もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら18泊目

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1タカハシ ◆2yD2HI9qc.
このスレは「もし目が覚めた時にそこがDQ世界の宿屋だったら」ということを想像して書き込むスレです。
「DQシリーズいずれかの短編/長編」「いずれのDQシリーズでもない短編/長編オリジナル」何でもどうぞ。

・基本ですが「荒らしはスルー」です。
・スレの性質上、スレ進行が滞る事もありますがまったりと待ちましょう。
・荒れそうな話題や続けたい雑談はスレ容量節約のため「避難所」を利用して下さい。
・レス数が1000になる前に500KB制限で落ちやすいので、スレが470KBを超えたら次スレを立てて下さい。
・混乱を防ぐため、書き手の方は名前欄にタイトル(もしくはコテハン)とトリップをつけて下さい。
・物語の続きをアップする場合はアンカー(「>>(半角)+最後に投稿したレス番号(半角数字)」)をつけると読み易くなります。

前スレ「もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら17泊目」
http://kohada.2ch.net/test/read.cgi/ff/1294636197/

PC版まとめ(更新停止)
ttp://ifstory.ifdef.jp/index.html

新まとめ「DQ宿スレ@PC&Mobile」
ttp://dqinn.roiex.net/

避難所「もし目が覚めたら、そこがDQ世界の宿屋だったら」(作品批評、雑談、連絡事項など)
ttp://jbbs.livedoor.jp/game/40919/

ファイルアップローダー
ttp://www.uploader.jp/home/ifdqstory/

お絵かき掲示板
ttp://atpaint.jp/ifdqstory/
2タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2011/12/17(土) 00:02:50.35 ID:KSZRAalY0
落ちて数日経っていたので勝手ながら立てました。
3名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/12/17(土) 00:51:14.89 ID:3tzPhN7w0
スレ立て乙!
そして◆DQ6If4sUjgさんも乙!
4名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/12/17(土) 04:32:55.03 ID:FaoJorGq0
なんかどっかで聞いたような設定だなァ
5 ◆DQ6If4sUjg :2011/12/17(土) 14:38:37.89 ID:pjwL0zlu0
スレ立て乙です!
さっそく投下させて頂きます。
6 ◆DQ6If4sUjg :2011/12/17(土) 14:39:04.64 ID:pjwL0zlu0
前スレ>>358の続きです

「ひゃー!?」

うおぉっ!? 何だ何だ!?
絹を引き裂くような声に飛び起きる。
眠い目を擦りながら辺りを見回すと、ドアのすぐ近くで
婆さんが目を皿にしてこっちを指差しているのを見つけられた。
ジーナ婆さん……だよな。ってことは、下の世界に戻ってこられたのか。

「あんたたち!
泊めたと思ったらいなくなって、いったいどこにいってたのさ!」

腰を抜かしながらジーナ婆さんが叫ぶ。
あ、そうか。上の世界に行く時は体ごと移動しちゃうんだな。

「すみません、お騒がせしてしまって。大丈夫ですか?」

ボッツがベッドから降りて婆さんに歩み寄る。
俺はというと、ボッツの手伝いをするわけでもなく、婆さんの顔をガン見していた。
うーん、確かにあのジーナの面影がある。若い頃は美人だったんだなぁ。

「何じろじろ見てんだい。わしの顔がそんなに面白いかい?」
「あ、いえ。すみません」

とっさに謝ると、やれやれといった風にため息を吐かれた。おお、こわいこわい。
杖とボッツの手を借りながら、婆さんがよっこいせと立ち上がる。それだけでも重労働のようだった。

「ふう、ありがとうよ。あぁそうそう、朝食ができてるよ。
さっさと顔洗って……んん?」

ジーナ婆さんはそこまで言いかけて、
さっきのお返しというわけではないだろうが
俺たちをじろじろと見回し、それから首を傾げた。

「……あれ。いま気がついたけど、あんたたち、わしの夢に出てきた人にそっくりだの。
それに昨日までのあの辛い夢は見なくなったし……。
けど夢と違って、あの人は死に、わしはこの町に住みついたのさ」

そう言って寂しそうに首を振る婆さんの言葉に、俺はずんと胸を突かれた。

ああ、そうか。
そうだよ、上の世界はあくまで夢なんだ。
あのイリアとジーナは幸せになったかもしれないけど、
婆さんから見れば、恋人を失ってしまったという現実は変わらない。
ジーナ婆さんのイリアは帰ってこないんだ。
……俺たちのやったことに意味はあったんだろうか?

「おや?ところであんたが持ってるそのリング。
わしが若いころなくしたリングによく似ているねえ」

婆さんが隣に立つボッツの手を取り、
その指にはめられた指輪をまじまじと見つめた。
いやこれは、と弁明しようとするも口ごもるボッツに構わず、
婆さんは眉をしかめて凝視し続けたが、やがて顔を上げた。

「さて? 誰かにあげたんだったか……。
いやだよ。もうろくはしたくないものだねえ。ほっほっほ

陽気に笑うジーナ婆さんに、俺たちは曖昧な笑みを返すことしかできなかった。
7 ◆DQ6If4sUjg :2011/12/17(土) 14:39:46.25 ID:pjwL0zlu0

さあどうしたもんかと考え始めたその時、がちゃりと扉が開いた。
ノックもなしに無礼な、と思ったのかどうかはわからないが、
婆さんは睨めつけるように振り返った。

「ごめんくださいよ。ここにジーナさんという……」

扉を開けたのはよぼよぼの爺さんだった。
渋い緑色の服を着て、婆さんと同じように杖をついている。
年齢はよくわからないが、婆さんと同じくらいだろう。多分。
ジーナ婆さんは扉のすぐそこに立っていたので、爺さんから見ると、
部屋に入ってばったり出くわす形になった。
みるみる間に爺さんの目が大きく見開かれ、なぜだか表情が喜色に染め上げられていく。

……あれ?何だろう。おかしいな。俺はあの爺さんとは初対面のはずだ。
なのにどうして、爺さんの笑顔に既視感を覚えるんだろう?

「ジーナ? ジーナだね!」
「誰だいあんた?」

突然現れた人間に呼び捨てにされたからか婆さんの声は刺々しい。
俺の位置からだと表情は見えないが、きっとじろりと睨みつけているんだろう。
しかしそれに気圧されるばかりか、爺さんは顔をくしゃくしゃにして喜んでみせた。

「おおっ、おおっ。しわくちゃでもよくわかる。やっぱりジーナだ!
わし……いやっ、オレだ! イリアだよ、ジーナ!」



         ナ ゝ   ナ ゝ /    十_"    ー;=‐         |! |!
          cト    cト /^、_ノ  | 、.__ つ  (.__    ̄ ̄ ̄ ̄   ・ ・

            ,. -─- 、._               ,. -─v─- 、._     _
            ,. ‐'´      `‐、        __, ‐'´           ヽ, ‐''´~   `´ ̄`‐、
       /           ヽ、_/)ノ   ≦         ヽ‐'´            `‐、
      /     / ̄~`'''‐- 、.._   ノ   ≦         ≦               ヽ
      i.    /          ̄l 7    1  イ/l/|ヘ ヽヘ ≦   , ,ヘ 、           i
      ,!ヘ. / ‐- 、._   u    |/      l |/ ! ! | ヾ ヾ ヽ_、l イ/l/|/ヽlヘト、      │
.      |〃、!ミ:   -─ゝ、    __ .l         レ二ヽ、 、__∠´_ |/ | ! |  | ヾ ヾヘト、    l
      !_ヒ;    L(.:)_ `ー'"〈:)_,` /       riヽ_(:)_i  '_(:)_/ ! ‐;-、   、__,._-─‐ヽ. ,.-'、
      /`゙i u       ´    ヽ  !        !{   ,!   `   ( } ' (:)〉  ´(.:)`i    |//ニ !
    _/:::::::!             ,,..ゝ!       ゙!   ヽ '      .゙!  7     ̄    | トy'/
_,,. -‐ヘ::::::::::::::ヽ、    r'´~`''‐、  /        !、  ‐=ニ⊃    /!  `ヽ"    u    ;-‐i´
 !    \::::::::::::::ヽ   `ー─ ' /             ヽ  ‐-   / ヽ  ` ̄二)      /ヽト、
 i、     \:::::::::::::::..、  ~" /             ヽ.___,./  //ヽ、 ー
8 ◆DQ6If4sUjg :2011/12/17(土) 14:40:27.68 ID:pjwL0zlu0

「イ、イリア!? あんた生きてたのかい? ほんとにイリアかい?」
「おうともよ! このオレがそうカンタンにくたばるかってんだ!」

ああ、その台詞は間違いなく。
それに印象的なあの笑顔。

「イリア!」
「ジーナ!」

杖が彼女の手から滑り落ち、がらん、と鳴る。
婆さんと爺さんはどちらともなく駆け寄り、抱擁を交わした。
そのままキスまでしてしまいそうな勢いだ。

「ホントはこの町に寄る気はなかったんだが、おかしな夢を見てな……」
「そうかい……。あんたも夢を……。ちょっと待っておくれよ」

夢? ジーナ婆さんと同じ夢だろうか?
婆さんは俺たちの方を振り返り、首から提げていたペンダントを外すと、
鎖ごとボッツに手渡した。途端にボッツが目を張り、
慌てて視線を婆さんと手の中のペンダントの間を往復させ始める。
いつもは凛々しい眉が今では困ったように八の字だ。

「あんたたち、これが必要なんだろ?
これがカガミのカギさ。さあ、持っておいき」
「ジーナさ―――」

何か言いかけるボッツを押し留め、婆さんは静かにかぶりを振った。
その手はイリア爺さんの手をしっかりと握っている。

「私にはイリアが戻ってきてくれた。もう形見はいらないのさ」

そう言って笑うジーナ婆さんは、
すっかり全部の荷物を下ろしたかのように穏やかだった。
9 ◆DQ6If4sUjg :2011/12/17(土) 14:41:26.03 ID:pjwL0zlu0

教会の人たちに世話になったと告げ、
道具屋で準備を整えた後、俺たちはアモールの町を発った。
月鏡の塔に向かうためだ。

(私を夢から救ってくれたのもきっとあんたたちだね。
ありがとうよ。世話になったね。気をつけてゆくんだよ。
そのカギをつかえば月鏡の塔に入れる。
もし伝説が本当なら、そこにはラーの鏡というすごいお宝があるはずさ)

(もう少し若かったら、オレたちが行きたいところだがな。
オレたちの時代は終わった。今度はお前さんたちの番だ。気をつけていきなよ)

二人の言葉を思い出しながら、俺は黙々と歩を進める。

―――奇跡、とでも言うのだろうか。
俺たちが夢の世界でイリアを助けたことで、
現実のイリアはその夢に導かれるようにアモールの町を訪れ、
ジーナと再会を果たすことができた。
夢も現実世界に影響を与えることができるのだ。
俺たちのしたことは無駄じゃなかったんだ!
って言っても、俺はただボッツたちについていっただけだから、
正しくは“ボッツたちのしたことは”、なんだけどさ。

ため息が漏れる。
自分の無力さを痛感させられるわ、色々とグロいもの見せられるわ、
もう俺の人生どうなっちゃってんの?
赤がトラウマになりそうです。

「おい、何しょげてんだ? めでたいことが続いたってのによ」

人知れず卑屈になっていた俺の背中を、ハッサンがばんばんと叩いてきた。
やめて、朝食が出そうになるからマジやめて。

「いや……俺、何もできなかったし」
「何言ってんだ。イリアの手当てをしたのはお前だろ?」
「それはそうだけど、ミレーユに言われなかったらそれもできなかっただろうし……」
「タイチ。私、貴方は目の前で傷ついている人を見捨てられるような人じゃないと思うわ。
きっと誰に言われずとも、手当てしてくれていたんじゃないかしら」

ミレーユがわざわざ振り返ってそんなことを言ってくれる。
しかも優しい微笑み付きなもんだから、
俺の心臓はゴムボールのように勢いよく跳ねるはめになった。
やっべえ超不意打ち。もうこれだけでしばらく頑張れるわ。

「それにしても、ジーナさんたち、本当に仲が良かったわね」
「ああ。再会を手伝うことができて良かったよ」
10 ◆DQ6If4sUjg :2011/12/17(土) 14:42:38.84 ID:pjwL0zlu0

先頭でファルシオンの手綱を牽いていたボッツも振り返る。
そうだな、あの洞窟で生き別れたっきり何十年も会えなかった上に、
ジーナ婆さんは恋人を自分の手にかけてしまったと思ってたんだ。
これから思う存分イチャイチャするんだろうなぁ。
まあ、老人ができるイチャイチャなんて限られてるけど、うん。
そのへん追求するのは野暮ってもんだな。

「でもよお。あの爺さんたち、伴侶は取らなかったのかね。
ジーナ婆さんなんてずうっと教会で下働きしてたらしいじゃねえか」
「馬鹿だなハッサン、それだけお互いを思い合ってたってことだろ。愛だよ、あ……」

俺が急に口を半開きにしたまま固まってしまったため、
三人が不思議そうに、あるいは心配そうに顔を覗き込んできた。
慌てて「何でもない」と弁解すると、とりあえずは納得したのか、三人は雑談に戻っていった。

どこかで聞いたことあると思ったら。
足を止め、すっかり小さくなってしまった町を振り返る。

―――アモール。スペインだかポルトガルだかで、“愛”って意味の言葉じゃないか。
これ以上ないくらい、あの町にぴったりな名前。
当てはまりすぎててちょっと怖いくらいだ。
何か俺の世界と関係あるんだろうか……? まあ何故か言葉が通じるくらいだし、なあ。
いいや面倒臭い、これ以上止まってると置いていかれちまう。
とっとと行こ―――ぐほおっ!?

「タイチてめえ、言うに事欠いて馬鹿とは何だ!」
「苦しい苦しい! いや、気づくの遅すぎね!?」
「なんだとお!」

ちょ、やめて絞めないで! ギブギブ!
完璧に絞めに来てるハッサンの腕に必死にタップするが、
じゃれてると思われてるのか猛攻はまったく弱まらない。

お願いだから気付いてハッサン!
人間が猛獣にじゃれられると大怪我するように、
お前の腕も冗談で人を絞めてもいいようにはできてね……え……。

「!! ハッサン、やりすぎよ!」
「え? あっ!」
「タ、タイチー!!」

呼びかけたり頬を叩いたり体を揺さぶったりと、
みんなの健闘とは裏原に、俺の意識は闇の中へと真っ逆さまに落ちていく。

ああ……目が覚めたら、ミレーユの膝枕の上だったらいい……なぁ……。

ぐふっ。



タイチ
レベル:5
HP:1/32
MP:13/13
装備:ブロンズナイフ
    くさりかたびら
    けがわのフード
特技:とびかかり
11 ◆DQ6If4sUjg :2011/12/17(土) 14:44:11.18 ID:pjwL0zlu0
アモールやっと終わった!
ちょっと長くなりすぎたので、次回からはテンポ良くを目指します。
12名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/12/18(日) 00:09:14.59 ID:eIY6Kmwt0
おつ。
今回も面白かったよ。
実際のゲームでは伝えきれない、
細かい描写がほんと好きだわ。

ハッサンとのやりとりも相変わらずだしw

今回みたいなフリも楽しみだなぁ。
13名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/12/18(日) 18:06:02.11 ID:IpeEaoEU0
乙!
ええシーンや
14 ◆DQ6If4sUjg :2011/12/19(月) 21:34:05.88 ID:33is4wf20
>>6の続きです。

「ここが月鏡の塔か……」

みんな揃って塔を見上げるので、俺もそれに倣ってみる。
建築には詳しくないけど、しっかりと煉瓦が組まれてるし、頑丈って感じがするな。
天を突かんがばかり、というほどじゃないが、そこそこの高さだ。軽く五階はあるだろうか。
塔の外見は大雑把に言えば凹状になっていて、
その真ん中に……おい、なんか部屋がまるまる一個浮いてるぞ。いったいどうなってんだ。
何か四方から電撃みたいなのが走ってるけど、あれが支えてるのか?

「タイチ、お前の世界にある“ビル”って建物もこんな感じなのか?」

いや〜……もっと高いものもあるかな。あと部屋浮いてないし。

「この塔より高いのか!? っはぁ〜……」

呆れてるのか感心してるのかよくわからない声出すなよ。
反応に困っちゃうだろうが。

なんでハッサンがビルのことなんか知ってるのかというと、まあ答えはひとつしかない。
ここに来るまでの間、話の物種にと俺の世界について色々話してみたのだ。
ただ、電気やガスについての説明はどうにも難しい。
俺の世界の人間は魔法が使えない代わりに、
自然の力を応用するのが上手い、みたいなよくわからない説明しかできなかった。
ああでも、みんな興味津々で聞いてくれたのは嬉しかったな。
ただ、なんでかハッサンは建物の話しになると、ちょいちょい質問してきては
「か、勘違いしないでよねっ!別に建物になんか、全然まったく興味ないんだから!」
みたいな態度を取るんだよなぁ。モヒカンマッチョのツンデレとか誰得だよと言ってやりたい。多分通じないけど。

まあそれは置いといて。
固く閉ざされた扉にカギを差し入れ、そのままくるりと回す。
小さく錠が下りた音がした。
カギを抜き、そのまま取っ手を引いてみると、
大きな扉はそれまで黙り込んでいたのが嘘のように、あっさりと開いていった。

「この奥にラーの鏡が……。よし、行こう!」

少なくとも二十年以上侵入者はいなかったはずなのに、
塔の中は意外と埃っぽくなかった。
部屋の隅に蜘蛛の巣が張ってるくらいだ。
てっきり山のように積もってるものかと思ってたんだけど。
ってことは、つまり……。

「魔物が巣くっているかもしれないわね」
「へへっ、そうこなくっちゃ。あっさり手に入ってもつまんねえしな。なあ、タイチ?」

同意を求めてくるハッサンに、俺は「もちろんだ」と応えてみせた。
もちろん強がりだ。
何十年ぶりかの来客を、格好の獲物を、魔物たちは張り切って出迎えてくれるだろう。
髪の毛ひとつ残さず食い尽くそうと襲いかかってくるに違いない。
そう、手加減なんかしてくれるわけがないのだ。
……正直言うと、ラーの鏡とかどうでもいいから今すぐ帰りたいです。
なんで鏡が魔王倒すのに必要なんだよ。鏡が弱点なの?
実はすっげえ不細工なのに美形だと思い込んでて、
それを自覚させて憤死させる狙いなの?
ああもう、めちゃくちゃ怖い。
15 ◆DQ6If4sUjg :2011/12/19(月) 21:34:51.71 ID:33is4wf20

月鏡の塔という名前に因んでるのか、
入って角を曲がったところの壁が、なんと鏡張りになっていた。
五メートルはあろうかという大きな鏡がそれぞれ柱を挟んで並んでいる。
うっへえ、ラブホ顔負けだなこりゃ。

降りる階段が二つあったのでさっそく下に行ってみたはいいが、
ひとつは宝箱(鉄の胸当てだった)、もうひとつは行き止まり。
隠し扉がないかと壁を叩いてみたりもしたけれど、
進めそうなところはまったく見当たらなかった。

ざんねん!! おれたちのぼうけんは これで(ry

……なんて馬鹿言ってる場合じゃない。
使い道はよくわからないけど、俺たちにはラーの鏡が必要なんだ。
壁ぶっ壊してでも進まないと……。
それにしても、よくもまあこんなでっかい鏡用意したよなあ。
量産に成功してる俺の世界でも全身を映せる姿見は一万円くらいはするってのに。
どこの誰が建てたかは知らんが、
設置にはむちゃくちゃ金かかったんだろうことが容易に推測できる。
魔王倒せちゃう鏡だもんな、金かけるのもわからなくはない……か?
鏡越しに頭を悩ませてるボッツ、ハッサン、ミレーユが見える。
ちなみに立ち位置は、


|  鏡  |  鏡  |  鏡  |  鏡  |
 ボ
                俺
         ミ                 階段
    ハ


といった感じだ。
いやー、こうして並んで見ると、ほんと俺浮いてるわ。何この醤油顔、ふざけてるの?

「みんな、ちょっと来てくれ!」

全員がボッツの調べていた鏡の前に集まる。隠し扉でも見つけたんだろうか?

「この鏡、何か変じゃないか?」
「変って?」
「いや、どこがどう、とは言えないんだけど……」

困った顔で言い淀む。そう言われてもこっちが困るって。

……ん? あ、あれ?
俺は信じられない思いで目の前の鏡に手を伸ばした。
ほどなく鏡に届いたが、鏡の向こうにいるはずの自分と、指と指が触れ合うことはなかった。
鏡に映っているのは、ボッツ、ハッサン、ミレーユと、そして塔の内装。
……そこにあるはずの、俺の姿が、ない。
思わず右隣の鏡の前に駆け込めば、
日本人特有の掘りの浅い顔が視界に飛び込んできた。俺だ。

なんだこれ、いったいどうなってんだ?
「悪いな太一、この鏡三人用なんだ」ってか?
16 ◆DQ6If4sUjg :2011/12/19(月) 21:35:54.54 ID:33is4wf20

「どうやらこの鏡が鍵を握っているようね」
「行き止まりなだけに? なるほど、なかなか上手いこと言うな」
「そ、そうかしら? そんな上手くはないと思うけど……」
「この中に隠し部屋があるのかもしれないな。よし、調べてみるか」

ボッツが鏡の中の自分の顔をコンコンと叩いた。
ハッサンとミレーユのやりとりはスルーですか。
……ん? 今、鏡の中のボッツが仰け反ったような……。

「くっ! このまま大人しく引き返せばよいものを」

うわっ、喋った!?

「ばれては仕方がない! ここから先へは進ませぬぞっ!」

鏡の中のボッツ、ハッサン、ミレーユの表情が一変した。
本人とは似ても似つかない凶悪な顔つきだ。

「進ませぬぞっ!」だってえ?そんな勇ましく言ったって、
鏡を壊してしまえばこっちのも、の……おおぉぉおおおおぉぉぉぉぉ!!?

 *ポイズンゾンビが あらわれた!

な、な、なんじゃこりゃあああああ!!
鏡から腕が生えて、ボッツの顔が鷲掴まれてるうううぅぅぅううう!?
紫色な上に、今にも腐り落ちそうなほどドロドロなその腕からはひどい腐臭が漂っている。

「ボッツ!」

ああっと、ボッツくんふっとばされたー!

「ちくしょう、こいつら!」

ハッサンの声にはっと振り返る。
ガッツが足りなかったボッツに気を取られている間に、
どうやらこちら側へ侵入を許してしまったようだ。
既に目の前には土気色の髪、紫色の肌をした三匹の化け物が迫っていた。
なるほど、こいつらが鏡の中で化けてたのか。
ふふん、惜しかったな。あと一匹いれば誤魔化せたかもしれなかったのに。
って、あ! こいつらアレか、まさかゾンビってやつか?
うわー、ジルやクリスたちはこんな化け物と戦ってたのか。
口がきけるぶん、こっちのゾンビの方が賢いみたいだけど。

「みんな! そいつらの後ろ……!」

何とか起き上がったボッツが叫ぶ。
その声に従い、ゾンビたちの後ろをよく見れば、
なんと、いつの間にかあれだけ大きかった鏡が消え失せていた。
その先には通路が広がっている。これは、つまり……。

「こいつらを倒せばいいってわけだな。いいね、実に単純明快だ」
「腐臭に混じって毒の臭いがするわ……。気をつけて行きましょう」

ハッサンがポキポキと指を鳴らし、ミレーユが構える。
後ろで金属の擦れる音がした。ボッツが剣を抜いたのだろう。
すー、はー。深呼吸をひとつ。臭いが我慢だ。
それに合わせるように、俺はゆっくりと、腰に携えていたブロンズナイフを抜いた。
17 ◆DQ6If4sUjg :2011/12/19(月) 21:36:45.85 ID:33is4wf20

怖い。恐ろしい。毒があるって?
いったいどんな毒なんだ。即効性だったりしないよな?
あいつらに噛まれたら俺もゾンビになっちゃうんじゃないか。
うっかりどこかを掴まれて、そこから溶けてぐずぐずになったりしたら。
ああ嫌だ、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。恐怖で押し潰されてしまいそうだ。

――――なのに、どうしたことだろう。
胸が躍る。口元が緩むのを止められない。
血が沸々と煮えたぎり、全身の体温が上昇していくのがわかる。
体がわずかに震えていたが、それが恐怖からのものではないことは明白だった。

「マヌーサ!」

マヌーサ。確か、敵をまぼろしに包んでしまう呪文だったっけ。
ひとたび効いてしまえば、まぼろしに気を取られている敵を
一方的に攻撃できるという、なかなか凶悪な呪文だ。
ゾンビたちの眼前に霧がかかっていく。
効いたのは一匹だけだったようだけれど、それでも十分だ。

「タイチ! マヌーサがかかった奴は任せた……ぞっ!」

振り回される腕の群れを、
銅の剣でいなしながらボッツが言う。
以前の俺ならそれだけで怯んでしまいそうな台詞だ。

けれど、今なら言える。
強がりでも虚勢でもなく、心から。

「ああ、俺に任せろ!」

俺の啖呵を聞いていたかは知らないが、
マヌーサがかかったゾンビが頼りない足取りながらもこっちに突っ込んできた。
素早い! ゾンビのくせに生意気だ!
まぼろしの霧に包まれながらも俺の位置はわかるらしい。
腐っても魔物ってことか。

さあ、行くぞ。
両手で武器を握り、体の向きは相手に対してやや斜め。
脇は締めて、大きく足を開く。そのとき片足は必ず一歩後ろに。
……大丈夫だ、身体が覚えてる。

ゾンビが大きく腕を振り上げる。よくよく見れば爪は獣のように鋭く、
人間の柔らかい肉なんか容易く切り裂けてしまいそうだった。
馬鹿! 怯むな、俺! 思わず逃げ腰になってしまう自分を叱咤する。
一瞬でもあいつから目を離したら死ぬと思え。
喉笛を震わせながら振り下ろされた五本の指爪は、俺の頬を掠めつつも、空を切った。
まぼろしの俺を切り裂いてしまったゾンビはその手応えのなさにバランスを崩す。
背中がガラ空きだ!

「うおおおおおおおっ!!」
18 ◆DQ6If4sUjg :2011/12/19(月) 21:38:21.29 ID:33is4wf20

「脇が開いてる!肩も上がってるぞ、力みすぎるな!」
「オス!」
「片足は必ず後ろだ。軸足を意識しろ!」
「オス!!」

月鏡の塔に到着する二週間ほど前のことだ。
ハッサンに絞め落とされた後、三人の間で何かしらの会議が行われ、
その結果、しばらく俺を心身ともに鍛えることが決定したらしい。
目が覚めるとこれまた知らない天井で、
しかも知らない婆さんが顔を覗き込んできたもんだから、
年甲斐にもなく大騒ぎしてしまった。
まあ婆さんが杖で小突いてくれたおかげで、すぐ落ち着けたけど。コブができたぜチクショウ。

婆さんの名前はグランマーズ。
名前っつーか、そう呼ばれているらしい。
が、普通に呼ぶには長いためか、ハッサンは婆さんと呼んでいるようだ。
グランマーズは高名な夢占い師であり、ミレーユはボッツたちと出会うまで、
グランマーズの元で夢占い師の修行を受けていたとか何とか。
そこに半透明になったボッツたちと出会い、
一緒に旅をすることになったとのことだった。
しかし、ボッツとハッサンによれば、ミレーユは初対面にも関わらず、
こっちのことを最初から知ってるような態度だったらしい。
居場所等はグランマーズの占いで知ったようだが、それにしても引っかかる部分が多いとか。
うーん、ミステリアス。

「隙あり!」
「おわっ!?」

バランスが足元から崩されて、俺の体は情けなくも尻から転倒した。
足払いに引っ掛かるとかないわー……いててて。
痛みに気を取られてる間に、空を切る音とそよ風が耳と頬を撫でた。
はっと目を開けると、俺の顔のど真ん中に木の棒を突き付けているボッツの姿。
くそ〜、また負けた!

ご覧の通り全然敵わなかったわけだが、
平和ボケした日本人には魔王討伐なんて向いてないんじゃないだろうか。
当たり前だけど、ただ型をやるより実戦の方がずっと難しい。
覚えた型を意識しつつ、相手のどこを攻撃したらいいかとか
考えながら動かなきゃいけないとかマジ無理ゲー。
だからって、ここで諦めたら置いていかれること間違い無し。
グランマーズと二人暮らしなんてまっぴらごめんだ。

あ、そうそう。占いと言えば、せっかくなのでどうしたら
元の世界に戻れるのか占ってもらった。
魔王を倒せば戻れる、なんて俺の直感と推測でしかない。
そんなのお約束な展開よりも、もっと楽な方法があるかもしれないじゃないか。
それで先生、どうなんですか!? うちの子は助かるんですか!?

「魔王を倒せば自ずと道は開ける……と出ておるぞ」

うん、お約束って大事だよね☆
19 ◆DQ6If4sUjg :2011/12/19(月) 21:39:07.98 ID:33is4wf20

そうして淡い希望を打ち砕かれたり、つら〜い修行を積んだりして、
二週間後、俺たちはやっとこさ月鏡の塔へとたどり着いたというわけだ。
「俺なんかのために魔王をほっといていいのか?」と尋ねると、
「確実に討伐するためだから」という答えが返ってきた。
確かに一理ある……が、申し訳ない気持ちになったのは言うまでもない。
その分修行には真剣に取り組ませていただいた。
たぶん俺の二十一年間で一番身を入れた出来事だったんじゃないだろうか。
この世界のため、ひいては自分が元の世界に帰るためなんだから、
一心不乱にならんでどうするって話なんだけど、さ。

眼前の敵めがけて、ブロンズナイフを振り上げる。
刃はゾンビの背中を下から上に撫でるように、しかし確実に切り裂いた。
一瞬遅れて緑色の体液が吹き出したが、そんなのにいちいち怯んではいられない。
返す刀で右肩の付け根を突き刺してやると、ゾンビは声にならない悲鳴を上げた。
よし、いける!この調子で……。

「この、人間風情がっ……調子に乗りおってえぇぇ!」

ゾンビがそう言い放った次の瞬間、
ナイフが手からすっぽ抜けたかと思うと、俺の足は地から離れていた。
や、や、やばい。顔ごと鷲掴まれた上に持ち上げられてるううううう!?
爪が頭とかに食い込んで超痛いんですけど!
それに腐臭と、何とも言い難い臭い―――ミレーユの言葉を借りれば、毒の臭いってやつだろうか―――が
混じったものがダイレクトに伝わってくる。鼻が曲がりそうだ。
後で食べよう後で食べようと思って、うっかり冷蔵庫の中で
腐らせてしまったサンマが思い出されるぜ。
あれはもったいなかったなぁ……。

って、そんなこと考えてる場合じゃねえええ!!
てめっ、離せこの野郎!触感どろどろしててキモいんだよ!

「よくもやってくれたな……最高の毒をプレゼントしてやるわい」

ゾンビは腐って崩れた顔で器用に笑ったかと思うと、
口を貝のように閉じ、頬をぷくうっと膨らませた。
ちょっ、これマジでやばいんじゃないか!? 離せっ、離せっつーの!
必死にもがいてみるが奴の腕はびくともしない。
腐ってるくせに人間並みに頑丈っておかしいだろ!
色々間違ってるよこのゾンビ!
抵抗する俺をあざ笑うように、無情にもゾンビの口は開かれていく。
いやに鮮やかな紫色の気体が俺めがけて吹きかけられ、俺の視界は紫一色に染められた。

――――紫色の気体がすっかり消えた頃、俺の身体は床に投げ出されていた。

「!! タイチーっ!!」
「ちくしょう! てめえら、どきやがれっ!!」
「どうじゃ、わしの毒は。人間の身にはさぞかしつらかろう」
「っせえ……ぜんっぜん、へいきら、っつの……」

平気なわけがない。
胸が焼けつくようだ。吐き気がする。
頭がくらくらして、立ち上がろうと足に力を入れようとしても言うことを聞かない。
舌が痺れてろれつが回らねえ。
20 ◆DQ6If4sUjg :2011/12/19(月) 21:40:24.48 ID:33is4wf20

「ふん、強がりを。まあよい、久々の獲物じゃ。
喰う前にちょいと弄ばせてもらおうかの」

ゾンビはそう言うと、憎々しげに右肩のナイフを抜き、後ろへと投げ捨てた。
床を転がる乾いた音が無情に響く。
声や物音から察するに、ボッツたちは他のゾンビどもの相手に手一杯のようだ。
つまり、助けは望めない。自分で何とかしないといけないんだ。
壁際までいけば、なんとか身体を起こすことができる……かもしれない。
俺は鉛のように重い腕を何とか動かし、
出来損ないのほふく前進で身体を運び始めた。

「おやおや、下手に動くと毒の回りが早くなるぞ?」

うるせえ、このドSゾンビ。
そう言われるとさっきよりも苦しくなってくるような気がしちゃうだろうが。
だけど、身体を起こせたところでどうする?
この状況を打破するには、いったいどうすればいい?
ナイフはあいつの背後、身体はろくに動いてくれやしない。
めまいがひどいけど、意識は考えごとができるくらいにはハッキリしている。
……ぐ、まずい。うまく呼吸できなくなってきた。
犬のように浅い呼吸になってしまう。
もうこうなったら、少しでも遠くへ逃げて時間を稼いで、
ボッツたちの助けを待つしか――――ぐえっ!?

「てめえっ……何、しやが……!」

地面を這う俺の背中にゾンビの足がめり込んでいる。
これじゃ、動くことすらままならないじゃねえか。
くそ、身体を押し潰される感覚が気持ち悪い。
ただでさえ呼吸しづらいっていうのに。
不服を唱える俺にゾンビは応えず、
ただ、ところどころ抜け落ちた歯列を見せて笑うのみだった。
あ、しっかり牙もあるのね。

「ぐっ!」

足をどけられたかと思うと、
蹴られた勢いで仰向けにさせられた。
今度は胸、ちょうど肺のあたりに足が押しつけられる。息、が……!

ぐりぐりと圧迫してくる足を何とか押し返そうとするが、
本格的に毒が回ってきたのか、ほとんど身体に力が入ってくれない。
今の俺じゃ、腕を上げることすら重労働だろう。

「まったく、マヌーサなどと小賢しい真似を。
貴様を殺した後、あの娘も嬲り殺しにしてやるわ」
「……ミ、レーユを……?」
「まだ喋る気力が残っていたか。
そうよ、あのような美しい娘にはなかなか出会えぬからな。
たっぷり遊んでやった後、大切に大切に躍り食いしてやろうぞ」

下卑た笑い声が上から降ってくる。
耳障りなその声に、鈍りはじめていた思考が冴えていくように感じた。
再び血が煮えたぎるようなあの感覚が戻ってくる。
けれど、それはさっきのような、自分の力を試せる高揚感からなんかじゃない。
21 ◆DQ6If4sUjg :2011/12/19(月) 21:43:13.76 ID:33is4wf20

「あの人に、手ぇ、出すな……絶対、指一本触れさせ……うっ!」
「ろくに動けぬ身体でよくもそんなことが言えたものよ。
しかし、ずいぶんと毒の回りが早いのう」

またもや持ち上げられる。
けれど今度は顔ではなく、首を掴まれていた。
苦しい。
息が。

「脆いものだ。加減を間違えたか、それとも貴様が弱いのか」

――――今、なんつった。

「もうよい、飽きた。死ぬが――――」
「…………えよ……」
「うん?」
「俺は……弱く、ねえ……!!」

ボッツが稽古つけてくれた俺を!
ハッサンがアドバイスしてくれた俺を!
ミレーユが呪文を教えてくれた俺を!

脆いとか、弱いとか、言うんじゃねええええええええええええええ!!!!

俺は痺れ始めていた腕を死ぬ気で掲げ、
手のひらをゾンビの首元めがけて突き出し、
あらん限りの声で叫んだ。

「ギラ!!!」

閃耀が走る。
帯状の炎がゾンビの首から上を包み込み、燃やし尽くさんと飲み込んでいく。
今にも首の骨を砕こうとしていた腕の束縛は
あっさりと解け、俺はどしゃりと硬い床へ墜落した。
ゾンビは塔のてっぺんにまで届くんじゃないかという絶叫をあげながら、
燃え上がる自分の顔を掻きむしる。
腐敗した肉体はよく燃えるのかは知らないが、
当然のごとく腕に燃え移り、更に苦痛を味わうこととなった。

霞む視界の中、頭と腕を失ったゾンビが崩れ落ち、
しばらくのたうち回った後に動かなくなったのが見えた。

へへっ、アンデッドが炎に弱いってのはお約束だよ、な……。


 *ポイズンゾンビを やっつけた!



タイチ
レベル:9(修行の成果)
HP:4/71
MP:20/24
装備:ブロンズナイフ
くさりかたびら
    けがわのフード
特技:とびかかり
22 ◆DQ6If4sUjg :2011/12/19(月) 22:00:53.01 ID:33is4wf20
なぜか120分制限が無くなりました。忍法帖がレベルアップしたのかな?

>>12
ありがとうございます!
細かすぎて助長になってないかちょっと心配です。
ハッサン動かしやすくて、気をつけないと他の二人が空気になりがちですw

>>13
ありがとうございます!
アモールのイベントいいですよね〜。
23 ◆DQ6If4sUjg :2011/12/19(月) 23:36:09.64 ID:33is4wf20
>>18の場面転換がすごいわかりづらかったので、
保管庫の方で加筆しておきました。
「ここどうなってんの?」という方は一読して頂ければ。
投下したのよりはわかりやすくなってる……はず。
24名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/12/20(火) 02:19:01.76 ID:xgLoxLlv0
乙!
タイチの成長の仕方がリアルでいいね
25名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/12/20(火) 18:34:27.31 ID:+dk3bGrP0
おつおつ!
26名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/12/22(木) 02:40:53.50 ID:EEAM3ZxU0
ほしゅ!
27 ◆DQ6If4sUjg :2011/12/22(木) 18:47:32.20 ID:sdb/QWou0
>>14の続きです。


意識が朦朧とする。指一本動かせない。
糸が切れた操り人形のよう、っていうのはこういうことを言うんだろうか。

俺は今、どこにいるんだ?
俺は今、目を開けてるのか?
俺は今、目を閉じてるのか?
俺は今、呼吸をしてるのか?

どこか遠くから音が聞こえてくる。どうやら聴覚は正常らしい。
ばたばたばた、と何かがなだれ込むような音がした後、
更に騒がしい、色とりどりの音が耳を刺激した。
肩のあたりを強く掴まれ、揺さぶられているのがわかる。
何だよ、もう。うるさいな……。

「おい、生きてるか!?」
「ミレーユ!」
「わかってるわ! キアリー! ベホイミ!」
「起きろ、タイチ!!」

あ―――?

「タイチ! よかった……」
「あぁ、おれ……、……ありゃ」

起き上がろうとするが上手くいかない。
二度目を試みようとしたところでミレーユが手を貸してくれ、
壁に背中を預ける形で身体を起こすことができた。
あの身体全部を蝕むような感覚が消えている。
両手を開いたり閉じたりするのに合わせて、
むーすぅんーでーひーらーいぃて、と口ずさんでみた。
まったく問題ない。
どうなってんだ……? さっきまであんなに苦しかったのに。

「キアリーよ。解毒の呪文」

ああ、そういえば……グランマーズの家で修行してた時に、
そういう呪文があるって教えてもらったっけ。便利な呪文もあるもんだ。
と、不意にミレーユが後ろを振り返った。
俺も釣られてそちらに目をやるが、そこには動かなくなったゾンビたち以外、何もいない。

「ミレーユ? どうしたんだ?」
「……いいえ、何でもないわ」

何だろう……まあいいか。

ああ、解毒の呪文かぁ。
俺の世界にもあれば、せっかくうまいもん食ったのに死んじゃう人もぐっと減るだろうに。
ほらあれ、なんだっけ。フグ……そう、フグ鯨とかさ。
あれ食うためなら死んでもいいって人いるみたいだし。
って、違う。あれは漫画の中の食い物じゃないか。

……俺、まだぼうっとしてるな。
霧を振り払うように頭を振ってみる。
晴れない。
決してミレーユを疑うわけじゃないけど、まだ毒が残ってるんじゃないだろうか。
28 ◆DQ6If4sUjg :2011/12/22(木) 18:47:51.54 ID:sdb/QWou0

「実は俺もあいつらの猛毒喰らっちまったんだけどよ。
まあ確かに苦しいし、体力削られたんだが……。
タイチみたいにいきなりぶっ倒れるとまではいかなかったんだよな」

同じ毒を受けたのに? この違いは何だ。アレルギー反応とかいうやつだろうか。

「考えられるとしたら……そうだな、タイチは別の世界から来ただろ?
だから俺たちと違って、耐性がないのかもしれない」
「……何度か喰らえば、俺も耐性つくかな?」
「だめよ、そんなことしちゃ。危ないわ」
「ま、毒なんて受けなきゃいい話さ。俺たちだってついてr……いや」

言いかけて、ハッサンは首を振る。
そしてやたら神妙な顔で俺に向き直ると、がばりと頭を下げた。
ちょちょちょちょっと、いきなりどうしたんだよ!?

「タイチ! すぐ助けに行けなくてすまなかった!」
「……本当にすまない。マヌーサがかかっていたとはいえ、
いきなり一匹を任せるなんて、俺もどうかしてたよ。俺かハッサンのどっちかがつくべきだった」
「ごめんなさい……」

なんてことだ。
ボッツはわざわざ立ち上がって深々と頭を下げ、ミレーユもしゅんと小さくなっている。
ハッサンなんてほぼ土下座に近い格好だ。
や、やめてくれよそういうの! 俺もちょっと興奮してて油断してたし!
逆上しちまったけど、あいつの言うとおり、俺が……弱かっただけの話なんだからさ。
これからもっと強くなれるように頑張るから、ボッツたちが気に病む必要はないから……
だから、顔を上げてくれよ。何か、その、困るだろ。
とにかくボッツ、お前座れ!きっちり90°のお礼なんかしてるとマジで王子に見えてきちゃうぞ!

「う……」

うん、やっぱりこいつを黙らせるには王子ネタだな。大人しく顔を上げて座りやがった。
続いて、ミレーユとハッサンも顔を上げてくれた。
ありがとう、なんて言われたけど、知ったこっちゃない。
だいたいお礼を言うのはこっちだっつうの。
それにしても――――俺はようやくはっきりしてきた頭をもたげ、右手を見下ろした。

ギラ。グランマーズの家で修行してた時、何とか覚えられたただひとつの呪文だ。
人によって覚えられる呪文は違うらしく、メラ、ヒャド、バギ、ギラと試してみて、
俺が素質ありと判断されたのがギラだった。
毎日精魂尽き果てるまで練習して、何とかモノにしたものの、
肝心の威力はまあまあ、といった感じだったはずだ。

「さっきのギラ、明らかに普通の威力じゃなかったよな?」
「火事場の馬鹿力ってやつかねえ」
「そうね……呪文の強さは、本人の資質によって
多少変動はするけれど、それほど大きく変化しないはずよ」
「やっぱさ、追い詰められたことで俺の隠された力が覚醒したとかじゃないかな」
「ふふ、どうかしら」

いーや、十分あり得る。
漫画とかなんかじゃお約束だしな。イヤボーンっていうんだっけ?
いやあ、俺もまさかイヤボーンする日が来るとはなぁ。中二心をくすぐられるなぁ。

「ったく、こいつ調子に乗ってやがるな。まあいいや、このまま少し休憩したら出発しようぜ」
「ああ」

ちょっ、何か冷たくない? もうちょっと乗ってきてもよくない?
29 ◆DQ6If4sUjg :2011/12/22(木) 18:48:34.68 ID:sdb/QWou0

こんにちは、あたしバーバラ! 花も恥じらう1〇歳よ。
……なんでそこ伏せるのかって?
やだっ、女の子の年齢追及するなんてモテないわよ!

……ホントはね、あたしにもわからないの。
気がついたら知らない町にいて、覚えてることといったら自分の名前くらい。
記憶喪失ってやつみたい。
なんでか体が透けてるせいで、誰に話しかけても気がついてもらえないし、
もうこれからどうしようって時に、ラーの鏡の噂を聞いたの。
その鏡、真実を映すんだって。
鏡にすら映らない今のあたしでも、もしかしたらラーの鏡になら映るかもしれない!
あわよくば身体を取り戻せるかも……。
そう思って、魔物から逃げつつ月鏡の塔へ向かったの。
んもう、なんであいつらにはあたしが見えるのかしら?
魔物になんか気づいてもらえたって全然嬉しくないわ!

そんなわけで、何とか目的の場所には無事辿り着けたんだけど……。

「!! タイチーっ!!」
「ちくしょう! てめえら、どきやがれっ!!」

どうも先客がいたみたいで、しかもここの主っぽい魔物と戦ってたの。
腐った死体をずっとずーっと強くしたようなのが三匹!
たとえ一匹でも、きっとあたし一人じゃ太刀打ちできなさそうな相手だったわ。
そいつらと戦ってたのは四人組のパーティだった。
四対三なんだから勝ち目は十分……そう思うでしょ?
だけど、一人で戦ってたらしい男の人は既に動けなくなってて、
今にもとどめを刺されそうになってた。
仲間の人たちは目の前の敵が邪魔で助けに入れそうもない。
あたしも頭が真っ白になっちゃって―――気がついた時には、もうメラを撃っちゃった後だった。

凝縮された小さな火の玉が着弾する寸前、
男の人の手から閃光がほとばしった。
ギラだって! あたしだってまだ覚えてないのに!
……忘れてるだけで、本当は使えるのかな?

ともかく、男の人が放ったギラは、なんとあたしのメラとまぜこぜになって――――
魔物の首から上と、腕をあっという間に焼き尽くしちゃった。
残りを片付けた仲間の人たちが男の人の元に駆け寄っていく。
……あ、キアリーかけてる。これであの男の人も助かるかな。
ようし……。

あたしは彼らの背後を足音が立たないようにそうっと走り抜けた。
大丈夫だよね。
たとえ気づかれても気のせいで片付けられる……はず。

「? ……」
「ミレーユ? どうしたんだ?」
「……いいえ、何でもないわ」

ほらね。
あの人たちの目的もあたしと同じ、ラーの鏡に決まってる。
先を越されたらおしまいだわ。急がなくっちゃ!
30 ◆DQ6If4sUjg :2011/12/22(木) 18:49:10.73 ID:sdb/QWou0

―――けれど、その十数分後。
あたしはまたもや途方に暮れていた。

もうっ、何なのこの塔は!
何だか作りがややこしいし、ちょっと歩いただけで魔物は出るし、もうやんなっちゃう!
あーあ、ちょっと休憩しようっと。
相変わらず何も映らない鏡の前に、あたしはぺたりと座り込んだ。

……それにしても、さっきのは何だったんだろう?
まさか一発であんな魔物を倒せちゃうなんて!
すごかったなぁ……思い出すだけで胸がドキドキしちゃう。
偶然なんかじゃなくて、もしも、もしもちゃんと使えるようになったら――――あ、だめ。
それにはまずこの体をどうにかしなくちゃいけないんだ。
はぁ……あたし、一生このままなのかなあ。

「ねえ、君」
「ひゃっ!?」

顔を上げると、ツンツン頭の男の子があたしを見下ろしていた。
え? え? 今、あたしに声をかけたの?
思わずきょろきょろと辺りを見回したけれど、
この場にはあたしと男の子を始めとした四人しかいない。って、いうことは……!

「あ、あたしが見えるの?」
「うん」

何のためらいも遠慮もなく、男の子は頷いた。

こっちを見てる。
返事をしてくれた。

――――あたし、あたし、人とお話してる!
どうしよう、飛び上がるくらい嬉しい!
意思の疎通ができる! 会話ができる!
たったこれだけのことがこんなに嬉しいなんて!

「やっと見つけたわ! あたしの姿が見える人を!
みんな見えないみたいで話しかけても返事もなくて……。ホント寂しかったわよ」

もうホント、寂しすぎて死にそうだったんだから。
でもこの人たち、どうしてあたしのことが見えるんだろう?
町中駆けずり回っても気づく人なんていなかったのに。
……あれ、なんで照れくさそうに笑ってるの?

