もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら15泊目
>>1 酸素です。
すなわちO2(オーツー)です。
とりあえず寝直す
マジレスすると死に物狂いで元の世界に帰る方法探すだろうな。
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>>510-518 【レオ王国国王 シルバーレオ】
入口の両端に立つ兵士たち。僕らは右の二人に近づく。
兵士1「やっぱりジィさんか。護衛さん連れてないんで、目を疑ったぜ」
兵士2「どうも、お久しぶりです」
ジーク「こちらこそ、お久しぶりです。王様への謁見と、
護衛の兵士をお貸しいただけないかと思い、こちらへ来ました」
兵士1「酒場もだろ。 護衛は雇わなかったのかい?身一つで来るなんて、珍しいな。
ジーク「ははは。商品の売れ行きがいつも以上に芳しくなく、持ち合わせがちょっと」
兵士1「あぁ、なるほど。わかった。そっちの人は・・・・・・・・!?」
兵士2「君のその服・・・・・! もしや」
僕「あ、あの、これは・・・・・パジャマで」
兵士1・2「ぱ、パジャマぁ!!?」
目の前の兵士さんたちが急に声を上げ、僕は面食らう。
向こう側の兵士さんたちは・・・・・聞こえなかったみたい。
でも、僕の服はしっかり見ている。
ジーク「あ、えっと、実はですね
兵士2「学校の生徒さんですか!? なぜ一人で出たんです!」
?? 何だかよくわからないぞ。話が合わないし、
可笑しがるならともかく、何をそんなに興奮してるんだ?
僕「どうしたんです? これ、持ってないんですか?」
兵士1・2「持ってる訳ねぇだろ!!」
僕「えっ?」
兵士1「お前はどこの町出身なんだ、と・・・・・!
まさか、公家の・・・・お方?」
ジーク「いやいや! 実は王への謁見はこの方のことなのですよ!
ちなみに公家の方じゃありません!・・・・と私は思います」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
兵士1「違う・・・世界? にほん、だと?」
兵士2「俄か(にわか)に信じられませんが・・・・・」
兵士1「ホントかお前!? どっかの山師じゃあるまいな?」
僕に指を指し、いぶかしむような目線を送ってくる。
僕「そ、そんな・・・・」
ジーク「私もアーシュさんの話を伺い驚きましたが、私には真実に思えます。
アーシュさんは、何か企む訳ではなく、ただ家に帰りたいだけのようで。
随分と戸惑っていまして・・・・薬草だって知らなかったんですよ!
それで、王様かお付きの誰かに、誰かこういう事象に詳しいお方がいないかと」
兵士1「むむむ・・・・・・」
兵士2「・・・・とにかく、私は上に報告してきます。ジークさんとそちらの・・・・・
アーシュさんでしたね。どうかお待ちください。レビ、後を頼む」
レビ「あいよ」
一人の兵士が慌てて走り去っていった。
それを見た向かい側の兵士が一人、こちらにやってくる。
レビと呼ばれた残った方の兵士が、事の次第を説明している。
この兵士はヌットさんというらしい。
ヌット「あそこの森か。じゃあ・・・・・・・わからんぞ」
レビ「だからそれが怪しいって言ってんのさ。お前みたいに、あん辺りのこととなると
満更嘘じゃなさそうに思うやつは、結構いるからな」
・・・・・・・!
入り口の奥から、・・・・・二頭の馬がこっちへ来る。
その馬は、僕らの前に・・・・・・・・・止まった。
見上げると、先頭の馬の馬上には壮年くらいの男性が、
後ろの馬には、さっきの兵士が乗っている。
・・・・・・先頭の馬に乗る人が、馬上から僕らに話しはじめる。
?「ジィさん、久しぶりだな。護衛をつけていないというのは本当だったのか」
ジーク「あぁ、これはこれは。お久しぶりです」
顔見知りらしい目配せをジークさんにする。その目が僕を向き、真剣な表情になる。
?「モーズより連絡を受け参った。小隊長のオキュロだ。
アーシュというのはお前か」
僕「あ・・・はい」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
オキュ「なるほど・・・・・・・・・・ふむ。嘘だとしたらよく出来ている。
その、けーたいという持ち物もな。確かにそんなもの、俺は見たことがない。
・・・・・・面白いじゃないか。もし本当のことなら、もっとお前の話しを聞きたいぞ」
小隊長と名乗る人は手綱を引き、馬の向きを城のほうに変える。
顔をこちらに向け、言葉短く告げる。
オキュ「王のお耳に入れてくる。暫し(しばし)待て」
そう言い残し、さっきの人と二人で駆けてしまった。
・・・・ここまで来たのに、まだ落ち着けないようだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
どれくらい待っただろう。僕らの横を、何人、いや、何組もの人々が入ってゆく。
僕は入口からなるべく離れたところで、なるべく人目に付かないようにしている。
レビさんたちは旅人を迎える仕事に戻り、空は赤みを帯び始めている。
・・・・・・・・・・・と、奥から馬が駆けてくるのが見えてくる。
乗っている人は・・・・・さっきの人たちだ!
オキュ「王の許しを得た。我らが国王シルバーレオは、お前の話に興味を持たれた。
そして、お前から直接詳しい話を聞きたいと仰せだ。
同じ説明をさせて悪いが、私と共に城までゆき、
国王陛下に直接説明してほしい。お前、馬に乗ったことはあるか?」
僕「いや、まったく」
オキュ「そうか。では私の後ろに乗れ。舌を噛むなよ。
ジィさん、あんたも来るんだろ?モーズの後ろに乗ってくれ」
ジーク「わかりました。ではアーシュさん、行きましょう」
僕「はい。ええと・・・・小隊長さん、よろしくお願いします」
・・・・・馬にうまく乗ることができない・・・・と、小隊長さんが引っ張りあげてくれる。
・・・・・レビさん、アホを見るような目はやめてください。
いざ、出発!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
入り口から、一番奥にある建物――――あれがお城だろう――――までは、
1本の大通りによって結ばれている。
数々の建物が目に入るが、慣れない馬上のためろくに見れない。
結局、落ち着いて見れたのは、馬を降りてから。
しかしそれも、小隊長さんに急ぐよう促され、すぐ終わる。
馬を降りた場所は、半円形に近い大きな扉の前。縦横はどちらも3mくらい。
扉の上では、大きな獅子の顔が僕らの方を向き、扉の両端には二人の兵士がいる。
モーズさんは小隊長さんから、馬とここで待つように言われている。
城は、外から見るに三階建てで、三段ピラミッドのような概観だ。
三階の天頂部は広い三角屋根になっている。
城の奥の両端には、天頂部と同じくらいの高さに、天井を持つ見張り台が見える。
小隊長さんいわく、謁見の間は三階にあるらしい。
小隊長さんに促され、門の前まで歩く。扉の兵士は小隊長さんを見ると、
決められていたかのように、重そうな扉を開ける・・・・・・・。
・・・・・中に入ると、正面に、廊下の壁で囲まれた、植物が生い茂る大きな部屋がある。
ジークさんいわく、ここは庭園らしい。その中央奥に、上への階段が見える。
扉と庭園の間は廊下で区切られており、何人かの往来がある。
小隊長さんが先頭で、ジークさんが僕の隣に並び、階段を上る。
・・・・着いた先は二階。しかしその近くに、三階への階段は見当たらない。
オキュ「進入者対策だ。少し複雑な構造になっている」
小隊長さんはそう言い、階段のある廊下に面する扉の一つに入ってゆく。
扉に入ると中にはさらに扉が、二つ。正面と左隣にある。
正面の扉の上にプレートがあり、そこには何かの文字が
『階段室』
!!・・・・・・・・・・・・・・・・・な、何だ!?
目の前の文字を見た瞬間、突然頭に言葉が浮かんでくる。
まるでその言葉を、はじめから理解しているかのように!
僕は立ち止まる。もう片方の扉の上を見ると、そこにも文字が書かれており、
・・・・・『待合室』、と読めた。
ジーク「アーシュさん、どうしたんです?」
オキュ「ん?何だ、しっかり付いて来い。階段室に入るぞ」
僕「・・・・・・・・・・・・はい」
扉の中に入ると、きらびやかな装飾が施された大きな階段が、こちらに向いている。
その横には兵士が一人。僕の姿に驚き・・・・軽く一礼する。僕も一礼返す。
オキュ「この上が国王陛下のおわす謁見の間だ。アーシュ、お前の国には
国王というものが居ないと言ったな。礼節を弁え(わきまえ)るのだぞ」
僕「はい、わかっています」
豪華な階段を昇り・・・・・途中で直角に左に曲がり、すぐに一際明るい光が・・・・・
昇りきると、天井の高い広間に出る。
階段はこの部屋の、少し右側に外れたところに出ているようだ。
左右の壁には、兵士が何人か、奥まで向かい合って立っており、
人間が五人くらい並べる幅の、金縁の赤絨毯が、階段の出口から左に出て、
途中で直角に右に曲がり、後はそのまま奥に伸びている。
絨毯の下から覗く部屋の床は、光沢のある白と灰色の石が組み合わさっている。
そして、赤絨毯を纏(まと)う、数段の、段差の低い階段を昇った一番奥に、
椅子に座りこちらを見る、青い服の一人の人間がいる。
僕たちは赤絨毯の上を進み、階段の前まで歩く。
すると小隊長さんが方膝をつき、頭(こうべ)を垂れる。
見ると、ジークさんも同じように頭を垂れる。僕は慌てて彼らを見習う。
ジーク「(アーシュさん、膝が逆です)」
僕「え?・・・・あ! はい」
膝を替える。小さい声でありがとうございます。
オキュ「国王陛下、先刻お耳に入れた若者をお連れ致しました」
?「うむ。案内ご苦労であった。・・・・・三人とも立つがよい」
声には人の格が宿るらしい。
その、高くも低くもなく、ゆったりした、諭すような声を受け、二人は立ち上がる。
僕も少し遅れ、立ち上がる。
・・・・・国王と言うからお爺さんを想像していたが、目の前の人はかなり若い。
30歳くらいだろうか。髪の毛はブラウンで、・・・・・オールバックだ。髭は無い。
青い靴を履いているが、服の下に白いシャツらしきものが見える。
また、両腕は椅子の肘掛けに置いている。
?「ジークの横の者がそうであるな。
そなたよ。私はここ、レオ王国の国王、シルバーレオである。
今一度、そなたの名前を述べてみよ」
僕「は、はい。アーシュと、・・・・・申します」
シルバ「ふむ・・・・・なるほど。ではアーシュよ。既にオキュロから聞いておるな。
私はそなたから直(じか)に話を聞きたい。着いて早々であるが、話してみよ」
僕「はい。ええと、・・・・・・・・あの日、家に帰って・・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
シルバ「・・・・・・・・・なるほど。そなたの世界は、こことは異なる世界か。
それがそなたの国のパジャマか。・・・・・なかなか良いものではないか。
僕「どうも、ありがとうございます」
シルバ「確かに私は、日本という国は知らぬ。・・・・にしても、目覚めたのがあの森とは。
この近代化された現代に、未だ地方に巣くう伝承が囁かれているのも、
まだ我が王国の威光が完全でないことの証であろうか。
・・・・・・・・・・・かく言う私も、幼い頃に聞いたことがあったな。
入学して最初に悔しかったことは、この話を信じてもらえなかったことだ。ふふふ」
?「陛下、仕方ありますまい。言い伝えは先人たちの知恵でもあります」
最初から王様の近くに立っていた、王様同様に威厳ある人が声を掛ける。
こちらは結構なお爺さんだ。髪は多いが、白髪ばかり。還暦は越えてるだろう。
シルバ「・・・・・・・そうだったな、そなたの言うとおりだ。
して、アーシュよ。実はそなたに頼みたいことがあるのだが・・・・・
さっき触らせてもらった、その、けーたい、なるもの、・・・・私にくれぬか?
ほれ、色も私の名にあるようにシルバーであろう?・・・・どうだ」
僕「え!?・・・・っと・・・・申し訳ないのですが、もし万が一、元の世界と
連絡が取れたときのことを考えると・・・・手元に置いておきたいので・・・・・」
シルバ「・・・・・そうか、・・・・・そうであるな。家族に会えぬ時分、仕方あるまい。
・・・・・・・・相(あい)わかった! して、肝心のそなたの助けになる者だがな、
いや、国にいるとは思うが、如何(いかん)せん未知のことで、適任がわからぬ。
それに今日は、もうすぐ夜だ。その者に会わせるのは明日以降だろう。
今晩は宿に泊まるがよい。宿代は我らが持つ。宿までオキュロも同行する。
何かあれば宿に連絡する。当てが見つからぬうちは、こちらに滞在するがよかろう。
そしてジークよ、ここまでアーシュの道案内、大義であった。
今日はそなたも泊まってゆけ。出発の際には護衛の兵も貸し与えよう。
そしてアーシュ、そなたには新しい服を与える。その格好では何かと誤解を招く。
大臣、手配を」
大臣「はい。畏(かしこ)まりました」
先程王様に話しかけた人が応える。大臣だったようだ。
そこで小隊長さんが、顔をこちらに向ける。
オキュ「では早速宿屋に案内しよう。私に付いてくるのだ」
僕「あ、はい。ええと、王様、ありがとうございます」
ジーク「陛下、護衛の件、誠にありがとうございます。
それではまた、今後ともどうぞご贔屓に」
そこで小隊長さんが再び前を向き、・・・・・左腕を心臓のある右胸に置いたようだ。
オキュ「それでは国王陛下、これにて失礼仕(つかまつ)ります」
シルバ「うむ、よろしく頼むぞ。下がれ」
オキュ「はっ」
小隊長さんは腕を置いたまま、敬礼らしき一礼をする。ジークさんは礼だけ。
僕もやる。
そして僕らは、謁見の間を出た。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
王の間から、三人が出てゆきます。それを見送る謁見の間の人々。
横に控える先程の大臣が、早速王様に近寄ります。
釘を刺すようなその眼光。さっきとは雰囲気が違いますね。
大臣「陛下。何やらおかしなことになってきましたな」
シルバ「・・・・・・・・・・・・」
大臣「容易く(たやすく)信じてはなりますまい。そうは思われませぬか?」
シルバ「・・・・・・・・・面白いとは思っている。それに、その昔、マーニャ様・ミネア様や
クリフト殿がご一緒した勇者様の旅でも、不思議なことは多々あったではないか」
大臣「仰る通りでございます。ただ陛下、わたくしめの頭を過(よ)ぎりましたことを、
陛下のお耳に入れとうございまして」
シルバ「・・・・何か」
大臣「今の若者、・・・・・・山師かもしれません。
陛下に取り入り、陛下の後ろ盾で好き勝手するやもし
シルバ「私の残りの任期はまだ10年以上ある。そんな輩がいてもおかしくはない。
だがそれくらいのこと、私も心得ておるわ。忠告するほどのことでもない。
・・・・・・・・他にもあるのではないか? わざわざ私に忠告をする理由が」
大臣「・・・・・・・あの盗賊共のことでございます」
場の空気が一気に凍りつきます。
世界に名だたるこの国において、南部に繋がる主要道に陣取る盗賊共は悩みの種。
過敏に反応するのも仕方のないことなのです。
シルバ「ふふ。やはりそれか。・・・・・あそこから盗賊が消えたと言われ、久しい。
そなたの言いたいこととはこうか・・・・・・・あの者はスパイであると?」
大臣「・・・・・・・・・・・・・」
シルバ「あの服は?」
大臣「かつて公家の方を襲ったときに奪ったものかもしれません。いわゆる戦利品です」
シルバ「だが公家の靴は履いてなかったぞ」
大臣「ただの演出かと」
シルバ「我々の近くに居座る危険を冒して、今更何を知ろうというのだ?
我々が得ている彼らの情報を、仲間たちに伝えるためか?」
大臣「その可能性が最も高いかと。また、各地の防衛情報も引き出すつもりかもしれませぬ」
シルバ「・・・・・・・・・・・・ふふふ。なるほど。
だが、もし本当に、我らの世界の外に更なる世界があり、あの若者が
そこから望まないままに来たのであれば、これほど困ったことはないであろう。
私はあの、けーたいとかいう物から、我々と根本から異なる世界を感じたのだ」
大臣「確かに・・・・このわたくしもあのようなものは・・・・」
シルバ「そこでだ! 彼をここの学校のアクデン先生に会わせようではないか。案内の名目で。
そなたも忘れたか? あの方ならば人間一人の嘘など、瞬く間に見破ってしまうわ。
私の子供の時分の悪戯を一瞬で見破るくらいだからなぁ。ふふふふ。
先生には案内の最初に会わせるようにしよう。
もしもの場合でも、余計な時間を先生に取らせずに済む。
この方法なら、不思議な客人に対する丁重なもてなしにもなるし、
良からぬ者であれば、たちどころにわかるだろうて。逃がさぬぞ」
国王の思いがけない提案に、大臣は唸ります。
でもこれなら、彼が誰であれ『丁重に』もてなすことができるでしょう。
こうして、謁見の間の会議は終わったのです。
アーシュ
HP 13/13
MP 0/0
<どうぐ>携帯(F900i)E:パジャマ 革の靴
ジーク=カナッサ
HP 21/21
MP 0/0
<どうぐ>いろいろ E:布の服 聖なるナイフ
オキュロ
HP 84/84
MP 12/12
<どうぐ>E:ホーリーランス はがねのよろい
<呪文> ホイミ
<特技> しっぷう突き 一閃突き なぎ払い
文章修正
誤
オキュロ
HP 84/84
MP 12/12
<どうぐ>E:ホーリーランス はがねのよろい
<呪文> ホイミ
<特技> しっぷう突き 一閃突き なぎ払い
正
オキュロ
HP 84/84
MP 12/12
<どうぐ>E:はがねのよろい
<呪文> ホイミ
<特技> しっぷう突き 一閃突き なぎ払い
ここまでの物語を保管庫にアップしました。
よろしければご確認ください。
乙です!
DQIVの後の話だったとは驚きました。
現在進行中のSSはどういった作品があるのでしょうか
7や9のものはありますか
>>15 冒険の書シリーズが今7です
9はまだ発売して間もないので誰も書いてません
>>16 把握しました。ありがとうとざいます
9はまさに宿屋にスポット当たってますから色々作れそうで楽しみですね
執筆&投下乙&GJです。
パジャマは公家にだけ着ることを許された高貴な服なのですね。
そうなると、メダル王のくれる戦士のパジャマも、ばかにしたものではないのかもしれません。
王様は話がわかりそうですが、大臣が一癖も二癖もありそうですね。
>>14>>18様
感想ありがとうございます。
遅筆でご迷惑を掛けております。
尾田先生の凄さがわかる今日この頃。
自分らしい作品というもの確立し、守ってゆきたいと考えております。
それでは、また。
>>18 パジャマが、というより、体にあわせて立体的に裁断・縫製された服が
一般庶民には手に入れられないって設定では?
前回
>>5-14 【宿屋と、酒場と、】
僕らは城の扉を出る。宿屋に行くため。僕は今、新しい服を着ている。
城勤めの人は生活服が支給されるそうで、僕は、城の衣服保管庫の余りを貰った。
愛着あるパジャマは、着替えと共に、城で貰った皮の袋の中だ。
この服は市場にも流通しており、「エリモスの服」というそうだ。
なんでもその昔、エリモスという職人が作り出した服で、
その製法は今も、弟子たちに脈々と受け継がれているとか。
ジークさんの布の服と同じく、ワンピースのようだが、布の服より高価で、
かつ、布の服より少し生地が丈夫とのこと。
旅で着る服というより、お洒落な生活服として認識されているらしい。
色は現在、青、緑、黄色、白が流通しているそうだが、
お城の支給品は、男は青、女は黄と決まっているそうだ。
さらに規定で、支給された服に自分の名前を縫い付けるらしいが、
僕の貰った青い服には、まだ何もm縫い付けられていない。
襟や袖には白の二重線が縁取られ、胸元にはボタンが付いている。
また布の服と同様、胸と下半身前部の二箇所、計三箇所にポケットがある。
そして腰の少し上に、白のベルトが巻かれている。
服の採寸に際し、自分の世界との共通項を見つけた。一つはサイズの指標。
S・M・L・LL・XLがあった。もっと上のサイズもあるらしいが、特注だとか。
もう一つは長さの単位。自分の身長を申告する際、メートルとセンチが通用した。
僕の世界と同じ長さか不明だったが、確認のため測定した身長は、
結果的に同じ数値が出た。そして僕は、Lサイズを貰った。
元の世界と共通することは、他にもあるかもしれない。
宿屋は、壁の外との出入口近くにあるそうで、大通りを戻ることになる。
・・・・・・・・と、扉の前の兵士のところに別の兵士がやってくる。
オキュ「兵の交代時間だ。あそこが詰め所になっている。小さいところだがな」
指の差し示す方向を見ると、城の前面部の隅に、出っ張った部分がある。
小隊長さんは正面から向かって左を示したが、右にも同じ部分がある。
中で繋がっているのか、城と同じく、石造りで白い。来たときは目に付かなかった。
改めて城の周りを見渡す。整地区画が広がっており、建物の大きさ、高さは様々。
遠くには、壁の中だというのに、木々の密集する場所・・・・森?が見える。
そして遠くには、大きく太い塔が複数本・・・・・・!
遠くで何かが光った。いや、何かの、塊?・・・・・消えた。
・・・・・近い場所同士で断続的に発光?している。
見学はそこで中断される。僕らはモーズさんと合流し、再び馬に乗・・・・・?
今度は城の中から、職員らしき服を着た男性が出てくる。
?「アーシュさんとオキュロ小隊長殿の御一行ですか?」
オキュ「そうだ。何か?」
?「あぁよかった。皆さん見つけるのに手間取りまして。国王陛下の伝言です。ええと、
『明日、ここの案内も兼ねてアーシュ殿に会わせたい人がいる。
その一件が終わるまでは、無用な混乱を避ける為、今日の話は周りに伏せてほしい』
とのことです」
僕「会わせたい人、って・・・・・誰なんです?」
?「さぁ?・・・・・詳しい話は伺っていませんので」
オキュ「・・・・・そうか。承知した。ご苦労であった」
?「いえいえ。では失礼致します」
その人はまた、お城に戻る。
・・・・・・・・・僕が空を見上げると、そこには、黒に飲み込まれそうな朱の空。
馬に乗り大通りを駆ける。一瞬の風景を見る限り、人の往来は結構あるようだ。
城へ向かう際は意識しなかったが、道は結構長く・・・・・10分くらい乗っている。
・・・・・・・・・・・・・・やがて、僕らの目に入口が近づいてくる。
その何本か手前の横道を、速度を落として左に入り・・・・・・何かの建物の前に着く。
僕らはそこで降り・・・・・モーズさんが隣の建物の扉を開け、馬と入ってゆく。
二つの建物は上で繋がっており、降り立った建物の入口の上には、
またしてもプレートが置かれている。・・・・・・『警備詰め所 商工 A地区』、と。
オキュ「さあ、宿へ向かうぞ。ジーク、トーヤの宿でいいな。酒場も近い」
ジーク「えぇ、もちろんです。お願いします」
・・・・・・・・・二、三分で目的地に着く。木造建築のようだ。
小さな木戸から中に入る。正面のカウンターには、おばさんが一人座り・・・・
入ってくる僕らを見て、椅子から立ち上がる。
?「あら、兵士さんと・・・ジークさん!久しぶりねぇ」
オキュロさんはおばさんに事情を、・・・・・・本当のことを説明する。
忠告を無視して大丈夫かと心配したが、ジークさんが言うには、
客の秘密を守るのは宿の最低条件なんだとか。
このおばさんはトーヤ主人の奥さんで、モネイロさん。
色黒で黒髪、快活そうな人に見える。
・・・・・・・・・どうやらモネイロさんは、小隊長さんの説明に納得したようだ。
やはりちょっと驚いているが、すぐに元に戻り、
モネイ「はいはい。じゃあ部屋に案内するよ。運がいいよあんたら。
二階の東側が昼前に空いたばかりさ」
そう言い、カウンター奥の階段を上ってゆく。・・・・・と、
小隊長さんはここで別れるらしい。僕らは感謝の挨拶をする。
軽く一礼し、オキュロさんは出てゆく。
僕らは階段を上り、階段右の三部屋のうち、左の部屋に入る。
階段をの先の突き当りには、絵画が立て掛けられている。
モネイ「風呂、トイレ、洗濯場は一階だからね。アーシュ君、覚えておくんだよ!」
僕「は、はい!」
おばさんは一階に去っていった。
部屋を見回す。窓は左と正面の二つ。左窓の傍に、互いに間隔を空けベッドが二台。
右側にはテーブルと椅子が置かれ、テーブル上にはメモ紙の束と、ペンらしきもの。
正面の窓は開放され、左右に纏られたカーテンが、外からの無色の風に揺れている。
窓の外にはもうほとんど、日の光はない。
ランプや蝋燭だろうか、外の所々から、ちいさな光が煌いている。
ただ、光一つ一つの間隔は大きい。
母さんが言っていたっけ、
私の子供の頃は街灯なんて、今みたいにたくさんはなかった、って。
ジーク「私は酒場に顔を出してきますが、アーシュさんはどうされます?
