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ん
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前話:
>>221-225 ----------
そう言ってクラウドに背を向けると、ユフィは躊躇わずに一歩を踏み出そうとした。きっとこの先に
いるリーブに会うのが、今のクラウドにとっては最良の選択だろうと思ったからだ。
しかしそれを全力で否定したのはクラウド本人だった。彼は無言でユフィの腕を掴むと、彼女の
前進を妨げた。
「ちょっと! いきなり何……」言いながら振り向くのと同時に、今度は腕を思い切り引っ張られた
ものだから、ユフィの体は放り投げられる形でエレベーターに押し戻された。頭部に走る衝撃に
思わず瞼を閉じれば、耳鳴りと共にきらきらと小さな光の粒が視界を横切った。
それから数秒も経たないうちに、エレベーター内の側壁にぶつけた後頭部を押さえながらユフィ
が薄く瞼を開く。視界の中央には、伸ばした手で操作パネルのボタンを押しながら宙を舞うクラウド
の姿と、扉の向こうに走る閃光が見えた。その光景を目の当たりにしたユフィは一瞬だけ、まるで
良くできた映画みたいだと、どこか他人事のように考えていた。
間一髪のところでエレベーターにクラウドが飛び込むと、扉は閉まった。それから息を吐く間も
なく、轟音と共にエレベーター内は激しく振動した。
「なっ、なんだってのさ!」尻餅をついた格好で踏ん張りながらユフィが叫ぶ。突然の出来事に、
状況が呑み込めずにいた。
「あのまま行ってたら、爆発に巻き込まれてた」
前につんのめる形で体勢を崩してはいたものの、クラウドの声は冷静だった。
「爆……?!」
「どうも、あそこから先には進ませたくなかったみたいだ」
言いながら、揺れが小さくなったのを確認したクラウドは大剣を支えにしながらゆっくりと立ち
上がり、パネルの前に立つと操作をはじめた。しかしどこを押しても扉は反応しなかった。どう
やら自分達は爆発の衝撃で傾いたままのエレベーター内に閉じこめられたのだろう、と言う状況を
把握した。
「面倒な事になったな……」
「ねえクラウド、『アタシ達を先に進ませたくなかった』ってどういう事?」
操作パネルと向き合うクラウドの背にユフィが問う。意識せずに立ち上がった勢いでエレベーター
内が大きく揺れ、再びユフィは側壁に後頭部をぶつけた。深刻な内容の会話にあって、その鈍い
音はいっそう際立った。
しかしクラウドは意に介した様子もなく、ユフィの問いに答えた。
「爆発のタイミングから見て、俺たちがあの先に進むのを妨害する為の仕掛けだと思えたんだ」
見方によっては罠という言い様もあったが、クラウドは意識的にそうすることを避けていた。
言い終えたところで、パネル操作を諦めたクラウドは天井を見上げた。換気口があれば、そこ
から外に出られるだろうと考えた。
「って事は、おっちゃんが?」
「そこまでは分からない。時限式かセンサーかそれとも遠隔操作か、やり方は色々ある。だけど
装置を作動させるための仕組みによっては、ユフィの予想が正しい事になるな」
「なんで……?」気の抜けた声でユフィがつぶやいた、どうしてこんな状況になったのかが分か
らなかったのだ。
「ところでユフィ」支えにしていた大剣を右手に持ち替え、両足を開いて態勢を整えると視線を
真上の換気口に向けながら問いかける「ここへ来る前にリーブと会った、って言ったよな?」。
「うん」
「なにか言われなかったか?」
「えっ?」
どうやら質問するクラウドには心当たりがある様子だったが、聞かれているユフィ当人には思い
当たるところがない「ええっと、色々聞いた気がするけど……」。急転を繰り返す事態について
行けず、思うように考えがまとまらなかった。
その間もクラウドが大剣で天井の換気口を壊そうとする度に、エレベーター内が大きく揺れた。
神羅ビルのそれとは違い、ここはずいぶん頑丈に作られているみたいだと、妙なところに感心する。
マテリアを携行しなくなって久しい今では、魔法は使えない。つまり脱出のための選択肢は
限られていた。しかもクラウドの剣技は狭い空間、とりわけ密室となったエレベーター内で使用
するには向いていない。それというのも扱う剣その物の大きさもあって、大型の敵や広域攻撃を
担う技が多かった為だ。仮にここで発動すれば乗っているエレベーターを壊せたとしても、ユフィや
自分自身も巻き込んでしまう危険があった。
さらに問題なのは、先程の爆発の影響でバランスを失い非常に不安定なエレベーター内では、
動く度に籠が大きく揺れる事だった。乗り物酔いという弱点を持つふたりにとっては、もっとも危惧
すべき事態だった。
「……ち、ちょっと待ってクラウド。……なんか……気持ち悪くなってきた」こんなに揺れるんなら
飛空艇の方がよっぽどマシだと、口元に手を当てながらユフィは思う。
閉塞された空間では、風景などで気を紛らわす事もできない。その上ひどく揺れるものだから
三半規管は半ば混乱状態だ。クラウド自身、この状況下に長時間いるのは避けたかった。一刻も
早く打開策を見出したかったが、焦れば焦るほど状況は悪くなる一方で、まさにジレンマだった。
(確かにユフィの言うとおりだ。これじゃあ潜水艦の方がまだ……)
考えたくないという意識はむしろ忘れかけていた記憶を呼び起こすカギになる。次々といやな
要素が脳裏に浮かんで、クラウドは思わず眉間にしわを寄せた。これ以上ここにいると、それだけ
で心身共に参ってしまいそうだ。となれば多少の無理をしてでも、ここは強行突破しかない。
「……踏ん張れユフィ!」
「えつ!?」
覚悟を決めたクラウドは大剣を構えて腰を落とすと、狙いを換気口に定めた。未だ不安定に
揺れる床と跳躍のタイミングを合わせると、全身を使って跳躍し勢い良く大剣を突き上げた。
金属が擦れ合う耳障りな音と共に、クラウドは大剣をねじ込むようにして持ち手を変えた。換気口
