代理投下します
ギュメイ将軍が再び意識を取り戻してはじめに抱いた感情は、戸惑いであった。
ガナン帝国に忠義を尽くした人間としての生涯。
エルギオスによって豹頭の剣士として蘇られされてなお、ガナン帝国への忠義を選んだ魔獣としての生涯。
そのいずれも、悔いも無きものであったはずだ。
自身の生に、既に未練などなく。
唯一の未練であったのは、主君ガナサダイとその父、先代王ガンベクセンの確執であった。
が、それさえも天使の少女たちによって無事に解決を見た。
ガナンの歴史の全てを見届けて、ギュメイは今度こそ天に還ったはずなのだ。
故に不可解であった。
再びこうして受肉したことに、果たして今、何の意味があるのか?
守るべき国は既に無く、従うべき主君は既に亡く。
空虚なギュメイの中に、ただ一つ残されていたのは、剣の道であった。
ゆえにギュメイは立ちあがり、再び剣を取る。
唯一残されし剣の道。そこに提示されたこの死合いの場。
強者との対峙は、好敵手との出会いは、ギュメイとしても望むところではある。
弱者までも斬り捨てることについては抵抗があるものの、帝国再建の前には詮無きこと。
勝利者へと提示された『褒美』をもって、ガナン帝国の再建を願うのも一興か。
この再生に意味があるなら、それは国に殉じることであると、己を納得させながら。
ギュメイが落とされたのは、牢獄の町と呼ばれる施設の地下だった。
捕らえた虜囚たちを、この場に住まわせて生活させていたであろう、生活の跡が散見されている。
およそいいとは言えない環境に眉を顰めていると、一人の青年と出会う。
その身のこなしは戦士として申し分なく、ギュメイは迷うことなく声を張り上げた。
「我が名はギュメイ、ガナン帝国三将の一人! 戦士よ、我と手合わせを願う!」
○
「いいぜ。ちょうどひと暴れしたかったところだ……!」
豹頭の男の出現にも物怖じ一つせず、申し出を二つ返事で了承した青年は、その名をアレルと言う。
勇者となるべくして生を受け、勇者となるべく育てられてきたこの男は、
皆が皆、己が望むがままに動いてくれることをいいことに、結構な乱暴者として育った。
手癖は荒く、旅に出て彼がまず行ったのは民衆からの略奪であった。
腕っ節は強く、従わぬものは、なんであろうと力で従わせた。
だが同時に気に入らぬ悪党も片っ端から捻り潰してきたことで、批難の声は徐々に賞賛へと変わっていく。
人を惹きつける"カリスマ"が、彼には備わっていた。
付き従う仲間の一計により、魔法の腕輪を身につけるなどで若干の性格矯正は行われはしたものの、
その破天荒な生き方そのものは変わることはなく、彼は全ての道を、己が力で切り拓いていった。
どこまでも自由に。
力も、富も、名声も、平和でさえも、彼に手に入れられないものは何も無く。
暴れ馬は、やがて万人が認めるところの勇者として大成した。
英雄として持て囃される生活に、やがて退屈を抱いたアレルは一人、旅に出た。
求めたのは単純に、新たな刺激である。
この地に彼が落とされたのは、そんな矢先であった。
強制的に戦いを強いるというこの場は、望んだ刺激と程遠く、到底受け入れられるものではなかった。
己の望むがままに進むアレルにとって、束縛を意味する首輪などは特に不愉快で。
アレルは憤慨し、苛立ちを隠しもせず牢獄の町を歩いていた。
そんな矢先に挑まれた決闘を、彼が受けない理由はなかったと言えよう。
○
「では、参る!」
牢獄の町に、気合の咆哮が響き渡る。
先制したギュメイの鋭き炎を纏った斬撃を、こともなげにアレルは打ち払った。
すかさず反撃に転じようとするが、ギュメイは重心を取り戻し、既に追撃を構えている。
足元よりバランスを崩さんと振り上げられた斬撃を、アレルはそれでも冷静に後退して回避。
右脚に力を込め、ギュメイを押し潰す勢いでアレルは猛進。
