ドラゴンクエスト・バトルロワイアル Lv11

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877名前が無い@ただの名無しのようだ
ルール纏め乙です
特に問題はないと思います
878名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/04/01(日) 21:07:33.71 ID:UsKK9SCd0
重箱の隅だけど…
>>874
>[道具]:キャラクターがザックなどに〜
ザック→ふくろ かな

地図は>>857の修正済マップで決定ですか?

あと、>>865に予約無しはNGとあるけどこの先もずっとその制度でいくんでしょうか?
879 ◆jOgmbj5Stk :2012/04/01(日) 21:14:06.77 ID:Illi9ef30
>>878
> 重箱の隅だけど…
> >>874
> >[道具]:キャラクターがザックなどに〜
> ザック→ふくろ かな
そうです。修正します……すみません。


> 地図は>>857の修正済マップで決定ですか?
異論がなければコレで行きたいですね。
8×8がやっぱりキリのいい数字に思えるので。

> あと、>>865に予約無しはNGとあるけどこの先もずっとその制度でいくんでしょうか?
最近物騒な話が多くてつい弱気になって追加したルールです。
個人的にはない方がいいのですが、やっぱり予防線的な意味でつけるべきかな、と。
みなさんはどう思いますか?
880名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/04/01(日) 22:14:18.42 ID:XTtLRCdOO
最初は予約無しでもOKで、とりあえず様子見るのはどう?
荒らしが沸いてきたりして問題ありそうだったらまた議論することにして
予約必須だと登場キャラ伏せたり出来なくなるし
881 ◆jOgmbj5Stk :2012/04/01(日) 23:21:37.35 ID:Illi9ef30
そうですね。
土壇場で申し訳ないですが、やっぱり予約必須は見送ります。
問題が起きたら、その時にまた考えるということで。

DQBR予約スレ
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/30317/1333274887/

テストしてくださった方によると12桁トリップは対応してないようですので、
予約の際は注意してください。
882名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/04/02(月) 00:29:40.30 ID:s7BgUrH80
代理投下いきます。
883:somebody to love  ◇CASELIATiA:2012/04/02(月) 00:31:26.60 ID:s7BgUrH80





僕は、妻のことを愛してなどいなかった。







一生に一度の大切な儀式、結婚式。
僕――リュカ――は三人の女性から一人を選ぶことを許された。
幼いころから自分を引っ張ってくれた幼馴染、ビアンカ。
すべてを兼ね備えた深窓の令嬢、フローラ。
フローラの姉で、突如参入した第三の女、デボラ。
三人は揃って、魅力的な女性だった。
そんな若く美しい女性から一人を選ぶというのは、本来なら男冥利に尽きるものであろう。
だがしかし、僕にとっては真実の愛を取るか、喉から手が出るほど欲しい宝を取るか、という究極の選択を迫るものであった。
三人は必ずや良き妻となると言っていいだろう。 ……一人怪しいのがいるけど。
だからこそ、迷う。 誰にも落ち度はないが故に、減点方式で選ぶことなどはできない。
タイムリミットは、水のリングを持ち帰ってから、その翌朝の朝までのわずか10数時間。
一世一代の決断をするための時間はそれだけしかなかった。
考えても考えても、答えは出ない。 時間だけが無情に過ぎていく。
町の人は如何にも他人事だという風に、僕が誰を選ぶかを予想し、金まで賭けていた。

……結局、僕はフローラを選んだ。
グランバニアの不在王、偉大なる父デュムパポスの遺志を継ぐために、父の教えに背くことをしたのだ。
父は決して僕を許しはしないだろう。
サンタローズに残された手紙に書いてあったが、父は息子の僕が修羅の巷に追いやられることを決して無理強いはしなかった。
いるか分からないような勇者を探すより、生きてるか分からない母を探すより、慎ましい幸せを手に入れろと言っていたのだ。
そんな父が、遺志を継ぐことを喜びはしても、そのために自分の心に嘘をつくことを喜びはしないだろう。
パパスにとっても、幼き頃にリュカと冒険し、苦楽を共にした幼馴染を選ぶ方を望んでいただろう。
美しい薔薇にはトゲが付き物という。
白薔薇のフローラを選んだ僕の心にトゲが刺さるのは、自業自得としか言いようがなかった。

妻になったフローラはよく尽くしてくれた。
僕の本心などとっくに見抜いていたであろうに、それでも尽くし続けることが貞淑な妻の役目であるかのように。
まったくもって、自分には出来すぎた奥さんだと言わざるを得ない。
それなのに、僕はいつまでも恩の一つさえフローラに返すことができない。
良き夫を演じることはできるし、そうするよう努めていたが実際は仮面夫婦のようなものだ。
愛情もなく、あるのは打算のみ。
それどころか、僕がフローラに対して持っている感情は感謝でも恩でもなく、負い目であった。
僕は、フローラを、ルドマンさんを欺いた。
そうすることが世界を救うために必要だと、卑怯な自分を正当化して天空の防具の内の一つを手に入れた。
884名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/04/02(月) 00:32:14.87 ID:s7BgUrH80

僕は、彼女を守らねばならない。
僕の嘘に振り回された結果、世界中を旅し、辛い思いや苦しい思いをたくさんしてきたのだ。
だからせめて、それ以外の全ては、愛することができなかった代わりに、他の全てを彼女に与え、守り続けよう。
デモンズタワーに連れ去られた時もそうだ。
僕の都合に利用された彼女が、こんなところで死ぬことなどあってはならないからだ。
幸せにはできない分、平穏に過ごしてほしいのだ。
そして、ここでも守る最優先対象なのは変わらない。
僕は、彼女を守らねばならない。
どんなことがあっても彼女の危機には駆けつけ、救い出さねばならない。
それこそが、僕の彼女にできる唯一の事なのだから。



◆     ◆     ◆







あの人は、私のことを愛してなどいなかった。







見れば見るほど、不思議な世界だと思う。
昼でも夜でもない、蒼ざめた不気味な空の色。
極彩色の色がまるでオーロラのように空に広がり、随時その色を変えていく。
肌に感じる、濁り切った風と空気が鼻孔にも入ってくる。
人間の中にある本能的な不安と恐怖を呼び起こすかのような、邪悪な者によって用意された舞台
草も土もくすんだ色をしているこの世界は、自分らの知っている世界とは何もかもが違うのだと、嫌でも思い知らされた。
この世界は、到底人が暮らしていけるようなものではない。
こんな場所にいつまでも居続けると、人はいつか心が壊れてしまう。
それが、フローラ・ルドマンことサラボナの大富豪ロベルト・ルドマンの愛娘の第一印象であった。

絶望の町、というらしい。この町は。
あの凶悪な魔物が何故こんなネーミングをしたのかは、フローラにも想像はつく。
その名前に込められた悪辣なメッセージを思うと、探索しながらも胸が痛くなる。
しかし、こんな場所にも人が生活していたことに、フローラは少なからず驚いた。
もちろん、今回のためだけに用意された、という線も考えることはできる。
それならば、一生ここで暮らし続けることも覚悟せざるを得ないということだ。
誰か一人になるまで殺し尽くして、一人元の世界に帰るのが幸せなのか、ここですべてを諦めて、残り少ない時間を平穏に過ごすか。
それは果たしてどっちが幸せなのだろうか?
そこまで考えて、フローラは首を振ってその考えを振り払った。
雰囲気に呑まれかけている。 あの空間での出来事を思い出すと、仕方ないといえば仕方ないか。
心を強く持たねばならない。 絶望に押しつぶされては断じていけない。
鼓動の数を次第に増やしていく心臓を、服の上から押さえつける。
疲れてる訳でもないのに、額に汗がジワリと浮かんでいる。
不安か焦りか、緊張か。 そういった感情が身体によくない影響を与えているのは間違いないだろう。
885somebody to love  ◇CASELIATiA:2012/04/02(月) 00:33:47.38 ID:s7BgUrH80

人の営みが行われていたあろう住居、店を開いていたと思われる建物。
人の息吹が感じられる場所にフローラが飛ばされたのは、ある意味幸せというべきか。
だが、ここに人が住んでいたとすれば、その生活はお世辞にも豊かとは言い難いようである。
あちこちにヒビの入ったタイル、老朽化していまにも倒壊しそうな壁。
修繕する暇も余裕もないのであろうそれらは、この世界に希望がないことを物語っているかのようだった。
見れば、毒の沼まで近くにあるではないか。
毒の沼は大人にはそれほど害はないかもしれないが、子供なら命に関わる事態に陥ることもあり得る。
目の前に広がる死の沼をどうにかする余裕もないほど、困窮していたということだろうか。
きっと、ここで生きていこうにも、限界ギリギリの生活を続けるしかないのだろう。
作物の収穫だって期待はできそうにないし、狩りをしようにも、仕留めるべき獣がいるかどうかも怪しい。
そして、人はいつしか希望を忘れ、絶望のみを味わっていくのだろう。
人の心の弱さを的確に突き、人を絶望に陥れる。
ここはそういう町なのだ。

しかしながら、フローラは目当てのものを見つけた。
こんなところでも……否、こんなところだからこそ、こういう施設はあるのだろう。
迷える子羊の行き着くところ、救いを求める神の子の集う教会堂。
人がいる限り信仰は絶えない。
ならば、この世の果てに位置するこの絶望の町にも、あって然るべきであろう。
かつて神に仕えていた経験のあるフローラは、まずこの教会がないかを探していたのだ。
見つけた建物を遠目に捉えながら、フローラは足を急がせる。
この建物も例に漏れず、老朽化は避けられてないようだ。
雨除けの天井は申し訳程度にあるが、肝心の入り口がない。
いや、正確には言うと入り口、ドア、扉という風に呼称されるものが存在しない。
南側の外壁が完全になく、出入り自由となっているのだ。
南から教会内を見ると、中の構造がばっちり見え、こともあろうに十字架まで見えてしまうではないか。
雨露は凌げても、風に野晒しのこの状態は見ていて痛ましい。
これはもはや教会というような立派な建物ではなく、掘っ建て小屋が教会という形をなんとか取り繕っている、という方が正しい。
ただ申し訳程度に設置された十字架とステンドグラスのみが、ここが教会であると予測できる物的証拠である。

中に入り、十字架に被った塵や埃を手で掃い、少しでも綺麗にしてあげる。
白魚のような手を黒く汚すことも構わずに、フローラはせっせと作業を続ける。
ようやく少しは見栄えもよくなってきた頃に手を止め、フローラは手の汚れを衣服でふき取った。
少し前なら考えられないような行為も平気でこなし、一息ついてから元の目的に戻る。
胸の前で両手を組み、恭しく膝を付き、偉大なる神への敬意を表す。
目を閉じて、胸に想うは贖罪の念と悔恨の言葉。
886somebody to love  ◇CASELIATiA:2012/04/02(月) 00:34:50.97 ID:s7BgUrH80

「主よ――」

厳かな声で、神への告解を始める。
絶望に染まった世界の中で、愛と温もりと、そして世界の広さを教えてくれた人を想う。
そして、こともあろうに、その人の人生に影を落としたのが、他ならぬ自分であることを打ち明ける。

「主よ、お赦しください。
 私は貴方の説く、愛を知っています。
 貴方の教えに導かれ、貴方の与えてくれる光に焦がれ、思いを馳せました。
 けれど、私は……あなたの教えを否定するような罪を犯しました。

 私はかつて、還俗した身です。 
 それは幼き頃より、決められていたことです。
 いずれ私は大富豪の父の娘である責務を果たすため、それを継ぐにふさわしき人に嫁ぐこと。
 そのために、花嫁修業として修道院で過ごしました。
 いつか、私は神の妻になる道を目指すことを止め、人と結ばれる普通の世界に戻ること。それは決まっていました。
 けれど私は、主の存在を疑ったことはありません。
 貴方の言葉を一つでも多く胸に刻み、貴方の仰る優しく平和な世界に近づけようと、修養を積んでいました。
 例え一時の仮宿に過ぎなくても、貴方の教えに心を動かされたことは、紛れもない事実です。
 誰かと結婚しても、その教えは私の中で確かに息づいていくのだと、思っていました。

 主よ、貴方はこう言います。
 他人に優しくあれ、と

 主よ、貴方はこう言います。
 人を殺してはならない、と。

 主よ、貴方はこう言います。
 盗みを働いてはいけない、と。

 主よ、貴方はこう言います。
 結婚は、愛する者同士で行う神聖な儀式である、と。
 ……けれど」

最後に、声が上擦った。
神の教えを破らないという、誓いを反故にしてしまった罪悪感がフローラの胸中を襲う。
あの人の行く道と、自分の家が持ってる家宝のせいで起こってしまった悲劇。
全ては、弱い自分が原因なのだ。

「私はあの人の手を取ってしまいました……」

白薔薇のフローラ。
いつしか、人からそう呼ばれるようになっていた。
女性特有の丸みを帯びた体つき、どんな海よりも蒼いその髪と瞳、器量の良さは花嫁修業に出された修道院のマザーのお墨付き。
芽吹き始めた新緑の若葉のような、若々しさに満ちた匂い。
姉デボラを自身が強く輝く太陽だとすれば、フローラは光を与えてもらい寄り添う月か。
夜の道を行く人に、たおやかな光を放ち、闇夜を照らして道を示す。
決して前に出ずに、一歩引いたところから優しく見守るのだ。
天より二物も三物も与えられたフローラに、そういう称号がつくのはごく当然のことと言えた。
世界でも有数の資産家の娘、という肩書は羨望と嫉妬を集める。
幼少のみぎりよりその容姿は姉とともに衆目を独占し、修道院での花嫁修行を終えて美しさにさらに磨きをかけ、匂い立つほどに成長を遂げた。
彼女の夫になるということは、目も眩むような金銀財宝を手にすること。
そして、世界中探してもこれより美しい女性を探し当てるのは、広大な砂漠の中から一枚の金貨を探し当てることに等しい。
即ち、彼女を娶るということは、富と栄誉と、この世で最も優れた妻を、ひいてはこの世のすべてを手にするということなのだ。
887somebody to love  ◇CASELIATiA:2012/04/02(月) 00:36:39.81 ID:s7BgUrH80
初老を迎え始めたロベルト・ルドマンが愛娘の婿を大々的に募集すると決めたときは、世界中から多くの男性が集った。
フローラの美しさに惚れ込んだもの、ルドマンの所有する財に目が眩んだもの、単なる興味本位。
人種、国籍、年齢を問わず多くの男性が押し寄せてきた。その中には、後に夫になるリュカの姿もあった。
やがて、父の出した無理難題をこなし、見事リュカは二つの至宝を持ち帰る。