お城の方から釘を刺されましたし、まだ自由な会話はできないと思いますが」
アーシュ「酒場・・・・・そうですね。・・・・・いや、僕も行ってみます」
ジーク「わかりました。では、行きましょう」
僕とジークさんは、軽食を食べてくる、とおばさんに断り、宿を出る。
・・・・・周囲には、大小様々な木造、レンガまたは石造りの建物が立ち並び、
通りに面する側には、こちらも大小、多種多様な看板が掛けられている。
『メシュンナ骨董店』・・・・『たらふく料理 メイト・カヌ』・・・・・
『安心防具のオルフェウス』・・・・『パパーヌのオモシロ道具』・・・・
『ビートの実践武器屋』・・・・・『レオ王国交通案内所』・・・・
『ロンゴお土産店』・・・・『公家御用達 料理の園 ルセニック・ボン』・・・・
犇(ひし)めき合う建物を、僕は覚えきれず・・・・と、前のジークさんが立ち止まる。
正面には、他の店と比べて少し大きな建物がある。大きな看板には、
『働く者に栄光を ワークギルド ファン・モール学園店』
とある。
ジーク「あれはワークギルドといい、稼ぎのある仕事を紹介する施設です。
仕事は・・・・・ここでは、王宮や学校からの依頼が多いですねぇ。
・・・・・おや!」
たった今入口から出てきた人に、ジークさんは目を向ける。
・・・・・・・・・上半身裸の、筋骨隆々の人だ。
ジーク「ダイアさん! お久しぶりです。やはりこちらでしたか」
ダイア「おぉ、久しぶりだな。そうか家に行ったか。すまなんだ、会えなくて。
仕事をするため、しばらくこちらに寄っているのさ」
ジーク「あぁ、そうですか。今回も旅費を稼ぐために?」
ダイア「ああ。今回は、バトランドとガーデンブルグにも行こうと思っていてな。
大航海だ。たくさん稼がないと」
ジーク「ほぉ・・・・今回は随分と北まで向かいますねぇ」
ダイア「それがな、最近またコロシアムに行ったら、・・・・・あ、参加もしたぞ。
まぁそれより、そこで珍しく、バトランド兵とガーデンブルグ兵の
かなりの実力者同士の対戦が見れたんだ。
それはもう、口では言い表せない、とても白熱した戦いでな。
なんと! めったにない引き分けに持ち越されんだ。
バトランド兵の落ち着き払った重厚な剣捌きと、
獣を従え、世界一美しい剣舞と称される、女戦士の飛び回るような魅惑の剣捌き。
私は今まで、この国の武芸に満足していたのだが、今回の観戦で
両者の体幹の動きに興味が湧いてな。一度行ってみたくなったのだ」
この人がダイアさん・・・・。髪を短く刈り、
その姿はまさに武闘家ではあるが、他方、修行者にも見える。
ジーク「そうそう、このお方はここで来る途中で知り合いまして」
僕「あ、はじめまして。アーシュといいます」
ダイア「・・・・ほお、なかなかの身なりだ。媚売っておいた方がいいか。ンハハハ・・・」
僕「・・・・・・あの、冬もそんな格好なんですか?」
ダイア「ん?あぁ、基本的にはな。まぁ、死ぬような寒さだったら別だが。
・・・・では、これにて。今日はまだ修練が残っているのでな」
ジーク「おや?町の外に行くのですか? 夜も近いですし、入口が閉まってしまいますよ」
ダイア「いいや、壁に沿って一周してくるだけさ」
ジーク「それはそれは、・・・・・・私なら疲れ果てて到底無理ですな。
鐘が鳴るまでには休んでくださいよ。親からもらったお体、どうぞお大事に」
ダイア「あぁ、わかってる。じゃあな」
・・・・・ダイアさんと別れ、ジークさんはギルドの隣の建物に向かう。
小ぶりな看板には、『Drinking ルセット』、と書かれている。
ジーク「ここが目的の酒場です。夜が近いですし、もうすぐ盛況になると思いますよ」
木戸を引き、僕らは店に入る。
・・・・・中には、何台もの木の丸テーブルと、同じく木の椅子が置かれている。
テーブルの全てが埋まっている訳ではないが、10人以上が楽しげに話している。
部屋の左奥には、左から右に向かって二階へ続く階段があり、
今まさに、客らしき男が一人、上っていくところだ。
正面奥にはカウンターがあり、背後の壁には樽や瓶が並んでいる。
そしてカウンターの向こうに、もじゃもじゃ髭の人が立っている。
・・・・・・この人がマスターで、ルセットさんというそうだ。
僕らはカウンター席に座る。ジークさんから、どんな酒が飲みたいか、と聞かれる。
僕は、ジークさんに任せることにする。
ジーク「わかりました。では私のお勧めを一つ。
マスター、アルパンを二つお願いします」
ルセ「・・・・・・・・・・・」
後ろの棚から酒瓶を取り出し、木のグラスに注(つ)ぎ・・・・・カウンターに出す。
グラスの茶色でわかりにくいが、どうやら無色透明だ。
僕は飲んでみる・・・・・・・お、うまい。舌が痺れるように感じたが、
味は爽やかで、・・・・・ジントニックに近い。
僕はお酒の感想をジークさんと話す。
・・・・と、ジークさんの後ろに、グラスを持ち、ターバンを巻いた誰かが近づき
?「よぉ!ジィさんじゃねぇか!今日着いたのかい?」
ジーク「!・・・・あぁ!これはこれはヌアショさん。どちらからお見えで?」
ヌアシ「アッテムト、チザレック、ニューオーンと行商してきたとこさ。
ここを離れたらアクロ=バラの街を通って、ハバリアに行く」
ジーク「あぁ、そのルートでこちらにいらしたのですか」
ヌアシ「そっちの売れ行きはどうだ?こっちは上々だったぞ」
ジーク「それが・・・・なぜかさっぱりでして、護衛を雇う余裕もなく」
ヌアシ「はぁ、そんなに・・・ところで隣の奴は? 知り合いかい?」
ジーク「あぁ、こちらのお方は・・・・」
僕「・・・・はじめまして。アーシュといいます」
ヌアシ「へぇ・・・・・どこからきたんだい?」
僕「ええと、・・・・遠くのところなんですが、ご存知かどうか・・・・・」
ヌアシ「なんだ、そんな遠いのか?モンバーバラ辺りかい?」
僕「まぁ・・・・・そうですね。そこから来た訳じゃないですが」
ジーク「そうそうヌアショさん、行商に使える情報、何かありますか?」
ヌアシ「ん?・・・・・そうだな。ええと、チザレックで・・・・・」
・・・・・・・・・二人は専門的な話を始める。
ジークさんが助けてくれた・・・・・・・真剣に聞くジークさんの様子を見ると、
どのみち聞きたいことだったのだろう。・・・・・・
ヌアシ「あんたが護衛を付けずに旅をねぇ。そういや、盗賊はやっぱり跡形もなく?」
ジーク「・・・・・そうですね。何もなかったですよ」
ヌアシ「どこにいったんだろうなぁ・・・・・まぁこっちは、大助かりだがよ」
今日はいつもと比べて人が来ないようで、ヌアショさんと話し
軽食を食べた後、僕らは店を出た。料金は二人で480ゴールド。
ゴールド、Gという単位の価値が僕には不明だったが、
ジークさんが言うには、手ごろなお値段らしい。
ぼくらはそのまま宿屋に戻る。
別々に風呂に入り、部屋で寛(くつろ)いでいると、ジークさんが話し掛けてくる。
ジーク「アーシュさん、私は明日一杯、陛下のお言葉に甘え、ここに滞在します。
明日は兵をお貸しいただく手続きと、図書館でお気に入りの物語の新作がないか、
あと、何か面白い商品があるかチェックしてきますね。出発は明後日で。
アーシュさんはきっと、まだここに残ることになるでしょうが、
なに、気落ちせずに。私はまたこちらに来ますから。
・・・・さて、そろそろ寝る準備でもしましょうか」
僕「ん・・・・そうですね。じゃあ、どのベッドで寝ま・・・・・・ジーク、さん・・・・」
ジーク「ん?・・・・あぁ、そうですね。アーシュさんは窓際をどうぞ。涼しいですよ」
僕「・・・・・いや、・・・・・・なんで、なんで・・・・・」
胸毛がボーボーで、胸から下に、一直線に毛が、毛が、繋がってて・・・・・
・・・・・・・え? えっ? えっっ!? 裸!!?
ジーク「さぁ・・・・・一緒に・・・・・寝ましょうか・・・・」
僕「ちょちょ、ちょっとおおお、近寄ら、ないで、くださいぃぃいぃ・・・・・・・」
ジーク「えっ!ちょっと、えっ?」
僕「ひょ、ひょっとしてこっちでは、そういう趣味、ぃい、一般的なんですかね!
でも、ぼぼぼくはそんな気、まったく! まったくまったく!」
僕はふにゃふにゃの腰のまま、カクカクと後ずさる。
ジーク「え・・・・・・ああ! いや、そんなつもりじゃないです!
ええと、どこから説明していいのか、えっとですね」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ジーク「すみません、さっきは。驚かせてしまって。ご理解いただけましたか?」
・・・・・・・この世界では、寝るときは裸が一般的らしい。この国の今の季節は特に。
家では大きなタオルを、宿屋の場合も、備え付けの大きなタオルを腰に巻くそうだ。
もちろん、寒くなれば服を着たまま寝ることもあるようだが。
僕「・・・・・あれ? じゃあなんで、ここに着くまでの夜は服を着ていたんです?
野宿はともかく、宿屋も借りたじゃないですか?」
ジーク「あぁ、あのあたりはほら、町ではないし施錠も不安なので。
服を丸ごと盗む人だっているんですから」
僕「丸ごと・・・・」
事情は理解したが、やはり裸は恥かしく、
僕はトランクスはそのままに、パジャマのズボンを穿(は)く。
・・・・そして僕は、眠りに就いた・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・宿での朝食後、部屋にオキュロさんが来た。王様からの通達らしい。
この城壁の中には、ファン・・・・何とかという名前の学校があるらしいのだが、
内部の指導者の中に、僕に会わせたい人がいるらしい。
学校の施設も案内するらしい。また後で来るので、そのとき出発すると言われた。
・・・・・・・・・・・・どれくらい待っただろう。再びオキュロさんが宿を訪れる。
準備万端の僕は、オキュロさんの馬に乗せてもらい、ジークさんに見送ってもらう。
今日はここから、ジークさんと別行動。とても淋しいが、我侭は言っていられない。
馬は、中央の大通りを城に向かって駆け・・・・・しばらくすると左に曲がり、
ずらずらといびつに立ち並ぶ建物や、公園のような広場の横を抜け・・・・・・
途中、多くの人たち・・・・子供たちと一瞬すれ違い・・・・・・
僕らは、自分の背と同じ程の高さの柵の前に出る。
僕とオキュロさんはそこで降りる。
すぐ横には、柵と同じ素材の門があり、両脇には鎧を付けた兵・・・・・ではなく、
体に紫色のローブを羽織った一組の男女が立ち、こちらを見ている。
そして門の上には、柵や門と同じ素材だろうか、草が絡み合ったような装飾の
細いアーチ型の造形が、平たい面をこちらに向けている。
その平面上には、造形と同じ円弧のプレートが、上下に二枚掛けられている。
上のプレートには・・・・・『国家人材養成舎 ファン・モール学園』
下のプレートには・・・・・『魔術課程 実践修練地区』、と記されている。
オキュ「通達が来ていると思うが、本日こちらを訪問する予定の客人をお連れした。
私は四番隊、商工地区課、オキュロ。階級は小隊長、称号はアーツ。
こちらのお方はアーシュと申す。この方の名で予約があるはずだが」
男「遠い地区からありがとうございます。今、確認します」
男性が手持ちの、ボードのような木板を見る。
男「アーシュ様・・・・・・・・はい、確認しました。
アクデン先生とお会いになったのち、学園の案内ですね。
場所は・・・・A401・・・執務室ですか。では、そちらまでご案内致します」
女「どうぞ、こちらです」
女性が門を鍵で開け、中に入る。僕も入
オキュ「アーシュ、私の案内はここまでだ。時間もかかるし、帰りは学園側が手配する」
僕「え、・・・・そうですか。わかりました。ここまでありがとうございました」
一人ぼっちだが・・・・仕方ない。オキュロさんは一人、馬で道を戻ってゆく。
僕は一人、門の中に入る。・・・・中には広場のような庭園が広がっており、
目立たない程度に、木々があちこちに植えられている。
庭園の中は、舗装された道が何本も、どこまでも、どこかへ続いている。
遠くには建物がいくつもあるようだ。また、僕の視界の右遠くには、
城の前で見たときより近くに、林か、あるいは森が見える。
僕の正面には、僕の知る四階建てより二回りくらい大きい、四階建ての建物が建つ。
僕と案内の女性は、この建物の左側にある、大きく立派な扉まで進む。
扉の横に、ローブを羽織る男性が二人。女性が目的を告げると、扉を開けてくれる。
この扉の上にもプレートが掲げられており、『総合舎』、と読める。
入ると正面に、幅のある階上への階段があり、僕らはそこを上る。
二階、三階・・・・・・・・・階段といい天井といい、内部もスケールが大きい。
自分の体が縮んでしまったのか、と感じてしまう。
・・・・・・・ふと、四階への階段の真ん中、中階の壁に設置された鏡に、
先頭の女性の顔が映っているのに気づく。
門のところでは気づかなかったが、彼女はまだ高校生くらいの顔立ちだ。
学園・・・・・ここの生徒さんだろうか。女と男が同じ制服とは、面白い。
四階の廊下を右に直進し、また大きな扉に突き当たる。長方形の普通の扉だが、
左右の人間―――今度は兵士たち―――の倍くらいの高さ。幅もかなりある。
女「ここが執務室でございます。
お客人のアーシュ様をお連れしました。お取次ぎ願います」
兵士3「了解した。暫し待て」
右の兵士が小さく扉を開け、中に入る。・・・・・・・・・少し後、また出てくる。
兵士3「了解を得た。入るがよい」
女「ありがとうございます。ではアーシュ様、私はここで失礼致します」
僕「あ、どうも、ありがとうございました」
女性が軽く一礼し、戻っていく。僕は見送りもそこそこに、中に入る。
そして、目の前にいるであろう人に挨拶を・・・・
!!!
・・・・・・紫、ピンク、肌は・・・・・巨大な腹・・・・細かく振動する・・・・翼か
・・・・・それは間違いなく、生きているモノ・・・・
僕は・・・・・・・・・目が・・・・動かなく・・・・・・・
?「迷える旅人よ。ようこそ、世界最大教育機関 ファン・モール学園へ」
あ、あ、悪夢だ、いや、悪魔だ・・・・・・・・・。
母さん、先生・・・・・・・・・・・僕は恐ろしい世界に来てしまったようです。
アーシュ
HP 13/13
MP 0/0
<どうぐ>携帯(F900i)E:エリモスの服 革の靴
アークデーモンキタ━(゚∀゚)━!
続きが気になる。
ほかの書き手さんには失礼かもしれないが、修士さんのSSは非常に読みやすいです。
うん、情景描写が精密で、その光景が目に浮かんでくるよね。言葉の力をおもいしったぜ。
ただ、重厚なのが好きな人にはおぬぬめだけど、読む本がラノベ程度の俺には少し長いかなって感じ。
#人それぞれだし、作者さんたち、気にしないでくださいね
俺はTRPGやってたあの頃を思い出した。
33 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/09/14(月) 13:37:26 ID:ODgUwa8VO
今日もぬるぽ
きょうも、ガッ!
35 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/09/16(水) 10:23:08 ID:nzNZN4NyO
カクカクして腰が痛そう
36 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/09/16(水) 13:19:57 ID:mJfMavPoO
おや、遊び人風体のオバサンが宿主か?
…スマン、アパホテルだったorz
保守は必要か?
前回
>>21-28 【世界最大教育機関】
?「私は本学園の魔術課程総合担任、アクデンだ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
アクデ「・・・・・・・・・どうした。そなたの紹介がまだだが」
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・なんだこやつ。動かない。大きな戸惑いと焦りの気配があるな。
ならばお前の頭の中、勝手に見極めさせてもらおうか。
この者の七日以上前の記憶・・・・・・ジーク、草原、森・・・・・? 空き地?
さらに以前は・・・・・・・・起き上がり・・・・・・・・・!!
この群像は・・・・・・一体!!?
・・・・・・・・・・詳しく見る必要がありそうだ。
・・・・・・・・・・・目の前の、悪魔の容姿を持つ生物の腕が動き出す。
僕「!! な、なに! ひぃ!!」
アクデ「案ずるな」
腕が・・・・上から振り下ろされ・・・・つ、潰される!! 目を閉じ・・・・・・
・・・・・・・・・とさっ・・・・と、頭に何かが乗る。
恐る恐る見上げると、頭の上から何かが伸び・・・・・腕だ。
悪魔の腕が、僕の頭の上に乗っかっている。
・・・・・・・・・・重い。手自体の重さだろうか。悪魔は目を瞑り、何もしてこない。
アクデ「心配せずともよい。身に刻まれた記憶を詳しく見たいだけだ」
記憶を・・・・・・・・・見ている? この姿は、一体・・・・・・・・。
・・・・・・・・不意に頭から腕が取り払われる。
アクデ「・・・・・・・・・・人間以外を見るのは初めてか」
僕「・・・・・・はい。やっぱり・・・・あなたは人間では・・・・・・」
アクデ「アーシュ、そなたの世界の一端を覗かせてもらった。レオ王国も、
サントハイムも、クリフト殿も存在しない。一切がこの世界と異なる世界。
名を変たことは賢明な選択だった。そなたの本名はかくも奇妙で、
およそこの世界のものとは考えられぬ。
そなたは誠に、異世界の旅人だ。
この容姿にさぞ驚かれただろう、アーシュ。
私は、かつてこの地上に無数に存在した、『魔物』という人外の者共の一人。
アークデーモンという種族の一人、名をアクデンという」
僕「アークデーモン・・・・アク、デン・・・・・さん?」
デーモン・・・・・悪魔か。
アクデ「少しは落ち着いたようだな。
この世界はかつて、魔物が地上や海にはびこり、人々を無差別に襲っていた。
太古の昔より続いていた、最早逆らうべくもない自然の摂理であったのだが、
200年ほど前、魔族の王ピサロ殿が、勇者への義理と感謝から、
魔物を引きつれ、魔界に帰られたのだ。
現在この世界にいる魔物の多くは、人と共存できる魔物だ。数は希少だがな。
遠方の海には、魔界の掟に逆らい、未だ人間を襲う輩もいるが、
全体的には、人間世界から消えたといってよいだろう。
この国においても、魔物はやはり珍しい存在ではあるが、
我が学園があらゆる種族を受け入れているため、
他国より認知もされ、人間と共存する魔物も多いのだ」
緊張と興奮が、一気に高まる!
この世界には、数は少ないが、それこそファンタジー世界のような
人外の存在がいるというのだ。目の前にいるのだから信じるほかない。
ここは本当の異世界。改めてそれを認識する。
アクデ「まずはそなたに、この学園のことを説明しておこう。何か聞いているか?」
僕「いえ・・・・国が管理する学校、としか」
アクデ「・・・・・・・急いで連れてきたかったようだし、仕方あるまい。
まず、これを見るが良い」
アクデンと名乗ったこの人?は、本と書類に囲まれた部屋の中、僕の右の壁を指す。
そこに、何かの見取り図が貼られている。
促され近づくと、紙の上部に『ファン・モール学園及び周辺見取図』と、
その下に、少しつぶれた正四角形の、内側に色分けのある図が描かれている。
アクデ「これは、そなたが今いる、城壁内の全容を書き表した地図だ。
今では城壁とは名ばかりだがな。
そなたも通ってきた一般の出入口が下、その周辺の小さい横長長方形の区域は、
そなたも泊まっているであろう宿屋のある、商工地区と呼ばれる区域だ。
上辺の城壁に面する最奥部中央が、そなたが王への謁見で訪れた王宮関連区域。
どちらも他の区域と違い、色付けがされていない。
そなたが今いるのは、赤く色付けされたここ、魔術過程の敷地内だ」
地図に向かって左上、魔術と書かれ薄い赤に色付けされた一画を指し示す。
・・・・・・・・・・よく見ると壁の外側、上と左横に、それぞれ「11.2」「9.4」と数字が振られ、
城壁の角まで、幅を表わす→が付けられている。
この数字、長さを表わす数字かな。・・・・・・・・・ちょっとまて!
今、魔術って言わなかったか!?
僕「あの、魔術って、・・・・・・・一体、どういう・・・・・」
アクデ「やはり見たことはないのだな。
まぁ、説明も終わらぬうちに見せても混乱するだけだろう。
後で説明させよう。
この城壁内は、王宮関連地区、商工地区があり、
それ以外の全区域は、我がファン・モール学園の管轄区域だ。
城壁内の8割以上の面積、9割以上の人口を占めている。
城壁内は縦9.4km、横11.2kmの壁で構成され、総面積は約106万平方km。
総人口は約12万人」
・・・・・・・・・・・え? 今・・・・・・なんて
僕「あの! ちょっといいですか。それだとあの、こちらの学校、
整理すると・・・・・・縦横9kmくらい、人数も10万人くらいで、それってあの」
アクデ「そう、ここは世界最大教育機関。
学生110000名弱、教職員5500名余り、その他事務員は2000名余りを誇る」
僕「な・・・・・え・・・・」
なんだって!
11万なんて数字、聞いた事ないぞ。
アクデ「陛下から聞く限り、そなたも『大学院』という教育機関の学生らしいな。
これほどの人数はやはり、そちらの世界でも珍しいか」
僕「・・・・・・すごく・・・・大きいです」
僕は改めて地図を見直す。色付けされた区画にそれぞれ、
太字で区画の名称が記されている。
『文学(ぶんがく)過程』・・・・『魔術過程』・・・・『自然科学・心理過程』・・・・・『商業・経済過程』
・・・・『史学過程』・・・・・『工芸術過程』・・・・・・『総合武術過程』・・・・・・『政治・哲学・帝王学過程』
魔術と総合武術の区画が一際大きく、大通りで向かい合っている。
アクデ「そもそもは、王の目の届くところ、また学生たちに王宮を近くで体感させ、
向上心を持たせる趣旨で城近くに学校を設立したはずが、
肝心の城は今や学園に飲み込まれてしまったのだ。なんとも皮肉なことよ。
して、アーシュよ。肝心のそなたが元の世界へ変える方法だが」
僕「あ、そうだ! どういうことかわかりますか!」
アクデ「・・・・いや。残念だが、今の私にはわからぬ」
僕「・・・・・・・そうですか・・・・・」
アクデ「・・・・・・・・・」
アクデ「私はわからぬが・・・・・学園に、そういった事象に詳しい者がおるやも知れん。
今少し待ってほしい。そなたの言葉、嘘ではないと知った今だ。
会議に挙げてみよう。
・・・・・・ヒントになるかわからぬが、陛下から、そなたに学園を案内するよう
仰せつかっている。紹介になるだけかもしれんが。
そなたの体験、私は非常に興味あるし、本来なら私直々に案内したいところ。
ただ、昨夜急に依頼されたため、どうしても外せない用事があってな。
申し訳ないが、代りの者が案内する。
衛兵!」
アクデンさんが呼ぶと、扉を開け兵士が一人入ってくる。
兵士2「は! 何用でしょうか!」
アクデ「セラウェを呼んでくれ。朝説明した客人に、本学園を案内させる、とな」
兵士2「は! 直ちに」
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
兵士が出てしばらく、僕は部屋で待つ。僕は許しを得て、周りの本棚を見て回る。
『魔道哲学』・・・・・『勇気ある決断とは』・・・・『火炎魔法学』・・・・
『エボスの書』・・・・『勇者の軌跡』・・・・『天空の向こう』・・・・『デラ族の生活』
眺めるだけだが、題名から多種多様な本があるのがわかる。
あの体でこの小さな本を読んでいるのか。・・・・・・ちょっと笑える。
・・・・・・・・と、扉がノックされ
?「ただ今参りました。セラウェでございます」
アクデ「急に呼び出して済まない。入ってくれ」
セラウ「失礼します」
女性が一人、入ってくる。
見たところ、大人の女性という感じだ。髪は青い。
ローブは羽織らず、上着とスカートが分かれてた、畏まった服。
職員のような出で立ちだ。
アクデ「異世界から来た陛下直々の客人、アーシュ殿だ。学園の案内を一通り頼む」
セラウ「はい。承知しました」
セラウ「ではアーシュさん、ここからは私が案内いたします。
長い時間になりますが、本日はよろしくお願いいたします。
僕「はい。よろしくお願いいたします」
アクデ「大した話もできずにすまないな、アーシュよ。
また会うときが来るだろう。今日は貴重な体験だった。ではまた」
僕「あ、いえ。ありがとうございました」
セラウ「それでは先生、失礼します」
アクデ「あぁ」
・・・・・・・・・僕らは扉を出る。
まず、資料館という建物に行くことになる。
この建物と通路で繋がっているらしいが、門から反対側にあるらしい。
僕らはそこへ向かって歩く。
・・・・・・・・・・・・・・・
セラウ「本学園の設立経緯はお聞きになりましたか?」
僕「あ、いえ。ええと、・・・・城壁内の全体図を見て・・・・
そういえば、昔はこんなにも大きくなかったんですか?」
セラウ「ええ。元々は小さなものでした。やはり巨大という印象を?」
僕「ええ! 僕の国でも、一番大きい学校で7万人くらいなので」
セラウ「それも十分大きいですね」
2階へ下りて廊下を進み・・・・・・一本の通路が窓の外、右手に見える。
僕「ええと、セラウェさんでしたよね。ここの生徒さんではないんですか?
