嘘を丁寧に解いていかれるのを、私は黙っているしかなかった。
何てことはない、これは本来あるべき関係に戻るだけなのだ。
私と彼は、天空の盾がなければ結婚する運命ではなかった。
幾つもの偶然が重なって結ばれた関係だった私達が別れるのは当然だ。
440ある愛の誓い(代理) ◇1WfF0JiNew:2013/07/24(水) 23:56:41.32 ID:Nz4zfwrA0
 
「……いや」
「…………」
「そんなの、いやです……」

それでも、理解はできても納得はできなかった。
縋りたかった、失いたくなかった。それが彼の重みになるとわかっていながらも、捨て切れなかった。
目元から涙が垂れ落ちるのも拭わずに、私は彼に問いかける。
精一杯の虚勢を張って、拒絶の意志を投げつけた。
吐きだした渾身の言葉もあっさりと切り捨てられ、縋る両手は彼の心を動かすには至らない。
私と彼の間には、どうしようもない隔たりが感じられる。

「もう一度言うよ、フローラ。終わりにしよう」

こうなってしまったからには、もう止められない。
彼が一度決めたことに対して、必ず成し遂げる意志を持つことは、彼の傍にいた私が誰よりも知っている。
だからこそ、彼の言葉に私が反論できるはずもなく。

「はい……」

頷くしかなかった。
大好きだった人が、離れていく。手を伸ばしても、掴めない苦しみが胸を締め付ける。
これでいい、これでいいんだ。
何もかもが元通りになった関係。ただのフローラであっても、彼を想う気持ちは変わらない。
例え、どんなことがあっても――彼を愛し続けると誓ったことだけは嘘じゃないから。
441名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/24(水) 23:56:44.52 ID:gK+V5X7Q0
 
442ある愛の誓い(代理) ◇1WfF0JiNew:2013/07/24(水) 23:57:41.31 ID:Nz4zfwrA0
 
           





「ねぇ、フローラ。終わりの後は―――」






最後に、彼はふっと柔らかい笑みを浮かべ。






「――――やり直せばいいんだよ」





私を強く、抱きしめた。
443名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/24(水) 23:57:55.98 ID:gK+V5X7Q0
 
444ある愛の誓い(代理) ◇1WfF0JiNew:2013/07/24(水) 23:58:10.81 ID:Nz4zfwrA0
「……あ」

痛いぐらいに込められた力には熱が浮かぶ。
ほんのりとしたぬくもりが、現状を把握できていない私の震えを抑えていった。

「君に対して抱いてたのは愛なのか、罪の意識なのか。僕は今の今までわからなかったけれど。
 気づいてしまったんだ。教えてくれたんだ」

気のせいだろうか、数瞬前までよりも声が優しくなっているのは。
染み渡る彼の声が、私を包み込む。

「君がいて、レックスがいて、タバサがいて。グランバニアの国民に仲間の魔物たち。皆が僕を見てくれている。
 帰れる場所がないって嘆いていたけれど。僕を迎えてくれる場所は、人達はいたんだよ。
 僕の方こそ、彼らに背を向けて逃げていたんだ」

グランバニアの人達は彼のことを愛していた。仲間の魔物達も、レックス、タバサも。
……そして、私も。
皆、彼のことをしっかりと見ていた。独りにならないように、傍に寄り添っていた。

「僕はとっくに幸せだったんだ、救われていたんだ」

泣いているのか、笑っているのか。
一瞥では判断がつかない表情で、彼は私を抱きしめる。

「思えば、自分自身の気持ちがわからなかった。天空の盾があったせいで信じられなかった。
 僕の中に在る気持ちは本当なのか? 君やルドマンさんを欺いた僕が、幸せになっていいのかって。
 護りたいと願ったのは愛じゃなくて義務感じゃないのかって」

瞳から涙を一滴流して、彼は私の身体を離す。
正直、彼の身体のぬくもりが離れるのは嫌だったけれど。
それでも、彼の笑顔は離れない。
445名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/24(水) 23:58:33.32 ID:gK+V5X7Q0
 
446名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/24(水) 23:58:35.71 ID:h6Y8nMWPO
 
447ある愛の誓い(代理) ◇1WfF0JiNew:2013/07/25(木) 00:00:19.65 ID:kifoHmAx0
 
「僕はありのままに話した。僕が思っていたこと、終わらせたいって思っていたこと。
 全部を精算して君と向きあいたかった。その結果、君が僕を嫌いになってくれるならそれでもよかった」

彼は憑き物が落ちたかのようにすっきりとした顔つきをしている。
私と彼が最初に出会った時に見せてくれたあの笑顔。

「今度こそ……正真正銘、嘘偽りなく君に伝えたい」

私を惹きつけた、笑顔。

「僕と、結婚してくれますか? 尽くすのではなくて。後ろでそっと付いてくるんじゃなくて。
 一緒に横に並び立って歩いて欲しい。僕らが一緒に幸せになれる世界を、作ってくれないか?」
「はい……喜んで」

彼が伸ばしてくれた手を、今度こそしっかりと掴む。
もう二度と離れないように。
そして、指にそっと嵌められるのは皮肉にも偽りの愛の象徴とも言える結婚指輪だった。

「あの、ですね。リュカ様」
「リュカでいいって。そんなに畏まることないからさ」
「それじゃあ、リュカさん。そ、そのっ!」

――キス、してくれませんか?

それは恋する女性なら、一度は思い浮かべる極上の夢。
愛する人と誓いの口づけを交わす最高の幸せを、私は口に出してしまった。
正直、すごく恥ずかしいけれど。私も、一人の女声であるのだ。
この程度の事を望んでも罰は当たらないはずだ。
顔を真っ赤にして俯いた私を、彼はクスリと笑う。
だけど、彼は私の言葉を否定しなかった。
私の瞳から零れ落ちる涙を指で拭って、顎をそっと上へと寄せる。
見上げたら、彼の唇が近づいてきた。
それに、私は啄むように唇を寄せて――そっと触れた。
彼の笑顔を受けて、私も笑顔を返す。
数秒間、世界から音が消えた気がした。
唇を離した後も、私と彼は笑う。
お互いに嘘を取り払った本当の笑顔で、笑った。

「一緒に幸せになろう」
「ええ。いつまでも、貴方のお側に。リュカさん」
448名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/25(木) 00:00:29.68 ID:MQ7J8HzP0
 
449名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/25(木) 00:01:27.88 ID:5lZogd360
 
450ある愛の誓い(代理) ◇1WfF0JiNew:2013/07/25(木) 00:02:07.39 ID:kifoHmAx0
     
     

   
    
     
        



   


 

――――とまァ。めでたしめでたしってやつにはいかねぇんだよなァ? ヒヒッ」
    
 
    

        

      
     
  
   

  
   
       
嘘が終わり、真実が始まった。
いつまでも続く幸せを、帰れる場所を取り戻す旅が、始まった。
もう覚めることのない夢の中で、始まった。
451名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/25(木) 00:02:29.84 ID:MQ7J8HzP0
 
452ある愛の誓い(代理) ◇1WfF0JiNew:2013/07/25(木) 00:03:19.72 ID:kifoHmAx0
 
「あァ、さっきから黙って聴いていりゃあなんだ? あ? 何が幸せだ、馬鹿馬鹿しい」

嘘つきだった夫婦を祝福するかのように、、槍が二人を縫い止める。
永遠の愛を誓った彼らに相応しく、二度と離れないように強く、強く縫い止める。

「人間サマはいいねぇ、簡単に幸せになれてよォ。どんなに媚びへつらっても迫害されちまう、奪わなきゃ奪われる。
 クソみてぇな世界で生きてる俺とは大違いだ」

突き刺さった槍を抜くのと同時に、二人は折り重なるように地面に倒れさる。
彼らが抱きしめ合っている瞬間をつき、槍を突き出すのは道化を気取るよりも簡単だった。

「はっ、黄泉の国で永遠の愛でも誓ってろってんだ。はっ、一生番ってろや、地獄でよォ!」

最後の最後まで手を繋ぎ、死がふたりを分かつまで一緒に、生きていた。
それが、影の騎士には腹立たしくて仕方がなかった。
彼らの幸せそうな横顔が、諦めてしまった自分を馬鹿にしている気がした。

「あァ、最っ高にイライラしやがる。何だ、テメエら。嘘つきだろうとも人間サマなら幸せになれんのかよ。
 真っ正直に生きても、嘘をついて生きても。どんな生き方貫こうとも、幸せになれねぇ、幸せへのなり方がわかりやしねぇ俺が惨めでならねぇじゃねぇかよ!!
 俺と、お前ら。何が違うってんだ? 種族か? んなモンで決まっちまうのか!?
 ちげぇ、違うだろ! 同じ、幸せになりてぇ奴等同士だろうが!
 勇者でもねぇ! 英雄でもねぇ! ただの凡人でしかねーだろうが! なァ! なァ!!!!」

言葉を出すにつれ、くつくつと黒い感情が噴き出してくる。
飄々と道化を演じてきた自分が剥がれてしまう、底なしの沼に沈んでしまう。
これが、魔物。どんなに取り繕うとも、欲望の前に自分を抑えきれないモンスター。
一度走り出したら止まらない激情が、影の騎士を覆っていく。
453名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/25(木) 00:04:22.46 ID:L3yuBpylO
 
454ある愛の誓い(代理) ◇1WfF0JiNew:2013/07/25(木) 00:04:23.57 ID:kifoHmAx0
 
「なァ、目を覚ませよ」

そうだ、モンスターだ。
だから、今も影の騎士は感情のままに行動する。

「幸せってなんだ?」

幸せそうに倒れた二人の首根っこを掴み、彼は問いかける。

「どうして、テメエラを見てるとこんなにもイライラするんだ?」

返ってくることのない答えを。

「答えろよ、答えてくれよ」

自分の中に生まれた黒の靄を。

「畜生、畜生が」

死人は何も語らない。それを作ったのは自分だ。他ならぬ答えを求めていた自分なのだ。
ただ、幸せを求めて生きているだけなのに。
駆逐されるだけの魔物には不相応だというのか。
ささやかな“夢”すらも与えられない狭い世界を生きるしかないのか。

「幸せになりてぇだけなんだよ、俺は」

骸骨の歯をカツカツと鳴らしながら、嘲笑うしかなかった。
“夢”すら掴めない底なし沼に引きずられる自分に。
いつかきっと、自分が幸せになれると“夢”を見た愚かさに。
もう覚めることのない“夢”を見続ける彼らに。
455名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/25(木) 00:04:34.09 ID:MQ7J8HzP0
 
456ある愛の誓い(代理) ◇1WfF0JiNew:2013/07/25(木) 00:05:02.49 ID:kifoHmAx0
           


【リュカ@DQ5 死亡】
【フローラ@DQ5 死亡】
【残り16人】



【E-5/森林/真夜中】

【影の騎士@DQ1】
[状態]:右腕負傷
[装備]:メタルキングの槍@DQ8
[道具]:基本支給品一式、変化の杖@DQ3、ゾンビキラー@DQ6
    不明支給品(0〜3)
[思考]:闇と人の中に潜み続けて、戦わずして勝ち残る。
    争いを加速させるためあらゆる手段で扇動する。
[備考]:千里眼、地獄耳の効果は第二放送終了時に消失しました。
    「シャナ」という偽名を名乗っています。
457ある愛の誓い(代理) ◇1WfF0JiNew:2013/07/25(木) 00:06:48.81 ID:kifoHmAx0
          

























――――だけど、“夢”から覚める可能性が僅かにでもあったのならば。

影の騎士は気づかない。フローラが身に着けていた腕輪に込められた魔法を。
魔法の名前はメガザル。自己の全てを捧げることで奉仕対象の命を復活させることができる禁忌の魔法。
彼女の愛が、魔法を発動させることで願ったのは――愛する人の蘇生。

一度は失った明日への道。
ラストチャンスに、死してなお、届くのなら。
彼女は迷わなかった。独りきりになる彼のことを想うと、悲しいけれど。
彼が生きて幸せを掴めるなら、何の悔いもなくこの魂を地獄へと売り渡すことができる。






――――どうか、彼に天壌無敵の幸運と未来を。






【リュカ@DQ5 蘇生】
458名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/25(木) 00:08:15.97 ID:kifoHmAx0
以上で代理投下終了です。
459名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/25(木) 00:15:18.17 ID:kifoHmAx0
>>457
追記

【リュカ@DQ5】
[状態]:健康
[装備]:パパスの剣@DQ5
[道具]:支給品一式×3、祝福の杖@DQ5、王女の愛@DQ1、デーモンスピア@DQ6、結婚指輪@DQ9
[思考]:???
460名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/25(木) 00:47:50.67 ID:a5UhX9f80
代理投下乙
しかしまぁ何というか、今回のDQロワにおける主人公陣は呪われてんのか?
ロクな目にしか遭わないな
461名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/25(木) 07:58:08.32 ID:8OQZXWFO0
投下乙です。
ああ、もう、ようやくやり直せたと思ったのに……!
わかっている告白でも、それをしっかりと前に受け止めるフローラさんがカッコいいです。
影騎士も影騎士で、望みがある。
複雑ですなあ。
462名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/25(木) 16:25:15.98 ID:MyhMl+Cu0
463名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/25(木) 19:05:39.02 ID:/vlos5qX0
影の騎士は動いてない
リュカが蘇生……ってことは次回修羅場確定か
フローラの器もまた大きかったんだなぁと思わせてくれる話だった

ところでリュカ蘇生ってことは残り人数は17名になったってことでいいのかな?
464名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/26(金) 00:49:27.73 ID:yu1XXDWH0
ああ、フローラ……
リュカ、どうか強く生きてくれ……
465名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/26(金) 03:15:02.27 ID:TNNRIUoH0
濃厚な作品、投下乙です!
こじれた二人、やっと分かり合えたと思ったのに案の定影の騎士め…

リュカまで闇落ちしないでくれと願うばかりだ
466少年少女前を向け(代理) ◇MC/hQyxhm.:2013/07/28(日) 22:19:23.61 ID:URdi7DzX0
 


「――あ、魚焼けてる。もーらいっ!」



……がう。



「……あのさ、それ僕のなんだけど」



…………がう。



「え?そうなの?ごっめーんもう食べちゃった!」



………………がう。



「おいロッシュてめぇ」

「いたたたたた!暴力反対〜」



……………………がう!



「ねえ、その子呼んでるわよ?」

「うん?何?」
467少年少女前を向け(代理) ◇MC/hQyxhm.:2013/07/28(日) 22:19:46.47 ID:URdi7DzX0
向け ◆MC/hQyxhm.[sage] 投稿日:2013/07/27(土) 22:06:16 ID:???0



やっと気付いてくれた!
ごはんちょーだい、ごはん!


「……君さっきも食べたでしょ。お腹すくの早くない?」


いいの!
それとこれとは関係ないの!
お腹いっぱいでも、目の前にごはんあったらお腹すくよ!


「しょうがないなあ、僕の食べかけだけど、ほら」

「君のじゃないんだけどね……?」

「がう……」


ロッシュ、後ろの人怖いよ!
目が冷たいよ!
「ロッシュしばく」って目してるよ!


「食べないの?」


うん食べるよ!お腹すいたもん!!