を覆っていた金網はさらに不快な音を立てると、抉れて形を変えた。
もう少しで壊せると手応えを感じたクラウドだったが、直後にエレベーター内がひときわ大きく
振動すると、がくんと小さく落下する様な衝撃が走った。バランスが崩れ、大剣はクラウドの手に
押し戻される。
「く、クラウド!?」
ぎいと軋んだ音を立てながら、エレベーターは傾斜したままでゆらゆらと揺れている。先程よりも
明らかに不安定になっているのが分かった。
「これってさ……もしかして」
「支えになるワイヤーの片方が切れたんだろうな」
応じるクラウドの声は、自分でも驚くほど冷静だった。
「ねえ、エレベーターを支えてるワイヤーって、そんなに簡単に切れちゃったりするモンなのかな?」
「いくらなんでもそれは無いんじゃないか? それなりの強度はある」と信じたかった。
「……だよ、ね? 簡単に切れちゃったりするハズ……無いよね?」
まさかねー、とユフィは乾いた声で笑ったが、すぐに笑顔は引っ込んでしまう。
「…………」
「…………」
それから互いに顔を見合わせるが、なにも言葉が出てこなかった。
なぜだかは分からない。ただこの時点でふたりは、このエレベーターを支えるワイヤーが、「あと
数十秒ほどしたら簡単に切れてしまうのではないか?」と言う、とてつもなく現実味を帯びた
予感を抱いていた。
その直後に、ふたりの予感を確信に変えさらに実現してしまった事を告げたのは、けたたましく
響いた金属の摩擦音だった。同時にエレベーター内は照明と安定を完全に失い、ふたりを乗せた
まま落下をはじめた。
そんなほんの一瞬の間に、クラウドの脳裏ではまるで走馬灯のように記憶が再生され、ここへ
来る直前に対峙したリーブの言葉がよみがえった。
***
「神羅カンパニーの支配体制をいっそう盤石な物とするために、当時は裏で様々な能力開発を
行っていた様です。その中のひとつに『未来予知』なんてものもあったそうです」
またしても自らを人形だと名乗っていたものの、クラウドの前に現れたのは姿形や声のなにも
かもがリーブだった。
「もちろん、私にそんな能力はありません。ですが予知能力が無くても確実に未来を知る方法が
あるんです。何だかお分かりになりますか?」
目の前に立ったリーブは淡々と話を続ける。クラウドが分からないと首を振ると、こう続けた。
「自分の描いたシナリオ通りに事を運ぶんです。そうすれば、予知などする必要はありません。
予めレールを敷設してその上に列車を走らせるのと同じです」
「『敷かれたレールには逆らえない』、そう言いたいのか?」
静かに問い返すクラウドの声には僅かばかりの嫌気がこもる。
それを受けてリーブは口元を綻ばせると「少し違います」と答えた。
「正確には、その上を走ることを嫌い彼らがレールから外れる事まで想定に含めるんです」
「……あんたのシナリオでは、それが俺達だと?」
うんざりした表情でクラウドが言うと、またもリーブは同じ反応を返す「少し違います」。
「あなたは本来とても強い人です。しかしその反面で脆くもある。ですから、こうご説明した上で
『本体の破壊』を依頼したとしても、それを快諾して頂けない事は分かっています。ですから、私は
あなたを利用しようと考えました」
話し方こそ事務的だが、内容はどこか挑戦的にも聞こえた。
「俺達は盤面に置かれた駒じゃない、あんたの思い通りに動かせるとは限らない」
明らかな嫌気を含んだ声で、クラウドが反発する。それがリーブの思惑通りだったとしても、
言わずにはいられなかった。
「動きますよ」リーブは断言した「直に分かります。そして我々は駒ではなく、“人形”なのですから」
***
なぜあの時、リーブはあんな事をわざわざ話したのだろう? 心のどこかで何かが引っ掛かって
いた。けれどそれも、今なら納得がいく。
(こうなるまで俺が真意に気付けない、と言うのも見通されてたって事か)
俺はあそこで、あんたに打ちのめされた。その直後に、都合良く回復薬を差し出すユフィが現れ
た。なるほど、それもすべて用意してあった“シナリオ”通りというわけだ。
クラウドは思わず笑みを浮かべた。
(……『何もできなかった自分の弱さに腹が立った』……あんたもそうだったんだろう? リーブ)
俺は正直、あんたを少しだけ苦手だと思ってる。口が達者で柔和な裏に知略を巡らす切れ者。
こう言ってはなんだが、その意味ではルーファウスよりもタチが悪い。
6年前までは神羅という巨大企業に属し、ミッドガルと魔晄文明を築き上げ支配の側に身を置い
た一人。それでも最後は俺達に手を貸した。考えてみればあの時ケット・シーを操っていたあんた
自身、自分がレールの上を走らされていたと思っていたんじゃないのか?
自分をスパイだと明かせば俺達に疎まれる事は目に見えていたのに、図々しくも堂々と同行する
と宣言されて、当時は状況が状況だけに好感なんて持てそうになかった。だけど、今なら何となく
分かる様な気がするよ。
分かったところで、あんたと同じ事が俺にできる気はしないけどな。
たとえ感情は殺せても、最後まで理想は捨てない――俺から言わせれば、そんな事ができる
ヤツの方がよっぽど強いんだ。
(そしてここの仕掛けに気付いても、俺の力ではどうしようもない。……あんたはそこまで分かって
いた。だから種明かしをしたんだな)
手にした大剣を強く握り、クラウドは目を閉じた。着地の衝撃に備え、できる限り身を低くして
四肢に力を入れた。
(だが生憎と俺はあきらめが悪いんだ。あんたの思い通りにはさせないさ。それに)
遠くにユフィの叫び声を聞いた直後、クラウドの全身に衝撃が走った。
(何もしないならそれこそただの“人形”だ。……そうだろう?)
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・FF7本編を意識しすぎて不自然になった感は否めない。前回から続いてるのに
絞り切れていない話の焦点といい、読み苦しい点が多くてすんません。
・んでもって、やっぱりコミカルな表現は苦手です…。
GJ!
GJ!
ほ
乙!
