----基本ルール----
全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
勝者のみ元の世界に帰ることができ、加えて願いを一つ何でも叶えてもらえる。
ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。
----放送について----
スタートは朝の6時から。放送は6時間ごとの1日4回行われる。
放送は各エリアに設置された拡声器により島中に伝達される。
放送内容は「禁止エリアの場所と指定される時間」「過去6時間に死んだキャラ名」
「残りの人数」「主催者の気まぐれなお話」等となっています。
----「首輪」と禁止エリアについて----
ゲーム開始前からプレイヤーは全員、「首輪」を填められている。
首輪が爆発すると、そのプレイヤーは死ぬ。(例外はない)
主催者側はいつでも自由に首輪を爆発させることができる。
この首輪はプレイヤーの生死を常に判断し、開催者側へプレイヤーの生死と現在位置のデータを送っている。
24時間死者が出ない場合は全員の首輪が発動し、全員が死ぬ。
「首輪」を外すことは専門的な知識がないと難しい。
下手に無理やり取り去ろうとすると首輪が自動的に爆発し死ぬことになる。
プレイヤーには説明はされないが、実は盗聴機能があり音声は開催者側に筒抜けである。
なお、どんな魔法や爆発に巻き込まれようと、誘爆は絶対にしない。
たとえ首輪を外しても会場からは脱出できないし、禁止能力が使えるようにもならない。
開催者側が一定時間毎に指定する禁止エリア内にいると首輪が自動的に爆発する。
禁止エリアは2時間ごとに1エリアづつ増えていく。
--スタート時の持ち物--
プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を配給され、「ふくろ」にまとめられている。
「地図」「コンパス」「着火器具、携帯ランタン」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「支給品」
「ふくろ」→他の荷物を運ぶための小さい麻袋。内部が四次元構造になっており、
参加者以外ならどんな大きさ、量でも入れることができる。
「地図」 → 舞台となるフィールドの地図。プレイヤーのスタート位置は記されているが禁止エリアは自分で書き込む必要がある。
「コンパス」 → 普通のコンパス。東西南北がわかる。
「着火器具、携帯ランタン」 →灯り。油は切れない。
「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
「食料・飲料水」 → 複数個のパン(丸二日分程度)と1リットルのペットボトル×2(真水)
「写真付き名簿」→全ての参加キャラの写真と名前がのっている。
「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
「支給品」 → 何かのアイテム※ が1〜3つ入っている。内容はランダム。
※「支給品」は作者が「作品中のアイテム」と
「現実の日常品もしくは武器、火器」の中から自由に選んでください。
銃弾や矢玉の残弾は明記するようにしてください。
必ずしもふくろに入るサイズである必要はありません。
また、イベントのバランスを著しく崩してしまうようなトンデモアイテムはやめましょう。
ハズレアイテムも多く出しすぎると顰蹙を買います。空気を読んで出しましょう。
--制限について--
身体能力、攻撃能力については基本的にありません。
治癒魔法については通常の1/10以下の効果になっています。蘇生魔法は発動すらしません。
キャラが再生能力を持っている場合でもその能力は1/10程度に制限されます。
しかしステータス異常回復は普通に行えます。
その他、時空間移動能力なども使用不可となっています。(ルーラなど)
MPを消費するということは精神的に消耗するということです。
全体魔法の攻撃範囲は、術者の視野内ということでお願いします。
※消費アイテムならば制限されずに元々の効果で使用することが出来ます。(キメラの翼、世界樹のしずく、等)
ただし消費されない継続アイテムは呪文や特技と同様に威力が制限されます(風の帽子、賢者の石、等)
【本文を書く時は】
名前欄:タイトル(?/?)
本文:内容
本文の最後に・・・
【名前 死亡】※死亡したキャラが出た場合のみいれる。
【残り○○人】※死亡したキャラが出た場合のみいれる。
【座標/場所/時間】
【キャラクター名】
[状態]:キャラクターの肉体的、精神的状態を記入。
[装備]:キャラクターが装備している武器など、すぐに使える(使っている)ものを記入。
[道具]:キャラクターがザックなどにしまっている武器・アイテムなどを記入。
[思考]:キャラクターの目的と、現在具体的に行っていることを記入。(曖昧な思考のみ等は避ける)
以下、人数分。
※特別な意図、演出がない限りは状態表は必ず本文の最後に纏めてください。
【作中での時間表記】
深夜:0〜2
黎明:2〜4
早朝:4〜6
朝:6〜8
午前:8〜10
昼:10〜12
真昼:12〜14
午後:14〜16
夕方:16〜18
夜:18〜20
夜中:20〜22
真夜中:22〜24
例
【D-4/井戸の側/2日目早朝(放送直前)】
【デュラン@DQ6 死亡】
【残り42名】
【ローラ@DQ1】
[状態]:HP3/4
[装備]:エッチな下着 ガーターベルト
[道具]:エッチな本 支給品一式
[思考]:勇者を探す ゲームを脱出する
━━━━━お願い━━━━━
※一旦死亡確認表示のなされた死者の復活はどんな形でも認めません。
※新参加キャラクターの追加は一切認めません。
※書き込みされる方はスレ内を検索し話の前後で混乱がないように配慮してください。
※参加者の死亡があればレス末に必ず【○○死亡】【残り○○人】の表示を行ってください。
※又、武器等の所持アイテム、編成変更、現在位置の表示も極力行ってください。
※具体的な時間表記は書く必要はありません。
※人物死亡等の場合アイテムは、基本的にその場に放置となります。
※本スレはレス数500KBを超えると書き込みできなります故。注意してください。
※その他詳細はスレでの判定で決定されていきます。
※放送を行う際はスレで宣言してから行うよう、お願いします。
※最低限のマナーは守るようお願いします。マナーはスレでの内容により決定されていきます。
※主催者側がゲームに直接手を出すような話は序盤は極力避けるようにしましょう。
代理投下します。
思考する。
あの老人が何の目的でこの殺し合いを開いたのか?
人類に向けての復讐?
己の力を見せつけるため?
自分が世界を掌握する上で邪魔な要素を取り除くため?
目的が復讐だったと考えても、限定的な一部の人間を集めて殺し合わせることが一部に対する復讐だとは思えない。
そもそも自分を含め個人を連れ去る力があるのだから、その個人を連れ去って自分で好きなようにすればいい。
人類全体だとかに恨みがあるならもっと大勢の人間を誘拐して殺し合わせ、苦痛を与えればいい。
己の力を見せ付けるのならば、こんな回りくどいことしなくても町の一つや二つを壊滅させるだとか、もっと効率的な方法があるはず。
突然誘拐して首輪を付けられるほどの力を持っているのに、「殺し合い」というコトを強要させることが彼女には理解できなかった。
嘗て、ピサロは人類全てを狩り尽そうとした。
強欲な人間達にロザリーをいいように扱われ、挙句殺され。
進化の秘宝に手を出すほどの恨みを、ピサロは人類に抱いていた。
だが、そのきっかけを作ったのは他でもなくピサロの配下であるエビルプリーストであった。
それを知った上で、真実を突き詰めるために世界樹の花でロザリーを蘇らせた。
計略によって殺され、最愛の人を魔王として利用された彼女が一番の被害者なのだから。
そこからピサロの誤解を解き、共に諸悪の根源を叩いた。
と、自分が経験してきたことに関して言えば、敵味方を問わずに理由はハッキリしていたのだ。
それに比べて、今回は敵側の意図、目的が全く読めないのだ。
彼女の頭の中にはそのもやもやがずっと残っている。
何かをする上で「理由」というのは必ず付きまとってくる。
今までの自分の行動もそうだし、知り合った者もそうだった。
故郷が襲われた理由。
天空の勇者が自分でなければいけない理由。
ピサロたち魔族が人間を恨む理由。
そう、全ての事柄には「理由」がある。
じゃあ、あの老人がこんな回りくどいことまでして殺し合いを行う「理由」とは?
「だーーーーーー!! わからーーーーーーーーん!!」
ふんわりとした緑髪が特徴的な彼女、ソフィアはずっと頭を抱え込んで考えていた。
しかし、何時まで考え込んでも答えは出てきやしない。
ならば、今までどおりに自分から動きその真意を探ればいい。
自分の故郷が襲われた理由、ピサロが人間を恨む理由、その原因を作ったやつの行動理由。
全て自分で突き詰めてみせればいい。
「っしゃ! 考えるのは性に合わん! まずはあのオッサンをぶっとばす!! そんでから何でか聞き出す!」
「ほう、随分と威勢がいいな」
頬を叩き喝を入れて動き出そうとした瞬間に、背後から突然声がする。
瞬間的に戦闘の構えを取り、声の方へと振向く。
「まあ、落ち着いて私の話を聞け。私に闘うつもりは無い……お前があの老人と敵対するつもりならな」
振向いた先にいた魔族の男は、静かにソフィアへと話しかけ始めた。
「ってーと、そのシドーってのを復活させるためにこの殺し合いからさっさと抜け出したいわけだ? えーっと……」
「ハーゴンだ。偉大なるシドー様の復活の舞台は揃っている。そのためにもこんな場所で油を売っている暇はないのだ」
ハーゴンと名乗る男は、静かにソフィアへと語りかけた。
自分がシドーという破壊神を蘇らせようとしていること、その復活をロトの血筋が止めようとしていること。
自分と、魔族全体の野望を包み隠さずソフィアに話した。
「ふーん……その、ハーちゃんがやろうとしてる復活の儀式ってのは、ここじゃ出来ねえのか?」
「ハー……まあいい、確かに生贄もこの場なら容易に調達できる。出来んことは無いがな。
この場でシドー様を呼び出したとして、こんな世界を支配しても意味がないのだ。
シドー様が破壊し、納めるべき世界はあのロトの血筋たちが支配する世界で無ければいかん」
妙な名前を付けられたことに対し眉を潜めるが、冷静にハーゴンは質問に対する回答を返す。
「……止めぬのか?」
「ん? 何で?」
次はハーゴンがソフィアへと問いかける。
問いかけを受けたソフィアは疑問の表情のまま崩れない。
「貴様は人間だろう、何故人間を滅ぼそうとしている私を止めぬ?」
「だって、今はそうじゃねーじゃん?」
ハーゴンの問いかけに、真顔で返答をするソフィア。
呆気に取られたような表情を浮かべるハーゴンに対し、ソフィアは言葉を続ける。
「人間を滅ぼしたい理由は分かったけど、それ今関係ねーじゃん?
ハーちゃんはこっから抜け出してーってことはさ、つまりあのオッサンたちに何かしら一泡吹かせたいと思ってるわけだろ?
あたしも、こんなん考えてるオッサンたちになんか仕返ししてやりてーしさ」
「この世界を抜け出して元の世界に戻れば、私は貴様の住む場所まで破壊しようとしているのだぞ?」
「そん時は、あたしがぶっ飛ばすしからいい。
元の世界に帰ってからの話よりさ、今どうすっかの方が大事だろ?
で、今アタシもハーちゃんもこの殺し合いをどーにかしたいと思ってる。
ならアタシには今ケンカを売る理由なんて無いんだよ」
ハーゴンの口から思わず笑みが零れる。
目の前にいる将来の敵がいたとしても、現状が味方ならそれでいい。そんなこと、考えすらしなかった。
自分も人間を恨んでいるし、人も自分達を恨んでいるものだと思っていた。
「今、お互いそうしたいと思う「理由」がある。それだけで充分だって」
さて……決まりだろ? 改めてよろしくな。ハーちゃん」
人間が、自分に向けて手を差し出している。
今まで、こんなことが起こるだなんて微塵も考えなかった。
「あんな大声で独り言を呟いていた辺りから只者ではないと思っていたが……予想以上だったな。
しかしその呼び名は何とかならんのか、ソフィアよ」
呼び名に対し渋い表情を浮かべ、ハーゴンはソフィアの手を取る。
「いいだろ? 呼びやすいしさ。ハーゴンってなんかこう、ボって感じがしてヤなんだよ」
「……まあいいだろう、ところで具体的な策や戦術はあるのか?」
沈黙。
先ほどまであれだけ喋っていたソフィアの口が重く閉ざされる。
溜息を一つついてから、ハーゴンが口を開く。
「……もう一度、お互いの情報を整理するところから始めるか」
「わ、わりいな」
世界を一度救った者、世界を滅ぼそうとしていたもの。
相容れることは無いであろう二人はこうして出会い、そして力をあわせることにした。
その先に待つ事を憂いたりすることなど、取らぬ狸の皮算用に過ぎない。
まずは、今を切り抜けることが大事なのだから。
【ソフィア(女勇者)@DQ4】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:不明(0〜3)、基本支給品
[思考]:主催の真意を探るために主催をぶっ飛ばす。まずは情報整理。
[備考]:六章クリア、真ED後。
【ハーゴン@DQ2】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:不明(0〜3)、基本支給品
[思考]:シドー復活の儀の為に一刻も早く脱出する。まずは情報整理。ロトの血筋とは脱出の為なら協力する……?
[備考]:本編死亡前。具体的な時期はお任せします。
終了。
続いて代理投下。
「んんっ! よしっ!」
ピシャリと、乾いた音が二つ鳴る。
いい感じに肉のついた頬を叩いて、これから為すべきことを考える。
殺し合いに積極的に参加して、他人を殺す?
どこか隅っこに隠れて、ガタガタ震えながらひたすらこの悪夢が覚めるのを待つ?
それとも、鋼の意志を持って正義の道を往く?
セントシュタイン城下町在住の女の子リッカはそのどれも選ばない。
無理に決まっているではないか。
どうやって武器も持ったことのない女の子が、殺し合いを進んでやろうという気になれるのだ。
リッカの支給品には武器の類が一つも入ってない。
つまり、デスタムーアとその配下に、この肉体ひとつで戦えと言われたに等しい。
そんなこと言われてもリッカは全力で却下する訳だ。
こんな小さな握りこぶし一つでは、相手を100回殴っても殺せはしないだろう。相手が虫でもない限り。
さらに、あの大魔王デスタムーアの見せつけた強大な力も、リッカには逆効果だった。
チャモロの放ったバギクロス、つまり真空系呪文の中でも最大級の威力を持つ呪文をくらっても、顔色一つ変えぬあの対魔力の強さ。
リッカが一人で生き残るためには、ああいう強力な呪文を使う魔法使いとも戦わねばならないのだ。
重ねて言うが、リッカは普通の女の子である。
ある一点を除けば、そこいらにいる同じ年頃の娘と何一つ変わらない、平々凡々な少女である。
あの時、王に与えられたとある試練も、仲間がいなければどうなっていたことやら。
そして、今リッカに装備できるものは何一つない。
この時点でリッカの取り得るスタンスの候補の中から、殺戮の二文字は消えてなくなる。
仲間を殺して生き残るということも選べはしない。
それはリッカにとっても幸運なことだった。
もしも、誰にでも使えて、かつどんな敵でも瞬時に殺せるような超兵器を持っていれば、考えは変わったかもしれない。
今のような考えに至らず、無思慮で浅はかな行動に出たかもしれない。
自分が命を踏みにじっている光景を想像するだけで背筋が凍りそうだ。
「私がここでもできることなんて、これしかないわよね……」
思わず声に出してしまったのは、自分に言い聞かせるために無意識に漏れたものか。
彼女が殺し合いを否定したのは強靭な精神力ではなく、その肉体の弱さを自覚してるが為という部分が大きく占める。
つい、とリッカの指が地図の上を走り、いくつかの場所を通った。
「北にある城、東にある町、南西にある町。 あとは温泉っと。 候補はこんなところかな」
行き先の候補は四つ。
彼女が他の一般人と違う点があるとすればただ一点のみ。
リッカという存在を成す根幹、言わばリッカをリッカを足らしめるアイデンティティが普通の人とは違う。
「うん。 泣く子も黙る宿王として、やれることをするしかないわ!」
そう、彼女はこの年にして、城下町の超一流宿屋を切り盛りする少女。
つい先日、宿王グランプリの覇者になり、親子揃って宿王の称号を得たのである。
宿屋、それは食事を用意して布団を敷くだけが仕事ではない。
宿王の経営する宿屋ともなれば、最高のサービス、最高のおもてなしが客を待っているのだ。
泊まる部屋には埃の一つもなく、ふかふかのお布団と枕はどんなにクッタクタに疲れた日でも、一晩眠れば体力は完全に回復する。
その時お客が食べたいと思ったものを、宿屋としての経験と勘でさりげなく用意する。
そして、帰るときにはどんな客も満面の笑顔になり、また来るよと言ってくれるのだ。
そんな客の笑顔を見るために、リッカは昨日も一昨日も、ずっと働いていた。
ルイーダやロクサーヌと今日も一日大変だったねと、労いの言葉を掛け合うために生きている。
「私ができるのは、みんなが休める最高の宿屋をこの世界でも用意すること!」
決意を口にしていると、不思議と気分も高揚してくる。
リッカがするべきなのは戦うことではなく、信じること。
戦いに疲れた戦士たちの休息の場を作り、羽を伸ばして休んでもらうことだ。
ルイーダもあのウォルロ村で出会った不思議な少女も、戦いの道を選んでいるだろう。
ならば、生きて帰ってくれると信じて、リッカだけにしかやれないことをすべきだ。
あの人らがただいまと言える場所を、安心して眠れるベッドを用意するのが自分の使命。
それは現実逃避と言うのかもしれない。
魔王の言う殺し合いには乗らずに、自分が今までやってきたことをここでも同じようにするだけ。
日常を再現し、あたかも何事もないかのように振る舞う。
けれど、現実から逃避するのがいけないのだろうか。
現実を直視するとは、魔王の言うままに命の重さを知ろうともせずに、殺しをすることなのだろうか。
だったら、リッカは現実なんか見なくていいと思う。
魔王の言いなりになるくらいなら、いくらでも日常というなの夢を見続けている方を選ぶ。
「それじゃあ、出発!」
そう決意したリッカの足に迷いはない。
町や集落についたら、やることはたくさんある。
まずはもちろん宿屋を探すこと、宿屋を探したら掃除をする。
掃除をしたら、今度は寝具の準備だ。 シーツはもちろん、シワ一つないような綺麗なものに取り換える。
その次は調理器具の点検だ。 使えるものは何か、使えない物は何か、念入りに調べる必要がある。
食材については心配無用だ。
彼女に支給されたのは色とりどりの食材の宝庫。
霜降り肉にプラチナクッキー、スライムまんなるスライムを模した中華まん。
それに黒胡椒などの香辛料から、竜の火酒など細やかな部分にまで手が届く充実っぷり。
山海の珍味も、珍しい果物も、地方の名産水など、一人では到底食べきれないほどの量がある。
このザックの中にぎっしり詰まった食べ物を、どう調理するか今から頭の中で考える。
しかし、これだけ未知の食材を目の前にすると、好奇心が抑えきれない。
とりあえず飲み物なら調理の必要はないから、いくつかある中から一つを選ぶことにしてみた。
ウォルロの名水など、知ってるものから知らない物まで様々にあるではないか。
ザックから取り出した青色の瓶に入った清涼飲料水なるものの蓋を開け、グイッと飲んでみる。
「……うわ」
まず第一声がそれだった。 マナーが悪いのでしなかったが、一瞬吐き出すことさえ考えた。
なんというか、口当たりが悪い。
おまけに苦味とも渋みとも判断のつかない得も言われぬ味が口内に広がり、とても不快な気持ちになる。
滋養強壮のための飲み物ならまだ納得もいくが、何故だか知らないがダメージさえ負った気分になった。
10種類のハーブがどうのこうと書かれているが、正直混ぜすぎた結果このような珍妙不可思議な味になったとしか思えない。
まああれだ。 これはハズレ商品というか、こういう飲み物も有難がって飲む好事家もいるということだろう。
そう思ってポーションと書かれた瓶を捨て、リッカは歩き出すのであった。
【D-5/森林/朝】
【リッカ@DQ9】
[状態]:HP 9/10
[装備]:なし
[道具]:大量の食糧 支給品一式
[思考]:宿屋を探す
※ポーション@現実 は捨てられました
【ポーション@現実】
2006年にサン○リーから発売された清涼飲料水。
体力が回復するという謳い文句だったが、あまりの不味さにダメージを回復するどころかダメージを受けると言われた。
FF? 何それ美味しいんですか?
代理しゅうりょーです。
3作ともボリュームあってちかれた……。
意外なスタンスを取るローレシア王子と影の騎士。
マーダー候補と思われたハーゴンとソフィアの邂逅。
宿王リッカのこれからの活躍が楽しみです。
前スレでは代理投下ありがとうございました。
もしかしたら書き込めるかもしれないので、書き込めたら投下をはじめます
「『モシャス』」
桃髪の少女が呪文を唱えると、たちまち彼女は別の少女に姿を変えた。
カールのかかったふわふわの緑髪。
動きやすいからと好んで着用していた、ちょっときわどいレオタード。
鏡の中には、心に深く刻んだ、妹のように思っていた幼馴染の姿がそのまま映っている。
「やっぱり、そうよね。なら、どうして私は生きているの?」
この姿で感じた、村を焼き燃え盛る炎の熱さは、突き刺さる剣の痛みは、ちゃんと覚えている。
あの日あの場所で、少女――シンシアは、伝説の勇者に成り代わって倒れたはずだった。
「まあ、助かったことは素直に嬉しいけれど、殺し合いだなんて……」
「うわあ、別の人になっちゃった!」
シンシアがため息をつきながら呪文を解除すると、とつぜん背後から声がした。
彼女は思考を打ち切りそちらを振り向くと、蒼髪の少年が扉の隙間からこちらを覗いていた。
見つかったことに慌てた少年は、ぱたぱたと手を振りながら弁解し始める。
「ごめんなさい、覗きたかったわけじゃないんです!
たまたま二階から降りてきたら、こちらのほうから人の気配がして。
そうしたら、鏡の前のおねーさんがいきなり違う人になって、それで……」
「大丈夫よ、私のほうこそ驚かせてごめんなさい。よかったら、こっちにおいで」
手招きを受けた少年は、満面の笑顔で扉を開くと、シンシアの側へと座った。
レックスと名乗った少年は、殺し合いなんかしたくないと力強く答えた。
シンシアもそれに安心し、同行の約束を交わすのに時間はかからなかった。
しかし不安を隠せぬシンシアに、レックスはしばしかける言葉を悩み、そして。
「大丈夫だよ、おねーさんはぼくが守る! なんたって僕は『伝説の勇者』なんだから!」
「……えっ?」
それまで微笑みを絶やさなかったシンシアの動きが、ぴたりと止まった。
何かまずいことを言っただろうかと、レックスの表情が曇る。
「勇者……この子が? ううん、この子『も』……?
そんなはずない、でも、嘘だとも思えない……。
もしそうだとしたら、私たちの今まではなんだったっていうの……?」
「どうしたの、おねーさん!」
突然、うわ言を呟きはじめたシンシアの肩を、レックスは思わず揺さぶる。
そうして我に返ったシンシアは、一転して表情に悲しみを湛えて呟いた。
「レックスくん、私の話を、聞いてくれる……?」
○
シンシアは語りはじめる。
伝説の勇者となるべき一人の少女を、魔族から匿う為にはじまった山奥での生活のこと。
いつしかその目的を忘れ、まるで姉妹のように過ごした幸せな日々のこと。
やがて魔族に見つかり、凄惨な虐殺がはじまったこと。
せめて彼女だけは生かそうと、モシャスを用いて身代わりとなり、その身を差し出そうとしたこと。
少女へと変化した自身の背にかけられた、声にならない彼女の叫びが耳から離れないこと。
抵抗むなしく力尽きようとする中で、最期に聞いた魔族たちの歓喜の咆哮のこと。
「伝説の勇者がほかにも居たのなら、私はあの子を一人にしないで済んだのかな……?」
話し終えるころ、シンシアは泣いていた。
レックスもまたその瞳に大粒の涙を溢れさせていて。
「ひどいよ、幸せに暮らす人たちを、家族を! かってに引き裂いて……!
勇者の血が、なんだっていうんだ!」
レックスとて、他人事ではない話であった。
祖父は、魔物に攫われた祖母を救うため、勇者を探す旅にその人生の全てを捧げ、果てたという。
父はそれを引き継ぎ、やはりその人生の何もかもを犠牲にし続けていた。
自身もまた、血脈を恐れた魔族の策略によって、生まれた直後から両親との長きに渡る別離を経験している。
伝説の剣を振るう彼に、再会を果たした父の見せた、あのいくつもの感情がない交ぜになった表情は未だ忘れられずにいる。
勇者と呼ばれる存在が他に居るという話は、レックスにとっても衝撃的ではあった。
けれど今はそれよりも、その存在が結局は悲劇を招いていることが、何よりレックスには辛かった。
勇者の血脈は、それだけの多くの犠牲を払うほどに価値があるものなのか?
ただ平穏に暮らすことすらも、許されないものなのだろうか?
やるせない想いを涙を共に掃って、レックスは思いを込めて宣言した。
「会いに行こうよ、おねーさん。もう一人のおねーさんに!
ぼくたちは、みんなで幸せにならなきゃいけないんだ!」
「ありがとう……」
シンシアには、レックスの気持ちが嬉しかった。
レックスは、家族ほぼ全員がこの殺し合いに巻き込まれている。
情報交換の際、名簿から父と母と妹とを次々に紹介され、シンシアは言葉を失った。
友達だという魔物の写真を見せられたときには、さすがに少々面食らいはしたが、なんにせよ、彼女よりずっと厳しく辛い状況に置かれているはずなのだ。
ましてやこの殺し合いには、彼女の村を襲った魔族の王――ピサロも参加している。
レックスの家族が安全である保障は、どこにもない。
今この瞬間にも、誰かが殺されている可能性だってある。
なのに彼は、こうして明るくシンシアを励ましてくれている。
どうしてと、その手を取った瞬間にすぐに間違いに気付いた。
握った手は、小さく震えていた。
不安でないはずがなかった。
明るく振舞うことで、強くあろうとすることで、彼は自身の不安を押し潰そうとしていただけ。
レックスの精一杯のつよがりに気付いたとき、シンシアの目には決意の火が灯っていた。
「もう大丈夫、一緒に家族を探しましょう」
「うん! いこう、おねーさん!」
照れ笑いを浮かべるレックスを見つめて、シンシアは想う。
彼が私を守ってくれるというのなら、私も彼を守ってあげようと。
彼があの子と――ソフィアと同じ伝説の勇者であるというのなら、なおのこと。
そう、例えこの身を再び犠牲にすることになってでも――。
【E-8/欲望の街 豪邸/朝】
【レックス@DQ5】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 不明支給品(確認済み×1〜3)
[思考]:家族との合流 おねーさん(シンシア)を守る
【シンシア@DQ4】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 不明支給品(確認済み×1〜3)
[思考]:ソフィアとの再会 レックスを守る ピサロは……?
※モシャスはその場に居る仲間のほか、シンシアが心に深く刻んだ者(該当:ソフィア)にも変化できます
投下終了です。
モシャスのルールはこんな感じで大丈夫ですかね?
ドラゴン、ハッサン、男魔法使い
投下します
男は怒っていた。
男は猛っていた。
男は荒れ狂っていた。
男の名はハッサン。パイナップルのような髪型をした、筋骨隆々の大男。
簡素なベストに身を包み、むき出しになった二の腕や腹、太腿には、鋼のように鍛え上げられた筋肉を纏う。
その、暴力的ながらどこか官能的ですらある筋肉の束が脈動する。
総身が震える。心臓が早鐘を打つ。沸騰した血液が体中を駆け巡る。
ハッサンの鼓動を際限なく早めているもの……その名は怒り。
共に世界を巡り、苦楽を分かち合い、死線を潜り、笑い合い、旅路の果てに勝利と平和を勝ち取った、血よりも堅い絆で結ばれた友が、殺された。
チャモロ。
世俗と縁を断った村でひたすらに神の教を学び、魔王を討伐する苦難の旅に参加した少年。
生真面目でお固い性格で、ハッサンの下品な冗談をよく眉を顰めては窘めてきた。知識も広く、学のないハッサンや親友の王子に講釈を垂れては無知を嘆く。
時には感性で行動するハッサンと意見が対立することもあった。だがそれらを不快に思ったことはない。むしろ楽しかったと言っていい。
彼の言葉に嘘はなく、仲間を思い平和を願う気持ちもまた人一倍強かった。だからこそ年若くとも対等の友として信頼でき、共に戦場を駆け抜けられたのだ。
その、チャモロが、まるで虫を潰すかのように殺された。あっけなく。あっさりと。無常にも。
ハッサンは……ただ、見ていただけだった。手を伸ばせばそこに彼はいたのに。
滅びたはずの魔王に気圧され、チャモロのように反旗を翻すこともなく。
結果として、手を出さずにいたことは正解だった。あの時牙を剥いていたらハッサンもまたチャモロの後を追っていただけだっただろう。
それでも、何もしなかったことには変わりない。行動せず、チャモロの死をただ傍観していただけだという事実は動かない。
だからこそ、怒る。
だからこそ、猛る。
だからこそ、荒れ狂う。
許せないのは誰か。それは自分自身だ。
もちろん元凶たる魔王だって許せはしない。蘇ったのならもう一度滅ぼすと心に決めている。
だが、それでも……そんなことをしても、もうチャモロは戻っては来ない。
もしかしたらあの一瞬、自分がチャモロを静止していれば……結果は違っていたかも知れないのだ。
チャモロを殺したのはデスタムーアだ。だがチャモロをみすみす死なせたのは、他ならないハッサン自身。
許せない。許さない。俺は、恐れに呑まれた俺自身を許さない!
「うおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉおおーっっっ!」
チャモロはいいやつだった。
口うるさいが仲間思いで、悪を憎み、困っている人間に手を差し伸べずにはいられない、そんなやつだった。
何より……まだたったの十五歳だったのだ。
未来があった。
やりたいこともまだまだたくさんあっただろう。もう五年もすればハッサンの身長だって追い抜いたかもしれない。
旅の中ではパーティの女性陣にそれぞれ相手がいたこともあり浮いた話こそなかったが、世界を救った英雄とあっては引く手は数多あっただろう。
無限の可能性があった。
何者にでもなれる。どこへだって行ける。いつかは父親になったかもしれない。
そんな未来は、可能性は、一瞬で奪われた。
「ゆ、許さん……」
もう取り戻せないなら。もう、その手を掴むことができないのなら。
生きているハッサンが、逝ってしまったチャモロに報いてやれるとしたら。
「絶対に……絶対に許さんぞ! 貴様らああぁぁーっ!!」
この手でチャモロの仇を取る。彼の遺志を継ぎ、死ぬ必要のない者を誰一人死なせず、魔王を討つ。
それが義務だ。チャモロを死なせた自分への、それが罰だ。
咆哮と共にハッサンは走り出す。どこへ行くかなど考えもせず。
涙が滂沱として流るる。が、頬を濡らす前に後方へと吹き散る。大の男が一人、泣きながら全力で駆けていく。
ここで涙は枯れてしまえばいい。今必要なのは友を思って泣く悲しみではなく、友の無念を受け継ぎ力へと変える闘志だ。
「チャモローっ! 見ていろよっー! 絶対に、仇を、取って、やるからなーっ!」
走りながら叫んでいるので息も絶え絶えだ。
それでも、胸に溜まった重苦しい物を、一時でも忘れるために叫ぶ。
「俺はーっ! 絶対にーっ! お前のーっ! 仇をとうわぁ!」
あまりにも頭に血が登っていたため、足元がお留守になっていた。木の根に躓き、ハッサンは盛大にすっ転ぶ。
ゴロゴロと転がっていき、大木に激突。思わず息が詰まる。
「は、はあっ、はあっ……! ごほっ!」
脱力し四肢を投げ出す。手足が重い。心臓が破れそうだ。身体が酸素を欲している。
叫ぶ者がいなくなれば、森は静寂に満たされる。ただ自身の荒々しい呼吸音だけが耳にうるさく響く。
「はあ……」
何をやっているんだ、と自責する念と、ひとまずは落ち着け、という自制の念がせめぎ合う。
熱は未だ冷めやらない。だが、今はそれを発散する相手がいない。
これでは駄目だ。もっと冷静になれ。クールに。
深く息を吸う。吐き出す。何度も何度も。
呼吸が落ち着けば、思考も自然とクールダウンする。
周囲を見れば、現在地は見覚えのある暗い森林だとわかる。この光景は知っている。
かつて冒険した魔王の世界だ。現在地は島のほぼ中央、森の中だろうと推測もつく。
ハッサンはむくりと起き上がると、手近な木へと近づきするすると登っていく。道具を必要としないのは大工の面目躍如だ。
一際背の高い木の天辺で周囲を見渡してみれば、やはり想像通りの位置に街がある。
この世界を攻略する際に拠点とした絶望の街だ。後に、希望の街へと名を変えたが。
「そう、だな……絶望だけじゃないんだ。希望はある」
ハッサンは思い出す。デスタムーアへ最初に反応したのは他でもない親友だった。
少なくとも一人ではない。この場にはハッサンだけではなく、親友のレイドックの王子もいる。
勇者として一行を率いていた彼と合流すれば、魔王とて二度打ち破れるに違いない。
彼がどこにいるのかはわからないが、とりあえず人の集まる街へ行って誰かと接触する。それがまずやるべきことだ。
頭は冷えた。地へ降り立ち、いざ街へと向かおうとしたところ……轟音が鳴り響く。
反射的に身構えたハッサンの全身を、次いで吹きかけてきた熱風が叩く。
火傷をするほどではない。どこか遠く離れた所で起きた爆風が、距離を減ることで弱まったのだと歴戦の経験は看破した。
音の響いてきた方向、風が吹いてきた方へとハッサンは駆ける。
もう、戦いは始まっている……!
■
数分走ってたどり着いたのは、森の中にポッカリと空いた広場だ。
だが、めらめらと炎上する木や中途でへし折られた大木を一瞥すればそこが元々森の一部だったことは明らか。
その中心、この異変の発生源に目をやれば、緑色の巨大なトカゲ……ドラゴンが、牛でさえ丸呑みにできそうな巨大な口腔を開き紅蓮の炎を吐き出すところだった。
ドラゴンと相対するは、ハッサンの逞しい肉体と比べるべくもない貧相な体つきのローブの人物。
まずいと走り出すハッサンに気づかず、その人物は手にした杖を掲げる。
「マヒャド!」
人物……皺がれた声からして老人か、その老人から強力な魔力が迸る。
魔力は原子を急速にマイナス方向へ振動させ、熱エネルギーを低下……大気中にいくつもの氷槍を生み出した。
ドラゴンの吐き出す炎の息と氷槍が激突し、もうもうたる水蒸気が立ち込める。
竜が小癪な人間に怒りの咆哮を上げ、丸太のような前足を振り上げる。あれで老人を押し潰そうというのか。
ヒャド系の最上位呪文を放った老人は、次の動きに移るのがワンテンポ遅れる。とても頑健とは言えない魔法使いの肉体は、一瞬で木っ端微塵にされるだろう。
その未来を覆すため……ハッサンは疾風のように戦場へと飛び込んだ。
「させるかよぉぉおおおおおっ!」
「何っ……!?」
「爺さん! 下がれ!」
全身の筋肉へ血流が行き渡る。燃料を得た筋肉たちは歓喜の声を上げ、赤く、太く、自らを弾けさせる。
前後にハッサンを挟む老人とドラゴンの目には、ハッサンのシルエットが一回り大きくなった……と見えたに違いない。
躍動する筋肉。燃え上がる闘志。
その合奏は、人の身でありながら捕食者たるドラゴンの一撃を受け止める。
「おおおおっ……!」
チャモロを殺された怒りを思い出せ。
何も出来なかった己を恥じろ。
その全てを力に変えて、悪を討て!
倒すべき敵をハッサンは得た。意志と、力の方向性が今一つになった。
ならばこそ……全力全開、全速前進。漲る力がハッサンを駆り立てる。
ハッサンの全身の筋肉に血管が浮き出る。恐れを知らぬドラゴンが、小さき人の膂力に押されつつある状況を理解できぬと目を瞬かせた。
後ろで老人が息を飲む音が聞こえた。それすらも心地いい。
「燃え上がれ、俺の魂……!」
深く、腰を沈める。
全身の力を腰へと集約させ、ドラゴンの巨体を引っ張る。
腕力だけではない、全身を使った、これこそ渾身の……
「……ぬううううぅぅぅぅりゃぁぁあああああっ!」
絶叫と共に、溜めに溜めた力を爆発させる。
ハッサンが極めた職業は武闘家と、戦士。そして上級職たるバトルマスター。
彼が修めた技の一つ……武闘家の基本にして、されど強力無比なるこれこそまさに。
ともえなげ!
「……!?!?!?!?!?!?」
ドラゴンは宙を舞う。翼なき身であれば空を飛ぶことなどできないのは自明の理。
ならばなぜ今、己は飛んでいるのか?
その答えは、遙か下方で己を見上げている人間の仕業だと納得するほかなかっただろう。
「爺さん! 今だ!」
ドラゴンを投げ飛ばしたハッサンは、さすがに力を使い果たしたか膝をつく。
絶好の機会なれど追撃の余裕はない。だが、それはあくまでハッサンに限ったこと。
十分に魔力を練る時間を稼いだ魔法使いの老人にとっては、宙を舞う翼持たぬドラゴンなどまな板の上の鯉と同義だ。
「若いの、やるじゃないか。わしも負けてられんな……!」
老人が両の手を打ち合わせると、循環した魔力がスパークし閃光を生み出す。
強力すぎて目の前にドラゴンがいる状況ではとても使えなかった呪文だが、今なら別だ。
「唸れ、轟音……!」
解放の時を迎えた魔力が爆ぜた。それはまさに地から天へと立ち昇る雷鳴――
「……イオナズン!」
空を、閃光が染め上げる。
先ほどとは比べ物にならない轟音がハッサンの耳を貫いた。
「……ぬううううぅぅぅぅりゃぁぁあああああっ!」
絶叫と共に、溜めに溜めた力を爆発させる。
ハッサンが極めた職業は武闘家と、戦士。そして上級職たるバトルマスター。
彼が修めた技の一つ……武闘家の基本にして、されど強力無比なるこれこそまさに。
ともえなげ!
「……!?!?!?!?!?!?」
ドラゴンは宙を舞う。翼なき身であれば空を飛ぶことなどできないのは自明の理。
ならばなぜ今、己は飛んでいるのか?
その答えは、遙か下方で己を見上げている人間の仕業だと納得するほかなかっただろう。
「爺さん! 今だ!」
ドラゴンを投げ飛ばしたハッサンは、さすがに力を使い果たしたか膝をつく。
絶好の機会なれど追撃の余裕はない。だが、それはあくまでハッサンに限ったこと。
十分に魔力を練る時間を稼いだ魔法使いの老人にとっては、宙を舞う翼持たぬドラゴンなどまな板の上の鯉と同義だ。
「若いの、やるじゃないか。わしも負けてられんな……!」
老人が両の手を打ち合わせると、循環した魔力がスパークし閃光を生み出す。
強力すぎて目の前にドラゴンがいる状況ではとても使えなかった呪文だが、今なら別だ。
「唸れ、轟音……!」
解放の時を迎えた魔力が爆ぜた。それはまさに地から天へと立ち昇る雷鳴――
「……イオナズン!」
空を、閃光が染め上げる。
先ほどとは比べ物にならない轟音がハッサンの耳を貫いた。
■
「……仕留め損なったな」
老人はそう、呟いた。
戦闘を終え、巨大な竜の影が見えなくなった頃、ハッサンは桁外れに強力な魔法を放った老人と改めて対面していた。
「あれでか?」
「手応えがなかった。深手は負わせただろうが、死んじゃおるめえ」
油断なく天を睨んでいた老人は、やがてふっと息を吐いた。
「まあ、追い払うことはできたんだ。助かったぜ、若いの」
「俺はハッサンだ」
ハッサンが差し伸べた手を、老人はしげしげと見つめた。
すっかり白くなった顎髭を弄び、ハッサンに問う。
「どういうつもりだ?」
「あんた、すげえ魔法使いだな。あんたが仲間になってくれれば、俺も心強いぜ」
「仲間、ね。わしを仲間にしてどうするんだ?」
「決まってる。あの魔王……デスタムーアをぶっ潰すのさ!」
力を発散したとは言え、ハッサンのまだ熱は冷めやらない。
いや、老人と協力してドラゴンを打ち破ったからこそさらに燃え上がったとも言える。
あの凶暴そうなドラゴンと単身で互角に戦っていたのだ、この老人がいれば魔王打倒へも一歩も二歩も近づくだろう。ハッサンは確信していた。
「ふむ……魔王を、か。まさかまたこんなことになるたあな……」
「何だよ、前にも魔王と戦ったことがあるって口振りだな」
「まあな。ま、いいだろう。よろしくな、ハッサン」
す、と老人はハッサンの手を取った。
承諾を受け、ハッサンは快活に笑ってその手を握り返す。
「あだだっ! 痛いじゃろうがこの馬鹿力め!」
「あ、すまん!」
余りの握力の強さに老人が顔を歪め、慌ててハッサンは手を解く。
書き込めるようになったみたいですね。失礼しました
解こうとした。
「すまん、か……それはこっちのセリフだぜ、ハッサンよ」
「え?」
どういう意味、と問おうとした口が開かない。
ハッサンと繋いだ老人の右手。
その反対、左手はハッサンの胸元に添えられている……
「な、ん……で?」
ハッサンの胸元に生えた、ナイフの柄を握っている。
よろよろと後ずさるハッサンを突き飛ばし、老人は地面に置いていた杖を拾い上げ、言う。
「すまんな、ハッサン……メラゾーマ」
杖の先から生まれた豪火は、ハッサンの差し伸べた血塗れの手を焼き、肩を焼き、全身を飲み込んだ。
声もなく……ハッサンは、消し炭となる。
あっけなく。あっさりと。無常にも。虫を潰すように。
ハッサンはチャモロと同じ所へ逝った。
「ふう……まずは、一人」
老人は汗を拭う。
気づかれやしないかヒヤヒヤものだった。
まともにやれば、ドラゴンをぶん投げるようなバケモノとやりあえるはずはない。
ハッサンがお人好しでよかったというところだ。
「もう一度言うぜ、すまねえなハッサン。俺ぁな、どうしてもやらなきゃいけねぇことがあるんだよ」
手近な石に腰を下ろす。
彼の脳裏に浮かぶのは、魔王でもハッサンでも勇者でもない、たった一人。
共に旅をし、勇者を支えた仲間の一人……賢者の存在である。
魔王バラモスを滅ぼし、その上の存在である大魔王ゾーマもまた滅びた。
まはや世界を覆う影はない。
ならば、彼はこれからどこに行けばいいのだ?
数十年も練り上げ続けた魔法の業を、誰に対して振るえばいいというのか。
もはや強大な魔物はいない。全て勇者一行が狩り尽くしてしまった。
力をぶつけるべき相手がいないまま、ゆっくりと朽ち果てていく……
そんなことは、お断りだ。
いる。いるのだ、たった一人。
魔王すらも滅ぼしうる己の魔に、たった一人並び立てる者が。
賢者。賢き者。
魔法使いと僧侶、両方の技を極めたもの。
何度も何度も彼と共に呪文を放ち、敵を蹴散らしてきたあの女なら。
たった一人、己と対等であると認める、あの女なら。
「なあ、確かめようぜ。俺とお前と……どっちが本当の、本当に最強の“まほうつかい”なのかを、よ」
魔王を滅ぼすなど、どうでもいい。たとえあのデスタムーアがどれほど強大だったとして、この渇望を超えられはしない。
もう、賢者しか見えない。
そのために邪魔になるのなら、たとえ勇者とて……老いた魔法使いは歩き出す。
天秤の片割れ、究極と対になる至高を求めて。
【ハッサン@ドラゴンクエスト6 死亡】
【E-4/森林/朝】
【男魔法使い@DQ3】
[状態]:健康、MP消費(小)
[装備]:毒蛾のナイフ(DQ6)、杖
[道具]:支給品一式 不明支給品(確認済み×1〜3)
[思考]:女賢者と決着をつける
※名前、職歴、杖の種類は後続の書き手にお任せします。
【???/???/朝】
【ドラゴン@DQ1】
[状態]:全身にダメージ
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 不明支給品(確認済み×1〜3)
[思考]:!?!?!?
※ドラゴンがどこに飛んでいったかは後続の書き手にお任せします。
投下終了です
タイトルは「あなたしか見えない」
>>28 いえ、宣言してから再投下すればよかったですね
こちらこそ申し訳ない。それとありがとうございます
投下します。
気がつくと自分は、ギロチン台の上にいた。
自分の置かれている状況に気づいて、トロデーンの近衛隊長・エイトは当然ながら困惑した。
身体は縄のようなもので手も足もぐるぐるに固定されて、身動きをとることがかなわない。
そして仰向けにされた自分の首の真上、むき出しになったギロチンの刃が圧倒的な質量と存在感を持って、エイトの目の前に立ちはだかっている。
今にも己の首を断たんとするかのようなその存在の恐ろしさに、歴戦の勇士と呼べる彼でも思わず直視できずに目をそらし、そしてなお、その視界に飛び込んだものにエイトは目を瞠る。
「あれ、起きちゃったのね」
赤い、そう血のように赤い髪をまとめたポニーテールが、小さな後頭部でぴょこりと跳ねた。
声だけを聞くならその様子はとても朗らかで、だがあまりに異常なこの現状において、彼は狂気すら感じて息を呑む。
「君は……」
「覚えてない? さっきまで、いっしょにお喋りしてたじゃない」
「……バー、バラ?」
「よかったぁ、覚えててくれたんだ。エイト」
そんなとても正常とは呼べない会話で、エイトはふと思い返した。この悪意にまみれた殺し合いの世界に放り込まれ、ほどなくして初めて出会った赤毛の少女。それがこの目の前のバーバラだった。
心細そうに、それでいて思い詰めた様子でたたずむ不思議な少女に話しかけた。彼女は、あの強大な魔物、デスタムーアを知っていると言うので、話を聞いた。……聞いていたはずなのに、なぜか途中からの記憶が無い。
しかし二人しかいない今、この現状が意味するところは一つしかなかった。彼女が自分をこの状況に陥れたということ、今のエイトには他の答えなど到底見つけられそうにない。
「……騙したのかい?」
「もう、人聞きが悪いなぁ」
少女はあどけない笑みを浮かべ、困ったように首をかしげる。
「あたしは、みんなを救いたいだけなんだ」
「それで、僕を気絶させて、ギロチンにかけるっていうのか」
「気絶じゃないよ、眠らせただけ。あたしがあげたお花、覚えてる? あれは『ゆめみのはな』って言って、ラリホーとかと同じ効果があるんだって」
「そういうことを聞きたいんじゃないんだよ」
「……ねぇ、エイト。あたし、どこまで話してたっけ? 確か、夢の世界の話のことは、してたと思うんだけど」
ころころと表情が変わる、年相応の少女の姿と声に、エイトは違和感を深く強めながらも、頷いた。
「人の夢を具現化した世界があった。そこではまた、人々は現実の世界と違う人生を営んでいた、って」
「そう。そして、それを成し遂げていたのが、あのデスタムーアなの。奴は人々の夢を振り回して、絶望や欲望に満ちた自分の世界に閉じ込めようとした。許されることじゃないわ」
「そう、か……それなら、それならなおさら、奴の言いなりになっていてはだめだろう! 殺し合いなんて……」
「うん、そうだね。あいつらならきっとそう言うね。前のあたしもきっとそう言ったと思う。でも、だめなの。だめなんだ」
ふっと、少女の笑顔に陰りが生まれる。それはエイトがこの少女に出会ったとき初めて見た愁いと同じものだ。
「たまごは割れたのに……希望の未来は、生まれたはずだったのに……奴は、蘇ってしまったのよ」
「たま、ご?」
「ゼニス城でたまごが孵って、生まれたものがなんだったのか、あたし覚えてないの。気がついたらあの広間で、目の前にはまた、デスタムーアがいた……あのグレイス城で見たように、あたしたちは終わらない悪夢の中にいるのかもしれないわ」
「ゼニス……グレイス……? バーバラ、君はいったい……」
己が首に浮かぶギロチンのことも忘れ、エイトは懸命に首に身を乗り出そうとするが、俯いた彼女の表情を伺うことは叶わなかった。
「……ううん。こんなの、きっと夢ですらない。夢も現実もごちゃまぜにして、人の心を閉じ込めた、ただの牢獄でしかない。だけど、これが……たまごから生まれた、あたしたちの未来だったなら」
歌うように紡がれる少女の言葉は、最早エイトの方へと発されてはいなかった。ただ血なまぐさい空へと溶けて、冷たい風とともに霧散する。
「生きて夢を見る限り、人は絶望や欲望にまみれた狭間の世界を、生み出してしまうのかも、しれない」
「君は、どうしたいんだ……? どうするつもりだ?」
遮るようにして発されたエイトの問いかけに、しかし責めるようなまなざしを向けるでもなく、バーバラは優しく笑いかける。
「言ったでしょ。あたしはみんなを救いたい。人の心がなんどもなんども踏みにじられるのを、終わりにしたい」
「それは……」
「最初に救ってあげる。エイト。あたしの魔法力で、からだが死んだ後も、夢の世界で生きるようにしてあげる」
エイトの背筋を悪寒が、せきとめられていた土石流があふれだすように、一気に駆け出した。
「わかったんだ。カルベローナはそのために、夢の世界で生きる人の心を守るために、あの世界で生き続けた」
「……バーバラ」
「ちょうどいいよね。そうやって、あの部屋にいたみんなのことも救ってあげて、そしたらこの世界では『優勝』になるんでしょ? ついでにデスタムーアも倒しちゃえばいいんだよ」
「バーバラ、聞いて」
「そうして、全部なくなっちゃえば……あとは夢の世界で、みんなも幸せに暮らしていけば」
「バーバラ……ッ!!」
エイトが掠れる声を必死で絞り出すと、夢見るような口調で一人語り続けていたバーバラは、きょとんとした顔でエイトのほうへと向き直る。
――違う、違う。エイトは歯噛みする。こんなつくりものの表情に、少女の本心は映し出されていない。
隠しきれないほどの愁いを、どうすることもできない絶望を抱えたバーバラのほんとうの願いはいま、こんな夢物語のなかに宿ってはいないはず。
「だめだ……そんなことをしては、だめだ」
「エイト?」
下手なことを言えば、飛ぶのは自分の首だ。あの部屋で見た首輪の爆発とは違う、もっと直接的なギロチンの刃という狂気に断たれて、生きた首を落とされてしまうのだろう。だがそれでも、目の前で苦しむ少女を放っておくことは、エイトにはできなかった。
彼女の心に声を届けるべく、必死に声を選び、振り絞る。
「人は……人は、生きているからこそ、夢を見るんだろう? 君のはなしが本当だったとして、夢の世界というものがあったとしても、根底にあるのはきっと、人の『命』だ。生きていこうとする力だよ」
「……いの、ち」
「そんなに簡単に諦めちゃだめだ。君はそんなことを望んではいない。現実世界で、君の仲間や、愛するひとたちと生きていくことが、君の本当の希望だったはずだ。そんな風にして見る夢こそが、ほんとうに幸せなものなんじゃないのか!」
ギロチンの恐怖に震える中で、どうか届けと必死に振り絞ったゆうき。
しかし、はじめは呆けたように聞いていたバーバラは、やがて再び哀しげに眉をゆがめる。
「……叶わない。そんなこと、叶わない」
「でも」
「知ったようなこと言わないで。現実に生きていくなんて……『命』なんて。あたしには、あたしにはそんなの、はじめから無かったの!!」
激昂する様子とは裏腹に、少女の小さな手が、おぼつかない様子で静かにギロチンに伸びていく。
全身を早鐘のようにめぐる血の脈動が、息をすることも困難なほどに駆け回り、エイトに命の警鐘を知らせていた。
「やめ、ろ……やめるんだ」
「今はわかってもらえない。あいつも、みんなも、あたしが裏切ったってきっと思う。けど、それでもいいの。たまごから生まれた未来を知っているのはあたしだけだから」
「君は、きみ、は、」
「エイトは、少しだけあいつに似てるね。この手で救えて、うれしいよ」
「バ……あ、あ……」
「うれしいから……あたしの本当の名前、教えてあげるね」
ギロチンの刃の傍らで、血と同じ色の髪を垂らした少女は、静かに微笑む。
「あたしは、大魔女バーバラ」
彼女の髪の色と同じ色が、断末魔の絶叫とともに、水溜りのように彼女の足下を覆っていく。
牢獄の町が、すこしの狂気に包まれた。
「魔女バーバレラの血を受け継ぐ者よ」
【A-4/牢獄の町 処刑場/午前】
【エイト(DQ8主人公)@DQ8 死亡】
【残り55人】
【バーバラ@DQ6】
[状態]:健康(HP満タン)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式 ゆめみのはなセット(残り9個) かわのムチ
エイトの不明支給品(0〜2)
[思考]:参加者を自分の手で殺害 優勝してデスタムーアを倒す 絶望
※ED直後からの参戦です
投下乙です
初代では生還したエイトがいきなり脱落か……バーバラこええ
戦って負けるではなく、ギロチンで処刑されるとか背筋がゾクッとした
お二方投下乙です!
ヤバイ、ヤバイ、ヤンデレチックなキャラが二人も現れやがったぞ! 一人じいさんだけど!
順序がやや入れ替わる形になりますが、代理投下しておきたいと思います
全ては終わったはずだった。
同盟国だったムーンブルクの陥落をきっかけに行われた邪教の教祖であるハーゴンの討伐。
それが僕の……僕たちロトの血を引く勇者たちの旅の目的だった。
魔物に脅かされた世界の平和を取り戻す為に。滅ぼされたムーンブルクの民の無念を晴らす為に。
サマルトリアとローレシアの陥落を防ぐ為に。
でも僕にはそんなのどうでもよかったんだ。
僕が生まれたサマルトリアの国。ロトの子孫が作った国。
それなりに活気に溢れていて国民にも十分な温情が与えられている。
ごくありふれてどこにでもあるような一般的な国だと思う。
ロトの勇者への狂信を除けばだけど。
そんな国に僕は長男、王位を継ぐものとしてこの世に生を受け、いずれは王の座を継ぐものとして僕は様々な英才教育を施された。
帝王学、魔術、剣術、マナー……数えきれないくらいに学ばされた。
その過程で僕はどの分野もそつなくこなすことができ、周りからはすごく期待されたものだ。
魔術も使え剣術もできる理想の英雄。
それが幼少の僕の肩書きだった。
そんな肩書きは、すぐに無くなってしまうのだけれど。
十歳になる頃だったかな。
他の子孫――ローレシアとムーンブルクで生まれたロトの子孫は元々備えていた才能をメキメキと発揮させているという噂が流れたのだ。
ローレシアの王子は剣術、ムーンブルクの王女は魔術。その分野で頂点をとれる才覚だという話を僕は聞いた。
そして、その話を聞いて父上は僕に今までの稽古以上を求めてきた。
きっと、悔しかったのだろう。他の子孫がロトの子孫として英傑の一歩を歩み始めているのに――――僕には何もなかったから。
当時の僕は剣術、魔術……両方の才能がなかったのかイマイチ伸びなかっただったのだ。
かと言って政治、芸術に秀でていた訳でもない、俗に言う何にも秀でない凡人。
一般的に見るとどれも悪くはないけれどロトの子孫としてみれば落第点、とてもほめられたものではなかった。
こんなはずじゃなかった。
もっと真剣に取り組め。
本当にロトの子孫なのだろうか。
口々に僕を罵る声が聞こえた。父上が、母上が、剣術、魔術の師が。
うるさいうるさい。そんなの知ったことか。
僕だって好きでロトの子孫になったわけじゃないのに。勇者になりたいわけじゃないのに。
なぜ一番にならなくてはいけないのか。なぜ戦わなくてはいけないのか。
癇癪のように叫んだものだ。
だけど尽きぬ疑問を晴らす機会は存在しなかった。
一に勇者、二に勇者、三に勇者。周りが僕に言うのは立派な勇者になれ、ロトの血に恥じぬ行いをしろ。そればっかりだった。
僕の選択肢はロトの子孫にふさわしい勇者となるための修練をひたすらに積む道しかなかった。
普通に学校に行って友達と遊んで笑いあう機会もなく。両親に人並みの愛情を注がれることもなく。
僕は、普通に暮らしたかっただけなのに。僕が本当に欲しかったのはありふれた日常だったのに。
僕の抱く理想とは逸脱して大人達からは叱咤が飛び、侮蔑の視線が突き刺さる。
城内ではよく言われたものだ、期待ハズレのカインだって。
その呼び名を聞いて鼻で笑ってしまったものだ。
勝手に期待しておいてどんな言い草だ。背負いたくもない期待をなぜ僕に押し付けるんだよ。
僕という存在には勇者というシンボルマークしかないの?
それに気づくことはある種必然だったのかもしれない。だってさ、僕個人を見てくれる人なんて誰も居ないんだし。
誰も彼もがロトの血をひく王子というレッテルでしか見ないんだから。
父親、母親、国民。
“ただ一人を除いて”誰もが僕を勇者に仕立て上げる気だ。
トの血なんてくだらないものが僕から未来を奪っていったんだ。
いつしか僕は何をするにも愛想笑いをしてごまかすことで日々を過ごすことに慣れていった。
少なくとも笑っていれば不要な怒りを買わずに済むから。何かに反発してもどうせ仕置と称して受けるはずのない罰も受けるだけだから。
誰と話してもカインとして認めてくれないから。
光の先にあったのは闇だった。もう今は思い出せない僕の本当の表情。
偽りの仮面をかぶりただ人形のように大人達の言うことを聞いてるのが一番楽だから。
外へ逃げ出すことも考えたけど僕は即座に却下した。僕の理解者を置いて逃げるなんてできない。
加えてお金も武力もないのに二人旅なんて無理だって僕の頭は残念ながら理解していたんだ。
幾ばくかの可能性にかけても何も出来ずにのたれ死ぬだけだ。
道化のように振舞っている内に期待はずれとは別にのんきものとも呼ばれるようになった。
何をするにも愛想だけはよくて気長。期待はずれとは裏腹に悩み事や苦労がないみたいだと。
傍から見ればそんな風に見えるだろうけど僕からすると真っ赤の嘘だ。
どうせ本気を出しても僕の評価は変わらない、二言目にはローレシアの王子は、ムーンブルクの王女はもっとできる。
そのような言葉が出るのはわかりきっていたからだ。
数年後、ムーンブルクが魔物の手によって陥落した。
王、国民は死に、王女は行方不明だという伝令がサマルトリアに届き、国中が大騒ぎになった記憶がある。
これを受けて王はローレシアの王子と協力して速急に邪教の教祖、ハーゴンを討ち取れと僕に命じた。
未熟者であるお前でも盾ぐらいにはなるだろうって言葉を捨て台詞に残して。
そうして僕はハーゴン討伐の旅に無理矢理追い出されてしまった。やる気なんて端からある訳がない。
とりあえずローレシアの王子でも適当に捜そうと僕は勇者の泉やローレシアに行ったり、リリザの町でのんびりと過ごしたりしていた。
「お前、カインだよな?」
宿屋で食事を取っていた時にいきなり声をかけてきたバカそうな奴。
僕の名前を知っている、かつ一人旅でサマルトリアで見かけなかった。
このことから導き出されるのは――。
「いやーさがしましたよ」
ローレシアの王子以外思いつかなかった。なんて、運が悪い。
彼も僕と同じくハーゴン討伐を命じられたらしい。
僕とは違って剣技の才能に恵まれたんだ、たいそうな期待を込められているだろう。
それを思うと胸がチクリと針が刺さったかのような痛みを覚えた。
これは、なんだ。このなんともいえない、そして気持ちが悪いものは。
まさか、嫉妬している? 期待外れのカインが?
滑稽にも程がある。くだらない、今更何を嫉妬するというのだ。
僕は誰にも理解されないし、理解されるつもりもない。
何もかもが遅すぎるのだ。過ぎ去った年月はもう巻き戻せないし新たに手に入ることもないはずだ。
この旅も可能性としては成功しない確率のほうが高いのだ。下手な希望を持つとまた打ち砕かれる。
その後、ローレシアの王子――もょもととの二人旅となった。
途中で適当に逃げ出そうと思って実行したけどいつの間にかに彼は背後に立っているのだ、化物かよ。
そして、その言葉があながち間違いでないと知ったのはモンスターとの遭遇で痛いほどわかることになる。
彼は戦闘に入ると彼は瞬く間にモンスターを破壊していったのだ。
僕が出る隙なんてなかった。旅をするのにはそれなりの強さがいるから僕も戦ったけど彼とは比較にならないだろう。
それはそうだ、僕は彼と違って期待外れなのだから。期待通りとは違うのだ。
旅の途中、犬に変わっていたムーンブルクの王女――ルーナを救って三人旅になった。
彼等とは上辺だけの付き合いであり絆などなかった。城にいた時と同じ、のんきものの仮面をつけて表面上はにこやかにしていたはずだ。
昔は仲が良かった気がするがそれも今は思い出せないし別に思い出す必要性も感じられなかったし。
続く旅の中、僕はベラヌールという町でハーゴンの呪いにかかって死にかけた。
何もない人生の終わり。まあこれはこれでいいのかな、そう思った。
僕が死んでもどうせアイツ以外悲しまないだろうし。ああ死んだのか、そんな感じでサマルトリアでは噂になることだろう。
同じく旅をしていた二人にも置いていけと言った。助けてもどうにもならないよって。
これは真実そのものだ。剣技ではもょもとには敵わないし魔術ではルーナがいる。
子供でもわかる、僕はいらないって。彼らだって内心、僕のことを必要とは思っていないだろう。
僕を助けるメリットが存在しないもの、生きる確率はゼロだ。
だけど結末は違った。彼等は僕の呪いを解く為に世界樹の葉なんて貴重なものを持ってきたのだ。
僕が考えていた理論とは全くの辻褄が合わない。この疑問は未だに解決ができず迷宮入りしている。
なぜ、と問いかけても「仲間だから当然」というありきたりな答えしか返ってこない。
そんなこと露程もおもっていないくせによくもほざいたものだ。
その後は至って簡素なものだ。僕達は中断していた旅を再開して敵地であるハーゴンの神殿でハーゴン、復活した邪神シドーを討滅して旅は終わったはずだった。
失われた平和がこの世界に戻り、人々は歓喜の渦に包まれるというハッピーエンドだ。
たぶん、存分に美化されて御伽話にでもなるのだろう。僕にとってはくだらなくて唾でも吐きたい気分だけど。
そうして各国を凱旋してローレシアでの祝勝会が終わった矢先の出来事が今現在の僕が巻き込まれている殺し合いだった。
最後の一人になるまで生き残るというふざけたゲーム。
その主催者である大魔王デスタムーア。最初の説明の場で強大な重圧を巻き起こしたクソジジイ。
もょもとレベル、いやそれ以上の化物なのかもしれない。
「凡人たる僕を巻き込むなんてどこの喜劇だろう……本当に」
そんな戯言を言ってる場合ではなく僕は行動しなければならない。
何としてもアイツと一緒に生きてこの世界から抜けださないといけないのだ。
手に入れるはずだった普通をもう一度掴む為にも。
だからといってデスタムーアと対峙するだなんてやっていられない。化物は化物同士で殺しあっていればいい。
幸いなのか、不幸なのか。どちらの判断を下せばわからないけどこの世界にはもょもと、ルーナがいる。
彼等なら情に訴えれば必要とされていなかったであろう僕でも協力してくれる可能性がある。
僕みたいに心の中で何を思っているかわからないから決して信用はしないけど。
ハーゴンは論外。僕は敵対していたのに加えて直接手を下したのだ、手を組んでくれる可能性はないだろう。
竜王の曾孫はいまいち読めない。一応人柄はそれなりにいい印象があるがもょもと達と同じく詳しくはわからない。
まあ、手を組むことに戸惑いはないけれど。
「リア…………」
僕のたった一人の理解者、アイツ、妹。
リアだけは僕の本当の姿を知っている、愛してくれている。
あの約束の夜、僕たちが誓ったものは殺し合い程度では崩れはしないだろう。
例え、もょもとやルーナを犠牲にしてでも僕はリアと一緒にここから脱出してみせる覚悟はある。
やっと自由になれるかもしれないんだ。普通の暮らしができるかもしれないんだ。
凡人ではあるけれども何とか生き抜いていけるくらいに強くなったのだ。
サマルトリアなんて牢獄に篭らずに外の世界でリアと一緒に生きていける。
家族も国も国民も過去の残影として捨て去ることができるのだ。
自由を手に入れるのだろう? 普通を手に入れるのだろう?
