代理投下します!
いいえ、結構です
神様、もし貴方が本当にいるのならば。
汚い言い方になってしまいますが……バカを治す薬を下さい。
ミネアは頭を抱えていた。
魔王が与える絶望とはまた違う絶望を胸に抱きながら、その場に蹲っていた。
何もないよりはマシ、という理由で危ない水着を着せられた。
その上から服を着ようとしたのだが、アンジェに「オシャレじゃないからやめといた方がいい」といわれて服を着る事を拒まれてしまった。
ということで、この布面積が危ない水着一枚でほっつき歩くことになったのだ。
が、それは単なる序章に過ぎなかった。
すっかり喋る意欲もなくし、黙ってアリーナとアンジェについて行くことにした。
自分の気などお構いナシに、早々と足を進めていくアリーナたちに着いて行くのが精一杯だった。
ついていく途中で何かがおかしいことにふと気がつく、記憶が正しければアリーナたちは「牢獄の町」に向かっているはずだ。
ピタリと足を止め、急いで袋からコンパスと地図を取り出し、辺りの景色と照らし合わせる。
次に把握した自分の位置から、牢獄の町に向かう為にはどちらに行けばいいのかというのを確認する。
自分の推察が正しければ、この場所から牢獄の町に向かうには北に向かう必要がある。
既に遠くなり始めているアリーナ達が意気揚々と足を進めているのは……南だ。
全力で走って追いつき、息を荒げながらアリーナたちに進行方向が違うことを告げる。
「えっ、ホント? ありがとうミネア、頼りになるわね!」
「ありがとうございます。さぁアリーナさん、早く向かいましょう!」
妙に意気投合している二人で盛り上がりながら方向転換して歩き始める。
ミネアは肩を落としてから一つ大きく溜息をついた。
いつか姉と二人で冒険していたときは、姉がまだ理解してくれる人間だったから上手く行っていたのかもしれない。
ソフィア達と冒険しているときも、ソフィアの冷静な判断と決断力によって迷うことなど殆ど無かった。
その有り難味とソフィアの偉大さを今、彼女は改めて噛み締めている。
彼女が仲間になってからブライを通じて話には聞いていた。
が、アリーナのおてんばっぷりは予想を一回りどころか大きく上回っていたのだ。
そしてアリーナと共に行動しているアンジェからも同じ気配がする。
気の合う者の方向性が見事に合致し、ある意味での暴走を繰り広げているのだろうか?
そんなことを考えているうちに、またもやアリーナたちに置いて行かれてしまった。
彼女達が進んでいる方向は、当然のように北ではなかった。
すうと息を吸い込み、瞳に涙を浮かべながら怒号にも似た叫びを放った。
「サンディ、本当に良かったの? これから危ない目に会うかもしれないのに」
アルスは自分の帽子の中にもぐりこんでいる妖精に問いかけた。
「そりゃ危ないってるのは分かってるけどぉ〜。
アタシ一人であんな所にいてもさっきのピエロみたいなのに襲われたらヤダしぃ」
話の途中でなるほどな、とアルスは一人で納得する。
そもそも彼女に戦闘能力があるのならば最初から助けを求めることもしなかっただろう。
そしてこの場にはさっきのピエロのような人間がウジャウジャしている可能性だってある。
なんの力も無い彼女がそんな奴等と渡り合っていけるはずもないのだ。
先ほどは別れる事も提案したが、彼女にどの道選択肢はなかったということだ。
その後しばらく歩き続けている間も、サンディはその口を閉じることはなかった。
デスタムーアに対する恨みやら仲間の話やら、マシンガントークの話題は頻繁に変わっていく。
その話の中から、アルスは「寂しさ」という一つの感情を感じ取った。
恐らく、この妖精は喋ることで気を紛らわせているのだろう。
いきなりどこだか分からない場所に連れて来られて殺し合いを強要され、その後すぐに襲われたのだからそれも当然だろうか。
自分が話を聞くことで、彼女の寂しさが紛れるのならば。
このまま話を聞きながら走るのも悪くはないな、と思っていた。
「あーっ!!」
そんな矢先に、頭の上のサンディが緊張感もなく大声をあげる。
あまりの大声に思わず耳を塞ぐ。それに両手を使ってしまって自分の頭が大きく揺らぐ。
サンディがずり落ちそうになる前に頭を垂直に戻し、バランスを取り戻す。
「い、いきなりどうしたんだよ」
「あそこ! 急いで! 早く!」
サンディが自分の顔の前に現れ、一つの方向を指差している。
立ち止まってその指差す方向を見つめなおすと、そこには三人の女性が居た。
「お二人ともい・い・で・す・か!?」
危ない水着を着たミネアの前には、正座をしているアリーナとアンジェ。
いつしか姉に説教をしているときでも、ここまで怒った事はなかったかもしれない。
それほどまでに、ミネアの心の中には怒りが溜まっていた。
魔王に連れ去られ、どこか分からない場所で見るのも恥ずかしい水着一枚で殺し合いをしろと言われ。
幸運にもめぐり合えた仲間からは「ないよりはマシ」ということでその水着を着ろと言われ。
そんな中羞恥心を抱えながらも、魔王を倒すために仲間と行動しようとした。、
しかし、今度はその仲間が方角すら分かっていないと来た。
当の本人達は「こっちにいけば何とかなるだろう」と笑いながら自信満々で突き進んでいく。
殺し合いが行われている場所だというのに、全く持って緊迫感のない二人の表情に積もりに積もったありとあらゆる感情が爆発した。
頭から湯気が出んばかりの勢いで怒り続けるミネアの前で、二人は申し訳なさそうに蹲ることしか出来なかった。
「大体殺し合いが行われているというのに、方角の確認もせずに歩き始めるなんて無謀すぎます!
計画に対する下調べとか! それが正しいのかどうかの確認とかをどうしてしないんですか?!」
「ご、ごめん。でもジッとしてられなくって」
「話はまだ終わってません!」
弁解をしようとしたアリーナを一喝して黙らせる。
その声にアリーナは再び小さくなってしまう。
「お二人だけで行動するのならば別に構いません! 北へ行こうが南へ行こうが空を飛ぼうが全く構いません!
で・す・け・ど! 町へ行くと言いながらも、その町の方角へ誘導している仲間の言うことを聞かずにあちこち行ってしまうのはどういうことですか?!」
「すいません……」
声を荒げながら叫び続けるミネアに対し、アンジェはただ謝ることしか出来なかった。
だが、ミネアの怒りはまだ収まらない。
「少し話は変わりますがせっかくなので言ってしまいます! 私はたった水着一着でほぼ防具も何もないんですよ!?
そんな私を置いてまわりの確認もせずに先に歩いていくなんて、貴方達に協調性って言葉はないんですか!?」
二人はまわりの確認はしていたが、ミネアの歩く足が遅いという理由だけで片付けてしまっていた。
ここまで来ると流石に二人も何も言い返せなくなってくる。正座している二人の目にはゆっくりと涙が溜まっていた。
「ちょっと! 聞いてるんです――――」
「とりゃァアアアア!!」
「――かびらっ」
突如として説教が止まり、ミネアが後ろに倒れこんでしまった。
敵襲かと思った二人が顔を上げ、素早く身構える。
「アンジェー! マジ会いたかったー!! チョーうれしーい!!」
そこには、アンジェのよく知る妖精の姿があった。
ミネアを起こした後のひと悶着を終え、アルスは四者の中央に立って手短に自己紹介を終えた。
そのついでにミネアのあまりにも過激な格好に目のやり場を失っていたアルスは、自分が持っていたマントを手渡すことにした。
なぜかアンジェがマントを羽織ることを反対していたが、受け取るや否やミネアはそそくさと大きなマントで体を隠してしまった。
声を上げて指摘しようとしたアンジェだったが、ワンテンポ置いてから「これはこれはオシャレですね……」と言い、なんだかよく分からないが納得してしまった。
改めてアルスはそれぞれの話を聞いてそれぞれに弁解と状況の説明を行うことにした。
ミネアがこの場に来てからあまりにも様々なことが起こり過ぎて、我を失って説教をしていたこと。
サンディが二人のうちの片方のアンジェと仲間で、正座させて説教しているミネアを敵だと勘違いして体当たりをかましてしまったこと。
そもそも、ミネアが何故説教をしていたのかという理由を含めてそれぞれに分かりやすく説明する。
どうして無関係の自分がこの立場に立たねばならないのだろうとも思ったが、それは以前の冒険の時からさして変わらないことである。
マリベルのわがままを聞き、ガボの野生の勘を翻訳し、今一伝わりにくいメルビンに伝える。
今の状況もそれと変わらないのかもしれない、と考えると思わず笑いが零れてしまう。
「すいません……つい熱くなってしまって」
「ふふ、いいのよ。私、ミネアのそんなところ見るの初めてだったし」
落ち着きを取り戻し、ミネアはすっかり小さくなってしまっている。
そんな彼女にアリーナは優しく微笑みかけていた。
「でも〜、アタシからみたらチョー怖いオネーサンだったわよ〜?」
アンジェの頭の上で茶化すサンディに、アンジェはコラと怒りながら小突く。
「で、元々アルスたちはどこかに向かってたんじゃないの?」
アリーナのその言葉で、アルスはようやく本来の目的を思い出す。
「そうだ、僕達は南に飛び去っていった魔物を追っかけて山を西側から回って南下する途中だったんだよ。
こうしてる場合じゃない、早く行かなきゃ!!」
そう言いながら素早く立ち上がり、駆け出そうとした足が止まる。
自分についていくと言っていたサンディがこれからどうするのか? それだけが気になっていた。
幸い、彼女が探していたアンジェという人物にめぐり合うことには成功した。
知らない自分と共に行動するより、彼女と行動するのが一番いいだろう。
そうして別れの言葉を告げようとしたアルスを遮り、ミネアが先に口を開く。
「魔物討伐……ですか?」
静かに問いかけたミネアに、アルスはゆっくりと肯定の意を示す。
少し考え込む様子を見せた後、頭に電球でも浮かんだかのような表情で彼女は喋り始めた。
「提案があります、アンジェさん。貴方はアルスさんについて行ってください」
突然の提案に、アンジェが思わず立ち上がってしまう。
しかし、アンジェが何かを言う前にミネアは一人で喋り始める。
「私たちの最終目的はあの大魔王を倒すことです。
その為には一人でもより多くの仲間を集める必要があります。
私たちが固まって行動しても一つの場所にしか辿り着けません。
かといってバラバラで動いてしまっても、敵に襲われたときに生き残れるとも限れません。
ここにいる中でいざというときに闘えるのは四人だけ、ならば二人ずつに分けるのが最適です」
他者に喋る隙間を与えないよう、まくし立てるようにミネアは喋り続ける。
「強力な魔物はおそらく人を襲うでしょう、逆を返せばそれに抗う人も居るということです。
アルスさんが急ぐほど強力な魔物なのでしょう、それを考えてもアルスさんお一人で向かわせるより誰か付いた方がより安全に魔物を倒せます。
魔物を倒した暁には、アルスさんをはじめとしたその場に居る人間が仲間となっているはずです」
聞いた話
「そこで、私たち三人の中から誰かを選ぶというのならばアンジェさん。あなたが適任なんです。
アリーナさんではパーティーのバランスが悪くなってしまいます。私もアンジェさんもどちらかというと守りの人間ですからね。
アルスさんが連れていた妖精さん……サンディさんでしたっけ? 彼女と知り合いである点もあります。
私たちも私たちで仲間を集めておきます、いずれ再会するときには両方が集めた大人数の抗うものたちが集まるに違い有りません」
ほぼ一息で途切れることなくミネアは言い切った。
一息ついているときに、アリーナが素朴な疑問を投げかける。
「ねえ、ミネアじゃダメなの?」
空気が凍りつき、ヒビが入る音が聞こえる。
アルスは早々と嫌な空気を察して一歩退き、サンディも直感でやばさを察してアルスの帽子の中にもぐりこむ。。
ミネアが大きな溜息をこぼしても、アンジェとアリーナは頭にクエスチョンマークを浮かべたままである。
少し前と同じようにすうと息を吸い込み、今度はハッキリとした怒号を放った。
「貴方達を二人で野放しに出来るわけが無いでしょう!」
ミネアたちと別れ、アンジェとサンディと共に南を目指して早足で歩いていたアルスは申し訳なさそうに口を開く。
「な、なんか悪いね」
「いえ、しょうがないです。元はといえば私達が悪いわけですし……」
アルスは早足で駆け抜けながらバツが悪そうに頭をかく。
しかし、完全に先ほどの重い空気を打ち砕けたわけではなく、少しだけ引きずってしまっている。
流石のサンディもこの空気を打破することは難しかったのか、アンジェの頭の上で黙ったままである。
「そういえば、武器は持ってる? 僕はコレぐらいしか持ってないけど……」
差し出されたのは一本の棒だった。
オリハルコンそのものとはまた違う、オリハルコン製の棒だった。
オリハルこんほど精錬されているものではない、本当にただの棒なので攻撃能力はお察しかもしれない。
しかし、杖と同じ要領で扱えばないよりマシだろうと考えた彼女は差し出された棒を受け取った。
「急ごう、アンジェ。いろいろと取り返しが着かなくなる前に」
グラコスは既に暴れ始めているのだろうか?