だが、水のリングを持ち帰ったリュカの隣には、つい最近奇跡の邂逅を果たしたという幼馴染がいた。
いや、単なる幼馴染、という言葉では片づけることはできないだろう。
二人の間にはそれ以上の何かを感じたのだから。
勝気な瞳をたたえたその金髪の女性は、ビアンカといった。
理屈では到底説明できないような、何か運命めいたものを二人に感じずにはいられなかった。
運命の赤い糸、というものが本当にあるのなら、この二人は間違いなく繋がれているだろう。
寄り添って歩く二人はそれは絵になるような光景で、嫌が応でも自分の入る余地はないことを思い知らされた。

だから、思い切って言ってみた。リュカはビアンカを、ビアンカはリュカのことが好きではないのかと。
その後、ルドマンの計らいで、一日の猶予がおかれることになった。

選んでくれるとは、もう微塵も思ってなかった。
予定調和でリュカはビアンカを選び、自分は優しく祝福する。
そう思っていたのに、彼は運命の日に白薔薇のフローラを選んだ。
私は守ってもらうことしかできない女だと、ビアンカのような人にはなれないと言ったのに、彼は手を取った。
生き別れの幼馴染のビアンカでもなく、突如乱入した姉のデボラでもなく、フローラを選んだ。
けれど、当時のフローラには分からなかった。
あの時、まだ大人になりきれてない少女には思いもよらぬ展開に心が浮き立つばかりで、リュカの心の中を覗けなかったのだ。

「あの人と旅をするようになってしばらくして、あの人の心が自分にないことに気づきました……」

そして、何故リュカがフローラを選んだのかも、すぐに答えが出た。
ルドマン家に伝わる伝説の至宝、天空の盾。
金でも銀でもない、不思議な光沢を持つその盾は、かつて伝説の勇者が使いし神器の一つ。
天より賜りしその盾は、伝説の勇者亡き後、幾多の人の手を渡り歩き、ルドマンの家に落ち着く。
どんな大金を積まれても売らぬ、とルドマンは常々公言していた。
そんな大商人にして大富豪であるルドマンの心と意見を動かすには、さらに天文学的な数字の大金が必要に違いない。
一介の旅人であるリュカがその伝説の防具を手にするためには、フローラの手を取るより他になかった。
リュカは、結婚した後にすでに彼が見つけていた伝説の武器、天空の剣を見せて語ってくれた。
父の遺志を受け継ぎ、伝説の勇者と母を探す旅をしていること。
一縷の望みにかけて、天空の剣を使おうとしても装備できなかった時の彼の落胆ぶりを。
これまでの彼の壮絶な半生を辿る形で、いかに夫となった人にとって天空の盾が大事なものかも、フローラは知ることになった。
それは苦渋の決断だったのだろう。
父の遺志を継ぐためとはいえ、己の心に嘘を付きフローラかデボラの手を取るか。
自分の心に素直に従って、ビアンカを選び、天空の盾を諦めるのか。
想像を絶するほどの苦悩に対する決断を、たった一日しか考えられる時間を与えられなかったのだ。
そして彼は、ビアンカへの想いを振り切って、偽りの愛を選んだのだ。
888somebody to love  ◇CASELIATiA:2012/04/02(月) 00:37:46.94 ID:s7BgUrH80

傍目には、良き夫婦であっただろう。
しかし、夫の心が自分にないことを、夫の瞳が自分を捉えてないことに、フローラが気付くのに時間はかからなかった。
何故、と問うまでもなくフローラは理由を確信していた。
あの時に、もっとちゃんと考えておかねばならなかったのだ。
ルドマン邸で求婚されたときの、あの時のリュカの表情と感情をもっと分析するべきだったのだ。
あの時の夫の表情は、僕と結婚してくださいと言う前に見せたあの何かを吹っ切るような仕草は、自分と相手を騙すことになる良心の呵責。
そのことに、リュカはフローラに対して酷く負い目を感じていたのだろう。
フローラを見るとき、リュカは決まって複雑な顔をしていた。
言わば、彼にとってはフローラは目的の物を手に入れるためのおまけなのだ。
単なる物品ならばすぐに捨てることもできるであろうが、生憎とそのおまけは生身の人間だ。
彼にとって深窓の令嬢フローラは、自分の都合に付き合わせてしまった哀れな存在。

リュカは、フローラのことを大切にしてくれた。
ありとあらゆる便宜を図り、フローラの望みは何でも叶えようとしてくれた。
旅をして歩いているときも、疲れてはいないか、喉は乾いてないか、馬車の中に入って休みたくはないかと、それこそ何度となく世話を焼こうとしてくれた。
だがしかし、それは愛情からくる行動ではない。
あれはまるで、下手に触れば壊れそうな、精緻なガラス細工を扱うかのような振る舞い。
最高の職人により製作された、最高級の陶磁器を落として割るまいと、最新の注意を払って動かしているかのような、そんな手つき。
心を満たすことができない代わりに、せめて旅の道中で不快な思いをしないようとしての行動だろう。
それはリュカの罪悪感からくる贖罪であり、優しさでもあった。
天空の盾さえ手に入れれば、あとはフローラは用済みだ。
危険な旅の途中で死んだと言えば、誰も文句は言えない。
けれど、そうしなかったのは彼なりの優しさでもあるだろう。
筋骨隆々の馬の魔物に囚われた時も、愛する人だからではなく、返しきれないほどの借りと負い目を作った相手だから助けに来たのだ。
そして、そんなリュカの優しさが苦しかった。
何故、夫がそんなことをしないといけないのかと、悩みもした。

リュカは、幼き頃から多くの物を失ってきた。
目の前で、生きながらに焼かれる父の最期を見せられた時のリュカの心情は、まさに筆舌に尽くしがたいほどの苦しみであっただろう。
そして、幼少期から10年の歳月にわたって、リュカは奴隷として生き、人として扱われずに生きてきたのだ。
朝から晩まで休みなく働かされ、食事も満足に与えられずに、病気にでもなれば薬も与えられない。
奴隷とは、代替の利く消耗品なのだ。 使えないと判断されれば容赦なく処分される。
背中にある、リュカの傷を見たときは、フローラは我知らず涙を流した。
皮膚が破れ、肉が裂けた鞭の跡を、数えるのを諦めるほどに見つけた時、激情が身を震わした。
何故、この人はこんな仕打ちを受けねばならなかったのか。
何故、この人はそんな生き地獄を味わいながら、笑っていられるのか。
何故、自分はこんなにも恵まれて生きてきたのか。
修道院で暮らしていたとはいえ、いざとなればルドマンの手が差し伸べられたであろう環境。
完全な温室育ちのフローラと、子供の頃から不幸のどん底にあったリュカ。
まさに正反対の境遇を歩んできた二人。
889somebody to love  ◇CASELIATiA:2012/04/02(月) 00:38:58.39 ID:s7BgUrH80

フローラは我が身の小ささを思い知った。
修道院で暮らしていたから、普通の人とそれほど変わらない生活を営んできた。
食べ物が少なくてひもじい思いをした時期もあったし、冬の日にはあかぎれで手を痛めることだってあった。
あの修道院での生活で、人並みの幸福も不幸も知っていたつもりだったのだ。
しかし、それは思い上がりに過ぎなかった。
井の中の蛙に過ぎなかったフローラは、リュカに触れることによって大海を知ったのだ。
自分の感じた不幸など、リュカの感じた苦しみとは比べるのも烏滸がましいほどに些細なこと。
そして、そんなリュカがようやくビアンカと再会して幸せを手に入れることができるようになったはずなのに、自分が幸せの芽を摘み取ってしまったのだ。
他の誰かがリュカがフローラを選んだことを責めようとも、フローラだけは責めることはできない。
リュカの人生に触れてしまったフローラは、彼の気持ちを知っているのだから。

「あの人は優しい人です。 優しすぎて、自分が傷ついてることにも気付かない人です。
 もうこれ以上あの人に苦しみを背負わせたくはありません。
 あの人はもう、一生分の不幸を味わいました。 ……だから、残ったあの人の人生はどうか貴方の祝福に彩られた道を歩ませてください。
 どうか……どうかあの人を、良人を解放してください。
 お父上が目の前で死に、奴隷として多感な時期を過ごし、望まぬ結婚までしたあの人を、どうか死なせないでください。
 罪は……もしも咎が与えられるのなら、どうぞ私のみにお与えください。
 この身が奈落に堕ちようとも、永劫の炎で焼かれようとも、私は決して恐れません……」

言葉を出し尽くした後も、フローラはずっと姿勢を維持したまま祈りを続けていた。
長く祈れば祈るほど、想いは通じると信じているかのように。
絶望の世界で生涯の伴侶となった人物の幸せを、ただ願う。
信仰の絶えたこの場所で、神無きこの世界で、ずっと……ずっと。
蒼く染まったこの空に、白薔薇の想いが溶けていく。



◆     ◆     ◆



<一つ、よろしいでしょうか?>

教会内にフローラ以外の声が響く。
ハッとしてフローラが顔を見回して、声の出所を探る。
声は確かに正面から聞こえてきた。 つまり、十字架のある方向である。
敵襲、では決してない。 敵意もなければ、邪な感情も感じられない。 
深い母性と慈愛を兼ね備えたその美声はまさに天女そのものだ。
となるとまさか……フローラは思わず口にしていた。

「女神……様……でしょうか?」

まさかこんな場所に神がいるとは思えない。
神に仕えていた時期でさえ、自分はおろか他人も神を目の当たりにすることなどなかったのだ。
神の存在を疑ったことなどないが、その存在や息吹を感じることなどあり得ない。
だが、状況を考えるとそうとしか思えない。
神に祈っていたら、女神の声が響き渡ったのだ。
神か仏か天使か悪魔か、はたまた天上に住まい人間を見守る高次の存在が、今ここに降り立ったのだろうか。
よりにもよって、神などいないと思っていたこの世界に。

<いいえ、私は神などではございません>

もう何かがこの場にいるのは確定だ。
十字架のあたりに、何者かの存在をはっきりと感じられる。
幻聴などで済ませられるレベルは超えていた。
神などではないとは言うものの、それに近しい存在あることに間違いはない。
890somebody to love  ◇CASELIATiA:2012/04/02(月) 00:40:27.64 ID:s7BgUrH80

<先ほどから貴女の言葉は全て聞いておりました。
 私がお聞きしたいのは、貴女自身は夫を愛しているのか、ということですわ>

未知なる存在は、そう問いかける。
リュカの心がフローラにないのは、懺悔の内容からも分かる。
しかし、肝心のフローラ本人は夫をどう思っているのか、それを本人の口から聞く。
フローラは微笑む。 迷うまでもなく答えられる質問だ。
太陽が東から昇り、西へと沈むのと同じくらい当たり前であり、覆すことのできない事実だ。

「お慕いしております」

この気持ちだけは、誰にも負けない。
この想いだけは、誰にも否定させない。
静かな空間に、熱を帯びたフローラの声が響く。

リリアンの一件もあり、リュカがルドマンの屋敷を訪れたときは驚いたものだ。
何より、リュカがこのようなことに興味がある、というのが不可解だった。
如何にも旅人といった風体だが、決して見苦しくはない。
粗野な乱暴者、という冒険者のイメージとは正反対の人物であった。
そして、どこか遠くを見つめるあの眼差し。
あれは結婚というような俗事には興味のないような、もっと正確に言うのなら、今は結婚よりも大切な為すべきことがある。そういう瞳だった。
サラボナの町のどの男性とも違う雰囲気を纏ったその男は、フローラの心に強く残った。
結婚するのなら、自分で選んだ人と結ばれたいと願っていたフローラもいつしか『この人となら』と思うようになった。

「信じられませんかもしれませんが、一目惚れだったのです」

勝てるはずがない。
出会ったばかりで、ろくに話もしたことのない自分が、どうしてあの女性に勝てると言うのだ。
何一つリュカのことを知らないフローラが、リュカの過去を知っているビアンカに勝るものなど何一つない。
ルドマン家の持つ財産が、リュカを引き付ける要素にはなり得ない。
そういった目先の金には興味がないようなところが、フローラの惹かれた理由の一つだからだ。
だから、屋敷から出ていこうとしたビアンカに声をかけた。
初めから負けると分かっていれば、心の痛みも浅くすむ。
あの提案も、そんな自分の安いプライドを守るためにしたものだった。
フェアな勝負に見せかけた、そして勝敗のすでに決まった消化試合。
そして、リュカとビアンカが去った日の夜に、一人涙するのだろう。
破れた初恋の痛みに耐えきれずに。

「あの人が自分を選んでくれたとき、その時の嬉しさは今でも忘れられません」

思いもよらぬ大逆転だった。
そして、あまりの衝撃に浮かれていたが故に、あの時のリュカの顔を注意深く見ようとしなかった。
自分を選んでくれたことは、即ちリュカがフローラを愛してくれたという事実に相違ない、と勝手に解釈したのだ。

「そして、あの人は私に世界を見せてくれました」

リュカは世界中を旅していた。
旅人など、明日をもしれない稼業だ。
しかし、これ以上ないほど自由な生き方でもある。
奴隷として自由のない生活を送っていたリュカが、旅から旅をする生活を選んだのは必然のことだったのかもしれない。
今日は東へ明日は西へ、今日の寝床が明日の棺桶。
その覚悟さえあるのなら、この天地に旅人ほど自由で気ままな生活はあるまい。
891somebody to love  ◇CASELIATiA:2012/04/02(月) 00:41:45.96 ID:s7BgUrH80

慣れない旅をしながらも、足に豆を何度も作りながらも、フローラはいつも新しい発見や体験をさせられた。
木もれ日、風にゆれる葉の音、自然が織りなす芸術の美しさ。
訪れる土地によって風は匂いを変え、その地でしか見られない動植物は大いに好奇心を刺激させられた。
夜に交代で見張りの番をしていたときに見上げた、夜空の広さと星の数の多さ。
水平線から昇る朝日の眩しさと美しさ。
人里に立ち寄れば、そこでたくさんの人に出会い、会話をし、別れる。
同じようでどこか違い、違うようで根っこの部分は同じの、色んな土地の人間との触れ合い。
屋敷に籠っているだけでは、修道院で生活をしているだけでは、決して経験することのできない出来事。
それはフローラのかけがえのない想い出だ。
時折襲撃してくる魔物など、それに比べたら微々たる問題だ。
書物や絵画だけでは知ることのできない世界の美しさを、人の営みを、リュカと旅して得てきた。
箱入り娘のまま人生を終わらずに、本当によかったと思う。
蝶よ花よと育てられ生きるのも、また幸せの一つではあろうが、今となってはその道に戻ることができたとしても、決して選ばないだろう。
旅立つ前に用意した値打ちものの服は、すぐにその価値を失った。
生地だけで家が一軒建つような値段の服も、冒険の日々では何の役にも立たない。
すぐに衣服は泥まみれになるか、さもなくば切り刻んで焚き木の火種や雑巾へと早変わりした。
世界の果てにあるような秘境や文化に触れられたのは、どんな色とりどりの宝石よりも値打ちのある経験だった。