他者を蹴落とすことを迷うな。
「さてと、行こうか」
少しばかりの時間を思考に費やしたがいつまでもここでじっとしている訳にはいかない。
こうしている間にも機会はなくなっていく、行動は迅速に――全ては脱出の為だけに。
麻の袋に入っていた剣を腰に差して僕は歩き始めた。
「生き残る為の第一歩を」
◆ ◆ ◆
全ては始まったはずだった。
お兄ちゃんがハーゴン討伐の旅に出立しどれだけの時間が過ぎたのだろうか。
大体一年半ぐらいはあった気がする。
私がハーゴン討伐の報告を受けて最初に思ったのは破られた平和の再来でもなくもう魔物に脅かされずに国が繁栄する未来でもなかった。
お兄ちゃん。やっと、お兄ちゃんが帰ってくる。
ただ、それだけが私の幸せだった。
だって私の世界にはお兄ちゃんしかいない。誰も、誰も私を見てくれないんだもん。
その理由の魂胆にあるのはやっぱりロトの血だった。
私の生まれた国、サマルトリアはロトの子孫の血をひくといった特徴以外は何もない国だった。
国民は普通に笑って怒って怖がって哀しんで。そんな普通の国。
ただひとつ、ロトの血を受け継いだ勇者というものに狂信的であることを除いて。
それ故に勇者の資格なき私には誰も見向きをしなかった。だって、もうお兄ちゃんが後継者としているんだもの。
加えて私は女として生まれたから特に厳しかった。武術も使えずに政略結婚にしか使い道がない。
ムーンブルクでは女の子しか生まれなかったから差別の風潮はなかっただろうけど。
そう見られていることが周りからは態度で示されていた。
お父様やお母様は私を乳母に預けたっきり顔を見せなかったらしいし、周りの人達も私には期待なんてしていなかった。
私はこの世界で本当に一人ぼっちだった。誰もが皆出涸らし娘としか見ない。
だからこそ昔の私はお兄ちゃんが憎かったんだ。
みんな、お兄ちゃんしか見ない。お兄ちゃんの言葉しか聞かない。
どうして私を見てくれないの? どうして私と話してくれないの?
お兄ちゃんが私が手に入れるはずだったもの、全部持っていったんだ。
だから、昔の私は考えたのだ。お兄ちゃんがいなくなってしまえばいいんだ、殺しちゃえばいいんだって。
そうしたらみんな私のことを見てくれるかもしれない、そんな淡い希望を込めて。
深夜、幼い私はお兄ちゃんの部屋に忍び込んで――殺す。
簡単だ、私がどう行動しようが誰も気にもとめないんだもの。妹が兄の部屋に行くのに何の疑いを掛ける必要がある?
もう、お兄ちゃんを殺すことでしか私は生きていけないんだ。
そう、思っていた。
お兄ちゃんがベッドの上で苦しんでいるのを見るまでは。
いつものほほんと笑っているお兄ちゃんが、泣いている? 苦しんでいる?
それを見た私の頭は真っ白で、何も考えられなくて。
「バレちゃったか……」
そこにはいつも通りのお兄ちゃんが、いや違う。いつも通りの仮面をかぶったお兄ちゃんが優しい笑みでいたんだ。
そうしてお兄ちゃんは私に色々と語ってくれた。
期待外れのカイン、どれだけ努力しても認めてくれない、誰も僕の本当の気持ちを知ってくれない。
愚痴は次から次へと溢れでてきた。
そして、真実はこうだ。
ただ勇者になることだけを強要されたお兄ちゃん。
ただ人形のように黙っていることを強要された私。
私達には、翼がない。鳥籠に閉じ込められた小鳥だった。
嘘だよ、こんなの。どうして、私もお兄ちゃんもロトの血ってだけで苦しまなくちゃいけなかったのよ。
お兄ちゃんと私に味方なんて――――いるじゃない。
お兄ちゃんには私が、私にはお兄ちゃんが。
思考が急速に回転していく。綺麗サッパリな頭は私とお兄ちゃん以外の不純物を駆逐していく。
そして私が導き出した結論は、簡単簡潔でごくありふれたものだった。
「ねっ、お兄ちゃん。やくそく、しよう?」
私たちは――約束したんだ。
「ずっと、ずっと死ぬまで私達はいっしょにいよう」
ずっと、ずっと一緒にいよう、ただそれだけ。例え周りが認めてくれなくても、何を犠牲にしてでも――一緒にいよう。
勇者を強いるお父様もお母様も城内の兵士さんも料理を作ってくれるコックさんも私を育ててくれた乳母の人も城下町の人達もいらない。
私とお兄ちゃんだけがいればいい。
この汚くてどうしようもない世界で、私はお兄ちゃんだけを見る。
だから、お兄ちゃんも私だけを見て。私だけと話して。私だけを愛して。
それが一番だよね、お兄ちゃん?
大事なのは私の本当の姿を愛してくれるお兄ちゃんだけだから。
そう、愛しているからこそ一緒に死んで欲しい。
だってそうでしょ? この殺し合いは最後の一人になるまでしか生き残れない。
ということは私とお兄ちゃんのどちらかしか生き残れないんだもん。
じゃあ二人一緒に死ぬしかないじゃない! それが、たったひとつの冴えたやり方だよ。
きっと、絶対そうなんだ。未来なんてもう、私達にはないんだから。
それしか――――もう道はないんだよ。
1746 名前:Eternal promise ◆1WfF0JiNew[sage] 投稿日:2012/04/05(木) 01:49:04 ID:???0
状態表忘れてた…!
【C-7/平原/朝】
【カイン(サマルトリアの王子)@DQ2】
[状態]:健康
[装備]:プラチナソード
[道具]:支給品一式 支給品×2(本人確認済み)
[思考]:妹と一緒に脱出優先という形で生き残る。
※レベルは45に到達しています。
【E-2/森/朝】
【リア(サマルトリア王女)@DQ2】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:支給品一式 支給品×3(本人確認済み)
[思考]:お兄ちゃんと一緒に死ぬんだ♪
続いて◆CASELIATiA氏の代理投下いきます
ホンダラさん、それはグランエスタードが誇る最終兵器である。
誰よりも強く、誰よりも優しく、誰よりもお金持ち。
そんなホンダラさんは、エスタード島のみんなに引っ張りだこ。
ボルカノが金の無心にくれば、ポンと気前よく100万ゴールドを渡すほどの太っ腹。
甥の少年にこういったアイテムがないかと聞かれれば、即座に出す物持ちの良さ。
伝説の英雄が封印された温石レベルの財宝なんて、ホンダラさん自身も忘れるほどたくさん所有してます。
歩くたびに地面に花が咲き、海が割れて金が降ってくるほどの美しさ。
グランエスタードの女性はみんながホンダラさんに夢中。
「今日は私と付き合って、ホンダラさん!」
「いいや私よ!」
「何よ引っ込んでなさいよ、この泥棒猫!」
「アンタの方が泥棒じゃないのよさ!」
正直、女に不自由してないホンダラさんにとっては、こういうやり取りは日常茶飯事なだけにうっとおしいです。
「やれやれだぜ……」それがホンダラさんの口癖です。
バーンズ王は政治の問題に直面すれば、度々ホンダラさんの元を訪れ知恵を借ります。
その度に、お前もまだまだだな、と呆れながらも優しくアドバイスするツンデレっぷり。
こんな風にみんなに慕われているホンダラさん。
全盛期のホンダラさんときたらもう、すごすぎてここに書ききれないほどの量の偉業を打ち立てています。
世界を救ったのも一度や二度ではありません。
詳しい偉業の内容を知りたい人は今すぐグーグル先生に尋ねてみよう。
さて、そんなホンダラさんがこんなバトルロワイアルに放り込まれたとあれば、黙ってられません。
DQBR2nd最終話 『希望を胸に、すべてを終わらせる時』
ホンダラさん「チクショオオオオ!くらえムドー!ギガスラアアアアアアッシュ!」
ムドー「さあ来いホンダラ!実はオレは一回刺されただけで死ぬぞオオ!」
(ザン)
ムドー「グアアアア!こ このザ・フジミと呼ばれる四天王のムドーが……こんなおっさんに……バ……バカなアアアアアア」
(ドドドドド)
ムドー「グアアアア」
【ムドー@DQ6 死亡】
ジャミラス「ムドーがやられたようだな……」
グラコス「フフフ……奴は四天王の中でも最弱……」
デュラン「人間ごときに負けるとは魔族の面汚しよ……」
ホンダラ「くらええええ!」
(ズサ)
3匹「グアアアアアアア」
【その他×3@DQ6 死亡】
ホンダラ「やった……ついに四天王を倒したぞ……これでデスタムーアのいる城の扉が開かれる!!」
デスタムーア「よく来たなソードマスターホンダラ……待っていたぞ……」
(ギイイイイイイ)
ホンダラ「こ……ここが敵の本拠地だったのか……!感じる……デスタムーアの魔力を……」
デスタムーア「ホンダラよ……戦う前に一つ言っておくことがある。お前は私を倒すのに『ホットストーン』が必要だと思っているようだが……別になくても倒せる」
ホンダラ「な 何だって!?」
デスタムーア「そしてお前の家族はなんか世話するのが面倒になったんで最寄りの町へ解放しておいた。あとは私を倒すだけだなクックック……」
(ゴゴゴゴ)
ホンダラ「フ……上等だ……。オレも一つ言っておくことがある。このオレに実はたくさん借金があるような気がしていたが別にそんなことはなかったぜ!」
デスタムーア「そうか」
ホンダラ「ウオオオいくぞオオオ!」
デスタムーア「さあ来いホンダラ!」
ホンダラの勇気が世界を救うと信じて……! ご愛読ありがとうございました!
【DragonQuestBattleRoyale2nd Fin】
アクバー「……あれ? 私は?」
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃ ここまで妄想 ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃ ここから現実 ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
その頃、ホンダラは温泉に入って完全に気力を失っていた。
【F-1/ヘルハーブ温泉/朝】
【ホンダラ@DQ7】
[状態]:泥酔
[装備]:なし
[道具]:酒@現実 支給品一式 支給品(未確認)
[思考]:あぁ〜極楽だぁ〜。
【ヘルハーブ温泉】
原作通り、意志の弱かったりレベルの低いものが入ると気力を失い、身も心も骨抜きになる。
どのくらいの強さの意志なら正気を保てるかは不明。
代理投下します。
ああ、一度でいいから死ぬ前に……してみたかったな。
***
マーニャが目覚めると、そこは森の中だった。
ふくろに入っていた時計を確認する。現在の時刻は朝。
それにしては辺りはまだ暗い。密集した木々のせいか、はたまたこの世界特有の空模様のためかは、わからないが、
しかし、何にせよ、視界が悪すぎる。
(死ぬなんてゴメンだわ。けど殺し合いなんてのも、冗談じゃないわ)
だけど、じゃあ、どうしたらいいのかしら?
こっちにはその気がなくても、やる気満々の誰かが襲ってくることは充分に考えられる。
その時は――容赦なんてできずに、ゴメンナサイネ、なことになってしまう、かもしれない。
とにもかくにも、自分の攻撃手段といえば呪文以外の取柄はなかった。武器を構えて戦うことには慣れていないのだ。
もしそのような状況に陥った場合、身動きの取りづらい場所では接近されたときに対抗するすべが無い。
(とりあえず、もう少し見通しの良い場所に出たいわね)
詳しく考えるのはそれからにしよう、とマーニャが歩き出したとき、草場の陰に人の気配を感じた。
(誰かいる――女の子? えっ、ちょ、ちょっと待って!)
こっそり様子を窺うと、なんとその少女は自分の喉元にナイフを向けていた。
「ちょっとアンタ、何してるのッ!」
「イヤぁ! 離して! 邪魔をしないで!!」
髪を振り乱し錯乱する少女の腕を抑え、その顔にマーニャは平手をお見舞いした。
握っていたブロンズナイフが地面に落ちると、少女は抵抗をやめてその場にへたり込む。
辺りに他の者の気配は無い。どうやら一人のようだ。
マーニャは一つ溜息をつき、刺激しないようゆっくりと少女のそばに歩み寄った。
「まさか、自殺、するつもりだったの? どうして、そんなこと」
「だって……嫌になったの。もう何もかも」
「なにもかも、って?」
少女がぽつりぽつりと話しだす。
マーニャは寄り添い、その小さな肩を優しく撫でた。
そして、さっきまで他人を警戒することを考えていたにも関わらず、
この見も知らぬ少女の話に根気よく付き合ってやろうと思った。
何故なら、なんとなく、本当になんとなく、似ていると感じたのだ。目の前の少女は、見た目は全然違うけれど、自分の妹に。
(ミネア。こんなことになってしまって無事でいるのかしら。心配ね。
まぁそれはさておき、今はこの子をなんとかしないと。
弱ってる女の子を放っておくなんて、あたしのガラじゃないわよね)
――そしてマーニャは少女の身の上話を一通り聞いた。
父親が殺され、国が滅ぼされたこと。
呪いをかけられ、犬の姿に変化させられたこと。
悪しき神官と邪神を討つために、過酷な旅を続けたこと。
ようやく悲願を果たし、国の復興を目指そうとした矢先、
こうしてわけのわからない殺戮の場に駆り出されたこと。
倒した筈の仇の名が、参加者名簿に載っていること。
「ぜんぶ無駄だったの。私のしたことなんて、何にもならなかった。
だから、どうせ死ぬのなら、自分で見切りをつけようって、そう思って」
そこまで喋ると少女は膝を抱え泣きだした。か細く、必死に堪えるように。
それを見てマーニャは、ああ、この子は泣き方を知らないんだなあ、ちゃんと泣いたことがないんだろうなあと思った。
「あなた、真面目チャンなのね」
「どういうこと……?」
「わかるのよ。やっぱりあたしの妹に似てる。
目の前の世界が全てだって思いこんで、必死に今まで闘ってきたのよね。
ああしなきゃ、こうしなきゃって自分を追い込むことで、道を作ってきたんでしょう?」
少女は肩を震わせた。
マーニャは困り顔で微笑んだ。
そうなのだ。世の女の子の中には、この少女のようにとてもとても真面目で、頑固で、不器用で、潔癖で、張り詰めていて、
泣くことも甘えることも頼ることもうまくできない、そんな子が少なからずいることをマーニャは知っていた。
そしてそんな子には幸せになってほしい。そう思ってもいる。
だから、慰めるのだ。
「でも、もったいないわよ? だってホラ、――こんなに可愛いのに」
言って、マーニャは少女の頭巾を取り去った。
この異世界でのくすんだ朝日にはもったいない金色が、あふれ出た。
「ふふ、キレイにしてるじゃない。
女の命っていうけど、髪の手入れってホント大変でしょうがないわよねー。
ねえ? あなたと一緒に旅をしてたっていう男の子たち、その辺のことに全く気がつかなかったのかしら?」
***
バカな子たちね、なんて仲間の悪口を言われて、けれど少女はどうしてか悪い気がしなかった。
仲間として、王女として、今まで多くの人に労わってもらい助けられてきたことは確かだったけれど、
こうして――そう、こうして女の子扱いをしてくれた人なんて、一人たりともいなかったのだ、自分自身も含めて。
一度でいいから、恋を、してみたかった。
特別な使命など何も持たない、ありふれた普通の女の子として、"恋する少女"になりたかった。
***
「私の支給品……」
「ん?」
「これ……結婚式のときにつけるのよね、花嫁が……私も……つけて、みたかったな」
「あらいいんじゃない? 女の子みんなの夢だもの。ね?」
「でも、こんな首輪を填めたままじゃ、似合わないかな」
そこから先は、一瞬の出来事だった。
「ありがとう――あなたに会えて私、うれしかった」
いつの間にか拾い上げられたブロンズナイフ
少女はそれを自分の首にあて思い切り引いた
鮮血が噴き出し
整えられた金髪と綺麗なシルクのヴェールとを赤く染めた
やがて体は力を失い倒れ伏し
それきり静止した
マーニャは目の前の惨状に、声を出すことすらできなかった。
【あきな(ムーンブルク王女)@DQ2 死亡】
【残り55名】
【F-5/森林/朝】
【マーニャ@DQ4】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:不明(1〜3)、基本支給品一式
[思考]:ゲームには乗らないが、向かってくる相手には容赦しない あきなの死に呆然
※あきなの支給品:ブロンズナイフ、シルクのヴェール@DQ5、水のリング@DQ5、基本支給品一式
生存者数確認しときます
5/6【DQ1】○勇者/○ローラ姫/○竜王/●ゴーレム/○ドラゴン/○影の騎士
5/6【DQ2】○ローレシア王子/○サマルトリア王子/●ムーンブルク王女/○サマルトリア王女/○竜王の曾孫/○ハーゴン
5/6【DQ3】●男勇者/○女賢者/○女武闘家/○男魔法使い/○オルテガ/○バラモス
6/6【DQ4】○女勇者/○アリーナ/○マーニャ/○ミネア/○シンシア/○ピサロ
6/7【DQ5】○主人公/●デボラ/○フローラ/○ビアンカ/○王子/○王女/○スライムナイト
5/6【DQ6】○主人公/○バーバラ/●ハッサン/○テリー/○ミレーユ/○キラーマジンガ
6/6【DQ7】○主人公/○マリベル/○アイラ/○キーファ/○ガボ/○ホンダラ
5/6【DQ8】●主人公/○ゼシカ/○ヤンガス/○ミーティア/○ドルマゲス/○ククール
6/7【DQ9】○女主人公/○リッカ/○サンディ/○エルギオス/○イザヤール/●ギュメイ将軍/○ルイーダ
4/4【 J .】○ムドー/○ジャミラス/○グラコス/○デュラン
53/60
で、現在残り53名ですね。
代理投下ありがとうございます。
生存者数を訂正し忘れてました。すみません
ムーン王女の名前はパラレル設定ではなく同一人物です
サマル話の作者さんが後であわせますとおっしゃってくださったので、
それに甘えさせていただきこのようにしたいと思います。ご意見あればお願いします
59 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/04/06(金) 03:28:57.50 ID:Bl+i69DW0
エイトやムーン王女の脱落早すぎ
ほとんどが勇者パーティからの参加だから仕方ない
面白い実に面白い
「殺し合い……そんな、せっかく暗黒神も倒して世界に平和が戻ったのに……」
ゼシカは歯噛みする。
あのデスタムーアという魔族は、かの暗黒神ラプソーンかそれ以上の禍々しさを感じる。
そしていきなり首輪をつけられ、殺し合いを強制されている。
唐突すぎて、未だに実感がわかない。
だが、それでもこれは現実なのだ。
鈍く冷たい感触を首筋に伝えてくる拘束具がそれを教えてくる。
渡された袋の中には名簿が入っていた。
知らない顔が大半であったが、頼もしい仲間の顔が見える。
そして――
「ドルマゲス!?」
仇敵を目の前にしてゼシカの顔は青ざめた。
ドルマゲスはかつて自分と仲間たちの力によって完全に滅ぼした筈だった。
なのに何故ここにいるのか?
「まさか、本当に蘇ったの? あの大魔王ってのが蘇らせたの?」
だとしたなら放っておくことは出来ない。
仲間を探し、ドルマゲスを今度こそ討ち果たす。
そしてその後はなんとかして首輪を外してこの世界から脱出するのだ。
「デスタムーアなんかの思い通りになんて絶対にさせるもんですか!!」
「良い答えだ」
ゼシカの決意に呼応する声があった。
振り向くとそこには青白い肌をしたローブ姿の男。
だが彼から放たれる魔力は明らかに人のものではなかった。
「誰なの?」
「名乗りもせず誰何とは無礼者め。だが今回は特別に許そう。
我が名は竜王。王の中の王、竜王じゃ」
「竜……おう?」
ゼシカの脳裏にエイトの、竜神族の姿が浮かぶ。
そういえば魔力こそ攻撃的ではあるが、その身にまとう雰囲気はどこかしらエイトたちに似ていなくもなかった。
「あなた……竜神族なの?」
「ふむ? よく解らぬが興味深いな。ワシは己の出生を知らぬ。
だがそろそろお主も名乗るべきではないか。特別も度が過ぎると無効とせざるを得ぬぞ」
「……ゼシカ・アルバートよ」
ゼシカの名を聞いて満足そうに竜王は頷いた。
「ゼシカよ。お主はどうするつもりだ?」
「アイツの言ってた殺し合いゲームなら乗る気はないわよ。絶対にこの首輪を外して脱出してやるんだから」
「その意気やよし。どうじゃ、ワシと組まぬか? お主は素質に溢れておる」
竜王が手を差し伸べてきた。
だがゼシカはその手を取らずに逡巡する。
「初対面でいきなり口説かれるのは初めてではないけど、状況が特殊だわ。
おいそれと信用できないわね。後ろから斬られちゃたまんないモノ」
「道理じゃな。どうすれば信用する?」
「まずはあなたの考えを聞かせてくれるかしら? いえ、その前にあなたの道具を見せて頂戴。
もちろん私も見せるわ」
「よかろう」
ゼシカと竜王は一旦距離を取るとお互いの袋の中から支給された道具を取り出した。
ゼシカは草・粉セット。両手で抱えるくらいの袋に様々な種類の草・粉が入っている。
知っているものでは上薬草や毒蛾の粉。知らない物では火炎草や惑わし草など本当に様々だ。
竜王のふくろに入っていたものは3つ。
あらゆる魔法を弾き返すというさざなみの杖と、キメラの翼5枚セット、
そして――竜の意匠が施された剣――天空の剣だった。
(あの杖はヤバイわね……もし敵対した時私の攻撃手段が格闘のみになっちゃう)
格闘スキルを極めた彼女だが、やはり得意な戦闘法は呪文による魔法戦闘だ。
短剣スキルもわずかにかじってはいるが、高レベル相手に通用するものではないし何より得物がない。
それにもう一つの武器、天空の剣からは何か聖なる力を感じる。
竜神王の武具に似た感覚が伝わってくるのだ。
「それで、どうするね?」
「杖と剣を渡してもらおうかしら」
「よかろう、それで信用が買えるなら安いものよ」
「!?」
なんと相手の出方を探るための要求にあっさりと応じてきた。
「なぜそんなにあっさりと渡せるの? 武器を得た私が襲いかかるとは思わないわけ!?」
「お主のような美女に襲われるならむしろ本懐よ。それにワシの強さはそんなアイテムに左右されるものではないし
その剣はおそらく認められたものにしか扱えん」
ゼシカの問いに竜王は事も無げに答える。
本当に意に介していないようだ。
(自分の強さに本当に自信があるようね。それに何故か憎めないわ……エイトに似てるからかしら)
「杖だけでいいわ。後は――」
「ふむ、まだ信用されぬか」
「あなたの事を話してくれる? それと何でここまで私に執着するのかも」
竜王はゼシカに向かって軽く杖を投げると、ため息をつく。
「確かに面倒になってきたわ。だが、お主にはそれなりの価値がある……もう少し粘ってみるとしよう」
「なんなのよその価値って」
「後で話そう、まずはワシのことであったな」
竜王は自らの事を語りだした。
かつてアレフガルドの地で魔物の長、竜王として世界を脅かしていたこと。
しかしロトの子孫と名乗る勇者が現れ、無念にも討ち果たされてしまったこと。
「つまりあなたは一度死んで、蘇ってここに来たっていうの?」
「そうじゃ。蘇ってすぐ見たのがあの髭面じゃぞ――不幸極まりないわ」
竜王は深々と嘆息する。
(こんなところに実例が……これはやっぱりドルマゲスも復活してるってことね)
「それにしても許せんのはアレフの奴じゃ!」
「アレフってあなたを倒した勇者の事?」
「そうじゃ! 奴は本当に嫌な奴なんじゃぞ!? ワシがせっかく攫ったローラ姫をあっさりと奪いおって!」
「攫ったあなたが悪いし、そもそも何で手元に置いておかないのよ」
「いや、それは泣かれたからして……まて、危害を加えるつもりはなかったのだぞ? ただ求婚をだな……」
「じゅーぶんな危害よねソレ」
ゼシカの容赦のないツッコミに竜王はわずかに鼻白む。
「酷いのお主……それにじゃ! あ奴は勇者なんてもんじゃない、暗殺者じゃ!」
「どういうこと?」
「アイツは仲間も連れずたった一人で万の軍勢を従えた我が居城に乗りこむと、
蛇のように警戒網を必要最小限の戦闘ですり抜け、ワシの元へ単身現れたのじゃ!」
ちなみに側近の魔物たちはアレフ潜入の報を受けて、そのほとんどを討伐へ向かわせていたという。
その隙をついてほぼ無傷のアレフが現れ、戦いを挑んできたのだ。
慌てた竜王は懐柔策を試みるが、アレフはそれを一蹴。1対1の勝負となったが、
動揺を隠せぬ竜王は全力を出せぬまま必殺の一撃を受けて倒れたという。
「懐柔策って?」
「ワシは女の子いっぱいの明るい世界しか興味なかったからの。必要のない男共と暗い夜の世界は誰かにくれてやっても良かった」
「擁護の価値もない邪悪ね」
なんだか話しているうちに最初は威厳のあった竜王がどんどん崩れていく。
警戒していた自分が馬鹿らしくなってくるほどだ。
「もう、解ったわ……あなたの馬鹿な野望は置いとくとして、デスタムーアをギャフンと言わせるまでは協力しましょう」
「うむ、ようやく我が偉大さを解ってくれたか」
ゼシカは右手を差し出す。
竜王もまた手を差し出した。
両者の腕が触れようとした時、ふと思い出してゼシカは尋ねた。
「そういえば私の価値って何? 素質があるっていってたけど」
「うむ、それはだな……」
確かに自分は大賢者の末裔であのサーベルトという偉大な兄と同じ血を分けている。
魔道の腕も世界屈指と自負しており、竜王が見込むのも当然だと思った。
竜王の差し出した手はゼシカの手を通り過ぎる。
「?」
「これじゃよ」
ふにっ
ゼシカの胸が揺れた。
むに、むにゅう、むにょん
なんと竜王はゼシカの胸を揉みしだいた!
「ブラボー ――ボラブッ」
「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
ゼシカは絶叫を上げ、竜王に渾身のアッパーカットを見舞った。
竜王は天を仰ぎながら宙を舞い、慣性の法則に従って顔から地面に激突する。
「痛いではないか、何をするのだ」
「こっちの台詞よ! いったい何をするの!」
鼻血を抑えながらむっくり起き上がる竜王にゼシカは胸を庇いながら涙目で抗議する。
「ふむ? お主の巨乳はローラの美乳にまさるとも劣らぬ素晴らしさを持っておる
是非ともこの手で堪能したかったのだ」
「変態! ド変態!! 大大大変態!!!」
「よせ、そのような軽蔑の視線で罵倒するのは。ゾクゾクするではないか」
「駄目だこの竜。はやくなんとかしないと……」
ゼシカは頭を抱える。
自分は早まった決断をしてしまったのかもしれない。
【E-3/荒野/朝】
【ゼシカ@DQ8】
[状態]:健康 羞恥
[装備]:さざなみの杖@DQ7
[道具]:草・粉セット(※上薬草・毒蛾の粉・火炎草・惑わし草は確定しています。残りの内容と容量は後続の書き手にお任せします。
基本支給品*2
[思考]:@仲間を探す Aドルマゲスを倒す B首輪を外し世界を脱出する
【竜王@DQ1】
[状態]:HP14/15 鼻血(もう止まっている)
[装備]:なし
[道具]:天空の剣@DQ4、キメラの翼@DQ3×5、基本支給品
[思考]:@ゼシカと同行する Aデスタムーアを倒し、世界を脱する。
大変遅くなりましたが投下しました。
指摘などあればよろしくお願いします。
コピペの確認ミスでゼシカの基本支給品が*2となっておりますが1つだけの間違いです。
ダメだこの竜王。早く何としないと…。
1stの竜王知ってるとこの竜王に盛大に吹くわw
悉くパワータイプの勇者たちや前回生存組の連続脱落といい、1stと2ndで性格も背景もガラリと変わってるな
意識してひっくり返してるのか、書き手の趣向から偶然そうなってるのかわからんが
最近は会話システムも付いたけど、やっぱ余計なこと喋らない=正確に想像の余地ありすぎなDQすごい
test
既にwikiには収録していただきましたが、本投下しておらず、また修正した点もありますので
これが書き込めるようならゆっくり投下していきたいと思います
大陸のやや北西に位置する湖の水面に、長い金髪を一つに編んでまとめた女の姿が映し出されている。
何かを見つめながら物思いに耽るその姿は、さながら絵画のように。
女は名を、ビアンカという。
山奥の村に住む、愛と正義のおてんば娘である。
その手に乗せて見つめているのは、燃え盛る炎をかたどった煌びやかな指輪――炎のリング。
彼女に支給された品の、最初の一つである。
「皮肉なものよね……」
ビアンカは、大きくため息をついてひとりごちる。
彼女と炎のリングには、浅からぬ因縁があった。
アルカパで宿屋を営んでいたビアンカの一家は、父親の不調を機に空気の良い山奥の村へ居を移した。
新しい生活に徐々に馴染んでいった中で、健康であったはずの母のほうが先に他界。
喪失の痛みに耐えながら、ビアンカは父とともに慎ましくも忙しない生活を送っていた。
心の傷がだいぶ癒えたころに現れたのが、十年以上にわたり音沙汰の無かった幼馴染、リュカであった。
幼きころの冒険にて頼れるところを見て以来、淡い想いを抱き続けていたビアンカは、この再会に大きく喜んだ。
が、同時に近く結婚をする為に結婚指輪を探しているという報せを聞き、大いに落胆した。
最後になるかもしれないからと、無理やりについていった二つ目の指輪を探すという冒険。
その冒険の中で、話を聞かせてもらっていた一つ目の指輪こそが、炎のリングであった。
短い時間でも行動を共にしたことで、ビアンカのリュカへの想いは一気に膨れ上がることになる。
無事に結婚の条件を揃えた彼に、祝福半分と、下心半分を抱えて、ルドマンの館までついていった彼女。
その想いを察してくれたのであろう、フローラの気配りによって、選択を迫るまでには至れたものの。
彼女のその手は取られることなく、共に冒険して手に入れた水のリングは、フローラの指へと旅立っていった。
それから数年たった今でも、ビアンカはこの想いを振り切れないままでいる。
村では彼女をいたく気に入り、嫁に迎えたい、いっそ婿入りでもいいと、言い寄る男が何人もあらわれた。
その中に、いい人がいなかったというわけでもない。
だけれど未だにビアンカは、その申し出の全てに対して首を縦に振ることができずにいた。
「ちょうどいい機会なのかもしれないわ」
炎のリングは、ビアンカからリュカへと渡すことのできなかったもの。
すなわち、敗れた恋の象徴であった。
こうして再びめぐり合ったことは、新たな一歩を踏み出せというメッセージなのかもしれない。
まあ、殺し合いという舞台に呼びつけられた最中に、新たな一歩も何もあったものではないのだが。
吹っ切ってやる。
そのために、大きな深呼吸を一つして。
「リュカの――」
ビアンカは、大きく振りかぶって湖に向けて炎のリングを――
「それを捨てるなんて、とんでもございませんっ!」
「――ばっか、やろおおおーーー……お?」
投げ捨てる寸前に、突如、ふくろのなかから『羽根の生えた壺』が現れた。
驚きのあまり、ビアンカは投げる姿勢のまま固まってしまった。
「おそらくそれは、手放したら二度と手に入らない貴重品でございます。
それでもどうしてもお捨てになるというのなら、せめて錬金にお使い下さい、おじょう様!
もしかしたら、何か素晴らしいものができあがるかもしれません」
カンカンパカパカと、その蓋を口のようにして動かし語る姿はどうにも間抜けで、思わずビアンカは脱力して吹き出した。
そうして毒気をすっかり抜かれてしまった彼女は、かえってすっきりした表情で口を開く。
「ふふ、ふふふふっ……、そうよね、捨てるなんてとんでもないよね。
私には縁のなかったものだけど、アイツとフローラさんにとっては大切なものだもんね」
炎のリングの輝きからは、ふつうの指輪とはまるで違う、ただならぬ雰囲気が感じられる。
これを手にする為の旅は、水のリングのときよりもずっと苦しい冒険であったと聞いている。
水のリングもまた、滝に隠された洞窟の最奥に安置されていた、なにやら曰くありげの代物であった。
二つが対となっているのなら、そのどちらもに何らかの不思議な力があることは明白。
ひょっとしたらこれがリュカの冒険にとって、とても大事な役割を果たしたりするのかもしれない。
「捨てようとした直後に言うのも何だけど、これは渡せないわ。
ぜったいに、アイツのところに届けなきゃいけない」
「そうですか、きっと懸命な判断でございましょう」
ビアンカは炎のリングを自身のポケットへと大事にしまった。
中できゅっと握るたびに、リュカへの想いが溢れていく。
打算的な考えは、少なからず含まれている。
リングを渡すという建前があれば、後ろめたくなくリュカに会いに行っていいんだとか。
リュカと再会できたなら、またしばらく彼と一緒に居られる時間が作れるだろうかとか。
どうして選んでくれなかったの?って、いじわるをしてみてもいいかなだとか。
おおよそ、どれも殺し合いとは似つかわしくない考えだったけれど。
根底にあるのはずっと単純で、彼の為に何かをしたいという強い想いだった。
想いは、そんな簡単に捨ててはいけない。捨てるなんてとんでもないものだ。
「私は、今でもリュカが好き。
――大切なこと、気付かせてくれてありがとう」
くるりとターンして、ビアンカは笑った。
編まれた髪が、風に乗ってふわりと揺れる。
恋する乙女の見せた、最高の笑顔であった。
「それで……あなた、いったいなんなの? 魔物ってわけじゃ、ないんだよね?」
「よくぞ聞いてくれました、おじょう様! わたくしは錬金釜のカマエルにございます!」
首をかしげたビアンカの前で、カマエルの錬金講座がはじまった。
○
「か、可憐だ……!」
そんなビアンカの無邪気な笑顔に、大きく心を動かされた男の姿が森の中にあった。
男は名を、アレフという。
ロトの血筋を引くものにして、たった一人でアレフガルドを魔の手から救済した英雄である。
アレフは世界救済の暁に、ラダトーム王ラルス16世から、王女ローラ姫を授かった。
彼女は大いにアレフを慕ってくれているし、アレフ自身、彼女に対してほとんど不満はなかった。
強いて言えば滅多に首を横に振らせてくれないところだが、まあその程度はかわいいものといえよう。
この殺し合いにローラ姫もが巻き込まれていることを確認してから、アレフはすぐに行動を開始した。
一刻も早く彼女を捜索し、保護し、守り抜くために。
その為に戦いが求められると言うのなら、誰であろうと剣を取ってやるとさえ意志に燃えていた。
ローラ姫はアレフにとって、捨てることなどありえない、唯一無二の存在。
他の女に、現を抜かしている場合ではない。
そのはずなのに。
未だに彼は、木陰越しに見えるビアンカの姿から目を離すことができないで、いる。
【C-4/森林/朝】
【ビアンカ@DQ5】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 炎のリング@DQ5 カマエル@DQ9 不明支給品(0〜1)
[思考]:リュカに会いたい、彼の為になることをしたい
※カマエルによって錬金釜の使用方法を教わっています
【アレフ(DQ1勇者)@DQ1】
[状態]:戸惑い
[装備]:剣(詳細不明)
[道具]:支給品一式 不明支給品(確認済み×0〜2)
[思考]:ローラとの再会のためには剣を取ることも辞さない ビアンカに対して――?
※C-4の森のどこかに「隠された小さな湖」があります。原作狭間の世界であったアレです。
【カマエル(錬金釜)@DQ9】
ドラクエ9に登場する、カマ口調(一応丁寧語)で喋ることができる錬金釜。
8と違って持ち歩けはしないが、はじめから素材を投じるだけで新たなアイテムを作ることが可能になっている。
一方で、最高難度の錬金にはセーブ強要からの確率勝負を挑んでくるためトラウマを残した人も多いかも。
基本的には錬金アイテム関連以外の話には口を挟みませんが、話しかけると泣いて喜びます。
「それを捨てるなんてとんでもない」 投下終了です。
続いて◆pYxekWC1yw氏の代理投下
あのデスタムーアとかいうやからは気に入らぬ。
えらそうにしおって、実にふゆかいじゃ。
わしを誰と心得る。
手元にあるふくろに入っていたのはタンバリンに銀のたてごと、笛。
こんな楽器ばかりでは、かの王のなかの王たる竜王の曾孫ともあろうものが、旅楽士さながらではないか。
しかも視線をあげれば、湯けむりの向こうで酔っ払いが楽しく温泉につかっている。
あやつと宴会でもせよというのか?
腹の虫が治まらぬ。
そうだ、ロトの末裔たちがいたではないか。
ちょうど良い。あいつらを探してやらせよう。 こういうのはむかしから「ゆうしゃ」の仕事なのだ。そうと相場がきまっておる。
あいつらならデスタムーアとかいう奴を倒せるにちがいない。わしが手をだすまでもないことじゃ。
たん! 彼は手遊びにタンバリンを叩く。しゃらん!
なんだかテンションが上がってきた!
しゃらん!
デスタムーアを倒してくれたら、わしのことはリュウちゃんと呼んでもよいぞ!
【F-1/ヘルハーブ温泉/朝】
【竜王の曾孫@DQ2】
[状態]:健康(ハイテンション)
[装備]:なし
[道具]:ふしぎなタンバリン、銀の竪琴、笛(効果不明)、基本支給品一式
[思考]:誰かにデスタムーアを倒させる
投下します
「大変なことになっちゃったわ……」
砂地の真ん中、見通しがいいこの場所に一人の美女が立っている。
酒場の女主人ルイーダは、溜息をついた。
腕を組むことで、胸元の曲線が悩ましげに形を変える。
絵になりそうな美女だというのに、そのマイペースっぷりは元の世界にいたときそのままである。
「あのコたちも大丈夫かしらね……」
共に宿屋を盛り上げた仲間たちもまた、巻き込まれたという事実。
名簿を片手にかぶりを振った。
「年長者として、あのコらは私が守ってみせるわ。ミロ、力を貸してね」
ルイーダは、魅力的な胸元からペンダントを取り出した。
それは彼女の親友ミロと、ルイーダとをつなぐ友情のペンダント。
ミロはかつて、子供をかばって魔物に襲われ、その命を奪われた。
そのことを思うと、若い頃の自分の無力さと、親友がいかに強かったかが理解できる。
今、ルイーダは親友と同じく、命をかけて守りたい仲間がいた。
祈るように、ペンダントを見つめ続ける。
それだけで亡き親友の力が注ぎ込まれるかのように、心が熱く燃えた。
「よし!見てなさいよピンクのじいさん。
この私が骨の髄まで酔わせてあげようじゃないの」
空元気と言えばそれまでだろうが、それでもルイーダは胸を張って歩き出した。
仮にも彼女は冒険者、今では並の奴らに遅れは取らないという自負はある。
丈の高い靴では歩きにくい砂地も、ずんずんと歩き続ける。
だが、とある気配がその歩みを止めさせた。
彼女に思いがけない壁が立ちはだかったのだ。
「何とも、勇ましいことですな」
「!?」
ルイーダの視界では捉えられていなかったのだが、砂交じりの風を越え、ひとつの影が近づいてきていた。
近づく影の正体がやがて、明らかになる。
一人の男が現れたのだ。
高身長で筋骨隆々、渋いバリトンボイスの壮年男性。
弾けんばかりの上腕二頭筋、六分割の腹筋が眩しい。
歩くたびに大気が震えそうな、雄々しいオーラに包まれている。
そして甘いマスク……ではなく。
「だが、女の一人歩きは危険極まりない。突然で失礼ながら、
私があなたを安全な所まで送り届けましょうぞ!!!」
あらくれのマスクを被った、マントとパンツ一丁の男が剣を片手に何やら主張している!
ルイーダは逃げ出した!!
しかし回り込まれてしまった!!!
「遠慮なぞ無用です、何が起こるか分からぬ混沌たるこの地ではそれが命取り!!」
「あんたのその恰好も、充分命取りだってのよ!!」
しばし、追いかけっこを繰り広げようやく和解(?)する。
話してみると、案外マトモな人物のようだ。
見た目はちっともそう見えないけれど。
名前はオルテガといい、どうやら戦いに身を置いていたとのこと。
まあなんというか納得の肉体である。
ただパンツ一丁なのは忍びない。
ルイーダは偶然支給品に入っていた、趣味の悪い色のズボンを譲った。
オルテガはしきりに頭を下げていたが、さっさと履いてよ、とルイーダはそっぽを向いた。
「私が魔物と戦っている最中に炎に巻かれ、服が下着を除きすっかり焼け落ちたそのとき。
何の因果か……気が付けいたときにはその恰好のまま、ここに呼ばれていたのです。
デスタムーアめ、許すまじ。必ずや天誅を下してやりますとも」
「だからって、そのマスクはないでしょ。マントはともかく」
話をしながら、彼女はひそかに感じ取っていた。
酒場の主人という立場もあって、多くのあらくれをルイーダは目にしてきた。
だが、このオルテガ……ただのあらくれなどではない。
ヤバいくらい次元が違う。
ガチで。
超ガチで。
風格、力量、ポテンシャル、何から何までハイスペックな予感がしてならない。
例えばタイマンで巨大な魔物やドラゴンと張り合ったり。
溶岩の中に落ちても強運で生き残ったり。
重要なアイテムをスルーして魔王の城に挑みそうな気すらしてきた。(想像でしかないのだが)
というか、ただのあらくれじゃなきゃなんだろう。
超すごいあらくれとか、スーパーあらくれとかだろうか。
「支給品が衣服だったのは幸いでした。偶然なのやら、魔物も見苦しいと思ったのやら……」
ルイーダの思考をよそに、オルテガは自分の出で立ちに苦笑したのか肩を竦める。
今でもわりと見苦しいわよ、と危うく口に出しそうになった。
「それでも顔を隠すなんて、怪しまれないわけがないでしょ?」
「ハッハッハ、これは失敬。ですが、このゲームに巻き込まれ、多くの人が不安がっている。
その心を思えば今このとき、こんな顔を見せるわけにはいかぬのです」
「えっ?」
朗らかに笑っていたオルテガの声のトーンが、少し落ちる。
何やら神妙な顔……表情はわからないが。
ともかく、それっぽいムードを漂わせ話を始めた。
「この覆面の下には、醜い火傷の古傷が残っております。
とても手ひどく魔物にやられたらしいのですが、これを見せ人々の不安をいたずらに掻き立てたくはない」
「そうだったの……」
ルイーダは考えを改める。
おかしな恰好をしていても、彼は非常に紳士的だった。
外見で判断するなんて、思えば良くないことである。
「ごめんなさい、貴方を誤解していたわ」
オルテガは気にしないでくれと、豪快に笑い飛ばしてくれた。
最初に抱いた多大なる警戒も、徐々に解れている。
何やら彼のカリスマ性を今、感じ取ったかもしれない。
「それで………魔物にやられた『らしい』、って?」
「ううむ、情けないことですが私は過去の記憶をほとんど失っております。
覚えているのは名前と、ほんの僅かな昔の記憶のみ。
何やら重大な使命を負っていたような気もするのですが……」
酒の上での苦労話なら、積もるほど聞いてきた。
しかしこれほどまで衝撃的で、壮絶な何かを抱え込んだ男は、ルイーダにとって初めてだった。
女主人のベテランの話術をもってしても、かける言葉が見当たらなかった。
「ですが……私には燃えるような、正義の心がここにある。
今、卑劣なる魔物達の狼藉を許しはせず、必ずや無力な人々を守り通す。
その覚悟さえあれば、過去や素性など解らずとも奮起する理由には充分ではありませんか」
オルテガは、拳を固め、突き上げる。
それだけだというのになんとも頼もしく見えてきた。
気持ちのいい男だとルイーダは思う。
外見を除けば、まるでお伽噺に出てくる勇者のような心を持っているではないか。
「……ウフフ、私ったら男を見る眼が衰えたのかしらね?思ったよりもずっと素敵。
逃げたりなんかしてごめんなさいね、オルテガさん。よろしくね、私はルイーダよ」
「はっはっは、照れますな。まずは貴女をお守りしましょう、ルイーダさん……むっ?」
「?」
なにやらオルテガが頭を抱えている。
一体何が引っ掛かったのだろうか。
「ルイーダ、ルイーダ……ううむ、聞いたことがある……」
「え?」
「ルイーダさん!私はかつて貴女と会ったことがあるのかもしれません!」
突然むき出しの肩を、屈強な両手に掴まれる。
前触れがなかったのも相まって、ルイーダはひどく驚いた。
「あなたは、私のことを覚えておりませんか?」
「たぶんアナタみたいな人なら会ったら一生忘れないと思うけど……」
残念ながら覚えがない、とルイーダから告げられ、オルテガは項垂れた。
口ではああ言っていても、記憶を取り戻さなくてもいいというわけではないのだ。
失われた過去を取り戻したい思いを感じるのも無理もない。
「だが……おお、そうだ!貴女とお酒を交わしたような気がしますぞっ!あなたの店で!!」
「確かに、私は酒場の主人だけど。でも、本当に覚えがないもの!」
「家もかなり近所だったような気が!!これは、記憶が溢れるように湧いてくる!!」
「だから、私は知らないって言ってるでしょーがっ!!それとも何、口説いてるの!?」
「なっ、何をおっしゃる!!」
巨体に食い下がられては一たまりもない。
ルイーダがお茶を濁そうとからかうが、オルテガが存外あわてた。
「こう見えて私には……私には…?」
「?」
「ううむ…誰か大切な人がいたような……?」
再び頭を抱え込むが、今度はかなり深刻に考え込んでいるのかしゃがみこんでしまった。
確かに記憶を取り戻そうと懸命なのは分かるが、いつまでもこの砂地にいるのは危険だった。
見通しがよすぎるし、何より空気も悪い。
「……オルテガさん、どう?」
「ダメですな……せめて、私を知る人物がここに来ていれば……」
「こんなにたくさんの人がいるんですもの、可能性はあるわ。
人のいる場所を目指しましょう、ね?」
「ううむ……その通りですな」
気を取りなおしたオルテガはルイーダの傍らで歩き出す。
東と西、二人はおおよそ二つの町の中間地点にいる。
だが岩山を迂回しなくてはならない東のルートは時間がかかると感じた。
二人は西にある森を抜け、絶望の町を目指すことに決める。
「森は暗く視界も悪いゆえ、気を付けねばなりません。私の眼の届くところに居ていただけますかな」
「わかったわ。でも女だからって、アマく見たらダメよオルテガさん。
私はタダの女主人じゃないんだからね」
にんまりと笑ったルイーダは、ふくろから短剣を取り出した。
「あんまり情けないトコ見せたら、私があなたを守っちゃうんだから」
【F-5/砂地/朝】
【オルテガ@DQ3】
[状態]:健康 記憶喪失
[装備]:稲妻の剣DQ3 あらくれマスク@DQ9 ビロードマント@DQ8 むてきのズボン@DQ9
[道具]:基本支給品
[思考]:正義の心の赴くままに、まずはルイーダを守り森を抜け西の町へと向かう。
殺し合いは拒否するが、主催者たちやマーダーとは断固戦う。
記憶を取り戻したい。
[備考]:本編で死亡する前、キングヒドラと戦闘中からの参戦。上の世界についての記憶が曖昧。
【ルイーダ@DQ9】
[状態]:健康
[装備]:短剣(詳細不明) 友情のペンダント@DQ9
[道具]:基本支給品 賢者の聖水@DQ9
[思考]:オルテガと絶望の町に向かい、共に人を探す。
DQ9主人公とリッカを保護したい。
殺し合いには乗らない。
[備考]友情のペンダント@DQ9は、私物であり支給品ではない。
『だいじなもの』なので装備によるステータス上下は無し。
投下します
困っている人々を助けたい。
私は天使だった。
人々の感謝の気持ちの結晶である星のオーラを集め、女神セレシアを復活させるために、創造神グランゼニスによって造られた存在、それが天使。
私もはじめは使命のために人助けをした。星のオーラを集めるのが天使の使命だったから。
ある事件を境に、私は天使としての力の大半を失った。羽と光輪と失い、そして星のオーラを見ることさえできなくなってしまった。
星のオーラが見えなくなっても、いや、見えなくなったからこそ、人々の感謝の気持ちが「見える」ようになった。
見えるというより、感じるという表現が正しいのだろうか。温かいものが伝わってくるような、そんな感覚。
いつしか人助けは、使命のためではなく、誰かのためにするようになった。
天使の掟から逃れるため、人間となってからも、人助けを続けた。
女神セレシアの復活を果たし、天使が役目を終えて「星空の守り人」となってからも、私は地上に残り、人助けを続けた。
天使としてではなく、同じ大地に生きる人間として。
だけど、まさか自分が助けを求める側になるなんて。
「…まさかロープが切れちゃうなんて」
深い枯井戸の底で、無残にも千切れたロープを握りしめた桃色の髪の少女が一人項垂れる。
もしかしたら井戸の中に誰かいるかもしれない。助けを求めている人がいるかもしれない。
そう思い井戸の底へと降りていく途中、頼みの綱が文字通り切れてしまったのだ。
「でも、誰もいなくてよかった」
ロープが千切れたのははるか上空。あの高さから落ちて、下に誰かいたとすれば、きっと先客の命はなかったであろう。
幸い、彼女は高いところから落下することには慣れていたため、少し膝をすりむいただけで済んだ。
まずはここから脱出しないと。
今こうしている間にも、どこかで助けを求めている人がいるかもしれない。
尤も、今助けが必要なのは彼女なのだが。
何か脱出の役に立ちそうなものはないかとふくろの中に手を入れてみる。
彼女の手に紐のようなものが触れる。
脱出に役立つ道具だろうか。期待に胸を膨らませながら、その紐を掴んで引くと――
パァン!
大きな破裂音が井戸の中に響き渡り、辺り一面が色とりどりの紙吹雪で覆われた。
ふくろから出てきたのはハッピークラッカー。
今鳴らしたものとは別に、あと4つふくろの中に入ってるようだが、こんなものがいくつあってもこの状況では何の役にも立たない。
再びふくろの中を探ると、次に出てきたのは銀色に輝く盾。
最高級の防御を誇る一品であるが、こんなところで身を守ってどうしようというのか。
盾に彫りこまれた見えざる魔神の道でよく見た顔が、少し憎らしく見えた。
遠かった空が、更に遠く見える。
人間として生きることを後悔したことは一度もなかったが、この時ばかりは翼を持つ天使の身を恋しく思った。
今は届かぬ空を、呆然と眺めていると――
「そこに誰かいるの?」
クラッカーの音を聞いて気づいてくれたのか、井戸の外から人の声がした。
役に立たないハズレアイテムかと思いきや、意外な方向で役に立ってくれたクラッカーに謝罪と感謝の意味を込めて軽く一礼をし、
そして、外にいる声の主に助けを求めることにした。
もしかしたら、外にいるのはゲームに乗った殺人者かもしれない。
良い人のフリをして近づき、道具を奪うつもりかもしれない。
だけど、こうして声をかけてくれた人のことを疑うなんて、彼女にはできなかった。
いや、仮にできたとしても、今彼女がとれる行動は他にないのだ。
「すみませーん、ここから出してもらえますかーっ!」
「ちょっと待ってて、今ロープ下ろすから」
その声の後、しばらくするとロープがするすると下りてきた。
「ありがとうございま…うわぁっ!」
ロープを掴んた途端、物凄い力で上へと引き上げられた。
翼があった頃のような空を飛ぶ感覚に懐かしさを覚える間もなく、あっという間に地上への脱出を果たしたのであった。
「助けていただき、本当にありがとうございましたっ!」
引き上げてくれた青い帽子の少女に対し、深々と頭を下げる。
「気にしないで、困っている人がいたら助けるのは当然でしょ?
それにしても、なんで井戸の中なんかに?」
どうやらこの少女も自分と同じく、困っている人を見ると助けずにはいられない性格らしい。
彼女が殺し合いに乗っていないことに安堵し、桃色の髪の少女は、井戸へ落ちるまでの経緯を語り始めた。
「人助けのため、ね。ねえ、それなら私から一つお願いしていいかしら?」
「もちろんです!魔物退治から物探し、馬小屋の掃除から宿の呼び込みまで何でも請け負いますよっ!
あ、でも会心のボケで5回笑わせろとか、季節はずれのクリスマスケーキを持って来いとか、
そういう無茶なのは勘弁してくださいねっ!」
「えーと、この状況でそういうの頼む人って、多分いないと思うわよ?」
「なんとっ!そうなんですかっ!では一体どんな頼み事なんです?」
「私、あのデスタムーアって奴を叩きのめしてやりたいの。
強そうな人たちを大勢集めておいて、武術大会じゃなくて殺しあいよ?そんなことして何が楽しいのか全っ然わかんないわ!
だから、あいつをコテンパンにやっつけてこのふざけたゲームを終わらせたいの!
仲間は多いほうがいいでしょ?だから――」
全てを聞くまでもなく、返事は決まっていた。
「大魔王討伐、ですねっ!謹んでお受けいたしますっ!」
クエスト『大魔王デスタムーア討伐!』を受けました。
「そういえば、自己紹介がまだだったわね。私はアリーナ。あなたは?」
「私はアンジェ。よろしくお願いします、アリーナさんっ!」
二人は堅い握手を交わし、決意を固めた。
「「打倒、デスタムーア!」」
「大魔王だかなんだか知らないけど、私の拳で成敗してあげるわ!」
竜の鱗も軽々引き裂く力を持つ爪を手に、アリーナが吼える。
「どんな強力な攻撃が来ても、絶対に守りきってみせますっ!」
鉄壁の守りを持つメタルキングの力を宿した盾を手に、アンジェが返す。
見た目とは想像もつかない強さを持つ彼女達であったが、ただ一つ決定的に足りないものがあった。
「…ところで、デスタムーアはどこにいるのかしら?」
「きっと洞窟に…って、あれっ?それらしいものが見当たりませんっ!」
――「かしこさ」である。
【B-4/井戸の側/朝】
【アリーナ@DQ4】
[状態]:健康
[装備]:竜王のツメ@DQ9
[道具]:フックつきロープ@DQ5 支給品一式
[思考]:デスタムーアを倒してゲームを終わらせる
【アンジェ(女主人公)@DQ9】
[状態]:膝に擦り傷(行動には支障なし)
[装備]:メタルキングの盾@DQ6
[道具]:ハッピークラッカーセット@DQ9(残り4個) 使用済みのハッピークラッカー 支給品一式
[思考]:困っている人々を助ける デスタムーアを倒す
[備考]:職業はパラディン。職歴、スキルに関しては後続の書き手にお任せします。
9は一回しかプレイしてないからあまり記憶に残ってないんだよなあ
この機にもう一回最初からやってみようか
今なら大分安く手に入るだろうし
既にクリアしてるデータと通信すれば楽に進められるし
◆CruTUZYrlM氏の代理投下します
と思ったらレベルがなんか下がってて本文がほぼ書き込めない……
申し訳ないのですが、代理投下を中断させていただきます。
手に空いている方がいらっしゃいましたらどなたかお願いします。
彼女は戦うことにしか、生きる意味を見出せなかった。
戦いの果てで傷つき、倒れることが出来れば本望だと思っていた。
戦士として魔物と戦い、戦士として人間と戦い。
傷つき傷つけ、時には血を啜りながらも生きてきた。
そして新たな戦場を求め、彷徨い続ける。
ある時、転機が訪れる。
「魔王を討伐する勇者が仲間を探している」
そんな噂を耳にし、彼女はアリアハンの酒場へと向かい、勇者の仲間へと申請した。
幸運にも彼女は三人のうちの一人に選ばれ、共に冒険をすることとなった。
勇者との冒険は、想像以上に充実したものだった。
見たことも無い魔物との戦いや、自分がまだ知らない世界を知った。
より広い視野や新たな戦法を手に入れるために、悟りの書を用いて賢者にもなった。
呪文を用いた戦い、それを組み込んだ新たな戦法。自分の中の戦いはますます面白くなっていった。
そして、何よりも大きな収穫だったのは魔王との戦いだった。
勇者や他の仲間には黙っていたが、興奮していた。
自分の想像がつかないレベルの強者と戦うことが出来るなど、願っても無い幸運だった。
相手にとって不足は無し、叶うことなら自分ひとりで戦いたかったが贅沢は言っていられない。
やまたのおろち、ボストロール、バラモス、ゾーマ。どの相手も本当に楽しい戦いだった。
本当に充実していた。魔王を討伐するまでは。
魔王を討伐するということは、この世に平和をもたらすと言う事。
この世に平和をもたらすと言う事は、魔物は消え、自分の望む戦場が無くなってしまう事である。
覚悟はしていたが、耐えられなかった。
体が、血が、肉が、脳が、彼女を構成する全てが、戦いを欲していた。
渇きを止めるために、共に冒険をしてきた仲間の中で一番強いと感じていた勇者に戦いを挑もうともした。
しかし勇者は、平和になった世界のどこかへと旅立ってしまった。
自分を満たしてくれそうな、そんな強者達は居なくなっていた。
彼女はこの渇きを満たすため、何も無くなった下の世界をただ当ても無く歩いていた。
嘗て、冒険を共にした勇者と戦う。ただそれだけのために、まるで死人のように歩いていた。
そんな彼女が、この殺し合いに呼ばれた。
「デスタムーアと言ったな……私に戦場を与えたもうたこと、感謝する」
僥倖以外の何者でもなかった、形はどうあれ「戦える」のだから。
あの場で確認しただけでも勇者や、共に冒険した仲間たちが居た。
そして、叶うならば一人で戦いたいとすら願ったバラモスの姿まであった。
それだけではない、自分の知らぬ強者たちも居るという確信もあった。
忘れていた感覚が、ふつふつと沸き起こる。
興奮が止まらなかった、命を賭した戦いが、ここにはあるのだ。
細かい話や、理屈などどうでもいい。
人を斬り血を浴び、悪人と称されても構わない。
戦えるのならば、それでいい。
悟りを開き、賢者とまで呼ばれた彼女は、戦いを求める修羅になった。
さあ、戦士たちよ。
どこからでもかかって来るがいい。
どんな手段だろうと、どんなに大勢だろうと私一人で相手になろう。
私も、全力で貴様達を討つ。どんな手段を使ってでもだ。
私は生き残る。生きて生きて次なる戦いへ身を投じて見せよう。
間もなくして、一人の少年と遭遇した。
外見は幼くとも、身なりは剣士のものである。
この地に舞い降りて出会った最初の相手に、興奮を抑えきれぬまま彼女は話しかける。
「戦士よ、我が名はカーラ。剣を取って私と戦え」
支給された物資の中で、武器と呼べる唯一のモノだった銅の剣を少年へと突きつける。
少年はカーラの突然の言動に、若干うろたえている。
無理も無い。この殺し合いの地で初めて出会った人間にいきなり剣を突きつけられているのだから。
カーラは、少年に剣を抜かせるために口を開く。
「どうした、剣を抜かぬなら私から行くぞ」
弱者とて容赦はしない。戦場では強者も弱者も男も女も同じ、一人の戦士なのだから。
追い詰められた弱きものが、突如として力を発揮するところを彼女は幾度と無く見てきた。
その絶望から来る力とも、正面から立ち会いたい。
目の前の少年は、まだ動かない。
「……良かろう、では行くぞ」
剣を仕舞い、呪文を唱える。
それを隙と判断したのか、少年は背を向けて全速力で走り出す。
が、次の瞬間には目の前にカーラが立っていた。
「失望させるな、次は無いぞ。剣を取るかこのまま死ぬか、選べ。」
速度強化呪文、ピオラ。
一時的に増幅された俊敏さで、風のように少年の隣を過ぎ去って追い抜かす。
首筋に剣が当てられていることを皮膚で感じ取ると同時に、頬が切り裂かれていることを認識する。
これ以上退けないと判断したのか、少年はゆっくりと腰に携えていた剣を引き抜く。
「……それでいい」
嬉しそうに首筋に当てていた剣を引き、カーラは間合いを取る。
「改めて、名を名乗ろう。我が名はカーラ。お前の名はなんと言う?」
「……キーファ」
「その名、この身にしかと刻んだぞ」
戦士たるもの礼儀を欠いては、生涯の恥となる。
剣を突きつけながら、互いに自己紹介を行う。
改めて、戦いの幕が開く。
カーラの気持ちは今にも張り裂けんばかりに、高ぶっていた。
キーファの眼前にあるのは銅の剣、自分が手にしているのは奇跡の剣。
武器だけで言えば相当の差がある、それでも少年は臆していた。
そう、銅の剣の切先に臆していた。
カーラの全身から発せられる武器の差だけでは埋まるはずもない何かが、キーファの全身に圧し掛かる。
奇跡の剣を握る手に何時も以上に力がこもる。
そして、威圧から来ていた緊張の糸が切れ、キーファが先に動きだす。
素早く後ろに間合いを取り、カーラのデッドラインから抜け出す。
それを察知したカーラがキーファよりも素早く間合いを詰めてくる。
突進してくるカーラを目視してから、キーファは剣を地に突き刺し、特殊な構えを取る。
切りかかるカーラの剣の太刀筋にあわせながら体を捻り、手で剣の刀身を挟む。
そしてカーラの力を利用し、全身のばねを使い、カーラの体ごと放り投げる。
しかしカーラも自分の体が宙に浮いていることを認識し、地面につくまでに体勢を整えて着地する。
キーファの額から一滴の汗が流れる。
一発で成功したはいいものの、受け流す対象がいなかったために力を利用して放り投げるだけに留まってしまった。
両手に残る若干の痺れから、次は成功しないと確信する。
ならば、この一回で生み出すことが出来た間合いを生かすしかない。
剣を引き抜き、大きく息を吸い込み、地にしっかりと足を着ける。
カーラが銅の剣を手に、こちらへ迫ってくる。
全身に緊張感が走ると同時に、力がみなぎる。
今、切りかからんとするカーラの姿が目に映る。
待っていた、と言わんばかりにキーファは奇跡の剣に炎を纏わせる。
「何?!」
予想もしない展開に、カーラの目が大きく見開かれる。
二度とないチャンス、ありったけの力を振り絞りキーファはその剣を振り抜く。
今、肉を切り裂かんとする炎剣。それを防ぐことは間に合わない、と判断したカーラは銅の剣を力強く炎剣へと振りかぶる。
しかし銅の剣では炎剣の勢いを殺しきることは出来ず、その刀身は脆くも崩れ去ってしまう。
炎剣の切先が頬に触れ、肉を焼く感覚に襲われる。
が、砕けた銅の剣の切先がキーファの腕に当たり、力の振るう先を僅かに逸らす。
それと同時に体を捩ることで、炎剣の直撃を免れる。
銅の剣が壊れることを前提とした動き、カーラの戦局を見据える能力にキーファは驚愕の色を隠せない。
「なるほど、面白い技術だ」
流石に両の足だけで着地は出来ず、片手を地で摺りながらカーラは体勢を整える。
キーファの渾身の一撃から免れるために、カーラは唯一の武器を失った。
攻めるなら今しかない、この機を逃せば終わりだと判断したキーファが間合いを詰めていく。
その足を止めようと、カーラの手から無数の氷刃が襲い掛かる。
可能な限り避けつつ、眼前に迫る物は炎剣で砕く。一歩、もう一歩、確実にその足はカーラへと近づいていく。
そして、一回の跳躍で届く間合いまで近寄ることに成功した。
「おおおお!!!」
両足に力を込め、全身を利用して素早く飛び掛る。
空中から大きく振りかぶり、渾身の力でその炎剣をカーラに目掛けて振り下ろす。
切り裂かれる、肉。
その太刀筋は心の臓まで辿り着いている。
その切り傷を彩るのは――――冷たく輝く氷だった。
ドサリ、と重い音と共にキーファの体が崩れ落ちる。
「即席の剣としては、上出来だったな」
カーラの左手から生える血に塗れた氷刃が、ゆっくりと砕ける。
そう、待っていたのはカーラの方だった。
キーファの火炎斬りを見た彼女は、何かに魔力を付与させることが可能なのではないか? と疑問を抱いた。
そこからヒントを得、彼女は左手に「氷の刃」を生成しようとし、学んできた呪文をぶつけていった。
キーファに向けて撃っていた氷刃は意識を逸らすためのブラフ。
簡単に掻い潜れるほどの弾幕だった理由は、カーラの意識が氷刃生成に向いていたからだ。
そして、キーファが渾身の一撃を叩き込まんと力を攻めに注いだその瞬間。
左手に無事に出来上がった氷刃を素早く振るい、守りを忘れたキーファの肉体を駆け抜けるように切り裂いた。
「魔力の付与……お前の技を少し借りさせてもらった。
見よう見まねでどうなるかは分からなかったがな、呪文を学んでいて助かったというべきか。
新たな技と戦いが私の中でまた一つ生まれたこと、感謝するぞ」
キーファは応えない。体が小刻みに震えながら、大量の血が大地に広がっていく。
キーファの横を通り抜けながら、カーラは辺りが焼け焦げている地面に深々と突き刺さる剣を引き抜いた。
「さらばだ、キーファ。お前の名と共に、この剣と私は生きよう」
弔いの意を込め、生を停止した彼の前で祈る。
彼が強者であった証と、その思いを受け止めるように。
彼の剣と、その荷物を携えて彼女は歩き出す。
「しかし、衰えたな。賢者としての呪文の修練ばかり行っていたとはいえ、剣の鍛錬は怠るものではないな」
戦いを振り返り、彼女は一人呟く。
賢者として学んでいた期間が長く、剣を集中して振るう事が無かったこともあり、いつぞやの自分と比べると格段に筋力が落ちていた。
これから、さらに強いものとも戦うことになる。そのためにも、あの頃の自分の筋力に追いつき、追い越さなければいけない。
それまでは習得した呪文を駆使し、この戦場を生き残ることになるだろう。
自身に課せられた試練か、と一人で思い、笑ってしまう。
「それで、何時まで見ているつもりだ?」
振向き、静かに背後の森へと視線を移す。
「……やはり、気づいていたか」
「ふん、今にも戦いたそうにうずうずしておる奴の気配が読めんくらいでは、この場は生き残れんだろう」
カーラに指摘され、木の陰から魔人が姿を表す。
彼女が嘗て対面した魔王に匹敵する闘気。
久々に覚える感覚に、カーラは再び興奮する。
「で、お前も私と戦ってくれるのか?」
「そうだな、できれば私も今すぐにでも戦いたい……だが」
予想外の返答に、彼女の表情は険しくなる。
「この戦いが始まってから、そうすぐに強い者、ましてや成長する強き者と闘っても面白くないだろう?」
魔人は構わずに、一人話し続ける。
カーラは今にも奇跡の剣を携え、飛びかからんとしているのを必死に我慢している。
「私もデスタムーア様の配下である以上、この殺し合いを進めなければいけない。
そこでだ、先ほどの戦いで瞬時に新たな技術を身につけたお前の力を見越した上での提案がある」
カーラも、魔人も動かない。両者が両者の領域を侵さないギリギリの位置で立ち止まっている。
「この場にいる、様々な強き者と戦い、再び出会ったときにその戦果を共に語り明かそうではないか。
互いがどれだけ強きものと出会い闘ってきたか、どのような経験を積んだのか。
互いに磨きをかけ、その上で最高の戦いをしようではないか。
再び相見えたときに、お互いが最高の戦いが出来る準備はこちらにある」
魔人は世界樹の雫とエルフの飲み薬を手に持ち、カーラへと提案を続ける。
カーラの険しい表情が少しずつ解け、魔人へ向けられていた剣の切先が下ろされる。
「なるほど、いい提案だ。私も今の少年のような未知の強者ともっと出会いたい。
お前に勝てないわけではないが、お前も私と同じ強者を求めるものならば、それも面白いだろう」
その言葉に、魔人は思わず笑みをこぼす。それに応えるように、カーラも笑みをこぼす。
そしてカーラは懐から一枚のメダルを取り出し、魔人へと提案する。
「では、今度は私から提案だ。ここから北へ向かうか、南へ向かうか。この小さなメダルの表で決めぬか?
