ドラゴンクエスト・バトルロワイアルII Lv2

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1名前が無い@ただの名無しのようだ
ドラゴンクエストのキャラクターのみでバトルロワイアルをしようというリレー小説企画です。
クオリティは特に求めません。話に矛盾、間違いがなければOK。
SSを書くのが初めての方も気軽にご参加ください。

 ※キャラの予約制あり。
予約をする際は捨てトリで構わないのでトリップを付け、使用するキャラを全て明記して下記のスレで予約してください。

DQBR予約スレ
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/30317/1333274887/

予約期間3日で、予約の書き込みから72時間が経過すると予約解除として扱います。
「予約キャンセル」等、予約に関することは他の書き手さんが検索しやすいように必ず「予約」の文字を入れてください。


 もし投下作品に不安があるのなら、総合掲示板の「投下SS一時置き場」でアドバイスを受けてください。
また、規制などで本スレに書き込めない場合も一時置き場をご利用ください。

投下用SS一時置き場
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/30317/1147272106/


前スレ
ドラゴンクエスト・バトルロワイアルII Lv1
http://kohada.2ch.net/test/read.cgi/ff/1333536494/

【避難所】 DQBR総合掲示板
http://jbbs.livedoor.jp/game/30317/

まとめWiki
http://w.livedoor.jp/dqbr2/
2名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/06/22(金) 11:02:04.69 ID:8JMiexrB0
----基本ルール----
 全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
 勝者のみ元の世界に帰ることができ、加えて願いを一つ何でも叶えてもらえる。
 ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
 プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。


----放送について----
 スタートは朝の6時から。放送は6時間ごとの1日4回行われる。
 放送は各エリアに設置された拡声器により島中に伝達される。
 放送内容は「禁止エリアの場所と指定される時間」「過去6時間に死んだキャラ名」
 「残りの人数」「主催者の気まぐれなお話」等となっています。


----「首輪」と禁止エリアについて----
 ゲーム開始前からプレイヤーは全員、「首輪」を填められている。
 首輪が爆発すると、そのプレイヤーは死ぬ。(例外はない)
 主催者側はいつでも自由に首輪を爆発させることができる。
 この首輪はプレイヤーの生死を常に判断し、開催者側へプレイヤーの生死と現在位置のデータを送っている。
 24時間死者が出ない場合は全員の首輪が発動し、全員が死ぬ。
「首輪」を外すことは専門的な知識がないと難しい。
 下手に無理やり取り去ろうとすると首輪が自動的に爆発し死ぬことになる。
 プレイヤーには説明はされないが、実は盗聴機能があり音声は開催者側に筒抜けである。
 なお、どんな魔法や爆発に巻き込まれようと、誘爆は絶対にしない。
 たとえ首輪を外しても会場からは脱出できないし、禁止能力が使えるようにもならない。
 開催者側が一定時間毎に指定する禁止エリア内にいると首輪が自動的に爆発する。
 禁止エリアは2時間ごとに1エリアづつ増えていく。
3名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/06/22(金) 11:03:29.11 ID:8JMiexrB0
--スタート時の持ち物--
 プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
 ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
 また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
 ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を配給され、「ふくろ」にまとめられている。
 「地図」「コンパス」「着火器具、携帯ランタン」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「支給品」
 「ふくろ」→他の荷物を運ぶための小さい麻袋。内部が四次元構造になっており、
       参加者以外ならどんな大きさ、量でも入れることができる。
 「地図」 → 舞台となるフィールドの地図。プレイヤーのスタート位置は記されているが禁止エリアは自分で書き込む必要がある。
 「コンパス」 → 普通のコンパス。東西南北がわかる。
 「着火器具、携帯ランタン」 →灯り。油は切れない。
 「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
 「食料・飲料水」 → 複数個のパン(丸二日分程度)と1リットルのペットボトル×2(真水)
 「写真付き名簿」→全ての参加キャラの写真と名前がのっている。
 「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
 「支給品」 → 何かのアイテム※ が1〜3つ入っている。内容はランダム。

※「支給品」は作者が「作品中のアイテム」と
 「現実の日常品もしくは武器、火器」の中から自由に選んでください。
 銃弾や矢玉の残弾は明記するようにしてください。
 必ずしもふくろに入るサイズである必要はありません。
 また、イベントのバランスを著しく崩してしまうようなトンデモアイテムはやめましょう。
 ハズレアイテムも多く出しすぎると顰蹙を買います。空気を読んで出しましょう。

--制限について--
 身体能力、攻撃能力については基本的にありません。
 治癒魔法については通常の1/10以下の効果になっています。蘇生魔法は発動すらしません。
 キャラが再生能力を持っている場合でもその能力は1/10程度に制限されます。
 しかしステータス異常回復は普通に行えます。
 その他、時空間移動能力なども使用不可となっています。(ルーラなど)
 MPを消費するということは精神的に消耗するということです。
 全体魔法の攻撃範囲は、術者の視野内ということでお願いします。

 ※消費アイテムならば制限されずに元々の効果で使用することが出来ます。(キメラの翼、世界樹のしずく、等)
  ただし消費されない継続アイテムは呪文や特技と同様に威力が制限されます(風の帽子、賢者の石、等)
【本文を書く時は】
 名前欄:タイトル(?/?)
 本文:内容
  本文の最後に・・・
  【名前 死亡】※死亡したキャラが出た場合のみいれる。
  【残り○○人】※死亡したキャラが出た場合のみいれる。

 【座標/場所/時間】

 【キャラクター名】
 [状態]:キャラクターの肉体的、精神的状態を記入。
 [装備]:キャラクターが装備している武器など、すぐに使える(使っている)ものを記入。
 [道具]:キャラクターがザックなどにしまっている武器・アイテムなどを記入。
 [思考]:キャラクターの目的と、現在具体的に行っていることを記入。(曖昧な思考のみ等は避ける)
 以下、人数分。

※特別な意図、演出がない限りは状態表は必ず本文の最後に纏めてください。
4名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/06/22(金) 11:04:43.19 ID:8JMiexrB0
【作中での時間表記】
 深夜:0〜2
 黎明:2〜4
 早朝:4〜6
 朝:6〜8
 午前:8〜10
 昼:10〜12
 真昼:12〜14
 午後:14〜16
 夕方:16〜18
 夜:18〜20
 夜中:20〜22
 真夜中:22〜24



【D-4/井戸の側/2日目早朝(放送直前)】

【デュラン@DQ6 死亡】
【残り42名】

【ローラ@DQ1】
[状態]:HP3/4
[装備]:エッチな下着 ガーターベルト
[道具]:エッチな本 支給品一式
[思考]:勇者を探す ゲームを脱出する


━━━━━お願い━━━━━
※一旦死亡確認表示のなされた死者の復活はどんな形でも認めません。
※新参加キャラクターの追加は一切認めません。
※書き込みされる方はスレ内を検索し話の前後で混乱がないように配慮してください。
※参加者の死亡があればレス末に必ず【○○死亡】【残り○○人】の表示を行ってください。
※又、武器等の所持アイテム、編成変更、現在位置の表示も極力行ってください。
※具体的な時間表記は書く必要はありません。
※人物死亡等の場合アイテムは、基本的にその場に放置となります。
※本スレはレス数500KBを超えると書き込みできなります故。注意してください。
※その他詳細はスレでの判定で決定されていきます。
※放送を行う際はスレで宣言してから行うよう、お願いします。
※最低限のマナーは守るようお願いします。マナーはスレでの内容により決定されていきます。
※主催者側がゲームに直接手を出すような話は序盤は極力避けるようにしましょう。
5名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/06/22(金) 11:39:44.42 ID:EpF7pkVbO
乙です!
今度はしっかり保守せんと…
6名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/06/22(金) 15:34:49.80 ID:lnSvxZC3O
スレ立て乙
7名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/06/22(金) 17:10:36.91 ID:SRYVo0bN0
>>1
8名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/06/22(金) 17:44:34.92 ID:pi4lUh+70
多分前スレ落ちたのは、容量が一定以上になると落ちやすくなるって奴だな
普段なら落ちることなんてそうそうないから大丈夫だろう
なんせ俺が1年前に立てた糞スレがまだ残ってるくらいだし
9君がそう言ったから  ◇acx9ZJs02Q:2012/06/25(月) 12:47:01.31 ID:WNOyM/Vc0
生きることはつまらない。
彼女が常々口にしていた台詞だ。
食事をしようが睡眠をとろうが、生の実感さえ感じることができないと、いつも嘆いていたのを覚えている。
そして戦いに関しては、命をぶつけ合い削り合うその瞬間だけは、生き生きと笑っていたことも。
美麗な容貌でありながら、その生き様はまるで修羅のようだった。
戦い以外なにもいらない、だからこそ彼女の戦いはなによりも強く美しかった。
そんな彼女と背中合わせで戦う相棒であったこと、彼女と対等であったことを何よりも誇りに思っていた。
彼女が戦う己以外何も見ていないとしても構わなかった。共に戦えるならそれでよかった。
だから忘れられない。
勇者アレルがアレフガルドから行方をくらましたとき、彼女が震える声で呟いたことを。

「アレルは私を裏切った」

彼女が他人に執着するようなことを言うのを、そのとき初めて聞いた。
そして彼女がアレルと戦うことを渇望していたと知った。
だが、彼にはわからなかった。どうして彼女の望む相手が、アレルでなければならなかったのか。
慰めるような言葉が口をついて出たのも、その動揺のせいだったかもしれない。

「俺がいる。俺がお前と戦おう。何度でも、お前の気が済むまで……」

修羅の女は最強を自負する魔法使いに無機質なまなざしを向けた。
その言葉を検分でもするかのように、しばらくじっと見つめていた。だが、やがてゆるゆると首を振った。

「お前は弱い」

立ち尽くした魔法使いを、もう視界に入れることさえなく。
女は光を取り戻したアレフガルドの空を、空虚な面持ちで眺める。

「お前などでは、この渇きは満たされぬ……」

久方ぶりに訪れた、自分たちが戦いを求めた果てに手に入れたあの世界の太陽は、二人の全てを奪ったのだと思った。
10君がそう言ったから  ◇acx9ZJs02Q:2012/06/25(月) 12:47:35.31 ID:WNOyM/Vc0
「――これがさっき言ってたアルス。で、マリベル、キーファ、アイラと、ついでにホンダラのおっちゃんな」
「ほう、こいつもお前さんのお仲間かい?」
「ホンダラのおっちゃんはアルスのおじさんだぞ! 面白いもんいっぱい持ってるんだ」
森の中で、魔法使いはガボと情報を交換していた。
いずれ来る『間引き』のときに備えて、今知れる参加者のことだけでも把握したい。
今後どこに行くかについては、ハッサンの死骸がある南を避けて北方の牢獄の町へと向かうのが妥当と考えるが、
如何せん目的地にするにはやや遠い。
いくら鍛えているとはいえ、魔法使いの体力と寄る年波ではそう簡単にたどり着ける距離ではなかった。

「なあおっちゃん、オイラやっぱり腹減ったよ。おっちゃんもお腹空かないか?」
だからガボが、切なそうに腹をさすりながら彼を見上げてきたときに、ここで一度休息を取っても良いかと彼は考える。
しかし次に続く少年の言葉は、老魔法使いの予測とは少しだけ違っていた。
「せっかく森にいるのに、ふくろに入ったやつを食うのはもったいねえな。オイラが食べものを探してきてやるよ」
「お前さんが? そんなちっちゃいのに、森だの山だので食材を採ったことがあるってのかい」
「おう! オイラにはすみかみたいなもんさ」
その言葉の真意は不明だが、ガボの表情は自信と期待に満ち溢れて、まるで犬がそうするかのように彼の許しを待っていた。
老魔法使いの役に立ちたいという思いが、その言動から感じられる。
悪い話ではないが、一人行動では万一のこともあろう。この辺りに他の参加者が潜んでないとも限らない。
そして何より、森の中には先の戦いの痕が残されている。
見られれば人死にがあったと気付かれるだろう。そうなれば後々面倒なことになるのは予測がつく。
そんな少しの思慮の末、結局、男魔法使いはガボの提案を承諾することにした。
「わかった。わしはここで待っていよう。すぐに戻ってくるんじゃぞ、何が起きるかわからんからな」
「誰がいるかわかんないもんな! 気をつけてくるよ」
「ああ。なるべく山沿いのほうを探すといい。人も少ないだろうし、湧き水があるかもしれない」
「山沿いな。わかったぞ」
そう言うとガボは、遠い咆哮をあげながら、まるで獣のように森の中を疾走した。
リンリンなどとはまた別の意味で人間離れしたその動きに、前世は狼かなにかだろうかと呆れた眼差しを送る。
なんにせよ、この手駒が自分に向ける信頼は相当なものだ。途中襲われでもしない限りは戻ってくるだろう。
山沿いに進めばハッサンの死体を見つけてしまうこともない。
こんな枯れた森でまともな食料が手に入るかは怪しいところだが、確かに少年の言うとおり、調達できたら儲けものだ。
ガボという手駒に信頼という餌を与えながら、生き延びなければならないのだ。全てはあの女と、カーラと再戦するために。

あの時、カーラは老魔法使いを、躊躇い無く『弱い』と言い放った。
最強を自負する彼を、彼女と対等に戦えると思っていた、そのことを誇りにさえしていた彼を、カーラは見向きもせずに去って行った。
忌まわしい記憶だ。
彼女の言葉を理解なんてできなかった。この強さが認められないなどと、そんなことはあってはならない。
「……お前はなにもわかってないぜ。カーラ」
森の中で、生気の無い木々を聞き役にして、老魔法使いは独りごちる。
11君がそう言ったから  ◇acx9ZJs02Q:2012/06/25(月) 12:48:24.50 ID:WNOyM/Vc0
ガボは嬉しかった。
身動き取れなくてお腹も空いて、助けを呼んでも誰も来なくて、寂しさや不安に駆られたとき、
差し伸べられる手がどんなにありがたくてたまらないかを、ガボはよく知っていた。
遠い昔にも似たようなことがあった。ガボがこの姿になった切欠の事件、かつて白狼としてオルフィーの町を守っていたとき、
魔物の呪いによって姿を変えられたガボは、身動きも取れず助けも呼べず困窮していた。
あのとき手を差し伸べてくれ、白狼の誇りを取り戻してくれたアルスたちへの感謝を、ガボは今でも忘れていない。
かのデスタムーアとかいう奴が何を言っているのかガボにはよくわからなかったが、理不尽だということだけはわかるこの世界で、
かつての状況とは違っても同じように手を差し伸べてくれた老魔法使いを、ガボは守りたいと思った。
――というわけで手始めに彼のために食材を探そうと森を疾走しているのだが、目的のものはなかなか見つかりそうにない。

「山や森が死んじゃってるみてえだなぁ……」
獣どころか鳥やネズミさえ見当たらない景色に、ガボは深く落胆する。
かろうじて、虫のようなよくわからない生物が時折草むらでうごめいているが、当然老魔法使いへの土産にはできない。
他にも狼の一匹でもいたら仲間に加えたかったが、今朝助けを呼ぼうと遠吠えをしてみたときに誰も来てくれなかった時点で、
望みはかなり薄かった。
「なんかいやな世界だよなぁ。封印ともちがう。どこ行ってもいやな匂いしかしねぇや」
誰もいないのをいいことにぼやきながら、とぼとぼと老魔法使いの言うように山の際を歩いていると、
がさがさと森の方でなにものかが歩いている音が聞こえてきてはっとする。
すぐさま野生の勘を頼りに耳を済ませる。どうやら目的だった獣の類ではない、恐らく人間のものだった。
相手の足音もやがて止まる。すぐに戻ってくる、という老魔法使いとの約束が一瞬ガボの頭をかすめたが、
もしかしたらアルスたちのうちの誰かじゃないかという望みに、ガボは呼びかけを放った。
「誰かそこにいるのか?」
様子をうかがうかのように息を潜めていた相手が、やがて森の影から姿をあらわす。
背中まで伸ばした流れるような銀髪に、漆黒の衣装。どことなく禍々しさを漂わせる長身の男に、ガボの目付きが自然と厳しくなる。

銀髪の男――ピサロが、結局一人で北へ行く旨を告げたとき、ミーティアから激しい抗議を喰らう羽目になった。
北に行っては先のような戦闘があるかもしれない、せっかく仲間になれたというのに、あえて一人で危険を冒そうとはどういう了見か――
ヤンガスも、ピサロの戦闘力をあまり知らぬゆえか、やや渋い顔だった。
どうせ絶望の町に行くのは後でもいいし、ひとまず3人一緒に行ってはどうかと提案してきたが、ピサロは結局それら全てを断った。
ヤンガスがどれほど戦えるかはわからないが、彼がミーティアを連れて絶望の町へ向かうのと、
すでに戦闘が起きている北の森を三人で探索するのでは、リスクがあまりにも違いすぎる。
ミーティアを、無用な危険に晒したくはない。
そのためピサロは一人行動を取り、ヤンガスやミーティアが見たという戦いの痕を調べることにした。
いまだそこには死骸が残されているはずだ。今後のために、首輪を入手できる機会があるならばできる限り手に入れたかった。
だだるミーティアを言いくるめ、渋るヤンガスに支障ない範囲で説明し、絶望の町へ向かう二人と別れて北方へ足を運ぶ。
12君がそう言ったから  ◇acx9ZJs02Q:2012/06/25(月) 12:48:57.37 ID:WNOyM/Vc0
しかし目的地へとたどり着くより早く、ピサロは獲物に遭遇することとなる。

彼は杖を構えたまま、視界に現れたときから近づくことなく、一定の距離を保っていた。
背丈の低い、一見みすぼらしい姿の少年だったが、ソフィアらもあの子供のような姿で強烈な力を持っていたことを思うと、
油断するわけにはいかない。この森にいる時点で、かの戦闘に関わっている可能性があるのだ。
そうしてしばらく、ピサロは少年の様子を見つめていた。警戒されているのか、少年もまたピサロを睨んでいる。
少しの沈黙のあと、先に声を発したのは相手のほうだった。
「オイラは、ガボだぞ」
突然の自己紹介に、内心やや肩透かしを喰らう。それでピサロもようやく口を開いた。
「……この付近に男の死骸がある。やったのはお前か」
「シガイ!? 誰かもう死んじゃったのか」
驚く少年――ガボに、ピサロはやや考え込むような表情になった。ガボは距離を縮めることはせずに、声を張り上げる。
「オイラ、さっきまで全然動けなかったから周りのことはよくわからねえんだ。
 だからその人のこともよく知らない。おっちゃんだったら知ってるかもだけど」
「おっちゃん?」
「呪いで動けなくなってたオイラを助けてくれたんだ。すっごい魔法が使えるんだぞ」
その言葉に、ピサロははっとした。ガボが言う、恐らく壮年であろう魔法使いの男というのは、
ミーティアが言っていた話にほぼ一致する。炎が男を焼き尽くしたこと、それを成したのが老人だったということ。
ガボが何も知らないのは恐らく本当だろう。そうでなければ、こうぺらぺらと他人のことは話すまい。
そして彼が言う『おっちゃん』とは、――恐らく。
ピサロの決断に迷いは無かった。
「……ガボと言ったな。私はピサロだ。そちらに攻撃する意志がないなら、こちらも危害を加えるつもりはない。
 この件に関して情報がほしい。その男のところへ案内してはもらえぬか」
「ピサロか。なんかかっけえ名前だな」
どうでもいい返答に、一瞬ひざから崩れ落ちそうになる。
だが、ガボはすぐに、力強い眼差しで頷いた。
「わかったぞ。最初に見たときはちっと魔物の匂いがするからケイカイしたけど、
 ピサロは見た目ほど恐そうじゃないし。おっちゃんのとこに連れてってやるぞ」
「……そうか。では、頼む」
「おう、任せろ! ところでピサロ、なんか食べ物持ってないか?」
「……」
いまいち緊張感の無い案内役に、ピサロはなぜか、無性にかつての連れを思い出す羽目になった。
13君がそう言ったから  ◇acx9ZJs02Q:2012/06/25(月) 12:50:43.75 ID:WNOyM/Vc0



「――やっぱり、納得できませんわ」
平原を踏みしめる中、お供に山賊を連れた姫君は、そう零した。
隣を歩くお供、ヤンガスは困り顔になり、ぽりぽりと頬をかく。ミーティア姫が、ピサロの選んだ行動に納得できぬまま
別離となったことはわかっていた。だがピサロに彼女を任された身としてはどうしようもない。
「こうしてる今も、ピサロさんは一人で、危険な目に遭っているのかもしれないのに……」
「だからって、姫さんを一人にすることはできないでがすよ」
「でも、ミーティアは見たんです、男の人が大きな炎に包まれるのを! もしもピサロさんがそんなことになったら」
目に涙さえ浮かべている彼女に、ヤンガスは内心困惑するが、つとめて冷静になだめることにする。
「姫さん。さっきは三人で行くことも提案しましたが、あっしは正直、こうなって良かったと思ってるんです」
「ヤンガスは、ピサロさんを見捨てることが正しいと言うの?」
「もしも姫さんの身になにかあったら、兄貴やトロデのおっさんに申し訳が立たないでがすよ」
誠意に満ちたヤンガスの言葉に、ミーティアは口をつぐむ。
たしかに、ミーティアにとって一番大事なのはエイトと会うことだった。
絶望の町へ行くことに決めたヤンガスの選択は理にかなっているし、それがミーティアのためであることもわかっていた。
だけど――。
「……やっぱりダメです」
「姫さん」
「私が足手まといなばかりに、ピサロさんが危険な目に遭うのだとしたら、そんなのはダメです。
 私だってずっと、エイトやヤンガスたちと旅を続けてきました。自分の身を自分で守るくらいはできます」
「ですが……」
「ヤンガス。ぶしつけなお願いで申し訳ないですが、どうかピサロさんを助けに行ってはくれませんか。
 短い時間だったとはいえ、共に過ごした人を見捨てることなどできません。
 私がいて足手まといなら、私はここでヤンガスの帰りを待ちますわ」
先ほどまでとはちがう、強い決意が見てとれる瞳に、ヤンガスの心が今度こそ揺らいだ。
ミーティアが譲らぬその想いは、彼が兄貴と慕う青年が、かつて見も知らぬヤンガスの命を助けたときを彷彿とさせるのだ。
賊として襲いかかり、無様にも壊れた橋に落とされて谷底に呑み込まれようとした自分を、エイトは命からがら引っ張り上げた。
なぜ助けたのか。そんな恩知らずな質問に、トロデは無礼者と怒ったが、青年は静かに笑ってこう言った。
――君にだって、大切な人がいるだろう?

そんな兄貴だったら、こんなときどうするか。考えずともわかることだ。
あのときと同じことを言って、きっとピサロのことだって、助けに行こうとしただろう。
ミーティアの芯の強さは、同じ仲間としてもよく知っている。実父が危険に晒されたとき、彼女はいつも身体を張って立ち向かっていた。
「……わかりました。ミーティア姫、あっしと一緒に行きやしょう」
「ヤンガス!」
喜色満面のミーティアに、ヤンガスはしっかりと頷いた。
「姫さんのことはあっしが必ずお守りします。ピサロのことも探しに行きやしょう。
 森に用事があるだけと言っていたし、案外すぐ合流して戻ってこれるかもしれないでがすね」
「ありがとう……。ミーティアも、せいいっぱい戦うわ」
そう言って微笑む姫の姿が、あのときのエイトにひどく重なる。
――やはりお似合いだと思うでがす。
心の中で、ヤンガスはそっと呟いた。
14君がそう言ったから  ◇acx9ZJs02Q:2012/06/25(月) 12:57:06.02 ID:WNOyM/Vc0




【E-4/森林 北部/昼】

【男魔法使い@DQ3】
[状態]:健康 MP消費(小)
[装備]:毒蛾のナイフ(DQ6)、杖
[道具]:支給品一式 不明支給品(確認済み×1〜3) 破壊の剣@DQ2
[思考]:女賢者と決着をつける そのためにガボを利用して生き延びる
※名前、職歴、杖の種類は後続の書き手にお任せします。

【ガボ@DQ7】
[状態]:健康  空腹
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、他不明品0〜2
[思考]:仲間をさがす おっちゃん(男魔法使い)のために戦う
      食料を調達 ピサロをおっちゃんのところに連れて行く

【ピサロ@DQ4】
[状態]:健康
[装備]:杖(不明)
[道具]:ステテコパンツ、不明0〜1、基本支給品
[思考]:脱出。優勝するなり主催を倒すなり、手段は問わない。
      ガボに男魔法使いのところへ連れて行ってもらう 戦いのあとを探索する。

【F-4/平原/昼】

【ミーティア@DQ8】
[状態]:健康
[装備]:おなべのふた
[道具]:エッチな下着、他不明0〜1、基本支給品
[思考]:エイトを探す  ピサロを助けに北の森林へ向かう
[備考]:エイトの安否は知りません。エッチな下着(守備力+23)はできるだけ装備したくありません。

【ヤンガス@DQ8】
[状態]:健康
[装備]:覇王の斧
[道具]:支給品一式(不明1〜2,本人確認済)
[思考]:ピサロを助けに北の森林へ向かう。ピサロとの合流を待って絶望の町へ向かう。戦うものは止め、説得する。
     仲間と同調者を探す。デスタムーアを倒す
15名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/06/25(月) 12:58:30.35 ID:WNOyM/Vc0
代理投下終了
魔法使いはカーラに相手にされてなかったのか
カワイソス
16名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/06/26(火) 01:50:02.08 ID:yLmx7kGU0
投下乙です
それぞれのやりとりがすごくらしくっていいなあ
さて、早くも窮地に立たされてる感ある男魔さんはどうなるかな・・・
17名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/06/26(火) 01:54:52.88 ID:u5Ipyw/r0
投下乙であります

男魔法使いのカーラに対する執着は年寄りの冷や水なのか。カワイソス
おまけにミーティアは近づいてきてるしでヤバげですぞ
18 ◆1WfF0JiNew :2012/06/26(火) 23:39:03.86 ID:ZbiVuAGe0
投下乙です。
爺ちゃんピサロに目をつけられるとか早くも詰んでるwwwww
しかしくっそ惨めな動機だな爺ちゃんwwwww

投下します。
19 ◆1WfF0JiNew :2012/06/26(火) 23:42:16.64 ID:ZbiVuAGe0
「ねぇ、デュラン。君はなぜ戦いを望むんだい?」
「どうした、ロッシュよ。お前ほどの男が命乞いか? これから血沸き肉踊る決闘をするというのに」
「君は根っからのバトルジャンキーだなぁ……。僕は戦ったりするのは嫌なんだよ。痛いのやだし」
「そうつぶやく奴が私を倒そうなどとは言わんよ……お前ほどの強者がそのような弱音を吐くな」
「痛いのは誰だって嫌だろ〜。僕は本音を隠さない性格なの! はぁ……なんで戦ったり強くなったりすることがそんなに好きかなあ。
 仲良く平和にラブアンドピースが一番でしょうに」
「そうは言うがな、ロッシュよ。その言葉の先が――闇だとしてもその言葉を吐けるか? 
 いくら貴様が人を救ったとしてもだ、人は強すぎる力を持つお前を迫害するぞ?
 それが、王子であっても、勇者であっても。新しく生まれる世界は、お前を受け入れたりはしないだろう。
 現実はいつだって理想を踏み躙るよ」



「…………知ってるさ、そんなことぐらい。でも――――」



◆     ◆     ◆



「いないねぇ、もょもと。大分離れちゃったのかな」

もょもとと襲撃者を捜し、数十分。三人は薄暗い森を歩いていた。
だが、もょもとどころか、参加者一人見当たらない。

「全く、行動が早いねぇ。もっとゆっくりしてくれてもいいのに。
 僕達を襲ってきた人も見つからないし」

ロッシュは油断なく辺りを見回すが、人の気配を掴めなかった。
聞こえるのは静寂、虫や動物の鳴き声すら聞こえない。
その理由も、狭間の世界に行った経験があるロッシュにはわかっていることではあるが、こうも静かだと気が滅入ってしまう。
20名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/06/26(火) 23:43:57.01 ID:DDho3TwCO
 
21 ◆1WfF0JiNew :2012/06/26(火) 23:44:48.76 ID:ZbiVuAGe0

(何か話しかけようにも二人共だんまり。シンシアはまだ切り替えられていないしね。仕方ないとは思うけど)

眼前で死んだレックスのことがまだ頭に残っているのだろう。
ロッシュにとってはほぼ他人みたいなものであったが、彼が幼いながらも優しくていい子だというのはシンシアの話から知っている。
そんな子が自分をかばって死んだとなればショックも大きいだろう。

(ミレーユに至っては何も喋らないし。というか、どこか違和感を覚えるのはなんでだろうね。
 どうも挙動がおかしい気がするなぁ。さっきの会話にしてもどこか胡散臭かったし。
 所々、歯切れが悪いのはどうしても気になっちゃうよ)

ロッシュは知る由もないが、その勘は正解である。
彼に同行しているミレーユは偽物であり、影の騎士がへんげの杖により姿を似せているだけなのだから。

(んー。彼女が偽物って可能性もあるのかな? カルベローナで出会ったおじいさんが使っていた呪文……確か、モシャスだったかな。
 あれを使えば、姿を似せることは簡単だしね。あくまで仮説の域をでないけどさ。
 でも、僕の仮説がもし正しいとしたら、彼女の情報も嘘になる。もょもと達は逆方向に進んだということになる)

だが、この推理を完成させるには証拠が足りなすぎた。
ちょっとした違和感で決めるべき問題ではないし、もし外れたとしたら目も当てられない。
故に、ロッシュは沈黙を保っていた。
22 ◆1WfF0JiNew :2012/06/26(火) 23:46:07.33 ID:ZbiVuAGe0

(こういう時にテリーがいてくれたら助かるんだけどなあ。ミレーユ狂いのシスコンだしねー。
 僕とは違って即座に見抜くんだろうなあ)

この世界のどこかにいるであろう仲間に思いを馳せる。
チャモロが死んだ今、この世界にいる仲間は四人。
全員が実力者ということもあるが、ロッシュは全く安心などしていなかった。
シンシアの話を聞いた限り、自分の知らぬ世界の住人も呼ばれているらしい。
ということは、自分達と同等の実力を持つ参加者が多いということだ。
なればこそ、彼らが各個撃破される前に早めに合流しなければ。
自分みたいな弱い奴こそ真っ先に殺られるだろうとは思っているが万が一がある。
早めの合流は必要不可欠だ。

(全くもう! か弱い勇者もどきみたな僕を呼ぶなんてどうかしてるよ、デスタムーア。
 こういう催しはデュランみたいなバトルジャンキーだけで十分だよ……)

本人は頑なに否定しているが、ロッシュはパーティの中で一番切れ者かつ強者である。
こうしておちゃらけることで道化の皮を被る事が多いロッシュであるけれども、彼の卓越した頭脳と剣技、魔法によってパーティが助かった窮地は数多くある。
故に、ミレーユに対しての疑問も、彼は頭を使って解決をする。

「そういえば、ミレーユ。あの件についてはどうしよう?」
「えっと、どの案件だったかしら。いろいろありすぎて思い出せないわ」
「おいおい、忘れちゃったのかい? 美味しいご飯が食べれるレストランに行く約束をしてたじゃないか。
 ミレーユが奢ってくれるって言ったからさ。僕ってばもう飛び跳ねるくらい喜んでいたのに」
23 ◆1WfF0JiNew :2012/06/26(火) 23:47:28.91 ID:ZbiVuAGe0

ロッシュは一つカマかけをした。
内容としては、してもいない約束に対して彼女がどう反応するか。
これで彼女を図ることに決めた。
加えて言うと、彼女と二人きりで食事なんて経験は存在しない。
彼女の頭の中はテリー一色なのだから、当然の如くロッシュは眼中にないのである。
ミレーユが根拠のある反論をすれば白。このままうまい具合に話をあわせてきたら黒。
簡単な策ではあるが、効果的だ。

「ああ、すっかり忘れていたわ。でも、ロッシュ。楽しみにしていたのはわかるけれど、こんな状況で不謹慎よ」
「はは、ごめんごめん。すごく楽しみにしていたからさ、ついつい気になっちゃって」

引っかかった。これで彼女は黒確定だ。
後は、間違いなく乗っているであろう彼女にどう対応すべきではあるが。
事態はロッシュにそんな余裕を与えなかった。

「……うっわ。この殺気」

隠そうともしない殺気を感知したロッシュは引き返し、“彼”との遭遇を避けようかと考えたが、もう遅い。
“彼”はもうすぐそばに。背中を見せたら即座にしんくうはで切り刻まれる領域に。
仕方なく、ロッシュはシンシア達に覚悟しといて、と耳打ちをして前へと進む。
この状況を切り抜けるには“彼”を倒す以外に方法はないと悟ったから。
24名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/06/26(火) 23:48:02.98 ID:k6W1ghU00
 
25されど道化は戦闘狂と踊る ◆1WfF0JiNew :2012/06/26(火) 23:48:47.90 ID:ZbiVuAGe0

隠そうともしない殺気を感知したロッシュは引き返し、“彼”との遭遇を避けようかと考えたが、もう遅い。
“彼”はもうすぐそばに。背中を見せたら即座にしんくうはで切り刻まれる領域に。
仕方なく、ロッシュはシンシア達に覚悟しといて、と耳打ちをして前へと進む。
この状況を切り抜けるには“彼”を倒す以外に方法はないと悟ったから。

「久しぶりだな、ロッシュ。もう一度会えるとは嬉しいな」

“彼”の正体、デュランを討滅しない限り。

「あっちゃー。まさか、こんなに早く出会っちゃうなんて。出会うなら美少女だけにして欲しいよ」
「軽口は変わらんな。会えて嬉しいよ、ロッシュ。神様にでも感謝したいくらいだ、お前との出会いを私がどれだけ熱望していたか理解できまい」
「ぷっ……! デュランの口から神様に感謝だなんて聞けるとは思わなかったな、明日は大雨だ」
「はっはっは、雨は雨でも赤い血によるものだがな。その血の中にはお前も含んでいるぞ」
「ヒェ〜〜〜〜〜〜〜〜! ブラックジョーク過ぎるよ、もう。こんな平和主義者を捕まえて言うセリフじゃないね」

まるで長年の親友であるかのように気軽に二人は言葉をかわす。
敵と気軽に冗談を交えながら雑談するその姿は、傍から見てとても奇妙であり、滑稽だった。

「森の中を歩いていたらくまさんじゃなくてデュランに出会っちゃった、なんてジョークにもならない。
 ハッサンでも言わないよ。あーあーチェンジチェンジ。」
「ククッ。そうだ、その軽口だ。そうやって油断を誘っているんだろう? あいにくと私には通じんぞ? 素で話せ」

デュランはキザったらしく笑い、剣を取る。ここは戦場、やることなんて決まっている。
空気が凍る。場馴れしていないシンシアは思わず後退りしてしまう。
26されど道化は戦闘狂と踊る ◆1WfF0JiNew :2012/06/26(火) 23:49:44.56 ID:ZbiVuAGe0

「何を言ってるんだか。これが僕の素なんだけどなー。ああ、ところで話が変わるんだけどさ〜。
 後ろの二人には手を出さないで欲しいんだけど。ダメ?」
「構わんよ。どちらも“雑魚”だ。戦えん奴に興味はない」
「……やっぱりね。わかる? 僕の違和感ってやつ?」
「ああ。無粋な真似でもされたら困るからな、芽は早めに摘み取っておこう」

そう呟いて、デュランは剣を軽く振るい、真空を起こす。
真空は音もなく大地を切り裂き、ミレーユもとい影の騎士の傍を通過した。

「どのような搦め手を使っているかは知らん。だが、お前は邪魔だ。
 去れ。言っておくが、次は容赦はしないぞ」

デュランの言葉に影の騎士は汗をだらだらと流しながら尻餅をつく。
数秒間、影の騎士はびくびくと震えるだけであったが、時間が経つにつれて正気を取り戻したのか、情けない声を上げながら走り去っていった。

「これで予測不可能な邪魔者はいなくなった。心置きなく戦える」
「君は変わらないね、デュラン。バトルジャンキーの質さえなければさ、魔族のいい男って評価なんだけど」
「それはこちらのセリフだよ。お前のその平和主義な思考がなくなれば、人間ながらも見上げた奴だという評価だというのに。
 理想の果てに何を見たかを知らんお前じゃないだろう、なぜお前はこの期に及んでラブアンドピースを掲げている。
 諦めて一時の享楽に身を任せてみてはどうだ? 例えば、戦いとかな。
 ヘルクラウドでも私は言ったはずだ、現実はいつだって理想を踏み躙る、と」

あの日、彼は言った。
諦めてしまえ、と。
今も彼は言う。
諦めてしまえ、と。
そして。
27されど道化は戦闘狂と踊る ◆1WfF0JiNew :2012/06/26(火) 23:50:54.16 ID:ZbiVuAGe0

「いつだって、僕の返答はこの言葉しか無いよ。“やりたいようにやるだけ”。現実が。君が。僕のジャマをするなら乗り越えるだけだよ」

ロッシュの返答もあの日と変わらない。やりたいようにやる。
誰が否定しようとも、ラブアンドピースを。我儘を勝手に貫くだけだ。
善人だろうが悪人だろうが関係ない。
どんな奴が相手取ろうとも自分の世界に引き摺り下ろしてみせる。

「くっ。ふふふっ、はははっはははっ! ははははははっっ! あの時と同じ答えを返されるとはなぁっ!
 やはりお前は面白い! どんな状況に陥っても曲がらないその意志、実に素晴らしい!」
「というか、君がそれを言いますか。そんな理屈抜きに僕と戦いたいだけだろ!」
「ああそうだが悪いか?」
「悪いよ! しかもあっさり肯定!? 全くも〜。とんでもない奴に目をつけられたもんだよ、僕……」

ロッシュのやりたいことは皆仲良くラブアンドピース。
だから、いついかなる時でも笑っておちゃらけて。
どんなにつらい現実でもラブアンドピースに塗り替えてしまうのだ。

「では、戦おう。さあ、参れ。その刃で私を打ち倒してみよ。以前と同じく倒せるとは思ってくれるな。
 二度も同じ人の子に負けては魔族の名折れだ」

――右手を伸ばす。
剣の柄へ、目の前に立ち塞がるデュランへ。
あるいは未だ見えないラブアンドピースという理想へと。
28名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/06/26(火) 23:51:34.34 ID:DDho3TwCO
 
29名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/06/26(火) 23:51:39.31 ID:Mmu1Kycg0
 
30名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/06/26(火) 23:53:02.22 ID:k6W1ghU00
 
31されど道化は戦闘狂と踊る ◆1WfF0JiNew :2012/06/26(火) 23:53:02.70 ID:ZbiVuAGe0

「……なるほど。確かに、人は君に何もできないだろう。
 けれど、どうやら。ちっぽけな人の子でも一度は君を倒せたみたいらしいよ。
 魔族の王。デュラン。僕は君にこう言おう」

ロッシュがこれから進む道筋の障害として。
自分の我儘――――理想を許さない現実として。
デュランが立ちふさがるのならば。

「残念だったな。もう一度。僕が君を終わらせる」

光の如く、引き裂く。
この、勇者の右手で。



【F-8/森/午前】

【シンシア@DQ4】
[状態]:全身打撲
[装備]:なし
[道具]:支給品一式×2、ゾンビキラー@DQ6、メタルキングの槍@DQ8、不明支給品(確認済み×0〜4)
[思考]:ソフィアとの再会、ピサロは……? レックスを殺した襲撃者を知りたい。
※モシャスはその場に居る仲間のほか、シンシアが心に深く刻んだ者(該当:ソフィア)にも変化できます

【ロッシュ@DQ6】
[状態]:HP12/15、全身打撲、軽度のやけど
[装備]:はじゃのつるぎ@DQ6
[道具]:支給品一式 、不明支給品(確認済み×0〜2)
[思考]:仲間との合流。打倒デスタムーア もょもとを助けたい。
32名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/06/26(火) 23:54:04.58 ID:cqI0CH2BO
33されど道化は戦闘狂と踊る ◆1WfF0JiNew :2012/06/26(火) 23:54:35.38 ID:ZbiVuAGe0

【影の騎士@DQ1】
[状態]:変化、千里眼、地獄耳
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式(ランタンなし)、変化の杖@DQ3
[思考]:闇と人の中に潜み続けて、戦わずして勝ち残る。
争いを加速させるためあらゆる手段で扇動する。
ロッシュ達とデュランから逃げる。
[備考]:変化の杖でミレーユの姿に変化しています。持続時間は不明です。
千里眼の巻物により遠くの物が見え、地獄耳の巻物により人の存在を感知できるようになりました。
範囲としては1エリアほどで、効果の持続時間は不明です。

【デュラン@DQ6】
[状態]:健康
[装備]:デュランの剣@DQ6
[道具]:世界樹の雫@DQ6、エルフの飲み薬@DQ5、基本支給品
[思考]:より多くの強き者と戦い、再び出会ったときにカーラと決着をつける。
[備考]:ジョーカーの特権として、武器防具没収を受けていません。
34名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/06/26(火) 23:54:51.60 ID:DDho3TwCO
 
35されど道化は戦闘狂と踊る ◆1WfF0JiNew :2012/06/26(火) 23:55:36.87 ID:ZbiVuAGe0
投下終了です。支援、ありがとうございました。
36されど道化は戦闘狂と踊る ◆1WfF0JiNew :2012/06/26(火) 23:58:04.11 ID:ZbiVuAGe0
っと。31のレスのとある台詞修正。
「……なるほど。確かに、人は君に何もできないだろう。
 けれど、どうやら。ちっぽけな人の子でも一度は君を倒せたみたいらしいよ。
 魔族の王。デュラン。僕は君にこう言おう」

「……なるほど。確かに、人は君に何もできないだろう。
 けれど、どうやら。ちっぽけな人の子でも一度は君を倒せたらしいよ。
 魔族の王。デュラン。僕は君にこう言おう」
37名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/06/27(水) 02:32:41.33 ID:sYh8VhbA0
デュランの愛重すぎだぜw
38ギャンブル サバイバル ◇t1zr8vDCP6 (代理投下):2012/06/28(木) 17:58:28.14 ID:pnEYEv6A0
 
「あっちゃー……」
こりゃ完全に進路選択を間違えちゃったわねと、あたしは溜息をつく以外できなかった。
どうしてって? そりゃそうよ。
山岳地帯を越えてみるとそこには、火炎呪文で森を焼き払いまくっている異常な女がいたんだから。
 
 
***
 
 
数時間前。
あたしは迷っていた。
 
こういうのって何なのかしらね。
走馬灯の前触れ、みたいな? ……やだやだ、そんな不吉なワードは今は勘弁よ。
何でか無性に子供の頃のことに思いを馳せたくなっちゃったわけ。
あたしってば小さな頃は男の子顔負けにヤンチャだったのよ。
かくれんぼとか追いかけあいっこであたしの右に出る子はまあいなかったわ。
……それがどうかしたのかって? やぁね、話はここからよ。
かくれんぼの鉄則は、狭い場所から捜してエリアを潰していくこと。いわゆる消去法ってやつね。
ほらほら、意外と頭脳派なのよマーニャちゃんって。知ってた?
 
とにもかくにも、一刻も早くミネアを探したいあたしは、進路をどちらにとるべきか迷った。
このまま北に進むか、東へ迂回するか。
あたしは東に進むことにした。
西には協力を申し出てくれたルイーダとオルテガさんが向かっているし、
二人は仲間を募っていると言っていたから、やがて北の方にも協力者が流れていってくれるかもしれない。
なら狭い東の方からあたってみるべきじゃないかって。
淡い期待かもしれないけれど、信じられるものは信じなきゃやってらんないわ。
あと考えたのは、禁止エリアのこと。
時間がくれば否応なしに首輪が爆発して死んじゃうっていう、頭おっかしいルールのことよ。
もしミネアがどこかで身動きが取れなくなってこれに巻き込まれてしまったら……。
そう思ってあたしはね、足場も良くないし、越えた先は鬱蒼としてる森が続いているらしい、
あたし的には相当イケてないことばっかの東へ向かうことに決めたの。
 
で、その結果がコレ。
「ああ、ようやくあらわれてくれたか! 女よ、ここで私と戦ってもらおう!」
……あーあ、これ相当やばい、コイツ絶対やばいわ。だってなんかもう目がイっちゃってるんだもの……。
39ギャンブル サバイバル ◇t1zr8vDCP6 (代理投下):2012/06/28(木) 17:59:12.84 ID:pnEYEv6A0

 
***
 
 
女が、無残に焼け落ちた木々を背景に近づいてくる。
(あたしやブライみたいな完全な魔法使いタイプ、ってわけでもないみたいね)
魔法を生業としているみたいだけれど、剣を持った姿はすらりとしていて様になっていた。
呪文を唱えながら剣を振るう、どちらかといえば、そう、それこそミネアに近いタイプのように見える。
ソフィアに出逢うまでの旅の道中、妹に前衛を任せて戦っていたことが思い出された。
「我が名はカーラ。お前の名を訊かせてもらおうか?」
……なんだろ。ここで名乗っちゃったら、その時点で負けってな気がするんだけど気のせい?
こんな開けっぴろげに清々しく(?)戦いを提案してくるなんて、かえって気味が悪い。
尋常ならない雰囲気に呑まれてしまいそう。
「お断りするわ」
「ほう?」
「悪いけど、あんたに付き合ってる暇なんて無いの。あたしは人を捜している。絶対会わなくちゃいけない人をね。
 だから、見逃してくれない?」
相手の手の内を見るためには、あえて自分のカードをいくらか見せることも必要。
そう、これはギャンブルの鉄則だ。
「それはできない相談というもの。行きたくば私を倒して行くことだ。戦いこそが我が望みなのだから」
「……だからこの有様ってわけね? 燻り出しってレベルじゃないわよ。それで、もう誰か――殺したの?」
「一人の少年と出逢った。キーファという名の、良き剣士だった」
(ゲスが……!)
この女はもうゲームに乗っている。そして、戦いに飢えた狼に違いなかった。
「ああ、そこらの殺戮者と同じと思ってくれるな。私は元より戦いに身を置きし者。
 己を満たすための舞台としてこのゲームを利用しているに過ぎない」
「そうかしら? あまり違わないように思えるんだけど」
「完全な理解を得ようとは思っていないが。――さて、そろそろ観念してもらおうか?」
さあ、どうしたものか……。
「女、もう一度だけだ。名を訊こう」
「……マーニャよ」
返答を聞き、女が笑んだ。
「改めて名乗ろう。カーラだ」
「そ。よろしくね……」
40ギャンブル サバイバル ◇t1zr8vDCP6 (代理投下):2012/06/28(木) 18:00:15.56 ID:pnEYEv6A0
 
嬉々とした様相でカーラが剣を持つ手に力を込める。
こちらもルイーダに持たされた短剣・ソードブレイカーを構えた。
(相手はおそらく魔法と剣術の両方に長けている。こっちも貧弱な武器って訳じゃあないけど……)
少年といえど、すでに剣士を一人殺しているという。そんな相手の剣を自分が捌ききれるか?
答はノーだ。
(存外おしゃべりな女よね、けど嘘やハッタリを仕掛けてる風には見えない)
ならば。
(使えないカードは先に切るべき……!)
握った手をソードブレイカーの重心からずらす。
そして扇を投げつける要領でそのままカーラの足元に投擲した!
「愚かな、自ら武器を捨てるとは」
「そうでもないわよ――ベギラゴン!!」
「!!」
相手を一瞬怯ませられればそれで充分。その間に得意の呪文を唱え、放った。
最高クラスの火炎魔法。四方八方から巻き起こる炎の渦がカーラを飲み込んでいく。
(まだよ。これも二番目の足止めに過ぎない。いっちばんデカイのをお見舞いしてやらなきゃ!)
「唸れ轟音――」
狙うは魔法使いの至高の呪文イオナズン。
どれほどの手練れだろうと生身の人間、まともに食らえば一溜まりも無い、
はず――
「――バギクロス」
「ッ?!」
突如、強風が吹き荒れた。
集った火炎が、かき消されていく!
(最高位の風魔法……! 火炎系呪文だけじゃないっての? この女……!?)
 
「見事。呪文の精製速度、重量ともに申し分ない。だが、いささか事を急いたようだな」
涼しい顔でカーラが風の中心に直立している。
ベギラゴンの火炎も、そこらじゅうにカーラ自身が放っていた火炎の木々の燻ぶりさえも、全て消失した。
(けど、完全な相殺じゃない! ダメージは与えられてる! このまま呪文の連発で押し切れられれば……!)
「――ベホマ」
癒しの波動がカーラを包み込んだ。
「ふむ。やはり回復力は鈍いか……。
 さてもう終わりか? ならば私からいこう。――マヒャド!」
眼前に無数の氷の刃が迫り来る。
(はは、回復呪文に氷結呪文まで使いこなすっていうの? 常識破りもいいトコ、まるでどこぞの魔王様じゃない)
動揺を殺しきれないながらも詠唱を完成させたイオナズンでなんとか迎え撃つ。
辺りに衝撃波が走る中、窺い見るとすでにカーラは次の詠唱に入っていた。
赤い瞳を不気味に光らせ、こちらの一挙一動を凝視しながら……。
41ギャンブル サバイバル ◇t1zr8vDCP6 (代理投下):2012/06/28(木) 18:01:10.25 ID:pnEYEv6A0
 
 
***
 
 
速さではあたしが勝っていたと思う。
けれど攻撃手段の多彩さに圧倒され、どうあがいても主導権を握ることができなかった。
深手をいくつか負い、回復手段もなく、あとはダメージが蓄積されていくジリ貧状態。
ついに体が地に付き、喉元に剣を向けられているっていう情けない有り様。
「命を懸けた勝負なんて、意外とあっさりしてるものね……」
「違いない。だが思えば、正面から魔法を打ち合うというのは――貴重な機会だったかもしれんな。
 なかなかに良い戦いだった。私の前に現れてくれたこと、感謝するぞ」
「そりゃぁどーも……」
 
首筋に、ピタリと剣の切っ先が触れた。
「そういえば捜し人がいると言っていたか? これも一つの縁、いずれ私の行く先で巡り会うかも知れぬ。
 遺言があれば聞いてやろう」
「そうね」
余裕綽々の表情。完全に詰みの状態。ぐうの音も出ないはずなんだけど。
「カーラ。あんた、つまらない女だわ」
カーラは訝しげに眉を上げた。
 
「ねえ、ポーカーはご存じ? あんたはね、まるで全部の手札がジョーカーなの。
 一人でなんでもこなせちゃう。どんな手でも負けない。これ以上なんてない最強さよね」
「…………」
「けど、あんたは――知らないのよ。
 クラブのジャックの頼もしさ……ダイヤのクイーンの華麗さ……ハートのキングの美しさ……
 スペードのエースの強さ……フラッシュや、ロイヤルストレートの輝きさえも」
「言いたいことはそれだけか?」
「……そうね。もう一つだけいいかしら? ギャンブルで”身を滅ぼさない”ための心構えを教えてあげる」
 
あたしは最後の賭けに出る。
(彼の者に宿りし魔力の源よ、我に集え)
「何ッ?」
 
「――どんなにツイてる時でも全額は注ぎ込んじゃいけない。勝負を”降りる”ためのBET(賭け金)は残しておくことよ」
42ギャンブル サバイバル ◇t1zr8vDCP6 (代理投下):2012/06/28(木) 18:02:20.77 ID:pnEYEv6A0
  
魔力吸収呪文マホトラ。
なけなしの魔力があたしに流れ込んでくる。
森を焼き払うほどの消費、その後あたしに対しての最強クラス呪文の連発。
そう。この女がいかに化け物じみていても、必ず底はあるのだ。
 
「悪足掻きを……。”降りる”? この状態で逃れられると思っているのか?」
――はぁい、思ってるわよ。
そっちこそ、チェックメイトしたら終了だと思ってるの? ないない。そんなの盤をひっくり返しちゃえばいいんだから。
 
「ドラゴラム」
「なッ――!?」
 
巨竜変身呪文。これであたしは巨大な竜に姿を変える。
剣ではもう易々とは貫けないし、よしんばこの女が同じ呪文を唱えることができるとしても、
魔力はたった今あたしが奪いつくしてやった。これで対抗手段はナシ。
ふふ、呆気にとられた顔がその証拠かしら。意外とかわいい顔もするんじゃない。
 
(ほんとは……できることなら……このまま……焼き付けてやりたいんだけど……)
 
  
……体が言うことを聞かない。ダメージを受けすぎたか、竜化の影響で意識が朦朧としているのかもしれない。
なにせ今まで一人の時にこの呪文を唱えたことはなかったのだ。
どうにか力を振り絞り、翼を広げ、その場を飛び立つ。早く。一刻もはやくこの女からはなれないと――
 
 
 
(……ねぇミネア……一人ってこんなにも……心細いのね……あたし……)
 
 
 
 
 
……はやく……あいたい……
 
 
 
 
 
 
東へ――東へいってミネアをみつけなきゃ――
43ギャンブル サバイバル ◇t1zr8vDCP6 (代理投下):2012/06/28(木) 18:05:27.11 ID:pnEYEv6A0
【D-6/森林地帯(ほぼ焼失)/昼】
 
【カーラ(女賢者)@DQ3】
[状態]:HP3/4 頬に火傷、左手に凍傷 MP0
[装備]:奇跡の剣@DQ7
[道具]:小さなメダル@歴代、不明支給品(カーラ・武器ではない物が0〜1、キーファ0〜2)、基本支給品*2
[思考]:より多くの強き者と戦い、再び出会ったときにデュランと決着をつける。見敵必殺、弱者とて容赦はしない。
[備考]:元戦士、キーファの火炎斬りから応用を学びました。
 
【マーニャ@DQ4】
[状態]:HP1/8 MP1/4 竜化
[装備]:なし
[道具]:不明(0〜1)、基本支給品一式
[思考]:ゲームには乗らないが、向かってくる相手には容赦しない。
     カーラから逃げる、一刻も早くミネアと合流するため、東へ飛行

※竜化マーニャ:長時間、高度の高い飛行はできません。竜化の継続時間はお任せします 
※カーラの火炎呪文によりD-6の森林一帯がほぼ焼け落ちています
※ソードブレイカー@DQ9がカーラの現在地付近に落ちています
44名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/06/28(木) 18:20:29.24 ID:pnEYEv6A0
代理投下終了です。
カーラの狂気が第三者目線ですごく伝わってくる……でも、折れてない気がします。

デュランもヤンデレでこのロワはまったくヤンデレばっかりですね!
45名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/06/29(金) 00:51:19.15 ID:aLOqUgaj0
そこは一途って言ってあげようよw
46 ◆uOBASANc9I :2012/07/01(日) 14:58:31.48 ID:Cfa/RVcP0
だいぶ遅れましたが、予約が出来上がりましたので投下したいと思います。
支援の方、よろしくおねがいします
47名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/01(日) 15:00:45.92 ID:S+cw2PpSO
待機
48献身と挺身  ◆uOBASANc9I :2012/07/01(日) 15:02:04.52 ID:Cfa/RVcP0
万物は流転する。
そこに多少の善悪があろうとも、今日も太陽は東から昇り西へ沈む。
そう、このバトルロワイアルの舞台の中であっても。

一匹の魔物が、我が物顔で獲物をなぶり殺しにする。
望むものを手に入れた魔物は手始めに辺りを探索し、丁度いい獲物を発見した。
自分と同類であろう魔族、天使のような羽と光輪を持った男、そして年端もいかぬ少女。
魔物は――バラモスはまったく抵抗を受けることもなく、そのうちの二人を痛めつける。
殴り飛ばし、爪で傷つけ、倒れる二人を足蹴にさえする。
二人から漏れる苦痛のうめき声は地獄の交響曲となって、バラモスの鼓膜を震わして満たす。
バラモスにとって至福の時間であった。
飛び散る血に愉悦を感じ、苦痛に歪む表情に高揚感がこみ上げる。
バラモスは逃げることさえ、二人と一匹に許さない。
それをさせないだけの切り札が、今もバラモスの手の内にあるのだから。
人よりも遥かに巨大な手で、バラモスは女性の身体を鷲掴みにしている。
バラモスがその手を握り締めれば、細身の女性の体など赤子の手を捻るように簡単に潰されることだろう。
卑劣にも人質という方法をとったバラモスだが、この三人には効果てき面であった。

「う……」

人を見守り、時には手を差し伸べる天使のエルギオスは特に念入りに痛めつけられた。
三人の中でも、一番油断できぬ戦闘力の持ち主だというバラモスの冷静な分析と判断もあった。
だが、最大の理由はエルギオスが天使であるということだった。
人を守るという天使は、人を滅ぼす魔族のバラモスからすれば言わば反目する天敵。
鼻持ちならない存在だからだ。
這いつくばるエルギオスを、バラモスは何度も何度も踏みつけた。

「……」

タバサはとっくに意識を手放していた。
子供のタバサの体力は大人のそれの半分以下。
意識を繋ぎ止めることのできる臨界点はとうに突破していた。
あるいは、それは幸せなことだったのかもしれない。
意識が無くなれば、痛みを感じることもないのだから。
バラモスとしても、玩具は反応があった方が嗜虐心をそそられる。
タバサは早々にバラモスに飽きられて、放っておかれた。
かろうじて虫の息の状態で放置されたタバサの身体を起こし、ムドーが抱き起す。

「もうやめるのだ」

そして、唯一ムドーだけはまったくの無傷だった。
タバサの容体を気遣いながら、なおも攻撃をエルギオスに仕掛けるバラモスを諌めようとする。
バラモスは最初に、ムドーにこう問うたのだ。
何故魔族が人間と行動を共にしているのか、と。

「まだ分からぬか? 貴様こそ、魔族のはしくれなら理解しろ!」

バラモスの右手には、四肢をだらりと投げ出したローラの姿があった。
バラモスが一定の価値を認めたその美しき女性は、気絶させられていた。
あれだけ気丈なお姫様のことだ。
バラモスの口から放たれた激しい炎を止めるために、生身のままでフローラの背中を守ろうとしたあの時のローラの芯の強さをバラモスは忘れていない。
自分が虜囚の身に甘んじ、それどころか人質となったことで他者を危険に晒す羽目になったと知ればどうなるか。
最悪の場合、舌を噛んで自殺するおそれすらあった。
確かに、フローラよりローラを選んだのは、バラモスもローラの方が御しやすいと思ったためではある。
だが、この二人の女性の意志の強さはそれこそ、他の人間よりずば抜けている。
49名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/01(日) 15:03:03.18 ID:S+cw2PpSO
支援
50献身と挺身  ◆uOBASANc9I :2012/07/01(日) 15:03:23.67 ID:Cfa/RVcP0
決してローラの意志が薄弱ということではない。
金剛石と鋼玉の二つの硬度を比べたら金剛石の方が硬いのに違いないが、だからといって鋼玉が柔らかいという理屈にはならないのと同じだ。
そう考えたバラモスは人質を気絶させ、余計な行動に出られるリスクは限りなく低く抑えた。

「これこそが我ら魔族の本懐。 力というシンプルな道理を示す絶好の機会ではないか。
 何故我がこうして回りくどい方法を使っていると思うのだ」

エルギオスとタバサがその命を散らさずにいられるのは、皮肉にもムドーの存在があったからだ。
バラモスは開いた左手でエルギオスを掴むと、乱暴に人形を振り回す子供のようにエルギオスを地面にたたきつける。
エルギオスの命が擦り減っていく。
バラモスの左手が振り下ろされるたびに、地面がエルギオスの体の形に陥没する。
並みの人間なら三度死んでもおかしくないダメージを受けてもまだ生きてられるのは、彼が天使の中でも並外れた実力と体力の持ち主だからであろう。
もはや受け身を取ることも適わず、エルギオスは意識の糸を手繰り寄せるのが精いっぱいの有り様だった。

「貴様はこれを見て何も感じぬのか? もっと思うままに生きてみよ。
 己の中に住み着いた欲望を解き放て。 貴様の本性は我と同質であろう!」

逃げようにも、逃げればローラが殺される。
戦おうにも、人質のローラが邪魔だし、バラモスを殺せない理由がムドーたちにはあった。
結果として、ムドーにできるのは制止の声を投げかけることだけ。
エルギオスが振り回されるのを見ていることができない。
ムドーは顔を背け、バラモスが気まぐれを起こして止めてくれないかと期待するだけだった。
このような光景は見たくなかった。
ムドーは痛ましくて見ていられないのではない。
バラモスの言葉を否定できないがために見ていられないのだ。
ムドーの心は今激しく揺さぶられている。
ムドーは命を奪い取る感触を、その本能が覚えている。
ムドーは人の血があんなにも赤黒いことを、知っている。
人間の内臓は、思いの外綺麗だということを経験談として熟知している。
命を握りつぶすことが、何物にも勝る娯楽の一種であることを理解している。
ムドーには確信がある。
きっとムドーという魔族は日常的に、人間の命を奪っていた。
記憶を失う前は、そこにいるバラモスと何一つ変わらない存在であったことを、ムドー自身が認めてしまう。

「やめろ……私を惑わせるな……」

きっぱりと拒絶の意志を示すことが、ムドーはできない。
思い出してしまえば二度と戻れない気がして、ムドーは顔を逸らす。
腕の中で気絶しているタバサに対して、相反する二つの感情が争う。
前途ある少女の未来を奪うといいう、究極の快楽に身を任せるか。
骨が粉々に砕けるまで、この細い腕を握り締めたい。
頭部を叩きつぶし、赤い花を地面に咲かせたい。
泣き叫ぶタバサの悲鳴が聞きたい。
ともすれば、今にも舌なめずりをしてタバサに襲い掛かりたいという衝動がムドーの胸中を満たす。
だが、逆にこの小さき命を守りたいという気持ちも芽生えつつあるのが自覚していた。
ゲロゲロという名前には不満はあるものの、タバサがムドーのために名前を考えてくれた、という点は紛れもなく本物だ。
魔物であるはずのムドーに臆することなく近づいてきた少女に、漠然とした何かを感じる。


51献身と挺身  ◆uOBASANc9I :2012/07/01(日) 15:04:22.36 ID:Cfa/RVcP0
この胸に宿った感情の正体を、ムドーは測りかねる。
それはいまだかつて経験したことのない感情だった。
これは安らぎなのかそれとも別の何かなのか。
今のムドーはそれに対する答えを持ち合わせていない。
人を殺し続けてきたであろう手で、小さき人の命を壊さぬようにそっと抱き寄せる。
この温もりを手放すことも、今のムドーにはできそうもなかった。

「ククク……分かっているはずだ。 貴様も自分が何を求めているのか」

ムドーの揺らぎを見て取れたバラモスは畳み掛ける。
そんな人の命に拘泥する必要はないのだと、まるで邪教の教祖のように語る。

「人が狐や鷹を殺すと、それは狩りという高尚な趣味だという。
 しかし、魔族が人間を殺すとそれは残酷だという」

人間など、守る価値もない生き物だとバラモスは諭す。

「いつもそうだ。 人間は己の手が汚れているにも関わらず、他者を平気で貶す。
 そんな自分に都合のいい道理だけを振りかざす人間こそが、この世界で最も醜く愚かな生き物なのだ。
 そして、そんな人間を守る神や天使などという生き物も同じように滅ぼさねばならぬ」

人は平等という。
しかし皆知っている。世界が平等でないことを。
生まれ一つとっても、王族から奴隷まで様々な階級が存在する。

人は自由という。
しかし皆知っている。世界が自由でないことを。
奴隷を見て自由だと思うのは、籠の中の鳥を指さして自由だと言うことと変わらない。

人は愛という。
しかし皆知っている。愛が人を裏切ることを。
永遠の愛を誓ったはずの夫婦が不貞行為に走る。
有史以来、そんな不倫や浮気が世界から根絶されたことは一日たりともなかった。

人は嘘をつくなという。
しかし皆知っている。人はうそつきであることを。
魔族は嘘をつかない。 嘘をつくのはいつだって人間だ。

人は正義という。
しかし皆知っている。それが自分を正当化するために使われる便利な単語だということを。
正義という言葉は、とても陳腐で安っぽいだけだ。

「これだけ言っても分からぬのなら、実演を見せてやろう」

あと一押しながらも、なかなかその一歩を踏み出せぬムドーにさしものバラモスも業を煮やす。
あくまでムドー本人の手で、一時とはいえ行動をともにした仲間を殺させることで背中の後押しをさせるつもりだったのだ。
しかし、バラモスはこれ以上の問答は無用だと判断し、荒療治に出る。
エルギオスの体を左手でつかみ、頭上に高々と掲げる。
右手にはローラの体。 左手にはエルギオスの身体。
痛めつけるための手加減した攻撃ではない。 本気で叩きつけて殺害し、その脳漿をぶちまけさせる為だ。
人の臓物を見れば、いよいよムドーも衝動を抑えきれぬと見た上での行動である。
52名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/01(日) 15:04:25.61 ID:FXZhnElr0
 
53献身と挺身  ◆uOBASANc9I :2012/07/01(日) 15:05:04.62 ID:Cfa/RVcP0
「目に焼き付けておけ」

ムドーは動けない。 いや、動きたくないと思っているのか本人でさえも分からない。
抵抗できないのを理由にこのままエルギオスが死亡して、ムドー自身も堕ちていくのを望んでいるのか。
それとも、この状況を打開しようとしても策が思い当たらないが故に動けないのか。
人質のローラが、今になって邪魔に思えてくる。
ムドーどころかタバサもエルギオスからも赤の他人に過ぎない人間の命を気遣うなど、ムドーからすれば理解不能だ。
しかし、タバサとエルギオスが必死になって救おうとしている命でもある。
二人の願いを無下にすることもできず、かといってこのまま立ち尽くしてエルギオスが死ぬのも見たくはない。
ああそうか、そこでムドーは一つ納得する。
いつの間にか、ムドーはエルギオスに死んでほしくないと思っているのだ。
記憶喪失だという、自分でも胡散臭いと思う理由をとりあえず信じてくれ、そして生かしてくれたエルギオスに何らかの情が湧いているのだ。
少なくとも、ローラよりもエルギオスに生きてほしいとムドーは思っている。
人間は牛や豚も同然だと、それこそ悪い意味で老若男女平等に扱い殺してきたはずの自分が、人と天使の命に順列をつけようとしている。
これもまた、今までのムドーにはない変化だった。

「ムドー……」

もはやタバサよりも死に近い状態のエルギオスが、声を振り絞った。

「ムドーよ、諦めなければ道は自ずと開かれるのだ」

かつて、すべてを滅ぼす堕天魔になったエルギオスを打ち滅ぼしたのは、決して諦めることのなかった一人の少女だった。
天使であることを捨ててまで、自分に立ち向かってきた少女アンジェ。
エルギオスは孫弟子にもあたる少女から聞かされた言葉を、自分なりに解釈してムドーへとぶつける。

「悪しき言葉に耳を貸してはならない。 お前とこの化け物は違う存在だ。
 いや、前まではそうだったかもしれないが、今は違う。 そうであろう?」

愛するラテーナとの数百年に及ぶ別離。
かつてのエルギオスはラテーナに裏切られたと思い込んでいた。
エルギオスは人間を憎み、世界を憎み滅ぼそうとした。
それを止めてくれたアンジェと、再会できたラテーナのおかげでエルギオスは己の罪深さと不明を恥じた。
愛はこの世で最も尊い感情だ。
それは恋愛感情に限った話ではなく、肉親を愛する気持ち、友人を愛する気持ち、それがあるからこそ人も守護天使も強くなれる。
なのに、その愛をエルギオスは捨ててしまった。
愛を手放すことで、己さえ蝕む憎悪と異形を手にした。

「ん……」

タバサの唇から、音が漏れる。
エルギオスの命の危機を肌が感じ取ったのか、意識が深い闇から浮上する。
タバサが目にしたのは、鮮やかな金髪が朱に染まったエルギオスの姿。
瞬時に悟った、もうエルギオスは長くないと。
今すぐバラモスの手から救出して、回復呪文による治療を施さないと死んでしまう。

「よく見ていろ! 強者が弱者から奪う光景をな!」

バラモスがついに地面へと叩きつけるため、エルギオスの体を急降下させる。
即死は免れられない。
その瞬間、エルギオスは最後の力を振り絞った。
54 ◆1WfF0JiNew :2012/07/01(日) 15:05:24.78 ID:b5FMuV6r0
     
55名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/01(日) 15:05:38.64 ID:S+cw2PpSO
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56献身と挺身  ◆uOBASANc9I :2012/07/01(日) 15:06:24.17 ID:Cfa/RVcP0
「信じているぞ、『ゲロゲロ』!!」

タバサも、エルギオスを救出できる唯一の存在に助けを求める。

「お願い、『ゲロちゃん』!!」

愛とは信じることだ。
病めるときも健やかなる時も、いついかなる時も愛する者を信じる。
信じることでゲロゲロの不安を振り払い、道を示す。
愛を捨ててしまったエルギオスに残された、唯一できることがこれだ。
もしも贖罪のためにこの世界にエルギオスが呼ばれたのなら、これこそが使命だったのだろう。
もしエルギオスが一人の心を傷心から救ってやることが出来れば、彼の生きることに無駄は無いだろう。
もしエルギオスが一人の迷い続ける魔物の道を示してやることが出来れば、
あるいは一人の少女を命を救うことが出来れば、
あるいは一羽の弱っている雛鳥を助けて、
その巣の中に再び戻してやることができるのなら、
エルギオスの死はきっと、無駄にはならない。
天命を果たしたエルギオスを、女神セレシアは優しく受け入れてくれる。

「そうだ、私の名前は――」

いつの間にか、ゲロゲロは走り出していた。
重い体を動かし、その手にはデーモンスピアを装備し、地を蹴りバラモスに肉薄する。

「ゲロゲロだッ!」

身体の中に巣食っていた邪念が吹き飛ぶ。
願いを託され、自身のなすべきことをしっかり見極めたゲロゲロが今、生涯初めて誰かのために戦う。
ようやく、ゲロゲロは自分の中にあるわだかまりの正体を知る。
これは『信頼』だ。
ゲロゲロは今エルギオスとタバサに全幅の信頼を寄せられている。
頼る相手がムドーしかいないという状況もあるが、それでも何かをしてほしいと期待され、望まれている。
力による上下関係のみしか知らなかったゲロゲロにとって、これもまた初めての感情だった。
誰かに信頼されるとは、こうも重くそして快いものだったのか。
ちゃんと望まれたように在ることができるのか、ちゃんと期待されたように動けているのか不安はもちろんある。
だが同時に誰かの信頼に応えるべく、どこからか活力が湧いてくる。
他の誰かのために、限界を超えた力を発揮できる。
それは誰かの命を奪うことで得られる快楽とは、まったくベクトルの違う快感であった。
弱いはずの人間が何度でも立ち上がれるのは、この信頼という感情のおかげなのだ。
そう遠くない昔、自分はその強い信頼と絆で結ばれた誰かと戦っていたような気がする。

今なら、記憶の中にある誰かが何度でも立ち向かってきた理由がゲロゲロ理解できた。
人を殺し、命を奪うことしか知らなかったゲロゲロの右手が悪魔を象った槍を振りかざし、バラモスに振り下ろす。
槍の形状を最も活かせる刺突ではない。あくまで殴打だ。
一撃必殺の効果を発揮する可能性のあるデーモンスピアで、刺突はしたくなかった。
万一のこともあり得るから。 そして万に一つの可能性が起こった場合、この場にいる全員が死ぬ。
狙うは……バラモスの右手だ。
どちらかしか救えないのなら、ゲロゲロは迷わずエルギオスを救っただろう。
しかしエルギオスは言ったのだ。 信じていると。
エルギオスに信頼されたゲロゲロはその言葉の意味を必死に考えた。
そして、たどり着いたのだ。 エルギオスの真意に。
エルギオスは自分よりも、囚われの身の姫を助けることを望んだ。
人を助ける守護天使が、人質を放って自分を助けろと言うはずがないのだ。
57名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/01(日) 15:07:56.58 ID:FXZhnElr0
 
58献身と挺身  ◆uOBASANc9I :2012/07/01(日) 15:08:30.64 ID:Cfa/RVcP0
ローラなど、ゲロゲロからすればまったく関係のない人間なのに、それでもエルギオスの心を汲み取った。
だが、結果としてみればその判断は功を奏した。

「ぬぅ!?」

バラモスから見ても、いざゲロゲロが動くとなればエルギオスの方を助けると踏んでいたのだ。
だが、蓋を開けてみればゲロゲロは無警戒だった右手への殴打を加えてきた。
バラモスの右手が鈍痛でローラ姫を取りこぼす。
バラモスの顔が苦痛の色に染まった。
だが、同時に。
左手は当初の目的を完遂し、エルギオスは痛恨の一撃を受けた。
最期にエルギオスが見せた表情は絶望でも苦悶でもなく、安堵。

(そうだ、それでいい)

視界に暗がりが広くなるなか、エルギオスは満足する。
ゲロゲロを監視するという目的は果たせなかったが、道を示すことはできた。
これは捨石でも自己犠牲でもない。
一人の男が自分で納得して、自分で選んだ道だ。 誰も文句を言うことではない。
あとはこれがデスタムーア打倒の狼煙になれば、言うことはない。

(アンジェ……)

きっとここでも守護天使にふさわしい行動をとっている少女の武運を期待する。

(イザヤール……)

かつては人間のことをあまり好きでなかった禿頭の弟子に、もう一度会いたかった。

(ラテーナ……今傍に……)

そして最後に、愛する女性の名を呟きながら、エルギオスは逝った。
天よりも高い場所に、愛する女性と二人でいるために。


ローラを救出し、その腕に抱いたゲロゲロに今度はバラモスが攻勢を仕掛ける。
バラモスのツメに装着されたのはサタンネイル。
魔王が着けるのにふさわしい、猛毒を帯びた魔の爪である。
二撃、三撃、サタンネイルをつけた腕を振るう。
対して、ゲロゲロは今度は防御に回らざるを得ない。
いまだ気絶したままのローラをその腕に抱き、満身創痍のタバサには被害が回らぬよう、立ち位置を常に気にしながら片手で槍を振るう。

「殺戮は魔族の本能。 今我らを突き動かしている衝動こそがそうではないか!」
「一緒にしないでもらおう!」

ゲロゲロが槍をとっているのは殺すためではない。
タバサとローラを守るためである。
そして同時に、バラモスに対する義憤もあった。
卑劣な方法でタバサを傷つけ、またエルギオスを死に至らしめたバラモスは許しがたい敵だ。

「そうか、ならば終幕といこうか」

金属音を鳴らし、槍と爪を打ち鳴らせていたバラモスはそこでいったん下がった。
そこで、胸が膨らむほど大きく息を吸い込む。
バラモスの体内の構造はもちろん、人間とは大きく配置も構成も違う。
胃の付近にある、人間にはあり得ない可燃性のガスがたまった袋からガスを口元まで送り出す。
そして鋭い牙を火打石の要領で打ち鳴らし火花を発生させる。
あとはその火花にガスを引火させて、勢いよく吐き出せば激しい炎のできあがりだ。
炎の射線上にはゲロゲロはもちろん、その奥で蹲ってるタバサもいる。
59名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/01(日) 15:09:04.73 ID:S+cw2PpSO
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60献身と挺身  ◆uOBASANc9I :2012/07/01(日) 15:10:29.28 ID:Cfa/RVcP0
ゲロゲロが避ければ、タバサは焼かれてしまう。
ゲロゲロは受けざるを得なかった。
同じように、人にはない器官から絶対零度の氷の息を吐き出した。
激突する二つの息吹に、水蒸気が発生する。
しかし、強さはバラモスの炎の方が上らしい。
あっというまに炎の熱気がゲロゲロの口元まで迫ってくる。

「ヒャダルコ!」

その後ろにいたタバサが、背後から援護をする。
発生した冷気が氷柱を形成しながら地面を走る。
怪我のためと、あくまで呪文の生成速度を重視した故のヒャダルコだった。
山彦の帽子の効果で、二重に発生したヒャダルコはマヒャドに匹敵する威力を持つ。
いまにもゲロゲロの肌を焼き尽くそうとしていた炎を押し返し、五分の状態まで持っていく。
あとは互いの息と魔法力がどこまで持つかの耐久勝負になるかと思われた。
だが、バラモスはさらなる切り札を持っていた。
人などは容易く呑みこむほどの超巨大な火球を、その右手に発生させる。
ゲロゲロが瞠目する。
タバサが息を呑んだ。
あれは母がよく使っていた呪文のメラゾーマだからだ。
バラモスは一挙動で二つの動作を繰り出せることができるのだ。
どれも高い威力を持った呪文とブレスと打撃の内から、二つを同時に繰り出す。
この五分の攻防の中でさらにメラゾーマがくること、それはタバサとゲロゲロにとっての死を意味する。

(いかん……)

そろそろゲロゲロの息も途切れそうな頃にさらなる攻撃だ。
ゲロゲロとてかつては大魔王の眷属の一人として生きていた。
自分にも同時に二つの攻撃ができることをその体が覚えている 。
しかし、厄介なことにゲロゲロが持ちうるもう一つの技は激しい稲妻だ。
空気を帯電させ、イオン化させることによって数万ボルトの電撃の通り道を作る。
そして標的を感電させることはできる。
しかし、天から降り注ぐ電撃では、真正面から飛んでくる業火への対抗はできない。
技の相性が悪すぎるのだ。

(誰か……!)

