FFの恋する小説スレPart11

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201ラストダンジョン (431)   ◆Lv.1/MrrYw :2011/09/22(木) 02:14:47.31 ID:HR+J0iV30
前話:>>195-197
(場面はPart10 263-266の続き)
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 時間にすればほんの数十分ぶりの再会であるはずなのに、タラップを駆け上がって飛空艇に
乗り込むなりクラウドは愛車に駆け寄ると、入念にコンディションをチェックしていた。
 そうしたくなる気持ちも分かるだけに、シドは複雑な笑みを浮かべながら言った。
「なんつってもオレ様の艇だ、そいつも乗り心地は悪くなかったはずだぜ?」
 シドの声に応じて顔を上げると、クラウドは一瞬すまなそうな表情を作って視線をメーターに
向けた「ありがとう」。
「へっ、補給と回復薬はオレ様からのサービスだ! モンスター群のど真ん中でエンストしたん
じゃ、笑い話にもなんねぇ」
 シドは口元をつり上げて笑んでみせると、クラウドもつられて笑顔を浮かべた。
「……まあ、てめぇの事だから心配しちゃいねえが」後に続く言葉を躊躇ったようにして僅かの
間があいてから、シドはやや声を落とす「流れ弾なんかに当たるんじゃねえぞ?」。
 言いながら親指を立てて後方にあったパネルを示す。パネルには等間隔に並んだ経線と
緯線の上に周辺の地域図が描かれていた。そこには新本部施設の建物を中心とした同心円が
幾重にも重ねられ、さらに飛空艇師団の飛行軌道と爆撃範囲も示されている。
「建物を中心としたこの円内なら安全だ。けど、逆に言やあそれ以外は保証できねえ。前と
違って今回は急ごしらえ、そもそも味方の地上部隊なんてのも想定してねえからな」
 そんな物、とても作戦などと呼べる物ではない。そう言ってシドは苦笑した。
 シドの言う「前」とは、3年前のミッドガル会戦の事を指していた。地上と上空に展開するディープ
グラウンド勢に対して、陸路から進軍するWROと上空制圧を担う飛空艇師団の共同作戦は、
短い時間ではあるが綿密に練られた計画を元に実施された。
 この作戦立案に一役買ったのがリーブだった。7基の魔晄炉停止作戦は言うまでもなく、
元ミッドガル都市開発責任者としての知識は、地の利を活かした敵の配置予測と進攻ルート、
効率的な空挺団降下ポイントの割り出しに有益な情報をもたらす事となった。また、限られた
兵力を有効に活かすための補給ルートや退路の確保など、リーブの口から出たのはおよそ
都市開発とは無縁のものばかりだったので、兵法こそが彼の本業なのではないかとシドが疑い
たくなるほどだった。
202ラストダンジョン (432)   ◆Lv.1/MrrYw :2011/09/22(木) 02:17:24.08 ID:HR+J0iV30
 しかし今、リーブはいない。ここでクラウドに伝えられる情報と言っても、たかが知れている。
 言外に含まれたシドの懸念を汲み取ったクラウドが、静かに頷いてみせる。
「大丈夫、上手くやる。それにシド達なら心配する事なんてない。違うか?」
 そう言って、ゴーグルを着け愛車に跨るとグリップを握った。持ち主の帰還に呼応するする
ように、フェンリルは低い咆哮をあげ始めた。ゆっくりと開き始めたメインハッチから差し込む
夕陽が艇内をオレンジ色に染め、吹き込む風がクラウドの髪を小さく揺らす。回転数を上げた
エンジンは鼓膜と鼻腔を刺激し、全身に伝わってくる心地よい振動は疾走への期待感とともに
気分を昂ぶらせる。いよいよ発進というところで、貨物室内にクルーの声がこだました。
『艇長! WRO輸送部隊からの通信が入っていますので音声をそちらに回します』
 通信担当に続いて聞こえてきたのは、予想もしない声だった。名前を呼ばれたシドと、前傾
姿勢だったクラウドはとっさに両足を地に着けてアクセルグリップを戻すと体勢を立て直す。
アイドリング音はまるで、急に足止めされ不満を漏らすフェンリルの呻り声にも聞こえた。
『シド! オイラの声、聞こえてる?』
「……ナナキ!?」
 残念ながらシドの声はナナキに聞こえていない。どうやらそれを承知しているようで、ナナキは
一方的に話を始めた。どうやらナナキの声は録音された物のようだ。
『オイラ偶然、東大陸の南でガードハウンドの群を見つけたんだ。様子がおかしいと思って後を
追っていたところにWROの輸送車を見つけて、今はそのトラックに乗せてもらってる。大体の
話はWROの人達に教えてもらったよ。シド、空爆なんてしないよね? そっちでは一体なにが
起きてるんだい?』
 そこまで言うと、ナナキは言い直す。
『……ええと、シドに聞きたいことは沢山あるんだけど、今はオイラが伝えるのが先だね』それから
さらにナナキは続けた『多分あのモンスター達はニオイにつられて南下してるんだと思う。ニオイの
正体が何かはオイラにもよく分からないけど、むかし魔晄炉で似たようなニオイを嗅いだことが
あるんだ。ガードハウンドの群は、多分そのニオイに引き寄せられてるんだと思う』
 話ながらもナナキなりに言葉を選び、必死に状況を伝えようとしているのが分かる。
「ありがとよナナキ! お前の話、参考になりそうだって伝えといてくれ!」
 シドの声を聞いた通信担当のクルーは回線を切った。貨物室内には飛空艇とフェンリルの
出す低いアイドリング音が響いている。
「……魔晄炉の、ニオイ……?」
 クラウドがナナキの言葉を確かめるようにして呟く。魔晄炉周辺にモンスターが出没するという
のは自身の経験則からも納得のいく話だったが、モンスターを惹き付けている要因が嗅覚的な
刺激によるものかと問われると、確かなことは分からなかった。それに、特別に魔晄炉周辺のみ
にモンスターが出没するという訳でもない。つま先から頭の天辺までどっぷり魔晄に浸かって
いた経験もあるが、残念ながらニオイについての見解に彼の豊富な経験は活かせそうも無かった。
203ラストダンジョン (433)   ◆Lv.1/MrrYw :2011/09/22(木) 02:33:49.40 ID:HR+J0iV30
「そもそも魔晄にニオイなんてあったか?」
 シドは腕を組んで目を瞑り、自身の記憶を辿った。パイロットとしての長年の経験上、魔晄
エンジンを搭載したロケットや飛空艇は身近だったが、そこで魔晄のニオイなんて物を意識した
事は無い。同じ魔晄でも宇宙開発とは縁遠い魔晄炉と言われて最初に思い浮かんだのは、
ミッドガルだった。
「……ミッドガルはなんだ? こう、独特の『いかにも体に悪そう』って臭気が漂ってたのは
覚えてるけどよ、ありゃ魔晄炉だけじゃねぇしな」
 それを聞いてクラウドは内心、煙草の方がよっぽど体に悪いのでは? と考えたが口に出す
のはやめておいた。
「ナナキにはああ言ったけどよ、さすがに魔晄炉はオレ様の専門外だ」
 これこそリーブの本職じゃねぇかと舌打ちしてから、それでもしばらくは考えを巡らせていた
シドだったが、導き出した結論を口にしながら両手を広げた。
「悪いがオレ様にゃ、これっぽっちも思い当たらないぜ」


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・短めですが保守のお供に。
・FF7のロケット推進剤≠魔晄。で、飛空艇動力も魔晄…じゃないような気がしてきました。
 ここは考察不足です本当にごめんなさい。(雰囲気でw)
204名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/09/22(木) 19:18:30.77 ID:0V/PQUtp0
GJ!!!
205名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/09/25(日) 03:53:52.27 ID:T3t6YYyW0
ログイン後書き込み画面に戻ります
206名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/09/25(日) 11:51:45.33 ID:jGOywvqB0
GJ!!
207ラストダンジョン (434)   ◆Lv.1/MrrYw :2011/09/30(金) 01:40:49.44 ID:TgnuHpbU0
前話:>>201-203
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 一方クラウドの脳裏では、ナナキとシドの言葉がまるで残響のように繰り返されていた。
 魔晄炉。
 モンスター。
 ミッドガル。
 反復される単語が引き金になって呼び起こされた記憶は、急速に時間をさかのぼり瞼の裏に
過去の光景を映し出す。
(モンスター……)
 それは故郷ニブルヘイム。ニブル山の頂にそびえ立つ、寒く薄暗い場所。
(……魔晄炉)
 整然と並べられたカプセルの覗き窓から垣間見える異形の生物。
 それを見下ろしながら男は言った。