「ようやく分かったんです。 あの人が何故笑えるのかを」

あれだけ凄惨な幼少時代を過ごしていれば、二度と笑えなくなったって不思議ではない。
なのに、リュカはいつも笑っていた。
雨の日も風の日も、備蓄してた食料が残り少なくなってきたときも、いつもあの笑顔をみんなにみせてくれた。
魔物でも思わず、邪心を失ってついていきたくなるような、あの優しい笑顔を。

「仲間がいたからなんです」

ヘンリーがいたから、ピエールがいたから、他にも多くの仲間がいるから、笑っていられるのだ。
喜びも悲しみも仲間と分け合える。 悲しみは半分になり、喜びは倍になる。
だから、この広大な世界を旅していける。 悲しみに負けずに、前へ進んでいける。
そう、だからリュカは世界を大切に思える。 守っていこうと歩んでいく。
新しい街に行ったとき、リュカは人見知りせずに誰にでも声をかける。
天空の武具のこと、母に関する手がかりはないか、この土地の名産品は何かなど。
そして、リュカの優しさに誰もが心を開く。
澄んだ瞳で話しかけてくる人に、敵意と警戒心を忘れる。

二度と会えなくてもいいと、リュカはそう言う。
どうせ旅人生活だ。 同じ地を巡ることなど、滅多にない。
だから、二度と会えないことを前提に、話をする。
この一期一会を楽しみ、別れ、また新天地を求める。
二度と会えなくたっていい。 母を救い出すことと、伝説の勇者を見つけることは、今までに出会い、離別してきた人を守ることなのだから。
なんとかなるさと、リュカは言う。
どんな状況でも諦めず、根拠のない言葉を口にする。
けれど、リュカの言葉には思わず信じたくなるような何かがあった。
そんなリュカに、フローラはより一層想いを深めるのだ。

「そんなあの人に出会えたことを、私は感謝しています」
892somebody to love  ◇CASELIATiA:2012/04/02(月) 00:43:09.56 ID:s7BgUrH80

あの人に出逢えた。 ただそれだけで、フローラはこんなにも強くなれる。
ただリュカがいるだけで、ただリュカがそばにいるだけでフローラは幸せなのだ。
淋しくて哀しくて泣いた日も、楽しくて嬉しくて笑う日も、全てはリュカがいるからこそ。

「だから、胸を張って言えます」

愛しい夫と、夫の大切な人を守りたい。

「いつでも――」

フローラはリュカと見た夜明けの水平線を覚えてる。
だから、もう怖くない。

「どこでも――」

大好きなあの人の仕草を、目を瞑るだけで指折り数えることができる。
フローラにとって、リュカは全てを与えてくれた人。

「誰にでも――」

どこか遠いところを見る、リュカが好きだ。
誰にでも気さくに話しかけるリュカが好きだ。
凶悪な魔物にさえ、慈悲の心を見せるリュカが好きだ。
朝早くに、小川でパトリシアの体を洗ってあげていたリュカが好きだ。
船に乗ってて風の吹かない日があったときは、釣りをしようと言ったリュカが好きだ。

「何度でも――言えます」

これを愛と言わずして、何を愛と言うべきか。
たとえ命を失くしても、守りたい人たちがいるから、行く手を阻む嵐にも立ち向かってゆけると誓う。
リュカが世界を守り、世界を守るリュカをフローラが守る。

「私は、良人を愛しています……」

フローラは、父に感謝している。
あの人と自分を引き合わせてくれたことを。
そして、同時に恨んでもいた。
どうして、天空の盾をフローラの夫になる人物ではなく、それを本当に必要とする人に渡さなかったのか。

「愛しています。 けれど、それだけでは駄目なのですね……」

想い続けていれば、いつかは届くと思っていた。
しかし、誠実な言葉も態度も、あの人の前では色褪せてしまう。
時がたつほど膨らみを増す不安を、抱えきれなくなっていく。
フローラがどれだけ言葉を重ねても、フローラがどれだけ尽くしても、リュカは何も言わず手を振りほどく。
フローラは幸せになり続けるのに、リュカは不幸のまま。

失くしたくなかった、あの人と過ごせる日々を。
そしてあの人にも失ってほしくなかった。 これ以上、心を押し殺して好きでもない人と歩き続けることをしてほしくない。
失うことを恐れる日々。 かなうことのないフローラの想い。
すれ違う距離を感じて、儚いまま壊れていく二人。
リュカの声、リュカの顔、リュカの髪、リュカの生き方、全てが好きだ。
そして、そんな想いを引き摺って捨てきれず、未練がましくしがみ付いたまま、今この時までフローラは生き続けてきた。
許せない。 好きだからこそ、あの人の笑顔を奪った自分が許せない。
どんなことがあっても挫けず、前を見続けるリュカの心を曇らせる唯一の障害が自分なのだ。
光の道を歩むリュカの姿に落とされた一点の影、それがフローラ。
893somebody to love  ◇CASELIATiA:2012/04/02(月) 00:44:05.95 ID:s7BgUrH80

「感動しました」

フローラの告白を聞き届けた後、女神がその姿を実体化させた。
宝石をちりばめたティアラ、そして淡いイエローのドレスを着こんだその女性は、まさしく女神か天女の類としか思えない。
整った目鼻に、うっすらルージュのひいた唇はとても綺麗で、フローラは見とれるしかできなかった。
実体化した女神はカモシカのような二本の足でフローラに駆け寄り、その手を取る。

「きっと、想いは届きますわ。 神様はきっと、二人を祝福しています。
 ええ、そうですとも。 私にも遠くから想うことしかできないお方がいましたから。
 愛を捨てることなんて誰にもできませんわ」

熱弁をふるう女神に、フローラはリアクションを取れない。
ただただ、目を丸くすることしかできない。

「あ、あの……」
「まぁ、私ったら自己紹介もせずにはしたない」

そういう女神は、ようやくフローラの手を放すと、スカートの端をちょんと持ち上げ、優雅に一礼する。
気品のあるその仕草は、彼女が紛れもない高貴な存在であることを証明している。

「私、ローラと申しますの」

女神の正体はラダトーム第一王女、ローラ姫その人であった。



◆     ◆     ◆



「まあ、するとその草を……?」
「ふふふっ、そうなんですの」

フローラが事情を聞くと、消え去り草なる摩訶不思議なアイテムがあるらしい。
煎じて飲むだけで体が透明になるというそれは、身を隠すのに絶好の道具。
複数個支給されていたので、ローラは効果を確認するために一度使ったところ、ちょうどフローラが来た。
ローラもまた、この世界で愛する人の無事を祈るために教会を訪れていたのだ。
そこでフローラを見つけ、フローラの告解を聞いて、この人なら信頼できると判断したのだ。
姿を見せない時から、いつのまにかローラを受け入れていたのだ。
フローラもまた、ローラのことを信用することにした。
何より、ともに愛する人がいてその人の無事を願っている、という共通点が二人の心を結びつけた。

「さあ、行きましょうフローラさん。 同じ志を持った人と力を合わせて、必ずこの悪しき世界から抜け出しましょう」
「あ、あの……ローラ姫」
「ローラで構いませんのよ?」

そう言うローラはどんどんと進んでいく。
戦闘力のないローラの方が、行動力に溢れているというのはなんともおかしな話だった。
フローラはローラの後を追いながら自分の腕につけられた腕輪をさする。

時を戻すことなど、神ならぬこの身には叶わない。
だから、あの日に戻って運命の選択をもう一度することはできない。
人の世に起こる出来事にはすべて意味があるという。
ビアンカと結ばれるのがリュカの運命だったというのなら、天秤を正しい位置に戻せるのは自分だけだ。
そして、この魔法具がフローラに支給されたことに意味があるのだとしたら、これはそういうことなのだろう。
もしも自分にしかできないことがあるのなら、天命というものがあるのなら、フローラは謹んでこの身を捧げよう。
決意が風に切り取られたたずむ。
究極の献身の証、その命と引き換えに奇跡をもたらすメガザルの腕輪を身につけたフローラは、この世界を歩き始める。
愛する人を解放するために。
894somebody to love 12/12 ◇CASELIATiA:2012/04/02(月) 00:45:09.55 ID:s7BgUrH80


互いを守ろうとする気持ちは同じ。
しかし、その気持ちがどこからくるのかは全くの逆。
一人は愛してないが故に守ろうとし、一人は愛してるが故に守ろうとする。
すれ違いを続ける二人が会える日は来るのか。
それはもはや神にさえも予測不可能な範疇だ。
あの二人が結ばれることは本来あり得ないことなのだから。
神のいない世界で、神に祝福されることのなかった一組の男女の想いの行き場は天国か地獄か。
誰も知る由もない。


【C-8/平原/朝】

【リュカ@DQ5】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 支給品×3(本人確認済み)
[思考]:フローラと家族を守る



【G-3/絶望の町 教会/朝】


【ローラ@DQ1】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:消え去り草×2 支給品一式 支給品×2(本人確認済み)
[思考]:DQ1勇者を探す


【フローラ@DQ5】
[状態]:健康
[装備]:メガザルの腕輪
[道具]:支給品一式 支給品×2(本人確認済み)
[思考]:リュカと家族を守る
895名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/04/02(月) 00:45:29.31 ID:s7BgUrH80
代理投下終了です。
896名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/04/02(月) 00:52:38.68 ID:s7BgUrH80
読み終えた
うおお、初っ端から重厚だな!w
フローラの心情描写が胸を熱くするね
しかし支給品が不穏すぎる…
897 ◆2UPLrrGWK6 :2012/04/02(月) 01:20:32.83 ID:H83mn62o0
投下します。
8981/3 ◆2UPLrrGWK6 :2012/04/02(月) 01:24:03.75 ID:H83mn62o0


「う〜ん……ダメね」

木々の鬱蒼と生い茂る森の中。
地図の天地を何度も逆転させ、コンパスと見比べている少女がいた。

「わっかんない。大体あたし地図の読み方なんてサッパリだし……
 こういうめんどくさいのって、あいつに任せっぱなしだったもの」

彼女が思い浮かべるのは、緑頭巾の幼馴染の顔。
あのとぼけていて見ていると多少いらいらすることもある顔が、今は無性に恋しく思えた。

「……なんであいつの顔なんかが恋しいのよ」

想像の中で幼馴染をしばき倒し、ややナーバスになった気持ちを切り替える。
ろくに理解できなかった地図を取りあえず脇に挟んで、名簿を取り出した。
まずは自分のページを確認する。

「やっぱりあたしってば写真うつりいいわねー」

どうでもいいことを呟きながら、パラパラとページをめくってみる。
どうやらここには自分に関係した人も何人か招かれているらしい。
旅の仲間のガボやアイラ。
それにあの、ダメな叔父さんも来ているらしいではないか。

「あのモンスターたちってばバカね。何が楽しくてあんな人呼ぶのかしら。
 盛り下がるだけじゃない」

ぼやきながらその先のページをめくる。
続いてバンダナ姿の男、人相の悪いおっさん、やたら胸のでかい女の子。
前のページも見てみるが、どうやら知り合いはここまでのようだ。
そうして自分のページに再び戻ろうとしたそのとき。

「!!?」
899話を聞かない男、地図の読めない女2/3 ◇2UPLrrGWK6:2012/04/02(月) 01:40:26.18 ID:s7BgUrH80
不意に、腕を掴まれた。
そこまで無骨な感じはしない、やや細い手だ。
だが、引っ張られる力はかなり強い。
小柄なマリベルの体は一瞬浮いた。

「誰よっ!あんたっ!ちょっと!!離しなさいよっ!」

ものすごい形相と悪態をぶちまけるような勢いで後ろを振り向く。
そこにいたのは年若く、なんとも名目麗しい銀髪の青年だった。
冷たげな視線は怜悧な印象を与えるが、それを差し引いても美形である。
年のころで言えばマリベルと同じか、あるいは少し下。
さしもの面食いであるマリベルも一瞬たじろいだ。

「……自殺するのがお望みなら、離してやるよ。物好きなヤツだな」
「は?」

呆けたように声を上げたマリベルが、青年が顎で示した先を見やる。
するとそこは切り立ったような崖。
その下には何一つ見えない、無限に闇が広がっていた。
あと一歩踏み出していれば、彼女はその闇の奥底の住人となっていたに違いない。

「ま、待ちなさい!!絶対!ぜぇーったい!!離すんじゃあないわよっ!!」






「とりあえずはお礼を言っておくわ、ありがとね。
 あんたラッキーよ、こんな美少女の恩人になれるなんて」
「……」

適当な石を椅子代わりに、二人で向かい合う。
だが青年はマリベルの(とても傲慢な)感謝の言葉に見向きもしない。
目もくれずに自分の荷物を何やらあさっている。

「何やってんの?返事しなさいよ」
「ちょっと黙ってろ。あんたのせいで荷物もロクに確認できてないんだ」

彼はこの地に送られて早々、崖に向かってずんずん突き進むマリベルを発見したらしい。
どうにも止まる様子が見られないため制止したというわけだ。

「何よ、すかしちゃって……感じ悪い」
「ちっ……こんなナマクラなら銅の剣のほうがマシだぜ」

半ばマリベルを無視しながら彼が構えたのは、鈍い光を放つ長剣だ。
だが嫌に軽そうな作りと拵えを見るに、どうやら安価な量産品の一つだろう。
舌打ちしながらも、取りあえず腰のベルトに鞘を固定した。
もう一つ出てきた盾には満足が行ったのか、特に愚痴も零さず装備している。

「ふーん?あんたってば剣士?剣欲しいんだ」
「……そっちには、支給されてないか?」
900話を聞かない男、地図の読めない女3/3 ◇2UPLrrGWK6:2012/04/02(月) 01:41:08.84 ID:s7BgUrH80

聞かれて自分のふくろを確認する。
出てきたのは杖で、その他を見ても彼の望む物ではなかった。

「入ってないわね」
「くそっ、早く森を出たほうがいいな」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!」

急ぎ荷物をまとめて立ち去ろうとする彼を、マリベルは急ぎ追う。
なんとも迷惑そうな表情で、彼は振り向いた。

「どうしてついてくる?」
「あたし一人でこんな森抜けられるわけないじゃない!案内しなさい」

青年は眉を顰め、少し考えたように目を閉じた後に盛大な溜息を漏らす。
何も言わずに、黙ってそのまま行こうとした。

「だから待ちなさいよっ!!」
「嫌だね。あんたにかまってる暇なんてこれっぽっちも無いんだ」
「じゃあ勝手についてくわよっ!!私も忙しいのよ、人探しでっ!!」

こちらを嫌そうに一瞥したかと思うと、同じように歩いていく。
マリベルはそれを了解と勝手に受け取って、同じ方角にずんずんと突き進むのであった。

(待ってなさいよバカ王子。あんたの顔をひっぱたいてやるんだから)

そう、彼女はもう二度と会えないと思っていた親友を名簿に見つけた。
会いたい。
会ってまた、幼馴染三人で、他愛もない話がしたかった。
こんな最悪のシチュエーションなのは残念だが、彼に会うまでマリベルの暴走は止められそうに、ない。

「そうそう、あんた名前は?言わなくてもどうせ名簿で確認しちゃうんだし教えなさい」
「……テリー、だ」
「あたしはマリベル!しっかり道案内しなさい!」



【D-1/森の北端/朝】


【マリベル@DQ7】
 [状態]:健康
 [装備]:マジカルメイス@DQ8 
 [道具]:※不明支給品0〜2
 [思考]:取りあえず今はテリーについていき仲間たちを探す。
     キーファに会って文句を言う。ホンダラは割とどうでもいい。

【テリー@DQ6】
 [状態]:健康
 [装備]:兵士の剣@DQ8 ホワイトシールド@DQ8
 [道具]:※不明支給品0〜1
 [思考]:仲間たちを探す。マリベルがうっとうしい。
901名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/04/02(月) 01:41:52.58 ID:s7BgUrH80
再び代理終了
マリベルがらしくていいな
テリーは今回はマーダー回避できるかな
902名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/04/02(月) 02:52:38.03 ID:SfYijM+g0
http://w.livedoor.jp/dqbr2/

とりあえず本当に借りただけの状態。
本格的な編集は明日します。
いろいろデザイン見て回ったけど結局ライブドアWikiというところを選んでみました。
903 ◆jOgmbj5Stk :2012/04/02(月) 02:53:07.67 ID:SfYijM+g0
トリ出し忘れ。
904名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/04/02(月) 15:00:05.49 ID:02No1M+t0
あの、通りすがりの読み手ですみません
各書き手の方の文章は非常にすばらしいと思うのですが
スタートの話は>>883なんでしょうか?