こんなとき、父や母や兄がいたら。 頼もしい仲間のモンスターがいたら。
震える手で魔法を放ちながら、今は傍にいない家族たちのことを考える。
灼熱の火球はゲロゲロを呑みこみ、ローラの体も焼き尽くすだろう。
いよいよバラモスの中でメラゾーマの呪文が完成し、あとはそれを放つだけになった。

「「メラゾーマ!」」

その言葉と同時に、ヒャダルコの呪文も途切れる。
放たれたメラゾーマはゲロゲロとローラとタバサを軽く呑みこむだろう。
万事休すの状態で、タバサは目を瞑った。 それしかできなかった。
傷ついた体では、眼前に広がる絶望に対する抵抗はできず逃げることもできない。
なのに。
炎はいつまで経ってもこない。
熱気はいつまでもタバサには感じられず、自分が放ったヒャダルコの冷気で冷やされた空気がいまだに肌に伝わる。
そういえば、メラゾーマの掛け声は同時に二つ聞こえてきた。
一つはもちろん野太い魔物の声。もちろんバラモス。
そしてもう一つ。どこか懐かしい澄んだ声の持ち主。

「間に合った……なんとか間に合いました……」
61名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/01(日) 15:10:46.39 ID:FXZhnElr0
 
62献身と挺身  ◆uOBASANc9I :2012/07/01(日) 15:12:39.78 ID:Cfa/RVcP0
言葉の合間合間で息を切らせたその女性は、全速力で駆けつけたのだろう。
肩を上下させながら、息を弾ませる。
バラモスと同じメラゾーマを相殺するために放たれたその手の先に、熱気が後を引く。
白いドレスに身を包んだ、蒼髪のその女性は――。

「お母さん!」

タバサの表情が喜色に包まれる。
ようやく、家族の一人と再会できたのだ。
エルギオスの死という悲劇はあったものの、それは喜ばしいことであった。

「ふん、誰かと思えば貴様か。失せよ小娘、貴様に用はない」
「あなたに用がなくても、私にはあります」

バラモスがフローラの方へ向き直ると、フローラはゲロゲロの手で合図をする。
下がって、ローラとタバサの安全を確保しろということなのか。
自分の姿に警戒しないことにはわずかに戸惑ったが、考えてみればタバサの母親なのだ。
娘と同じように、魔物に対する慣れというものを感じられた。
ローラを丁寧に横たえて、タバサへ持っていた超万能薬を渡す。
エルギオスとタバサのどちらかに使おうと温存していたのだが、今となっては使う相手がタバサしかいない。
それが少しだけ寂しかった。
自分の迷いを振り払ってくれた男を野晒しにするのはあまりにも忍びない。
ゲロゲロは遺体を回収し、あとで弔うことを誓った。

「あの時逃げ出した女が、何故今更のこのこと舞い戻ってきた?」
「ソフィアさんたちのおかげです」
「誰だそれは?」
「あの二人は、何故あの時ローラ姫を人質にとったのか、その理由と意味を考えました」

ソフィアたちの予測は当たっていた。
自らの愛の証明をするために、ローラ姫は自らバラモスに囚われることを望んだ。
しかし、勘違いしてはいけない。
ローラは自発的に残ったのではない。
バラモスに脅された結果として、フローラが殺されるより自分が残るのを選んだのだ。

「あなたはローラ姫を試すために、人質にしたのではありません」
「ほう、面白いことを言う」
「単純なことです。あなたはそのままの意味の『人質』が欲しかっただけの事」

ローラが残ったのは愛の照明のため。
では、バラモスがそもそも人質にする理由は?
ソフィアはこう考えた。
人間の心を試さずにはいられない、嫌な奴なんだろうなと。
それは話を間接的に聞いただけの者が導き出せる答えとしては、限りなく正解に近いだろう。
しかしフローラは知っていた。
直接バラモスが対峙した者にしか知りえない情報を持っているのだ。
他ならぬフローラ自身が、その答えを導くヒントを身に着けているのだから。
ソフィアに会えたことは本当に幸運だった。
会うことができなかったら、大切な娘と、それを守ろうとした仲間でさえ知らずに死なせていたに違いない。
「答えは、あなたの指にはめられたそれです」

フローラが指さしたそれはバラモスの指に填められたリングだった。
いや、それは指輪などではない。
人間の腕に合うように作られたサイズだから、バラモスの腕に入りきらず指輪のように見えるだけだ。
フローラの腕輪と似たようなデザインの宝飾。
ただ一つだけ違うとすれば、その腕輪に填められた宝玉の色。
フローラの腕輪には青い宝玉がはめられてるのに対し、バラモスの腕輪には赤い宝玉。
そう、フローラはその腕輪の正体を知っている。
自らが手にしているメガザルの腕輪と逆の効果を持つ腕輪。
究極と対をなす至高の装飾品。
63献身と挺身  ◆uOBASANc9I :2012/07/01(日) 15:14:05.12 ID:Cfa/RVcP0
「それが、メガンテの腕輪!」

持ち主の死を条件に発動する二つの腕輪。
しかし、その性質は大きく違う。
メガザルの腕輪が仲間を死の淵から救いだし、全快させるのに対し、メガンテの腕輪は敵を道連れにする。
それは究極の献身と至高の挺身を体現したものだった。
バラモスはその腕輪を身に着け、事前に敵に知らせることで攻撃意欲を低下させるのに利用した。
下手に自分を殺すと、その瞬間にお前も死ぬと。
だが、それだけでは万全とは言えない。
相打ち覚悟で挑んでくる者、バラモスの指を切り落とせば問題ないと考えてくる者もいるだろう。
そこでローラ姫の出番である。
人質を見せびらかすことで、下手な行動に出るのすら許さない。
特に勇者のような正義感に燃えた輩にはうってつけの策だった。
その二重の策故に、ゲロゲロたちははじめバラモス相手に為すすべもなく蹂躙されたのだ。
まさに悪魔の思考回路。
大魔王ゾーマが、地上侵略のためにバラモスを送り込んできたのも頷ける。

「ククク……正解だ、と言っておこうか」

魔王バラモスにとって、愛の証明などは些事に過ぎない。
ローラの想い人が本当に信ずるに足る人物かどうかなど、明日の天気程度にしか気にする価値はない。
あくまで自身が生き残るためにとった策の副産物なのだ。

「デボラお姉さんとゴレムスを殺し、あまつさえタバサの命まで奪おうとした……」

普段おしとやかなフローラの目に、はっきりと怒りが現れる。
フローラからすれば、バラモスは家族と仲間を殺し、ローラ姫を人質にとった存在なのだ。
もう縁も所縁も十分すぎるほどにある、憎き相手だった。

「許せません」
「許さなければどうした!?」

フローラの怒りなどどこ吹く風といったように、バラモスはフローラの視線をまっすぐに受け止める。
ローラ姫という人質はいなくなったものの、いまだにバラモスがメガンテの腕輪を保持していることに変わりはない。
フローラもゲロゲロもタバサも、全力を出すのは難しい状況だ。

「貴様も愛などというまやかしを信じるのか?
 愛など、人間が棒と穴の欲望に高尚な名前を付けただけに過ぎん」
「いいえ違います。 肉欲と性欲ではない、もっと違う何かがあるからこそ神はその感情に愛と名付けたのです」
「貴様も、所詮は男の子種を欲するだけの雌であろう?
 隠さずともよい、より良い雄を求めるのは、生命に備わった本能なのだ」
「いいえ違います。 私は夫に何かしてほしいと思っていません。
 夫が幸せならば、その相手は私でなくてもよいのです」

ここで引いてはいけない。
フローラは断固たる意志を持って、バラモスの言葉を跳ねつける。
ローラの愛の証明を邪魔をしてまで戻ってきたのだから、フローラまでバラモスに心を揺さぶられてはならない。
何より、娘が見ている。

「愛に見返りなど求めてはいけません。
 見返りを求めれば、それは単なる取引に過ぎません。
 好意を差し出してその対価に好意を求めるのは、恥ずべき行為なのです。
 諦めなさいバラモス。あなたの言葉は私には通じない」
64名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/01(日) 15:14:43.32 ID:b5FMuV6r0
      
65名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/01(日) 15:16:06.56 ID:FXZhnElr0
 
66献身と挺身  ◆uOBASANc9I :2012/07/01(日) 15:16:31.11 ID:Cfa/RVcP0
フローラとてかつてはそうしていた。
リュカに尽くしていれば、いずれ振り向いてくれると思っていたのだ。
しかし、尽くせば尽くすほどにリュカの心は離れていくのを実感した。
当然だ。リュカはフローラに対して負い目を抱いているのだから。
フローラのやったことはその負い目を利用して、リュカの優しさに付け込んでいただけだ。
嘘をついてフローラ選んだのだから、フローラを大切にせよと。
ありもしない借用書に振り回され、リュカは一層自分を責める。

フローラが壊す。フローラが侵す。フローラが奪う。
リュカの幸せの全てを奪い、リュカのすべてを踏みにじる。
ゲマでもイブールでもミルドラースでもない。

他の誰でもないフローラが、
フローラ自身が愛するリュカの全てを奪う!

「小娘が、減らず口を叩くな!」
「小娘ではありません!」

間髪入れずにフローラはバラモスに返す。

「母親です!」

小娘でいられた時間など、とうの昔に過ぎていた。
夢見る少女でいられたのは、リュカと結婚するまでだ。
現実を知り、フローラは打ちのめされ、そして強くなろうと努力した。
守られるだけの女は嫌だと、呪文の勉強をして武器の使い方も覚えた。
リュカはフローラのことなど愛していない。
彼が愛しているのはビアンカだった。

それでも好きになった。
それでもなお、リュカの隣でリュカを支えることを望んだ。
リュカは複雑な気持ちだっただろう。
フローラと子を成すことで、伝説の勇者が生まれたのだから。
結果として、ビアンカよりもフローラを選んだリュカの選択は正しかったのだ。
だが、それすらもリュカにとっては許されざる行為をしたはずの自分が正当化されてしまったのだと思っただろう。
タバサとレックスは望んで生まれた子ではなかったのかもしれない。
けれど、子を産み妻から母親になったフローラはまた強くなった。
この世に生を受け、おぎゃあと泣く双子を初めて抱きしめたとき、何があっても守ると強く心に秘めた。
自分の使命は家族を守ることだと、フローラは自身の全てを注ぎ込んだ。
女は弱し、されど母は強し。
子を守ろうとする母は無限の強さを発揮する。

「永遠の愛などない! 何故なら、人間が永遠ではないからだ」
「例えそうだとしても、私は夫を……リュケイロムを愛しています」

リュカがフローラを愛してなくても、フローラはリュカを愛しているのだから。
リュカがいつの日か心から笑えるのなら、その時フローラは傍にいられなくてもいい。
自分という呪縛から、今度こそリュカは解放されねばならないのだ。

「いつか終わりのくるその時まで、あの人を愛し続けます!」

その時はもう近いのかもしれない。 メガザルの腕輪がそう言っている気がした。
恐れはないが、ただ一つ不安があるとすれば、レックスとタバサのこと。
自分が死ねば、悲しむかもしれないから。
67名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/01(日) 15:17:59.03 ID:b5FMuV6r0
      
68名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/01(日) 15:20:40.73 ID:b5FMuV6r0
      
69献身と挺身  ◆uOBASANc9I :2012/07/01(日) 15:21:42.18 ID:Cfa/RVcP0
「我は破滅と混沌を司る唯一無二の存在に仕える者なり」

問答は終わりとばかりに朗々たるバラモスの詠唱が響く。
すぐにフローラは悟った。
最大級の攻撃がくると。
それに対して、フローラは超万能薬を使い回復したタバサに声をかける。

「タバサ、合わせて!」

その一言でタバサは全てを理解する。
ゲロゲロにローラを担がせて、タバサはフローラの横に移動し両手を前に突き出す。

「「一なる五柱の精霊の名の下に」」
「三界を蹂躙し、天の裁きを四度受けても尚、冥府魔道を歩み」

その言葉に、今度はバラモスが驚愕に目を剥いた。
メガンテの腕輪を持っているバラモスに対して、フローラたちは迂闊に攻撃を仕掛けれないはず。
なのに、フローラたちは極大呪文を行使しようとしている。
つまり、フローラたち、いやフローラはメガンテに対抗する術を持っているということだ。

「「不浄なるものを照らし出す光の奔流を」」
「命ある者の血と臓物と苦痛で、五臓と六腑を満たす者なり」

ゲロゲロの耳に耳鳴りが聞こえ始めた。
そして、すぐに理解できた。
これは耳鳴りではない。
集い始めた魔力が集束し加速し、解放の時を待っているのだ。

「「名付けて曰く、破邪の光爆」」
「七つの大罪を犯し、今ここに破壊の死爆を以て、新たな供物を我が神に捧げん」

大気が震える。大地が鳴動する。天が咆哮する。

「「集え聖光!!」」
「爆ぜよ雷光。 そして唸れ轟音!」

そう、三者が選んだのはすべて同じ魔法。
空爆系最高位の呪文にして、あらゆる呪文の中でも屈指の破壊力を持つ魔法。

「「「イオナズン!!!」」」

その瞬間。
全員の視界が眩い光で真っ白になる。
聴覚は最大級の呪文の四つ分の爆発音で、しばらく使い物にならなくなる。

(お、押され……!)

一発のイオナズンに対して、フローラ親子は山彦の帽子の恩恵もあって三発ものイオナズンが合わさっているのだ。
如何な魔王バラモスとて、この数の差は覆しがたい。
足を踏ん張り、今は耐えているが数秒後には押されるに違いない。
ここはダメージを喰らうこと前提で、激しい炎で少しでもダメージを減らすことに専念しようとする。
しかし、息を吸い込んだバラモスの頭上に突如として落雷が落ちる。
感電のショックで、炎を吐き出すことができない。
たまたま偶然が起きて落雷が直撃するには、あまりにも確率が低すぎる。
バラモスがゲロゲロの方を見ると、いかにもしてやったりという顔で口元が弧を描く。
怒気を込めた目でゲロゲロを睨み付けようとするが、それはあまりにも空しい行為だった。
相殺しきれなかった残り二発のイオナズンが、バラモスに迫る。
70名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/01(日) 15:22:57.48 ID:FXZhnElr0
 
71献身と挺身  ◆uOBASANc9I :2012/07/01(日) 15:23:13.67 ID:Cfa/RVcP0
「ウ、オオオオオオオオオオォォォォ!!!」

光の奔流がバラモスの全てを呑みこむ。
バラモスの叫びさえ、轟音がかき消していく。
光に包まれた後に、その中心にいるバラモスごと爆発する。
光の彼方に消え去り、バラモスが消えた後に灰燼へと帰した絶望の町。
残骸が残ってる家屋の方が珍しく、地面のほとんどが抉れ、あるいは隆起している。
爆風が三人の肌に礫をぶつけてくる。
はためく髪を押さえつけながら、フローラは爆発の中心点を見ながら言う。

「倒せたのでしょうか?」
「いや、メガンテが発動していない。 無傷ではないが十中八九生きているだろう」

冷静な声でゲロゲロが応えた。
そこで、ろくに自己紹介もしてないことを二人は思い出す。

「タバサのこと、ありがとうございます。 私はフローラと申します」
「ゲロゲロだ。 タバサには色々と世話になっている」

挨拶もそこそこに、ゲロゲロは本題を切り出す。

「してフローラよ。 あのメガンテに対する手段があるというのか?」
「はい。 このメガザルの腕輪なら、メガンテに対抗することができます」

メガンテの厄介なところはその威力もさることながら、呪文にカテゴライズされていながらマホカンタが通じないことだ。
フローラの考えた対抗策はまさに前代未聞と言ってもいいほどだった。
メガンテの呪文に対してメガザルの腕輪をぶつける。
これなら、確かに死ぬのはバラモスとフローラのみで済むだろう。
だがしかしそれの意味するところは……。

「え? それって……」

タバサが反応した。
パチパチと音を立てて燃えていく木材と、そこからモクモクと立ち込める黒い煙。
文字通り木端微塵に粉砕された煉瓦は無数の礫へと変り果て、路傍の石へと成り果てて見渡す限りに広がる。
そして、愛する母の背中をタバサの眼は捉える。
母は両手を広げ、タバサを何かから守るように立ちふさがっている。
タバサとフローラの見ている先には、紅蓮の炎が渦巻いている。
赤い、赤い世界だ。
視界一面が真っ赤に染まっている。
それは醜悪さすら感じさせるほどの、地獄の業火だ。
生きとし生けるものすべてを喰らい、燃やし尽くす破壊の権化だ。
やはり予測通り、バラモスは生きていた。
きっと、母は今あの炎に立ち向かおうとしているのであろう。
タバサはそれを悟った。

ふと、フローラがタバサの方を振り返る。
その頬は煤で黒く汚れ、辺り一面に漂う熱気で汗が浮かんでいる。
それでもなお、母は高潔さと清廉さを併せ持った雰囲気を失っていない。
瞳には不屈の意志を宿し、体には献身の意志を漲らせ。
その美しさは未だ衰えを知らず、絵画から飛び出してきたと言われても信じてしまいそうなほどだ。
圧倒的なタフネスを持つ魔王を前にして、母はタバサの方を見るとニコリと笑い、言った。

「大丈夫」

慈しみの籠った言葉が、タバサの心へと直接語りかける。
お腹を痛めた母親だけが抱ける、我が子への愛情。
タバサは確かにこの声を母体の中で聞きながら、レックスとともにこの世に生まれ落ちたのだ。
タバサは無条件でその言葉を信じた。
この声でタバサはお伽噺を聞かされ、昼は頭を撫でられて褒められ、夜には子守唄を聞き眠りについたのだ。
72名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/01(日) 15:23:39.48 ID:b5FMuV6r0
        
73献身と挺身  ◆uOBASANc9I :2012/07/01(日) 15:24:39.09 ID:Cfa/RVcP0
幼き少女にとって、親というのは絶対の存在だ。
ましてそれが、タバサ本人も最高の両親だと思っている存在ならなおさらだ。
強くて優しい、みんなから慕われるリュカとフローラは自慢の家族。
時には反発することもあったが、リュカとフローラの言葉はタバサにとって絶対の意味を持っていた。

「あなたは絶対に私が守ってみせるから」
「だめ……」

だからこそ、タバサはその言葉を拒絶する。
母は何があっても、娘であるタバサを守るだろう。
そう、どんな時でも、どんなことがあっても。
母のその言葉に嘘はない。
母は決して嘘をつかない。
それは母から感じられる悲壮な決意から感じ取れる。
フローラがキッと見据えるその先には、この焼け落ちた絶望の町を闊歩する、魔王の一人がいることだろう。
黒煙と粉塵で今も視界を遮られてはいるが、そこにいるのは間違いない。
かの魔王は血よりも鮮やかな爪を持ち、鋭く尖った牙をくねらせる。
世界を燃やし、世界を壊すその魔王を倒すために、母は命を賭けるつもりなのだ。
あれを倒さないといけない理由はタバサにも理解できる。
あの魔物は決して捨て置けない類の生き物だ。
あれは邪悪そのものだ。
賢しらに言葉を操り、人を巧みに惑わせる魔性の存在だ。
魔物使いの父を持つタバサでさえ、その魔物との対話と理解は諦めたほどだ。
だが、それとこれとは話が別なのだ。
奴がどれほど邪悪だからといって、母がその身を犠牲にするのを、娘であるタバサが容認するはずがない。
まだタバサは母に甘えていたい年頃なのだ。
長い別離を経てようやく母との幸せな日々が手に入れられる矢先に、こんな殺し合いに放り込まれた。
そんなの、タバサは嫌だ。
ついに大魔王を倒し、家族で穏やかに過ごせる日々を手に入れたのに。
こんなところで、家族を失うなんて絶対に嫌だ。

「ダメ! 私のお母さんを……私のお母さんをやめないで!!」

もちろんフローラとて、簡単に死ぬつもりはないだろう。
ローラという人質も取り返した今、動けないほど瀕死に追い込んでからメガンテの腕輪を奪うという方法もとれるのだから。
だがしかし、何故かタバサはそれ以上の何かを感じている。
母は、死ぬことを前提に物事を考えているような節が見受けられたのだ。

「大丈夫、死ぬと決まった訳じゃないから」
「やめよ、親が死ぬところを大事な娘に見せるのか?」
「しかし、これしか方法がありません。 
 私はあなたにこの腕輪を差し出して私の代わりに死んでくださいと言うところも、娘には見せたくありません」
「そう急くな。 エルギオスが言っていたぞ。 諦めなければ道は自ずと開かれるとな」

そう言うと、ゲロゲロはタバサに断りを入れて、タバサの支給品を取り出す。
取り出したのは蒼い宝玉だ。
持ち主の死の運命を一度だけなかったことにする、奇跡の宝玉、復活の玉だ。

「これで私が、奴を一人で仕留めればいいだけのことだ」

今なら、バラモスが少なからずダメージを受けているこの時なら一人でも討ち果たすことができる。
確かに復活の玉さえあれば、失うのはこれだけでいい。
フローラがその身を犠牲にする必要はないのだ。
まさか蘇生を可能にする道具がポンポンと出てくるとは思わず、フローラは面食らった。
確かに、自分はメガザルの腕輪を支給されたことで、どこか焦っていたのかもしれないと反省する。
74名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/01(日) 15:25:45.79 ID:FXZhnElr0
 
75献身と挺身  ◆uOBASANc9I :2012/07/01(日) 15:26:31.77 ID:Cfa/RVcP0
「私にとっても、バラモスはエルギオスの仇。 ここは私に任せてくれ」

フローラとタバサはローラ姫を抱えてその場から離れる。
冒険をして、腕が鍛えられていたのが幸いだ。
旅に出る前のフローラでは、ローラ姫を引きずっていくことしかできなかっただろうから。
歩調はだいぶ緩やかであったが、それでもメガンテの射程範囲外にはなるだろう、という場所までこれた。

フローラが戻ってきたのは正解だったが、唯一失敗と言えるのは一人で戻ってきたことだろう。
ソフィアたちにはアレフを探すのを依頼していた。
フローラ一人が戻ってきたのはローラと互いに知り合いなのもあるが、ローラの手元にある消え去り草を当てにしていたのだ。
それを駆使してなんとかローラと二人で逃げ出すために、フローラは単身舞い戻ってきた。
だが、フローラの思っていたよりもはやく、魔王バラモスは他者と接触していたのが誤算だった。
ソフィアとハーゴンがいれば、先の極大呪文同士の激突で必ずや倒すことができただろうから。
いや、その代わりにフローラが死んでいたことを考えれば、プラスマイナスで言えばゼロだったのかもしれない。

「あのね、タバサ……」

もう一度、母がタバサに声をかける。
ひょっとしたら、話す機会はもうあまりないかもしれないから。

「お父さんね、お母さんのこと好きじゃなかったの……」
「え……?」

その言葉を一字一句違えず聞いたはずなのに、タバサはその意味を理解したくなかった。
どこか遠い異国の言語を母が喋り、たまたまタバサは自分たちの言葉と聞き間違えたのだと、逃避したくもなった。
何故なら、記憶の中にある両親はいつも寄り添いどんな時も離れることはなかったのだ。
グランバニアの王宮内でも、仲睦まじいおしどり夫婦で有名だったのだ。
その父が母を愛してなかったなどと、タバサは聞き間違いだとしか思いたくなたかった。

「お母さんがね、私と結婚してって脅したの」

それでも、母の表情は嘘をついてるとは思えない。
胸の内から絞り出すように言葉を続ける母は、思い詰めた表情をしている。
あんなに苦しそうにしている母を見るのは、タバサにとって初めてのことだった。
タバサの胸が疑問と混乱で埋め尽くされる。

「天空の盾が欲しかったら結婚してって」

二人が愛してなかったというのなら、その二人の間に生まれた子供のタバサはどうなるのか。
タバサもレックスも望まれ祝福されて、生まれてきた子供ではなかったのか。
仲睦まじい姿を見せていた両親の間に愛情などなかったのだとしたら、両親が子供に抱いていた感情もまた偽りだったのか。
それはタバサのアイデンティティの崩壊にも等しかった。
タバサは両親に対して絶対とも言える信頼を無条件に抱いていた。
だが、肝心の両親がタバサを愛してなどいなかったのだとしたら?

「でもこれだけは覚えていてタバサ。お父さんもお母さんも、あなたたちのことは心から愛しているわ。
 お母さんはもちろん、お父さんもよ」
「ど、どういうこと……?」

幼いタバサには理解できなかったであろう。
時に、愛よりも実利を選ぶ結婚があることを。
ルドマンにとって、天空の盾は大事な娘に持たせる嫁入り道具でしかなかった。
それがそもそもの悲劇の始まりなのだ。
好きじゃなかったら、結婚なんかしなければいいのにとは思えても、タバサは口には出せない。
76名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/01(日) 15:27:09.16 ID:b5FMuV6r0
      
77献身と挺身  ◆uOBASANc9I :2012/07/01(日) 15:27:48.94 ID:Cfa/RVcP0
それを口にすることは即ち、リュカとフローラの間に生まれた自分の存在の否定に繋がるのだから。

「それはね――」

そこまで言ったところで、フローラは中断する。
ようやくローラの眉が動き、瞼を開けようとしていたからだ。

「ごめんねタバサ、後で全部話をするわ。
 どの道長い話になるでしょうから」
「そんな!」

理屈ではそれが正しいと分かっていても、タバサは納得できるはずがない。
こんな宙ぶらりんな気持ちのまま、戦うことなんてできない。

「……ここは?」
「気をお確かにローラ姫。 遅れましたが、迎えに参りました」

胡乱な瞳だったが、フローラの姿を認めた瞬間に意識が覚醒する。

「アレフ様は!? バラモスは!?」
「申し訳ありません。 急を要する事態でしたので戻ってまいりました。
 アレフさんの捜索はソフィアさんとハーゴンさんという二人にお任せしました」

ローラが周囲を見渡す。
モクモクと立ち込める黒煙と焼ける町。
それを見て、ローラの顔は蒼白になる。

「バラモスはどうなりましたか!?」

確かに先のローラの言葉にアレフのことしか答えなかったが、そこまでバラモスのことが気になるのか。
フローラはローラの表情に尋常ならざるものを感じながら、また答えた。

「手ひどく痛めつけましたが、死んではいないでしょう。
 ゲロゲロさんという方が、今すべてを終わらせにいっています。
 大丈夫です。 メガンテの腕輪なら無効にする術があります」

おそらく、メガンテの腕輪のことについてローラは気にしているのであろう。
そう予測したフローラはわざわざ聞かれてもないメガンテの腕輪のことまで織り込んで説明した。
しかし、ローラの危惧しているのはそうではなかった。

「いいえ、そうではありません! 今すぐこの場を離れて!」

その次のローラの言葉で、フローラは事態が切迫していることを直感する。

「バラモスは私から、荷物を全て奪いました!」
「さすがの我も、今のは死を覚悟したぞ」

同時に魔王バラモスの声が、どこからともなく響いた。
78名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/01(日) 15:28:49.09 ID:S+cw2PpSO
.
79名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/01(日) 15:29:16.40 ID:FXZhnElr0
 
80献身と挺身  ◆uOBASANc9I :2012/07/01(日) 15:29:41.68 ID:Cfa/RVcP0




同時刻――。

「いないだと!?」

デーモンスピアで今度こそバラモスを死に至らしめようと、ゲロゲロが爆発の中心点まできていた。
いまだに黒煙は晴れないが、逃がす機会を与えはしない。
そう思っていたのに、バラモスはどこにもいない。
黒煙の向こう側に立つバラモスの姿を認めたからこそ、生きているとゲロゲロはおろかフローラもタバサも確信していたのだ。
あのような巨体、死ねばその死体はどうやっても隠しきれるものではない。
つまり、バラモスは生きていてどこかへ移動したのだ。
誰にも知られることなく移動する手段を使って!

――場所は戻る。



衣服はところどころ焼け落ち、その体にはイオナズンの直撃による激しい負傷の跡が多々見受けられる。
それでもなお、二発のイオナズンの直撃を受けても魔王バラモスは生きていた。
自らを包む粉塵を利用して、ローラから奪った消え去り草を使い、その身を隠す。
そしてもう一つあったローラの支給品、万能薬。
これはローラから奪った時点で飲んでいたのが功を奏した。
元よりカーラとゴーレムの戦いで負った傷も決して浅くはなかったのだ。
もしも出し惜しみをしていたら、イオナズンの直撃には耐えられなかったであろう。
バラモスにとってはこれ以上ない屈辱だった。
この魔王が身を隠すだけに留まらず、抜き足差し足で移動をさせられるのだ。

「認めよう、女。 貴様は我の不倶戴天の敵であると」

ようやくバラモスの方も合点がいった。
フローラたちが全力で向かってきた訳が。
フローラの腕に装備されている蒼い宝玉の埋まった腕輪がそうなのだ。
あれもまた、装備した者の死を契機に発動し、何らかの奇跡をもたらすのだと。
ならば、その邪魔者からまず消し去ればよい。

「なればこそ、ここで消えてもらおう!」
「導きの儀式を永久に繰り返し――」
「遅い!」

すでに呪文を完成させているからこそ、バラモスは声をかけたのだ。
エルギオスたちがバラモスを殺す訳にはいかなかったように、バラモスもフローラを殺す訳にはいかない。
バラモスが放ったのは、標的を彼方へと消し去り排除する追放の呪文。

「バシルーラ!」
「あ……」

放たれた光弾に包まれたフローラが、ふわりと羽もないのに浮かび上がる。
少しずつ少しずつ上昇し、バラモスの頭よりも高い場所まで上がる。
81名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/01(日) 15:29:50.90 ID:b5FMuV6r0
        
82献身と挺身  ◆uOBASANc9I :2012/07/01(日) 15:30:52.69 ID:Cfa/RVcP0
「お母さん!」
「フローラさん!」
「タバサ、タバサぁ!」

空中で溺れるかのように手足をばたつかせるフローラ。
必死の抵抗も空しく、まだまだ高度を上げていく。
そして、ある高度まで到達すると、光弾に包まれたフローラはスピードを上げてどこかへと飛んでいく。

「お母さああああああああああああああああああああああん!」
「タバサあああああああああああああああああああああああ!」

その言葉を最後に、フローラは見えなくなった。
どこか遠いところへと、強制転移をさせられたのだ。

「そんな……」

ローラがへたり込む。
これでは、結局元の木阿弥だ。
フローラの代わりにタバサがいて、そして絶望的な状況はあの時の繰り返し。
自分の支給品が奪われたせいで、このような事態を招いた。

「娘よ、貴様はあの女の子供か?」

無言でバラモスと対峙するタバサ。
その気丈さは褒められるべきではあるが、総身に震えが走っている。
何より、母の言葉の意味が分からないままなのだ。
リュカがフローラを愛してないとはどういうことだったのか、それを聞く前にフローラは消し去られた。
肉体は健康そのものでも、精神は十全とは言い難い。
こんな状態では、バラモスに勝つのは到底不可能である。

「案ずるがいい。 貴様の母もすぐに同じ所へ送ってやろう。 だが、腹が減ってきたところだ。 
 最初に殺した女の肉は筋張ってて固そうだったからやめたが、貴様のはらわたはさぞや柔らかいのだろうなぁ」

舌をチロチロと覗かせながら、バラモスは言い放つ。
恐怖心を煽る言葉を選び、タバサの体を縛り付ける。
恐怖とは人間につける最高のスパイスだ。 食われるその寸前の人間の恐怖と絶望の顔。
かぶりついたその瞬間、恐怖という調味料をかけられた人間の肉は得も言われぬ味を引き出す。
涙は極上の甘露となって、バラモスの舌を潤す。
これだから、バラモスは人間を殺すのをやめられない。

タバサももはやその言葉に涙を抑えられない。
歯の根が合わず、ガチガチと震える。
いつも守ってくれた大人はもういない。
ゲロゲロですら、今は離れた場所にいる。

「おやめなさい! バラモス、もう一度私があなたの所に戻ります! だからっ!」
「いいや駄目だローラ姫よ。 まずは教育をせねばなるまい。 我から逃げようとすればこうなるということをな」

タバサの前に立ちふさがったローラを、バラモスは跳ね飛ばす。

「娘よ、貴様のしゃれこうべをあの女に見せてやるのも一興」

徐々に伸びるバラモスの腕。
それを前にして、タバサは身が竦んだ。
魔王に威圧され、涙を流すことしかできない。
83名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/01(日) 15:31:53.17 ID:FXZhnElr0
 
84名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/01(日) 15:32:00.60 ID:b5FMuV6r0
      
85献身と挺身  ◆uOBASANc9I :2012/07/01(日) 15:33:00.21 ID:Cfa/RVcP0
「来たれ、正義の雷」

だが、その瞬間。
タバサとバラモスの間に雷が落ちる。
威力自体は抑えられていたようで閃光と残響音を残したまま、あっさりと消える。

「何者だ!?」

バラモスが誰何の声を上げる。
その言葉を待っていたかのように、どこからか男の声が聞こえる。

「ひとつ、人の世生き血を啜り」

土を踏みしめる音が聞こえる。
自らの居場所を知らしめるために、わざと大きく音を立てて。

「ふたつ、不埒な悪行三昧」

その男は不審者のような恰好をしていた。
外套を羽織っているのはまだいい。
だが、その下はなんと引き締まったむき出しの筋肉にパンツ一丁。
とどめはその顔だ。
顔には町の酒場によくいるあらくれもののマスクを被っており、怪しさ爆発である。
ローラもタバサも、一瞬驚きのあまり逃げ出そうとしたほどだ。

「みっつ、醜いこの世の悪を」

誰がどう見ても変態としか思えない恰好。
なのに、男はやましいところなど何もないかのように堂々と背筋を伸ばして歩いてくる。
肩で風を切って、その足取りは一定の歩調を保ち、腕は大きく振られている。
そして、どこか優しさすら感じさせるその独特の印象。
まるで、彼が勇者だと言われてもその雰囲気だけで納得しそうなほどだ。

「退治てくれよう、あらくれ仮面」

オルテガとバラモス、本来会うことなく死んでいった二人のあり得ない邂逅が今このとき実現した。

「さあ、頑張ってねオルテガさん」

オルテガがあんな大層な名乗り口上を上げたのは、オルテガ自身の強い希望もあったが、本命は援軍は一人だけだと思い込ませることだ。
盗賊の自分は真正面から戦わずに、身軽さを身上とした戦い方をすればいい。
建物の物陰に隠れて、ルイーダは機を窺う。
亡き友との思い出の品を握り締めて。
絶望の町での戦いはまだ終わらない。

【エルギオス@DQ9 死亡】
【残り46人】
86名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/01(日) 15:34:11.27 ID:FXZhnElr0
 
87献身と挺身  ◆uOBASANc9I :2012/07/01(日) 15:34:45.68 ID:Cfa/RVcP0
【???/???/昼】

【フローラ@DQ5】
[状態]:全身に打ち身(小)
[装備]:メガザルの腕輪
[道具]:支給品一式*3、ようせいの杖@DQ9、白のブーケ@DQ9、魔神のかなづち@DQ5、王者のマント@DQ5
     不明支給品(フローラ:確認済み1、デボラ:武器ではない物1、ゴーレム:3)
[思考]:リュカと家族を守る。
    ローラを助け、思いに答えるためにアレフを探す。
[備考]フローラがどこまで飛ばされたか後続の書き手氏に任せます

【G-3/絶望の町 屋外/昼】

【ゲロゲロ(ムドー)@DQ6】
[状態]:後頭部に裂傷あり(すでに塞がっている) 記憶喪失
[装備]:デーモンスピア@DQ6、スライムの服@DQ9、スライムヘッド@DQ9
[道具]:支給品一式、超万能薬@DQ8、トルナードの盾@DQ7、賢者の秘伝書@DQ9、人力車@現実、復活の玉@DQ5PS2
[思考]:タバサと共に行く。エルギオスの言葉を忘れない。
[備考]:主催者がムドーをどう扱うかは未知数です。主催からアイテムに優遇措置を受けています。


【タバサ@DQ5王女】
[状態]:健康、精神的に動揺、恐怖
[装備]:山彦の帽子@DQ5
[道具]:支給品一式
[思考]:家族を探す、フローラの言葉の意味が気になる。
    ゲロゲロと共に行く

【ローラ@DQ1】
[状態]:腕に火傷(小)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:アレフを探す アレフへのかすかな不信感

【オルテガ@DQ3】
[状態]:健康 記憶喪失
[装備]:稲妻の剣@DQ3、あらくれマスク@DQ9、ビロードマント@DQ8、むてきのズボン@DQ9
[道具]:基本支給品
[思考]:正義の心の赴くままに、主催者たちやマーダーと断固戦う。
     記憶を取り戻したい。
[備考]:本編で死亡する前、キングヒドラと戦闘中からの参戦。上の世界についての記憶が曖昧。

【ルイーダ@DQ9】
[状態]:健康
[装備]:ブロンズナイフ@歴代、友情のペンダント@DQ9
[道具]:基本支給品 賢者の聖水@DQ9
[思考]:オルテガとともにバラモスと戦う。
      アンジェとリッカを保護したい。
     殺し合いには乗らない。
 [備考]友情のペンダント@DQ9は、私物であり支給品ではない。
    『だいじなもの』なので装備によるステータス上下は無し。

【バラモス@DQ3】
[状態]:全身にダメージ(中)
[装備]:サタンネイル@DQ9、メガンテの腕輪@DQ5
[道具]:バラモスの不明支給品(0〜1)、消え去り草×1、基本支給品×2
[思考]:皆殺し できればまたローラを監視下に置く
[備考]:本編死亡後。

※光の剣@DQ2がエルギオスの死体付近にあります
88 ◆uOBASANc9I :2012/07/01(日) 15:35:32.45 ID:Cfa/RVcP0
投下終了しました。
まずは遅れてしまったこと、申し訳ありません。
そして数々の支援ありがとうございました
89名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/01(日) 15:36:06.81 ID:b5FMuV6r0
            
90名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/01(日) 15:43:02.60 ID:S+cw2PpSO
長編おつです!
エルギオスお疲れさま…
フローラ母さんがかっこよくて涙が出た
そしてオルテガの登場の仕方がwwお前はどこぞのアリスかww
熱い展開が続いてるなー。続きが気になる
91名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/01(日) 16:11:42.72 ID:MZTxf1RF0
乙です!
>元よりカーラとゴーレムの戦いで負った傷も
これはカーラじゃなくてデボラのような……
92 ◆uOBASANc9I :2012/07/01(日) 16:32:39.55 ID:Cfa/RVcP0
あ、直前までカーラの出る話を読んでいたせいかな。すごく恥ずかしい……
wikiに収録された際に修正しておきます
93名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/01(日) 21:02:24.79 ID:nzY9lkMV0
あらくれ仮面懐かしすぎ吹いたwwwwwww
94名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/01(日) 23:54:21.22 ID:1RkNKTJJ0
投下おつでーす。
フローラマジ王道お母さん。1stとはまるで別人よ。
二転三転する展開にラストにオルテガ登場で締めで盛り上がってきたーな所で締め。
そして、バラモスマジ魔王、さすがの貫禄。
95名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/04(水) 06:51:35.13 ID:+ke9i0Hl0
tes
96名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/05(木) 19:48:25.17 ID:Wv7EWOd50
バラモスがどこまでも一貫した悪の魔王で威厳あるぜ・・・
ドラクエの魔王はカバだのカエルだのの外見なのに本当カッコイイな
97名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/06(金) 21:53:58.67 ID:NB3/IlCj0
代理投下行きます
98天空に視た夢  ◇acx9ZJs02Q:2012/07/06(金) 21:54:47.05 ID:NB3/IlCj0
浮遊する。
空飛ぶ靴はまるで意思でも持つかのように、傷付いた足を上空へ運び、視界は地上から遠ざかっていく。
どこまで行くつもりなのか。
天馬の手綱を握らせたファルシオンほどの高度では無いにしても、支えの無い身体は不安定で、
行き先がどこなのか、そもそも着地できるのかどうかもわからない。
牢獄の町で負った傷が、それによる腰と足の痛みが、天へ近づくほど重くなっていく。
回復呪文の効果はあまりにも弱く、必死の逃亡の中では貫通した腿の傷を塞ぐのがやっとだった。
流した血を取り戻せたわけでもない。もともと一行の中でも飛び抜けて体力の無かった自分には、
それらのことでもひどく重傷に感じて、弱気にさえなってくる。
空飛ぶ靴の上昇はやがて下降に転じる。
と同時に、貧血でも起こしたのか、視界がにわかに霞んでいくのがわかる。
急激に高度を上げたことで、酸欠になっているのかもしれない。気付けば息も上がっていた。
遠のく意識を捕まえようという気力が、湧いてこない。現実を手放す感覚に甘えたくなってしまう。

(全部、夢だったらよかったのに)

墜ちていく。
さっき降りていった階段の先には、殺戮を望むばかりの大地があった。
救済を完遂すると決めた魔女も、この地上の牢獄に囚われているのなら、
天へと逃れたこの瞬間は、魔女は魔法が使えるだけの、ただの女の子に戻るのかもしれない。
閉じていく瞼の裏側で、幾度となく思い返す記憶があるのは、そのせいかもしれない。

――全部、夢だったんだな。

思い出す。
あの、未来が生まれるはずだったたまごに、かつて共に希望を祈っていた人のこと。
夢の世界で生きてきた記憶は、現実世界の自分と相容れることなく、その存在を失った。
現実世界に自分の居場所がないことを、誰よりも残酷な形で知ってしまった。
だからこそ、『彼』は祈っていた。
例えもう届かないとしても。自分にとっての愛する人が、相手にとっては見も知らぬ存在であったとしても。
彼らが幸せであるように、彼らの夢が守られるように。
誰よりも強く、誰よりも切実に、彼らと世界の愛と平和を、願い続けていたことを。

――だって、祈るだけならタダじゃん? ほら、バーバラも!
――どういうこと? ねえ、ロッシュってば!
――一度だけでいいから、祈ってみてくれないか? 僕と一緒にさ。

おもいだす。
地上の牢獄に再び降り立つそのときまで、魔女が少女に戻るその瞬間だけ、
バーバラは独り、記憶の回廊を巡っていた……
99天空に視た夢  ◇acx9ZJs02Q:2012/07/06(金) 21:56:35.74 ID:NB3/IlCj0


***


「リッカちゃん、見えてきたわよ。牢獄の町」
「あ、はい!」
ビアンカの言葉に、リッカは『あるくんです2』を操作する手を止める。
スライム型の小さなからくりは、画面(というらしい、説明書に書いてあった四角い部分)にスライムのような絵が表示されて、
しかも動くという、リッカには驚愕の代物だった。
これがどういう理由で支給されたのかはわからない。謎が多く、改めて調べる必要がありそうだ。
だが目下の問題は、視界の端っこで点のようにして見える目的地。
ここまでは特に誰かと遭遇することもなく、また後ろからあの恐ろしい道化師が追いかけてくることもなく
無事にたどり着けたが、町に入ればまた何が起こるかわからない。
アンジェやルイーダたちに会えるかもしれないし、逆に先のような存在にまた遭遇するのかもしれない。
戦えないリッカだからこそ、気を引き締める必要があった。
そしてもう一つ。リッカがこの世界で宿を提供できるとしたら、それは平野や森の中ではなく屋内だろう。
もしも戦いで傷付いている人がいたら、この手で安らぎを差し出そうと決めている。
この目的地で、自分の使命が果たせるかもしれないのだ。
勇むリッカは先の恐ろしい襲撃にも怯まず、しっかりと前を見据えていた。

「それにしても、大きいですね」
ぽつりとアレフがこぼす。ビアンカは前を行く男と遠い前方の景色を見比べ、首を傾げた。
「……そうかしら?」
「城塞と言っていいでしょう。どういった意図で作られたかはわかりませんが、町の外壁というには高すぎます」
その言葉に、ビアンカは目をみはる。
アレフが言っているのは恐らく目的地である牢獄の町のことだろうが、
どう見ても大きさを測れるほどの距離には思えなかった。大気の層からようやく抜け出たその姿は、
形など判然としない。
にも関わらず、今いる距離からそのことを測ったのだとしたら、やはり相当旅慣れているのだろう。
お出かけ程度にしか出歩かなかったビアンカには、途方もなかった。リュカだったら同じようにわかっただろうかと思う。
「……ああ、大丈夫ですお嬢さん方。いくら巨大な要塞が立ちふさがろうと、お二人は必ず私めがお護りします」
ビアンカの戸惑いをどう解釈したのか、そっと右手を胸に当て完璧するくらいの優しい微笑で横顔をのぞきこむアレフに、
思わず笑みがこぼれた。
「何度も聞いたわよ。頼りにしてるわ、アレフさん」
「私もです。本当にありがとうございます」
「私などには身に余るお言葉ですが、光栄です」
これも幾度聞かされたか知れない口上に、二人の顔は綻ぶ。
こんないつ襲撃があるかもわからない世界で、もとより戦闘力に自信のない二人に、アレフの申し出は非常にありがたかった。
少し極端ではあるが、女性としての丁重な扱いも、生まれくるいくつもの不安を紛らわせてくれる。
100天空に視た夢  ◇acx9ZJs02Q:2012/07/06(金) 21:57:23.80 ID:NB3/IlCj0
(リュカも、これくらいの気遣いができたらよかったのに)
本当に不器用だったから、と。ビアンカは目の前の男性に、なぜか似ても似つかない幼馴染を思って苦笑した。
最も、長いこと顔を合わせていない今となっては、きっと女性の扱いくらい会得しているだろうけれど。
なにせ、相手はあの清楚で可憐で、育ちもよく修道院で修行もしていたフローラだ。きっと学ぶことがたくさんあったはず。
ちくりと胸を刺す痛みも、今は振り切るだけだ。きっと、この同じ空の下にいるんだろう。一刻も早く彼に会わなければ。
そんな思いとともに、ビアンカは切なさを押し込めて、そっと空を仰いだ。

そして仰いだ空の先には、赤と黒の女の子がいた。

「なっ……!?」
ビアンカは思わず驚愕する。遅れてアレフとリッカも、ビアンカの見たものに気がついた。
遥か上空にいた少女は、三人の方に向かって急激な早さで降下しているのだ。
降下、とビアンカが思ったのは、少女が靴を地に向けて垂直に立ったまま降りているからで、
重力に逆らっているとは思えない降下の早さはむしろ落下に近いのかもしれない。
このまま墜落したら、お互い軽傷では済まない。
「危ないっ!!」
ビアンカとリッカを怪我の無いよう丁重に突き飛ばし、一人着地点から逃れられなかったアレフは、
そのまま少女を受け止めるべく身構える。
リッカは思わず目を塞ぎ、ビアンカは決死の眼差しで着地の瞬間を見つめていた。
しかし、アレフと少女が衝突することはなかった。
彼らの予想とは違って、少女はアレフのいる場所から外れ、
不思議な形状の靴をまるで地面に縫い止めるかのように、軽やかに地上へと降り立った。
ビアンカは息を呑み、リッカはそっと目を開ける。アレフが様子を伺うように凝視する中、少女は立ち尽くしたまま動きが無い。
その小さな身体が、やがて横倒しになる。
「……!」
アレフは即座に駆け寄り、その小さな身体を受け止めた。遅れてビアンカたちも歩み寄り、少女の姿を目におさめる。
黒と赤のドレスに身を包み、赤毛をうしろで結んだ少女は、弛緩した身体をアレフの腕に預けていた。どうやら意識はない。
そしてすぐに、足に怪我のあとがあることに気付く。
治療を施さなければ悪化する一方だろうことはわかっていたが、ビアンカは軽く混乱のさ中にあった。
(どういうことなの? キメラの翼ならこの世界では使えないはず……)
疑問は止まないが、とにかくビアンカは回復呪文が使えない。治療の手段をアレフに相談しようと、顔を上げたその瞬間。

「なんて愛らしいんだ……!!」

思わず荷物を取り落として叫んだアレフに、リッカはぽかんと口を開け、ビアンカはずっこけた。
101天空に視た夢  ◇acx9ZJs02Q:2012/07/06(金) 21:58:14.91 ID:NB3/IlCj0


アレフが、効き目の悪いベホイミを幾度となく施した末に、少女はようやく目を覚ました。
「う……」
「目が覚めましたか、お嬢さん」
少女が顔をしかめながら身を起こそうとするのを手助けしながら、アレフは優しく呼び掛ける。
「無事に目が覚めてよかった。覚えておいでですか?
お嬢さんは如何様なる魔法の力かはわかりませんが、遥か上空からこの地面へ降り立ったのですよ」
その言葉を、はじめ虚ろな眼差しで聴いていた少女だったが、やがて瞳に光を取り戻し、呟いた。
「そっか。あたし……」
夢見るような口調だった。
恐らく未だ意識がはっきりしていないのだろう。ビアンカは少女の肩に手を置いて、安心させるように微笑みかける。
「無理しないで。今は身体を休めるのが先よ」
本音は先に少女から話を聞き出したいところだが、負傷していた上、たった今目覚めたばかりの少女に無理はさせられない。
同じように考えたのだろう、アレフもまた少女を支え起こしながら、遠い目的地に視線を向けた。
「牢獄の町に急ぎましょうか。こんな平野にいるよりは安全でしょうし」
「そうですね。その方が、休む場所も見つかるかも」
リッカもそれに同意する。だが、当の少女は二人の言葉に目を丸くした。正面のビアンカをきっと見上げる。
「牢獄の町に行くつもりなの?」
「ええ、そうだけど」
「あそこは今危険だわ! 奴が……っ」
そう言って勢いよく立ち上がろうとし、ふらつく少女をアレフが支える。
息をつく少女に、ビアンカは眉をひそめた。
「……どういうこと?」
「魔物が、いるの……。奴が……キラーマジンガが……」
苦しげに告げられた言葉に含まれる、恐ろしげなその響きに、ビアンカの胸がどきりと鼓動を打ち鳴らす。


負傷と急激な高度の変化で、一時的に意識を失っていたらしい。
だが、目を覚まして起き上がってみても、思ったより辛くは無かった。
自分たちを見つけてくれた人々、主にアレフという名の男が、回復呪文を施してくれたようだ。
しかしそのことに感謝を抱く間もなく、バーバラは起きたばかりの頭を必死に回転させる。
つまりはどうやって、目の前の相手を『救済』したら良いのか。
さすがに三人相手にエイトと同じ手は使えない。
魔法をぶつけたとしても、三人相手に闘うというのはどうしても分が悪かった。
特に、このアレフという男には隙がない。負傷を追っていたバーバラが、真っ正面から戦って勝てる相手には思えなかった。

霞む目を、辺りに向ける。辛うじて牢獄の町が見えることから、思ったよりも遠ざかってはいなかったらしい。
キラーマジンガはあの場に留まっているのだろうか。こうしている間にも、あの殺戮マシンの犠牲者が出ているかもしれないのに。
己の手で参加者の救済を目指すバーバラにとって、かの存在は非常に悩ましかった。
できることなら破壊したい。だが、バーバラ一人ではどうすることもできないのもわかっている。
そして目の前の三人は、その牢獄の町に行こうと言うのだ。
(どうしよう。どうしたらいいの……)
ふらつく頭で必死に考えようとするバーバラに、目の前の女が呼び掛ける。
102天空に視た夢  ◇acx9ZJs02Q:2012/07/06(金) 22:02:58.00 ID:NB3/IlCj0


「キラーマジンガ……ですって?」
戸惑ってアレフらと視線を交わすビアンカに、バーバラは口を開いた。
「あたしは、奴から逃げてきたの。一人ではとても勝てなくて」
「そんな……」
「このままじゃ、みんな……」
リッカの顔に不安の色が浮かぶ中、思わず零れるようにして呟いたバーバラの言葉。
それを背後で聴いていたアレフは、他の女性たちの焦燥を振り切るようにして立ち上がる。
「ならば、私が倒しましょう」
「え……?」
バーバラは息を呑み、肩越しに彼を凝視した。
「当然のことです。お嬢さんをこんなにも傷付け苦しめたゴミカス……失礼、魔物を懲らしめないわけにはいきませんから」
「そうね。そんなに危険な魔物なら、なんとかしなくちゃ」
ビアンカも同意する。唯一リッカは戸惑う表情を見せたが、アレフが彼女を必ず守ると説得するのに首肯した。
一人だけ、話についてこれず呆けていたバーバラが、やっと事態を呑み込む。
(……そっか。その方がいいのか)
キラーマジンガが倒せない。そのことが彼女の目的を邪魔するのなら、先にそれを排除すればいいだけだ。
そのための手段は問わない。たとえ利用するようなことになっても、最後に皆を救えるのなら。
(また、四人がかりで倒せばいいんだね)
かつて海の深淵で、四人がかりでどうやって倒したのかはもうよく覚えていない。
深くおもいだすことなど出来そうもなくて、空で視た記憶だけが微かに、彼女の脳裏を掠めたけれど。

(あたしが全てを終わらせるんだ)

こころにきざみ込んだ言葉が、“誰か”の口癖であったことも、魔女である彼女は気付かない。
問うような視線を向ける三人へ、バーバラは手を伸ばした。
彼らの手を借り、障害を排除するために。そしてそれが終わったら、彼らをこの手で「救う」ために。


***


「……祈るって、あのたまごに?」

珍しく、神妙な面持ちでそう言う彼に、バーバラは首をかしげた。
103天空に視た夢  ◇acx9ZJs02Q:2012/07/06(金) 22:03:55.47 ID:NB3/IlCj0

「そ。生まれてくる僕らの未来に、いいことがありますようにって」
「ふうん。ロッシュがそんなこと言うなんて」
「そお〜? 僕はけっこう神頼み、山の精霊さま頼みだよ。
 お祈りするだけで戦わなくて済むならそれに越したことはないしぃ。
 毎日いろいろ、例えば……今日もいい夢見れますようにとか、世界が平和になりますようにとか、
 新しい町でバーバラみたいな可愛い子に出会えますようにとか……」
「もう、またそんなこと言って!」
まじめな話だと思って聞いていたのに、気付けばまた茶化されて、少女はもう、と頬を膨らませた。
それはクセか習性か、あるいは自分のペースを崩すまいとするためなのかはわからない。
根が真摯である彼の性格を理解してからは、一見ふざけた態度にも怒りを覚えることはなくなったが、
だからと言って時折人を口説こうとするのはどうなのだろうと彼女は思う。
もっとも、彼がただの女好きなのはわかっているので、
「ミレーユにも同じこと言ってたよね」と軽くあしらってはいるけれど。
それでもなんとなく面白くなくて、ぷいっと彼女は顔をそむけた。

そんな様子に、ロッシュは慣れた様子でふふっと笑う。
笑みを深めた表情のまま、そっと目を伏せてささやいた。

「大魔王を無事に倒して、みんなで帰ってこれますように、とか」

バーバラが視線を戻すと、そこには見たことも無いような穏やかな表情の彼が居て。

「もしそうなったとしても、夢の世界が消えてしまわないように、とか。
 ……僕やバーバラが、いつかまた笑って会えるように。とかね」
「ロッシュ……?」
戸惑う少女を見つめる彼の眼は澄んでいて、茶化すような色は見受けられなかった。
そこに悲壮感は無い。なにもかもを見透かすような眼差しで、ロッシュは言葉を紡いだ。

「……すべて叶うと、僕は信じてる。だからこうして祈るんだよ。
 夢を、夢のまま終わらせないために――」


――それは夢。
過去の記憶を見せられるだけ、時が経てばわすれるだけの、少女が天空に視ていた夢。

(結局ぜんぶ、叶わなかったよ。ロッシュ)

時は来て。
天を飛翔した旅の終わり、砕けた希望の欠片たちを、魔女は空に遺していく。
この地上の牢獄で、夢はどこまでも夢のまま。
104天空に視た夢  ◇acx9ZJs02Q:2012/07/06(金) 22:05:03.49 ID:NB3/IlCj0


【B-4/平原/昼】

【ビアンカ@DQ5】
[状態]:健康
[装備]:女帝の鞭@DQ9、エンプレスローブ@DQ9
[道具]:支給品一式、炎のリング@DQ5、カマエル@DQ9、さまよう鎧@DQ5
[思考]:リュカに会いたい、彼の為になることをしたい。牢獄の町に向かう。 キラーマジンガをどうにかしたい。
[備考]:カマエルによって錬金釜の使用方法を教わっています

【リッカ@DQ9】
[状態]:健康
[装備]:あるくんです2@現実
[道具]:復活の玉@DQ5、大量の食糧(回復アイテムはなし)、支給品一式
[思考]:宿屋を探す、そのために牢獄の町を目指す。
     あるくんです2について理解する。

【アレフ(主人公)@DQ1】
[状態]:魔力消費(小)
[装備]:ルカナンソード@トルネコ3
[道具]:支給品一式*2
[思考]:一刻も早くローラを保護する。そのためには剣を取ることも辞さない。
     とりあえず女性はすべて保護する。牢獄の町までビアンカ・リッカ・バーバラをエスコート。
     牢獄の町のキラーマジンガにお仕置きする。

【バーバラ@DQ6】
[状態]:ダメージ(小)、魔力消費(小)、太腿を負傷(傷口)はふさがっている
[装備]:空飛ぶ靴@DQ5、セティアドレス@DQ9
[道具]:基本支給品一式、ゆめみのはなセット(残り9個)、かわのムチ
[思考]:参加者を自分の手で「救う」、優勝してデスタムーアを倒す
     キラーマジンガを破壊する、その後ビアンカ・リッカ・アレフを殺す
[備考]:ED直後からの参戦です。武闘家と賢者を経験。
105名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/06(金) 22:09:09.52 ID:NB3/IlCj0
代理投下終了です
そして投下乙です。

なるほど、祈った結果がバトロワだよ!ってことか。そりゃあ絶望するわなw
アレフたちはキラーマジンガと戦うのと、キラーマジンガに勝ってもバーバラに襲われるというダブルの災難が降りかかるのか
誰が死ぬのか今から不安で不安でしょうがない
106ハッピーエンディングじゃ終わらない ◇CruTUZYrlM:2012/07/07(土) 05:13:24.43 ID:HCAqUl4p0
無意識のうちに体は逃亡を選んでいた。
けたたましく鳴る鐘のように全身が危機を訴える。
後ずさろうにも、まるで蛇に睨まれた蛙のように足は動かず。
荒れ狂う稲光の如く現れた男に睨まれれば睨まれるほど、内から湧き上がる恐怖は勢いを増していく。

恐怖で心を満たされそうになりながらも、状況を冷静に分析する。
相手はドランゴやボストロールすら優に上回る力の持ち主。
かといって動きが鈍いのか、といった訳でもない。
あのキラーマジンガより鋭い目が灯っている内は、どうにも逃げられそうにない。
当然、あの力とまともにぶつかりあっても勝ち目はない。
よって腕力に頼らない戦いを強いられるのだが、手札の一つである竜の吐息のカードを切ることは出来そうにない。
男が持つオーガシールドの力、そして男の力を考慮すれば打ち払われてしまう可能性が高い。
そもそも迂闊に息を吐き出そうとすれば、その隙に取り返しのつかない一撃を叩き込まれてしまう。
息を吐き出せる程の大きな隙が生まれたとしても、竜の吐息が有効な一手になるとは考えにくい。
貴重な主戦力のうちの一つを封じられ、状況的には不利である。
残された手札で、この場から脱する最良の手を打たねばならない。
一手間違えば死を招きかねない状況を背負いながら、ミレーユは行動に出る。
107ハッピーエンディングじゃ終わらない ◇CruTUZYrlM:2012/07/07(土) 05:14:29.44 ID:HCAqUl4p0
ミレーユの全身から光が溢れ出す。
視界を覆わんとする輝きに、男は思わず光から目を反らしてしまう。
それを確認してから、ミレーユは爪先から地面を抉るように足を振り抜き、砂煙を起こした。
そして蹴り上げた勢いを生かして宙を舞い、距離を一気に離していく。
息をつく間も無く全身から猛毒を分泌させ、それを霧状に振りまいてゆく。
これで男の目がくらんでいるうちに、男の視界は砂煙に包まれている上、辺りには毒の霧が漂っている。
これだけの状況を揃えれば、逃げることもたやすいはず。
残された手札を順序よく組み立て、場に揃えることが出来た。
あとは、全力で逃げるだけ。

大魔王を討伐する旅の途中、幾多もの敵をこの手で追い払ってきた。
相手がどれだけ強くても所詮は人間、念入りの策なら通じると思っていた。
が、相手は「まとも」ではなかった。
一度視界に捉えた敵を逃さず、徹底的に叩き潰す。
彼の天性の才能は、光や毒の霧などで止められるものではなかったのだ。
光から目を背け、砂煙が視界に満ちた時点でもょもとは無意識に走り出していた。
ミレーユが砂煙を巻き起こした際と着地したときの音に向かって。

そうして、逃げ出そうとしていたミレーユの目の前に。
無機質な表情と、力一杯の拳が突きつけられた。
108名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/07(土) 05:16:19.80 ID:HCAqUl4p0
ごめんなさい。
>>107の大魔王を〜の段落の最初に

そう、それだけのはずだった。

が入ります。
109ハッピーエンディングじゃ終わらない ◇CruTUZYrlM:2012/07/07(土) 09:00:34.11 ID:DTz4JO7f0
痛恨の一撃。
身を守ろうとする動きさえ許されず、もょもとの稲妻の如き拳がミレーユの頬に深々と突き刺さる。
首から上が千切れ飛んでしまいそうな衝撃を受け、まず顔の側面から高速で着地する。
その着地点を軸にして体全体がふわりと浮き上がる。
浮き上がった体も勢いに飲まれ、吸い込まれるように地面へと打ち付けられる。
まるで蹴り飛ばされたボールのように、転がりながら何度も何度も地面を跳ねていった。
山肌に背中を打ち付け、ようやくミレーユは止まることが出来た。
短く断ち切られた金髪は血と泥によって無造作に荒らされ、白く美しかった肌も所々が裂けて赤い肉が露出している。
口に溜まりきってもなおこみ上げる血塊を吐き出し、ゆっくり起き上がりながら回復呪文を唱えようとする。
が、その時。
既にもょもとは目前に立っていた。
回復も、攻撃も、防御も、何も間に合わない。
ただ、振り抜かれる拳を黙って見ているしかできなかった。
「ごふっ……あ」
ミレーユの腹部に深々と拳が突き刺さる。
ぷちぷちと何かが裂けるような音と共に、吸い込んでいた息、胃の内容物、大量の血液が絞り出されるように吐き出される。
同時に、ミレーユの体全体が羽根のようにふわりと浮く。
もはや抵抗は愚か生命活動すら停止しようとしているミレーユの姿をじっと見据えながら拳を振り上げ。
重力に引かれて浮遊から落下に切り替わろうとするミレーユの背に、叩きつけるように風を切って振り下ろした。
110ハッピーエンディングじゃ終わらない ◇CruTUZYrlM:2012/07/07(土) 09:01:21.28 ID:DTz4JO7f0
冒険の途中、ハーゴンの手下である「人間」の敵と多数向き合うことがあった。
もょもとはそんな「人間」が相手でも一切容赦することはなく、ただ的確に急所を突いて攻撃する。
動かなくなった相手でも、もょもとの中で何かのスイッチが切れるまでは攻撃を加え続けることが普通だった。
その様子は正に「悪魔の子」の呼び名に相応しい程の「破壊」であった。
常人からすれば異常な光景も、彼にとっては「たたかう」ことをこなしているだけに過ぎないのだ。
父の名を受け、ハーゴンに従い自分達に立ちはだかる者と「たたかう」こと。
そうしていればよかったのだから、そうしていただけ。

この場に来てからは、その目的を失っていた。
始めの声に諭されるまま「たたかう」ことを選んでいたが、周りはそれを止めて来る。
「たたかう」ことが正解なのか? 「たたかう」ことはいけないことなのか?
それすらも分からない、だから「たたかう」しかない。
今まで「たたかう」ことで全て理解してきた、「たたかう」ことを終えた先に全ての答えはあった。
正解なのか、いけないことなのかは「たたかう」ことを続ければいずれ分かるのだから。

初撃で手痛いダメージを負い、腹部と背部に突き刺さった追い討ちでミレーユは既に瀕死の状態。
だというのにもょもとは未だにミレーユを見据え、一歩ずつ近づいていく。
ギリギリのラインで意識を手放さずにいたミレーユにとっては、大魔王に匹敵する恐怖だった。
一歩ずつ、一歩ずつ、確実に青い悪魔は自分の命を刈り取らんと進んでくる。
逃げようと体を動かそうとする、手の小指の一本すら動かない。
一刻も早くそこから逃げ出したいのに、全身が釘で固定されたかのように動かない。
まごついている間にも、悪魔は着実に近づいてくる。
一歩一歩の足音が、鼓膜を破るほどの大きな音に聞こえる。
せめて逃げ出す時間を稼ごうと、口から竜の吐息を吐き出そうとする。
しかし、口を開けど開けどあふれ出してくるのは血塊のみ。
輝く息や灼熱の炎は愚か、火種の一つも起きず、つめたい風すら出て気やしない。
全身を使って自然に訴えかけても、火柱は愚か地響きすら起きない。
もう、石つぶてを投げる力も、大声も張り上げる力も、何もない。
恐怖に打ち震えながら、ただ、ただ、ただ、男が迫るのを待つだけだった。
悪魔が、目の前に辿り着いた。
歯を震わせ、涙を浮かべ、血を流しながら、振り下ろされる拳を見つめることしか出来なかった。
ミレーユは迫り来る死という現実から逃れるように目を閉じ、全てを放り出した。
111ハッピーエンディングじゃ終わらない ◇CruTUZYrlM:2012/07/07(土) 09:01:56.36 ID:DTz4JO7f0
冒険の途中、ハーゴンの手下である「人間」の敵と多数向き合うことがあった。
もょもとはそんな「人間」が相手でも一切容赦することはなく、ただ的確に急所を突いて攻撃する。
動かなくなった相手でも、もょもとの中で何かのスイッチが切れるまでは攻撃を加え続けることが普通だった。
その様子は正に「悪魔の子」の呼び名に相応しい程の「破壊」であった。
常人からすれば異常な光景も、彼にとっては「たたかう」ことをこなしているだけに過ぎないのだ。
父の名を受け、ハーゴンに従い自分達に立ちはだかる者と「たたかう」こと。
そうしていればよかったのだから、そうしていただけ。