もしグラコスが既に誰かの命を奪っていたのなら、自分の知っている人間があの魔物に襲われてしまっていたら。
一度考え始めてしまうと、嫌なことばかり考えてしまう。
首を振るって嫌な考えを振り落とし、アルスは少しだけ足を進める速度を早めた。
「ごめんってミネア! 待ってよ〜!」
完全に機嫌を損ねてしまい、そそくさと歩くミネアの後ろをひょこひょことアリーナがついていく。
「そんなに先いくと危ないよ〜!」
その言葉に、ミネアはくるりと振向いてアリーナに向けて指を指して言い放つ。
「私が先に行かないと、また違う方角に歩かれてしまいますからね!」
流石のアリーナも、この指摘には黙ることしか出来なかった。
【D-3/北部草原/午前】
【アルス(主人公)@DQ7】
[状態]:健康
[装備]:はがねの剣@歴代
[道具]:支給品一式
[思考]:顔見知りを探す(ホンダラ優先) ゲームには乗らない
南(ヘルハーブ・絶望の町方面)に向かったグラコスを追跡して止める。
【アンジェ(女主人公)@DQ9】
[状態]:膝に擦り傷(行動には支障なし)
[装備]:メタルキングの盾@DQ6、オリハルコンの棒@DQS
[道具]:ハッピークラッカーセット@DQ9(残り4個) 使用済みのハッピークラッカー 支給品一式
[思考]:困っている人々を助ける、デスタムーアを倒す、アルスと共にグラコス討伐。
[備考]:職業はパラディン。職歴、スキルに関しては後続の書き手にお任せします。
【サンディ@DQ9】
[状態]:健康
[装備]:疾風のバンダナ@DQ8
[道具]:不明支給品(0〜2、武器防具の類ではない)、支給品一式
[思考]:ゲームには乗らない、とりあえずアンジェ達についていく。
[備考]:羽が不調のためあまり高くは飛べません。飛べて人間の身長程度。
【C-3/南部草原/午前】
【ミネア@DQ4】
[状態]:もうおこったぞう
[装備]:あぶない水着、風のマント@DQ2
[道具]:支給品一式
[思考]:仲間や情報を集める。 アリーナと共に牢獄の町に向かう。
【アリーナ@DQ4】
[状態]:健康
[装備]:竜王のツメ@DQ9
[道具]:フックつきロープ@DQ5、支給品一式
[思考]:デスタムーアを倒してゲームを終わらせる、ミネアと共に牢獄の町に向かう
代理投下終了です。
とりあえず全部投下させていただきましたが、もし何かありましたら言ってください。
続いて投下します。
「殺し合いがどうとか、正直言って、あまり興味がないんだ」
あてどない歩みを進めるなか、ふとカインは口を開いた。
「だって、自分のことでも精一杯だってのに、他人が生きたり死んだりって。
僕は自分さえ生き残れたら、どうだっていい」
それはある意味、この殺し合いを破壊したいと告げていたアイラの意思に、背を向けるような発言だ。
だが、アイラは特に構わなかった。
「わかったわ」
短い言葉で肯定する。特に咎めることもしない。
否定されると思っていたカインは振り返った。隣を歩くアイラの横顔を、そのとき初めて見つめた。
アイラは戦いを知る人だ。
それは戦う力を持っているというだけでなく、実際に何かを守るために戦ってきた人なのだろうと、短い関わりの中でカインは強く感じていた。
だからこの悪趣味な舞台においても、彼女は戦おうとするのだろう。一人でも多くの仲間の手を取り、弱きを守り悪を裁くために。
人として正しい、というより綺麗な意志だ。曖昧なカインにその思いは眩しくていっそ妬ましいほど。
だが、アイラはその正しさを押し付けるつもりはないらしい。
もしも、あなたも魔王と戦うべきだ、などと言われれば、カインはアイラに従わざるを得なかったはずだ。
これまでの道のりがそうであったように、カインは誰かが言葉を振りかざせば、かなうことなどどうせできないのだから。
しかしアイラはそうしなかった。あくまでカインの意思を尊重しているのだ。
その事実に気付いたとき、先ほどまでどこか、彼女の心を試していた自分がいた気がして、己の卑屈さに自然とため息が零れる。
「カイン?」
どうしたの、と、アイラが不思議そうな声で彼を呼んだ。
長くなるよと言ったものの、カインがアイラに語ったことは、実際それほど多くは無かった。
ぽつりぽつりと、のどからしぼりだしたようなたどたどしい口調で、
恐らくはアイラが先の独白から察したこと、聞きたいと思ったことのいくつかを、彼は話してくれた。
王宮という名の、さながら地上の牢獄のようなところで、自由も知らず生きてきたのだと。
そうなの、とか、ふぅんとか、適当に相槌を打ちながらアイラは聞いていた。
それは彼の話がどうでもいいということではなく、掛けるべき言葉など要らなかったから。
抱えた思いを氷解したいわけでもない、同情がほしかったわけでもない。
それでも話さずにいられなかったカインの言葉を、ぽつぽつ語る身の上話を、アイラはただ聴いていたかった。
「まぁ、なんていうか」
思い切り腕を伸ばして、深呼吸をする。
人と深い意味で関わることに慣れていないのか、言葉少なながらもカインの話は重々しかった。
話し終えて、少しだけ気まずげに目を伏せていたカインだったが、アイラが明るい表情で振り返り、少しほっとした様子を見せる。
「そうだ。この先、ケガでもしたら言ってよね。ハッスルダンス踊ってあげる」
「は?」
「身も心も癒されるスーパースターの秘儀よ。私の得意技」
戦闘中しか使えないけどね、とウインクして、戸惑った表情のカインにアイラは笑いかけた。
「話してくれてありがとうね」
カインが、小さく息を呑んだ。
「私もね、正直言ってさっきまで不安だったの。当然だけど。
いつもは仲間がいたけど、今はひとりで戦わなきゃって思ってたら、やっぱ自然と気張ってたみたい。
カインが私のかわりに不安ぶちまけてくれるから、かえって気が楽になったわ。
みんな不安なんだなーって。うん。やっぱり、早く仲間に会わなくちゃね。
今なら、迷いなく戦えそうよ」
その言葉は色々な意味で、カインを驚かせた。頭をがんと殴られたような衝撃さえ感じていた。
それは、いわゆるアイラの『解釈』だ。カイン自身は話したいことを話していただけで、不安を吐き出したという意識はなかったのだ。
だが、アイラはそんなカインの揺らぎを、一時の不安であったと認識した。
こんな場所に突然ほうりこまれて、見たこともないものを次々と目撃して。
死の恐怖の中にありながら、己の価値観をくつがえすほどの出来事に短時間で出会って。
流転の人であったアイラにはさほど堪えないが、長い間、王国という名の監獄
――と、聞いた話からして、そう呼ぶにふさわしいとアイラは思った――にいたカインには、さぞ辛かったはずだ、と。
自分が不安だったのかどうか、カインにはよくわからない。
だが、事実として、自分の言葉に耳を傾けてくれたことで、カイン自身もすこし気楽になっていた。
ありがとうを言うべきはこちらの方だったんじゃないかと、彼女にその言葉を向けられた後になって思う。
否、そもそも……あんな風にまっすぐに感謝の言葉を向けられることに対して、カインはひどく動揺していた。
さきほどの男といい、ここには見たことないような存在で溢れかえっているらしい。
こんな監獄のような場所なのに、カインの知るよりも世界を広く感じて、不思議だった。
元の世界と、果たしてどちらが自由なのか、疑問さえ抱く。
「……僕も」
「ん?」
言いかけて、首を振る。
「なんでもない」
不審に見えただろう彼の様子に、しかし気にした様子もなく、アイラは「そう」と言って笑った。
まだ、そこまで素直にはなれない。という理由もあるが、それ以上に彼は未だ、アイラへの壁を崩せない要因を持っていたのだ。
それはひとえに、唯一の妹であるリアのことだ。
アイラに話した生い立ちの中で、カインはリアとの関わりどころか、妹という存在がいること自体話していない。
彼女との繋がりはカインにとって聖域だ。きっとこの先、誰にも踏み入らせることはできない。
だから無理に話さなくてもいいと言い聞かせるも、結局どこか憚られて口をつぐんだだけのような気もしていた。
その曖昧さが、アイラにも妹にも悪いような気がして、カインは結局「ありがとう」と言えなかったのだ。
いつか、言えるときがくるだろうか。
柄にもなく思う。
「さて、これからどうする?」
沈黙をやぶり、はきはきとアイラは話しかける。
「あたしはとりあえず、人里を探すつもりよ。地図とか見てなかったから、確認しなきゃだけど。
カインは? 目的も違うし、もし離れるなら」
「いや。行くよ」
即答するような形になって、言ったカイン自身が少ししどろもどろする。だが、アイラは嬉しそうに笑った。
「決まりね。じゃあ、いきましょうか!」
そうして、地図を開きながら、ふたりはこの監獄のような世界の広野を歩き始めた。
未だ晴れない不安を抱き、それでも今、確かに生まれた信頼を頼りにして。
【C-8西部/平原/午前】
【カイン(サマルトリアの王子)@DQ2】
[状態]:ダメージ(微小)
[装備]:プラチナソード
[道具]:支給品一式 不明支給品×2(本人確認済み)
[思考]:妹と一緒に脱出優先という形で生き残る。とりあえずアイラについて行く
【アイラ@DQ7】
[状態]:健康
[装備]:モスバーグ M500(6/8 予備弾4発)@現実、ひかりのドレス@DQ3
[道具]:支給品一式、不明支給品×0〜1(本人未確認)
[思考]:ゲームを破壊する。もよりの人里を目指す(よくぼうのまち)
[備考]:スーパースターを経験済み
投下終了です。
支援ありがとうございました!
投下乙です
>負数の二乗が負数とは限らない
アンジェリーナ組解散。ば……賢さが足りないから仕方ないね。
ミネアが怒るのももっともな話だ
>広野にて
登場話見てマーダーを期待してたカインだけど、少しずつ良い方に変化していくのを見たくなってきた
改めてDQ2勢のパーティーがいかに歪んでいたかが分かった気がする
あきなの他にもう一人常識人がいればなあ
>天空への花嫁
マーニャどうなるかと思ったけど無事立ち直れたようでなにより
>人の闇、闇の人
変化に千里眼に地獄耳、扇動マーダーとしてはこれ以上ない程の装備の充実っぷりだな
この手のキャラは貴重だから頑張ってほしいところ
>負数の二乗が負数とは限らない
危ない水着+風のマントか…
うん、ありだなw
下手に全部見えてるよりエr(ry
>広野にて
カインの心はまだ完全には晴れないか
果たしてこの先どう転ぶかな
幸か不幸か、リアはほぼ対角の位置にいるから再会は遠そうだけど
>負数の二乗が負数とは限らない
アルスハーレム状態かと思いきや解散かあ
ミネアは地図を読める女だったわけだが、それが吉と出るか凶と出るか…
ところで負の二乗ってもともと負じゃなくない?と思った
>広野にて
熱し過ぎず冷め過ぎずなアイラの言動はカインにとって目新しいものなんだろうな
変わりつつある兄と、一方妹は…
さらにもょもとも…果たしてDQ2勢はどうなっていくのか
代理投下します
「――ワシが女の子いっぱいの世界を望んだ理由?」
「そう。どうしてそんな世界を欲しがったのか気になって」
とりあえず現在位置から一番の近場である絶望の町へと向かっている最中、ゼシカは竜王に問いかけた。
「なんだ、そのようなことか。期待して損したわ。てっきりゼシのんがその世界に入りた〜い(テヘペロ)ぐらいのことを言ってくれるかと思ったのにのぅ」
「安心しなさい、それだけは世界がどれだけ絶望に満ち溢れてもないから。というかゼシのんって呼ぶんじゃないわよ。
あなたにそう言われる筋合いはないわ」
「可愛いのに……。それよりもなんでじゃ! ワシのハーレムいいじゃろ!」
「よくないわよ! 何が好きであなたのハーレムに入らなきゃいけないのよ」
「そうは言ってものう……お前自身ワシのハーレムに入る喜びはあるじゃろ」
先頭を歩いていた竜王は、くるりと振り返ってキリッとした顔を作る。
その見事と言っていいくらいのドヤ顔にゼシカは顔を歪ませた。
うぜえ、こいつ。それはゼシカでなくともこの世界にいる参加者なら誰もが思うことであろう。
「あなたのハーレムにいたら自分がダメになると思うわ……。他の人にも言えることよ、あなたのハーレムだけはやめとけって」
「そこまで言うことないじゃろ!?」
「出会い頭にいきなりセクハラした変態に言われたくない」
「だって目の前におっぱいがあったら揉むしかないじゃろう……! 誰だってそーする、ワシだってそーする」
改めて、ゼシカはこんなのが魔族の王とは信じられないと重いため息を吐いた。
これがトップだと部下は大変だろうなと思いつつも、脱線している話題を戻そうとギロリと竜王を見る。
デレデレとした顔に拳をぶち込みたい衝動もあるが、話が進まないので我慢。
気を落ち着けることこそがこの変態とうまくやっていくコツだとゼシカは早くも悟っていた。
「……わかったわかった。まあ結論から言おう。愛が知りたいからじゃ」
今までおちゃらけていた竜王からは思いもよらない言葉にゼシカは絶句した。
女だらけの世界と愛を知る、それはイコールで結びつくものなのか。
イメージするだけで頭が痛くなる。
「ワシはな、親を知らん。誰がワシを生んだのか、どう育てたのか。全部記憶にないのじゃ。
育て親みたいなものにはドラゴンがいてな。物心がついた時に親というものについて聞いたが知らぬ存ぜぬを貫かれての」
思いもよらぬ竜王の境遇にゼシカは黙って耳を傾けた。
自分も、兄をドルマゲスに殺されるといった不幸に見舞われてそれなりのキツイことは経験している。
だが、竜王は違う。母親――詰まるところの家族といった存在を知らないのだ。
大切な人が殺された自分、大切な人がそもそもの話存在しない竜王。
どちらの方が不幸なのだろう。そんな比較に意味は無いのについ考えてしまった。
「気がついたら魔族の王として君臨していてな。親の愛など言葉上でしか知らんかったわ」
「それがどう女だらけの世界とつながるのよ」
「簡単なことよ。女だらけの世界にすればワシの母親に会えるかもしれない。
愛という概念をこの身で味わえるかもしれない」
愛は竜王の未知なる領域である。経験したことのないものなのだから当然だ。
だからこそ彼は未知に恋焦がれた。
それを知れば何かが掴めるのではないだろうか。
魔族の王として更なる高みへと登れるのではないだろうか。
「思い立ったら行動じゃ。即座にワシはラダトームへと行ってローラ姫を誘拐してきた」
「なんでそうなるのよ……いきなり誘拐で愛もへったくれもないじゃない」
「うーむ……美少女を攫ってワシの妃にする。ゆくゆくはキャッハウフフなことをすることで愛を知る。
良い手段だと思ったんじゃがなぁ。そもそも全部アレフが悪いのじゃ!