今までは禍々しい存在が現れて誰か一人を見せしめに殺したり
首輪を強制的にはめたりとかありましたが
各参加者はいきなりこの世界に飛ばされた感じなんですか?
905名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/04/02(月) 15:00:56.34 ID:JQ0BnKWIO
予約なしです。投下します。
906人が好いのも困りものです1/2:2012/04/02(月) 15:05:45.76 ID:JQ0BnKWIO
緑の頭巾がうなだれる。
少年アルスは名簿を片手に、深く深くため息をついた。
「なんでこんなことに…」
これまでにも散々不幸な目には遭わされてきたが、今度はとびきりだ。しかもこれまでに戦ってきた魔物たちとはまるで違う。相手の力も、自分の状況も。
「とにかく、みんなを早く見つけて守らなきゃ」
持ち前のお人好しな性格により、方針を決定すると、彼は先までも目を通していた名簿を再び見つめる。
そこにはいくつかの顔見知りの姿がある。まず目に入るのは、大事な幼なじみと仲間たち。
「マリベルは、早く見つけないと怒られるな…。ガボもアイラも強いからきっと心配はいらないけど、何があるかわからないし…」
そして、その後ろ。別離したはずの親友までもが載っているのを見て、アルスは少なからず動揺していた。
「キーファ、ここにいるんだ…。あの野郎、僕が殴りに行くまで死ぬなよ」
はからずも幼なじみと同じ決意を胸に抱き、彼は名簿の更に後ろに目をやる。
「それにしても…」
思わずため息。頭巾が再び垂れた。
「なんでいるの…おじさん…」
少年にこうも頭を抱えさせているのは、これまで幾度と無く迷惑を被ってきた酒癖の悪い親戚の姿だった。
「あんな人でも一応親戚だし、父さんにとっては大事な弟だし…一番、危ないしなぁ…」
どこまでも人のいい少年は、文句を言いながらも結局、叔父の保護を最優先にすることに決めた。叔父ホンダラに戦う力が無いことがわかりきってる以上、誰かが守ってあげなければ、彼がこの世界で生き残ることは難しいだろう。
「まぁ、あの人のことだから案外、僕より強い人にちゃっかり守ってもらってるかもだけど…」
「…すけてぇ〜…」
ひゅうと一陣の風が吹いた。
聞こえるかどうかというくらいのか細い声がかすかに耳に響き、アルスは一瞬固まる。
「…気のせいかな…誰もいないのに声が」
「ちょっとォ!シカトとかありえないんですケド!」
「確かに聞こえる…でも、人の姿なんかどこにも」
「なにをブツブツ言ってるのヨォ!」
声の出所が見えずにアルスが戸惑っていると、突然肩の辺りに軽い衝撃を受けて思わず声をあげた。
907人が好いのも困りものです2/2:2012/04/02(月) 15:09:47.17 ID:JQ0BnKWIO
「わぁ!?よ、妖精…」
彼の視界に飛び込んできたのは、見たこともない風貌、肌は浅黒く小さな体に羽を生やした少女、文字通り妖精が、パタパタととびまわる姿だった。
「乙女の顔を見てわぁ!とはなにヨ〜!いいからあれ、やっつけちゃって!」
「あ、あれって」
「ヒーッヒッヒッヒッ…」
妖精が指を指す方向にアルスが目線を向けると、そこにはいつの間にやら道化師風の格好をした目付きの悪い男が立っていた。
「悲しいなぁ…甦った僕の前に、人々は殺されてしまうのです…悲しいなぁ…」
(こいつ、いきなり現れるなんて。只者じゃない)
警戒しながら、アルスは目の前の男に話し掛ける。
「殺しなんて…本気で言っているんですか?」
険しい目付きで睨まれ、道化師はにたりと笑みを深めた。
「ええ。私は、私をコケにした人間が憎い。見返してやらねば気が済まない!」
その笑みに浮かぶ深い憎しみに、アルスの背筋を悪寒が走る。その見た目に武器らしいものは見られないが、相手の眼差しに宿るのは、明らかに殺意だ。
(まずい…ふくろの中を確認してなかったから、武器が…!)
戸惑う少年を嘲笑うかのように、道化師の手が振りかざされ、魔法の力が集まり始める。
(くそ、一か八か!)
おろおろと飛び回る妖精を背にかばい、アルスは突進した。
「これで終わりです…ふふ、悲し」

「どっりゃあああああああああ」
「なあああああああああ!?」

肉薄したアルスは、襟首を掴み上げ、小柄な体からは想像もつかない鍛え上げた筋肉を用いて一瞬にして空中に放り投げた。
アルスが放った特技・ともえ投げにより、道化師は空に見事な放物線を描いて、遠くの茂みに音を立て落下する。

どさり。

…相手が動かないことを確認してアルスが息をつくと、妖精が歓声をあげて拍手した。
「やっるゥ〜!!」
「ほら、いいから離れよう」
先とはうってかわって喜色満面ではねまわる妖精を促し、アルスは歩き出す。
「えー。やっつけたんじゃないワケ?」
「良くて気絶だよ。…っていうか君、羽があるんだから、空に逃げれたんじゃ?」
「んー、それがなんか、この世界に来てから羽の調子がおかしいのよネ。
テンチョーもいないし困ってたんだけど、アンタがいてチョー助かっちゃった。これからヨロシクね!」
「ヨロシクって、あの…僕、ちょっと探しびとが」
「そんなのいっしょに探せばいっしょ!あたしサンディ。ほら、いこーいこー!」
「…うん…」
強引な押しにとことん弱いお人好しの少年は、結局まずはこの目の前の妖精を守ることに決めた。
緑の頭巾が、今一度うなだれた。

【C-4/平原/1日目早朝】
【アルス(主人公)@DQ7】
[状態]:HP全快
[装備]:不明
[道具]:不明 支給品一式
[思考]:顔見知りを探す(ホンダラ優先) ゲームには乗らない
【サンディ@DQ9】
[状態]:HP全快
[装備]:不明
[道具]:不明 支給品一式
[思考]:ゲームには乗らない
※羽が不調のためあまり高くは飛べません。飛べて人間の身長程度。
【C-4/茂み/1日目早朝】
【ドルマゲス@DQ8】
[状態]:HP9/10 気絶
[装備]:不明
[道具]:不明 支給品一式
[思考]:ゲームに乗る 人間への復讐
908名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/04/02(月) 17:38:46.31 ID:+05qNpeU0
>>904
>>862の2番目

>>907
サンディ移動制限か
速度は元からあまり高速で飛ぶ場面もなかったし人間並みかな
他に飛行可能キャラは竜族と…9の大天使2人がどの形態での登場かによる、ぐらいか?

ドルマゲスの海上移動がどうなるか気になる。禁止か、うまく使われるか、今後に期待
909名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/04/02(月) 17:53:54.23 ID:+05qNpeU0
ごめんなさい文章いじくってたらすごい上から目線に…orz
書き手さんたち乙です!!
910名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/04/02(月) 18:43:08.19 ID:H83mn62oI
投下乙。
ドルマゲスさんの中にラプがいるかどうかこの描写はなかなか絶妙。
どっちにしろいいマーダーの素質はあるな
911名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/04/02(月) 19:25:42.44 ID:9KPhu1tx0
自分もいきなり本編が開始してて???状態になったので
一応避難所から転載しておきます。
912ゲーム開始1:2012/04/02(月) 19:27:29.61 ID:9KPhu1tx0
「これから貴様達には殺し合いをしてもらう」



冷たき声に、眼が覚める。
ふと気づいたときには既に、大勢の人間が広大な空間に並べられていた。
飾り棚に人形を並べるかのように、ほんの僅かなズレすらなく。
整然と並べられ、ぽかんと立ちつくしたままでいた。

「……ここは一体……?」

薄暗く、見渡してもここがどこかははっきりとしない。
判るのは硬い床面に広げられた、絨毯の感触。
空気の流れは芳しくなく、声の反響が大きくとても高い天井。
大きな建物の中に連れてこられたのだと、冷静な者たちは自覚した。

「なんだここは……!?」

男が、女が、或いは人間ですら無い者が。
様々な顔がそこにあった。
一同の頭の中は、すぐさま疑問でいっぱいになった。
そして今、ここに立っている現実に、疑いを持つ。
皆が皆、一様にだ。
それは偶然ではなく、同じ瞬間を辿ってここに来ていた。

そう、彼らは夢を見ていたはず。

「初めに言っておこうか。これは……夢などでは無い」

暗がりから現れたのは、爬虫類のような毒々しい斑点の浮いた皮膚を持つ魔物だ。
まるで王を気取るかのように、外套を身に纏っている。
歴戦の戦士であろうと身震いを誘うような邪気を纏ったその存在は、醜悪な姿を揺らし顔を歪めて笑った。

「甘き夢にやすやすと惑わされた愚かなる人間どもよ」

響き渡る頭上からの声に、どよめきが起こる。
巨大な翼を生やした怪鳥が、羽を散らしながらそこに浮遊していた。
こちらも恐るべき存在感を以て、こちらを威圧するような気迫を放っている。
まるで、餌を見るような眼でこちらを見下ろしながら。

「精々足掻き、我らのよき余興となるが良いわ。ブクルルルルー」

続いて野太い声が、彼らの耳に届く。
さらに奇天烈な姿をした魔物が分厚い唇を歪め、げはげはとこちらを嘲笑っていた。
魚のようでありながら、まるで大男のような顔を持つ言わば半人半魚。
海の色のような碧色の鱗をぬらぬらと光らせ、腕組みをして値踏みをするかのような目線を投げかける。
その姿形からは想像もできない様な力を、きっと隠し持っているのだろう。

「さあ、死力を尽くし……存分に戦うがいい」

最後に物陰から現れたのは、鍛えあげられた肉体を誇るように笑う偉丈夫の姿をした魔族の戦士。
まるで抜き身の剣を見ているかのような危うさと気品を兼ね備えた、武人のような佇まい。
戦いに身を置かぬものにも理解できるであろう迫力に、皆が気圧される。
だが、その威にも屈しない勇気を持つものが、この場にいた。
913ゲーム開始2:2012/04/02(月) 19:28:30.76 ID:9KPhu1tx0
「どうしてお前らがここにいるっ!!」

集団から飛び出したのは、青年だった。
空よりも蒼い髪を逆立てた風貌の彼は澄んだ瞳を怒りに燃やしている。
無手ながらも剣の使い手らしく油断なく構えたまま、眼差しを四体の魔物へと向けた。

「わっはっはっ……久しいな……」
「ムドー……っ!!」

ムドーと呼ばれた魔物は青年の怒りの声に少しも動じず、笑い飛ばす。
どういう事情かは知らないが、青年はこの魔物たちのことを知っているらしい。

「魔族は滅ばぬ。そう言わなかったか?」
「せっかく会えたのだ。ひとつ、この遊戯を楽しんでいくがよい。げははっ」
「お前と再び会えて嬉しいぞ。更に腕を上げたようでなによりだ……」
「そうだとも……今の俺なら、お前たちの企みなんて!!」

青年の握られた拳が、青白い光を帯びる。
光はやがて荒れ狂う稲光と化して、彼が天へと突き出した手を辿り、頭上に放たれた。

「ギガデイン!!」

勇者の証たる電撃呪文。
降り注ぐ雷光が、四体の異形へと向かう─はずであった。

「なんとも儚いな、これが勇者の威光か」
「なにっ!?」

あろうことか、生み出された雷はまるで幻であったかのように霧散してしまった。
驚きに目を見開いて立ちすくむ青年。

「話は最後まで聞け……人間ども、己が首を確かめてみよ」
914ゲーム開始3:2012/04/02(月) 19:30:15.75 ID:9KPhu1tx0
怪鳥の声を聞き、蒼髪の青年が首に触れる。
その行為をきっかけに皆一様に己が首に触れ、周囲の他人の首を見やる。
そこには冷たく無機質に光る、枷のようなものが嵌められていた。

「その環を嵌めている限り、一切の反抗は無力と化す!」
「なおも抗うという愚か者には、死の定めが待っていよう。
 お前たちにはもはや、我々に従い戦いを受入れる道しか残されていない」

四方を囲まれ、魔族の笑いだけが広間に響く。
あるものは驚きに、あるものは怒りに、またあるものは絶望に。
それぞれ、様々なる感情を抱え、全員が言葉を失った。

「ふざけるな…っ!誰が、お前たちの言うことなんかっ……!!」
「ほほう。我々に従えぬなら……ゲームの開始を見ずして、今ここで死をくれてやる」

ムドーは、すっと手を伸ばす。
だが、矛先が向いたのは彼ではなかった。

「但し、貴様にではない」
「!?」

彼とよく似た蒼髪の少女。
村娘風の、素朴な衣服を身にまとっていた。
ムドーが伸ばしたその手を合図に、彼女の首輪が耳障りな音を上げる。

(ピッ ピッ ピッ……)