 ――「こいつらはなんだ? お前達とは比べものにならないほど
    高密度の魔晄に浸されている」

 人の形によく似た、異形の生物。その正体を男は明かす。

 ――「魔晄のエネルギーが創り出す異形の生物。それがモンスターの正体」

 そう言った男は刀を鞘から抜き放つと、カプセルを斬りつけた。
 何度も、何度も。執拗に刀を振り下ろす度にキン、と耳障りな金属音がこだまする。そうしなが
ら、男は反駁する様に呟いた「ではオレは人間なのか?」と。
 答える者はいなかった。それでも男は問い続けた。

 ――「オレは……モンスターと同じだというのか……」

 男の中に芽生えた疑問はやがて疑心へと姿を変え、生まれたのは復讐心だった。
 復讐の炎は故郷の村を焼き払い、立ち上る黒煙と猛火に包まれる中で、かつて英雄と称え
られた男は鬼と化した。
208ラストダンジョン (435)   ◆Lv.1/MrrYw :2011/09/30(金) 01:45:47.24 ID:TgnuHpbU0
 ついに男は焔と血潮に染まった凶刃を振ることを厭わなくなった、むしろ口元に笑みさえ浮か
べそれに興じる節さえあるように思われた。その姿はもはや復讐の鬼ではなく、殺戮と破壊を
もたらす悪魔でしかない。
(セフィロス……)
 刹那、くぐもった笑い声と共に男の振り上げた刃の前に佇む仲間の顔が脳裏を過ぎった。
背後に迫る危機と狂気を察しながらも、彼女は一切の抵抗をせずに、ただ一心に祈っていた。
 これまでに幾度も振り返った過去。後悔と共に喪失感をもたらす記憶。
 しかし今は違う。
 祈りを捧げる彼女の口が、形を作る。まるでクラウドに何かを訴えかけるかのように。
(エアリス?)
 決して届くことはないと分かっていても、彼女に向けて手を伸ばす。彼女の声は聞こえないが、
依然として何かを繰り返すように唇は同じ動きを繰り返していた。クラウドにしてみれば、まるで
悪い夢を見ているようだった。
 振り下ろされた刃が彼女の身体を貫く直前、クラウドはその言葉の正体を知った。
「ク・ロ・マ・テ・リ・ア」
 確かめるように発したクラウドの言葉を聞き届けると、彼らの姿は忽然と消えた。
 後に残ったのは、仄かな光を帯びて祭壇から落ちていくマテリアの奏でた心地よい音色と、
誰もいなくなった水の祭壇の光景だった。
 悪い夢に違いない。そうだ、きっと悪い夢なんだ――。


「……おい、クラウド?」
 肩に置かれた手で強く引っ張られ、自分の名を呼ぶシドの声でようやく我に返った。朧気
だった視界は途端に晴れて、心配そうに覗き込むシドと目が合う。
「……大丈夫か?」
「なんでもない。ちょっと考え事をしてて……」
 言い淀むクラウドに、シドは含み笑いを浮かべてこう言った。
「よく考えるってのは悪い事じゃねえけどよ、おめぇの場合は大抵ひとりでロクでもねー事を
しょい込んでるんじゃねぇか? ってな」
 そう言ってクラウドの肩を叩いた。
「……参ったな。もう少し信用してほしい」
 言いながらクラウドは小さな笑顔を向けた。乱暴な言いぶりだが、それが自分の身を案じる
シドの真意と言うのも分かっている。
209ラストダンジョン (436)   ◆Lv.1/MrrYw :2011/09/30(金) 01:51:05.85 ID:TgnuHpbU0
 それにしても、とクラウドは考える。
(黒マテリア……?)
 炎に包まれ騒然たる故郷ニブルヘイムと、水と静寂に沈む遺都の祭壇。クラウドにとっては
どちらも忘れがたい過去であり、セフィロスにまつわる忌まわしい出来事の舞台という点でも
共通している。その意味で記憶同士が交錯した可能性は否定できなかった。しかしなぜ
白マテリアではなく黒マテリアなのだろう? 確かにあの中でエアリスは「黒マテリア」と言って
いた。
(俺の記憶……じゃない。だとしたら?)
 悪い夢には違いない、けれど単なる夢や幻覚では無い様な気がする。
 天啓、と言ったら彼女は大袈裟だと笑うだろうか? ふとクラウドは考えて思わず目を細める。
「彼女はずっと見守っててくれた」――いつかのティファの言葉を思い出す、きっとそうだ。
それで良いんだ。クラウドは確信した。
 これは、彼女からのメッセージなのだと。
(黒マテリアがあったのは、忘らるる都じゃない)
「……古代種の神殿」
 意識せずに声が出た。
「なんだよ急に? あのカラクリ神殿がどうかしたのか」
 シドが茶化すように横やりを入れるが、決して悪気があるわけではない。逆にシドから見れば、
唐突に古代種の神殿の名を口にしたクラウドの思考こそ脈絡を見出せない。
「カラクリ……そうだ、確かに古代種の神殿だ」
 今まで心のどこかで引っ掛かっていたものの、まるで見当も付かずに考える事を諦めていた
疑問が、シドの言葉で蘇った。それは新本部施設の中でクラウドやユフィが目にした“手品”だ。
あれが膨大なエネルギーによって引き起こされた現象だと言うのなら、その源はどこにあったの
だろう?
 仮に魔晄炉だとして、しかしその影響の中には人に錯覚を見せる様な作用があるのだろうか? 
あくまでもエネルギーを汲み出し、利用しやすい様に加工する施設だったはず。
 魔晄エネルギーの凝縮現象の結果、炉内では稀にマテリアが生まれる。錯覚の正体が
マテリアによるものだとすれば、一種の広域魔法という事になる。
(……だけどそんな話は聞いたことがない)
 ニブルヘイム魔晄炉やミッドガル、ヒュージマテリアを抱える海底魔晄炉やコンドルフォート、
クラウドの知る限り魔晄炉やその周辺で幻視幻聴を来したと言う経験も無い。
 そもそも媒介が無ければ、魔法として効果が発現することは無い。マテリアを使える者がいな
ければ、そこら辺に転がっているガラス玉と変わり無い。
210ラストダンジョン (437)   ◆Lv.1/MrrYw :2011/09/30(金) 01:54:26.69 ID:TgnuHpbU0
(それに、あそこで起きた出来事は幻や錯覚なんかじゃない……)
 では、古代種の神殿のようにそれ自体がマテリアだとしたら? 迷路のように入り組み、常人
では理解できない構造の建物。その点では見せられた“手品”と一致していると言えなくもない。
(あの建物がマテリアでできている? ……そんなこと可能なのか?)
 今は無き古代種の神殿は、全体の構造はもちろん工法や仕掛け、それらの動作機関の何も
かもが謎に包まれた遺跡だ。今ですら実際に神殿を訪れたクラウド達以外には、ほとんど存在
すら知られていない。知っていてもおとぎ話の類としてだ。神殿について唯一はっきりしているの
は、それが黒マテリアを安置するため、古の時代にエアリスの祖先――セトラ達の手で築き
上げられたものだという事だった。
(まてよ)
 クラウドははっとして顔を上げ、シドの後ろにあったパネルを見返した。経線と緯線の上に、
縁取られた海岸線。その形は6年前とは異なるものの、当時の面影を残っている。
「もしかして……この場所って」
 島の南西に広がる外洋、北東には入り組んだ海峡を挟んで大陸からは隔絶された場所に
あったため、今でも人々の暮らす街や集落の存在しない未開の地。その為、島の殆どが広大な
森と草原に覆われていた。
「ウッドランドエリア」シドが答える「……6年前とはずいぶん地形が変わっちまったが、この辺に
街や村が無かったのは不幸中の幸いだったぜ」。
 でなければ、押し寄せるモンスター群を前にして飛空艇師団は手も足も出せなかったろうなと
語るシドの言葉に確証を見出したクラウドは、パネルの上に自身の記憶とを重ねてから、改めて
呟いた。
「やっぱりあそこは、古代種の神殿のあった場所……」
 仮にそうだとしても、今更それを知ったところで状況を変える手がかりになるのだろうか?
 その疑問を口にしたのはシドだった。
「なあクラウド、さっきからなんで古代種の神殿なんかにこだわってるんだ?」
 クラウドは建物内で遭遇したいくつかの不可解な事象――飲み込むように突如として床に空い
た穴。ユフィとともに乗ったエレベーターごと建物の外へ放り出されたとしか思えない瞬間移動
――をシドに話して聞かせた。しかも自分だけでは無く、聞けば他の仲間達も似たような現象に
遭遇していた。と言う事は、個人の錯覚でない事は明らかだ。
「言われてみりゃあ、確かに空耳みたいなのはあったけどよ。さすがにそんな突飛なモンは見て
無ぇなあ……」
 シドの口調は残念だと言わんばかりだった。しかしクラウドの話す通りなら、あの建物内では
通常起こり得ない現象が起きている。シドをして“カラクリ神殿”と言わしめた古代種の神殿を
連想したくなるのも頷ける話だ。
211ラストダンジョン (438)   ◆Lv.1/MrrYw :2011/09/30(金) 02:01:58.04 ID:TgnuHpbU0
 だからといって、古代種の神殿との共通点を見出せるとは思えなかった。
「つっても古代種の神殿って、ありゃあ黒マテリアだったんだよな?」
「そうだ」
 クラウドが頷く。
「マテリアで建物を作れると思うか?」
「……分からない」
 クラウドの返答は限りなく否定に近いものだった。ここまでは互いの認識と意見は一致して
いるのを確認したシドが、話の先を続ける。
「いくらリーブがミッドガル都市開発部門のトップだったって言ってもよ、やれる事には限度って
モンがあるだろ。そもそも古代種の神殿なんざ、どんな作りしてるかも分かん……」
 そこまで言ってシドの言葉が不自然に途切れた。クラウドは話の先を促すようにシドに視線を
向けたが、腕組みをして仁王立ちのまま微動だにせず、俯き気味に珍しく硬い表情を作って
いた。あまりにも無反応だったので、実は居眠りしているのではないかと心配になったが、
眉間に刻まれた深いしわを見て、そうでは無いと知った。
 ややあってシドは顔を上げる。
「なあ、クラウド」ゆっくりと自身の推測を話し始める「古代種の神殿の正体は黒マテリアだった。
そんで、黒マテリアを持ち出せるようにする為には、誰かが中に残って神殿パズルを解く必要が
あった」ここまでは間違いないよな? 確かめるように問う。
「黒マテリアを簡単に持ち出させないようにするために、だな」
 頷いたクラウドを見て、シドは先を続けた。
「つまり、神殿パズルの内容はそれを解いた奴にしか分んねぇし、解いた奴は黒マテリアの中に
閉じ込められちまうんだな」
「あの時ケット・シーがいなかったら、どうなっていただろうな……」
 それでも結果的に黒マテリアはセフィロスの手に渡ってしまったが、少なくともケット・シーが
いなければ他の誰かが犠牲になっていたかも知れない。
「あの黒マント野郎がパズルを解いたとしても、黒マテリアを手に入れる事はできた」重要なのは
そこじゃねぇんだと断った上で話を続ける「けどよ、たぶん古代種の連中からしたらケット・シーの
存在ってのはイレギュラーだったんじゃねぇか?」。
「イレギュラー? ……たしかに古代種が栄えていた時代にロボットは無かったから……」
 違う。とシドが首を振る。
「犠牲を払って黒マテリアを持ち出すこと、それは連中も考えてただろうよ。あの神殿の仕掛けは、
その想定の上に建てられたんだってのも分かる。けどよ、パズルを解いた奴が神殿の外にいる
って事は、あいつらも想定してなかったんじゃねぇか?」
 確かに黒マテリアのためにケット・シーは犠牲になった。しかし、それを操っていたリーブは
その後も生きている。パズルを解いたのは、ケット・シーを操作していたリーブだ。
212ラストダンジョン (439)   ◆Lv.1/MrrYw :2011/09/30(金) 02:12:35.35 ID:TgnuHpbU0
「神殿パズルの内容は誰にも分からねぇ。おそらくは古代種だったエアリスにも、だ」
 シドの言うとおり、黒マテリアを持ち出す為の仕掛けは分かっても、パズルの内容は解いた
本人にしか分からない。そしてパズルの内容とともに、黒マテリアの中に封じられる。
 あくまでもオレ様の予想だがと前置きして、シドは話の先を続けた。