「がうがう♪」









「ていうかなんでアンタ狼と会話してるのよ」


マリベルのツッコミは、風に流され華麗にスルーされた。


***

 
468名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/28(日) 22:20:20.87 ID:wgvNulKG0
 
469少年少女前を向け(代理) ◇MC/hQyxhm.:2013/07/28(日) 22:20:25.34 ID:URdi7DzX0
赤々と燃える焚き火を囲み、各々食べ物をつつく。


「本当に良く食べるね〜君は」


自分の食べかけの魚をがっつく狼を見て、ロッシュは満面の笑みで呟く。


「小動物がごはん食べてる姿って見てて和むわよね」


マーニャも微笑みながらそれに答える。
ちなみに、彼女が食べようと思っていたサンドイッチは黒いオーラを纏っていたカインに渡された。


「それには同意だよ」


サンドイッチで少し黒オーラが引っ込んだカインの頭に浮かんでいる小動物は狼ではない。

(リアは僕の作るホットケーキをおいしいおいしいって言って食べてくれたなあ)

浮かぶのはバターと蜂蜜たっぷりのホットケーキを口いっぱいに頬張る妹の姿。
年の離れた兄妹だ、カインにとってリアは十分小動物である。
話題にされている当の狼は魚を食べ終わり、くるりとロッシュの方を向く……が。


がしっ。


「がうっ!?」

「うふふ、あんたみたいなの見たらもふもふしたくなるのよね〜」


マリベルはそう言いながら狼を抱き上げ……いや、掴みあげた。
その光景は一見首を絞めているかのようにも見える。


「おい、やめとけよ。そいつ嫌がってるだろう」

「なによ!こんな美少女マリベルちゃんの腕に抱かれる事のどこが不満だって言うのよ!」
470名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/28(日) 22:22:17.48 ID:wgvNulKG0
 
471少年少女前を向け(代理) ◇MC/hQyxhm.:2013/07/28(日) 22:22:28.64 ID:URdi7DzX0
 
ぎゅうううう〜〜。

マリベルに思い切り抱きしめられ、狼は苦しそうにもがく。
もしかしたら本当に首が絞まっているのかもしれない。


「おい、かせって」

「ちょっと!?」


見るに耐えられなくなったのか、テリーが狼をマリベルの魔の手から救い出す。
彼の顔色はうっすら青い。
ごほごほと軽く咳き込んだ狼を指差し、フランクフルトを齧りながらマーニャが言った。


「それにしても、いつまでも『この子』とか『そいつ』とか呼ぶの可哀想よね。
 名前、決めてあげない?」

「名前か!いいね!……うーん、僕いいの思いつかないなあー。カイン君とかどうよ?」

「何その無茶振り……ロッシュ僕のこと嫌いでしょ絶対」

「いや、そういうの得意そうだな〜って思っただけだよ?
 別にセンスの欠片もないこと言って恥じかけばいいなとか思ってないよ?」

「おい」

「いいから考えてよ〜」


(困ったな。名づけとか、したことないよ)

そう思ってチラリと狼の方を見る。

(子供の狼、子……おおかみ……)


「……ベビーウルフ、とかはどう」


結構なドヤ顔だったかもしれない。
しかし、待ち受けていたのは気まずそうな顔をした仲間。
わりと自信あったんだけどな……。


「……」

「あー……」


羞恥で顔が赤くなるのがわかる。
表情は表に出さないタイプだと自負していたのだが。
472名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/28(日) 22:22:35.58 ID:dux/c8Gi0
支援
473少年少女前を向け(代理) ◇MC/hQyxhm.:2013/07/28(日) 22:23:02.91 ID:URdi7DzX0
 
(くそ……こうなったら。開き直ってやる)


「……なんか文句ある」


出来るだけ平静を保ち、じっと仲間を見る。
いや、と皆白々しく目を逸らし。


「うん、センスの問題じゃなかったね」

「……そのままじゃない」

「悪い。これは俺もフォローできないっていうか……」

「あ、あたしは嫌いじゃないわよ?カイン君のセンス」

「もうやめて」


マーニャのフォローが一番キツい。
僕は悪くない。
無茶振りしてきたロッシュが悪い。
怨念をこめて犯人を睨むと。

パンを握り俯いたロッシュの肩は微かに震えていた。
笑ってやがる。

(こいつ……覚えてろよ)


「テ、テリー、あんたはどうなのよ?」

「次は俺かよ……」


この場の何とも言えない雰囲気に耐えられなくなったマリベルにより、矛先はテリーに向いた。


「おおっイッケメーン!期待するよー!!」

「うるせえ」

「……みんな僕の扱い酷いよなー」

「自業自得だと思うよ」

「……」
474少年少女前を向け(代理) ◇MC/hQyxhm.:2013/07/28(日) 22:23:29.04 ID:URdi7DzX0
茶々を入れてくるロッシュをガン無視して、テリーは真剣な顔で自分の腕の中の狼を見る。

(こういう時は色とかでつけるのが妥当か……?)

黒の毛並み、所々の白。

   黒 と 白 。
Black White

「……ブライトなんてどうだ」

「ブ、ラ……?どっから出てきたのよそれ?」

「いや、こいつの色って黒と白だろ?」


そう言ってテリーは狼を指す。
狼はキョトンとテリーを見上げる。


「ああ〜そうか!わかったわかった!やっぱりイケメンは考えることが違うね!」

「ブラックとホワイトでブライト……輝く、ね。やるじゃん」


皆から思った以上の(でも期待してた)高評価をもらい、テリーは得意そうな顔でマリベルを見た。
……が。


「何それ。かっこつけた名前ねー。あたしヤダ。却下」


マリベルが無慈悲にも切り捨てた。


「な、なんでだよ?俺的には全然オッケーだと思」

「ダメ!絶対ダメ!この子にはぁ〜もっとかわいい感じの名前が似合うと思うの!」


ワナワナと震えて尋ねるテリーを再び切り捨てるマリベル。
そして嫌がる狼を彼の腕から奪い去った。

((うわこの人こっわ……))

周りの男子二人がマリベルを畏敬の目で見るようになった事は言うまでもない。
パンを頬張りながら、ロッシュは口を開いた。
475名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/28(日) 22:23:41.87 ID:wgvNulKG0
 
476少年少女前を向け(代理) ◇MC/hQyxhm.:2013/07/28(日) 22:23:46.48 ID:URdi7DzX0
「ふぁに?ふぃんなおもふぃふかないふぁらふぉくがきめふぁうよ?
 (何?みんな思いつかないのなら僕が決めちゃうよ?)」

「ふーん、シスコン君いいの思いついたの?言ってみなさいよ?」


マーニャに促され、パンを飲み込んでロッシュは自信満々の笑顔ではきはきと答えた。


「はいっ!僕は、『ターニア』とかどうかなーって思うんだけど!どうかな?」

「「「「…………」」」」」


やっぱりか。
ロッシュを除いた四人の間にはそんな空気が漂っていた。


「うわ……分かってたけど、引くわ……(もうダメだわこのシスコン)」

「リーダー、あんたって奴は……(前からこれだもんな……)」

「何それ、引く……(ターニアってこの人の妹の名前なんでしょ……)」

「うん、理解できないね(崇高な妹の名前を獣なんかに付けるとか僕は死んでもしない)」

「えー何その全員一致のリアクション……凹むよ〜」


一人だけ違う理由で引いているなんて誰も気付く訳が無い。
まあそんな事はお構い無しに名前決めは続く。


「あたしは良いの思いつかないしー……マリベルちゃん決めちゃってよ」

「ほんと!じゃあね……」
477名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/28(日) 22:24:24.47 ID:wgvNulKG0
 
478名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/28(日) 22:24:49.37 ID:dux/c8Gi0
支援
479少年少女前を向け(代理) ◇MC/hQyxhm.:2013/07/28(日) 22:24:54.17 ID:URdi7DzX0
マリベルは抱き上げた狼を目の前に持ってきて、にんまりとする。
見つめられている狼はかなりじたばたしているのだが、そんな事彼女には関係ない。


「でもアンタってふわっふわよね〜……あ、そうだ!!」


ぱっと明るい笑顔になってマリベルは宣言する。


「ウルフで、ふわふわ!アンタの名前は、『うるふわちゃん』よ!!!!」

「いやぁ可愛いじゃない!あたしもそれ気に入ったわ!よろしく、うるふわちゃん」

「……僕のと大して変わらない気がするんだけど……?」

「俺の方が狼らしい名前だったと思うんだけどなあ」

「うう……ターニア……」


こうして、マリベルの独断により、狼の名前は『うるふわ』となった。





「がう……」




***
480少年少女前を向け(代理) ◇MC/hQyxhm.:2013/07/28(日) 22:25:25.49 ID:URdi7DzX0
 

ロッシュが盗って来た食料を三分の一ほど食べつくした所で、「眠い」とマリベルが言い出した。
ここには朝も夜も無いが、時間はきちんと過ぎている。
時計の上ではもうとっくに夜になっていた。

しかし、ここまで和んでいても忘れてはいけない、この場は殺し合いの場だ。
皆のんきに寝ていては全滅も冗談ではないので、交互に見張りと睡眠を繰り返しながら休息をとることにした。
ジャンケンの結果、最初の見張りはマーニャと僕に決まった。


「……みんな寝たみたいね。いいなあ、あたしも早く寝たいなあ」

「寝たいなら寝たら。見張りなんて僕一人で十分だし」

「だめだめ。カイン君ってそうやって無理して身体壊すようなタイプだと思うのよねー」

「……何その勝手なイメージ」

「お姉さんの性格診断ってやつよ。これでも結構当たるのよ?」

「……どうだか」

「つれないなあ。背中なんか向けちゃって。もうちょっと愛想あった方が人生楽よ?」


冗談のつもりで言ったのかもしれないけど。
冗談じゃないんだよな。
愛想なんて、あったとこで何が変わった?
周りからの評価が『お気楽者』になっただけだ。
……全く、気持ちよくない過去を思い出してしまった。
まあ、マーニャに悪気は無いんだろうけど。

(無理して身体を壊す、か)

そんな事は無かっただろ。
無理するほどの人生じゃ、無かった。
その筈なのに、なんでか、心に引っかかる。

(ていうか、なんか静かだな)

この人って、結構賑やかな人だと思うんだけど。
もしかして、あんな事言っといて、無理していたのは自分じゃないのか?
少しばかだなあとか思いながら振り向くと、そこには。
481少年少女前を向け(代理) ◇MC/hQyxhm.:2013/07/28(日) 22:26:32.09 ID:URdi7DzX0
 
「あはははは!笑った!笑ったね、カイン君!!」


すっかり寝ているだろうと思っていた人が、凄い変な顔で僕を見ていた。
これまでに見たこと無いような、へんなかお。
思わず、口から笑いが漏れてしまった。


「いや、あんたってあんまり心から笑ってないからさ、笑わしたくなっちゃって」


目の前の女性は少しはにかみながら僕の方を見て笑う。


「そんな良い顔、出来るじゃない!」


(あ……)

その笑顔が、別の女性の笑顔とダブる。
この世界で初めに出会ったひと。
僕の話を始めて聞いてくれたひと。
僕が、救えなかった、もう一人のひと。
あのひとは、言った。
その命が消え行くときに。









『変わったな、って』








似ても似つかない言葉だけど。
思い出すには、それで十分だった。


「どうしたの?ぽかんとして」


突然話しかけられてハッとすると、マーニャが心配そうに僕の顔を覗き込んでいた。


「……何でもないよ」

「何よ?やっぱりつれないなあ」
482名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/28(日) 22:27:15.36 ID:wgvNulKG0
 
483少年少女前を向け(代理) ◇MC/hQyxhm.:2013/07/28(日) 22:27:33.36 ID:URdi7DzX0
 







ねえ、アイラ。

僕は本当に、変われたのかな。

自分じゃ、よく、分からないけど。

変わるって決めたけど。

わかったんだ。

やっぱり、まだ。

少し、こわいんだって。

でもさ、嫌な訳じゃないんだ。

だから、頑張るからさ。

もう少し、見てて、くれるかな。












「前を向くって、決めたからさ」
484少年少女前を向け(代理) ◇MC/hQyxhm.:2013/07/28(日) 22:27:56.12 ID:URdi7DzX0
 
【C-8/夜中】
【カイン(サマルトリアの王子)@DQ2】
[状態]:HP6/10 脇腹打撲 肋骨が折れる、内蔵微損傷
[装備]:プラチナソード、ロトの剣
[道具]:支給品一式×6(特薬草を使用)、 不明支給品×1〜2(本人確認済み 回復道具ではない)、モスバーグ M500(2/8 予備弾4発)
    オーガシールド@DQ6、満月のリング@DQ9、世界樹の雫@DQ6、エルフの飲み薬@DQ5、デュランの剣@DQ6、もょもとの手紙
    毒入り紅茶 ピエールの支給品1〜3 ククールの支給品1〜3
[思考]:妹を捜す。自分を貫く。泣かない。休息。
※D-8のミレーユ、ククール、ピエールの支給品は回収されました。
※旅路の話をしましたが、全てを話していない可能性があります。少なくともリアについては話していません。

【ロッシュ@DQ6】
[状態]:睡眠中 HP9/10(回復)、MP微消費、打撲(ほぼ回復)、片足・肋骨骨折(ほぼ回復)
[装備]:はじゃのつるぎ@DQ6
[道具]:支給品一式 、白紙の巻物@トルネコ、聖者の灰@DQ9、食材やら水やら(大量)、調理器具(大量)
[思考]:前へ進む 休息。

【マーニャ@DQ4】
[状態]:HP5/8 MP2/4
[装備]:なし
[道具]:猫車@現実、基本支給品一式
[思考]:ゲームには乗らないが、向かってくる相手には容赦しない。
     ミネアを探す、休息。

【うるふわ(ガボの狼)@DQ7】
[状態]:睡眠中 おなかいっぱい
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:ガぅ(ごはんくれたからロッシュに従う、この名前いやだなあ)

【テリー@DQ6】
[状態]:睡眠中 ダメージ(中)、背中に打撲、MP消費(中)、焦げ、"   "
[装備]:雷鳴の剣@DQ6、ホワイトシールド@DQ8
[道具]:支給品一式(不明支給品0〜1)(武器ではない)
[思考]:休息。
[備考]:職業ははぐれメタル(マスター)
(経験職:バトルマスター・魔法戦士・商人・盗賊 追加)

【マリベル@DQ7】
[状態]:睡眠中 MP消費(小)
[装備]:マジカルメイス@DQ8 水のはごろも@DQ6
[道具]:支給品一式 (不明支給品0〜1)
[思考]:休息。
485名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/28(日) 22:28:21.61 ID:dux/c8Gi0
支援
486 ◆CruTUZYrlM :2013/07/28(日) 22:32:57.22 ID:URdi7DzX0
以上で代理投下終了です。

いいなー、このチームは。
命名の儀は大事なものなのだと理解しているテリー!
シスコンとかとは年季が違いますね、流石です。
しかしマリベル先生のGoing My 上へは相変わらずですなあ。

さて、ここで皆さんに提案があるのですが、そろそろ第三回放送に突入してもよいのでは無いか?ということです。
全パート一通り落ち着いた+夜中パートは休息+移動がメインとなっているので、ここで大きく時間を飛ばしてもいいのではないかな? と思います。
特に異論がなければ7/31(水)の0:00に放送予約解禁という形にしたいのですが、どうでしょうか?
487 ◆CruTUZYrlM :2013/07/29(月) 22:40:17.91 ID:ixdgc9UB0
??jO氏の予約を受けまして、放送はしばらく保留とする事にいたしました!
他にも予約をねらってる書き手さんは是非ともご予約ください!!
488名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/01(木) 15:01:18.03 ID:czLfHFyv0
489名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/03(土) 22:48:45.85 ID:jei/CwFX0
490名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/09(金) 09:59:46.00 ID:AtKl/4vX0
491名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/10(土) 04:35:28.01 ID:8RrJEhyZ0
492名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/10(土) 04:53:38.51 ID:7jsBhLBf0
493名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/11(日) 01:50:57.15 ID:J/785B5/0
H
494名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/12(月) 22:03:08.89 ID:7WxBU+3s0
w
495 ◆CruTUZYrlM :2013/08/13(火) 12:09:01.92 ID:1yJJm1W60
そろそろ放送予約解禁にしようかなと思います。
前回にもお伺いを立てましたが、一応今回も。
特になにもなければ15日(木)の0:00に予約解禁といたしたいと思います。
496 ◆CruTUZYrlM :2013/08/15(木) 00:44:32.21 ID:z1zZdsiP0
第三回放送を一時投下させていただきました。
何も問題がなければ、日曜(8/18)の夜には本投下して、
8/22(木) 0:00くらいには放送後予約解禁したいと思いますので、ご意見よろしくお願いいたします。
497名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/18(日) 18:30:54.63 ID:rMF1y7Gd0
498第三回放送 ◆CruTUZYrlM :2013/08/19(月) 00:08:50.49 ID:9VLMJnor0
「……宜しかったのですか?」
戻ってきたデスタムーアに、アクバーは問いかける。
何を? というのはもちろん、先ほど男との"会話"だ。
ふん、と鼻を鳴らしデスタムーアはアクバーに答える。
「どうせ禁止エリアは私が手を下さねばならなかった、そのついでに与太話をしただけよ」
そう、どうせ死に行く命。
そんな男に喋ったの単なる気まぐれにすぎない。
何を吹き込もうが、他の人間に伝わることなど無いのだから。
「それに……どうせ首輪のことはいずれ奴らにも分かる」
そう、何より首輪のことなど"いずれわかる"のだ。
それがどういった手段で判明するかは定かではないが、これから先どう足掻いても首輪がハリボテだという事はバレる。
もちろんデスタムーアはハナからバレるつもりだったので、問題はない。
それが参加者の手による解明か、はたまた時間経過による禁止エリア増大の自然解明か。
そのどちらであろうと、別に構わないのだ。
それも、計算の上なのだから。
「時にアクバーよ」
「はっ」
切り返すように、デスタムーアはアクバーへと問いかける。
「戦いの準備はできておるか?」
「いつでも、デスタムーア様の牙となりましょう」
その言葉に応じるように、アクバーは跪く。
「時が来たら……」
「承知しています」
「そうか、ならば行け」
「はっ」
"時"が満ちたとき、魔王の腹心の部下は牙を剥く。
けれど、今はまだその時ではない。
今は、まだ。



そして、会場に悪魔の声が響き渡る。


.
499第三回放送 ◆CruTUZYrlM :2013/08/19(月) 00:09:39.95 ID:9VLMJnor0
「18時間が経過した、定時の放送を行う。
 ……日の光など無いこの世界では、時間の流れが掴みにくいだろう。
 この狭間の世界では、昼も夜もない、ただ有るのは"空"だけだ。
 禁止エリアにも関わる事だ、時間管理はしっかりしておけ。
 さもなくば……命を落とす、それだけだ。