「えっ……っ!?」
「!?ターニアっ!!」

ターニアと呼ばれた少女が小さな悲鳴を上げる。
何やら自分の首元で、枷が音を立てているのだ。

「ムドーっ!何を─」
「心して見るがよい。
 殺し合いを拒む愚か者には、残酷なる死を与える!!」
「!」

何が起こるか、察しがついた少女が恐慌状態になりへたり込む。
青年が彼女に駆けよる間もなく、死への秒読みは始まり、止まらない。

「いやっ……!!やだよ!!やだぁっ!!」
「ターニアっ!!ターニアーっ!!」
「助けておにいちゃんっ!!おに…」



いやに軽い爆発音が、周囲に響いた。
首から上を失った華奢な体から、急速に力が失われる。
まるで慣れないダンスでも踊るかのようにぐらりと傾ぎ、そして倒れた。
それっきり、動かなくなる。
915ゲーム開始4:2012/04/02(月) 19:30:48.22 ID:9KPhu1tx0
「たっ……」

青年の顔が、色を失う。
目は見開かれ、伸ばした手は空を掴み。
そのまま声を失い、がくりと項垂れた。
ようやく事態が呑み込めた者の悲鳴やどよめきが巻き起こる。
しかし、ムドーや他の魔族たちの掌が再びこちらに見せつけるように掲げられ、一同は押し黙った。

「この通り、諸君の命は我々の手の内にあるということだ。無駄に命を散らせてくれるなよ」

どことなく気取った調子の新たなる声が、一同の耳に届く。
巨大な蝙蝠のような翼を持つ、まさに悪魔と形容すべき姿の新たなる魔族が現れたのだ。
大きな口に牙をむき出し、広間の階段を一段一段降りながら話を続ける。

「私はアクバー。さるお方に変わりこの場の指揮を執り行っている。
 詳しいルールの説明をさせていただこう」
916名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/04/02(月) 19:33:32.72 ID:g3iqki6r0
割り込むようで悪いんだけど、採用になったOPはこれじゃなくて2番目の奴じゃなかった?
917911:2012/04/02(月) 19:40:09.53 ID:3GMbzZ8GO
911です。
誘導先を見に行って混乱してしまいDQ6だからこれだと勘違いしてしまいました
貼り付ける文章を間違えていてすみませんでした
しかも連投規制が入りPCから書き込めなくなるという失態…スレ汚しして本当に申し訳ありません
918名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/04/02(月) 20:02:46.60 ID:H83mn62oI
>>911気にするなお前さんはよくやってくれたほうだ
ところで、没OPもwikiができたら収録してあげてくれまいか
没もまた埋もれるのは惜しい名作だったし
919名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/04/02(月) 20:07:49.77 ID:g3iqki6r0
じゃあ代わりにOP貼ります
920破滅の宴 ◇UlnmVKQRRM:2012/04/02(月) 20:08:52.21 ID:g3iqki6r0
ボンッ……

何かが破裂するような音と、続くどよめきを聞いて彼は目覚めた。

「こ、ここは」
「目覚めたか、サマルトリアの王子よ」
「あなたは、竜王!?」

聞きなれた声に振り向くと、そこにはアレフガルドで出会った竜王の曾孫が居た。

「このような状況でもすやすやと寝入っているとはな、さすがはのんき者と名高いだけはある」
「や、やめて下さいよ……。それより一体なにが……」

彼――サマルトリアの王子は周囲を見渡して、その異常さに動揺する。
辺りは薄暗く、近くに居る竜王の曾孫の顔がうっすらと判別できる程度。
だが周りに居るのは彼だけではなった。
何十人もの姿が暗がりに散らばっている。辺りはごく一般的な城の大広間くらいだろうか。
光源はわずかに壁に掛けられた松明のみ。広間全域を照らすには明らかに不足している。
その時になりようやく王子は自分が床に半身を起した状態でいることに気付き立ちあがった。
改めて周りを見渡すがどう考えても見覚えのない場所だ。
彼の知る城は5つほどあるが、広間の造りはそのどれとも該当しない。
灯りがとぼしいせいで、百人には届かないだろうという人影以外は何も見えない。
天井は存在しない。いや、あるのかも知れないが少なくとも視える範囲では確認できなかった。
ただ暗い闇が頭上を覆っているだけだ。
彼は寒気を感じ、身震いする。

「何処、なんですか? ここは」
「解らん」

竜王に尋ねるも、返ってきたのは簡潔な否定文だった。
921破滅の宴 ◇UlnmVKQRRM:2012/04/02(月) 20:09:53.07 ID:g3iqki6r0
「意地悪しないでくださいよ、僕には状況がさっぱり飲み込めません」

その言葉に竜王の曾孫は嘆息する。

「そうではない、本当に儂にも解らんのだ。儂は自分の城に居た筈だ。
 そこで本を読んでいたことまでは覚えているが、そこから記憶がない。気がつけばここに居たのだ。
 誰かは知らぬが大層な真似をしてくれるものよ――」

「そんな、まさか僕らは――拉致されたんですか?」
「そう考えるより他あるまい」

此処に至ってようやくサマルトリアの王子は事態の深刻さを理解し始めていた。

「もしや、ここに居る人たちは……」
「うむ。人、だけではないが漏れ聞く言の葉の断片を拾うには我らと同じ境遇のようじゃな」

竜王の曾孫は油断なく周囲を観察している。

「じゃあ、誰かと話してみましょう。何かわかるかも……」
「今は止めておけ。儂もそうだが、警戒されておる。この空間に漂う妖気は尋常のものではない。
 下手に刺激をすると鬼が飛び出すやも知れぬ。」

言われて彼はは気づいた。
空気に混じった粘りつくような濃厚な闇の気配に。
先ほどからの悪寒の正体はこれだったのだ。
見れば他の人間――だけでなく怪物もいる――たちも肩を押さえて震えていたり、敵意満載の目で周囲を警戒していたりしている。
確かに迂闊な挙動はさけるべきなのかもしれない。

「しかしこのままでは……」
「それにこの首輪のこともある」
「?」
922破滅の宴 ◇UlnmVKQRRM:2012/04/02(月) 20:10:54.46 ID:g3iqki6r0
竜王が指し示したのは己の首に嵌る鈍く黒光りする金属の首輪。

「あれ、それ前からしてましたっけ?」
「馬鹿を言うな。それにお前の首にも嵌っておるわ」

咄嗟に首に手をやると指に伝わるヒヤリとした金属の手触り。

「なんだこれ!」
「よせ!!」

思わず力任せに首輪を引きちぎろうとした――が、竜王がその腕を掴んで止める。

「どうして止めるんです?」
「先ほどお前と同じ真似をした輩がいた」
「……どうなったんです?」
「今度から肩までの高さで身長を測る羽目になった。あれだ」

広間の中央あたりに青いコートを着た首なし死体が転がっていた。
首は……その死体から数メートル離れた場所にぽつんと落ちている。
近づくものは誰もいない。

「さっきまで混乱した空気が張り詰めて一気に破裂しそうだったのだが、
 彼奴のおかげで冷水が浴びせかけられたように鎮まった。
 あと数分も保たぬだろうが、今は誰もが状況を観察することを選択したようだ。
 ともかくこの首輪は外そうとすると爆発する。己の首が邪魔だというなら別に止める理由はないが」
「本当……なんですか?」
「残念ながらな」

竜王の表情からは一切の欺瞞を感じられず、どうやら自分は九死に一生を得たらしいと悟って
王子は生唾を飲み込んだ。
923破滅の宴 ◇UlnmVKQRRM:2012/04/02(月) 20:11:54.96 ID:g3iqki6r0
「あの、竜の長者たるあなたなら多少の爆発くらいどうにか……」
「実際に爆発を見た儂が断言しよう。おそらく我が曾祖父、真なる竜王でさえも抗えぬであろうな」
「そんな」

その時、いきなり空間に光が射し込んだ。
突然明るくなったかと思うとしゃがれた老人の声が響き渡る。

「やれやれ、どうも先走った輩がいるようじゃの……残念だ。
 準備が遅れたのはこちらの落ち度なれど、な」

見上げると空間の中央に一人の老人が浮いていた。
見るからに齢100を超えていそうな禿頭の老人。魔族であることを物語る真紅の肌と長く真っ白に染まった口髭。
王子は目にした瞬間に理解した。
その老人がこれまで相対したどんな怪物よりも強大な力を秘めていることを。
力だけを見ても、もしかすればあの破壊神シドーに匹敵するかもしれなかった。

「何者だ……あいつ」
「どうやらこの悪趣味な宴の主催者さまのようだな」

竜王の顔も険しくなっている。

他の者たちも老人の発する圧倒的な重圧に気圧されたのか動きはない。
だが一人、叫んだ者がいた。

「デスタムーア! 滅んだはずじゃ!?」
「しばらくぶりだなレイドックの王子よ。だがおぬしに構ってるわけにはいかぬのだ。
 死にたくないなら少し黙っておれ。」

デスタムーアと呼ばれた老人は、叫んだ青い髪を逆立てた青年を一瞥すると再び空間全体を見渡した。
924名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/04/02(月) 20:15:02.59 ID:EkgOozBiO
925破滅の宴 ◇UlnmVKQRRM:2012/04/02(月) 20:20:16.97 ID:EkgOozBiO
「ようこそ、我が城へ。我が名は大魔王デスタムーア。
 突然の招待に驚かれた者も多いだろうが歓迎しよう。こうして集まってもらったのは他でもない……」

デスタムーアはいったんそこで言葉を止めるとニヤリと哂った。


 『 お前たちにはこれより、殺し合いをしてもらう 』


大きなどよめきが沸き起こる。
(ふざけるな!)
王子はそう叫ぼうとしたがデスタムーアの妖気に気圧され、口が開かない。
(僕は……ビビってるのか……あいつの妖気に)

「!!」

ドシュウウウウウウウウ

その時、デスタムーアが突然竜巻につつまれた。
全ての魔を裂断する疾風の呪文。
ムーンブルグの王女が好んで使うバギによく似た、それでいて遥かに凌ぐ威力の術のようだった。
王子は知る由もないがバギ系の最上級呪文バギクロスだ。

「チャモロ!?」

誰かが名を呼び、一同の視線が集まる。
黄色い双角の帽子を被りメガネをかけた少年僧侶。
彼がデスタムーアに攻撃呪文を放ったのだ。

「やった!?」
「いや、マズイな」
926破滅の宴 ◇UlnmVKQRRM:2012/04/02(月) 20:22:39.27 ID:EkgOozBiO
王子は一瞬、竜巻の呪文によりデスタムーアが倒れることを期待したが
竜王は即座に無駄を悟っていた。

「チャモロ、退くんだ!!」
「何を言うのです、善なる神のしもべとして彼の存在は許せない!!」

先ほどの青髪の青年がチャモロという少年を制止しようとするが、チャモロは再び呪文を唱え始めた。

「もう一度喰らえ、バギクロス!!」

再び竜巻が巻き起こり――それが一瞬で掻き消えた。

「え?」

見れば宙に浮くデスタムーアは無傷で健在だった。

「我が言葉を中断させるとは……貴様には見せしめになってもらおうか」
「なにを――」

チャモロは最後までいうことができなかった。

ボンッ!

にぶい破裂音と同時にチャモロの首は一瞬にして宙へと舞い上がった。
なにがおこったのか理解できず、王子は目を見開く。

「チャモロォ!!」

力を失い、崩れ落ちる身体を青髪の青年が駆け寄り、抱き支える。
そのすぐ後に、チャモロの首が落ちてきた。
927破滅の宴 ◇UlnmVKQRRM:2012/04/02(月) 20:25:03.64 ID:EkgOozBiO
ドサッ、コロコロ……

「う、あ……」

青年の他に何人か仲間と思しき者たちが駆け寄っていたが、全員が息を呑んで動きを止めた。

「私の話を邪魔する者は消えたかな? まだ居るのなら名乗りでよ、速やかに沈黙させてやろう」

その言葉に青年は頭上の老人を睨みつけるが、動こうとはしなかった。
彼だけではない。その場にいる誰もが動けなかった。

「懸命だな。どうやらこの首輪は……奴の切り札ということか」

竜王の曾孫は再び首輪に手を触れる。
この首輪が嵌められている限り、今デスタムーアに逆らうのは死を意味する。
あの爆発を見た者ならばそれが耐えられるものかどうか判断できるだろう。
そしてこの場に居る全員が動かぬということは、抗える者は存在しないということ――

デスタムーアはもう一度周囲を見渡し、敵意はあれど動こうとする者がいないことを確認して
満足そうに頷いた。

「では説明に入ろうか。といってもお前たちに伝えられる情報はそう多くはない。
 お前たちにはこれから私が作り上げた擬似世界にいってもらい、そこで殺し合いをしてもらうことになる。
 生き残れるのは最後の一人だけ。
 その優勝者には私が責任を持って元の世界に戻すと同時にどんな願いもかなえてやろう。
 富も名誉も、なんなら死んだ人間の蘇生だって請け負ってもよい」

集められた者たちの中に動揺の気配が広がる。
明らかに心動かされた者が何人かいるようだ。
928破滅の宴 ◇UlnmVKQRRM:2012/04/02(月) 20:27:26.97 ID:EkgOozBiO
「信じる、信じないはお前たちの勝手だ。だがそこにいるレイドックの王子ならば私がそれだけの力を持っていると
 知っているのではないか?」
「……」

レイドックの王子という青年は怒りを押し殺し沈黙を返す。
それはあの大魔王の問いを肯定したように見えた。

それを満足そうに見やるとデスタムーアはパチンと指を鳴らした。
すると突然サマルトリアの王子の、竜王の曾孫の、いやその場にいる全員の足元に麻袋が出現した。

「それは私がお前たちにおくるプレゼントだよ。食料や地図、その他いろいろ入っておる。
 戦うための「武器」や「道具」もな。簡素ではあるがルールブックも中に入れておいた。
 向こうに着いたら目を通しておくことだ。ルールを知らぬでは簡単に死が訪れよう、それでは詰まらぬ」

その言葉を聞いた次の瞬間、サマルトリアの王子の体は浮遊感につつまれた。
周囲の景色が白く染まっていく。

「こ…これは?」

「それでは諸君、健闘を祈る。せいぜい我らを楽しませてくれ」

デスタムーアの哄笑を聞きながら彼の意識は薄れていった。

「さあ、ゲームを始めよう」

【マルチェロ@DQ8 死亡】
【チャモロ@DQ6 死亡】
【残り60名】

【ゲームスタート】
※ジョーカーはムドー・ジャミラス・グラコス・デュランの4人。ゲームの管理運営、放送はアクバーが担当します。
929破滅の宴 ◇UlnmVKQRRM:2012/04/02(月) 20:27:52.29 ID:g3iqki6r0
終わり
930名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/04/02(月) 20:55:40.36 ID:3GMbzZ8GO
ありがとうございます!
とても見やすいです
931 ◆jOgmbj5Stk :2012/04/02(月) 21:07:31.66 ID:SfYijM+g0
http://w.livedoor.jp/dqbr2/

