ドラゴンクエスト・バトルロワイアルII Lv3

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1名前が無い@ただの名無しのようだ
ドラゴンクエストのキャラクターのみでバトルロワイアルをしようというリレー小説企画です。
クオリティは特に求めません。話に矛盾、間違いがなければOK。
SSを書くのが初めての方も気軽にご参加ください。

※キャラの予約制あり。(任意、利用しなくてもOK)
予約をする際は捨てトリで構わないのでトリップを付け、使用するキャラを全て明記して下記のスレで予約してください。

DQBR予約スレ
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/30317/1333274887/

予約期間は10日(延長なし)で、予約の書き込みから240時間が経過すると予約解除として扱います。
「予約キャンセル」等、予約に関することは他の書き手さんが検索しやすいように必ず「予約」の文字を入れてください。

もし投下作品に不安があるのなら、総合掲示板の「投下SS一時置き場」でアドバイスを受けてください。
また、規制などで本スレに書き込めない場合も一時置き場をご利用ください。

DQBR一時投下スレ
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/30317/1335864807/

前スレ
ドラゴンクエスト・バトルロワイアルII Lv2
http://kohada.2ch.net/test/read.cgi/ff/1340330480/

【避難所】 DQBR総合掲示板
http://jbbs.livedoor.jp/game/30317/

まとめWiki
http://w.livedoor.jp/dqbr2/
2名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/04(火) 23:01:18.31 ID:qhmITBYz0
----基本ルール----
 全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
 勝者のみ元の世界に帰ることができ、加えて願いを一つ何でも叶えてもらえる。
 ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
 プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。


----放送について----
 スタートは朝の6時から。放送は6時間ごとの1日4回行われる。
 放送は各エリアに設置された拡声器により島中に伝達される。
 放送内容は「禁止エリアの場所と指定される時間」「過去6時間に死んだキャラ名」
 「残りの人数」「主催者の気まぐれなお話」等となっています。


----「首輪」と禁止エリアについて----
 ゲーム開始前からプレイヤーは全員、「首輪」を填められている。
 首輪が爆発すると、そのプレイヤーは死ぬ。(例外はない)
 主催者側はいつでも自由に首輪を爆発させることができる。
 この首輪はプレイヤーの生死を常に判断し、開催者側へプレイヤーの生死と現在位置のデータを送っている。
 24時間死者が出ない場合は全員の首輪が発動し、全員が死ぬ。  
「首輪」を外すことは専門的な知識がないと難しい。
 下手に無理やり取り去ろうとすると首輪が自動的に爆発し死ぬことになる。
 プレイヤーには説明はされないが、実は盗聴機能があり音声は開催者側に筒抜けである。
 なお、どんな魔法や爆発に巻き込まれようと、誘爆は絶対にしない。
 たとえ首輪を外しても会場からは脱出できないし、禁止能力が使えるようにもならない。
 開催者側が一定時間毎に指定する禁止エリア内にいると首輪が自動的に爆発する。
 禁止エリアは2時間ごとに1エリアづつ増えていく。
3名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/04(火) 23:01:48.85 ID:qhmITBYz0
--スタート時の持ち物--
 プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
 ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
 また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
 ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を配給され、「ふくろ」にまとめられている。
 「地図」「コンパス」「着火器具、携帯ランタン」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「支給品」
 「ふくろ」→他の荷物を運ぶための小さい麻袋。内部が四次元構造になっており、
       参加者以外ならどんな大きさ、量でも入れることができる。
 「地図」 → 舞台となるフィールドの地図。プレイヤーのスタート位置は記されているが禁止エリアは自分で書き込む必要がある。
 「コンパス」 → 普通のコンパス。東西南北がわかる。
 「着火器具、携帯ランタン」 →灯り。油は切れない。
 「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
 「食料・飲料水」 → 複数個のパン(丸二日分程度)と1リットルのペットボトル×2(真水)
 「写真付き名簿」→全ての参加キャラの写真と名前がのっている。
 「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
 「支給品」 → 何かのアイテム※ が1〜3つ入っている。内容はランダム。

※「支給品」は作者が「作品中のアイテム」と
 「現実の日常品もしくは武器、火器」の中から自由に選んでください。
 銃弾や矢玉の残弾は明記するようにしてください。
 必ずしもふくろに入るサイズである必要はありません。
 また、イベントのバランスを著しく崩してしまうようなトンデモアイテムはやめましょう。
 ハズレアイテムも多く出しすぎると顰蹙を買います。空気を読んで出しましょう。

--制限について--
 身体能力、攻撃能力については基本的にありません。
 治癒魔法については通常の1/10以下の効果になっています。蘇生魔法は発動すらしません。
 キャラが再生能力を持っている場合でもその能力は1/10程度に制限されます。
 しかしステータス異常回復は普通に行えます。
 その他、時空間移動能力なども使用不可となっています。(ルーラなど)
 MPを消費するということは精神的に消耗するということです。
 全体魔法の攻撃範囲は、術者の視野内ということでお願いします。

 ※消費アイテムならば制限されずに元々の効果で使用することが出来ます。(キメラの翼、世界樹のしずく、等)
  ただし消費されない継続アイテムは呪文や特技と同様に威力が制限されます(風の帽子、賢者の石、等)
【本文を書く時は】
 名前欄:タイトル(?/?)
 本文:内容
  本文の最後に・・・
  【名前 死亡】※死亡したキャラが出た場合のみいれる。
  【残り○○人】※死亡したキャラが出た場合のみいれる。

 【座標/場所/時間】

 【キャラクター名】
 [状態]:キャラクターの肉体的、精神的状態を記入。
 [装備]:キャラクターが装備している武器など、すぐに使える(使っている)ものを記入。
 [道具]:キャラクターがふくろなどにしまっている武器・アイテムなどを記入。
 [思考]:キャラクターの目的と、現在具体的に行っていることを記入。(曖昧な思考のみ等は避ける)
 以下、人数分。

※特別な意図、演出がない限りは状態表は必ず本文の最後に纏めてください。
4名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/04(火) 23:02:19.41 ID:qhmITBYz0
【作中での時間表記】
 深夜:0〜2
 黎明:2〜4
 早朝:4〜6
 朝:6〜8
 午前:8〜10
 昼:10〜12
 真昼:12〜14
 午後:14〜16
 夕方:16〜18
 夜:18〜20
 夜中:20〜22
 真夜中:22〜24



【D-4/井戸の側/2日目早朝(放送直前)】

【デュラン@DQ6 死亡】
【残り42名】

【ローラ@DQ1】
[状態]:HP3/4
[装備]:エッチな下着 ガーターベルト
[道具]:エッチな本 支給品一式
[思考]:勇者を探す ゲームを脱出する


━━━━━お願い━━━━━
※一旦死亡確認表示のなされた死者の復活はどんな形でも認めません。
※新参加キャラクターの追加は一切認めません。
※書き込みされる方はスレ内を検索し話の前後で混乱がないように配慮してください。
※参加者の死亡があればレス末に必ず【○○死亡】【残り○○人】の表示を行ってください。
※又、武器等の所持アイテム、編成変更、現在位置の表示も極力行ってください。
※具体的な時間表記は書く必要はありません。
※人物死亡等の場合アイテムは、基本的にその場に放置となります。
※本スレはレス数500KBを超えると書き込みできなります故。注意してください。
※その他詳細はスレでの判定で決定されていきます。
※放送を行う際はスレで宣言してから行うよう、お願いします。
※最低限のマナーは守るようお願いします。マナーはスレでの内容により決定されていきます。
※主催者側がゲームに直接手を出すような話は序盤は極力避けるようにしましょう。
5名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/04(火) 23:02:53.94 ID:qhmITBYz0
テンプレは以上です。
6名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/06(木) 23:22:27.98 ID:Asg31UHl0
しえん
7名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/06(木) 23:23:29.52 ID:/dILCTSm0
8 ◆1WfF0JiNew :2012/12/06(木) 23:23:31.97 ID:mq6q/Eoh0
もょもとがカインから聞かされた作戦の全貌は単純だった。
最初は殺気の主にカインが一人で接触する。
好意的であればそのまま口車に乗せて味方につけ、敵意的であればそのまま戦闘を開始。
どちらにしろ、初めははカインが力量を確かめる手筈だ。
そして、カインの手におえる相手でない場合は――。

「もょもとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「任せろ」

――もょもとの奇襲で一気に決着をつける!

「行くぞ。おれはおれの意志で、お前を倒す」

デュランの背後から飛び出したもょもとは、手に持ったオーガシールドを思いっ切り投げつけた。
力の手加減などない、正真正銘の全力投球だ。
超高速で一寸の狂いなく飛んでくるオーガシールドはデュランの腹部へと迫る。

「う、うおおおおおおおおおおおっ!?」

デュランは背後に身体を回し、振り向きざまに剣を横薙ぎに振るう。
それは戦士として経験を積んできた勘のみを信じて行動したものだった。
剣と盾がぶつかる音がデュランの耳にこだまする。
だが、これで相手の必殺を躱し、勝利の天秤は自分の元へと寄りかかってくるはずだ。

「なかなかいい攻めだったが、乗り切っ!」

勝利宣言を言い終わる寸前、絶対零度の悪寒を感じた。
相手の奇襲を防ぐことはできた、何の問題はない。ならば、あとは何が残っている?
ならば、何が嫌な予感としてデュランを駆り立ててるのか。
ともかく、デュランは悪寒を信じ、横へと跳躍する。
9 ◆1WfF0JiNew :2012/12/06(木) 23:25:10.91 ID:mq6q/Eoh0
「……ちっ。速さが足りなかったかな」
「ふん、隙あらば攻めてくるその姿勢は嫌いじゃないぞ」

デュランが数秒前までいた場所にはカインが迫っていたのだ。
彼の視線がもょもとにいった瞬間、全速を持って駆けたのだが届かない。
デュランが跳躍するのが遅れていたら、首は宙を舞っていただろう。
それだけ、緊迫した一瞬だった。

「ふは、ははははっ! まさかローレシアの王子までいるとは……! 
 何たることか、ああ、闘争の相手としてはもってこいじゃないか!」
「バトルキチガイの言葉なんて聞かないほうがいいよ。それよりも。ここからは正攻法でいくよ、もょもと」
「わかった。それ以外に方法は無さそうだ」

カインともょもとはそれぞれ横並びに立ち、構えを取る。
それはハーゴン討伐の旅路ではありえなかった光景。
二人並んで立つ。そんな普通の仲間のような形態が今ここで叶えられた。

「一人から二人へ。実に素晴らしいぞ、もっと私に魅せてくれ!」

歓喜の表情を浮かべながら、デュランは大地を踏みしめて剣を握る。
実力者二人を相手に行う戦闘は、彼の心を満足させるに十分すぎる程だ。
この閉ざされた世界にジョーカーとして来て以来、幾多の強者との戦闘があった。
カーラ、ロッシュ、カイン、もょもと。全員がデュラン自身も認める強者だ。
自分を倒そうと刃を振るう姿は美しく、苛烈である。
10名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/06(木) 23:25:48.62 ID:Asg31UHl0
しえん
11名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/06(木) 23:26:53.50 ID:Asg31UHl0
しえん
12 ◆1WfF0JiNew :2012/12/06(木) 23:26:57.24 ID:mq6q/Eoh0
「さあ! やろうじゃないか! もっと、もっと! 私を満足させてくれ!」

最初は横槍を入れてきた間男を殺すつまらない追跡だと感じていたが、結果的には最高になってくれた。
ならばこの機会、全力で楽しむまで。
闘争こそがこの世の全てを超えるエンターテイメントであると体現するのだ。

「行くぞ、もょもと。ここで、こいつを倒す」
「ああ」

一方のもょもと達も安々と終わらせるつもりはなかった。
自分達の状態が万全な内に強敵は倒しておきたい。
このようなバトルジャンキーは、後に残すことになっては厄介になりかねない。

「さあ! ここからが本番だ、かかって来い! 王子達よ!」
「面倒臭い奴にあたったなぁ……でも、殺らなくちゃね」

そして、三者が戦闘を再開するべく、その場を動いた時。
事態は急展開を迎えることとなる。

「えっ」

三者の真ん中で、突如現れた閃光が、世界を包み込んだ。
カインはこの閃光を覚えている。
それは確か、あきなが雑魚敵を一掃する時によく使っていた呪文――イオナズン。

(奇襲だって!? くそっ、間に合わ――っ!)

全てを飲み込んでいく光に対し、カインは自分の死を悟った。
否、悟らざるを得なかった。
逃げれない、躱せない。直撃を受けるしかない。
せめてもの抵抗にとスクルトをかけるが、効果は乏しいだろう。

(ごめん、リア)

最後に思ったのは、この地のどこかにいる――最愛の妹。
妹の、笑顔。
13名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/06(木) 23:27:52.55 ID:/dILCTSm0
 
14名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/06(木) 23:28:02.98 ID:Asg31UHl0
しえん
15 ◆1WfF0JiNew :2012/12/06(木) 23:28:45.39 ID:mq6q/Eoh0
***



「それでも、おれは……」

「それでもじゃない。お前は自分のことを考えてろ。僕のことはいいからさ」

「わかった」

「約束だ、僕が倒れたら迷わず逃げるんだ。僕の代わりに真実を掴めよ」

「……わかった」

「全く、そんなしょぼんとするなって。大丈夫、死なないって」

「本当か?」

「本当だよ。僕も、お前も……死んでやるもんか」



***
16名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/06(木) 23:29:07.79 ID:Asg31UHl0
しえん
17名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/06(木) 23:30:17.37 ID:Asg31UHl0
しえん
18 ◆1WfF0JiNew :2012/12/06(木) 23:30:18.91 ID:mq6q/Eoh0
熱い。
それが意識を取り戻したカインの第一声だった。
ふと、目を開けると世界は燃え盛る炎で包まれていた。
なぜ、このようなことになっているのか、思考が現実に追いつかない。

「ここは……どこだ? そうだ、僕達はあの変な魔物と戦っていて! 突然視界が光って!」

起き上がろうと体を動かすが、全身を強く打ったのか思うように動けない。
それでも、早く動いてこの炎の海から脱出しなければと気力で立ち上がる。
そして、自分が無事である『理由』を見つけてしまう。
そこにあったのは、見たくもない真実だった。

「もょもと……?」

身体の至る所が炭化し、崩れ落ちているもょもとの姿を。
それはもょもとを深く知っているカインからするとあり得ない光景だった。
長い旅路の中でも、ここまでひどい怪我をもょもとが負った試しはない。
故に、このようなことは初めてであり考えもしなかったのだ。
もょもとが死にかけて、自分が無事だというありえない事実にカインは怯えていた。

「何だよ、何だよっ、これは!!」

おかしい、こんなことはありえない。
自分が五体満足で生きているのに、もょもとが死に瀕しているなんてあってはならない。
あまりにも衝撃が大きすぎて、頭が思考停止をしたのか、もょもとに駆け寄ることも忘れ、数秒間立ち止まってしまう。

「……ぁ」
「……おい! もょもと! おい起きろ!!」
「カイン、か」
「ああ、僕だ! 何があったんだよ! どうしてこんな……!」

もょもとの小さなうめき声を聞き、正気に戻ったのか、カインは彼へと駆け寄り回復呪文を施す。
カインの覚えているベホイミ程度では焼け石に水ではあるが、必死に唱え続けた。
例え、その行為が無駄だと理性が判断しても、カインは呪文の詠唱をやめなかった。
19名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/06(木) 23:31:21.08 ID:Asg31UHl0
しえん
20 ◆1WfF0JiNew :2012/12/06(木) 23:31:30.10 ID:mq6q/Eoh0
「突然、地面が爆発して。それでカインが、危なかったから護って……」
「馬鹿野郎……っ! 僕を庇っていなかったら、お前死ななかっただろう!?」

突如発生した大爆発。その一撃はまともに食らったら即死しかねない程の強烈な一撃だった。
それは天性の戦士としての才能を持つもょもとならば回避できたはずである。
だが、凡才であるカインは違う。事実、もょもとが庇っていなかったら、立場は逆になっていただろう。
 
「カインが死んだら嫌だって、思った。それだけだから……」
「お前……忘れたのかよ、僕のことなんて考えるなって言ったはずじゃないか!? 
 僕は……僕はな! お前のことを心の底から信じれなかった! 正直、疑っていたよ! 
 また暴走するかもしれないって! だから……僕を置いて逃げろって言ったんだ!」
「はは……それでも、動いてしまったから仕方ない」

カインはもょもとが生きていることを確かめるように、炭化して崩れ落ち欠けている手をぎゅっと握り締める。
もょもとの命をここに繋ぎ止めるかのように。今まで信じきれなかった分を取り戻すかのように。

「勇者としてでもなく、王子としてでもなく、おれは……おれ自身の意志で……カインを護りたかった。
 だから、いいんだ。これは、おれの自己満足だから」
「ふざけるなよ、そんな事言われたら……! 僕は、僕はどうすればいいんだよ!
 悔やんでも、悔やみきれないし、謝れないじゃないか……っ」
「悔やまなくていい。おれはカインに感謝してるから。この世界でカインと初めて、心から話せて。
 おれを『人間』にしてくれたのはカインだから……」

ポロポロとカインの瞳から透明な水が零れ落ちる。
それは久しく流さなかった涙。この炎熱の世界ではすぐに蒸発してしまうが、涙は絶えず瞳から流れ落ちていた。
顔をグシャグシャにしながらカインは思う。

どうしてだ。こんなはずじゃなかったはずなのに。

自分のせいで一人の仲間が死んでいくことに、胸が締め付けられる。
21名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/06(木) 23:31:34.03 ID:dV0GC8AD0
紫炎
22名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/06(木) 23:31:57.28 ID:yOpk6Bxb0
支援
23名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/06(木) 23:32:14.91 ID:Asg31UHl0
しえん
24名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/06(木) 23:32:43.21 ID:Asg31UHl0
しえん
25 ◆1WfF0JiNew :2012/12/06(木) 23:32:46.26 ID:mq6q/Eoh0
「壊すことしか出来なかったおれが……護れた。やっと、護れた」
「ああ、そうだよ! お前のお陰で僕は軽傷だ! だから、今度は僕の番だ!
 僕がお前を助ける番だ! おら、起きろよ! さっさとあのバトルキチガイを倒しに行くぞ!」
「……無理だ。おれはもう死ぬから。最後に、ありがとう。カイン。護らせてくれて、ありがとう」
「ありがとうじゃねぇよ! 最後じゃねぇよ……っ! 何ふざけたこと言ってるんだよ」
「……ごめん、カインを置いて逃げる約束。一緒に、真実を掴む……約束。守れなくて」
「もょもとぉっ……!」

やがては涙も枯れ果てて。
握り返される力も徐々に弱まっていく。
カインは恥もかなぐり捨てて神に祈り乞う。

真実なんて掴めなくていい。だからお願いします、この男を死なせないでくれ。

それでも、祈りは届かない。炎熱はもょもとの命の大部分を焼き尽くした。
こうやって、最後の会話が出来るだけでも奇跡であるのだ。

「なぁ、カイン」
「何だよ……遺言とか縁起でもないから止めろよな」
「おれ、お前の……ともだちに、なれた……か」
「……ああ。友達だ。友達だから! 僕を置いていかないでくれよ……! 頼むよっ……!」
「……父上……おれは、大切なものを、見つけることが…………できました」
「やめろ、やめろぉぉぉおおおおおおお!!!! 僕なんかを護って逝くな、逝かないでくれ……!」
「カイン……はじめての、ともだ、ち…………ずっと、おれはお前の、みか、た……だから」

炎の中で慟哭が響く。
発狂しそうなくらいの悲しみと熱さの中で。
気づいてしまった。いや、気づかざるを得なかった。

「あ、ああっ! うぁぁああぁぁあああぁああああぁああああああっっ!!!!」

カインを大切に思ってくれた人は、妹だけではなかったことに。
26名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/06(木) 23:33:15.71 ID:Asg31UHl0
しえん
27 ◆1WfF0JiNew :2012/12/06(木) 23:34:04.50 ID:mq6q/Eoh0
***



「もょもと」

「何だ?」

「……何でもない」

「そうか」

「生き残れるといいね、僕達」

「ああ」



***
28名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/06(木) 23:34:43.26 ID:Asg31UHl0
しえん
29名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/06(木) 23:35:41.24 ID:/dILCTSm0
  
30名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/06(木) 23:35:41.79 ID:Asg31UHl0
しえん
31名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/06(木) 23:36:25.19 ID:Asg31UHl0
しえん
32 ◆1WfF0JiNew :2012/12/06(木) 23:36:42.71 ID:mq6q/Eoh0
「バラモス、貴様はどれだけ私を怒らせれば気が済むのだ……!」

デュランは怒りで猛り狂っていた。
爆発のダメージこそ受けたものの、炎熱はデュランの命を刈り取るには至らなかった。
しかし、再び真剣なる闘いの邪魔をされた。
それに加えて、今度は自分自身にバシルーラをかけて逃げられるという徹底ぶりだ。

「貴様だけは、貴様だけは断じて許さん……! 私自らが引導を渡してくれる!」
「そう。そいつがこの爆発の下手人ってことなんだね」
「……生きていたか」
「ああ。お陰様で」
「もょもとはどうした?」
「死んだよ、僕を庇って」

炎の波を切り捨てながらカインが姿を表した。
その手には、カインにはある意味お誂え向きの剣が。全ての魔なる化物を浄化する剣が。
自分のルーツ、血の呪いが染み付いた剣――ロトの剣が握り締められている。

「それは……ロトの剣。貴様に支給されていたのか?」
「ああそうさ、これをもょもとに渡していれば。僕が使っていたら。結末は変わっていたに違いないね」

淡々と言葉を紡ぐカインに表情はない。
元いた世界の時と同じく、仮面を被り本当を隠す。
ここから先、涙は不要だから。
必要なのは一握の勇気。
それと――。

「僕がアイツを信じてコレを渡していれば! 勇気を出してロトの剣を使っていれば、アイツは死ななかったっ!
 血の呪いを怖がったせいで! アイツを信じきれなかったせいで!」
「ならば、今のお前はそれを握る覚悟が生まれたというのか?」
「当たり前だっ! 僕は……前に進まなくちゃいけないんだ! もょもととあきなの分まで!」
33名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/06(木) 23:36:48.19 ID:yOpk6Bxb0
支援
34名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/06(木) 23:37:44.68 ID:Asg31UHl0
しえん
35名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/06(木) 23:38:11.73 ID:Asg31UHl0
しえん
36名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/06(木) 23:38:53.57 ID:Asg31UHl0
しえん
37 ◆1WfF0JiNew :2012/12/06(木) 23:38:55.02 ID:mq6q/Eoh0
――自分自身を認めること。
周りから凡才と嗤われて以来、避けていたこと。
カインには誰からも認められない苦しみに足掻いた時があった。
認めて欲しくて。
頑張ったねって言ってもらいたくて。
実らない努力を重ねて挫折して。
その果てに、自分を否定して。
自分自身の皇帝は、カインにとってタブーだったのだ。

「辛くても、苦しくても……最後まで生き抜いてやるんだよ! 元の世界に帰って真実を掴んだら、笑ってやるんだ! 
 ロトの血なんて大したことない、僕達だってありふれた幸せを望めるんだぜって!」

カインの元の願い、それは民が聞けば失笑するくらいに質素なものだった。

好きな人や友人と一緒に、のんびり暮らしたい。

そこには贅沢もなく、誰かを虐げたいということもなく。
ただ、ありふれた普通が欲しいだけだった。

「ロトの血が、王子としての責務が、今までの僕が今の僕を否定しても!」

今からでは遅いかもしれないけれど。
もう、諦めることはやめよう。弱い自分を認めよう。
これからは、自分自身で道を選ぶんだ。
それが死んでいったもょもと達への誓い。
38名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/06(木) 23:39:50.11 ID:Asg31UHl0
しえん
39 ◆1WfF0JiNew :2012/12/06(木) 23:40:53.85 ID:mq6q/Eoh0
「僕は……っ! 僕だ!! 誰でもないただ一人の人間としてカインを貫く!」

歩いてきた道は。過去は。戻れないし変えられないけど。
未来なら変えられる。
もょもとに、あきなに。二人に並び立てるような男になって。いつかきっと――ロトの呪縛を無くしたい。
それが今のカインの願い。

「その為にも、僕は闘う。期待はずれと蔑まれてもいい。だけど……もう俯かない」
「……問おう。その願いを現実が踏み躙ろうとしても、貴様は貫くつもりか?」
「貫いてみせるさ。いや、貫かなければいけないんだ。僕は……こんな現実に負けたくない。
 だから――絆を、紡いでみせる。仲間を、今度こそ信じ抜く!」

失うことを知らない、明日を信じることの出来ない自分はいないから。
その先には闇しかなくても――――。

「さあ。再開だ、魔王。命を失う覚悟は十分かい?」
「ああ……闘おうじゃないか! 素晴らしい、本当に素晴らしい!! こんな上等な獲物は――ロッシュ以来だ!!!」

――――最後まで、進むよ。皆の分まで。
40名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/06(木) 23:41:09.91 ID:Asg31UHl0
しえん
41 ◆1WfF0JiNew :2012/12/06(木) 23:42:38.89 ID:mq6q/Eoh0
***



「言える訳ないだろ……まだ、お前のことを信じ切れてないけど。
 少しずつ、信じようとするから。だから、友達になってくれないか、なんて」



***
42名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/06(木) 23:43:02.50 ID:Asg31UHl0
しえん
43名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/06(木) 23:44:12.25 ID:Asg31UHl0
しえん
44 ◆1WfF0JiNew :2012/12/06(木) 23:44:23.78 ID:mq6q/Eoh0
「くは、げははははははっ! 愉快、ああ愉快よのう!」

宙を高速で駆け抜けながら魔王、バラモスは嘲笑う。
彼は上手く気配を隠し、カイン達の近くに潜んでいた。
そして、三人を一網打尽に殺そうとイオナズンを唱えたのだ。
唱えた後は即座にバシルーラで逃亡したから結果は分からないが、一人ぐらいは殺れただろう。

「まあ、このような形は癪に触るが……そのようなことも言ってられぬ」

完全なる勝利を収めたのは最初だけだった。
その後は手痛い敗戦ばかり。
デュランにいたっては虎の子であるメガンテのうでわを斬り捨てられる結果となってしまった。

「どんな手を使ってでも生き残る。我はまだ死ねぬ……死ねぬのだ」

それでも、バラモスは諦めない。
悲願であるゾーマの元への帰還を。

「バラモスは、必ずや……貴方様の元へと再び馳せ参じます……!」



【もょもと(ローレシア王子)@DQ2死亡】
【残り42人】
45名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/06(木) 23:45:12.85 ID:Asg31UHl0
しえん
46名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/06(木) 23:46:11.16 ID:/dILCTSm0
   
47 ◆1WfF0JiNew :2012/12/06(木) 23:46:29.53 ID:mq6q/Eoh0
【E-8/欲望の町/午後】

【カイン(サマルトリアの王子)@DQ2】
[状態]:HP6/10 脇腹打撲 肋骨が折れる、内蔵微損傷
[装備]:プラチナソード、ロトの剣
[道具]:支給品一式 不明支給品×1(本人確認済み 回復道具ではない)
[思考]:妹を捜す、アイラの治療、自分を貫く。
※もょもとの死体、オーガシールド@DQ6、基本支給品一式、 満月のリング@DQ9は近くにあります。

【アイラ@DQ7】
[状態]:HP1/8 全身やけど もょもとに背負われている 気絶
[装備]:モスバーグ M500(4/8 予備弾4発)@現実、ひかりのドレス@DQ3
[道具]:支給品一式、不明支給品×0〜1(回復道具以外)
[思考]:ゲームを破壊する 欲望の町に向かう
[備考]:スーパースターを経験済み

【デュラン@DQ6】
[状態]:HP4/10、軽度の火傷、切り傷(小)、打ち身
[装備]:デュランの剣@DQ6
[道具]:世界樹の雫@DQ6、エルフの飲み薬@DQ5、基本支給品
[思考]:より多くの強き者と戦い、再び出会ったとき、カーラ、ロッシュと決着をつける。
[備考]:ジョーカーの特権として、武器防具没収を受けていません。

【???/???/午後】

【バラモス@DQ3】
[状態]:全身にダメージ(大)左肩に重症 右肩に貫通傷 片手首先無し
[装備]:サタンネイル@DQ9、デーモンスピア@DQ6(刺さっている)
[道具]:バラモスの不明支給品(0〜1)、消え去り草×1、基本支給品×2
[思考]:皆殺し できればまたローラを監視下に置く フローラと絶望の町に居た者どもは必ず追い詰めて殺す
[備考]:本編死亡後。
48 ◆1WfF0JiNew :2012/12/06(木) 23:47:53.53 ID:mq6q/Eoh0
投下終了です。支援、ありがとうございました。
タイトルは「失くすものがなかった僕達はもういない」です。
49名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/07(金) 00:14:04.60 ID:1j5Q+KSz0
乙!
もょもとがこんなに早く逝ってしまうとは…いいコンビになるかと期待してたから残念だ
でも友達を護れたなら本人にとっては満足な逝き方か
イオナズン撃ち逃げとは汚いなさすがバラモスきたない

細かいんだが、状態表のアイラって今民家に置いて来てるんだよな?
50名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/07(金) 01:54:44.44 ID:H9q6Vuz50
投下乙です!
ああ、落ちるならこいつからだろうなとは薄々感じていたが、それでもショックだ、もょもと…!
だんだんと成長していくカインが眩しいが、目の前のデュランは強いからなあ
バシルーラ使いこなしはじめたバラモスはお見事、ヒットアンドアウェイも板についてきて次はどこにいくかな?
51名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/07(金) 01:56:49.55 ID:uSunsr3W0
投下乙
うあああああああ!! もょもとおおおおおおおおおお!!
バッキャローーーーーーーー!!
カインの覚悟が決まった……! でもすぐ傍にはデュラン……!!
バシルーラをまるでルーラのように使うバラモスマジwwwwwww
でも行き先次第では……ダメなビジョンしか見えないぞぉ
52名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/07(金) 14:22:34.15 ID:uSunsr3W0
http://w.livedoor.jp/dqbr1/
1stWiki、皆さんの協力のお陰でとりあえず全話読めるようになりました。
復元を手伝ってくださったみなさん、本当にありがとうございます。

これから隙を見て各話間リンクとか充実させていこうと思います。
53名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/07(金) 18:33:45.72 ID:CFmELOMvO
投下乙です。

バラモスの野郎……殺り逃げとか赦されるとでも思ってんのかぁッ!
54 ◆YfeB5W12m6 :2012/12/07(金) 23:35:11.17 ID:v7ta6CsrO
予約期限は過ぎていますが、完成しましたのでゲリラ投下させて頂きます
55階段を上り第五幕  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/07(金) 23:38:05.85 ID:v7ta6CsrO
「なァ、勇者サマよ」

「人間って、幸せか?」




「そうだねぇ、魔物くん」

「そこそこには、幸せだろうよ」





「そうか」
56名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/07(金) 23:39:27.93 ID:ehht0H4T0
しえん
57階段を上り第五幕  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/07(金) 23:41:08.47 ID:v7ta6CsrO
◇◇




(端から見るとワケわかんねぇ戦闘だな、こりゃ)



槍の一撃をいなしながら影の騎士は考える。

一撃そのものはただ真っ直ぐに突いてくるのみで、かわすことは容易に出来る。

但し問題はその"威力"である。

一目見ただけで解るほどに圧倒的な力を示すその槍は、戦闘に関して力を持たないシンシアが振るうには重すぎた。
58名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/07(金) 23:41:11.28 ID:ehht0H4T0
しえん
59名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/07(金) 23:41:33.35 ID:smVX7OIE0
支援
60名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/07(金) 23:41:55.83 ID:ehht0H4T0
しえん
61名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/07(金) 23:43:28.36 ID:GqGWH2/t0
      
62階段を上り第五幕  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/07(金) 23:44:31.32 ID:v7ta6CsrO
それを理解した上で影の騎士はシンシアを殺害しに来た。

こちらもまともな武器は持ち合わせていないが、殺すだけならば杖でも不可能ではない。


相手が──シンシアならば。


シンシアが唱えた"モシャス"の呪文は一定時間別の人物に姿を変える呪文である。

影の騎士の世界にはそんな呪文はないので、勿論効果は知らない。

煙で隠れた相手の姿が自分と同じ──そう、つまりロッシュの姿に変化したのだから、ひどく驚いた。
63名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/07(金) 23:44:58.79 ID:ehht0H4T0
しえん
64階段を上り第五幕  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/07(金) 23:47:07.89 ID:v7ta6CsrO
それにもう一つ、驚愕したことがある。
飛んでくる槍をいなした時に感じたこと──明らかに、女の力ではない。

いや、寧ろ男でもそれだけの力を軽々しく出せるだろうか。
それ程に強い力だった。



あの槍の威力に、異常なほどの力。
そんな攻撃をまともに受ければ最悪怪我では済まない話になるだろう。


この"モシャス"という呪文は──他人の能力までコピーするらしい。



しかし、例え能力的に劣っていようと覆せないものがある。
65名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/07(金) 23:47:54.87 ID:ehht0H4T0
しえん
66階段を上り第五幕  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/07(金) 23:50:04.42 ID:v7ta6CsrO
それは、戦闘の経験だ。

繰り出される攻撃は単純な突きのみ。
技術も無ければ洗練された動きを持っているわけでもない。


どれだけ威力が高くてもそれは当たらなければ意味はない。

攻撃の隙を無くそうと思っても経験のなさはそれを許さない。



(そぅら、今だって)



深く突き出された槍を杖で弾き、反動で一瞬動きが止まったシンシアの体にせいけん突きを放つ。
67名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/07(金) 23:50:12.36 ID:ehht0H4T0
しえん
68名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/07(金) 23:51:05.41 ID:smVX7OIE0
支援
69名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/07(金) 23:51:07.82 ID:GqGWH2/t0
     
70名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/07(金) 23:52:08.03 ID:ehht0H4T0
しえん
71階段を上り第五幕  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/07(金) 23:52:18.83 ID:v7ta6CsrO
揺らぐ体に追撃として一発、鳩尾に膝蹴りを放ち一旦距離を取る。


一瞬、息を整え杖を構えてその喉を貫く為に走り出す。

咳き込むシンシアはその攻撃を転がり込むことで避けるが、それは二度は通じない。


ギラリと杖の先が光り、急所を貫かんと振り落とされる。



そして───炎。


喉元に届く直前、シンシアが大きく息を吸い込み炎を吐き出した。
72階段を上り第五幕  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/07(金) 23:55:04.92 ID:v7ta6CsrO
生物の本能として咄嗟に右腕を顔の盾にする。


それ程威力のある炎ではない。
小さな火傷程度で済む──そう思ってしまい、一瞬気を抜いてしまったのがいけなかった。





────ぐじゃり

肉が抉れる音が耳に届く。
見れば顔を防御していた右腕に、シンシアが手にしていた槍が深々と突き刺さっている。

驚愕の一瞬後、凄まじい痛みが遅れて襲ってくる。

悲鳴を上げるよりも先にシンシアを突き飛ばし、相手と3メートル程の距離を取る。
73名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/07(金) 23:56:36.53 ID:ehht0H4T0
しえん
74階段を上り第五幕  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/07(金) 23:57:36.01 ID:v7ta6CsrO
(骨ごと抉られてやがる……!)


傷口は肉が絶たれたと言うよりは、かき混ぜたように渦巻いており、あちらこちらにその肉片が舞っている。


これが勇者とあの槍の威力を合わせた力───全ッッ然笑えない。


そしてもう一つ、笑えないこと。

素人の人間には使えないような技を使ってきた──そう、これは特技や呪文の類のそれ。


勿論、シンシアは完璧な素人である。
しかしそんな素人が炎を吐く方法が一つ。
75名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/07(金) 23:59:30.09 ID:ehht0H4T0
しえん
76階段を上り第五幕  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/08(土) 00:00:42.03 ID:v7ta6CsrO
"モシャス"の呪文。

多分この技は本来ロッシュの技──そう考えるとモシャスというのは能力と特技、それをコピーする呪文。



(…………チートかよ)


"魔物"は"勇者"に勝てないように設定されているというのに。

特技に能力、その全てを扱うことが出来れば十分に──十分、すぎる程に経験の差を埋められる。


かなり危ない状況だが、決して笑えない状況であるが……焦りは不思議と感じない。
77名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 00:01:56.36 ID:ehht0H4T0
しえん
78階段を上り第五幕  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/08(土) 00:03:05.60 ID:v7ta6CsrO
「……なるべく、引いてはくださいませんか」


神妙な表情でシンシアが言う。

その目に宿っているのは、確かな正義だ。己が信じる正義なのだろう。



「殺したくない、ってか? 余裕綽々で羨ましいね」

「戦いたくないんです」



軽い気持ちで言った冗談にすら反応しない。

シリアスな雰囲気を纏わせるシンシアを一笑し、杖の先を真っ直ぐとシンシアへと向ける。
79名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 00:03:10.89 ID:GqGWH2/t0
      
80名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 00:03:22.75 ID:smVX7OIE0
  
81名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 00:06:28.84 ID:LA0wjMaH0
しえん
82階段を上り第五幕  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/08(土) 00:06:42.01 ID:S1zukaOFO
「俺の右腕をこんなにしてくれやがったんだから、聞き入れられねぇな」



その言葉を聞き、シンシアも槍を構える。

ただでさえ厄介な色をしていた目が──本気になりやがった。


それでは自分も本気になってやらねばならないだろうか。失笑しながら下らないことを考える。



かなり奇妙な話だが、なかなかどうして面白いではないか。


勇者の皮を被った魔物と人間。
こういう系の話は生憎と────大好きなのだ。
83名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 00:08:43.08 ID:LA0wjMaH0
しえん
84階段を上り第五幕  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/08(土) 00:09:05.39 ID:S1zukaOFO
◇◇




意識を取り戻し最初に考えたのは、どれほど時間が立ってしまったか、という事だった。



当たり前だが──辺りにデュランとあの魔物の気配はない。

行方を確認するよりも前に意識を飛ばしてしまい、あの二匹が何処へ向かったのか確証が持てない。




「あーあ、カッコ悪いなぁ 僕」


 折角格好いいセリフを吐き、デュランと大見得気って対峙したというのに───いや、今はそんな冗談を言ってる場合では無いのだが。
85名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 00:10:59.58 ID:LA0wjMaH0
しえん
86階段を上り第五幕  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/08(土) 00:12:06.83 ID:S1zukaOFO
「でも、冗談でも言わなきゃやってらんないよ」


この、悲しみは。
この悲しみを耐えるには、バカな事でも言わなきゃこぼれてしまいそうになる。


今だって思い出せるほど最近の話──笑い合っていた一番の友人の彼は、死んだ。

嘆く暇も無かった戦闘が止んだ今では、それは遠慮なく流れ込んできてくれる。

これはレックスが死んだ時にだって味わったものだが如何せん、大きすぎる。

堪えるには、目の前のそれは重く大きい。
87名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 00:13:10.08 ID:LA0wjMaH0
しえん
88名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 00:13:52.36 ID:AWfyellF0
しえん
89名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 00:14:51.53 ID:LA0wjMaH0
しえん
90階段を上り第五幕  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/08(土) 00:15:08.59 ID:S1zukaOFO
目頭が熱いのが解る。
だが、泣いてどうするというのか。泣いて、時間を食うのが正解なのだろうか。



「違う、よな」



失ったものを嘆くよりは、今あるものを守り抜くことを選びたい。

もう、十分だ。
こんな感情を味わうのは、この瞬間だけで構わない。


まだ自分には、守ることを約束した仲間が居る。

バーバラ、ミレーユ、テリー、それにシンシアに……もょもとだってそうだ。
91名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 00:16:45.68 ID:LA0wjMaH0
しえん
92階段を上り第五幕  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/08(土) 00:18:06.76 ID:S1zukaOFO
ほら、嘆く時間も泣く暇も無い。
お人好しロッシュ王子は、さっさと約束を果たしなさい。




「さぁ、まずは」

パチン、と両の頬を叩き立ち上がる。

足は麻痺でもし始めたのか、痛みは湧き上がらない。

それはそれでマズいことのような気はするが、今はそちらの方が都合がいいだろう。

流石に走ることや剣を振り回すことは出来そうにないが、戦闘に立ち会ってしまった場合は遠目から動きを封じ込めればいいだろう。
93名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 00:18:12.70 ID:AWfyellF0
しえん
94名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 00:18:26.71 ID:LA0wjMaH0
しえん
95名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 00:20:27.87 ID:LA0wjMaH0
sienn
96階段を上り第五幕  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/08(土) 00:21:06.13 ID:S1zukaOFO
少なくとも、それを可能に出来るほどには技を習得してきた筈だ。




まずは、歩こう。進もう。
自分を貫こう。



大丈夫、そうしたらスッキリする筈さ。















───────そう、信じていたかった
97名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 00:21:24.46 ID:LA0wjMaH0
しえん
98名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 00:22:33.97 ID:LA0wjMaH0
しえん
99階段を上り第五幕  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/08(土) 00:24:14.15 ID:S1zukaOFO
◇◇




目の前で何が起きたのか。

理解するのに、かなりの時間がかかった気がする──違う、嘘。

未だに、理解出来ていなかった──それも、嘘。

受け入れたくない、そんな現実が目の前に広がっている──ごめん、嘘。


受け入れてしまったからこそ、信じたくないものがずっと目の前に映っているのだ。



それは"僕"だった。

僕が僕を、殺していた。
100名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 00:25:41.06 ID:LA0wjMaH0
しえん
101階段を上り第五幕  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/08(土) 00:27:30.09 ID:S1zukaOFO
いや、もう少し正しく話そう。



シンシアが死んでいた。


左胸から見慣れた赤色が流れ、その本人は木に寄りかかるように、ともすれば寝ているだけかと勘違いしてしまいそうに───死んでいた。


僕が最初に見た光景は、"僕"が"僕"を刺している光景だった。


草を掻き分け進んだ先でいきなり飛び込んできた奇妙かつ異常な光景に、守るという決意が一瞬、吹っ飛んだ。
102名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 00:28:16.14 ID:AWfyellF0
しえん
103名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 00:28:31.56 ID:LA0wjMaH0
しえん
104階段を上り第五幕  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/08(土) 00:30:03.97 ID:S1zukaOFO
僕の姿をした誰かが左胸から、武器のような何かを抜き出せば、もう一人の僕の姿をした誰かが木を背にしてズルズルと落ちていく。

そしてその僕は、どこかで見たことがある煙に包まれその姿を変えていく。



ピンク色の長い髪、純白のワンピース。



───さっそく、また、守れなかった。



呆然、放心。
今の自分にはその言葉がぴったり当てはまる。
105名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 00:30:20.64 ID:LA0wjMaH0
しえん
106名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 00:31:27.15 ID:LA0wjMaH0
しえん
107名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 00:32:11.16 ID:AWfyellF0
しえん
108階段を上り第五幕  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/08(土) 00:32:24.06 ID:S1zukaOFO
「やっぱ人間は人間だよなあ」


口を開いたのは、視界に映る僕であった。

こちらを振り返ることはせずに、僕に背を向けたまま"僕"は喋り始めた。



「しかも素人じゃあ……飛んでくる2つのものに同時に反応なんて出来ねぇよな」


淡々と、感情が備わっていない声で"僕"は喋る。

その視線の先は、シンシアが寄りかかっている木に向かっている。


「カラのサックブン投げて───油断したところを、こう、ザクッとね。
 アンタ、体丈夫すぎるぜ、使えねえ右腕使わなきゃ殺せなかった」
109名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 00:32:33.72 ID:LA0wjMaH0
しえん
110名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 00:34:30.67 ID:LA0wjMaH0
しえん
111階段を上り第五幕  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/08(土) 00:35:07.48 ID:S1zukaOFO
そこでようやく、"僕"はこちらを振り向いた。

感情の無かった声とは裏腹に、その表情には歪んだ笑みが張り付いている。



「ん? ──悲しいか? 勇者サマ」


楽しむように、聞いてきた。

僕はその質問に答えられない。
答えは決まっている──"はい"だ。


先ほど乗り越えた筈のその感情は、今自分が何故耐えられているのか不思議なほどに辛いものだ。



「キミは」
112名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 00:36:34.98 ID:LA0wjMaH0
しえん
113名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 00:37:07.79 ID:LA0wjMaH0
しえん
114名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 00:38:24.34 ID:LA0wjMaH0
しえん
115階段を上り第五幕  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/08(土) 00:39:06.01 ID:S1zukaOFO
ようやく返せた言葉は、質問に対する返答になり得ない言葉だ。


腹の底から絞り出すように、端から見れば笑われてもおかしくないであろう酷い声で"僕"に問う。



「何が、したいんだい?」


それは寧ろ、自分に問うべきようなものである。

何を聞いているんだか、と脳内でもはや希少となった冷静な部分が呆れ果てた。


問うた本人が意味を理解していないのだから、問われた者はそれ以上に呆れてもおかしくはないのに、"僕"は眉一つとして動かさない。
116名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 00:40:03.56 ID:LA0wjMaH0
しえん
117名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 00:41:06.91 ID:LA0wjMaH0
しえん
118名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 00:42:58.37 ID:LA0wjMaH0
しえん
119階段を上り第五幕  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/08(土) 00:43:03.92 ID:S1zukaOFO
やがて"僕"は歪んだ笑みを微笑に変えて、まるで僕のような表情で口を開く。



「生き残りたい、生きたい。
 んで────幸せになりたい」



その言葉に驚愕するのは僕の方。

目を見開いた僕のことなどお構いなし、という風に"僕"は穏やかに話を進める。



「勇者サマには関係ないお話かも知れないがね、魔物ってのはなかなか不幸な生物だったりするんだよ」


空を仰ぎ、太陽光など降り注ぐ筈もないのに"僕"は眩しそうに目を細める。
120名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 00:44:14.70 ID:LA0wjMaH0
しえん
121階段を上り第五幕  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/08(土) 00:46:37.92 ID:S1zukaOFO
話は続く。



「いつだってどこだってそこだってあそこだって、どいつだって無駄に必死になってやがる。
 上司に逆らうと死ぬからな、例外なく。
 情なんて払ってくれやしねぇ、軽く魔術とか使われてポンって死ぬ」


ひひひひひ、と声を上げて"僕"が笑った。

流石に笑い方は違うようで、そしてその笑い方にひどく安心してしまう。

自分が、僕が"ロッシュ"なんだと確認出来る。


話は続く。
122名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 00:48:07.51 ID:LA0wjMaH0
しえん
123階段を上り第五幕  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/08(土) 00:49:04.74 ID:S1zukaOFO
「貶しあい、落としあい、友情を育むフリをして騙しあい。
 ほら、勇者サマ。もしもアンタの上司がこれの主催者の……なんつったっけ?デスカーン?違う?
 …………そうそう、デスタムーア。アイツだったらどうする?
 あんな無茶苦茶な強さ持ってる奴にわざわざ刃向かうか?」



まぁ俺の上司は変態竜なんだけどな、と付け加えて"僕"はまた笑う。



話は続く。



「人間からは迫害されるし、一族の中に安心出来る場所とか存在しねぇし、本当魔物はドコへ行けば幸せになれるんだろうねぇ」
124名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 00:49:35.88 ID:LA0wjMaH0
しえん
125名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 00:50:58.48 ID:LA0wjMaH0
しえん
126名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 00:51:36.24 ID:LA0wjMaH0
しえん
127階段を上り第五幕  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/08(土) 00:53:08.67 ID:S1zukaOFO
空から視線を外した"僕"が、再びシンシアと彼女の未来を奪った杖を交互に眺めた。



話は続く。



「人間を殺して得られるのは快楽であって幸福じゃない。
 誰かの上位に立って得られるのは悦楽であって幸せじゃない──

 これが俺の持論。理解しなくてもいいさ。

 要はさ、魔物って存在は全員一貫して幸せになる方法を存じ上げないんだわ」



そう言って、僕の目を覗き込んだ"僕"こと魔物は、穏やかな表情のまま再び僕に問う。
128名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 00:53:15.08 ID:LA0wjMaH0
しえん
129階段を上り第五幕  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/08(土) 00:56:05.60 ID:S1zukaOFO
「なぁ、勇者サマ」

「人間って、幸せか?」


「そうだねぇ、魔物くん」

「そこそこには、幸せだろうよ」


「そうか」


その返答をどう思ったのか、魔物はそう言ったきり黙ったままである。


そして、次に喋り始めるのは──自分の番。

"幸せだ"、なんて言った瞬間、頭の中に縛り付けられていた何かが溢れ出してしまったような気がした。

どうも、止まりそうにない。


「現実は結構な頻度で敵だけどさ、それなりに生活は安定しているし、戦う力が無いなら傭兵とか流れ者に頼めば平和だし」
130名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 00:56:49.27 ID:LA0wjMaH0
しえん
131名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 00:58:23.20 ID:LA0wjMaH0
しえん
132階段を上り第五幕  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/08(土) 00:59:06.37 ID:S1zukaOFO
その点でいえばレイドックはかなり平和な方か。

物価も大きく変動することはないし、国の稼働が困難になるようないざこざも存在しない。



…………あー、父さんと母さん元気かなぁー


話を続ける。



「ただ貧民となったら話は違うんだけどさ、あーでも畑仕事とかは慣れてくると楽しくなってくるものだよ。
 自分が端正込めて作った作物が実をつけた時とか涙ものなんだよねぇ」
133名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 01:00:18.14 ID:LA0wjMaH0
しえん
134階段を上り第五幕  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/08(土) 01:01:13.36 ID:S1zukaOFO
ライフコッドで過ごした日々は、城の中での暮らしと比べれば刺激的だった。

きっと自分には、城で民のために働くよりもあんな風にのんびりした生活を過ごす方が似合っている……というか、好きだ。


あぁ、そういえばターニアは元気にしているだろうか。

たまには城に遊びに来て「ロッシュお兄ちゃん」なんて言ってくれても構わないのに。



話を続ける。
135名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 01:01:40.85 ID:LA0wjMaH0
しえん
136階段を上り第五幕  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/08(土) 01:04:15.97 ID:S1zukaOFO
「世界が危機に陥ったとしても"勇者"が大抵は救ってくれるからさ。
 最初は疑う人たちも力を見せたらすぐに態度変えて頼ってきたり……魔物討伐とか、嫌になるぐらい頼まれてきたからね。もっと平和な頼みごとがいいよ」



みんなそれだけ切羽詰まってるってことなんだけどさ。

でも平和になった途端"勇者"に対する頼みごととか無くなっちゃうしねぇ。

いや、平和でいいんだけど王子って認識されて、変な奴らにデレデレされて、寧ろ僕はライフコッドに帰りたいというか。
137名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 01:04:28.97 ID:LA0wjMaH0
しえん
138名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 01:07:06.43 ID:LA0wjMaH0
しえん
139階段を上り第五幕  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/08(土) 01:07:09.79 ID:S1zukaOFO
帰れやしないんだけどさぁ


話を続ける。



「使い捨て勇者だからいらなくなったら捨てられるし……
 一番困るのは大切な人との別れだよね、寿命とかはどうしようもないし。
 引き離されたりしたらもう死んでやるー! って変なやる気だしちゃったりとか」


魔物は人間よりも長寿だ。
人間よりも早く理不尽な別れが訪れることは少ないのだろう。

いや、同種すら信じられないらしいからそんな別れが存在しているのかすら疑わしいんだけどさ。
140名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 01:07:42.87 ID:AWfyellF0
しえん
141名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 01:08:40.35 ID:9xZMPJpF0
 
142名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 01:08:46.47 ID:LA0wjMaH0
しえん
143名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 01:09:11.09 ID:l45HE9bp0
     
144名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 01:10:04.05 ID:9xZMPJpF0
 
145階段を上り第五幕  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/08(土) 01:10:09.19 ID:S1zukaOFO
話は一体そこで区切り、少し気になっていたことを魔物に聞いてみる。



「で、さ。僕を殺さないの?」


僕の話を大人しく聞いていた魔物に対する、当たり前の疑問。

シンシアを殺しているし、先ほどの話からするに今更"すんません良心が痛んでしまって"なんて流れにはならないだろう。


それに足の骨折にも気付いているはずだ。
殺そうというならばさっさと殺している筈なのに。




「…………自殺宣言か?」

「冗談、バカなの、死ぬの?」

「冗談、お前殺すと俺があのおっかない魔物に殺されんじゃねーか」
146名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 01:11:03.71 ID:9xZMPJpF0
 
147名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 01:11:40.48 ID:9xZMPJpF0
しえん
148名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 01:12:02.97 ID:LA0wjMaH0
しえん
149階段を上り第五幕  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/08(土) 01:13:16.39 ID:S1zukaOFO
震えて肩まで竦めてみせる魔物は、どうやら心の底からデュランを恐れているようだった。

人間の自分から見ても彼はかなり異質だがどうやらそれは同族も同じ、か。


「拾った音からするに俺はあの魔物には勝てねえよ、死にたくないっつったろ」


僕はどうやらデュランによって生かされたらしい。

……………………あんな守護神いらないよ。
これも勇者の運命でしょうか、いいえ(強者ならば)誰でも。


「個人的にはお前たちで相討ちでもしてくれりゃあ大満足、そこのところお願いできないかねえ?」
150名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 01:14:52.09 ID:nx2VUAg40
 
151名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 01:15:04.24 ID:LA0wjMaH0
しえん
152階段を上り第五幕  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/08(土) 01:15:26.13 ID:S1zukaOFO
「あー、ほら、僕ってば職業:ゆうしゃだからさ、勇者っていえば魔物に勝つのが仕事だろ? だからそういうのはちょっとね」



そんな僕のセリフに魔物が吹き出し、腹を抱えて笑い出す。

目尻に涙を浮かべてまで爆笑する魔物は、僕の目からはかなり滑稽に映った。


「勇者サマはよぉ」

魔物が笑いながら問う。

「勇者、やめてぇの?」


何の飾りもなく、偽りもなく、普通に笑いながら友人に問うような気軽さで発せられた言葉は、僕の思考を一瞬だけ止める。
153名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 01:16:46.31 ID:l45HE9bp0
     
154名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 01:17:08.10 ID:/cVlqfRK0
しえん
155階段を上り第五幕  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/08(土) 01:17:09.91 ID:S1zukaOFO
 人は愚かだ。
勇者と王子、どちらも人から疎まれる役職をこなしているからには悟ってしまう。

笑顔の裏に隠されたドロドロした感情なんて───知りたくなかったというのに。




「僕が、勇者さ」





宣言する。

誰かが勇者であるのに、他人の感情は必要ない。

要するに自分が誰かを守りたいと思ったか、それだけなのだ。
僕は────世界が、好きなんだ。


「そうか ひひひっ、頑張れよ」


勇者の皮を被った魔物は、あーあ、結局アンタも幸せ者じゃねーかだなんて言葉を投げ捨てて嘲笑った。
156名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 01:17:53.06 ID:LA0wjMaH0
しえん
157階段を上り第五幕  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/08(土) 01:18:53.35 ID:S1zukaOFO
◇◇



影の騎士が去ってもロッシュはそこから動かない。


涙はさ、擦るから痕が残るんだよ。目赤く腫れちゃって、綺麗じゃないだろ?
 辛いことがあったらさ、擦って耐えたりなんてしないで、何もしないままでいればいい。中途半端に耐えるから、痕が残るのさ。

 大丈夫──スッキリしたら、また先に進めるさ
158名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 01:20:11.23 ID:LA0wjMaH0
しえん
159階段を上り第五幕  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/08(土) 01:22:09.31 ID:S1zukaOFO
世界が好きだから、共に居たいと思える友人がいるから───その死を悲しむな、なんて最初から無理な話だったのだ。

シンシアの死もハッサンの死ももょもとを止められなかったこともレックスを守れなかったこともみんな纏めて──悲しんでやる。
そして背負おう。
そうさ──もう逃げてはいられない。


「"勇者"だなんて名乗った以上、ぶっ壊してやるさ」



お願いします、だから今だけは
泣かせてください





【シンシア@DQ4 死亡】
160名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 01:22:47.27 ID:nx2VUAg40
 
161名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 01:23:14.72 ID:LA0wjMaH0
しえん
162階段を上り第五幕  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/08(土) 01:23:46.66 ID:S1zukaOFO
【F-8/北部/真昼】

【影の騎士@DQ1】
[状態]:HP8/10、変化、千里眼、地獄耳、右腕負傷
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式(ランタンなし)、変化の杖@DQ3
[思考]:闇と人の中に潜み続けて、戦わずして勝ち残る。
     争いを加速させるためあらゆる手段で扇動する。
[備考]:変化の杖でロッシュの姿に変化しています。持続時間は不明です。
千里眼の巻物により遠くの物が見え、地獄耳の巻物により人の存在を感知できるようになりました。
範囲としては1エリアほどで、効果の持続時間は不明です。


【ロッシュ@DQ6】
[状態]:HP2/10、MP微消費、強い全身打撲、片足・肋骨骨折
[装備]:はじゃのつるぎ@DQ6
[道具]:支給品一式 、不明支給品(確認済み×0〜2)
[思考]:デュランとバラモスを止める 前へ進む
163 ◆YfeB5W12m6 :2012/12/08(土) 01:25:58.27 ID:S1zukaOFO
投下終了です。
支援ありがとうございました。
164 ◆YfeB5W12m6 :2012/12/08(土) 01:39:29.81 ID:S1zukaOFO
申し訳ありません、状態表記を間違えてました

【影の騎士@DQ1】
[状態]:変化、千里眼、地獄耳、右腕負傷
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式(ランタンなし)、変化の杖@DQ3、メタルキングの槍@DQ8、シンシアの支給品

に変更します。
165名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 01:56:24.83 ID:GODgEwvVO
なんかすごい好きだ。この話
うまく言えんけど
影の騎士がいい味出てる

投下乙です
166名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 02:26:51.47 ID:LA0wjMaH0
投下乙です!
ああ、シンシア……
能力はあっても、それを使いこなせなければ生き残れない……か。
そして、キルカウントを稼いだ影騎士、どうなるやら。
人間と魔物の考え方の違いも、ズシっと来ますね。

さて、DQ1stWikiですが各話間リンク、外伝、簡易追跡表などなど諸々の復元、作成が終了いたしました。
http://w.livedoor.jp/dqbr1/
協力してくださった皆さん、本当にありがとうございます!
167名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 14:24:39.17 ID:lCMsvY0cO
投下乙です。

勇者を魔物から守ったのは魔王。
これ以上の皮肉があろうか。
168名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/08(土) 19:07:09.07 ID:nx2VUAg40
投下乙です
影の騎士のシニカルな雰囲気に、ロッシュがかっちりハマって、絶妙な空気が出来上がったなあ
とっても面白い問答だった
ロッシュが三人いたって想像すると結構シュール、二人まではゲームでも見れるけども

そしてシンシアは乙、これで4勢からも死者が出たか・・・
169名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/12(水) 05:16:23.08 ID:HR8M1BMG0
なんかいい
なんかいいとしか言えないけど、幸せになれない魔物となんだかんだで幸せな勇者の会話がいいな
静かだ
170名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/16(日) 19:12:52.26 ID:HzmjKhAIO
支援動画(?)作ってみました
かなり重い上どこにUPしていいかわかんなかったのでようつべですがorz
なんか問題あったら言ってください…

ttp://youtu.be/E13bvw9H69s
171名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/16(日) 21:02:22.08 ID:7wpA79FV0
あなたが神か…
172名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/17(月) 13:29:51.52 ID:CbkscQth0
す、すげえ……
なんというかすげえしか出ない……
セリフのチョイス、組み合わせ、場面にぴったりのイラスト。
本当に感無量です、製作お疲れ様でした。
173 ◆CruTUZYrlM :2012/12/20(木) 23:25:13.43 ID:IaToMi9n0
投下します
174 ◆CruTUZYrlM :2012/12/20(木) 23:26:35.69 ID:IaToMi9n0
.




はじめからそんなものなどなかったのだ。




.
175 ◆CruTUZYrlM :2012/12/20(木) 23:28:54.82 ID:IaToMi9n0
失敗した。
自信満々に飛び出していったアリーナを、なぜ一言でもいいから止めなかったのか。
気がついたときには既に、彼女は声が届かないほど遠くへ行ってしまっていた。
追いかけようにも今の疲弊しきった体では、とてもじゃないが追いつけない。
視界から彼女を見失わないギリギリの距離を保つのが精一杯で、これ以上距離を詰めようものなら肝心の用件を伝える事なく倒れてしまうだろう。
この地において、体力を温存せずに使いきるのは愚策中の愚策。
いつ、どこで、誰が襲ってくるかわからない状況、できる限り体力は温存しておきたい。
かといって、今すぐ休息を取ろうものなら彼女の足取りが分からなくなってしまう。
一直線に進んでくれているならいいのだが、先ほどのように何かの拍子でとんでもないところで曲がったりするかもしれない。
気を抜けばすぐにでも視界から消えてしまいそうな彼女の動向を、なんとか掴むためにも視界に写るギリギリの距離は保たなくてはならない。
「なんとか引き返してくれないかしら……」
そんな事をつぶやきながら、ミネアはアリーナの後ろを追い続けた。



苛々する。
浮ついていた自分の所為とはいえ、人間に奇襲をかけられ翼を失ったというのはあまりにも屈辱的だった。
本当は吹き飛んだ先まで追いかけ、息を止めてなおも拳を叩きつけたい所だった。
しかし、今は牢獄の町へ向けて北上の最中である。
下手に別方向へ向かえば、リアの信用を失いかねない。
少なくともグラコスよりも有能な彼女という手駒を、そんなくだらない事で失うのはバカバカしい。
一撃で与えた傷はかなり深い、放っておいても息絶えるだろうと判断し、リアの信用を優先してその場を立ち去った。

サマルトリアの王子カインを労無く殺すには、彼女の協力が必要不可欠だ。
そして何より、彼女がいれば道中で人の血を啜る事もできる。
小さな子供というのはいつだって便利な人質だ。
わざと助けさせて、先ほどの妖精を殺したときのように彼女に殺させるというのも手だ。
上手くやれば、お互い負傷もなくたくさんの命を奪うことができる。
そして、リアを操るのも「兄」というキーワードがあれば容易。
こうして改めて手札を考えてみると、笑いが止まらない。
殺し合いの終盤に、このジャミラスが君臨するのはほぼ約束されているからだ。
今はとにかくリアを利用し、この殺し合いに貢献することが重要である。
目指すは、牢獄の町。
176 ◆CruTUZYrlM :2012/12/20(木) 23:30:30.89 ID:IaToMi9n0
.
「魔物さん」
そのとき、リアの声がジャミラスに届く。
「右、行って」
その声は先ほどの浮ついた声ではなく。
冷酷な魔王を髣髴とさせるような、低く落ち着いた声だった。
「ほう? 牢獄の町を目指さなくてよいのか?」
「いいから、行って」
リアの姿勢は変わらない。
何があったのかジャミラスには分からないが、初めて見せる凛とした声からは"何か"があったのだと感じさせる。
「ふん、まあお前がそう言うなら構わんがな」
あの男を吹き飛ばしてから、空を飛んでいただけの今に至るまで何があったのかは分からない。
だが、それはジャミラスにとってはどうでもいいこと。
結果として人間の命を奪うことが出来れば、それでいい。

その時、視界を横切る一人の人間の姿が目に映る。
リアが方針を変えるほどの何かがあるとすれば、その先にあるのは戦闘だろう。
限りなく事を優位に進めておくに、越した事はない。
「駒を手に入れる、少し寄り道するぞ」
「早くしてね」
フンと鼻を鳴らしながらジャミラスは人影へと向かう。
もう、慢心はしない。
そのために打てる手を全て打ち、万全の体制を整える為。
最初の一手を、打つ。

人影へと襲い掛かるジャミラスの背に乗るリア。
その手元には、きらりと輝く金の飾り。
それを見つめながら、リアは。
177 ◆CruTUZYrlM :2012/12/20(木) 23:31:09.60 ID:IaToMi9n0
状況は五分、いや少し不利か。
相手は竜王と比べれば、流石に劣る魔物だ。
しかし、アレは伝説の武具が手元にあった上での話。
剣一本しかない今の状況に置き換えれば、今は竜王の時以上に厳しい状況かもしれない。
「なんて弱いこと言ってられッ……かよ!」
いや、それは気の持ちようだ。
竜王の時と少し違って、竜王の時と同じ事がある。
待っている女性が居る、これだけは今もあの時も同じだ。
それだけで、アレフという男は戦える。
「そらッ!」
一薙ぎ、数本の鉄の矢が分断される。
そうだ、戦う力は何時だって沸いてくる。
待っている人が居る、たったそれだけで幾らでも沸いてくる。
だが、今回は少し足りない。
この魔物を"分からせる"には、悔しいが今の自分だけでは足りないのだ。
「おい! 騎士様!」
だから、乱入者に頼る。
それは先ほど初めて味わった"協力する"という行為の可能性を見越してのこと。
同じ志を持ったもの同士、心を合わせれば新たな力になるということを、自身で知ったから。
「ちまちま手数で攻めてても状況は変わらねぇ、一発のデカい隙を作れるか?」
槌の一撃をバックステップで華麗に交わしながら、アレフは騎士へと問いかける。
こうして会話をしている間にも、魔神は次の一手を打たんと迫ってくる。
アレフの気迫が先ほどより増していることを察してか、ご丁寧に袋から取り出した新しい剣を携えている。
先ほどようやく一本へし折ったばかりだというのに、こうも簡単に状況を戻されると、流石に気が滅入ってくる。
長引けば長引くほど、不利になるのは自分達の方だ。
「やってみよう」
「頼むぜ騎士様!」
騎士が駆けるのと同じタイミングで、アレフが前線を退く。
入れ替わるように騎士が前線を張り、襲い掛かる剣を受け止める。
金属同士が擦れ合う音が響き、じわりじわりと魔神の剣が騎士に迫る。
騎士の体勢がやや押され気味に傾いたとき、魔神はもう片方の手の星砕きを振るう。
片手に握る盾で受け止めるが、まるで銅鑼を叩いたかのような音が体内に響き渡る。
再び大きく体勢を崩し、両足で立つのが少し厳しくなる。
息をつく間もなく眼前に再び剣が襲い掛かり、流石に防げないかと思ったその時。
「心に宿りし聖母の愛よ、燃え上がる炎となり我が手に宿れ。ベギラマ――――」
アレフの声と共に、右手に真紅の炎が宿る。
178名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/20(木) 23:32:29.59 ID:xkqjNHLr0
      
179 ◆CruTUZYrlM :2012/12/20(木) 23:32:43.85 ID:IaToMi9n0
「――――を、宿した剣をゴミ箱にシュゥゥゥゥゥゥゥウウウッ!!」
いや、正確にはアレフの持っていた"折れた剣"に炎が宿る。
そのまま柄を持って、一直線に魔神へと投げる。
打撃も通りにくい上に呪文は跳ね返されると、一見は完璧な守りのように見える。
だが呪文に関してはあくまで反射壁があるだけで、それそのものに対する耐性があるとは限らない。
ならば、打撃として魔力を叩き込めばいい。
大きな一手を打つには、これしか考えられなかった。
騎士が作った時間を生かして先ほどへし折った剣を回収し、即座に無理矢理魔力を込めて刃が溶け出す前に全力で投げ抜ける。
魔力を持たない物に魔力を吹き込むという慣れない攻撃方法だったが、状況を変えうるにはこれしかなかった。
炎を宿した金属片が、まっすぐ魔神へと向かう。
魔神がそれに気づき、叩き落とそうとする所に騎士の一撃が迫る。
どちらを防ぐべきか、考えるまでもない。
騎士の一撃を胸部で受け止めながらも、槌と剣で炎を弾き落とす。
だが、それも隙を作るための策の一つだった。
「っしゃ行くぜ合わせろよ!」
「応」
炎を弾き落としたとき、既に眼前には炎と共に駆けだしていたアレフの姿。
「即席一人合体剣術、レッド・ラブ・タイフーン!!」
再び手に魔力を込めながら、大きく剣を振り上げ叩き下ろしていく。
「クロスだ」
休む間を与えないように、騎士も連撃に加えていく。
交差する二つの斬撃により、赤き愛の炎が竜巻のように舞い上がる。
鋼鉄の体を焼きながら魔神は空へ舞い、ゆっくりと重力に沿いながら落下していく。
渾身の一撃と極上の魔力に加え、落下のダメージを合わせれば流石に立ち上がってくる余力もないだろう。
そう考え、剣を仕舞おうとした矢先のことだった。
「アレフ、上だ!」
騎士の声に反応し、上を見上げる。
「なっ……!?」
そこには落下しながらも剣を突き立て、確実に自分の方へ迫ってくる魔神の姿。
慌てて飛び退こうとする足を、魔神の尾から放たれし矢が縫い止める。
飛び退くどころか地面に大きく倒れ込んでしまったアレフの胸元をめがけて、魔神の剣が容赦なく迫る。
「クソッ……タレ!!」
万事休す。
受け入れたくない死を拒むように頭を回転させながら、アレフは降り注ぐ破滅を待つしかった。

グサリ。
剣が刺さる。
肉が裂け、血が飛び出し、命を奪っていく感覚。
だがそれは、魔神の手には伝わらない。
代わりに感じたのは体が浮いていく感覚。
景色が地からどんどん離れていき、襲いかかっていたはずの相手がどんどん豆粒ほどの大きさになる。
何がどうなっているのか理解する頃には既に遅く。
ただ、どこかへ飛ばされるしかなかった。
180 ◆CruTUZYrlM :2012/12/20(木) 23:34:27.83 ID:IaToMi9n0
.