表が出れば私が北へ向かう、裏が出ればお前が北へ向かう。それでどうだ」
「異論は無い、それで決めようではないか。
申し遅れたな、我が名はデュラン。強き者を求め、この地へとやってきた。お互いに楽しもうではないか」
「私はカーラ、お前と同じく強き者を求め、この地を駆け巡ろう。二度と得る事のないと思っていた戦いの場、存分に楽しませてもらうぞ」
魔人も提案を受け、強き相手に失礼の無いようにお互いの名を名乗る。
そして、互いの実力を認めた上で交流として、この地での戦いを満喫することを示す。
「行くぞ」
カーラの指から弾かれたメダルが宙を舞う。
ゆっくりと回転を重ね、両者の視線をその身に受けながらふんわりとカーラの手中に戻る。
両者の行方をメダルが示す。
戦いにしか生きれない戦女と、戦いを求める魔人。
それぞれの道に、それぞれの闘うべき強者が待ち受けている。
「では、さらばだ。再び相見える時は、互いの全力でぶつかり合おうではないか」
「ああ。私はお前が届かない高みにまで、辿り着いてみせよう」
魔人は静かに笑いながら足を進め、戦女も振り返らずに足を進める。
互いの道が再び交差するその時まで、互いの道を突き進むだけ。
【キーファ@DQ7 死亡】
【残り52名】
【E-7/中央部/朝】
【カーラ(女賢者)@DQ3】
[状態]:頬に火傷、左手に凍傷、MP消費(小)
[装備]:奇跡の剣@DQ7
[道具]:小さなメダル@歴代、不明支給品(カーラ・武器ではない物が0〜1、キーファ0〜2)、基本支給品*2
[思考]:より多くの強き者と戦い、再び出会ったときにデュランと決着をつける。見敵必殺、弱者とて容赦はしない。
[備考]:元戦士、キーファの火炎斬りから応用を学びました。
【デュラン@DQ6】
[状態]:健康
[装備]:デュランの剣@DQ6
[道具]:世界樹の雫@DQ6、エルフの飲み薬@DQ6、基本支給品
[思考]:より多くの強き者と戦い、再び出会ったときにカーラと決着をつける。
[備考]:ジョーカーの特権として、武器防具没収を受けていません。
※表裏の結果でどちらがどちらに向かったのかは後続の書き手にお任せします。
代理投下終了
長すぎって言われたので途中勝手に分割しました
投下します
トリップ忘れてた
oh......レベルが足りないみたいです
おとなしく一時投下スレ行きます
◆CASELIATiA氏の代理投下いきます
誰かが言った。
曰く、カジノには魔物が潜んでいると。
曰く、カジノには別の世界があると。
カジノとは、一般的には一攫千金を夢見るものたちが集う場所である。
人間が生きるためには娯楽は必須であり、様々な形の娯楽が存在する。
欲望の町にある宿屋。
その名の通り、この町には様々な欲望が集まった。
詐欺やぼったくりは当たり前。 むしろ騙される方が悪いという風潮さえあった。
宿屋の地下にあるカジノもここで、幾多の夢追い人に歓喜と絶望を与えてきた。
退廃的かつ享楽的なこの施設は、人の夢をたやすく呑みこむ。
「ダメッ!」
カジノに、大音量が響き木霊する。
宿屋の地下には、あろうことかカジノが経営されていたのだ。
その中には見たこともないような高額レートのスロットマシン、景品交換所、ポーカー用のテーブルなどが置かれている。
己の運を試し、一喜一憂する人々が連日集っていたのだろう。
ネオンサインは今でも光り続けており、今宵の客を今か今かと待ち構えているようですらあった。
だが、ここを間借りしていた三人からすれば、そんなことはどうでもいい。
大事なのは、その内の一人が叫ばなければならないような事態になっている、ということだ。
「……どうしたんだ一体?」
おどけた口調でそういうのはククールだ。
聖堂騎士団に所属しながら、賭博行為などするお世辞にも信心深いとは言えぬ男だ。
彼にそのことを問いただした者はこう返される。
曰く、俺の神は細かいことにこだわらない。
だから、賭け事だってやっていいし、酒だって呑んでいいという理屈だ。
そんな彼がこのカジノにいるのはある意味お似合いの光景でもあった。
「一体どうしたんです、ミレーユ?」
世界で最もポピュラーな魔物、スライム。
そのスライムの頭頂部から騎士を生やした変異種、スライムナイト。
スライムナイトのピエールも、異口同音にミレーユを心配する。
事情はこうだ。
何の縁か集った三人はともにデスタムーアを倒そうと誓った同士。
こうして友好を深めつつ、ポーカー用のテーブルに腰を下ろし一息ついたところ。
ミレーユの煎れた紅茶を飲もうとククールがカップに手を伸ばした瞬間である。
紅茶を煎れた本人であるミレーユの制止の声が響いたのは。
「……飲んじゃダメよ」
俯いて、もう一度同じセリフを言うミレーユ。
顔は青ざめて、下唇を噛むミレーユは何かを抑え込んでいるようだった。
特に寒いわけでもないのに、腕や肩を震わせるその姿は紛れもなく異常の証。
「毒が入ってるわ……」
衝撃的なその言葉に驚いたククールが、カップを落とす。
重力に従って地に落ちたカップはあえなく割れ、中の液体が地面に広がる。
毒入りの紅茶が地面に吸い込まれる様子をククールは凝視する。
ピエールもまた、自分のために用意されていた紅茶を、ティーカップごと投げ捨てた。
紅茶を煎れたのはミレーユだ。
そして紅茶に毒が入っていると言ったのもミレーユだ。
ならば答えは一つしかないではないか。
イスに座っていたピエールとククールは立ち上がり、ミレーユから一歩引く。
だが、攻撃には移らない。
武器を構えないのは、自分からあえて毒入りであると明かしたミレーユの真意を測りかねているため。
「ごめんなさい……」
沈痛な面持ちでミレーユは語る。
大魔王デスタムーアに殺しあえと言われて、脅えたことを。
仲間であるチャモロのあまりにもあっけない死に、圧倒的な力の差を感じ取ったことを。
填められた首輪の無言の圧力に屈したことを。
蘇った大魔王の魔力に絶望し、人殺しの道を選ぼうとしたことを。
そのために、出会ったピエールとククールの二人の紅茶に毒を盛ったことを。
すべては、愛する弟テリーのためだということを。
けれど、やはり人を殺せる道は選べなかったということを。
良心の呵責に耐えきれず、こうやって罪を告白したことを。
すべて包み隠さず話した後、ミレーユは泣いた。
肩を抱いて、己のしでかそうとした所業の恐ろしさに脅え、震えていた。
「私、なんてことを……」
カジノの中に、さめざめと泣くミレーユの声だけが反響する。
ピエールもククールも、そんなミレーユを責めることはできなかった。
一時のこととはいえ、弱い考えに囚われてしまったとしても誰が責めることができようか。
「まあ、きっとこんな陰気な場所にいるのが悪いのさ。
こんな空気の淀んだ場所でも出て、ちょっと外に出て風にでも当たれば気分も変わるさ」
「そう……だな。 そろそろ我々も出発しましょう」
「いや、お前はここで待っててくれ。 少し湿っぽい話をするから」
ククールは努めて明るい声で言った。
そんなことは大したことじゃない。
ちょっと魔が差しただけだと言うように、ミレーユを落ち着かせようとする。
ククールとミレーユの二人は階段を上がり、外に出た。
◆ ◆ ◆
「なんていうかな。 俺にも分かるんだ、そういうの……」
宿屋から離れて、ククールはミレーユの先頭を歩く。
空は相変わらず変な模様だが、こういう湿っぽい話をするのにはうってつけかもしれない。
少なくとも、お天道様が燦々と輝いてる時にはこんなことを話す気にはならないだろうから。
「俺の兄貴も死んだよ。 あそこでな」
腹違いの兄にして、どうしてかウマの合わなかったマルチェロ。
殺したって死なない奴だと、ククールは思ってた。
ラプソーンの支配も気合で跳ね除けてたようなところがあったのだ。
それだけに、未だにマルチェロの死を実感できない。
この目で、確かにマルチェロの死体を見たというのに。
「だから、俺も一瞬だけ考えたよ」
マルチェロを生き返らせるために、殺し合いに乗るのもいいかと。
嫌味なところもあるが、やっぱりククールはマルチェロのことを憎めない。
何より、聖地ゴルドでようやく兄と少しは分かりあえたのだ。
これから先、少しずつ関係を改善しようかと思えたのに、デスタムーアはその機会を永遠に奪ってしまった。
「あいつは、自分以外信じてなかったし立身出世のためなら他人だって陥れる野心家だったけどさ……。
それでも俺は忘れることができなかったんだ」
ククールは忘れることができなかった。
あの時のマルチェロの優しさと、ククールの名を聞いた時の変貌を。
これでもククールは、とある地方領主の息子として生まれた。
しかし、幼い頃に両親は他界し、引き取る相手もいなかったククールはマイエラ修道院へと行くことになる。
ククールは今でも覚えている。
初めて訪れたマイエラ修道院は広くて、まずどこへ行けばいいのか、誰に会えばいいのか分からなくて途方に暮れてたことを。
そして、その時優しく声をかけてくれたのがマルチェロだったことを。
マルチェロは幼いククールの目線の高さにまでしゃがんでくれて、肩に手を置いて優しく言ってくれた。
家族は失くしてしまったかもしれないけど、ここで僕やオディロ院長が新しい家族になるよ、と。
頼るものも失くしてしまったククールに、マルチェロの言葉が温かく響く。
なんて優しい人なんだろうと、ククールは涙さえ流しそうになったのだ。
その直後、ククールの名を知ったマルチェロは、まなじりを吊り上げ、怒りに震える声で言った。
『そうか、君が……お前がククールなのか』と。
父親とメイドの不義の子として生まれたマルチェロは、父と正妻の間に生まれた正当な嫡子ククールのせいで、家を継ぐ資格を失ったのだ。
挙句の果てに、マイエラ修道院のような場所に飛ばされ、以後マルチェロはククールと父を恨んでいたのだ。
それから、マルチェロのククールに対する態度は一変した。
呼び方は『君』から『お前』に。
そして接する態度もあからさまに悪い方向へ変わった。
ククールもククールで、なかなか歩み寄ることができず、そのまま二人は大きく成長したのだ。
マイエラ修道院で二人の不仲は有名だった。
賭け事に興じたりするククールの不真面目さは院内に知れ渡っており、次第に評判はマルチェロ側へと傾いていく。
マルチェロとしても、憎むべき相手のはずの父はいなくなり、もはや憎しみを向ける相手はククールしかいないのだろう。
だから、恨まれるのならしょうがないと、ククールは思っていた。
だがしかし、それでも、忘れることはできなかった。
初めて出会ったときのあの優しい顔を。暖かい言葉を。あの温もりに満ちた手を。
いつか、恨みも過去の遺恨も忘れ去り、仲良くなれる日がくるのではないかと期待していた。
聖地ゴルドで、ようやくククールは兄への想いを語り、マルチェロも多少の理解を示してくれた。
あの時の続きを、ククールは見たい。
関係が完全に改善されて、本当に兄弟と言える日がくるのなら、行きたい。
あの時のマルチェロの言葉に続きがあるのなら、聞いてみたい。
だから、そのために殺し合うのもいいかと、考えてしまったのだ。
「でもな、そんなことして生き返らせても……あいつはきっと怒るんだろうな」
プライドの高いマルチェロのことだ。
ククールがそんな方法で生き返らせたとしたら、今度こそ完全に二人の仲は崩壊してただろう。
そう、兄弟のためというミレーユの動機が、理由がククールには理解できてしまう。
なればこそ責めることはできない。
何か一つ違えば、ククールが殺そうとし、ミレーユが説得の側に回ることだってあったのだろうから。
「だからさ、ミレーユの気持ちは俺にもわかる。 けど、そんなことしていったい誰がよろこ――ぶ?」
ズン、とククールの体に異物が突き刺さる。
振り返って見ると、雷鳴の剣を持ったミレーユの姿。
その雷鳴の剣は、ククールの背中に突き抜け、腹にまで達していた。
「な、んで……?」
理解が追い付かない。
抵抗することも、ミレーユに何か聞くこともできず、ただ流れる血をそのままに立つことしかできない。
「さっき言ったはずよ。 私はテリーのためにやれることをするって」
「君は、さっき……」
「しんみりした話でもして、これで本当の仲間にでもなったんだって言いたいのかしら?」
ミレーユの表情は昏く、しかし確固たる意志に満ちている。
一度自分の弱さを見せた人間が裏切らないと本当に思っているのなら、お笑いだ。
すべては、ククールやピエールの信頼を勝ち取るための芝居なのだ。
「覚えておいて、ククール」
毒を盛ったとして、ククールとピエールが同時に飲む確率など、一体どれほどのものなのか。
片方しか飲まなければ、必然的に残った一人と戦闘になる。
さらにその毒の効果とやらはどれほどのものなのか。
毒の沼地を歩いている程度の強さなら、殺傷することは到底不可能だ。
また、スライムナイトのような種族と人間では、効果に差が出るのはほぼ間違いないだろう。
そう、毒で殺すのは相手が一人の場合のみ。
そこでどの程度の効果かを調べて、ようやく複数人に仕掛ける意義も発生するのだ。
はじめ、二人とも紅茶を飲ませて殺すつもりだったミレーユはそのことに気が付くと、急きょ進路を変更。
ミレーユは、臨機応変に浮かんだ問題に対応していく。
そして、ククールが身の上話をした瞬間に、ミレーユは自分の作戦が成功したことを悟ったのだ。
「女は、したたかなのよ」
ミレーユは自分のことをあまり語らない。
ムドーに夢の世界に飛ばされ、如何にして実体を取り戻したか語らない。
ミレーユが生まれ故郷のガンディーノで、どうやって生きてきたか語らない。
ヘルクラウドで、テリーと戦うことになったときも、デュランを倒すまで姉だと打ち明けなかった。
つまり、何が言いたいのか。
ミレーユにとって、涙なんかは小便よりも簡単にひねり出せるものなのだ。
核心の部分を語らず生きてきたのは、これまでもそうだったのだから。
ミレーユは、あまり嘘をつかない。
復活したデスタムーアの力に白旗を上げたのも本当だ。
テリーのために殺しをするのも本当だ。
毒入り紅茶と告げた時のごめんなさいの一言も本音だ。
だけど、その多くの真実の中に嘘を一つだけ混ぜ、真実のように見せかける。
テリーのためなら、仲間を裏切る罪悪感も、他人を殺す倫理に外れた行為も気にならない。
ククールが何か言いたそうにして、そのままこと切れたのも、ミレーユにとっては些末な出来事でしかなかった。
【ククール@DQ8 死亡】
【残り51人】
ピエールはピカピカとネオンサインの光る空間で考える。
何か、おかしい。
ミレーユの言葉に何かひっかかるものを感じる。
自分とて、一時は邪悪な気にあてられ人間を殺す日々を送っていたのだ。
一時の過ちというのは誰にでもあることだろう。
しかし、何故だ。
妙な胸騒ぎがしてならない。
じわじわと体の中にある行き場のない不安が広がっていく。
何か、何かがおかしいのだ。
さあ思い出せ。あの時のやりとりを。
毒入りの紅茶だと告げられた時のあの顔は本当だ。
その後のミレーユの自白も本当だ。
なら、ならば何がおかしいのだ。
そう、あの時だ。
外に出て、風にでもあたろうと言ったそのククール。
そして、項垂れてついていくミレーユ。
ついていくミレーユは何を持って行った?
彼女に支給された雷鳴の剣という名剣だ。
彼女は机の上に置いてた雷鳴の剣を、鞘とともに『腰に差した』のだ。
この時、ピエールは事の重大さにようやく気が付いた。
イスから降りて、階段を目指す。
あまりの勢いでイスが転がり落ちるが、そんなことは気にする余裕もない。
そうだ、武器を持っていくのはおかしいことではない。
戦いに生きるものなら、武器を常に携えておくのは基本だ。
だが、ミレーユのその冷静な判断力が、ピエールの脳裏にひっかかった。
あれだけしくしくと泣きながら、そんなことにまで普通考えが及ぶものだろうか。
ましてや、ピエールをここに残しているのだ。
ここに戻ってくるのが確定している以上、その思考は普通を逸脱したものになる。
あの状況で、そんな思考に到達するミレーユに、ピエールは言い知れない何かを感じ取る。
もしも、予想が本当なら、ククールが危ない。
そう思い、ルイーダの酒場と書かれた場所とコイン売り場の中間にある、階段を昇ろうとするが――三段目を昇った時点で気付く。
(身体が……痺れる!?)
身体中に痺れが走り、手足が言うことをきかない。
そしてどこからか、何かが焦げ付くような匂いがする。
ピエールはこの匂いの正体を知っている。
この匂いはやけつく息。
すでにカジノ中に匂いは充満しており、身を隠す場所など存在しない。
(しまった、すぐに解除を……!)
キアリクの呪文を唱えようとするが、時すでに遅し。
声は出せても、魔力が練れない。 思うように循環させられない。
そのまま仰け反り、背中から階段を転げ落ちる。
「遅かったわね」
背中を強かに打ち付けたピエールに、天から声が降り注ぐ。
ミレーユだ。
この時点で、ピエールは己が不覚を悟った。
「やはり貴女は……!」
「ええそうよ。 上手くいってくれてよかったわ」
ピエールの言葉を肯定したミレーユ。
その言葉に、ピエールは怒りを抑えきれない。
「ククールを殺したのか!」
「あなたとは仲良くなれそうにないわね。 残念だわ」
ピエールの怒声など意にも介さず、ミレーユは階段を一段ずつ降りながら喋る。
一歩、一歩…ピエールの死を告げる足音が近づく。
「魔物使いとして、あなたを使いこなしたかったのに」
本当に残念だという風に、ミレーユは首を振る。
ミレーユは魔物使いの職をマスターしているのだ。
しかし、あの冒険では仲間にできなかった。
故に、スライムナイトを今度こそ仲間にできたらなと思っていた。
その言葉を聞いて、ピエールは烈火のごとく怒る。
使いこなすだと? この女は今そういったのだ。
「ふざけるな! 貴様は魔物使いなどではない! 本当の魔物使いは魔物を従えたりしない!」
リュカは力でピエールや他の仲間をねじ伏せたりしなかった。
調和と融和を図ろうと、リュカはピエールに優しく接してくれた。
リュカにとって、魔物は手下でも家来でもない。
ともにこの世界を旅する仲間であり、パートナーでもあるのだ。
認めてなるものか。
魔物使いとしての在り方を歪めるミレーユを。
リュカの生き方を侮辱するミレーユを。
ククールを騙し、殺害したこの悪逆非道の女を。
血液が沸騰せんばかりに沸き立つ。
痺れなど、気力で吹き飛ばそうと騎士の部分とスライム本体で震えながら体を起こそうとする。
たとえこの命を散らせようとも、たとえ一矢報いることさえ叶わかったとしても。
このまま伏して死を待つのは認められない。
思うように動かない体に鞭を打ち、ようやく立ち上がることができた矢先だ。
「そう、じゃあね」
雷鳴の剣が二人目の命を吸ったのは。
【スライムナイト@DQ5 死亡】
【残り50人】
一人と一匹を殺しても、この身には何の感慨も沸かない。
テリーのためなら、なんだってできる気がする。
二人の支給品を回収しったミレーユは、欲望の町へと躍りだす。
残る敵は後56人。 そのすべてを駆り尽くすために。
そして、彼女の懐にはくじけぬこころが一つ。
果たして、くじけぬこころを持ってしてもデスタムーアに屈してしまったのか。
それとも、くじけぬこころを持っているが故に、テリーのためにという道を歩めているのか。
それはもはや彼女本人にも分からないことであろう。
一つだけ言えるのは、その手を血で汚してもなお、ミレーユという女性はとても美しいということだけだ。
【E-8/欲望の町 カジノ/朝】
【ミレーユ@DQ6】
[状態]:健康
[装備]:雷鳴の剣@DQ6 くじけぬこころ@DQ6
[道具]:毒入り紅茶 支給品一式×3 ピエールの支給品1〜3 ククールの支給品1〜3
[思考]:テリーを生き残らせるために殺す
代理投下終わり
容量の問題で一部改行しています
投下乙です。遅くなりましたが感想を
テリーは割と冷静なのに姉は病んでるw
ピエールは他ロワで大活躍だったからここで落ちたのは意外だな
エイトがバーバラに、ククールはミレーユに、ついでにM字もデスタムーアに…
ヤンガス逃げて!6勢から超逃げて!!
前回で活躍したキャラ程あっさり死んでいくな。
ある意味で当然っちゃ当然だが。
1stと比べて、死亡ペース早い気がするのは一話登場で死亡が多いからだろうか。
数えてみよう
男は義憤に燃えていた。
鋭い眼差しに頬の傷跡、頭にはトゲの生えたような帽子と、いかにも悪者の如き風貌のその男。
名をヤンガスという。
ヤンガスは許せなかった。
罪無き命を弄び、いとも容易く握り潰した大魔王なる男、デスタムーアを。
一度命を救われてからというもの、彼はその重みを人一倍理解していた。
「兄貴…」
ふと兄貴と慕う命の恩人――エイトのことが思い出された。
山賊を名乗って一方的に襲い掛かり、愚かにも橋を壊して谷底に落ちかけ、かろうじて橋の綱に捕まっていた自分を、引き上げてくれたエイトの兄貴。
そう、彼に救われ、まるでもう一度生を受けたかのような気持ちになった。
それから道化師ドルマゲスを追う旅に加わり、ヤンガスは大きく成長した。
勿論斧や格闘の技術も幾多の戦いの中で間違いなく磨かれた。
だが彼にとって最も大きな成長は、その心。
エイトや仲間と心を通わせ、旅先でまるでしたことのない経験をし、元山賊の心には『人情』が生え育っていった。
いつしかヤンガスは『博愛の大親分』と呼ばれるほど情に厚く頼りがいのある漢となっていた。
そして大魔王ラプソーンを倒し、平穏な日々の自分なりの生き方を模索していた矢先。
知らぬ魔王に知らぬ土地へと召喚され殺し合いを命じられた。
「デスタムーアだか誰だか知らねえが、絶対ぶっ倒してやるでがす」
ヤンガスは支給された得物、覇王の斧を強く握り締め、立ち上がった。
その時、そう遠くない所から爆発音が聞こえてきた。
――デスタムーアを倒す。
そのためには仲間が必要だ。
兄貴、ゼシカ、ククールが見つかれば必ず仲間になってくれるだろう。
自分と同じ思いの奴らもいるはずだ。
力を合わせれば、デスタムーアなどきっと目ではない。
だが、残念ながら殺し合いに乗る連中も出る。
この爆発音も、おそらくそいつらによるものだろう。
ならば。
ヤンガスは音の方向へ走り出した。
「アッシはそいつらを止め、正しい道へ引き入れるでげす!」
かつて兄貴が自分にしてくれたように。
帽子のトゲが、いつにもまして鋭く、逞しく見えた。
【F-4/森林/朝】
【ヤンガス@DQ8】
[状態] 健康
[装備] 覇王の斧
[道具] 支給品一式(不明1or2,本人確認済)
[思考] 爆発音のした方向へ向かう;戦うものは止め、説得する;エイト、ゼシカ、ククールを探す;同調者を探す;デスタムーアを倒す
予約していたヤンガスを投下しました
代理投下します
ミネアは主催者であるデスタムーアの所業に怒っていた。
いきなりの殺し合いの宣言、罪もない人の殺人。
もう一度言う、ミネアは怒っていた。
「こんなこと、許しちゃいけない」
導かれし者の一人として世界を救う旅を行なってきたミネアにとって殺し合いに乗るなど言語道断。
例えそれが大切な人――エドガンを蘇らせることができたとしてもである。
「何の罪もない人を犠牲に生き返らせても、父さんは喜ばない。私は迷いません」
かの大魔王であるデスタムーアを倒し、この世界から抜け出すという目的が早期に決まっていた。
この世界には自分の他にも天空の勇者であるソフィア、姉であるマーニャ、
仲間の武闘家であるアリーナ、魔族の王であるピサロ、ソフィアの幼馴染であったシンシアがいる。
(どうして、シンシアさんが……? ソフィアさんの話によると彼女は死んだはずでは…………)
ソフィアから聞いた話によるとシンシアはソフィアを庇ってピサロ率いる魔族の軍隊により殺されたはず。
生きているはずがない存在なのだ。
確かにクリフトや自分は蘇生呪文により人を生き返らせることができるがあくまでそれは導かれしもの達だけの特権である。
シンシアがそれに当てはまるとはミネアはとてもではないが思えなかった。
(色々と確かめる必要があるようですね。この世界の仕組み、死者の蘇生。
何もかもが無知の今、最初にすべきことは仲間と情報を集めること)
この広すぎる世界で仲間と情報を集めることは容易ではない。
加えてこの殺し合いに乗ったものと遭遇してしまえば戦闘は回避できないだろう。
ミネアが今から行うことは茨の道だ、殺し合いに乗ってしまったほうが道は楽なのかもしれない。
それでも。
「私は正しい道を選び続けたい」
ミネアが後悔しない道を選び続けたいのだ。
いつか自分が黄泉の世界に連れていかれ亡きエドガンやオーリンに会った時、胸を張って頑張ったよと言いたいから。
その為にはまずは現在状況、自分に支給された袋をチェックしなければならない。
主催者の施しに頼るのは癪であるがこの中身が自分の行く末を左右しているのだ。
せめて使える物が入っていて欲しいとミネアは神様に切に願う。
「…………」
だが、いるかもわからない神様はミネアに厳しかった。
手に握られているのは二つの布。つまり、水着である。名前で言うとあぶない水着である。
「な、なな、ななっ……」
思わぬ支給品にミネアの顔は徐々に赤に染まっていく。
「なんなんですか、これえええええええええ!」
ちゃらんぽらんで奔放な姉を持つミネアではあるがこういうものには苦手意識があるのだ。
開始数分でミネアはこの支給品をどうするか、仲間や情報を集める以前にこのことについてひどく悩んでいた。
【C-3/草原/朝】
【ミネア@DQ4】
[状態] 健康
[装備]
[道具] 支給品一式、あぶない水着
[思考] 仲間や情報を集める。
終了
今夜はもう投下ないかなあ
投下します。
茂みを駆け抜け、山を迂回し。
ようやく目立たない山の裾野まで来ることができた。
「このあたりまで来れば、もう見つからないかな」
「はぁっ、はぁっ……ちょっと〜、待ってってばぁ〜!」
へろへろと空中を揺らめき、ばたりと倒れこむように、サンディが肩の上に乗り付ける。
こんなに小さくともしっかりと女性特有の柔らかさを肩越しに感じ、アルスはどぎまぎしてしまった。
幼馴染の影響もあってか、女性に対し臆病な反面敏感になり、この年齢になるまで交際など経験がない。
いわゆる、筋金入りの初心である。
「ご、ごめん。飛んでるから大丈夫だと思って」
「アタシが飛ぶのって、あんたが走るのと同じように疲れるってゆーか!
むしろそれ以上にマジダルってカンジなわけ!乗っけてってよー!」
「う、わ、わかったよ……」
小さい体躯でも口のまわりっぷりは人間以上であった。
有無を言わせずサンディのため、肩を椅子代わりに明け渡す羽目になる。
「そんじゃま、ちゃっちゃと行くわよアッシーくん!」
「またこんな扱いかぁ……」
虐げられ慣れている自分をちょっと自嘲気味に笑う。
同時に、マリベルの毒舌を思い出し気が急くのであった。
早く見つけなければ、後で何をされるか分かったものではない。
「さっきみたいな奴が他にもいないと限らないし、早く他の場所へ移ろう」
「地図見せて、地図!……う〜ん、アタシたちってなんかちゅーとハンパな位置にいるじゃん」
「近くに何かあるかもなあ……ちょっと、辺りを確認してみるよ」
言うや否や、目を伏せて集中を始めるアルス。
サンディは真剣な、それでもちょっと気の抜けた横顔を特等席で眺めながら首を傾げた。
「何やってンの?」
「僕の特技で、周りを確認するんだ……むっ!!」
括目すると、アルスの視界はその場を離れ高々と空を舞いあがる。
船乗りの職により会得した『うみどりの目』だ。
例え地図に載っていないほこらや洞穴があったとして、これならば近くを隅々まで探索が可能である。
「……北西の森に何かあるなあ……森に阻まれて見えにくいけど。
あ、小さいけれど湖があるよ、水の補給とかができるかも」
「へーっ!すごいじゃん、チョー便利!」
アルスはまず、北西に向かうことを踏まえて考えてみる。
先ほどの道化師はそろそろ目覚めてもおかしくない。
そんなとき視界に入る、そう離れていない森があるのならば。
ひょっとしたら、取り逃した獲物を探しに入る可能性がある。
「でも、さっきの男に見つかるかもしれないし、ここから戻って森に入るのは危ないかもね」
「!それダメねっ、バツ!どっか他にいこ、もっと人がいっぱいいるトコとかっ!
あのピエロマジヤバだしっ!ムリムリー!」
あからさまに態度を翻して他の提案を求めるサンディ。
どうやらあの道化師男に生理的嫌悪を抱いているようだ。
まあ殺されそうになったのだしふつうはそう思う。
「じゃあ他はどうかな…えっと…?」
「ん?なになに、何か見えた?」
「……鳥だ」
アルスの視界に入ったのは、翼をはためかせる存在。
正体を聞いてサンディが、なぁんだと嘆息する。
「トリがどーしたって言うのよ」
「ただの鳥じゃないみたいだ、すごく大きいし何か掴んで……!!あ、あいつはっ!」
「え?なによっ、ちょっとアタシにも見せて……あ、そっか無理ね」
アルスの見開かれた目が、何かを映し出したようだ。
気になってサンディが問いただすと、アルスはその名を呟いた。
「グラコスだっ…!」
*****
「グラコス、お前は少し痩せろ」
「げはっ!何を言う、このグラコスさまを愚弄するかジャミラスっ!」
炎の魔鳥ジャミラスは、怪魚グラコスの持つ槍を掴み運搬中であった。
なんとも奇妙な光景ではある。
「いや、すまないな……あまりの重みに、
今にも手が離れてしまいそうでならんのだ」
「!すっ、すまん!お前の言う通りだ!!
努力するから妙な冗談はやめてくれっ!げはっ、げははは」
ひきつった笑いを浮かべる同僚に、やれやれとジャミラスは呆れた顔をする。
(品のない雑魚め)
(キザなトリ頭が)
内心たぎるような敵対心を秘めつつも、二人は協力していた。
かつて生きていた頃から反りが合わなかった二名は、蘇っても関係はこのまま、ということだ。
「─それにしても貴様が、持ち場所を交換してくれるとは。
どんな風の吹き回しなのだ?」
「フン……私はとても優しいのさ。貴様とは違う」
デスタムーアにこの地を任された四魔王。
それぞれ東・西・南・北へと散る任務を帯び、彼らはやってきた。
だがグラコスが任されたのは北。
彼が好み拠点としようとした水場が、僅かしかない地区だ。
それをよしとしないグラコスのわがままを、今こうしてジャミラスが聞いているということであった。
「ムドーもデュランのヤツも、聞く耳すら持ち合わせておらなんだ!
心のせまい輩だ」
「ムドーにとって、デスタムーアさまの命令は一片たりとも曲げられん使命よ。
まったく、お堅いことだ」
「げはは、違いない!ブクルルルー」
幻術に長け、重要な役割を任命されることも多い所謂エリートの迫力と魔力とを備えたムドー。
孤高を好み、その『武』たる力では右に出る者はいない個人主義のデュラン。
どこか達観したところのある両者は四魔王の和を乱すことはなかった。
「デュランなぞは、私以上の好き勝手をしていただろう。貴様もよくもまあ請おうと思ったものだ」
「物で釣ろうとしたら、今度話しかけたらなます切りにするとぬかしおった!!
蘇ってもやはり気に入らんぞあやつらめ!!」
だが、気位の高く完璧主義なきらいがあるジャミラス。
腕が立つもののどこか俗っぽく我の強いグラコス。
両者が対立することもしばしばあったが、相反するものどうしで不思議と気が合う瞬間も、またあった。
共に各々の実力は認めているからこそ、対立が生まれることもあるのだろう。
「だがその要求も理に叶ってると言える、貴様の判断にしてはな。
『この大陸で一番大きな湖に移せ』とは、海底を牛耳る魔王ならば当然の選択と言えよう」
「おお!その通りであろう!」
満悦気味のグラコスを、ジャミラスは鼻で笑って続けた。
「水がなければ貴様の実力など、馬の糞にも劣る。空も地も我が物とする見習うべき存在たるこのジャミラスに媚び諂い、
このみっともない姿を空から晒してまでも、デスタムーア様のお力とななろうとする姿勢。─そこだけは認めてやろう」
どこか気取った様子で、滞りなく流れる水のように罵詈雑言を紡ぐジャミラス。
実に鮮やかで痛烈な毒を、グラコスに向かって笑いを添えてささげた。
「……相変わらず無駄な長話が好きなようだな!!わしの氷の餌食とされたいか!ブクルルルー」
「フン、そんな物は私の炎で消してくれよう。第一、今私が消えて困るのは貴様だ─おっと……見えてきたぞ、湖だ」
グラコスをぶらさげたジャミラスは、下降を始める。
じつに喧しい空の旅を、二人の魔王が終えようとしていた。
*****
「でっかい鳥が、そのグラコスってでっかい魚を?」
「運んでたし、一瞬だったけど何か話してる風に見えた。きっと仲間なんだよ」
荷物を確認しながら、アルスは焦っていた。
グラコスの実力は、依然交えた際に知っている。
見たこともない鳥の魔物については疑問だが、ともかく同等の力はあるだろう。
要するに、だ。
「グラコスみたいに強力な魔物が南に向かったんだ、南のほうが危険かもしれない」
「で、ですよねー!!そんじゃそんじゃ、ね?別の方へ逃げよーヨッ!」
アルスは、慎重に考える。
北へと逃げて、逃げのびて仲間達との再会を目指し走るか。
南へと向かい、あの魔物達の犠牲となる人々のために戦いを挑むか。
そうして、いつのまにか、マリベルだったらどうする、キーファだったらどうするか。
そういう考えに至っている自分に、変わらないなぁ、とため息をつくのであった。
やがて、彼は決断する。
「……でも、駄目だよ」
「えっ?」
「僕がマリベルと、ガボとで一緒に倒した奴が、復活したのか南に向かったんだ。
もしかして、そのことを恨んでいるかもしれないし……
それに誰かが暴れるグラコスに出くわしたらって思うと、じっとしてられないよ」
「そんなぁ〜……」
ようやく確認したふくろの中身を、アルスが装備する。
冒険者御用達の武器、鋼鉄の剣を腰に挿した。
「その……ごめん、サンディ。君が嫌なら僕と一緒になんて行かなくてもいいからさ。
それに……君もともだちを探してるんならそっちのほうがいい」
「……」
サンディは苦い顔をしながら、アルスの肩から降りて飛行する。
それを別れのしるしと取ったか、彼は一人歩みだした。
「じゃあね……」
「えー……」
徐々に離れていく背中を見ながらサンディは、自分用の小さなふくろをまさぐった。
人間用で、少々大きいバンダナを取り出し、ポンチョのように体に巻きつける。
すると、疾風の魔力が身体を包み込んだのを感じる。
この状態なら、多少は今より急げそうだ。
「……うーーーんっ!待ってってばー!アタシ一人とかマジごめんだしー!」
高速で突っ込んだ緑帽子が、ばふっと気の抜けた音を立てた。
*****
湖の北側、二つの巨体が降り立つ。
じゃぶじゃぶと水の中にグラコスは入っていき、まるで入浴するかのように落ち着いた表情を浮かべた。
「恩に着よう、ジャミラスよ。貴様もせいぜい頑張って獲物を仕留めるのだな」
「ほう、まさかと思うが忘れてはいまい?
このゲームはあくまで、デスタムーア様にお楽しみ頂くためのものだ。
我々が余りに介入するようならばそれこそ、興が醒めるというもの。
あまり出過ぎた真似はしないようにするがよい」
自分の迂闊さを指摘されたグラコスは、鼻息を荒くして機嫌を損ねる。
手をしっしっ、と犬でも追い払うように振った。
「ふんっ、嫌味を言いおって。さっさと行け、もう用なぞない」
「……ところが私にはある。デュランを釣ろうとした『餌』をもらおうか」
「げはっ?」
言うが否や、ジャミラスの鋭い鉤爪の先端がグラコスの顔面へと向けられる。
灼熱の輝きを秘め、赤熱した爪の温度が、ぐんぐんと上がっていくのをグラコスは感じた。
「貴様。四魔王に一つずつ渡されるはずの、夢の象徴『ダーマ』の書物をくすねたな?」
「げ……げははは!何を言う、根も葉もないことを……」
あからさまな狼狽を見せたグラコスに、嘴の端が歪み、笑いが漏れる。
ジャミラスは尚も、よく回る舌で続けた。
「欲深きやつめ……一人で三冊も抱え込むとは」
「三冊ではない!!二冊だけだっ!!」
「やはりか」
「げはっ!!また悪い癖でしゃべり過ぎてしまったぞっ!!」
自分の頭を槍の柄でガンガンと殴り続けるグラコスをせせら笑いながら、ジャミラスは掌を差し出した。
「駄賃にひとつ……その書を頂くつもりだ。
そのような理由がなくては、貴様のようなお荷物を誰が運ぶものか!!」
「ブクルルルルッ!!!度重なる狼藉、生かしてはおかんぞ!!水底に引きずり込んでくれるわっ!!」
怒り狂ったグラコスが、槍の穂先を向けて水面を加速、突進する。
しかしジャミラスは涼しい顔で腕組みをした。
「ほう、尚もデスタムーア様の命に背くのか?」
「なっ!?」
ピタリ、とグラコスの槍が止まる。
デスタムーアの恐ろしさは、四魔王全てが理解しているところだ。
「我らが魔王までもが殺し合いを始めては、送り込まれた意味が無くなることがわからぬか。
度重なる命令放棄にデスタムーア様や、あのアクバーが黙ったままでいると思うか……?」
「ぐ…ぐぐっ!」
悔しがるグラコスが、ギリギリと歯を食いしばる。
憎々しげに放り投げた書物を、ジャミラスは飛び立ちながら受け取った。
「なるほど、剣の奥義か……おおかた、デュランが拒んだものを自分のものにしたのであろう。
剣など触れぬ貴様には無用な物を……ごうつくばりめが」
「貴様とて、役には立てんだろう!!」
「どうかな……?フハハハハハ!!」
勝ち誇ったように笑い、朝焼けの空へと消えていく。
地団太を踏もうとするが、足元には地面がないし、グラコスには足がない。
「おのれ、あ奴には絶対に負けん!!わしが誰よりも優れた魔王だと、皆に認めさせてやろうっ!!」
【C-4/平原/1日目朝】
【アルス(主人公)@DQ7】
[状態]:HP全快
[装備]:はがねの剣@歴代
[道具]:(不明支給品0〜2) 支給品一式
[思考]:顔見知りを探す(ホンダラ優先) ゲームには乗らない
南(ヘルハーブ・絶望の町方面)に向かったグラコスを追跡して止める。
【サンディ@DQ9】
[状態]:HP全快
[装備]:疾風のバンダナ@DQ8
[道具]:不明 支給品一式
[思考]:ゲームには乗らない、アルスと行動を共にしてアンジェ@DQ9を探す。
[備考]:羽が不調のためあまり高くは飛べません。飛べて人間の身長程度。
【E-3/湖/1日目朝】
【グラコス@J】
[状態]:HP全快 水中
[装備]:グラコスのヤリ@DQ6
[道具]:ヤリの秘伝書@DQ9 支給品一式
[思考]:ヘルハーブ温泉・湖周辺にて魔王としての本領を発揮していいところを見せる。
デスタムーアの命令には従いつつも、蘇ったのでなるべく好き勝手に暴れたい。
[備考]:支給品没収を受けていません。水中以外でも移動・活動はできます。
【E-3/空/一日目朝】
【ジャミラス@J】
[状態]:HP全快 飛行中
[装備]:なし
[道具]:剣の秘伝書@DQ9 ツメの秘伝書@DQ9 超ばんのうぐすり@DQ8 支給品一式
[思考]:北部に移動し、参加者の殺し合いを観察しつつゲーム進行の障害を始末する。
道中、剣を確保したい。デスタムーアの命令には従っているが、その真意は不明。
[備考]:支給品没収を受けていません。飛行に関して制限なし。
投下乙
そういえば7にもグラコスはいたな
この勘違いが果たしてどう作用するのか
んで続いて代理投下いきます
◆◆
提示された帰るための方法は、この戦いで勝利者として最後まで生き残ることだけだ。
自分をのぞく他の者全てを冥府に送ったとき、元の世界に戻ることができる、と。
そのときにどんな願いも叶えてやろうとデスタムーアは言ったが、わが望みは恋人との平穏な生活だけだ。
いい子でまってろロザリー、必ず帰る!
優勝した暁には、強いていうなら彼女の永遠の愛を望もう。ほかの願いなど取るに足らぬ。
早朝の森に響くのは、孤独な狼の遠吠えだ。
群をはぐれた、一頭で見知らぬ土地を彷徨う、幼い狼の。
悲しげな呼び声は仲間を求めて繰り返すが、応えるものはない。哀れなものだ。
彼は森のきわにいた。
その黒い服は木の下闇にまぎれ、その髪は薄暗い光の下灰色に鈍く輝く。
鋭い赤い目が天をあおぐ。
狼の叫びを除いては、辺りに人の気配はない。
足元の草花があまりにものどかで、あの不気味な広間でのことが嘘のようだ。
それでも嘘でも夢でもない証拠に、彼の足元には無造作なふくろがあり、そこから取り出した杖を彼は武器代わりに手にしていた。
勝手のわからぬ土地に放り出されて思うのは、全世界を引き換えにしても良いほど愛した乙女のことだ。
優しい彼女がここにいないのは幸いだ。だが、なんとしてでも自分は帰る。野に咲く花のように可憐で真珠のように清らかな彼女のもとへ。
二人静かに暮らそうと思っていた矢先なのだ。
倒れてなるものか。愛しいロザリー!
突然ガサガサッと物音がして、ピサロは素早く辺りを見回した。
木々の間をかけて行く長いスカート。なびく髪。
「ロザ……!」
いやちがう。
ここにいるはずはない!
赤いスカート。青いマント。髪も黒い。
かつてならず者に追われて逃げていたあの少女ではない!
だが同じように怯えて、もつれる足元。
枝にマントが引っかかり、彼女はつまづいた。
すすり泣きながら身を起こす。
「ひどい、ひどい……!」
「どうした。どこへ行く」
いきなり声を掛けられ、少女はひっと息を呑む。
「心配するな、攻撃するつもりがないのなら危害は加えない」
ピサロは木の下闇を離れ、姿を見せた。
武器はこの杖しかなくとも、彼には呪文も技もある。少女からは怯えと不安しか感じない。
だからこのひ弱な姿が敵意ある者のモシャスとは思えない。
彼女の姿がここにはいない恋人の姿に重なり合った。
見捨てられない。戦意のない者を無駄に討てばロザリーが悲しむ。
◆
「ごめんなさい、ミーティア取り乱してしまいました。
どこかに私の近衛兵がいるはずなので、森のなかを探し歩いていたら見てしまったのです。」
黒髪の少女は唾をのみこんだ。蒼白で目元に涙がのこっている。
「叫ぶ声がきこえて、戦う物音がして……男の方が燃えてしまうのを……!
杖をついたお年寄りが呪文を唱えたら、すごい焔が一緒にいた若い男の方を焼き尽くしてしまいました!
恐くて恐くて、そこからやみくもに逃げて来たのですけれど、」
と、ここでふと気づき、ぱっと頬を染めた。
「ごめんなさい、自己紹介がまだでした。
私、トロデーンの王女ミーティアと申します。」
「ミーティア姫か」
ピサロは名簿をとりだし、ざっと目を通してみた。たしかに載っている。トロデーン国王の娘ミーティア。
「わたしはピサロ、私も自国では王だった。」
ミーティアのふくろの中身をあらためさせる。
まだろくに確認もしていなかったようだ。
「これは……お鍋の蓋?ふただけあっても使えないですね……」
「まあ、こんなものでも盾の代わりにはなるだろう。砕けなければな。
こちらはなんだ?」
ピサロは小さくまるまった布を取り出した。
「あっ、それは……!!
ダメ!だめですっ!
返してください!
それミーティアのじゃありませんっ!!!」
彼女は驚くほどの素早さでピサロの手からそれをひったくろうとする。
しかしピサロの指に引っかかったそれは、二人の手のあいだで広がった。
「下着……!?」
デスタムーアは女性にこんなものを配るのか?
防具として役に立つのかもしれないが、いやそれにしてもこれは!
しかし自分のふくろにもステテコパンツが入っていたし、この「ゲーム」はそういうものなのだろうか?
ロザリー、お前がここにいなくて本当に良かった!!
「それ、着なきゃいけないなんて、ミーティアは嫌です……」
ミーティアは奪い返したいやんなデザインの下着をふくろに戻した。
「いや、一応これに着替えたほうが良いのではないか?何かあったら、防具が」
「こんなのを着なきゃいけないなんて、ミーティアは嫌です!」
「それでもただの布の服よりはましかもしれな」
「こんなものを着て歩くなんて、ミーティアは恥ずかしくて死んでしまいそうです……!
やっぱり嫌です、ぜったいに嫌!
ピサロさんのえっち!!」
「……。
わかった、無理して着るな」
二人は森の端を離れた。
ミーティアはエイトを探すために。
ピサロもついて行く。自分の戦闘能力には自信があったが、ほかの者のスタンスがまだ全く見えないのだ。
突然始まった仁義なき戦いの、この単純明快なルールでも、きっと何らかの手段を講じて身内と戦わずに勝利しようという者もあるかもしれぬ。
たとえば、ソフィア。生き残るため、この戦いの渦に身を投じるだろうか?
いや。彼女ならきっと、無駄に戦わずにすむ道を見つけ出すだろう。
そんな者たちに対してミーティアを連れていることは敵対した際強力なカードにもなりえるし……それに、人間の善が本当に信ずるに値するものならば、きっと全員を救うべく尽力するものは孤独にはならない。
この理不尽な世界に現れる勇者にかけてみる価値はある!
「どちらへいきましょう?」
ミーティアはピサロの指示を仰ぐ。
「そうだな、人があつまりそうな町に行っても良いが、それは危険人物と出会う確率も高くなる。
それでも情報はより多く集まるだろう」
賢明な手段ではなかった。
もしピサロが優勝を狙うのなら、身を守れる場所で有利な戦いを選び、危険は冒さず、不利益になる者の隙を見つけたら殺して生き残ることを優先せねばならない。
「ろくな町がないな。ぞっとしない名ばかりの」
地図を広げてピサロは言う。
「一番近い町を目指すか……絶望の町、だ」
彼は南のほうを指差した。
森をでて、平地を行くルートだ。
地図と杖以外のものをふくろに戻して、配られた下着をあくまで拒否するミーティアにおなべの蓋を持たせ(しかしこのぎこちない持ち方で、もし熟練の剣士や強力な魔法使いに襲われでもしたらなんの護りになるだろうか!)、二人で草地を進む。
遠くで若い狼が遠吠えする。
仲間など来ないというのに。
◆
ガボにできるのは、古くから狼たちがやってきたように仲間によびかけることだけだった。
仲間たちはどこかにいる。
来てくれ!こたえろ!おいらはここにいる!
そしてガボはひとつ、こまっていた。
袋のなかをあさって何の気なしにひっぱりだした剣。
そいつが、どうやっても放せないのだ!
右手に破壊の剣をさげ、途方にくれる。
「おいら、剣のつかいかたなんてしらないぞ……。
それにこのままじゃ、メシ食うときとかどうするんだ?」
【E-4/草原/朝】
【ピサロ@DQ4】
[状態]:健康
[装備]:杖(不明)
[道具]:ステテコパンツ、不明0〜1、基本支給品
[思考]:脱出。優勝するなり主催を倒すなり、手段は問わない
【ミーティア@DQ8】
[状態]:健康
[装備]:おなべのふた
[道具]:エッチな下着、他不明0〜1、基本支給品
[思考]:エイトを探す
[備考]:エイトの安否は知りません。エッチな下着(守備力+23)はできるだけ装備したくありません。
【ガボ@DQ7】
[状態]:健康
[装備]:破壊の剣@DQ2
[道具]:基本支給品、他不明品0〜2
[思考]:仲間をさがす
[備考]:破壊の剣:のろわれているので外せない。2割くらいの確率で行動不能。
終了
ピサロは一応今は対主催寄りのようだけど、何がきっかけでスタンス変わるか分からない危うさがあるな
ミーティア姫も、エイトの死を知ったら果たしてどうなるか
イザヤールは深い森の中を彷徨っていた。
全身を怒りに震わせながら力強く歩を進める。
「何ということだ」
彼は怒っていた。
怒気が全身に炎のように揺らめいている。
何もできなかった。
それどころか怯んでしまった。
そのことがどうしても許せなかった。
最初の広間で少年が殺された時。
デスタムーアと名乗る魔族の妖気に中てられた時。
人を守るべき守護天使であった自分がただの人のように動けなかった。
「恥だ」
死ぬのは怖くない。その筈だったのにあの時、体は動かなかった。
自分に対する怒りとデスタムーアに対する怒りがせめぎ合い、イザヤールは吼える。
「ゲームといったなデスタムーア!
ならばそのゲーム盤はこの私が引っ繰り返させて貰うぞ!」
まずは彼の弟子であったアンジェを見つけるのだ。
自分のことを恨んでいるかも知れないが、今の自分が信用できる者は彼女しかいない。
「だから生き延びるのだぞ、アンジェ……」
そうつぶやいた後彼はようやく落ち着いた。
自分の方針が定まり、他のことを考える余裕が出てきたのだ。
怒りは収まらないが少なくとも表面上は冷静さを保つことが出来る。
他人の心配もいいが、それよりもまず自分が生き延びなくては話にならない。
イザヤールは自分に支給されたアイテムを確認することにした。
いつ何が役に立つかは分からない。
確認しておくにこしたことはないだろう。
そしてふくろから取り出したのは3本の杖だった。
魔法弾の当たった相手と位置を入れ替える場所替えの杖。
魔法弾の当たった場所に瞬間移動する飛び付きの杖。
魔法弾を当てたモノを側に引き寄せる引き寄せの杖。
それぞれ癖のある魔法の杖だった。
「ふむ、状況次第で役に立つな」
そしてがさゴソともう一度ふくろを漁り――ふと目が合った。
誰と? 森の木々の間からこちらをじっと見つめていた少女と。
「誰だ!?」
イザヤールが誰何すると少女はニッコリと笑いかけてきた。
年齢はアンジェと同じくらいだろうか?
体格は小柄で肩で左右で結えた黒髪が似合っている武闘着姿の少女だった。
「驚かせてしまったようでごめんなさい、大丈夫でしたか?」
「む? ああ、構わん。気にしないでくれ」
融和な雰囲気にどうやら危険な相手ではないようだと判断した。
相手を不安にさせないようにこちらも笑いかけて挨拶をする。
「私の名はイザヤール。君は?」
「イザヤール様とおっしゃるのですね。 申し遅れました。わたくし、リンリンと申します。
以後お見知りおきを」
「う……む」
楽しそうに笑う彼女を見て、イザヤールは違和感を覚えた。
どうもこのリンリンという少女は雰囲気が変だ。
(なぜだ?)
どこか場違いに思えてならない。
そこまで思って気づいた。そう、「場違い」なのだ。
ここはあのデスタムーアという魔族が用意した殺し合いをする世界なのだ。
なのに何故……「楽しそうに」笑えるのだ?
イザヤールが先ほどしたようなその場を取り繕うような愛想笑いではない。
(状況を理解していないのだろうか?)
そう思い、質問してみることにした。
「……リンリン、君は今の状況が解かっているのか?
あまりのん気に笑っていられるような事態ではないのだぞ」
「はい、殺し合い、ですね? 大変なことになりました。
自分がこんな夢を見るなんてちょっと信じられないですよね」
「何? 今何と言った?」
「夢です。夢の中でこれは夢と気づくものを明晰夢というのでしたか……
しかし突然こんな場所に瞬間移動して殺し合いを強制させられる、
なんて荒唐無稽な出来事が現実にあるはずがないでしょう?
ゾーマを滅ぼしたすぐ後に彼より巨大な魔族が現れるなんて全く現実的じゃありません」
ようやくイザヤールは理解した。
確かに普通の人ならこの事態を夢と思い込むのも納得できる。
というより普通はそうだろう。
自分だってこの出来事が全て夢ならばどんなにいいかと思う。
でもそうではないことをイザヤールは理解してしまっている。
今までの戦いの経験が、守護天使としての本能が、あのデスタムーアのおぞましい妖気が「本物」であると
細胞全体で感じ取ってしまっている。
(認めたくないが、これは現実なのだ……)
どうしたものだろう。
リンリンにこれは現実だと説くか、勘違いさせたままにおくか。
イザヤールはおせじにも口が上手いとは言えないし、下手に現実を説くと
相手をパニックに落としいれてしまうかもしれない。
かといって夢だと思わせたままだと思いもかけない行動を起こしそうだ。
(残酷かもしれないがこれが現実なのだと教えた方がいいな……
もしパニックになったとしてもなんとか止めるしかない)
幸いにも近くに他の気配は感じない。
横槍が入らなければこの少女が暴れたところで簡単に取り押さえられるだろう。
(さてどうやって切り出すか……)
と考えていると先にリンリンに話を切り出された。
「わたくし、自分がどうしてこんな夢を見てしまうのか考えてみたんですよ」
「ん? ああ……うむ」
少し迷ったがとりあえず切り出す糸口が見つかるかも知れないと思い、
そのまま話をさせてみることにする。
「多分、わたくしは……戦いたかったんです、全力で」
イザヤールの背筋を悪寒が走りぬける。
邪魔なふくろを放り捨てて瞬時に後方へと跳び、リンリンとの間合いをとった。
目の前の少女からは信じられない程の殺気がほとばしっている。
「リンリン……君は……」
「わたくしは武闘家として技の鍛錬をずっと行ってきました。世界を救う旅の最中でも。
しかしその力を発揮する機会に恵まれていませんでした。
魔物との戦いも刺激的ではありましたが、力任せに襲いかかってくる者が相手では
技を活かせるような戦いにはなりません」
リンリンは悲しそうな表情を見せたかと思うと一転、イザヤールの方をみて薄く笑みを浮かべる。
「でもイザヤールさんは違う。わたくしには解かります……あなたはとても強い。
わたくしの夢が生み出したのだから当然なのかもしれませんが、
生きるか死ぬかの死合いを、心から技を競い合えることのできる本当にわたくしが望んだ相手……クス」
小さく口元を歪めると両手をだらりと降ろし、自然体で立つ。
先ほどまで迸っていた殺気が消え、完全な無為となる。
「どうぞいらしてください」
「……っ」
(隙が……ない、大したものだ!)
イザヤールはこの展開に戸惑っていた。
無害な女の子と思っていた相手が突然、猛獣の如く牙をむいたのだ。
戸惑わない方がおかしいといえる。
だが、殺気をその身に受け戦闘状態に思考が切り替わることで落ち着きを取り戻した。
リンリンは武闘家であり、素手でも充分な戦闘力が発揮できる。
だが自分の特性は戦士であり、武器がなくては戦闘力は落ちてしまう。
ならば逃げるか? その選択肢は選べない。
なぜなら彼は義の戦士。
目の前の哀れな少女を見捨ててこの場を去るなど出来る筈もなかった。
(彼女を悪夢から目覚めさせる!)
戦士である彼の素早さは決して高くはない。
防御を高め、カウンターを狙う戦法が有効と判断しその場に構えた。
それを見てとったのだろう。リンリンは微かに笑うと再び構えを取った。
「ならばこちらから参ります!」
瞬間、彼女の姿が消えた。
否、そう見える程の速度で跳躍したのだ。
(速い!)
彼の背後の草が弾ける。
「後ろか!」
振り向きざまに腕をクロスさせる。
ガシィッ
リンリンの飛び蹴りを見事に受けとめた。
「お見事」
「なんの!」
両腕を振るってリンリンを弾きとばし、宙を舞う彼女に拳を放つ。
昏倒させて拘束するのが狙いだ。
だが彼女はうしろに目があるかのように落下しながら身を捻るとイザヤールの拳をすり抜けた。
そのまま地面に両腕で着地し、まるでブレイクダンスでも踊るかのようにその場で回転しながらイザヤールに連続蹴りを放つ。
脇腹、肩、腕にそれぞれヒットするが、身の守りに定評のある彼には大した痛手とはならない。
そのままサッカーボールを蹴るかのように足を振るう。
しかしそれもまた、リンリンに瞬時にその場を飛びのかれ回避されてしまった。
「なんという素早さだ、まるで燕だな」
「なんという防御力、まるで熊のようです」
リンリンの腕には腕輪が嵌っている。おそらくそれが彼女の素早さを増幅しているのだろう。
相手を捉えきれないイザヤールと相手に痛手を与えきれないリンリン。
(わずかに私が有利……か?)