「たとえばそのパズルが、古代種の神殿の設計図。……だとしたら?」

 黒マテリアは持ち出せても、パズルは決して持ち出せない。古代種はそう考えていた。だから
パズルが神殿構造の根幹にかかわる物だとしても、それが外部に漏れることは無い。
 つまりケット・シーはリーブを経由して、本来であれば門外不出の古代種の技術を持ち出して
しまったのではないか。



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・一つだけお願いがあります。
 いなくなってしまったケット・シー(1号機)の事、時々で良いから思い出してあげて下さい。
・おとぎ話の件は、FF7でキーストーン捜索中に聞ける武器小屋のオヤジの台詞に由来。
 その程度の認知度はあったのかな?
・ねつ造にも程があるというか。…今更ですけどね。
213名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/10/01(土) 07:42:20.16 ID:M5JqFBNt0
GJ!
214名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/10/01(土) 22:23:45.64 ID:HP0VHZxH0
GJ!
本編絡んでいい感じだね!
215名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/10/06(木) 19:44:59.56 ID:2Vn5ySzv0
216名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/10/10(月) 08:05:07.06 ID:f1VBdtz30
217名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/10/14(金) 19:29:46.65 ID:GrJo9Kg80
218名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/10/16(日) 15:11:57.76 ID:hHC5jUKx0
ラストダンジョン作者氏乙
ティファとデンゼル可愛い杉
219ラストダンジョン (440)   ◆Lv.1/MrrYw :2011/10/21(金) 01:02:51.80 ID:WqAo2PCi0
前話:>>207-212 (場面は>>136-142の続き)
※今回、読み手を置いてけぼりにする展開になるかも知れません。
  …そうなっちゃったら申し訳ありません。遠慮無くツッコミ入れて下さい。(今に始まった事じゃ無いかw)
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 一瞬と呼ぶには些か長く、暫しとするには短すぎる程度の時間、ケット・シーは思考を止めて
呆然と佇んでいた。それは彼の目――正確には視覚情報ではなく脳裏――に映った、とても
奇妙な光景のせいだ。
「……さて、ようやくあなたと接触をもつことができましたね」
 目の前にいたのは見知った人物。それどころか飽きるほど見慣れた姿であり、だからこそ
奇妙に感じた。
「“お久しぶり”ですね、ケット・シー」
 なぜ自分の操作主がここにいるのか?――呼びかけられたケット・シーは状況を呑み込めず、
返答はおろか反応することができなかった。そもそも、操作主と自分がこうして向き合う事は無い。
操作主の一部である自分が、鏡を見ているわけでもないのに対峙しているという状況自体が
あり得ないのだ。
「シェルクさんには少し気の毒なことをしました。ですが、しばらくすれば心身共に元通りの機能
を取り戻せるはずです」リーブとして体験してきた積年の記憶と、それに付随する感情を一気に
取得した事により、彼女の脳と精神は飽和状態にあると言う。彼女自身に備わった防衛機制の
働きにより、心身保護のため一時的にその機能を停止しているだけ。それはちょうど許容量を
超えて回路に流れた電流を遮断した安全装置と同じように、機能が正常である為に起こる現象
だと説明したうえで続ける「あくまでもこれは私の記憶情報であって、彼女の物ではありません。
ですから一時的な過負荷とはいえ、それほど深刻なダメージは受けていないはずです」。
 いずれにせよ回復までは安静にしておく必要はあると言いながら、ぐったりとして動かなく
なったシェルクをその場に静かに横たえさせる。
『なっ!? アレはボクの――』
 ようやく言葉を絞り出したケット・シーに向き直ると、彼は顔を上げて頷いた。
「そうです。あなたの実体験であり、かつて共有していた『私』の記憶。そして……感情」
『あんなん、単なる記憶と違うで』
 トラウマだ。そう言おうとしたケット・シーの言葉は最後まで続かなかった。
220ラストダンジョン (441)   ◆Lv.1/MrrYw :2011/10/21(金) 01:10:48.33 ID:WqAo2PCi0
「そうですね。容易に触れることのできる物ではありませんし、振り返ったところで楽しいことも
ありません」
『そんなモンを、なんでわざわざ?!』
 こうなる事は予想できた筈やないかと、ケット・シーの語気が僅かに強まる。
「ここから先、彼女に動かれると少々都合が悪いので」そう言ってリーブは微笑を浮かべる。
『んな勝手な理由でシェルクはんを危険な目に遭わせたっちゅうんかい!?』
 駆け寄ろうとしたケット・シーを制するように、リーブの手がシェルクの額に伸びる。
「……今の彼女には安静が必要です。私からこれ以上の情報を彼女に渡すとどうなるか、
あなたなら説明せずとも分かりますね?」
 状況をたとえるのなら、なみなみと水をたたえた容器に水を注ぎ続けるのと同じだ。
『つまり、シェルクはんを盾にしてボクを脅しるっちゅー事かいな?』
「理解が早くて助かります」
『最低やな』
 ケット・シーの声には明らかな怒りがこもっている。
「今さらですね」
 リーブはそれもさらりと受け流す。
「……それにね。私が彼女にしたことは、彼女が6年前にディープグラウンドで行って来た事と
ほとんど同じなんです。ただし今回は、“自分とは別人の記憶”情報であるとはっきり断ってい
ますから、欺瞞にならない分まだ救いはあるでしょう?」
『せやかて、今のアンタを正当化する理由にはならんやろ』
「はじめから正当化できるなんて考えていませんよ。ただ、シェルクさんもそれは同じでしょうね」
『……“シェルクはんにアンタを責める資格はない”とでも言いたいんか?』
 微笑を崩さずに、リーブは返す。
「資格までは問おうとは思いませんが、」
『要するに』言葉を遮ったケット・シーは不快感を隠すつもりは微塵も無い様だ『シェルクはんが
昔やって来た事やり返して、当時の被害者の仇を取ったつもりかいな?』。
 リーブに対するあからさまな非難。憤り。
『アンタ何様のつもりや? それとも何か、偉くなったら人を裁ける様にでもなるんかい?』
 そんな物、ただの慢心以外の何物でもない。
「話を最後まで聞けばそんな結論にはなりませんよ」相も変わらずリーブは淡々とした口調で
応じる「……少なくともそう言った要素を踏まえて、無いと分かっている相手の反論を牽制して
いるわけですから、あなたが思っている以上に卑劣な行為だと言う自覚はあります」。
 これも神羅にいるうちに身についた能力かも知れないと、リーブは笑う。
『アンタの自己評価はどうでもエエわ。で? 何年ぶりか知らんけど、なんや用あって接続して
来たんやろ? いちいちまどろっこしい説明要らんから、早う用件を済まさんかい』
 いつになく辛辣なケット・シーの物言いに、リーブは首を傾げ思案を巡らせていたが、ふと思い
ついたように口を開いた。
「私があなたを操作するという訳ではありませんよ? むしろ、あなたが要件を満たしてくれさえ
すれば、私はここからすぐにでも退散しますのでご安心下さい」
『せやから御託は要らんから、用件は何や?』
「簡単です、私をここから退かせる事。残念ながらこれは、あなたにしかできません。その為に
ずいぶんと根回しに時間が掛かってしまいました」
『根回し……? って、まさか』
 言外の意図に思い当たったケット・シーが後退る。そんなことは無いと信じたかったが、もし
考えていることが正しいとすれば、とんでもない話だった。
221ラストダンジョン (442)   ◆Lv.1/MrrYw :2011/10/21(金) 01:14:17.49 ID:WqAo2PCi0
 リーブは立ち上がると、ケット・シーを見下ろしてこう言った。
「この茶番劇の幕を引くためにも、あなたには事の次第をお伝えしておく必要がありますね」
 その言葉を境にして、リーブの記憶と彼の意思が媒介なしにケット・シーに伝わる。伝わると
言うよりも、まるで以前から自分の物の様な、自分の一部であるという感覚――これこそが
インスパイア能力。ケット・シーにとってはずいぶんと久しく、また懐かしい感覚だった。