 ではまず、禁止エリアの発表だ。
 先ほど同様、六つ設定する。
 2時 B-5 F-5
 4時 A-4 C-7
 6時 E-5 G-3
 以上の六つだ、聞き間違えの無いよう、確認できるのならば確認した方が良いだろう。
 禁止エリアを頭に入れていなければ死ぬ、それは事実なのだからな。

 では、次に死者の読み上げだ。
 ヤンガス
 バーバラ
 アリーナ
 ラドン
 ミネア
 ルイーダ
 アンジェ
 竜王
 ホンダラ
 フローラ
 
 以上、10名だ。
 ……正直、驚いている。
 貴様等人間達がここまで血に飢えた生き物だったとは、思っていなかったからな。
 血を吸い、戦いの快楽に溺れ、そして59の屍の上に立つ。
 この調子ならば、簡単な話であろう?
 では、また六時間後に会おう。
 心の中の血の渇きを、思う存分に癒しておくことだな……」

笑い声が木霊する中、悪魔の声は空に溶けていった。

【残り17人】
500第三回放送 ◆CruTUZYrlM :2013/08/19(月) 00:12:20.57 ID:9VLMJnor0
以上で投下終了です。

放送後の予約解禁は、8/21(水)の24:00(8/22(木)0:00)を予定していますが、大丈夫でしょうか?
特に問題がなければその日時で行きたいと思います。
501名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/19(月) 01:41:42.50 ID:btFpTMze0
乙です。そちらで問題ないと思います。
アクバーもいよいよ動くというのか・・・
502名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/21(水) 05:13:13.41 ID:D1gpQczg0
乙です
503 ◆CruTUZYrlM :2013/08/21(水) 08:53:52.11 ID:gt+Rgx1F0
では特に問題なさそうなので本日24時に予約解禁としたいと思います。
よろしくお願いします。
504名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/22(木) 18:23:20.76 ID:Ja7BnM3N0
お疲れ様
505 ◆CruTUZYrlM :2013/08/26(月) 23:33:26.53 ID:sJ6BqZRE0
tes
506LOVE & TRUTH  ...more ◆CruTUZYrlM :2013/08/26(月) 23:35:26.20 ID:sJ6BqZRE0
悪魔の放送が空に鳴り響く。
睡眠をとっている三人のためにも、この放送の内容は聞き逃すわけにはいかない。
筆記用具を手に持ち、紙にさらさらと必要な事だけをメモし、地図に印を入れていく。
呼ばれていく名に、知り合いの名は無い。
当然だ、ただ一人の肉親を残して、仲間も敵もとっくのとうに名前を呼び上げられているのだから。
強いて言えば、あの曾孫の祖先と思わしき"竜王"が死んだことぐらいか。
伝記上でしか知らないが、強大な力を以てアレフガルドを支配したと聞く。
そんな力の持ち主ですら、この場所では死ぬ。
討たれたのかどうかまでは知る由もないが、気を引き締め直す必要はある。
放送が途切れると同時に、カインは見張りの相棒に話しかける。
「なあ、マー……」
その声は、音として外に出ることすら叶わず、か細く途切れていく。
いや、恐らくカイン以外の人間でも、きっと声を出しきることは出来なかっただろう。
今し方声をかけた人間、マーニャは。
この地で初めて、いや人生の中でも初めてと言っていい。
それほど大きな粒の涙をぼろぼろと、輝く両目から止めどなく零していた。
思わず、言葉を失う。
圧倒されるほどの姿、本人は悲しい気持ちでいっぱいだというのに、それを見ている自分は美しいと思ってしまうほど。
言葉など、飛び出すわけもない。
「……ご、めん」
ゆっくりと顔を動かし、カインの方を向き、小さく言葉を漏らす。
その声は弱々しく、今にもたち消えてしまいそうなほどだった。
「ちょっ、と……風、当たって、くる」
途切れ途切れの言葉を残し、マーニャはその場からゆっくりと離れていく。
カインは、そんな彼女になんて声をかければ良いのか、わからない。
ましてや、彼女がどこかに行くのを止める事なんて、出来るわけもない。
「くそぉっ……」
誰かを信じる、前を向く。
以前のように「他人はどうでもいい」と思っていたときには感じなかった、初めての苦しみ。
それに対してどうすることも出来ず、ただただ地面を殴ることしかできない。
己の不器用さを、ただただ呪うばかりだった。
507名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/26(月) 23:36:17.03 ID:sJ6BqZRE0
 
508LOVE & TRUTH  ...more ◆CruTUZYrlM :2013/08/26(月) 23:36:56.83 ID:sJ6BqZRE0
.


怪鳥が空を舞う。
その背には、魔法使いの老人とか弱い少女。
いや、か弱いという表現は誤用かもしれない。
自分の祖先を殺し、自分を止めてくれた人間を殺した。
悪鬼羅刹にもっとも近く、この殺し合いでもっともまともに"狂って"いる。
だが、その心に少しだけ、綻びが生まれ始めようとしていた。

「このアレフ、お嬢様の思いに我が身を以てお答えいたしましょう」

憎んでいたはずの祖先は、自分がどれだけ罵っても眉一つ動かさなかった。
どれだけナイフで刺しても、どれだけ呪詛をぶつけても。
決して動じることなく、自分を抱きしめに来た。

「友達に、なってくれないかな」

ある女は、体が両断されてもおかしくない傷を負っているというのに、自分のことを気にかけていた。
もっと知りたい、だから友達になって欲しいと。
どうせ死に行く人間の最後の狂言と、リアは笑い飛ばした。
けれど、その女は最後の最後まで自分を見つめていた。

二人とも、勝手だ。
自分がどんな世界で、どんな苦しみを味わって、どんなに孤独に過ごしてきたかも知らないで。
自分が言いたいことだけを言っている。
受け止められるはずがない、受け止められるわけがない。
何も分かってない人間の、狂言にしか過ぎないのだから。

だけどどうして、心は揺らぐのだろう。
もしまともな世界で出会っていれば、自分の世界がああでなければ。
二人の言葉に、耳を傾ける余裕もあったのだろうか。

いや、そんな事を考えるのは時間の無駄だ。
もう、作り上げられた世界を変える事なんて出来ない。
そして、この場所では一人しか生き残れない。

兄のいないあの世界なんて、死ぬよりも辛い事だ。

早くしなきゃ、早くしなきゃ。
兄と一緒に死ぬために、兄と一緒に旅立つために。
もう、残り人数も少ない。
ということは、兄に危険が及ぶ可能性が高くなる。

兄に先に死なれては、困る。
兄のいない世界など、考えられない。
だから、兄とともに死ぬ。
兄のいない世界を味わう前に、自分も死ぬ。

だからお兄ちゃん、今、今。
リアが殺してあげるからね。

そんな思いで心を必死に塗りつぶしていく。
揺らがないように、綻びが生まれないように。
もう一度、心に深く刻み込んでいく。

そんな決意があるとは露知らず、怪鳥は西へ飛ぶ。
禁止エリアに追い立てられるように出てくるであろう参加者を、追いつめて殺すために。
魔法使いは力を磨く、世界の全てに破壊を齎すために。
509名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/26(月) 23:37:10.38 ID:0WJRfhol0
 
510名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/26(月) 23:37:40.46 ID:qP9qQLBY0
 
511名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/26(月) 23:38:03.10 ID:0WJRfhol0
 
512名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/26(月) 23:38:04.83 ID:qrAYOq/M0
 
513LOVE & TRUTH  ...more ◆CruTUZYrlM :2013/08/26(月) 23:38:23.57 ID:sJ6BqZRE0
.


「あんっの……」
すうっ、と胸一杯に息を吸う。
「バカミネアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァッ!!」
涙をまき散らしながら、空に響きわたるほど叫ぶ。
ふうっ、ふうっと肩で荒々しく呼吸をする。
落ち着かない、当然だ。
放送は死者を告げる悪魔の宣告。
その名にあったのは、かけがえのない仲間であるアリーナ。
そして、唯一の肉親であるミネアの名前。
揺らがない訳がなかった。黙っていられるはずがなかった。
二人とも正義感が強く、困った人を放っておけない質だ。
特にミネアは筋金入りで、道行く人が倒れようモノなら即ベホマ。
そんな彼女たちだったからこそ、マーニャの心には「誰かを守って死んでしまうのではないか」という不安があった。
だから、一刻も早く会いたかった。
あって無事を確かめたかった。
いつも通りに話して、いつも通りに笑って。
それだけで、良かったのに。

もう、叶わない。

アリーナのすっとぼけた会話を聞くこともない。
巨岩を優に砕く腕力を見ることもない。
心の奥底に秘める優しさを感じることもない。

妹のふんわりとした声を聞くこともない。
時に鬼のような恐ろしさを感じる占いを見ることもない。
時折見せる繊細さに触れることもない。

死んでしまっては、どうしようもない。

「うあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!」
ただただ、叫ぶことしかできない。
結局何も出来なかった無力な自分を呪うように。
声が枯れてしまいそうになるほど、叫び続けることしかできない。

「やだよぉ……行かないでよ、ミネアぁ……アリーナぁ……」
いつも強気な彼女からは考えられないほど、弱々しい声が漏れ出す。
誰が言っていたか、強気は弱みの裏返しだと。
この殺し合いが始まってから、頑なに妹を探し続けた理由。
それは、失ってしまうのが怖いから。
自分の中の支えであるものを、無くしたくないから。
分かっていたのだ、自分がそれに依存していることくらいは。
けれど、もうそれは失われてしまった。
柱を失ったことで、マーニャという一人の人間が音を立てて崩れ去っていく。
もう、強気でカジノ好きなマーニャはそこにはいない。
姉という肩書きすらも無くした、ただの一人のちっぽけな人間。
「うっ、うああ、うあああああああ!!」
無力で、惨めで、何も出来ない。
泣くことぐらいしか出来ないから、泣くしかない。
ずっと泣き続けている場合ではないことぐらい、分かってはいるけど。
せめて、後少しだけでいい。
大声を上げて、たくさんの涙を流させて欲しい。
514名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/26(月) 23:39:07.45 ID:0WJRfhol0
 
515LOVE & TRUTH  ...more ◆CruTUZYrlM :2013/08/26(月) 23:39:11.86 ID:sJ6BqZRE0
しかし、それすらも叶わない。
ピリッ、と背筋を走った殺気に、マーニャは素早く飛び退いて武器を構える。
喪失感に襲われているとはいえ、敵の気配を感じてもなおぼうっとしているほどバカではない。
腫れた目をこすり、殺気の飛んできた方向を睨む。
一匹の怪鳥が、こちらに向かって真っ直ぐ飛んでくる。
先ほどロッシュとテリーの口から漏れた、世界を支配する四魔王のうちの一人、ジャミラスの姿とよく似ている。
急いでカインの元に戻ろうとするが、向こうの飛行速度は段違いだった。
下手に背中を見せれば、余計な傷を貰いかねない。
進撃を食い止めつつ、仲間のところまで退く。
そうと決まれば、行動は迅速な方がいい。
「獄炎よ、牢となり彼の者を捉えよ! ベギラゴン!!」
素早く呪文を唱え、炎を練り上げていく。
足止めが目当てならば、一点に集中した火球より、殺傷を目的とした爆発より、天高くに伸びる炎の方が良い。
手を振りかざすと同時に、怪鳥を包み込むように炎が巻き起こる。
その炎を見つめたまま、マーニャは素早く後ろへ飛び退いていく。
早く戻って、彼らに伝えなくてはならない。
だが、その撤退行動は許されない。
炎が巻き起こるとほぼ同時に、無数の氷柱が地面へと刺さる。
氷柱達は、その身を溶かしながらも炎達を弱めて行った。
予想外の出来事に、思わず歯を鳴らしてしまう。
テリー達の話が本当なら、ジャミラスはそんなに強力な呪文を使えることは無いはずなのだ。
事実、呪文を唱える素振りは微塵も見えなかった。
つまり、どう言うことかは分かる。
「筋の良い炎だ、けど、ちっとばかし足りねぇな」
よりにもよって魔物に手を貸す人間が、居ると言うことだ。
怪鳥が剣を握り、舌をなめずり回しながらマーニャの体をじろじろと見つめる。
ニタニタと下卑た笑いは、どこまでも気分を不快にさせてくる。
早く次の一手を打って、この状況を変えなければ。
「その髪の色……ふっ、そうか、そういうことか」
魔物の口から飛び出してきた言葉に、マーニャは疑いの目を向ける。
「……どういうことよ」
心を探られないよう、慎重に言葉を選んでいく。
手札を悟られてはいけない、まるでポーカーのように慎重に進んでいく。
「先ほど、貴様によく似た女をこの手で殺してきたばかりだ」
だが、魔物が切ってきたのは、オールジョーカー。
あり得ない手札、刃向かいようのない手札、そして何より。
一番見たくない絵面の言葉だった。
「テッメェエエエエエエエエエエッ!!」
瞬時に炎を練り込み、今度は火球として放っていく。
一発ならず二発、三発。
目の前の怪鳥を燃やしつくさんと、次々に放つ。
それをかき消すのは、今度は氷柱ではなく同じ大きさの火球だった。
マーニャが即座に練り上げた三発の球を、意図も容易くかき消していく。
「ふん、余計な真似を」
「おいおい、案外危なかっただろうが。その台詞は無いンじゃねえのか?」
魔物の側で老人が笑う。
そんなやりとりをしている間にも、呪文は次々に飛んでくる。
それを老魔がいなしていくというのを繰り返しているうちに、リアが口を開く。
516名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/26(月) 23:39:45.57 ID:FfsrMzuB0
 
517LOVE & TRUTH  ...more ◆CruTUZYrlM :2013/08/26(月) 23:40:11.97 ID:sJ6BqZRE0
「ねえ、魔物さん……あんなのどうでもいいから、早く行こうよ」
こんな所で時間を使いたくないという焦りが、その言葉を生む。
「嬢ちゃんの言うとおりだな、ここは俺に任せて先に行けよ」
何かを言いたそうにしていたジャミラスよりも先に、老魔が言葉を被せていく。
「禁止エリアの都合上、この先に誰かが居ンのはほぼ間違いねえ。
 だからよ、先に行ってそいつ等をぶち殺してくれよ。
 誰もいなかったら居なかったで、すぐ戻って来りゃあいい。
 なあに、あの女一人くらいなら俺一人で十分よ」
最もらしい理論を並べ、怪鳥に先に進むことを勧めていく。
誰かいるなら殺せばいいし、誰もいないなら戻ればいい。
口にしてみればシンプルで、それでいて相手を納得させやすい言葉。
言葉を言い終わってから、老魔はにっこりと笑う。
「それに、何より嬢ちゃんが行きたがってるからな」
「……勝手にしろ」
「待てやァッ!」
その言葉と同時に飛び去ろうとした怪鳥にめがけて、マーニャが再び呪文を放つ。
「おおっと、悪いがアンタの相手は俺だ」
そのマーニャに、ナイフを持って一気に詰め寄っていく老魔。
見てくれからは想像できない俊敏さに、マーニャは思わず一歩退いてしまう。
「アレを追いかけたいなら俺を倒してからにしな」
飛び去る怪鳥を指さしながらにたりと笑う老魔を前に、マーニャは先ほどカインから譲り受けた扇を構える。
「……アンタ、何で魔物と連んでるのよ」
そして、純粋に思ったことだけを、口にしていく。
「ハッ、愚問だな……このクソったれた世界に、興味がなくなっただけの事よ。それと――――」
老魔はさぞ興味がないといった表情で、マーニャに告げる。
ふと、脳裏によぎったのは始めに出会った少女。
目の前の男も、彼女とは違うが、同じように絶望しているのか。
考えをよそに、老魔は言葉を続ける。
「俺が世界最強の魔法使いだって事を証明するために、テメーみたいな二流に負けるわけにはいかねえよ」
前言撤回。
いつぞやの賢者のように、この男もただのバトルジャンキーだと言うことなのだろうか。
「ハッ、生憎。魔物と連んでるような自称一流芸人にも負ける気はしないわね」
ありったけの皮肉をぶつけるだけぶつけて、マーニャは戦いの構えを作る。
老魔がナイフと杖を構えて、後ろに飛び退く。
マーニャが扇を構えて、後ろに飛び退く。

それが、戦いの合図。
518名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/26(月) 23:40:25.39 ID:0WJRfhol0
 
519名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/26(月) 23:40:39.52 ID:qrAYOq/M0
  