防御に欠けるリンリンはイザヤールの攻撃をまともに食らえば危ない。
対してこちらは防御態勢を崩さなければ、リンリンの攻撃を受け切れる自信があった。
「フ、うふふふふ……」
「何が可笑しい?」
「楽しいんですよ……力と力。速さと速さ。そんな単純な能力のぶつかり合いではない……技と技との比べ合いが……
楽しくて嬉しくて溜まらないのです。ああ、わたくしは確信できました。この瞬間をこそ望んでいたのだと」
「なんと素晴らしい――『夢』! 」
「夢ではない、これは『現実』だ!」
再びリンリンの姿が消えた。
先ほどの巻き戻しのようにイザヤールの背後の草が弾ける。
「また後か!?」
振り向くが、そこにリンリンの姿はない。
瞬間、頭上の木の枝が弾ける。
「上だと?」
上空から迫るリンリンの蹴りをイザヤールは咄嗟に右腕を掲げて防御する。
だが腕に伝わる衝撃は思いのほか軽かった。
腕に当たったのは単なる折られた木の枝。
リンリンはその隙にすでに地面へと着地し、イザヤールの懐に入り込んでいた。
「しま――」
「遅いです!」
リンリンの両の掌底がイザヤールの脇腹へと叩きこまれる。
メシィ、バキッ
「ゴフっ」
イザヤールのアバラが砕け、鮮血が彼の口腔からあふれ出る。
まさしく会心の一撃を喰らい、彼の命運は尽きようとしていた。
(く…、だ、が)
イザヤールは執念で踏みとどまり、掌底を放ったまま硬直しているリンリンへ手刀を放つ。
だが手刀が彼女の意識を断つ寸前、硬直が解け、リンリンはスウェーバックして手刀を回避した。
そのままイザヤールの手刀を取り、捻り上げて肩に担ぐと微塵の躊躇もなく腕を折る。
「ガァ!」
「さようなら、本当に楽しかったです」
彼女はもはや動けないイザヤールに愛しい相手を抱くように腕を首に回す。
(無念……アン…、ジェ――)
イザヤールは残った左腕を僅かに震わせるが、無駄だった。
ゴキン
鈍い音を立てて頸椎は砕かれ、イザヤールは即死した。
全身の力が抜けたイザヤールの身体を地に落とし、リンリンは一息つく。
そして掌を握り、開きを繰り返して身体の感触を確かめる。
ダメージはない。
リンリンはイザヤールのふくろと自分のふくろを回収し、その場を去ろうとして……ふと目が合った。
無念に目を見開いたまま息絶えているイザヤールに。
よろり、とリンリンはふらつき、近くの樹に手を突いて身体を支えた。
顔を蒼白にして吐き気を堪えるように口元を手で覆う。
しばらく震えていたかと思うとぶつぶつと呟いた。
「違う…違う……これは夢 夢なのですから……わたくしは誰も殺していない
そう、なんてことはないただの夢……」
そしてリンリンは再び顔を上げた。
「だから」
その顔には酷く陰惨な笑みが形作られていた。
まさかのDQ3勇者パーティ全員戦闘狂
【イザヤール@DQ9 死亡】
【残り49名】
【E-1/森/朝】
【リンリン@DQ3女武闘家】
[状態]:健康 性格:おじょうさま
[装備]:星降る腕輪@DQ3
[道具]:場所替えの杖[9] 引き寄せの杖[9] 飛び付きの杖[9] 支給品一式×2 未確認アイテム0〜2個
[思考]:基本:夢の中で今までできなかった死合いを満喫する。
1:とりあえず人を探す。
[備考]:リンリンは現状を夢だと思っています。
あ、書き込めた。投下終了です。
何と言う凶悪な一味だ
こいつら本当に勇者かよw
投下乙です
勇者が死んでも誰も悲しみそうにないパーティだなw
ま、まあ酒場に集った名うての傭兵と考えれば・・・
多少クレイジーじゃなきゃ、やってられないんだろうな
意図的に集めた気がしないでもないが・・・
今回の3面子、ロクなのいねぇぞ。揃いも揃ってマーダーで戦闘狂かよw
一番まともだったのが勇者とか。まともだったせいか、速攻で死んだけどw
アレルは一見まともに見えるけどあれで民衆から略奪やってたんだぜw
ロワに来てから本性現した男魔法使いやリンリンはまだマシなレベル
カーラは……ごめん、擁護できないw
「さて、参ったわね……」
黒髪長身の女性、アイラは頭を押さえながら呟く。
あの老人、デスタムーアが開いた悪質なゲーム。
最後の一人になるまでお互いが殺しあわなければいけない。
そして生き残った者には褒章として願いが叶う、というオマケつきだ。
無論、自分から進んで人を殺すなんてことはしない。
仲間達も、あの魔王の甘言に乗って人殺しを進めるほどヌルい人間ではないことは重々承知している。
だが、この殺し合いに呼ばれた人間が皆そのような意志を持った人間とは限らない。
道中、必ず殺し合いに参加する人間は現れるはずだ。戦いとなることは避けられないだろう。
そしてもう一つの脅威は、皆が等しく首に付けられた枷である。
無理に外そうとすれば首を切られてしまうし、ヘタなことをしても首を切られてしまう。
もし魔王と対峙することとなったとしても、この首輪がある限りは勝ち目は無い。
向こうは、赤子の手を捻るより簡単に此方の命を刈り取ることが出来るのだから。
首輪を何とかする、襲い掛かる人間たちとも戦う、そして魔王の元へと辿り着き、倒す。
この全ての課題をこなさなければ、ゲームを覆すことなどは出来ない。
確かに絶望的な状況ではある。首輪を外す手段や技術が不明なことや魔王と戦わなければいけないこともある。
何よりも命を握られているというのが一番重く圧し掛かるだろう。
それでも、アイラは諦めない。
あの冒険の中で、どんなことがあっても諦めなかった。
それは仲間に支えられてきた部分もある、対して今は一人だ。
しかし、こんな場所でも希望を捨てずに動く人はいる。
根拠は無いが、確信に近いものが彼女にはあった。
どこかにいる同じ志を持つものと共に、この悪趣味なゲームを覆してみせる。
決意の証として、自分の頬を叩いて己を鼓舞させる。
「さ、やるぞ! ……っとその前に」
一歩を踏み出す前に、アイラはふくろの口を開ける。
「流石に丸腰じゃあ、まずいわよね……」
あの魔王から配られた袋から一個ずつ道具を取り出し、確認していく。
この殺し合いの地の地図、迷わないための方位磁針、火をつけるための器具と明かりを灯すためのランタン。
文字を書くための筆記用具、当分の水と食料、今の時を示す時計。
そして名簿、この殺し合いに巻き込まれてしまった不運な者達の名前が刻まれている。
歴戦の戦士と思われるものを初めとし、殺し合いを盛り上げるために放り込まれたと思われる魔物たちの名前。
そして、幼い子供や闘う力を持たないであろう者達の名前と顔まで記されている。
非力なものまで巻き込んで殺し合いを強要させる魔王に、アイラは再び怒りを心に刻む。
そして、名簿にはアルス、マリベル、ガボ、キーファ、そしてアルスの叔父のホンダラの名前がある。
キーファ、という人物に関しては名前と人物像を聞いたことがある程度の認識だ。
アルスの故郷、グランエスタードの王子であり、嘗て共に冒険をしていた仲間であると。
共に冒険した仲間に加え、手を貸してくれそうな人がこの場に居るのは心強いことだ。
本当ならこんな殺し合いに巻き込まれていない方が良いのだが。
ひとまず、仲間の存在を確認した彼女は名簿を閉じることにした。
意識の切替を行い、広げていた地図などを袋に戻してから、肝心の武器防具の類が入っていないかどうかを確認する。
まず出てきたのは一着の光り輝くドレス。
曰く魔力が込められたこのドレスには魔物の吐く炎や吹雪、そして魔法に対してある程度抵抗する力を持つのだという。
強靭な繊維で作られているのか、そんじょそこらの鎧より強力だということは肌で感じ取ることが出来る。
ともかく、この殺し合いを生き残る上で重要な装備になることは間違いない。
素早くドレスを着込み、次の道具を確認する。
次に取り出したのは全く見たことの無い一本の黒い筒であった。
プロトキラーのような機械の類なのか? 精密技巧なカラクリが使われていることは分かる。
筒についていた解説書のようなものを読みふける。
解説が多く、これを理解するだけでもかなり時間がかかりそうだ。
その場に座り込み、紙の隅から隅まで目を通す。
読んでいくうちに、弓矢のように何かを射出する武器であることは分かった。
この紙に書いてあることが本当ならば、自分の知っている弓矢ののような一点集中型とは違うようだ。
射出された「弾」が炸裂し、一度である程度の範囲を攻撃することが出来るらしい。
半信半疑のまま、紙を読み進める。
引き金の位置、どのようにすれば玉が射出されるのか、一度攻撃した後に弓矢のように補充が必要なのか?
項目の一つを余すことなく、ひたすら読み漁り続けた。
「なるほど……これは、遠くを広く攻撃する筒なのね。サンダンジュウ……聞いたこともない武器ね」
Mossbergと刻印の入った未知の武器、散弾銃を細部まで調べる。
解説書に乗っている部分のどこがどこと結びついているのか?
慎重に一つずつ確認していき、十数分後に全ての部位が確認が終わった。
そこで、銃を持つ手が震える。
本当にコレは武器なのか? 人の命を刈り取るだけの力を持っているのか?
ひょっとしたら、この解説書まであの魔王のハッタリなのではないか?
いざというときに備えて武器を持っておきたい気持ちはある。
コレが武器だと信用しきって持っておいて、肝心のその時に「これは武器では有りませんでした」というパターンは一番避けたい。
しかし、この引き金をを引いて現れる「弾」というものが一体どういうものなのかは分からない。
ひょっとすると、自分の身すら危うくなるものなのかもしれない。
未知の道具の前に、彼女の両手は震えが止まらない。
「そうよ、アイラ。ここで止まってても何も変わらないわ」
手の震えを止めるように、彼女は呟く。
そうだ、これからあのデスタムーアというもっと恐ろしい存在と戦わなければいけないのだ。
未知の武器一つがなんだ、ここで立ち止まっている場合ではないのだ。
空を仰ぎ、ゆっくりと銃を澱んだ空に向けて構える。
解説書どおりの構え、左手を引き金に、右手を銃の前床に添える。
一つ、深呼吸をする。
「よし、行くわよ」
彼女はそう言って、ゆっくりと引き金を引いた。
その瞬間に、耳をつんざく破裂音が鳴り響く。
予想していなかった銃の反動に体を持っていかれ、後ろに倒れこんでしまう。
「いたたた……反動っていうのは、コレね……」
ゆっくりと体を起こし、右手で頭をかきながら辺りを見渡す。
彼女の視界の中に一人の男性が立っていることを確認した。
「い、今のは一体……?」
男性は少し離れたところからアイラに話しかける。
口をあけたまま此方を見ている男性に、アイラが今起こったことを解説しようと口を開いたときだった。
彼女達の真横に、一匹の竜が落ちてきた。
ハッサンが全身の筋肉を鼓舞させ、己の全てをぶつけてドラゴンを放り投げた。
常人では考えられないが、彼が全力を出せば当分再会ができない程遠くへ投げられてしまう。
ドラゴン自身経験したことも無い遙か上空へと放り投げられているのが証拠だ。
更に駄目押しといわんばかりに爆発の呪文が彼を襲うが、空を飛んでいる都合上直撃を免れたのは不幸中の幸いか。
ともかく、人生初の飛行体験に驚くことしか出来なかった。
やがて重力に引き寄せられ、ゆっくりと地面が見え始める。
空を飛ぶことなど無縁だった彼が、着地は愚か受け身を取ることすらできるわけもなく。
ドスン、と鈍い音を立てて全身を地面に打ち付けた。
「ド、ドラゴン……?」
彼もドラゴンという魔物は知っている。ありとあらゆる物を溶かさんとする炎を吐き出し、強力な爪を振るい、冒険者を苦しめる魔物だ。
しかし空を飛んでくると言うのは聞いたこともないし、彼が今まで戦ってきたドラゴンとの記憶をいくら掘り返しても見当たらない。
ドレスを着た女性を見かけ、話しかけようと思ったら女性の黒い筒から爆音が響き、間もなくしてドラゴンが落ちてきた。
もしかして、あの黒い筒がドラゴンを呼び寄せる道具なのか?
あの女性は、ドラゴンを使ってこの殺し合いを生き抜こうとしているのか?
予想もしなかった光景、そこから様々な考えが頭を飛び交う。
もう一度よく見てみると、ドラゴンの体には無数の傷と、忌々しい首輪がついている。
このドラゴンもこの殺し合いに呼び寄せられた一員ということか。
冷静に考えてみると、傷や呪文で焼かれた痕があることなどから考えても、彼女がドラゴンを使役しているとは考えにくい。
ドラゴンを呼び寄せる道具なら、傷の無いドラゴンを呼ぶに決まっている。
では参加者を呼び寄せる道具なのか?
もし自分なら魔物ではなく仲間を呼ぶだろう。
わざわざ素性も知れない魔物を呼ぶにメリットなど無い。
そもそも参加者を呼び寄せるという効果を知っていて使っているなら、彼女が呆気にとられているのがおかしい。
予想していなかったにしろ首輪を見れば参加者だとはわかる。でも彼女の反応はまるで「何が起こっているのかわからない」と言わんばかりの物だ。
つまり、あの筒はそういった道具の類では無い。
頭脳をフル回転させ、素早く結論にたどり着く。
次に、何故ドラゴンは降ってきたのか? を考えようとした時に、ドラゴンが起き上がりこちらを睨みつけていた。
「何にせよ……ここで倒しとかないとな」
生き残るために一人逃げても構わない。だがここで野放しにすれば、いずれ妹に危害が及ぶかもしれない。
ドラゴンが降ってきた理由を考えるより、大事なことがある。
最悪の可能性は摘み取る。そう判断したカインは剣を片手に駆け出した。
銃を撃ったら竜が落ちてきた。
方角が全く違うので撃ち落とした訳でもない、この銃にそんな効果があるわけでもない。
全く予想もできない展開に呆気を取られていた。
が、そんな時間もあるわけもなく。気がつけば少年が現れた竜と戦闘している。
理由はどうあれ、魔物が現れたことに変わりはない。
未知の武器を片手に、アイラも竜へと向かっていった。
カインが剣を抜き、自分に向かってくることを確認したドラゴンが間合いを詰められる前に炎を吐く。
素早く飛び退いて炎を避け、次の一手を考える。
全てを破壊し尽くす力を持つもょもと、世の魔導師全員分に匹敵する魔力を持つあきな。
戦闘において力では二人より秀でる要素は無く、補助に徹することが殆どだったカインが戦いを重ねて身に付けたのは瞬時に戦局を見抜く能力。
勝手に動くもょもとの動きをある程度察し、次にどう動くべきか。必要があればあきなに指示を出し、自分のベストの行動を即座に算出する。
状況が変わっても同じ事である。勝手に動くもょもとをドラゴンに置き換え、判断して動く。
相手の手札を知り尽くしているため、動きの予測が容易な事も有利に働いている。
炎を避けられた事を理解したドラゴンが、ゆっくりとカインへと迫ってくる。
カインはじっと構え、そこから動かない。
再びドラゴンは炎を口に込め、カインに向けて吐き出そうとする。
その瞬間、カインは地を蹴りドラゴンへと向かっていく。
炎を吐くために無防備になった前足、その傷が深い方へと剣を振るう。
白銀の剣が、ドラゴンの足に深い傷を残す。痛みに耐えかねたのか、ドラゴンはバランスを崩してしまう。
しかし、ドラゴンも黙って斬られる訳にはいかない。
後ろへ駆け抜けようとしているカインに向け、強靭な尻尾を振るう。
カインが予測していた反撃、だが受け止めきれるかどうかは分からない。
呼吸を合わせ。素早く剣を振り抜こうとした時。
一発の破裂音が鳴り響いた。
同時に迫っていた尻尾が逆方向へと向かい、ドラゴンが悲痛な叫びをあげている。
「ふう……間一髪ね」
ドレスを纏った乱入者アイラは、銃を片手に額に流れる汗を素早く拭いカインへ話しかける。
「でも決定打にはなってないみたいね。
さっきの貴方の太刀筋を見てお願いがあるんだけど、私があの竜の注意を引き付けるわ。
大きな隙を見つけたらそこにありったけの力をぶつけてくれない?」
光り輝くドレスを靡かせ、アイラはカインへと提案する。
予想もしない展開に、予想もしない提案。
適切な対応をすることも出来ずに慌てふためいてしまう。
「じゃ、よろしくね! 頼りにしてるわよ」
しどろもどろしている間にアイラは駆け出してしまう。
止めることすら叶わず、ただ立ち尽くすことしか出来なかった。
「頼りにしてる、か」
信頼。人からその気持ちをこめた言葉を受け取るのは初めてだった。
何時も周りから飛んでくるのは「どうして出来ない」「周りはもっと出来るぞ」という罵声。
仲間と冒険しているときもそんなやり取りは無かった。
何を考えているのか全く分からないもょもとはともかく、あきなも口を開けば「すいませんでした」とか自分を責めるような言葉しか言わない。
誰かに頼りにされる、なんてことはほぼ無縁の生活だった。
「……悪くないな」
久しぶりの感覚に思わず笑みが零れる。
剣を握りなおし、竜へと向かっていく彼女の後を追った。
「さあ、ついてこれるかしら?」
回避を極限まで高めるためのダカダカという素早いステップ。
彼女の中の踊り子としての経験はまだ衰えていない。
その幻想的な動きを、ドラゴンは捉えることが出来ない。
物理攻撃が当たらないと判断したドラゴンは、炎を吐くことを選択する。
口が膨らみ、今にも炎が放たれんとしたその時!
「バトルロワイアルで! 罵倒る老は嫌る!」
澱んだ空に響き渡る大声。
肌を突き刺すのは輝く息をも上回る冷たい空気。
そんな中たった一人、アイラだけが。
天を貫く勢いで真っ直ぐ、人差し指をドラゴンに突きつけ。
満足感と達成感に満ち溢れた顔をして立っていた。
気を取られていたドラゴンが、慌てて炎を吐き出そうとする。
しかしドラゴンの目に映るのは、神々しく光り輝く達成感に満ち溢れたアイラの姿。
その眩しさ故に直視することが出来ず、顔を背け炎を見当違いの場所に吐き出してしまい、輝く光から逃れるために前足を差し出していた。
同じく「美しい……」と言いながら立ち止まりそうになっていたカインはそれを必死で堪え、颯爽と隙だらけのドラゴンへと詰め寄る。
そしてドラゴンの下を潜り抜けるように通り抜け、真っ白な胴に赤い一閃を走らせた。
「よし! 効いてるわ、後は止めよ!」
多少予想外のことはあったものの、アイラの作戦通りに隙を作ることに成功した。
あとはカインの手によって止めを刺すだけである。
風のごとく通り抜けたカインがドラゴンへ向き直り、もう一度その胴体を斬らんと迫り――――
「やめろォォォォォォォ!!!」
ドラゴンとカインの間を割って入るように、乱入者が現れた。
急ブレーキをかけ、剣を振るう勢いを殺してカインは着地する。
「なッ、どいてください! 相手は凶悪な魔物なんですよ!」
「頼む、彼と話をさせてくれ。彼からは、魔物から感じる邪悪な気配を感じないんだ」
君も、少し待ってくれるか? と青年はドラゴンに問いかけ、庇う姿勢を崩さない。
「でも!」
食い下がろうとするカインを止めたのはアイラだった。
「私には分からないけど、仲間から聞いたことがあるわ。
この世には邪悪な心の中にほんの少しだけよい心を持ってる魔物がいるって。
もしかして、このドラゴンもその心を持っているのかも知れないわね」
男はドラゴンを庇う姿勢を崩さない。
ちょうど背後に立つ当のドラゴンは、男に襲い掛かる様子など微塵も見せない。
先ほど、凶暴に暴れまわっていたドラゴンとは到底思えない。
「貴方はそれが分かるんでしょう? 確かにこの戦いを先に仕掛けたのは私たちよ、彼は自衛のためだけに闘っていたのかもしれないわね」
良く考えてみると、先に切りかかったのはカインだ。
それまでドラゴンは睨んではいたものの、襲い掛かる素振りはなかった。
魔物は人を襲う、そんな先入観から襲い掛かっていた。
人を襲わない魔物なんているわけが無いと思っていたし、考えもしなかった。
だが目の前の二人はそんな魔物がいると言う。
俄かには信じがたい話だが、実際にドラゴンは襲い掛かってこない。
カインはゆっくりと剣を引き、男から一歩退く。
「……ありがとう」
男はカインとアイラに深くお辞儀をすると、ドラゴンを回復呪文で治療し始めた。
カインの頭は完全に混乱していた。
謎の黒い筒、空から降ってくるドラゴン、そのドラゴンは安全だと言い張る男。
何もかも彼の知識には無い出来事ばっかりだ。
「……言っとくけど、納得はしてないからな。
もし、お前がそのドラゴンを使ってこの殺し合いを進めようとするなら。その時は容赦なく斬る」
「大丈夫、そんなつもりは無いよ」
脅しのような一言に対しての返事は一切の曇りのない笑顔だった。
舌打ちを交え、カインは素早くその場を後にする。
「あ、ちょっと! 待ちなさいよ!」
早足でその場から立ち去ろうとするカインをアイラが追いかけていく。
アイラがようやく追いついたとき、カインの足の速度は格段に落ちていた。
「僕は相変わらず甘いな」
カインは一人呟き始める。
「人が言ってることをホイホイ信用して、はいそうですと受け止めて。
その通りになるように動いて、精一杯努力して、笑顔を作って。
ようやくそんなことしなくてもいいと、思っていたのにさ。
いつでもそうだよ、人々はみんな笑顔で僕たちに話しかけてくる。
王子たちよ、魔を打ち払ってくれ! とか、勝手なことばっかり。
こっちの気持ちも、都合も知ったこっちゃ無いって感じでさ」
身の上を語るように、ただ一人で口を開き続ける。
アイラに話しかけているわけでもない、聞いてほしいわけでもない。
「でも、あの真っ直ぐな目は確かだった。あんなに真っ直ぐ物事を見ている人は初めてだったよ。
今まで話してきたどこの誰も、あんな目で話しかけてくる人なんていなかった」
気がつけばそこに立ち尽くしていた。
人の願いを断ることが出来ない、昔からそうだった。
願い、と言えるほど生易しいものではなかったが。
ほぼ命令に近かった。それを飲み込み、その要望どおりに動く。
どうしても、その過去が彼の行動の枷となる。
人に諭されたとき、それをいとも容易く飲み込んでしまう体が出来上がってしまっていたのだ。
「ねえ、よかったら互いの身の上の話から始めない?」
何かを察したのかアイラは自己紹介を含め、お互いの話をすることを優先した。
「……いいけど、長くなるよ?」
「構わないわよ、歩きながらで行きましょう?」
互いの長い話が怪しげな空の下で始まった。
「さて、これぐらいでいいだろう」
祝福の杖をドラゴンの全身へ翳し、傷を癒していく。
(……何故、危険を冒してまで私を助けた?)
「それが、分からないんだ。でも、君が悪い魔物じゃないって言うのはなんとなく感じたんだ。
悪くない人同士が闘って、命を落とすなんて馬鹿馬鹿しいだろう?」
実際、リュカは家族を探してこの地を歩いていた。
一刻も早くフローラを助けるために寄り道などしている余裕などあるはずも無かった。
そんな彼がドラゴンを助ける義理など、どこを探しても無かった。
それでも、彼の体は彼自身が意識しないうちに動き出していた。
全てのものに愛を注ぐ。その博愛精神は母譲りの物なのだろうか。
新しい魔物が仲間になったときに見せる子供たちの喜ぶ顔が見たい。
親としてのそんな気持ちも入っていたのかもしれない。
「さて、君の傷は癒えた。僕は家族を探しにいくけど君がコレからどうするかは自由だ」
リュカは優しくドラゴンへと話しかける。
傷が癒えた今、ドラゴンがどうするのかをリュカが決定する権利は無い。
ドラゴンはグルルと重く喉を鳴らせ、その場に立ち止まった。
(私は、竜の王に仕える一匹のしがない竜だった。
竜王は世界を人間の女で埋め尽くし、明るい世界にするのだと抜かしていた。
人間たちを支配するのだと言ってはいたものの、それも全部王の私欲だった。
いつしか、私は竜王に忠誠を誓わなくなっていた。命令は聞けども嫌々動いていた。
そんな時だ。一人の女性、ラダトーム王女の監視を任された。
相手は魔物だというのに、分け隔てなく優しく接する王女は正に女神の様だった。
私は、ラダトーム王女と接するうちに一つのことを考えていた。
人間と魔物が手をとり平和に暮らす世界。そんな夢のような世界が作れるのではないかと。
その可能性を、ラダトーム王女から私は見出した。
私は自由を手に入れたいと思った、いつかラダトーム王女のような博愛の心を持つ物が、この世を良くしてくれる。
それまで私は自由にどこかで暮らしたいと思っていた。
だから、勇者の襲撃は好機だった、王女を救出に来た勇者の攻撃を程よく受け、わざと倒れた。
勇者が王女を救出したのを確認し、私もその洞窟を抜け出した。
待っていたのだ、勇者とラダトーム王女の手により魔物と人間が共存できる時代が来ることを。
そして……突然この場に呼ばれ。一人の老人に突然襲われ、男に投げられ、飛ばされた先でも襲われ、貴方に出会った)
リュカの心に次々に情報が入ってくる。
未知の魔物、未知の世界、そんな場所でも魔物と心を通わせようとしている人が居る。
そして、その人物に答えようとしている魔物も居る。
目の前のドラゴンの思い、それを余すことなくしっかりと受け止めていく。
(今、その可能性を持つもう一人の人間に出会えた。私は魔物と心通わせようとする存在をもっと知りたい。
もし良ければ貴方がこの場でなすべきことの手伝いをさせてくれぬか。それからでいい。人間と魔物が手を結ぶ可能性を見せて欲しいのだ)
「……じゃあ一緒にいこうか。君の名前は?」
(我が名か? 我が名は……ラドン。はるか昔に捨てた名だ)
全てを受け止め、リュカは魔物と共に歩くことを決めた。
家族を探して守り抜く、それを手伝ってくれる仲間と共に。
一匹の竜が見たのは現実に起こりえるとは到底思えない可能性だった。
その可能性をある男に見た。
男には果たすべき使命がある、その使命を全うするために今は歩かねばならない。
その使命を果たした先に、自分の見た可能性が事実となるときが来る。
一匹の竜はそう確信していた。
【C-7西部/平原/午前】
【カイン(サマルトリアの王子)@DQ2】
[状態]:ダメージ(微小)
[装備]:プラチナソード
[道具]:支給品一式 不明支給品×2(本人確認済み)
[思考]:妹と一緒に脱出優先という形で生き残る。アイラと情報交換を兼ねて過去を喋る。
【アイラ@DQ7】
[状態]:健康
[装備]:モスバーグ M500(/8 予備弾4発)@現実、ひかりのドレス@DQ3
[道具]:支給品一式、不明支給品×0〜1(本人未確認)
[思考]:ゲームを破壊する。カインと情報交換を兼ねて過去を喋る。
[思考]:スーパースターを経験済み
【リュカ@DQ5】
[状態]:健康
[装備]:祝福の杖@DQ5
[道具]:支給品一式、支給品×2(本人確認済み)
[思考]:フローラと家族を守る。ラドンと共に動く。
【ラドン(ドラゴン)@DQ1】
[状態]:全身にダメージ(中)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 不明支給品×1〜3
[思考]:人と魔物が手をとる可能性を見届けるため、リュカに従う。
以上、代理投下終了です
代理投下いきます
グラコスを送り届けてその場から飛び去ろうとしていたジャミラス。
淀んだ大空から見下ろした時、一人の少女の姿をその目に捉える。
この殺し合いでどれだけ貢献出来たかどうか? それは大魔王デスタムーアの評価にも繋がる。
先ほどのグラコスとの約束には周りの獲物を横取りしないというのは含まれていなかった。
手っ取り早くまずは一人目の成果を上げておきたい、そう考えてジャミラスは少女の近くに舞い降りた。
「欲深き人間よ! 己の罪を悔いながら息絶えるがいい!」
ジャミラスが爪をむき出しにし、か弱い少女へ恐怖を植え付けんと吼える。
泣きわめきながら命乞いをする、もしくは恐怖心から逃げ出すだろうと考えていた。
万が一の可能性として、刃向かってくる事も考えていた。
何にせよ捕らえて引き裂いて殺すことには変わりなかったはずだった。
「ふふふ……ねぇ、魔物さん。リアお願いがあるの」
笑っていた。
まるで自分と遭遇するのを待っていたかのように。
この上ない笑顔で答えて見せたのだ。
予想外の行動に対してジャミラスは一時的に戦闘態勢を崩し、少女の動向と意図を探る。
リアと名乗る少女はジャミラスの様子などお構いなしにしゃべり続けた。
「あのね、リアのお兄ちゃん、カインお兄ちゃんを殺してほしいの。
ずっとお兄ちゃんと一緒にいるって決めたの、だから死ぬときも一緒。
魔物さんすごく強いでしょ? リアくらいなら簡単に殺せるでしょ?
じゃあ、その前に出来たらお兄ちゃんを殺してほしいの」
狂っている、ジャミラスは少女を見て思う。
何かを企んでいるわけでもない、兄に対して恨みを抱いているわけでもない。
むしろこの少女は兄を愛しているのだ。愛してやまないからこそ、ともに死にたいと言うところか。
ジャミラスは考える。
少女の要求を受けずにここで喰い殺しても何の問題もない。
しかし、少女を手元に置いておけばサマルトリアの王子以外と戦う上で人質として使える。
ロトの末裔の一人を倒せば、デスタムーア様もお楽しみ頂けるに違いない。
手始めに大きな実績を手に入れる事が出来るこの上ない好機だ。
そして、サマルトリアの王子とこの少女。あわせて二人分の装備が手に入る。
その中に剣があれば、後々の事を考えても都合がいい。
「良かろう、貴様を今殺すも後で殺すも同じ事。せめてその願いくらいは叶えてやろう」
自分に舞い降りたチャンスを掴むためにジャミラスはリアの要求を受け入れた。
要求が受け入れられたことを認識したリアは小さく笑い、ジャミラスの手を取った。
ジャミラスはリアを背に乗せ、再び淀んだ空へと舞い上がる。
目指す標的は、サマルトリアの王子。
うふふふふ。
お兄ちゃん、元気してるかな?
勝手に死んでたら許さないんだから。
でも強いお兄ちゃんなら、そこらへんの人になんて負けないよね。
あたし、お兄ちゃんに魔物さんと戦ってもらうんだ。
お兄ちゃんがそこで死ぬなら私も死ねる、魔物さんが殺してくれる。
でももし……もし、お兄ちゃんが魔物さんに勝っちゃったら。
その時は……その時はね、うふふ。
お兄ちゃんに泣きつこうかな。
怖かったよ、ずっとお兄ちゃんに会いたかったよって。
お兄ちゃんに強く抱きしめてほしいな。
その時に……リアがこの首輪を外してあげる。
ただでさえ皆に苦しめられて、強制されて、未来を奪われて。
こんなところに飛ばされても首輪で縛られてるなんて、あたしは嫌だよ。
お兄ちゃんのを外し終わったら、あたしもこのダサーい首輪を外すから大丈夫だよ。
待っててね、お兄ちゃん。
【E-2/空/午前】
【ジャミラス@DQ6】
[状態]:健康、飛行中
[装備]:なし
[道具]:剣の秘伝書@DQ9 ツメの秘伝書@DQ9 超ばんのうぐすり@DQ8 支給品一式
[思考]:リアを利用し、サマルトリアの王子(カイン)を労無く殺害。その後、どちらかが持っていれば剣を確保する。
とりあえずはカインを探しつつ北へ、参加者の殺し合いを観察しつつゲーム進行の障害を始末する。
デスタムーアの命令には従っているが、その真意は不明。
[備考]:支給品没収を受けていません。飛行に関して制限なし。
【リア(サマルトリア王女)@DQ2】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 支給品×3(本人確認済み)
[思考]:魔物さんにお兄ちゃんと一緒に殺してもらうんだ♪
それがダメだったらリアがお兄ちゃんの首輪外してあげるね♪
終了
ヤンデレな妹に死ぬほど愛されたカイン王子の今後が心配です
2ndがいきなり途中から始まってるから2スレ目なのかと思ったら1stのスレから始まってたのね
1stの時から読み手専門だったけど書きたくなってくるな
代理投下します。
生きている人間の命を奪う、冒険をしている間は禁忌とされていた事。
どういった意図があったのかは知らないが、勇者はそれだけは禁じていた。
まあ、どうせ「死んだ奴は蓄えを作らない、だから生かしておく」程度のことだろう。
この夢の中で彼女はその禁忌を犯した。証拠として振り向けば自分が殺した人間が居る。
再びこみ上げてきた不快感から、胃の内容物を吐き出す。
死体のリアルさ、人に触れる感覚、自分に走る緊張感。
とても夢とは思えない完成度だった。
「はぁ……はぁ……たまりません」
人を殺した、という初めて味わう感覚。
人間同士の死合いの先に見える、人間の命を奪うという感覚。
戦うことを望み、夢見た世界で手に入れた感覚。
「フフ……病みつきになりますわね」
この夢の中で貴重な感覚を味わい尽くすし、思う存分堪能しきるしかない。
こんなにも快楽であふれている夢の中なのだから、何をやってでも楽しむべきだ。
禁忌を犯すことすら、なにも怖くない。
強きものと戦い、その強き命を狩る。
弱きものは、ゆっくりと叫ばせながら命を狩る。
人それぞれの慟哭がある。そしてこの夢には多種多様の人間がいる。
全員とまでは行かなくても、出来る限り多くの人間の命の叫びを聞きたい。
人という命がなくなる瞬間を見届け、生きた証を示す最後の行為を楽しみたい。
自分の命が狙われる緊張感の中、どれだけの命の声が聞けるのか。
「ああ……この夢は素晴らしく、美しく、私を楽しませ、満たしてくれる!」
不思議と体が羽根の様に軽いのは錯覚だろうか?
それともありとあらゆる精神面の枷が外れ、本当に体が軽くなっているのか?
とろけそうな恍惚の表情と悪魔の笑顔をその顔に宿し、彼女はある方向へ向き直る。
「さあ早く聞かせてください……あなた達の命の叫びを、ね」
その視点の先には二人分の人影が、はっきりと写りこんでいた。
「ちょ、ちょっと! あいつヤバいって! 早く逃げるわよ!」
「隙を見せ続けながら逃げれるって思うならやってみなよ。失敗すればどうなるか……わかるだろ?」
マリベルを適当にあしらいながら闇雲に歩いている内に、黒いツインテールの少女が視界に入った。
その瞬間に突き刺さったのは背筋に寒気が走るほどの狂気と殺気だった。
素早く辺りを見てみると、少女の傍らには首が明後日の方向を向いている死体が転がっている。
服についている赤い模様は、足元の死体から浴びた返り血だということは容易に察しがつく。
既に彼女の領域に足を踏み入れてしまっていることに気がつき、テリーは舌打ちする。
あと数秒でも殺気を感じ取るのが遅ければ、相手の足元に転がっている物言わぬ屍の仲間入りをしていたかもしれない。
先ほどまで爆裂拳のごとくしゃべり続けていたマリベルも、その気配に口を閉ざした。
「クスクス……お手柔らかに、お願いしますね」
深々と一礼をし、笑顔のまま動かない少女を見てマリベルがテリーへと呟く。
「どうすんのよ、遠距離でいきなりバーンと呪文でも撃つの?」
「呪文撃つまでに詰め寄られて終わり」
マリベルの問いに、必要最低限の単語で返すテリー。
相手に少しでも隙を与えれば、首が明後日の方角を向く置物の仲間入りである。
逃げることはほぼ不可能、戦うとしても森の中の戦闘なら小回りが利く素手が有利。
笑顔を絶やさない相手が痺れを切らしていつ飛びかかってくるかも分からない。
戦いたくて仕方ないと思っているのだろう、全身から溢れんばかり放たれるその欲と殺気が証明している。
こうして今、何もせずに待ってもらえるのも奇跡に近い。
「やるしかなさそうだな……」
テリーは静かに剣を構え、冷や汗を流しながら立ち尽くすマリベルに耳打ちをする。
マリベルは親指と人差し指で円を作り、了承の意をテリーへと伝える。
「じゃ、頼むぜ」
その言葉と共にテリーは一陣の風になった。
リンリンは二人のやり取りを笑顔で見つめていた。
戦いにおいて作戦を練ると言うことが大事なのは理解している。
こうするという指針を立てておくことで動きが洗練され、仲間同士での連携で戦術性が増し、より深みのある戦いになる。
より強い者と戦うためなら少々の時間を犠牲にする事など何の問題もない。
これは楽しい楽しい夢なのだから。
見つめているうちに青い帽子の男、テリーが先手を撃とうと飛びかかってきた。
自分に勝るとも劣らないその速さに心が躍り始める。
素早く振り抜かれる剣に対し、目の前を掠めるように避けていく。
相手の攻撃を出来るだけ近くで避ければ、相手との距離を詰める必要がなくなる。
守りから攻めへ転じる時間がより短くなり、戦局を有利に運ぶことができる。
だがそこから攻めに転じたとして、相手も黙って攻撃を食らってくれるわけではない。
攻めの一手を撃とうとしたのを素早く察知し、テリーは剣を振り抜く勢いを利用して空へと舞い上がった。
リンリンの一撃は不発に終わり、空気が破裂する音だけが鳴り響く。
その音を聞いたテリーの表情が堅くなるのを確認し、リンリンは笑顔を作り直す。
地面が抉れるほど大きく一歩を踏み込み、次はリンリンが風へと変化する。
テリーは向かってくるリンリンを目掛け、手に持っていた剣を思い切り投げつける。
飛んでくる剣に対し、リンリンは勢いを殺すこと無く突っ込み、洗練された拳で柔な刀身を打ち砕く。
だが、剣は少しでも長くリンリンを空中に縫いとめておくためのブラフ。
リンリンが剣を砕こうと拳を伸ばしたのとほぼ同時にテリーは駆け出す。
着地までのほぼ数秒、その数秒があれば充分だった。
呪文を唱え続けていたマリベルの手を取るため、テリーは全力で手を伸ばす。
「……アストロン!」
その瞬間、マリベルの呪文が完成する。
己の身を硬化させるアストロン。全てはこのための時間稼ぎだった。
マリベルと共に硬化すれば、相手が一人残される。
いかなる手段を用いても破壊できない魔法製の物質には流石にお手上げだろう。
硬化が解けるまで動かない相手の前に彼女が鎮座しているとは思えないというのもあった。
無駄に体力を使うより、新たな戦いを求めどこかへ向かうはずだ。
これが瞬時の間にテリーが閃いた安全にこの場をやり過ごす策の全容。
作戦は見事大成功。マリベルと共に硬化してこの戦闘は終焉を迎える。
降りきる筈の幕は途中で遮られる、リンリンの「場所替えの杖」という手札によって。
テリーが駆け抜けたのを確認し、咄嗟の判断で動かないマリベルへ隠し持っていた杖を振るう。
マリベルに向かってテリーが走っている事は判断出来ていた。
ならば飛びつくというタイムラグを生み出すより、マリベルと場所を入れ替えた方が瞬時に相手に肉薄する事ができる。
結果、リンリンとマリベルの位置が入れ替わり、マリベルは一人で硬化してしまった。
事態を飲み込みきれないテリーの耳に冷たく暗い声が届く。
「アストロンですか……興醒めですわね」
ちらりとマリベルを見て彼女はそう呟き、同時にふと笑顔を消してテリーへと腕を伸ばす。
テリーは急いで盾を構えて防御体制を取るも、勢いを殺しきれない。
大きく後ろに吹き飛び、大木へと叩きつけられる。
「あら、丈夫ですね。まるで怪物のよう」
「そりゃどうも……」
口に溜まった血を吐き出し、テリーは悪態をつく。
テリーがわずかなダメージで済んだ理由は、彼が冒険の途中に密かに見つけていたはぐれメタルの悟りだ。
その悟りを用いてはぐれメタルとなり、その道を極めんと冒険してきた。
戦いという修行を重ね、生半可な攻撃を通さない頑丈な肉体を体力と引き換えに手に入れていた。
テリーは再び思考する。
アストロンでやり過ごす作戦は失敗し、唯一の武器も手放してしまった。
不幸中の幸いでダメージは最小限に抑える事ができたため、体を動かす分には支障はない。
「一か八か……」
大きく吹き飛ばされたことから出来た間合いを利用し、ひとまず逃げる事を選んだ。
平野に出れば森の中より好条件の筈だ。
地図を見た自分の記憶が正しければ、ここから南に温泉がある。
誰か居るであろう温泉で、そこに居る人間から武器、出来れば剣を借りることが出来れば上々。
細い可能性に賭けて彼は全力で走り出した。
「逃がしません!」
当然、相手も追いかけてくる。
何かから必死で逃げるというのは、こういう気分なのだろうか。
思わず共に冒険して来た本家本元のはぐれメタルの事を思い返してしまう。
「あのね、一度逃げるって決めたら絶対に振り向いちゃだめなんだよ」
恐怖の鬼ごっこは始まったばかり。
鬼に喰われて死んでしまうか、鬼を撃退するのか、逃げ切ってみせるのか。
それが分かるのはもう少し先の話である。
【E-1中央部/森/朝】
【リンリン@DQ3女武闘家】
[状態]:健康
[装備]:星降る腕輪@DQ3
[道具]:場所替えの杖[8] 引き寄せの杖[9] 飛び付きの杖[9] 支給品一式×2 未確認アイテム0〜2個
[思考]:テリーを追い、死合を楽しむ。
強者とは夢の中で今までできなかった死合いを満喫し、弱者の命の慟哭を聞く。
[備考]:性格はおじょうさま、現状を夢だと思っています。
【テリー@DQ6】
[状態]:ダメージ(小)
[装備]:ホワイトシールド@DQ8
[道具]:不明支給品0〜1(武器ではない) 支給品一式
[思考]:リンリンから逃れつつ南下し、誰でもいいから合流する。
[備考]:職業ははぐれメタル(マスター)
【マリベル@DQ7】
[状態]:アストロンによる硬化
[装備]:マジカルメイス@DQ8
[道具]:※不明支給品0〜2 支給品一式
[思考]:キーファに会って文句を言う。ホンダラは割とどうでもいい。
投下終了です
遅ればせながら続いて投下します。
私はかつて天使と呼ばれていた。
だが今の私には白き翼を背負う資格など無い。
愛する人を信じられず魔道に落ちた私には……。
私は裏切られたと思っていた。
だがそれは哀しいすれ違いに過ぎなかった。
彼女は私を心から愛し、そして私はそれを信じなかった。
私は彼女を憎み、人間を憎み、神を憎み、世界を憎んだ。
だがアンジェはそんな私を止めてくれた。
かつての弟子、イザヤールの弟子たる天使。
私の孫弟子にあたる彼女。そんな関係に運命の皮肉も感じてしまう。
アンジェが完全なる堕天使となった私を止め、愛するラテーナと再会させてくれた。
彼女の愛を知り、己を恥じ、私は彼女とともに天への階を上って行った。
――筈だった。
今、私が居るのは地獄といってもいい凄惨なる殺し合いの場。
あの大魔王デスタムーアと名乗るものはかつての神に近づいた私をも凌ぐ力を備えているようだ。
解っている。
私がただ消えるにはあまりにも罪を犯し過ぎたのだろう。
星空から私だけが呼び戻されたのは贖罪のためなのだ。
贖いきれるものでもないが、それは私の責任だ。
かつて守護天使だった者の使命として人を守らねばならない。
そして、今度こそ人を信じよう。
◆
私は一体何者だ?
それが最初に浮かんだ疑問だった。
己の姿が異形ということは解る。この身に内在する溢れる程の魔力。
おそらくは魔物の中でも高位の存在なのだということは推測できる。
だが肝心の何者なのかが思い出せない。
そう、彼は記憶を失っていた。
手掛かりを求めてふくろを漁ってみる。
中から出てきたのはカンテラや地図、食料など。
魔物である自分が使うには少々場違いに思えてしまうものが出てきた。
後は黒い槍と青い盾。そして小箱に入れられた丸薬。
その中の一つにルールブックがある。
「ルール?」
人間用に造られているためか自分の巨大な手に持つには少々難儀だが
中身に興味を覚え、なんとかページをめくってみる。
「バトルロワイアルだと!?」
慌てて地図を確認する。ご丁寧に赤い点がつけられている部分があり、そこが現在位置らしい。
周囲の光景を見渡しても地形が合致し、これが正しいものだということがほぼ確定した。
ふと見ると側に巨大な岩があり、そこが妙な具合に半壊している。
まるで巨大なモノがぶつかったかのような……そこまで考えて自分の後頭部に手を伸ばす。
ヌルリ。
見ると紫色の血液がべっとりと手についた。
傷自体はすでに塞がっているが、自分が怪我をしていたことは間違いない。
「わ、私はこの世界に来た時に岩にぶつかって……それで記憶喪失になったというのか!」
それが事実ならばなんと間抜けな話であろうか。
しかも状況は最悪である。
バトルロワイアルなどという極めて特殊な状況に陥った境遇もそうだが
加えてそんな時に記憶喪失になるなどと不運を通り越して滑稽ですらある。
「なんということだ……」
絶望感と虚無感に襲われ、その場に打ちひしがれていると不意に声がかかった。
「あの、おっきい魔物さん。大丈夫?」
声の方を見やると、そこには青い髪の少女が心配そうに覗きこんでいた。
「なんだ、お前は……」
「私タバサっていうの。魔物さんは?」
無邪気に彼の問いに答える少女タバサ。
逆に彼に訊き返してくる。
少女は間違いなく人間だ。なのになぜ怖れる様子もないのか彼には不思議だった。
「お前は私が怖くないのか?」
「怖くないよ! 魔物のお友達もたくさんいるもの。
お父さんも魔物をいっぱい仲間にしてるんだよ!」
それで僅かながら合点がいった。
彼の記憶の中に魔物使いという言葉が残っていたのだ。
魔物と心を通わせ、従える職業。タバサの父親がそうであり、この娘もその影響を受けているのだろう。
「魔物使いの娘か……タバサよ。残念だが私は名前が解らない。
だからお主の問いに答える術を持たないのだ」
「名前が? それって……」
彼は自嘲気味に答える。
「記憶喪失……というやつだろうな。私は自分が何者なのかも、何故この世界にいるのかすら解らない」
「どうしてここに居るのかっていったら、それは私だっておんなじだよ!」
タバサは彼の手を取り、というよりサイズが違うので指を取る形だが、彼を見つめた。
「一緒に頑張ろう! お父さんを見つけたらきっとなんとかしてくれると思うの!」
「父を……信じておるのだな」
「うん、自慢のお父さんだよ!」
満面の笑みをみて、彼のさきほどまで不安に塗れていた心が僅かに和む。
そして自分の中に生まれた感情に戸惑うのだった。
(なんだこの気持ちは……以前の私はおそらく人間など取るに足りない存在だと思っていた筈……)
記憶を失う前のことは解らない。が、人間に大きな感情を持っていなかったのは確かだと感じていた。
何故なら今、心に芽生えた感情はまぎれもなく生まれて初めてのものだと断言できるからだ。
(今の私には何の拠り所もない。ならここで最初に出会ったこの少女を信じてみるのも一興かもしれぬ)
「解った。タバサよ、共にゆこう」
「うん、やったあ!」
タバサは嬉しそうにピョンピョンと飛び跳ねた。
彼女も孤独から解放されて嬉しいということだろうか。
「あ、そうだ。名前が解らないなら思い出すまでなんて呼ぼうか?」
「好きに呼ぶといい」
「そっか、うーん」
腕を組み真剣に悩み始めてしまった。
本当にどうでもよかったので『魔物さん』でいいと言おうとしたところ――
「そうだ! カエルみたいだからゲロゲロっていうのはどう?」
「う……うむ?」
突如として挙がった名前に流石にたじろぐ。
その反応を見てタバサはすぐさま別の候補を上げた。
「じゃあ、ブックリしてるからブックル!」
「ムム」
「目がギョロっとしてるからギョロルは?」
「グゥ」
「お肌がドラゴンみたいだからドランゴ!」
「ムォ?」
彼は心の中でどうでもいいと思ったことを静かに撤回した。
だが彼女が一所懸命に考えてくれた名だ。無下にはできなかった。
そしてその中では最後が一番マシに思えた。
「……好きに呼ぶといい」
最後の名前で良いという意味で言ったつもりであったが、それはあまりに言葉が足りなさ過ぎていた。
「じゃあゲロゲロ! けってーい!!」
「ムムムッ」
タバサは最初の名前が気に入っていたらしい。
好きに呼べと言った手前いまさら撤回もできず、彼――ゲロゲロはうな垂れた。
諦めてタバサへと手を伸ばす。
「行こうか、タバサよ」
「うん、ゲロちゃん!」
意気揚々とタバサがゲロゲロの手を取ったその時。
「そこまでだ、ムドーよ」
誰かが彼を呼びとめた。
そう、「ゲロゲロ」を呼んだのだ。
その名が、「ムドー」という名前が自分を呼んだのだとゲロゲロは解ってしまった。
ゲロゲロが振り向くとそこには白い翼を背負った金髪の男が立っている。
「お兄さん誰? ムドーって……誰の事?」
「私の名はエルギオス。ムドーとは君の隣にいる魔物のことだ。
すぐに離れなさいタバサ、彼は大魔王デスタムーアの部下である可能性が極めて高い」
その言葉にゲロゲロは驚愕する。
自分がこの殺し合いを画策した主催者の部下などと簡単に信じられることではなかった。
「エルギオスとやら何故私の名前を知っている? 私はお主と以前よりの知り合いだったということか?」
「? 何を言っている。名前など名簿を見れば解ろう」
それを聞いてタバサがアッと声を上げる。
完全に失念していたらしい。ゲロゲロも人のことは言えないが。
確かに名簿には写真がついているのだからそれを調べれば自分の名前はすぐに調べが付いたのだ。
ただルールブックに記載があっただけで自分はまだ見てはいなかったのだが。
だがまだ疑問がある。
「私が主催者の部下だと? お主が私の知り合いでないのなら何故そのことを知ったのだ?」
「先ほどから妙なこと聞く。とぼけるつもりなのか?」
「違うよ! ゲロちゃんは記憶喪失なの、自分の事が解らないんだよ!」
割って入るタバサを手で制し、ゲロゲロはエルギオスと向き合う。
「記憶喪失だと……? おのれ、そのような戯言で幼子をかどわかすとは……」
「違う。本当に解らぬのだ、エルギオスとやら。だからこそお主がそう結論した根拠を尋ねたい」
「よかろう、ならば聞かせてやる。私はデスタムーアの居たあの大広間で全員の顔を記憶していた。」
「え、すごーい」
タバサが素直に感嘆の声を上げる。
ゲロゲロはその場の記憶がないためよく解らないが、60人近い人や魔物を短時間で記憶するのは
並大抵の能力ではないとは思えた。
「あの場に居たのはデスタムーアを含めて59人。その内2人は死亡し名簿から取り除かれている。
だからこの世界に居るのはデスタムーアを除き、56人の筈。だが名簿には60名の記載がある。」
エルギオスの論は明快で疑問の余地はない。
「あの大広間に存在せず、名簿に追加されたのはムドー、ジャミラス、グラコス、デュランの4名。
この者たちはデスタムーアの主催側から放たれた刺客である可能性が極めて高い。
あの場所に居なかったのは説明を聞く必要がないため。つまり主催側であることの証左ではないか。
おそらくはこの醜悪な儀式を円滑に進める為に送りこまれたのであろう? ムドーよ」
「…………」
ゲロゲロは沈黙する。
エルギオスの論は推測といえど、信憑性はかなり高いと感じていた。
やはり本当に自分はデスタムーアの部下なのだろうか。
「待って、待ってよエルギオスさん! ゲロちゃんは悪い魔物じゃないよ! 私わかるもん!!」
「タバサよ、それは騙されているのだ。魔物を信じたいという君の気持ちは尊いものだ。
だがこの場ではその純真な心は利用されてしまうだけだ」
「そんなことないもん!」
タバサはぶんぶんと首を振ってゲロゲロにしがみつく。
「魔物の中には話を聞いてくれない子や、わかり合えない子も居るって知ってるよ!
でもゲロちゃんは違うもん! ここで私の最初のお友達になってくれたんだから!!」
「タバサ……」
エルギオスは駄々をこねるタバサを困ったように見ると、ゲロゲロへと怒りの視線を向けた。
「おのれ、この純真な娘をこうまで……許せぬ!」
「もはや何を言っても無駄のようだなエルギオスよ」
エルギオスは剣を抜く。
ゲロゲロも、ここで簡単に殺されるつもりはなかった。
死ぬならばせめて自分が何者なのか納得してから死にたい。
その思いが彼に武器を取らせた。
ふくろから黒い槍を取り出し構える。
「「タバサよ、離れていろ!!」」
ゲロゲロとエルギオスの声が唱和する。
エルギオスの剣が光り輝き、それを見たゲロゲロは縋りつくタバサを強引に引きはがして前に出た。
(魔力を秘めた剣か! どのような能力を持っているかは解らんが……)
自分の持つ槍ならばリーチの点で有利だ。
相手の攻撃が届く前にカウンターでけりをつける。
そう作戦を決め、どっしりとその場で槍を構えた。
エルギオスが大地を蹴る。
背の翼によって滑空し、捉え辛い軌道でゲロゲロへと迫る。
――瞬間。
「ダメェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!」
なんとタバサがゲロゲロを庇ってエルギオスとの間に立ちはだかった。
「何ィ!?」
エルギオスは目を見開いたが、その動きは止められない。
だが動かず、力を溜めていたゲロゲロは咄嗟に動くことが出来た。
即座に槍を落とすとタバサを抱き寄せ、エルギオスに背を向けたのだ。
「ゲロちゃん!?」
死にたくない筈だった。
そして人間など取るに足らない存在として見ていた筈だった。
タバサにいくらか心動かされたといっても、出会ってほんの数分しか経ってない間である。
命を投げ出して庇う理由などない。その、筈だったのに。
(一体、何をやっているのだ私は?)
考えるよりも先に動いてしまった。
背後にはエルギオスの迫る風斬り音。
(今からでもこの娘を盾に――)
するべきだった。死にたくないのならば。
だが今度は身体が動かない。
(よい、か。ほんの一時でも――夢を――)
――自分はもともと死んでいたのだから――
ほんの僅かだけ以前のことを思い出す。
最期の瞬間、ゲロゲロを満たしたのは死への焦躁ではなく、奇妙な充足感だった。
そして、エルギオスの、振り下ろした、剣が、ゲロゲロを、タバサもろとも、斬り裂いた。
◆
目を覚ますとそこには仏頂面のエルギオスが居た。
「なんだ? なぜ――」
「フン、記憶喪失というのは本当らしい……」
見るとゲロゲロの隣でタバサがすぅすぅと寝息を立てている。
あまりの緊張感に気絶してしまったのだろう。
「私は死んだ筈――」
「幻だ。この剣が生み出した、な」
エルギオスが持っている剣を掲げて見せた。
その銘は光の剣。能力は光によって幻を生み出し敵を幻惑するのだという。
「謀られた、というわけか」
「殺す気も失せた。あれを見せられてはな……」
どちらからともなく苦笑を洩らす。
「『今』のお前は信じよう。だがいつ記憶を取り戻し、我らに刃を向けるか知れぬ。
その時まで監視させてもらうぞ、ムドーよ」
「好きにするがよい。だが一つだけ言っておくぞ」
「なんだ?」
「私の名はゲロゲロだ」
【D-5/平原/朝】
【ゲロゲロ@DQ6ムドー】
[状態]:後頭部に裂傷あり(すでに塞がっている) 記憶喪失
[装備]:デーモンスピア@DQ6
[道具]:支給品一式 超万能薬@DQ8 トルナードの盾@DQ7
[思考]:タバサと共に行く
[備考]:主催者がムドーをどう扱うかは未知数です
【エルギオス@DQ9】
[状態]:健康
[装備]:光の剣@DQ2
[道具]:支給品一式 不明支給品0〜2個
[思考]:タバサ・ムドーと共に行く 贖罪として人間を守る
[備考]:シナリオED後の天使状態で参加しているので、堕天使形態にはなれません
【タバサ@DQ5王女】
[状態]:健康 気絶
[装備]:山彦の帽子@DQ5 復活の玉@DQ5PS2
[道具]:支給品一式 不明支給品0〜1個
[思考]:リュカを探す ゲロゲロと共に行く
投下乙です
>Shot Gun Touch
何と言う恐怖の鬼ごっこ
リンリン性格お嬢様でこれだから凶悪さが半端ないな
テリー頑張って逃げろw
>王女と魔王と天使さま
ムドー対主催とは予想出来なかった
でもその原因がマヌケすぎるw
エルギオスはクリア後の改心状態での参戦か
相変わらず主人公よりもラスボス勢の方が綺麗なロワだ
>>181 状態表修正
【H-4/平原/朝】
【ゲロゲロ@DQ6ムドー】
[状態]:後頭部に裂傷あり(すでに塞がっている) 記憶喪失
[装備]:デーモンスピア@DQ6
[道具]:支給品一式 超万能薬@DQ8 トルナードの盾@DQ7 賢者の秘伝書@DQ9
[思考]:タバサと共に行く
[備考]:主催者がムドーをどう扱うかは未知数です。主催からアイテムに優遇措置を受けています。
狼の遠吠えが、森の中にこだましている。
遠吠えの主――ガボはほとほと困り果てていた。
理由は一つ、右手に装備したまま外すことのできない破壊の剣だ。
扱えぬ剣で利き腕を封じられ、何も出来ないと言ってもいい状態。
ふくろに入った食事すらも満足に取り出せないことがわかり、いよいよ焦りを感じたガボは
時折びしりと痺れる体と戦いながら、北へ東へと当てのない歩みを進めていた。
「アルス、マリベル、キーファ、アイラ。
この際ホンダラのおっちゃんでもいい。だれか、オイラを助けてくれよぉ」
「おいおい、そんな遠吠えばっかりあげてたら、悪いやつに見つかっちまうぜ?」
そんなガボの悲痛な叫びを聞き届けたのは、長い白髭をたくわえた老魔法使いであった。
「おっちゃん、わざわざ声をかけてくれたってことは、悪い奴じゃあないんだろ?
オイラがこの剣を掴んだら、外れなくなっちまったんだ。
このままじゃメシも食えねえ、仲間も探せねえ。なんとかできねえかな?」
「ふーむ……? 見たところ『呪われた剣』を装備しちまったようだな。
わしなら呪いを解く呪文を習得しているから、それを外してやることはできるが……」
魔法使いの言葉に、数日ぶりの食事でも見たかのように喜んだガボ。
頭を地に擦り付けるまで下げながら、必死に訴える。
「ほ、ホントか? じゃあ、オイラにそれを使ってくれよ!」
「まあ、使ってやること自体は別にやぶさかじゃあねえんだが……タダってわけじゃあいかんよな?」
「もちろん、お礼はなんだってするよ!」
「なんだって、ねえ……」
魔法使いは、ガボのことを値踏みをするように眺めながら言った。
「じゃあわしと一緒に戦ってくれねえか? わしにも会いたい女がいるもんでな」
「戦う? おっちゃんを守れってことなら、オイラ結構自信があると思うぞ?」
「そいつも勿論あるんだが……まあいいか、そいつは追って話をしてやろう。
わしの言うことを聞いてくれることに、異論はないな?」
「ああ、おっちゃんはオイラの命の恩人みたいなもんだ! なんだってしてやんぞっ」
「オーケー、約束だぞ。これから呪文を唱えてやるから、もう少しばかり辛抱してくれよ」
魔法使いが素早く術式を唱えると、その両手をガボの手元へとかざした。
「『シャナク』!」
ガボを困らせた呪いの剣が、がらんと地面に転がった。
○
――こんなにもうまくいくとは思わなんだと、魔法使いは心中でひとりごちた。
ハッサンを不意打ちのもと一撃で仕留めた魔法使いは、荷物を集めるとただちにその場を離脱した。
派手な爆音を響かせたことで、周囲への影響が懸念されたためだ。
森の中を移動しながら魔法使いは思案する。
ドラゴンとの戦い、そしてそれに互角に渡り合う屈強な男。
二つのチカラを目の当たりにして、自身の弱点を再認識せざるを得なかった。
これから果たすべき女賢者カーラとの戦いに備えるにあたって、出来ることなら万全の状態で望みたい。
呪文になら絶対の自信があった。
頭脳戦だって、まだまだ若い者に負けているつもりはない。
しかし腕力や体力ばかりは、脂の乗った戦士や魔物と比較して大きすぎる差があるのが現実だ。
何かしらの解決方法を見出しておかねばならなかった。
そうして魔法使いが得た結論は『扱いやすい手駒』を得ることであった。
ハッサンほどの屈強かつ分かりやすい男は、仲間とするならばこれ以上なき逸材だったのだろうが、
言うことを聞かせる駒とするには、気持ちも身体もいささか強すぎた。
魔法使いが求めたのは、魔法使いの言うことを素直に聞き入れるもの。
そして不要になったときの『処分』が容易いもの。
まさしくガボは、その条件にうってつけの少年であった。
「ほんっとにありがとうな〜、おっちゃん!
なんか安心したらメシが食いたくなってきたなあ。
どっかにウマいメシとか転がってないかなあ」
「かっかっか、そんときゃ、わしもご相伴に預かろうかねぇ」
呪いが解けて自由の身になったガボが、森の中を走り回っている。
その自由が魔法使いに作られたものだとは、欠片も思っていないだろう顔をして。
さて、これからこいつをどう使ってやろうか? 魔法使いは思案する。
いざというときの「盾」として使うだけでは少しもったいない。
邪魔なやつを間引くための「武器」としても使い倒してやりたいところだ。
とはいえ彼とて仲間はいる。
いきなりそれを殺してやれなどど、ぶしつけな提案をしたところで抵抗されるのが関の山。
破壊の剣をチラつかせ脅し、誰かの首を取ってこいと命令するのも悪くはないが……、
進退窮まり、やけになって牙を向くようなことになっては、せっかく懐柔した意味がない。
言葉巧みにガボを煽り、まだ見ぬ参加者たちにけしかけるのが面白いか。
そいつは怪しい、お前の仲間たちに危害を加える可能性があるから倒したほうがいい、とか。
そいつは俺の古くからの敵だ、このままだと危ないから倒そう、とか。
決戦までの余興としては、なかなか楽しめそうな予感がした。
――待っていろよカーラ、俺はしぶとく生き延びて、必ずお前を倒しに行くからよ……!
老人の打算に満ちた笑みは、長い白髭に隠れて見えることはない。
○
ようやくおさまった狼の遠吠えに、ミーティアはほっと胸を撫で下ろしていた。
そんな彼女の手を取りながら、ピサロは鬱蒼と茂った森を進んでいく。
そうしてやっと、森を抜けようかとした二人の目の前に、息を切らした荒くれ男が現れた。
ピサロは咄嗟に杖を構えて前に出る。
小悪党からロザリーを守ったように、ミーティアを守るためだ。しかし、
「ヤンガス! ヤンガスなの?」
「馬姫さ……っと、ちがう、ミーティア姫さまじゃないでがすか!」
よもやそれが彼女の知己であるというのだから、ピサロは目を丸くせざるを得なかった。
ミーティアからは、エイトという懇意にしているという近衛兵のことしか詳しくは聞いていなかった。
当然、彼女の知り合いは王族やそれに近しい気品あるものたちばかりだと思い込んでいたわけだが、
このような俗物同然の男とまで通じているとは、世の中はよくわからないものだ。
「おいそこのキザ男、ミーティア姫さまを適当にたぶらかしたってわけじゃあねえんだよな?
もしそうだとしたら、兄貴とおっさんの代わりにアッシが承知しねえぞぉ?」
「……何だと?」
そんなことを考えていたピサロに対して、ヤンガスはジロジロと舐め回すようにガンを飛ばしていく。
強い不快を感じて殺気を露わにしたピサロと、なおも睨み続けるヤンガス。
互いに武器を構えるまでに至り、あわや一触即発となった二人を止めたのは、
「おやめなさいっ!!」「げすっ」「むう」
未だかつて無い強い語気で叫んだミーティアの一声であった。
「――いいですか? エイトやお父様がいないからってヤンガスは少し調子に乗りすぎです!
ピサロさんもピサロさんです、このような安い挑発に乗っかって!」
「め、面目ないでがす」
「こんなことになったのも、きっとお互いの理解が足りないからです!