ぼ
ま
255 :
月水:2010/12/24(金) 22:45:17 ID:fKqrecyK0
※BCFF7でクリスマスネタな捏造SS。
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『Happy Christmas for you.』
暗闇の中を、音を立てないようにして進む。慣れた場所で、しかも前職柄(?)、この様な事は造作ない。
ただ、目的が目的なだけに内心穏やかでいられなかった。
袖と裾に毛のついた紅い衣装を着、昼間梱包した物を片手に部屋の前に立つ。
いつもなら、ここでノックする所だが、今夜は出来ない。
ノブにゆっくり手をかけ、そっと引いて開く。室内に薄明かりが出来た。
足場がゆったりとある床に爪先から踵へと慎重に体重を移動させ、前進する。
ふと、首元がひやりと感じた。
振り向かなくても、何が起こったのかが想像ついてしまった。
「こんな夜中に他人の部屋に入るとは」
何が悲しくて娘に刃物を突き付けられるのだろう。しかも、本人は寝ぼけているらしく、誰に刀を向けているのか
分かっていないようだった。俺は思わず、両手を挙げる。
「父さん」
何とも情けない状況だった。しかし、ここでばれるわけにはいかない。
「“父さん”じゃない、サンタさんだ」
取り繕う。
「では、その“さんたさん”とやらが、私に何の用だ」
振り向くと、彼女の眼が、すわっていた。
怖。
「いや、その、プレゼントを届けに」
観念するしかなさそうだ。
「何故?」
詰問されるなんて。
「今日、く、クリス、マス」
「くりすます」
手元が、漸く緩んで刀が離れた。そして、彼女は朧げな思考回路を回転させているようだった。
頭の中にある自分の辞書から該当する単語を懸命に引こうとしているが、中々見つからないらしい。
「め、メリークリスマス」
動きが止まった、今が好機。
裏返ったような声で言った後、プレゼントを渡し、逃げるようにして娘の部屋を出る。これ以上、奇妙な重圧に耐えられそうになかった。
「おはよう、父さん」
「あ、ああ。おはよう、フェリシア」
あれから、寝るに寝られず、結局リビングで一夜明かした。
娘は、昨夜の事は覚えていないようだ。
「これ、何かな」
朝起きたら持っていたという、夜俺が渡した包みだった。
「開けてみたらどうだ」
「開けていいのかな」
自分のものか疑わしくて開けられないと言った。
大丈夫だ。そう言って開くように促す。
黄色のリボンを解き、柊の模様が入った季節感ある包装紙を丁寧に広げていく。
数時間前の一騒動で、端が少し凹んでしまった細い箱を取り出した。
「これは」
不慣れな宝飾店で偶然見つけた、娘と同じ名を持つ花をモチーフにしたネックレス。小さめだが、花弁の部分にはブルーダイヤが使われている。
娘に対する、初めての贈り物だった。
ふわり、と身体が包まれる。
「ありがとう、父さん」
腕をそっと回した。
サンタには、なりきれなかった。でも、これで良かったのだ。
幸せな時が過ごせるのだから。
<fin>
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・親馬鹿スキルがありそうに見えて仕方がない、そんなヴェルド氏に頑張ってもらいました。
乙!
※DDdFFの最新トレーラーのフリオとライト義姉さんのシーンを見たら色々滾ってきて勢いで書きました。
※フリオニールとライトニングのカップリング物です。ぬるいですが恋愛要素を含みます。苦手な方はスルーして下さい。
※内容はほとんどが投稿人の勝手な妄想です。完全なるフライング小話です。ゲーム本作の内容とは異なります。(当たり前ですが)
フリオニールはものすごく困っていた。
仲間四人で野営をしていたら、その内の二人が急に見張りに行くと言い出して。
残ったのはライトニングと名乗る女戦士だけだ。
男だろうが女だろうが、仲間である事に変わりはない。だが、少し前に彼女と言葉を交わした。彼女が自分の大切にしている夢に関心を持ってくれてそれ以来、彼女の事が気になって仕方がないのだ。
席を外した二人を恨めしく思いながら、隣に座る変わった服装の女性を横目でそっと盗み見た。
たき火の炎に照らされた横顔が美しく、柔らかそうな髪は彼の好きな花を思わせる甘い色をしている。すっと通った鼻筋、伏せられた眼を縁取る長いまつ毛が落とす影、思わず見とれてしまう。
さすがに不躾だろうと慌てて目を反らしたが、その仕草が逆に隣に座る女戦士に気取られる結果となってしまう。
「なんだ?」
どうしてこの女性は男の様な話し方をするのだろう。
男勝りな女性は仲間にも居たが、それでも、そのまんま男の様な話し方をしたりしなかった。
「ライトニングは、その…どうしてそんな話し方をするんだ?」
ライトニングは怪訝な表情でフリオニールをじっと見つめる。フリオニールの顔が瞬く間に赤くなる。よく日焼けした彼の顔がたき火の炎に照らされていても、それでも分かるくらいに。
ライトニングにも男女の機微には疎い方だが、彼が少なからず自分に好意を持っていることくらいは分かる。
以前の自分はそんな感情を疎ましく思っていたのだろう。でも、この男だけは何故か違った。
何故だろう、この男と一緒に居ると心が安らいだ。良く言えば何を言っても受け入れてくれる、悪く言えば何を言っても許してくれるような、そんな感じだ。
博物館から抜け出て来た様な鎧姿に武器、堂々たる体躯にも関わらず口をついて出てくる言葉は少年の様にあどけない。今だって、ライトニングの男勝りの言動を咎めているのではないのが分かる。
「おまえは何故そんな格好をしているのだ?」
フリオニールはライトニングが言っている意味が良く分からず、首を傾げる。
「俺の…この、格好の事か?」
フリオニールは落ち着きなく、自分の鎧に触れ、
「どこか…変…か?」
「いや…そうじゃない…」
慌てる初心な反応がなんだか可愛い。
「お前の居た世界ではそれが当たり前なんだろう?」