とりあえず最低限と思われる、本編、名簿、MAPを更新しました。
今のところ誰でも編集できる設定ですので、余裕のある時には皆さんのご協力をよろしくお願いします。

トップページ案募集中。
932守護神 ◇CruTUZYrlM:2012/04/02(月) 22:30:39.33 ID:SfYijM+g0
「ちょっと、私を無視するなんていい度胸ね?」
彼女がこの地に舞い降りた時、視界に映っていたのは一体のゴーレムだった。
ゴーレムは町の入り口を塞ぐように、ただ佇んでいた。

彼女はゴーレムという魔物を知っている。
知っている、というには少し語弊があるか。ともかく、その存在は人づての話で聞いたことがある。
煉瓦で包まれた巨体に、重量感を伴う素早い動きから力強い一撃を繰り出す魔物。
そして、彼女が知っているのは襲い掛かる魔物としてのゴーレムだけではない。
あの小魚のような顔をした男と共に冒険をした仲間としてのゴーレムも知っている。
誰もが口を開く所を見たことが無いほどの寡黙。そもそも、口を利くことができるのかどうかすらわからないが。
口を開くことが出来なくても、男はゴーレムと意思疎通をすることが出来ていた。
活発に動くわけではなく、落ち着いた動きで敵と戦う。その特性を見抜き、あの男は常に的確な指示をゴーレムに送っていたそうだ。
名前は「ゴレムス」で、その名前を呼ばれると少し嬉しそうな動きを見せていた。

そんな、ゴレムスと瓜二つのゴーレムが今、彼女の目の前にいる。
彼女の問いかけには一切応じず、ただ、町の外を見つめ続けている。
まるで何かを守るように、ただそこに佇んでいる。

「……はぁ、分かったわよ。もうそこにずっと立ってなさい」
彼女、デボラのマシンガンのような問いかけに一切動じないゴーレム。
その様子に流石の彼女も疲れてしまったのか、ゴーレムへの問いかけを中断する。

ここで一つ、デボラの中に違和感が生まれる。
特に外傷もなく、このゴーレムが活動するには何ら問題ないと判断できる。
そして彼にも忌々しい首輪がついていることから、殺し合いを進めるために用意された魔物ではなく、この殺し合いに巻き込まれているのだと推測できる。
もし、殺し合いを進めるための魔物だったとしたら、奴らはゴーレムにすら怯えて保険をかける程度の連中であるというだけ。

もし彼がゴレムスでも、そうでない野生のゴーレムでも、鈍くて反応が遅れていたと考えても、何度目かの問いかけの時点で敵対か友好かのリアクションを起こせるはずだ。
しかし、目の前のゴーレムは違う。こちらに襲いかかることもなく、ずっと町の外を見つめ続けている。
の言葉を借りるなら、このゴーレムには「心」が無いのだ。
まるで、誰かに作られたかのように。

「ま、いいわ」
そこまで考えていく内に「害がないなら良いだろう」と考え、その場を立ち去ろうとしたときだった。
ゴーレムより少し遠くに、もう一匹の魔物が彼女の視界に写り込んだ。
933守護神 ◇CruTUZYrlM:2012/04/02(月) 22:31:26.64 ID:SfYijM+g0

「ククク……只の女がこのような殺し合いにいるとはな」
魔物……いや、魔王バラモスはデボラを視認した後、舌なめずりをしながら彼女に話しかけた。
「そういうアンタこそ、カバみたいな顔してアタシに話しかけるなんていい度胸してるじゃない」
バラモスが魔王である事など知る由も無い彼女は、いつも通りの口調で話しかける。
仮にバラモスが魔王だったと知っていても、彼女の口調は変わらなかっただろう。彼女にとって恐るるに足ることなど、何もないのだから。
そんな彼女のいつも通りを、魔王は強がりと取ったのか、フンッと鼻で笑いながら会話を続ける。
「今の内に強がっておくがいい……地獄の苦しみを味わいながら息絶える事になるのだからな!」
魔王の一言に大きなため息をつき、人差し指と中指で額を押さえながら、やれやれと肩を竦めるデボラ。
申し訳程度に向けられた視線には、憐れみの情さえ感じられる。
「……貴様ァ!!」
怒りに身を任せ、たった一人の女相手に殺意を剥き出しにして飛びかかる魔王。
いつもどおりの挑発を重ねていたデボラは、予想外の素早さに一歩退いてしまう。

デボラがこのまま魔王に襲われ、二度と蘇らないようにはらわたを食い尽くされてしまう。
そこで終わり、彼女の一生は終焉を遂げる。



ハズだったのだが、戦神はほんの少しだけ、ユメを見たかったようだ。

ゴーレムの鉄拳から、高らかに戦いのゴングは鳴り響く。
意識の外から頬を全力で殴られても、後ろに滑りながら踏ん張るところは流石は魔王と言ったところか。
デボラは突然の事態を飲み込めず、瞬きを繰返している。

「おのれ! 邪魔するつもりか!」
大きな石像だと認識していた魔王は、横槍に憤慨しながら石像へ攻撃する。
魔王のカギ爪が、煉瓦と擦れ合い嫌な音を立てる。
それに怯むことなく、ゴーレムは豪腕を振るう。
鈍い音を立てながら、魔王へと拳がめり込んでいく。
物理攻撃では分が悪いと判断したのか、魔王は一歩退いて両手に魔力を込める。
その手から放たれた魔力は閃光となり、ゴーレムへ襲い掛かる。
巻き起こる大爆発、粉塵が町の入り口へと舞う。

その場に呆然と立ち尽くしていたデボラは、鋭い痛みと共に現実に引き戻された。
魔王の腕が自分の体を握り締めている。
骨が軋む嫌な音がする、受けたことの無い激痛が体中を駆け巡り、声を出すことすら叶わない。
「手間をとらせおって……だが、連れていたあの石像もここまでのようだな」
もう少し力を込めてしまえば、簡単に全身の骨が砕けるであろう。
その、ギリギリの線で魔王は力加減をしている。先ほど受けた屈辱を晴らすためだろうか。
町の男たちよりかは力がある自信があった。だが、今はどれだけ力を振り絞ってもこの拘束から逃がれることが出来ない。
魔王からは逃げられない、と言っていたのは誰だったか。彼女の頭にふとその言葉が浮かぶ。
このまま全身の骨を砕かれて死ぬのだ、そう覚悟を決めたとき。
体を大きく揺さぶられ、自身を締め付けていた力が急激に緩んだ。
同時に、バラモスの頬に見覚えのある煉瓦の腕が深々と突き刺さっていた。
934守護神 ◇CruTUZYrlM:2012/04/02(月) 22:32:18.66 ID:SfYijM+g0

バラモスのミスは呪文を使ったことだ。
予想以上の固さゆえに、呪文には弱いだろうと踏んだことが何よりもミスだった。
このゴーレムはデボラの推察どおり人的に生成されたものだ。
かの竜王が、ある城塞都市を滅亡させようと企んだのだが、このゴーレムに阻まれている。
一切の攻撃呪文を弾き、圧倒的な防御力と攻撃力を持つ、まさに「鉄壁の巨人」だった。
竜王軍の襲撃で侵入する魔物から、侵入する全ての生物を襲うようになったのは城塞都市側の考慮していないことが起きた以外は完全に無傷だったのだ。
やがて、一人の勇者の血筋を引き継ぐものによって倒される運命にあるのだが、それが起こるのは彼が連れてこられた時より少し後の話になる。
その勇者の血筋を引くものが全身全霊をかけた最強の呪文ですら、彼は動じることは無いのだ。
もっとも、この場にいる全ての人間がそれを知る由も無いのだが。
勇者のみが扱えるとされる雷すら耐える彼にとって、爆発を耐えることなど簡単なことであった。
粉塵が消え、魔王の姿を目視できれば、もう一度殴りかかることなど容易である。

突然拘束から逃れ、ぶっきらぼうに地面に放り出されたデボラは、ようやく自分の置かれた状況を飲み込むことが出来た。
魔王が手加減をしていたおかげで、まだ体を動かすことは出来る。
このタイミングで逃げることも出来るかもしれない。だが、先ほどのあの素早さを考えればゴーレムを足止めしてから自分を殺しに来ることも可能なはずだ。
あのゴーレムも、魔王を単騎で殺し切ることなどできないだろう。このままの状況が続けばジリ貧になるだけだ。
彼女が無自覚のうちに町側からゴーレムに話しかけたことが幸いして、自分はゴーレムの攻撃対象としては認識されていない。
あの男や、フローラのように長期間冒険を重ね、大魔王の討伐など経験した訳ではない。
だが、自分も親の目を盗み、船を借りてこっそりと冒険の旅に出ていたことはある。
そこで出てくる魔物程度なら倒せるようにもなったし、呪文の扱いも分かって来てはいる。実戦経験が全くのゼロという訳ではない。
このままゴーレムがやられるのを黙って見届け、自分もみすみす殺されるくらいなら。
「そうよ、アンタみたいなカバに好き放題やらせないんだから」
そう呟き、ふくろから出したマントを羽織り、片手に魔神の金槌を携えて。
彼女は、魔王へと飛びかかっていった。

「チィ! まだ動くか!」
呪文が効かない、それに気がつき始めた魔王の顔に若干の焦りが浮かぶ。
しかし、ゴーレムの方も流石に魔王相手に無傷というわけには行かない。
魔王の爪によって、ゴーレムの体にも損傷が目立って来た。
それでも怯むことなく、ゴーレムは腕を振るい続ける。
しかし何度目かの魔王の攻撃で、ついにゴーレムの体勢が傾く。
この好機を逃すわけにはいかない、バラモスは力を込めてゴーレムの足を砕きに行く。
935守護神 ◇CruTUZYrlM:2012/04/02(月) 22:32:58.17 ID:SfYijM+g0

「はァァァァ!!!」
そこに、一陣の風が巻き起こる。
振り下ろされた鉄槌は当たる事は叶わなかったものの、地面を大きく揺るがした。
「小娘……尻尾を巻いて逃げたとばかり思っていたが、わざわざ殺されに来たか」
デボラは不敵に笑う、その笑みが魔王の怒りをさらに蘇らせる。
「わざわざ殺されに来た? 勘違いしないで、ア・タ・シがアンタの相手してあげるのよ。
 分かったらアンタがさっさと倒れてくれたらこっちも楽なんだけどねぇ」
「たわ言を!」
「マヌーサ!」
魔王が飛びかかるタイミングで、デボラも呪文を打つ。
魔物と闘う上での基本。真っ向で殴りあうのではなく、多種多様の手を使いながら相手を弱らせること。
そのために彼女がまず打ったのは相手に幻覚を作り出して惑わせる呪文、マヌーサ。魔王バラモスは、この呪文に僅かに耐性が無かった。
只でさえ力の無い小娘に小馬鹿にされ、巨像には殴られている始末の現状で、怒り心頭の魔王が防禦耐性を取ることなど考えもしなかった。
結果、そのわずかな耐性の無さを突かれてしまう。
「小癪な……!」
ゴーレムとデボラの姿が視界に複数映りこむ。
どれが本物なのか、バラモスに確かめる術はない。
状況判断を強いられている最中に、次の攻めてが飛ぶ。
「ベギ……ラゴン!!」
わずかな冒険でも、数を重ねれば大きな経験となる。
彼女が積み重ねた冒険から学んだ、最強の呪文を魔王に向けて放つ。
一般の女性から放たれるベギラゴンとはいえ、魔王の体を確実に焼いてゆく。
魔王は苛立ちながら腕を振るうが、振るう腕は幻影を捕らえて何もない空を切る。
そして意識がデボラに向いているところを、ゴーレムが殴りかかる。
両者の間に打ち合わせや、意思の疎通は全くない。
ただ、状況がそうなっているだけだ。奇跡的に、両者の動きが噛みあっている。
魔王に着実なダメージが蓄積されているのは、目に見えていた。
「小娘ェェェ!!」
魔王の口から激しい炎が吐き出される。
呪文ならゴーレムの影に隠れれば済むが、炎なら全体的に影響を与えることが出来る。
そこからデボラを炙り出し、まずは幻覚の魔法の根元を打ち切る。
そう考えていたのだが、ここでデボラの強運が発揮される。
彼女が身に纏っていたマントは、彼女が良く知る男の身を守る王者のマント。
悪しき魔物からの炎や吹雪さえも、耐えきる逸品だ。
バラモスの吐く炎に対しても、わずかなダメージで抑えることが出来た。
そのことに、バラモスの苛立ちは大きく加速する。

そして、局面は大きく動く。
幻覚で惑わされ続ける魔王に対して好機と判断したのか、ゴーレムはラッシュをかける。
先ほどより速度の上がった拳が、魔王へと確実に突き刺さる。
魔王は、その一発一発を受け止めるのが精一杯だった。
反撃をすれば、その腕は空を切る。その隙にもう一発の拳が飛んでくる。
これ以上、魔王としてもダメージを受けるわけにはいかないのだ。

デボラは、ゴーレムとバラモスが取っ組み合いをしているのを確認し一歩後ろへ下がる。
今、手に持つ魔神の金槌。
話には聞いていたが、当てれば恐るべき破壊力を引き出すことが出来る。
一度振ってみて分かったが、金槌に「振り回される」のだ。
この力を引き出すには、一点の隙をもう一度、正確に突く必要がある。
そして、その隙はたった今生まれようとしている。
936守護神 5/5◇CruTUZYrlM:2012/04/02(月) 22:33:55.34 ID:SfYijM+g0

息を吐き出し、トン、トンと軽く飛び跳ねて、呼吸を落ち着ける。
「おのれ……小癪な人形と小娘め!」
瞬時に駆ける。目指すは只一つ。
「調子に……」
大きく飛ぶ。ゴーレムを優に飛び越し、あの脳天を目掛けて。

鉄槌を、振り下ろす。



会心の――――一撃!!