しかし当たるか当たらないかのところでギュメイは脱力し、勢いを殺してから剣を突き出した。
アレルは目だけでそれを追うと、前屈のような形で避けてみせる。
そのまま床に両腕をつけ、それを軸にして倒立し、足を開いて大きく回転。
体術を以ってギュメイを怯ませると、アレルはいきおい立ち上がり今度は上段に剣を構え、跳躍。
ギュメイが受けることを放棄し後退すると、剣の振り下ろされた床面が大きく爆裂した。
飛び散る石材に乗じてギュメイが前進すると、アレルはそれを待っていたとばかり正面から受ける。
そうして、鍔競り合う形で二人は対峙した。
「自己紹介が遅れたな、オレはアレル、覚えておきな」
「どうやら相当な手練の様子。こうして剣を交えられること、礼を言わせてもらおう!」
「こっちも嬉しいぜ。オレに堂々とケンカを売りに来たやつは、久しぶりだからな……!」
その後の二人の剣戟は、熾烈を極めた。
大剣であるバスタードソードを、まるでひのきの棒のように軽々と振り回す豪腕のアレル。
長剣である山賊のサーベルに、持ち味の鋭い剣さばきが加わり、超スピードで立ち回るギュメイ。
互いに戦いを長引かせることは得策ではないと考えながらも、一方でもっと続けたいと滾りあう。
好敵手。互いを認めるのに、そう時間はかからなかった。
だからこそ、アレルは問いかける。
「……お前は何のために今、剣を振るってんだ?」
「忠義の為。失われし我が主と、亡国の再建を望んでいる」
「で、それは誰が叶えるんだ」
「この死合いに勝利することで『褒美』が得られると聞いている。それを為して――」
「本当に叶うと、叶えてくれると思うか」
「!」
剣戟が、止まる。
ギュメイはひとたび距離を取り、思案する。アレルもそれを追おうとはしなかった。
アレルの問いは、ギュメイの心に深く突き刺さった。
蘇生に戸惑いその場しのぎの間に合わせとして考え付いた「帝国の再建」という動機。
だがこれは、『馬鹿正直に魔物たちが願いを叶えてくれる』という前提に基づいたものだ。
疑念にまみれた、ひどく不安定な前提であることは間違いない。
それに。
「だいたい、そんな労せず手に入れたてめえの国に、そんなに価値があると思うのか?」
「……」
「内心、分かってるんじゃあねえのか。そんなことはありえねえし、そもそも違うんだってよ。
そういう迷いが剣に現れてるいまのお前は、ちっとも面白くねえ」
反論の余地がなかった。
ギュメイの知るガナン帝国は、既に失われている。二度と蘇ることなどない。
蘇ったとして、それは仮初のものに過ぎない。偽者だと言ってもいいだろう。
ギュメイの知るガナサダイはもう亡く、三将としてしのぎを削ったゲルニックとゴレオンも倒れた。
無論、ギュメイ自身の魂も。
その全てに納得していたはずだというのに。
目先に釣り下げられた安い餌に食いつこうなど、自身への、そして帝国への愚弄に他ならない。
「しかし、それでは我は、何のために生き返ったと……?」
「知らねえよ、そいつは自分で考えろ。ただ、せっかくもらったその命。
このままこの殺し合いの為に、奴らの思惑通りに使って、それでいいって満足できるか?」
「……否」
「なら、オレと来いよギュメイ。お前の本当の剣を、オレに見せてみろ」
「……だが我は、二君に仕えるつもりは」
「従わせるつもりなんてねえよ、好きなようにしてりゃあいい。
お前が無事に吹っ切れたら、そんときにもう一度、戦ろうぜ」
アレルはニッと笑い、剣ではなく右手を突き出した。
粗暴だが、力あるアレルの言葉に、ギュメイは大きく心を動かされていた。
好敵手足りうるこの男と共に、新たな生きる意味を探すのも良いかもしれないと。
ギュメイは、迷いながらもアレルのその手を取らんと新たな一歩を踏み出そうとして――。
その手を取ることは叶わなかった。