ヤンガスは顔は悪いですが、根は人情に溢れた良い男です。
ピサロさんも、どうかそれを分かってあげて下さい」
「……」
ミーティアの説教を経て、三人は休憩ついでに情報を交換することになった。
ピサロとミーティアは、既にある程度の情報を交換し終えている。
そしてヤンガスとミーティアは、元より知己の間柄。
主な語り手がヤンガスとなり、聞き手はピサロとなるのは必然といえよう。
いわく、ヤンガスはエイトという男を『兄貴』と慕う元山賊であるという。
人生観を変えられた恩を返すためだけに生きているとそれはもう自慢げに語った。
襲われた男を殺すことなく助けて、あまつさえ仲間に加える。
なんとも聞き覚えのある話だ。
「たいした男だな」と、ピサロはかの天空の勇者に重ねた。もっともあっちは女だったが。
「おっ、兄貴に一目置くとはなかなか見る目があるでがすな。
エイトの兄貴はこの殺し合いでも、きっと獅子奮迅の活躍を見せるはずでげす」
自身の兄貴分を褒められて気分をよくしたのか、とたんに流暢になったヤンガス。
その傍でミーティアもまた、こくこくと頷いている。二人の彼に対する信頼は相当なものと見て取れた。
続けて、ヤンガスはこの場に来てからのことを無念そうに語った。
荷物の確認も早々に爆発音を聞き、北へ向かい走ったはいいが戦闘は既に終わった後。
残されていたのは、延焼によって木々を焼かれ、ぽっかりと開いた広場。
そしてその傍らに残された、筋骨隆々な男の刺殺体だけ。
間に合わなかったことを悔やみつつ、その周囲を探索していたところでピサロたちと出会ったという。
「正直アッシは、あんたがあの男を殺した可能性も考えていた。
けど、どうやらミーティア姫さまが無理やり連れ歩かされているわけでも、脅されてる風でもない。
ちゃんとあんたを見て、それで信用しているようだから、アッシもあんたを信用してみるでがす。
ピサロだったか? さっきはすまなかったでげすな」
「……下手に無条件で信頼されるよりは、多少は警戒されていたほうがこちらとしてもやりやすいところだ。
あらためて、よろしく頼む」
「よかった! これでもう仲直りですね」
笑顔を覗かせるミーティアと、照れくさそうに顔を背けるヤンガスを見てピサロは頷いた。
見た目は悪いが根は悪くない――というヤンガス評は、なるほど納得できるものといえる。
もっとも、ヤンガス自身はその言葉に酷くショックを受けていたようだったが。
「よし、ミーティア姫さまはこのまま、ピサロに守ってもらえば大丈夫そうでがすな?
そろそろアッシは、南の絶望の町にほうに行ってみるでがすよ。
ピサロと姫さまは、一体どうするおつもりで?」
「私はピサロさんにお任せしたいと思いますが……」
「ふむ、そうだな……」
一通りの情報交換を終え、出発しようとしたヤンガスの問いを受けて、ピサロは逡巡する。
狼の遠吠えに紛れて聞こえた北からの爆発音は、ピサロもまた耳にしていた。
それも含めて安全を考慮しての南下という判断であったわけだが、ひとまず狙いは的中したといえよう。
このままヤンガスに同行して絶望の町へ向かうのは、きわめて無難な選択肢である。
もし強敵が絶望の町を跋扈している可能性を考えるなら、彼の戦力は非常に頼もしい。
無論、逆も然りのはず。
戦火の鎮圧と言う観点でも、互いの安全を確保する観点でも納得の一手だ。
一方で、北に残されているという戦いの痕も気になる。
筋骨隆々の男を殺した者は、果たしてどこに潜んでいるのか?
判断を誤れば、北から攻められ挟撃となる可能性もある。
それを懸念するなら、このままヤンガスを南に送り、しばし様子を見るのが賢いだろうか?
なんにせよ、目下の課題はミーティアの扱いだ。
幸いにしてヤンガスならば彼女が十分に信を寄せており、預けるには申し分ない相手だ。
ここで別れる分には、「見捨てた」ようなことにはならないはずだろう。
まさかヤンガスこそが下手人で、ミーティアの命を淡々と狙っているということはさすがにあるまい。
彼がそれほどの演技のできる器用な男には思えない。
邪魔だと考えている訳ではないし、必要とされる限りは保護し続けたいと考えてはいたものの、
いかんせんミーティアをつれての行軍はリスクが伴う。
ロザリーと共にロザリーヒルのまわりを散歩した日常とは大きく異なり、ここは殺し合いの場。
さしものピサロとて全能ではない。
何らかの敵に襲われれば彼女の保護を最優先に考えねばならず、その戦闘能力は大幅に減少する。
移動もまた彼女の体力を配慮した範囲に留まり、速度は大きく減衰する。
単独で動けるなら、ピサロの行動範囲及び選択肢はグッと広がるはずだ。
例えば、この未知の大陸の分析。
一人であれば、西や北へはもちろん、東の山と森を超え、欲望の町へと出向くことも簡単になる。
例えば、この忌まわしき首輪の調査。
うかつに自身のそれに触れれば死を招くことは分かっている以上、別個にサンプルが必要だ。
もっとも容易にその収集が可能なのは死体からであるが、ミーティアにそれを見せるのは躊躇われる。
あまつさえ死体を辱めようとすれば、いらぬ反感すらも買う恐れがあった。
対立を避けるための切り札として手元に抑えた当初の目的も、こうして一つの成功を見たといえる。
自由行動を行うにあたって、今は大きなチャンスとも考えられるが……。
ニア
予定通り絶望の町への移動を続ける。
ヤンガスを見送り北からの敵に備える。
ミーティアを預け一人自由行動を取る。
――ピサロは、どうする?
【E-4/森林 北部/午前】
【ガボ@DQ7】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、他不明品0〜2
[思考]:仲間をさがす おっちゃん(男魔法使い)のために戦う
【男魔法使い@DQ3】
[状態]:健康 MP消費(小)
[装備]:毒蛾のナイフ(DQ6)、杖
[道具]:支給品一式 不明支給品(確認済み×1〜3) 破壊の剣@DQ2
[思考]:女賢者と決着をつける そのためにガボを利用して生き延びる
※名前、職歴、杖の種類は後続の書き手にお任せします。
【F-4/平原/午前】
【ピサロ@DQ4】
[状態]:健康
[装備]:杖(不明)
[道具]:ステテコパンツ、不明0〜1、基本支給品
[思考]:脱出。優勝するなり主催を倒すなり、手段は問わない。今後の進退を迷う
【ミーティア@DQ8】
[状態]:健康
[装備]:おなべのふた
[道具]:エッチな下着、他不明0〜1、基本支給品
[思考]:エイトを探す
[備考]:エイトの安否は知りません。エッチな下着(守備力+23)はできるだけ装備したくありません。
【ヤンガス@DQ8】
[状態]:健康
[装備]:覇王の斧
[道具]:支給品一式(不明1〜2,本人確認済)
[思考]:ピサロの対応を待ち絶望の町へ向かう。戦うものは止め、説得する。
エイト、ゼシカ、ククールを探す。同調者を探す。デスタムーアを倒す
代理投下終了
ミーティア姫が早々に仲間と合流出来て一安心
けど放送来たらエイトの死を知ることになるんだよな…
ヤンガスもショック受けるだろうし、どうなることか
てかそろそろ男魔法使いの名前出してやれよw
何処ぞの導師みたいに名前出ないまま出番終了しそうな予感がするぜw
それはそれでおいしい
代理投下します
欲望の町を歩いていたシンシアとレックスに突如襲いかかった闘気の波。
シンシアは闘気の強大さに肩を震わせ、レックスは背負っていた剣を抜き放ち、
牽制の意味を込めて前方からゆっくりと歩いてきた闘気の主――もょもとに剣先を突きつける。
「止まってください」
「その言葉は聞けない。行くぞ」
瞬間、もょもとの姿が掻き消え、一秒コンマの刹那にレックスの前に現れた。
もょもとの右手に握られているおおかなづちによる薙ぎ払いが襲いかかる。
彼にとっては何の変哲もない一撃ではあるが、一般の戦士ならば必殺の一撃となり一秒後には地に倒れるのが定めとなろう。
しかし、それがあくまで一般の戦士であるという条件の中であるが。
「……いきなり何のつもりですか」
レックスは右から振るわれた薙ぎ払いを剣で受けることで止め、、反撃として斬撃をもょもとの胴に向けて繰り出した。
左手にはオーガシールドが握られているので放った斬撃は当然左側である。
「少し眠っていてもらいますよ!」
それは、刃を向けたままで放たれたならば必殺の一撃であったのだが、あいにくとレックスに人を殺す覚悟はない。
故に峰による一撃である。峰打ちなので殺傷能力こそ無いが振るうのは鉄の剣である。十分に相手を戦闘不能にできるとレックスは判断した。
「ふむ」
それが、破壊の申し子であるもょもとでなければその判断は正しいと言えただろう。
もょもとは胴に迫る斬撃に対しておおかなづちをぶつける、たったそれだけで逆方向へと返した。
恐るべくは勇者、否――悪魔の子。
「吹っ飛べ」
そして、もょもとの足から光速とも呼べる速さで発射された蹴撃。
まさか斬撃を返されるとは思っていなかったレックスはその一撃をまともに受け、勢い良く地面を転がっていく。
「レックスくん! あなた……!」
後方へと転がっていったレックスを護るようにシンシアはもょもとの前に立ちふさがる。
「どいてくれないだろうか。あの子供にとどめを刺さなくてはいけない」
「そんなことさせない! どうしてあの子を殺すの……? こんなの絶対おかしいよ、間違ってる!」
「そうなのか? この世界で戦うことは間違っているのか?」
「間違ってるに決まってる! 私達が真に戦うべきなのはデスタムーアなはずよ!」
なぜ戦う必要もないのに戦わなくてはならないのか。
シンシアは思うのだ。
この地に招かれた参加者は全員一括して被害者なのだから加害者であるデスタムーアを打倒すべく一致団結すべきであると。
「だが、戦わなくては生き残れない。戦わなくては願いを見つけられない」
「それは違うわ。戦わなくても見つけられる願いはあるし、そんなことで浮かぶ願いなんてたいしたことはない!
最後まで生き残ってあなたは何を願うの? そうまでして本当に叶えたいのっ!」
「おれは戦うことしか知らないからそうするだけだ。その果てにおれの願いがある可能性があるなら戦うだけだ」
「この、わからず屋ッ!」
シンシアは麻袋から銀色の槍――メタルキングの槍を掴む。取り出した槍を軽く前に振って、もょもとに尖頭を突きつけた。
例え敵わない相手でもレックスくんを護らなくちゃ。
強い意志の焔が胸に灯る。
シンシアは槍の心構えはおろか、武術の経験もない。もょもとからみるとずぶの素人であろう。
それでも、貫かなくちゃいけないものがある。この程度、村が襲われた時と比べたら全然怖くない。
「レックスくんは、私が護るっ! 希望の光は絶やさない!」
「……どんな形であれお前も戦うことを選んだ、ならばおれもそれに応えなくてはならん」
槍を構えたことを交戦の意があると判断したのか、もょもとは右手に握ったおおかなづちを天高く持ち上げる。
シンシアの頭部へ向けて致死の一撃を叩き込もうとするが。
「竜の吐息よっ、ぼくの掌に宿れ……っ! ベギラマァ!」
思いもしなかった声がこの一撃を妨げた。
シンシアの後方で高く跳躍したレックスの掌から赤色の閃光がもょもとの持つおおかなづちに突き刺さる。
高熱のエネルギーがおおかなづちを溶かし尽くす。
これでもょもとの武器は封じたこととなる。
「おねーさんは下がってて! この人はぼくがっ」
レックスは地面に着地してそのまま疾風の如き勢いでもょもとに突き迫る。
槍を握りしめて唖然としているシンシアを抜きさって、持っている剣を横一閃に振り抜いた。
おおかなづちを失ったもょもとは左手に持っていたオーガシールドを即座に右手に持ち替えて剣撃を抑えこむ。
ただ、前回と違ってレックスはもう手を抜いていない。正真正銘の本気である。
あっさりと押し返されることもなく、数秒間、剣と盾のつばぜり合いが続く。
「おれは願いを知りたい。最初に出会った奴も戦えばわかるって教えてくれた」
「何言ってるんだよ、お兄ちゃんっ!? 自分が言ってることがわかってるの!!」
これ以上の力比べは無駄とレックスは認識して体内の魔力を練り込んで呪の言葉を紡ぎだす。
生半可な呪文では相手は倒せない。それならば、勇者のみが使える雷撃の呪文を使うしかない。
「来たれ、伝説の雷っ! 薙ぎ払えええええええええええええええっ! ライ、デインッッッ!」
レックスの掌から放たれる魔力の雷が、もょもとを喰い尽くそうと幾重にも分かれて襲いかかる。
右から左から上から下から前から後ろから。全ての方角から迫る雷に対してもょもとが取った選択は。
「……」
ただ甘んじて雷を受け入れることだった。雷は砂煙を巻き起こしながらもょもとを巻き込んで地面へと着弾した。
盾で防ぐなり魔力で防御するなりするかと思っていたレックスには思いもしなかったことである。
先ほどの蹴撃も、レックスは受けた後はベホマで回復しつつスクルトを唱えて事なきを得た。だが、もょもとは何もしない。
それがとても異様に思えたのだ。
「気付けにはちょうどよかった、だがそれまでだ」
雷撃の着弾により巻き起こった砂煙が徐々に薄れていく。
そこにいたのは服こそ焦げてはいるが五体満足で立っているもょもとの姿だった。
嘘だ。
レックスは心中でそう呟いた。ライデインをまともに受けて五体満足で立っているなんておかしいとしか言いようが無い。
今まで戦ってきたどんな魔物よりも恐ろしい。
「お前の一撃には重みがない。ぬるいぞ」
だがそうだとしてもここで逃げる訳にはいかない。
後ろにはシンシアがいるのだ、力がある自分が護らなくてはいけない。
彼女を何としても親友に会わせるためにも、自分自身もう一度家族に会うためにも。
「……これがぼくの全力だと思わないでよ!」
絶対に負けてはならないのだ。不退転の決意を抱えながらレックスは進む。
地面を強く蹴って一足一刀の間合いに入る。
すれ違いざまに突きの一閃、身体を横にずらすことで躱された。
「おれは戦って最後まで残る。そして、魔王におれの願いを聞いてみる」
「魔王がどういったやつかわからないのかよォ! 素直に願いを叶えてくれるとでも思ってるのかよォッッ!」
「だがそれでもおれは進むしかない。進むことで見えてくるものがあるのなら」
「そんなの……っ! おかしいよ!」
そのままでは終わらせない。レックスは即座に身体を回してもょもとへ向き直りベギラマを唱える。
掌から発せられた閃光はオーガシールドによって防がれるが目くらましにはなった。
接近して剣を振るう。だが、あっさりと躱される。
「ぼくだって最初は何も知らない世間知らずだったよ! おとうさんもおかあさんもいなくてわがままばっかり言ってて!
戦うことだって怖かった、弱い子供でしかなかった……!」
もょもと相手に止まることは死である。動きながら次にするべき行動を頭の中で構築する。
振るう。唱える。躱す。もょもとが落ち着いて攻撃ができないように、レックスは縦横無尽に駆け回る。
「でも、いろんな人と出会って知ったんだ! 世界はこんなにも広くて綺麗なんだなって!
ぼくを好きでいてくれる人がいっぱいいるって!」
「だが、おれは……!」
「そんな人たちを苦しめるのが魔王なんだよ!? おにーさんはそんな悪い魔物に従って満足なの?
おにーさんだって知ってるはずだよ、おにーさんのことを好きでいてくれる人が! 戦うことしか知らない?
嘘っぱちだ! おにーさん自身が気づいていないだけで本当はたくさん知っているはずだ!」
『まったく……世話が焼けるね、もょもとは』
――カイン。
『すいませんすいませんっ! で、でももょもとさんのことが心配でっ』
――あきな。
もょもとだって孤独ではない、仲間がいるのだ。その仲間が今の自分を見てどう思うのだろう?
悲しむのか? 喜ぶのか?
わからない、わからない。わからないからこそ――どんな道であっても前へと進んで知るしかないのだ。
「おにーさんは操り人形でもないだろっ! 自分で何が正しいかわかるはずだよ!」
「お前の言ってることは正しいのかもしれない。だが……おれは戦うこと以外の選択肢がわからない!」
「そんなの嘘っぱちだって何度も言ってるじゃないかっ!」
「それならば、お前がその正しさを証明したいのなら……打ち破ってみせろ」
攻守が交代する。今度はもょもとがレックスへと迫り拳を走らせる。
何の変哲もない真っ直ぐの一撃。されど疾空なり。
風を捩じ切って進む拳がレックスの顔面を貫こうとする。
「負けて、たまるかぁアアあああああああああああああ!!!!!!」
拳が顔面に届く寸前、レックスは首を横に捻りスレスレの所で回避し、剣の峰でもょもとの左脇腹を打ちつけようと剣を薙ぐ。
ギリギリの回避の後の即座の一撃。この斬撃が今度こそ戦いを終わらせる。
「言っただろう――――ぬるいと」
剣はもょもとへ届かない。レックスの斬撃は左の拳を振ることであっさりと止められた。
人間でありながら何もかもを破壊するかのような力。ただそこにいるだけで圧倒させられる風格。
レックスの全身を怖気が駆け巡る。
ああ、そうだ。ここで自分は――。
「堕ちろ」
――死ぬんだ。
最後に見えたのはもょもとが拳を自分へと叩きつける姿だった。
「炎の精霊よ、我に集え――ギラ」
突如迸る閃光が最後の邪魔をした。
「ストップ、戦いはそこまでだ」
レックスが視線を後ろに向けるとそこには赤茶色の髪を逆立てた青年がいた。
青年の顔にはにへら〜とした人懐っこい笑みが張り付いており明らかに人畜無害ですよといったオーラが漂っている。
「はぁっ……はぁ……なんとか、間に合ったみたいね」
「いやーセーフだったよ、シンシア。君が助けを呼びに僕の所まで来てくれて」
その後ろからシンシアが荒い息を吐きながら追いついてきた。
レックスが戦っている間に誰か頼りになりそうな参加者を捜し求めていたのだ。
その結果、たまたまふらふら歩いていた青年を見つけて引っ張りこんできたということである。
「まずは自己紹介からだね。僕の名前はロッシュ、勇者やってます。以後よろしく〜」
「……あ、はい。ぼくはレックスです、同じく勇者やってます」
「ローレシアの王子、もょもと」
いきなりの挨拶に目を点にしながらも挨拶を返すレックスに端的に自分の名を告げるもょもと。
ちなみにもょもとがこうして律儀に挨拶を返している理由はカインによる教えなのだがそれは今の場には関係ない。
「じゃあ本題に入るね。もょもと、殺し合い……というかこの世界で戦うのは一旦止めない?」
「どうしてだ?」
「いや、だってさー痛いの嫌じゃん? こんな変な世界で死にたくないじゃん?」
青年――ロッシュはニコニコと笑みを浮かべてもょもとへ歩み寄っていく。
もょもとが闘気を出しているにもかかわらず顔色一つ変えずにだ。
自分とは違う勇者の存在、レックスはそれを目の当たりにして動けない。
「それでもおれは戦わなくちゃいけない。願いを見つけるために」
もょもとは駆ける。戦うことしか知らない彼は傷つくことも慣れている。
痛み程度で戦いをやめる精神は持ち合わせていない。
「ワォッ! ちょっと待ってよ!」
軽口を叩きながらもロッシュは背負っていた剣を抜き、もょもとへと対処する。
近づいてくるのは前にレックスに放った一撃と同じく真っ直ぐの一撃。軌道はブレずに直線を描いた。
その一撃をロッシュは拳に当てるように剣を振るうことで迎撃する。
拳と剣が交差することでガキンと鈍い音が強く響いた。
「お前はあの子供よりはやるようだ」
「お褒めにあずかりまして恐悦至極ってね。さてと、もう一度言うよ。殺し合いなんて止めない?」
「さっきも同じことを言われたな。そんなに戦うことは悪いのか?」
「悪いっていうかさ、僕たちが戦う理由なんてないじゃないか」
ロッシュは油断なく剣を構えながらもょもとへの友好的な態度を崩さない。
彼が掲げるのは参加者が皆で団結してのデスタムーア打倒である。
言うなればできる限りの人達と仲良くなりたいのだ。
「それにさ、僕ってばあいつを一回倒しているし。だから今度もきっと倒せる。
この場にいる皆の力を合わせれば、敵じゃないよ」
その自信に根拠なんてない。ただ、彼は信じているのだ。
正義は勝つ、ラブアンドピースは悪に負けはしないと。
「僕の仲間だってそう思っているはずさ」
「…………おれは――――」
もょもとは拙い頭で考える。
最初に出会った奴は今まで通り戦って勝ち残ればいいと。
レックスやシンシア、ロッシュは真に戦うべきなのはデスタムーアだと教えてくれた。
どちらが正しいのだろう? 戦うことは間違いではないということはわかる。
ただ今はこの世界で誰彼構わずに戦うことを咎められているのだ。
「それにさ、願いが見つからないなら僕達も協力して見つけるよ。君が本当に叶えたい願いってやつを」
「そうだよおにーさん! ぼくも協力するから大丈夫!」
「まあこの流れからすると私もでしょうね……別に戦うことだけが願いにつながるわけじゃない。
ただ、親友といつまでも笑って語り合う。そういうことから見つかるものもあると思うのだけれど」
彼等は自分の願いがどうしたら見つかるか必死に考えてくれている。
この三人に付いていくというのも悪くない選択じゃないのか?
カインやあきなと同じく仲間になれるのではないだろうか?
それに仲間になれば戦う必要もなくなってしまう。願いを見つけるという願いも一緒に探してくれるとも言っている。
「お前たちと――――」
もょもとは言う。わかった、と。お前たちと共にいよう、と。
それでこの戦いはおしまいだと。
「共に――――」
――そんな結末は大魔王は望んでいない。
ここが、バトルロワイアルの世界でなければ、きっとこの戦いはハッピーエンドで終わったのだろう。
だが違うのだ、ここは血で血を洗う阿鼻叫喚の世界だ。
この世界はいつだってこんなはずではということで溢れている。
ロッシュ達の優しさ、もょもとに生まれた人としての感情。それら全てを焼き尽くす灼熱が四人を包み込んだ。
◆ ◆ ◆
灼熱の炎による一撃で気を失ったシンシアが気がついた時、全ては終わっていた。
懐かしい匂いだ。ピサロに村を滅ぼされた時、こんな匂いがそこら中から漂っていた。
建物が焼けて焦げ臭い匂い。残り火による蒸し暑さ。
そして。
「レックス、くん?」
「おねー、さん…………ぶじ、かな?」
人が焼けて炭となっていく死臭。
シンシアの目に映ったのは身体の大部分が炭化して息も絶え絶えなレックスの姿だった。
「一応、こういう炎を軽減する呪文を使ったんだけど……おねーさんに怪我させないのに必死で、自分のことまで気が付かなかったや。
女の人に火傷なんて、させたくなかったから。ロッシュさんも、ぼくたちを護ろうって頑張ってくれたんだけど……」
「何バカなこと言ってるのよ、早く治療しないとっ……!」
「無理だよ。ぼく、もうすぐ死んじゃうもん」
身体の大部分が死滅しているレックスを助けるのはもはや不可能。
ロッシュやもょもとは自分の周りにはいない。あの灼熱の炎に巻かれて何処かに吹き飛ばされたのだろう。
こんな時になんて運が悪い。だが、そんな愚痴じみたことを思っている暇はない。
どうにかして彼を助けなければいけない。死なせるなんて絶対にさせてたまるものか。
例え手遅れだとしてもシンシアは諦めない。
彼女の親友であるソフィアが同じ場面に遭遇したとしてもきっと自分と同じ選択をするはずだ。
「会いたかったなぁ……おねーさんが言うソフィアさんに」
「会えるよ、きっと会える! だからレックスくんも気をしっかり持って! どうしてよ……! どうして、私を庇ってこんな……っ」
「だって、ぼくは伝説の勇者だから。悪の手先から人を護るっ。それが、ぼくがするべきことだから…………」
ふざけるな。彼みたいないい子がどうしてこんな目にあわなくちゃいけない。
何が勇者だ、何が命をかけて彼を護るだ。自分が生命を懸けられて護られては世話がないではないか。
シンシアの目から涙が零れ落ちる。
「なか、ないで。元気出してよおねー、さん。ソフィアさんに会うんでしょ……。
ああでも心残りなのは皆にお別れを言えないことだなぁ……おねーさん、ぼくの代わりに……」
「嫌っ! レックスくん、待ってよぉ! まだ私は、貴方に――――っ!」
「ごめんなさいって伝えてくれないかな、おねーさん。おにーさんにロッシュさん。おとーさんとおかぁ……さん。ィ……ル…………ァ……サ……に」
コトリ。宙に掲げた彼の手は力を失って地面に落ちていった。
もう彼は笑うことも悲しむことも怒ることもできやしない。彼が元の世界で掴むはずだった幸せはあっさりと零れ落ちたこととなる。
勇者として生きた子供の早すぎる死はシンシアの心に深く突き刺さった。
◆ ◆ ◆
ロッシュは焼けるような熱さの中、身体を起こした。ふと見上げると、隣には自分がとっさにフバーハをかけて護ったもょもとが立っている。
見たところ大きな怪我はなく二人共に五体満足で何とか生きているようだ。
「大丈夫かい、もょもと……」
ロッシュは横に立っているもょもとの無事を一応確かめる為に声をかける。
こうして何も喋らないが立って目を開けて呼吸もしているがそれでも心配であったからである。
「やはり、戦わなければだめだ」
もょもとがボソリと呟いた。だが、その呟きの内容はロッシュにとっては思いもしないことだった。
自分の言葉は彼に届かなかったのか。わかり逢えたと思ったのは嘘だったのか。
「もょもと! 君はっ!」
「お前たちの言うことは理解できた。だが、戦わなければ生き残れない。生き残れなかったら願いを見つけることもできない。
おれは――戦う。戦って願いを手に入れる」
「違う、違うんだ! だからといってこの世界で君が戦う必要はっ!」
「ロッシュ。申し出はありがたかった。だが、おれは戦うことでしか答えを見つけ出せない。
戦って生き残れなければそこで終わりだと思うのだ、それだけは間違いだと思いたくない」
もょもとがロッシュに背を向けて歩き出す。その歩みをロッシュは止めれない。
今の彼に何を言えばいいのか。どうしたら彼は止まってくれるのか。
力づくで止めたとしても彼との関係が悪化するだけだ。
そして、言葉をいくら紡いでも今の彼の深淵には届かない。
もう道は分かたれてしまったのだ。
「だが、お前たちとは……戦いたくないな」
それでも。彼のその言葉にはわずかながらではあるけれど、自分たちが生んだ成果があった気がした。
◆ ◆ ◆
ミレーユは自分がした奇襲の成功を確信してこの場を急いで離れていた。
「一人か二人仕留められたかしらね」
襲撃の計略はいたって簡単だ。
戦闘音を聞きつけてたミレーユは忍び足で誰にも気付かれないように戦闘の場へと辿り着く。
そして、近くの建物に上がって上からしゃくねつを放つ。
ただそれだけなのである。
「ドラゴンをマスターしておいたのは正解だったわね」
ミレーユが長い旅でマスターしたのは魔物使い、盗賊、そして、ドラゴンだ。
旅先で手に入れたドラゴンの悟りを使用して、一番気に入っていた魔物使いのスキルを高めようと考えたのだ。
「ロッシュがあそこにいたのは少し計算外だったけど……まあ関係ないわね。
私はもう選んでしまった。テリーを生かす道を、デスタムーアに従う道を」
彼女は最初のチャモロが死んだ時点で既にテリーの為に全てを殺す覚悟があった。
前よりも更に強大となっているデスタムーアにミレーユは途方もない恐怖を抱いていた。
「私たちはもう負けているのよ、あの場にいる時点で」
あの場で全員に首輪が付けられている時点でもう自分たちは詰みの状態なのだ。
デスタムーアは自分達の生殺与奪の権利をいつでも握っている。
だからこそミレーユは彼に抗う道を諦めた。テリーだけを生かすことを心に決めた。
無論、その決断にはくじけぬ心が幾らかは作用しているのかもしれないがこれは紛れもなくミレーユの決意である。
「抗うなんて無理よ、もう」
今更皆仲良くしましょうだなんて受け入れられないしそのつもりもない。
彼女の大切な人はテリーというたった一人の家族だけなのだから。
それ以外は知らない見えない聞こえもしない。
迷いなくミレーユは修羅の道を行く。
その果てが崖だとしても。この思いが成就せずとも。
【レックス@DQ5 死亡】
【残り49人】
【E-8/欲望の町/午前】
【シンシア@DQ4】
[状態]:全身打撲
[装備]:なし
[道具]:支給品一式×2、ゾンビキラー@DQ6、メタルキングの槍@DQ8、不明支給品(確認済み×0〜4)
[思考]:ソフィアとの再会、ピサロは……?
※モシャスはその場に居る仲間のほか、シンシアが心に深く刻んだ者(該当:ソフィア)にも変化できます
【ロッシュ@DQ6】
[状態]:HP12/15、全身打撲、軽度のやけど
[装備]:はじゃのつるぎ@DQ6
[道具]:支給品一式 、不明支給品(確認済み×0〜2)
[思考]:仲間との合流。打倒デスタムーア
【もょもと(ローレシア王子)@DQ2】
[状態]:HP12/15、全身打撲、軽度のやけど、HP12/15
[装備]:オーガシールド@DQ6 満月のリング@DQ9
[道具]:基本支給品一式
[思考]:『たたかう』
【ミレーユ@DQ6】
[状態]:健康
[装備]:雷鳴の剣@DQ6 くじけぬこころ@DQ6
[道具]:毒入り紅茶 支給品一式×3 ピエールの支給品1〜3 ククールの支給品1〜3
[思考]:テリーを生き残らせるために殺す
投下します。ちょっと遅れてすみません
枯れ草混じりの草原を、二人の男女が歩いている。
一人は奇妙な法衣と頭巾の男、もう一人は巻き髪でレオタード姿の女性。
奇妙な協力関係を、先程結んだばかりであった。
「聞いたこともねえ国や世界、見たこともない道具。
ホントのホントにとんでもないことに巻き込まれてんだなー」
支給品から出てきた武器を肩に担ぎ、盾を携え暗く不気味な天を仰ぐ。
長柄刀のようなその刃は、魔を斬り裂く力を備えているらしい。
対するハーゴンも、青鈍色に輝く棍を杖がわりに携えていた。
「それに抗うというのだ、お前も十分にとんでもない」
「へへっ、まあな……ん?」
奇妙な風体の二人が情報を交換していると、奇妙な感覚に襲われる。
「なんだ?この匂い……香草?でも何か強い臭いと混じってる」
ソフィアは鼻を利かせて匂いの元を辿ってみる。
何が原因か、この辺りは薄靄がかかっていて見通しが悪い。
「硫黄だな。この辺りに火山があるとも思えんが」
「くっさいな。あっほらアネイル温泉の臭いに似てるんだ」
隣を行くハーゴンの冷静な分析を、直感的な一言で片付けた。
彼女の発言の端々から、深く物事を考えるには向かない性格が感じられる。
思考派の大神官としては噛み合わなさを感じる反面、自分には無い美点でもあると思えた。
ソフィアの発言を受け、今一度地図を開いて見る。
「温泉……なるほど。確かに地図によれば、ここには町とは違う施設が存在する。
規模から見ても、恐らく温泉なのだろうな」
「マジか。あのデスタムーアってやつ何考えてんだ。ノゾキとか?」
真顔でセクシーポーズをとりつつ言ってのけるソフィアに、ハーゴンがずっこけた。
底が読めない、ハーゴンは感心するやら呆れるやらで忙しかった。
「殺し合いを強いるほどの輩にしては、随分と卑属な趣と思わんか」
「爺の考えることはよくわかんねえからなぁ?あ、温泉好きなのかも。爺さんって大抵そうだし」
「……まあ、ここにあるからには何らかの意味が存在している可能性があろうぞ。
調べる意味も兼ねて入ってみるか」
そろそろ、建物が見えてきたこともあって、ハーゴンが提案する。
するとソフィアが、難色を示した。
「……混浴?ハーちゃんスケベ」
「そういう意味ではない」
頭痛がしてきたハーゴンは、一人でさっさと歩みを進めた。
「おっさん!しっかりしろ!おっさん!」
「完全に正気を無くしておる。この酒……いや、この温泉自体にも問題があるのか?」
ヘルハーブ温泉の敷地内に存在する、酒場と受付を兼任する施設の入り口を、二人は開いた。
果たしてそこにあったのは、悲劇と言えば悲劇であった。
「うへへぇ〜兄貴、俺の嫁さんのがキレイだろぉ〜、いくら借りたいんだぁ〜」
「服も畳まずに温泉でクダ巻いてんじゃねーよっ!おらおらっ!」
パンパンと小気味いい音を立てて、ソフィアの平手が炸裂する。
しかし、ホンダラはその喝にすらビクともしなかった。
なにせこの男、身内からすらも生来からのろくでなしと呼ばれている。
いわばダメ人間の代名詞のような存在なのだ。
その人物が、弱き者から気力を奪い尽くす魔性の温泉、ヘルハーブに入浴したとしたら─
「ダメだ!こいつぁーダメダメだ!!なんだよデスタムーアとかいうジジイ、
ますます訳わかんねえ!こんな温泉用意して何が楽しいんだ!?」
「……ある意味では楽しいぞ、ある意味だがな」
真っ裸の男性が酒瓶を抱いて、顔を二重の意味で赤らめている。
喜劇作家泣かせの光景に、ハーゴンは苦笑した。
「ハーちゃん手伝ってくれよ、このチョビヒゲも首輪してるし話を聞いてみなきゃ」
「何も知らぬと思うぞ……おいお前、年長者として恥ずかしいとは思わんか」
ハーゴンの説法にも、ソフィアの叫びにも反応を示さない。
半目で白目のこの中年、果たして起きているのだろうか。
支援
支援……いけるかな?
支援
支援
必死に呼びかける二人は気づいていなかったが、この時ある音が近づいてきていた。
そう、この状況を一変させてしまうような音が。
「しっかりしろー!お前の兄さんは泣いてるぞ!」
「堕落してしまうのは、恥ずべきことではない。
そのものに信ずるに値する者が存在しないということだからな」
「ひっく、ひっく……うはぁ、蛇口からワインが!」
しゃらん・・・ しゃらん・・・
「いいトシこいて恥ずかしくないのかっ!!年下の女に見下されてんぞっ!!」
「だが底辺へと落ちたお前でも、シドー様を信ずるがよい!
復活さえすればお前の世界をも変える力がきっと見いだせよう!!さあ!さあれ!!」
「ウォォォオオやったぜ!ついに大魔王を倒したんだ!!」
しゃらん!!しゃらん!!しゃらんら!!
「もっと熱くなれよっ!!気合だっ!気合だっ!!出てこいやぁー!!」
「今入信すればサービスとして、シドー様の御身を模したこのシドちゃんずきんと!!!
マスコットのドラきちくんが描かれた法衣と!!!私も愛用の健康サンダルもつけようか!!!」
「俺は、大魔王を倒した……夢の世界の勇者様ってわけだ!!……う〜ん……あれ?」
ソフィアはハイテンションになった!
ハーゴンはハイテンションになった!
ホンダラのテンションがもとにもどった!
*****
支援
支援
「何やら分からないが、妙な音に助けられたな」
「それにしても何だよあれ。あー、まだなんか胸のあたりがざわついてんやがんの」
彼らの施設の前を、何か奇妙な音が通り過ぎた、そのとき。
突如、全員が謎の興奮状態に襲われ、その結果ホンダラは無気力状態から立ち直ることができた。
自分のテンションが、自分で制御できないことに違和を覚えたことは覚えた。
だが、得も言われぬ高揚感に襲われ、それに抗えないという完全な未知なる体験。
動揺のあまり、ついつい流されるままになってしまったのだ。
「アドレナリン全開って感じになったな、俺もハーちゃんも」
「有ること無いことを吹聴してしまった……」
顔を抑えて大きなため息を、ハーゴンはついた。
同行者の妙な一面を見たソフィアは、おもしろそうに笑っている。
「あの音…恐らく、なかなかに強力な道具だな。
他人の精神を強制的に高揚させるとは間違いなく高位な魔法具ぞ」
「そー簡単にシリアスには戻れないって……おっ、着替えたか緑のおっさん」
「……」
何やら塞ぎこんだ様子で、着替えたホンダラが現れた。
肌年齢の現象具合を見ると精神に及ぼす効果はどうあれ、温泉としての効果は本物のようだ。
もっとも中年男性による検証ではあまり実感できないが。
是非ともうら若き女性に試していただきたいところである。
さて閑話休題。
ホンダラが、重く閉ざしていた口を開いた。
「お前ら……なんで俺を正気に戻した?」
「え?」
「俺のことなんてほっといてくれりゃよかったんだ……」
再び酒瓶に伸ばそうとした手を、ハーゴンが制した。
ホンダラは拒もうと思ったが、隈の刻まれた鋭い目付きに圧され、のろのろと腕を引っ込める。
「俺の居た世界がよ……つい最近平和になったんだとさ」
「ふーん?いいことじゃんか」
「それがよ、俺の甥っ子。そいつが魔王をやっつけたって話だ」
支援
「大した親戚を持ったものだ」
ホンダラがしょぼくれた様子でちびちびと語りだす。
酒の代わりに、支給された水を啜って。
「あんなチビだったアルスがでっけえ事をやったんだ。俺もいっちょ、やるかって、
仕事始めて……さあやるぞって意気込んで、一杯引っ掛けて寝て─そしたらこのザマだ」
「タイミングの悪いこと」
「あーぁー……もう夢も希望も無ぇよ……俺なんてすぐ野垂れ死んじまうんだ。
アルスたちはこんな呑んだくれなんて、どーせ助けに来やしねえさ。」
絶望しきった様子でしゃがみこむ。
生きることを諦めてしまったのか、その目には涙まで浮かべていた。
「だから、そこのカウンターの裏の酒、全部飲んでよぉ……
温泉でゆっくり、のんびりしながら死んでいくのがいいかなって……」
争いとは無縁のまま、無理な現実から夢へと逃げ出したい。
小市民としては無理もない結論とも言えた。
だが、猪突猛進勇者ソフィアにとってそれは。
「……しゃらくせええぇぇーーーーっ!!」
許しがたい『逃げ』だった。
ネガティヴに染まった思考に嫌気が刺したか、震える拳が突き出される。
爆発している頭が、怒りでさらに爆発した。
ソフィアの鉄拳で強かにぶっ飛ばされたホンダラの体は宙を舞う。
そしてカウンターに乗り上げたところに、胸ぐらを掴まれた。
「ぐひゃぁっ!」
「それでも男かおっさん!!ブザマな真似晒したまんま死ぬ気か!?」
「しょしょ、しょーがねぇだろぉ!?俺はどーせ、ツキもねえ単なる凡人なんだよ!!」
自分は兄のように慕われていない。
甥のように世界を拓くという好奇心も行動力も無い。
諦めに覆いかぶさった密かなコンプレックスが、ここに来て露見した。
「だからって!!!」
「よせ、ソフィア」
ハーゴンに、揺さぶる手を抑えられる。
見ると、やや怯えた様子のホンダラの表情が見受けられた。
悪かったよ、と呟きながら手を外す。
「ホンダラと言ったか」
「あ、ああ」
「耳を貸せ」
何やら、ハーゴンがホンダラに耳打ちをしている。
ソフィアは首を傾げた。
*****
7
しばらく時間が経ち、彼らはホンダラに快く送り出されていた。
少々充実した装具を抱えさせられて。
「お前ら!!頑張って魔王をやっつけてくれよな!!
くれぐれも、俺が渡した道具でだぞ!忘れるなよ!」
「……なあ、何言ったんだ?」
「荷物に有益な物があれば、譲って欲しい。魔王を打ち倒した暁にはお前を
『魔王を倒した勇者たちに装備を与えた大賢人』と後世に伝えようとな」
ハーゴンはフン、と鼻を鳴らして意気揚々とホンダラに手を振っている。
ソフィアも笑いを浮かべ、手を彼に振りながら、続けた。
「……詐欺だよな?」
「何を言う、信心深い者からの寄付は受け取るものだ」
「大丈夫かぁぁ〜?あのおっさん……」
「温泉の敷地内に隠れていろとは言っておいた。なに、いずれここへ戻って来よう」
「……ま、いっか。あのおっさん殺しても死にそうにねぇし……それより、何もらったんだ?」
「うむ」
ハーゴンが、畳まれたままの衣服を広げた。
しえん
支援
支援
支援
「……ソフィア……」
「えー……」
本当にあの魔王たちは何を考えているのだろう。
城に務める給仕が着用することが多い衣服。
メイド服が入っていた。
ご丁寧に靴下までつけて。
「どう倒せっちゅーんだ……」
それは、仕方のないことだろう。
テキトー男ホンダラはよく見もせずに、渡してしまったのだ。
どちらもドツボにハマるという、最悪の結果を産んでしまい、ソフィアはため息をついた。
*****
「えい〜ゆう〜ホンダラ〜おっとこっ、まえ〜ってか!はっはっは」
ヘルハーブ温泉にて有力な隠れ場所を発見したホンダラ。
彼はそこに息を潜め、意気揚々と宝玉を磨いていた。
「こうして見つからないで待ってるだけで、生きて帰れて!
おまけに英雄扱い左うちわたぁ、こんなにおいしい話はねえな!ひっく!」
まんまとうまい話に乗れたと、意気揚々と彼は歓声をあげていた。
そんな折届いたタンバリンの音色が、彼を凄まじいハイテンションへと押し上げた。
服のまま泳ぎだし、気づけば広い温泉の真ん中の島にまでたどり着かせてしまったのだ。
幸いテンションは温泉で中和され、今は通常の状態にまで戻っている。
「ひゅぅ、奴らにこいつも渡さなくてよかったぜ。
見てるだけでいくらで売れるかってワクワクしやがる、この宝石……
さてここはジメジメしててちと暗いけど、誰も来なさそうに違いねえ。
のんびり眠って……待つとするか!ういぃ〜…?」
ホンダラは、宝玉を抱いてごろりと横になった。
だがふと目を傍らにやれば、鉄格子の扉がある。
おおぅ、と歓声を上げてすがりついた。
「なんだ!?宝でも隠してあんのか?」
─この貪欲さ、そして
本当に、まだまだ死ななそう、である。
彼を応援しているのか定かではないが、タンバリンの音が響いた。
支援
しえん
支援
支援
【F-2/平原/朝】
【ソフィア(女勇者)@DQ4】
[状態]:健康
[装備]:斬魔刀@DQ8
[道具]:不明支給品(0〜2)、基本支給品
[思考]:主催の真意を探るために主催をぶっ飛ばす。まずは情報整理。
[備考]:六章クリア、真ED後。
【ハーゴン@DQ2】
[状態]:健康
[装備]:オリハルこん@DQ9
[道具]:不明支給品(0〜2)、基本支給品 メイド服@DQ9 ニーソックス@DQ9
[思考]:シドー復活の儀の為に一刻も早く脱出する。まずは情報整理。ロトの血筋とは脱出の為なら協力する……?
[備考]:本編死亡前。具体的な時期はお任せします。ローレシア王子たちの存在は認識中?
【F-1/ヘルハーブ温泉・中央の洞窟内/朝】
【ホンダラ@DQ7】
[状態]:健康、酔いは半分
[装備]:なし
[道具]:真実のオーブ@DQ6
[思考]:無事に帰らせてもらえたら俺は英雄ホンダラだぁ〜。
[備考]:ホンダラが持っていた酒はカウンターからくすねたもの。
【F-1/ヘルハーブ温泉/朝】
【竜王の曾孫@DQ2】
[状態]:健康 スーパーハイテンションで温泉の周りを回っている
[装備]:なし
[道具]:ふしぎなタンバリン、銀の竪琴、笛(効果不明)、基本支給品一式
[思考]:誰かにデスタムーアを倒させる
支援
【F-2/平原/朝】
【ソフィア(女勇者)@DQ4】
[状態]:健康
[装備]:斬魔刀@DQ8 ミラーシールド@DQ8
[道具]:不明支給品(0〜1)、基本支給品
[思考]:主催の真意を探るために主催をぶっ飛ばす。まずは情報整理。
[備考]:六章クリア、真ED後。
【ハーゴン@DQ2】
[状態]:健康
[装備]:オリハルこん@DQ9
[道具]:不明支給品(0〜2)、基本支給品 メイド服@DQ9 ニーソックス@DQ9
[思考]:シドー復活の儀の為に一刻も早く脱出する。まずは情報整理。ロトの血筋とは脱出の為なら協力する……?
[備考]:本編死亡前。具体的な時期はお任せします。ローレシア王子たちの存在は認識中?
【F-1/ヘルハーブ温泉・中央の洞窟内/朝】
【ホンダラ@DQ7】
[状態]:健康、酔いは半分
[装備]:なし
[道具]:真実のオーブ@DQ6
[思考]:無事に帰らせてもらえたら俺は英雄ホンダラだぁ〜。
[備考]:ホンダラが持っていた酒はカウンターからくすねたもの。
【F-1/ヘルハーブ温泉/朝】
【竜王の曾孫@DQ2】
[状態]:健康 スーパーハイテンションで温泉の周りを回っている
[装備]:なし
[道具]:ふしぎなタンバリン、銀の竪琴、笛(効果不明)、基本支給品一式
[思考]:誰かにデスタムーアを倒させる
おお! 投下お疲れさまでした!
執筆もお疲れさまなんですが……忍法帖は強敵でしたね……。
ヘルハーブ温泉の絶望をハイテンションで相殺とか、ホンダラらしさを活かした
各種のネタや話運びがたまらない。他力本願もここまでくれば憎めねえわw
はい、投下終了です!支援にかけつけてくれたみなさま!
ありがとうございます!
投下します。
「たからの地図じゃないのかな……」
項垂れるアンジェがこぼした言葉に、アリーナは首をかしげた。
「たからの地図?」
「はい、魔王といえばたからの地図の洞窟です。かつて私はそこでデスタムーアにまみえたことがあります」
「なんですって!?」
勢いこんで立ち上がるアリーナに、しかしアンジェは重いため息をもってその希望を否定した。
「たぶん、模造品というか、ペットみたいなものだったんですよね」
「……ぺっと?」
「ええ、経験値をあげて育成していく子なので。でも、実際に本物のデスタムーアを目にして思いました。
奴はあのペットとは違う!」
「そうね。そうだと思うわ」
少しの間。やがて、二人分のため息がこぼれた。
「どこにいるんでしょうかねぇ……」
「うちのピーちゃんも最後は洞窟にいたし、方向性は間違ってないと思うのよね」
「そ、そうですよね! あと魔王ではないですが、うちのエルギオスさまやガナサダイはよくお城に潜んでいました」
「お城ね! 確かにうちのエビプリも最後はデスパレスでふんぞり返ってたわ!」
「お城、お城……一番それらしいのはここでしょうか」
アンジェが地図を広げてゆびさした先をアリーナも見つめる。それは地図の頂点、この大陸の最北に位置していた。
「ろうごくのまち……確かに、一番お城っぽいわね!」
「ええ、きっとそこにデスタムーアがいるはずです! 参りましょう!」
「そうね、奴を早いとことっちめてやりましょ!」
意気揚々と立ち上がる二人は、しかしやがて地図をもう一度食い入るように見つめ、二人そろって首を傾げる。
「……どっちに行けばいいんだろう?」
「わかりません……とりあえず、それっぽい方向に走ってみましょうか」
「そうね、それがいいわよね」
かしこさの値が低く、道中に先導を他者に任せていた二人は、コンパスの使い方を知らない。
「防具は防具、ですけどね……」
項垂れるミネアがこぼした言葉に、しかし返事をくれる人はいない。
「今の装備って Eぬののふく さえ無いはずですし……
今後のことを考えて、曲がりなりにも支給品ですし、防具であるコレは着用すべきで……
……ムリ! やっぱ、ムリっ!!」
どこに敵が潜んでいるのかもわからない殺し合いの舞台の大平原にて、人目を警戒することも忘れて、ミネアは思わず叫んだ。
「こんな、何もわからない状態で! 一人で戦わなければいけないかもしれないときに!
どうして、姉さんみたいなミエミエのスケスケを私まで装着しなければならないんですかっ!
私はそういうのとは違うんです。違うんですよ!」
薄い布を握り締めてわなわなと震えているミネアの後ろに、徐々に近づいてゆく、走る土ぼこりがふたつ。
「そうです……私はいつだって正しい道を選び続けます。
姉さんがなんと言おうと、この緊迫した場面で、こんなハレンチな装備はいけません。
きっと、神様だってお許しに……」
「ミネアぁああーーーッ!!」
とつじょ聞こえてきた、甘えるような泣きつくような必死にその名を呼ぶ声に、条件反射で手が伸びた。
「だから着ないって言ってるでしょ、姉さんのバカーーっ!」
すぱこーん!
盛大に振るったミネアのこぶしは見事に命中、彼女に飛びついてきたはずの何者かを派手に転倒させ、ついでに青い帽子を吹き飛ばした。
――青い帽子。
頭の中が水着のことでいっぱいだったミネアは、殴ったあとに少し遅れて視界にその存在を認め……
そしてそれが自分の思っていた相手とは違う、しかしよく見慣れたもんであることに気づき、目を丸くした。
「ア、アリーナさん!?」
「いたたた……元気そうね、ミネア……」
「わ、私ってば、すっかり取り乱して。ごめんなさい!」
「こっちもごめんね、嬉しくてつい飛びついちゃった。とにかく無事で良かったわ!」
「ま、ま、待ってください〜……」
再会を喜ぶ二人のもとに、一人遅れて、桃色の髪の少女がよたよたと駆け寄ってくるのを見て、ミネアは首をかしげる。
「あの子は?」
「さっき仲間になったの。ごめんねアンジェ、置いてっちゃって」
「ぜぇ、はぁ、いいんです、びっくりしましたけど……。あの、もしかしてアリーナさんのお仲間ですか?」
「ミネアです。アリーナさんとは元の世界で一緒に旅をしていました」
「よろしくお願いします! 私はアンジェです。人助けならなんでも承ります!」
人懐っこく笑いかけるアンジェの様子にほっとした笑みを浮かべながらも、聞こえてきた言葉に引っかかりを覚えて、たずねた。
「人助け……というと、何でも屋さんなんですか?」
「そうみたい。だから私も、早速依頼させてもらったわ」
「え?」
不敵そうに笑うアリーナに、アンジェも同調するように、柔和な、それでいて力強いまなざしを返す。
そしてその光はミネアにも向けられた。
「アリーナさんからはすでにお受けしているんです。内容は――『大魔王討伐』」
「……!」
ミネアは思わず息を呑んだ。
突如始まったこのゲームに怒りを抱き、迷わずに正しき道を往くと決めても、一人だけでは少なからず不安があった。
けれど、ここにはあまりにも力強い意志と、仲間がいる。自分はなんと幸運だろうか。
神様は自分を見捨ててはいない、むしろ、微笑んでいるらしい。
「二人とも、私も……仲間に入れてください。その依頼、お手伝いしますわ」
導かれる光がここに無くとも、ミネアは迷うことなく、光を受け入れた。それを見て二人とも、弾けるような笑顔でうなずく。
「当然よ! やりましょう、ミネア」
「必ず奴を倒しましょう。よろしくお願いします!」
アンジェが小さな手をミネアにさしのべる、意図は当然誓いの握手。強くうなずいて、ミネアもまた手をさしのべた。
さしのべようとした。
そして違和感に、気付いた――
「……あ」
「え? どうしたんですか?」
思わず固まっているミネアにアンジェが怪訝そうにしていると、アリーナはミネアがさしのべようとしたその手に握られているものに気付く。
「ん、なに持ってるの? 布?」
「あの、これは……」
ミネアは顔を赤らめて困惑しながら、手に持っているソレをとにかく懐にしまおうとするが、それよりも素早くアリーナが取り去ってしまう。
ためらいなくソレを目の前に広げるアリーナ、覗き込むアンジェが、同時に口を開いた。
「……水着ね」
「水着ですねぇ」
「そ、その……支給品で……」
ミネアはもう、言葉にならずに俯くしかない。
見れば見るほどきわどい作りであるあぶない水着を、しかし二人はうろたえた様子もなく、冷静に検分しだした。
「支給品ということは、なにかしら戦力になれるような力は秘めているということですよね」
「そうねぇ。 Eぬののふく さえない無装備状態において、こんな布でも防具であることに違いはないわ」
「これだけきわどかったら、おしゃれさはかなり高いはずです。敵が見とれて動けなくなる確立が上がりますね」
「みかわしと同じ効果ってことね。何も無いよりは全然いいじゃない」
かしこさ低コンビはしかし、戦闘に関しての頭の回転は一流である。
二人の動向を不安そうに見守っていたミネアだったが、やがてそっと口を開いた。
「あの、二人とも……」
「ミネア」
それを遮り、そして力強い意志をまなざしに込め、アリーナは告げる。
「着なさい」
枯れ草だらけの草原の上、殺し合いが起きているかもしれない狭間の世界のフィールドにて。
少女二人が外からの視界を遮るように見張り、ミネアは一人、あぶない水着に着替えていた。
(神様……)
人知れずはらはらと涙がこぼれる。
やっぱり、見捨てられてるかもしれない。
【C-3/草原/朝】
【ミネア@DQ4】
[状態] 健康
[装備] あぶない水着
[道具] 支給品一式
[思考] 仲間や情報を集める。 アリーナたちと一緒に行く
【アリーナ@DQ4】
[状態]:健康
[装備]:竜王のツメ@DQ9
[道具]:フックつきロープ@DQ5 支給品一式
[思考]:デスタムーアを倒してゲームを終わらせる ろうごくのまちに向かう
【アンジェ(女主人公)@DQ9】
[状態]:膝に擦り傷(行動には支障なし)
[装備]:メタルキングの盾@DQ6
[道具]:ハッピークラッカーセット@DQ9(残り4個) 使用済みのハッピークラッカー 支給品一式
[思考]:困っている人々を助ける デスタムーアを倒す ろうごくのまちに向かう
[備考]:職業はパラディン。職歴、スキルに関しては後続の書き手にお任せします。
投下終了です。支援感謝。
投下乙です
さあ誰か早くあぶない水着装備のミネアのイラストを描くんだw
ダメだこの脳筋共、早く何とかしないと・・・w
ミネアは幸先良いんだが悪いんだがw
足元に広がる赤の水溜り、その正体は傍に有る人であった物から流れ出る液体。
その赤い海を歩きながら自分の殺した青年の頭を拾い上げ、額と額をくっつけて彼女は呟く。
「夢の世界でまた会おう、だから少しだけ待っててね」
救われた魂は、自分の手によって夢の世界で再会できる。
実行までには少し時間がかかってしまうが、再び会えることは約束されている。
今生の別れではなく、いずれまた会えると自分に言い聞かせ、彼女は拾い上げた首をぽとりと捨てる。
自分が人を殺した、という実感は沸かない。
処刑台を介した殺害だったからか、自分に元々命など無かったからか。
顔を素早く横に振るい、意識を切り替える。
そうだ、これは「救済」である。
デスタムーアの手から逃れ、夢の世界で楽しく暮らすために必要な「救済」なのだ。
「殺人」などという行為ではない、罪悪感を抱くことは今後の「救済」の枷となる。
そう言い聞かせながら何度も顔を横に振り、「罪」の意識を追い出す。
ふくろからエイトの支給品であった、赤と黒のドレスを取り出す。
そこそこの守備力を誇ると記述されている紙を見て、迷うことなくその服を着始める。
この殺し合いという悪夢を生き残るには、どんな物でも利用し生き残らねばならない。
自分は苦しめられる人々を救わねばならないのだから。
赤いコルセットが、漆黒のドレスを背景に光っている。
人々の救済が終わる頃には、この黒いドレスもコルセットのように赤く染まるのだろうか?
そんなことを思いながら、彼女は処刑台を後にする。
一段、階段を下りる。
卵から生まれたのは、絶望を彩る未来。
一段、階段を下りる。
夢を喰い、力とする魔王デスタムーア。
一段、階段を下りる。
人々が夢を見る限り、その存在は生まれ続ける。
一段、階段を下りる。
人が生きる限り、人は夢を見続ける。
一段、階段を下りる。
ならば、人が居なければ夢は生まれない。
一段、階段を下りる。
夢が生まれなければ、魔王は蘇ることはない。
一段、階段を下りる。
人が苦しむことも無く、本当の平和が訪れる。
一段、階段を下りる。
人の存在を、すべて夢の存在にしてしまえばいい。
一段、階段を下りる。
苦しむことはない。皆、苦しみから救われるのだから。
一段、階段を下りる。
二度と、その夢や心を踏みにじられることなどないのだから。
一段、階段を下りる。
自分はカルベローナの魔女バーバラ、夢の世界を作り、その住人の心を守る。
一段、階段を下りる。
自分が、誰も苦しまない理想の世界を作ろう。
一段、階段を下りる――――
出くわしたのは、見覚えのある鋼鉄兵だった。
ロッシュたちと共に倒したはずの鋼鉄兵。
力はハッサンやドランゴにも匹敵し、素早さはテリーやロッシュにも匹敵する強力な魔物。
かつて四人がかりで倒した魔物に単騎で遭遇してしまった不運を呪いながら、バーバラは歯軋りをする。
一人で闘って勝ち目が見える相手でないことは自分自身よく分かっている。
なんとか鋼鉄兵の視界から逃れ、身の安全を確保することが最優先。
幸い、自分の手には空を飛べるという靴がある。
この町から抜け出し、靴の力で空を飛べればひとまずは安全だろう。
そうして状況判断をしているうちに、バーバラを認識した鋼鉄兵はビッグボウガンを撃ちながら前進してきている。
「まだ……死ねない!」
歯を食いしばり、思い切って大地を蹴る。
自分へ放たれた弓矢の隙間を掻い潜り、町の入り口へと駆ける。
が、鋼鉄兵はそれを見逃すはずも無く。素早く彼女が逃げようとしている方向を先回りしようと移動してくる。
俊敏性では相手の方が上と判断したバーバラは、逃げ出すための隙を生み出すことを選んだ。
機械兵へ向き直り、洗練された技術で素早く二つの呪文を唱えて防御力を上げた後に炎の海を作る。
この程度の呪文で怯む相手ならばいいのだがと内心考えるも、機械兵が炎を受けながら直進しているのを見て素早く次の手を打つ。
右手を振りかざし、足元を狙うように小さな爆発を巻き起こす。
既に彼女を捕らえていた機械兵のバランスが崩れ、首を狩ろうとしていた剣先が大きくブレる。
だが、機械兵は転んでもタダでは起き上がらない。
空を切った剣の勢いを利用し、体を捻ってもう片方の槌を振るう。
「がっ……」
狙いは定まっていないとはいえ、圧倒的な力で振るわれる槌が彼女の腰を襲う。
体がふわりと宙に浮き、空を突き抜けていく。
地面をすべり切ったところで、口に溜まった血を吐き出す。
激しい痛みが襲うが、ここで怯んでいる場合ではない。
逃げ出す隙を生み出すために、彼女は再び機械兵へと向かい合う。
彼女を中心に無数の氷刃が現れ、機械兵へ突き進んでいく。
機械兵は冷静に、その一つ一つを槌で砕き、剣で切り落としていく。
一個ずつ着実に無力化されていく氷刃、その光景を見ながらバーバラは。
機械兵へと、真っ直ぐに駆け出していた。
機械兵は生み出される氷刃の処理にその両手を使っている。
尾につけた弓をから矢を放つが、狙いが定まっていない矢はアッサリと避けられてしまう。
目前に迫りきったバーバラを撃退しようとするが、飛来する氷刃がそれを許可しない。
そして、バーバラはついに機械兵の目前に辿り着くことに成功した。
呼吸を一つ置き、力を放つべき場所へ集中する。
嘗ての仲間がそうしていたように、挙動の一つ一つを素早くかつ正確に組み立てていく。
冒険の途中、魔力が切れた際に何時も足を引っ張っていた。
ありとあらゆる魔術を習得しても、魔術を放つための魔力が無ければ「魔女」も無力である。
魔力が無くなっても力になりたいと考えた彼女は、ダーマ神殿で武術を志す武闘家へと転職した。
魔術と同じく「術」だと理解してからは、ハッサンの指導の元の甲斐もあり着実に力をつけていた。
自分にはドランゴやテリーのような力はない。ならば自分の持つ力を最大限に生かすポイントを掴めばいい。
ハッサンの力を振るう「動」の武術に対し、自分は少しの力でより多くのダメージを与える「静」の武術を身につけた。
込める力は少しでいい、効率よく力を加えることで相手にダメージを与えることは出来る。
挙動の一つ一つを丁寧に組み立て、たった一点を見据えて拳を突き出す。
ハッサンのものとはまた違う「正拳突き」が機械兵の体に重く響く。
その攻撃を受け踏ん張ることは叶わず、大きく後ろに引きずられてしまう。
勿論、バーバラはこの好機を逃さない。
腰の痛みを我慢しながら、己の全力を持って入り口へと駆ける。
機械兵が起き上がる音が聞こえるが、決して振り返らない。
向かってくる音を背後にしながら、素早く靴を取り出して足を通す。
羽根が生えたようにふわりと体が宙へと舞った。
「うあっ……!」
町が小さくなり始めたその時、足に鋭い痛みが走る。
入り口にやってきた機械兵が、狙いをバーバラに定めて放った矢が足を突き刺していったのだ。
幸い第二陣が来ることは無かったが、最後の最後で手痛いダメージを受けてしまった。
傷が広がる前に素早く矢を抜き去り、その場で投げ捨てる。
彼女は回復呪文を唱えながら、靴に導かれるまま空を泳いでいた。
飛び去った少女を見送るように、機械兵はその場に佇んでいた。
自分の視界に命ある者が消えた、だから攻めの手を止めただけのこと。
また新たな命の反応があれば、それを破壊しつくすだけのこと。
視界に生きる者を捕らえるため、機械兵は町を後にして平野を彷徨い始めた。
狩りの時間は、始まったばかりだ。
【A-4/牢獄の町前/午前】
【キラーマジンガ@DQ6】
[状態]:胸部にダメージ
[装備]:星砕き@DQ9、バスタードソード@DQ3、ビッグボウガン(鉄の矢×21)@DQ5
[道具]:基本支給品一式 不明支給品(武器以外×0〜1)
アレルの不明支給品(0〜2) ギュメイ不明支給品(0〜2)
[思考]:命あるものを全て破壊する
【A-4/上空/午前】
【バーバラ@DQ6】
[状態]:ダメージ(中)、魔力消費(小)、太腿を負傷
[装備]:空飛ぶ靴@DQ5、セティアドレス@DQ9
[道具]:基本支給品一式、ゆめみのはなセット(残り9個)、かわのムチ
[思考]:参加者を自分の手で「救う」、優勝してデスタムーアを倒す、絶望
[備考]:ED直後からの参戦です。武闘家と賢者を経験。
※空飛ぶ靴の行き先がどこに設定されているかは後続の書き手にお任せします。
代理投下終了
バーバラは武闘家も経験してたのか
マジンガ様相手に逃げ切るとはなかなかやるな
代理投下します
ごめんねあきなちゃん。
あんたの仲間たちのどっちかを彼氏にしたら、っていうのはウソだけど、会ったら全力で詫びとくね。
もし生き残りに失敗してあの世で会ったら、あたしのこと殴っていいから。
でも、これがなくなれば、遠くから問答無用でやられる恐怖からは解放されるんだ。
***
あきなはマーニャと出会ったあの場所に倒れていた。風がシルクのヴェールを彼女の顔に被せていた。
「どうなるかわかんないんだし、生きてる人間で試すよりマシでしょ」
それは会話というより、自分に言い聞かせているようなもので。
「ほら。これ外そうとして、ヤられた人いたでしょ。一番最初に」
この試みが成功するかどうかなんて、わからない。でも試してみたい。
少しでも可能性があるなら。
孫のような少年を連れた老人の呪文、シャナク。
それはかけられた呪いを解く秘法で、
「な、だからこのおっちゃんはすごいんだぞ!