「あの……手」
「えっ? ……あっ、ご、ごめんなさいっ!」

あたしったら、いつの間にか男の子の手を握っちゃってたみたい。
や、やだな、変な子だと思われてないかな。
あ、この人、よく見ると結構かっこいいかも……って、違う違う! わ、話題変えよう!
31 ◆DQ6If4sUjg :2011/12/22(木) 18:49:50.12 ID:sdb/QWou0

「ほ、ほらっ。鏡にもあたし映らないのよ。イヤになっちゃうよね」

そう言って、鏡の前で一回転してみせる。
男の子たちは向こうの景色が見えちゃってるあたしを見ても、
ちっとも驚く素振りを見せない。まるで見慣れてるという風に。
もしかして、あたし以外にも身体が透けちゃってる人って、結構いるのかな。

「でも人のウワサ話くらいは聞けたから、この塔のこと、ラーの鏡のこと知ったんだ。
ラーの鏡になら、あたし映るかもしれないって。
それでここまで来たけど、この塔ややこしくて、もうイヤって感じよね。
でもあなたたちに会えてよかったわ。上まで行くつもりでしょ。
あたしもついていこうっと!」

人と話すのは久しぶりだったせいか、会話できるってわかったとたん、
立て板に水を流すように一気にまくし立ててしまった。
男の子があっけに取られてるし、女の人も少しびっくりした顔であたしを見ている。
うう、しかたないじゃない。本当に久しぶりだったんだもん。

「おいおい、ずいぶん強引なヤツだな」
「何よ、いいじゃない。あたし、ずっと寂しかったんだから」
「まあそれには同情するけどよ……。どうするボッツ?」
「え、えーっと……」
「こんなところに一人残していくわけにはいかないわ。とにかく連れていきましょう」
「やった! ありがとう!」

いい人たちでよかった! ……っと、いけない。

「まだあたしの名前を言ってなかったね。バーバラっていうの」
「バーバラか。俺はボッツ」
「ハッサンだ」
「ミレーユよ。よろしくね」
「えっと……タイチ」

なるほどね。
ツンツン頭がボッツ、モヒカンの人がハッサン、女の人がミレーユ、それから……。

「あなた、タイチっていうのね。
さっきはどうなるかと思ったけど、元気になってよかったわね!」
「えっ?」
「……あ!」

いっけない、つい口が滑っちゃった。
でもまあいっか、別に隠すようなことでもないよね。
あたしは塔に着いた時に戦うみんなを見かけてたこと、タイチの手助けをしたことを正直に話した。
すると、神妙に聞いていたはずのボッツとハッサンとミレーユの顔がみるみる
「ああ、そういうことだったのか」といった納得の表情に変わり、タイチに視線を集中させた。
当の彼はがっくりと肩を落としている。
あれ? あたし、何かまずいこと言った?
32 ◆DQ6If4sUjg :2011/12/22(木) 18:50:31.55 ID:sdb/QWou0

「マジで? 俺の隠された実力とかじゃないの?」
「なんていうか……気を落とさないで、タイチ」
「わっはっは! そんなこったろうと思ったぜ!」
「くっそ〜……なんだよ、喜んで損した!」

ああ、そういうこと。勘違いしちゃったのね。
ふふふ、なんかこの人面白いなぁ。
あのメラとギラの練習、お願いすれば付き合ってくれるかも。

「それはそうと、バーバラ。
あなたもきっと上の世界から来たのよね? 戻り方はわかる?」
「え、えっと……あたし……
どうしてこんなことになったか、なんにも思い出せなくて……」
「まあ……そうだったのね。つらかったでしょう」

ミレーユが優しく肩を撫でてくれる。うん……。ホント寂しかったよ。

あれ、何だか急に静かになったような。
ふと顔を上げると、みんな揃って眉を八の字に下げていた。
ミレーユは柔らかく微笑んでくれてるけど、
ボッツはうつむいちゃってるし、ハッサンは気まずそうに頬をかいてるし、
タイチは何だか落ち着かなさそうにしてるし……。
あ、やだ! あたしが変な話しちゃったから!

「あ、ごめん。邪魔をしちゃったね。さあ、しゅっぱーつ!」

わざと明るい声をあげて、パーティの先に立って歩き出してみる。
すると、みんなの足音がどたどたと音を立てて慌てて追いかけてきた。
背後から「ひとりで行くなよ!」と咎める声が聞こえてきたけど、
それには責める調子はまったく無くて、むしろ親しみを感じた。

えへへっ、一緒に歩く人がいるっていいなあ!
33 ◆DQ6If4sUjg :2011/12/22(木) 18:51:23.58 ID:sdb/QWou0
あー、もうっ! ホントにここの塔、ややこしいったらありゃしない!

目には見えないのに鏡には映ってる階段とか、
鏡の前から移動したら割れちゃう水晶玉とかはまだいいわよ。
でも、塔って普通登るものでしょ? お宝っていったら普通一番上にあるものでしょ?
なのに部屋が降ってくるなんて! めちゃくちゃにも程があるわ。
タイチもあたしと同じ心境なのか、顔が引きつってしまっている。
「ファンタジーもここまで極まると……」とか何とかぶつぶつ言ってるけど、ファンタジーって何かしら?
まあいいや、きっとあの部屋にラーの鏡があるのよねっ!
逸る心に急かされながら下まで降りて、扉も何もない、小さな部屋に足を踏み入れる。
他の部屋となんら変わらない内装。
けれど、小さな階段を視線だけで登ってみると、
人の顔より一回り大きいくらいの大きさの鏡が奉られていたのを見つけることができた。

「あったわ! これがラーの鏡よね!」

横取りされるはずもないのに、
あたしは誰よりも早く階段を駆け上り、ラーの鏡の前に陣取った。
楕円型の鏡の周りには金の装飾が施されていて、
細かい模様を見ているだけで目がチカチカしちゃいそう。
備え付けられている燭台の炎の灯りに照らされて光るラーの鏡は、
目的を忘れて見とれちゃいそうになるほどきれいだった。

ああ、ドキドキする。……もし映らなかったらどうしよう。
ううん、大丈夫!これは真実を映す鏡なんだもの。
あたしは恐る恐る膝を曲げ、ラーの鏡を覗き込んでみた。
すると――――

「……映る! 映るわ! この鏡には あたしの姿が映るよ! 思った通りだわ」

鏡の中には、オレンジ色の髪の毛をひとつに束ねた女の子――――
あたしの姿がしっかりと映り込んでいた!
ああ、よかったぁ! これであたし……、…………。

「…………でもそれだけよね。
この鏡にだけ映ったって、みんなにはあたしの姿が見えないまま……」

ラーの鏡はあたしの姿を映すだけで、それ以上は何もしてくれない。
あたしの身体の色を取り戻してはくれない。
うつむくと、縛ってる髪が流れて頬に触れた。

あたしは喋れる。痛みも感じる。喉も渇くし、お腹が空けば物だって食べられる。
あたしは今ここに、しっかりと生きている。
なのにどうしてみんなには見えないんだろう。
おかしいよ、こんなの。わけわかんないよ。
ボッツたちに気づいてもらえたのはすごく嬉しかった。
けど、あたし、もっとたくさんの人とお話したい。
鏡にすら映らない、誰にも相手にされない生活なんてイヤ。
そう思うのは贅沢なのかな……?

「バーバラ」

ボッツ? なに……きゃっ! つ、冷たいっ! 何するのよおっ!
……え? 何これ? あたしの身体、きらきら光ってる!? やだ、まぶしっ……。
思わず手で目を覆おうとしたけれど、全身が光ってるんだから意味がない。
それならば、と目を閉じる。それでもまぶたの裏が明るかった。

少ししてから、そうっと目を開けると……カラシ色の手袋が見えた。あたしのだ。
えっ? えっ? まさか!
34 ◆DQ6If4sUjg :2011/12/22(木) 18:52:13.30 ID:sdb/QWou0

ぱっと右手を掲げてみる。
向こうの景色が見えない――――あたし、透けてない!
ボッツたちを振り返ると、みんなニコニコと笑顔を浮かべていた。
もしかして、さっきふりかけられた水って……!

「こんなことできるなら、もっと早くしてくれたらよかったのに。意地悪ね」
「ごめん。俺も、ラーの鏡に映るのかちょっと興味あったからさ」
「もうっ! ……でもよかった。これで誰とでもお話ができるわ。
さて……と。じゃあ、あたしはこれで」

目的達成! もうこんなめちゃくちゃな塔には用は無いわ!
あたしは階段を一段飛ばしで駆け下り、みんなの間を縫って部屋の外に出た。
そうよ、一秒でも早くここを出て……、……あれ?

……と思ったけど、あたしこれからどうしたらいいのかしら?
記憶がないんだから、どこに帰ればいいのかわからない。
どうしてこんな目に遭うはめになったのか、そもそも自分が何者かもわからないのよね。
あたしはくるりと振り返り、こっちをぽかんと見ていたボッツたちをじーっと見つめてみた。

「う〜ん……。見たところ、あなたたち悪い人じゃなさそうよね」

ハッサンはぱっと見ちょっと怖そうだけど結構頼れるし、ミレーユはすっごく優しい。
タイチは普通の人って感じ。けど、ちょっと不思議な雰囲気よね。
ボッツは……えへへ。

「そうね。しばらくはあなたたちについて行くことにするわ。いいでしょ?」
「ええ? ずいぶん強引なヤツだな。まっ、俺も人のことを言えないけどな。
どうするボッツ? この娘を連れていくかい?」
「まあ……いいんじゃないかな。ここで会えたのも何かの縁だし」
「そうこなくっちゃ!今日からはあたしも仲間よ。よろしくねっ」

ひとりひとりと握手を交わす。
ボッツの時だけちょっと緊張しちゃったのはヒミツだよ。

ハッサンの言う通り、ちょっと強引なやり方で
仲間になっちゃったけど、まあこういうのもアリよね?
ボッツたちがいなかったら、きっとあたし、まだ半透明のままだったもの。
恩返ししなくっちゃね!


 *バーバラが仲間にくわわった!



タイチ
レベル:9
HP:60/71
MP:20/24
装備:ブロンズナイフ
    くさりかたびら
    けがわのフード
特技:とびかかり


「……今回、俺のステータスいらなくね?」

そうかも。
35 ◆DQ6If4sUjg :2011/12/22(木) 18:57:02.05 ID:sdb/QWou0
連投だけど気にしない!
バーバラ視点難しい。可愛く書けてるといいんですが。

>>24
ヘタレですが何とか成長できました。
ありがとうございます!

>>25
ありがとうございますっ!
36名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/12/22(木) 21:47:44.56 ID:qhPJoNG00
乙!!
バーバラ良い感じだ
37名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/12/22(木) 23:37:00.82 ID:7fmajmtY0
乙です!
視点が変わりましたねーこれからも楽しみにしてます!
38名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/12/24(土) 14:37:19.82 ID:h8QZMGgf0
保守
39名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/12/24(土) 23:36:49.98 ID:0KL7ER7O0
>>タイチの人

おつ!
バーバラktkr
視点変わるのも面白いもんだね。

タイチの(´・ω・`)具合ワロタwww
40名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/12/25(日) 20:12:58.29 ID:SjIEaOo8O
このスレに来なくなって2年以上経ったけど、ふいに思い出して来てみた。
タカハシさんがいてビックリした。
色んな物語は元気にしてるんだろうか。
41名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/12/29(木) 16:38:32.87 ID:R0Ul3+wX0
>>40
最近はめっきり投下が減ってしまったね
やっぱり規制のせいなのかな
42名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/12/29(木) 18:25:30.03 ID:XuSsVJE20
ちょっと早いが
作家の皆様、今年も楽しませてくれてありがとう
来年も楽しみにしています
43 【だん吉】 ◆DQ6If4sUjg :2012/01/01(日) 00:45:34.21 ID:BtOvGMq90

タイチ「よっ! あけましておめでとう!」

ミレーユ「え? おめでとう? 何かあったかしら」キョトン

タイチ「あ、こっちじゃ言わないのか。ほら、今日から新しい年なんだろ?
    その挨拶だよ。無事新年を迎えられてめでたいなー、ってこと」

ミレーユ「まあ、素敵ね。それじゃあ……ふふ、あけましておめでとう」

ボッツ「じゃあ俺も。あけましておめでとう」

バーバラ「あたしもあたしも! あけましておめでとーっ!」ピョンピョン

ハッサン「あけましておめでとう。……何か、照れ臭いなぁこれ」ポリポリ

タイチ「でも悪い気はしないだろ。
     じゃあ年も明けたことだし……ボッツ、お年玉くれ!」

ボッツ「おとしだま……? なんだいそれ?」

タイチ「お年玉も無いのかよー! しかたないな、特別に教えてやろう」フンス

タイチ「いいか? お年玉っていうのはだなぁ、目上の人が目下の人にやる
    額のでかい小遣い……まあボーナスみたいなもんだ」

ハッサン「小遣い? 金をやるってことか」

タイチ「そう! 去年はお疲れ様、今年も頑張ってくれっていう
     労いと激励の気持ちがこもってるんだぜ」

タイチ「な、ボッツ! そういうことだからさぁ」

ボッツ「ええっ? それならむしろタイチが俺にくれなくちゃ!
    タイチ、俺より四つも年上だろ。そうは見えないけど」フッ

タイチ「人が気にしてることを……。
    お前リーダーなんだから俺より目上だろー!
    大体な、それを言ったら一番年上のミレーユが」

ミレーユ「年齢の話しはやめてくれないかしら」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

「「すみませんでしたー!!」」ズザアァァ



いつもとは趣向を変えてSS形式で。
今年もよろしくお願いします。
44名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/01/03(火) 01:13:20.40 ID:IRkafF5v0
あけおめ乙です。

たまにはこんなのも良いねw
オチがミレーユとはおもわなんだw

今年も続きを楽しみに待ってます!
45名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/01/06(金) 15:15:52.57 ID:baqheQI70
こんな新年ネタがw
乙です
46名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/01/10(火) 00:27:00.82 ID:SpKdUwWG0
ほしゅう
47 ◆DQ6If4sUjg :2012/01/12(木) 18:56:17.67 ID:TpCdsoSA0
>>27の続きです

いちから呪文を覚えるには、精神を集中し、イメージを練り上げる必要がある。
例えばギラだったら、自分の手からまばゆい炎が出て、敵を駆逐する……
そんな感じのイメージを強く強くイメージしなきゃいけない。
この世界の人間が呪文を覚えるのはそう難しいことじゃない。
多分それは、呪文が当然のごとく存在する世界で生まれ育ったからだ。
子供の頃から呪文を見てきたのだから、いざ自分が使う時となれば、
それをイメージするのは容易いに違いない。
よって、俺が呪文をなかなか習得できなかったのは決して才能が無いとかじゃなく、
「魔法なんて使えるのは映画やゲームの中だけ」という先入観や、そう考えるに至った環境からなのだ。
そう、俺より年下の女の子が何回か戦いを重ねただけで、
あっさりギラを覚えたとしても、それはしかたがないことなのだ。

……しかたないよな? な? そうだよな?

「せーのっ」
「メラ!」
「ギラ!」

5メートルほど離れた、枝で作られた的に向かって手を翳す。
閃光が走り、的はあっという間になめるような炎に飲み込まれた。
間髪入れずにぶつかってきた火球がそれを更に燃え上がらせる。
……が、それはギラとメラが続けざまにヒットしたというだけで、思ったような威力は得られなかった。

「今のタイミングでもだめかぁ」
「もう少しギラを遅らせてみるか?」
「うーん……」

バーバラは腰に手を当てて口を尖らせた。
片足で地面をリズミカルに叩き、若干苛立たしい様子で炭と化した的を睨みつけている。
それだけでまた燃え上がるんじゃないかってくらいの睨みようだ。

「いいわ、一回休憩しましょ! ちょっと疲れちゃった」

的を熱視線から解放し、木陰に座り込む。意外と諦め早いな。
まあいいや、俺も少し疲れたし。お隣失礼しますよっと。

俺とバーバラは今、馬車馬ファルシオンと共に絶賛留守番中である。
ええとだな、最近色々ありすぎて説明がめんどくさいんだが……。
とりあえず三行で説明しよう。


・ラーの鏡で王様性転換
・「わしは……魔王ムドーだったのじゃ!」デーデデデー
・ゲント族さん船貸して←イマココ


……全然わからない?
しかたないな、それじゃあ上から順を追って説明しよう。適当に端折りつつな。
48 ◆DQ6If4sUjg :2012/01/12(木) 18:56:51.11 ID:TpCdsoSA0

・王様性転換について

ラーの鏡を手に入れた後、俺たちはさっそく“上の世界”のレイドック城へと向かった。
ボッツとハッサンはそこで兵士として働いていて、王の命令で鏡を探してたとか何とか。
で、王に鏡を献上したはいいんだが……大臣やソルディ兵士長(ボッツたちの上司な)、
そして俺たちの前で、王は高貴なドレスを身に纏った中年女性へと姿を変えてしまったのだ。
女性は自らをシェーラと名乗り、王はどこへ行ったのかと大慌てで尋ねる大臣にこう答えた。

「王はムドーの城にいます。
ムドーのところへ行けばすべてが明らかになるはず。
さあ行きましょう」

……ずいぶん要約したけど、何が行きましょうだよって感じだよな。
わけがわかんないまま、俺たちは決戦の地へと赴くことになった。


・「わしは……魔王ムドーだったのじゃ!」について

いやぁ、城の攻略も大変だったし、ムドーとの戦いもすごかった。
見せられなかったのが残念だぜ。
全員力を合わせて必死に戦って戦って戦って……ついにムドーに膝をつかせることができた。

が、あの野郎。
捨て台詞を残してどこかへと姿をくらまそうとしやがったんだ。

「今よっ! さあボッツ、ラーの鏡を!」

シェーラに言われるままに鏡を向けると――――
ムドーはこれまた高貴な服に身を包み、白い頭に大きな冠を乗せた男性へと変身してしまった。
いや、元に戻った、というべきなのかもしれない。
言葉通り、レイドック王はムドー城にいた。
それどころか魔王ムドーとなって夢の世界を支配しようとしていたのだから驚きだ。
もちろん、王本人にはその自覚はない。
何せ、シェーラ……王妃に言われて初めて「そういえばわしムドーだったかも」って言ったくらいだからなぁ。

そういえば、俺たちを指して「この者たちは夢の世界の住人じゃろう」とも言ったな。
夢の世界の存在はあまり知れ渡ってないかと思ってたんだが、
やっぱ国のトップともなると、それくらいは知ってるもんなんだな。
王と王妃は、遅れて来たソルディ兵士長と兵士たちとともにそのまま城に帰っていった。
俺たちも「帰ったら褒美を取らそうぞ」なんて言葉に釣られてほいほい戻ったはいいんだが、
王の間にはそわそわと落ち着かない様子の大臣しかいなかった。
なんと、俺たちより先にムドーの島から出たはずの王たちがまだ帰ってないらしい。
「褒美をやるとか言っておいて」とハッサンが口を尖らせた時、バーバラがぴょんと飛び跳ねた。

「わかったわ! あの時、王さまは城に来いって言ったわよねっ。
あれは別に嘘じゃないんだよ。だから城に行けばいいのよ!
ねっ、ボッツ。もうわかったでしょ?」

結果から言うと、バーバラの読み通り、王と王妃は下のレイドックにいた。まったく紛らわしい。
で、門番の前まで来たはいいんだが、
そこで「ニセ王子一行許すまじ!」とばかりに牢屋にブチ込まれてしまった。
何でもボッツが行方不明になっているレイドック王子に似ているとかで(そういえば王様もそんなこと言ってたな)、
ちょっとふざけて成り済ましてみたら意外とすんなり信じられてしまい、
城の中だけでなく玉座の間まで通されてしまったことがあったらしい。
しかも、その後すぐニセ者だとバレてつまみ出されたというオチ付きだ。

お前ら何やってんだよ……。
まあ何だ、ボッツが王子ネタに弱いのはこれが原因だったんだな。
49 ◆DQ6If4sUjg :2012/01/12(木) 18:57:09.67 ID:TpCdsoSA0

誤解はすぐに解け、俺たちはそう時間が経たないうちに解放してもらえた。
懲役15分ってところだろうか。
鉄格子越しの景色はなかなか新鮮だったが、できれば今後はごめん被りたい。
んで、そのまま玉座の間へと通され、そこでようやく、王から事のあらましを聞くことができた。
王の言葉によるとこうだ。

「あの日、わしは魔王ムドーとの決戦に臨み、船でヤツの居城へと向った。
しかし突然不思議な空間が出現して……。
その後、どうやって城まで戻ってきたのか覚えてはおらぬ。
気づいた時、わしは……わしは……」
50 ◆DQ6If4sUjg :2012/01/12(木) 18:57:36.67 ID:TpCdsoSA0






「魔王ムドーだったのじゃ!」デーデデデー





51 ◆DQ6If4sUjg :2012/01/12(木) 18:58:20.24 ID:TpCdsoSA0

上の世界は夢の世界。
レイドック王やムドーは王妃と王が見ていた夢だった。
ボッツいわく、以前訪れた下のレイドック城では、
二人は一年以上眠りから覚めない病に蝕まれていたらしい。
点滴もないだろうに栄養はどうしてたんだ?とか一年以上寝てたにしては二人とも元気すぎるとか
色々つっこみたかったが、あえて堪えた。誰か褒めてほしい。
……まあ何だ、ファンタジーだしな。

こうして、俺たちの疑問は無事氷解した……けど、褒美は未だに頂いてないし、
どうも誰かを忘れてるような気がしてならないんだよな。
まあいいや、次行こう次!


・ゲント族さん船貸して

夢の世界のムドーは倒したが、現実世界のムドーは未だ健在だ。
放っておくわけにもいかないし、王に頼まれたのもあって、再びムドー討伐へ向かうことになった。
が、城にもう船はないらしい。
「私冒険者だけど、船が一隻しかない国って……」とか、
「王がムドー討伐に使った船は?」とか思わなくもなかったが、無いものはしょうがない。
山奥にひっそりと暮らしているゲント族の村を訪ね、
神の船とかいう船を貸してもらえないかと頼むことになった。
ゲント族は神の使いを自称しているらしい。
全員中二病の村とか一周回って逆に面白そうじゃね?と、密かに楽しみにしてたんだが――――

「村に着いたけれど、あんまり大人数で押しかけたら迷惑かしらね……」
「あっ、じゃぁあたしとタイチは留守番してるよ!」

オンドゥルルラギッタンディスカー!!(0w0;)

いやこれは語弊だ。別に裏切られちゃいない。
が、こうも言いたくなる俺の気持ちも汲み取ってほしい。
なんで勝手に俺の留守番まで決めてるんだよ! お前そこは普通にグッパだろ!
という必死すぎる抗議も虚しく、ボッツたちはさっさと村に入っていってしまった。
なんと仲間甲斐のない奴らだ。やり場のない怒りは当然残ったバーバラに向けられる。
っていうかこいつが原因だ。

「えへへ、ごめんね。……実はね、ちょっと相談したいことがあるんだ」
「……相談?」



――――で、今に至る、と。ちょっと長くなっちゃったな。

相談っていうのは、月鏡の塔でゾンビ相手に物凄い威力を発揮した、
あのギラとメラの合わせ技を何とかモノにしたいから協力してくれ、とのことだった。
確かにあれを扱えるようになれば、ムドー相手にかなり有利に戦えるかもしれない。
そう思って的相手に練習を始めたはいいんだが、成功の目は一向に見えてこない。
何がいけないのかさっぱりわからん。やっぱタイミングか……?

「なあバーバラ。あれは一種の奇跡みたいなもんでさ、
同じ状況にでもならなきゃ再現できないんじゃないか?」
「うーん……確かに。一理あるかも」
「だろ? だからもうあきらm……」
「よし、やってみよう! えーっと、このへんに腐った死体いないかな?」
「できるか馬鹿!」
「えー」

「えー」じゃないっつうの……はあ。
52 ◆DQ6If4sUjg :2012/01/12(木) 18:58:59.38 ID:TpCdsoSA0

ボッツたち、許可もらえたかな。
まあ王様の紹介状もあることだし、今頃長老的な人が快諾してくれてるだろう、多分。
……っていうかさ、バーバラ。ギラとギラじゃダメなのか?
そっちの方がずっと強いと思うんだけど。

「それもいいけど、あたしはあのギラとメラを出せるようになりたいの」

何なんだそのこだわりは……。
俺はくしゃくしゃと頭を掻くと、バーバラから視線を外し、
ひたすら草を食すファルシオンの傍らへと腰を下ろした。
うお、改めて見るとこいつデケえ。
馬とこんなに身近な生活を送ることになるとは、
向こうにいた時はまったく考えられなかったな、とぼんやりと思う。

この世界に来てから一ヶ月以上が経った。
電気もガスも水道もない不便な生活にも何とか慣れてきたし、
しばしば強いられる野宿もキャンプと思えば楽しめる。
グロテスクとバイオレンス溢れる戦いにもだいぶ慣れてきた。
もちろんボッツたちにはまだまだかなわないが、そこそこ戦えるようにはなってきたと思う。
あまり肌触りの良くない服、その上に着る防具や武器のずっしりとした重さには……まだちょっと慣れない。
でも、もうちょっとだ。魔王ムドーを倒せば元の世界に戻ることができる。
一抹の寂しさがよぎるものの、喜びの方が大きいのは事実だ。

父さんと母さん、心配してんだろうなぁ。
あの二人は心配性すぎて、かえってこっちが心配になるんだよな。
大学合格をきっかけに一人暮らしするって決めた時もずいぶん反対されたっけ。
せめて一言「無事だよ」って連絡できたらいいんだが。
あ、勇とかどうしてんだろ。
俺がいないから生活費半減しちまってるよな、今月からきっついだろうなぁ。
心配通り越してすっげえ怒ってそうだし、帰ったら何かおごってやるとするか。
たまには兄貴っぽいことしてやらないと、あいつ俺が兄だってこと忘れそうだからな。

「ねえタイチ。あなたって、他の世界から来たのよね?」
「何だよ藪から棒に。まだ疑ってるのか?」
「ううん、そうじゃなくて」

バーバラにももちろん俺の事情を話した。
冗談だと思ったのか最初は相手にしてくれなかったが、
こっちの常識や生活に不慣れな様子を見て、ようやく信じる気になってくれた。
彼女曰く、「雰囲気が何か一人だけ違うし、これが演技だったらクサすぎ」とのことらしい。

「タイチの世界には魔物がいないのよね」
「うん、まあ」
「いいなあ、平和じゃない」
「う……ん。まあ、そこそこ平和……かな」

煮え切らない答え方をしてしまう。
確かに魔物なんて厄介な奴らはいないけれど、
その代わり、あっちは人間同士での争いが絶えない。
魔王という共通の敵がいて、そいつを倒すために団結してるこの世界の方が
人間としては理想の形に近いんじゃないだろうか。

そもそも、恐らくこっちでは珍しいはずの黄色人種である俺を見ても、
誰も何も言ってこない。視線すらよこさない。「雰囲気が何か違う」で済まされてしまう。
人の見た目なんて細かいこと、こっちの人たちは気にしないんだ。
宗教の違いとか人種がどうだとかで戦争してる俺の世界があほらしく思えてくる。
帰ったら何か平和活動でもしようか、なんて。できてもせいぜい募金くらいだけど。
53 ◆DQ6If4sUjg :2012/01/12(木) 18:59:34.50 ID:TpCdsoSA0

「もちろん呪文もないのよね。なんか考えられない」
「ないけど、科学っていう技術が発展してるよ。
蛇口をひねるといくらでも水が出てきたり、ランプがなくても家中を明るくできたりさ」
「へえ! カガク? って、便利なのね」

たどたどしい発音が何だか新鮮で可笑しくて、つい笑い声がこぼれてしまう。
あ、やばい。これ怒られるか?
そう思って身体を縮こまらせたが、いくら待っても叱責は飛んでこなかった。
あれ? ミレーユならともかく、バーバラなら絶対怒ると思ったんだけどな。
恐る恐る振り返ってみると、バーバラは自分の小さな手をじっと見つめていた。

「呪文のない世界かぁ……。
もしあたしがタイチの世界に飛んでっちゃったら、きっとなんにもできないね」

これだけがとりえだもの。
声は届かなかったが、彼女の唇はそう動いたように見えた。

バーバラは呪文への執着が強い気がする。
腕力は俺よりないけど(当たり前か)呪文の扱いは仲間の中でもピカイチだ。
バーバラが入って戦いがすごく楽になったし、今のままでも十分強いのに、彼女は修練に余念がない。
まるで、それが自分の存在意義だとでも言うような。
やっぱり記憶がないからだろうか。
帰りたくとも帰れないという意味では同じだけど、
俺と違うのは、バーバラは帰るべき場所がわからないという点だ。
もしパーティーに追いつけなくなり、足を引っ張るようになって、戦力外通告されてしまったら。
そう考えているのかもしれない。ま、そんなことありえないけどな。
天真爛漫なバーバラはそれだけで空気を和ませるし、
パーティーの潤滑油になってくれる。(別に仲が悪いわけじゃないけど)
上の世界のムドー城へ乗り込む前、
否が応にもピリピリしてしまっていた俺たちの空気をほどいてくれたのもバーバラだ。
そもそも、ボク異世界から来たんですーアハハーなんてのたまった怪しさ爆発の俺を
仲間に引き込んでくれたボッツが、弱いってだけの理由でハイさよなら、なんてことするわけがない。
まずリストラされるなら俺だしな!HAHAHA!

だから気にするな、と俺は言わない。
何故ならば、それを言うのは俺の役割じゃないからだ。

「なあバーバラ。お前、ボッツのこと好きだろ」
「えっ!? い、い、い、いきなり何言ってるのよ!?」
「あ〜、やっぱりな」
「……っ!」

ふぉっふぉっふぉ、初い奴よのう。
そこまで顔真っ赤にしてちゃ言い逃れはできないぜ。
まあ何だ、普段のバーバラ見てたらまるわかりだよ。
しょっちゅうチラチラ見てるし、ボッツと話す時やたら嬉しそうだし、意識してるのバレバレだっつの。

「あたし……そんなにわかりやすい?」
「うん。ミレーユとかはとっくに気づいてるだろうな」
「そ、そっか……。あ、やだ!ボッツに気づかれてたらどうしよう!」

いや、それはない。
ボッツは記憶力が抜群な上に勘も働くくせに、色恋沙汰や女心には疎いからだ。
きっと、いや絶対、バーバラのほのかな恋心にはミジンコほども気づいちゃいないだろう。
が、俺はそのことをバーバラに伝える気は全く無い。
なんでかって?
その方が面白そうだからだよ、言わせんな恥ずかしい。
54 ◆DQ6If4sUjg :2012/01/12(木) 18:59:54.57 ID:TpCdsoSA0

そう、バーバラはボッツに惚れている。
だから「たとえ呪文が使えなくても、君は大切な仲間だ」みたいな台詞は
俺なんかより、ボッツに言われた方がずっとずっと嬉しいに違いない。
あいつはそのへん気が利くからな。
俺がちょいっとリークしてやれば、バーバラを慰めようと動くはずだ。
上手くいけば二人の距離も縮まるし、バーバラの悩みも解消されるしで万々歳!
我ながら完璧な計画だ。さて、問題はこれをいつ実行するかだが……。

ぶるるるん。
空気を震わせる鼻息が俺を現実に引き戻す。
ふと見ると、もさもさと草を食んでいたはずのファルシオンが、怯えたようにじりじりと後退りしていた。
おもむろに立ち上がるバーバラとアイコンタクトを交わし、腰に携えた鋼の剣に手をかける。
ファルシオンがこういう反応を見せた時は―――

「! バーバラ!!」
「きゃっ!?」

細い肩を引っ掴んで倒れ込み、そのまま草の上をゴロゴロと転げ回る。
一瞬遅れて、背中に燃えるような熱さを感じた。……いや、“ような”じゃない。
素早く起き上がり、バーバラを背後にかばうようにして立ち上がる。
先程までバーバラが座っていた木陰は真っ黒焦げになっていた。ナイス俺!ナイス飛びかかり!
ああちくしょう、こんな時に魔物のお出ましだ。
神様仏様、どうかダークホビット四匹とかじゃありませんように。
あいつらの異様なまでのガードの硬さマジ厄介なんだよ!

茂みが盛大に鳴り、そいつがおもむろに姿を現す。
俺の祈りが通じたのか、魔物はたったの一匹だけだった。
ふわふわと空に浮かぶそいつは、まるで青空を泳ぐ雲のようだった。
ただし、色は白でも黒でも灰色でもなく、薄い橙色。おまけに目と口までついてやがる。
なんだこの生き物……。
まあ魔物が妙ちきりんなのは今に始まったことじゃないか。
よし、バーバラ! 先手必勝だ!

「うん! せーのっ、メラ!」
「ギラ!」

火の玉と帯状の炎が魔物を飲み込まんと突っ走っていく。
相変わらずの失敗作だが、これだけでも結構なダメージになるはずだ。
間近に迫る二つの炎をそいつは避けようともしない。
それどころか受け止めようと大口を開けて待ち構えていやがる。
あえて受け止めようってか?面白い、口ん中火傷して口内炎が悪化しても知らねえからな!
想像しただけで超痛えぞこれ!

…………ん? 口?



ばくん。もぐもぐ、ごっくん。



おいいいいいいいいいい!!!
何飲み込んじゃってくれてんのおおおおおお!!?
55 ◆DQ6If4sUjg :2012/01/12(木) 19:00:45.36 ID:TpCdsoSA0

「嘘っ……!?」
「おいおいおいおい冗談じゃねえぞ! くっそ、もう一回……!」
「だめ! また食べられるだけだよ。武器で戦おう!」

くそっ、仕方ないか。俺は渋々鋼の剣を抜いた。
ずしりとした重みが両手に負荷をかける。
できれば武器って使いたくないんだよな。
傷つける相手の手応えが直に伝わってくるから。
……ああ、こんな甘いこと言ってたら、またハッサンに怒られる。
でもいいんだ、もう少しで帰れるんだから!

「ルカニ!」

青い光が魔物を包む。
ルカニは相手の肉体を一時的に柔らかくし、攻撃を通しやすくする呪文だ。
傍目には効いてるのか効いてないのかさっぱりわからないが、当の術者には判断がつくらしい。
バーバラはしてやったりと不敵な笑みを浮かべた。

「効いたわ!」
「よっしゃあ、行くぞ!」


 *タイチの こうげき!
   ヒートギズモは すばやく みをかわした!

 *バーバラの こうげき!
   ヒートギズモに 5の ダメージ!

 *タイチの こうげき!
   ヒートギズモは すばやく みをかわした!


こ、こ、この雲野郎! ちょこまかちょこまかと!
ニタニタ笑ってんじゃねえよ! 何その顔ふざけてるの!?
おら、次行くぞ!


 *タイチの こうげき!
   ヒートギズモは すばやく みをかわした!


「…………」
「…………」
「( ´,_ゝ`)プッw」

oi
misu
ミス
おい。笑ったな?今笑ったな?

「野郎!ぶっ殺してやらあああぁぁぁ!!」
56 ◆DQ6If4sUjg :2012/01/12(木) 19:01:23.29 ID:TpCdsoSA0

今度こそ一撃を加えてやろうと俺は剣を振りかぶる。
勝利の女神は微笑まずとも、こっちを振り向いてくれたらしい。
ど真ん中とはいかなかったが、雲野郎の端っこに刃を食い込ませることに成功した。
ルカニのおかげでまるで絹豆腐を切るような感触だ。
骨や筋肉があるようには見えないから今更驚いたりはしない。
あーあ、魔物が全部こいつみたいな身体だったらいいのに。
ぼとり、と肉片(雲片?)が土に落ち、雲野郎は機嫌を損ねた子供よろしく、ぷくうっと頬を膨らませた。

なんだなんだ?
お前がそんなんやっても全然可愛くな――――

「あっつうううううううぅぅぅううううう!!?」
「タイチ!?」

こ、こ、こいつ! 火ぃ吹きやがった!
いやまあさっき食ってたし焦げた木陰を見ればそれくらい俺でも予想できるけど!
このバカ野郎、山火事になったらどうすんだよっ!?

「それに関しては、あたしたち人のこと言えないんじゃないかな……」

そうでした。テヘペロ☆

何とか直撃は免れたけど、左腕がやられちまった。
熱い熱い熱い。今すぐ冷たい水が欲しい。
俺もバーバラもホイミ系の呪文は使えない。薬草やアモールの水は……
ああ! 移動中、馬車の中で暇だから持ち物を整理しようと思って
全部ふくろの中に突っ込んじまったんだった! ああもう、俺のバカ!

「バーバラ!薬草かアモールの水持ってないか?」
「ごめん、ここに来る前に全部……」
「よしわかった。俺があいつを引き付けるから、ふくろから持ってきてくれ!」
「……わかった!」

俺は剣を握り直す。
ああくそ、腕が痛い。焼けるように熱い。いや実際に焼けてんだけど。
それにしたって、お湯を注いだばかりのカップ麺を
うっかり足にこぼした時だってこんなに熱くなかったぞ。
馬車の方向へと駆けていくバーバラを雲野郎は追い掛けようともしない。
大きく息を吸い込み始めたってくらいだ。なんだなんだァ、深呼吸ですかァ?
……って、あれ? 何か少しずつ大きくなっていってるような……。

あ、ちょっ、何かやばくね?
これ俺だけじゃなくバーバラも巻き込まれるんじゃね?
なんて考えているうちに、雲野郎は徐々に膨らんでいってるわけで。

…………。

ええい、こうなりゃ特攻だ!届けマイスティールソード!

不意に、風が頬を撫でた。突風というほどじゃない。
けれど草木を揺らすには十分すぎるくらい強い風だった。
風はやがて螺旋を描き、小さな竜巻となって雲野郎に襲いかかった。
木の葉を舞い上げる竜巻にあっという間に吸い込まれ、雲野郎は為す術もなく全身を切り刻まれていく。
やがて跡形もなくなるくらいに細かくしてしまうと、
小さな竜巻はゆっくりと螺旋をほどき、空気に溶けていった。
57 ◆DQ6If4sUjg :2012/01/12(木) 19:02:10.23 ID:TpCdsoSA0

……何だったんだ、今の。
あ、もしかしてバーバラか?
追い詰められた戦いの中で秘められた魔力が奇跡を起こしたとかそういう!
そう考えてバーバラを振り返ったが、彼女は俺と同じようにぽかんと口を開けていた。
だよな、違うよな。後ろ向いてたもんな。

がさ……。
背後にて茂みが鳴った。
新手か!? 俺とバーバラは身構え、音を追い掛けるようにして素早く上体を捻る。

「このあたりでヒートギズモが出るとは……。珍しいですね」

しかしそこにいたのは、どこからどう見ても人間だった。
しかも見たところ、バーバラより年下の男の子だ。
二股に分かれた山吹色の大きな帽子を被っている。
着ているローブもこれまた全体的に山吹色だった。好きなのか? その色。
それに、自分と同じくらいの長さの杖を持ってるけど、邪魔にならないんだろうか。
って、そんなことよりも!

「ねえ! さっきのバギ、あなたが撃ったの?」
「ええ。お節介だったでしょうか」
「いや助かったよ! ありがとう!
メラもギラも効かないし、攻撃は当たらないしでもうどうなるかと」
「タイチ、剣向いてないんじゃない?」
「ぐぬぬ」

何も言い返せない。
重いんだよな、剣。絶対使いこなせてないよな。
ため息を吐きながら、結局活躍できずじまいだった鋼の剣を鞘に戻す。
やっぱり俺にはブロンズナイフがお似合いなのか……。
ん? 何見てんだ少年。大の男が女の子に言い負かされてる図がそんなに面白いか!?
っていうか何ひとりでこんなとこうろついてんだ?
いくら呪文が使えるったって、子供だけじゃ危ないだろ? ああん!?

「お怪我をされてますね。先程の魔物に?」
「ぁ……ああ」

目ざといなぁおい。
じりじりと痛む左腕をちらりと見ると、割とひどいことになっていた。
ああ、やばい……見るんじゃなかった。

「うえ……ちょ、ちょっと火傷したくらいだって。大丈夫大丈夫」
「ふむ」

少年は漫画やらでよく見るように、眼鏡をくいっと持ち上げた。
そう! こいつ、眼鏡をかけてるんだよ! この世界にも眼鏡なんてあったんだな。
テレビもパソコンも無いんだから目が悪くなる要素なんて無いと思うんだが。
あ、でも本とか読むか。

「見せてください。良ければ治療しましょう」
「いいよ、これくらい薬草で治るし。バーバラ、頼む」
「あ、うん」

いやー、俺も強くなったもんだ。
もしもこの世界に来て間もない頃にこんな怪我してたら、
ぴーぴー泣きわめいてたかもしれないな。うんうん、慣れって素晴らしい。
う、いてて。
58 ◆DQ6If4sUjg :2012/01/12(木) 19:03:24.20 ID:TpCdsoSA0

「それには及びません。失礼」

少年は俺の左腕を取り、右手に持っていた杖をかざした。
杖の先端から淡い光が漏れだし、俺の腕を包んでいく。
うおぉ、なんだこれ! 超あったけえ!

光が消える頃、腕の火傷は嘘のように治っていた。痛みもひいている。
ホイミ……じゃないよな。唱えてないし。

「え〜っ! 何今の!?
まさかあなた、詠唱なしで呪文が使えるの?」
「いいえ、今のはこの杖の力です。
ああして使うと、ベホイミと同じような効果を発揮できるのですよ」

へえ〜! いいなぁそれ。
ベホイミっていったら、ホイミより大きな傷を治せるアレじゃないか。
薬草代浮くし便利だし、いいことずくめじゃん。それって何度でも使えたりするのか?

「……」

睨まれた。
眼鏡越しのそれは、まだ幼さを残してはいるものの、
俺を萎縮させるには十分な鋭さだった。
ごごご、ごめん! 火傷を治してくれた礼も言わずにこんなこと聞いて!
ちょっと失礼すぎたよなっ!

「ああいえ、お気になさらず! 私の方こそすみません。
こんなことで平静を乱してしまうとは……。まだまだ修行が足りませんね」

少年は申し訳なさそうに微笑んだかと思うと、地面に突き立てた杖をまっすぐに見つめた。
その眼差しはさっきと打って変わって柔らかい。

「このゲントの杖は、神の祝福を受けています。
私が信仰心を失わない限り、癒しの力も失われることはないでしょう」

つまり何度でも使えると。
それにしても神様ねえ。俺は残念ながら無宗教だけど、この世界には神様とかいてもおかしくないよな。
俺も少年みたいに信心深くなれば、ゲントの杖に授けたような不思議パワーで
元の世界に戻してくれたりするかなあ。

……ん? “ゲント”の杖?
バーバラも時を同じくして気づいたのか、ずいっと身を乗り出した。
オレンジ色のポニーテールがふわりと揺れる。

「ゲントって、あなたもしかして……」
「ああ、申し遅れました。私はチャモロ。この村を守るゲント族の戦士です」

どうぞお見知りおきを、と、子供にしては丁寧すぎる口調で、少年―――チャモロは深々と頭を下げた。



タイチ
レベル:15
HP:102/113
MP:32/52
装備:はがねのつるぎ
    てつのむねあて
    けがわのフード
特技:とびかかり
59 ◆DQ6If4sUjg :2012/01/12(木) 19:42:22.88 ID:TpCdsoSA0
今のペースだといつ完結できるかわからないので、
ちょこちょこイベントはカットしていくつもりです。
でもムドー(上)まるまるカットはやりすぎだったかも。

皆様、いつも感想ありがとうございます。
ご期待に添えられるよう頑張りますです。
60名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/01/14(土) 07:21:46.86 ID:LhsjPweN0
おつチャモロ!
61名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/01/18(水) 05:55:49.13 ID:p0TyZCaq0
ほっしゅ
62名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/01/24(火) 22:30:00.83 ID:QvA8wWen0
また活気が戻りますように…ほしゅ。
63名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/01/29(日) 00:48:07.26 ID:MrRFfV8V0
保守
64タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2012/01/31(火) 22:31:10.11 ID:cLZSfUTQ0
「この場所」

「おじさん、そんなところに突っ立って何をしているの」
「うん、この場所はおじさんが若いころお世話になった場所なんだよ」
私の答えに満足した様子ではないが「ふうん」と、子供はどこかへ走って行く。
静かになった宿屋の一室で大きく深呼吸をし、荷をほどき年季の入った衣類を綺麗に畳む。
今日この世界から居なくなる事に対しての礼儀だと思ったからだ。

どれほどの時間をこの世界で過ごしただろう。
最初は当たり前だが若く力もあり、気力も充実していたように思う。
この部屋を飛び出して多くの事を経験し、出会いや別れもたくさんあった。
生き死にが元の世界よりずっと身近で、魔物をなぎ倒す武器や身を守る防具といったものも身に着けている。
また国同士の争いも頻繁に起こり、そこに入り込んでくる魔物の長である魔王などという存在もあった。
救世主である勇者とその一行によって魔王は打ち倒され平和にはなったが、魔物は依然として野を這い回っている。
魔王がいなくなったというのに魔物というのはどうも、この世界では日常的にそこに在るものらしい。
65タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2012/01/31(火) 22:32:45.65 ID:cLZSfUTQ0
私自身と言えば、この宿屋を飛び出し世界を回り必死に元の世界へ戻る方法を探し歩いたが見つからず、
いつか恋をして小さな村の娘と結婚し居を構え、子供も出来その子も人並みに育ってくれた。
今にして思えばボロを纏ったみすぼらしい青年についてよく我慢をし、よく私を支えてくれたと思う。
そのおかげで村に無かった宿屋を経営する事も出来たし、息子は近い村や町に出向き私の宿屋を宣伝してくれる。
宿屋の経営をしようと考えたのは、結婚したのだからどこかの土地に落ち着かなくてはいけないという気持ちと、
目覚めた宿屋では途方にくれながらも宿の主人に気に入られしばらく働かせてもらい、その経験による自信もあった。
何より一番なのは私の中で宿屋の存在という物が考える以上に大きかったのだろう。
魔王軍に怯える日々で客足が遠のいた苦労もありはしたが、ともかく私はこの世界の住人としてはとても幸せだった。

妻と息子に宿を頼み私は二三年ごとにこうして家から離れた宿屋を訪れる。
このベッドで眠れば元の世界へ戻れるのではないかと思えて仕方がないからだ。
あれから数十年──すっかり歳をとり世間的には初老となった今もその思いを断ち切れない。
これほどに馴染んだ世界なのだからもう故郷だと言う自分の気持ちに嘘はないが、ふとした瞬間に本当の故郷が恋しく思われる。
もちろんこんな事、誰にだって話したことはなく家族だって私はこの世界の滅んだ村の生き残りだと告げてある。

聞こえていた子供たちの遊ぶ声や荷車や人の活気も感じられなくなってきている。
宿の主人に挨拶をしたかったが少し前に老衰で亡くなったと、馴染みのない今の主人が教えてくれた。
そう、どこにいたって歳は進んでしまい別の故郷を持つ私だってそれは例外ではない。
急がなければならない。
66タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2012/01/31(火) 22:34:37.14 ID:cLZSfUTQ0
すっかり夜も更け眠気がウトウトとさせるようになってきた。
この手記は、実のところもう何年も同じものをその時に合わせて修正し使っている。
もし私の目覚めが元の世界であった場合、残した家族にこの手記によって事実を伝えるためだ。
どこへ出かけているのかは何十年と繰り返し皆知っているのだから、帰りが遅ければこの宿屋を訪ねるだろう。
永い夢のようにも思えるが、すべては私の数十年であり人生だった。
どういう形で元の世界へ帰るのかはわからないが、その点に関しての不安はまるで無い。

妻と息子へ
すまない。
嘘をついていたわけではなく、私は事実を伝えるのが恐ろしかった。
口に出し言葉にしてしまえば本当ではなくなるような気もしていた。
軽薄だと思うだろう。だが私の持つお前たちへの気持ちは本物だ。
二人と離ればなれになってしまうのは本当に悲しく寂しい。
けれどどうしてもこの思いを捨てる事が出来なかった。
どうか、家族で築いた宿屋を今後も旅人に温かく提供してほしい。
私は幸せだった。
けれどその幸せを完全にするには、元の世界へ帰らなければならなかったんだ。
いままで本当にありがとう。
さようなら。
67タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2012/01/31(火) 22:36:20.55 ID:cLZSfUTQ0
以上です。

ひどく微妙で投稿を悩みましたが、保守を兼ねて。
68名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/02/01(水) 07:12:38.78 ID:wb6O1liT0
>>67
タカハシ氏乙

この後主人公は元の世界で目を覚ます。
何もかもあの日のまま。体も若い。
異世界で過ごした数十年はまるで無かったかのように。

というオチを妄想した。
新スタートレック
「超時空惑星カターン」より
69タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2012/02/01(水) 07:29:36.82 ID:OCHknZ6s0
>>68
おはようございます、ありがとうございます。
実はTNGの「超時空惑星カターン(英題:The Inner Light)」にすごく感化され、
以前の物語を書いている最中に書き溜めてあったものです。
終わり方までそっくりだったので投稿する時に修正してしまいました。
あれはいいエピソードですよね。
ぜひもっと知られてほしいものです。
70名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/02/06(月) 19:59:04.02 ID:qDKCemsQ0
保守
71名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/02/11(土) 10:26:05.66 ID:Z6lmESuk0
ほしゅ
72名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/02/14(火) 21:31:07.92 ID:t7b5QVWWO
ホホホ
73 ◆DQ6If4sUjg :2012/02/16(木) 17:20:55.07 ID:Aa/A4J3q0
>>47の続きです

村の外は危ないってんで、チャモロに連れられて、俺とバーバラはゲントの村入りした。
どこかから牛の鳴き声が聞こえてくる。
良く言えば牧歌的、身も蓋も無い言い方をすれば田舎って感じだ。
レイドックが結構大きな町から尚更そう感じる。
ただし、村を入ってすぐ目に入る、あの建物を除けば。
神殿ってやつだろうか。外で待機してる時にもちらちら見えてたけど、やたらでかいな。
中で神様でも奉られてるんだろうか。穏やかな雰囲気の村にはあんまりそぐわない建物だ。
何だか気になったのでチャモロに聞いてみると、
あそこには関係者以外は長老の許可がないと入れないらしい。なるほど、
扉の前には一人の男が門番のように立っていた。
あ、そうそう。ファルシオンだけど、村の入口に繋いできた。
村はチャモロが結界を張ってるから、とりあえず一歩入っとけばとりあえずは安全らしい。すげえなオイ。

互いに自己紹介を終えると(といっても名前だけだけど)、チャモロが何故村に来たのか尋ねてきた。
ゲントの村には医者も匙を投げるような重い病気を患った人が多くやってくるらしい。
で、俺たちはそういう風には見えない。
何か別の目的があるように思えてならない、と。こいつ鋭いな!