この場に来てからは、その目的を失っていた。
始めの声に諭されるまま「たたかう」ことを選んでいたが、周りはそれを止めて来る。
「たたかう」ことが正解なのか? 「たたかう」ことはいけないことなのか?
それすらも分からない、だから「たたかう」しかない。
今まで「たたかう」ことで全て理解してきた、「たたかう」ことを終えた先に全ての答えはあった。
正解なのか、いけないことなのかは「たたかう」ことを続ければいずれ分かるのだから。

初撃で手痛いダメージを負い、腹部と背部に突き刺さった追い討ちでミレーユは既に瀕死の状態。
だというのにもょもとは未だにミレーユを見据え、一歩ずつ近づいていく。
ギリギリのラインで意識を手放さずにいたミレーユにとっては、大魔王に匹敵する恐怖だった。
一歩ずつ、一歩ずつ、確実に青い悪魔は自分の命を刈り取らんと進んでくる。
逃げようと体を動かそうとする、手の小指の一本すら動かない。
一刻も早くそこから逃げ出したいのに、全身が釘で固定されたかのように動かない。
まごついている間にも、悪魔は着実に近づいてくる。
一歩一歩の足音が、鼓膜を破るほどの大きな音に聞こえる。
せめて逃げ出す時間を稼ごうと、口から竜の吐息を吐き出そうとする。
しかし、口を開けど開けどあふれ出してくるのは血塊のみ。
輝く息や灼熱の炎は愚か、火種の一つも起きず、つめたい風すら出て気やしない。
全身を使って自然に訴えかけても、火柱は愚か地響きすら起きない。
もう、石つぶてを投げる力も、大声も張り上げる力も、何もない。
恐怖に打ち震えながら、ただ、ただ、ただ、男が迫るのを待つだけだった。
悪魔が、目の前に辿り着いた。
歯を震わせ、涙を浮かべ、血を流しながら、振り下ろされる拳を見つめることしか出来なかった。
ミレーユは迫り来る死という現実から逃れるように目を閉じ、全てを放り出した。
112ハッピーエンディングじゃ終わらない ◇CruTUZYrlM:2012/07/07(土) 09:03:05.83 ID:DTz4JO7f0



アイラの提案の後、二人は南に見える欲望の町を目指して歩いていた。
西には先ほどのターバンの男が向かっていると考えられる。
何よりも南の町の立地が最悪という大きな理由もあった。
比較的向かいやすい牢獄の町と絶望の町、ヘルハーブ温泉に比べて欲望の町へのアクセスは劣悪だった。
南から向かおうにも森林から山地、そして再び森林と来て最後には毒の沼である。
旋回するようなルートも作用し、他の町に比べて面倒くささがハンパではない。
北側から向かうのならば平地のみで足取りを邪魔する物は何もないが、北側から向かう途中に牢獄の町が見える。
普通の人間ならまずこの牢獄の町へ向かうだろう。
よっぽどの物好きでもない限り、この欲望の町を目指す者などいない。

では、初めから欲望の町に居た者はどうするか?
毒の沼が待ち構える通りにくい南側にわざわざ抜けるとも考えにくい。
人が居るとすれば北側に抜けて平地に沿い、牢獄の町や他の施設を目指すだろう。
今、絶好の位置に居る自分達と出くわす可能性が高い。
町から出た人間がまともならば、欲望の町の情報も手に入る。
もし途中で誰に会うことがなかったとしても、欲望の町を探索する程度のことはできる。

自分達の現在位置、この地の形状を考え、そしてカインの状況を察する能力から出た提案により、二人は南へと足を進めていた。
まともな人間、それかかつての仲間に出会えることを祈りつつ。
願わくば、妹に会えることを期待しつつ。

この世界に呼び出されてから、初めて触れ合った異世界の文化。
自分の住む世界とは違う人、文化、生活、風習、全てが未知の世界。
魔物と心を通わせる人間の存在もそうだが、ロトの血というものを知らない世界があることに驚きを隠せなかった。
冒険の中、どこに行ってもロトの末裔扱いだった自分にとっては夢のような環境だった。
もし、そんな世界に生まれていたら。
ロトの血族という存在に縋りつく、狂信者のいない世界だったなら。
自分がこんなに苦しむことも無かったし、いつかあきなが漏らした願望すらも現実になっていただろう。

本当は、ハーゴンに加担しても良かった。
腐った世界と狂信者どもをぶち壊すため、邪神官に下っても良かった。
きっと世の中の人間は大いに恐れ戦くことだろう。
「ロトの血筋が世界を崩壊させようとしている」だなんて、あの世界の狂信者からすれば死にも等しい一撃だ。
ただあのときの自分は、それを行うにはあまりにも非力すぎた。
人類全体を裏切ることになる上、いずれはもょもととあきなの二人と刃を交えることになる。
冒険していた自分だからこそ分かる、二人の強さ。
自分と、ハーゴンの力をあわせてようやく五分が取れるかどうか?
それほどもょもとの力は異常であったし、あきなの魔術の能力はまるで神の如き才能だった。
結局僕は人々に従い、強い方へと付き、生き延びることを選んだ。
ロトの末裔の中で一番使えない上、ハーゴンに付くことすら許されなかった僕が生き残るにはそれしかなかったから。


>>111はミスです。本当に申し訳ございません
113名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/07(土) 09:18:55.72 ID:HJzgitChO
支援
114ハッピーエンディングじゃ終わらない ◇CruTUZYrlM:2012/07/07(土) 09:18:59.71 ID:x5NrqPS90
ふと、そこで嫌な予感が頭をよぎる。
もし、もょもとやあきなと刃を交えることになったら。
タダでさえ何を考えているか分からないもょもとがそもそも「殺し合い」を理解できるとも思えない。
辺りの人間を敵だと認識して襲い掛かってしまうだろう。
自身を追い詰めやすいあきなは、適当な輩の言葉に追い詰められているかもしれない。
この世界に来ても、元の世界のように誰かに操られるがまま、贖罪の言葉を呟きながらどこかをふらついているかもしれない。
もし、そんな二人と自分が出くわしたら?
「嘗ての仲間」として、話ぐらいは聞いてくれるだろうか? そうであればどれだけ良いか。
仮に戦闘になったとしても、自分ひとりで勝てる可能性は非常に薄い。
まだ、あきなの方が勝てる可能性は若干高い。
魔術がどれだけ強力でも、それを放つ為の呪文を唱える時間が必要だ。
その隙に一発蹴りでも入れてやれば、あの虚弱な体質のあきなを崩すことは容易である。
問題は彼女が殺し合いに乗っているならば、彼女を唆す第三者が居るということだ。
その第三者の介入を受けながら、その隙を突けるかというと怪しくなってくる。
あきなと戦うに当たっては未知の第三者の力次第となるだろう。
問題は、もょもとである。
攻撃の正確性、威力、そして魔物を優にしのぐ残虐性。
トドメに本人が無自覚である可能性が高いと来る。
彼が戦闘だと判断すればそこは戦場だ、もょもとは一切の容赦なく叩き潰しに来る。
自分の方が素早さが勝っていて呪文が扱えるとしても、正直あの戦闘魔神に打ち勝てる自信はない。
隣にいるアイラを犠牲にすれば、逃げる時間ぐらいは稼ぐことが出来るだろうか?
と、そんな発想に至ってしまった自分の思考を恨み、またもや溜息が漏れる。

どうやら、自分の人間不信はよっぽど深いところまで根を張っているらしい。
たった今、信用したいと思ったはずの人間をいとも容易く切ろうとしていた。
生き残るのが重要ならば、確かにアイラを切るのはもっとも確実だ。
だが、それでいいのだろうか?
自己の欲のためだけ、他の存在を切り捨てる。
自分がよければ、他人がどうなってもいい。
ロトの末裔が苦しんでいることも知らず、何もかもを押し付けていたあの世界の人間と同じではないか。
こんな自分を、アイラは信用してくれているというのに。
自分は全くもってそれに応えることが出来ていない。
かといってどうするのが正解なのか、全く分からない。
人を、他人を、仲間を信用し、共に戦うということ。
誰かを信用するということ。
こんなにも、難しいことだったのか。
忘れて久しい感覚に、頭を悩まされ続ける。
そうして具体的な行動や正解を頭の中で出せず、思考の輪廻に陥っているとき。
「カイン! あれ!!」

現実は、容赦なく殺しにきた。
115名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/07(土) 09:19:45.54 ID:HJzgitChO
.
116ハッピーエンディングじゃ終わらない ◇CruTUZYrlM:2012/07/07(土) 09:20:00.57 ID:x5NrqPS90
アイラの指差す方向を向く。
目に映ったのは見飽きた服、見飽きた顔、見飽きた光景。
数秒前まで考えていたことが、現実として襲ってくる。
そして思考の中で勝てるわけがない、そう結論付けたはずなのに。
気がつけば剣の柄を握り締め、アイラの引き止める声を背にしながら駆け抜けていく。
その速度を保ったまま、勝てるはずのない怪物へと切り付けて行った。

ミレーユにとどめを刺すはずだった拳。
それは、若葉のような緑色の風に遮られた。
もょもとは瞬時に拳を引き、乱入者から距離を取る。
「……どいてくれ、カイン。俺はそいつと"たたかう"んだ」
乱入者、カインは俯きながら剣を構える。
「カイン、どいてくれ」
「お前、何やってんだよ」
突きつけられた二度目の願いを無視し、依然俯いたままカインは吐き捨てるように呟く。
「父親や周りの人々が言うように戦い続けていたらその先にハッピーエンドがありました。
 だから今回も戦い続けてみんな殺してしまえば、ハッピーエンドに辿り着けるとでも思ってるのか?」
カインは怒りでもなく悲しみでもない感情が籠もった声でもょもとに問う。
「……"たたかう"のは、いけないことなのか?」
まるで子供のように、無垢な声色で答えるもょもと。
それを皮切りに、もょもとの口から次々に言葉があふれ出していく。
「父上はハーゴンを倒すことを勧めてくれた。そうすれば、民も喜んでくれると言ってくれた。
 世界を壊そうとしているハーゴンを倒し、世界が平和になればこれ以上の喜びはないと言ってくれた。
 そのためには"たたかう"ことが必要だってことも教えてくれた。
 民のため、父上のため、おれは戦った。
 民が尊敬するような素晴らしき王になりたいから、おれは戦い続けた。
 いろんな国に行って、生き残って、戦い続けて。
 そうして、ハーゴンを倒した先に答えはしっかりあった。
 魔物は居なくなったし、民の顔は輝いていた。
 おれはあの時、戦い続けた先にあった答えを掴んだんだ」
そこで、もょもとは大きく息を吸い込んだ。
カインは未だに俯いたまま、剣を構えて黙り込んでいる。
「この場所に来てから、おれはどうすればいいか分からなかった。
 そこで真っ先に教えてくれた人が居た。
 武器を装備して、戦う。それがこの場所でやるべきことだって。
 だから、俺は戦わなくちゃいけない。
 でも、おかしなことに"たたかう"ことを止めようとする人も居る。
 力のない女や小さな子供まで、武器を抜いておれを止めようとしてくる。
 "たたかう"ことはいけないことだって。
 おれは、どっちが正しいのか分からなくなった。
 生き残って戦い続けて答えを見つけることにした、この場所でも戦い続ければ答えは見つかる。
 それに納得できるかどうかは、見てみなくちゃ分からない」
流れるように飛び出した言葉達が、そこで止まる。
長い旅の中、カインの目の前でこれほどまでもょもとが喋ったことなど一度もなかった。
そんな機会も無かったし、その必要もなかった。だから喋らなかった。
初めて語られたことと、ここに来てからのこと。
全てを包み隠さず、もょもとは言葉にして吐き出した。
「カイン、どいてくれ。おれは"たたかう"んだ」
戦いの構えを作り直し、もょもとは最後の警告を放つ。
カインはもょもとの話の間、ずっと剣を構えて俯いたまま。
117名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/07(土) 09:20:32.96 ID:HJzgitChO
.
118ハッピーエンディングじゃ終わらない ◇CruTUZYrlM:2012/07/07(土) 09:20:50.18 ID:x5NrqPS90
「はは、はははは」

小刻みに震えながら。

「はははははははは!!」

ようやくカインに追いついたアイラが、一歩引き下がってしまう表情を浮かべて。

「あっはははあははははは!!」

張り裂けんばかりの大声で、笑い出した。

そして、ぴたりと笑いを止め。
冒険の間、一度も見せたことのない表情のままもょもとの方へ向き。
弾け飛んでいく果実のように言葉を放つために、口を開いた。

「世界が平和になれば民や父親が喜んでくれる? そう言われたからハーゴンを討伐しに行った?
 戦い続けて、ハーゴンとシドー倒して、本当に世界が平和になったのは事実だ。
 それで本当に民が喜んでたなんて本気で思ってたのか?」
剣を持ちながら挑発するような態度と構えで、カインは"真実"を口に出した。
この目の前のバケモノが知らなかった、知らされることもなかった真実。
隣国という非常に近い存在だからこそ、知っていることもある。
ローレシアの民は、王子を疎んでいると。
悪魔の力を持った子供に、恐怖を抱いていると。
噂程度の話だったが、カインには噂が現実であるということを裏付ける要因と実体験がある。
噂が時に牙を持ち人に襲い掛かることも、自分自身が一番良く知っていること。
だから、カインは"真実"になりえる牙を手札に取った。

なぜか?

もょもとの様子からしても、黙っていれば戦闘になることは間違いない。
無差別的に人間を襲っているということは、そばに横たわる金髪の女性から容易に察することが出来る。
ならば、彼の戦意を失わせることが最優先だ。
しかし、それはただのぬのきれだけでロンダルキアを駆け抜けろと言われるくらい難しいこと。
破壊神を目の前にしても涼しい顔をしていたもょもとを崩す手段、そんなものはなかった。
そう、さっきまでは。
幸運にも「父を尊敬している」というワードを聞きだすことが出来た。
カインの中ではキラーマシンよりも殺人機械のような人物像に、ヒビが入った。
もょもとの戦意を喪失させるには、このヒビを叩くしかない。
「……どういうことだ?」
案の定、もょもとはカインの"噂"に乗ってきた。
「簡単な話だ。お前が生きて喜んでたやつなんて、あの国には誰一人としていなかったんだよ」
決壊したダムのように、カインの態度は一転し攻勢に入る。
119名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/07(土) 09:21:17.00 ID:HJzgitChO
.
120ハッピーエンディングじゃ終わらない ◇CruTUZYrlM:2012/07/07(土) 09:21:34.20 ID:x5NrqPS90
「そりゃ、世界が平和になったことは喜ばしいことさ。
 魔物は居ないし、世界を滅ぼす存在も居なくなった。
 そう、世間一般的に見ればな。だがローレシアという王国だけは違った。
 お前だよ、お前。
 小さい頃からバカみたいな力と、天性の才能を持った悪魔みたいなやつに、いつか滅ぼされるんじゃないかって不安があったんだよ。
 王国の未来のため、お前がどっかで死んでくれることを願ってローレシア王はお前にハーゴン討伐を命じたんだよ。
 まさか、破壊神をも破壊しつくして戻ってくるなんて、考えなかっただろうな。
 ローレシアはさぞ恐怖に打ち震えただろうな、ただでさえヤバい奴が、ヤバイ実績を引っさげて帰ってきたんだから」
カインの口から次々に飛び出していく言葉というナイフ。
その一本一本が丁寧にもょもと突き刺さり、傷となったヒビを抉っていく。
あれだけ長い間冒険していたときでも、一度も表情を崩さなかったもょもとの顔が崩れる。
「違う、そんなことはない。父上はおれを信頼して、ハーゴン討伐を命じてくれた」
「そりゃ、そう思ってもらわなきゃ動かないだろ?
 どこの世界に「死んで欲しいからちょっと悪退治して来いよ」って自分の息子に命じる父親が居るんだよ?」
ま、似たようなのを一人知ってるけどな。という言葉を飲み込むため、カインはそこで言葉を切る。
「……さて、だ。
 お前が何か答えを見つけたのかどうかはともかく、世界の平和と引き換えにお前の国は絶望に包まれた。
 もしお前の得た答えが民の喜びだったなら、それは偽りだった。
 お前の国で喜んでた奴なんて、父親を筆頭に誰もいなかったんだよ」
「嘘だ、違う。父上はおれを――――」
「まだわかんねえか?」
今にも泣き出しそうな顔をしているもょもとに、一本の剣となった言葉を突きつける。
「お前が、あの世界で見た物は偽りさ。
 ローレシアの悪魔の王子の噂は広まりきってる、殺されないように振る舞いながら破壊神討伐へ差し向けようとしてただけなんだよ」
カインの口から出る言葉という言葉が、まるで串刺しの刑のようにもょもとに突き刺さって行く。
「そして、今。ローレシアの王と民の予感は当たった。
 悪魔の王子は誰かに唆されるまま、破壊を生み出す現人神になった。
 当の本人は答えを見つけるとか言ってるが、周りからしたらキラーマシンと大差ないね」
とうとう頭を抱えてうずくまってしまったもょもとに、カインはとどめの刃を突き刺す。
121ハッピーエンディングじゃ終わらない ◇CruTUZYrlM:2012/07/07(土) 09:22:24.82 ID:x5NrqPS90
「やめろよ、もょもと。何の意味もないから。
 お前が戦っても、あの時と同じで心から喜んでくれる人なんて誰もいない。
 それどころか、他人の喜びを奪ってる。
 お前はまた力を振るって、お前の得にしかならない答えに満足するのか?
 万が一元の国に戻っても、誰も喜ぶ奴なんていないんだよ。
 殺人を殺人、破壊を破壊として認識しない魔物よりも残忍な王だなんて、誰も望んじゃいない。
 ……なぁもょもと、今は"たたかう"べきじゃないんだ。
 あの時みたいに、向かってくる奴をとにかく倒していけば、終わるわけじゃない」
カインは口を閉じ、動かなくなったもょもとにゆっくりと手を差し伸べた。
「一緒に行こう、もょもと。
 今お前に必要なのは"たたかう"ことじゃない、人間を知ることだ」
本来の目的であるもょもとの戦意喪失、それを早期に達成したカインは彼を仲間に引き込もうと思った。
様々な要因と理由、そして今後を考えても彼をここに放置するのは悪手だと考えたからだ。
一方的に真実を突きつけたことと昔のよしみもある。
彼がまともになるまでは、共にいようと考えた。
そしてあの時とは違い、自分から仲間を提案した。

知識や経験と言う名の歯車を、自分という基盤にはめ込み運命の道を進む。
真実というナイフがもょもとの歯車を止め、やがてもょもと自身も止まってしまった。
新しい歯車を手に入れない事には、彼は動き出すことはできない。
そこにカインは時間と行動という歯車を与え、もょもとを動かそうとした。
122名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/07(土) 09:24:14.07 ID:HJzgitChO
.
123名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/07(土) 09:27:15.16 ID:HJzgitChO
.
124ハッピーエンディングじゃ終わらない ◇CruTUZYrlM:2012/07/07(土) 09:50:35.02 ID:HJzgitChO



何も聞こえない。
何も見えない。

初めにいた場所のように、暗く何もない場所に立たされている。

「行け、我が息子よ! 必ずやハーゴンの野望を打ち砕くのだ!」
「王子様、世界に光を!」
「ロトの末裔よ、悪しき者達を滅ぼすのだ!」
父の声、民の声、人の声。
今まで投げかけられた言葉たちが次々に頭の中で繰り返される。
だが、カインはそれは偽りだと言う。
本当にそうなのだろうか?
人々が求めていたのは戦いの日々を潜り抜けた先にあった平和ではなく、自分がどこかで死に絶える事だったのか?
わからない、わからない。
何が正しくて、何が間違っているのか。
どうすればいいのか――――?

「そーさ、人間だろうが魔物だろうが構うこたねえ。
 勝ち残っておまえさんの願いでもなんでも叶えちめえばいいのよ」

ふと、聞きなれない声が頭に響く。
初めの場所で、あの声はそう言っていた。
武器を持って、たたかう。
そして生き残って願いを叶えればいいと。
そう、この場では生き残れば願いが叶うのだ。

自ずと、体が動く。
標的は、もちろん。
目の前、すぐ傍に。

黒い影のような歯車が、笑う。

動き出した装置が歩む道は、先ほどと同じだ。
しかし、今の彼には覚悟がある。
真実を知るという、覚悟が。
125ハッピーエンディングじゃ終わらない ◇CruTUZYrlM:2012/07/07(土) 09:52:06.98 ID:HJzgitChO



「カイン!!」
一瞬だった。
痛覚と共に目に映ったのは、自分へ拳を伸ばしたまま横に大きく吹き飛ぶもょもとの姿だった。
至近距離の一撃、隣で舌戦を眺めていたアイラが居なければ死んでいたかもしれない。
理解できないことを理解する前に、起きてしまっていることに対処しなければいけない。
もょもとの戦意を失わせるのには失敗した、つまりあの破壊神と戦わなくてはいけない。
大きく吹き飛んだもょもとが起き上がり、襲いかかるまでに戦況を把握し戦術を立てる。
「アイラ、あいつはまだ生きてる。
 僕が前衛に出るから、銃の射程にあいつが入ったら僕に構わず迷わず撃て!
 じゃないと殺される!」
そう短く告げたあと、そばで横たわっていた女性に軽めの回復呪文をかけ、剣を突きつけながら選択を迫る。
「おいアンタ! 今死ぬか、あいつと戦うか三秒で選べ!」
まるで鬼のような形相でミレーユへと選択を迫る。
もょもとと戦うのだから今は僅かでも戦力が欲しい。
どうみてもボコボコにされている彼女でも、もょもとを破る鍵を見いだせるかもしれない。
なりふり構っている場合ではない。
「断れば死ぬ」という状況を突き付け、無理矢理協力させた。
同時に吹き飛んだもょもとが起き上がり、一言だけ呟く。
「カイン、おれは生き残る。たたかうことで生き残って願いを叶える。
 本当の……真実を知るという願いを!」
至近距離の銃撃を受けたにも関わらず、もょもとの傷は腹部に散見される程度にしか残っていない。
天武の才もここまでくると人外を疑わざるを得ない。
カインは苦虫を噛みしめながら、向かってくる"人間"を見据えた。

まるであの時と同じように、三人で一人に立ち向かって行く。

ああ、戦いが始まる。
真実を知らされなかったもの。
真実に辟易するもの。
"生きたい"という意志を抱えながら。
今、衝突する。
126ハッピーエンディングじゃ終わらない ◇CruTUZYrlM:2012/07/07(土) 10:01:37.03 ID:HJzgitChO


【D-7/草原/昼】

【もょもと(ローレシア王子)@DQ2】
[状態]:HP13/20、全身打撲、軽度のやけど、腹部損傷(小)
[装備]:オーガシールド@DQ6 満月のリング@DQ9
[道具]:基本支給品一式
[思考]:たたかう 生き残って真実を知る願いを叶える

【カイン(サマルトリアの王子)@DQ2】
[状態]:ダメージ(微小)
[装備]:プラチナソード
[道具]:支給品一式 不明支給品×2(本人確認済み)
[思考]:妹と一緒に脱出優先という形で生き残る もょもとを倒す

【アイラ@DQ7】
[状態]:健康
[装備]:モスバーグ M500(5/8 予備弾4発)@現実、ひかりのドレス@DQ3
[道具]:支給品一式、不明支給品×0〜1(本人未確認)
[思考]:ゲームを破壊する もよりの人里を目指す(よくぼうのまち) もょもとを倒す
[備考]:スーパースターを経験済み

【ミレーユ@DQ6】
[状態]:HP1/7、全身裂傷、内臓損壊、髪が半分ばっさり
[装備]:雷鳴の剣@DQ6 くじけぬこころ@DQ6
[道具]:毒入り紅茶 支給品一式×3 ピエールの支給品1〜3 ククールの支給品1〜3
[思考]:テリーを生き残らせるために殺す 死にたくないのでカインに協力
127名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/07(土) 10:07:13.34 ID:HJzgitChO
代理投下終了
ドラゴンをマスターしたミレーユすら圧倒するもょもとの強さが半端ないな
128名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/07(土) 10:29:50.80 ID:7wOQsz4Q0
もょもとには幸せになってほしいが…
129名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/15(日) 16:59:01.09 ID:JAhZO1iA0
保守
130名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/20(金) 01:25:51.68 ID:6hokhiGQ0
9キャラが早期死亡杉wと思ったら1stでも7キャラが11話目にして三人死んでたことに気が付いた。
その後残ったキーファとフォズが大活躍したし、今回も残ったアンジェたちが活躍してくれることに期待しておこう
131名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/31(火) 15:00:59.22 ID:fnEKo4Gt0
保守
132名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/31(火) 20:08:47.20 ID:9lwqMfbd0
リンリンvs曾孫、竜王vsグラコス、バラモスvs大勢、もょもとvsカイン、ロッシュvsデュラン…
現在5組が交戦中?正午の放送はまだまだかな

8組の反応が見たいので気になってるんだが、逆に他の組への影響は少なそうだな
サンディとアンジェ、デボラとフローラは合流(?)済みだし、3組はアレだし
2はどうかな、戦闘中に重なったりするかな
133名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/08/01(水) 02:23:31.56 ID:eAMpoZVf0
先生……バトルが書けないですorz
134 ◆CruTUZYrlM :2012/08/09(木) 16:06:21.05 ID:8wY/a9ya0
投下します。
135名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/08/09(木) 16:07:59.15 ID:/YC/sfmB0
     
136自己満足の善意たち ◆CruTUZYrlM :2012/08/09(木) 16:09:31.56 ID:8wY/a9ya0
「ははは、なるほどな。これは一杯食わされた」
飛び去る竜を呆けた顔で見送った後、笑みを浮かべながらひとりごちる。
遺言でも聞いてやろうという気持ちからトドメを刺さずにいた自身の甘さ。
そこを見逃さずに活路を切り開いたマーニャの頭脳。
その両方を認めざるを得なかった。
マホトラもドラゴラムも習得していた呪文だったが、彼女がその二つを使うことは殆ど無かった。
魔力が枯渇したのならば吸収などせずに剣を振るえばいいし、竜に変化する事で自身が戦う感覚が無くなることを彼女が良しとすることも無かった。
呪文は、自身の強化や攻撃に用いる物。
そういった思い込みが自分の戦いの思考を狭めていた。
まだまだ経験が足りない事を、改めて認識する。
「私もまだまだ甘いと言うことか」
真剣勝負に甘えを持ち込んだ自分のミス。
自身に甘えがあったことを認識できただけでも収穫だった。
「私が得るはずだった貴様の命という配当、今回の授業料で帳消しだ。
 本当に良い経験だった、感謝するぞ」
突き刺さっていた短剣を拾い上げ、竜が飛び去っていった方向へつぶやく。
マーニャの生きたいと言う意志、その源となる尋ね人。
自分が戦いに命を懸けるように、彼女はその尋ね人に命を懸けるのだろう。
「尋ね人に……出逢えると良いな」
何かを守る者は強くなる、彼女自身よく知っていることだ。
マーニャがこの場所で尋ね人と出会い、再び相見えたとき。
おそらく先ほどより何倍も良い戦いができるだろう。
そんな期待を胸に、カーラは笑っていた。

「さて……」
いざ、新たな敵を探しに行かんとするはずの足が止まっている。
それどころか、地面を固く踏みしめている。
「魔力は切れた、ならば頼れるのは我が力のみ。
 体が思い出すのに、そう時間はかかるまい」
先ほどとは違う、戦士の時に好んでいた近接に特化した構えへと奇跡の剣を構え直す。
そのまま、大きく振りかぶる。
剣は風の裂け目を切り裂き、一本の刃として地面を抉っていく。
「私に宿る甘え、全て断ち切ってみせよう」
澄んだ瞳で未来を見つめる。
命と命のぶつかり合い。
どちらかの命が切れるまで、一切の油断も甘えも招かず戦いきる。
新たな強者と、正々堂々の勝負をするため。
雑念を断ち切るように、剣をもう一度振るった。
137名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/08/09(木) 16:11:33.15 ID:/YC/sfmB0
138自己満足の善意たち ◆CruTUZYrlM :2012/08/09(木) 16:12:06.90 ID:8wY/a9ya0

思考と思考、欺瞞と欺瞞、策略と策略。
生き残るためには、その全てを操る必要がある。
頭を働かせ、状況を判断し、力を振るい、口先を操る。
一瞬の判断ミス、頭が回らない者、口先を操れない者。
そういった力の無い者が追い詰められ、やがて命を落とす。

ここは、そういう場所だ。

「おっちゃん! 戻ったぞ!」
「おおガボ、戻ったか。しかし……」
ガボの元気な声に返事をした後、老人はガボが連れてきた長身の男を嘗め回すように見る。
「ああ、こいつピサロって言うんだ。おっちゃんに会いたいって言うからさ、連れて来たんだ。
 カンジンの食い物は見つからなかったけど……ピサロはすげえんだぞ」
苦笑いする老人をよそに、ガボはここに辿り着くまでに交わした会話から得たピサロの人物像について語りはじめる。
キラキラと目を輝かせながら、ピサロの人となりやその仲間の事を老人へ報告する。

音という音をシャットアウトし、ピサロはガボの話に相槌を打つ老人をひたすら眺め続ける。
ごまかしようの無い壮年の見てくれ、手に持っている武器は杖。
彼が魔法使いだとすれば、ミーティアから得た殺人者の情報と全てが予想通り一致する。
他に同じような特徴を持った人間が居ないことは、一人の時に確認しておいた名簿から把握してある。
ほぼ確実に、目の前の老人があの黒焦げの死体を作ったのだと判断できる。
別の可能性を考えるとすれば、ミーティアの情報が嘘だという可能性がある。
が、ミーティアが「名簿に載っている男の名前を告げなかったこと」を筆頭とした要素からそれは省くことが出来る。
その他にもモシャスやミーティアの見間違いなどの些細な可能性があるが、それを考慮し始めるとキリがないので大きく切り捨てる。

濃い線で唯一考えられるとすれば、ミーティアが見た殺害の現場が正当防衛の一部始終に過ぎなかったというケースである。
襲われていたのは老人の方で、それに対抗するために戦闘をし、運悪くもトドメの瞬間を目撃してしまったミーティアが自分へその情報を伝えた。
ガボと談笑しているこの老人の表情が仮面ではなく、本当のものだとするならば。
殺し合いという現場で気が動転してしまったミーティアの誤解、という点だけで解決する。
しかしそれにしては、あまりにも老人の意識は此方に向きすぎている。
まるで恐れるように、一切途切れさせること無く此方へ集中している。

どちらにせよ、この警戒を掻い潜りなんとか情報を引き出すことが最優先である。
頭で幾ら考えても、始まりはしないのだ。
「しっかし、ピサロとおっちゃんが居れば何にも怖くないな!」
そこで丁度ガボの話が終わる。
今度は自分が対話のペースを握る番である。
しくじらないように、ピサロは一つずつ言葉を紡いでいく。
139自己満足の善意たち ◆CruTUZYrlM :2012/08/09(木) 16:14:25.67 ID:8wY/a9ya0
「初めまして、今紹介に預かりましたピサロです。以後、是非ともお見知りおきを」
自分が疑っているということを隠すように、かつ不自然さが出ないように丁寧に自己紹介を重ねる。
いつか、ソフィアの住む里を襲撃したときのように。
「かっかっか! そう改まらなくともいい、砕けてもらって構わんよ」
老人が笑う、そのまま放っておけば後ろにひっくり返りそうな勢いで。
「そうですか、ありがとうございます。
 ところで、ガボの持っていた呪われた装備とは……?」
まずは、彼が魔法使いであるという確認である。
外した呪いの強度がどれほどのものなのかという事から、どれほどの魔術師なのかを計ることが出来る。
「ああ、これじゃ。おっと気をつけろよ、柄を握りこむだけで呪われてしまうようじゃからの」
「大丈夫です、私は生まれつき呪いに強い体質ですので……」
そう言いながら、老人の差し出した剣の柄を握りこむ。
突然の自分の行為にガボと老人が慌てふためくが、剣から手をすぐに離すことで呪いにかからないことをアピールする。
握りこんだ感じでは、確かにこの剣の呪いは強力であると感じられた。
これを解除できるとなると、やはり相当の熟練者であると判断するのが妥当だろう。
「ありがとうございます。もし宜しければこの剣を私に譲っていただけるとありがたいのですが……」
「ああ構わんよ、ワシやガボが持っていてもただのゴミじゃからのう。呪いに強いお主が持つのがいいじゃろ」
老人は武器を渡せという、不躾な要求をもあっさりと飲み込んだ。
一瞬の気の緩みすら許さないほど警戒している相手に、である。
察知されたくない何かがあるか、それとも自分の信頼を勝ち得ようとしているのだろう。
軽いゆさぶりでは情報を引き出せないと判断し、ピサロは切り札に手をかけた。
「しかし、この剣の強力な呪いを解除できるとは。
 ガボの話どおりに、高位の魔術を自在に操れるのですね。例えば――――」
そこですぅっと息を吸ったとき、老人の表情が強張ったような気がした。

ガボが連れて来たときからずっと、ピサロという男の視線が自分に向いていることは認識していた。
一瞬でも気を緩めれば飲み込まれてしまいそうな眼差しに抗うのに必死だった。
ピサロという人物の人となりを聞いている間も、男の全意識が此方に向いていた。
妙に物腰の低い自己紹介、技術の確認、武器の要求。
信頼を勝ち得ようとしているのではなく、何かに探りを入れているかのような行動。
その一つ一つにうろたえることなく、疑われないよう冷静に対処していくうちにピサロの方が先に核心を突いてきた。
「メラゾーマとか」
じろりとこちらを見つめ直しての一言を聞いた瞬間、疑惑が確信に変わった。
ピンポイントの呪文名に思わず唾を飲み込んでしまう。
恐らく焼き殺したハッサンの死体を見た上で自分を疑っている。
ここで下手なリアクションを起こせば、向こうの疑いも確信に変わってしまう。
疑われないためとはいえ、向こうの戦力を増強させてしまった。
一対一の対決になれば、明らかに不利なのは自分だ。
ガボがベラベラと喋った内容からしても、既にガボはピサロのことを信用している。
今からガボをけしかけようとしても、ガボがすぐ動くとは考えにくい。
向こうも反論してくることで、両方を信頼しているガボの頭はパニックに陥ってしまう。
そこで生まれる隙に切りかかられないとも限らない。
非常に苦しい状況である事は間違いない。
140名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/08/09(木) 16:14:28.56 ID:/YC/sfmB0
141名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/08/09(木) 16:17:19.31 ID:/YC/sfmB0
       
142名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/08/09(木) 16:19:48.44 ID:/YC/sfmB0
        
143自己満足の善意たち ◆CruTUZYrlM :2012/08/09(木) 16:19:50.14 ID:8wY/a9ya0

逆転の思考、立場と視点を考える。
自分が殺人犯だと断定しようとしている、そのための証拠を自分から引き出そうとしているのだ。
さしずめ、殺人を止めようとしている正義の味方気取りの類だろう。
でなければこんな回りくどい事をする訳がない。
向こうが根っからの殺人者なら、そもそもガボが襲われているはず。
油断させて襲いかかるのならば、今の一言による揺さぶりは必要ない。
むしろ武器を手に入れた時点で斬りかかればいい。
ピサロが正義の甘ちゃんであることは確実だ。
ならばガボ同様に懐柔し、討てる隙を作り出せば良いだけの事だ。
魔法使いの閉ざされていた重い口が動く。
「ああ、メラゾーマなら使えるが……」
相手の予想通りに事を進めていく。
落とし穴に自らハマることで、相手の思惑を探っていく。
「……なら、率直に聞こう。
 南に男の焼死体があった、心当たりはないか」
突然ピサロの口調と声色が変わり、剣を握り直して戦闘体制に入る。
隣のガボもピサロの急変に気がつき、身を強ばらせる。
確実な情報を得た今、一気に畳み掛けようとしているのだろう。
一番、動きを間違えてはいけない場面だ。
「ピサロ、まさかおっちゃんを疑ってるのか!?」
「よせ、ガボ」
ピサロに喰ってかかろうとするガボを引き止め、ゆっくりとピサロの目を見つめる。
「そうさ、俺がやった」
「おっちゃん!?」
ここは大人しく事実を認める。
信じられないという表情を浮かべるガボをよそに、その後の話を続ける。
「でもよ、俺を殺人鬼だと疑ってるなら見当違いだ。
 この場所に何人いるか分からねえ殺人鬼の一人に、運悪く初っ端から狙われちまって襲われたから仕方なく戦っただけよ。
 ……殺さなきゃ、俺が殺されてた」
堂々と、それが当然であるかのように喋り続ける。
「信じられねえだろうが、俺も信じてくれとしか言いようがねえ」
言葉を詰まらせることなく、弁明を終える。
あとは野となれ山となれ、ピサロという人物に賭けるしかない。
「……人を殺すつもりはない、南の死体は不可抗力の正当防衛だったと言うのだな?」
「ったりめえよ」
「そうだ、おっちゃんが悪い奴な訳がないだろ!」
思惑通りに乗ってきた。
そう、勝てないほど強い相手が自分に疑惑を向けているのならば。
その疑惑を解消し、仲間に引き込めばいい。
生き残るためならば、嘘の一つや二つ軽い物である。
カーラに出会うためなら、今はなんだってしてみせる。
「そうだな、私も状況証拠だけに振り回されていたのかもしれない。
 お前の言葉を……今は信じるとしよう」
ピサロの口から出た展開どおりの言葉、それに笑顔で答えようとしたときだった。
144自己満足の善意たち ◆CruTUZYrlM :2012/08/09(木) 16:23:43.40 ID:8wY/a9ya0

突き刺さる殺気。
反応するように全員が殺気の方へと振向く。
「戦士たちよ、我が名はカーラ。剣を手に我と戦え!」
現れたのは容姿端麗の戦乙女、その姿からは考えも付かない殺気に固まるガボとピサロ。
その二人をよそに、男魔法使いは搾り出すように叫んだ。
「……探したぜ、カーラァッ!!」
即座に呪文を唱え、火球による先制を仕掛ける。
一発だけではなく、数発を重ねるように放つことで逃げ道を塞いで行く。
カーラは襲いかかる数多の火球に対して焦りの色すら見せず、軽く剣を振り抜いて火球を斬り捨てた。
「ピサロ、ガボ。手ェ出すなら容赦しねえぞ。
 人は殺さないとは言ったがアイツは、あの女だけは別だ!!」
「おっちゃん!」
「ガボ、よせ!」
呆気にとられていた二人が戦闘体制に入った事を察知した男が、二人に釘を刺す。
ガボが構わず援護に入ろうとするが、ピサロがそれを制止する。
老人の背から感じる気配から、襲撃者カーラが彼にとって何かしら特別な存在である事をピサロは察知する。
「邪魔すれば容赦はしない」という台詞が本心であるという事は明白だ。
しかし老人が倒されてしまい、カーラと交戦することを考えると、可能ならここで襲撃者を倒しておきたい。
老人の隙を付いて襲いかかることも可能だが、老人の恨みを買ってしまいかねない。
一撃で仕留められたとしても、次には怒り狂う老人と交戦することになってしまうだろう。
そうなった場合、ガボが老人につく可能性を考えても、自身にかかる負担は大きく、見返りはほとんど無い。
老人がカーラを撃破するという最良の結末を迎える事を祈りながら、仕方なくピサロはガボと共に戦いの結末を見届ける事にした。

「待っていた。この日を、この瞬間が訪れるのを。
 ずっと、ずっと、ずっと!!」
数々の呪文を繰り出しつつ、老人は楽しそうな表情で語りかける。
「カーラ、お前は俺が弱いと言ったが、それは間違いだ。
 それを、今証明してやるぜ!」
呪文を唱える手を休め、手に魔力を込める。
先程とは段違いの速度で詠唱をこなし、右手には炸裂する空気を風で包み込み、左手には炎を内包する氷を宿す。
その両の手をゆっくりと合わせていき、何もない「無」が生まれていく。
「俺の苦しみを……味わいやがれッ!!」
合わさるはずの無い魔力同士の強制合体、その暴走により生まれる破壊の力。
地面を割り、草木をなぎ倒し、風を斬り裂きながらカーラへとにじりよっていく。
そして老人の手から生まれた破壊の力は、易々とカーラを飲み込んだ。
145自己満足の善意たち ◆CruTUZYrlM :2012/08/09(木) 16:27:00.62 ID:8wY/a9ya0

沈黙。
老人はカーラに圧倒的な攻めを見せつけた。
しかし、場の空気は変わらない。
辺りの木々を飲み込んだ爆発の中心から、突き刺さるような殺気が相変わらず飛んでくる。
やがて煙がゆっくりと晴れ、傷一つない姿でカーラはそこに立っていた。
「相変わらず、か」
「んだと!?」
憐れむように呟いたカーラの一言を、老人は聞き逃さない。
カーラはため息を一つ、ゆっくりとこぼす。
「……弱い、弱い、弱すぎる。
 未だにこのザマか? バカも休み休み言え」
表情を一切崩すことなく、淡々と言い放つ。
「一つ聞く、あの時私はなぜお前を弱いと言ったと思う?」
老人は答えない。
立ち尽くし、黙ったままカーラへ火球を飛ばす。
勿論、当たらない。
「考えた事すら無い、か。
 つくづく私を失望させてくれるな。
 もういい、失せろ。お前には斬る気すら起きぬ」
そう言い捨てたあと、カーラは一歩ずつ歩き始める。
離れていた間合いをゆっくり、ゆっくりと詰めていく。
最初の半分ほどの間合いに差し掛かった時、突如として老人が動く。
「クソっ、があぁぁぁぁ!!」
若くして才能を開花させ、他のどんな魔法使いよりも優れた魔力を伸ばしてきた。
魔術において、人間はおろか魔物ですら超えることは出来ないとまで呼ばれた領域に辿り着いた。
「世界最強の魔法使い」と誰もが口を揃えた。

――――たった一人を除いて。

どれだけ魔力を磨き上げても。
どれだけ魔法を使いこなしても。
どれだけ魔物の屍を積み上げても。

魔を操る自分の強さを、頑なに彼女は否定する。
だから、実力で知らしめてやろうと思った。
そのためにどんな手段も使うと決めた。
けれど、打てども打てども届かない。
どんな牙も、刃も、かすり傷すら付けることを許さない。
「目障りだ」
絶対零度の一言と共に、カーラは老人へ切りかかる。
老人はその姿を、ただ見つめていた。
146名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/08/09(木) 16:27:27.02 ID:/YC/sfmB0
          
147名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/08/09(木) 16:29:43.09 ID:/YC/sfmB0
     
148自己満足の善意たち ◆CruTUZYrlM :2012/08/09(木) 16:30:00.98 ID:8wY/a9ya0

「姫さん、そんなに急ぐと危ないでがすよ」
「なりません! 今は一刻も早くピサロさんにお会いしなければいけないのです!」
足元の悪い森林を、慣れない足で急ぐミーティア。
彼女を前から振り向きつつサポートしながら、ヤンガスは八方に警戒の網を敷く。
こうしてピサロの元に向かっている間にも、何者かに襲われるかもしれない。
ミーティアの言う人物がピサロを手にかけた後に襲いかかってくる可能性もある。
最悪のケースを回避するために、ヤンガスは警戒を怠らない。
その意識の中、ヤンガスはピサロの事を考えていた。
いくら魔法が扱えるとは言え、歴戦の戦士を思わせる風格を持つピサロが老人に敗北することがあるだろうか?
先ほどの会話の中だけで察した分でも、ピサロの能力が人並み外れていることは分かる。
ミーティアの心配は杞憂に終わるだろうと、ヤンガスは思っていた。
特に何もなく、ピサロと合流して終わりだと思っていた。

そう、このときはまだそう思っていた。

しばらく歩いていると、前方にうっすらと見覚えのある黒い影が見え始めた。
そばにいる小さな子供は道中の仲間か何かだろうか?
そんなことを遠くから伺っているうちに少しずつ異変に気がつき始める。
ピサロも、少年も、まるで術でもかけられたかのようにその場から動かずにいるのだ。
その原因を探ろうと、あたりを見渡していたその時だった。
「ヤンガス! あの人です!」
ピサロ達のちょうど視線の先に、交戦する老人と女性がいた。
老人の手からは次々と呪文が放たれ、女性へと襲いかかっていく。
「間違いありません! あの人です!」
先ほど聞いた男を燃やし尽くした老人の特徴と、今のミーティアの様子から目の前の人物と一致していることが分かる。
証言通りの人間を焼き尽くすような極悪非道な人間だとすれば、このまま向かえばミーティアに危害が及ぶ可能性すらある。
可能ならば会話による交渉を試みたいが、今はそんなことを言っている時間はない。
ミーティアに危害が及ばないように、ここで待っているように告げてから、悪しき人間を罰する一心で斧を構えて足を早めた。
気配を察知されぬよう一気に距離をつめ、思い切り地面を蹴って宙へと舞い上がる。
そして渾身の力を込めて、老人へとその斧を振りおろしていった。
149名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/08/09(木) 16:32:15.23 ID:/YC/sfmB0
       
150自己満足の善意たち ◆CruTUZYrlM :2012/08/09(木) 16:33:07.17 ID:8wY/a9ya0

はじめは蛇に睨まれたように、動けなかった。
現れた女性の覇気に飲まれ、その場に立ち尽くす。
ただただ、目の前の戦いを見届ける事しかできなかった。
悔しかった。
自分を助けてくれた老人が、理由はともあれこんなに戦っているというのに。
自分は加勢するどころか、一歩も動けずにいる。
老人に釘を差されたからではない、老人が敵対する女性に恐怖しているのだ。
戦いはどう見ても老人が劣勢だ、加勢しなければいつかは女性に殺されてしまうだろう。
このままでは、いけない。

彼を守らなくてはいけない。
潜在意識から、ガボは身を動かそうとする。
集中力が研ぎ澄まされていく。
恐怖に飲み込まれそうになるのを堪えながら、女性の動きと考えを読む。
どこか、つけ込める隙を探すために。
集中に集中を重ね、ようやく一点の隙を見つけたとき。
彼の鼻が乱入者の存在を告げ始めた。
そちらに意識を移してみると、乱入者は今にも老人へと襲いかかろうとしていた。
あの魔王のような女性のようやく見つけた一点の隙を突いている間に、乱入者の刃が老人に襲いかかるだろう。
仕方がないので乱入者へと意識を切り替えた瞬間だった。
女性も、老人へと襲いかかっていったのだ。
老人は、女性を見据えたままである。
背後から迫る存在には気がついていない。
正面の存在を追い払うこともできない。
黙っていれば、両側からの攻撃を食らってしまう。
今まで経験したことがない速度で、脳が回転に回転を重ねる。
老人を助けたい、恩義に報いたいという一心のみでその状況を判断し、分析していく。
そして、老人を助けるという手段において、もっとも確率の高い最適解を本能で弾き出し。

身を、委ねた。
151自己満足の善意たち ◆CruTUZYrlM :2012/08/09(木) 16:36:07.47 ID:8wY/a9ya0
身を、委ねた。

ピサロは、予想していた。
カーラの斬撃と、老人の背後から突然現れたヤンガスが斧による斬撃でこの戦闘が終わると。
仮に老人がカーラの一撃を耐えることができたとしても、続くヤンガスの攻撃まで耐えきれるとは思えない。
待っているのは、老人の死。
ヤンガスの襲撃は予想外だったが、初めに老人の攻撃がカーラに避けられていた時点で、いずれこうなることは予想できていた。
あとは、両者の攻撃が降りおろされて終わり。
だが、事実は全く違う方向へ動きだしていた。
ほぼ同時に、ガボが光の矢のごとき早さで動き出していたのだ。
ピサロは目を疑った。
この瞬間、このタイミングでガボが動き出す理由など、一つしかない。
その意図を察したピサロが、ガボを止めようと動き出す。
が、一挙一動すべてがガボに比べて明らかに遅すぎる。
それを止めるためにどれだけ足掻いても足掻いても、届かない。
ピサロの目に、ゆっくりと現実が焼き付けられていく。

両側から斬撃を受けるはずだった老人は、まるで体当たりを食らったように、大きく横に吹き飛んでいる。
しかしカーラもヤンガスも、手に持つ刃を振るいきり、そこからは血が飛び交っている。
誰かが両者の刃の手によって斬られたのは事実だ。
では、その老人がいたはずの位置には誰がいたのか?

その答は簡単だ。

老人がいたはずの場所には。
肩を突きだし、老人へ体当たりしていったガボが。
両者の攻撃をその身に受けながら、そこに立っていた。
152名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/08/09(木) 16:36:16.19 ID:/YC/sfmB0
         
153名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/08/09(木) 16:38:30.09 ID:/YC/sfmB0
          
154自己満足の善意たち ◆CruTUZYrlM :2012/08/09(木) 17:00:04.54 ID:8wY/a9ya0

ガボに斬撃を加えた両者は、その対象が違うということを認識し、驚きの表情で固まってしまう。
そして背と腹に大きな一文字を抱えながらも、立ったままその場を動かないガボは、奥歯を噛みしめながらある呪文を唱えていた。
もとより老人を守るために攻撃を食らうつもりで飛び出していた。
しかし攻撃を受け止めただけでは、物事は解決しない。
どんな手段を取ってでも戦闘を終わらせなければ、老人の安全は確保できない。
あの女性の戦闘意欲を失わせる、あるいは戦闘不能に追い込むことが必要だ。
そんな致命傷を一撃で与える手段、自分のことを全く省みないのならばガボには一つだけ心当たりがあった。
こみ上げる血を我慢しながら、素早く口を動かして呪文の詠唱を終えていく。
その一つ一つの言葉を紡いでいくうちに、目にはいろんな光景が広がっていた。
アルスに助けてもらったこと、これまでの冒険の日々、オルゴ・デミーラを倒したこと、殺し合いに巻き込まれたこと、妙な剣に悩まされていたところに老人に助けてもらったこと。
ありとあらゆる要素が頭の中でグルグルと周り続ける。
やがてガボを中心にゆっくりと閃光が生まれ、周囲を照らすように輝いていく。
そのとき、ようやくピサロがガボを助けようと傍へ接近することができた。
それをみたガボは、もう一度最後の力を振り絞ってピサロを突き飛ばす。
これから起きる、破壊の力に巻き込まれないように。
ピサロが突き飛ばされた意味を理解する前に、ガボの呪文が完成した。
ガボの体が徐々に光を帯びていく。
その光が何か、その場にいたすべての人間が理解した瞬間。
ガボの体を中心に、弾け飛ぶように爆発した。



自己犠牲呪文、メガンテ。
命の最後の輝きが、その場にある全てを等しく、飲み込んでいく。
破壊の力が全てを飲み込んで吹き飛ばした後、ガボはゆっくりとその場に倒れ込んだ。



その顔は、笑っていた。



「何故だ……」
ガボに突き飛ばされたお陰で致命傷を免れたピサロは、急いでガボの傍に近寄る。
当然脈などあるわけもなく、斬り裂かれた傷跡は焼け焦げていた。
それだけの傷を負っているのに、まるで一仕事を終えたような笑顔の前で、ピサロはただ立ち尽くすことしかできなかった。
155名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/08/09(木) 17:01:55.66 ID:/YC/sfmB0
       
156自己満足の善意たち ◆CruTUZYrlM :2012/08/09(木) 17:03:15.09 ID:8wY/a9ya0



少し離れた場所で全てを見ていたミーティアは、木陰に潜むことで負傷せずに済んだ。
しかし、この場にいる誰より落ち着いていても、目の前の状況を理解できずにいた。
飛び出した少年は男を焼き払った悪であるはずの老人を庇い、その命を使って爆発を起こした。
爆発に巻き込まれたヤンガスは何とか息をしているほどの傷を負った。
ピサロを助けに来たはずなのに、結果はピサロを救うどころか考える以上の最悪の事態になっている。
自分の行動が正義だったのか? 悪だったのか?
誰が悪くて、誰が正しかったのか?
少しの時間の間に起きた事柄と、その莫大な情報量に押しつぶされそうになる。
「姫さ……ん、大丈夫……でがすか?」
傷だらけで起き上がるヤンガス。
ありとあらゆるところに火傷を作り、呼吸の音が荒々しく聞こえる。
その姿を見て、ミーティアの中で全てが炸裂する。
現実に起こった出来事という要素が彼女に圧し掛かって行く。
認めたくない、無かったことにしたい。
考えという考えがなくなり、頭が恐怖に満ちる。
そして、傷だらけのヤンガスをその場に放置し。
薄暗い森の中へと、駆けだしていった。
「姫……さん!」
森の中へ溶けていくミーティアを見届けた後、ヤンガスはようやく起きあがった。
足の一歩一歩を進めるごとに、全身に激痛が走る。
それでも、ヤンガスは足を止めない。
今、この場でミーティアを守れるのは自分しかいないのだ。
痛みどころで立ち止まっている場合ではない。
思うように動かない体を、無理矢理動かし、ヤンガスはミーティアの後を追った。
157自己満足の善意たち ◆CruTUZYrlM :2012/08/09(木) 17:06:18.92 ID:8wY/a9ya0



「……ってぇ」
ガボの体当たりによって大きく吹き飛ばされた老人は、ゆっくりと体を起こした。
カーラの攻撃をその目にとらえることに必死だった彼は、受け身を取ることすらできなかった。
背中から受け身を取らずに着地したことによりダメージは少なくはなかったが、カーラの攻撃を受けるよりかはマシだったはずだ。
「余計なことしやがってッ……!」
しかし、彼自身は別にカーラの一撃を食らってもいいと思っていた。
斬撃を加えるという事はある程度密着をする必要がある。
そこにもう一度ありったけの魔力をぶち込めば、ダメージを与えることは出来たかもしれない。
痛み分けという形にはなるが、勝てる打算はあった。
それが全て台無しになってしまった今、もう一度戦術を立て直すことから始めなければいけない。
戦況を見直し、最適の策を立てようとしたその時。
大きな爆発音が耳に届き、同時に目の前にカーラが吹き飛んできた。
その姿は服の所々が裂け、所々からは焦げた煙を出している。
肩で息をしながら血を吐く彼女が瀕死であることは、誰が見ても分かる。
攻撃するなら、今しかない。
急いで呪文の詠唱に取りかかり、氷柱や火球を放つ。
しかし、傷だらけでまともに歩くことが出来ない彼女にすら、その攻撃の数々は届くことはない。
老人の攻撃を全て避けきった後、冷たい表情で一言を突き刺した。
「何故当たらない、そんな……顔をして、いるな?」
絶えず打ち出される攻撃を避けながら、本当につまらなそうな表情でカーラは告げる。
「あの、少年が。お前を……突き、飛ばし、自己犠牲呪文、を使った理由が分かる、か?」
傷だらけのカーラが、老人へと問う。
老人は答えず、黙ったままである。
「……それが、分からぬか。なら、私には、勝てぬ」
カーラが、にやりと笑う。
今にも死にそうな姿のカーラは、老人に対して余裕を見せている。
何故か? それが老人には分からない。
煽られているとしても、本当にカーラが余裕だったとしてもここで分からせておくしかない。
もう一度、老人は手に魔力を込め始める。
「カーラァ! てめぇは、てめぇだけは俺がぶっ殺す!!」
殺意をむき出しにして、傷だらけの女へと、彼は向かっていく。
女は、その老人の姿を。



笑って、見ていた。
158名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/08/09(木) 17:06:32.64 ID:/YC/sfmB0
      
159自己満足の善意たち ◆CruTUZYrlM :2012/08/09(木) 17:10:05.63 ID:8wY/a9ya0



【ガボ@DQ7 死亡確認】
※メガンテによるふくろの状況などは後続にお任せいたします。

【D-4/南部森林/昼(放送直前)】

【ピサロ@DQ4】
[状態]:ダメージ(小)
[装備]:杖(不明)
[道具]:ステテコパンツ、不明0〜1、基本支給品
[思考]:脱出。優勝するなり主催を倒すなり、手段は問わない。

【カーラ(女賢者)@DQ3】
[状態]:HP1/8、頬に火傷、左手に凍傷、MP0
[装備]:奇跡の剣@DQ7、ソードブレイカー@DQ9
[道具]:小さなメダル@歴代、不明支給品(カーラ・武器ではない物が0〜1、キーファ0〜2)、基本支給品*2
[思考]:より多くの強き者と戦い、再び出会ったときにデュランと決着をつける。見敵必殺、弱者とて容赦はしない。
[備考]:元戦士、キーファの火炎斬りから応用を学びました。

【男魔法使い@DQ3】
[状態]:MP消費(大)
[装備]:毒蛾のナイフ(DQ6)、杖
[道具]:支給品一式 不明支給品(確認済み×1〜3) 破壊の剣@DQ2
[思考]:女賢者と決着をつける
※名前、職歴、杖の種類は後続の書き手にお任せします。

【ミーティア@DQ8】
[状態]:恐怖
[装備]:おなべのふた
[道具]:エッチな下着、他不明0〜1、基本支給品
[思考]:逃げる
[備考]:エイトの安否は知りません。エッチな下着(守備力+23)はできるだけ装備したくありません。

【ヤンガス@DQ8】
[状態]:HP1/7
[装備]:覇王の斧
[道具]:支給品一式(不明1〜2,本人確認済)
[思考]:ミーティアを追う。仲間と同調者を探し。戦うものは止め、説得する。デスタムーアを倒す。
160 ◆CruTUZYrlM :2012/08/09(木) 17:10:36.33 ID:8wY/a9ya0
投下終了です。
何かありましたらどうぞ。
161名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/08/09(木) 17:58:03.91 ID:cDBxaMw80
呪われた剣ってピサロに渡したんじゃないの?
162 ◆CruTUZYrlM :2012/08/09(木) 21:19:40.54 ID:TOl7Q7FZO
すいません、状態表ミスです……
収録時に直しておきますね
163名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/08/10(金) 14:17:56.69 ID:by3jg/Sw0
投下乙でー。
爺の小物臭がwwwww 
ああ、これカーラに無視されてまたプッチンする展開だわw
ガボェ……純粋過ぎるのが仇になったか……。
そして、姫様はこの後の放送で更に壊れる予感が!
164名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/08/11(土) 22:52:54.08 ID:LoEeXNbv0
投下乙

脳内男魔法使いに対する印象
登場時:名前がいつまでも明かされないなんてカッコよくてミステリアス!
現在:だっせえw もうこいつこのままでいいよ
なくらい男魔法使いの株が下がり続けていく……
ついでに、巻き添え喰らって死にかけのヤンガスがカワイソス
このままだと本当に8キャラ全員がいいとこなしで退場してしまう

でも、今回の件は勝手にメガンテで散ったガボも悪いし、問答無用で切りかかったヤンガスも悪いし
カーラに煽られて即プッツンする男魔法使いも悪いし、無理にピサロの方へ来たミーティアも悪いと
みんなそれぞれ落ち度はあるんだよね
165名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/08/11(土) 22:58:33.14 ID:lik7zGAz0
ピサロ悪くないじゃんww
166名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/08/11(土) 23:03:58.48 ID:LoEeXNbv0
いやすまん。みんなって言い方が悪かったな
上に挙げた4人みんなって意味でピサロとかカーラは含まれてないぞ
167名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/08/12(日) 01:52:11.15 ID:Cq+cH1510
カーラこの中で一番の危険人物なのにww
168名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/08/12(日) 02:08:06.06 ID:w0un/0rK0
ミーティアのバッドエンドフラグが壮絶すぎるww
絶望自殺はあきなが既にやってるし、マーダーして回る程の戦闘力は無さそうだし
何をやらかしてくれるやら
169名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/08/12(日) 02:09:57.42 ID:SKmngquS0
正義感(キリで戦場をかき乱してほしいなww
170名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/08/12(日) 08:33:40.86 ID:v+PKiVkC0
たとえどんな状態になってもいいから、エッチな下着は着てもらいたい
これってすごく重要なことですよね?
171名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/08/13(月) 10:04:51.05 ID:WC0XAZ000
このままではおとまほは名前が明かされないまま死んでしまう気がする
しかし大体のロワでピサロは初期からものすごい存在感出してるのに、ここのピサロはおとなしめというか影が薄いなw
172 ◆Hyx.dEWOFg :2012/08/15(水) 04:21:43.79 ID:ab9h8xRQO
投下します。
173This way and... ◆Hyx.dEWOFg :2012/08/15(水) 04:25:13.70 ID:ab9h8xRQO
見たところ、彼は武器を持っていないようだ。
それにも関わらず、これまで彼と対峙していたのであろうこの女性の負傷はただごとではない。
M500の引き鉄にかけた指が緊張で汗ばんでいるのは、慣れない武器を扱っているためというだけではないだろう。
プラチナソードを構え、男の前に立ちはだかるカインを尻目に、アイラは傍らにうずくまる金髪の女にささやきかける。
「大丈夫?」
「っ、ええ……ごほっ」
「生憎治療まで手をまわせないのよ。立って歩くことはできるかしら?
彼はああ言ったけど、戦えないなら逃げた方がいいわ」
突然脅迫を突きつけてきた男の連れの言い分に、金髪の女性ははっとした。
もょもとから目を離せない状態である今、アイラが彼女に回復を施すことはリスクを伴う。
負傷した者を庇いながら戦える相手では恐らく無い。カインは彼女を脅して戦線に参加させようとしていたが、それが最善策であるとは、アイラには思えなかった。
戦えないなら、逃げるべきだ。見知らぬ他人のために、無駄死にするものではない。
女は、アイラの真意を測っているのか、返事もせずに戦況を眺めている。
しかしやがて、何も言わずに、じりじりと後退していった。

アイラは内心安堵を抱きながらも、厳しい眼差しで前を見据え、再び拳銃を構える。
先の試し撃ちの際に、この武器の反動の重さはすでに痛感していた。
カインはああ言ったが、彼の援護としてこの武器を使うのは難しいだろう。
一発一発が強烈過ぎるのだ。連射など、とうていできたものではない。
だからアイラは、そのただ一発の瞬間に狙いを定めていた。
だがそれは、相手の命の火を吹き消すために定めるのではなくて――――

『一緒に行こう、もょもと。
今お前に必要なのは"たたかう"ことじゃない、人間を知ることだ』

カインが先ほど自分に話してくれたことを、そしてたった今男に呼びかけた言葉を、アイラは胸のうちに反芻する。
あのもょもとと呼ばれた男が、牢獄のような世界の中で生きてきたカインの、そのかつての連れだというのなら……
彼もまたおかしな価値観の中で、己の願いも押し込められて、生きてきたのではないだろうか。
カインにとってもょもとは、『仲間』と呼べる存在ではないのだろうか。
どんな理由があろうと、仲間を殺すという選択を、本当に彼にさせていいのか。
それはユバール族として仲間と苦楽を共に生きた、己のプライドを押し付けるだけの、お節介かもしれないけれど。

(スーパースターはね。みんなを幸せにするのが仕事なのよ)

あの寂しい広野を歩きながら、彼に対して一方的に取り付けた約束を。
アイラは反故にしたくないと、どうしてか強く、願っていた。
174This way and...2/8 ◆Hyx.dEWOFg :2012/08/15(水) 04:33:12.38 ID:ab9h8xRQO



***



頭の中が、黒いもやみたいな何かでいっぱいになっていると、思った。
それは考えるたびに広がっていって、収集がつかなくなって、だからもょもとは随分と昔から、考えることをやめていた。
ただ、目の前の目標――倒すべき敵に向かって、この手を振るえば、真実にたどりつけるのだと……

その、覚悟を決めたはずの拳が。
目の前の敵に、カインが持つプラチナソードによって、やすやすと受け流される。
カインの眼差しは迷わない。その眼は、もょもとのこころを見透かし、突き刺す。
なにも知らないお前ごときに、倒されはしないと。
仲間だったその相手に、はるかなる侮蔑を叩き付けられている。

(教えてくれ……)

血塊を喉につまらせたかのような、自身の思いとは裏腹に、もょもとの身体は流れるように動く。
仲間をも殺そうとするほうへ、流れに流れ、そして殺意が返される。
拳を払って首元へ斬り込もうとしたカインの剣と持ち上げられたオーガシールドが、ぶつかり合って火花を散らした。
響いた金属音に顔をしかめたカインの表情が、もょもとの視界から一瞬で消える。
カインが動いたのではない。あまりの攻撃速度を、「彼」自身が自覚していないのだ。
もょもとが気付いたときには、もょもとの足はとうに、カインの脇腹に直撃していた。
「がはっ」
踏ん張って堪えきることができず、半ば吹き飛ばされかけて、カインは膝をつく。その手から、思わず剣が取り零された。
肋骨を砕き、内臓をひどく揺さぶるほどの破壊力。ただ一撃で大打撃だった。
それでもカインは倒れなかった。敵から、視線を逸らさなかった。
ぎらぎらとした敵意を込めて、ひたすら睨み続けていた。

(カイン、おれは……)

殺戮だけを覚えて律することのない肉体は盾を捨て、カインに迫る。
飛び出す体のすぐ後ろで、重い衝撃が放たれた気がする。
それは掠めたもょもとの背中を焼き、後ろの山を砕いた。
「カインッ!!」
遠くのほうで、誰か女の声が叫ぶが、もょもとの前進は止まらない。
カインの眼差しに貫かれながらも、『たたかう』ことを止めなかった。
死んでしまえばいいと――
お前はただの化け物だと――
仲間からの侮蔑と殺意を、その身に一身に受けながら。

『それにさ、願いが見つからないなら僕達も協力して見つけるよ』
175This way and... 3/8 ◆Hyx.dEWOFg :2012/08/15(水) 04:36:38.53 ID:ab9h8xRQO

動けないカインに、自然と腕が振り上げられる。
相手を敵として認識した以上、もょもとの肉体はただの殺戮マシンでしかないはずだった。
そんな彼を教え諭し、ともに行くことを勧めてくれた暖かな言葉を、彼は今も覚えている。
一度は共に行くことを、望んだ自分がいたことも。
結局あの手を取らなかったのは、誰かと共にいても、敵をたおすことができなければ、願いを叶えられないと思ったからだ。
たたかうことしか知らない自分が、どうやって生きていけばいいのか。
ずっと答えがほしかった。
だからもょもとは、たたかい続けることを選んだのだ。

『……なぁもょもと、今は"たたかう"べきじゃないんだ』


(――おれは)


“たたかう”ことでしか、もょもとはもょもとでいられなかった。
それを否定するカインの手を取ることなど、もょもとにできるはずがなかった。
例えそれが、かつての仲間が差し伸べてくれたものだったとしても……

たたかうしかないのだ。
生き延びて答えを知るために。
たたかうしかなかったのだ。
それが唯一の方法だから。
だから、この手は殺すのだ。
かつて仲間だったはずの、唯一共に戦えたはずの、その存在を。

もょもとの拳が、動けないカインを、突き刺すような眼差しを、もょもとを苛む苦しみを、
なにもかも砕き割るかのように、振り下ろされた――――


「…………カ、イン」


――――決死の覚悟で、叩きつけられた拳は。
荒れ果てた地面を、砕き割っていた。
カインが見ている目の前で、――カインに振り下ろされることなく。

流れるように動いた“殺戮マシン”の右腕を、地面に縫い付けられたその凶器を、左腕が掴んでいる。
その腕が、見たこともないくらいに震えている。殺そうとすることを、止めている。
どうしてかなんて、わからない。
もょもとの右手を左手が押さえつけていることを、ただもょもとの視界が映している。

「おれ……は、……お前を……」

正しいとか正しくないとか、そんな考えを飛び越えて、もょもとの感情があふれ出す。
その視界が、熱くにじむ。
蓋をして、奥底に閉じ込めていたはずの心が、現世ではじめてあらわになる。

「…………こ、ろ、し、たく、……ない…………」

本能のようにしみついた闘争心を、押さえ込もうとする衝動に、いつしか全身さえも震えていた。
カインはそれを、目を丸くしたまま、見つめている。
たたかうことしかできないと、自他共に信じていたはずの男が初めて、
自ら“たたかい”を拒絶した瞬間だった。
176This way and... 4/8 ◆Hyx.dEWOFg :2012/08/15(水) 04:39:58.38 ID:ab9h8xRQO

***



正午が近づいている。
姿をあらわすことのない太陽は、それでも天頂へ登ろうとしているはずだ。
落ちることなどないはずだ。
たとえ一度日が落ちたとしても、再び日の出のときを目指して、巡っているはずなのだ。

――二度の落日には、まだ早い。


ミレーユは、その瞬間をただひたすらに待っていた。
まさぐったふくろのなかに見つけた特薬草で、密かに傷付いた身体を癒しながら。
負傷を理由に戦場から少しずつ遠ざかるふりをして、周りすべてに警戒を与えないようにして、
他の参加者すべてを焼き尽くすことのできるそのときを。
銃が既に放たれた状態で、剣と拳のぶつかり合いによりどちらかがどちらかを制すとき。
誰もが動けなくなる、その一瞬を。

すべてを焼き尽くす灼熱が吐き出される。
刹那、殺気に気付いた傍らの女が――戦況がひとまず止まったことに安堵していたアイラが、振り返り。
なにが起きようとしているのかを、一瞬で悟った。

「ッ!!」
黒燿石のようなひとみが、星のようにきらめく。
そのまなざしは地を這ってミレーユの立つ場所へと奔り、天変地異を起こさせた。
彼女の足元から、強烈な火柱が巻き起こる。
そして同時にアイラの元へもまた、灼熱の炎が到達した。

「ああぁぁああああ!!」
「きゃあああああッ!!」

互いの炎になぶられて、ふたつの絶叫が響き渡る。
その声にやっと、硬直していたカインともょもとが、状況の異変に気付いた。
突出する位置にいたアイラは灼熱を一人で被る形となり、
またミレーユへの咄嗟の妨害が功を奏して、後ろの二人に炎が届くことはなかった。
だが、やがて炎の立ち消えた空間は、地獄絵図そのものだった。
大地が、空気が焼け焦げて、二人の女は見るも無残な姿になり……
それでもアイラは、銃を手にして立っていた。

「行って。次は、無いから」
掠れた声は、同じように足元を焼き尽くされた金髪の女の元へ届く。
ミレーユもまた、重傷ながら生きていた。
焦げた足を引きずり、砕かれた内臓をかかえても、その生命が尽きることはなくて。

突きつけられた銃に、本当に見逃す気があるのか、ミレーユにはわからなかった。
震える腕で持ち上げる銃にどれほどの命中力があるかも計り知れない。
だが、次を喰らえば死ぬ。それだけは彼女にとって確かなこと。
同時に、銃一発でミレーユを殺すことができなければ、相手は反動で大きな隙が出来る。
そうなれば、ぎりぎりつながった命を滅ぼすことなど、今のミレーユでも容易い。
お互いに、紙一重の賭けだった。

「……二度も逃がしてもらうなんて、悪いわね」
ぶつけたのは薄っぺらい皮肉だ。
結局、ミレーユは退くことを選んだ。
後ろの二人も加勢されれば三対一。もともと負傷していた自分が生き残る術など、無いに等しかった。
こんなところで死ぬ気はない。テリーを生き残らせるという使命は、まだ少しも果たせていない。
傷付いた足を引き摺りながらも、ミレーユはあくまで、敵の女に無様な姿を見せることはしなかった。
凛とした強かさをその立ち姿にまとったまま、戦場を後にした。
177This way and... 5/8 ◆Hyx.dEWOFg :2012/08/15(水) 04:43:32.71 ID:ab9h8xRQO



***



「待てよ!!」
追いかけようとするカインを、アイラは手で制する。
なんでだよ、と彼女を睨もうとして、そのすがたにカインは思わず言葉を失くした。
焼け焦げた光のドレスは防具の機能を果たしているのかが疑わしく、
素肌をさらした腕はただれていて、もはや何故立っていられるかもわからないほどだ。
口を閉ざしたカインに、アイラは金髪女の後ろ姿を見つめたまま、ささやいた。
「あの人も、だれかの仲間かもしれない、から」
「は……!?」
「二人とも無事ね? 彼も、あなたの仲間……でしょ」

負傷を受けてもなお、毅然とした態度を崩さないアイラの言葉に、カインは息を呑んだ。
戦線に無理やり加えさせようとした金髪の女が、自分たちに牙を向いたことは、カインにも過失がある。
無論、女の思惑に気付けなかったのはアイラも同じだった。だがそれによって彼女は、瀕死の重傷を負わされたのだ。
それでもアイラは尚、カインと、敵として認識したはずのもょもとを気遣っている。
仲間だからという理由で、そんなことが許せてしまうものだろうか。
彼女が仲間と言い放った男を、カインは自らの意志で、この手で、――殺そうとしていたのに。

(僕は、なんだ……? ……何を、やっている……?)

