【スクエニ】和田洋一という男 15【社長】守銭奴

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274出口のない迷宮
人々の欲望の深さを象徴するかのように空高くそびえる東京のビル群に、沈む太陽が陰影を与えていた。

そうしたビル群を一台の車が駆け抜けていく。網の目のように張り巡らされた首都の街路は人という種族があくなき探究心の果てに築き上げた迷路だった。

車の中では運転手の他に2人の男が鎮座していた。

野村「なんでボクまでいかなくちゃいけないんですか?」
洋一「さっきから愚痴ばかりだな。そんなに嫌か」
野村「興味がないんですよ」
車が止まり二人が降りると目の前には会員制のお店があった。洋一にひっぱられるような形で野村も店内に入っていった。

「いらっしゃいませ。和田社長、本日もおこしいただきまして、うれしいですわ」
二人はすぐにホステスたちに囲まれた。
洋一が、「こいつがファイナルファンタジー7の登場人物をつくった男だ」と紹介すると、ホステスたちから黄色い歓声があがった。
「わたし、クラウドが好きなんです!」。ホステスは身体を野村にぴったりとくっつけてきて、野村の膝の上に手をおいた。野村は一瞬身体をびくんと硬直させた。

洋一「楽しかっただろう。おまえには生身の女をもっと知る必要があるんだ。最近、おまえが関わる商品がパッとしないのは、二次元の女ばかり相手にしているからだ。」

野村は、どうでもいいです、今日は疲れたんで帰りますと言うと足早に都会の喧騒の中に消えていった。

「ふぅ〜」。洋一は深呼吸するとタバコに火を点けた。ファイナルファンタジー7のような大ヒットを生み出す力を野村は既に失っているのではないか?さっきの店での野村の態度をみていてその思いは強くなった。
洋一は上がらない株価と伸びない売上の原因探しに必死になっていた。野村をつれてきたのもその原因探しの一つだった。


スクエアエニックスが築いてきたものは、高層ビルのように高い目標をめざしていた。ゲームを手にとる人々にそれまで体験したことのない夢のような時間を提供するというものだった。しかしその目標はこのままいけばバベルの塔のようにくずれさる。
そんな会社を率いている洋一は拝金主義という名のラビリンスに彷徨う哀れな人間の一人にすぎないのかもしれない。