「そうなのよ!私たち、レイドックの王様からムドー討伐を頼まれてるの。
でもムドーの島には行くのには船が必要なのよね。
それで、この村にあるっていう神の船を貸してもらえないか、ここの長老様に頼みに来たの。
まあ、私たちは留守番なんだけど!」
「いや、そこ偉そうにするところじゃないから」

思わず突っ込んでしまった。あとなんでそんな鼻息荒いんだよ。
ん? あれ、チャモロさん? 何かまた顔険しくなってません?

「神の船を、ですか?」
「ああ。あるんだろ? 船。あれ……あるよな?」

自分で言いながら不安になってしまった。
よく考えてみれば、こんな山奥の村に船があるっていうのも変な話だ。
ネーミングからして漁船じゃなそうだし、大体この村から海ってだいぶ離れてるし。
一応水平線はちらっと見えるけど……。

「レイドック王がお目覚めになられたのですね。
そしてそれを皮切りに、再びムドー討伐に乗り出した、と……。
なるほど、事情はわかりました。しかし、神の船をお貸しするわけにはいきません」
「えっ? あの……ムドー、知ってる……よね?」
「魔王ムドーでしょう? もちろん知っていますよ」
74 ◆DQ6If4sUjg :2012/02/16(木) 17:21:27.34 ID:Aa/A4J3q0


   、ミ川川川彡                 ,ィr彡'";;;;;;;;;;;;;;;
  ミ       彡              ,.ィi彡',.=从i、;;;;;;;;;;;;
 三  ギ  そ  三            ,ィ/イ,r'" .i!li,il i、ミ',:;;;;
 三.  ャ  れ  三    ,. -‐==- 、, /!li/'/ 俺 l'' l', ',ヾ,ヽ;
 三  グ  は  三  ,,__-=ニ三三ニヾヽl!/,_ ,_i 、,,.ィ'=-、_ヾヾ
 三  で       三,. ‐ニ三=,==‐ ''' `‐゛j,ェツ''''ー=5r‐ォ、, ヽ
 三.   言  ひ  三  .,,__/      . ,' ン′    ̄
 三   っ  ょ  三   / バ         i l,
 三.  て   っ  三  ノ ..::.:... ,_  i    !  `´'      J
 三   る  と  三  iェァメ`'7rェ、,ー'    i }エ=、
  三   の   し  三 ノ "'    ̄     ! '';;;;;;;
  三   か  て  三. iヽ,_ン     J   l
  三  !?    三  !し=、 ヽ         i         ,.
   彡      ミ   ! "'' `'′      ヽ、,,__,,..,_ィ,..r,',",
    彡川川川ミ.   l        _, ,   | ` ー、≡=,ン _,,,
              ヽ、 _,,,,,ィニ三"'"  ,,.'ヘ rー‐ ''''''"
                `, i'''ニ'" ,. -‐'"   `/
               ヽ !  i´       /
               ノレ'ー'!      / O
75 ◆DQ6If4sUjg :2012/02/16(木) 17:22:01.32 ID:Aa/A4J3q0

「いやいやいや、何言ってるんだよ。だったら貸してくれたっていいじゃないか」
「そうよ!王様の紹介状だってあるんだからね」
「それでもお貸しできません。御祖父さm……いえ、長老様もきっと同じ答えでしょう」

あ、今おじいさまって言いかけた。
チャモロってもしかしなくとも長老の孫なのか?
だったら話は早い。こいつを説得させれば、芋づる式に長老も懐柔できるかも!

「そんなつれないこと言わないでさ〜、頼むよ」
「だめです」
「もうっ、どうしてよ!」

焦れたバーバラが語調を強くする。
待て待てバーバラ、機嫌を損ねたらダメだ。ここは辛抱強くだな……。

「神の船は、神から私たちゲント族へと授けられた神聖なもの。
ゲント族以外の方にそう易々とお貸しすることはできないのです」

――――ご存知のように、俺は元の世界に戻るために魔王討伐に参加している。
ボッツたちのように、世界を救うとか平和を取り戻すとか、
そういう崇高な目的とは掛け離れた……まあ言わばエゴなわけだ。
元の世界に戻った後のこの世界なんて知ったこっちゃない、みたいに捉えられても仕方ない。

「お前さぁ、何言っちゃってんの?」

だけど、こんなんでも一応正義感は人並みに持ち合わせてるつもりなわけで。




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ゲントの村と同じような山奥の生まれとは思えぬ、
精悍な顔つきをした青年ボッツは、目の前の老人をじっと見つめた。
頭は既に禿げ上がり、腰もすっかり曲がっている。
顔や手に何本も深く深く刻まれたシワは彼が生きてきた時間の長さをそのまま表しているようだ。
けれど、さすが神の使いと呼ばれるゲント族の長老を務めるだけはあるということか。
こうして向かい合うだけでも僅かではあるがプレッシャーを与えられているのを感じる。
それに負けぬよう、ボッツは己の両足にぐっと力を込めた。

「……それでは、どうしても神の船は貸してはいただけないと?」
「たとえ王の頼みでも、ゲントでもないそなたたちにおいそれと船を貸すわけにはいかぬ」
「そんな……」

ボッツの隣に立つミレーユが小さく落胆の声を上げた。
強面のハッサンがずいと前に進み出る。
普通の老人ならばそれだけで竦み上がってしまいそうだったが、
長老は静かに彼を見上げるだけだった。

「そこを何とかお願いできねえかなぁ。王の快気祝いってことでさ」
「それとこれとは話が別じゃよ。さあ、もう用は済んだじゃろう。
無駄足をさせて悪かったな。気をつけて帰るのじゃぞ」
76 ◆DQ6If4sUjg :2012/02/16(木) 17:22:47.66 ID:Aa/A4J3q0

もはや話を聞く気はないらしい。
どうしようもなくなった彼等は顔を見合わせた。
例えば、ここで長老の首に刃をつきつければ、村の奥にある神殿の扉は開かれるかもしれない。
いや、この老人のことだ。脅かされるくらいならばと自分から命を絶つかもしれない。
それに、もしもその方法で船を手に入れ魔王を倒せたとしても、
ゲント族とレイドックとの間には深い遺恨が残るだろう。
それではいけないのだ。
自分たちはレイドック国の代表としてこの村に来ているとは言っても過言ではないのだから。

「今日のところは引き上げます」

―――彼等は一度引き返し、王の判断を仰ぐことにした。

「何度来たところで、わしの考えは変わらんよ」
「……失礼します」

村の外に残してきた仲間たちはどんな顔をするだろうか。
二人への弁解(も何もないのだが)を考えながら、ボッツはドアノブを握ろうとして、その手を止めた。
もう一度説得を試みようと思い止まったわけではない。
開けようとしたドアが目の前で勢い良く開いたからだ。

「長老さ……わっぷ!」

ドアが開いた先から年端もいかぬ少年が飛び出してきた。
まっすぐに突っ込んできたために、少年はボッツのちょうど太股のあたりに顔が埋まってしまっている。
少年は慌てて後ろに飛びのき、申し訳なさそうにボッツを見上げた。

「あ!ご、ごめんなさいっ!」
「いや、こちらこそ。怪我はないかい?」
「う、うん。大丈夫」
「……いったいどうしたのじゃ。騒々しい」
「あっ、そうだった!長老さま、大変なんだ!チャモロさまが……」

その時、今まで石のようであった長老の表情が微かに揺れ動くのを、確かにボッツは見た。
チャモロ。
彼の身内なのだろうか?
長老の胸中を知ってか知らずか、少年は焦らすように一拍置いてから、ようやく続きを吐き出した。

「チャモロさまが村の外から来た人とケンカしてるんだ!
みんな外に出てきて集まってるよっ!」




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--------------


「俺はさあ。魔王がどこどこの国を滅ぼしたーとか、
魔物によって年に何人が亡くなってるとか、そういった具体的な被害は知らないけどさ。
でもさ、みんなできれば魔王にはいなくなってほしいって考えてるわけじゃん。世界中が迷惑してるわけじゃん。
そんな時に、ゲント族じゃないからーとか言って渋るのは、ちょっとおかしいんじゃないかなあって思うんだけど」
「……レイドックともなれば、船の一隻くらい所持しているでしょう。そちらを使えばよろしいのでは?」
「使えないから来てるんだって」
77 ◆DQ6If4sUjg :2012/02/16(木) 17:23:10.39 ID:Aa/A4J3q0

俺マジレス乙wwwww ……ああもう、融通きかねえなぁこいつ。
アモールの宿屋で地図を見ながら眉を下げていたあの人のことが思い出される。
魔王さえいなきゃもっと商売ができるのに、とぼやいてたおっさんだ。
おっさんにも生活がある。もしかしたら養わなきゃならない家族もいるかもしれない。
何も直接的に脅かされてる人ばっかりじゃない。
きっとおっさんみたいに迷惑を被ってる人は多いだろう。
被害はなくとも、いずれ自分の身に降り懸かるかもしれない不安を囁き、
怯えている人たちがレイドックにはたくさんいた。
だから、わけのわからん理屈をこねて船は貸さないの一点張りを崩さないチャモロに俺は怒りを感じるのだ。

「チャモロ、目の前で誰かが魔物に殺されそうになってたらどうするよ」
「もちろんお助けしますよ」
「そうだよな、俺たちだってさっき助けてもらったし。
そのことは本当に感謝してるよ。改めてありがとう」
「ええ……」

ピリピリしてきた雰囲気のなか(俺のせいなんだけど)、礼を言ってくる真意を掴みかねているらしい。
チャモロの視線には疑念がこもっていた。

「考えてみてほしいんだけど、たった今どこかで魔物に襲われてる人がいるかもしれないよな。
で、魔物っていうのは魔王の手下だろ? つまりさ……」
「つまり、魔王討伐に向かうあなたたちに船を貸さないのは、
魔物に脅かされる人々を見捨てることと同義だと。そうおっしゃりたいのですか?」

頷く。
そうだよ、俺の言いたいのはそういうことさ。

「そのことについてはご安心ください。
私たちだって、魔王を前にして手を拱いているだけではありません。
今はまだその時ではないというだけなのです」
「その時? それっていつなの?」
「神から命を受けた伝説の勇者殿が現れた時です。
その時こそ私たちは勇者殿に力を貸すべく、神の船を下ろすでしょう」

は?


……は?


「ごめん、よく聞こえなかった。もっかい言ってくれる」
「ですから、神から命を受けた勇者殿が――――」

聞き間違いじゃなかった。こいつマジかよ。
ああ、あの目は本気だ。冗談なんかじゃない、心の底からあんなこと言ってやがるんだ。
失望、落胆、怒り。様々な感情が入り混じっていく。
ああ、脳みそがぐちゃぐちゃになりそうだ。
頭を抱えそうになるのを堪え、俺は喉の奥から声を搾り出した。

「なあ、それマジで言ってんの」
「マジ?」
「本気で言ってんのかって」
「ええ、もちろん。私たちゲント族は古来から」
「ばっかじゃねえの」
「……え?」


「いるわけねえだろ。神なんか」
78 ◆DQ6If4sUjg :2012/02/16(木) 17:28:32.14 ID:Aa/A4J3q0

チャモロが目を見開き、俺たちのやりとりを見守っていた村人たちがどよめきはじめた。
知ったこっちゃない。こっちはてめえらのアホくささに全身の血が沸騰しそうなんだよ。
確かにさあ、魔法やら夢の世界やら真実を映す鏡やら、
非現実なことばっか起こるこの世界になら、マジで神様いるかもしれないなーアハハなんて思ったよ。
でも、それは“かもしれない”ってだけで、本当にいるかどうかってなると話は別になってくるんだよ。

「何を……。ふざけているのですか?」
「ふざけてんのはそっちだろ。
神とか勇者とか、いるかもわかんねえものを待ってるとかアホだろ。アホの極みだ!」
「なんということを……」
「タイチ、言い過ぎだよ! もうやめよう? ね?」

後ろからバーバラが服の端っこをくいくい引っ張ってくる。
女の子にしてほしいことベストテンに食い込む仕草だったが、
それに感動する余裕なんてあるはずもなく。

「本当に神がいるとして。世界に魔物がはびこってるのはなんでだ?
いくら倒してもいなくならないのは?」
「魔王が彼等を作りだし、世に放っているからです。神とは関係ありません」
「関係あるだろ。魔王も魔物も神が全部倒せばいいじゃねえか。神なんだからできるだろ」
「いいえ、これは神が私たちに与えたもうた試練です。
御自分に頼り切っていては人は成長できないとお考えなのでしょう」
「そのために多くの人が死んでもいいっていうのか? そんな神、俺は信じたくない」

暴論だ。自分でもわかってる。
でもこいつを問い詰めないことには、この怒りは収まりそうにない。

本当に神がいるなら。
テレビで宗教問題が取り上げられたり、学校で宗教が何たるかを学んだたびに考えていたことだ。
本当に神がいるなら、なんで戦争はなくならない? なんで毎秒何人もの人が死んでる?
なんで世界には恵まれてる人の方が少ないんだよ。
みんな、どんな気持ちで神なんか信仰してるんだ。

「伝説の勇者だってそうだ。“伝説”なんて、言い替えれば“噂”と大差ないだろ。
そいつが本当にいるって証拠はあるのか? ここに来るって根拠は?」
「やめてください! それ以上神を愚弄することは許しません」

語調を強め、チャモロが睨み付けてくる。
ゲントの杖について根掘り葉掘り尋ねた俺を咎めた時のものではなく、
怒りに心が波立っているようだった。
けれど、周りでどよめく村人たちの目を気にしてか、声を荒げるようなことはしない。
必要以上に俺を責める気もないらしい。
目を閉じ、咳払いをひとつ。再び俺を見上げた時には、茶色の瞳から怒りの色は消えていた。
いや、隠してるのか。

「……こんな世の中です。不安ゆえに神を疑いたくなるお気持ちはわかります。ですが、どうか落ち着いてください」
「質問に答えてくれよ」
「神はいつも私たちを見ています。信じていれば、いつか必ず報われる時が来るでしょう」
79 ◆DQ6If4sUjg :2012/02/16(木) 17:29:30.53 ID:Aa/A4J3q0






            い

  こ



                          つ





80 ◆DQ6If4sUjg :2012/02/16(木) 18:05:36.42 ID:Aa/A4J3q0

「――――ふざけんな!! そんなの嘘っぱちだ!! だったらなんであいつは、勇は」


……勇?
なんでここで勇の名前が、



「タイチ!!」

肩のあたりを強く掴まれる。反動で身体が揺れて、俺は現実に引き戻された。
鼻を掠める花に似た香りに顔を上げると、
ミレーユが悲しいような困ったような顔でこっちを見つめていた。
……いや待て、ミレーユ? おいおい、ボッツとハッサンまでいるじゃないか。
なんで三人ともここに? 長老と話してたんじゃ?
俺の疑問には答えず、ボッツはチャモロ、そしていつの間にか彼の隣に佇んでいたじいさんを振り返った。

「すみません、彼は僕たちの連れです。大変失礼致しました」
「や、こちらこそ申し訳ない。孫が無礼を働いたようじゃ」
「御祖父様、私は……」
「チャモロ。お前は最近目覚ましく力をつけてきてはいるが、心の方はまだまだのようじゃのう」
「……申し訳ありません」

おじいさま。
ということは、このじいさんがここの長老か。
きっと騒ぎを聞きつけて話の途中で出てきたんだろう。

……ああ、血の気が引いた気分だ。
ここにはあくまで船を貸してもらおうと頼みに来たのに、お偉いさんの身内と騒ぎを起こすなんて。
俺ってば何やらかしてんだ。留守番もまともにできねえのか。
しかもボッツに謝らせるとか……。これじゃあまるで、親に頭下げさせてる悪ガキだ。

「その……すみませんでした!
つい熱くなって、失礼なことばかり言ってしまって……お騒がせして本当にすみません」
「気にされるでない。孫が迷惑をかけたのう」
「いやそんな、こちらこそ……」
「そなたの気持ちもわかるぞい、若いの。
確かに魔物に大切なものを奪われた者からすれば、わしらは薄情者に見えるかもしれん」

そんなところから聞かれてたのか。
チャモロが何か言いたげに長老を見たが、結局口をつぐんだ。
今は口出しすべきじゃないと思ったんだろうか。
視界の外の葛藤を知って知らずか、長老は話を続けた。表情は穏やかだが、どこか険しい。

「じゃがな。たとえ正論だとしても、そなたのやったことは正義感の押しつけじゃ。
どんなに馬鹿げていると言われようが、わしらにも譲れないものがある。
それは誰の中にも存在し、おいそれと他人が口出しできるものではありゃせん。ゆめゆめ、忘れないことじゃ」
「……はい。すみません」

押し売り、か。言えてるかもしれない。
きっと何かしらの神を心から信仰している人は、たとえ恵まれていなくとも、
死ぬその時になって神を恨んだり存在を疑問視したりしない。
神にもらった命を神に返すだけと考えるからだ。
外部の人間が勝手に「かわいそうだ」と哀れむだけならいい。
けれど、それは彼らの中の神を否定してまで貫くものかと言えば、きっとそうじゃないんだろう。
81 ◆DQ6If4sUjg :2012/02/16(木) 18:06:53.67 ID:Aa/A4J3q0

……わからない、わからないな。
それでも俺は、今もどこかで失われつつある命に目をつぶって、
いるかもわからない神やら勇者やらを待つ気にはなれない。
待てるこの人たちを理解できない。

あーくそっ!こんなことになるなら宗教学の授業真面目に受けとくんだった!
全授業出席だけで単位もらえるっていうからノートもプリントも真っ白だよチクショウ!

「長老様。とにかく、僕たちは一度レイドックに戻ります」
「そうじゃな。お互い頭を冷やした方がいいじゃろう」
「ええ。……みんな、行こう」

踵を返し、村の出口へと歩き始めたボッツたちの後ろをとぼとぼついていく。
はあ。あとでみんなに謝らないとな。止めてくれてたバーバラにも悪いことしちまった。
俺のせいでこの村での印象悪くなっただろうし、
これが原因で船借りられなくなったりでもしたら責任重大だ。
たとえ長老が折れて船を貸してくれることになっても、村の人たちには反対されそうだなあ。
ほら、俺たち……っていうか俺を見る村の人たちの視線超痛いもん。びしびし刺さってるもん。
いや自業自得なんだけどさ。

俺、なんであんなに熱くなってたんだろう。
問い詰めるのはいいとして、もうちょっと冷静に、相手を傷つけずにできなかったもんか。
あーあ、この世界に来てからあんな冷たい目で見られるの初めてだよ。
何かぴくりとも動かないし、目どころか身体も氷みた――――

「え?」

歩みを止めて、俺は馬鹿みたいに辺りをきょろきょろと見渡した。

村を吹き渡っていた爽やかな風が止まっている。
草木が風に吹かれたままの形で止まっている。
前を歩いていたボッツたちが踵を半端に上げたまま止まっている。
こちらを見て何やら囁き合っていたおばさんたちの口が止まっている。

なんだこれ……。まさか、時間が止まってる……!?
いったい何が起きてるんだ?
神とかいるわけねえだろバロッシュwwwとか言ったから罰が当たったのか?
それともあれか、スタンド攻撃受けてるのか? 五秒後にオラオラされるのか?
スタンド使い同士は引かれ合うのか?


――――チャモロ、チャモロよ。私の声が聞こえますね。


おわああああああっ!!?
どこか遠くから響くような、けれど頭の中から聞こえるようなその声に、俺は身体を強張らせた。
もう俺、さっきから驚きの連続でちびりそうなんですけど。
っていうかチャモロ? なんでチャモロ?
振り返れば、少し離れたところにチャモロがつっ立っていた。
何故かぼけっと明後日の方向を見上げている。
82 ◆DQ6If4sUjg :2012/02/16(木) 18:07:33.75 ID:Aa/A4J3q0

もしかして、あいつは止まってない……?

「おい、チャm―――」

一歩踏み出したその時、青いペンキを流し入れたみたいに雲一つない空に、一筋の光が降った。
光はまるで目には見えない水面にぶつかったように跳ね上がったかと思うと、
きらきらと輝きながら何かの形を縁取っていく。
……やがて現れたそれは、俺には髪の長い女に見えた。


――――この者たちを帰してはなりません。この者たちと共に神の船でムドーの島に向かうのです……。


身体を通り抜けて、心ごと優しく包み込んでくれるような暖かな声。
圧倒されるがままの俺やチャモロが返事する間もなく、
女の姿は蜃気楼のようにゆらゆらと揺れ、やがてそのまま消えてしまった。

けれど、かき消えてしまう寸前。
チャモロを見下ろしていたはずの女が俺の方を見て――――にっこりと、微笑みかけたような気がした。

風が髪をもてあそび、頬をくすぐる。
葉と葉が擦れる音が、村の人たちの囁き合いが聞こえてくる。……どうやら戻ってきたらしい。
いや、別にどこにも行っちゃいないんだから、戻ってきたって表現はおかしいか。
何だったんだ、さっきの。
今まで色々非現実は経験してきたけど、その中でも一番ぶっ飛んでたな。
……まさかとは思うけど。さっきのって、いわゆるかm――――

「皆さん、待ってください!」

某トンガリ頭の弁護士よろしく、チャモロが声を張り上げた。
なんだなんだとボッツたちが振り返り、村の人たちも一斉にチャモロへ視線を集中させる。
待てチャモロ。お前が何を言いたいかはわかる。
けど、お前それでいいのか。隣でハテナを浮かべている長老を泣かすことにならないか。

「ど、どうしたのじゃ、チャモロ?」
「御祖父様。この人たちに船を貸すことにしましょう。私も共に行きます」
「えっ」
「「「「えっ」」」」

あー……。

「今、神の声が聞こえたのです。彼らと共に神の船に乗り、ムドーの島へ向かえと」
「す、すると、この者たちが伝説の勇者だと……!?」
「そうかもしれませんし、そうでないかもしれません。
しかし、神に授かりし船の封印を解くことがどんな結果をもたらすのか……。
この先世界はどうなってゆくのかをこの目で確かめたいと思います」
「なにそれこわい」
「さあ皆さん、行きましょう。私についてきてください」
83 ◆DQ6If4sUjg :2012/02/16(木) 18:08:12.15 ID:Aa/A4J3q0

やる気に満ち溢れた笑顔を浮かべて、チャモロは足取りも軽く
例の神殿へとさっさと歩き出していってしまった。
当然ながら、周りの人間は全員(゚Д゚ )ポカーン状態である。
これにはさすがの俺も思わず苦笑い。

あのー、チャモロ……。俺が言えることじゃないんだけどさ。
なんつうか、その……空気読めよ!
せめて「今日はもう遅いですから」とか言って一晩泊まらせて、
翌朝にでも「夢でお告げが〜」とかいう感じにしてやってくれよ! 長老の立つ瀬がないだろ!
手のひら返しっぷりがひどすぎていっそ清々しいくらいだよ!
さっきの俺たちの論争はなんだったんだよ……。
ああヤバイ、なんか涙出てきた。

「なんで……なんでそんな台無しにするようなこと言うかなあ。
わし、さっきめっちゃかっこいいことゆってたじゃん……。あの若者も心を改めた感じだったじゃん……」

長老にいたっては肩を落として何やらブツブツ言っている。
まあそりゃ、愚痴りたくもなるよな……。一瞬で心変わりだもんな。
がっくりと落とした肩をぷるぷる震わせたかと思うと、長老はガバッと顔を上げ、大声で叫んだ。
杖をついた年寄りのものとはとても思えない、張りのある声だ。

「よいかチャモロ! ムドーを倒してくるまで帰ってくることは許さんからな!!」
「はい! 御祖父様!」

……うん、いい返事だ。



タイチ
レベル:15
HP:102/113
MP:32/52
装備:はがねのつるぎ
    てつのむねあて
    けがわのフード
特技:とびかかり
84 ◆DQ6If4sUjg :2012/02/16(木) 18:11:11.58 ID:Aa/A4J3q0
どうもお久しぶりです。今回はどうにも難産でした。
読んでくださっている方の中で、何かしら宗教を信仰されてる方っていらしたりするでしょうか。
決して宗教を否定しているわけではないので、ご容赦頂ければ幸いです。

>>60
ありがとうございチャモロ!
85名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/02/17(金) 00:13:16.87 ID:9DcOnvGd0
>>タカハシ氏

ごぶさた乙!
こういう後日談的なお話は大好物だよ。
個人的には、このおっちゃんは今回も帰れなくてまた同じことを…
ってな妄想をしてしまうなw
86名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/02/17(金) 00:14:38.41 ID:9DcOnvGd0
>>タイチの人

乙チャモロ!
タイチのああいう熱いところがたまらんのう。
ボッツ視点も新鮮で良いね!
6は仲間が多くて書き分けが大変そうだなぁ。

長老wwwドンマイwww
87名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/02/17(金) 01:56:50.82 ID:hgRTijcG0
船を借りるのにそんなことがあったとは
78のタイチさんの気持ち、ほんとよくわかります
神が本当におわすなら、こんなむごいことお許しになるはずがないっていつもおもいます

でも、長老さんの言うことももっともなんですよね
相手の信じる神を否定して、それがひどくなるとエルサレムを奪い合う宗教戦争になってしまいますから
チャモロさんはきっとまっすぐな青年なのでしょうね
まっすぐすぎてストレートに手のひらをかえしてしまいました(笑
さんざんネ申を否定していたタイチさんにもルビスの御加護はありそうです
今後が楽しみです^^
88名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/02/17(金) 02:01:44.60 ID:hgRTijcG0
そしてタカハシさんショートストーリーもいいですね^^
おっちゃんには、今の家族を大事にしてほしいな・・・とはおもいます
戻れなくていい、というか、戻れない方がいいんじゃないかって思うほどに

DQ世界にいっても、歳をとるというのは、その世界の住人にしてみればあたりまえですが、なんか斬新でした

89名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/02/22(水) 00:34:45.11 ID:RHd0T6eM0
ほす
90名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/02/29(水) 20:37:56.52 ID:MWr7Zhzz0
保守します
91名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/03/03(土) 08:40:03.98 ID:qy81pCSu0
ぬるぽ
92名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/03/03(土) 21:19:30.57 ID:WufDadUc0
「うわああああああああああああああ!!!!」

俺は自ら放った絶叫の煩さに目を覚ました。
どれだけ汗をかいたのか。体にベトリとシャツが纏わり着いていた。ひどく怖い夢を見ていたらしい。
しかしその余りにも悲鳴にも似た、男が上げる様なものでない叫び声の所為で内容はもう思い出せない。

「はあ、はあ…」
俺は汗の不快さから堪らずに半身を起こした。
真っ暗だ。まだ夜中のようだ。何時だろうか。
俺の叫び声を聞いて1階で寝ている家族が起きてくるかもしれない。情けない。
何と言い訳したらいいかと考えながらいつもベッドの上に置いてある携帯電話で時刻を確認しようと手を伸ばす。

「……?」
何かがおかしい。
いくら手を伸ばそうとも、ベッドから外れた手が宙を掻く。何も無い。壁にもあたらない。
そういえばベッドの感じがいつもと違う。枕。シーツの感触。

……どこだここ。

視界は何も見えない。俺は昨日どこで寝た?
どう思いだしてみても、やはり自室以外にありえない。
明りは?電気。携帯の照明で…って無いんだった。

真っ暗闇の中、俺はベッドからおそるおそると足を落とした。
右足のつま先、親指の平辺り。その先端が床にほんの少し触れた瞬間――。

そこから輪が広がる様にして一瞬にして暗闇がはじけていった。真っ黒から真っ白に。真夜中からの急転直下。
俺は急激な眩しさに耐えられずに目を閉じた。何が起こったんだ。

「お待ちしておりましたわ。勇者様」
声に驚き俺はその方へ眩しさを堪えながら無理やりに目を開く。

93名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/03/03(土) 21:20:43.93 ID:WufDadUc0

なんだ。誰なんだ。おかしなシルエットだ。人間に角が生えている様に見える。
「おはようございます」
挨拶をしてきたので俺は見えないままに挨拶を返した。どうやら声から察するに少女のようだ。
その柔らかい声に少し安堵しつつ、次第に目が慣れ視界が晴れていくのを待った。

……どうやら角に見えたそれは帽子の様だ。色は黒。つばは広く円錐状に長く伸び先が折れ曲がっている。
魔法使いなんかが被るとんがり帽子って奴だ。

…帽子だけじゃない。全身を覆い隠す様なマントも、服も、靴も、全てがどこかでみたような魔法使いの格好だった。
肩まで伸びた赤い髪と輝く様な同色の瞳がその格好も相まってどこか別世界の住人の様に見えた。

「誰だ?」
と、俺は聞くしかなかった。
回りの景色も意味不明。足もとの石床に魔法陣が描かれている。蝋燭。水晶、妙な色の液体の入った小瓶の数々。
「よかった。言葉は通じるようね。私の名前はベティ。あなたを召喚した魔法使いなの」
彼女はそう答え、帽子を取った。顔だけを見るとショートボブの普通の10代半ばの少女に見える。

「魔法…使い?」
俺は依然呆然としたままに聞き返すと、彼女は大きな赤色の瞳をパチクリとさせた。
「そう。魔法使い、ん?もしかして知らない?あなたの世界にはいなかったのかしら」
「いや…、架空の生き物だ…。魔法なんてものは存在しない」
次第に状況が整理つきつつあった。しかし誰が別世界の存在をすぐ様受け入れられるだろうか。無理だ。嘘だ。

「あるわよ。ほら」
彼女は片方の手のひらを上に向けると全く表情も変えずに何てこともないようにそこに火の球を出現させた。
手の平の上で火が宙に浮いてゆらゆらと燃えている。
ありえない。何故突然に火を出せたんだ。浮いたままに留まる筈がない。

94名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/03/03(土) 21:23:37.60 ID:WufDadUc0
うわっ。書きこみ出来た
ちょっと書きためしてくる
95名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/03/03(土) 21:34:09.63 ID:vaVW28JU0
支援!
96名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/03/04(日) 00:01:10.88 ID:EL2C9FCj0

「…分かった。信じる」
信じられないが。魔法が存在している。魔法使いがいる。何故だ。どうなってる。
「ありがとう」と彼女が手を下ろすと同時に燃えていた火球もロウソクの火が消える様にフッと消滅した。
その様を俺はずっと間抜け面の様に口を開けたまま見ていたことに気付き、口を閉じ唾を飲み込んだ。

先程の暗闇からの急激な眩しさも、この少女の仕業ということなのだろうか。魔法で。俺は召喚されたのか。異世界に?

「――で、そろそろ名前教えてくれるかな」
そう言われ、俺は「アキヒト」と、ぼそりと名乗った。
「ア、キ、ヒ、ト?」と再度怪訝に尋ねられ「ああ」と頷いた。
異なる国や別世界の人間の名前が変わってるのは当たり前と言えば当たり前だが……。

「そう。よろしくね」と彼女は笑顔を見せ右手を差し出してきた。握手を求める手だろうか。
「その前に、俺を召喚したって言ったよな。何故俺なんだ」
手を取らずに聞き返した。その手は宙を彷徨いもう片手に持っていたとんがり帽子を掴み、そして再び頭にのせた。

「あなたが、最も勇者に相応しいから」
彼女は深く被った帽子の下から瞳を覗かせそう答えた。どこか悲しげな表情に見えたのは気のせいだろうか。
「勇者?何言ってる。ありえないな」
俺は自分の体を見た。

仮にここが本当に異世界だとして、それでも俺の体は、日本男児の高校1年の平均をやや下回るものに変わりは無かった。
普通以下。何が出来る。何か出来る様になるとでも言うのか。

「突然無理なお願いを言っているのは分かっているわ。でもお願い。あなたしかいないの」
彼女はやはり悲しげな目で言った。懇願しているかの様だ。
なんなんだこの状況……。
「正直全く理解できないな。勇者が必要だと言うがこの世界にはいないのか?魔法使いがいるんなら勇者だって…」

「死んだの」
「な…」

死んだ。勇者が、死んだ…?
「……蘇らせる魔法は無いのか」
聞いてから意味の無い言葉だったと気がつく。生き返らせられないからそのままだと分かりきっていた。
彼女は首を振り、語り始めた。

1年前、勇者と呼ばれた人間が魔王に闘いを挑んだ。
その勇者は絶対的な力を持ち、魔法という不思議な力があるこの世界において人並み外れた強さだったらしい。
誰もがその強さを疑わず勇者は勇者と呼ばれ、必ずや魔王を打倒してくれるものと信じていた。

だが、負けた。
魔王はそれ以上の力を持っていた。
もう、この世界を救える人間は存在しない。
世界中の戦士や魔法使いを何百人集めようが、その勇者たった一人の力にすら及ばないのだから。

人々は、諦めた。
ただ、願うしかなかった。勇者が再び現れることを。
97名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/03/04(日) 00:05:20.74 ID:EL2C9FCj0

「俺にそんな力、ある筈がない」
話を聞いていた俺は、先程彼女が俺に向けて「勇者」と言ったことに少し苛立ちを覚えていた。
そのまま鵜呑みにしてしまうわけにはいかない。
「あるわよ。きっとあるわ。信じて。精霊ルビス様によってあなたは導かれたのだから」
彼女はすがる様な目をしていた。俺は思わず目を反らす。
「精霊?信じるも何も…俺には知らないことだ。俺には俺の生活があったんだ。それを勝手に…」
「それについては謝るわ。本当にごめんなさい」
彼女は深々と頭を下げた。それから頭をなかなか上げようとしない。どうしろってんだ。
「…別に。いいけど。よくねーけど。生活つっても抜けだしたい程に退屈な日々だったしな。それに、キミが選んだ訳じゃないんだろ」
ようやく頭を上げたのを見て俺は尋ねた。

「本当にここが俺の知らない世界だってんならまず世界を見せてくれよ。話だけ聞いてもまだ半信半疑だから」
「うん、そうね。わかったわ…。でもその前に」

彼女はマントの下に着ていたベアトップ型の緑色のワンピースの腰に、結び付けていた小さな袋から何かを取り出した。
「その格好じゃあ街は歩けないものね。とりあえず今こんなものしかないけど」
と、何やら着るものを取り出した。

俺は折りたたまれたそれを受け取り広げて見た。青色の厚手生地の旅人の服のようだ。
「あとこれも」
「な、剣かよ。本物か?つーか今どこからこれを取り出したんだ」
刃渡り1メートルくらいあろうかという長さの鞘を抜いてみると、銀色に光る刀身が現れた。両刃の西洋の剣。重い。
「勿論本物。まあ安物だけどね。ああ。あと、この袋のことね?魔法で袋の中が広げてあるから」
「……はあん。なるほど」
袋の中を覗いて見るが全く理解できない。四次元ポケット的なものだろうと自分を納得させる。
「この剣は俺が使う為に?」
「もちろん。勇者は剣で戦うものでしょ」
「……まじかよ」
目の前の少女の瞳は俺を本気で勇者だと信じて、これっぽちも疑ってないように見えた。

「それじゃ、先に部屋出て待ってるから着替えてきてね」
「………ああ、あの、ちょっと待ってくれ」
少し迷った後、俺は彼女を呼び止め振り向いたところへ手を差し出した。
「さっきはごめん。ってもまだ何が何だかわからないけど」
小さく頭を下げた。まるでさっきと逆の立場になっていた。そのことに彼女も気付いたのか少し笑ってから握手をした。
「ううん。私のほうこそ。じゃあ改めてよろしくお願いしますね。ええと、アフィリイトさん…だったっけ」
「アキヒト。さん付けも敬語もいらない」
「そう、ごめんごめん。アキヒトね。よろしく」
「よろしく」




98名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/03/04(日) 00:11:03.50 ID:EL2C9FCj0
女魔法使いと旅がしたい

そう思って書いてみた。他書き手さんを待つ暇つぶし程度に読んでいただければ
99 ◆bvTKLCRja6 :2012/03/04(日) 12:34:07.89 ID:r18Llaro0

第2話 「中世と、俺」

鮮明に俺の眼へと飛び込んでくる景色に俺はしばらく呆気に取られていた。

中世時代の街。
石畳の道路。石とレンガの家。アーチ状の窓、柱。
それらが迷路の様に狭々とくっ付き入り組み、まるで俺をこの異世界へと迷い込ませるようだった。
半分は予想通りの景色だったがもう半分はそれ以上にリアル過ぎて感想の言葉さえ見つからない。
髪も目も肌も違う色した人々が行きかい。格好も様々。鉄製の鎧を身に付けた戦士の様な者が普通に俺の前を通り過ぎていく。

「魔王は街には攻めてこないのか」
俺の隣を並んで歩く頭一つ分程背の低い魔法使いの格好をした少女にそう聞いた。
少女の名はベティ。年はまだ聞いていない。幼さの残るその顔から察するにおそらく十代半ば。俺とそう変わらなそうだ。
とんがり帽子から溢れ出ているややボリュームのあるショートボブの赤い髪がさらに子供っぽく見せているのかもしれない。

「今のところはね…。でもあの時、魔王の住む城に攻め入った時の報復なのか、それからすぐに一つの街が壊滅させられたわ。」
悔しさを滲ませベティはそう言った。
「だから…、私たち人間は下手に魔王に手出ししない方向を考えたの。勇者が現れるまで」
……ならばそのまま互いに平穏に暮らせないのか、と一瞬頭で思ったが聞けなかった。地球じゃ人間同士でさえも争いを起こしている。
100 ◆bvTKLCRja6 :2012/03/04(日) 12:35:10.81 ID:r18Llaro0

しばらく歩くと視界が開けた場所へと出た。
回りは建物で囲まれているのにそこだけ校庭のグラウンドの様に広く、石畳が敷かれていた。
中央に噴水が見え囲むようにベンチが置かれている。中央広場の様だ。

そこから一本だけ大きな道が続き、その先に見えたのは大きな城だった。
ベティはあろうことか今からそこへ俺を連れていくと言いだした。

「待て。まさか王様に会うとか言わないよな」
しかしベティは「その通りね」と答える。会ってどうする気だ。
「俺が勇者とかって言う気か」
「うん」と自信満々の頷き方をされた。
「待て。やっぱりどう考えても俺は普通の人間でしかないのだが。魔法だって使えない」
はい王様、勇者が現れたので今すぐにでも魔王を退治しにいきますよと言わんばかりの力強さでベティは城に向かって歩く。

「大丈夫よ。大丈夫。だってねアキフィ…じゃなかったアキ…ア…アフィリイト!」
「アキヒト」
「そうそうアキヒト。あなた勇者そっくりだもの」
「は?何がだ。」
ますます俺は困惑した。突然何を言い出すんだ。
「顔も、雰囲気も。似ているわ」
ベティは俺を指さしそう答えた。何故わかる?勇者と知り合いだったのか?
「いやいやいやいや」
似ているだけで勇者とかそれこそありえないだろう。顔が似ていても強いわけじゃない。むしろこの世界じゃどうみても貧弱。
それとも何か?顔が勇者に似ているというだけで俺は召喚されてしまったと言うのか?

「ふふふ、冗談よ。でもね、あなたは間違いなく精霊ルビス様の導きによってこの世界へやってきたの。だから安心して、ね?」
「う、む…。その精霊ってのはそんな凄い奴なのか?本当に信用していいのか?」
「当然よ」とベティはまたしても自信満々に頷いた。
人間と魔物が存在する前よりこの世界を見守ってきた全知全能の神だと言う。

だったらそいつが魔王をなんとかしろよって話。
101 ◆bvTKLCRja6 :2012/03/04(日) 12:36:03.92 ID:r18Llaro0
しぶしぶとベティの後ろをついていくとやがて城の門扉の前へと到着した。
なんという扉の大きさか。二階建てくらいの高さの門だ。言うまでもなく城の大きさはその何倍以上もある。
どこの世界でも貴族王族というのは無駄に金をかけて見栄を張るものだと理解する。

門の前には手には槍、腰に剣を身に付けた体格のいい兵士二人組が直立不動で、やってきた俺達を見据えていた。
一人の男が一礼し口を開いた。
「これはベティ殿。お久ぶりでございます。今日はどのようなご用件で」
「そうね。隣の男の子。見て何か気付かないかしら」
ベティは得意そうに兵士にそう告げると、兵士が俺の方へと顔を向けた。
門番だけあってか、いかつい顔に俺は思わず目を反らした。

「ふーむ。む!?むむむむむむむ!?いや!そんな!?でも…しかし!」
まじまじと見つめてくる兵士の眼は驚きと懐疑が入り混じっていた。
「……おいベティ。早くなんとかしてくれ」
堪らず俺は助けを求めた。
「そういうことよ兵士さん。詳しいことはいずれ分かるわ。王様に会わせて下さる?」

…………。

……。

城内へと入った。
目を回す様な大広間を困惑気味に歩きながらベティに訊ねる。
「お前って名のある魔法使いだったりするのか」
兵士がベティを見るなり顔を知っていたのを妙だと思った。
「まあね。貴方に比べたら大したことないけど」
「……だから俺はまだ何も出来ないただの人間だっての。つーか心配になってきた。勘違いで俺は死ぬことになるぞ」
ベティは二カッといたずらっぽく笑うとさっさと歩みを進めてしまった。
「聞けよ…」

続いて幅広の階段を上がる。この先に謁見の間があるようだ。
いよいよ緊張が走る。偉い人間など中学校の時の校長くらいしか会話を交わしたことはない。俺はどうしたらいいのか。

102 ◆bvTKLCRja6 :2012/03/04(日) 12:37:23.16 ID:r18Llaro0

「おお。よく来たベティ。久しぶりじゃな。して召喚の儀式とやらは成功したのか」
煌びやかな衣装を纏った白髪と白髭を蓄えたいかにもな初老ほどの男が中央の王座に腰掛け、会うなりそう言葉を発した。
どうやら国王容認のもとに召喚の儀式は行われたようだ。ますます後に引けなくなってくる。

ベティは恭しく一礼した後、さして臆することもなく王様と会話を始める。
「ええ王様。何を隠そう私の隣に居りますのがその勇者ですわ」
先程の門番同様再び視線が注がれる。今度は王様。俺は思わず視線を下に向ける。
「ふーむ…。ワシには全くそうには見えんがの」
きっと俺の全身を見てそう言ったのだろう。その通り、武術も剣術も習っていない普通の人間なんだからな。
「ですが王様。召喚の儀式に失敗は有りません。召喚を疑うことは精霊ルビスを疑うと同義です」
ベティが力強く断言した。当の召喚された俺はほぼ十割の確率で失敗だと思っているのだが。

「その通りかもしれぬがの…。ふむ………」
しばらくの沈黙の後、国王は「そうじゃ」と何かを思い出したように言葉を切りだした。

「レーベの村よりさらに東にいった山奥に巨大なモンスターが現れ旅人が襲われたのを知っておろう」
「……ええ王様。召喚の儀式の最中のことでしたので、討伐は向かえませんでしたが…、ですからこれから…」
「いや、うむ。わかっておる。それをだな。そこの少年一人に頼みたいのじゃ」
そこの少年…とは俺のことに他ならない。俺が、何をするって?一人で、倒す?巨大モンスターを?

「ですが王様。彼はまだこの世界に来たばかりで、勇者の力を発揮するには少し時間が必要かと」
ベティの言葉にうんうんと俺も頷き同調する。しかし国王は首を縦には振らない。
「ならば一カ月じゃ。勇者というならばそれくらいで力をつけられるじゃろ。文句あるまい」

ベティは俺に一瞥をくれた後、再び国王へ顔を向け「わかりました」と深く頷いた。
まじかよ…。
「ひと月の間に無事、その巨大モンスターの首を持って帰ってきた暁には少年を勇者と認め、魔王討伐の許可を与えるとする!」

まるでゲームの1イベントでも見るかのように、俺はただその場で会話のやりとりを傍観するしか出来なかった。
103 ◆bvTKLCRja6 :2012/03/04(日) 12:41:15.22 ID:r18Llaro0

「どうしてこうなった」

中央広場の石畳の上。噴水を眺めながら俺は大の字になって寝ころんでいた。
辺りを見まわしてみても見知った人間など一人もいない。見慣れた黒髪の日本人など皆無。それが急激な孤独感となって俺を襲う。
唯一俺の事情を知っている赤髪の魔法使いの少女も隣にはいない。
今は城の中で幽閉中。
俺が巨大モンスターの首を持って帰るまで人質になった格好だ。

一か月以内に俺が戻って来なければ彼女は虚言の罪にとられ罰を受けるらしい。
それ程までに国民が勇者に対して向ける期待はとてつもないもなのだろう。
そんな責任、俺なんかが背負えるか。普通以下の身体能力しか持ち合わせていない高校1年の俺が。

……。
「精霊ルビスつったか。もし俺が死んで元の世界に帰れないことになったら一生呪い続けてやるからな」
一人呟き、俺は立ち上がった。

目指すはまずレーベの村。
目的地には2日とかからない距離だそうだ。一か月の猶予とは俺が強くなる為の期間に他ならない。ぐずぐずとはしていられないな。
持ち物は鉄製の剣一本。と目的地までを記された簡単な地図。
それと資金として受け取った50ゴールド。相場は全くわからないが宿に泊まる分にはしばらく困らない金額だと言っていた。

街を出てみるか。

続く。
104 ◆bvTKLCRja6 :2012/03/04(日) 12:45:44.86 ID:r18Llaro0
トリップつけておきました
一応ドラクエ3の世界です。では
105名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/03/04(日) 13:57:31.40 ID:gtfJDBNB0
新しい書き手さんが!

アキフィ…
ア、アキヒトが最初の試練をうまくこなせるのか期待!
106名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/03/05(月) 00:12:03.54 ID:qijhNemj0
乙!