オイラの手にくっついたこれをあっというまに外してくれたんだ!」
「おっと、気をつけろよ。不用意に触るんじゃねぇ。また呪いを解きなおしなんてごめんだからな」
姉を探すべく見通しの良い場所を求めて移動していたマーニャは、彼らに出会ってこれまでの話を聞くと、生来の楽天的な性質のためか、単純な手段を試してみる気になったのだ。
「ちょっとあたしの考えた方法、試してみるのにつきあってよ」
死を悼まないわけじゃない。
せめて、ちょっと有効利用させてもらうだけよ。
無駄にしないために。
息を詰めて見守るマーニャ。
少年は老人を信じている。
老人は精神統一し、魔力を解き放つ。
その手を離れた解呪の力が死者の首もとの枷に吸い込まれ、
ボン! 枷が爆発する!
「……下手に呪文、つかえないわね」
マーニャはがっくり腰を落とす。やだ、ちょっと泣きそう。
「おっちゃんの呪文じゃダメなのか?」
無駄に亡骸を乱すようなことして。
ごめんね。こんなにしちゃって。
首輪がシャナクに反応するかどうかの実験台だなんてね。
でもきっと、もうあなたはここにいないよね。
負けない。
とりあえず解除はおいそれと考えられないようだけど。
あたしたちをこんな目にあわせたやつに責任とらせてやる!
【F-5/森林/朝】
【マーニャ@DQ4】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:不明(1〜3)、基本支給品一式
[思考]:ゲームには乗らないが、向かってくる相手には容赦しない あきなの死に呆然
【ガボ@DQ7】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、他不明品0〜2
[思考]:仲間をさがす おっちゃん(男魔法使い)のために戦う
【男魔法使い@DQ3】
[状態]:健康 MP消費(小)
[装備]:毒蛾のナイフ(DQ6)、杖
[道具]:支給品一式 不明支給品(確認済み×1〜3) 破壊の剣@DQ2
[思考]:女賢者と決着をつける そのためにガボを利用して生き延びる
※名前、職歴、杖の種類は後続の書き手にお任せします。
終了です
シャナクでの首輪解除は無理と
まあそう簡単には行かないですよね
投下します。
バラモスは、強烈な自我のなかで生きてきた。
人間などよりはるかに多くの欲を望み、望むがままに人間や動植物たちを虐げる。
アレフガルドでは大魔王ゾーマの配下とされながらも、アレフガルドより異界を渡り、辿りついたアリアハン世界を恐怖に陥れたその存在は、
紛れも無く『魔王』と呼ばれるに相応しいものであった。
そして、そんな自意識の塊がゆえに、一時の感情にひどく心を揺さぶられる。
かつてオルテガの息子を名乗る『勇者』とその一行に相見えた際にも、その揺らがぬ純粋で合理的な闘志に、
バラモスはプライドをずたずたにされ、身も心も打ち砕かれたのだ。
先ほども、たった一人の無力な女が言い放った無意味な言葉にさえ怒りをあらわにし、そうして招いた油断と迷いによって手傷を負った。
(そうだ……慢心は禁物だ)
バラモスは先の失態を思い出し、ぎりぎりとカバのような顔を歪めた。
もう迷うことはなにもない、自分がやるべきは決まっている。どういった理由があれ己は確かに一度死した身から蘇った。
今度こそ敗北はしない、いきとしいけるもの全てを地獄の苦痛に叩き落し、そのはらわたを食い破る。
そしてアレフガルドに帰り、大魔王ゾーマが示した絶望の世界で、再び己も『魔王』として君臨するのだ。
バラモスがいるこの場所は絶望の町というらしい。
この殺し合いの舞台に、最初に落とされたこの場所はまさに、魔王バラモスが復活するはじまりの地に相応しいと言える。
二つの生命を叩き潰して勢いに乗った今、己を止める存在などどこにもいない。
そう思った。
確かにそう思っていたのだ。
彼女に逢うまでは。
「……悲しい空ですね」
教会を出て、はじめに視界に入ったもの。
ささやくような声でぽつりと発されたフローラの言葉に、ローラは耳を澄ませ、そして愛らしく小首をかしげた。
「どうして、そう思われるのです?」
「命の息吹が、少しも感じられなくて……話でしか聞かなかった主人の奴隷としての日々が、思い起こされる気がします」
それは、彼女の中で夫の存在が大きく心を占めるが故の、勝手な感傷なのかもしれない。
だが、色のついた世界だけ見て生きてきたフローラにとって、空とはその季節それぞれに姿を変えて澄み渡り、薄水色から深き蒼穹まで、
変幻自在の雲とともに美しく広がるものだ。
言葉にしたとおり、そこには生命の息吹が感じられるのであり、夫や仲間との旅の中でも彼女はいくつもの空を目に焼き付けてきた。
それだけに、こうして目の前に広がる鉛色の空に、違和感を感じずにはいられない。
――厳密には、違和感を感じるのは空の景色だけでは無いのだ。
こうして歩いている町も、大気も、ところどころ散らばる枯れ果てた草木も、そのすべてが彼女の知るものとはちがう。
ただ、最も目に付いたものがそれであるだけの話だ。
こんなにも悲しい空の下、今もどこかで夫は苦しんでいるのかと思うと、フローラの胸の痛みは強さを増すばかりだった。
「フローラさんは、あたたかな太陽の陽射しに育まれて、生きてきたのですね」
そんなフローラの独白に対して、ローラ姫は穏やかな口調でそう告げた。フローラは少しだけ目を丸くする。
「どういう意味です?」
「そのままの意味ですわ。あなたの心はいつまでも美しい青天を遮られることなく、豊かな感受性に彩られている」
「ローラさん」
「どんなときでも、愛する人への思いやりと優しさを、忘れることのない……。とても、素敵だと思いますわ」
そう言ってローラは、曇りの無い笑みをフローラに向けた。
こんな表情をされると、彼女はやはり一国の王女などではなく、当初思ったとおりの女神ではないかと思ってしまう。
「そんな……大層な存在ではありません、私はただ……卑屈なだけで」
照れ入る気持ちをどう表現したものかわからずに、戸惑うフローラのたおやかな手を、ローラはそっと包む。
「どうか、ご自分に自信を持って。あなたも、あなたの愛する方もきっと、この空に負けない強さをお持ちですわ。
いつか必ず会えると、信じましょう」
「……ええ、そうですよね。いつか、きっと……」
「そうですわ。私も信じていますもの。
アレフさまは、必ず私のところに来てくださる。だからこの胸に光る太陽を、覆うようなことは決して、しないと……」
そうして、ローラはおもむろに彼女が持っていたふくろを開けた。嬉しそうな様子でなにかを取り出すそのしぐさを不思議そうに見つめ、やがてフローラははっとする。
「それは、ブーケ……?」
白い花に青緑の葉、凝ったレースに美しい装飾。それを花束と呼ばずにブーケと呼んだのは、彼女もまたかつて、誓いの儀式の際に手にしたことがあったからだ。
ローラは頷いて微笑んだ。
「私の支給品ですわ。もしお会いできたら、アレフさまに届けてさしあげたいのです」
「綺麗……ほんとうに花嫁のためのものですね。なのに、強い力も感じる……」
「ええ。このブーケが、私たちを守ってくださいますわ。……さぁ、行きましょうか」
ローラに促され、再び歩き出す。
その王女の横顔を見つめるうち、いつの間にか沈んだ気分でいた自分に笑顔が戻っていたことに気付いて、かなわないとフローラは苦笑した。
――そしてふと、思う。
ローラ姫はああ言ったが、彼女自身もまた、さっきの話で言う“太陽の光”を遮られたことがあるのだろうか、と。
あえてたずねることは、しなかったけれど。
壁の無い砦のような、仕切りだけを残して住居空間の連なった町を迂回し、二人は人影を求めて足を進める。
しかし歩けど歩けど、町からは人の営みを感じられることはなかった。
薄ら寒さに淑女たちが少しずつ不安を募らせていく、足音が聞こえたのはそんな折のこと。
フローラははっと顔を上げた。望んだ人影かと一瞬思ったが、音が近づくにつれてすぐにそれは勘違いであると知る。
(足音が重い……? それに、こんなにゆっくりと歩いてるのに、近付くのが早いなんて)
眉をひそめ、やがてその表情に静かに戦慄が走る。フローラは戦を知っている、ゆえに近付く気配に対してひどく敏感であった。
隣で、とまどった様子できょろきょろ見回すローラを己の後ろに押しとどめる。
不思議そうに自分を見つめるローラを振り返り、なんと言うべきか迷って、結局端的に告げるにとどめた。
「下がっていてください」
――風向きが変わる。静かだった追い風から、厳しく攻め立てる向かい風へ。
はためく水色の髪をはらいのけ、ふと血のにおいが流れてくることに気付いて唇を噛んだ。
すでに、この町でなにかが起きている。
そのことに気付けなかった数瞬前を悔やむ時間は、今は惜しい。フローラはふくろに手を入れて、美麗な装飾を施された杖を取り出した。
ようせいの杖、と言うらしいそれに、戦うための力が備わっているかは果たしてわからない。だが今はたった一つの武器だ、構えるしかない。
歩みを進める気配は居住区の死角にいるらしい。
息を潜める自分たちの気配に相手が気付いているかどうかはわからない、だがペースの変わらぬ足並からして気付いていないか、もしくは関心が無いか。
或いは――取るに足らない存在であると、思われているのかもしれない。
間を詰められる恐怖に耐え切れず、フローラはあえて音を立てるように息を吸うと、迫る存在に向かって声を張り上げた。
「誰です!?」
くくく……と、押し殺したような不気味な笑いが、その返事だった。
程なくして、足音の主は姿をあらわす。
大きくでっぷりと肥え太った体躯に乗るのは、一見してカバのような作りの顔の魔物。
だがにたりと裂けた口に強欲を貼り付けたような表情、そして気配からにじみ出る強大な力を感じて、フローラは息を呑んだ。
かつて彼女らが剣を交えた凶悪な邪教の幹部たち、ゲマやイブールにも匹敵するか、それ以上の相手でさえあると感じる。
「あなたは……」
「ほう、似通った血のにおいがするから何かと思えば……実に愉快なものよ」
張り詰めた緊張の糸を切らさないようにしながらも、フローラは内心、魔物の言葉がなんのことかわからず首を傾げる。
当然彼女はあずかり知らぬことだ、今よりほんの少し前、同じ血を分けた姉のはらわたが、目の前の魔物によって引き裂き砕かれたなどとは。
これから繰り返されるであろう血の祭典に恍惚とした笑みさえ浮かべながら、魔物はフローラに告げる。
「我が名は魔王バラモス。いきとしいけるもの全てのはらわたを喰らい尽くしてくれようぞ」
「――なりませんわ!」
相対していた両者は、思いがけず飛び出した声に、はかっていた相手との間合いを瞬間みうしなった。
血なまぐさい戦場をつばめのように駆け抜けた美しい声、その主であるローラが、フローラの前をさらに一歩進み出て姿をあらわにする。
「いきとしいけるものは精霊ルビスの加護の下、陽の光差す世界にて愛を育み、幸せとともに生きる権利があるのです。
それを、こんな殺し合いに加担させて生命を奪うだなんて、なりません!」
相手の強大な気配に息を詰めていたフローラさえ貫く、力強い語調だった。だが、この状況においてそんな言葉では挑発にしかならない。
一歩も引かぬ姿勢を見せたローラに焦燥感を隠せないフローラが、バラモスの気配を捕らえなおそうと相手を凝視し――
信じがたいものを目にしたかのように顔の筋肉を硬直させているバラモスの姿に、目を丸くした。
「貴様……ラダトームの王女か?」
「……え?」
鼻息も荒く立ちふさがっていたローラは、思わぬ相手の言葉に、怪訝そうに眉をひそめた。
「……確かに、私はラダトームの王女にして、ラルス16世の実子です。
ですが、あなたのような方にこの名を許したことは、一度たりとも無いはずですわ」
「16世だと? 貴様の父はラルス1世ではなかったか」
すれ違いながら困惑する両者の様子に、フローラもまた戸惑う。
バラモスのローラに呼びかけるさまはまるで、知己に対するそれのようだ。しかしローラは決然とそれを否定していた。
客観的に見るなら彼らの関係は――つまりバラモスにとってローラ姫は、知人によく似た他人というところではないだろうか。
「そうか……そういうことか。アレフガルドのつまらぬ置き土産に、こんなところで出会うはずも無かったな」
バラモスもまた、フローラがたどり着いた結論と同じところに落ち着いたようで、ローラだけが取り残されてやや呆然としていた。
「……あなたは、アレフガルドを存じているのですか?」
「かつてゾーマ様直属の配下であったころ、ラダトームを侵略した際に、つまらぬ女を知ったというだけ。恐らく、貴様の始祖たる女だ。
最も、侵攻の地を別世界に移してからは、そんな存在など忘れておったがな」
始祖、という言葉に、フローラは内心信じがたい思いを抱くが、当のローラはそんなことには見向きもしなかった。
「侵攻だなんて……あなたに心は無いのですか? 魔物にも、人と愛情を通わせる存在がいるというのに!」
「くくく……この手で与えた苦痛に愉悦を感じることに名をつけるなら、それは紛れも無く『心』であろうな」
「そんな、ひどい……。あの竜王さんだって、そんなことは言いませんでしたのに。
あなたのような真の邪悪は、必ず我がロトの子孫、勇者アレフさまが成敗することでしょう」
「勇者アレフ。それが貴様が慕う者の名か」
「この命かけて、お慕い申しておりますわ」
きっぱりと、フローラが眩しささえ抱くほど迷い無く言い切るローラに、しかしバラモスは少しの逡巡のあと、歪んだ笑みを向ける。
「果たして、それは真の愛かな?」
――対峙していたつまらぬ女が言葉を失った。それをたしかめてバラモスはますます笑みを深めた。
先までの決意も忘れ――否、先の殺戮をも上回るほどの愉悦を感じ、血肉をもった絶望をこの手にするために口を開く。
それは過去の因縁のためか、それとも執着のためなのか。どちらにしろ長く己に生まれえなかった衝動がいま、バラモスを突き動かしはじめた。
「人が愛と呼ぶものなど、脆いものだ。所詮は、色欲に裏付けされた辻褄あわせの感情でしかない」
「そんなはずありませんわ。あなたのような者に……」
「本当にそうか? 言葉に通じている時点で、我らの知る『心』とは似たようなものと呼べるではないか。
貴様はたった今命かけてその男を慕っていると言った、だが相手のほうはどうだろうな?」
思わぬ雲行きにフローラはどうしたらいいのかわからず、構えを解かぬまま黙って続きを促した。
だがフローラにはバラモスの言うことが痛いほど胸に突き刺さる。かつて同じような葛藤を、リュカ相手に抱いてきたから。
そして、当のローラは。
「くくく……。見たところ、純真たる乙女というわけではないようだ。
ならば知っていよう、貴様が契りを交わした愛する存在への憧憬など、すぐさま情欲に塗りつぶされることを」
「……おやめなさい」
先われした舌によりすべらかな口車に言葉は乗り、その心に流れ込む、茨のような棘のあるものに変わっていく。
太陽のように明るく曇りの無い愛がいま、その桜色の唇が断言した真に邪悪なる存在に、たしかに揺さぶられているのをフローラは見た。
「貴様がどれだけ慕っていようと、愛などという脆いものは快楽の前に、瞬く間に崩れ去る……
もしかしたら、こうして離れている間にも、貴様の慕う者は別の女に心を移しているかも知れぬな」
「ッ――……!」
そして、白い花が散った。
ぱらりと、魔王の目の前で舞い落ちる、幾枚かの白い花びら。
それは鋭利なもので精製されているせいなのか、或いは魔法の力か――魔王バラモスの頬に、微かであるが傷をつけた。
ローラ姫がたたきつけた、白のウェディングブーケによって。
「――そんな、ひどい……!!」
つきつけた腕は震えている。王女の頬を、透き通った涙が伝っていた。
真に自分たちの愛を信じていたなら、このような邪悪が放った言葉になど、きっと左右されなかったはずだ。
それなのに彼女が心揺さぶられたのは、彼女自身が頑なに信じようとしていたその愛に、どこかで強い不安を抱いていたから。
他人であるフローラの目から見ても、それは明らかなことだった。
そして、魔王は……これ以上無いというほどの歪んだ悦楽をもって、すっかり地面にへたりこんだローラの様子を眺めている。
「きゃああっ!?」
不意に苦痛の声が響いて、呆然としていたローラがはっと顔を上げると、そこにいたはずのフローラの姿が無かった。
「フローラさん!?」
見ると、彼女は前方のほうに吹き飛ばされていた。かすかに血の線を引いてぐったりとするその姿に青ざめる。
「フローラさ……!」
「動くな、ラダトームの王女よ」
おぼつかない足取りで立ち上がろうとするローラの前に、バラモスが立ちはだかる。ローラは唇を噛んでその凶悪な姿を見上げた。
「……お退きなさい」
「まとめて血祭りにあげてやろうかと思っておったが、実に愉快なものを見せてくれたな。おかげで気が変わった。
ラダトーム王女の末裔よ、この魔王バラモスとともに来ることを許そう。
さすれば、そこの女は特別に、命を奪う真似はしないでおこうぞ」
「ローラ姫……ッ!」
傷をおしてなんとか立ち上がるも、ローラをとらえられたような形になり歯噛みするフローラを、バラモスはゆっくりと振り返った。
「小娘、今だけは見逃してやろう。どこへなりと行くが良い」
「彼女になにをするつもりです!」
「命を奪うような真似はせぬよ。それよりもさらに面白いものが見れそうだからな……くくく」
邪悪な欲望に恍惚とする魔王の前に、さすがにいきりたって立ち向かおうとするフローラだったが、それを制止したのはローラだった。
「――行ってください」
「ローラ姫?」
目を丸くするフローラの足元に、出し抜けにぱさりと、白のブーケが落ちてきた。
反射的にそれを拾い上げて、その意味に気付いてなお驚愕を浮かべるフローラに、ローラは微笑む。
「行って、どうか……あなたの愛する方に、それを届けてあげてください」
その笑顔があまりに悲しく、太陽が遮られたかのように、陰りに満ちていたものだから。
フローラは胸が詰まりながらも、バラモスの凶悪な気配に間合いを詰めることができず、結局は彼女の言葉を信じて駆け出すしかなかった。
「必ず助けに参ります――アレフさんを探してきますから!」
己の情けなさに涙がにじみそうにながらも、走った。立ち向かってかなう相手じゃないのはわかっている。ならば今、むざむざと殺されるわけにはいかなかった。
そうして遠ざかろうとするフローラの後姿を、ローラは祈るように見届け――――
「こうもあっさりと信じるとは、愚かなものだな」
ぎたりと笑う魔王の気配に、即座に身を翻した。
焦げた草木が煙を上げる。
立ちはだかったローラの衣服は灰で汚れ、細い腕が少し焼け爛れた。
フローラは無事に行ったらしい。姿がなくなったのを確認し、安堵しても尚ローラは彼女の行く手を背に立ちはだかったまま、魔王を睨みつけていた。
「……させませんわ」
「そうでなければな。やはり貴様は見込みがある」
強欲のままに生きるバラモスが、せっかくの獲物であるフローラをそう簡単に見逃すはずがなかった。
あるいはそれは、試すような行為であったのかもしれない。
フローラが背を向けて走り出したのを見て、バラモスは殺戮の炎を吐き出そうとし、それに気付いたローラは迷うことなく両手を広げてフローラを庇った。
バラモスはすぐさま炎を吐くことをやめた。せっかく手に入れたローラを、みすみす死なせる真似はしたくない。
「さぁ……傍に寄るがいい。楽しもうではないか」
醜悪な笑みを浮かべる魔王に、決然とした表情を崩すことなく、ローラ姫は対峙する。
この絶望の町において、陽の光は、深い闇に遮られたままだ。
【G-3/絶望の町 屋外/朝】
【ローラ@DQ1】
[状態]:腕に火傷(小)
[装備]:なし
[道具]:消え去り草×2 支給品一式 不明支給品1(本人確認済み)
[思考]:アレフを探す アレフへのかすかな不信感
【バラモス@DQ3】
[状態]:頭部にダメージ(大)、その他全身的にダメージ(中)、頬に掠り傷
[装備]:なし
[道具]:不明(0〜3)、基本支給品
[思考]:皆殺し ローラを監視下に置く
[備考]:本編死亡後。
【G-3/絶望の町 屋外/朝】
【フローラ@DQ5】
[状態]:全身に打ち身(小)
[装備]:メガザルの腕輪
[道具]:支給品一式 ようせいの杖@DQ9 白のブーケ@DQ9 不明支給品1(本人確認済み)
[思考]:リュカと家族を守る フローラを助けに来る フローラの代わりにアレフを探す 町の外へ向かう
※絶望の町の入り口を塞ぐようにゴーレムの残骸があり、デボラの上半身が倒れています。両者の支給品はそのままです。
デボラ:魔神のかなづち@DQ5、王者のマント@DQ5、不明1(彼女が扱える武器の類ではない)
ゴーレム:不明3
代理投下終了しました
>ものは試しで
しかし男魔法使いの名前はいつになったら判明するんだw
このまま最後まで名無しってのも面白いかもしれないけど
>愛は花束、望みを散らし
バラモス様マジ外道
熟女ストーカーしてる場合じゃないぞアレフw
ところで、◆2UPLrrGWK6氏の投下はまだかな?
予約期限は過ぎてるようだけど
代理投下します
逃げてばっかりで、取りててて強い魔物でもないはぐれメタル。
そいつらの経験値が、なんで高いのか知ってるか?
それはな。
『生きのびてる』からだ。
血眼になって自分たちを追っかけてる奴らがいる。
当然、殺されたくなんてないからな。
どうすれば逃げられるか、どうすれば殺されないか。
そうやって頭使って生きてるから、倒すのも当然一苦労。
だからこそ、倒した時は戦士達にとってすげえ経験になるんだとさ。
え?
逃げるのが下手なはぐれメタルはいないのかって?
がはは、そりゃおめえ。
居たらとっくに、誰かの経験値ってなもんよ。
だからのろまなはぐれメタルはいないのさ。
(ったく、笑えないぜ……ハッサン)
旅の最中、野営中にハッサンが教えてくれた、なんともくだらないジョークだ。
そうそう、チャモロの奴が途中まで真剣に聞いてたんだ。
落ちを聞いて帽子とメガネがズレたからな、よく覚えてる。。
何度聞いても笑えない冗談だ。
それが、今こうして思い出せるってのも─
(本当に……笑えない、冗談だぜっ!!)
今、めちゃくちゃはぐれメタルの気持ちが分かるから、かな。
後ろにいた筈が一瞬で目の前に躍り出た女の裏拳をやり過ごしながら、そう思った。
「あらっ」
おおよそ、人間が素手で出せるような風切り音を超越したものが、テリーの耳を打つ。
あんな細い腕のどこから、そんな力を引き出しているのか。
テリーは何度目かはわからないが、舌を打った。
「なかなか『すばしっこい』んじゃありません?
貴方は『一匹狼』タイプだと思っていたのですけれど」
「そうかい、誤解を招いたな」
訳の分からない評価に悪態を突くのも面倒臭いと感じるくらい、彼女は執拗だった。
テリーが森を抜けんと直進すれば、ひょこりと眼の前の大木の裏から現れる。
ルートを変えようとしても、いつの間にか回り込んで森から出るのを阻むのだ。
─どういうカラクリだ、こいつは。
剣を早々と失ったのは、とても痛手であった。
例え悲しいほどの鈍らでも、遮りとなる枝葉を切り開くくらいの役には立つ。
とは言えそれは、彼女の身体能力がそれほどまでに予想外だったと言うこと。
いや、もはや異常と言う域にまで達しているが為だ。
「それにしても鬼ごっこみたいですわね。
何歳だったかしら、アレルとアリアハン中を駆け巡ったのが、
今でもつい先日のことのよう……」
「……思い出話が長くなるなら、ごめんだぜ」
うっとりした様子でペラペラと喋る彼女に尻目もくれず、テリーは逃走を再開した。
ヘルハーブ温泉は近づいてはいる。
だが、やはり回りこんでくる気配を感じ、真っ直ぐ向かわせては貰えない。
再び、木々の間を縫い、茂みを越え、枝をかいくぐり。
ようやく森の中、少々開けた広場に出る、といった瞬間。
「せっかちな殿方ですわね」
「!?」
聞きたくもない優しげな声が頭上から聞こえ、戦慄が走る。
脳天を目掛け、魔神の金槌を振り下ろされているような錯覚を、一瞬で感じ取った。
本能的に、顔を庇いながら前方へ大きく跳躍する。
「がッ!!」
背中に凄まじい衝撃が走り、テリーは激しく地面に叩きつけられた。
弾むように前方へと大きく回転し、宙を舞う。
その結果、つい今し方ダメージを負ったばかりの背を、地面に叩きつける羽目となった。
「げっっ……がはぁっ!」
「ごめんあそばせ、痛かったでしょう?」
リンリンの絶命を狙った踵の一撃が、回避したテリーの背に直撃したのだ。
ホワイトシールドを背中に回していたのは僥倖だった。
偶然ではあるが盾に阻まれ、これでも威力は半減している。
直撃したとすれば、きっと頭蓋は煮崩れたトマトのようになっていただろう。
「っぅ……!!」
ここに来て、ようやく彼女の手法が分かった。
通常、足を取られスピードの殺される森の中。
単純な追いかけっこを望むのならば、相手も見通しの良い平原を望むはず。
執拗に森の中から逃さぬような立ち回りを望む、その理由はひとつ。
(木だ……、木を蹴って加速してやがった!)
凄まじい脚力で木々の合間を飛び交い、そのしなりと反動をバネとする。
だからこそ、あれほどまでのスピードを得ていたのだ。
おまけに腕の星降る腕輪の効果もそこには加わっている。
そうまでされては、こうして逃げ切れないはぐれメタルのできあがりというわけだ。
「次は、もうちょっと痛くしますわ。ですから……」
「げほっ、……っ!」
両頬に手を当て、恍惚とした表情を浮かべる。
なんとも夢見がちな声で、テリーに残酷な要求を告げた。
「聞かせてくださらない?生に縋りつく貴方の叫びを」
テリーは立ち上がる。
しかし、背を向けない。
目を背けない。
リンリンの瞳を、真っ直ぐと見据えた。
痛む体を奮い立たせ、いつもの調子を保ったまま。
やれやれ、と肩をすくめた。
「悪いが……聞かせられそうにない。─もう、諦めちまったからな」
「あら、ま」
言うが早いか、地面が猛烈なステップにより飛び散る。
弩の矢の如き突きが、テリーの顔面目掛け狙いを定めていた。
ひとつ数える間もなく、鼻骨を砕き、眼球を潰し、頭蓋から脳をはみ出させるに十分な威力だ。
そんな凄惨たる早業を児戯であるかのように、彼女はやってのけようとしている。
「とっても、残念ですこと」
夢のような時間を醒めさせる─『諦め』という言葉。
彼女はがっかりとした表情で眼を細めながら、テリーの生命を千切りとらんと牙を剥く。
「ああ……残念だな」
片や喜びの、片や嘲りの笑みが、それぞれに浮かぶ。
この戦いの終わりは、これより始まる。
(諦めたよ。剣への拘りを、な)
剣士の咆哮が、武闘家の動きを止めた。
「!!?」
テリーの頭を粉砕すべく開始した突進は中断された。
彼が放った獣すらも慄くであろう『雄叫び』に押し返されたのだ。
振動が皮膚をビリビリと震わせ、リンリンの全身の感覚を瞬間的に麻痺させる。
「く、何……っ」
「『足払い』」
反射的にとんぼを切って着地しようとした足を、後ろから下段に回したテリーの脚が掬った。
身軽なのが祟っていともあっさりと払われ、空中に投げ出される形となる。
「うっ!!」
「『回し蹴り』」
足を払われ、宙に浮いた細い体躯。
テリーはそれを、回転を止めぬまま小さく跳躍し放たれた蹴りによって叩き落とす。
不意を突かれたリンリンは辛くも防御したが、体勢を大きく崩され着地できずに転がった。
「こ、のっ……」
「『鎌鼬』」
起き上がったところ彼女の頬を、ふわりと風が撫ぜる。
先程からの攻防で舞い飛んだ木の葉や土埃に狭間を生んで、何かが近づいてくるのを目視した。
その気配に殺気を感じ、咄嗟に首を傾ける。
遅れて到達した真空刃が、リンリンの頬に赤い線を刻んだ。
「っ、顔に……!!」
傷をつけられた。
いくら血化粧で全身が染まろうとも、彼女は女である。
女性としての本能が苛立ちを生んだ。
一定の距離を取られたままではいられない、今度は右前方へと跳躍する。
進行方向に存在した大木の幹を、ひしゃげるのではないかとばかりに蹴飛ばした。
爆発的な加速での奇襲は、テリーの首を目掛けている。
「!!?」
テリーの頭を粉砕すべく開始した突進は中断された。
彼が放った獣すらも慄くであろう『雄叫び』に押し返されたのだ。
振動が皮膚をビリビリと震わせ、リンリンの全身の感覚を瞬間的に麻痺させる。
「く、何……っ」
「『足払い』」
反射的にとんぼを切って着地しようとした足を、後ろから下段に回したテリーの脚が掬った。
身軽なのが祟っていともあっさりと払われ、空中に投げ出される形となる。
「うっ!!」
「『回し蹴り』」
足を払われ、宙に浮いた細い体躯。
テリーはそれを、回転を止めぬまま小さく跳躍し放たれた蹴りによって叩き落とす。
不意を突かれたリンリンは辛くも防御したが、体勢を大きく崩され着地できずに転がった。
「こ、のっ……」
「『鎌鼬』」
起き上がったところ彼女の頬を、ふわりと風が撫ぜる。
先程からの攻防で舞い飛んだ木の葉や土埃に狭間を生んで、何かが近づいてくるのを目視した。
その気配に殺気を感じ、咄嗟に首を傾ける。
遅れて到達した真空刃が、リンリンの頬に赤い線を刻んだ。
「っ、顔に……!!」
傷をつけられた。
いくら血化粧で全身が染まろうとも、彼女は女である。
女性としての本能が苛立ちを生んだ。
一定の距離を取られたままではいられない、今度は右前方へと跳躍する。
進行方向に存在した大木の幹を、ひしゃげるのではないかとばかりに蹴飛ばした。
爆発的な加速での奇襲は、テリーの首を目掛けている。
「─『身躱し脚』」
テリーは踊るような足捌きを始めた。
揺らめくようなその動きに、リンリンは当初の思惑を大きく外される。
怒りに任せた奇襲は幾分動きが荒い、着地に大きな隙を生む。
テリーはそこを突いた。
深く腰を落とし、真っ直ぐに。
「『正拳突き』!!」
「!!!」
がら空きになった胴に、テリーの拳が叩きこまれた。
細身とは言えど戦士の力での一撃をまともに喰らい、小柄な少女の体躯は宙に舞った。
辛くも着地するが、万全とは言い難い。
腹部を押さえながら、リンリンは微笑した。
「それでも殿方?溢れんばかりのパワーで、私を一撃で沈めてごらんなさいな」
「…それでも女か?ってヤツに、言われたくない」
テリーの言葉を最後まで聞かずに、リンリンは再び攻撃を開始する。
反撃を見せる彼には少々癇に障っているが、それを差し引いてもとても悦ばしい。
久しぶりに行う素手と素手での戦いに充足を感じていた。
楽しい、楽しいと本能が騒いでいる。
夢見がいいことこの上ない。
「それではスピードは、いかがかしらっ!!」
「!『疾風突き』っ!!」
リンリンの烈風のような蹴撃と、テリーの疾風のような拳打が鬩ぎ合う。
テリーとて、達人の域に達した男。
それを、圧倒的な身体能力と星降る腕輪の効力により、この女武闘家は容易く対応している。
磨きに磨きぬいた技と、鍛えに鍛えぬいた身体。
二つの誇りが、火花を散らしていた。
「『跳び膝蹴り』!!」
「がっ!!」
何度目かの激突、彼女の下段蹴りに合わせて放たれた跳び膝蹴りが命中する。
リンリンは顎を揺らされ、一瞬視界からテリーを外した。
(来ますね……!返り討ちにしてあげますよぉ〜っ!!)
痛打を食らったというのにやや気分がノった様子で、嬉々として防御の姿勢を取る。
しかし彼女が予想したタイミングに、テリーの攻撃は飛んでこない。
彼は、拳を構えたまま、静止している。
聞こえる。
何かが聞こえる。
風の音、いや、これは。
「………ォォオオオ……」
その音の主は彼の呼気。
テリーは、大きく息を吸い込んだ。
この地に降り立って始めて、リンリンの背筋を怖気が走る。
(凄まじい『気合』を溜め……っ!!!)
剣士の正拳が、武闘家の身体を目掛け真っ直ぐ放たれた。
(やりましたわ!ちょっぴりヒヤりとしましたけれども!!
ガッチリと防いでやりましたわよ!!)
彼女の両手は重ねられ、テリーの拳を真っ向から抑えこまんと待ち構えられていた。
武闘家の強さのもう一つの面、『身の守り』の硬さ故の防御の構えだ。
最高の素速さを手に入れれば、それに追随するようにある能力を得る。
それが最速の反応、反射だ。
自分に向けられた攻撃を可能な限りの速度で認識し。
経験を元に、相手の力に対応した、適量な防御を瞬間的に取る。
それは無敵の鎧にも最強の盾にもなり得る技術だ。
まして彼女ほどの達人だ。
例え素裸であろうと戦場を無傷でやり過ごすくらいの防御を備えているに違いなかった。
─まあ、要約すれば。
『素速さ』が高ければ『身の守り』も堅くなる、ということである。
「……!!」
その速度故の防御能力を以て、テリーの正拳突きの前に手を翳した。
あとは待ち構えるだけ、と心の中は喜色満面だ。
(聞きたい……貴方の最期の叫びを!!そうしたら、あの女の子もきちんと、
片付けておいてあげましょうね、きっとまだアストロンが解けていないでしょうし。
びっくりするでしょうねぇ、貴方じゃなくて私が目の前にいたら。ふふふっ。
それとも貴方の亡骸を見せつけてあげましょうか。そうしたら、
絶望して諦めるか……でも、本音を言うなら立ち向かってもらいたいですね。
最期の最期まで足掻き続けて、死合いを楽しめる存在へと昇華してあげたい!!
私の夢を、飾り付ける存在へと!!彩り豊かな戦いに溺れたい!!あの子はそうですね。
戦士には見えませんでしたし呪文使いでしょうね、たぶん─)
「バイキルト」
(そうそうバイキルトバイキルト…………バイキルト?)
刹那の時間を無限大に活用し長々と思いを巡らせていた彼女の、その目が見開かれた。
彼女の予想のおおよそ二倍の威力となったテリーの拳。
防御を貫き、崩した。
「ぅぁがッ」
腹に突き立った拳が伸びきる。
テリーの体躯であろうとも、それは極限まで強化した拳での一撃。
凄まじい勢いで飛ばされ、木々を下にするほどに打ち上げられていた。
彼女の誤算は三つ。
一つ。
彼は剣士であり、あくまで格闘術のエキスパートではないと高をくくっていたこと。
一つ。
彼はやはり剣士であり、同行者の少女に魔法の使用を仰いでいたことから、呪文は使用しないと早計したこと。
そして一つ。
相手の力を見極め『過ぎていた』。
極限まで気合の篭った、恐らく最初に食らった正拳突きの『二倍』くらいの威力が来る。
そう断じて待ち構え、瞬時の判断でそれ相応の防御をとっていた。
そうしたら『四倍』の威力が来てしまった。
完全に、真っ向から食らってしまったのは─あまりに失策。
「……っ!」
夢とはいえ、さすがにプライドに罅が入る。
同年代の同性はもちろん、異性にだって勝てる力を自分は身につけたと思っていた。
だが、しかし。
あんな、年下らしい男に、真っ向勝負で出し抜かれた。
夢だと言うのに、である。
(自分でも思いもよらぬ強者。
きっとこれは、私の心の、不安や弱さが形になって現れたのですね……)
妙な方向に解釈し、一応は気を取り直す。
これは夢なのだ、楽しくやろうと。
最悪なポジティブシンキングで、再びやる気を出してしまった。
「……っ、げほっ!!まだまだ、です─」
「イオラ」
「え?」
白光で視界が埋め尽くされる。
誤算が一つ増えた。
逃げる時、牽制のメラ一つ放たなかったからと言って。
距離を置いた際、バギではなく鎌風を飛び道具としたからと言って。
いつから『攻撃呪文は使えない』と錯覚していたのだろうか。
「手ひどくやられてしまいました……
あんなに続けざまに意表を突くだなんて。さすが、私の夢」
理解しがたい自画自賛を加えながら、リンリンは木にもたれ掛かっていた。
気絶から立ち直ったとき、テリーたちの姿が見えないのに気づき、彼女はひどく残念だった。
だが、まだゲームは始まったばかり。
いずれ再び拳を交える機会が無いとは言えないだろう。
今は昂った精神を落ち着かせ、次の夢の来襲に備えるのだ。
「今回の私、ちょっと抑え気味だったかもしれません。
夢なんですから、躊躇なく行かないといけませんねっ……」
恐ろしいことを口にしながら、ふくろの中の水を飲もうと口を緩める。
手を突っ込んだ時、違和を覚えた。
「……あら?」
ふくろをひっくり返す。
最初に確認したはずの、自分に支給された品。
きれいさっぱり、無くなっていた。
「……あらら?」
*****
「あっ!ちょっとアンタどこに行ってたのよ!!
アストロン解けたと思ったらどこにもいないし!!探したんだからね!?
そーだ、あの女は!?っていうかどうしたの、ケガしてんじゃない」
「……五月蝿い。傷に響くから黙ってろ」
「何よ心配してやってんじゃないの!!ムカつくわねあんた」
出迎えのマシンガン・トークの集中砲火を食らって蜂の巣にされる。
テリーは初っ端からの自分の女運の無さに嫌気が差した。
「そいつとやり合ってきたところだ。お前が邪魔だったから少し遠くでな」
「……え?だってあたしアストロン……」
「説明するのも面倒臭い、急いでここを離れる。仕留めそこねたらしい」
「はぁっ!?あんたちょっと、ちゃんと言いなさいよ!!待っ……!
ほら、血ぃ出てるじゃない!治したげるからちゃんと説明しなさいっての!!」
ぎゃあぎゃあとやかましい同行者と共に、森を抜ける。
今更だが、放っておいてもよかったかなと少し考えた。
テリーは回復呪文を受けながらため息をつく。
戦い疲れた剣士を癒してくれる存在が、ここにはどうもいないらしい。
温泉が無気力を誘うものと知っていながらも、身を委ねたい気持ちにさせられるのであった。
「……なんだ、素手で戦えるならそう言いなさいよ!
アンタ、思ったよりやるのね」
「俺をただの剣士だと思うなよ。
バトルマスター、魔法戦士……どちらも極めるくらい修行してるんだ……そうそう」
マリベルが更に呆気にとられる。
テリーは『戦利品』をふくろから取り出しながら、気障に笑った。
「『盗賊』の特技なんかもな」
【E-2/森の中/午前】
【リンリン@DQ3女武闘家】
[状態]:HP消費 ダメージ(中) 腹部に打撲(中)軽度の火傷 休憩中
[装備]:星降る腕輪@DQ3
[道具]:場所替えの杖[8] 引き寄せの杖[9] 飛び付きの杖[9]
支給品一式×2 (不明支給品0〜1個)
[思考]:強者とは夢の中で今までできなかった死合いを満喫し、弱者の命の慟哭を聞く。
[備考]:性格はおじょうさま、現状を夢だと思っています。
【F-1/ヘルハーブ温泉北の森・出口/午前】
【テリー@DQ6】
[状態]:HP消費 ダメージ(中) 背中に打撲(中) MP消費少
[装備]:ホワイトシールド@DQ8
[道具]:支給品一式(不明支給品0〜1)(武器ではない) 盗んだ不明支給品1つ
[思考]:リンリンから逃れつつ南下し、誰でもいいから合流する。剣が欲しい。
[備考]:職業ははぐれメタル(マスター)
(経験職:バトルマスター・魔法戦士・商人・盗賊 追加)
【マリベル@DQ7】
[状態]:健康 MP微消費
[装備]:マジカルメイス@DQ8
[道具]:支給品一式 (不明支給品0〜2)
[思考]:キーファに会って文句を言う。ホンダラは割とどうでもいい。
以上で代理投下終了です。
忍法の都合で改行を勝手に変えさせてもらいました。あと1レス分重複してます、すみません。
とりあえず、テリーかっこいい。そしてお嬢様面白いwww
カマエルが丁寧に噛み砕いて解説する。
そこから更に生まれた疑問をビアンカが投げる。
待っていましたと言わんばかりにカマエルが丁寧な解説をする。
そんなマンツーマン……いや、マンツーポットの濃密かつ要点を押さえた講義はしばらく続いた。
「そこらへんの草や土を入れてもいいのか」
「大きさに限度はあるのか、可能なら民家や大木も入るのか」
「人間や生き物も入るのか」
「あなたを縦に素早く振れば完成が速まるのか?」
どんな質問が来てもカマエルはいやな顔一つせず、懇切丁寧に分かりやすくビアンカへと解説した。
カマエルの解説でビアンカの理解が早かったことで、本来よりも早く錬金の手法を伝えきることが出来た。
「ああ、いつぞやは丸々3日かかったというのに……私はこんな方にもっと早く出会いたかった!
素晴らしい! ブラボー! おおブラボー! その錬金に対する燃え上がるような情熱! 貴方こそが焔の錬金術士でございます!
さあ、私やる気が出て参りましたよ! 早速錬金いたしましょう、さあ、何でもお申し付けくださいまし!」
「ありがとう、そのうち何か作りましょ」
熱く燃えたぎる錬金釜に対し、ビアンカはいつか錬金するという事を告げる。
彼女の三つ目の支給品、さまよう鎧。
戦地で死を遂げた者達の怨念が詰まった鎧だ。
身につければ強力な力と引き換えに、魔物として戦地をさまようことを強いられてしまう恐ろしい鎧だ。
魔物として現れるさまよう鎧の一部は、そうして人の肉体を心から支配して襲いかかってくるのだと聞いた。
彼女はふと考える。呪われた道具が錬金を介して強力な物へと変わるなら。
このさまよう鎧も、誰かに力を与える強力な鎧になるのではないだろうか?
「ま、今は考えてもしょうがないか……」
「どうかなさいましたか?」
「ううん、何でもない」
それはもしもの話だ。
何にせよ錬金に使う道具が無い現状ではいくら考えようとも無駄な話である。
気持ちを切り替え、彼女はゆっくりと歩き出した。
しばらくして、彼女は奇妙な服を着た男を見つける。
口をあんぐりと開け、白目を向いたまま動く気配を見せない。
素早く脈を確かめ、死体や人形ではなく生きている人間だと言うことを確認する。
「気絶……してるわよね」
「その様子ですねえ」
念には念のためカマエルに聞き、気絶していることを確かめる。
ビアンカは考える。この殺し合いの最中に気絶をして倒れているということはどういう事なのか。
もし、人殺しに襲われたのならば彼はとっくにあの世に行っているはずだ。
何か彼が驚くような道具を使った痕跡も特に見当たらない。
罠だったとしても準備がヌルすぎる。平常心を奪い駆け寄らせるならば、死体もしくは血まみれで気絶させた方が効率的だ。
では、なぜ彼は殺し合いのド真ん中で大の字に倒れ込んでいるのか。
一つの答えにたどり着こうとしたときに、倒れている男から微かに声が聞こえた。
素早く飛び退き、ビアンカは距離を置き、男の視界に入らない位置で様子を伺うことにした。
ゆっくりと起き上がり始め、自分が気絶していたことに気がついた男は素早く立ち上がる。
「随分とコケにしてくれたようだな、私の味わった苦しみを与えながら殺してやろうと思ったが、次からは声を上げる暇すら与えず殺してやるか……」
埃を払いながら呟く男の言葉には、明確な殺意が込められていた。
その声を聞いたビアンカの背筋に嫌な物が走る。
「はは、ははは、あーっはっはっはっはっは!! 悲しいなあ!! 私が本気を出してしまう所為で何も出来ずに皆死んでいく! 悲しいなあ!!」
「ちょっと待ちなさいよ」
狂ったように笑う男の姿を見て、ビアンカは思わず木の陰から飛び出してしまう。
「おや? これはこれは、早速私に殺されに来た人間が居るようですねェ」
くくくと下卑た笑いを浮かべる男に対し、手を腰にあて堂々とビアンカは叫ぶ。
「あんたみたいなのほっといたら、皆が危ないのよ。野放しになんてしておけないわ」
武器も防具もない、けれどもビアンカはこの男を見逃すことが出来なかった。
人を殺して回ると公言している以上、この男が何かしらの力を持っているのは明確だ。
そんな相手に長らく戦いから離れている自分が勝てるはずも無いことぐらい分かっているのに。
この男がリュカやリュカの家族と出会ってしまったら、それを考えるだけでもゾッとする。
ここで彼を止めておくことがリュカのためにも繋がる、そう思うとジッとしていることなど出来なかった。
ポケットに入れておいた炎のリングを力強く握り締める。
「くくく……悲しいなあ、そうして正義に打ち震える女性は、健闘空しく私に殺されてしまうのです。ああ……」
その言葉と同時に男はビアンカへと飛びかかってくる。
向かってくる男に対して放とうと、しばらく使っていなかった呪文を右手に込める。
しかし間に合わない、実戦からこう長く離れていると呪文を唱える速度すら遅くなるのか。
「悲しいなァ!!」
男が飛びかかってくる、呪文はまだ完成しない。
やっぱりダメだったなと思ったその時。
襲い掛かってきていた男が宙を舞い。
「お嬢さん、私その心意気に惚れ直しました」
自分と男の間に割って入るように、拳を振り上げて立っている一人の鎧の男が。
「お待たせしました」
甘く、彼女に囁いた。
なぜ乱入者アレフは、二人に気づかれることなく接近することが出来たのか?
一言で片付ければ、彼がいろいろな意味で変態だったからだ。
彼の行動理念の99%は女性で占められている。
女性にとって自分の姿がどれほど美しく、カッコ良く、決まっているかが重要なのだ。
全ての女性に愛を、ある意味では博愛精神に満ち溢れていた。
女性に悟られぬよう気配を消しながら魔物を退治したり、変質者を撃退したり。
知らぬ内に彼に救われた者は数多い。
また一刻も早く安全を確保することに努めており、無駄な戦闘は控え、目的の相手を素早く倒すことにも秀でていた。
そんな彼の目が黒い内は、アレフガルドにいる女性の身の安全は保証されているといっても過言ではなかった。
そして世の女性のために女性を不安がらせ、困らせている原因の竜王を討伐する任務を引き受けた。
その旅の途中、彼は一人の女性に恋をした。
ラダトーム王女、ローラ姫という一人の女性に身も心も奪われた。
「彼女が虜になるようなこの上ない紳士になりたい」と言う気持ちが芽生えた。
以前よりもっとカッコいい男を素早く目指すため、その後に竜王の城に単騎突撃した。
磨き上げてきた得意の気配遮断を筆頭とした技術を用いて素早く竜王に接近し、問答無用で丸々三日ほど殴り続けた。
そしてアレフガルドに平和をもたらし、いざラダトームに戻ろうとしていた途中、この殺し合いに巻き込まれた。
名簿を確認した彼は、ローラを始めとした女性が数多く巻き込まれていることを再び確認し、怒り狂った。
この殺し合いを開いた老人は一ヶ月殴るとまで決めていた。
だが怒り狂っているばかりではいけない、自分にはローラ姫という心に決めた人物が居る。
彼女の身の安全を確保することが最優先事項の急務である。
しかし彼がこの場で真っ先に見たのは、可憐で美しく探し人を追い求める女性。
ここで黙って見捨てるのは彼の流儀に反する、女性がせめて仲間を見つけるまで見守りながら動こうと思った。
無事に仲間や探し人に巡り合う事が出来れば、その瞬間からローラ姫を捜し求めて走り始めればいい。
敵に襲われそうなら自分が颯爽と女性を助け、迅速に身の安全を確保することでよりカッコいい男へと自分を磨く。
よりカッコよくなった自分の魅力で、ローラ姫にもっとほれ込んでもらおうという策略だった。
そうして、今。
彼はビアンカに襲いかかろうとしていた奇術師を渾身の力を込めたグーで殴り飛ばした。
よりカッコいい男を、目指すために。
「……やってくれましたね」
突然の襲撃に吹き飛ばされながらも、奇妙な服装の男ドルマゲスはしっかりと着地し、口を拭いながらアレフを睨む。
「おいおい、レディには優しく接する。それがジェントルマンのマナーってモンだ。
超一流のジェントルマンとして、レディを傷つけようとする輩は放っておけねえ……ちょいとお仕置きしなきゃあいかんなあ」
パキポキと手の骨を鳴らしながらアレフはドルマゲスを諭すように言う。
完全にナメている仕草にドルマゲスの怒りが加速する。
「ビアンカさん、下がっててください」
アレフは振り向いてニコリと笑う。
ビアンカがなぜ名前を知っているのかを聞くより早く、アレフは飛び出していた。。
ビアンカと男の首を狩らんと飛び交っている目に見えないはずの真空の刃を、手に持った剣で素早く切り裂いて無力化していく。
真空波が斬られたということを認識するのにワンテンポ遅れてしまい、ドルマゲスは男に攻め込むチャンスを与えてしまった。
男は十分な時間を手にし、隙間を縫い流れるように美しい放物線を描き、ドルマゲスの首元に剣の切先が当てられる。
それらはすべてほんの一瞬の出来事だった。
「オラ、二度と女性を襲おうとか考えんじゃねえぞ。分かったらさっさと荷物置いてどっか行け」
ドルマゲスが唾をゴクリと飲み込む音だけが、響いていた。
男のスタンスは相手の無力化、魔物と闘うときも悪党を退治するときも同じ。
女性に危害を加えないと言うのならばそれ以上の攻撃は与えない。
再び暴れようものならもう一度シメればいいだけの話。
「分からせる」ことが目的であった彼が、命を奪うことなど滅多になかった。
ゆっくりとドルマゲスがふくろを腰から外し、アレフの足元に投げて両手を挙げる。
「よーし、それでいい。二度と変なこと考えんじゃねえぞ」
アレフがドルマゲスの首元から剣先を下げていく。
それを確認したドルマゲスがちらりと横を見てから歩き始める。
アレフの元を離れつつ、静かに笑い始めた。
「ははは……甘いですねえ」
その言葉がアレフの耳に入ったとき、状況は一変する。
「動くな!! 動けばこの子供を殺す!」
たまたま傍を通りかかっていた少女を素早く右手で拘束し、残った左手でアレフたちを指差す。
何が起こったのかわからない少女は怯えたままドルマゲスを見つめ、ビアンカは歯軋りをしながらドルマゲスを見つめている。
「くくく……まずはさんざんコケにしてくれた御礼をしましょうか」
ドルマゲスが今度はアレフのみに向け、苦しみを味わせようと弱めの真空波を放つ。
アレフはその刃が目前まで迫ってきても涼しい表情のままだった。
そしてぽつりと、一言呟いた。
「色即是空――」
アレフの姿がふと消えたかと思うと、次の瞬間にはドルマゲスの目の前に現れていた。
状況を飲み込めないドルマゲスが驚愕して脱力いるうちに、少女から汚らしい手を引き剥がし解放する。
「……あんだけ優しく警告してやったのにな。どーやら本気でシメにゃあいかんのう? お?」
そして一発の鉄拳が、ドルマゲスの顔を突き抜ける。
吹き飛びそうになるドルマゲスをしっかりと逃がさず、その体を掴む。
「女性に手を出すだけでなく、か弱い少女を人質に取ろうたぁ男の風上にも置けん! 歯ァ食いしばれオラァァァァァ!!」
地面にたたきつけてからの殴打からの殴打、次いでまた殴打。
反撃の隙間を一切与えずにアレフはドルマゲスをただひたすら殴り続ける。
ビアンカが駆け寄って少女の目を塞ぎに走る程度には、凄惨な光景がそこには広がっていた。
「ふう、こんくらいで勘弁しておいてやるぜ。
……すみません、ビアンカさん、お嬢ちゃん。見苦しいところをお見せしました。
無事そうで何よりです、お怪我はありませんか?
そうそう、私はアレフと申します。以後お見知りおきを……」
いろいろと終わらせた後、アレフはビアンカと少女へ向き直り一礼をする。
数十分殴り続けられたドルマゲスは再び気を失い、アレフに支給されていた一本のロープで特殊な縛り方で拘束されている。
命を奪われなかったのは、アレフの流儀と温情によるものである。
ビアンカはすっかり声を出すことすら忘れきっていたが、声をかけられてようやく目が覚める。
一度にいろいろなことが起こりすぎて、彼女の頭の中にあった様々な疑問が全て吹き飛んでしまった。
何から聞けばいいのか分からなくなったので、とりあえず自己紹介から入ることにした。
「私はビアンカ……その、助けてくれてありがとう」
「あ、リッカって言います。私も、助けてもらって本当にありがとうございます」
ビアンカに合わせ、リッカと名乗る少女も慌てて頭を下げる。
「いえ、紳士として当然のことをしたまでです」
片手の指先のみで顔を支えるように手をあて、残りの手を横に突き出し肩をすくめるアレフ。
一挙動ごとに美しさとカッコよさを求めながら動くことを、彼は欠かさない。
「ところで、今後はどのようになさるつもりですか?」
アレフは二人に今後の行動方針を聞き、ビアンカは当然リュカを探しに行くと即答。
リッカは宿屋を求めてひとまず目をつけた北の城を目指している途中、ドルマゲスに襲われたということを説明し、宿屋に行きたいことを伝えた。
「そうですか……町や城というのは人が集まりやすくシンボルとしてもとても目立つので、北の城を目指すのは確かに正解ですね。
しかし、同時にさっきのクソ野郎……失礼、この殺し合いに嬉々として参加しているようなやつも居るかもしれません。
そこで北の城で誰か仲間が見つかるか、安全に過ごせる場所が確保できるまでの間、私も一緒に行動させていただけないでしょうか?」
二人の意見を聞いた上で、アレフは一つの提案をした。
こんな地に二人の女性を置いていくのは彼の流儀に反する。
しかし、彼女達の意見も尊重せねばならない。
その両方を満たしながら彼女達を守り、よりカッコいい男となれる提案を二人に出した。
アレフの変態的な強さを認めたビアンカ、リッカの両名も、彼が身辺警護をやってくれるのならば安心だとその提案を受け止めた。
若干、不安な点があるのは気のせいだとは……思えないが。
「わかりました、では北の城まで私がお供いたしましょう。
そうそう……さっきのボケカス、ああ失礼。さっきのヤツに支給されていた道具と私の道具です。
お二人の役に立てばよいのですが……」
そう言いながらアレフは二人の目の前に道具を四つ広げて見せた。
まず、アレフに配られていた女性用のローブはビアンカに渡すことにした。
次にドルマゲスからかっぱらった三つのアイテム。
鞭に関しては、自分の身を守れるようになりたいというビアンカの申し出により彼女に配られることになった。
アレフはビアンカが闘うということを止めようとしたのだが、思い人の力になりたいという意志を尊重し、ここは折れる形となった。
残りの二つの道具、スライム型の奇妙な道具とその身を救ってくれるというロトの紋章の入ったアイテムはリッカに託すことにした。
渡した瞬間からスライム型の道具の解説を読み漁り始めていた。
あまり夢中になっていると先ほどのように捕まってしまうと警告をしようとしたが、あまりに夢中な彼女の姿勢を止めるのも忍びなかったため、再びアレフが折れた。
「では北の城へ向かいましょうか。大丈夫、私がしっかりエスコートしますよ」
紳士たる者、女性に常に優しく。
更に男を磨きを駆けるための、勇者アレフの護衛の旅が始まる。
【C-4/平原/午前】
【ビアンカ@DQ5】
[状態]:健康
[装備]:女帝の鞭@DQ9、エンプレスローブ@DQ9
[道具]:支給品一式、炎のリング@DQ5、カマエル@DQ9、さまよう鎧@DQ5
[思考]:リュカに会いたい、彼の為になることをしたい。牢獄の町に向かう。
[備考]:カマエルによって錬金釜の使用方法を教わっています
【リッカ@DQ9】
[状態]:健康
[装備]:あるくんです2@現実
[道具]:復活の玉@DQ5、大量の食糧(回復アイテムはなし)、支給品一式
[思考]:宿屋を探す、そのために牢獄の町を目指す。
あるくんです2について理解する。
【アレフ(主人公)@DQ1】
[状態]:興奮
[装備]:ルカナンソード@トルネコ3
[道具]:支給品一式*2
[思考]:一刻も早くローラを保護する。そのためには剣を取ることも辞さない。
けどローラにもっと惚れて欲しいから、女性に優しく、助けになるようなことをして紳士力アップを謀る。
だから牢獄の町までビアンカ・リッカをエスコート。
【ドルマゲス@DQ8】
[状態]:瀕死、気絶、亀甲縛り
[装備]:ステンレス鋼ワイヤーロープ@現実
[道具]:なし
[思考]:人間へ復讐(?)
途中連投規制されて時間かかったけど代理投下終了です
ドルマゲスいいとこないなぁ…w
キレたアレフがどうみてもヤクザw
生き方もある意味ヤクザみたいな感じだしなぁ。
しかしロトの血統まともな人いないなぁw
竜王は負けても全然反省しないで殴られ続けるうちに死んじゃったのかな…これなんて喧嘩?
あるいは殺されたというのがそもそも勘違いなのか
なんでDQ1だけギャグテイストなんだよww
変態の1
コミュ障の2
戦闘狂の3
ほのぼの系4
愛の意味を問う5
男はまとも女はヤバい6
ぶれない7
いいとこなし8
未知数9
いいとこなし8 (´;ω;`)ブワッ
それでもヤンガスなら……ヤンガスならきっと何とかしてくれる!
ハーゴンさんはコミュ障じゃねぇよ
これだけイメージ崩壊キャラがおおいんだから、そろそろガチホモ要素も追加しようぜ!
306 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/04/23(月) 17:31:40.26 ID:6JytqDw70
8は比較的早く死んだゼシカを除いて、他は大活躍したからな
前ロワで活躍したキャラ程、早死にしていく今ロワにおいては、仕方ない現象と言える
逆に前回いいとこなしだった6勢が、今ロワでは熱いぜ
ガチホモ枠はハッサンがお似合いなんだが死んでもうたしな
「全く、身勝手すぎるのよ」
暫く立ち尽くしていたマーニャは、そう呟いてから力なく座り込んだ。
「何が全部無駄よ。なんで自分だけで決めるのよ、自分がやって来た事なんだから、もっと自信持ちなさいよ!」
笑顔のまま、何も言わない少女へ一人叫び続ける。
「仮にそれが無駄だったとしても、できる事だってあるじゃない。
やりたいことだってあるって、あなた言ったじゃない。
こんなところさっさと抜け出して、やりたいことやる人生だって送れたのよ」
彼女は止まることなく叫び続ける。
返事など返ってくるはずもないことは分かっている。
けれども彼女は、ただただ叫び続けた。
「死んだら何も出来ないし、何も生まれないじゃない。
どうなるかなんて分からないのに、なんでそれを自分ひとりで決めつけちゃうのよ!」
気がつけば瞳から大粒の涙を流していた。
どこかが抜けていて、自分ひとりの責任だと思い込んで、勝手に行動する。
姿と魂は違えどマーニャの妹、ミネアに似る部分が多くあった。
もし、ミネアも同じ事を考えていたら?
あきなと同じように絶望から自らの命を絶つことを選んでいたら?
自分は今みたいにただ立ち尽くすことしか出来ないのか。
今のように接しても、妹がその道を選んでいたら止められないのだろうか?