あの外道が邪魔さえしなければワシは愛とは何か知っていたかもしれんのに!」
さっきまでのシリアス顔はどこへやら。
竜王は初めて会った時と同じ、デュフフと気持ち悪い声を吐き出しながら一人身体をくねくねとしている。
こいつは一分もシリアスでいられないのか。
ゼシカが再び重い溜息を吐いて前を向いたその時。
「ふむ、湖か……」
前を歩いていた竜王が、足を止めた。
ふとゼシカもそれにつられて足を止めると、前を見る視界には少し大きめな湖が存在していた。
だが、見たところは何の変哲もない湖だ。ここで立ち止まる理由なんて無いはずだ。
「どうしたのよ、いきなり止まっちゃったりなんかして」
近くの町に行くのではなかったのかとゼシカが声をかけようとしたその時。
「げははっ! まさか獲物自らのこのことやってくるとはなぁっ! 楽勝過ぎるぞぉ!」
突如湖から現れた異形の化け物。それは奇襲には十分すぎるくらいのものだった。
そして、化物の口から吐き出される凍りつく息がゼシカを襲う。
数秒も経たぬ内にゼシカの身体は硬直してバラバラに弾けることだろう。
そう。
「滅尽滅相――燃えろ」
ここに竜の盟主たる竜王がいない限りはそのような結果になっただろう。
彼の手から放たれた閃光が横に広がり焔の波を作る。
「呑み込め、焔」
「げはっ!? わしの凍りつく息を消しただとっ!!」
焔の波が、化物――グラコスの口から放たれた氷の息を呑み込んで勢いを相殺する。
そして、竜王が面を上げる。その顔つきは先程、ゼシカに対して向けられていた変態エロ野郎の顔ではなく。
「 王 を 舐 め る な よ 三 下 」
見る者全てを恐怖で凍らせる魔族の顔だった。氷雪呪文も比ではない、殺意の波動が湖全体に波紋する。
横にいたゼシカは、思わず竜王を二度見してしまったくらいだ。
これは、誰だ? 今まで自分の胸を見て鼻の下を伸ばしていた変態とはワケが違う。
今ここにいるのは紛れもなく全てを飲み込む王の中の王である。
「教えてやろう塵屑。これが本当の攻撃というやつだ」
そう言って彼は右手を軽く伸ばし。
「竜の吐息よ、ワシの掌に宿れ――ベギラマ」
竜王の掌から発射された閃光は、一変の歪みもなく真っ直ぐに突き進んだ。
加えて、呪の言葉を詠唱したことにより一度目のベギラマとは速さや熱さ、何もかもが以前とは違う。
閃光がグラコスの腹部を抉り、抉られた痛みに身を捩らせながらグラコスは汚い咆哮を上げた。
「醜いのう。聞くに耐えんよ。その不愉快な踊りはワシを誘っておるのか? 貴様のような屑がワシを誘おうなどとは無礼の極み、故に死ね。
ああ、それにしてものぅ……お主の姿形は視覚的暴力じゃ、見ていて吐き気がしてくる。ほら、さっさとかかってこい。その似合わないトサカを溶かし尽くしてくれる」
「ぐ、がぁ!!!! 貴様ぁぁぁあああああああああ!」
グラコスは、態勢を立て直しヤリを持ち、竜王に勢い良く突撃した。
そして、疾風突きをを軽く凌駕すると言っていいくらいの突きを放つが。
「ワシはアレフガルドの頂点に立つものであり女の世界を統べるものであり世界を闇へと還すものであり――――誇り高き竜の王であるぞ」
竜王は落ち着いていた。突き出されたヤリを左の掌で捌き、勢いを殺す。
そして、右の掌はがら空きだったグラコスの頭を掴み。
「頭が高いわ、平伏せよ」
グラコスの頭を地面へと叩き潰し、ベギラマを唱えた。
眩いばかりの閃光が、グラコスの頭を巻き込んで暴発する。瞬間、周りの酸素を全て吸い込んだかのような強烈な炎と爆発爆発が巻き起こった。
「ぎぃいいいいいいいいいいやあああああああああああああああああああああああああああっっ!!?」
「ふう……怪物故にまともな言葉も喋ることも出来ぬのか? ああすまぬ、畜生が言語を理解できるはずもないからなぁ!
だからそんなに汚い断末魔も平然と挙げれるのよのう。クハ、ハハハハハハハハハハハッッッ!」
ゼシカはこの一方的なワンサイドゲームを遠目で見ていることしかできない。
だが、それ以上に彼女は戦慄していた。
彼がここまでの強者であり、残酷な悪であるということに恐怖を抱いてしまった。
ああ、彼は違う。決して万人を救う英雄でもなく護られるだけの一般人でもなく。
「で、いつまで喚いておるのだ。五月蝿いぞ、黙れ」
「ぐ、ぎやああああああっっ!」
閃光が再び破裂する。二度の閃熱がグラコスの頭部のトサカを溶かし尽くした。
それを見て竜王は再び心底おかしそうに口を三日月に釣り上げて笑う。
「ハハハハハハハハッッッ! そのトサカも面影がなくなったのう! 不細工が更に不細工になっておる!
ようし、次はそのぶ厚い唇か、それとも無駄に長い尻尾か? 好きな部位を言うが良い。サービスじゃ、そこから溶かしてやろう」
確信した。彼は、魔王だ。
ただの女好きのおちゃらけたバカな男だとついさっきまで思っていた自分が恥ずかしい。
これはそんな生易しい存在ではなかった。
魔の化物を統べる悪――悪魔の化身である。
「おお、そうだった。名乗れよ、怪物。一応殺したものの名前ぐらいは覚えておきたいからのう。ほら、早く答えよ。
それとも何だ? お主はただ力で粗方潰すことしか能がない塵屑か? もしや戦の作法も知らぬのか?」
「貴ぃぃ様ァァァッ! この海の魔王、グラコス様を愚弄するか!」
依然と頭部で燃え滾っていた焔を水に浸かることで冷まし、グラコスは、再びヤリを構えて殺気を全開にしていきり立つ。
気の弱いものがそれを浴びれば一瞬で気を失ってしまうことが明らかだろう。
それに対して、竜王は表情一つ変えずに殺気の風を涼やかに受け流す。
「ほう、さっきよりはましになったではないか、それでこそやり甲斐があるというものだ。
ではやろうか。ワシの炎がデスタムーアにどれだけ通用するかお主で確かめさせてもらうとしよう」
「わしの氷が貴様の炎で溶けるものか! 逆に貴様ら二人を凍りづけにして剥製にしてくれるわ!!!」
「ああ、本気で来いよ? 一瞬で終わってしまうのはつまらん。全存在を賭けてワシを殺しに来い。
それと、ゼシのんに手を出すのは無理よのう。その前にワシがお主を殺してしまうからなぁ!」
海の魔王と竜の魔王、早すぎる激突が今まさに始まろうとしていた。
【E-3/湖/午前】
【ゼシカ@DQ8】
[状態]:健康 羞恥
[装備]:さざなみの杖@DQ7
[道具]:草・粉セット(※上薬草・毒蛾の粉・火炎草・惑わし草は確定しています。残りの内容と容量は後続の書き手にお任せします。
基本支給品
[思考]:仲間を探す過程でドルマゲスを倒す。最終的には首輪を外し世界を脱出する
【竜王@DQ1】
[状態]:HP14/15
[装備]:なし
[道具]:天空の剣@DQ4、キメラの翼@DQ3×5、基本支給品
[思考]:@ゼシカと同行する。最終的にはデスタムーアを倒し、世界を脱する。
【グラコス@J】
[状態]:頭部トサカ消失、重度の火傷
[装備]:グラコスのヤリ@DQ6
[道具]:ヤリの秘伝書@DQ9 支給品一式
[思考]:ヘルハーブ温泉・湖周辺にて魔王としての本領を発揮していいところを見せる。
デスタムーアの命令には従いつつも、蘇ったのでなるべく好き勝手に暴れたい。
[備考]:支給品没収を受けていません。水中以外でも移動・活動はできます。
代理投下終了
竜王の「愛を知りたい」って言葉にちょっとドキッとしたなぁ
書き手さん乙です
投下乙
腐っても魔王、やはりただの変態ではなかった
竜王は変態をこじらせていても魔王ということか
変態だから魔王なのか魔王だから変態なのか
ただの変態でなくロリコンでマザコンとは救い難い
しかし竜王が女だったらアレフが愛を教えてハッピーエンドだった気が
ロリコンでマザコンで無駄な高性能で悪の総帥とかどこの赤い彗星だよ
竜王「ペチャパイでもいい。健やかに育ってくれれば」
「さて、これからどうしようかしら」
カナリア色をした美しい長髪を流し、ミレーユはそっと熟考する。
町の外に出れば右手には海岸線が広がり、逆側は岩山が聳え立っている。元いた世界であるため、地理にはほぼ精通していた。
今自分がいた欲望の町は南西に迫る山のふもとに作られており、町の入り口は北西か南の二方向しか入れない。
南側には森が広がっているため視界が悪く、火炎系の技を使うにも適していない。
そのためミレーユは、町の状況を外から見ることも兼ね、一度北西側から町の外に出ることにしていた。
入り組んだ山のかげに身をひそめ、町から出て行くもの、もしくは町に向かうものに奇襲をかけるという戦法だ。
(町に留まっても、よかったのだけど……)
額にかかる金髪を横にそっと流しながら、小さく息をつく。
関係ないと言いながらも、どうしてか、ミレーユはあの男がいる場所を一度離れようとしていた。
強力な職の力を得てるとはいえ、ミレーユ自身は女身ひとりで、60の命に立ち向かわなければいけないのだ。
慎重に越したことはない。恐らく、自分に立ちはだかる一番の敵は、他の誰でもない――
(……いいえ。関係ないわ、ロッシュ)
ミレーユは唇を噛んだ。
今更、何を恐れることがあろうか。自分が恐れるのは、デスタムーアだけであるのに。
そう、あの男さえも、最早関係ないのだ。
顔さえ合わせなければ、無差別の奇襲で殺してさえしまえば、相手はもう屍のひとつにしかならない。
息をつく。隠れ場に適していると目をつけた岩山は、もう目の前に迫っている。
ここまで来れば、ひとまずは安全であろう。
ミレーユは、ここに来て以来ずっと詰めていた緊張を、そのとき初めてほどいた。
そのとき。
風は、とつぜん現れた。
「――!?」
美しい髪に亀裂が入る。即座に身を翻したミレーユは、しかし目を丸くする。
例えば女の命と呼ばれるように、腰の先まであった、美しいミレーユの金髪。
それが――無い。
右肩から先にかけて、如何様な太刀すじによるものか、ばさりと切り飛ばされていた。
「……結局、おれにできるのは『たたかう』ことだけだ」
逆に髪程度で済んだのは、ミレーユの反射神経に他ならないだろう。
相手がぶつけてきたのは明らかに殺気だ。そう簡単に一手をとらせるミレーユではない。
だが、はらりと散った髪を視界におさめ、彼女は信じられない思いで息を呑んだ。
彼女ほどの力の持ち主が、果たして気配を潜められるほどの相手が、こんなにも近距離にいたというのか。
「だが、俺はあいつらとは、戦いたくない……」
その答えは不正解といえる。
彼女をも超える陰の暗殺者など、この世のどこにもいない。
いたのはただの――
「まずはお前と、たたかおう」
戦う相手を求め、ひたすら無心に追ってきた。
まるで、海底で宝の番人として、かつてミレーユたちを苦しめたキラーマジンガのごとく。
純粋なる意志のままに剣を振る、破壊の化身だった。
――レックスの亡骸にすがったまま、シンシアは動けないでいた。
同じ命というものでも、自分を犠牲にするのなら、すこしも厭わなかったのに。
目の前で突然失われた、あたたかだったはずの温もりに、シンシアの涙は止まらなかった。
(どうしてよ。どうして、こうなるのよ……!)
こんなことしてる場合じゃないのに、まだ殺人者が潜んでいるかもしれないのに……
涙は後から流れてきて、とどまることを知らない。
親友を失ったわけでもない、出会ったばかりの存在に、胸を抉られるほどの痛みを感じていた。
これも彼が先に言ったとおり、天空の勇者、その運命を背負っていた存在だからだろうか。
悔しくて悔しくて、たまらなかった。
(……わかってる。こんなところで立ち止まるわけにはいかない)
苦悩のなか、胸に浮かぶすがたがある。それは唯一無二の親友のすがた。
――ソフィア。彼女が生涯かけて守ろうとした、天空の勇者。
かつて、生前、過酷な運命を押し付けてしまった。それでも彼女は生きていてくれた……
きっと今も、この世界をどうにかするために歩き出しているはずだ。
「会わなくちゃ。話さなきゃいけないことが、たくさんあるもの……!」
絶えることのない希望を信じて、シンシアは立ち上がった。
腫れ上がったまぶたを手のひらで叩き、おぼろげだった焦点をさだめて前を向く。
「……レックス君、ごめんね」
危機は確実に迫っているはずだ。今は彼を埋葬してあげる時間が無い。
だからシンシアはせめて、頬にかかったすすをはらい、小さな手を胸の前に組んであげる。
今は、さよなら、と。静かに別れを告げた。
「毎回そうだな……僕も」
組み立てようとした端から、ピースがこぼれていくようだった。
やはり、希望はそう簡単には実現させてくれないらしい。言いようのない挫折感に、ロッシュはひそかにうなだれていた。
『おれは戦うことでしか答えを見つけ出せない』
戦火の狂気を目の当たりにして、もょもとは自分にそう言った。しかし一方で、お前たちとは戦いたくないとも。
その背にそれ以上言葉を投げかけることができなかったのは、ロッシュという男が見た目ほどには、無鉄砲に根拠のない希望を妄信できるほど傲慢ではなかったからだ。
それでも今は、そこに生まれた小さな望みを信じるしかなかった。もょもとが自分と戦わずにいてくれたこと、少なくともそれだけはプラスに受け止めて進みたかった。
「切り替え、切り替えっと」
呟いて、一息つく。顔を上げて立ち上がればそこには、いつもの底抜けに陽気な男がいる。
愛を信じ希望を信じて、何度でも立ち上がるために、彼はおちゃらけの仮面を被った。
襲撃者は今のところ姿を消したままだ。殺気も特に感じられない。
もょもとのことで大分気をそらしてしまったが、離れた場所にシンシアとレックスがいたはずなのだ。
彼らは、果たして無事なのか。フバーハの効果に及んでいたとも思えない、急いで探す必要があった。
だが、それもすぐに終わる。
「ロッシュ! 無事だったのね」
「ワォ、シンシア! 探そうとしてたところだったんだ、ナイスタイミング」
シンシアの姿を認め、ロッシュははじめ、嬉しそうに駆け寄った。
変化に気付いたのはそれから間もなくのこと。
「……レックス君はどうしたんだい?」
「っ……」
少女はロッシュが目の前に来ると、なにかを言おうとして、言葉にならずに唇をかんだ。
それで――すべて、勘付いてしまう。
ひどい後悔に襲われた。いくら襲撃者に気付かなかったとはいえ、あの説得のしかたは悠長にもほどがあっただろう、と。
「シンシア……すまない」
「ちがうの、あの子は私を庇ってくれて……私はなにも……」
どんなに決意をかためても、失われた命を割り切ることなど、できはしない。
ロッシュと再会できただけで、おしこめた涙がまた溢れてきそうになり、シンシアはひたすら唇をかみしめるしかなかった。
そんなロッシュとシンシアの様子を、影の騎士はじりじりと近寄りながら見つめていた。
(ヒヒヒ……二人は合流したようだな。あとは、どのタイミングで行くかだねぇ)
計画そのものは、非の打ち所が無いくらいに仕上がっている。あとは実際に出て行くだけだ。
何気なく出て行けばロッシュはまず騙せるだろうが、もし怪しまれるようなことがあれば一貫の終わり。
手に入れた視覚も聴力も駆使し、影の騎士は二人の様子を観察していた。
「それにしても、あの炎はなんだったのかしら。まるで、灼熱の業火だわ」
「灼熱なー。その名の通りかもしれないよ?」
(……ん?)