                    ***

 さてケット・シー。あなたが私からの干渉を受けなくなった時期がいつ頃だったか覚えて
いますか?
 古代種の神殿で1号機が修復不能になって以来、あなたはよく働いてくれました。北の
大空洞での決戦を凌ぎ、メテオを退けたあなたの躯体は耐用限度をとうに超えていました。
これ以上の使用に耐えられないと判断した私は、エッジのセブンスヘブンにあなたを預ける
ことにしました。カダージュ達の件は想定外でしたが、結果的には最善策でした。あの後も
マリンちゃんはいつか私が回収に来ると思い込んでいた様ですが、最初からそのつもりは
ありませんでした。
 しかしそれから約半年後に予期せぬ事態が起きました。ミッドガルの幽霊事件です。私は
あなたを操作してこの件の調査に乗り出そうと考えました。しかし、こちらとの情報共有は
できても操作ができませんでした。私が最初に異常を自覚したのはこの時です。
「そらアンタが『操作せんかった』、の間違いと違うんか?」
 個人的にはミッドガル調査の件にマリンちゃんやデンゼル君を巻き込む事は得策とは
考えていませんでした、ですから意図的に操作しなかったという事はありません。結果的に、
あなたは私の考え得る最善の行動を取ってくれたので、問題はありませんでしたが。
「……まぁ、あの子らを危ない目に遭わせとうない、って言うんは分かるケドな」
 その後しばらく経ってようやく、あなたが自律行動を取っている事に気が付きました。以来
こちらは新しく用意した躯体を使い、表向きはこれまで同様の活動を行うことができました。
けれど、今日に至るまでの間、あなたは私の操作を受け付ける事はありませんでした。
 その理由、お分かりになりますか?
「……分からへん」
 あなたがインスパイアの制御下にある動体ではなく、固有の意思を獲得したからです。
より正確に言うならば、“あなたの意思がインスパイア能力に対抗する術を手に入れた”のです。
「なんや、出来合いの空想科学小説みたいな話やな。……んで? なんでボクなんや」
 他のケット・シーとあなたには決定的な違いがある。それが、あなたがインスパイアの影響下
から外れて自律行動を取り、さらにインスパイア能力そのものに対抗しうる要因なのです。
「インスパイア?」
222ラストダンジョン (443)   ◆Lv.1/MrrYw :2011/10/21(金) 01:17:45.90 ID:WqAo2PCi0
 私があなたを操っていた力を、そう呼ぶのだそうです。正直これは私もつい最近知ったこと
なんですがね。『あやつる』のマテリアを媒介とした“操作”との違いは、体感的にお分かり
頂けますね?
 ここに学術的な根拠は何一つもありません。ただ言えるのは、インスパイアというのは私の
感情の一部を核として躯体に付与、それを動力源として操作する能力なのです。
「せや、ボクはあんたの操る通りに動くぬいぐるみやった。中に入っとるコンピュータはあくまでも
動作支援。それと周囲の目をごまかす物でしかない。そらボク以外のケット・シーも同じハズやで?」
 最初は私もそう思っていました。ですから理解できなかったのです、私の操作を受け付けなく
なった理由が。
「サッパリ分からんなぁ」
 現に、今もシェルクさんのSNDを利用してようやくここまで辿り着いた程です。従来通り私が
あなたを操作できる状況であれば、こんな事をする必要はありません。
「あぁ、それ聞いてやっと納得いったわ。そんでシェルクはんやったんか」
 こうして再接続するために、かなりの時間と手間を要しましたよ。
「……でもまだ分からんわ。仮にアンタの言う通りボクが操作されるんを拒否しとったんだとしても。
どうしてそれがボクだけ可能やったんか、っちゅー話や。ボクと他のケット・シーの何が違うんや?」
 気が付いてしまえば簡単な事なんですよ、ケット・シー。
 しかもそれは、はっきりと目に見える形で示す事ができる。
「もったいぶらんと、何やさっさと言わんかい」

 あなたの左腕に結んでいるリボン、それが答えですよ。

「リボン……って。これはエアリスはんの……?」
 そうです。
「まぁ、確かにリボンは1コだけやし、付けとるんはボクだけやけど……」
 あなたは、左腕に結ばれたリボンの意味を理解している。2つの死を経験する事で、その意味
を知ったのです。
「……2つ」
 ひとつめは本来リボンの持ち主でもあるエアリスさん。水の祭壇での彼女の事は……お話し
するまでもありませんね。
「忘れる訳ないやろ」
 そしてもうひとつ。……それが、古代種の神殿に残ったケット・シーです。
「……ボク……やのうて。1号機の?」
 先ほどもご説明したとおり、本を正せばインスパイア能力とは私の記憶とそれに由来する感情
を動力源にする機関を構築するというもの。その原理は、ライフストリームという記憶・思念の
集合体である奔流の一部を汲み出し、エネルギーに変換する魔晄炉にも通じます。
223ラストダンジョン (444)   ◆Lv.1/MrrYw :2011/10/21(金) 01:25:00.44 ID:WqAo2PCi0
 また、これと似た原理は個体にも当てはまります。ある種の鍛練を積んだ者であれば、マテリア
を介さずして魔法と同等の効果を発揮する事が可能です。これはあなたも良くご存知ですね。
  リミット ブレイク
「 限界 突 破……?」
 その通りです。一瞬とはいえマテリア無しにあれだけの現象を起こせるだけあって、必要な
エネルギーは相当な量になります。感情を引き金に生命エネルギーを増幅させるというのが
発動原理とされていますが、ともすると生を維持するための箍を外す行為です。そこに必要な
ものは死という概念。自我の消失、肉体の消滅、言葉にすれば死の定義はあいまいになりがち
ですが、それを本能的に理解しているからこその限界突破です。
 自身に迫る死の危険を回避するための最終手段であると同時に、一歩間違えれば肉体さえ
破壊しかねない程のエネルギーを放出します。ですから通常では起こり得ないし、仮に起こせ
てもその放出を制御できるものではありません。つまり、あらゆる生物に備わった究極の防衛
機制。それは文字通り諸刃の剣。
「それってのは、つまり」
 あなたにも覚えがあるはずです。
「けど、ボクは……」
 インスパイア能力によって生み出された――つまり元が私の記憶や感情に依存する存在で
ある以上、他の皆さんと比較すれば能力面で劣るでしょう。それでもあなたは自身の臨界点を
認識し、それを超える術を持つまでに至った。
 だからこそ他の誰もが持ち得ない、あなただけの能力がある。それは、対峙した生命の全てを
終わらせる事のできる文字通りの異能力。