入口・・・・門の人たちはそう見えましたが」
セラウ「私は卒業生です。たまたま職員募集があったもので、
ここに残ることになりました。
表のみんなは在学中の生徒で、まぁ、アルバイトみたいなものですね。
教育の一環で、自立心を育てるため、日替わりで担当するのです」
僕「・・・・へぇ〜〜」
さっき見た通路を進み・・・・・目の前に観音開きの扉が見えてくる。
兵士が一人、右側にいる。
セラウ「お客様を一人、ご案内します。開けてもよろしいでしょうか」
兵士4「ええ、どうぞ」
セラウェさんは鍵を取り出し・・・・開けた。
・・・・・・・・壁に沿って展示品が陳列されており、壁の上部には、
絵画や絵巻のようなものが掛けられている。
えっと、上への階段はないみたいだな・・・・・あれ? ここ二階だよな。
・・・・・・・・あ、端っこに下への階段がある。
セラウ「ここが資料館です。
どこからお話しましょう・・・・・勇者様一行のことはご存知ですか?
僕「勇者・・・・・アクデンさんの話に一瞬出たような。一体何なんです?」
セラウ「わかりました。ではそこからお話しましょう」
セラウェさんが、周りの歴史ありそうな絵巻や肖像画を順に回り、説明してゆく。
セラウ「地上には太古の昔より、人々を襲い命をも奪う、魔物という人外の存在がいました。
ただ、遠い昔に魔王エスタークが封印されて以来、凶暴さは多少収まっていました。
しかし、魔界にて魔族の王ピサロが指導者となると、徐々に様相が変化します。
彼は、魔界の絶対的支配者、魔王になるため、地上への侵攻を開始しました。
ほとんどの魔物は彼に感化され、凶暴化してゆきました。
人々がかつてのような暗黒の日々を過ごす中、
勇者と呼ばれる者が一人、ブランカを旅立ちました。
その者は、仲間を得て数々の試練を乗り越え、人々は次第に希望を持ち始めます。
その頃、魔族側では事件が起こっていました。ピサロの恋人でエルフのロザリーが
人間に殺されたのです。 恋人を失った悲しみから、ピサロはこれまで以上に
人間に憎悪を抱き、遂に精神と力を暴走させてしまいました。
しかしこれは、彼の部下のエビルプリーストが、ピサロを自滅させ
自らが魔界の支配者になるためのに講じた策だったのです。
最後の戦いの直前、勇者一行の計らいで真実を知ったピサロは、正気に戻り、
なんと勇者一行に加わり、強大な力を得たエビルプリーストを打ち破ります。
戦いの後ピサロは、ロザリーを生き返らせた勇者一行への義理として、
今後、人間への殺戮行為の一切をやめるよう魔物に号令を掛け、
自身はロザリーと共に、魔界に帰ってゆきました。
殆どの魔物は彼に従い、地上から魔物は去り、元から地上の世界が好きな者、
人間と共存の道を選んだ者が残りました。
これが、今から200以上程前にあった、勇者一行と世界のお話です。
そして、その後の伝説では、ピサロとロザリーの二人は、今も時々地上を訪れ、
どこか美しい森の中、景色を楽しんでいると言われています」
人々に襲いかかる奇妙な生物が描かれた絵巻や、勇者という人の肖像画が示される。
勇者? 魔王? それは・・・・・本当にあった出来事なのか。
と、セラウェさんはそこを離れ、これまでとは異なる、
数々の人物の肖像画、建物の風景図を背に、説明を始める。
セラウ「前置きが長くなりましたが、話は我がレオ王国に移ります。
ピサロが地上に侵攻していた頃、当時の我が国の国王キングナックの息子、
キングレオ王子の政治的野心に魔物の一派が付け込みました。
彼は心を操られ、父を捕らえ獄死させ、国王となり民を強圧的に支配しました。
幸い、勇者一行が国王を打ち破り正気に戻したことで、悪夢の時代は終わります。
勇者一行が地上を平和にした後、キングレオ国王は父の死を痛く後悔し、
このような事件は二度と起こしてはならない、と強く思ったといいます。
そして、王族である自分が、王に相応しき強き心を持たなかったことと、
王族による世襲体制が原因である、と結論付けました。
そこで国王は、国に大号令を出します。
自分は国王の任を退位し親族にも譲らない。
今後の国王は、民衆から真に心強く王に相応しい者を、選挙で選ぶのだ、と。
この号令に民は驚きましたが、やがて支持が広まり、選挙が開催されます。
その結果、初めての非王族、8代目のエドガー国王が就任しました。
国王は、これで民にとって理想の国作りができると考えました。
しかし代を重ねるうちに、問題が一つ浮上したのです。
それは、候補者及び選ばれた国王の高齢化です。
年を重ねた者ばかりで治世は短く、どの王も数年で逝去してしまいました。
民衆からは次第に、血族継承による安定した治世を求める声が高まりました。
そこで、11代目オトロニー国王の時代、まだ存命であったキングレオ元国王は、
病気により伏せったオトロニー国王、及び大臣などの王宮関係者と協議し、
再び号令を出します。
それは、国の子供を王に相応しい人間を育成する、国営学校を設立し、
この学校の卒業生から代々国王を選出する、というものでした。
そして自らは、卒業生から国王が誕生する日まで、暫定的に王位に就く、と。
既に40歳を超えていた元国王の年齢を不安視する声も出ましたが、提案より14年、
学園設立より12年後、遂に学園出身の13代目、アークレオ国王が誕生しました。
アークレオという名は本名ではなく、本名はユースビーといいました。
彼は、キングレオ国王のこれまでの尽力に多大な感謝を示すため、
自ら、アークレオと改名したのです。
以後、国王は就任の際に改名し、『レオ』を語尾に付ける慣例が生まれました。
現国王のシルバーレオも、父は鍛冶屋、母は主婦という一般的な家庭出身です。
セラウ「国王を輩出する我が学園ですが、時と共に、王としての帝王学を学ぶ専門機関から、
幅広い分野を学ぶ総合教育機関へと発展してゆきます。
最初は、アークレオ国王が文学の才もあったことで人気が高まり、
詩や散文、小説についての素養を深める、『文学(ぶんがく)』過程が、
次に、勇者様の仲間で我が国出身の魔術師、マーニャ様・ミネア様を教員に迎えた、
ここ魔術過程が、順次設立されました。
その後、本学園は次第に、海外から優れた教育機関と認知され始めました。
そして国外からの入学希望者が多数現れ、これを受け入れ始めました。
その後は種族の壁を越え、ホビット、ドワーフ、エルフ、ダークエルフなど、
遂には魔物までも受け入れ始めました。
先ほどアーシュ様がお会いした総合担任のアクデンですが、彼がかつて、
時の国王に入学を直訴し、勇者の仲間、サントハイムのクリフト様と
マーニャ様・ミネア様の後押しもあり、魔物の受け入れが決まったのです。
現在では国内外から、一般の子供はもちろん、王族や貴族の子息、
果ては魔物の子供に至るまで、多種多様な生徒たちが、様々な分野で
同じクラスで机を並べ、学んでいます。
さぁ、こちらが我が国代々の国王系譜です」
説明を聞きながら行き着いた先。その壁には、多くの名前と
それを繋ぐ線が書き込まれた、大きな木版が掛けられている。
『レオ王国 歴代国王系譜
・王族支配時代
(1)アミル→(2)グレスフォード→(3)フェリゴール→(4)モナス→
(5)ドモリア→(6)キングナック→(7)キングレオ→
・市民選出国王時代
(8)エドガー→(9)ハース→(10)ゼム→
(11)オトロニー→(12)キングレオ→
・学園出身国王時代
(13)アークレオ→(14)ブレイブレオ→(15)クラウンレオ→
(16)アークレオ2世→(17)ディスティレオ→(18)ブレイブレオ2世→
(19)ブレイブレオ3世→(20)アシュトレオ→(21)アークレオ3世→
(22)シルバーレオ』
セラウ「国王の任期は20年と規定されています。在任中に王が逝去された場合、
その時点で新たな国王を選出します。過去に一度だけ、この規定は行使されました。
・・・・・・・あら、ちょうどいいですわね。アーシュ様、よろしければ、
この窓から広場をご覧になられては? 今、魔術の実践授業が始まるところです」
僕「えっ!」
僕は窓から、離れたところにある大きな広場を見下ろす。
坂を少し下った先にあるので、門から見えなかったようだ。
そこには、青のローブを羽織る人たちと黒のローブを羽織る人が一人。
説明では、青のローブは学生、黒のローブは先生だとか。
生徒たちと先生は適当にばらけ、生徒が一人が前に出て・・・・・・・・・!
その生徒の手から突然、氷塊らしものが発露する。・・・・・・・あ!
昨日城を出たときに見た発光! あれはもしかして、これ!?
僕「あ、あの! あれは、あの氷みたいなもの・・・・・」
セラウ「魔法をご覧になるのは初めてですか?」
僕「魔法!?」
セラウ「魔法。魔術、呪文とも呼びます」
僕「あれが、魔術・・・・・・」
魔術なんて、てっきり、変な儀式やおかしな呪いの類だと思っていた。
セラウ「あの大きさはヒャドでしょうか。氷の呪文です」
僕「氷の呪文。・・・・・あの、こんなのがもっとたくさんあるんですか?」
セラウ「そうですね。他には炎の呪文、閃熱の呪文、爆発の呪文などもあります。
攻撃するだけでなく、傷を癒す呪文もありますよ」
僕「癒すって・・・・例えば薬草みたいなものですか?」
セラウ「ええ。でも、あれより回復力の強い魔法がほとんどです。
また、扱える人間は限られますが、死者を生き返らせる魔法もあります。
いくつか制限がありますが」
僕「死者を・・・・・・生き返らせる!? 死に掛けている、じゃなくてですか!?」
セラウ「はい。ただ、亡くなられて時間が経っていたり、頭部の損傷が激しいと不可能です。
蘇生に関しては数学のような公式がある訳ではなく、あくまでも経験則ですが」
・・・・・・・・本当にファンタジーの世界なんだ、ここは。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
資料館での説明が終わり、僕らは各地区を見て回ることになる。
最初はここ、魔術地区だ。
総合舎に戻り・・・・・一階の、外に面した場所で、動物に乗ることになる。
その動物はウィブーといい、カバやサイを大きくしたような大型の二本角の動物。
首の上には従者がおり、背中に、二人横に座れる、天蓋が取り付けられている。
あまり揺れず疾走することが可能で、丁重な客人を運ぶ際に良く使われるらしい。
もっと大きい四人乗りのウィブーもいるそうだ。
セラウェさんは従者に行き先を伝える。僕らは乗り、入口の門を出て・・・・・・
通りを走り・・・・・・林の中を抜け・・・・・・・石垣に囲まれ開け放たれた門の前に降りる。
門の向こうには、目がくらむほどの、とてつもなく高く、でかい塔。
従者を残し、僕らは大きな塔の前まで進む。
まるで、大きな円形の劇場を何十層も上へ積み重ねたような感じだ。
塔の一角に、その大きさには似合わない、小さな入口がある。
小さいといっても、アクデンさんくらいが入れるような大きさだが。
セラウ「この塔は、戦いの訓練するために作られた、『放魔の塔』という施設です。
100階建てで各階の天井は高く、四階が通常の建物の10階以上に相当します。
中は迷路のようになっており、通路には学園側が配置した敵が徘徊しています。
もちろん互いに殺してはいけません。
挑戦者には階層ごとにペナルティが加えられます。
例えば、・・・・・1階〜4階までは補助呪文の使用禁止、という具合です。
他にも、移動速度が半減、逃走の禁止、各階を制限時間以内に突破など、様々です。
このペナルティは、フロアを覆う特殊な魔法により効果が現れるもので、
フロアに入ると自動的に課せられます。
また、階を重ねてゆくと、複数のペナルティが課せられる階もでてきます。
敵となるのは、学園の先生はもちろん、卒業生から上級生、同級生、下級生、
国の現役の戦士や魔術師、あるいは金銭で雇われた傭兵が相手になります。
上層では、人間より遥かに生命力や力のある、魔物も出現するようになります。
上層に行くほど強い敵が現れるのです。
最上階の最奥部までたどり着けばクリアとなります。
クリアしなくとも卒業に影響はありませんが、これはエリートの証ですね。
名誉なことですし、卒業後の進路に大きな差が出ます。
総合武術地区にも同じ趣旨の塔があるんですよ。あちらは『放力の塔』といいます。
移動速度の減少、アイテム使用禁止など、共通するペナルティもありますが
あちらでは攻撃力が半減したり、特定の武器が使えなくなったりします」
支援
僕「あの、途中で出たくなったらどうしたらいいんです?」
セラウ「それはですね、まず、入口で兵から六角形状の平板の鍵が渡されます。
これをフロアの壁にある扉の前で使うと、扉が開き出ることができるんです。
この鍵は、使うと表面に脱出フロアが表示されます。
扉の外で待機している人に名前を告げ、鍵を返し、昇降機で降ります。
一階ごとに止まりますし、建物の中にあるので、落ちる心配もありません」
鍵のシステムがよくわからない。実際見たら、きっとすごい技術なんだろう。
僕「最上階には何かあるんですか?クリアした証とか?」
セラウ「ええと、奥の祭壇に、番号が記された宝玉があります。
入口の兵に見せると記録され、後日発表があり、王から表彰があります。
その後は地区を挙げての祝賀パーティになりますね。めったにないことなので。
私は54階が最高でした」
クリアしたら王様から表彰! そんな厳しいのかここは。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そのあと僕は、学園内の地区を一通り案内してもらった。
『総合武術過程』
魔術地区と大通りを挟む向かい側に、魔術地区と左右対称に配置された地区。
地区内はさらに、修行する分野によって、剣術、槍術などに分かれている。
魔術地区もそうだが、敷地内の広場や森の中で、実戦を意識した訓練をするらしい。
『文学過程』
魔術地区の南東側、見取り図では同地区の上に位置し、王宮施設の左側にある。
各地の歴史ある物語、随筆などを研究し、国語的な才能を養う。
執筆に際し、静かな環境を求める学生のため、個室を完備した施設が多数あるとか。
歴史に名を残す各国の偉大な著作を保管する保管庫がいくつかあるが、
その歴史的価値から、この過程の学生にしか閲覧できない本もあるらしい。
『自然科学・心理過程』
魔術地区から見て、文学地区のある方と反対側、城壁に面する方にある地区。
魔術地区の半分くらいの大きさ。自然科学と心理の過程が一緒になっている。
どちらの分野もまだ発展しきれておらず、この扱いなんだとか。
自然科学過程は近年、この世界の様々な法則を理論的に解明しようとする一派が
さまざまな報告を挙げ、必要性を訴えたため誕生したとか。
心理過程は、由緒ある政治・哲学・帝王学過程から、
人間の心を研究する分野が独立して誕生したらしい。
実験棟という、三階建ての建物がいくつかあった。
棟によって、科学の実験棟か、心理学の実験棟に分かれるらしい。
『商業・経済過程』
自然科学・心理学地区の北西と南西、見取り図でいえば、そこの下側、右側の
二つの地区に分割された過程。下側の区域は、城壁の入口側の壁と接しており、
右側の区域は大通りの少し手前まで広がっている。
元々商業は、人々の生活に特に大事な分野だったが、この国が他民族国家になり、
他国との貿易・経済の発展が重要視されるようになり、誕生したとか。
特徴的な建物は特になかったが、学内では、現代世界の流通の仕組みや
消費者心理についての講義があり、課外授業では実際に物を売って歩くそうだ。
『史学過程』
大通りの手前ある商業・経済地区から大通りまでの細長い区画と、
大通りを挟んだ向かい側の一帯、総合武術地区の下側の左半分を占める過程。
史学地区の下側は商工地区に面している。
この国や他国の歴史を学び、また、原始の生物の研究のため、発掘も行っている。
人間や魔物誕生以前の世界がどのようなものか、現代でも不明な点は多く、
注目されているらしい。
ここには史学図書館という施設があるが、専門的な文献が多く
一般人が閲覧しても意味の判らないものが多いんだとか。
また、文学地区の保管庫同様、やはり一般人の閲覧できない文献もあるらしい。
『工芸術過程』
史学地区の右、すなわち南西にある地区。
見取り図では縦長の地区で、右側の壁と、入口側の壁に面している。
左下は商工地区に面している。
絵画、彫刻はもちろん、声楽、楽器、演劇、または陶芸・工芸作品から、
武器、防具、その他様々な道具についての研究・開発を行っている。
どの分野も年二回展覧会があり、特に演劇は、
自分たちで脚本・演出を手がけた公演を行うんだとか。
卒業生の作品は保管され、優秀賞作品は各施設に一般公開されている。
演劇の場合は脚本や台本が保管される。
僕も一部見たが、・・・・・・・・やばい。やばすぎる。本当に学生作品か。
あの彫刻の鬼気迫る感じ、日本刀のような刀身の光り具合、絶対真似できない。
演奏や演劇が行われる屋内ホールの一つも見せてもらった。
幕もちゃんとあり、収容人数は500人程度だとか。
もっと大きなホールや、屋外の舞台もあるらしい。
『政治・哲学・帝王学過程』
この学園で最も古く、最も由緒あり、最も貴族的な雰囲気の漂う地区。
王宮施設の右側に位置し、文学地区と、王宮施設を挟んだ反対側にある。
王となるために必要な心構えの教育のため、
高名な学者たちの言葉や書物を用い、倫理、道徳などを学ぶ。
また、現職及び元大臣や元国王の講演や講義もあるらしい。
卒業後に優秀な者は、国王以外にも、大臣、議会の議員など、
国政の重要なポストに就くことがあり、文字通り、国を動かす者を輩出している。
学園全体の説明もいくつかあった。
その中で興味を惹かれたのが、この学校は全寮制で、
数人で共同生活するのが決まりなんだとか。
入学すると生活道具一式が支給されるが、その中にはパジャマがあるらしい。
ただ、退学したり卒業すると、それらの道具は必ず返却しなければならないため、
一般には広まらないんだとか。
入学は誰でもできるのだが、それでも羨ましがる人は多いそうだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
もう、夕方。空が赤くなってから短くない時間が経過している。
全ての地区を回り、僕らはまた最初の建物、総合舎に戻ってくる。
セラウ「お腹が空いていませんか?客間でお待ちいただければ学食を運びますが」
僕「え・・・・・あ、いや、自分で食べに行きますよ。場所さえわかれば」
セラウ「そうですか。ええと、この時間は込み合っており・・・・・・
職員用でよろしければ空いていると思いますが。そちらに行かれますか?」
僕「はい、そうします。ありがとうございます」
僕らは二人、総合舎の地下に向かっていった。
――――――――謁見の間にて―――――――――
アクデ「間違いございません。あの者は異世界からの旅人でございます。
私の頭に浮かんだ群像、あれはこの世のものとは思えませぬ。
あれらはまるで・・・・・・・・何か異質な、高速で動き回る欠片のようでした。」
シルバ「・・・・・・・・そうか。アーシュは今どうしている?」
アクデ「部下に案内させています。直に案内したかったのですが、
普段ならともかく、今回は少々調整できない件もございまして」
シルバ「先生には急な依頼で余裕も与えず、申し訳なく思っている。
彼にはまだ、異世界のことで聞きたいこともあるが・・・・・。
ところで先生、彼を助けるため、何か当てはあるか?」
アクデ「とりあえず、配下の指導者たちと会議を行うことを考えています。
何か知る者がいれば・・・・・・歴史書・魔道書も調査してみましょう。
あるいは国外の者たちに助けを求めるか・・・・・。その場合は陛下、
近々我が国にサントハイム王国特使として訪れる、私の大恩ある友、
クリフト殿に相談したいのですが。必要ならばアーシュ自身も紹介しましょう」
シルバ「大賢者クリフト殿か。・・・・・・・・我らは友好国同士。
そしてそなたらは厚い信頼関係の間柄。必ずや力になっていただけるであろう。
今なら親書や伝書鳩も間に合うが、まずは、わが国で解決するよう、
努力を惜しまぬことが礼儀というもの。
我が名の下に勅命を下す!
異世界からの旅人アーシュのため、異世界への帰還方法を探し出すべし!」
アクデ「はっ!」
――――――――内務大臣ダシュムの日記―――――――――
本日、かの者の正体が判明した。
執務室での仕事中、兵から伝令があったのだ。
今も信じがたいことだが、陛下のお察しのとおり、異世界からの来訪者だという。
私の判断はときに、慎重すぎるとの指摘もある。
内務大臣の仕事は、いや、立場が重くなればなるほど、
非情と温情は常に戦うこととなる。
子供の頃を含めると、私はこの国の4人の王を知っている。
どの王も、王たる資質を教育された指導者だ。
しかし、完全なる人間など教育だけでは生まれない。
対話と理解者が必要なのだ。
若く活気あふれる王を迎えることの難しさが、我が国にはある。
過去には補佐の立場を利用して、傀儡の王を作ろうとした者も居たそうだ。
だが、私の信念は揺るがない。
苦悩の王キングレオの信念。忘れてはならない。
アーシュの体験と同じようなことが、かつて世界のどこかであったかもしれない。
アクデン先生は、書物を紐解く意思があるようだ。
ならば私は、彼が目覚めたというミルウッドの森に目を向けたい。
彼の身に何があったのか、あそこはどんな場所なのか、調べなければ。
調査の兵の選出も要注意だ。遠方出身の兵士が集められるといいが。
甘き果実ミルムの実る森。
明日、陛下に森の探索を進言してみよう。
―――――――――――????―――――――――――――
それは、水面に落とされた葉の作り出す、小さな小さな波でした。
勇者の活躍により訪れた平安の世。
世界の人々、いえ、生きとし生けるもの全てはこのとき、
平安の終わりなど、微塵も疑っていなかったのでございます。
アーシュ
HP 13/13
MP 0/0
<どうぐ>携帯(F099i) E:エリモスの服 革の靴
アクデン
HP 277/277
MP 154/154
<どうぐ>なし
<呪文>イオラ イオナズン べギラマ ベギラゴン ルカニ マヌーサ
ベホイミ べホマ
<特技>なぎ払い まぶしい光 毒の息 激しい炎 しゃくねつ めいそう
投稿規制の間、時間がもったいないので
PC・携帯の保管庫にアップしてきました。
体裁は整えきれていませんが、よろしければご確認ください。
それでは。
保管庫にも行って一気に読んできました!
面白い!!