520LOVE & TRUTH  ...more ◆CruTUZYrlM :2013/08/26(月) 23:41:03.39 ID:sJ6BqZRE0
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はあ、とため息を一つこぼす。
優しい言葉の一つすらもかけてやれない、そんな自分に辟易してしまう。
変わる変わると口で言っていても、現実はこんなものだ。
パチンと音がするだけで別人になれるのならば、この世の中はそんなに苦しくない。
だからこそ、人間というのはもがくのだ。
苦しみから解き放たれたい、今を、自分を、全てを変えたいと願うあまり。
……まあ、何もかもが簡単に変えられる訳じゃない。
実際に一度挫折しているのだから、それくらいは分かる。
「あー、くそっ」
こういう事を悩むのは、柄ではない。
だけど、どれだけ頭をこねくり回しても、優しい言葉の一つすら浮かばない。
なんてひねくれた愚か者なんだろうか。
「……随分お悩みのようだねえ」
そっと声がかけられる。
うずくまる姿勢から首だけで振り向くと、そこには少し悲しげな表情をしたロッシュが立っていた。
「なんだよ、寝たんじゃなかったのかよ」
「なんか、ね。寝付けなくて」
頭をポリポリと掻いて、申し訳なさそうに告げる。
はぁ、とため息を一つこぼし、カインはロッシュを見つめる。
この脳天気そうな顔を見る度に思う。
へらへらと表面を繕っていて、それでいて裏では深刻なことを考えていたりする。
……まるで、僕じゃないか。
「まあさー、上手くは言えないけど。そんなに悩むことはないんじゃない?」
いや、僕ではない。
僕より腕が立って、僕より前を向けて、僕より絶望していなくて。
「考え過ぎなんだよ、きっと。そういうことを言おう言おうと考えるから、言葉に詰まる。
 "きっともっと相応しい言葉がある"なんて考えるから、言えるモノも言えなくなる。
 だからさ、思ったことをそのまま言えばいいんだよ」
何より、僕が言えない"言葉"を、彼は持っている。
正直言えば妬ましく、疎ましい。
どうしてこんなにも恵まれた人間から、同じ空気を感じなくてはいけないのか。
「もっと正直になってもいいんじゃな〜い?」
……いや、よそう。
今はそんなことを考えている場合ではない。
それより、ロッシュの言うことの方が万倍もタメになる。
不器用だったとしても、一言告げることが大事なのだから。
「なるほど、ね。前向きに善処するよ」
ロッシュの提案に対し、カインはざっくりと答える。
「んも〜う、カイン君ったらぁ〜、もっとお兄さんのこと頼ってもいいのよぉ〜?」
すると、こちらの心を見透かしているのか、なんともウザったらしいリアクションが返ってきた。
……切らずにとっておいたカードを、何の躊躇いもなく切る。
「マリベルとテリーにさっきの惚気全開寝言を全部チクるよ」
「すいません許してください何でもしますから」
「ちなみにマーニャは全部聞いてたから」
「……何て言ってた?」
「死ねクソボケ同じ酸素吸ってるだけで恥ずかしいから速やかに呼吸を止めろザキザキザキザキザキ」
「ひどくない!? っていうかマーニャはザキ使えないじゃん!」
「ちなみに一部だから」
「もっとあるの!?」
「そう、他には――――」
「もういいですマジで死んじゃうからやめて」
あっという間に会話の主導権を握り、どこか誇らしげな表情を浮かべるカイン。
まあ、こんな風に誰とでも気兼ねなく喋れればいいのだが。
少しずつ、頑張ろう。
521名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/26(月) 23:41:32.67 ID:0WJRfhol0
 
522LOVE & TRUTH  ...more ◆CruTUZYrlM :2013/08/26(月) 23:41:53.00 ID:sJ6BqZRE0
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そんなことを考えていたときである。

「――――お兄ちゃん!!」

耳に覚えのある声が聞こえる。
心臓がドクリと一回、大きく跳ねる。
ずっと聞きたかった声が、耳の中で何度も何度もリフレインする。
声のする方を向く、見覚えのある姿が居る。
腐り果てたあの世界で、たった一人だけの"信じれる人"がそこにいる。

「リアッ!!」

その名前を、愛しき妹の名前を叫ぶ。

「お兄ちゃあああああああああん!!」

はちきれんばかりの泣き声と共に、リアの小さな体がカインの胸元へと飛び込んでくる。
カインはその小さな体をしっかりと受け止め、精一杯の優しい力で抱きしめてやる。
鼻をつく血の香りとか、今まで溜まっていた疲労とか、全てがどうでも良くなった瞬間だった。

「会いたかった……ッ」

ただ、その一言を告げる。
これは夢ではなく、現実。
目の前にずっと会いたかった妹が、居るのだ。



「羨ましいね……」
感動の再会を横目でみつつ、ロッシュはため息を一つこぼし、ぽつぽつと歩き始める。
同族の気配がするということもあって薄々感づいてはいたが、やはりカインには妹が居たようだ。
生きて出会えた、というのは幸せなことだ。
こんな場所では、いつどこで誰が死んでしまうかなんて、分かる訳がないのだから。
きっと、彼は今、この上なく嬉しくてたまらないだろう。
「……僕も、会いたいな」
つい、本心を漏らしてしまう。
会いたい、会いたい、けれどこの場にどころか、どこにも居ない存在。
夢は夢としてしか生きれない、分かっている。
けれど、異世界と異次元が混じり合うほどの世界だったなら。
少しぐらい、また夢見てもいいんじゃないだろうか。
「くだらない、な」
何かを振り切るようにそう呟き、くるりと振り向いていく。
「そう思うだろう? ジャミラス」
「ふん、やはり気づいていたか」
視線を飛ばした先から、ゆっくりと現れる一匹の怪鳥。
カインが感動の対面をしていたとき、ロッシュはその先にあった気配をいち早く察知し、その正体を掴んでいたのだ。
剣を構え、淡々とした声でロッシュは怪鳥に告げる。
「悪いけど、あの二人の感動のご対面は邪魔させられないよ」
523名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/26(月) 23:44:22.17 ID:qrAYOq/M0
 
524名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/26(月) 23:44:53.36 ID:qrAYOq/M0
    
525名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/26(月) 23:45:19.65 ID:0WJRfhol0
 
526名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/26(月) 23:48:16.64 ID:QoFc3p2g0
 
527LOVE & TRUTH  ...more ◆CruTUZYrlM :2013/08/26(月) 23:48:40.52 ID:sJ6BqZRE0
その一言を聞いてから、少し目を丸くして、ジャミラスは笑う。
「……感動の対面? ククク、そうか、フハハ、ハハハハハ!!」
笑う、笑う、笑い続ける。
生まれて初めて道化師を見たような子供のように、笑う。
「何が可笑しいのさ」
冷たく問いかけてみても、怪鳥はずっと笑っている。
「フンッ、これから死に行く貴様には関係のない事よ。
 精々あの二人が出会わせたことを、精々後悔するが良い」
「どういうことだい?」
さも意味ありげな言葉を吐くジャミラスに問いかけてみてみるも、返答は拳。
端的に言えば「さっさと死ね」ということなのだろう。
振るわれた拳をひょいと避けながら、ロッシュは言う。
「そっか、教えてくれないか。そうだろうとは思ってたけどね。
 こんな傷だらけで、ボロボロで、今にも死にそうな人間にそんなことを教えてもしょうがないもんね。
 でもね、ジャミラス。僕はこんな体でも――――」
そして、深呼吸を一つして。
「君を止めるくらい、どうってことはないさ」
不適に、笑う。
「ほざけ!!」
怪鳥の怒号が、戦いの始まりを告げた。
528LOVE & TRUTH  ...more ◆CruTUZYrlM :2013/08/26(月) 23:50:30.31 ID:sJ6BqZRE0
.


「おにい、ちゃ、ん! おに、い、ちゃ、ん!!」
何度も、何度も、妹は自分のことを呼ぶ。
服は血に塗れ、体のあちこちには擦り傷が出来ている。
ここにたどり着くまでに、果たしてどれだけの出来事があったのか?
考えなくても、分かる。
「……リア、もう大丈夫だ」
自分の胸で泣き続ける妹を、優しく抱きしめながら、頭をなで続ける。
「あのね、リアね。お兄ちゃんにずっと会いたかったの」
「うん」
涙をこらえて口を開く妹の話に、相づちを打つ。
「どんなに辛いことがあっても、邪魔する奴がいっぱい居ても、リア頑張ったの」
「うん」
体と震わせながら絞り出される声を、一音たりとも漏らさずに耳に入れる。
「お兄ちゃんのことが好きだから、お兄ちゃんのためなら何だって出来るから」
「うん」
肌の温もりが、涙の冷たさが、リアが生きていることを教えてくれる。
「リアはすっごく嬉しいの、こうやってお兄ちゃんにやっと会えて」
「うん」
ようやく落ち着きを取り戻してきたのか、少しクリアになってきた妹の言葉に。
「一緒に死ねるんだから」
「うん」
首を縦に動かして、頷く。





「――――うん?」





違和感を覚えたときには既に遅く。
リアの手は真っ直ぐに自分の首へ伸びていた。
首をカッ切るため? 違う、妹の手には何も握られていない。
首を絞めるため? 違う、妹の手は僕の首には触れていない。
首を抉るため? 違う、妹はもょもとみたいな怪力じゃない。

じゃあ、何か?

簡単なことだ。
この殺し合いという会場の中で、誰しもが平等につけられている"命の枷"。
無理に外そうとする者に、平等に死を与える悪魔の産物に。
僕の妹は、僕のそれにめがけて、手を伸ばしていた。

理解できなくて、動けなくて、ただ呆然と見ていることしかできなかった。
529LOVE & TRUTH  ...more ◆CruTUZYrlM :2013/08/26(月) 23:51:44.73 ID:sJ6BqZRE0
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そして、カランと音が響く。



カラン、カランカラン。



金属が地面に落ちる音が、空に木霊する。



「――――あれ?」
声を出したのは、リア。
「おかしいよ、どうして爆発しないのかな?」
人の命を簡単に奪い去るはずの枷は、何もしなかった。
「あれ、あれあれあれ? なんで、なんでなんでなんで!?」
理解できない、理解できるわけがない。
「どうして、お兄ちゃんを殺してくれないの!!」
その枷が、何の意味もない事など、知るわけがないのだから。
「リア……お前」
「リアは!! お兄ちゃんのいない世界なんて!! 嫌だから!!」
呆然とした表情のカインの言葉なんて、今のリアには届かない。
「生きても意味がないの! そんな世界、リアはいらないの!!
 だから、死んでしまえば、お兄ちゃんと一緒に死んでしまえば、ずっと一緒にいられる!!
 この首輪が、あたしも、お兄ちゃんも殺してくれるって思ってたのに!!」
だって、今リアの全ては。
爆発しなかった首輪に、全て奪われてしまったのだから。
それでも、それでも欲したい。
「……ねえ、お兄ちゃん」
まだ、そこに彼女にとっての希望があるのだから。
「リアと一緒に」
彼女は、それを呟く。







「死んで」







孤独な男は一人、取り残される。
530LOVE & TRUTH  ...more ◆CruTUZYrlM :2013/08/26(月) 23:52:56.88 ID:sJ6BqZRE0
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【C-7/中央部/黎明】
【男魔法使い@DQ3】
[状態]:MP消費(中)
[装備]:毒蛾のナイフ(DQ6)、砂柱の杖@トルネコ
[道具]:支給品一式、不明支給品(確認済み0〜1)、どくがのナイフ@DQ7、ラドンの不明支給品(1〜2)
     消え去り草*1、弟切草*4@トルネコ
[思考]:ジャミラス達と共に、世界を破壊する。最強を証明する。
[備考]:過去に盗賊を経験しているようです。
※名前は後続の書き手にお任せします。

【マーニャ@DQ4】
[状態]:HP5/8 MP2/4
[装備]:太陽の扇@DQ6
[道具]:猫車@現実、基本支給品一式、※不明支給品(後述)
[思考]:ゲームには乗らないが、向かってくる相手には容赦しない。
     目の前のジジイをぶっ飛ばす。

【C-7/C-8との境界/黎明】
【ジャミラス@DQ6】
[状態]:HP6/7
[装備]:ルカナンソード@トルネコ3、サタンネイル@DQ9
[道具]:剣の秘伝書@DQ9、超ばんのうぐすり@DQ8(半分のみ) 支給品一式*2
[思考]:ロッシュを殺害。その後リアを利用し、サマルトリアの王子(カイン)を労無く殺害。
[備考]:支給品没収を受けていません。飛行に関して制限なし。

【ロッシュ@DQ6】
[状態]:睡眠中 HP9/10(回復)、MP微消費、打撲(ほぼ回復)、片足・肋骨骨折(ほぼ回復)
[装備]:はじゃのつるぎ@DQ6
[道具]:支給品一式 、白紙の巻物@トルネコ、聖者の灰@DQ9、食材やら水やら(大量)、調理器具(大量)、※不明支給品(後述)
[思考]:ジャミラスを止める

【C-7/中央部/黎明】
【リア(サマルトリア王女)@DQ2】
[状態]:HP3/5 頬に傷 全体に切り傷
[装備]:竜王のツメ@DQ9、
[道具]:支給品一式*2、ツメの秘伝書@DQ9、不明支給品(本人確認済み)
[思考]:おにいちゃんを、ころす。

【カイン(サマルトリアの王子)@DQ2】
[状態]:HP6/10 脇腹打撲 肋骨が折れる、内蔵微損傷、首輪解除
[装備]:プラチナソード、ロトの剣
[道具]:支給品一式×6、モスバーグ M500(2/8 予備弾4発)、オーガシールド@DQ6、満月のリング@DQ9
     世界樹の雫@DQ6、エルフの飲み薬@DQ5、デュランの剣@DQ6、もょもとの手紙、毒入り紅茶、※不明支給品(後述)
[思考]:
※旅路の話をしましたが、全てを話していない可能性があります。少なくともリアについては話していません。
531LOVE & TRUTH  ...more ◆CruTUZYrlM :2013/08/26(月) 23:53:57.84 ID:sJ6BqZRE0
【うるふわ(ガボの狼)@DQ7】
[状態]:睡眠中 おなかいっぱい
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:ガぅ(ごはんくれたからロッシュに従う、この名前いやだなあ)

【テリー@DQ6】
[状態]:睡眠中 ダメージ(中)、背中に打撲、MP消費(中)、焦げ、"   "
[装備]:雷鳴の剣@DQ6、ホワイトシールド@DQ8
[道具]:支給品一式、※不明支給品(後述)
[思考]:休息。
[備考]:職業ははぐれメタル(マスター)
(経験職:バトルマスター・魔法戦士・商人・盗賊 追加)

【マリベル@DQ7】
[状態]:睡眠中 MP消費(小)
[装備]:マジカルメイス@DQ8 水のはごろも@DQ6
[道具]:支給品一式、※不明支給品(後述)
[思考]:休息。

※カイン、テリー、ロッシュ、マリベル、マーニャで支給品分配を行いました。
 全員分で計2〜8個、うち一つは武器では無い物が分配されています。
 誰に何が分配されたかはお任せします。

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投下終了です。
何かありましたら、どうぞ。
532名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/27(火) 22:02:59.22 ID:Hbh82PeuO
投下乙です。

カインの頭は真っ白!
ジャミラス達って、首輪がハリボテって知ってるのかな。
533名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/27(火) 22:05:35.14 ID:KM91tfuF0
乙です
首輪取れるシーン、シリアスなのになんかワロタ
534名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/28(水) 02:19:14.67 ID:7kI5Z8iJ0
乙です
リアとカインが遂に出会ってしまったか
マーニャどうかミネアのぶんも生きてくれ

ところでロッシュの状態表の「睡眠中」は消した方が良いのでは
535 ◆CruTUZYrlM :2013/08/28(水) 07:15:37.48 ID:KE+UUzHV0
>>534
ご指摘ありがとうございます。
収録時に修正いたします。
536闇への問(代理)◇.YEzVA6BUc:2013/08/29(木) 01:00:32.32 ID:jK2xrLEI0
「18時間が経過した、これより定時の放送を始める。」
その言葉に、放心していた影の騎士は我に帰る。
「ハッ、もうそんな時間かよ。」
口に出して笑ってみるが、自分の中の空虚な感覚は消えない。
理由は、分かっている。だが、それを彼は肯定出来なかった。
(・・・ハッ、俺にもそんな感情があったなんてなァ)
手は止めず、そんな感傷を味わう。
「人を殺した事なんざ、ザラにあんのによォ・・・」
自嘲するように。
いや、事実それは自嘲だった。
「なんで、俺は・・・」
「・・・・・・嘆いてんだよ・・・」
それは、誰にも聞かれない。
だからこそ、彼はそれを吐き出した。
己の心の、小さな歪みを。
「答えを、聞けなかった・・・だからかい?」
だが、そこには一人。
「・・・!?」
死から、甦った男が、いた。
「何で、生きてんだよ・・・?」
放送の声は、影の騎士が知る名前を、一つだけ語らなかった。
伝説の魔物使い、リュカの名前を。