「オールオーバー」

 インスパイアによって生み出されたあなたが、インスパイアそのものを否定するための能力。
下手をすればあなた自身をも滅ぼしてしまえる力。ですがその効果の及ぶ範囲はごく小さく、
非常に限定的なものです。一方で、インスパイアを確実に葬るためには、あなたの能力が
不可欠です。
 言ってみればインスパイアと対を成す力であり、暴走した能力に歯止めを掛ける唯一の手段。
あなたはそれを手に入れたのです。
 これが、他のケット・シーとの決定的な違いであり、あなたがリボンを結んでいる理由です。
「……分からんわ……。なあ、なんでそんなに必死になるねん? アンタの能力が世界を滅ぼせ
る程たいそうなモンには思えんのや」
 確かにこの能力を破壊という尺度だけでみれば、あなたの評価通り、脅威としてさほど重要視
するものでは無いでしょう。しかし“継続的な支配体制の構築”という意味において、この能力は
絶対的な力を発揮します。
 その模範となるのが私の役割であり、局長として全うすべき最後の責務です。
「アンタが反面教師になるって?」
 そんなところです。
224ラストダンジョン (445)   ◆Lv.1/MrrYw :2011/10/21(金) 01:29:32.76 ID:WqAo2PCi0
 さあ、話は終わりですケット・シー。
 あとはあなたの役目です。きちんと情報を整理して、私を倒しに来て下さい。あなたの心に
僅かでも迷いがあれば、臨界点を超える事はできません。理性、情動、そして生物としての
本能。どれ一つも欠かしてはなりません。
「なんや大げさな話になっとるけど、要はリボルバーと実弾が一発あれば成立する遊びと一緒
やないか」
 そうですね。私が局長という地位にいなければ、恐らくそうした事でしょう。
 どちらにしてもピースの欠けたパズルでは私を倒す事はおろか、あなたが倒れる羽目になる
でしょう。ふざけている余裕はありませんよ。
「いくら回しても揃え甲斐が無い、おもろないスロットやな……。どうせ命賭けるなら弾倉回しとる
方がいっそ潔いやないか」
 まぁ、私の目的はあなたと賭け事をする事ではありませんし、遊戯に興じようという意図でも
ありませんからね。
「…………」
 安心して下さい、あなたの準備が整うまで逃げも隠れもしませんよ。