「そうだな…兵士は大体こんな感じだ。もっとも、俺みたいに歩く武器屋みたいな奴は居ないけどな。」
ライトニングに怒っている様子はない。お互いの話が出来るのがうれしくて、フリオニールは勇気を出して言葉を続けた。
「俺の仲間にも女の戦士が居た…と思う。でも、ライトニングの様な喋り方はしなかった。だから不思議に思ったんだ。」
こんなに美しい人が、と言いかけてフリオニールは慌てて口を噤んだ。
「ライトで良い。」
相変わらず男の様な言い方だが、声が優しい。
「悪かったな。お前の姿がおかしいんじゃなくて…私の居た世界でもお前やセシルの様な格好をした人達が居た。だがそれは遥かな昔の話で、今はもう物語の中でしか見られない。」
「俺たちの世界では古い戦記を口述で伝える。それくらい古い、という事か?」
やはりフリオニールには分かりにくいのだろう。まるで過去から来た人間と話しているみたいだ。
「そうだな。」
その伝承とやらがどれくらい古いのかは分からないが、これ以上フリオニール混乱させないように、そして少しでも緊張を解いてやろうとライトニングは否定はしないでおいた。
「お前の世界では女性はみんな裾の長いドレスを着るのか?飾りがヒラヒラ付いた…」
「高貴な女性はそうだな。皆、華やかで美しいと…思っていた…」
「どうした?お姫様にフラれたか?」
からかう様な口調にフリオニールは気色ばんだ。
「そんなんじゃない!」
その剣幕にライトニングは驚いてフリオニールを見た。膝を立てて今にもライトニングにつかみ掛からんばかりだ。
以前誰かがフリオニールがお姫様にひどい目にあった事がある、と言っていたのを小耳に挟んだだのを思い出し、
(少しひやかそうと思ったのだが…)
どう詫びようかと考えを巡らせていると、いきなり両肩を掴まれた。痛みに顔を上げると目の前にフリオニールの顔があった。
「俺は…っ!ゴテゴテ着飾った女よりもあなたのような…」
掴まれた肩も向けられる視線も熱くて、ライトニングは目を反らす事が出来ない。
フリオニールは吸い込まれそうな青い瞳に見つめられ、赤い顔を更に赤くして顔を背けた。そのくせ、ライトニングの肩から手を離さない。
「私は…」
フリオニールの言葉の続きがなんとなく分かって、不思議と心が浮き立った。真っすぐな気持ちがうれしい。
「何かを守りたくて、軍人になった…と思う。周りの…他の奴らに負けたくなかったから…」
この男になら話しても良い、そう思った。肩を掴んでいた指から力が抜けたのが分かった。
「俺も…そうだった…」
長い長い沈黙の後、フリオニールがやっと口を開いた。
「仲間と一緒に…野ばらの咲く世界…でも、今は…そこに…あなたが居てくれたら……と思う」
ごくり、と唾を飲み込んで、なんとか言葉を絞り出す。
「守りたいんだ。」
最後の方は聞き取れない程小さな声だった。
ライトニングは既視感を覚えた。
以前にも誰かにもそんな事を言われた事があったような気がする。このひたむきさとか。
だからこの男に心を許してしまうのかと、ライトニングは漸く気が付いた。
「残念だな。」
崖から飛び降りる気持ちで伝えた言葉をあっさりと否定され、フリオニールは言葉を失う。
だが、ライトニングはにやりと笑ってみせると、
「生憎と大人しく待っている性分ではなくてな。どうせなら、共に肩を並べて戦う方が良い。」
フリオニールは思い出した。この女性の美しさだけではなく、彼女の言う「性分」にも惹かれていた事を。
(この人は強い…)
気圧されて何も言えなくなったフリオニールにライトニングは尚も畳み掛ける。
「抱いてくれないのか?」
「え…!?」
ライトニングの言葉にフリオニールは飛び上がらんばかりに驚いた。
「こっ、ここでか…?」
「ばか。考え過ぎだ。」
「そ…そうか…」
そういう意味か…と口の中でもごもごと言い訳をしつつ、フリオニールは大きく深呼吸をした。
肩に置いた手をそっとライトニングの背に回す。ライトニングも素直に身体を預ける。
女性の身体はもっと柔らかいものだと思っていたが、良く鍛えられたライトニングの背中には無駄な肉が一切付いていない。だが、手のひらに感じる筋肉はやはり男性のそれとは違う。
そして、自分の胸に押し付けられる彼女の柔らかい胸。
頭がくらくらして、周囲の光景が回転しているのではないかと思う程だ。
だが、胸の中のライトニングを見ると、安心しきった表情でフリオニールにもたれかかっている。
その表情はフリオニールの胸をしめつけた。
(…今だけは…)
先の事は何も考えないでおこう…そう思って、フリオニールは抱きしめる腕に力を込めた。
おわり。
>>257 乙!
席を外した奴らは気をきかせたのかw
X3登場に同意&便乗。
会敵
>>141→内部侵入〜要塞崩壊
>>139-140の経緯で
辛くも大陸上空に現れた母船は退けたものの、その後進路を日本に(これが3-53)。
と言うことで、最後に「幸運を祈る!」の無線通信で締めくくってくれたら叫ぶw
(母船って36まで日本→37欧州→42〜48北米侵攻→53日本で良いのかな?)
3のラストは受け取る側だけど、「幸運を祈る」を言った側をやってみたいという妄想の賜ですね分かry
お前ら良いお年を。
>>255 互いに不器用だけど、失われた親子の時間を取り戻そうと前向きな様子が良いな〜。
ヴェルドさんならやってくれる!だって任務は必ず成功させるタークスだし!
クリスマスネタか〜(FF7には教会があるからクリスマスって風習は一般的なのかな?)
・トナカイの代わりにフェンリルを駆ってプレゼント届けようとするストライフデリバリーサービス、とか。
・「どうせならこの服も着て」とサンタクロースな格好させられてみるストライフデリ(ry、とか。
・それでもバレットに「あくまでも忙しいサンタさんの代わりにクラウドが走ってるんだ」と言われて
はいはいと頷くマリンとか。
…よし、思いついたけど書くのは無理だw
>>257-259 これ読んで新トレーラー来てたことに気がついたw楽しみですね〜。(DFFの前の話?)