ビシュッ――
「がっ……!?」
突如として放たれた矢が、アレルの首筋を貫いていた。
○
「何奴!?」
突然のことに驚き振り向いたギュメイが眼にしたのは、浮遊する機械兵の姿。
くすんだ鈍色の装甲は傷一つ無い光沢をたたえ、あらゆる攻撃を弾き返す鉄壁の防御を感じさせる。
尾のように伸びた下半身の先にはビッグボウガンが備えられていた。
アレルを射抜いた矢は、恐らくここから放たれたのだろう。
目を惹いたのは、両手で構える星をかたどった戦鎚"星砕き"の存在だ。
その直撃を受ければ命はないことは、想像に難くない。
数々の脅威を従えた機械兵――キラーマジンガのモノアイは、ギュメイとアレルを確かに捉えている。
キラーマジンガは再び弓を引き絞ると、今度はギュメイに向けて撃ち放った。
「ちいっ!」
それを辛くも回避するも、キラーマジンガは既にギュメイに肉薄していた。
胴体部を伸ばし、独楽のように上半身を回転させながらの突進。
高速で振り回される戦鎚にたまらず、ギュメイは大きく吹き飛ばされて壁に激突する。
サーベルで受けたことで負傷は最低限に抑えられたものの、問題はそこではなかった。
「アレル!」
叫んだ時には既に遅く。
キラーマジンガは勢いそのまま、負傷したアレルへと迫っていた。
ギュメイを吹き飛ばすに留めたのは、先に弱ったほうから仕留めるためだった。
「くそ、があああああっ!!」
首に矢が刺さり呼吸もままならぬアレルは、しかしそれでも十分な抗戦を見せていく。
回転する戦鎚の一撃は回避し、今度はボウガンの矢も打ち払って見せた。
が、さすがの勇者であっても、重傷を負った状態で戦うには困難な相手であった。
酸素を失い、残る力の全てを賭けて放った突きは、胸部の装甲を僅かに貫くに留まり――。
完全な無防備となったアレルの頭上に、一切の慈悲無く星砕きが振り下ろされた。
ぐちゃり、どさり――……。命の潰える音が、響く。
持ち主を失ったバスタードソードを体から引き抜くと、キラーマジンガはゆっくりと向き直った。
改めて、次はお前だと言わんばかりに。
モノアイを真っ直ぐに見据えて、ギュメイが吼える。
「よくも、よくも邪魔立てをっ!」
好敵手を屠ったキラーマジンガに怒りをあらわにし、ギュメイは腰を落とし構える。
狙うは必殺の一撃、魔神斬り。
直撃すれば聖騎士すらひとたまりもないその一撃を、全身全霊をもって放つ――。
「――受けてみよっ!!」
魔神の如く斬りかかったその一閃は、確かにキラーマジンガを捕らえていた。
直撃すれば必ずや、装甲が砕け散るはずの威力であった、しかし。
砕け散ったのは、山賊のサーベルだった。
アレルとの剣戟をくぐりぬけ、星砕きの一撃に耐え、既に疲労の蓄積していた長剣。
ギュメイの渾身の一撃と、厚き装甲の激突による衝撃は、限界を超えるに十分なものであった。
刃を失い大きく威力を損ねた魔神斬りは、結局、肩口の装甲に傷を残すだけに終わる。
武器を失ったギュメイに、もはや反撃を避ける術は残されていなかった。
「み、見事……!」
キラーマジンガが、星砕きとバスタードソードを振りかぶる。
ギュメイは同時に体を押し潰され、切り裂かれた。
○
キラーマジンガに輝かしき生まれのルーツも、誇るべき育ちのエピソードも存在しない。
ただ数多の冒険者を血の海に沈めてきたという、都市伝説がまことしやかに囁かれているだけだ。
造られた命に与えられた『任務』は、一つ。
自由に生きた勇者の剣も、忠義に生きた武人の剣も、機械兵にとっては等しくただの獲物に過ぎない。
「もしこの戦いを生き延びたいのなら、この私をたおしてゆくがいい――」
キラーマジンガは牢獄を彷徨い、新たな標的を求めている。
【A-4/牢獄の町 居住区/朝】
【アレル(DQ3男勇者)@DQ3 死亡】
【ギュメイ将軍@DQ9 死亡】
【残り56人】