3は一番好きだから楽しみだ!
(,,゚Д゚) ガンガレ!アフィリエイト!
107名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/03/06(火) 09:47:38.73 ID:OOl8j13S0
ほしゅ
108名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/03/08(木) 21:50:46.58 ID:LY/blp6K0
新しい人来てるやん!
応援してるよ〜
109 ◆bvTKLCRja6 :2012/03/10(土) 13:45:38.98 ID:M+sYumqX0
>>99の続き

第3話 「死」


小高い丘に上った俺は、地平線まで見渡せるこの世界の大地を一人眺めていた。

そこは、いつかTVで見た外国鉄道の車窓からの景色を思い出させるものだった。

無限に広がるかの様な広大な草原とそれを覆う澄み渡る空。
はるか彼方に山と森が霞んで見えた。
その大自然の中に俺が先程までいた中世の国、アリアハンはぽつりと存在していたのだった。

「はは……」
感嘆するでもなく俺は、地球のどこかですらない大草原の中で独り乾いた笑いをこぼした。

モンスターはこの大自然の全て、地、海、空のどこからでも沸いて出るという。
それに対して人間が安全に暮らすスペースは街をぐるりと囲む窮屈な市壁の中のみ。
ことが起きたら日を経ずして人類は終焉を迎えてしまいそうな雰囲気を感じさせる。
平和な時代と場所でしか生きたことがないから俺はそう思うのかも知れないが……。

今立っている小高い丘の上だってもしかしたらモンスターの散歩道かもしれない。そう思うと背筋がヒヤリとした。

「……ま、勇者なら余裕なんだろ」
自分に言い聞かせるように一人ごちる。

レーベの村の方角を山や森の位置から地図で確認し俺は歩きだした。


…………。

……。
110 ◆bvTKLCRja6 :2012/03/10(土) 13:46:18.31 ID:M+sYumqX0

草原の真っただ中。

人の足によって踏み固められた一本道を歩いていた。
地図を見るにどうやらそれを辿ればレーベの村へ着けるらしい。
迷う必要が無いことには心の底から助かった。
もし道に迷うようなことになれば、子供の様にいつまでもぐずり泣く自信がある。

異世界での一人は、孤独感にとてつもなく拍車がかかるものだった。
そんなことを考えていると、ほら、また思い出してしまった。地球のこと。

「………くっだらない日々だった筈なのにな」

さっさとモンスターでも出てきてくれないもんかと、考えを吹き飛ばすかの様にその場でぐるりと一回りした。

………。

確認のため、もう一回り。

………。

見間違いじゃなかった。いた。

正確には、いる、だ。
その方向へと視線を向けると草藪の中に紛れるようにして姿が消えた。
青い何かが。
そんなに大きくはない。が異様な影にそれがモンスターだということはすぐに分かった。

……な!?

どうやら……。俺は知らぬ間に囲まれていたらしい。
耳に意識を集中させると四方八方からかさかさと音が鳴っているのが聞こえてきた。
草原が風になびく音に紛れ、その中に何かが移動して擦れる音。
何匹いるのかわからない。

どうして今まで気付かなかったのか。
それはモンスターが、息を殺し慎重に俺を狩るタイミングを計っているからに他ならない。
人間を見つけたからと言ってただ単に襲ってくるわけじゃないようだ。狡猾な奴らだ。

と、冷静に状況を判断している場合じゃないが、大丈夫。俺は勇者だ。俺は勇者。と言い聞かせる。
しかし裏腹に、剣を持つ手が震える。
111 ◆bvTKLCRja6 :2012/03/10(土) 13:48:44.52 ID:M+sYumqX0

突如。
背後に、ドス!と何かが地面に落下した様な音に俺はビクりとして振り向いた。
「ド、ドクロ…」
頭蓋骨が地面に埋まっていた。どうしてこんなものが。
空を見上げると大きなカラスのような真っ黒い鳥が頭上を飛び回っていた。まさかこれを俺めがけて落としたのか。

「!!」
それが合図だったかの様に草原に潜んでいたモンスターが一斉に姿を現した。
1、2、3…背後にも3匹。
青い透き通る様なゼリー状の様な奇妙な生物。大きさはサッカーボール程。

「なっ!?」
そのモンスターの姿を見せるや続けざまの行動に俺は思わず目を一瞬閉じ身をすくめてしまった。
びゅん!
と、俺の顔数センチ横を弾丸な様な体当たりが通り抜けていった。
ありえない瞬発力。当たればタダじゃ済む筈がない。まごうことなき殺しにかかってくる一撃。
これがモンスターってやつなのか。

やらなきゃ、やられる。

俺はベティの言葉を信じ剣を振るった。
「くっ」
剣の重さに体がもっていかれる。やはり鍛えてもいない少年なんかが簡単に振るえる物じゃない。
安々と目の前にいた青い生物は俺の攻撃を跳びかわしてしまう。

目と口だけがついただけの様な不気味なモンスターが、次々にえへらと笑みを浮かべた。
こいつ簡単に狩れるぞ。と確信を得たんだろう。

それを見てわかった俺は全身から汗が一気に溢れ出した。
112 ◆bvTKLCRja6 :2012/03/10(土) 13:49:31.84 ID:M+sYumqX0

四方八方囲まれ、さらに上空からも狙われ、しかもそれが初戦となってはまともに戦える事など出来る筈がなかった。
じわりじわりと距離を詰めてくるモンスターを寄せ付けんと、身体を振りまわされる武器を無様に振りまわし続けた。

そして、ついに起こった。
再度攻撃を繰りだそうと剣を掲げた時、ゴキリと俺の腰辺りに重い一撃が走った。
その衝撃に思わず前方へと倒される。
「っつう…」
振り返ると青い生物が跳ね返っていた。あんなゼリーみたいな体で、ハンマーで殴られた様な衝撃を生み出していた。

「……無理だ」

俺は全力で掛け出した。
戦うという選択肢は一撃の内に消え「死」が脳裏を掛け巡り、俺をただひたすらに走らせた。

振り返る。逃げ脚なら俺の勝ちのようだ。しかし…
「くそう。なんてこった」
頭上を見上げ俺はそう口走る。
大ガラスが「ガアア!ガアア!」とけたたましく吠えながら俺を追ってきていた。

それはカーチェイスの逃走犯の位置を的確に知らせるヘリ役の様。
位置だけでなくさらなるモンスターをおびき寄せる声でもあった。

逃げることは諦めざるを得ない。既に息がぜえぜえ切れている。
それに、腰に受けた個所がひどく腫れだし痛みが増していた。
折れているのか走ることもままならなくなってきている。コレをもし頭にでも受けていたら……。

「……っ」
命の危険を心配することなどまだ先のことだと思っていた。しかし街から何キロも離れていない所でソレはすぐ身近に存在していた。
俺は今までなんて平和で甘ったれた所で生きていたんだろうと実感させざるを得ない。

そうしてる間に、モンスターは次々に沸き出て数を数えたくもないほどに俺を取り囲み始めていた。
もはや逃げ場は無い。

「……ゆ、勇者なんだろうが。は、早く、その力、見せてくれよ……。死ぬぞ俺!」
漫画やアニメの様に不思議な紋章やオーラが現れるんだろう?
そう思っていた。
ピンチに陥った時、勇者の力が目ざめるんだろう?
そう思っていた。
なのに、なにも起こらない。俺のか細い体が現実をつき示す。

やはり、俺は普通の人間。召喚は失敗。つまり。

「死………、死にたくない!誰か!助けてくれ!ベティ!ルビス!」
しかし、もう遅かった。
剣を持つ手に力は入らぬままに、俺はなすすべなくモンスターに襲われた。

やはり勘違いで、俺は死ぬ。

…………。

……。
113 ◆bvTKLCRja6 :2012/03/10(土) 13:52:06.55 ID:M+sYumqX0

「うわああああああああああああああ!!!!」

俺は自ら放った絶叫の煩さに目を覚ました。
どれだけ汗をかいたのか。体にベトリとシャツが纏わり着いていた。ひどく怖い夢を見ていたらしい。

……夢?

しかし。そのシャツは真っ赤だった。ボロボロに破けている。
場所は草原の中。

「ち、ちちちがっ、ちがう……。お、おおお俺はっ…………」

はっきりと、鮮明に俺の五感が事実だと告げていた。
俺はさっき、間違いなく死んだ。と。

青い生物に囲まれ、よってたかって体当たりを何百回と全身に受け、身動きすら取れなくなった後、大ガラスによって生きたまま啄ばまれた。
そこまでの感触と記憶を思い出し、俺は強烈な吐き気に襲われた。

「うええええぉおぉ、ごほっ!ごほっ!っげえぇ!!」
大量の胃液を吐き出した。これが血でなくてよかった、と思う。

しかし何故今の俺は全くの無傷なのだろうか。
シャツは血みどろだが身体は傷跡もなくなんともない。
起き上がって全身を動かしてみる。問題なく動いた。

……。
意識を失う前と同じ場所。
だが今は周囲にモンスターの気配はない。俺が死んだと思って去ってしまったのだろうか。
…そんなことは無い。俺は皮膚を引きちぎられ、内臓を引きずりだされ確実に殺された。
薄れゆく意識の中ではあったがそれは確かなことだった。

……。
夢でないとしたら。そう思った瞬時ハッとする。

「勇者の……力?」

もしそうだとしたら……。
そう思った瞬間俺はもう確かめずには、いてもたってもいられなくなっていた。

鉄の剣の切っ先を自分の胸にさし向けた。
その手は震えていない。……恐怖が消えかけている。確信出来ているわけでもないのに。
ベティが言っていたことを思い出す。精霊ルビスというなかば神によって俺は召喚されたこと。
今はもう半信半疑ではなくなっていた。

「ふふっ」
自分で真っ先に否定していたくせに途端の心変わりに思わず冷笑した。
もうどうにでもなれ…いや、きっとどうにでもなる。そんな気分。

一呼吸し意を決すると、俺は渾身の力を込めてその刃を自分の胸を貫き通すまで深く突き刺した。

「あぐあ!!!うあああああ!!!っがはっ!!…がっ…」

再び沸き起こる先程味わった体中の生のエネルギーが体外へ流れ出る感覚。
死ぬほどの痛みの中、それでも空が燃える様に真っ赤に染まっていくのを奇妙に感じつつ意識が薄れていった。

…………。

続く。
114 ◆bvTKLCRja6 :2012/03/10(土) 13:56:57.06 ID:M+sYumqX0

アフィリエイト違う!それネット広告収入のことや!
読んでくれてありがとうございました。アキヒトです。

ストーリーは考えたが語彙力がないので遅いです。ごめんなさい。勉強してきます。では
115名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/03/10(土) 20:31:45.12 ID:fQ6B+FPn0
うわわ、Lv1の状態のまま、放り出されて、別に強くもないのに死んでも死ねないのが勇者の力・・・
強くなるまでに何度、死を体験しないといけないんでしょうね・・・(汗

アキヒトさん、がんばれ・・・(汗
116名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/03/11(日) 00:44:57.47 ID:Ip/77Q3g0
おつ!
不死身の身体かぁ。
ヘラクレスの栄光Vを思い出すなぁ。

教会じゃなくその場でってのも面白いね。
続きをwktkして待っとります。
117名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/03/11(日) 18:49:55.19 ID:am420qVQO
チートかよ!!大好物だ!!
118名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/03/14(水) 22:13:32.02 ID:6pGENJZW0
ほしゅ
119 ◆bvTKLCRja6 :2012/03/17(土) 12:42:12.69 ID:gnHsdeoF0
>>109の続き

第4話 「魔法使いと、バーサーカー」


国王との約束の期限まであと3日ほど残した朝。

一年中、城の門番を課せられているのか見覚えのあるその兵士の退屈気な大きなあくびが見えた。

「外はモンスターで溢れてるっつーのにな、街は平和なもんだ…」

背には大き過ぎる程のズタ袋。中身のそれは実に重く肩が凝った。魔法の袋があるならばどんなに楽だったことか。
「ふう。やっとついた」
釣り上げ橋を渡りきり3日かけて運んだ荷物をドスッ!と降ろすと、門番の兵士も顔を覚えていたのかまさか、と声を掛けてきた。

「もしや、アフィリイト殿か!?」

誰にその名を聞いたのか。聞き覚えのある間違い方だった。
「……アキヒトな」
「これは失礼!ア、アヒリロ…殿」
そんな言いにくいのか俺の名前は…。
「……。とにかく俺のことを知っているなら話は早い。戻ってきた理由もわかるわけだ」

袋の紐をほどき中身を見せる。
と、門番は驚きの表情と共に思わずのけぞっていた。
「なんと!これは!お、おぬしは!本当にあの化け物を倒してきたというのか!」
驚くのも無理は無い。その化け物はまるで特撮に出てくる怪獣のように巨大だったのだから。

「城の精鋭50人でも敵わなかったのに…」
「ちょっと待て。それは初耳だな…」
討伐へ行く前に話しておけよあの魔法使いめ、と思ったがあの時点で聞かされていたら迷わず逃げ出していただろうことはすぐに想像出来た。
あえて話さなかったのか。

「しかしデカイな。これ頭だけで袋の中がいっぱいいいっぱいではないか」
「いや、これでも頭を4等分しだんだ。残りの頭部と胴体はレーベの村に売り払ってきた」
人を丸々と飲み込んでしまえる巨大な顎の部分だけを見せれば証拠になるだろうと解体し持ってきた。
太く鋭い牙が無数に剥きだされた顎の骨。ここに人間の首を置いて挟めばどうなるかは想像に容易い。

「おぬしは…どうやら本当に勇者であらせられるようだな…。しかしどういうことか。短期間で随分と体つきが変わったように見受けられる」
「……鍛えたからな」
120 ◆bvTKLCRja6 :2012/03/17(土) 12:43:20.19 ID:gnHsdeoF0

……。

一か月前。

草原の中、倒れていた俺は再び目覚めた時に確信に至った。
剣が己の胸を貫き通そうが、決して死なないということに。

俺はその時、しばらく全身の震えが止まらくなった。勿論恐怖からくるものではない。
それは、今まで味わったことのない愉悦からきたものだった。

内臓を引きずりだされようが、心臓を剣で貫こうが俺は蘇る。

そうと解ってしまえば、怖いものなどもう何もある筈もなかった。
身体全体を震わせるほどに俺は、狂笑した。

「ははははっはは!!はははははははは!!!」

不安、恐怖心から解放される。
と、同時。新たな感情が芽を出した。

復讐。
恐怖を味あわせてくれたモンスターを同じ目にあわすこと。

俺を殺したモンスター共の、実に楽しそうだったあの顔。
思い出すだけで笑いがこぼれた。

モンスターとはライオンや熊のような獰猛な動物の延長にあるものだと思っていた。
だが、目の当たりにし実際に殺されて俺は解った。
自分の身を守るため、生きるために人々を襲うのとは訳が違うこと。

端っから人々を殺すためだけにただ存在している生物。それがモンスターだった。

だから、遠慮はいらない。

全力で殺せる。

121 ◆bvTKLCRja6 :2012/03/17(土) 12:44:52.82 ID:gnHsdeoF0

だが、それは復讐なんてものではなくただの本能だとすぐに悟ることになる。

俺はそれから立て続けに3度死んだ。

それは、死に対しての感情を完全に失うためにかかった回数でもあった。

4度目。
鋭い牙に腕を噛み千切られながら、引き換えにしてようやく俺は一匹の角の生えた兎のモンスターを倒した。
無くなった左腕とそこから溢れ落ちる多量の流血を見ても俺は酷く冷静でいられた。
激痛すらどこか別の場所にある様に感じた。

死ねば、治る。と。
どうやら、肉体は死に至らない限り再生は行われないようだった。

そんなことよりも、俺はたった今モンスターを殺したということに感じ入っていた。
精霊によって与えられた力。地球上で、ただ一人。特別な力を持った人間なんだと改めて感じ取った。

また別のモンスターを見つけると、今度は無傷でいとも簡単に勝利した。
痛みや死をも恐れなくなった時人間は、自分でも信じられない程に、強く、残虐になれるようだ。

その日から俺は我を忘れるほどにモンスターを殺戮するモンスターと化した。
でも、そうなってしまったのは仕方のないことだろう。俺はもう普通の人間じゃなくなってしまったんだから。
その時のモンスターを殺す俺の顔はきっと、実に楽しそうな顔だったに違いない。

来る日も来る日も俺は狂ったように殺戮を続けた。
不眠不休で体が動かなくなるまで己も含め動くもの全てを壊し続けた。
動けなくなったら、死ねばいい。眠りから覚めれば、ほら全快だ。

なぜこんなバーサーカー地味た行動を繰り返していたのか。
考えられることは一つ。モンスターを殺すたびに自分の力が目に見えて増していたからだ。


122 ◆bvTKLCRja6 :2012/03/17(土) 12:45:59.68 ID:gnHsdeoF0

そんなある日、森の中で例の巨大な化け物と遭遇した。

人目見てその化け物が国王の言っていた旅人を襲ったモンスターだとすぐに解った。
初めて見た時、なぜ山が動いているんだ。そう感じたからだ。

幼少の頃に恐竜博物館なんかでみた肉食恐竜を彷彿させる。
人間を一飲みにしていしまそうな口を持ち、無数に突き出す牙と長く垂れさがる舌。
巨大なアリクイか?と思ったが、どんなアリを食ったらこんな巨大になれるんだと突っ込みを入れる。アリクイに歯はね無えし。

その巨大な生物は回りの木々を雑草のようになぎ倒し、森を踏み荒らす様に闊歩していた。何してる?獲物を探しているのか?

俺はそいつの目の前に姿を出した。
目が合った。動物が獲物を狩るときの様な鋭い眼光が向けられる。
こいつもきっと恐怖を感じたことがないんだろうな。直ぐさまに俺に向かって巨大な身体をドドン!ドドン!と地面に鳴り響かせ走らせてきた。
だが今の俺も同じく恐怖を感じない。この巨大な生物にどれだけ戦えるのか、期待に胸が躍る。

持っていた鉄の剣を握り直す。
その剣は幾度と戦闘を繰り返し既にボロボロだった。刃は削れ鋭さは全くなく、先端の方は途中で折れてなくなっている。

「斬れっかなぁ…」
目の前の怪物にそれで斬りかかる。

「ゴアアアアアアアアアアァァァァ!!!!!」
空気が震える程のつんざく悲鳴。
振り返ると巨大な身体が綺麗に真っ二つに斬り裂かれ地面に轟音を立てて崩れ落ちていくのが見えた。


…………。

……。

123 ◆bvTKLCRja6 :2012/03/17(土) 12:47:26.66 ID:gnHsdeoF0

「よくぞ戻ったアフィリイトよ!大したものじゃ!!そなたはまさしく勇者の力!」

ここ一カ月ほどの回想に浸りながら謁見の間へ入った俺は、国王が眼の色を変えて既に熱い期待の眼差しを向けていることに気がついた。
そこに、当初の疑いの目は全く無い。一国の王に俺は認められたようだ。悪い気分じゃない。
だけどまあ、予想通りに俺の名前が違っていた。いい加減慣れたけど。この分だとベティに会った時になんと呼ばれるのか容易に予想出来る。

「そなたを勇者と認めこれを渡す。これは魔王討伐の許可を記したものじゃ。世界各地の国王にこれを見せれば協力が得られるじゃろう」
恭しく手紙を受け取る。文字は全く読み取れない。英語に似ている。

「今宵は宴じゃ」と国王から飛び出した言葉を即座に断り、俺は退室した。
礼儀知らずでもなんでもいい。この世界の人間じゃないしな。

円形の太い柱が立ち並ぶ広いホールへ降りてくると、赤髪をなびかせこちらへ駆け寄ってくる魔法使いの少女の姿が見えた。
ベティだ。
黒のとんがり帽子と黒マントという典型的な魔術師といった格好に、改めてこの少女に召喚されてしまった時のことを思い出した。
ここ一カ月足らずではあったが心境の変化のせいか、えらく久しぶりの再会に感じた。

「ごめん。待たせたかな」
第一声。俺は謝った。巨大モンスターを討つという目的を忘れかける程に夢中になって殺戮を繰り返していたことを恥じていた。
「ううん。あなたは必ず戻ってくるって信じてたから」
その少女の表情はほころびを含んでいたものだったので、思わず自分の口元も緩んでしまった。
でもまぁ、俺を信じたというより精霊を信じたんだろうけど。

「ああ。おかげで今の俺は、魔王をぶっ倒してやるって気持ちになったな」
「ふふ。頼もしいじゃない。なんだか顔つきも逞しくなった感じがするわね」
「なにせ勇者だからな。自分で言うのもなんだけど。まぁ、改めてよろしく頼む、ベティ」
俺はわざと名前を呼んで再開の挨拶をした。
「うん!よろしくね。あ、あ、あ…」
リスみたいに可愛らしく口をもごもごさせている。ベティが何と言おうとしているか解った。

「「アフィリイト」」

声を合わせて間違えてやった。

俺は受け入れる。名前をなかなか覚えられないことも、この世界のことも。これから待ち受ける運命のことも。

魔法使いと俺の旅がこうして始まった。

続く。

124 ◆bvTKLCRja6 :2012/03/17(土) 12:51:00.55 ID:gnHsdeoF0

以上、序章でした。
読んでくれてありがとうございます。チートは俺も大好きです。では
125名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/03/17(土) 14:30:13.25 ID:vQKRMt5m0
今回もおもしろかったです^^
一人旅だからこそ、バーサーカー化できたのですね。
肉体がボロボロになってきたらわざと死んで再生をくりかえすとか、同行者がいたらできないですし。
いくらベティさんでもその場にいたらドンビキでしょうしwwww
でも完全に狂気にとらわれたわけではないようで、よかった

これからはベティさんとラブラブな展開になるのか、そうでないのか、とにかく楽しみです^^
126名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/03/25(日) 23:57:02.16 ID:1AasNJ620
ほふゅ
127タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2012/03/28(水) 11:02:57.95 ID:ptD9L3ma0
おつかれさまです。
避難所に過去ログについて書き込みがあったので返信しておきました。
以下その内容です。
---------------------
ありがとうございます。
旧まとめサイトのほうへ16,17泊目の過去ログを追加しておきました。
新まとめサイトについては自分の管理ではないので、もしそちらの事でしたらごめんなさい。
128名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/03/29(木) 09:36:01.68 ID:vzehsTFa0
ほしゅー
129 ◆bvTKLCRja6 :2012/03/31(土) 12:10:37.14 ID:jG24N4V10
>>119の続き

さて。
場所はアリアハンの中央広場。
晴れて(?)勇者としてこの世界で生きていくことになった俺はこれから魔法使いの少女、ベティと共に魔王を倒しに行くわけだが。
正直、俺にとってその戦いに負ける要素は全く無いので呆気なく終わっちゃうんだろうなと楽観的に思っている。

魔王を倒して、世界を平和にして、元の世界に帰って、それでもこの力が残っていたならばプロ格闘家か五輪にでも出て…
などと既に将来設計を立てているのだから、目の前に立つ魔法使いに比べて偉く緊張感に欠けていた。

「えーっと…、理解出来なかったからもう一回言ってくれる?」
「だからな、魔王を倒すは俺一人の力で十分ってことだ。魔王の住む城まで案内してくれればそれでいい。
 後は俺がちょちょいのちょいと魔王を片づけてやる。で終わり」

なにせ、俺は不死身だ。だがそうでない人間が一緒になって戦う必要などどこにもない。

「あぁ。そういうこと。ちょっと…自惚れ?かな?」
「あ?」

ベティは俺から少し距離を取ると、マントの下の腰に身に着けていた杖を右手で引き抜き俺に向かってさし向けた。
その杖の先端は赤色に光る丸い宝石のようなものが埋め込まれている。魔力を増幅する設定の類か?
って何をする気だ。人に刃物(武器)を向けてはいけませんって教わってないのか。

「じゃあ、ちょっと私に掛かってきてみて。そうね。本気でいいわ」
「な。なんで」
「自分で言ったじゃない。だから判断くらいさせて。私に勝ったら好きにしていいわ」
「好きに?」
「一人で戦いたいんでしょ?」
「ああ、そういうことか。一人で戦いたいっつーか、危険だろ。死ぬかもしれないし」
「わかったわ。わかったから。だったら私を安心させられるくらい強いことを証明する為にも、ね?」

俺は後ろ頭を掻いた。
本気で?人に向かってそんな真似出来るわけがない。俺は山の様に巨大なモンスターを一撃で仕留めたんだ。
RPGで言うなら中ボスって奴だ。それを折れたボッロボロの剣で一撃のオーバーキル。解ってるのか。
それに、目の前に立つのは魔法使いの見た目はどこにでもいそうな普通のか細そそうな少女だ。その力は歴然だろう。

そうだな。軽く杖を叩き落として斬りつける真似をすれば十分か。
使い物にならなくもなかったが見た目がアレだったので、鉄製の剣の代わりに買った新品の銅製の剣を鞘から抜き放つ。

「こんな人目につく場所で剣なんか抜いて大丈夫なのか?」
広場は噴水が沸き出る憩いの場でもあるようだし、雰囲気をぶち壊すのは一抹の申し訳なさを感じる。
「いいわよ。すぐ終わるし」

確かに。じゃあ。とっとと終わらせよう。
俺は助走無しに一瞬の内に剣が届く間合いに詰め寄った。
で、剣の平で杖を叩き落として、と……。

あれ?
空振った。
杖が、ベティが、消えた。
背後か!?
振り向くがいない。何。
130 ◆bvTKLCRja6 :2012/03/31(土) 12:11:20.75 ID:jG24N4V10

「こっち」
「な!?」
頭上からの声。

上を見上げると、二階建ての民家の屋根くらいの高さの位置で宙に留まっているベティの姿があった。
箒の様なものに跨ってふわりふわりと浮いている。魔法の力か。つーかいつの間に箒を取り出したんだ。
…あれか。大小関わらず何でも詰め込めるという例の可笑しな袋の中にしまっていたのか。

「あらあらどうしたの?かかってこれないの?このまま強力な呪文詠唱しちゃうけど?」

浮いてる高さは常人のジャンプ力じゃ到底届かない位置。投擲武器でもなければ。
しかし、俺はもうその他大勢に分類される常人ではない。見せてやろうじゃないか。
しゃがみ込んで反動をつけ勢いよく跳んだ。
真っ直ぐ魔法使いに向かって空を突き進む。余裕で届く。

「これくらい俺の攻撃範囲内だ」
「あらあら。御見事なジャンプ力ね。でもそこからどうするのかしら」

勢いを生かし剣を素早く振るう先には既に標的はいなかった。
そりゃそうだ。つうか俺はマヌケだ。
俺は跳んだらその方向にしか向かえないが、宙に飛んでる者なら自由に動ける。畜生。

「いい的ね」
飛び上がった後はもう真っ直ぐに落下するしかなく、それをベティが逃してはくれない。
跨っている箒を片手で操縦し、もう片手に持つ杖を俺に向かって構える。

「ギラ!」
「うわっ!」

閃熱が一瞬の内に落下している俺を襲い包み込んだ。
初めて受けるそれと熱さに俺は軽く思考停止してしまい着地に失敗。石畳の地面に身体を叩きつけてしまった。
だがダメージはなんてことない。
くそっ、と舌打ちし、髪が燃えてしまっていないかと頭を振り払い身体を起こそうとした時。

「な……」
丸い赤色の宝玉が目先数センチに突き付けられていた。ベティの持っていた杖の先端部分。
「終わりね」
杖が横に傾けられると、そこにニヤニヤと笑みを浮かべ、俺を見下す少女の顔があった。

「魔法使いに零距離から呪文を放たれたら間違いなく死んでるから。OK?」
「………」

認めたくないが認めるしかない。ちょっとばかし強いモンスターを一撃で倒せたからって完全に自惚れていたことを。
こんな程度じゃ不死身だとしてもどうにもならない。
「……情けないくらい完敗だな」
「解ればよろしい」

……どうやら、そう簡単に世界を救えるってわけにはいかないようだな。


…………。

……。
131 ◆bvTKLCRja6 :2012/03/31(土) 12:12:26.65 ID:jG24N4V10

「まぁでもアレよね。一か月もしない内にここまで動けたのは想像以上だったわ」
「……そうか。でも強いなお前。まぁ考えてみれば異世界から人一人召喚してしまうんだからそりゃ強いよな」
「…そんなことない。弱いわよ。全然。こんなんじゃ魔王には全く歯が立たないわ。だから貴方を呼んだんだから」
「う、ん……」

どんだけ強いんだろうなその魔王は。俺が不死身だとしても蘇った瞬時に殺されてしまうんじゃないか。
下手すりゃ、永久に蘇っては殺され続ける苦痛を味わなきゃならないかもしれない。
それは……怖い。

「もっともっともっっっっと強くなってもらわないとね。さぁ乗ってリイト」
「ん?」

先程戦闘の時に使っていた箒にベティは跨ると背を向けて、後ろに乗れと促した。
見た目はただの竹箒のようだ。長い柄なので乗れるっちゃ乗れるが。
ちなみに、どうでもいいことだが俺の名はどうにも呼びにくいらしく好きに呼べと言ったらリイトとなった。

「……何人乗りだ?」
「ギリ2人、かな」
「…だろうな」

窮屈そうに俺はベティの肩に手を置き、というかそうするしかなく、後ろに跨った。

「別に、俺歩きでもいいけど」
「何言ってるの、これから海渡るんだから。飛んでいった方が速いわ」
「そんな長い間飛べるのか」
「まあね。でも結構速度出るからあっという間よ。だから、そんな掴まり方じゃダメね。腕回していいから」

そう言われ、俺は仕方なくだ。
ベティの背中から腕を回した。
そんなつもりは無かった。全くと言っていいほど。本当だ。

「きゃっ!」

まるで子猫が鳴く様な声がしたかと思った次の瞬間、俺は顔面に重い衝撃を受けて後頭部から地面に倒れ込んだ。
ベティの頭突きだった。

「いっつつ、な、なにすん……」
そこまで言いかけて、目の前に立つベティが顔を朱に染めて胸を押さえ震えていることで気がついた。
小刻みに唇を震わせて
「な、な、ななな、なに、なにす、ななに、なにすん?」と聞いてきた。

「いや、違う。違うぞ。わざとじゃない。つーか全然解らなかった。そんな感触なか…」
しまったと思った。
「わ、わわわ、わから、わからない?わからないわからないんだ…わからないんだ!」

杖を引き抜くや先端から炎が怒り狂ったように飛び出した。
先程戦ったときに食らった呪文とは比べ物にならない殺傷力を秘めた炎が真っ直ぐに俺を飲み込んだ。

132 ◆bvTKLCRja6 :2012/03/31(土) 12:13:44.77 ID:jG24N4V10

「けほっ、けほっ」
消沈し終えた俺は地面に大の字に倒れていた。
遠巻きに街の人々が心配そうな眼差しで見ているのに気がついた。
そうだここは広場だ。街の中だ。
こんな場所で殺しにかかってくるとは、怖ぇ魔法使いだ。

「もう!なにしてんのよ!馬鹿じゃないの!」

ベティが怒鳴っている。その表情は今だ恥ずかしさと怒りが入り混じっている様だった。
「ごめんなさい」と謝った。
しかしな、本当にアレだったんだよ。マントの上からだしな。解らなかったんだよ。まあ、見た目的にもアレだけど。

「もう、あなたなんか二度と箒に乗せてあげないんだからっ!」
「まだ一度も乗ってねえけど…」
「ロマリア」
「え?」

ベティは箒に跨るとそのままふわりと飛びあがった。
「ロマリアに行くから。あなたは走って来なさいよね」
「いや、どうやって行くんだよ」
「誰かに聞けばわかるわよ。もう!じゃあね!」

そう言い放つと、呼びとめる声も空しくベティは飛び立ってしまった。
みるみる小さくなり見えなくなっていく。

そんな怒らなくても、と思う。わざとじゃあ、決して無いと思うんだけど。
……まぁ、学校のクラスメイトの女子に同様のことをしたら間違いなく軽蔑されるよな、と反省する。

お約束的展開なんざやっぱり漫画かアニメの中だけだ。ラッキースケベ?何それおいしいの?だ。
感触は味わえないわ、頭突きは食らうわ燃やされるわ。
ヒリヒリする…。

「ん?」
何かが飛んでくる。ベティだ。引き返してきたってことは許してくれたのか?
近くまで飛んでくると、宙に留まったまま何かを投げつけた。
それを受け取る。小瓶?緑色の液体が入っている。
「薬草を調合してあるから。飲めば治るわ。火傷」
「ああ。そう」
「三日以内にロマリアに来てよね。じゃないと許さないから」
「いや、本当悪かったから。乗せてくれよ」
「無理。もし三日で来れなかったら探し出して燃やして埋めるからね」
「こええな」
「じゃ、待ってるから」

再び高く飛び上がるとベティは空の彼方へ姿を消した。
仕方ないな、と思い俺は受け取った小瓶の蓋を開けそれを飲み干した。

続く。
133 ◆bvTKLCRja6 :2012/03/31(土) 12:15:17.87 ID:jG24N4V10

レスありがとうございます。魔法使いとの旅、始まりました。
展開的にはツンデレで行こうかと思ってます。では

134名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/03/31(土) 20:41:55.37 ID:fsD4nWoz0
>>133
おつ。

ベティいいキャラだなw
文章も筆が乗ってきた感じで読みやすく面白い
135名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/04/02(月) 10:47:50.49 ID:vw7/2EQ3O
gj!

主人公おいてかれてるしw一緒に旅が始まってないw
136名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/04/06(金) 17:25:57.86 ID:GujG84JN0
ほしゅ
137 ◆bvTKLCRja6 :2012/04/08(日) 09:38:11.42 ID:rlQrgaCS0

「……………………」

一人になった俺は、中央広場の視線から逃げる様に「やれやれ…」と呟きながらアリアハン城の立つ方へと向かった。

「またお前か」

そんなセリフが似合う人物にロマリアへどうやって行けばいいのか聞くことにした。門番の兵士である。
まさかただの城の門番の一兵士にこんなに何度も会話をすることになろうとは思ってもみなかった。

「ロマリアか。歩いていくのか?ベティ殿はどうしたのだ?彼女が居れば魔法の力で飛んでいくことも可能であろう」

いろいろと知っている門番だ…。
俺は正直に、「置いてかれた」と言った。
その反応を見るや声には出さなかったが、門番は間違いなく笑っていやがった。

「そ、そうかっ。ならば徒歩だな。船は今は魔物を恐れて出ていないからな」
「海を渡るんじゃないのか?」
「普通はな。だがここから東の地、そなたが化け物を倒したという所よりさらに南西に旅の扉があるという」
「旅の扉?」
「うむ。詳しくは知らなんだが海を渡らずして他の大陸に一瞬の内に移動できるそうだ」
「…へえ」

相変わらず可笑しな世界で溢れてやがる。この先何が待ち受けていることやらな。
俺は門番に礼と今度こそ別れを告げた。

「旅の扉の場所は非常に解り難いと聞く。詳しくは、それを使用してこの国へ渡ってきた旅の者に聞けばよかろう」

「ルイーダの酒場だ。行ってみるといい」

俺は言うとおりに、そういう者が集まるという酒場へと足を運んだ。

…………。

……。
138 ◆bvTKLCRja6 :2012/04/08(日) 09:41:05.88 ID:rlQrgaCS0

そこは、昼間っから酒臭い場所だった。
店内が汚いわけじゃない。人多過ぎな上に客層が汚そうなのも含んでいるからだ。

自分の力を誇示するかのような態度のデカイ客があちらこちらで大声で騒ぎ立てて酒を飲んでいる。
ゴロツキや戦士の格好した輩が、どこぞの所で戦った熊のモンスターを一人で倒したとか倒せなかったとか、自慢話で盛り上がっていた。

俺は、隅っこの方に空いていた席に座った。
とりあえず何か注文してから、頃合いをみて旅の扉について誰かに聞いてみることにしよう。
ちらちらと見渡している内に気付く。
オーソドックスな戦士の他にベティの様な魔法使いの格好した者や神官のような者、軽装だが口元を布で覆い隠す盗賊の様な者までいた。
普通の一般客が見当たらない。様々な冒険者の集いし酒場だった。

また一人、店内に戦士の様な男が入ってきた。繁盛しているようだ。
その男が、叫ぶ。

「おいお前ら聞いたか!?東に現れた巨大アリクイが誰かに退治されたらしいぞ!!」

一瞬、静まりかえる店内。ただ一人飲みかけの果汁ジュースを噴き出す男がいた。俺だ。

「はあ!?何ほざいてやがんだぁ!!あんな化け物倒せる奴がいるわけねえだろ!!」
「そうだ!勇者でもあるまいし。勇者はもういないんだぞ!」
「それがよ…勇者に似てるらしいんだ。城に討ち取った化け物の首があるって」
「本当かよ!!勇者が蘇ったとでも言うのか!!今どこにいるんだそいつは!!」

……マズイ。なんだこの流れは。探し出せみたいな雰囲気になっている。なんでこんな有名人みたいになってんだよ。

「見つけ次第俺がそいつをぶっ倒してやる!俺以上強い奴は認めねえ!!」
「おうおうやれやれ!!骨は埋めてやるぞ!!」
酒の酔いもあるのか危ないことを言い始めている。怖い。
にしても話の流れからして、巨大アリクイだっけか。あの化け物を倒せるレベルの者はこの酒場にいないようだ。
……やっぱりベティは、ただの魔法使いじゃないってことだけは解った。

ともかくこの喧騒と化した酒場から逃れようと、対価の解らないゴールドを適当に多目にテーブルの上に置き、顔をふせて席を立とうとした。
その時。

「待てよ、アンタ」

ぐいっと腕を引っぱられ再び椅子に腰掛けさせられてしまった。
冷や汗がにじむ。
見ると、確か離れた席に座っていた筈の口元を黒布で隠した盗賊の格好をした男が、いつのまにか俺の隣の席に座っていた。
139 ◆bvTKLCRja6 :2012/04/08(日) 09:42:21.27 ID:rlQrgaCS0

若そうだがよくわからない。銀髪。
細い。盗賊ならば当然の体型か。腰に短剣が見える。

「アンタ。まだ一杯しか飲んでないよな。それなのにあと5杯は飲める金置いてどこへ行くつもりだ?」
「……」
「悪い。別に責めてるわけじゃないんだ。ただな、アンタ。最初から酒を飲みに来た雰囲気じゃなかった。仲間でも探しに来たのかい?」
「……いや、そうじゃない」
ロマリアへ行くための旅の扉の在りかを。聞くべきか。しかしバレはマズイ。騒ぎは嫌だ。今はなるだけ顔を合わせず喋らない方がいい。

「アンタ。誰かに似てるって言われたことあるだろ」
「っ……!」
「だんまりだな。騒ぎはしねえよ俺は。俺は盗賊フランってんだ。アンタは?」
「……リイト」
「リイトか。結構腕が立つんだな。そんな若そうなのにな。幾つだ?」

なんだ?なぜ会話が始まっている。どうする。無視して店を出るか。だがそうするとバラされるか?
……くそっ。面倒なことになった。なんなんだコイツは。

「16」
「ほう。俺より3つも下か。こりゃいい人材だ。アンタ。盗賊に興味は無いか?」
「盗賊?」
と聞き返す。いきなりどういうつもりなんだろうか。盗賊って何をするんだ。強盗集団か?

「まぁそんなとこだ。ハントが主だがな。盗みもする。世界中の武器防具を集め最強集団を目指しているんだ」
「集団?そんな人数いるのか」
「いや、まだ少数精鋭ってとこだ。聞けば誰でも知っている盗賊団だがな。俺もここではデカイ声で話せない。フフ。アンタと同じだな」
「……何て言うんだ。その盗賊団」
「カンダタ盗賊団って呼ばれている。リーダーの名前を取っただけだがな」
「……そうか」
「その様子だと知らないようだな」

まぁ、この世界に来て一カ月くらいしか経ってないしな。ベティはこいつらのことをどう思っているのだろうか。
「そんな集団を作って、何をする気なんだ?」
「世界を作り変える」
「なっ…!」

何を言っているんだろうかと俺はしばし沈思黙考した。本気で、言っているのだろうか、と。
世界を作り変えるの「世界」とはどこまでの事を言っているのか。モンスターを含めた上で言っているのか。魔王の強さを把握した上で。
勇者以外魔王を倒せないんじゃなかったのか。どうなんだ精霊ルビス。
それでも、どうにかなると言うのなら目の前に立つ銀髪の痩せぎすの男は相当な実力者と言うわけだ。

……試すか。
140 ◆bvTKLCRja6 :2012/04/08(日) 09:42:45.68 ID:rlQrgaCS0
「……悪いけど、今ちょっと急いでるんだ実は」

俺はすぐに思い直してこの話を終わらせることにした。興味はあるけど、ロマリアでベティが待ってるからな。
それに、勇者が盗賊団に加わるとか。無いだろう。

「そうか。じゃ何をしにアンタはこの酒場に来たんだ」
盗賊の男フランは残念そうに細い眉をひそめた。口と鼻が布で覆われていて確信はないがその目の表情から端正な顔立ちだと想像出来る。

「ロマリアに…行こうかと思っているんだけど。旅人ならば東にある旅の扉を知っていると聞いて来たんだ」
「ほう。アンタはこの国から出たこと、無いのか?」
「…ない」
「そうか。これから今まさに旅立とうというわけか。それだけ強いならば仲間も必要ないしな」
「…あ、あぁ」
「教えてやる。これからもアンタに会う機会があるというわけだからな。俺は諦めていないぜ。じゃ行くか。急ぐんだろ?」

早々に立ちあがる。まさか、案内するつもりか。

「待ってくれ。何か地図に描いてくれればいいんだが」
「地図じゃ解らねえよ。急ぐんじゃなかったか」
「……三日で行かなきゃならない」
「じゃ、やっぱり一緒じゃなきゃ無理だな。場所はなんも変哲もない小さな池のほとりだ。ついてきな。俺と行けば2日でロマリアへ着く」

「だが…、報酬はそんな払えないし、代わりに盗賊団に入れと言われても無理だぞ。そんな会ったばかりで…」
「何もいらねえよ。俺もこれからロマリアに行くつもりだった。ここでの用事は済んだからな」
ぐっ。しかし。盗賊団だ。なにか悪巧みしているかもしれない。
「怪しんでいるようだな。安心しろ。俺たちは盗みはするが人を襲ったりはしない。平和主義者だぜ」
信じられるか。
「なら回りに聞いてみるがいい。そんな悪評は無いはずだが?」

「…………わかった。ロマリアまで、よろしく頼む」

極端な話にしてしまえば、こいつらがやはり悪巧みを考えていたのであれば、殺すか殺されてしまえば済む話だ。

それに、道中でモンスターに遭遇すれば、この男の戦う所を見れる筈。
そうすればカンダタ盗賊団がどれほどのものか解るしな。

銀髪の男フランに俺はついていくことにした。

続く。
141 ◆bvTKLCRja6 :2012/04/08(日) 09:44:32.31 ID:rlQrgaCS0
どうも。女魔法使いと旅がしたいと言っておきながら一向に旅が出来ていないアキヒトです。……くそうベティめ。
レスありがとうございます。励みになります。頑張ります。
とりあえず書き進める上で関門としていたアリアハンからの脱出。出来そうです。

新キャラですが、そのまま3の男盗賊をイメージして貰えればいいかと。
142名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/04/08(日) 16:27:06.20 ID:YDSSdddc0
おお、続きがきてる。投下乙です
フランさんも、もちろんカンダタの仲間だから王冠騒動や胡椒騒動があるのでしょうが、なんか憎めないですね
目が利くことは確かですし
キャラが立ってていいオリキャラですね。今後が楽しみになりました。
143名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/04/16(月) 02:19:45.89 ID:b19Gqif1P
保守
144名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/04/18(水) 13:17:10.71 ID:5Yf8L/KE0
ホイミ
145名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/04/18(水) 16:39:31.90 ID:lcK7JX140
ゴールドはどうやって手に入れよう。
146名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/04/19(木) 06:36:07.39 ID:sFCH3LVOO
馬の糞を集めればいいじゃない
147 ◆bvTKLCRja6 :2012/04/22(日) 16:58:05.57 ID:DE2yMKQB0
>>137の続き

レーベの村をさらに東に進む。
途中、何度か現れるモンスターに盗賊の男フランは一切戦おうとしなかった。
迫りくる攻撃をただ避けるのみ。

「悪いが俺は、戦闘は専門外なんでな。アンタにまかせるぜ」

盗賊だけあってか身のこなしはかなり素早く、華麗とも言うべき動作で俺の背に隠れる。
モンスターの攻撃を俺が仕方なしに受け止め俺一人で片づける。
RPGとかやっててたまにいる「着いては来るが戦闘に参加しないキャラ」って感じだった。

案内役として頼んでしまったから文句は言えないが、体の運び方はどう見ても一級品。腰につけた短剣は飾りか?と問い詰めたい。

………隠してやがる。


…………。

……。


そのままフランは一度として短剣を抜かず、そうこうしている内にフランの言っていた池のほとりに辿りついた。
そこは森を少し奥へ入った所にあり、池とは言い難い水溜りの出来た様な場所だった。
道も無く目印という目印はほとんど無い。全く知らぬ者がこの場所を見つけ出すのは難しいだろう。

「なるほど。こりゃ見つけられない……」
「だろう。ずっと使用されてなかったからな。草木が道や入口を隠してしまったのさ」

こっちだ。と言うフランの後をついていくとその入口はあった。遺跡の様な、地下へ続く人工的な階段。
フランに続き階段を下りる。
細く暗い道が続いていた。

その先にやや広い空間が現れた。
がらんとした何もない部屋……と思いきや、一部分の壁が崩れていた。
壁は相当な厚さだったらしく崩れた壁が周囲に瓦礫となって飛散、堆積していた。
奥に小さな小部屋が見える。

「今まではずっと封印されていたんだ。一度として利用されることもなく」
「封印?」
「この壁、強力な魔法で組み立てられていたらしい。誰がどうやっても崩せなかった」
「何故、今は崩れているんだ?」

崩壊した壁の破片を拾い上げる。力を込めて握るとそれは砂の様にボロボロとこぼれ落ちた。魔法の効力はもう無いらしい。

「一年より前の話だ。アリアハンから旅立った勇者はこの壁をどうやってか破壊し、他の大陸へと渡って行ったんだ」
「勇者……」

ベティの語っていた勇者の話を思い出す。
一年前に勇者と魔王は戦い、そして勇者は敗けた。その勇者か。アリアハン出身だったのか。

………もしかしたら、いや、やはりか。ベティのあの強さ。勇者と旅を同じにした仲間だったのかもしれない。
148 ◆bvTKLCRja6 :2012/04/22(日) 16:59:08.56 ID:DE2yMKQB0

小部屋にはさらに地下へと続く階段があり奥へと進む。
突如、迷路に迷い込んだかの様に四方に道が分かれたフロアが存在していた。

「おっと、こっちだったな。しっかり着いてきな。足場にも気をつけろよ。モンスターは頼むぜ」
「……どうなってんだこの地下。どうしてこんな手の込んだ地下道なんか作ったんだ?」

会話の最中、巨大な芋虫のモンスターが1匹現れ、何をするのかと思えばくるくると丸まって体当たりをしてきた。
フランが避け、俺が剣で受け止める。今までにない衝撃。
このモンスターはアリアハンに生息するモンスターより強い。
と言っても毛が生えた程度。問題無く斬り伏せた。
……つーか戦えよフラン。そっちのが避けるより楽だと思うが。

「定かでは無いがここはアリアハンがロマリアに地上から攻め入るために作ったと言われている。まだ魔物のいなかった時代だ」
「……それって、人間同士で戦争してたってことか」
「今はもうそれどころでは無いがな。逆に言えば、そのお陰で手を取り合っていると言ってもいい」
「へえ…」

聞かなきゃよかった。どこの世界でも一緒じゃないか……。

「作った側はルートを迷う筈がない。しかし、ここを利用して攻め入られる場合は迷わせることが出来る」

それが入り組んだ地下を作った理由か。
今は亡き勇者。お前はここを通った時どう思ったんだろうな。

…………。

……。


「これが、旅の扉……!?」

地下の最奥。
突き当たった場所の地面から、奇妙な青い光が溢れ出ていた。
人一人が通れる程の大きさ。反時計回りに渦を巻いている。

「見るのも初めてか?」
「ああ。不思議な感じだ。これに、飛びこんだらワープするのか?」
「一瞬の内にな。稀に移動に失敗して身体がバラバラになってしまう、なんてことはないから安心して飛びこめ」
「こええこと言うなよ」

フランは黒布のマスクの上からフフッと鼻で笑った後、そのまま渦の中へと飛び込んで行った。
霧の中へ掻き消えるように跡形もなく消え去った。

「……俺の住む世界に在れば、学校に遅刻しなくて済むんだけど」

俺は深く息を吸い込み、止め、目をつむり渦を巻く光の中へと飛び込んだ。

………苦しいッ。
と思うのも束の間。浮遊感を感じた数瞬の後にはもう重力が再び身体を襲っていた。

目を開ける。
暗い。足元は草。肌に風を感じる。外だ。
すぐ隣に、フランがいた。

「よう。ちゃんと来れたみたいだな。バラバラにならず」
「……当然だろう」

外へとワープしてきたようだが既に日は落ち真っ暗だった。
地下を進んでいる内に夜になっていたようだ。
149 ◆bvTKLCRja6 :2012/04/22(日) 17:00:13.52 ID:DE2yMKQB0

「ここから真っ直ぐ北に向かえばロマリアは見えるだろう。3、4時間ってとこだな」
「ってことは明け方には間に合うか。うーん……」

少しばかり眠いが、もう少しでロマリアに着くと言うのならこのまま行った方がいいか。
そう考え、フランの意向を確かめようとして問いかけたのだが、返事が無い。

どうしたのかと顔を見ると人差し指を口元に当て「しっ」の一言。
なんだ。何か様子がおかしい。
元々鋭さのあった目つきが更に鋭さを増していた。遠くの一点をジッと睨んでいる。

「ど、どうしt……」
「黙れ」

言いかけのところをすぐに断ち切られ言葉を飲み込む。何かいるのか。
その視線の方へと目を向けてみるが暗く俺には分からない。

「………アンタ。やっぱり盗賊団に入る気は無いのか」
「な、なんだよまた急に…。」

フランの小声に小声で返す。
意味がわからない。何故この場で聞くんだ。つーかどうしたんだよ。誰かいるのかいないのか。

「やっかいな奴に狙われているんだな……」
何を言ってる。俺が?誰に?
「盗賊団に入ると約束しろ。ならば助けてやらんこともない」
助け?なんだよそれ。誰がいる?
「…と言っても勝てる保証は無いがな」
声が震えてる。お前、強いんじゃないのか?