「・・・君に、殺されたんだ。僕とフローラは。」
その男は、至って冷静に見える。
「・・・ああ、そのとーりですよ。」
その男の問いに軽口で答えつつも、影の騎士は感じていた。
彼の主君、竜王にも勝るとも劣らない、その殺気を。
「だからほら、攻撃すりゃいいじゃねーか。
こっちは魔物、あんたは人間。
当たり前の正当防衛、敵討ちにはもっともってか」
だが、影の騎士はあえて誘う。
自分がいま生死の境にいることぐらい、簡単に分かる。
だが、人間の大きな欠点、すなわち驕り。
「必ず殺せる」と思った人間は、無意識に「予想外」を予想しない。
だからーーー
(いきなり、死んだ奥さんやらがいたら、ビックリするよなァ?)
ーーーそこを突く。
勝率は、今出る手では最良の目。
そして、歩いてくるリュカに対して、いつ杖を振ろうと、影の騎士がタイミングを見計らいーーー
「それで、なぜ嘆いていたんだ?」
その言葉に、意表を突かれる。
537闇への問(代理)◇.YEzVA6BUc:2013/08/29(木) 01:02:45.25 ID:jK2xrLEI0
「・・・何で、んなこと聞くんだ?」
問いかける。
「単純に、君のことを聞いておきたい」
「殺す前の、冥土の土産って訳か?ハッ、いいぜ」
影の騎士は、簡潔に答えようとする。
そして、
「いいや、違う。。」
「君がさ、改心してくれる兆しを見せてほしい。」
返ってきた言葉に、呆気にとられる。
彼は、かつて、魔物との交戦で、一人の部下を失っていた。
双子の兄弟がまだ、戦うことに慣れていない頃。
二人をかばって、呪文の連打に耐え続け。
彼が駆け付けた時には、手遅れだった。
その魔物を、討とうとした時のこと。
彼は、魔物のある一言を聞いた。
その一言を聞いた彼は、とどめを刺さず、魔物を自ら従えた。


彼は、魔物の心が読める。
だが、彼は読んでいても、魔物自ら声を出さない限り、従えることをしない。
いま、影の騎士が何を思っているか、彼は知っている。
彼は、影の騎士を試す。
自らが抱く気持ちを、吐き出すか否か。
それは、まだ誰も知らない。

【E−5/森林/深夜】

【影の騎士@DQ1】
[状態]:右腕負傷
[装備]:メタルキングの槍@DQ8
[道具]:基本支給品一式、変化の杖@DQ3、ゾンビキラー@DQ6
    不明支給品(0〜3)
[思考]:闇と人の中に潜み続け、戦わずして勝ち残る。
    争いを加速させるためあらゆる手段で扇動する。
[備考]:千里眼、地獄耳の効果は、第二放送時に消失しました。

【リュカ@DQ5】
[状態]:健康
[装備]:パパスの剣@DQ5
[道具]:支給品一式×3、祝福の杖@DQ5,王女の愛@DQ1,デーモンスピア@DQ6、結婚指輪@DQ9
[思考]:影の騎士を試す。

----
以上で代理投下終了です。
さるさん対策にできるだけ1レスにまとめてしまいました。
あと、状態表の時間帯ミスと、リュカの[]抜けなどがありましたので、勝手ながら修正させていただきました。

起き上がったはずの男が問いかけたのは、救い。
心が読める故に、悩まなければいけないんだろうなあ。
538名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/30(金) 13:19:21.15 ID:qUTE5OjJ0
おつ!
539 ◆CruTUZYrlM :2013/08/30(金) 23:33:34.10 ID:0XjszuFA0
すいません、正直に白状します。
禁止エリアの設定ミスりました。
放送後の投下も始まって今更なのですが、今回の禁止エリアを以下のように変更してもよろしいでしょうか?
一度通ったSSをねじ曲げてしまうことになりますが、どうかよろしくお願いいたします。
 2時 B-5 F-5
 4時 C-3 D-3
 6時 E-2 G-3
全く持ってわがままなお話で申し訳ないのです、本当にすみません。
540 ◆1WfF0JiNew :2013/08/31(土) 01:36:54.25 ID:FO8qK20q0
ええよ
541 ◆CruTUZYrlM :2013/08/31(土) 13:53:55.93 ID:5KaQpJqo0
すいません、現在予約中の◆tsGpSwX8mo氏の話に影響が出ると思われるので、A-4の変更は保留でお願いします。
542Ever lasting true ◆CruTUZYrlM :2013/09/06(金) 00:03:47.96 ID:PjbcSpYd0
趣味の悪い声が響きわたる空。
町へ向かう二人の表情は、明るくはない。
禁止エリアを書き留めるために、紙にペンを走らせている時だった。
「アリーナ、ミネア」
告げられた死者のうち、ソフィアはその二人の名前を呟く。
側にいたローラは、即座に察することが出来た。
その二人は、ソフィアと何らかの関わりを持つものなのだと。
そして、その二人はきっと仲間なのだろうと。
けれど、確信できない。
なぜなら、当の本人であるソフィアの顔には"無"が、広がっているから。
「ま、しゃーねーわな……」
抑揚のないふんわりとした声で、ソフィアは呟く。
「誰が死んだっておかしくないんだ。アイツらだって例外じゃない」
そう告げて、ソフィアは早々に歩き出そうとする。
悲しんでいる暇はない、というより、元々彼女は"悲しい"が分からない。
今突き詰めるべきはそこではないし、やることは他にもある。
だから、立ち止まっていられない。
「……なんだよ」
そんな彼女に、ローラは後ろからしがみつく。
非力ながらも、ぎゅっと抱きしめるように。
「しばらく、こうさせてください」
絞り出した声は、震えていた。
どうしてかは分からない、けれどそうしなくてはいけない気がする。
黙っているわけにもいかないけど、何か言葉を言わなくてはいけない気がする。
そもそも、ローラはこういうときにじっとしていられる人間ではない。
「触れていたいんです、誰かに……」
自然と出た行動だったのだろう。
前へ進もうとするソフィアを、後ろから抱きしめる。
偽善かもしれない、自己満足かもしれない、相手はそんなこと欲していないかもしれない。
けれど、ローラはそうしなくてはいけないと思ったから、その行動に出ただけ。
「えっ? ひゃあっ!」
そんな彼女の体が、唐突にふわりと浮く。
少しだけ前のめりになったソフィアが、ローラの体をひょいと背負った。
「これでいいだろ? 流石に立ち止まってる時間はねえからな」
抱きしめていたいというローラの願い。
前に進みたいというソフィアの意志。
その二つを両立させるには、確かに最適な手段である。
ただでさえ戦闘で疲労しているであろうソフィアに、肉体労働を強いてしまうのは気が引けていた。
けれど、自分の心には嘘はつけない。
「はい……」
そのまま背負われることを決めたローラは、ソフィアの背中から感じる温もりと、人の肌に触れている感触を、しっかりと認識していた。
そして、確信する。
感情を失ってしまっても、彼女は"人間"だと。
543Ever lasting true ◆CruTUZYrlM :2013/09/06(金) 00:05:06.23 ID:0YD88MSO0
.


「かーっ! いいもん食ってっからか、姫様ってのは存外重いなオイ。
 いや……アタシの知ってる姫が例外すぎるだけか」
ローラを背負ったまま歩き続け、ようやくたどり着いた町でソフィアはついに音を上げる。
感謝の一日一万回の腹筋背筋腕立て伏せをしているアリーナと比べれば、ほぼ室内で裕福に暮らしていたローラが重いのは当然の話だ。
しかし、背負い始めてから一分も持たずに寝られてしまったので、無碍に下ろすことも出来なくなってしまったのだ。
表情は無色のまま、ただ"疲れた"という単語だけを吐き続ける。
「しっかしま、随分といろいろあったようで……」
ローラがやってきたと言っていた絶望の町は、彼女の談以上に凄惨たる光景が広がっていた。
入り口で簡易的に埋葬されていた女性から始まり、どこを見ても死体だらけだ。
頭が潰されていた天使のような男には申し訳程度の藁が被せられ。
棒で胸を一突きにされて息絶えている女性。
喉をカッ切っている桃髪の少女。
少し遠くには突っ立ったまま死んでいる竜人。
それに寄り添う傷だらけの女。
この四人が死んだ戦闘は、そこまで遠くは無いだろうと推察する。
「……よいっ、しょっと」
そんな中でせめて死体の映らない場所を、と探し続けてもどこにもありはしない。
仕方がないので、乱雑に茣蓙が敷かれた場所にローラをゆっくりと寝かせ、ソフィアは町の探索を始めた。

淡々と、淡々と。
死体専門の盗賊のように、ソフィアはありとあらゆる道具をかき集めていく。
といっても、目に見えて道具を持っていたのは桃髪の少女と青髪の女性くらいだったが。
青髪の女性の命を奪ったであろう棒を引き抜き。
魔神のごとき力で握りしめられていた何の変哲もないナイフを引きはがし。
淡々と道具だけを袋にぶち込んで、その場を後にしていく。
次に、少し遠くで立ったまま死んでいる竜人と少女の元へ寄る。
「ん……?」
まるで愛し合う二人のように寄り添っている二人の側で、ソフィアは気がつく。
「……なんだ、生きてたのか」
すぅ、すぅと小さく、けれど長く。
少女が寝息を立てていることに気づいた。
どうしてこの姿勢で、なぜこの体勢のまま、眠りについているのか。
こんなに死体まみれのこの場所で、危機感のかけらもなく。
謎は尽きないが、今それを求めても仕方がない話ではある。
「ったく……こんなボイン見せのエロエロ全開なカッコで立って寝てたら、カゼひくっつの」
引きはがすのは少し抵抗があったが、それでも立って寝ていることのデメリットはまあまあ大きい。
お節介だと自覚していても、彼女を横にさせてやりたくなる。
ローラを運んだ時とは違い、白馬の王子が姫を抱えるように少女を抱きしめて運ぶ。
町の中に先ほど寝かせてやったローラの側に、同じようにゆっくりと寝かせてやった。
544Ever lasting true ◆CruTUZYrlM :2013/09/06(金) 00:06:30.07 ID:PjbcSpYd0
.
「さて……ラスト、か」
そう呟き、再び満足そうな表情を浮かべたまま、死に絶えた竜人の元へ戻ってくる。
なぜ、そんなにもやりきった表情を浮かべているのか。
「まさか、あのねーちゃんの乳でも揉んでイッちまったのか?」
だとしたら、どうしようもないな、と小さく呟き、竜人が腰に携えていた袋に手を伸ばす。
先ほどと同じように、袋の口を開け、中に入っている物を次々に取り出し、自分の袋へ入れていく。
次々に、次々に。
「……あ」
思わず、声がでる。
もう空になるか、と言ったところで"それ"に出会ったから。
自分と、切っても切り離せない関係のそれ。
自分という存在に、真実を突きつけたそれ。
ある意味、全ての元凶と呼んでもいいそれ。

叶うことなら二度と見たくなかった、それ。



「天空の勇者はこの村に必ずいる!」
「無抵抗、女子供は問わん! 生きる者は殺せ!」
「家に火を放て! 爆破しろ! 破壊するのだ!」
「何者だろうと構わん! 殺せ! 生かすな!」
「魔族を脅かす天空の勇者を葬るのだ!!」

あの日。
自分の全てを変えた、あの日。
今までの暮らしが音を立てて崩れ去り、自分の手に何もなくなったあの日。
幼い頃から共にしてきた人々も、町並みも、景色も、無二の親友も。
全て、なくなったあの日。

きっと別人のことなのだろうと思っていた。
天空の勇者はどこかにいて、そのとばっちりを受けたんだと。
だから、自分が天空の勇者を捜して、ぶん殴ってやる。
そうも考えながら、ただ、ただ、"真実"を突き詰め続けた。

たくさんの仲間にあった。
たくさんの魔を斬り裂いた。
たくさんの涙と、怒りをみた。

旅路の末にたどり着いたのは、一番考えたくなかった現実だった。

勿論、すぐに受け入れた訳じゃない。
兜や鎧がハマらないのも、剣と盾が恐ろしく重いと言うのも。
みんながこぞって演技しているからに違いないと思っていた。
だって自分には、兜と鎧はなんの違和感もなくつけれるし、盾も剣もまるで空気のように軽いのだから。
同じように扱える人間が一人くらい居ても、良いはずだ。
けれど、いつまでたってもそんな人間は現れなかった。
この天空の武具を軽々と扱う人間は、自分以外には居なかった。

こんなもの、扱うことさえ出来なければ。

自分は、ただの人間で居られたのに。
545Ever lasting true ◆CruTUZYrlM :2013/09/06(金) 00:10:16.44 ID:PjbcSpYd0
竜人の袋から取り出した、懐かしくも憎らしいそれを手に取り、軽く数回素振りをする。
重さは微塵も感じないし、恐ろしいほどに手になじむ。
あの時と全く変わっていない感覚に、思わず舌打ちをする。
とはいえ、今更「天空の勇者」ではなくなったと言われても、困るのだが。
「結局、こいつでまた随の随まで突き詰めろってことか」
そんなところまであの時と一緒、なんら変わりはない。
持てる全てを以て、真実を突き詰める。
ただ、突き詰めるコトが少し変わっただけだ。
この殺し合いの真実と理由、それをあのピンク頭クソジジイから聞き出すまでは。
まだ、死ねないのだから。

「頼りにしてるぜ、相棒」

いま、吐ける最大限の皮肉と共に。
彼女は再び"それ"を握りしめ、振るった。

【G-3/絶望の町入り口付近/深夜】
【ソフィア(女勇者)@DQ4】
[状態]:HP4/5 表情遺失(人形病)
[装備]:天空の剣@DQ4、メタルキングの盾@DQ6、メイド服@DQ9、ニーソックス@DQ9
[道具]:ソードブレイカー@DQ9、小さなメダル@歴代、オリハルこん@DQ9
KBP GSh-18(16+0/18)@現実、キメラの翼@DQ3×5、奇跡の剣@DQ7、
オリハルコンの棒@DQS、ブロンズナイフ@歴代、光の剣@DQ2、賢者の聖水@DQ9、
基本支給品*2、不明支給品(ソフィア(0〜1)、キーファ(0〜2)、カーラ(0〜1(武器ではない))
[思考]:終わらない 殺し合いを止める 北へ
[備考]:六章クリア、真ED後。

【ローラ@DQ1】
[状態]:HP4/5、睡眠
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:生きる 北へ

【ゼシカ@DQ8】
[状態]:HP1/8 MP4/5 睡眠
[装備]:さざなみの杖@DQ7
[道具]:なし
[思考]:絶望の町に向かう 最終的には首輪を外し世界を脱出する。

----
以上で投下終了です。

>>539の禁止エリアの件ですが、残念ながら◆tsGpSwX8moの期限内の投下が無かったので、
>>539の案のままで行かせて頂きます、ご迷惑をお掛けいたしまして大変申し訳ありませんでした。
また、最近はWikiの収録も遅れており、読み手の方に大変ご迷惑をお掛けいたしております。
収録方法はWikiに軽く乗せてありますので、もし宜しければ収録をしていただけると幸いです。
ttp://w.livedoor.jp/dqbr2/d/%b4%ca%b0%d7Wiki%ca%d4%bd%b8%ca%fd%cb%a1
546名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/09/06(金) 00:24:42.52 ID:LiWSzYJu0
投下乙です
天空の剣がついに持ち主へと渡りましたね