自身も脇腹に抱えた傷の痛みが、混乱と共に押し寄せてきて、身体がふらつき倒れそうになるのをなんとか堪える。
あのときカインは、生涯のコンプレックスと思っていた、底知れぬほどの強さを持っているはずの男の真実を垣間見た。
カインには最初から見えていた、自分たちを取り巻く者たちの薄情さを、もょもとは何も理解していなかった。
思ってたよりずっと、下らない男だった。これほどまでに、彼を心底侮蔑し、見下せたことなど一度もなかった。
だが、もょもとは元より、現人神などではなかったのだ。脆く弱く無知なだけの、ただの人間だ。カインがそうであるように。
たった今、仲間を殺したくないと叫ぶように吐露したあの姿が、焼き付いたまま離れない。
カインの本心は、どこにあったのだろう?
生き残るためと言いながら、この手で彼を死なせることを、心のどこかで悦んではいなかっただろうか……
まるで、今まで自分たちを侮辱していたサマルトリアやローレシアの国民たちと、同じに。

(変わらない……。僕を苦しめ続けていたやつらと、なにも……)
178This way and... 6/8 ◆Hyx.dEWOFg :2012/08/15(水) 04:46:53.26 ID:ab9h8xRQO

愕然とする。
ようやく見えた気がしていた出口、この世界に血族の呪縛が存在しないという現実が、カインに自身の愚かしさを突き付けたようだった。
例えどこに行っても、ロトの伝説で歪められたカインの生きざまは変えられない。
己の願いを叶えるためなら手段を問わず、仮にも仲間を手にかけることさえ、なんとも思わなかったのだ。
そんなことをこの先も繰り返すのだろうか。もしあのまま元の世界にいたなら、そんなねじ曲がった生きざまが、果てしなく続いていたのだろうか。
こんな首輪よりずっと強固な呪いのように。
ロトの血族の、血塗られた闘いの歴史のように。

(ロトの血族なんてものが、存在するから……?)

ふと思い付いた考えは、一度脳に浮かべると、じわりじわりと滲むように、胸のうちに広がっていく。
自分たちを縛り、追い詰め、人間としての心をねじ曲げてきた真の元凶。
もょもとの言葉を借りるなら、いま自分たちが本当に『たたかう』べきなのは、見知らぬ他人なんかじゃない。ハーゴンやデスタムーアでもない。
ロトの血族そのものなのでは、ないか――

「う……」
隣から聞こえた呻き声に、カインははっと現実へ引き戻される。
傍らで、アイラはとうとう立ち姿のまま持ちこたえられず、ゆっくりとくずおれていった。
「アイラ……!?」
「大丈夫よ」
ひゅうひゅうと漏れる吐息の中から小さく返事が返ってくるが、言葉通りの状態であるとはとても思えない。カインは急いでベホイミを施すが、どうにも効きが悪く、気休め程度の効果にしかならなかった。
「ダメだ。こんな回復力じゃ……」
思わず歯軋りする。自分にベホマが使えれば、もしくはここにあきなでもいればと思ったが、ないものを求めても仕方がない。
一か八かと互いの支給品を確認しても、治療に使えるものは見つからなかった。ならばこんな場所にいても、休めるところもなく危険なままだ。
「掴まったら、歩けるか?」
「なんとかね」
「町に行こう。休める場所があるだろうし、回復呪文の使い手に会えるかも……」
「うん」
どんどん弱々しくなる彼女の語調に、カインは「ごめん」と続けようとして、結局言えずくちをつぐんだ。言ったら、蓋をしていた色々なものが溢れてしまいそうだった。
妹以外はどうでもよかったはずの他人の命が失われてしまうことを、はじめて嫌だと、思った。
179This way and... 7/8 ◆Hyx.dEWOFg :2012/08/15(水) 04:51:17.45 ID:ab9h8xRQO

「もょもと!」
後方に声を張り上げる。
彼はカインの目の前で大地に拳を放ったあと、座り込んだまま微動だにしていない。
再び呼びかけるが、返事はない。舌打ちし、一旦アイラの傍を離れて、カインはもょもとへ駆け寄った。
「もょもと。手伝ってくれないか」
「……」
「あの人を町まで連れていきたいんだ。僕だけでは厳しい」
「……」
その様子を注視しながら話しかけるが、やはり動く気配を見せない。というよりは、呆けているという表現が正しいとも思えた。
当然かもしれない。もょもとが自ら戦いを拒否するなんて、カインでさえ信じがたいことだった。自身では尚更だろう。
自らたたかいを否定したことで、茫然自失の状態になっていても、おかしくはない。
だが、だからこそ。カインには、もょもとを置いていくという選択肢はなかった。
共に、ロトの血族に歪められて生きてきた。同じものを見て、同じ敵に挑んで、闘ってきた。
カインにとって、もょもとは紛れもなく――仲間なのだから。

「……僕と行こう、もょもと。いっしょに……」
頭上から降る小さな声に、はじめてもょもとの身体が、ぴくりと反応する。
一体どの言葉が、もょもとの心を震わせたのかはわからない。だが、空虚な面持ちのまま、もょもとはのろのろと起き上がった。
カインの言われるがままに、虚ろな手足を動かしながら、二人でアイラの肩を支える。
カインが彼女になけなしの治癒を施し、もょもとがアイラを背負いながら、再び広野を歩きだす。

近付いているはずの町の景色は、未だ視界に映ることはない。
傷付き、疲労した身体が、三人の歩みをひどく鈍いものにさせた。
アイラは時折苦しげに顔を歪め、彼女を背負うもょもともまた、壊れた人形のような目をさ迷わせている。
心身ともに今一番力を残しているカインが、二人を町まで連れていくしかなかった。
ただ町に行くだけの道のりが、今はひどく遠くに感じる。
あの遥かなる旅路を思い返すような、果てしない道のりだと、カインは思う。





180This way and...8/8 ◆Hyx.dEWOFg :2012/08/15(水) 04:54:11.67 ID:ab9h8xRQO
【D-7/草原/昼】

【もょもと(ローレシア王子)@DQ2】
[状態]:HP11/20、全身打撲、軽度のやけど、腹部損傷(小)、背中に掠り傷、呆然
[装備]:オーガシールド@DQ6 満月のリング@DQ9
[道具]:基本支給品一式
[思考]:?

【カイン(サマルトリアの王子)@DQ2】
[状態]:HP6/10 脇腹打撲 肋骨が折れる 内臓微損傷
[装備]:プラチナソード
[道具]:支給品一式 不明支給品×2(本人確認済み 回復道具ではない)
[思考]:妹と一緒に脱出優先 アイラの治療 欲望の町に向かう ロトの血族に対して……?

【アイラ@DQ7】
[状態]:HP1/8 全身やけど もょもとに背負われている
[装備]:モスバーグ M500(4/8 予備弾4発)@現実、ひかりのドレス@DQ3
[道具]:支給品一式、不明支給品×0〜1(回復道具ではない・カインが確認)
[思考]:ゲームを破壊する 欲望の町に向かう
[備考]:スーパースターを経験済み

【D-8/草原/昼】

【ミレーユ@DQ6】
[状態]:HP1/5、内臓損壊、下半身やけど
[装備]:雷鳴の剣@DQ6 くじけぬこころ@DQ6
[道具]:毒入り紅茶 支給品一式×2(特薬草を使用) ピエールの支給品1〜3 ククールの支給品1〜3
[思考]:テリーを生き残らせるために皆殺し

※ミレーユが向かった方向は、お任せします。
181 ◆Hyx.dEWOFg :2012/08/15(水) 05:01:45.42 ID:ab9h8xRQO
投下終了です。
感想・指摘などあれば。
182名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/08/15(水) 11:44:10.96 ID:ngrAArNEO
投下乙です!
もょの心が……!
カインはどうなんのかな?
ロトに対して牙を剥くことを選んだ……?
そしてアイラがすげぇかっけぇ!
本当に投下乙です!
183名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/08/16(木) 21:43:09.50 ID:kt+02VUR0
投下乙です。
カインにやっと希望の光が見えてきた!
もょもとも人としての心が生まれ始めてロト勢の未来が少し明るい!

アイラもいい女って感じでいいなあ
184名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/08/18(土) 12:25:31.22 ID:80s6LMxJ0
ミレーユがドラゴンのしゃくねつを使ったのはわかったんだが、アイラは何したの?
見るだけで火柱が起こったらしいからメラ系の呪文じゃなさそうだけど
185名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/08/19(日) 20:07:48.57 ID:astgKsDZ0
そのまんま「火柱」っていう特技がある
DQ7ならスーパースターで覚えられるハズ
186名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/08/29(水) 00:45:37.37 ID:MwnmofjU0
hosyu
187名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/08/29(水) 00:50:16.54 ID:iZRmlfTL0
すまねえ、DQXが面白すぎるんだ
188 ◆2UPLrrGWK6 :2012/09/02(日) 13:06:38.40 ID:PIeSg2FY0
投下します。
189 ◆2UPLrrGWK6 :2012/09/02(日) 13:14:54.70 ID:PIeSg2FY0
文字数の関係で避難所に投下致します。
190 ◆2UPLrrGWK6 :2012/09/02(日) 13:33:25.92 ID:PIeSg2FY0
避難所に投下が完了いたしました。
すみませんが出来るかた、代理投下をお願いできます。
191狙われた乳  ◇2UPLrrGWK6:2012/09/02(日) 20:24:36.83 ID:pqXfwRcI0

ばしゃり、と跳ねた水音を兆しに、竜王の身体は開放された撥条の如く躍動した。
数瞬、遅れてゼシカが見上げた空に、黒く丸い陰。
それは月でも太陽でもない、海を脅かす魔王の姿だ。

「ごぁあぁーーーっ!!」

水中から飛び出した勢いを利用し、遥か頭上へと跳躍した魔王、グラコス。
憤怒の形相を浮かべ、断頭台の刃のように巨大な穂先を振りかざして竜王へと迫り来る。

「ぬるい喃」

彼の周囲に、影が指す。
そうだというのに、当の本人は涼しげな顔だ。
嘲りに似た笑みすら浮かべている。

「なに余裕かましてるの!?」

グラコスの攻撃範囲外から、ゼシカが叱咤を飛ばした。
なにしろ魔物としてはやや小柄な竜王に対し、グラコスはおおよそ倍以上はあろうかという巨体である。
圧倒的な質量差を以ってしての攻撃、さしもの彼も受け止めるのは至難だろう。
ただし、その気は全くもって無い。


「『当てる』つもりでやっておるのか?」

ひょい、と身軽に飛び退る。
ただそれだけの所作が、グラコスの攻撃を絶望的な物とする。
このままでは地へと墜ち、陸に打ち上げられた魚のようになるだけだろう。
そう、このままでは。

「愚か者め!!」


醜悪な唇を、グラコスはにやりと大きく歪めた。
その刹那、地面と巨体が接触する。
だがその身体は地に減り込むどころか、大きく飛び跳ねて竜王へと追撃を行ったのだ。

「むっ!?」
「『殺す』つもりで!!やっておる!!」

尾びれを地へと激しく叩きつけ、巨体を前へと跳ね飛ばしたグラコス。
宛ら飛行するかの如く、水平に跳んだ姿勢のまま構えられた槍は竜王の首を狙っていた。

「ぐっ……!!」
192狙われた乳  ◇2UPLrrGWK6:2012/09/02(日) 20:25:39.19 ID:pqXfwRcI0
「ぐぬっ!?」
「今度はこちらが行こう」



拳を固めた竜王が、その揺らぎを突破して躍り出る。
魔王の膂力から放たれた拳が、鞠のように膨らむ腹部に突き刺さった。
ずぬりと、減り込んだ一撃にグラコスは顔を歪める。

「む」
「げばっ!!」

竜王の拳撃に吹き飛ばされ、グラコスは湖面に激突する。
激しい水柱が立ち上り、通り雨のように水滴が周囲に散った。

「ふむ……」

竜王は思案する。
たった今の一撃で、グラコスを相手にするという不利に感づいた。

(余裕をかましては見たが、ジリ貧かもしれん)

先ほどのベギラマは密着状態にあり通用した。
しかし、濡れた身体に加え奴は氷の息での相殺を図ることで、炎の直撃は避けている。
同じ手を何度も食うほど愚かでは無いだろうし、呪文は有効な攻撃手段にならない。
先ほどの攻防でこっそりとラリホーを唱えたものの、効力を発したようにも感じない、耐性があるのだろう。
故にこちらの手札が、今は相手の攻撃タイミングに合わせての打撃に限られている、しかし。

(打撃が通り辛いのは厄介じゃ)

弾力性に富む身体に弾き返されてしまう。
斬撃を食らわせてやりたいところだが手持ちの武器の剣は抜くことが叶わないし、あいにく手札が無い。
爪による刺突でどうにかなるか、と正拳から貫手にするかと思案したところ。
違和を感じ取った。

「逃げた、か……?」

グラコスが水面に顔を出さない。
まさか待てば水辺に近寄ると思っては待ちぼうけているまい。
いったい相手が何を狙っているかを考え、そして一つの結論に行き当たる。

「!しまった……!!」


竜王は自分の誤算に気がついた。
先程からの攻防で、距離が離れてしまっている。
この状況で奴が確実に狙うとすれば自分ではなく─

「離れよっ!!!」
「きゃぁっ!?」

竜王の言葉に、湖から退こうと踵を返した彼女の目の前。
まるで間欠泉のように水柱が吹き上がった。
193狙われた乳  ◇2UPLrrGWK6:2012/09/02(日) 23:46:50.21 ID:7T3WhO9l0
ばしゃり、と跳ねた水音を兆しに、竜王の身体は開放された撥条の如く躍動した。
数瞬、遅れてゼシカが見上げた空に、黒く丸い陰。
それは月でも太陽でもない、海を脅かす魔王の姿だ。

「ごぁあぁーーーっ!!」

水中から飛び出した勢いを利用し、遥か頭上へと跳躍した魔王、グラコス。
憤怒の形相を浮かべ、断頭台の刃のように巨大な穂先を振りかざして竜王へと迫り来る。

「ぬるい喃」

彼の周囲に、影が指す。
そうだというのに、当の本人は涼しげな顔だ。
嘲りに似た笑みすら浮かべている。

「なに余裕かましてるの!?」

グラコスの攻撃範囲外から、ゼシカが叱咤を飛ばした。
なにしろ魔物としてはやや小柄な竜王に対し、グラコスはおおよそ倍以上はあろうかという巨体である。
圧倒的な質量差を以ってしての攻撃、さしもの彼も受け止めるのは至難だろう。
ただし、その気は全くもって無い。


「『当てる』つもりでやっておるのか?」

ひょい、と身軽に飛び退る。
ただそれだけの所作が、グラコスの攻撃を絶望的な物とする。
このままでは地へと墜ち、陸に打ち上げられた魚のようになるだけだろう。
そう、このままでは。

「愚か者め!!」


醜悪な唇を、グラコスはにやりと大きく歪めた。
その刹那、地面と巨体が接触する。
だがその身体は地に減り込むどころか、大きく飛び跳ねて竜王へと追撃を行ったのだ。

「むっ!?」
「『殺す』つもりで!!やっておる!!」

尾びれを地へと激しく叩きつけ、巨体を前へと跳ね飛ばしたグラコス。
宛ら飛行するかの如く、水平に跳んだ姿勢のまま構えられた槍は竜王の首を狙っていた。

「ぐっ……!!」
194狙われた乳  ◇2UPLrrGWK6:2012/09/02(日) 23:47:33.16 ID:7T3WhO9l0
「ちいっ!!避けおったか!」

竜王が纏う衣の肩口が裂け、弾けるように鮮血が飛ぶ。
身を捩っての回避はタイミングも何もかも絶妙であり、褒める他は無いだろう。

「ぐぶぶっ…!」
「なっ……」

槍を構え直すと、飛び出していたグラコスは大きく息を吸い込んだ。
遠目でその光景を見ていたゼシカは、その変容に思わず息を呑む。
巨体はぷくーっと大きく膨れ、まるで河豚か針千本のように丸みを帯びる。
風船が弾むようにしてグラコスの身体は大きく跳ね上がり、その反動で再び湖へと舞い戻った。

「ぷふぅー……」

空気を吹き出してぷかりと水面に浮かび、取り戻した余裕を振り翳す。
海の魔王の名は決して伊達ではない、地上でもその脅威は失われないのだ。

「げはっ!げはははっ!驕りが過ぎるぞ、竜の王!!」
「……」
「竜王っ!」





動かぬ竜王にゼシカは不安を覚える。
傷は深かったのだろうかと。
だがすぐに言い知れぬ怖気に襲われ、全身が硬直する。
杞憂だった。
この考えは、あまりに杞憂に過ぎた。
グラコスは確かに恐ろしい。
だが、目の前の竜王もまた。

「あー、その鈍らで斬るのはよしてくれんか?」
「なっ!?」

ごきり、と首を傾け肩を回す。
その何気ない姿にすら、ゼシカは畏れを抱かずにいられない。
魔王の槍をも通し斬らぬ、強固な守備。
当然、彼もまた 魔の長なのだ。

「半端に痛がるのも、面倒くさい。かといって無下にするのも気の毒じゃ」
「こっ……」

グラコスの顔色が、みるみるうちに憤怒に染まる。
竜王の口元に、隠し切れない笑みが浮かんでいたからだ。

「─格上に気を使わせてくれるなよ?」
「こぉぉぉぉの!!!腐れドラゴンがーーーーッ!」

怒りに駆られたグラコスは凍りつく息を吐き出した。
幻想的な輝きを生み出すとともに、圧倒的な破壊力を孕んだブレスが竜王目掛け襲い来る。
が、翳した掌から迸る閃熱が炸裂した。
温度差により、景色は陽炎が生まれたかのように大きく揺らぐ。
195狙われた乳  ◇2UPLrrGWK6:2012/09/02(日) 23:48:20.79 ID:7T3WhO9l0
「ぐぬっ!?」
「今度はこちらが行こう」



拳を固めた竜王が、その揺らぎを突破して躍り出る。
魔王の膂力から放たれた拳が、鞠のように膨らむ腹部に突き刺さった。
ずぬりと、減り込んだ一撃にグラコスは顔を歪める。

「む」
「げばっ!!」

竜王の拳撃に吹き飛ばされ、グラコスは湖面に激突する。
激しい水柱が立ち上り、通り雨のように水滴が周囲に散った。

「ふむ……」

竜王は思案する。
たった今の一撃で、グラコスを相手にするという不利に感づいた。

(余裕をかましては見たが、ジリ貧かもしれん)

先ほどのベギラマは密着状態にあり通用した。
しかし、濡れた身体に加え奴は氷の息での相殺を図ることで、炎の直撃は避けている。
同じ手を何度も食うほど愚かでは無いだろうし、呪文は有効な攻撃手段にならない。
先ほどの攻防でこっそりとラリホーを唱えたものの、効力を発したようにも感じない、耐性があるのだろう。
故にこちらの手札が、今は相手の攻撃タイミングに合わせての打撃に限られている、しかし。

(打撃が通り辛いのは厄介じゃ)

弾力性に富む身体に弾き返されてしまう。
斬撃を食らわせてやりたいところだが手持ちの武器の剣は抜くことが叶わないし、あいにく手札が無い。
爪による刺突でどうにかなるか、と正拳から貫手にするかと思案したところ。
違和を感じ取った。

「逃げた、か……?」

グラコスが水面に顔を出さない。
まさか待てば水辺に近寄ると思っては待ちぼうけているまい。
いったい相手が何を狙っているかを考え、そして一つの結論に行き当たる。

「!しまった……!!」


竜王は自分の誤算に気がついた。
先程からの攻防で、距離が離れてしまっている。
この状況で奴が確実に狙うとすれば自分ではなく─

「離れよっ!!!」
「きゃぁっ!?」

竜王の言葉に、湖から退こうと踵を返した彼女の目の前。
まるで間欠泉のように水柱が吹き上がった。
196狙われた乳  ◇2UPLrrGWK6:2012/09/02(日) 23:49:03.14 ID:7T3WhO9l0
*****


この陰鬱とした雰囲気を孕んだ世界の湖にしては、ひどく澄んだ水だ。
そういう印象を、水底から空を見上げたゼシカは抱いた。

「〜〜!」
「そう暴れるでない……悪いようにはせんぞ、ぐははっ」

グラコスの槍を握る手とは対の手。
ゼシカの華奢な腰が、拘束されていた。
湖に叩きこまれたグラコス、あの僅かな間に湿地を掘り進みゼシカの眼前までトンネルを突き掘ったのだ。
恐るべき泳ぎの速度と獲物があってのみ成し得た技。
さしもの竜王も読みきるのが遅れ、この結果を招いた。

(っ、この…!)

しかし、力を込めればくしゃりと折れてしまいそうな彼女の身体はその形を保っている。
女性に対し、存外グラコスは丁重に扱っているようだ。
もっとも、ゼシカはそんな感情を抱くより嫌悪が先立った。
恐らく世界中のどんな聖人君子たる女性であろうとも、そう思わずには居られないだろうとまでも思う。

「お前をダシに、あ奴を這いつくばらせた後……わしがたっぷりと可愛がってやろうぞ!!」
(離れなさいよ!へちゃむくれ!!)

なにせ、この巨大な顔面が接吻射程範囲とも言えよう目の前にあるのだから。
おまけにどういう理屈か、こちらは口一つ聞けないのに、あちらは水中で口を利くのだ、それもねちっこい口調で。
一刻も早く逃れたかったが、両手を身体ごと拘束され身動きが取れそうにない。

(……りゅう、おう…!)

助けてとは言えない。
なにせ先ほど、嫌というほど畏怖を感じた対象だ。
このグラコスの手の内から救い出されたとしても、それは魔王から魔王へのバトンパスにすぎない。
自分が闇を秘める存在の、掌の上から逃れられるわけではないのだから。

「ブクルル……!来おったな……!!」
197狙われた乳  ◇2UPLrrGWK6:2012/09/02(日) 23:49:40.22 ID:7T3WhO9l0
だが。
竜王は、来た。
相も変わらず不敵なままに。

「ようこそ!!そして死ねぃ!!ここが貴様の墓場となろう!!」

槍を構えてグラコスが泳ぐ。
その動きは先程までの地上戦とは、比べ物にならないほどの速さだった。
空を飛翔するドラゴンに喩えるのが相応しいほどのそのスピードに、掴まれたままのゼシカは翻弄される。
そして凄まじい加速のその刺突を、身動きの取りづらい水中で竜王は─



『自分の土俵が恋しくなったか、ヒキガエル』
「!?」

受け止めた。
槍の刃先はその身体に喰らい込み、確かに血は流れている。
だが柄を抑えた姿勢のまま、負傷も感じさせない様子で、彼は告げるのだ。
目の前のグラコスに"忠告"を。
危険を察したグラコスは飛び退るように泳いで、距離を離した。


『いいか?一言だけ言っておく』


水中で深紫のローブがゆらゆらと揺れる。
こちらにぴたりと向けられた指先も、恐ろしい形相も相成り、まるで水辺の幽霊のようだ。
だが、こうも勇ましき幽霊が存在しまい。
それにこんなに自己主張の激しい幽霊も居まい。


『その娘はワシのじゃ。丁重に扱え、というか離せ』


(……魔族の喉と頭ってのはどうなってるのよもう)

ゼシカは苦笑した。
異性に取り合われてこんなに嬉しくない瞬間なんてあるのかしら、と。


*****
198狙われた乳  ◇2UPLrrGWK6:2012/09/02(日) 23:50:13.22 ID:7T3WhO9l0
大見得を切って戦いに挑んだのは良いものの。
ここは水中、炎の呪文さえも縛られた状況は間違いなく劣勢だった。
槍が、そして泳ぎにより生まれる水流。
それらは竜王の体力をじわりじわりと奪いゆく。

「先ほどまでの大口はどうした!?げははっ!」
『!』

グラコスが持っている武器を激しく振り回す。
竜王が手練とて、防ぎきる事は叶わない。
手傷を負い、澄んだ水には竜の血が混ざる。
確かに攻撃は届いているがここはグラコスの支配する水中という名の領域。
攻撃の速度も鈍っている、決定打には程遠い。

「それそれそれいっ!!」
『ぐ……!』

グラコスが渦を描くように竜王の周囲を泳ぐ。
水の流れはうねりを描き、身の自由を封じていった。

「急がねばこの娘も!貴様も!仲良く水の底ぞ!!」
(う……っ!!)

加えて人質を取られている、おまけに息も限界が近い。
まさに絶体絶命であった。

(なんとかし、なきゃ……)

意識が遠のきそうな最中、ゼシカは身を捩る。
自分にできる精一杯の抵抗を行うため。
両手は封じられた。
呼吸もできない。
ならば最後の手段が一つだけ残されていた。

(〜〜〜っ!やるしか無い!!)
「ぐむっ!?」


グラコスの視界が突如塞がれる。
その顔は柔らかい感触で満たされた。
彼女の豊満な胸部を、隙を見て顔面に押し付けたのだ。
端的に言うとゼシカはグラコスにぱふぱふをしてあげたということである。
グラコスはきもちよさそうだ。
199狙われた乳  ◇2UPLrrGWK6:2012/09/02(日) 23:51:03.32 ID:7T3WhO9l0
音も聞こえぬ水の中。
戦う両者の動きすら静止し、まさに時が止まったような状態となる。

(ゆるんだ!!)

傾いだグラコスの顔を力いっぱい蹴り、ゼシカは浮上する。
やっと自由になった両手で胸を隠して人生最大級のあかんべえをかましながら、彼女は自由を手にした。

「……ふがっ!?し、しまった!!」

もう彼女の姿が湖面から出ようか、というところでやっと意識を取り戻したグラコス。
慌てて追おうとして藻掻いた尾鰭が、突如尋常でない力で抑えつけられる。

「!?」

掴んでいたのは竜王。
ただ、先程までとは一瞬、別人と見紛うほどの変容を遂げていた。
額に青筋、形相は般若も真っ青になるほどの険しいもの。
子供どころか魔物が見ても泣きそうになるものだった。

『醜き化性が、水底に這い蹲っておればいいものを─』

メリメリと音を立て、竜王の存在が膨れ上がって行く。
ドラゴラムとはまた違う、その祖となった真の姿への形態変化だ。
この姿を出す、ということは本気も本気ということ。
魔の長がたった一人の人間の女のために何を、と笑うことなかれ。
竜王の『とある矜持』を、グラコスは十二分に傷つけていたのだから。
いわば、竜の逆鱗を揺り動かしてしまった。
その代償は大きい。


『グルァアアァァーーーーッ!』
「わっ!?」

地上で呼吸を整えていたゼシカは腰を抜かした。
湖から、深紫色の鱗を持った竜が上半身を現したのだ。
小規模な波に攫われそうになるも、なんとか荷物を抱えて近くの岩に身を隠す。
よく見れば、その手にはグラコスが逆さ吊りにされている。
巨竜は目の前にそれをぶら下げながら、睨みを効かせこう叫ぶ。




『あの胸はワシのものじゃあああああああっ!!!』
「ぎええええええっ!!」
『 弁 え よ ッ !!』
「ぐばっ!?」




非常に低俗な主張を声高に叫びながら、哀れな魔王を湖底に叩きつけ、踏みつけた。
ゼシカが言葉を失ったのは言うまでもない。
200狙われた乳  ◇2UPLrrGWK6:2012/09/02(日) 23:51:50.02 ID:7T3WhO9l0
*****


グラコスを撃退し、早々に二人は湖から離れた。
負傷した状態での急な変身により竜化が早々に解けてしまったため、生死の確認がとれていないのは痛手だったが。
ともかくかなりの時間を費やしてしまったものの、ようやく当初の目的である地図上で言う絶望の町というところを目指し歩みだした。

「まったく、まだ腹の虫が収まらんわ。あの潰れた面を焼いて溶かしてしまいたいというに。湖ごと蒸発させれば良かったわい」
「この状況でケンカ吹っかけないでよね、実際少しピンチだったんでしょ?」
「ぬ……まぁ、の」

攻撃を一身に受け続け、いかに頑強な竜の身体も負傷は色濃かった。
ゼシカは支給品の中から上やくそうを取り出し、差し出しつつはにかんだ。

「理由はどうあれ、助けてくれたのはありがとう。傷、ちゃんと治してね」

確かに目の前の存在は恐ろしい、それは変わらない。
だが、先ほどのグラコスとは根底から違う、僅かながら感じたその思いを─
ゼシカは信じたかった。

「……ゼシカよ」

受け取った竜王の顔がほころんだ。
そしておもむろに両手を広げる。

「濡れた髪や張り付いた服というのもまた一興」
「シリアスを保ちなさいよ!!緊張感ふっ飛ばしすぎだってば!!……っくし!」
「いかん、寒かろうゼシカ」

彼女のむき出しの肩に、そっと竜王は手を添えた。

「服を脱いで乾かさなくてはな」

鼻の下を伸ばした竜王に、ゼシカは頭を抱える。
ああ、手を出すのも気が引ける、どんな言い訳とツッコミでこの場から逃れようか、と。
足取りが重たいのは、水を吸い込んだ服のせいばかりではなさそうだった。
201狙われた乳  ◇2UPLrrGWK6:2012/09/02(日) 23:52:35.49 ID:7T3WhO9l0
【E-3/湖岸南部/昼】

【ゼシカ@DQ8】
[状態]:健康 体力消耗 羞恥 ずぶ濡れ
[装備]:さざなみの杖@DQ7 
[道具]:草・粉セット(※上薬草・毒蛾の粉・火炎草・惑わし草は確定しています。残りの内容と容量は後続の書き手にお任せします。
     ※上やくそう1/2(残り1つ) 
     基本支給品
[思考]:仲間を探す過程でドルマゲスを倒す。最終的には首輪を外し世界を脱出する
     服を乾かしたい


【竜王@DQ1】
[状態]:HP3/10 MP8/10 竜化により疲労(大)ずぶ濡れ
[装備]:なし
[道具]:天空の剣@DQ4、キメラの翼@DQ3×5、基本支給品
[思考]:@ゼシカと同行する。最終的にはデスタムーアを倒し、世界を脱する。
 A今のゼシカを目に焼き付けたい




【E-3/湖の底/昼】

【グラコス@J】
[状態]:???
[装備]:グラコスのヤリ@DQ6
[道具]:ヤリの秘伝書@DQ9 支給品一式
[思考]:ヘルハーブ温泉・湖周辺にて魔王としての本領を発揮していいところを見せる。
    デスタムーアの命令には従いつつも、蘇ったのでなるべく好き勝手に暴れたい。
[備考]:支給品没収を受けていません。水中以外でも移動・活動はできます。
202名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/09/02(日) 23:56:18.92 ID:7T3WhO9l0
代理投下終了しました
投下順序が違っていたということで最初から投下し直しました。

では感想を
投下乙です
かつてぱふぱふがここまで戦闘における手段として有効に機能した場面があっただろうか、いやない(反語表現)
しかしながら

>A今のゼシカを目に焼き付けたい

その役目は私に任せてもらおうか
203名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/09/03(月) 00:05:57.02 ID:bvbYSGPv0
3/10もダメージ受けてたのか
竜王余裕そうだから7/10くらいだと思ってた
まぁ水中で攻撃されまくったからなぁ
204名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/09/03(月) 00:21:00.20 ID:lZGKEXST0
投下&代理、どちらも乙です

>グラコスはきもちよさそうだ。
ここでクソワロタ

グラコス前作でボコられてたからこのままワンサイドゲームになるかと思いきや
竜王を結構追い詰めていたようで、さすがはジョーカーの一体といったところですね
205名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/09/03(月) 02:44:06.57 ID:WSYcqHTL0
グラコスがゼシカを可愛がるシーンも見たかったが仕方あるまい…乙!
206名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/09/03(月) 08:24:37.07 ID:65XWOYzV0
もうダメ猫の魔王達
207名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/09/04(火) 09:22:23.81 ID:aUZU7v2fO
投下乙!
やはりおっぱいは世界を救う!
なんだかんだでエロで繋がるいいコンビだなあ……
208名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/09/04(火) 10:45:36.67 ID:w2mSw5On0
今DQ]て板全体がかつてないほどに賑わってるけど、
この機に大量に新規さんが入ってきたりとか…やっぱないかなあ
DQ]に関係ないスレはあまり見なさそうだし
…こっそりとageてみようかしら
209名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/09/06(木) 15:20:40.96 ID:xdPilpUO0
投下乙!
おっぱいが飾りではなかっただと!?
まさか戦闘で役立つとは…
しかしこの竜王、ほんといいキャラしてるなーw
馬鹿なんだがめちゃくちゃ強いの伝わってくるし
こんなの撲殺した勇者はなんなんだw
210名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/09/06(木) 22:21:22.74 ID:45aqn+rw0
211 ◆CruTUZYrlM :2012/09/10(月) 11:51:51.27 ID:5gALF87h0
避難所に投下していた作品を今から投下します
212零の牙を衝き立てろ ◆CruTUZYrlM :2012/09/10(月) 11:52:31.14 ID:5gALF87h0



「英雄」というものは誰の記憶にも輝かしく映る。
その功績を称えられ、光り輝く戦士として後世にも語り継がれる。
やがて伝説となり、文面や伝聞のみの存在となってもその輝きは失われることはない。

「その淡い光を放つ存在が、ゴミだと分かる日がいつか来るさ」
そう言ったのは、どこの誰だったか。



轟音が、暗い空に響き渡る。
その音の正体は、たった一人の少女だ。
一歩踏み込み、腰を深く落として、片腕を真っ直ぐと突き出している。
普通の武闘家なら、なんてことはないただの一撃だ。
だが、この少女にとってはそんな「普通」さえも変貌する。
踏み出した右足の地面は大きくひび割れ、突き出した拳からはどういうわけか煙が立ち登っている。
そして、その一撃を食らって吹き飛んでいる者が誰かというと、かつて世界を支配しようとしていた竜族の子孫である。

たった一撃、されど一撃。
竜族の子孫の肉体があちらこちらから悲鳴を上げ、人のものではない肉が破裂して暗色の血を撒き散らす。
激痛に耐えるため、地面に這い蹲りながら全身を悶えさせる。
そんな竜族の様子を、少女は本当につまらなさそうに見つめる。
「はあ……まだ二撃しか加えていないというのに。
 あなたそれでも竜族ですの? 不甲斐ないにも程がありますわ」
腕を組み、溜息を一つ漏らす。
よろよろと起き上がる竜族に向ける視線は、極寒の大地よりも冷たい。
「何故だ、何故勇者の一行ともあろう者が。このような殺し合いに乗じているのだ」
「勇者? 何か勘違いしていますわね」
理解できないといった表情を浮かべる竜族に対し、少女はつらつらと語る。
「ゾーマを倒したのは世界救出でもなんでもなく、世界を掌握しようとするアレルにとっての障壁であり、私たちにとって力が試せる最大の敵だっただけ。
 そして、私は勇者でもなんでもなく、ただの一人の人間。闘争を楽しみたい一人のしがない武闘家ですわ」
口から零れだすのは、強烈な真実。
彼女の生きている世界の、遠い遠い遠い未来で描かれている史実とは全く違う事実。
それは、あまりにも残酷で。
竜族の知っていた事実、理想、全てをズタズタに引き裂いていった。
「伝説の勇者だとか、祭り上げるのは構いません。でも私たちにもやりたいことや、夢がある。
 それを邪魔する権利なんて、未来の存在であろうと誰であろうとありませんわ」
一口に言い切り、リンリンは大きく溜息をついて頭を抱える。
竜族は動かない。たったいま突きつけられた絶望が、強烈すぎた所為か。
「全く私の夢だというのに、なんでこんなことを……さぁ、立ちなさい。
 貴方は私の夢、私を満足させてくれる存在なのだから。立って戦いなさい」
真実を突きつけた少女の顔は変わらない。
その真っ直ぐな目が追い求める、闘争という目の前の快楽を掴むため。
拳を、構える。
213零の牙を衝き立てろ ◆CruTUZYrlM :2012/09/10(月) 11:53:10.17 ID:5gALF87h0



「ちょっと、大丈夫!? ここであんたに死なれちゃいろいろと困るわよ!」
「ったく、少しくらい黙るとかできねえのかよ……お前が暴れてなきゃもうちょっと楽にここに来れたんだけどな」
ヘルハーブ温泉の中央に位置する洞窟に入り込んだ二人は、到着するや否や口喧嘩を始めた。
その原因は、内部に入った途端にテリーが倒れこんだことである。
ただでさえリンリンとの戦いで体力を消費しているのに、マリベルを抱きかかえながらこの温泉を移動したのだ。
連続する体力の消耗に、いくら歴戦の戦士といえど耐えられたものではなかった。
そうしてふらりと訪れた目眩に誘われるように、テリーは入り口で倒れこんでしまった。
それを切っ掛けとした口喧嘩を繰り広げながら、テリーは一人でゆっくりと起き上がる。
「ちょ、ちょっと。どこへ行くのよ!?」
「当たり前だろ、探索しに行くんだよ。この場所が安全とも限らない。
 いつまでもここでボーっとしてれば、アイツが来るかもしれないしな」
先ほどまで交戦していた女武闘家のことを思い出し、ふらつく体を無理やり働かせてテリーは内部の探索を始める。
体力を費やしてまで辿り着いた隠れ場所を自ら無駄にしないためにも、入り口からは早々に離れなくてはならないのだ。
「もう、待ちなさいよ! ちょっとは人の話聞きなさーい! このスカポンタン!!」
ロッシュ達と旅している間にはなかった騒がしさを背に受けながら、テリーは洞窟の内部へと足を勧めていく。
もし洞窟内部に人間が居れば、一段と響き渡るマリベルの声で自分達がこの場所に足を踏み入れていることを察しているだろう。
最悪中の最悪のケース、それを頭にしっかりと置きながらテリーは進む。
テリーに何を言っても無駄だと悟ったのか、ようやく静かになったマリベルも力強く足を進めていく。
214零の牙を衝き立てろ ◆CruTUZYrlM :2012/09/10(月) 11:53:40.52 ID:5gALF87h0
「へいへいへ〜い、俺ァ英雄ホンダラだぁ〜。
 かーっ、もったいぶってねえでさっさと宝を寄越しやがれぇ〜、エック」
黙々と足を進めていくうちに見つけたのは、片手に酒瓶を持ち井戸の周りをふらふらと彷徨う酔っ払いだった。
僅かに生えた草を毟っては、酒を飲み。
何もない井戸の周りを調べては、酒を飲み。
井戸に向かって盛大に吐いては、酒を飲み。
洞窟に現れた二人の侵入者のことなど意にも介さず、井戸の周りを愉快な足取りでグルグルと回っている。
中に居る人間が殺人鬼であるという最悪のケースは免れた。
しかし殺し合いの最中で盛大に酔っ払う人間に出くわすとは、流石のテリーでも考えていなかった。
「最ッ悪……」
後ろからようやく合流したマリベルが、大きな溜息と共に頭を抱える。
「……知り合いか?」
「ま、そんなとこ」
マリベルにしては珍しく歯切れの悪い回答である。
どこかバツの悪そうなマリベルに問いかけるよりも早く、違う声がマリベルを捉える。
「おお〜っ、誰かと思えばマリベルじゃねーか!
 あのデスタムーアとか言うのも、またおめーらがビシッと一発シメてくれんだろ?」
こちらの存在にようやく気がついた酔っ払いが、テリーをグイっと押しのけてマリベルに近寄る。
何か期待するかのような眼差しを向けながら、マリベルに話し続ける。
「さっきも来たぜェ〜、魔王をぶっ飛ばすってヤツらがな!
 お前もあいつらと一緒に魔王をぶっ飛ばすんだろ?
 んなら俺ァここで酒でも飲みながら、それを待ってりゃ大英雄って訳だ!
 この手にゃ宝もあるし、一石二鳥どころか一石億鳥だぜぇ!」
「ちょっ、酒臭ッ! 一体どれだけ飲んでるって言うのよ!」
常人では考えられない量のアルコールを含んだ吐息に、思わずテリーとマリベルを鼻を覆ってしまう。
「そぉ〜だ、お前らなんかいいもん持ってねぇか?
 俺が英雄になった暁にゃあ、お前らも仲間として語り継いでやってもいいぞぉ〜」
「なっ、いい加減にしなさいよこの酔っ払い!」
迫りくる手をマリベルは少し強引に引き剥がす。
それでもホンダラはお構いなしといった表情で酒を一口グビりと飲みながら、マリベルに絡み続けていく。
「あんだよぉー、ツレねぇなぁ〜。ちょーっと高値で売れるモンをくれって言ってるだけじゃねえかよぉ〜」
「ったく相変わらずどうしようもない……ちょっと、テリー! 見てないで何とかしなさいよ!」
押しのけられたついでに、害の及ばない遠距離からその絡みを見ていたテリーに、マリベルは助けを請う。
「勝手にやってろ」
「ちょっとーっ!!」
だが、現実とは残酷なもので。
呆れ返ったように冷ややかな目線を向けたまま、テリーはマリベルから目を逸らした。
「いーやー!! 誰か助けてぇー!!」
温泉内部の洞窟に、乙女の叫びが響き渡っていった。
215零の牙を衝き立てろ ◆CruTUZYrlM :2012/09/10(月) 11:54:11.34 ID:5gALF87h0

目覚まし時計に拡声器を添えたかのような騒音を背に、テリーはあることを調べていた。
酔っ払いが嘔吐する受け皿に使った井戸。
賢者たちが嘆きの牢獄に大穴を空けるまでの間、自分たちが狭間の世界から抜け出す際に用いていた井戸だ。
恐らくデスタムーアの手下が現世に舞い降りるのに用いられていた通用口だったのだろう。
あの世界を支配しようとするデスタムーアとしても必要な"裂け目"だったのだ。
絶望で心が満たされた人間が逃げ出さないように、体力を奪うあの温泉を回りに配備しておくことで、逃げ出そうとする人間を腑抜けにする。
デスタムーアの策としては完璧、これで絶望に満ちた人間達を自分の世界に閉じ込めておくことが出来る。
今……どう控えめに見ても体力も戦闘能力もなさそうで、酒を飲んでいるだけのグウタラオヤジがこの場にいることが引っかかるが、イレギュラーとして思考の外に置く。

この前提を踏まえたうえで、今回の場に置き換えて考えていく。
恐らく、この場には殺し合いの参加者達しかいない。
目の前のオヤジのような人間がいるにはいるものの、大体の参加者はロッシュやハッサンを筆頭に屈強な者たちがメインだ。
ある程度の体力さえあれば、ヘルハーブの温泉を乗り越えることは出来る。
「狭間の世界に到達するわけがない」「絶望に飲まれて死に絶えるに違いない」
などとタカを括っていた前のデスタムーアならともかく、一度倒された身の彼が、こんな簡単な場所に脱出経路を置いておくだろうか?
それこそデスタムーアを知っている人間なら、経験からこの場所に辿り着くのは簡単なことだ。
苦労する事といえば、ヘルハーブを乗り越えることぐらいか。

「待てよ……?」
その逆。
ヘルハーブの井戸が異世界と繋がっていることを知っている者を利用した、巧妙な罠だとしたら?
あえて次元の裂け目と思わしき物を残しておくことで、何かしらの罠へ誘っているとすれば?
可能性は0ではないどころか、グイグイと上がっていく。
「脱出が出来る!」と甘い考えを持つ者たちを、絶望の奥底へと叩き込んでいく。
デスタムーアがそれを目論んでいる可能性は十分にある。
甘い希望を抱いてこの井戸に飛び込むのは、向こうの思う壺かもしれない。
216零の牙を衝き立てろ ◆CruTUZYrlM :2012/09/10(月) 11:54:42.07 ID:5gALF87h0

ここで落ち着いて考え直してみる。
一つ、この井戸がここではないどこかと繋がっている。
一つ、この井戸が始めの場所と繋がっている。
一つ、この井戸がなんらかの罠である。
一つ、ただの底の深い井戸である。

最初のケースならば、この井戸に飛び込めば殺し合いの場から脱出することはできる。
ただし魔王デスタムーアは存命しているし、首輪が爆発せずにその形を保っていられるとは限らない。
かなり危険な賭けだが、条件さえ整えば最高の逃走手段になるだろう。
二つ目のケースは最悪だ。
出現する場所はあの魔王の目前であることは確かであるし、脱出を目論んでいることもその場でバレてしまう。
まず、命は無いと思った方がいいだろう。
三つ目のケースは危険だ。
何が待ち受けているか全く読めない以上、危険性は二つ目のケースの次に高い。
だが罠を美味く掻い潜ることが出来れば、向こうの手段を何かしら利用することは可能かもしれない。
四つ目のケースはある意味一番のハズレだ。
ただの井戸、潜って身を隠すぐらいしか出来ない。
何もデメリットがない変わりに、メリットもない。

可能性を無限に孕んだ井戸を、ゆっくりと覗き込む。
見るだけで吸い込まれそうな漆黒が視界には広がるだけ。
酔っ払いのゲロも、一滴の水さえも自分の目には映らない。
やはり見るだけではこの井戸の正体など、掴むことは出来ない。
今この瞬間に飛び込んでいくのは、あまりにも危険すぎる。
そう結論付け、マリベルの方へ意識を向ける。
「なぁ〜マリベルよぉ〜、ケチケチしてんじゃねえよ〜。
 持ってんだろぉ〜、スッゲーお宝よぉ〜」
思考の網を張り巡らせているうちにも、酔っ払いはマリベルに絡み続けていた。
傍から見れば手つきは変態のそれそのものの、少女に執拗に迫る中年男である。
この光景が何時までも続いてマリベルの悲鳴をひたすら聞き続けるハメになる前に、手を打とうとテリーが足を踏み出していった時だった。
「い・い・か・げ・ん・に……しろっ!!」
なんとか手を上げずに堪え忍んでいたが、その声と共に堪忍袋の緒がブチっと切れる音がする。
もう一度体を大きく捻り、絡みつくホンダラの手を振り払い、大きくよろけたところを見逃さず。
一片の迷いもなく、握りしめた拳を突きだし、ホンダラの顎をめがけて振り抜く。
小気味のいい音と共に、ふわりとホンダラの体が浮き上がる。
そして綺麗な放物線を描き、受けた力に抗う事なくゆったりと落下し。
「あ」
二人の間抜けな声が重なりあった瞬間に、ホンダラは吸い込まれるように井戸の中へと落ちていった。
217零の牙を衝き立てろ ◆CruTUZYrlM :2012/09/10(月) 11:55:13.86 ID:5gALF87h0



「真実とは、残酷なモノだな」
「は?」
リンリンが立てと命じたはずの竜族は、地に伏しながら小さくつぶやく。
その不可解な言葉に思わず声を漏らしてしまう。
「勇者も、救世主も、英雄も、そんなモノなど居はしなかった。
 自分たちの都合のいい存在に対し、その名を付けて持て囃しているだけではないか」
誰に命じられたわけでもない、自らの望みを叶える上で邪魔だったからその存在を打ち倒したまで。
周りの人物にとっては都合のいいその存在に対し、聞こえのいい言葉をつけて持ち上げているだけ。
いつしかそれは、綺麗な虚像へと変化し、人々の希望を一心に抱えた夢の英雄だと語り継がれていった。
そして虚像の追い求める人間に、人生すべてを奪われた数人の若者の存在を、この竜族は知っている。
「あやつらがこの事実を知ったら、耐えられんじゃろうな……じゃから」
もし、実像だと思いこまされてきた偉大なる先祖様が虚像だと判明したら?
実際にはこういう人間で、別に世界を救おうとは殆ど思って居なかったとしたら?
その虚像を現に落とし込むために、私情も何もかも捨てて生きてきた若者たちがどうなるか?
考えなくても、竜族には手に取るように分かる。
「ワシが止める!」
顔を上げ、リンリンを睨み返した後に大きく吠える。
体の細胞がうねり、その性質を変化させていきながら一つの形を作り上げる。
アレフガルドの地に伝わる、竜族の真の姿。
人の数倍にも及ぶ巨竜の姿は、全てを焼き尽くす炎と全てを掌握せんとする力を持つと言われている。
気迫溢れるその姿が、あたりの空気を振るわせていく。
「使うことはないと思っていたが、まさかこんなところで使うことになるとはな……。
 おまえとは違う、偉大なる先祖の兵法と戦の心得、その身に刻んで行けい!!」
巨竜の剛腕が、目の前の少女に向けて振り抜かれていく。
一般人からすれば即死は免れない勢いの腕を視界に捉えながらも。
リンリンの表情は、凍り付いていた。
「ヌルい」
巨竜の腕がはじき返される。
地面を抉り取るような大振りの一撃が、小蠅をあしらうかのような軽い動きに止められていた。
218零の牙を衝き立てろ ◆CruTUZYrlM :2012/09/10(月) 11:55:48.85 ID:5gALF87h0
「あなた、戦いの場に立ったことがありませんわね?
 子供のような戦い方、力に腰が入ってませんわよ?」
一歩引き、拳を構える。
腕をはじかれたことを理解した巨竜が、炎を吐く構えに入る。
リンリンは動かず、巨竜の次の一手を待った。
「あなたこそ、目に焼き付けなさい。
 力とは、こう振るうものですわ」
全てを溶かし尽くすような炎が、巨竜の口から溢れだした時、リンリンはそうつぶやいた。
そして、炎はリンリンを包み込んでいく。
服は炭と化し、肉が焼け、やがてそこには骨が残る。
そう、普通ならば。
「未来に苦しんでいる人間が居る? 私たちのせいで?
 知ったことではありませんわ、いちいち自分の死に果てた後の未来のことまで考えられる訳がありませんわ。
 自分の人生、自分の好きなように生きて何か問題でもありますの?」
巨竜の耳に届いたのは、地面が大きく砕ける音と、聞こえるはずのない声。
炎の中を突き抜けながら、リンリンはまっすぐとその手を巨竜の腹部へと突きだしていった。
爆発的な加速力、まるで弾丸のような一撃を巨竜の腹部に叩き込んでいく。
「現状を打破するだけの力がなかった、その方たちが弱かっただけ。
 弱者というのは得てして何かのせいにしたがりますわ。
 わからないこともないですが、私を巻き込まないでくださります?」
よろける隙間すらを与えず、一撃の後に巨竜の頭へと飛びかかる。
ようやく痛みを認識し、身を悶えさせようとした巨竜の動きよりも早く、リンリンは全身を使って巨竜の首を捻らせる。
ゴキャリという骨が曲がるような音と共に、巨竜の顔は明後日の方向を向き、力なく倒れていった。
「全く、キテレツな夢ですわ。私の心が弱いのがいけないのかしら。
 もっと鍛練を重ねなければいけませんわね」
巨竜は力なく地に倒れ伏し、物言わぬ屍と化した。
その姿に一厘の興味も向けず、彼女は黙々と荷物だけ奪い去って行った。
その時だ、彼女の視界にあるものが映ったのは。
「おや……?」
何の変哲もない、ただの道具。
でも、巨竜の荷物を回収する彼女の意識に割り込むように映った道具。
光っていないはずなのに輝いて見えたそれを拾い上げ、彼女は小さく腕を振るった。



しゃらん。
219零の牙を衝き立てろ ◆CruTUZYrlM :2012/09/10(月) 11:56:32.51 ID:5gALF87h0



沈黙。
吸引力が違うとでもいわんばかりに、一人の中年が井戸に誘われた。
偶然と偶然がかみ合い、とんでもない事態を引き起こした。
「……音は聞こえないな」
未だに固まって動かないマリベルをよそに、テリーは冷静に状況を判断する。
盗賊として鍛えた耳を澄ましても、何かの音は井戸からは聞こえなかった。
井戸の奥底がかなり深い、あるいは井戸の底にある程度広い空間が確保されているか。
"底がない"という可能性のケースだったときが若干厄介な程度か。
「イザと言う時の逃げ場くらいにはなる、か……?」
「ねえ、アンタ今の状況分かってんの!?」
冷静に場を判断し、イザと言う時の予定を立てていたテリー。
その様子が悠長に過ごす青年のように見えたのか、マリベルは若干声を荒げてテリーに歩み寄る。
「そりゃあ、いざって時に備えて逃げ道ぐらい調べとかなきゃマズいだろ」
「そうじゃなくって!」
思いっきり地面を踏みつけて怒りを露にするマリベル。
その口が開く前に人差し指を伸ばした手を添える。
「分かってる、分かった上でそうやってるんだよ」
何が? という声を出す前に、テリーが押さえ込むように言葉を続けていく。
「起こってしまったことは変えられない、それを受け止めた上でどう動くかが重要だ。
 やってしまったことはしょうがない、酔っ払って絡んでたアイツの自業自得だとは思うし、お前を責めるつもりもない。
 お前は自衛のためにぶっ飛ばした、そしてアイツは井戸に落ちた、それだけだ。
 だから、次に備えて動いていくことが大事に決まってるだろ?
 過ぎたことに一々ウジウジ悩んでたら、前には進めないからな。
 それとも何か? ぶっ飛ばされても文句は言えないレベルで絡みに来た奴をぶっ飛ばして起きた事故に、態々立ち止まって悔やむつもりか?」
マリベルに喋る隙間を与えないよう、畳み掛けるように口を開く。
思うところがあったのか、人を突き飛ばしてしまったという事実に怯えていたのか、なんにせよマリベルは平常ではなかった。
テリーに慰めの気持ちがあったかどうかはわからないが、テリーの言葉によってマリベルは落ち着きを少しずつ取り戻していく。
「……それもそう、ね」
止まっている時間などない、起きてしまったことは変えられない。
そう言い聞かせるように頬を叩いてから前を向き、テリーの手を取ろうとした時。
突き刺さるような闘いの気が彼女達を揺らした。
220零の牙を衝き立てろ ◆CruTUZYrlM :2012/09/10(月) 11:57:08.78 ID:5gALF87h0
「なっ、なによコレ?!」
全身から汗が吹き出るプレッシャー、蛇に睨まれたかのように動けず、立ち止まる。
しかも、その気を放つ存在は着実にこの洞窟へと向かってきている。
この気を放つ存在に心当たりはあるものの、先ほどとは段違いの気にテリーですら足がすくみ始めている。
どの道、この場に留まれば「アレ」の餌食になるのは見え見えだ。
先ほどの状態でギリギリ五分、今の状況ならマリベルがいたとしても大幅に不利であることは分かる。
そもそも「闘う」という部隊に立たせてくれるかどうかすら分からない。
「袋の鼠かッ!」
外に出ればヘルハーブの湯が待っているし、この洞窟はここで終着点を迎えている。
「アレ」がこの洞窟に気がつかない訳もないだろう、あの戦闘力があればヘルハーブを突っ切ることも容易だろう。
ヘルハーブに浸かりながら戦闘が出来るとも思えないが、向こうにとって洞窟の中は最高の舞台。
ここで闘えば一瞬で決着がつくことすら考えられる。
「クソ……!」
ギリリ、と歯を軋ませる。
恐怖の瞬間は、確実に近づいていた。



しゃらん。
たのしいタンバリンの音が鳴り響く。
しゃらん。
その音は愉快な気分にさせてくれる。
しゃらん。
気持ちがいいからもう一度鳴らしたくなる。
しゃらん、しゃらん、しゃらん。
「不思議な感覚……でも、悪くない。むしろ開放感すらある……心地の良い夢ですわ」
人を殺す感覚とは違う、新しい快感に満足している。
その間も人間の潜在能力を引き出すタンバリンが、鳴り響いていく。
一音一音が人間の脳に作用し、精神的高揚をもたらして肉体的能力を引き出していく。
それを爆発させるその時を待ちながら、リンリンはタンバリンを鳴らしながら温泉内へと入っていった。
鳴り続けるタンバリンがまた一段、また一段とリンリンの心を高まらせ、快感を与えていく。
「おや?」
温泉に一歩足を踏み出したとき、僅かながらにリンリンの体勢が崩れた。
敵襲を受けたわけでもなく、先ほどまでの戦闘の余波が回ってきたわけでもない。
「なるほど、力を奪う魔の湯といったところかしら」
考えられるとすれば、足下の緑の湯だ。
タンバリンとは違う心地よさの反面、力がじわじわと抜けていく感覚もある。
普段のリンリンなら多少は危機感を抱いたかもしれない。
そう、普段の彼女なら。
221零の牙を衝き立てろ ◆CruTUZYrlM :2012/09/10(月) 12:00:27.19 ID:5gALF87h0
「全く、どうしてこうも私の邪魔をする要因が多いのかしらね?」
タンバリンによる快感、それを邪魔するように力を奪う緑の湯。
リンリンにとって、それらは不快な存在でしかない。
愉快な夢を妨げる存在は、全てつぶすのみ。
緑の湯の中で深く深く息を吸い込む。
全身の意識と神経を一点に集中させる。
脳から流れ出た信号体中をかけ巡り、該当個所の筋肉を固める。
大きく緩やかに弧を描きながら、太股が振りあげられる。
頂点にさしかかった後、目にも留まらぬ早さで地面へと叩きつけていった。
一つの爆音と、はじけ飛ぶ湯。
何かが蒸発するような音と共に、姿を現したのは一つの大きなくぼみ。
片足によるたった一撃で、このヘルハーブを巡回していた湯をまとめあげるような大きなクレーターを作り上げて見せたのだ。
「これが私の力……ふふふ、いい、いいですわ! すべてが、すべてが素晴らしく心地の良い夢!」
もう、足を止めるモノは何もない。
この地に新しくできた緑色の湖を後目に、一歩ずつ一歩ずつ足を進めていく。
心地よく、気分をよくしてくれるタンバリンの音が鳴り響く。
それが鳴る度に、リンリンの足取りも軽くなっていく。
「あら?」
中央部にある巨岩、その中に入り込んでいった彼女。
「おかしいですわね、確かに何者かの気を感じたのに……」
牢獄の扉の先にあったのは、空の酒瓶が数本と、一つの井戸がぽつりと存在していただけだった。
人間の気を感じ、ここへ進んできた彼女は思わず首を傾げる。
「まあ、いいでしょう。それならそれで新しい人間を捜せば良いだけですわ」
井戸にも酒瓶にも微塵の興味を示さずに、彼女はその地を後にしていく。
今の彼女がこの"夢"で求めるのは無限の闘争、血沸き肉踊る争いの舞台。
そこで生命の断末魔を聞くことが目的なのだから、人間がいないのならば彼女が興味を引かれるはずもない。
タンバリンの音と共に、また別の戦の化身が足を進める。
西の地から、東へ東へ。
拳の魔神が、足を進めていく。
精神を高揚させる、タンバリンの音と共に。


真っ黒。
視界一面を埋め尽くすのは、黒、黒、ただただ黒。
自分の両手すら見えないこの空間で、テリーはしっかりとマリベルの手を握り続ける。
そうしないと、彼女がどこに行くかも、自分がどこに行くかも分からないから。
あの場にそのまま留まり、強大な闘気の持ち主であるリンリンと闘うことは自殺行為に近かった。
感じた"あれ"を信じるならば、自分もマリベルも数秒もたないだろう。
だが自分達が先ほどまで居たのは袋小路、逃げ場のない鼠と大差のない状況だった。
だから、ほんの僅かでも生き残る可能性が残されているコトに賭ける。
ベットするかしないかではない、しなければいけないのだ。
何の反応も返ってこなかった井戸、そこに飛び込んでいくほか無かったのだ。
咄嗟にマリベルの腕を掴み、体を引き寄せて共に井戸に飛び込んでいく。
それからずっと、視界は暗闇に包まれたままだ。
「あーもう! さっきから勝手に突っ走るんだからー!!」
マリベルが叫ぶ。
咄嗟の判断とはいえ、助かるための道を選んだはずなのだが、やはりマリベルにとっては「勝手な行動」になってしまうらしい。
ギャアギャアと騒がしい声と共に、テリーは暗闇の中をひたすらに落ち続ける。
どこに向かっているのか、そもそもどこかへ向かっているのか?
それは、わからない。
222零の牙を衝き立てろ ◆CruTUZYrlM :2012/09/10(月) 12:00:57.58 ID:5gALF87h0














さて、ここで問題だ。
最初に井戸に飛び込んだはずの酔っ払い、ホンダラ。
彼もテリー達と同じように暗闇を落ち続けているのか。
既にその闇の先に辿り着いているのか。
それとも……この闇に飲み込まれ、命を失ったのか。

答えはそのどれでもない。

「いててて……ん、何だァ?」
空間から放り出されてごろごろとしばらく転がった後に、文句を並べながらホンダラは起き上がる。
見れば先ほどまでの空間ではない事ぐらい分かるのだが、酔っ払っている今の彼はそれどころではない。
もしここに辿り着くことが出来たのがホンダラでなければ、今の状況が笑えないことぐらい容易に察しがついただろう。
何の緊迫感も無く、腹を掻きながら酒を煽る彼が今立っている場所。
そう、この殺し合いの参加者が忘れるはずもない場所。

全ての始まりの場所に、彼は立っていた。

そんなこともつゆ知らず、彼は金目の物を求めて辺りを歩き出す。
懐に隠し持っていた真実のオーブが光り輝いていたことに気がつく様子など、全く見せる様子も無く動き出していた。

全ての参加者があずかり知らぬところで、歯車が一つ填まっていた。
223名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/09/10(月) 12:01:19.39 ID:XYUKK0JF0
支援
224零の牙を衝き立てろ ◆CruTUZYrlM :2012/09/10(月) 12:01:30.45 ID:5gALF87h0

【竜王の曾孫@DQ2 死亡】
【残り44人】

【F-1/ヘルハーブ温泉内部/昼】
【リンリン@DQ3女武闘家】
[状態]:ダメージ(中)、腹部に打撲(中)軽度の火傷、スーパーハイテンション
[装備]:星降る腕輪@DQ3
[道具]:場所替えの杖[8]、引き寄せの杖[9]、飛び付きの杖[9]、ふしぎなタンバリン@DQ8
     銀の竪琴、笛(効果不明)、支給品一式×3、不明支給品(0〜1個)
[思考]:強者とは夢の中で今までできなかった死合いを満喫し、弱者の命の慟哭を聞く。
     自分の知らない自分の力をもっと試したい。
[備考]:性格はおじょうさま、現状を夢だと思っています。

【???/????/昼】
【テリー@DQ6】
[状態]:ダメージ(中)、背中に打撲、MP消費少、マリベルと手を繋いでいる。
[装備]:ホワイトシールド@DQ8
[道具]:支給品一式(不明支給品0〜1)(武器ではない) 盗んだ不明支給品1つ
[思考]:闇から抜ける。誰でもいいから合流する。剣が欲しい。
[備考]:職業ははぐれメタル(マスター)
    (経験職:バトルマスター・魔法戦士・商人・盗賊 追加)

【マリベル@DQ7】
[状態]:健康、MP微消費、テリーと手を繋いでいる
[装備]:マジカルメイス@DQ8 
[道具]:支給品一式 (不明支給品0〜2)
[思考]:キーファに会って文句を言う。ホンダラは保留。

【???/スタート地点/昼】
【ホンダラ@DQ7】
[状態]:健康、泥酔
[装備]:なし
[道具]:真実のオーブ@DQ6
[思考]:無事に帰らせてもらえたら俺は英雄ホンダラだぁ〜。
     高そうなもんを探すぞぉ〜。
[備考]:ホンダラが持っていた酒はカウンターからくすねたもの。

※ヘルハーブ温泉に大きな穴が出来、ヘルハーブ温泉の湯が一箇所に集められています。
225 ◆CruTUZYrlM :2012/09/10(月) 12:02:00.84 ID:5gALF87h0
投下終了です。
なにかありましたらどうぞ。
226名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/09/10(月) 12:35:19.00 ID:XYUKK0JF0
乙でした!
曾孫では無理だったか…
スーパーハイテンションのリンリン怖い、超怖い

これから向かう方向は
1.竜王組
2.絶望の街
3.ソフィア・ハーゴン組
のどれかだけど3は午前で止まってるから方向によっては除外かな
どこ行っても面白そうだけど出会った誰かは死んでしまいそうだ…

テリーとマリベルも今後気になるし
放送前にホンダラまさかの主催一番乗りだしワクワクします
227名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/09/11(火) 23:52:56.66 ID:352SLJX60
3は勇者以外だめだめだなぁ…その勇者はもう死んじゃったが…
228名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/09/12(水) 07:33:56.30 ID:g82BLprH0
×勇者以外だめだめ
○勇者もけっこうだめだめ
229名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/09/14(金) 14:43:28.34 ID:rGW7bFPb0
月報データ
DQU 58話(+ 4) 44/60 (- 2) 73.3 (- 3.4)
230名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/09/19(水) 01:25:29.34 ID:G4gtYzsa0
231名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/09/26(水) 19:20:24.63 ID:trtqM9Rf0
代理投下行きます。
232名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/09/26(水) 19:20:46.20 ID:trtqM9Rf0
109 名前:熟れすぎた毒林檎  ◆YfeB5W12m6[sage] 投稿日:2012/09/26(水) 07:40:00 ID:???O
大魔王デスタムーアの配下の一匹、デュラン。

彼は実に好戦的な魔物である。
しかしそれはただ戦いが好きなだけではなく、彼は"拮抗した戦い"を特に好んだ。
ヘルクラウドにロッシュ達を自ら招き入れ、ましてや客人として扱い、いざ自分との戦闘に入ろうとすれば敵の体力を回復させ、ロッシュ達と全力で戦えるよう配慮までした程に。


"強い者との戦いこそ我が命の全て"



彼が生きる理由は、勿論自身の主君の為である。
しかし、彼の生きる楽しみはただ一つ、戦いのみである。


       ◆  ◆ 


 ブゥン。

風切り音というには、破壊的すぎる音が顔のすぐ横で破裂する。
その音をすぐそばで聞いたロッシュは、浮かべていた苦笑いをさらに深くした。

 ロッシュによけられ空中で空振る事になったデュランの剣は、そのまま振り落とされ地面を砕いた。
振り落とされるのと同時にその場からロッシュは飛び退いた。
着地と同時に剣を地面へ突き立てる。

「『ジゴスパーク』」

デュランを中心に赤黒い閃光が走る。
閃光が縮小し、次の瞬間には周りの木々を巻き込みながら、耳を塞ぎたくなるような爆発音と共に砂埃が舞う。
233名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/09/26(水) 19:21:10.50 ID:trtqM9Rf0
110 名前:熟れすぎた毒林檎  ◆YfeB5W12m6[sage] 投稿日:2012/09/26(水) 07:41:39 ID:???O


砂埃が立ち込め、視界が煙る中ロッシュは苦笑いのまま呟く。

「期待した程……効いてないみたいだね」


ジゴスパーク、それは地獄の雷を放つ究極の技。
放たれた者は最後、ただ跡形もなく焼き尽くされるのみである。

−−−例外を除き。


砂埃が晴れ現れたのは、圧倒的存在感を見せつけながら仁王立ちをする朱色の体。

「……今のは少々ひやりとさせられたぞ。
 さすがは勇者、と言った所か」

「いやいや、そんな笑顔で言われても全く説得力が無いからね?」


デュランの体は、小さな火傷で所々が黒ずんでいたが、ただしそれだけであった。

ロッシュは破邪の剣を構え、デュランへと走り出す。
デュランは笑ったまま動かない。
二メートル程の距離を一瞬で詰めたロッシュの剣はデュランの首を掻ききろうと振り落とされるが、それはデュランの右手により防がれる。
デュランの右手から血が吹き出すが、デュランは笑みを崩さない。

「その程度じゃ無いだろう?」

「……っ!」

剣を受け止められたまま空中で腰をひねり、全力でデュランの顔面に膝蹴りを食らわせる。
右手が剣から離れ、空中に放り出されたのをチャンスとしもう一度同じスタンスで回し蹴りを放つ。
234名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/09/26(水) 19:22:02.31 ID:trtqM9Rf0
111 名前:熟れすぎた毒林檎  ◆YfeB5W12m6[sage] 投稿日:2012/09/26(水) 07:44:06 ID:???O
地面に着地後直ぐに剣を構え直し吹き飛んだデュランを追撃する。

「『五月雨剣』」

神速の動きでロッシュが剣を振るう。無数の真空の刃はデュランの体に傷を作り、血が溢れ出る。
五月雨剣から繋いだ一撃はデュランの頭蓋骨を砕く為に渾身の力で振り落とされた。

その一撃もデュランの大剣に防がれた。


金属音が鳴り響き、無防備だったロッシュの腹にデュランの蹴りがめり込み、ロッシュが吹き飛ぶ。
吹き飛んだ事を自覚するより早く吹き飛んだ方向にそびえ立つ大樹に背中を強打し、地面に伏せたロッシュが咳き込む。

その様子をゆっくりと立ち上がりながら眺めるデュランに、追撃する様子は無い。
にやにやと、本当に楽しそうな笑みを浮かべているだけである。


「っは…、……その余裕な笑み……ムカつくなぁ」

「その状態で言われると、かなりの説得力を持つものだな」

あうう。
正直、前に戦った時よりも、僕強くなってるって思ってたんだけどなぁ……。
どうやらこんな時に仲間の大切さを再確認させられたらしい。
……っと、無駄な事を考えてはらんないか


ロッシュはふらふらと立ち上がる。
横腹に添えていた手を剣へと持って行き、三度剣を構える。
その様子を眺めていたデュランも大剣を構え、更に笑みを深くする。
235名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/09/26(水) 19:22:44.59 ID:trtqM9Rf0
112 名前:熟れすぎた毒林檎  ◆YfeB5W12m6[sage] 投稿日:2012/09/26(水) 07:47:08 ID:???O
「立ち上がるか。いやいや、それでこそ愉快な戦いが出来るというものだな。
 私は嬉しいよ、ロッシュ。こうしてまたお前と剣を交える事が」

「僕はもう金輪際勘弁してほしいけどね……!
 僕は平和が好きなんだからさー、君みたいな異常戦闘狂につきまとわれるのって困るんだよね」

「その減らず口がいつまで持つのかも見物だな。」

「ヒュー!
 君みたいなバトルジャンキーでも別の事に興味を示したりするんだねぇ」




ロッシュもデュランも互いに笑みを消すことは無く、示し合わせたように同時に地面を蹴った。
一人は自分の欲望の為に、一人は自分の我が儘の為に。




ただ、自分に忠実に。



【F-8/森/昼】

【ロッシュ@DQ6】
[状態]:HP10/15、MP微消費、全身打撲、軽度のやけど
[装備]:はじゃのつるぎ@DQ6
[道具]:支給品一式 、不明支給品(確認済み×0〜2)
[思考]:デュランを倒す

【デュラン@DQ6】
[状態]:HP8/10、軽度の火傷、切り傷(小)
[装備]:デュランの剣@DQ6
[道具]:世界樹の雫@DQ6、エルフの飲み薬@DQ5、基本支給品
[思考]:より多くの強き者と戦い、再び出会ったときにカーラと決着をつける。ロッシュとの戦いを楽しむ。
[備考]:ジョーカーの特権として、武器防具没収を受けていません。
236名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/09/26(水) 19:23:46.88 ID:trtqM9Rf0
代理投下終了です。
バトルの前哨戦、互いが互いに力を確かめ合うようにぶつかっていく!
仲間がいないことを考えるロッシュが、この後どう動いていくのか……
投下お疲れ様です!
237名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/09/26(水) 22:34:39.64 ID:VwdWXDI30
投下乙です
比較的短めな文章なのに戦闘描写が明快で想像しやすかったです
こういう話はもっとあっていいと思う
238名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/09/28(金) 00:08:42.57 ID:QOghsfLP0
おつでーす。短いながらも二人の魅力を存分に伝えてくるバトルでいいね!
239 ◆CruTUZYrlM :2012/09/28(金) 22:58:59.31 ID:uz2nEwKq0
投下します
240毒を飲んだ者、毒に勝てぬ者 ◆CruTUZYrlM :2012/09/28(金) 23:01:12.66 ID:uz2nEwKq0
逃げる。
足が棒になっても、息がどれだけ上がろうとも、体力という体力が尽き果てても。
あの場所から一刻も早く逃れなくてはならない。
「うわ、うわあ、うわわわわあああ!!」
思い返すだけでも恐ろしく、喉は情けのない声を捻りだし、意識という意識が震え上がり、体中の警鐘を鳴り響かせる。
だが、どれだけ逃げても逃げても、逃れられないようにすら思う。
来た道はもう殆ど引き返しおわり、欲望の町の目前まで来ているというのに。
あの魔人の猛る声が、一挙一動の風を切る音が、そこで何が起こっているのかが耳から伝わってくる。
知りたくもない、耳に入れたくもない情報達が、彼の意志とは無関係に飛び込んでくる。
遠方の音を明確に察知し、相手の位置や行動が手に取るように分かる。
その力を授ける地獄耳の巻物の効果が、今もなお彼を苦しめている。
この殺し合いを生き抜くために手にしたはずの力で、選択の余地すらなく彼は苦しめられている。
刻一刻、音が聞こえるかのように彼の何かを削り取っていく。
魔人の笑い声と、戦いの光景を思い起こさせる音を背に。
彼は、絶対に振り向かずに逃げ続けた。
いや、振り向くことなど出来るわけがなかった。
今の彼は地獄耳だけではない、遙か先まで見渡す千里眼の持ち主でもあるのだから。
遠くが見えると言うことは、この殺し合いにおいてこの上なく有利な能力である。
だが今は、今だけはその能力が恨めしいと思う。
音と声の聞こえるほう、ちょうど背中の向きを振り向いてしまえばおわりだ。
あの恐ろしい魔人の姿が目に映り込んでくる。
大声で笑い、剣を振るう魔人の姿が否応なしに飛び込んでくる。
だから、絶対に振り向かない。
自分が、今度こそ恐怖でどうにかなってしまいそうだから。
241毒を飲んだ者、毒に勝てぬ者 ◆CruTUZYrlM :2012/09/28(金) 23:02:07.13 ID:uz2nEwKq0



「何よ、アレ……」
立ち尽くす。
何も出来ない無力さを、噛みしめるように。
目の前で一人の魔人と一人の青年が、互角の戦いを繰り広げ続けている。
体の動きを目で追うことすら叶わず、弧を描く剣と巻き起こる雷その他諸々。
その光景を一歩離れた安全な場所で、彼女は見つめることしか出来ない。
勇者と呼ばれる者は、ここまでの激闘を繰り広げ続けているというのか。
「ソフィアも……こんなふうに……」
無意識につぶやいたのはこの世界のどこかで、戦っているのであろう親友の名。
彼女が世界を救うまでの旅路の中にも、これと同じ規模の戦いがいくつもあったのだろう。
「あなたは世界を救う勇者なのだから、がんばって」
なんて無責任な台詞を、過去の自分は平気で吐いていたのか。
死の恐ろしさはイヤと言うほど知っているが、戦いの恐ろしさは知らない。
こんな恐怖と向き合いながら、戦って、戦って、戦い続けてきたというのか。
ロッシュも、ソフィアも、そしてレックスも。
勇者と呼ばれる人間は、こんなにも苦しい思いを背負っていたのか。
世界を救う戦いというのは、それほど重みのある者だったのか。
「確かに、待つ側は気楽でいいわね」
苦しみも知らずに、世界が平和になるのを待ち続ける人間。
勇者がどんな事をしているかより、いつ平和になるのかを気にかける者達。
自分にはその力がないから、などと理由を付けて。
一歩下がった安全な場所でぬくぬくと過ごしている。
今の自分の状況と、自分の世界の人々の状況が、形は違えど合致し始めている。
「……冗談じゃない……」
だが、彼女は違う。
かつて天空の勇者ソフィアを守るため、この世界を守るため、自らの命を投げ出した。
きっと今、ロッシュが必死にデュランと戦っているこの状況でも出来ることが何かあるはずだ。
あの時は命を投げ出すことしか考えられなかったが、今はほかに道がある。
むしろこの殺し合いの場で、デュランの目の前に現れて命を投げ出すことは犬死にに等しい。
もっと、生きることでロッシュの助けになる何かがあるはずだ。
デュランの言っていることが本当で自分の予想が的中しているなら、雑魚扱いの自分が逃げ出したところでかまってすらもらえないだろう。
だから、今の自分が出来る最大限のことをするしかない。
「待ってて、ロッシュ」
その一言を残し、即戦力になれない自分を恨みながら。
戦いの場から素早く退いていった。
242毒を飲んだ者、毒に勝てぬ者 ◆CruTUZYrlM :2012/09/28(金) 23:02:39.46 ID:uz2nEwKq0

戦局はギリギリ見据えることが出来る場所で、シンシアは自分の荷物をブチ撒ける。
いま必要なのは武器や防具ではない、そもそもロッシュに手渡すことで何か役に立つ物など一つも無いのだから。
そう、今必要なのはこの局面を大きく変えうる道具。
デイパックに荒っぽく手を突っ込み、それに手をかけて勢い良く引き抜く。
ツマミを親指で一気に回し、キィンという耳障りなハウリング音を鳴らすそれを急いで口元まで運び。
「誰か助けて!!」
鼓膜が張り裂けそうになるほどの大声で、力の限り叫んだ。

拡声器。
己の声をより遠く、より大きく広げてくれる。
彼らにとっては魔法よりもすごい魔法の道具。
シンシアはこれを使って助けを求めた。
この状況を変えてくれそうな、誰かが来てくれる事を願って。
誰かを呼び寄せるということの危険性がどれだけ高いのかは分かっている。
だから、欲望の町ではこの道具を使わずに置いていた。
だが、今は違う。
勇者でも魔王でも、誰が来ようと構わない。
この状況を変えうる力を持った誰かなら、構わない。
戦いを欲する魔人を満たしてくれそうな者なら、誰でもいい。

あの魔人の眼中にすら入れてもらえない者が、唯一できることだから。
彼女は力の限り、喉が潰れそうになるまで叫び続ける。
生み出された数々の声が、間もなく放送を迎える空へと轟いていく。

ああ、結局は他人頼りで自分自身では何も出来ないのかと。
死ぬ前にも分かったことを、前回よりも嫌な形でもう一度味わう。
悔しさで強く噛み締めた唇からは、一筋の血が流れていた。

【F-7/欲望の町付近/昼】
【影の騎士@DQ1】
[状態]:変化、千里眼、地獄耳
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式(ランタンなし)、変化の杖@DQ3
[思考]:とりあえず欲望の町に潜む
     闇と人の中に潜み続けて、戦わずして勝ち残る。
     争いを加速させるためあらゆる手段で扇動する。
[備考]:変化の杖でミレーユの姿に変化しています。持続時間は不明です。
千里眼の巻物により遠くの物が見え、地獄耳の巻物により人の存在を感知できるようになりました。
範囲としては1エリアほどで、効果の持続時間は不明です。

【F-8/森の外れ/昼】
【シンシア@DQ4】
[状態]:全身打撲
[装備]:拡声器
[道具]:支給品一式×2、ゾンビキラー@DQ6、メタルキングの槍@DQ8、不明支給品(確認済み×0〜3)
[思考]:ソフィアとの再会、ピサロは……?
     この状況を変える誰かが来ることを祈る。
     レックスを殺した襲撃者を知りたい。
※モシャスはその場に居る仲間のほか、シンシアが心に深く刻んだ者(該当:ソフィア)にも変化できます
※拡声器を使用しました。F-8北部を中心に声が広がりました。
243 ◆CruTUZYrlM :2012/09/28(金) 23:08:39.06 ID:uz2nEwKq0
投下終了です、何かありましたらどうぞ。

それといくつか提案が。
放送の予約を解禁しませんか?
今回の投下で大体のパートが昼に到達し、残りのパートもそこまで問題はないパートだと思います。
どうしても放送前のパートで書いておきたい! っていう人がいなければ土日明けの月曜ぐらいに放送予約解禁。
放送が投下され、通しになったあたりで第一放送後解禁って感じにしてみてはどうでしょうか?