「間に合っ……た」
完全に死を覚悟していたアレフは、聞き慣れない男の声に反応して目を開く。
声のする方へ首を向けてみると、そこには紫のターバンの男と、一匹のドラゴンが自分の方を見ていた。
「お、おまえは!!」
そう、ドラゴン。
その姿を見るや否や助けてもらった事も忘れて飛び起き、手に持っていた剣を即座に構えて戦闘態勢に入る。
慌ててターバンの男が両手を挙げ、戦闘の意志がない事を示す。
「わっとと、大丈夫ですよアレフさん。彼女は危害を加えません」
その言葉を聞いてもアレフは戦闘態勢を解かない。
だが、一方のドラゴンは喉を鳴らした後にターバンの男の後ろへと引き下がっていった。
万が一の可能性を頭の隅に置きながら、アレフはゆっくりと剣を仕舞い、もう一つの疑問を投げかける。
「何故、私の名を?」
「ああ、彼女に聞いたからですよ。
 申し遅れました、僕はリュカで彼女はラドンです。ええっと順を追って……」
「あなたがリュカさん!?」
ターバンの男、リュカから飛び出した言葉に思わず質問を重ねてしまう。
即座に警戒を解き、ビシリと姿勢を正して一礼する。
「ビアンカさんからお聞きしています。剣を向けた無礼をお許し頂きたい」
一時的とはいえ、疑いをかけて剣を向けた。
その相手がまさか待ち人の知り合いだったとは、魔物の戦闘で焦っていたとはいえアレフにとっては不覚の出来事だった。
そして、アレフのその一言に今度はリュカが反応する。
「ビアンカに会ったのかい!?」
アレフの口から飛び出た幼なじみの名。
放送で呼ばれなかった彼女の名がここで飛び出るという事は、アレフは彼女に会っているという事。
空っぽに近かった頭の中に質問したいことがどんどんと増えてくる。
その時だ、アレフの側で立っていたサイモンがぽつりと呟いた。
「……何か来る」
その一言を聞いて、サイモンの向く方へ全員が顔を向ける。
一瞬の間を置いて、それは起きた。
181名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/20(木) 23:34:31.18 ID:QIDYiNmo0
 
182遠い記憶に身を任せ ◆CruTUZYrlM :2012/12/20(木) 23:35:30.13 ID:IaToMi9n0
「どおおおおりゃあああああああ!!」
あまりにも突然の事態に、その場にいる誰もが反応することができない。
青いとんがり帽子の少女が超速で飛来し、サイモンの胴の真ん中をめがけて突き刺さるように鋭い蹴りを繰り出して来た。
少女の華奢な体に詰まった全体重をかけた蹴りが、サイモンの空っぽの鎧を遙か彼方へ吹き飛ばしていく。
防御や迎撃をする以前に"まず何が起こったのか"がサイモン当人は勿論、残された三人にもわからなかった。
「よっ……と、速度よし、角度よし、威力よし、うん今回もバッチリね!」
目を見開いたまま固まっているラドン、口をあんぐりとあけたまま立ち尽くすリュカ、そしてひきつった笑いを浮かべるアレフ。
それぞれが頭の中で事態を理解しているうちに、現れた少女は自信満々にリュカに語りかける。
「さ、魔物は吹っ飛ばしたからもう大丈夫だよ……ってもう一匹魔物がいるじゃない!」
リュカの後ろのドラゴンに気がつき、即座にファイティングポーズをとる少女。
「……えーと、あのね、うん」
黙っていれば即刻飛びかかりそうな少女を、全身を使って止めようとするがいい言葉が思いつかない。
「非常に申し上げにくいのですが……今お嬢様が吹き飛ばしになられた鎧の騎士は、私の仲間です」
わたわたと一人で慌てているうちに、ようやく現実に帰ってきたアレフが少女に話しかけた。
「そして、この竜は僕の仲間だよ」
それに続くようにリュカも言葉を重ねていく。
「へぇ〜……へ? え? へ?」
うんうんと頷いて納得していたかのような素振りを見せていた少女が、突如として固まる。
そしてせわしなくその場にいる三者の顔をのぞき込み。
「ええええええええ〜〜〜〜っ!?」
耳をつんざくような絶叫と共に、三者のため息が同時に漏れた。
183遠い記憶に身を任せ ◆CruTUZYrlM :2012/12/20(木) 23:36:23.12 ID:IaToMi9n0
.


リュカは半ばパニックに陥っていた少女をアレフと二人掛かりで宥め、改めてざっくりとした概要を語った。
リュカとラドン、アレフとサイモンが仲間であること。
アレフとサイモンが本当の魔物と戦っていたこと。
その魔物からアレフを救うために、ルーラ草でとりあえず窮地を救ったこと。
そこに少女、アリーナが突っ込んできた事。
起こった出来事を、起こった順番にしっかりと説明していく。
途中、混乱を与えない為と、万が一の可能性を考慮して、ラドンにはサイモンの吹き飛んでいった方向へ探索をしてもらうことにした。
「ほんっっっっっっとーーーーにごめんなさい!」
リュカから大体の事情を聞いた少女は、先ほどからこの調子で二人にペコペコと謝り倒している。
「いえいえ、お気にすることはありません。
 誰しも間違いやミスはあるものですよ」
涙を目に浮かべる少女に、アレフがにこやかな笑顔と共に手をさしのべる。
アレフの手に引かれるようにアリーナが着席したのを確認し、リュカが会話を始めていく。
「じゃあ、ラドンたちが戻ってくるまで軽めの情報交換でもしようか」
その一言をきっかけに、アレフとリュカの口からいくつかの情報が語られ始めた。
よい心を持つ魔物がいるという点について労なく理解を得られたのは大きかった。
アリーナはライアンからホイミンの話を聞いており、アレフはローラ姫から「目付け役のドラゴンにとても良くしてもらった」ということを聞いていたらしい。
そこに理解を得られれば、リュカが魔物と会話できるという事も、ラドンからアレフの人となりを聞いていたことも簡単に説明ができる。
特に突っかかりもなく説明を終えることができたリュカは、思わずほっと一息ついてしまう。
次に続いたのはアレフ。
この場にたどり着いてから真っ先にビアンカに出会ったことから、なぜキラーマジンガと戦っていたのかを掻い摘んで語る。
アレフ視点で語られる内容なので、ビアンカを始めストーキングしていた事や、バーバラのパンツを見て柄をしっかり記憶していることなどは、語られなかった。
幸い、そのあたりはリュカにとってはわりとどうでもいい情報だった。
ともかくビアンカは、リッカという腕を負傷した少女、そしてバーバラという魔法使いの少女と共に北の牢獄の町にいるということがアレフから語られた。
二人が考えたのは、キラーマジンガという魔物の危険性だ。
先ほどは突然の出来事と判断で窮地を脱したが、それはあくまで一時的なこと。
どこかへ転移していったという事は、いずれまた合間見える可能性があるという事だ。
ひょっとすると、もう転移先で殺戮を繰り広げているかもしれない。
「ちょっとマズったかも……ね」
「深めの傷は与えておいたのですが……不安ですね」
それぞれの頭に最悪のケースが思い浮かぶ。
両者共に同じタイミングで頭を横に振り、嫌なイメージを振り払う。
184名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/20(木) 23:37:06.60 ID:xkqjNHLr0
        
185名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/20(木) 23:37:31.74 ID:JuEAutqA0
 
186遠い記憶に身を任せ ◆CruTUZYrlM :2012/12/20(木) 23:37:49.18 ID:IaToMi9n0
「ところでアリーナ、君は?」
二人の話にすっかり聞き入ってしまっていたアリーナが、自分に話を振られて我に返る。
「あ、えっとね。私はサントハイムの王女、アリーナ。
 ここに来てからアンジェとミネアっていう――――」
そして、そこで思い出す。
「ああああああ!!」
何度目かの絶叫、さすがに察知できるようになったのか二人はあわてて片耳を塞ぐ。
「ミネア! いっけない! 置いて来ちゃった!
 話聞いてたらそもそもこっちは南じゃないっぽいし、アンジェも助けに行かないといけないし……あああああ!! もう!!」
一人で話を広げ一人で話を完結させていくアリーナを見て、思わず二人は苦笑いで向き合ってしまう。
その時、アレフの目線の先、リュカより少しだけ遠くに小さな人影が見えた。
「女の子……?」
確認するように目を細め、目を凝らしていく。
リュカとアリーナもそれに反応するようにアレフの視線の方へと振り向いていく。
そこには小走りでこちらに向かってくる、金髪の少女。
ただの少女ならば、三人も特に気には止めなかっただろう。
だが少女は、少なくともまともでは無かった。
小さな体を覆い尽くすように、赤で塗りつぶされていたからだ。



全身に血を浴びながらも元気にこちらへ向かってくる少女の姿に、アリーナとリュカは唾を飲み込む。
それが他人の血であることは明らかなのだが、その血を浴びるに至った経緯がわからない。
身を挺して誰かが彼女を守ったか、すでに人を殺しているか。
前者だとすれば助けを求める無垢な少女の姿にしては、あまりにも落ち着きすぎている。
ならば後者か? いや、あの小さな体でどうやって人を殺すというのか?
リュカの頭で考えが堂々巡りする内に、少女はアレフでぴたりと足を止めた。
「どうしましたか、お嬢さん」
アレフは物怖じすることなく片膝をつき、少女と同じ目線に合わせていく。
女性ならば老若問わずに平等に優しく接するのがモットーのアレフのスタンスは、ここでも崩れることはない。
ちらりとリュカの方を向き、大丈夫だという合図を送る。
「アレフガルドを救ったロトの末裔、勇者アレフとはあなたのことですか?」
嫌に落ち着いた声で、少女はアレフに問いかける。
その目はアレフを見つめているようで、どこか遠くを見つめているようでもあった。
しかしそんな彼女の様子など気にすることなく、アレフは胸を張って少女の問いかけに答えていく。
「いやはや、お恥ずかしい。勇者と呼ばれるほどの者ではございませんが、確かに私がアレフです」
そう答えるアレフの顔は、嬉しくてたまらないというのがリュカでも分かるほど鼻が伸びていた。
そしてアレフはそのまま少女に語り続ける。
187名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/20(木) 23:38:19.24 ID:JuEAutqA0
 
188遠い記憶に身を任せ ◆CruTUZYrlM :2012/12/20(木) 23:38:32.26 ID:IaToMi9n0
「大丈夫ですよお嬢さん、このアレフのそばにいればお嬢さんの身の安全は私が保証しま」
言葉が途切れ、時が凍る。
「しょう?」
アレフの胸元に、一本のナイフが刺さっていたからだ。
そのナイフを握りしめているのは、血塗れの少女。
何が起こったのか分からないと言う表情のまま、アレフは崩れ落ちていく。
「アレフ!!」
「動くな!!」
あわてて駆け寄ろうとしたリュカとアリーナの足を止める、もう一つの声。
それに反応するように振向くと、三つ目の魔鳥がそこに立っていた。
「いや、違うな。別に動いても構わん、この女の命が惜しくないのならばな」
その一言と共に、魔鳥は隠していた片手を掲げるように前に出す。
握り締めた拳にぶら下がる一人の女。
紫の髪、少し裂けた占い師の服、生々しい切り傷、所々青く変色している肌。
そんな生きていられるギリギリの姿の、ミネアがそこにいた。

「に、げて」
手放してしまいそうな意識の中、力を振り絞ってミネアはアリーナに警告する。
その瞬間、魔鳥の手によってミネアの体がズイっと引き寄せられる。
「ほう、まだ意識があったか」
ミネアと目線を合わせ、舌なめずりをしながらその体を見渡す。
そして何かを閃いたような笑みを浮かべながら、再びリュカとアリーナの方へ向き直る。
「貴様等にチャンスをやろう」
空いている片腕でアリーナとリュカを指さしながら、魔鳥は宣言する。
「殺し合え」
思わず、息を飲む。
驚愕の表情に染まる二人を見て、笑顔を作りなおして魔鳥は言葉を続ける。
「己の全てを出し尽くし、互いに殺し合え。
 戦いの末どちらかが死ねばこの女も解放してやるし、あの男の元に駆けつけるのも許そう」
人間同士での命の奪い合い、残酷かつ魔物らしい条件が提示された。
だが、その先にある報酬も確約されたものではない。
むしろそれは罠だと分かりきっている。
だが、彼らは決断するしかない。
ミネアの命と引き替えにアレフを救うか、どちらかの命と引き替えにミネアとアレフを救うか。
誰かが、死ぬ。
避けられない現実が、目の前にある。
早く決断をしなければ、アレフはあの少女の手によって殺されてしまう。
焦りと苦悩が、二人の思考を覆い尽くす。
189名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/20(木) 23:38:37.63 ID:QIDYiNmo0
 
190名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/20(木) 23:38:48.41 ID:xkqjNHLr0
sien
191名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/20(木) 23:39:08.82 ID:JuEAutqA0
 
192遠い記憶に身を任せ ◆CruTUZYrlM :2012/12/20(木) 23:39:42.29 ID:IaToMi9n0
「ああ、手を抜いたり途中で妙な動きを見せれば、この女が苦しむ姿を見ることになるぞ」
奥歯を擦り潰すかのように力強く噛みしめる両者に、魔鳥は言葉を続ける。
そして二人の反逆を防ぐため、見せしめという釘を差す。
「がああァアァァァッ!!」
魔鳥の指がミネアの法衣を突き破り、ずぶりと横腹を引き裂いていく。
人間の顔ほどの太さの指が、ミネアの腹の中で暴れ回る。
血と嘔吐物が混じったモノをまき散らしながら、ミネアが身を揺らしながら泣き叫ぶ。
「まあ、こんな風にな……ああ、安心しろ。
 貴様等のお得意の回復魔法で治る程度には、抑えておいてやる、死なれると私も困るのでな。
 どうした、早く決断せぬとあの男が死ぬぞ? それでもいいのか?
 あの男が死ぬのを黙って見ているというのならば、止めはせぬがな」
なんとも魔物らしい下品な笑い声と共に、魔鳥は勝ち誇る。
誰かが救われるには、誰かが死ななければいけない。
「リュカさん」
その時、アリーナがリュカの名前を呼び。
「私を殺して」
衝撃の一言を、いとも簡単に言い放った。
リュカが再び驚愕の表情に包まれ、魔鳥の眉が動く。
「私が生き残っても、アレフさんもミネアも癒せない。
 でも、リュカさんは魔法が使えるんでしょ? それに探してる人だっている。
 だったら、私が一人死んだ方がいい。私が一人死ぬことで、二人とも助かるならそれでいい」
アリーナは戦闘の天才だ。
本能で置かれた状況から最善の手を弾き出し、戦いの流れを作ることでソフィア達の旅を支えた。
そして、今の状況の最善の一手は自分が死ぬことだ。
ここでリュカを殺してまで生き残ったところで、傷ついた二人を癒す力など自分にはない。
ならば自分が犠牲になることで消費を抑え、二人を救ってもらえばいい。
死にたくはない、死にたくはないがこうするのが一番良いのだ。
ミネアには姉が、リュカには家族がいる。
やるべき事がある二人が生き残るべきだ。
自分には――――もう、そんな人はいないから。
だから、自分が死ぬのが一番良い。
本能が一瞬で弾き出したこの最善手に、自分の感情を少しだけ加える。
「もう、友達が苦しむのをこれ以上見たくないから」
下手に動けば、ミネアが傷つく。
ようやく手に入れた"友達"という大切なもの。
それが今、魔物の手によって踏みにじられようとしている。
耐えられない、心がギュっと締め付けられるように痛い。
だから、下手に動いてこんな痛みを味わうくらいなら。
それを知らずに死ねる道を選ぶ、それだけのことだ。
「ね、それでいいでしょ――――」
193名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/20(木) 23:39:47.00 ID:JuEAutqA0
 
194遠い記憶に身を任せ ◆CruTUZYrlM :2012/12/20(木) 23:40:52.82 ID:IaToMi9n0
提案のために魔鳥の方を向き、言葉を失う。
「――――あがッ」
声になり得ない声と共に、巨大な血塊を吐き出す。
ほぼ同時に弓なりにミネアの体が仰け反る。
「美しい、とても美しい自己犠牲だな。吐き気がする」
魔鳥は冷めた顔のままアリーナを見つめ、口を開く。
空いた片手に赤く染まったミネアの肋骨を持ちながら、淡々と語り続ける。
「私が望んでいるのは殺し合いだ、貴様等が互いに殺し合う事を望んでいる。
 どちらかが命を差し出すことなど、望んではいない」
魔鳥が主に命じられているのは殺し合いの促進である。
友情の行き着く先にある、自己犠牲の精神が主役の耽美な小芝居を見たいわけではない。
「言っただろう、手を抜けばこの女の命はないと。
 分かったのならば、早く殺し合え。
 さもなくば……あの男もこの女も死ぬぞ?
 あの男が生きているうちに、早めに決断することだな。
 まあ、あの男が黙って死ぬのを見届けるというのならば、それでも構わんがな」
リュカとアリーナ、両者の目に映るようにへし折ったミネアの肋骨を投げ捨て、最初の条件を提示し直す。
殺し合うか、アレフが死ぬのを黙って見つめているか。
選択肢は、二つしかない。
「クソッ……」
歯が擦り切れそうなほど力を込め、歯ぎしりをする。
もはや打つ手なし、誰かが死ぬのを選ぶしかない。
そう、思っていたとき。



一陣の風が、吹いた。


.
195名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/20(木) 23:40:53.87 ID:x/LLqC/p0
  しえn
196名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/20(木) 23:41:27.35 ID:JuEAutqA0
 
197名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/20(木) 23:41:30.34 ID:xkqjNHLr0
sien
198遠い記憶に身を任せ ◆CruTUZYrlM :2012/12/20(木) 23:42:19.46 ID:IaToMi9n0
ラダトーム王女、ローラは救出された日に旅人へ一つの贈り物をした。
それは、王女の愛の結晶とも呼べるモノだった。
どんなときであろうと、王女の愛が籠もったその飾りは勇者アレフとローラを一本の線で結ぶように、方角を示していた。
そして王女の愛は、勇者ロト一族の栄光の中の一つの話として後世に語り継がれ続けた。
時を越え、ある一人の少女にもこの話は語り続けられた。
幼き頃から何度も何度も、骨の髄まで刷り込むかのように読み聞かせられた。
だから少女は覚えていた、いや覚えさせられていた。
兄を苦しめる要因となった、ロトの血筋の話を。
さらに時を越え、少女の手に一つの飾りが握りしめられる。
何度も何度も読まされた伝記に描かれたとおりの形、忘れるはずもないモノ。
ローラ王女の愛、そのものだった。

王女の愛は愛を込めし王女の方角を指し示す。
同時に、飾りの中の王女は思い人の方角を指し示す。
これも、伝記の中に描かれたとおりだった。
「見つけた……」
だから彼女は、その愛を使って一人の男を見つけだすことが出来た。
かつてアレフガルドを竜王の魔の手から救い、世界を旅しながらロトの血筋を各地に残した原因。
勇者アレフ、憎むべき存在を。
「見つけた……!!」
ロトという血筋を生み出したのは、闇に包まれていたアレフガルドを救った勇者ロトその人だ。
しかし自分が生きる世代までその血筋を明らかな形で残したのは、その末裔であるアレフだ。
伝記が正しければ、アレフは一介の旅人にしか過ぎなかった。
もし、彼が勇者ロトの末裔であるという事を明かさずに過ごしていれば。
もし、彼がロトの血筋という呪われた血を残さなければ。
もし、彼が世界を救っていなければ。
もし、もし、もし、もし、もし。
伝記上でしか知ることの出来ない、忌々しい先人。
幸か不幸か、この殺し合いに巻き込まれることで出会うことが出来た。
いざ面をつきあわせれば、兄が苦しまずにすんだ可能性が
次々に浮かんでくる。
終いに自身の存在の否定にまでたどり着くが、そんなことを気にしている場合ではない。
兄を苦しめるに至った血筋。
兄を苦しめるに至った環境。
兄を苦しめるに至った運命。
その全てを作ったのは、目の前にいる男なのだ。
目の前の男のせいで、目の前の男のせいで。
兄は、苦しんでいるのだ。
199名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/20(木) 23:43:11.64 ID:JuEAutqA0
 
200名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/20(木) 23:43:44.63 ID:QIDYiNmo0
 
201名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/20(木) 23:43:45.37 ID:JuEAutqA0
 
202遠い記憶に身を任せ ◆CruTUZYrlM :2012/12/20(木) 23:43:50.09 ID:IaToMi9n0
「全部、貴方のせいなんだよ」
少女、リアは伝説の勇者へと語りかける。
外見からは想像も出来ない、まるで魔王のように落ち着いた声で。
「貴方のせいで、お兄ちゃんは苦しむことになったんだよ」
リアの脳裏には、苦しみながら嗚咽を漏らす兄の姿が。
「貴方のせいで、どれだけお兄ちゃんが苦しんだか分かる?」
リアの脳裏には、ロトの血筋を恨む兄の姿が。
「貴方のせいで、どれだけの人がお兄ちゃんを貶したか分かる?」
リアの脳裏には、兄を容赦なく貶し石を投げる人々の姿が。
「貴方のせいで、楽しくもない人生を掴まされた人の気持ちが分かる?」
リアの脳裏には、道はおろか光すらない場所に立たされた兄の姿が。
「貴方のせいで、未来もなにもない世界を生きなきゃいけなかった人の辛さが分かる?」
リアの脳裏には、仮面を着けて"犠牲者"を演じる兄の姿が。
「貴方は世界を救った、そして後世に力を残した。
 その力はね、たーっくさんの人を狂わせたんだよ」
まくし立てるように語りかけた後、アレフの胸部からナイフを引き抜く。
わずかな力しか加えられなかったはずのアレフの体が、まっすぐ後ろに倒れ込む。
血液の循環に上手く作用したナイフの毒が、彼の自由を奪っているからだろう。
そしてリアは、ゴミを見るよりも冷ややかな目をしたままアレフの胸部へとのしかかる。
「未来の人間の痛みを知ることもなく、貴方は伝説の勇者として死んでいった。
 気楽だったよね、勇者様は何も責任をとらなくていいんだから」
手の中でくるりとナイフを一回転させてから、リアは淡々と口を開き。
「だから、ここでもう一度死んで」
死刑宣告を、告げる。
「お兄ちゃんが味わった苦しみを少しでも味わいながら」
アレフが知ることはない、遠い遠い未来で起こった出来事を胸に。
「お兄ちゃんの味わった苦しみのほんのひとかけらにも及ばないけど」
アレフが知ることはなかった、とある一人の人間が抱え込むことになった苦しみを全てナイフに乗せて。
その小さな手を。
「貴方は、もがき苦しんで死んで」
振り下ろした。
毒蛾のナイフがアレフの肉を引き裂きながら突き刺さる。
引き抜く。
「死んで」
リアの小さな手が伸び、握られた毒蛾のナイフがアレフの肉を引き裂きながら突き刺さる。
引き抜く。
「死ね」
小さな手が伸び、握られた毒蛾のナイフがアレフの肉を引き裂きながら突き刺さる。
引き抜く。
「死ね!」
小さな手が伸びる、毒蛾のナイフがアレフの肉を引き裂きながら突き刺さる。
引き抜く。
「死ね! 死ね! 死ね!!」
小さな手が伸びる、毒蛾のナイフが肉を引き裂きながら突き刺さる。
引き抜く。
小さな手が伸びる、肉を引き裂きながら突き刺さる。
引き抜く。
手が伸びる、肉を引き裂きながら突き刺さる。
引き抜く。
「死ね死ね死ね死ね死ね!!!」
手が伸びる、引き裂きながら突き刺さる。
引き抜く。
手が伸びる、引き裂き突き刺さる。
引き抜く。
伸びる、引き裂き突き刺さる。
引き抜く。
伸びる、突き刺さる。
引き抜く。
突き刺さる。
「死ぃ」
203名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/20(木) 23:44:27.30 ID:JuEAutqA0
 
204遠い記憶に身を任せ ◆CruTUZYrlM :2012/12/20(木) 23:44:52.75 ID:IaToMi9n0
引き抜く。



別に、抵抗しようと思えば抵抗できた。
か弱い少女の力で突きつけられるナイフなど、幾多もの戦いを一人で切り抜けてきたアレフなら簡単なことだ。
だが彼はそれをしなかった、寧ろ少女の刃を甘んじて受けていた。
彼が向き合っていたのは肉体を傷つける毒蛾のナイフではなく、少女の言葉というもう一つのナイフ。
どこまで本当なのかどうかはわからない少女の話を、アレフは最初から真っ直ぐに受け止めていた。
魔王が呼び寄せたかもしれない本物の未来の存在かもしれないとか、そんなことを考えるまでも無かった。
ナイフを突き立てる少女が泣いている。
そして少女が泣いている原因は自分である。
ならば、くだらないことを考えている暇など無い。
言葉の一つ一つに込められた刃を、自身の心というクッションで受け止める。
「なっさけねえなあ」
ぽつりと言葉を漏らす。
その言葉に反応するように、少女がナイフを振り下ろす手を止める。

アレフという男は、心の底から全ての女性を愛している。
女性が幸せになり、心の底から笑う。
突き詰めてしまえばたったそれだけの事が、彼にとっての幸せだった。
そしていつしか彼は一人の女性に対して恋に落ち、その彼女にこの上なくふさわしい"紳士"になるためにより一層の善行に努めてきた。
今までも、そしてこれからも。

だが、実際はどうだ?
未来からきたと言う目の前の少女は、泣いているではないか。
嘘か誠かは問題ではない、いま目の前で泣いているという事が重要で、たまらなく辛かった。
自身が生きた世界の遙か未来で、自身の所為で泣いている少女がいる。
しかも彼女の言葉が誠なら、自分の子孫と言うことになる。
自分の娘とも呼べる者が、親に必死になって訴えているのならば。
その言葉を突っぱねる理由などない。

だから真っ直ぐに受け止める。

「お嬢様、失礼いたします」

ナイフを振りあげたまま、固まる少女にアレフは一言詫びを入れる。
「疾風迅雷――――」
瞬間、自分の胸から少女を下ろし、アレフは風となり飛び出していく。

全ての女性に平等に接する、それが彼のモットーだ。
遠くでは、また違う女性が苦痛に悶えている。
それを救わずには、いられない。

一瞬で魔鳥の元へたどり着いたアレフは、まずミネアの自由を奪っている片手へ狙いを定める。
リカントのような獣の手足ならば、関節の場所もそれと同じ。
その手から力を奪うように、正確に一点を突いていく。
魔鳥がアレフに気がついたときにはすでに遅く、激痛と共に片手の力を緩めてしまった。
ふわりと地面へ落ちていくミネアの体を受け止めると同時に高速で回復呪文を詠唱し、やさしく地面に寝かせてから魔鳥を睨みつける。
地を蹴ると同時に体が宙を舞い、仮面の騎士のように真っ直ぐの軌道で、魔鳥の胴を一点に捕らえた蹴りを。
「おどりゃクソ鳥ィィィィ!!」
放った。
205名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/20(木) 23:45:19.01 ID:JuEAutqA0
 
206遠い記憶に身を任せ ◆CruTUZYrlM :2012/12/20(木) 23:46:12.18 ID:IaToMi9n0
.


魔鳥を大きく吹き飛ばした後、何事もなかったかのようにアレフは少女の方へと振り向く。
大量の血を流しながらも、整然とした顔で。
リュカが治療しようと慌てて駆け寄るが、アレフはそれを止める。
「俺のケジメだ」
どうして、という言葉を出すことすら許さない気迫。
気配だけなら魔王とも呼べるそれを使って、アリーナとリュカを圧倒していく。
「お待たせしました。さあ、どうぞ」
アレフが待たせていた少女へ、深々と一礼する。
「私の命を差し出すことで、貴方やお兄さまが笑顔になると言うのならば、安いものです」
返事は無く、ただ少女はナイフを握りなおして小走りで駆け出す。
「このアレフ、お嬢様の思いに我が身を以てお答えいたしましょう」
ほんの数秒で、少女はアレフの眼前へたどり着く。
「リュカさん、アリーナさん、ミネアさん」
そして、ナイフを握りしめた腕を素早く胸へと伸ばしていく。
「ビアンカさん達を、頼みますよ」
最後の最後、心臓にナイフが刺さるその瞬間。
アレフは、そう言いながら笑っていた。



苛々が蘇る。
一度だけでなく二度も、人間にコケにされたのだ。
しかも二度目は吹き飛ばすのが目的の殺意のない攻撃、言ってみれば手加減されていたのだ。
死にかけの人間に手加減をされるなど、ジャミラスでなくとも経験したことはないだろう。
この上ないと言えるほど屈辱的な行動に加え、立てていた作戦が上手く行かなかったことが重なり、苛々は加速して行く。
だが、ここで冷静さを欠いてはいけない。
作戦は上手く行かなかったとは言え、勇者アレフをしとめることには成功したのだ。
そしてどういう理屈かは分からないが、リュカ達はほぼ万全にも関わらずすんなりとリアを見逃した。
リアを回収しに舞い戻った時に戦闘になれば、明らかに不利だったのは見えていたため幸運な出来事だった。
探していた剣が手に入った事も含め、全体像で見渡せば結果はまずまずと言えるだろう。
そう、まだ焦るときではないのだ。
このリアという手札を上手く生かし、サマルトリアの王子カインを殺すまでは。
余計な寄り道で焦って事を仕損じてはいけないのだ。
ジャミラスは、落ち着いて笑顔を作り直す。
まだ、運命は自分に味方している。
この殺し合いで活躍し、デスタムーア様に貢献するのはただ一人。
この、ジャミラスだけで良い。



恨みに恨んだはずのロトの先祖を殺したはずなのに。
あれだけ毎日「いつか殺す」と願い続けた存在を殺したはずなのに。
心は晴れるどころか、曇りだしていた。
兄を苦しめる原因を、この手で、やっと殺したはずなのに。
どうしてこんなにモヤモヤするのか。
「早く、しないと」
分からない、分からないから考えない。
分かったところで別にどうでも良いことだから。
気になりはするが、後にどうせ気にならなくなる。
兄を殺したときに、自分も死ぬのだから。
自分の気持ちを考えたり、疑問を抱く事なんてしなくていい。
どうせ、死ぬんだから。
だから、何も考えない。
軽く一息つき、心と頭を空っぽにしていく。
そして無にした心に抱く、一つだけのこと。
兄を、殺す。
207名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/20(木) 23:46:38.37 ID:3iihCxL40
 
208遠い記憶に身を任せ ◆CruTUZYrlM :2012/12/20(木) 23:47:05.96 ID:IaToMi9n0
.


「……言いたいことは分かるよ」
何か言いたそうでそれでも口を開くことの出来ないアリーナに、リュカはそっと声をかける。
何を聞こうとしていたのか、聞かなくても分かる。
何故、あの少女を黙って逃がしたのか?
魔物とほぼ同じタイミングで襲ってきた事を始めとして、あの少女について分かっていることは沢山ある。
だが、その危険性を分かった上でリュカは彼女を逃がしたのだ。
「でも、アレフはこうしたと思う」
そこで立ったまま死んでいる笑顔の男、アレフなら迷わずそうするだろうから。

正直、理解は出来ない。
このアレフという男は、何を考えてそんな行動に出たのか。
残された三人がどれだけ頭を捻って考えようと、それは分かるわけもない。
彼らは彼らであって、アレフではないのだから。
ふと、リュカがアレフの死体の傍に落ちていた飾りが目に入る。
アレフを殺した少女がゴミを捨てるように、この場に投げ捨てて行った物だ。

――――愛ですよ、愛。

それを拾い上げようと手に触れたとき、アレフの言葉が聞こえた気がした。
愛? これが愛だというのだろうか?
命を張って、一人の少女の気持ちに応える事が愛だと言うのだろうか?
「フローラ……」
一人の名前を、リュカは静かに呟く。
愛という言葉を聞いて、条件反射的に出たのは伴侶の名前。
その名前が出た、ということに気がついた時。
「ほう、あの女の知り合いか」
聞きなれない声が、リュカの耳に届いた。
「いや、貴様があの女の伴侶だな」
突然現れた声に反応すると同時に、リュカの体が大きく吹き飛ぶ。
気を張り巡らしていたはずのアリーナとリュカの二人の意識の外から、新たな魔物は現れたのだ。
「貴様のはらわたを抉りだし、あの女の手みやげにしてやるとしよう!!」
リュカがなんとか起きあがる、間に合わない。
ミネアが傷ついた体に鞭を打ちながら動こうとする、間に合わない。
アリーナが即座に魔物へと飛びかかる、間に合わない。
魔物の手に込められし膨大な魔力が、三人を無情にも包み込む。
後に残るのは、四つの焼死体だけ。
209名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/20(木) 23:47:40.91 ID:3iihCxL40
  
210遠い記憶に身を任せ ◆CruTUZYrlM :2012/12/20(木) 23:48:15.66 ID:IaToMi9n0
そう、それだけのはずだった。
誰もが間に合わない場所にいた中、たった一人だけ例外がいた。
アリーナに吹き飛ばされ、洞窟の近くからラドンの迎えを経て駆けつけたさまよう鎧、サイモンだけが。
現れた魔物を射程圏内に捕らえていたのだ。
素早くラドンの背から飛び立ち、魔物に軽い一太刀を浴びせる。
相手がこちらのことを認識したところで、サイモンは小さくつぶやく。
「マホトーン」
本当に小さく、そして短く唱えられた呪文が魔物を包んでいく。
今にも破裂せんばかりの魔力は、その声と同時にしぼんでいき、やがて軽い破裂音を立てて消えた。
魔物がもう一度魔力を錬成しようとするが、うまく行かない。
そうこうしているうちに駆けだしていたアリーナの会心の一撃が魔物の頬へと突き刺さる。
ゴロゴロと魔物が吹き飛んで行くのを確認してから、サイモンとラドンは素早くリュカへと駆け寄る。
「マホトーン、使えるのか?」
さまよう鎧は魔法を使えない、少なくとも彼の知っているさまよう鎧はそうだ。
そもそも戦地で死んだ人間の怨念しか詰まっていないはずのさまよう鎧に、有効的な存在がいるだけでも驚きだというのに。
そんなリュカの疑問に、サイモンは二つ返事で答えた。
「さっき覚えた」
覚えた? この短期間に成長しているとでも言うのか?

リュカは知らない、このサイモンはさまようだけの存在ではないことを。
彼は、装備として眠るさまよう鎧と、ビアンカのリボンと、あるくんですによって生まれた存在だ。
そしてあるくんですは、その足で歩けば歩くほど成長する。
その場所に応じた成長をし、やがて天寿を迎えていく"ゲーム"だ。
ただの"ゲーム"でしかなかった存在が、さまよう鎧という器を手にし、ビアンカのリボンで知性を得た。
ゲームの中の概念でしかなかった命が、錬金により具現化する。
そして大本の"ゲーム"の部分はそのまま、サイモンという一人の存在に受け継がれているのだ。
ここは魔王の作りし狭間の世界、そんな場所を歩いていればどんな成長を遂げるかもわからない。
今、サイモンという存在は歩けば歩くほど未知の成長を遂げる可能性に満ちた存在なのだ。
今回は、たまたま覚えたマホトーンが役に立ったというだけのことである。
211名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/20(木) 23:48:27.48 ID:JuEAutqA0
 
212名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/20(木) 23:48:34.10 ID:3iihCxL40
  
213名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/20(木) 23:48:57.92 ID:JuEAutqA0
 
214遠い記憶に身を任せ ◆CruTUZYrlM :2012/12/20(木) 23:49:27.93 ID:IaToMi9n0
「それより……」
「ああ、説明したいけどそうもいかないね」
何かを問いかけようとするサイモンとラドンにリュかは答えようとするが、状況がそれを許してくれない。
魔法を封じられたとはいえ、魔物はまだ生きているのだ。
吹き飛ばされた場所からゆっくりと魔物はこちらに向かってくる。
「アリーナさん、ミネアさんと一緒に北に逃げた魔物を追ってくれないか?」
リュカの提案に、思わずアリーナとミネアは言葉を飲む。
迫りくる魔物を横目に、リュカは早口でまくし立てるようにしゃべる。
「無理にとは言わない、だけどあの魔物は僕とラドンだけで相手させてほしいんだ。
 それに……北にはビアンカがいる、そうだよな? サイモン」
さまよう鎧がコクリ、と小さく頷いたのをみてから、リュカは言葉を続ける。
「だから、頼む。ビアンカたちを助けてくれないか。
 無理な頼みだとは承知しているが、頼む」
先ほど逃がした少女は、魔鳥と共に北へ向かった。
ならば、北にいるはずのビアンカたちに危機が迫っている。
あの二人によるこれ以上の被害を生みだしてはいけない、かといってこの魔物を野放しにするわけにはいかない。
故に、二手に分かれることを提案した。
アリーナはほんの少しだけ悩んだ後、力強く頷いた。
「サイモン、アリーナさんたちを案内してやってくれ」
サイモンがそう頷いたと同時に、アリーナはミネアをひょいっと背負い、サイモンに導かれるように走っていった。
「ラドン、手伝ってくれるかい」
「ああ、勿論だ」
二人が走り去っていったのをみてから、リュカはラドンへと語りかける。
目線の先にはぴたりと足を止めた魔物。
その姿をとらえながら、リュカはゆっくりと剣を構えた。



引き受けたのは他でもない、これ以上命が失われるのを防ぐためだ。
本当はアンジェの元に駆けつけたいが、自分が突っ走ってしまった所為で南からは随分離れてしまった。
あの状況を見捨ててまで、友人を助けに行く訳にも行かず。
アリーナは悩みながらも、救える可能性の高い命を救いに行くほうを選んだ。
サンディを失った彼女が、変な気を起こしていなければ良いのだが。
そこでアリーナはこの地に来てからすぐ、共に誓った彼女の顔を思い出す。
あの時の目をしていられるのならば、大丈夫だろう。
「ごめんね、アンジェ」
謝罪を重ねながら、アンジェの事を少しだけ頭から外した。
215名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/20(木) 23:50:08.28 ID:xkqjNHLr0
     
216遠い記憶に身を任せ ◆CruTUZYrlM :2012/12/20(木) 23:50:08.84 ID:IaToMi9n0
「ごめんね、ミネア」
そして、背負っているミネアへも謝罪する。
「あたしのせいで、しなくていいケガしちゃったね」
ミネアはジャミラスの襲撃を受け、肋骨を一本失うケガをした。
それはアリーナが先に突っ走りすぎていたからだ。
アリーナの走りについていくのがやっとだった彼女を置いていったせいで、こんなにも傷つけられた。
見方を変えれば、彼女を傷つけたのは自分と言っても過言ではない。
「気にしないでください、もう平気ですよ」
そんな彼女の謝罪を、ミネアは笑って許す。
悪いのは彼女ではない、殺し合いに乗り、人を傷つけるものが悪いのだから。
彼女が負い目を感じることはない。
「アレフさんが癒してくれた事もありますし、ね」
魔鳥の手によって無理やりへし折られた肋骨の場所は、傷が塞がっているとはいえまだズキズキと痛む。
それは大したことではない、と言う様に彼女は言葉を続けていく。
「それに……こうして"友達"に触れていられるんですから、悪くありません」
今、ミネアはアリーナに背負われている。
腹部から伝わるアリーナの背中の温かみが、ゆさゆさとゆれる体が刺激するわき腹が。
彼女も、自分も生きているのだと教えてくれる。
「ほら、笑ってください。アリーナさんは笑っているのが一番似合います」
ふふっ、と笑いながらミネアは優しい言葉をかける。
「えへへ、ありがと」
釣られて、アリーナも笑顔になる。
「ねぇサイモン、ごめんね」
そして、アリーナは再び真剣な表情でさまよう鎧に謝罪する。
「痛くなかった?」
何も知らなかったとはいえ、問答無用で渾身の一撃を叩き込んでしまったのだ。
今は案内してもらっているが、彼が許してくれているのかどうか、それをどうしても聞きたかったのだ。
「問題ない」
サイモンはグッと親指を上向きに突き立てる。
まるで人間が入っているかのようなその仕草に、アリーナは微笑む。
「なあ」
声をかけられたのをきっかけに、サイモンもアリーナへと問いかける。
「"友達"とは、何だ」
サイモンは、この地で生まれた存在だ。
知性を得たとはいえ、人間たちの考えることや言葉を全て理解しているわけではない。
その中で一番気になった言葉をアリーナへと問いかける。
「それはね……」
217名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/20(木) 23:50:10.61 ID:QIDYiNmo0
 
218名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/20(木) 23:50:30.30 ID:3iihCxL40
 
219遠い記憶に身を任せ ◆CruTUZYrlM :2012/12/20(木) 23:51:08.40 ID:IaToMi9n0
.


「小細工を……」
魔王バラモスは立ち去っていった女たちを一瞥した後に、リュカへと吐き捨てる。
魔法という手札が使えなくなったのは手痛いが、人間の男一人とアレフガルドの竜一匹。
さして問題のある相手とは思えない。
だが、慢心せずに気を引き締めてバラモスは戦闘の準備をする。
「まあ、いい。
 貴様の体を引き裂くことができれば、あの女への手土産になるのだからな」
「その事なんだが」
卑しい笑みを浮かべる魔王の言葉に、リュカが釘を刺していく。
「フローラに、会ったのか?」
シンプル、かつ大胆な質問。
この地で彼が探している、家族の名を魔王へ投げかける。
魔王はにぃっと口端を吊り上げ、その問いかけを弾く。
「答えてやる義理など――――」

つもりだった。

「答えろ」

明らかに異質の声に、魔王の声が止まる。
続きを言おうとしても、空気が震えない。
喉が動いても動いても、音として伝わるはずの空気が震えない。
気がつけば、一方後ろに後ずさっていた。
いつ足を動かしたか、全く覚えがないほど無意識に。
大きく一歩、引き下がっていた。

「二回も言わせないでくれ……」

男は、魔物と会話ができる。
人の言葉を理解しない魔物が相手でも、彼は魔物の心が手に取るようにわかる。
そして悪意に染まっている魔物たちの中にわずかに残る善い心を見つけることもできる。
魔物の善い心に訴えかけて行くことで、彼は何人もの魔物を仲間にしてきた。
そう、彼は伝説の魔物使い、リュカ。
魔物の心を理解する心を持ち、全てを見透かす両目を持つ、慈悲溢れる存在だ。

逆を返そう。

魔物の心を理解している、それもこの世のありとあらゆる次元の誰よりも理解している。
そして、魔物と会話するときにはその心に合わせるように自身の心を変貌させる事でスムーズなコミュニケーションを取ることができる。
そう、彼の心は善も悪も自在に操ることができる。

場を戻そう。

今、彼は家族を求めている。
その情報を魔王バラモスは出し渋ってしまった。
故に、垣間見ることになる。
かつて仇敵に向かい合ったとき、リュカという一人の青年が見せた姿を。
常人ではまず抱えきれない、大魔王にも匹敵する悪の心を。
その心から放たれる気迫を。

その目で、その肌で、その耳で。

一人の魔王と、一匹の竜は。

「大魔王」と向き合っていた。
.
220名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/20(木) 23:51:27.94 ID:3iihCxL40
 
221遠い記憶に身を任せ ◆CruTUZYrlM :2012/12/20(木) 23:51:51.22 ID:IaToMi9n0
「フローラに、会ったのか?」
もう一度、リュカがバラモスに問いかける。
焦る必要はない、相手はたった一人の人間なのだから。
魔物を連れているとしても、人間であることには代わりはない。
抗う力など持っているはずのない、脆弱な人間。
そのはずなのに、なぜ自分が圧倒されているのか。
「ふん、死にゆく者に語る言葉など無いわァ!」
現実を認めない、受け入れないようにバラモスはあえて強めの言葉を放つ。
同時に吼えた勢いを生かし、空気を揺るがしていく。
「そう」
リュカは、その雄叫びをまっすぐに受け止めた。
それでいてなお、涼しい顔のまま剣を構えて竜へと語りかけていた。
「いくよ、ラドン」
戦いの始まり、その一言と共にリュカは駆けだしていった。

恐怖。
たったそれだけがラドンの心を支配していた。
今、目に映るのはリュカと同じ姿だ。
だがどうだ、たった一言を皮切りにリュカがリュカでないように見えてきたではないか。
仕えていた主、竜王に匹敵する……いやそれ以上の何かが彼の周りに渦巻いている。
自らの危険を省みず自分を助け、聖人のような笑顔と共に傷を癒してくれたリュカからは考えもつかない。
同じ姿。
そう、全く同じ姿の人間がそこに立っているはずなのに。
信頼するに足るはずの人物が、目の前にいるはずなのに。
目の前にいるのは、リュカという一人の男のはずなのに。

どうして、ここまで恐怖しているのか。

本当に目の前にいるのは、リュカという男なのだろうか?

疑問を胸に抱いたまま、ラドンもリュカと共に魔王へと向かって行く。

この戦いを一刻も早く終わらせ、リュカという人間を取り戻すために。

【アレフ@DQ1 死亡】
【残り39人】

【????/????/午後】
【キラーマジンガ@DQ6】
[状態]:HP1/2 胸部にダメージ
[装備]:星砕き@DQ9、ビッグボウガン(鉄の矢×15)@DQ5、雷の刃@DQS
[道具]:基本支給品一式 不明支給品(武器以外×0〜1)
    アレルの不明支給品(0〜1)、ギュメイの不明支給品(0〜2)
[思考]:命あるものを全て破壊する

【A-4/南東部/午後】
【ジャミラス@DQ6】
[状態]:HP3/5、飛行中、右翼に穴(小)、左手首損傷(使用に違和感)
[装備]:ルカナンソード@トルネコ3
[道具]:剣の秘伝書@DQ9 ツメの秘伝書@DQ9 超ばんのうぐすり@DQ8(半分のみ) 支給品一式*2
[思考]:リアを利用し、サマルトリアの王子(カイン)を労無く殺害。
     カインを探しつつ北へ 殺害数をかせぐ
[備考]:支給品没収を受けていません。飛行に関して制限なし。

【リア(サマルトリア王女)@DQ2】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式*2 どくがのナイフ@DQ7 不明支給品(本人確認済み)
[思考]:おにいちゃんを、ころす。
222名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/20(木) 23:52:42.62 ID:JuEAutqA0
 
223遠い記憶に身を任せ ◆CruTUZYrlM :2012/12/20(木) 23:52:50.13 ID:IaToMi9n0
【B-5/北西部/午後】
【アリーナ@DQ4】
[状態]:健康
[装備]:竜王のツメ@DQ9
[道具]:フックつきロープ@DQ5、支給品一式 水筒×3
[思考]:デスタムーアを倒してゲームを終わらせる。
    ビアンカを救うため北へ、アンジェとも合流したいが……

【ミネア@DQ4】
[状態]:HP3/5、疲労(小)、右肋骨喪失
[装備]:あぶない水着(下着代わり)、風のマント@DQ2
[道具]:支給品一式
[思考]:仲間や情報を集める。
     ビアンカを救うため北へ、アンジェとも合流したいが……

【サイモン(さまようよろい)@DQ5+9+α】
[状態]:ほぼ健康
[装備]:さまようよろい@DQ5
[道具]:なし
[思考]:アリーナ、ミネアを北へ案内。友達とは何かを聞く。
[備考]:マホトーンを習得、今後も歩くことで何か成長を遂げるかもしれません。

【B-5/中央部平原/午後】
【リュカ@DQ5】
[状態]:健康
[装備]:パパスの剣@DQ5
[道具]:支給品一式、祝福の杖@DQ5、王女の愛@DQ1、支給品×2(本人確認済み。武器は無い)
[思考]:フローラと家族を守る。ラドンと共に動く。
     バラモスからフローラについて聞き出す。

【ラドン(ドラゴン)@DQ1】
[状態]:全身にダメージ(小)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 不明支給品×1〜2(本人確認済み)
[思考]:人と魔物が手をとる可能性を見届けるため、リュカに従う。
     バラモスと戦闘、リュカに若干の恐怖?

【バラモス@DQ3】
[状態]:全身にダメージ(大)左肩に重症 右肩に貫通傷 片手首先無し 魔封じ
[装備]:サタンネイル@DQ9、デーモンスピア@DQ6(刺さっている)
[道具]:バラモスの不明支給品(0〜1)、消え去り草×1、基本支給品×2
[思考]:皆殺し できればまたローラを監視下に置く フローラと絶望の町に居た者どもは必ず追い詰めて殺す
     フローラへ絶望を与えるため、リュカを殺す。
[備考]:本編死亡後。

※バスタードソード@DQ3の残骸は融けました



以上で投下終了です、沢山の支援ありがとうございます。
何かありましたらお気軽にどうぞ。
224名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/21(金) 00:50:55.03 ID:ipMplvv30
乙でした
225名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/21(金) 00:56:41.84 ID:sutuYajMO
大作激しく乙です
アレフのかっこよさに泣いた
リアは先祖たちを憎んでるだろうなと思ってたけど、まさかこんな形で……
ジャミラスはまさに魔物って感じ やり口がマジでエグい
リュカ、やっとキャラ立ってきたね
リュカとビアンカにはぜひとも再会してほしいなぁ
226名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/21(金) 02:53:01.93 ID:nHRkNApZ0
投下乙です
アレフはもう最期まで男を見せてるし、サイモンはなんか心身ともに成長しはじめて今後が超楽しみだし
他のみんなも大事なものに対する思いがまっすぐで
これだけ大人数が動いていたのに全員が全員強く印象に残るとてもいい話だった

ジャミラスはまたスコアをリアに取られたけど、今回含めずっと実質二人の手柄みたいなものだしなあ
本人は不満だろうけど、すっかり風格が出てきたね
一方のバラモスはもう登場話の覚悟完了はどこへやら四苦八苦してる感じだけど、名誉挽回なるかな?
227名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/21(金) 20:13:23.01 ID:7XBzi1PFO
投下乙です。

アレフ、最期まで女性の味方だったぞ!
228名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/22(土) 00:28:04.26 ID:FnXQcZBv0
乙です
とりとめがなかったリアの思考が固まってきたな
ていうかデュラン前にしたカインに何故か死亡ビジョンが見えないのは
この生存フラグが半端無いからか
229朱き夢への迷い子たち1/7 ◆TUfzs2HSwE :2012/12/24(月) 01:42:44.21 ID:1ZK/glwAO
湖から這い上がったばかりの一行は、当然着るもの全てがずぶ濡れである。
こんな世界で風邪を引いてはたまらないとマリベルとホンダラに喚かれて、テリーは休息もそこそこに、一人薪集めに勤しんでいた。

こういった野宿まがいの作業自体は、長い一人旅のころから慣れ親しんだものだ。
だから薪集め自体はどうということでもないが、マリベルはともかくホンダラにまでパシり扱いされている今の状況は、果たしてどうかとテリーは思う。
ホンダラがどうしようもなく使えない男であるという事実は理解したが、それに納得できるかどうかは別の話だ。
そのくせ無事に焚き火を起こして暖につけさせれば、幾分元気になったホンダラは口やかましく喚き出すのだ。

「おいぃ、お前、ちゃあんと俺様に説明しろ〜!」
「知るか」
「なんでこんなところにいるんだぁ〜? 俺様のお宝はぁ!?」
「知るかと言っている」
マリベルは近くの木陰で着替えているため、ホンダラの困惑のぶつけ先は当然テリー一人になる。
あまり邪険にしているのも、それはそれで時間の無駄だと思うのだが、
如何せんホンダラの方がしつこいためにどうしても苛立ちを抱かざるを得ない。

「くそぅ、俺様のお宝が……夢の一攫千金が……」
だらしなくしぼむフード頭からは哀愁がにじみ出ていたが、テリーはあいにく、いっぺんの同情も抱くことはできなかった。

「うるっさいわね、もう。無事だったからいいじゃない」

ごそごそと衣擦れの音が聞こえていた木立から、快活すぎるほどにはっきりとした声が響いた。
ずぶ濡れだった上着のワンピースと頭巾を脱いで、着替えを終えたマリベルは幾分すっきりした表情で湿った髪を払って、姿を見せる。
その身にはしとしとと降り注ぐ雨のような水色の、薄絹の衣をまとっていた。
水の羽衣、マリベルの世界でもコスタール国が売り出していた防具だ。

「ふうっ。テリーがあの子からこれを盗んでくれて、助かったわね」
「そうだな。そいつはなかなか性能が高い。そのまま着てろ」
「あたしは着替えがあるって意味で助かったんだけど……そういうことならもらうわよ、遠慮なく」
「だーっ、もう! そうかい、そうかい!」

突然の喚き声に、テリーとマリベルはさすがに驚いて振り返る。
先ほどからすっかり蚊帳の外にされているホンダラは、すっくと立ち上がったかと思うと、そのまま歩き始めた。
230朱き夢への迷い子たち2/7 ◆TUfzs2HSwE :2012/12/24(月) 01:45:15.49 ID:1ZK/glwAO
「……どこ行くのよ」
「フン、さらなるお宝と新天地を求めて旅立つまでよ」
「ちょっと待ちなさい!」
慌ててマリベルはホンダラを追いかける。
じとりと半目で彼女を振り返ったホンダラに、腰に手を当て指をつきつけマリベルは言い放った。

「ホンダラさん、あんた、自分がなに言ってるかわかってんの?」
「知るかい! 足でまといのおかげでお宝を失うくれぇなら、俺様は一人でいくぜ」

なすり付けがましい言い分に、マリベルは一瞬心配する気も失せるほどだったが、
相手の人間性は元からよくわかっていたのでなんとか気を取り直す。
こんな男でも、幼なじみの親戚なのだ。自分たちが放っておいたせいで誰かに殺されたりしたら、さすがに目覚めが悪い。
おまけに、先ほど井戸に突き飛ばしてしまったことを申し訳ないと思う気持ちも、幾分かはあった。

「じゃあ、コレ持っていきなさい」
そう言ってマリベルが自分の支給品袋から取り出したのは、透き通った小瓶になにかの草を詰め込んで浸したものだった。
それは癒しの秘宝、開ければそこにいる者の全ての傷を癒すという、せかいじゅのしずく。
無論その効果を知らないホンダラは、見知らぬお宝に目を輝かせて飛びつこうとしたが、マリベルが素早く手で制した。

「いい? どうしても危なくなったときだけ、使うのよ」
「おうおう、さすが懐が違うねぃ、マリベルお嬢さんよぉ!」
「とっととアルスんとこ行きなさいよ。一人じゃぜっっったい危ないんだからね!!
あたしはどーだっていいけど、あんまりアルスに迷惑かけるんじゃないわよ!」
宝ではなく命を繋ぐための道具だと念を押しても、ホンダラはどうにも浮ついた気分を隠しきれてはいなかった。
マリベルの心配もどこへやら、酔いの残りか浮かれているだけか、千鳥足で去っていった。

「本当にわかってるのかしら……」
「お前こそ、そんなこと言ってられる状況か?」

未だ不安そうに眉をひそめているマリベルに、テリーもまたしかめ面でそう呟いた。
そんな貴重品があるなら取っておけと言わんばかりに呆れているテリーに気付き、マリベルは憮然と唇を尖らせる。
「……何とかするわよ」
そんな少女の様子をしばらく半眼で眺めていたテリーだが、やがて軽くため息をついた。
わがままで自己中心的な言動が目立つ少女の意外な一面は、ともすれば甘さと呼べるもの。
だが――少なくとも、人としては、彼女の行動を厭う理由はなかった。
231朱き夢への迷い子たち3/7 ◆TUfzs2HSwE :2012/12/24(月) 01:48:09.26 ID:1ZK/glwAO
「そうだな。しかし、どうしたもんか……」
結局、何事もなかったかのように話題を切り替えると、マリベルもテリーの傍に座って脱いだワンピースを乾かし始める。
そうしてやっと落ち着いた環境に身を委ねると、二人は改めて、先ほどまでの出来事に思いをめぐらせた。
かつて、異世界からの脱出口だった井戸。落ちた先には、見覚えのある部屋。
そしてあの場所で唐突に輝きを放ちだした、しんじつのオーブ。
どうにも不可解なことが多すぎた。

「ねえ、テリー。さっきの場所って、あの始まりの部屋よね」
「そうだな」
「なんであんな抜け道があったんだろう? って言っても、すぐにこっちの世界に戻っちゃったけど……」

ぱきりと、燃えたてのたきぎがはじける音がする。
冷えた身体を抱え込みながらそう呟くマリベルに、テリーもまた静かに答えた。

「あの場所には、見覚えがある。多分、なげきの牢獄の内部だろうな」
「なげきの……?」
「かつてデスタムーアが居城としていた城だ。中枢部分に、似たような部屋があった」
「ってことは、あの井戸はテリーの世界とこの世界を繋いでるわけ?」
「いや……恐らく、ちがう。なげきの牢獄こそ狭間の世界でしか存在できなかったはずだ。
だが、あの井戸が元々狭間と現実を繋ぐためのものだったなら……或いは……」
「はざまと、げんじつ?」

一人での思考に没頭しだしたテリーの呟きに、マリベルは首をかしげた。
彼女がなにに疑問符を浮かべているのか、テリーには一瞬わからなかったが、やがて納得して思い返す。
夢と現実、そしてその狭間。
異なる三つの次元から成り立っていたあの世界のことわりは、テリーでさえロッシュから聞かされて初めて知ったことだ。
それは一見、夢物語。考え始めれば途方も無い、不思議としか言いようのない、夢と現実と狭間の世界。
テリーたちはそれら全てを現実の出来事として受け止め、生身の心で見聞きし、戦ってきた。

「夢の世界、ね。確かに、すぐに信じるには、突拍子もないけど……」
テリーの話を、マリベルは存外興味深げに聞いていた。
「なかなか面白そうじゃない。夢の世界のもう一人の自分、なんて」
「だが、夢の世界も狭間の世界も、一度は消滅したはずだ。
俺たちがなげきの牢獄の奥で、デスタムーアを倒した、そのときにな」
「でも、現にこうしてあるわよね。なげきの牢獄も、狭間の世界も……」
「デスタムーアも、な」
232朱き夢への迷い子たち4/7 ◆TUfzs2HSwE :2012/12/24(月) 01:51:04.67 ID:1ZK/glwAO
言い切ったテリーの表情は、いつもと変わり無いポーカーフェイスに見えた。
だが、少しの時間を共にしたマリベルは、その表情が苦渋をおびていることにふと気が付く。
それは、そうよね。とマリベルは思った。
苦闘の末に魔王を倒し、神さまを世界に復活させた努力もむなしく、現代に魔王を復活させてしまったあの日――
無念さを滲ませながらも、責任を背負ったアルスの姿に、今のテリーは少し、重なる。

「いずれにしろ、検討はつく。あの井戸の先にあったものの正体は、狭間の世界にあるなげきの牢獄か、
幻かなんかでそれに見せかけた全く別の場所か、或いは……」
「あるいは?」
「現実世界に、なげきの牢獄が実体化したか、だ」

淡々と突きつけられた恐ろしい可能性に、マリベルの表情がわかりやすく青ざめた。
少し脅すような調子だったかと、テリーは顔に出さずに少しだけ反省し、ふっと息をつく。

「杞憂であればいいがな」
「……まあ、この世界にいる限り、答えはわからないわよね」

そう、結局現時点で、二人に真実は導き出せない。
そして再びあの場所に行くよりは、仲間たちを探すほうがはるかに懸命に思えた。
夢の世界のことなら、姉やロッシュ、バーバラの方が、自分よりはるかに詳しいだろう。
なにより、相手の情報が少しも掴めていない今、もう一度敵の陣地に飛び込むような真似は危険すぎる。
よく首輪が爆破されなかったなと、今更ながらにテリーは思う。

(……命拾いをしたのかもしれない。俺たち)

思い返すのは、静まり返った空間で、自分たちを闇から救い出すかのように、輝きを放った賢者の秘宝。
あの始まりの間で、しんじつのオーブは今でも、光を放っているのだろうか。
ぱきん、と、音を立てながらたきぎが燃える。
ゆらめく炎を瞳に映すテリーの心は、この世を照らさざる不明の真実に、そっと思いを馳せた。


***


さて、危険も顧みず一人足を踏み出したホンダラだったが、湖を離れてほどない地にて、ある人影に遭遇していた。
233朱き夢への迷い子たち5/7 ◆TUfzs2HSwE :2012/12/24(月) 01:55:17.23 ID:1ZK/glwAO
「うおっ!? って、死んでいやがる……」

大げさな反応で驚き、やがて恐る恐る、その対象に近付いていく。
引きちぎられた縄が辺りに転がり、打撲と切り傷で身体は無残に変形し、血にまみれていた。
動く気配も見せないため、死体だと判断したホンダラはひとまず、身の危険はないと安堵する。

「こんなところで殺されるたァ、ご愁傷さんだぁ……オメーさんの分も、このホンダラさまが必ずや稼いでみせるぜ」
面識もない道化師のような姿の男に、ホンダラは無意味に合掌し、そしてそのまま屈み込む。
「つうわけで、なんかお宝持ってねぇかな〜っと……」
「……な……」
「んん? 誰か喋ったか?」

どこかから声が聞こえたような気がして、ホンダラはきょろきょろと辺りを見回す。
と、探っていた死体の腕がぴくりと動いた。

「勝手に殺すなと言っているんですよ……ッ!!」

死んでいたはずの――というより、ホンダラが死体だと思い込んでいた男が、烈火の如き眼差しでホンダラを睨んでいた。
うひょうっ!? などと、情けない悲鳴を上げて、ホンダラがあとずさる。

「お、お、おめえさん、生きてたのかよ!」
「当たり前ですよ!! 誰が殺されてなど……げほっ……。
こんなところで、何度も何度も、気絶させられて……ぐふっ」
「なんだ、死にかけじゃねぇか。脅かしやがって」
「し、失礼な、方ですね……どいつもこいつも……。ふふふ、悲しいなぁ……」

お決まりの口上をくちにするも、目の前の一般人一人殺す力さえ残っていないドルマゲスは、屈辱を噛み締めるしかない。

「所詮私はこんなところで、無様に死にゆく運命ですか……」
「悪ィけど、おめえさんを復活させられるようなもんはねぇぜ」

手癖のように手に入れたばかりの宝を弄びながら、ホンダラはドルマゲスに背を向け、去って行こうとする。
その手元の宝を視界に辛うじて認めることのできたドルマゲスは、目を丸くした。
234朱き夢への迷い子たち6/7 ◆TUfzs2HSwE :2012/12/24(月) 01:58:37.85 ID:1ZK/glwAO
「そ、そ、それは!!」
「ん?」
「どうか、それを私に! 半分、いや、ほんの少しでもいい!」
ドルマゲスの目は、ギラギラと輝いていた。
その眼差しが見つめるホンダラのお宝、せかいじゅのしずくの癒しの効果があれば、瞬く間にドルマゲスの体力を回復させるだろう。
だが、その効果を知らないホンダラは、せかいじゅのしずくと目の前の男とを交互に眺め、品定めをする。

「ふん。俺様のお宝を分けてくれと言うからには、それなりの見返りをもらわねぇとなァ〜」
「くっ……なんですか、言ってごらんなさい」

しぶしぶ相手の言葉を待つドルマゲスに、ホンダラはもったいぶったような身振りで腕を組む。

「そうだな……。決めた! オメエは今から、俺様のボディガードだ!」
「……は?」

さも名案、とばかりに頷く男に、道化師は眉をひそめた。




【D-4/湖のそば/午後】
235朱き夢への迷い子たち7/7 ◆TUfzs2HSwE :2012/12/24(月) 02:01:13.01 ID:1ZK/glwAO
【テリー@DQ6】
[状態]:ダメージ(中)、背中に打撲、MP消費微小
[装備]:ホワイトシールド@DQ8
[道具]:支給品一式(不明支給品0〜1)(武器ではない)
[思考]:休憩中。井戸の底については保留。仲間と合流する。剣が欲しい。
[備考]:職業ははぐれメタル(マスター)
(経験職:バトルマスター・魔法戦士・商人・盗賊 追加)
【マリベル@DQ7】
[状態]:健康
[装備]:マジカルメイス@DQ8 水のはごろも@DQ6
[道具]:支給品一式 (不明支給品0〜1)
[思考]:休憩中。仲間を探す


【C-4/平原/午後】

【ホンダラ@DQ7】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:せかいじゅのしずく@DQ7
[思考]:お宝を探す 死にたくはない
せかいじゅのしずくと引き換えにボディガードをゲットする

【ドルマゲス@DQ8】
[状態]:瀕死、気絶、肋骨折
[装備]:ステンレス鋼ワイヤーロープ@現実
[道具]:なし
[思考]:人間へ復讐(?) 目の前の男にどう対応するか考え中
236 ◆TUfzs2HSwE :2012/12/24(月) 02:03:04.99 ID:1ZK/glwAO
投下終了です。
237名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/24(月) 02:11:44.17 ID:cFZZ++vY0
ホンダラが生き残りそうな気がしてきたぜwwwwバトロワは戦闘力のないものがなぜか運よく生き延びる法則みたいなものがあるしなww
238名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/26(水) 19:39:40.28 ID:wFJuMU4w0
遅れましたが投下乙!
ホンダラさんwwwwwww マイペースすぎるwwwwwwwww
でも交渉相手が相手なだけにいやな予感がするぜ。
そして辿り着いた空間に対して落ち着いた考察をするテリーさん。
嘆きの牢獄がキーワードになるのだろうか……?
239 ◆YfeB5W12m6 :2012/12/28(金) 02:00:21.31 ID:j3W1613xO
投下します
240あなたがいるから進めない  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/28(金) 02:03:17.82 ID:j3W1613xO
わたしは 進んでいたつもりだった


◇◇

木々は風で揺らぎ、その木の葉を吹雪かせながら美しく宙を舞う。
空から降り注ぐ太陽光も絶対的に少ないとはいえ、どこか柔らかい印象を受ける薄い木漏れ日を作る。
鈍く光る空の彩色はお世辞にも綺麗とは言えないが、この場に置いては不気味さも差し置いて神々しくも思える。
吹き荒れる突風とともに舞うのは枯れた葉と赤くどこかどろっとした血と千切れた髪と炎と肉片。

さて―――皆々様、ご機嫌いかがお過ごしでしょうか。リンリンでございます。
この上なく完成された舞台で戯れるのは、この極上の舞台でさえ割に合わないほど洗礼された動きをする誇り高き戦士達でございます。
その動きは夢に見たほどまでに無駄なく完璧に仕上がっており―――失敬、これは夢でございましたね。
あぁ、あぁこれはなんて素晴らしい夢でございましょうか。
241名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/28(金) 02:04:21.22 ID:nj3dX5W40
          
242名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/28(金) 02:05:53.23 ID:nj3dX5W40
            
243名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/28(金) 02:07:41.26 ID:nj3dX5W40
      
244あなたがいるから進めない  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/28(金) 02:10:35.30 ID:j3W1613xO
もう幾度も思ったことでありますが、何度も何度でも感動に打ちひしがれてしまいます。
メインディッシュであるアレルはわたくしの失態のせいで少々後回しになってしまいましたが、そう。フルコースの順番ではメインディッ
シュの前には前菜やオードブル、スープに口直しとしてのシャーベットなど、他にも目移りするものが色々とあるものです。
メインディッシュが極上であればあるほど比例してそれらの価値も高くなっていく―――
もう一度、言いましょう。なんて素敵なお話でしょうか―――!!

―――いえ、一人で勝手に盛り上がってしまい申し訳ありません。
わたくしはもちろんのこと―――お相手となる戦士にもその楽しみを味わってもらう。
それは命のやり取りであっても戦闘に置いては重要な礼儀でございますから。
245名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/28(金) 02:12:14.37 ID:nj3dX5W40
      
246あなたがいるから進めない  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/28(金) 02:13:55.18 ID:j3W1613xO
一つとしては互いに全力を出し合うこと。当たり前ですわね。
もう二度と剣士の時のような油断はいたしません。
もう一つはそう、そう、徹底的に戦い抜くことですわ。
わたくしはどの戦いに置いても愉悦と強さを求めます。
先ほどのような腰抜け竜はどうにも全く面白くありませんでしたが―――わたくし、戦う以上は盛大にやらせていただきます。
わたくしとて、明るく希望にあふれたような未来を所望しておりますが…………ごめんあそばせ。
その『明るい未来』はわたくしの為のものであり、わたくしが開くその未来はどうやら血塗られているようでございますから。
大きな武器を背負い、今まさにその未来を描こうとしているところなのでございます。
247名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/28(金) 02:14:51.06 ID:nj3dX5W40
       
248名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/28(金) 02:16:58.87 ID:nj3dX5W40
       
249名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/28(金) 02:19:11.03 ID:nj3dX5W40
       
250あなたがいるから進めない  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/28(金) 02:25:06.12 ID:j3W1613xO
◇◇

こんにちは、アルスです。
現在絶賛マズイです。
結構危ないです。
速さに追いつけません。一方的フルボッコというか、なんというか……かなり、マズイです。

一発受けるだけで、たった一発ですよ? 
笑えないぐらいのダメージを受けます。腹に受ければ嘔吐感とかそういうレベルじゃなく、大切な何かが口から飛び出そうになっちゃうし、足に受ければヒビぐらいは余裕で入るし、頭にでも受けようものなら破裂するんじゃないでしょうか。
脳髄炸裂、見たくないし見せたくない光景だね。
251あなたがいるから進めない  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/28(金) 02:29:38.86 ID:j3W1613xO
攻撃は最大の防御って言いますが、いやはやなるほど。納得しちゃうよね、嫌でも。

攻撃する暇がありません。相手に隙がないわけじゃないんです。そりゃあれだけ攻撃続けてれば少しぐらいの隙は生まれる……のに、なぁ。

その隙も普段だったら一発逆転の攻撃を打つことも可能なんだけれど、ここで最初の問題に戻ってしまいます。いや、だってね、ほんとう
に速いんですね、いや真面目な話。
キーファとガボの死を悲しんでる暇もリメイクヤッターと言ってる暇も仲間達を心配する暇もありません。

先ほど出会った人達も同様です。今一人で相手にするのはよっかたのか、逆だったのか?
252あなたがいるから進めない  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/28(金) 02:32:06.70 ID:j3W1613xO
わかりませんよ、どちらでも最悪の可能性は結
構高いでしょう。







すみません。八割うそです。


攻撃の威力と一人で戦ってるってところと、攻撃する暇がないってのは本当です。
ただ、暇がない理由が速さ故かと聞かれれば、ちょっと違うんだよなぁ……”残念ながら”
ひょっとしたらまだ速すぎて手も足もでないほうがよかったのかもしれない。
彼女が武器として使っているグラコスの死体の攻撃が、ヤバイんですね。いや本当。
死後硬直だか即時性死体硬直でも起きたのか、死体はしなることなく、金属バットのようにブンブン振り回されているわけで―――
あんな巨体がですよ?
253名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/28(金) 02:34:37.54 ID:nj3dX5W40
      
254名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/28(金) 02:35:41.74 ID:nj3dX5W40
        
255あなたがいるから進めない  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/28(金) 02:36:48.89 ID:j3W1613xO
 あ ん な 巨 体 が で す よ ?