しかし竜王は立ったまま死んでゼシカは立ったまま寝てたんですかね?
さすがにそれは不自然すぎるシチュだと思うのですが
前回の内容では普通に竜王に押し倒された形で座っているものとばかり
547 ◆CruTUZYrlM :2013/09/06(金) 08:26:16.14 ID:1Xz57RGV0
>>546
ご指摘ありがとうございます。
読んだときに立ったままセクハラをしていたと勘違いしていたようで、じっくり読み返してみるとその前のシーンでゼシカが倒れて動けないという描写がありました。
読み込みが足りなくて申し訳ございません。
その他いくつかミスしている箇所を見つけましたので、近日中に修正稿を投下させていただきます。
548名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/09/06(金) 12:10:29.24 ID:w3GNLTFd0
乙です
数時間眠ってるのに全く回復してないのもちょっとおかしいかも
549 ◆CruTUZYrlM :2013/09/06(金) 12:44:12.43 ID:NVwso6dE0
度々申し訳有りません。
前話の「導きなんてないけれど」にて、ソフィア??ローラが北に向かっていたのを完全に失念していました。
度重なる前話の読み込み不足で大変申し訳ございません。
致命的な矛盾となりますので今回の投下は破棄とさせていただきます。
大変申し訳ございませんでした。
550名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/09/10(火) 18:33:42.97 ID:aWqx4LvY0
了解
551 ◆CruTUZYrlM :2013/09/15(日) 01:11:41.75 ID:VLiFtaVI0
前回投下ですが、上手く修正できました。
予約も入ってないのでこれから投下します。
552Ever lasting true ◆CruTUZYrlM :2013/09/15(日) 01:12:16.18 ID:VLiFtaVI0
趣味の悪い声が響きわたる空。
町へ向かう二人の表情は、明るくはない。
禁止エリアを書き留めるために、紙にペンを走らせている時だった。
「こりゃ、マッズいな……」
ソフィアの表情が曇ったのは死亡者を読み上げる声ではなく、禁止エリアを読み上げる声だった。
二人は、ローラの提案で北を目指すことにしていた。
しかし、あの森を抜けるのは好ましくない。
ソフィアはともかく、弱ったローラが再び何かに唆されないとも限らない。
中央の森を突き抜けて北へ行く、という選択肢はまずない。
となると残りは東西二方面なのだが、東はとっくのとうに封鎖されている。
なので、西の温泉の近くから攻めるしか無かったのだが、それの選択肢が今無くなってしまった。
無理に森を切り抜ける訳にも行かない、しかし南は二人の情報を合わせればほぼ探索し尽くしたに近い。
どうするべきか、と頭を抱えていたとき。
「あの、ソフィアさん……南の絶望の町に行きませんか?」
ローラが真逆の方角へ向かう提案をしてきた。
それ自体を否定するつもりはないのだが、ソフィアは思わず頭に浮かんだ言葉を口にしてしまう。
「あんた、そっから来たんじゃないのか? それにそこは禁止エリアになっちまう、あんまのびのびしてらんねーぜ?」
その言葉にローラはわかりやすく顔を落とす。
「今の放送で、ルイーダさんの名前が呼ばれたんです」
だが、それでも絶望することなく、彼女は強く前を向く。
「何が起こったのか、この目で確かめたくて」
真実を突き詰めたいと思う姿勢、自分に重なる部分も多々ある。
これ以上、無駄に問いつめることもない。
「……わかった、じゃあそうすっか」
手短に切り上げ、進む方角を真逆に変えて歩き出そうとする。
「あの」
「ん?」
その彼女の足を、ローラが再び止める。
無表情のままローラの顔をのぞき込むソフィアに、ローラは暫く口を閉ざしていたが、やがてゆっくりと問いかけはじめた。
「ソフィアさんお仲間は、今の放送で……」
「死んだよ、二人な」
ローラが問いかけを言い切る前に、ソフィアは答えを被せていく。
ハッ、と息を呑むローラに対し、ソフィアは無表情のまま言葉を続ける。
「ここじゃ誰が死んだっておかしくないんだ。アイツらだって例外じゃない」
そう呟くソフィアの顔は無表情。
けれど、どこか悲しさと、物憂げな感じを含んでいて。
言葉をかけようにも、ベストな言葉が思いつかずにいる。
「……なあ」
「はい」
どう接したものか、と考えているうちに今度はソフィアがローラに問いかけを始めた。
「寂しいとか、悲しいって、何だ?」
始まった問いかけは、シンプルな問い。
けれど、答えにたどり着くのが難しい問い。
「アタシは、もうそれがわかんなくなっちまった」
わからないから、誰かに聞く。
人間なら誰しもがするであろう行為を、ソフィアはローラに向ける。
返ってきたのは沈黙。
まあ、予想通りの結果だ。
「……分かるさ、それを伝えるのが難しいことくらい」
感情と呼ばれるモノを他人にうまく説明することの難しさ。
それをまた説明するのも難しいことだ。
理由と真実を追い求める彼女が、唯一求められないと言ってもいい要素だろう。
そして、その答えは未だ掴めず。
ふわふわとした気持ちだけを胸に、足を進めていく。
これはきっと、死んでいった二人にも答えられない問いなのだろうと、心の中で思いながら。
553名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/09/15(日) 01:13:34.37 ID:QoT9Qjpq0
 
554Ever lasting true ◆CruTUZYrlM :2013/09/15(日) 01:14:40.63 ID:VLiFtaVI0
 


「うわ……」
「ひどい……」
寂れた町が遠くに見える、少し離れた草原。
そこに広がっていたのは、惨劇の痕だった。
胸を一突きにされて息絶えている青い髪の女性。
喉から血を流し息絶えている片腕のない桃髪の少女。
横たわったまま動くことはない竜人。
それに寄り添う傷だらけの女。
それぞれが、それぞれの形で死んでいたのだから。
「ルイーダ、さん」
そのうちの一人、胸に風穴を空けて倒れている女性に、ローラが駆け寄る。
強い、強い女性だった。
相手は魔王だというのに、果敢にも立ち向かい、戦っていた。
自分になくて、それでいて誰かに似た"勇気"。
そんな風に自分で決めて、自分で動ける彼女を、少し羨ましいとも思っていた。
……まさか、二度目の再会がこんな形になるとは思っていなかったが。
強い意志も、この場所では無力に等しい。
では、この場所で力を持つのは何なのか。
負の力、絶望、欲望、牢獄、快楽、そして――――い」

ふ、と我に返る。
「お〜い」
抑揚のないふわりとした声に、呼ばれている。
急いで側に駆け寄ると、ソフィアは倒れていた栗毛の少女の体に自分の手を当てさせた。
とくん。
伝わった振動は、命の鼓動。
あっ、と思わず驚きの声を漏らしたローラに、ソフィアは頷く。
「驚いたことに、こっちのねーちゃんの方は生きてる。
 んでもここに居たまんまだと爆発して死ぬか、変なのに絡まれて死んじまうから、場所を変えよう」
生きている、と分かったはいいものの、ここはいずれ禁止エリアになってしまう。
ぼうっとしていれば、確実に死んでしまう。
また、生きているなら生きているでいろいろと聞きたいこともある。
ソフィアも、ローラも、彼女への問いかけは山ほどあるのだ。
そんな思いを乗せながら、ソフィアは少女の体を担ぎ、その場から動きだした。
555名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/09/15(日) 01:14:55.22 ID:QoT9Qjpq0
 
556Ever lasting true ◆CruTUZYrlM :2013/09/15(日) 01:16:08.63 ID:VLiFtaVI0
 


地図からだいたいの距離を割り出し、禁止エリアに含まれないであろう場所まで移動したところで、一息をつく。
そこで支給されたまま持て余していた「見えないにゃんこでも組める簡単豪華テント」をマニュアル片手に設営し、
同じく持て余していた布団を敷いて、そこに先ほどの少女を寝かせてやった。
改めてみても少女の傷は酷く、パッと見は死体と勘違いしてしまうレベルだ。
傷を和らげる程度に回復魔法をかけ、そのまま寝かせておいてやることにした。
「……寝ないのか?」
「不思議と、眠くないので。ソフィアさんこそ大丈夫なのですか?」
「ああ……まあ、寝るのはそんなに好きじゃねーからな」
すやすやと眠る少女の横で、二人は"寝ない"という事を選択した。
ローラが言う"眠くない"は事実だろう。
ここに来てから、本当に色々なことがあった。
その一つ一つがローラの心に問いかけ、渦を巻き、傷跡を残していく。
頭の中でまとまらない考えが、彼女の睡眠を妨害しているのだ。
「そうだ、確認してない袋があるんだ」
思い出したようにソフィアが言う。
一刻も早く少女を運ぶことを優先したため、あの場所にあった道具を素早くかき集めていた。
腕のついた盾は腕をはがし、ナイフはそそくさと袋に入れて。
竜人が持っていた袋は中身を確認せずに袋ごと持ってきていたのだ。
ソフィアはその袋を手に取り、中身を一つずつ出していく。
地図、名簿に始まり誰しもが支給された道具が次々に出てくる。
そして数枚のキメラの翼を確認して、もう袋が空になるかといったところだった。
「……あ」
思わず、声がでる。
けれど、動じることなくソフィアは最後の道具を取り出していく。
出てきたのは、一本の剣。
白銀のようでそうではなく、けれど白く美しい一振りの美しい剣だった。
袋から出てきたその刀身に思わず惚れ込んでいると、ソフィアはまるで檜の棒を扱うかのようにその剣を地面に放り投げた。
「持ってみてくれ」
「え?」
その行動に驚く間もなく、畳みかけるように驚く言葉が続く。
ろくに武器すら持った事がない自分に、この剣を持たせようと言うのか。
「いいから、持ってみてくれ」
いろいろと考えてみようとは思ったものの、ソフィアはその時間をくれない。
彼女の真意が読めないまま、ローラは放り出された剣を拾おうとする。
「あらっ?」
が、一向に持ち上がる気配はない。
彼女が非力なのは本人も重々承知済みなのだが、それにしても異常である。
見てくれは普通の剣と変わらないのに、まるで地面に吸いついているかのように、ぴくりとも持ち上がらない。
何度挑戦しても、どれだけ力を込めても、結果は同じだった。
「やっぱり、か」
「あっ」
そんな彼女の一部始終を見届けてから、ソフィアはひょいっと剣を拾い、脇に携える。
「ちょっと期待したけど、そんなわけねーよな」
先ほどまでぴくりとも動かなかった剣を見て、ソフィアは無表情で笑う。
「いったい、その剣は……」
「あー、これはな――――」
ソフィアが持つ一本の剣、ローラがどれだけがんばっても持ち上がらなかったのに、ソフィアは軽々と持ち上げることの出来た剣。

それはソフィアと切っても切り離せない関係の剣。
ソフィアという存在に、真実を突きつけた剣。
ある意味、全ての元凶と呼んでもいい剣。

叶うなら二度と見たくなかった、剣。
557名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/09/15(日) 01:16:15.96 ID:QoT9Qjpq0
 
558Ever lasting true ◆CruTUZYrlM :2013/09/15(日) 01:17:08.98 ID:VLiFtaVI0
 


「天空の勇者はこの村に必ずいる!」
「無抵抗、女子供は問わん! 生きる者は殺せ!」
「家に火を放て! 爆破しろ! 破壊するのだ!」
「何者だろうと構わん! 殺せ! 生かすな!」
「魔族を脅かす天空の勇者を葬るのだ!!」

あの日。
自分の全てを変えた、あの日。
今までの暮らしが音を立てて崩れ去り、自分の手に何もなくなったあの日。
幼い頃から共にしてきた人々も、町並みも、景色も、無二の親友も。
全て、なくなったあの日。

きっと別人のことなのだろうと思っていた。
天空の勇者はどこかにいて、そのとばっちりを受けたんだと。
だから、自分が天空の勇者を捜して、ぶん殴ってやる。
そうも考えながら、ただ、ただ、"真実"を突き詰め続けた。

たくさんの仲間に会った。
たくさんの魔を斬り裂いた。
たくさんの涙と、怒りをみた。

旅路の末にたどり着いたのは、一番考えたくなかった現実だった。

勿論、すぐに受け入れた訳じゃない。
兜や鎧がハマらないのも、剣と盾が恐ろしく重いと言うのも。
みんながこぞって演技しているからに違いないと思っていた。
だって自分には、兜と鎧はなんの違和感もなくつけれるし、盾も剣もまるで空気のように軽いのだから。
同じように扱える人間が一人くらい居ても、良いはずだ。
けれど、いつまでたってもそんな人間は現れなかった。
この天空の武具を軽々と扱う人間は、自分以外には居なかった。

こんなもの、扱うことさえ出来なければ。

自分は、ただの人間で居られたのに。


.
559名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/09/15(日) 01:17:26.52 ID:TL1AAkYM0
しえん
560Ever lasting true ◆CruTUZYrlM :2013/09/15(日) 01:18:00.69 ID:VLiFtaVI0
「こいつは、性根の根の根まで腐りきったクソ野郎だぜ」
「まあ」
思い出しこことを、あまり喋らないように、吐ける最大の皮肉を吐いていく。
いつだってそうだ、この剣が自分に真実を突きつけてきた。
終わらない、消えることのない、永遠に続く真実。
切り開いていたつもりだった道は、用意されていたモノで。
それにたどり着くための、鍵でしかなかった。
「……まっ、ナマクラにしちゃあよく切れる。頼りになるのは間違いねえ」
「そうですか、それは良かった」
ぶん、ぶんと軽く素振りをして、ソフィアは言う。
本人は笑っているつもりなのだが、伴うはずの笑顔はない。
けれど、ローラは彼女の感情を察して、やさしく微笑みかけた。
「アタシが外で立ってるから、今のうちに休んどきな。
 こんな場所じゃ、いつ休息がとれるかわかんねえ」
「……ありがとうございます」
「いいってことよ」
きっとテントに戻っても眠ることは出来ないだろう。
けれど、心を休めるには十分な時間と、場所がある。
ローラはソフィアの提案を受け取り、静かに中へと入っていった。



「さて、覚悟しろよ? アタシの手に渡った以上、今度こそ折れるまでコキ使ってやるからな」
手に持った"相棒"に向け、外に立つソフィアは言葉を放つ。
まだ、戦いは続く。
だから、彼女は剣を振るう。
たどり着くべき、真実を手にするために。

【Fー3/仮設テント/黎明】
【ソフィア(女勇者)@DQ4】
[状態]:HP4/5 表情遺失(人形病)
[装備]:天空の剣@DQ4、メタルキングの盾@DQ6、メイド服@DQ9、ニーソックス@DQ9
[道具]:ソードブレイカー@DQ9、小さなメダル@歴代、オリハルこん@DQ9
キメラの翼@DQ3×5、奇跡の剣@DQ7、ブロンズナイフ@歴代
基本支給品*2、不明支給品・キーファ(0〜2)
[思考]:終わらない 殺し合いを止める 北へ向かうのは保留
[備考]:六章クリア、真ED後。

【ローラ@DQ1】
[状態]:HP4/5
[装備]:KBP GSh-18(16/18)@現実
[道具]:なし
[思考]:生きる 今は休息

【ゼシカ@DQ8】
[状態]:HP1/2 睡眠
[装備]:さざなみの杖@DQ7、おふとん@現実
[道具]:なし
[思考]:首輪を外し世界を脱出する。

※F-3に仮設テントが敷かれました

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以上で投下終了です。
何かありましたら、お気軽にどうぞ。
561 ◆CruTUZYrlM :2013/09/15(日) 01:27:21.37 ID:VLiFtaVI0
月報集計いつもお疲れ様です。
DQ2nd 133話(+) 18/60 (- 8) 30.0 (-13.3)
562 ◆CruTUZYrlM :2013/09/15(日) 01:28:03.88 ID:VLiFtaVI0
すいません、途中送信しました。
DQ2nd 133話(+6) 17/60 (- 1) 28.3 (- 1.7)
563名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/09/19(木) 01:05:21.73 ID:cuHJmUvd0
修正&投下乙です
いやあ、いろいろ因縁詰まった剣やなあ天空の剣
ラミアスの剣と同一と考えて、一番時代が古そうな6の時点で既に長い年月を経て錆びた剣として登場するこの剣の始まりはどんなんやったんや
564 ◆CruTUZYrlM :2013/09/19(木) 23:44:49.80 ID:kW6DUG/90
少女がそこにたどり着いたとき、それは全てが終わった後だった。
首のない女性と、立ったまま死んでいる女性と、全身を黒こげにした竜の死体。
そして、ビアンカを抱きかかえたまま動かないサイモン。
自分が眠りに落ちている間に、ここでは目を覆うような戦いがあったのだと、イヤでも分からされる。
「サイモン、さん」
「リッカ、か」
一人佇む騎士に、声をかける。
気の利いた言葉は思い浮かばず、ただ名前を呼ぶことしかできなかった。
返事があったのはいいのだが、そこからどう言葉を続けたものかと一人で悩んでいた。
「俺は……無力だ」
ぼろり、とこぼれた言葉。
その時に、リッカも気がついた。
サイモンの手が、小刻みに震えていることに。
「……満足に敵を倒すことすら出来ない、ただの鎧だ」
戦いの結果だけ振り返れば、惨敗だった。
アリーナも、ミネアも、死んでしまった。
何故かなんてことは分かり切っている故に、求めてしまう。
力を、他者を圧倒する力を。
「俺は、俺は……」
後悔の言葉を吐き続けるサイモン。
姿だけを見れば、見紛うことなく人間と同じだった。
ただ、ただ、力が足りないと言うことを、悔いている。
「サイモンさん」
そんなサイモンに、リッカは優しく声をかける。
顔を上げるサイモンに対し、彼女は意外な言葉を投げかける。
「泣かないでください」
「……泣く?」
彼女は、サイモンが泣いていると言った。
けれど、サイモンはただの鎧だ。
人間のように涙を流す場所も、ものも、何も揃っていない。
「泣くとは、何だ」
そして何より、サイモン自身は"泣く"という事を知らない。
感情というモノは、少しずつ分かってきていても、それに連なる行動だけは、知らないことだらけだから。
リッカはそんなサイモンに対し、まるで涙を拭うかのように鎧の兜の部分を指で撫でる。
「大切な人を思い、そして忘れないことです」
泣くと言うこと。
それは、その人間を思っているからこそ起こること。
失ってしまえば、もう二度と会えない。
そうと分かれば、自然と涙が出てくるものだ。
どう言うことなのかとか、理屈や理由ではない。
悲しいという気持ちがそこにあれば、あとは本人がどう動くか。
そして今、騎士の心には悲しいという気持ちがあふれている。
だからきっと泣いているのだろうと、リッカは感じ、そう告げた。
「私も、あの大きな宿屋で働き始めてから色んな人に出会いました」
ぽつり、とリッカも溢れ出す言葉を紡いでいく。
「毎日のように来てくれる人、たまに来てくれる人、色んな人が居ます。
 来てくれたお客さんを、私は誰一人として忘れたことはありません。
 忘れなければ、また会うことが出来れば、嬉しいから。
 でも、会えなくなることだってあります。
 けれど、それは終わりじゃない
 その人を思ってくれる人がいれば、その人はその中でずっと生き続けられますから」
宿屋という職業を営んでいれば、毎日のように出会いがある。
出会って、別れて、また出会って、別れて。
けれど、リッカはその出会った人々の事を忘れない。
一人一人に対し、思い、嘆き、笑う。
忘れなければ、それはずっと続いていく。
だから、リッカは忘れない。
「……"ともだち"も、か?」
「はい」
リッカの言葉に対するサイモンの問いかけにも、即答する。
565 ◆CruTUZYrlM :2013/09/19(木) 23:45:37.69 ID:kW6DUG/90
リッカの言葉に対するサイモンの問いかけにも、即答する。
「そうか」
返ってきた即答に、サイモンはどこか遠くを見つめる。
心に芽生えていく、感情。
その正体と正解へと近づくことが、少し出来たような気がした。
そんなサイモンに、リッカは微笑みながら近づいていく。
「ほら、涙を拭いてください。"ともだち"も悲しくなっちゃいますよ?」涙なんて流れていないのに、リッカは再び目元を拭うように兜を撫でる。
サイモンもそれに釣られ、ごしごしと兜の目元を拭い、リッカの方に向き直る。
「……ビアンカを休ませたい、手伝ってくれないか」
「はい、もちろん」
それから、未だに目を覚まさないビアンカを背負い。
ちら、とどこかを一瞥してから、惨劇の会場から立ち去った。