スレ違いですが、シャドウ出ない?(戦闘のバリエーション的にアサシンいいと思うのよ)
ストーリー的にも名前的にもシャドウいいじゃないか〜と言ってみる。無理やりか?w
やばい、予定無かったのに楽しみになってきたw長レスすんませんw
前話:
>>243-247 ----------
文字通りに天と地が何度もひっくり返り、不規則で耳障りな音と全身を伝う衝撃が収まったの
を見計らって、クラウドは指先から順番にゆっくりと体を動かしてみた。ところが、どこにも痛み
や異常は無く、それどころか殆どダメージを受けていない様だった。それからゆっくりと瞼を開く
と、その理由はすぐに分かった。
「……防盾魔法?」
自身の周囲をうっすらと光の壁が包み込んでいる、これが衝撃を吸収してくれたのだと言う
こと、その正体がシールドマテリアの作り出す防御壁だと言うことは、経験からすぐに察しが
付いた。
「はぁ〜、我ながらギリギリ間に合って良かったよ」
声の方に顔を向けると、座り込んでいたユフィと目が合う。彼女の右手には、まだうっすらと
光を纏ったマテリアがあった。あの状況下で魔法の発動を間に合わせたのはさすがだと感心
する一方で、マテリアの出所が気に掛かった。少なくとも6年前の旅で得た物でない事は確かだ。
「それは?」
「ああコレ? さっきおっちゃんから預かったの。ホントはシェルクのなんだけどね」
お陰で助かったよと嬉しそうに続けるユフィとは対照的に、返答を聞いたクラウドは肩を落とす。
(……ここまでは用意されたシナリオ通り、と言う訳か)
思わず溜息を吐いたクラウドを見て、ユフィは首を傾げた「どうしたの?」。
「いや……」返答を濁して周囲を見回すと、頭上には大きく変形したエレベーターの扉が、片や
先程までは天井だった場所が横合いに見えた。換気口を覆っていた金網は歪んだままだった
が、その向こうから僅かだが外の光が漏れ入っていることに気がつくと、クラウドは躊躇なく
金網を蹴破った。
こうして二人は無事、エレベーターの外に出る事ができた。
「ちょっと、これって……」
ようやく解放されて安堵したのも束の間、目の前に広がる光景を見たユフィは呆気にとられて
言葉を失う。それもそのはずで、これこそ先程モニタ越しに見せられた風景――つまり建物の
外――だったからだ。
後ろを振り返ると、白い壁面の新本部施設が見えた。少し顔を上げたところに小さな亀裂を
確認できたが、見る間にそれは塞がっていった。どれをとっても状況が理解できない。
「アタシ達、なんでいきなり外に放り出されてる訳?!」
どういう事なのさー?! と、誰にともなく叫びまくっているユフィの混乱も分からなくはない。
クラウド自身、支えを失ったエレベーターがシャフト内を落下したのだとばかり思っていた――と
言うよりも、それ以外に起こりようがない――からだ。しかしクラウドにしてみれば、目を覚ました
ら突然ユフィが目の前にいたという状況でこの“瞬間移動”を経験していたから、今回の出来事
にそこまで動揺する事はなかった。言ってみれば、相手が手品師だと分かれば心構えができる
から、何が起きてもその場でいちいち驚くことは無くなる。確かに仕掛けは気になるが、今は
それを気にしている場合ではない。
クラウドにとって問題なのは、ここまでの出来事がどんな理屈で起きた現象なのかではなく、
今のところどれもリーブの描いたシナリオ通りに進んでいて、その結末が考え得る中で最悪だと
言う事だった。
顔を上げたクラウドの目を引いたのは、自分達を取り囲むようにして上空にあった無数の機影だ。
「飛空艇師団? ……にしても、どうしてこんなに」
ここへ来たときには、自分達が乗っていた飛空艇以外にはいなかったはずなのに、今や編隊を
成して上空を飛んでいる。この短時間にどこから集まってきたのだろうと、クラウドが首を傾げる
のも無理はない。
「ああ、そっか」振り向いたユフィが思い出したように答える「クラウド達は聞いてないんだよね。
おっちゃんの呼びかけで集まったんだよ、ここの空爆待機の為にこの辺に留まってるんだと思う」
「空爆!?」さらりと物騒なことを語るものだから、思わずクラウドが聞き返す。
「心配は要らないよ。上にはシドも戻ったし……」言いかけてユフィがあっと声を上げた「そう、
アタシ達が頑張れば、空爆なんてしなくて済むんだ!」
***
ちょうど同じ頃、シドの乗った飛空艇内のレーダー要員は我が目を疑っていた。不自然なほど
頻繁にまばたきを繰り返し自分の目に異常がないと分かると、次に計器の故障を疑った。整備
班には絶対の信頼を置いているが、今回ばかりは計器の故障であって欲しいと願わずには
いられない。
しかし目の前の表示は変わらなかった。意を決してレーダー要員は声を上げた「レーダーに
反応です!」。
彼は索敵用広域レーダーから対象までの距離と方位を読み上げた後、にわかには信じがたい
状況を報告する「捕捉データによるとモンスターの大群の様です。しかも真っ直ぐこちらに向かって
きます!」。
「なんだってぇ?!」
シドが叫ぶのと同時に、メインのモニタにはレーダー画面が映し出され報告内容が誤りでない
ことを示した。
「おい冗談だろ? 大体どっからこんな数のモンスターが湧いて出てくるってんだ!」そう言った
後、シドはあることに思い至って口元を歪めると、吐き捨てるようにして言った「ケッ、好都合って
もんだぜ!」。
シド達をはじめとした各飛空艇はあの空爆要請を受けて以来、待機飛行のため新本部施設を
中心にした円周上に航路をとっていた。レーダーによると本部施設から見て北側から迫ってくる
モンスターの大群に対して、周回軌道をとる彼らは間隔を空けずに攻撃をする事ができた。シド
の言う都合とは、こちらへ向かってくるモンスターの足止めについてだ。
『おう艇長、良かったじゃねぇか!』スピーカーからは豪快な笑い声と共に、事の次第を聞いて
いた燃料担当が言った『腹ん中にどっさり積んできたモンが無駄にならずに済みそうだな!』。
その言葉に通信担当のクルーは頷くと、穏やかな声で続けた。
「不謹慎ですけど、モンスターが来てくれて良かったとさえ思いますよ。……理由が何であれ、
局長やみなさんのいる場所に爆弾を落とすなんて、やっぱり嫌ですからね」。
「……どう言ったらいいか分からないが」年輩の航法士は苦笑混じりに言った「空爆待機とは
言え、結果的にこのルートで待機していたのが幸いしたのは間違いないな」。
その言葉にはっとして、シドが振り返る。
(あの野郎、まさか最初からこれが狙いだったんじゃ……)
もし仮に、こうなる事をリーブが事前に予想していたのだとしたら、何故それを素直に言わな
かったのか? 「モンスターの襲撃に備えて本部上空で待機しろ」と、そう言えば済む話では
ないか。確信が無かったにしても、わざわざあんな言い回しで伝える必要は無い。むしろ誤解を
招いていたずらに不安を煽るだけだ。そうすることでリーブが得るメリットを思いつかない。
(ちくしょう、こう言うのはいっくら考えたってオレ様にゃ分かりそうもねぇや!)