特に一般人のリアルな戸惑いがイイ感じです。
続きに期待してますよ〜
すごい学園都市なのですね。情景が浮かんでくるようです。
国をあげてアーシュさんの帰還ために調査をはじめて、いよいよ物語が本格的に動き出しましたね。
wktkです。
それと王になんか吹きこんで腹黒いとおもっていたダシュムさんも、国のために一生懸命なのですね。
ダシュムさん、すまん・・・。
アクデン先生は当然悪役かと思っていたら…少なくとも今の時点では、全くそうではないんですね。
立派な人柄のアークデーモンとは。
ミネアはともかくマーニャが教師か…。
………ゴクリ。
クリフト200歳かぁ
前スレ470-474ぐらいからの続き
薄らぼんやりとしているのは視界だけじゃない。意識そのものがはっきりしなかった。
私は本能だけで膝を立たせ、身体を起こした。石造りの地下室を照らしていた松明が消えて、真っ暗だ。
もしかしたら、ここは地獄なんじゃないかなんて考えた。でも、ブーツの靴底を隔てて伝わってくるのは紛れもない地面の固さ。
悪夢では、済まない。
右手にメラを唱えて松明代わりにし、足元に転がっていた鋼の剣を拾い上げる。
壊れて立てかかっているだけのドアを何度も蹴り、破壊しようとして至近距離で唱えたイオに吹っ飛ばされそうになった。
ドアが開く。樽や木箱をホーリーランスでなぎ払って散らし、階段を駆け上がった。……なんだか、やけに上りづらい。
石を組んで造られていた階段は、段に角がなかったり、「何か」で濡れていて足の引っ掛かりが非常に悪かった。
それでも足裏に触れるものすべてを蹴って、地上を目指し走る。
―――ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
……どのぐらいの声量で叫んだのだろう。叫ぶ、なんてほど、声も出ていなかったかもしれない。
むき出しになった家々の基盤が、魔族の毒にやられてあっという間に腐り溶けた肉の沼が、焼け焦げた体毛が、
炎は消えているのに立ち上り続ける黒煙が、ああ、ああ
踏み出した足がそこから力を失っていく。膝が崩れ、下半身すべてを地面に預けてしまう。ほどけた指から武器が落ちる。
目も口も開けっ放しになって、乾燥して一酸化炭素と土埃が混ざった空気とも言えない空気が入り込んできた。
水分を失って乾ききった喉の粘膜に、土埃がこびりついた。息を吸い込んだ瞬間だったから、私は盛大にむせ返った。
たちこめる腐臭ときな臭さに涙目になりながら、私はもう一度立ち上がる。
……そうだ、ソロは!?
なるべく、周囲のことを詳しく見ないようにしながら、私はソロを探した。村だった場所を走りまわりながら、
何度も何度もソロの名前を叫び続けてさまよった。
ソロは、土がえぐれて焦げた地面に座り込み、うずくまっていた。そこは以前、ソロがシンシアを紹介してくれた花畑
―――だった場所―――だ。
「………」
本当は今すぐにでも抱きしめたかった。でも、私の気配に気づいて顔を上げたソロは、触れたとたんに壊れてしまいそうで。
若い手に弱弱しく収まっていたのは、血に濡れた真っ白い羽帽子だった。
かつて、シンシアという少女がかぶっていた、お気に入りの白い帽子だった。
ソロはゆっくりと唇を動かした。そして、私に何か伝えようと、懸命に喋っていた。
でも
「……ソロ?ソロ!?」
ソロの唇は動くだけで、言葉を発しなかった。正確に言えば、ソロの言葉が音声として伝わってこないのだ。
必死に何かを喋っている。でも、何も聞こえない。吐息の音すら、この静寂の中でさえ聞こえないのだ。
一瞬、私の耳がおかしくなったのかと考えた。だが、風が吹いて焼け焦げた木々の枝が揺れる音は聞こえている。
自分が発するソロの名を呼ぶ声も聞こえている。
「ソロ、声、どうしたの?」
ソロは驚いたような顔をして、私に再び何かを訴えかけた。宝石のように蒼い双眸から大粒の涙をこぼしながら、
声なき叫びで私に訴えていた。
「……精神的なショックで声が出なくなったの?」
無理もない。私だって魂を卒倒させそうだ。でも、ここで私が死んだら誰がソロを守るの?
「……!―――!」
「ソロ、行こう。ここにいたら、いつまた敵が来るかわからない。……村を、出よう」
ざぁっ、と木々がざわめいた。武器を構えながら振り返ると、鳥の群れが空へ羽ばたいていくのが見えた。
―――まるで何か、大きな音や声に驚いたように、一斉に鳥たちは逃げていく。
ソロは何度もしゃくりあげながらシンシアの羽帽子を抱きしめ、立ち上がる。並んで廃墟の村を出た。
下り坂になっている山道を駆け足に近い速度で下り、夕闇が怪しく空を染め上げた頃に一軒の小屋を見つける。
こんな状態のソロを地面で寝かせられるほど、そして未だ体の節々が痛む私が見張りを続けられるほど、
野宿と言うものは甘くない。悲しみに打ちひしがれそうになる心を奮い立たせ、私はソロの肩を抱きながら小屋を指差した。
「ソロ、今日はあそこに泊めてもらおう。二人が無理ならソロだけでも。ね?」
ソロはまだ、私に唇の動きだけで何かを訴えていた。「どうしたの?」と尋ねると、とても悲しそうに、
絶望の中に絶望を見出したような顔で俯いてしまった。無理もない。こんな年端も行かない子供が味わうには、
あの恐怖は禍々しすぎ、そして凶暴すぎていたのだ。
小屋の主はきこりのおじいさんだった。口が悪く、一夜の宿を求めた私とソロを見るなり
「汚ぇナリしやがって。そんなんで家の中に入ってくるな。外に風呂があるから入って来い」と吐き捨てるように言った。
体をきれいにしてから、ソロは粗末なベッドの中で気を失うように眠ってしまった。きっと、現実を見たくないのだろう。
私は、眠れなかった。体は疲れきっていた。あまりの疲労に手先がおぼつかなくなって、
腰に下げていたシザーケースを取り外そうとして中身をぶちまけてしまったぐらい極度に疲労している。
体は休息を求めているにもかかわらず、痛みを伴わない頭痛が頭の中を行き交っていて、
とても眠りにつくことなどできそうにない。
いつの間にか、小屋の中には私とソロの二人だけになっていた。あのおじいさんはどこに行ったのだろう。
未だ節々の痛む体をソロの隣から起こし、小屋を出る。周囲を無意味に歩き回っていると、茶色い背中が見えた。
おじいさんが着ていたベストの色だ。私はなるべく足音を立てないよう、そっと近づく。
小さなお墓があった。おじいさんはその前に胡坐をかいて座り、真っ黒いガラス瓶に口をつけて何かを飲んでいた。
たぶん、ブランデーか何かだろう。
だが、月明かりに照らされた彼の顔は酒気で赤みを帯びるでもなく、私達が小屋に入ってきたときと同じだった。
「何しにきやがった、こんなところに。用がないならさっさと戻って寝ろ」
ぶっきらぼうな言い方に反論するでもなく、私はおじいさんの横に立って小さな墓を見下ろした。
野に咲く花と、木の実が供えられている。墓石が濡れているのは、おじいさんが酒をかけたからだろう。
「どなたが眠っているんですか?」
亡骸すら見つからなかったから、私がソロの両親や宿屋のご主人、ロジャーやシンシアの墓を作れなかった。
粗末だがしっかりとした木の十字のシンボルは、そこに安らかな眠りをもたらすものだ。
「愚息だ。青空から突然落ちてきた雷に打たれて、死んだ」
滑り落ちた言葉を酒によっているせいにしようと、おじいさんは小さな酒瓶をあおる。
「青空から落ちてきた?」
「このバカはな、絶対に愛しちゃなんねぇ、―――神様のモンを愛しちまった。だからだ」
彼の言葉が何を意味しているのかわからないが、私がハバリアの宿屋で見たお告げのような夢を思い出す。
―――神の寵愛を受けるもの。夢に出てきたあの女は私に向かって、確かにそう言った。
「だったら私がソロをに愛されることを望むのも、神罰をもって償わなきゃならない罪だと?」
心の中で、見たこともない神様に向かって言った事が声になってしまった。おじいさんは顔を上げ、立ち上がる。
「愛しあっていても、結ばれないこともある。守りきれねぇもんもあるっちゅうことだ」
すべて諦めたように、おじいさんは笑った。諦めたような台詞を言うことで、諦めきれない自分を戒めるような言葉だった。
「メイといったか?お前、あの小僧を好きなら、守ってやれ。何があいつの心の闇になっているか、しっかりと聞いてやれ。
……何があったか俺にゃわかんねぇが、絶対に」
ずきん、と胸が痛む。心に響いたことが肉体に痛覚を自覚させるなんて想像上の話だと思っていたあのころに戻りたい。
「彼は声を失っている。いつか彼の心の傷が完全に癒えて話せるようになるまで、私は何があってもソロを守り続ける」
それ以上おじいさんの言葉を聞いていたくなくて、私は小屋に戻った。
なぜあのおじいさんが私の名前を知っていたのか不思議に思ったが、私が彼の前でぶちまけた道具の中には、
私の名前が刻まれたサングラスケースが入っていた。だからだろう。
「声が?」
男はメイの去った庭で一人呟く。あの女はボロボロに傷ついた少年のことを「声を失っている」と言った。
だが、彼は確かに聞いたのだ。必死に涙をこらえながら、育ての親に教わったのであろう挨拶をし、自己と他者を紹介した。
はじめまして。僕はソロ・ディーコンです。あっちの女の人はメイさんです。
僕たちが住んでいた村は、ついさっき魔物に滅ぼされてしまいました。
僕が大好きだったシンシアも、お父さんもお母さんもロジャー先生もウリ仙人もみんな死んでしまいました。
お願いします。メイさんもさっき言ったけど、僕たちを今日ひと晩だけここに泊めてください。
薪も割ります。ご飯のしたくも手伝います。なんでもします。お願いします。
世界を知らずに育った少年は、これから世界をまだ成長しきらぬ背中に背負うことになる。
十七年前、晴天の青空から落ちてきた一筋のいかずちに打たれ死んだ彼の息子は、背中に翼の生えた翼人を愛した。
誰も存在を知らない小さな山深い村でひっそりと暮らしていた息子は、その村も離れさらにひっそりと生きた。
誰にも口外せず、誰にも知られず、祝福する者は息子の父であった彼だけだったが、それでも二人は幸せそうだった。
月日が経つたびに膨らみゆく翼人の腹に宿った小さな命は、今、あんなにも儚く頼りないのに、一人で歩いている。
どれほど悲しんだだろう。どれほど泣いただろう。どれほど苦しかっただろう。
考えれば考えるほど、彼は悔やんだ。だが、息子が翼人を愛したことにもそれを止めなかったことにも、罪はないと信じている。
少年はひとりぼっちだ。明日の朝が来れば、少年はここを離れる。一人の女と共に。
隣にあの女がいたところで、彼女が少年の声を聴くことができないなら、少年はひとりぼっちであることに変わりは無い。
「なぜ、聞こえない。なぜ……」
彼は祈った。神にではなく墓の下に眠る息子に対して。
「力が宿っても、孤独になっても、生きていける強い子に育てと……お前はそう言ってテメェのガキに『ソロ』と名づけたんだろうが」
老いたきこりが何をしてやれるわけでもない。だが、彼は希望と告げられそのために育てられた少年が哀れで仕方がない。
少年以上に深い傷を負っている女のことも祈った。
体に追っていた傷は真新しかったが、殺意を秘めた刃のように鋭いあの目には、
それ以前に、少年も知らないところで追った傷があるように思える。
「神に殺された者は、死んだ後どこに行くんだろうな。お前はあの翼の生えた娘のことを、
ただ欲望だけで『愛している』と豪語したわけではなかろうに」
男はしばらく墓の前で座っていたが、やがて立ち上がる。青く色づき始めて朝を告げる空を一睨みしてから、
朝食にする野うさぎを狩るために森の中へ入っていく。
リアルタイム遭遇ktkr
ひとまず支援♪
せっかく支援してもらったというのにさるさん規制に引っかかりました。
まだそこまで書き込んでないのに!
申し訳ありませんが一端切ります。
PC保管庫には全部アップしますので、よろしければそちらからどうぞ。中途半端ですみません。
あれま、規制大変でしたね(汗
保管庫の方で拝読させていただきます。
ソロさんの声、メイさんに届くといいですね。いつかきっと。
きこりさんも本編中ではあまり出番がありませんでしたが、いろいろとあったんでしょうね・・。
第5章の鬱展開スタート最初のきこりの小屋か…
ソロの声はじいさんだけに聞こえるのかメイだけが聞こえないのか
ドラマチックになりそうで期待してます!
久しぶりのメイさん復活!
楽しみにしてますよ〜!
朝起きたらソロはなんだかもぞもぞしていた。何をしているのかとよく見てみると、革の鎧を一生懸命着ているところだった。
彼いわく「そんな格好じゃ旅なんてできないぞって、もらったの」だそうだ。
きこりのおじいさんから、ここから南下するとブランカという国に着くことを聞いて、私たちは南を目指すことになった。
私は今日、とにかく機嫌が悪かった。あんなことがあったのにもう立ち上がろうとしているソロはやっぱりどこか、
私にはない強さがあるように思える。機嫌の悪い私はソロには笑顔を向けるものの、
「ちょっと人間共を脅かしてやろう」と悪戯に現れる雑魚モンスターには優しくしてやる余裕を持たなかった。
キリキリバッタを蹴り上げて動かなくなるまで踏み潰してやると、一緒に出てきたスライムはピーピー泣きながら逃げていった。
後ろでソロまで泣きそうな顔をしてたけど、笑ってごまかした。
どうせキリキリバッタは畑の麦を荒らす害虫としても有名なんだ。駆除してやっただけありがたく思って欲しい。
ブランカ王国で薬草を買い足して南下すると、人の手で作られた洞窟が見えてきた。
この洞窟の話を聞いた時、私は「えぇっ?」と声を上げて驚いたものだ。
「いやぁ、立派なことをする人もいるものです。わが国ブランカから、大国家エンドールへ続くトンネルを掘ってくれた
商人がいましてね。つい最近、開通したんですよ。トルネコと言ったかなぁ、その商人。すごいですよねぇ」
トルネコさんが生きている。そりゃあの人には奥さんやお子さんといった守るものがいるから、そう簡単には死ねないだろう。
でも、過去に一緒に旅をした人がこんなに大きな功績を残してくれていることが、今の私にはとても大きな救いになる。
その話を聞いて、私はソロに「エンドールへ行こう」と誘いかけた。ソロは唇の動きだけで「行く宛てもないしね」と、
悲しそうに笑った。
洞窟に下りた瞬間、ファンファーレが私たちを迎え入れた。
「おめでとうございます!あなたがこの洞窟をご利用になった一万人目の方です。さ、これは記念品です。
どうぞお持ちください!」
ぽかんとする私とソロが受け取ったのは、プレゼント用に梱包されたカジノのコインだった。
全部で六百枚。これを元手に、少しソロに世の中の広さを教えて上げられるだろう。カジノはただ賭け事をする場所じゃない。
世界中の人が集まる情報の海だ。
―――すごいね、いっぱいある。じゃらじゃらだ。
ねぇメイさん、そのお金、僕らが持ってるのと違うけど、どうやって使うの?
ソロは唇の動きと身振り手振り、伝わりにくい言葉を私の掌に書いて話をする。ソロの指が掌を這うたび、
私は背中にぞっとするほどの夢見心地が湧き上がるのを必死に我慢しなければならなかった。
「エンドールに着いたら詳しく教えてあげるよ。人がいっぱいいるところに行くから、私の傍を離れないようにね」
なんとか笑うようになったソロと並んで、洞窟を抜ける。視界の右側に山を、左側に海を臨む。
中央には、私も数ヶ月間滞在していたエンドールのお城が悠々とそびえていた。
エンドールに着いたのは夕方だった。ソロは山奥の田舎とエンドールの大きな違いに終始おろおろしている。
無理もないか。生まれてからついこの間まであんな山奥に住んでたんだもん。私だって初めてエンドールに来た時はこうだったし。
まずは宿を取って、荷物を置く。部屋に鍵をかけてから、地下にあるカジノへ下りていく。
久しぶりにしっかりと背負ったギターの重みが、私にひと時の安らぎを与えた。
あんな喧騒と殺し合いがあったというのに、このギターは傷ひとつないまま私の背中に収まっている。
そういえば、このギターはエンドールの武術大会の優勝商品として、アリーナちゃんがくれたものだっけ。
壊したらそれこそ、あの娘は泣きながら私の首を絞めて怒るのだろう。
カジノへ降り立った瞬間、左腕が急にじんと熱くなった。驚いて歩みを止めてしまうと、ソロが不思議そうな顔で私を見上げている。
―――そうだ。山奥の村の穏やかさと平和と、……あの悲しい出来事のせいですっかり忘れていた。
「ごめん、なんでもないよ」
なぜあの時、黄金の腕輪は私に力を貸してくれなかったんだろう。この腕輪の力さえあれば、ソロの村も、ソロが大好きな人も、
すべて守ることが出来たかもしれないのに。いいや、「かもしれない」じゃなくて、絶対に守れたんだ。
それなのに、どうして。
額が無意識のうちに重くなるのに気づいたのは、ソロが私の手をぎゅっと握ったせいだった。眉間が寄っていたようだ。
―――どうしたの? すっごく怖い顔してるよ? 大丈夫?
「……大丈夫。ちょっと考え事」
首をかしげるソロに向かって「どのスロットが当たるんだろうなーって考えてたの」と言って聞かせる。
すると、私が指差したスロットマシンの列を見て、ソロはおたけびに驚いたスライムのような顔でぽかんとしてしまった。
コインを入れ、レバーを引くだけでカラクリ仕掛けのリールが回る。様々な絵は回転によって混濁した色の川となって、
ギャンブラーの目を惑わせる。すべては己の運しだい。同じ絵柄が三つ揃えば、富も名誉も賞賛も手に入れられるのだ。
ただ、巨万の富をギャンブルで手に入れるためには、その元手がないといけない。稼ぎ方は知っている。
黄金の腕輪も、あの時を思い出して熱くなっているのだろう。この腕輪はこういう、ある種の欲のない願望には力を貸してくれる。
「さて、ソロ。私はちょっとお金を稼いでくるからね。そこのスロットのところで待ってて。動いたらダメだよ?」
カジノの舞台では観劇が終わったばかりだ。カーテンコールに応える役者たちが、揃って控え室に戻っていく。
武術大会が開催されていたころにはなかった、舞台のタイムテーブルを確認する。
舞台の下、隅のほうに置かれたコルクボードには、「休憩」の文字が掲げられている。三十分で、次の準備が整うらしい。
「ここね。いい?ぜぇーっっっ……たいに動いちゃダメだからね?」
こくこくと頷くソロを置いて、私は舞台へ駆け出した。人ごみを掻き分けて舞台に踊り出た女に、観衆はやはり訝しげな顔を見せる。
ケースからギターを取り出し、肩にかけて構える。ネックにかけた指先までが温かく、例に弾いた六弦が低く唸った。
曲目は、『アランフェス協奏曲 第一楽章 Allegro con spirit』
豪奢なシャンデリアがきらめく高い天井に、ホールの隅で飲んだくれている荒くれ者に、
たくさんのコインを吐き出しているスロットマシンに驚く貴婦人に、黄金の腕輪は私の音色を染み渡らせた。
弦からふと目を離し、そして視線を戻す。動き回る世界についていけなくなった網膜は観衆の顔を油絵のようにぼやかして、
いったいどのぐらいの人間がこの場にいるのか把握させてくれない。やたら大勢いるような気もしたし、そうでもないようにも見える。
その中で、スロットマシン付近でもひときわ目立つ緑の頭がくっきりと輪郭を取り戻す。
わずかな残像を残しながらうごめき回る右手の指、せわしなくネックを行き交う左手、周囲にある、またはいる、もの。
すべてが滲んで見えていても、ソロだけははっきりとあそこにいた。
―――ねぇ、聞こえる? 私から生まれている音が聞こえてる? 私はほんの少し前まで、あなたの隣でこうしていたんだよ。
最後の弦をばじき終わったと同時に、濡れてまとまった前髪の先から汗の粒がキラキラと宙を舞い、落ちていく。
久々に笑顔を載せて一礼すると、期待していた拍手喝采とたくさんのおひねりが舞台に飛んできた。ギターケースを箒代わりにして、
がーっと金銀銅貨や紙幣を掻っ攫う。まるでチップを根こそぎ持っていくポーカーテーブルのディーラーみたいだ。
カジノの支配人に見つかる前に、さっと舞台から飛び降りて人混みに紛れ込む。背負うと目立つから、ギターは抱きかかえた。
スロットマシンの隣で笑っているソロに駆け寄って、ウインクしながらおひねりの山を見せた。
―――すごいよメイさん! すごい! すごい!
興奮しすぎて掌への筆談も身振り手振りも忘れたソロの唇は、はっきりと動いていた。
この耳で、さっきの拍手喝采をすべて足しても足りないほど大きな賞賛を聞けないことが口惜しい。
ねえ、ソロ。いつになったら、声が出せるようになるの? 私はずっと待てるけど、ソロは声が出せなくて、辛くないの?
言いかけてしまった言葉を飲み込んで、嘲笑を浮かべながらカジノを出ようとする。
ソロの手を引こうとわずかに動いた右腕を、突然うしろから誰かに掴まれた。ヤバイ、カジノの支配人!?
「メイ!」
はっきりと耳を劈く、艶かしさを抱いた低めの声。夜の街を生き、過激な芸術を生き、そして仇(あだ)討ちに生きる、黒曜石の少女。
言葉よりも先に、涙が出た。涙よりも先に、体が動いた。体よりも先に、意識のない心が叫んだ。
マーニャちゃんは涙で綺麗な顔を濡らし、泣きじゃくりながらしがみついてくる大女をしっかり抱きしめてくれた。
「メイっ、メイっ!生きてたのね。うっ、うぇえ〜ん、良かったよぉ、良かったよぉ……」
出入り口の近くでよかった。もし、もっと目立つとこでこんなことしてたら、カジノ中の人間の顔がソロみたいになっていただろう。
「ぐすっ……それにしても、よくこの人だかりで私たちのことがわかったね。周りの音も人の数もすごいのに」
笑いながら目を擦って、テレを隠して見る。
「そりゃあわかるわよ!アンタの隣にいるその緑の子、すっごくおっきな声で『メイさんすごい!』を連呼してたんだから」
「―――……え?」
71 :
◆fzAHzgUpjU :2009/09/24(木) 02:12:13 ID:MZCqj0gr0 BE:2230884858-2BP(0)
Lv.15 メイ
HP:68/68 MP:61/61
E ホーリーランス
E 鉄の盾
E 革のコート(毛皮のコートの守備力-2)
E −
E 黄金の腕輪
はがねの剣
サングラス(壊れている)
戦闘呪文:ホイミ・スカラ・メラ・ヒャド・イオ
戦闘特技:なぎ払い・連続魔法(黄金の腕輪の効果)・一閃突き
所持金:3001G(所持金+おひねり)
さるさん規制って何が原因で起こるのかイマイチよくわかりませんが、
とりあえず今回投下する分は書き込めました。
PC保管庫に同じものをアップしたので、そちらもぜひご覧下さい!