何の罪もない木はバッサバッサ倒される、風の音から考えれば当たればただではすまないだろうなぁ、なんてのんびり考えてる場合じゃな
いわけで。
さっき竜王が僕達をかばってくれたわけですが…………竜って、凄いんですね。いや、竜王が凄いのか……

脱線した話を戻すと、彼女が振るう武器はかなり大きいので普通なら攻撃に入る際に隙が生まれるんですけどね―――星降る腕輪。
もうね、アホかと。馬鹿かと。
武闘家が素早いことは知ってますよ。その素早さにはお世話になりましたさ―――でもね。
256名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/28(金) 02:41:51.87 ID:nj3dX5W40
        
257あなたがいるから進めない  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/28(金) 03:11:47.02 ID:j3W1613xO
こんな本気で気が狂ってるとしか思えない場所と相手に、それを余計に進化させるものよこしますか? 普通ないでしょう。いや、旅の最
中とかはありだと思うけれどね。
まあ、つまり。
今の彼女は鬼に金棒ていうか鬼にグラコスなわけで、いや、ほんとう、いい笑顔ですね。


◇◇

武器と成り果てたグラコスの体がアルスに勢いよくぶつかり、アルスの体が吹っ飛ばされる。
気に体を強く打ちつけ、思わず吐血してしまった。
吐いた血の色が赤い―――なぜこうも悪い状況が続くのか。自身の運の悪さに怒りを通り越して呆れを覚え始めた。
吐いた血の色が薄い紅とよべる色だった場合、それほど焦る必要はない。
せいぜい口の中を切ったか歯が折れたか―――そのていどならば問題ない。
問題は、今のように赤い色だった場合である。
普段吐血することが多々あるのならばともかく、そんなことは一切ないアルスはほんの少し恐怖を覚える。
258あなたがいるから進めない  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/28(金) 03:15:07.54 ID:j3W1613xO
赤い色は、最悪の場合肺などに折れた肋骨が刺さっている場合もある。
今動ける以上最悪の可能性は低いにしろ、肋骨だけならずいろいろな所を痛めた可能性は高い。
さあまずいことになってきたと、アルスが一本の糸を取り出した。
リンリンがそんなアルスの行動に首をかしげる。
もしも彼女がその手にグラコスを持っていなければ、愛らしくも見えた。
アルスが笑う。
反射して光る糸は結構な長さがあるようで、リンリンにはそれがどれほどの長さであるのかはわからなかった。
なにか仕掛けてくるつもりなのか、身構えようとしたリンリンの前でアルスがその糸を千切り始めた。
なにをしているのか? アルスの行動が理解できなかったが、たったいま使えないほどに千切ったものに多少引っかかりは感じるもののア
ルスとの戦いに集中するすることにする。
259あなたがいるから進めない  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/28(金) 03:18:38.98 ID:j3W1613xO
それが功を成したのか、既にリンリンの懐に潜り込んでいたアルスの攻撃を武器で受け止める。
深く刺さった鋼の剣をグラコスの身体から引き抜くことはせず、そのまま腰をひねりリンリンの胴へと回し蹴りを放つ。
ほんの少し攻撃の手を休める程度の攻撃だったが、その隙に距離を取り、アルスは呪文詠唱の行動へと入る。

「奇をてらう行動を───」

魔力がアルスに収縮し始める。
今まで格闘技で攻めていたアルスの意表を突く攻撃にもリンリンは焦らない。
既にその手はテリーによって見せられている───読みが、甘い。
260あなたがいるから進めない  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/28(金) 03:21:27.93 ID:j3W1613xO
グラコスをその手にしたままリンリンがアルスの目の前に現れる。防御などする必要はない、打たれる前に撃つのみ。
指を固め掌底を頭の急所に打───とうとした。

「──────狙うよりシンプルに殴る方が強い!」

がら空きだったリンリンの腹に全力の正拳突きを叩き込む。
魔力が拡散すると同時に短く吹っ飛ばされたリンリンが、してやられましたわねと小さく呟く。
読みが甘いのは自分の方か───まだまだですわね、本当に。
テリーの時よりも鋭く刺さった痛みを堪えつつ、それでもリンリンは笑う。


「シンプルに殴るのが強いことには同意ですわ。欠点がありませんもの」

「わかってくれるのは嬉しいけど、僕全力で殴ったつもりなんだけど……よく、立っていられるね」

「あら、自信たっぷりですのね。確かにかなりの衝撃でしたが、わたくしを沈めるには少し足りません、ねっ!」
261あなたがいるから進めない  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/28(金) 03:24:39.69 ID:j3W1613xO
リンリンの行動は早い。隙はその身の早さで隠し、アルスの頭蓋骨を叩き潰しにかかる。
速さでは圧倒的に叶わないアルスがリンリンより優位に立つには攻撃する隙が生まれれば一撃で沈める必要があった。相手も全力ならば、
こちらも全力───しかし如何せん、相手が悪い。
疲れを知らない連続蹴りをひたすら避けながら思考する。シンプルイズベストは相手に通じるとは考えにくい。むしろその手法は武闘家で
ある相手に分がある。
人間の限界を疑いたくなるような攻撃を次々と放つ相手は、実にいい笑顔を浮かべている。余裕綽々の様子───ため息を吐きたくなる。
肺に肋骨が刺さった可能性がある以上、長引けば自滅していく。この状況では後方支援は期待出来ない───相手に大きく隙を作らせなけ
ればならない。そう、出来るならば……いや、絶対に罠を、罠をしかけなければならない。
262あなたがいるから進めない  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/28(金) 03:27:48.22 ID:j3W1613xO
「…………ねえ、竜王」

声を掛けられた相手は返事をしない。それは今までの相手からすれば驚愕できる反応だったのだが、目の前の戦いに集中して聞こえていな
いのか、戦いから目を離すことをしたくなかったのか。ゼシカにはわからなかった。

「このまま長引くと……」

マズい。わかっている。
今は攻撃を交わし、隙を突き攻撃を放つことが出来ているが、長引けば長引くほどアルスの体に負担がかかることになる。
ならば魔法で乱入を───それも無理だ。相手が速すぎる。
一瞬後にはその場から動いている相手に魔法を撃ったところで当たるとは到底思えない。

そしてそれは竜王にも同じ事が言えることだった。相手が速すぎて乱入するにはドラゴンである竜王の身体は大きすぎた。
263あなたがいるから進めない  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/28(金) 03:30:13.29 ID:j3W1613xO
もし今飛び込もう物ならば体中が痣だらけとなる未来が簡単に想像できてしまう。
何より、ゼシカも竜王も万全といえる状態ではないのだ。
小さな隙では足りないのだ、相手の動きを止める程度では足りない。
今相手はアルスのみに集中している。こちらに対し行動を示さない今、攻撃を仕掛けるには、この状況しかないのだ。

どうすればいい、どうすればいい。
支援は今は出来ない。アルスが隙を作らせない限り状況は悪い方向へと向かっていくというのに、そのアルスも大分キツイ状態だ。
状態を膠着させてはならないのに、改善策は浮かばない。

それが焦りを加速させ、ひどくもどかしい。




◇◇
264あなたがいるから進めない  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/28(金) 03:42:27.46 ID:j3W1613xO
暗い。
自分の体すら見えない。

夢か幻か現実か?現実ではない、それはわかった。


ショックだった。
悲しかった。

親友が、いつでも隣に居て明るく振る舞い元気を与えてくれた存在が、目の前で、自分を庇って、死んだ。

ネイルアーティスト検定に合格したと喜んでいた。
約束だってした、旅が一段落したら彼女にネイルをしてもらうと、互いに楽しみにしていた。

再開して気持ちが浮ついていたのかもしれない。
本来なら、どんなことにも疑いの眼差しを向けるべきだったのかもしれない。


───違う。


それはアンジェには絶対に出来ないことだった。
265あなたがいるから進めない  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/28(金) 03:49:14.09 ID:j3W1613xO
無条件にアンジェは人を信じる。天使だから、人の汚さを知らないから……全然違う。人がどれだけ汚れているか、アンジェは知っている。
信じるに値しない人間が存在しているのも知っている。それでも、例え誰でもアンジェは信じる。

頭が悪いと言われても、月並みだと思われても、それがアンジェの生きる道だから。

それでもやっぱり、注意はするべきだったのだ。疑い続けるんじゃない、信じ続けるんでもなく、相手を見定めることが出来ていたなら。
戦闘中、他のことに注意出きるほど自身の能力が高かったら。
…………どれもこれもifの話だ。悔やんでも過去は変わらない。今は変わらない。
考えたところで答えは用意されていないのだ。
師匠の時のような"奇跡"は、もう望むべきではない。
一つのことに頑張ってしまうから、わからない。進めない。……わからない。

イザヤールがいたら、サンディがいたら、共に旅した仲間たちがいたら。


───涙が、零れた。


◇◇
266あなたがいるから進めない  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/28(金) 04:03:28.24 ID:j3W1613xO
「夢なんかの為だけによく命を張れるねッ! 他に掲げるべきものはないのかい!」

「"ソレ"と────欲望だけよ!」

リンリンが大きく足を振りあげ、アルスの体を叩き潰す為振り下ろす。普通それだけの攻撃を放つには空気の抵抗が強くなり、速さは目に
見えて遅くなるものだが星降る腕輪がそれを緩和する。
まさに俊足、そう表してもまだ足りない速さは比例して一撃の重さを増す。
隙を作らず避けることは不可能、一瞬の間で判断したアルスが間一髪、右へと身を丸め転がる。
振り下ろされたその場所は小さなクレーターを作り、作った本人は視界から消えたアルスを探すためほんの一瞬、殺気が緩む。
望みに望んだその時を逃すハズもなくアルスがリンリンよりも早く一歩を踏み出すが、それすら、一瞬遅い。
267あなたがいるから進めない  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/28(金) 04:06:36.56 ID:j3W1613xO
がら空きの腹に食らってはい
けない一撃がめり込まれ、アルスの小さな体躯が吹っ飛ぶ。
その身の硬さから腹に穴が開くことこそなくとも胃に大打撃、打ちつけた背中と、嘔吐感と痛みに喘ぐ。
そして竜王が混じるより先に(それでも全然構わないが)トドメを刺すため走り出そうとしたリンリンの視界に赤色が映り、同時に体そのも
のに違和感を感じる。

空中に舞うのは───リンリンの、片腕。

「なっ…………!?」

目を見開いて落ち行く片腕と武器を眺めるリンリンに、アルスが両手に"光る何か"を持って微笑む。
バカにしたような、してやったような悪戯小僧のような笑みで───

「まっ、簡単な手品だね」
268あなたがいるから進めない  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/28(金) 04:09:45.56 ID:j3W1613xO
何が起きたのか。
それはアルスにしかわからないことだった。
笑うアルスはその手に光で反射し、きらきら光る”糸”を持っていた。
そう、さきほどアルス本人が千切ったはずのその”糸”が、離れたリンリンの腕に巻きついて一部分を赤く染めていた。
本当に簡単な手品なのだ―――糸を千切ったようにみせかけ、それはもう使われることはないと思い込ませただけの、心理を利用しただけ
の罠を既にアルスは仕掛けていた。
事の端末は単純である。手品のタネは省くが、先のように油断を与え組み合っている最中に糸を巻きつけ、吹き飛ばされると同時に糸がリ
ンリンの腕を切り離す。
追い詰められていたのは演技ではないし、最初からこんな状態を予測していたわけではない。だからといって、罠を仕掛ける暇がなかったわけではないのだ。
269あなたがいるから進めない  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/28(金) 04:16:06.94 ID:j3W1613xO
先ほどとは比べ物にならない激痛に顔を歪ませるリンリンだが―――これでは、終われないのが彼女である。
未だ空中に漂う自分のものだった腕を、アルスへ向かい蹴り飛ばした…………否、ぶっ飛ばした。
まさかそんな手に出るとは思わず、隙だらけで固まるアルスへ飛んでいく腕は、心臓へと真っ直ぐ狙いを定めていた。
本日何度目かの生命の危機に、感情を抱く暇もないアルスの命を奪おうとしていた腕は―――











「隙を生んだな、娘よ」

竜の手により、遮られることとなる。
270あなたがいるから進めない  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/28(金) 04:19:45.73 ID:j3W1613xO
投げ捨てられた腕はこんどこそ地面に落ちるだけとなり、突然の乱入者にリンリンの動きが再び固まる。
大きく息を吸い、その口から竜王が炎を吐き出しリンリンの姿を飲み込む。
寸前の所でそれを交わし、反撃に移ろうとするが、痛みがその行動を鈍くさせた。

よくみれば腕の切り口は綺麗なものではなく、フランベルジュのようなもので切り裂かれたように肉を絶っていた。
本来人体を切断する目的で糸は作られていないものだ。無理やり切り落とされた腕の切り口がこうなっても納得はいく。
普通ならば悲鳴を上げてもおかしくない激痛でも、気力でリンリンは笑っていた。
―――狂気、そう表しても足りないほどに。


竜王が飛び上がる。
そのまま体当たりでも食らわせるのか、空から焼くのか…………なんだって構わない。
271あなたがいるから進めない  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/28(金) 04:23:57.38 ID:j3W1613xO
楽しい楽しい戦いの為になるのならば腕の一本ぐらいなら差し出してあげますわ。
急降下してきた竜王の腹を眺めながら恍惚の笑みを浮かべ、攻撃範囲から逃れようと1、2、3歩と足を踏み出し



「きゃあっ!」

落とし穴へと、落下する。

なぜ、なぜ、いつ、どうやって、いや、そんなことは後で構わない、はめられたことが事実なのは解る──悲しいかな、二重の意味で。いや、そうじゃない、落ち着け自分。
ほんの少し冷静さを取り戻し、穴の範囲を確認する。
272あなたがいるから進めない  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/28(金) 04:28:59.11 ID:j3W1613xO
穴そのもはリンリンの体躯をほんの少しだけ超えた程度の深さ、たったこれだけならば片腕でも這い上がれる。
但し、そんな時間はない。


「アンジェ!」

アルスの叫び声が上がるとほぼ同時、空に別の色が混じる。
桃の髪を向かい風ではためかせて、両手には昆を持ち振り上げて、少女は舞い降りる。


「───はいっ!」


穴の中の少女は悟る。時間がない。
杖を使うにも、ここから抜け出すにも、絶対的に時間が足りない。
攻撃を避けるにはこの場は狭すぎる───仕方ない、ここは一旦防御体制に── 身を固めた時、見えたのは───何故か、竜の、腹。

低空飛行をする竜の腹が、リンリンの瞳に映った。その一瞬では、何が起きたか、何が起きなかったのか解らない。
273あなたがいるから進めない  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/28(金) 04:42:09.07 ID:j3W1613xO
空気を大きく揺らし翼をはためかせて消えた竜に、ようやくリンリンの思考が追いついた。片腕だけで穴を飛び越え、戦闘の色を強く残すその場所に降り立つ。しかし彼女の瞳には、誰も映らなかった。
なんとなく予想はしていたが、今ようやく悟る。逃げられたのだと───

心は不思議と凪いでいた。
二回、逃げられたと言うのに、怒りと呼べる感情は欠片も浮かんでこなかった。
満足したわけじゃあ、ない。

まだまだ暴れたりないぐらいであるし、木をなぎ倒してもいいかもしれないと思うほどには、リンリンの欲求は満たされていなかった。
なのに、なぜ……わからない。
274あなたがいるから進めない  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/28(金) 05:30:37.94 ID:owUi/u6M0
今から追えば追いつく可能性もあるだろうに、追いかける気がないわけではないのだが―――頭の中に、何かが引っかかっていた。


”夢なんか”


アルスが言ったその言葉。
特別な意味があったわけではないだろうに、引っかかる。


「夢、ねえ」


失った左腕に虚しさを覚えつつ、リンリンは一人呟いた。



◇◇



大丈夫ですか?
アンジェが心のそこから心配しているような声音でアルスに問うた。

戦闘から逃げ出すことは出来たものの、実はそれほど離れていない場所にアルスたちは落ち着いていた。
一つとして、あの素早さから逃げ続けれるのは時間の問題であり、追いつかれ戦闘が再び始まってしまった場合、無駄に体力を消費しないため。今逃げ切れたのも、運が重なっただけの偶然である。アンジェが落とし穴を掘っていたことがばれていたら成功していない。
275あなたがいるから進めない  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/28(金) 05:36:47.19 ID:owUi/u6M0
糸があったのだってサンディの袋にあったものだったし、糸で腕が切れる確立はそれほど高くない……いや、ほとんど博打に近かった。

そしてもう一つはアルスがここで吐血してしまったことだ。
いくら虚勢を張った所で無理をしていたことには変わりなく、リンリンから受けた攻撃はやはり骨を持っていかれていた。
アンジェと同じく心配したゼシカが、アルスに上薬草を渡そうとしたがそれは自分より満身創痍の竜王にと笑って断った。
断続的に回復呪文を唱えてはいるが、この状態では完治は期待できないだろう。
激しい戦闘により吐く暇がなかったため息をまとめて吐いた。
一息ついたところでそういえば、とアルスは思ったことをアンジェに聞く。

「アンジェ、平気なの?」

何が、とは言わなかった。
……いや、言えなかった。
友人をなくすということを自分も先ほど味わったところであるし、アンジェは目の前で親友をなくしたのだ。
276あなたがいるから進めない  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/28(金) 05:45:22.80 ID:owUi/u6M0
アンジェも質問の意図をすぐに察し、悲しみが混じった複雑な笑みであぁ、と曖昧に頷いた。

「まだ、平気ってわけじゃないですけど……私、こんな時サンディが居たらどう言うんだろうなって、考えました」

思い出すのは、ガナサダイ戦の際に自分を庇って命を落としたイザヤールのこと。
あの時はわんわん泣いた。なんで、どうして? そんな思いがひたすらに自分を支配した。
確かにその時自分は、ガナサダイに憎しみを抱いた。
理不尽に命を奪い、それでいて笑っているガナサダイを許すことはどうしても出来なかった。……今だって許せるわけじゃあ、ない。
それは今だって同じ事で、あの少女を許せるかと聞かれれば、答えはやはりノーだ。
悲しむな、なんて絶対に無理だし、泣くな、なんてもっと無理な話で。
277あなたがいるから進めない  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/28(金) 05:49:54.25 ID:owUi/u6M0
「でも、サンディならきっとウジウジしてんじゃないっ!って体当たりしてくるんだろうな、って
 私、自分に嘘はつけませんから……だから泣くのは、もう少しあとでにしようって。全部終わって、思いっきり悲しもうって」

だってまだクエスト達成してません!そう言ってアンジェは明るく笑った。
無理のある笑顔じゃなく、今アンジェが浮かべられる最高の笑顔にアルスも釣られて笑う。
アンジェはきっと、とても成長しやすい人なんだな、とアルスは思う。
強いのではなく、成長する人。
それはとても、凄いことだ。
278あなたがいるから進めない  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/28(金) 05:56:10.31 ID:owUi/u6M0
「あ、そうだ。私もちょっと聞きたいことがあるんですが……」

いいですか?とアンジェが首を傾げる。
その行動でリンリンを思い出し身震いするも、うんと平常を装い頷く。
どうやらある種のトラウマになってしまったようで、アルスは気付かれないようにうな垂れた。
もちろんそんなアルスのことを知る由もなく、アンジェはさっきの人のことなんですが、と続けた。

「置いてきてしまって、よかったんでしょうか」

もっともな質問だと、アルスは思う。
実のところ、先ほど竜王にもゼシカにも同じ事を問われたばかりである。
退却しようと提案したのはアルスで、それを竜王も不審に思ったようだったが、素早く攻撃を仕掛けてくる相手に分が悪いと思ったのか結
局撤退の道を選んだ。


「うん、ちょっと思うところがあってね」
279あなたがいるから進めない  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/28(金) 06:01:09.14 ID:owUi/u6M0
本来ならば、気絶させて縛るなど、取るべき行動は多々あった。
なのにその行動を取らず、退却の道を選んだ理由は、結局この一言につきる。
思うところ?とまた首を傾げたアンジェに説明するべきか、とアルスは口を開いた。

「僕から見た彼女はなんていうか……
 未来を諦めてないし、切り開こうとしてるし、限界を見定めてないし、そんな彼女はこれだけみたらきっと模範生なんだな、って思う」

◇◇

思えば、自分は追いかけてばかりだった気がする。

初めは、当時魔王退治に赴いた───例にもれなく倒れたらしいが──とある武闘家だった。
今見れば一笑するような、その辺の戦士よりほんの少し強かっただけの、ありふれた武闘家ではあるが、子供だった自分には"ソレ"はとても輝いて見えていた。
280あなたがいるから進めない  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/28(金) 06:08:29.82 ID:owUi/u6M0
幼なじみとして共に暮らしてきた男が勇者として期待されていたこともあってか、いつしか"ソレ"の真似事を見よう見まねでしていたのだ。

親は止めるよりも呆れていた。
違う、呆れるしかなかったのだ。
子供の好奇心が勇者に向くのは仕方ないことだと、いつもほどほどにしときなさいと、ただそれだけを言い聞かせていた。
そう、やはり今考えれば、ひょっとすれば昔の自分は、役に立ちたい、それを一番に考えていたのではないだろうか?



◇◇



「…………でも。
 それだけ模範生な彼女は、たった一つ。たった一つだけ、間違えてる。
 人を殺す意志だとか、歪んだ願いだとかそんなものじゃなくて、もっと簡単なこと。"子供だったら"わかること」

「"子供だったら"……?」


へらっ、と表情を崩し、アルスは手の中の赤く染まった糸を眺める。
不思議そうな顔をするアンジェとは目を合わせず、アルスはそのまま言葉を紡いだ。
281あなたがいるから進めない  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/28(金) 06:13:26.11 ID:owUi/u6M0
「よくないかな、子供の頃見えた景色はもう見えない、そんな感じのセリフ」

はらり、糸を地面に落として、視線をアンジェへと向ける。
向けられた表情は緩いのに、視線はイヤに鋭く思わず背筋が伸びるアンジェに気付いているのかいないのか、アルスは笑みをまた別の笑み
へと変える。




◇◇



ある時、子供の間でチャンバラが流行った。
もちろん勇者としての修行を積んだ彼には誰も勝つことは叶わなかったし、よく言えば決めたことは絶対にする性格の彼は勝負に負けた相
手を奴隷……失礼、使い走りのように扱っていたりした。
そのチャンバラには参加させてもらえなかったが、彼が剣代わりの木の棒を振るう姿に見とれていた。
そう、その時既に自分の方向性は変わっていたのだ。
力を求めるあまり、また別の道へと進んだ。
だから、強い彼に憧れを抱いた。
純粋な、無粋なものなど一片も混じらない憧れを、夢を、希望を。
282あなたがいるから進めない  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/28(金) 06:19:53.50 ID:owUi/u6M0
ならば、自分自身は純粋だったのだろうか。
……いや、ありえない。
一つのことに熱狂的になることがソレを指すならば話は別だが、少なくとも戦闘を望み続ける子供を純粋とは言えない。

異常性は、わかっていたのだ。親も、周りも、きっとみんな薄々気付いてきていた。
当たり前だ、毎日毎日、飽きもせずに稽古を続ける女。
望みが、歪んだ子供。
だからと言って、自分は周りから除けられたようなことはない。
怖かった、のだろう。もしもそんな事をしたらどんな往復が来るかわからない───よそよそしい態度の意味に気付いたのは、かなり遅い時期だった。
やはり自分は変わらず、格上の誰かを目指して修行を続け、勇者の子供も修行を続け。楽しいことが好きで、楽しいことが同じで、友人で、違ったことは一つ。

結局、願い。願いは、全然違った。
283あなたがいるから進めない  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/28(金) 06:24:33.46 ID:owUi/u6M0
◇◇



「夢のないことを言うんなら、世界が色褪せて見えるのは目の角膜の影響なんだけれど、夢のある話をしようか。
 彼女は、きっと、置いて来ちゃったんじゃないかな。家の鍵を忘れるぐらいに、軽く、いつの間にか、無くしちゃったんじゃないかな」

「……無くす、」


ああ、なんとなくわかる。何がわかるんだと聞かれれば答えに詰まってしまうが、頭じゃないどこかで、アンジェはソレを理解した。
なんとなく、わかってくれた?と聞くアルスも同じなのだろうか、アンジェは頷いた。そう、と短く呟いたアルスは背伸びをして、真面目な話って疲れるよね、と笑った。
その光景が一瞬、もう隣には居ない親友の姿に被り、アンジェは場違いだと思いつつも笑みを浮かべる。

(真面目な話ってアタシ退屈で死んじゃいそうになっちゃうのヨネ)
「でも、知る必要のある話でしょう?」


いつかどこかでした問答を脳内に浮かべながら返答する。
284あなたがいるから進めない  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/28(金) 06:28:36.02 ID:owUi/u6M0
そうだね、と親友とは違う返事をしたアルスは眉を潜めた笑いを浮かべ話を続ける。


「彼女の欠点はかなりあるけど、どうしようもないのは一つ」



◇◇



戦う理由は、勇者は荒くとも世界の為で、自分は自分の為で、根本的な部分は似ても似つかない。
勇者が願ったのは粗末でも平和で、自分はそれとは全く真逆の願いを祈った。
二人とも血を浴びるのは趣味とも言えるレベルで好きだったというのに、自分は彼の道を追いかけていた筈なのに、彼とは別の道へと入っていた。

そう、追いつける筈がない。道が違うのだから。
それでも、走るのを止めるわけにはいかなかった。道を遮ったのはプライドだ。わかっている。しかし意地を張らずにはいられなかった。
自分を捨てるのは許せなかった。
例え違う道だったとしても、今まで自分が歩んだ道に後悔はない。
285あなたがいるから進めない  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/28(金) 06:31:47.80 ID:owUi/u6M0
悩みはしたし、これでいいのかと自分に問うたこともあったが、悔やん
だことはない。
勇者の隣で学んだことが、知ったことが、間違ったことが自分だ。
自分に自信は持っている───

でも、気付いていた。
どうしようもないのだと、気付いていた。




「自分が、ない」


◇◇


自分がない。
ぼそりとアンジェが復唱する。上手い言葉が見つからないけど、と前置きを置いてリンリンを表したアレルの言葉に、理解は出来たものの
腑に落ちなかった。
気絶していた為リンリンが最初にどんな行動を示したのかはわからない。
しかしアンジェが見たリンリンの戦う姿には確かな意志の強さと、願いと楽しさを感じた。
286あなたがいるから進めない  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/28(金) 06:46:00.41 ID:j3W1613xO
戦闘を好かないとはいえアンジェとて激戦に身を置いた戦士である。戦いに置いて意志の強さがかなりの影響をもたらすことも知っている。特にそれは身をもって理解していることである。

しかしアレルはそれを違うと言った。
虚像ではない、本物だけれど彼女に自分はないと言う。


「なんというか……彼女は、影響されすぎているというか。こう、子供から見ると『真似してる』ように見えるんだ」
もう子供といえる年齢じゃないけれど、アルスは苦い笑みで言う。

「追いつくために道をなぞる、憧れたからその対象を目指す。これは当たり前のことだけれど、その欲求に一途すぎるんじゃないかな」

「一途……それは、わかる気がします」

「何年もソレを続けてたら、イヤでも変えられない。個性そのものが誰かの個性、って言うのかな」

何かはあるけど、自分がない。自分を形成しないまま生きてきたならそれはもう───どうしようも、ない。
287あなたがいるから進めない  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/28(金) 06:49:31.56 ID:j3W1613xO
「僕ってやっぱりお人よしだからさ……迷っちゃったんだ。
 …………実のところを言うならね、僕、人を殺すことに戸惑いはないんだよ」

覚悟はとっくに決めている―――だけれど、ここで天性のお人よしスキルが発動してしまった。
いいのだろうか、彼女はあのままで。ずっと、誰かをなぞるのだろうか。
赤の他人のはずなのに、関わればきっと面倒なことにしかならないのに、身体の動きは鈍くなってしまった。

「追いかけた先に、彼女は何もないんだよ」

それは本当に、幸せなことだろうか?
288あなたがいるから進めない  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/28(金) 06:53:51.91 ID:j3W1613xO
◇◇



”世界っていうのは、以外にも狭いものですのね”

”はあ?”

”だってわたくしより強いお方が少なすぎますわ”

”じゃあお前の世界はオレだけなのかよ”

”悔しいですけど、そうかもしれません”

”―――お前って、寂しいやつなのなあ。オレにここまで言わせるんだからよっぽどだぜ?”

”何を―――”

”いい加減、自分を見つけたらどうだ? まっ、どうあがいてもオレにはかてねーだろーけど!”



 わからない。
289あなたがいるから進めない  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/28(金) 06:59:09.70 ID:j3W1613xO
【D-3/E-3との境界線付近/午後】

【リンリン@DQ3女武闘家】
[状態]:ダメージ(小)、腹部に打撲(小)、軽度の火傷、左腕喪失
[装備]:星降る腕輪@DQ3
[道具]:場所替えの杖[8]、引き寄せの杖[9]、飛び付きの杖[9]、ふしぎなタンバリン@DQ8
     銀の竪琴、笛(効果不明)、グラコスのヤリ@DQ6、ヤリの秘伝書@DQ9、グラコス@鋼の剣つき
     支給品一式×4、不明支給品(0〜1個)
[思考]:強者とは夢の中で今までできなかった死合いを満喫し、最後にアレルを蘇生させて戦う。
[備考]:性格はおじょうさま、現状を夢だと思っています。
290あなたがいるから進めない  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/28(金) 07:03:05.69 ID:j3W1613xO
【E-3/草原/午後】

【ゼシカ@DQ8】
[状態]:健康
[装備]:さざなみの杖@DQ7 
[道具]:草・粉セット(※上薬草・毒蛾の粉・火炎草・惑わし草は確定しています。残りの内容と容量は後続の書き手にお任せします。
     ※上やくそう1/2(残り1つ) 
     基本支給品
[思考]:仲間を探す過程でドルマゲスを倒す。最終的には首輪を外し世界を脱出する

【竜王@DQ1】
[状態]:HP3/10、MP8/10、竜化により疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:天空の剣@DQ4、キメラの翼@DQ3×5、基本支給品
[思考]:ゼシカと同行する。最終的にはデスタムーアを倒し、世界を脱する。
291あなたがいるから進めない  ◆YfeB5W12m6 :2012/12/28(金) 07:07:04.65 ID:j3W1613xO
【アルス(主人公)@DQ7】
[状態]:HP4/10、MP1/3
[装備]:疾風のバンダナ@DQ8
[道具]:支給品一式、サンディのふくろ(中身は不明)
[思考]:顔見知りを探す(ホンダラ優先) ゲームには乗らない
     本気で動いてみる。

【アンジェ(女主人公)@DQ9】
[状態]:HP4/10、MP9/10、背中に擦り傷、全身打撲
[装備]:メタルキングの盾@DQ6、オリハルコンの棒@DQS
[道具]:ハッピークラッカーセット@DQ9(残り4個) 使用済みのハッピークラッカー 支給品一式
[思考]:困っている人々を助ける デスタムーアを倒す サンディの死を悲しむのは全て終わらせた後
[備考]:職業はパラディン。職歴、スキルに関しては後続の書き手にお任せします。









投下終了です
292名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/28(金) 10:01:16.21 ID:oNtONJLB0
投下乙!!
293名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/28(金) 15:16:14.49 ID:7aBtqcoe0
乙です
294名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/28(金) 16:04:57.97 ID:gm+ASdQd0
投下乙!
自分が無い、か……何かに憧れるがゆえに、自分をもてないって言うのは少し悲しいなあ。
ようやく覚悟の決まったアンジェ、アリーナが心配していた事はとりあえず解決したけど……。
あと「@鋼の剣つき」に笑ってしまうwwww
295名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/28(金) 20:30:59.81 ID:lIm5Viz7O
投下乙です。

行動だけをなぞったせいで、手段が目的化して違うルートに入ってしまった。
どこかで乗り換えよう。
296名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/31(月) 14:01:21.10 ID:m4m+euhl0
投下乙ですー

竜王達もリンリンも今後が気になるお……
297 ◆jOgmbj5Stk :2013/01/01(火) 00:47:12.42 ID:ueNZztp20
あけましておめでとうございます
私もままならない日々が続きますが、なんとか今年もこのロワの血となり肉となるべく精進していきたいと思います

みなさん、昨年と同じく今年もドラゴンクエスト・バトルロワイアルIIをよろしくお願いします
298 ◆TUfzs2HSwE :2013/01/01(火) 01:02:31.03 ID:/ABdpOdU0
明けましておめでとうございます。
昨年は色々とご迷惑をおかけしました。
この筆が絶えぬ限り完結まで張り付くつもりです。
今年もよろしくお願いします。
299 ◆CruTUZYrlM :2013/01/01(火) 13:33:37.48 ID:Nb0KUaduO
あけましておめでとうございます。
100人中150人が感動するようなお話が書ければいいななんて思いつつ。
他の書き手さんの作品や、住人の方のイラストやwiki編集にいつも助けられてます、ありがとうございます。
リアルの事情やら何やらありますが精一杯頑張ります。
本年もDQBR2ndをよろしくお願いいたします。
300 ◆1WfF0JiNew :2013/01/01(火) 14:39:36.76 ID:PfLTXLJ10
あけおめっす。
少しでも皆様を楽しませる作品を投下したいです。
短いですが、よろしくお願い致します。
301 ◆HGqzgQ8oUA :2013/01/01(火) 14:52:21.11 ID:2JAknuwp0
あけましておめでとうございます
ということは、1st完結から丸一年なわけで、なんとも早いものです
今年も引き続き、微力ながらも何かしらの形で関わっていけたらと思います。よろしくお願いします
302 ◆YfeB5W12m6 :2013/01/01(火) 14:59:37.62 ID:W0PGbZUOO
あけましておめでとうございます。
昨年同様少しでもよい作品を作れるよう頑張っていきたいと思います。
2013年もどうかよろしくお願いします
303エデンに君と ◆TUfzs2HSwE :2013/01/03(木) 07:11:27.15 ID:Z62UpMfyO
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伽藍の堂。
そんな例えが思い浮かぶ。
空ろに魂を漂わせ、生の実感を求め続ける、いくつかの乾いた肉塊たち。
彼らには、伽藍の堂という言葉がよく似合う。


彼らは闘志をぶつけ合うことに命を注ぎ、喜びを噛み締めて生きてきた。
それだけが彼らの魂を繋いできた。
空っぽの身体に注がれた、「戦い」というただ一つの生きる糧。
それが彼らを、唯一人間たらしめる要素であったのかもしれない。


一人の少年が彼らのもとに賽を投げた。
俺は今から俺の望みを叶えに行くと。
そしてお前らの望みも叶えてやると。
それに賛同した彼らは少年とともに旅を始めた。
より生の実感を得るための旅を。


そして、長い旅の終わりに……


少年は世界のすべてから行方を眩ませることを選んだ。
女は少年の影を求めて愁えた。
男はそんな女の姿に憤った。
求めた果てに、どんな形であれ、三人は一つの答えを出していた。


ならば、少女は。
少年の姿を追いかけ続けた、見目も愛らしき少女は。
少年の死という苛烈な現実を、夢という名の蜃気楼で包み隠し、
まるで我が子を愛するように、大事に大事にあたためてきた夢の世界を、壊れかけの揺り篭に縛り付けて、
必死に必死に守り続けた、一人の少女は。
己のがらんどうに今ようやっと気付きつつある、この少女は。
どんな答えを出すのだろう。
どこに、いくのだろう。
304エデンに君と ◆TUfzs2HSwE :2013/01/03(木) 07:14:05.91 ID:Z62UpMfyO
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(アレル、待って)


虚無感で満たされた少女――リンリンの瞳が、ふと、幼いころの景色を映し出す。
アレルが人目を忍んで遠くに行こうとする、それを追いかけるのは幼き日のリンリン。
すぐにどこかに行ってしまうアレルを追いかけるのは、リンリンにとっては日常茶飯事だった。
アリアハンで良家の子女であったリンリンと、勇者オルテガの息子に生まれついたアレルは、幼いころから繋がりも深く、
自然と、リンリンはアレルのお目付け役のようになっていたのだ。


(アレル、まちのお外を出てはだめって、お母さまに叱られたばかりでしょう)
(しつこいな。別にいいだろ。オレの体はオレのもんだ)
(んもう。王さまにも怒られますわよ、あなたは勇者なんだから、自分を大事にしなさいって……)
(勇者じゃねえ。オレは、父さんとはちがう!)


よみがえる思い出に、そういえば、とリンリンは思う。
おれは父さんとは違う。だから勇者と呼ぶな。それが、幼い頃の少年アレルの口癖だった。
父の後を継いで魔王を倒すと幼き日に宣言しながら、勇者という呼び名を嫌がるアレルの姿を、
リンリンは幼いながらも不思議に感じていた。
いつからだっただろう。アレルがその口癖を言おうとしなくなったのは。
町が、城が、アリアハン大陸のすべてが、アレルを勇者と呼ぶようになって、アレルは勇者と呼ばれても、口を噤むようになって。
黙々と剣の修行を続けるアレルを追いかけるように、リンリンも武道に打ち込むようになって。
そして旅の始まりを告げられた。アレルの十六歳の誕生日。
公然と遠くへ旅立てることに、意気揚々として見えたアレルのうしろすがたを、
リンリンはやっぱり心配になって、当たり前みたいに追いかけて行って……


あの世界で生きていたころから、リンリンにとっては当たり前のことだった。
当たり前のことが、リンリンには、夢みたいなことだったのかもしれない。
だって、よく考えてみれば、アレルと戦うことなんかいつでもできる。
アレルがアレフガルドから姿を消すのも、アリアハンの頃の家出と似たようなものだし、
どんなにリンリンを置き去りにしても、アレルと呼べば必ず振り向いて待っててくれた。
だから、探しに行けばいいのだ。追いかければいいのだ。アレフガルドでも、今までと同じように。
でも、それはできないのだ。なぜなら、アレルは死んでしまった。
リンリンを置いて死んでしまったのだ。
だからもう、探しには行けない。追いかけることはできないのだ。
305エデンに君と ◆TUfzs2HSwE :2013/01/03(木) 07:17:03.65 ID:Z62UpMfyO
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……ちがう。


それは今見ている夢のはなしで、アレルはほんとうは死んでなんかいなくて。
だけどデスタムーアの言うとおりにすれば、アレルを生き返らせてもらえて――
でも、そのためにここにいる人すべてを殺すなら、夢から覚めたほうが簡単では?
だって、全員を殺さなきゃならないなんて、なんだか面倒で、楽しくなくて……


……ちがう。そうじゃない。


わたしは、殺し合いを許されたこの世界で、誰かと本気で戦うのが楽しくて……
こんなに楽しいなら、きっとこれは、夢で……
誰かが、きっと神さまが、リンリンに見せてくれた……


素晴らしい、幸福の、至上の、


…………




ゆ め ?




靄は深くなっていく。
考えても考えても、考えれば考えるほど、靄は深くなっていく。


夢なんかのために、と言われた。
そうかもしれない、と思った。
そうして昔アレルに言われたことを、思い出した。
自分がない、なんて言われても、リンリンにはその意味がよくわからなかった。
考えても考えてもわからなかったので、答えを出すことなく胸のうちにしまったけれど、
心のどこかでひっかかって、無意識のうちに刻み付けていた言葉だった。
306エデンに君と ◆TUfzs2HSwE :2013/01/03(木) 07:20:12.77 ID:Z62UpMfyO
.

心臓が、痛い。


アレルの言葉が棘のように刺さったまま、融けて消えることもなく残った心臓のひび割れのようなものが、どくどくと痛い。
このひび割れが広がれば、ガラス玉で作られたみたいなリンリンの世界が、粉々に砕けて、散ってしまう。
そんな、根拠の無い漠然とした不安が、胸いっぱいに広がっていった。
怖かった。
どうしてこんなことを思うのか、わからなかった。
夢なのに、と言おうとして、やめた。夢なのに、と口にすることが、どうしてか怖かった。
わからない。わからない。なにもわからない。
どうして? どうして? どうして?


この混乱を抱えたまま、立ち尽くすことは果たして困難で。
頭を覆った靄のようななにかを振り払おうとするかのごとく、巨大な死魚を引き摺りながら、リンリンは重い足を前に進めていた。
どれくらい歩いていたのかわからない。どれほどの距離を歩いたかも。
うつろに進めていた歩みをふと止めて、リンリンはのろのろと顔を上げる。
そう、ちょうど顔を上げた目線の先に、誰かの気配を感じた気がして。
そこには確かに、誰かが立っていた。
黒い髪。少年の姿。
そんなはずはない。
だって、彼はこの世界にはもういないのだと、知っている。
彼のほうからリンリンに会いに来てくれるはずがないことを、骨の髄まで知っているのに……


「……アレル?」


それでも、口に出さずにはいられなかった。
何もかもわからないのに、リンリンには一つだけ、わかっていることがあった。
この不安を消してくれるのは、アレルしかいないこと。
ああ、ならばやはり、これは夢なのだと、リンリンは思い至る。
孤独に震えるリンリンを、アレルが迎えに来てくれる、そんな幸せな“夢”――――


「待ってたよ」
307エデンに君と ◆TUfzs2HSwE :2013/01/03(木) 07:23:09.84 ID:Z62UpMfyO
.

――それはさしずめ、夢ではなくただの幻だった。
アレルの存在を求めるあまり、別人を刹那見誤ったことに、リンリンはすぐに気付いた。
立ち尽くしたリンリンに向かってゆっくりと歩いてくるのは、しかし見覚えのある、先ほど交戦して逃げていったはずの少年。
先刻まで共にいたはずの仲間を伴わず、アルスは一人で、リンリンと対峙していた。



***



「竜王。ゼシカとアンジェを乗せて、先に行っててくれないかな」

それは逡巡の末、アルスが放った一言だった。


これからどこに向かうのか。
そのことについて考えたとき、先ほど戦場に放ってきた殺人鬼とも呼べる少女の所在を、念頭に置かざるを得なかった。
アルスの一存によって、一時的とは言え難を逃れた彼らだったが、完全に危機を脱したわけではない。
殺しておくべきだったのじゃ、と声高々に言ったのは、やはりというか竜王だった。

「要するに、情けを掛けたということか、貴様は」
「まあ、そうなるね」

彼女の闘いの果てにあるものを憂い、彼女を見逃し、一時退却する。
先の戦闘においてそう判断し、竜王に皆を乗せて運ばせたアルスに対して、竜王は顔をしかめたままだった。

「まったく。あれだけ散々やり合って、まだヤツを女扱いか。
アレフといい、人間の男児というものは、どうも喰えぬわ」
「ちょっと、竜王。今は私たちが争ってる場合じゃないわよ」
「虫の居所が悪いのじゃ、ワシは!」

リンリンに親族と呼べる存在を殺されて、復讐の機会をも邪魔される形になった竜王の苛立ちは、簡単には収まらなかった。
フンと鼻を鳴らし腕を組んでそっぽを向く竜王のすがたに、しかしお前はポルクかと、ゼシカはあきれ返ってしまう。
そんな二人をよそに、アンジェは憂いの浮かんだ顔をアルスに向けた。
308エデンに君と ◆TUfzs2HSwE :2013/01/03(木) 07:26:11.56 ID:Z62UpMfyO
「アルスさんの言いたいことは、私にもなんとなくわかります。
だけど、もしもあの人が、ほかの誰かと出会うことになったら……」
「うん。わかってる」

彼ら(竜王を除く)の、真の杞憂はそこにある。
リンリンがあの戦闘で戦意を失ったのでは、などと、甘い認識を持つことはできない。
自分たちが彼女を放って南下して、その間に別の誰かが、彼女の餌食となってしまったら。
ましてやそれがアルスやアンジェらの仲間だったら。
リンリンを哀れむばかりに、そんな悲劇が起きてしまうことを許せるほど、アルスは愚鈍な人間ではない。

しかし無論、その可能性が全てというわけでもないことをも、彼は認識している。
ほぼ大陸の最果てから南下してきたアンジェと、彼女と合流して大陸の西側をめぐり、共に南下してきたアルス。
中途で立ち往生する羽目にはなったが、結局ここまでに自分たちとすれ違ったのは、ジャミラスとあの少女、そして竜王とゼシカのみだ。
そのジャミラスらは北方へ向かって飛んで行ったし、竜王らと合流している今、アルスが知る限りこの近辺には誰もいない。
すなわち、負傷して動きを鈍らせているはずのリンリンは、しばらく誰とも会わない目算が高い。
先刻の放送では、アルス、アンジェ、ゼシカの各々が、求めていた仲間を失ったことを確認していた。
ならば今、南方の人里である絶望の町を目指し、一刻も早く仲間を探すべきではないか。

そして、はじめに戻る。
逡巡の末、アルスは結局、どの可能性をも捨てない道を選ぶことにした。
自分は、あの少女の元へ。そして皆は、仲間を探しながら南方へ。
目を丸くする各々に向かって、頷く。

「そういう判断をした以上、責任は負うよ」
「でも、だからって、一人で戻るつもりなの?」
「いや、ここで待とうと思ってるんだ。彼女がどうするか、僕にはわからないから」
「ヤツが立ち往生するか、逆方向へ向かう可能性もあるぞ?」
「そうだね。しばらく待って、誰も来ないようだったら、君たちを追いかけるよ」

そう言うアルスの口調は、その選択を博打だと思わせない程度の自信に満ちていた。
でも……と、ゼシカは呟く。
アルスが内臓に受けた傷は浅くはない。
しかも治療に用いた回復呪文の効果が薄く、完治の見込みは無いだろうと、先ほど断念したばかりだ。
まともな武装もなく、万全な状態でないことは、誰の目から見ても明らかである。
アルスは今、拳以外に武器の一つさえ、持っていないのだった。
309エデンに君と ◆TUfzs2HSwE :2013/01/03(木) 07:29:13.60 ID:Z62UpMfyO
.
「なら、私もアルスさんと一緒に待ちます」

すっくと胸を張ったのは、アンジェだった。
アンジェにはアルスの気持ちが少しだけわかる。
あの少女を見捨てきれないことも、仲間を探したいという気持ちも。
そんな彼に賛同し、そして捨て切れなかった可能性をできる限り掬い上げるために、アルスの力になろうと思った。
だが、アルスは首を振る。

「アンジェは、竜王たちと一緒に行って」
「どうしてですか!? アルスさんと一緒に戦いたいんです!」

頑固に肯定の意志を見せようとしないアルスに、アンジェはあくまで食い下がった。

「私、もう、戦えます。アルスさんにご迷惑はおかけしません、だから」
「僕は、君に、伝えてなかったことがある」

ぽつりと、アルスは言う。

「サンディは、死んでいなかったかもしれない。僕が、彼女を、殺してしまったのかもしれない」

アンジェは、目を丸くした。
アルスの、少し伏せ気味になった目元の、影が落ちた睫の辺りを見つめながら。
彼が抱く一つの思いに、アンジェは静かに気付いていった。

「だから、っていうと、おかしいけれど……。君には先に行っていてほしい。きっと、追いつくから」

うかつだった。そう、アンジェは思った。
アンジェが気絶している間、彼一人に果たして、どれだけの自責の念を負わせていたことだろう。
サンディが死んだあの場所で、敵の攻撃を、どうにか一人で振り切って。
彼はどんな思いで、自分をここまで運んできてくれたのだろう――

「……サンディはきっと、アルスさんに感謝していると思います」

彼に対してあがないを求める気持ちは欠片もなかった。
サンディを守れなかったのは、アンジェも同じだったのだから。
それでも、アンジェはアルスの思いを、尊重することにした。
――これは、アルスさんのたたかいだ。
310エデンに君と ◆TUfzs2HSwE :2013/01/03(木) 07:32:12.61 ID:Z62UpMfyO
.
「絶対に、追いついてくださいね」

天使が祈りを聞き届けるのと同じように、願いを口にしたアルスの言葉を、アンジェは静かに受け容れた。
そんな二人の様子を見ていたゼシカも、複雑そうな表情を浮かべてはいたが、やがてうなずく。

「必ず、よ。殺されちゃったら、意味ないんだからね」
「うん。ありがとう、二人とも」
「……フン。己を犠牲にしてワシらに全てを託すとは、なかなか殊勝な心がけじゃの、アルスよ」
「そんなお人好しの天下みたいにならないためにも、無事に追いついてみせるよ」

軽口を掛け合う二人の間にも、なぜか小さく信頼が見え隠れするのは、一度ともに肩を並べて戦ったせいか。
疲労の濃い竜王を気遣うゼシカが、それ以上飛べるのか、と彼に問いかけるが、
まるでアルスと張り合うかのように、これくらいなんでもないと、翼を広げてみせる。
ゼシカとアンジェを乗せ、ゆっくりと羽ばたきはじめる巨竜のすがたを、アルスは脳裏に焼き付けるように眺めていた。

「また、絶望の町で!」
「うん。きっと」

笑顔で手を振るアンジェに軽く手を振り返し、小さくなっていくその影がやがて、空に溶けるまで見送って。
アルスはそっと、地上に視線を戻した。
一人大地を踏みしめて、はるか前方を見晴るかす。
少女がもし、アルスたちを追っているのなら、きっと現れるだろう方向へ。

竜王がふざけて口にしたように、一人犠牲になるつもりがあって、こうしたわけではなかった。
けれども勝算があるかと言われると、かなり分の悪い賭けであることは、間違いない。
彼女が無闇に人殺しを続けるつもりで、もしここに現れたとしたら、出来る限りこの手で喰い止めねばなるまい。
そのときに、果たして無事でいられるとは、アルスは思ってはいなかった。

殺して、殺して、その先にはなにもない、彼女のむなしさ。
それはまるで、彼女自身も気付かぬうちに、夢の世界にとらわれているように、アルスには思えてならない。
ただの魔物と同じ存在に成り下がっているだけだったら、きっとあのとき、アルスは彼女を殺せただろう。
だけどそうではない可能性を、感じてしまった。
ただ、それだけだ。それだけのために、アルスはこの愚かな賭けに身を投じていた。
お人よし。自分で自分をそう呼ぶのは、どこか滑稽である気もする。
けれど、この状況で、他につりあう言葉があるのか。
アルスは自嘲の笑みを浮かべる。
311エデンに君と ◆TUfzs2HSwE :2013/01/03(木) 07:35:06.11 ID:Z62UpMfyO
.
そして。
どれだけの時を刻んだか、きっとそう長い時間ではない。
アルスの思惑通り、少女は姿を現した。
彼女の登場を知らせるかのように、アルスの前方を辻風が吹いて、巻き上がった砂埃は少しだけ視界を悪くする。
だから彼女がどんな表情をしていたか、刹那、アルスにはわからなかった。
ただ、どこか縋るような声だけが、風に乗ってアルスの耳まで届いてきて。

「……アレル?」

相手が誰か気付いていないのか、リンリンは確かにそう言った。
その名は先刻、放送で呼ばれてはいなかったかと、アルスは思考回路を巡らせる。
囚われた世界。夢と、欲と、追いかけ続ける、誰かの名前。
彼女のうつろな言葉の裏に、ほんの少し、イメージを浮かべることが出来た。

「待ってたよ」

そんな彼女の夢を打ち砕くように、はっきりと彼女に聞こえる声で、アルスはアルスの声で、告げた。
砂煙は徐々に立ち消えてゆく。ようやく見えた少女の顔には、くっきりと敵意が浮かんでいた。



***



そもそも元凶は、あの少年だった。
“夢なんか”の一言で、リンリンをここまで惑わせた、苛立たしい男。

「気になって。君の……」

その元凶は、あくまで涼しい顔のまま、リンリンの睨みにも臆することなく、ゆっくりと歩み寄ってくる。

「夢の話を、聞きにきた」
「……酔狂な殿方ですわね」
312エデンに君と ◆TUfzs2HSwE :2013/01/03(木) 07:38:04.67 ID:Z62UpMfyO
.
リンリンの口元が、皮肉げに歪む。
アルスの姿勢や表情は、あくまで柔らかいままだ。
だけどその立ち姿には、もはやいっぺんの隙さえも、残されてはいなかった。

「僕にはね、幼なじみがいて」

その腕が、ゆるゆると持ち上がる。
彼の腕に絡みつくのは、リンリンの血がこびりついた糸だ。

「僕とはちがって、いいところのお嬢さんなんだけど。
彼女も言うよ。僕は、ばかで、おひとよしで、果てしなく酔狂だって」

テグスのような、釣り糸に似たそれの扱いにアルスは非常に慣れていて、偶然とはいえ先ほどはそれで獲物を仕留めている。
すなわち、リンリンの左腕だ。奪われ、肩口の先にあったはずのそれを失わせた凶器を、アルスは再び武器として選んだらしい。
切り口に粗末な治療を施し、止血を無理やりに押さえ込んだその肩は、もはやリンリンに痛みさえ与えない。

「奇遇ですわね。私にも、幼なじみがいましたのよ」

残った片腕一つだけで、リンリンは巨大な武器を握っていた。
哀れな、最早亡骸と呼べるかも怪しい、傷付いてぼろぼろになったそれを、リンリンは後方に引き寄せる。
当然、打撃の際の隙は大きい。そのため、相手が近付いてくるほど彼女にとっては不利だ。
アルスはそれをわかっていて、接近戦を挑みに来る。火蓋が切って落とされるまで、最早秒読み状態だった。

「それが、アレル?」

アレル。
その言葉をアルスの口から聞いた瞬間、弾けたように、振りあがった片腕と、その手が握った尾がぶんと空に躍り上がって、
アルスはとうとうリンリンの射程範囲を踏み越えて、二人の世界に火がついて、戦火がごうと燃え出した。
巨体が地面に叩きつけられる。恐ろしいほどの衝撃が辺りを揺さぶる。
相手を叩き潰したという手ごたえは、無い。
ぎゅんと、音も置き去りにするような速さで、リンリンに近付く気配がある。
ほしふるうでわが煌いて、リンリンの身体はいち早く反応して、横なぎにグラコスを叩きつける。
感触はやはり無い。空気を切る音しかしない。
巨体の武器には死角が多い。どこだ、と見回す刹那、掻い潜ってアルスは接近してくる。
来る! リンリンのすばやさは、強烈な彼女の身の守りとなって、攻撃を迅速にやり過ごす。
テグスはリンリンの右腕に絡まることなく、空しく宙を切った。
.
313エデンに君と ◆TUfzs2HSwE :2013/01/03(木) 08:00:26.70 ID:Z62UpMfyO
.
「あなたの仰るとおり」

リンリンは問いの答えを告げる。
一時的に身を離した少年に、それは銅鑼を叩いたような重みを持って、響き渡る。

「勇者アレル。それが、私の幼なじみの名前です」

アルスが知りたいと言ったリンリンの夢、そのすべての核となる彼の名前。
世界で一番大切なその名を、リンリンはアルスに告白した。
その言霊に込められた思いを、アルスも薄々感じたらしい。
彼は攻撃の手を止めて、リンリンと向かい合った。

「僕は、君を、許せないと思った」

軽く乱れた息を整えながらも、アルスの眼差しにともるのは、苛烈なまでの意思。
本気を出すと、仲間のためなら殺しも厭わぬと誓った覚悟が、言の葉に乗せられて。
しかしながら、それは過去形で括られていた。

「夢のために殺すと言い切った君のことを、あのとき僕は、許せなかった。
その夢の犠牲になっていく、力ない人たちが、かわいそうで仕方なかった」

幾度となく、アルスはそんな人たちを見てきた。
魔物たちの傲慢な欲望に支配されて、心身ともに弱り細る人々の縋り声を、浴びるほどこの身に受けてきた。
しかし、アルスの熱が篭る言葉に、リンリンは冷ややかな反応を見せる。

「力ない弱者がかわいそう? 馬鹿げていますわ」
「馬鹿げている?」
「この世のことわりは、卑しい弱者が得をするようにできていますのよ」

ピン、と、アルスの指がなにかを空に弾いた。
それはサンディの支給品袋にあった紫色の小瓶で、記憶する限り毒物が入っているはずのそれを、
アルスが重りとしてテグスに括り付け、手の中に握りこんでいたものだ。
戯れるように、はしっと空中で掴みなおして、アルスはリンリンの瞳を見つめた。
314エデンに君と ◆TUfzs2HSwE :2013/01/03(木) 08:03:15.86 ID:Z62UpMfyO
.
「たとえば、どんな風に?」
「私はアレルとともに、世界を救う旅をして、その中でさまざまな人間を見てきました。
そのどれもが一様に、勇者アレルを称えると言いながら、アレルに対してひどい期待を押し付けるだけ」

リンリンの目は、氷のように冷たい怒りを宿していた。
弱者を、たたかうことをしない者たちを、リンリンはいつだって、氷の眼差しで貫いてきた。

「刺し違えてもいいから、魔王を倒せ……。そして、自分だけは生き残りたい。
それが弱者たちが強者にぶつけた、力なきものの傲慢です」

それは、リンリンが旅の果てに確信を得たことわりの一つと言えた。
きっと旅に出なかったら、彼女は強さに憧れるだけの、何も知らない少女だったのだろう。

「旅に出て、それが分かった。だから目標のためには、力でねじ伏せるしか道は無かった!
彼らはアレルが大変なときには手を差し伸べることもせず、都合の良いときだけ縋るんです!」
「一番アレルに縋っているのは、君じゃないか」

アルスがぽつりと呟いた言葉に、リンリンは刹那、はっとした。
愕然としたような目付きになって、そしてその眼にみるみると、烈火の如き怒りが燃え盛る。

「――あなたに、何がわかるのよッ!!」

その、片方しかない細腕が、再び豪速に跳ね上がる。
しかし、それを見越していたかのように、突如しんくうはが巻き起こった。
それはアルスの手によって巻き起こされたもので、リンリンを手の中の武器ごと切り刻み、素早い相手への目くらましともなる。
そんなもの! リンリンは刹那の真空の壁を越え、構うことなく叩き付けた。
みたび衝撃音が空間を砕く。アルスは咄嗟に、後退して直撃を避けた。

「私は、アレルと一緒に、生きてきたのっ」

荒れた息を整えることもせず、ギラつく眼差しをたたえ、リンリンは叫ぶ。

「ずっと一緒に生きてきた。私にとって、それはずっと、当たり前のことだった!」
315エデンに君と ◆TUfzs2HSwE :2013/01/03(木) 08:06:04.50 ID:Z62UpMfyO
.
彼女が怒鳴るたび、唾が、汗が、血が、飛び散った。
他のなにもかもかなぐり捨てて、唯一自身を世界に繋ぐアレルという支柱に、リンリンはがむしゃらにしがみついていた。
泣いている。
涙や嗚咽はないけれど、アルスにはどうしてか、それがわかった。
怒ってるのに、叫んで、狂って、殺意さえ振りまいているのに、彼女は今たしかに、泣いていた。

「そして、これからもそれは続いてく! これからも、アレルの傍にいるのッ!」
「……そういうわけには、いかないだろ」

アルスの声が、冷静のたがを外されそうになって、震えている。
彼女の眼差しに、なぜかアルスは、故郷を取り巻く広い海を思い出していた。
平和だったはずの島。穏やかだったはずの澄んだ大洋。
時が止まったエデンの住人には、周囲の世界が開かれていくさまはまるで、荒れ狂う海そのものだった。
穏やかな海しか知らないはずの、王城には『彼』がいるはずの、永遠に続くと思っていた、小さな世界……。

「幼なじみだって……小さいころからずっと一緒に生きてきたって……どんなに大事な友だちだと、思っていたって……
いつかは別の道を往くことだって、あるんだよ……ッ!」

泣くな、と、アルスは叫びたかった。
否、叫んでいた。
あの泣き声を聞くことが、あまりに辛くて、痛くて、耐えがたかった。
――やめてくれ。
そんな声で叫ばないでくれ。
僕は平穏な日常の波に流されて、なにもかも、忘れていくはずだったのに。

「アレルがいない世界なんて、私には考えられない!
アレルがいなくて、私がどうして、生きていけるっていうのよッ!!」
「だから、それがあんたの思い込みだって、言ってんだろッ!!」

思いは猛々しくぶつかり合い、二人の闘争の間には最早、利害も駆け引きも吹き飛んでいた。
ほしふる腕輪が、輝きをはなつ。リンリンは信じられないほどの速さで、巨体を振り上げ、振り下ろした。
叩き潰されるとわかっている位置で、しかしアルスはテグスを構え、一歩たりとも動かなかった。
パラディンの職が彼に与えた、におうだちという奥義が、今、彼の身体に衝撃のすべてを受け止めさせた。
受け止めた。一瞬だったが、彼は巨体に押し潰されることなく、全身全霊で巨体をがちりと掴んだ。
しかしその腕は、すぐに離れる。
アルスの身体では、正面から受け止めるには、それがせいぜいで、完全に止めることはできない。
リンリンは巨体を引き戻し、今度は横殴りに振り回す。
アルスの頑強とは言えない身体は、一目散に、吹き飛んでいった。
316エデンに君と ◆TUfzs2HSwE :2013/01/03(木) 08:09:26.91 ID:Z62UpMfyO
.
もう、わからない。何がなんだか、アルスにはなにも、わからない。
身体のどこが砕けたかも、どちらが天でどちらが地かも、アルスには知覚出来ない。
目を開けられない、血で前が見えない、リンリンがどこにいるのかさえも、彼にはなにも、見えない――――……



***



「竜王、大丈夫?」

ゼシカが、気遣わしげに、竜王の様子を伺う。
アルスと別れて、しばらく上空を飛行していた竜王だったが、やはり先の戦闘で蓄積したダメージが大きかったらしく、
しばらくののち、彼らは地上に降下していた。

「くっ、思ったより堪えるわ。ワシも歳か……」
「バカ、なに言ってんのよ」
「お二人とも、ここから先は歩きませんか?」
「そうしましょ。でも、一旦休みましょっか」
「すまぬの、二人とも……」

こちらこそ、と申し訳ない気持ちになり、アンジェは竜王の固いうろこを気持ちだけでもとさすってみるが、
あんまりそいつに近付かない方がいいわよ、襲われるから、とゼシカが真顔で言い、その迫力に思わず手を引っ込めてしまう。
なにが悪い! と子供のように駄々をこねだす竜王と、それをなだめるゼシカをよそに、
アンジェは今自分たちが飛んできた方へと、視線を向けた。
すなわち、アルスがいるであろう方角だ。
しばらくその方角を見つめていたアンジェだったが、やがて膝を付いた。
腕を組み、目を閉じる。

「……アンジェ?」
「うひゃあっ!? な、なんでもないです!」

とつぜんの声に飛び上がって、思わず大声を上げてしまう。
振り向いて照れ笑いを浮かべるアンジェに、ゼシカはいぶかしむでもなく、微笑んだ。
317エデンに君と ◆TUfzs2HSwE :2013/01/03(木) 08:12:04.75 ID:Z62UpMfyO
.
「そうよね。私も、心配だわ」
「あの、わたし、くせなんです。くせというか、習慣というか。昔は、しなかったんですけど」

アンジェが天使だったころは、天使である自分が神に祈るということもなかったが、
人間になってから、特に星吹雪の夜のあとは、アンジェは何かあるたびに祈りを捧げるようになった。
リッカの習慣が移っただけかもしれないけれど、それでも、星空に祈りを捧げるたびに、
もう会えない天界の皆の顔が浮かんでくる気がしていたのだ。
何より、誰かのために祈るという人々の習慣が、アンジェはとても好きだった。
だから、今も、ゼシカに見られるのは照れくさいけれど、やっぱり祈りを捧げることにした。

――どうかアルスに、神の加護があるように。



***



死ぬときに思い浮かべる音は、故郷の浜に寄せては返す、さざなみの音だと思っていた。


だけど、ちがう。
鐘の音が、聞こえる。
放送の鐘とはまるで違う、清廉で穏やかな、少し哀しい祈りの音色。
――僕はそれを、どこで聞いたんだろう?
誰かといっしょに、アルスは、とあるお墓の前にいた。
その墓に刻まれた名前を想い、柵の向こうに広がる緑の台地に心を飛ばし、
修道院の鐘の声に耳を澄ませていると、ふと、その誰かの声が聞こえてくる――


“あたしが死んだら、アルスはあたしのこと、ずっとおぼえててくれる?”


……ああ、そうだ。
いきなりそんなことを訊かれるものだから、僕は少しだけ驚いてしまって。
どう返したものか悩んで答えずにいたら、なぜか彼女はどう勘違いしたのか怒り出し、
じゃあ、あんたが死んだら、あんたの思い出なんかほうむってやるから! などと言われた、あの日……
318エデンに君と ◆TUfzs2HSwE :2013/01/03(木) 08:15:07.78 ID:Z62UpMfyO
.

過去の世界で、最初にあの修道院に行ったときは、まだあいつがいて、
あいつがシスターいいよなあなんて言ってマリベルにひっぱたかれて、ガボが首をかしげたり、
マリベルが昼ドラの探偵気取って、あいつにやめとけと言われたり、ふざけ合ってばかりいたのに。
いつからか僕らの間には、生きるとか死ぬとか、宿命とか、人間とか、そんな重苦しい言葉ばかりが、思い浮かぶようになって。


それもこれも、あいつが僕を、僕だけじゃなくてエスタード島のすべてを、置き去りにしたせいだ。
追いかけることも許されず、夢を叶えるためと言って、永遠に城を抜け出したせいだ。
それからの旅なんて、楽しいことより辛いことの方が多くて、何度やめようと思ったか。
ひとつ石版をはめるたび、新たな世界に行くたびに、人間なんか嫌いだって、何度も何度も思うのに。
泣いている声がするから。
大嫌いな人間たちが、魔物という、理不尽な暴力に苦しむ声が、幾度となく聞こえてくるから。
僕は救えるかもしれない可能性を、放っておくことはできなくて。
ばかだと、酔狂だと言われても、ここまで僕は、流されて……


それでも……僕が、世界中の人々を、最後まで見限らずにいられたのは。
きっと最初から最後まで、僕の道筋を共に行ってくれる、仲間がいたんだ。いて、くれたんだ。
ばかだと言われ、大嫌いと罵られ、なのに僕の傍にいてくれた、
変わっていく世界を、最初から最後まで、僕と一緒に見ていてくれた、幼なじみの女の子――――




(まだだ)

身体が動いた。視界が開けた。
まだ、戦える。アルスの身体は生きている。

(まだ、終わっていない)

アルスの手には、紫色の小瓶が握られている。
この小瓶を手に愛を得ようとした、あの醜くも美しいかつてのメイドは、愛する男とともに幸せを築けただろうか。

(あの子はまだ、夢の中にいる)
319エデンに君と ◆TUfzs2HSwE :2013/01/03(木) 08:18:06.40 ID:Z62UpMfyO
.
小瓶を、ぐいっと握る。
そこに結び付けられたテグスは今、リンリンの武器に、巨大なグラコスの死骸の尾ひれに、絡み付いているはずだった。
獲物に最期の一撃を与えようとしていたリンリンが目を丸くするが、ほどかせる時間は与えない。

「神よ」

小さく、つぶやく。
思わずグラコスから手を離したリンリンの前で、大気が青く、ざわめきだす。
それは如何なる氷よりも冷たく、どんなとろけた鉄よりも熱い、この世のものとは思えぬ温度で。
大気はグラコスの巨体の周りに、強大な壁を紡ぎ始める。

「彼女を呪縛する、悪夢の回廊を、今ここに」

大気は目でも見えるほどに張り詰めて形を成し、それは青白い檻になり、巨体を閉じ込めた。
上空に、白い光が現れる。
光は天にも届くような刃渡りの剣となって、アルスはその使い手となって、まっすぐに、吸い込まれるように、檻に向かう。
まるで、神の手が、アルスの腕に憑依するように。

「――砕きたまえ」

この世のものとは思えぬ、幻想的で、破滅的な光景が、広がった。
檻の中に閉じ込められたグラコスに、振り下ろされた光の剣は、檻もろとも砕け散って、
グラコスの巨体は貫く剣と、舞い散る欠片の全てに砕かれ、ひとつの肉片も残すことなく、ばらばらの光の粒子となり、
破片は弾けて転がり、四方八方に飛び散っていく。
やがて光がおさまって、薄暗い景色に戻ってくると、そこにはもう、なにも残されていなかった。

リンリンが、立っている。
あまりの光景に我を忘れて立ち尽くしていたらしかったが、やがてのろのろと、歩き出す。
今度こそアルスを殺すため。
今の死に掛けのアルスなど、リンリンの片腕一つで、殺すにはこと足りるだろう。
アルスはそれを、受け容れた。
先の打撃に足を砕かれたせいで、もう立つことも敵わない彼は、世界の重力に身を任せることにした。

「……どうして、そんな、酷いことを言うの……?」
320エデンに君と ◆TUfzs2HSwE :2013/01/03(木) 08:21:04.48 ID:Z62UpMfyO
.
アルスを見下ろす、リンリンの声は、ひどく震えていた。
アルスがゆるゆると首を動かすと、涙で頬を濡らす少女が、そこにはいた。
夢見るような口調でささやきかける彼女の言葉が、アルスへのものか、最愛の幼なじみへのものなのかは、
もう、アルスにはわからなかった。

「知ってるくせに……。私には、アレルしかいないって……」

リンリンは、鈍い動きで膝をついて、アルスの頭のごく近くに、腰を下ろした。
片腕をなくしているため、そうしなければ体勢を整えることができなかったのだ。
投げ出した膝の目の前にあるアルスの首に、片方だけの腕が、近付いていく。
己の夢を否定する、憎い敵の首だった。
なのに、近付くほどにどうして涙が溢れ出すのか、リンリンにさえわからなかった。

「アレルが私の、すべてだった、のに」

想いが、溢れる。
アルスという少年を通して、アレルへの本当の想いが、リンリンの胸からあふれだした。
いっそ、アレルが自分を、突き放してくれたらよかった。
お前なんかいらない、一生俺を追いかけなくていい、と。
一言そう言ってくれたら、リンリンはアレルを諦められた。アレルと関わりの無い場所で、きっと生きていくことができた。
なのに、アレルはリンリンを相手になんてしなかったのに、決して突き放しもしなかったのだ。

「私に……自分の夢さえ、話さないくせに……」

いつだったか、アレルには夢があるのだと、カーラから聞いた。
誰にも言わずにそれを目指し、やがて一人で遠くへと発つ。
彼の中に、リンリンの存在はなにもないと言うかのように。
そんな彼だから好きだった、なんて、言葉にするのはあまりにも簡単だった。
これ以上残酷な真実が、果たして他にあるのだろうか。

アルスの頬に、ぱたぱたと、雫が落ちていく。
力なきアルスの腕が、震えながらそっと、持ち上げる。
涙を拭おうかと思ったけれど、彼女の頬まで、指先が届きそうに無かった。
少し逡巡して、そして、やめる。
この涙を拭えるのは、きっと世界に一人しかいない。
321エデンに君と ◆TUfzs2HSwE :2013/01/03(木) 08:24:10.40 ID:Z62UpMfyO
.
「アレルは、たぶん」

思い描いた言葉を口にするのに、時間を要した。
溢れる血の色がずいぶん濃い。声がずいぶん枯れている。唇が動かない。
放っておいても、アルスはもう、永くない。

「逃げたかったんじゃ、ないかな」
「……え……?」
「勇者という、重い、宿命から」

エスタード島が、世界のすべてだったとき。
王家よりも尊いものは、この世には存在しなかった。
彼みたいな人間には、自由という名の夢を奪う、なによりも重い枷だっただろう。

「自由に、なりたいって。それが、アレルの、夢だったんだと、思う」

目を丸くしたリンリンの瞳に、やがて、理解の色が広がっていく。
世界が、アレルに期待していた。勇者であることを、要求していた。
あの世界では、魔王が存在する限り、アレルは勇者という宿命から逃れることはできなかった。
だから、力を欲した。どんな手段を使っても、できるだけ早く、魔王という枷を壊したかった。
そして逃げるように飛び込んだアレフガルドでも、アレルはやっぱり、オルテガの息子であり、勇者で――
すべてを終わらせたアレルは、きっと自分を誰も知らない場所に、一人で旅立っていったのだ。
勇者ではない、アレルというただ一人の少年に還る。世界から解き放たれて、自由になる。
そんな夢を、叶えるために。

「……アレルは、夢を、叶えたんですね……」

涙で濡れるリンリンの顔に、ゆっくりと、愛らしくも哀しい笑みが浮かぶ。
泣き笑いの表情で、彼女はそっと呟いた。

「アレルは、もう、どこにも……いないんですね……」

夢と現実に分かたれていたリンリンの世界が、一つになった。
どこにいっても、なにをしても、ここがたとえ、夢の世界だったとしても。
アレルはリンリンの傍には来ない。永遠に。
322エデンに君と ◆TUfzs2HSwE :2013/01/03(木) 08:27:05.97 ID:Z62UpMfyO
.
「やっと、わかった……。私が、ここにいる、理由……」

リンリンの、傷付いた手が、アルスの頬にそっと触れる。
その冷たい指が、静かに首元に、降りていく。

「私は……アレルを勇者に仕立て上げた、世界を、すべてを、壊したい」

愛の告白のような囁きで、永く遠回りした旅の果てに、ようやくたどりついた本当の未来を、リンリンは口にした。
アルスの頬に落ちていた雫が、つと筋を残して、地に溶ける。

「人間が、憎い。人の世の全てを、壊したい。それを気付かせるために、私はここに、呼ばれたんですね」

愛しいものでも扱うかのような繊細な手取りで、リンリンはそっと、首にかける手に力を込めた。

「ありがとう……」




ああ、わかった。
わかってしまった。
どうしてこんなに、君に執着していたのか。


君は、僕だ。


あの日、あいつが突然僕らにさよならを告げたとき、
溢れ出そうとした思いを、僕はすべて押し込めて、
あいつに何も思いを伝えずに、彼と別離することにした。
言わなかったんじゃない。
言えなかった。
家族や城はどうするのかとか、どうして何も言ってくれなかったとか、
これからの旅はどうすればいいとか、僕の気持ちは、どうしたらいいとか。
僕はなにも、思いの断片の一言さえも、自分の言葉にすることができなくて、
それら全てを放り投げたまま、永久の別れになってしまった。
323名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/03(木) 08:35:08.65 ID:bO2Kzwhx0
 
324名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/03(木) 09:22:59.93 ID:9Ho1FUFzO
325エデンに君と ◆TUfzs2HSwE :2013/01/03(木) 09:25:10.86 ID:Z62UpMfyO
.