あと、第一放送後は予約期限を伸ばしませんか?
序盤のラッシュも落ち着きましたし、延長ナシで7〜10日ぐらいにしてもいいと思います。
延長制度を設けてしまうとどうしても「延長があるから」という気持ちになってしまいがちなので、
それならば一回の予約で長めに設けた方がいいかなと思います。

どうでしょうか? ご意見お待ちしております。
244 ◆1WfF0JiNew :2012/09/30(日) 18:00:09.90 ID:fG1TJK8g0
返答が遅れて申し訳ない。
前者、後者の案はいいと思います。
まあ、他の書き手さんがどんな意見かはわかりませんが、自分は賛成です。
245 ◆CruTUZYrlM :2012/10/02(火) 00:47:11.79 ID:Y7gz+Y2W0
避難所もあわせご意見ありがとうございます。
大体OKそうなので、ちょっと間をおいた10/4(木)に放送予約解禁→放送投下後二日後くらいに放送後予約解禁。
という感じの流れで行きましょう。

予約期限も特に異論はないっぽいので予約期限は延長なし一発で10日にしたいと思います。
予約スレにはアナウンスをしておきますが、放送投下後の予約解禁前にもう一度アナウンスします。
246 ◆HGqzgQ8oUA :2012/10/06(土) 21:33:11.70 ID:JVRQ9L0u0
放送を投下します
247第一回放送 1/2 ◆HGqzgQ8oUA :2012/10/06(土) 21:34:37.58 ID:JVRQ9L0u0
 
 
 ――狭間の世界の空に、どこからともなく霧が広がった。
 
 
「ゲーム開始から六時間が経過した。
 これより、一回目の定時放送を行う」

 霧はやがて、いくつもの髑髏のような模様となって蠢きはじめた。
 まるでそれらの髑髏が、意思を持って声を響かせているかのように。

「自己紹介をさせてもらおう、私の名はアクバー。
 此度の“宴”の進行役を、デスタムーア様に代わって執り行う者である。
 この放送を耳にすることの出来た者全員に、まずはねぎらいの言葉を贈らせてもらおう。
 そしてこれから与える情報は、聞いていなかったでは済まないものだ。
 我が言葉には、しっかりと耳を傾けるのが懸命と言えよう」

 アクバーと名乗った魔物は、皮肉を交えながらも、淡々と話を進めていく。

「先に確認をしておこう。ルールブックを読まない者が、居ないとも限らん。
 この定時放送は、今後も六時間ごとに行われる。
 通知するのはその間の死者と残り人数、そして禁止エリアの位置が主となる。
 その他、伝達する必要がある事項が生じた場合も、ここで通知する。
 禁止エリアは、この放送後より二時間ごとに一エリアずつ施行され、
 選ばれたエリアは以後、その名の通り侵入を禁ずるものである。
 それでもなお侵入を試みたらどうなるかは、愚かな貴様たちでも想像がつくことだろう。
 まあ、試すのは自由だがな。さて……」

 空を舞う髑髏たちが嗤う。
 これより告げられる言葉に、希望はない。
 かといって、絶望に耳をふさぐことも許されてはいない。

「準備はできたか? 本題に入ろう。
 まずは、禁止エリアから読み上げよう。

  二時間後に【G−5】
  四時間後に【E−1】
  そして六時間後に【B−6】だ。

 忘れないように地図にでも書き込んでおくが良い」
248第一回放送 2/2 ◆HGqzgQ8oUA :2012/10/06(土) 21:36:24.72 ID:JVRQ9L0u0

 アクバーは、あえてここで一つ間をおいた。
 それが参加者たちに記録を取らせる時間を与えるためだとかは、断じてない。
 参加者たちの感じているだろう恐怖や緊張。その香りを楽しみたかったからに過ぎない。

「では次だ。待ちかねたか?
 これより、ゲームの開始から今までに砕かれた命たちの名を読み上げよう。
 
  デボラ
  ゴーレム
  アレル
  ギュメイ将軍
  ハッサン
  エイト
  あきな
  キーファ
  ククール
  ピエール
  イザヤール
  レックス
  サンディ
  エルギオス
  ガボ
  竜王の曾孫

 以上、十六名。残り人数は四十四人となった」

 現実を突きつけられ、これから参加者たちに広がっていくだろう動揺や困惑、絶望たち。
 それらの予感をひしひしと感じて、アクバーはついに破顔した。
 
「ふふふふふ。面白いっ! 実に愉快であるぞっ!
 僅か六時間の間にこれほどの命が砕かれるとはっ!
 これならば、終わりも存外早いものかもしれんな。
 引き続き奮闘し、我々を楽しませてくれたまえ。
 今回の放送は以上だ。ふふふふふ……」

 低く下卑た笑い声とともに、髑髏の霧は晴れていく。
 まるで新たな惨劇の幕が、開けたかのように。


 ――破滅の宴は、続いていく。


【残り44人】
249 ◆HGqzgQ8oUA :2012/10/06(土) 21:40:17.76 ID:JVRQ9L0u0
投下終了です。

放送後の予約解禁は、いつにしましょうね
今夜すぐはさすがに慌しいと思うので、日曜夜あたりを希望しておきます
250名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/10/06(土) 21:50:09.60 ID:QHGC3SP8O
10/8の0:00でいいんじゃないでしょうか
251名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/10/08(月) 00:40:45.20 ID:uYxUJIVj0
それでは本日から放送後のSSの予約解禁ということで
今後ともよろしくお願いします
252 ◆CruTUZYrlM :2012/10/10(水) 21:37:23.27 ID:+QwjYZ900
どうも、第一放送を超えたらラジオをすると行っていた通り。
第二回の「チャモっていいとも!」を10/28(日)の21時頃から行います。
前回みたいな感じでトークできればいいなーと。
第一放送までを振り返る感じで、是非是非オハナシしましょう。
当日、Skypeによる突撃も大歓迎ですよ。

番組URL:http://ustre.am/JFBT
253名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/10/21(日) 00:24:44.07 ID:HwY0hQLJ0
保守を
254夢閉じる少女 ◆1WfF0JiNew :2012/10/24(水) 22:43:13.10 ID:O5sWxsTd0
アレル。
アレルアレル。
アレルアレルアレル。

放送を聞き終えたリンリンの頭の中はアレルのことでいっぱいだった。
それは恋煩いの乙女チックな繊細なものでもなく。
ただ、怒りに溢れていたものである。

「うふ、ふふっ」

つい数分前までタンバリンの効果によりハイテンションとなっていた感情は一瞬で沈んでしまった。
夢の中であるからこそ、飽くなき闘争に身を捧げることができ、仲間であるアレル達とも血沸き肉踊る殺し合いができるというのに。
まさか、最初の放送で名前が呼ばれるなんて。
あり得ない。あってはならない。

「うふふふふふふふふっ」

ゆらり、ゆらり。万全であるはずの身体が横に縦にと大きく揺れる。
思いの外。否、夢の中という感覚が消えてしまいそうなくらいにアレルの早すぎる退場はリンリンにダメージを与えていた。

「うふふふふっ」

普通であったら、かけがえのない仲間が居なくなって悲しいという真っ当な感情によるものだろう。
だが、生憎とリンリン含めロトの勇者達は真っ当を真っ当と思っていない。
全員が全員、闘争を是と唱え血で塗り固められた道を歩いてきたのだから。

「うふふふふふふふ」

故に、リンリンが抱く感情は怒り。
自分の為による闘争をするのにはアレルが必要不可欠だったのだ。
長い旅路の中でも一度も倒すことが出来なかった好敵手。
その好敵手が自分の見ぬ所で勝手にくたばった。

「うふふふふふふっふふふふふふふふふふふっふふふふふふふふふふ!!!!!」

笑う。嗤う。嘲笑う。
それは何て――悪夢。

「アアアアアアアアアアアレエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエルウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!!」

声が縮まる。収縮された声が大地を震わせた。
粉塵が空に浮かび上がり、木の葉が木からハラハラと舞い落ちる。

「どうして、倒れたんですの……?」

瞬間、世界に静寂が訪れる。
そこにいるのは闘いに焦がれた狂戦士ではなく。

「貴方っ、俺は絶対に倒れないって言ったじゃない!」

ひくひくと声を上げながら涙を流すその姿は、どこの世界の町娘とも変わらない一人の女の子だった。
ありふれた、血の通った人間だった。
255夢閉じる少女 ◆1WfF0JiNew :2012/10/24(水) 22:44:20.07 ID:O5sWxsTd0

「何が、俺を倒せるのは俺だけだですの!」

夢だから大丈夫? 目が覚めたらいつも通りに笑っている?
知ったことか、そんなこと。関係ない。
アレルは常に最強で自分以外に倒されてはいけないのだ。
リンリンの中のアレルは最強なのだから。
自分の終着点なのだから。

「馬鹿っ! 馬鹿っ! アレルの馬鹿っ!」

罵った所でこの夢の中ではアレルはもういないのだ。
最高の夢が、最悪の夢に変わる。
ああ、憎たらしい。
自分以外の何者かに倒されたアレルが憎たらしい。
アレルに辿り着く前に寄り道をしてしまった自分が憎たらしい。
その寄り道をしなければ、アレルと出会うことができ、闘えたかもしれないのに。

「貴方はいつもそうよ、私を適当にあしらって置いていくっ!」

それは、旅の頃から常に感じていたものだった。
彼の見る世界には後ろなどない。前に進むことしか頭にないのだから当然だ。

「いつも待たされる人の気持ちを知らないで!」

リンリンは彼よりも早く歩こうと決めたのだ。
少しでも強くなり、いつかは彼の前に立てるように。

「……アレルの、馬鹿っ」

伝えたくても、届かない。
だけど、声に出さずにはいられなかったのだ。



【F-2/森/真昼】
【リンリン@DQ3女武闘家】
[状態]:ダメージ(中)、腹部に打撲(中)軽度の火傷
[装備]:星降る腕輪@DQ3
[道具]:場所替えの杖[8]、引き寄せの杖[9]、飛び付きの杖[9]、ふしぎなタンバリン@DQ8
     銀の竪琴、笛(効果不明)、支給品一式×3、不明支給品(0〜1個)
[思考]:強者とは夢の中で今までできなかった死合いを満喫し、弱者の命の慟哭を聞く。
     自分の知らない自分の力をもっと試したい。
[備考]:性格はおじょうさま、現状を夢だと思っています。
256夢閉じる少女 ◆1WfF0JiNew :2012/10/24(水) 22:45:30.32 ID:O5sWxsTd0
短いですが投下終了です。
257名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/10/24(水) 22:47:47.19 ID:EfmEhQZOO
支援
258名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/10/24(水) 23:52:08.56 ID:fKprmerT0
うおお! 投下乙!
リンリンかわいいなあ、ああかわいいなあ……
初めてみせる女の子らしい一面が本当にかわいいです。
故に怒りも数倍……リンリンでこれだったらカーラはどーなんねや……
改めて投下乙です!
259名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/10/25(木) 20:57:37.86 ID:q4+JDSki0
投下乙
本来のリンリンがどういうキャラだったのかがうっすら見えたような
それだけに現状のギャップとの乖離が末恐ろしいというかなんというかw
260名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/10/26(金) 22:30:34.34 ID:U4An5BCV0
◆TUfzs2HSwE氏の代理投下いきます
261漏れ日の森 ◇TUfzs2HSwE (代理):2012/10/26(金) 22:31:17.91 ID:U4An5BCV0

(エイト、エイト、エイト……!)

涙が止まらない。
荒い呼吸をとめることもできず、必死に胸をおさえながら、ミーティアは無我夢中で森の中を走っていた。
助けようと思ったピサロのことも、傷だらけのヤンガスのことさえ、もはや脳裏には浮かばなかった。
こわかった。
失われた命が引き起こした、命を壊すための爆発が、瀕死で血だらけになってしまった、ヤンガスの姿が。ただひたすらに、ミーティアには怖いと感じられた。

(何をしているの、私は……)

エイトやヤンガスたちの勇気ある戦いを、目の前でずっと見てきたのではないか。
なのに自分は一体どこに向かって走っているのだろう。
逃げているだけだ。足が止まらない。逃げて逃げて、このまま逃げ続ければ、大好きなあの人に会えるんじゃないかと思った。

(エイト……)

彼がいたら。
きっとあの笑顔で、ミーティアを安心させてくれる。そしてあんな怖い戦いであってもどうにかしてくれるんだろう。
彼は誰よりも強かった。どんな困難との戦いも、その勇気と笑顔でどうにかしてきた。
えいと、えいと、狂ったように、姫は叫び続けた。

「あっ……!」

走り疲れた足が、絡まっていた木の枝にひっかかり、ミーティアは顔からずべりと転んでしまう。
恐怖と疲労と、やきついた景色と、人の死と、すべてがもたらす混乱でパニック状態になっていて、もはや立ち上がることもできなかった。
震える体が、ただ愛する近衛兵のすがたを求めて、ぴくりと腕を伸ばす。
その腕に、かすかに、やわらかな木漏れ日が降りそそぐ。
太陽など存在しない世界でも、正午になれば多少は明るくなるらしく、暗い森にはわずかな光がひどく尊い。
空はすぐに暗くなり、どこからともなく霧が広がっていったが、
あのかすかな光の中に、幼馴染の笑顔が見えた気がして、ミーティアはそっと目を閉じた――


「これより、一回目の定時放送を行う」


禍々しい声が響き渡ったのは、そんなときだった。

身体を投げ出したままのミーティアは、はっとする。
戦いを知らないミーティアでも、今からなにが話されようとしているのかはわかる。
急に、体中の芯から、びりびりとした冷気のような緊張感が張り詰める。
一字一句疑いようもなく頭の中に浸透していく。

ゲームの開始から今までに砕かれた命たちの名が呼ばれていく。

それがどういう意味を持つのか、ミーティアは確かにわかっていた。
でも、わからなかった。
たった今、わたしには何が聞こえたんだろう?
凍りついた時間の中で、ただひとつ、彼の名前だけがこだまする。

『エイト』

エイトが死んだ?
嘘。
そんなはずはない。
262漏れ日の森 ◇TUfzs2HSwE (代理):2012/10/26(金) 22:31:48.56 ID:U4An5BCV0
そんなはずはない。
それが、放送を聴いたヤンガスの脳裏に浮かんだ言葉だった。
やがてすべての名が読み上げられる。忌まわしい放送が終わりを告げ、広がった闇も霧散した。

「……兄貴……」

ざわめいていた森がしんと沈黙にしずむ。陽の光など差しようもない、暗い森。
はおうのオノが、どさりと突き刺さる。
ヤンガスは、自分の傷も、自分が追いかけなければならない姫君のすがたも、一瞬忘れた。

「くっ……くそぉおおおおおおおぉぉぉおおおおッッッ!!」

野太い声で、喉も裂けよとばかりに吼えた。
激情に身を任せ、何度も地面を殴り、男泣きにふせる。
悔しかった。腹立たしかった。そしてなにより、情けなかった。
兄貴になにがあったのかも、助けるどころか知るすべさえなく、ただその死だけを知らされたのだから。

(兄貴が……エイトの兄貴が、命を賭して死んでったのに、俺は……!)

そうだ。結局、なにができた。
デスタムーアを倒す、その思惑に乗るものは説得する。その目標に近付くことさえできていない。
兄貴の大事な人である姫さえ、危険にさらしてしまった。

「姫さん……!」

そこまで考えて、ようやくヤンガスはミーティア姫のことを思い出した。
はっとする。自分はどれくらいの時間、こうして呆けていたのだろうか。
落ちていたはおうのオノを拾いあげてかつぎ、ヤンガスは厳しいまなざしで前を見つめる。
そうだ。なげいてばかりもいられない。ヤンガスには、やらなければならないことがある。
エイトが志半ばに命を絶たれたなら、エイトが守れなかったものを守るのは、彼を慕ったヤンガスの使命だ。

「兄貴、見ていてくだせえ! あっしは兄貴の分も、この世界を戦いぬくでがす!」

傷の痛みなど、エイトが受けた苦しみを思えば、大したものではない。
負傷をおして、エイトへの変わらぬ思いを力に変えて、ヤンガスは再び走り出した。
大事なものを守るために。そして、光ある世界へ帰るために。



「これは、夢だわ。夢なんだわ……」

見えないはずの木漏れ日が見える。
うつろなまなざしに映る幻想のなかで、あたたかな太陽が、ミーティアのかたわらには降り注いでいる。

「エイトはどこ? エイトを探しにいかなくちゃ。きっとまた、森の中で、泣いてるかもしれないもの……」

ふらつきながらも、立ち上がる。
そうだ、とミーティアは思った。ここは、薄暗く、かすかな木漏れ日の降るトロデーンの森だ。
幼いエイトは、まだトロデーンに来たばかりで、記憶も無いから、きっと迷子になってしまったのだ。
ミーティアが、助けてあげなければいけない。

「行かなくちゃ……エイトが呼んでる……」

夢見る姫はそう言うと、うすく笑って歩き出す。
おぞましい呪いをかけられたときだって、エイトとはいつも夢で会えた。
今回だって、きっと会える。
どんなに辛く、苦しいことがあったとしても――二人は夢の中で、笑い合うことができたのだから。
263漏れ日の森 ◇TUfzs2HSwE (代理):2012/10/26(金) 22:32:23.21 ID:U4An5BCV0
【D-5/森/真昼】

【ミーティア@DQ8】
[状態]:?
[装備]:おなべのふた
[道具]:エッチな下着、他不明0〜1、基本支給品
[思考]:エイトに会う
[備考]:現状を夢だと思っています。

【ヤンガス@DQ8】
[状態]:HP1/7
[装備]:覇王の斧
[道具]:支給品一式(不明1〜2,本人確認済)
[思考]:ミーティアを追う。仲間と同調者を探し。戦うものは止め、説得する。デスタムーアを倒す。
264名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/10/26(金) 22:34:40.46 ID:U4An5BCV0
代理投下終了です。

投下乙でした!
ああ、やはりミーティア……。
リンリンとは違って逃げるように「夢」だと思い込んでしまうのが辛い。
ヤンガスはさらに決意を固めたようだけれど……ミーティアに出会ったらどうなるやら……。
265名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/10/26(金) 22:57:16.35 ID:7wfOCkhL0
投下乙!

姫さんにはともかく、ヤンガスにまで一言も触れてもらえないククールェ…
266名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/10/26(金) 23:09:23.01 ID:cJdPSslq0
乙です
木漏れ日っていう優しいはずの言葉に、ミーティアの空虚な感じが伝わってきて、あー…ってなりました
「夢」も本格的にキーワードの体をなしてきて、これからどうなることやら

ククールは…まあ、二人の中の優先順位的に仕方ないよねw
267 ◆1WfF0JiNew :2012/10/28(日) 14:28:53.61 ID:j1s4I25M0
乙でーす。
夢というキーワードがここに来て前に出てきたなー。
夢に逃げる人も遂に出てしまったし。
ミーティアはこのままだとカモにされるだけだが、果たして……。
ククールについては仕方ないね……。
では投下します。
268 ◆1WfF0JiNew :2012/10/28(日) 14:30:27.34 ID:j1s4I25M0
「なぁ」
「どうした」
「誰か、死んだのか」

放送が流れたにも関わらず、ソフィアとハーゴンは落ち着いていた。
激高するでもなく、悲観するでもなくありのままの現実を受け入れる。
最も、仲間が誰一人呼ばれていないということが要因に入るのだが。

「ふん、宿敵の一人が死んだだけだ……」

死亡者の中にムーンブルクの王女――あきなの名前があった。
彼女とは直接対面していないので詳しくは分からないが、ロトの三子孫の中でもとりわけ精神面が弱いと部下から報告を受けていた。
真っ先に死ぬなら彼女、ハーゴンはそう予測を立てていた。
なぜか、チクリと胸に針が刺さった気分だ。

(私は、何を考えている……)

そもそも、彼女とは敵同士だったのだ、死を喜びこそすれど悲しみはしない。
そのはずだった。

「理想の犠牲者、か」
「はぁ? 何小難しいこと言ってんだよ」
「こちらの話だ……大したことではない」
「そういうことを言われたら気になるだろうがっ!」

なのに、ソフィアやフローラなどと話してからは一握の情がロトの血族に対して生まれた気がした。
彼らもソフィアと同じ、勇者というレッテルに縛られた犠牲者だと考えてしまう。
同情、なのだろうか。
今まで感じたこともない感情にハーゴンは少し戸惑っていた。

「何、呼ばれた知り合いにお前のような者がいただけよ」
「へー。ハーちゃん知り合いいたんだー」
「……私にだって知り合いぐらい存在する。一体、私のことをどう思っているんだ」
「変な魔物」
「お前とは一度しっかりと話した方がいいようだ……」

光るあれば影がある。表向きでは華々しいものではある勇者だが、裏ではどれだけの犠牲の上に成り立っているか。
勇者、勇気ある者。それは人々を救う英雄であろう。
だが、しかし。
勇者が人々を救うのならば、勇者は誰に救われるのだろうか。
269 ◆1WfF0JiNew :2012/10/28(日) 14:31:42.86 ID:j1s4I25M0
「まっ、いいさ。それよりも、アレフを捜しに行こうぜー」
「はぁ……軽い足取りだな。この世界のどこかで仲間が危険な目に合っているかもしれないというのに」
「そうかもしれないな」
「まさか、一人も呼ばれなかったからと言って甘く見ているのではなかろうな」
「そんなことないさ。あいつらだって死ぬ時は死ぬ。現実から目を背けてる訳じゃねェ」

確かにソフィアは放送の間も動揺一つなく淡々とメモをとっていた。
悲しむ素振りを微塵も見せずに立ち上がる姿は――勇者……なのだろうか?
ハーゴンが感じた違和感はそこにあった。
彼女は自分をからかったり時には喜びが、滅ぼされた村の話の時には怒りが。
友達のシンシアの話をする時には楽が。
そう、たった一つ、欠けている感情があるのだ。

「強いていうならばさ。あたし……麻痺してんだわ。そういうの」
「麻痺とは?」
「大切な人がいなくなることに慣れちまったんだよ。さっき話しただろ? 
 あたしを護る為に村の皆が盾になって死んじまったってこと」

彼女には哀しみという情がすっぽりと抜け落ちているのだ。
かといって、正気を保てずにいるのではない。
何が悪いか正しいかなどの一般常識、仲間とのコミュニュケーション。
日常に必要なことは全て身につけている。
それでも、彼女には哀しみ。それだけが欠けているのだ。
これは、ある種の狂気。
ハーゴンをして狂っていると言わしめる資質。

「最初の衝撃がでかすぎたからなのかさ……どんなに辛いことや悲しいことがあっても泣けねぇんだ。
 哀しいって何なのか、忘れちまった。泣くってどうやればいいんだってな」
「……」
「なァ、ハーちゃん。そんなあたしでもたった一つだけ正しいって思ってることがある。
 真実だよ、真実を突き詰めるのだけは間違っていないってな」

ソフィアはいつになく真面目な顔で言葉を紡ぐ。
それは、か細いながらも力強く意志が点った声だった。

「ムカツクんだわ、真実を知らないで勝手に批判とかすんの。
 きちんと全部知ってから――ぶっとばす。それがいちばんすっきりすっからさ」

別に救われない人に救いの手を差し伸べることが好きなのではない。
勇者としての責務に縛られて世界を救うのではない。
気に入らないから。やられっぱなしは癪にさわるから。
単に自分が生きる世界が魔物だらけでかったるいのが嫌だったから。
その過程で世界をたまたま救っただけなのだ。
270 ◆1WfF0JiNew :2012/10/28(日) 14:34:52.34 ID:j1s4I25M0

「さっきも言ったろ? 勇者なんかあたし以外がなればよかったのにって」

自分から勇者になりたくてなった訳でもないのに。
押し付けられた役目などこちらから願い下げだ。
それなのに、周りは勝手に押し付けてくる。
ソフィアが望む望まないにもかかわらずだ。
そのことから、どうしても勇者という称号がうざったいと感じてしまう。

「ったく、またしんみりした話だ。こういうのは嫌いなんだよ、かったるいから」
「ふふっ。さっきの話もそうだが、魔物側からすると考えもつかんな……」
「そりゃそうだ。勝手が違いすぎるだろうが。どんなにわかりあっても人間と魔物は違うんだからな」
「……その通りだ。だが、私からするとお前と話すのはとても有意義だ。人間側の事情など我らからするとどうしても手に入らないのでな」
「うっせー。つーか、あたしだけ話してハーちゃんは話さないのかよ」
「私のことか? 聞いて面白みがある訳でもあるまい」

ハーゴンは怪訝な顔をし、頭を抱える。
まさか、自分の身の上話を尋ねられるとは思ってもいなかった。
魔物の首領としての話など聞いても面白く無いというのに。

「気になるもんは気になんだよ。減るもんじゃないしとっとと教えろや」
「……ふっ。よかろう。まずは我が教団を設立した経緯からたっぷりと教えてやろう!」

魔物と人間、立場が違う二人が会話を交わす。
見るものが見れば異質としか答えようがないだろう。
だが、これが二人の通常なのだ。
知りたいことがあれば自分から動けばいい。
それが二人のありのままなのだから。



【F-4/真昼】
【ソフィア(女勇者)@DQ4】
[状態]:健康
[装備]:斬魔刀@DQ8、メイド服@DQ9、ニーソックス@DQ9
[道具]:不明支給品(0〜2)、基本支給品
[思考]:主催の真意を探るために主催をぶっ飛ばす。
     アレフを探し、ローラの証明を手伝う。
[備考]:六章クリア、真ED後。

【ハーゴン@DQ2】
[状態]:健康
[装備]:オリハルこん@DQ9 
[道具]:不明支給品(0〜2)、基本支給品
[思考]:シドー復活の儀の為に一刻も早く「脱出」する。
     脱出の力となる人間との協力。
     ロトの血筋とは脱出の為なら協力する……?
[備考]:本編死亡前。具体的な時期はお任せします。ローレシア王子たちの存在は認識中?
271 ◆1WfF0JiNew :2012/10/28(日) 14:35:55.02 ID:j1s4I25M0
投下終了です。
タイトルは
「少女には向かない職業〜泣けない勇者〜」
です。
272名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/10/28(日) 17:18:42.13 ID:j/7EvjCr0
投下乙です。
今回の勇者の血族は、負の部分がクローズアップされてるように思えますね。
その重圧に、気が狂いそうなバトルロワイアルの中で耐えられるかどうか。
明暗そこで分かれそうですね、とりあえずソフィゴンコンビ大好きだー。
273 ◆CruTUZYrlM :2012/10/28(日) 20:57:42.38 ID:3xDmGk+M0
投下乙です!
ソフィアの感情が麻痺している……なるほど。
泣けなくなった彼女と、哀れみの心を手に入れ始めたハーゴン。
この二人がどう動いていくか……今後が楽しみです!

さて、DQBR2ndラジオ「チャモっていいとも!」の時間が近づいていきました。
URLの方を貼っておきますね。

番組URL:http://ustre.am/JFBT
実況スレ:http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/5008/1351425110/
274名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/10/29(月) 00:55:52.47 ID:eacudgtZ0
◆YfeB5W12m6氏の代理投下行きます
275ハッピー・ギプス  ◇YfeB5W12m6 (代理):2012/10/29(月) 00:56:27.18 ID:eacudgtZ0
空から、それとも虚空から響いた声が止み、この世界を包んでいた霧が一瞬で晴れた。
発表された禁止エリアを鼻歌混じりに地図に書き込む少女は、可愛らしい微笑を浮かべていた。


霧が晴れたとは言え、元々くすんだ色の空から注がれる光に変わりは無い。明るくなるわけでも無ければ、暗くなるわけでも無かった。
ただ、世界は明るくならなくても、少女の心は明るくなる。
万が一の可能性など知りはしないが、兄がやくそくを破っていない、それだけで人を殺せるくらいに嬉しかった。



さて、そんな少女を背に乗せるジャミラスも、同じく笑みを浮かべていた。決して可愛らしくはない。
理由は至って単純、かつて己を滅ぼした勇者一行の一人の名前が飛び込んで来た為である。簡単に言えば「ざまぁwww」と言う事で、ジャミラスとて生物。本能のままに不気味な笑みを浮かべていた。

少女の鼻歌が聞こえて来ると言う事は、彼女の兄はまだ存命だと言う事にままならない。
調子がいい、とジャミラスの笑みは深くなる。
ジャミラスが笑っている事を知っているのかいないのか、背の少女は地図とメモ、魔物さんのサックの中に入れておくねー、と妙に間延びした声を出した。
声音は弾んでいた。
276ハッピー・ギプス  ◇YfeB5W12m6 (代理):2012/10/29(月) 00:56:59.81 ID:eacudgtZ0
だからこそ、気付かなかった。何かに狙われている事などに、気付く筈も無かった。


ふと、ジャミラスのバランスが左に傾く。違和感を感じ、リアとジャミラスが同時に右翼を覗けば、穴が空いていた。


まぁ、とどのつまりこの一人と一匹は、かなり気が緩んでいた。




   ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


三度目の正直という事で、ドルマゲスは真空の刃を偶然視界に入った鳥の右翼に向かって放った。
先程まで気絶し、あまつさえ亀甲縛りにされていたドルマゲスだが、気絶から目覚めれば必ず獲物が居るという運の良さはなかなかのものだった。
縄も同様に真空の刃で切り裂いた。自身も少し切り裂いてしまったが。




さて、鳥を炙り今晩の食事にしようか、などと考えるドルマゲス。鳥から視線を外し思考する。色合いからして不味そうな予感がするが、食料は多いに越した事は無い。

悲しいなぁ、と呟き視線を空に戻し臨戦態勢を整えようとした時、鳥は既に真上に迫っていた。
鳥の表情は、予想外に怒りにはまみれていなかった。ただ、静かな表情で爪を振り下ろしてくるだけである。
ドルマゲスは不気味な笑みでそれを迎えた。



   ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
277ハッピー・ギプス  ◇YfeB5W12m6 (代理):2012/10/29(月) 00:57:31.77 ID:eacudgtZ0
ジャミラスが振り上げた爪から、火炎が降り注いだ。まだだ、足りない。穴が空いた翼を羽ばたかせ、炎の海へと飛び込み爪を薙いだ。
薙いだ事により炎が飛び散る。辺り一面が小さく燃え上がった。
まだだ、まだ足りない。焼け焦げた人型など見つからない。見つからないなら死んでいない。死んでいないなら殺すまで。


翼に穴を空けられた。

これはジャミラスにとって一番の侮辱だった。
鳥型の魔物の命、プライド、全て、翼。それを傷つけた。例え表情が静かでも、内心は落ち着いて居られなかった。


「悲しいなぁ、あなたはこれから僕に食べられてしまうというのに、無駄な抵抗をするなんて、あぁ、本当に悲しいなぁ!」

少し、甲高い声が鼓膜に響いた。
どこに隠れていたのか、ぽつりと男はドルマゲスの目の前に現れた。ただただ不気味な笑みだった。
もう一つ不気味な事に、ドルマゲスは三人居た。
高ぶっていた感情が一瞬、停止する。

そんな隙を逃す筈も無く、ドルマゲスABCが突撃して来る。
ドルマゲスAの手にあるワイヤーがキラリと光った後は、一瞬だった。



ドルマゲスAの腹に、小さな短剣が突き刺さっていた。リアはちょっとだけ微笑んでいた。

「あっ、正解だった!」

声音は弾んでいた。



「……………………………………………………………………………………なっ、ぁ?」


背が小さかった事で、リアはジャミラスの背からドルマゲスの腹まで達するまで、気付かれる事は無かった。

ぬらり、と影が現れる。ジャミラスだった。表情は相変わらず冷めている。
俯き始めたドルマゲスの身体を、ジャミラスの拳が、真っ正面から全身全霊の力で殴りつけた。


何かが砕けるような音と共にドルマゲスの身体が後方に吹っ飛んでいった。後に残るのはジャミラスの清々しい顔だけである。


「行くぞ、娘」

静かに告げられ、笑顔で頷いたリアはドルマゲスの返り血を浴びていた。
278ハッピー・ギプス  ◇YfeB5W12m6 (代理):2012/10/29(月) 00:58:34.63 ID:eacudgtZ0
   ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


さて、吹っ飛んでいったドルマゲス。

今までに散々、投げられ、縛られ、殴られ、また殴られ、死にかけの彼は、三度目の気絶を味わっていた。





二度ある事は三度ある。
仏に見捨てられるまで、後一回?



【C-4/平原/昼】

【ドルマゲス@DQ8】
[状態]:瀕死、気絶、肋骨折
[装備]:ステンレス鋼ワイヤーロープ@現実
[道具]:なし
[思考]:人間へ復讐(?)

【C-4/空/昼】

【ジャミラス@DQ6】
[状態]:HP8/10、飛行中、右翼に穴(小)
[装備]:なし
[道具]:剣の秘伝書@DQ9 ツメの秘伝書@DQ9 超ばんのうぐすり@DQ8(半分のみ) 支給品一式
[思考]:リアを利用し、サマルトリアの王子(カイン)を労無く殺害。その後、どちらかが持っていれば剣を確保する。
カインを探しつつ北へ 殺害数をかせぐ
[備考]:支給品没収を受けていません。飛行に関して制限なし。

【リア(サマルトリア王女)@DQ2】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 どくがのナイフ@DQ7 支給品×2(本人確認済み)
[思考]:魔物さんにお兄ちゃんと一緒に殺してもらうんだ♪
それがダメだったらリアがお兄ちゃんの首輪外してあげるね♪
邪魔するやつは皆殺しだよ♪
お兄ちゃん、もう少しだけ待っててね♪
279名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/10/29(月) 00:59:48.70 ID:eacudgtZ0
代理投下終了です。

ドルマゲスwwwwwwww
意気揚々と喧嘩を売った結果が幼女に敗北だよ!
その……がんばれ……
ジャミラスに油断が見えたことがどう響くかな……?

しかしリアの状態表がどんどん増えるw
280名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/10/29(月) 02:09:24.42 ID:vyv5lbyF0
リアの状態表の思考欄、ルールに抵触してないか? 今更の指摘だけど
281名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/10/29(月) 13:19:37.35 ID:w78zhh9XO
そこまで大きく違反してないし、許容していい範囲じゃない?
282 ◆TUfzs2HSwE :2012/10/31(水) 20:13:07.64 ID:UXwq2YvBO
「木漏れ日の森」作者です
ククールの死に対する8キャラの反応の記述が抜けていたため、
修正部分を避難所の一時投下スレに投下させていただきました
確認をお願いしたいです
283名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/10/31(水) 23:04:17.35 ID:FOWVY2EN0
確認しました。
大丈夫だと思いますよ
284 ◆TUfzs2HSwE :2012/11/01(木) 18:41:14.44 ID:ZLtagHNOO
確認ありがとうございました。
wikiにて修正させてもらいました。

続いて投下いきます。
285傷付いた魂1/7 ◆TUfzs2HSwE :2012/11/01(木) 18:44:48.09 ID:ZLtagHNOO



メガンテは、そこに巻き込まれた者だけでなく、使用者さえも「砕け散る」と言われている呪文だ。
だが、目の前でたった今呪文を使ったこの少年の骸は綺麗なものだった。

ならば、今ここに砕け散ったのは、身体ではなく命か。
誰かを助けようとした、その魂か。

その少年の亡骸に触れると、かすかに感じる命の残滓。
それは少し、人間に感じるものとは異なっていた。
かつて、この手で幾度と無く人間を手にかけた経験があるピサロだからこそ、わかったのだろう。
ガボは恐らく純粋な人間ではない。姿は人だが、主と定めた相手を命がけでも守ろうとするその魂は、聖獣の類。
唐突だった自己犠牲の理由も、それならばと理解はできる。

対して、その命がけで守った相手が放った言葉は「余計なことしやがって」だ。
人のすべてがそうではないと知った今でも、下劣な種であると思わずにはいられない。
そして繰り広げられる、目の前のやり取り。
ピサロは辟易していた。事態は予想外に面倒さを加速させている。

(……どうして来させたのだ、ヤンガス)

二人が去っていった森に視線をやる。
ミーティアを危険から遠ざけるという暗黙の了解のもと、互いに進路を決めたはずではなかったか。
その彼女が危険のために逃げてしまっては元も子も無いではないか。
そこまで考えて、ふと、嘆息する。
おせっかいな人間たちのよけいな思考を理解できるまでに自分を慣らした、ソフィアたちが憎たらしい。
否――今は感謝すべきか。

(人間が助けに来るなどと、私も堕ちたものだな)
自嘲したような笑みが漏れる。皮肉な話だが、不思議と悪い気はしていなかった。
目の前の二人は恐らく、放っておけば戦いを始めて勝手に自滅してくれるだろう。
ならば今はあの二人、ヤンガスとミーティアと合流したほうがいい。
漆黒の外套をひるがえし、二人を追うべくピサロが足を進めようとした、その刹那。
286名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/01(木) 18:46:41.07 ID:OnoFYmC00
支援
287傷付いた魂2/7 ◆TUfzs2HSwE :2012/11/01(木) 18:47:36.37 ID:ZLtagHNOO

「待たれよ、そこの魔族」

彼の進路にある樹の幹に、奇跡の剣が突き立った。
ピサロは振り返り、血塗れのような深紅の目で、そこにいた女をねめつけた。
剣を放った傷だらけの女はつややかな笑みを返す。

「魔族だろう? そのありあまる膨大な魔力、人間の器では手に出来ぬものだ」
「……ならばどうする」

女、カーラは笑みをたたえたまま、焦げ臭い森の中をピサロに向かって進む。
闘志に燃える一人の魔法使いを、視界にすら入れないで。

「こんな小物に倒されるとあっては名が廃る。どうせなら貴様がよいな」
「なんだとォ!?」

激昂した魔法使いの放った炎が、森の一部を派手に焼いた。
そんな彼を無視して対峙する二人の間は、氷のようにはりつめる。

「人間如きが私の行く手を阻むなどと、許されると思っての所業か」
「ああ、それはすまなかった。貴様はとても魅力的だ。魔の力と王の意志を備えている。
貴様のような存在と闘えることこそ、我が誇りとなろう」

こんな場所でなかったらまるで口説いているかのような、恍惚としたカーラの台詞に、ピサロは眉をひそめた。
ソフィアもある意味人間としては狂っているが、この女はその比ではない。

「……魔王にでもなるつもりか」
「興味ないな」

言いながら、もう一本の剣――ソードブレイカーを構える女に、ピサロは内心舌打ちする。
かなりの負傷を負っていたが、言葉どおりやすやすと殺される気は無いらしい。
ほんとうに面倒だ。だが、どうやらこのまま解放されることはない。
そう彼に思わせるくらいの力を、彼女は有していた。

(一瞬で終わらせる)

赤い目に光がともり、森は暗く、地面がごうと揺れ始める。
カーラが剣を繰り出すよりも早く、魔王のその手で、地獄から雷が放たれようとした、そのとき。

288名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/01(木) 18:49:10.94 ID:OnoFYmC00
 
289傷付いた魂3/7 ◆TUfzs2HSwE :2012/11/01(木) 18:49:46.28 ID:ZLtagHNOO



「ゲーム開始から六時間が経過した。
これより、一回目の定時放送を行う」



禍々しい声が、びりびりと空気をふるわせた。
殺気立っていた空間が刹那、しずまる。老人も女も空を見上げる。ピサロもまた、その手を止め、耳を澄ませた。
長々と下らない挨拶を聞き流し、禁止エリアを確認し、そして――


「これより、ゲームの開始から今までに砕かれた命たちの名を読み上げよう。

デボラ
ゴーレム
アレル
ギュメイ将軍
ハッサン
エイト
あきな
キーファ
ククール
ピエール
イザヤール
レックス
サンディ
エルギオス
ガボ
竜王の曾孫

以上、十六名。残り人数は四十四人となった」

煩わしい哄笑を残し、やがて定時放送は去っていった。
290名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/01(木) 18:50:27.07 ID:OnoFYmC00
 
291傷付いた魂4/7 ◆TUfzs2HSwE :2012/11/01(木) 18:53:59.71 ID:ZLtagHNOO



四半日で十六人。自身の知る二人の死人を除いても十四人が、既にこの世界で殺されたらしい。
そのあまりの死亡者数に思わぬことがないではないが、ひとまず見知った者たちの名は無いことに、不本意ながらもピサロは安堵を覚えていた。
そして、そのせいか却って気になったことがひとつある。
今の放送の中でもあった名、ヤンガスとミーティアが共に慕っていた一人の男を、彼らは呼んではいなかったか。
エイト、と。

ピサロはこの場にいる残り二人に視線をやるが、どちらもまるで時が止まっているようだった。
呼ばれた死者の中に、見知った顔があったのだろうか。様子は違うが、二人ともに呆けているように見える。
こんな奴らでも死を悼む仲間がいたのか……などと、思わず浮かんだ嘲笑を押し込めて、ピサロは沈黙を破った。

「女」

呼ばれた女、カーラは、しかしぴくりとも動かない。

「貴様に構っている暇はなくなった。無粋な闘争欲を満たしたいだけなら、他を当たることだ」

そう言い残すと、これ以上面倒に巻き込まれる前に、ピサロは素早くその場を去った。
こんな人間でも呆けることがあるとすれば、大切な人だと慕っていた存在を失った彼らは――ましてや姫は。
嫌な予感がする。


***


――不思議と、彼を探そうとは思わなかった。
292傷付いた魂5/7 ◆TUfzs2HSwE :2012/11/01(木) 18:56:41.79 ID:ZLtagHNOO

探すことなど意味がなかった。
なにものにも、彼を束縛するなどできはしないと知っていた。
あの時も今も。強さに飢え、闘争を欲していたときも。
彼を探そうとは、思わなかった。

(いつだって、私を裏切るのだな。お前は……)

今度は抗えぬ死という形で、勇者アレルは永遠にカーラの元を去った。
彼女が認めた強さを持ちながら、こんな箱庭のような場所で、誰かに負けて消えていった。

負けたのならば、それまでの存在だったのだろう。
そう思っていても、なぜか足は止まったまま。
魔族の青年はとうにこの場を立ち去っており、ここにいる生者はもはや一人だけ。
そのただ一人をあしらう気分すら沸いてこなかった。

「カーラ」

焦げた大地を踏みしめて、一歩ずつ、老人は女に歩み寄る。
傷だらけであっても余裕の笑みを浮かべた女、今はその覇気がほとんど無い。
この女を殺せるとしたら今が機だろうが、魔法使いが望むのは、そんな一方的な戦闘ではない。

「俺とたたかえ。カーラ」
「……五月蝿いな」
「勇者アレルはもういない」

男は暗に、己を拒む理由が失せたことを突きつける。

「貴様の迷いは、戦うことでしか払拭できない。俺らはそうして生きてきたはずだろう」

彼にとっては、勇者アレルが死んだことに、慨嘆も疑念も抱く意味は無い。
戦って負けた。ただその事実が告げられただけだった。
そんな老魔法使いに、彼女は気力の失せたまなざしを向けた。
そして、薄く笑う。
293傷付いた魂6/7 ◆TUfzs2HSwE :2012/11/01(木) 18:59:02.09 ID:ZLtagHNOO

「飽いたな。少し」

それ以上身体を動かすのが面倒だとでも言うように、彼女は身じろぎひとつしない。
傷を自分で癒すこともしないのは、或いは魔力を切らしているのだろうか。
それとも、やはりそれすらも、面倒であるのか。

飽いたとはなんだ。
戦うことをか、――生きることをか。

ふん、と偏屈に鼻を鳴らし、老魔法使いはそれ以上追求することを止めた。
彼が求めたところで、どの道彼女の状態では、互角に戦うことなどできないだろう。
まるで、身体も魂も傷ついたようになっている、彼女とは。

「……ずいぶん、下らねえことを言うようになったな」

そのまま、身を翻す。

「次に会うときまでに、万全にしておけ」

そして彼は自ら、求めた存在の元を離れた。
それ以上、闘志を燃やすことのできない彼女の姿を、見ていられなかった。

苛立たしい。
この魂が生きていけるのは、たたかいの中でだけ。
彼自身、アレルもリンリンも、そしてカーラも。本質的にはみな、同じ魂の持ち主であると信じていた。
それだけに、自分と戦うことを選ばないカーラのことが、理解しがたく、また苛立たしかった。

とりあえず、この薄暗く歩きづらい森を出ようか、と彼は思う。
なんだかんだ言ってもこの年齢での大立ち回りは疲れるし、休める場所は確保しておいた方がいい。
この森は南北に拠点地を挟んで存在していたはずだ。そのどちらかに向かえばいい。

そして、無事にたどりついたら。
どうしようか。カーラのように、出会った人に片っ端から戦いを挑んでみようか。
もちろん、自分が勝つだろう。負ければ、死が残るだけ。
思い浮かぶ昏い考えに、なぜか口元に笑みが浮かんだ。

たたかうこと、血を浴びること、そのことだけが、己が魂を救うのだと知っている。

そう、或いは――二人以外、世界に誰もいなかったら、彼女は己と闘うことを選ぶだろうか。
294傷付いた魂7/7 ◆TUfzs2HSwE :2012/11/01(木) 19:01:06.79 ID:ZLtagHNOO






【D-4/南部森林/真昼】

【ピサロ@DQ4】
[状態]:ダメージ(小)
[装備]:破壊の剣@DQ2、杖(不明)
[道具]:ステテコパンツ、不明0〜1、基本支給品
[思考]:脱出。手段は問わない。ヤンガス・ミーティアと合流する

【男魔法使い@DQ3】
[状態]:MP消費(大)
[装備]:毒蛾のナイフ(DQ6)、杖
[道具]:支給品一式 不明支給品(確認済み×1〜3)
[思考]:カーラとはいつか決着をつける 森を抜ける
※名前、職歴、杖の種類は後続の書き手にお任せします。
※向かった方角がどちらであるかはお任せします。

【カーラ(女賢者)@DQ3】
[状態]:HP1/8、頬に火傷、左手に凍傷、MP0、意気消沈
[装備]:奇跡の剣@DQ7、ソードブレイカー@DQ9
[道具]:小さなメダル@歴代、不明支給品(カーラ・武器ではない物が0〜1、キーファ0〜2)、基本支給品*2
[思考]:より多くの強き者と戦い、再び出会ったときにデュランと決着をつける。
[備考]:元戦士、キーファの火炎斬りから応用を学びました。
295 ◆TUfzs2HSwE :2012/11/01(木) 19:04:55.50 ID:ZLtagHNOO
投下終了です
支援ありがとうございます
296名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/01(木) 19:19:02.68 ID:OnoFYmC00
投下乙!
カーラもアレルの死を知って、しおらしい(?)一面が見えたようで面白いね。
297名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/02(金) 11:40:29.66 ID:v9T7Yeyx0
投下乙!
暴れるリンリンとは対照的に、意気消沈するカーラか……
男魔法使いはそろそろゲームに乗り始めそうだし、ピサロの予感は当たりそうだし、一波乱の予感……?
298名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/02(金) 11:42:09.28 ID:q2OEe/yS0
なんでアレル死んでしまったんだ…こいつらをまとめ上げてくれよ…
299名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/02(金) 18:27:51.96 ID:9haBZKLa0
まとめあげていたというよりは、一緒につるんでた悪友って感じだけどなw
300名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/02(金) 21:21:10.56 ID:GbFVCbmK0
意外とあっさりマジンガさんに殺されたよねw
301名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/02(金) 23:05:19.28 ID:iPQLIvgk0
男魔法使いだって相手がマホカンタ使えたらそこで詰みますよね
302名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/02(金) 23:15:28.14 ID:bER1XV2H0
高レベル魔法使いは低レベルの魔物や人間なんぞ簡単にボコりますが
高レベルの相手でもそれまでの知恵と経験でどうとでもなるでしょう
彼の奮戦に期待です
303名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/06(火) 13:06:33.58 ID:7Ta5N6FWO
代理投下します
304Who am  I? ◇2UPLrrGWK6:2012/11/06(火) 13:08:58.40 ID:7Ta5N6FWO

かつて、自分は世界を混沌へと陥れたことがある。
そんな自分を打ち倒すという、自己満足という名の蛮勇。
それを奮いに魔王軍へと挑んだ強者の話を、魔王バラモスは部下の魔物から幾度と無く聞いた。

──そして、ある者は鮮血の美酒となり、またある者はその肴となり消えた。
故にバラモスは、正義を声高に唱える連中を実に滑稽と思う。
自分を滅ぼさんとすべく心身を鍛え上げた勇者たちは、全て彼らが憎むべき魔王の贄として捧げられるのだから。
が、たったいま目の前に現れた男に、バラモスは些か異なる感情を抱く。
それは困惑だ。
自分に挑んだ幾多もの愚者の中に、こんな姿をした者が、果たしていただろうか?
バラモスとて知っている、荒んだ街にはこのような無頼漢がひしめくことを。
だがこの魔王の御前に、この妙な風体をした男は突然しゃしゃり出てきた。
今までとはまた違った滑稽さをそこに感じたバラモスは、男の目的を尋ねた。

「……ごろつき風情が、何をしに来た?」
「少々……」

男の腰から、剣が抜かれる。
雷の力を封じられた稲妻の剣が、鞘と擦れて小さく火花を散らした。


「──正義を示しに」


バラモスは、実に滑稽だと思った。
装いはどうあれ久方ぶりの生きが良い食事が、やってきてくれたのだから。


「……」

怯える少女に傷ついた姫君、その二人をいつでも庇える位置に立ち塞がる。
剣を握るその手に力が宿ると、まるで空気でも入れたかのように筋肉が膨れた。
漲る上腕二頭筋。
溢れんばかりの大胸筋。
八房に分かれた腹直筋。
それら全てが、生命の脈動に満たされている。
まるで古代の英雄を象る石像のような筋肉美。
これを遮るのにビロードのマントでは、肌触り含めあまりに繊細。
雄々しく勇ましき筋肉の集合体の前では薄衣に過ぎない。
ましてこの荒れた街並みを今吹き抜けているのは、寂しさに満ちたまるで荒野の風。
当然のようにマントは翻る。
そこから覗くのは、傷と言う名の勇気の証が刻まれた、まさしく漢の肉体。
戦いに赴くには、いささか無謀に見えるかもしれない──だが。

(だが、それがいい)
305Who am  I? ◇2UPLrrGWK6:2012/11/06(火) 13:11:25.50 ID:7Ta5N6FWO
断っておくが別に露出願望が有る、というわけではない。
限界以上に鍛え上げられた肉体を曝け出せば、それは相手の心理を脅かす攻撃に等しい。
防具を捨てることは即ち、危機感を持たせ自らの反射を極限まで引き出す無類の防御となる。
そして肌を晒すことは戦の場に立ち上る熱、空気の流れ、果ては魔力の動きまでもを感じ取ることに繋がるのだ。
故にアリアハンの勇者オルテガは、重装備を敢えて好まない。
むしろ脱ぐ。
守るべきは頭と局部、それだけで充分に過ぎる。
そんな持論を振り翳す稀代の豪傑の瞳は、正義の光を湛え仮面の奥で輝いた。
対するバラモスはにやりと嫌らしい笑みを浮かべる。


「ここに来たことを、悔やむが良い」


* * *


「あ、ぅ……」
「イタタ……大丈夫ですか?」

跳ね飛ばされて地面に転がったローラが、どうにかこうにか身を起こして震える少女の手を握る。
バラモスの負傷が殊の外色濃かったことが幸いしたか、目立った傷は負わなかった。
顔とドレスが赤土で台無しになった以外は支障無い。
少女の涙で濡れた頬を、ローラは手袋の汚れていない部分でそっと拭った。

「あ、あ……りがとう……」
「ご無事で何よりです」


にこ、と微笑んだその可憐な表情にタバサは思わず頬が熱くなるような感覚を覚える。
同時に、死の恐怖と直面したが故、自身の身体が凍えるように冷えきっていたことにも気づいた。
笑顔の持つ思わぬ作用にタバサは感謝しつつ、ローラの助けを借りて立ち上がった。
だが、危機を微塵も脱していないということに気づいてまた心がきゅっ、と鷲掴みにされたように萎む。
不安に苛まれて仕方がないのだ。
あの怪しい男、果たして味方なのだろうか、と。

「大丈夫……アレフ様とは似ても似つかないけれど、あのお方もきっと勇者なのでしょう」
「え?」

何を言っているんだ、と普段控えめなタバサですら思わず意見を言いそうになった。
アレが勇者なら、酒場や路地裏が勇者でいっぱいになってしまう。

「古い言い伝えで知っています、勇者のみに許された雷を操る力のことを……」
「あっ……」

なるほど確かに先ほど自分たちを庇った攻撃は電撃呪文、勇者の証以外の何物でもない。
彼は兄と同じ勇者なのかもしれない。
あぁぁ、言っててすごい違和感がある。
喉にベホマスライムでも突っかかったみたいな気分だ。
306Who am  I? ◇2UPLrrGWK6:2012/11/06(火) 13:16:05.71 ID:7Ta5N6FWO
「事態は混乱していますが、こうなってはお任せする他ありません」
「……」

二人は、積み上がった瓦礫の陰に身を潜める。
ローラは早くも始まった、あらくれと魔王の睨み合いを見守った。

(それにしても……)

なんて格好なのだろう。
そういう意味でも眼が逸らせなかった。

(申し訳ありません勇者様……ローラははしたない女にございます……ぽっ)

男性の裸胸に多少、頬を赤らめながら。

対してタバサは、混乱の渦中にある思考を落ち着ける意味でも見守った。
どこかへと飛ばされた母の安否と、その真意。
息つく暇も無く自分たちを助けた謎の戦士。
それに、ゲロゲロさんもどうなったのかが気になった。
ごちゃまぜになった思考は、子供の頭には余りある悩みとなる。
だが、見守るだけでその不安が少しだけ軽減されたことは分かっている。
なぜならあの戦士の背中に──

(お父さん)

タバサは、父を重ねた。
全然、まったく、ほんの少しも似てはいないのにだ。

* * *

「!!」

爆心から脱したゲロゲロが最初に眼にしたものは、タバサへと狙いを定めた魔王の姿だった。
この距離では到底間に合わない。
そう思った矢先、突如として現れた謎の影によって彼女の命は救われることとなる。
思わず立ちすくんだゲロゲロの存在は、あちら側からは認識されていないようだ。
対峙からややあって、バラモスの爪と謎の男の剣が激しく交錯したのを眼にする。

「……何者なのだ……?いや、こうしてはおれん!!」


「ホォァアアアァッ!」
「ぐ、なぁっ!?」

互いの刃は激しくぶつかり合い、徐々に距離が離れる。
しかし仮面の男は雄叫びとともに、凄まじい踏み込みでの体当たりを敢行した。
彼を二回りほども上回るバラモスの体躯が思わぬ傾ぐほどの一撃であった。

(おのれ、此奴……!!)

バラモスも、この男の腕が立つことぐらいは予想済みである。
だが、それでも対応しきれない。
まるで底が見えない、常識を遥かに外れている。
この男に恐れは無いのだろうか?
重く早い攻撃は、度重なる戦闘により生じた傷口にひどく響いた。
バラモスは顔を顰め膝を突く。

「ぐ……ッ!」
「私は悪に……容赦せん!!」
307Who am  I? ◇2UPLrrGWK6:2012/11/06(火) 13:19:03.71 ID:7Ta5N6FWO

続けて振り下ろされた稲妻の剣を、バラモスは爪で受ける。
このまま押し切ろうにも、痛む身体は言うことを聞かなかった。
ただ、相手を振り払い距離を離すに留まる。

「貴ッ様ぁぁ……!!」

憤怒の形相を、魔王は浮かべた。
煮え滾る怒りを、業火へと変え口から吐き出す。

「出でよ、爆雷ッ!」

反射的に、剣の刀身に左手を添えて前に突き出した。
稲妻の魔力が炸裂し、イオラ級の爆発を巻き起こす。
炎の幾らかは散らされ、煙が晴れればそこには覆面に焦げ一つつかないままの姿が現された。
バラモスはギリリと奥歯を噛み締めた。

「この魔王バラモスを相手に……やってくれるわッ!」
「……!!」

悪魔の名を宿す爪の刺突が、何本も迫る。
剣を構えて後退することでその攻撃を捌ききった。
しかしその精神に、ほんの僅かな迷いが浮かんでいた。




「バラ、モス?」

失った記憶の湖に、小石を投げ込まれたかのように。
自分の心を、使命感を揺さぶるこの名と、自分は一体どこで出会ったのだろう。
──勇者オルテガは、目の前の敵に迷いを抱えた。
が、立ち止まってはいられない。
ここで倒れれば、少女と姫君を守ることすらできないのだ。

「……でぁっ!!」

凄まじい連続攻撃を掻い潜り、稲妻の剣を振り下ろした。
圧倒的な速度、完全に虚を突いた。
まさに、会心の一撃──

だが。


「!」
「……く、くっくっ……」

剣は、竜巻を孕んだ堅固な盾により止められていた。
なんとも苦々しい顔をした魔物によって。
いや、止めざるを言わなかったと言うべきか。
この男がいかに強くとも。
この状況が、魔王バラモスを屠る絶好の機だとしても。
メガンテの危機がある以上は、決着をつけるのは──

「新手の魔物か!?」
「貴様に助けられるとは思わなかったぞ……」

この、復活の玉を持つ自分一人で無くてはならない。
受け止めた稲妻の剣を打ち払うや否や、ゲロゲロは後ろに槍を突き出した。
308Who am  I? ◇2UPLrrGWK6:2012/11/06(火) 13:22:25.00 ID:7Ta5N6FWO

「ッ、抜かせ!」

だが、バラモスは飛び退いてその攻撃を回避する。
そのまま邪悪な笑いを浮かべ、こちらを指さした。

「さあ、我ら二人の魔王でその男を、あの娘どもを喰ろうてやろうぞ!!それが魔族の本分よ!!」
「なんと面妖な姿……だが、魔王か!ならばどうあっても私は退けぬ!」
「面妖なのはどちらだ?……邪魔立てしないでもらおう!!」

誰もが望まぬ三つ巴となり、剣が、爪が、槍が入り乱れる。
実力伯仲、三者譲らず。
オルテガは、二人の魔王を討たんとし。
ゲロゲロは、仇を討たんと魔王を狙う。
そしてバラモスは、この場の全てを出し抜こうと奮戦した。

──放送の、時間が迫っている。
刻一刻、均衡が崩れる瞬間の足音が、近づいていた。




「ゲロゲロ……駄目!その人と戦わないで!!」
「タバサさん、いけません!」

無事を確認できたと思えば、さらなる激しい戦いが始まってしまった。
引っ込んだ涙が込み上げそうになりながら、タバサは思わず駆け寄りそうになる。
そんな少女の小さな肩を、ローラ姫はつかんで静止した。

「ゲロゲロさんというのは、あの魔物のことなのですか?」
「そう……私のお友達だから……だから!」

ローラはゲロゲロの正体と、彼を友達というタバサにやや面食らった。
なにしろ、アレフガルドでは魔物と人間はかねてから大地を奪い合う敵対している存在。
魔物と友好的に過ごすなど、まるで耳にしたこともなかったからだ。

(そういうことも、大陸の外ではあるのかしら)

──が、この場合はローラの姫という立場が幸いした。
魔物に対しては多少の恐怖はあるが、よくよく考えれば攫われていた間に特に何かをされたわけでもない。
存在そのものが許せず、撲滅に燃えるような行き過ぎた考えには至っていない。
故に、彼女は魔物に対し友好的なタバサを否定することもなかった。

「ともかく、落ち着いて。バラモスを庇ってしまったのも、フローラさんの話と関わりがあるのでしょう」
「あっ……」
「メガンテの腕輪。それは一体、何なのです?」


* * *


(ぐむぅッ!)