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※今更ですが作者はケット・シーとリーブが好き(過ぎ)でこの作品を書いています。
  お付き合い下さる方へ、心からありがとう。
・リミット技をこじつけて解釈した話。というかこれを書きたいが為の拙作。
 テーマは“Lv2までしか無いのにオールオーバーとジョーカーデスが強すぎる件。”
 (耐性無視の即死というのは、無機物に命を吹き込むインスパイア能力からすると真逆?)
 その辺を制作者が意図して作ったのだとしたら、これこそ続編要素に相応(ry
※強すぎる、といってもルーレット揃わなければ意味が無い。
・ピースの欠けたパズル=リールの揃わないルーレット。前回の古代種神殿パズルとかけて
 描写上こう書き換えてます。
 ロシアンルーレットという言葉を出すとちょっと違和感があるので遠回しな表現に。
・ライフストリームがすべての生命の基盤と位置づけられた世界観の中で、魔法の媒体となるマテリア。
 個の感情によって発動するリミットブレイク。…個人的にFF7の設定の中で一番好きな部分なので
 大いに語らせて頂きましたw…少しでも伝わっていれば良いなーと。
・後半、一人称表現でリーブとケット・シーの会話になっているところがインスパイア能力使用時の描写。
 …という書き分けで伝わるかどうか不安だったので後書きにw書き手として卑怯ですごめんなさい。
225名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/10/21(金) 06:46:49.99 ID:njOJDfB50
GJ
226名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/10/23(日) 21:46:02.05 ID:9xPsywes0
GJ!
227名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/10/27(木) 15:53:00.39 ID:aqMItUX90
GJ!
228名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/10/29(土) 20:58:45.73 ID:9j41mOAiO
ぽいぽいぽいぽいぽいぽぽいぴーぽいぽいぽいぽいぽいぽぽいぴー
229ラストダンジョン (446)   ◆Lv.1/MrrYw :2011/10/31(月) 00:43:46.48 ID:g1sAe1bz0
前話:>>219-224(場面はエッジに戻ります)
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「……おかえりなさい」
 唐突に聞こえてきたマリンの声で、ヴェルドは視線を巡らせる。が、誰かが室内に入ってくる
気配はない。その言葉が誰に向けられたのかを知ろうと今度はマリンの視線を追うと、机の上
に座ったケット・シーに行き当たる。
『ん〜。なんや、追い出されてしもたんか……?』
 独り言を呟きながら、まるで傷の具合でも確認するかの様に頭を振り、次に両手と両足を
動かし、最後に尻尾を振ってみる。ディスプレイに映し出されている通信リストは先ほどと同じ
ままで、特に変化した様子は見られない。どうやら通信網の方は無事らしい。
「どうかしたのか?」
『あん中でリーブに会うた』そう言ってケット・シーはディスプレイを指す。
「どういうことだ?」
 さらに問うヴェルドの横で、マリンは不安げな視線を送る。大丈夫? どうしたの? 尋ねたい
気持ちは山々だったが、彼らの会話の邪魔をしない様にと喉元まで出かかった言葉を飲み
込んだ。
 マリンの目には、ケット・シーの様子が先ほどまでと明らかに違って見えた。しかもその変化は
外見上の物ではない。だから余計に不安が募った。
『よりにもよって、シェルクはんを盾にボクを脅しよった。あんな卑怯者とは思わんかったで!』
 その言葉を聞いたマリンは安堵に近いため息を漏らした。ケット・シーの様子の違い、その「変
化」の具体的な理由が分かったからだ。
「良かった、具合が悪いわけじゃないんだね。でも、どうして怒ってるの?」
 ケット・シーがここまで怒りを露わにするのは珍しいとマリンは思う。日頃から歯に衣着せぬ
物言いこそするものの、ひとつの対象にここまで露骨な怒りを向けている姿は、今まで見た事が
無かった。正確には怒りと言うより、嫌悪や憎悪に取り憑かれている様な危うさを感じたというのが
近い。それこそがマリンの抱いた不安の正体だった。
230ラストダンジョン (447)   ◆Lv.1/MrrYw :2011/10/31(月) 00:46:33.51 ID:g1sAe1bz0
 呼びかけられてケット・シーがマリンに顔を向けた途端、はっとして小さな肩を震わせると、
ぎこちない動作で顔を逸らし右手で頬の辺りを掻く仕草をして見せた。
『ああ、なんや恥ずかしいトコ見られてしもたなぁ……』そう言ってもう一度マリンに顔を向ける
『ボクのこと心配してくれて、おおきに』。
 それはいつもの気さくで愛らしいケット・シーだった。マリンは内心でホッと胸をなで下ろす。
 頬にやった手を今度は口元に持ってくると、わざとらしく咳払いをしてみせる。それから、
ケット・シーは質問に答えた。
『おふたりさんにも話した通り今のボクはリーブの操作やのうて、ボク自身の意思で動いてる
んやけど、どうもリーブは“ボク”を動かす事ができなくなったみたいなんや。そんで、ボクと
接触を図るために利用したのがシェルクはんのSNDやった。確認した訳やないけど、多分ボクと
シェルクはんが接触する機会を待っとったんやろうな』
 目の前にいるふたりに事情を説明しているうちに、ケット・シー自身もこれまでの状況を落ち
着いて整理する事ができた。
 何らかの理由でインスパイア能力を使ってケット・シーとの接続ができなくなったリーブが、
外部――つまりネットワーク経由でケット・シーと接触を試みるためには、人の記憶や精神に
さえも干渉できるシェルクのSNDが必要だった。そのために彼はシェルクの能力と、SNDの実験
データを利用したのだろう。ケット・シーが直接、SNDに関する情報収集にあたった覚えは無い。
となるとこれらの記憶はリーブが用意したものだ。
 仮にこの推測が正しければ、リーブの中でこの計画はかなり前からあったと言う事になる。
 しかもシェルクは、ケット・シーのライブラリの中にSNDに関連しそうな記憶情報を見つけたと
言ってその閲覧を求めた。つまり、わざわざシェルクの興味を引く様な項目であると見せかけ、
さらに保管形態を変えていたのだろう。その証拠に、その記憶情報はシェルクを陥れるための
罠だった。支障を来すほどでは無いにしろ、シェルクを欺き一時的にでも危険にさらすという
狡猾なやり方が、ケット・シーは気に入らなかった。
 いくら過酷な過去や後世に伝えるべき過ちであったとしても、記憶はあくまで自分が立ち返る
為のもの。自分以外と共有するべきは客観的な記録であり、個人の主観によって形成された
記憶では無い。何よりケット・シーの癪に障ったのは、その押しつけ行為だった。
 考えれば考えるほど腹立たしくもなる一方で、何に腹を立てていたのかが見えると冷静にも
なれる。
『んで、シェルクはんを盾にしたリーブの要求は1つ「インスパイアっちゅー異能力をもつ自分を
抹殺してほしい」。ついでに、それができるのはボクしかおらんそうや』
231ラストダンジョン (448)   ◆Lv.1/MrrYw :2011/10/31(月) 00:49:55.22 ID:g1sAe1bz0
 こうやってボクの怒りを煽るのもリーブの思惑なのだと付け加えるが、分かっているからと
言って腹の虫がおさまるわけでは無い。
 話を聞き終えた頃には、胸の前で手を組んだマリンは眉を顰め苦悶の表情を浮かべていた。
 一方のヴェルドは、思いついた疑問をストレートに口に出す「それにしては随分と話を大きく
したな。あいつらしくない」。
 リーブの性格からして不要な混乱は好まない。当事者同士で片の付く問題ならば、その範囲
外に問題を持ち出す様な行動は考えづらかった。だが今回に限ってはその逆で、積極的に
周囲を巻き込もうとしている様に見える。
『そこなんやけど……』ケット・シーが首をかしげながら続ける『ボクも同じこと思って聞いてみた
んや。そしたら「皆の反面教師になる」んやて。それが局長としての責務やからって』。
 ケット・シーはリーブから聞いた事を説明する。
『――“継続的な支配体制の構築”という意味において、この能力は絶対的な力を発揮します。
 その模範となるのが私の役割であり、局長として全うすべき最後の責務です。 ――やと』
 言葉として伝える事はできても、ケット・シー自身はその意味を計り兼ねていた。
 一通り話を聞き終えたヴェルドは目を閉じ、ついには眉間に深いしわを寄せたまま黙り込ん
でしまった。
『なあ、これってどういう意味やろか?』
 問われたヴェルドはゆっくりとまぶたを開けると、低い声でこう問い返した「デンゼルがここを
出て行った後、俺の言った事を覚えているか?」。
『ええと、空爆は絶対させたらアカンって話やったか?』
「そうだ。正確にはその空爆がもたらす影響について」
 ――ジェノバ戦役以降、世界を保っていた“『英雄』の秩序”は崩壊する事になる。
「現在の『英雄の秩序』、それをもたらした一番の要因は間違いなくリーブだ。WROという組織を
立ち上げ、為政者として表立った活動をしているのは彼だけだからな」
 先のメテオ災害の元凶となった神羅カンパニーの重役幹部でありながら、ジェノバ戦役の英雄
という相反する面を併せ持つのは彼の他にいない。リーブが適任者と言うよりも、彼にしか
できなかったと言った方が正しい。
 飛空艇師団長のシドも表立った活動という意味ではリーブと似ているが、彼の場合は各地の
政に干渉することはしない。また高度な専門性を要する特性上、飛空艇師団の構成員もかつて
の神羅カンパニー宇宙開発部門出身者が多く、WROほどのばらつきは無い。
「さっきお前が指摘した通り、人々は世に起きた不条理や身に降りかかった不幸を、誰かの
責任にさせたがった」たとえそれが百パーセント人災とは言えなくても。ヴェルドは敢えてそれを
声に出す事はしなかった。
232ラストダンジョン (449)   ◆Lv.1/MrrYw :2011/10/31(月) 00:53:28.98 ID:g1sAe1bz0
「――それがかつてのアバランチであり、神羅だった」
 世界には神羅に対して未だ抵抗感を持つ者も少なからずいる。これはルーファウス神羅が
表舞台に表れない理由の1つだろう。恐らくリーブはその意識を逆手に取って、WROの運営に
利用している。
「要するに彼らが求めているのは“象徴”だ」メテオ災害後に登場したWROは、人々にとって
格好の寄る辺となり、ディープグラウンド騒乱を経てその地位は不動の物となった。
「……言っておくが、象徴を求める行為の是非を論じる気はないからな」そう前置きした上で、
ヴェルドはケット・シーの語っていた結論をなぞる。
「つまりWROは神羅の二の舞……いいや、リーブはそれも見越して組織を立ち上げたんだろう」
 ヴェルドの言葉に続いて、マリンとケット・シーがそれぞれに呟く。
「みんなの期待や希望を一身に背負って……」
『同時に、不満や怒りのはけ口も引き受けた』
 両者の言葉に黙ってヴェルドは頷く。所属する隊員の経歴や出自もばらばらのWRO、言わば
巨大な寄り合い所帯を束ねるためには、同一の目的と強い象徴が必要だった。メテオ災害から
の復興、ディープグラウンドソルジャーという共通敵の存在。それら共通の目的が消滅した今も
なお、WROが組織としての機能を保っていられるのはリーブの持つ象徴性だった。
(あいつは英雄というカリスマに頼らない象徴性を選んだ。それが局長のとった戦略なのだろう)
 規模で言えばタークスなど遠く及ばない、何より自分の判断と行動が世界に及ぼす影響は
計り知れない。局長という立場で受けるプレッシャーなど見当が付くはずも無い。仮にそれが
自分にしかできないと分かっていても、生半可な覚悟で就ける職では無いし、維持はそれ以上
の困難を伴う。常人では到底――少なくとも自分には不可能だとヴェルドは思う。
(局長となった時点からあいつは個を捨てた。隊員の、あるいは民衆の象徴であり続ける事を
選んだ。それが『局長』であることの意味。……俺が英雄統治と呼ぶ物の本質)
 しかし、その不可能を可能にしたのはリーブの持つ精神力。そして、リーブに言わせるところの
異能力。
「だがな、恐らくリーブが見ているのはその先だ」
『先?』
 ケット・シーは首をかしげる。ヴェルドの言う「先」に思い当たるところが無い。
「神羅の二の舞……」ケット・シーに促されたヴェルドが答える「メテオ災害の影に隠れてしまった
本当の脅威を、あいつは再現しようとしている。それは目に見える破壊や災害の類では無い、
けれど確実にある脅威」。
『そういえばリーブも似た様な事言ってたっけか……』
 ――確かにこの能力を破壊という尺度だけでみれば、
    あなたの評価通り、脅威としてさほど重要視するものでは無いでしょう。
 つい今し方まで聞いていたリーブの声がよみがえる。その先に続いた言葉と、ヴェルドの声が
重なった。
 ――しかし“継続的な支配体制の構築”という意味において、この能力は絶対的な力を
    発揮します。
「英雄統治。……すなわちその先にある独裁体制の構築。神羅がかつて目指した世界。
あいつになら、それが可能なんだろう」
233ラストダンジョン (450)   ◆Lv.1/MrrYw :2011/10/31(月) 01:06:03.62 ID:g1sAe1bz0
『まさか!?』
「リーブさんに限って、そんな事……」
 戸惑いがちに呟いたマリンに向き直ると、ヴェルドは穏やかに答えた。
「そうだな。リーブに限ってそんな選択はしないだろう。ただ、あいつがいなくなった後の保証は
無い」聡明な君主が去り治世が乱れるという教訓は、歴史に多く残されている。
「ケット・シー。リーブと同じ異能者、もしくはお前と同じ様な存在は他にもいるのか?」
『分からん。少なくともボクは聞いた事あれへん』
 質問したヴェルドも答えは同じだった。神羅の情報網を持ってしても、そんな能力の存在すら
把握できていない。同じ社員だったリーブがその能力を口外したがらなかった事もあるが、
リーブひとりが努力したところで、他に同じ様な能力の持ち主がいれば、何らかの形でその
存在は露見するはずだ。たとえば古代種の様に。
 なにより、不確定だったとしてもそんな能力が存在する可能性を知れば、あのプレジデント
神羅が見過ごしておく筈は無い。
「どれだけ優れた統治者でも、人々を従え治世を維持するのは難しい。さらにこの情報化社会に
おいて、人々の思想をひとつに束ねておくのはさらに困難になる。人の数だけ多様な見方があり、
思想がある。それらが互いに触れる事を容易くしているのがネットワークだ」
 そこまで聞いてケット・シーにもようやく脅威の正体が見えてきた。
『監視か!?』
「簡単に言えばな」神羅はミッドガルの至る所にID検知エリアを設けて、人々の移動を監視して
いたのは不穏分子の早期発見という意図もある。が、思想まで監視する事はできないし、人の
脳を覗く技術というのも存在しない。
『ディープグラウンドでこっそりSNDっちゅー技術を開発しとったんは、そういう目的もあったん
かいな……』
 いくらなんでも身体は一つ。規模が大きくなればなるほど組織内でも目の行き届かない部分
は増える。しかしリーブの様な能力の持ち主なら、それこそ隅々にまで目を配れる。組織内に
起きようとする変化の前兆を早期に察知できる確率は格段に上がると言う事だ。
「しかも監視役は影武者としても機能する。支配者にとってこれほど都合の良い能力は無い」
 その有用性についてはここへ来てヴェルド自身も目の当たりにした。
『リーブが本気出しとったら、今ごろ世界はWROの支配下っちゅー事か』
「しかもリーブの様な異能者が他にいるのかどうか分からない。異能力の原理はおろか、存在の
確証すら無い。すると今後、自分以外に悪意のある異能者が現れた場合、そいつが世界の
覇権を握ろうとすれば最悪の事態に陥る」
234ラストダンジョン (451)   ◆Lv.1/MrrYw :2011/10/31(月) 01:07:20.02 ID:g1sAe1bz0
 神羅でさえ成し得なかった思想の監視と統制――人々の自由が奪われた世界。仮にそこが
争いの無い世界であっても、平和と呼ぶには些か疑問が残る。
「だからリーブさんは、それを演じた……?」
 マリンの言葉にヴェルドは頷く「大方『そうする事ができるのは異能者たる自分だけだから』と、
あいつの行動理念はそんなところだろう」。
 憤然とした口調でヴェルドは吐き捨てた。