置き去りにしてきた言葉を抱えた僕たちは、ぶつける場所を探していた。
結局君が、ほとんど、僕の代わりに言ってくれたけれど。
ああ、そうさ。
僕は、人間の世界なんか、憎くて、憎くて、たまらないんだ。


ねえ、マリベル。
君も人の世の住人だから、あの日の宣言どおりに、いつか僕のことなんか忘れてしまうんだろう。
でも、僕は覚えているよ。
君のことも、あいつのことも、ガボのことも、世界のことも、みんなまとめてこの背に負って、空の上まで持ってってやる。


フィッシュベルの、浜辺のさざなみが、聞こえてくる。
そこではあのバカ王子が、僕の名を呼んで手を振っている。
僕は手を振り返し、浜辺を駆け出しながら、叫ぶ。


――――キーファ!


そこで待ってろ、今ぶん殴ってやる!










物言わぬ亡骸となったそれを、少女はしばらく見つめていたが、やがて立ち上がる。
辿りついた自分の答えを、空っぽでないその身体に握りしめ、
真に望む未来へと、その一歩を踏み出した。




【アルス@DQ7 死亡】
【残り38人】
326エデンに君と ◆TUfzs2HSwE :2013/01/03(木) 09:28:46.46 ID:Z62UpMfyO
.

【E-3/平原/夕方】

【リンリン@DQ3女武闘家】
[状態]:ダメージ(中)、腹部に打撲(小)、軽度の火傷、左腕喪失
[装備]:星降る腕輪@DQ3
[道具]:場所替えの杖[8]、引き寄せの杖[9]、飛び付きの杖[9]、ふしぎなタンバリン@DQ8
銀の竪琴、笛(効果不明)、グラコスのヤリ@DQ6、ヤリの秘伝書@DQ9
支給品一式×6、不明支給品(0〜1個)、むらさきの小瓶@DQ7、釣り糸(テグス)@現実
[思考]:全員殺す 世界を壊す
[備考]:性格はおじょうさま 現状を夢だと思っています(?)


【F-3/湖のほとり/夕方】

【ゼシカ@DQ8】
[状態]:健康
[装備]:さざなみの杖@DQ7
[道具]:草・粉セット(※上薬草・毒蛾の粉・火炎草・惑わし草は確定しています。残りの内容と容量は後続の書き手にお任せします。
※上やくそう1/2(残り1つ)
基本支給品
[思考]:仲間を探す過程でドルマゲスを倒す。最終的には首輪を外し世界を脱出する。絶望の町に向かう

【竜王@DQ1】
[状態]:HP3/10、MP8/10、竜化により疲労(大)
[装備]:なし
[道具]:天空の剣@DQ4、キメラの翼@DQ3×5、基本支給品
[思考]:ゼシカと同行する。最終的にはデスタムーアを倒し、世界を脱する。 絶望の町に向かう

【アンジェ(女主人公)@DQ9】
[状態]:HP5/10、MP9/10、背中に擦り傷、全身打撲
[装備]:メタルキングの盾@DQ6、オリハルコンの棒@DQS
[道具]:ハッピークラッカーセット@DQ9(残り4個) 使用済みのハッピークラッカー 支給品一式
[思考]:困っている人々を助ける デスタムーアを倒す サンディの死を悲しむのは全て終わらせた後 絶望の町に向かう
[備考]:職業はパラディン。職歴、スキルに関しては後続の書き手にお任せします。
327 ◆TUfzs2HSwE :2013/01/03(木) 09:30:52.68 ID:Z62UpMfyO
投下終了です。支援感謝。
意見・指摘など、お待ちしています。
328名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/03(木) 18:32:37.88 ID:9Ho1FUFzO
投下乙! 投下乙! 何度でも!
見捨てられなかったのは自分と重なるから。
そして重なる3と7の世界。
全てがもう、あー!! しか言えないくらい心打たれました!
改めて投下乙です!
329名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/04(金) 15:11:24.57 ID:Tuu3oOEN0
投下乙です
これしかないと断言できる、パズルのピースがカチッとハマったあの感じ
置いていかれた二人の見事なまでの対比はもう、途中からぞくぞくしっぱなしだった…

最後の「ぶん殴ってやる!」がまたね。ある意味では当時のプレイヤーを代弁するかのような、
アルスとキーファの関係を見事に表現してる、とてもいい台詞でした
330名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/05(土) 21:38:12.66 ID:zhXOIIbE0
うあー、投下乙でしたー

二人ともが何ともかなしいなぁ;;
331名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/06(日) 00:15:40.73 ID:LOvEBV550
DQBR1が完結していたと最近知った…すごい
332名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/06(日) 19:07:57.98 ID:2HwVWctA0
主人公がもう半分も生きていない…
333炉心崩壊 ◆CruTUZYrlM :2013/01/09(水) 01:02:14.97 ID:JUhyMKmn0
ぽとりと、何かがこぼれ落ちる。
それは、こぼしちゃいけない物なのに。
掬っても掬っても、ぼとりとこぼれ落ちていく。
やがてそれは形をなくし、掬うことすら許されなくなって。
目の前から手の届かないところへと、ゆっくりゆっくり消えていった。

それが消えてからだ。
胸が締め付けられるように苦しい。
キリキリと、キリキリと、一時の休みすらなく締め付けられていく。
まるで肺を直接掴まれているかのように、呼吸ができず苦しいままだ。
口を開けど開けど、空気は入ってもこないし出てもいかない。
陸に打ち上げられたプチイールのようにパクパクと口を何度か開閉する。
ガンと殴られたような衝撃と、息が吸い込みたくても吸い込めない、吐き出したくても吐き出せない苦しみ。
そして鎖のように強く、スライムのようにぴっちりと胸を締め付ける何かが、彼女の苦しさを倍増させていく。

痛い、苦しい、耐えられないのに。
自分は、生きて生きて生かされている。
冒険の日々の中でも、こんなに辛いと思ったことはない。
いっそ死んでしまいたいとすら思えるほど、襲いかかる痛みと苦しさ。
助けを求めようにも、今はそばに家族がいない。
それでも、彼女は助けを求める。
紫のスカーフとターバン、いつも頼りになる父に。
清楚なドレスに自分と同じ綺麗な青い髪、いつも優しかった母に。

そして――――どんな時も共にいた、兄に。

気がついた。
何かがはじけ、ぽっかりと空いた穴から何かがこぼれだしていく。
こぼれだしていくのは、兄だ。
取り戻そうとしても、取り戻そうとしても、すくえない。
兄という存在が、自分の中から居なくなっていってしまう。
イヤだ、イヤだ、イヤなのに。
はじけた何かから、兄がこぼれていく。
やがて、自分の中から兄が全てこぼれ落ちた事を理解したとき。

彼女は、兄と共に、失った。
334名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/09(水) 01:02:39.99 ID:hXcuXgLy0
支援
335名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/09(水) 01:03:05.46 ID:XL+DXfoL0
 
336名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/09(水) 01:03:42.04 ID:uNaHWSwK0
 
337名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/09(水) 01:04:06.73 ID:hXcuXgLy0
支援
338炉心崩壊 ◆CruTUZYrlM :2013/01/09(水) 01:04:52.03 ID:JUhyMKmn0
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放送が、澱んだ空に響きわたる。
あのデスタムーアの手によって開かれたこの殺し合いで、命を落とすことになった犠牲者たちの名前が読み上げられていく。
幸い、自分の知っている人間の名前は読み上げられることはなかった。
元々知っている人間が少ない……というのもあるのだが、ともあれ一つ安心することはできた。
だが、放送の内容に安心することができても、目の前の状況には安心することはできなかった。
共に姿を隠していた少女が、放送前より一段と何かにおびえるように震え、大粒の涙を流し始めていたからだ。
ローラは、黙って彼女を抱きしめる。
熱を持った小さな体から、人間の肌の温もり伝わってくる。
そして、こぼれ落ちる涙は次々に彼女のドレスを濡らしていく。
「ごめんなさい」
ローラは謝罪しながら、その小さな体をもう一度強く抱きしめる。
「何も、してあげられなくて」
何もできない自分の無力さを噛みしめながら、彼女は言葉を続ける。
できることと言えば、涙を流す場を与えることぐらいだ。
ぼろぼろとこぼれ落ちる涙を、ドレスで受け止めてからゆっくりと彼女の体を自分の胸から放していく。
その時、ローラは気がつく。
目の前の少女が、ただひたすらに口の開閉を繰り返していたことを。
そこから漏れ出すのが、"声"ではなく"音"であるという事を。



六時間。
一日の中の四分の一のわずかな時間に、様々な出来事があった。
突然、殺し合いを命じられ。
人一人が赤子"を"捻るように死んでいった。
降り立った殺し合いの場では、話の通じる魔物に出会うことができた。
だが、その直後に戦闘をすることになり、彼女は気を失ってしまう。
襲いかかる悪夢、家族が今の同行者によって無惨に殺されるという"有り得る"未来の映像。
気絶から立ち直ったときの同行者の面白可笑しい姿に一時は笑っていられたものの、悪夢は確実に彼女の心を蝕んでいた。
そして、この絶望の町にたどり着いてから。
その町の名に恥じぬほどの絶望が、彼女に牙を剥いた。
一度目の死の臭い、同行者の天使の死、駆けつけた母親から告げられた衝撃の事実、引き離される母の姿、最後に二度目の死の臭い。
死の淵に何度も立たされる絶望と、母から聞かされた事実はこの小さな体では堪えきれないほどの重荷となっていた。
重ねられるのは悪魔の放送、叔母と仲間、そして兄の死が告げられたとき。
彼女の中の絶望の器があふれだし、一つの重要なものを失った。

"声"である。

口に出そうとしても、言葉に出せない。
連続したこの上ない恐怖と、絶望を与える出来事に彼女の心はズタズタに引き裂かれていたのだ。
ただ、空しく口の開閉を行うだけ。
たまにでるのは掠れたような"音"だけである。
そんな痛々しく、涙を流す彼女の顔をもう一度真正面から捉え。
ローラはもう一度強く彼女を抱きしめ、共に泣いた。
339名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/09(水) 01:06:09.52 ID:uEkxR9gF0
支援
340名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/09(水) 01:06:18.80 ID:hXcuXgLy0
支援
341炉心崩壊 ◆CruTUZYrlM :2013/01/09(水) 01:06:24.61 ID:JUhyMKmn0
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魔王バラモスが呪詛の言葉を吐きながら目の前から去り、押しつぶされそうなほど重い空気が流れていく。
男は空を仰ぎ、女は男をじっと見つめ、魔物は地へ俯いている。
誰も、誰も口を開こうとしない。
時の流れがとても長く感じるほど、空気がより重みを増していく。
誰も、誰もその場から動こうとはしていなかった。
「ルイーダさん」
突然、オルテガがルイーダへと声をかける。
ルイーダはその次に続く言葉が分かっているからか、俯いたまま何も答えない。
「勝手な願いを言います、私を一人で行かせてくれませんか」
黙る両者を置いて、オルテガは溢れだしてくる言葉達を投げかけていく。
「貴方をお守りすることを放り投げるのは、一人の男として大変情けないことだとは重々承知しております。
 ですが……この胸から湧き出る疑問の感情が、私という存在に対する感情が抑えきれません。
 アレルとバラモス、この二つの名を聞いてから私の頭を揺さぶる何かが、気になって仕方がないのです」
死者を告げる放送、それは誰しもの耳に入り込む。
悲しみや怒りに暮れる者を多数生み出す悪魔の声は、この男にも例外なく襲いかかり、その中核を揺さぶった。
記憶をなくした彼を、大きく突き動かす二つの名。
今、男の頭の中はこの名に支配されているといっても過言ではない。
「今の私は情に振り回され、守るべきものを守ることすらできない。
 そんな私では、自分のことに精一杯の私では、貴方をお守りする自信がない」
迷いは弱みを生む。
迷いながらも振るう力では、覚悟を決めた者達には勝てない。
先ほどの魔王バラモスのように、人を殺すと言うことに覚悟を決めている者達に突き立てる刃が、今のオルテガにはない。
刃を持たぬ彼が「誰かを守る」ことなんて、出来るわけがないのだ。
「勝手で、横暴で、突拍子もない願いだとは思います。
 ですがどうか、どうか聞き入れてやっていただけないでしょうか」
少し長くはなったものの、要点をしっかりと押さえた願いをルイーダへと放っていく。
ルイーダは小さくため息をこぼしてから、片手で頭を押さえる。
「……どうして人はこう、まっすぐものを捉えるときの目ってのは似てしまうのかしらね」
思い出すのは、あの真っ直ぐな目。
弱き人たちの力となることを惜しまない、まるで天使のような彼女の目。
そしてルイーダは、その目が持つ力や可能性を知っている。
「止めても、聞かないでしょ? 行ってらっしゃい」
頭から手を離し、あえて目線をあわせないようにオルテガへと告げていく。
「……ありがとうございます」
342炉心崩壊 ◆CruTUZYrlM :2013/01/09(水) 01:07:16.15 ID:JUhyMKmn0
小さく頭を下げ、オルテガはルイーダの横を通り過ぎようと歩き始める。
ちょうどルイーダの横にさしかかったあたりで、ルイーダの顔を見ない方向にくるりと振り向く。
「名も知らぬ魔物よ」
オルテガにとっては第三の乱入者、いずれ戦うことになると思っていた魔物に声をかけていく。
「助かった、礼を言う」
ぼうっと立ち尽くすところに襲いかかったバラモスの凶刃を止めたのは、他でもない彼だ。
助けられたという事実は、そこにある。
少し間をおいてから、オルテガは言葉を続ける。
「だが、私はお前を信用していない。
 お前がもし、いつか我々人間に牙を剥くというのならば」
一息、わざと置く。
「斬る」
まだ全てを信用したわけではない。
先ほどの恩義に免じてここは過ごすが、今後の行動次第では斬ると。
先ほどの戦い同様の風格を漂わせながら、オルテガは言い放った。
魔物はゆっくりとかつ確実に頷き、その要求を受け止めたことを示す。
それを見届けてから、オルテガは再び町の外の方へと振り向こうとする。
「待ってくれ」
それを引き留めるのは、他でもない魔物の声。
背を向けきる少し前の状態で、オルテガはぴたりと止まる。
「……急ぐところすまない、一つだけ聞かせてくれないか」
求める物のために動き出す彼の足を、長く拘束するわけにもいかない。
それを考慮した上で、彼は一つだけ質問を投げる。
「お前も、失くしたのか」
短く放った言葉は様々な意味を含む。
何を、どうして、どこで、全て明かさず。
ただ、失くしたということだけに焦点を合わせて。
「それを、取り戻しに行くところだ」
オルテガはちらと魔物を見てから短くそう答え、続く魔物の謝辞の言葉を耳に入れないように歩きだした。
343名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/09(水) 01:07:46.75 ID:hXcuXgLy0
支援
344炉心崩壊 ◆CruTUZYrlM :2013/01/09(水) 01:08:06.45 ID:JUhyMKmn0
.
「羨ましいな……」
「え?」
振り返らずに真っ直ぐに前に進んでいくオルテガを見送った後、ぽつりとゲロゲロは呟いた。
「私は記憶を取り戻していいのかどうか、まだわからんからな」
彼も、記憶を失っている存在である。
自分という存在に関しての情報も、どんな生きざまを巡ってきたのかという思い出も。
ありとあらゆるモノが、今の彼にはない。
だから、それを取り戻しつつあるオルテガの姿が、取り戻そうとするオルテガの姿勢が羨ましいのだ。
「だが、このままで居た方が良いのかもしれんな……」
なぜ羨ましいか? 自分はその姿勢をとってはいけないかもしれないからだ。
初めに、エルギオスは自分のことを邪知暴虐の魔王だと言った。
バラモスも自分を見て同じ魔族であると、人間を殺戮すべき存在であると言った。
それが本当かどうかは、今の自分には理解できない。
理解できないからこそ、自分という存在の記憶を取り戻す必要がある。
だが、それを取り戻したとき。
自分がどうなってしまうのか、それが分からない。
取り戻した記憶を基に、言われたように殺戮や暴虐の限りを尽くしてしまうのではないか?
積み重なるそんな不安が、彼の歩みを止めているのだ。
悲愴感すら漂うゲロゲロの独白に、ルイーダは再び黙り込んでしまう。
そんなルイーダの姿を見たゲロゲロはフッと笑い、ゆっくりと立ち上がる。
「すまなかった、こんな話をしている場合ではないな」
そう、オルテガと違ってゲロゲロはまだその時ではない。
いずれ"ムドー"とは向き合わねばならないのは分かっているのだから、今のうちに気持ちを整理しておくだけで良いのだ。
その時がくるまで焦る必要はない、今を一生懸命生きるのみだ。
「さぁ行こう、タバサ達が待っている」
345名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/09(水) 01:08:11.23 ID:uEkxR9gF0
支援
346名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/09(水) 01:08:39.27 ID:hXcuXgLy0
支援
347名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/09(水) 01:08:41.24 ID:pYORjUPLO
支援
348炉心崩壊 ◆CruTUZYrlM :2013/01/09(水) 01:08:45.57 ID:JUhyMKmn0
ローラとタバサ、ルイーダとゲロゲロが合流するのにそれほど時間はかからなかった。
出会い頭にタバサはゲロゲロの元へと飛びつき、その大きな背を覆い尽くすマントから手を離そうとしなかった。
タバサの行動の理由を聞く前に、ルイーダはローラにオルテガを見たかどうかを問う。
ローラはしっかりと「見た」と答え、同時に「引き留めなかった」とも答えた。
何があったのかは分からない、だがオルテガの体から放たれる剣幕は並大抵の物ではなかったと。
故に声をかけることなく、西へ向かっていく彼を見送ったのだと言った。
それでいい、とルイーダが一言付け足した後、それぞれの場所で起こった事の顛末を語りだしていった。
バラモスをしとめ損じたこと、タバサが声を失ったこと、オルテガが立ち去った理由、そのほかそれぞれが経験した全てを包み隠さず。
そしてそれらを全て頭に入れた上で、ゲロゲロは一つ提案をする。
「……私は、タバサの親を探しに行こうと思う」
その一言は、ルイーダとローラが想定していた通りの一言だった。
「心に負った傷は深い、この傷を癒す事は私では到底出来ないだろう」
 それに……いずれ向き合わねばならんしな」
声を失ったタバサ、その原因たる心の傷を癒す事はこの場にいる誰にもできない。
だから、記憶を失った自分に居場所を与えてくれた彼女に恩返しがしたい。
ゲロゲロが動くのは、そんな単純かつ芯の通った理由だ。
「行こうか、タバサ」
タバサはゲロゲロの誘いに始めは俯いていたものの、少し経ってからコクリと頷いた。
彼女自身、真実を確かめたいという気持ちはある。
母に会い、母の言葉の真意を掴まなくてはならない。
このまま死ぬわけには、行かないから。
ゲロゲロが取り出した人力車へと、颯爽と乗り込んだ。
349炉心崩壊 ◆CruTUZYrlM :2013/01/09(水) 01:09:24.39 ID:JUhyMKmn0
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「待ってください」
二人の足を止めるのは、ローラ。
「私も……私も連れて行ってください」
町の外へと向かっていく彼らに、同行の願いを出す。
「アレフ様を探したい、今はただ待つだけじゃ何も始まらない。
 自分の足で動けるのだから、自分で探しに行きたいのです」
ここは幽閉されたあの小さな部屋でもない。
自分の身を拘束していた魔王ももう居ない。
だが、それで終わりではない。
ローラの心の中には、まだ想い人の姿がある。
もう待つのは飽きたから、彼女は足を動かすことを選ぶ。
「行き先は同じで構いません。どうか、私も連れて行ってくれませんか?」
王女という身分も忘れ、魔物に対して頭を下げる。
断る事は出来ない空気が漂う中、ゲロゲロは一つだけ彼女に問いかける。
「二人も守りながら進める自信はない、それでもいいか?」
「はい、構いません」
即答だった。
止めることなど出来はしないだろうと直感で察し、その大きな手で人力車を指差す。
「乗ると良い、タバサの傍に居てやってくれないか」
ゲロゲロの言葉に笑顔で答え、ローラはタバサの隣に小さく収まるように座り込む。
それを確認してから、次にゲロゲロはもう一人に語りかける。
「お前はどうするんだ、ルイーダ」
数々のやり取りを傍観していたルイーダは、両手を顔の横に広げて軽く横に振る。
「私はパス。ま……ちょっと気になることがあるから、この町も調べておきたいのよね。
 それに、町っていうシンボルを目指してくる人も少なくないはずよ。
 その人たちを集めて、一つの力に出来れば良いわね」
戦闘により荒廃したとはいえ、地図には絶望の町の存在は記されたままだ。
町には人が集う、の考えを持つ者は少なくはないだろう。
多少危険な手段ではあるが、殺し合いを転覆させるもの達に出会える可能性は高い。
デスタムーアとの戦いに備えて、多くの戦力を確保しておきたい。
探し人が居ないと言えば嘘になるが、まだ単騎でも活動できる自分が残っておいた方が良いだろう。
だから、彼女はこの絶望の町に残ることを選んだ。
「大丈夫よ、こう見えても昔は冒険者だったんだから」
不安そうなゲロゲロに対して、ナイフをいたずらっぽくクルクルと回してみせる。
その様子を見て、ゲロゲロも口元に笑みを作る。
「また、会おう」
「ええ、必ず」
その会話の後、ゲロゲロは町の外へ人力車を引いていく。
スライムタワーが人力車を引くというパッと見超滑稽な姿を見送った後、ルイーダは彼らを背にするように振向く。
350名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/09(水) 01:09:39.36 ID:XL+DXfoL0
 
351名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/09(水) 01:09:53.29 ID:hXcuXgLy0
支援
352名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/09(水) 01:10:13.00 ID:uEkxR9gF0
支援
353名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/09(水) 01:10:18.56 ID:0GnZqiQl0
 
354名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/09(水) 01:10:46.55 ID:pYORjUPLO
支援
355炉心崩壊 ◆CruTUZYrlM :2013/01/09(水) 01:12:00.14 ID:JUhyMKmn0
「さて、と……」
歩み寄るのは一人の死体。
白い羽根が赤く染まりつつある、一人の天使の死体だ。
その傍に落ちていた剣を拾い、彼女は祈りの構えを作る。
「名も知らぬ守護天使様、貴方の剣をお借りすることをお許し下さい。
 そして……どうか、私たちの行く先を見守ってください」
自分の世界では、守護天使達がそれぞれの国を守ってくれているという。
像でしか見たことのない守護天使の姿に良く似た、その死体をどうしても放っておくことが出来なかった。
恐らく、ゲロゲロと共に行動していたエルギオスという名の天使なのだろう。
アンジェから聞いた話どおりなら、改心をしたとの事だ。
ゲロゲロたちと行動していたというのだから、おそらく改心した後からこの殺し合いに呼ばれたのだろう。
天へ還った死者をも愚弄するデスタムーアに、怒りがより一層深まっていく。
彼女は祈りの構えを解き、ぐっと剣を握る力を強めてから町を見渡していく。
「さて、やることやりますか」
この町を探索することで、何か見つかるかもしれない。
少しでも、この殺し合いを転覆できる可能性のあるものを探して。
彼女は新しい一歩を踏み出していく。

【F-3/最南部/午後】
【オルテガ@DQ3】
[状態]:HP8/10 MP 残り19ポイント 記憶喪失 奇妙な虚無感
[装備]:稲妻の剣@DQ3、あらくれマスク@DQ9、ビロードマント@DQ8、むてきのズボン@DQ9
[道具]:基本支給品
[思考]:記憶を取り戻すため、歩く。
      アレル、バラモスという名前に、ひどく心当たりがある。
[備考]:本編で死亡する前、キングヒドラと戦闘中からの参戦。上の世界についての記憶が曖昧。

【G-4/北西部/午後】
【ゲロゲロ(ムドー)@DQ6】
[状態]:後頭部に裂傷あり(すでに塞がっている) 記憶喪失 HP3/5 軽度の火傷
[装備]:スライムの服@DQ9、スライムヘッド@DQ9
[道具]:支給品一式、超万能薬@DQ8、トルナードの盾@DQ7、賢者の秘伝書@DQ9、人力車@現実、復活の玉@DQ5PS2
[思考]:タバサ、ローラと共に行く。エルギオスの言葉を忘れない。
[備考]:主催者がムドーをどう扱うかは未知数です。主催からアイテムに優遇措置を受けています。

【タバサ@DQ5王女】
[状態]:精神的に動揺、精神的外傷で声を遺失
[装備]:山彦の帽子@DQ5
[道具]:支給品一式
[思考]:家族を探す、フローラの言葉の意味が気になる。
    ゲロゲロと共に行く

【ローラ@DQ1】
[状態]:腕に火傷(小)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:アレフを探す アレフへのかすかな不信感
    ゲロゲロと共に行く

【G-3/絶望の町/午後】
【ルイーダ@DQ9】
[状態]:健康 MP微消費 手が泥だらけ
[装備]:ブロンズナイフ@歴代、友情のペンダント@DQ9、光の剣@DQ2
[道具]:基本支給品 賢者の聖水@DQ9
[思考]:絶望の町の探索、訪れるものとの接触。
      アンジェとリッカを保護したい。
     殺し合いには乗らない。
 [備考]友情のペンダント@DQ9は、私物であり支給品ではない。
    『だいじなもの』なので装備によるステータス上下は無し。
356 ◆CruTUZYrlM :2013/01/09(水) 01:13:39.44 ID:JUhyMKmn0
投下終了です。支援多謝。
何かありましたらどうぞ。
357名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/09(水) 01:19:52.64 ID:XL+DXfoL0
投下乙!
タバサの辛さは尋常じゃないなと思っていたが、声を失うとは
ゲロゲロやローラが傍にいたことが不幸中の幸いだね
オルテガは果たして息子のことを思い出せるのか…
キャラ全員の思いを掬い取る丁寧な繋ぎ、改めて乙でした
358名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/09(水) 01:56:38.88 ID:R7XK5ttP0
乙でした
359名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/09(水) 12:33:28.13 ID:cK/IfE+p0
乙……オルテガ殿の動向から目が離せない
あと影騎士とテリー達
360名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/09(水) 14:08:12.38 ID:rIUT80Q30
投下乙
オルテガとルイーダが別れてしまった…大人なコンビで好きだったのだが
ってまだ早いな、再会を祈る
361名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/09(水) 16:55:50.14 ID:wQobdMTW0
投下おつです。
タバサが声を失って戦力ダウンはなかなかに辛いね。
精神的にもレックスの死はかなりの重荷になっているからリュカかフローラのどっちかが死んだら……。
他のメンツも必死で掴みたいものをつかもうと動いてるし。
とても、丁寧な繋ぎですね。
362sage:2013/01/09(水) 17:52:58.30 ID:ZDO9IkzC0
投下乙です!この先それぞれどうなっていくのか楽しみです
363名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/09(水) 19:08:06.67 ID:hSkZ4TbTO
投下乙です。

タバサ、マホトーンか。
これは呪文とかじゃ治せない。
364名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/09(水) 23:19:51.34 ID:RKTxz2T30
投下乙です!
やっぱりレックスの死はタバサにとって、とても辛かったんだろうな…
365 ◆CruTUZYrlM :2013/01/11(金) 00:32:38.51 ID:dKd3tkjv0
ムカつく。
この長い長い人生の中で一番苛ついていると言っていいほどだ。
歩く素振りは心の荒みを表すように荒々しく、草木をなぎ倒しながら進んでいく。
「クソったれ……」
男の苛立ちの原因は、隠すまでもない。
越えるべき壁、永遠の宿敵、いつかこの手で倒すべき存在だと思っていた女。
戦士の身でありながら悟りを開き、短期間の鍛錬で自身を優に上回る魔力を手にした女。
美しくも狂おしく、戦地で全てを破壊し殺戮し続けた女。
あの世界で唯一、この自分の力を認めなかった女、賢者カーラの情けない姿だ。
ふと思い出すだけで鮮明に頭に描くことが出来る。
美しい赤目は光を失い、暗く濁り、焦点も合っていない。
共に行動しているだけでも、気を抜けば痺れてしまいそうだったあの覇気は感じられず。
もはや剣を握ることすら叶わず、口から出る言葉は弱者のそれと同じもの。
そんな存在に憧れを抱いていたのかと考えるだけで、苛々は加速する。
あの、フヌけた女がカーラだという事実が、彼の神経を削り取っていく。

違うのだ。
彼が憧れを抱いていた、カーラという人物は。
狂うように戦地に飛び込み、幾多もの血を浴び、全てを破壊し殺戮する魔神のごとき賢者こそが、カーラという女なのだ。
それが、なんてことは無い一人の人間の死によって崩れ去った。
理解できない、理解しようとも思わない。
なぜ、彼女はそこまでアレルに固執していたのか。
なぜ、彼女は自分の力を認めなかったのか。
なぜ、彼女は戦うことを放棄したのか。
自分とアレルの違い、カーラにとっての価値観。
そしてあの世界と、この場で言われたカーラの言葉。
その全てが受け入れられず、頭で理解できない。
この世のありとあらゆる知を手にし、自然現象をも操る魔術を身につけた自分の頭で、理解ができない。
いや、理解したくないのか。
全知全能すぎるが故に結論を弾き出してしまい、答えを受け入れんと脳が拒絶しているのか。
本能が働き、理解していないという事にしようとしているのか。
理解してしまった時、自分は――――
366 ◆CruTUZYrlM :2013/01/11(金) 00:33:29.55 ID:dKd3tkjv0
 
「くだらねえな」
苛々の募る頭で考えていたことを振り払う。
いくら頭で考え、理論や仮定を捏ね繰り上げようと、カーラは変わらない、戻らない。
絶対に分かりたくないそれだけは、イヤでも分かってしまう。
もう、求めるものなど何もない。
彼が手にしたかった物は、もう手に入ることなど無いのだから。
そこまで考えて、ふと立ち止まる。
「なぁカーラよ、お前の心が死んだって言うなら」
求めるものは、厳密に言えば"あの頃"のカーラだ。
何よりも美しく、何よりも狂い、何よりも強い彼女。
その姿を見るも無惨な姿になるまで蹂躙し、彼女という彼女を破壊するのが目的だ。
繋がるようにもう一つの事を思い出す、あの始まりの地でデスタムーアが言っていたことを。
「それを蘇らせて貰うのも、悪かねぇな」
死者の蘇生、加護を受けていない者の蘇生までたやすく行うというのならば。
自分が追い求める、最高の環境も作れるかもしれない。
「だったら、やることは一つだな」
このどうしようもない鬱憤を晴らすために、まずはこのどうでもいい世界と人間を叩き壊さなくてはいけない。
己の目的を定め、自ずと道は定まった道へと進む。
生き残り、全てを壊す道へと。



「……は?」
思わず、もう一度声を漏らしてしまう。
予想できるはずもない展開に、ドルマゲスは口をあんぐりと開けてしまう。
「だぁからよォ、俺様はお宝を探しに行きたい訳よ、お・た・か・ら!
 でもこんな場所じゃ何が起こるかも分からねえ、ってことでお前さんの出番だ。
 俺様のお宝の分、き〜っちり俺様を危機から守ってほしい訳よ」
ホンダラはそんな話をさも当然のように、堂々たる姿勢でドルマゲスに語りかけていく。
偉そうな顔で語るそんなホンダラの姿を、ドルマゲスは歯を食いしばりながら見上げることしかできない。
チラッとドルマゲスの顔を見た後、ホンダラは言葉を続けていく。
「まあ、イヤならいいんだぜ〜? 別に他の誰かに頼んでもいいわけだからな〜。
 た・だ・お前さんの目を見る限りどぉ〜っしてもこれが欲しいって目をしてるんだよなァ〜」
完全に足元を見た口調で、ホンダラは次々にまくし立てていく。
選択肢が一つしか無いことくらい、誰よりも自分が分かっている。
分かっているからこそ、目の前の男のしたり顔が気に食わない。
だが、妙なプライドを張れば苦しむのは自分だ。
屈辱に次ぐ屈辱、煮え湯どころか溶岩を流し込まれるような苦痛に、奥歯をすりつぶしそうなほど力を込める。
「お……」
ようやく、最初の一文字を口に出す。
ここに来るまで長い道のりだった、あとは流れに沿って言葉をつなげるだけだ。
喋りだした事を確認したホンダラがこちらをみてニヤついているのを見て、苛立ちが加速するがそれを押さえ込む。
「おね……」
後一歩、後一歩ですべてが終わる。
体力さえ回復すれば、体力さえ回復すればこんな男に構う必要はない。
だが、その一瞬でもこんな男に屈することになるのが。
こんなにもたまらなく、悔しいものだとは考えもしなかった。
違う方向で死にそうになりながら、ドルマゲスは決死の覚悟で言葉を繋げていく。
「おねが――――」
367名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/11(金) 00:34:44.07 ID:4p0yDnce0
 
368 ◆CruTUZYrlM :2013/01/11(金) 00:34:53.48 ID:dKd3tkjv0
「ほっほっほ、お若いの。お宝をお探しかな?」
ようやく完成した言葉をかき消すように、割って入ってきた声。
声の方を向くと、そこには一人の老人が髭を撫でながら立っていた。
ホンダラがじろじろとなめ回すように老人の姿を見てから、少しガラの悪い声で話しかける。
「なんだよオッサン、こちとら今忙しいんだぜ?」
「ああ、いや。お前さんに得になるもうけ話を持ってきたのじゃが……聞きたいか?」
「もうけ話だって!?」
ドルマゲスを煽っていたことも忘れ、ホンダラは目の色を変えて老人の話に食いついていく。
一瞬で老人の眼前に近寄り、まるでエサをほしがる子犬のように両手を擦っていく。
「聞かせてくれよ! どんな話なんだ!?」
「ほっほっほ、焦るな焦るな。
 ならば、先にそやつにそれを使ってやってくれ。
 半分もあれば傷も良くなるじゃろう。
 なぁに、絶対に損はさせんよ」
「ほ、本当かよ〜」
先ほど手に入れたばかりの宝を手放すことを要求され、ホンダラは若干の難色を示す。
「嫌ならええぞ」
「わ、分かったよ!」
その様子を見るや否やスタスタと立ち去ろうとしていた老人を引き留める為に、ホンダラはためらい無く世界樹の雫をドルマゲスに振りまく。
使い方を知らないホンダラは、本来6〜8人の大人数に向けて振りまくその雫を豪快にもだばだばとドルマゲスに振りまいていく。
雫の癒しの力がふんわりとドルマゲスを包み、見る見るうちに傷を治していく。
地に這い蹲っていたドルマゲスは立ち上がり、体が動くことを確かめるように手足を動かしていく。
「ほっほっほ、話が通じる相手で助かったわい。
 さて……ちょっと待っとくれ」
ホンダラが雫を使ったことを確認した老人は、二人の傍、少しドルマゲスよりに荷物を置き、ふくろを漁っていく。
今一理解できない老人の不可思議な行動に、ドルマゲスが疑問を抱こうとしたときだった。

「俺に口裏を合わせろ」

明らかに今までとは違うトーンの声が、ドルマゲスの耳に届く。
何か策あっての行動なのか、老人の真意は掴めないがここは同意を示すために頷いていく。
「んあ? 何か言ったか?」
「ん? 気のせいじゃないか?
 それよりほれっ、これがまずお前さんに渡すものじゃ」
ゆっくりとホンダラの方に振り向いていった老人が、大事そうに抱え込んでいる物。
それは、この淀んだ空の世界でも輝きを放つ黄金色の金塊だった。
それも一つではない、二つ、三つ、四つ。
両手で抱え込まなければいけないほどの、金塊があった。
「ま、マジかよぉ〜〜!? いいのかオッサン!! こんなに貰って!!」
「ほっほっほ、構わんよ。ワシには不要な物じゃからのう」
目を輝かせるホンダラに向け、胸を張りながら老人は答える。
369名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/11(金) 00:36:09.24 ID:otuqP4br0
 
370名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/11(金) 00:36:31.88 ID:4p0yDnce0
 
371信用のバーゲンセール ◆CruTUZYrlM :2013/01/11(金) 00:36:41.63 ID:dKd3tkjv0
「こう見えてもワシは魔法の達人じゃ。
 ちょっとやそっとの困難くらいなら、お前さんを守ってやれる自信がある。
 じゃから、これから始まるお宝探しの旅の中で、ワシがお前さんを守ってやろう!
 無論、こやつも一緒じゃから二人のボディーガードっちゅーわけじゃな!」
えっ、と思わず声を漏らしそうになったドルマゲスに、老人は無言の視線を送る。
金塊に心を奪われ気味のホンダラは、当然それに気づかない。
「は、はい。助けて頂いた私の命とその力、存分にふるわせていただきましょう」
少し棒読み気味な宣言も、今のホンダラには忠誠の証として届く。
「な? 損どころか、さっきの取引より得したじゃろ」
「お、おおう! ありがとうなオッサン!!」
すっかり上機嫌になったホンダラは、ニヤリと笑った老人と大振りの握手をしていく。
「いやぁ〜これで俺様も大金持ち待ったなしだな! どわ〜っはっはっはっは!! 俺の未来は明るいぜぇ〜〜!!」
握手の後に両手を腰に当てて、ホンダラは豪快に笑う。
売りさばけば莫大な金になりそうな金塊が手に入っただけではない。
この場で宝探しをする上で、心強い味方が二人も出来たのだ。
思わぬ展開から得を掴んだことに、笑いが止まらない。



そう、笑いが止まらない。

何もかも、上手くいっていることに。



「……どういうつもりだ」
「馬鹿と大鋏は使いよう……ってな」
人目を気にせず大笑いしているホンダラをよそに、ドルマゲスは老人へと語りかける。
突然現れたと思いきや、巧みな話術を武器にあっという間に男を丸め込んでしまった。
屈辱的な言葉を吐くことなく、全快近くに戻れたのは感謝すべき事だが、いまいち真意が読めない。
なぜ、この老人はあの男に協力することを選んだのか?
ドルマゲスには、分からないことがたくさんあった。
「アンタ、殺しに乗ってる口だろ? 血の臭いで分かるぜ」
その疑問を紐解くように、老人はドルマゲスに話しかけていく。
問いかけに対し、ドルマゲスが小さくうなずいたのを見てからフッと小さく笑い、言葉を続ける。
「俺もそのクチよ、何もかもをぶっ壊してぇと思ってる。
 だがよ、面倒なことにこの世界にも"正義の味方"はいやがるんだよ」
ほう、とドルマゲスがつられて楽しそうに口を歪める。
露骨に嫌そうな表情をする老人の顔が珍しく、また興味を引かれるものであったからだ。
「"正義の味方"の弱点はなんだと思う? 何もかもをへし折る力? 森羅万象を操る魔法? そのどれでもないさ。
 "正義の味方"をブチ折るのは"無力の人間"だ。
 奴らはそこらへんの奴を捕まえて、ちょ〜っと脅すだけでビビりやがる。
 付け込みさえしてしまえば、後はこっちのモンってな」
老人の言葉に察しがついたのか、ドルマゲスの口の歪みが大きくなっていく。
なるほどそういうことかと理解していく反面、先ほど同じ手段が通用しなかったことを思い出してしまう。
あの男の事を思い出して顔が青ざめる前に、その映像を振り払う。
あの時は一人だったが、今度は二人だ。
妙な動きをする人間を倒すことが、より容易になっていくに違いない。
372信用のバーゲンセール ◆CruTUZYrlM :2013/01/11(金) 00:38:21.66 ID:dKd3tkjv0
「話をまとめていくぜ?
 つまり、表向きには善人を演じておいてあの若造に好印象を与えておく。
 そんでお人好し集団に潜り込めたら、あの若造を人質にして俺とお前さんで一気に攻め込む。
 効率よくクソ共を刈り取るにゃあ、これが一番いい。
 だから、その時まであの若造には生きてもらわなくちゃなんねえ。
 とにかく大勢減らせるタイミングまで生かして、あとはドカンよ。
 まー、その後は二人で大暴れでもすっか。
 こんなクソくだらねえ世界にいる、クソどうでもいい人間を滅ぼしによ」
聞けば聞くほど素晴らしく、ドルマゲスの心を揺さぶっていく。
まるで魔王のような事を平然と言い放つ老人に対し、ドルマゲスはついに笑い声を漏らしてしまう。
「ククク……悲しいなあ」
「あ?」
「まさか、人間と手を組んで人間を滅ぼす事になるとは」
「はっ、人間がどいつもこいつも人間が好きってわけじゃないんでね」
自嘲気味に老人が笑う。
よもや人間から人間を滅ぼすことを提案されると思っていなかったドルマゲスも、老人につられて笑ってしまう。
その時、あの脳天気な声が二人の耳に届く。
「おーい! オッサ〜ン、何やってんだよぉ〜。
 お宝探しに、早く行くぜ!!」
「おお、待っとくれ〜〜」
瞬時に声色を変え、貴重な"駒"へと返事をしていく。
この変わり身の早さは、魔物でも簡単に身につけられるものではない。
人間はその気になれば魔物よりも恐ろしい生物だと、ふと思ってしまうほどだ。
「お前さん、名前は?」
「私の名はドルマゲス、以後よろしくお願いしますよ」
「俺は……まあ、俺の名前はどうでもいいだろ。
 どうでも良すぎて、長らく口にしてねえ。
 まっ、それより宜しく頼むぜ? いつか敵になる相棒さんよ」
「ええ、こちらこそ」

いつかの自分に向けての皮肉をたっぷりと含んだ台詞を吐きながら、老人は足を進め。

「じゃあ、行こうぜ」

目指す。

「オタカラ探しによ」

滅びの未来を。

【C-4/平原/午後】
【ホンダラ@DQ7】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:せかいじゅのしずく@DQ7(半分)、金塊@DQ9
[思考]:二人のボディーガードと共にお宝を探す!

【ドルマゲス@DQ8】
[状態]:ダメージ(小)
[装備]:ステンレス鋼ワイヤーロープ@現実
[道具]:なし
[思考]:人間へ復讐、男魔法使いと共にホンダラを利用して人間を抹殺。

【男魔法使い@DQ3】
[状態]:MP消費(大)
[装備]:毒蛾のナイフ(DQ6)、杖
[道具]:支給品一式、不明支給品(確認済み×0〜2)
[思考]:"あの"カーラが生きていればいつか決着をつける。
     それまではホンダラを利用し、ドルマゲスと共に世界を破壊する。
※名前、職歴、杖の種類は後続の書き手にお任せします。
373名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/11(金) 00:38:43.60 ID:blw5HxlJ0
     
374 ◆CruTUZYrlM :2013/01/11(金) 00:39:32.95 ID:dKd3tkjv0
投下終了です。
何かありましたらどうぞ。
375名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/11(金) 00:39:39.13 ID:blw5HxlJ0
    
376名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/11(金) 07:09:21.32 ID:si0BK4sp0
乙でした〜 
377名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/11(金) 22:53:31.99 ID:PGFRvlrV0
投下乙!
378名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/11(金) 23:09:01.64 ID:q3624cjS0
投下乙
見事な話術と作戦なんだけど、絵面を想像したら相当オモシロい三人だなあw
ホンダラをして若造と言われてるのがなんとも・・・ってふと思ったけどホンダラって案外若かったり?
379名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/11(金) 23:19:17.14 ID:bPy00T/HO
投下乙です
男魔法使いは紆余曲折経て、最初の方針に戻ってきた感じだね
無論、抱えた思いは前とは違うんだろうけど…

そして、ホンダラはいいように利用されるだけなのか、それとも幸運を手にするのか…
380名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/12(土) 11:05:40.50 ID:oQcrkHAK0
投下乙です。
男魔法使いが一周回ってカッコよく見え始めた
ここまできたら名前きめられないなーw
381名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/12(土) 11:07:27.42 ID:lqAP3J4q0
このままFFDQロワ1stの導師みたいに名前決まらず終わりそうだなw
382名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/12(土) 14:17:06.08 ID:Ys7mrfDZ0
乙 イレギュラーの塊だな
383名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/12(土) 18:12:19.07 ID:WFys+s7L0
案外この魔法使いの名前は「バ」で始まるあの方かもしれないな
384名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/12(土) 19:25:39.65 ID:a4G784qoO
若返りは、カリスマブレイクフラグか。
385 ◆CruTUZYrlM :2013/01/15(火) 12:12:58.03 ID:reYgUjlZ0
どうも、
現在、外部のほうで投票で決めた各パロロワ企画をラジオして回る「ロワラジオツアー3rd」というものを進行しています。
そこで来る1/19(土)の21:00から、DQBR1stを題材にラジオをさせて頂きたいのですが宜しいでしょうか?

ラジオのアドレスと実況スレッドのアドレスは当日にこのスレに貼らせて頂きます。

詳しくは
http://www11.atwiki.jp/row/pages/49.html
をご参照ください。
386 ◆CruTUZYrlM :2013/01/15(火) 12:13:36.59 ID:reYgUjlZ0
日時ミス……1/20(日)です。申し訳ない。
387 ◆CruTUZYrlM :2013/01/15(火) 12:17:30.33 ID:reYgUjlZ0
ついでに。
集計の方、いつもお疲れ様です。DQBR2ndの今期月報です。

話数    生存者    生存率
88話(+15) 38/60(-6) 63.3(-10.0)
388名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/15(火) 20:19:40.00 ID:zdOYn6G/O
ラジオ嬉しいな
楽しみにしてます
389 ◆CruTUZYrlM :2013/01/20(日) 20:58:46.68 ID:1jjQQfMe0
ロワラジオツアー3rd 開始の時間が近づいてきました。
実況スレッド:http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/5008/1358683068/
ラジオアドレス:http://ustre.am/Oq2M
概要ページ:http://www11.atwiki.jp/row/pages/49.html
よろしくおねがいします
390名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/21(月) 23:12:40.23 ID:S8gv9r/+0
ラジオお疲れ様でした!

えー、絵板管理人よりお知らせです。
昨日のDQBR1stラジオ中にご意見をいただき、現在の絵板で1stに関する投稿も可、ということにしてみました。
両wikiからリンクが貼られています。どうぞお気軽にご利用ください。
この件や他にもご要望等ありましたら、したらばの要望スレで承りますのでよろしくお願いします。
391名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/21(月) 23:30:36.24 ID:soSTR7VK0
乙、そりゃいいや
392愛うらら ◆TUfzs2HSwE :2013/01/25(金) 10:42:36.68 ID:FPIAVGn8O
.




どのような虚が集えば、胸のうちに焦げ付いた、黒々としたこの滲みは、生まれるというのだろう?
さえざえとした頭の中で、リュカがときどき、思うことだ。

「いくよ、ラドン」

その、胸の内に宿る虚が渦巻いて、魔王の瘴気にさえ劣らぬうねりを立ち昇らせる。
息子の未来を阻んだのは、デスタムーアという名の魔の化身であり、この狭間という名の魔界で彼を殺した誰か。
そんな穢れた魔の手は、彼女にさえ、忍び寄ったのだ。
彼女こそ生涯魔から逃れ、愛する子どもたちとともに、穏やかに時を刻むべき人なのに。

「殺さない程度にね。彼には、聞きたいことが山ほどある」
「ふざけるなァ!!」

恐怖に思わず後ずさりするなど、魔王にあってはならないこと。
すべてを吹き飛ばすようにして、いきり立ったバラモスの心を読むことは、しかしリュカには硝子の小箱を透かし見るようなものだ。
魔法を封じられた魔王が、次に出る行動はなにか。
リュカは、見やぶる。
自尊心を傷付けられ、怒りをあらわにする魔王が、己を魔王たらしめるために選ぶものを。

「焼き尽くしてくれるッ……」
「――バギクロス!」

身の内に宿し口から吐き出す炎こそ、魔の象徴。
全てを焼き尽くすことのできる灼熱こそ、魔界における王の証。
放たれた火炎の息はしかし、リュカがそれを見越して放った聖風に巻き上げられる。
風は壁となりリュカたちを炎から守るどころか、バラモスへの牙となって襲いかかった。

「がぁぁぁああああアアッ!!」
己が放った火炎がいま、数倍の威力で跳ね返されて、バラモスを焼き尽くす。
彼は魔王だったのだ。
少なくともアリアハン世界において、彼よりも強烈な炎を秘めたものはなかったのだ。
だがイオナズンは、彷徨うだけの魂なき鎧に封じられた。
炎はいま、脆弱で愚かでしかないはずの人間によって弾かれ、バラモス自身に牙を剥いた。
力なき魔王など……もはや、魔王では、ない。

「……まずは一つ、聞かせてもらおう」
焼け焦がされて息も絶え絶えのバラモスに、冷静な、ともすれば冷徹とさえ言える声が降る。
それはかつての魔王の足を止めた声であり、誇り高き竜族のラドンに恐怖を抱かせた声だ。
天上の光も地底の闇も、彼には馴染み深いもの。
つまり、彼自身が身のうちに、それらを秘めていると言えるのかもしれない。

「お前はフローラを、手にかけたのか?」
「フ、フフ、さてなァ。どうだったか……」
せめてもの抵抗と、バラモスは下卑た笑いをあげながらもその問いには答えまいとした。
しかしそれを、彼が許すはずもない。
ずぶり。
バラモスの肩口に勇者の名を冠した剣がひとつ生えた。
「質問にはちゃんと答えた方がいい」
冷たい声はまるで、聴く者すべてを貫く氷柱のよう。
393名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/25(金) 10:43:07.52 ID:AQgZOnox0
 
394名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/25(金) 10:43:38.00 ID:AQgZOnox0
 
395名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/25(金) 10:44:12.41 ID:AQgZOnox0
 
396名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/25(金) 10:45:19.68 ID:JCmvJXxK0
 
397愛うらら ◆TUfzs2HSwE :2013/01/25(金) 10:47:07.79 ID:FPIAVGn8O
.
「手にかけたのか」
「……フン」
「そうか。質問を変えよう。フローラは今、どこにいる?」
「知れたこと……!」
「なら、お前はフローラと、どこで会った?」

バラモスの肩口に潜り込んだパパスの剣に、リュカは両手をかける。
切り落とすつもりなのだと、苦痛に耐えるバラモスは悟った。

――最早ここまで、逃れられまい。
あるいは魔物であったからこそ、バラモスには敵の冷酷さがその身に染みたのかもしれない。
リュカは今、寸分の気の迷いも緩みもなく、姑息な手段を練る隙も与えず、バラモスの命を掌握していた。
つまり、完全なるバラモスの敗北。
敵うことのない、それはもっと根本的な、地底にうごめく闇の深淵に、バラモスは膝を折ったのだ。
かつてゾーマに仕えたように……バラモスという存在は今、リュカの手の中に堕ちた。

「南だ」
観念して口を開いたバラモスだったが、リュカの手はまだ離れない。
「絶望の名を冠する人里よ」
「……『ぜつぼうのまち』か」

情を欠片も伴わなかったリュカの瞳がようやく、バラモスの言葉に理解の色を見せた。
地図を確認したさいにそんな名称の町があったことは確認している。
バラモスの言葉の真偽は確かめようがないが、少なくとも『今』バラモスがフローラの安否を知らないとすると、
彼女がバラモスと遭遇してからはある程度時間が経っているはずだ。
放送までフローラが生きていたのは確かだから、バラモスが彼女と遭遇していたのが放送前であるなら、
フローラは無事にバラモスから逃れた可能性が高い。
それを手がかりと考える方が、闇雲に彼女を探すよりも、建設的であるように思う。

「……リュカ」
遠巻きにその様子を眺めていた竜が、気遣わしげにリュカを見やる。
その視線に気付いているのかどうか、リュカは少しの逡巡の後、構えていた剣を握りなおした。
ずるり、と、バラモスの肩から剣が抜かれる。
「行こう」
目を丸くしたバラモスに一瞥もくれず、リュカはラドンを伴って早足で歩き出した。
北にはビアンカがいる。それはどうも確かなことだ。
目の前にはバラモスという魔物がいる。放っておくべきではないだろう。
だけど、それよりも何よりも、彼には選ばねばならぬことがあった。
すべてに代えてでも守らなければならない女性がいた。
焦っていたのかもしれない。命とはかくも儚きものと、痛感したところだったから。
彼女をこの手で守れないまま終わるという仮想が、思っていたより現実味を帯びたから。
今こそ、今こそ行かなければならない――何かを振り切るようにして、彼は歩みを、進めたのだろう。

その命を握り潰されるときを、なんの疑りもなく待っていたバラモスは、立ち尽くした。
生かされた。
否、そうじゃない、――この命に、彼は見向きもしなかった。

(……なんだと)

一度折られた自尊心を、忠誠を誓って強大な闇に仕えることで保ち、その命を捧げてきたのに。
ゾーマと違って、リュカはどちらも選ばなかった。
バラモスの命を掌握しておきながら、利用もせず、奪うこともせず、放置した。
その存在に価値も見出せぬというように、興味を失い、今まさに立ち去ろうとしている。
398名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/25(金) 10:47:23.17 ID:JCmvJXxK0
 
399名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/25(金) 10:47:35.40 ID:AQgZOnox0
 
400名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/25(金) 10:48:22.54 ID:AQgZOnox0
 
401名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/25(金) 10:48:29.74 ID:JCmvJXxK0
 
402名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/25(金) 10:49:10.96 ID:AQgZOnox0
 
403名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/25(金) 10:49:17.51 ID:JCmvJXxK0
 
404名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/25(金) 10:50:06.19 ID:JCmvJXxK0
 
405名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/25(金) 10:50:07.70 ID:AQgZOnox0
 
406愛うらら ◆TUfzs2HSwE :2013/01/25(金) 10:51:03.05 ID:FPIAVGn8O
.
(これでは、まるで……)

殺戮を恐れ、詭弁を積み上げて闘争を避け、
愛とか正義とかのために生きる、愚かな生き物。

――まるで、ただの人間だ。

リュカという男は、ゾーマのように闇を統べるカリスマではなかったのか?
一度でもバラモスが屈した負の力は、彼が妻を愛する想いに裏打ちされていたとでも言うのだろうか?
バラモスはそんな、そんな何よりも陳腐で下らないものに敗北し、膝をついたと……?

(……ふざけるな……)

許されない。
そんなことは許されない。
バラモスの命を掌握できるのはバラモスを越える闇でなくてはならない。
それ以外のものに負けることなど容認できない。
人間などという愚かな生物はすべて、この身の前に跪かなければならない。
この存在に恐怖し身体を強張らせなければならない。
バラモスが与える絶望に、凍えるように、打ち震えなければならない――!!

身体が勝手に動いていた。
止せばいいのに、結果など見えているのに、
バラモスが魔物である限り、彼に勝てるはずがないのに……
愚かな魔物はデーモンスピアを振りかぶり、その勢いのままに突進した。

「ふ、ざ、けるなああぁぁぁぁあぁぁああッ!!」

絶叫し、闇雲に己を負かした相手に向かって走るバラモスを。
リュカは当然見透かして、振り向いた彼の目にはやはり、感情を伴わぬ冷酷だけが在って。
ああ、止せばよかったのに、わざわざ自ら死に逝くこともないのに……とでも、言わんばかり。
全てを判り切ったように、ぬらりとパパスの剣がすがたを現し、その刀身に無謀な魔物を映して、嘲笑うかのように光る。

この物語の結論は、わかりきっていた。
デーモンスピアは、空を切る。
パパスの剣が、愚かな魔物を貫く。
そしてこの冒険の書は、ここでおしまい。
そんな、誰もが展開を予想できる三文芝居が、一丁上がりだ。

――ざきゅり。

「穢らわしき、肉塊め……」

ところがなぜか、デーモンスピアは……なにかを貫いたようだった。
リュカが、予想外のことに、思わず動きを止めている。
バラモスとてそれは、想定外のことだった。
デーモンスピアが貫いたのは、彼らの間に割って入った一匹の竜、ラドンだった。
バラモスの撒き散らす悪意の破片からリュカを覆い隠すかのように、
とっさに広げた翼の根元に、デーモンスピアは突き刺さっていた。
時を止めた刹那、動けぬバラモスをラドンは捉え、迷うことなく爪を振り上げる。
まさに、肉を切らせて骨を断つかの如く。

「リュカの手を煩わせるまでも、ないッ!!」
407名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/25(金) 10:51:40.69 ID:AQgZOnox0
 
408名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/25(金) 10:51:46.09 ID:JCmvJXxK0
 
409名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/25(金) 10:52:33.89 ID:AQgZOnox0
 
410名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/25(金) 10:52:39.16 ID:JCmvJXxK0
 
411名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/25(金) 10:53:42.93 ID:AQgZOnox0
 
412名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/25(金) 10:53:49.99 ID:JCmvJXxK0
 
413愛うらら ◆TUfzs2HSwE :2013/01/25(金) 10:54:29.38 ID:FPIAVGn8O
.
竜の鋭利な爪が強烈に叩きつけられた。
それは丸くしたバラモスの目玉を抉る。その先の脳髄まで千切り取る。
穢れた肉の破片が飛び散り、体液が噴出してもなおラドンは抉り続けた。
生命のともし火が尽き果て、その肉塊が永遠に、再生されることの無いように。

そうして、今ここに。
各地で多くの悲劇の爪あとを撒き散らした存在が、とうとう命を散らす。
打算と欲望にまみれ、かつて魔王と呼ばれていた一つの肉塊は、竜に引き裂かれて屍と化した。


***


「いったい、なにをしているんだい、君は……」

泣き笑いみたいな表情で傷付いた竜を労わる、優しい主のすがたに、ラドンは可笑しいくらいの安堵を覚えていた。
――ああ、よかった。
元のリュカに戻ってくれた。

返り血で汚れた身体を憂い、払うために翼を震わせようとして、
ふと、平衡感覚が機能しないことに気付き、ラドンはぐらりとバランスを崩す。
槍に刺されたあたりが、まるで自分の身体ではないかのように麻痺して、動かなかった。

「……毒、か」
呟く。恐らく、あの槍に仕込まれていたものだろう。
じわじわと徐々に蝕むそれは、竜の身にも効くほどの強さであるなら、人間が受ければ即死するだろうと思われた。
リュカに危害が無くてよかったと、つくづく思う。

「待って。今、治療する」
「捨て置け、リュカ。おそらく助かることはあるまい」
「馬鹿を言わないでくれ」

先ほどの冷淡さからは考えられないほど上擦った調子で、ラドンの安否を気遣うリュカに、
手負いの竜は在り難さと、少しの負い目を感じる。
リュカが紡いだ解毒の魔法に大人しく身を委ねるも、やはり完全に毒を取り除くことはできないようで、
延命のためにリュカの希少な魔力を費やさせるのは惜しいことである気がした。
――ましてやリュカには、行くべきところがあるだろうに。

「どうか、構うな。リュカには、私などより優先すべき方がいるだろう」
「僕と一緒に来てくれるって、言ったじゃないか」

頑固に言い募って引き下がらないリュカの優しさが、ラドンには嬉しかった。
しかし同時に、それがリュカの一面でしかないと知ったラドンの胸中に、複雑な思いもよぎる。

「リュカ。ひとつ尋ねてもよいか」
「なんだい?」
「あなたの出自が気になった」

手負いの竜に、思わぬことをたずねられ、リュカは顔を上げる。
414名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/25(金) 10:55:21.68 ID:AQgZOnox0
 
415名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/25(金) 10:55:27.01 ID:JCmvJXxK0
 
416愛うらら ◆TUfzs2HSwE :2013/01/25(金) 10:56:45.09 ID:FPIAVGn8O
.
「あなたは、その見かけは間違いなく人のものであるが、本当は別の……、
例えば、私が仕えた竜王のように、竜の末裔ではあるまいか?」
「竜、だって?」
「私は、あなたを見て一目で、お仕えすべき存在とわかった。
それは、リュカが魔物と心を交わす、その天賦の才ゆえと思っていたが……」

気にすまいとするにはあまりに、印象的なことだった。
魔王であったバラモスの足を止め、誇り高き竜であるラドンに畏怖の念を抱かせた、先刻のリュカの気迫。
それは果たして、ほんとうに、ただの人間に引き出すことのできるものだろうか?

竜とは本来、天地を統べる一族だ。
実際に王として君臨し、世界を統治するわけではないが、その強さと誇り、気品ある姿はまさに王族のもの。
だからこそ、ラドンがかつて仕えたあるじは、王の中の王――『竜王』と呼ばれていたのだ。
それが、同じ竜であるならともかく、人間に畏怖の念を抱くなど、にわかには信じがたいことだった。

無論、そんなラドンの意図を、リュカが察するすべもない。
だが、彼はその問いを一笑に付すでもなく、顎に手を添え思考する。

「……母は、エルヘヴン人だ。彼らは不思議な力を宿す一族だったが、人に属しているのは確かだ。
それに、父は、間違いなく人間だった。出自を見る限り、僕に竜の血は流れていないと思うよ」
「そうか。では、思い違いであったか」
「なにか、思い当たることがあったのかい?」
「いや。可笑しなことを訊いてすまない」

それきり、黙って治療を受け続けるラドンに、リュカは少し遠い目をして笑う。

「そうだな。僕は、たしかに竜族ではないけれど、かつて竜にすがたを変えたことならある」

やや驚きを浮かべた竜に、リュカがとつとつと話し出すのは、旅をしていたころの話だった。
子供たちを守り妻と母を救い出し、魔王を倒すための力を欲して、人の脆い身体に憂えていたことがあり、
そんなときにボブルの塔で手に入れた、ドラゴンの名を冠す杖の力は、リュカを強大な竜の肉体に変身させた。
まるで、世界を統べる天の竜が、リュカの願いを聞き届けたかのように。

「いま思うと、僕は、竜に魂を売ったようなものかもしれないな」
「なにを言われる」

自嘲するような笑みを浮かべるリュカに首を振り、ラドンは否定の意を述べる。
たとえ人の身を棄てたことがあったとしても、今ラドンを死なせまいとするその優しき心は、間違いなく人のそれだ。
そして――ラドンはふと何気なく、かつての主を思い浮かべる。
愛とはなんぞや、と求め喚く竜王に、配下の中でその答えを述べられるものは誰一人としていなかった。
だが、リュカを見ていると、その問いの答えが見えてくるような気がする。
竜には解を導き出せなかった問い、その答えを知るからこそ、人は人らしく在るのではないだろうか。

「リュカ。あなたには、愛する伴侶がおられるのだろう?」

それを本人にぶつけるのは、やや卑怯なことだったかもしれない。
だが、手負いなことに少し甘えるような心持で、思うまま、ラドンはリュカに問いかけた。
彼ははっとして、しばらくラドンの瞳を見つめていたが、
やがて、やはりどこか遠くを思うような顔をして、呟く。

「僕は」
417名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/25(金) 10:58:24.15 ID:AQgZOnox0
 
418名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/25(金) 10:58:34.62 ID:GvS2cYsE0
 
419名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/25(金) 11:00:00.97 ID:AQgZOnox0
 
420名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/25(金) 11:00:05.81 ID:GvS2cYsE0
 
421愛うらら ◆TUfzs2HSwE :2013/01/25(金) 11:00:27.77 ID:FPIAVGn8O
.