「乗るなあアァアアアアアアアア!!」
一撃を叩き込んだ瞬間に、デボラ自身も激痛に苛まれる。
魔王の右腕が彼女の腹部を貫き、左腕はゴーレムの拳をしっかりと握り締めて受け止めていた。
「もう……容赦はせんぞ!!」
先ほどとは一段と違う、覇気を纏った声に恐怖するデボラ。
ゴーレムの腕をいとも容易く引きちぎる。
「只の小娘と石像、簡単に勝てると思っていたのが過ちだったようだな」
次に、デボラの上半身を持ち、突き刺した腕を軸に体を上下に引き裂く。
飛び散る鮮血と共に激痛をデボラが襲う。この世のものとは思えない絶叫が、木霊する。
そのまま、握り締めていたデボラを地面に叩き付ける。
地面に触れる瞬間に、ガラス瓶のように全身が飛び散るデボラ。
死を実感する前に、その意識は途切れることになる。
そのまま、血に塗れた腕でゴーレムへと向かう。
咄嗟に臨戦耐性を取るも、魔王の手により足が砕かれる。
バランスを失い、崩れ去るゴーレム。
地に立つことすら叶わず、そのままもう片方の足も砕かれ、残った腕も砕かれ。
最後に、顔面を渾身の力で踏み砕かれ。ゴーレムも、その機能を完全に停止した。
本気を出したその姿は、魔王と呼ぶに相応しい物だった。
「感謝するぞ、我が心から慢心を取り除いたことをな」
一つの死体と残骸を一瞥し、魔王は体力を回復させながら町の中へと歩みを進める。

この場には、未知の存在が多数いる。
この魔王の力を持ってしても、苦しめられるほどの力を持っている者が多数いる。
嘗て、勇者が来たときも自分の中には若干の慢心があった。
その所為で、無様な敗北を遂げてしまった。
何かの縁で制限つきの命を受けた今、次は失敗することは許されない。
この頭の傷と全身のダメージは、それを学ぶ少し高めの授業料だったといえるだろう。
「ゾーマ様、もう一度貴方様の牙となり、お役にたって見せましょう」
覚醒した魔王は絶望を名乗る町へと、一歩ずつ確実にその足を進めていく。


【ゴーレム@DQ1 死亡】
【デボラ@DQ5 死亡】

【G-3/絶望の町入り口/朝】
【バラモス@DQ3】
[状態]:頭部にダメージ(大)、その他全身的にダメージ(中)
[装備]:なし
[道具]:不明(0〜3)、基本支給品
[思考]:誰が相手であろうと、容赦せずに皆殺しに町内へ。
[備考]:本編死亡後。

※絶望の町の入り口を塞ぐようにゴーレムの残骸があり、デボラの上半身が倒れています。両者の支給品はそのままです。
デボラ:魔神のかなづち@DQ5、王者のマント@DQ5、不明1(彼女が扱える武器の類ではない)
ゴーレム:不明3
937名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/04/02(月) 22:36:24.30 ID:SfYijM+g0
代理投下終了です。

ああ、ついに最初の死者が……。
ゴーレムとデボラの冥福を祈ります。

それにしてもバラモス、さすがの魔王の貫録。
これからに期待です。
938名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/04/02(月) 22:56:19.41 ID:BkW/IiA70
話を聞かない男、地図の読めない女 の1レス目が抜けてたのでwiki追加しました。

アルスがともえなげ使ってるので、少なくともぶとうか★5は達成済ってことになりますね。
こういうのもwikiに載せてったほうが良さそうですね。
939名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/04/03(火) 23:19:55.88 ID:oY8ORAK00
代理投下します
940牢獄の番人 1/5 ◇HGqzgQ8oUA:2012/04/03(火) 23:21:34.06 ID:oY8ORAK00
ギュメイ将軍が再び意識を取り戻してはじめに抱いた感情は、戸惑いであった。

 ガナン帝国に忠義を尽くした人間としての生涯。
 エルギオスによって豹頭の剣士として蘇られされてなお、ガナン帝国への忠義を選んだ魔獣としての生涯。
 そのいずれも、悔いも無きものであったはずだ。
 自身の生に、既に未練などなく。
 唯一の未練であったのは、主君ガナサダイとその父、先代王ガンベクセンの確執であった。
 が、それさえも天使の少女たちによって無事に解決を見た。
 ガナンの歴史の全てを見届けて、ギュメイは今度こそ天に還ったはずなのだ。

 故に不可解であった。
 再びこうして受肉したことに、果たして今、何の意味があるのか?
 守るべき国は既に無く、従うべき主君は既に亡く。 
 空虚なギュメイの中に、ただ一つ残されていたのは、剣の道であった。

 ゆえにギュメイは立ちあがり、再び剣を取る。
 唯一残されし剣の道。そこに提示されたこの死合いの場。
 強者との対峙は、好敵手との出会いは、ギュメイとしても望むところではある。
 弱者までも斬り捨てることについては抵抗があるものの、帝国再建の前には詮無きこと。
 勝利者へと提示された『褒美』をもって、ガナン帝国の再建を願うのも一興か。
 この再生に意味があるなら、それは国に殉じることであると、己を納得させながら。

 ギュメイが落とされたのは、牢獄の町と呼ばれる施設の地下だった。
 捕らえた虜囚たちを、この場に住まわせて生活させていたであろう、生活の跡が散見されている。
 およそいいとは言えない環境に眉を顰めていると、一人の青年と出会う。
 その身のこなしは戦士として申し分なく、ギュメイは迷うことなく声を張り上げた。

「我が名はギュメイ、ガナン帝国三将の一人! 戦士よ、我と手合わせを願う!」


 ○


「いいぜ。ちょうどひと暴れしたかったところだ……!」

 豹頭の男の出現にも物怖じ一つせず、申し出を二つ返事で了承した青年は、その名をアレルと言う。
 勇者となるべくして生を受け、勇者となるべく育てられてきたこの男は、
 皆が皆、己が望むがままに動いてくれることをいいことに、結構な乱暴者として育った。

 手癖は荒く、旅に出て彼がまず行ったのは民衆からの略奪であった。
 腕っ節は強く、従わぬものは、なんであろうと力で従わせた。
 だが同時に気に入らぬ悪党も片っ端から捻り潰してきたことで、批難の声は徐々に賞賛へと変わっていく。
 人を惹きつける"カリスマ"が、彼には備わっていた。
 付き従う仲間の一計により、魔法の腕輪を身につけるなどで若干の性格矯正は行われはしたものの、
 その破天荒な生き方そのものは変わることはなく、彼は全ての道を、己が力で切り拓いていった。
 どこまでも自由に。
 力も、富も、名声も、平和でさえも、彼に手に入れられないものは何も無く。
 暴れ馬は、やがて万人が認めるところの勇者として大成した。

 英雄として持て囃される生活に、やがて退屈を抱いたアレルは一人、旅に出た。
 求めたのは単純に、新たな刺激である。
 この地に彼が落とされたのは、そんな矢先であった。
941牢獄の番人 2/5 ◇HGqzgQ8oUA:2012/04/03(火) 23:22:13.63 ID:oY8ORAK00

 強制的に戦いを強いるというこの場は、望んだ刺激と程遠く、到底受け入れられるものではなかった。
 己の望むがままに進むアレルにとって、束縛を意味する首輪などは特に不愉快で。
 アレルは憤慨し、苛立ちを隠しもせず牢獄の町を歩いていた。
 そんな矢先に挑まれた決闘を、彼が受けない理由はなかったと言えよう。


 ○


「では、参る!」

 牢獄の町に、気合の咆哮が響き渡る。
 先制したギュメイの鋭き炎を纏った斬撃を、こともなげにアレルは打ち払った。
 すかさず反撃に転じようとするが、ギュメイは重心を取り戻し、既に追撃を構えている。
 足元よりバランスを崩さんと振り上げられた斬撃を、アレルはそれでも冷静に後退して回避。
 右脚に力を込め、ギュメイを押し潰す勢いでアレルは猛進。
 しかし当たるか当たらないかのところでギュメイは脱力し、勢いを殺してから剣を突き出した。
 アレルは目だけでそれを追うと、前屈のような形で避けてみせる。
 そのまま床に両腕をつけ、それを軸にして倒立し、足を開いて大きく回転。
 体術を以ってギュメイを怯ませると、アレルはいきおい立ち上がり今度は上段に剣を構え、跳躍。
 ギュメイが受けることを放棄し後退すると、剣の振り下ろされた床面が大きく爆裂した。
 飛び散る石材に乗じてギュメイが前進すると、アレルはそれを待っていたとばかり正面から受ける。

 そうして、鍔競り合う形で二人は対峙した。

「自己紹介が遅れたな、オレはアレル、覚えておきな」
「どうやら相当な手練の様子。こうして剣を交えられること、礼を言わせてもらおう!」
「こっちも嬉しいぜ。オレに堂々とケンカを売りに来たやつは、久しぶりだからな……!」

 その後の二人の剣戟は、熾烈を極めた。
 大剣であるバスタードソードを、まるでひのきの棒のように軽々と振り回す豪腕のアレル。
 長剣である山賊のサーベルに、持ち味の鋭い剣さばきが加わり、超スピードで立ち回るギュメイ。

 互いに戦いを長引かせることは得策ではないと考えながらも、一方でもっと続けたいと滾りあう。
 好敵手。互いを認めるのに、そう時間はかからなかった。
 だからこそ、アレルは問いかける。

「……お前は何のために今、剣を振るってんだ?」
「忠義の為。失われし我が主と、亡国の再建を望んでいる」
「で、それは誰が叶えるんだ」
「この死合いに勝利することで『褒美』が得られると聞いている。それを為して――」
「本当に叶うと、叶えてくれると思うか」
「!」

 剣戟が、止まる。
 ギュメイはひとたび距離を取り、思案する。アレルもそれを追おうとはしなかった。
 アレルの問いは、ギュメイの心に深く突き刺さった。
 蘇生に戸惑いその場しのぎの間に合わせとして考え付いた「帝国の再建」という動機。
 だがこれは、『馬鹿正直に魔物たちが願いを叶えてくれる』という前提に基づいたものだ。
 疑念にまみれた、ひどく不安定な前提であることは間違いない。
 それに。

「だいたい、そんな労せず手に入れたてめえの国に、そんなに価値があると思うのか?」
「……」
「内心、分かってるんじゃあねえのか。そんなことはありえねえし、そもそも違うんだってよ。
 そういう迷いが剣に現れてるいまのお前は、ちっとも面白くねえ」
942牢獄の番人 3/5 ◇HGqzgQ8oUA:2012/04/03(火) 23:22:52.78 ID:oY8ORAK00

 反論の余地がなかった。
 ギュメイの知るガナン帝国は、既に失われている。二度と蘇ることなどない。
 蘇ったとして、それは仮初のものに過ぎない。偽者だと言ってもいいだろう。
 ギュメイの知るガナサダイはもう亡く、三将としてしのぎを削ったゲルニックとゴレオンも倒れた。
 無論、ギュメイ自身の魂も。
 その全てに納得していたはずだというのに。
 目先に釣り下げられた安い餌に食いつこうなど、自身への、そして帝国への愚弄に他ならない。

「しかし、それでは我は、何のために生き返ったと……?」
「知らねえよ、そいつは自分で考えろ。ただ、せっかくもらったその命。
 このままこの殺し合いの為に、奴らの思惑通りに使って、それでいいって満足できるか?」
「……否」
「なら、オレと来いよギュメイ。お前の本当の剣を、オレに見せてみろ」
「……だが我は、二君に仕えるつもりは」
「従わせるつもりなんてねえよ、好きなようにしてりゃあいい。
 お前が無事に吹っ切れたら、そんときにもう一度、戦ろうぜ」

 アレルはニッと笑い、剣ではなく右手を突き出した。
 粗暴だが、力あるアレルの言葉に、ギュメイは大きく心を動かされていた。
 好敵手足りうるこの男と共に、新たな生きる意味を探すのも良いかもしれないと。
 ギュメイは、迷いながらもアレルのその手を取らんと新たな一歩を踏み出そうとして――。

 その手を取ることは叶わなかった。

 ビシュッ――

「がっ……!?」

 突如として放たれた矢が、アレルの首筋を貫いていた。


 ○

「何奴!?」

 突然のことに驚き振り向いたギュメイが眼にしたのは、浮遊する機械兵の姿。
 くすんだ鈍色の装甲は傷一つ無い光沢をたたえ、あらゆる攻撃を弾き返す鉄壁の防御を感じさせる。
 尾のように伸びた下半身の先にはビッグボウガンが備えられていた。
 アレルを射抜いた矢は、恐らくここから放たれたのだろう。
 目を惹いたのは、両手で構える星をかたどった戦鎚"星砕き"の存在だ。
 その直撃を受ければ命はないことは、想像に難くない。
 数々の脅威を従えた機械兵――キラーマジンガのモノアイは、ギュメイとアレルを確かに捉えている。

 キラーマジンガは再び弓を引き絞ると、今度はギュメイに向けて撃ち放った。

「ちいっ!」

 それを辛くも回避するも、キラーマジンガは既にギュメイに肉薄していた。
 胴体部を伸ばし、独楽のように上半身を回転させながらの突進。
 高速で振り回される戦鎚にたまらず、ギュメイは大きく吹き飛ばされて壁に激突する。
 サーベルで受けたことで負傷は最低限に抑えられたものの、問題はそこではなかった。

「アレル!」

 叫んだ時には既に遅く。
 キラーマジンガは勢いそのまま、負傷したアレルへと迫っていた。
 ギュメイを吹き飛ばすに留めたのは、先に弱ったほうから仕留めるためだった。
943牢獄の番人 4/5 ◇HGqzgQ8oUA:2012/04/03(火) 23:24:15.00 ID:oY8ORAK00

「くそ、があああああっ!!」

 首に矢が刺さり呼吸もままならぬアレルは、しかしそれでも十分な抗戦を見せていく。
 回転する戦鎚の一撃は回避し、今度はボウガンの矢も打ち払って見せた。
 が、さすがの勇者であっても、重傷を負った状態で戦うには困難な相手であった。
 酸素を失い、残る力の全てを賭けて放った突きは、胸部の装甲を僅かに貫くに留まり――。
 完全な無防備となったアレルの頭上に、一切の慈悲無く星砕きが振り下ろされた。

 ぐちゃり、どさり――……。命の潰える音が、響く。

 持ち主を失ったバスタードソードを体から引き抜くと、キラーマジンガはゆっくりと向き直った。
 改めて、次はお前だと言わんばかりに。
 モノアイを真っ直ぐに見据えて、ギュメイが吼える。

「よくも、よくも邪魔立てをっ!」

 好敵手を屠ったキラーマジンガに怒りをあらわにし、ギュメイは腰を落とし構える。
 狙うは必殺の一撃、魔神斬り。
 直撃すれば聖騎士すらひとたまりもないその一撃を、全身全霊をもって放つ――。

「――受けてみよっ!!」

 魔神の如く斬りかかったその一閃は、確かにキラーマジンガを捕らえていた。
 直撃すれば必ずや、装甲が砕け散るはずの威力であった、しかし。

 砕け散ったのは、山賊のサーベルだった。
 アレルとの剣戟をくぐりぬけ、星砕きの一撃に耐え、既に疲労の蓄積していた長剣。
 ギュメイの渾身の一撃と、厚き装甲の激突による衝撃は、限界を超えるに十分なものであった。
 
 刃を失い大きく威力を損ねた魔神斬りは、結局、肩口の装甲に傷を残すだけに終わる。
 武器を失ったギュメイに、もはや反撃を避ける術は残されていなかった。

「み、見事……!」

 キラーマジンガが、星砕きとバスタードソードを振りかぶる。
 ギュメイは同時に体を押し潰され、切り裂かれた。


 ○


 キラーマジンガに輝かしき生まれのルーツも、誇るべき育ちのエピソードも存在しない。

 ただ数多の冒険者を血の海に沈めてきたという、都市伝説がまことしやかに囁かれているだけだ。

 造られた命に与えられた『任務』は、一つ。

 自由に生きた勇者の剣も、忠義に生きた武人の剣も、機械兵にとっては等しくただの獲物に過ぎない。

「もしこの戦いを生き延びたいのなら、この私をたおしてゆくがいい――」

 キラーマジンガは牢獄を彷徨い、新たな標的を求めている。
944牢獄の番人 5/5 ◇HGqzgQ8oUA:2012/04/03(火) 23:24:52.14 ID:oY8ORAK00