遭遇記念ぬるぽ
それにしても本当に展開が楽しみです。
とりあえずガッ
ソロは普通にしゃべっているのに、メイにはその声が、彼の声だけが聞こえないんですね。
いつ聞こえるようになるのか、物語の続きが楽しみです。
マーニャ可愛いよマーニャ
ミネアに会う前にマーニャと合流しちゃったね〜
タイミング悪いですが、保管庫の体裁を整えました。
今回の投稿はいろいろ細かい修正が入っています。
よろしくお願いいたします。
アルス「ちーっす」
タツミ「どうもー。いったいいつぶりですかね」
アルス「丸々1スレ吹っ飛ばしたぞ。『コイツら誰?』って言われても俺は納得する」
タツミ「ずいぶん長くお待たせいたしました。とりあえず仮復活です!」
アルス「仮かよ」
タツミ「だって完全復活なんて宣言したら、また間が空いた時にまずいだろ」
アルス「コスイ布石を打つなw」
タツミ「それでは恒例サンクスコール」
アルス「スレ13泊目(!)の
>>494様、乙ありがとう。そうなんだよ、俺あんまり視力良くないんだ」
タツミ「知らなかったよ。君って目が悪かったんだね」
アルス「俺もこっちの眼鏡には驚いた。向こうって個人の視力に合わせてピッタリのレンズ造る
なんて技術は無いからさ。世の中ってこんなにクッキリしてたんだな」
タツミ「今度コンタクトにしてみなよ。便利で驚くよ〜。使い捨てなら楽だし」
アルス「ふーん。機会があったらそれもやってみたいな」
タツミ「クイズにご参加いただいた方も、ありがとうございました」
アルス・タツミ『それでは本編スタートです!』
【Stage.19 望むか、臨むか】
リアルサイド [1]〜[11]
Prev
ttp://dqinn.roiex.net/logs/inn-log13.html#R485
----------------- REAL SIDE -----------------
通話は一方的に切られ、数回の不通音が流れたのち、俺の持つ古い型の携帯は沈黙した。
隣ではユリコが不安そうな目で俺を見ている。
「アル君の知り合いなの?」
そう聞いてきた直後に、ユリコはハッと口に手を当てた。
「もしかして、昨日アル君を襲ってきたあの男!?」
こういう勘は鋭いんだな。
と、シャラっと聞き覚えのある音がした。
「まさかご友人を誘拐するとは思いませんでしたね」
振り返ると、いつもの黄色のシャツに(気に入ってんだろうか)ジャラジャラとアクセ
をぶら下げたショウが立っていた。
「そろそろ出てくる頃合いだと思ってたよ。ショウ、お前の親父って確かケーサツの偉い
ヤツなんだよな?」
「そうですよ」
相変わらずニコニコと人の良さそうな笑みを浮かべている。腹の底でなに考えてるかイ
マイチわからないが……
「任せていいのか」
「もちろんです」
ショウは自信満々に胸を叩いてみせる。だけど、どこの世界も公的機関は小回りがきか
ねえからな。
「ケーサツとやらに任せてもちゃんと間に合うのか?」
「この国の警察はなかなか優秀らしいですからね。ロクにこの世界を知らない異世界の人
間を取り逃がすことはないでしょう。まして誘拐されたのはどこかのお偉いさんの息子さ
んなんでしょう? 行動も早いと思いますよ」
「ま、待ってよ! あの、あなたは?」
戸惑うユリコに、ショウはニコっと笑顔を向けた。
「彼の友達でショウと言います。初めまして、片岡百合子さん」
「アル君の友達って……」
この世界に、自分の他に俺の正体を知っている人間がいたことに驚いたようで、ユリコ
は物言いたげな目で俺を見た。そんな微妙な空気をあえて無視して、ショウは俺に対して
言葉を続けた。
「彼女の事は心配いりませんよ。すでに片岡家の方には連絡を入れています、間もなく迎
えが来るでしょう」
「さすが手際いいな」
「ちょっと、どういうこと?」
彼女が困って俺の腕をつかんだ。俺は黙ってそっとその手を離させた。
「アル君は……助けてくれないの?」
ユリコが言う。その時になって初めて気付いたみたいだった。「俺」ならきっと、悪い
ヤツに誘拐された友人を助けに行ってくれるものだと思い込んでいたんだろう。
俺が勇者だから? 正義の味方は困っている人間を見過ごしたりできないって?
「それはムリだよ、ユリちゃん」
俺は苦笑した。
「さっき自分で言ってただろ、『普通』だって。俺はただのガキだよ。剣も魔法も使えな
いし、仮に使えたところで、それでヘタに相手を傷つけたり殺してしまったら、捕まるの
は俺の方だ。ここはケーサツに任せるべきじゃないの?」
「そう……だけど」
それはなにか違う。ユリコの目はそう訴えている。でも現実は現実、ゲームやマンガじゃ
あるまいし、そんな「非現実的」なことは起こらない。そうだろ?
と、スーツ姿の男が二人、俺たちに近づいてきた。ユリコがわずかに身を引く。
「お嬢様、お迎えに上がりました。あなたがご連絡をいただいた八城様ですね?」
「そうです。考え過ぎかとも思ったんですが」
「いえ、ありがとうございます。さあお嬢様、今日は帰りましょう」
男達の背後の路上には、妙に威圧感のある真っ黒な車が横付けされていた。もう一人、
白い手袋をした壮年の男が、後ろのドアを開けてかしこまって待っている。
まるで貴族専用馬車と、その御者って感じだ。ユリコって本当に金持ちなんだなぁ、と
感心して眺めていると、クイっと袖を引っ張られた。
「仕方ないわね、今日はおとなしく帰るわ。ありがとうアル君、楽しかったよ」
「あ、うん。気をつけてな」
「ところで、一昨日かな、公園で声をかけた時すごく驚いてたけど、あの時からもうアル
君だったんだよね?」
言われて俺は思い返してみた。そうそう、確かコンビニで牛乳を買ったがやっぱり飲め
なくて、代わりに豆乳のウマさに感動して――タツミに電話した直後くらい、か。
「そうだよ」
俺が答えると、ユリコは妙にまっすぐに俺を見つめて繰り返した。
「右側のベンチに座ってたんだよね、確か?」
「だったかな……ああ、ゴミ箱をはさんで反対側にもうひとつベンチがあったから、右側
でいいんじゃないか」
なんでそんなことを? と聞く前に、ユリコはもう背中を向けていた。
「じゃあね、アル君」
ヒラヒラと手だけ振って、彼女はもう未練などなにも無いように、さっさと車に乗り込
んだ。
◇
「思ったより聞き分けのいい子で助かりましたね」
ショウが俺の肩に手を置いた。そのままクイと押されて、その方向に目を向けると、さっ
きの黒い車に負けず劣らずという感じのピカピカのデカイ車が、反対車線に止まっていた。
あっちは俺たちの方のお迎えらしい。
「悪く受け取らないで欲しいんですが、あなたの身柄は僕たちが保護させてもらいます」
勇者が保護されるって、なんだかな。俺は苦笑しつつ、素直にうなずいた。
「任せると言ったからな。ああでも、悪いんだけど先に俺のマンションに寄ってくれない
か。しばらく戻れないんだろ? どうしても持ってきたいものがあるんだよ」
「わかりました。あまり時間が無いので、急ぎましょう」
うながされるままに歩いて、車に乗り込む。続いて乗り込んできたショウは、運転手の
男に俺のマンションに行くように指示してから、大きく息をついた。
すっかり安心した様子のショウに、俺はおかしくなった。
「さっきの、本当は俺に言ったんだろ」
「なにがです?」
「思ったより聞き分けのいい子で助かりました、ってさ」
俺の言葉に、ショウも渋い笑みを返してきた。
「そりゃそうですよ。あなたがこの期に及んでもまだダダをこねたらどうしようかと思っ
てましたもん。すんなり応じてくれて助かりました」
「啖呵きった手前シャクだけど、もう俺の手には負えないからな」
ユリコの気持ちもわからんじゃないけどさぁ――そう俺がぼやくと、ショウはうんうん
としたり顔でうなずいた。
「賢明な判断ですね。やっぱりあなたは頭の切れる人です。ああそうだ……あと、あなた
に頼まれて三津原辰巳について調べさせてもらったんですが」
突然アイツの名前が出てきて、俺はドキリとした。
「正直、入れ替わるには本当に面倒な人間ですよ。まず彼、幼い頃にご両親を亡くしてい
ますが、その原因というのが……」
「ちょっと待ってくれ」
思わず遮った。
「すまんが、それはあとでゆっくり聞かせてくれ。今はほら、カズの方が心配なんだ。短
い間とは言え友達だったしさ」
そういっぺんに情報を渡されても混乱するだけだ。物事には優先順位というものがある。
ショウは一瞬きょとんとしてから、再び笑顔になった。本当によく笑うヤツだ。
「なるほど、勇者らしいですね。優しいというか。じゃああとにしましょう」
入れ替わるには面倒な人間……か。まあそれはこの数日間で痛感しているが。
そうこう話してるうちに見慣れた風景に戻ってきた。こんな車で乗り付けたところを伯
母さんに見られたら厄介なんで、車はマンションから見えない位置に停めてもらう。
「あとさ、念のためついてきてくれるとありがたいっつーか……」
あの伯母さんだからなぁ。またなんかあってヒステリー起こされたら、俺対処する自信
ねーもん。
「はいはい。なんか急に頼られるようになっちゃいましたねw」
とか言いつつショウはついてきた。玄関の前で待っててもらい、俺だけ中に入った。
室内には人の気配がしなかった。伯母さんは出かけているようだ。テーブルの上に俺が
出がけに置いていったメモがそのまま載っていたが、よく見ると隅っこに別の字体で「買
い物に行きます。夕方には戻ります」と書いてあった。
普段ならいちいち書き置きなんてしないタイプだと思うが、きっと昨日のことを気にし
ているんだろう。どうやらあの伯母さんも、心の底からタツミのことを嫌っているわけじゃ
なさそうだ。
「ほんと、複雑な人間関係だよなぁ」
タツミの自室に入る。テレビ画面の中では、タツミたち一行は女海賊のアジトに来てい
て、なにやら問答していた。ま、パーティメンバーに黒い騎士――『東の二代目』が入っ
ているので、何が起きてもよっぽどのことがない限り大丈夫だろう。
携帯、今なら通じるかな。今だけは通じて欲しい。
プルルルルルル! プルルルルルル! プル……
『はいはーい、どした? なんか困ったのアルス』
この野郎……。今まで散々シカトぶッこいてたくせに、その普通の応答はなんだ。
「どした、じゃねえよ。今朝から何度もかけてたんだぞ。そんなにあからさまに無視する
ことないだろ」
俺がそう言うと、携帯の向こうでタツミはウッと言葉を詰まらせた。だってこいつと会
話するの、昨日の夜以来だからな。俺がゲームで何度も冒険を繰り返して嫌になったって
告白したあと、「それでプレイヤーを犠牲にして入れ替わるなんて八つ当たりだ」とこい
つにマシンガンの如く責め立てられて終わったままだ。
『そ、そうだよね。ごめんね、いろいろ立て込んでたんだ。無視して悪かったけど、ほら、
そっちとは時間の流れが違うだろ? ちょっとくらい大丈夫かなって思ってさ』
なにやら必死に取り繕っている。俺はその態度も納得できないのだが。
「なあタツミ。お前、なに考えてる?」
しどろもどろと弁解を続けるタツミを遮って、俺はストレートに聞いた。
「昨日お前が言ったことは全面的に正しいよ。お前はただ、ちょっとしたヒマ潰しに親に
プレゼントされた古いゲームを楽しんでいただけなんだ。そのゲームのキャラに逆恨みさ
れて、立場を奪われるなんて理不尽はないよな」
『……どうしたのアルス? なんか変な物でも食べた?』
通話口の向こうで、タツミはマジメに心配してるように声を低めた。俺は無視して言葉
を続ける。
「だけどお前はどうも、俺のことを嫌ってるわけでもないみたいだし。昨日のアレだって
本音じゃなかったろ? お前がなにを考えてるんだか、俺にはわかんねえよ」
少し間があった。
『うーん……あのさアルス、前々から言おうと思ってたんだけど。君ちょっと、物事を深
刻に考え過ぎじゃない?』
「――はぁ」
思わず気の抜けた声が漏れた。なんだそりゃ。
『やっちゃったもんは仕方ないんだから、グダグダ悩んでないで楽しめってこと』
タツミはまるで、ポンと背中でも叩くように気軽な言葉を投げてきた。
『君が最初に言ったんだよ、これはゲームだって。だから僕はクリアに専念することにし
たし、勇者なんて夢みたいな立場もそれなりに楽しんでる。ゲームってのは楽しんだ者勝
ちだろ? そもそも、それくらいのゆとりが無きゃ勝てる物も勝てないっしょ』
確かに今の俺にはゆとりなんて無いと思うが。
『まあ、僕がクリアするまでは "三津原辰巳" の名前を預けてやるから、それまでアルスも
好きにしなよ』
「ちょ、おま、それでいいのかよ!」
『うん。だってゲームなんだし』
おいおい。お互いに一生の問題がかかってるはずなんだが。
……なんか悩んでるのがバカらしくなってきた。
「なーにがクリアするまでだ。お前こそ、これからの勇者生活がもっとラクになるように
頑張っとけ。どうせもう二度と帰れないんだから」
『うーわ、なんかこいつ急にヤル気になってるしー』
携帯の向こうでタツミは吹き出した。まるで普通の友達とくだらない話で盛り上がって
いるみたいに。ホントうちのプレイヤーはなに考えてるかわからん。
「あー……タツミ。俺これからちょっと出かけるが、しばらく連絡が取れなくなると思う。
今はレイと一緒なんだよな?」
『そうだけど』
「面倒ごとはなんでもアイツに押しつけて、お前は無理すんなよ。いいな」
『およ? えーと了解。じゃあそっちも気をつけてね』
「ああ。またな」
携帯を切る。
ひとつ深呼吸した。
それから俺はすぐ玄関に行き、隙間から顔だけ出した。待ちくたびれた様子のショウが
ホッとしたように声をかけてきたが、
「すまん。もう5分だけ待っててくれないか? ホント悪い」
俺は申し訳ない顔を作って拝むように手刀を立てた。室内を気にするように振り返って
みせると、ショウは納得してうなずいた。
「ああ、彼女まだ落ち着いてないんですか。僕が行きましょうか?」
「今はかえってお前が出ない方がいいと思うんだ。面倒なことになってるわけじゃないん
だけど……」
「いいですよ。こうなったら焦っても仕方ないですから」
ふわりと笑って、「でもあと10分くらいでなんとかしてくださいね」とまた横の壁に背
中を寄りかからせる。俺はもう一度「悪いな」と謝ってから、ドアを閉めた。
そして今度は――ゆっくりと、外に聞こえないよう静かに鍵を掛けた。
こうして一度顔を見せておけばショウも安心するだろう。自分で言ったとおり、あと10
分くらいは律儀にあそこで待っているはずだ。靴を持って、ベランダに出てから履き直す。
ゲーム機の本体を押収されたら厄介だな……とは思うが、これはどうしようもない。その
時はその時だ。
ひらりとベランダの柵を飛び越えた。4階程度なら「移行」が完了していない今の俺で
も平気で降りられる高さだ。場所は直接あのサイコ野郎に電話で聞くとして、移動手段は、
慣れないうちはタクシーを捕まえた方が早いってショウが言ってたっけな。
走り出そうとして、ふと目の前の公園を見て思い出した。去り際のユリコのセリフ。俺
と出会った時のベンチの位置をやたら気にしていたっけ。
周囲を警戒しつつその場所に行ってみると、思った通りベンチの下になにか置いてあっ
た。紫の布に包まれた細長いもので、持ってみるとずっしりと手に重い。口ひもをほどい
て中を覗いてみると、金で装飾された柄(ツカ)と、それに続く長柄の鞘が見えた。
俺が使った、あの日本刀だ。
「こんなとこに置いといたらアブねえだろうがw」
やっぱ期待されてるらしい。
ずっとイライラしていた。煮え切らなくて、決意しきれなくて。自分がこんなに優柔不
断で、覚悟の決まらないヤツだとは思わなかった。しかも情けないことに、今でもいろい
ろ迷ってる。だけど。
好きにしなよ。
その一言が、俺の中でくすぶっていた物をみんな吹き飛ばしてくれた気がする。
まあ行くだけ行ってみるか。ゲームは楽しんだ者勝ち、らしいからな。
本日の投下はここまでです。
いや〜、本当にお久しぶりになってしまいました。
まだまだリアルでちょっと多忙なので、
以前のようなペースでの投下は難しいのですが、頑張ります。
ようやくうちのウジウジ勇者クンが吹っ切れたところで、
次回はいったんゲームサイドへ。
乙!超待ってました!
R氏の作品は何年待つことになっても完結まで読むつもりなので、
頑張ってください!
85 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/09/28(月) 23:04:50 ID:2x5byAkxO
遭遇記念ぬるぽ
ひとまずガッ
あとなんか一言くらい書いてやれよ。
サンクスコールの時タツミたちが含めていいのか悩むぞw
改めて乙!
さすがに展開ちょっと忘れてて読み直してきたw
アルスが本当に無視しないで良かったよ。やっぱ勇者は見殺しにしちゃダメだよなw
ちょっとタツミの過去の謎を引っ張りすぎって気がするけど、今後の展開も期待してるよ。
ども、俺です。
またドラクエ世界に来て2回目の朝です。
今俺が何をしているかというと、戦ってる最中です。
誰と? それはそれは強い魔物連中とです。
その数300。
ウソじゃなく、マジで。
ローレシア城を後にした俺は持ち物の確認から始めた。
携帯、100円ライター、タバコはすでに確認しているので用はない。
用があるのはDSL。
そう、前回同様電源が入りっぱなしのDSLだ。
上画面にはやはり前回同様に宿屋スレのロゴ。
下画面には6つのコマンド。
タッチペンで「どうぐ」コマンドをタッチする。どうせタッチするならおっぱいのほうがずっといい。
おっぱい! おっぱい!
ともかく、「ふくろ」の中身をチェック。
聖水、鍵が18個、曲がった釘が6本、網、炎の剣、鎖かたびら、皮の盾……。
間違いない、前回の装備品と道具だ。
親父からボッた鍵とぶっ壊れた棍棒から引っこ抜いた釘、キメラを捕まえるために使った網が何よりの証拠。
一体どうしてと思うより、装備品があったことに安堵する俺。
ある意味升といえるファミコン神拳がいない今、装備品すらなかったらまともに生きてはいられなさそうだ。
炎の剣、鎖かたびら、皮の盾を装備。
ロンダルキアまでどんなルートで行くのが最短かわからないがとりあえずローラの門を目指す。
途中出てきたモンスターは炎の剣のおかげで超楽勝。
竜王との死闘を経験した俺には怖くない。
炎の剣も升かもしれんね。
俺無双wwwwwwwwwwwwwwwww
そんなことを考えていたからだろうか。
ローレシア〜リリザ間でそれに気付いた。
最初は雲だと思った。
だが、良く見てみるとなんかおかしい。
雲にしては小さいし、バラつきがある。
「……mjd?」
呟いた俺の目に映っている雲は、モンスターの群れだった。
「おいおいおいおいおいおいおいおいオイオイヨ」
思わずメダパニっちゃうのも仕方ない。
それだけ衝撃的な映像だ。
ヤバイ。ローレシアヤバイ。まじでヤバイよ、マジヤバイ。リリザヤバイ。まず多いい。もう多いなんてもんじゃ(ry
リアルな話すると多分ローレの住んでるローレシアが消し飛ぶ
光速でウンコほどの質量(約200〜300グラム)の物体が動いたら想像を絶する衝撃波が発生する
ましてそれが地表と激突したら地球がヤバイ
お前のウンコで地球がヤバイ
いや違う、ウンコじゃない。モンスターだ。いやウンコだ。やっぱりモンスターだ。いっそのことウンスターでいいよ。
やべえ落ち着け俺。
//\⌒ヽペペペタタン
// /⌒)ノ ペペタタタン
∧∧_∧∧ \ ((∧∧_∧∧
((; ´ДД`)))' ))((・∀∀・ ;)) <おおお俺ももちつつけけ
// ⌒ノノ ( ⌒ヽ⊂⊂⌒ヽ
.((OO ノ )) ̄ ̄ ̄()__ )))
))_)_)) (;;;;;;;;;;;;;;;;;;;)(((_((
んで、気がついたら300のモンスター相手に俺無双してた。
炎の剣がなかったら多分もう負けてる。
右から左から襲ってくるモンスターをちぎっては投げちぎっては投げ。
比較的弱いモンスターの群れ相手とはいえ、無双してると何がなんだかわからなくなってくる。
最高にハイになってきてるせいか、敵の動きがスローモーションに見え始めてきた。
最初は幻覚だと思った……
訓練されたボクサーは相手のパンチが超スローモーションで見え……
事故に遭った瞬間の人間は体内や脳でアドレナリンやらなにやらが分泌されて一瞬が何秒にも何分にも感じられるというあれだと思った
だが……我がスタンド「世界」はその静止している空間を弾丸をまわりこんで体全体で動くことができた そして弾丸をつかんだ……
いや、スタンドもなければ弾丸なんか掴んでないが。
もしかしてレベル上がってきてるんじゃね?
多分今の俺のレベル3000000くらいある。間違いない。
こんだけ強ければ絶対3000000あるよ。
だってガーゴイル強いもん。ガーゴイルさんパネェっすwwwwww
パピラスとかありえん。ありえんwwwwwwwwww
ホークマンだってこんなとこで出てくるような敵じゃないっしょwwwwwwどこで出てきてんすかwwwwwwww
獣兵団相手にしたアルス達の気持ちがわかる。
てか、死にたくない。
もうあんな思いすんのはごめんだ。
ちきしょう、ちきしょう、死にたくねえ。死にたくねえ。
かと言って逃げ出せそうにもない。
100くらい斃したと思うがまだまだいる。
敵多すぎワロ……えない。
誰でもいい、この状況を打破できる方法を教えてくれ。
……待てよ。
獣兵団、か。
数十万の獣兵団をタルキンは打ち破ったはずだな。――自己犠牲呪文で。
ある決意を固めた俺に、モンスターどもも何かを感じ取ったのか動きを止める。
「俺は、これからある呪文を唱える。死にたくない奴はとっとと逃げろ」
モンスターどもに少なからず動揺が走る。
2の世界のモンスターなら俺の使う呪文がわかるはずだ。
2をプレイしたことがあるならわかる。
サマルトリアの王子が使える呪文――ムーンブルクの王女には使えぬ呪文だ。
「この呪文を受ければお前らは間違いなく全滅する」
動揺が怯えに変わる。
まだ半信半疑といったところか。
「致死率は100%。ザラキなんかとは比べ物にならないからな。
嘘だと思うなら逃げずに食らえ。言っておくが、手加減はしない」
俺はまだこの呪文を使えない。
だが、ギラもホイミもラリホーもレミーラも使えた俺が使えないことはない。
何も勇者専用の呪文じゃない。
キム皇は言っていた、集中とイメージと。そしてこの俺はキム皇なんかよりイケメンで憧れると。
「もういい。――無様に死ね」
流れる魔力を右手に集中。
命を砕くイメージ。
――同時に左手にも魔力を集中。
「右手からメガンテ……左手からルーラ……合体!」
一度行った街や村と引き換えに相手に大ダメージを与える禁断の合体魔法!
「メガルーラ!!」
し か し な に も お こ ら な か っ た !
……VIPPER頼りにならねえ!