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・インスパイア能力の持ち主が独裁者だったらとんでもない世界だよね、という話。
 インスパイアの政治的利用を目論んでみた。むしろ「リーブならその方が似合いそう」
 という個人的な印象と妄想が飛躍した結果とも言う。
・ヴェルドさんの解説=英雄統治にまつわるお話はPart9 626-627(まとめ:21-2)辺りに。
・要約するとシェルクはサムネに釣られたっていうオチです。
235名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/10/31(月) 16:53:09.66 ID:doSGKxSB0
GJ!
236名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/11/03(木) 12:02:17.08 ID:Qokb9+M50
GJ
237名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/11/06(日) 20:37:54.70 ID:4jZ09KXU0
GJ!
238名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/11/11(金) 19:26:58.42 ID:V4Zvmtt/0
乙!
239名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/11/16(水) 21:36:36.98 ID:Rfp9TwgZ0
240名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/11/22(火) 05:03:07.32 ID:TRgBMJLD0
241ラストダンジョン (452)   ◆Lv.1/MrrYw :2011/11/24(木) 01:52:55.92 ID:E+rt8tcO0
前話:>>229-234
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 いつになく語調が強くなってしまったヴェルドの声で、反射的にマリンは肩を竦めた。その様子に
気付いたケット・シーが慌てて間に入る。
『ちょお待ってや。なんやよう分からんけどマリンちゃんに八つ当たりすんのは筋違いやで?』
「……すまん、そんなつもりは無かったんだが」
 両者の視線が正面からぶつかった後、一瞬の沈黙。
『そ〜んな顔してよぉ言うわ。いっぺん鏡の前に立ったらエエ』
 途端にケット・シーの口調が茶化すようなものに変わった。ちらりと横目で見たマリンの表情から、
おおよその意図を把握したヴェルドだったが、一方でこういう場合に取るべき最も効果的な対処法
をとっさに思い付けずにいた。
 そんなヴェルドを導く様にケット・シーが片手を振って手招く。何の疑いも抱かずにヴェルドが机の
傍まで来るとケット・シーも机の上で立ちあがり、おもむろにヴェルドの頬に両手を宛がい、それを
思い切り左右に引っ張った。
「んっ?!」
 元がぬいぐるみと言うだけあってつねられても痛みは無いものの、不意を突かれてヴェルドは
思わず素っ頓狂な声を上げる。頬を引っ張られている事もあり、その姿はいっそ滑稽だった。
『さすが元タークスっちゅうだけあってそうとう身体を鍛えてはる様やけど、明日からは表情筋も
鍛えた方がエエで』おっさん表情がカタいんや、とケット・シーがどこか説教じみた口調で言う。
「……そうか?」
 両頬を引っ張られ、くぐもった声になりながらもヴェルドが応じる。
『アカンわ〜、言うてるそばからコレやもん』
 大袈裟なため息を吐くケット・シーに抗議しようと口を開きかけたヴェルドだったが、横合いから
聞こえてくる小さな笑い声に視線だけを向ける。
 すると目が合ったマリンはぱっと口元に手をやって、こみ上げる笑いを必死でこらえていた。
242ラストダンジョン (453)   ◆Lv.1/MrrYw :2011/11/24(木) 01:55:25.79 ID:E+rt8tcO0
『な?』
 それ見た事かと言わんばかりにケット・シーがたたみかける。
「……これはなかなかの難題だな」
 観念したと言う代わりに、ヴェルドは肩を落とした。
『そうでもないやろ? フェリシアはんに手伝うてもろたらエエ。さっきのあんた、めっちゃエエ顔
しとったで。……ま、ボクと比べたらまだまだやけどな!』
 言いながら、今度はぐりぐりと頬を押し込みながらケット・シーが返す。
 そうこうするうち、受話口から辛うじて聞こえてきた僅かな音声に気が付いた。
「……おいツォン? まさかお前まで」
 抗議の声は不鮮明な発音になりながらも、しっかりと通話先に届いた様だ。
『さすがにこれは、ケット・シーの主張を全面的に支持せざるを得ませんね』
 相変わらず冷静な物言いの元部下に、ヴェルドはケット・シーの両手を押さえながら反論を試みる。
「ちょっと待て、万年仏頂面のお前が言えた義理か?」
『ボクからしたらどっちもどっちやな〜。アンタらにらめっこしたら延々と勝負つかなさそうやし』
 ケット・シーがおもしろがって横やりを入れる。言いながら、この二人が向き合う場面を想像して
みたが、勝負が付かないどころか表情が変わらず見応えは無さそうだという結論に至る。
「ところでケット・シー、そろそろ手を離してくれないか?」
『また表情筋の訓練したくなったら、喜んで手伝ったるで〜』
 ヴェルドは自分の両頬を軽く撫でながら、今ケット・シーに言われた事を少しだけ心に留めておく
べきかと真剣に考えていた。
『やっぱアカンな〜。こりゃ毎朝ウィスキーから始めな』
 腕組みをしてヴェルドの姿を見上げていたケット・シーがため息混じりに感想を漏らす。
 ちなみにウィスキーは、神羅時代に朝礼で受付のお姉さんが“笑顔の練習”と称して発声訓練して
いたものだという記憶を元に言っている。これがリーブのものなのか、他のケット・シーの物なのか
は判然としない。
 何はともあれケット・シーの思惑通りに場の雰囲気が和んだところで、控えめな声でマリンが
尋ねる。
「……おじさんは、どうして迷っているんですか?」
 質問者に顔を向けたヴェルドは、その真意を計り兼ねて首を傾げる。
「いきさつは分かりません。だけどデンゼルがおじさんをここへ連れて来たと言う事は、おじさんも
リーブさんを助けたいと思ったから。ですよね? なのに」
 マリンはそこで言葉を止めた。目の前にいたヴェルドの表情はこれまでに無く硬かった。そこから
は頼もしさや威圧感は消え、あるのは困惑だけだった。先ほどの憤然とした態度もケット・シーの
言うような八つ当たりではなく、どちらかというと自身の中の迷いが振り切れない事に対する憤りに
見えた。
243ラストダンジョン (454)   ◆Lv.1/MrrYw :2011/11/24(木) 01:58:26.41 ID:E+rt8tcO0
(どうしてだろう?)
 ……まるで昔の父を見ているようだった。自身の抱える苦悩や、あるいは悩む姿を見せまいと
振る舞い背を向けた父。見せまいとすればする程、見えてしまう事に気が付かないでいる。だから
いつしかマリン自身も、見えないふりをするようになった。けれど見えないふりをしていても、問題は
無くならないと言う事も分かっている。だからいつか、私達はきちんと向き合わないと行けない。
向き合った先に何があるのかは分からない。だけどそれは、また別の話。
 マリンは目を閉じ小さく頭を振って、目の前のヴェルドに視線を戻すと再び問いかけた。
「なにを迷っているんですか?」あれだけ冷静な状況分析ができるのに、何を迷うのだろう? 
マリンにはどうしても分からなかった。
 ヴェルドはケット・シーの横にあった端末へ顔を向ける。通信リスト上に並んだ名前にリーブの
名が無いのを確認する。
『心配せんでエエで、ボクとリーブの接続はとっくに切れとる。ここで何か話してもアンタの声を聞か
れることは無い』
 リストに視線を向けたヴェルドの懸念を酌んだケット・シーが答える。
 さらに電話の向こうからは、元部下の落ち着いた声が聞こえてきた。
『あなたは我々やWROとも行動を共にせず、ここまでほぼ単独で動いている。私も個人的にその
理由はお伺いしたいと思っていました』
 つまりそれは、ヴェルドの“目的”が誰とも一致しないと言う事を示唆している。ならばこの先、
互いにとって不要な衝突を避けるためにも、あらかじめ彼の目的を聞き出しておくべきだとツォンは
考えていた。
 長い沈黙の後、ぽつりぽつりとヴェルドは語り始める。
「単独行動を問われるなら答えは簡単だ、今の俺は自己満足のために行動している。……そう、
独善ですらもない身勝手な理屈のためにな」
 落ち着いた、というよりはどこか弱々しい声は、これまでの自信に満ちたそれとは正反対だと
ケット・シーは思った。
「メテオ災害以降、局長としての自身を象徴とすることで隊をまとめ上げ、世界を復興へ導こうと
したリーブの取った選択は最善だし行動は賞賛に値するものだ。ケリー達をはじめWROの隊員も
よくやっている。……誰もリーブを批難する事はできないし、そうされるべきでは無いと思う。局長
を取り戻そうとケリー達が躍起になる気持ちもよく分かる。俺がケリーの立場なら同じ事をした
だろう」
 そう語るヴェルドの脳裏には、かつての部下達の姿がよぎる。
 話を聞いていたツォンの脳裏には、過去の自分の姿が重なる。
「だが、俺の目には……」自身の本音を言葉として口に出す事、ことさら元部下だったツォンに聞か
せる事に躊躇いが無いと言えば嘘になる。それでもヴェルドは、話の先を続けた。
「あいつが『局長』であればある程、リーブという個は失われていく様に見えるんだ」
 ヴェルドにとってリーブは、社に背き追われる身となった自分を助けてくれた恩人であり、信頼の
置ける数少ない旧知だった。その恩に報いたいという気持ち、昔馴染みを救ってやりたいという思い
が、ここまでヴェルドの背中を押してきた。
244ラストダンジョン (455)   ◆Lv.1/MrrYw :2011/11/24(木) 02:00:39.16 ID:E+rt8tcO0
「……つまり俺が助けたいのは、“リーブ”であって、“WROの局長”ではないんだ」
 もちろん、積極的にWROを混乱させたいと言う意図はない。ただ、WROが組織維持のために
リーブに依存し続けなければならないとしたら、それはヴェルドの知るところではない。それが
ケリー達と行動を共にしなかった理由だった。
 一方でヴェルドの思いがリーブの意に沿ったものではなく、むしろ局長として奔走するリーブから
すれば相容れないものだと言う事も承知している。
 なぜなら、局長としての生き方を選んだのは他の誰でもないリーブ自身だからだ。
「しかしあいつなら、どうあっても自ら局長である事を望むだろう」もし万が一、リーブに局長職から
離れる様にと説得したところで聞き入れないだろうし、力ずくでそうさせようとしたならば、そこで決別
する事になるだろう。
「だからこれは、俺の自己満足でしかないんだ。そうと分かった上で他の誰かを最後まで付き合わ
せる気にはなれない」
 互いに最終目的が異なるのだとしても、至る道程の一部が同じなら一時だけ利用すればいい。
現役を退いて久しい老いぼれの自分でも、まだ利用価値があるというのなら悪い気はしない。
「だがな、リーブにだけ俺は身勝手を押しつけようとしてるんだ。矛盾だろう?」
 言い終えた後、肩の荷が下りた様な安堵感からため息をはき出す。それを聞いていたマリンは
目を閉じて考え込んでいる。
 最初に聞こえてきたのはツォンの声だった。
『正直なところ、今の話をあなたの元部下として聞くには少々複雑な思いもありますが――』
 先ほどまでと変わらず、落ち着いた声音だった。
『あなたを信頼し慕う一個人として聞くには、これほど嬉しい事はありません』
 ツォンにとってヴェルドは、タークスとしての信念と誇りが何たるかを叩き込み、進むべき道を示し
た張本人だった。
 たとえ命懸けの任務でも意識を集中できたのは、自分の背後をしっかりと固める上司がいたから
に他ならない。
 しかし最後は主任としてではなく一人の親として生きる事を選び、一時は娘の救命と世界の危機
とを秤にかけた男。
 それがツォンにとってかつての上司ヴェルドという人物だった。
 やがてタークスの後を継ぐ者としてその背中を見送る事になった。そんなツォンにとって、今は
まだヴェルドの進んだ道のりをすべて理解する事はできないまでも、彼自身が望んでその道を
選んだという事、道を分かつ彼を最後まで信じ抜いたかつての自分も評価してやりたいと、心から
思える様になった。
 それが何よりも嬉しかった。
245ラストダンジョン (456)   ◆Lv.1/MrrYw :2011/11/24(木) 02:04:55.54 ID:E+rt8tcO0
「……やれやれ」ヴェルドが苦笑したように口を開く「お前の言葉を聞いてどこか安堵している
自分が情けなくなる一方で、これほど頼もしい部下を持てた事を誇りに思うよ」。
 局長自ら隊を混乱させてどうするとリーブを追及すれば、自分の方こそ職務放棄しただろうと
あっさり反論されてしまった。しかも事実であるだけにそれを否定する事はできず、そんな自分が
リーブを救いたいなど、それこそ矛盾以外の何ものでも無い。何より、リーブ自身がそうしてくれと
言っている訳ではない。
『過酷な任務や、なによりあなたの厳しい指導にも耐えてきた元部下です。もう少し信用して頂いて
も損はしませんよ?』
 そう言ったツォンがくすりと笑ったような気がした。
『せやな〜。ツォンの仏頂面なんかまさに指導のたまものや』
 からかい口調でまたもケット・シーが横やりを入れる。
「きっと」マリンがゆっくりと顔を上げる「リーブさんは、ぜんぶ知った上で行動しているんだと思い
ます。おじさんが今日ここへ来る事も。このことを知って私達がどんな風に感じるのかも」。
 通信越しに聞かされた父の声が語った真相は悲しいものだった。あふれる涙が止まらなかった。
 だけどその後は夢中だった。そんな事させないと、自分にできる事を探して必死になった。
 ここにいるみんながそうだった。
 そのことに気付いた今なら、自信を持ってこう言えた。
「だけどこれって、私達がものすごく信用されてるって事ですよね? ……その、ちょっと素直じゃ
ないだけで」
 ケット・シーとヴェルドがマリンに顔を向けると、彼女は満面の笑みでこう続けた。
「だから私達はなにも迷う事なんて無いと思うんです。おじさんは……」
 言いかけてから違うとマリンは首を振る。おじさんや私だけじゃない、デンゼルやケリーさん達
だって同じなんだ。
「……おじさんも、私達もみんなリーブさんが“独裁者”になって欲しくないと思ってる」
 ほらね、迷う事はなにもないでしょう? マリンは小さく首をかしげて微笑んで見せた。
246ラストダンジョン (457)   ◆Lv.1/MrrYw :2011/11/24(木) 02:06:43.64 ID:E+rt8tcO0
 つられたようにヴェルドは目を細め、そのまま視線を机上に向けた。
「そうだな。お前さんが素直じゃないのも本体譲りだと考えれば納得もいくしな」
『なんやてーっ!? ボクはリーブと違てもっと素……』
 反論しようと両手を挙げたケット・シーだったが、途中でそれを諦めた。
『……せやね。ボクが言うたらおかしいかも知れんけど、ひねくれ者っちゅーか』