あきなの行動から生まれた、一つの不安が彼女にのし掛かる。
「バカ、ほんとにバカよ……」
物言わぬ少女に縋り、涙を流し続けた。
「もし、そこお方」
しばらく泣き続けていた彼女の耳に、ダンディズム溢れる声が届く。
敵襲かと思い、素早く振り向き身構える。
そこにはマスクで顔を包んだ男と、すらっとした黒髪を束ねた女性が立っていた。
「や、私達に戦うつもりはありません」
マスクの男はゆっくりと両手を上げて戦意がないことを示す。
マーニャは構えを解かず、突然の来訪者へ警戒している。
「……疑心暗鬼になるのはわかります。
ですが、こんな場だからこそ私は人を信じる心を大切にしたい。人が人を疑っては、立ち向かうべき巨悪に打ち勝つことも出来ません。
どうかあなたも、我々を信じてほしい」
マスク越しに見えるのは、希望と勇気に満ち溢れた瞳。
何かを相手に伝えるとき、視線をそらさずまっすぐと見据え、己の気持ちを全力でぶつける。
かつてソフィアが言っていたことが、今の目の前の男と重なる。
昔の仲間を思い出したのか、彼女は気がつけば大粒の涙を再び流していた。
「あっ、あの、申し訳ない!」
突然泣き出してしまったマーニャの姿を見て、マスクの男オルテガは慌てふためく。
「あらあら、こんなかわいい子を泣かせちゃうなんて……もう、ダメよ?」
「す、すみません……」
マスクの男の後ろに立っていた女性、ルイーダがすっとマーニャの前に現れ、泣きじゃくる彼女をそっと抱きしめた。
ああ、こんなふうに泣くのはいつ以来だろうかも
マーニャはそんな事を思いながら、ルイーダの胸の中で泣き続けた。
落ちついた所でルイーダから口を開く。
人の集まる西の街を目指し、森の中を抜けていく途中でマーニャに出会ったのだと言う。
次にマーニャからここであったことの全てを聞き、二人は怒りを露わにした。
「なるほどね……あのピンクのおじさんが一段と許せなくなってきたわ」
「全く、同感ですな」
隣で横たわる少女の死体は、話によれば絶望から自ら命を断つことを決めたという。
命を握られた上で殺し合う事を強制され、深い絶望を見た少女は一足先にこの舞台を降りた。
この悪趣味な遊戯の理不尽さを、改めて噛み締めた。
「……ねえ、マーニャ。さっきも言ったけど私たちはあのデスタムーアとかいうおじさんをとっちめてやろうと思うの。
あなたもそう思うなら、私たちと一緒に来ない?」
ルイーダはそう言いながらマーニャにそっと手を差し伸べる。
マーニャは手を取ろうと自分の手を伸ばし、触れる寸前に手を引いた。
「ありがとう、私もそう思う……けど、一緒には行けない。
さっき名簿を見て分かったけど、この場所のどこかに私の妹が居る。だから私は一刻も早く妹に会いに行きたい」
マーニャの目には、命を絶った少女あきなの姿に妹ミネアの姿が重なっては消えていた。
もし妹もこの少女と同じ道を辿ろうとしているなら。
もし妹が今まさに痛みと苦しみと共に戦っているなら。
もし妹が……絶望に押しつぶされ、人を殺めているなら。
進んでいるのがどのような道であったにしろ、妹に会って話がしたい。
最悪の対面を迎えることを防ぐために、一刻も早く妹に会いたいと決心した。
別行動をとると聞いたオルテガが何かを言おうとするが、マーニャの様子を察したルイーダが静止させる。
「そう、わかったわ。妹さんに会えるといいわね。
私達もあなたの妹を見つけたら、あなたが探していたことを伝えておくわ。
もし道行く先で私たちと同じ志を持つ人がいたら、オルテガとルイーダという二人がデスタムーアを倒す仲間を募っていると言うことを伝えてくれるかしら?」
ルイーダの提案に対し、静かに頷くマーニャ。
「……人捜しは二手に分かれた方がいいもの、ね」
ぱっちりとウィンクを決め、ルイーダも差し伸べた手を引いた。
そうして、ルイーダはその場を立ち去ろうとした。
が、彼女の足をマーニャの声が引き止める。
「あの……出来たら、あきなを弔うのを手伝ってほしいの。
こんな場所でもせめて、せめて安らかに眠ってほしいから」
もちろん、とルイーダは振り向いて快諾した。
「オルテガさん、少し周りの事をお願いするわよ」
オルテガはルイーダの頼みに対し、剣を構えながら静かに頷いた。
マーニャとルイーダはあきなの遺体のそばに寄り、身辺を綺麗にすることから始めた。
支給品の水を使い、地面に倒れ込んだ時に付いた汚れを落としていく。
目立った汚れと肌に付着した血を落とし終わったマーニャは、自分のふくろに手を入れる。
「花嫁衣装ってのはヴェールだけじゃないってのに……」
何の因果か、マーニャの支給品はウェディングドレスだった。
ご丁寧にブーケまで揃っている。
あの時、あきなを止めることが出来れば。
あの時、ナイフを早々と拾っていたなら。
もしの可能性が頭をよぎり、無力さと苛立ちから思わず近くの木を殴りつける。
マーニャのその姿を見て、ルイーダは声を失ってしまう。
「……ごめんなさい、驚かせて」
マーニャが軽く頭を下げ、手を再び動かし始める。
ルイーダもマーニャの様子を察し、微笑みかけてから再び手を動かし始める。
次にドレスを着せるために、血に塗れた法衣を脱がす。
そこから手順通りにゆっくりとウェディングドレスをあきなの体に着せてゆく。
「昔に手伝ったことがあるっていうだけでも、案外覚えているものね」
そう言いながら、慣れないマーニャの手をルイーダが補助していく。
相手が死体だからか、うまく行かず難航する時も多々あった。
それでも少しずつ丁寧に、見栄えが良くなるように整えながら着せていく。
ひとつずつ、ひとつずつ、パズルのように着せていく。
そしてドレスを着せ終わり、髪の毛をもう一度整えてからヴェールを被せ、手にブーケを握らせた。
全てを済ませたとき、そこにはマーニャもルイーダも見たことのない、とても美しい花嫁が眠っていた。
身にまとう衣装はまるであきなのために作られたかのように、彼女の魅力を引き立てながらもそれぞれの輝きを見せている。
「できれば、彼女が生きているうちにこの姿になっているのを見たかったわね……」
思わずルイーダが一言を漏らす。
マーニャも全くの同意見だった。
今からでも叶うのならばこんな場ではなく、もっと素晴らしい世界で出会いたかった。
これだけ美しい姿なのだから、きっと幸せになるに違いない。
理想の男性と出会い、色んなことを経験しながら人生を過ごして行けたに違いないのに。
あの魔王が彼女の全てを奪ったのだ。
絶望という巨大な爪が彼女のこれからの夢も未来も人生も、全て引き裂いていった。
魔王に対する怒りが二人の中で更に燃え上がる。
「待ってて、あたしたちがあの魔王をぶちのめしてくるから」
そう呟いた後、マーニャは決意を新たに力強く拳を握りなおした。
「本当に、ありがとう」
一通り終わって落ち着いた後、マーニャは深々と頭を下げた。
本当はここから火葬か土葬まで行いたかったのだが、オルテガにそれぞれの危険性を指摘されてやむなく断念した。
せめてこれだけはということで、近くの大木に寄っかからせるように眠らせることにした。
「ねえ、マーニャ」
ルイーダが先に話を切り出す。
「これ、持って行きなさい。
変わりに、私はあきなちゃんのナイフを貰うから」
その言葉と共に差し出されたのは一本のナイフだった。
見るからに強力そうなナイフを受け取り、マーニャは若干困惑する。
ルイーダは地面に落ちていたブロンズナイフを拾い上げて笑った。
「大丈夫よ、私の身はオルテガさんが守ってくれるわ。
だから、一人で歩くあなたがこのナイフを持っていた方がいいわ」
ね? とルイーダは今度は振り向かずにオルテガに問いかける。
オルテガが黙って頷いたのを見てから、マーニャはもう一度頭を下げた。
そしてあきなの死体を少しだけ見つめてから、マーニャは駆け出して行った。
「……本当に良かったんですか?」
北側に走り去っていったマーニャの姿を見送った後、オルテガはルイーダに問う。
「決意の固い女の子ってのは強いのよ。そう、思っている以上にね」
微笑みながらルイーダは答える。
まるで嘗ての自分を重ねているかのような、そんな言い回しだった。
「さて、私たちもやるべきことをやりましょう? ジッとしてる場合じゃないわ」
【F-5/森林/午前】
【マーニャ@DQ4】
[状態]:健康
[装備]:ソードブレイカー@DQ9
[道具]:不明(0〜1)、基本支給品一式
[思考]:ゲームには乗らないが、向かってくる相手には容赦しない。
一刻も早くミネアと合流する。
【オルテガ@DQ3】
[状態]:健康 記憶喪失
[装備]:稲妻の剣@DQ3、あらくれマスク@DQ9、ビロードマント@DQ8、むてきのズボン@DQ9
[道具]:基本支給品
[思考]:正義の心の赴くままに、まずはルイーダを守り森を抜け西の町へと向かう。
殺し合いは拒否するが、主催者たちやマーダーとは断固戦う。
記憶を取り戻したい。
[備考]:本編で死亡する前、キングヒドラと戦闘中からの参戦。上の世界についての記憶が曖昧。
【ルイーダ@DQ9】
[状態]:健康
[装備]:ブロンズナイフ@歴代、友情のペンダント@DQ9
[道具]:基本支給品 賢者の聖水@DQ9
[思考]:オルテガと絶望の町に向かい、共に人を探す。
DQ9主人公とリッカを保護したい。
殺し合いには乗らない。
[備考]友情のペンダント@DQ9は、私物であり支給品ではない。
『だいじなもの』なので装備によるステータス上下は無し。
※あきなの遺体に以下のアイテムが装備されています。
ウェディングドレス@DQ9、ブーケ@現実、水のリング@DQ5、シルクのヴェール@DQ5
「アーッヒャッヒャッヒャ!! こりゃ傑作だぜ!!」
欲望の町で起きた惨劇を、一匹の骸骨が炭鉱の入り口から見つめていた。
彼が炭鉱の入り口と言う遠目から惨劇を見届けられたのは理由がある。
彼に支給されていたのが、千里をも見渡す力を授ける巻物だったからだ。
「お……一人分の気配が無くなったな、こりゃ誰か一人は死んだって事か!」
それだけではなく、彼にはもう一巻の巻物も授けられていた。
いかなる音をも聞き逃さない、地獄の耳の力を授ける巻物も彼の手にはあった。
惨劇の中で繰り広げられていた会話のほかに、彼の耳には人間の心音まで届いていた。
今、その中の一つの心音の音が途絶えた。
直前の複数の会話から察するに、息絶えたのは青髪の子供だろう。
彼が生き残るまでの道に、一歩近づいたことを確信して笑う。
ひとしきり笑った後に、落ち着いて今後の動きを考える。
この世界は太陽がなく、昼夜と言う概念がないようだ。
謎の明りはあるものの、建物や人間を認識するのがようやくできる程度の者である。
自分の姿を用いれば、この世界でずっと潜み続けることも可能かもしれない。
しかし、先ほどのもょもとのように簡単に騙せる者ばかりではない。
あのロトの勇者の用に自分の存在を見破る者たちも現れるだろう。
今はこの場に留まって置くのもいいかもしれないが、隠れ続けることが出来るのも時間の問題だ。
次の一手を打たない事には、生き残ることも難しくなってしまう。
「ククク……それもいいな」
一つの邪悪な考えが浮かぶ。
千里眼の力で見渡した光景から、見当たった五人の人影を思い出す。
まずは、惨劇を招いた金髪の女性ミレーユ。
デスタムーアに従い、人を殺して弟を生かすという私利私欲に満ち溢れた道を選んだ。
巻物を読んだ時に耳には行ってきた会話からも、彼女が既に一人の人間を不意打ちで殺していることは知っている。
まるで飲み込まれそうなほど覚悟の決まった瞳と、なんとも思わない落ち着いた声。
その彼女は町を早々に立ち去り、どこかへと立ち去ってしまった。
彼女は放っておいても人を次々に殺してくれるだろう。
そして、先ほど騙したもょもと。
彼も襲撃にあっていたのだが、物好きな青年のおかげで一命を取り留めていた。
受けた恩義には忠実な性格なのか、男を殺さずにそのまま町を後にしてしまった。
自分が唆した「戦え」という一言では、全てを破壊しつくす悪鬼に仕立て上げることは出来なかったのだろうか。
内心舌打ちするも、戦うと言う意志が消えていないことを会話から確認し、早々に人を殺してくれることを願った。
この二人に関しては、自分がどれだけ干渉しようしまいが人と戦う道を選ぶだろうから問題はないだろう。
問題は残りの三人だが、物言わぬゴミになった子供をさっさと放っておくとすると残りは二人である。
片方は子供に助けられたピンク色の短髪の女シンシアである。
もょもとに襲撃されたときに槍を構えて応戦はしていた者の、ろくに力は入っていなかった。
おそらく、戦闘に関しては素人同然だろう。
子供ともょもとの闘いを黙ってみていることしか出来なかったことがそれを証明している。
灼熱が襲ってきたとき、指を咥えてみているだけだったことから特殊な技能も持たないのだろう。
ともかく、この殺し合いでは到底生き残れそうにもない弱者であること判断した。
そしてもう一人、ヘラヘラ笑いながらもょもとと子供の戦いに横槍を入れてきた青髪の男ロッシュである。
魔王を倒せるなんて夢物語を語っていたが、それを裏付ける実力は今しがたこの目で確認したところだ。
あのもょもとの攻撃を喋りながらも冷静に回避することが出来る能力、灼熱に対して咄嗟に状況を判断してもょもとを守る力。
戦いの力に関してはいまだ未知数、だが火炎を和らげる呪文を操ることと状況判断能力から、あのロトの勇者に匹敵すると行っても過言ではない。
全ての人々に死に絶えてもらわなければ自分が生き残ることは出来ないこの場で、彼のような強力な意志を持った人間と言うのは一番厄介な存在である。
彼のような存在に、付け入る隙を与えるには内部から突き動かすしかない。
襲撃を受けて子供を失い、説得は失敗すると言う彼らからすれば最悪の結末を迎えている。
人の傷ついた心と言う物に付け入るのは簡単だ、適当に同情しながら相槌を打っていれば向こうは信用してくれる。
しかし、自分のこの骸骨の外見では怪しまれるどころか出会い頭に叩っ斬られる可能性もある。
「早速使うことになるたぁ……ねぇ」
ふくろから取り出した一本の杖を見て彼は笑う。
その杖は振りかざした者の姿を変えるという杖だった。
外見が怪しいなら、怪しくない外見を作ればいい。
あたかも害のない一般人を装い、彼らの心の隙間に付け入る。
仲間として受け入れられれば万々歳だ、そこから心の隙間を大きくし、不安材料などをぶち込んでいけばいい。
この殺し合いの場で不安な心を煽り、仲間内で勝手に殺しあってくれればいい。
屈強な戦士も、自分の心の綻びには抗えないのだから。
「上出来」
骸骨の男が杖を振り終わった後、そこには先ほどの惨劇の立役者ミレーユと同じ姿が立っていた。
あれほど狡猾な女なら、当分は生き残ってくれるだろう。
自分の化けた人間が死に、放送で名前を呼ばれて不信感を抱かれる可能性も低い。
そしてミレーユが去り際に残した一言から、ロッシュとミレーユが知り合い、もしくは仲間である可能性がある。
そのうえロッシュは襲撃者がミレーユであるということに気がついていない。
何食わぬ顔で現れ、心配するような声をかければいい。
「炭鉱を探索していたら、大きな音が聞こえたから町に出てみた」
何をしていたかと聞かれればこういう事を言えばいいだろう。
当分は疑われないように振る舞い、疑心感を抱かれ始めれば「殺し合いの場に来て気分が悪く、自分のことすら余り考えたくない」と言えばいい。
子供すら死に絶えるこの場で、気分を害している武器もないか弱い女性を演じ続ければ、おそらくロッシュは信じ込むだろう。
「ヒヒ……せいぜい守ってくれよ、勇者様」
影の騎士は場としての闇を脱し、人の心と言う闇に潜むために姿を変えて男に近づく。
彼もまた、この世界を狡猾に生き抜くためにありとあらゆるものを利用する。
手に入れた力、手にある力、人の力、心と言う弱み、すべて利用して最後に立つことを目指して。
邪悪な笑いが、小さく炭鉱に響いた。
【E-8/欲望の町 炭鉱入口/午前】
【影の騎士@DQ1】
[状態]:変化、千里眼、地獄耳
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式(ランタンなし)、変化の杖@DQ3
[思考]:闇と人の中に潜み続けて、戦わずして勝ち残る。
争いを加速させるためあらゆる手段で扇動する。
ロッシュに接触を計り、当分守ってもらう。
[備考]:変化の杖でミレーユの姿に変化しています。持続時間は不明です。
千里眼の巻物により遠くの物が見え、地獄耳の巻物により人の存在を感知できるようになりました。
範囲としては1エリアほどで、効果の持続時間は不明です。
代理投下します!
いいえ、結構です
神様、もし貴方が本当にいるのならば。
汚い言い方になってしまいますが……バカを治す薬を下さい。
ミネアは頭を抱えていた。
魔王が与える絶望とはまた違う絶望を胸に抱きながら、その場に蹲っていた。
何もないよりはマシ、という理由で危ない水着を着せられた。
その上から服を着ようとしたのだが、アンジェに「オシャレじゃないからやめといた方がいい」といわれて服を着る事を拒まれてしまった。
ということで、この布面積が危ない水着一枚でほっつき歩くことになったのだ。
が、それは単なる序章に過ぎなかった。
すっかり喋る意欲もなくし、黙ってアリーナとアンジェについて行くことにした。
自分の気などお構いナシに、早々と足を進めていくアリーナたちに着いて行くのが精一杯だった。
ついていく途中で何かがおかしいことにふと気がつく、記憶が正しければアリーナたちは「牢獄の町」に向かっているはずだ。
ピタリと足を止め、急いで袋からコンパスと地図を取り出し、辺りの景色と照らし合わせる。
次に把握した自分の位置から、牢獄の町に向かう為にはどちらに行けばいいのかというのを確認する。
自分の推察が正しければ、この場所から牢獄の町に向かうには北に向かう必要がある。
既に遠くなり始めているアリーナ達が意気揚々と足を進めているのは……南だ。
全力で走って追いつき、息を荒げながらアリーナたちに進行方向が違うことを告げる。
「えっ、ホント? ありがとうミネア、頼りになるわね!」
「ありがとうございます。さぁアリーナさん、早く向かいましょう!」
妙に意気投合している二人で盛り上がりながら方向転換して歩き始める。
ミネアは肩を落としてから一つ大きく溜息をついた。
いつか姉と二人で冒険していたときは、姉がまだ理解してくれる人間だったから上手く行っていたのかもしれない。
ソフィア達と冒険しているときも、ソフィアの冷静な判断と決断力によって迷うことなど殆ど無かった。
その有り難味とソフィアの偉大さを今、彼女は改めて噛み締めている。
彼女が仲間になってからブライを通じて話には聞いていた。
が、アリーナのおてんばっぷりは予想を一回りどころか大きく上回っていたのだ。
そしてアリーナと共に行動しているアンジェからも同じ気配がする。
気の合う者の方向性が見事に合致し、ある意味での暴走を繰り広げているのだろうか?
そんなことを考えているうちに、またもやアリーナたちに置いて行かれてしまった。
彼女達が進んでいる方向は、当然のように北ではなかった。
すうと息を吸い込み、瞳に涙を浮かべながら怒号にも似た叫びを放った。
「サンディ、本当に良かったの? これから危ない目に会うかもしれないのに」
アルスは自分の帽子の中にもぐりこんでいる妖精に問いかけた。
「そりゃ危ないってるのは分かってるけどぉ〜。
アタシ一人であんな所にいてもさっきのピエロみたいなのに襲われたらヤダしぃ」
話の途中でなるほどな、とアルスは一人で納得する。
そもそも彼女に戦闘能力があるのならば最初から助けを求めることもしなかっただろう。
そしてこの場にはさっきのピエロのような人間がウジャウジャしている可能性だってある。
なんの力も無い彼女がそんな奴等と渡り合っていけるはずもないのだ。
先ほどは別れる事も提案したが、彼女にどの道選択肢はなかったということだ。
その後しばらく歩き続けている間も、サンディはその口を閉じることはなかった。
デスタムーアに対する恨みやら仲間の話やら、マシンガントークの話題は頻繁に変わっていく。
その話の中から、アルスは「寂しさ」という一つの感情を感じ取った。
恐らく、この妖精は喋ることで気を紛らわせているのだろう。
いきなりどこだか分からない場所に連れて来られて殺し合いを強要され、その後すぐに襲われたのだからそれも当然だろうか。
自分が話を聞くことで、彼女の寂しさが紛れるのならば。
このまま話を聞きながら走るのも悪くはないな、と思っていた。
「あーっ!!」
そんな矢先に、頭の上のサンディが緊張感もなく大声をあげる。
あまりの大声に思わず耳を塞ぐ。それに両手を使ってしまって自分の頭が大きく揺らぐ。
サンディがずり落ちそうになる前に頭を垂直に戻し、バランスを取り戻す。
「い、いきなりどうしたんだよ」
「あそこ! 急いで! 早く!」
サンディが自分の顔の前に現れ、一つの方向を指差している。
立ち止まってその指差す方向を見つめなおすと、そこには三人の女性が居た。
「お二人ともい・い・で・す・か!?」
危ない水着を着たミネアの前には、正座をしているアリーナとアンジェ。
いつしか姉に説教をしているときでも、ここまで怒った事はなかったかもしれない。
それほどまでに、ミネアの心の中には怒りが溜まっていた。
魔王に連れ去られ、どこか分からない場所で見るのも恥ずかしい水着一枚で殺し合いをしろと言われ。
幸運にもめぐり合えた仲間からは「ないよりはマシ」ということでその水着を着ろと言われ。
そんな中羞恥心を抱えながらも、魔王を倒すために仲間と行動しようとした。、
しかし、今度はその仲間が方角すら分かっていないと来た。
当の本人達は「こっちにいけば何とかなるだろう」と笑いながら自信満々で突き進んでいく。
殺し合いが行われている場所だというのに、全く持って緊迫感のない二人の表情に積もりに積もったありとあらゆる感情が爆発した。
頭から湯気が出んばかりの勢いで怒り続けるミネアの前で、二人は申し訳なさそうに蹲ることしか出来なかった。
「大体殺し合いが行われているというのに、方角の確認もせずに歩き始めるなんて無謀すぎます!
計画に対する下調べとか! それが正しいのかどうかの確認とかをどうしてしないんですか?!」
「ご、ごめん。でもジッとしてられなくって」
「話はまだ終わってません!」
弁解をしようとしたアリーナを一喝して黙らせる。
その声にアリーナは再び小さくなってしまう。
「お二人だけで行動するのならば別に構いません! 北へ行こうが南へ行こうが空を飛ぼうが全く構いません!
で・す・け・ど! 町へ行くと言いながらも、その町の方角へ誘導している仲間の言うことを聞かずにあちこち行ってしまうのはどういうことですか?!」
「すいません……」
声を荒げながら叫び続けるミネアに対し、アンジェはただ謝ることしか出来なかった。
だが、ミネアの怒りはまだ収まらない。
「少し話は変わりますがせっかくなので言ってしまいます! 私はたった水着一着でほぼ防具も何もないんですよ!?
そんな私を置いてまわりの確認もせずに先に歩いていくなんて、貴方達に協調性って言葉はないんですか!?」
二人はまわりの確認はしていたが、ミネアの歩く足が遅いという理由だけで片付けてしまっていた。
ここまで来ると流石に二人も何も言い返せなくなってくる。正座している二人の目にはゆっくりと涙が溜まっていた。
「ちょっと! 聞いてるんです――――」
「とりゃァアアアア!!」
「――かびらっ」
突如として説教が止まり、ミネアが後ろに倒れこんでしまった。
敵襲かと思った二人が顔を上げ、素早く身構える。
「アンジェー! マジ会いたかったー!! チョーうれしーい!!」
そこには、アンジェのよく知る妖精の姿があった。
ミネアを起こした後のひと悶着を終え、アルスは四者の中央に立って手短に自己紹介を終えた。
そのついでにミネアのあまりにも過激な格好に目のやり場を失っていたアルスは、自分が持っていたマントを手渡すことにした。
なぜかアンジェがマントを羽織ることを反対していたが、受け取るや否やミネアはそそくさと大きなマントで体を隠してしまった。
声を上げて指摘しようとしたアンジェだったが、ワンテンポ置いてから「これはこれはオシャレですね……」と言い、なんだかよく分からないが納得してしまった。
改めてアルスはそれぞれの話を聞いてそれぞれに弁解と状況の説明を行うことにした。
ミネアがこの場に来てからあまりにも様々なことが起こり過ぎて、我を失って説教をしていたこと。
サンディが二人のうちの片方のアンジェと仲間で、正座させて説教しているミネアを敵だと勘違いして体当たりをかましてしまったこと。
そもそも、ミネアが何故説教をしていたのかという理由を含めてそれぞれに分かりやすく説明する。
どうして無関係の自分がこの立場に立たねばならないのだろうとも思ったが、それは以前の冒険の時からさして変わらないことである。
マリベルのわがままを聞き、ガボの野生の勘を翻訳し、今一伝わりにくいメルビンに伝える。
今の状況もそれと変わらないのかもしれない、と考えると思わず笑いが零れてしまう。
「すいません……つい熱くなってしまって」
「ふふ、いいのよ。私、ミネアのそんなところ見るの初めてだったし」
落ち着きを取り戻し、ミネアはすっかり小さくなってしまっている。
そんな彼女にアリーナは優しく微笑みかけていた。
「でも〜、アタシからみたらチョー怖いオネーサンだったわよ〜?」
アンジェの頭の上で茶化すサンディに、アンジェはコラと怒りながら小突く。
「で、元々アルスたちはどこかに向かってたんじゃないの?」
アリーナのその言葉で、アルスはようやく本来の目的を思い出す。
「そうだ、僕達は南に飛び去っていった魔物を追っかけて山を西側から回って南下する途中だったんだよ。
こうしてる場合じゃない、早く行かなきゃ!!」
そう言いながら素早く立ち上がり、駆け出そうとした足が止まる。
自分についていくと言っていたサンディがこれからどうするのか? それだけが気になっていた。
幸い、彼女が探していたアンジェという人物にめぐり合うことには成功した。
知らない自分と共に行動するより、彼女と行動するのが一番いいだろう。
そうして別れの言葉を告げようとしたアルスを遮り、ミネアが先に口を開く。
「魔物討伐……ですか?」
静かに問いかけたミネアに、アルスはゆっくりと肯定の意を示す。
少し考え込む様子を見せた後、頭に電球でも浮かんだかのような表情で彼女は喋り始めた。
「提案があります、アンジェさん。貴方はアルスさんについて行ってください」
突然の提案に、アンジェが思わず立ち上がってしまう。
しかし、アンジェが何かを言う前にミネアは一人で喋り始める。
「私たちの最終目的はあの大魔王を倒すことです。
その為には一人でもより多くの仲間を集める必要があります。
私たちが固まって行動しても一つの場所にしか辿り着けません。
かといってバラバラで動いてしまっても、敵に襲われたときに生き残れるとも限れません。
ここにいる中でいざというときに闘えるのは四人だけ、ならば二人ずつに分けるのが最適です」
他者に喋る隙間を与えないよう、まくし立てるようにミネアは喋り続ける。
「強力な魔物はおそらく人を襲うでしょう、逆を返せばそれに抗う人も居るということです。
アルスさんが急ぐほど強力な魔物なのでしょう、それを考えてもアルスさんお一人で向かわせるより誰か付いた方がより安全に魔物を倒せます。
魔物を倒した暁には、アルスさんをはじめとしたその場に居る人間が仲間となっているはずです」
聞いた話
「そこで、私たち三人の中から誰かを選ぶというのならばアンジェさん。あなたが適任なんです。
アリーナさんではパーティーのバランスが悪くなってしまいます。私もアンジェさんもどちらかというと守りの人間ですからね。
アルスさんが連れていた妖精さん……サンディさんでしたっけ? 彼女と知り合いである点もあります。
私たちも私たちで仲間を集めておきます、いずれ再会するときには両方が集めた大人数の抗うものたちが集まるに違い有りません」
ほぼ一息で途切れることなくミネアは言い切った。
一息ついているときに、アリーナが素朴な疑問を投げかける。
「ねえ、ミネアじゃダメなの?」
空気が凍りつき、ヒビが入る音が聞こえる。
アルスは早々と嫌な空気を察して一歩退き、サンディも直感でやばさを察してアルスの帽子の中にもぐりこむ。。
ミネアが大きな溜息をこぼしても、アンジェとアリーナは頭にクエスチョンマークを浮かべたままである。
少し前と同じようにすうと息を吸い込み、今度はハッキリとした怒号を放った。
「貴方達を二人で野放しに出来るわけが無いでしょう!」
ミネアたちと別れ、アンジェとサンディと共に南を目指して早足で歩いていたアルスは申し訳なさそうに口を開く。
「な、なんか悪いね」
「いえ、しょうがないです。元はといえば私達が悪いわけですし……」
アルスは早足で駆け抜けながらバツが悪そうに頭をかく。
しかし、完全に先ほどの重い空気を打ち砕けたわけではなく、少しだけ引きずってしまっている。
流石のサンディもこの空気を打破することは難しかったのか、アンジェの頭の上で黙ったままである。
「そういえば、武器は持ってる? 僕はコレぐらいしか持ってないけど……」
差し出されたのは一本の棒だった。
オリハルコンそのものとはまた違う、オリハルコン製の棒だった。
オリハルこんほど精錬されているものではない、本当にただの棒なので攻撃能力はお察しかもしれない。
しかし、杖と同じ要領で扱えばないよりマシだろうと考えた彼女は差し出された棒を受け取った。
「急ごう、アンジェ。いろいろと取り返しが着かなくなる前に」
グラコスは既に暴れ始めているのだろうか?
もしグラコスが既に誰かの命を奪っていたのなら、自分の知っている人間があの魔物に襲われてしまっていたら。
一度考え始めてしまうと、嫌なことばかり考えてしまう。
首を振るって嫌な考えを振り落とし、アルスは少しだけ足を進める速度を早めた。
「ごめんってミネア! 待ってよ〜!」
完全に機嫌を損ねてしまい、そそくさと歩くミネアの後ろをひょこひょことアリーナがついていく。
「そんなに先いくと危ないよ〜!」
その言葉に、ミネアはくるりと振向いてアリーナに向けて指を指して言い放つ。
「私が先に行かないと、また違う方角に歩かれてしまいますからね!」
流石のアリーナも、この指摘には黙ることしか出来なかった。
【D-3/北部草原/午前】
【アルス(主人公)@DQ7】
[状態]:健康
[装備]:はがねの剣@歴代
[道具]:支給品一式
[思考]:顔見知りを探す(ホンダラ優先) ゲームには乗らない
南(ヘルハーブ・絶望の町方面)に向かったグラコスを追跡して止める。
【アンジェ(女主人公)@DQ9】
[状態]:膝に擦り傷(行動には支障なし)
[装備]:メタルキングの盾@DQ6、オリハルコンの棒@DQS
[道具]:ハッピークラッカーセット@DQ9(残り4個) 使用済みのハッピークラッカー 支給品一式
[思考]:困っている人々を助ける、デスタムーアを倒す、アルスと共にグラコス討伐。
[備考]:職業はパラディン。職歴、スキルに関しては後続の書き手にお任せします。
【サンディ@DQ9】
[状態]:健康
[装備]:疾風のバンダナ@DQ8
[道具]:不明支給品(0〜2、武器防具の類ではない)、支給品一式
[思考]:ゲームには乗らない、とりあえずアンジェ達についていく。
[備考]:羽が不調のためあまり高くは飛べません。飛べて人間の身長程度。
【C-3/南部草原/午前】
【ミネア@DQ4】
[状態]:もうおこったぞう
[装備]:あぶない水着、風のマント@DQ2
[道具]:支給品一式
[思考]:仲間や情報を集める。 アリーナと共に牢獄の町に向かう。
【アリーナ@DQ4】
[状態]:健康
[装備]:竜王のツメ@DQ9
[道具]:フックつきロープ@DQ5、支給品一式
[思考]:デスタムーアを倒してゲームを終わらせる、ミネアと共に牢獄の町に向かう
代理投下終了です。
とりあえず全部投下させていただきましたが、もし何かありましたら言ってください。
続いて投下します。
「殺し合いがどうとか、正直言って、あまり興味がないんだ」
あてどない歩みを進めるなか、ふとカインは口を開いた。
「だって、自分のことでも精一杯だってのに、他人が生きたり死んだりって。
僕は自分さえ生き残れたら、どうだっていい」
それはある意味、この殺し合いを破壊したいと告げていたアイラの意思に、背を向けるような発言だ。
だが、アイラは特に構わなかった。
「わかったわ」
短い言葉で肯定する。特に咎めることもしない。
否定されると思っていたカインは振り返った。隣を歩くアイラの横顔を、そのとき初めて見つめた。
アイラは戦いを知る人だ。
それは戦う力を持っているというだけでなく、実際に何かを守るために戦ってきた人なのだろうと、短い関わりの中でカインは強く感じていた。
だからこの悪趣味な舞台においても、彼女は戦おうとするのだろう。一人でも多くの仲間の手を取り、弱きを守り悪を裁くために。
人として正しい、というより綺麗な意志だ。曖昧なカインにその思いは眩しくていっそ妬ましいほど。
だが、アイラはその正しさを押し付けるつもりはないらしい。
もしも、あなたも魔王と戦うべきだ、などと言われれば、カインはアイラに従わざるを得なかったはずだ。
これまでの道のりがそうであったように、カインは誰かが言葉を振りかざせば、かなうことなどどうせできないのだから。
しかしアイラはそうしなかった。あくまでカインの意思を尊重しているのだ。
その事実に気付いたとき、先ほどまでどこか、彼女の心を試していた自分がいた気がして、己の卑屈さに自然とため息が零れる。
「カイン?」
どうしたの、と、アイラが不思議そうな声で彼を呼んだ。
長くなるよと言ったものの、カインがアイラに語ったことは、実際それほど多くは無かった。
ぽつりぽつりと、のどからしぼりだしたようなたどたどしい口調で、
恐らくはアイラが先の独白から察したこと、聞きたいと思ったことのいくつかを、彼は話してくれた。
王宮という名の、さながら地上の牢獄のようなところで、自由も知らず生きてきたのだと。
そうなの、とか、ふぅんとか、適当に相槌を打ちながらアイラは聞いていた。
それは彼の話がどうでもいいということではなく、掛けるべき言葉など要らなかったから。
抱えた思いを氷解したいわけでもない、同情がほしかったわけでもない。
それでも話さずにいられなかったカインの言葉を、ぽつぽつ語る身の上話を、アイラはただ聴いていたかった。
「まぁ、なんていうか」
思い切り腕を伸ばして、深呼吸をする。
人と深い意味で関わることに慣れていないのか、言葉少なながらもカインの話は重々しかった。
話し終えて、少しだけ気まずげに目を伏せていたカインだったが、アイラが明るい表情で振り返り、少しほっとした様子を見せる。
「そうだ。この先、ケガでもしたら言ってよね。ハッスルダンス踊ってあげる」
「は?」
「身も心も癒されるスーパースターの秘儀よ。私の得意技」
戦闘中しか使えないけどね、とウインクして、戸惑った表情のカインにアイラは笑いかけた。
「話してくれてありがとうね」
カインが、小さく息を呑んだ。
「私もね、正直言ってさっきまで不安だったの。当然だけど。
いつもは仲間がいたけど、今はひとりで戦わなきゃって思ってたら、やっぱ自然と気張ってたみたい。
カインが私のかわりに不安ぶちまけてくれるから、かえって気が楽になったわ。
みんな不安なんだなーって。うん。やっぱり、早く仲間に会わなくちゃね。
今なら、迷いなく戦えそうよ」
その言葉は色々な意味で、カインを驚かせた。頭をがんと殴られたような衝撃さえ感じていた。
それは、いわゆるアイラの『解釈』だ。カイン自身は話したいことを話していただけで、不安を吐き出したという意識はなかったのだ。
だが、アイラはそんなカインの揺らぎを、一時の不安であったと認識した。
こんな場所に突然ほうりこまれて、見たこともないものを次々と目撃して。
死の恐怖の中にありながら、己の価値観をくつがえすほどの出来事に短時間で出会って。
流転の人であったアイラにはさほど堪えないが、長い間、王国という名の監獄
――と、聞いた話からして、そう呼ぶにふさわしいとアイラは思った――にいたカインには、さぞ辛かったはずだ、と。
自分が不安だったのかどうか、カインにはよくわからない。
だが、事実として、自分の言葉に耳を傾けてくれたことで、カイン自身もすこし気楽になっていた。
ありがとうを言うべきはこちらの方だったんじゃないかと、彼女にその言葉を向けられた後になって思う。
否、そもそも……あんな風にまっすぐに感謝の言葉を向けられることに対して、カインはひどく動揺していた。
さきほどの男といい、ここには見たことないような存在で溢れかえっているらしい。
こんな監獄のような場所なのに、カインの知るよりも世界を広く感じて、不思議だった。
元の世界と、果たしてどちらが自由なのか、疑問さえ抱く。
「……僕も」
「ん?」
言いかけて、首を振る。
「なんでもない」
不審に見えただろう彼の様子に、しかし気にした様子もなく、アイラは「そう」と言って笑った。
まだ、そこまで素直にはなれない。という理由もあるが、それ以上に彼は未だ、アイラへの壁を崩せない要因を持っていたのだ。
それはひとえに、唯一の妹であるリアのことだ。
アイラに話した生い立ちの中で、カインはリアとの関わりどころか、妹という存在がいること自体話していない。
彼女との繋がりはカインにとって聖域だ。きっとこの先、誰にも踏み入らせることはできない。
だから無理に話さなくてもいいと言い聞かせるも、結局どこか憚られて口をつぐんだだけのような気もしていた。
その曖昧さが、アイラにも妹にも悪いような気がして、カインは結局「ありがとう」と言えなかったのだ。
いつか、言えるときがくるだろうか。
柄にもなく思う。
「さて、これからどうする?」
沈黙をやぶり、はきはきとアイラは話しかける。
「あたしはとりあえず、人里を探すつもりよ。地図とか見てなかったから、確認しなきゃだけど。
カインは? 目的も違うし、もし離れるなら」
「いや。行くよ」
即答するような形になって、言ったカイン自身が少ししどろもどろする。だが、アイラは嬉しそうに笑った。
「決まりね。じゃあ、いきましょうか!」
そうして、地図を開きながら、ふたりはこの監獄のような世界の広野を歩き始めた。
未だ晴れない不安を抱き、それでも今、確かに生まれた信頼を頼りにして。
【C-8西部/平原/午前】
【カイン(サマルトリアの王子)@DQ2】
[状態]:ダメージ(微小)
[装備]:プラチナソード
[道具]:支給品一式 不明支給品×2(本人確認済み)
[思考]:妹と一緒に脱出優先という形で生き残る。とりあえずアイラについて行く
【アイラ@DQ7】
[状態]:健康
[装備]:モスバーグ M500(6/8 予備弾4発)@現実、ひかりのドレス@DQ3
[道具]:支給品一式、不明支給品×0〜1(本人未確認)
[思考]:ゲームを破壊する。もよりの人里を目指す(よくぼうのまち)
[備考]:スーパースターを経験済み
投下終了です。
支援ありがとうございました!
投下乙です
>負数の二乗が負数とは限らない
アンジェリーナ組解散。ば……賢さが足りないから仕方ないね。
ミネアが怒るのももっともな話だ
>広野にて
登場話見てマーダーを期待してたカインだけど、少しずつ良い方に変化していくのを見たくなってきた
改めてDQ2勢のパーティーがいかに歪んでいたかが分かった気がする
あきなの他にもう一人常識人がいればなあ
>天空への花嫁
マーニャどうなるかと思ったけど無事立ち直れたようでなにより
>人の闇、闇の人
変化に千里眼に地獄耳、扇動マーダーとしてはこれ以上ない程の装備の充実っぷりだな
この手のキャラは貴重だから頑張ってほしいところ
>負数の二乗が負数とは限らない
危ない水着+風のマントか…
うん、ありだなw
下手に全部見えてるよりエr(ry
>広野にて
カインの心はまだ完全には晴れないか
果たしてこの先どう転ぶかな
幸か不幸か、リアはほぼ対角の位置にいるから再会は遠そうだけど
>負数の二乗が負数とは限らない
アルスハーレム状態かと思いきや解散かあ
ミネアは地図を読める女だったわけだが、それが吉と出るか凶と出るか…
ところで負の二乗ってもともと負じゃなくない?と思った
>広野にて
熱し過ぎず冷め過ぎずなアイラの言動はカインにとって目新しいものなんだろうな
変わりつつある兄と、一方妹は…
さらにもょもとも…果たしてDQ2勢はどうなっていくのか
代理投下します
「――ワシが女の子いっぱいの世界を望んだ理由?」
「そう。どうしてそんな世界を欲しがったのか気になって」
とりあえず現在位置から一番の近場である絶望の町へと向かっている最中、ゼシカは竜王に問いかけた。
「なんだ、そのようなことか。期待して損したわ。てっきりゼシのんがその世界に入りた〜い(テヘペロ)ぐらいのことを言ってくれるかと思ったのにのぅ」
「安心しなさい、それだけは世界がどれだけ絶望に満ち溢れてもないから。というかゼシのんって呼ぶんじゃないわよ。
あなたにそう言われる筋合いはないわ」
「可愛いのに……。それよりもなんでじゃ! ワシのハーレムいいじゃろ!」
「よくないわよ! 何が好きであなたのハーレムに入らなきゃいけないのよ」
「そうは言ってものう……お前自身ワシのハーレムに入る喜びはあるじゃろ」
先頭を歩いていた竜王は、くるりと振り返ってキリッとした顔を作る。
その見事と言っていいくらいのドヤ顔にゼシカは顔を歪ませた。
うぜえ、こいつ。それはゼシカでなくともこの世界にいる参加者なら誰もが思うことであろう。
「あなたのハーレムにいたら自分がダメになると思うわ……。他の人にも言えることよ、あなたのハーレムだけはやめとけって」
「そこまで言うことないじゃろ!?」
「出会い頭にいきなりセクハラした変態に言われたくない」
「だって目の前におっぱいがあったら揉むしかないじゃろう……! 誰だってそーする、ワシだってそーする」
改めて、ゼシカはこんなのが魔族の王とは信じられないと重いため息を吐いた。
これがトップだと部下は大変だろうなと思いつつも、脱線している話題を戻そうとギロリと竜王を見る。
デレデレとした顔に拳をぶち込みたい衝動もあるが、話が進まないので我慢。
気を落ち着けることこそがこの変態とうまくやっていくコツだとゼシカは早くも悟っていた。
「……わかったわかった。まあ結論から言おう。愛が知りたいからじゃ」
今までおちゃらけていた竜王からは思いもよらない言葉にゼシカは絶句した。
女だらけの世界と愛を知る、それはイコールで結びつくものなのか。
イメージするだけで頭が痛くなる。
「ワシはな、親を知らん。誰がワシを生んだのか、どう育てたのか。全部記憶にないのじゃ。
育て親みたいなものにはドラゴンがいてな。物心がついた時に親というものについて聞いたが知らぬ存ぜぬを貫かれての」
思いもよらぬ竜王の境遇にゼシカは黙って耳を傾けた。
自分も、兄をドルマゲスに殺されるといった不幸に見舞われてそれなりのキツイことは経験している。
だが、竜王は違う。母親――詰まるところの家族といった存在を知らないのだ。
大切な人が殺された自分、大切な人がそもそもの話存在しない竜王。
どちらの方が不幸なのだろう。そんな比較に意味は無いのについ考えてしまった。
「気がついたら魔族の王として君臨していてな。親の愛など言葉上でしか知らんかったわ」
「それがどう女だらけの世界とつながるのよ」
「簡単なことよ。女だらけの世界にすればワシの母親に会えるかもしれない。
愛という概念をこの身で味わえるかもしれない」
愛は竜王の未知なる領域である。経験したことのないものなのだから当然だ。
だからこそ彼は未知に恋焦がれた。
それを知れば何かが掴めるのではないだろうか。
魔族の王として更なる高みへと登れるのではないだろうか。
「思い立ったら行動じゃ。即座にワシはラダトームへと行ってローラ姫を誘拐してきた」
「なんでそうなるのよ……いきなり誘拐で愛もへったくれもないじゃない」
「うーむ……美少女を攫ってワシの妃にする。ゆくゆくはキャッハウフフなことをすることで愛を知る。
良い手段だと思ったんじゃがなぁ。そもそも全部アレフが悪いのじゃ!
あの外道が邪魔さえしなければワシは愛とは何か知っていたかもしれんのに!」
さっきまでのシリアス顔はどこへやら。
竜王は初めて会った時と同じ、デュフフと気持ち悪い声を吐き出しながら一人身体をくねくねとしている。
こいつは一分もシリアスでいられないのか。
ゼシカが再び重い溜息を吐いて前を向いたその時。
「ふむ、湖か……」
前を歩いていた竜王が、足を止めた。
ふとゼシカもそれにつられて足を止めると、前を見る視界には少し大きめな湖が存在していた。
だが、見たところは何の変哲もない湖だ。ここで立ち止まる理由なんて無いはずだ。
「どうしたのよ、いきなり止まっちゃったりなんかして」
近くの町に行くのではなかったのかとゼシカが声をかけようとしたその時。
「げははっ! まさか獲物自らのこのことやってくるとはなぁっ! 楽勝過ぎるぞぉ!」
突如湖から現れた異形の化け物。それは奇襲には十分すぎるくらいのものだった。
そして、化物の口から吐き出される凍りつく息がゼシカを襲う。
数秒も経たぬ内にゼシカの身体は硬直してバラバラに弾けることだろう。
そう。
「滅尽滅相――燃えろ」
ここに竜の盟主たる竜王がいない限りはそのような結果になっただろう。
彼の手から放たれた閃光が横に広がり焔の波を作る。
「呑み込め、焔」
「げはっ!? わしの凍りつく息を消しただとっ!!」
焔の波が、化物――グラコスの口から放たれた氷の息を呑み込んで勢いを相殺する。
そして、竜王が面を上げる。その顔つきは先程、ゼシカに対して向けられていた変態エロ野郎の顔ではなく。
「 王 を 舐 め る な よ 三 下 」
見る者全てを恐怖で凍らせる魔族の顔だった。氷雪呪文も比ではない、殺意の波動が湖全体に波紋する。
横にいたゼシカは、思わず竜王を二度見してしまったくらいだ。
これは、誰だ? 今まで自分の胸を見て鼻の下を伸ばしていた変態とはワケが違う。
今ここにいるのは紛れもなく全てを飲み込む王の中の王である。
「教えてやろう塵屑。これが本当の攻撃というやつだ」
そう言って彼は右手を軽く伸ばし。
「竜の吐息よ、ワシの掌に宿れ――ベギラマ」
竜王の掌から発射された閃光は、一変の歪みもなく真っ直ぐに突き進んだ。
加えて、呪の言葉を詠唱したことにより一度目のベギラマとは速さや熱さ、何もかもが以前とは違う。
閃光がグラコスの腹部を抉り、抉られた痛みに身を捩らせながらグラコスは汚い咆哮を上げた。
「醜いのう。聞くに耐えんよ。その不愉快な踊りはワシを誘っておるのか? 貴様のような屑がワシを誘おうなどとは無礼の極み、故に死ね。
ああ、それにしてものぅ……お主の姿形は視覚的暴力じゃ、見ていて吐き気がしてくる。ほら、さっさとかかってこい。その似合わないトサカを溶かし尽くしてくれる」
「ぐ、がぁ!!!! 貴様ぁぁぁあああああああああ!」
グラコスは、態勢を立て直しヤリを持ち、竜王に勢い良く突撃した。
そして、疾風突きをを軽く凌駕すると言っていいくらいの突きを放つが。
「ワシはアレフガルドの頂点に立つものであり女の世界を統べるものであり世界を闇へと還すものであり――――誇り高き竜の王であるぞ」
竜王は落ち着いていた。突き出されたヤリを左の掌で捌き、勢いを殺す。
そして、右の掌はがら空きだったグラコスの頭を掴み。
「頭が高いわ、平伏せよ」
グラコスの頭を地面へと叩き潰し、ベギラマを唱えた。
眩いばかりの閃光が、グラコスの頭を巻き込んで暴発する。瞬間、周りの酸素を全て吸い込んだかのような強烈な炎と爆発爆発が巻き起こった。
「ぎぃいいいいいいいいいいやあああああああああああああああああああああああああああっっ!!?」
「ふう……怪物故にまともな言葉も喋ることも出来ぬのか? ああすまぬ、畜生が言語を理解できるはずもないからなぁ!
だからそんなに汚い断末魔も平然と挙げれるのよのう。クハ、ハハハハハハハハハハハッッッ!」
ゼシカはこの一方的なワンサイドゲームを遠目で見ていることしかできない。
だが、それ以上に彼女は戦慄していた。
彼がここまでの強者であり、残酷な悪であるということに恐怖を抱いてしまった。
ああ、彼は違う。決して万人を救う英雄でもなく護られるだけの一般人でもなく。
「で、いつまで喚いておるのだ。五月蝿いぞ、黙れ」
「ぐ、ぎやああああああっっ!」
閃光が再び破裂する。二度の閃熱がグラコスの頭部のトサカを溶かし尽くした。
それを見て竜王は再び心底おかしそうに口を三日月に釣り上げて笑う。
「ハハハハハハハハッッッ! そのトサカも面影がなくなったのう! 不細工が更に不細工になっておる!
ようし、次はそのぶ厚い唇か、それとも無駄に長い尻尾か? 好きな部位を言うが良い。サービスじゃ、そこから溶かしてやろう」
確信した。彼は、魔王だ。
ただの女好きのおちゃらけたバカな男だとついさっきまで思っていた自分が恥ずかしい。
これはそんな生易しい存在ではなかった。
魔の化物を統べる悪――悪魔の化身である。
「おお、そうだった。名乗れよ、怪物。一応殺したものの名前ぐらいは覚えておきたいからのう。ほら、早く答えよ。
それとも何だ? お主はただ力で粗方潰すことしか能がない塵屑か? もしや戦の作法も知らぬのか?」
「貴ぃぃ様ァァァッ! この海の魔王、グラコス様を愚弄するか!」
依然と頭部で燃え滾っていた焔を水に浸かることで冷まし、グラコスは、再びヤリを構えて殺気を全開にしていきり立つ。
気の弱いものがそれを浴びれば一瞬で気を失ってしまうことが明らかだろう。
それに対して、竜王は表情一つ変えずに殺気の風を涼やかに受け流す。
「ほう、さっきよりはましになったではないか、それでこそやり甲斐があるというものだ。
ではやろうか。ワシの炎がデスタムーアにどれだけ通用するかお主で確かめさせてもらうとしよう」
「わしの氷が貴様の炎で溶けるものか! 逆に貴様ら二人を凍りづけにして剥製にしてくれるわ!!!」
「ああ、本気で来いよ? 一瞬で終わってしまうのはつまらん。全存在を賭けてワシを殺しに来い。
それと、ゼシのんに手を出すのは無理よのう。その前にワシがお主を殺してしまうからなぁ!」
海の魔王と竜の魔王、早すぎる激突が今まさに始まろうとしていた。
【E-3/湖/午前】
【ゼシカ@DQ8】
[状態]:健康 羞恥
[装備]:さざなみの杖@DQ7
[道具]:草・粉セット(※上薬草・毒蛾の粉・火炎草・惑わし草は確定しています。残りの内容と容量は後続の書き手にお任せします。
基本支給品
[思考]:仲間を探す過程でドルマゲスを倒す。最終的には首輪を外し世界を脱出する
【竜王@DQ1】
[状態]:HP14/15
[装備]:なし
[道具]:天空の剣@DQ4、キメラの翼@DQ3×5、基本支給品
[思考]:@ゼシカと同行する。最終的にはデスタムーアを倒し、世界を脱する。
【グラコス@J】
[状態]:頭部トサカ消失、重度の火傷
[装備]:グラコスのヤリ@DQ6
[道具]:ヤリの秘伝書@DQ9 支給品一式
[思考]:ヘルハーブ温泉・湖周辺にて魔王としての本領を発揮していいところを見せる。
デスタムーアの命令には従いつつも、蘇ったのでなるべく好き勝手に暴れたい。
[備考]:支給品没収を受けていません。水中以外でも移動・活動はできます。
代理投下終了
竜王の「愛を知りたい」って言葉にちょっとドキッとしたなぁ
書き手さん乙です
投下乙
腐っても魔王、やはりただの変態ではなかった
竜王は変態をこじらせていても魔王ということか
変態だから魔王なのか魔王だから変態なのか
ただの変態でなくロリコンでマザコンとは救い難い
しかし竜王が女だったらアレフが愛を教えてハッピーエンドだった気が
ロリコンでマザコンで無駄な高性能で悪の総帥とかどこの赤い彗星だよ
竜王「ペチャパイでもいい。健やかに育ってくれれば」
「さて、これからどうしようかしら」
カナリア色をした美しい長髪を流し、ミレーユはそっと熟考する。
町の外に出れば右手には海岸線が広がり、逆側は岩山が聳え立っている。元いた世界であるため、地理にはほぼ精通していた。
今自分がいた欲望の町は南西に迫る山のふもとに作られており、町の入り口は北西か南の二方向しか入れない。
南側には森が広がっているため視界が悪く、火炎系の技を使うにも適していない。
そのためミレーユは、町の状況を外から見ることも兼ね、一度北西側から町の外に出ることにしていた。
入り組んだ山のかげに身をひそめ、町から出て行くもの、もしくは町に向かうものに奇襲をかけるという戦法だ。
(町に留まっても、よかったのだけど……)
額にかかる金髪を横にそっと流しながら、小さく息をつく。
関係ないと言いながらも、どうしてか、ミレーユはあの男がいる場所を一度離れようとしていた。
強力な職の力を得てるとはいえ、ミレーユ自身は女身ひとりで、60の命に立ち向かわなければいけないのだ。
慎重に越したことはない。恐らく、自分に立ちはだかる一番の敵は、他の誰でもない――
(……いいえ。関係ないわ、ロッシュ)
ミレーユは唇を噛んだ。
今更、何を恐れることがあろうか。自分が恐れるのは、デスタムーアだけであるのに。
そう、あの男さえも、最早関係ないのだ。
顔さえ合わせなければ、無差別の奇襲で殺してさえしまえば、相手はもう屍のひとつにしかならない。
息をつく。隠れ場に適していると目をつけた岩山は、もう目の前に迫っている。
ここまで来れば、ひとまずは安全であろう。
ミレーユは、ここに来て以来ずっと詰めていた緊張を、そのとき初めてほどいた。
そのとき。
風は、とつぜん現れた。
「――!?」
美しい髪に亀裂が入る。即座に身を翻したミレーユは、しかし目を丸くする。
例えば女の命と呼ばれるように、腰の先まであった、美しいミレーユの金髪。
それが――無い。
右肩から先にかけて、如何様な太刀すじによるものか、ばさりと切り飛ばされていた。
「……結局、おれにできるのは『たたかう』ことだけだ」
逆に髪程度で済んだのは、ミレーユの反射神経に他ならないだろう。
相手がぶつけてきたのは明らかに殺気だ。そう簡単に一手をとらせるミレーユではない。
だが、はらりと散った髪を視界におさめ、彼女は信じられない思いで息を呑んだ。
彼女ほどの力の持ち主が、果たして気配を潜められるほどの相手が、こんなにも近距離にいたというのか。
「だが、俺はあいつらとは、戦いたくない……」
その答えは不正解といえる。
彼女をも超える陰の暗殺者など、この世のどこにもいない。
いたのはただの――
「まずはお前と、たたかおう」
戦う相手を求め、ひたすら無心に追ってきた。
まるで、海底で宝の番人として、かつてミレーユたちを苦しめたキラーマジンガのごとく。
純粋なる意志のままに剣を振る、破壊の化身だった。
――レックスの亡骸にすがったまま、シンシアは動けないでいた。
同じ命というものでも、自分を犠牲にするのなら、すこしも厭わなかったのに。
目の前で突然失われた、あたたかだったはずの温もりに、シンシアの涙は止まらなかった。
(どうしてよ。どうして、こうなるのよ……!)
こんなことしてる場合じゃないのに、まだ殺人者が潜んでいるかもしれないのに……
涙は後から流れてきて、とどまることを知らない。
親友を失ったわけでもない、出会ったばかりの存在に、胸を抉られるほどの痛みを感じていた。
これも彼が先に言ったとおり、天空の勇者、その運命を背負っていた存在だからだろうか。
悔しくて悔しくて、たまらなかった。
(……わかってる。こんなところで立ち止まるわけにはいかない)
苦悩のなか、胸に浮かぶすがたがある。それは唯一無二の親友のすがた。
――ソフィア。彼女が生涯かけて守ろうとした、天空の勇者。
かつて、生前、過酷な運命を押し付けてしまった。それでも彼女は生きていてくれた……
きっと今も、この世界をどうにかするために歩き出しているはずだ。
「会わなくちゃ。話さなきゃいけないことが、たくさんあるもの……!」
絶えることのない希望を信じて、シンシアは立ち上がった。
腫れ上がったまぶたを手のひらで叩き、おぼろげだった焦点をさだめて前を向く。
「……レックス君、ごめんね」
危機は確実に迫っているはずだ。今は彼を埋葬してあげる時間が無い。
だからシンシアはせめて、頬にかかったすすをはらい、小さな手を胸の前に組んであげる。
今は、さよなら、と。静かに別れを告げた。
「毎回そうだな……僕も」
組み立てようとした端から、ピースがこぼれていくようだった。
やはり、希望はそう簡単には実現させてくれないらしい。言いようのない挫折感に、ロッシュはひそかにうなだれていた。
『おれは戦うことでしか答えを見つけ出せない』
戦火の狂気を目の当たりにして、もょもとは自分にそう言った。しかし一方で、お前たちとは戦いたくないとも。
その背にそれ以上言葉を投げかけることができなかったのは、ロッシュという男が見た目ほどには、無鉄砲に根拠のない希望を妄信できるほど傲慢ではなかったからだ。
それでも今は、そこに生まれた小さな望みを信じるしかなかった。もょもとが自分と戦わずにいてくれたこと、少なくともそれだけはプラスに受け止めて進みたかった。
「切り替え、切り替えっと」
呟いて、一息つく。顔を上げて立ち上がればそこには、いつもの底抜けに陽気な男がいる。
愛を信じ希望を信じて、何度でも立ち上がるために、彼はおちゃらけの仮面を被った。
襲撃者は今のところ姿を消したままだ。殺気も特に感じられない。
もょもとのことで大分気をそらしてしまったが、離れた場所にシンシアとレックスがいたはずなのだ。
彼らは、果たして無事なのか。フバーハの効果に及んでいたとも思えない、急いで探す必要があった。
だが、それもすぐに終わる。
「ロッシュ! 無事だったのね」
「ワォ、シンシア! 探そうとしてたところだったんだ、ナイスタイミング」
シンシアの姿を認め、ロッシュははじめ、嬉しそうに駆け寄った。
変化に気付いたのはそれから間もなくのこと。
「……レックス君はどうしたんだい?」
「っ……」
少女はロッシュが目の前に来ると、なにかを言おうとして、言葉にならずに唇をかんだ。
それで――すべて、勘付いてしまう。
ひどい後悔に襲われた。いくら襲撃者に気付かなかったとはいえ、あの説得のしかたは悠長にもほどがあっただろう、と。
「シンシア……すまない」
「ちがうの、あの子は私を庇ってくれて……私はなにも……」
どんなに決意をかためても、失われた命を割り切ることなど、できはしない。
ロッシュと再会できただけで、おしこめた涙がまた溢れてきそうになり、シンシアはひたすら唇をかみしめるしかなかった。
そんなロッシュとシンシアの様子を、影の騎士はじりじりと近寄りながら見つめていた。
(ヒヒヒ……二人は合流したようだな。あとは、どのタイミングで行くかだねぇ)
計画そのものは、非の打ち所が無いくらいに仕上がっている。あとは実際に出て行くだけだ。
何気なく出て行けばロッシュはまず騙せるだろうが、もし怪しまれるようなことがあれば一貫の終わり。
手に入れた視覚も聴力も駆使し、影の騎士は二人の様子を観察していた。
「それにしても、あの炎はなんだったのかしら。まるで、灼熱の業火だわ」
「灼熱なー。その名の通りかもしれないよ?」
(……ん?)
ロッシュの言葉に、影の騎士はふと引っかかりを覚える。
ミレーユは完全に4人を撒いて町の外に出たはずだ、ロッシュは彼女に関してはなにも気付いていない。
自分はたった今まで、そう確信していたのだ。
だが、なぜだろう、この違和感は――
「見覚えがあるんだよな〜。いつだったかな」
「見覚え?」
(い、いやいやいやいや!)
ちょっと待て、と思わず声が出そうになって、影の騎士はあわててがいこつのあなをふさいだ。
ミレーユの姿には気付かなくても、彼女が使った技で気付かれている可能性があるとは盲点だった。
そう、ロッシュにそのことを気付かれてはまずい。せっかく得た『盾』が、出会う前に使えなくなってしまうからだ。
だが、影の騎士の得た情報には穴が無い。つまりロッシュはミレーユを「見ていない」ことは確実である。
今ならまだ、彼をごまかすことはできるはず。
影の騎士は隠れていた町角を出て、考察を続けるロッシュの気を引くように、大声で名を呼んだ。
「見覚え?」
ロッシュの言葉に、シンシアが目を見開いた。
二人は襲撃者を警戒しながらも、一度ロッシュが状況を見たいと言い、レックスの元へと歩いている。
道中で互いの状況を話し合ったが、結局どちらも襲撃者に撒かれてしまったようで、相手が誰だったのかはわからない。
特に、レックスが全力で庇っていたシンシアには、あのとき何が起きていたのかすら、知るすべを持ち合わせていなかった。
迫る勢いのシンシアに、ロッシュは腕を組んでうなる。
「そうだったな、あれは確か……」
「――ロッシュ!!」
その話をちょうど遮るかのように、一人の女の声が響き渡った。
「ん? ……ミレーユ!?」
「無事だったのね!」
ミレーユと呼ばれた女の姿に、ロッシュもシンシアも目を丸くする。
駆け寄るミレーユにこちらからも向かいながら、ロッシュは嬉しそうに笑った。
「いや〜、そっちこそなによりだよ。今までどこに?」
「炭鉱を探索していたら大きな音が聞こえたから町に出てみたの。そうしたらあなたの姿を見つけて」
「あったなあ、炭鉱。しかし、大丈夫だったかい? 今しがた、町の方が大変なことになって……」
「襲撃者はもう、行ってしまったと思うわ。ちらりと見えただけだけど、町の外に向かっていったみたい」
「え?」
動向を見守っていたシンシアが、ふと顔をあげる。
「……襲撃者を見たの?」
「敵から逃れるのと、一度見失ったロッシュを探すのに必死で、くわしくは見てないわ」
「ああ、シンシア。彼女はミレーユ。僕のすばらしい仲間さ」
ロッシュの口から歯の浮くようなセリフにも動じず、柔らかな金髪を腰まで流した美女、ミレーユは、ゆるりと微笑む。
「はじめまして。ミレーユです」
「シンシアよ。ミレーユさん、あなたが見た襲撃者のこと、詳しく聞かせてもらえないかしら。
あの子を死なせたのが誰なのか、知りたいの」
「悪いけど、よくわからないとしか言えないわ」
「少しでもいいの、なにか、姿だけでも」
「そのことなんだけど」
ミレーユに食い下がるシンシアの話をたちきるように、ロッシュが声をあげた。
「思い出したんだ。前に、一度だけ、仲間があの技を使っていたんだよ」
「ロッシュ、あの」
「ドランゴって言うんだけど」
女は刹那、驚いたような表情になる。
「バトルレックスっつーモンスターで、あいつはドラゴンの職業で習得したんだけど、あいつに限らず竜族なら使えるんじゃないかな。
そういえばミレーユもマスターしてたっけ?」
「え、ええ」
「とにかくあの炎は、ドラゴン族のものだと思う。
名簿にいくつか竜っぽい奴らが載ってたから、その誰かが俺たちを襲ったんじゃないかな。どう?」
「……言われてみれば、そうだったかもしれないわ」
ミレーユの言葉に、雲をつかむようだった相手の姿が少しだけ見えた気がして、シンシアは握っていた拳の力を緩めた。
だが、ロッシュは逆に、いっそう険しい表情になる。
「もょもとが危ないな」
「……は?」
それは思いがけない言葉だったようで、ミレーユは目を丸くした。
「その、多分竜っぽい襲撃者ともょもとが、外で鉢合わせしてるかもしれない。
話を聞くと、どっちも同じような時間に町を出たようだし」
「ロッシュ。彼を追うつもりなの?」
かつてあい見えた、結局手を取ることなく行ってしまった少年のすがたの思い、不安そうに彼を見つめる。
そんなシンシアに、ロッシュは力強くうなずいてみせた。
「ああ。一度言葉を交わした彼は、僕にとってはもう仲間だ。
仲間の命を見過ごす真似はしたくない」
「でも、彼はもう……」
「確かに、選ぶ道は分かれたんだろう。だが、僕は彼を死なせたくないんだ」
その真摯な思いに、シンシアはそっと、ソフィアやレックスたちを思い出す。
彼らが振りかざすのはいつも、希望を信じて向かう意志だ。
それらに通ずる強い力を、シンシアはロッシュに見た。
「……私も行きたい。レックスくんを殺したのが誰なのか、たしかめたいもの」
「当然、ついていくわ、ロッシュ」
「二人とも、ありがとう。どんな危険があるかわからないから、僕から離れないでくれ」
「その襲撃者って、どちらの方向に向かったの?」
シンシアの言葉に、ミレーユは考え込むような素振りを見せたあと、細い指先をそっとひとつの方向へ向けた。
「たしか……南の方よ」
二人もそちらを見る。
道の舗装と家屋が途切れた奥に広がるのは、深い森と、左手の海岸線だ。
「南だな。よし、行こうか」
――そして、希望へ向かう者たちは、町を出るべく歩き出す。
(うまくいったかねぇ。これであの女にはしばらく会うこともない。
あとは、内から潰しあえばいいだけかねぇ……ひひひ)
美しい女の影にかくれて、騎士がそっとほくそえんだことに気付かずに。
【E-8/欲望の町/午前】
【シンシア@DQ4】
[状態]:全身打撲
[装備]:なし
[道具]:支給品一式×2、ゾンビキラー@DQ6、メタルキングの槍@DQ8、不明支給品(確認済み×0〜4)
[思考]:ソフィアとの再会、ピサロは……? レックスを殺した襲撃者を知りたい 町の外(南)へ向かう
※モシャスはその場に居る仲間のほか、シンシアが心に深く刻んだ者(該当:ソフィア)にも変化できます
【ロッシュ@DQ6】
[状態]:HP12/15、全身打撲、軽度のやけど
[装備]:はじゃのつるぎ@DQ6
[道具]:支給品一式 、不明支給品(確認済み×0〜2)
[思考]:仲間との合流。打倒デスタムーア もょもとを助けたい 町の外(南)へ向かう
【影の騎士@DQ1】
[状態]:変化、千里眼、地獄耳
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式(ランタンなし)、変化の杖@DQ3
[思考]:闇と人の中に潜み続けて、戦わずして勝ち残る。
争いを加速させるためあらゆる手段で扇動する。
ロッシュに当分守ってもらう。 (もょもととミレーユが北へ向かったことを知っています)
[備考]:変化の杖でミレーユの姿に変化しています。持続時間は不明です。
千里眼の巻物により遠くの物が見え、地獄耳の巻物により人の存在を感知できるようになりました。
範囲としては1エリアほどで、効果の持続時間は不明です。
【D-7/草原/昼】
【もょもと(ローレシア王子)@DQ2】
[状態]:HP12/15、全身打撲、軽度のやけど
[装備]:オーガシールド@DQ6 満月のリング@DQ9
[道具]:基本支給品一式
[思考]:ミレーユとたたかう ロッシュたちとはあまり戦いたくない
【ミレーユ@DQ6】
[状態]:健康 髪が半分ばっさり
[装備]:雷鳴の剣@DQ6 くじけぬこころ@DQ6
[道具]:毒入り紅茶 支給品一式×3 ピエールの支給品1〜3 ククールの支給品1〜3
[思考]:テリーを生き残らせるために殺す もょもとを警戒
投下終了です。
投下乙です
上手く本物と偽物を会わせないようにしたおかげで、欲望の町の北と南からそれぞれミレーユの暗躍が始まりそうだな
対主催を上手く引っ掻き回してくれそうで何よりだ
投下乙です。ロッシュ組は南でもょもと達は北へ。
北はカイン達がいるから遭遇確定だし南はカーラかデュランが来るからバトル確定。
どっちも血の雨が降る可能性があるなぁ
投下乙!