――そう。リュカが人ではないとする根拠が他にもあるなら、
その最たるものがまさに、打算とエゴイズムに満ちた、あの日の選択と言えるのだろう。

「彼女を愛してなど、いない」

愛を自ら切り捨てた、その生き様のことである、と。


リュカの開け放したザックの中に、王女の愛がもの言いたげに光を放っていたが、彼はどことなく視線を外し。
バラモスから回収した支給品をザックに押し込めると、その口を引き絞って閉じる。
――――愛ですよ、愛。
それを託した一人の男の想いにも、まるで目を逸らすように。







【バラモス@DQ3 死亡】
【残り37人】


【B-5/中央部平原/午後】

【リュカ@DQ5】
[状態]:健康 MP微消費
[装備]:パパスの剣@DQ5
[道具]:支給品一式×3、祝福の杖@DQ5、王女の愛@DQ1、支給品×2(本人確認済み。武器は無い)
サタンネイル@DQ9、デーモンスピア@DQ6、バラモスの不明支給品(0〜1)、消え去り草×1
[思考]:フローラと家族を守る。ラドンの治療

【ラドン(ドラゴン)@DQ1】
[状態]:全身にダメージ(中) 致死毒(治療中)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 不明支給品×1〜2(本人確認済み)
[思考]:人と魔物が手をとる可能性を見届けるため、リュカに従う。
※ラドンの毒は本来即死効果のものであるため、キアリーによる完治はできません。
定期的な解毒or治療の施しがない場合、半日前後で死に至ります。
422名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/25(金) 11:00:37.53 ID:GvS2cYsE0
 
423 ◆TUfzs2HSwE :2013/01/25(金) 11:02:42.00 ID:FPIAVGn8O
投下終了です。
支援ありがとうございます。
424 ◆TUfzs2HSwE :2013/01/25(金) 12:24:27.03 ID:FPIAVGn8O
したらばでご指摘いただきまして、恥ずかしながら、ラドンに翼がないことを失念しておりました。
そのため該当する描写を、この場で修正させてください。申し訳ありません。


>>406

バラモスの撒き散らす悪意の破片からリュカを覆い隠すかのように、
とっさに広げた翼の根元に、デーモンスピアは突き刺さっていた。

バラモスの撒き散らす悪意の破片からリュカを庇うかのように、
とっさに滑り込んだ竜の胴体に、デーモンスピアは突き刺さっていた。

>>413

返り血で汚れた身体を憂い、払うために翼を震わせようとして、

返り血で汚れた鱗を憂い、払うために身体を震わせようとして、


訂正するうち、ラドンを「竜」と呼ぶこと自体が違和感を生むかもしれないと思いましたが、
ラドンを指して竜としたときは、羽なしドラゴンのことである、ということで、どうかご容赦ください。
ご指摘くださった方には改めて感謝を申し上げます。
425名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/25(金) 14:53:32.01 ID:zpylZUYa0
投下乙です
ああ、竜とそう繋がってくるのか!
それにしても切ないなぁ。リュカ自身認められないんだろうけど、
もうその在り方は愛って言っていいと思うんだ、うん
426名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/25(金) 14:58:43.07 ID:cAhy6OA40

その打算と苦悩こそ正に人間だな
427名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/25(金) 14:59:57.47 ID:AQgZOnox0
投下乙!
バラモスはそう解釈したか。
ラドンがかっこよくて……もう……
リュカも早く誤解というか、真相にたどり着ければいいのだけれど。
428名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/25(金) 17:03:32.38 ID:gV9MOozY0
乙です
リュカとフローラがすれ違わなくなる日は来ないのだろうか…
429名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/25(金) 19:10:53.19 ID:vcldRsRbO
投下乙です。

人間如きに頭をたれた魔王は、最期に死の呪いを遺した。
430名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/02/05(火) 16:38:33.57 ID:FyzG1k8b0
431自覚症状無しの末期患者達 ◆CruTUZYrlM :2013/02/06(水) 23:30:31.83 ID:+zLEH9f+0
「ピサロ様」

「なんだ」

「お願いがあります」

「言って見ろ」

「もう、悲しい涙はこれきりだと、約束してください」

「……ああ」

「約束ですよ」

「肝に銘じよう」

「ありがとうございます」

「……ロザリー」

「はい」

「ありがとう……」

「ふふっ、どういたしまして」
432自覚症状無しの末期患者達 ◆CruTUZYrlM :2013/02/06(水) 23:31:16.01 ID:+zLEH9f+0
 


いつだったか、ロザリーと交わした会話を思い出す。
エビルプリーストを倒し、闘争が終結を迎えた直後の話だ。
彼女は赤い涙をぽろぽろと流しながら、もう泣きたくないと願ってきた。
それが意味することは、あまりにも広く、あまりにも大きい。
だが、自分自身の記憶の中に、数々の"泣かせた"記憶がある。
彼女が一度死に至るまで、彼女の気持ちを無視し続け、傷つけてきた。
彼女を悲しませるようなことは、もう二度としない。
だから、自分はこの殺し合いで、人間を殺して回らない。
自分が人間を殺したと知れば、彼女はまた悲しむから。
そう、ロザリーの笑顔を守る為。
自分は生きて、かつ彼女が悲しまないように振る舞わなければいけない。
それはあまりにも、都合の良すぎる綺麗事。
今、ミーティアを追っているのも、その綺麗事を守るため。
もしここにロザリーがいれば、彼女を見捨てると自分が言えばロザリーは悲しむだろう。
ロザリーを二度と悲しませないと言った以上、例えここに居なくても彼女が悲しむようなことをするわけにはいかない。
それは自己満足、汚い言い方をすれば正義感に酔う為の自慰行為とも取れる。
そうだとしても、かまわない。
彼女のため、彼女のため、彼女の笑顔を守るため。
ピサロは、この身を粉にしてでも、かつての約束を守ろうとしている――――

いや、違う。
それだけではない。
うっすらとピサロも感じていた。
初めてミーティアに会った時、自分は無意識のうちにロザリーの姿を重ねていた。
居るはずのないロザリーの姿を求めるように、似ても似つかない彼女と重ねていた。
人を守ろうとする姿も、想い人を想う姿も、そしてつい先ほど見せた悲しみの表情も。
その全てを、ロザリーと重ねていた。
433名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/02/06(水) 23:31:20.01 ID:lIHx+Si+0
sien
434自覚症状無しの末期患者達 ◆CruTUZYrlM :2013/02/06(水) 23:31:52.04 ID:+zLEH9f+0
 
ふと、自己を振り返る。

今、ミーティアを追っているのは彼女の身を案じているから?

違う。

ここから生還したとき、ロザリーを悲しませない為?

違う。

人を助けるという、満足感に包まれたい?

違う。



じゃあ、ミーティアという存在の中に、ロザリーを見いだしているから?



――――そうだ、自分は。
ロザリーを求めている。
いや、ロザリーに依存している。
身も、心も、何もかも全て。
いつの日からか、彼女無しでは生きれなくなっていたようだ。
ロザリーの笑顔を、ぬくもりを、願いを、全てを、全身で欲している。
傷つけ続けたからこそ、彼女の笑顔に触れたい、守りたい、感じていたい。
だから、ミーティアを守る。
いや、ミーティアの中のロザリーを守る。
それがロザリーではないことは重々承知している。
例え誰かの中に見いだした、空虚の彼女だったとしても。
彼女に愛されたいと、傷つけたくないと願っているから。
ロザリーという存在がいないこの空間で、誰かをロザリーに仕立て上げようとしている。

自分は、二度とロザリーを失いたくない。

何時、何処で、何をしていようと、彼女を感じていたい。

彼女を再び失ってしまえば、自分はどうなるかわからない。

それが、真実から見いだした"自分"。

ここにロザリーが居る、誰かの中に居るロザリーを求め、守るため。

"ピサロ"は動いている。

「……まさか」

否定の意味を込めた自嘲、それと同時に見覚えのある姿が彼の目の前に現れた。
435自覚症状無しの末期患者達 ◆CruTUZYrlM :2013/02/06(水) 23:32:28.14 ID:+zLEH9f+0
 
「ピサロ……」
「……ヤンガス」
「はっ、情けねえ。この体と来たらこんな時に動こうとすらしねえ」

生々しい傷と火傷だらけの体を引きずり、ヤンガスが腰を下ろす。
皮膚の一部は焼け爛れ、傷からは血が流れ出している。
先ほど威勢良く走り出したは良いものの、メガンテによるダメージは彼の身体を見た目以上に傷つけていた。
本人は走っているつもりでも、傍から観れば歩行に近い。
そんな息絶え絶えのヤンガスに、ピサロは気になっていたことを質問する。

「何故だ、何故ミーティアを連れてきた」
「姫さんがどうしてもアンタを救うと、その強い気持ちにあっしが折れたでがす。
 それに……兄貴でも、きっとそうすると思ったから」
「……力づくでミーティアを絶望の町に連れて行けば良かったのではないか?」
 それか本人の要望どおり、置いて来れば良かっただろう」
「ばっ、んなことできるわけねえだろ!」
「それを取らなかった結果が、今だがな」
「だったら、そもそもアンタが単独行動したのが間違いだったんじゃねえのかよ」
「なんだと……?」

叩き付ける様に言葉を投げあい、両者共ににらみ合う。
振り返れば振り返るほど、大本の原因は前の出来事になる。
それを突き詰めてしまえば、この殺し合いさえ起こらなければ、ということになる。
そう、全ての悲劇の始まりはデスタムーアにある。
分かっているのに、相手の行動を責めずにはいられない。
近いところで「そうしていなければ」と、考えてしまうからだ。

「……チッ、んなこと言い合っててもしょうがねえってのに」

ヤンガスが先に目を逸らし、それを言い放つ。
あわせるようにピサロも目線を逸らし、ヤンガスから離れようとして行く。
ヤンガスもそれに続こうとするが、思った以上に身体が上手く動かない。
木に寄りかかりながら、ヤンガスはピサロに語りかける。

「ピサロ」
「何だ」
「先に行ってくれ」
「言われなくても、そうするつもりだ」
「そうかい」

先ほどとは変わって短いやり取りの後、ピサロは駆け抜けるようにヤンガスの元を離れていく。
その姿を見送りながら、ヤンガスは空を見上げて呟く。

「兄貴、ククール……教えてくれ、何が正しいんだ?」

縋るようにその名を呼び、そのまま空を見上げる。
正しいこと、この殺し合いでは"当たり前"すら捻じ曲がる。
一度価値観を変えられた男は、再び悩み始めていた。
436名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/02/06(水) 23:33:03.48 ID:UGWM3Wdj0
 
437自覚症状無しの末期患者達 ◆CruTUZYrlM :2013/02/06(水) 23:33:03.49 ID:+zLEH9f+0
 


エイト、エイト、エイト。
まるで呪詛のように、その名前を繰り返す。
夢から覚め、恥ずかしさはとうに投げ捨て、あられもない格好でで幻想を捜す。
声に導かれるように、声に導かれるように。
草を踏み、枝をかき分け、凹凸の激しい道を行く。
エイトはいる、それは分かっている。だから彼女は足を進める。
ふと現れては消え、消えては現れを繰り返し。
声だけが響きわたる空間で、泣いてしまいそうな気持ちをグッとこらえ。
確かに感じる気配を頼りに、澱んだ空に包まれた深い森の中を歩く。
一歩踏み出すごとに生傷は増え、転ぶ時にできる擦り傷からは血が流れ、白く透き通るような肌はすでに泥まみれである。
だが、彼女は止まることはない。
ただただ、気配のする方だけを見つめ、その足を動かしていく。
エイト、エイト、エイト。
その名を壊れた機械のように呟きながら。
次第に強まっていく気配に釣られるように走り出していった。

そして、感じた気配の根元にたどり着く。
視界と意識を黒い死体に奪われる。
知っている、これはエイトではないと。
始めに見た、老人に燃やされた男なのだと分かっている。
だというのに、いくら目を擦っても落ちないものがある。
黒焦げの死体と入れ替わり立ち替わりに写る、"黒"いエイト。
違う、違う、違うと声に出して否定してもその姿は消えることはない。

――――エイト

エイトが死んだと告げた悪魔の声が聞こえる。
それと同時に黒こげのエイトの映像が燃え上がる。
まるで時を逆回しにしているかのように、次々に炎が立ち上る。
黒から肌色に戻っていく、燃え盛る彼が苦しみに蠢く。
手が伸びる、体が曲がる、剥き出しの眼が自分を見ている。
口が動く、ゆっくりと、それでも確実に。
言葉を紡ぐ。

「た、すけ、Te――」
「違うッ!!」

叫びとともに頬を叩く。
瞬間、燃え上がるエイトの姿が霧となり消えていく。
エイトが死んだ? 馬鹿馬鹿しい。
エイトは生きているのだから、そんなことを考える必要はない。
きっとエイトを追い求めるあまり、人間の体をエイトに置き換えてしまったのだろう。
幻が燃え上がっていったのは、初めの男が燃え上がっていった光景を思い出してしまったからだろう。
何が何でも、死んだ人間をエイトと重ねなくても良いというのに。

「森じゃない……?」

じゃあ感じた気配は錯覚?
今、この男が死んでいる場所から確かにエイトの気配を感じていた。
だが、そこにいたのは黒こげの死体だけだ。
人が居る、もしくは人が居たという意識を無意識にエイトとして書き換えていたのか?
438自覚症状無しの末期患者達 ◆CruTUZYrlM :2013/02/06(水) 23:34:16.39 ID:+zLEH9f+0
「……行かなきゃ」

まあ、どうでもいい話だ。
違ったならば違ったで済ませればいいだけの事。
また歩きだして、この会場のどこかにいるエイトを見つければいいだけの事だ。
そうして、彼女はまた歩き出す。
胸に生まれた、新たなる気配に向かって。



依存者たちが、思いを抱いて動く。

その行動理念はどこにある?

自分、ではなく。

他人なのではないか?

彼らは、それを知ろうとしない。



【E-5/北西端/午後】
【ピサロ@DQ4】
[状態]:ダメージ(小)
[装備]:破壊の剣@DQ2、杖(不明)
[道具]:ステテコパンツ、不明0〜1、基本支給品
[思考]:手段を問わず脱出。ミーティアと合流する

【ヤンガス@DQ8】
[状態]:HP1/7、惑い
[装備]:覇王の斧
[道具]:支給品一式(不明1〜2,本人確認済)
[思考]:ミーティアを追う。

【E-4/ハッサン遺体傍/午後】
【ミーティア@DQ8】
[状態]:疲労(微)
[装備]:おなべのふた、エッチな下着
[道具]:他不明0〜1、基本支給品
[思考]:エイトに会う、エッチな下着はなるべく早く脱ぎたい



投下終了です。支援多謝。
439名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/02/07(木) 00:13:43.70 ID:3NkhVHhuO
支援
440名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/02/07(木) 00:22:53.74 ID:3NkhVHhuO
投下中かと思って支援と書いてしまった。
投下乙です

ロザリーとピサロのやり取りがいいなあ
ピサロがロザリーの笑顔を守りたいから人を殺さないっていうのは、すごくわかる気がする。

そして誰かあられもない姿のミーちゃんに救いの手を…
441名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/02/07(木) 06:59:21.48 ID:dYxzAUh90
投下乙です
442名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/02/10(日) 22:37:45.70 ID:Xba1OVAi0
投下乙です。

それぞれ依存を抱えているが故に自らの意志がはっきりしない。
今の所は誰の害にもなっていないけど時間が経つにつれて……。
ミーちゃんなんかはやばそうだしなあ。
443子守唄が途切れた日 ◆TUfzs2HSwE :2013/02/13(水) 12:19:07.88 ID:u2igGXElO
.



「ひっ……!」

危うく卒倒しかけるリッカを、隣にいたビアンカが慌てて支えた。
バランスを崩した身体はバーバラの手に引き戻され、再びその小さな背に背負われる。

「ご、ごめんなさい」
「大丈夫よ」

青ざめたままのリッカを安心させるように、ビアンカは彼女の細い背を撫でた。
無理もないと、ビアンカは思う。彼女だって、もし一人でこんなものを見たら、どうなっていたことか。
三人の見る先にはギロチンが、その足元には朱の海が。
海の中には、首と身体とが切り離された死体が、転がっていたのだから。

屈強な勇者の子孫が、魂の宿った鎧の騎士が、命なき魔神と戦っていたころ。
彼女たちは、ろうごくの城への階段を登っていた。
一たび砦の門をくぐり、そこから今度は地下に向かって降りていくと、
町のように居住区が連なる広場がそこにあった。
といっても大半は処刑場とお墓だ。
物々しい雰囲気の中、休める部屋を探そうと一歩を踏み出す彼女たちの視界に、
あまりにも惨たらしい、その光景が広がっていた。

その凄惨さにリッカは顔を青ざめ、ビアンカもその景色から目を逸らしていた。
だから彼女たちが、残る一人の同行者の様子に気付くことはない。
むごい、とか、怖いとか、どうして……とか。
『それ』を成した相手に対して、ビアンカたちが様々な怒りや悲しみの思いを抱いていることを、バーバラは知っていた。
無論、ビアンカやリッカが、目の前の惨殺が誰によってもたらされたかなんて、知る由もない。
それでも彼女は、二人が自分に突きつける痛みの矛に、顔を伏せることしかできなかった。





「とりあえず、人気もないし、今のところは安全そうね」
「だいぶ地下まで降りたからね」

覇気の無い声で呟いたバーバラに、そうよね、とビアンカは頷いた。
共に行く誰かがあるとき、いつだって気丈であらねばと、ビアンカは思っていた。
三人の中で、自分が一番年上の、お姉さんなのだから。
まだ若い二人を差し置いて、自分が落ち込んでいるわけにはいかないのだ。
444子守唄が途切れた日 ◆TUfzs2HSwE :2013/02/13(水) 12:22:02.65 ID:u2igGXElO
.
広場は処刑場を中心に、辺りを区切られた居住区が広がっていて、
住宅と呼べるほどの囲いはないが、囚人たちにはそれぞれ独立した居住空間があったのだろうと思われた。
その中の一つに置かれた、それなりにちゃんとしたベッドに、二人はリッカを寝かせる。
ようやく一息ついた彼女らだが、リッカの表情はなお苦しげだったし、
戦いの場に残してきた仲間に、憂いの念を掃うことはできない。
応急処置以上の治療方法を身につけていなかったビアンカが、
辛そうなリッカに何もしてあげられないというのもまた、気分を余計に滅入らせた。

「あたし、その辺散策してくる」
思い立ったように唐突に呟いたビアンカに、バーバラの肩が、びくりと動いた。
少し驚いたふうな顔で、ビアンカを振り返る。

「……え?」
「いや、じっとしてるのもなんだし、その辺の様子調べてくるわね」
「そんなの、危ないよ」
「大丈夫。危険そうなら戻ってくるわよ。わたし、そういうときの勘がけっこういいんだから」

晴れない顔のままのバーバラに、笑ってそう言い残し、ビアンカは部屋を出た。
自分のような年長者といるよりも、歳が近い少女たちのほうが、気軽に話せるのではないかとも思ったし、
あの部屋でなにもせずに身体を休めるだけというのは、ビアンカの柄に合わないのだった。

――なんとか、しなくちゃ。
冒険から離れて年を重ねたビアンカには、剣を取って戦う力も、強大な魔力を放つ力も無い。
それでも、あの村で自分の帰りを待っているはずの父のために、
この世界で出会った人たちのために、どこかにいるはずのリュカのために、
何もできないなりに、元の世界に帰る手がかりを探さなければならなかった。

足を踏み出す。
あの壁を越えればそこに、ギロチンの置かれた処刑場が見えるだろう。
空気はどことなく荒んでいる。
歩みを進めるごとに、鉄錆のような異臭が鼻腔を刺激する。
それが乾いた血の臭いだと気付いて、自然とビアンカの身体が硬くなる。

この場所で、同じ空気の吸えるこのまちで、殺し合いが行われていた。
首と身体を切り離された、残酷な亡骸がその証拠。
人は普通、あんな風に死んだりしない。あんな死があっていいはずがない。
あれほどまでに無念に、命が失われることが、あるなんて。
それがいつか、この身に起きることさえも、現実に有りうるなんて。

ぶるっと、ビアンカの背筋を冷たいものが駆け抜ける。
445子守唄が途切れた日 ◆TUfzs2HSwE :2013/02/13(水) 12:25:13.01 ID:u2igGXElO
.
(……殺し合い、か)

今更ながら、なんて悪趣味なのかしら。ビアンカは心の中で悪態をついた。
子供の頃のお化け退治なんて話にもならないじゃないか。
元アルカパ一のおてんばだってお手上げだ。
大体そのおてんばの正体なんか、本当は誰よりも怖がりの、一人ではなにもできない少女でしかなかったのに。
あのレヌール城のときでさえ、怖くないと自分に言い聞かせ、震える手をなんとか握り締めて、歩き続けていたというのに。
その小さな手を握ってくれた優しい幼なじみは、もうそばにいないのに。

ぺちっ!
気がついたら自分の頬を叩いていた。
そのまま両手で頬を挟み、ビアンカはやっぱり言い聞かせる。
――強くなるしかない。
支えなんてどこにも無いから。
もしかしたら、あの優しい幼なじみが、弱い自分を支えてくれるんじゃないかって。
叶わなかった望みに思いを巡らせる機会は、もう十年以上も前に過ぎ去ったのだから。
強い女性として。リュカの単なる幼なじみであり、よき友人として。
そうでなければ、リュカに顔を合わせることなんか、許されないのだから。

周辺の地形に少しでも明るくなれるなら、非常事態になっても対応の幅は広がるだろう。
曲がりなりにも居住区だったのだし、生き残るために役立つものが見つかるかもしれない。
自分にもやれることがあるとわかっているなら、足を止めないわけにはいかない。
震える足を一歩踏み出し、ビアンカは地を蹴った。





――認めてもらう必要はないんだ。
眠りについたリッカの顔を眺めながら、バーバラはつぶやいた。

守りたいだけなのに、疎まれることになる。
仲間たちに対しても、無事でいてほしいという思いより、裏切っているような錯覚が先立つ。
わかっていたことだし、覚悟していたことだし、けれどもそう簡単に、割り切れるものじゃないみたいだ。
エイトを殺したときにはまだ、罪悪感に苛まれることなんかなかったのに。

「幸せ、だったなあ」

ぽつりと、バーバラは呟く。
仲間がそばにいて、その仲間と同じ目的を共有して、共に戦って、笑い合って。
なんでもなかった日常が、こんなにも恋しくなるだなんて、夢にも思わなかった。
今の自分は、たとえビアンカやリッカがそばにいたとしても、独りきりだ。
昔みたいに、無邪気に心のうちをさらけ出すことはできない。そんなこと、できるはずがない。
446子守唄が途切れた日 ◆TUfzs2HSwE :2013/02/13(水) 12:28:10.14 ID:u2igGXElO
.
「……あたし、やっぱり魔女なんかじゃないよ」

頬杖をつき、ためいきを漏らす。
魔女だのなんだのと夢の世界でもてはやされ、その存在が神格化されたみたいになっても、
結局は急に、バーバラというひとつの人格が豹変できるはずもない。
自分にそれだけの力があるとわかっていても、年頃の弱い少女の心では、その事実に追いつけなかった。
人を殺す。殺した人に疎まれる。その十字架を一人で背負う。
それがどれほど大変か、わかっているつもりだったのに。

それでも、やめるわけにはいかない。
もう賽は投げられた。バーバラはエイトを殺してしまった。
その時点で、バーバラが普通の少女に戻る資格など失われてしまったのだ。
どんなに疎まれても、恨まれても、この先バーバラは魔女であり続けなければならない。
愛する人々を、この悪夢の輪廻から解き放たなければ、十字架を背負った意味が無いのだ。

胸のうちがきゅっとした。切なくて、寂しくて、心がずきずきと痛かった。
喉の奥からせりあがる熱をぐっと押し殺し、にじみだす涙を手でぐいと拭う。
――どうして、こんなにも我慢を重ねなければならないのだろう。
ほんとうはロッシュたちみたいに、現実世界で生きていきたくて、だけどそれは叶わなくて、
みんなが幸せならそれでもいいって、やっとの思いで自分の運命を受け容れたのに。
そして、大好きな仲間たちと離れ離れになって、生まれ来る「未来」だけを楽しみに、過ごしてきたのに。
どうして、どうして、……デスタムーアは復活してしまったのだろう。

かつて、夢の世界の王様だったゼニス王が言ったことが、ふと思い返された。
――あの卵に入ってる未来って、一体なんなの?
バーバラがそうゼニスに訊ねたのは、「未来」という抽象的な言葉では、
そこから生まれるものに対して、いまいち想像がつきにくかったからだ。
とはいえいささか無粋とも言えるバーバラの問いに、しかしゼニス王は優しく答える。
この世界には、新しい神さまが必要なんじゃよ、と。

きゅるるん、と鳴き声がする卵からは、きっとなにやら生物が生まれるものと思い、
バーバラはゼニス王の言葉を元に、『未来』の正体を楽しく空想したものだ。
――たとえば、竜。
それは大きな翼を持ち、広大な天に羽ばたいて、地上の世界を見下ろして、
期待と不安にあふれた人々を、おごそかに見守る存在。
そんなものが、消えていった夢世界の代わりに生まれてくる『未来』だったとしたら、どうだろう。
人々がもう夢の世界に逃げ込まず、現実世界を生身の身体で生きていく、新しい時代を歩むために。
きっと希望の象徴となってくれたのではないか。
447子守唄が途切れた日 ◆TUfzs2HSwE :2013/02/13(水) 12:34:09.56 ID:u2igGXElO
.
しかし結局は、滅ぼしたはずのデスタムーアが復活し、未来の誕生を阻んだ。
大魔王デスタムーアが一度滅んだことは、大魔王の存在と関わりのあった、夢の世界の消滅が物語っている。
夢が可視化しただけのバーバラが現実世界で存在できなくなったことが、その何よりの証拠。
だけどなんらかの理由でデスタムーアは復活し、恐らく「未来」の卵の誕生を阻んだ。
その時点で、恐ろしい輪廻が起きてしまったことはもう確固たる事実だった。

言い換えるなら――“自分たちはもう負けている”のだ。
首輪をはめられ、復活したデスタムーアと狭間の世界をこの目で見た、その瞬間に。

「……ミレーユは、どう思ったかな」

思念の海に、ぽつりと浮かび上がった人影がある。
かつての仲間であったミレーユもまた、この殺し合いに巻き込まれていたが、彼女は今、どこで何をしているだろう。
この輪廻を誰よりも恐れていたのは、恐らくミレーユだったのではないだろうか。
長い旅の中でようやく再会できた唯一の弟が、デスタムーアの復活によって、再び危機に晒される。
そんな悪夢が現実のものとなった今、彼女はどんな手を使ってでも、弟を守ろうとするだろう。
そう――どんな手を、使ってでも。

「……もしかして……」

バーバラの知るミレーユは、とても優しいひとだった。
しなやかで、どこか影のある年上の女性を、バーバラは姉のように慕っていた。
だけど、だけど……それはとても、ありうることだとバーバラは思った。

そのことはバーバラにとって、厭なことだと、認めたくないという気がしたし、
一方で、もし本当に彼女が“それ”を選んでいたとしたら、自分の重荷が少しだけ軽くなるような気もした。
――どうしてだろう? そうなれば、少なくとも自分は孤独ではなくなるから、だろうか。
身のうちに宿った深い絶望を理解してくれる存在が、ある意味での仲間が、今のバーバラには必要なのかもしれない。
そんな都合のいい存在が、この先現れてくれるとは、到底思えなかったけれど。

「バーバラ、さん?」

長いこと思考にふけていたバーバラは、ベッドの少女が目を開けていたことに、しばらく気付かずにいた。
呼びかけられてようやく現実に戻ってきたバーバラに、リッカはかすれた声でささやいた。

「あの……なにか言いましたか?」

その言葉が、先刻までに自分が呟いた独り言のことを言っているのだと気付いて、少しだけバーバラの耳が赤らむ。
誤魔化すように明るく、バーバラは笑顔を返した。

「起こしてごめんね。なんでもないの」
448子守唄が途切れた日 ◆TUfzs2HSwE :2013/02/13(水) 12:37:14.38 ID:u2igGXElO
.
さきほど拭った涙の跡に、リッカが気付くことのないように、祈りながら。
しかしバーバラの懸念には特に気付くこともなく、リッカは力ない表情で笑う。

「ほんとうは、私がバーバラさんを、休ませてあげたいのに」
「え?」

すっとんきょうな声を出したバーバラに、リッカはどこかうつろに呟く。

「私のほうがベッドで寝るはめになるなんて、恥ずかしいですね……」
「……なんで? そんなことないよ」
「私、こう見えても、宿屋の店主なんです」

思わぬ告白に、バーバラは目を見張った。

「わたしは、みんなみたいに戦えないから。
せめて、みんなが休める場所を作ってあげようって、思っていたのに……」

――ああ、そうか。
無念の滲んだ少女の声に、バーバラはふと思い返す。
先の戦闘の中で、腕を負傷した際に聞いた「料理が」という言葉を、聞き間違いかなにかだと思っていた。
だけどあのとき、彼女は彼女で、その生き様を傷付けられていたのだろう。
戦えないなりに戦える人を守りたかった。それが、リッカにとって、戦うということだったから。

バーバラの胸のところが、きゅっとする。
それは先ほどの孤独に喘ぐ痛みとは、まるでちがう。

「……その気持ちだけで、十分だと思うよ。リッカ」
「バーバラさん、わたしは」
「バーバラでいい」

ぴしゃりと遮ってそう言うバーバラに、リッカは目を丸くする。
目の奥にたたえた熱を堪えているせいで、ややぶっきらぼうな言い方になるバーバラの言葉を、リッカはぎこちなく復唱した。

「……バーバラ」
「大丈夫。きっと、なんとかなるよ」

すべるように口から出たのは、出任せとも言える言葉だった。
だけど、それを口にしたバーバラ自身が、その言葉に救われるような気がして、不思議だった。
きっと――きっと、自分じゃない誰かに、なんとかなるよと言われたら、信じられるような気がするのだろう。
それがただの気休めだったとしても、仲間を想うその心が伝われば、人は独りでも戦えるから。
449子守唄が途切れた日 ◆TUfzs2HSwE :2013/02/13(水) 12:40:03.68 ID:u2igGXElO
.
「だから、今は休んでいて」

希望の根拠を示すことはできない。この世界に希望が無いことなんかわかっている。
だけど、だけど――今だけは彼女に、このベッドで、何の不安も抱くことなく眠っていてほしかった。
リッカに対して生まれた好意の欠片を、ぽつりと灯ったこの気持ちを、少しでもリッカに伝えたかった。
我ながら無茶なことを考えていると思うバーバラに、しかしリッカはどう受け取ったのか、可愛らしく微笑む。

「うん。ありがとう」

ほんの一時をともに過ごしただけの、不器用な言葉をつむぐバーバラに向けられたその笑顔は、
荒んだ心を癒すだけの、あたたかさに満ちていた。





リッカの眠るベッドから、ようやく、穏やかな寝息が聞こえ始めた。
ビアンカは未だ戻って来ない。眠るリッカに、バーバラは静かな眼差しを注ぐ。

(……リッカを、救ってあげなきゃ)

その目に決意の意思が宿る。
万が一ビアンカが戻ってきたとしても、彼女一人ならどうにか相手にできるはずだ。
――だったら。
頭の中に、その手段を思い描くのは、とても簡単なことだった。
そして、それをこの手で実行することも、実はとても容易であると、エイトのときに気付いていた。

独りでも、戦える。
だって、バーバラの周りの人々は、こんなにも優しいから。
みんなを守ってあげたい。その気持ちに、偽りの心はないのだから。

――だったら。
バーバラにはもう、わかっている。

――あたしの、やるべきことは。



少女が逡巡するその間、厄災が牢獄のまちに迫る。
途切れてしまった未来の続きを、彼女たちは未だ、知ることもなく。
450子守唄が途切れた日 ◆TUfzs2HSwE :2013/02/13(水) 12:43:05.70 ID:u2igGXElO
.






【A-4/ろうごくのまち・居住区/午後】

【ビアンカ@DQ5】
[状態]:健康 リボンなし
[装備]:女帝の鞭@DQ9、エンプレスローブ@DQ9
[道具]:支給品一式、炎のリング@DQ5、カマエル@DQ9
[思考]:リュカに会いたい、彼の為になることをしたい。牢獄の町でアレフとサイモンを待つ。牢獄の町を探索する
[備考]:カマエルによって錬金釜の使用方法を教わっています

【A-4/ろうごくのまち・居住区/午後】

【リッカ@DQ9】
[状態]:右腕に重傷(矢が刺さったまま) 睡眠中
[装備]:なし
[道具]:復活の玉@DQ5、大量の食糧(回復アイテムはなし)、支給品一式
[思考]:宿屋を探す。今は休む。

【バーバラ@DQ6】
[状態]:ダメージ(小)、魔力消費(小)、太腿を負傷(傷口はふさがっている)
[装備]:空飛ぶ靴@DQ5、セティアドレス@DQ9
[道具]:基本支給品一式、ゆめみのはなセット(残り8個)、かわのムチ
[思考]:参加者を自分の手で「救う」、優勝してデスタムーアを倒す
リッカを殺す…?
[備考]:ED直後からの参戦です。武闘家と賢者を経験。
451 ◆TUfzs2HSwE :2013/02/13(水) 12:48:36.96 ID:u2igGXElO
投下終了です。
ご指摘・ご意見・感想など、お待ちしております。
452名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/02/13(水) 16:21:12.71 ID:zOR521zI0
投下乙です!
吹っ切れたと思っていたはずのバーバラ、やっぱりそう簡単に吹っ切れないよなあ。
リッカがストッパーになれれば……
ビアンカさんは、大人の貫禄があってカッコいい。
やっぱり三十路越えってサイコーだと思います
453名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/02/13(水) 18:14:39.65 ID:XxPs3xBS0
投下乙です
リッカがバーバラを止めることができたらなあ…
454名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/02/13(水) 18:34:39.72 ID:L5pU6x+q0
投下乙です!
リッカがバーバラを止められればいいけれど…
ビアンカさんはリュカの事を自分なりに吹っ切れているんでしょうね、それとも……?
455名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/02/16(土) 15:59:32.25 ID:jNXi6DaX0
リッカがババーラを止めるのはやっぱ無理ッカ…
456名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/02/16(土) 16:01:11.32 ID:EllNgmRE0
>>455
誤字にも気づかない時空剣士さんは家ゲーRPG板にお帰りごじいませ。
457名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/02/18(月) 14:36:37.00 ID:4Mndii+c0
交流所の書き手紹介を、折角なので転載。

【渾名】仮面の王と夢の塔・クルツ
【トリップ】◆CruTUZYrlM
【投下数】24
【代表作】「未来飛行」「ハッピーエンディングじゃ終わらない」「World's End」「遠い記憶に身を任せ」
トップ投下書き手、及びDQ2ndラジオ「チャモっていいとも!」のDJを務めている。
ほぼ全ての参加者の作品を手がけたことがあり、序盤の停滞期を救った。
放送後は少しペースが落ちたが、その一作一作のインパクトは健在。
参加者を装備品にランクダウンさせたり、珍妙な支給品を出したりと妙な一面もある。

【渾名】そしてエデンへ・ティユーフ
【トリップ】◆TUfzs2HSwE
【投下数】18
【代表作】「幸せは歩いてこないなら」「二人の旅」「エデンに君と」
投下数二位の書き手であり、手書きMAD投稿者でもある。
思わず声に出して読みたくなるセリフ、地の文が非常に流麗。
それでいてなおドラクエ同士のクロスオーバーの極みとまでいえる展開も非常に熱い。
「エデンに君と」における3と7のクロスオーバーは、もはや「これしかない」と言い切っても良いほどだ。

【渾名】悪しき世界の人々・ワンダブル
【トリップ】◆1WfF0JiNew
【投下数】9
【代表作】「Eternal promise」「失くすものがなかった僕達はもういない」
投下数三位の書き手。
衝撃的なバックボーンを引っさげて登場してきたサマルトリア兄妹や、むっつりスケベ一辺倒だった竜王の真意など、キャラの背景を書き込む力がスゴイ。
特に「失くすものがなかった僕達はもういない」は、読み手に直接訴えるかのような言い回し、セリフ達が心を突き刺してくる。

【渾名】星空の語り人・トゥープル
【トリップ】◆2UPLrrGWK6
【投下数】8
【代表作】「scissors and foolish」「はぐれ剣士熱血派」
トリップこそ違うが、DQ1stの最終回書き手。
ローレシアの王子へのキャラ付け、テリーの万能剣士っぷりなど違和感無く自然に描写してくる。
また絵師としても活躍中で、新年の挨拶のイラストでは住民を笑いに誘った。

【渾名】甦りし伝説のさまようよろい・ハガク
【トリップ】◆HGqzgQ8oUA
【投下数】7
【代表作】「マイフレンズ」「対魔神戦用意!」
1stから続投組みの書き手。放送の執筆を務めた。
明朗快活として描かれることの多いアリーナに意外な一面を与えるなど、着眼点が素晴らしい。
特に「対魔神戦用意!」中の「爆誕」は、一見の価値アリである。

【渾名】空虚と夢と現と幻の住人・ウィフェ
【トリップ】◆YfeB5W12m6
【投下数】7
【代表作】「階段を上り第五幕」「あなたがいるから進めない」
第一放送前に颯爽と現れ、モリモリと投下数を上げていく書き手。
独特の文体と世界観で読み手を引き込んでいく。
アワードにも挙がった「階段を上り第五幕」では、ゲーム中では殆ど語られることの無い「魔物の視点」に立って話が進んでおり、これがある参加者を大化けさせた。
ちなみに携帯から八時間かけて作品投下をしたことがあるガッツの持ち主である。

【渾名】幻のおばさん・セリア
【トリップ】◆uOBASANc9I
【投下数】5
【代表作】「somebody to love」「献身と挺身」
書き手ページにはまとめられていないが、◆CASELIATiAさんと同一人物である。
衝撃的な第一話、序盤の一大イベントである絶望の町の騒動などを手がけている。
DQBR2ndの基礎は、この書き手さん無しでは語れない。
458名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/02/18(月) 14:37:07.40 ID:4Mndii+c0
【渾名】導かれし者を導く者・アルナム
【トリップ】◆bpyh.6nJ2Q(最終投下のもの)
【投下数】4
【代表作】「破滅の宴」「王女と魔王と天使さま」
投下ごとにトリップが変わる人、その正体はDQBR1stの>>1さんである。
印象的なOPと、竜王、リンリン、ゲロゲロと特徴的なキャラクターを多数生み出している。
DQBR2ndの基礎は、この書き手さんが居なくても語れない。

【渾名】空に舞う花嫁・ティズ
【トリップ】◆t1zr8vDCP6
【投下数】3
【代表作】「ギャンブル・サバイバル」
1stから続投組の、絵師としても活動中の書き手さん。
惜しくも選出にはならなかったが、ゼシカをジョーカーにする斬新なOPを執筆された方。
本編でもDQ2勢の空気作りの一端を担っていたり、驚きの方法で戦闘狂をやり過ごすマーニャなど特徴的な文章を手がける。

【渾名】ぼくらのワンダーランド・ピィエクゥ
【トリップ】◆pYxekWC1yw
【投下数】2
【代表作】「傭兵求む」
DQBR2ndの清涼剤、竜王の曾孫を生み出した書き手さん。
OPのかっこいい姿は何処へやらと突っ込みたくなるが、きっとOP中でもあんなことを考えていたのだろう。
実は1stにも参加されている書き手さん。

【渾名】物語のふしぎな鍵 魔術師の冒険・ユーフォ
【トリップ】◆u4TJa9u7.6
【投下数】1
名前が決められるのが大半の中、名前をあえて決めないというSSを手がけた書き手さん。
ミステリアスかつ壮大な背景を感じさせる男魔法使いと言うキャラを生み出した。

【渾名】物語のふしぎな鍵 女主人の旅立ち・ケーシィ
【トリップ】◆ksyE79v4Xc
【投下数】1
ルイーダという共通の単語からのすれ違いを上手に描いた書き手さん。
ネタにされやすいオルテガの外見につけられた意外な設定も必見である。

【渾名】バトルロード・レジェンド・アエフェク
【トリップ】◆aEfEq6sGHk
【投下数】1
バトルは俺たちに任せろ! 難しい事はお前たちに任す!
そんなオバカっぷりを漂わせる名コンビ「アンジェリーナ」を生み出した書き手さん。
彼女達のオバカっぷりは、ロワを少しかき乱していたりとここぞというときで上手く作用している。

【渾名】もりもり大戦車・イゴール
【トリップ】◆15lIZBDwz6
【投下数】1
短いながらも戦車のように貫禄を放つヤンガスを描いた書き手さん。
無名以外のキャラ登場話の中でも、キャラクターの背景を上手く説明しながらもキャラのスタンスがはっきりと分かる。

【渾名】もりもり大海賊・クスオ
【トリップ】◆xoHHIOW6hM
【投下数】1
序盤のもう一つのヤマ、東部の欲望の町に火種を放った書き手さん。
彼の放ったもょもとvsミレーユが波乱を呼び、南へ向かったロッシュたちは今もなお物語の中軸に位置している。

【渾名】もりもり衝撃・エイヤズ
【トリップ】◆EIyzxZM666
【投下数】1
第一放送後、颯爽と現れた書き手さん。
リュカの背景を重点に、ラドンの視点を混ぜることでリュカの心情にさらに深みを持たせている。
459名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/02/18(月) 14:38:20.76 ID:4Mndii+c0
もう一人の方の紹介も。

+DQBR2nd書き手紹介+
色んな意味で二番煎じですが、1st書き手紹介の職業のたとえが好きで、2ndでもどうしてもやってみたかったのです。
確認した限りで5作以上の投下があった方のみ、代表的トリップで、ここに紹介させていただきます。
個人の偏見が含まれておりますが、どうかご容赦ください。


・ゴッドハンド(◆CruTUZYrlM氏)
氏は、誰もが認めるDQBR2ndの大黒柱だ。
中盤ですでに20を超える投下、まとめwikiの更新と特設ラジオの開幕など、その支援は実に多岐に及ぶ。
また、SSでも数々の展開を生み落とし、登場人物の行動をまとめ、状況を切り開く。
力強い筆で書き上げる主力書き手として、DQBR2ndを引っ張り続けている。
その御手はまさに、「神の手」と表現するのがふさわしい。
代表作品:「夜まで待てない 〜You Can't Hit Me!!〜」「World's End」「遠い記憶に身を任せ」


・バトルマスター(◆2UPLrrGWK6氏)
1stを完結に導いた一人の戦士は、時を経て再び、このDQバトルロワイアルの舞台に立つ。
鬱蒼とした狭間の世界に、氏が書き落とす戦いのものがたりは、
どこかコミカルで、内に強さを秘めており、その魅力はリレー全体を潤す。
バトル描写の達人と呼べる、氏はもはや、『闘将』の域に達している。
代表作品:「男ホンダラ大冒険(誇張)」「はぐれ剣士熱血派」「Who am  I?」


・魔法戦士(◆1WfF0JiNew氏)
彼の魔法は、人の心に火をつける。
第一放送を経て、多くの書き手たちが予約を連ねた、いわゆる「投下ラッシュ」のとき、
その先陣を切ったのが氏の投下であることを、忘れてはならない。
スタイリッシュに、さまざまな「覚悟」をもって、キャラクターが輝き始める、その瞬間を描き出す。
剣を振るいて魔法を放つ、氏は巧みな『魔法戦士』なのだ。
代表作品:「王子達の落日」「されど道化は戦闘狂と踊る」「夢閉じる少女」


・パラディン(◆TUfzs2HSwE氏)
1stの世界にあこがれた。それが2ndへの情熱に火を付けた。
そうして始まった彼の書き手人生は今なお、DQBR2ndを支え続けている。
十字を切り、自己犠牲も厭わず、二度目のものがたりに祈りを捧げる。
戦い続ける氏は、言うなればDQBR2ndの『パラディン』であろうか。
代表作品:「少女の祈り」「This way and...」「エデンに君と」
460名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/02/18(月) 14:40:20.12 ID:4Mndii+c0
 

・レンジャー(◆YfeB5W12m6氏)
第一放送という名の階段を駆け上り、新たなる幕を迎えたそのとき、一つの風が吹き上げた。
新星の氏が放ったその風は、またたく間にこのものがたりの色彩を変えていった。
言葉少なに、しかし彩り豊かに描かれた描写は、登場人物たちを新たな世界へと駆り立てる。
独特のオーラを紡ぎだし、読み手の心を共鳴させる氏は、生粋の『レンジャー』であろう。
代表作品:「金魚の寿命と幸福論」「階段を上り第五幕」「あなたがいるから進めない」


・スーパースター(◆HGqzgQ8oUA氏)
氏は気付いているだろうか。氏が鬱蒼とした狭間の世界にもたらした小さな「光」を。
それは他の誰にも気付けなかった、登場人物たちのあたたかな友情だ。
人を思い、何かを成す。生まれた絆をすくいあげ、氏の投下は儚くも光る、いくつかの希望を生み出した。
世界に光をもたらす氏を、ここに『スーパースター』と称したい。
代表作品:「それを捨てるなんてとんでもない」「マイフレンズ」「対魔神戦用意!」


・賢者(◆CASELIATiA氏)
このリレーの始まりは、「僕は妻を愛してなどいなかった」という、氏が書き出した衝撃的な一文だった。
綿密に描かれた背景に、深く掘り込まれた登場人物の心の深淵は、実に2ndの方向性を決定付けるものとなる。
開かれた悟りのごとく濃厚なその世界観は、序盤の肝として、読み手たちを唸らせた。
氏をここに『賢者』と称し、その新たなる投下を心待ちにしよう。
代表作品:「somebody to love」「美しい花が一つ」「献身と挺身」


以上です。
まだ交流所(下記URL)のほうでは書き手紹介を受け付けているようです。
「自分も自分なりに紹介したい!」という方は是非かぶりを気にせず投下してみてください!
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/8882/1327331994/
461名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/02/19(火) 18:30:35.30 ID:96eY94el0
 
462彼がのこしていったもの(代理) ◇MC/hQyxhm.:2013/02/19(火) 18:41:03.95 ID:96eY94el0
 

世界が、光った。


窓から入り込んできた眩い光で、アイラは目を開けた。
続く爆音と爆風で、地面が揺れる。
一体何が起こったのだろうかと体を起こそうとするが、
(痛いッ!)
ベッドに倒れこんでしまった。
大分休んだことで体力はまあまあ回復したものの、
どうやらあの金髪の女性の技を一人で全て受け止めた代償は少なくは無かったらしい。
全く無謀なことをしたわね、と自嘲のこもった溜息をつき、
状況を把握しようとベッドの脇にある窓枠に手を掛ける。
体を動かそうと力を入れる度に皮膚が引きつり激痛が走る、が
それでも何とか窓の高さまで顔を上げることができた。


「え…?」


街の一角が、燃えていた。

そしてあまりにも鋭い―殺気。

戦いが、起きていた。
463彼がのこしていったもの(代理) ◇MC/hQyxhm.:2013/02/19(火) 18:41:41.48 ID:96eY94el0
 

行動を共にしていたカイン、自分を背に乗せて運んでくれたあのもょもとという男。
二人とも、この部屋には居ない。
(まさか…)
頭に浮かんだ最悪の事態を、アイラはぶんぶんと頭を振って打ち消す。
実際にこの目で見たわけではないのだ、希望は少しでも多いほうが良い。
だが、二人が戦いに巻き込まれていないとは限らない。
もしものときの為に、味方は多いほうが良いだろう。
痛む体を奮い立たせ、壁に手を掛け立ち上がり、自分の持ち物以外にも何か使える物は無いかと
部屋を見渡したアイラの視線の先に、
"それ"はあった。

机の上に置いてある、二つ折りにしたそれは、
(手紙、かしら…?)
464彼がのこしていったもの(代理) ◇MC/hQyxhm.:2013/02/19(火) 18:42:38.19 ID:96eY94el0
 
その手紙は、戦いが始まる少し前に、一人の男が書き残していったもの。
別に書かなくてもいいじゃん、とカインには言われたのだが、本人がすっきりしなかったのか
なんだかんだ言って書き上げたものだった。

アイラはゆっくりと机に近づき、椅子に座ると、
その手紙を手に取った。


外の悲劇を、知ることも無く。




【E-8/欲望の町/午後】

【アイラ@DQ7】
[状態]:HP5/8、全身やけど
[装備]:モスバーグ M500(4/8 予備弾4発)@現実、ひかりのドレス@DQ3
[道具]:支給品一式、不明支給品×0〜1(回復道具以外)
[思考]:ゲームを破壊する できるだけ早くカインの援護に向かう
[備考]:スーパースターを経験済み

※もょもとの手紙の内容については、後の書き手さんにお任せします。
465名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/02/19(火) 18:44:53.83 ID:96eY94el0
以上で代理投下終了です。
書き手さん、投下乙です!

デュランとドンパチが起こっているんだけど、それに向けてもょはアイラに何を残したんだろう。
感情とか、いろいろ思い出した彼だから手紙の内容が気になる……
改めて投下乙です!
466名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/02/19(火) 19:10:35.38 ID:kUJJzQdv0
投下乙です。

もょもとの手紙、うーん今は死んでしまった彼が何を思って書いたか。
そして、アイラが援護に向かった先に何が待っているか。
467夢は何も騙らない(代理)  ◇YfeB5W12m6:2013/02/21(木) 00:49:04.53 ID:cqyYFZHp0
 


「…………みずみずしい、というか。ふにゃけているというか」

「まずい!!素直にまずいのよ!!な、に、こ、れ、っ!!!」


ホンダラと別れた後、もう少しだけ休憩しようと木の根元に座り、そういえば食事を取ってなかったなとテリーとマリベルは支給されたパンを取り出した??????二人の表情は揃って歪んだ。……まあ予想はついていたがその予想を裏切らない結果だった。
テリーがサックをひっくり返す。どばどばと落ちてきたものはどれもこれも水に濡れて見るも悲惨な姿となっていた。
特に紙類……地図はまだその役割を果たしていたが、メモ用紙のような無地紙は文字がにじみ乾き始めていて、掴んだそばから破け落ちた。
名簿も、くしゃくしゃでよくわからない紙と化していた。
ここまでだといっそ清々しい。


「そもそもこんな殺し合いの場に贅沢なパンを支給するとは思えないが……まあ、そうだな。普通にまずい」

「ぐちゃぐちゃしてるわ……こんなのなら食べないほうがマシかもしれないっていうか食べたくない!」


もくもくと食事を続けるテリーは、マリベルの文句に眉一つ動かさない。
面倒くさい奴だと思いつつ、マリベルへ右手を差し出す。
その行為を理解できなかったマリベルが浮かべたクエスチョンマークに、食べないならよこせと無言で訴える。
別に間接的にいただきたいとかそんな変態的趣向は全くなく、結局前衛であるテリーにはどんなものであれ食事をして体力を取り戻したかった。
とは言えマリベルも半日近くうろうろさせられ、なるべく思い出したくないようなことが多々あり、疲れていることは事実である。
盛大な間を空け、結局食べるとだけ短く言い今度はハムスターのようにパンを口へと突っ込んだ。
その様子を横目で見ていたテリーは面倒くさい奴だなと心の中で再び呟いた。

「……ねぇ、ひょっとして残りのパンもこんな感じ?」

「次に食べる時は乾いてるかもしれないが??????水を含んだパンの味にそう大差はないだろうよ」

「……………………」
468名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/02/21(木) 00:55:27.57 ID:cqyYFZHp0
すいません、一部文字化けしてしまったので>>467は無視してください。
次レスから文字化けしてないのを代理投下します。
469夢は何も騙らない(代理)  ◇YfeB5W12m6:2013/02/21(木) 00:56:08.56 ID:cqyYFZHp0
「…………みずみずしい、というか。ふにゃけているというか」

「まずい!!素直にまずいのよ!!な、に、こ、れ、っ!!!」


ホンダラと別れた後、もう少しだけ休憩しようと木の根元に座り、そういえば食事を取ってなかったなとテリーとマリベルは支給されたパンを取り出した―――二人の表情は揃って歪んだ。……まあ予想はついていたがその予想を裏切らない結果だった。
テリーがサックをひっくり返す。どばどばと落ちてきたものはどれもこれも水に濡れて見るも悲惨な姿となっていた。
特に紙類……地図はまだその役割を果たしていたが、メモ用紙のような無地紙は文字がにじみ乾き始めていて、掴んだそばから破け落ちた。
名簿も、くしゃくしゃでよくわからない紙と化していた。
ここまでだといっそ清々しい。


「そもそもこんな殺し合いの場に贅沢なパンを支給するとは思えないが……まあ、そうだな。普通にまずい」

「ぐちゃぐちゃしてるわ……こんなのなら食べないほうがマシかもしれないっていうか食べたくない!」


もくもくと食事を続けるテリーは、マリベルの文句に眉一つ動かさない。
面倒くさい奴だと思いつつ、マリベルへ右手を差し出す。
その行為を理解できなかったマリベルが浮かべたクエスチョンマークに、食べないならよこせと無言で訴える。
別に間接的にいただきたいとかそんな変態的趣向は全くなく、結局前衛であるテリーにはどんなものであれ食事をして体力を取り戻したかった。
とは言えマリベルも半日近くうろうろさせられ、なるべく思い出したくないようなことが多々あり、疲れていることは事実である。
盛大な間を空け、結局食べるとだけ短く言い今度はハムスターのようにパンを口へと突っ込んだ。
その様子を横目で見ていたテリーは面倒くさい奴だなと心の中で再び呟いた。

「……ねぇ、ひょっとして残りのパンもこんな感じ?」

「次に食べる時は乾いてるかもしれないが―――水を含んだパンの味にそう大差はないだろうよ」

「……………………」
470夢は何も騙らない(代理)  ◇YfeB5W12m6:2013/02/21(木) 00:56:52.86 ID:cqyYFZHp0
 



◇◇




「さて……これからどうするか、だな。いつまでもここでぐだぐだしてる訳にはいかないしな……」

とても満足とは言えない食事を終え、これからの行動をどうするべきか考える。
現在位置はちょうど狭間の世界の真ん中あたり。
北と西にそれぞれ町があり、そして南にはおそらくリンリンが徘徊している。
わざわざ危険を侵す必要はないし勝てる見込みもない。南への選択肢を消去する。
東には町すらない。つまりそれだけ危険人物に遭遇する可能性が低いということだが、裏を返せば人そのものと出会う確立も低いということになる。
剣を探すのにしろこの世界から脱出するにしろどうするのにも人と出会わなければ進まない。
無駄に体力を使う可能性が高くデメリットの方が上―――東もなし。


「牢獄の町か欲望の町か……?」

「ああ……近いのは欲望の街だがな。どうするか」

「こういうときにコイントスとかで決めれたら楽なんだけど。どっちの方がメリットがあるの?」

「どっちも同じようなものだ」


それこそマリベルが言ったようにコイントスなどでたらめに決めたって問題はないようなことだ。
なにせ状況をそれぞれの町の状況を把握―――というか知らない以上、別にどう考えてもわからない問題だ。
とはいえ乱闘になっている可能性もないわけではなく、結局未来に対する”もし”は常に想定しておかなければならなかった。
それが余計に頭を悩ませる。

はあ。
本日幾度目かのため息をつく。これから先もため息をつくのだろうと考え、またため息をつきそうになり無理やり飲み込む。
まあため息のカウントが増えるのは生きていれば、の話だが―――死ぬ気はない。
毒々しい色をした空を眺める。
眺めたところで空の色は色は変わらない。夢から覚めるように二度瞬きをしてみても青空には変わらない。
夢だと逃げたくなるのは人の本能か―――ハッサンとチャモロが死んだ夢。それはそれで嫌な物だ。
夢なんて言い換えれば欲望を綺麗に言っただけにすぎないとテリーは思う。
ならば、この世界は。デスタムーアがその字の通り支配するこの世界はデスタムーアの欲望を具現化したものか。
―――殺し合わせる夢? どんな歪んだ性癖だ。

………………殺し合わせる、夢? なぜそんな欲望を持つ必要がある?

殺された復讐? 単純にこの殺戮を眺めていたかった? 殺しあえばどうなるか、というただの知的好奇心?
どれもこれもこんなに大量に集めてまで知るべき事なのだろうか。
そうだ、そう―――そもそもデスタムーアにとってこの殺戮はどんなメリットがあるというのか。
復活したデスタムーアが以前より強大な力を持っていたのは、チャモロの攻撃に無傷だったことからもわかる。だが、これだけの参加者を集め、もし、もし全員がデスタムーアを倒そうという考えを持ったとしたならば。
例えこの首輪があろうとも、その場合は全員を殺して終わらせたのか?
ありえない。そんなことしてしまえば苦労も全て水の泡だ。
集められた者たちのなかにはかつて自らを打ち滅ぼした者達もいるというのに、なぜあそこまで余裕を持っていられる。
殺された恐怖がそうそう簡単に消えるものか―――?
471夢は何も騙らない(代理)  ◇YfeB5W12m6:2013/02/21(木) 00:57:23.34 ID:cqyYFZHp0
頭を振り、テリーは立ち上がる。考えてもわかりえないことだ。他人の気持ち、感情など理解しきれる筈もない。
マリベルのほうは向かずに欲望の町への方角を向き、東だと言う。
案の定マリベルは顔をしかめた。そのまなざしが語るのはたった一つ。
遠い。牢獄の町への距離と比べれば二倍近く歩くことになる。
もちろん、そんなことはテリーもわかっている。だが、その上でテリーはまるで独り言のように問いかけた。

「…………会いたいか?」

ホンダラと。


ピシッと音を立てマリベルが固まる。
見送ったのだから覚えている。あのおっさんが向かったのは紛れもなく北。



据わった目をしたマリベルの表情により、進路は決定した。



【D-4/湖のそば/午後】

【テリー@DQ6】
[状態]:ダメージ(中)、背中に打撲、MP消費微小
[装備]:ホワイトシールド@DQ8
[道具]:支給品一式(不明支給品0〜1)(武器ではない)
[思考]:休憩中。井戸の底については保留。仲間と合流する。剣が欲しい。欲望の町へ
[備考]:職業ははぐれメタル(マスター)
(経験職:バトルマスター・魔法戦士・商人・盗賊 追加)

【マリベル@DQ7】
[状態]:健康
[装備]:マジカルメイス@DQ8 水のはごろも@DQ6
[道具]:支給品一式 (不明支給品0〜1)
[思考]:休憩中。仲間を探す。欲望の町へ
472名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/02/21(木) 00:59:06.53 ID:cqyYFZHp0
以上で投下終了です。
>>471で冒頭二行の改行が抜けてしまいました。申し訳ございません。

デスタムーアの理由を考察するテリーさんがすげー落ち着いてる。
ホンダラさんに会いたくないという理由で東を選んだけど、東には……!

改めて投下乙です!
473名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/02/21(木) 21:32:18.00 ID:duehNRP5O
投下乙です
テリーが核心に触れそうで微妙に触れない辺りがもどかしくて面白くてむずむずするw
中盤に来て未だにデスタムーアの目的が見えないもんなぁ
そして絶望の町を外した時点で戦いからは逃れられないか…
474 ◆CruTUZYrlM :2013/02/25(月) 02:49:24.30 ID:1UTJthlD0
あ、告知です。
「ロワラジオツアー3rd」のDQ2nd回が3/9(土) 21:00にあります。
チャモってとはまた違う切り口で喋りたいと思うので、是非皆さん聞いていただければ。

ラジオのアドレスと実況スレッドのアドレスは当日にこのスレに貼らせて頂きます。

詳しくは
http://www11.atwiki.jp/row/pages/49.html
をご参照ください。
475 ◆TUfzs2HSwE :2013/03/01(金) 19:55:21.95 ID:VoJ0adhGO
投下します
476邂逅 ◆TUfzs2HSwE :2013/03/01(金) 19:59:05.72 ID:VoJ0adhGO
.

愛の証明をしたいと言った女がいた。
命を賭してでも想いの強さを見せ付けた女がいた。
彼女らの献身の切れ端を請け負ったことをソフィアはまだ覚えている。

だけど――そんな献身の果てにあるものがなにか。
その答えの一つを今、ここに垣間見たという気がした。
あの約束が交わされてから、果たしてどれだけの時を経ただろう。
ソフィアは静かに、死した女賢者の傍らに立っている。

灰色の雲に覆われた景色からは、時間の経過も判然としなかった。
深い森は静寂に満ちている。生き物の気配はない。
時折生ぬるい風が木の葉を揺らすけれど、その程度で無音の空間が壊されることもなかった。
ハーゴンがどこか退屈そうに、近くの木の幹にもたれる。
その気配に、彼を待たせていることを意識させられて、ソフィアはやっと口を開いた。

「……祈りの文句でも言ってやりゃいいのかな。
地獄でアレルに会えるように、って」
「さて、な」
ぽつりと交わした二人の言葉は、どこか皮肉を帯びている。
さもあろう、たった今彼らはここで、狂人の死を目の当たりにした。
その死をもたらしたのは、今しがたソフィアが振るった剣だ。
カーラを切り裂いた感触は未だ、女勇者の手の内に残る。

――バカだ。
アレル一人の死だけを理由に全てを断つことなんかないじゃないか。
彼女の身上を知らぬものがこの結果だけを見たのなら、誰もがそう言うだろう。
ソフィアとて、初対面で話を聞いただけのカーラに対し、そこまでの因縁があるわけではない。
だから今、ここで目の前の女を蔑み、自分は狂人の相手をしただけだと己の心を納得させ、
ここから音もなく立ち去ることは、ひどくありふれた選択だった。
狂っていたのは相手のほう。そう考えて自分を納得させるのも、やはり容易なことだった。

だけど、ソフィアはあくまで固執する。
『理由』に。
傷付いた果て、死に殉じた魂の入れ物。
女の骸はなぜこうも、幸せに笑って見えるのか。
どこか美しいとさえ感じているのか。

「……あたしは、たぶん」
伏せていたハーゴンのまぶたが持ち上がる。
「世界中でたった一人残されたとしても、生きていけるのかもしれねーな」

彼の眉が怪訝そうに寄せられた。
呟いたソフィアの言葉は、どこか寂しさを帯びている。
同時にひどく確信めいた響きでもあって。
いつものお喋りとは一線を画しているように思え、無性にハーゴンの胸をざわつかせた。

「……なにが言いたい?」
木の幹にもたれたまま、ハーゴンはソフィアに問うた。
彼女の視線が再びカーラのほうに向いたため、この位置からソフィアの表情を伺うことはできない。
ふ、と小さなため息が聞こえる。
「なんでもない。忘れてくれ」
振り切るように明瞭な口調だった。
それきり言葉を切って、両手を組んで伸びをし、ソフィアはハーゴンに向き直る。
カーラという女を殺して初めて、ハーゴンはソフィアの顔を見た。
それは少しの間だったのに、呆れるほど長かったように思う。
果たしてそこにいたのは、快活で自信に満ちたいつものソフィアだった。
477邂逅 ◆TUfzs2HSwE :2013/03/01(金) 20:01:57.50 ID:VoJ0adhGO
.
その姿にふと、ハーゴンは思う。
悲嘆の感情が欠落したこの少女は、こうして何にも屈することなく、これからも歩んでいくのだろう。彼女自身が言うとおりに。
絶望に溺れることをしない。今までがそうであった。例えそれまで生きた世界が崩壊しても、決して。
――ソフィアが言いたかったこと。
それはハーゴンにも全く推察できないではなかった。
絶望しかない。ならば死ぬしかない。
そんな論理を肯定してしまったら、独り勇者として駆けるソフィアは、どうしたら良いのだろう?
重ならなかった道程を並べて、何が正しいのかと不毛な葛藤を繰り返すほど、愚直な少女でもないけれど。
湧き上がったなにかに、人間式に言うなら空しさとか寂しさとかいう感情に、
折り合いをつけたくなったとしても不思議ではないかもしれない。

「かつての私なら」
思わず口をついて出たのは、切られたはずの会話の続きだった。
「愚かな人間と嘲笑したであろうな。その女のことも、あきなのことも」
「……忘れろっつったじゃねえか」
憤然としたソフィアの呻きは、どこか照れ隠しのようにも聞こえた。
誤魔化すようなしぐさでふわふわの緑頭をかき回し、そしてふと、なにかに気付いて呟く。

「かつての……」
「なんだ」
「じゃあ、今は少なくとも人間バーカバーカって思ったりはしてないのか?」
「バーカ……まあ、よい。単に別の見解を知るに至ったと思ったまでだ」
「ふうん……」
気の抜けた顔でソフィアはハーゴンを眺めた。
いまいち納得しきっていないその視線に促されるように、ハーゴンは言葉を選び、紡ぐ。

「……私には理解できないとしても、人間は人間で、それぞれの願望のために生きているのだろうと、な」
ゆるく首を傾けた、少女の面差しに影が落ちる。
ぱちりと見開かれる碧の瞳を、ハーゴンは見つめ返した。
「そして、それを知ったとしても、私が人間達を滅ぼすために動くことに変わりはない」
「……うん」
「それこそ、例え世界が滅びようとも、私は邪神を求め続けるだろう」

――独りに、なろうとも。自分が自分である限り。
勇者である彼女が目指すものとは相反する彼の言葉は、ソフィアの心にするりと沁みた。

ハーゴンは邪神を復活させるためにソフィアと行動を共にする。
なぜならそれが、ハーゴンという一つの固体が持つ願いであり、ハーゴン自身の選択だからだ。
彼の願いを誰よりも知る、彼自身という存在が在る限り、その道を目指して生きるだろう。
それは誰に定められたものでもないのだから。
諦めることをしない限り、決して。

同じようにカーラが死んだこともまた、彼女の宿命ではなかったはずだ。
カーラはあくまで選んだのだ。進んで諦念を口にした。ソフィアに自分を殺すことを乞うた。
そんな死に方がさも、至上の幸福であるかのように、彼女は笑って逝ったけれど。

――想いの果てにあるものが、死の終焉だなんて。
そんなのやっぱり寂しいじゃないか――
478邂逅 ◆TUfzs2HSwE :2013/03/01(金) 20:05:47.78 ID:VoJ0adhGO
.
ようやくソフィアは理解する。
この場所から離れるための一歩を踏み出せなかった理由。
言いたかったことはたくさんあると言いながら、結局何も言わずに決着した、あのときに。
「……本当はさ」
今更遅いと思っていても、唇から紡がれる言葉を制止できない。

「諦めるなって、言いたかったんだ」
「……言えばよかっただろう」
当然のように返ってくる言葉に、ソフィアは苦笑する。
「……そうだよな」

無論、ソフィアが何を言ったって、カーラは剣戟の果てに死ぬことを決めていただろう。
そう思ったからこそソフィアは何も言わなかったのだ。
だけど――それでも思いをぶつければ、どこか変わっていたことがあったかもしれない。
カーラが何らかの理由を得て、生きていく切欠になれたかもしれない。
今更そんなことを思っても、もう感傷以外の何ものにもならないけれど。





「さて、行くか。いつまでもここにいても、仕方ないしな」
きっちりカーラの荷物を回収しておいて、それをまとめて肩に引っ掛けた彼女の呼びかけに、
ハーゴンはようやくもたれていた樹から身を離した。
幾分吹っ切った顔をしているソフィアの隣に、当然のように連れ立つと、横合いから彼女が覗き込んでくる。

「ハーちゃん、ありがとな」
「……何がだ」
「待っててくれてさ」
そう言って、ソフィアは嬉しそうに笑った。
それきりひょいひょいと駆け出していくソフィアの背中に、思わずハーゴンは溜息をつく。
(……不思議なものだな)
こんなにも人間同士の戯れに付き合って、けれどもそのことに悪感情を抱いていない。

しかしふと、先を行くソフィアが足を止めた。
視線の先の森に注意を張り巡らせる。
それに習ったハーゴンは、彼女が察知したであろうそれに遅れて気付いた。
――人の気配だ。

「……誰かいるのか?」
ソフィアが声を張りつつも、どこか対応に迷いを見せるのは、その何者かの動きがなにやら不明瞭に思えたから。
殺意あっての接近というにはあまりに不用心なのだが、足音自体はソフィアたちを目掛けて来ている気がする。
ソフィアの仲間かもしれないが、ならばなぜ、無言で近づいてくるのだろう。

開けた森に、それは姿を現す。
傷だらけのしなやかな肢体に、薄い黒布だけを身に纏った艶やかな髪の少女が一人。
二人の目がそれぞれに見開かれる。彼女の肢体に目がいってしまう。
彼女がまとう薄布の、つまり下着の表面積は、果てしなく狭い。

「……うわ、えっろ……」
479邂逅 ◆TUfzs2HSwE :2013/03/01(金) 20:08:52.71 ID:VoJ0adhGO
.
ぽかんと口を開けたソフィアが、一言そう呟いた。
水を打ったように空間が静まり返る。
遅れて慌てふためきだした少女を、ハーゴンはなにやら哀れに思い、
なおも真顔で少女の身なりを観察する連れに窘めの一言を陳べる。

「ソフィア……」
「あれかな、ハーちゃん。今流行りの、職業:えっちなお姉さん っていう……」
「……よくわからないが、その辺にしておけ」
「あの、その、これは」
見た目より動揺しているのか、謎の推察を試みだすソフィアを諌めていると、
件の少女も恥じらいの気持ちは持っていたのか、顔を赤らめて木陰に身を隠した。
幹に手をかけ首だけを伸ばし、改めて二人に顔を出す。

「見苦しくて、ごめんなさい。急いでいたのです。ドレスでは動きにくいから……」
「……そうだな。機能的っちゃあ機能的だ」
ソフィアは納得したように頷くが、果たしてそれでいいのだろうか。
予想外の脅威の出現にハーゴンが思わず額を押さえている一方で、
ソフィアは念のためと手を伸ばしていた剣を離し、何も無い手のひらを示して笑う。

「人探しかい? あんたみたいな子が一人で歩き回るなんて、危ないぜ」
「ええ……」
きょろきょろと見回す視線はやはり、誰かの姿を求めているようだった。
ソフィアの言葉に警戒心が解けたか、幾分気安く少女は尋ねる。
「エイトと言う方をお見かけしませんでしたか?」

(――エイト?)
聞いたことがある。
ハーゴンが直感したそばで、ソフィアは少し逡巡し、答えた。
「……それは、あんたの知人かい?」
「エイトは、我がトロデーンの、勇敢な近衛隊長です。
それに、私にとっては大切な幼なじみですわ」
おっとりと微笑む少女から外したハーゴンの視線が、ソフィアのそれとかち合った。
それで二人は、互いに共通の認識があることを確信する。
――放送だ。
その名はすでに死者として呼ばれていたはずである。

ならば彼女は、放送を聞かなかったのか。
かと言って真実を告げるべきなのか、或いは放送を聞いた上で尚探しているのかもしれない。
真相がどちらか判断しかねて二人が答えあぐねていると、
その返答を待つ間もやはりきょろきょろと見回していた少女の目が、ある一点に止まる。
ひとつの亡骸に。

「エイトっ!?」

穏やかに笑っていた少女からは信じられないくらいに耳をつんざく叫びを放ち、
ソフィアらが止める間もなく、彼女はそれに縋りついた。
――そんなに似ていたのだろうか。
姿かたちが見えなくなるほどぼろぼろになっていたわけでもなかろうに。
少女は、カーラと名乗ったはずの女の死体に寄り添って、
エイトエイトとまるで壊れたおもちゃのように呼びかけ続けている。

なんだ。
この違和感は――
480邂逅 ◆TUfzs2HSwE :2013/03/01(金) 20:14:02.40 ID:VoJ0adhGO
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「……違う」
言葉を失う二人の前で、眠るカーラの傍に座り込んだ少女が、頻繁に目をこすりだす。
「違うわ……。わかってる。なのに、どうして……」
血眼で骸を揺さぶっていた先の様子とは打って変わって、その様子はまた酷く弱弱しい。
視界に靄でもかかっているのか、それを必死に振り払うように、少女は何度も目を擦る。
不安と失望に覆われた彼女の頬を、静かに涙が伝った。
「エイ、ト……」

愛するもののために流す涙。
どこか狂気に満ちていて。
ソフィアは思う。
この光景を、彼女は以前にも、見たことがある。

……あのときみたいに、こぼれた涙は赤いルビーに、ならないとしても。

少女にすっかり注意をとられていたソフィアは、ハーゴンが厳しい顔で彼女とは別の方向を見ていることに気付かずにいた。
「……ソフィア」
押さえ込んだ声には警戒の色が滲む。その声にソフィアはようやく、誰かが近づいてきていることを察知する。
それはまっすぐにこの場に向かって来ている。駆けてくると言ってもよいほどの疾さだった。

ソフィアは振り返る。
開けた森に、長い銀髪がきらめいた。
煩わしい枝を振り払って、この場に勢いよく現れる影の、全貌がようやく明らかとなる。
ソフィアらの目の前に立ちはだかったその姿は、天竜が統べる世界に絶望をもたらした頃からも、
そしてソフィアと肩を並べて戦った記憶とも、寸分違わない。

軽く肩を上下させた彼の視線は泣きじゃくる少女に向けられており、その傍らに立つソフィアを認めた。
切れ長の深紅が見開かれる。ソフィアもまた目を丸くしていた。
こんなにも呆けたソフィアの姿は、短くない時を共に過ごした、ハーゴンの記憶にはない。

「…………ピサロ」

世界に運命を連れてきた二人の、新たなる邂逅だった。





ちらつく近衛兵のすがたに苦しんでいたミーティアは、振り返る。
見覚えある黒の甲冑姿に、長い銀髪。一度別離し、追うことの叶わなかった男がそこにいた。
無事だったのかと安堵する思いと同時に、一度信頼を交わした相手を、縋るような思いで呼ぶ。

「ピサロさん……」
その声に、予想外の再会を果たした天空の勇者と向き合っていたピサロが、再びミーティアの方を見る。
「エイトを、知りませんか……」
「……ミーティア姫」
あられもない、傷付いた肢体を晒す彼女を見る目にはどこか、痛みが入り混じっていた。
一方で状況を把握しかねてもいるピサロに、ミーティアは言葉を重ねる。
「なぜなのか、わかりません……」
「……どうしたのだ」
「エイトはどこかにいるはずなのに、影ばかりがちらついて……。今もこうして、この人に……」

さめざめと泣き出すミーティアに、ピサロは静かに歩み寄る。
危惧していたことがらは、予想以上の悲惨さを以て、現実のものと化していた。
そっと彼女に近づきながら、ピサロは己の肩当の留め具に手をかける。
巨大な漆黒の外套を外すと、それをミーティアの肢体を覆い隠すように掛けてやった。
目を丸くしてピサロを凝視したミーティアの視線を見つめ返して、告げる。
481名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/01(金) 20:19:39.48 ID:ntYF/6rT0
支援
482邂逅 ◆TUfzs2HSwE :2013/03/01(金) 20:23:04.42 ID:VoJ0adhGO
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「いいか、ミーティア姫」
「……はい」
「エイトは死んだ」

時を止めた空間に、冷たく魔王の声だけが響く。

「死んだのだ。どこを探しても、いない」

ただでさえ、ノイズが酷くなるばかりの視覚が、聴覚が、これでもかと言うほど狂っていく。
その中でも、ミーティアは確かに聞き取った。

……そんなはずがない。
そんなことがあってはならない。
エイトは生きている。だからこうして探しているのではないか。
なのにどうして、そんな酷いことを言うのだろう。

――「エイト」が、「死んだ」?
そんなはずないじゃないか。
そう信じきっているのに、なぜか耳の奥でノイズが強くなっていく。
……ちがう。
それを認めることはできない。
だってそれを、それを認めてしまったら、
私は……私は…………

――こわさなきゃ。

ミーティアは頭を抱える。ノイズがどんどん酷くなる。頭が、目が、耳が痛む。
このままでは頭が割れる。壊れてしまう。ならばその前に。
こわさなきゃ。
なにを?
そんなことを言うのはだれ?
こわさなきゃいけないのはいったいだれ?