【キラーマジンガ@DQ6】
[状態]:肩口と胸部に傷(行動に支障なし)
[装備]:星砕き@DQ9 バスタードソード@DQ3 ビッグボウガン(鉄の矢×27)@DQ5
[道具]:基本支給品一式 不明支給品(武器以外×0〜1)
アレルの不明支給品(0〜2) ギュメイ不明支給品(0〜2)
[思考]:命あるものを全て破壊する
※山賊のサーベル(折れている)@DQ9はギュメイの死体の付近に落ちています
代理投下終了です。
うおおマジンガ様やっぱこええええ
投下します。
レベル不足のため、あまりに投下に支障をきたすために代理依頼いたしました。
どなたかお手すきの方どうかよろしくお願いします。
「まっ暗だ」
抑揚のない声が、暗闇に木霊する。
彼の声が示すまま、そこは一面広がる闇だった。
それっきり一言も漏らすことがなく、ただただ沈黙が続く。
そしてしばらくして。
「灯りが、いるな」
ごそごそと、感触を頼りにふくろを漁りだした。
何が何だかわからないまま招かれたこのゲーム。
確かに彼ならば魔王たちの目に留まるのも無理ない存在だ。
何せ、彼は破壊神を仲間と共に討伐したいわば『勇者』である。
お声がかかるのも当然、そして大活躍間違いなしの有望株─と、言ったところだろうか。
だが。
現実は少し違う。
あまりに致命的な弱点が、彼にはあった。
「つかん」
支給品の着火器具、ランタンを取り出したまではいい。
それが、どちらも暗闇を照らすのに必要なところまではわかる。
わかるのだが。
どうやって火をつけるのか。
それにどうやって灯りをともすのか。
彼はそれらを行うのに、致命的に─頭が弱かった。
わからないなりの行動で、ランタンの蓋を開けようと手に力を込める。
だが。
「あっ」
ランタンは、紙屑のようにくしゃりとつぶれてしまった。
不良品だったわけではない。
彼の力が強すぎるのだ。
隣国の王子という仲間を得るまでは、暗闇を勘だけで進まざるを得なかった理由がよく理解できる。
「またやってしまった」
彼は、生まれながらに異常なる力を携えて生まれてきた。
両の足で立つことを覚える前に、逆立ちをしてみせる。
年上の子供と駆けっこをしてみて、あっさりと追い抜いてしまったこともある。
さすがは勇者の血筋、神童だと皆が持て囃した。
だが、やがて彼の底なき力が、更なる頭角を現す。
神童と呼ばれた赤子は、やがて怪童と評されることとなった。
彼の力は決して尋常なものではない。
ようやく、ようやくではあるが皆が異常を感じ始めたのだ。
与えられた玩具は全て変形し、酷いときには握りつぶされた。
乳母が手を引けば、逆に引きずられ怪我を負う。
勉強の時間には羽ペンを何本もへし折って、最終的に何があったか家庭教師の鼻もへし折られた。
父王は、力の有り余る息子に王宮剣術を習わせてみた。
行き過ぎた力も、発散すべきところで振るえば少しは収まるのではないかと、考えたからだ。
だが、現実はうまくいかない。
剣の指南役を完膚なきまでに打ちのめし、二度と剣を握れない体にしてしまった。
いつしか、王子の周りからは誰も居なくなった。
まるで檻から放たれた獣。
いや、それ以上に恐ろしいものを見る眼で、彼を遠巻きから眺めることしかしなくなった。
やがて怪童は─悪魔の子とまで呼ばれた。
ある日彼は、半ば追いやられるように、邪教の神官を倒す旅へと差し向けられた。
姉妹国が陥落したのをいいきっかけとでも言うかのように、剣一本とはした金だけを握らせ。
彼の父は、死出の旅へと息子を追いやったのだ。
いつか、自分の国が息子によって滅ぼされるのではないか、と恐れたために。
いっそ名誉の戦死を遂げることを望み、その背を押したのだ。
だが。
彼は帰ってきた。
ハーゴンはおろか、破壊の神すら捻じ伏せて。
恐るべき膂力で、すべてを破壊して帰ってきたのだ。