「はやく決めろ」
語気を荒々しく急かす問いに俺は「無理だ」と答えた。
「…そうか」
「違うぞ。盗賊団に入るのが無理って言ってるんじゃなくて決められないっての」
「いやいい。みなまで言うな。だったら逃げろ。旅の扉を使え。アンタが狙われているんだからな」

冷静さを保とうとしている様だったが、声は早口で慌てているのが分かる。マスクで表情は読み取れないが。
一体。誰が。どうして俺を狙っているのか。なぜ狙われているのがフランでなく俺だけだと分かる?
150 ◆bvTKLCRja6 :2012/04/22(日) 17:01:19.51 ID:DE2yMKQB0

「じゃあ行けよ。フラン。俺が標的なら戦うのは俺一人でいい」
「な、んだと。……死ぬぞ。一応アンタの強さを把握した上で忠告するが」
「ああ。死んだらそれまでの男だってことだろ。生きてたらまたどこかで会えるだろう。案内助かったよ」
「………チッ。わかった。……まったくおしい奴だ」

視線を暗闇の先から俺へとよこしたフランは、惜しげに俺の顔を少し眺めた後すぐに向きを変え、旅人の扉へと姿を消していった。

……結局、フランの強さも盗賊団の詳細も分からずじまいになってしまった。
分かるのは、暗闇の先に俺を狙う何者かが潜んでいるということ。強い何者かが。

眠気などとうに吹っ飛び、死んでも全く持って構わない俺は好奇心に駆られ、フランが視線を向けていた方へ歩き出した。
地面は背の短い草が一帯に茂っていて物音を立てずに歩くのは難しい。

……どれくらい強いんだろうか。どんな奴だろうか。一目見る間もなく殺されてしまってはかなわない。
銅の剣を抜く。なんか盾でも買えばよかったな、と思う。

「俺を狙う理由は何だ?」

少し進んでから暗闇の中へ向かって話しかけてみた。気配は全く感じられない。
俺には索敵能力が無いのか、それとも相手の隠密能力がよほど長けているのか。
だがフランはすぐに何者かの気配を感じ取っていた。盗賊のなせる技か。
なら潜んでる相手も盗賊かなんかの同業者?
しかし、狙われる理由がさっぱりわから…

「………っない!!」

咄嗟に身体を捻った。
が、それは俺の左腕に突き刺さり、反対側へ勢いよく抜けていく。
一瞬闇に小さく光った何かが、俺めがけて飛んできた鉄の矢だと気がついたのは左腕を突き破った後だった。

「くっ!!」

さらに同方向から、二発、三発と飛んでくる。一つを剣で弾き、一つは俺の頬をかすめていった。
暗闇じゃ飛び道具にまるで目がついていかない。
はっきりとは分からないが今のは矢ではなくもっと小さいクナイの様なものに見えた。

だがどうでもいい。
相手は姿を現した。人間の様だ。
暗がりの中、全身黒ずくめ。頭から頭巾を覆い被っている。
まるで忍者のような風体。

「日本じゃあるまいし…。つーか日本にもいねえっての」
151 ◆bvTKLCRja6 :2012/04/22(日) 17:04:26.63 ID:DE2yMKQB0

片手に鎌が見える。その取っ手からジャラリと鎖が繋がっている。鎖鎌って奴か。

「なんで俺狙ってるんだ?」
「…………」
「俺何か悪いことしたか?」
「…………」
「どうして俺がここを通るって分かった?」
「…………」

痛い目あわせなきゃ口は割らないようだ。出来るか俺。
つーかなんで人間同士で戦ってんだよ。相手が違うだろ。魔王倒しに行くだけなんだけどな……。

「ったくもう。話になんないな。殺したいなら早く殺せ」

こちらから距離を詰めることにした。
ベティには負けてしまった俺だが、人間の力を超えた強さを持っているのは自負している。
簡単には負けはしないと思った。が。

「…………っくそ。毒……かよ」

前に進もうとして、俺はそのまま倒れた。
矢で腕を射抜かれた時、若干感じていた痺れ。それが相手に飛び掛かろうとした瞬時、一気に全身に及び俺は動けなくなった。
指先すら動かせない。喉もやられるようだ。声が出せない。
目だけが動く。
黒ずくめの奴が音も無く歩み寄ってくるのが見える。
自分の吐く息の音が聞こえるということは耳は正常のようだが、近づいてくる足音は全く聞こえない。
卓越した足運び。

こいつは、俗に言う暗殺者って奴だろうか。
盗賊なんかよりもきっとずっと人殺し、戦闘に長けた存在。
フランが逃げ出す程の。

………暗殺者?
だとしたら。
ベティは。
狙われていないのだろうか。

「…………」
「…………」

俺の首に鎌が当てられる。容赦しないようだ。
間近から頭巾の奥に隠れた瞳をじっと睨む。

それは、間違いなく人間の瞳だった。

続く。
152 ◆bvTKLCRja6 :2012/04/22(日) 17:12:44.21 ID:DE2yMKQB0
3と言ってましたが、オリジナルが強いかもしれませんね。
裏切ってしまったら申し訳ないです。
153名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/04/26(木) 15:52:44.10 ID:l56w3W64O
全然かまわん
154投稿代理 ◇DQ6If4sUjg:2012/04/26(木) 17:42:39.33 ID:XfoPtpmU0
大した準備もなしに、いきなりムドーの島へ乗り込むわけにはいかない。
張り切ってるチャモロはさておいて、俺たちは万全を期そうと準備を整えはじめた。
食料を始めとした、航海に必要なものはあっちで用意してくれることになったので、
用意するのは武器と防具、あと道具だけだ。
まったくありがたい。村の中心で無神論を叫んだ俺なんて、
神殿どころか村から追い出されてもおかしくないのに、どうやらそのあたりは不問にしてくれるらしい。
この村の人たち優しすぎワロタwwww ワロタ……。

まあ何だ、俺の黒歴史は置いといて。
ゲントの村は山奥にあるくせに、売ってる装備は結構いいものが揃っていた(ハッサン談)。
しかも店主の話によれば、戦いの時に道具として使うと何かしらの効果を発揮するものがあるんだとか。
……なんだろうな、道具として使うって。

E はじゃのつるぎ
E みかわしのふく
E てつのかぶと

とりあえず、俺の装備はこんな感じ。やっとこさ毛皮のフードから卒業だ。
次の目標は盾が装備できるようになることだけど、
まずは片手で剣を扱えるようにならないことにはなあ。
そうそう、剣といえば。この破邪の剣って武器、やたら軽いんだよ!
鉄の剣とは雲泥の差だ。なんてったってミレーユも装備できるくらいだからな。
相変わらず片手じゃキツいけど、前よりかはマシな動きができそうだ。
身体が軽くなるって売りのみかわしの服もあるし……これ、来ちゃうかもな。俺の時代!

ちなみにおおかなづちなんていうデッカいハンマーも売ってた。
多分ハッサンなら扱えると思うんだけど、
前どこだったかで手に入れた鉄の爪がたいそう気に入ってるらしく、しばらく手放す気はないらしい。
おおかなづちで戦う筋肉マッチョマンなんて、きっと魔物も裸足で逃げ出す迫力だろうに。
もったいない。なかなか見られる絵じゃないぞ。

ミレーユとバーバラはそれぞれ銀の髪飾りを購入した。
魔力が増幅され、呪文が強化されるという優れものらしい。
二人は「お揃いね」なんてはしゃいでたが、戦いの時には強化された呪文で
鬼神のごとく活躍するに違いない。くわばらくわばら。
で、我らがリーダーボッツだが、破邪の剣はもちろん、鋼の鎧に鉄の盾というゴッツい装備をチョイスなされた。
……俺、一生この人に追いつける気がしないよ……。

薬草やら毒消し草やらも買い込み、準備はこれ以上ないってくらいに万端となった。
その代わり、サイフはすっからかんになってしまったけど。

「王様の褒美に期待するしかねえな。
ムドーは二匹いたんだから、倍額もらえるかもしれないぜ?」
「金の亡者かお前は。でもまあ、それくらいは期待したいよな」

一度でよかったはずの討伐をもう一度やらなきゃいけないわけだしな。
魔王が複数いるなんて聞いてないっつうの。
あ、でも俺は褒美受け取れないかもしれないのか。
魔王倒した瞬間に戻るのか、それとも若干のタイムラグが発生するのか、そのへんさっぱりわからないもんな。
というか、元の世界に戻る時ってこっちの世界のもの持っていけるのか?
この世界の硬貨って金ぴかだし、質に入れたら結構な値段になる気がするぞ。
一枚だけでもこっそりくすねて……いやいやいや。

「待ちくたびれましたよ。準備は……終わったようですね」

155投稿代理 ◇DQ6If4sUjg:2012/04/26(木) 17:43:43.00 ID:XfoPtpmU0
村の人にファルシオンと馬車を預け、荷物を抱えて神殿前へ行くと、チャモロが鼻の穴を膨らませて待っていた。
うわあ、やる気まんまんだよコイツ。さっきまで俺と論争を繰り広げていた奴と同一人物とはとても思えん。
チャモロ、お前それでいいのか……。

「ん? そういや、じいさんはどうしたんだ?」

ハッサンが日差しを遮るように額に手を当てて、周辺を見回す。
つられて俺もハッサンとは逆方向を窺った。言われてみれば姿が見当たらない。

「御祖父様なら、あれから自室に篭もられています。
きっと神の船解放に向けて瞑想していらっしゃるのでしょう」

なるほど、と首肯したものの、俺はチャモロの読みは外れてるだろうなと予想する。
あのじいさん、いじけて引きこもってるんじゃないか?
きっと瞑想じゃなく、迷走しているに違いない。なんつって。

……すんませんでした。

「ねえ、この中に神の船があるのよね? こんな山奥からどうやって海まで行くの?」

ナイス質問だ、バーバラ! 俺もそれずっと気になってたんだよ。
俺の世界ならクレーンとか何かしら手段はありそうだけど、こんな機械もないファンタジーな世界じゃなぁ。
……まさかとは思うけど、船を運ぶ呪文があったりしないだろうな。

「船を運ぶ呪文……当たらずとも遠からず、ですね」
「え? まさかの正解?」
「見て頂くのが一番早いでしょう。さあ、来てください」

そう言ってチャモロは神殿の大きな扉を開け、中へと消えていった。
残された俺たちはただ顔を見合わせるばかりだ。
マジかよ、そんな呪文まであるのか?
……あんな体験しちゃった後だ。もう何が起きても驚かないぞ俺は。このカシオミニを賭けてもいい。
頑丈な扉をくぐった先で、神の船とはすぐに相見えることができた。

「……でけえ」

なんだこの船、でけえ!

「これが神の船!? すっごーい!」
「へえ、こいつぁなかなか大したもんだな」
「なんて立派な船……」

みんなも口々に感嘆を唱えている。
いや、すげえよこの船。
開口一番でけえとか言っちゃったけど、すごいのは大きさじゃない。俺、船自体見るの初めてだし。
なんていうかな、俺が言うのもおかしいんだけど……神々しさを感じる。
悪いものなんか全部はね除けてくれそうだ。
ちょっとやそっとのことじゃ壊れなさそうなくらい頑丈そうに見えるし、こりゃあ快適な船旅になりそうだな。

「……もしかして」

ぽつりと落ちたつぶやきを俺たちは聞き逃さなかった。
神の船から目を離し、俺たちを振り返ったボッツの表情は真剣そのものだ。
灰色の瞳には微かに驚きがたゆたっている。

156投稿代理 ◇DQ6If4sUjg:2012/04/26(木) 17:45:21.27 ID:XfoPtpmU0

「レイドック王が神の船を借りるように言った理由がわかった気がする」
「どういうこと?」
「みんな、覚えてるだろ? 
レイドック王はムドーの島へ向かってる時に不思議な光に包まれ、倒れてしまった」
「ああ、うん。で、気づいたらムドーになってたんだよな?」

いやー、ショックだよな。
まさか王様もこれから倒そうと思ってた魔王の姿にさせられるとは思ってなかっただろう。それも別世界で。
俺だったら引きこもるね。って、ムドーは元から引きこもってたな。
ん、ああ。だからあいつあんなピザってんのか……。

「もしかして、神の船はムドーの魔力を寄せ付けないんじゃないか?」
「! 普通の船で向かったのではレイドック王のようになってしまう。
だから、あるはずの船を私たちに貸せなかったのね?」
「なあんだ! それならそうと言ってくれればよかったのによ」
「ほんと!」

うんうんと頷き、俺はハッサンとバーバラの二人に同調する。
船は無いとかわけわからん嘘つきやがって。
それ話せば長老やチャモロもあっさり船貸してくれたかもしれないのに、いらんケンカしちまったじゃねえか。
ああいや、ケンカは俺の責任だな……。

「ま、まあまあ。レイドック王も人間だし、寝起きでぼんやりしてたのかも。
それに、あれでいて結構抜けてるところが―――」
「皆さん、出発されるのでしょう? 早く乗ってください!」

頭上からチャモロの声が降ってきた。おお、もう船に乗り込んでるのか。
だいぶ焦れてるみたいだし、話はいったん中断だな。行こうぜ。

「あ、ああ」
「? おい、ボッツ?」
「どうかしたの?」

なんだなんだ、何か様子がおかしいな。
さっきまであんなに饒舌だったのに、いきなり歯切れが悪くなったぞ。
ああ! 王様のことならもう怒ってないから安心しろって。さっきのは一種のジョークだよ、ジョーク。
イッツ アン アメリカンジョーク! な?

「え……?? あ、いや、大丈夫。
気にしないでくれ。チャモロ、今行くよ」

やめて! こいつ何言ってんのみたいな顔で見るのやめて!
100%俺が悪いけどさ!


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「全員乗り込みましたね」

眼鏡を上げ下げチャモロが確認してくる。
しっかし、建物の中にこんな大きな船があるなんて、何か変な感じだな。
下は……ゲェーッ! 木材が網みたいに組み合わされてるだけじゃねえか!
網っつっても網目はスッカスカ、人一人分くらいの大きさだよ! 網目の向こうは真っ暗だよォーッ!
157投稿代理 ◇DQ6If4sUjg:2012/04/26(木) 17:47:07.55 ID:XfoPtpmU0

見下ろす前髪を風に吹き上げられ、俺はますます青ざめた。
この穴、外に繋がってやがる……。おいおいおい、見えないところが腐ってたりしないだろうな。
うっかり船と真っ逆さま、なんてぞっとしないぞ。

「おや、気分が優れないのですか?」

ぽんと肩を叩いてきたのは、長年神殿と船の手入れをしてきたというおっさん二人だった。
テカテカと光る筋肉と太陽のような笑顔が眩しい。

「い、いや……この床の作り、大丈夫なのかなって……」
「もちろん!
この日のために、私たちは一日たりとも手入れを欠かさなかったのですから」
「そうですとも。大船に乗ったつもりでいてください!
……あ、もう乗ってましたね。失敬失敬! わっはっはっ!」

……若干イラッと来るテンションだ。
いや、この人たちはアホな俺を許してくれたんだ。何も言うまい。

「チャモロ様、こちらも準備が整いました。出発しましょう!」

威勢のいい声を飛ばしてきたのは前方で舵輪を握る恰幅のいいおっさんだ。
このおっさんも、この日のために航海術を磨いてきたのだろうか。
チャモロはおっさんに頷いてみせると、俺たちをぐるりと見渡し、ひとつ咳ばらいをした。

「皆さん。封印を解けば、この船は一気に川を下って海に出るでしょう。
少し揺れるかもしれませんので、どこかに掴まっていてください」

一気に下る? 川を? ここから??
激しく揺れる船に振り落とされ、遥か奈落の底へと投げ出されるイメージで頭の中が塗り潰される。
俺は迷わずマストにしがみついた。
嫌な予感しかしねえよバカ! バカバカ〇ン〇!
ボッツたちやおっさんたちも船縁やら舵輪にしっかりと掴まった。それを確かめて――――

「我、ゲントの民にして古より仕える者なり」

静まり返った神殿に凛とした声が反響する。
チャモロはそっと目を閉じ、胸の前で人差し指と中指を立てていた。印ってやつだろうか。
Oh! Japanese NINJA! ……なんて茶化せるような雰囲気ではなさそうだ。

「神よ、偉大なる神よ。今ここに授かりし神の封印を解き放ち、我に力を……。
アーレサンドウ マーキャ。ネーハイ キサント ベシテ。パラキレ ベニベニ パラキレ……」

に……日本語でおk。

がくん。
脳みそが揺さぶられるような衝撃が全身を駆け抜ける。
俺は慌ててマストに抱き着いた。今のショックでしがみつく腕の力が一瞬緩んだからだ。
ふ、振り落とされてたまるかあぁ!

「おいおい、こりゃあ……」

右斜め前で船縁に掴まっているハッサンが、思わずといった様子で声を漏らした。
俺もぽかんと口を開けるしかなかった。
ここから見える壁は、まさに神殿といった感じの石壁だったはずだ。
それが今や壁は土色。それも下へと下へと動いてる!
158投稿代理 ◇DQ6If4sUjg:2012/04/26(木) 17:48:37.23 ID:XfoPtpmU0

エレベーターだ。
エレベーターの要領で、船が下に運ばれてるんだ!
……でも、どうやって?

網状に組み合わされた木の床と、それに繋がっている二本のロープが船を運んでるのはわかる。
わかるけど、それを動かす仕掛けの類は上には一切見当たらなかった。
もちろん木の床にも船上にも見つけることができない。
それに、あんな“頑丈”という言葉をそのまま体現したようなぶっといロープ、絶対さっきまで無かった。
大体こんな馬鹿デカい船+八人の重さに耐えてるってどんなロープだよ。
何かの呪文でもかかってんのk……呪文?

船を運ぶ呪文。
当たらずとも遠からず。

……なるほど。いや「なるほど」じゃねえけど。
もう何でもありだな、この世界……。

っていうか、思ったより揺れねえなあ。
まあガタガタいってるけど気にならない程度だし、そろそろマストから離れても―――

「おぶっ!?」

着水したと同時、またもうっかりすれば舌を噛んでしまいそうな振動が船を揺さぶった。
油断していた俺は慣性の法則に従って投げ出され、あわれ床と熱烈なベージュをかわすこととなった。
うおおぉぉ鼻取れた! 絶対鼻取れたよこれ! ああちくしょう、最後の最後に揺れやがって。
おいこらそこ、指差して笑うな。地味に傷つくよそういうの。
お前のことだよバーバラ! ボッツとハッサンもつられて笑ってんじゃねえ!
……あれっ、ちょ、ミレーユまで!?
だっ、だから笑うなっての! 聞いてんのかテメエらァーッ!

「まったく、緊張感のない人たちですね……」

けらけらと笑うバーバラたちとそれに突っ掛かる俺を尻目に、
チャモロが愚痴るようにそうつぶやくのが聞こえた。

「結構なことじゃぁありませんか。多少は肩の力を抜くことも大切ですよ。
さあ皆さん、そろそろ海に出ますよ!」

おっさんの声につられて前方に顔を向けると、300メートルくらい先に出口らしき光が見えた。
ここ、アモールみたいに、洞窟の中に川が流れてるんだな。で、この洞窟は上の神殿と繋がってた……と。
ひんやりとした風が吹き抜け、露出している肌に鳥肌を立てていく。
うう、毛皮のフードが恋しい。

あそこを抜ければ海へ、そしていずれはムドーの根城へ……。
思わず生唾を飲んでしまう。
上のムドー城はややこしい仕掛けばっかだったけど、こっちのはどうだろう。
単純な作りだったらボクチン嬉しいんだけどなー。……無理かな。

「海に出るぞー! 帆を下ろせー!」

舵輪のおっさんが声を張り上げた。
低くて野太い、けれどよく通る声。オペラ歌手みたいだ。
声に従って、マッスルなおっさんたちははしご状になっているロープを
ひょいひょい登り、あっという間にマストのてっぺん近くに着いてしまった。
命綱もなしに登るとか命知らずにも程があるだろJK……。やべえ、俺あんなこと絶対できねえ。
高いところが好きとか苦手とかそういうの以前の問題だよこれは。
159投稿代理 ◇DQ6If4sUjg:2012/04/26(木) 17:51:26.33 ID:XfoPtpmU0

俺が愕然としている間に、おっさんズは帆布を固定しているロープはテキパキとほどき、
これまたひょいひょいと甲板へと降りてきてしまった。
なんつう鮮やかな。一日も休まず手入れをしてたっていうのは何も船に限った話じゃなかったんだな……。
おっさんズは帆布を留めていたロープを掴むと、滑車の溝にぐるりと巻き付け固定させた。
今みたいにだらりと垂れ下がってるだけの帆じゃあ、風を受けて走ることはとてもできそうにない。
そこで滑車を使ってぴんと張らせるわけか。
なるほど、帆ってこういう仕組みになってんだな。……よっしゃ!

「あのっ、これ回せばいいんスか!?」

俺は滑車のクランクをしっかと掴み、おっさんズに問いかけた。



タイチ
レベル:15
HP:102/113
MP:32/52
装備:はじゃのつるぎ
    みかわしのふく
    てつのかぶと
特技:とびかかり
160投稿代理 ◇DQ6If4sUjg:2012/04/26(木) 17:54:56.47 ID:XfoPtpmU0

久々に来てみたら新しい人がキテタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
アフィリエイトマジチート。ベティちゃんツン可愛い。
これからも頑張ってください!

>>86
ありがとうございチャモロ!
現時点で若干空気になりかけてるキャラがいますが、
できるだけ全員均等に出番与えられたらと思います。思います……。

>>87
感想ありがとうございます。
ゲームやってる時からチャモロの手のひら返しっぷりが
気になってたのでこんな感じになりましたw
DQ世界は本当に神さまがいるのでまだいいんですが、
リアルではいるんだかいないんだか……。宗教って難しいですね。
161投稿代理 ◇DQ6If4sUjg:2012/04/26(木) 17:56:09.31 ID:XfoPtpmU0

代理は以上になります。
162名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/04/26(木) 18:49:35.60 ID:tXyB7XT8O
乙です
163名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/04/29(日) 22:14:44.77 ID:JfRDkHC90
やる夫スレ形式でやったらまずい?
164名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/04/30(月) 00:33:27.14 ID:KHZKjwjpP
いいんじゃないかな
>>1に何でもおkってあるし
165名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/05/01(火) 16:32:03.25 ID:Qxt37+ZN0
やる夫スレは凄い容量食うんで厳しくなったら次スレ立ててくれ
166 ◆DQ6If4sUjg :2012/05/02(水) 14:16:40.17 ID:qtoXPpKaP

「ムドーの島へは二日もあれば着くでしょう。皆さん、どうぞそれまで英気を養ってください」

二日。船に乗ったことがない俺は、それが早いんだか遅いんだかよくわからない。
距離で言えば東京から北海道くらいだろうか。
いや、でも設備とか全然違うしな……。東京から青森くらいか……?

「タイチー、生きてるー?」
「……ぉー」

ハッサンとボッツは武器や防具の手入れ、ミレーユは荷物の点検、
チャモロは舵輪のおっさんと話し合いの真っ最中。
そんな中、精根尽き果たして壁によりかかる俺を、バーバラが覗き込んできた。
っていっても、よりかかってるのは胸から上だけ。ほぼ寝てるといってもいい姿勢だ。
バーバラは無防備にもその場でしゃがみこんだ。
見え、……ない。

「そんなにへばるなら、無理しないで代わってもらったらよかったじゃない」
「最後までやりきったんだからいいだろ」
「顔真っ赤にしてヒイヒイ言ってたくせに」
「うるせー」

機嫌を損ねた振りをして、さりげなく視線を黄金の三角地帯からマスト付近へと移す。
青空の下、輝くように真っ白な帆ははためくことなく、しっかりと風を受け止めていた。
……いや、何だ。最初は良かったんだよ最初は。
何の抵抗もなくカラカラ回ってさ、なになに〜? 思ってたよりも筋肉ついちゃってる感じですかぁ〜?
なんて思っちゃうくらいに軽くてさ。
でもさ、回せば回すほど、ロープが張れば張るほど、クランクが重くなるのは当たり前なんだよな……。
正直めっちゃキツかったし、おっさんズやハッサンが何度も代わろうかって言ってくれたけど、
そこでハイお願いしますなんて言ったら意味がない。
なんでそこまでするかと言えば、拍子抜けするくらいあっさりと俺を許してくれた村の人たちに、
何かしらの形でお詫びがしたかった。それだけ。
ムドーを倒すのが一番のお詫びになるんだろうけど、
俺ひとりの力で倒すわけじゃないから、何か違う気がするしな。
で、顔をトマトみたいにしながら限界まで滑車を回し切った結果、体力を使い果たしたってわけだ。
あ、ちなみにマスト以外にも帆はあったけど、さすがにそれはおっさんズがやってくれました。

俺はむくりと起き上がり、船縁から顔を出した。
船はとっくに洞窟を抜け川を下り、大海原をムドー城めがけて邁進している。
この海がさ、すっげえの。真水かってくらいに透き通ってるの。
船はもう沖に出てるのに、水中で泳いでる魚が肉眼で見えてんの。
前にTVか何かで、透き通りすぎて海底に映ってるヨットの影まで見えてる写真見たことあるけど、
まさにそんな感じ。東京湾とは大違いだ。

電気もない、ガスもない、TVもPCもゲームも雑誌もない。
いつでも新鮮な食べ物にありつけるわけじゃない。いつでも暖かい布団で眠れるわけじゃない。
その上、町や村の外は命を狙う怪物たちでいっぱいだ。
……不便ってレベルじゃねえくらい不便だけど。
でも、この景色のためなら、不便なのも悪くないかもしれない。

「ねえ、ちょっと」

話は終わってないと言いたげに、オレンジ色のポニーテールが景色に割り込んできた。
海の青さにやたらと映える。そういや、青とオレンジって補色なんだっけ……。
なんて、この非現実的な髪の色にもすっかり慣れちゃったな。
みんなが似合いすぎてるってこともあるんだろうけどさ。

「村ではごめんな。せっかく止めてくれてたのにさ」
167 ◆DQ6If4sUjg :2012/05/02(水) 14:17:18.65 ID:qtoXPpKaP

「えっ? ……それはもういいってば。さっきも謝ってくれたじゃない」

バーバラの言う通り、暴走して騒ぎを起こしてしまったことは謝罪済みである。
無事に船を貸してもらえることになったんだから結果オーライだ、とみんなは許してくれたけど、
それでも謝らずにはいられない。日本人の悲しき性ってやつだろうか。
あーあ、順調に黒歴史が増えていく……。

「……あのさ、聞いていい?」
「なに?」
「どうしてあんなこと言ったの?」

あんなこと。
……「神なんかいるわけない」のこと、だよな。

「うん。タイチの世界は平和なんでしょ? 魔物はいないし、呪文は無いけどカ、カガ……」
「科学?」
「そう、カガク! カガクが発展してて、生活が便利になってるんだよね?
話だけ聞いてたら、すっごく幸せそうな世界じゃない」
「………」
「それなのに、そこから来たタイチがあんなこと言うなんて……。ちょっとびっくりしちゃった」
「……ごめん」

また謝った。何に謝ってんだ、俺は。
自分でもわからないのに反射的に口をつく。何かの病気なんじゃねーの、これ。

俺のいた世界は、何年も何年も戦争を続けてる国、
じゅうぶんな食べ物がなくて飢え死にする人たちが後を絶たない国、
自分勝手な独裁者に苦しめられてる国。そんなのばっかりだ。
前にバーバラに話した科学が発展してる国なんて、ほんの一握り。
俺なんて、偶然平和な国に生まれて、平和な家庭に育って、
時折対岸の火事を上辺だけ心配しながら平和に生き延びてきただけだし。
って、これちょっと中二入ってるな。あーだめだ、ストップストップ!

「そうだったんだ……。そっちの世界も大変なんだね」
「でも、そんな大変な世界でも帰りたいんだよなあ。不思議だな」
「じゃあ……あのね、もうひとつ聞いてもいい?」

何やらもじもじしながら上目遣いで尋ねてくる彼女に、俺は即頷いた。
馬鹿野郎! そんなコンボ決められて頷かない男はいないだろうが! まったくけしからん!

「村で、なんでユウは〜とか言ってたでしょ?
ユウって人に何があったのかなって……あ、言いたくなかったらいいよ!」

……そういやそんなこと口走ったっけな。
弟の勇は生まれてこのかた風邪ひとつひいたこともないくらいの健康バカだ。
幸い事故に遭ったことも事件に巻き込まれたこともないし、
何事もなけりゃ今でも元気に大学にサークル、バイト三昧のはず。
俺、なんであんなこと言ったんだろう。マジでわからん。
バーバラにそんな感じで説明すると、これ以上ないってくらいに目を丸くされた。

「なあんだ、元気なんじゃない。友達が不幸に遭って……ってことなのかと思ってたよ。
っていうか、タイチってお兄ちゃんなんだ! 見えなーいっ!」
「なんだと!」
「バーバラ、ちょっといいかしら?」
「あ、うん! ごめんタイチ、またあとでねー!」

多分荷物の点検を手伝って欲しいとかそういった用件だろう。
バーバラは薬草だの聖水だのを広げているミレーユの下へと駆け寄っていった。
あーちくしょう、言い逃げかよ。
168 ◆DQ6If4sUjg :2012/05/02(水) 14:17:46.23 ID:qtoXPpKaP

行き場のない感情がぐるぐると身体の中を駆け巡り、溜め息として吐き出される。
一緒に体の力も抜けて、ずるずるとへたりこむように腰を下ろした。
弟がいるって話をすると、決まってバーバラみたいな反応されるんだよなあ。
弟がいるのがそんなにおかしいかっつうの。
俺ってそんなに頼りなく見えるのか……? あーあ、もう。

二人はミレーユの持ってるオカリナ? を覗き込み、何やら神妙な顔で話し合っている。
へえ、あっちの世界にもああいうのがあるんだな。……って、あれ? あんなの荷物にあったっけか?

「タイチさん」

呼ばれて反射的に振り返ったものの、俺は言葉が出なかった。
こっちから声をかけることはあったとしても、
まさかあっちから話しかけてくるとは全然思ってなかった。

「お隣、よろしいでしょうか」

口を半開きにしたままコクコク頷く。
それに律儀にも礼を返すと、チャモロは俺の隣に座った。正座で。
え? っていうか何の用事? すっげえ気まずいんですけど。
チャモロって同行してはくれてるけど、別に俺と和解したわけじゃないんだよな……。
あれだけ派手に論争したのに結局神様いたっぽいし、
チャモロからしたら俺って超間抜けじゃん? 絶対良く思われてないって。
……とにかく謝ろう。村で一度謝ったけど、あれはチャモロじゃなくて長老にだったし。
これから一緒に戦うんだし、仲良くしなきゃな。

「えっと……村ではごめん。ちょっと言い過ぎた」
「……そのことについてはもう忘れましょう。私も忘れます」
「そっか……そうだな。ありがとう、お前いい奴だな」
「いいえ。私など、まだまだ未熟です」
「そ、そんなことないって!」

己に厳しいのか落ち込んでるのか、自分をそう評するチャモロを俺は思わず励ました。
年上二人が苦戦してた魔物を呪文ひとつでやっつけちまうし、
村の人たちから敬われてるっぽいし、船を動かす呪文なんか使えるし、
そもそも長老を差し置いて神から話しかけられた時点でもっと誇っていいって!

「……ありがとうございます。しかし、神の声が聞こえたのには私も驚きました」
「いきなり時間止まって、『チャモロ、チャモロよ』だもんなぁ。誰でも驚くって」
「えっ」
「えっ」



-----------------------------------
--------------------------
--------------



「私たちとはどこか違う方だとは思っていましたが……。まさか、異世界の方だとは」

名前も珍しいですし、と俺をじろじろと眺めながらチャモロが言う。
小一時間問い詰められたから色々ゲロっちゃった。てへぺろ☆
まあいいよな、別に秘密にしてるわけでもないし。
別の世界から来たことはにわかには信じにくいみたいだったので、
来たばかりの頃に俺が着てたパジャマを見せてやった。
そしたらもう興味津々! 好奇心で目を輝かせながら、まじまじと観察したり伸ばしたり
ひっくり返したりの大騒ぎになってしまった。
169 ◆DQ6If4sUjg :2012/05/02(水) 14:18:36.74 ID:qtoXPpKaP

タグも見せてみてわかったんだけど、この世界の人たちには日本語が読めないらしい。
反面、俺はこの世界の言葉の理解はもちろん文字も読める。
……異邦人特典ってやつなんだろうか??

「しかし、勝手のわからない異世界でさぞや心細かったでしょう。御心中お察しいたします」
「いや、来てすぐボッツたちと会って、旅に加えてもらってさ。だからそんなに不安じゃなかったよ」
「それはそれは……きっと神のお導きでしょう。感謝しなければなりませんね」
「お、おう。そうか?」
「私がお告げを受けた時、神はあなたにも微笑みかけてくださったのでしょう?
慣れぬ地で戸惑っていたタイチさんを哀れにお思いになり、
今もどこかで見守っていてくださっているに違いありません。おお、神よ……」

チャモロは胸の前で両手を組み、目を閉じたっきり動かなくなってしまった。
……えっと……。俺も祈るべきなんだろうか。
でも自分から無神論掲げておいて祈るのは何かなあ。
いや、見守ってくれるのは嬉しいんだけどさ。神様美人だったし。
どうすべきか迷ってるうちにチャモロが目を開け、両手をほどいた。お祈りは終了したらしい。

「……それで、元の世界に帰るために魔王討伐に?」
「え、ああ、うん」

祈った後の決まり文句みたいなものは必要ないのか?
カーメンだかラーメンだかソーメンだか、祈った後に必ず言うアレは?
……まあいいか。こっちにはないのかもな。

「何かよくわかんないけど、この世界が上と下に分かれてるのって魔王のせいなんだろ?
だから、俺がこっちに来ちゃったのも魔王の仕業なのかなと」
「ふむ。上下の世界のことはわかりませんが、故意にしろ偶然にしろ、
魔王ともなればその魔力が他の世界に干渉できてもおかしくありません。
確かに魔王を倒せば帰ることができるかもしれませんね」
「だろ? グランマーズも魔王倒せば道が開けるみたいなこと言ってたしな。
あ、グランマーズって知ってるか? 何か有名な占い師らしいんだけど―――」
「えっ! グランマーズって……あのグランマーズ様ですか!?」

お、おぉ多分そうだよ。やけに食いつきいいなお前……。
あのばあさんそんなに有名なの? って言ったら、めっちゃ驚かれた後に「そうだった」みたいな顔された。
曰く、グランマーズは予約しても向こう一年待ちと言われるほどの夢占い師で、
チャモロもいつか話しを聞いてみたいと常々思ってたらしい。
高名だとは聞いてたけど、そんなすげえ人だったとは。

「いやはや驚きました。いったいどんな手を使って占って頂いたんです?」
「おまっ、人を悪者みたいに言うなよ! 
ミレーユがグランマーズの弟子だから色々融通きかせてもらえたんだよ。
お前もミレーユに頼めば占ってもらえるぞ、きっと」
「なんと。ミレーユさんがですか? なるほど、今回のことが終わったら是非……
いやしかし、きちんと正規の手続きを踏んでいる方々を差し置いて横入りするような真似は……」
170 ◆DQ6If4sUjg :2012/05/02(水) 14:19:12.74 ID:qtoXPpKaP

なんてもっともらしいことをぶつくさつぶやいてるけど、
チャモロお前、さっきから目がきらきら輝いてんぞ。
うんうん、そうだよな。チャモロって大人ぶってるけど、やっぱまだまだ子供なんだよな。
村では堅物っぷりにムカついてばっかだったけど、こうして話すといい奴じゃねえか。
やっぱ人間、第一印象だけでその人を決めてかかっちゃ損だよな。
よっしゃ、ここはいっちょ一発ギャグでも決めて、ムドー戦に向けて親近感を高めておくか!
えー、オホンッ!

「それにしても、グランマーズって有名な夢占い師だったのかあ」
「え? ええ。名前だけでも聞いたことがあるという方も多いと思いますよ」
「話には聞いてたけど、そんなにゆうめいなゆめ占い師だったとはなあ」
「………」
「いずれミレーユも、グランマーズみたいにゆめ占い師としてゆーめいになったりすんのかなあ」

よしっ、今だチャモロ!
神の船の貸し出しを断った時のような鋭いツッコミを再び俺に見せてくれ!

「………………」

……あ、あれ? ノーリアクション?
うーん、ちょっとわかりにくかったか……?
しかたない、もっとわかりやすく強調して言ってやるか。“ゆーめ”いな“ゆめ”うらn――――

「タイチさん」

おう!

「そう何度もおっしゃっていただかなくとも、わかってますから」

…………おう。



タイチ
レベル:15
HP:102/113
MP:32/52
装備:はじゃのつるぎ
    みかわしのふく
    てつのかぶと
特技:とびかかり
171 ◆DQ6If4sUjg :2012/05/02(水) 14:23:43.50 ID:qtoXPpKaP
>>161
投下代行本当にありがとうございました!

またお願いするのは気が引けるのでP2購入に踏み切りました。
連投規制が厳しいけど、投下できないよりマシ。
これで明日にでも規制解除されたら泣けるなぁ…w
172名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/05/03(木) 00:44:07.51 ID:FIlMgQ880
乙!
チャモロは間違いなく良いやつなんだよw
173名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/05/06(日) 03:29:59.78 ID:AV7jxBuQ0
保守
174名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/05/11(金) 14:09:16.07 ID:X+uKGRzh0
ほしゅ
175 ◆DQ6If4sUjg :2012/05/11(金) 20:13:23.63 ID:ABgBMyQd0

どんぶらこっこどんぶらこっこと船に揺られて二日。
とうとう船はムドーの島へと到着した。
二日間揺られっぱなしだったが、乗り物酔いするどころか、
船上はむしろゆりかごのように快適だった。さすが神の船。
まっすぐ前を見上げれば、断崖絶壁の上の山々の間から城のような
建物の一部が垣間見ることができる。きっとあれこそがムドーの根城に違いない。
おっさんズが帆を畳み、錨を下ろす。
その間に俺たちは武器や防具を身にまとい、分担しておいた荷物を手に取った。

「では、行きましょう」

一足先に桟橋に立ったチャモロに頷く。
いよいよだ。あともうちょっと頑張れば帰れるんだ。
ボッツ、ハッサン、ミレーユ、バーバラ、チャモロ、そして俺。六人もいる!
ムドーなら一度上の奴倒してるし、負けるわけがないっつーの!

「バーバラ?」

と、背後から聞こえてきたボッツの声に何事かと振り返る。
少し離れたところでボッツとバーバラが向かい合っていた。
こうして見るとお似合いだな、なんてことを考える間もなく、俺は異変に気づいて眉根を寄せた。
チェーンクロス、銀の髪飾り、みかわしの服、分担された荷物。
そのいずれも、バーバラは身につけていない。おいおい、何やってんだあいつ。

「ごめん……あたしはここに残るわ」

……えっ?

「ど、どうしてっ!? せっかくここまで来たのに」

掴みかからん勢いでハッサンが尋ねたが、
バーバラはまるで貝のように口を閉じて俯いてしまった。
俺もハッサンと同じ気持ちだ。せっかく練習したメラ+ギラ名付けてメギラはどうするんだよ! なあボッツ!
同意を求めたが、ボッツは何も言わない。
案ずるような訝るような、複雑な表情でバーバラをじっと見つめている。

「無理強いは良くないわ。誰かが船に残ってた方がいいかもしれないし……」

ミレーユがそっとバーバラの前に立った。まるで俺たちからかばってるみたいだ。

……確かにミレーユの言うことにも一理ある。
ここはムドーの島だ。そりゃもう魔物はうじゃうじゃいることだろう。
こうしてる今だって、物陰からこっちの様子を窺っているかもしれない。
俺たちが出発した後、群れをなしておっさんたちを……なんてことは想像に難くない。
……ちぎっては投げちぎっては投げの勢いで魔物を殲滅するおっさんたちの姿も想像に難くないけど。

「じゃあバーバラ、留守番をお願いね」

ここで戦力ダウンは痛いが、とにかく残るというのなら仕方ない。
バーバラの分の荷物をふくろに詰め込み、
おっさんたちの声援に見送られながら、俺たちは船を下りた。

「うーん。ずっと船に揺られてたから、何か変な感じがするな」
「本当。まだ体が揺れてる感じがするわ」

ハッサンとミレーユがそんなことを話し合っている。
確かに、体はすっかり船上仕様だ。体が勝手に必要のないバランスを取ろうとするので何だかうまく歩けない。
今のままだと魔物が出た時ちょっとキツそうだなぁ。早く陸に慣れとかないと。
176 ◆DQ6If4sUjg :2012/05/11(金) 20:13:43.31 ID:ABgBMyQd0

……って、違う違う! そんなことよりバーバラだよ!
いきなり残るだなんて、あいつ一体どうしちまったんだ?

「魔王と命を賭けて戦うんだ。いくら呪文をいくつも扱えるといっても
バーバラは女の子だし、怖じけづいてしまっても仕方ないよ」
「まあそうだけど……。上の世界のムドーは一緒に倒したのになぁ」
「? どういうことですか?」

あ、そうか。チャモロは知らないんだった。
上のムドーや王様のことをかいつまんで話してやると、彼は合点がいったと頷いた。

「なるほどそんなことが……。
人を魔族に変えてしまうとは、さすがは魔王ムドー。侮れませんね」
「感心してんなよ。……お?」

船から歩いて10分も経たないうちに、
思ってもみなかったものを見つけて、俺たちは足を止めた。
神の船に比べれば劣るが、大きな帆船が停まっていたのだ。
けれど、長い間雨風に晒されたままだったのだろうか。
乗り込んでみれば、シミだらけ穴だらけ、更にはあちこち苔むして、
どうしたことかマストは折れてしまっている。
誰がどう見ても立派なボロ船だった。

「王様が乗ってきた船……じゃあなさそうだな」
「おぉーい!」

返事がない。ただのボロ船のようだ……。

「誰もいないのか……?」
「聞こえなかっただけかもしれないぜ。もう一度―――」

魔王ムドーは今なお健在。持ち主不在のボロ船。この二つから導き出される答えは一つ。
つまり……誰かがムドー討伐に来たけど、殺されちまったってことだ。

………………。

あ、そういや昨日二時間しか寝てなかったなー。
寝不足マジつれー。マジつれーわー。調子でないわー。実質二時間しか寝てないからなー。
やっぱり俺バーバラと船で待ってよっかなー?
ごんめー! 俺が寝てないのなんて全然理由にならないかもしれないけど、
二時間弱しか寝てないのなんて理由にならないかもしれないけど、マジごんめー!
そういうわけだからみんなは先に……。

「おーい何やってんだ、行くぞー!」

ちょっ、みんなもう船降りてる!? 待って、置いてかないで!ひとりにしないで!
慌てて追い掛けるまでもなく、ボロ船から降りてすぐのところで、ボッツたちは立ち往生していた。
その理由を俺は視覚じゃなく嗅覚で理解する。
鏡の塔で戦ったゾンビたちと同じ臭いだ。しかもあいつらのよりもすっごい強烈な!
鼻をつまんで、いや掴みながらミレーユとチャモロの間から覗いてみると、
紫色の湖?沼?みたいなものが一面に広がっていた。
うげえ。これはあれか、毒の沼ってやつか。

「向こうに洞窟らしき入口が見えますね」
「ええ。あの洞窟を抜ければ、ムドーの城に着くはずなのだけれど……」
「このまま渡っちゃだめなのか?」
177 ◆DQ6If4sUjg :2012/05/11(金) 20:14:09.41 ID:ABgBMyQd0

試しにそう言ってみたけど、反応は微妙なものだった。
目の前に広がる毒の沼はそう大きなものじゃない。
洞窟の入口までせいぜい50メートルといったところだ。
それほど深さもない(いっても膝くらいか?)から渡れなくもないし、
入ったところで体力を少し奪われるくらいで、それも渡ったあとにホイミで回復すればいい話、らしい。
……が、この島はムドーたち魔族の領域になる。
そいつらとの戦いに備えて魔力や道具は少しでも節約しておきたいんだそうだ。
まあ一理あると思うけど、だからっていつまでもここにいてもなあ。
あ、そうだ。あのボロ船の甲板引っぺがして橋作るとか……は、だめか。
時間かかりそうだし、そんなことしたら祟られかねん。

と、いうわけで。

「あの……大丈夫? 重くないかしら?」

うほっ、あのいつも冷静なミレーユがおどおどしてる!?
これは貴重な映像だ、網膜に焼き付けなければ!

「なあに、軽いもんさ!」
「ほ、本当? ならいいのだけれど……」

が。脇に抱えられている俺がいくら首を捻ったところで、
見えるのはハッサンの凛々しい横顔のみ。
広い肩の上で恥じらいに頬を染めているだろう彼女の顔は、
薄紫色のモヒカンに見事に隠されてしまっていた。がっくりとうなだれる。
ああちくしょう、上を向いても下を向いても紫色だ。

被害と道具の消費を少しでも抑えるため、二人が三人を抱えて毒の沼を渡ることになった。
これなら回復するのは二人だけでいいというわけだ。
ああ、真っ先に挙手したさ。俺が運ぶ側になるってそりゃもう強く主張したさ。
毒に耐性がないからっていう一理どころか百理くらいある理由で即却下されたけどな!

「よし、着いた……ぞ!」
「ボッツさん、ありがとうございます。すぐ降りてホイミしますね」
「ああ、頼むよ」

そんなやりとりの後、衣擦れと草を踏む音がした。
ボッツが背負っていたチャモロを降ろしたらしい。
ほどなくしてハッサンも沼を抜けて、静かに俺たちを降ろしてくれた。
サンキューハッサン、助かった。
……でも荷物みたいに脇に抱えるのはちょっと勘弁してくれ。生きた心地がしない。

「仕方ないだろ、俺の肩じゃ一人乗せるのが精一杯さ」
「ハッサンったら、やっぱり重かったんじゃない! ……私、帰りは自分で渡るわ。
代わりにタイチを乗せてあげてちょうだい」
「いやいやいや!帰りは俺が運ぶよ!むしろ運ばせてください!」
「だーかーらー、お前毒に弱いだろうが!」

そうでした。
いや、俺だって少しは鍛えられたんだ! 帰りは絶対俺が運ぶからな!
そして夢のお姫様抱っこを……。

「おーい、そろそろ行くぞー」

あ、はい。
178 ◆DQ6If4sUjg :2012/05/11(金) 20:14:41.96 ID:ABgBMyQd0

ぽっかりと口を開けている洞窟からは何やら熱気が漂っている。
恐る恐る覗き込んでみると、ぐつぐつと煮えたぎる溶岩っぽい液体がそこら中に敷かれていた。
……何このナチュラルセコム。まるで火山じゃねえか。
ムドーの城だと思った? 残念、火口でした! どーん。
……いやいやいや。

「渡れなくはなさそうだけど、ダメージは避けられないな」

えっ、ちょっ、ちょっと待てよ! これの上通ってくのか!?