エルギオスの仇を討つ為、バラモスを倒さねばならない。
されどタバサたちを守るため、バラモスを殺してはならない。
相反する二つの欲求をとどめながら、屈指の強者の間に割って入らねばならない。
盾でバラモスの攻撃を受け、寄らば突く、と仮面の男を威嚇する。
一刻も早く、彼に真意を伝えなければ。
309Who am  I? ◇2UPLrrGWK6:2012/11/06(火) 13:25:04.44 ID:7Ta5N6FWO

「待ていっ!今、こやつを倒せば貴様も危ういのだ!!」
「妖魔の言葉に傾ける耳は持ちあわせていない!」

駄目だ話が通じない。
もとより、珍妙な格好をしているのだ、まともでは無いのかもしれない。
何より、強い。
対話を求めて隙を見せてしまっては、唯では済むとは思えなかった。
多少の苛立ちを覚えたゲロゲロの牙が噛み締められる。

「どうした……魔族としての本能が疼いているのでは無いか?」
「……!」

対するバラモスは、そんな競り合いを横目にゲロゲロに語りかける。
この魔王めは、神経を逆撫でることに定評があるようだ。

「その男を縊り殺せ!殺戮に悦べ!!それが貴様の本性だろう?!」
「……抜かせっ!!」

ゲロゲロの口から氷の息が吐き出され、地表は白銀に覆われた。
しかし激しい炎が吐きつけられ、すぐにその場を飲み込んでいく。
激しい温度差から、空気中の水分が一気に凝結を始める。
生み出されたのは──濃霧だ。
視界を覆われ、三人の戦況は混乱を極める。
三者全員が、一斉に攻撃の手を休めざるを得ない状況となる。
どちらかが狙ったわけではない、ほんの偶然だ。
戦いの最中に居る者も、それを見守る者も、互いの情報が遮断された。

その、瞬間だ。


「オルテガさんっ!バラモスの動きを封じて!このままだとメガンテが発動してしまう!」



* * *


「──生命と引き換えに、全てを破壊する呪文……」
「それがメガンテ、どのくらいの範囲になるかは分からないけれど、頑張って耐えられる呪文じゃないの……」
「なるほど、それで倒すに倒せないでいる、と」
「うん…………う、ん?」

物陰からすっ、と顔を出したのは妙齢の美女だった。
清楚を絵に書いたような母とはまた方向性が違うが、お化粧もバッチリで綺麗な顔だなあという感想を抱く。
そしてはたと、自分たちが完全に無警戒だったことに気がついた。
ひどく驚いたローラとタバサは、思わず身を寄せ合う。

「立ち聞きなんてしてごめんなさいね。私はルイーダ、オルテガさんと一緒にこの町に来たの」
「お、オルテガさん……?」
「それはあの、いろいろと肌蹴ていらっしゃるあのお方のことですか?」

ローラ姫がそっと手で指し示したのは、人外相手にまともに食らいついていく豪傑の勇姿。
ルイーダは苦笑しながら肯定した。

「ええそうよ……あ、傷を負ってるじゃない。見せて」

ローラ姫の火傷を見て、ルイーダはホイミを唱える。
効きはすこぶる悪いのだが、とりあえず応急処置にはなりそうだ。
痛みは消えた頃合いを見計らい手の光は淡くなり、やがて消える。
310Who am  I? ◇2UPLrrGWK6:2012/11/06(火) 13:28:26.15 ID:7Ta5N6FWO

「これでよし、と。じゃあ、見つからないように隠れていなさい」
「どちらへ?」

すっくと立ち上がったルイーダにローラ姫は疑問を覚える。
予想が当たっていれば、あまりにそれは無謀だ。

「私なりに援護に向かうのよ。オルテガさんがいくら強くっても魔物ニ体の相手じゃ危険だからね」
「ま、まってください!」

タバサがルイーダの服の裾を掴み、引き止める。
怯えは見えるが、その瞳の光は確かに消えていない。
脳裏に浮かんだのは、年端も行かぬその身で戦いの中へと飛び込んでいく、我らが宿主の親友であり、命の恩人。
そして冒険においてのリーダー、アンジェ。
心根の強さも含め、タバサは彼女によく似ていた。
そんな彼女の懇願だからか、ルイーダはすんなりと耳を貸す。

「ゲロゲロは……あの緑の魔物は、味方なの、だから」
「味方?魔物が?」

偶然にも、この場に魔物と歩み寄ることもできるという認識を持っている者はいない。
ローラやオルテガにとっては、魔物は人と相いれぬ存在であるように。
ルイーダも同じく、魔物との友好関係を築いたという話を耳にしたことは無い。
タバサだけが、ゲロゲロに名を与え、友として生きていけると信じているのだ。
この危機的状況においては、突飛な話だった。

「……わかったわ」

あまり事態に余裕もない、一先ずはこの子の言うことを信じて行動する。
もとより、この争いを止めることが目的だ。
敵が少ないというのなら願ったり叶ったりである。

「とにかくあのバラモスの方。あいつを足止めして、戦いを一瞬でも止める」
「だっ、大丈夫なの?」
「ま、このルイーダさんに任せておきなさい」

間に合わせの策と、ほんの少しの勇気。
ろくな装備もないルイーダが今持ち合わせているのは、それだけだった。
だが、こんな理不尽な戦いを止めるといったオルテガの助けとなりたい。
それに、アンジェならばこうするという確信もあった。
無茶をする理由は、充分だ。
──それに。

「とりあえず、涙を拭いておきなさいね?女の子なんだから」

親友がそうであったように、子供は好きなのだ。

霧の立ち込める戦場、ルイーダには全てとは行かないが、理解できる。
盗賊の技能は、鈍っちゃいない。
準備は整い──叫ぶ。
311Who am  I? ◇2UPLrrGWK6:2012/11/06(火) 13:31:04.21 ID:7Ta5N6FWO
* * *

「オルテガさんっ!バラモスの動きを封じて!このままだとメガンテが発動してしまう!」

凛とした声が、霧の中に足を止めた三者の注目を集める。
視界が奪われた今、否が応にもその発言の内容に全員が着目させられた。

(誰だ!?)

ゲロゲロは、新たなる乱入者に困惑する。
フローラでも、ローラ姫でも、ましてタバサでもない。

(オルテガ、という名を言ったからには、奴……この覆面男オルテガの仲間とみるか)

しかしメガンテの事を知っているのならば。
オルテガがその事を知ったのならば。

(今狙うはバラモスのみよッ!)

霧も晴れつつある。
バラモスの無力化を図る、好機は今だ。
大凡の当たりをつけ、ゲロゲロは穂先を向けた。

"これより、一回目の定時放送を……"

同時に、放送が流れだす。
だが失われした記憶を揺り動かすかもしれぬ名の羅列には、今は興味が無い。
ただ、義憤という信念を槍に変え、ゲロゲロは駆ける。


(オルテガ……?)

バラモスは、聞き覚えのあるような名に一瞬の当惑を覚えた。
そう、この名はいつだったか──

(……オルテガ……!!ネクロゴンド防衛網を単独突破した……!!)

姿までは見たことがなかったが、まさかあんな輩だったとは思わなかった。
多くの犠牲を払ったが、火口へと落下してようやくその脅威を絶ったという報告を幾年か前に聞いた。
最重要危険因子と畏れられていたその名を、まさかここで聞こうとは。

「オルテガかッ!!」

今、ここにて最も危険な存在はこいつだったのだ。
惑わされ、揺らぐ魔王など今はどうでも良い。
流れだした死者の名も、全くもって気にならない。
呼ばれて困る名はただひとつ、己の名のみ。
放送を歯牙にもかけぬまま、バラモスは踏み込んだ。

(この機に奴を始末する)

視界が奪われたが、先程までの攻防で距離は測っている。

(一撃で……はらわたを抉り出す!!)
312名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/06(火) 13:33:57.28 ID:qSYdY37O0
.
313Who am  I? ◇2UPLrrGWK6:2012/11/06(火) 13:34:13.14 ID:7Ta5N6FWO
これ以上の消耗はできない。
奴らを殲滅し、体を休めなければならない。
バラモスはオルテガの居るであろう方向へと爆発的に加速し──

「!?」

体勢を大きく崩す。
足元、ちょうど右足の膝の下までが、ぽかりと地面に空いた穴に埋もれていた。

* * *

(かかった!)

霧は、ほぼ晴れた。
ルイーダは、策が通ったことを物陰から目視し、思わず拳を固める。
オルテガに脅威を伝え、なおかつバラモスの動きを一瞬でも封じる。
この場にろくな道具も無い今、霧に紛れて拵えた間に合わせの『落とし穴』。
まんまと引っかかってくれたのは、本当に運が良かったとしか言いようが無い。
放送が流れてしまったのは予想外ではあるものの、やむを得ない。
もとより、アンジェとリッカ以外に知った名は見受けられなかったのだ。
聞き取れる範囲で彼女らの安否のみに気を使い、今は最善の策を取るしか無い。

(あとはオルテガさん!)

この隙を、彼が突いてくれれば。
せめて、指輪の嵌まる指を切り離してくれれば。
少なくともバラモスによるメガンテの脅威は失せる。
だが、肝心のオルテガは──


「……」
(どうしたの!?)

走っても、まして歩んですら居ない。
その動きがまるで彫像と化したかのように。
たった三つの音の並びが。
呼ばれた、その名が。
オルテガの心を激しく揺さぶったのだ。

(アレル?)

ぶつ切りの記憶が、暗闇にばら撒かれたかのように脳裏をめぐる。
遠き、旅立ちの日。
都を離れるその背に、残してきたのは。

(ねえ、─めて──て、この子……大──な──で待───の?)

北海の時化よりもなお暗い記憶の暗闇。
オルテガが聞いたその名は、まるで鐘の音が響き渡ったかのように感じられた。

アレル?
アレル……
その名は──

(おまえや、"アレル"のためにも……)

その、遠く、優しかった記憶の断片は。
無敵の勇姿に膝を突かせるほどの力を持っていた。
314名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/06(火) 13:36:13.07 ID:qSYdY37O0
,
315Who am  I? ◇2UPLrrGWK6:2012/11/06(火) 14:00:19.75 ID:7Ta5N6FWO

(放送……そうか)

身動きが取れないことに気づいたバラモスは、激しい恥辱を受けたと感じ激昂しかけた。
同時に最大の危機を感じたが、どうやらそれは杞憂となりそうである。

──勇者と囃された男と言えども、所詮は人間。
くだらぬしがらみに自滅するか。

目の前に膝を折る戦士の、なんと無力なことか。
たった一瞬、されど大いなる嘲笑を、バラモスは浮かべた。

「さらばだ、再び業火の餌食となるがよい。オルテガよ……!!」

滾るような炎が口から溢れ出んと揺らめいた。
目の前の男を灰燼と化し、脅威は去る。
その安心は──油断に、変わった。

バラモスの肩口を貫通するように、血染めの髑髏が覗いた。

「ぐぁああアッッ!!」
「……殺気を消さざるを得なかったのが……」

功を奏したか。
そう言い切らぬうちに、どす黒い返り血をゲロゲロは浴びた。
デーモンスピアは、バラモスの左肩に捩じ込まれていた。
命を奪うまでは行かない、しかし戦闘不能に追い込めばそれは勝利だ。
腕の負傷は致命とは言い難い。
しかしチェック・メイトへの布石としては上等である。

「お、のれェェーーーーッ!!」
「ぐ?!!」

焼けたローブが舞い上がると、その下からバラモスの強烈な尾の一撃が放たれる。
魔王たる身には似つかわしく無い、とても粗野で狡い手と言えた。
不意打ち気味にそれを食らったゲロゲロは、槍から手を離してしまう。
バラモスは肩口を抑え、落とし穴から転げるように脱出した。

「貴様らァ……!!貴様らだけは……」

荒い息を抑えぬまま、と血走った目で荒れた町並みを射殺すような瞳で見回した。
感じる気配は四方に及ぶ。
囲まれているにも関わらず、感じているのは危機ではなく相手への殺意のみ。

「ッ!!」
「……バラ、モス……なぜだか私には分からぬが……」

もうひとつ。
逆の肩口に傷が生まれる。
その恐ろしく鋭く疾き太刀筋は、芸術とも評するにふさわしかった。
ゲロゲロの立ち向かう姿が、オルテガの心を再び揺り起こしたのだ。

「貴様に、奇妙な縁と……激しい怒りを感じざるを得ぬ!!覚悟ッ!」
「どい、つも……こいつもがァァァーーーーーーッッ!!!」
316名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/06(火) 14:03:33.63 ID:7Ta5N6FWO

魔王の巨体が怒りに震えたかと思うと、二の太刀を加えようとしたオルテガが吹き飛ばされる。
体当たりという、かの下級魔物のスライムと同じ攻撃方法を取ったのだ。
その己が行為が、バラモスのプライドをどんなに踏み躙ったことか。
三つ巴は互いに離れ、バラモスは咆哮じみた怒りをぶちまける。

「必ず……必ずや!!地の果てまで追いかけてでも!!はらわたを喰らってくれるわァッ!!!」
「ッ──状況を見るが良い……!今の貴様に未来は無いぞ!!」

ゲロゲロは声を荒らげるものの、正直五分と言ったところだ。
謎の乱入者二人を勘定に入れなければ、残存戦力は己が一人。
なおかつ装備は相手の肉に喰らいこんだままだ。
負傷の度合いを差し引いても、相打ちが良い所とゲロゲロは踏んだ。
しかし退けない。
もう退路は無いのだ。

「よくも、よくもこの魔王バラモスをこうも辱めてくれたな……貴様らには……恐怖をくれてやる!!」

ゲロゲロは警戒する。
よもや、自刃による共倒れを狙っているのであれば、全滅は必至だ。
だが。
魔王の誇り高き矜持が、彼らをの命を──救う道へと転がした。


「この我が!!必ずや貴様らを追い詰めて!!もっとも残酷な死を与えるその時まで……恐怖に慄いているがよいっ──!!」

「!?」



バラモスの姿が消失した。
そう、先ほどのフローラと同じく一瞬の浮遊の後──どこか、彼方へと追放されたのだ。
自らにバシルーラの呪文を浴びせることで。


かくして、町を一つ消失させた、長い長い暴虐の魔王の行進はこれにて一段落する。
だが、払われた犠牲は大きく、生まれた悲しみは深い。
逃げ延び、生き延びたとすればバラモスはまた屍を生むだろう。
全てを忘れた魔王と、全てを失った勇者。
果たして彼らに守れるか。
命を、そして己の心を。
その結末は記憶の虚と同じく、暗闇の中にあり──誰にも、読めない。
317Who am  I? ◇2UPLrrGWK6:2012/11/06(火) 14:06:55.18 ID:7Ta5N6FWO




【G-3/絶望の町 屋外/真昼】

【ゲロゲロ(ムドー)@DQ6】
[状態]:後頭部に裂傷あり(すでに塞がっている) 記憶喪失 HP3/5 軽度の火傷
[装備]:スライムの服@DQ9、スライムヘッド@DQ9
[道具]:支給品一式、超万能薬@DQ8、トルナードの盾@DQ7、賢者の秘伝書@DQ9、人力車@現実、復活の玉@DQ5PS2
[思考]:タバサと共に行く。エルギオスの言葉を忘れない。
[備考]:主催者がムドーをどう扱うかは未知数です。主催からアイテムに優遇措置を受けています。

【タバサ@DQ5王女】
[状態]:???
[装備]:山彦の帽子@DQ5
[道具]:支給品一式
[思考]:家族を探す、フローラの言葉の意味が気になる。
    ゲロゲロと共に行く

【ローラ@DQ1】
[状態]:???
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:アレフを探す アレフへのかすかな不信感

【オルテガ@DQ3】
[状態]:HP8/10 MP 残り19ポイント 記憶喪失 奇妙な虚無感
[装備]:稲妻の剣@DQ3、あらくれマスク@DQ9、ビロードマント@DQ8、むてきのズボン@DQ9
[道具]:基本支給品
[思考]:正義の心の赴くままに、主催者たちやマーダーと断固戦う。
     記憶を取り戻したい。
 アレル、バラモスという名前に、ひどく心当たりがある。
[備考]:本編で死亡する前、キングヒドラと戦闘中からの参戦。上の世界についての記憶が曖昧。

【ルイーダ@DQ9】
[状態]:健康 MP微消費 手が泥だらけ
[装備]:ブロンズナイフ@歴代、友情のペンダント@DQ9
[道具]:基本支給品 賢者の聖水@DQ9
[思考]:オルテガとともにバラモスと戦う。
      アンジェとリッカを保護したい。
     殺し合いには乗らない。
 [備考]友情のペンダント@DQ9は、私物であり支給品ではない。
    『だいじなもの』なので装備によるステータス上下は無し。

※光の剣@DQ2がエルギオスの死体付近にあります


【???/???/真昼】


【バラモス@DQ3】
[状態]:全身にダメージ(大)左肩に重症 右肩に貫通傷
[装備]:サタンネイル@DQ9、メガンテの腕輪@DQ5 デーモンスピア@DQ6(刺さっている)
[道具]:バラモスの不明支給品(0〜1)、消え去り草×1、基本支給品×2
[思考]:皆殺し できればまたローラを監視下に置く フローラと絶望の町に居た者どもは必ず追い詰めて殺す
[備考]:本編死亡後。
318名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/06(火) 14:09:46.98 ID:7Ta5N6FWO
代理投下終了です。
319 ◆CruTUZYrlM :2012/11/06(火) 17:11:35.75 ID:L5ZBmO+u0
投下および代理投下乙です!

これにてひと段落……と言いたいところだけれどまだまだ波乱がありそう。
オルテガも何かを取り戻しそうだし、何よりバラモスが飛んだ先で大暴れしそう……
タバサもなんだか不安ですし、これからも目を離せませんなぁ。

というわけで僕も投下します
320残酷な真実ばかり ◆CruTUZYrlM :2012/11/06(火) 17:12:23.24 ID:L5ZBmO+u0

東へ――東へ行ってミネアを見つけなきゃ――

巨竜が空を駆る。
紅色の翼を羽ばたかせながら。
地面よりも少し高いところを這うように飛ぶ。
東へ、東へ。
ただひたすらに飛ぶ――――

「タバサッ、タバサッ、タバサーーーーッ!!」
バシルーラの魔力で空を舞っている間も、フローラは最愛の娘の名を叫ぶ。
大粒の涙をこぼし、喉が枯れるまで叫び、離れ行く自分の体と、あの魔王を恨んだ。
どこへ自分はたどり着くのか、その先には何が待っているのか。
愛娘の元へ一刻も早くたどり着く事ができる場所ならば良いのだが。
神のみぞ知る行き先が良き場所であることを祈りながら、フローラは娘の名を叫び続けた。

やがて、地面が近くなる。
叫ぶのをやめ、呼吸を一つおいて息を整える。
両足を地面に向け、ふわりと着地する準備を整える。
ゆっくりと体全体が減速し、浮遊感が無くなっていく。
そして、彼女は降り立った。

朱の巨体の、背中の上に。

「きゃっ」
突如現れた巨体の背中に着地した彼女は、バランスを崩してその場で転んでしまう。
何が起こったのかわからないまま、振り落とされないように巨体へと力を込めてしがみついていく。
華奢な体に込められた僅かな力では、いつまでしがみついていられるかわからない。
早めにこの状況から脱出したいのだが、背中に乗ったフローラのことなど気にとめる様子もなく竜は飛行を続ける。
何か打開策はないのか、そう考えていた時。

悪魔の放送が、空に鳴り響いた。
321残酷な真実ばかり ◆CruTUZYrlM :2012/11/06(火) 17:12:53.68 ID:L5ZBmO+u0

風を切る音ばかりが耳に入り、うまく放送を聞き取ることができない。
意識を集中させようとすれば、しがみつく力が薄れてしまう。
「では――待ちか――か?
 ――より、ゲー――――から今――に砕か――命たちの――読み――――」
限界の均衡を保ちながら、なんとか聴覚へと意識を向けていく。
「――――
 ――レム
 ――――
 ――――――
 ――サン
 エ――
 ――――
 ――ファ
 クク――
 ――――
 イザヤ――」
そして、ようやく聞き取った一言。
イヤと言うほど鮮明に聞こえた一言。
叶うことなら、聞きたくはなかった一言。
「レックス」
最愛の、息子の名。
両手に込めていた力が一気に抜けそうになったそのとき。
ふわりとした浮遊感と共に、光の粒が空に舞った。

「……う」
ゆっくりと起きあがりながら目を覚ます。
突然姿を消した巨竜のせいで、地面へと投げ出されていたようだ。
「痛ッ……」
軽く気を失う程度の距離を転げ回ったようで、浅いながらも全身には擦り傷ができている。
口の中も切ったらしく、広がっていく血の味を認識する。
なんとか立ち上がってあたりを見渡すと、そう遠くない場所に一人の女性が横たわっていた。
露出度の高いきらびやかな衣装、珍しい紫の長髪。
気を失っている彼女の体には明らかに戦闘の痕跡と取れる傷跡が体中に残っていた。
「ということは……」
おそらく、先ほどの巨竜の正体は彼女だろう。
どこかで激しい戦闘をこなし、ドラゴラムによって巨竜と化して戦闘をやり過ごした。
背に乗った自分へ襲いかかる様子が無かったことから、彼女は勝利したのではなく、戦いから逃げ出していたのだろう。
だとすれば進む先にはこの上なく強力な相手がいると言うこと、それもとびきりの強者が。
しかし、怯んでいる場合ではない。
こうしてモタついている間にも、あのバラモスの手によって娘が、ローラ姫が苦しめられているというのだ。
ゲロゲロに希望を託しながら、一刻も早く絶望の町へ帰還しなければいけない。
わが最愛の娘、タバサにはまだ話の続きがあるのだから。
322残酷な真実ばかり ◆CruTUZYrlM :2012/11/06(火) 17:13:38.25 ID:L5ZBmO+u0

そう、大事な話。
共に冒険した仲間たちはおろか、子供たちでも知らなかった事。
だがそれは真実であり、曲げられない事実である。
娘であるタバサですら驚愕せざるを得ないのだから、きっと誰しもが驚くのだろう。
その話をする前に、最愛の息子レックスはこの世を去った。
幼いながらも天空の勇者という肩書きと力を背負い、共に大魔王ミルドラースと戦った、かけがえのない最愛の息子。
その尊い命が、この殺し合いによって奪われた。
大事な話だけではない、レックスには感謝も謝罪も何もかも、まだ済ませていないのだ。

ああ、しかし。
タバサのあの表情を思い出す。
嘘だ、信じられないと言ったあの顔を思い出す。
幼い子供たちにとって非常に残酷な事実、知らない方が幸せだったのかもしれない。
それでも、伝えなければいけないことだった。
皮肉にもこんな場所で、ようやく答えを見つけ、前を向くことができたのだから。
母親として我が子を守ることができなかった悔しさを、グッと堪えて前を向く。
タバサと夫は生きている、まだ家族がいるのだ。
やるべきことがあるから、今は止まっていられない。
「ごめんなさい、レックス」
一言、こぼれるように謝罪の言葉を漏らす。
「本当に、ごめんなさい……」
一筋の涙と共に添えられた言葉。
その時彼女が向いていた方向に最愛の息子がいるなど、知る由もない。
頬をたたき、こぼれた涙を拭い、前を向きなおす。
「ん……」
そのときに、違う声が聞こえる。
巨竜の正体と思われる、紫色の髪の女性からだ。
急いでいるとはいえ、傷ついた人間を放置して駆け出す事などできるはずもない。
フローラは彼女の元に駆け寄り、軽い回復呪文を当てた。
苦しそうな声を少しあげた後、突然目を見開き飛び起きる。
あたりを見渡しながら臨戦態勢に入っている彼女に、フローラは優しく声をかける。
「大丈夫です、ここには私しかいません。
 私はフローラと申します、まずは落ち着いて話をしませんか?」
えっ、えっ、と戸惑う声を上げながら、ようやく落ち着いたマーニャに、フローラは優しく微笑む。
ようやく落ち着いたマーニャの目には、その微笑みがどこか悲しさを纏っているように見えた。
323残酷な真実ばかり ◆CruTUZYrlM :2012/11/06(火) 17:14:08.61 ID:L5ZBmO+u0

【E-7/南部/真昼】
【マーニャ@DQ4】
[状態]:HP1/8 MP1/4
[装備]:なし
[道具]:不明(0〜1)、基本支給品一式
[思考]:ゲームには乗らないが、向かってくる相手には容赦しない。
     フローラと情報交換。一刻も早くミネアと合流するため、東へ。

【フローラ@DQ5】
[状態]:全身に打ち身(小)
[装備]:メガザルの腕輪
[道具]:支給品一式*3、ようせいの杖@DQ9、白のブーケ@DQ9、魔神のかなづち@DQ5、王者のマント@DQ5
     不明支給品(フローラ:確認済み1、デボラ:武器ではない物1、ゴーレム:3)
[思考]:リュカと家族を守る。ローラを助け、思いに答えるためにアレフを探す。
     マーニャと情報交換。

--------------------------------------------------------------

以上で投下終了です。
何かありましたら、どうぞ。
324名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/07(水) 15:27:19.47 ID:0NyJXYu/0
ほしゆ
325金魚の寿命と幸福論◇YfeB5W12m6:2012/11/08(木) 15:03:16.82 ID:rqY4iTceO
焼けつくような痛みが、身体中を巡っている。痛覚が刺激され続ける。
女は、薄汚れた琥珀の髪をまだらにちらつかせ、足を引きずりながら歩いている。
生きているのが、不思議なほどのケガだった。腹には穴があけられ、そのうえから炎で炙られ、それでも女は歩みをとめない。


頭が、くらくらする。血がたりていないのかもしれない。
女の息は荒い。誰がみてもあきらかだった。女は、もうながくはない。

まともに働かない頭では、放送の内容すらか霞がかってインプットされていく。でも、弟の名前は聞こえなかった。これは、絶対だと断言できた。


サックの中で宝玉が、人知れず輝く。女の意志は、本物だ。


(三人じゃ、たりないわ。たった、三人じゃ、たりないの)


ひゅー、ひゅーと女の口から息がもれていく。皮膚がただれていても、髪がけがれようとも、その身の美しさは損なわれていない女には、とても似合わない音。
それでもやはり、女は美しかったのだ。
326金魚の寿命と幸福論◇YfeB5W12m6:2012/11/08(木) 15:07:04.89 ID:rqY4iTceO
陳腐で使い古された言葉ではあるが、やはり愛すべき家族の為ならば、人は大抵なんだって出来るものである、とミレーユは思う。
それを信じるのがミレーユだからこそ、それの意味は奥深い。
幼い頃に弟テリーと引き離され、ミレーユはあまり綺麗とは言えない道を歩んで来た。
奴隷から解放されても、子供一人、それも女である彼女を救ってくれる人間なんてそう居ない。
居たとしても、それこそ本当に"けがらわしい"ものである。
しかしそれでも、ミレーユは生きてきた。果たすべき目的があるのだ。
だからこそ、テリーとの再開は運命といって違いないものだった。
今まで幸薄だった彼女に対する、これもまた陳腐ながらも、神様からの贈り物。

姉らしいことなんて、なに一つとして出来なかった。盲信だと言われても、間違いだと言われても、もう善悪などに興味は無い。
善悪などという、人の意志の建前にすぎない概念など視界には映らない。
テリーを守る。
それをミレーユは正しい事だとは思わない。
なんてことはない、それはただのミレーユの意志であるだけなのだ。









ふらり、女の体が前のめりに倒れる。
死ねないのに、逃げる為の労力がそれを邪魔する。
傷口が熱い。
血はもう、流れていない。
327金魚の寿命と幸福論◇YfeB5W12m6:2012/11/08(木) 15:15:08.98 ID:rqY4iTceO
ミレーユが絶望する。流れ出る程の血すら、もう自らの身体には残っていない。
それは死の宣告と同等、覚悟はあるのに身体がそれに順応しない。
瞼が重い。痛みすら麻痺しているので、まるで睡眠に誘うように瞼を開く事を許さない。
視界が黒く塗りつぶされていく。

頭の中に巡るのは、テリーの事。
死ねない 死ねない死ねない 死ねない 死ねない 死ねない 死ねない 死ねない………………


身体中から力が抜けていく。
どうしようもなく、抗えなかった。





【ミレーユ@DQ6 死 ──







「まだよ」

そう呟いて女は、立ち上がった。






本来、立ち上がる事など出来る筈が無いミレーユが立ち上がったのは、ただ一つ、諦めなかった気力によるものだった。
くじけぬ心も影響したのか、ミレーユの瞳は未だに輝きを失わない。


───とはいえ


───立てた所で、それは死を先延ばしにしただけ、よね
328金魚の寿命と幸福論◇YfeB5W12m6:2012/11/08(木) 15:23:23.74 ID:rqY4iTceO
解っている。気力だけでは、死そのものには抗えない。
それでも、ミレーユはまだ死ねない、死ぬのは自分が許さない。
しかし、もう呪文を唱える体力すら残っていない。
ならば、何で抗うか?
──物理的に、抗うしかない


ミレーユは最後の力で三つのサックをぶちまける。
散らばった様々な支給品、その中に一つ、細長く丸まった紙があった。
それを戸惑う事なく手にし、紐を解き紙を勢いよく延ばす。
二人(一人と一匹)を殺し、奪い取った際に、これの意味を記したメモは確認していた。


ずらずらと文字が並ぶ紙の上に、ミレーユの血が零れる。
瞬間、紙が光り出す。それ程まぶしくはない、包み込むような暖かい光。


変身の巻物。
特定の魔物を指定し、それに姿を変える効力を持つ。

このままでは、遅かれ早かれ死んでしまう。
それならば、例え異形のものになろうが、生存出来る確率が高い方を選ぶ。
それでも、恐ろしくはあった。
こんな状態だ、ひょっとしたら意識を保てずに暴走してしまうかもしれない。



光に包まれたミレーユの身体が変化していく。不思議と、違和感は感じない。
数メートルはある巨体に、背中から伸びていく白い翼。


砲口。
329金魚の寿命と幸福論:2012/11/08(木) 15:34:52.38 ID:rqY4iTceO
空気が振動し、踏み出した足の下、地面がひび割れる。
すうぅ、とそれが大きく息を吸い込む。
ともすれば喚き声とすら思える叫びと共に吐き出された激しい炎が、
辺り一面を焼き尽くす。



「ウオオォオオォォアアアァアァァァァア!」


とある世界では、人類を助け、またある世界では種族の王、
また別の世界では神と称えられる、それすなわち、ドラゴン。



引き裂く、焼き尽くす、踏み潰す。誰であろうとも、誰であろうとも。
ミレーユの意識はおぼろけだった。いつ途切れても、不思議は無い。
それでも、ただ一つだけ、異常な程の強い想いだけが残る。



(テリー、の、ため、に、)

ドラゴンがその巨体を、自らが作った火炎の海へと進める。
(ま、え、すすまな、いと)
その翼には、悲しい姉の想いを抱いて、ドラゴンは進む。
330金魚の寿命と幸福論:2012/11/08(木) 15:41:42.78 ID:rqY4iTceO
【D-8/草原/真昼】

【ミレーユ@DQ6】
[状態]:HP1/5、内臓損壊、下半身やけど、竜化
[装備]:くじけぬこころ@DQ6
[道具]:雷鳴の剣@DQ6
[思考]:テリーを生き残らせるために皆殺し
[備考]:変身の巻物の効果で竜化しています。持続時間は不明。

※D-8にミレーユ、ククール、ピエールの支給品が放置されています
331名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/08(木) 15:55:23.43 ID:rqY4iTceO
代理投下終了です
なぜか長文規制が厳しく、勝手ながら改行を増やしました
wikiには原文のままで収録しておきます。申し訳ない
332名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/08(木) 16:00:02.67 ID:rqY4iTceO
>Who am  I?
バラモスVSオルテガVSゲロゲロってかなり強烈な組み合わせだな…
魔王対勇者の描写が秀逸でかっこよかった
特にバラモスが悪の華で突き抜けていて好きだ
カバ顔だけど

>残酷な真実ばかり
どこに降ると思ってたら、そこかww
レックスへのごめんなさいが、切ないながらも
母親として立ち向かう覚悟を決めたフローラの強さがかいま見えてよかった

>金魚の寿命と幸福論

ミレーユの竜化は、なんとなく色々なことを想像させるな
先に似た手段で竜化したマーニャは彼女の子孫という説もあるし
ミレーユが本編で呼び出したのもドラゴンだったり…
それにしてもかなり死にかけだな…
333名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/08(木) 20:31:17.78 ID:KyNBwTTQ0
投下乙です!
ミレーユも覚悟がキマって来たなあ。
死からは逃げられないけれど、一秒でも長く生きようとするミレーユの姿勢が……
マーニャのドラゴラムに続き、竜化する参加者二号としてどうなるやら……?
334名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/08(木) 21:29:34.05 ID:UPQURL3M0
普通に咆哮の誤変換なんだろうけど
巨体に翼に砲口、って戦闘機か何かにでもなったのかと思ったww
335名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/10(土) 02:15:15.38 ID:t2UCDcTm0
代理投下行きます。
336マイフレンズ 1/6 ◇HGqzgQ8oUA (代理):2012/11/10(土) 02:15:53.94 ID:t2UCDcTm0
 私が先行すれば、今度こそ道を間違えるはずもないだろう。
 と、ミネアはアリーナの前を進むことを選んだ。
 方針そのものは正しかった。
 アリーナは大人しく、ミネアの後ろをてくてくとついてきてくれていた。
 唯一の誤算は、アリーナの通った道を戻ってしまったことだろう。
 森に差し掛かったあたりで、「あ、ここからならわかる!」などと言うが早いか、
 アリーナはミネアをぴゅんと追い越して先に行ってしまったのだ。
 来た道を戻るだけ。
 さすがにそれくらいはアリーナでもできたので、道を正す必要こそなかったものの
 ともすれば野生児とも見紛うアリーナの歩みは、ミネアからすれば高速移動のようなものだ。
 はぐれないようについていくためには、慣れない森の中を力の限り駆け抜けるほかなかった。

「あ、ここだわ。あたしとアンジェが出会ったのが、ここ」
「ぜぇぜぇ……そ、そう……ですか……ぜぇぜぇ」

 そうして、森の開けた井戸の前についた頃――。
 息も絶え絶えに、枝葉によってマントで隠し切れなかった柔肌にいくつかの生傷を作った、
 かわいそうなミネアの姿がそこにあった。

 そのありさまを見て、さすがにアリーナもまたやってしまったと気付いたのか、何度となく頭を下げた。
 ミネアは既に怒る気力も失って、てのひらを見せて制すと、ぺたりとへたり込んだ。
 ちょっと待ってて、とアリーナは再びロープを落として井戸へと潜る。
 中に残されていた水筒の一本に素早く水を汲み、一口、味見してから飛ぶようにミネアの側へと戻る。
 横に座ってそれを差し出すと、ミネアはお礼もそこそこにくいっと飲み干して、大きく息を吐いた。

「……ふう。さすがに疲れたわ」
「ほんっとにごめんね。さっき注意されたばかりだったのに」
「まあ、今回は私の体力不足が原因ですから」

 ミネアが勇者やその仲間たちと、旅をしてきた期間は決して短くない。
 前線に立つことも一度や二度ではなかったから、最低限の体力は持っているつもりだった。
 が、姉のマーニャのように毎夜ステージに立つような、体を資本とする仕事をしてきたわけでなければ
 目の前のアリーナのように、武術を高め、そのために体を作ってきたわけでもない。
 ミネアは占い師という、どちらかといえばインドアに属する仕事を生業とする娘である。
 彼女たち本物のアスリートたちの基礎体力と比べれば、その差は歴然である。
 仕方のないことではあるのだが、ミネアはそれを自責の範疇だと捉えていた。

 ようやくミネアの息が整ってきた頃。
 アリーナが珍しく神妙な面持ちで何かを言い淀んでいるのに気付いた。
 どうしたのと促すと、彼女は恐る恐る、それを口にした。

「……ねえ、ミネア。どうしてこんなに私の無茶に付き合ってくれてるの?
 本当はマーニャのこととか、探しに行きたいんじゃないの?」
337名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/10(土) 02:16:41.62 ID:MJPMLtqM0
 
338マイフレンズ 2/6 ◇HGqzgQ8oUA (代理):2012/11/10(土) 02:16:45.65 ID:t2UCDcTm0
 ミネアは思わず目を丸くした。
 これまで自由奔放に駆け回ってきた彼女から、そんな言葉が飛んでくるとは思っていなかったからだ。

「……確かに、姉さんのことを探したくないといえば、うそになりますけど」

 姉のマーニャの消息が不安であったのは、確かだ。
 アンジェやアリーナの想定以上の賢さの低さやらなにやらで後回しにせざるを得なかっただけで、
 可能であるならば、仲間集めもほどほどに姉との合流を最優先にしたかったのは間違いではない。
 けれど。

「もし私が友達をほっぽりだして、姉さん探しに奔走したとして。
 そうして無事に探し当てたとして、姉さんは喜んでくれないだろうと思うんです。
 なんでそんなことをしたの!って、きっと怒るんじゃないかなって、そう思うんです」

 ミネアはミネアの中に在る、マーニャのイメージを膨らませた。

 欲望だとか温泉だとか、いかにも姉さんが寄り付きそうな施設を浮かべる。
 絶望だとか牢獄だとか、いかにも姉さんが寄り付かなさそうな施設を浮かべる。
 姉さんはどこに行きそうか、どこに居そうか想像する。
 けれども必ず姉さんは、そのたびにそういう推理をぶっ壊して現れて、こう言うのだ。

 ――いい、ミネア。そういう『あたしならどうしてる?』なんてのはそんなに重要じゃないの。
 まずはあたしたちの友達を助けなさい。あんたがあたしを探すのは、それからでいいわ!

 ミネアは、そんな姉のイメージに従っているだけだった。

「もともと、姉さんの居場所がわかっているわけでもありませんからね。
 色々と考えはしましたけど、もしかしたらあっさり牢獄の町で見つかるかもしれません。
 そうでなくても仲間を増やせば、誰かが姉さんの手がかりを持っているかもしれませんし
 お互い生きていれば、いつかは……って、聞いてます?」
「ぐへへ、友達かぁ」

 語るミネアの前には、何やらブキミな笑顔を浮かべているアリーナがいて。
 もしかしたら相当恥ずかしいことを言ったのではないかと、ミネアは照れを隠して呟いた。

「そんなに変なこと言いました?」
「ううん、そうじゃない、うれしいの」

 そう言って、アリーナは両手を胸に当ててこう言った。

「私、ずっと友達がほしかったから」
339マイフレンズ 3/6 ◇HGqzgQ8oUA (代理):2012/11/10(土) 02:17:23.52 ID:t2UCDcTm0
 
 
 ○


 サントハイムの王女であるアリーナは、その身分ゆえに、たくさんの人々と関わってきた。
 他国の国王や王妃に謁見する機会は少なくなく、時には同世代の王子や王女と触れ合うことも何度かあった。
 だが、そんなものは国交としての人付き合いに過ぎない。
 同世代の同じ身分の者同士ではあったが、アリーナと彼や彼女は、友人である前に国の代表であったのだ。

 王城内に、アリーナと同世代の娘がいなかったわけではない。
 しかしそれは、例えば召使いのような、彼女とは身分の差のあるものばかりであった。
 王女であるアリーナがいかに気兼ねなく付き合おうと言い寄ってみても、召使い側が遠慮しないはずもなく。
 たまに遠慮なく話してくれる子は、すぐにたしなめられて居なくなったり、態度を改めてしまったり。
 心を許しあえる友達にまで至ることは、なかなかできずにいた。

 だからアリーナは、城を出ることにしたのだ。

 友達らしい友達ができないのは、サントハイム王女という肩書きがあるからいけないのではないか。
 旅の武術家としてでも新たな生活をはじめれば、何かが変わるのではないか。
 一人の少女として、新たな人生を歩んでみよう……そう考えたのだ。

「でも、なんだかんだ、私は王女という肩書きに頼ってしまうことが多かったな。
 はじまりからして、クリフトとブライがついてきてくれたのもそうだし
 私を名乗ってたメイっていう子を助けたときも、『本物は私!』って気持ちが強かったしね。
 結局、武術大会にも王女として出場しちゃったから、注目が集まっちゃってお忍びの旅は全部おじゃん。
 まあ、それからはそれどころじゃなくなったから、あんまり気にしてなかったんだけど……」

 だからこそ、嬉しかった。
 サントハイムの国民みんなが消失して、不安とともに当てのない旅を続けて。
 その最中にクリフトまでもが病に伏して。
 ギリギリのところで気張っていたあの頃に、手を差し伸べ仲間に入れてくれたソフィアたちの存在が。
 同世代の、身分なんて気にせず付き合ってくれる彼女たちの存在が。

「やっと友達ができたって喜んでいたんだけど……あるとき急に怖くなったの。
 私だけが一方的に友達だと思ってたらどうしようって。
 ソフィアもミネアもマーニャも、私のことをたまたま導かれただけの仲間だとしか思ってなかったらって。
 言いだせなかった、ずっと」

 ミネアは、黙ってそれを聞いていた。
 どこか恐れを感じたようなアリーナの姿に、ミネアは覚えがある。
 時折不安そうにしていたあの目は、てっきりサントハイムの行く末を案じてのものだとばかり思っていた。
 内に彼女が抱えていたのはそれよりもっと小さく、しかしそれゆえに大きな問題であったのだ。

「だからミネアが私のことを友達だと思っててくれたのがわかって、本当によかった。
 ちっちゃな夢が、今、かなった気分よ」
340マイフレンズ 4/6 ◇HGqzgQ8oUA (代理):2012/11/10(土) 02:18:02.43 ID:t2UCDcTm0
 そう言うアリーナの瞳には、ほんの少し涙が浮かんでいて。
 ミネアはそれまでの怒りを忘れて、アリーナの頭をそっと撫でて呟いた。

「もっと早く伝えられたらよかったね……私と姉さんはもちろん、
 きっとソフィアさんだって、あなたを友達だと思っているはずですよ」
「そっか、よかったあ」

 ミネアとて、他人事ではない話であった。
 父親を殺され、姉妹二人きりでの生活は明日を迎えるのが手一杯で、友達を作る余裕なんてなかった。
 いや、作ろうとしなかったと言う方が正しいかもしれない。
 姉妹が抱き、心の拠り所としてきたのはいつだって父親を殺したバルザックへの復讐心。
 もし、他に拠り所を見つけてしまったとき、それに安心してしまったとき。
 復讐心が薄れ、なくなってしまうのではないかと、それを何よりも恐れていたから。

 あの日。
 復讐だけを糧に進んだ冒険の果てに、バルザックへの復讐を遂げたとき。
 姉妹の手を取り共に喜んでくれたのが、ソフィアとアリーナの二人であった。
 あのときから、姉妹にとって彼女たちはかけがえのない友達に。
 そして新たな拠り所となっていったのだから。

『ゲーム開始から六時間が経過した――』

 放送が流れる。
 ミネアとアリーナは手を取り合いながら、彼女たちのたいせつな名前が呼ばれないことを、祈った。


 ○


 果たして、彼女たちのたいせつな名前が呼ばれることはなかった。
 ひとまずはよかったと言えるはずだった。
 しかし二人は、青ざめた顔を見合わせていた。

「サンディって……あの子よね?」

 アリーナが呟いたその名前こそが、その原因である。
 禁止エリアの予定地と、死者の名前に入れたチェックを確認して、ミネアは呆然と南へと視線を向けた。
 つい数時間前に別行動をとり、南へと下ったアルスとアンジェとその親友サンディ。
 うち、もっとも戦闘からは遠い存在であったはずの妖精の名だけが呼ばれていた。
 アルスとアンジェが呼ばれていないことには安堵したが、それがかえって謎を呼んでくる。

(もし戦いに敗れたのなら、アルスさんやアンジェさんの名も呼ばれているはずです。
 サンディさんだけが呼ばれたということは……)

 ケースはいくつか考えられた。
 サンディが命を懸けて二人を逃がし、アルスとアンジェは失意と共に逃走している可能性。
 不意を討たれてサンディがまず殺され、アルスとアンジェが今も危機に瀕している可能性。
 どちらにせよ、今、二人が悲しみと共にあることは想像するに難くない。
 そうでない可能性があるとすれば……ああなった場合や、まさかのこうなった場合も?
 などとあれこれ考え込んでいると、アリーナが動いた。
341マイフレンズ 5/6 ◇HGqzgQ8oUA (代理):2012/11/10(土) 02:18:34.78 ID:t2UCDcTm0
「ねえ、ミネア。私――」

 彼女のその先に続く言葉を、ミネアはすぐに予測することができた。

「アンジェたちとも、ちゃんと友達になりたい。だから、戻ろう!」

 心情としては、ミネアもアリーナと全く同じことを考えていた。
 チームを分けて、それぞれに仲間を勧誘する。数時間前に立てたこの作戦は効率では一番だ。
 が、それらのチームが個別に全滅してしまっては元も子もない。
 アルスとアンジェの行き先は、少なくとも方角は分かっている。
 どこにいるとも知れぬマーニャやまだ見ぬ仲間を探すよりは、確かに仲間へと繋がる行動に思える。

(これで牢獄の町に姉さんやソフィアさんがいたりたら悔やみきれませんが……)

 しかしこれを是とすることは、これまでに数時間かけてしてきた移動を、無駄にすることでもある。
 南へ行き、北へと戻り、ただ同じエリアを往復してきただけ。
 仲間を増やしたわけでも、有益な情報を得たわけでもなく、ミネアたちはこの六時間ほぼ何もしていない。
 何か始まるかもしれない牢獄の町まで、やっとあと少しのところまで近付けたところだったのだから。

「そうですね、分かりました。戻りましょう」

 しばし悩んで、結局、ミネアはアリーナの提案を承諾した。
 牢獄の町は、禁止エリアに囲まれない限り、もうしばらく逃げることはない。
 一方で、助けを求めているかもしれない仲間の声を拾えるのは、きっと今だけなのだから。

 ミネアの言葉を聴くが早いか、アリーナの顔全体に笑顔が広がった。

「よおし、そうと決まれば、さっそく出発よ!」

 話が決まるや否や、アリーナは立ち上がり、屈伸をはじめた。
 ミネアもやや遅れて、立ち上がる。
 ぱんぱんと、地面につけていた身体の砂を払おうとして、思い出す。

「ええ、ですがその前に、一つお願いがあります」
「どうしたの? そんな、あらたまって」

 こほんと、一つ咳払いをしてミネアはきわめて真剣にそれを訴えた。

「いい加減、服、着させてください!」

 アリーナは、屈んだ姿勢のまま固まって、きょとんとミネアのほうを見た。

「な、何を言うかと思ったら……そんなにイヤだったの? マントでもダメだった?」
「当たり前です! 見てくださいこの生傷を! 痕になったらどうすればいいんです?」

 そう言ってマントをややたくしあげたミネアの両足に引かれたいくつもの線を見て
 さしものアリーナも「ああ……」と納得せざるを得なかった。

「これからまた森を通るワケだし……仕方ないかぁ。
 じゃあミネアが着替えてるうちに、私はもう少し水を汲んでおくね。
 井戸の中に水筒がもう少しあったと思うから。
 アンジェたちがどうなってるか分からないし、持っていったほうがいいよね?」
「ええ、お願いします」
342マイフレンズ 6/6 ◇HGqzgQ8oUA (代理):2012/11/10(土) 02:20:14.97 ID:t2UCDcTm0
 みずぎミネア、いいと思ったのにな〜、と口を尖らせながらアリーナは井戸へと降りていく。
 いそいそと服を取り出しながら、ミネアは笑った。
 同じようなやり取りあったはずなのに、今までよりずっと打ち解けられたような気がしていたから。

「まっててねーアンジェ! すぐに私たちが飛んでいくからねー! 全・速・力でー!」

 井戸の中から反響して聞こえたアリーナの叫びに、今度はミネアが固まった。

(――ああ、そっか。またアリーナさんに合わせて走るのよね、そうよね……)

 ミネアは早くも今しがたした判断を、ほんの少しだけ後悔しそうになっていた。


【B-4/井戸/真昼】

【ミネア@DQ4】
[状態]:疲労(小)
[装備]:あぶない水着(下着代わり)、風のマント@DQ2
[道具]:支給品一式
[思考]:仲間や情報を集める。 アリーナと共にアンジェたちと合流

【アリーナ@DQ4】
[状態]:健康
[装備]:竜王のツメ@DQ9
[道具]:フックつきロープ@DQ5、支給品一式 水筒×3
[思考]:デスタムーアを倒してゲームを終わらせる、ミネアと共にアンジェたちと合流

-------------------------------------------------

以上で代理投下終了です。
アリーナがそういう考えだった、ってのは予想つかなかった。
おてんば姫がおてんばたる所以ってあんま語られませんしなア。
だからこそ"友達"を救いたいってのはグッと来る!
343 ◆TUfzs2HSwE :2012/11/10(土) 20:53:02.33 ID:OnwB9NoaO
毒をかじっても、彼女が生きていられるのは、彼女が誰より美しく、尊い存在であるから。

世界が彼女を、必要としていたから。

だから、私は――――





***


(くそっ、これだから嫌なんだ。これだから……!)

影の騎士は走り続ける。
いつの間にか変身が解けていたことにも、もはやなりふりかまわずに。

勇者だの魔人だのと、そんなもの、糞でも喰らえばいいと思った。
彼にとっては、どちらも邪魔な存在でしかなかったのだ。
強きを騙し、弱きを挫き、影に身をひそめ続ける。
そして危険を察知すれば、全力で逃げること。
それが、影に生きるものの生き様だった。

『……の。……がい、……か……』

未だ巻物による能力の恩恵をあずかっている影の騎士には、いくつもの雑音が聞こえてくる。
その中のひとつ、飛びぬけて耳障りな声が拾われる。
それは拡声器のようなもので、広く周囲に拡散された声だ。狂ったように、なにかを叫び続けていた。

『……すけて。だれか、たすけて! 聞こえているなら、ここに来て!!』

何とはなしに意識を集中させると、やがて明瞭に、その声が影の騎士にまで届く。

『私には、戦う力がない。心ある人たちを、この手で守ることもできない!
だから、この声が届いているのなら、どうか私のもとに来て!
勇気ある人たちを、誰かのために戦う人を、……』

ついさっきまで聞いていた女の声だ。
全世界にでも訴えかけるかのように、必死に搾り出すその声は。
344 ◆TUfzs2HSwE :2012/11/10(土) 20:56:33.37 ID:OnwB9NoaO
『――――勇者を、守って!!』

(……耳障りなんだよ)

思わず、胸のうちに悪態をつく。
世界は勇者と魔王だけで成り立っているわけではないのだ。
その脅威にさらされた今、走り続ける影の騎士に届いた叫びは、ただただ腹立たしいものでしかなかった。


***


「……血が」

口元をぬぐってみると、手の甲が赤くこすれていた。
それで下唇を軽く食むと、やはり血の味がする。
涙の代わりみたいだと思った。
無力な自分には泣く権利などないのだから、涙の代わりに生き血を流し続ければいい。

だれか、聞いてくれただろうか。
血を吐くようなこの叫びは、心あるものに届いただろうか。

拡声器を手にして震わせた自分自身の思いに、シンシアはそっとうなだれる。
勇者を、ソフィアを守るために、あの村を生きた生涯と。
この世界で出会い、やがて死なせてしまった、レックスというもう一人の勇者と。
口にするたび、苦い思い出ばかりが溢れて止まなかった。

まるで彼女の心情を描くように、あたりはにわかに暗くなり、深い霧が覆い始める。
なにかが起き始めているのだろうか。ロッシュは果たして無事だろうか。
彼を助けるために拡声器を手にしたはずなのに、自分はなぜ思いがけず、勇者を守ってと叫んだのだろう。
答えも見つけ出せぬまま、だれかがこの声を聞いてくれたことを、シンシアはただ祈った。


「――これより、一回目の定時放送を行う」


突然響き渡る声。
シンシアの叫びよりとは比べ物にならない、脳裏に直接響き渡る圧倒的な音質での放送が、世界中に流れた。
はっと顔を上げると、空ではいくつものおぞましいどくろが、参加者たちを見下ろしている。
冷酷に読み上げられるその内容に、シンシアは息をすることも忘れて、聞き入った。


***
345 ◆TUfzs2HSwE :2012/11/10(土) 21:04:15.69 ID:OnwB9NoaO
「……十六人」

それが、放送で読み上げられた、開始からここまでの死者の数だった。

「……ククク……ヒヒヒヒヒヒ……」

がいこつの顎がかみ合わない歯をがちがちと震わせる。影の騎士は歓喜に打ち震えていた。
しのび笑いではとうとう堪え切れず、どこから出てるのかもわからない声を、枯れよとばかりに張り上げた。

「ヒャーーーーッハッハッハッハッハー!!!! 十六人、たったの六時間で十六人!!
ヒッヒ、愉快だねエ、楽しいねエ、ヒャハハハハハ!!」

止まらない哄笑を叫び続ける。
自身の手で成果を出せたことはまだ無くとも、思っていたより順調らしい己の計画に、文字通り笑いが止まらない。
すでに二桁を越える人数が死亡しているのだ。各地で殺し合いが起きている。そしてそれは、時が経つにつれ加速していく。
影の騎士が暗躍せずとも、殺し合い、潰し合い、やがては自滅していくことだろう。

ひとしきり笑い終え、一息ついたところでふと、影の騎士は先ほどの声を思い返す。
勇者を守ってと叫んだ、私は弱いと豪語した、おろかな人間の女のことを。

「ここに来て、なんて……殺しにきてくれと言っているようなものだなぁ?」

巻物の効果時間には限りがある。恐らく近いうちにその効果も切れてくることだろう。
そうなれば今までのように、超人的な視覚や聴覚を頼りに行動することはできなくなる。
獲物がどこにいるのかはっきりしている今ならば、あの喜ばしい数字をさらに増やすことができるかもしれない。
にたりと、どくろが笑みを深めた。


***
346名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/10(土) 21:06:13.83 ID:XbMPFQqV0
 
347 ◆TUfzs2HSwE :2012/11/10(土) 21:06:58.21 ID:OnwB9NoaO
「一体、なにが起きているの……」

シンシアは戸惑った。
ソフィアを含め、シンシアの知る人々が新たな死者として呼ばれなかったことには、ひとまずの安堵を覚えたが、
思っていたよりもはるかに死者の数が多い。十六人――すでに、参加者の二割を越えている。

(殺しに乗っている人が、いるんだわ。私が知るよりも、さらに多くの人が……)

心ある人がいると信じて行動してきたシンシアには、その事実が悲しかった。
もし、その、殺しに便乗した誰かが、どこかでソフィアを害したら。
寒気が止まらない。彼女を失うことなど、あってはならない。

あれから、シンシアのもとに誰かが来る気配はなかった。
不運にも周囲に人がいなかったか、聞こえたとしても、直後の定時放送にかき消されてしまったかもしれない。
タイミングが悪かったのだと思う。必死に叫んでいた先ほどよりは、幾分冷静さを取り戻していた。

助けがないのなら、この手でなんとかしなければならない。
自然にそう思い至る。レックスの死を激しく悔いるシンシアにとって、ロッシュまで死なせるわけにはいかなかった。
――そして、脳裏によぎったのは。自分とともに戦線を離脱した金髪の女性、ミレーユのことだった。

“どのような搦め手を使っているかは知らん。だが、お前は邪魔だ”

それが、ロッシュの仲間だったはずの彼女に向かって、デュランが言い放った台詞だ。
シンシアには、そう言い放った理由も、なぜミレーユが悲鳴をあげて逃げていったのかもわからなかった。
足手まといと言うだけなら、彼女と同じように、自分もまた追い払われただろう。だが、彼らはそうしなかった。
二人で戦うという誓約を立てるとき、彼らにとってはただ、ミレーユが『邪魔』だったのだ。

(裏切り者だった……? それとも、彼女は偽者ってこと?)

ミレーユに対して感じた少しの疑念が、いくつかの推測を組み立てる。
まだ出会って間もない人について、なにが疑わしいのかを確信することはできないけれど。
もし予想が正しければ、ミレーユを野放しにすることは危険なのではないか?
逃げていったように見えて、今もどこかで、ロッシュに危害を加えることを策謀しているのでは?

シンシアが勢い込んで立ち上がるのと、聞き慣れた声が彼女の耳に届いたのは、同時だった。
348 ◆TUfzs2HSwE :2012/11/10(土) 21:11:01.56 ID:OnwB9NoaO
「やあ、シンシア。無事だったんだね」

驚いて振り返れば、そこには渦中の人であるはずのロッシュが立っていた。
傷一つない状態で。

「……ロッ、シュ?」
「少し時間がかかっちゃったけど、なんとか倒せたよ。
待たせてすまなかった。それじゃあ、もょもとを探しに行こうか」

自分のそれまでの逡巡とは裏腹にしごくあっさりと物事が進み、肩透かしにも似た思いを抱く。
放送があったことを考えても、あまりに平然とした彼の様子に、シンシアは戸惑った。
自分のように、知り合いが死ぬことはなかったのかもしれない。否、そうだとしても。

「そ、そうなの……。ねえ、あの、ミレーユさんは?」

結局、困惑を隠せないままに問いかけると。
彼はいたってほがらかに――ほがらかさを貼り付けたようにして、笑う。

「どこかで、のたれ死んだんじゃないかな」

冷たい、感情を伴わない声。
息を呑む。
凍りつくような寒気が、強烈な違和感が、シンシアの背筋を駆け抜けた。
それは先に金髪の女と交わしたような、血肉の通わぬ会話に似ていて。

「さっきのさ、デュランとの話、聞いてたでしょ?
彼女は僕らにとって邪魔な存在――いわば、裏切り者なんだ。
本人がいる前じゃさすがに言えなかったからさ、後で伝える形になって、悪かったよ。
まったく、最初に出会った仲間がアレなんて……僕も不運だなあ」

目の前の男が一言発するたび、シンシアの胸のうちで、不審が確信へ変わっていく。
彼は、言わない。
出会って間もなく、交わした言葉もそう多くはないけれど。
仲間を貶めるようなことは、きっと絶対に、口にしないはずだった。

「……ばかにしないで」

気付けば、そんな台詞が飛び出ていた。
349 ◆TUfzs2HSwE :2012/11/10(土) 21:14:37.41 ID:OnwB9NoaO
「シンシア?」
「ばかにしないで。あなた、ロッシュじゃないでしょう」
「なにを言っているんだい?」
「それくらい、わかる。わかるわ……!
彼は今も戦っているの、いつだって、ほかの誰かのために! あなたみたいな人とは、違う!!」

非難めいたシンシアの糾弾が、目を丸くしたロッシュにぶつけられる。
対するロッシュは、ロッシュの姿をしたものは――

「……聞いたでしょ? 十六人だってさ」

人間のものとは思えないような、歪んだ笑みを浮かべた。

「この短時間で、十六人だよ? ひひひ……どうやらみんな、よっぽど殺し合いが好きらしいねえ。
君は必死にそう言うけどさ、心ある人なんて、ほんとうにこの世界にいるのかな?」
「あなた……一体、何者なの? 人間ではないの?」
「ちょっとさ、奇麗事が過ぎるよねェ。
拡声器であんなこと言っちゃってさ――君を狙う人が近寄ってくるとは、考えなかったわけ?」
「――……!」

シンシアは、はっとする。
ロッシュの姿をした者が、なにか杖のようなものを、凶器を手にしていたことにようやく気付く。
心ある人に届けと願ったところで、実際にシンシアの声を聞いて現れたのは、彼女を単に獲物としか思わぬ殺人者。
シンシアの叫びは迂闊にも、彼女が求めるものとは逆の結果を招こうとしているのだ。

(……ここは、この世界は……)

焼けた村と広がる炎、そして足元に広がった毒の沼地。それが生前、シンシアが最後に見た景色だった。
ここは、この狭間の世界は、まるで。
毒の沼地に放り込まれ、次々と毒に侵されて、殺し合いに染まっていく。あの村の悲しき最期のように。
そして、その毒沼に幾度となく足をとられても、ソフィアはきっと、振り払いながら走るのだ。
自分たちが押し付けた、壮絶な痛みと哀しみを、少女の背に負いながら。

――――勇者は、私が守る。

それが、シンシアが拡声器の声に乗せて届けたかった、真なる彼女の願いだった。
誰かに託すのではない、ほんとうはこの手で守りたかった。あのときも、今も、変わらない。
ならば、こんなところで死ぬわけにはいかない。

相手の正体が見えない今、迂闊な行動は死を招くだろう。
彼女自身はなんの戦闘力も持たない、ただの少女なのだから。
たたかうすべがあるとすれば、それはただ一つ。


「――モシャス!!」


世界が勇者を必要とする。その勇者を、自分が守る。
ただ、その願いを叶えるために、シンシアが唱えることのできる、唯一の魔法だった。
350 ◆TUfzs2HSwE :2012/11/10(土) 21:17:11.85 ID:OnwB9NoaO
【F-8/北部/真昼】

【影の騎士@DQ1】
[状態]:変化、千里眼、地獄耳
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式(ランタンなし)、変化の杖@DQ3
[思考]:とりあえずシンシアを狙う
闇と人の中に潜み続けて、戦わずして勝ち残る。
争いを加速させるためあらゆる手段で扇動する。
[備考]:変化の杖でロッシュの姿に変化しています。持続時間は不明です。
千里眼の巻物により遠くの物が見え、地獄耳の巻物により人の存在を感知できるようになりました。
範囲としては1エリアほどで、効果の持続時間は不明です。

【シンシア@DQ4】
[状態]:全身打撲、変化(モシャス)
[装備]:拡声器
[道具]:支給品一式×2、ゾンビキラー@DQ6、メタルキングの槍@DQ8、不明支給品(確認済み×0〜3)
[思考]:今の危機を乗り越える
勇者を守る レックスを殺した襲撃者を知りたい
※モシャスはその場に居る仲間のほか、シンシアが心に深く刻んだ者(該当:ソフィア)にも変化できます
※拡声器を使用しました。F-8北部を中心に声が広がりました。
※モシャスを唱えました。何に変化したかはお任せします。



投下終了です。
タイトルは
Who's the fairest in the world? です
351名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/10(土) 21:50:10.18 ID:jDs4Amhv0
乙っす
352名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/10(土) 23:02:52.37 ID:nkMti9HY0
投下乙です
変化の杖vsモシャスがここで激突か、熱い
影の騎士、よく見たらほとんど丸腰だけど名誉挽回なるか?
シンシアは誰に化けたかな?状況的に色んな可能性がありそうだけど…
353名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/11(日) 12:46:55.94 ID:YEhIy5ct0
投下乙
モシャスって外見変えるだけで強さには全く影響ないんじゃ……
354名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/11(日) 17:57:56.26 ID:jJgTJ3jp0
投下乙!
なるほど、今のうちに殺せそうな弱い人間に襲い掛かる……
しかしロッシュの姿を借りて襲い掛かろうとするのがなんとも姑息。

>>353
変化の杖は外見だけだけど、モシャスは能力までコピーできるはず……
355名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/11(日) 20:36:44.56 ID:XxmYa/Xt0
モシャスは基本的にHP、MP以外のステータス、呪文、特技全コピーやな
356 ◆1WfF0JiNew :2012/11/12(月) 23:54:35.41 ID:VNQ3a3Ps0
>ハッピー・ギプス
ドルマゲスwwwwww
このヘタレはどうしようもないwwwwww
リアは相変わらずの純真な愛を抱いているようで何よりです。

>傷付いた魂
アレルお前の仲間だろ、何とかしろよwwww
この戦闘馬鹿ふたりはどうしようもないわ……。
誰か1人でもストッパーがいたらよかったのにね。

>Who am  I?
乱戦終幕! オルテガさんの「正義を示しに」は惚れるレベル。
あらくれだけど。バラモスはリベンジなるか。
次が気になりますねー、全員が全員。

>残酷な真実ばかり
フローラは1stと違って綺麗すぎるから困る。
母親やってヒロインやって、もう色々やってるよ!
リュカと再開したらどうなることやら。

>金魚の寿命と幸福論
シスコンはまだ終わらんよ!
ミレーユも頑張るなあ、それだけテリーへの思いが強いってことか。
相手次第ではまたゲームセットになりそうだけど。

>マイフレンズ
真っ直ぐで王道!
このコンビはとことん真っ直ぐ!
大事なことなので二回言いました。
いいなあ、こいつら殺し合いなのにすごい清涼。

>Who's the fairest in the world?
影さんすげえ小物のにおいっすよwwwww
駄目だこいつ、忍ぶ気あんまねーぞwwwwww
シンシアに返り討ちされそうだから困る。

それでは予約分を投下します
357名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/12(月) 23:55:06.22 ID:rzACxAuO0
sie
358 ◆1WfF0JiNew :2012/11/12(月) 23:57:23.98 ID:VNQ3a3Ps0
「ははっ」

乾いた笑いが口から漏れだした。
放送が僕にもたらしたのはとびっきりの悪夢だった。
何を考えてたかなんて放送で吹き飛んでしまった。

『キーファ』

君の名前が呼ばれたことを信じられないのも無理は無いだろう?
僕の手をいつも引いてくれた君がこんなにも早くいなくなるなんて。
僕がまだ五体満足で生きているのにね。

『ガボ』

ガボ、君もいなくなったのか。
君のことだ、短い時を無邪気に生き抜いたのだろう。
自分の身よりも他人を優先してばかりで……本当に馬鹿だよ。

掌から零れ落ちていく仲間達。
最初は四人。今は二人。ホンダラおじさんを入れても三人しか残っていない。
徐々に狭まっていく僕の世界。
少しずつ切り取られて最後に残るのは僕か、マリベルか、ホンダラおじさんか、アイラか。

「本当に、どうしようもない」

そう、どうしようもないのだ、この殺し合いは。
今までの冒険とは訳が違う。
解決方法は不明、万が一見つけたとしてもそれを実現できるかどうかすら定かではない。
魔王討伐の時みたく、回復呪文に頼ることも全滅した後、教会で生き返ることもできない。
手に慣れた装備を奪われるのに加えて、勝手が違う場所で生き残れと命令されて無事に生き残れるなんてありえないと思う。

「こういう時は不幸だーって叫ぶべきなのかな?」

こうして独り言でも言わないとやってられない。
知らない場所で殺しあえなんてストレスがマッハで溜まるよ、もう。
本当に――笑えない。
僕はキーファと違う。彼に手を引いてもらって動いていたに過ぎない。
いついかなる時でも前に進んで、先陣を切っていた。
輝いていたんだ、キーファは。

「戯言、かな。それとも、本心からの言葉かな」

僕自身、キーファに抱いてたのは憧れか、嫉妬か。自分の中でも掴めていないのだ。
ただひとつはっきりしているのは日常に戻りたい。
ただ、穏やかでゆるゆると流れ行く時に身を任せてぼーっと過ごしたい。
勇者? そんな力、あった所で怖がられるだけだ。
『普通』が一番なのだ。『異常』な力などいらない。

「君の手を取らなければ、僕は今も普通でいられたの?」

虚空を見上げて問いかける。その質問を答えてくれる本人はもうここにはいない。
答えは永遠に闇の中だ。

「こんな力を持たずに。殺し合いにも巻き込まれずに。ただ、日常に流れているだけでよかったの?」

数々の出会いと別れ、闘いは僕を強くしてくれた。
だけど、その強さは本当に必要だったのだろうか?
旅は、僕にとって、一体何であったのか?
359名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/12(月) 23:58:56.86 ID:rzACxAuO0
sie
360 ◆1WfF0JiNew :2012/11/13(火) 00:00:07.33 ID:VNQ3a3Ps0
普通が一番の僕にとってキーファの手をとったことは――間違いだったの?

――知るかよ、そんなこと。

「君ならこう返してくれるんだろうね、キーファ。そんなことよりこの状況を解決する手段を考えろってね」

議題は山積みでどれひとつ解決には至っていない。
仮に、ゲームに乗ったとしてもデスタムーアが五体満足に無事に元の世界に返してくれるかどうか。
不明確すぎるこれからに僕は頭を抱えざるを得ない.
はぁ……本当についていないよ。僕は平穏に暮らしたいだけなのに。

「普通普通バカみたいってマリベルには言われそうだけど」

普通が一番気楽で目立なくていいのに。
まあ、僕とマリベルは感性が違うから仕方ないといえば仕方ないのだけれど。

「全くもって大変極まりないよ、殺し合い」

平穏を取り戻す為に動くことはかったるいのに。
でも、動かなくちゃいけないんだろうなぁ。
そもそも、僕の気が緩んでいたからこそサンディは死んでしまったんだ。
防げた犠牲だった。ああ、これは僕の罪だ。

「なら、背負ってやろうじゃないか」

そうさ、かったるいけど。もう、あんな思いは嫌だから。
ここからはちょっと本気で、ね。

「動こうか、殺し合い」



【D-3/草原/真昼】

【アルス(主人公)@DQ7】
[状態]:HP8/10 MP1/3 腹部に刺し傷(軽度)
[装備]:はがねの剣@歴代
[道具]:支給品一式、サンディのふくろ(中身は不明)
[思考]:顔見知りを探す(ホンダラ優先) ゲームには乗らない
本気で動いてみる。

【アンジェ(女主人公)@DQ9】
[状態]:HP4/10 MP9/10 背中に擦り傷 全身打撲 気絶
[装備]:メタルキングの盾@DQ6、オリハルコンの棒@DQS
[道具]:ハッピークラッカーセット@DQ9(残り4個) 使用済みのハッピークラッカー 支給品一式
[思考]:困っている人々を助ける デスタムーアを倒す サンディの死にショック?
[備考]:職業はパラディン。職歴、スキルに関しては後続の書き手にお任せします。
361 ◆1WfF0JiNew :2012/11/13(火) 00:01:53.33 ID:VNQ3a3Ps0
短いですが投下終了です。
タイトルは「君を背負うから」で。
362名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/13(火) 00:13:36.93 ID:0GlF+w3M0
投下乙!
うわー、辛いなあ。
能力なんて無ければ非日常にめぐり合わずに済んだのか。
旅がなんだったのか、っていうのは辛い問答だなあ。
そしてアンジェは放心気味で何も喋れてないのだろうか……?
363名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/13(火) 10:00:26.09 ID:EKA7v4dz0
いや、気絶て書いてるで
364名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/13(火) 16:31:13.15 ID:dPMMzepUO
ほんまや、見落としてたわ
365二人の旅 ◆TUfzs2HSwE :2012/11/13(火) 23:30:59.47 ID:w/qFuJ2EO
「……カイン」

「……何」

「今、あきなって」

「うん」

「あきなは、なんで、呼ばれたんだ?」

「死んだから、だろ」

「死んだ?」

「あきなは、死んだんだ。殺されたんだろ。この世界じゃ、まちがいなく」

「殺、す」

「そうだよ。わかるだろ。今なら、もう、わかるだろ。お前だって」

「……」

「あきなは、もう」

「……」
366二人の旅 ◆TUfzs2HSwE :2012/11/13(火) 23:33:41.64 ID:w/qFuJ2EO
.




「もょもと」

「……?」

「ありがとう」

「え?」

「アイラを、運んでくれて、ありがとう」

「……」

「いや、なんか」

「……」

「たぶん、お前にごめんとか、ありがとうとか、言ったことなかった、僕」

「……」

「あきなはあきなで、いっつも、ごめんなさいばかり言ってて」

「……ああ」

「あまりにも謝るから、そのたびに僕はイライラしてた気がする」

「……でも、あきなは」

「え?」

「おれに、ありがとうを、教えてくれた」

「そうなんだ」

「ああ」

「……」

「……」





「……カインは、おれを嫌っていると、思っていた」

「は?」
.
367二人の旅 ◆TUfzs2HSwE :2012/11/13(火) 23:36:04.50 ID:w/qFuJ2EO
「……」

「いや、嫌い、っていうか」

「……わかった、んだ」

「え?」

「ほんとうは、わかってた気が、する、けど」

「なにが」

「おれは、誰が相手でも、たたかえばいいって。そうすれば全部わかるって、思っていた」

「……」

「でも、それだと、殺してしまうんだ」

「……」

「あきなみたいに、死ぬんだ。ひとが」

「……」

「それが、わかった。だから」

「……うん」

「おれも、ありがとう」

「……」





「……これから、どうする?」
.
368二人の旅 ◆TUfzs2HSwE :2012/11/13(火) 23:40:04.99 ID:w/qFuJ2EO
「え?」

「たたかうとか、たたかわないとかじゃなくて、もっと先のことで。
お前、どうしたい? この世界から抜け出して、元の世界に帰りたい?
それとも、デスタムーアが言うとおり、全員殺して願いを叶えてもらいたい?」

「……」

「僕は、さっきまで、とりあえず何でもいいから帰れたらって思ってた」

「ああ」

「でも、だんだん、わからなくなってきた」

「……おれも、わからない」

「うん」

「たたかうのが正しいと、思ってたけど」

「ローレシアに帰りたいか?」

「……わからない」

「僕もだよ」

「……」

「妹は、捜さないとだけど」

「ああ」

「あの世界に、サマルトリアに帰ったって、どうせ何も変わらない。
……真実を、知りたいんだ。僕は」

「……ああ」

「どうして僕が、僕ら血族の末裔が、こんな運命を背負うはめになったのか。
ロトの血族って、一体なんなのか」

「おれもだ」

「うん」

「これから、どうしたらいいのか、おれはどうするべきなのか。わからない。だから」

「うん」

「おれも……真実を、知りたい」
.
369名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/13(火) 23:40:49.86 ID:Ltr/W6Vj0
しえん
370名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/13(火) 23:43:04.97 ID:0GlF+w3M0
sie
371二人の旅 ◆TUfzs2HSwE :2012/11/13(火) 23:43:09.60 ID:w/qFuJ2EO
.




「ようやく着いた。あれがよくぼうの町か」

「ああ」

「行こう、もょもと」

「……ああ」






【E-8/欲望の町前/真昼】

【もょもと(ローレシア王子)@DQ2】
[状態]:HP11/20、全身打撲、軽度のやけど、腹部損傷(小)、背中に掠り傷、アイラを背負っている
[装備]:オーガシールド@DQ6 満月のリング@DQ9
[道具]:基本支給品一式
[思考]:カインと行く 真実を知りたい

【カイン(サマルトリアの王子)@DQ2】
[状態]:HP6/10 脇腹打撲 肋骨が折れる 内臓微損傷
[装備]:プラチナソード
[道具]:支給品一式 不明支給品×2(本人確認済み 回復道具ではない)
[思考]:妹を捜す アイラの治療 欲望の町に向かう ロトの血族に対して……?