とにかくこの事を他の連中にも伝えなければ、そう考えてシドはしまってあった携帯電話を
取り出すと電源を入れた。すると、ちょうど同じタイミングで電話が鳴動をはじめた。ディスプレイ
には発信者の名前が表示されている。2コール目が鳴る前に、シドは通話ボタンを押した。
「おーグッドタイミングだ! クラウド、状況がちぃとばかし変わった」
『こっちもその件で頼み事がある。シド、すぐに俺のバイクを降ろしてくれ。モンスターの大群を
相手にするには“足”が要る』
あまりにもスムーズに話が進むものだから、思わずシドが聞き返す。
「おいちょっと待ってくれ。お前、その事をどこで?」
『話は今さっきユフィから聞いた』ユフィはリーブに話を聞かされたと言うことと、自分達がここに
来るまでの経過を簡単に補足してから、クラウドは先を続ける『確かに機動力で言えば、足止め
は俺とユフィが適任だ』。
「他の連中は?」
『まだ中にいる、でも今は戻ってこのことを知らせる時間が惜しい。ここからなら、戻るより
モンスターを迎えに行った方が手っ取り早い』
クラウドの言っている通り、たしかに時間は無い。
「……分かった。すぐ降ろしてやるから待ってろ」
合流地点を告げてから通話を終えると、シドは眉間にしわを寄せた。
「艇長、どうしました?」様子に気付いた通信担当のクルーが心配そうな視線を向ける。電話の
相手がクラウドだと言うことは、シドの話からも分かった。けれどなぜ不満げな表情をするのか
が分からなかった。
「別に……」それ以上シドは答えようとしなかった。
***
クラウドがシドと通話している間、ユフィも携帯電話を手にしていた「クラウドは無事! こっちと
合流したよ」。
彼女の言葉から電話の相手がティファかヴィンセントあたりとだろうと見当をつけつつ、クラウド
はシドとの会話を続けた。先程ユフィに飛空艇師団の事を聞かされた時にようやく気付いた事だ
ったが、分断された自分達がそれぞれの状況や情報を共有できていないというのは、こちらに
とって不利に働いている。
「……うん、こっちは大丈夫。シドは飛空艇に戻ってる。万が一に備えて空爆待機してる。でも
大丈夫、そうならないようにアタシ達がいるから安心して。それで、そっちはどう?」
ティファの話を聞いているらしく、通話の途中ユフィは何度か驚いたり、頷いたりを繰り返して
いた。クラウドがシドとの通話を終えてから、少し遅れてユフィも電話を切った。
すると開口一番、ユフィはこう言った。
「ティファから伝言『私は大したケガもしてないから心配しないで』だって」
「……良かった」クラウドは今までになく安堵したような表情を浮かべた。
それからユフィは、ティファがシャルアに助けられた事。今はヴィンセントと合流した3名で行動
していること。それ以外には特に進展が無い事を伝えた。
「下に向かったバレットも含めて、今のところみんな無事みたいだね」ユフィは自分が見た情報も
含めて、ここまでの経緯と状況をまとめた。
直接話のできていないバレットを除けば、これで今のところは情報を共有できた事になる。しかし
この先もこう上手く行くのだろうかと考えて、クラウドは不安を覚えた。
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・今年も1年間ありがとうございました。明日からの1年がいい年になることを祈念しつつ
…ちょっと落ち着こうか自分。
・ウォール(バリアのマテリア)とシールド(シールドマテリア)って何が違うのかちょっと忘れてる
ので、違ってたらすみません。(物理ダメージの軽減と完全無効の差だと思ったんですが)
乙!
>>263 乙!
緊迫した場面でユフィの明るさが救いです。続きを楽しみにしています。
※FF12本編終了後に預かったシュトラールで旅をしているヴァンとパンネロのお話です。
※ヴァンとパンネロのカップリング物です。ぬるいですが恋愛要素を含みます。苦手な方はスルーして下さい。
※ヴァンの日本語がところどころおかしいですが仕様です。
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パンネロは夕焼けがあまり好きではない。
明るい日差しの下だと全てが明らかで、悲しいもの、寂しいもの、そんなものはこの世には存在しない、そんな気持ちになる。
辛い過去などとっくに消えてしまって、今この時と明日の事だけ考えていれば良いと思える。
(だけど、夕焼けは嫌い…)
マシントラブルでモスフォーラ山地の窪みに辛うじて不時着したヴァンとパンネロ。
パンネロはコックピットの窓から夕焼けを眺めていた。
理屈ではないのだ。美しすぎる夕焼けは全ての感情を露にする。
パンネロが涙を流し歯を食いしばりながら蓋をした悲しい思い出、居なくなった人達、行方が分からない人達、そして決して居なくなる事はないラバナスタの街の孤児達、そういった者達が蓋を蹴破って飛び出して来るからだ。
油断すると涙が溢れそうになる。パンネロは奥歯を噛み締めた。
「パンネロ!スパナ取ってくれ。」
声に振り返ると、操縦席の下に潜って操縦系統のシステムの不調を調べているヴァンが手だけ出している。
パンネロは景色に背を向けると工具箱からスパナを取ってヴァンに手渡し、そのまま操縦席に膝を抱えて座りこんだ。
ラバナスタに戻るには燃料がギリギリだった。
そんな時にシステムの不調で不時着。
たとえ直ったとしても離陸にどうしても燃料を喰う。果たして今日中に戻れるだろうか。
運悪くガス欠で砂漠に不時着でも、野宿すれば良いだけの事だ。
夜が明けたら近くの村でチョコボを調達して燃料を運んで…
そこまで考えて、パンネロは財布の中身を思い出してため息を吐いた。
バルフレアとフランから預かったシュトラールを、ちゃんとドックまで連れて帰る事が出来るのだろうか。
それよりもあれ以来行方の分からないバルフレアとフランは本当に帰って来るのだろうか。
心細くて泣きたくなって、ヴァンに声を掛けた。
「ねぇ…帰れるのかな、私達。」
本当に聞きたいのは帰られるかどうかじゃないのだけど。
「大丈夫だ。」
「本当?」
「山地は明け方に気温が上がると上昇気流が生まれる。それに乗って出来るだけ高く上るんだ。
後は少しずつ下降しながら帰る。そうすれば余裕さ。」
パンネロは驚いてヴァンを見る。
「いつの間に…」
「そりゃ、俺だって守りたい者があるからな。」
手を休めず答えるヴァンがとても頼もしく思えて、パンネロはうれしくなる。
「うん、そうだね。シュトラールはバルフレアさんとフランとの約束だもんね。」
不意にヴァンの手が止まった。
「どうしたの…?」
ヴァンは縦席の下から顔を出し、驚いて自分を見ているパンネロに気付くと、不機嫌そうにまた操縦席の下に潜ってしまった。
パンネロは驚いた。
自分でも言ったように、シュトラールはパンネロにとってバルフレアとフランが戻ってくるための約束であり、お守りだった。
(ヴァンは違うのかな?)