国民は世界の平和が取り戻されたことに喜び─我らが王子の無事の帰還に、大いに嘆いた。
破壊神をも破壊した恐るべき存在が、帰ってきてしまったと。
「あのとき父上は、ハーゴンを倒してこいと言った」
彼はこうみえて、父を信頼していた。
心に秘めた善き王になろうという気持ちに、一片の曇りもない。
もっとも嘘がつける頭は持ち合わせていないが。
ともかく彼は、正真正銘の『勇者』たる者で間違いないのだ。
だが、余りに─無知すぎた。
「今、おれは、どうする。どうしたらいい。また、戦えばいいのか。戦って─」
目の前で起きた惨劇に、怒りが湧くこともない。
これから起こるであろう争いを、恐れることもない。
なにせ─
「みんな倒せば、いいのか?」
彼には未だ『命』が理解できないのだから。
自分が奪った幾多もの魔物の命も。
周りで失われていった数々の人間の命も。
自分自身が、今生きているという事実すらも。
倫理とかそういうものを、超越していたところに彼は立っていた。
「ヒヒ……おまえさん……こっちへおいでよ」
「?」
悩める彼を、ひとつの声が導いた。
かすれた声がこちらに届くが、なにせ完全な暗闇では正体がわからない。
持ち前の動物的勘で、声のした方に足を進める。
通常手さぐりでおっかなびっくり進むであろう闇の中を、ずんずんと自信ありげに。
「そうそう、こっち……」
ぼう、と光を見つける。
向かうと曲がり角の先に、ぽつりとランタンが置かれていたのだ。
灯りの主は、いない。
「おまえさん、灯りが欲しいんだろう?見てたよ」
「見えるのか?」
「暗闇にゃ慣れててね……ヒ、ヒヒ」
妙に上擦った笑い声が、か細く彼の耳に届く。
が、やはり姿が見えない。
声の大きさから、そう遠くには居ないはずだというのに。
「壊れちまったランタンの代わりに、俺のをやるよ」
「いいのか?」
「俺にゃ必要ないからねぇ。火を消すくらいはできるだろう?」
既に灯りが灯ったランタンを拾って、再びきょろきょろと見回す。
道は照らせたものの、先行きが暗闇なのは変わりない。
「ありがとう」
長い旅で仲間から教わった、貴重な財産を口にする。
わずかながらも人としての心を、長い旅と仲間との絆から彼は得ていた。
ローレシア王も、ほんの僅かでも息子を信じていれば、きっと気づいただろう。
彼が遂げた、素晴らしき成長に。
「礼はいいさぁ……それより、お兄さん。迷っていたね?『どうすればいい』って……」
「わからないんだ。おれは何をすればいいんだろう」
だが。
自らの願いを実現するために行動する。
なんとも惜しいことに彼には類稀な力を用いるべき指針。
すなわち『夢』や『望み』をまだ、彼は見つけていなかった。
「おやおや。聞いていなかったのかい?」
「え?」
「あのじじいが言ってたろう『 お前たちにはこれより、殺し合いをしてもらう 』 ってね」
暗闇からの声が言うとおり、確かにそう言われてこの地に招かれた。
殺し合い。
(なんだろう)
殺す。
(それはいったい、なんだろう)
その言葉が、彼の心に引っ掛かりを覚える。
彼は─あまりに、素直すぎた。
「殺すって、なんだ?」
「……ヒ、ヒヒ!ヒッヒ!いやぁ、そんな質問されるたぁ思ってなかった」
誰よりも純粋故に、質問を投げかけた。
その答えとばかりに、さも愉快そうに暗闇の中から笑いが届く。
対して彼は、首をかしげることしかできない。
「ヒヒ……ああ悪ぃね、もののついでだ教えてやるさ……そのふくろ、中身を見てみたかい?」
「まだだ」
手を入れて最初に出てきたのは、盾だ。
何とも禍々しく巨大な『オーガシールド』。
彼はそれを、なんとも軽々と掲げてみせた。
「おお、いい、実にいいよそいつは。だが戦いには必要なモンが他にある」
次に取り出したのは腕輪。
満月を模った宝珠が光る『満月の指輪』。