ロッシュの言葉に、影の騎士はふと引っかかりを覚える。
ミレーユは完全に4人を撒いて町の外に出たはずだ、ロッシュは彼女に関してはなにも気付いていない。
自分はたった今まで、そう確信していたのだ。
だが、なぜだろう、この違和感は――
「見覚えがあるんだよな〜。いつだったかな」
「見覚え?」
(い、いやいやいやいや!)
ちょっと待て、と思わず声が出そうになって、影の騎士はあわててがいこつのあなをふさいだ。
ミレーユの姿には気付かなくても、彼女が使った技で気付かれている可能性があるとは盲点だった。
そう、ロッシュにそのことを気付かれてはまずい。せっかく得た『盾』が、出会う前に使えなくなってしまうからだ。
だが、影の騎士の得た情報には穴が無い。つまりロッシュはミレーユを「見ていない」ことは確実である。
今ならまだ、彼をごまかすことはできるはず。
影の騎士は隠れていた町角を出て、考察を続けるロッシュの気を引くように、大声で名を呼んだ。
「見覚え?」
ロッシュの言葉に、シンシアが目を見開いた。
二人は襲撃者を警戒しながらも、一度ロッシュが状況を見たいと言い、レックスの元へと歩いている。
道中で互いの状況を話し合ったが、結局どちらも襲撃者に撒かれてしまったようで、相手が誰だったのかはわからない。
特に、レックスが全力で庇っていたシンシアには、あのとき何が起きていたのかすら、知るすべを持ち合わせていなかった。
迫る勢いのシンシアに、ロッシュは腕を組んでうなる。
「そうだったな、あれは確か……」
「――ロッシュ!!」
その話をちょうど遮るかのように、一人の女の声が響き渡った。
「ん? ……ミレーユ!?」
「無事だったのね!」
ミレーユと呼ばれた女の姿に、ロッシュもシンシアも目を丸くする。
駆け寄るミレーユにこちらからも向かいながら、ロッシュは嬉しそうに笑った。
「いや〜、そっちこそなによりだよ。今までどこに?」
「炭鉱を探索していたら大きな音が聞こえたから町に出てみたの。そうしたらあなたの姿を見つけて」
「あったなあ、炭鉱。しかし、大丈夫だったかい? 今しがた、町の方が大変なことになって……」
「襲撃者はもう、行ってしまったと思うわ。ちらりと見えただけだけど、町の外に向かっていったみたい」
「え?」
動向を見守っていたシンシアが、ふと顔をあげる。
「……襲撃者を見たの?」
「敵から逃れるのと、一度見失ったロッシュを探すのに必死で、くわしくは見てないわ」
「ああ、シンシア。彼女はミレーユ。僕のすばらしい仲間さ」
ロッシュの口から歯の浮くようなセリフにも動じず、柔らかな金髪を腰まで流した美女、ミレーユは、ゆるりと微笑む。
「はじめまして。ミレーユです」
「シンシアよ。ミレーユさん、あなたが見た襲撃者のこと、詳しく聞かせてもらえないかしら。
あの子を死なせたのが誰なのか、知りたいの」
「悪いけど、よくわからないとしか言えないわ」
「少しでもいいの、なにか、姿だけでも」
「そのことなんだけど」
ミレーユに食い下がるシンシアの話をたちきるように、ロッシュが声をあげた。
「思い出したんだ。前に、一度だけ、仲間があの技を使っていたんだよ」
「ロッシュ、あの」
「ドランゴって言うんだけど」
女は刹那、驚いたような表情になる。
「バトルレックスっつーモンスターで、あいつはドラゴンの職業で習得したんだけど、あいつに限らず竜族なら使えるんじゃないかな。
そういえばミレーユもマスターしてたっけ?」
「え、ええ」
「とにかくあの炎は、ドラゴン族のものだと思う。
名簿にいくつか竜っぽい奴らが載ってたから、その誰かが俺たちを襲ったんじゃないかな。どう?」
「……言われてみれば、そうだったかもしれないわ」
ミレーユの言葉に、雲をつかむようだった相手の姿が少しだけ見えた気がして、シンシアは握っていた拳の力を緩めた。
だが、ロッシュは逆に、いっそう険しい表情になる。
「もょもとが危ないな」
「……は?」
それは思いがけない言葉だったようで、ミレーユは目を丸くした。
「その、多分竜っぽい襲撃者ともょもとが、外で鉢合わせしてるかもしれない。
話を聞くと、どっちも同じような時間に町を出たようだし」
「ロッシュ。彼を追うつもりなの?」
かつてあい見えた、結局手を取ることなく行ってしまった少年のすがたの思い、不安そうに彼を見つめる。
そんなシンシアに、ロッシュは力強くうなずいてみせた。
「ああ。一度言葉を交わした彼は、僕にとってはもう仲間だ。
仲間の命を見過ごす真似はしたくない」
「でも、彼はもう……」
「確かに、選ぶ道は分かれたんだろう。だが、僕は彼を死なせたくないんだ」
その真摯な思いに、シンシアはそっと、ソフィアやレックスたちを思い出す。
彼らが振りかざすのはいつも、希望を信じて向かう意志だ。
それらに通ずる強い力を、シンシアはロッシュに見た。
「……私も行きたい。レックスくんを殺したのが誰なのか、たしかめたいもの」
「当然、ついていくわ、ロッシュ」
「二人とも、ありがとう。どんな危険があるかわからないから、僕から離れないでくれ」
「その襲撃者って、どちらの方向に向かったの?」
シンシアの言葉に、ミレーユは考え込むような素振りを見せたあと、細い指先をそっとひとつの方向へ向けた。
「たしか……南の方よ」
二人もそちらを見る。
道の舗装と家屋が途切れた奥に広がるのは、深い森と、左手の海岸線だ。
「南だな。よし、行こうか」
――そして、希望へ向かう者たちは、町を出るべく歩き出す。
(うまくいったかねぇ。これであの女にはしばらく会うこともない。
あとは、内から潰しあえばいいだけかねぇ……ひひひ)
美しい女の影にかくれて、騎士がそっとほくそえんだことに気付かずに。
【E-8/欲望の町/午前】
【シンシア@DQ4】
[状態]:全身打撲
[装備]:なし
[道具]:支給品一式×2、ゾンビキラー@DQ6、メタルキングの槍@DQ8、不明支給品(確認済み×0〜4)
[思考]:ソフィアとの再会、ピサロは……? レックスを殺した襲撃者を知りたい 町の外(南)へ向かう
※モシャスはその場に居る仲間のほか、シンシアが心に深く刻んだ者(該当:ソフィア)にも変化できます
【ロッシュ@DQ6】
[状態]:HP12/15、全身打撲、軽度のやけど
[装備]:はじゃのつるぎ@DQ6
[道具]:支給品一式 、不明支給品(確認済み×0〜2)
[思考]:仲間との合流。打倒デスタムーア もょもとを助けたい 町の外(南)へ向かう
【影の騎士@DQ1】
[状態]:変化、千里眼、地獄耳
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式(ランタンなし)、変化の杖@DQ3
[思考]:闇と人の中に潜み続けて、戦わずして勝ち残る。
争いを加速させるためあらゆる手段で扇動する。
ロッシュに当分守ってもらう。 (もょもととミレーユが北へ向かったことを知っています)
[備考]:変化の杖でミレーユの姿に変化しています。持続時間は不明です。
千里眼の巻物により遠くの物が見え、地獄耳の巻物により人の存在を感知できるようになりました。
範囲としては1エリアほどで、効果の持続時間は不明です。
【D-7/草原/昼】
【もょもと(ローレシア王子)@DQ2】
[状態]:HP12/15、全身打撲、軽度のやけど
[装備]:オーガシールド@DQ6 満月のリング@DQ9
[道具]:基本支給品一式
[思考]:ミレーユとたたかう ロッシュたちとはあまり戦いたくない
【ミレーユ@DQ6】
[状態]:健康 髪が半分ばっさり
[装備]:雷鳴の剣@DQ6 くじけぬこころ@DQ6
[道具]:毒入り紅茶 支給品一式×3 ピエールの支給品1〜3 ククールの支給品1〜3
[思考]:テリーを生き残らせるために殺す もょもとを警戒
投下終了です。
投下乙です
上手く本物と偽物を会わせないようにしたおかげで、欲望の町の北と南からそれぞれミレーユの暗躍が始まりそうだな
対主催を上手く引っ掻き回してくれそうで何よりだ
投下乙です。ロッシュ組は南でもょもと達は北へ。
北はカイン達がいるから遭遇確定だし南はカーラかデュランが来るからバトル確定。
どっちも血の雨が降る可能性があるなぁ
投下乙!
いい具合に南北に……そしてボロが出そうな影騎士w 大丈夫かw
遅れてすみません。投下します。
しえn
――こんなことになるなんて。
今日何度目かもわからぬことを、アルスは苦い思いでかみ締めていた。
この手には、小さな妖精がくったりと命をあずけている。いつ消えてもおかしくないような、傷だらけのか細い命が。
癒しの魔法をかざす手に力をこめながら、アルスは決然とした表情で、少し離れたところの戦いを見ていた。
強大な大鷲の爪牙に、少女は一人、戦いを挑んでいる。
話は、少し前に遡る。
アルスたち三人(二人と一匹?)は、依然グラコスの姿を求めて南へと足を進めていた。
その道中で、サンディがアンジェのことをアルスに話してくれた。
アンジェは、アルスがこの世界に来てからずっと一緒にいたサンディの、本来の同行者であるらしい。
「まぁ色々あるのもわかるけどさ、元気出しなって、アンジェ」
重くなったままの空気を払拭するように、サンディはアンジェに明るく話しかけた。
彼女なりの気遣いなのは、長年の付き合いでアンジェもわかっているのだろう。
だから少し頬を緩めるも、もともと生真面目の性格なのか、その表情は完全には晴れなかった。
「でも、やっぱり怒られちゃったのも、無理ないかもって。
つっぱしるのは悪いクセだって、ご師匠さまにもいつも言われていたのに。わたしったら……」
「んー。あのオネエサンのことなら、あんまり気にすることないって。
まあ、確かに怒ってたケド……おかげでこうやって、ウチはアンジェに会えたワケだし。
こんな変な場所で変なヤツもいっぱいいるのに、ソッコーで会えたんだよ?
超ツイてるじゃん、ウチら!」
ぱちりと、濃いメイクの大きな目でウインクされて、自然とアンジェの顔がほころんだ。
今度はちゃんと笑顔で、うなずく。
「そうだよね。ありがと、サンディ。元気出た!」
「そーそー、それでこそ、いつものアンジェっしょ!」
そんな少女たちのやりとりを見守りながら、アルスはすこし意外な気持ちになった。
自分が先ほどまで一緒にいた、わがままでさびしがりやのサンディとは、まるで別人のようだ。
気になって、たずねてみた。
「ねえ。二人は、どういう関係なの?」
一瞬きょとんとした少女たちは、すぐに目をあわせ笑いあう。
「「親友ー!」」
まさに、花開くような笑顔で。
「だって、アンジェったらすごいんだよ。
なんでも願いを叶える果実を食べてお願いしたのが、もう一度あたしに逢わせて、だもんネ〜」
「やめてよ、もう! 恥ずかしいでしょ!」
「へ、へえ。そうなんだ」
事情はよくわからないが、強い絆で結ばれていることは確からしい。
親友。その言葉に、アルスの胸は少しだけ痛む。
なぜかこの世界にいるらしい、今はもう道を違えた友人は、かつてアルスのことをそう呼んでいた。
(僕は、どうだったんだろう)
彼がアルスを離れてから、もう長い時間が経っていた。今更彼が自分にとってなんだったのかと考えても、よくわからない。
ただ、彼が指針を選べなくて迷ったとき、心のどこかでいつも、キーファのことを考えていた気がする。
「色々あって、地上で身よりの無いまま旅してたとき、一緒にいてくれたのがサンディなんです。
今では相棒みたいなもので。まあ、最初はじぶんかってで困っちゃいましたけど……」
「なによぉ、あれはアンジェがボケボケだったからでしょ〜」
「あっ。さっきと言ってることちがう!」
言い合いながらも仲良くじゃれる二人に、アルスもやがて、つられて笑った。
なんだかんだ言っても、やはり再会できたのは嬉しいようで、少女たちはひと時状況も忘れてはしゃぎまわった。
――そしてそれゆえに、三人は気付くことが遅れてしまったのだ。
このとき空から、魔王の手下が一人の少女を連れて、北へ向かう道すがら、『狩り』の獲物を求めていたことに。
アルスは唇を噛んだ。
空から攻撃を仕掛けてきたあの鷲のような魔物は、恐らく先ほどアルスが目撃した、
グラコスを運んでいた鳥のようなものと同じ存在ではないだろうか。
グラコスが南に向かったとばかり思っていたため、あの鳥が北に引き返してくるなど想定していなかった。
アルスたちの油断をついて、鷲の魔物がこちらに降下し、空から放った火炎弾。
その凶弾をもろに喰らったのは、アンジェたちのすぐ上を飛んでいた、サンディだったのだ。
さきほどから試みている呪文を今一度試行する。危機は脱したが、少女は依然重傷のままだ。
(くそ、ベホマが全然きかないなんて……)
かざす手に汗がにじむ。本来なら全快できるはずの呪文が、今は一割以下の効果しか発揮されていない。
これも、デスタムーアの呪いなのだろうか。
「う……、アンジェ……?」
「サンディ。気がついたかい」
アルスの腕に小さなからだを預けていた妖精が身じろいだ。アルスはそっと支えて起こしてやる。
「あまり動かないで。傷が」
「あ、アルス。アンジェは」
ふらふらと辺りを見回すサンディに、アルスは一点を指した。
傷ついたサンディを敵から遠ざけるようにしながら、少女は魔物に一人立ち向かっている。
サンディが思わず飛び跳ねた。
「アンジェ! アンジェ、危ないよォ!」
「だめだ! 安静にしていないと」
「でも」
「今危ないのは君の方なんだ。君の怪我がよくなれば、僕も加勢する。だから」
アルスの言葉に、サンディはなにも言えずに口をつぐんだ。
回復の手は休めずに、アルスは戦いを注視する。
「……ん?」
鷲の魔物にそそがれる視線が、ふと、あるものを見つける。
(女の子?)