【アイラ@DQ7】
[状態]:HP1/8 全身やけど もょもとに背負われている 気絶
[装備]:モスバーグ M500(4/8 予備弾4発)@現実、ひかりのドレス@DQ3
[道具]:支給品一式、不明支給品×0〜1(回復道具以外)
[思考]:ゲームを破壊する 欲望の町に向かう
[備考]:スーパースターを経験済み
372 ◆TUfzs2HSwE :2012/11/13(火) 23:47:47.50 ID:w/qFuJ2EO
短いですが投下完了です。
支援感謝。
373名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/14(水) 00:00:48.45 ID:Ltr/W6Vj0
投下乙です
短い台詞のやりとりだけなのに、ここまで気持ちが伝わってくるのは凄すぎる…
これでやっともょもとも戦い以外の目的を見つけて、これからがスタートといえるのかな、頑張ってほしいな
374名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/14(水) 00:35:42.47 ID:7PtOPolS0
投下乙!
飾りはいらない、二人のそのままの会話だけが有ればいい。
ストレートに心に響きました、本当にいい作品をありがとうございます。
375名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/14(水) 01:10:26.16 ID:gQA3K1r40
間の行間がいいよね
欲望の町に向かいながらポツリポツリと時間をかけてしていた会話なんだろうな
あきなも一緒にこうして本音を出しあえていたら何か変わっていたのかもしれないな

投下乙!
376名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/14(水) 12:22:48.79 ID:KhCMVp4Y0
投下乙です
あきな、唯一の自殺者なんだよな…そして最期の言葉が「ありがとう」…
このことを2人が知る事があるのかどうか
377名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/15(木) 01:45:10.72 ID:FfI0LGJU0
>>傷ついた魂
アルスは勇者でも戦士でも無い、世界を救っても村人代表。
そんなポジションだからか、正義とか勇気とか仰々しい感情では動いてない感がしますね。
すごく等身大というか、でもだからこそヒーローになれる可能性に満ちているのかも。
期待が持てます。
アンジェは・・・起きないほうが幸せかもしれない。
大事なものを一気になくし過ぎた。

>>二人の旅
二人のかすれた声でぼそぼそしゃべり合う空気まで感じられました。
これだけ距離感のある仲間もなかったんだろうけど、今こんな場で初めて踏み込めたんですね、お互いの領域に。
今後にやっぱし期待なチームです。

投下乙でした。名作ばかりの連発だ。
378名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/15(木) 02:16:45.96 ID:xv/eGwC70
集計お疲れ様です、今期月報データです。
今日投下が来たらデータを書き換えてください。
DQU 73話(+ 15)  44/60 (- 0)  73.3
379夜の女王のアリア  ◇YfeB5W12m6:2012/11/16(金) 10:16:59.36 ID:rCkyTcRIO
「…………ここ、は……」

自然に口から言葉が流れ出た。 井戸へと飛び込み暗闇を抜けた先は、忘れる筈もない、忘れられる筈もない、薄暗い部屋──
デスタムーアによって、悪趣味な宴の開催が宣言された、あの部屋だった。
見ればマリベルも、井戸を落ちている最中は騒がしく声をあげていたというのに、辿り着いた場所がどこか気付いたのか、息を飲んだ様子が窺えた。

ろくな灯りがない部屋の中、テリーがキョロキョロと部屋を見渡す。薄暗い為、部屋の構造全てが見えたわけではないが、確認する限りはチャモロと青い服を着た男の死体は無くなっていた。
血の匂いも、全く感じかった。処理、されたのだろうか、と考えつつ足を一歩踏み出し、何かを踏みつけてしまった感覚。
テリーの足の下で転がっている、ホンダラ。


げっ……とマリベルが声をあげる。
あぁ、そういえばこいつも井戸に落ちたんだったか。正直、あの女とこの場所の印象が凄まじく、忘れていた。
酔っ払って感覚が鈍っているのか、ホンダラは踏まれたのにも関わらずうぇ?と情けない声をあげるだけだった。


……とりあえず、ほっとこう……


二人が同じ思いを抱いた時、ホンダラの懐で何かが光っている事にテリーが気付く。
380夜の女王のアリア  ◇YfeB5W12m6:2012/11/16(金) 10:19:11.27 ID:rCkyTcRIO
ホンダラを転がし、それを半ば奪い取るに近い形で取り上げる。どこかで見た事のある、黄金の宝玉だった。


「真実のオーブ…………?」


牢獄の街に投獄されていた大賢者が作り出した、まやかしを打ち破るというオーブ。
これがこのホンダラのもとにあったという事は、これはホンダラの支給品なのだろうか?
だが今そんな事より気になるのは、これが光を帯びている事である。


「……あら、綺麗な宝玉じゃない」


落ち着きを取り戻したらしいマリベルが、真実のオーブをテリーの手からかすめ取る。おい、返せとテリーが口に出そとした時、禍々しい声が空気を振動させた。



「──ゲーム開始から六時間が経過した ──これより、一回目の定時放送を行う」



テリーとマリベルの動きが硬直する。放送の主の自己紹介もほどほどに(どこかで聞いたことのある名前だった)、禁止エリアが発表され──そして、ある意味ではお待ちかねだった死者の発表が続く。
次々と知らない名前が並んでいく中、一人だけ見知った名前が呼ばれた時、一瞬テリーの息が止まった。
381夜の女王のアリア  ◇YfeB5W12m6:2012/11/16(金) 10:22:22.28 ID:rCkyTcRIO
──ハッサン、死んだのか

悲しいことだった。……悲しい、ことだったのだが、これといって実感が湧いてこない。
共に旅をした仲間が死んだのだ、悲しくないわけはない。事実、悲しいという感情は浮かんでいる。だが、それだけだった。喚くわけでもなく、泣くわけでもなく、ただ、悲しい。

こんなに浅いものでいいものなのかと思ったが意外と、人の死というものはそんなものなのかもしれないな、とまだ並べられていく名前を聞いていた時、後方でこつん、と何かが落ちた音がした。

振り向けば輝かしいオーブが暗闇に転がっており、それを手にしていた筈のマリベルは蒼白とまではいかなくとも、困惑したような──驚いたような顔をしていた。



「キ、ーファ」

呟いて

「……キー、ファ」

呟いたマリベルが、ほんの一瞬だけ息を潜めて、そして息を大きく吸い、そして






「あんのバカァァァァァァァァァァァァ!」
叫んだ。

耳をつんざくような悲鳴に、一瞬放送の内容も、未だに放送が流れているという事実も忘れそうになる。はぁ、はぁ、と肩を上下させ息を吐くマリベルは、キッ、と鋭く視線を光らせて、もう一度息を吸い込む。




「キーファのバカッ、バカッ、バカ王子!また勝手に居なくなって、本っっっっ当にどうしようもないバカッ!
 散々に文句を言ってやろうって思ってたのに、どうして聞かないでさっさと死んじゃうのよ!
  アタシや、アルスになーんの断りもなく───なに勝手に野垂れ死んでんのよ!!」




再び居なくなってしまったキーファが、許せなくて、許したくなくて、悲しくて、くしゃくしゃに顔を歪めて、マリベルは叫ぶ。
呼ばれた名前に、もう一つ見知ったものがあったのには気付いていた。そしてそれが怒りと悲しみを加速させる。
382夜の女王のアリア  ◇YfeB5W12m6:2012/11/16(金) 10:25:05.81 ID:rCkyTcRIO
マリベルは気づかないが、放送は既に終わっており、辺りを包んでいた嫌な気も無くなっていた。




「か、って、に…………っ!」

薄暗い部屋の中、俯いたマリベルの表情は伺えない。泣いているのかもしれないし、ただ純粋に怒っているだけなのかもしれない。
そんなマリベルに対し、かける言葉が浮かばないテリーは、拾った真実のオーブを眺める。
気のせいかそれは最初にホンダラの懐から見つけた時よりも、強い光を放っている気がする。そして、なによりも───熱い。


「っ!」


手で持つのも辛い温度になり、再び真実のオーブが転がる。ただ違うのは、真実のオーブの光がかなりの速度で増していることだ。
収集がつかなくなった光が、部屋中を包み、視界を白で埋めていく。
流石にこんな状況ではテリーもマリベルも動きを止めるしかなく、放心していれば目も開けていれない眩しさに到達して──












────ゴポッ……

光が収まった頃には、水の中だった。
383夜の女王のアリア  ◇YfeB5W12m6:2012/11/16(金) 10:28:04.01 ID:rCkyTcRIO
先程までいた部屋の跡形はなく、この現象を引き起こしたであろう真実のオーブすら無く、たった今、何が起きたかすらわからずに三人は水の中へ放り出されていた。
うっすらと上の方から光が漏れているのが確認出来るので、それほど深い場所ではないらしい。マリベルに視線だけで上がるぞ、という合図をおくり、息苦しさで目覚めたらしいホンダラの腕を引いてテリーが進む。
状況を理解出来ていないホンダラが暴れてただでさえ辛い体力がどんどんと減っていく。

それでもなんとか水の中から這い出てみれば、変わらない、何も変わらない、嫌な空の色をしたはざまの世界が映り込んだ。遅れてマリベルも上がってくる。何度か咳込み、深く深呼吸したマリベルがテリーに問いかける。

「ここって……あのじいさんが作った世界よね?」
「あぁ、間違いなくはざまの世界だな」


はざまの世界?とマリベルが頭をかしげる。この世界の名称だ、と小さく答え、テリーは先程自分たちが這い上がった小さな湖を覗き込む。


「……しかし、一体なんなんだ。いきなり湖に移動するなんて」

「まったくよ!おっかげで服がびっしょ濡れ、あーっ気持ち悪い!」

「…………それには同意だな」

「でも、なんでこんな所に飛ばされているの?テリー、わか」

「俺は知らないぞ。スタート地点が湖の底にでもあったんじゃないか?」


疲れている体に、水を吸った服というのは体中にアンクルを背負っている気分である。立っていることすら億劫になり、帽子を外してドサッとテリーが座り込む。
服の裾を絞りながらもぶつぶつと文句を呟くマリベルには、先程の辛そうな様子は感じられない。理解不能の現象が起こり、そちらを優先しているだけだということを解ってはいるのだが、今は寧ろそのマシンガンの如くの勢いに安心出来る。
384夜の女王のアリア  ◇YfeB5W12m6:2012/11/16(金) 10:31:05.01 ID:rCkyTcRIO
慣れとは恐ろしいものだ、とテリーはマリベルに悟られないように苦笑いを浮かべる。


「あーもう、本当気持ち悪いわっ!せめて移動させるにしても、もっと場所があるでしょ、……っていうか、ここ、どこなの?」

「地図には湖は2つあるな。でも……ここから山が見えるって事は、ここの湖である可能性が高い」


テリーがびしょびしょになった地図の真ん中辺りを指差す。それを見たマリベルが顔をしかめ、大分離れた所に来ちゃったみたいねと呟いた。

「もう、それもこれもアンタが勝手な行動ばっかしたからよ!」

高飛車な態度でテリーを指差し、マリベルは言う。それに対しテリーは一度だけため息をついただけで何も言わなかった。そんなテリーの態度に、マリベルも思う所はあったが、疲労が溜まっている様子を見て、言葉を飲み込む。

なんだかんだで結構テリーには助けられている、それにこれ以上疲れられて危険に晒されるというのも御免だ。そう、言わないのは自分の為、別にアンタの心配してるわけじゃないんだからとマリベルが心の中で呟いた頃。




「ブワァーーーークショィッ!!」
385夜の女王のアリア  ◇YfeB5W12m6:2012/11/16(金) 10:34:11.40 ID:rCkyTcRIO
盛大なくしゃみが、二人の鼓膜を打った。
何事だ、と二人が音がした方向を見れば──唇を紫色に染め、カタカタと身を震わせるオッサンもといホンダラが、何かを言いたそうに二人を睨みつけていた。

「な、な、な、な、なに、にに、が、ど、どど、どうなっ、てん、だぁ!?」


今の今まで酔いつぶれて寝ていたホンダラは、状況を把握出来ていなかった。
息苦しさに目を覚ましてみたら、いきなりの水の中。混乱していれば急な力で引っ張られ、いざ上がってみれば二人は自分を忘れて話を進めていく。虚しいし、悲しいし、なにより、寒い。寒すぎる。




あっ、とテリーが声をあげる。あぁ、そういえばこいつも居たんだったか。正直、この状況に混乱していて、忘れていた。
386夜の女王のアリア  ◇YfeB5W12m6:2012/11/16(金) 10:37:03.62 ID:rCkyTcRIO
【D-4/草原/真昼】

【テリー@DQ6】
[状態]:ダメージ(中)、背中に打撲、MP消費少、びしょぬれ
[装備]:ホワイトシールド@DQ8
[道具]:支給品一式(不明支給品0〜1)(武器ではない) 盗んだ不明支給品1つ
[思考]:誰でもいいから合流する。剣が欲しい。
[備考]:職業ははぐれメタル(マスター)
    (経験職:バトルマスター・魔法戦士・商人・盗賊 追加)

【マリベル@DQ7】
[状態]:健康、MP微消費、びしょぬれ
[装備]:マジカルメイス@DQ8 
[道具]:支給品一式 (不明支給品0〜2)
[思考]:キーファ、ガボの死にショック。ホンダラは保留。

【ホンダラ@DQ7】
[状態]:健康、びしょぬれ、混乱、寒い
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:な、な、一体なにがおきてんだぁ〜!?
    






















スタート地点。
光が無い場所で、光続けるものが一つ。
きらきら、きらきら、水滴が光を反射する。
きらきら、きらきら、血塗れた場所には似合わない美しさで、光続ける。


きらきら、きらきら。
387名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/16(金) 10:40:08.21 ID:rCkyTcRIO
代理投下終了です
388名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/16(金) 18:04:15.98 ID:K4VcEsUx0
投下乙!
な、なるほどー。
真実のオーブによってスタート地点への道が切り開かれたとも考えられるし、
もともと井戸が繋がっていたけれど、テリーたちを守るためにオーブが力を発したとも考えられる……
しかしホンダラのおっさんはマジマイペースだなww
389名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/16(金) 19:28:39.82 ID:KVXmZlb00
糞みたいな作品乙
きらきらきらきらうぜえんだよ
こんなのでも有難がらないといけないって辛いね
390名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/16(金) 21:16:24.51 ID:rCkyTcRIO
代理投下します
391対魔神戦用意!  ◇HGqzgQ8oUA:2012/11/16(金) 21:18:05.18 ID:rCkyTcRIO
「キラーマジンガの能力を、知っている限りで話しておくね」

 歩きながら行われた情報交換の中で、バーバラが伝えた情報は大まかに二つ。
 一つ、その装甲は、すべての呪文を反射するということ。
 二つ、その一撃は、鍛えた戦士であっても手痛いものだということ。
 バーバラもビアンカも、得意とするのは呪文を用いた戦闘。
 決して前線に立つのは得意ではない。
 そしてリッカに至っては、そもそも戦力として換算できない。
 そんな女性たちがキラーマジンガの前に立つには、いささか荷が重過ぎる。論外といっていい。
 必然的に、キラーマジンガと正面から戦うことは、アレフ一人に任せることになった。

 四人で戦えばなんとかなるかもしれない。
 そんなバーバラの目論見は少しばかり外れた形となり、大丈夫なのと不安を見せる。
 しかしアレフはひとり気力を充実させ、どどんと胸を張った。

「なあに、麗しい女性に見られているほうが、かえって気合が入るというものですよ」

 そんな気合だけでは、とバーバラは異を唱えようとしたが、ビアンカとリッカはアレフを後押しする。
 なにせ、彼女たちは彼のその言葉に偽りがないことを、既にその目で見知っているからである。
 結局、他に手だてがあるわけでもないので、バーバラもその言葉に従うこととなり。
 アレフ一人を前に出すことを前提とした、対キラーマジンガの作戦が検討された。

 放送が流れたのは、ちょうどそれがまとまったころであった。


 ○


「レックスくん、デボラさん、ピエールまで……」

 目もとが子どものころのリュカにそっくりで、ほほえましく思ったレックス。
 滝の洞窟の冒険を助けてくれた、リュカのたいせつな仲間の一匹、ピエール。
 ともにリュカの妻の座を争った、エキセントリックなフローラの姉、デボラ。
 リュカは息子と仲間を。フローラは、たった一人の姉を。
 このわずかばかりの間に失ってしまった。
 二人が無事であったことは、ビアンカにとっては喜ばしいことだった。
 けれど……。
 たいせつな家族を失った二人のことを思って、ビアンカは大きく肩を落とした。
392名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/16(金) 21:18:08.41 ID:x4zHsU/d0
支援
393名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/16(金) 21:19:35.17 ID:t6fXCi1j0
   
394対魔神戦用意!  ◇HGqzgQ8oUA:2012/11/16(金) 21:20:03.78 ID:rCkyTcRIO
「そう、救ってあげられなかったのね――」

 キラーマジンガのような犠牲者を生む存在を確認していた以上は。
 少なからず《救済》の取りこぼしが出てしまうのは、やむをえないことだとは思っていた。
 ならばせめて、かつての仲間くらいは自らの手で。などとは思っていたのだが。
 思い通りになるわけなんかなかった。
 世界は、絶望にまみれているのだから。
 かつての仲間――ハッサンを含む、十六もの名前を悼んで、バーバラは静かに空を見上げた。

「十六人……そんなに……!」

 リッカに近しいものたちは、幸運にも名前を呼ばれることは無かった。
 アンジェとルイーダは、今もどこかでこの現状に抗っているのだろう。
 いつか再会したとき、彼女たちにいつもどおりを提供するのは、戦いに関われないリッカの責務だ。
 そここそが、私の戦場なのだから。
 あらためてそれを決意して、リッカはぐっと両手に力を込めた。

 そしてアレフは、一人静かに剣を抜き、身構えた。
 いくつか女性らしき名は呼ばれたが、ローラ姫さえ含まれていないなら問題はない。
 そうして意識をいち早く外へと向けられたのが、功を奏した。

 殺気は感じられなかった。
 しかし、空気の質が変わったのを、はっきりと知覚した。
 それは気配遮断を得意とするアレフだからこそ見抜けた、直感のようなものだったのかもしれない。

「みなさん、下がってください。――やつが、居ます」

 張り詰めた空気に気付いた誰かが、ぐっと息を呑んだ。指示に従い、誰からともなく後退する。
 やや遅れて、金属の擦れる機械の駆動音が聞こえ始めた。

「もしこの先を通りたくば、この私を倒していくがいい――」

 殺戮の魔神が、一同に迫る。
 アレフが力強く地を蹴って、戦いが始まった。


 ○
395名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/16(金) 21:20:28.02 ID:t6fXCi1j0
 
396名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/16(金) 21:20:33.55 ID:ku0FU8oN0
しえぬ
397名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/16(金) 21:21:59.06 ID:t6fXCi1j0
  
398対魔神戦用意!  ◇HGqzgQ8oUA:2012/11/16(金) 21:22:25.56 ID:rCkyTcRIO
 尾に備えたビッグボウガンに、次々に矢を装填し射出する。
 キラーマジンガはそれらを高く打ち上げることで、空から矢の雨を降らせた。
 動きを封じる牽制。その隙に踏み込もうとする機械兵の戦略をアレフは読みきっていた。
 持ち前の俊敏さで矢の雨をひらひらとかわして、アレフは一気に敵前へと肉薄した。

「女性の足に傷をつけるようなゴミカスにゃ、お仕置きが必要だなコラアァァァァァッ!!」

 少しばかり下品な、しかし気合十分の掛け声一閃。
 再び弓を引き絞るより早くアレフの剣が振り下ろされる。
 想定をやや上回るスピード。
 キラーマジンガは行動を変更し、それを右手の剣でそれを受け止めた。
 その瞬間、

「『バイキルト』!」

 後方から唱えられた呪文によって、アレフの剣の力が倍増する。
 バイキルトで得た攻撃力に、ルカナンソードの斬りつけたものの装甲を削る能力が重なって。
 ばきり、とキラーマジンガの持つバスタードソードを真っ二つに叩き折った。
 このままさらなる追撃を加えるべく、アレフはさらに剣を振りかぶる。
 キラーマジンガは柄だけとなったバスタードソードを投げ捨てると、星砕きを両手持ち。
 腰部を回転させてフルスイングを仕掛けた。
 直撃すれば軽鎧などやすやすとぶち抜き、アレフの体を砕いたであろうその一撃は、

「『スカラ』!」

 再び後方から唱えられた呪文によって、その威力を半減する。
 アレフはそうして捌く余裕のできた攻撃を受け流し、反撃のための勢いへと変換。
 お返しとばかり体を回転させると、

「オラアァァアッ!!」
「――!」

 がら空きとなったキラーマジンガの顔面めがけ、遠心力の乗った強烈なまわしげりを放った。
 直撃。キラーマジンガは宙を舞い、そのまま地面へと打ち落とされた。
399名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/16(金) 21:22:51.13 ID:x4zHsU/d0
sienn
400対魔神戦用意!  ◇HGqzgQ8oUA:2012/11/16(金) 21:24:04.39 ID:rCkyTcRIO
「ふうー……、お見事なサポートです、お嬢さまがた」
「やった!」
「かっこいいー!」
「キラーマジンガの装甲は、呪文を反射してしまう。
 けれど、アレフさんに効果を与える呪文ならその限りじゃない!
 あなたの言うとおりだったわね、バーバラちゃん」

 ビアンカが唱えたバイキルトは、アレフを対象とする攻撃力強化呪文。
 バーバラの唱えたスカラは、アレフを対象とする守備力強化呪文。
 キラーマジンガに攻撃呪文や補助呪文は通じないが、これならば呪文でも戦いに加わることができる。
 アレフたった一人が前衛でも、キラーマジンガを打倒できる可能性を模索した作戦がこれだった。

「作戦名『オレに任せろ』といったところですか。
 ……黄色い声援とともに戦うのは、なんとも至福の喜びです」

 キラーマジンガは、地面に沈んだまま動かない。
 気を配りながら、女性陣に微笑みを返しつつ、アレフは考える。
 女性に手を出す悪党は懲らしめて無力化する。命までは奪わない。
 キラーマジンガの脅威に相対してなお、アレフはそう考え続けてきた、しかし。

(できるのか、果たして……?)

 先ほどの斬り合いで、彼我の力量差は補助呪文や声援によるモチベーションの影響込みでほぼ互角。
 正面からの単純な一対一なら遅れを取りかねない難敵であるということを、肌で痛感していた。
 だが単純な実力差は問題ではない。
 問題は、キラーマジンガはただの生物とは異なるカラクリや機械と呼ばれる魔物であるという所だ。

 アレフは今までにたくさんの種類の魔物たちと刃や拳を交えてきた。
 死した人間の死体を利用した、がいこつのようなゾンビの魔物のような。
 大きな巨像に命が宿った、ゴーレムのような石造りの魔物のような。
 生物と言えるのか疑問を抱くような、不気味な魔物と出会ったこともある。
 それでも彼らからは、『心』が感じられた。
 だから反省させることができた。「分からせる」ことができた。
 しかし、このキラーマジンガからは、そういったものがまるで感じられなかった。

 果たして、このキラーマジンガにも『心』はあるのだろうか?
 このままさらに叩くことで、反省させて、分からせることができるのだろうか?
401名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/16(金) 21:25:42.59 ID:ku0FU8oN0
しえーぬ
402名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/16(金) 21:25:49.49 ID:x4zHsU/d0
sien
403対魔神戦用意!  ◇HGqzgQ8oUA:2012/11/16(金) 21:26:04.51 ID:rCkyTcRIO
 未知の奇妙な強敵を目の前にして、アレフの頭に一瞬、迷いのようなものがよぎった。
 それはほんの一瞬のことだった。
 しかし、その一瞬を、キラーマジンガは見逃さなかった。

 起き上がりざま、キラーマジンガは折れて転がっていた大剣の刃を掴み、投擲した。
 真正面に飛んできたそれらを、アレフは難なく弾き返した。
 安い不意打ちだな、そう思った瞬間。アレフの頬を矢が掠めて通り過ぎて、悪寒が走る。
 危なかったからではない。
 アレフの後ろには、戦況を見守っていた女性たちがいるからだ――!

「しまっ――!」
「きゃああああっ!」

 ざくりと、何かが切り裂かれる音が響いた。


 彼女がその矢に気付けたのは、この中にあって一人、完全な非戦闘員であったからだ。
 バーバラは、念のために自分たちにかけるためのスクルトの呪文を詠唱していた。
 ビアンカは、今のうちに何か役立つアイテムを作れないかと、カマエルと相談していた。
 前だけをずっと見ていたリッカだけが、いち早く、それに気付くことができた。
 声を上げる暇は無く、リッカは精一杯に手を伸ばし、とん、とビアンカを射線の外に押し出した。

 矢は、そうして押し出されたビアンカの位置に残された、リッカの右腕を深々と貫いた。

(ッ……、これじゃあ、料理がっ――……)

 撃たれたことによる大きな衝撃に、リッカはたまらず吹き飛ばされる。
 遅れて来た激しい痛みに悲鳴をあげながら、
 リッカはこれから仕事ができなくなることを、一番恐れていた。


 ○
404名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/16(金) 21:27:21.07 ID:ku0FU8oN0
しえぬ〜
405対魔神戦用意!  ◇HGqzgQ8oUA:2012/11/16(金) 21:28:03.51 ID:rCkyTcRIO
「……――てめェ何してくれてんじゃコラアアアアァァッッ!」

 ぷつんと、頭の中で何かが切れる音がしたのが分かった。
 アレフは敵への怒りと、それ以上に膨らむ己への怒りに震えながら吶喊した。

 油断があった。
 いくつもの補助呪文を受け、黄色い声援なんかももらっちゃって、いい気になって。
 余計なことを考えていたせいで、見落とした。
 絶対に指一本触れさせてはならない存在が、すぐ後ろにいることを、見落としていた。
 その結果が、これだ。
 声援はすでに失われた。代わりに響くのは、リッカの痛みに苦しむ悲鳴だけ。
 よりにもよって、必ず守ると誓って見せた彼女を今、俺は泣かせたのだ!
 かつてない気迫でキラーマジンガを圧倒しながら、アレフは叫ぶ。

「私はこのままこいつを引き離しにかかります!
 二人はそのまま、リッカちゃんを連れて、先へ!」
「…………。わかった、待ってるから!」
「ありがとうございます! 必ず、必ずや帰ります! どうか、ご無事で!」

 バーバラの返事を聞くが早いか、アレフは全身を持ってキラーマジンガを拘束する。
 せめてこれ以上は彼女たちに目を向けさせないよう、自分だけを相手にさせるよう。
 いっぺんの隙も与えぬままに攻撃を仕掛け続ける。
 そうして少しずつ、彼らは彼女たちから遠ざかっていった。


 ○


 吹き飛ばされたリッカには、バーバラが手当てに向かっていた。
 激しい痛みに喘いでいた、その声が徐々に小さくなっていく。

 リッカが吹き飛んだ際に、外れてこぼれたあるくんです2を拾い上げて、ビアンカはぞくりと身震いした。
 本来なら、撃たれていたのは私のはずだった。
 いや、狙われたのは胸か腹か、そのあたりだった。もっと酷いことになっていたに違いない。
 彼女の勇気には、機転には、感謝してもしきれない。

 アレフはまだ戦っている。
 あれだけあったはずの安心感は反転し、今は彼も倒されるのではという、不安へと変わっていた。
 彼に唱えてあげられる補助呪文はバイキルトひとつだけ。
 それをかけてしまった以上は、他に力になれることはもう無い。
 ……本当にそうなのだろうか?
 ビアンカは、一縷の望みに賭けて、カマエルへと声をかけていた。
406名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/16(金) 21:28:11.46 ID:x4zHsU/d0
sien
407名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/16(金) 21:28:38.69 ID:t6fXCi1j0
  
408名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/16(金) 21:29:37.48 ID:ku0FU8oN0
 
409対魔神戦用意!  ◇HGqzgQ8oUA:2012/11/16(金) 21:30:03.60 ID:rCkyTcRIO
「人の願いとか、想いとか。そういうのって錬金に反映されると思う?」
「残念ながら、それらを成分としてはわたくしは認識できません。ですが……。
 おじょう様たちのそういう気持ちこそが、『大成功』のために必要なものなのかもしれません」
「そう、錬金ってフクザツね。……けど、それならやってみる価値はあるかもしれないわ」

 思い起こしたのは、再会を果たした山奥の村で、夜通し語った冒険譚のうちのひとつだ。
 リュカとビアンカが十数年もの間、離れ離れになっていたように、
 アルカパにて二人で奪還したベビーパンサーの子――プックルともまた、離れ離れになっていた。
 十余年ぶりに再会したプックルは、すっかり立派なキラーパンサーへと成長していた。
 野性にかえってなお、その優しい心を忘れず、人を襲うことはしてこなかったものの、
 人々が田畑を耕し育てた野菜やらを勝手に食べてしまっただとかで、退治の依頼が出されていた。
 その依頼を請けたのが、偶然にも大人になったリュカだった。
 お互いに成長したリュカとプックルは、はじめはお互いをそうだと分からなかったのだという。

「そんなとき、僕とプックルを結び付けてくれたのが、これだったんだよ」

 そういって、うとうとと舟をこぐプックルのたてがみを撫でる。
 そこに結わえられていたのが、かつて幼少時に渡したビアンカのリボンだった。

「けれど、不思議なのはここからだ。
 ビアンカとの思い出のあるプックルが、このリボンを見て僕らを思い出してくれたのは、わかる。
 だけど、この子だけじゃない、特に何の思い入れもないはずのスラリンとかホイミンたちまで
 このリボンをつけると僕に懐いてくれたり、言うことを聞いてくれたんだ。
 おかげで今では、君のリボンは仲間たちの間で引っ張りだこでね――」

 なによそれ、とそのときは半信半疑で、一笑に付したけれど。
 彼がそう言ったのだから、それはきっとほんとうのことなのかもしれない。
 賭けてみる価値はある。

「カマエル。錬金をはじめたいんだけど、いいかしら」
「何なりとお申し付けくださいませ」

 ビアンカは、ふくろからさまようよろいを取り出して、釜に入れる。
 次に、リッカのあるくんですをきゅっと握って、これも釜へと入れた。
 最後に自らの髪を結わえていたリボンを解いて――せいいっぱいの願いを込めて、放り込んだ。

「それでは、錬金させていただきます……」

 ことことこと、ことことこと――。


 ――もしかしたら、君のリボンは君のやさしい心を魔物たちに教えてくれる、
 そんな不思議なアイテムなのかもしれないね。


 できあがるまでの数秒間。
 そういって、リュカの見せてくれたやさしい顔を、ビアンカは思い出していた。

 そして。
410名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/16(金) 21:30:47.35 ID:t6fXCi1j0
 
411名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/16(金) 21:31:08.97 ID:ku0FU8oN0
   
412名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/16(金) 21:31:37.20 ID:x4zHsU/d0
sien
413対魔神戦用意!  ◇HGqzgQ8oUA:2012/11/16(金) 21:32:05.00 ID:rCkyTcRIO
 

 ○


 このまま《救って》あげるべきだったのだろうかと、バーバラは思案する。
 リッカは眠っている。
 痛みに苦しむよりはよいだろうと、ゆめみのはなの香りを嗅がせたためだ。

 今、ここでリッカを《救済》するのは簡単だった。
 右腕に刺さったままの矢を乱暴に引き抜いて、代わりにどこかに突き刺してやればそれでお終いだ。
 が、そうしたならビアンカはどうするだろう。
 いくら言い訳を取り繕おうと、敵対は避けられない。
 そうして私たちが揉め始めたら、前線のアレフもその異常を察知し、戦いに影響が出るかもしれない。
 まだ早い。
 キラーマジンガが近くにいる以上は、その脅威がある程度薄れたのを確認してから事に移りたい。
 それまでは、協力しているフリを続けておく必要がある。

 アレフが女性にまつわることでその実力を倍増させるのは、なるほどよくわかった。
 ならば引き続きその爆発力に賭けてみることにしよう。
 現状の最善策は、「私たちが待っている」というエサを眼前にちらつかせることで、
 このままアレフがキラーマジンガを撃退できるように、さらに煽ててあげることだ。

 そのためにバーバラは、これまでもアレフの行動を褒めちぎってきた。
 これみよがしに「かっこいいー!」だの「待ってるから!」だのと期待に満ちた笑顔を向けてみたりして。
 狙い通り、アレフはひたすらテンションを上げて、キラーマジンガを攻め立てている。
 牢獄の町で待ってる――その言葉にウソはない。待っているのが何かを伝えていないだけ。
 騙しているわけじゃ、ない。

 リッカを背負って、立ち上がる。
 全身に痛みが走ったが、音を上げている時間はない。きっと、資格だって。
 ビアンカにも声をかけようと彼女のほうを見て。
 信じられないような光景を目の当たりにした。

「す、すばらしい……これはっ!」

 カマエルがふたを鳴らして、感動にむせび泣いている。
 どうやら上手くいったようだと、ビアンカはほっと息を吐いた。
 そこにいたのは、さまようよろい。
 ただの装備品だったさまようよろいは、ビアンカのリボンで自意識を、あるくんですで足を得て。

 ――ビアンカによって『心』を宿した、さまようよろいができた!
414名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/16(金) 21:32:49.92 ID:x4zHsU/d0
sien
415名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/16(金) 21:33:13.06 ID:ku0FU8oN0
    
416対魔神戦用意!  ◇HGqzgQ8oUA:2012/11/16(金) 21:34:04.63 ID:rCkyTcRIO
 リッカを背負ったバーバラが「何なの?」と当然とも言える疑問の声をあげる中で。
 生まれたばかりの騎士は、ビアンカを前に跪くと、指示を仰いだ。

 ビアンカは、そんな頼もしい騎士の手をとって。
 命令ではなく、お願いをする。

「サイモン、お願い。アレフさんを、助けに行ってあげて!」
「御意」

 サイモンと名付けられた騎士は、右手を胸に当て頷くと、走り出した。
 心無き魔物に、一人立ち向かう勇者の力となるために。


 ○


 彼女たちの姿が小さくなったのを確認して、アレフは足を止めた。
 けっこうな距離は稼いた。
 これならばキラーマジンガがいつ振り向き矢を放っても、もう彼女たちまでは届かないはずだ。

「さあ、ここまで来たらもうレディたちには手出しはできねえしさせねえ。
 ここからが本当の勝負ってヤツだな、タイマンだ、タイマン」

 ビアンカたちから距離が離れ、既に補助呪文の効果は消えつつある。
 が、それを補ってあまりある闘志と気迫が今のアレフにはあった。
 立て続けのラッシュに息を切らしながらも、気迫はひとつも衰えていない。
 それどころか、かえって増しているようにも見えた。

 規格外。
 キラーマジンガはアレフの気迫をそう登録・修正した。
 人間たちは『感情』や『精神力』などと呼ばれる内なるエネルギーによって、
 時に戦闘結果に多大な影響を与えることがあることを情報としては認識している。
 しかし今、対峙している男はそれによる揺れ幅として想定されたものをはるかに超越している。
 キラーマジンガはその根拠を分析することができずにいた。

 そんな機械兵の横腹に、強烈な体当たりが直撃した。

「――――!!」
「何だ……?」

 大きく体勢を崩し、ひるんだキラーマジンガ。事態に混乱したのはアレフも同じだ。
 ここからタイマンだと息巻いていたところに、突然の乱入者。
 それは敵なのか、味方なのか?
 戸惑いの中にあるアレフに向かって、サイモンは静かに頷くと、

「ビアンカに頼まれた」

 一言だけそう告げて、そのままアレフの横に立ち、キラーマジンガへと向きあった。
417名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/16(金) 21:35:13.13 ID:ku0FU8oN0
しえん
418名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/16(金) 21:35:21.53 ID:x4zHsU/d0
sien
419対魔神戦用意!  ◇HGqzgQ8oUA:2012/11/16(金) 21:36:03.04 ID:rCkyTcRIO
 兜のたてがみに結われた見覚えのあるリボンが、ひらりと揺れる。

(これは間違いなくビアンカさんのリボン!
 よく見れば、鎧のつくりもビアンカさんの支給品と同じもの!
 なぜ動いているのかは分からないが、これはビアンカさんのとっておきか何かか!)

 アレフはそれを見て、彼が味方なのだと直感的に理解した。
 そして同時に、"デキるヤツ"なのだとも、理解した。

「心強い、が、負けていられないな。
 このままじゃ彼女の騎士(ナイト)の座を奪われてしまうじゃあないか」

 ニヒルに笑いながらアレフは剣を構え、キラーマジンガに対峙する。
 キラーマジンガも体勢を整えると、二人をターゲットと認識して、身構えた。

「行くぞ、カラクリ野郎。
 帰る場所のある男たちはどこまでも強くなれるってことを、これからみっちり教えてやる!」


【A-4/平原/真昼】

【ビアンカ@DQ5】
[状態]:健康 リボンなし
[装備]:女帝の鞭@DQ9、エンプレスローブ@DQ9
[道具]:支給品一式、炎のリング@DQ5、カマエル@DQ9
[思考]:リュカに会いたい、彼の為になることをしたい。牢獄の町でアレフとサイモンを待つ
[備考]:カマエルによって錬金釜の使用方法を教わっています

【リッカ@DQ9】
[状態]:右腕に重傷(矢が刺さったまま) 睡眠中
[装備]:なし
[道具]:復活の玉@DQ5、大量の食糧(回復アイテムはなし)、支給品一式
[思考]:宿屋を探す、そのために牢獄の町を目指す。

【バーバラ@DQ6】
[状態]:ダメージ(小)、魔力消費(小)、太腿を負傷(傷口はふさがっている)
[装備]:空飛ぶ靴@DQ5、セティアドレス@DQ9
[道具]:基本支給品一式、ゆめみのはなセット(残り8個)、かわのムチ
[思考]:参加者を自分の手で「救う」、優勝してデスタムーアを倒す
    牢獄の町へ向かう。その後ビアンカ・リッカ・アレフを殺す
[備考]:ED直後からの参戦です。武闘家と賢者を経験。
420名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/16(金) 21:37:04.33 ID:x4zHsU/d0
sien
421対魔神戦用意!  ◇HGqzgQ8oUA:2012/11/16(金) 21:38:04.12 ID:rCkyTcRIO
【B-5/平原/真昼】

【アレフ(主人公)@DQ1】
[状態]:魔力消費(小) バイキルト&スカラ(いずれも効果小)、テンション高
[装備]:ルカナンソード@トルネコ3
[道具]:支給品一式*2 サイモン(さまようよろい)@DQ5(?)
[思考]:一刻も早くローラを保護する。そのためには剣を取ることも辞さない。
    とりあえず女性はすべて保護する。キラーマジンガを分からせて一刻も早く女性たちのところへ戻る。

【キラーマジンガ@DQ6】
[状態]:HP8/10 胸部にダメージ
[装備]:星砕き@DQ9、ビッグボウガン(鉄の矢×15)@DQ5 
[道具]:基本支給品一式 不明支給品(武器以外×0〜1)
    アレルの不明支給品(0〜2) ギュメイの不明支給品(0〜2)
[思考]:命あるものを全て破壊する

※バスタードソード@DQ3は半ばから折られ、A-4の平原に放置されました。

【サイモン(さまようよろい)@DQ5(?)】
「さまよう鎧@DQ5」+「あるくんです2@現実」+「ビアンカのリボン@DQ5」の錬金で誕生。
リボンの力でやさしい心(=かしこさ)を得て、自力であるくんです。
兜のたてがみにあたる部分にビアンカのリボンが結われているのが普通の種と違う特徴。
422名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/16(金) 21:39:03.71 ID:rCkyTcRIO
代理投下完了です
423名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/16(金) 21:45:50.54 ID:x4zHsU/d0
代理投下お疲れ様です。
続いて投下行きます。
424 ◆CruTUZYrlM :2012/11/16(金) 21:47:10.55 ID:x4zHsU/d0
.


一つの沸き上がるモノが頭を支配する。
怒りでもなく、悲しみでもなく、苛立ち。
何をするわけでもなく増していくそれに、彼女は完全に心を奪われてしまっていた。
一歩一歩を重く踏み込み、地面を抉りとっていく。
自分の気分を良くしてくれたタンバリンを使っても、この苛立ちだけは晴れない。
気持ちがいたずらに高揚するだけで、空しさすら感じてしまう。
どうしようも無い苛立ちを抱えたまま、彼女は歩き続けていた。
この苛立ちを、どうにかするために。

「――今回の放送は以上だ、ふふふふふ……」
目が覚める。
長らく水の中で気を失っていたようだ。
あの憎たらしいアクバーの放送をまるまる聞き逃してしまったのは痛手だが、それよりももっとマズいことがある。
自分がこの殺し合いに全くと言っていいほど貢献できていないということだ。
この会場にたどり着いてからジャミラスに水のあるところへ運んで貰い、地の利を生かして意気揚々と竜王に襲いかかったモノの、結果は惨敗に終わってしまった。
こうしている間にも、他のジョーカー達は贄達を屠っているに違いない。
グラコスの心の中に、焦りが生まれ出す。
一刻も早く誰かを殺さなくてはならない。
思い立ったがなんとやら、傷ついた体に鞭を打って水底から水面へ飛び出していく。
心地よい水が跳ねる音が耳に届く。
意気揚々と飛び出した彼を止める者などいない。
手にした槍で人の血を吸い、逃げまどう人々に恐怖心を与えたまま氷像にし、絶望のまま打ち砕く。
彼の手によってこれから人類は恐怖の底に沈められ、恐れ慄く事になるのだ。
高ぶる気持ちを止められないグラコスは、水面である一人の少女と出会う。
「マーマン……?」
それは、この場所で考えうる中でも最も最悪な出会いだった。
彼女がどんな存在だったのか、よく思い返していればまだなんとかなったかもしれない。
早く誰か殺さなくてはと焦る気持ちがなければ、まだ引き返すことが出来たかもしれない。
特に考えも持たず、グラコスは彼女に襲いかかった。
この上なく最高に苛立っていて、この上なく最高にはいテンションで、この上なく最高に怒りを心に秘めている彼女に。
襲いかかってしまった。
425名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/16(金) 21:47:48.83 ID:nfdyZ+4n0
代理投下乙っす。
一応アレフ側が有利っぽいがマジンガ様が持っている不明な支給品が怖いね。
てか何処ぞの格ゲーキャラ戦みたいなタイトルだなw
426仮の命題と模範解答 ◆CruTUZYrlM :2012/11/16(金) 21:49:46.38 ID:x4zHsU/d0
.


放送が、止まる。
それと同時に竜王とゼシカは、その足をぴたりと止めた。
「……ねえ」
少しの沈黙を含みながら、竜王に問う。
「今、私たち殺し合ってるのよね」
そう、殺し合い。
互いが互いに戦い、命を奪い合う血みどろの惨劇を演じる舞台。
役者はこの場にいる人間全員、彼女とて例外ではない。
「この場所に来てあなたと出会って、セクハラされたり一緒に戦ったりしたわ」
始まって早々に声をかけられ、不信感を払拭するように振る舞い、そしてガッツリ胸を揉まれた。
甘い恋愛劇の一場面のような寸劇を過ごし、そしてグラコスを相手に二人で協力して打ち払った。
こんな場所でも信じられる仲間が居るのだと、異形も何も問わず信じられる者がいると思っていた。
「そんな中で少しだけ、ここが殺し合いの場所だって忘れてたのかもしれない」
この短時間の間に、仲間が二人も死んだ。
自分が色恋沙汰に現を抜かし、魔の手から助けられて射る間に。
一人はどうしようもないくらい生真面目で、放っておけないくらいの正直な青年。
一人はどうしようもないくらい女たらしで、放っておけないくらい色欲に正直な青年。
二人とも、かけがえのない仲間だった。
操られていたとはいえ一時は敵対していた、そんな私を正気に戻し、再び共に仲間として冒険した。
そんな二人が、どこかで死んでしまった。
一筋の涙が頬を伝う、隠すように右手で涙をふき取り、前を向く。
「羨ましいのう」
先に歩きだしていた竜王は、ゼシカに振り向くことなくそう呟く。
何が羨ましいというのか? ついカッとなって反論しそうになるが、その背から感じた物悲しげな雰囲気に思わず口を閉じる。
「ワシは、おまえの抱く"悲しい"という感情を知らん。
 恋い焦がれるほどに愛する者や、生涯の友と呼べる存在を知らん。
 こんな場所でもそうじゃ、ワシにはそういう知り合いというのが、一人もおらんのじゃ」
竜王は竜族の王だ。
生まれながらに絶対的権力を手にし、その部下達と共にアレフガルドを侵略しようとした。
彼には力のある部下は居たが、仲間や友と呼べる存在は居なかったのだ。
当然、この殺し合いの場にも居るわけがない。
どれだけの命が失われようと、自分が悲しみに暮れることなど無い。
そう、思っていた。
「しかし、ワシはどうしても引っかかる事がある。
 それはこの場所に来てからずっと思ってた事じゃ。
 この名簿には"竜王の曾孫"と呼ばれる者がおるじゃろう?」
彼の知らない未来の世界、そこには確かに"竜王"の"曾孫"を名乗る存在がいた。
しかし、誰よりも自分自身がその存在を認めることが出来ない。
「ワシはあの世界で死んだはずじゃ。
 あの憎き勇者アレフにさんざん殴られ、気を失ってそのまま死んだはずなのじゃ。
 子孫など残っている筈もない、ワシが居なければ子孫も残りようもないからのう。
 しかし、この名簿にはワシへの当てつけかのように"竜王の曾孫"と書かれておる。
 ……死んだはずのワシの子孫がおる、おかしくないかのう?」
そう、自分は死んだはずだ。
ある種の暴虐の限りを尽くした竜族の王は、一人の青年によって殺されたはずだ。
なのにどうして子孫が、末裔が居るのか。
考えても考えても答えは見えなかったので、そのうちに考えることをやめていた。
427仮の命題と模範解答 ◆CruTUZYrlM :2012/11/16(金) 21:50:39.91 ID:x4zHsU/d0
「こやつに会えば何かわかるかもしれん、心のどこかでそう思っておった。
 じゃが、この"竜王の曾孫"は先の放送で名を呼ばれてしもうた。
 あの放送が虚偽のモノでなければ、この場所のどこかで命を落としたのじゃろう」
死者を告げる放送。
この目で誰かの死体を見届けたわけではないため、それが本当かどうかを信じる材料はない。
だが、それを嘘だと断定できる材料もない。
死んでしまった、という事実かもしれない事を突きつけられただけなのだ。
だがその一言を聞いてから、竜王自身にも変化が現れた。
「のう、ゼシのん。
 ワシの心に生まれた、このモヤモヤは何じゃろうなあ」
初めての感覚。
竜王の曾孫という正体不明の存在がもたらした、心の中の変化。
なんとも形容しがたいその感覚に、竜王はただただ悩むことしかできなかった。
そんな竜王に、ゼシカは歩きながら声をかける。
「……それが、悲しいって事よ。
 自分の子供が曾孫が殺されて、悲しくならないひいおじいちゃんなんていないわよ」
ま、例外もあるけどね。と一言だけ付け足す。
しかし、今の竜王の気持ちと状況を照らしあわせれば、それが悲しいという感情であることは誰にでも分かる。
ましてや、今まさにその感情に埋め尽くされているゼシカならば、それを見抜けないはずがない。
「そうか」
答えが見えたのかそうでないのか微妙に分かりづらい返答と共に、足を進め続ける。
「それ、と。
 一つ言っておくけど、私たちはもう仲間でしょう?」
その一言と共に少し駆け足気味に回り込み、竜王の前でゼシカは柔らかく笑って見せる。
「ふふっ、そういう事よ」
そう言うゼシカの笑顔に、竜王も笑って応えた。

……もし、本当の子孫だったとするなら。
死んだはずの自分が愛を知った。
死んだはずの自分を愛する者がいた。
死んだはずの自分に愛すべき者が出来た。
そう言うことになる。
死んだはずの自分が、どうやってそれを成し遂げたのか?
その答えは、もうどうやっても知ることが出来ない。
子孫だったのかもしれない存在は、もういないのだから。
428仮の命題と模範解答 ◆CruTUZYrlM :2012/11/16(金) 21:51:18.58 ID:x4zHsU/d0
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涙を流しながら、グラコスはボロボロの体を引きずって湖を泳ぐ。
襲いかかった少女を背に乗せて。
決着はこの上なくあっさりしていた。
傷ついた体で彼女に勝てるわけもなく、赤子の手を捻るようにたった一撃で沈められてしまった。
それだけではない、グラコスの体についていた傷より戦闘を察知し、こう言い放った。
「あなた、誰かと戦ったわね?」
もちろんはいと答えた、はいと答えるしかなかった。
すると今度はその相手の元まで連れていけと言うのだ。
一瞬だけ答えを渋っただけで、腹に一発たたき込まれた。
このままでは彼女に殺されてしまうと判断し、要求をのむことを決意した。
「ここじゃ、ここでさっきまで戦っていた。
 ここから北に行ったか南に行ったかまでは分からん」
自分がわずかに凍らせた跡と、その上で炎が燃え上がっていた跡が残っている。
確かに戦闘の場所はここで間違いないが、当然ながらここにはいない。
「そう、じゃあ北へ向かいなさい」
事実をありのまま告げると、さも当然かのように進むべき方角を指定してきた。
なぜ北なのか、聞いてみたいとは思うものの聞くことが出来ない。
それよりも、彼女に伝えなくてはいけないことがある。
「り、陸はあまり早く動けん」
グラコスは水棲生物の王者だ。
水がある場での動きは何者にも負けない自信があるが、地面での行動に関して言えば正直人間の方が素早い。
このまま自分が彼女を背に乗せて移動するより、彼女が降りて行動したぼうが効率がよいと判断したからだ。
「そう」
グラコスからそう聞くや否や、全く興味を示さずにその背から降りていく。
物理的な意味でもようやく肩の荷が晴れたところで、早々と逃げ出そうとするが、凍てつく声の前に遮られる。
「ところで、その戦っていた相手というのはお一人ですの?」
「二人組だ……女と、竜族の王の二人組。
 女は多少呪文の心得があるようだぞ」
襲撃者の詳細、それを聞いてきた。
ありのまま、一片の嘘も交えずに真実を伝える。
「そう」
返答は、相変わらず無表情の一言。
まるで興味がないと言わんばかりに放たれる言葉に、興味がないなら聞かないで欲しいと正直感じていた。
その時、彼女がグラコスの方を向きなおした。
「大きな武器が、欲しいですわね」
流れから察することは出来るものの、全くもって不可解な一言にグラコスは思わず首を傾げそうになった。
が、傾げる暇など残ってはいなかった。
その言葉の意味を理解する前に、押しつぶされそうな衝撃が頭に叩きつけられたから。
429仮の命題と模範解答 ◆CruTUZYrlM :2012/11/16(金) 21:52:21.10 ID:x4zHsU/d0
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気を失ったままのアンジェを背負い込み、アルスは動き始める。
サンディが最後の最後まで持っていた疾風のバンダナを、その腕に巻きつけて。
予想外の襲撃により足止めを食らってしまったが、南にはグラコス、倒すべき相手がいる。
アンジェが気絶しているからと言って、立ち止まっている時間は無い。
この殺し合いに向けて、本気で動く。
全てを背負い、打ち砕いてみせる。
だからまだ気絶しているアンジェも守ってみせるし、グラコスも倒してみせる。
さっきの僕みたいな気分になる人間を、生み出さないために。
そう考えれば考えるほど、南へ向かう足は進んでいく。
背負っているアンジェは、そこまで重く感じることはなかった。

しばらくして、一匹の魔物と一人の女の人に出会った。
警戒心を抱きながら、じっくりと観察するように二人を睨みつける。
「待って、私たちは殺し合うつもりはないわ」
両手を頭の上に上げ、ツインテールの女性は無害をアピールする。
どっしりと構えているとなりの魔物も、簡単に手を挙げて見せた。
だが、用心には用心を重ねる。
さっきも、如何にも無害そうな女の子に騙されてしまったばっかりなのだから。
この世界では、誰が何を考えているかなんて分かりっこない。
警戒しすぎるくらいが、ちょうどいい。
「私はゼシカ、こっちが――」
「竜王、世の女性に優しくがモットーの王たる王じゃ」
「……ま、色欲が強いけど無害だから安心して」
「ああん、ゼシのんったらそんなひどい」
警戒のまなざしにも負けないように、必死に戦意がないことをアピールする女性。
しかしこれも戦術の一つで、こちらの油断を誘っているのかもしれない。
そこで彼らの気持ちが本当かどうかをチェックするために、ある仕込みをしながら隣を通り抜けようとした。
「悪いけど、急いでるんだ」
少しだけアンジェを担ぐ力を緩め、隣をゆっくりと歩く。
両手はふさがっているし、背には気絶している人間を背負っている。
もし相手が殺し合いを楽しむ側の人間なら、この絶好のチャンスを逃すはずがない。
無論、それに対抗する手段も用意していたが。
彼らは、微塵も動く気配を見せなかった。
「ああ、そうだ。南の方で変な魚人を見なかったかい?」
ここまでくれば、さすがに信用してもいいだろう。
そう思ったアルスは振り向いて彼らに一つの質問を投げかける。
南に向かったはずの、あの魚人のことを。
「……グラコスのこと?」
「ッ! どこで見た!?」
ゼシカは名前を出してもいないのに、グラコスと即答してきた。
思わずゼシカの方へと詰め寄ってしまう。
その様子を見ていた竜王が、さも当然かのように答えてきた。
「どこで見たも何も、ワシが成敗してやったわい」
どこか自慢げに語る竜王に、アルスは問いかけていく。
「成……敗?」
「ちーと苦戦してしまったがのう、まあなんともふがいない奴じゃった。
 まったく魔族の風上にも置けんのう、同じ魔族として情けないわ」
「ま、本当はちょっと危なかったんだけどね……」
「何よりワシより先にゼシのんの胸を――――」
そこで、拳骨が降りおろされる。
「余計なことは言わんで宜しい」
「ああんゼシのん、ならばワシにもぱふぱふしておく――――」
二発目が竜王の頭に降り下ろされる。
かわいく涙を浮かべる竜王に対し、ゼシカは怒りを露骨に出していく。
430仮の命題と模範解答 ◆CruTUZYrlM :2012/11/16(金) 21:53:12.05 ID:x4zHsU/d0
「……少し、疑い過ぎだったかな?」
ギャアギャアと痴話喧嘩を始めてしまった両者に聞こえないように、すこしだけ呟く。
あの少女に一度騙されたからといって、いくらなんでも慎重に行きすぎたか。
確かにグラコスと戦っているのならば、両者の衣服が濡れているのも、両者共に少し傷を負っているのも納得がいく。
そして、この痴話喧嘩を見せられては、さすがに疑う気もなくなってくる。
人を疑うのは重要だが、疑いすぎては元も子もない。
本気で動きすぎて、目の前が少し霞んでいたのか。
「ところで、あなたもそうだけど背中に背負ってる子、酷い怪我してるじゃない。
 そっちこそ何があったって言うのよ? えーっと……」
竜王にたっぷりお仕置きをしてきたゼシカが、こちらに向かってきて一言を言う。
その時、自己紹介をまだしていないことを思い出した。
「僕はアルス、こっちはアンジェ。で、なんでこんな怪我をしてるかって言うと……」
僕がこの地に来てから出会った人、起こったことをかみ砕いて話していく。
この情報交換をしている時、誰もがこの後に起こることを考えもしなかった。



ああ、イライラする。
アレルが死んだ、不確定要素を多く孕んだ可能性とはいえ告げられた事実。
それからこの苛立ちは止まらない。
この気持ちをどうしてくれようか? どうすればよいのか?
突然目の前に現れたマーマンと戯れてみたところで、気分は全く晴れる気がしない。
むしろ不十分で全くもって爽快感の無い戦いを経たことで、苛立ちは余計に加速するだけだ。
不快な気持ちは心の中で大きくなっていくばかり。
この上なく楽しく、この上なく緊迫感溢れる、ずっと憧れていた戦い。
夢見ていたそれが手をすり抜けるように落ちていった。
奈落の底へ向かっていくそれを拾い上げることは、この小さな体では出来やしない。
もう、叶うことは無い幻想になってしまった。
自分が、ダラダラしているから。
アレルという最高のご馳走が待っているというのに、余計なつまみ食いで腹を満たしてしまった。
後悔と、怒りと、苛立ちが心を支配する。
自分がどう動いたところでどうしようもない、無くなってしまった物はもう戻らないのだから。
だから余計に、自分に苛立ってしまう。

そんな時だ、この夢を作り出したあの魔族の一言を思い出したのは。



――生き残れるのは最後の一人だけ。
   その優勝者には私が責任を持って元の世界に戻すと同時にどんな願いもかなえてやろう。
   富も名誉も、なんなら死んだ人間の蘇生だって請け負ってもよい。



――富も名誉も、なんなら死んだ人間の蘇生だって請け負ってもよい。



――なんなら死んだ人間の蘇生だって請け負ってもよい。



――死んだ人間の蘇生。



「そうですわ」
431仮の命題と模範解答 ◆CruTUZYrlM :2012/11/16(金) 21:54:50.56 ID:x4zHsU/d0
なんだ、簡単なことじゃないか。
目の前からするりと消えてしまったことに囚われすぎて、大本のことを忘れていた。
これは"夢"だ。
自分は今、夢を見ているのだ。
アレルが死んだのは私を置いていったのではない、私にとっての最高の褒美にさせるために死んでいったのだ。
この夢を堪能し、全てを殺しきり、ありとあらゆる断末魔を心に刻んだ後。
勝利の美酒と共にアレルを迎え、悔いの無い最高の戦いを繰り広げる。
この殺し合いはそのための修行なのだ。
あの青い剣士、テリーとの戦いで改めて思い知った己の未熟さを取り払うため。
今よりもっと強く、より強くなってアレルと戦うための試練なのだ。
苛立っている場合ではない、今この瞬間ですら自分は"試されて"いるのだ。
「うふふ、そう言うことならそうと言ってくれれば良いのに」
気がつけば簡単なことだ。
アレルは自分を置いていったのではない、アレルは"待っている"のだ。
自分がダラダラどこかをほっつき歩いているから近づけていなかっただけである。
そうと決まれば話は簡単だ、この夢を骨の髄までむしゃぶりつくせばいい。
「アレル、待っててくださいね。私はもっと素敵な戦士になって貴方と戦うことを誓いますわ」
"武器"を引きずりながら、彼女は呟く。
夢の中で手に入れた夢を叶える為に、目の前にいる大集団へと狙いを定めていく。



殺気。
ド素人ならその場から固まって動けなくなるレベルのそれが、情報交換をしていた三人に突き刺さる。
全員の視線が、一直線に同じ方向を向く。
「四人……正確に言えば一匹と三人ですわね」
狂気すら感じる笑顔を浮かべながら迫ってくる一人の女性。
突き刺さる殺気から、彼女が自分達を殺しに来ていることは明確だ。
その上腕には素早さを高める星降る腕輪があり、片手には気分を高揚させ戦闘力を上昇させるタンバリンがある。
これだけでも彼女の脅威が十二分に伝わるのだが、それだけではない。
「さぁ、私に聞かせて。貴方達の最期の声を」
彼女がさも当然のように担いでいる"モノ"。
一足先に最期の声を上げる事になった"それ"。
アルスがこの殺し合いで追い求め、竜王とゼシカが力を合わせて撃退した"魔物"。
海の魔物を束ねる魔神、グラコスの遺体を担いで引きずっていた。
なぜ、あの巨体を担いで歩いているのか。
その意味は、次の瞬間に明らかとなる。
襲撃者が両手でグラコスの尻尾を掴み、遠心力を生かしながら大きく振り回したからだ。
巨大な鈍器と化したグラコスの遺体は、その場に居る全ての人間を等しく包むはずだった。
「……退け」
その巨体を体全体で受け止め、苦渋の表情を浮かべる竜王が立っていなければ。
しかもその攻撃を受け止めながら、竜王は襲撃者に撤退を依頼している。
「頼む、退け」
「ちょっと竜王!?」
度重なる依頼に、思わずゼシカが声を上げてしまう。
432仮の命題と模範解答 ◆CruTUZYrlM :2012/11/16(金) 21:55:39.44 ID:x4zHsU/d0
「ワシは、女に振るう力は持っておらん」
襲撃者に向けて、静かに口を開く。
竜王は愛を、親を知らない。
それを教えてくれる唯一の存在は、彼にとって女性という存在だけなのだ。
たとえ襲い掛かられようと、たとえ殺されかけようと。
もし、目の前の女性が自分の親だったとしたら。
魔族や人間だとか種族は関係なく、自分を育ててくれた親だとしたら。
そんな可能性を、どうしても頭から払拭できないのだ。
だから、彼は女性に力を振るうことが出来ない。
「……はあ」
必死の訴えを跳ね返すように、襲撃者は溜息をつく。
片手でグラコスの遺体を引き戻し、あからさまに落胆した表情で竜王へと語りかける。
「あの魔族と瓜二つ、もしやと思えば……やはり腑抜けの一族のようですわね」
襲撃者は竜王へと、冷たい失望の眼差しを向ける。
その一言で何かを察した竜王が、襲撃者へと問いかける。
「貴様……今なんと?」
その疑問に、さも当然かのように彼女は言い放つ。
「私は誇り高き竜族の末裔だとか言い張る弱い魔族を、殺しただけですわ」
決定的な一言を、流れるように。
雷でも落ちたかの衝撃を受けた竜王は、その場から動かなくなってしまった。
その様子を見て、襲撃者はもう一度ため息をつく。
「さて、よろしいかしら? 私は一切退く気は御座いませんわ」
さあ戦いの時間だと、殺すか殺されるかの時間だと、残酷かつこの場では当たり前の二択を襲撃者は迫る。
「君は、殺し合いの果てに何を求めるんだい?」
そんな中、アルスが襲撃者へと問いかける。
特に興味はなさそうに振る舞いつつも、その眼だけはまっすぐ襲撃者を見ている。
「この夢の中で、己の夢を掴む為」
先ほどとは違い、決意の籠もった瞳で襲撃者は答える。
彼女には目的が、揺るがないものがある。
この夢を楽しむことと、その先にある夢を掴むという目的がある。
この夢の戦いを堪能しきり、その先に待つ存在と全力の戦いを繰り広げるために動く。
彼女に立ち止まっている時間はない。
「そう」
その決意を聞き、ゆっくりと襲撃者の方へと歩み寄っていく。
肩と首を回し、如何にも気だるそうな動きと共に。
その途中、ゼシカの肩を叩いて小さく呟く。
「アンジェのこと、よろしく頼むよ」
それは前線に立つ合図。
背負ってきたアンジェを、全てを守るため。
目の前の脅威へ立ち向かっていく合図。
気絶している彼女を頼むという信頼を託した一言。
一言で全てを察したゼシカは前線を退き、情報交換前にアルスが寝かせていたアンジェの元へと駆け寄る。
「あのさ」
アルスもまた、日常会話のように襲撃者へと語りかけていく。
「君みたいな殺人者が居るから、大変なんだよ」
殺し合いには殺人者が居る。
殺人者が居るから人が死ぬ。
人が死ぬから日常が奪われる。
日常が奪われるから平穏が崩れ去る。
こんな苦しい思いを味わうのは、殺人者が居るから。
だったら、少しでも苦しい思いをしないで済むように。
殺人者を、排除していくだけ。
「だからさ、本気で相手させてもらうよ」
433仮の命題と模範解答 ◆CruTUZYrlM :2012/11/16(金) 21:56:25.36 ID:x4zHsU/d0
「……ワシもじゃ」
対抗表明に続く、もう一つの声。
先ほど戦えないとキッパリ言い放ったはずの竜王の声。
襲撃者の決定的な一言で、すっかり動く気力をなくしていたはずの竜王だった。
「さっきはああ言ったが、ワシも本気で相手をさせてもらう。
 ……なんとなく、なんとなくじゃが分かったんじゃ」
竜王の曾孫。
死んだはずの自分の、存在し得ないはずの子孫。
この場にいた、不確定な存在。
彼か彼女かは分からないが、その存在が握っていた情報は数多くある。
竜王という魔族の子孫なのか?
竜王という魔族はいかにして子孫を残したのか?
竜王という魔族は愛を知ることが出来たのか?
聞きたいことが山ほどあった。
だがそれは、子孫の命ごと彼女に奪われた。
それを聞いたときから心にある感情がわき出ていた。
「これが怒りじゃと、愛の先にある怒りじゃと!!」
怒り。
何かに対して怒るということが滅多になかった彼が、初めて見せた感情。
理由はともあれ、自分の末裔を、子供を殺されて怒らない親などいない。
きっと、自分が思い描く"母親"でも同じことを思うだろう。
初めての思いを、目の前の女性へぶつけていく。
「貴様だけは、貴様だけはワシが求めた女性とは違う!」
彼が女性でいっぱいの世界を作り上げようとしたのは、その中に母親がいるかもしれないからだ。
だから「母親かもしれない」という潜在意識が、女性に手を上げることを拒み続けた。
だがどうだ? 平然と自分の子孫を手にかける親が居るだろうか?
自分にとっての曾孫なら、彼女にとっても子孫のはずだ。
それを易々と殺してみせる、そんな愛の欠片もない畜生が親であるとは考えたくない。
だから、目の前の彼女だけは「女性」ではない。
愛を教えてくれるかもしれない存在である「母親」であるわけなど、微塵もない。
目の前に居るのは殺人鬼だ、魔族よりも血も涙もない鬼。
加減も容赦も、必要はない。
「ワシは、絶対に貴様を倒す!」
だから、彼もまた本気で前線に立つ。
この「女性」の皮を被る、悪鬼を滅ぼすために。



戦闘の構えを作り、呼吸を整えていく二人。
そして一人の女を守るように後ろに下がる女性。
それら全てを見つめながら、彼女は笑う。

「どうぞ、いらしてください」

戦いを、楽しむために。

【グラコス@J 死亡】

【D-3/E-3との境界線付近/午後】
【リンリン@DQ3女武闘家】
[状態]:ダメージ(小)、腹部に打撲(小)、軽度の火傷
[装備]:星降る腕輪@DQ3、グラコス
[道具]:場所替えの杖[8]、引き寄せの杖[9]、飛び付きの杖[9]、ふしぎなタンバリン@DQ8
     銀の竪琴、笛(効果不明)、グラコスのヤリ@DQ6、ヤリの秘伝書@DQ9
     支給品一式×4、不明支給品(0〜1個)
[思考]:強者とは夢の中で今までできなかった死合いを満喫し、最後にアレルを蘇生させて戦う。
[備考]:性格はおじょうさま、現状を夢だと思っています。
434仮の命題と模範解答 ◆CruTUZYrlM :2012/11/16(金) 21:59:46.78 ID:x4zHsU/d0
【ゼシカ@DQ8】
[状態]:健康、羞恥
[装備]:さざなみの杖@DQ7 
[道具]:草・粉セット(※上薬草・毒蛾の粉・火炎草・惑わし草は確定しています。残りの内容と容量は後続の書き手にお任せします。
     ※上やくそう1/2(残り1つ) 
     基本支給品
[思考]:仲間を探す過程でドルマゲスを倒す。最終的には首輪を外し世界を脱出する

【竜王@DQ1】
[状態]:HP3/10、MP8/10、竜化により疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:天空の剣@DQ4、キメラの翼@DQ3×5、基本支給品
[思考]:ゼシカと同行する。最終的にはデスタムーアを倒し、世界を脱する。

【アルス(主人公)@DQ7】
[状態]:HP8/10、MP1/3
[装備]:はがねの剣@歴代、疾風のバンダナ@DQ8
[道具]:支給品一式、サンディのふくろ(中身は不明)
[思考]:顔見知りを探す(ホンダラ優先) ゲームには乗らない
     本気で動いてみる。

【アンジェ(女主人公)@DQ9】
[状態]:HP4/10、MP9/10、背中に擦り傷、全身打撲、気絶
[装備]:メタルキングの盾@DQ6、オリハルコンの棒@DQS
[道具]:ハッピークラッカーセット@DQ9(残り4個) 使用済みのハッピークラッカー 支給品一式
[思考]:困っている人々を助ける デスタムーアを倒す サンディの死にショック?
[備考]:職業はパラディン。職歴、スキルに関しては後続の書き手にお任せします。

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以上で投下終了です。

>夜の女王のアリア
おおー、なるほど!
真実のオーブが何らかの意志を持っているかのような振る舞いを……
マリベルの叫びが辛いけど、主催陣営には聞こえてないんだろうか?

>対魔神戦用意!
さまようよろい投入きたああああああ!!
錬金釜から飛び出す新しい命! ぐっと来る展開!
アレフと一緒に是非がんばって欲しい!
そしてリッカはどうなるのか……バーバラの立ちまわりは!?
先が気になります!
435名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/16(金) 22:13:56.83 ID:nfdyZ+4n0
投下乙です、ってか邪魔しちまった。すいません。
上に乗られて泳がされた挙句、武器扱いとは散々な最期だなグラコス。
しかし初代ラスボス竜王と当時最強主人公と呼ばれたアルスにリンリンはどう立ち向かうか。
場所替えに引き寄せ、飛びつきと厄介な杖持っているのが怖いけどねw
436名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/16(金) 22:18:44.41 ID:7A5+ht750
投下乙です

>夜の女王のアリア
ここに来てキーアイテムとなりそうなオーブきた!
スタート地点で何も起こらなかったのは何故か、この世界の仕組みは…
謎はこれから紐解いていくんだろうな 楽しみだ
キーファに全力で怒るマリベルが切ないけどよかった

>対魔神戦用意!
錬金でなんかすごいもんできたー!
あるくんですが見事に役立ったな…
アレフは口はあれだけど本物の紳士だ。素晴らしい
腕を怪我して、真っ先に「料理が…」となるリッカは宿王の鏡だな

>仮の命題と模範解答
本気出したアルスが男前すぎてやばい
竜ちゃんの独白が泣ける 1勢はみんな愛に生きてるなあ
ハイテンションリンリンVSアルス・竜王、熱いわ…
そして未だ目を覚まさないアンジェはどうなるんだ…
437名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/16(金) 22:30:14.71 ID:jpL98uj70
投下乙でした。
グ、グラコスーーー!
装備品にちゃっかりいるのが涙無しに見られないwwww

悲しみを教わって、その原因に煽られて、竜王もついに本気モード。
一足早く本気になったアルスは、「あのさ」だけでもすごい貫禄を感じるようになったなー
ゼシカも魔力十分、気絶してるアンジェだって起きればまだまだ戦力になるだろうし
数でも質でもかなり強力なチームなはずなのに、相手はあのリンリンってのがなあw
ただで済む気がまるでしない…どうなるかなあ
438名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/17(土) 02:52:49.49 ID:vlWebP9V0
リンリンは支給品が不吉過ぎるんだよなぁ
一人二人殺されそうなのがすっげぇ不安
439名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/17(土) 11:46:57.89 ID:XBYIsUXm0
リンリンは武闘家
武闘家といえば爪か棍
そして気絶してるアンジェが持ってるのはオリハルコンの棒
440名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/19(月) 04:02:56.40 ID:BKuTv48F0
全ては書き手次第なんだろうけど、最悪の結末くらいは予想出来そうだよなw
441名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/22(木) 14:09:26.59 ID:EBqYzCAQ0
ほしゅ
442スノードロップの頬の跡 ◆TUfzs2HSwE :2012/11/22(木) 17:33:10.90 ID:GraxbltjO
.