あのひとをこわす?
あのひとはどうすればこわれるの?

ミーティアの手が静かに伸びる。
その手はするりとピサロのほうに。
少し泳いで、ピサロが腰に帯びた破壊の剣の、その柄に。

ピサロは無論気付いていた。
気付いてはいたが、彼女が果たしてどうしようというのか、正確に理解していなかった。
戸惑ってミーティアを見つめれば、すがるように見上げてくる、溢れる涙に滲んだ瞳がそこにある。
涙に、呑まれる。
そうして彼が動けなくなる中で。
その間にもミーティアが抜き取ろうとする、剣の刃があらわになる。

「――ピサロっ!!」

降りおろさんとした凶刃を押し留めたのは、二人の様子を見ていたはずの、天空の勇者だった。

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483名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/01(金) 20:25:51.81 ID:ntYF/6rT0
 
484邂逅 ◆TUfzs2HSwE :2013/03/01(金) 20:27:47.67 ID:VoJ0adhGO
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胸をざわつかせているものはなんだろうと、ソフィアは必死に考えていた。
元の世界でロザリーが待っているはずのピサロが、どうしてこの少女に執着するのかはわからない。
だが、少なくともソフィアは今、この目で見てきた光景を目の前のピサロに重ねていた。
誰かを想うあまりに破滅へと向かうその様を。
アレルがいなければそれで終わりだと笑った女の死に様を。
そうだ、彼にはかつて、ロザリーを失って生きることをやめようとした過去がある。

――ほら。
どうしてこうも、みんな。

「ピサロっ!!」
思わず叫ぶ。二人の間に割って入り、伸ばした手は少女が抜いた剣を掴む。
はっとした二人を睥睨し、少女が掴んだ手を見事な手さばきで放させて、そのままピサロが帯びた鞘に差し込んだ。
きつく目を細めた魔王に倍以上の凄みで睨み返して、ソフィアは言い放つ。

「……ぼけっとしやがって!」
「お前には関係無いだろう!」
「はぁ〜? どのツラ引っさげてそんなこと言うかね、ピーちゃんよお」
「なんだと……!」
煽るような言葉に沸騰しかけたピサロからミーティアを引き剥がし、ソフィアは諭した。
「いいから、落ち着けよ。あんたらの状況はよくわかんないけど、とにかく落ち着けっ」
――なんでもいい。とにかく二人の世界にさせてはいけない。
経験が染み付いたせいもあってか、ソフィアの本能が頑なに叫んでいた。

「え……?」
突然始まった二人のやりとりに目を白黒させていたミーティアに、ソフィアは向き直る。
「……姫さん。あんたが探してる人ってのは、『エイト』で間違いないんだな?」
「――ええ、そうです」
断固として譲らない言葉。まるで狂気を帯びながら。
それを否定する存在を、無我夢中で壊そうする。
命さえ奪いかねないほどに。
ピサロも言うとおり、エイトという存在はすでに死んでいるのだろう。けれど彼女は決してその事実を受け入れようとしないのだ。
放送を聞いていないからとか、そういう問題ではない気がする。
この少女にピサロ一人で相対するのは危険だ。浮かぶ結末はどれも碌なものではない。
ソフィアがたどり着く結論は、最早一つしかなかった。
485名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/01(金) 20:28:54.81 ID:ntYF/6rT0
 
486邂逅 ◆TUfzs2HSwE :2013/03/01(金) 20:33:28.79 ID:VoJ0adhGO
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「一人じゃこの先危ないだろ? あたしら三人で手伝ってやるよ」
人の好い表情を浮かべてのたまうソフィアに、鎮めていたはずの怒りが再び湧き上がってくるのをピサロは止められなかった。
「だから貴様は勝手に……!」
「まあまあまあまあ。思うがピー助、あんたはあたしに借りがある。大量に」
「なっ……」
開いた口がむなしくぱくぱくと閉口するのに対して、その長身を見上げる碧の目は完全に勝ち誇っている。
「あたしなんかに借り作ったままじゃあこの先生きづらいだろ。ここは素直に従っておくのが賢いとは思わねーか?」
「借りとか、そういう問題ではない! 私は……」
「姫さんを助けたいんだよな?」

一見底意地の悪い目に、しかし真摯な光を認め、ピサロは押し黙る。
「普通じゃない状況なのは、見りゃあわかるよ」
「……」
「放送も聴いた。……わかってる」

つまり、彼女の精神がどこかおかしい、ともすれば狂っているかもしれない、ということだ。
どうしてそうなったかまでは今のところ見当がつかないが、本人がいる前でピサロに尋ねるわけにもいくまい。
そしてピサロとて、この状況を改善するすべをどうやら見つけていないから、ソフィアの申し出を断る理由は無いはずだ。
腕が立つことは、互いが互いに、厭というほど認識しているのだから。

諦めて顔を背けるピサロの様子は、ソフィアにはどこか拗ねた子供のようにも見える。
了承を得たと確信したソフィアは、改めてミーティアに向き直った。
「姫さん、名前なんだっけ?」
「ミーティアですわ」
「んじゃ、ミーちゃんな。よし、行こうぜ!」

この狂気から逃れるために。
狂気に呑まれつつある二人を、救い出すために。
一見して明るく振る舞うソフィアの胸のうちは、焦燥感に満ちていた。
どうしたらいいかはわからない。
けれども共に行くことで、少しでも可能性を見つけ出せるなら。

一人完全に話から外れ且つ巻き込まれる形となっているハーゴンが、深く溜息をついた。




【F-5/カーラ遺体傍/午後】
487邂逅 ◆TUfzs2HSwE :2013/03/01(金) 20:36:13.71 ID:VoJ0adhGO
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【ソフィア(女勇者)@DQ4】
[状態]:健康
[装備]:斬魔刀@DQ8、メイド服@DQ9、ニーソックス@DQ9
[道具]:不明支給品(0〜2)、奇跡の剣@DQ7、ソードブレイカー@DQ9
小さなメダル@歴代、不明支給品(0〜5、内一つは武器ではない)、基本支給品*2
[思考]:主催の真意を探るために主催をぶっ飛ばす。
アレフを探し、ローラの証明を手伝う。
ミーティアを救うため、ピサロを手助けする。
[備考]:六章クリア、真ED後。

【ハーゴン@DQ2】
[状態]:健康
[装備]:オリハルこん@DQ9
[道具]:不明支給品(0〜2)、基本支給品*2
[思考]:シドー復活の儀の為に一刻も早く「脱出」する。
脱出の力となる人間との協力。
ロトの血筋とは脱出の為なら協力する……?
[備考]:本編死亡前。具体的な時期はお任せします。ローレシア王子たちの存在は認識中?

【ピサロ@DQ4】
[状態]:ダメージ(小)
[装備]:破壊の剣@DQ2、杖(不明)、マントなし
[道具]:ステテコパンツ、不明0〜1、基本支給品
[思考]:手段を問わず脱出。ミーティアを助ける

【ミーティア@DQ8】
[状態]:疲労(微)
[装備]:おなべのふた、エッチな下着、ピサロの外套
[道具]:他不明0〜1、基本支給品
[思考]:エイトに会う、エッチな下着はなるべく早く脱ぎたい
[備考]:エイトは生きていると思っています。すべての死体にエイトの影がちらつくようです。
488名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/01(金) 20:36:16.50 ID:ntYF/6rT0
 
489 ◆TUfzs2HSwE :2013/03/01(金) 20:37:07.01 ID:VoJ0adhGO
投下終了です。
支援ありがとうございました。
490名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/01(金) 20:54:19.04 ID:ntYF/6rT0
投下お疲れ様です!

ミーティアが怖いなあ…
生きていると思っているはずなのに死体に影がちらつくっていう矛盾が怖い
ソフィアもカーラの死を切っ掛けに少し雰囲気が変わった…?
491名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/02(土) 10:39:20.93 ID:Sv5svaU10
投下乙です!
ソフィアかっこいいなあ!
ミーちゃんはこの先どうなるのか…
ハーゴンがかわいそうだw
492名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/02(土) 19:17:48.69 ID:l3XnYqRkO
投下乙です。

大切な人が死んだら、人生は悪い方に変わるかもしれない。
ピサロは実際に経験したし、ソフィアもピサロやカーラを見て知ってる。
さて、問題は解決法だ。
それがあるのかどうかから。
493名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/02(土) 20:32:11.13 ID:EgAMEHjqO
病んでる奴ばっかりwww
494名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/02(土) 21:38:20.97 ID:ZR3PQrY30
投下乙です。
たぶん、一番病んでるのはソフィアなんだろうなあ。
しかしピー助呼ばわりwwwwwwwwwww
495名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/02(土) 21:45:44.28 ID:ZR3PQrY30
そして今気がついたけど、ついにミーちゃんとハーちゃんが揃ったのか………!
496名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/04(月) 00:08:18.10 ID:4msNmYHeO
勇者に大ボス二人で消耗ほぼ無しで武器も豪華で単純に戦力だけ考えたら凄い集団なのに、えらい爆弾抱えたような状態でとても安心出来ないっていう
497名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/04(月) 21:19:01.44 ID:W/rpKRus0
ハーゴンが一番まともそうってすごい状況だよな
498名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/06(水) 01:58:47.89 ID:ArWHI7bl0
邪神官とか一番危なそうなのにな
それにしてもハーちゃんミーちゃんピーちゃんか…
499名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/06(水) 19:17:17.90 ID:4pkefjTZO
みいちゃんはあちゃんって、当時の名前がみやはで始まるのばかりだったからだっけ?
500名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/06(水) 19:22:56.83 ID:jjO7iJ3p0
Me(自分)、Her(あの子)ってことじゃなかったっけ?
501 ◆CruTUZYrlM :2013/03/07(木) 00:00:03.12 ID:sAZq+klO0
投下します
502君の瞳には映らない ◆CruTUZYrlM :2013/03/07(木) 00:01:21.99 ID:sAZq+klO0
大地が響く、空気が揺れる、鬱蒼とした世界が震える。
それはあまりにも乱暴で、あまりにも武骨で、あまりにも大胆な力。
わずかに残された意識が、竜の力を操り彼女を前へと動かしていく。
一歩として立ち止まっている時間はない。
人間のそれとは比べものにならない早さで、彼女はひたすらに前へと駆け続ける。
「グゥォァァァアアアアォゥン!!」
走りながら、空気を揺るがすように叫ぶ。
何を思い、何を考えているのか?
それは、彼女自身にしか分からない。
ただ前に進むという事だけを意識し、ただ前に進むと言うことだけを意識し。
手を、足を、体を、羽を、力を動かし、世界を駆け抜けていく。
あと、少ししかない世界を。



考えてもわかりえない、とは分かっていても一度始めた考えは渦を巻き始める。
そもそも、デスタムーアは如何にして蘇ったのか?
それも、以前とは比べ物にならないほどの力を備えて。
そもそも、死ぬべくして死んだ存在はどんな呪文を使おうが蘇らないのが世界の理だ。
ザオリクで蘇る類の"死"は、その存在が辿るべきではない死を取り消す呪文であるだけ。
邪法の類ならば運命を変えられるとは聞くが、それも死ぬべき時間をわずかにズラすだけにしか過ぎない。
基本的に命が死ぬ場所、時間、運命で決まっているとされるものは変えられない。
事実、既に肉体は死んでいたあの少女に関しては変えられなかった。
では、魔王デスタムーアは死ぬべくして死んだ存在ではなかった、ということだろうか?
もし、そうだったとしてもいったい誰の手によって蘇ったというのか?

ひとまず、その問題はおいておく。
とにかくにもデスタムーアは蘇っているのだ。
四魔王とアクバー復活から見て取れる、覆り得ない運命すらも覆す力を手にして。
その力の出所も不明だ、どういった経緯で手に入れたのかは、考えても分からない。
そもそもデスタムーアは生前……というのも変な表現だが、夢の世界と現の世界を支配し、世界を手中にする事を企んでいた。
あの時を優に上回る力を持っていながら、なぜ生前の野望を達成しようとしないのか?
こんな回りくどい方法など取らず、危険因子をさっさと取り除いて世界を手中に収めてしまえばいいのに。
自分がデスタムーアなら、間違いなくそうしている。
では、なぜ奴はその手を取らず、言ってしまえば面倒なことに躍り出たのか?
復讐、にしてはヌルすぎる。ドランゴとアモスはこの場所に呼ばれていない。
それにロッシュに傷を与える簡単な方法、彼の妹を利用するという手段を取っていない。
……やはり何度考えても、この殺し合いを開くことでデスタムーアに生まれる大きなメリットというのは、思い当たらない。

小さく、舌打ちをする。
可能性以前に、思考が読めない。
思考が予想通り迷宮入りする。
これ以上は考えても無意味な仮説の世界になる。
まるで、この殺し合いの真意を探ろうとすること自体が無意味であると嘲るように。
数万の仮説を立てて、そのうちの一つが当たればいいレベル、九割九分は無駄な時間になる。
突飛なことを考えれば辻褄を合わせることは出来るが、スーパーテンツクですら真顔になるほど笑えない仮説になる。
手詰まりか、と内心舌打ちをしながら前を向いたとき。
剣を持った一匹のドラゴンが、血走った目でこちらに向かってきていた。
503君の瞳には映らない ◆CruTUZYrlM :2013/03/07(木) 00:02:05.10 ID:sAZq+klO0
 


「下がれ! マリベル!」
自分より少し先を歩いていたマリベルに怒号に近い指示を飛ばし、テリーは手に持っていた盾でドラゴンの一撃を防いだ、が。
「がッ……」
あのリンリンにも勝らずとも劣らない力が盾越しに伝わり、テリーの骨を軋ませ、腕を痺れさせていく。
テリーの顔が苦痛に歪み、一瞬だけ意識が戦闘から外れる。
その一瞬が命取りであることは、誰よりもテリーが知っている。
がら空きの胴に来る一撃に、致命傷は免れない。
そう、思っていた。
「きゃっ!」
驚きと痛みが混じった艶っぽい声を、マリベルが漏らす。
ドラゴンが襲いかかったのは、がら空きの隙を見せていた自分ではなく、側にいたマリベルであった。
何故、自分を襲わずにマリベルを襲ったのか?
疑問は尽きないが、今はそれを考えている場合ではない。
幸い迎撃に成功し傷は免れたマリベルの元へ急いで駆け寄り、その体を抱えてドラゴンから飛び退いていく。
「大丈夫か」
「なんとか、ね」
テリーの問いに短く答えたマリベルの顔は、僅かに渋い。
全く予想していなかった一撃を弾き返すことが出来たから良かったものの、一瞬でも反応が遅れていればどうなっていたかは簡単に予想できる。
だが、テリーにとってもマリベルにとっても、それは不可解な行動だった。
何故、隙を見せていたテリーをわざわざ見逃してマリベルへと襲い掛かったのか?
魔術師であるマリベルを先に潰しておくため? 奇襲されてからマリベルが呪文を使う余裕など無かった。
こう言っては悪いが、単に見てくれで弱そうな人間を安全に殺すため? 隙だらけの自分に一撃を加えてからでも遅くは無いと言うのに、何故?
無差別に攻撃しているわけではなく、明らかに思考をもった行動に疑問を抱かざるを得ない。
「ねえ、アイツ……」
「ああ」
どうやら同じ事をマリベルも考えていたようで、テリーは短く答えを返す。
テリーが記憶している名簿には、対峙しているドラゴンの姿は居なかった。
あの名簿には、主催者側から送り込まれているであろうグラコスやキラーマジンガ達まで表記されている。
表記漏れなど、あるはずがない。
だが、ドラゴンの首にはこのゲームの参加者である証がしっかりと付けられている。
と言う事は、今対峙している相手は"イレギュラー"ということになる。
デスタムーアの手中ではない存在か、あるいは――――
504君の瞳には映らない ◆CruTUZYrlM :2013/03/07(木) 00:02:54.25 ID:sAZq+klO0
「マリベル」
「何よ」
「――――――から――――――を頼む」
頭に浮かんだ可能性を考慮した用件だけを載せた、短いやり取りを交わしてテリーは盾だけで単身突っ込んで行く。
マリベルの怒りの呆れ声を背にしながら、テリーは目の前にだけに集中する。
ドラゴンが持っている剣は、かつて自分が追い求め、その手中に収めた剣。
そしてテリーがロッシュたちと対峙した時に持っていた剣であり、誰よりもテリーが良く知っている剣である。
剣自体の切れ味もさることながら、剣が呼ぶ雷は勇者と呼ばれる者のそれと匹敵する。
状況は、あまり良くない。
それでもテリーは、背後のマリベルから受けた呪文の加護と共にドラゴンへと向かう。
胸の中にある、一つの不安を抱きしめたまま。
「ギャアアオオアアアア!!」
向かい来るテリーに対し、ドラゴンは空気を震わすように猛る。
だが、そのまま微動だにせずに立ち尽くしている。
それどころか、向かい来るテリーを避けるように動いている。
すれ違いざまに、2、3個の石を投げつけても、ドラゴンはテリーの方を向かない。
まるで、最初から眼中に入っていないと言わんばかりに。
急いで振り返り、テリーは再びすれ違いざまに空気の刃をぶつけて行く。
ドラゴンの固い鱗に包まれた肌が、一本の美しい線を描く。
それでも、ドラゴンの足は止まらない。
ただ一直線にマリベルへと向かって行く。
「グアアアアアアウオアアアアアアアアア!!」
型もへったくれもあったモノではないフォームで、ドラゴンが剣を振り下ろす。
酷く乱雑で、酷く凶暴で、酷く流麗な一撃。
飛び退こうとするマリベルを上回るスピードで振り下ろされるそれと、ほぼ同時に巻き起こる雷たち。
その二つが、簡単にマリベルの命を刈り取るはずだった。
「グ、ギャアアァッ!!」
だが、その間に割って入る一人の男。
雷を一身に受けながら、美しくも整った構えが振り下ろされる剣の気の流れを操っていく。
マリベルを目掛けて振り下ろされたはずの力が、ドラゴン自身へと牙を向いて行く。
テリーの生み出した空気の刃よりも深く、大きな傷をつけていく。
だが、それでもドラゴンは止まらない。テリーを避けるように、前へ進もうとする。
一歩、踏み出すために足を上げた時だった。
「……なんで、あんたは何時もそうなんだ」
テリーの身体を眼中に納めないように移動していたドラゴンの身体を、凍てつく波動が包み込んだ。


.
505君の瞳には映らない ◆CruTUZYrlM :2013/03/07(木) 00:03:27.81 ID:jjO7iJ3p0
意識が、イヤと言うほどクリアになる。
全身が、裂けるように痛い。
身体が、血と汗と涙を流している。

それが、どうした。

自分は前に進まねばならない。
そう決めたのだから、前に進まねばならない。
彼のために、彼のために、自分がやらなくてはいけないのだから。
立ち止まっている暇など無い、一刻一秒全てを彼のために使わなくては。
ほら、すぐそこに愚かしい命がある。
彼に比べれば、誰も彼も生きていることが愚かしい。
彼が生きる為に、彼が生きる為に、枷となるべき命を刈り取らなくてはいけない。
力が入らない、握っていた剣を落とす。
構わない、身体が動くのならば人は殺せる。
目の前に居る少女を殺すことぐらい、朝飯前だ。
足を動かす、身を前へと動かす、口を動かす。
ゆっくりと、手を、上げ、前の、少女へと、指差し、呪文を、紡ぎ。
殺さなきゃ、殺さなきゃ、殺さなきゃ。
時間が、時間が、時間が、無い、無い、無い、ナイ、ナイ、ナイ。
死ね、しね、しんでくれ。
あのこの、ため、に。



「もう、やめてくれ」



「なんで、あんたは何時もそうなんだ」

「あの時だってそうだ、俺のことなんて考えちゃいない」

「オレは、もう姉さんに守られるほど弱くないんだ」

「なのに、なんで」

「なんで、オレを見てくれないんだ」

「あんたの中のオレは、ずっと固まったままなのか」

「答えてくれよ」

「なあ」

「オレを」

「見てくれよッ!!」



「……そうかよ」


.
506名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/07(木) 00:03:41.85 ID:jW94ROZSO
支援
507君の瞳には映らない ◆CruTUZYrlM :2013/03/07(木) 00:04:01.25 ID:sAZq+klO0
言われたとおり、凍てつく波動を放った。
自分でも"呪の類に因る変化"だとは分かっていたけれど、その先までは分からなくて。
ただただ、目の前で繰り広げられる光景を見つめることしか出来なかった。
恐怖で足が竦んでいるわけでもない。
悲しみに打ちひしがれているわけでもない。
怒りに狂っているわけでもない。
ただ、ただ、その光景を見ることしか出来なかった。
血塗れの女性が、自分を殺そうと只管に向かってきて。
傍に居る青年が、その女性――姉に語り続けて。
姉は、弟の言葉など聞いていなくて。
そもそも、弟の姿すら目に入っていなくて。
ただ、自分を殺しに前へ進んできて。
そんな姉の姿を、弟は力の限りに、蹴飛ばして。
糸の切れた人形のように、地面を転がっていって。
転がった先で、両腕をついて起き上がってきて。
また、自分を殺そうと両の腕を伸ばしながら近づいてきて。
弟が、姉の身体に拳を叩き込んで。
この上なく強くて、身体が千切れてしまいそうで、でもどこか優しい拳が姉の身体をしならせて。
再び地面を転がり、全身がズタボロになっても姉は起き上がってきて。
ただただ、自分を殺そうと向かってくる。

どんな言葉も、もう、届かなくて。

弟は、ゆっくりと。

「爆ぜろ、大地よ」

印を組み。

「――――ビッグバン」

手を翳した。



赤い赤い球体が、鬱蒼とした平野を消し炭に変えて行く。
藍と翠で組み合わせられた平野を、漆黒に染めて行く。
肌を突き刺すような熱気が、空気を迸る。
熱を持った球状の中央で、ゆっくりとこちらに向かいながらも。
手を伸ばしながら焼かれ続ける、一人の人間が居た。


.
508君の瞳には映らない ◆CruTUZYrlM :2013/03/07(木) 00:04:31.83 ID:jjO7iJ3p0
ひゅうう、と冷たい風が吹く。
先ほどまでなんとも無かったそれがやけに冷たく感じるのは、熱気に当てられた所為か。
はたまた、この重苦しい空気の所為か。
「ねぇ」
「頼む」
何かを言おうとするマリベルの言葉を、テリーは遮って行く。
そのままマリベルに背を向けて、テリーは言葉を続ける。
「何も、言わないでくれ」
それは、命令ではなく。
それは、指示ではなく。
それは、希望ではなく。
「頼む」
それは、懇願だった。



硝子のように透き通った、大粒をぼろぼろと流しながら。

いつかのように、ゆっくりと歩き出す。

あの時と違うのは、一回りも二回りも大きくなった自分の身体と。



隣に誰も居ないという、こと。



【ミレーユ@DQ6 死亡】
【残り36人】

【C-5/東部/夕方】
【テリー@DQ6】
[状態]:ダメージ(大)、背中に打撲、MP消費(中)、焦げ、"   "
[装備]:雷鳴の剣@DQ6、ホワイトシールド@DQ8
[道具]:支給品一式(不明支給品0〜1)(武器ではない)
[思考]:欲望の町へ
[備考]:職業ははぐれメタル(マスター)
(経験職:バトルマスター・魔法戦士・商人・盗賊 追加)

【マリベル@DQ7】
[状態]:MP消費(小)
[装備]:マジカルメイス@DQ8 水のはごろも@DQ6
[道具]:支給品一式 (不明支給品0〜1)
[思考]:仲間を探す。欲望の町へ



投下終了です。
509名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/07(木) 00:04:34.97 ID:Q8h6q5TfO
.
510名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/07(木) 00:05:37.51 ID:jW94ROZSO
.
511名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/07(木) 00:53:58.79 ID:jW94ROZSO
投下乙です

言葉にならない。切なさが胸に溢れかえる。
どうしていつもそうなんだ、っていうテリーの叫びが、切実すぎてもう
普段冷静な彼の想いが突き刺さるようでした

にしてもほんと、この二人はいいコンビだと思うわ
512名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/07(木) 02:57:35.54 ID:GOlWIwtt0
投下乙
切ないな、ただ切ない
513名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/07(木) 18:16:12.04 ID:MOHeINDa0
悲しいな…伝われば良かったのに…
514名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/08(金) 17:59:31.13 ID:jLFVkaqOI
真顔のスーパーテンツクwwwとか思ってたら落とされた
目の前にいるのに自分を見てもらえないのはきついな
515 ◆CruTUZYrlM :2013/03/09(土) 20:54:17.28 ID:bIlE+NTM0
ロワラジオツアー3rd 開始の時間が近づいてきました。
実況スレッド:http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/5008/1362829913/
ラジオアドレス:http://ustre.am/Oq2M
概要ページ:http://www11.atwiki.jp/row/pages/49.html
よろしくおねがいします
516名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/10(日) 03:09:49.87 ID:5dx8r6TI0
投下乙です。
テリーの「頼む」が重くて切なくて。
普段はクールに振舞っている彼の感情がむき出しになって。
それでも、ミレーユには届かないって虚しいなぁ。
517 ◆2UPLrrGWK6 :2013/03/10(日) 21:20:21.15 ID:FAbudMk30
投下致します。
518一匹狼、一人ぼっち 1/6 ◆2UPLrrGWK6 :2013/03/10(日) 21:22:30.57 ID:FAbudMk30
「─マーニャさんは、私の姉に似ていますね」
「えっ?」

フローラは、混乱の中にあったマーニャを、一先ず落ちつけさせていた。
腰を下ろさせ、自らも傷ついているにも関わらず回復呪文を唱え続ける。
献身的なそのフローラの姿を見せられて、マーニャも冷静さを取り戻すのは早かった。
情報交換を交えつつ、いつしか取り留めもない思い出に話は移る。

「私と違って奔放で、でも本当はまっすぐと前を見据えている……そんなひと」

フローラは思い出す、姉と過ごした遠き日々を。
大人しく内向的な自分の手を引っ張ってくれた。
多少強引できつい物言いが過ぎたこともあったが、フローラにとってそれは自分に足りない部分。
気高く、強い心を秘めた姉を、本当に尊敬していた。
マーニャもその姉と、同じ心を持っている。
『妹を探さなきゃ』『東にある町へ……』

(そう、姉さんも昔から私のために無茶をして……)

断片的に飛び出た言葉から、彼女の目的、そして心情は解る。
そう、彼女もまたフローラと同じく、会わなければならない人がいるということ。
身体を竜へと変じてまでも、深く傷つきながらも。
自分の身すら厭わずに急いでいたのだ。

(姉と妹というのは、やはりそういうものなのね)

惨たらしい死を迎えた自らの姉デボラを思い出させ、込み上げかかった涙を堪え、押し込める。
泣いてどうする、目の前には傷ついた人がいる。
このままにしては、走ることは愚か立つことすら難しくなるだろう。
マーニャの肢体を、何度目かのベホイミの光が優しく包み込んだ。

「想像…できないわね」
「えっ?」
「こーんなお淑やかなお嬢さんの姉が、アタシみたいなのに似てるなんて、さ」
519一匹狼、一人ぼっち 2/6 ◆2UPLrrGWK6 :2013/03/10(日) 21:23:48.64 ID:FAbudMk30
「まあ」

落ち着きを取り戻したマーニャは、ぽつり、ぽつりと言葉を紡ぐ。
自分が心から気にかけている妹のことを。
そういえば、と目の前のフローラをまじまじと見た。

「どうしました?」
「ああ、そのね、探してる妹の……ミネア、ってんだけどさ」

やや恥ずかしげに頬をかくと、引きつるような痛みがマーニャに走る。
火傷が治りきるにはまだ時間がかかるのか、フローラは癒しの輝きを放つ掌を、そっと頬に添えた。

「ん、ありがとう……あたしがだらしないときはサッと飛んできて、ソツなく何でもこなしてさ」
「しっかりした妹さんですのね」
「姉と妹、あべこべでしょ」

マーニャは舌を出し、悪戯っぽく苦笑した。

「それでさ、あなたに似てるな……って、思ったの。冷静で芯も強くってさ」
「……私は」

そこまで言って言葉を詰まらせる。
マーニャはフローラの様子に疑問を抱き、顔を覗き込んだ。

「そんなに、強い女じゃありません」

苦笑したフローラの顔に、どこか嘘を感じたマーニャ。
本当の心を、本当の叫びを、ずっと押し込めて生きてきたような。
しかし、それを追求することは─

(野暮ってもんよね)

女に嘘の一つや二つは付き物だ。
暴く権利は、誰にもない。
ふっ、と息を一つ吐いて、マーニャは立ち上がろうと腰を浮かせた。

「謙遜しちゃって。─ありがと、これでもう行けるわ」
「そんな!まだ動かしてはいけません」
「……あなただって、わかるでしょ?」

フローラを遮ったのは、制止を振り切る叫びでも、止めるなという懇願でも無い。
まっすぐな眼差しと、ただ一つの問いかけであった。

「お姉さんが妹を助けたいってのは、当たり前でしょ。違う?」
520名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/10(日) 21:24:39.92 ID:GIrKJFat0
 
521名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/10(日) 21:25:12.86 ID:GIrKJFat0
 
522一匹狼、一人ぼっち 3/6 ◆2UPLrrGWK6 :2013/03/10(日) 21:25:21.87 ID:FAbudMk30
「……」

違いない、とフローラは思う。
何も見ていないようで、何も考えていないようで。
自分を大切にしてくれていた、背中が頭に浮かんだ。
もう会えない、姉の背中が。

「─ご無事で」
「オーケー、任せて」

にっ、と不敵に笑ったマーニャはいつもの調子を取り戻していた。
フローラもまた、探さなくてはいけない、会わなくてはならない人がいる。
娘を残してきた絶望の町のある西を、ちら、と見た。
自分たちの行先は、まるで逆。
せめてまた会える事を祈って、別れよう。
─そう思っていた、のだが。

「おっと……荷物、どこにいったのかしら」
「あっ、そういえば……」

二人の手元から、互いの荷物は消え失せていた。
マーニャの竜化が解除され、投げ出されたときになくしてしまったのだろうか。
辺りを見回し、ほどなくして落ちていたふくろと、散乱した荷物を発見した。

「よかった、案外近くにあったわね……?あれ、どうかした?」
「いえ、私の荷物が一つ……」

そう、近くに落ちたのならばふくろはもう一つ有るはず。
姉の荷物とは別の、ゴーレムが携えていたものだ。
そういえばいろいろあって、まだ中身を見てすらいなかったような─

「ガゥッ!」
「!」
「あ……」

声の主はやや小さな体つきをした、黒毛の狼だった。
さっきまでその姿は見当たらなかったが、どこから現れたのか。
よく見ればその身体に、フローラが言うもう一つのふくろが引っかかっている。

「よしよし、いい子ですから。こっちにおいでなさい?」
「ちょ……危ないわよ何やってるの」

ちっ、ちっ、と狼に向かって指を差し出し、誘うフローラ。
なんとも無警戒な様子に、マーニャが口を挟む。

「大丈夫ですわ。私、犬を飼ってますの」
「……狼じゃない、アレ」
「ガゥゥッ」
「あっ」

フローラの呼び声も虚しく、狼は踵を返す。
東へ向かう方角、毒沼地帯の有る方へと走り去ってしまった。
523名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/10(日) 21:26:25.45 ID:GIrKJFat0
 
524一匹狼、一人ぼっち 4/6 ◆2UPLrrGWK6 :2013/03/10(日) 21:26:29.57 ID:FAbudMk30
なるべく目立たない場所を選び、まるで岩にでもなったかのようにじっと静寂を保つ。
蒼髪の青年、ロッシュは影の騎士と別れた地点から、程ない地点の木陰に身をひそめていた。

(こうして、冷静になると……)

確かにデュランやバラモスといった脅威に立ち向かうべく、急がねばならなかった。
しかし、折れた足や傷ついた身体では満足に戦うことすらできない。
魔力の消費を抑えつつも、早急に失われた体力を取り戻し、なおかつ折れた足をせめて動かせるまでに治療する必要があった。

(さっきまでの僕、ちょっとイケてなさ過ぎだったなぁ……おっと集中集中)

"瞑想"。
精神を極限まで集中させることにより、自己治癒能力を引き出す、勇者の技法の一つである。
こうして自然と同化するような感覚を?むことで、ロッシュは平静をも取り戻しつつあった。
順調である、もう少しで問題なく移動できるまでにはなるはずだ。

(……周囲に邪悪な気配はしない、なるべく傷の治癒を重点的に、と)

折れた足、そして右肋。
細かな傷は除いて特に重たい二箇所を治癒するイメージを以て、瞑想に耽る。
この方法ならば魔力を失うことはない。
じわりじわりと癒える身体、しかしその快癒を待たずして葉擦れの音をロッシュの耳が捕える。
先ほど感じた通り、邪悪な気配ではない。
ならば何が居るのか気になったものの、集中を解くのも非効率的だ。
ロッシュは片目だけを開け、その姿を確認する。

「……犬?」
「ウゥゥ……」

いや、狼かと思い直したが、これまで野生動物の類は特に見受けられなかった。
ならば参加者かと思うものの、その首には戒めがない。
しかしその身体に引っかかっているのは支給された『ふくろ』だ。
これは一体どういうことだろう。

(襲ってくる様子もないし、瞑想しながら考えるか……)

一度集中したのを解くのも勿体無い。
危害が無いならとロッシュは無視を決め込んだ。

「ウゥッ」
「……」

どうやら鼻を摺り寄せているようだ、周囲を回るように視線を感じる。

「ガゥ」
525一匹狼、一人ぼっち 5/6 ◆2UPLrrGWK6 :2013/03/10(日) 21:27:42.74 ID:FAbudMk30
べろり、と生暖かい感触がむき出しの膝を撫でた。
狼のわりに人懐っこいことこの上ない。
それともこちらに傷が有るのが分かっているから舐めているのだろうか。
だとしたら頼むから放っておいて欲しかった。

「ガフッ」
「ああもう、分かった分かった」

甘咬み(その割には結構痛かった)までされては黙っているわけにはいかない。
キツイお仕置きが必要かと思ったが、ふとふくろを眼にして考えを変えた。

(……薬草でも入ってないかな)
「…ウゥゥ」

もし道具類が入っているのなら千載一遇の好機だ。
このふくろの本当の持ち主が仕掛けた罠だという可能性もあるが─
こうも回りくどいことをするというのも考えにくい。

「ねえ君。それ、くれない?」
「ガウッ!」

こいつは困った、タダじゃダメらしい。
そう結論づけたロッシュは、ふくろにしまい込んでいたとっておきを取り出した。



「美味しいかい?悪いけど、拝借するよ」
「ガぅ」

骨付き肉を満足そうに堪能する狼から、ロッシュはふくろを手に取った。
中にあっと驚く奇跡の秘薬でも入っていやしないかと、期待を持ちながら。
526名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/10(日) 21:28:14.73 ID:GIrKJFat0
 
527一匹狼、一人ぼっち 6/6 ◆2UPLrrGWK6 :2013/03/10(日) 21:29:03.91 ID:FAbudMk30
【E-7/南部/午後】
【マーニャ@DQ4】
[状態]:HP3/8 MP1/4
[装備]:なし
[道具]:不明(0〜1)、基本支給品一式
[思考]:ゲームには乗らないが、向かってくる相手には容赦しない。
     フローラと情報交換。一刻も早くミネアと合流するため、東へ。

【フローラ@DQ5】
[状態]:全身に打ち身(小) 2/3
[装備]:メガザルの腕輪
[道具]:支給品一式*3、ようせいの杖@DQ9、白のブーケ@DQ9、魔神のかなづち@DQ5、王者のマント@DQ5
     不明支給品(フローラ:確認済み1、デボラ:武器ではない物1)
[思考]:リュカと家族を守る。ローラを助け、思いに答えるためにアレフを探す。
     マーニャと情報交換。



【F-8/北部/午後】

【ロッシュ@DQ6】
[状態]:瞑想中 HP4/10(回復中)、MP微消費、打撲(回復中)、片足・肋骨骨折(回復中)
[装備]:はじゃのつるぎ@DQ6
[道具]:支給品一式 、不明支給品(確認済み:0〜1 ゴーレム:2)
ガボの狼@DQ7 骨付き肉@DQ7(消費中)
[思考]:デュランとバラモスを止める 前へ進む ひとまず役立つ道具が無いか確認
528 ◆2UPLrrGWK6 :2013/03/10(日) 21:30:25.51 ID:FAbudMk30
投下終了です。
支援してくださった方々どうもありがとうございました。
529名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/10(日) 21:58:18.51 ID:WeYs4gN5O
投下乙です!
ハードな展開が続くなか、二人の姉妹談義はちょっとした清涼剤。
ロッシュ瞑想持ちとは便利だなぁ。
そしてまさかの支給品、主なき獣は一体どんな働きを見せるのか。
にしても今までずっと袋のなかに押し込められてたんだと思うとシュールだw
530あたしの瞳には映ってる(代理)◇HGqzgQ8oUA:2013/03/10(日) 22:48:42.82 ID:GIrKJFat0
封印された最中のダーマ神殿で出会った姉弟のことを、あたしは思い出していた。

姉の願いは弟の負担になって。
弟の願いは姉の負担になって。
お互いを気遣う心が刃となって、やがて弟は姿をくらまし、あたしがその後を知る由はなかったけれど……。

お互いに、"望んだ相手でいてほしい"という、小さな小さな善意のすれ違いの果て。
本当は誰も悪くないはずなのに、だけどお互いに傷をつけあって。
そんな歯車のズレを、冒険の中であたしたちはいくつも見てきた。

あいつとあいつのお姉さんも、そんな関係だったのだろうか。





土を蹴る足音が、やけに大きく聞こえてくる。

ぶっきらぼうで、生意気で。
イヤイヤいいながらも、なんだかんだで助けてくれて。
それなりに頼りになって、ほんのちょっとだけカッコいいところもあったりして。

そんなあいつが――テリーが、数え切れないほどたくさんの感情がない交ぜになったフクザツな表情で。
「何も、言わないでくれ」って、今にも泣きそう声でお願いしてきた。
いつだって余裕ぶって、命令と指示ばっかりしてきたあいつが!
もちろんまだ出会って半日足らず。全部を知った気になっていたわけじゃない。
それでも彼の性格くらいは、それなりにわかってきたつもりだったから、
こんなにも弱弱しい、雨に濡れた子供のような一面を見せてきたことは、予想外だった。。

あたしはそれから素直に口を結んで、あいつの少し後ろをとことこと追いかけている。
前を行くあいつの表情は、あれから見えないままだ。
けれど時折、足音に混じり鼻をすする音が聞こえてくるから、そういうことなんだと思う。

別に、あいつに従って言いたいことを言わないでいるとか、そういうわけじゃなくて。
あんな表情をしたあいつに、何も言えなくなっちゃっただけ、というのが正直なところで。

けど、それで良かったのかもしれない。
つらいときに受ける人の優しさはありがたいけれど、返せる余裕が無いときは苦しいだけだものね。
……ま、これ人の受け売りだけど。





あいつのお姉さん――ミレーユは間違いなく、殺し合いに乗っていた。
西で出会ったドリーマーのように、孕んでいたのは狂気の類だった。
あれと違うのは、お姉さんは逆に現実を見すぎた選択をしてしまったこと。
たった一つの命を守るため、ほかのあらゆるすべてを捧げる、棘の道。
531あたしの瞳には映ってる(代理)◇HGqzgQ8oUA:2013/03/10(日) 22:49:20.84 ID:GIrKJFat0
この半日の間に、たくさん戦って、きっと命を奪って。
ボロボロになって、異形の身体に頼って、考えることさえもやめて。
たった一つの道しるべを辿って、ここまでやってきたのだ。
見上げた献身だった。
とてもじゃないけど真似なんてできそうもない、ひとつの愛の形。

けれどあいつと無事に再会を果たしてなお、言葉ひとつかけてあげずに。
あたしなんかにかまけていことだけは、絶対に間違っていたと言いたかった。
見るべき相手はあたしじゃなくてあいつで、言葉をかけるべき相手もあいつだったはずなのに。
「せっかく出会えた元気な弟をムシして、何をしてんのよ!」って、言ってやるべきだった。
その前に、あいつはすべてを終わらせてしまったのだけれど。

あいつは、最良の選択をしてくれたんだと思う。
少なくともあたしの命がかかっていたわけで。
くやしいけど、あいつがいなかったら、ヤバかったと思う。
そうでなくとも、あのままお姉さんを放っておくわけにもいかないわけで。
いくら声をかけても聞く耳を持たなかった以上は、命を奪ってでも、"誰か"が止めるしかなかったと思う。
その"誰か"が、血の繋がった弟になってしまったことは、すごく悲しくて、
最良の選択でありながら、最悪の結末になっちゃったのを見届けて、ふと、思ったの。

もしあたしがここにいなかったら、どうなっていたかな――って。

あいつが一人きりでいたときに、お姉さんと対峙していたら。
もしかしたら平静を取り戻せたお姉さんと、ちゃんと言葉をかわせたかもしれない。
東へ向かおうという提案に、もっと我儘を通していたら。
すでにボロボロだったお姉さんは、あたしたちの知らないどこかで命を落として。
あいつは悲しむことになるだろうけど、それでも、同じ結末にはならなかったんじゃないかって。
そんな、意味のないたらればのループにハマっていたせいで。

あいつに消えない罪を背負わせてしまったのも。

そのせいで今、あいつがぐちゃぐちゃになっているのも。

……ぜんぶあたしのせいなんじゃないかって。

バカなこと考えてる自覚はある、けれど。
実際に目の前で、あたしを襲ってきたお姉さんを、実の弟がボッコボコにして殺しちゃう現場を見てしまったら。
そんな気分にもなるのもしょーがないって思わない?
532あたしの瞳には映ってる(代理)◇HGqzgQ8oUA:2013/03/10(日) 22:50:08.87 ID:GIrKJFat0
でも、だからこそ。
そんなあたしだからこそ、できることってあると思うのね。

――少なくとも、あたしの瞳には、今、泣いてるあいつが映ってるんだから。





あたしは少しだけ歩みを早めて、あいつの背中を追いかけていく。

今、かける言葉が見つからないのだとして……。

後ろじゃなくて、隣を歩いてあげるくらい、別にいいでしょ?




【C-4/西部/夕方】

【テリー@DQ6】
[状態]:ダメージ(大)、背中に打撲、MP消費(中)、焦げ、"   "
[装備]:雷鳴の剣@DQ6、ホワイトシールド@DQ8
[道具]:支給品一式(不明支給品0〜1)(武器ではない)
[思考]:欲望の町へ
[備考]:職業ははぐれメタル(マスター)
(経験職:バトルマスター・魔法戦士・商人・盗賊 追加)

【マリベル@DQ7】
[状態]:MP消費(小)
[装備]:マジカルメイス@DQ8 水のはごろも@DQ6
[道具]:支給品一式 (不明支給品0〜1)
[思考]:仲間を探す。欲望の町へ

――――

以上で代理終了です。
533名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/10(日) 23:03:34.90 ID:wujPOP/i0
投下乙です!
マリベルいい子だ…
534名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/10(日) 23:21:53.93 ID:NZnsLPuA0
気づいたら一日に二つも投下が。お二方投下乙です。

>一匹狼、一人ぼっち
この二組の姉妹はなんか似てるよなあ。マーニャさんは妹と再会できるだろうか。
この狼はガボの親代わりやった狼よな。ガボは少し前にお亡くなりに……。
ガボの死は把握できてるのだろうか、それともこの先知ることになるのか……。

>あたしの瞳には映ってる
おおう、マリベル頑張れ。マジ頑張れ。
アルスの死という衝撃の事実がもうすぐ告げられる事になるけども……。
535名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/10(日) 23:22:30.90 ID:UJPoOXVM0
そのマリベルも遅かれ早かれアルスが死んだ事を知ってしまうからなぁ
ツンデレ対象がいなくなったツンデレは、パロロワじゃ碌な目に合わんのよね
536名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/10(日) 23:39:57.56 ID:oYt+M7zN0
投下乙です。
>一匹狼、一人ぼっち
 泣くのを我慢するフローラが健気だ。膝べろりんの狼に和むw
>あたしの瞳には映ってる
 タイトルだけで涙腺が…この2人は素直に応援したい。
537名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/11(月) 00:08:51.81 ID:QsWbSWqTO
投下早くてびっくりした。乙です!
そうだなあ。最後にミレーユが見ていたのは弟のテリーじゃなくて敵としてのマリベルだったってのが悲劇だなあと。
しかし夫婦感が漂ってきたなぁこの二人…
538名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/11(月) 00:33:20.96 ID:Z3AjCL/X0
改めて、投下乙です!

>一匹狼、一人ぼっち
姉妹と言う共通点、そして似たような妹と似たような姉。
二人を結びつける会話が、すごく柔らかくて。
だから分かることもあるんだろうなあ、と。
ロッシュは逆転できる何かを手にしたんだろうか……?

>あたしの瞳には映ってる
マリベルぐうかわいい
「後ろじゃなくて、隣を歩いてあげるくらい、別にいいでしょ?」 とかね、もうね。
支えてやれるのは彼女だけなんだけど、放送が……
539 ◆t1zr8vDCP6 :2013/03/12(火) 20:46:32.34 ID:EbubQtSF0
投下します。
540哀しみのリゾナント ◆t1zr8vDCP6 :2013/03/12(火) 20:48:03.93 ID:EbubQtSF0
人力車は進む。
ぐるりぐるりと車輪を回しながら。
時計の針が決して止まることがないように進んでいく。




ローラは隣を見遣る。
タバサ。フローラと同じ青髪を携えた少女。
狭い座席の上で密着した体からは、確かに人肌の温かみもあるのだけれど、
まるで捨てられた子犬のような震えが伝わってくる。

少女は大切な人の名を呼ばれてしまったのだ。



もしも。
同じように愛する誰かがなくなったのなら。
私ならどうなってしまうのだろうか?
もしも。
もしも私がいなくなったのなら。
あの方ならどうなってしまうのだろうか?



(いけませんわ。このようなことを考えてしまうなんて)
ローラは己の弱い心を叱咤する。
この絶望にまみれた世界で、自分はもう待っているだけの姫ではない。
今度は自分の足であの方に会いに行くのだと。
先程そう決心したばかりではないか。
(この子こそ辛い思いをしているはずですのに)
俯けた顔を上げてもう一度タバサを窺う。
小さな手には冊子が握られていた。
「それは、名簿?」
青白い表情のままのタバサがちらりと目を合わせ、すぐに手元に視線を落とした。
タバサは参加者たちの写真が載っているページをひろげていた。
ローラの姿が描かれたそばに、たどたどしく小さな字が記される。
541哀しみのリゾナント ◆t1zr8vDCP6 :2013/03/12(火) 20:50:21.91 ID:EbubQtSF0
 

<きれいなドレス ほんとうのおひめさまみたい>


その手は震えていたけれど、タバサはしっかりとペンを握っていた。
傷つき、声を失いながらも、こうしてコミュニケーションを図ろうとしている。
「ありがとう……」
するりと口をついて出たのはありふれた感謝の言葉だった。
声を聞いたゲロゲロがどうしたのかと振り返ったのを、いいえ、気になさらないでと返す。
この子は強い子だ。けれど、そのままにしておくにはあまりに不憫だ。
ローラはペンを借りタバサに応える。
リボンにマント、かわいらしい旅装束ですねと、隣に書き込んだ。
ありがとう、と口の動きだけでタバサが返答する。
まるで内緒話をしているような気持ちになってか、すこし微笑んだ。



タバサは次々とページを捲っていく。

<ドラゴンさん やさしい目をしてるね>
<こっちのがいこつさんは ちょっとこわそう>
<つよそうなせんしさんたち この女の子は同い年くらいかな?>
<おもしろいかみがた なんだかお野菜ににてるかも>
<このおねえさん はだかみたいでちょっとはずかしいです>

思うまま気まま好きなように書き込んでいく。
一見意味のないことに思えても何かの感情のはけ口になれば良いと、
ローラは温かな目でこの遊びを見守った。


続くページで、タバサの手が止まった。


<おとうさん>

<おかあさん>


涙が、紙面に落ちた。
542名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/12(火) 20:51:31.54 ID:rGp5nShQ0
 
543名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/12(火) 20:52:28.22 ID:rGp5nShQ0
 
544哀しみのリゾナント ◆t1zr8vDCP6 :2013/03/12(火) 20:52:35.47 ID:EbubQtSF0
<お兄ちゃん>

<ずっと>

<いっしょに>

<いたかった>

<みんな>

<かぞくで>


堪らずローラはタバサの体を抱き締める。
ペンが落ちた音にゲロゲロが足を止める。
涙は枯れることを知らず、恐怖の感情はタバサを襲い続けている。






――好きじゃなかったの

あいたい。あいたい。
けれど、とてつもなく、こわい。
おとうさんがいて、おかあさんがいて、お兄ちゃんがいて。
そんなふうにのぞんでいた幸せは夢物語だった――

失った自分の声の代わりに、先ほどの母の言葉がくりかえしこだまする。

――すきじゃなかったの
――すきじゃなかったの
――すきじゃなかったの




 
545哀しみのリゾナント ◆t1zr8vDCP6 :2013/03/12(火) 20:54:07.25 ID:EbubQtSF0
絶望の渦に呑まれたタバサに、ローラは慰めの言葉を見つけられない。
誰かを思い、愛し、けれどそれは叶わないと突きつけられた悲しみに苦しんでいる。
(アレフ様、私はあなた様を――)
フローラは夫を愛していると言った。
愛が無いことを知りながら自分は愛し続けるのだと断言した。
けれど、自分は。この子は――……

「……酷なようだが、立ち止まっている時間は惜しい」
ゲロゲロがペンを拾い上げタバサに差し出し、ローラはハッとする。
「ええ、そうですわね……できればゆっくりと休ませてあげたいですけれど……」
ならばせめて、と自分の体にもたれかかるようにとタバサに促した。
ゲロゲロはタバサの頭を数回撫でてうなずき、人力車を引きに戻る。



会いたい。会いたい。
けれど、何故だかすこし、怖い。


終着点は見えない。
この世界にも。抱えてきた愛情にも。


見るべきものが見えないまま、人力車は進んでいく。





【G-4/北部/午後】
【ゲロゲロ(ムドー)@DQ6】
[状態]:後頭部に裂傷あり(すでに塞がっている) 記憶喪失 HP3/5 軽度の火傷
[装備]:スライムの服@DQ9、スライムヘッド@DQ9
[道具]:支給品一式、超万能薬@DQ8、トルナードの盾@DQ7、賢者の秘伝書@DQ9、人力車@現実、復活の玉@DQ5PS2
[思考]:タバサ、ローラと共に行く。エルギオスの言葉を忘れない。
[備考]:主催者がムドーをどう扱うかは未知数です。主催からアイテムに優遇措置を受けています。

【タバサ@DQ5王女】
[状態]:精神的に動揺、精神的外傷で声を遺失
[装備]:山彦の帽子@DQ5
[道具]:支給品一式
[思考]:家族を探す、フローラの言葉の意味が気になる。
   ゲロゲロと共に行く

【ローラ@DQ1】
[状態]:腕に火傷(小)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:アレフを探す アレフへのかすかな不信感
   ゲロゲロと共に行く
546名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/12(火) 20:54:09.67 ID:rGp5nShQ0
 
547 ◆t1zr8vDCP6 :2013/03/12(火) 20:54:57.48 ID:EbubQtSF0
投下終了です。ご支援ありがとうございました。
548名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/12(火) 21:23:41.36 ID:kWBV7DIWO
投下乙です!
筆を取って思いをつづるタバサのすがたが、悲しくも愛らしい。
会いたいけど会うのが怖いってのはタバサにもローラにも共通した思いなんだなぁ。
フローラ母さんの強さが頼りだけれども、果たして届くのか。
549名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/12(火) 22:29:11.69 ID:jIZvrBpy0
投下乙です!
タバサが可愛い、けど悲しい。
ローラもアレフの事をまだ信じているんだけど、放送が…
550名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/12(火) 22:37:47.37 ID:rGp5nShQ0
投下乙です!
筆談で会話する二人はかわいい。
支えになりそうなローラも放送でヤバいし、ゲロゲロに色々託されているような……
551 ◆1WfF0JiNew :2013/03/13(水) 17:25:05.76 ID:OEZMn2Xo0
投下乙です。
小休止的な話ですが、徐々に絶望が滲み出てているよ!
アレフは死んで、次の放送で知らされるローラは耐えられるか。
タバサは、ただひたすらに悲しいなあ。
今まで当たり前だった家族にヒビが入ったらそら考えこむよ。
それでは予約分を投下します。
552 ◆1WfF0JiNew :2013/03/13(水) 17:25:44.71 ID:OEZMn2Xo0
この話には、“嘘”が練りこまれています。



#########
553 ◆1WfF0JiNew :2013/03/13(水) 17:27:21.65 ID:OEZMn2Xo0
「ねぇ、魔物さん」

牢獄の街へと向かう中、リアは問う。
勇者、アレフを殺してから何も喋らなかったリアが突如声をかけてきたのだ。
面倒くさいことならだんまりを決めてしまえばいい。
ジャミラスは心中でそう決めて、次の言葉を待つ。

「幸せって、どういうものなのかな」

そして、彼女の口から出た言葉はジャミラスが想像もしていなかったものだった。
幸せの意味、脳内お花畑で素面で狂っているこの少女からそんな言葉が出るなんて。
ジャミラスは面くらい、すぐに返答をすることができなかった。

「……いきなり、どうした」
「思ったの。お兄ちゃんを殺して、あたしも死んで。もう、こんな世界で生きるのは嫌だから」

ジャミラスに反応せず、リアは淡々と言葉を紡いでいく。
改めて、この王女はとことん狂っていると、ジャミラスは考えを引き締めた。
下手に甘く見ていると寝首をかかれるかもしれぬ。
そんな、普段の自分では思いもしない恐れという感情に少し驚いた。

「でも、お兄ちゃんと離れ離れは嫌。ずっと一緒だよって約束した」
「それがこの世界では、一緒に死にたいと願うのか」
「うん。あたしにとって、お兄ちゃんと一緒に死ねるのは幸せ。離ればなれになるよりよっぽどマシ。おかしいかな?」

ジャミラスの怪訝な顔を受けて、リアは小首を傾げて可愛らしく笑う。
美女と野獣。否、美少女と野獣か。
その可愛らしい顔の裏でどれだけの狂気を孕んでるのだろうか。
返す答えは決まっている。
554 ◆1WfF0JiNew :2013/03/13(水) 17:28:54.91 ID:OEZMn2Xo0
「おかしいに決まっている。フン、狂っているとしか思えんな」

それは、リアに対してのジャミラスの正直な印象だった。
良いも悪いもぐちゃぐちゃにかき混ぜたようなドロドロの瞳。
釣り上がる口からは悪意しか吐かぬ。
可愛らしい容姿を少し剥がすと化生の魔女。
人間とはここまで汚れを内包するものなのか。
口にこそ出さないが、リアの境遇を考えると憐れみの一つでも覚えてしまう。
一応、魔物であるジャミラスにもその程度の感情は存在する。
ほんの少し、それは一ゴールド程度の憐れみの言葉を投げかけてやろうと口を開こうと――。

「でもね、“あたし達が脱出して幸せになれると思っているの?”」

――開けない。
リアの口から出てきた言葉は予想外で。
誰もがこの世界から脱出することができたら光が、平和な日常が戻ってくるとおもっていただけに。
脱出した後が“地獄”とは考えてもいなかった。
それは、どの参加者が呼ばれた世界も平和を取り戻し、魔王の脅威が消え去っているからこそ。
故に、ジャミラスはもしもの可能性として、脱出した後はどの参加者も幸せが、光が待っていると考えていた。

(そうか、こいつは……こいつのいる世界だけは……)

ジャミラスは気づく。
ロトの血脈が深く根付いているリア達の世界のみは事情が違うことに。
狂っているのは王女だけではなく――世界。
そして、その世界に住む人間という種族そのものが狂気に満ちている。
もう後戻りができないくらいにロトという存在に縋りついた悪霊の神々が蔓延る世界に、彼らの居場所などありはしなかった。
555名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/13(水) 17:30:53.42 ID:AOwPIfgU0
 
556Eternal bonds ◆1WfF0JiNew :2013/03/13(水) 17:31:00.35 ID:OEZMn2Xo0
「生きている限り、あたしにも、お兄ちゃんにも。ロトの血による肩書きは、付きまとう」

英雄の子孫という型に、リア達を無理やり嵌め込んでいるというのは事前情報から知っていた。
特に、サマルトリア兄妹は深く勇者という存在に埋め込まれている。
三国の中でも飛び抜けてロトの血を信奉している影響か、リアの言葉には重みが在る。

「魔物さん。あたしは正気で思っているの。お兄ちゃんと一緒に死にたいって。
 これからがない、明るい未来なんて望めないあたし達は、生きていても辛いだけだって。
 もしもの話、あたしとお兄ちゃんがここから無事に脱出できたとするよ。
 でも、脱出した先に、あたし達が平和に暮らせる保証なんて、どこにもないの」

リアは考える。
兄は二人でどこか遠くの土地でのんびりと暮らそうとは言っているが、それは可能なのだろうか。
追手が来るのではないか? その土地に住む人々が密告するのではないか?
崇拝の如く信仰されているロトの子孫である自分達が、誰にも干渉されずに平和に暮らすのは――無理だ。
無理と判断した上で、兄と自分が最上の幸福を得るにはどうすればいいか。
考えに考えた末にリアの頭の中で思いついたのが――心中。

「あは。きっと変わんない。どこにいてもみんな自分のことばかり。
 困った時は勇者、勇者って頼る癖に、自分達は何もしない。
 そんな世界に、あたし達の居場所なんて……ないよ」
「…………その果てが兄との心中か」
「うん! あたしはお兄ちゃん以外はどうでもいいからねっ。それに二人で死ねば怖くないよーっ!
 あたしとお兄ちゃんの絆もきっと永遠になる。死んでしまえば、誰にも否定なんてされることもない」

リアは、極めて理性的に判断した上で兄との心中を望んでいる。
ジャミラスはこの少女は荒れ狂う感情から狂っていたと誤解していた。
故に、判断力も鈍く策謀など思いもつかないと決めつけていた。
557名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/13(水) 17:31:25.75 ID:AOwPIfgU0
 
558名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/13(水) 17:31:59.46 ID:AOwPIfgU0
 
559Eternal bonds ◆1WfF0JiNew :2013/03/13(水) 17:32:07.80 ID:OEZMn2Xo0
(こいつは、まともだ。その上で、理性的に――狂っている!!)

彼女は、自分達がどうやったら幸せになれるか、世界が自分達を受け入れてくれるか。
“願い”の叶う可能性はどれくらいか。
全部、全部、計算し尽くした結果、心中が一番だと考えついたのだ。

「そもそも、魔物さん。ここから脱出はできるの? 首輪は外せるの?
 デスタムーアさんって人はそれを見逃してくれるの? そこまでに至るのにリア達は無事でいられるの?
 どれ一つ正確性がないのに、どうして皆は脱出できるんだ〜ってハッキリと言えるの?」

そして、付け加えるかのように並べられた言葉は、リアの純粋な疑問。
不確かな脱出という言葉に綴る人達は、何故ああも毅然といられるのか。
一度、完全に負けているにもかかわらず。リアは、脱出という言葉に過小も過大も期待していない。
ただ、ありのままの現実的に考えた理論によって思考を巡らしている。

「おかしいんだよ、リア達……あの最初の場所で何にもできない状態で捕まってるのに。
 殺されちゃってもおかしくないのにね。踊らされてるんだよ? 嗤われてるんだよ?」

ふんふんと鼻歌を奏でながら、リアは事実“だけ”を並べていく。
殺そうと思えば、殺されていた。
何故、あの場で全員を殺さなかったかはわからないが、ここに連れ込まれている時点で自分達は生かされているのだ。

「だったら、リアはせめてお兄ちゃんと一緒に死にたい。お兄ちゃんと残された時間を過ごしたい。
 えへへ。お兄ちゃんはあたしの手を掴んでくれたから。あたしをぎゅーって抱きしめてくれたから。
 お兄ちゃんはすっごいんだよ!」

その後も、ジャミラスはたっぷりとお兄ちゃんのいいところについて聞かされた。
お兄ちゃんは何でもできるとか。
時々、自分に見せる笑顔は素敵だとか。
お兄ちゃんが描く絵はうまいのだとか。
寝起きのお兄ちゃんは道化者を気取らず、素のままで可愛いだとか。
お兄ちゃんは夜のテクニックはうまいとか。
どれも下らない、聞くに堪えない情報ばかりが増えていく。
最も、真面目に聞くことはなく適当に受け流していただけではあるが。
560Eternal bonds ◆1WfF0JiNew :2013/03/13(水) 17:33:09.26 ID:OEZMn2Xo0
「――だから、魔物さん」

だが、最後の言葉だけは空気が少し冷えていて。
それまでの熱が潜み、目が鋭く尖っている。
ジャミラスに対して、見極めようとしているのか。
少しばかりの狂気とドスが効いた声で、リアは紡ぐ。
 
「リア達を殺してくれないと、許さないよ?」
「……わかっている。貴様もカインも。きっちり殺してくれるわ」
「うんっ! 期待してるよ?」
「フン。兄との心中、それが貴様の幸せなのだろう? これでも、幸せの国を持っていた身、その“願い”叶えてくれよう」
(最も、雑巾の如く、使い捨ててからだがなぁ!!)