とくに躊躇いもなく、指に嵌めてみる。
「指輪は、戦士のたしなみだ。なんつってな、だがそうじゃねえ。それじゃねえのよ」
そして最後に、彼もその手に懐かしい感触が残る武器が取り出された。
『大金槌』。
破壊力のみを追い求めたシンプルかつ強固な作りの、打撃武器である。
「そう、そういうのだ……簡単さ。
『武器』を『装備』して『戦う』。おまえさんがするのはそれさ」
「そんなことで、いいのか?」
「その体つき見りゃわかるぜ?おまえさんはそれしか能が…おっと、それが得意なんだろう。
なら、ここでも同じことをやってりゃいい。」
なんとも真っ直ぐな目標を目の前に打ち立てられた。
揺れることなど微塵もなく、ただ真っ直ぐに─
「わかった。そうする」
歩み出すしか、なかった。
善悪の分別も。
倫理観も。
彼には不足し過ぎていた。
闇からの上擦った笑いが、抑えきれなくなるようなものに、変わる。
「そーさ、人間だろうが魔物だろうが構うこたねえ。
勝ち残ってお前さんの願いでもなんでも叶えちめえばいいのよ」
「ねがい?」
「無きゃ無いで別にいい。『いいえ』とでも言っておきな。
ともかくお前さんのやるべきことを俺ぁ確かに教えたぜ。がんばりな」
「わかった」
とうとう、顔も見せない闇からの囁きに唯々諾々と彼は従う。
余りに純粋で、無垢で、そして危うき存在は、解き放たれたのだった。
彼は気づかなかった。
名簿というものが、ふくろの中にあることを。
気づけなかった。
この地に招かれた、大切な友の存在に。
破壊神を破壊した男が、暗闇を抜けだし歩き出す。
無限の戦いが待つ、道へと。
「……バカとハサミは……ってね、ヒヒッ」
暗闇に完全に溶け込んだ存在が、カタカタと顎を鳴らして笑いを漏らす。
影の騎士。
アレフガルド侵攻の折に、潜伏能力を大いに活用し主に諜報活動を行っていた魔物だ。
何の因果か招かれたこの戦いで、影の騎士は妙案を思いつく。
「最後の最後まで、闇から闇へと……ヒッヒッヒ」
戦わずして勝つ。
そう、自らの主ですらも出し抜いて、勝者となるべく策を巡らせたのだ。
竜王にすら表だって見せない、その狡猾な本性が今露わとなった。
「さて……あのボンクラは何てぇ名前かな……?」
最初の標的が余りにもすんなり扇動され、彼は笑いが抑えきれなかった。
次はどう騙そうか、どう嘯こうか。
(ヤツの名を殺人者として他の連中に吹き込もうか?
ヤツに仲間がいればそいつも殺人者の仲間ってこった!!)
人を陥れるという事をまるで遊戯のように考え、今や玩具扱いしている。
考えるだけで愉悦に溺れそうであった。
「……?」
笑いがピタリと止まる。
狡賢く、知略を巡らしてこのゲームに臨もうという影の騎士に。
理解しえない最初の壁が立ちはだかったのだ。
「もょ…もと……?」
どう発音しよう。
髑髏の顎が開きっぱなしになった。
【E-8/欲望の町/朝】
【もょもと(ローレシア王子)@DQ2】
[状態]:健康
[装備]:おおかなづち@DQ2 オーガシールド@DQ6 満月のリング@DQ9
[道具]:基本支給品一式
[思考]:『たたかう』
【E-8/欲望の町 炭鉱/朝】
【影の騎士@DQ1】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:基本支給品一式(ランタンなし)不明支給品1〜3
[思考]:闇の中から中へと潜み続けて、戦わずして勝ち残る。
争いを加速させるためあらゆる手段で扇動する。
957 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/04/05(木) 13:20:48.19 ID:Qjv6fd9s0
始まったか
埋まるまではこっちのスレ使った方がよくない?
容量がもうギリギリなんよ
梅
うめうめ
テス埋め
うめ