俺の並々ならぬ迫力に多くのモンスターどもは逃げ出したのでその隙を突いて俺も逃げ出した。
性交もとい、成功するとは思ってもいなかったが。
この世界で一度行った街と言えばローレシアしかない。危うくローレシアが滅ぶところだった。
仮に成功していたら大量殺人犯もいいとこだ。
そういう意味では成功しなくてよかった。性交はしたいけど。
何はともあれ、桁外れの戦闘でボロボロのため、リリザで休息を取ることに。
6ゴールド払い、ベッドにダイブするとすぐに眠りに落ちた。
翌日、昼過ぎにようやく目が覚めてリリザでアイテム物色。
武器は炎の剣だからわざわざ弱い武器を買う必要はない。
リリザで売っている鎖かたびらもあるし、皮の盾もある。
ムーンペタまで防具は買い揃えることはできないか。
「なあ、おっさん。この鎖かたびらって補強や強化はできないか?」
「……金はもらうぞ」
無愛想な武器屋の親父に金を握らせて、古くなった鎖かたびらに新しい金属製の糸を巻いて補強を兼ねた強化してもらう。
ついでに皮の盾にも金属製の糸を巻いて強化。
若干重たくなったが防御力の点で言えば多少はマシになったろう。
錬金釜があれば楽にできていたのかもしれない。
武器屋を後にしてからは外の様子見。
昨日の大群はどうやら襲ってこないようだ。
それと同時に情報収集。
すなわち、ムーンブルク陥落後か前か。
陥落前なら、ムーンブルクを襲うモンスターと交渉してハーゴンの元まで連れて行ってもらう。
陥落後なら、王子一行もハーゴン討伐の旅に出ているはず。手段を問わずハーゴンの元に向かわねばならない。
しかし、ハーゴンのハの字も出てこないところを見ると恐らく前者。
昨日のこともあり結構切羽つまってたんだが、杞憂だったようだ。
「噂ではモンスターの群れがローレシアを狙ってるらしいわよ。
え? あなたが斃したの? うっそー!」
「嘘だと思うなら見てみるか? 俺の『剣』を」
というわけで、4日目の朝です。
何が起きたか今回はFFのアビリティで表現しておこう。
挑発
耐える
誘惑
調べる
魔力の泉
覚えた技
トランス
居合い抜き
狙う
突撃
乱れ撃ち
踏ん張る
精神統一
放つ
無想無念
労わる
ショートチャージ
元気
剛剣
食べる
ダブルアタック
トリプルアタック
暴れる
大乱舞
ハメドる
我慢
つよがる
散華
ご 馳 走 様 で し た 。
そんなこんなでリリザを後にした俺は真っ直ぐローラの門へと向かう。
申し訳ないがサマルトリアはスルー。
ぶっちゃけ、サマルトリアはロトの盾と王女しか特筆すべきことはない。
盾は一般公開されているわけがないし、王女がそう簡単に庶民の前に出てくるわけもない。
自分の部屋にこもりっぱなしのはずだ。
怪傑大鼠でもいれば話は別だが。
勇者がローラを抱いて通ったことから名付けられたローラの門。
あの竜王を斃した勇者は何を思って門を通ったんだろう。
ローラ自重www
来るぞ…
※鳥肌注意※
↓つまんね
全てのスマブラ族に…
ってことはないだろうが。
LV:13
HP:42/44 MP:29/28
E:炎の剣 E:ジャージ+鎖かたびら改 E:皮の盾改 E:なし
呪文:ギラ ホイミ レミーラ ラリホー
特技:思い出す 舐めまわし 百裂舐め ぼけ つっこみ 雄叫び 口笛 寝る 穴掘り
急所突き マヒャド斬り
道具:携帯電話 タバコ×10 100円ライター
DSL:聖水×5 薬草×10 鍵×18 曲がった釘×6 網
武器の強化・・・wwww
またしてもチート、いえ頭脳プレイわらた。
大量のモンスター相手に無双すごかったですね。
尻ギラは健在なのでしょうかねぇ^^
保守
97 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/10/08(木) 17:51:43 ID:rqFsilUSO
果てしなきぬるぽ
がっ
99 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/10/10(土) 00:01:17 ID:YONg4xr00
導かれしぬるぽ達
>>59-71の続き ※今回は少々グロいです。
「これを見てください」
エンドールの安宿の一室に、私たち「四人」はいる。四人。そう、マーニャちゃんとの再会を果たしたすぐあと、
ミネアちゃんとも会うことができたのだ。アリーナちゃんたちと泊まった宿と比べ、随分と質素な宿、
その一室で私たちは、雁首そろえて水晶玉を覗き込んでいる。透明だった水晶玉は深い藍色の闇に包まれた。
ぼんやりとした光がいくつか見えた。
大きな緑色の光と、それに対を成すように隣り合った赤い光。それぞれ色は違えど形もサイズもまったく同じだ。
その二つの周りを取り囲むようにある、七つの白い小さな光。水晶玉の闇の中に、確かに存在している。
「この緑色の大きな光が、私たちを導いてくださる勇者様、つまりソロさん。あなたのことです。
その周りにある小さな白い光が、私たちのことを表しています。……私はこの白い小さな光に対応する存在のことを、
『導かれし者たち』と呼んでいます。私や姉さん、そしてまだ見ぬ仲間たちのことです」
触れないように水晶玉を撫でるミネアちゃんの手つきは妖しく抽象的なものから具体的な情報を手繰り寄せていた。
「そして……この緑の光と赤い光の間を見てください。二つの光、そのちょうど真ん中のところです」
ミネアちゃん以外の頭が三つ、水晶玉にずい、と近寄る。影が出来ているのに、水晶玉の中のものははっきりと私たちの目に映った。
何色だろう。白でも青でも赤でも緑でもない、微妙な色のキラキラした小さなものが見える。
緑と赤の周囲を囲むように存在している「導かれし者たち」を表す白い光とはまた違う。
人工的に作られた宝石であるジルコニアのように、七色ともつかない判別しがたい色できらめいているものがあった。
「この赤い光が誰のことを表すのかはまだわかりません。ですが、この緑色の光と対を成していることはわかります。
おそらくこれば、ソロさんと同じくして違うもの。つまり『対極の魂』の存在だと思います」
「対極の魂?」聴いたこともない言葉に、私はわずかながら水晶玉から視線をずらしミネアちゃんを見る。
「すべてのものは、必ず一対になって存在しているという存在証明魔術論の一説です。存在が対になっているのは、
人も、物も、変わりありません。いまここでこうしている私たちにも、必ず対になる存在がいるものです」
「……っていうと、この緑の光がソロとしたら、この赤いのはソロと対を成す誰かってことで、その真ん中にあるキラキラは?」
赤く染めた爪の先で、マーニャちゃんが水晶玉の中のキラキラを指す。
「推論にはなりますが」
息を呑むような物言いで、ミネアちゃんは前置きする。
「このきらめきは、対になるソロさんともう一人の方を繋ぐ役割を果たす方のことを表しているのだと思います。
今見ていただいている水晶玉の光景を、私はこれまで幾度となく観察してきました。ソロさんと、その対を成す方、
私たち導かれし者たちを表す光が、かすかに震えるように動いているのは見たことがあります。ですが、このきらめきだけは、
いついかなるときも動こうとはしません。……まるで、動き回る私たちの道しるべになっているかのように。
導かれし者たちを導く勇者、その勇者を導く存在。強大な一対の力と、その周囲を守る力を、見えない引力でひきつける存在。
―――それが、メイさん。あなたなのでしょう」
「……で?」
私はとうとう耐え切れなくなった。目の下と眉間に力が入っているのがわかる。
今ミネアちゃんが話したことの意味は、まあなんとなく理解できた。この世にあるものは全部、自分ともう一方で成り立ってる。
ソロと対になってる奴、ミネアちゃんやマーニャちゃんたちみたいな「導かれし者たち」を引き寄せているのは私。
だから、どうしたってんだ。
なぜ私がイラついているかって。だって、私はミネアちゃんにこんなことを尋ねた。その答えが、今の話だったのだ。
―――どうして私にはソロの声が聞こえないの? そう、尋ねたのだ。答えになってない。
「……では、はっきりと申し上げます。メイさんは、勇者に『導かれた』者ではないのです。だから、ソロさんの声も聞こえない」
「だ、だったらどうして、そこらにいる人たちはソロの声が聞こえてるの!?私だけ聞こえないのはなんでなの!?」
声を荒げだした私を、ソロとマーニャちゃんが制する。椅子から浮き上がった腰を仕方なく下ろし、私はミネアちゃんに続きを促した。
「私たちの旅で、戦いを避けることはできません。考えて見てください。もしもすべての人に、戦いの最中、
ソロさんの声が聞こえていたら、勇者は過剰な勢力を持つことになる。そうなったときにおとずれる結果は、
勇者が正義の化身であっても世界の崩壊であると決まっています。ましてや―――現物の進化の秘法を生身で再現するあなたです。
もしもソロさんの声が聞こえていたら。もしもソロさんが、戦いにおいて誤った命令をあなた出してしまったら」
「そんな……理由で……」
ごりり、と奥歯が噛み締められて嫌な音を顎に響かせる。握り締めた両拳が震えていた。
「あなたにソロさんの声が聞こえないのも―――すべては神の御心のままに決定していたことなのでしょう」
「ふざけるなあァッ!!!」
ところどころ欠けている石造りの壁がドォンと鳴った。叩き付けた左の拳がぬるぬるする。流血も構わず、私は怒鳴った。
「何が神の御心だ!何が導きし者だ!ふざけるな!神はどこまで傲慢で、そして愚鈍だ!?私もソロも、世界の崩壊なんて
望んじゃいない!そんな馬鹿げた理由でソロの声が聞こえないなんて堪えられ」
息が途切れる。マーニャちゃんが悲痛な顔で私がひっくり返した椅子を起こしている。目の前にはソロがいた。
急に視界に飛び込んできた青い瞳のせいで、私は胸中を叫ぶことができなくなった。
―――僕も世界の崩壊なんて、嫌だから。
メイさんが戦わなくてもいいぐらい、僕が戦闘で『メイさん、助けて』って言わなくてもいいぐらい、強くなるから。
ごめんね。ごめんね。ちゃんと声でさわってあげられなくてごめんね。
力なく壁から滑り落ちた左手を、ソロがそっと握りこむ。弱々しい未完全な癒しの光が、……ソロのホイミが、流血を止めていく。
―――神様はきっと、すごく大変なんだ。世界がこんなになっちゃったから。
だから、僕たちの村を助けられなかった。
もしメイさんが世界を壊してしまいそうになったとしても、止められないかもしれないから、だから、
―――だから、僕の声を聴こえなくしたんだよ。
でも、僕は大丈夫だよ。メイさん、わかってくれてるでしょ? 僕の言いたいこととか、伝えたいこととか、全部さ。
「……で?」
私はとうとう耐え切れなくなった。目の下と眉間に力が入っているのがわかる。
今ミネアちゃんが話したことの意味は、まあなんとなく理解できた。この世にあるものは全部、自分ともう一方で成り立ってる。
ソロと対になってる奴、ミネアちゃんやマーニャちゃんたちみたいな「導かれし者たち」を引き寄せているのは私。
だから、どうしたってんだ。
なぜ私がイラついているかって。だって、私はミネアちゃんにこんなことを尋ねた。その答えが、今の話だったのだ。
―――どうして私にはソロの声が聞こえないの? そう、尋ねたのだ。答えになってない。
「……では、はっきりと申し上げます。メイさんは、勇者に『導かれた』者ではないのです。だから、ソロさんの声も聞こえない」
「だ、だったらどうして、そこらにいる人たちはソロの声が聞こえてるの!?私だけ聞こえないのはなんでなの!?」
声を荒げだした私を、ソロとマーニャちゃんが制する。椅子から浮き上がった腰を仕方なく下ろし、私はミネアちゃんに続きを促した。
「私たちの旅で、戦いを避けることはできません。考えて見てください。もしもすべての人に、戦いの最中、
ソロさんの声が聞こえていたら、勇者は過剰な勢力を持つことになる。そうなったときにおとずれる結果は、
勇者が正義の化身であっても世界の崩壊であると決まっています。ましてや―――現物の進化の秘法を生身で再現するあなたです。
もしもソロさんの声が聞こえていたら。もしもソロさんが、戦いにおいて誤った命令をあなた出してしまったら」
「そんな……理由で……」
ごりり、と奥歯が噛み締められて嫌な音を顎に響かせる。握り締めた両拳が震えていた。
「あなたにソロさんの声が聞こえないのも―――すべては神の御心のままに決定していたことなのでしょう」
「ふざけるなあァッ!!!」
ところどころ欠けている石造りの壁がドォンと鳴った。叩き付けた左の拳がぬるぬるする。流血も構わず、私は怒鳴った。
「何が神の御心だ!何が導きし者だ!ふざけるな!神はどこまで傲慢で、そして愚鈍だ!?私もソロも、世界の崩壊なんて
望んじゃいない!そんな馬鹿げた理由でソロの声が聞こえないなんて堪えられ」
息が途切れる。マーニャちゃんが悲痛な顔で私がひっくり返した椅子を起こしている。目の前にはソロがいた。
急に視界に飛び込んできた青い瞳のせいで、私は胸中を叫ぶことができなくなった。
―――僕も世界の崩壊なんて、嫌だから。
メイさんが戦わなくてもいいぐらい、僕が戦闘で『メイさん、助けて』って言わなくてもいいぐらい、強くなるから。
ごめんね。ごめんね。ちゃんと声でさわってあげられなくてごめんね。
力なく壁から滑り落ちた左手を、ソロがそっと握りこむ。弱々しい未完全な癒しの光が、……ソロのホイミが、流血を止めていく。
―――神様はきっと、すごく大変なんだ。世界がこんなになっちゃったから。
だから、僕たちの村を助けられなかった。
もしメイさんが世界を壊してしまいそうになったとしても、止められないかもしれないから、だから、
―――だから、僕の声を聴こえなくしたんだよ。
でも、僕は大丈夫だよ。メイさん、わかってくれてるでしょ? 僕の言いたいこととか、伝えたいこととか、全部さ。
「俺はステージ上で歌うことによって、ライブハウスにいる女の子全員をレイプしてるんだ」
「……それは何、セクハラ発言として捉えてもいい言葉だよね?」
外国語を喋る外国人の言葉を調子よく翻訳したような口ぶりで、木暮貴志は胸を張っていた。
呆れてはいるがその中に優しい苦笑を混ぜたメイが抱えているギター、そのネックの部分を、
まるで女の体を愛撫しているかのようになぞりながら、木暮貴志―――ソロと呼ばれるボーカリストはにやりとほくそ笑む。
その歳に不釣合いな表情に艶かしさを覚えながら、メイは詩人めいたソロの言葉の真意を探った。
「はいはい。それで、その発言にはどういう意味がこめられてるのかな?こぐ―――、ソロくん」
「んっふふ。ロックとかメタルとかってさ、クレイジーでエロくてギャラクシーでなんぼじゃん。
でも、そんな風に俺がなるのは現実的に考えて無理。だって俺、ライブハウスとかスタジオにいるとき以外は普通の高校生だもん。
だからせめて、歌っているときはクレイジーでエロくてギャラクシーになるの。俺の声を耳に入れた女の子たちは、
みんな俺とチョメチョメしてると思いながら歌うんだ」
ぎゅいぃ、と無理に弾かれたギターの弦が悲鳴を上げる。ソロの声とギターの悲鳴が鼓膜に伝わり、メイの脳に陶酔を与える。
「メイさんだって、例外じゃないんだぜ?」
「そ、うなの」
「だって、一番近くで俺の歌聴いてんだから。俺の声がメイさんの身体中、全身、ねっとり絡み付いて触ってんだよ」
ファンデーションを塗っていて良かったと、メイは思った。耳は髪の毛で隠れている。どれだけ赤くなろうと、ソロは気づかない。
「あ、ドン引きした?」
「ん、んん。してないよ。うん。ロックやメタルなんてそんなもんだし。それにしたって、まあ、なんだろ。
『声で触る』とか『声で犯す』とか、なんかいいね。ツボだわ、そういうの」
褒められて満足したのか、ソロはメイの傍から離れて得意のマイクターンを披露して見せた。
機材に繋がったコードが宙を舞って、二度とは同じ形にならない曲線を空気の中へ叩きつける。
「俺の声に触れられた女の子には、歌に込められたことが伝わってますようにって毎日お願いしてるんだ」
「メッセージ性を持ってるってやつ?何を伝えたいの?」
「えー?世界が平和になりますように、って。」
「何それぇ?」
「いーじゃんかぁ。ポリスだってジョン・レノンだって、世界平和を歌って有名になったんだから。俺、争いごと嫌いだし」
「おい」
夢のようなひととき(もっとも、それはメイにとってだけではあるが)を突如破って入り込んできた声が癪に障る。
この声に、今このスタジオにやってきた佐呂間という男に犯されていると思うと、
メイは腹の底からおぞましい雄叫びをあげたくなるのだ。
「あー、ベースでオンナを泣かせる人が来た」
「……バカ言ってないでさっさと準備しろ」
はーい、と気のない返事を返すソロと、注意するだけでそれ以外には何も干渉しない佐呂間を交互に見てみる。
似ても似つかない、と、メイは心の中で一人呟いてみた。
―――もう誰も信じない!帰ってくれ!
見た目が怖いからって理由で損をした経験は数え切れないほどあるけど、さえずりの塔の時といい、今回といい、
ここまで来るとなんだか悲しくなってしまう。
あのあと……ソロの声が聞こえない理由を知って一人勝手にブチギレたあと、私は脱力してその場に座り込んでしまった。
何も言わずにひっくり返った椅子を治して私を座らせてくれたマーニャちゃんと、
怒鳴ってしまったことを責めもしなかったミネアちゃんには謝っても謝り足りない気持ちで一杯だ。
わかっているんだろうか、私は。ソロが言いたいことや、伝えたいことを。
元の世界のソロも、世界平和を願って歌ったその声で聞き手に触れていると言った。
それが本気であれ冗談であれ、私は彼の真意を汲み取ることが果たして出来ていたのだろうか。
この世界のソロは、私はすべてわかっていると言った。
ソロと、ソロ。もし何らかの形で、それこそ昨日ミネアちゃんが言っていた「存在証明魔術論」の「対極の魂」の一説が
本当に存在する理論だとしたら、私がソロのことを少しでも理解していたと信じてみても許されるかもしれない。
ぼんやりと色々なことを考えて思い出していたけど、話と状況を元に戻す。
「もう誰も信じない」と叫んだのは、砂漠越えを目指す旅人が休んでいく宿屋の息子、ホフマンくんだ。
なんでも、昔「親友」と呼べる仲の人間と、宝物が隠されているという洞窟に挑み、そこで裏切られたらしい。
邪推でしかないけれど、人間は誰だって自分が一番可愛い生き物だから、
大方魔物に襲われたところを彼ひとり残して「親友」が逃げ出したとか、そんな理由なんだろう。
邪推とは言った。が、実に下らないと、話を聞いたときの私は思った。
信じる信じないは別として、「他人には求めすぎてはいけない」ってことを、
人間関係が希薄になりがちな「旅」や「冒険」を重ねるうちに学ばなかったんだろうか。
そもそも私たち一行がホフマンくんに接触を試みた理由は、トルネコさんがキャラバンを雇って抜けていったというあの砂漠を
越えるために、馬車を貸してもらおうとしたことだ。そこで彼の持論「信じられない人間に自分の大切な馬車を貸せるか」と来たわけだ。
ホフマンくんに人を信じる心を取り戻してもらったら、馬車も貸してもらえるかもしれないということで、
私たちは彼が昔探索したことがあるというこの洞窟にやってきた。この洞窟で色々とあったなら、「親友」が彼を裏切った理由も、
もしかしたらここにあるのかもしれないってわけ。
なんで砂漠を越えるために馬車を借りるってだけで洞窟にもぐらなきゃいけないのかと不満げに漏らすマーニャちゃんと、
それも仕方がないことだと割り切って暗く湿っぽい洞窟に入り込んだミネアちゃんも、
よく当たる占い師の言うことなら間違いないからと鉄の槍片手に意気込んでいたソロも、
いま、ここにはいない。
連投回避
メイ「黄金の腕輪の力で連投規制をどうにかできないものかと」
ソロ「 」
メイ「前は8連投とか出来てたんだよ。短くしようにも話をはしょるわけにいかないし」
ソロ「 」
メイ「うん、そうだね。夕方に投下できるか試してみる」
ソロ「 」
メイ「ん?何?」
ソロ「
>>99 ガッ!」
メイ「ソロがしゃべった!?」
ハ,,ハ
( ゚ω゚ ) 連投規制お断りします
/ \
((⊂ ) ノ\つ))
(_⌒ヽ
ヽ ヘ }
ε≡Ξ ノノ `J
※以下グロテスク描写注意
洞窟は固い石の壁や重い鉄の扉に阻まれて、仲間と協力しなかったら先に進めない構造になっている。
どういう意図でこんな面倒くさい造りにしたのか、ここを掘った奴に問いただしてみたくなった。
いくつかの壁を蹴破り、鉄の扉を開け先に進んだところで、突如地面がなくなった。
下から上に風が吹いたと思ったら、それは私達が重力に逆らわずなくなった地面のさらに下へと落下しているせいだった。
洞窟というものは、大抵の場合は地下へ地下へと掘り進めてあるもので、気圧や壁の位置の関係でそうなっているのか、
落下している最中はものすごく強い風に煽られた。
そして、気がついたら一人だったのだ。
「ソロー!マーニャちゃーん!ミネアちゃぁーん!」
大声で呼んでも返事ひとつ返ってこない。几帳面に敷き詰められた石畳の床を苛立ちに任せて蹴りつけてから、
私は仕方なくたった一人で洞窟探索を再開した。本当ならいったん外に出てみんなを待っていたかったけど、
頭上を見上げても落ちてきた穴まではよじ登れそうな高さではないことしかわからなかったし、
何よりも落ちた先は大部屋で、先に進むしか道が残されていなかったのだ。
怖い。と、本能が心に語りかけている。一人というのは、こんなにも心細いものだっただろうか。
だって、今まで……元の世界にいたころは、いつだって、昔から今まで何も変わらず一人だったのに。
静寂が耳に痛いとはまさにこのことだ。魔物一匹すら出てこない。気配という気配がまったくしない。
たったったったっ……
軽い足音が天井に響いた。私の靴音はこんなに軽くも柔らかくもない。誰かがいる。魔物の足音ではなかった。
ソロ? この際、マーニャちゃんでもミネアちゃんでも構うものか。とにかくみんなと早く合流したい。
そんな思いで、私は足音を追いかけた。彼ら三人の名前を変わりばんこに呼びながら、全速力で走る。
曲がり角に差し掛かった。革の鎧からはみ出した緑色の服の裾が、ちらりと壁の角に隠れた。
「ソロ!ソロ!」
安堵のせいか、息が上がってきた。人間必死になりすぎると、走って息が切れることすらも忘れてしまうから。
角を曲がった先は行き止まりだった。鉄の槍を握り締め、うろこの盾を構えて脅えているソロが、壁に背中をつけている。
「……よ、よかったぁ。メイさんだったんだ。ああ、怖かった。魔物が追いかけてきたのかと思ったよ」
眉をハの字に下げて笑うソロに、切れ切れの息を整えながら私も笑った。
「うん、私も最初は魔物かと思った。でも、足音聞いたらすぐにソロだってわかったから、全速力で追いかけてきたんだよ」
額の汗を拭って、ソロにケガがないか確認しようと歩み寄る。
「そんなに息が切れるまで、僕のところに来てくれたんだね。……もうすぐその切れ切れの息も止まっちゃうって言うのにさ!」
どきゅ、ぼきん、と左肩からとても嫌な音が聞こえた。
「がッ……!?」
ずぼっ、と左肩から抜けた鉄の槍には、私の赤黒い血がたっぷりついている。ソロはとても楽しそうに、嬉しそうに、私を刺した。
「……ソロ?うぐぁあ"あっ!!」
風穴の開いた左肩を、鉄の槍の先端がかすっていった。破れた革のコートの切れ端が血と一緒に壁に叩きつけられた。
「ひゃははは!お前、バカだなぁ!頭の中は『ソロ』『ソロ』、それ一色だ!本物のその『ソロ』とやらも、
今頃オレ達の仲間に食い殺されてるだろうよ!」
膝をついてうずくまる私の背を、甲高くて嫌に耳につく声に変わった「ソロ」が乱暴に踏みつけた。
違う。違った。これはソロの声じゃない。ソロの声はもっと優しくて低いんだ。それに……。
―――どうして私には聞こえない!?
以前叫んだ言葉が頭蓋骨の中で反響している。そうだ。私にはソロの声が聞こえない。初めから、このソロはソロじゃなかったんだ。
それなのに、気づかなかった。ああ、なんてバカなんだろう私は。だけど。
「さて、どこから食おうか。まずは腕と脚をちぎって食うかな。動けなくなったところで、目玉を抉って、
脳味噌と心臓をいただくとするかぁ」
右の肩越しにソロの偽物を睨み上げると、肉が焦げるようなニオイの蒸気と共に、ソロの輪郭が崩れて小鬼の姿が現れた。
「けけけけっ。オレ様は裏切り小僧よ。この洞窟にやってくる人間の『信じる心』とオイシイお肉をいただく魔族だ。
メス。メスだ。久しぶりの若い人間のメスだ!若い人間のメスの乳房は、舌の上でとろけるような美味さなんだよォブッ!?」
いきなり立ち上がってレザーブーツの固いカカトを顔面に食らった小鬼、もとい裏切り小僧は、言い切る前に舌を噛んだらしい。
クソ、なんてことしやがる。よりによって左の肩と腕をやりやがった。これはギターを弾く大事なものなのに。
ソロのためにギターを引き続けるために絶対必要なものなのに。
ホイミじゃたりない。もっともっと、強い癒しの魔法が必要だ。ミネアちゃんが使っていたアレが要る。
ホイミの魔力をもっと強めて、肉も血も骨も再生させるんだ。
「ベホイミ」
さっき上げた悲鳴のせいで割れている声で呟くと、黄金の腕輪は大人しかったがしっかりと強い治癒の光が溢れ出た。
イオの習得にはあんなに時間がかかったのに、ベホイミはこんなにあっさりと唱えられるなんて、
どうやら私が魔法を覚えるためには「火事場の馬鹿力」的な逆境が必要らしい。
コートに開いた穴は塞がらなかったが、肩のケガは完全に治っていた。ためしに左腕をぐるぐる回してみる。痛みもない。
「ゲゲェ、お前、回復呪文の使い手かよ!?……まあいいさ。もう一回動けなくするまうおぉ!?」
「言っとくが、テメェが何を言おうとこっちは聞く気なんてねぇよ。私はいま無性にイライラしてんだ。下等生物の声が耳にウザい」
ああ、なんて馬鹿なんだろう私は。だけど。
ソロに化けてあんなことをしたこの魔物を、許す気はない。久しぶりに理性のタガがぶっ飛んだ。
理性のタガと一緒に、裏切り小僧もぶっ飛ぶ。私の蹴りを腕で止めたはよかったが、私と奴じゃ身長とウエイトの差が激しくて、
止めた体ごと吹っ飛ばされたのだ。
壁に叩きつけられた裏切り小僧が血相を変えて身構える。ピンクだか紫だかわからん肌から、血の気が引いたように見えた。
「死ねよカス。テメェで仕掛けたケンカの尻拭いはテメェでしろや」
こんなのに武器を使って戦うことが馬鹿らしい。決死の反撃らしい一撃をわき腹に食らったが、気にもならない。
壁に追い詰めて蹴りつけ、踏みつけ、小さな手にカカトを叩きつけて指と手の甲の骨を残らず粉砕した。
その手からはがれた黒いつめが飛び散って、気色の悪い血がたらたらと床を汚す。
「ひぎぃやああぁあ!!な、なんだよ、お前ぇ!ちょっと、ちょっと脅かしただけじゃねぇかよぉ!なんでここまでするんだよぉ!」
「黙れやクズ」片手で握るのに丁度いい長さのツノを掴んで、力任せにねじってみた。ニンジンを折るようにポキンといった。
「ぎゃーあああーあ!」
「ああ、ツノ折れた。返すわ」
左の目に折ったツノを突き刺してやる。もう断末魔を聞くのに耳が慣れてきたらしく、文字情報に出来ないような声にしか聴こえない。
「ウゥウ"ううゥ、ちくしょう、ちくしょう……。お前、さっき俺が『ソロ』ってのに化けてたとき、
あんな猫なで声で話してやがってくせに……!優しい言葉遣いで笑ってやがったくせに……!本性はこんな、魔族より残虐な悪魔かよ!」
本性だとか、らしくないだとか、そういうのって世の中に存在する言葉の中で最もくっだらない部類に入ると思うよ?