そう、魔物との体躯とは比較にならないから今まで気付きもしなかった。
鷲はアンジェと対峙しながら、その背に小さな人間の女の子を伴っている。
(あの子は一体……!)
何度目かの火炎弾をメタルキングの盾で防ぎながら、アンジェは一人困惑していた。
オリハルコンの棒を振るって、どうにかサンディたちの場所から遠ざけることはできたが、それからは防戦一方になっている。
と、いうのも。
(背に乗せている? どう見ても人間の女の子だわ。どうして……)
戦い始めてしばらくして気付いたのだ、魔物の背にいる存在に。
へたに攻撃を仕掛けようとすれば、あの少女にも危害を加えることになってしまう。
そのため、少女は戸惑いながら、攻撃をかわすことしかできないのだ。
「ふん、意外にしぶといな。絶好の獲物かと思ったのだが」
「お黙りなさい、人の命を獲物だなんて。なにが喜ばしくて、こんな……!」
火炎弾――恐らくはメラミの炎を、きくものかとばかりに易々と振り払ってみせ、
アンジェは下段に構えたオリハルコンの棒を魔物の足元へと振り回す。
アンジェがこんのスキルで習得した特技、足ばらいの応用だ。だが、魔物は空に飛び上がることで難なく避けてみせる。
(ダメだわ……半端な攻撃ではどうすることもできない。でも)
だからと言って反撃に転じることも難しかった。どうしても少女のことが気にかかってしまう。
背に振り回され、必死でしがみついているように見える少女の姿は、アンジェから見上げても詳しくはわからない。
だが、可能性はいくつか考えられる。アンジェはきっと魔物を見据えた。
(もしあの子が、魔物に捕まっているのだとしたら)
オリハルコンを握る手に、力がこもる。
(ふん、煩わしい小娘だ。なかなか決定打を与えられぬ……)
一方で、鷲の魔物――ジャミラスもまた、煮詰まる戦局に歯噛みしていた。
少女の防御が、異常なまでに固いのだ。ジャミラスの火炎弾程度は盾で防がれ、爪での打撃を試みてもうまくダメージを与えられない。
苛立ちがつのる。そもそも、もう少し事は簡単に済む予定だったのだ。
戯れあっている少年少女を上空から襲い、なすすべもなく殺される彼らを、最初の手土産にするつもりだったはずなのに。
あの妖精は一撃目で仕留められず、残った二人は自分たちを見るなり応戦してきた。おまけに一人は回復呪文を使い始める。
(まこと、煩わしい。なにか隙を与える術はないものか)
「ねえ、魔物さん。お兄ちゃんのところには行かないの?」
「黙っていろ」
纏わりつく少女の声を無視し、ジャミラスは敵のなぎ払いを軽々と避けて見せた。
「あの人がいるから、行けないの? 悪いのはあいつらなの?」
殺生の場にも関わらず、少女は怯えることもなくジャミラスにしがみつきながら話しかけ続ける。
半ばやけを起こしながら、ジャミラスは答えた。
「ああ、そうだ。とっとと八つ裂きにしてやりたいものだ」
対する少女の返答は「ふうん」だ。魔物の身ながら、やはり狂った小娘だとジャミラスは思う。
彼女は薄く笑ったような表情で、その目に狂気を携えたまま、魔物の耳にささやいた。
「なら、リアが手伝ってあげるよ」
こんな小娘にもバカにされるとは。思わず鼻で笑ったそのとき、相対していた『獲物』が突然、跳躍した。
「はぁぁああッ!!」
これまで防戦一方だった相手が、オーバーな動きでジャミラスに飛び掛る。
しかしジャミラスは咄嗟のことにも冷静に対応し、身を捻ってかわした。
一見、狙いがなにも定まっていない、下手な戦いぶりだった。だが、ジャミラスは疑念を抱く。
(なんだ、今のは?)
その筋に殺気を感じなかった。少女はジャミラスと対峙していながら、まるで彼を目標に据えてはいないようだったのだ。
首筋を狙える位置だったのに、少女はそれをも上回る座標を狙い、背中へと腕を伸ばしていた。丁度、煩わしい小娘のいる辺りに。
ふと、ジャミラスは気付く。
そう言えば考えもしなかった。ただの荷物としか捉えていなかったが、対峙する人間からはどういう風に見えているのだろうかと。
(……なるほど。まともに攻撃して来ないわけだ)
予想外に手ごわい相手と思ったが、やはり所詮は人間のようだ。
隙の無い防御を秘めているように見えて、わかりやすい弱点をあらわにしている。
笑みが漏れそうになるのをこらえながら、ジャミラスは背中の少女にささやき返した。
「いいだろう、小娘。言う通り、我の助けとなるがよい」
(降りてきた?)
少女の奪還に失敗したアンジェが、うなだれる暇もなく目を見開いた。
魔物の背を、少女はするすると駆け下りてきたのだ。同じ地上に立って、やっとその姿があらわになる。
年齢は十を少し過ぎたころだろうか、小柄なアンジェよりなお小さかった。
「お姉ちゃん」
その少女が、アンジェに向かって笑う。アンジェはなぜか、背筋にぞくりと戦慄を感じた。
魔物に対する怯えが、まったく感じられないのだ。アンジェが当初思っていた「捕まっている」というには、様相が違う。
(きっと、騙されているんだわ。もしかしたら操られて……)
どちらにしろ、アンジェには少女に危害を加えるという選択肢はない。少女が少しでも魔物から離れた今、するべきことは突撃のみだ。
鍛えられたパラディンの力強い足が、地を蹴る。
上空にも逃げさせまいと、棒を虚空まで斬り上げるように振るうが、ジャミラスは今度は飛び上がったりしなかった。
真っ向から爪を振るい、叩き付ける。
火花が散り、アンジェの小さな身体は吹き飛ばされそうになった。
なんとか踏ん張ってこらえ、きっと敵を見据えると、魔物はひどくいやらしい笑みを浮かべて少女の身体を引き寄せた。
その細い首に、あまりに鋭利な、アンジェにとっては一振りの武器にもなるような質量をもった爪が向けられる。
アンジェは息を呑んだ。完全に動きを封じられてしまう。
(しまった!)
「武器を捨てるがよい、小娘」
ともすれば厳かとさえ言える声で魔物は告げる。アンジェは睨みつけるしかない。
「卑怯な……!」
「御託はいい。さもなくばこの子供がどうなるか、わかっているな?」
文字通り人質に取られた少女は、状況がわかっていないのか、ひどく呆けていた。
「ねえ、魔物さん」
「ダメです、こちらにおいでなさい! あなたは魔物に騙されています!」
「ふん、お喋りが過ぎるな。もう一度だけ言うぞ」
アンジェが必死に少女に向かって呼びかける中、魔物の声が、にわかに切迫感を帯びる。
「武器を捨てろ」
次は無い、と言われているのが、言葉にされなくてもわかった。
アンジェはありったけの睨みをぶつけたまま、しかしやがて俯き、そっと棒を持っていた手を開く。
アンジェは今はもう人間だ。だけど、その魂は天使界の気高さを受け継いだままだ。目の前の命を見放すことなどできはしない。
魔物が、ジャミラスが、その血肉を引き裂く瞬間を今か今かと待ち構えて、舌なめずりをしている。
少女の矛が、盾が、今まさに地面に取り落とされようとしたそのとき、にわかに強烈なかまいたちが起きた。
風は鋭利な刃と化し、空気も砂利も全て巻き込んで、鳥目を刹那めくらます。
それは丁度、ジャミラスの目元に叩きつけるようにして引き起こされたのだ。
卑怯な魔物の手元が離れたその場を、アンジェよりも尚早く、アルスは駆け抜けていった。
「アルスさん!」
思わず喜色を浮かべてアンジェは叫ぶ。アルスは少女を担ぎ上げ、闇雲に振り回された爪牙をかいくぐって離れた。
「ごめんね。遅くなった」
「サンディは?」
「無事とはいえないけど、命は繋いでる。大丈夫だよ」
その言葉に、ひととき酷くほっとした表情を浮かべるも、すぐにアンジェは切り替える。
「その子をお願いしてもいいですか」
「無理はしないでね」
「大丈夫です!」
ジャミラスの爪が再び飛んでくる。だが、今度はアンジェはそれを小気味良く打ち払った。
「形成逆転、ですね」
「小娘が……」
不適な笑みを浮かべて、オリハルコンの棒を握りなおすアンジェを、ジャミラスは苦虫を噛んだような顔で一瞥する。
「無理やり抱えてごめん。もう大丈夫だよ」
戦地からひとり遠ざけられたサンディの視線の先で、アルスは魔物から奪還した少女を地面に下ろし、穏やかに話しかけていた。
「どこも怪我していないかい?」
「……」
「してないみたいだね。僕はアルスっていうんだ。自分の名前はわかる?」
こういった緊急事態だからこそ、アルスはあくまで、少女の動揺を取り除くことを優先したようだ。
その少女は黙ったまま俯いていて、サンディの元からはよく姿が見えない。
(たしかに、素性も、あの魔物といた経緯もよくわかんないもんね)
アルスが懸命に話し掛けるのを、サンディもまた祈るように見つめる。
だが、とにかく人質とされたこの少女を解放したことで、アンジェも迷いなく戦えるようになったのだ。
彼女の戦いを傍でずっと見ていたサンディは、もう心配は要らないと確信していた。
「……、」
「え、なに?」
そのときぽそりと、少女がなにかを呟いたらしい。
近くにいたアルスにもよく聞き取れなかったようだ。当然サンディにも聞こえていない。
アルスがその顔を覗き込む。少女がもう一度なにかを言う、アルスは口元にまで耳を近付ける。
そして次のとき。アルスの顔が蒼白になり、その場でうずくまった。
(……は?)
サンディには、一瞬、何が起きたのかわからなかった。
もう一度、少女の姿をよく凝視する。うずくまるアルスを見下ろす少女。その手元に、紫色の装飾が施された、小さな短剣。
「リアの邪魔をするからよ」
おぞましい響きで、声が発された。それは果たして、本当に少女のものだったんだろうか。
アルスのことをまるで、玩具の人形のようにつまらなさそうに一瞥し、少女はナイフを持ったままふらりと立ち上がった。
サンディは思わず身を竦ませるが、彼女の見据える先はサンディではない。
視界の先には彼女を背に乗せていた魔物、そしてその魔物の『邪魔をする』、一人戦う少女。
「あ、アンジェ……!!」
ひきつる声で、サンディはかろうじてそれを、喉からしぼりだすように叫んだ。
ジャミラスが一瞬、戦いの手を止めた。
優勢になった勢いのまま飛び掛ろうとしていたアンジェが、たたらを踏む。
突然なんなのか、或いはそれが狙いだったかと、慌てて体勢を立て直すも、魔物はそのとき呆けたままアンジェの後ろを見えていた。
不審に思いながらも、アンジェは棒を振りかぶる。
「私の前で呆けるなんて、いい度胸で――」
「アンジェエっ!!」
そのとき、聞こえるはずない声が自分の耳に飛び出してきて、アンジェは思わず振り向いた。
「――――邪魔しないで、お姉ちゃん」
左手は、ひたりと、アンジェの肩をつかんでいた。
右手に振りかざされた毒々しい短剣は、まっすぐに喉笛を狙っている。
人間の少女とは到底思えない、魔物と言っても差し支えないというくらい、信じられないほどのぎらついた眼差しで。
溢れんばかりの狂気に、そこにいた誰もが一瞬、我を忘れていた。
ざきゅり。
嫌な音がアンジェの耳を貫いた。
まるで呪いにでもかかったように、アンジェはその場から動けない。
毒牙のナイフは一突きに、まるで吸い込まれるように、そのあたたかな心臓を刺した。
――アンジェを庇って飛び出した、小さな妖精を。
「……サン、ディ」
伸ばした手は、鷲の手にあっさりと弾かれた。
そのまま振り下ろした爪に、最強の盾に守られていた少女は、あっさりと叩きつけられて地に転がる。
「お兄ちゃんが、泣いてるの」
そんな様子も、果たして見えているのかどうか。狂った少女は微笑を浮かべながら、一心不乱に毒牙のナイフを突き立てていた。
びくりびくりと、生き物だったはずのなにかが、刃に突かれるたび血しおを噴き上げる。
「リアにだけは、聞こえるの。お兄ちゃんがあたしを呼んでる声がする。
だってやくそくしたんだもの、死ぬまで一緒にいようって」
弾けた鮮血を撒き散らすことも構わず、アンジェは鬼のような形相で立ち上がり、はだかるジャミラスに咆哮をあげて突進した。
しかし隙だらけの突進は、まるで小鳥と戯れるかのように、あまりにも簡単に払われる。
「ひとりでいるのが悲しくて、神様にお願いしたの。もう一度お兄ちゃんに逢わせてって。
神様は願いを聞き入れてくれた。リアはあの魔物さんに出会って、大きな翼を手に入れたの。
だからもう、お兄ちゃんのところまで飛んでいける。やっと、自由になれたのに」
血にまみれ、骨を刻み、いつしかそれは、ただの肉塊となりはてていた。
それでもなおおさまらない憎しみを、リアはそれに叩き付けた。
「なのに――リアの邪魔をしないでよッ!!」
アンジェは、とうとう立ち上がれなかった。
なにが起きているのか、本当のところはなにも理解していなかった気がする。
もし神様がいるのなら、という言葉があるが、アンジェはそのとき、自分が神の世界で生きてきたことさえ忘れていた。
ただ、あの願いの果実を求めた人々のように、アンジェはその手を必死に伸ばし――
「神よ」
風が鳴る。
破壊の聖風をともなって、はがねのつるぎは、天へ地へと十字を切った。
「哀れなる子羊の祈りを、聞き届けたまえ」
未だ痺れの残る身体で、アルスはパラディンの職が与えた奥義を、『魔物たち』に向かって解き放った。
アンジェの見ている先で、それは轟音と閃光を撒き散らして、辺りには一瞬嵐のような砂煙が巻き起こる。
刺し傷など意にも介せぬように、アルスはくずれおちたアンジェを庇いながら、敵の姿を油断無く見据えていた。
やがて突風がおさまり、視界が徐々に晴れてくると、そこにいたはずの『魔物たち』は姿を消している。
はっと上を見渡せば、傷を負ったらしい鷲が少女を腕につかんだまま、北の空へ飛び立とうとしていた。
追いかけなきゃ、とアルスは反射的に思ったが、すぐに状況を思い返して、振り返る。
毒牙のナイフに刺されたアルスは、幸いにキアリクの呪文が使えたため大事に至らず、傷もそこまで深くない。
だが……二人は。
アンジェが、地面に転がったまま倒れていた。
幾度も地面に叩きつけられた後があって、土にまみれた背中は装備を露出し、皮膚が抉れている。
アルスが必死に駆け寄ると、やわらかな胸はしっかり上下に息をしていた。どうやら、気絶しているだけらしい。
そして。
グランドクロスに巻き込まれた地面の中に、一箇所、しみのように張り付いている何かがある。
それが何か、アルスはすぐに気付けなかった。ただ、そこにいたはずの彼女の存在がいないことだけはわかった。
皮肉にも、アルスが放った技によって、あの妖精が吹き飛ばされてしまったのだと、やがて気付いた。
――これは、サンディの跡。
こんなとき、キーファならどうしただろう。
旅のさなかで何度も頭をめぐった考えは、ついにアルスの脳裏に浮かぶことはなかった。
なぜなら、彼らのどんな過酷の旅の中にも、『殺し合い』という経験など、一度たりともなかったからだ。
「ねえ、どうして逃げちゃったの? あいつら、もう少しで殺せたのに!」
「少し黙っていろ」
アルスたちから離れた上空で、元のように背中にリアを乗せて、ジャミラスは翼を羽ばたかせた。
「リア、魔物さんのことたくさん手伝ってあげる。邪魔なやつらはみんな、殺してあげるよ」
先ほどの戦闘で興奮しているのか、リアの表情が妙にはきはきとしている。それが、却ってジャミラスの苛立ちを募らせた。
桃色の髪の女もそうだが、あの緑色の頭巾の男も、見た目とはちがって強大な力を秘めているらしい。
たった一度の攻撃が直撃しただけで、ジャミラスは離脱を余儀なくされ、支給された万能薬を半ばほど消費する羽目になった。
位置的にリアを庇うような形になったから、余計たちが悪く、おかげでこの少女がぴんぴんしていることもまた腹立たしい。
「御託はいい。その王子を探すのが優先だ、北へ向かうぞ」
「本当、魔物さん?」
「面倒ごとは先に片付けたほうがよかろう」
その真意も知らずに手を打って喜ぶリアに、ジャミラスの口元が歪む。
良い手駒になるのは確からしい。だが、この少女を好き勝手にさせておくには、あまりにも不安が過ぎる。
狂気にまみれた意志が、この先いつ暴走するともわからない。
(済ませてしまえばいい話だ。獲物が二匹手に入るのは、確定したも同じこと)
むやみに当たった獲物を襲って、先のようにてこずるくらいなら、まずは確実な手から選べばいい。
彼にとって大事なのは、いかにどれだけ多く、この世界で命を奪うことができるかなのだから。
(そして、すぐに思い知らせてやろう……このジャミラスが、真に強大なる魔王であることをな)
魔物たちの笑い声が、濁る大気をふるわせて、鉛色の空に響き渡っていった。
【サンディ@DQ9 死亡】
【残り47人】
【D-3/草原/午前】
【アルス(主人公)@DQ7】
[状態]:HP8/10 MP1/3 腹部に刺し傷(軽度)
[装備]:はがねの剣@歴代
[道具]:支給品一式
[思考]:顔見知りを探す(ホンダラ優先) ゲームには乗らない
とりあえずアンジェを治療する
【アンジェ(女主人公)@DQ9】
[状態]:HP3/10 MP9/10 背中に擦り傷 全身打撲 気絶
[装備]:メタルキングの盾@DQ6、オリハルコンの棒@DQS
[道具]:ハッピークラッカーセット@DQ9(残り4個) 使用済みのハッピークラッカー 支給品一式
[思考]:困っている人々を助ける デスタムーアを倒す サンディの死にショック?