少女の拡声器での悲痛な叫びも、気が滅入るような定時放送も、ロッシュにはすべて聞こえていた。
だが、それら全てを押し流すような激戦の渦に、やがて呑まれて消えていく。
――悔やむことも悼むことも、叶わぬままに。

「どうした、ロッシュ!! 貴様の実力はそんなものではなかろう!」
「うるっさいなあ! 僕、今落ち込んでるんだから、ちょっと放っといてくれる!?」
もう、何度目かもわからない打ち合いをかろうじてくぐりぬけ、ロッシュはらしくもない怒声を放った。
息を切らし、肩を上下させながら、擦り切れた破邪の剣を構えなおす。
その脇を、冷たい風が吹きすさぶ。あの時隣にいた、ロッシュにとっては仲間であり親友でもあった大男は、もうどこにもいない。
共に戦った記憶さえ、嵐にあおられるともし火のように、吹き消されてしまいそうだった。
(キツいな、これ)
額に汗が滲む。ここには仲間の援護も、伝説の武具の力も無い。状況の悪さを、ロッシュは痛感した。
更に気になるのは、戦いの前に危険から遠ざけたはずのシンシアが、近くで拡声器を使ったらしいこと。
彼女の声を聞いた誰か、最悪殺人者が、獲物を求めてシンシアに近付いてきたりしたら。

「ぐっ」
風が舞い、切り裂かれた両腕が血を噴き出す。デュランの剣捌きは、まるで突風のように速い。
これが本物の風になってかまいたちを起こすこともあれば、強烈な二連撃がロッシュの両脇を切り裂いたりもするのだ。
その迅速さは、ロッシュがとうてい敵うものではなかった。
(ミレーユやテリーなら、また違うんだろうけどさ)
放送を経ても生き残った、まだここにいる仲間たちを思い浮かべ、苦笑する。
疾風怒濤の切れ味を誇るテリー、その上をゆくミレーユのすばやさは、前衛で戦うロッシュを傍でいつも支えてきた。
しかし彼は、どんなに仲間と助け合えたとしても、それが永遠に続くわけではないと知っている。
だからこそ、ロッシュは己が役割とする前衛での攻撃特技を『職』で得た後、あえて不得手な呪文をも習得するべく、修行を積んできた。

(色々ね。切り結ぶ以外にも、あるんですよ……っと!)

一騎打ちの素早さで敵わないとしても、勝算はある。
たとえば敵が、ロッシュに賢者の職についた経験があると知らないことも、その一つ。
そして賢者が彼に与えた技は、単純に魔法を放つためのものばかりではなかった。

「ロッシュ、お前の真の姿を見せてみよ!!」
鍛え上げられた、などという生ぬるい表現では最早捉えきれない。まさに魔の肉体を捻り、デュランは空へ、ばねのように跳躍する。
その軌跡が三日月のように孤を描いて、ロッシュを打ち据えるべく迫るより早く、彼もまた動いた。刹那に拳を振り上げ、大地に叩きつける。
――デュランの早さをいわば風と呼ぶならば、愚鈍な己は文字通り、大地の構えで迎え撃とう。
443スノードロップの頬の跡 ◆TUfzs2HSwE :2012/11/22(木) 17:40:07.35 ID:GraxbltjO
.
ロッシュの拳は、殴りつけた大地を叩き割った。砕かれた地面がまるで岩石のように飛び散り、巨大な地割れが現れる。デュランの巨体さえ、呑みこむほどの。
「効かぬ!」
吸い込まれそうな大穴にも、しかしデュランはかんたんに落とされたりはしない。華麗な体当たりで飛び散る岩石を見事に打ち据え、ロッシュの前にひびわれを挟んで、対面に着地する。
その瞬間を、まさにロッシュは狙っていた。
地割れの影響で隆起した地面が、ロッシュの手によって引き上げられ、持ち上げられる。それは彼らの体躯が比較にならないほどの、まさに大地そのものだった。

「どぅおりゃああああああああッッ!!!」

掴み上げた大地そのものを、両腕で振り上げて、振り下ろす。常識外れに叩きつけられた大地は砂埃を巻きあげて砕け、地割れのひびさえも呑みこんで、巨大ながれきの山と化した。
元は岩石落としの特技を、地割れでひび割れた大地に代えて、応用したものだった。積み上げられた岩石や荒土の山は、デュランがいたはずの場所をすっぽりと覆いかくした。
轟音が鳴りやみ、巻き上げた砂塵がやがて晴れる。全貌を見せた瓦礫の山は、まるで古代王家の墓のように高く、そして動く気配は無い。
あの中に閉じ込められては、出ることは容易ではないだろう。そう思っても、ロッシュは疑りを拭えなかった。果たしてこれで、彼を倒せたのかどうか。
けれどそれでも、デュランの動きを少しでも止めることができれば、自らシンシアを探しに行ける。
少しの逡巡の末、ロッシュはひとまず、戦線からの離脱を選んだ。

「ふ〜っ」
荒れた息を整えながら、ため息をひとつ。
過ぎたこと、知らぬ場所で起こったであろう出来事に、思いを馳せる時間は無い。デュラン一人倒したところで、問題は山積みだった。
「もょもとは、もう追いつくの無理だろうし。ミレーユもどきも逃がしちゃったし……」
あ〜あ、と肩をすくめて、ロッシュは一人笑う。誰もいないとわかっていて、どうしたもんかな、とまるで誰かが聞いているかのように呟く。
「でもさ〜、ミレーユに化けたやつがいたってことは、案外本物のミレーユもこの辺りにいるんじゃないの?
いや、今はそれよりシンシアか」
まったく、みんなどこにいるのかな〜、と割合大きな声でぼやいて、もう一度ため息をついた。
伸びをして、屈伸運動をして、最後に深呼吸一つ。しかし粉塵を含んだ空気を吸い込んだらしく、そのまま軽く咳き込んだ。
静まり返った、生きる気配のない、荒野の中で。
ごほごほ、と、しばらくそれは続いた。誰もいない、粉塵とがれきだらけの大地に、ロッシュの咳だけが響く。
その息苦しさに、やがてじわりと、目に涙が滲んでくる。
「……空気悪いねぇ、ここ」
相変わらず、誰も聞いていないというのに、目をこすりながら一人、笑う。
444スノードロップの頬の跡 ◆TUfzs2HSwE :2012/11/22(木) 17:44:01.80 ID:GraxbltjO
さて、と。まるで自分に宣言でもするかのようにしてから、ロッシュは足を踏み出した。
先まで傍にいた少女の気配を探るべく、耳を澄ませながら。
もう一度、拡声器で呼んだりしないかな。僕のことを呼んでくれたら、すぐに飛んでいったのに、と一人ごちて。
彼女はなんと言っていただろう。勇者、そう、勇者と言っていた。
勇者か。当然、僕のことではないだろう、とロッシュは思う。そんな名前の職はたしかにあったけれど、それはあくまで職であり、ただの称号だから。
そうして思いを馳せながら、きょろきょろと辺りを見回していると。
ドッパーン――と、重い水面を質量あるなにかが勢いよく叩く音が、背後で響いた。

ロッシュは振り返る。
戦いながらにじり寄るうちに背後に背負っていた毒の沼地、その中にいるのは負傷した巨大な魔物。
それまで居なかったはずの相手に驚愕し、やがて目が合い、見つめ合う。彼らが互いに呆けたのは、しかし一瞬だった。
――敵だ。

「このバラモスが、毒沼に落とされるとは――実に滑稽なことよなァッ!!」

魔王バラモスは、いきり立つ。
落ちた先に毒の沼、逃げた先にも別の敵。ありがたくないその環境は、バラモスを苛つかせるのに十分な状況であった。
瞬く間に攻撃圏内にロッシュを捉えた魔王は、雷速の集中で破壊の呪文を紡ぎ上げる。
「くそっ――!」
一歩遅れたロッシュが、マホカンタを唱えようとするが、間に合わない。イオナズンの閃光、轟音が、辺り一面を振動させた。
強烈な爆発に、ロッシュは成すすべなく巻き込まれ、背後に積まれた瓦礫さえ崩壊する。
はじき出されたロッシュの身体は、雪崩れた山のふもとに転がされ、砂埃の中投げ出された。
再び巻き上げられた粉塵が、やがて収まる。もろに爆発を受けたロッシュは、地面に投げ出されたまま、動かない。


***


「こんなものか。ふん、そうだろうな……」
奴らが異常であったのだ、と。
つまらなさそうに鼻を鳴らすと、バラモスは毒の沼地から這い出し、肩口よりデーモンスピアを引き抜いた。
どす黒い体液が、沼の毒と混じりあってぽたぽたと荒地に染みをつくるが、バラモスは構わずに倒れ付した人間へと近付いていく。
元より、バラモスの身体は放っておいても組織を回復させる自然治癒が備わっている。
致命的なダメージを連続して受けない限り、どんなに負傷したとしても、バラモスは少しの時間さえあれば傷など塞がっていくはずだった。
それをこれまでに打ち破ったのは、オルテガとその息子、そしてその一行だけだ。彼らはもはや、人間としての常軌を逸しているとさえ思えた。そう、奴らが、異常だったのだ。
445スノードロップの頬の跡 ◆TUfzs2HSwE :2012/11/22(木) 17:47:25.76 ID:GraxbltjO
引き抜いたデーモンスピアを片手に、バラモスは足元に転がる一人の人間を見下ろした。
そこには、バラモスにとって当然の、“正常”と呼べる光景が広がっている。
「くく……そうよな」
ただの一撃で大打撃を負って動けない、魔王バラモスに恐怖して跪くことしかできない、生物。
歪んだ笑みを深めて、バラモスは呟いた。
「人間とはこうして、虫けらのように地に這い蹲るのが似合いだ」
「う……」
うめき声をあげ、なんとかして身を起こそうとするロッシュを、バラモスは撫でるかのように蹴り飛ばす。
「喜ぶがいい。貴様のはらわたは、我が活力の贄として、捧げられるのだからな!」
哄笑と共に、魔王バラモスはとうとうロッシュに、デーモンスピアを振りかざした――

「それは私の獲物だ」

その凶刃が振りかざされることは、しかしない。
風のような早さでそれを打ち払ったのは、瓦礫の山にいたはずの、未だ尽きぬ闘志を燃やす一人の魔族だった。

「邪魔立てはしないでもらおうか。我らは戦いの最中だ」
「なんだと、魔族の端くれが……!!」
「まあ、既に邪魔されたようなものだがな。
ロッシュもロッシュだ。勝敗が決する前に逃げようとするのはやめてもらおうか」
自分が庇う形となった宿敵に向かって、デュランは幻滅を滲ませながら語り掛ける。
「デュ……ラン」
朦朧とした意識の中で、辛うじて魔王と魔族が、己を挟んで対峙しているのをロッシュは認識した。
恐らくバラモスが放ったイオナズンによって、岩石や瓦礫の山が崩れ、デュランを脱出させてしまったのだろう。
この場合はそれが却って功を奏したとも言えるが、それをロッシュが有り難く思えるほど、楽天的な状態ではない。

「まあ、よい。私も少しばかり戯れが過ぎたようだ、我が使命は他にあるのでな。
そろそろ、仕事を始めることにしようか――愚かな魔物よ」
その瞳に、ロッシュに向けられる親しみが込もった眼差しとは対照的な、冷酷な光がともる。
バラモスは戦慄した。己に向けられた殺戮の意思と力、それは傷だらけの、未だ回復が追いついていないバラモスには致命的であった。
だが――バラモスは思い直す。そう、あるのだ、己には。敵をも巻き込み、破壊しつくすための切り札が。
446スノードロップの頬の跡 ◆TUfzs2HSwE :2012/11/22(木) 17:51:24.74 ID:GraxbltjO
「いいのかな? 我に手を出せば、貴様も、そこの虫けらも道連れとなろうぞ」
にたりと笑みを浮かべ、自信の様子をうかがわせる。
無論、その切り札も完全ではないと、バラモスは思っていた。ただ、その情報によって敵が一瞬でも動じれば、それで良かった。そうすればいくらでも、姑息に立ち回ることができたから。
「なるほど」
しかしデュランは、顔色一つ変えることは無かった。
バラモスの周囲を、魔風が駆け抜ける。ごとりと、何か質量のあるものが地面に転がる音がした。
ぽたりぽたりと、地面に垂れた黒いしみが、その面積を増やしていく。

「これで、心置きなく殺せるというわけだ」

バラモスは目を剥いた。たった今まで切り札だったはずの、メガンテの腕輪を嵌められた指先。それどころかそこに連なっていた手首まで、すっぱりと消えていた。
それはなにものかの鋭利な刃によって切り落とされていて、無残にもバラモスの手首の先が、その足元に転がっている。
見ればデュランの剣にはいつのまに、黒々としたバラモスの血がへばり付いていた。
まさに、目にも止まらぬはやわざ。
「ぐっ――!!」
遅れて、強烈な苦痛に気付く。魔王バラモスは身を翻し、重い身体を引きずりながらも駆け出した。
それはとても、本能的な行動だった。このままでは死ぬ、この魔族に殺されると、魔王の勘が告げていた。
少しでも、戦況を変えるべく、戦場を求める。がれきの残骸を越えて、目指す先には――よくぼうの町。

「ふふ……意外と逃げ足の速い魔物だ。そういうのは、嫌いじゃない」
バラモスが走り去るうしろ姿を悠々と眺めながら、デュランは愉快そうに笑う。
もともと、血沸き肉踊る闘争を欲するデュランは、弱者を甚振ることを好まなかった。だがそれは、今デュランが与えられた任務とは違う。
やるべきことは、殺し合いだ。それがたとえ、どんなにデュランの目に適う相手ではなかったとしても。
「ロッシュ。一旦、おあずけだ」
外套を翻し、デュランはロッシュをその場に残して、去っていった。

「くっ、待った……!」
バラモスを追って離れていくうしろすがたを、ロッシュもまた追おうと、立ち上がる。
だが、すぐにバランスを崩した。ダメージ以上に身体の損傷が激しく、どうやら足が折れているらしい。
ふらつきながら、結局は膝をついて座り込み、おぼつかない手でロッシュは回復呪文を唱え始めた。
(あっちには、もょもとが。シンシアが……)
組み立てられるいくつもの最悪の仮説が、ロッシュの身体を無理にでも奮わせようとした。しかし、重い疲労と損傷が、ロッシュの意識を俗世から遠ざけていく。
(く、そ……)
身を起こすことさえ困難になり、どさりと地面に横たわったロッシュの表情は、苦渋と無念に満ちていて。

――お前って、とことんお人よしだよなあ。

消えていく意識の片隅で、筋骨隆々の大男だけが、呆れたように笑っていた。





【F-8/平地/真昼】
447名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/22(木) 17:53:28.44 ID:gqa3S73A0
sien
448スノードロップの頬の跡 ◆TUfzs2HSwE :2012/11/22(木) 17:54:52.08 ID:GraxbltjO
【バラモス@DQ3】
[状態]:全身にダメージ(大)左肩に重症 右肩に貫通傷 片手首先無し
[装備]:サタンネイル@DQ9、デーモンスピア@DQ6(刺さっている)
[道具]:バラモスの不明支給品(0〜1)、消え去り草×1、基本支給品×2
[思考]:皆殺し できればまたローラを監視下に置く フローラと絶望の町に居た者どもは必ず追い詰めて殺す
欲望の町に逃げる
[備考]:本編死亡後。

【デュラン@DQ6】
[状態]:HP6/10、軽度の火傷、切り傷(小)、打ち身
[装備]:デュランの剣@DQ6
[道具]:世界樹の雫@DQ6、エルフの飲み薬@DQ5、基本支給品
[思考]:より多くの強き者と戦い、再び出会ったときにカーラと決着をつける。バラモスを追う
[備考]:ジョーカーの特権として、武器防具没収を受けていません。

【ロッシュ@DQ6】
[状態]:HP2/10、MP微消費、強い全身打撲、片足・肋骨骨折、気絶
[装備]:はじゃのつるぎ@DQ6
[道具]:支給品一式 、不明支給品(確認済み×0〜2)
[思考]:デュランとバラモスを止める シンシアを探す

※メガンテの腕輪@DQ5がはまったバラモスの手首より先が、ロッシュの近くに落ちています。
449 ◆TUfzs2HSwE :2012/11/22(木) 17:58:04.20 ID:GraxbltjO
投下終了です。
450名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/23(金) 00:18:12.76 ID:oD9DiBNs0
投下乙です
デュランがカッコいいぞ!
バラモス、装備にかまけて完全に慢心したなー。代償として手首喪失は痛すぎる…
しかしバラモスにデュランと立て続けに欲望の町になだれ込みとは
北にまだミレーユだっているかもしれないのに、カイン組の包囲網っぷりがヤバいことになったな
ロッシュもしばらく動けそうにないし、さっそく正念場だな
451名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/23(金) 12:14:08.01 ID:oqOJ1Q8M0
投下乙!
戦いにひたむきだからこそデュランが輝く!
手札を失ったバラモスは逃亡先でどうすることやら……
ロッシュは気絶してるけど、傍の戦闘組み次第なんだろうなあ
452名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/23(金) 13:07:34.86 ID:+sBV19Ks0
投下乙です。
すごい言いたいことはいっぱいあるんだけど一番好きな、印象に残ったところは
最後の最後、ハッサンの笑う姿がすごい切なかった。
空気読まないバラモスはともかく、みんなかっけえなぁ
453名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/23(金) 13:07:48.56 ID:JbXUPhbiI
投下乙!
デュランの姿勢がまさに戦いに生きる者みたいなハングリーさ。
バラモスは敵を作りまくりそうだ・・・今は劣勢だがまだまだ暴れそう。
ロッシュ取り残されちゃったなぁ、貴重な戦力がない今、二大魔王の戦闘はどうころぶか。
次が楽しみです。
454名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/23(金) 15:28:15.17 ID:pYZI69sP0
投下乙
バラモスの道化っぷりww
455 ◆EIyzxZM666 :2012/11/24(土) 11:24:30.08 ID:p9JM6+Dq0
投下します
456追憶 ◆EIyzxZM666 :2012/11/24(土) 11:26:13.36 ID:p9JM6+Dq0
「――今回の放送は以上だ。ふふふふふ……」
リュカに悲しい事実を告げた悪魔の声が止み、骸骨の霧が晴れる。


レッ、クス……?レックスが死んだ……?
嘘だ……まさか、そんな……。
こんな事は、僕より先にお前が逝ってしまうなんて事はあってはならない……!
これからだったんだ。
大魔王ミルドラースを倒して世界を救い、勇者としての役目からも解放されて、ようやくあの子は自分の時間を生きるはずだったんだ。

僕が不覚を取ったせいで、産まれて間もなくあの子は親というものを奪われてしまった。
物心ついた時には僕たちを探し、世界中を旅していた。
あの子たちがいなければ、僕は今も石像のまま、悠久の時を過ごしていたかもしれない。
石化から解放された僕の目に映ったのは、少し老けた様子のサンチョと、どこかで見たような面影があり、あの人と同じ髪をした少年少女。そして、その少年が持っていた剣。


それは、父がその生涯をかけて探し求め、手に入れた剣。
資格なき者にはふるうことの許されない勇者の剣、天空の剣。
457追憶 ◆EIyzxZM666 :2012/11/24(土) 11:27:24.77 ID:p9JM6+Dq0
『まさか その女! 伝説の勇者の血を……』

あの魔物が残した言葉は真実だったのだ。
あの人――フローラは、伝説の勇者の血を受け継ぐものであり、その少年――フローラとの間に産まれた僕の息子レックスは、天空の勇者としての運命を背負ってしまった。
レックス、お前とタバサが産まれたあの日、皆が笑っていた。
城中の民が、オジロン叔父さんが、プックル、ピエールたちが、サンチョが、……そして誰よりフローラが。
お前たちは皆にやすらぎを、幸福を運んでくれた。
皆がお前たちを愛していた。
あの時僕は誓った。
たとえ伝説の勇者が見つからなかったとしても、お前たちが大きくなるまでにはきっと平和を取り戻す、戦う必要などない世界にすると。
彼女とお前たちがずっと笑って過ごせるように。


だが現実はこうはならなかった。
その直後にフローラは魔物に攫われ、囚われの身。レックスたちには幼くして戦いの日々が待っていた。
勇者とその血族ともなれば、魔物たちから付け狙われるのは避けられない事であったし、心優しいあの子たちは、自ら両親を探すため過酷な旅に出た。
僕も幼い頃から旅生活であったが、僕には父がいた。父さんは、その最後の瞬間までずっと側にいてくれた。
僕は、あの子たちの側にいてあげられなかった。
皆と再会し、やっとの事で平和を取り戻したのもつかの間、今こうして家族揃って悪夢のような殺し合いに巻き込まれている。
そしてあの子は、レックスは、こんな何処とも知れない異界の地で命を落としてしまった。

ああ、お前はいったいどのような最期を遂げたのか。
レックスはあの年にしてまさしく立派な勇者だった。あの子が自分から誰かを殺しにかかるとはまず思えない。
優しいあの子の声も届かない凶暴な魔物や、悪しき心を持った人間に出会ってしまったのだろうか。
それとも生き残るために已むに已まれずの事だったのか。
一人寂しく死んだのか、誰かが側で看取ってくれたのか。
なぜ僕は、そこにいないんだ。
458追憶 ◆EIyzxZM666 :2012/11/24(土) 11:28:26.26 ID:p9JM6+Dq0
「――ュカ!リュカ!どうしたのだ!」

ドランの声で我に返る。放送を聞いた後、ほんの少しの間だが、気が抜けたように呆然と立ち尽くしていたらしい。
気づけば目も滲んで、一筋の涙が零れている。

「リュカ、もしや今の放送の中に知り合いの名が?」
「……デボラは妻の姉、ピエールは長年共に旅をした仲間、レックスは……僕の息子だ」
「そうか……」
「……レックスはね、よく笑う子だった。優しい子だった。僕にはもったいないくらい、本当にいい子だったんだ。君にも会わせたかったよ」

リュカは涙をぬぐい、ドランに優しい笑顔を返す。
悲しみに沈んでしまいそうな自分を奮い立たせる。

ピエール、ラインハットで出会ってから、長い間本当に世話になった。
お前のおかげで命を救われた事は数えきれない。
今はレックスと一緒に、ゆっくり休んでいてくれ。
レックス、お前は好奇心旺盛で、新しい町に行く時も、どんな危険な迷宮に挑む時も楽しんでいた。
新しい魔物が仲間になった時、お前は人一倍喜んでいた。
お前は、いつも笑っていた。お前の笑顔は、苦難の旅路を照らす光だった。
お前は、僕の希望だった。
すまない、レックス。本当にすまない。
お前のためにもこれ以上、格好悪い所は見せられないな。
お前とデボラ伯母さんとピエールが一度にいなくなって、母さんとタバサは悲しんでいるだろう。
お前が大好きだった二人は、父さんが守ってみせる。

これ以上、失わせてなるものか。
459追憶 ◆EIyzxZM666 :2012/11/24(土) 11:29:50.87 ID:p9JM6+Dq0
「……もう大丈夫だ。ありがとう、ラドン。君の知り合いは無事だったかい?」
「幸い、ラダトーム王女も勇者も無事であった。ただ……」
「ただ?」
「私のかつての主、竜王の曾孫が亡くなったらしい。ああ、竜王は今も健在のようだ。
 だがしかし、私は曾孫はおろか、竜王に妻や子がおる事など知らなかったのだ。
 あの方の妻になるような物好きがまさか存在し、子まで生すとは……。無理やり手籠めにされたという事もありえるが……。
 真偽のほども不明だが、あの方にはもしかすると私の知らない一面もあったのか?と、ふと思ったのだ。
 私には考えの及ばないような一面がな。
 そもそも私にはつがいとなるような相手もいなかったしな。                  
 そして、ひょっとすると今現在、貴方と同じ思いをしているのではないか、と。
 まあ……、あくまで低い可能性の話だ」
「そう、か……。できればその人とも一度会って、話がしてみたいな」
「……リュカ。言っておくが、竜王は強大な力を持ち、多くの竜と魔物を率いて世界征服を目論んだ、魔王と呼ばれるような存在であるのは紛れもない事実だ。
 私の場合と同じように話が通じるとは限らない。むしろ出会ったその場で襲われるのが普通だろう」
「ああ、わかってる。その時は十分に用心するよ。僕もまだ死ぬつもりはない」
「……そうだ。私の支給品の中に、人間用の武器があった。リュカは魔法もかなり扱えるようだが、その癒しの杖だけではやはり心許ない。
 私には無用のもの故、使うといい」

ラドンは袋から一本の剣を取り出し、リュカに差し出す。
 

「……ああ、有難く使わせてもらう」
460追憶 ◆EIyzxZM666 :2012/11/24(土) 11:31:28.35 ID:p9JM6+Dq0
それは、最後まで家族のために戦った、ある男の剣。
リュカにとっては忘れられない、もう一つの剣。





【C-5/西部/真昼】
【リュカ@DQ5】
[状態]:健康
[装備]:パパスの剣@DQ5
[道具]:支給品一式、祝福の杖@DQ5、支給品×2(本人確認済み。武器は無い)
[思考]:フローラと家族を守る。ラドンと共に動く。

【ラドン(ドラゴン)@DQ1】
[状態]:全身にダメージ(中)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 不明支給品×1〜2(本人確認済み)
[思考]:人と魔物が手をとる可能性を見届けるため、リュカに従う。
461 ◆EIyzxZM666 :2012/11/24(土) 11:32:51.18 ID:p9JM6+Dq0
終了です
462名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/24(土) 16:23:22.57 ID:GvGoHDYx0
ここでパパスの剣が来るかぁ…乙っす
463名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/24(土) 20:10:33.92 ID:pix/RZfxO
投下乙です
読んでいて、リュカたち一家を繋いでいたのは子供たちだったんだな…と思った
それだけにレックスの死は両親には余計悲しかったんだろう
それにしても、竜王のひ孫の存在は竜王を知るものには一大ミステリーだな
一体竜王になにがあって子孫ができたんだか…ひ孫本人の死が悔やまれる
464名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/24(土) 22:37:56.22 ID:0q7SmGaU0
投下乙です。
5勢は参加者が殆ど家族関係だしどうしても悲劇がつきまとうなぁ……
それだけに彼のこれからのがんばりに期待。
戦う道なのか、誰かを守る道なのか……
465 ◆YfeB5W12m6 :2012/11/25(日) 01:26:36.14 ID:VXQZdl89O
気付けば、白の世界に居た。
どこまでも無限に続く、汚れ一つない不思議ながらもどこか神秘的な世界。


不思議な話だが、ミーティアはこれを夢だと理解していた。


「夢の中で夢を見るのも変なものですね」


夢であっても、爆発に巻き込まれ血塗れになったヤンガスの姿の精神的ショックは少なくない。


ミーティアもちょっと疲れてしまっているようですね、と小さく呟いてミーティアは白の世界でくすりと笑う。

勿論、迷っているだろうエイトを探す目的を忘れたわけではない。

でも、そう──休息も、時には必要なもの。
旅をしている最中だってエイトは仲間たちに無茶を強いたことはなく、常に仲間の気遣いを忘れた事はなかった。


そうだったわ、彼は常に優しかった。
でも、どこか頼りなく見えることもあって──だから迷子になってしまう時だってある。
466 ◆YfeB5W12m6 :2012/11/25(日) 01:28:54.94 ID:VXQZdl89O
少し休んだら、早く見つけてあげないと。
捜している最中に倒れてしまっては話にならない。


上も下も右も左もあるのかすらわからないまま、ミーティアは座り込む。

何をすることもなく、広がる白を見つめていたら見覚えのある後ろ姿が見えた気がした。

信じられないものを見たような気分で、二、三度まばたきをしてみる。

勿論、何かが変わったわけでもなく、白の世界には相変わらずミーティア以外の色は存在しなかった。



夢は深層心理を映し出すこともあるという。
なるほど、今自分はそれほどまでに彼に会いたがっているのか。


──はて、なぜ会いたがっているのだったか?

「決まっています、エイトが迷子になっているからですわ」


──なぜ、エイトが迷子になったと思っているのだろうか?

「それも決まっています。エイトが…………、……?」

「あら、おかしいです……なぜ、でしたっけ?」
467名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/25(日) 01:33:51.73 ID:deac14s1O
支援
468名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/25(日) 01:34:47.25 ID:kGpnoN+b0
しえn
469名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/25(日) 01:52:20.01 ID:kGpnoN+b0
しえn
470名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/25(日) 01:56:41.34 ID:cJ7mNvaj0
しえんぬ
471 ◆YfeB5W12m6 :2012/11/25(日) 02:20:56.74 ID:JkGRKE0p0
キョトンと顎に指をかけてミーティアは首を傾げる。
彼女は思い出せない。"迷子"のきっかけを。"悪夢"の放送を。

自問自答に頭を捻らせるミーティアの肩を誰かが優しく叩く。
それだけで、ミーティアは相手が誰が理解した。悩んでいたきっかけも問いも全て吹っ飛んで、立ち上がりながら勢いよく振り向く。


「エイト……!」

会いたくて逢いたくて遭いたくて仕方なかった大切な人。 対するエイトはミーティアの輝く笑顔を見て表情を曇らせる。次に浮かべたのは、苦笑い。 そんなエイトを見て再びミーティアは首を傾げる。


「なぜ、そんな顔をするのです? ミーティアはエイトに会えてとても嬉しいわ、エイトは嬉しくないの?」

エイトはそんなことはない、と首を振る。それでもその表情が変わることはなく、何かをエイトが口にする。
472名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/25(日) 02:21:56.85 ID:kGpnoN+b0
 
473 ◆YfeB5W12m6 :2012/11/25(日) 02:25:05.52 ID:JkGRKE0p0
しかし、ミーティアにはその声は聞こえない。こんなに近いのに、口が動いていることも認識しているのに、音が聞こえない。


無音。


夢だから?
夢だから、エイトの言葉が聞こえない?
エイトのこの表情も夢だから?


───なら、こんな夢に未練はない!


ミーティアはもう一度、夢のエイトに対して笑顔を浮かべる。

「待っていてください、時間がかかってしまうかもしれないけれど、必ずミーティアはエイトを見つけにいきます」

そう、これは夢なのだ。自分に対して、自分の目的を再確認する為の夢。

今目の前にいるエイトは、自身の願い。さっきも、そう認識したはずじゃないか。


決意を決めたミーティアをみて、それでもエイトの表情は優れなかったことにミーティアは気付かない。
474名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/25(日) 02:26:39.24 ID:kGpnoN+b0
 
475 ◆YfeB5W12m6 :2012/11/25(日) 02:39:21.85 ID:JkGRKE0p0
気付けば、薄暗い森にいた。

どうやら自分は大樹に寄りかかって、そのまま気を失ってしまっていたらしい。


「……おはようございます」

誰に言うわけでもなくぽつりと呟いて、ミーティアは立ち上がる。

頭がふわふわする。空中落下した後のような、ひどく揺れるものに乗ったような、変な高揚感。

夢だから。自分の脳が見せている映像だから、世界が揺らいでいるのかもしれない。
一歩、二歩、確認するように歩く。ふらふらしている気がするが──大丈夫、歩ける。


エイトは森にいるはずだ。先ほど夢で自分は時間がかかるかもしれない、と言ったがなるべく早いに越したことはない。

泣き出す前に、早く。泣き出してしまったら、この夢はバッドエンドを迎えてしまう、そんな気がするから。    
476名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/25(日) 02:40:49.68 ID:kGpnoN+b0
 
477 ◆YfeB5W12m6 :2012/11/25(日) 02:44:31.42 ID:JkGRKE0p0
◇ ◆ ◇ ◆ ◇

夢は深層心理を映し出すものだと、誰かが言った

夢で見たエイトと、その表情はひょっとしたらミーティアのそのものだったのかもしれない。


さて、そんなミーティアは今、例の布地の面積が少ないアレに着替えていた。

ドレスというものは動くことを想定されていない故かなり動きにくい。
エイトを探すのにあたって、ドレスのままでは足が覚束ない自分がドレスの裾を踏み転けてしまうことが安易に想像出来る。

死にたいくらいに恥ずかしいが、探索の為にはドレスのままではあまりにも不都合すぎた。

他に装備品があれば迷い無くそれに着替えていただろう。
これ以上に恥ずかしいものなどあるものか。

ドレスをサックに詰め込んでいる最中も、ミーティアの頭の中はぐるぐると回る。


──エイトに、エイトに会うまでです──

顔を林檎のように赤らめながら、ミーティアにとっての希望を探す。

幻想を探す。
478名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/25(日) 02:45:52.64 ID:kGpnoN+b0
 
479 ◆YfeB5W12m6 :2012/11/25(日) 02:46:57.95 ID:JkGRKE0p0
【D-5/森/真昼】


【ミーティア@DQ8】
[状態]:?
[装備]:おなべのふた、エッチな下着
[道具]:他不明0〜1、基本支給品
[思考]:エイトに会う 、エッチな下着はなるべく早く脱ぎたい
[備考]:現状を夢だと思っています。
480 ◆YfeB5W12m6 :2012/11/25(日) 02:49:57.79 ID:JkGRKE0p0
投下終了です
支援ありがとうございました

タイトルは 報われない花の唄 ─In the case of Nigella─ です
481名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/25(日) 03:06:18.41 ID:ODt/7mTK0
おつ
482名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/25(日) 15:44:33.73 ID:kGpnoN+b0
おふた方投下乙!

>追憶
やっぱり子供は二人にとって繋ぎでもあって、心の支えだったんだなあ。
ショックは大きいけど、それでも前を向くリュカをパパスが応援しているようで……。

あ、細かい指摘になってしまいますが>>458で数箇所「ドラン」になっちゃってます。

>報われない花の唄 ─In the case of Nigella─
夢は夢として、振り切ったはいいけれどその振り切り方は危険な気がする……!
そしてエッチな下着にセットオン……!! ピサロのリアクションや如何に!
483 ◆EIyzxZM666 :2012/11/25(日) 23:56:45.66 ID:z/Qpxeb/0
>>480
投下乙です。ニゲラって知らなかったんで調べてみて、ああ、なるほどなあ……と思いました。
当惑とか夢の中の恋って花言葉があるんですね。
ミーティアはこれからどうなってしまうのか……。


あと、感想くださった方ありがとうございます。
ドランはやってしまいましたなあ……。教えてくださりありがとうございます。
リメイクではちゃんとレベルの上がるドランやルーシアを最後まで使いたかった。
484World's End ◆CruTUZYrlM :2012/11/26(月) 18:29:08.11 ID:cDPK5Gfe0
悪いのは全部、彼だと思っていた。
噛み合わずに狂い続けているのは、私だけだった。
どこか変だなと、何もかもが崩れさっていく。



世界の終わりが、待っている。



無心。
足だけがそそくさと動き続ける。
体全体を大きく揺らし、木々にぶつかりながらも前へ進んでいく。
何に向かっているのか? 何をしようとしているのか?
特に、決めているわけではない。
ただ、死にたいと思っても死ぬことができない。
戦士として死にたいという願望が、わずかながらに残っているせいか。
「……笑わせる」
剣を手に戦地へ飛び込まぬ人間が、どの面を下げて戦士など言い張れるのか。
馬鹿馬鹿しい、自分自身が馬鹿馬鹿しく感じる。
戦士としてはとっくのとうに死んだ、あの瞬間に身も心も死んだ。
今ここでさまよっているのは、かつて戦士だった者の残骸だ。
生きることに飽いた、無様な女の成れの果てだけだ。
ああ、白馬の王子様はどこにいるのだろうか。
この無様で哀れな残骸に、引導を渡してくれる王子様は。
せめて戦士として死ぬために、誇り高く殺してくれる者を探して。
骨格と血肉を持ち、僅かな思考能力しかない肉塊はさまよう。



魔族が何故人間を恨むようになり、この世に生きるすべてを滅ぼそうと考えたのか?
今まで誰も気にすることもなく、問いつめることもなかった一人の魔族の話。
この殺し合いに招かれていなければ、彼はそれを話すことなくその生涯を終えていただろう。
話したところで理解できる人間など、いるはずもないのだから。
だが、彼は一人の女に身の上を語り続けている。
世界を滅ぼす破壊神を崇める教団を設立した経緯、そもそも人間を恨むに至った経緯。
この殺し合いに招かれるまでの全ての経緯とその時の心情を、ぶちまけていく。
滅ぼすべき対象であるはずの、たった一人の人間に。
同意を得たいとか、批判をされたい訳ではない。
自分の目に今まで映り続けた真実を、そっくりそのまま伝えたかっただけだ。
彼女がそれを感じ、どう思おうが勝手だったから。

無言。
「ふーん」という返事から、彼女は何も語らない。
一度、勇者という立場に仕立て上げられた彼女。
敵対した……いや、させられていた魔族たちが、こう考えていたなど予想もしなかっただろう。
返事に時間がかかっているのが、その証拠だろう。
まあ、自分もまさかこんなに理解能力のある人間がいるなど、今の今まで考えたことすらなかったが。
「ま、人間にしてみりゃどうでもいい話か」
しばらくの沈黙の後、ソフィアが口を開く。
長々と話させておいて「どうでもいい」で片づけられてしまったことに、ハーゴンは少し眉を顰める。
表情が険しくなったハーゴンを方を振り向かず、ソフィアは語り続ける。
「あいつら、相手の事情とか知ったこっちゃねーからな。
 自分が楽できるか、得をするか、プラスになるか。
 あいつらにとって重要なのはそこだからな」
人間は相手の事情を考慮しない。
多少の事は思考できても、自分の根幹にある事を否定することはできない。
自分がそうすることによって自分が損をするとわかっていながら、その行動を敢行する人間など数えるほどしかいないだろう。
485World's End ◆CruTUZYrlM :2012/11/26(月) 18:30:05.27 ID:cDPK5Gfe0
魔族は悪である。
何故か? 自分たちの生活を脅かすから。
向こうが何故襲ってくるのか、自分たちに非はないのか、そんなことを考えている人間などいない。
自分が危険な目にあう可能性があるから、それを事前につぶしておく。
力があるとされる人間を作り上げ、皆を救ってくれるという烙印を押し、旅に出させる。
悪を滅ぼせば万歳、滅ぼせなかったならば次の生け贄を選ぶだけ。
その繰り返し繰り返しで、自分が楽をできる道を選び続けていた。
だいたいの人間は、みんなそうであった。
「ハーちゃんの話を伝えたところで、あいつ等には伝わんねーよ。
 これこれこうだからおまえ等が気に食わない、だから戦うって言ったところで、向こうには欠片も伝わることはない。
 自分に害がある存在だったら、ぶっつぶすだけ。
 決め付けと追いやりは人間のお家芸、ってね」
勇者の烙印を押されたソフィアだからわかる。
あの世界でピサロが人間たちを滅ぼそうとした、その全てを知ったソフィアだからわかる。
ハーゴンの話は、多数の人間の耳には届かないことが。
「だったら、滅ぼすしかねーのかも知れねーなぁ。
 対話もクソも無くって、向こうが襲いかかってくるんだったらさ」
ソフィアが何気なく呟いた、その時である。
見るもの全てを魅了しそうなほど美しい花嫁と、彼らは出会った。

頭部をすっぽりと優しく包み込む、真っ白のシルクのヴェール。
この世界に来てから長らく見ていない太陽のように、黄金に光輝くふわりとした髪。
どんよりとした空の世界でも、白く美しく輝くウェディングドレス。
そして、眠りにつくように目をつむったままの顔と、首に巻き付けられた赤い布。
「なぁ」
「ああ」
ソフィアの問いかけに、ハーゴンは即座に応じる。
何を問いかけているのか、何を聞こうとしているのか。
言われなくても、わかったから。
「ムーンブルクの王女、あきなだ……」
全身を斬り裂かれているわけでもなく、頭部をつぶされているわけでもなく、黒焦げの消し炭になっているわけでもなく、整った姿で死んでいた。
殺し合いの場で死んだというにはあまりにもかけ離れた姿に、ハーゴンは思わず息を飲んだ。
「なんか、おかしいよな」
疑問点を感じたソフィアの口から、どんどんどんどん言葉があふれだしてくる。
「頭に着けてるヴェールは血が付いてる、でも身に纏っているウェディングドレスには血の一滴もついてない。 
 殺される前からウェディングドレスも着てたなら、ドレスにも血が付いてなきゃいけない。
 でも、ドレスには一滴も血が付いてない。
 だとすると、殺された後にこのドレスは着せられてるって考えるしかないんだよ。
 首から流れる血でドレスが汚れないように、元々着てた法衣が首に巻き付けられてることからも、それしかねえ」
物言わぬ花嫁から感じ取った妙な違和感。
考えられる可能性を、ソフィアは次々に呟いていく。
「考えられるのは殺した相手でお人形さんごっこするようなマッドな奴の仕業か、何らかの理由で死んでしまったこいつへの弔いか。
 流石にこの二択以上には絞れねえ、けど……」
最終的な二つにたどり着く。
状況証拠だけでは、流石にこれ以上は絞りきれないかと思っていた。
「見ろよ、幸せそうな顔してるぜ」
が、遺体の表情が全てを語っていた。
486World's End ◆CruTUZYrlM :2012/11/26(月) 18:31:07.61 ID:cDPK5Gfe0
「殺されそうになって、怯えとか恐怖とか怒りを表してる顔でもない。
 かといって悲しみや絶望に染まりきった顔でもない。
 この上なく幸せそうな笑顔なのに、なんで死ななきゃいけなかったんだろうな」
ここで何があったのか、どうして彼女は死ななければならなかったのか。
その全てを包み込んで全て語っているかのような、やさしい笑顔。
ソフィアが語らずとも、ここで起こったことをハーゴンも察していた。
「なぁ、ハーちゃん」
立ち尽くすハーゴンを背に、ソフィアは続いて語りかける。
「さっきの話だと、ハーちゃんの世界のロトの一族ってのは、アタシみたいな連中だよな」
ロトの一族。
大魔王ゾーマの手からアレフガルドを救った勇者ロト、アレルの血族。
長き時を越えて続いたその血は、悪の手から人々を救う英雄の一族だとされていた。
故に世界を掌握せんと目論むハーゴンを討伐するべく、ロトの末裔達は旅に出た。
いや、出された。
ロトの血族は勇者の、英雄の一族だから。
悪を滅ぼすのが、一族の定めだから。
そういって必要以上に持ち上げて決めつけていく人々の姿が、ソフィアの目には容易に浮かぶ。
死ぬことすら許されない世界で、戦い続けたのだろう。
そうだとすれば、この場所はようやく死ねる墓場だったのかもしれない。
「しんどかったのかも、しんねーな」
考えた先にあったある一つの答えに、二人がたどり着いたとき。
彼女は、突然現れた。



別に、戦うなら誰でも良かった。
別に、国家を相手に戦争をけしかけても良かった。
別に、死に瀕する様な戦いをするならばリンリンや、それこそ"ヤツ"と戦っても良かった。

だが、それでは満足できないだろうと分かっていたのだ。
そこらの人間と戦っても力量はハッキリしているし、奴等は自分が助かるために戦うのだから、志が低い。
リンリンは優れた武闘家であるが、彼女にははっきりとした目的が無かった。
世界を救うためには魔物と戦わなくてはいけないから、そんな"使命感"で戦っているような奴だった。
そして"ヤツ"は、自分の力を振るうことに酔っていた。魔物を魔力で蹂躙することで満足していた。
圧倒的な力で全てを蹂躙するのが目的だった、強者と戦うことで快感は得ていたようだが、自分の力を誇示するだけで止まっていた。

だが、勇者アレルだけは違った。
道無きところに道を作り、邪魔するものを吹き飛ばす。己が信念に従い、突き進んでいた。
何時死んでもいい、命など全く惜しくは無い。命を賭すに値するほどの"目的"に向かっている。
彼だけが、あの世界で死を恐れずに向き合っていたのだ。

だから同じ死を恐れぬもの同士、刃を交えればきっとこの上なく素晴らしい戦いになるだろうと思っていた。
自分が生きるためではなく、その先にある目的のために刃を振るうのだから。
追い求めていた至高の戦いが、そこにあると信じていた。

だが、彼は失踪した。
世界平和の次へ、彼が欲するものへ、彼の目的を命がけで達成するために。
彼は、一切何も告げずにあの世界から姿を消した。

それはこの上ない、裏切りの行為だった。
世間の人間からすれば「新たな世界へ旅立った」という解釈になるだろう。
だが彼女はあの時あの酒場で、自分達に向けて放った一言を信じていたのだ。
487World's End ◆CruTUZYrlM :2012/11/26(月) 18:31:50.94 ID:cDPK5Gfe0
.
「オレは今から俺の望みを叶えに行く。
 そしてお前らの望みもオレが叶えてやる、だから黙ってついてこい」

私の望みは、あの男になんだと思われていたのか――――?



答えを見つけられないまま、この場所へと招かれた。
目的の為に命を厭わない、あの男に出会えるチャンスが来た。
ついに、この傷つき枯れ果てた心に水が注がれる可能性が浮かんだのだ。

だが、それもすぐに裏切られることとなる。
アレルの死という、覆せない事実によって。
自分の目的を達成するまで、絶対に死なないと言った男が。
そしてその目的は日に日に進化し、絶対に終わることは無いと言った男が。
目的が達成される日は、自分が死ぬ日だと言った男が。
目的のカケラも達成できやしないこんな場所で、死んだ。

自分の目的も、叶えてくれるのではなかったのか。
命がけで追い求める目的の為に、命を奪い合う戦いの場へ誘ってくれるのではなかったのか。
全て嘘、偽りだったというのだろうか。

いや、もしかすると、自分の勝手な独りよがりだったのかもしれない。
だとすれば、最高に笑えてくる。
そして最高に――――生きるのがバカらしくなってくる。

なんにせよ、自分の望みはもう叶えられる事は無い。
どうせこの場いるのは「自分が助かることを前提とした目的」しかない人間だけ。
自分の命がどうなろうが、達成するべき目的を持った人間などいない。
キーファは、私がけしかけたから仕方なく闘ったに過ぎない。
マーニャは、妹を探すために自分が助かる道を選んだ。
"ヤツ"は当然、自分が生き残ることを前提としている。
目的のために己が命を投げ出したたった一人の少年は死んでしまった。

最高の戦いの為に備えたところで、もう最高の戦いは出来ないのだ。

命を賭して成し遂げたい目的がある、あれほどの人間などもう居ないのだから。

絶望しか広がっていない未来が分かっているから。
もう叶うことなど無い自分の望みを知っているから。
だから、生きることに飽いた。

もう、生き残るつもりなど元より無い。
だから、彼女は見つけた二人の人影に語りかける。
何時までも夢見続けた戦士の姿で、死ぬために。

「我が名はカーラ。戦士達よ、剣を取って私と戦え」

宣告。
おそらく、最後の。
もう、突きつけることは無いだろうなと思いながら突きつけたそれの返事は。
彼女が、全く予想していない物だった。
「ま……いいけどよ」
肯定。
この場に来てから初めて、戦うことを快く受け入れた存在。
戦いの場から逃げようとするわけでもなく、やむなしに戦うわけでもなく、自分から戦うことを受け入れた。
カーラの驚愕は続く。
「なんで、お前は戦うんだ?」
488World's End ◆CruTUZYrlM :2012/11/26(月) 18:32:23.58 ID:cDPK5Gfe0
質問。
カーラが戦う理由を問いかけて来た。
「……聞いてどうするというのだ」
条件反射で思わず問い返してしまう。
質問を質問で返すのは、愚行だと分かっているのに。
「気になるンだよ、いいだろ? 教えてくれよ、おちおち剣も振れやしねえ」
別に、話したところで変わることが有る訳でもない。
どうせ死に行く人間の戯言、時間の無駄だとは思っている。
だが相手が聞きたいと言っている、屍の言葉を聞きたいと言っている。
ならば、別に語っても構わないか。
そう思い、カーラは溜息の後に言葉を続けていく。
短く簡潔に、用件のみを絞って。
もう、戻らない日々のことを。



全て、語り終えた。
毒にも薬にもならない、ただの思い出話を。
その聞き手達は、なんとも言えない表情を浮かべている。
「……もう、良いか」
「ああ」
お預けにされていた、戦いの開始を告げる一言。
両者が剣を構え、互いに睨みあう。
「言いたい事は腐るほどあっけど、別にいいだろ」
語ることはたくさんある、積もりに積もって語りきれないほどある。
だが、それらはもう語らなくてもいい。
それよりも、やることがあるから。
「ハーちゃん、手出すなよ」
後ろで聞いていたハーゴンに一言告げる。
ハーゴンは黙って頷き、ソフィアを見送る。
「行くぜ」



そこから先は、一瞬の出来事。

雷を纏った剣と、血に塗れた剣。

其々が一瞬の内に交差し、生まれた斬撃が二つの風を起こす。

振り返らない、振り返らない。

そして、ただ一人だけが。

まるで糸の切れた人形のように。

ゆっくりと、倒れた。


.
489World's End ◆CruTUZYrlM :2012/11/26(月) 18:33:55.19 ID:cDPK5Gfe0
「満足したか」
「ああ」
「そりゃそうだ、アタシの最高の技だからな」
賢者は笑う、勇者も笑う。
殺しあった直後だというのに、まるで古来からの友人のように笑いあっている。
「……最後に名を、聞かせてくれ」
「ソフィアだ」
「ソフィアか……良い名だな、地獄でアレルに聞かせてやるとしよう」
「はっ、地獄で有名になっても嬉しかねーよ」
冥土の土産に持っていくのは、最後に戦った戦士の名。
只の彷徨う肉塊でしか無かった自分を、戦士として葬ってくれた者の名。
最後の最後に、生きているという実感を僅かに与えてくれた者の名。
「……ソフィアよ、本当にありがとう」
「うるせえよ、さっさとくたばりやがれ」
「ああ……そうだな」
そしてその一言を最後に、まるで魂が抜けていくように。
女賢者は、静かに眠りに着いた。



「命を賭して、何かのために戦う奴なんて幾らでもいるさ」
ソフィアは呟く。
彼女が追い求めた存在を、その条件を。
命を賭けるに値する野望を抱く存在など、どこにでもいる。
現に後ろにいるハーゴンは「破壊神の復活」に全てを賭けている。
だが、カーラが追い求めたのはそれだけではない。
「ただ、こいつの願いを叶えてやれるのは。
 その、アレルってのしかいねーんだろうな。
 たった一言の約束に心惹かれるような、絶対的な魅力があったんだろ」
アレルでなければいけない理由があった。
他の誰にも為し得ないことがあった。
人を惹き付ける魅力か、はたまた心を奪う天才か。
どちらにせよ、その存在はもうこの世には居ない。
彼女の夢はもう叶わないのだ。
だから彼女は絶望し、この世から去った。
他人は、誰かになることなど出来ないのだから。
「もし……アレルと戦ってたとしたら、こいつはその後どうしてたんだろうな」
もし、望み通り戦えたとして、そこで勝利しても、全てに満足して去って行ってしまうのだろうか。
最初から彼女は死ぬことを考えていたのではないか。
その結末が、望み通りにならなかっただけ。
今、考えたところでどうしようもない"もし"が頭を渦巻く。
「どいつもこいつも、てめーで世界の終わりを作っちまう死にたがりかよ」
花嫁姿の少女と、たった今この世を去った戦士。
果たして、彼女達は自分の世界の終わりで何を見たのか。

赤みのかかった未来で、笑っているのだろうか。

【カーラ(女賢者)@DQ3 死亡】
【残り42人】
490World's End ◆CruTUZYrlM :2012/11/26(月) 18:34:26.46 ID:cDPK5Gfe0
.
【F-5/あきな遺体傍/午後】
【ソフィア(女勇者)@DQ4】
[状態]:健康
[装備]:斬魔刀@DQ8、メイド服@DQ9、ニーソックス@DQ9
[道具]:不明支給品(0〜2)、奇跡の剣@DQ7、ソードブレイカー@DQ9
     小さなメダル@歴代、不明支給品(0〜5、内一つは武器ではない)、基本支給品*2
[思考]:主催の真意を探るために主催をぶっ飛ばす。
     アレフを探し、ローラの証明を手伝う。
[備考]:六章クリア、真ED後。

【ハーゴン@DQ2】
[状態]:健康
[装備]:オリハルこん@DQ9 
[道具]:不明支給品(0〜2)、基本支給品*2
[思考]:シドー復活の儀の為に一刻も早く「脱出」する。
     脱出の力となる人間との協力。
     ロトの血筋とは脱出の為なら協力する……?
[備考]:本編死亡前。具体的な時期はお任せします。ローレシア王子たちの存在は認識中?



以上で投下終了です。
何かありましたら、どうぞ。
491名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/26(月) 22:17:36.43 ID:k9Yuu7Pv0
投下乙です。修羅カーラさんが逝ってしまったか……
この人はもしかするとアレルさんと出会わなければとっくの昔に一人闘いの中で死んでたんじゃなかろうか
最期に意中の相手でないとはいえ勇者と満足いく戦いができたのがせめてもの慰みとなるか
魔法使いさんどうなるかねえ
492名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/26(月) 22:36:27.62 ID:YijdeS8U0
まぁカーラさんすでに満身創痍だったしなぁ
乙っした
493名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/26(月) 22:50:25.88 ID:hGaMwW4nO
投下乙です
なんかカーラさんが死んでしまうとは思わなくてちょっとびっくりしてる
戦闘狂の想いの果てを垣間見て、ぞっとしながらもどこかきれいで
人を殺したけど、狂ってると思ったけど、ある意味純粋な人なんだなと思った
コメントしたいこといっぱいあるけどなんて言えばいいのか…本当に乙です
494名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/27(火) 01:32:45.74 ID:EgQI+7rK0
投下乙
あーんカーラさんが死んだー
かなり気に入っていたキャラだけに残念だけど、最期が穏やかだったのは意外
しかし対主催頑張ってるなあ
495名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/27(火) 01:38:16.54 ID:xWVoxAuY0
投下乙です
正直、カーラがもう死ぬとはまったく思ってなかったんだけど
読後になったらここしかなかったかもなあ、って気分に
今生の別れになっちゃった男魔は何を思うのか・・・
496名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/27(火) 02:21:17.04 ID:BkNkLWke0
投下乙です
戦闘狂だったカーラだが静かに逝ったなあ
最後の数行がまた、あきなと無駄なく絡んでてきれいだ
497名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/27(火) 22:19:03.75 ID:XsLV//lW0
投下乙です。
苛烈だったカーラがこんなにも綺麗かつ静かに死んでいくとは。
アレルが死んだ時点で終わりはもう確定していたと思うと切ない。
それでも、最後は戦士として戦って死んだのは救いと呼べるのではないか。
498名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/28(水) 14:38:44.09 ID:4CpUyNjR0
投下乙ですー
カーラは最後に少しだけ報われたな

そしてこれまで目的の無かったリンリンさんが
いま初めて自分の目的を持ってロワ充しようとしてるところですよww
499名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/29(木) 23:44:38.61 ID:Xb+VVRcv0
本スレ容量、残り少ないけどそろそろ次スレ立てた方が良いよね?
500名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/30(金) 00:14:07.69 ID:IoooP8bI0
予約期間は10日になったんだっけか
その辺りのテンプレ変更がいるよね
501名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/30(金) 21:13:25.03 ID:c5JVTb9fO
ウィキのテンプレは修正されてあるね。
502名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/30(金) 23:12:01.88 ID:IoooP8bI0
15KBあるし後1,2話は大丈夫とみた
503名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/04(火) 23:00:47.69 ID:qhmITBYz0
立ててみたら次スレ立ったわ

ドラゴンクエスト・バトルロワイアルII Lv3
http://kohada.2ch.net/test/read.cgi/ff/1354629614/

これからテンプレ貼ってくる。
504名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/05(水) 01:29:04.44 ID:90e8g+N40
>>503
乙〜
505名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/06(木) 18:50:42.92 ID:Asg31UHl0
1stまとめWikiが消えてたんで、とりあえず急ぎで1stのログを2ndログ保管庫にアップロードいたしました。
復活するかどうか分からないので一応2ndと同じLivedoorWikiを借りてきました。
http://w.livedoor.jp/dqbr1/

編集など、協力していただけると幸いです。
506名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/06(木) 19:11:41.40 ID:AwMJp2F90
うっわ、ほんとだ。
なんも回収できないうちに消えてしまうって形じゃなくてよかった……
迅速な対応ありがとうございます
507名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/06(木) 19:23:05.39 ID:AwMJp2F90
とりあえずアーカイブで回収できた1〜137話までの時系列をコピペしました。
wikiいじりが不慣れなため表の形式にするのも終わってないですが一応報告
508名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/06(木) 19:24:30.09 ID:AwMJp2F90
書き込んでる間に変わってる?!
ありがとうございます!
509名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/06(木) 19:43:03.53 ID:Asg31UHl0
とりあえずWebアーカイブから引っ張ってきた137話までの時系列順、投下順のページを作りました。
2ndの過去ログまとめページに1st全スレッドのHTMLまとめzipをアップロードいたしましたので、
こちらから作品の転載作業だけでも手伝っていただけると幸いです。
http://www.geocities.jp/alfred_airhawk/dqbr_log/

Wikiの簡易編集方法は2ndWikiに掲載してありますので、ご参考までに。
http://w.livedoor.jp/dqbr2/d/%b4%ca%b0%d7Wiki%ca%d4%bd%b8%ca%fd%cb%a1
510名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/06(木) 21:07:46.91 ID:AwMJp2F90
134〜139まで補完、とりあえず今日はギブアップ。
本スレで指摘された修正分も直して投下してあるのでそこらへんは大丈夫ですって宣言だけ。
511名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/06(木) 22:03:08.61 ID:Asg31UHl0
気がつかなかった……
グーグルキャッシュなら最終話までの作者さんのトリップも分かるので、参考に移植していただければ。
http://webcache.googleusercontent.com/search?q=cache:Elc2v6wEDWQJ:dqbr.roiex.net/wiki/wiki.cgi%3Fpage%3D%25CB%25DC%25CA%25D4%25B0%25EC%25CD%25F7+&cd=5&hl=ja&ct=clnk&gl=jp&client=firefox-a
512 ◆1WfF0JiNew :2012/12/06(木) 23:13:32.12 ID:mq6q/Eoh0
お待たせしました、予約分を投下します。
現スレが埋まったら次スレに行きます。
それと……長いので支援、お願いします。
513名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/06(木) 23:13:46.02 ID:Asg31UHl0
しえん
514名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/06(木) 23:14:35.88 ID:Asg31UHl0
しえん
515 ◆1WfF0JiNew :2012/12/06(木) 23:15:02.22 ID:mq6q/Eoh0
「気づいた?」
「ああ、これは……」

もょもととカインがよくぼうの町を覆い尽くす程の禍々しい殺気に気づいたのは、とある民家で重傷であるアイラを横にした時だった。
町の入り口から溢れんばかりの殺気の波が押し寄せてくる。それも、ハーゴンやシドーとも遜色違わない強烈なものだ。

「このまま隠れてる……って訳にはいかなそうだね」
「なぜだ?」
「僕らの気配が感づかれている。ゆっくりとこっちに向かってくるよ」
「なら……」
「そっ。闘うしかないみたいだね」

カインは座っていたソファーから立ち上がり、腰に剣を差す。
気怠い。いつもは軽々しい身体が鉛のような重量を帯びている。
未だ、放送の衝撃は心の中には残っているのだろう。
あきな。ハーゴン討伐の旅を共にした気の弱い少女。
彼女の死はカインにとって涙を流すまでは行かないが、心によどみを作るまでになっていた。

(アイツも僕達と同じだった。普通ではいられない状況で……。誰一人、自由を許される奴はいない。
 僕ら三人は世界救済を押し付けられて、普通が消えていった)

世界救済の旅。それは長く険しい道のりだった。
常に危険と隣り合わせで安心して眠れる日なんてありはしない。
敵は魔物であり、人間であり、疲労であり。
野宿をする際には魔物が襲ってこないか、三人でローテーションを組んで見張っていた。
いついかなる時に大量の魔物がやってくるかわからなかったからだ。
かといって、街の中でも安心はできなかった。
ハーゴンを信奉する人間の狂信者が、寝込みを襲撃する時があるためだ。

(ただ武器を持って死ねーって奴は御決まり過ぎて何ともいえなかったけど。
 夜這いとかはさすがにびっくりしたかな。ロトの血を持つ子供を増やしたい体目的の女も擦り寄ってくるし)

敵はハーゴンだけではない。様々な思惑を伴って、内からも襲い掛かってくる。
ロトの血を更に広める為に。ロトの血を自分の手元に置くことで、権力を強固とする為に。
無論、そのような奴等は丁重に『始末』したが、見ていて気持ちの良いものではない。
旅の記憶を思い出してみると、自分が一番襲われたのではないだろうか。
本当にクソッタレな旅だったな、とカインはため息をついた。
516名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/06(木) 23:15:19.75 ID:Asg31UHl0
しえん
517名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/06(木) 23:15:59.50 ID:Asg31UHl0
しえん
518 ◆1WfF0JiNew :2012/12/06(木) 23:16:01.12 ID:mq6q/Eoh0
(お陰で宿を取る時も三人部屋だったなぁ。あきなは『お、男の人のは、はははだかぁ!』ってよく顔を赤くしていたっけ)

数少ない平穏とした思い出が脳裏に浮かび、強ばっていた表情が緩まった。
なぜ、自分は三人での旅の記憶を今更に思い出しているのだろう。
当初は使い捨てる程度の存在だと思っていたのに。
情が湧いてしまったのか? カインはその疑問を笑って否定する。
確かに、以前と比べたら大分信頼するようになった。
だが、その信頼は心の底からではない。自分の歪みはもはや矯正できない所まで来てしまっている。

(楽しかったのか? はっ、まさか。僕がそんなことを思っているなんてね。
 これから命を賭けた闘いだっていうのに何を)

考えてみると、戦いの前はいつも気を張り詰めていて周りを見る余裕なんてなかった。
それが、今ではもょもとと肩を並べて戦うことになっている。
以前では利用するだけの対象としてしか見ていなかったにもかかわらずだ。
ともかくだ、生き残らないことにはこの胸のもやもや感も晴れることはない。

(生き残らないとな……。まだリアとも会えていないんだ、アイツを残して死ねない。
 そうさ、僕は――いや、やめよう。今は向かってくる外敵の対処のことだけを考えろ)

ちょびちょびと回復呪文をかけた結果、もょもととの戦闘の影響は大分薄れている。
万全とは言いがたいが、それはないものねだりであろう。
常に万全な状態で戦闘を行える程、この殺し合いは贅沢なものではない。

(……こんなもんだろうね)

あれこれと考えている内に、もょもとの方も準備ができたようだ。
手にはオーガシールドを携え、目をぱちくりと開いたり閉じたり。
その仕草は今までとは違い、どこか温かみがあるものだ。
最も、カインにはそれを見抜く余裕はなく、もょもとも自分では気づくことは出来ないのでこの場では特に何の変化が起こり得ないが。
大事なのは二人共に生き残ること。真実を暴くまで、この身は果てることを望まない。

「行こうか」
「ああ」
519名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/06(木) 23:16:39.67 ID:Asg31UHl0
しえん
520 ◆1WfF0JiNew :2012/12/06(木) 23:16:55.27 ID:mq6q/Eoh0
***



「なあ、もょもと」

「なんだ?」

「お前さ、この作戦で大丈夫だと思ってる訳?」

「大丈夫だ」

「うーん、その根拠のない自信はどこから出てくるのやら……」

「おれはカインを信じてるから」

「…………馬鹿」

「なにかおかしなことでも言ったか?」

「何でもない。それじゃあ、手筈通りってことでいいかい」

「ああ」



***
521名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/06(木) 23:17:10.31 ID:Asg31UHl0
しえん
522名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/06(木) 23:17:52.85 ID:Asg31UHl0
しえん
523 ◆1WfF0JiNew :2012/12/06(木) 23:18:15.33 ID:mq6q/Eoh0
デュランがよくぼうの町に辿り着いて最初に行ったことは殺気の拡散だった。
この町に逃げ込んだバラモスを捕まえるのは当然として、この町にはバラモス以外に参加者が潜んでいる可能性は十分にある。
ならば、全員纏めておびき寄せて一網打尽にするのが効率がいいのではないか、と考えたのだ。
加えて、デュランは早く任務を終えて、ロッシュの元へと戻りたかった。
彼との再戦を一刻も早く進めたかった。あのような横槍を入れられた決着など認めたくなかったのだ。

「そうと決まれば、早く仕留めねばなるまい。バラモスよ、お前の罪は重いぞ?」

凄絶に口元を歪め、デュランは住宅街を歩く。
さあ、狩りの始まりだ。狩人はデュラン。獲物はバラモス。
獲物の乱入も歡迎だ。誰でもいい、自分を愉しませてくれれば何よりだ。
くつくつと笑いながら町を徘徊して数十分。デュランは突如、立ち止まり剣を構える。

「後ろからとは卑怯だぞ」
「アンタみたいな魔王さんに真正面から挑む馬鹿がいますか? 正々堂々なんて流行らないよ」
「挑んでくれる方が嬉しいんだがなぁ」

カインが繰り出す背後からの斬撃を、デュランは振り返ることなく剣で受け止める。
互いの刃がガチガチと金属音を鳴らし、鍔迫り合う。
これ以上の拮抗は無駄だと悟ったのか、カインは後ろへと跳び予め構築していた呪文を解放する。

「閃光よ、迸れ……ベギラマッ」

掌から迸る閃光がデュランの周りの大地を赤に染める。閃光から生まれた炎が壁となりデュランの動きを封じ込める。
身動きが取れず立ち往生となったデュランの隙を突くべく地面を踏みしめ、駆けようとするが。

「ふん」

その踏み込みは途中で止まることとなる。
カインの見立てでは、ベキラマに寄る炎の壁は隙になるはずだった。
炎の壁が障害となっている間、自分にトラマナをかけて突進。
カインなりに考えこまれた策ではあったが全く通用がしない。
524名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/06(木) 23:18:45.18 ID:Asg31UHl0
しえん
525 ◆1WfF0JiNew :2012/12/06(木) 23:19:15.97 ID:mq6q/Eoh0
「ぬるい」

デュランが剣を一振りすることで炎は掻き消される。
そう、ただの一振りで閃光系の中級呪文が打ち破られたのだ。

「魔王め……!」
「どちらかと言うと、魔王じゃない。私は戦士だ」

殺気が増していくデュランに、カインは思わず口の中で溜め込んでいた唾をゴクリと飲み込んだ。
止まっていたらあっさりと殺られてしまう。
頭の中の戦闘経験が警報を鳴らしたのか、相手が仕掛ける前に打って出ようと地面を強く踏んで加速する。

突きを穿つ。斜めに薙ぎ払う。
躱す。追尾する。
一旦、立ち止まる。前へ出る。
正面から――。正面から――。

――大きく振り下ろす!

「……貴様、サマルトリアのカインか」
「だったらどうした? 世界を救済した英雄様に会えて嬉しいとでも?」
「まさか。称号などに興味はない。私が欲するのは――血沸き肉踊る闘争だけだよ」

カインは片方の掌を剣の取っ手から放し、返答代わりにベギラマを一閃。
至近距離での直撃は多少はダメージになると思っていたが、全くの無傷という結果では顔の表情も苦くなる。
舌を鳴らしながら一歩後退。

「なら、お望み通り本気だ。さっさとアンタを殺らせてもらうよ」

デュランがほんの僅かに目を離した瞬間、カインの姿が消失する。
最も、消えたからといってデュランは慌てない。即座に後ろに剣を振るい、真空の波を巻き起こす。
背後からの斬撃を狙っていたカインは即座に中止し、地面を強く蹴りだした。
再び、激突。ぎんぎんがんがんと金属音のオーケストラが路上に響き渡る。

「力が伴っていない! それでは宝の持ち腐れというものだ!」
「力がなくて悪かったねっ!」

カインの首元へ横薙ぎに繰り出された一撃を、デュランは上体をそらすことでやり過ごし、横薙ぎから返す袈裟の振り下ろしをスレスレの所で躱す。
そして、距離を取るべく後ろに跳ぶが、その行為が許される程には生易しい剣劇ではなかった。
526名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/06(木) 23:19:38.16 ID:Asg31UHl0
しえん
527名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/06(木) 23:20:14.96 ID:Asg31UHl0
しえん
528 ◆1WfF0JiNew :2012/12/06(木) 23:20:20.61 ID:mq6q/Eoh0
「ははははっ! そらそらそらぁ! 何を逃げようとしている!」
「うっわぁ……活き活きとし過ぎでしょ、アンタ」
「ククッ。無駄口を叩く暇があったら反撃してみせよ!」
「言われなくても!」

言葉の語尾が発せられた時、既にデュランの横を旋風が駆け抜けていた。
旋風は横を勢い良く通り過ぎ、すれ違いざまに斬撃を放つ。
これぞ、サマルトリア王子――カインの真骨頂、瞬迅なる剣である。

「僕の剣は風を起こす」

デュランの頬から血の飛沫が飛び、風と踊るように宙を舞う。
終わらない。否、これで終わらせない。相手が動揺している今を徹底的に叩く。
音もなく地面を蹴り、カインはデュランの周囲を駆け回る。残像が生まれる程の速さで的を絞らせない。
しかし、高速とも言える速さを前にしても、デュランは落ち着いていた。
これで少しでも――通用するとでも思ったのかと言わんばかりに泰然としている。

「小賢しい! 一切を吹き飛ばすっ!」
「間に合え、スクルトォ!!」

撹乱? そんなもの、圧倒的な力で捩じ伏せてしまえばいい。
魔族の王、デュランにはその力があるのだから。
小さく鼻を鳴らし、剣を振り上げる。
振りかざした剣からは周囲に真空の波を発生し、カインを残像ごと吹き飛ばす。
吹き飛ばされたカインはとっさに唱えた守備力増強呪文のおかげもあり、大した怪我もなく立ち上がる。
529 ◆1WfF0JiNew :2012/12/06(木) 23:21:09.50 ID:mq6q/Eoh0
「言っただろう? 力が足りないと!」

そこからはデュランによる一方的な蹂躙が始まった。
剣が風を捻じ切りながら、重々しい響きを纏ってカインへと次々と襲い掛かる。
拙い。何合か打ち合った結果、カインが感じたことである。
このままだと、限界が来るまでデュランの攻撃を耐え続けなければいけない。
速度と攻撃が複合し、一つ一つが必殺と化している連撃をいつまでも受けていられる保証など、カインには全く存在しなかった。
自分はもょもとではないのだ、デュランと真っ向から闘える力を持たぬ凡才なのだから。

(ああ、考えてる暇はないっ! 本当はもっとこいつを疲れさせたかったけど限界だ)

長い旅で培った戦況を見極める判断力が、決断の針を作戦の実行へと振り切らせた。
切り札を切る場面は、絶対に間違えるなよ。
それはもょもとやあきなにも口を酸っぱくして言った言葉だった。
本家本元の自分がそれを誤っては馬鹿である。

「もょもとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

故に切る。最高の切り札をここに開放させる。
530名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/06(木) 23:21:12.61 ID:Asg31UHl0
しえん
531 ◆1WfF0JiNew
***



「それよりも、どうしたの? さっきからこそこそと」

「これは……その……」

「ああ、アイラへの置き手紙か。すっかり忘れていたよ」

「ちゃんと書いておいた方が喜ぶかなって」

「そうだね……まあ、僕達が生きて戻ることができたらそんなの書く必要ないじゃん」

「…………」

「おいおい、そんな深刻そうな顔をするなって。大丈夫、無理はしない」

「本当か?」

「ああ、本当だ。僕は逃げ足だけは速いからね。危なくなったら逃げるさ」

「それならいい」

「だから、お前は自分のことだけを考えろよ」



***