いい具合に南北に……そしてボロが出そうな影騎士w 大丈夫かw
遅れてすみません。投下します。
しえn
――こんなことになるなんて。
今日何度目かもわからぬことを、アルスは苦い思いでかみ締めていた。
この手には、小さな妖精がくったりと命をあずけている。いつ消えてもおかしくないような、傷だらけのか細い命が。
癒しの魔法をかざす手に力をこめながら、アルスは決然とした表情で、少し離れたところの戦いを見ていた。
強大な大鷲の爪牙に、少女は一人、戦いを挑んでいる。
話は、少し前に遡る。
アルスたち三人(二人と一匹?)は、依然グラコスの姿を求めて南へと足を進めていた。
その道中で、サンディがアンジェのことをアルスに話してくれた。
アンジェは、アルスがこの世界に来てからずっと一緒にいたサンディの、本来の同行者であるらしい。
「まぁ色々あるのもわかるけどさ、元気出しなって、アンジェ」
重くなったままの空気を払拭するように、サンディはアンジェに明るく話しかけた。
彼女なりの気遣いなのは、長年の付き合いでアンジェもわかっているのだろう。
だから少し頬を緩めるも、もともと生真面目の性格なのか、その表情は完全には晴れなかった。
「でも、やっぱり怒られちゃったのも、無理ないかもって。
つっぱしるのは悪いクセだって、ご師匠さまにもいつも言われていたのに。わたしったら……」
「んー。あのオネエサンのことなら、あんまり気にすることないって。
まあ、確かに怒ってたケド……おかげでこうやって、ウチはアンジェに会えたワケだし。
こんな変な場所で変なヤツもいっぱいいるのに、ソッコーで会えたんだよ?
超ツイてるじゃん、ウチら!」
ぱちりと、濃いメイクの大きな目でウインクされて、自然とアンジェの顔がほころんだ。
今度はちゃんと笑顔で、うなずく。
「そうだよね。ありがと、サンディ。元気出た!」
「そーそー、それでこそ、いつものアンジェっしょ!」
そんな少女たちのやりとりを見守りながら、アルスはすこし意外な気持ちになった。
自分が先ほどまで一緒にいた、わがままでさびしがりやのサンディとは、まるで別人のようだ。
気になって、たずねてみた。
「ねえ。二人は、どういう関係なの?」
一瞬きょとんとした少女たちは、すぐに目をあわせ笑いあう。
「「親友ー!」」
まさに、花開くような笑顔で。
「だって、アンジェったらすごいんだよ。
なんでも願いを叶える果実を食べてお願いしたのが、もう一度あたしに逢わせて、だもんネ〜」
「やめてよ、もう! 恥ずかしいでしょ!」
「へ、へえ。そうなんだ」
事情はよくわからないが、強い絆で結ばれていることは確からしい。
親友。その言葉に、アルスの胸は少しだけ痛む。
なぜかこの世界にいるらしい、今はもう道を違えた友人は、かつてアルスのことをそう呼んでいた。
(僕は、どうだったんだろう)
彼がアルスを離れてから、もう長い時間が経っていた。今更彼が自分にとってなんだったのかと考えても、よくわからない。
ただ、彼が指針を選べなくて迷ったとき、心のどこかでいつも、キーファのことを考えていた気がする。
「色々あって、地上で身よりの無いまま旅してたとき、一緒にいてくれたのがサンディなんです。
今では相棒みたいなもので。まあ、最初はじぶんかってで困っちゃいましたけど……」
「なによぉ、あれはアンジェがボケボケだったからでしょ〜」
「あっ。さっきと言ってることちがう!」
言い合いながらも仲良くじゃれる二人に、アルスもやがて、つられて笑った。
なんだかんだ言っても、やはり再会できたのは嬉しいようで、少女たちはひと時状況も忘れてはしゃぎまわった。
――そしてそれゆえに、三人は気付くことが遅れてしまったのだ。
このとき空から、魔王の手下が一人の少女を連れて、北へ向かう道すがら、『狩り』の獲物を求めていたことに。
アルスは唇を噛んだ。
空から攻撃を仕掛けてきたあの鷲のような魔物は、恐らく先ほどアルスが目撃した、
グラコスを運んでいた鳥のようなものと同じ存在ではないだろうか。
グラコスが南に向かったとばかり思っていたため、あの鳥が北に引き返してくるなど想定していなかった。
アルスたちの油断をついて、鷲の魔物がこちらに降下し、空から放った火炎弾。
その凶弾をもろに喰らったのは、アンジェたちのすぐ上を飛んでいた、サンディだったのだ。
さきほどから試みている呪文を今一度試行する。危機は脱したが、少女は依然重傷のままだ。
(くそ、ベホマが全然きかないなんて……)
かざす手に汗がにじむ。本来なら全快できるはずの呪文が、今は一割以下の効果しか発揮されていない。
これも、デスタムーアの呪いなのだろうか。
「う……、アンジェ……?」
「サンディ。気がついたかい」
アルスの腕に小さなからだを預けていた妖精が身じろいだ。アルスはそっと支えて起こしてやる。
「あまり動かないで。傷が」
「あ、アルス。アンジェは」
ふらふらと辺りを見回すサンディに、アルスは一点を指した。
傷ついたサンディを敵から遠ざけるようにしながら、少女は魔物に一人立ち向かっている。
サンディが思わず飛び跳ねた。
「アンジェ! アンジェ、危ないよォ!」
「だめだ! 安静にしていないと」
「でも」
「今危ないのは君の方なんだ。君の怪我がよくなれば、僕も加勢する。だから」
アルスの言葉に、サンディはなにも言えずに口をつぐんだ。
回復の手は休めずに、アルスは戦いを注視する。
「……ん?」
鷲の魔物にそそがれる視線が、ふと、あるものを見つける。
(女の子?)
そう、魔物との体躯とは比較にならないから今まで気付きもしなかった。
鷲はアンジェと対峙しながら、その背に小さな人間の女の子を伴っている。
(あの子は一体……!)
何度目かの火炎弾をメタルキングの盾で防ぎながら、アンジェは一人困惑していた。
オリハルコンの棒を振るって、どうにかサンディたちの場所から遠ざけることはできたが、それからは防戦一方になっている。
と、いうのも。
(背に乗せている? どう見ても人間の女の子だわ。どうして……)
戦い始めてしばらくして気付いたのだ、魔物の背にいる存在に。
へたに攻撃を仕掛けようとすれば、あの少女にも危害を加えることになってしまう。
そのため、少女は戸惑いながら、攻撃をかわすことしかできないのだ。
「ふん、意外にしぶといな。絶好の獲物かと思ったのだが」
「お黙りなさい、人の命を獲物だなんて。なにが喜ばしくて、こんな……!」
火炎弾――恐らくはメラミの炎を、きくものかとばかりに易々と振り払ってみせ、
アンジェは下段に構えたオリハルコンの棒を魔物の足元へと振り回す。
アンジェがこんのスキルで習得した特技、足ばらいの応用だ。だが、魔物は空に飛び上がることで難なく避けてみせる。
(ダメだわ……半端な攻撃ではどうすることもできない。でも)
だからと言って反撃に転じることも難しかった。どうしても少女のことが気にかかってしまう。
背に振り回され、必死でしがみついているように見える少女の姿は、アンジェから見上げても詳しくはわからない。
だが、可能性はいくつか考えられる。アンジェはきっと魔物を見据えた。
(もしあの子が、魔物に捕まっているのだとしたら)
オリハルコンを握る手に、力がこもる。
(ふん、煩わしい小娘だ。なかなか決定打を与えられぬ……)
一方で、鷲の魔物――ジャミラスもまた、煮詰まる戦局に歯噛みしていた。
少女の防御が、異常なまでに固いのだ。ジャミラスの火炎弾程度は盾で防がれ、爪での打撃を試みてもうまくダメージを与えられない。
苛立ちがつのる。そもそも、もう少し事は簡単に済む予定だったのだ。
戯れあっている少年少女を上空から襲い、なすすべもなく殺される彼らを、最初の手土産にするつもりだったはずなのに。
あの妖精は一撃目で仕留められず、残った二人は自分たちを見るなり応戦してきた。おまけに一人は回復呪文を使い始める。
(まこと、煩わしい。なにか隙を与える術はないものか)
「ねえ、魔物さん。お兄ちゃんのところには行かないの?」
「黙っていろ」
纏わりつく少女の声を無視し、ジャミラスは敵のなぎ払いを軽々と避けて見せた。
「あの人がいるから、行けないの? 悪いのはあいつらなの?」
殺生の場にも関わらず、少女は怯えることもなくジャミラスにしがみつきながら話しかけ続ける。
半ばやけを起こしながら、ジャミラスは答えた。
「ああ、そうだ。とっとと八つ裂きにしてやりたいものだ」
対する少女の返答は「ふうん」だ。魔物の身ながら、やはり狂った小娘だとジャミラスは思う。
彼女は薄く笑ったような表情で、その目に狂気を携えたまま、魔物の耳にささやいた。
「なら、リアが手伝ってあげるよ」
こんな小娘にもバカにされるとは。思わず鼻で笑ったそのとき、相対していた『獲物』が突然、跳躍した。
「はぁぁああッ!!」
これまで防戦一方だった相手が、オーバーな動きでジャミラスに飛び掛る。
しかしジャミラスは咄嗟のことにも冷静に対応し、身を捻ってかわした。
一見、狙いがなにも定まっていない、下手な戦いぶりだった。だが、ジャミラスは疑念を抱く。
(なんだ、今のは?)
その筋に殺気を感じなかった。少女はジャミラスと対峙していながら、まるで彼を目標に据えてはいないようだったのだ。
首筋を狙える位置だったのに、少女はそれをも上回る座標を狙い、背中へと腕を伸ばしていた。丁度、煩わしい小娘のいる辺りに。
ふと、ジャミラスは気付く。
そう言えば考えもしなかった。ただの荷物としか捉えていなかったが、対峙する人間からはどういう風に見えているのだろうかと。
(……なるほど。まともに攻撃して来ないわけだ)
予想外に手ごわい相手と思ったが、やはり所詮は人間のようだ。
隙の無い防御を秘めているように見えて、わかりやすい弱点をあらわにしている。
笑みが漏れそうになるのをこらえながら、ジャミラスは背中の少女にささやき返した。
「いいだろう、小娘。言う通り、我の助けとなるがよい」
(降りてきた?)
少女の奪還に失敗したアンジェが、うなだれる暇もなく目を見開いた。
魔物の背を、少女はするすると駆け下りてきたのだ。同じ地上に立って、やっとその姿があらわになる。
年齢は十を少し過ぎたころだろうか、小柄なアンジェよりなお小さかった。
「お姉ちゃん」
その少女が、アンジェに向かって笑う。アンジェはなぜか、背筋にぞくりと戦慄を感じた。
魔物に対する怯えが、まったく感じられないのだ。アンジェが当初思っていた「捕まっている」というには、様相が違う。
(きっと、騙されているんだわ。もしかしたら操られて……)
どちらにしろ、アンジェには少女に危害を加えるという選択肢はない。少女が少しでも魔物から離れた今、するべきことは突撃のみだ。
鍛えられたパラディンの力強い足が、地を蹴る。
上空にも逃げさせまいと、棒を虚空まで斬り上げるように振るうが、ジャミラスは今度は飛び上がったりしなかった。
真っ向から爪を振るい、叩き付ける。
火花が散り、アンジェの小さな身体は吹き飛ばされそうになった。
なんとか踏ん張ってこらえ、きっと敵を見据えると、魔物はひどくいやらしい笑みを浮かべて少女の身体を引き寄せた。
その細い首に、あまりに鋭利な、アンジェにとっては一振りの武器にもなるような質量をもった爪が向けられる。
アンジェは息を呑んだ。完全に動きを封じられてしまう。
(しまった!)
「武器を捨てるがよい、小娘」
ともすれば厳かとさえ言える声で魔物は告げる。アンジェは睨みつけるしかない。
「卑怯な……!」
「御託はいい。さもなくばこの子供がどうなるか、わかっているな?」
文字通り人質に取られた少女は、状況がわかっていないのか、ひどく呆けていた。
「ねえ、魔物さん」
「ダメです、こちらにおいでなさい! あなたは魔物に騙されています!」
「ふん、お喋りが過ぎるな。もう一度だけ言うぞ」
アンジェが必死に少女に向かって呼びかける中、魔物の声が、にわかに切迫感を帯びる。
「武器を捨てろ」
次は無い、と言われているのが、言葉にされなくてもわかった。
アンジェはありったけの睨みをぶつけたまま、しかしやがて俯き、そっと棒を持っていた手を開く。
アンジェは今はもう人間だ。だけど、その魂は天使界の気高さを受け継いだままだ。目の前の命を見放すことなどできはしない。
魔物が、ジャミラスが、その血肉を引き裂く瞬間を今か今かと待ち構えて、舌なめずりをしている。
少女の矛が、盾が、今まさに地面に取り落とされようとしたそのとき、にわかに強烈なかまいたちが起きた。
風は鋭利な刃と化し、空気も砂利も全て巻き込んで、鳥目を刹那めくらます。
それは丁度、ジャミラスの目元に叩きつけるようにして引き起こされたのだ。
卑怯な魔物の手元が離れたその場を、アンジェよりも尚早く、アルスは駆け抜けていった。
「アルスさん!」
思わず喜色を浮かべてアンジェは叫ぶ。アルスは少女を担ぎ上げ、闇雲に振り回された爪牙をかいくぐって離れた。
「ごめんね。遅くなった」
「サンディは?」
「無事とはいえないけど、命は繋いでる。大丈夫だよ」
その言葉に、ひととき酷くほっとした表情を浮かべるも、すぐにアンジェは切り替える。
「その子をお願いしてもいいですか」
「無理はしないでね」
「大丈夫です!」
ジャミラスの爪が再び飛んでくる。だが、今度はアンジェはそれを小気味良く打ち払った。
「形成逆転、ですね」
「小娘が……」
不適な笑みを浮かべて、オリハルコンの棒を握りなおすアンジェを、ジャミラスは苦虫を噛んだような顔で一瞥する。
「無理やり抱えてごめん。もう大丈夫だよ」
戦地からひとり遠ざけられたサンディの視線の先で、アルスは魔物から奪還した少女を地面に下ろし、穏やかに話しかけていた。
「どこも怪我していないかい?」
「……」
「してないみたいだね。僕はアルスっていうんだ。自分の名前はわかる?」
こういった緊急事態だからこそ、アルスはあくまで、少女の動揺を取り除くことを優先したようだ。
その少女は黙ったまま俯いていて、サンディの元からはよく姿が見えない。
(たしかに、素性も、あの魔物といた経緯もよくわかんないもんね)
アルスが懸命に話し掛けるのを、サンディもまた祈るように見つめる。
だが、とにかく人質とされたこの少女を解放したことで、アンジェも迷いなく戦えるようになったのだ。
彼女の戦いを傍でずっと見ていたサンディは、もう心配は要らないと確信していた。
「……、」
「え、なに?」
そのときぽそりと、少女がなにかを呟いたらしい。
近くにいたアルスにもよく聞き取れなかったようだ。当然サンディにも聞こえていない。
アルスがその顔を覗き込む。少女がもう一度なにかを言う、アルスは口元にまで耳を近付ける。
そして次のとき。アルスの顔が蒼白になり、その場でうずくまった。
(……は?)
サンディには、一瞬、何が起きたのかわからなかった。
もう一度、少女の姿をよく凝視する。うずくまるアルスを見下ろす少女。その手元に、紫色の装飾が施された、小さな短剣。
「リアの邪魔をするからよ」
おぞましい響きで、声が発された。それは果たして、本当に少女のものだったんだろうか。
アルスのことをまるで、玩具の人形のようにつまらなさそうに一瞥し、少女はナイフを持ったままふらりと立ち上がった。
サンディは思わず身を竦ませるが、彼女の見据える先はサンディではない。
視界の先には彼女を背に乗せていた魔物、そしてその魔物の『邪魔をする』、一人戦う少女。
「あ、アンジェ……!!」
ひきつる声で、サンディはかろうじてそれを、喉からしぼりだすように叫んだ。
ジャミラスが一瞬、戦いの手を止めた。
優勢になった勢いのまま飛び掛ろうとしていたアンジェが、たたらを踏む。
突然なんなのか、或いはそれが狙いだったかと、慌てて体勢を立て直すも、魔物はそのとき呆けたままアンジェの後ろを見えていた。
不審に思いながらも、アンジェは棒を振りかぶる。
「私の前で呆けるなんて、いい度胸で――」
「アンジェエっ!!」
そのとき、聞こえるはずない声が自分の耳に飛び出してきて、アンジェは思わず振り向いた。
「――――邪魔しないで、お姉ちゃん」
左手は、ひたりと、アンジェの肩をつかんでいた。
右手に振りかざされた毒々しい短剣は、まっすぐに喉笛を狙っている。
人間の少女とは到底思えない、魔物と言っても差し支えないというくらい、信じられないほどのぎらついた眼差しで。
溢れんばかりの狂気に、そこにいた誰もが一瞬、我を忘れていた。
ざきゅり。
嫌な音がアンジェの耳を貫いた。
まるで呪いにでもかかったように、アンジェはその場から動けない。
毒牙のナイフは一突きに、まるで吸い込まれるように、そのあたたかな心臓を刺した。
――アンジェを庇って飛び出した、小さな妖精を。
「……サン、ディ」
伸ばした手は、鷲の手にあっさりと弾かれた。
そのまま振り下ろした爪に、最強の盾に守られていた少女は、あっさりと叩きつけられて地に転がる。
「お兄ちゃんが、泣いてるの」
そんな様子も、果たして見えているのかどうか。狂った少女は微笑を浮かべながら、一心不乱に毒牙のナイフを突き立てていた。
びくりびくりと、生き物だったはずのなにかが、刃に突かれるたび血しおを噴き上げる。
「リアにだけは、聞こえるの。お兄ちゃんがあたしを呼んでる声がする。
だってやくそくしたんだもの、死ぬまで一緒にいようって」
弾けた鮮血を撒き散らすことも構わず、アンジェは鬼のような形相で立ち上がり、はだかるジャミラスに咆哮をあげて突進した。
しかし隙だらけの突進は、まるで小鳥と戯れるかのように、あまりにも簡単に払われる。
「ひとりでいるのが悲しくて、神様にお願いしたの。もう一度お兄ちゃんに逢わせてって。
神様は願いを聞き入れてくれた。リアはあの魔物さんに出会って、大きな翼を手に入れたの。
だからもう、お兄ちゃんのところまで飛んでいける。やっと、自由になれたのに」
血にまみれ、骨を刻み、いつしかそれは、ただの肉塊となりはてていた。
それでもなおおさまらない憎しみを、リアはそれに叩き付けた。
「なのに――リアの邪魔をしないでよッ!!」
アンジェは、とうとう立ち上がれなかった。
なにが起きているのか、本当のところはなにも理解していなかった気がする。
もし神様がいるのなら、という言葉があるが、アンジェはそのとき、自分が神の世界で生きてきたことさえ忘れていた。
ただ、あの願いの果実を求めた人々のように、アンジェはその手を必死に伸ばし――
「神よ」
風が鳴る。
破壊の聖風をともなって、はがねのつるぎは、天へ地へと十字を切った。
「哀れなる子羊の祈りを、聞き届けたまえ」
未だ痺れの残る身体で、アルスはパラディンの職が与えた奥義を、『魔物たち』に向かって解き放った。
アンジェの見ている先で、それは轟音と閃光を撒き散らして、辺りには一瞬嵐のような砂煙が巻き起こる。
刺し傷など意にも介せぬように、アルスはくずれおちたアンジェを庇いながら、敵の姿を油断無く見据えていた。
やがて突風がおさまり、視界が徐々に晴れてくると、そこにいたはずの『魔物たち』は姿を消している。
はっと上を見渡せば、傷を負ったらしい鷲が少女を腕につかんだまま、北の空へ飛び立とうとしていた。
追いかけなきゃ、とアルスは反射的に思ったが、すぐに状況を思い返して、振り返る。
毒牙のナイフに刺されたアルスは、幸いにキアリクの呪文が使えたため大事に至らず、傷もそこまで深くない。
だが……二人は。
アンジェが、地面に転がったまま倒れていた。
幾度も地面に叩きつけられた後があって、土にまみれた背中は装備を露出し、皮膚が抉れている。
アルスが必死に駆け寄ると、やわらかな胸はしっかり上下に息をしていた。どうやら、気絶しているだけらしい。
そして。
グランドクロスに巻き込まれた地面の中に、一箇所、しみのように張り付いている何かがある。
それが何か、アルスはすぐに気付けなかった。ただ、そこにいたはずの彼女の存在がいないことだけはわかった。
皮肉にも、アルスが放った技によって、あの妖精が吹き飛ばされてしまったのだと、やがて気付いた。
――これは、サンディの跡。
こんなとき、キーファならどうしただろう。
旅のさなかで何度も頭をめぐった考えは、ついにアルスの脳裏に浮かぶことはなかった。
なぜなら、彼らのどんな過酷の旅の中にも、『殺し合い』という経験など、一度たりともなかったからだ。
「ねえ、どうして逃げちゃったの? あいつら、もう少しで殺せたのに!」
「少し黙っていろ」
アルスたちから離れた上空で、元のように背中にリアを乗せて、ジャミラスは翼を羽ばたかせた。
「リア、魔物さんのことたくさん手伝ってあげる。邪魔なやつらはみんな、殺してあげるよ」
先ほどの戦闘で興奮しているのか、リアの表情が妙にはきはきとしている。それが、却ってジャミラスの苛立ちを募らせた。
桃色の髪の女もそうだが、あの緑色の頭巾の男も、見た目とはちがって強大な力を秘めているらしい。
たった一度の攻撃が直撃しただけで、ジャミラスは離脱を余儀なくされ、支給された万能薬を半ばほど消費する羽目になった。
位置的にリアを庇うような形になったから、余計たちが悪く、おかげでこの少女がぴんぴんしていることもまた腹立たしい。
「御託はいい。その王子を探すのが優先だ、北へ向かうぞ」
「本当、魔物さん?」
「面倒ごとは先に片付けたほうがよかろう」
その真意も知らずに手を打って喜ぶリアに、ジャミラスの口元が歪む。
良い手駒になるのは確からしい。だが、この少女を好き勝手にさせておくには、あまりにも不安が過ぎる。
狂気にまみれた意志が、この先いつ暴走するともわからない。
(済ませてしまえばいい話だ。獲物が二匹手に入るのは、確定したも同じこと)
むやみに当たった獲物を襲って、先のようにてこずるくらいなら、まずは確実な手から選べばいい。
彼にとって大事なのは、いかにどれだけ多く、この世界で命を奪うことができるかなのだから。
(そして、すぐに思い知らせてやろう……このジャミラスが、真に強大なる魔王であることをな)
魔物たちの笑い声が、濁る大気をふるわせて、鉛色の空に響き渡っていった。
【サンディ@DQ9 死亡】
【残り47人】
【D-3/草原/午前】
【アルス(主人公)@DQ7】
[状態]:HP8/10 MP1/3 腹部に刺し傷(軽度)
[装備]:はがねの剣@歴代
[道具]:支給品一式
[思考]:顔見知りを探す(ホンダラ優先) ゲームには乗らない
とりあえずアンジェを治療する
【アンジェ(女主人公)@DQ9】
[状態]:HP3/10 MP9/10 背中に擦り傷 全身打撲 気絶
[装備]:メタルキングの盾@DQ6、オリハルコンの棒@DQS
[道具]:ハッピークラッカーセット@DQ9(残り4個) 使用済みのハッピークラッカー 支給品一式
[思考]:困っている人々を助ける デスタムーアを倒す サンディの死にショック?
[備考]:職業はパラディン。職歴、スキルに関しては後続の書き手にお任せします。
【D-3/空/午前】
【ジャミラス@DQ6】
[状態]:HP9/10、飛行中
[装備]:なし
[道具]:剣の秘伝書@DQ9 ツメの秘伝書@DQ9 超ばんのうぐすり@DQ8(半分のみ) 支給品一式
[思考]:リアを利用し、サマルトリアの王子(カイン)を労無く殺害。その後、どちらかが持っていれば剣を確保する。
カインを探しつつ北へ 殺害数をかせぐ
[備考]:支給品没収を受けていません。飛行に関して制限なし。
【リア(サマルトリア王女)@DQ2】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 どくがのナイフ@DQ7 支給品×2(本人確認済み)
[思考]:魔物さんにお兄ちゃんと一緒に殺してもらうんだ♪
それがダメだったらリアがお兄ちゃんの首輪外してあげるね♪
邪魔するやつは皆殺しだよ♪
投下乙です
くっそ騙されたw
あやうく全滅かとおもってしまったじゃないか
リアはなんかどんどん発酵しているようでジャミラスも持て余し気味とかワロスw
投下乙ですー
今回はマーダーが奇策を秘めてたりしてヒヤヒヤする話が多い………
リアがかつてのフローラ並のマーダーとなりそうで今から恐怖
ところでサンディの支給品と装備品について何か記載はありませんか?
ご指摘ありがとうございます、すっかり抜けていました。追記します。
※D-3の草原に、サンディのふくろが落ちています。支給品の安否はお任せします。
なにか問題ありましたらお願いします。
ちなみに途中でトリップキーを間違っていますが、同一人物です。
支援ありがとうございました!
乙です
サンディとアンジェのコンビがほのぼのしてただけに切ない…
そしてアルスがかっこいい!
前回は優しくも悲しい最期だったので、個人的には今回活躍してほしいと思ってしまう
乙です。サンディーーッ!!
これトドメ刺した人リアになるの?アルスになるの?
心臓一突きされた後めった刺しにされてるし、リアじゃね?
代理投下します
ターバンを巻いた男、すらっとした青髪の女性、同じく青髪の尖った髪の少年。
彼らと対峙しているのは、一匹の巨大な魔物。
その場にいる全ての人物をタバサは知っていたからこそ、彼女は今の状況が辛くて苦しくて仕方がなかった。
何故なら、今まさに両者の戦いの火蓋は切って落とされようとしているのだから。
先に動いたのは魔物だった。
三者を薙ぎ倒そうとその豪腕を振るうが、それは不発に終わる。
一番身軽な少年は豪腕を軽々と避け、その腕に乗って顔面へと駆け抜けていく。
魔物が防御態勢を取る前に、少年は魔物の顔面を切り裂いていく。
左目を重点的に切り裂かれた魔物が体勢を崩して後ろによろけたのを確認し、今度はターバンの男が正確に魔物の膝裏を杖で叩いて行く。
バランスを取ろうとしていた所に加えられた衝撃により、魔物は後ろへ大きくよろけた。
魔物が地面に倒れ込む寸前、女性の手から放たれた一発の火球が地面と魔物の間に滑り込む。
完全に虚を突いた攻撃になす術も無く、爆ぜ上がる火球に魔物は背中を焼かれることしか出来なかった。
「お願い! もうやめて!」
耐えられ無くなったタバサが、腹から空気を大きく振るわせながら叫ぶ。
だが、その場にいる四者にその声は届かない。
魔物が素早く起き上がり、トドメを刺さんと飛びかかっていた少年を蠅を追い払うように素早く叩く。
意識を全て攻撃に注いでいた少年は、横からの素早い攻撃をそのまま受け止めてしまい、地面を何回も転がり続けた。
即座に救援に向かった女性へ襲いかからんと、魔物は足を進めていく。
当然、ターバンの男が魔物の進路を塞がんと向かってくる。
が、魔物が吐き出した炎に遮られて思うように進めない。
男が炎にまごついている間にも、魔物は女性と少年に近づいていく。
「ゲロちゃんやめて! その人たちは私の家族なの!」
再びタバサは声を絞り出すが、魔物にも家族にもその声は届かない。
まるでそんな声など無かったかのように、彼らは振る舞っている。
タバサが叫んでいる間に、魔物は少年と女性の下にたどり着いた。
「どけ、天空の勇者は殺す。邪魔をするなら貴様諸共殺すぞ」
少年を庇うように立ちはだかる女性に向かい、魔物はまるで汚物を見るかのような目をしながら吐き捨てた。
「どきません。私はこの子の母親です。
子を守るのが親の役目です」
「そうか、なら死ね」
手を広げて少年の前に立つ女性に対して、一切の躊躇いなくその爪を振るう。
女性は襲いかかる爪を真っ直ぐと見つめ、その場から動かない。
「やめてッ、やめてよぉぉぉぉ!」
泣きじゃくりながらタバサはひたすらに叫び続ける。
声が枯れそうになっても、ただひたすらに叫び続けた。
母へと迫る凶刃が止まることを、ただ祈りながら。
「がッ……はあっ」
祈りは、届かなかった。
純白の服を赤に染めるように、魔物の爪が胴体を貫いている。
同時に口からは大きな血塊が吐き出され、魔物の足を赤く染める。
「捕まえ、ましたよ」
血を吐きながらも、女性の目は真っ直ぐと魔物を見据えていた。
そしてゆっくり確実に呪文を紡ぎ、片手に巨大な火球作り出していく。
「食らい……なさッ」
振りかざした片手は上半身ごと宙を舞った。
一連の動作をつまらなそうに見つめていた魔物の片手が、胴を貫いている腕を軸にして女性の半身を吹き飛ばした。
ドサリ、と人であった肉塊が落ちる音が重く響く。
意識を取り戻した青髪の少年の目には、力なく倒れ込む母の半身の姿があった。
「ち、ちくしょおおお!!」
ろくに剣も構えず、少年は魔物へと飛びかかる。
魔物は片腕で少年を地面へと叩きつけ、そのまま頭を踏み潰す。
魔物に傷をつけるどころか、叫ぶことすら叶わずに少年は絶命した。
「なんで……なんで、どうしてそんなことするの!?」
タバサの叫ぶ声など全く気にしない様子で、魔物は手についた血を舐め続ける。
その頃、ようやくターバンの男が炎をかいくぐって現れた。
頭を潰されている息子と半身を失った妻の姿を見て、怒りに震えていた。
「天空の一族の血は美味だな……なぁ、伝説の魔物使いよ」
「……タバサも、そんな風に殺したのか」
怒りを押し殺しながら、男は魔物に問う。
タバサは自分がいることを必死に訴えるが、両者の耳には届かない。
男の問いに、魔物は大きな声で笑い出した。
ひとしきり笑った後に、まるで唾を吐くように何かを口から吐き出した。
瞬間、タバサの視界が暗転する。
「肉は食らった、残ったのはそれだけだ」
声と同時に、タバサの視界に光が戻る。
そこには自分を見下ろしている父の姿があった。
簡単な話だ、自分はすでに死んでいて、魔物の腹の中に頭だけ残っていたのだ。
声が届かないのも当然の話である。
首だけの彼女はそれでも、聞こえるはずのない声で叫び続ける。
ぐしゃり、という音と共にタバサの視界は再び闇に包まれた。
「うあああっ!!」
タバサの視界に再び光が灯る。
額からは汗がだくだくと流れ、手は小刻みに震えている。
「大丈夫か? ひどくうなされていたが……」
「えっ? えっえっ?」
耳に入ったのは先ほどまで居た人物の中の誰でもない別人の声。
目の前にいた声の正体を確認したと同時に、自分の首から下があることを確認する。
「……夢?」
「そのようだな。ゲロゲロが思わず足を止めてしまうほど叫んでいたぞ」
よく見れば話しかけているのは先ほどゲロゲロに襲いかかった男だった。
そして、周りを見れば奇抜な格好に身を包んだゲロゲロが心配そうな目で自分を見つめている。
「へ? あれ? ふえっ?」
先ほどの惨劇が夢であったと思ったら、今度は現状が理解できずに混乱してしまう。
自分がゲロゲロとエルギオスの戦いを止めるために飛び出し、ゲロゲロにその体を抱え込まれた所までは覚えている。
気を失って、嫌な夢から目が覚めたら妙な格好のゲロゲロが引く妙な乗り物に乗っていて、隣には襲いかかってきた男がいる。
「まあ、落ち着け。端折って話せば今の私はゲロゲロを襲うつもりはない」
頭に無数のクエスチョンマークを浮かべ続けるタバサに対し、エルギオスは初めから丁寧に話し始めた。
エルギオスは先ほどの戦いの後、ひとまずゲロゲロとしての記憶喪失を受け入れた。
しかしこれから先には、自分のようにムドーの姿を見るだけで襲いかかってしまう人間がいる可能性が高い。
ぱっと見は少女と男を引き連れている魔物だ、ムドーの事を知らない人間でも先入観で襲いかかってしまう可能性はある。
ましてや始まりの地でデスタムーアと問答していた人物やその仲間はムドーを知っていると推測できる。
ムドーという存在を知っている人間が、現状に対して記憶喪失という単語だけで簡単に引き下がるとは思えない。
これから起こる可能性のある無駄な戦いがもし起これば、ムドーは勿論自分やタバサの身にも危険が及ぶ可能性がある。
初見の人間は勿論のこと、ムドーを知る人間に対して彼が無害であることをアピールできるかが最大の課題であった。
「あははははは! それでそんな恰好してるんだ! でもゲロちゃん、すっごくかわいいよ!
そうだ、私もそういう帽子持ってたからゲロちゃんにあげるね!」
「む、むぅ」
タバサが目覚めるまでの間に起こった事をエルギオスが説明した後、思い切り大きな声でタバサは笑っていた。
見えていた課題に対してエルギオスが取ったひとまずの手段。
それはムドーの見た目を可能な限りコミカルにする事だった。
この魔王を知る知らない問わずに笑いがこぼれてしまうくらい、おかしな恰好をさせる。
数分の説得の末、自分の持っていたスライムの服をムドーに着せることに成功した。
魔王というにはマヌケな服装なのだが、それに加えてタバサがスライムヘッドを装着させたため、より一層おかしな格好となった。
これで知らない人間はもちろん、知っている人間も彼が無害であるという事を信じやすいはずだ。
加えて自分に支給されていた乗り物を彼に引かせることで、安心感を盤石な物へと変えてゆく。
なによりムドーの事を見て笑い転げているタバサや、それを微笑みながら見つめているムドーの姿。
これを見てもなおムドーが危険な存在だと認識する人間は、この場には少ないはずだ。
「……ぷっくくく、ごめん! 我慢できない! ゲロちゃんの格好面白すぎるよ!
早くお父さんやお母さん、お兄ちゃんにも見せてあげたいなぁ」
楽しい笑い声を響かせながら、スライムの服を身に纏ったムドーが引く人力車はゆっくりと進む。
ゲロゲロとエルギオスは知らない。
タバサが何気なく呟いた「家族に会いたい」という言葉に隠された意味を。
生々しすぎる夢の中で起きた惨劇、そしてそれは今現実に起こりうる話でもあった。
もし、ゲロゲロが記憶を取り戻したら?
夢の中の自分のように、ゲロゲロは自分に牙を向いてくるのだろうか?
そして自分を殺し、他の人をも殺して回るのだろうか?
それを考えないように、彼女は思い切り笑い飛ばす。
今のゲロゲロは心優しい魔物なのだから、そんなことはないと自分に言い聞かせながら笑い続けた。
夢が夢であることを、タバサは小さく祈り続ける。
【G-4/南部平原/午前】
【ゲロゲロ(ムドー)@DQ6】
[状態]:後頭部に裂傷あり(すでに塞がっている) 記憶喪失
[装備]:デーモンスピア@DQ6、スライムの服@DQ9、スライムヘッド@DQ9
[道具]:支給品一式、超万能薬@DQ8、トルナードの盾@DQ7、賢者の秘伝書@DQ9、人力車@現実
[思考]:タバサ・エルギオスと共に行く
[備考]:主催者がムドーをどう扱うかは未知数です。主催からアイテムに優遇措置を受けています。
【エルギオス@DQ9】
[状態]:健康
[装備]:光の剣@DQ2
[道具]:支給品一式
[思考]:タバサ・ムドーと共に行く、贖罪として人間を守る
[備考]:シナリオED後の天使状態で参加しているので、堕天使形態にはなれません
【タバサ@DQ5王女】
[状態]:健康
[装備]:山彦の帽子@DQ5 復活の玉@DQ5PS2
[道具]:支給品一式
[思考]:リュカを探す、ゲロゲロ・エルギオスと共に行く
投下乙
このパーティが好きすぎるから、ゲロゲロには変わってほしくないな…
投下乙です
ムドーがどんどん面白いことになってて噴くw
タバサの心情が切ない…レックスすでに死んでるもんなあ
ログ全部読んだー。
今のとこ死亡者は男に偏ってるね。
乱暴者勇者とか新鮮で面白そうと思ったら一話退場…
てか勇者の仲間3人ともマーダーとはすごいパーティーだw
2の3人も皆病んでるし1の勇者は女好きだし
正統派だった前回とは全然違って面白い。
投下乙です
スライムの服もそうだが、ムドーとエルギオスの二人で人力車を引いて走るところ想像して吹いたw
408 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/05/15(火) 11:07:23.81 ID:q07VgZ7/O
月報データ。オープニングとしたらば投下を含みます。
話数にオープニングやしたらば投下を含まない場合は話数から引いてください。
ロワ 話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
DQ2nd 48話(+48) 47/60 (- 13) 78.3 (- 21.7)
代理投下します
吹く風に煽られ、さらさらと砕けた煉瓦が宙を舞う。
煉瓦の正体は、入り口に倒れ込んでいる巨人の頭部であった物。
「ゴレムス……?」
ぼそりと共に旅をしていた煉瓦の巨人の名を呟く。
魔物使いの夫ならともかく、残った体の姿形だけでは共に冒険した仲間なのかどうなのか判断することはできない。
しかし視界に入った忌々しい首輪から、この巨人が殺し合いの参加者だということだけは分かる。
そそくさと巨人の腰のあたりに向かい、携えていた袋を手に取ろうとしたときだった。
「姉、さん?」
見間違えるはずもない。
美しく纏め上げられていたはずの黒髪。
血に染まりながらも白く輝いているかように光る衣服。
赤く広がる血溜まりの中で、姉であった物の残骸が散乱していた。
あまりの惨状に声も出せず、その場に立ち尽くしながら吐き続けることしか出来なかった。
幼き頃から共に暮らしてきたかけがえのない家族。
その命が奪われていることを知ってしまった。
現状から嫌な思考へと連鎖し、純粋に胃液だけをただひたすらに吐き続けた。
少ししてからフローラは正気を取り戻した。
そこで先ほどのバラモスの言葉の意味を理解し、大きく歯軋りをする。
だが、悲しみに打ちひしがれ立ち止まっている場合ではない。
やるべき事がある、何もかもが手遅れになる前にそれを成さねばならない。
「姉さん……さようなら」
小さく別れを告げ、姉であった残骸の傍に落ちていた武具とふくろを回収し、前を向く。
そして一抹の不安を抱えながらも力強く足を進めて行った。
「給仕探偵ジェイドッ! ここに見ッ参ッ! さあ呪文怪盗アンバー、今日という今日こそはお前を犯人だ!」
突然始まった寸劇を、口をあんぐりと開けてハーゴンは見つめている。
「メイド服といえばこれしかないよな!
……ってあれ? ハーちゃんひょっとして給仕探偵ジェイド知らないのか?
有名な本だと思ってたんだけどな」
「……お前が読書を嗜んでいたことが驚きだ」
「なんだとぅ? まっ、あたしも近所のおばさんに読んで貰ってただけだけどな……」
先ほどまで元気だったソフィアの声色が突然弱くなり、瞳には悲しみが宿っている。
異変に気がつき声をかけようとしたハーゴンを遮るように、ソフィアの口が開く。
「なっつかしいなあ、昔シンシアと毎日これの真似して遊んでたな。
たまにはあたしにもジェイドやらせなさいよとか言われて、怒られたっけな」
取り繕うように笑いながら呟くも、その瞳は悲しみに包まれたままである。
出会ってから初めて見せる表情に、ハーゴンも驚きを隠せなかった。
「シンシアというのは、友の名か」
「ああ、あたしの最ッ高の親友だ」
ハーゴンの問いかけに対して、ソフィアは振り向かずに答える。
「そして、あたしが守れなかった大切な人だ」
次に続いた言葉には、後悔や怒りがはっきりと込められていた。
その一言を皮きりに、彼女は止まることなく話し始めた。
「あたしが弱かっただけなんだ。あたしにみんなを守れる力が無かっただけ。
そんな弱いあたしがさ、世界を救う天空の勇者とかいう大層な人間らしくてさ。
今まで普通に接してくれた近所の人とか、みんな血眼になってあたしを守ろうと魔族と戦ってたんだよ。
魔族もあたしの命を狙ってるし、みんなはあたしを守ろうと必死になってる。
天空の勇者を殺す、守るの両極端に立ってね」
歩きながら口を開き続けるソフィアの後ろを、ハーゴンは黙ってついていく。
「優しくて仲のよかったみんなが死を代償にするほど躍起になって守ろうとした力。
みんなを狂わせて、みんなを殺したのは天空の勇者っていう力。
最初は凄く恨んだよ。あたしがそんな力を持って生まれたことをね。
そこから、あたしは真実を知りたくて力をつけながら冒険し始めた。
天空の勇者が何者なのか、何故狙われていたのか、みんなが命を賭して救うべき存在だったのか。
魔族が私を襲う理由や、みんなが命を賭して救おうとした理由や、いろんなことの真実が冒険していくうちに分かった。
それができたのはあたししかいないってことも十分に分かった。
納得もしたし、後悔もしてない。
ただ……」
そこで、ぴたりとソフィアの足が止まる。
合わせるようにハーゴンもその場に立ち止まる。
「ただ、あたしじゃなきゃ良かったのになってのは何回も考えた。
ま、それはあたしにゃどうしようもない事けどな」
今までより一層低い声でソフィアが呟いたあと、くるりと振向いてハーゴンへと頭を下げた。
「悪いな、ひとりでベラベラ喋っちまって」
バツが悪そうに頭をかくソフィアに対し、ハーゴンは小さく笑いながら答えた。
「人間からそんな話を聞いたのは初めてだ、面白かったぞ。
どの世界でも勇者というのはただ持ち上げられ、言われるがままに世界を救おうと動いているもの。
そう思っていたが……まさか勇者本人からそんなことを聞くとはな。
ひょっとすれば、ロトの血族もそうだったのかもしれんな……」
宿敵であるロトの血族のことがハーゴンの頭に浮かぶ。
彼らも、ソフィアのように何かしら苦悩しながら冒険していたのだろうか?
足を進める先に一人の女性が現れたのは、そんなことを考えようと思ったときだった。
息を荒げながら走ってきた女性、フローラを落ち着けた後に、二人は事の顛末を聞いた。
南の町でまるで女神のような一人の王女に会ったこと。
間もなく魔王の襲撃を受け、魔王がローラ姫の愛という感情を試すために人質として監禁していること。
そして、ローラ姫は自分を逃がすために自ら人質となったこと。
自己紹介もそこそこに、フローラは起きた事実の一部を語り続けた。
「こうしちゃいられねえ、さっさとアレフってのを探しに行こうぜ」
フローラが口を閉ざした瞬間、連動するようにソフィアの口が開いた。
困惑するフローラをよそに、ソフィアは一人しゃべり続ける。
「ローラは証明したかったんだよ。だから、自分が自ら人質になることを選んだ。
アレフってのにこの上ない信頼を抱いてるから、命を賭ける事も怖くなかった。
愛も何もかも、証明できるって自信とそれを裏付ける理由があったんだ。
それを思いから確信に変えるため、気持ちが本当であることを確かめるために勇者を探す必要がなんだよ。
自分ひとりがそれを言ってても、証明と確信にはなんねーからな」
聞いた話から自らが考え、思うことを口に出す。
自分の実体験から来た経験、人の思い、行動理由。
それらとローラ姫という一人の人物を結びつけ、狙いを探り出していく。
「ただ人質となる以上、どっかの世話焼きに救われちまうかもしれない。
命が助かっても魔王に自分の誇りを証明できなきゃ、それはローラにとっての敗北だ。
だから、それを防ぐために一刻も早くアレフを探さなきゃいけねえ。
命を賭してまで成し遂げたいことなんだ、へたすりゃ死んじまうかもしれねえ」
人の気持ちを察して自分の気持ちと照らし合わせ、一つの答えを導き出す力。
それはいつかの自分に足りなかった力。
ソフィアの話を聞いているうちに、気がつけば俯いてしまっていた。
そのフローラの様子を知ってか知らずか、ソフィアは話を続ける。
「だから早く探しに行こう、魔王にわからせてやろうぜ。
きっと、勇者様と勇敢な姫様が全部やってくれっから。
な、いいだろハーちゃん」
そこでソフィアは後ろで腕を組んで黙ったままだった男に問う。
男はソフィアを見つめたまま、ニヤリと笑ってから答えた。
「……まあ、脱出の鍵を探すのにこの場にある様々な知識も借りようと思っていた所だ。
事のついでに探す人間が増えただけのこと、大した差ではない。
だが、魔王討伐に荷担することだけはできん。
消費する必要のない体力や魔力を削って、いざという時に支障がでると困るのでな」
「そりゃ大丈夫だ、魔王は勇者に任せりゃいい。
第一ローラの証明を成立させるには、あたしたちは手出ししちゃいけねーからな。
あくまであたしらは、アレフってのを見つけたら事情を伝えるだけだ」
瞬時に相手の考えを理解し、それに対してしっかりと正しい答えを作る。
答えと共に現れた質問にもしっかりと対応できる力。
人の心を理解するとはこういう事なのだろうか?
ソフィアの答えを聞き、ゆっくりと頷き了承の意を示したハーゴンを見てフローラはそう思った。
もし、かつて自分に人の気持ちを考えるソフィアのような力が備わっていれば。
もっと夫婦として話し合う力があれば。
あの人の心やその中の苦しみをもっと理解する事が出来たのではないか?
と、かつての自分の無力さと、今の自分があまり変わっていない事を噛み締める。
今の自分が夫に出会うことが出来たとしても、また気持ちの入れ違いから夫を苦しめるだけなのではないか?
小さな不安が山となって彼女の心に積もって行く。
「さ、行こうぜ!」
そんな考えすら見透かしているかのように、ソフィアは笑顔でフローラに手を伸ばす。
その笑顔はローラとどこか似ているようで、違う輝きを持っていた。
遅すぎることはない、と彼女を見てフローラは再び思う。
力がないなら身につければいい、理解できなくとも理解しようとする姿勢を見せればいい。
人の気持ちを考えると言うことを、ソフィアの言動から学べる。
アレフを探すという短い間でも、今の自分から変わることは出来る。
そう心に決め、フローラはソフィアに匹敵するくらいの笑顔を作り、差し伸べられた手を取った。
変化への大きな一歩を、彼女はゆっくりと踏み出した。
面白い。
ソフィアの話や現れた女性とのやりとりから、ハーゴンは正直にそう感じた。
長らく人と接することが無かった為に忘れていたこと、人間も何の考えも無く動いているわけではないと言うこと。
人間が行動する上で、何かしらの理由は必ずついて来る。
だが、そうなるに至った気持ちや感情は本人にしか知り得ないこと。
一時的とはいえ、人間と協力することでそういった内面を知ることが出来た。
勿論、人間に対する憎しみを忘れた訳ではない。
ただ、自分の世界の人間の多くがソフィアのように固い意志を持った人間だったならば。
口を開けば「勇者ロト」と、嘗ての英雄にすがりついて考えることを放棄した連中に考える力があったなら。
自分を含め、世界は変わっていたのかもしれない。
「まあ、今更どうしようもないがな……」
聞こえないようにハーゴンは一人呟く。
そう、自分の住む世界は既に手遅れ。
人々はロトを崇拝し、その血族にすがりついている。
信者たる彼らから受けた仕打ちを忘れることは出来ない。
復讐と再生の為に、破壊が必要。
腐った世界を元に戻すために、一刻も早く戻らなければいけない。
そのため自分の力を貸すことも、他者や宿敵の力も借りる覚悟は出来た。
目的を果たすために、ハーゴンもまた一歩を踏み出していった。
誰かが命を賭ける理由。
それはソフィアが真実を追い求める中で最も知ることが多かった理由。
何を感じ、何を思い、何をするために動くのか。
そして何か守りたい、残したいと思ったときに。
人は、命を賭けるのだ。
かつて守られる側に立たされ、ある意味では多数の命を賭けて守られた。
その後守る側に立った事もあるし、守る側に立っている者も知っている。
だから、フローラの話の中の人物の考えはすぐにわかった。
命を賭してまで動く人の願い。
ただ、それを叶えたい。
その気持ちを胸に、ソフィアは協力することにした。
その気持ちと覚悟に答えられる、たった一人の勇者を探すことに。
彼女もまた、新たな気持ちと共に一歩を踏み出した。
人の思いを気づけなかった者。
人の思いを忘れていた者。
人の思いを見続けた者。
それぞれもまた、思いを抱えている。
交錯していく思いと感情。
その先で彼らがどう変わっていくのか?
まだ、彼らすらも知らない。
【F-3/中央部/午前】
【ソフィア(女勇者)@DQ4】
[状態]:健康
[装備]:斬魔刀@DQ8、メイド服@DQ9、ニーソックス@DQ9
[道具]:不明支給品(0〜2)、基本支給品
[思考]:主催の真意を探るために主催をぶっ飛ばす。
アレフを探し、ローラの証明を手伝う。
[備考]:六章クリア、真ED後。
【ハーゴン@DQ2】
[状態]:健康
[装備]:オリハルこん@DQ9
[道具]:不明支給品(0〜2)、基本支給品
[思考]:シドー復活の儀の為に一刻も早く「脱出」する。
脱出の力となる人間との協力。
ロトの血筋とは脱出の為なら協力する……?
[備考]:本編死亡前。具体的な時期はお任せします。ローレシア王子たちの存在は認識中?
【フローラ@DQ5】
[状態]:全身に打ち身(小)
[装備]:メガザルの腕輪
[道具]:支給品一式*3、ようせいの杖@DQ9、白のブーケ@DQ9、魔神のかなづち@DQ5、王者のマント@DQ5
不明支給品(フローラ:確認済み1、デボラ:武器ではない物1、ゴーレム:3)
[思考]:リュカと家族を守る。
ローラを助け、思いに答えるためにアレフを探す。
代理投下終了
忘れてたけどそう言えばフローラとデボラって姉妹だったっけ
開始早々身内の死体見つけるってかなりキツイな
ゴーレム死亡話で
※絶望の町の入り口を塞ぐようにゴーレムの残骸があり
っていかにもそのままじゃ町から出られませんよみたいなことを状態票に書いてたのに、書いた本人がスルーしたのが気になった
ご指摘ありがとうございます。
メタ的な話になりますが、塞ぐようにと表記したのはあくまでもそれっぽく倒れ込んでいるだけで、完全に塞いでる感じでは無かったつもりです。
バラモスを町内に侵入させたのもあり、私としてはあくまでそう見える程度の認識でした。
こちらに関しては今回の話、及び前回の話の描写不足です。申し訳ない。
ウィキ収録後に入口のゴーレムに関しての描写を追記しておきます。
でも出られないとは明記されてなかったわけで
そういうことにしてもいいし、しなくてもいい、程度の但し書きだと思ってた
ゴーレムに塞がれてるだけなら、入り口から出るのに支障はなくて大丈夫だと思う
戦闘中ってわけでもないし
投下乙。今回のパロクイーンはソフィアかw
ハーゴンが独白した2世界の話が面白かった
ロト子孫の病みっぷりにも繋がっていてなるほどなーと
保守
代理投下いきます
しゃらん♪
タンバリンをふりならすたび、ふしぎな音色がまたひとつ。
こちらは竜王の曾孫、ただいま傭兵募集中です。
今日も今日とて、魔王をたおす『ゆうしゃ』を求め、温泉のまわりを歩きます。
だがしかし、ひとえに彼が求める『ゆうしゃ』と申しましても、実にさまざまなものがいらっしゃいます。
たとえば彼が親しくしている(と、思っている)ゆうしゃたち、ロトの子孫三人勢。
彼は伝説などという大きな肩書きを背負うわりに、性格は少々ひっこみじあんであったご様子です。
竜王城に残された文献によれば、彼らの先祖である『ロトの勇者』とは、一部では『らんぼうもの』として名を馳せていたようですし、
その数代先の、彼の先祖である竜王を討ち取った勇者アレフもまた、女好きとして知られていたようです。
伝説にのみ名をのこす彼らのすがたに、竜王の曾孫は、とても興味がおありでした。
叶うものなら、会ってみたいとも。
さて、そんな彼が手にしているのは、先ほども申しましたこちら『ふしぎなタンバリン』でございます。
竜王の曾孫が、どの文献にも目にしたことのないような、文字通りふしぎな力を持った魔法の道具。
鳴らすたびに、素敵な音があたりいちめん響きわたり、人もまものも力がわいてくるという代物なのです。
いっぱんてきには「テンションが上がる」などと言われるようです。
彼は、支給されたこの道具の力が、いずれ勇者の手にわたることを信じていました。
そのため、施設の中を闊歩して、タンバリンを持ち歩き回っていたのです。
おや、噂をすれば、誰かが彼のそばに近づいてきた様子。
「これは、温泉ですの?」
ツインテールをゆらし、竜王の曾孫にあらわれたのは、淑女然とした雰囲気を身にまとった、一人の女の子でした。
だがしかし、長年ゆうしゃを求めていた曾孫はすぐにその姿に気付くのです。
文献に見まごうことのない少女の姿。この舞台にいると、頭では知っていたその存在。
ロトの始祖に名をつらねた、究極の女ぶとうか、リンリンであるということに。
彼は自分の存在に気付いた少女に対して、すぐに声をはり上げました。
「不思議なめぐり合わせもあるものだ。お前のようなものを待ち望んでいた」
「あなたは」
「竜王の曾孫、と呼ばれておる。勇者の子孫とは馴染み深いものよ」
「勇者の……?」
「とおい昔、勇者アレルとともに魔王ゾーマを見事打ち破り、アレフガルドに伝説を残した女ぶとうか、リンリンよ。わしはお前と会ってみたかった」
親しげな声をかけられて、少女は不思議そうな表情で首をかしげます。
「これも、夢なのでしょうか? 私たちのことを知っているなんて……それも、はるか未来の」
「夢? 勇者の一行ともあろうものが、可笑しなことを口にする。その強大な力を持って、魔王を倒そうと考えているのだろう? 伝説であったのと同じようにな」
「魔王? 伝説? ……」
考え込むような表情の少女に、竜王の曾孫は両手をひろげて、声たかだかと言いました。
「お前たちのような者にこそ、託したかった。このタンバリンは強大な力を秘めている。
この力でいっこくも早くデスタムーアを倒してほしい。及ばずながら、力となろう」
夢にまで見た、こんなふうに勇者に依頼するあのシーンに出会えたように、少々こころおどる気持ちで。
「お断りしますわ」
そんなわけで、まさか断られるだなんて、彼は夢にも思わなかったのです。
気付けば、彼の見たものはくるくると空をまわっていて、何が起きたのかよくわからないほどでした。
「魔王を倒す? どうして? そうなれば、この夢も消えてしまうかもしれないのに。
そう……しいて言うなら、魔王は最後。きっと、他にも素晴らしい闘いをわたしにくれる方がいるはずです。
例えば」
彼が叩きつけられた地面は、たった今の衝撃のせいか、地面に大穴があいています。
ゴーレムのような表情で、リンリンは冷たく言い放ちました。
「あなたとか」
その先はおそらく文献にも記されていないことでした。
目の前の少女を含め、彼がどうして勇者と呼ばれていたのかを。
それはひとえに、彼らが「たたかうこと」ただそれだけを望んでいたのに、他ならなかったから。
彼が思っていたゆうしゃとは、少しだけ違っていたのです。
「まったく、私の夢でしょうに、どうしてそんなことを言うのかしら。
そんな、今更すぎることを……」
彼の手をはなれた、あのふしぎなタンバリンもまた、彼といっしょに地面に転がっていました。
「それにしても、ここって本当に温泉なのね……」
先の少女から身を隠れる場所を探すようにして、自然と訪れた施設を見渡しながら、マリベルはやや呆然としてつぶやいた。
同じように、こちらは見覚えのある風景を眺めつつ、テリーはともに行く少女の背に声をかける。
「普通の温泉じゃないけどな。うかつに触るなよ」
「入らないわよ。どう見たって混浴だし」
「そういうことじゃない、慎重に行けと言ってるんだ。中にいい隠れ場所がある」
「どういうこと?」
「行ってみればわかる」
そう言って、彼は広々とした浴場に目を向けた。
はたからはどう見てもただの温泉でしかなかったが、よく調べれば中に洞窟があって、かつてはそこから元の世界に脱出したことを、訪れたテリーは知っている。
相手が同じである上に今回は状況が違うため、同じ脱出口を使えるとは思っていなかったが、なんらかの手がかりは得られるかもしれない。
だが先を行こうとする彼に対して、説明の無いマリベルは、少々憮然とした表情になった。
また騒がれるのも面倒かと、テリーは付け足す。
「姉さんたちと行ったとき、この先に洞窟があったんだ」
「ああ、そういうこと」
そういえば相手はこの世界にいたことがあるのかと、マリベルもやや合点がいった。
それにしても。口数が少ないわけではないが、多くを語らない目の前の相手を、マリベルは振り返る。
「テリーって、お姉さんがいるのね」
「……どうだっていいだろ」
「別に。ちょっと意外なだけ」
やや表情のにぶる青年に気付かず、マリベルはぽつりとこぼした。
「あたしもアルスに会いたいもん」
少女が普段言うのからすると、あまりに素直な一言に、テリーは思わずマリベルの方を見る。
少しはっとして、マリベルは我に返った。
「べ、別にそういう意味じゃないわよ。ただの幼馴染っていうか、こういうのも口癖で、こんな状況だし……」
「なにも言っていない」
冷静な態度をくずさないまま、温泉を検分しているテリーに、同じように座り込みながらマリベルは話しかける。
「どうしていちいちつれないのよ。テリーだってお姉さんに会いたいでしょう?」
「……俺は」
言われて、テリーの態度が瞬間とぎれた。
「俺自身はどうにかなるんだ。あの人は心配しすぎるから……」
「は? なに言ってるのあんた」
「早く行くぞ」
めずらしく明瞭にしないテリーの言葉に、マリベルは首をかしげながらも、結局それ以上の詮索は断言する。
彼の言葉から察するに、温泉に位置された岩場の裏に、おそらくその洞窟があるのだろう。
それにはどうしてもこの温泉に浸からなければならない。テリーが先言っていたことが思い返す。
一見ただの温泉だが、なにか危険があるのだろうか。
そうたずねようとした矢先だった。
響き渡ったのは、爆発音にも似た音だった。
衝撃が余波となって、二人が立っていた脱衣所にまでびりびりと空気を震わせていた。
「何? まさか、さっきのがもう」
「急いだ方がいいらしいな」
言うなり、テリーはマリベルを抱え上げて、そのまま温泉に飛び込んだ。
「きゃあ、ちょっと! いきなり何するのよっ」
「うるさい、いいから行くぞ!」
暴れるマリベルを無理やり連れながら、テリーは混浴の中へとそのまま足を進めていく。
「もう、なんでそうなるのよ! この自己完結男ーっ!」
なかば悲鳴を上げながら、マリベルは必死でテリーの肩にしがみついた。
マリベルはあずかり知らぬことだがこの温泉には特殊な成分があって、つかれば普通の人間は無気力になってしまう。
そのためテリーは自分の消耗もおしてマリベルを湯につからせぬよう抱えているのだが、彼女に言わせればそれも『自己完結』らしい。
(……会いたい、か)
さきの戦闘の疲労に加えてこの温泉で、身体は少しずつ重くなっていく。
流されないようふんばりながら足を進める中で、テリーの頭に浮かぶのはこの世界にいるであろう唯一の家族のことだ。
さきのマリベルのように、会いたいなどと口にする気にはあまりなれない。
むしろ彼女が自分を気にかけるあまり、この世界でよからぬことを考えてはしないか少し心配でもあった。
姉の強さはよくわかっているが、そういう意味で、できるだけ早く合流したいとも思う。
(俺ももう少し、伝える努力をするべきだろうか。姉さん)
なおもわめきつづけるマリベルをはじめ、他の人間がどうなろうと知ったことではなかったが、
姉ミレーユのことだけは、テリーはいくらでも頭を悩ませられた。
それでも、改めるだなんて今更すぎるように思え、踏み出すことができないでいる。
【F-1/ヘルハーブ温泉外周/午前】
【リンリン@DQ3女武闘家】
[状態]:HP消費 ダメージ(中) 腹部に打撲(中)軽度の火傷
[装備]:星降る腕輪@DQ3
[道具]:場所替えの杖[8] 引き寄せの杖[9] 飛び付きの杖[9]
支給品一式×2 (不明支給品0〜1個)
[思考]:竜王の曾孫の慟哭をつく
[備考]:性格はおじょうさま、現状を夢だと思っています。
【竜王の曾孫@DQ2】
[状態]:HP4/5
[装備]:なし
[道具]:銀の竪琴、笛(効果不明)、基本支給品一式
[思考]:誰かにデスタムーアを倒させる リンリンの攻撃に混乱?
※ヘルハーブ温泉外周に、ふしぎなタンバリンが落ちています。
【F-1/ヘルハーブ温泉浴場/午前】
【テリー@DQ6】
[状態]:HP消費 ダメージ(中) 背中に打撲(中) MP消費少 温泉の成分で徐々に体力減少中
[装備]:ホワイトシールド@DQ8
[道具]:支給品一式(不明支給品0〜1)(武器ではない) 盗んだ不明支給品1つ
[思考]:ヘルハーブ温泉内部の洞窟に避難&探索。誰でもいいから合流する。剣が欲しい。
[備考]:職業ははぐれメタル(マスター)
(経験職:バトルマスター・魔法戦士・商人・盗賊 追加)
【マリベル@DQ7】
[状態]:健康 MP微消費 テリーに抱えられている
[装備]:マジカルメイス@DQ8
[道具]:支給品一式 (不明支給品0〜2)
[思考]:キーファに会って文句を言う。ホンダラは割とどうでもいい。 ヘルハーブ温泉内部の洞窟に避難&探索。
代理投下終了
リュウちゃん憐れw
まさか伝説の勇者の一味がただの戦闘狂とは思わないよなw
まあでもリンリンの不意打ち喰らって1/5しかダメージ受けてないのは腐っても竜王というべきか
乙
437 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/05/26(土) 14:30:27.10 ID:2EkxRjAXO
投下乙!
世界を救った勇者の一味に襲われるとか普通考えないwww
リンリンが夢だと思い込んでいるのも性質悪いよなあ……
保守
テリーとマリベルのコンビ好きだわ