脳裏に昔見た映画がちらりとよぎる。
機関銃をぶっ放されても液体窒素で凍らせられても何度も何度も復活して、
執拗に主人公を追いかけていた悪のサイボーグ。
そいつの末路は、溶鉱炉の中に突き落とされて、
水銀みたいなものをまき散らしながら溶けていく――――そういうものだった。
あの苦しみようはちょっとトラウマだ。
だってそれまで無表情だったのに、その時だけ苦悶の表情浮かべるんだぜ?
想像を絶する痛み、熱さだったに違いない。少し体力が減るだけの毒の沼とはわけが違うんだ。
……一応歩けそうな地面もちょこちょこあるけど、溶岩(仮)が大部分を占めてる。
これを避けてこの洞窟を攻略するのは難しそうだ。
いやだからって、溶岩(仮)の上を直接歩くとか本当勘弁させていただきたい。

「な、なあ。何とかしてこいつに触れないで通れないか、ちょっと考えてみようぜ」

その1.水で冷やす

使えそうなのは、荷物の水筒とアモールの水と聖水と海水くらいか。
といっても、貴重な水分である水筒の中身を使うわけにはいかない。ここ暑いし。
アモールの水と聖水も論外だ。となれば海水だけど、洞窟は毒の沼にぐるりと囲まれている。
海水を求めて、毒の沼に突っ込んで体力を消耗するなんて本末転倒だ。
うん、これは却下だな。

その2.呪文で冷やす

「冷やせるでしょうか?」
「やってみなきゃわかんないって!」
「……そうね、やってみるわ。ヒャド!」

ミレーユが溶岩(仮)に向かって手を突き出し唱えると、
ピキピキピキと音を立てながら溶岩(仮)のひとつが氷に閉じこめられて――――と思いきや。
氷は閉じこめた先からどんどんマグマに飲み込まれていってしまった。
今のはアレだな、えーっと……そう、焼け石に水!
……こんなことわざがぴったり当てはまる状況、初めて見たかもしれない。

「だめね。ヒャダルコかマヒャドでも使えない限り、凍らせることはできなさそうだわ」

だめかー。いけると思ったんだけど。
っていうか上位互換とかあるのね。

その3.靴底を加工する

要は溶岩(仮)に触れなきゃいいんだろ?
ボッツたちにも頼んで、できるだけ平たい石をいくつか見つけてもらう。
石なんてそこらじゅうにあるから探し出すのにはそう時間はかからなかった。
石をつま先と踵の部分にくくりつけて……っと。よし完成。
179 ◆DQ6If4sUjg :2012/05/11(金) 20:15:01.14 ID:ABgBMyQd0

少し歩きづらいけど、溶岩(仮)の上を直に歩くよりはマシなはずだ。
……さっきから汗が半端ないのは暑さだけのせいじゃない。
溶岩の温度って最低でも700℃とかなんだよな……。
いや、ボッツたちは毒の沼と同じような感じで渡ろうとしてたくらいだし、
この世界の溶岩の温度は思ってるよりも高くないのかもしれない。
ああでも、石が溶けて溶岩に触れちまったらどうしよう。
こんなうっすい革で出来たブーツなんてすぐに溶けちまうぞ。
そして足が溶岩(仮)に触れて、俺の体はあっという間に――――

………………。

だああああぁぁぁ、ここでうだうだ考えててもしかたない。
行くぞ俺! 何とかなるって!!

ボッツたちに見守られながら、俺は泡ができては消えていく溶岩(仮)へと恐る恐る足を踏み入れた。
……おっ、そんなに深くない? 試しに右足を上げてみる。
くくりつけられた石は多少溶岩(仮)の糸を引きながらも(割とねばねばしてる?)、その形をしっかりと保っていた。
おおおおおお、やるじゃん石! そして俺の頭脳!
情報社会と堕落した大学生活に揉まれてすっかり錆び付いてたと思ってたが、
いやーまだまだ捨てたもんじゃないね!

くるりと振り返って親指を立てる。
彼らはサムズアップを返してくれたり、拍手をしてくれたりと、
各々様々なアクションで祝福してくれた。

「毒の沼もこの方法で渡れればよかったのですが」

シャラップ!



-----------------------------------
--------------------------
--------------



厚底作戦で溶岩(仮)を渡り、聖水を撒きつつ進んでいくと、打って変わって涼しい洞窟に出た。
言うなれば、かんかんと太陽照りつける猛暑に冷房が効きまくってるコンビニに入ったような。
って、あそこまで涼しくはないけど。
見たところ溶岩(仮)はなく、代わりにそこらじゅうに水がたたえられている。
魔物の水飲み場か何かだろうか。口はつけない方が良さそうだ。

「こいつはもう必要ないな」

地面に乾いた物がいくつも落ちる音がした。
ハッサンが石をくくりつけていた紐をほどいたらしい。
それに倣って俺たちも紐をほどき、石を取り外した。やれやれ、やっと普通に歩ける。
あの溶岩(仮)地帯を抜けたってことは、ここは火山じゃないってことでいいんだよな。
そろそろ出口だと嬉しいんだけど。

もう足元に気を遣わなくてよくなったので、聖水は温存して進んでいくことになった。
そしたらもう出るわ出るわ。中身はからっぽなのに動く鎧、気味の悪い動く石像、
人(?)相の悪いランプ、両手や頭から泥を吹き出してる奴……などなど。
魔物のバーゲンセールかっつうの。
まあ魔物の本拠地なんだから当たり前なんだけどさ。
180 ◆DQ6If4sUjg :2012/05/11(金) 20:17:15.89 ID:gbIY5suCP

「! あれは……!」

魔物を蹴散らしつつ道なりに歩き、しばらく進んだ後。
ボッツが何かを見つけて走り寄っていった。
慌てて後を追い掛ける。

―――追い掛けて、絶句した。
そこには、触れれば崩れ落ちてしまいそうなほど細くて、白い、
……人間の骨が転がっていた。

「……たぶん、レイドックから遣わされた討伐隊だな。剣の紋章に見覚えがあるぜ」

ハッサンが冷静にそんなことを言いやがる。
ずいぶん前に亡くなったのか、肉は残っておらず、きれいに骨だけになってしまっている。
代わりに肉が腐り落ち、風化した跡らしきものが周りに残されていた。臭いはない。
役割を終えた兜や鎧はところどころ砕けていたり塗装が剥げているものの、かろうじて原形を保っている。
けれど時の流れには勝てないのか、手に握られている剣は刃こぼれを起こし、
鎧の下に着ていたと思われる衣服は風化してボロボロになってしまっていた。

……言葉が出ない。
骨なんて見たのは婆ちゃんの葬式以来だ。
それも幼稚園の頃だから記憶もあんまり残ってないんだよな……。
初めて見た、と言ってもいいくらいかもしれない。
傍らにひざまずき、祈っていたチャモロがどこからか風呂敷を取り出し広げて、
もう一度祈ってから、骨をひとつひとつ風呂敷へと丁寧に移し始めた。
俺より年下のはずのチャモロは、明らかな死の象徴である白骨を見ても怯える様子を見せない。
恐怖よりも死者を慈しむ気持ちが大きいってことなんだろうか。
……すげえな、こいつ。

「チャモロ、頼む。俺たちは魔物が来ないか見張ってるよ」
「ええ、お願いします」

そう言って、ボッツたち三人は念のためといって聖水を撒き、
チャモロを囲むようにして警戒の態勢を取った。
……俺はどうすべきだろう。悩んだ末に、しゃがみこみ、合掌した。
そして、おっかなびっくり手を伸ばす。

「……無理に手伝っていただかなくてもよろしいのですよ」

震えている手を視界の端で捉えたのか、チャモロがぽそりと言う。俺は無言でかぶりを振った。
骨って、意外と軽いんだな……。

骨を拾っていくうち、ふと左手に何か握られてるのに気がついた。
右手には剣、それなら左手には盾を持つのがセオリーのはずだが、
周辺に盾らしきものは見当たらない。
盾からもげた取っ手を握ってる、ってわけでもないみたいだ。
この人も俺と同じく両手持ち型戦士だったんだろうか。

固く握られている左手を開かせてみると、何かがぽろりとこぼれ落ちた。
小さな金属音とともに地面に着地したそれをチャモロがそっとつまみあげる。
……金色のペンダント?

丸く伸ばされた金属に、これまた丸く加工された鮮やかな緑色の石が
埋め込まれているという、シンプルなデザインのものだった。
激戦のせいなのかメッキが剥がれかかっているものの、石の輝きは失われていない。
緑の石って言ったらエメラルドだけど、これは違うよな。
透明じゃないし、宝石ってよりも鉱石って感じだ。なんて石だ、これ?
181 ◆DQ6If4sUjg :2012/05/11(金) 20:18:05.82 ID:gbIY5suCP

「マラカイトね」

いつの間にかミレーユがこっちを覗き込んでいた。
……マラ……何? ちょっともっかい言ってくれない?
いや下心とかは全然ないですよ、うん。

「『邪悪なものから守ってくれる』という謂われがあって、
昔からお守りの石として重宝されているの。
……戦地に向かう恋人へ贈られることもあるわ。石言葉は――――」

再会、だそうだ。なんつうか……やりきれないな。
ふと裏を見てみると、名前らしきものが刻まれていた。たぶん持ち主の名前だろう。
汚れが染みついていて読みづらいものの、判読できないほどじゃない。
レイドックに持ち帰って、城の誰かに頼めば、いったい誰なのか探し出してくれるだろう。

「お待たせしました。行きましょう」
「ああ。ありがとう、チャモロ。それにタイチも」
「いいえ、これも聖職者としての務めですから」
「まあ俺は……ついでだよ、うん。それよりさ、絶対生きて帰ろうな!」

そんでこの人ちゃんと土に埋めてあげて、家族なり恋人なりにこのペンダント渡さないとな。
よっしゃ、白骨見たショックでちょっと凹んでたけどテンション上がってきた!
ムドーの奴、首洗って待ってろよ。絶対ぶっ倒してやる!
そう意気込んだ矢先、ようやく出口が見えてきたあたりで、俺たちはまたもや白骨死体を見つけてしまった。
ペンダントの人が歩兵だとしたら、この骨の主は隊長だったのだろうか。
より外に近いためか風化が進んでいたものの、やや装飾が多いその装備は、
ペンダントの人のよりも上等なものに見えた。

しゃがみこみ、合掌。
隊長さんの他に白骨死体は見当たらない。
一人やられてなお進軍したが、ここで隊長がやられて討伐は断念、撤退……ってことだろうか。
隊長さんはうつぶせに倒れていて、左手に盾、右手に何故か長剣ではなく短剣を握っていた。
長剣は少し離れたところに転がっている。
間合いを詰められて、短剣での戦いを余儀なくされたんだろうか。

「おや……これは?」

二枚目の風呂敷を広げていたチャモロが何かに気づき、短剣の切っ先へと顔を近づけた。
つられて俺もなんだなんだと覗き込む。
182 ◆DQ6If4sUjg :2012/05/11(金) 20:18:32.30 ID:gbIY5suCP

















                             王子さま  どうか ご無事で
183 ◆DQ6If4sUjg :2012/05/11(金) 20:18:59.22 ID:gbIY5suCP

それは、冷たい土の地面に書かれて……いや、刻まれていた。
風に吹かれて埋まらないように、誰かに踏みにじられて消されないように。
深く、深く。

王子さま。
王子さまって、レイドックのあの王子さまか?
一年以上行方をくらましてるっていう……。

「恐らくは。最期の時まで王子の身を案じていらっしゃったとは、なんと忠勤な……。
名前も存じ上げませんが、どうか安らかに――――」
「……トム兵士長」

突然飛び出たその名前に俺もチャモロも思わず振り向いた。
そこには、頭蓋骨の傍らにひざまずき、沈痛な面持ちを浮かべているボッツの姿。
ハッサンとミレーユも眉間にしわを寄せている。

トム。トム兵士長。何かどっかで聞いたことあるような。
たぶん、王様に言われて下のレイドックに行った時だよな。
でもあの時は問答無用で牢屋に入れられて………あ!
そういや、「お前のせいでトム兵士長は」みたいなことをボッツに言ってた兵士がいたようないなかったような。
急に引っ捕らえられてパニクってたせいで、今の今まですっかり忘れてた。

「前……俺たちが王子に成り済ましたことがあるのは話したよな?
トム兵士長は、すっかり俺が王子だと信じて、暖かく歓迎してくれたんだ。だけど……」

土に深く刻まれたダイイングメッセージを見つめながら、ボッツはぽつりぽつりと言葉をこぼす。
爪が白くなるほど強く握りしめられた拳は微かに震えていた。

ボッツたちが王の間に上がり、眠り続ける王と王妃に会ったところで、当時の大臣ゲバンが現れた。
そいつに偽者と見抜かれて、トム兵士長は部外者を王の間まで通した責任を取らされることになってしまったらしい。
魔族との戦いの前線であるここ、ムドーの島に送られる形で。
……つまりそれは、死をもって償えと言われたのと同じこと。

で、でも、この骨がその人だとは限らないだろ??
もしかしたら別の部隊の隊長のもので、トム兵士長はどこかで生き延びてるかもしれないじゃないか。
そんな悲観するなって! そう言って肩を叩いたが、ボッツは横に首を振った。
転がる兜と鎧は間違いなく兵士長が身につけていたもの。
そしてレイドックにおいて、兵士長の枠はひとつしか無いのだ、と。
……マジかよ……。
184名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/05/11(金) 20:41:45.24 ID:JvagTWKy0
支援保守
185 ◆DQ6If4sUjg :2012/05/11(金) 21:08:41.25 ID:ABgBMyQd0

「資格があるかわからないけど、骨は俺に拾わせてくれ。みんなは見張りを頼む」
「待って。……私たちにも、彼の骨を拾わせてもらえないかしら」
「そうだぜボッツ。迷ってたお前を後押ししたのは俺たちだ。お前ひとりのせいじゃねえ。
……すまねえが、見張っててくれるか」

断る理由はない。
俺とチャモロは頷いて、それぞれの配置についた。チャモロが出口側、俺が洞窟側だ。
あ、そうだ。聖水撒いとかないとな。前に撒いたのはとっくに効果切れてるだろうし。
俺はあの何でも入ってしまうふくろに手を突っ込んだ。

…………、……あれ、無い。

腰にぶら下げている荷物袋も探ってみる。
見つからない。
……もしかして、さっきペンダントの人の周りで使ったのが最後だったのか?
うーん、あの溶岩地帯でほとんど使っちゃってたんだな。まあ仕方ない。
とにかく何かあったらすぐ動けるよう心構えだけしとこう。

ボッツたち三人は俺と会う前から一緒に旅をしてきた。
だから、出会う以前に起きた出来事は俺には知るよしもないし、その時の心情も共有することはできない。
……それは至極当たり前のことなのに、何だか疎外感を抱いてしまう。
いや、そもそも俺は別世界の人間だから疎外感もクソもない、のか。
……って、なんでちょっとセンチになってんだよ、俺。

すぐ後ろで、ごめんなさい、と消え入るような声が聞こえてきた。
誰のものかはわからない。俺の気のせいだったかもしれない。

ぴちょん。
天井から垂れ下がる尖った岩から水滴が落ち、水面にぶつかったのが見えた。
辺りは静まり返っている。

(魔物も空気を読むのかね)

それとも、単に警戒されてるから襲いづらいってだけなのか。
結局、兵士長の骨を拾い集め終わって洞窟を出る頃になっても、
魔物たちが姿を見せることはなかった。



タイチ
レベル:16
HP:120
MP:54
装備:はじゃのつるぎ
    みかわしのふく
    てつのかぶと
特技:とびかかり
186 ◆DQ6If4sUjg :2012/05/11(金) 21:13:24.97 ID:ABgBMyQd0
規制解除キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!

>>172
いい奴だし冷静ですよねw
これで15歳なんだからドラクエ世界は恐ろしい

>>184
支援ありがとうございます!
見事にさるさんに引っかかってました…
187名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/05/11(金) 23:59:08.11 ID:JvagTWKy0
ありゃま、バイバイさるさんにひっかかってたのですね

溶岩の厚底ブーツ作戦、成功してよかったですね^^
なんかドラクエの世界だと、溶岩の上でもたいしてダメージ受けないのですが、確かに不思議に思ってました。
やっぱり、溶岩の温度は思ってるよりも高くないんでしょうかね〜・・・・。謎です。

そして、トム兵士長・・・・><
無事かえって、せめて手厚く葬らないとですね
188名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/05/19(土) 17:01:46.60 ID:Lzwj724+0
保守
189名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/05/23(水) 23:44:36.11 ID:Pekpo+dO0
ほしゅ
190名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/05/25(金) 17:26:06.74 ID:mC5kzc0F0
トム兵士長を見つけるシーンはグッとくるものがあるよね
191名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/05/30(水) 14:48:38.11 ID:/Rq80nMW0
ほす
192 ◆DQ6If4sUjg :2012/06/04(月) 21:56:07.08 ID:HF4Oa0RDP

「不思議なことですが、ここには聖なる力を感じます。
今日はここでひと休みすることにしましょう」

洞窟を抜けると、日が暮れかけていた。確かに一度休んだ方がいいかもしれない。
続く魔物との戦い、二つの白骨死体発見と、肉体的にも精神的にもそろそろ限界を迎えてもいい頃合いだ。
……実際、みんなの顔からは疲れが滲み出ていた。俺もきっと同じような顔色になってるに違いない。
チャモロの進言に従い、俺たちはいったん休憩を取ることになった。

木々に囲まれた開けた場所。
いったい誰が拓いたのか、それとも前々からこういった場所だったのか。
ただ、ぽつんと残された焚き火の跡は、以前にも誰かが訪れたことをはっきり告げていた。
しかし、魔王のテリトリーだっていうのに、魔物を寄せ付けない場所が存在するってどういうことなんだ?
それは魔王的に有りなのか?

「さあ……。以前訪れた方が張った結界が残っているのかもしれません」
「ふうん……?」

もしかしてあのボロ船の持ち主だろうか。一応洞窟は抜けられたんだな。
そして俺たちと同じようにここで休んで、ムドーの城へ向かって――――
……俺はひとり、浮かんでしまったイメージを振り払うべく、ぶんぶんと頭を振った。
夢に出ないことを祈ろう。

「タイチ? どうしたの?」
「あ、いや、別に。ちょっとぼうっとしてただけ」
「今日は過酷なところを抜けてきたものね……お疲れ様。座りましょう?」

ああくそ、ミレーユさん超優しい。惚れてもいいですか?

「ああ、ちょっと待った。座る前に一仕事頼んでもいいか? ほら、これにさ」

ちょいちょいとハッサンが指差したのは木の枝が積み重なる焚き火跡。
はいはい、火を点けてほしいわけね。
まったく、ときめきの余韻が台無しだよ……まあ頼ってくれるのは嬉しいけどさ! ギラ!
閃光が走り、残っていた枝が一瞬にして燃え上がった。
思ったより枝は乾いてたらしく、火はすべての枝を飲み込まんと激しく舌をくねらせている。
……火を点けた後で言うのもなんだけど、今の量で足りるかコレ?

「ちょっと厳しいかもしれないな……。俺、ちょっと取ってくるよ」

すっくとボッツが立ち上がる。あ、何かこれ語呂いいな。
って、ひとりじゃ危なくないか? 誰かついていった方がいいんじゃ……。

「ありがとう。でも、ひとりで大丈夫だ。みんなは食事の準備を頼むよ」
「いや暗くなってきてるし危ないttぐえっ!?」

何故か遠慮するボッツについていこうと腰を浮かした瞬間、
後ろから襟首をぐいと引っ張られ、硬い地面に尻を強く打ちつけてしまった。
いてえ! あと焚き火に炙られて露出してるとこが熱い! 何すんだよハッサン!
文句を言ってやろうと振り向いたが、ミレーユの何か言いたそうな目に射抜かれ、思わず俺は押し黙った。

「ああ、わかった。こっちは任せとけ」

そう明るく言い切って、ハッサンは早く行けとでもいうように手を振る。
それに頷き、ボッツはがさがさと茂みを掻き分け森の中へと入っていった。

「……で、なに?」
193 ◆DQ6If4sUjg :2012/06/04(月) 22:03:01.52 ID:HF4Oa0RDP

一応声をひそめて問いかける。
姿は見えなくなったし、足音も茂みの音もすっかり聞こえなくなったけど、
意外と人の声ってのは少し離れてても聞こえちゃうもんなんだよな。
ここみたいな静かな場所だと特に。

「さっきのあいつの様子、見ただろ? しばらくひとりにしてやろうぜ」
「だけど……」
「森の中にも魔物の気配は感じられません。
仮に襲われたとしても、ボッツさんなら大丈夫でしょう」

……ならいいんだけど。

ついさっきのトム兵士長について顛末を語っていたボッツの表情は痛々しいものだった。
「お前ひとりのせいじゃない」というハッサンとミレーユの言葉も聞きこそすれ、
心から受け入れてないように思える。
確かに今のボッツには考える時間が必要なのかもしれない。
日常生活の真っ最中ならまだしも、今は魔王との決戦が間近に迫っている。
一度倒してるとはいえ戦いは熾烈を極めるに違いない。
剣を鈍らせる迷いが残っていたら油断が生じかねず、その油断は死を招く。
そんな迷いは今のうちに消しておくに越したことはないのだ。
……ボッツの中で何かしら答えが出るといいんだけど。

「彼ならきっと大丈夫よ。さあ、食事の準備をしましょう。お腹すいてるでしょう?」

そうだな、腹が減っては戦は出来ぬって言うし。
たらふく食うぞー!



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黄昏を過ぎ、辺りはすっかり暗くなっている。
光源は十分すぎるほどの燃料を得て煌々と燃え盛る焚き火のみだ。
今何時くらいだろう。この世界には時計はあっても、それを持ち歩く習慣がないから、
俺はここのところほとんど時計を見ない生活を送っている。
始めは時間を確かめたくとも確かめられないもどかしさに気を揉んだもんだが、
今ではすっかり慣れてしまった。時間に縛られない生活もいいもんだ。
ただ、元の世界に帰った時どうなるかかがちょっと怖いけど。

みんなは焚き火を囲んで眠っている。
何故俺だけが起きてるのかといえば、もちろん火の番を兼ねた見張りのためだ。
聖なる力が残っていて魔物が近づけないっていっても、その聖なる力がいつ消えちゃうかわかんないしな。
まあ、いつ魔物が飛び出してくるかわからないいつもの野宿よりは安心……かな。少し気も緩む。
不寝番というわけじゃなく、ちゃんと順番は決めてある。
俺→ボッツ→ハッサン→ミレーユ→チャモロ。こんな感じ。

………静かだ。聞こえる音といえば、火の中で枝がぱちぱちと燃える音、
何かを囁くような虫の声、時折吹く風に揺られる木々の葉と葉が擦れる音、
それから強いて言うなら、寝息や寝返りを打った時の衣擦れ。それくらいしかない。
194 ◆DQ6If4sUjg :2012/06/04(月) 22:14:08.83 ID:HF4Oa0RDP

静かだ。そして暇だ。
こういう時どうしたらいいかわからないの。
笑えばいい? いや笑ったところで暇潰しにはならねえよシンジ君。
ひとりで笑っても空しくなるだけだよ。

「暇だ〜……」

って言ってみたところで誰かが応えてくれるわけがなく。

あ〜、こういう時ケータイがあればなぁ。
テトリスのアプリ入れてあるから暇なんか無限に潰せるのに。
ああもう、早く帰りてえなぁ。

はあ……。


……。

…………。

………………。


……!
やっべ、今寝てた!
数時間後には魔王と戦うってのに、緊張感ないな、俺……。
眠気覚ましに素振りでもしようか。でもそれで起こしちゃったら悪いしなぁ。

「代わろうか?」

うおぉっ!? ボ、ボッツ! 起きてたのか?

「ちょっと前からな。次は俺だろ?タイチ、休みなよ」

そう言ってくれるボッツの笑みは、まだ何かが吹っ切れてないように見えた。
焚き火が作り出す独特な陰影のせいかもしれない。

……ボッツって、まだ17歳なんだよなあ。俺の世界で言ったら高校生だよ高校生。
ええっと、ハッサン21、ミレーユ22、チャモロは15だっけ?
高校二年生が大学生三人と中学生一人を引き連れて魔王討伐しに来てる。
どこのラノベだって話だよな。まあ生きてる世界が違うから比べるのもおかしいかもしれないけどさ。

「ボッツ、その〜……大丈夫か?」
「え?」
「いや、何か思い詰めてるっていうか……
ぶっちゃけトム兵士長のこと、まだ気にしてるんだろ?」

確かにボッツたちは城の人たちを騙したかもしれない。トム兵士長が亡くなる遠因を作ったかもしれない。
でもゲバンって大臣もひどくないか?
ボッツは王子の父親である王様にすら似てると言わしめるくらい王子に似てるんだ。
それだったら兵士長が勘違いするのも仕方ないと思うんだよな。
それなのに死刑も同然の島流しとかちょっとやり過ぎじゃね?
いってもクビぐらいだろうよまったく。

……だからさ、あんまり気にするなよ。
あときつい時は俺たち頼れよ!
リーダーだからって全部ひとりで解決しなきゃいけないわけじゃないんだからさ。
195 ◆DQ6If4sUjg :2012/06/04(月) 22:20:13.33 ID:HF4Oa0RDP

「……ありがとう。トム兵士長のことはもう大丈夫。
今は別の―――あぁいや」

勝手に喋るなとでもいう風に、ボッツは自分で自分の口をふさいでしまった。
なんだよ、そこまで言いかけてやめるとか無いぞ。

「いや、本当になんでもないんだ。たぶん気のせいっていうか……
その、ええっと……、そう! バーバラどうしてるのかなって思っててさ!」

明らか嘘だこれ。
しどろもどろだし目は泳いでるしそわそわしてるし。
何か、ここまでわかりやすいと嘘を指摘する気もなくなってくるな……。
しょうがない、乗ってやるか。

「バーバラなぁ……。まあ大丈夫だと思うけど」

おいこらボッツ、あからさまにほっとした顔すんな。
いや正直なのはいいことだけど。
……ん? 待てよ。バーバラといえば……。

にやっと口角がいたずらっぽく持ち上がっていくのがわかる。
それを悟られないよう、俺は肩から背中にかけていた毛布を引っ掴み、
ボッツに背を向ける形でごろりと寝転んだ。

「……そういえばさ」

声を落として意味深な言い方をしてみる。
そして俺は、ゲントの村で留守番してた時にバーバラから
感じ取ったこと――――呪文への執着、自分の存在意義を疑っている様子、
帰るところのない寂しさ――――をちょっとばかり“脚色”を入れて語り、
それがバーバラを今回残留させるに至ったんじゃないかと説明した。
……それにしても、晩飯でだいぶ体力を取り戻してたと思ってたけど、体はまだまだ休息が欲しいらしい。
横になったとたん、くすぶっていた眠気が少し強くなった。
あくびを噛み殺しつつ俺は話を続ける。……他のみんなを起こさないよう、引き続き小声で。

「バーバラは、俺たちの足手まといになるかもって思ったのかもな。
そんで戦力外通告を受けようものなら――――」
「そっ……そんなことするもんか! バーバラは大切な仲間だ!」
「で、でかい声出すなよ。起こしちゃうって」
「ご、ごめん」

あーびっくりした。まさかこんな大きく反応されるとは。
バーバラが力不足を感じて船に残った、っていうのは口からでまかせってわけじゃなく、
溶岩地帯あたりから薄々考えてたことだ。
というか、それしかしっくり来る理由が思いつかないんだよなー。
顔色は良かったから具合が悪いとかそういうんじゃなさそうだったし。
まったくバーバラの奴、自分を過小評価しすぎだよな。
切られるならまず第一候補に挙がるだろう人間がここにいるってのにさ。

……よしよし、ボッツの奴、真剣な表情だ。でも念のために後もう一押ししとくかな。
バーバラ、あとはお前次第だぞ。

「まあ今のはあくまでも俺の推測だからさ。
もしかしたら、別の理由が……あったのかもしれない、し…………ふわあぁぁ」
196 ◆DQ6If4sUjg :2012/06/04(月) 22:30:28.82 ID:HF4Oa0RDP

だというのに、大きなあくびが口をつく。なんかめっちゃ眠くなってきた……。
待て待て、最後まで言わせてくれよ。
口を動かそうとするものの、強い眠気にあてられて言葉が出ない。出るのはあくびばかりだ。
閉じたがるまぶたを懸命に引き留めるが敵わず、視界が暗転した。
更に毛布と焚き火の心地よい暖かさの追撃。陥落まで秒読みだ。
ああもういいや、ここまで言ったんだ、もう十分だろ。
俺がいなくともミレーユやハッサンが世話焼くだろうし、ボッツの反応を見るに、
バーバラへの感情は決して悪いものじゃなさそうだ。

「そうだな。戻ったらバーバラと少し話してみるよ。話してくれてありがt………あれ? タイチ?」

最後の力で毛布を引っ張り、頭まで覆う。
それを皮切りに俺の意識は真っ逆さま、夢の世界へと落ちていった。



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--------------



どれくらい眠ってたんだろうか。
目を覚まし体を起こすと、既にボッツは寝入っていて、
代わりにミレーユとチャモロが話し込んでいた。

「おはよう、タイチ。もう少し休んでいても大丈夫よ?」

平気平気! 寝起きの良さには結構自信あるからな。
硬い地面で寝るのにもすっかり慣れたし。
そんなことより、ハッサンがいないみたいだけど……トイレか?

「先程、眠気覚ましにと周りの様子を偵察に向かわれました」

なるほど。まあハッサンなら一人でも大丈夫だろう。
よくわからんけど、なーんかあいつって妙な安心感があるんだよな。スラダンの仙道みてえな。
それはともかく、ミレーユとチャモロ、二人が起きてるってことはちょうど交代の境目……え? 違う?

「本当は休むべきなんでしょうけれど……さっきから目が冴えてしまって眠れないの。
少し、緊張してるのかもしれないわね」

伏し目がちにそう微笑むミレーユの顔は、なるほど確かに少しぎこちない。
対照的に、チャモロはずいぶんと落ち着いている。
炎をじっと見つめる眼鏡越しの瞳はただただ凪いでいて、
どっしりと構えるその姿勢からは、ハッサンとはまた違う安心感があった。
もし、たった今ムドーがここに現れたとしても、こいつだけは冷静に対応しそうな雰囲気すらある。
……えーっと、チャモロくん? 君15歳だったよね? いや、そうですが何か、じゃなくて。

「ふふっ。あ、そうそう。バーバラから聞いたのだけれど、タイチに弟がいるって本当?」

あ、バーバラの奴話しちゃったのか。別に話されて困ることじゃないからいいけど。

「なんと、弟さんがいらっしゃるのですか。きっとしっかりなされた方なのでしょうね」

え? まあふらふらはしてないし、しっかりしてる方だとは思うけど……
っておい待てコラ。それアレか? 俺がしっかりしてないって言いたいのか?
お前俺のこと嫌いか? 嫌いだな?
197 ◆DQ6If4sUjg :2012/06/04(月) 22:42:22.23 ID:HF4Oa0RDP

「じ、実はね、私にも弟がいるの」

険悪になりつつある雰囲気を察したのか、若干食い気味にミレーユが話題を変えてきた。
確かにミレーユって面倒見いいし優しいし、姉って感じするよな。
弟羨ましいなあ、俺もミレーユみたいな姉ちゃん欲しいわ。
あ、待てよ。「お兄ちゃん」って呼ばれるのもありだな……。

「へえ。弟は今どうしてるんだ? 実家?」
「それがわからないの。子どもの頃に生き別れてしまって……」
「え……ご、ごめん」
「どうして謝るの? まだ死んだと決まったわけじゃないわ」

きっとどこかで、とミレーユは囁くように、しかししっかりとつぶやいた。

生き別れって……。
両親が離婚して離ればなれ、みたいな感じじゃないよな、この雰囲気からすると。
初めて会った時は魔王を倒すために旅をしてるって言ってたけど、
ミレーユにとっては弟を探す旅でもあるんだろうな。
大丈夫! いつか絶対見つかるって! なんて根拠のない励ましはできない。
見つかるといいな、とだけ言うと、彼女は優しい微笑みを返してくれた。
そういや、俺の今の状態も、生き別れっちゃ生き別れになるのかな。
あっちじゃ行方不明扱いになってるはずだし。
……手がかりを探すためだとか言ってハードディスクの中見られてたらどうしよう。
いや、パスかけてるから大丈夫なはず!
ああでも捜査のためだっつって解析されてる可能性も否定できないか!?

「ところでタイチさん、首から提げていらっしゃるのは……」

え、ああ。これか?
俺は服の下に隠れていたペンダントを取り出してみせた。
マラカイトの石が埋め込まれた金色のペンダント――――
言うまでもなく、さっき洞窟で見つけた人が握っていたものだ。
無関係な俺が遺品を身につけるなんてよくないかもしれないけど、
なんつうか……持ち主の仇、一緒に取ってやりたいなぁって思ってさ。
こいつもせっかくのお守りとしての役目果たせなくて悔しかっただろうし。

「…………」
「…………」

あああ、やっぱまずかった!? だよな、まずいよな。
ペンダントが悔しがってるとか妄想乙wwwって感じだしな!
そうと決まれば早く外して荷物に

「……いえ、いいと思いますよ。とても」

戻し―――え?

「私もいいと思うわ。少しびっくりしてしまったけれど……。タイチ、優しいのね」
「お、おう……」

何だか気恥ずかしくなって、俺はさっさと服の中にペンダントをしまい込んだ。
まさか褒められるとは。

「素敵だと思います。そんな考え方があるとは……。
やはり異世界から来られたからでしょうか。我々とは感じ方が違うのですね」
198 ◆DQ6If4sUjg :2012/06/04(月) 22:52:29.57 ID:HF4Oa0RDP

……異世界ゆえにというよりもお国柄のような気もする。
動物や食べ物、県名などに飽きたらず、更には自分たちへの蔑称まで
擬人化して萌えるような国だからなあ。
まあ擬人化や萌えっていうとアレだけど、言い換えれば、路傍の石ころや草花、
すべての物には等しく魂が宿ってるってことになる。
日本人って、流されやすいとか熱しやすく冷めやすいとか言われたりするけど、
こういう文化は誇っていいと思うんだよな。

「うーん……」

ばさり、と何かが落ちる音。
豪快に寝返りを打った拍子に毛布が落ちたらしい。あーあもう、しょうがないなボッツの奴。
どれ、かけ直してやろうと腰を上げ、毛布を拾ったが、俺の気配を感じ取ったんだろうか。
一歩近づいたとたん、ボッツは跳ね起きてしまった。

「あら? もう目が覚めた? あまり眠れなかったのかしら?」
「いやちょっと、……夢を、見て」
「……無理もないわね。いよいよですものね」
「ああ……」

え、もしかしてうなされてたのか? 起こしてやればよかったな。
ボッツは眉間にしわがよっているとはいかないまでも、珍しくしかめっ面をしている。
少し寝汗もかいたらしく、焚き火に照らされた額が光っていた。
トム兵士長の夢でも見たんだろうか……。

「ところで彼、どこまで見に行ったのかしら……。ずいぶん遅いようだけど」

ミレーユがふと、目の前の鬱蒼とした森に目を向ける。
焚き火の灯りに多少照らされてはいるものの、視認できるのはわずかな範囲だけ。
森に入って少し進めば、夜の闇に飲まれて自分の手すら見えなくなってしまうだろう。
今夜はあいにくの曇りだから月明かりも期待できない。ハッサンの奴、迷ってなきゃいいんだけど。

「おっ! 四人とももう起きていたか!」

噂をすれば影というやつか。がさがさと茂みを揺らして、深緑の森からハッサンが顔を出した。
岩やら段々やらをリズミカルに降り、見事に着地する。
どや顔やめろ。

「ちょっと周りを見てきたが、やっぱあの城に間違いなさそうだぜ。しかし……」

しかし?

「どうしたのですか? 何か気になることでも?」
「ずっと前にもこんなことがあったような……」

顎に手を当て、曇り空を仰ぎ見る。あれか、デジャブってやつか。
えーっと、なんだっけな……。記憶の中にある昔の映像と
今見ている映像が脳内で関連付けられたにも関わらず、
その記憶の詳細を思い出せない場合に生ずる違和感が原因、とか何とか……
そういう記述をどこかで見たような気がする。まあぶっちゃけて言えば勘違いだ。

ハッサンも取るに足らないことだと考えたらしい。
顎から手を離し、両手を広げて肩を竦めた。
199 ◆DQ6If4sUjg :2012/06/04(月) 23:19:12.04 ID:HF4Oa0RDP

「考えててもしょうがないや。
さて、そろそろ行かないか? もう十分に休んだだろ」
「そうね。こうしてても始まらないわ」
「そうですね。そのために今までずいぶん長い旅をしてきたことでしょうから」

各々、準備を整え立ち上がる。

「行くぜボッツ! 相手は魔王ムドーだ。死んだ気で戦おうぜ!」
「もしこの戦いに勝てば世界に平和が訪れるはずよ。
準備はいいわね、ボッツ? さあ行きましょう」

一人は背中をばしんと叩いて、
一人は舞台の台詞を読み上げるかのように朗々と言い、奥へと姿を消した。
ハッサンが先導して行ったってことは、あの向こうにムドー城が待ち受けているんだろう。
ぶるりと体が震える。恐怖によるものか、それとも武者震いか。

「ボッツさん?」

浮かない顔をしているボッツを案じて、チャモロが呼びかけた。
まだ悪夢の余韻が残ってるんだろうか。
わかる、わかるぞ。あの感じ気持ち悪いよな。

「どうかしたのですか? まさか、ボッツさんもこの場所に覚えがあるとか?」

いやいやチャモロさんwwwさすがにそれはないっしょwwwww
二人続いてデジャブとかありえないと思いますこれぇ!

「ああ……。実は、ここに来てからずっとそんな感じがしてるんだ」

えっ

「そうなのですか。不思議なこともあるものですね。
……さて、私たちも参りましょう」

それだけ言って、チャモロはさっさと先へ進んでいってしまった。
かっるいなぁおい! お前から聞いたんだからもっと触れてやれよ!

ん、待てよ。俺が寝る前、ボッツなんか悩んでたよな。
もしかしてこれのことだったのか?
どんぴしゃだったらしい。ボッツは静かに頷いた。
……うーん、ハッサンだけならただのデジャブってことで片づけられるんだけど。
こりゃあいつのも単なる勘違いってわけじゃなさそうだな。

「ハッサンじゃないけど、ここで考えててもしかたない。行こう、タイチ」
「あ、そうだな。行くか」

手早く焚き火を消す。待ってましたとばかりに深い闇が降りたが、
今更そんなもんに臆してる場合じゃない。
早く来いと催促が飛んでこないうちに、俺たちは足早にその場を後にした。
200 ◆DQ6If4sUjg :2012/06/04(月) 23:22:29.42 ID:HF4Oa0RDP

若干の坂を登り歩いた先にみんなの姿が垣間見え、追いついた、と思った瞬間。
目の前が真っ白になったかと思うと、短い轟音が耳を叩いた。
え、雷? 確かに曇ってはいるけど、降り出しそうな感じなんてしなかったのに。

「どうやらこの崖の下がムドーの居城のようです。
しかしどうやってそこまで……」

こちらを振り返ったチャモロが崖下を指差し、首を捻る。
近づき覗き込んでみれば、確かに城らしきものがそびえたっているのが見えた。
だけどここは袋小路、行き止まり。あえて英語で言えばデッドエンドだ。
断崖絶壁に阻まれてこれ以上進むことはできそうにない。
まさか、ここを降りるとかそんな展開ないよな……?

「いよいよですね……」

その声に導かれるように、ボッツ、ハッサン、
チャモロ、俺の視線がミレーユに吸い寄せられた。
彼女は金色に輝くオカリナを胸に抱いている。いつぞや船の上で見かけたアレだ。
オカリナから目を離し、凛とした表情で俺たちを見据えると、
彼女は無遠慮に鳴り響く雷鳴に負けぬよう、またも舞台役者のごとく朗々とした声を発した。
まるで最初から、その台詞をそらんじることが決められていたかのように。

「この笛を吹けば、私たちは魔王ムドーの城に運ばれてゆくでしょう。
そう、あの時のように……」

俺の隣にいたボッツが、じゃり、と足音を立てた。

「あの時……? ミレーユ――――」
「さあ、吹くわよ」

桜色の唇が吹き口をくわえ、細い指が歌口をふさがんと躍り出る。


――――そして、旋律は奏でられた。



タイチ
レベル:16
HP:120
MP:54
装備:はじゃのつるぎ
    みかわしのふく
    てつのかぶと
特技:とびかかり
201 ◆DQ6If4sUjg :2012/06/04(月) 23:44:10.66 ID:HF4Oa0RDP
また規制された!
P2が無駄にならなくて嬉しいやら悲しいやら……。
さるさん回避のため、今回は投下速度を遅めにしてみました。

>>187
石は溶けなくても石をくくってる紐は溶けるだろ、なんて言ってはいけません。

>>190
ドラクエは、さらっと流されてるけどエグい描写結構ありますよね……。
202名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/06/06(水) 00:02:33.25 ID:kfKodFxw0
>>タイチの人

乙乙!超乙!

今回もスラスラと読みやすかったよ。
キャラの会話も言いそうだなーって感じで違和感ないから
スッと入ってくるなぁ。

原文ままのとこも小説になるとまたさらに臨場感が出てぐっときたよ。

続きが楽しみだ!
203名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/06/07(木) 10:28:26.98 ID:gkbG5T3w0
投下乙です
今回も読みやすくて面白かった!
この辺りからムドー戦のイベントはゲームでも特別なイベントの一つなので
外から来たタイチがどうなるのか楽しみです
204名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/06/11(月) 15:26:05.53 ID:Vbljs6rO0
乙!
ついに突入か
205名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/06/18(月) 14:41:36.33 ID:qfjpk/Tz0
ほしゅ
206名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/06/23(土) 23:04:33.35 ID:7ca9MZmu0
hoshu
207 ◆DQ6If4sUjg :2012/06/24(日) 21:53:42.19 ID:UZ79wrXBP

ドラゴンという生き物を知ってるだろうか。
でっかくて、翼が生えてて、いかつい顔をしてて、火を噴くアレだ。
日本語で言えば竜。決して龍の方じゃない。これも一応ドラゴンっていうけど、この字だと



==、,-、  、ヽ、 \>   ,,  '''\ _
メ゙ヽ、\ ̄""" ̄--‐   、 \  /ゝ、\
=─‐\\‐  /─'''''ニ二\''' |レレゝゝ、\
 ̄く<<く >, ゙、/<三三二\ ̄\ゝゝゝゝゝゞ''ヽ、       / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
<<<<〈__入 ゙、く彡三三三二ヽくゝ\メメメゝ、_ゝ、\     | さあ願いを言え
くく<<<<<< ゙、 ゙、ミ三三二ニ─ゝゝゝゝゝ,,,,,,,、 '( ゙''ヽ、ヽ、   < どんな願いも
くくくくくく彡‐ヽ ゙、ミ三三二ニ'''くくゝゝ_ゝゝ、\\_,>」ノ,    | 聞くだけ聞いてやろう…
く く く く く 彡゙、゙、三三二ニ‐くゝ、/ ,,,,,,,,メメゝヽ''''"ゝゞ丶、  \_____
二─二二彡彡、゙、三三二==くメゝ/   ゙'ヽ、メゝゝゝゝゝゝゞ''ヽ-、,,,,,,_
‐'''" ̄ \彡彡ミ、゙、三二=''"く<メ/::      \''-、メメゝゝゝ_ゝ 、 ,,、ヽヽ
、  ,,,,- ゙彡//ヾ、三二= くゝ/:::....      \>∠レ-,-‐ニ二メヽ''ヽ ノ
 ゙ヽ、,,,-‐//_///,,、゙、三二=  ゙、 ""'''      ヽ>//レレヽ,,___  /
-,,,,,,-‐'''"""/////,,ヽ ゙、三二─ ゙ヽ.         //-ヘヘ,、 レレレレノ
''"      ,l|"////ノ,、\彡'''''‐-ニ,、 ::::::::::,,,,,,,,//    ゙ヽフ/|/| レ'
      /ゝ、/ヽ|ヽレ,,゙ヽ、゙''ヽ、,,,,,,_ヽ''ニ='',,-'"、─-,,,,,_   ̄"'ノ
     /メ / レ/,''"へへべ''─---- ̄-メヽ"ゝゞゝヽ、  >---''"
    /ヘヘ、|//ヘヘヘヘヘヘヘヘ,,-イ ̄ | ̄"'''-ニニニ二-''"
   /ヘヘ∧/./フヘヘヘヘヘヘヘ,/イ  /  /   /    ゙ノ\、\
   /ゝゝ| / /メヘヘヘヘヘヘ/'" |  /  /  /    /  \\
  /ゝ /|‐/ /フヘへヘヘヘ/∧  /-'"-'''"__,,-''"    /     /、\
 //|_| /./へへへヘヘ、// |/      \_,,,,-‐'"    /  ゙、.゙、
'"/ヽ"/'"へへヘヘヘヘ//  ノ          \    ,,,,-‐'"    ゙、゙、
.ノ //へへヘヘヘヘ//ヽ ./            ゙、''""      ,,/、゙、
/-"へへヘヘヘヘヘ//  |‐"              \_,,,,,,,,-‐'''"   | |
へへへへヘヘヘヘ//ヽ ノ                ゙,         | |



こっちを連想しちゃうからな。

共通したイメージはありつつも、竜も龍も、所詮は誰かが考えた物語の中にだけ登場する生き物だ。
現実にはこんな空飛ぶでっかいトカゲやヘビみたいな生き物は存在しない。
……しないはずだったんだけど。

金色に輝く巨体から伸びる鋭い爪が生えた手足。
ある程度距離があるにもかかわらず、視界を覆ってしまいそうなほど大きな翼。
雷鳴に負けぬ空気を震わせる鳴き声。
どこをとっても、誰がどう見てもドラゴンと呼ぶだろうそれが――――
今、俺たちの目の前で、暗雲を背にして羽ばたいている。
208 ◆DQ6If4sUjg :2012/06/24(日) 21:54:53.35 ID:UZ79wrXBP

「さあ、みんな乗って!」

オカリナを奏で、そいつを呼びつけた張本人様は既に飛び乗っていた。
だ、大丈夫か? ご主人様以外には火の息とか噴いたりとかしないか?

「こいつでムドーのところへ乗り込むってわけか」
「いいねえ。俺、嫌いじゃないぜこういうの」
「なんと大きなドラゴンでしょう……。神々しさすら感じます」

ボッツ、ハッサン、チャモロが次々にドラゴンの背中へと飛び乗っていく。
おおお……お前ら、よくためらいもなく……。
その時、ドラゴンの大きな紫色の目がぎょろりと動き、俺を見た。
ひいいすいません! 今すぐ乗るんで食べないでください!
……あれ、よく見ると、何かこいつ可愛い顔してるな。そんなに怖くないかも。

ちょ、ちょっとくらいなら撫でても……。

「タイチ、早く!」

おっとそうだった。ドラゴン先輩、失礼します!
少し助走をつけてから、思いっきり大地を蹴って崖から空中へと身を躍らせる。
親切にもドラゴンが低い位置まで来てくれてたこともあって、何とか無事に飛び乗ることができた。
羽ばたいてるせいで常時揺れてるから座るのに手間取ったけど、まあ問題なしだ。
……あれ、一度地面に降りてもらってから乗ればよかったんじゃ?
ドラゴンの太い首に手を伸ばし、ぽんぽんと叩くミレーユの後ろ姿が見える。
それは出発の合図だったんだろう。ドラゴンは一声鳴くと、更に大きく羽ばたいた。

おっ? おっおっおっ……おおおおおおおおおすげえええええええ!!!
飛んでる! 俺ってば空飛んじゃってるよ! 思ったより風の抵抗やべええええ!!
うははははははははははははは!!!