[備考]:職業はパラディン。職歴、スキルに関しては後続の書き手にお任せします。
【D-3/空/午前】
【ジャミラス@DQ6】
[状態]:HP9/10、飛行中
[装備]:なし
[道具]:剣の秘伝書@DQ9 ツメの秘伝書@DQ9 超ばんのうぐすり@DQ8(半分のみ) 支給品一式
[思考]:リアを利用し、サマルトリアの王子(カイン)を労無く殺害。その後、どちらかが持っていれば剣を確保する。
カインを探しつつ北へ 殺害数をかせぐ
[備考]:支給品没収を受けていません。飛行に関して制限なし。
【リア(サマルトリア王女)@DQ2】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 どくがのナイフ@DQ7 支給品×2(本人確認済み)
[思考]:魔物さんにお兄ちゃんと一緒に殺してもらうんだ♪
それがダメだったらリアがお兄ちゃんの首輪外してあげるね♪
邪魔するやつは皆殺しだよ♪
投下乙です
くっそ騙されたw
あやうく全滅かとおもってしまったじゃないか
リアはなんかどんどん発酵しているようでジャミラスも持て余し気味とかワロスw
投下乙ですー
今回はマーダーが奇策を秘めてたりしてヒヤヒヤする話が多い………
リアがかつてのフローラ並のマーダーとなりそうで今から恐怖
ところでサンディの支給品と装備品について何か記載はありませんか?
ご指摘ありがとうございます、すっかり抜けていました。追記します。
※D-3の草原に、サンディのふくろが落ちています。支給品の安否はお任せします。
なにか問題ありましたらお願いします。
ちなみに途中でトリップキーを間違っていますが、同一人物です。
支援ありがとうございました!
乙です
サンディとアンジェのコンビがほのぼのしてただけに切ない…
そしてアルスがかっこいい!
前回は優しくも悲しい最期だったので、個人的には今回活躍してほしいと思ってしまう
乙です。サンディーーッ!!
これトドメ刺した人リアになるの?アルスになるの?
心臓一突きされた後めった刺しにされてるし、リアじゃね?
代理投下します
ターバンを巻いた男、すらっとした青髪の女性、同じく青髪の尖った髪の少年。
彼らと対峙しているのは、一匹の巨大な魔物。
その場にいる全ての人物をタバサは知っていたからこそ、彼女は今の状況が辛くて苦しくて仕方がなかった。
何故なら、今まさに両者の戦いの火蓋は切って落とされようとしているのだから。
先に動いたのは魔物だった。
三者を薙ぎ倒そうとその豪腕を振るうが、それは不発に終わる。
一番身軽な少年は豪腕を軽々と避け、その腕に乗って顔面へと駆け抜けていく。
魔物が防御態勢を取る前に、少年は魔物の顔面を切り裂いていく。
左目を重点的に切り裂かれた魔物が体勢を崩して後ろによろけたのを確認し、今度はターバンの男が正確に魔物の膝裏を杖で叩いて行く。
バランスを取ろうとしていた所に加えられた衝撃により、魔物は後ろへ大きくよろけた。
魔物が地面に倒れ込む寸前、女性の手から放たれた一発の火球が地面と魔物の間に滑り込む。
完全に虚を突いた攻撃になす術も無く、爆ぜ上がる火球に魔物は背中を焼かれることしか出来なかった。
「お願い! もうやめて!」
耐えられ無くなったタバサが、腹から空気を大きく振るわせながら叫ぶ。
だが、その場にいる四者にその声は届かない。
魔物が素早く起き上がり、トドメを刺さんと飛びかかっていた少年を蠅を追い払うように素早く叩く。
意識を全て攻撃に注いでいた少年は、横からの素早い攻撃をそのまま受け止めてしまい、地面を何回も転がり続けた。
即座に救援に向かった女性へ襲いかからんと、魔物は足を進めていく。
当然、ターバンの男が魔物の進路を塞がんと向かってくる。
が、魔物が吐き出した炎に遮られて思うように進めない。
男が炎にまごついている間にも、魔物は女性と少年に近づいていく。
「ゲロちゃんやめて! その人たちは私の家族なの!」
再びタバサは声を絞り出すが、魔物にも家族にもその声は届かない。
まるでそんな声など無かったかのように、彼らは振る舞っている。
タバサが叫んでいる間に、魔物は少年と女性の下にたどり着いた。
「どけ、天空の勇者は殺す。邪魔をするなら貴様諸共殺すぞ」
少年を庇うように立ちはだかる女性に向かい、魔物はまるで汚物を見るかのような目をしながら吐き捨てた。
「どきません。私はこの子の母親です。
子を守るのが親の役目です」
「そうか、なら死ね」
手を広げて少年の前に立つ女性に対して、一切の躊躇いなくその爪を振るう。
女性は襲いかかる爪を真っ直ぐと見つめ、その場から動かない。
「やめてッ、やめてよぉぉぉぉ!」
泣きじゃくりながらタバサはひたすらに叫び続ける。
声が枯れそうになっても、ただひたすらに叫び続けた。
母へと迫る凶刃が止まることを、ただ祈りながら。
「がッ……はあっ」
祈りは、届かなかった。
純白の服を赤に染めるように、魔物の爪が胴体を貫いている。
同時に口からは大きな血塊が吐き出され、魔物の足を赤く染める。
「捕まえ、ましたよ」
血を吐きながらも、女性の目は真っ直ぐと魔物を見据えていた。
そしてゆっくり確実に呪文を紡ぎ、片手に巨大な火球作り出していく。
「食らい……なさッ」
振りかざした片手は上半身ごと宙を舞った。
一連の動作をつまらなそうに見つめていた魔物の片手が、胴を貫いている腕を軸にして女性の半身を吹き飛ばした。
ドサリ、と人であった肉塊が落ちる音が重く響く。
意識を取り戻した青髪の少年の目には、力なく倒れ込む母の半身の姿があった。
「ち、ちくしょおおお!!」
ろくに剣も構えず、少年は魔物へと飛びかかる。
魔物は片腕で少年を地面へと叩きつけ、そのまま頭を踏み潰す。
魔物に傷をつけるどころか、叫ぶことすら叶わずに少年は絶命した。
「なんで……なんで、どうしてそんなことするの!?」
タバサの叫ぶ声など全く気にしない様子で、魔物は手についた血を舐め続ける。
その頃、ようやくターバンの男が炎をかいくぐって現れた。
頭を潰されている息子と半身を失った妻の姿を見て、怒りに震えていた。
「天空の一族の血は美味だな……なぁ、伝説の魔物使いよ」
「……タバサも、そんな風に殺したのか」
怒りを押し殺しながら、男は魔物に問う。
タバサは自分がいることを必死に訴えるが、両者の耳には届かない。
男の問いに、魔物は大きな声で笑い出した。
ひとしきり笑った後に、まるで唾を吐くように何かを口から吐き出した。
瞬間、タバサの視界が暗転する。
「肉は食らった、残ったのはそれだけだ」
声と同時に、タバサの視界に光が戻る。
そこには自分を見下ろしている父の姿があった。
簡単な話だ、自分はすでに死んでいて、魔物の腹の中に頭だけ残っていたのだ。
声が届かないのも当然の話である。
首だけの彼女はそれでも、聞こえるはずのない声で叫び続ける。
ぐしゃり、という音と共にタバサの視界は再び闇に包まれた。
「うあああっ!!」
タバサの視界に再び光が灯る。
額からは汗がだくだくと流れ、手は小刻みに震えている。
「大丈夫か? ひどくうなされていたが……」
「えっ? えっえっ?」
耳に入ったのは先ほどまで居た人物の中の誰でもない別人の声。
目の前にいた声の正体を確認したと同時に、自分の首から下があることを確認する。
「……夢?」
「そのようだな。ゲロゲロが思わず足を止めてしまうほど叫んでいたぞ」
よく見れば話しかけているのは先ほどゲロゲロに襲いかかった男だった。
そして、周りを見れば奇抜な格好に身を包んだゲロゲロが心配そうな目で自分を見つめている。
「へ? あれ? ふえっ?」
先ほどの惨劇が夢であったと思ったら、今度は現状が理解できずに混乱してしまう。
自分がゲロゲロとエルギオスの戦いを止めるために飛び出し、ゲロゲロにその体を抱え込まれた所までは覚えている。
気を失って、嫌な夢から目が覚めたら妙な格好のゲロゲロが引く妙な乗り物に乗っていて、隣には襲いかかってきた男がいる。
「まあ、落ち着け。端折って話せば今の私はゲロゲロを襲うつもりはない」
頭に無数のクエスチョンマークを浮かべ続けるタバサに対し、エルギオスは初めから丁寧に話し始めた。
エルギオスは先ほどの戦いの後、ひとまずゲロゲロとしての記憶喪失を受け入れた。
しかしこれから先には、自分のようにムドーの姿を見るだけで襲いかかってしまう人間がいる可能性が高い。
ぱっと見は少女と男を引き連れている魔物だ、ムドーの事を知らない人間でも先入観で襲いかかってしまう可能性はある。
ましてや始まりの地でデスタムーアと問答していた人物やその仲間はムドーを知っていると推測できる。
ムドーという存在を知っている人間が、現状に対して記憶喪失という単語だけで簡単に引き下がるとは思えない。
これから起こる可能性のある無駄な戦いがもし起これば、ムドーは勿論自分やタバサの身にも危険が及ぶ可能性がある。
初見の人間は勿論のこと、ムドーを知る人間に対して彼が無害であることをアピールできるかが最大の課題であった。
「あははははは! それでそんな恰好してるんだ! でもゲロちゃん、すっごくかわいいよ!
そうだ、私もそういう帽子持ってたからゲロちゃんにあげるね!」
「む、むぅ」
タバサが目覚めるまでの間に起こった事をエルギオスが説明した後、思い切り大きな声でタバサは笑っていた。
見えていた課題に対してエルギオスが取ったひとまずの手段。
それはムドーの見た目を可能な限りコミカルにする事だった。
この魔王を知る知らない問わずに笑いがこぼれてしまうくらい、おかしな恰好をさせる。
数分の説得の末、自分の持っていたスライムの服をムドーに着せることに成功した。
魔王というにはマヌケな服装なのだが、それに加えてタバサがスライムヘッドを装着させたため、より一層おかしな格好となった。
これで知らない人間はもちろん、知っている人間も彼が無害であるという事を信じやすいはずだ。
加えて自分に支給されていた乗り物を彼に引かせることで、安心感を盤石な物へと変えてゆく。
なによりムドーの事を見て笑い転げているタバサや、それを微笑みながら見つめているムドーの姿。
これを見てもなおムドーが危険な存在だと認識する人間は、この場には少ないはずだ。
「……ぷっくくく、ごめん! 我慢できない! ゲロちゃんの格好面白すぎるよ!