ジャミラスは正気なる狂気を備えているこの少女をいつまで操ることができるか。
理性を持った怪物ほど恐ろしいものはないのだ。
以前に相対したロッシュ達の方がまだマシである。
それでも、ジャミラスは揺らがない。
力関係は圧倒的にこちらが有利なのだ、恐れる必要な度ありはしない。
少し漏れでた弱気と溜息を吐き捨てて、ジャミラス達は牢獄の町へと進んでいく。
561Eternal bonds ◆1WfF0JiNew :2013/03/13(水) 17:34:25.84 ID:OEZMn2Xo0
#########



結局、“嘘”とは何か。
リアがジャミラスに期待していることが嘘なのか。
それとも、リアの考察に嘘が仕込まれているのか。
はたまた、兄との心中が嘘なのか。
彼女の本当の“願い”があって、今語られた“願い”は嘘なのか。

ただ、確かなのは。
嘘と忘却に塗れた世界で生きてきたリアは、どうしようもなく現実を見ていて。
カインに対してだけは、“夢”を、理想を見ていること。
それは――リアに残った年相応の少女らしい最後の部分。
このような境遇でないならば、前面に浮き出るはずだった、リアという少女の本当の姿。

「……どこに行けば、辛い思いをしなくて済むんだろうね」

最後の小さな呟きは、誰にも聞こえることなく、羽の羽ばたき音に消えていった。



【A-4/牢獄の町前/午後】
【ジャミラス@DQ6】
[状態]:HP3/5、飛行中、右翼に穴(小)、左手首損傷(使用に違和感)
[装備]:ルカナンソード@トルネコ3
[道具]:剣の秘伝書@DQ9 ツメの秘伝書@DQ9 超ばんのうぐすり@DQ8(半分のみ) 支給品一式*2
[思考]:リアを利用し、サマルトリアの王子(カイン)を労無く殺害。
     カインを探しつつ北へ 殺害数をかせぐ
[備考]:支給品没収を受けていません。飛行に関して制限なし。

【リア(サマルトリア王女)@DQ2】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式*2 どくがのナイフ@DQ7 不明支給品(本人確認済み)
[思考]:おにいちゃんを、ころす。
562Eternal bonds ◆1WfF0JiNew :2013/03/13(水) 17:35:21.91 ID:OEZMn2Xo0
投下終了です。
563名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/13(水) 17:50:57.19 ID:0pL8oLf50
投下乙です!
リアさんは正気なんだな
どこ行っても血の呪縛からは逃げられない、だから死ぬって考えは悲しいことだな…
にしても夜のテクニックってカインww
564名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/13(水) 18:44:24.64 ID:AOwPIfgU0
投下乙!
まともに狂っている、まともゆえに狂っている。
本当は救われたくて、それは叶わなくて。
救われることが出来るのならば、それを手にするのかなあ。

あ、カイン君は屋上で。
565名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/13(水) 19:30:52.20 ID:w2TdXzAIO
投下乙です。

理性的な魔物。
ジャミラスみたいな者を指す言葉なのに。
勇者の皮を被せられた少年少女たち。
566名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/13(水) 20:06:47.77 ID:CeWFGEJp0
乙です。2ロト勢は皆行き場ないな
他ナンバリングに比べて絶望感がはんぱない
そして嘘なのはテクニックだと信じたい
信じたいのに絵板のせいで…
567名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/13(水) 21:32:41.05 ID:c4gUnwP3O
投下乙です
ある意味達観しきったリアさんの人生観に脱帽
カインが勇者として持ち上げられた世界で、リアはリアなりにカインを守ろうとしていたんだろうな。
あと、カインはちょっと体育館裏な。
5681パーセントの望み(代理)◇YfeB5W12m6:2013/03/13(水) 21:50:42.12 ID:AOwPIfgU0
生きるのは、難しい。
ただ、死ぬよりは簡単だけれど。




コンディションは悪くない、気分も乗ってなくもない。
楽しくは決してない、天気も邪魔をする程ではない。
こんな装備でも問題ない、気力はメーター超えしているほどに。
大切なものは亡くなったけれど、大切なことには気付けた気がする。
―――上々。
どちらが優勢というわけでもない、疲労は共に気にならないほど熱くなっている。
つまらないわけじゃない、くだらなくもない。
勝ち目はある、そう「信じてる」
―――上々?
傷口は痛む。それでも血塗れの魔人は笑っている。
傷口は痛む。だからどうした。
勝たなければ「ならない」
踏み出して、踏ん張って、剣を凪ぐ。
―――上々!
―――――戦況は、上々。


「ベギラマ」
カインの手から炎の力を帯びた閃光が放たれる。
それはデュランの壁へはなりはしないとわかっていて放ったものだ。
先と同じようにカインは炎へと突進し、デュランはそれを実に下らなさそうに凪ぐ。
「二度目で効くとても、思ったか!」
現れたカインに、デュランは全ての力を集結させ剣で殴打をしにいく。
まともに喰らえば、それこそ塵一つ残りそうにないほどの闘気を纏った攻撃は普通ならば防御なり回避行動に移らなければならないだろう

に、カインはそんな素振りを示すことなくデュランへ剣を振り上げる。
「っ…………!」
どちらのものかわからない呻き声が上がり、デュランの攻撃が直撃したカインは大きく吹っ飛ぶ。
地面を何度も転がり、ようやく止まった時には衣服に小さな裂傷が見られ、胸には赤い染みも広がっていた。
―――ただ、それだけだった。
少し顔をしかめながらもカインは立ち上がる。
足取りはしっかりしたもので、剣をしっかり構え、前を見据える。
別に、単純な話だ。
圧倒的な力でねじ伏せてくるならば、その力を緩和させればいい。
あらかじめスクルトで固くし、攻撃を受けることを前提とし攻撃を打ち込む。
その昔、もょもとがやっていた―――ある意味ではやらせていた戦法だが、思いの外よく効いてくれたようだ。

(とは言え、この方法は僕に不向きすぎるけど)

立てる。剣は握れる。魔法も撃てる。
なのに、体の重さは増したような気がする。
骨の1、2本ぐらいは覚悟していたけれど、これは認識を改めた方がいい。
内臓器官の1個ぐらいは、まあ。覚悟しておいた方がよかったかな。
5691パーセントの望み(代理)◇YfeB5W12m6:2013/03/13(水) 21:51:31.46 ID:AOwPIfgU0
 
―――なんて、考えてる場合じゃないらしい。

「覚悟をして随分と勇ましくなったようだな」
背筋にいやな汗が流れるほどの笑顔で、魔人が立っていた。
ダメージが全くないことはないだろうに、眼中にないかのように、仁王立ちで、笑顔で、威圧的で。
「問おう」
魔人は―――戦士は、手にしている剣を大きく凪ぐ。
「例え私を倒せたとして、デスタムーア様を倒せたとして、この世界から脱出できるという確証は?
この世界から脱出できたとして、幸せになれるという確証は、どこにある」
空気を切り裂き、それは風の刃となりカインへと向かう。
「どこにも、ないだろう。そんな答えはそもそも、存在すらしていないのだから」

「そうかい―――存在゛すら゛していないのか」
かつて勇者が振るった剣で、真空の刃を切り裂く。
「だったら、それってさ」
剣を肩にかつぎ、不敵に笑う。
「僕の願いが叶わないっていう答えも、存在してないってことだからね」

「僕は1パーセントの望みを信じることにしたんだ。
僕が、この剣を振るうことが、その証明さ」




「そうか―――上々だ」
魔人の口が、さらに釣り上がる。





ボロボロのドレスのままアイラは戦況を眺める。
広範囲に広がっているクレーターは、誰かが隕石でも落としたのだろうか。
そんか馬鹿なことが脳内をよぎるほどには、おかしい。
響く金属音はカインと、先程から感じていたすくみ上がるような殺気の正体らしい魔物との打ち合いによるものか。
物陰から二人の様子を眺める。
互いにかなり消耗している様子で、流れる血の量はおびただしい。
拮抗した戦いはどこかずっと眺めていられるような気がする、ような不思議な気分になる。
勿論、そんなことはしていられない。
どんな角度から見ても仲間になってくれそうにないだろう人物、いや、魔物だし。
ゆっくりと、銃の焦点を魔物へと合わせる。
一発の反動はかなり大きい―――ミスでもして、戦況が悪くなってしまっては目もあてられない。
命を奪うには足りないものかもしれない。
「だから、お願い……カイン」
気付くはずのない言葉を、一人呟いた。


何が起きたか、それを理解するより早くデュランの体が傾いた。
倒れはしないと地面を強く踏みつけ、傷口から溢れる血を拭う。
軽い音が聞こえたと同時に頭に空いた小さな穴。
また横槍かと気配を探ろうとしてもデュランにその時間は与えられなかった。
聞き覚えのある音だ―――なんだったかな、と脳は考え、出来た隙を逃しはしないとカインの体は走る。
「逃さないよ!」
5701パーセントの望み(代理)◇YfeB5W12m6:2013/03/13(水) 21:52:14.53 ID:AOwPIfgU0
大きく振りかぶった剣が、デュランの体に大きな裂傷を与える。
同時に脳が音の正体と意味を理解した。
その証明と言わんばかりに正体―――アイラが、ボロボロの光のドレスを纏ったまま駆け寄ってくる。
走るその姿は衣装とは間逆に安定しており、休ませていたのは無駄ではなかったらしく胸を撫で下ろす。
片手には攻撃の正体である黒い物体。
倒れたデュランからは離れて、こちらも安心したような顔色をしたアイラヘとゆっくりと駆け寄る。
「お疲れ様…………って、……カイン?」
少しだけアイラが目を見開いた。
別に驚かれるようなことをした覚えはない(筈の)カインは、少しだけ怪訝そうに顔を歪めた。
「僕が、どうかした?」
少しだけ考え込むそぶりを見せたアイラは、うーんと声を漏らす。
目を閉じたかと思えば何かに気付いたような表情になり、なるほどと一人勝手に納得する。
カインからすればその行動の意味はまったく理解不能なことだ。

ゆっくりと動く。

「なんでもないのよ。……、あ、そうだ。手紙、ありがとう」
銃を握っていないほうの手が一枚の紙をひらり、と掲げてみせる。
カインには手紙を書いた覚えはないが、手紙がある以上は誰かがそれを書いたということで。
「…………それは、僕が書いたものじゃあ、ないよ」
意図せずに声が沈んでしまった。
アイツ、書かなくてもいい、って言ったのに、律儀に書いてたんだな。
声の沈みの意味と、手紙を書いた人物に検討がついたのか、少しだけアイラの動きが固まった。
確かめるような視線から目を逸らすことはしてはいけない気がして、声が震えないようにそうだよ、とだけ告げる。

音も立てずに、

沈黙。
説明しなければならないことは沢山ある。
この街で何があって、もょもとが死んで、僕がこれからどうしたいのか。
伏せってばかりでは、それこそ1パーセントの望みが叶うはずない。
「アイラ、とりあえず一旦、さっきの家へ戻らないか?」
募る戦闘の疲労と、脳内の整理。
しなければならないことも色々積み重なって、その量を眺めるだけで憂鬱な気分になってくる。
だからって目を背けることだけはしないと決めたので、それから目を離したりはしない。
焦らなければならないほど時間がないわけでもない。
アイラもそれでいいらしく、小さく頷く。
「そうね、知りたいこともあるし―――」

むくりと。

「行きましょうか――― 「それは、困るな……」 ―――!」
ぽつり、と。
吐き捨てるように、低い声が脳に反響する。
危険だと、体中が、頭が、全てが警報をうるさく響かせる。
ミスった。確認しなかった。注意をしていなかった。相手は只者じゃなかった。
だからって、あれだけの攻撃を受けて、なぜ。
―――違う。そんな体で、まだ、立てるから。
「さすがに、一人も殺せないようでは」
立てるから、魔王なのだろう。
「死にきれない、なあ」
大きく剣を振りかぶっているのが、見えた。
手前にいたアイラヘ、その剣先が向いていることも、見えた。
ロトの剣を片手に、魔王へと駆ける。
アイラも、両手に銃を構える。
5711パーセントの望み(代理)◇YfeB5W12m6:2013/03/13(水) 21:52:46.23 ID:AOwPIfgU0
 
ただ、そう。

気付くのが遅かっただけ。

引き金に手がかかる。
遅かった。
剣が今度こそ全てを終えるために、デュランの命を刈り取ろうとする。
遅かった。
血が舞う。
小説かなんかじゃあ、あるまいし。
直前にデュランが力尽きてくれることもなく。
あざ笑うかのように、アイラの体は地面に吸い込まれていく。
衝撃でひかれた引き金で、銃弾は深く地面に刺さる。
少しだけ、遅れて。
剣は、カインは、ようやくに。
切り裂こうと、切り裂こうと。

ただ、そう。

その瞬間、デュランは笑っていた。

自分が殺される瞬間を、笑顔で待っていた。



どうやっても笑えない量の血が流れていた。
ただでさえ万全とは言い難い状態だったアイラにはそれは即効性の毒でしかなく。
ただひたすらにカインは回復呪文を唱え続ける。
気が狂っていると勘違いされてもおかしくないほどに、繰り返す。
瞳から零れ落ちようとしているものをひたすらに押しとどめて、繰り返す。

アイラが、ゆっくりと口を開く。
懇願にも近い声音で、小さな声で、それでも伝えようと。


「ね、え、カイン」

「スーパースター、は、ね」

「人を、喜ばせる、仕事なの」

「笑顔に、元気にさせる……」

「そんなスーパースターが、誰かを泣かせたら」

「仕事、なくなっちゃうわ」

「だから」

「いや、だからって言ったらおかしいかも、しれない、けど」

「泣かないで、」

「泣くぐらいなら、笑ってほしい」

「さすがに、この状況はわらえな、いだろうけど……」

「泣いて、ほしくは、ないかな、」
5721パーセントの望み(代理)◇YfeB5W12m6:2013/03/13(水) 21:53:37.90 ID:AOwPIfgU0
 



「……なあ、さっき……」
真っ直ぐにアイラの瞳を見つめながらカインは呟く。
何かを堪えているようにも見えるが、必死に隠しているような表情は隠せないままぽつり、と。
「戦いに参加する前、僕に、何を言おうと、してたんだ」
アイラとはまた別の不自然な区切りで、無理やり絞り出した声は聞けたものでは無かったけど。
少しだけ笑みを浮かべてアイラは答える。
「変わったな、って」
カインが目を見開く。
予想していなかった答えは、喜ぶべきものだったか否か脳が判断するより早くアイラが続ける。
「覚悟、というか。吹っ切れた、顔、してたもの」
アイラには、何があったかはわからない。
カインが吹っ切れた理由は、わからない。
ただ、理由や理屈は必要ないほどに、カインは、覚悟をしていた。
「……そうかな」
「えぇ、」
「……そう、か……」
カインが気恥ずかしそうに頬をかく。
―――だってよ、もょもと。少しだけ、僕、変われたみたいだぜ。


「……ごめん、僕じゃあ、救えない」
なんのためにこの町へ来たのだろう。
救うためにきたはずが、こうして目の前で死んでいくのを歯がゆい気持ちで眺めてる。
無理やり繋がせた糸も、もう長くはもってくれはしない。
「……ごめん」
謝罪なんて、必要ないかもしれない。
そんな言葉は求めてないだろうに、口からぽつりぽつりと溢れる言葉はただ、懺悔するだけ。
「――― 」
なにかを言おうとアイラが口を動かす。
そして聞こえたものは、空気を吐き出す音だけ。
口の動きも緩やかで、読唇術すらできそうにない。
―――それでも、
アイラはなにかを訴えていた。
「…………ああ、そう、か」
最初からどこか隅の方にそれが鎮座していたからか、何が言いたいのか―――何が言いたかったのか、わかった気がする。
「そう、だよな」
血の流れが止まった傷口をひどく冷静に見つめながら、ひどい倦怠感に襲われながら、思い出す。
それは、あのとき、学んだ、ことだ。
伝わらなくなってしまうまえに、ゆっくりと、告げる。
本当に、言わなければならないことを。



分かり切ってしまっていることが、ある。
ああ、もう、みんな、死んじまったのか。
まだ暖かい手は何れ体温を失うだろうし、魔人が人を襲うこともないだろうし、拙い言葉で伝えようとしていた、仲間、も。
…………わかってるよ。悲観的にはならないし、もう逃げ出すこともしない。
泣かないのは約束だし、流石に笑えはしないけど戦い抜いてみせる。
それは剣に誓うし、仲間に誓うし、自分自身にも誓う。
―――ほら、血筋なんて関係なしに、誓えるじゃあないか。
5731パーセントの望み(代理)◇YfeB5W12m6:2013/03/13(水) 21:54:23.88 ID:AOwPIfgU0
 

ああ、いい忘れていたことがあったな。
亡くして気付いて、結局伝えきれなかったことが。
怒るより先に、悲しむより先にするべきだったかもしれなかった。
―――礼を言うよ、もょもと。

「…………ありがとう」

かばってくれて、ありがとう。



【デュラン@DQ6死亡】
【アイラ@DQ7死亡】
【残り34人】

【E-8/欲望の町/夕方】

【カイン(サマルトリアの王子)@DQ2】
[状態]:HP4/10 脇腹打撲 肋骨が折れる、内蔵微損傷
[装備]:プラチナソード、ロトの剣
[道具]:支給品一式 不明支給品×1(本人確認済み 回復道具ではない)
[思考]:妹を捜す、自分を貫く。
※もょもとの死体、オーガシールド@DQ6、基本支給品一式、 満月のリング@DQ9は近くにあります。
574名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/13(水) 21:57:05.70 ID:AOwPIfgU0
以上で代理投下終了です。
−(マイナス)→―(ダッシュ)への変換と、一部改行のおかしかった部分はこちらで修正しました。
作者さんの了解は取得済みです。

で。
アイラアアアアアアアアアア!!
いや直前に重傷だったし、そんな気はしたけど! したけど!
もょの手紙の内容とか、伝えることいっぱいあるのに!
でも、デュランの執念の方が上回ってたんだなあ。さすがジョーカー。
しかし、ジョーカー三人中一人が欠け、一人は対主催……頑張れジャミラス。
575名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/13(水) 22:24:09.96 ID:OEZMn2Xo0
投下乙です。
ああ、アイラがいい女過ぎて辛い。
くっそ、こんないい女いないぜ、おい!
最後のやり取りとかマジでスーパースターーーーッ!
そして、最後の「ありがとう」は反則だろーーー!!!
576名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/13(水) 22:50:03.40 ID:c4gUnwP3O
下手な感想書けんわこれ
とにかく泣いた
最後の「ありがとう」がほんっと反則
577名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/13(水) 23:36:39.39 ID:Y5hbVoQf0
投下乙です!
もうね、何だか色々な思いが込み上げてきて…アイラさんお疲れ様でした
そしてカインはこれからどうするのかが気になりますね
578名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/14(木) 00:17:59.63 ID:v+sZJJtQ0
投下乙です。
ほんと、この兄妹はどこに行きつくんだろう。
もょもとにしろアイラにしろカインを後押しして逝くところがもう、ね。
579名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/14(木) 18:44:37.57 ID:Vt2epmH00
カインは出会いに恵まれてるな。
最初アイラが背中を押してなければ今頃どうなっていたんだろう?
そしてそろそろロッシュを死神と呼んでもいいと思う、
関わった7人中6人とかw
580名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/14(木) 23:38:13.37 ID:ogmrzveUO
投下乙です。

これは、兄妹の再会が楽しみ。
581名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/15(金) 16:18:47.52 ID:LxGOktEC0
月報集計いつもお疲れ様です。
DQU 100話(+12) 34/60 (- 4) 56.7 (- 6.6)
582 ◆MC/hQyxhm. :2013/03/16(土) 16:22:32.19 ID:pctSE35S0
投下します。
583絆 ◆MC/hQyxhm. :2013/03/16(土) 16:24:13.76 ID:pctSE35S0
[状態]-飛行中
    [操縦は可能か?]-いいえ
    [ 止まれるか? ]-いいえ
    [ 現在地特定 ]-できません

-!制御不能!-
-要待機- 

***

大気を切り裂き、機械は空を翔る。
先程の戦闘では何者かの介入により獲物を仕留め損ね、
この様に現在地も分からずただ高速で飛ぶことしか出来ない。
この先自らが何処に辿り着くのか。そこに何が待っているのか。
そんな事は分からない。
いや、分からなくて良い。
自分が何処へ行こうと、そこで何があろうと、全て破壊すれば良い。
それが自らの全てなのだから。


不意に、世界が停止する。
一瞬遅れて体が感じ取る―落下。
忘れられていた重力がまた仕事を再開したようだ。
物凄いスピードで、地上が近づいてくる。
見えてきた森の木々の中に、その目は。

新しい"獲物"を、発見した。



***
584絆 ◆MC/hQyxhm. :2013/03/16(土) 16:28:19.56 ID:pctSE35S0
「はいっご主人様!あ〜ん☆」
「……」

自分の前にケーキを差し出し、満面の笑みを浮かべているメイド姿の少女を見て、ハーゴンは深い溜息をついた。
当のソフィアはケーキの刺さったフォークをハーゴンの目の前で揺らしてみせる。

「…何なんだ、それは」
「えっハーちゃん知らねェの?メイドさんだよメイドさん。はい、あ〜ん☆」
「…そういった趣味は生憎持ち合わせていない」

なにかメイドというものを間違えている気がする。

「ちぇ〜っ、ハーちゃん冷てェの…ノリが悪い奴ってモテないんだぞ」

口を尖らせて文句を言うソフィアには構わずに、ハーゴンは黙々と自分に割り当てられたケーキを食べる。
流石にこれは無理だと察し諦めたのか、ソフィアは標的を変えた。

「はい、ミーちゃん!あ〜ん☆」
「……あーん…?」
「おっ、やっぱミーちゃんはノリが良いなあ!どっかの誰かさんとは違って」

そう言いながらソフィアは状況が掴みきれていないミーティアの口にケーキを詰め込んだ。
どっかの誰かさんは知らぬ顔をしてケーキを食べ終える。

「むぐ…ソフィアさんの世界のメイドの方はこんな事までされるのですね…。
 トロデーンのメイドがこんな事をしているのは見たことがありませんし…」
「そっか。ミーちゃんはお姫様だからな。知らなくても当然かぁー。メイドさんってのはなあ…」
「間違った知識を教えるな」

ハーゴンの横に座っている長髪の男がこらえきれなくなって口を挟む。

「うっせえピー助、そのスカした面にケーキぶち当てたろか」
「ケーキが勿体無いですわ」
「……」
585絆(代理)◇MC/hQyxhm.:2013/03/16(土) 16:46:58.11 ID:4hUu5K530
こんな事をしている場合ではない、と思う。
こんな風に森の中の空き地で仲良くケーキを食べている場合ではないと思う。
何かがおかしい。こんなのんびり出来る状況ではないはずだ。
何かが絶対間違っている!

一人頭を抱えるハーゴンに、ピサロが話しかける。

「…大丈夫か」
「正直大丈夫ではない」
「ソフィアに出会ってしまったのだ、仕方あるまい」
「……そうだな」

顔を上げて見てみると、ピサロの目に微かな同情が映っているのが見えた。
そういえばこの男はかつてソフィアと旅をしていたな、ということをハーゴンは思い出す。

「…ピサロ」
「何だ」
「ソフィアは、お前と旅をしている時もあんな感じだったのか」

ハーゴンはミーティアの口にケーキを詰め込んでいるソフィアを指差してピサロに尋ねる。
ピサロは少し考え、そしてちょっぴり苦い顔をした。

「…そうだ」

そう答えたピサロは、涙目だった。



勇者と邪教の大神官とお姫様と魔族の王が、何故暢気にピクニック(天気はあまり良くないが)をしているのか?
時は少し遡る。
ソフィアとハーゴンがミーティアとピサロと合流してからのこと。
これからの方針を決めようという時に、ソフィアとミーティアのお腹が同時に音を立てたのだ。
顔を真っ赤にして俯くミーティアの横で、そういやまともに飯食ってなかったなあとソフィアが呟いたことから、
遅めの昼食とする事にしたのだ。
とはいえ傍にはカーラの遺体があるのでここで食べようという人はいなかった。
そうして少し進んだ所にあったこの空き地で、各自の支給品のパンと、ミーティアのふくろに入っていたこの、
バースデーケーキを食べることにしたのである。
586絆(代理)◇MC/hQyxhm.:2013/03/16(土) 16:47:52.98 ID:4hUu5K530
どうやら全員食べ終えたようだ。
ソフィアがにこにことお腹をさすっている。
  
「はあ〜食った食った…腹いっぱい」
「うう…大変でしたわ…」
「…ソフィア」
「ん、何だ?ハーちゃん」

ぴょんっと立ち上がり、ソフィアがハーゴンの傍に来る。
腹一杯のくせによくそんな動きができる、とハーゴンは呆れつつも小声で囁いた。

「あの娘を…エイト、という奴に会わせるつもりなのか」

エイトはすでに死んでいる。
だがミーティアがその事を信じていない―信じるつもりも無いことは、先程のピサロへの行動からも分かる。
そんな狂気ともいえる感情を抱いている彼女が、エイトが生きてはいないという事の決定的な証拠を、
エイトの亡骸を、目にしてしまったとしたら。

「ああ…相当ヤバイ、危険な事だって事は分かってる。でも…アタシは、なんとか力になりてーんだ」

さっきまでのおちゃらけた表情は何処へ、一転真面目な顔をしてソフィアが答える。
その顔はどこか、焦っている様にも見えて。
相方の初めて見せる表情に、ハーゴンは少し、驚いた。


「…これから、何処へ向かう」
「そうだな…おーい、ミーちゃん、ピー助」

少し離れたところにいる二人を呼び寄せる。
ハーゴンが広げた地図を中心に、四人が丸く座る形になった。

「えっと…これから行く所を決めてェんだけど、ミーちゃんのその…エイトって奴を探すとして…」

ソフィアの指が地図の上を滑る。

「アタシとハーちゃんが居たこの…ヘルハーブ温泉ってとこにはそんな奴居なかった。
 ってことはそいつがウロチョロしてない限り、他の町…この、絶望の町か、牢獄の町か、欲望の町に居る可能性が高い」

全くこんな名前を町に付ける奴の気が知れねえ、とソフィアはぼやき、顔を上げてミーティアを見る。

「ミーちゃん、エイトの居る場所に心当たりは?」

ミーティアは横に小さく首を振る。

「そっか…絶望の町はまだ近いけど、他の2つはなかなか遠いなあ…」
「絶望の町に向かおう」

ピサロが口を挟む。

「もとより私達はそこに向かおうとしていたのだ」
「ええ、その通りですわ」
「…絶望の町、か」
587絆(代理)◇MC/hQyxhm.:2013/03/16(土) 16:48:43.60 ID:4hUu5K530
ハーゴンがボソッと呟いた。
別に絶望の町に何があるわけでもないのだが、彼の頭には先程見かけた花嫁姿の少女が浮かんでいた。
ロトの末裔―彼の宿敵。
名簿を見る限り後の二人もこの世界に呼ばれているようだ。
ローレシアの王子、もょもと。
サマルトリアの王子、カイン。
ムーンブルクの王女、あきな。
三人とも直接の面識は無いが、好かれているわけなど無いという事位知っている。
何故なら、彼らはロトの血を引くものだから。
自分の様な危険分子は取り除くことが彼らの定めだから。

ハーゴンは今この世界で彼らと戦うつもりは無いが、向こうもそうだとは言い切れない。
いや、むしろ戦闘になる確率のほうが高いだろう。
彼らにとって自分は、自分にとって彼らは宿敵だ。
相容れない立場であるのは分かっている。
向こうがその気なら、戦闘になっても構わない。
だが、今は自分一人ではない。
ソフィアのような自分達の因縁とは全く関係のない者を巻き込んでまでロトの末裔と戦おうとはハーゴンも思っていない。

町という場所は人と人が出会う場所だ。出会う相手が必ず自分にとってプラスとは限らないが。
だから絶望の町に行くという事はハーゴンにとってリスクを伴う。
気はあまり乗らないが―

「ハーちゃんっ!」
「!」

自分を呼ぶ声で我に返る。

「ど−したんだ?ボーっとして。らしくねーぞ」
「…少し考え事をしていた」

考え過ぎか。
どんなに悩もうと向かう町で何が起こるのかは分からないし、そこで実際彼らと会うとは限らない。
ソフィアにも言われたが、自分らしくない、とハーゴンは薄く笑った。

「…おい、そろそろ出発しないか?」

地図を指でトントンと叩きながらピサロが言った。
さっさとしろ、という事らしい。

「う〜ん、ピー助に指図されんのはムカつくんだけど…。ま、いっか。よーし、出発するぞ!」

拳を天にかざしソフィアは叫んだ。

***
588絆(代理)◇MC/hQyxhm.:2013/03/16(土) 16:49:50.83 ID:4hUu5K530
[状態]-緩やかに落下
<!-ターゲット発見-!>
[標的数]-4
-攻撃方法?-
[剣の範囲か?]-いいえ
[ハンマーの範囲か?]-いいえ
[弓矢の範囲か?]-はい
-攻撃方法決定-
射撃-鉄の矢×4
*攻撃開始*

***

落下するスピードが緩やかになってきた。
どうやら地上には大きな衝撃も無く降り立てるようだ。

発見した獲物は四体。
うち二人は人間、あとは魔族か。
右手のハンマーも、左手の剣も届く範囲ではない。
ならば、どうする?―簡単だ、尾に何がついている?
キラーマジンガは弓を引き絞り、矢を放った。

***

気付かなかった、いや、気付けなかった。
いきなり上空から降ってきた機械からの攻撃を受けるなんて、誰に予想できるだろう。
相当被害妄想の激しい奴でもないと考え付かないだろうな。
白い法衣の背中を赤く染めたハーゴンを見ながら、ソフィアは、ぼんやりと考えていた。

気が付いたら、ハーゴンが自分達の前に両手を広げて立っていて。
何が起こったのかを脳が理解するよりも早く木々がへし折れる音がして。
"それ"が、姿を現した。

「……逃げ、ろ」

ハーゴンの口の端からは血が流れている。
それを見るソフィアの視線の先―ここから数十メートル先。
木々を粉砕しながら向かってくる、それは。

何をした?
―傷つけた。
誰を?
―なかま、を。
589絆(代理)◇MC/hQyxhm.:2013/03/16(土) 16:51:03.51 ID:4hUu5K530
「ハーちゃん」

妙に落ち着いた声色で呼ばれ驚くハーゴンに、ソフィアは手早く回復呪文―ベホマをかける。
何かしらの制限がかけられているのだろう、効き目はあまり良くない。

「ハーちゃんは、早く」

ハーゴンの前に回りこみ、肩をとん、と押す。

「ここはアタシに任せて」

周囲の物を破壊しながら、機械は近づいてくる。

「ピー助は、ミーちゃんを」

恐怖に震えるミーティアと、その横に居るピサロに向けて。

「ほら、早く。安全な所へ」

ソフィアが見せた、笑顔は。

「頼んだぜ」

飛び散った木片と舞い上がる土煙で、見えなくなった。
590絆(代理)◇MC/hQyxhm.:2013/03/16(土) 16:52:41.16 ID:4hUu5K530
信じられない。
認められない。
あんな機械に―たった一人で!

「急げ、でないと死ぬぞ!」

恐怖のあまり立てなくなったミーティアを片腕で抱え、ハーゴンの腕を引きながらピサロが叫ぶ。

「放せ…っ!」

手を振り払い、ハーゴンはピサロを睨みつける。
ピサロはその視線を真剣な表情で受け止め、言った。

「ソフィアの事が心配なのは分かる。…だが、この状況ではこうするしかない」
「ソフィアを見殺しにするつもりか!?全員で逃げれば良かっただろう!」
「…無駄だ。あれは、足止めしない限り逃げ切れるような相手ではなかった。…認められないだろうが、生き延びるためだ。」

冷静に、淡々とピサロが紡ぐのは否定できない正論で。
ハーゴンは悔しさのあまり、唇を噛み―

「だが…私は!ソフィアを放ってはおけない!!」

そう言い捨てると、身を翻し、駆け出した。

「…っ!待て!!」

背後から呼び止める声が聞こえる。
だが、ハーゴンは止まらない。
立ち止まるものか!


『殺し合い』の場に、戦うものを助けに行くという行為は些か不似合いだ。
生き残る為には、他人になんて構っていられない。
非情かもしれない。だが、死んでしまっては話にならない。
そう、思っていた。


何故、あの娘を庇ったのか?
何故、助けに行くのか?
行動を共にしたから?
そうかもしれない。
だが、何か違うような気がする。
ならば、何故?
助けたところで、得るものなど無いのに?
…そうか。
はっきりとした理由なんて無い。


―なかま、だから!


ソフィアのかけてくれたベホマのおかげで、背中の傷は塞がっている。
動かすと少し痛むが、戦えぬ程ではない。
決意を胸に、ハーゴンは仲間の元へと駆ける。
591絆(代理)◇MC/hQyxhm.:2013/03/16(土) 16:54:16.03 ID:4hUu5K530
【F-4/森/午後】
【ソフィア(女勇者)@DQ4】
[状態]:健康
[装備]:斬魔刀@DQ8、メイド服@DQ9、ニーソックス@DQ9
[道具]:不明支給品(0〜2)、奇跡の剣@DQ7、ソードブレイカー@DQ9
小さなメダル@歴代、不明支給品(0〜5、内一つは武器ではない)、基本支給品*2
[思考]:キラーマジンガから仲間を守る。
[備考]:六章クリア、真ED後。

【キラーマジンガ@DQ6】
[状態]:HP1/2
[装備]:星砕き@DQ9、ビッグボウガン(鉄の矢×11)@DQ5、雷の刃@DQS
[道具]:基本支給品一式、不明支給品(武器以外×0〜1)、ギュメイの不明支給品(0〜2)
[思考]:命あるものを全て破壊する

【ハーゴン@DQ2】
[状態]:HP3/4
[装備]:オリハルこん@DQ9
[道具]:不明支給品(0〜2)、基本支給品*2
[思考]:ソフィアを死なせない
[備考]:本編死亡前。具体的な時期はお任せします。ローレシア王子たちの存在は認識中?

【F-4/平原/午後】
【ピサロ@DQ4】
[状態]:健康
[装備]:破壊の剣@DQ2、杖(不明)、マントなし
[道具]:ステテコパンツ、不明0〜1、基本支給品
[思考]:ハーゴンを追うか迷う
     手段を問わず脱出。
     ミーティアを助ける

【ミーティア@DQ8】
[状態]:疲労(微)
[装備]:おなべのふた、エッチな下着、ピサロの外套
[道具]:基本支給品
[思考]:恐怖
     エイトに会う
     エッチな下着はなるべく早く脱ぎたい
[備考]:エイトは生きていると思っています。すべての死体にエイトの影がちらつくようです。
592名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/16(土) 16:57:54.09 ID:4hUu5K530
以上で代理終了です。

以下感想。

ソフィアさん絶好調っすねwwwww
この殺伐ドロドロな殺し合いの清涼剤ですわ。
そして、ハーゴンが綺麗でヤバい。
お前ら完全に相棒になっとるがなwwww
でも、相手にするのがマジンガ様なのよね……。
593名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/16(土) 17:01:34.01 ID:xn15t5rB0
代理投下乙です。
最近の投下分は特に愛が重く、絆が強いなぁ。
特に勇者や魔王なんて肩書を持たないマジンガさんの醸し出す強者のオーラがやばい。
無事に生き残れるといいんだけど……
594この命あるかぎり ◆TUfzs2HSwE :2013/03/16(土) 21:50:10.40 ID:J0TCuXqOO
.
深い森が、うたい始める。
風もなく、葉擦れの音さえ聞こえない森が、なにを奏でようというのだろう。
木の葉の隙間からのぞく灰色の空は、この世界に閉じ込められた朝からなにひとつ変わっていない。
そんな世界で、森は謳う。
人の痛みを。憎しみを。絶望を。
無念を。
なにもできなかった人の無力を嘲る、冷酷な樹海の調べを。

その調べに耳を傾ける一人の男がいた。
森の静寂をかみ締めながらも、無音のもたらす圧迫感が、男にはなんともいえず苦痛だった。
天を仰ぐ。時刻はとっくに午後をまわっていた。夜が来てもこの明るさだろうか。
それはそれで気味が悪いと、彼は一人ごちる。

森は謳う。
男は目を閉じてそれを聴く。
辺りは静寂に包まれていたけれど、無念の旋律は途切れることを知らなかった。
孤独に後押しされて彼は、教えてくれ、と呟いた。
もう失われたとわかっている仲間に向けて。
何が正しいんだ、と問いかけた。
これまでに彼が、成すことのできたことがらなんて、なに一つ無かったから。





何が正しかったのか。
どうしたらよかったのか。
そんな呟きが空気に溶けて消えても、ヤンガスの胸には虚しさばかりが残った。
指針を示してくれた仲間がもういないことを、重ねて思い返すためだ。

ピサロにミーティアを託したことで、糸が切れたように気が抜ける。
傷付いた身体が休息を求める。その欲求に耐えかねて、ヤンガスはとうとう倒れこんだ。
状況は少しも良くなっていないが、ピサロと遭遇できたことは不幸中の幸いかもしれない。
あの場にいても無傷であったピサロの様子からすれば、きっとミーティアにも追いつけるだろう。
――それに恐らく、自分が行くより遥かに、適任だ。

「……最初から、そうすりゃ良かったんでがすね」
595この命あるかぎり ◆TUfzs2HSwE :2013/03/16(土) 21:53:06.35 ID:J0TCuXqOO
.
思えば元より、ミーティアはピサロを気に掛けていた。ピサロとてそうだった。
それを、最終的にはピサロよりエイトを取るべきとし、渋るミーティアを連れて行こうとしたのは自分だ。
ピサロに折れ、ミーティアにも折れ。中途半端な判断を重ねた結果が、今だ。

「すまねえ、兄貴……」

胸に棘でも刺さったように、悔やむ心が痛みを放つ。
無論、そんなものはヤンガスが勝手に組み立てた結果論でしかない。
けれども、それでも……放送を聞いた今だから、思うことがあった。
かつて暗黒神をも打ち倒したエイトやククールが、こんなにも短い時の流れに死人と化してしまう今、
ヤンガス一人で殺し合いの運命を引っくり返すなど、果たして本当にできるのだろうか。
むしろそんなことは、最初から無理だったのではないか、と。

ヤンガスがミーティアをエイトに会わせたいと思ったそのとき、もしも彼がすでに、この世に無かったのだとしたら。
なんて的外れな望みを二人に押し付けてしまったのだろうと、ヤンガスは思う。
戦うことなんて知らないはずだった。本当は誰よりも、怖かったはずだった。
なのにミーティアは、出会ったばかりのピサロを守りたいと、勇気を振り絞ったのだ。
そんな少女への誓いを、ヤンガスは早々に裏切ってしまった。
エイトの代わりにミーティアを守るという、誓いを。

「舎弟失格ですね。兄貴」

否、そもそも、その兄貴分がいないのだから。
そんなことももうどうでも良いのかもしれなかった。
どうでも、良い。――本当に?

ヤンガスの視界には、つくりもののような禍色の空が見える。
時を刻むことのない森の景色が広がっている。
明けない朝。脱出口の見えない牢獄。
ここは……ここは、どこだろう?
永遠のように続くと思ったこの地獄と似たような景色を、ヤンガスはかつて、見たことがある。
596この命あるかぎり ◆TUfzs2HSwE :2013/03/16(土) 21:56:19.61 ID:J0TCuXqOO
.
はっとする。
いつの間にか視界にあったはずの森が消え失せていた。
白く白く幻想のように、そのかつて見た景色が広がっていく。
否――それは幻というよりまさに、起きながらにして見る「夢」のように。
ヤンガスは思わず目を擦る。
一体何が起きているのだろう。
絶望のあまり現実から目を逸らしたことで、白昼夢に囚われたとでもいうのだろうか。

“ヤンガス”

信じがたい声が、聞こえてくる。
ヤンガスは震えるが、すぐに自分に違うと言い聞かせる。
これは――幻想だ。ヤンガスにとって都合の良い。

“雨水が、落ちてくるところがあるんだ”

ヤンガスには覚えがあった。
杖の呪いに振り回され、反逆者の汚名を浴びて、煉獄島に投獄されたあのときだ。
時を幾つ刻んだかも判然としない地下の獄中で、希望が潰えた日のことを、ヤンガスは今も覚えていた。
ああ――そうだ。あのときヤンガスはなんと言っただろう。
それがどうしたんだ、くらい意気の無い言葉を、彼に返したのではなかったか。

“集めて、ゼシカの火で湧かそう。食料も、できる限り取っておこう”
“……んなことして、どうするんだよ”

自分の代わりに返すのは死んだはずのククールの声だ。
まるで生きて隣にいるかのような明瞭さで。
あのとき、ククールもヤンガスと同じように、彼を胡乱げな目で見ていた。
ゼシカもそう、あの場にいた誰もがそんな感じで、ここで終わったのだと疲れ果てた顔をしていたけれど。
エイトだけは決して、諦めようとはしなかったのだ。

“大丈夫。いつか絶対に、脱出できるさ”
597この命あるかぎり ◆TUfzs2HSwE :2013/03/16(土) 21:59:42.50 ID:J0TCuXqOO
.

いくつもの言葉が浮かんだはずだ。
痛みとか、憎しみとか、絶望とか、無念とか。
それをぶつけて吐き出せば、少しでも楽になれるはずの状況で。
周りの人間すべての諦念に染まらずに。

――どうして。
どうしてそんなことが言えるんでがすか。

わからなかった。
どうしたらそんなに希望を見つめていられるのか、あの日のヤンガスにはわからなかった。


「……今なら、わかった気がします。兄貴」

ぽつりと、呟く。
強面の顔に一筋の涙が伝う。

「あっしも、諦めが悪いんでがす」

――たとえエイトを失っても。
この手で誰一人助けられなくても。
自分が存在する理由さえ見失いそうになったとしても。

「俺はまだ、兄貴の舎弟で、いたいんです……」


その目に映るのはもう、白昼夢の中のエイトやククールではない。
禍色の空と一面の森の景色。無念と絶望に満ちた現実の世界だった。
当然だ。あれはヤンガスにとって都合の良い幻想だから。
彼らを失って尚彼らの夢に縋ることなどヤンガスにはできない。
彼の舎弟である限り、彼の仲間である限り、そんなことは決してできない。

エイトの、ククールの記憶がある限り。
仲間と出会い、共に戦ったことを覚えている、この命がある限り。
エイトと出会って変われた自分を、義侠のために生きていきたいと願った、生き様を。
今さら捨てることなんかできない。
エイトと、ククールと共に過ごした旅の日々を、忘れるなんてできやしない。
598この命あるかぎり ◆TUfzs2HSwE :2013/03/16(土) 22:04:03.02 ID:J0TCuXqOO
.
希望を見つめているわけではない。
むしろその先には絶望しか無いのかもしれなかった。
これは彼自身の意地であり、矜持だ。それだけが今、ヤンガスの心を支えている。
――そうだ。きっと、あの日のエイトと同じ。

「兄貴、ククール。あっしはもう少し、こっちの世界で、戦ってみます」

義理と人情に生きてきた、元山賊の強靭な精神が戻ってくる。
二人の死を受け容れた、ヤンガスの顔には、薄く笑みが浮かぶ。
遠くない未来、二人と同じ世界に旅立つことになるのだとしても、
今だけは彼らに別れを告げて生きていく。
それが、ヤンガスにただ一つ残された、舎弟としての生きざまだった。





森が謳うことをやめた。
男がその旋律に、もはや耳を貸さないことを知ったから。

なけなしの回復呪文を唱えて、傷付いた身体を癒し始める。
今後の方針に頭を悩ませながらも、迷いのないその顔つきは、
森が奏でる調べの導きに応じないことを示していた。
絶望の調べに身を委ねたものと、そうでないもの。
同じものを失いながら、二人の明暗をここに分けた、道筋の先にはなにがあるのか。

結末はきっと――――夢の世界だけが、知っているのかもしれない。




【E-5/北西端/午後】

【ヤンガス@DQ8】
[状態]:HP1/7
[装備]:覇王の斧
[道具]:支給品一式(不明1〜2,本人確認済)
[思考]:休憩、治療 これからどうするか考える
599 ◆TUfzs2HSwE :2013/03/16(土) 22:07:56.83 ID:J0TCuXqOO
投下終了です。
600名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/17(日) 07:05:21.60 ID:n0KPGC0E0
投下乙です ヤンガスが諦めなくてよかった…!
601 ◆CruTUZYrlM :2013/03/17(日) 13:10:55.74 ID:Zz8f1P0d0
投下乙です!

>絆
>「はいっご主人様!あ〜ん☆」
かわいい(確信)
涙目のピサロがもう……w
ハーゴンが仲間の概念に目覚め始めた! コレはアツい!
しかしマジンガさまが相手な訳だけど、大丈夫かな……


>この命あるかぎり
ヤンガスは振り切れたか……!
作られた世界の森は、弱き人に幻影を見せるようだけど……
近くにはキラーマジンガもいるし、チョット怖いなあ

さて、僕も投下します
602世界が私だけを変える ◆CruTUZYrlM :2013/03/17(日) 13:11:38.32 ID:Zz8f1P0d0
 


世界の始まりはいつだって唐突、"こっち"の都合なんて考えてくれやしない。

勝手に始めて、勝手に作って、勝手に与えて。

始まった世界は圧倒的な暴力で僕らを苦しめていく。

それでも、無力でちっぽけな僕らは世界に抗えない。

与えられたものに従わなければいけないなんて、誰が決めた訳でもないのに。


.
603世界が私だけを変える ◆CruTUZYrlM :2013/03/17(日) 13:12:15.21 ID:Zz8f1P0d0
オルテガが無理を言い、絶望の町を後にしてすぐの事だった。
遠目に見ても視界にはっきりと映る、一匹の魔物の姿。
万が一の可能性を考え、オルテガは剣を携えたままゆっくりと魔物へ近づいていく。
その姿が迫ってくるにつれて、そばに二人の少女がいることに気がついた。
二人の少女を従えるかのように歩く一匹の魔物。
オルテガでなくても、その状況が異常であることが分かる。
来るであろう戦いに向けて、オルテガはより一層集中していく。
「待ってください、私たちに戦闘の意思はありません」
そんな彼の前に出てきたのは、桃色の髪の少女だ。
そばにいた少女も魔物も、手を広げて戦意が無いことをアピールしていく。
魔物の策略かもしれない、と用心をしながらもオルテガはゆっくりと剣を仕舞い、問いかける。
「アレルという者を、知りませんか」
その言葉に、側を歩いていたツインテールの少女が驚いた声を上げてしまう。
「アレルって、放送で呼ばれた――」
「知っています」
告げようとした少女の言葉を遮るように、オルテガは言葉を被せる。
「知っているからこそ、聞きたいのです。
 アレルという者について、何か知らないかと」
作法も礼儀もない不躾な問いかけだと、自分の中で笑ってしまう。
「……本人に聞けるのならば、それが一番良いのですが。
 あの放送で呼ばれたという事は、そういうことです。
 だから、アレルという人物を知る人間に聞くしかない」
だが、なりふりは構っていられない。
心の迷いを断ち切るためにも、今はアレルという人物について少しでも多くの情報がほしい。
「いえ、私は……」
「私も、知らないわ」
しかし少女たちは難色を示し、竜は黙りを決め込んでいる。
反応を見る限り、彼女たちはアレルという者について何も知らない。
「手間を取らせて申し訳ない」
必要な情報がそこにないと分かるや否や、オルテガは足早にその場を立ち去ろうとしていく。
が、桃色の髪の少女がその足を止める。
「あの、そのアレルっていう人とは……」
繋がる言葉は、上手く言えない。
なんといえば良いのか、最良の形が分からない。
「実を言うと、私にも分かりません」
オルテガは、言葉に悩む少女に正直に打ち明けていく。
「ですが私の心にその名は、鳴り響くようにずっと残っているんです」
アレルという名の存在が、自分の何なのかはまだ思い出せない。
だが、彼の心にはその名が響きわたり続けている。
ここまで心を惑わし、胸をざわつかせるこの名はなんなのか。
考えても、考えても分からないから、知っている人間に出会うしかない。
604世界が私だけを変える ◆CruTUZYrlM :2013/03/17(日) 13:13:41.14 ID:Zz8f1P0d0
「……良い目を、していますね」
立ち去ろうとしていたオルテガを見つめているのは、まっすぐと芯の通った瞳。
魔物に操られている人間が、出せる輝きではない。
現に、自分は今の今まで隙を多く見せてきた。
そこにつけ込んでこない、ということは彼女たちに戦意がないということは本当なのだろう。
「あなた達は……」
「はい、この殺し合いを、打破しようと思っています」
輝きを増し、なおかつ強い意志を込めた瞳で彼女はオルテガを見つめる。
彼女にならば、託してもいいだろう。
ゆっくりと口を開き"情報"を流していく。
「それならば、南の絶望の町に頼りになるお方がいらっしゃいます。
 名をルイーダと言いまして……」
「ルイーダさんに会ったんですか!?」
オルテガがその名を呟くや否や、桃色の髪の毛の少女は驚いた様子でオルテガに近寄っていく。
ゆっくりと頷き、オルテガは肯定の意を示す。
「こうしちゃいられない!!」
それが本当だと知った瞬間、少女は一直線に南に突き抜けていった。
突然の事態に思わず唖然としていたオルテガに、もう一人の少女がため息をつきながら語りかける。
「……ごめんね、あの子どうもああやって突っ走る子みたいだから」
「いえ、元気があるのは良いことです」
苦笑いを浮かべながら、オルテガは少女と談笑していく。
元気が良く、礼儀正しい、活発な少女――――
「では、私は先を急ぎますので……」
「ええ、気をつけて」
記憶に靄がかかり始めたところで、慌てるようにオルテガは本来の進路へと戻る。
もう一人の少女はそれを止めない、いや止めることなど出来やしない。
それは彼の旅であり、彼のするべき事なのだから。

「で、いつまでブータレてんのよ」
先に突っ走っていったアンジェを追いながら、ゼシカは不機嫌な竜王へと問う。
元々不機嫌だったのが、先ほどの男と話しているときにさらに不機嫌になっていた。
彼が黙りを貫いていたのは、そのせいなのかと。
ゼシカは問いかけていく。
「今の男が……似ていたからだ」
そう、マスクの男は"似ていた"のだ。
これ以上無く、あの男に。
「いや、姿形は似ておらんのだがな」
似ていたのは空気、その身から放たれる気配。
まるであの男の祖先とでも、言うようなほど。
とても似ていて、それでいて全く別の気配だった。
男が立ち去っていった方向を見つめ、思わず竜王は言葉をこぼす。
「奴は、何を探しているんじゃろうな」
「さぁ、ね」
何かを探している、それが何なのかは分からない。
だが、きっと彼にとってそれは、とても大事なことなのだろう。
「こんな殺し合いだからこそ、何かを探す人はそう少なくないのかもね」
竜王が長年追い求めてきた、愛という感情のように。
男も、何かを捜し求めているのだろう。
605世界が私だけを変える ◆CruTUZYrlM :2013/03/17(日) 13:14:33.81 ID:Zz8f1P0d0
 


知っている。
この気配は、知っている。
幼少の頃からふれあい、そして最後を看取ったはずの気配を知っている。
目の前に立つ男を、自分は知っている。
「オルテガ……」
いや、忘れるわけがない。
たった一瞬しか出会いがなかった人間だとしても。
幼少期から付き合いのあった人間の父親なんて忘れるわけがない。
「オルテガ……」
もう一度、口の中でその名を転がしていく。
覆面で顔が隠れていても、気配まではごまかせない。
あの時、キングヒドラと対峙していたそれと、全く同じ気配。
「オルテガァァァアアア!!」
三度目の呼び名は、叫びと化した。
同時にリンリンは風となり、奇襲を仕掛けていく。
なりふり構ったものではない、捨て身の一撃。
ズシン、と重い音が淀んだ空に響き、ふわりとオルテガの体が宙を舞う。
口から零れ出す空気の音と共に、オルテガは大きく吹き飛んでいく。
「アレルは、貴方のせいで勇者という宿命を背負わなければいけなかったのよ!!」
もちろん、受け身すらも許さない。
吹き飛んだ先へと瞬時に駆け、リンリン攻撃を加えていく。
振り降ろされた足刀が、オルテガの骨を砕いていく。
「貴方が! 勇者という宿命をアレル一人に押しつけて! 世界を操り、それが正しいかのように演出して!」
オルテガが反撃に振るう剣は、リンリンには届かない。
届いたところで彼女を傷つけるには至らない。
仮に傷ついたところで、痛覚など捨て去っている彼女をひるませることなど出来はしない。
どんな強者の一撃よりも重く、鋭く、傷つく現実に立ち向かっているのだから。
"世界"が存在する限り、彼女は傷つき続けなければいけない。
「なにもかも、なにもかも! アレルが背負わなければいけなかった!
 貴方が作った、勇者という存在の宿命を!!」
世界を作ったのは誰だ、無力な卑しい弱者を生み出したのは、勇者という存在を作り上げたのは誰だ。
それは、たった一人の男だ。
この男が世界を生み出し、アレルを苦しめたのだ。
「……でも皮肉ですわね、貴方がいなければアレルはいなかったのですから」
しかし、この男は世界と同時にアレルも生み出した。
自分がアレルと出会い、アレルと共に過ごすことができたのも、この男のおかげだ。
リンリンは、アレルを生み出してくれた感謝の気持ちを殺しきることはできなかった。
「それでも私は貴方を許さない、貴方だけは絶対に!!」
だが、それはあくまできっかけに過ぎない。
その後のアレルの苦しみを、無責任に生み出していったのは目の前の男なのだから。
世界を作り、存在を作り、アレルを見えない籠に閉じこめたのは、目の前の男なのだから。
だから、リンリンはオルテガを許せない、許すことなど出来はしない。
ゆっくりと立ち上がるオルテガに、リンリンは残った片腕で握り拳を作る。
「君は……アレルを、知っているのか」
息絶え絶えになりながらも、オルテガはリンリンに問いかける。
「当然、彼の事は貴方より知っていると、断言できますわ」
面識は一方通行だった事を思い出し、リンリンはしっかりと回答する。
自分がアレルと出会った頃には、既にオルテガは彼の元を離れていた。
だから、自分の事を知らないのも無理は無い。
606世界が私だけを変える ◆CruTUZYrlM :2013/03/17(日) 13:16:24.65 ID:Zz8f1P0d0
 
「そうか……ならば、教えてくれないか」

続く言葉は、なんとなく予想していた言葉と。

「この記憶を失った男に、アレルという男について」

全く予想していなかった言葉。

「は……?」

思わず零れる、驚愕の声。
記憶を、失った?
このおとこは、いったい、なにをいっているのだ?
忘れた、わすれた、ワスレタ?
知らない、しらない、シラナイ?
それは、許されない。
導かれるようにふくろから一つのものを取り出し、オルテガへと投げて渡す。
「これは……?」
しっかりと受け止めたオルテガの手には、一つの小さな種が握られていた。
「黙ってすり潰して飲みなさい。記憶が無い貴方に、話すことなんて有りませんわ。
 それが飲めないと言うのならば、死になさい」
選択肢は無い、と言わんばかりの威圧感を放ちながら彼女は言う。
この種が毒である可能性は低いだろう。
飲まなければ殺すといっている以上、飲むことで何かが起こるのだから。
オルテガはその種を手ですり潰し、粉末状になったそれを一気に水で流し込んだ。

リンリンが渡したのは、理性を手にする種。
粉々に砕かれた種は、記憶を失った男の体の中に染み渡っていく。
こぼれる苦悶の声、繰返しチラつく閃光と頭に走る激痛。
「ねえ、せめてもう少しあの子が大人になるまで待てないの?」
その一言を皮切りに、走馬灯のようにはっきりとしたものが流れていく。
子供たちの未来のために、勇む心と共に冒険に出た。
魔物と激闘を繰り広げながらも、各地を冒険した。
ふとした切っ掛けで、違う世界へと舞い降りた。
下の世界も魔王の支配下に置かれていたから、その魔王を討伐しようと冒険をしていた。
そして、魔王ゾーマの城で巨竜と戦い――――

「思い出しました?」
種を投げてよこした少女、リンリンの問いかけで現実へと戻ってくる。
はっきりとした意識の中、少女へと返答していく。
「ああ、アレルのことも。私の旅立ちの切っ掛けも、全て思い出した」
強烈な理性は、男の失ったものを蘇らせた。
そして、思い出した全てを語ろうとし。
「私は、あの子の未来のために――」
「未来? 貴方が奪ったのよ」
その口を、リンリンの言葉が塞いでいく。
フラッシュバックする言葉、リンリンの叫び。
未来を作る、世界を救う、そんな大義名分を掲げて旅に出た。
"勇者オルテガ"の"息子"なのだから、"勇者"として生きねばならない。
そんな世界を作ったのは、他の誰でもなく自分だ。
自分が無力だったから、魔王を討伐することが出来なかったから。
彼が歩むはずだった普通の未来は、"勇者"という血塗られた枷に縛られた道になってしまった。
"勇者"さえ、いなければ。
アレルの未来は、変わっていたのだろう。
少なくとも血には塗れていない、普通の自由な未来が。
607世界が私だけを変える ◆CruTUZYrlM :2013/03/17(日) 13:17:05.18 ID:Zz8f1P0d0
言葉が、出ない。
良い未来を作るために旅に出たのに、あろうことがその行為がわが子の未来を奪っていた。
事実として重く圧し掛かるものが、彼の心を縛り付けていく。
「苦しい?」
ゆっくりと崩れ落ちていく自分へ、リンリンが問いかけていく。
「アレルはその何倍も苦しかったのよ」
その片手には、半月状の槍が握られていて。
「ずっと、ずっとずっと、ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと苦しかったのよ」
崩れ落ちていく自分の身体に、槍が突き刺さる。
「苦しみなさい、苦しんで苦しんで苦しみぬいて苦しみなさい」
もう、抵抗する気力など残っているわけも無い。
「そして――――」
突き刺さった槍を伝い、液状の何かが身体に流れ込んでくる。
「――――死になさい」



投げ捨てられる小瓶。
立ち去っていく少女。
もがきながらも抵抗することをしない男。
少女の闇は晴れることは無く。
男の苦しみは永遠のように続く。

報い? 罰? これはそんなものではない。



ああ、世界はこの上なく我侭に操っていく。

ヒトを、ココロを、ボクラのツゴウなんてシラズに。



【オルテガ@DQ3 死亡】
【残り33人】
608世界が私だけを変える ◆CruTUZYrlM :2013/03/17(日) 13:17:57.18 ID:Zz8f1P0d0
 
【E-3/平原/夕方】
【リンリン@DQ3女武闘家】
[状態]:ダメージ(中)、腹部に打撲(小)、軽度の火傷、左腕喪失
[装備]:星降る腕輪@DQ3
[道具]:場所替えの杖[8]、引き寄せの杖[9]、飛び付きの杖[9]、ふしぎなタンバリン@DQ8
     銀の竪琴、笛(効果不明)、ヤリの秘伝書@DQ9、釣り糸(テグス)@現実、支給品一式×7
[思考]:全員殺す 世界を壊す たとえ夢であろうと
[備考]:性格はおじょうさま

【F-3/湖のほとり/夕方】
【アンジェ(女主人公)@DQ9】
[状態]:HP5/10、MP9/10、背中に擦り傷、全身打撲
[装備]:メタルキングの盾@DQ6、オリハルコンの棒@DQS
[道具]:ハッピークラッカーセット@DQ9(残り4個) 使用済みのハッピークラッカー 支給品一式
[思考]:絶望の町へダッシュ、ルイーダと合流 困っている人々を助ける
     サンディの死を悲しむのはデスタムーアを倒して全て終わらせた後
[備考]:職業はパラディン。職歴、スキルに関しては後続の書き手にお任せします。

【ゼシカ@DQ8】
[状態]:健康
[装備]:さざなみの杖@DQ7
[道具]:草・粉セット(※上薬草・毒蛾の粉・火炎草・惑わし草は確定しています。残りの内容と容量は後続の書き手にお任せします。
※上やくそう1/2(残り1つ)
基本支給品
[思考]:絶望の町に向かう 仲間を探す過程でドルマゲスを倒す 最終的には首輪を外し世界を脱出する。

【竜王@DQ1】
[状態]:HP3/10、MP8/10、竜化により疲労(大)
[装備]:なし
[道具]:天空の剣@DQ4、キメラの翼@DQ3×5、基本支給品
[思考]:絶望の町に向かう ゼシカと同行する 最終的にはデスタムーアを倒して世界を脱する

※オルテガの死体にグラコスの槍@DQ6が突き刺さっています
 他に稲妻の剣@DQ3、あらくれマスク@DQ9、ビロードマント@DQ8、むてきのズボン@DQ9を装備しています。

****
以上で投下終了です。
感想、指摘などお気軽にお願いします。
609名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/17(日) 16:28:33.32 ID:fwavBRP4O
全てを知った先にあるのは救いようのない世界、それを象徴するようなオルテガの死
急転直下の絶望っぷりに抉られました。投下乙です
610名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/17(日) 19:26:00.51 ID:9C11uNXZ0
投下乙です。
勇者という存在全てを嫌悪しそうな勢いなリンリンに震えが止まりません。
数少ない一本気な人物らしいオルテガ、惜しまれますね。さぞ無念そうに散りました。
いよいよもって風雲急を告げるといった感じです。
611名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/17(日) 20:29:45.01 ID:xh3NBIOQO
投下乙です。

確かに、オルテガが魔王を倒せてれば、アレルが勇者を押し付けられずに普通の男として人生を終えるわけだから、「ロトの血族は勇者」という都市伝説も生まれなかったかもしれないんだな。
612名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/20(水) 22:41:23.62 ID:c6c5PtdQ0
リンリン絶好調。
オルテガが割とあっさり脱落したけど、この無常感もバトロワの醍醐味といったところですね
乙でした!
613 ◆1WfF0JiNew :2013/03/23(土) 22:54:42.35 ID:dnqOrlD20
できたので投下します。
614 ◆1WfF0JiNew :2013/03/23(土) 22:56:16.93 ID:dnqOrlD20
戦闘が終わった後の町並みは静かだ。
息もつかせぬような激しい剣戟が繰り出され。
極大に高められた爆発が音をかき鳴らし、眩い光を発していたのが信じられないぐらいである。
親友の安らかな声も、魔王の高らかな笑い声も、仲間の気遣う声も。
全ては終わったこととして過去に葬り去られる。

(寂しいものだね。ついさっきまで命のやり取りをしていた場所が、静かだ)

バラモスが放ったイオナズンによって半壊している家の先にはもょもとが。
点々と垂れ落ちている血の道の先にはデュランが。
そして、自分の足元にはアイラが。
全員が確かな意志を掴みとって、闘っていた、生きていたのだ。
そして、死んでいった。今となっては、二度と動くことのない肉塊である。
どれだけ呼びかけても、返事は返ってこない。

(……全く、変わったものだよ。こんなこと、前の僕なら欠片も思わなかっただろうに)

センチメンタルな感傷も程々にして、カインは死んだ三人が持っていた支給品を淡々と回収していく。
さすがにアイラが着ている光のドレスは脱がすことを躊躇ったので、やめておいた。
放置するよりは自分で持っていた方が、何かの役に立つかもしれない。
加えて、殺し合いにのった輩にでも取られたらそれはそれで癪だ。
自分が殺したもの、自分をかばったもの。
もう一度向き合うというのは、カインにとって辛いと感じることだけれども。

(僕がやらなくちゃいけない。最後まで生き残った、僕が、僕だけがやれる役目だ)

それが、彼らに対して、自分ができる最後の餞だ。
彼らの最後を知っている者として、これは誰にも譲れない。
彼らがこの地でどのように果てたか、それを知っているのはカインだけなのだ。
615 ◆1WfF0JiNew :2013/03/23(土) 22:57:57.68 ID:dnqOrlD20
「さってと、そろそろ放送が流れそうだし。いい加減、やらないとね」

そうして、カインは三人の遺体を民家へと運び入れた。
もょもととアイラに関しては当然として、デュランの死体も運んだのは自分でもよくわからない。
ただ、彼はいつだって正面から襲いかかってきた。
真っ直ぐに自分と相対してくれた。
敵ながらも、カインの芯を見ていてくれた気がするのだ。

(敵にまで感傷なんて柄じゃないけどね。僕が変われた要因の一つだ、地獄で見ていなよ。
 答えを突き出してやるからさ)

そのようなことも考え、戦場で遺体を放置するのは仕方が無いと知っていても。
野ざらしにしておくのはどうしても許せなかった。
丁寧に寝かせ、そっと両手をあわす。
この行動がただの自己満足によるものだと理解していても、やらずにはいられなかった。

(そういえば、アイツ……手紙を書いたって)

そして、支給品も回収し、遺体も安置した後、さらっと流されていたことについてふと思い出す。
アイラが持っていた手紙。
それはもょもとが隠れて書いたというやつだ。
デュランと戦う前に戦闘準備をすると言っておいて、部屋に篭っていたが、手紙を書いていたとは。
戦闘で疲れた身体を休める間、読んでしまおうかと、カインの中に僅かながら好奇心が生まれる。

(こういうのってプライベートの侵害ってやつ? ま、死人にプライベートなんて、ないか。
 僕達は死んだら終わりなんだ、死人に感情なんてない)

そう言っておきながらも、なかなか手が進まないのはきっと自分が割り切れていない証拠なのだろう。
考えれば考える程、どっちつかずの感情が嫌になってくる。
変わろうと決めたとはいえ、やっぱり自分はまだ半端者だ。
616 ◆1WfF0JiNew :2013/03/23(土) 22:59:40.15 ID:dnqOrlD20
(ああもうっ! うだうだしている時間がもったいない!
 気になっているんだから読めばいいだろう、読めば!)

半ば、やけくそにカインは手紙を手に取り、上から目を通す。
静寂。
無音の空間で、もょもとが残した最後の言葉にカインは浸る。

『アイラへ。手紙を書くという行為は初めてだから、至らないことがあるかもしれない。
 でも、書かなくちゃいけないと思ったから。身体の痛みが落ち着いたら読んで欲しい。
 それと、この手紙は。カインにだけは見せないでくれると嬉しい』
(はぁ!? 僕にだけ見せないって何さ。旅の恨み事でも書いてる訳?)