「タイチさん! 興奮するのはわかりますが少し静かに――――」
「ミレーユ!」

前の方に座ってるボッツが声を張り上げた。ミレーユも同じように声を張って応える。
風と雷の音がすごくて、会話するにも大きな声じゃないと相手に届かないからだ。
あ、さっきちょっと使いすぎたから、!マークは自重しておくな。
声を張り上げてると思って読んでくれ。

「“あの時のように”っていうのはどういう意味なんだ? 前にもここに来たことがあるのか?」
「おう、そりゃあ俺も気になってたんだ。ミレーユお前、何か知ってるんじゃねえのか?」

今思えば、溶岩地帯や水がたたえられてた洞窟でも、
ミレーユはさりげなく正しい道へと誘導してくれていた。
おかげであれだけの道のりを一日で踏破することができたんだ。
雷光が視界を白く染め、轟音が鳴り響く。俺の頭の中にも閃きが走った。

ボッツとハッサンが感じている既視感。島に来たことがあるらしいミレーユ。
もしかして、あのボロ船に乗ってきたのは……でもそれだと…………。

「ごめんなさい、今は話せないの。
ムドーを倒すことができたその時、すべてを話すわ」
「……そうか、わかった。約束だぞ」
209 ◆DQ6If4sUjg :2012/06/24(日) 21:55:44.86 ID:UZ79wrXBP

「城が近くなってきましたよ!」

チャモロが帽子を押さえながらドラゴンの背から身を乗り出した。
俺からも赤い屋根の大きな城が見ることができる。

ああ、ついに乗り込むんだな。
髪や服をばさばさと煽る風や、暗雲を走る稲光が不吉な何かを暗示しているようで、
初めての飛行で盛り上がっていたはずの心がいやでも掻き乱される。
対して、五人分の身柄を預かっているはずのドラゴンは
それらにまったく怯む様子を見せない。
まっすぐに目的地に向かって飛んでいくのみだ。

やがて黄金に輝くドラゴンは、崖下のムドー城めがけてゆっくりと旋回を始めるのだった。



-----------------------------------
--------------------------
--------------



「ダメだ! この扉だけは鍵穴が見えねえ……」

ムドー城城内。
ばたんと閉まったっきり、開かなくなってしまった
大きな扉を調べていたハッサンが顔を上げ、お手上げだとかぶりを振った。

「これがもしまやかしなら、ムドーと戦ってまやかしを破るしかなさそうだぜ」

あいつに勝つまではここから出ることすらかなわない。そういうことだよな。
いいじゃんか、上等だぜ。俺たちの目的はムドー討伐。
今更引き返せなくなったぐらいで怯んじゃいられないんだから。

「もしもの時のため、ここに結界を作っておきましょう」

チャモロがむにゃむにゃと何事かを唱えた。ぶ厚い赤絨毯に光が落ち、弾ける。
これで万が一のことがあっても、ルーラなりキメラの翼なりでここに戻ってこられるそうだ。
できればその結界が活躍することがないことを祈りたい。

魔物に気づかれないよう、できるだけ物音を立てないように進む。
城内は不気味なくらいに静まりかえっていた。
聞こえるのは雷の音くらいだ。っていうか雷鳴りすぎ。いい加減雨くらい降れ。
派手にドラゴンに乗って侵入ぶちかましたんだから、
てっきり待ち構えられてるもんかと思ってたんだが、さっきから魔物のまの字も出てこない。
……もしかしてマジで気づかれてないのか?

「魔王自ら相手してくれるってことなのかもな。光栄じゃねえか」

気づいてる上でおびき寄せてるってわけか。
たかが人間五人が来たところで軽く捻り潰せるってか?
一度ムドーの分身的な奴倒してるのに、ナメられたもんだな。
まあ魔物との戦いで体力を消耗しなくて済むのはありがたい。
さっさとムドー探し出して、ちょちょいっとやっつけちまおうぜ。
壁に松明が備え付けられた通路を進んでいくと、やがて大広間に出た。
210 ◆DQ6If4sUjg :2012/06/24(日) 21:57:51.23 ID:UZ79wrXBP

これがまた広い。20畳はあるんじゃないだろうか。
青紫の石床に、金色の刺繍が施された赤絨毯がぶっとい十字型に敷かれている。
左右には獣を模したような模様が刻まれた扉。
そして奥には――――ん?

「誰かいる……?」

誘うかのように鎮座する階段の前に、人影が見えた。
こんなところに人?俺たちと同じように魔王討伐に来たんだろうか。
……でも、たったひとりで?
顔を見合わせた後、俺たちは小さく頷いて、慎重に足を進めた。
もしかしたらムドーの罠かもしれない。
人影に気を取られて落とし穴にでも落ちたりしたら一大事だ。
けれど近づくにつれ、それは落とし穴なんかではなく、
俺たちを混乱に陥れるための罠なんじゃないかと思わされることとなった。

頭頂部に立つ雄々しいモヒカン。
鍛え上げられた筋肉。
半ズボンから覗く眩しい生足。

階段の前に堂々と仁王立ちする人影は、どう見ても。

「! あ、あ、あれは、も、も、もしかして俺じゃねえのかっ!?」

もしかしてもクソもない。
あの一歩間違えれば変態認定されかねん格好をする奴、お前以外にいるもんか。
ハッサンは恐る恐る目をつむったまま動かない(立ち寝してんのか?)
もう一人の自分の前に駆け寄り、目の前で手を振ったり、ぺちぺちと頬を叩いたりしている。
が、そのいずれにも反応が返ってくることはなかった。

「……動いてねえぞ。死んでるのか?」

そっと左胸に耳をあててみる。

「違うな……。死んだように寝てるだけだ……。
でもよ、どうして俺が二人いるんだ? それもこんなところによ……」

ハッサンはちらりとミレーユを見たが、ミレーユは何も言わない。
これについても何か知ってるのか、それともさすがに知らないのか。
その表情から窺い知ることはできなかった。
……鼓動が聞こえたらしいことからして、精巧に作られた人形ってわけでもなさそうだ。
まさかドッペルゲンガーってやつか? だけどそうだとして、なんでこんな敵陣の真っ只中に?

とにかくどうするか。
上へ続く階段はハッサンのドッペルがふさいでしまっている。
ボッツ、ハッサン、俺で持ち上げれば動かすことはできるかもしれないが、
このまま放置するのも何だか忍びない。だからって連れていくこともできないし……。

「ん?」

その時だった。
小さな光がハッサンを取り囲み、かごめかごめみたいに回り始めたのは。
光はドッペルハッサンにまで及び、共鳴するかのようにくるくると回り続けている。
……待てよ、確かドッペルゲンガーに会ったら死ぬとか何とか……。
ちょっ、ハッサンやばいんじゃね!?
あの光何とかした方が――――足を踏み出したが、一歩遅かったらしい。
小さな光が一際大きく輝いたかと思うと、ハッサンは光に包まれ、
ドッペルハッサンへと吸い込まれていってしまった。
211 ◆DQ6If4sUjg :2012/06/24(日) 21:59:27.32 ID:UZ79wrXBP

ハッサンの姿は跡形もない。
残ったのは死んだように眠るドッペルハッサンだけ。

嘘だろ……何だよこれ……。
俺はがっくりとうなだれ、ただただ打ちひしがれた。やっぱり罠だったんだ。
不用意に近づくべきじゃなかったんだ!
ちくしょう、ハッサン……!

「思いだしたぞっ! 今すべてを思い出したぜ!
オレは確かにサンマリーノの大工の息子ハッサンだ!」

…………は?

「けどそれがイヤで家を飛び出して、ボッツたちと知り合ったんだったよな!
それで……そうだよ! ムドーに戦いを挑んだはいいけどよ……。
奴の術にかかって俺は心だけが別の世界に飛ばされちまったんだ。
そこでは俺は旅の武闘家で……」

さっきまで石像のようだったドッペルハッサンが、動いてる。喋ってる。
なんだこれ。どうなってんだ?
戸惑う俺たちを置いてけぼりにしてドッペルハッサン……
いや、ハッサンは立て板に水のごとく喋り続けている。
どういうことだ? 大工の息子? 心だけが別世界に? はあぁ?

「ええい、いちいちめんどくせえや!
とにかく身体が元に戻ったらめきめき力がわいてくる感じだぜ!」

ハッサンも説明が面倒になったらしい。
そこで喋るのを打ち切り、マッスルなポーズを決めてみせた。
わけがわからん。とりあえず、お前は俺たちの知るハッサンでいいのか?
前と同じように接しても大丈夫なんだな??

「ああ、もちろんだぜ。
おいミレーユ、なんでこんな大事なこと今まで黙ってたんだよ」
「ごめんなさい。でも私が話すよりも、自分で実体を見つけて
記憶を取り戻すのが一番だと思ったから」
「う〜ん……まあ、それもそうかもな」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくれ。どういうことなんだよ!?」

俺は片手で頭を抱えながら二人の会話に割り込んだ。
その隣でチャモロがうんうんと頷いている。ボッツなんてぽかんと口を開けて放心状態だ。
まったくわけがわからん。二人で納得してないで説明してくれよ。

「……そうね。本当は、ムドーを倒した後に話すつもりだったのだけれど……」

ミレーユの話によればこうだ。
数ヶ月前、ボッツ、ハッサン、ミレーユの三人は、ムドーに戦いを挑んだ。
で、ムドーの術によって心を上の世界に、実体を下の世界のいずこかに飛ばされてしまったそうだ。
心と実体が出会えば、今のハッサンのようにすべてを取り戻すことができるが、
どちらも今までの記憶を一切合切なくしてしまってるし、例え心の方が下の世界に行けたとしても、
姿が誰にも見えないから実体と出会うのは不可能に近い。
ムドーはそうやって自分を倒そうとする奴らを戦わずして無力化してきたわけだ。
けど、ミレーユはグランマーズに手伝ってもらって、実体を取り戻した。
そこに偶然か必然かボッツとハッサンがやってきて――――今に至る、と。
なるほどなるほど。表のボロ船はマジでボッツたちが乗ってきたものだったんだな。


……じゃあ、俺は?
212 ◆DQ6If4sUjg :2012/06/24(日) 22:00:31.19 ID:UZ79wrXBP

「私たちの世界に来る時に、心と実体が別々にされてしまったのかもしれないわね。
どうして下の世界にいたかはわからないけれど……」

俺は、目が覚めたら既にアモールの宿屋にいた。
それ以前の記憶は自室の布団を被ったところで終わっている。
……まさか夢遊病みたいにふらふらしてるうちに下の世界に落ちて、
知らない町の知らない宿屋のベッドに潜り込んだんだろうか?
いやいやおかしいだろ。そんなことが自分の身に起きたのに覚えてないわけがあるか。
ああでも、心と実体が離されると記憶喪失になるんだっけ。
けどこっちに来る前の記憶はしっかり残ってるぞ。
家族のこと、友達のこと、大学のこと、バイトのこと、身の回りのこと。
寝る直前、明日は締め切り直前のレポートを片づけようと思ってたことだって覚えてる。
俺は何かを忘れてるのか? だとしたら、いったい何を……?
悩む俺を見て、だから話すのはムドーを倒した後にしたかったのに、とミレーユが珍しく不満そうにこぼした。
自分の記憶に疑念を抱きながら戦うのは危険だから、と。

「……大丈夫だよ」

それまで話を黙って聞いていたボッツが、静かに口を開いた。
うつむき、奥歯を噛んでいた俺とはまったく違う、穏やかな笑顔を浮かべている。

「俺の故郷は山奥のあの小さな村、ライフコッドだ。
両親は子どもの頃に死んでしまったけれど、
村のみんなに助けてもらいながら、妹と助け合いながら生きてきた。
誰に何と言われようと、あの村で過ごした時間は本物と変わらない」

ボッツは続ける。
そしてそれは、誰にとっても同じはずなんだ、と。

「俺は俺の記憶を信じるよ」

さあ、行こう。
力強くそう言って、彼は踵を返す。階段を登るその足に迷いはなかった。
213 ◆DQ6If4sUjg :2012/06/24(日) 22:02:40.67 ID:UZ79wrXBP
………。
そうだよ。ボッツの言うとおりじゃないか。俺は俺だ。
たとえ記憶が作られたものだったとしても、
そこで得られたものが全部失われるわけじゃない。俺の存在が嘘になるわけじゃない。
不安定な足場に立ってるみたいで怖いけど、だからってこんなとこで立ち止まってちゃ、
いつまでも元の世界に戻れやしないんだ。

心配そうにしてるミレーユに笑いかけてみせて、俺はボッツの後を追った。

「あ、二人とも! ちょっと待って!」

どうしたんだよミレーユ? 早く来ないと、俺とボッツでムドー倒しちゃうぞ!

「あの……まだ探索してないところ、ある……わよね?」

あ。

「えっと、ムドーに挑むのはそれからでも遅くないと思うのだけれど……」

……ソウデスネ……。



タイチ
レベル:16
HP:120/120
MP:54/54
装備:はじゃのつるぎ
    みかわしのふく
    てつのかぶと
特技:とびかかり
214 ◆DQ6If4sUjg :2012/06/24(日) 22:13:17.61 ID:UZ79wrXBP
あっ、最後一行空けるの忘れちゃった。

>>202
キャラの台詞は一応気を遣ってるので、そう言って頂けるとすごく嬉しいです。
ありがとうございます!

>>203
ムドーは序盤の山場ですよね。
ご期待に添えられるよう頑張ります!

>>204
冗長になりがちで申し訳ないです。
もっとテンポよくいければいいのですが…。
215名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/06/25(月) 02:22:24.77 ID:mdoTk0+J0
乙でした!
そうそう、ここで先を急いじゃいけないんだよねw
216名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/01(日) 02:57:14.21 ID:OB0Fi3070
ほしゅ
217名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/06(金) 19:25:01.01 ID:gmZCKn4x0
ほしゅ
218名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/10(火) 16:33:22.26 ID:/JI0IUPWO
219名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/16(月) 12:53:48.87 ID:R7IM84OM0
220名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/21(土) 09:43:51.46 ID:F4zNHZGe0
ほす
221名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/26(木) 10:51:57.01 ID:pol7ghoK0
ほー
222名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/26(木) 18:43:23.52 ID:1RQLrpsX0
まとめスレの4の人を読んで感動してこちらに来たのですが
このスレ、職人さんのレベルも高いし住人も落ち着いてるし雰囲気良いですね
223名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/26(木) 20:48:22.02 ID:hE7jYiL9O
ありがとう!過疎ってるけどなw
224名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/28(土) 19:01:11.83 ID:6VWCPBWwO
保守でげす
225名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/08/02(木) 23:58:20.67 ID:26QxPfbr0
226名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/08/03(金) 17:44:30.28 ID:z+hOYNuQ0
保守
10発売したけど、ここの職人さんの話の続きも楽しみにしてるよ
227 ◆DQ6If4sUjg :2012/08/04(土) 23:24:23.95 ID:FtdDb4Fb0

階段を登り切ると、湿った風の吹く屋外に出た。
一本道の向こうに大きな扉が見える。いかにもな造りだ。
にっくきムドーはあの扉の先にいるに違いない。

「ムドーか……。こいつの試し切りにはちょうどいい相手だぜ」

右手に嵌めた、金と赤の装飾が施された爪に舌を這わせながら、
ハッサンがにやりと笑った。怖いからやめろ。フレディかお前は。
炎の爪というらしいこの武器は、探索した時に手に入れたものだ。
あのあと、俺とボッツはかなりの気恥ずかしさに苛まれながら
階段を下りたわけだが、それはまあ置いておいて。

この爪、恐ろしく硬い石像の番人、更に踏むだけで
電流が流れる床に守られてただけあって、かなりの攻撃力を誇る。
しかも敵に向かって掲げれば、メラやギラなんて目じゃないくらい
強力な呪文(メラミとかいうらしい)が発動するんだからチートもいいとこだ。
俺にも呪文が使えるぞ! と根っからの肉体派であるハッサンは大喜びだったが、
俺のあの血の滲むような修行は何だったのかと問い詰めたい。小一時間問い詰めたい。

「この扉の向こうには多分魔王ムドーが待ち構えているはずよ」

扉を、いや、扉の先でふんぞりかえってるだろうムドーを睨めつけて、
ミレーユは腰に携えた剣の柄を握り締めた。
なんて凛々しさ。お姉様と呼びたい。

「確かムドーは怪しげな術を使うのでしたね」
「ムドーの奴め! この前のようにはゆかないぜっ!」
「みんな、作戦は覚えてるな?」

もちろん、とボッツを除く全員が頷いた。
まずミレーユのスクルト、ボッツの(効けば)ルカニで態勢を整えつつ、
俺のギラで怯ませてからのハッサンの正拳突きで一気に畳み掛ける。
ゲントのつ……じゃない、チャモロはいつでも回復できるよう後方待機。余裕があればバギで攻撃してもらう。
“みんながんばれ”といった感じだろうか。その他各々に細かい指示がいってるが、
俺はとにかくギラ、魔力が尽きたら薬草やらでみんなの回復に回ってチャモロの援護。
いけそうなら直接攻撃との指示を賜っている。以上が焚き火を囲んだ食事中に練られた作戦だ。
ムドーの戦い方によっては臨機応変に動かないといけないが、まあそのへんは何とかなるだろ、うん。

さあ、大詰めだ。ゲームで言えばラスボス前だけど、それほど構える必要はない。
一度戦って勝った相手に後れを取るはずがないからな。
といっても、用心はするに越したことはない。
某テニス部部長風に言うならば、「油断せずに行こう」って感じか。
しかし、もう少しで家で帰れると重うと感慨深いものがあるなぁ。
ボッツたちに会えなくなるのは寂しいけど、それはもう仕方ない。
もともと住んでる世界が違うんだから。

……そういえば。
ムドーを倒せば、分かれてしまったという精神と実体も自ずと元に戻るんだろうか?

扉を見上げてみる。
3メートルをゆうに軽く超えているだろうそいつは、
この城で見たどの扉よりもおぞましい装飾が……ってことはなく、
他の扉と同じく何かの獣のモチーフが刻まれていた。
取っ手が牙のような形になっていて、握れば最後、頭からばりばり食われてしまいそうな。
228 ◆DQ6If4sUjg :2012/08/04(土) 23:26:29.51 ID:FtdDb4Fb0

……う。

ぞぞぞ、と背中に悪寒が走った。
いや違うぞ、余裕なのは見せかけだけで超ビビってるとかそんなんじゃない。断じてない。
なんつうか、その……いざこうしてでっかい扉の前に立ってみると、
なんか威圧感があるっていうか……。い、いやいやいや!
たかが扉ごときになーに腰ひけちゃってんだ。
そりゃ、この先にムドーがいると思うと、少し緊張するけどさ。
怪しげな術を使うって言っても今度は五人。
それにボッツたちも前にムドーと戦った時より強くなってるはず。
俺はただ、みんなの足を引っ張らないよう頑張ればいいだけの話だ。
上のムドーはスクルトなしで勝てたんだし、いけるいける!

「ついにここまで戻ってきましたね」

ミレーユがそっと取っ手を掴んだ。
その時、咆吼とともに生暖かい涎が滴る牙を剥きだして、
扉の獣が彼女を飲み込もうと……なんてことはもちろん起こらない。

「思えばあの日以来、ずいぶん長い夢を見させられた気がします。
しかし、夢の世界での経験は決して無駄ではなかったはず!」
「俺たちがやらなきゃ誰がやるってんだ。行こうぜ、ボッツ!」
「ああ……!」

蝶つがいを軋ませながら、扉はゆっくりと口を開ける。
その口が開ききるのを待たずに自ら内部へと躍り込んでいくボッツたち。
彼らの背中を追いかけて、俺も扉の中へ―――

「だめだっ! 来るな!」

え?

部屋に踏み込んだとたん、絵の具が付着したいくつもの筆を
無色透明の水に突っ込んだようなマーブル色の霧が視界を覆った。
なんだよこれ! 何も見えないぞ!?
咄嗟に霧を振り払おうと腕をあげようとしたが、1ミリたりとも動かない。
腕どころか体が動かせないことに気がついて、ようやく俺は悟った。

罠だ―――!
城内で魔物が出なかったのはここで一気に袋叩きにするためだったのか!?

「……!?」
「だ、だめだ……! これじゃあの時のように……!」
「きゃっ!」
「うわっ!」

ひょいひょいひょいと、まるで荷物を持ち上げるみたいに
みんなの体が宙に浮いていく。
それにひとりだけ逃れられるわけもなく、成す術なく俺の体も軽く持ち上げられた。
いびつな五角形の出来上がりだ。

「わっはっはっはっ!」

笑い声が聞こえる方向、俺たちの正面にぼんやりとした影が浮かび上がる。
ずんぐりむっくりなその体型に耳障りな声……ムドーか!
ちくしょう、こんなの卑怯だぞ! 下ろせよ!
229 ◆DQ6If4sUjg :2012/08/04(土) 23:29:35.24 ID:FtdDb4Fb0

「ふん。お前たちのような虫ケラが何度来ようとも、この私を倒すことなどできぬ!
再び石となり、永遠の時を悔やむがよい!」

霧の向こうで光るものが二つ。
恐らく目だったんだろうが、それを気にする余裕はこれっぽっちもなかった。
石? 石になるって何だよ?? ゲームだと石になった奴ってどうなったっけ?
ああ、戦闘不能扱いだ。そしてパーティー全員が石になれば―――

景色がゆっくりと動き出す。
俺たちの体はメリーゴーランドのごとく回されていく。
ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる。
一周するごとに、ムドーの影が見えるたびに、爪先からゆっくりと、
自分の体が自分のものじゃなくなっていく感覚に襲われた。
どうなってるのかは見えない。見たくない。
俺の体は、足から徐々に徐々に無感情な灰色に染まっているに違いない。
他のみんなと同じように。

……死ぬのか? 俺。戦うこともできず、あんな奴の罠にハマって?
元の世界に戻るために、ボッツたちに甘えながらも死ぬ気で頑張ってきた。
不慣れな防具を着込んで、重い武器を振り回して、たくさんの命を奪って、
その重圧に耐えられなくて何度も吐いて、足が棒になる程度じゃ済まないくらい勝手知らぬ世界を歩き回って。
それなのに、ここで、死ぬ? 嫌だ……嫌だそんなの!
ああ誰でもいい! 誰か助けてくれ! 誰か誰か誰か誰か――――

ひたすらに祈る俺をよそに、体はみるみる温度を失っていく。


膝が。腿が。腰が。腹が。胸が。指が。腕が。肩が。首が。口が。


ああ、もう断末魔をあげることすら許されないのか。


鼻が。耳が。目が。


息ができない。何も聞こえない。視界が灰色に飲み込まれる。


嫌だ。死にたくない。


死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたk



――――塗り固められたはずの耳に、何かが弾け飛ぶ音が聞こえた気がした。
230 ◆DQ6If4sUjg :2012/08/04(土) 23:32:57.20 ID:FtdDb4Fb0

「――――っ!!」

がばっ。重くのしかかる毛布を押し退け、俺は跳ね起きた。

え?

……親指、人差し指、中指、薬指、小指。異常なし。
足……もちゃんと動く。触ってみた限りでは、顔も無事みたいだ。
あれ?俺、石にされたんじゃ……あれ?

って、いうか……。

息を荒げたまま周りを見回す。

薄い緑色のカーテン。
起きたら畳めばいいやと思って昨日脱いだままにした服。
薄汚れたファンヒーター。棚に並んだ漫画。
モニターが埃だらけになってるパソコン。
充電器に繋がれた携帯。

ここ……俺ん家?

虚空に手を掲げ、ギラ、とつぶやいてみる。
……何も起こらない。

「……はああぁぁぁああ……!」

なんだよ、夢オチかよー!
でもそうだよ、そうだよな。「ある日突然異世界に」なんて非科学的な展開ありえねーっつの。
な〜にがギラだよ恥ずかしい!俺馬鹿みてえじゃん!
って……うっわ、寝汗やべえ。朝シャンあんま好きじゃないけど、
さすがにシャワー浴びないとまずいなこりゃ。レポートはそれからだ。

今何時……げっ、13時!? 昨日寝たのが0時半頃だから……12時間半も寝てたのか。
なるほど、どうりであんな濃い夢見るわけだよ。これじゃ朝シャンならぬ昼シャンだな。はは。
よいしょ……いててて! 体いってー。
痛む節々を引きずりながら俺はのそのそと布団から這い出る。
布団の片付けはとりあえず後に回すことにした。
今はとにかく、熱いシャワーを浴びて、
全身にまとわりつく汗と妙な夢の余韻を洗い流してしまいたかった。

「あれ、勇。お前も休み?」

がちゃりと扉を開けると、リビングで弟の勇が座椅子に体を沈めていたところだった。
テレビに向かって何やら真剣な眼差しを注いでいる。
寝癖はそのまま、スウェットから着替えてないところを見ると、今日は外出する予定はないらしい。
勇は俺の問いにこくりと頷いたものの、こっちを向こうとはしなかった。
本人にそのつもりはないんだろうが、相手にされてないみたいで少しだけ寂しい。
俺の位置からだとちょうど画面は見えず、また寝起きでやや聞こえづらくなってる耳には
テレビの音声が不明瞭にしか届かないので、何の番組がやってるのかはサッパリわからない。
とはいうものの、わざわざテレビの正面に回り込むのも何だか癪だ。

バスタオルを引っ張り出しながら、何をそんなに熱心に見てるんだと尋ねてみる。
え? ゲーム?
231 ◆DQ6If4sUjg :2012/08/04(土) 23:35:05.76 ID:FtdDb4Fb0

……あぁ、本当だ。
ひょいと覗き込んでみれば、テレビからは黄色、赤、白のコードが伸びていて、黄ばんだゲーム機と繋がっていた。
それも一昔も二昔も古い、ロムカセットを差し込んで使うやつだ。
ずいぶん懐かしいの引っ張ってきたなぁ。こんなん持ってきてたっけ。
え、ああ、正月に帰省した時に? へえ〜……。
テレビの中ではドットで描かれた世界が広がっている。ちょうどクライマックスのようだった。
そういやさっきの夢の最後の方もクライマックスっちゃクライマックスだったよなあ。
残念ながらバッドエンドだったけど。

あ、そうだ聞いてくれよ勇。俺今日すっげえ夢見てさあ。
なんと、ゲームみたいな世界に飛ばされた俺が元の世界に戻るために
魔王を倒すっつーストーリー仕立ての夢だったんだぜ!?
いや〜、笑っちゃうよなあ! ベタベタすぎるっつーの!

「そりゃまた。ジャンプだったら10週を待たず即打ち切りだね」
「っつーか載らないだろ。ああでも、やたらリアリティに溢れててさ……」

弟がゲームに興じてるのにも構わず、
自分がシャワーを浴びようとしてたことも忘れて、俺は不思議な夢の内容を語り始めた。



タイチ
レベル:1
HP:20
MP:0
装備:ぬののふく
232 ◆DQ6If4sUjg :2012/08/04(土) 23:36:50.37 ID:FtdDb4Fb0
ようやくムドー戦です。
武器を道具として使うってどんな感じなんでしょうね。振りかざすのかな?

>>215
ありがとうございます。
ここで炎の爪は貴重ですよね!
233名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/08/05(日) 00:09:43.56 ID:1sBAjmsw0
>>タイチの人

超乙!

ついに新展開ktkr!
ってか戻るのか、ここで。
しかも弟まで出てくるし。

いやはやwktkしながら待ってますぜ。
DQ10どころじゃねえやw
234名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/08/05(日) 12:06:35.27 ID:AgiwBIxS0
>>231
超展開乙
一般人のHPは20なのか
次もたのしみにしてるんだぜ
235 ◆DQ6If4sUjg :2012/08/13(月) 01:00:13.66 ID:1L4xod0D0
236名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/08/13(月) 01:01:20.09 ID:1L4xod0D0
トリつけたまんまだった!ハズカシー
237名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/08/13(月) 14:08:35.69 ID:Iz6R33zr0
ニヤニヤ
238名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/08/15(水) 08:42:01.37 ID:+Xnz6TX00
ドンマイ
239名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/08/21(火) 14:55:52.72 ID:GNjvdSFY0
ほほー
240名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/08/26(日) 23:21:55.86 ID:wZ99cjqQ0
ほしゅるるるるる
241名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/08/30(木) 09:38:20.07 ID:sj7wQ1OzO
242名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/09/03(月) 18:22:56.98 ID:VLJqz0AM0
ほっほっほ
243名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/09/06(木) 22:30:15.58 ID:u19KbGvy0
244名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/09/10(月) 17:31:39.35 ID:j/3m6Xi90
保守するのだ
245名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/09/15(土) 22:51:35.65 ID:wXBoSiBI0
246名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/09/20(木) 01:52:55.58 ID:ob7oyucq0
ほす
247名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/09/26(水) 19:28:15.15 ID:gwJebREJ0
ほし
248名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/09/28(金) 17:45:51.89 ID:hwFt7cAvO
ほし
249名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/10/01(月) 20:51:05.86 ID:DOAuHtj70
ほしゅ
250名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/10/05(金) 20:34:28.46 ID:jZEy0Mtl0
保守
251名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/10/09(火) 00:50:01.45 ID:EFepGVFv0
252名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/10/09(火) 11:54:14.91 ID:l/dD2XRZ0
>>229はまんまエヴァだな。感心できない。
253名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/10/10(水) 21:23:34.25 ID:M7rgTHL10
ほしゅ
254名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/10/10(水) 21:33:23.69 ID:pvp+4x6dO
旅行でいったモンサンミッシェルの宿とまったけどドラクエチックだった
城の中庭とかもちいさなメダル落ちてそうだったし途中のブブロンの村とかまさにドラクエだった
255名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/10/10(水) 21:54:37.28 ID:9oBDGI6aO
俺、フランス行って上半身裸で角付きマスク被ったオッサン見たら結婚するんだ…
256名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/10/10(水) 23:51:11.39 ID:wi5cEl/0O
目覚めたらドラクエの宿屋だった上に、
あなたはジュリアンテになっていた。
257名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/10/16(火) 14:35:56.45 ID:5JwS+jeX0
ほしぇ
258名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/10/21(日) 22:48:56.07 ID:1BIAW9IyO
ほす
259名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/10/27(土) 15:22:58.49 ID:D5CHTabR0
文才のない輩ができることとは・・・




ほすのみだす
260名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/10/31(水) 18:38:02.19 ID:NWv8hZvj0
DQ7
261名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/06(火) 23:07:09.39 ID:MmyYR/ZkO
262名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/09(金) 18:34:00.44 ID:iqZf3LINO
しゅ
263名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/15(木) 01:24:09.73 ID:/6PZ/ev+0
ほっほっほ
264名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/16(金) 16:06:07.80 ID:OnzeYdnw0
誰かかいてくれー
265名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/17(土) 01:48:02.23 ID:S8M8kHf8I
ほっほっほ
266名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/17(土) 03:26:39.78 ID:MayMVTM50
>>264
ちょっとまってて
267名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/17(土) 07:36:36.39 ID:64U+smb00
目覚めたらエロゲの主人公だった
268名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/17(土) 09:07:42.85 ID:0uLN0V/aO
となりにはズーボーが
269名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/17(土) 09:30:24.47 ID:WigCKpuN0
てすと
270名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/19(月) 14:25:47.20 ID:R70PvuJv0
保守がてらに置いていく

1/3

目が覚めると、そこは見知らぬ部屋だった。
よくある話――ではない。男は混乱した。
ここはどこだ?何があった。なぜこんな所に居る。
頭を振り、室内を見回す。
使い込まれたテーブルとタンス、そこはかとなく怪しいツボ。

窓の外に目を移す。妙にだだっ広い平原があり、
それを囲むように、さして特徴の無い山の稜線が続いている。
空は青い。馬鹿みたいに青い。
少なくとも、男が駆けずり回っていたあの魔界ではない。
まるで別の世界だった。――それにしてもここは静かだ。
271名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/19(月) 14:28:17.00 ID:R70PvuJv0
2/3

男は部屋を出ようとした。が、出るに出られなかった。
身に着けていたものはパンツ一枚だけだった。それも可憐なイチゴ柄だ。
彼にとってはげんかつぎの勝負パンツであり、
魔界村に乗り込むには欠かせないものなのだった。
だが筋骨たくましいヒゲ面の男のことである。
傍から見ればそれはただの変質者でしかなかった。

少し考え、タンスの中を探す。青い服を見つけた。これなら着られそうだ。
いつもの鎧の代わりにはならないが今はこれで充分だ。
無断で悪いがしばらく貸してもらおう。
一度大きく息をつき、ようやく部屋を出る。廊下を進み、
突き当たりのドアを静かに開ける。
272名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/19(月) 14:30:43.70 ID:R70PvuJv0
3/3

そこは小さな教会だった。
老人(神父だろうか?)が男に気付き、声を掛ける。
「目が覚めたようですな、旅の方。気分はどうかの?」
男はまず勝手に服を借りたことを詫び、自分がなぜこの教会の
一室で眠っていたのかをたずねた。
老人(やはり神父だった)も不思議そうな顔をする。

――どこから現われたのだろう?村はずれの繁みの中に倒れていた。
それを村人が見つけ、神父に知らせたのだという。
服は旅人達が置いて行ったものだから必要なら着て行きなさい、とも。

パンツ一枚のいでたちだったことを突っ込まれなかったので、男は内心ホッとした。
自分は何も覚えていない、と正直に告げる。

聞きたいことは山ほどあるはずだった。今はどうでもよかった。
ただ眠りたかった。もう一度深く眠れば、元居た場所に帰れはしないかと。

気配を察し、神父は問う。
「…旅の方、名前を聞いてもよろしいかの?」
気を取り直し男は答える。
「私は騎士アーサー」
273名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/24(土) 22:57:43.90 ID:0fG1/eo00
ほっほっほ
274名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/27(火) 10:16:33.17 ID:yACLaSgV0
風邪ひき保守ごほ
275名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/28(水) 03:02:01.02 ID:eqhyTQ5L0
お大事に保守
276名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/01(土) 14:30:35.79 ID:GBCQWOBy0
ほっほっほ
277名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/06(木) 02:11:00.78 ID:OpTn9bg30
ほっほっほ
278名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/12(水) 00:30:22.45 ID:/DP5SkxgO
しゅっしゅっしゅっ
279名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/17(月) 01:47:16.20 ID:1KS9nuKM0
投下期待・・・・
280名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/18(火) 18:54:31.88 ID:DCg8lRqg0
新まとめみれない・・・
281名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/19(水) 19:07:55.66 ID:kUKjQrkn0
>>280
ドメインが売りに出されてるみたいです…
282名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/19(水) 19:24:36.33 ID:91XhN1kk0
ドメイン料の払い忘れかな
283名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/19(水) 23:53:44.73 ID:23Cx6G8l0
ほんとだ!まとめ見れないわ・・・・
284名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/22(土) 23:20:07.41 ID:7XxZvaap0
ほっほっほ
285名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/30(日) 23:23:25.74 ID:Khnw7YG10
年末保守
286名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/02(水) 13:32:29.72 ID:QMNqV6wA0
ほしゅ
287名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/08(火) 15:14:02.41 ID:Y0fLUeTf0
ほっほっほー
288名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/12(土) 19:38:22.71 ID:aGoRnJ2u0
ほしゅ
289名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/16(水) 22:59:23.55 ID:lkShdMWXO
☆☆☆
290名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/20(日) 22:06:26.52 ID:lzj4BPtr0
ほし
291名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/25(金) 16:52:24.46 ID:qOT4qyIF0
保守をします。
ほしゅ。
292名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/02/01(金) 12:42:01.96 ID:ZSBX0qEe0
2月分の保守をいたしますの
293名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/02/05(火) 22:17:42.38 ID:ngHHmym90
ほしゅ
294名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/02/08(金) 20:48:16.10 ID:guX2IWTmO
保守
295名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/02/17(日) 18:30:35.89 ID:bWN8rK/F0
age
296名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/02/26(火) 21:27:40.64 ID:3jsZ001k0
SS
297名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/06(水) 23:50:07.71 ID:8DxmXVoLO
みなのもの ほしゅじゃあー!
298名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/13(水) 15:05:18.86 ID:A2uAD1wP0
age
299名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/14(木) 18:43:48.90 ID:eK22hnaG0
ここに書き込む
300名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/18(月) 16:25:02.74 ID:fx6Z637R0
保守しておきます
301名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/23(土) 11:50:36.51 ID:0cxM5vK40
捕手
302名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/26(火) 05:40:35.38 ID:GkexUoYF0
age
303名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/30(土) 21:48:26.35 ID:AXScSRYM0
ss
304名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/02(火) 16:35:53.49 ID:MXLoSgDq0
DD
305携帯まとめ人:2013/04/03(水) 14:34:47.65 ID:1w3tFtNV0
お久しぶりです携帯まとめ人です。どうにかとりあえず生存しています。
URL変更の告知をすっかり忘れておりましたごめんなさい。
今更すぎて恐縮ですが、下記にURLが変わりましたのでお知らせします。
忍者規制でリンクできないので、頭に「h ttp」を足してください。

宿スレ保管庫@Mobile
//dqinn.rasny.net/

現在、投稿システムを一新しようか迷っています。
最近はスマホにも自動対応している使い勝手の良いシステムが多数あるので、
移行の手間を考えてもメリットがあるように思います。
なにか進展ありましたら下記にてご連絡させていただきます。

避難所、まとめサイトについて(BBS)
//jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/40919/1193451299/l50
306名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/08(月) 00:07:37.73 ID:qDdZWwQf0
>>305
おお!
お忙しいところ対応いただき感謝です。
今までの物語が見れなくなったので
どうしたものかと思っていました。
307名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/15(月) 23:01:33.50 ID:f2AQw6pU0
age
308名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/16(火) 17:30:56.64 ID:WNSQUkXq0
痔のカリスマ
309 忍法帖【Lv=16,xxxPT】(1+0:5) :2013/04/20(土) 22:13:11.74 ID:0sj3Txtt0
保守
310名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/26(金) 22:56:32.29 ID:PT8Y8pbc0
保守
311名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/02(木) 23:39:27.37 ID:e9aFkpcb0
age
312名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/10(金) 01:54:09.09 ID:pd47l49U0
保守っす
313アキヒト ◆SK8nVJOsk. :2013/05/12(日) 07:46:49.87 ID:6HXRyPAb0
>>152の続き


「…ィト。…起きてリイト!」

「ん………んん……」

女の子の呼び声に俺は目を覚ました。
木々に囲まれた林の中。草むらの上に俺は横たわっていた。
トンガリ帽子を被った魔法使いの格好をした少女が俺の顔を覗き込むように見ている。ベティだ。
……確かロマリア。そうだ、ロマリアで待っている筈じゃなかったか。
辺りを見回す。既に明るく、夜は明けていた。
後ろで旅人の扉が渦巻いているのが見える。どうやらいざないの洞窟を抜けた所でそのまま朝まで気を失っていたのか。
心配そうな顔をして俺を見続けている少女に声を掛けた。

「おはよう」
「おはよう…って、そうじゃないわよ!大丈夫なの?気を失ってたみたいだけど」
「…ちょっと寝てたな」
「ほんとに?傷を負ったとかじゃなくて?」
「俺の体のどこに傷があるというのか」
シャツをまくりあげる。傷跡も全く残らない完全蘇生だ。
「わ、わかったわよ、もういいわよ」
ベティの顔がうっすら赤くなっているが気のせいだ。男の上半身を見たところでエロい所なんてないじゃないか。俺は悪くない。

「寝ていたのは分かったけど、こんな物陰もないところのど真ん中で眠れるなんて、変わってるわね」
「この辺の魔物も大したことないだろ。そんなことより、約束は確か3日以内だったよな。どうしてここにいる?心配で迎えに来てくれたのか?」
3日以内にロマリアで待っているベティの所まで行く約束をした。……だったはず。

「心配?心配なんてしてないけど…、というか心配なんてする筈ないでしょ。私に何したかわかってるの?」
「……」
なんだっけ。なんだかえらく長い間気を失っていた気がして記憶がどうも飛んでいる。
確か、いざないの洞窟へ向かう前にベティと俺は、戦ったんだ。でボロ負けして、んでその後…
「あっ」
「なによ、あっ、って。忘れてたみたいに」
「忘れてない忘れてなんていないよ。忘れるわけがないじゃないか。だって俺生まれて初めて母親以外のおpっぱあ、ぐえっ!」
殴られた。魔法使いの杖で。結構遠心力入ってて痛い。魔法使いのくせに力あるぞこいつ。多分数値でいったら50は超えているぞ。

これ以上機嫌を損なわれてもアレなのでそそくさと起き上がる。
手足に痺れはない。また戦える。あいつと。そうだ、俺は強くならなきゃいけない。

「とりあえずロマリアに行くわよ。さっさと歩いてね。あなた探すの時間掛かっちゃったんだから」
「そういや予定変更とか、何かあったのか」
「私も詳しくはまだ聞いてないから。王様に会わないといけないしね」
「王様か。面倒だ。」
「何言ってるの。あなたがいなくちゃロマリアの協力は得られないわよ」

ああ。アリアハン王から手紙みたいなの貰ったんだっけか。魔王軍の討伐許可証とかなんとか。
今思うと俺みたいなレベルのような奴が貰っていい代物じゃないと思うけどな。
俺より強い奴は全然いるし。ベティとか。俺を殺した奴とか。……何者だったんだろうか。

「さあ、行きましょ」
「ああ」

歩き出すベティの後を追いロマリアへ向かった。
314アキヒト ◆SK8nVJOsk. :2013/05/12(日) 07:47:50.67 ID:6HXRyPAb0
…………。

……。


焼け焦げた大蛙の油がなんともいいがたい匂いを放っていた。
 
道中襲いかかってきた大きなカエルの大とも言える集団をベティが火炎の呪文を放ち次々に焼き上げていた。
いい具合に焦げた匂いが俺の鼻をつく。そういえば腹が減った。
一瞬にして大蛙を飲み込むほどの火炎を片手で放ち、それでも余裕そうな顔をしているので話しかけてみた。

「べディがモンスターと戦っているとこ初めて見たんだが」
「なによ」
「LVいくつだ?」
「え?何?レベル?レベルって?」
「ほら、ロープレやってるとあるだろ。キャラの強さを数値化した奴」
「ろおぷれ?ごめん。全然何言ってるかわからないわ」
困惑した表情を見せている。
「そりゃそうだよな。ごめん」
と謝った所で計20匹の大蛙をベティはいとも簡単に倒してしまっていた。

「食っていいのか、お腹減ったんだ」
「……食べれないことも無いけど、もうちょっとでロマリア着くから我慢したら?」
「それは無理な話だ」
大蛙の腿肉を食す。旨い。柔らかく、しかしそれでいで噛みごたえのある食感。
「後でちゃんと歯磨いてよね」
「うむ。わかってまふ。んぐんぐ。」

お腹いっぱいになると足早にもなりロマリアへはそれから1時間程度で到着した。
315アキヒト ◆SK8nVJOsk. :2013/05/12(日) 07:49:15.46 ID:6HXRyPAb0
「山賊!?カンダタ!?だと!?」
俺は先ほどロマリア王から発せられた言葉に耳を疑った。

今はロマリアの街の中。
石畳の風景にも慣れたのかこれといって町並みを眺めることもせず、というかそれどころでなく。
欲しかった情報の1つがもう手に入った。
カンダタ盗賊団。
この国の王様の王冠を盗んだらしい。それとここからはるか北の方にアジトがあるらしいこと。
アリアハンで出会った盗賊フランはそこへ戻ったのだろうか。

「…ねえったら!聞きなさいよ!アフィリエイト!」
「えっ、ああ。つうか俺はアキヒト」
「どうでもいいわよそんなこと。そんなことより知ってたの?カンダタ盗賊団のこと」
どうでもはよくないだろ…。ひどいだろ。
「ちょっと聞いただけだよアリアハンの酒場で。そういうのがいるって」
「そう。まっいいわ。じゃあ話は簡単ね。」
「金の冠を取り返すのか。戦うことになるんじゃ」
「なるわね。まあアナタがいれば大丈夫でしょ」
大丈夫じゃないよ。見たとこフラン相当強いよ?親分はもっと強いだろ。
それに、人間同士では戦いたくないんだけどな…。甘いのかな。

「取り返せばロマリア王にも認められて協力が得られるって寸法よ」
なんか楽しげだなベティ。気のせいか。
「ま、やるしかないんだよな」

俺たちは北へと歩き出した。
316アキヒト ◆SK8nVJOsk. :2013/05/12(日) 07:52:18.76 ID:6HXRyPAb0
なんかもうトリ忘れました。
こんななんでゆるりと書いていこうと思っています。

>>まとめの人
お疲れ様です
317名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/13(月) 20:38:53.33 ID:RkVlgDCc0
おーお久しぶりです
当科ありがとうございました<(_ _)>
ひさびさなので最初から読ませていただきました。
これからも無理せずよろしくお願いします。
318名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/14(火) 07:59:01.36 ID:n3yOWSjR0
>>305
お疲れ様です。
旧まとめサイトのほうもリンクを修正しておきますね。

>>316
おお。
ゆっくりでもいいのでぜひぜひ完結まで読みたいです!
トリップキーは使わないと忘れちゃいますよねw
専ブラなら記憶してくれるんだけど、出先で更新するとすっかり。今日みたいに。
319アキヒト ◆SK8nVJOsk. :2013/05/18(土) 16:26:19.04 ID:fRE6Zynv0
>>315の続き

それから2日。俺たちは歩いてひたすら北へと進んでいた。
カンダタ盗賊団のアジトはまだまだ先。
それどころか道中にあるガザーブの村という所もあと二日はかかるとベティは言った。
魔法使いであるベティは空を飛ぶことも出来るので、森や山を飛び越えて行けば早いじゃないかと言ったのだが、
どうやら目的は王冠を取り返すこととは別にあり、俺を鍛えることにあったようだ。

「あなた攻防のバランスが悪すぎるわ。そんな捨て身のような戦い方じゃ命が幾つあっても足らないわよ」

たった数回遭遇したモンスターと俺との戦い方を見て、ベティがそう指摘していた。
まぁ、それは俺も感じていたところだった。
死んでも死んでも生き返れるんなら、身を守る必要性もなくとにかく相手に一撃食らわすことしか考えていないこと。
それでも強くなっていくのだろうけど、戦術は一行に身につかない。

そこで、ベティから一枚の青銅の盾を買い与えられた。亀の甲の様な六角形の盾。
身を守ることを覚えろだそうだ。
相手の攻撃を上手く捌くこと。さらに捌いた後に一撃をお見舞いする練習。
その日から盗賊団のアジトまでたどり着くまでの間、実践で練習することとなった。

主な実践の相手はさまようよろいと言う傀儡のモンスターだった。
甲冑で身を包み、剣と盾を持った典型的騎士モンスター。

俺はさっきからこいつと小高い丘の上で壮絶な死闘を繰り広げていた。これで5度目。
しかもこちらは青銅の盾と、もう片手には木の枝という相手には1ダメージも与えられない威力を持つ使い物にならない武器で応戦。

「やられそうになったら手を貸してあげるから、それまで頑張ってね」

ベティがそう優しく微笑んだ。正直言うと魔法使いの格好と相まって小悪魔的でなんか可愛いと思ったが上から目線で腹が立った。
悔しいが実際負けているのでそれに従う。強くなれるのなら。と。それから俺は5度死にかけている。

「もっと、相手の攻撃の軌道を読んで!こっちから先に盾を当てていくつもりでガード!」
「くっ!こうか!?」
「いいじゃない!しっかりガード出来た時だけ反撃!まだダメ!バランスが悪いわ!」

アドバイスもくれるので、俺は頑張った。
さまようよろいの方も、俺の右手に持っている木の枝を立派な武器と勘違いしているようで、木の枝を盾で見事に防いでいた。
この角度で。このタイミングで。そうすれば相手はよろめく。まるで捌き方をレクチャーしているかのようだった。
どちらかと言えばさまようよろいは基本に忠実者のようで、攻撃、防御、攻撃、防御の繰り返しで攻防の形が決まっていた。

それを読んで、次の攻撃を俺が裏拳気味にきっちり弾くとさまようよろいの体勢が崩れたので、俺は思い切って攻撃の体勢に打って出た。
「もらった!」
相手の顔面を正確に捉えたこの上ない一撃をお見舞いすることに成功した。
320アキヒト ◆SK8nVJOsk. :2013/05/18(土) 16:27:20.29 ID:fRE6Zynv0
バキバキっ!!
太さ5センチ程の木の枝が勢いよく折れる。当然だ。
会心の一撃ってやつできっと2ダメージは与えたに違いない。だが満足だ。
クリーンヒットしたさまようよろいは、自分が終わったと勘違いしたのか動きが止まっている。

「よし、止めさしてやるぜ。ベティ!剣貸してくれ」
「はい」

ほいっと投げ渡された武器を受け取る。あれ、軽い。またしても木の枝だった。
「え?まだやるの?」
「いえ、合格よ」
「だったら…」
「それで止めをさすのよ」
「は?」
何いってるのこの娘。冗談だろと思うもベティは真顔だった。
甲冑着てんだけどな。そうか。隙間に差し込むのか。

「違うわ。次の試練ね。その枝で甲冑をぶち破るの」
「いや。無理だろ。強さとか関係なしに」
「出来るわ。じゃないと、カンダタなんかと戦えないわよ」

なんだそりゃ。カンダタってのは相当いい防具着込んでやがんのか。

「いいえ。覆面に上半身ハダカでパンツ1枚の大男よ」
「変態じゃねえか!!」
「た、確かに外見はそう…ね。でも防具なんて必要ないのよ。あの大男にとっては」
「剣で肉体を斬れないって言うのかよ」
「よほどでないとね」
「まじかよ…」

つまり、この木の枝でさまようよろいを切り倒せるくらいでなければカンダタには傷一つ付けられないってことか。
なんなんだよこの世界の住人は。強すぎだろ。魔王倒せよ。倒せるだろ変態。どんだけ変態なんだよ魔王。

……木の棒を持った手に力を入れる。
さっきよりもスキだらけのさまようよろいに。渾身の一撃を食らわせてやる。絶対倒す。強い意志は力に変わる。そう信じて。

「死ね!!」

思い切り振り抜いた感触。しかし鈍かった。またしても木の枝は折れてしまった。
さまようよろいも倒れ込んだが、甲冑には亀裂も入っちゃいない。

「無理だろ?」
ベティに訴えかける。ごめんわたしが間違っていたかも?なんて言葉を期待して。
「……修行ね」

どうやら、カンダタとの戦いはまだまだ先のようだ。

続く
321アキヒト ◆SK8nVJOsk. :2013/05/18(土) 16:31:02.26 ID:fRE6Zynv0
お久しぶりです。
まさかまた1から読んでくれた人がいたとはびっくりです
ありがとうございます。また続けられるよう頑張ります
322名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/19(日) 05:01:16.25 ID:S/jnwYDX0
>>321
おつです!