てっきり自分と同じだと思っていたのに。
(ヴァンの大事な物って…?)
パンネロは考えてみた。
ラバナスタの街で面倒を見ている子供たち、かつて旅をした仲間達…どれもヴァンにとっては大事な物に違いない。
だが、今の不機嫌さにそれらは関係ないような気もする。
考えてもどうしても分からない。ただ、パンネロはヴァンの守りた存在が、
(…私だったら良いのにな。)
そう思った。
そう思うと、さっき堪えていた涙が溢れて来て、パンネロの頬を伝って床に落ちた。
パンネロが黙り込んだので、さっきの自分の態度のせいで気分を害したのかと、ヴァンがおそるおそる操縦席の下から顔を出した。
「ヴァン…」
ヴァンは身構えた。またお小言かと思ったからだ。
「私を……もう、一人にしないでね。」
突然の言葉にヴァンはうろたえ、そして耳まで赤くなった。
「な…なんだよ、急に?パンネロらしくねーぞ?」
パンネロは頭を振る。
「ずっと続くんだと思ってたのに、でも、突然、壊れちゃうから。もうそんなの、嫌だよ。
アーシェもバッシュ小父さまもラーサー様も居るんだから、もうそんな事ないって分かってるんだけど、
それでも突然不安になるの。また…皆居なくなっちゃったらって。
私…弱虫だよ。皆言うけど違うの。しっかりなんかしてない。」
ヴァンの守りたい者は言うまでもなくパンネロだ。
パンネロを守りたい。誰よりも好きだ。そう伝えたいけど、幼なじみという距離の近さが障害になってしまう。
気持ちを告げた所で「何を言ってるの?」と笑われたら?
いや、笑われるくらいなら構わない。パンネロに距離を置かれてしまったら?
どうすれば良いか分からず、気持ちをひた隠しにしてパンネロを見ていた。
誰よりも近くに居て、ずっと見守って来たのだ。
危ない目や心細い思いはさせたくないから一生懸命航空学や地理や気象の勉強をした。
どうか気付いて欲しいと祈る様な気持ちだった。
(「一人にしないで。」てことは、パンネロも同じ気持ちでいてくれたという事で…)
そう気付いてヴァンは急に逆上せたかの様に一気に頭に血が上った。
ここの所ずっと二人きりで気持ちを抑えるのが辛くて切なくて。
そこから一気に解放されたのだ。
立ち上がって、パンネロに何か言おうとして口を開いた所で、パンネロの泣き顔が目に飛び込んで来た。
「パンネロ…」
今まで自分は何をしていたんだろう、とヴァンは腹立たしく思った。
気付いて欲しいと思ってばかりで、守りたいと思っていたパンネロの不安に気付きもしなかった。
パンネロの不安を取り除きたい。その為には何を言ってあげれば良いのだろう?
「俺…」
舌が鉛のようだ。
「俺…さ、逃げるんじゃなくて本当に空賊になりたいって思ったんだ。
あの旅で…戦いで、本当に悪いのは誰だって考えた。でも、考えれば考える程分からなくなった…」
パンネロは時折、すん、と鼻を鳴らしながら、ヴァンの話に聴き入る。
「だから、何にも…関係なしにさ、色んな…世界とか、人とか見たい。
そうすれば答えが見つかるかも…ってさ。それで…」
また言葉に詰まる。喉の奥が締め付けられるようだ。
「色々…探して、見てみたいけど、それは俺一人じゃダメなんだ。そのっ……パンネロと一緒じゃなきゃ。」
ここまでなんとか話した所でヴァンはしまった!と一人焦る。
パンネロの不安を取り除くどころか、
(これじゃあ男と男の友情みたいじゃないか…!)
ちゃんと言葉にしなければ。今、言わなければ…でも、焦れば焦る程何故だか息が苦しくて。
「だから……つまりっ…」
「私を一人にしない?」
言いかけたヴァンを、不意にパンネロが遮った。
「一人にしない?」
パンネロは尚も畳み掛ける。ぎゅっと唇を噛み締めて、祈る様な表情でヴァンを見つめている。
真剣な眼差しに気圧されたヴァンだが、
「しない。」
パンネロを真っすぐに見つめて答えた。
「パンネロ、俺…置いていかれた寂しさを知ってるから。だから、もし何かあってもパンネロの所に戻って来る。
飛空艇もチョコボもなくても、自分の足で這ってでも、パンネロの所に戻って来る。だから、心配せずに待ってろ。な?」
パンネロはヴァンの胸に飛び込んだ。ぎゅっとしがみついて来る。
ヴァンは心臓が口から飛び出すのではないかと思う程驚いた。
しかしパンネロがもう泣いていないと分かり、ホッとして、それからおずおずとパンネロを抱きしめた。
「…ヴァン?」
「ん?」
「そう言えば最近ケンカしてないね、私達。」
いつも些細な事で言い合いになったり、喧嘩になったりしていたのに。
でも、そんな子供みたいなじゃれあいは卒業しなくては、とヴァンが心に決めたからだ。
パンネロが気付いてくれていたんだとヴァンはうれしくなる。
「パンネロがずっと大事だ。ガキの頃よりも今の方がずっと。」
さっきはあんなに言葉に詰まっていたのに、今度は自然と口から言葉が溢れた。
「ヴァン、ずっと大人だね。小さい時よりも。」
二人は顔を見合わせ、そうして同時に大きな口を開けて笑った。
気まずさとうれしさがないまぜになって、幸せでくすぐったい。
さっきパンネロの気持ちを沈ませた張本人である夕陽まで笑っているように思える。
もう大丈夫だ、とパンネロは思う。
「ね!早く直しちゃお!」
この続きの展開にものすごく期待をしていたヴァン、あっさりと裏切られてしまう。
さっきまで泣いていたパンネロが突然元気になったのに釈然としない気持ちになったのだが、
「ああ、朝までに間に合わせないとな。」
と、強がってみせる。パンネロが微笑んで頷いた。
その笑顔にヴァンの心臓がまた跳ねる。なんだかパンネロが急にきれいに見えたからだ。
(やっぱ…大丈夫…じゃないかも。)
気持ちは通じたのだ。そうなるとつい考える事は一つで。
仮眠用のベッドがあるけど、そこはやっぱりヤバいよな…やっぱりラバナスタに戻ってから…
でも我慢出来るか自信がない…そんな不埒な事を考えていて気が付いた。
(俺!風呂!入ってね〜!三日も!)