だってさぁ、よく考えてみなよ。いつもと違って見えるそいつも、そいつであることに変わりは無い。
だから、何をしようと、何を言おうと、自分からは相手がいつもと違って見えたとしても、自分で考えてやってることや言ってることは、
全部本性じゃんかよ。
「悪魔ねー……、うん。昔よく言われた。高校生のときとか、ライブハウス行くたびに『悪魔が来た』って言われたわ。
ケンカふっかけてきた対バンの連中を五、六人動けなくしただけなのに。最初は逃げたよ?でも追いかけてくるんだもん。
やるしかないでしょ。だから立ち上がらなくなるまで殴ったんだ。私は『世界平和』なんて願えもしなかったし、歌えもしないもん。
『ソロ』と違ったからさぁ。世界中の人間殺して歩いたら、どんな気分になるだろうって、そんなことばっかり普通に考えてた。
周りの奴等は私がやってたのがメタルミュージックだから悪魔みたいなんだって言ってたけど、誰だって通る道じゃん?
そういうこと考えるのって。みんな『自分が誰よりも強ければいい』って願うもんじゃん?
他人のことを願うとしても、それは自分にとって良い結果だからだし。
いいじゃない。気に入らないものはなくなっちゃえって願うのが、心の普通で普遍でたる所以なんだよ。ねぇ、聞いてる?」
喋りながら、ずっと何度も踏みつけ続けていた裏切り小僧は動かなくなっていた。
ざーっと血の気が引いて、16ビートのように早かった鼓動が徐々に落ち着いてくる。言ったことにもやったことにも後悔はなかった。
この小鬼が言った「猫なで声」で「優しい言葉遣いで笑う」ことが、世の中や社会にとって望ましいことだとわかってるし、
わかっているからこそ私も含めてみんなそうやって生きている。
「でも、腹の底では誰だっておんなじなんだよ」
タメを作って、メラを二発、裏切り小僧に打ち込んだ。石造りの洞窟はこの小さな死体のタンパク質以外に燃えるものはない。
背後で燃えている炎は小鬼のすべてを燃やし尽くして、いずれ人知れず消えていくのだろう。
111 :
◆fzAHzgUpjU :2009/10/10(土) 16:32:17 ID:LTTJajbs0 BE:2342428867-2BP(0)
Lv.16 メイ
HP:75/75 MP:58/67
E ホーリーランス
E 鉄の盾
E 革のコート(毛皮のコートの守備力-2)
E −
E 黄金の腕輪
はがねの剣
サングラス(壊れている)
戦闘呪文:ホイミ・ベホイミ・スカラ・メラ・ヒャド・イオ
戦闘特技:なぎ払い・連続魔法(黄金の腕輪の効果)・一閃突き
所持金:940G(前回からの差額はソロの装備費用)
※メイがソロの声を聞けない状態は、
実際のゲームシステムで言う「AI(作戦『めいれいさせろ』が適応されないアレ)」だと思ってください。
ファイターズリーグ優勝万歳。次はクライマックスシリーズだ!
>>107 連投規制のお断りありがとうございます。
>>112 2ちゃんねるなんとかにログインしてるためだと思います。
いくらか連投規制がマシになるらしいので使ってみています。
欠点は試合期間のため何か不備があっても使用者の自己責任なのと、シリアスな内容の話がまったくシリアスにならないこと……?
Webブラウザで見るとアイコンになる。 >112
しかしこの場面原作でもそうだけど、裏切り小僧ってあっさり正体明かすんだよなあ。
ホフマンが正体知らなかったのは余程素早く上手いこと逃げたんだろか。
あるいは相手がいくら「俺様は裏切り小僧だ」と主張しても信じずに
自分の友達がふざけているんだと思っていたか、だな。
純真な人ほど、疑いだすときりがないわけだ。
ぐろいようえぐいよう
117 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/10/13(火) 14:03:35 ID:R81UYIqaO
からけをよんでぬるぽ
ガッ!
ぬるぬるの血糊に足を滑らせて転んだ
ルーシアの手に握られていた理力の杖が
ぽーんと飛んでいって
>>117に突き刺さった!
前回
>>38-52 【ワークギルド】
こっちの世界に、まさかお米のご飯があるとは思わなかった。
宿屋では、形のいびつな茶色のパンと、山菜のスープがメインだったから。
僕は、山の動物の肉と、お米を使った定食を食べ・・・・・・・・
宿屋に戻ってくる。
・・・・・・・・この乗り物は、周りの人に注目されるようだ。
と、帰還する御者とウィブーを見送る僕に、声が掛かる。
ジーク「アーシュさん!」
僕「あ!」
僕らは部屋で、今日の出来事を話し合う。
ジークさんは昨日の話通り、兵の貸与の手続きと、図書館へ行ってきたらしい。
今回、王様の計らいで兵の貸与は無料だったとか。
図書館だが、『もし目が覚めたら〜』の物語の更新はなかったらしい。
それでも、何か新しい情報はないか、いろいろ回ってきたという。
僕はジークさんに、アクデンさんに会ったことを話す。
ジーク「アクデン先生に!!? 最高待遇に近いじゃないですか!」
どうやら、アクデンさんはすごい人らしい。
戦闘に関して、他国にも名の轟く実力者で、一般的にもかなり有名な人だとか。
と、そのとき、部屋に兵士さんが訪ねてくる。
兵士さんは、国王からの伝令があります、と僕らに言い、
兵士5「アーシュさんの帰還のための国を挙げてのサポートを、国王陛下が了承しました。
明日、謁見の間までお越しください。こちらから遣いを送ります」
ジーク「いや、よかったですねぇ!アクデンさんの後ろ盾があれば大丈夫でしょう。
これで私も、明日の朝は快く出発できそうです」
あ、そうか。ジークさんは明日出発だっけ。
その夜、僕らはルセットさんの酒場へ行き、・・・・・・・飲んだ。
昨日と打って変わって、多くのジークさんの仲間と出会えた。
僕の境遇にみんな驚く。僕はわずかに、心の荷が下りた気がした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
朝の陽光に草原が照らされている。
ジークさんが遠くで手を振っている。道中を警護する兵士3名も一緒だ。
僕は、城壁の出入口付近の草原に立っている。
周りでは子供たちが、かけっこや、草を足で均(なら)しながら遊んでいる。
僕は、一行が森の向こうに消えるまで、見送っていた。
少しして、宿屋に兵士が来る。
僕は兵の操る馬に乗り、キングレオ城へ。
城の中、以前歩いた道を思い返しつつ、謁見の間へ。
シルバ「よく来た、アーシュ。
既に聞いているとおり、そなたの帰還を国でサポートすることにした。
アクデン先生の発案により、様々な調査を行うつもりだ」
僕「・・・・・ありがとう、ございます・・・・・」
今頃になって、僕は目が潤んでしまう。
もう僕は、・・・・・・
シルバ「それでな、アーシュ。実は、朝、横の大臣から進言があってな。
急な話ではあったが、私もそれを支持することにした。
アーシュよ、今一度、そなたの目が覚めた森に行ってみないか?」
僕「え?・・・・・・・・それは・・・・・」
それって・・・・・・・調べるのか?あそこを。
ダシュ「アーシュ。問題の解決には多角的な目が必要だ。
特に未知の事象の検証には、客観的な結論を推し量る、多くの目が必要だ」
客観的、という言葉が、懐かしく頭に響く。どんな分野でも、大切なことだ。
そしてもう一つの、未知、という言葉が、僕の心を惹きつける。
僕は提案を承諾する。
シルバ「では議会での承認の後、兵を集め、出発しよう」
僕はその後、この近くあるという、迎賓用の宿泊施設に移らないか聞かれた。
僕は少し考え、丁重に断る。
高級な生活にも誘惑されたが、貧乏性だろうか、日本人の気質だろうか、
あるいは、あの宿屋周辺の雑多な雰囲気を、僕は気に入ったのかもしれない。
すると王様は、では宿代くらい今後も肩代わりしよう、と言ってくれる。
そこで僕は言う。
僕「実は、ワークギルドで仕事を探して、働いてみたいんです」
『ワークギルド』
ずっと気になっていた。
ギルドという言葉に、冒険のロマンを感じたのかもしれない。
ギルドについては昨夜、大層手間の掛かる力仕事から
日常のお手伝い程度まで、幅広い仕事を扱っている、と聞いた。
早く元の世界に戻りたいが、今は、ここでしかできないことをしてみたいし、
生活資金くらい自分で稼ぎたい。
そう、王様に伝える。
ならば・・・・・・・、と、王様も話し出す。
どうやら王様は、僕の世界の学問や研究に興味があるらしく、
話を聞きたいらしい。できれば他の人間にも聞かせたいとか。
・・・・・・・面白そうだ。
そんな大層な教えはできませんが、と断りを入れつつ、
僕と王様は、互いに自分の提案を承諾する。
シルバ「こうなると、いつか訪れるそなたの帰還が惜しくなるな。
・・・・・まぁ、それは言うまい。
ところでアーシュ、今日の予定はもう決めたか?」
僕「とりあえず、ワークギルドに行ってみます。
それと、この近くにあるっていう中央図書館にも行きたいです。
どんな本があるのか、すごく興味あるので。
どっちから行くか、まだ決めてませんが」
ダシュ「ならばギルドから行きなさい」
僕「え? ええと、それは・・・・・・・」
ダシュ「大したことではない。ギルドの仕事に、図書館の書庫掃除というのが
いつも・・・・いや、いつもは言いすぎか。たいていあるのじゃ。
初心者向きの仕事だが、慢性的に人材不足でな。
ここだけの話、監視もないので、仕事をうまくやれば本は読み放題じゃ。
まぁ、どの書庫の担当になるかは、行くまで分からんがな。んっふっふっふ」
シルバ「ふふふ・・・・・」
僕「・・・・・わかりました。やってみます」
ダシュ「ではアーシュ、これを持って行け。
一晩二晩では、そなたのことは伝わらぬ。それを見せ、
私と国王のお墨付きであると話せば、不利益にはならぬはず。
それは明日、返しにくればよい」
大臣さんから、学生証のようなものを受け取る。
ダシュ「私の身分証だ。本人の持つ一枚しか、この世に存在しない。
それとギルドの仕事は、一般仕事と技術系仕事に分類されている。
図書館の掃除は一般じゃ。間違えるでないぞ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
帰りは王国交通の乗合馬車に乗り、しばらく。
僕は、ワークギルド正面の停留所で降る。
・・・・・・と、扉の横の壁に張り紙を見つける。
『Welcome! 一般仕事は1階、技術系仕事は2階へ』
1階だな・・・・・・よし、入るぞ!
僕は扉を開ける。
・・・・・・・・中は大広間のような造りで、休憩のためか、
イスとテーブルのセットが、10組くらい置かれている。
既に何人か座っており、この一帯に似合う雑多な雰囲気を醸(かも)し出している。
向かって左の壁には、郵便局や銀行にあるようなカウンターとイスがあり、
5、6名ほどの女性が、カウンター沿いにずらりと座り、応対している。
どのカウンターにも、既に何人か並んでいる。
視界の上方に、何かが見える。
思わず見上げると、『受付』と書かれたボードが、天井から吊るされている。
そして三方の壁には、所狭しと、メモ用紙ほどの大きさの紙が貼られている。
僕は一枚の紙に近づく。紙はピンのようなもので留められている。
『−水路のどぶさらい−
1.仕事内容
担当地域の水路清掃。主にどぶさらいを行う。
担当箇所は、ギルド受付にて担当地域の決定後、
当該地域の警備詰め所、生活係より指示。
2.給与
全日2000G 半日1000G 全日の場合、別途昼食代支給
3.就労条件
なし
4.備考
なし』
これは・・・・・仕事?どぶさらいって・・・・・。
と、僕は、紙の横に沿うように貼られている、小さなポケットを見つける。
ポケットの中には、『受付票』と書かれた紙が入っている。
一枚抜くと、そこには、『受付票 水路のどぶさらい』と書かれている。
・・・・・・ははーん・・・・・なるほど。
要領を得た僕は、図書館掃除の仕事を探す。
『迷子のペット捜索』・・・・『デッサンのモデル』・・・・『放力の塔 学生指導』
ええと、どこだ・・・・・・・・・・・・!
あった!
一面、張り紙の中に、僕は目的のものを見つける。
『−中央図書館の書庫清掃−
1.仕事内容
中央図書館の書庫の掃除。状況により書籍整理あり。担当箇所は現地にて指示。
2.給与
全日1400G 半日700G 全日の場合、別途昼食代支給
3.就労条件
なし
4.備考
仕事中の読書は禁止!』
思いっきり禁止って書いてある。
僕は受付票を手に取り・・・・・意を決し、一番近い受付へ。
・・・・・・・二人の先客が済み、いよいよ、僕の番になる!
?「いらっしゃいませー。受付票を拝見しますー」
僕「あ、はい。これです」
僕は、同い年くらいの女性に受付票を渡す。
?「中央図書館の清掃ですねー。今からですとー、半日労働の扱いとなりますー。
よろしいですかー?」
これはまた・・・・愛くるしい話し方なことで。
僕「あ・・・・・はい。それで、あの・・・・・えっと、すみません。
僕、ギルドの仕事するの初めてなんですけど・・・・・・・・」
?「あらぁ! そうですかー。
ではー・・・・はい! これを胸に付けてくださいー」
僕は小さなバッジを渡される。文字はなく、青い鳥のような模様が刻まれている。
連続規制回避
?「ギルドの経験10回未満の方が付ける、初心者バッジですぅ。
恥ずかしいかもしれませんがー、規則ですのでー。
それとー、こちらの書類への記入もお願いしますー。名簿を作成しますのでー」
簡素な書類を渡される。一番上に、名前の記入欄。
そういえば、文字を書くのは初めてだ。どんな言葉で書けば・・・・・・・・!
頭に、抽象的なイメージが浮かぶ。言語だろうか?
それが自身の言葉とリンクするような感覚に囚われ、手が動き出す。
書かれた文字・・・・・・・『アーシュ』と読める。
不思議な感覚は、次第に体に伝播し始める。呆然とする僕の目は、下の記入欄へ。
『出身地・または出身国』
あ・・・・・・・どうしよう。・・・・・・・・でえい!いっちまえ!
僕「はい!」
?「はーい。えーと、アーシュさん。出身はー・・・・・・へ? 異世界!?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
女性は手元の書類を見ながら、驚きと興奮の目で僕を見ている。
?「ちょっとというかー、かなりびっくりですがー、なんて・・・・・・
なんて素敵なんでしょう!
・・・・・・・あらいけない。仕事仕事・・・・・
ではー、この書類を持ち、図書館に向かってくださいー。
この書類にはー、受付者と就労者の名前を記していますー。
さっきの書類は、こちらで保管しますねー。
最後に、受付票のことですぅ。
これはー、仕事の依頼主が指定した、およその人数分しかありませーん。
ボックスに紙がなければ、定員オーバーで希望できませんー。ご了承くださーい。
それでは! お元気でー!」
僕「あ、ありがとうございます」
僕は礼もそこそこに、店を出て・・・・・・乗合馬車で図書館へ出発した。
――――――――レオ王国議事堂 第6小会議場―――――――
昼食を兼ねた一室の集まり。どよめきが今、その場を巡っている。
10人ほどの、貴族のような議会服の面々の集うこの場で、
ダシュム=オルドーはアーシュに関することを説明したばかり。
両隣にはアクデンと、肩に勲章を携えた、白髪混じりの頭髪の人間が座る。
ダシュ「昨日、陛下は帰還方法の調査を指示し、森の探索にも同意した。
私は、探索は空き地周辺を主とし、小隊で行うことを考えている。
一般兵に馬を与え、移動は迅速に。
士気の低下を防ぐため、遠方出身の兵を集めたい。
探索にはアーシュも同行する。
アーシュへの協力、森林内部への派兵。この二点を了承していただきたい」
・・・・・・・・・・・・・・・・
?「驚くばかりの話だが・・・・・アクデン殿のお墨付きなら本当だろう」
四角く、気難しそうな顔の人間の男が答え、周りも同調する。
?「ならば本題は、探索と派遣する兵のことですね」
中年には届かない、青髪の人間の男が意見を述べる。
?「小隊全員分の馬など、確保できるのか?」
?「続けて悪いですが、森の調査期間は、どれくらいでしょう?」
初老のホビット族の男と、年相応の化粧を施した、壮年の紅一点の人間が述べる。
ダシュ「特使訪問に際し、警備の馬の数を増やしているので、余裕はある。
調査期間だが、アーシュは森の中を彷徨い、かなりの間、歩き続けたという。
目的地まで導ける自信はないそうだ。
目的地の探索を2、3日として、数日は森の中に留まるだろう」
?「で、では、・・・・・・・・・都合10日ほどですか」
端正な顔立ち、中年の、黒髪のダークエルフの男が、おどおどと話す。
?「調査が長期化した場合、特使の警護に影響は?ダーラー卿、国防大臣として意見は?」
再び、四角い顔の男が意見を述べる。
それを受け、ダシュムの隣で沈黙していた男が、ゆったりと話し出す。
ダーラ「大隊ならともかく、小隊規模なら、影響は皆無かと。
ダシュム大臣とも意見は一致しております」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
?「ええ、と・・・・・・私はこれまでのところ、意義はありません。
今日は、細かい議論は後回しにして、提案二点に絞り、決を採りませんか?」
ダークエルフの男が再び意見を述べる。
異議はなく、話は、提案された二点に絞られる。そして・・・・・・・
?「・・・・・・私は依存ありません。治安の面に問題がなければ、よろしいですわ」
?「私も構わん。しかし・・・・・異世界か。いやはや、長生きはするものだなぁ」
?「異議なし! 陛下の決定に私は従う」
驚きと冷静な思考を孕んだ討論の末、二点の提案は承認された。
―――――――――中央図書館――――――――――
?「―――――です。では、よろしくお願いします」
僕「はい」
ふくよかなおばちゃん職員が、『清掃中』の札を扉に掛け、去ってゆく。
ここは地下2階。『ノンフィクション 第三書庫』前。よくある講堂ほどの書庫だ。
地下でもこの辺りまでは、結構人が立ち入るらしい。
しかしこの図書館、地上より地下の方が広いというから驚きだ。
深く潜るにつれ、整理が追いつかない書庫も増え、また、驚くべきことだが、
閲覧自体が極めて危険な本も出てくるのだという。
読むと死ぬ本。
読むと発狂する本。
読むと中に体ごと封印される本。
本自体が生を持ち、読むと物語上の空想の魔物が襲ってくる本。
こういう本の潜む書庫は、魔法使いやその他「屈強な人間」か、
そういう同伴者がいる人でないと、入れないそうだ。
清掃や整理も彼らを中心に行うらしく、就労条件も厳しいらしい。
ホコリまみれの書庫に、僕は入る。
指示された中の引出しから、薄灰色の袋とはたき、雑巾を取り出し、
・・・・・スタート!
・・・・・・・・・・・・・―――――――――――――
――――――――――・・・・・・・・・約5時間後。「宿屋のトーヤ」
僕「体が・・・・痛い。掃除って、こんなに疲れたっけ・・・・・・・・・・」
僕はベッドに横たわっている。
この程度の仕事、と思っていたが、緊張からだろうか、疲れを感じている。
本を読む?何それ。
その日の僕は、宿の夕食もそこそこに、寝た。
アーシュ
HP 13/13
MP 0/0
<どうぐ>携帯(F900i)E:エリモスの服 革の靴
ダーラー=トメイ
HP 220/220
MP 83/83
<どうぐ>E:青刃流星刀 ゴディアスの剣
<呪文>バイキルト
<特技>剣の舞
前回
>>119-127 【現地からの報告】
―――――――アーシュの日記――――――――――
『道具屋 マイケルボーイ』で日記帳を購入し、今日で3日目。
未知の世界の中、書くネタは尽きそうにない。
今日は、ここまでの生活で導き出された、僕なりの考察を書こうと思う。
一つ目は、今は僕も普通に扱っている、この国の文字・言語だ。
結論として、洒落を含めた言葉の変換は、日本語特有の意味合いを残している。
例えば、ジークさんのあだ名「ジィさん」は、日本語の「爺さん」と掛けてある。
また、この国の文字には「Foodcoat ライルのお店」「Drinking ルセット」など、
僕の世界でも使われている、日英混合表現がある。
正確には、意味不明の文字列が日本語に、英語は英語として認識されるのだ。
現代日本で異言語、特に英語を含んだ表記を見て、
何となく想像がつくのと同じ感覚だ。
この国の言語を見るとき、僕の頭には自然と、日本語的なイメージが浮かぶ。
一方、文字を書くとき、僕は、この国の文字を使う。
現に今、僕は日本語でなく、こっちの言葉で日記を書いている。
特に違和感はない。これは、僕の日本語の知識が、
そのままこの言葉に変換されたと考えるのが、妥当ではないだろうか。
つまり、僕はこの国の言葉を習得したのではなく、言語が変化したということだ。
またこちらの言葉は、読み書きの時に適宜、頭の中で漢字に変換される。
これはまだちょっと、解明できない部分だ。
前述の例で言えば、この国の人が、「ジィさん」を「爺さん」と、表意文字で
認識しているのか、「じいさん」と音だけの認識なのか、よくわからない。
二つ目は、この世界の生活のことだ。
この世界は、僕の知識から見れば、古代〜中世の古代寄りの生活に思える。
主な移動手段は徒歩。馬・牛・アパヌフ・ウィブーなど、動物を使った移動は
公共機関のような位置付けだ。少なくともこの城壁内では。
いうなれば、自動車や自転車ではなく、電車やタクシーのような扱いか。
ただ、移動専用の馬などの乗り物を所有する、裕福な家庭もあるらしい。
人々の服装や一般・公共建築の様式も、古代〜中世くらいのものと考えられる。
町の中には至るところには、生活用水を兼ねた水路が巡っており、
ときには橋の下、ときには穴を通って地下を流れている。
あちらの世界の生活と根本から異なるものに、「魔法」の存在がある。
この世界の魔法は、長々と言葉を唱えて発動する、儀式的なものではなく、
心の中のイメージを主に、端的な言葉を唱えるというものらしい。
扱える人間は一般人では珍しく、専門的な修行が必要なようだ。
僕の世界における、技能・才能を磨く感覚と似ている。
しかし、現在の魔法が、過去より進歩しているとは言えないらしい。
それは、多少美化された先人たちの偉業のような扱いとは異なり、
本当に、今の方がよいとは考えられていないニュアンスを、漂わせている。
時間についても書いておく。
この世界にも60進法の時計はあるが、どうやら少し誤差があるようだ。
城壁内には一定時間を知らせる鐘楼が何箇所かあるのだが、
そこの詰め所に置かれている、国の支給品の時計は、
僕の携帯の時計と比較して、1日で15分くらい遅れていた。
誤差のことは一般にも認識されており、現在は、
誤差が最も少ない、城の中の時計が基準らしい。
結果、各所の鐘は、城の中から鳴らされる最初の鐘の音を頼りに、
伝播するように鳴らされるのが現状だとか。
そして、どうやって目指すべき正確な時刻を定めているのか不明だが、
より正確で誤差の少ない時計の開発が、日々行われているらしい。
また、この世界の1年は371日だそうで、1秒、1分、1時間、
1日、1週間、1ヶ月などの概念もあるらしい。
最後は、この世界における「世界」そのものに対する認識だ。
あまりに普通のことで違和感がなかったが、この世界では、
この世界は丸い球体という認識が一般に浸透している。
「星」の概念は明確には垣間見なかったが、僕の世界の地球儀に相当する世界儀は
置物道具として見せてもらったし、図書館の地理に関する本にも、
球体の世界を平面図に起こしたという、世界地図を見つけた。
世界儀の中には、僕の世界で言う「北極」「南極」が、それぞれ、
「北の端」「南の端」という言葉で書かれている。
この極点については、かつて存在しないとも言われていたが、
その昔、あるとき、急に見つかったらしい。
書くのも疲れる。あぁ、明日は何の仕事をしようか。
―――――――――――――――――――
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
眩しい朝日で僕は目覚める。
トーヤさんの宿で迎える、10日目の朝。
簡素な掛け布団が、僕を包んでいる。
1階で朝食を取っていると、宿屋に兵士が僕を訪ねてくる。
王様から僕に話があるらしい。
なんだろう?僕の研究の説明は4日後が初日だし・・・・・・あ!