なるほど、カンダタが破廉恥なのはそういう理由だったのか…w
323アキヒト ◆SK8nVJOsk. :2013/05/25(土) 23:38:58.26 ID:eHFegbOj0
>>320の続き

ロマリア出発から既に5日。
日中は北上しながら俺は打倒カンダタの特訓を続け、夜間は野宿を繰り返し、年頃の男女二人旅だと言うのに…、とそれは置いといて。

ひとまずの目的地であるカザーブの村に到着した。
山合いの森の中にあったその村は、周囲をぐるりと太い丸太を打ち付けて囲い、モンスターが簡単には侵入出来ない構造になっていた。
間近まで歩み寄ってみると柵は目の前に立ちはだかる様にそびえ、頑丈で体当たりしようがビクともしない。

村の出入り口を探そうと壁伝いに歩いていると「旅の人かい?」と中から声をかけられた。
柵のほんの隙間に人の顔が見えた。鎧を身につけている。村の守衛だろうか。
「中に入りたいんだが」
「ああ。そのまま南…、君らから見て右手の方向だ。扉を開けておいてやるよ」
「どうも」
壁の向こうへ礼を言い、その方向へ向かう。

「地上からは大丈夫だろうけど、空から飛来してくるモンスターはどう対処してんだろうな…」
歩きながら疑問に思い、後ろを歩くベティに声をかけた。
「大丈夫よ。モンスターだって余程でなければ柵を超えてまで無理に襲ってきたりはしないわ。この柵は人間とモンスターを住み分けるための仕切りみたいなものね」
「そういうもんなのか」
「そうね。ここは森の中だからモンスターもたくさん生息してる筈だけどこの柵を見た限りじゃ、襲撃を受けた様な傷跡はあまり見当たらないわね」
とベティは言った。
こっちの世界で言う熊みたいなものだろうか。森の中で突然出くわしたら襲われたりするが、人を襲うためだけにわざわざ人里まで降りてくる熊は聞いたことがない。
案外、モンスターは臆病な生物なのかもしれない。
「それでも、たまに侵入してきたモンスターは私が始末しているんだ」
またも柵の向こう側から声が飛んできた。一緒に出入り口に向かって歩いているようだ。

「ここだ。旅の人」
少しして、柵が村の中へと開かられると先ほどの守衛と思われる人物が現れた。
年は30半ば?一人で村を守っているのだろうか。長槍を持っている。
「こんな辺鄙な村に何用かな。若い人」
いや、ただ休みたいんだと答えようとしたが、ベティがその前に単刀直入にカンダタ盗賊団を追ってここまで来たと説明した。

「ははは。馬鹿言っちゃいけないな。ロマリア国の騎士団でさえ手を焼いている連中だぞ」
「その騎士団っての、単純に弱いんじゃないか?」
「……本当にカンダタを追ってきたのか?奴らの話くらい聞いたことあるだろう?賞金首もかけられているが誰も彼らの悪行を止められた者は皆無なんだぞ」
「賞金首?」
「ある意味じゃ勇者よりも名を世界中に轟かせてる連中なのよ」
今更の様に言うベティ。
「名前だけじゃなく強さもか?」
「言うまでもないわね」
324アキヒト ◆SK8nVJOsk. :2013/05/25(土) 23:40:16.53 ID:eHFegbOj0
村の中へと入った。

約一週間ぶりに宿のベッドでぐっすりと眠れるとあって村へ入るなりベティは一直線に宿を取りに行った。
俺としては野宿はさして気にならなかったが、たまには湯船に浸かって疲れを癒したい気分でもあった。

続いて、ベティが向かった宿へ俺も入る。
ベティと俺、部屋は別々だった。当然か。でも野宿の時は目の見える範囲で交互に休んで寝ていたんだよな。
ま、どうでもいいか……。

自分の泊まる部屋へ行き、まずは風呂へ。
とりあえず風呂に浸かる。野宿でも川で体を洗っていたが、日本人ならやっぱり風呂だろう。
小さいが風呂は風呂だ。しっかりと肩まで浸かった。熱くて気持ちがいい。思わず自分の家の風呂を思い出す。
……。
 
しばらく休んだ後、俺は村の中を適当に周り夕食を済ませ、眠るまでの間ベティと特訓が始まった。
再び村の外。
「無理だと思わないで。あなたはもうこの世界の人間なの。強くイメージして」
「うむ」

意識を集中させる。イメージは赤く燃え盛る炎。
あっちの世界ではSFの中でしか出来なかった物。魔法。
俺は今、それを唱えようとしている。
マッチの棒の様な物を掴み、片手をかざし先端に火を灯そうというのだ。
だが一度たりとも成功していない。どうやら俺の頭が無理だと言っている。漫画やアニメの中だけの話だと。
染み付いたそれを中々払拭出来ずにいる。

この世界には魔法力と言うものでオーラの様なものを体から放出できるのだそうだ。
そのオーラをメラなりギラなりという魔法に変えて攻撃しているのだと言う。
つまり俺が使える様になれば、オーラを攻撃力に上乗せしてあっちの世界で不可能な斬鉄だろうが何だろうがやってしまえるわけだ。
というわけで、実際には魔法を唱えられずとも、オーラを知るきっかけ作りとして初歩のメラ以前の火を灯す特訓を行っているわけだが…。
オーラは実際に見えるらしいがベティが魔法を唱えてもそれらしい物は全く見えない。
自分で使える様になれば見えるんだろうか。

「小さい炎でいいの」
ベティがすぐ横で魔法を唱え始める。
トンガリ帽子から垂れた赤い髪がふわりと浮いた。オーラを放出したからだろうか。
む…。石鹸の香りがする。そういやベティの髪ツヤがいい。風呂に入ってきたのか。
頬も蒸気してほんのり赤く、なにやら女の子っぽさが増している。

「こんな感じよ」
「……」
「どうしたの?リィト?」
「えっ?あ、いやなんでもない」

慌てて目線を棒の先端に戻す。集中力なさすぎだ俺。集中しろ集中。

「むむむ…」
「……」

ちょっと近いので少し離れる。
しかし石鹸の香りが漂ってくる…。
だからどうしたと言うのか。いいから集中しろ。匂いなど気にするな。嗅ぐな阿呆。

「……き、今日は無理そうだ」
「え?何言ってるのよ。まだ始めたばかりじゃない」
「なんつーか、村着いた嬉しさで気が散るな。そ、そうだ。もう夜だし酒場へ行こう。盗賊団の情報が聞けるかも知れないぞ」
「ええっ?ちょっと!待ちなさいよっ!リィト!」

続く
325名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/26(日) 23:55:26.49 ID:UyxQ2+4R0
投下乙!
326名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/27(月) 18:54:55.66 ID:f0Oz+KoP0
うぉおお
待ってました!
327アキヒト ◆SK8nVJOsk. :2013/06/02(日) 14:02:15.47 ID:OKT/SZ5v0
>>324の続き

カザーブの酒場。
小さい村と思っていた俺は、酒場もきっとそれなりのものなんだろうと思っていたが、意外や意外に大きい酒場だった。
テーブル席が幾つもあり、あちらこちらでわいわいと陽気な声が響き渡っていた。
ざっと見渡して20弱の人。村人もいれば冒険者と思われる人もいる。
毎日恐怖と戦っているのだから、それを忘れさせてくれるこういう場所は必要不可欠なんだと改めて感じる。

「じゃあ、酒場なんだし俺もラム酒っての飲んでみるか」
「リィト?あなた未成年でしょ?」

すぐに咎められた。そういうベティは村周辺で採れるという果実を絞ったジュースを頼んだので俺も同じくそれを注文した。
ついでに聞こうと思っていたことを聞く。

「未成年?この世界はいつから成年になれるんだ?」
「20よ。それまでお酒はダメよ」
「ふーん。俺のいた世界と大体同じだな。じゃあベティも未成年なんだな」
「あ、あたりまえでしょ。私のこといくつだと思っていたのよ?」

少しムッとした表情を見せるベティ。
正直なところ、その燃えるような赤い髪と瞳の上におおよそ日本人にはいない整った顔立ちをしているので歳は幾つと答えられても驚かない。
しかしだ。魔法使いとしても相当な腕を持つベティにも残念なところが1つあることを思い出す。全くもって未発達であるその部位だけを見れば……

「10」
「じゅう!?」
「い、いやほら、そのムn、じゃなかった、そ、俺が16だから…同じじゅうろくかなって…」
「うん。まあ、当たりね…」
本当に同い年なのかよ。16でその絶壁はどうなんだ。
「ってリィト。あなたも16だったの!?なんていうか初めて出会った時のイメージかしら。全体的に幼そうな感じがしたから年下なのかと思っていたわ…」
「はっきり言うのな…」

あまり年齢を低く見られたことがなかったので軽く傷つく。
が、この世界から住む人間から見れば、俺が住んでいた様な生命を賭けることを知らない平和な世界で育って来た者などガキに見えて当然かもしれない。

「あっごめんなさい。今は違うかなって思うわ。モンスターとも戦ったりして体つきもしっかりしてきてるし、なんていうか勇者の自覚を持ってるって感じがするもの」
「えっ」
って思わず俺の口から溢れてしまった。マズイ。これでは勇者の自覚が全く無いと吐いたと同じだ。
「え?」
ってベティが聞き返してきた。ほらやっぱりだ。完全に虚を衝かれた。
「ははは」
と俺は半笑いで返してしまう。
「自覚…無い?」
「いやいやいや!ある!」
「どうみても嘘でしょ!?いいわよ。無理しなくて。私がお願いして勇者になって貰ったんだもの。これから頑張っていけばいいんだよ。徐々に。一緒に。ね?」
「お、おう…」

俺は、やっぱりガキだ。
328アキヒト ◆SK8nVJOsk. :2013/06/02(日) 14:02:58.93 ID:OKT/SZ5v0
…………。

ギターの様な楽器に合わせて大勢の歌声が店内に響き渡る中、俺も決意を新たにした矢先だった。

酒場の扉が激しく開け放たれた。
人々は振り返るや歌うのをピタリと止める。
それまでの賑わいが、楽しい空間が嘘のように一気に冷め上がる。
人々は大きく開けていた口を閉じ、あるいは閉じることも出来ずにその場で全身を硬直させてしまう者もいた。

店に入ってきたのは、5人。
そのうちの真ん中の大柄の男が、この間ベティが言っていたとある男の外見の特徴と一致していた。

覆面に上半身ハダカでパンツ1枚の大男。
見せつけるかのような鍛え抜かれた頑強そうな体。ひと目でそれと分かる風貌。
間違いない。周囲の反応を見るにその大男は、カンダタだ。

静まり返った店内にその大男の声が響き渡る。

「オイどうした!?酒場ってのはもっと賑やかな場所だろう!?酒がたりてねえんじゃねのか!?ありったけの酒持って来い!」

堂々とした態度で店の中へとドカドカと歩入ると真ん中のテーブル席の長椅子にどっかと腰掛けた。
それと同時に人々が慌てふためいて店外へと逃げ出していった。
俺たちはどうするかとベティの方を見るが、変わりなく座り続けている。様子を探る気か。
残ったのは、俺、ベティ、店主、冒険者と思われる旅人が数人。

「なんだオイ!?逃げるこたぁねえだろ!?ただの客だぜ!?根性無しどもめが!」
「しかたないですニャ。勇者がいなくなった今やおやびんは世界で一番強くて悪名高いお人ですニャ」

そのカンダタの隣の席に、猫人間の少女が体を丸めて座り込んだ。…ってなんだこいつは。人間なのか!?
頭に本物なのか疑わしい猫耳がついていた。尻からはひょろひょろと長い尻尾が揺れている。体全体は黒と茶、それと白色の混じったトラ模様の体毛で覆われていた。
コスプレにしちゃ出来すぎている。手の甲の辺りを舐めて毛づくろいまで始めやがった。
その他の子分と思われる奴らは、高級そうな金色の鎧を身に纏ったりしているものの、盗賊団と言われて納得できる風貌だった。
ん。そういえばカンダタ盗賊団の一味であるフランの姿は無い。ここには来ていないのか。

「お、おひさしぶりで…」
店主が、おそるおそる樽ごと持ってきた酒をカンダタに注ぎ始める。
「おう!何年ぶりだろうな!今日は祝いだ!ロマリアに眠るお宝を手に入れることが出来たからな!がっはっはっは!」

テーブルの真ん中に置かれるその物は、金色に輝く冠。

「おいあれって…」
小声でベティに話しかける。
「王の冠ね」
「取り返すのか」
ふるふると首を横に振るベティ。
「まだ勝てないから」
「じゃあどうすんだよ」
「店を出たら後をつけてアジトの場所を突き止めるの」
「わ、わかった」
329アキヒト ◆SK8nVJOsk. :2013/06/02(日) 14:03:51.25 ID:OKT/SZ5v0
「ですがおやびん。その冠、不思議な力はなさそうですニャ」
「ああ。俺たちの追い求める太陽の冠じゃねえな。だが見てみろ。この豪華に装飾された冠。高く売れるぜ」
「お酒飲み放題ニャー!!」
おおー!と周りの子分達も同調し、酒を煽り始める。酒代はちゃんと払う気のようだ。

「太陽の冠…?」
「世界のどこかにに眠ると言われている伝説の武具の1つね。強力な呪文からも身を守ってくれるらしいわ」
「はあぁ。そんなもんがあるのか」
カンダタ達の話に聞き耳を立てながら、自然を装ってベティと会話をする。
「なあベティ。このドリンク…口に合わなくないか?」
「あら、この美味しさがわからないなんてどうやら舌も幼かったみたいね」
「な!?」
ペロッと舌を出してベティは笑を俺に向けた。
こいつ。この状況で俺をからかいやがった。やっぱ侮れねえ…。

軽く舌打ちしながらカンダタたちの話に再び耳を傾ける。
「ですがおやびん。これ1つのために大勢のロマリア騎士団を殺してしまったニャ」
「仕方ねえだろう。弱いのがいけねえのさ!あんな貧弱で国を守れるか!?任せられねえだろう!?」
「ハイニャ」
「だから教えてやるのさ!世の中を厳しさをな!でないと強力な魔物が現れちまったら本当に国が滅んじまうぜ」
「ですが、その傷」
「ああ!中にはちっとは出来る奴がいるようだ。王の護衛だ。あの糞王め。自分の命惜しさに大事に抱え込みやがって」

カンダタは自らのその丸太のような極太の腕をバシっと手で押さえる素振りを見せた。
この位置からは傷は確認できないが、鋼の剣でもその肉体に傷1つ付けられないという体に、傷を負わせることの出来る騎士がロマリアにいたということか。

「いいかお前ら。青髪の騎士の女だ。王は自分の傍から手離さねえとは思うが万が一そいつが俺達を討ちに来たら絶対に相手にするな。俺が殺る!」
「はい!」
声を揃えて子分たちが返事をする。
どうやら一戦を交えたようだが勝負はつかなかった様だ。
それにしても王の護衛というのは、どういうものなのだろうか。普段から王の傍についているものなのか。
俺がロマリア王の所へ行った時は青い髪の女騎士は目に入らなかったのだが。
今回の件も俺とベティで討伐することになったが、ならば一緒に討伐したらよかったのではないか。
話にも上がらなかったところをみると、カンダタの言うとおりロマリア王はその女騎士を大事にしていると想像できる。
330アキヒト ◆SK8nVJOsk. :2013/06/02(日) 14:04:52.23 ID:OKT/SZ5v0
「大変だ!親分!」
再び酒場の扉が勢いよく開け放たれた。
盗賊団の一人と思われる人物が慌ただしくカンダタの方へと駆け寄っていく。
これもフランではなかった。一体盗賊団は何人いるんだろうか。

「どうした!?酒の席をぶち壊すほどの話なのかぁ!?」
親分たる威圧なのか、ただ話を聞いてるだけの関係ない俺までが軽く身を竦めてしまった。

「そ、それが、盗賊団を討伐にきたっていう輩がこの村にいるって聞いたんでさぁ」
「なんだと!!!?まさか青髪の女か!?」

俺とベティの動きが完全に止まる。それとは裏腹に急激に心臓の鼓動が盛大に脈を打ち始めた。
ベティと目が合う。おいどうすんだよ。

「青髪と言うのは、聞いてませんが、若い男女のペアで女は典型的な魔法使いの格好だそうで…」

次の瞬間、カンダタと俺は初めて目が合った。背筋がゾワリと騒ぎ出す。
やって勝てるか?いや勝てない。目が合っただけで分かった。
一瞬の思考停止。
その横でベティが呪文を放つのだけはただ見えた。

「イオ!!」
「のあっ!?」

辺りに爆風が包まれる。食器やグラスが飛び散り煙が立ち込めた。

「やるのかよ!?」
「馬鹿!逃げるの!早く!」
「くそっ!」

視界が塞がれる煙幕の中、ベティの後ろ姿を追い酒場を飛び出した。

続く。
331アキヒト ◆SK8nVJOsk. :2013/06/02(日) 14:07:39.80 ID:OKT/SZ5v0
なんというか、ぬいぐるみイメージで。
332名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/05(水) 03:42:36.01 ID:AEWZEv1y0
投下乙でございます

子分が知らせにこなければ、カンダタも気風のいい男で結構いい雰囲気だったのに・・・(orz
しかし、あとでイオで破壊した酒場の被害、弁償させられそうな悪寒

逃走することを考えたら、飲み慣れない酒を飲んでなくてよかったかも
333名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/08(土) 09:40:55.25 ID:dtsPdIFk0
乙です
青髪気になるよ青髪
334アキヒト ◆SK8nVJOsk. :2013/06/09(日) 05:57:49.16 ID:ZbeG95bV0
>>330の続き

一つしかない酒場の観音開きの扉を今度はぶち壊すか如く開け放つ。今日は災難だな扉。って物の心配してる場合じゃない。

幸い俺とベティは酒場の入口近くに座っていたため、煙で前が見えずともすぐに外へと出れた。
カンダタ達は酒場の中央にいたため、きっと煙と突然の出来事に多少はもたついている筈。
大丈夫。余裕で逃げれる。

「箒出すから乗って!」
ベティが魔法の袋から急いで箒を取り出そうとする。

「待った!!」
突如視界に飛び込んでくる鈍色の光を俺は条件反射的にかわすと、その方向へ急いで腰から剣を引き抜いた。
見覚えのある銀髪に思わず声を上げる。

「フラン!!」
そこに立っていたのは、盗賊マスクをした長身痩躯の銀髪男。短剣を手にしたフランだった。
カンダタ達と一緒にいないと思ってたら、店外にいたとは。見張りか何かしていたのだろうか?

「やはりアンタだったのか。まさかあの場から逃げられていたとはな」
「悪いが話してる暇はない!またな!」
言いたいことは色々あるが…いやあったがもうどうでもいい。
盗賊団は人を殺める連中だと分かった今話すことなど何もない。そのうち近いうちにぶっ倒してやる。

「リィト!?知り合いなの!?」
「いや知らん!早く逃げんだろ!?行くぞ」
「えっ!?あっ、うん!」
困惑するベティに箒を早く取り出せと急かす。
慌てふ喚いて魔法の袋から箒を取り出そうとしているその様は、さながらどこぞの猫型ロボットアニメのごとくポケットから不必要な物が次々と放り出されていた。

「なんだ?俺たちを討伐しに来たんだろう!?逃げる気か」
「癪だけどな。まさかこんな堂々酒場に飲みに来るとは思ってなかった。盗賊なら盗賊らしくコソコソ隠れておけよ」

ベティが箒を取り出し俺もそれにまたがろうとする。

「…悪いが頭(かしら)からの信用を失うわけにはいかん。阻止させてもらうぞ」
「ちっ!」

一足飛びに切りつけてくるフランをあらかた予想をしていた俺は即座に迎え撃った。
335アキヒト ◆SK8nVJOsk. :2013/06/09(日) 05:58:48.34 ID:ZbeG95bV0
敵は短刀だが見たところ片手一本のみ。
ほんの先日までさまようよろいと百戦以上も打ち返しの特訓だけを延々続けていた俺は考えるより先に体が動いていた。
臆することなく短剣を盾で捌く。
流れるように。短剣で切り返してくるより先に俺の剣を叩き込む。

「――はっ!」
「ぐっ!」

フランの左肩から入った切っ先が右脇腹へ抜けていく。飛び散る鮮血。
その光景を見て攻撃に成功しことよりも先に、人間を切りつけてしまったことに今更にショックを受けている自分に気がついた。
だがこいつは人を殺める悪人だとすぐに思い直す。そんな場合じゃないと。早く逃げなければカンダタが来る。

「ベホイミ!」
「な!?」
フランが傷口に手を当て何か唱えたかと思うとみるみる内に出血が止まり傷口まで塞がっていくではないか。
こいつ呪文も唱えられるのか。

「居たミャ!」
甲高い声が村の中に響く。
猫女を先頭に盗賊一団が酒場から駆け出してきてしまった。
最後にカンダタが姿を現した。
囲まれる。俺とベティに対し、相手はフラン、猫女、他子分4人、そしてカンダタの計2対7。

「おいフラン傷負ってるじゃねえか!大丈夫なのか!」
「心配は及ばない、少し油断しただけだ…」
「お前は盗賊に転職したてなんだ。下がってろ」
「……承知」

そう言われフランは他の子分の後ろへと引き下がる。
後は俺がやるという態度でカンダタが俺たちに近づいてくる。

「解せねえなテメエら。俺を獲りに来たんだろ。何逃げてやがんだ?」
覆面で表情は読み取れない。だがその声質で怒気を帯びているのは確かだ。
「盗賊団のアジトを探しながら魔物と戦って力をつけていた所だったんだ。まさかこんな早く出会うとは思ってもみなかった」
「はん。だから逃げたのか」
「そうだ」
「っかあ〜〜。ついてねえなお前ら。悪いが逃がさねえぜ。世の中はそんなに甘くないってのを教えてやる。いいか? 仮にだ。今突然空からこの村に魔王が降ってきたらどうする?」
なんだその質問は。魔王が? 今?
「……村人が逃げるまで、どうにか食い止める」
「よし。そうか。そうだな。それでこそ勇者だ。なら戦え。俺と。お前が今この場で逃げたら村人全員殺してやるぞ」
「な!?」
336アキヒト ◆SK8nVJOsk. :2013/06/09(日) 05:59:50.19 ID:ZbeG95bV0
「だが、流石にたった2人相手に7人掛りじゃつまらねえ。俺とお前で一騎打ちをやろうじゃねえか」
「一騎打ち?」
「そうだ。もし俺が負けりゃ盗賊団全員大人しく退いてやる。どうだ。断るなら村は今日で壊滅だ」
「俺が負けたら?」
「お前が? 別に。お前をおかずに酒でも飲むか。はっはっは」

今の会話に周りの盗賊団は一切口を挟んでこないところをみると、カンダタの言うことは絶対なのだろう。
…勝ち目はないだろうが、やるしかない。

「そっちの魔法使いなんだが、一騎打ちなら見逃してやってくれないか? 付き添いなんだ。戦う気は全くない」
「ちょっ!? リィト!?」
「いいだろ!?魔王が襲ってきたって他の奴を逃がして俺ひとりで食い止めてやる」
「はっはっは。いいだろう。だがお前が死んで怒り狂ったそこの魔法使いが襲ってきても後は知らんぜ?」
「そんなことにはならないな。こいつとは出会ってひと月も経ってない赤の他人だ」

ベティの方へちらりと顔を向ける。そこに映るのはやっぱり10代の女の子だ。
強いと言っても、相手がもっと強かったらそりゃ怖いよな。ごめんな。俺がまだまだ頼りなくて。

気合を入れる。相手は生身で武装した騎士団と戦った強者。
だが切れないってことはないだろう。思い出せ。俺だって一撃でマンモスのような巨大アリクイを仕留めたんだ。
木の枝で甲冑を破るのとはわけが違うはずだ。

「いくぞ!」

一歩踏み込む。
その一歩に恐怖は全くない。俺はいつだって恐れや不安は感じないんだ。不死身だからな。
だからいついかなる時でも渾身一撃が放てるんだ。

「だあっ!」
巨体に向かって思い切り振りかぶる。
相手は全くの丸腰。受け止める武器すら持っていない。どうするっていうんだ。
「っ!!」
太い腕を差し出てくる。避ける素振りすら見せない。ほんとに生身で受け止めるつもりか!?
337アキヒト ◆SK8nVJOsk. :2013/06/09(日) 06:00:28.91 ID:ZbeG95bV0
ガキィンッ!

骨を裁断した音じゃなかった。まるで金属と金属がぶつかり合う音。
宙を飛んでいく―――折れた剣。

「そんな…」
「安い一撃だな!? そんなもので世界を救えると思ってるのかぁ!!」

俺の頭ぐらいもありそうな大きさの拳が飛んでくる。
盾を構える。防いだどころでもはや勝ち目はないが。

ビキビキィ!

盾が砕ける音? いや違う。そんことより凄まじいほどの衝撃。

「っが!!」
俺の腕が。体が砕けていく音だ。
視界がぐるりと回り、物凄い速さで飛んでいく。
そのまま村を囲う壁にぶち当たった。壁がなかったらどこまで弾き飛ばされていたかわからない。そんな衝撃。
全身が熱い。体の組織が弾けた感覚。思わず意識を落としてしまいそうになる。

カンダタを見る。大分遠い。50メートルは殴り飛ばされたようだ。
強い。強すぎる。この世界の住人は一体どこまで強くなれるのだろうか。
まるでカンダタの体全体から闘気のような物が溢れでいるのが分かる。凄まじいほどの威圧感。
立てるか俺? たった一撃くらっただけなのに体が思うように動か…

「……な!?」

自分の目を疑った。
俺の体から白い湯気の様な物が立っているのがみえた。
目、それとも体がおかしくなってしまったのかと考えたが、あるものが俺の頭の中をよぎる。
カンダタと同じ。
これ。まさか。この世界の住人が使っている魔力の気、オーラじゃないのだろうか。
体からどんどん溢れていく。そのせいか。一撃くらったのに全身がたぎっていく感じがするなは。

……手のひらを集中させる。ひょっとしたら今ならできるかもしれない。
「メラ」
呪文を唱えてみた。
すると手のひらの白い湯気が赤く変質していき、みるみるうちにそれは赤く燃える火に生まれ変わった。
「できた!できたぞ俺!なら!」
もう片手には折れた銅の剣が握りこまれていた。手放さなかった俺ちょっと凄い。

剣をじっとみつめる。
徐々に剣に俺の気力が伝わっていく。
まるで体と一体化したかのような感覚。なんでも切れそうな気分だ。
338アキヒト ◆SK8nVJOsk. :2013/06/09(日) 06:01:07.33 ID:ZbeG95bV0
「おい!どうした!もう立ち上がれねえのか!?」

気づけばカンダタがすぐ5メートルほどの所まで近づいてきていた。
カンダタを見上げる。やはりカンダタからは凄まじほどの気力を感じる。
だが俺も、俺だって負けてないんじゃないだろうか。いや…それ以上!?
というかやばい。それこそのぼせそうな程に体が熱い。早くしないと気力が全て体外に吐き出されてしまいそうな勢いだ。
ぐっと立ち上がる。やはりガードした左腕から左上半身にかけて骨が砕けているのか鋭い痛みが走った。

「礼を…言わないとな。お前の一撃で伝わってきた気力でどうやら目覚めてしまったようだ」
「あん?何をわけのわかんねえこと言ってる!?」
「見えないのか? お前には。まあいい。もう一回お前のその強靭な体で試させてもらうぞ!」

剣に力を入れた瞬間、まるで剣がスパークするかのように光ったのが見えた。

「なっ!?」
カンダタが初めて焦った声を上げる。
危険だと察知したのだろう。慌てて防御から回避に切り替えるが時は既に遅かった。

俺の攻撃が、鋼の剣すら傷をつけられないというカンダタの胴体を切り裂いた。

「がはっ!! ば、ばか…な…」

体を押さえ込みながら倒れ込んでいく姿を俺は確認し、安心したのかそれとも気力を使い果たしたからなのか。
俺もそのまま意識を失った。

続く
339アキヒト ◆SK8nVJOsk. :2013/06/09(日) 06:08:52.72 ID:ZbeG95bV0
貴重な感想ありがとうございます
自分が思っても見なかったところまでつっこまれたりと勉強になります
340名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/13(木) 20:10:06.56 ID:y8kU7k+J0
341名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/13(木) 22:50:01.71 ID:WB/1Irso0
おつ
342名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/15(土) 04:20:51.31 ID:3Gk851QX0
乙ですの〜^^
リィトさん、覚醒キターー!

こうやって死にそうな目に遭いながら勇者になっていくのですね〜
343名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/15(土) 16:20:52.40 ID:CfhnLIL70
再開してたのか!
おつおつ
344名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/22(土) 12:01:35.94 ID:mbbJDWzH0
345井戸魔神F ◆wzcCopc8WQ :2013/06/22(土) 15:42:44.18 ID:p+XqIMSc0
手首の怪我がなかなか完治しないんだが
DQ世界の宿屋に泊れば一晩で治るのかね?
346名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/28(金) 01:39:18.85 ID:i/FIEu4U0
規制か
347アキヒト ◆SK8nVJOsk. :2013/06/30(日) 18:23:09.68 ID:kXSw7vrgO
>>338の続き

新緑の森の中。

気がつくと俺はそこにいた。

ふわふわとした浮遊感。夢の中のような感覚。

木々の間に差し込む太陽の光に導かれるようにただその方向へと歩をすすめる。

水しぶきの音。滝が流れていた。

「アキヒト……。アキヒト……。私の声が聞こえますね…」
「誰だ…?」

美しくもか細く、今にも消え入ってしまいそうな声が俺の耳へと響いてきた。

「私は……、あなたをこの世界に導いてしまった者……」
「ルビス?」

少しの間があく。

「突然なことで驚くが知れませんがお伝えしなければならないことがあります…」
「何?」

再び時間が止まったかのように沈黙が訪れる。滝壺へと落ちていく大量の水流の音だけが時の経過を告げていた。

「私は……、いえ、私達精霊は魔王の手から逃れ、結界を張って隠れ暮らしていました。ですが残念なことにほんの数分前、何者かによって打ち破られ全ての精霊は殺されてしまいました」

「は?」
348アキヒト ◆SK8nVJOsk. :2013/06/30(日) 18:24:55.67 ID:kXSw7vrgO
今度は俺の時が止まってしまったのかと思った。
何を言っているのか。

「今あなたと話をしている私ももう今はいません。死ぬ間際、残された想いをあなたに伝えているだけなのです」

思考が追いつかない。死んだ? 精霊が?

「あなたに与えていた不死の力。もうかけることも出来ません。既にかけられている力を使用したら最後あなたはもう生き返ることができなくなってしまいます」 
「な、なに!?」

俺はもう生き返れない? あと1回だけで? それで魔王に挑まなければならないってのか?

「思えば……、私たちの勝手であなたをこの世界へいざなったこと。私たちの力なくしてあなたにこれ以上この世界を背負わせることは出来ません」
「いや、まてよ。何言って…」
「ですのであなたはここでの出来事は全て夢のことと思い、元の世界でいつものように目覚めさせることを私たちは選択しました…」

は? 夢?

「そんなこと急に言われても信じられるかよ。証拠を示せ」
「目を覚ましたあなたは今話していることも全て忘れてしまいます」

ふざけるなよ。忘れるわけねーだろ。何言ってるんだ。

「勝手に決めんなよ! 俺はここで戦ってきたんだ! そうだついさっきカンダタにも勝った!」
「この世界のことの心配はいりません。全ては時の流れ……。たとえこの世界が魔王の世界になろうともそれが自然なのです」
「おいおいおい。なんなんだよさっきから!お前らがそう思おうが俺は人間なんだ。この世界を救いたいって思う俺の感情はどうなる!?」

俺への返答はなく、問答無用に話は閉じられた。

「それでは……。ゆっくりと目を開けてください。あなたのいつもの日常が待っていますから…」

徐々に滝の濁流の音が小さくなっていく。
同時に俺の意識も遠のいていく中、一方的な宣告に必死に抗い叫び続けた。

「お前がこの世界に連れてきたんだろう!! これからだったんだ! こんな中途半端俺は絶対認めないぞ! 戻せ! 戻せよぉ!」

…………。

……。
349アキヒト ◆SK8nVJOsk. :2013/06/30(日) 18:27:02.79 ID:kXSw7vrgO
「戻せえええええ!!」
「うるさい!!いい加減にしろぉ!」
「うぇっ!?」

脇腹に鋭い痛みが走った俺は、何事かと思い飛び起きた。
「はぅ……はぅぅ…」
呼吸すら苦しい。
ベッドの上で悶えていると憎ったらしい声が聞こえてきた。

「やっと起きた。っていうか寝言で叫ばないでよ気持ち悪い」

妹だった。ベッドの上で仁王立ちしている。どうやら俺を踏ん付けたようだ。
来年中学を迎えるというのになんという起こし方をするんだこいつは。

「寝てるとこ蹴るとか人外すぎだろ…ぅぅ」

やばい。起き上がれない。妹ごときに。

「起きないのが悪いんじゃん。あれ?泣いてるの?」
「はあ!? あ、あくびしたろが今」
「いや、してないでしょ」
「うるせえ。したし。つうか普通に起こせよ」
「起こしたし。それでも寝言叫んでたから蹴った」

いや、蹴るなよ。私は悪くない、みたいな態度とるなよ。

「叫んでたって何をだよ?」
「なんか、戻せええええ! って馬鹿みたい。近所めーわく」
「戻せって何を?」
「こっちが聞きたいよ。じゃ起こしたから。寝れば?」

いちいち不必要な言葉を最後にくっつけて俺を不愉快にしてくれる妹は気分が済んだのか部屋を出て行った。

「寝たら学校遅刻するだろうがボケ。ってかくそ痛え……」

脇腹を押さえてどうにか起き上がる。妹に蹴られて学校休んだとか格好悪すぎる。そんなことになれば家族のいい笑いものだ。
時計を見る。
AM7:17

はぁ。まためんどくさい1日が始まるのか。

続く
350アキヒト ◆SK8nVJOsk. :2013/06/30(日) 18:29:09.77 ID:kXSw7vrgO
携帯より代行
めんどうくさいでした。ではまた規制解除を祈りつつ
351アキヒト ◆SK8nVJOsk. :2013/07/06(土) 16:21:26.75 ID:cCMuiysbO
>>349の続き

1階に降りて顔を洗い、朝食を食らいにテーブルへと着く。
いつものことだが家を出る時間は大体同じなのに俺は寝巻きの格好で妹は既に着替えも済まし食パンを頬張っていた。
また見たことのない服着てやがる。まだガキのくせして金かけやがって。しまむら行けしまむら。

「何叫んでたのよ。物凄い声だったわよ?」
母親が俺の朝食を台所から運んできながら心配そうな表情でそれでいて半笑いで聞いてきた。
「別に。叩き…蹴られ起こされて忘れたな」
「ふんだ。ナオが昨日ゲーム機を勝手に持って行って元に返さなかったから怒ってるんでしょ。叫んでまで、みっともないよ」
「ちげええよ!!んなもんどーでもいいわ!いやよくはねーけど俺が怒ってるのは蹴ったことに対してだ」

テーブルを挟んで言い合いが始まる。いつものこと。
「ちょっと突いただけだよ。それなのに貧弱おにいちゃん弱すぎ。もやしっ子」・
「うるせえボケ。殴るぞ」
「そんなもやしパンチ痛くないもん」
「ああ!? まじこいつ…」

俺が糞生意気な妹をひっぱたこうと立ち上がりかけると母が間に入ってくる。

「朝からやめなさいよアキヒト!ほら早く食べないと遅刻するわよ」
「ああ………あ?」

上げかけた腰を下ろす。
そのとき妙な違和感を感じた。

母親が俺の名を呼んだとき。
なぜだかわからない。

……俺に他の呼ばれ方はない。
その筈なのに。いつものことなのに。なんだこの違和感は。

「大人しくなっちゃった。もやしっ子」
違う。俺はもやしっ子という名前でなくアキヒトだ。四文字でアキヒト。
……くそう。なぜこんな頭がモヤモヤするんだ。もやしっ子だけにもやもやしているのか。

「うるせえボケナス。俺がもやしっ子ならお前はボケナスだ」
352アキヒト ◆SK8nVJOsk. :2013/07/06(土) 16:23:03.79 ID:cCMuiysbO
高校始業のチャイムが鳴る。
あと15回このチャイムの音を聞かなければ本日の拘束からは解かれない。
糞つまらない授業が続く曜日は地獄だ。
いつになったらこちらから教師を選べる時代がくるんだ。
まごまごしていると俺の義務教育が終了してしまうぞ。

「あ〜眠い……」
授業が始まる前から俺は眠気のピークを迎えていた。
今朝から頭の片隅に引っかかる何かに囚われて頭が疲労を訴えている。

「アキヒト……アキヒト……アキヒト……」

気づくと自分の名前をぼそぼそと連呼していた。
隣の席の女子が俺の方を侮蔑した表情で見て「キモいよ」と教えてくれた。
うるせえな。そんなもん分かってるよ。

たぶん、夢のせいだ。
覚えちゃいないが叫ぶほどの夢だ。

もう一度寝たら、夢の続きが見れるだろうか。
次は現国。
現実逃避するならもってこいの時間だ。


…………。

……。
353アキヒト ◆SK8nVJOsk. :2013/07/06(土) 16:25:15.01 ID:cCMuiysbO
だれかが俺の名を、呼んでいる。

いや、俺の名ではない。
しかしこちらの方を見て少女は叫んでいた。
他には何も映らない。
魔法使いの少女が暗闇に立っている。

「―――どこへ行ったの? リィト」

赤く輝く髪に燃える瞳。
幼さの残るその顔立ちに強い使命を抱いている表情は、どこか見覚えがある。

リィト?

ああ。そうだった。俺は、リィト。
この世界では普通の人間で、別の世界ではリィトと呼ばれ魔王に立ち向かう勇者。

俺はその魔法使いの女の子に召喚され、一緒に冒険をしていた。

そんな夢。妄想。

そうだ夢だ。もう目が覚める。

…………。

……。
354アキヒト ◆SK8nVJOsk. :2013/07/06(土) 16:27:24.57 ID:cCMuiysbO
俺は眠りから目を覚ました。

夕暮れの教室の中でたった一人で眠りこけていた。
誰も起こしてくれないとか友達いなさすぎだな現実の俺。

窓から見えるグラウンドで野球部が練習をしていた。

黒板の上の時計は5時。現国どころか2時間以上も眠ってしまっていた。相当疲労していたようだ。

「………なるほど。やっぱ夢か。つうか中二病かっつーの」

恥ずかしい。リィトってなんだよボケ。死ねカス。痛すぎだろ俺。

さっさと帰って家でゲームでもして忘れよう。そういや妹がゲーム持ってったまんまだった。あのボケナスめ。
椅子を引いて席を立つ。

「――え?」

教室の出入り口。
いるはずのない人影。
俺の夢の中に出てきた少女が目の前に立っていた。
真っ黒のマントにとんがり帽子。
赤い髪の毛に赤い瞳。

「夢?」

学校の見慣れた教室に誰がどう見ても場違いな格好の少女がそこに存在していた。
さっき起きたのに、また夢?
とうとう俺の妄想しすぎな脳みそは幻影まで作り出してしまったのか?

「やっと見つけた!」

声まで聞こえた。
夢の中で話した時と同じ声。
どうなっている。
355アキヒト ◆SK8nVJOsk. :2013/07/06(土) 16:29:21.44 ID:cCMuiysbO
「何故、帰ってしまったの?あなたが帰ってしまってから世界は大変なことになってしまったんだから!」

彼女は怒っていた。
俺にはまったくもって理解できない。
つか目の前の魔法使いの様な格好をしている女の子は、本当に存在しているのか?俺の幻覚じゃないのか?

至近距離まで歩み寄る。
意外と背が低い。すこし屈むようにして顔を覗き込む。

「な、なにしてるのよ!?」

赤く煌く宝石の様な瞳。これが俺の脳みそが創り出している幻想なのか?

思わずその頬をつねる。

「い、いたッ!」

少女はビクッと後ずさりして左頬を押さえた。
反応といい、その感触といい俺の妄想や幻覚とは到底思えない。

「な、なんなんだこれは。夢じゃないのか!?それともDQNの罰ゲーム的ななにかなのか!?」

俺がつねったからか、それとも本当に罰ゲームをやらせられたからなのか、その子は目尻に涙を浮かべていた。

少女は俺を睨みつけると無言のまま杖をを取り出し、バットを振るうかのようにスイング。
先端が俺の顎を弾き上げる。

「ぐがっ!」

膝からがくがくと崩れ落ち仰向けで教室の天井を見上げる。

「こんなことしてる場合じゃないのに!」

女の子はまだ怒っていた。いや、なにか焦っているのか?
顎がじんじんと響く。
この痛み、夢じゃない。だとすると。

「私のこと、分かるの!? 分からないの!?」

この魔法使いの少女は実在し、その魔法使いの少女がいた別の世界は、存在する!?

「ベティ?」

「そう! 早く起きて! 帰るわよ! 魔王はもう半分世界を奪ってしまったんだから!」

続く
356名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/07(日) 22:45:26.27 ID:77U418yL0
乙乙
357名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/24(水) 01:16:55.57 ID:ktD29psB0
358名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/31(水) 23:15:05.02 ID:H6AvHsvuO
359名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/04(日) 11:34:31.41 ID:qKKiiusDO
ほしゅ
360名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/15(木) 14:48:49.28 ID:ebuOsezq0
保守
361名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/20(火) 19:35:46.15 ID:G0wVKxLy0
362名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/26(月) 03:04:33.85 ID:nMiUXWwf0
乙です
363名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/09/01(日) 13:36:42.38 ID:VT3bC96m0
364名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/09/09(月) 16:58:17.10 ID:Y5LZ+5uc0
乙乙
365名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/09/15(日) 19:47:33.08 ID:HfDQQEVt0
保守
366名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/09/21(土) 15:41:43.80 ID:NLmRzz2z0
保守
367名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/09/24(火) 11:34:28.67 ID:NhMbbT3u0
怖い夢を見ていた。
禍々しいオーラに包まれた空間
人を人とは思っていないような冷めた瞳
首元に突き付けられているのは大きな鎌の先
体が震えるほどの恐怖を感じながら
頭の隅で、どうせ夢なのだからとタカをくくっていた。


唐突に目が覚めた。
なんかいやな夢をみたと、目を開けてみると見覚えのない部屋にいた。
広い空間、白っぽい壁、タンス、本棚、観葉植物、複数の水色のベッド。
そのうちの1つで寝ていたらしい、窓の外からは日の光が差し込んでいる。
正直、意味がわからない。ここはどこだ?
ベッドから降りようとすると、扉が開かれた。
「あら、お客さん起きたのね。おはよう。よく眠れた?」
「はぁ、まぁ。」
返事はしてみたものの、開いた口がふさがらない。
現れたのは、若いと推測される到底人間には見えない水色の肌をした女性だった。
色だけじゃない、耳があるべき場所にヒレが、背中にもヒレが。
ウェディ・・・・・
唖然として眺めていると
お姉さんはタンスからなにかをとりだしそのまま部屋から出て行った。
ベッドを降りる。
そばにおいてあった靴を自分のものと断定して適当に履き、急いで部屋をでた。
さっきのお姉さんはカウンターにいて、驚いた顔でこっちを見ていた。
「どうかした??」
声をかけてきたお姉さんを無視して出入り口と思しき扉へ向かう。
扉を開けると太陽がまぶしくて、一瞬目がくらんだ。
とっさに腕でかばったがすぐに目が慣れてきたので腕を下して、
数歩、宿屋から外に出て周りを見渡す。
視界に入ってくるのは白い建物の街並みと広い海と南国風の木々。
完全にジュレットの町だった。
368名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/09/30(月) 00:39:20.89 ID:vF0UosJ20
保守
369名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/10/05(土) 12:57:52.81 ID:okv/voGy0
370名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/10/11(金) 03:06:57.29 ID:LLzhOXWO0
371名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/10/15(火) 13:33:17.47 ID:3yodUhTj0
372名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/10/20(日) 14:24:32.27 ID:rp0Xvxcd0
373名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/10/29(火) 20:29:15.99 ID:oRMOnWNMO
374名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/11/05(火) 01:47:11.36 ID:1IX6M2HA0
375名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/11/05(火) 01:49:41.66 ID:kJkaG2X60








ほーたる来い


ついでに執筆者もやって来い
 
あと絵板もよろしくね
376名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/11/09(土) 00:15:19.22 ID:dKTi9yRL0
捕手
377名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/11/18(月) 23:34:01.84 ID:b6GynrrE0
ほしゅ
378名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/11/28(木) 02:32:03.71 ID:F3/UgLoe0
379名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/12/04(水) 22:41:39.85 ID:WRufkKlP0
乙です
380名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/12/11(水) 00:57:00.55 ID:3CBw4kRU0
ほしゅ
381名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/12/18(水) 00:01:48.72 ID:/QGrErvy0
保守
382名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/12/25(水) 00:55:22.97 ID:iQW+OdLJ0
投下を期待
保守
383名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/12/28(土) 15:05:47.16 ID:SvAy7Raf0
ほしゅ
384名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/12/30(月) 13:30:24.16 ID:11yecn7P0
\   /\   /
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385名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/01/05(日) 23:27:37.09 ID:0+v8Bm9Z0
あけましておめでとうございます
386名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/01/12(日) 01:55:28.33 ID:BwDEBfLp0
387名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/01/17(金) 01:41:43.41 ID:iOpWv30a0
しゅ
388名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/01/23(木) 21:59:45.45 ID:NeFh/+t90
捕手
389名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/01/28(火) 20:59:28.22 ID:iKcpVE9M0
久しぶりなので保守がわりにちょっとテスト
390名前が無い@ただの名無しのようだ
連投ごめんなさい、どの程度の投下間隔でいけるのかちょっと計らせてください。