さすがにこれでは今晩は無理だろうと絶望的な気分になる。
ヴァンのヨコシマな気持ちなど知るはずもないパンネロ。
ご機嫌で、ヴァンの腕からするりと抜け出すと、
「じゃあ、私、お夜食作ってくるね!」
そう言ってパタパタと駈けて行ってしまった。と、思うとひょい、と顔だけを出し、頬を赤らめて、
「ずっと…一緒だよね。」
そうしてすぐに顔を引っ込めると、足音だけを残して夕食の支度に行ってしまった。
その仕草がまた可愛かった。
無事に帰ったら一晩中抱きしめようとヴァンは心に固く誓う。
そうしてパンネロの好きな所をちゃんと言うのだ。今なら言える。いくつでも言える。
(ずっと…一緒だもんな。)
守ると決めたのに浮かれているだけじゃだめだ、と自分に言い聞かせてヴァンは再び操縦席の下に潜って作業を再開した。
まずはパンネロを無事に連れて帰ってやる事なのだ。
それでも作業をしながら、操縦席の横でナビをしてくれたり、パンネロの歌を思い出してとても幸せな気持ちになった。
もっとも、この後栄誉ある召還が待っているので彼の期待がお預けになるのはお約束なのだが。
おわり。
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※ヴァンのDFF012出演記念です。毎朝レモンスライス持たせて朝練に送り出していた弟がまさかの甲子園出場!みたいな気持ちです。本当に良かった。
※
>>257シャドウが気になる…アサシンというジョブ的にも、またカオスに属しつつも、根っからの悪人ではない…みたいなストーリー的にも参戦するとおもしろそうですね。
t
t
>>269-272 いい話だ…と思ったらおいこらwヴァンwwなんだかんだで期待を裏切らない君が好きだ!w
毎度思いますが、ヴァンこんなに可愛らしいキャラだったなんて…!DdFF(略称って何だろ?)
ヴァン参戦おめでとう。甲子園のたとえが分かり易すぎてw
今年も沢山のSSが読めますように。
あけおめ&乙です
俺も書きたいとは思うけど、プロット立てるたびに原作の面影がなくなってしまう
○○の200年後とか需要あるんだろうか
二次創作は、あくまでも原作の延長上なので“原作をどう活かすか”がカギじゃないかなと
(少なくとも自分は)考えてます。
まず二次創作を求めるのが、出典となるゲーム本作を相当以上に好んでいる層である事。
そこを考えると作品の「需要」についてもある程度の答えが見えてくると思います。
なので手っ取り早い方法としては、本編中のイベントの隙間を縫う(補完する)という作品が
(読む・書く双方にとって)分かり易さもあって取っつきやすいのではないかなと思います。
拡大解釈かも知れませんが、二次創作も「ゲームの楽しみ方」の1つなんじゃないでしょうか。
(やり込み、制限などのプレイスタイルがある様に。文字を使ってゲーム世界を楽しんでる…
と言えばいいのかな)
仮に原作から数世代後の世界を舞台にする場合、作品の何にテーマを持たせるかによって
需要は変化するんじゃないかなと思います。ゲーム本編から時間が経つにつれ、どうしても
原作の要素は薄くなりますから、テーマを軸として作らないとなかなか読み手を引き込むのは
難しいと思います。
たとえば
>>277で言えば、作品を見た読み手から「なぜ“200年後”を話の舞台にする必要がある
のか」が問われます。単にオリジナリティを持たせたいから、と言う理由で安易に時代設定した
だけと言うなら、多くの場合、そうと分かった時点で作品への興味は薄れてしまうのではないで
しょうか?(これは主観ですが)
ただ、その「200年」というところにカラクリがあるなら別です。(転生や封印といった要素が連想し
やすいですが、これも使い古されているという感は否めません。また、作品によってはその概念すら
馴染まない場合もあります)
作りたいという気持ちを持つって事は、方向性はどうあれその「ゲーム(原作)が好き」ってのは
間違いないでしょうから、“自分がなぜそのゲームが好きなのか?”ってあたりを突き詰めていくと
自然と書きたい話が組み上がったりするんじゃないかな?と思ってみたりみなかったり。
※こう書いてますが、個人的には二次創作=考察の延長という観点にいるので、
たとえばキャラクター面の追求を主とした作品などは、この限りじゃないと思います。
その辺については言及できないので…(他力本願)。
書きたいと思う気持ちが先に立つと言うより、そのゲームが好きだから書くという手段に出ちゃった、
その結果がここなんだと思いますw
過去ログ含め、どれも作者の好きが作品からはみ出てると言うか、滲み出てるというか。
…と、保守がてらたまには粋がって熱く語ってみるのも良いかなと思ったら長かったwすんません。
>プロット立てるたびに原作の面影がなくなってしまう。
ここの読者さんは原作とそのキャラクター達が好きで、その後(と、言ってもエンディング後からそう離れていない期間内)や補完が読みたい人が多いのでは?と、いう印象です。
あと、キャラクターAは好きだけどキャラクターBは嫌い、とかそういった人でも楽しめるようなバランス感覚も必要ではと思います。
ですので、
>>278氏が言われるように「なぜ“200年後”を話の舞台にする必要があるのか」がポイントになるのではないでしょうか?
どの作品の200年後か、どういった登場人物の話なんでしょう?
個人的にちょっと気になります。
FF7のエンディング後200年経ってもナナキなら健在だ!
要は、二次創作なんて作者の自由に書けるので、書きたい物を書くのがベストって事でw
「需要?なにそれおいしいの?」ぐらいの気概でいいじゃない、書きたい事があって、
それを表現しようとしているなら大体は伝わる(たぶん)。
何だかよく分からないけど一応保守。(毎年1月頃になんか起きてる気がする様な…)