早くお父さんやお母さん、お兄ちゃんにも見せてあげたいなぁ」
楽しい笑い声を響かせながら、スライムの服を身に纏ったムドーが引く人力車はゆっくりと進む。
ゲロゲロとエルギオスは知らない。
タバサが何気なく呟いた「家族に会いたい」という言葉に隠された意味を。
生々しすぎる夢の中で起きた惨劇、そしてそれは今現実に起こりうる話でもあった。
もし、ゲロゲロが記憶を取り戻したら?
夢の中の自分のように、ゲロゲロは自分に牙を向いてくるのだろうか?
そして自分を殺し、他の人をも殺して回るのだろうか?
それを考えないように、彼女は思い切り笑い飛ばす。
今のゲロゲロは心優しい魔物なのだから、そんなことはないと自分に言い聞かせながら笑い続けた。
夢が夢であることを、タバサは小さく祈り続ける。
【G-4/南部平原/午前】
【ゲロゲロ(ムドー)@DQ6】
[状態]:後頭部に裂傷あり(すでに塞がっている) 記憶喪失
[装備]:デーモンスピア@DQ6、スライムの服@DQ9、スライムヘッド@DQ9
[道具]:支給品一式、超万能薬@DQ8、トルナードの盾@DQ7、賢者の秘伝書@DQ9、人力車@現実
[思考]:タバサ・エルギオスと共に行く
[備考]:主催者がムドーをどう扱うかは未知数です。主催からアイテムに優遇措置を受けています。
【エルギオス@DQ9】
[状態]:健康
[装備]:光の剣@DQ2
[道具]:支給品一式
[思考]:タバサ・ムドーと共に行く、贖罪として人間を守る
[備考]:シナリオED後の天使状態で参加しているので、堕天使形態にはなれません
【タバサ@DQ5王女】
[状態]:健康
[装備]:山彦の帽子@DQ5 復活の玉@DQ5PS2
[道具]:支給品一式
[思考]:リュカを探す、ゲロゲロ・エルギオスと共に行く
投下乙
このパーティが好きすぎるから、ゲロゲロには変わってほしくないな…
投下乙です
ムドーがどんどん面白いことになってて噴くw
タバサの心情が切ない…レックスすでに死んでるもんなあ
ログ全部読んだー。
今のとこ死亡者は男に偏ってるね。
乱暴者勇者とか新鮮で面白そうと思ったら一話退場…
てか勇者の仲間3人ともマーダーとはすごいパーティーだw
2の3人も皆病んでるし1の勇者は女好きだし
正統派だった前回とは全然違って面白い。
投下乙です
スライムの服もそうだが、ムドーとエルギオスの二人で人力車を引いて走るところ想像して吹いたw
408 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/05/15(火) 11:07:23.81 ID:q07VgZ7/O
月報データ。オープニングとしたらば投下を含みます。
話数にオープニングやしたらば投下を含まない場合は話数から引いてください。
ロワ 話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
DQ2nd 48話(+48) 47/60 (- 13) 78.3 (- 21.7)
代理投下します
吹く風に煽られ、さらさらと砕けた煉瓦が宙を舞う。
煉瓦の正体は、入り口に倒れ込んでいる巨人の頭部であった物。
「ゴレムス……?」
ぼそりと共に旅をしていた煉瓦の巨人の名を呟く。
魔物使いの夫ならともかく、残った体の姿形だけでは共に冒険した仲間なのかどうなのか判断することはできない。
しかし視界に入った忌々しい首輪から、この巨人が殺し合いの参加者だということだけは分かる。
そそくさと巨人の腰のあたりに向かい、携えていた袋を手に取ろうとしたときだった。
「姉、さん?」
見間違えるはずもない。
美しく纏め上げられていたはずの黒髪。
血に染まりながらも白く輝いているかように光る衣服。
赤く広がる血溜まりの中で、姉であった物の残骸が散乱していた。
あまりの惨状に声も出せず、その場に立ち尽くしながら吐き続けることしか出来なかった。
幼き頃から共に暮らしてきたかけがえのない家族。
その命が奪われていることを知ってしまった。
現状から嫌な思考へと連鎖し、純粋に胃液だけをただひたすらに吐き続けた。
少ししてからフローラは正気を取り戻した。
そこで先ほどのバラモスの言葉の意味を理解し、大きく歯軋りをする。
だが、悲しみに打ちひしがれ立ち止まっている場合ではない。
やるべき事がある、何もかもが手遅れになる前にそれを成さねばならない。
「姉さん……さようなら」
小さく別れを告げ、姉であった残骸の傍に落ちていた武具とふくろを回収し、前を向く。
そして一抹の不安を抱えながらも力強く足を進めて行った。
「給仕探偵ジェイドッ! ここに見ッ参ッ! さあ呪文怪盗アンバー、今日という今日こそはお前を犯人だ!」
突然始まった寸劇を、口をあんぐりと開けてハーゴンは見つめている。
「メイド服といえばこれしかないよな!
……ってあれ? ハーちゃんひょっとして給仕探偵ジェイド知らないのか?
有名な本だと思ってたんだけどな」
「……お前が読書を嗜んでいたことが驚きだ」
「なんだとぅ? まっ、あたしも近所のおばさんに読んで貰ってただけだけどな……」
先ほどまで元気だったソフィアの声色が突然弱くなり、瞳には悲しみが宿っている。
異変に気がつき声をかけようとしたハーゴンを遮るように、ソフィアの口が開く。
「なっつかしいなあ、昔シンシアと毎日これの真似して遊んでたな。
たまにはあたしにもジェイドやらせなさいよとか言われて、怒られたっけな」
取り繕うように笑いながら呟くも、その瞳は悲しみに包まれたままである。
出会ってから初めて見せる表情に、ハーゴンも驚きを隠せなかった。
「シンシアというのは、友の名か」
「ああ、あたしの最ッ高の親友だ」
ハーゴンの問いかけに対して、ソフィアは振り向かずに答える。
「そして、あたしが守れなかった大切な人だ」
次に続いた言葉には、後悔や怒りがはっきりと込められていた。
その一言を皮きりに、彼女は止まることなく話し始めた。
「あたしが弱かっただけなんだ。あたしにみんなを守れる力が無かっただけ。
そんな弱いあたしがさ、世界を救う天空の勇者とかいう大層な人間らしくてさ。
今まで普通に接してくれた近所の人とか、みんな血眼になってあたしを守ろうと魔族と戦ってたんだよ。
魔族もあたしの命を狙ってるし、みんなはあたしを守ろうと必死になってる。
天空の勇者を殺す、守るの両極端に立ってね」
歩きながら口を開き続けるソフィアの後ろを、ハーゴンは黙ってついていく。
「優しくて仲のよかったみんなが死を代償にするほど躍起になって守ろうとした力。
みんなを狂わせて、みんなを殺したのは天空の勇者っていう力。
最初は凄く恨んだよ。あたしがそんな力を持って生まれたことをね。
そこから、あたしは真実を知りたくて力をつけながら冒険し始めた。
天空の勇者が何者なのか、何故狙われていたのか、みんなが命を賭して救うべき存在だったのか。
魔族が私を襲う理由や、みんなが命を賭して救おうとした理由や、いろんなことの真実が冒険していくうちに分かった。
それができたのはあたししかいないってことも十分に分かった。
納得もしたし、後悔もしてない。
ただ……」
そこで、ぴたりとソフィアの足が止まる。
合わせるようにハーゴンもその場に立ち止まる。
「ただ、あたしじゃなきゃ良かったのになってのは何回も考えた。
ま、それはあたしにゃどうしようもない事けどな」
今までより一層低い声でソフィアが呟いたあと、くるりと振向いてハーゴンへと頭を下げた。
「悪いな、ひとりでベラベラ喋っちまって」
バツが悪そうに頭をかくソフィアに対し、ハーゴンは小さく笑いながら答えた。
「人間からそんな話を聞いたのは初めてだ、面白かったぞ。
どの世界でも勇者というのはただ持ち上げられ、言われるがままに世界を救おうと動いているもの。
そう思っていたが……まさか勇者本人からそんなことを聞くとはな。
ひょっとすれば、ロトの血族もそうだったのかもしれんな……」
宿敵であるロトの血族のことがハーゴンの頭に浮かぶ。
彼らも、ソフィアのように何かしら苦悩しながら冒険していたのだろうか?
足を進める先に一人の女性が現れたのは、そんなことを考えようと思ったときだった。
息を荒げながら走ってきた女性、フローラを落ち着けた後に、二人は事の顛末を聞いた。
南の町でまるで女神のような一人の王女に会ったこと。
間もなく魔王の襲撃を受け、魔王がローラ姫の愛という感情を試すために人質として監禁していること。
そして、ローラ姫は自分を逃がすために自ら人質となったこと。
自己紹介もそこそこに、フローラは起きた事実の一部を語り続けた。
「こうしちゃいられねえ、さっさとアレフってのを探しに行こうぜ」
フローラが口を閉ざした瞬間、連動するようにソフィアの口が開いた。
困惑するフローラをよそに、ソフィアは一人しゃべり続ける。
「ローラは証明したかったんだよ。だから、自分が自ら人質になることを選んだ。
アレフってのにこの上ない信頼を抱いてるから、命を賭ける事も怖くなかった。
愛も何もかも、証明できるって自信とそれを裏付ける理由があったんだ。
それを思いから確信に変えるため、気持ちが本当であることを確かめるために勇者を探す必要がなんだよ。
自分ひとりがそれを言ってても、証明と確信にはなんねーからな」
聞いた話から自らが考え、思うことを口に出す。
自分の実体験から来た経験、人の思い、行動理由。
それらとローラ姫という一人の人物を結びつけ、狙いを探り出していく。
「ただ人質となる以上、どっかの世話焼きに救われちまうかもしれない。
命が助かっても魔王に自分の誇りを証明できなきゃ、それはローラにとっての敗北だ。
だから、それを防ぐために一刻も早くアレフを探さなきゃいけねえ。
命を賭してまで成し遂げたいことなんだ、へたすりゃ死んじまうかもしれねえ」
人の気持ちを察して自分の気持ちと照らし合わせ、一つの答えを導き出す力。
それはいつかの自分に足りなかった力。
ソフィアの話を聞いているうちに、気がつけば俯いてしまっていた。
そのフローラの様子を知ってか知らずか、ソフィアは話を続ける。
「だから早く探しに行こう、魔王にわからせてやろうぜ。
きっと、勇者様と勇敢な姫様が全部やってくれっから。
な、いいだろハーちゃん」
そこでソフィアは後ろで腕を組んで黙ったままだった男に問う。
男はソフィアを見つめたまま、ニヤリと笑ってから答えた。
「……まあ、脱出の鍵を探すのにこの場にある様々な知識も借りようと思っていた所だ。
事のついでに探す人間が増えただけのこと、大した差ではない。
だが、魔王討伐に荷担することだけはできん。
消費する必要のない体力や魔力を削って、いざという時に支障がでると困るのでな」
「そりゃ大丈夫だ、魔王は勇者に任せりゃいい。
第一ローラの証明を成立させるには、あたしたちは手出ししちゃいけねーからな。
あくまであたしらは、アレフってのを見つけたら事情を伝えるだけだ」
瞬時に相手の考えを理解し、それに対してしっかりと正しい答えを作る。
答えと共に現れた質問にもしっかりと対応できる力。
人の心を理解するとはこういう事なのだろうか?
ソフィアの答えを聞き、ゆっくりと頷き了承の意を示したハーゴンを見てフローラはそう思った。
もし、かつて自分に人の気持ちを考えるソフィアのような力が備わっていれば。
もっと夫婦として話し合う力があれば。
あの人の心やその中の苦しみをもっと理解する事が出来たのではないか?
と、かつての自分の無力さと、今の自分があまり変わっていない事を噛み締める。
今の自分が夫に出会うことが出来たとしても、また気持ちの入れ違いから夫を苦しめるだけなのではないか?
小さな不安が山となって彼女の心に積もって行く。
「さ、行こうぜ!」
そんな考えすら見透かしているかのように、ソフィアは笑顔でフローラに手を伸ばす。
その笑顔はローラとどこか似ているようで、違う輝きを持っていた。
遅すぎることはない、と彼女を見てフローラは再び思う。
力がないなら身につければいい、理解できなくとも理解しようとする姿勢を見せればいい。
人の気持ちを考えると言うことを、ソフィアの言動から学べる。
アレフを探すという短い間でも、今の自分から変わることは出来る。
そう心に決め、フローラはソフィアに匹敵するくらいの笑顔を作り、差し伸べられた手を取った。
変化への大きな一歩を、彼女はゆっくりと踏み出した。
面白い。
ソフィアの話や現れた女性とのやりとりから、ハーゴンは正直にそう感じた。
長らく人と接することが無かった為に忘れていたこと、人間も何の考えも無く動いているわけではないと言うこと。
人間が行動する上で、何かしらの理由は必ずついて来る。
だが、そうなるに至った気持ちや感情は本人にしか知り得ないこと。
一時的とはいえ、人間と協力することでそういった内面を知ることが出来た。
勿論、人間に対する憎しみを忘れた訳ではない。
ただ、自分の世界の人間の多くがソフィアのように固い意志を持った人間だったならば。
口を開けば「勇者ロト」と、嘗ての英雄にすがりついて考えることを放棄した連中に考える力があったなら。
自分を含め、世界は変わっていたのかもしれない。
「まあ、今更どうしようもないがな……」
聞こえないようにハーゴンは一人呟く。
そう、自分の住む世界は既に手遅れ。
人々はロトを崇拝し、その血族にすがりついている。
信者たる彼らから受けた仕打ちを忘れることは出来ない。
復讐と再生の為に、破壊が必要。
腐った世界を元に戻すために、一刻も早く戻らなければいけない。
そのため自分の力を貸すことも、他者や宿敵の力も借りる覚悟は出来た。
目的を果たすために、ハーゴンもまた一歩を踏み出していった。
誰かが命を賭ける理由。
それはソフィアが真実を追い求める中で最も知ることが多かった理由。
何を感じ、何を思い、何をするために動くのか。
そして何か守りたい、残したいと思ったときに。
人は、命を賭けるのだ。
かつて守られる側に立たされ、ある意味では多数の命を賭けて守られた。
その後守る側に立った事もあるし、守る側に立っている者も知っている。
だから、フローラの話の中の人物の考えはすぐにわかった。
命を賭してまで動く人の願い。
ただ、それを叶えたい。
その気持ちを胸に、ソフィアは協力することにした。
その気持ちと覚悟に答えられる、たった一人の勇者を探すことに。
彼女もまた、新たな気持ちと共に一歩を踏み出した。
人の思いを気づけなかった者。
人の思いを忘れていた者。
人の思いを見続けた者。
それぞれもまた、思いを抱えている。
交錯していく思いと感情。
その先で彼らがどう変わっていくのか?