「さて、サイモンさん。ちょっと手伝って欲しいことがあるんです」
下層に降り、先ほどまで寝ていた場所にビアンカを寝かせた後、リッカはサイモンに言う。
「何だ?」
この状況で、しかも彼女に頼まれること。
サイモンに心当たりはなかったが、とりあえずは了承の返事をする。
その返事を受け取ったリッカは、満面の笑みを浮かべてから、こほんと小さく咳払いをして、サイモンに用件を伝える。
「遅くなりましたが、今からここを宿屋に改造しようと思います。
 ですが、流石に今の状態は大見得切っても宿屋とは言えません。
 だから、今から大掃除をしようと思って」
「宿屋?」
「はい、誰しもが心休めるような宿を用意する。
 それが、私がここで出来ることだから。
 それに……本当なら、夜が来てもいい時間ですし」
悪を切り裂く剣もない、闇を打ち払う呪文もない、宝の臭いに敏感なわけでもないし、芸達者なわけでもない。
けれど、彼女にはとてつもなく大きな宿屋を切り盛りできる力がある。
その力で出来ることは、宿屋を運営することだ。
この殺し合いで疲弊しきった人間の心を癒す、無償の宿を。
だが、今の状況では宿屋と呼ぶにはほど遠い。
だから、せめて宿屋と呼べる状況を、作りたいのだ。
「手伝って、くれますか?」
「ああ、もちろんだ」
親指を立て、了承のサインを作るサイモンに、リッカは再び笑みを浮かべ、感謝の意を表した。

真っ先に取りかかったのは死体の埋葬だ。
初めてここに来たときは、自分が受けた傷によって倒れていたため、そんな余裕はなかった。
故に、この場所には放置されている死体が三つある。
断頭台近くの首が切り落とされた、バンダナの青年の死体。
少し離れた場所にある、頭が砕かれた少年の死体。
そのすぐ側にある、袈裟懸けに胸を斬り裂かれた獣人の死体。
その三人と、屋上にあるサイモンの"ともだち"二人を合わせた計五人の埋葬を最優先に始めた。
とはいっても、リッカには人一人を運ぶ力はない。
なので、力仕事をサイモンが担当し、リッカは周りの装飾に必要そうなモノを、あるモノで見繕っていた。
そして、サイモンが五人の遺体を一カ所に集め終わったと同時に、小さくも根強く咲いていた花で編まれたリースも完成していた。
「リッカ、下がっていろ」
到着すると同時に、サイモンはリッカを後ろへ押し退ける。
「イオ」
覚えたての呪文を、ぼそりと呟く。
サイモンの片手から放たれた閃光が、地面に小さな穴を穿つ。
566名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/09/19(木) 23:47:10.12 ID:j0fRvHLL0
支援
567 ◆CruTUZYrlM :2013/09/19(木) 23:47:21.04 ID:kW6DUG/90
「イオ、イオ、イオ」
立て続けに重ねられる呪文。
それらが少しずつ穴を深くし、五人の遺体が何とか入るかも知れないというくらいの深さを作ることが出来た。
「……足りない」
しかし、当のサイモンは別のことで悩んでいた。
「足りない、これじゃあ、勝てない」
今放ったのは、初級も初級のいいところの呪文だ。
歩くことでようやく覚えても、これじゃあ何の役にも立たない。
あの老魔の魔力の一部にも、満たないだろう。
「焦らなくても、大丈夫ですよ」
悔いる声を出すサイモンを、リッカは優しく労う。
現に、穴を掘るという労力はわずかな消費で押さえられた。
戦闘に使えなくとも、役に立つ場面はあるのだと、彼女はサイモンに告げた。
「さぁ、埋めてあげましょう。
 ……こんな事で、死ななければならなかった人たちを」
一人、また一人。
少し乱雑になってしまいながらも、一人ずつ墓穴に体を放り込んでいく。
それが何だという訳ではないが、その者が着けていたモノを一つずつ拝借しながら。
バンダナの青年の、赤いバンダナ。
勇ましい格好をした少年の、少し大きなマント。
獣人の首元近くに着けられていたふわふわの毛皮。
そして、"ともだち"の帽子と首飾り。
全てを手にして、サイモンはそれぞれを自身の体に着ける。
剣を持つ手に赤いバンダナを。
獣人が付けていた位置に毛皮を。
今まで背負っていたマントを覆うように少年のマントを羽織り。
帽子のてっぺんに首飾りをつけ、帽子を深々と被る。
「……俺は、忘れない」
それから、土を被せながらサイモンは言う。
「みんな、居たことを」
ここに三人の男が居たことと、"ともだち"が居たことを。
身につけた証に誓って、忘れないと。
そして、土を被せ終わった後、獣人の側に落ちていた折れた剣を墓標代わりに突き刺し、リッカのリースを飾ってやった。
勇敢なる五人の戦士の安息を祈り始めたその時だった。

悪魔の放送が、空に流れた。



「……うぁっ!!」
覚醒、という二文字がふさわしいように飛び起きる。
体に激痛が走ったわけでもなく、敵の気配を察知したわけでもない。
目を覚まさなくてはいけなかったから、目を覚ました。
何故か? それは自身の残り時間が少ないと分かっているから。
この傷を癒す手段を見つけるか、この命尽きるまでに世界を破壊するか。
その、どちらかしかない。
「い、かなきゃ」
故に、彼女は体を起こし、前へ進む。
片腕を失い、全身は焼け爛れ、血が流れ続ける体を動かして。
掴むべき未来と希望を手にするために、彼女は進む。
ノイズは聞こえない、聞くこともない、それに割く労力はない。
今は、前へ進むだけ。
目に映る、町へ。


.
568名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/09/19(木) 23:47:34.38 ID:YZZYRfxf0
支援
569 ◆CruTUZYrlM :2013/09/19(木) 23:48:14.21 ID:kW6DUG/90
「……リッカ」
放送が終わってから、虚空を見つめて立ち尽くしていたリッカに、サイモンは声をかける。
「呼ばれたのか」
リッカの様子から、何が起こったのかを察するのは容易い。
それはつい先ほどまでの自分と、全く同じ状況だったから。
「はい」
しかし、彼女は泣くわけでもなく、黙り込むわけでもなく。
サイモンの顔を正面にとらえ、しっかりと言い放った。
「私の一生でもすごく大切な友達と、私を雇ってくれた大切な人が、死にました」
けれど、その言葉を紡ぐ顔は、明らかに悲しみを含んでいた。
良く知る人間が二人も死んで、平気な訳がない。
「でも、止まってられません」
だが、今の彼女にはその時間はない。
悔やむことも悲しむことも、あとでいくらでもできる。
「私にはやることがあるし、前を向かなきゃいけないんです」
少しだけ行動を共にした、バーバラとも約束したのだから。
ここで止まって、前から目をそらすわけには行かない。
「何より……泣いていたら、笑われちゃいますから」
だから、ほんの少しだけ頭を切り替えるために。
彼女は頭の中で、二人に簡素な別れを告げる。
さよなら、さよなら、と、涙を拭きながら。



「さて、残りやっちゃいますよ!!」
「応」
放送のまとめもそこそこにしたところで、リッカとサイモンは清掃の続きを始める。
サイモンが目立つゴミを拾い、埃を払っていく。
リッカはリッカで、長い間使われていなかったであろうキッチンを、隅から隅までピカピカに磨き上げていく。
分担した役割通りに、てきぱきと一つ一つの作業を的確にこなしていく。
そして、二人の頑張りもあって、しばらく後には初めと見間違えるほど綺麗な空間が広がっていた。
「さってと、掃除が終わったら次は……!」
息をつくまもなく、リッカはキッチンに立つ。
流れるように長年使われていなかったであろう古ぼけた包丁を掴んだ時、一つのことを確信する。
「やっぱり……か」
明らかな感覚の違い。
力が上手く入らないどころか、包丁を握っているという感覚も薄い。
手先の感覚は残っていても、力を込めるという事に関してはほぼ無いに等しいのかも知れない。
それに屈して、手を止めるわけには行かないのだが、このままだと何分時間がかかりすぎる。
しばらく一考したあと、リッカの中で結論を出す。
「サイモンさん、私が指示するので具材斬り等々を手伝っていただけますか」
「応」
料理という重要な要素に、自分の以外の感覚が入ることは少し怖い。
何せ、料理において一番怖いのは"意志疎通の失敗"なのだから。
塩を少し多く入れる、といったすれ違いだけでも、料理は姿を変え、自分たちに牙を剥いてくるのだから。
それでも、彼女はサイモンの手を借りることを選んだ。
きっと彼なら、今もなお成長し続ける彼なら。
自分の感覚を、少し預けても構わないだろうと思ったから。
「では、まずこのタマネギを――――」
570 ◆CruTUZYrlM :2013/09/19(木) 23:49:06.58 ID:kW6DUG/90
「……う、ん?」
ゆっくりと体を起こす。
目覚めた場所は瓦礫ではなく、簡素なベッドの上。
丁寧にシーツも掛けられたこの場所に、誰が運んでくれたというのか。
そう自分は、自分は本来なら、目覚める事なんて無かったのに。
視界を包み込む閃光、失われていく全て。
ああ、死ぬんだと思っていたのに。
目覚めたのは、リッカを寝かせていたはずの古ぼけた寝床。
胸に手を当てると、少しだけ温もりを感じる。
まるで誰かが、自分に命を託してくれたかのような。
「あら?」
そこで、自分の鼻が一つの香りをかぎ取る。
タマネギとコンソメの、風味豊かな香り。
思わずお腹が鳴ってしまうくらいの、上品な香りを嗅ぎ取りながら、香りの大本を突き詰めていく。
こつ、こつと一歩ずつ歩みを進めていくうちに、その正体を掴むことが出来た。
「あ、ビアンカさん!」
それと同時に、料理をしていたリッカが自分の方を向く。
自分たちが戦闘している間に体調を整えることに成功したのだろうか、その顔は晴れやかで元気一杯である。
怪鳥などに襲われている可能性も考慮していたが、どうやら杞憂にすんだらしい。
「大丈夫ですか? 気分悪かったりしませんか?」
「うん、大丈夫かな」
自分の体を案ずるリッカに、両手を軽く振って無事を伝える。
その間にも、ビアンカの鼻腔をほのかな香りが突き抜けていく。
「それより、この香り……」
「はい、私が腕にヨリをかけて作ったオニオンコンソメスープです。
 これから宿屋を用意するので、しっかり料理も仕込んでおかないとダメですからね」
問いかけの答えを聞いて、ビアンカはハッと思い出す。
リッカは宿屋を作りたいと、この殺し合いの中で、疲れた人間に対して癒しを用意したいと。
そして、ようやくその機会を掴むことが出来た。
傷つきながら、倒れながらも、前を向いている。
こんな場所でも、これほどまでイキイキとした笑顔を見ることが出来るとは、正直思っていなかった。
「あ、そうだ! 目覚めの一杯、って訳じゃないですけど。よかったらどうですか?」
そんな事を考えると、目の前にコトリと皿がおかれる。
質素な皿に、琥珀色の液体が少し控えめに注がれている。
目の前にしてみて、改めて香りの良さに感心してしまう。
「ありがとう、頂くわ」
用意されたスプーンを使い、ゆっくりと掬って口に運ぶ。
瞬間、口と鼻の中に広がるタマネギとコンソメの香り。
程良い熱さに保たれたそれは、スルスルと喉を通り、体を芯から暖めていく。
スタンダード故に、美味しさを出すことが難しいコンソメスープ。
塩辛くもなく、かといって味が薄いわけでもない。
ありとあらゆる要素が絶妙に整えられた、味わい深い一杯だった。
「こういうの飲むと、昔を思い出すわねー」
スープを掬っていくうちに、ビアンカの頭の中に一つの思い出が蘇る。
アルカパの町で、両親とともに宿屋を営んでいたあの日々を。
お客こそそんなに多くはなかったが、それなりに忙しく、楽しい日々であった。
そんな日々を思い出して、思わず笑みを作る。
「昔?」
「そ、こう見えても私も宿屋の看板娘だったんだから!」
「そうなんですか!?」
「あっ、疑ってるわねぇ〜っ?」
「い、いえ、そんな訳じゃ……」
571名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/09/19(木) 23:49:32.45 ID:YZZYRfxf0
支援
572名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/09/19(木) 23:50:03.27 ID:j0fRvHLL0
支援
573 ◆CruTUZYrlM :2013/09/19(木) 23:50:33.53 ID:kW6DUG/90
食いついてきたリッカに、少し得意げに誇ってみせると、驚きの表情が返ってきた。
少し意地悪な返しをしてリッカが困るのを見てからから、もう一度ニコリと微笑みかける。
「フフッ、冗談よ。
 さて……おいしいスープも頂いたことだし、私も料理に参加しようかしら。
 腕が鳴るわねー、お客さんの為に出す料理なんて、(プライバシー保護の観点より伏せさせていただきます)年ぶりよ?」
ゆっくりと立ち上がり、ビアンカは肩から腕をグルグルと回す。
不思議な事に傷の少ない体は、自分の思っていた以上に動いてくれるようだ。
「リッカ、今日の献立は?」
「はい、あとは…………」
手を丹念に洗いながら、残りの献立をリッカから聞き、だいたいの手順を頭に思い浮かべていく。
偶然にも自分がかつて得意としていた品目と被ったことを確認すると、少し荒々しく鼻を鳴らし、やる気を入れていった。
「オッケイ、じゃあ私は――――を担当するわ。サイモンはリッカの指示に従って」
「御意」
「じゃあ、お客さんがくるまでに仕上げちゃいましょう!」
「はいっ!」
厨房は二人から三人へ。
宿屋の娘二人と、その騎士が。
ああでもない、こうでもないと言いながら、ワイワイと料理を作っていた。



「……感じる」
半壊した城のような外観を見上げ、彼女は一人呟く。
側で瓦礫に押しつぶされて死んでいる男から流れ出ている血は、まだ新しい。
加えて、屋上の方から立ち上る煙は、戦闘が起こっていた証。
「でも、聞こえない。終わった……?」
ぶつぶつとうわ言のように言葉を紡ぎ、あたりを見渡していく。
戦いを繰り広げているような音は、やけにクリアになった聴覚には届かない。
けれど、彼女の体はしっかりと"人"の感覚を掴んでいる。
「早く、終わらせなきゃ……」
その気配を頼りに、彼女は体を動かしていく。
目指すは瓦礫の側、城の外観から町の姿をした内部へ。
痛み続ける全身を引きずりながら、彼女は足を動かす。
己がとらえた感覚だけを頼りに、一歩ずつ、一歩ずつ前へ進む。
感覚が強くなる、間違いない、この先に人がいる。
一歩、また一歩と踏み出していく。
終わらせる、この手で、全て、なにもかも。
それだけを心に、ひたすら前へ進む。
「あ……」
そして、ついにその姿を視界に捉える。
バンダナを巻いた少女、金の長髪の女、そしてさまよう鎧。
だが、外観の情報など、どうでも良い。
全てを壊すという前提では、そこに何かいるということがわかれば後はどうでもいいのだから。
まだ、向こうはこちらに気がついていない。
少し、後少し、一歩ずつ、前に近づいていく。
そして、体が感じ取る感覚が絶妙になったとき。
ありったけの力を込めて、一気に駆けだした。
574 ◆CruTUZYrlM :2013/09/19(木) 23:51:09.90 ID:kW6DUG/90
 
瞬間、全身を舐められるような殺気が三人を襲う。

鎧は剣を構え、襲撃者の方を向く。
だが、間に合わない。
女は鞭を構え、襲撃者の方を向く。
だが、間に合わない。
振り抜かれんと迫る拳、その標的はたった一人。
なんの力もない、無力な少女。
神にも至る速度を持つ彼女に、即座の反応が間に合うわけがない。
少女がようやく、襲撃者の姿を捉える。
顔面と顔面がちょうど向かい合うように、少女は相手の姿を捉える。
でも、もう遅い。
竜王をも伏しうる力の拳に、彼女の命は刈り取られてしまうのだ。
そう、わかりきっているのに。
死の恐怖を目の前にしながら少女は。



「いらっしゃいませ!」



満面の笑みで、そう答えた。

きっと殺意なり、無力さなり、殺されるという事に対しての一定の行動を起こすと思っていた。
例えば怒りに狂い、届かない腕を振るう。
例えば突然の絶望に、ただただ叫ぶ。
例えば……?