確かに、自分はあの旅の中では纏め役として色々とキツイことも言った気がする。
否、言わなければいけなかった。

閑話休題。
もょもとに財布を渡せば、ゴールドは全部食い物か武器に消える。怒ったら、お腹へったからの一言だけしか言わない。
あきなに財布を渡せば、いつの間にかに落としている。彼女の場合は、逆に鬱陶しいぐらいに謝ってくる。
どうしても外せない用事があって、彼ら二人に買い物を任せた時は悲惨だった。
宿屋で二人を正座させて説教二時間コースは今思い出しても疲れていたとした言い様がない。

語りだすときりがないので、これ以上は口を閉じるが、波瀾万丈の旅であった。
カインの胃がボロボロになったとだけは察する事ができるだろう。
617 ◆1WfF0JiNew :2013/03/23(土) 23:01:04.13 ID:dnqOrlD20
(もう、そんなやり取りも出来ないって考えると……悲しくなるね。
 二人共、思い出の中でしか生きれないんだ)

どうとも思っていなかった旅の記憶も、今振り返ると微かではあるが、楽しかったのかもしれない。
そんな、懐かしさが生まれたカインを――。

『アイラがこの手紙を読んでいる頃には、おれは死んでいると思う』

――思いもしない言葉が襲った。



#########



「……カイン」

「うん? 歯切れが悪いけど何かやらかした? ツボ割っちゃったとか?」

「違う。ここに来てからは割っていないし、タンスも壊していない」

「別に誰もいないんだし、怒らないよ。だから正座しなくていいってば。
 それよりも、何か言いたいことがあって呼んだんじゃないの?」

「言いたいことは特にない。ただ、確認したかっただけだ」

「ますます意味がわからないんだけど。それに、何を確認するのさ?」

「おれが――ここにいる証を。横に並んでくれる“仲間”がいることを」

「……ったく、そういう恥ずかしいこと真顔で言うなよ」

「??」

「そんなきょとんとするなよ。あーもういいよ。行こう行こう」

「ああ」

「それよりも――――」
618名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/23(土) 23:03:02.50 ID:m+H+UsHS0
 
619 ◆1WfF0JiNew :2013/03/23(土) 23:05:09.15 ID:dnqOrlD20
#########



『おれは死ぬことなんて怖くなかった。戦って、敵を倒すことしか考えなかった。
 でも、今は怖い。カインが死ぬことも、おれが死ぬことも怖い』

それは、カインからすると考えがつかなかった言葉だった。
もょもとは自分に対して、そのようなこと一言も漏らさなかった。
ただ、いつも通りの無表情で闘いに向かっている。
そう、思っていた。

『これから戦う相手は、ハーゴンと同格、それ以上かもしれない。今まで戦ってきた中でも、強い。
 勘ではあるが、おれは生きて帰ってこれる自信がない』

それなのに、ここに書かれていることは何だ?
彼は、怖いとも言わず、身体を震わそうともせず――前を向いていた。
デュランに対して勇猛果敢に闘っていたではないか。
無表情で戦闘に挑んでいる姿の裏にそんな事実があるなんて知らなかった。
否、知ることができなかった。

『それでも、カインには生き残って欲しい。
 壊すことしかできないおれだけど、護りたい』

その文章からは、死に際でしか見られなかったもょもとの感情、破壊の申し子ではない、彼自身の本当が見えた気がした。
たどたどしく、呟いた友達という言葉が脳裏に再び浮かび上がる。

『おれは死ぬかもしれないけれど。真実よりも、友達を護りたい。
 カインに言ったら怒られそうだから、アイラにだけは伝えておく』
「……は、ははっ……」

くつくつと、くつくつと。笑いたくもないのに乾いた笑い声が口から漏れだした。
悲しいからなのか、それとも喜びからなのか。
どちらとも言えない感情が胸を強く締め付ける。
620名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/23(土) 23:06:30.43 ID:m+H+UsHS0
 
621 ◆1WfF0JiNew :2013/03/23(土) 23:08:28.78 ID:dnqOrlD20
『カインに手を差し伸べられて嬉しかったから、おれは後悔なんてしない。
 今のカインなら、迷いなく、俺の命を預けられる』
「ふざけるなっ!!!!」

限界だった。そう気づく前に叫び声を出していた。
そのままの勢いで、手紙を強く握り締める。
力をこめすぎたのか、手紙がくしゃくしゃになってしまうが、今のカインにそんなことを気づかせる余裕などない。

「身勝手なんだよ、勝手に護って、勝手に逝って!」
『だから、頼む。アイラ。おれが死んだら、カインを助けてくれ。
 一人は、寂しい。今のおれならわかる。寂しいし苦しいんだ』
「残された僕の気持ちを考えろよ! 僕の命? 僕は言っただろ!! 自分のことをちゃんと考えておけって!!
 そのせいで一人ぼっちだっ! ははっ、笑えよ。一人になったのは僕の方だったよ」

何度も、何度も。もう動かないもょもとの身体を強く揺さぶった。
もう起きない、目を覚まさない、手を握り返してくれることもない抜け殻だとわかっていても。
認めたくなかった。諦めたくなかった。

『カインには妹もいる。アイラもいる。だから、大丈夫だ』
「ああ、確かに真実を掴むのも大事だよ! だけど、お前が死んでしまったら……意味が無いだろう……っ!!!」

自分の拙い頭は理解しているにもかかわらずザオリクを唱えてしまった自分が、何よりも認めたくなかった。
こんなにも、諦めが悪いとは思っていなかった。
期待はずれと罵られ、誰からも認められず、諦めの速さだけは人一倍だと自称できるのに。

『カインと会う前に会った人達なら、きっと助けになってくれる。特にロッシュという人なら、おれの名前を出せばわかってくれるはずだ。
 それと、最後に一つ。馬鹿にされるかもしれないけど、書かなくちゃいけないって思ったんだ』
「ふざけんなよ、こんな手紙書くぐらいなら、直接言えよ! 知ってるか、もょもと。
 人間は心の中を読む魔法は使えないんだ! 言わなきゃ、わかんないんだよ!!!」
622 ◆1WfF0JiNew :2013/03/23(土) 23:10:05.24 ID:dnqOrlD20
どれだけ声を大にして、喚いても。もょもとは目を覚まさない。
破壊の申し子と呼ばれた彼でも、死ねば終わりなのだ。
本来なら彼が座るべき立場を、自分は譲られたに過ぎない。
どこまでも、カインを襲うのはこんなはずじゃないリアル。
今すぐにでも、逃げたいとさえ思ってしまう。

「こんなはずじゃないって夢にでも縋って諦めたいけど! それでも、僕は――――っ!」



『カイン、アイラ。おれは、お前達の仲間に、友達になれただろうか?』



――――仲間が、友達が、繋いでくれた明日をなかったことにできない。



「くそっ、くそっ……! くそォッッッ!!!!!!」

ここで、自分が膝を屈して夢に溺れることは簡単だ。
近くに立てかけてあるロトの剣で首を掻っ切れば、すぐに夢の海へと浸れるのだ。
だけど、それだけは許さない。許してなるものか。
歯を食いしばってでも、彼らが生きた証を打ち立てる。
歪んでしまった世界の真実を突き止めて、百点満点の笑顔ができるようになる。
それらを達成するまでは、死ねない。
623名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/23(土) 23:11:15.76 ID:m+H+UsHS0
 
624 ◆1WfF0JiNew :2013/03/23(土) 23:12:02.97 ID:dnqOrlD20
「前を、向くって、決めたんだよ……運命なんて、真実なんて!
 全部、ひっくるめて背負って前に進むって! 戻る理由なんてないんだからな!」

いつか、自分が死ぬ時、胸を張って生きたよって自慢する為に。
冷淡で残酷な真実に立ち向かう勇気をくれたもょもと達の意志を、受け継ぐ。
彼らが受け継ぐことを望んでいるんじゃない、カイン自身が望んでいる。

「僕をここまで押し上げてくれたあいつらの分まで、生きる」

誰かに流されないで、自分の意志で決める。
初めてできた仲間に、誓ったから。
1パーセントの望みを胸に抱き、カインは進む。

「もょもと。アイラ。ありがとう。行くよ、僕」

まだ、彼らの死を泣かない自信はゼロパーセント。
変わったとは言っても、長年の人格形成は簡単には崩れない。
これから先、幾つもの辛い事が待っていることだろう。

「…………さよなら」

このまま、悲しみにずっと浸っていたい気持ちを引き締めて。
最後にカインは、不恰好な笑顔を彼らに見せる。
サマルトリア王子カインとしてではなく、カインという一人の少年が心から作ろうと思った、笑顔。

「行ってきます」



【E-8/欲望の町/夕方】

【カイン(サマルトリアの王子)@DQ2】
[状態]:HP4/10 脇腹打撲 肋骨が折れる、内蔵微損傷
[装備]:プラチナソード、ロトの剣
[道具]:支給品一式×4、 不明支給品×0〜2(本人確認済み 回復道具ではない)、モスバーグ M500(2/8 予備弾4発)
    オーガシールド@DQ6、満月のリング@DQ9、世界樹の雫@DQ6、エルフの飲み薬@DQ5、デュランの剣@DQ6、もょもとの手紙
[思考]:妹を捜す。自分を貫く。泣かない。
625 ◆1WfF0JiNew :2013/03/23(土) 23:13:11.02 ID:dnqOrlD20
投下終了です。
タイトルは「終わってしまった旅路にさよならを」です。
626名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/23(土) 23:51:40.24 ID:m+H+UsHS0
投下乙です。
ああ。カインは新しく生まれ変わったんだなと感じました。
新しい旅立ちで、でもこんなにも一人きりで辛くて寂しい。
もうお調子者ではないカイン。心から笑顔を作ろうと思ったという部分が胸にきます。
627名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/24(日) 12:17:49.36 ID:aLU1Djn/0
投下乙です!
この手紙を読んだアイラがカインを助けに来てたんだって考えるとね……
前話と併せて読むと、色々と噛み合うところがあって、それでいて繋がっていて。
カインが人の思いを背負えるかっこいいやつになっていくなぁ。
628名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/24(日) 19:42:43.37 ID:8LpWjqN6O
投下乙です。

押し付けられた運命も、辛く苦しい現実も背負って、それでも前に進みたい。
629名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/27(水) 14:18:28.74 ID:v5Y1j7no0
630嘘吐きと妹 ◆CruTUZYrlM :2013/03/28(木) 20:54:00.58 ID:jkKzFHpc0
ロッシュの元から離れ、西の方へ進む影の騎士の視界に、二人の人影が現れる。
一人は肌の露出の多い踊り子の女、そしてもう一人は長く青い髪と清楚なドレスが特徴的の女。
頭に叩き込んだ名簿と名前を照らしあわせると、面白いことが分かる。
片方の女の名は、フローラ。
地獄耳の力で欲望の町でのレックス達の会話を聞いていたから、おおよその人となりについては把握している。
「これは、チャンスだねェ」
そう、ロッシュ達という隠れ蓑を失った今、彼を守るモノは何もない。
この場の人間に真っ正面から戦って勝てるわけがないと分かっているから、彼には隠れ蓑が必要なのだ。
「頃合い、か」
すでに地獄耳の力は失われはじめ、千里眼による遠く広い視野も霞み始めている。
優位に行動するには、そろそろ厳しくなってくる時間だ。
だから、この力がある内に新たな隠れ蓑を探さなくてはいけない。
そのとき、丁度変化の杖による変身が途切れ、いつもの骸骨の姿が現れた。
普段なら魔物の姿では、いろいろと都合がつかない。
だが、今このタイミングで変身が切れるのは、彼にとってとても好都合だ。
「カミサマが味方してくれてるのかねェ」
自分のツキが来ていることを確認するように、くくくと笑う。
まあ、神など死んでしまえばいいとは思っているが。
その時耳に入ってきた音で女達の会話が終わったことを確認した。
己が手にした情報と手札をうまく使い、今後を優位に進めていくために。
まずは一つ、動き始めていく。



「ま、そこまで甘くはないか……」
骨付き肉をかじる狼をよそに、ロッシュは袋の中身を確かめ、小さくため息をつく。
中に入っていたのは袋詰めの灰と、何も掛かれていない白紙の巻物。
ロッシュの傷を癒してくれそうな物は、何一つとして入っていなかった。
白紙の巻物の方は、何かを書き込めばその通りの力を持つ不思議な巻物であることは分かったのだが、何を化既婚でよいかが分からない。
手元にあるのはパンの巻物だけ、さすがにこの状況でパンを増やしても仕方がない。
白紙の巻物は使わずに取っておくことにして、巻物の使い方を把握しておかなければいけない。
いざというとき、この白紙の巻物が何かの役に立つかも知れないからだ。
パンの巻物を使って、巻物の読み解き方などを少しずつ理解していく。
「なるほど、ね」
読むことで現れた大きな魔力の塊を、狼が投げ捨てた骨へとぶつけていく。
瞬間、骨が光に包まれて大きなパンに姿を変えてしまった。
こう言った類の巻物もある、ということらしい。
「今は空腹より、傷を癒したいんだけどねぇ」
苦笑いを浮かべながら、再び瞑想へと入る。
今は傷を治すのが先決、それをしないことには何も始まりはしない。
辺りを警戒できるギリギリの意識を保ちながら、体の細胞を瞑想へと傾けていく。
深く息を吸い込み、体の組織細胞を活発化させ、少しでも早く傷が塞がるように。
……本来ならこの程度の傷、すぐに治るのだが。
この世界独特の気の循環の悪さ、そして隙を見せれば死んでしまうかも知れない状況では、進む治療も進まなかった。
「……しかし、よく食べるね」
ロッシュはちらと横を見、骨がパンに変わるや否や食らいつくように飛びかかった狼を眺めていた。
ただ、パンを食べているだけの姿が、とても自由気ままに見えて。
それが今のロッシュにはたまらなく羨ましかった。
631嘘吐きと妹 ◆CruTUZYrlM :2013/03/28(木) 20:54:31.22 ID:jkKzFHpc0
そのとき、もう一つの気配を感じ取る。
先ほど去っていった魔物とはまた違う、人間の気配。
狼もそれを感じ取ったのか、食事を中断し気配のする方を眺め低く唸っている。
ロッシュも瞑想に回していた気配を多めに警戒に回し、次の事態へと備えていく。
「待って待って、こっちに敵対の意志はないわ」
そういいながら現れた女性は、自分の足下に一本の棒を投げ捨てる。
カランコロンと小気味の良い音を立てながら、ひのきの棒が転がっていく。
「これしか持ってない、って言って信じてもらえればいいんだけど」
なんとも申し訳なさそうな表情で、現れた奇抜な格好の女性は頭を掻く。
一刻一秒たりとも警戒を怠らないロッシュの身にも、彼女が危険な人物ではないということは分かる。
「オーケイオーケイ、僕もさ。寝ころびながらで申し訳ないけど、ちょっと僕が立ち上がって話せる状況じゃないんでね。
 僕はロッシュ、君は?」
わざとおどけながら、それでも心の底に警戒心を抱きながらロッシュは話を進めていく。
ミレーユを装い自分へと近づく魔物がいた、ということをまだ引きずっているのか。
混じりけのない純粋な感情の持ち主を相手にしても、疑う心の晴れない自分に少し嫌気がさす。
「私はマーニャっていうの、よろしくね」
さらっと髪を流しながら自己紹介をする彼女の肌には、無数の生傷と火傷の痕がある。
戦地をくぐり抜けてきたのか、それとも――――?
「それで? 聞きたいことがあるみたいだけど」
思いを含みながら、ロッシュは淡々とマーニャへと問いかける。
「察しがよくって助かるわ、私と同じくらいの背丈、髪の長さ、髪の色で、ドレスを着た女の子……ミネアっていう女の子を捜してるんだけど」
「……悪いね。僕は会ってない、かな」
どうやら目的は人探しのようだ。
生憎と探し人は見ていないし、名前も聞いていない。
つまり、彼女にとって自分はハズレだということだ。
「そう……」
少しだけ、ロッシュが警戒心を強めたのと同時に、マーニャは悲しそうな目で小さく返事をした。
「……東へ行くのかい?」
次の問いかけは、彼女の進路。
探し人がいないと分かった以上、彼女がここに留まる理由はない。
地図の都合上、ここから向かう先は一つしかない。
分かりきった答えを、ロッシュは問う。
「ええ」
「僕は東から来た人間さ、欲望の町には君の言うような人はいなかったよ」
分かりきった答えに、ロッシュはさらなる真実を突きつける。
探し人は東にはいない、少なくとも先ほどまで町にいた自分は見ていない、ということを。
「そうね……でも、自分で確かめなきゃ気が済まないのよ」
それでも、彼女は折れる人間ではなかった。
伝聞よりも、己の目で確かめなければ気が済まないのだ。
それが結果として無駄な労力に結びつこうとも、自分の気が済まない。
なによりも。
「たった一人の、妹だから、ね」
探しているのは、たった一人の肉親なのだから。
632嘘吐きと妹 ◆CruTUZYrlM :2013/03/28(木) 20:55:06.57 ID:jkKzFHpc0
「妹……」
マーニャが放った一言に、ロッシュは若干の動揺を見せる。
マーニャは、妹を捜す姉だということか。
妹、妹、その単語はロッシュの頭を強く揺さぶっていく。
長い長い夢で見続けていた、妹の存在。
"本当"は、妹でも何でもなくって。
妹であればいいな、なんて思っていた"本当"の"僕"が願っていた夢で。
それでも"夢"の"僕"にとっては、妹で。
そこまで考えてから、頭とともに考えを振り払う。
あのときに吹っ切れた、吹っ切ったはずの考えを。
それでも、もしこの場に彼女がいたら。
"僕"はどうするのか……?
「東の絶望の町に行くなら、気をつけた方がいい」
ロッシュは老婆心か、町へと向かおうとするマーニャに一つの警告をしていく。
「僕をここまでボコボコにした、目に映る者に片っ端から喧嘩を売る戦闘魔人がいるからね。
 僕と戦ってたんだけど、空気読めない魔物に邪魔されちゃって、それでキレてデュランはそいつをシバきに東に行っちゃったんだよね……」
眺める方角は東、思い返すは魔人の姿。
彼女が東へ向かうというのならば、奴との接触は避けられないだろう。
見るからに体力も魔力も消耗しているような彼女が奴と戦えば、結果がどうなるかなんて考えなくとも分かる。
ああ、あの時にしっかり倒していれば――――
「うえっ?」
後悔と自責の念に一人駆られていると、突然体がふわりと浮いた。
「わわわっ、ちょっちょっ!」
「暴れないでよ、ズリ落ちるじゃない?」
マーニャが、自分の体をがっしりと持ち上げている。
そしてそのまま、傷だらけのロッシュの体を、最後の支給品であったリヤカーの荷台へと乗せていく。
優男風に見えるとはいえ、ロッシュは大の大人だ。
リヤカー越しとはいえ、それを運ぶのは労力がいる。
慌ててロッシュは降りようとする、が。
「黙って座ってなさい」
降りようとするロッシュを、マーニャが一声でぴしゃりと止めていく。
「第一、動けないけど町に行きたいよーってな目で見られたら、ほっとけないってーの」
そう、後悔と自責の念に駆られている間、ロッシュは無意識のうちにそんな表情をしていた。
何か物言いたげな表情を見抜くのは、慣れている。
だからこそ、見慣れた表情を放っておくことなど出来なかった。
「ちょっと揺れるけど、町に着くまでに傷を癒してなさい」
女性に負担をかける、ということに少し抵抗はあったものの、両足を負傷している以上何も言い返せない。
一人で傷を癒すより遙かに安全であるし、向かおうと思っていた東に向かうことも出来る。
多少の心苦しさをのぞけば、最高の環境だ。
「……こんな風に運ばれるのは、赤ん坊の時以来かな。
 ママー、ミルクがほしいよー」
「毒沼に放り込むわよ」
「ははっ、ごめんごめん」
軽口を飛ばし合いながらもロッシュは再び瞑想に入り、マーニャはリヤカーを押しながら欲望の町を目指す。
ロッシュに懐き始めていた狼が、リヤカーの隣につきながら。
二人と一匹は、歩き続けていた。
633嘘吐きと妹 ◆CruTUZYrlM :2013/03/28(木) 20:55:43.90 ID:jkKzFHpc0
 


足を、止める。
西へと歩く彼女を止めたのは、一つの気配。
ふと振り返れば、一匹の魔物がこちらに走り寄ってくる。
瞬時に体に力を入れ、警戒心を強めていく。
「あっ、まま、待ってください!」
フローラが戦闘態勢に入ったのを見たとたん、魔物は子供のように怯えだした。
「このナリで言うのもなんですが、私に戦意はありません」
カタカタと骨を動かして、魔物は喋っていく。
だがフローラは警戒を解かず、じっと魔物を見つめている。
「……あ!!」
だが、そんなフローラをよそに、魔物は突然素っ頓狂な声を上げてしまう。
何とも間の抜けた声に、フローラは思わず肩を震わせて驚いてしまう。
「レックス君のお母さん!」
そして続いた言葉にも、驚きを隠せなかった。
警戒も何もかもをかなぐり捨て、フローラは魔物へとにじり寄っていく。
「息子に会ったんですか!?」
「わ、ちょっ、わわわ」
肩をつかみ、魔物の体を前後に揺らしながら、ほぼ一方的に問いつめていく。
さすがの魔物もこれは予想できていなかったらしく、慌てふためいてしまう。
「あっ……すみません、はしたない所を……」
「いえ、仕方がないです。私も、放送で一方的に事実を突きつけられた者ですから」
はっと我に返り、頬を染めながら謝罪するフローラを、魔物は笑いながら返答をする。
まあ、表面が骸骨の魔物が実際に笑っているかどうかはわからないのだが。
きっと顔があれば笑っているのだろうと、声で察することが出来る。
「息子とは、一体どこで……」
そんなやりとりの後、フローラは本題へと切り込んでいく。
この魔物が、いったいどこでレックスと出会ったのか。
「……順を追って話しましょうか」
魔物の声のトーンが少し落ちるのが分かる。
無理もない、今から母親に「息子が死ぬまでの顛末」を語らなければいけないのだから。
無理強いをさせているようで、フローラは少し気まずくなる。
が、そんなフローラの気持ちを察したのか、魔物は重く閉ざした口を開き始めた。



「と、私とレックス君が行動を共にしていたのは、最初だけです……。
 私が武器を振るう勇気を持っていれば、変わっていたかもしれませんが……」
魔物の悲しい声で、長い話が終わりを告げる。
レックスとは初めの地にて出会った事。
レックスは自分の姿に恐れることなく、優しく接してくれた事。
名を持たぬ一介の魔物でしかなかった自分に、"シャナ"という名前をくれたことを。
共に行動していた先にたどりついた欲望の町で、デュランという魔人に襲撃されたこと。
足が竦み、立ち向かおうとすらしない弱い自分をレックスが庇ってくれた上に使えない武器まで譲ってくれたこと。
全て、洗いざらい話した。
「"だって、僕は勇者だから"」
魔物から聞いた、息子の言葉をフローラは呟く。
ああ、そんな重い言葉をあの子には背負わせていたのか。
人を守り、世界を守るという重い重い血の宿命を。
あんな小さな体に、背負わせていたというのか。
一番守らなければいけない、自分を投げ出すほどに。
あの子は、"勇者"であることを重く受け止めていたのか。
だったら、そんな彼を守ってやらねばいけないのは、自分たち親だというのに。
無力感から来る怒りに、フローラは涙と共に強く拳を握りしめる。
634嘘吐きと妹 ◆CruTUZYrlM :2013/03/28(木) 20:56:32.78 ID:jkKzFHpc0
「あの子は、立派に生きていたのですね」
あの子は優しいから、弱い者を助ける優しい子だから。
魔物と心通わすことが出来なくとも、魔物と触れ合う優しい子だったから。
突きつけられた宿命に愚痴の一つもこぼさずに、立ち向かっていったのだろう。
だったら――――自分もこんな弱音を吐いている場合ではない。
頬を軽くたたき、息子の話をしてくれた魔物、シャナの方へと向き直る。
「私は、これから西へ向かいます」
そう、まだ彼女には守るべき家族がいる。
立ち止まっている時間は、ない。
「その間、聞いてくれませんか? 私の息子……レックスの話を」
だが、過去を振り返ることは出来る。
自分自身と、そして息子に出会った彼に息子のことをより強く覚えてもらうために。
フローラはその口を開いていく。
「はい、もちろんです」
ゆっくりと骸骨が縦に動き、フローラの隣をついて歩き始めた。



――――まっ、チョロいもんよな。
欲望の町で集めたレックスについての情報、そして今し方手に入れたフローラの情報。
その二つを組み合わせ、レックスという人物像から読みとれる"美談"を組み立て、フローラへと語っていく。
もちろん、その中身はほとんどが嘘。
初めに出会ったのがレックスということ、付けられた名前、デュランから彼が庇ってくれたこと。
それらは全て真っ赤な嘘だ。
だが、デュランに襲われた事やら、ほんの一部には真実を交えている。
純粋な嘘に真実を混ぜることで、より見抜きにくくしていく。
ロッシュとシンシアについては触れない事にした、後々
面倒なことになるかも知れないからだ。
そして何よりも助けになったのは、フローラという人物が"魔物"に理解があることだった。
人間に対して友好的に接してくる魔物についての理解は、おそらくこの地で屈指だろう。
その下地に"それらしい美談"を流し込めば、フローラという人物に入り込むことなど容易だ。
いつぞやの隠密活動に通ずる動きが、こんなところで役に立つとは思っていなかったが。
それはともかく、一時的な隠れ蓑を得ることは出来た。
彼女自身はそこまで戦闘に長けているわけではないから、より強い力を持つ者の元へ潜り込んでいく必要がある。
だが、人間は人間の言うことを信頼しやすい。
身なりが魔物である自分のことも、フローラを介せば信頼してもらえやすい。
そうして、強者の集団に紛れ込むことができれば大成功だ。
何より、信頼を得ているうちは、いつでも手のひらを返すことができる。
彼女が使えないと判断できれば、いつだって切り捨てることはできる。
まあ、それは今後の流れ次第だが。
"レックスの仲間である魔物、シャナ"という仮面を使って、せいぜい役に立ってもらうことにしよう。
ああ、生来の魔物の姿で今はよかったと思う。
この状況がおかしくておかしくて。
人間に化けていたなら、思わず笑ってしまっているから。
無表情のままで居られる"魔物"の姿に、今は少しだけ感謝することにしよう。

しばらくして、小さな子供の斬死体が目の前に現れる。

さぁ、また仮面をつけよう。

心優しい少年に救われたか弱い魔物、「シャナ」という仮面を。
635嘘吐きと妹 ◆CruTUZYrlM :2013/03/28(木) 20:57:05.38 ID:jkKzFHpc0
【F-8/北部/夕方】
【ロッシュ@DQ6】
[状態]:瞑想中 HP4/10(回復中)、MP微消費、打撲(回復中)、片足・肋骨骨折(回復中)
[装備]:はじゃのつるぎ@DQ6
[道具]:支給品一式 、白紙の巻物@トルネコ、聖者の灰@DQ9、
[思考]:デュランとバラモスを止める 前へ進む マーニャと共に欲望の町へ

【マーニャ@DQ4】
[状態]:HP3/8 MP1/4
[装備]:なし
[道具]:リヤカー@現実、基本支給品一式
[思考]:ゲームには乗らないが、向かってくる相手には容赦しない。
     フローラと情報交換。一刻も早くミネアと合流するため、東へ。

【ガボの狼@DQ7】
[状態]:おなかいっぱい
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:ガぅ(ごはんくれたからロッシュに従う)

【E-7/中央部/夕方】
【フローラ@DQ5】
[状態]:全身に打ち身(小) 2/3
[装備]:メガザルの腕輪
[道具]:支給品一式*3、ようせいの杖@DQ9、白のブーケ@DQ9、魔神のかなづち@DQ5、王者のマント@DQ5
     不明支給品(フローラ:確認済み1、デボラ:武器ではない物1)
[思考]:リュカと家族を守る。ローラを助け、思いに答えるためにアレフを探す。
     マーニャと情報交換。

【影の騎士@DQ1】
[状態]:千里眼、地獄耳、右腕負傷
[装備]:メタルキングの槍@DQ8
[道具]:基本支給品一式、変化の杖@DQ3、ゾンビキラー@DQ6
     不明支給品(0〜3)
[思考]:闇と人の中に潜み続けて、戦わずして勝ち残る。
     争いを加速させるためあらゆる手段で扇動する。
[備考]:千里眼の巻物により遠くの物が見え、地獄耳の巻物により人の存在を感知できるようになりました。
     範囲としては1エリアほどで、第二放送ごろには切れそうです
     「シャナ」という偽名を名乗っています。



以上で投下終了です。
636名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/29(金) 00:49:56.99 ID:hhU9QQgUO
妹を探してると聞いて胸がざわつくロッシュにこっちもざわっときた。
なんとなく、ロッシュの心のうちが見えてくると、話も核心に迫ってきそうな気がする。
マーニャとロッシュはお互いパリッとしてていいコンビだ。
影騎士はまた新たな展開を切り開いていきそうで楽しみ。
投下乙です。
637 ◆CruTUZYrlM :2013/03/30(土) 02:47:57.47 ID:H/IzJpI40
すいません、リヤカーじゃなくって猫車っすね……申し訳ない
638 ◆CruTUZYrlM :2013/04/02(火) 00:00:02.25 ID:0ggKyrk+0
DQBR2nd一周年おめでとうございます!
なんだかんだ色々ありましたが、これからもガツガツ面白い話書ければと思うので宜しくお願いします!
639絆 ◆MC/hQyxhm. :2013/04/02(火) 19:55:24.12 ID:LCajRy1o0
一周年おめでとうございます!!
まだまだにわかですが、どうぞこれからも宜しくお願いします!
640 ◆1WfF0JiNew :2013/04/02(火) 19:57:09.68 ID:zD7qsLZ10
やったぜ、一周年。

投下乙です。
妹を絡めてくるかぁ、ロッシュとマーニャ。
向かう先には敵はいないけどカインがいるし。
どっちももょもよ、あきなとそれぞれ繋がりはあるからただでは終わらない気がする!
影騎士さんは絶好調ステルスのようでwwwww
641名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/02(火) 21:51:44.49 ID:TW7hoTyM0
1周年おめでとうございます。
お祝いになるかはわかりませんが支援MAD第二弾作りました。
ちょっとでも支援になれば幸いです。

http://youtu.be/LKEu3DOi8sg
642名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/02(火) 22:15:54.44 ID:WIvIUfmN0
すげえ、すげえよ……
もうなんていうかすげえよ……
イラストと言葉で畳みかけてくるようで。
今後もがんばります。
643 ◆TUfzs2HSwE :2013/04/11(木) 00:26:13.65 ID:RXaFJ1DzO
投下します。
644名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:28:19.19 ID:24MlmbQf0
 
645宴への招待状 ◆TUfzs2HSwE :2013/04/11(木) 00:29:07.49 ID:RXaFJ1DzO
.




その憧憬は、祈りにも似ていたかもしれない。

例えばそれは、とあるおとぎばなしの世界。
少女が幼いころ、眠りにつく枕の傍で、兄が読み聞かせてくれたような。
王子さまの舞踏会が開かれると知り、そこに行くことの到底叶わない少女が、まとった襤褸を涙で濡らす。
すると魔法使いが姿を現し、哀れな少女に魔法を掛ける。
不幸の溝川に身も心も浸されていた一人の少女は、かぼちゃの馬車に乗って、瞬く間に幸せへの路を駆け上る……。

無論、そんな魔法使いがリアのもとに現れるはずがないことは、よくわかっていた。
だからこそ彼女は、たとえ襤褸切れをまとったままでも、王子様のもとへと駆けることを決めたのだ。
かぼちゃの馬車は無くとも、どこまでも飛んでいける翼が、リアにはあるのだから。

心がせく。
はやる胸を押さえて、リアは地上を見下ろした。
彼女の眼下にようやく現れた、牢獄の砦。
ここまでたどり着くのにも、ずいぶんと時間がかかってしまった。
兄がいるかはわからない。もしいないとすれば、いずれこの大陸全てをまわらなければならないかもしれない。
そして、その間にも、兄のカインはどこぞの穢れた毒牙にかかって、殺されてしまうかもしれないのだ。
早く、早く、ろうごくのまちへ!
そんなリアの心象を読み取ったか、彼女を背に乗せたジャミラスは旋回し、地上へと向かっていく。
ようやくたどり着いた目的地、鮮明になるその姿は、しかし少女に喜びを与えるものではなかった。
むしろ柳眉を寄せて、リアは呟く。

「……町っていうより、お城みたい」
ろうごくのまちは二段構えの城門に囲まれており、中の様子を空から覗うことはできない。
一見して城のように高く組み上げられた砦だが、外面にあるのは見張り台のみで、居住区なども見えなかった。
もしも兄がここにいるとすれば、リアは城の門をくぐり、地下まで潜って捜す必要がある。
今までのように、ジャミラスに頼って空から姿を求めることなどはできそうもなかった。

「ねえ、鳥さん。あの門くぐれる?」
「少なくとも、私のような存在が通り抜けられる作りではないな」
リアが指差した城門は開いていたが、人間では悠々と通り抜けられる隙間も、
ジャミラスほどの肉体が同じように押し通るにはやや無理があるように見えた。
ジャミラスは滑空し、やがて地上へと羽を降ろす。
飛び降りたリアと共に地に足をつけて門に対峙してみるが、やはりその認識は変わらない。
しかし、この先にカインがいるとすれば、リアだけが通れても意味が無いのだ。彼女にとっても、ジャミラスにとっても。

「壊すしかなさそうだね」
「フン。簡単に言ってくれる」
少女が当然のように言い放った言葉を嘲るように、ジャミラスは鼻を鳴らした。
強行突破を試みるなら、入り口が瓦礫の山になるのは目に見えている。
とは言え他に方法が無いのも事実だった。
「せいぜい、振り落とされるなよ」
その背に再びリアを乗せ、低い姿勢を取って飛び上がる。
そのまま強行突破のできる体勢となって、ジャミラスは門を見据えたが、
ふと、何を感じ取ったか、身体ごと振り返るとそのまま翼を羽ばたかせて高度を上げる。
646名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:29:40.19 ID:24MlmbQf0
 
647名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:30:30.33 ID:24MlmbQf0
 
648宴への招待状 ◆TUfzs2HSwE :2013/04/11(木) 00:30:48.79 ID:RXaFJ1DzO
.
「え……」
状況を把握できずに驚くリアのすぐ横で、かまいたちが巻き起こった。
直撃を避けようと旋回したジャミラスの翼が少しだけ切り裂かれ、ひらりとひとひらの羽根が舞う。
その背中で体勢を立て直して辺りを見回し、リアはようやく気がついた。
ジャミラスが睨むその先には、見覚えのある一人の男。

「先ほどはよくもまあ、やってくれたものです」
浮遊しているかのような軽い足取りで、道化師は音も無く歩み寄る。
「まあ、見つけてしまったものは、お礼させてもらうのが筋ですから」
そう時間も経っていない先刻、リアやジャミラスが与えた傷は、どういうわけかほとんど消え去っていた。
ただ、先ほどよりもぎょろついた目の輝きが、リアたちをねめつけて放さない。
憎々しげな笑みを浮かべ、ドルマゲスは杖をかかげた。

「覚悟して――くださいねェッ!!」





ひとまず大事は免れたどころか、ドルマゲスはそのときまさに、水を得た魚となっていた。

ドルマゲスは、何はともあれ、人々への復讐が第一であった。
かつて彼は、自分の魔法の才能を認めない師と、自分を嘲るものたちを見返すために、トロデーン王国の城に忍び込んだのだ。
そこから始まった一連の顛末は言うまでも無く、またどうしてかこの世界にて蘇ったドルマゲスは、
かつて如何にして世を去ったか、己の過去を完全に取り戻してもいなかったのだが、
未だ戦える限り、ドルマゲスがこの世に存在する限り、自分を嘲る世の人間たちに復讐したいという思いは変わらなかった。
結局この世界でもそれは、二度、三度と失敗に見舞われる結果となる。
しかし神(恐らく暗黒神かなにかであろう)は、彼を見捨てはしなかったのだ。
仮初めの取引により傷は癒され、ましてや彼には“同志”ができた。
初めは胡散臭いと思ったその魔法使いは、自分が願うのと同じように、人々に苦痛を味わわせるためにここにいる。
そんな彼と、手を結ぶ! 老人の魔法がどれほどのものかは不明だが、少なくともドルマゲスは己の術を信じ切っていたし、
老魔法使いもまたそうであるなら、共に戦えるものとして、申し分ないほどの相方だった。
余計なものが一人くっついてはいたが、それにも利用価値があると説かれれば、そうかもしれないと頷く。
どうだっていいのだ。とにかく、あの生意気な、まるで自分が勇者であるかのような自負をたたえたトロデーンの兵士、
あの腹立たしい眼差しをしたものを、この手で貫ける手段たりえるのなら。
そうしてその手段を得たドルマゲスはまさに、水を得た魚であった。
早い話が、有頂天になっていた。

そんなドルマゲスを他所に、彼らは今後の方針について話していた。
「潜りたいのだがな」
老魔法使いは一言呟いた。
つまりは人の波に紛れて事を起こしたいということだろう。
老人らしい姑息な手段だとドルマゲスは思ったが、同じ言葉を耳にしたホンダラには当然分かるはずもない。
「潜る? 人のいるところに行きてえ〜ってことか?」
「そうじゃな。そこには、わしの旧友がおるかもしれぬ」
「んじゃ、そうしようぜ。その方が安全なんだろ?」
そうして特に何の疑りも無く地図を広げたホンダラにより、進路は北のろうごくのまちに決定した。
ドルマゲスに異論は無かった。むしろ人のいる場所で、早く己の力をぶつけたかった。
649名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:31:24.30 ID:Wtd/cXHQ0
 
650名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:31:54.04 ID:24MlmbQf0
 
651宴への招待状 ◆TUfzs2HSwE :2013/04/11(木) 00:31:56.45 ID:RXaFJ1DzO
やがて、牢獄の町を目掛けて進む中で、ドルマゲスらは目にすることとなる。
少女を背中に乗せた、巨大な大鷲の姿を。
ドルマゲスはにたりと笑った。手にしていた鉄の杖をくるりとまわして握りなおす。
武器どころか所持品一つ無かったドルマゲスを見かねて、持て余していた支給品のひとつを男魔法使いが譲ったのだ。
何の魔力も込められておらず、ただの棒のようなものだったが、こんな武器でも仮初めの士気を高めるには十分らしい。
思いがけぬ復讐の機会に、血潮が熱く奔りだしていた。

「援護を頼みますよ」
そう言って、ドルマゲスは駆け出した。
「何をしておるのじゃ。勝手な真似は……」
「あれは邪魔な存在でしょう。私にとっても、あなたにとっても!」
狼狽した声を出す男魔法使いを尻目にして、自身を打ちのめしたあの屈辱を晴らすべく、意気揚々とドルマゲスは走った。
その背を見送った老人の目に、ひたりと冷たい光が灯ったことには、気付かずに。





ぶぉん、と、大気が変質するような音が響くと、一体だったはずの道化師の姿は瞬く間に三体に増えていた。
またその手か、とジャミラスは鼻を鳴らす。
一度敗れた戦法と全く同じやり方で挑んでくるあたり、相手の単調さが伺えた。
無論、先刻は思わぬリアの援護によって看破することができたのであるが、一度からくりが見えているのだから、
いくらでも対処の仕様はある。

「何度やったって、同じなんだから」
背に乗せた少女も同様に考えたらしく、じっと狙いを見据えたまま、毒牙のナイフを構えていた。
己が襲撃されているというのに、その幼い顔に恐怖など一片も浮かべない辺り本当に可愛げが無いが、それも今さらというものだ。
三体のうちの一体が、にやりと笑みを浮かべて再びかまいたちを巻き起こすが、
ジャミラスは低空飛行でそれをかわすと、己もまた巨大な爪を虚空に振るった。
爪からは、炎の弾が弾かれる。かまいたちを起こし続ける分身を、打ちのめした。

「あれだ」
冷酷なまでの落ち着きを以て、リアはどくがのナイフを投擲した。
ジャミラスが分身だと思っていたドルマゲスの影に、吸い込まれるように放たれる。
それがまさに正解であったことを示すように、他の二体は霞のように消えていった。
命中すると思われたナイフはしかし、ドルマゲスを傷つけることはない。
きん、と金属が強烈にぶつかり合う音がした。
ドルマゲスは手にした鉄の杖で、どくがのナイフを弾き飛ばしていたのだった。

「そう何度も、当たりませんよ!」
鉄の杖を振りかざし、ドルマゲスは哄笑した。
彼の周囲で再び風が踊る。大気が乱れ、いくつもの真空の刃が生み出される。
逃れようとするジャミラスどころか、この一帯全てを巻き込んで、ドルマゲスは真空波を巻き起こした。
652名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:32:00.70 ID:Wtd/cXHQ0
   
653名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:32:39.04 ID:Wtd/cXHQ0
   
654名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:33:10.29 ID:Wtd/cXHQ0
     
655名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:33:16.17 ID:24MlmbQf0
 
656名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:33:31.87 ID:mox6TSX90
   
657名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:33:53.22 ID:Wtd/cXHQ0
       
658名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:34:00.32 ID:24MlmbQf0
 
659名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:34:24.92 ID:Wtd/cXHQ0
       
660名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:35:09.43 ID:Wtd/cXHQ0
 
661宴への招待状 ◆TUfzs2HSwE :2013/04/11(木) 00:35:10.95 ID:RXaFJ1DzO
.
「っ……!」
ぎゅん、と吹き飛んできた何かがリアの頬をかすめた。
それは先ほどリアが投擲したはずのどくがのナイフで、強風に煽られて飛ばされてきたのだった。
自分の投擲を利用されたようで苛立ちを感じ、気を取られていると、
すぐに息もつけぬほどの強烈な真空波に襲われる。
ジャミラスが旋回し、真空の刃の嵐からリアを庇うように飛び続けるが、
一瞬でもそれに触れることとなったリアの衣服はところどころ切り裂かれており、
生肌にはいくつもの傷ができていた。
「う……」
その苦痛に、かつて感じたことの無い痛みに、リアは呻く。
それは、過去に無数に幼い心を蝕んできた、心の傷とは訳が違った。
どれほどの覚悟を持っていたとしても、戦いの中で負う傷は、鍛えてきたわけでもない生身の体で耐えられるものではなかった。

リアが痛みに喘ぐ一方で、そのことを察知した、ジャミラスの眼もまた険しくなる。
これまでの攻撃は、隙をついての奇襲であったからこそ、大した傷を負うこともなく――いわば成功していたのだろう。
そしてその奇襲においては、背中に乗せた少女は十二分の働きを見せたけれども、
初めから相手が自分を殺す気で襲い掛かってきてる今、庇うべきリアの少女はジャミラスにとっては足かせにしかならない。
――いろいろな意味で、間が悪いと言えた。

「手も足も出ませんか? 悲しいですねェ」
まるでジャミラスの心を読んだかのように、ドルマゲスは笑みを深めた。
尚も真空波を放ち続け、その景色に恍惚とさえして見える道化師の様子に、ジャミラスは怒りを覚えた。
「調子に乗るなァッ!!」
いかに魔王の一人と言えど……或いは魔王であるからこそ、格下に侮られて平然としていられるジャミラスではなかった。
真空の刃に切り裂かれながらも、両腕に、その先の巨大な爪に、口ばしに、怒りの炎を溜め込む。
ドルマゲスが真空波を強めるべく鉄の杖をかざすが、それすらも構わずに、ジャミラスは一斉に炎を放出した。
口ばしから吐き出された火炎が辺りを焼き尽くし、その中で突出した二振りの炎の弾が、真空の壁を貫いてドルマゲスに迫る。
「くそっ……!」
自身を防ぐようにして真空波を放ち続けていたドルマゲスにとって、それは予想を超える攻撃だった。
炎の弾は狙い過たず、逃げようと踵を返したドルマゲスの背を焼いた。

「ぐあああっ」
呻いて膝をつくドルマゲスを見届け、しかし追撃を仕掛けるでもなく、ジャミラスは旋回する。
「ねえ、ちょっとっ」
リアは抗議の声を出す。致命傷には程遠いとはいえ、相手の動きが止まった今こそ、攻撃のチャンスではないのか。
しかしジャミラスはリアを無視し、そのまま砦の門の前に降り立つと、彼女を背中から振り落とした。
それはあまりにも咄嗟のことで、門の前に一人降ろされたリアは転倒し、膝をぶつける。
混乱の中、恨みがましくジャミラスを睨みつけたリアだったが、続く魔物の言葉に口を閉ざした。

「先に行け」
予想だにしなかった言葉に、リアは目を丸くする。
後押しするようにジャミラスは続けた。
「足手まといだと言っている」
662名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:35:41.41 ID:Wtd/cXHQ0
    
663名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:35:41.91 ID:24MlmbQf0
 
664名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:36:16.05 ID:Wtd/cXHQ0
      
665名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:36:16.81 ID:24MlmbQf0
 
666名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:36:48.78 ID:Wtd/cXHQ0
      
667名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:37:01.84 ID:24MlmbQf0
 
668宴への招待状 ◆TUfzs2HSwE :2013/04/11(木) 00:37:23.54 ID:RXaFJ1DzO
.
咄嗟に反論しようとした言葉は、しかし理性で押さえつけた。
――ジャミラスの言葉が如何に正しいかは、リアはこの傷の痛みを以て、十分すぎるほどに理解していた。
今まで自分が戦えたのは、あくまでジャミラスの傍にいて、相手の不意をつけたから。
それが通用しない以上、リアがここにいて足を引っ張る理由は無かった。
ましてや目の前にはもう牢獄の町があって、カインがそこにいるかもしれないのだ。

リアは唇を噛むが、やがて立ち上がる。
ドレスの裾はぼろぼろに千切れ、顔にも飛び散った血がこびり付いていた。
ふらりと足を一歩進め、ジャミラスの首の横に擦り寄ると、撫でるようにひたりと、嘴に触れる。
鳥の眼と視線が、かち合う。
ジャミラスの眼に焼きついたその瞳は、死を恐れて戦線を離れる、か弱い少女のものでは、決してない。
むしろ覚悟と執念の刻まれた眼差しが叩き付けられていた。
まるで呪いの言葉のように。

「約束破ったら、許さないからね」
「……当然だ」

交わされた契約の重みを、二人は互いに確認する。
リアは弾かれたようにジャミラスの元を離れ、門の奥へと走り出した。
それを合図であったかのように、炎の苦痛を耐えたドルマゲスが、立ち上がる。
ジャミラスは再び翼を広げ、道化師と対峙した。
――死闘が、再開される。





先を行くサイモンの足が、止まる。
つられるようにしてアリーナもまた立ち止まり、訝しげにサイモンを見上げたそのとき、
彼が視界に捕らえたものが、同じように彼女の目にも飛び込んでくる。
「あれは……!!」
息を呑んだ。見えてきた牢獄の町、その入り口の門には、先ほどの鷲の魔物がいた。
そして、誰かと交戦している。遠くてよく見えないが、どうもその体躯からは、人間であることは間違いなさそうだ。
先ほどの戦闘では飽き足らず、見つけた人間を見境無しに襲っているのだろうか。
だとしたら。アリーナは憤った、いくらなんでも酷すぎる、と。

(許せない)
アリーナの鼓動が弾む。闘志の炎が燃え盛る。今にも駆け出して行きそうになるほどに。
あの魔物は、ミネアを、アリーナの大事なともだちを傷つけたばかりじゃなく、
そこにいるすべての人々を苦しめようとしているのだ。
ミネアを背負っていることさえ忘れて、アリーナは勇み足になっていた。
まさに一歩を踏み出そうとした瞬間、アリーナの前を、さまよう鎧の腕がさえぎる。
目を見開いたアリーナの視線の先で、表情の読み取れない兜の奥から、静かな声が響いてきた。

「先に行く」
「サイモン……」
たった一言残したきり、それ以上の意図を発するでもなく、サイモンは駆け出した。
慌てて追いかけようとしたアリーナの裾を、くい、と誰かの手が引く。
その動作に思わず、つんのめる。振り返ってアリーナは、そのときやっと、背中の重みと温もりを思い出した。
傷付きながらも、アリーナに向かって気丈に笑うミネアが、そこにはいた。
669名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:38:23.77 ID:24MlmbQf0
 
670宴への招待状 ◆TUfzs2HSwE :2013/04/11(木) 00:38:27.25 ID:RXaFJ1DzO
.
「もう、置いて行かれるのは嫌ですよ」
自分が背負った背中の上で、いたずらっぽく笑いかけてくる“ともだち”に、アリーナは言葉を失う。
そして徐々に、自分の先ほどまでの行動を思い返した。
――ああ、そうか。
あたしはまたやってしまうところだったのか。
ミネアを置き去りにして、そして、酷い目に合わせてしまったばかりだというのに。
自分は、憎しみのために戦っているのではない。
大事な人々を守るために、ここにいるというのに。

アリーナの鼻がつんと痛んだ。
すぐに熱くなってしまう。すぐに行動に移してしまう。
そうだ。あの旅路から、自分は何も変わっていない。
怒りに、憎しみに、囚われてしまう自分が、嫌になる。

「……ごめん、ミネア。ごめんね」
「どうして泣くんですか」
「あたし、バカなの。本当に、どうしていいかわかんないくらい……」

ぐすっ、と子供のように鼻をすするアリーナに、何を言っていいかわからずミネアは困惑してしまう。
けれども、その泣き顔を後ろから見つめ、やがてミネアは考えた。
今のアリーナに、きっと友達として言うべきである、適切な言葉を。

「……私もアリーナさんはバカだと思います」

フォローされるどころかはっきりと肯定されて、アリーナは思わず項垂れる。
「なんか、そんなはっきり言われると……」
「だって、そうでしょう?
何かをしなきゃ、誰かのために、自分で何とかしなきゃって。
傍にはあなたを大事に思う人がたくさんいるのに、気付きもせずに走り去ってしまう」

落ち込んでいたアリーナは、顔を上げる。
自分をバカだと罵ったミネアの口調は、彼女が今まで聞いたこともないくらいに優しくて、暖かかった。

「一人じゃないんですよ、アリーナさんは。
今だって、サイモンさんが私たちの代わりに、先に行ってくれましたから」

アリーナは寂しかったのだ、と。
ミネアに告げた言葉を、その意味を、彼女はずっと考えていた。
いつも一人で行こうとするアリーナの行動に裏打ちされたものが、王女としての義務感と、孤独であるならば。
それを少しでも解いてやれるようにするのも、きっと友人の務めだろう。

「慌てずに、ゆっくり走りましょう。……背負われる立場で言うのもなんですけど」

最後は少し、照れ隠しのようにぼそりと呟いて、締めくくる。
――そう、サイモンは、アリーナたちのために先に行って“くれた”のだ。
それはきっと、ミネアを守るという大事な使命を、アリーナに託すため。
押し付けられた義務では決してない、きっと信頼のおける仲間だからこそ、サイモンは先陣を切ってくれたのだった。
アリーナは滲む涙を拭きながらも、嬉しそうに笑っていた。

「……諭されちゃった」
「ほら、行きましょう。サイモンさんが待ってます」
「うん!」

アリーナはミネアを抱えなおし、そして決して落とさないようにして駆け出した。
仲間の下へ。友と仲間を、この手で守るために。
671名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:38:54.99 ID:24MlmbQf0
 
672名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:38:57.39 ID:DYTv0jmn0
 
673名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:39:29.60 ID:24MlmbQf0
 
674名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:40:03.94 ID:24MlmbQf0
 
675名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:41:00.78 ID:24MlmbQf0
 
676宴への招待状 ◆TUfzs2HSwE :2013/04/11(木) 00:42:03.49 ID:RXaFJ1DzO
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飛び交い続ける、炎の弾と、真空の刃。
焼け焦げ、抉られて、もはや見る影も無く荒れ果てた大地で、ドルマゲスは肩を上下しながら立っていた。
ドルマゲスが相対する先には、門の前で立ち塞がり、彼を悠々と見下ろしている大鷲の姿がある。

「フン、どうした? 先ほどより威勢が無いな」

ジャミラスの煽りを聞き流しながら、ドルマゲスは舌打ちした。
(何をしているんだ、あいつらは……)
加勢を頼むと言ったのに、一向に男魔法使いが現れる気配は無い。
いつの間にか先ほどジャミラスが乗せていた少女はいなくなっていたが、
庇っていた、或いはお荷物だった存在が失せてからというもの、ジャミラスの動きは先とは打って変わって力強い。
優勢が劣勢に転じるどころか、ドルマゲスは命の危機さえ感じていた。

ドルマゲスは鉄の杖を構える。
正体を見破ってきたのは今まですべて少女のほうだ、魔物には見破れまい。
そう考えて再び分身の術を使おうとするが、ジャミラスが気付かないはずもなかった。
幾度と無く打ち出され、今再び繰り出された炎の爪が、術に気をとられて隙を見せるドルマゲスを焼き尽くそうとする。

だが、そのとき――疾風が、舞い降りた。

ドルマゲスを襲おうとした炎は、その疾風に切り払われる。
否――よく見ればそれは、疾風などではなかった。
無骨な鎧がドルマゲスを庇うように、ジャミラスの前に立ちはだかっていた。

「加勢しよう」

ドルマゲスは、目を丸くする。
突然現れたこの男は――男かどうかはわからないが、とにかく鎧が――ドルマゲスに加勢することを申し出たのだ。
ジャミラスが闇雲に振るった爪を、鎧は再び、剣で切り払った。
よくわからないが、とにかく好機とばかりに、ドルマゲスは笑みを深めて杖をかかげる。

「ぐっ……!」
かまいたちに切り裂かれ、ジャミラスはうめき声を発する。
戦況はまた一転。ジャミラスは歯噛みした。
いずれは追いかけてくるものと思っていたが、こんなに早いとは思っても見なかった。
予想外の足止めに、無駄な時間を喰ってしまったらしい。
このままリアの後を追って、牢獄の町に突入するか。それもまた一つの手ではあろう。
だが、ジャミラスにはまだ、魔王として相応のプライドも残っている。
殺害数を稼ぐ、絶好の機会というこのときに、己は戦場から逃げようというのか。

ジャミラスが葛藤する間にも、戦いは続いていく。
ドルマゲスが放ったかまいたちを避けたところで、鎧の騎士の剣を爪で弾くという、
ジャミラスにとっては防戦一方の攻防が繰り返されていた。
業を煮やし、ジャミラスは空中に旋回しながら、先のように炎を溜め込んでいく。
空へと追いかける手段を持たぬ者たちに、やがて業火が放たれた。

「フバーハ!」

しかし、その炎もまた、阻まれて軽減される。
とうとう追いついたアリーナ、そして彼女に背負われているミネアが放った魔法により、
ドルマゲスやサイモンに降りかかった火炎は最小限の威力に抑えられた。
677名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:42:34.94 ID:24MlmbQf0
 
678名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:43:05.40 ID:24MlmbQf0
 
679宴への招待状 ◆TUfzs2HSwE :2013/04/11(木) 00:43:46.38 ID:RXaFJ1DzO
.
「ようやく追いついたわ……!」
ミネアをその背から降ろし、安全なところに座らせたアリーナは、袋から竜神の爪を取り出した。
「もう、これ以上やらせはしない!」
装着し、勇猛に言い放つ少女を目の前にし、ジャミラスは心の中で呟いた。

――ひとまずは、時間切れだ。

助走の後、地面を蹴ってアリーナが跳躍した。
「はぁぁああっ――!!」
体を目いっぱいに捻り、振り上げた両腕を振り下ろし、その胴体を引き裂こうと試みるも、
結局は翼に掠って羽根を引き抜くだけの結果に終わる。
やはり地上に降りてこなければ駄目か、と歯噛みしていたアリーナは、
ジャミラスが再び炎を蓄えていることに気付いた。
すとっ、とアリーナが地面に降り立つと同時に、ジャミラスが低空飛行をしだす。
――地上に放つ気か。

「させないッ!!」
降り立ったバネで、そのままアリーナは、そしてサイモンもまた、ジャミラスを追って走り出す。
しかしジャミラスは、牢獄の町を見据えた方角そのままに飛び進んでいた。
砦へと向かう階段を悠々と越し、門の前でたどりつくと、ジャミラスは炎を叩きつける。
牢獄の町の入り口、鉄格子の門に。
立て付けの悪い門に、炎の爪の火炎弾が勢いよく放たれて、門は城壁ごと剥がれそうになる。
壊れかけた扉に、狙い過たず、ジャミラスは体当たりした。
それで門は完全に城壁から剥がれ落ち、轟音を立てて地面に落ちる。
がらがらと、破壊された城壁の瓦礫がぱらぱらと崩れ落ち、時折地面に降り注いでくるが、
ジャミラスは構うことなく入り口を抜け、牢獄の砦へと侵入していった。

あまりのことに、ついその様子を見守ってしまったアリーナだったが、はっと我に返る。
「しまったわ……!!」
牢獄の町には、アレフに託された人たちがいるのだ。なのにこれでは、ジャミラスの進入をみすみす見逃してしまったことになる。

「サイモン、怪我は無かった?」
「問題ない」
サイモンの無事を確認して階段を下り、ミネアの元に駆け寄ると、ミネアは道化師に話しかけていた。
「ご無事でしたか?」
「ええ、まあ」
ミネアを再び背負いながら、アリーナはドルマゲスに一礼した。
「大事なくてよかったわ。ごめんなさい、あたしたち、急ぐので!」
そうしてドルマゲスに背を向け、壊れた入り口へと走り出す三人の後ろで。

「そう、急がなくてもいいじゃないですか」

――かまいたちが、放たれた。

それは最後尾を走っていたサイモンの腕に直撃し、サイモンが手にしていた剣が、吹き飛んだ。
アリーナは振り返った。
道化師は杖の先をアリーナらに向け、いつでも術を放てるように身構えている。

「……あなたは……!」
「先ほどはありがとうございました。おかげで、助かりましたよ。
最も私も因縁がある故、あの魔物を放っておきはしませんが」
「殺し合いに、乗っていたんですか」
680名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:44:18.34 ID:iW7k0N6F0
 
681名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:44:56.14 ID:iW7k0N6F0
 
682宴への招待状 ◆TUfzs2HSwE :2013/04/11(木) 00:45:05.46 ID:RXaFJ1DzO
.
ミネアが淡々と、しかし侮蔑を込めて放った言葉に、ドルマゲスは笑みを返した。
「殺し合えって言われたじゃないですか」
「だからって、本当に誰かを殺すっていうの!?」

アリーナが血気よく叫んだ言葉に、ドルマゲスは振り返った。
冷たい目。
その、温度が伴わない眼差しに、悪寒のようなものがひたりと背中を這う。
理由はわからないけれど、憎まれているんだ……と、アリーナは直感した。

「私は、あなたみたいな人が、大嫌いなんです」

アリーナが感じた悪意をそのままに、ドルマゲスは吐き捨てた。

「自分が正しいと思っている。まるで勇者かなにかだと勘違いしている。
自分は正しいから世界は救われると思っている!
そうして私のような者を、無力で低俗な人間を、よってたかって馬鹿にする」

口にするたび、言葉の一つ一つに、ドルマゲスの憎悪が篭もっていく。
ドルマゲスは覚えていなかった。己の、かつての哀れな死に様を。
けれども目の前のアリーナにぶつけるドルマゲスの怒りはどこか、
かつて賢者の言い伝えが残る世界で、自分たちを打ち破った勇者一行に、放たれているようでもあった。
無論、それに気付くことのできる人間は、この場には一人もいなかったけれど。

「……悲しい人だね」

アリーナが呟いた言葉に、ドルマゲスは顔を歪め、不快感を露わにする。
ぶつけられた悪意に、恐怖を覚えた。やわらかな心を刺す痛みに、アリーナは喉が熱く、涙が溢れそうになる。
それでも、口を開いた。今ここで、あの道化師に、言わなければならない言葉があると思った。
友達の言葉に、報いなければならないと思った。

「あたしは……あなたみたいに、誰かが憎いから戦うわけじゃない。
守りたいものがあるから戦うだけ。自分が正しいかどうかなんて、そんなことどうでもいいもの。
ただ、ただ……あたしには友達が、仲間がいるから、それがわかったの」
683名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:45:17.22 ID:iW7k0N6F0
 
684名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:45:57.63 ID:iW7k0N6F0
 
685名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:46:42.51 ID:wJHoOgrN0
 
686名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:46:56.13 ID:24MlmbQf0
 
687名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:47:00.48 ID:iW7k0N6F0
 
688名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:47:31.58 ID:24MlmbQf0
 
689名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:47:36.85 ID:iW7k0N6F0
 
690名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:48:35.43 ID:iW7k0N6F0
 
691名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:48:38.46 ID:24MlmbQf0
 
692宴への招待状 ◆TUfzs2HSwE :2013/04/11(木) 00:49:00.62 ID:RXaFJ1DzO
.

アリーナが搾り出すようにして語る言葉を聞きながら、それを後押しするように、ミネアはしがみつく腕に力を込めた。
その温もりを感じながら、アリーナはドルマゲスに対峙する。
自分は一人じゃないこと。あの日の仲間たちがアリーナに教えてくれたこと。ミネアがさっき、彼女に伝えてくれたこと。
かつてサントハイムから人が消え失せ、魔物の巣窟となってしまったとき、アリーナは一人で戦おうとしていた。
そう、クリフトやブライがずっと寄り添ってくれたことさえ、アリーナは気付けなかったのだ。

「守るべきものも忘れて、憎しみの心を晴らすためだけに戦っている。あの日のあたしと同じ……。
あなたの傍にはきっと、誰もいなかったんだね。
だから、悲しい人だって、言ったの」
「……余計な、お世話なんですよ……」

杖を握るドルマゲスの腕が、揺れていた。
ミネアから見れば、それはまさに真実を、図星を突きつけられた、哀れな道化師の姿だった。

「フフフ……そう、仲間……仲間なら、いますとも」

ドルマゲスは祈るようにして振り返った。
そこにはようやく追いついたのか、あまりにも遅い歩みで、男魔法使いとホンダラがたどり着いていた。
ホンダラの顔は心なしか蒼白で、男魔法使いの目からは何を考えているのかは読み取れない。
二人に向かって、ドルマゲスは両手を掲げて、嬉々として、言い放った。

「遅かったではないですか!!」

ホンダラがびくりと肩を震わせる。
ドルマゲスは構うことなく、ありったけの大声で、『同志』に話しかけた。

「援護を頼むと言ったではないですか。さあ、今こそあなたの魔法を、見せてくださいよ!!」

しかし道化師に対して放たれた返答は、酷く冷たいものだった。

「……貴様など、知らぬ」

ドルマゲスの表情が、凍り付く。
男魔法使いは侮蔑の視線を以て、ドルマゲスをねめつけた。

「わしらに殺人鬼の知り合いなど、おらぬ。とち狂った道化師よ」
「なっ……」
「気安くわしらに、話しかけるな」

ホンダラが老人と道化師とを見比べて、どこか慌てたように、もごもごと口を開くが、
老人がホンダラの肩を掴み、その目を静かに見据えると、結局は何も言わずに口を閉ざす。
その景色に、四方八方から降り注ぐ冷たい視線に、ドルマゲスはもはや絶望の淵に叩き落されていた。
そんなことが――そんなことがあってたまるだろうか。
それがたとえ仮初めのものであったとしても、共に戦う同志ができたと、信じきっていたのに。

「よりによって、無関係の人を巻き込むなんて……」

凍て付いた空間の中、沈黙を破ったのはアリーナだった。
彼女はもう迷い無く、その目に怒りを湛えていた。
ひとときでもそこにあった同情の色が、もはや欠片も無く消し飛んでいた。

「最低だわ……。どこまで卑怯なら、気が済むの!?」
「待って、違うんです、これは……」
「もう、怒った。我慢できないわ。あたしがその根性、叩きなおしてあげるんだから!」

ミネアが自分から離れたことを確認すると、
慌てて逃げ出そうとするドルマゲスに向かって、アリーナは助走をつけて飛び上がる。
693名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:50:20.48 ID:24MlmbQf0
 
694名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:50:25.27 ID:iW7k0N6F0
 
695名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:51:24.32 ID:24MlmbQf0
 
696宴への招待状 ◆TUfzs2HSwE :2013/04/11(木) 00:52:07.33 ID:RXaFJ1DzO
.
「成敗ッッ!!!」

逃れることも、避けることもできず。
その脚は、燕のように空を切り。
――――道化師の背中に、見事な飛び蹴りが直撃した。

刹那空中に浮かび上がったドルマゲスの身体が、幾度か地面に弾んだあと、だらしなく転がった。
時々ぴくぴくと腕や足が動いたが、起き出す気配はない。
伸びた道化師を見下ろして、アリーナは顔を歪めた。

「……この、バカっ」





「ごめんね、ミネア。どっかぶつけてない?」
「大丈夫よ」

アリーナはそう言って再びミネアを抱えようとするが、ミネアは首を振る。
「大分、歩けそうです。さっき背負ってもらってたときに、自分で回復呪文をかけたから……」
「無理しないのよ。ミネアを背負うくらい、全然重くないんだから」
「そうですか?」
「うん。ほら」
どこか嬉しそうに自分の背中を指すアリーナに、ミネアは思わずくすりと笑って、足を掛ける。
「じゃあ、遠慮なく」
そうして、ミネアは再び、アリーナに背負われることとなった。

「飛んだ足止め喰らっちゃったわね。
ほら、サイモン、行こう?」
「……ああ」
アリーナが掛けた声に、先ほど弾かれた剣を拾い上げたサイモンは、どこか虚ろに返答して、歩き始める。
「……サイモン?」
追いかけ、横に立って階段を登り始めるアリーナが、サイモンの顔を覗き込む。
無論その甲冑からは、表情など読み取れるはずがないとわかっていたが、彼は決して心無い人でないことはわかっていた。
気になって、しばらくその様子を伺っていると、やがてぽつりと言葉が漏れる。

「……『ともだち』がいないことは、悲しいのか」
「へっ?」
アリーナは目を丸くする。
それは先ほど途切れてしまった会話の続きであり、アリーナが口にしたのセリフのことでもあった。
サイモンに向けて言ったつもりは全く無かったのだが、彼はどこか寂しそうに続けた。
「俺に、『ともだち』というのは、いない」

アリーナは閉口する。
サイモンは先ほど錬金によって生み出されたばかりの存在であり、友人がいないのは言ってみれば当然だった。
だが無論、アリーナやミネアはそのことを知らないため、どう言葉をかけたらいいのかわからない。
697名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:52:18.52 ID:24MlmbQf0
 
698名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:52:26.05 ID:iW7k0N6F0
 
699名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:53:13.71 ID:24MlmbQf0
 
700宴への招待状 ◆TUfzs2HSwE :2013/04/11(木) 00:54:12.66 ID:RXaFJ1DzO
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階段を登りながら、しばらく沈黙が続いた。
けれども、やがてアリーナの背中で、もぞもぞとミネアが動き出す。
彼女を助けるように一旦背中から降ろしてやると、ミネアは頭についていた飾りを外していた。
いくらか戸惑っている(ように見える)サイモンに近づき、その首にそっと手をまわす。
ミネアの手が離れると、サイモンの首から、ミネアの飾りが釣り下がっていた。

「……これは」

ミネアの意図を理解できずに、サイモンは呟いた。
その景色を眺めていたアリーナが、やがて理解に至って、その目がきらきらと輝きはじめる。
ふと、アリーナは自分の身体を、身につけているものを一通り眺め、やがて自分の群青色の外套のすそを持ち上げると、
留め具に手を掛けて外套を外し、やはりサイモンに駆け寄った。
どう付けたものかと奮闘し、やがて収まりのいい具合に、アリーナのマントが鎧の肩に装着される。
ミネアの飾りと相まって、アリーナのマントがまるで王国兵士が身に纏うものであるかのように(実際王女のものだが)気品を醸し出していた。
ちょっと、勇者の鎧みたい。そう思うくらいにしっくりしていて、アリーナの顔は綻ぶ。

「えへへ、いいかも!」
「似合ってますよ、サイモンさん」

尚も戸惑うサイモンに、アリーナは笑いかけた。

「友達の証、じゃあ、ダメかな?」

言いながらもミネアを再び背負い、アリーナは階段を駆け登っていく。
こうしてる間にもあの魔物が、誰かを襲っていないことを、祈りながら。
その後を追いながら、ふとサイモンは……まるで大事な、壊れ物を触るかのように、
甲冑にネックレスのように掛けられたそれに、触れてみる。

「……とも、だち」





ホンダラの顔は、蒼白なままだった。
老人は構わずに、牢獄の町へと歩み寄っていく。その階段のすぐ下では、道化師が伸びていた。

「……なんなんだよ」

魔法使いの後ろで、酷く掠れた声が響いた。
魔法使いが振り返ると、ホンダラはドルマゲスの姿に釘付けになって、立ち尽くしていた。

「殺し合い、って……」

魔法使いは、ふっと笑う。
この男はこれまで、男魔法使いが経験してきたような戦いの日々とは、まるで無縁だったのだろう。
もしかしたら、この世界に来てからも、殺し合いなんて起きるはずがないと思っていたのかもしれない。

「なんであんなことできるんだ……」
701名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:54:51.99 ID:24MlmbQf0
 
702名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:55:02.37 ID:iW7k0N6F0
 
703名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:56:04.25 ID:wJHoOgrN0
 
704名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:56:11.55 ID:24MlmbQf0
 
705名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:56:17.13 ID:iW7k0N6F0
 
706名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:56:47.20 ID:24MlmbQf0
 
707名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:57:02.55 ID:iW7k0N6F0
 
708宴への招待状 ◆TUfzs2HSwE :2013/04/11(木) 00:57:52.90 ID:RXaFJ1DzO
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ホンダラは、呆然としたように呟いた。
なんであんなこと、とは、ドルマゲスが繰り広げた殺し合いの様子だろうか。
二人は、ドルマゲスが思うよりもずっと早くに、牢獄のまちに辿り着いていたのだった。
しかし男魔法使いの指示で、ドルマゲスとは縁を切る、他人の振りを決め込む、という方針になり、黙って様子を見守っていた。
最初はその指示に疑問を持ったホンダラだったが、すぐにその方針が正しかったことを思い知らされる。
強烈な技の応酬。飛び散る血と幾つもの傷。
その景色はホンダラの想像の範疇を遥かに越えるものだった。
巻き込まれれば、ホンダラは間違いなく殺されていただろう。

「戸惑っていても、仕方あるまい。ドルマゲスはただの狂人だったのじゃ」

転がった道化師の姿を一瞥し、男魔法使いは階段を登っていく。
ドルマゲスが暴走した時点で、利用価値が無いものとして、老人はとうに彼を切り捨てていた。
目的が優勝である以上、殺しの手は確実でなければならない。
それはつまり、ハッサンのときのように、油断させて不意を打つことが必要になる。
ああして人殺しとして多くの人間の前に姿を表しては、意味がないのだ。全てをこの手に入れるためには、慎重でなくてはならない。
手当たり次第に見境なく襲いかかるなど、言語道断だった。

「ちょっと、待てよ。今、魔物が入っていったじゃねえか! あの中に入るのかよ!?」
悲鳴のように叫ぶホンダラに、酷く冷静な声で、男魔法使いは返す。
「ああ、そうじゃ。わしの宝物は、あの中にあるからな」

嫌なら置いていっても構わないがと、暗に老人は告げていた。
「クソッ……!」
ホンダラは躊躇していたが、男魔法使いが階段を登り続けるのを見て、とうとう自分も登り始める。
中に入るのは嫌だったが、本当に殺し合いが起きていることを肌で感じた今、置いていかれるのはそれ以上に恐ろしかった。

(一体、どうなっちまうんだ……)

急激に心を蝕み出した恐怖に、ホンダラの顔は、ひきつったままであった。
709名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:58:39.74 ID:24MlmbQf0
 
710名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:58:46.22 ID:iW7k0N6F0
 
711名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:59:22.02 ID:24MlmbQf0
 
712名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:59:31.79 ID:wJHoOgrN0
 
713名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 00:59:36.84 ID:iW7k0N6F0
 
714名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 01:00:05.15 ID:iW7k0N6F0
 
715名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 01:00:21.27 ID:24MlmbQf0
 
716名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 01:00:38.13 ID:ZC1CXuW50
 
717名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 01:00:47.01 ID:iW7k0N6F0
 
718名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 01:00:54.64 ID:24MlmbQf0
 
719宴への招待状 ◆TUfzs2HSwE :2013/04/11(木) 01:01:24.70 ID:RXaFJ1DzO
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かつり、かつりと、足音が響く。
静まり返った、牢獄の町の入り口に、ゆっくりと歩み寄る者がいた。
自分以外にはもう、誰もいない。先まで戦闘していた者はみな、この砦の中に姿を消していた。
ただ一人、その男が――ドルマゲスだけが。
鉄の杖を支えにして、今ようやっと、破壊された入り口の前に辿り着いたのだった。

「やっ、と、ここまで……」
呟きながら、ドルマゲスは歩いていく。
「あいつら、みんな、殺してやる」
もはや明瞭でない、ただの怨念の燃え殻を支えに、ドルマゲスは足を進める。
「全員、この手で……」

ドルマゲスが、入り口に足を踏み入れた、その瞬間。
ジャミラスによって破壊され、ヒビがそこここに入っていた城壁が、一斉に崩れ出した。
無数の瓦礫が、傷付いたドルマゲスの身体に降り注ぎ、もはや彼が逃れるすべは一片もなく、その中に呑み込まれていった。

砂埃が舞い上がり、砦の入り口に、完全なる静寂が訪れる。
その後、瓦礫の山から道化師が姿を現すことは、二度となかった。





【ドルマゲス@DQ8 死亡】
【残り32人】
720名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 01:02:02.98 ID:24MlmbQf0
721名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 01:03:00.19 ID:iW7k0N6F0
 
722名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 01:03:23.84 ID:24MlmbQf0
 
723名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 01:03:59.28 ID:iW7k0N6F0
 
724名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/11(木) 01:04:15.93 ID:24MlmbQf0
 
725宴への招待状 ◆TUfzs2HSwE :2013/04/11(木) 01:04:39.40 ID:RXaFJ1DzO
【A-4/ろうごくのまち/夕方】

【ジャミラス@DQ6】
[状態]:HP3/7、飛行中、右翼に穴(小)、左手首損傷(使用に違和感)
[装備]:ルカナンソード@トルネコ3
[道具]:剣の秘伝書@DQ9 ツメの秘伝書@DQ9 超ばんのうぐすり@DQ8(半分のみ) 支給品一式*2
[思考]:リアを利用し、サマルトリアの王子(カイン)を労無く殺害。
カインを探しつつ町のなかへ 殺害数をかせぐ
[備考]:支給品没収を受けていません。飛行に関して制限なし。

【リア(サマルトリア王女)@DQ2】
[状態]:HP2/3 頬に傷 全体に切り傷
[装備]:なし
[道具]:支給品一式*2 どくがのナイフ@DQ7 不明支給品(本人確認済み)
[思考]:おにいちゃんを、ころす。

【アリーナ@DQ4】
[状態]:多少の疲労
[装備]:竜王のツメ@DQ9
[道具]:フックつきロープ@DQ5、支給品一式 水筒×3
[思考]:デスタムーアを倒してゲームを終わらせる。
ビアンカを救うため町のなかへ、アンジェとも合流したいが……

【ミネア@DQ4】
[状態]:HP3/5、疲労(小)、右肋骨喪失
[装備]:あぶない水着(下着代わり)、風のマント@DQ2
[道具]:支給品一式
[思考]:仲間や情報を集める。
ビアンカを救うため町のなかへ、アンジェとも合流したいが……

【サイモン(さまようよろい)@DQ5+9+α】
[状態]:ほぼ健康
[装備]:さまようよろい@DQ5、ミネアの飾り、アリーナのマント
[道具]:なし
[思考]:アリーナ、ミネアを北へ案内。友達について考える。
[備考]:マホトーンを習得、今後も歩くことで何か成長を遂げるかもしれません。

【ホンダラ@DQ7】
[状態]:健康 恐怖
[装備]:なし
[道具]:せかいじゅのしずく@DQ7(半分)、金塊@DQ9
[思考]:ボディーガードと共にお宝を探す

【男魔法使い@DQ3】
[状態]:MP消費(大)
[装備]:毒蛾のナイフ(DQ6)、杖
[道具]:支給品一式、不明支給品(確認済み×0〜1)
[思考]:"あの"カーラが生きていればいつか決着をつける。
     それまではホンダラを利用し、世界を破壊する。
※名前、職歴、杖の種類は後続の書き手にお任せします。



投下終了です。
支援ありがとうございました。
ご意見ご指摘あればぜひ。
726 ◆CruTUZYrlM :2013/04/11(木) 01:06:35.03 ID:24MlmbQf0
投下乙です、感想は後ほど。

僕も投下します。
727 ◆CruTUZYrlM
「ちっ、勝手にしろ!!」
ハーゴンから踵を返し、ソフィアの方へと走り去っていくハーゴンを見やり、ピサロは小さくぼやきながらも走り去る。
手負いの魔物は、失うものがない。
故に己を省みない行動へ、平然と躍り出てくる。
容赦なく降り注ぐであろう攻撃の数々をやり過ごせるかどうかは、正直言ってピサロにも自信はない。
ましてや、ミーティアを守りながらなど。

ああ見えて、あの女はアリーナに引けず劣らずの天才的な戦闘センスを持っている。
弱点や能率のいい打撃を本能でたたき込むアリーナとは、方向性こそは違う、が。
一瞬で大局を判断し、ふさわしい行動と号令を飛ばす。
だから、さっきもああ言ったのだろう。
それが彼女にとっての最良の判断だったのだから。

もちろんピサロも、彼女が死ぬとは思っていない。
なんだかんだいいながら、単騎でアレを撃破してしまうのではないだろうか?
最悪でも、うまいことごまかしながら逃げてくる、そんな気がする。
彼女は、死なない。
絶対的といってもいいほどの安堵が、自分の中にはあった。
だから、ここは彼女の言うとおり絶望の町へ逃げる。
ハーゴンは向こうへ向かってしまったが、彼女なら最良の判断ができるだろう。
自分は言われたとおり、ミーティアを安全に絶望の町まで送る。
「は、なして!!」
その時、脇に抱えていたミーティアが体を大きくよじって反抗する。
小さなものであれば無視して走り続けてもよかったのだが、ピサロの予想以上にミーティアの動きは激しい。
いったん窘めるために、ピサロはやむなく足を止める。
そばにある木を背負わせるように体をおろし、ミーティアの顔の両端をふさぐように木を押さえつけていく。
「ソフィアが言っていただろう。逃げろ、と」
「嫌です! ソフィアさんを放っておけません!」
予想通りの答え、そんなことだろうとは薄々思っていたが。
逃れようとする彼女に、ピサロは顔をずいと彼女の方に寄せ、わざと低いトーンで告げる。
「奴は私たち、特に戦えないお前を逃がすために一人残ったんだ。
 そのお前が自分から危機に飛び込んでは、奴の考えが無駄になる。
 ヤンガスから頼まれていることもある、私はお前の保護を最優先するぞ」
「ですがそれでも!!」
冷たい言葉に、ミーティアは声を荒げて反論する。
「危険に晒されている人を放ってどこかにいくなんて、出来ません!!」
その言葉まで読んでいた、と言わんばかりの冷たい目線をミーティアに向け、ピサロはさらに言葉を続けていく。
「……もう、忘れたのか?」
先ほどよりもさらに冷徹な声が、ピサロの口より零れる。
何もかも圧倒する迫力に押し負けないよう、ミーティアは少しだけ拳に力を入れた。
「お前がわがままを言わずにあのまま絶望の町に向かっていれば、ヤンガスは傷つかずに済んだのだぞ?」
はっ、とする。
無理を言ってヤンガスをつれてきたのは、自分だ。
彼に傷を背負わせたのは、自分だ。
それだけは、事実として消えない。