【A-4/牢獄の町 居住区/朝】

【アレル(DQ3男勇者)@DQ3 死亡】
【ギュメイ将軍@DQ9 死亡】
【残り56人】 

【キラーマジンガ@DQ6】
 [状態]:肩口と胸部に傷(行動に支障なし)
 [装備]:星砕き@DQ9 バスタードソード@DQ3 ビッグボウガン(鉄の矢×27)@DQ5 
 [道具]:基本支給品一式 不明支給品(武器以外×0〜1)
     アレルの不明支給品(0〜2) ギュメイ不明支給品(0〜2)
 [思考]:命あるものを全て破壊する
※山賊のサーベル(折れている)@DQ9はギュメイの死体の付近に落ちています
945名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/04/03(火) 23:25:14.67 ID:oY8ORAK00
代理投下終了です。
946名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/04/04(水) 01:00:29.05 ID:Nem2AizxO
うおおマジンガ様やっぱこええええ
947 ◆2UPLrrGWK6 :2012/04/04(水) 01:03:36.62 ID:2FnY9zxY0
投下します。
948 ◆2UPLrrGWK6 :2012/04/04(水) 01:22:13.63 ID:2FnY9zxY0
レベル不足のため、あまりに投下に支障をきたすために代理依頼いたしました。
どなたかお手すきの方どうかよろしくお願いします。
949名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/04/04(水) 19:54:00.37 ID:T7XivLtF0
ドラゴンクエスト・バトルロワイアルII Lv1
http://kohada.2ch.net/test/read.cgi/ff/1333536494/

容量が限界近いので次スレを建てました。
あと代理投下しますね。
950scissors and foolish1/6  ◇2UPLrrGWK6:2012/04/04(水) 19:55:32.76 ID:T7XivLtF0


「まっ暗だ」

抑揚のない声が、暗闇に木霊する。
彼の声が示すまま、そこは一面広がる闇だった。
それっきり一言も漏らすことがなく、ただただ沈黙が続く。
そしてしばらくして。

「灯りが、いるな」

ごそごそと、感触を頼りにふくろを漁りだした。
何が何だかわからないまま招かれたこのゲーム。
確かに彼ならば魔王たちの目に留まるのも無理ない存在だ。
何せ、彼は破壊神を仲間と共に討伐したいわば『勇者』である。
お声がかかるのも当然、そして大活躍間違いなしの有望株─と、言ったところだろうか。
だが。
現実は少し違う。
あまりに致命的な弱点が、彼にはあった。

「つかん」

支給品の着火器具、ランタンを取り出したまではいい。
それが、どちらも暗闇を照らすのに必要なところまではわかる。
わかるのだが。
どうやって火をつけるのか。
それにどうやって灯りをともすのか。
彼はそれらを行うのに、致命的に─頭が弱かった。
わからないなりの行動で、ランタンの蓋を開けようと手に力を込める。
だが。

「あっ」

ランタンは、紙屑のようにくしゃりとつぶれてしまった。
不良品だったわけではない。
彼の力が強すぎるのだ。
隣国の王子という仲間を得るまでは、暗闇を勘だけで進まざるを得なかった理由がよく理解できる。

「またやってしまった」


彼は、生まれながらに異常なる力を携えて生まれてきた。
両の足で立つことを覚える前に、逆立ちをしてみせる。
年上の子供と駆けっこをしてみて、あっさりと追い抜いてしまったこともある。
さすがは勇者の血筋、神童だと皆が持て囃した。
だが、やがて彼の底なき力が、更なる頭角を現す。
神童と呼ばれた赤子は、やがて怪童と評されることとなった。

彼の力は決して尋常なものではない。
ようやく、ようやくではあるが皆が異常を感じ始めたのだ。
与えられた玩具は全て変形し、酷いときには握りつぶされた。
乳母が手を引けば、逆に引きずられ怪我を負う。
勉強の時間には羽ペンを何本もへし折って、最終的に何があったか家庭教師の鼻もへし折られた。

父王は、力の有り余る息子に王宮剣術を習わせてみた。
行き過ぎた力も、発散すべきところで振るえば少しは収まるのではないかと、考えたからだ。
だが、現実はうまくいかない。
剣の指南役を完膚なきまでに打ちのめし、二度と剣を握れない体にしてしまった。
951scissors and foolish2/6  ◇2UPLrrGWK6:2012/04/04(水) 19:56:26.00 ID:T7XivLtF0
いつしか、王子の周りからは誰も居なくなった。
まるで檻から放たれた獣。
いや、それ以上に恐ろしいものを見る眼で、彼を遠巻きから眺めることしかしなくなった。

やがて怪童は─悪魔の子とまで呼ばれた。


ある日彼は、半ば追いやられるように、邪教の神官を倒す旅へと差し向けられた。
姉妹国が陥落したのをいいきっかけとでも言うかのように、剣一本とはした金だけを握らせ。
彼の父は、死出の旅へと息子を追いやったのだ。
いつか、自分の国が息子によって滅ぼされるのではないか、と恐れたために。
いっそ名誉の戦死を遂げることを望み、その背を押したのだ。

だが。
彼は帰ってきた。
ハーゴンはおろか、破壊の神すら捻じ伏せて。
恐るべき膂力で、すべてを破壊して帰ってきたのだ。
国民は世界の平和が取り戻されたことに喜び─我らが王子の無事の帰還に、大いに嘆いた。

破壊神をも破壊した恐るべき存在が、帰ってきてしまったと。



「あのとき父上は、ハーゴンを倒してこいと言った」

彼はこうみえて、父を信頼していた。
心に秘めた善き王になろうという気持ちに、一片の曇りもない。
もっとも嘘がつける頭は持ち合わせていないが。
ともかく彼は、正真正銘の『勇者』たる者で間違いないのだ。
だが、余りに─無知すぎた。

「今、おれは、どうする。どうしたらいい。また、戦えばいいのか。戦って─」

目の前で起きた惨劇に、怒りが湧くこともない。
これから起こるであろう争いを、恐れることもない。
なにせ─

「みんな倒せば、いいのか?」

彼には未だ『命』が理解できないのだから。
自分が奪った幾多もの魔物の命も。
周りで失われていった数々の人間の命も。
自分自身が、今生きているという事実すらも。
倫理とかそういうものを、超越していたところに彼は立っていた。



「ヒヒ……おまえさん……こっちへおいでよ」
「?」

悩める彼を、ひとつの声が導いた。
かすれた声がこちらに届くが、なにせ完全な暗闇では正体がわからない。
持ち前の動物的勘で、声のした方に足を進める。
通常手さぐりでおっかなびっくり進むであろう闇の中を、ずんずんと自信ありげに。

「そうそう、こっち……」
952scissors and foolish3/6  ◇2UPLrrGWK6:2012/04/04(水) 19:57:00.49 ID:T7XivLtF0

ぼう、と光を見つける。
向かうと曲がり角の先に、ぽつりとランタンが置かれていたのだ。
灯りの主は、いない。

「おまえさん、灯りが欲しいんだろう?見てたよ」
「見えるのか?」
「暗闇にゃ慣れててね……ヒ、ヒヒ」

妙に上擦った笑い声が、か細く彼の耳に届く。
が、やはり姿が見えない。
声の大きさから、そう遠くには居ないはずだというのに。

「壊れちまったランタンの代わりに、俺のをやるよ」
「いいのか?」
「俺にゃ必要ないからねぇ。火を消すくらいはできるだろう?」

既に灯りが灯ったランタンを拾って、再びきょろきょろと見回す。
道は照らせたものの、先行きが暗闇なのは変わりない。

「ありがとう」

長い旅で仲間から教わった、貴重な財産を口にする。
わずかながらも人としての心を、長い旅と仲間との絆から彼は得ていた。
ローレシア王も、ほんの僅かでも息子を信じていれば、きっと気づいただろう。
彼が遂げた、素晴らしき成長に。

「礼はいいさぁ……それより、お兄さん。迷っていたね?『どうすればいい』って……」
「わからないんだ。おれは何をすればいいんだろう」

だが。
自らの願いを実現するために行動する。
なんとも惜しいことに彼には類稀な力を用いるべき指針。
すなわち『夢』や『望み』をまだ、彼は見つけていなかった。

「おやおや。聞いていなかったのかい?」
「え?」
「あのじじいが言ってたろう『 お前たちにはこれより、殺し合いをしてもらう 』 ってね」

暗闇からの声が言うとおり、確かにそう言われてこの地に招かれた。




殺し合い。

(なんだろう)

殺す。

(それはいったい、なんだろう)

その言葉が、彼の心に引っ掛かりを覚える。
彼は─あまりに、素直すぎた。

「殺すって、なんだ?」
953scissors and foolish4/6  ◇2UPLrrGWK6:2012/04/04(水) 19:58:11.94 ID:T7XivLtF0

「……ヒ、ヒヒ!ヒッヒ!いやぁ、そんな質問されるたぁ思ってなかった」

誰よりも純粋故に、質問を投げかけた。
その答えとばかりに、さも愉快そうに暗闇の中から笑いが届く。
対して彼は、首をかしげることしかできない。

「ヒヒ……ああ悪ぃね、もののついでだ教えてやるさ……そのふくろ、中身を見てみたかい?」
「まだだ」

手を入れて最初に出てきたのは、盾だ。
何とも禍々しく巨大な『オーガシールド』。
彼はそれを、なんとも軽々と掲げてみせた。

「おお、いい、実にいいよそいつは。だが戦いには必要なモンが他にある」

次に取り出したのは腕輪。
満月を模った宝珠が光る『満月の指輪』。
とくに躊躇いもなく、指に嵌めてみる。

「指輪は、戦士のたしなみだ。なんつってな、だがそうじゃねえ。それじゃねえのよ」

そして最後に、彼もその手に懐かしい感触が残る武器が取り出された。
『大金槌』。
破壊力のみを追い求めたシンプルかつ強固な作りの、打撃武器である。

「そう、そういうのだ……簡単さ。
 『武器』を『装備』して『戦う』。おまえさんがするのはそれさ」
「そんなことで、いいのか?」
「その体つき見りゃわかるぜ?おまえさんはそれしか能が…おっと、それが得意なんだろう。
 なら、ここでも同じことをやってりゃいい。」

なんとも真っ直ぐな目標を目の前に打ち立てられた。
揺れることなど微塵もなく、ただ真っ直ぐに─

「わかった。そうする」

歩み出すしか、なかった。
善悪の分別も。
倫理観も。
彼には不足し過ぎていた。
闇からの上擦った笑いが、抑えきれなくなるようなものに、変わる。

「そーさ、人間だろうが魔物だろうが構うこたねえ。
 勝ち残ってお前さんの願いでもなんでも叶えちめえばいいのよ」
「ねがい?」
954scissors and foolish5/6  ◇2UPLrrGWK6:2012/04/04(水) 19:58:55.21 ID:T7XivLtF0

「無きゃ無いで別にいい。『いいえ』とでも言っておきな。
 ともかくお前さんのやるべきことを俺ぁ確かに教えたぜ。がんばりな」
「わかった」

とうとう、顔も見せない闇からの囁きに唯々諾々と彼は従う。
余りに純粋で、無垢で、そして危うき存在は、解き放たれたのだった。
彼は気づかなかった。
名簿というものが、ふくろの中にあることを。
気づけなかった。
この地に招かれた、大切な友の存在に。

破壊神を破壊した男が、暗闇を抜けだし歩き出す。
無限の戦いが待つ、道へと。





「……バカとハサミは……ってね、ヒヒッ」


暗闇に完全に溶け込んだ存在が、カタカタと顎を鳴らして笑いを漏らす。
影の騎士。
アレフガルド侵攻の折に、潜伏能力を大いに活用し主に諜報活動を行っていた魔物だ。
何の因果か招かれたこの戦いで、影の騎士は妙案を思いつく。

「最後の最後まで、闇から闇へと……ヒッヒッヒ」

戦わずして勝つ。
そう、自らの主ですらも出し抜いて、勝者となるべく策を巡らせたのだ。
竜王にすら表だって見せない、その狡猾な本性が今露わとなった。

「さて……あのボンクラは何てぇ名前かな……?」

最初の標的が余りにもすんなり扇動され、彼は笑いが抑えきれなかった。
次はどう騙そうか、どう嘯こうか。

(ヤツの名を殺人者として他の連中に吹き込もうか?
 ヤツに仲間がいればそいつも殺人者の仲間ってこった!!)

人を陥れるという事をまるで遊戯のように考え、今や玩具扱いしている。
考えるだけで愉悦に溺れそうであった。

「……?」

笑いがピタリと止まる。
狡賢く、知略を巡らしてこのゲームに臨もうという影の騎士に。
理解しえない最初の壁が立ちはだかったのだ。
955scissors and foolish6/6  ◇2UPLrrGWK6:2012/04/04(水) 19:59:18.71 ID:T7XivLtF0




「もょ…もと……?」



どう発音しよう。
髑髏の顎が開きっぱなしになった。


【E-8/欲望の町/朝】

【もょもと(ローレシア王子)@DQ2】
 [状態]:健康
 [装備]:おおかなづち@DQ2 オーガシールド@DQ6 満月のリング@DQ9 
 [道具]:基本支給品一式     
 [思考]:『たたかう』


【E-8/欲望の町 炭鉱/朝】

【影の騎士@DQ1】
 [状態]:健康
 [装備]:不明
 [道具]:基本支給品一式(ランタンなし)不明支給品1〜3
 [思考]:闇の中から中へと潜み続けて、戦わずして勝ち残る。
     争いを加速させるためあらゆる手段で扇動する。
956名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/04/04(水) 20:00:18.26 ID:T7XivLtF0
代理投下終了。
次の話は次スレへお願いします。

ドラゴンクエスト・バトルロワイアルII Lv1
http://kohada.2ch.net/test/read.cgi/ff/1333536494/
957名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/04/05(木) 13:20:48.19 ID:Qjv6fd9s0
始まったか
958名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/04/06(金) 00:03:02.87 ID:XonyO24Q0
埋まるまではこっちのスレ使った方がよくない?
959名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/04/06(金) 00:31:47.20 ID:iyP8TNPk0
容量がもうギリギリなんよ
960名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/04/06(金) 15:59:36.54 ID:Bl+i69DW0
961名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/04/06(金) 20:58:19.29 ID:F/jEEz2Q0
うめうめ
962 ◆0/.3OCgGdE :2012/04/09(月) 19:54:25.39 ID:eIrzHT+pO
テス埋め
963名前が無い@ただの名無しのようだ
うめ