理解が出来なくなる。
時が止まったかのように長い時間の中、糸が切れたかのように張りつめていた身が軽くなり。
そのまま、再び意識を失ってしまった。


.
575名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/09/19(木) 23:51:57.46 ID:YZZYRfxf0
支援
576 ◆CruTUZYrlM :2013/09/19(木) 23:53:29.09 ID:kW6DUG/90
「っしゃあああ!! 宿屋だ、飯だ飯だ飯!!」
宿に泊まるとき、いつもテンションが高かったのはアレルだ。
世界各地を回る旅の中、アレルはいつも宿屋の食事を楽しみにしていた。
子供のようにはしゃぎながら食事をするその姿は、いつもの彼が絶対に見せない姿だった。
パンをひとつ手に取り、スープを流し込みながら肉を食らい、詰め込むだけ詰め込んでいく。
育ちの良さもあって食事のマナーにはかなりうるさく言われていたリンリンにとって、それはとても衝撃的だった。
とはいっても、幻滅したわけではない。
その自由すぎる食事スタイルは、リンリンの心を更に掴んでいたのだ。
「おい、アレル。いつも言っているが無闇矢鱈に胃にモノを入れるんじゃない」
そんなアレルの姿にいつも苦言を呈していたのは、カーラであった。
「るせぇな、メシくらい自由に食わせろ」
「そんな事を言っているからこの間のように食べ過ぎで倒れるのだ」
「もう胃がデカくなったから大丈夫だよ」
ぱっと見はアレルに気を使っているように見えるが、実はそうではない。
カーラにとって食事は「次の戦いへ繋ぐもの」という認識以外、何もないからだ。
己の血となり肉となる要素以外は、どうでもいい。
天性の勘で「何をどれだけ食べればいいのか」というのを判断し、必要最低限の食事を取ることが、彼女にとっての"食事"だ。
特に食べ過ぎでダウンして戦えないなど言語道断だ。
今思えば、食事の度に口を酸っぱくしてああ言っていたのは、カーラが「強いアレル」を見たかったからなのだろう。
ダウンしてしまえば、戦えない。
アレルの戦う姿を見れないのは、カーラにとっての苦痛だ。
まあ、そんなことはつゆ知らず、アレルは自由気儘に食べて飲んでいたのだが。
リンリンはいつも、黙々と自分の量を口に運びながら、そんな光景を見ていた。



「ぁ……」
掠れた声が出る。
張りつめていた気がぷちんと切れた衝動で、不甲斐なくも気を失ってしまっていたのだろうか。
醒めた夢から、醒めない夢へと彼女は戻る。
体を動かそうとしたとき、違和感に気がつく。
自分の体に、治療と手当がされていることに。
いったい誰が? と考えるまでもない。
その張本人の元へ、少し軽くなった体を運んでいく。
「あ、目が覚めたんですか!?」
そう、このまぶしい笑顔。
果たして彼女に殺されかけたという自覚はあるのだろうか。
眉をひそめながら、彼女の顔を睨む。
「ちょうど良かった、今ごはんが出来たところなんですよ。
 せっかくですし、食事にしましょう!」
リンリンの微かな苛立ちをよそに、少女は話を進めていく。
そして慌ただしくも丁寧に一枚の皿を持ってくる。
今、ここで心臓をぶち抜いてやろうか。
いや、こんな少女、放っておいても死に絶えるはずだ。
それに労力を割くのは、無駄にもほどがある。
「はい。とりあえず、スープでも飲んでください」
そう頭の中で考えを練り上げていると、静かに一枚の皿が目の前におかれる。
白い器に、きらきらと輝く琥珀色のスープ。
それを認識すると同時に、ガタンと大きな音がして。
577名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/09/19(木) 23:54:06.59 ID:j0fRvHLL0
支援
578名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/09/19(木) 23:54:39.72 ID:YZZYRfxf0
支援
579 ◆CruTUZYrlM :2013/09/19(木) 23:55:03.12 ID:kW6DUG/90
「――――ふざけないで」
空を舞う一枚の器と、琥珀色の液体。
人が飲める暖かさに保たれたそれは、少女へと牙を向く。
「私は、あなたを殺しに来たのよ」
怒りに声を震わせながら、リンリンは少女へと問いかける。
ギラリと鋭い眼光を飛ばし、少女を威圧するように。
「だというのに、あなたは何をしているの?」
鎧と女が慌てて少女の元に駆け寄ろうとするが、少女は片手を差し出してそれを止める。
そして、袖口で額についたスープを拭ってから、自分へと向き直り、言う。
「知ってます、知っているからこそ、です」
その目はまっすぐとリンリンを見つめ。
その声は鋭くリンリンの耳へ届き。
その気はまるで戦士のように。
「ここは、宿屋です。どんな人にも平等に安らぎを与える、憩いの場です」
少女にとって譲れないことがあるから、少女は口を動かす。
熱いスープをかけられることなんて、それの前では無力に等しい。
「世の中には色んな人が居ます。その中には、他人を殺すことだって厭わない人だっている」
辺鄙な町で宿屋を営んでいるときも、大きな宿屋を切り盛りしていたときも。
一口に"お客さん"と言っても、多種多様な人間がいた。
その中にはもちろん、酔ったりなんだりで他人に迷惑をかける人間や、手当たり次第に文句をつける人間も居た。
「わかっているんです、そんなことくらい。
 だからこそ、私は泊まりにくるお客さんの"話"が聞きたいんです」
そんな人間にも、彼女は接客をやめなかった。
そういう行動をとるには、何か根底となる理由がある。
それを知るまでは、引き下がれないから。
接客という行動を通じて、彼女は"相手の人間性"を掴んできた。
「折角出会ったんです、何があったとか、そんな些細な話で良い。
 "また来たいな"って思ってもらえる宿になるには、宿主がしっかりしないといけませんから」
だから、今もそうだ。
殺しに来たと言われてはいそうですかなのではなく、リッカはその根底を知りたいのだ。
改心して欲しいわけでもない、他人の人生に干渉するつもりもない。
ただ、折角だから仲良くなりたい。せめて相手のことを知りたい。
一度だけではなく、また話が出来るようになりたい。
それだけ、それだけなのだ。
「……正直言えば、さっきも怖かったです。
 ああ、死ぬんだなっていうのは感覚的にわかりました」
けど、そんな"仮面"を取ってしまえば、残るのは一人のか弱い少女だ。
何が出来る? という問いには、"何もできない"という答えしかない。
無力だし、ちっぽけだし、きっとすぐに野垂れ死んでしまう。
「けれど、私はそれでも。お客さんをおもてなしできないことの方が怖いから。
 それは私に出来る精一杯の事だから」
だから。
戦地に立つ他人のそれとは違うとわかっていても。
"力"を手にしたのだから、それを使って"何か"したい。
「命を賭しても、それは成し遂げたいことなんです」
根っこに張り付いた、強い理由を剣に、心を盾に。
彼女は、到底勝てそうにもない魔神へ言葉を投げかけていく。
「あっ……堅い話しちゃってごめんなさいね。すぐ、かわりのスープ持ってきますから」
580 ◆CruTUZYrlM :2013/09/19(木) 23:56:12.72 ID:kW6DUG/90
それから、また微笑んで体を翻す。
がら空きの背中、いまここで飛びかかれば一撃で倒すことも出来る。
けれど、リンリンはそれをしなかった。
それどころか、怒りを抑え、用意された席についた。
「はい、どうぞ」
ことり、と置かれたスープ。
琥珀色の液体は、自分の顔を映しだしている。
「……食べ終わってからでも、いいんじゃないですか?
 話してくれるのは、気が向いたらで良いですから」
ほぼ同時、狙ったかのようにぐうとお腹が鳴る。
気がつけば、この夢に堕とされてから、碌に食事を取っていなかった。
初めは"夢"だと思っていたから食事など必要ないと思っていたし、"夢"から醒めてからは止まる暇がなかった。
普通の人間なら、とっくのとうに空腹で倒れているレベルなのだ。
「――――リンリン、お前はもう少し食べた方がいい。
       でなければ、動けるモノも動けんぞ」
その時、憎たらしくも彼女の声がする。
戦いに関して真っ直ぐで、戦いに全ての重きをおいていた彼女の言葉が、脳に響く。
一考、二考、三考。
ありとあらゆる可能性を考えた後、残された片腕でゆっくりとスプーンを掴む。
目の前の少女が言うように、殺すのは後でもいい、むしろ後回しにしてもいいくらいの弱さだ。
なれば、無駄な力を使うことより、次に向けての力を蓄える方がいいだろう。
そのための、食事を提供してくれるというのだから。
乗らない理由は、無い。
一口、二口と次々に運び、スープを体の中に入れていく。
甘いタマネギの舌触りが、口の中で融けて、ひとときの安らぎを招く。
「……まずい、まずいわ」
そうして休む間もなくスープを飲みきってから、リンリンはタメてそう告げる。
そうです、かと少しがっかりした表情を浮かべたのを確認してから、リンリンは言葉を続けていく。
「早く次を持ってきなさい、腹の足し程度にはなるでしょうから」
「え……?」
「早くしなさい、それともここは次の料理もスムーズに出てこない宿なの?」
「はい! ただいま!」
まあ、少しぐらい立ち止まってもいいだろう。
いずれ破壊する世界ならば、少し遠回りをしても良い。
だから、今は少し休もう。

「うめえなあ、このスープ」
いつだったか、彼がそう言いながら次々に飲み干していたスープ。
その味を、確かに思い出しながら、リンリンは次の料理を待った。



「どうする、ビアンカ」
リッカと襲撃者のやりとりを見守っていたサイモンは、ビアンカに静かに問う。
先ほどの完全に不意をつかれた襲撃。
自分も、ビアンカも、一切反応することが出来なかった。
気づいたときにはすでに遅く、神速の拳がリッカに襲いかかろうとしていた。
どう言うわけか軌道が逸れ、襲撃者が壁に突っ込んだから先ほどは助かったモノの、二度目があれば勝てる気はしない。
「片腕を失っている相手とは言え、正直言って……私じゃ太刀打ちできないわね」
ビアンカも、サイモンと同意見を述べていく。
正直言って、彼女に勝てる見込みは古の魔神エスタークが起き上がり仲間になるくらいあり得ない。
「だから見守りましょ、リッカちゃんなら、何か変えてくれそうな気がする。私は、それに賭けたい」
「そうか」
581名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/09/19(木) 23:57:19.51 ID:YZZYRfxf0
支援
582名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/09/19(木) 23:58:20.37 ID:j0fRvHLL0
支援
583◇CruTUZYrlM氏代理:2013/09/20(金) 00:03:47.48 ID:MQTYyud60
だから、ビアンカは"彼女"に賭ける。
戦うことを強いられたこの場所で、戦うことしか知らない者に対して。
戦う以外の、人間の側面を見せられる手段を知っているのは、きっと彼女だけだから。
「ほら、ビアンカさん達も!」
「えっ?」
そうこうしているうちに、リッカがビアンカに声をかけてくる。
ぼうっとしていると後ろからぐいぐいと押され、襲撃者の座る卓へと案内された。
「こう言うときは、たくさんで食べた方が楽しいんですよ?」
そういって席につかされ、食事を目の前に出される。
食事という概念のないサイモンも座らせたのは、とにかく"にぎやかにしたい"という一心からなのだろうか。
「不思議な気分ね……」
誰にも聞こえないように、一人言葉をつぶやく。
先ほど、自分たちを殺しに来た人間と卓を囲んで食事を取るなんて、長い人生でも滅多に出来ない経験なのかも知れない。
そして、彼女を変えうる、ないしその片鱗を掴むことが出来るなら。
自分も、それに手を貸し、少しでもリッカの望みに近づかなければ。
「っと、いただきます」
食事の前の儀式を済ませ、ビアンカもまた、食卓に置かれた食事にを、口に運んでいった。



ここはリッカの宿屋。
全ての冒険者に、全ての旅人に、全ての人間に。
平等に癒しを与える、最高の宿屋。

【A-4/ろうごくのまち・居住区/黎明】
【リッカ@DQ9】
[状態]:右腕負傷(手当て済み)
[装備]:なし
[道具]:復活の玉@DQ5、大量の食糧(回復アイテムはなし)、支給品一式
[思考]:絶望しない、前を向く。
[備考]:寝ていたため、第二放送を聞き逃しています

【サイモン(さまようよろい)@DQBR2nd】
[状態]:騎士は、二人の"ともだち"。
[装備]:さまようよろい@DQ5、ミネアの頭の飾り、ミネアの首飾り、アリーナのマント(半焼)
     アリーナの帽子、エイトのバンダナ、アレルのマント、ギュメイ将軍のファー
[道具]:なし
[思考]:リッカを見守る
[備考]:マホトーン、イオを習得、今後も歩くことで何か成長を遂げるかもしれません。
     胸部につけているミネアの飾りが光り輝いています。

【ビアンカ@DQ5】
[状態]:健康、リボンなし
[装備]:女帝の鞭@DQ9、エンプレスローブ@DQ9
[道具]:支給品一式、炎のリング@DQ5、カマエル@DQ9
[思考]:リッカを見守る。リュカ、フローラに会いたい、彼らの為になることをしたい。
[備考]:カマエルによって錬金釜の使用方法を教わっています
    ビアンカの傷が治っているのはミネアのメガザルによる効果です。
    料理の仕込でドタバタしていたため、第三放送の内容を聞いていません
584◇CruTUZYrlM氏代理:2013/09/20(金) 00:04:50.44 ID:YZZYRfxf0
【リンリン@DQ3女武闘家】
[状態]:HP1/20、全身に打撲(重・処置済)、全身に裂傷(重・処置済)中度の火傷(処置済)、左腕喪失(処置済)
[装備]:星降る腕輪@DQ3 オリハルコンの棒@DQS
[道具]:場所替えの杖[6]、引き寄せの杖[9]、飛び付きの杖[8]、賢者の聖水@DQ9(残り2/3) ふしぎなタンバリン@DQ8
    銀の竪琴、笛(効果不明)、ヤリの秘伝書@DQ9、 光の剣@DQ2 ハッピークラッカーセット@DQ9(残り4個) 使用済みのハッピークラッカー
    草・粉セット(毒蛾の粉・火炎草・惑わし草は確定しています。残りの内容と容量は後続の書き手にお任せします。)
    ※上薬草・特薬草・特毒消し草・ルーラ草は使い切りました。
     支給品一式×10
[思考]:全員殺す 世界を壊す たとえ夢であろうと その為に休息しつつ片腕に慣れたい
     少し、食事を摂る。
[備考]:性格はおじょうさま

※献立は後続の書き手にお任せします。

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以上で投下終了です。
最後の最後でサルった……
タイトルは「夢が叶うのは、誰かのおかげじゃないから」でお願いします。

次スレの容量も近いので、スレ立ててきます。

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代理投下終了です
585 ◆CruTUZYrlM :2013/09/20(金) 00:10:35.86 ID:ipWY4zC90
586名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/09/21(土) 05:55:18.54 ID:gn6CGB1M0
色んな意味で乙です!
闘い続けてきたリンリンがここでまさかの休息…!
これがいい方向に働くのか否か、気になるところです。
ビアンカもそーいえば宿屋の娘だったな、とリッカとのやりとりにおおっと思いました
587名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/09/21(土) 23:18:49.14 ID:wcVKwoWj0
リッカらはそのまま襲われてたら全滅必至だっただろうけど、
リンリンも出会ったのが他の戦闘力ある面子だったら今だと負けるだろうし、
あるいは誰とも出会わなかったらそのままのたれ死んでそうだから、
危険は全然去ってないけどお互いとりあえず今は命拾いした感じやな
588名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/09/21(土) 23:31:48.13 ID:9/Nw+tX40
FFDQ3rdのワリーナを一瞬思い出した。
あれと同じ展開にならなくてちょっとホッとしているw
589名前が無い@ただの名無しのようだ
投下乙です。
リッカが不遇だった9勢の希望となり得るのか、大いに期待が寄せられます。
戦闘力的にはサイモン頼りの今、リンリンの脅威をとりあえずはしのいでほしいですね。