まだ、彼らすらも知らない。
【F-3/中央部/午前】
【ソフィア(女勇者)@DQ4】
[状態]:健康
[装備]:斬魔刀@DQ8、メイド服@DQ9、ニーソックス@DQ9
[道具]:不明支給品(0〜2)、基本支給品
[思考]:主催の真意を探るために主催をぶっ飛ばす。
アレフを探し、ローラの証明を手伝う。
[備考]:六章クリア、真ED後。
【ハーゴン@DQ2】
[状態]:健康
[装備]:オリハルこん@DQ9
[道具]:不明支給品(0〜2)、基本支給品
[思考]:シドー復活の儀の為に一刻も早く「脱出」する。
脱出の力となる人間との協力。
ロトの血筋とは脱出の為なら協力する……?
[備考]:本編死亡前。具体的な時期はお任せします。ローレシア王子たちの存在は認識中?
【フローラ@DQ5】
[状態]:全身に打ち身(小)
[装備]:メガザルの腕輪
[道具]:支給品一式*3、ようせいの杖@DQ9、白のブーケ@DQ9、魔神のかなづち@DQ5、王者のマント@DQ5
不明支給品(フローラ:確認済み1、デボラ:武器ではない物1、ゴーレム:3)
[思考]:リュカと家族を守る。
ローラを助け、思いに答えるためにアレフを探す。
代理投下終了
忘れてたけどそう言えばフローラとデボラって姉妹だったっけ
開始早々身内の死体見つけるってかなりキツイな
ゴーレム死亡話で
※絶望の町の入り口を塞ぐようにゴーレムの残骸があり
っていかにもそのままじゃ町から出られませんよみたいなことを状態票に書いてたのに、書いた本人がスルーしたのが気になった
ご指摘ありがとうございます。
メタ的な話になりますが、塞ぐようにと表記したのはあくまでもそれっぽく倒れ込んでいるだけで、完全に塞いでる感じでは無かったつもりです。
バラモスを町内に侵入させたのもあり、私としてはあくまでそう見える程度の認識でした。
こちらに関しては今回の話、及び前回の話の描写不足です。申し訳ない。
ウィキ収録後に入口のゴーレムに関しての描写を追記しておきます。
でも出られないとは明記されてなかったわけで
そういうことにしてもいいし、しなくてもいい、程度の但し書きだと思ってた
ゴーレムに塞がれてるだけなら、入り口から出るのに支障はなくて大丈夫だと思う
戦闘中ってわけでもないし
投下乙。今回のパロクイーンはソフィアかw
ハーゴンが独白した2世界の話が面白かった
ロト子孫の病みっぷりにも繋がっていてなるほどなーと
保守
代理投下いきます
しゃらん♪
タンバリンをふりならすたび、ふしぎな音色がまたひとつ。
こちらは竜王の曾孫、ただいま傭兵募集中です。
今日も今日とて、魔王をたおす『ゆうしゃ』を求め、温泉のまわりを歩きます。
だがしかし、ひとえに彼が求める『ゆうしゃ』と申しましても、実にさまざまなものがいらっしゃいます。
たとえば彼が親しくしている(と、思っている)ゆうしゃたち、ロトの子孫三人勢。
彼は伝説などという大きな肩書きを背負うわりに、性格は少々ひっこみじあんであったご様子です。
竜王城に残された文献によれば、彼らの先祖である『ロトの勇者』とは、一部では『らんぼうもの』として名を馳せていたようですし、
その数代先の、彼の先祖である竜王を討ち取った勇者アレフもまた、女好きとして知られていたようです。
伝説にのみ名をのこす彼らのすがたに、竜王の曾孫は、とても興味がおありでした。
叶うものなら、会ってみたいとも。
さて、そんな彼が手にしているのは、先ほども申しましたこちら『ふしぎなタンバリン』でございます。
竜王の曾孫が、どの文献にも目にしたことのないような、文字通りふしぎな力を持った魔法の道具。
鳴らすたびに、素敵な音があたりいちめん響きわたり、人もまものも力がわいてくるという代物なのです。
いっぱんてきには「テンションが上がる」などと言われるようです。
彼は、支給されたこの道具の力が、いずれ勇者の手にわたることを信じていました。
そのため、施設の中を闊歩して、タンバリンを持ち歩き回っていたのです。
おや、噂をすれば、誰かが彼のそばに近づいてきた様子。
「これは、温泉ですの?」
ツインテールをゆらし、竜王の曾孫にあらわれたのは、淑女然とした雰囲気を身にまとった、一人の女の子でした。
だがしかし、長年ゆうしゃを求めていた曾孫はすぐにその姿に気付くのです。
文献に見まごうことのない少女の姿。この舞台にいると、頭では知っていたその存在。
ロトの始祖に名をつらねた、究極の女ぶとうか、リンリンであるということに。
彼は自分の存在に気付いた少女に対して、すぐに声をはり上げました。
「不思議なめぐり合わせもあるものだ。お前のようなものを待ち望んでいた」
「あなたは」
「竜王の曾孫、と呼ばれておる。勇者の子孫とは馴染み深いものよ」
「勇者の……?」
「とおい昔、勇者アレルとともに魔王ゾーマを見事打ち破り、アレフガルドに伝説を残した女ぶとうか、リンリンよ。わしはお前と会ってみたかった」
親しげな声をかけられて、少女は不思議そうな表情で首をかしげます。
「これも、夢なのでしょうか? 私たちのことを知っているなんて……それも、はるか未来の」
「夢? 勇者の一行ともあろうものが、可笑しなことを口にする。その強大な力を持って、魔王を倒そうと考えているのだろう? 伝説であったのと同じようにな」
「魔王? 伝説? ……」
考え込むような表情の少女に、竜王の曾孫は両手をひろげて、声たかだかと言いました。
「お前たちのような者にこそ、託したかった。このタンバリンは強大な力を秘めている。
この力でいっこくも早くデスタムーアを倒してほしい。及ばずながら、力となろう」
夢にまで見た、こんなふうに勇者に依頼するあのシーンに出会えたように、少々こころおどる気持ちで。
「お断りしますわ」
そんなわけで、まさか断られるだなんて、彼は夢にも思わなかったのです。
気付けば、彼の見たものはくるくると空をまわっていて、何が起きたのかよくわからないほどでした。
「魔王を倒す? どうして? そうなれば、この夢も消えてしまうかもしれないのに。
そう……しいて言うなら、魔王は最後。きっと、他にも素晴らしい闘いをわたしにくれる方がいるはずです。
例えば」
彼が叩きつけられた地面は、たった今の衝撃のせいか、地面に大穴があいています。
ゴーレムのような表情で、リンリンは冷たく言い放ちました。
「あなたとか」
その先はおそらく文献にも記されていないことでした。
目の前の少女を含め、彼がどうして勇者と呼ばれていたのかを。
それはひとえに、彼らが「たたかうこと」ただそれだけを望んでいたのに、他ならなかったから。
彼が思っていたゆうしゃとは、少しだけ違っていたのです。
「まったく、私の夢でしょうに、どうしてそんなことを言うのかしら。
そんな、今更すぎることを……」
彼の手をはなれた、あのふしぎなタンバリンもまた、彼といっしょに地面に転がっていました。
「それにしても、ここって本当に温泉なのね……」
先の少女から身を隠れる場所を探すようにして、自然と訪れた施設を見渡しながら、マリベルはやや呆然としてつぶやいた。
同じように、こちらは見覚えのある風景を眺めつつ、テリーはともに行く少女の背に声をかける。
「普通の温泉じゃないけどな。うかつに触るなよ」
「入らないわよ。どう見たって混浴だし」
「そういうことじゃない、慎重に行けと言ってるんだ。中にいい隠れ場所がある」
「どういうこと?」
「行ってみればわかる」
そう言って、彼は広々とした浴場に目を向けた。
はたからはどう見てもただの温泉でしかなかったが、よく調べれば中に洞窟があって、かつてはそこから元の世界に脱出したことを、訪れたテリーは知っている。
相手が同じである上に今回は状況が違うため、同じ脱出口を使えるとは思っていなかったが、なんらかの手がかりは得られるかもしれない。
だが先を行こうとする彼に対して、説明の無いマリベルは、少々憮然とした表情になった。
また騒がれるのも面倒かと、テリーは付け足す。
「姉さんたちと行ったとき、この先に洞窟があったんだ」
「ああ、そういうこと」
そういえば相手はこの世界にいたことがあるのかと、マリベルもやや合点がいった。
それにしても。口数が少ないわけではないが、多くを語らない目の前の相手を、マリベルは振り返る。
「テリーって、お姉さんがいるのね」
「……どうだっていいだろ」
「別に。ちょっと意外なだけ」
やや表情のにぶる青年に気付かず、マリベルはぽつりとこぼした。
「あたしもアルスに会いたいもん」
少女が普段言うのからすると、あまりに素直な一言に、テリーは思わずマリベルの方を見る。
少しはっとして、マリベルは我に返った。
「べ、別にそういう意味じゃないわよ。ただの幼馴染っていうか、こういうのも口癖で、こんな状況だし……」
「なにも言っていない」
冷静な態度をくずさないまま、温泉を検分しているテリーに、同じように座り込みながらマリベルは話しかける。
「どうしていちいちつれないのよ。テリーだってお姉さんに会いたいでしょう?」
「……俺は」
言われて、テリーの態度が瞬間とぎれた。
「俺自身はどうにかなるんだ。あの人は心配しすぎるから……」
「は? なに言ってるのあんた」
「早く行くぞ」
めずらしく明瞭にしないテリーの言葉に、マリベルは首をかしげながらも、結局それ以上の詮索は断言する。
彼の言葉から察するに、温泉に位置された岩場の裏に、おそらくその洞窟があるのだろう。
それにはどうしてもこの温泉に浸からなければならない。テリーが先言っていたことが思い返す。
一見ただの温泉だが、なにか危険があるのだろうか。
そうたずねようとした矢先だった。
響き渡ったのは、爆発音にも似た音だった。
衝撃が余波となって、二人が立っていた脱衣所にまでびりびりと空気を震わせていた。
「何? まさか、さっきのがもう」
「急いだ方がいいらしいな」
言うなり、テリーはマリベルを抱え上げて、そのまま温泉に飛び込んだ。
「きゃあ、ちょっと! いきなり何するのよっ」
「うるさい、いいから行くぞ!」
暴れるマリベルを無理やり連れながら、テリーは混浴の中へとそのまま足を進めていく。
「もう、なんでそうなるのよ! この自己完結男ーっ!」
なかば悲鳴を上げながら、マリベルは必死でテリーの肩にしがみついた。
マリベルはあずかり知らぬことだがこの温泉には特殊な成分があって、つかれば普通の人間は無気力になってしまう。
そのためテリーは自分の消耗もおしてマリベルを湯につからせぬよう抱えているのだが、彼女に言わせればそれも『自己完結』らしい。
(……会いたい、か)
さきの戦闘の疲労に加えてこの温泉で、身体は少しずつ重くなっていく。
流されないようふんばりながら足を進める中で、テリーの頭に浮かぶのはこの世界にいるであろう唯一の家族のことだ。
さきのマリベルのように、会いたいなどと口にする気にはあまりなれない。
むしろ彼女が自分を気にかけるあまり、この世界でよからぬことを考えてはしないか少し心配でもあった。
姉の強さはよくわかっているが、そういう意味で、できるだけ早く合流したいとも思う。
(俺ももう少し、伝える努力をするべきだろうか。姉さん)
なおもわめきつづけるマリベルをはじめ、他の人間がどうなろうと知ったことではなかったが、
姉ミレーユのことだけは、テリーはいくらでも頭を悩ませられた。
それでも、改めるだなんて今更すぎるように思え、踏み出すことができないでいる。
【F-1/ヘルハーブ温泉外周/午前】
【リンリン@DQ3女武闘家】
[状態]:HP消費 ダメージ(中) 腹部に打撲(中)軽度の火傷
[装備]:星降る腕輪@DQ3
[道具]:場所替えの杖[8] 引き寄せの杖[9] 飛び付きの杖[9]
支給品一式×2 (不明支給品0〜1個)
[思考]:竜王の曾孫の慟哭をつく
[備考]:性格はおじょうさま、現状を夢だと思っています。
【竜王の曾孫@DQ2】
[状態]:HP4/5
[装備]:なし
[道具]:銀の竪琴、笛(効果不明)、基本支給品一式
[思考]:誰かにデスタムーアを倒させる リンリンの攻撃に混乱?
※ヘルハーブ温泉外周に、ふしぎなタンバリンが落ちています。
【F-1/ヘルハーブ温泉浴場/午前】
【テリー@DQ6】
[状態]:HP消費 ダメージ(中) 背中に打撲(中) MP消費少 温泉の成分で徐々に体力減少中
[装備]:ホワイトシールド@DQ8
[道具]:支給品一式(不明支給品0〜1)(武器ではない) 盗んだ不明支給品1つ
[思考]:ヘルハーブ温泉内部の洞窟に避難&探索。誰でもいいから合流する。剣が欲しい。
[備考]:職業ははぐれメタル(マスター)
(経験職:バトルマスター・魔法戦士・商人・盗賊 追加)
【マリベル@DQ7】
[状態]:健康 MP微消費 テリーに抱えられている
[装備]:マジカルメイス@DQ8
[道具]:支給品一式 (不明支給品0〜2)
[思考]:キーファに会って文句を言う。ホンダラは割とどうでもいい。 ヘルハーブ温泉内部の洞窟に避難&探索。
代理投下終了
リュウちゃん憐れw
まさか伝説の勇者の一味がただの戦闘狂とは思わないよなw
まあでもリンリンの不意打ち喰らって1/5しかダメージ受けてないのは腐っても竜王というべきか
乙
437 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/05/26(土) 14:30:27.10 ID:2EkxRjAXO
投下乙!
世界を救った勇者の一味に襲われるとか普通考えないwww
リンリンが夢だと思い込んでいるのも性質悪いよなあ……
保守
テリーとマリベルのコンビ好きだわ