 ――なんて言うんやろ、お人好しすぎるっちゅーか?
    ああ、せや考え方や……。

『ちゃうわ。頭がカタいんや』

 ――みんなの幸せ考えてるんは、よう分かる。
    あんたは昔っからそうやった。
    せやけどな、ボクから言わせたら根本的に間違っとるんや。

『こんなにみんなが心配しとるのに、それ分かっとるクセにそうするから腹立つんや』

 ――なんやろ? なんでこんな腹立つんやろ?
    これじゃまるで……。

『ホンマに、腹立たしいぐらい、どうしようもないアホなんや』

 ――ああ、そうか。そうやったんや。
    ボクは。



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・毎度ぐだぐだですみません。登場人物数に比例して煩雑度が増す傾向があるという一番の例にorz
・ヴェルドが本音を吐露する場面での葛藤はPart8 201-202(まとめ19-4)から続いています。
(部下を持つ者としての責務か、個としての感情か。ヴェルドが後者を選んだ事に対するリーブの
指摘があっての話として)
・マリンの心中描写については、Part7 655-657,661-665(まとめ14)から続いています。
 バレット親子(形見のペンダント)の件は、別のお話としてきちんと書けば良かったと反省している。
・作者の中でマリンちゃんは読心術(=ライフストリームの気配を察知する能力)があるんじゃないかなと。
 FF7のエンディングとか。
247名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/11/24(木) 20:50:44.17 ID:WAuI1qej0
GJ
248名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/11/27(日) 07:33:34.55 ID:U97clGGs0
GJ!
249名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/12/02(金) 15:53:28.90 ID:teYUTWv/0
250名前が無い@ただの名無しのようだ