もしかして森の探索のことか!?
僕は兵士に連れられキングレオ城へ。一人で謁見の間へ進む。
シルバ「朝からすまぬ、アーシュよ。
昨晩遅く、ミルウッドの森の探索日程が決定した。
3日後の午前に出発。10日ほどの旅になる予定だ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3日後。出発の朝。
城壁の外、出入口付近には、ゼットー小隊長さんが指揮する、30人くらいの小隊。
僕は、その近くにいる、天蓋の付いたウィブーに乗っている。
・・・・・・・・・どうやら準備が整ったようだ。
ゼット「アーシュ。今日から短い時間であるが、よろしく頼む。
私以外は皆、ミルウッドの森について、詳しくないのでな」
僕「はい。よろしくお願いします」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・出発より、3日目。
僕らは、僕が森を抜け出てきた、あのポイントに到着する。
・・・・・・馬をここで待たせ、徒歩で進むようだ。
世話係を数名残し、残りは三列縦隊となり、森の中へ・・・・・・。
ゼット「各隊、必要以上離れるな。点呼を徹底せよ」
兵の一人・・・いや三人が、方位磁石を確認しながら進む。
僕が何となく見覚えのある方を示し、全体がその方向を中心に、放射状に進む。
迷子になったり・・・・・しないよな・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5日目。
キャンプにて虫に集(たか)られた最悪な気分が、
昨日と今日、みなの心を支配していた。
そこに疲労が蓄積され、次第に雰囲気が殺伐とし始めた頃、西の方角から、
通常とは異なる点呼が聞こえる。・・・・・・呼び出しの点呼というそうだ。
僕らはその方角へ・・・・・・・・・・・・!!
前方に、光。
近づくとそこは、森の中のものではない光の降り注ぐ・・・・・・・
一面の薄緑色、草原。
僕らは草原の元に出る!
角度低く照らす日の光が、夕方が近いことを感じさせるが、
森の中と違い、開放感にあふれている。
ゼット「アーシュ、ここか?そなたの言う空き地とは」
僕「え、ええと、ちょっとまだ全体が見えないので・・・・・・・」
僕は草原を足早に歩き回る。この草原の形、見覚えある、あの形なのか。
と、僕は足元に、何か黒い糸のようなものを見つける。
・・・・・あ!これって・・・・・・・充電コード!
僕「間違いありません!ここです!」
兵士たちの間に、安堵の声が漏れてゆく。
ゼット「よし・・・・インス!ブランボ!ディプ!ここまでの経路を確認する」
森の中で方位磁石を持ち、時々紙に何か記入していた兵士たちが、
ゼットーさんの前へ。
三人「「「はっ! この通りです!」」」
ゼットーさんは大きな紙を受け取り、覗き込む。
ゼット「・・・・・・・・なるほど、思った以上に遠回りだったようだ。
全兵集合! 点呼確認をせよ!」
兵士が整列し、班ごとに1、2、と番号が声に出され、
・・・・・・・点呼は無事終わる。だが全員、漫画のような気をつけの姿勢を崩さない。
ゼット「全員、休め。
これより周辺地域の調査に入る。
2班はこの先、南東の方面から森に入り、周辺を探索。
3班は北西の方角から同様に森の探索。1班は空き地内を私とともに探索。
各班、班長の指示に従うこと。
夕方も近い。本日は周囲の確認を主とし、日没までに戻るように!」
兵たち「はっ!」
支援いるのかな
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その日から、僕らは草原を拠点に、周辺の捜索を行った。
草原の探索は初日に終わり、それ以降は各班の隊員が、
日替わりで1名ずつ、計3名、加えて僕、ゼットーさんが草原に残り、
夕暮れに戻る調査隊を待機することに。
夕食後、ゼットーさんと各班長は、記録地図をつき合わせ、明日の方針を決める。
夜になると、僕たちの集まる一角だけが、生きて活動しているように思える。
静けさ。日中の森の中、そこから何か、つながっているような・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・8日目。
今日まで結局、僕らは何も見つけられなかった。
生き物は小さい虫の類ばかりで、動物は見当たらなかったとか。
朝食後、全体で荷物をまとめ、森の中へ入ってゆく。
僕は今一度振り返り、この世界で最初に目にした、
あの時と変わらない光景を、最後に見た。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9日目。
森を離れ、僕らは草原を進んでゆく。
僕は、森の向こうのあの大山脈を見上げる。
行きにこの辺りに来たとき、ゼットーさんが言っていた。
南に聳(そび)える大山脈の向こう側には、レブナード、コーミズ、シクなど、
幾つか村や町があるが、森を抜けて山を越える道は、未だ開拓されていない、と。
昔から、幾人もの人間が山越えを挑んでいるようだが、
予想以上に高く険しく、途中で諦めて帰還したか、
・・・・・・・・・あるいは、二度と帰還しなかったのだ、と。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12日目の昼。
僕らは、城内に帰還した。
――――――――――謁見の間――――――――――
ゼット「―――――――。以上、ご報告と致します」
・・・・・・・その報告は、あるいは、安堵と疑心のどちらにも、
心定まらぬ結果を生んだのかもしれませんでした。
ダシュ「・・・・・・・・探索範囲が狭かったということか」
ゼット「広すぎる森ゆえ、十分と断言できないのも事実です」
シルバ「・・・・・・・・件の草原から森の外まで、どれほどの距離であったか」
ゼット「はっ!
最短距離で都合1日程です。発見に至るまでは、さらに1日。
十分な装備もなければ、遭難もあり得る場所と思われます。
アーシュは運がいいと言えましょう」
シルバ「探索において他に同様の空き地はあったか」
ゼット「いいえ」
シルバ「周囲の森林環境に変化はあったか」
ゼット「あえて申せば、空き地周辺に限ったことですが、
ミルムの実の生る樹が見当たりませんでした」
ダシュ「ミルムの実が・・・・・・?
同じ生育周期の木が密集しているのではないのか?」
ゼット「いえ、枝の根元に、実の基の瘤がありませんでした」
シルバ「・・・・・・・・・他に気づいたことは?」
ゼット「ありません」
シルバ「では明日中に報告書を出せ。
・・・・・・・そういえば、アーシュは今どうしている?」
ゼット「宿に戻り休んでいます。慣れない旅で疲れている様子です」
シルバ「そうか。・・・・・ではそなたもゆっくり休め。
下がるがよい」
ゼット「はっ!失礼致します」
ゼットーは下がり階段へ・・・・・・・と、その階段の下から、
この階段を守る衛兵が駆け上がり、王の前に跪(ひざまず)く。
兵士6「陛下! 北方の警備隊隊長リッテン殿が下においでです。
消えた南方の盗賊共のことで、緊急の用件だそうで」
シルバ「なんだと! すぐ通せ!」
兵士6「はっ!」
衛兵は踵(きびす)を返し、階段を下り・・・・・・・少しして、
勲章を肩に携えた男が一人、走りながら王の前に跪く。
ゼットーは帰ることをやめ、その場にとどまる。
リッテ「海上警備局所属、中隊長、リッテンです」
シルバ「久しぶりだな。用件を話せ」
リッテ「はっ!
10日前のことでございます。北方のテララテパ海南方域におきまして、
紅目(あかめ)のディーク率いるレッドフック海賊団、及び
海賊船ボルカニェット号と遭遇しました。
一時戦闘となりましたが、敵方に略奪の意思はなかったらしく、
追撃を早々に振り切られ、逃走を許してしまいました」
シルバ「ディーク・・・・・・・また勢力を増したという報告か?盗賊とどういう関係が?」
リッテ「はっ!
なんとその船に、行方の知れない盗賊、黒の翼団が、
首領パッチとその右腕ギーを含め、多数確認できました。
皆、海賊の出で立ちです!」
シルバ「! なんだと!!」
それは、靄(もや)がかかった雰囲気を吹き飛ばす、突風でした。
国王は思わず立ち上がります。周囲の面々にも、動揺が走っています。
謁見の間に居合わせた全ての者が、同じことを思ったでしょう。
いったい、これは、・・・・・・・・・どういうことだ!?
・・・・・・・・・混沌とした状況の中、場の中心にいる者が、真っ先に理解します。
シルバ「では、まさかあやつら・・・・・・盗賊から海賊に転身しおったというのか!!
・・・・・・いや待て、あやつらに操船技術などないはず。これは・・・・・・・・
リッテ「海賊団と盗賊団の関係、特にディークとパッチについて、
大至急調査すべきと考えます」
ダシュ「・・・・・・・陛下、国防大臣に知らせましょう」
シルバ「・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・五番隊も動員せよ。
一刻も早く、事の次第を明らかにするのだ」
迫る特使の訪問を前に、またひとつ、大きな事件が起こりました。
―――――――サントハイム――――――――
大層立派な扉の前。小柄な一人の男が立ち、ノックし、・・・・・・・・
中の人物の返答を得て、失礼します、と言いながら入る。
男は、窓辺に立ち階下を見下ろす人物と、何やら言葉を交わす。
?「―――――。それと学長、こちらが訪問日程の最終版です」
学長「うんん?・・・・・・・あぁ、ありがとう。後で確認します」
男は部屋を立ち去り、・・・・・・・・男は再び、窓辺に立つ。
学長「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
アーシュ
HP 13/13
MP 0/0
<どうぐ>携帯(F900i)E:エリモスの服 ルテールの靴
ゼットー
HP 101/101
MP 34/34
<どうぐ>E:はがねの鎧 はがねの盾 鉄かぶと 鉄の斧
<呪文>ベホイミ スカラ
<特技>かぶと割り 斧無双 火炎斬り 稲妻斬り
リッテン
HP 140/140
MP 60/66
<どうぐ>氷の盾 E:魔法の鎧 てっかめん 破邪の剣
<呪文>ベホイミ ギラ マホトーン ピオリム
<特技>隼斬り 剣の舞
支援ありがとうございます。
さるさん規制が付いておりました。
今回の物語は、もともと一本の物語でした。
前回以上に長くなってしまったため、二つに分けたのです。
本編は保管庫にUPしておりますので、よろしければご確認ください。
修正
誤
女性は手元の書類を見ながら、驚きと興奮の目で僕を見ている。
正
女性は手元の書類と身分証を見ながら、驚きと興奮の目で僕を見ている。
修正
誤
また、この世界の1年は371日だそうで、1秒、1分、1時間、
1日、1週間、1ヶ月などの概念もあるらしい。
正
また、この世界の1年は371日だそうで、1秒、1分、1時間、
1日、1週間、1ヶ月などの概念もあるらしい。
さらに、この世界には世界共通の暦がある。現在は、勇者暦215年だ。
勇者が世界を平和に導き、ピサロが魔界へ帰った年を零年としたらしい。
保管庫の本編以外を更新しました。
よろしければご確認ください。
ぬるぽ
,.'´,^!´ヽ ≦_ ̄≡_= ̄≡=≧゜+ : _
i卅川<0》 + ゜: ゜ ≦_≡_=≡=≧ガッガッガッガッガッガッ
川川 `Д バギクロス!! ≦─ `Д´)/_≧
巛(づ○⊃ ゜+ :≦ ̄=_ ≡=≧゜ ゜ + :
./_,バ) + ゜: ゜≦_=≡─ ≧
. ん,__!_リ ≦__ _≧゜+ :
アリアハンとか初期の町で、スライムを1匹2匹倒しては宿屋で数日寝る生活で一生を終えそう。
>>142 いやぁ、このスライムってやつがなかなか倒せなくてなぁ。
たしか、旅人をゲル状の体で張り付いて窒息死させる憎いやつなんだよな。
>>143 レベル1の5歳児でも1対1なら負けない程度には弱いぞ?
いやいや、スライムの液状の体は剣で切っても効果ないし、体にべちゃっと張り付いて冒険者をどろどろに溶かしてしまうんだよ。
だから物理攻撃は無効。メラで燃やすか、ヒャド系で凍らせて動きを止めているスキに逃げる(仮に凍ったまま粉砕しても、解けるとまた融合する)。
しかないんで、やっかいだったよな。
あ、そうだ。聖水を撒くのも有効だったな。あれはスライムがおもしろいように焼ける。
別のゲームのスライム混ざってるぞw
147 :
145:2009/10/25(日) 18:59:36 ID:xBiKn6LF0
*「ぷるぷる、いじめないで!
ぼくわるいスライムじゃないよう
※ 本日の雑談は、主人公同士で魔物について語ってもらいます。
タツミ「謎のスライム談義に割り込んでの雑談です」
アルス「だから今回の雑談は魔物についてなんだろうか」
タツミ「魔物ね。僕も少しは戦ったことあるけど、基本的に人任せだからなー」
アルス「勇者がそれでいいのかよ。そういやお前、いきなり『はがねのむち』を使いこなしてたな」
タツミ「ランシールの勇者試験か。ほっほっほ、手先は器用なもので」
アルス「レイの野郎も――あ、女だっけか。あいつも凄かったよな」
タツミ「うんうん! 魔物をバッタバッタとなぎ倒して、カッコ良かったなー。
フロアがあっという間に死屍累々で……血だらけで……ゲロゲロゲロ」
アルス「吐くなーーー!!!」
タツミ「ごめん、ちょっと思い出しちゃった。拭き拭き、と。
まあ僕は血液恐怖症だから仕方ないにしても、君はまったく平気なんだね」
アルス「平気だな。でなきゃ冒険者なんてやってけねえよ」
タツミ「僕からすると、魔物=動物、なんだ。僕は平和な現代日本の、それも街育ちだからね。
大型の動物に接する機会も少ないし、まして命を奪うっていうのも未体験で。
正直、血が苦手うんぬん抜きにしても、なかなかキツイよ」
アルス「やっぱそっちの人間は優しいよな」
タツミ「優しさとは違うんじゃないかな。甘いっていうか、ちょっと情けない気もする」
アルス「俺みたいに、魔物=殺すべき敵、って決定しちゃってるよりはいいんじゃねえか」
タツミ「君にとっては『殺すべき』なの?」
アルス「ああ。動物と魔物は別物で、動物には情けをかけるけど、魔物は斬る。逃がさん」
タツミ「そ、そう言えばお父さんも魔物に殺されたしね。恨んで当然かな、うん」
アルス「別に恨みなんかねえよ。魔物だから殺す。そう徹底的に叩き込まれて育ったからな」
タツミ「じゃあ、君にそう教え込んだのって……」
アルス「俺のおふくろ。弱い者いじめはするなとか、動物には優しくしなさいとか言いながら、
最後には『でも魔物は敵だから迷わず殺しなさい』って必ず付け加えるんだよ」
タツミ「あの笑顔で?」
アルス「あの笑顔で。だけど、陰で泣いてたのを何度も見たよ。
『本当は魔物も分け隔て無く愛せる、優しい子になって欲しいのに』ってさ」
タツミ「ううっ。サヤお母さんも辛かったんだね、母の愛だね」
アルス「お陰で魔王討伐が果たせたと思う。いちいち命の重さを考えてたら、頭がおかしくなってたよ」
アルス「んで、さっきから後ろに隠してるそいつはなんなんだ?」
タツミ「ななななんでもないよ! っていうかなんの話? なんにもないよ?」
ヘニョ「?」ピョンピョン
タツミ「出てきちゃダメー! 斬っちゃダメー!」
アルス「安心しろよ、俺どんだけ見境なく思われてんだw
なるほどこいつが噂の。おいでヘニョ。ほぉ、よくなついてるな」
タツミ「良かった〜。ね、カワイイでしょ?」
アルス「ふむ。いい物食わされてるんだな、丸々太ってて今が食べ頃じゃね?」
タツミ「食べちゃダメー!」
アルス「冗談だって。魔物は人間にはほとんど食えないんだよ。
お前も、よっぽどの食糧難でない限りヘタに魔物を食おうとすんなよ」
タツミ「そう言えば前にユリコとそんな話してたね。ああそうか。だから――」
アルス「俺の世界では、人間にとって魔物は害獣にしかならない。俺だってヘニョはカワイイと思うが、
こいつが大量発生したら農作物が多大な被害を受ける。どうしたって間引きも必要になる」
タツミ「その世界にはその世界の事情があるもんね」
アルス「一概に価値観を押しつけるわけにはいかないってことだな」
タツミ「某鯨愛護団体さんにも聞かせたいね。それでは本日はここまで。バイバイ〜」
ヘニョかわええw
毒親かと思いきや、母さん泣かせるな
しかし、器用って理由ではがねのむちが使いこなせるタクミって…
151 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/10/27(火) 20:18:13 ID:AbZCBFC7O
+ 激しくぬるぽ +
えーと……ッガ
でいいのかな? かな?
そろそろ、保守いたしませんと・・・
何日書き込みなかったら落ちるんだっけな
ぬるぽ
さあ、何日で落ちるか存じ上げませんけれども、週に一回くらいは保守ガッ必要かと推察されます。
一週間でツンデレスレが落ちちゃった
RさんとこのIP規制の解除はまだなのでしょうか
それにしても、みなさん中々レベル高い作品ですよねぇ
アルス「ちーっす」
タツミ「どうもー。しばらく規制にひっかかっておりました」
アルス「規制ってよくわからないんだが、あれってなんなんだ?」
タツミ「ルール違反者が書き込み規制をされた際、その人と同じ地域で同じプロバイダの利用者が、
まとめて規制対象になっちゃうらしい、って聞いたけど」
アルス「やっぱよくわかんねえけど、要はとばっちりってことなのか?」
タツミ「そうだね。まあ2chの名物ってことで、規制も楽しめばいいかなと」
アルス「だがいくらヒマになったからって他所であんまアホなことやんなよな……」
タツミ「なんの話〜? それではサンクスコール始めまーす!」
アルス「
>>84様、お待ちいただいてありがとう! しかし本当に何年越しのペースになってて申し訳ないっす。
結末までしっかり頑張るんで、どうか気長にお付き合い下さい」
タツミ「
>>85様、遭遇記念ありがとうございます。投下ペースまちまちなんで、遭遇率は低いかも?」
アルス「
>>86様、ガッご苦労様です。ひとまず『俺らになんか言ってきたっぽい!』と勝手に判断して
レスさせていただきますんでご心配ならさらずに。タツミの謎を引っ張り過ぎってのは……」
タツミ「明らかに君が悪いよね。まあ僕的には、あんまり詮索されたくないんだけどさ」
アルス「作者のRは『近々大公開!』とか言ってますので、もう少しお待ち下さい」
タツミ「続いて雑談へのレス
>>150様、ヘニョかわええよヘニョ! なんとかこいつは現実に連れ帰りたいんですけどね」
アルス「現実に戻れるかどうかはともかく、万が一こっちに連れてきたら大騒ぎになるぞ」
タツミ「いいじゃんかよ〜。あ、サヤお母さんは本当にいい人ですよ。美人だしウラヤマシス」
アルス「あれで怒ると怖いとこあるけどな」
タツミ「あと『はがねのむち』ですが、実は思ったほど扱いは難しくないんです」
アルス「重量があるから飛びすぎないし、『しなり』の角度にも限度があって割と狙った通りの動きをしてくれるんだよな」
タツミ「いろんな意味でまったく使えない知識ですねw」
アルス・タツミ『それでは本編スタートです!』
【(続)Stage.19 望むか、臨むか】
[6]〜[9]/ゲームサイド
Prev
>>78-82
----------------- GAME SIDE -----------------
「んもうっ、彼ってば意外とナイーブだったのね☆」
……………。
いや、やっぱアレはちょっと、言い過ぎた……かな。
通話を切ってから、僕は深く反省した。
アルスなんて強気でワガママで俺サマ全開なタイプだと思ってたから(第1話を参照し
てください)、まさかあんなに気にしていたとは意外だった。
まあこっちもつい勢いでっていうか、あれが本音ってわけじゃなかったんだけどね。そ
れはアルス本人も最初からわかってくれてたみたいだけど……。
「あれ? でもなんで『本音じゃない』ってわかってたんだろ」
電話で話しただけなのに、そこまでわかるもんだろうか。
まあいいや。最後はなんだか元気になってたみたいだし、大丈夫だろう。こっちもそれ
どころじゃなくなりそうだしね。
「おーい勇者様、もういいッスか?」
「あ、今戻るからー!」
僕は携帯をポケットにねじ込んで、急いで建物の陰から表へと出て行った。そこにはい
つものメンバーの他に、屈強な海の男共が数十人、2組に分かれてバチバチと火花を散ら
して睨み合っている。
一方の組は、僕らがいつも航海でお世話になっているリリーシェ号の乗組員さんたち。
もう一方は、女海賊ジュリーさんが率いる海賊さんたちだ。剣呑な空気を漂わせている面々
の間で、レイさんとジュリーさんだけは妙にのほほんとした様子で、やれやれと肩をすく
めている。
「で、結局どうなったのかな?」
話の途中でマナーモードの携帯に着信があったので適当にごまかして場を離れていた僕
は、エリスのそばに行って小声でこれまでの経緯を聞いた。エリスは困った様子で、耳打
ちするようにして教えてくれた。
「進展はありません。とにかく、ただでは渡せないの一点張りですね」
「そうか、それは困ったね」
どうやら今回も簡単にはいかないみたいだ。
アリアハンでの悶着が一段落したあと。
アルスの実母のサヤさんにもしっかり謝って許してもらってから、僕はみんなと次の目
的地をどこにするか話し合った。そこでレイさんから、
「じゃあその『最後の鍵』というのを『北の浅瀬』に取りに行くんだね? だったら私の
ルーラでジパングに飛べば早いんじゃないかな。あの国は変わっていて面白い所だよ」
というすんばらしい短縮ルートをご提供いただいたので、お言葉に甘えることにした。
ところが! そう決まりかけたところで、
「長い航海しなくていいのは助かりますな。海には凶悪な魔物や海賊が出ますし」
「でも最近は、海賊に襲われたって話はほとんど聞かないッスけどね」
とロダムとサミエルの何気ない会話に、再びレイさんが一言。
「それはたぶん、南海一帯を縄張りにしてるジュリーが方向転換したからだろうね」
などとこれまた大層なコネをあっさり披露してくれたことから、流れが一転した。
世界的に有名な大海賊「ジュリー海賊団」のお頭ジュリーさんは、実はサマンオサ出身
で、同郷のよしみからレイさんとは数年前からの親友なのだそうだ。
それなら先にレッドオーブを回収してしまう方が効率がいい。海賊が根城にしている島
はルーラ除けの術がかけられているので船で向かうことになるが、そのあと一気にジパン
グに飛べばかなりのショートカットになる。ホント頼りになるわぁこの人。
……しかし、星の巡りはそうそう良い方にばかりは転がらず。
僕らのリリーシェ号をまとめるモネ船長は、その昔ジュリー海賊団に襲われて、思いっ
きり返り討ちにしたことがあったんだとか。しかも降参して逃げ出そうとしていた海賊さ
んたちを逆に散々追い回して、かなりこっぴどくやり込めたらしい。
「いくらお頭の命令でも、俺たちゃただでは協力できやせんぜ! こいつにいったい何人
殺されたか、忘れもしねえ!」
と息巻く海賊さんたちに、うちのモネ船長も負けじと怒鳴り返す。
「うるせえ、そういうのは逆恨みってんだ! ガタガタぬかさねえで黙って勇者様にレッ
ドオーブとやらを差し出しゃいいんだよ! ブッ殺されてえか、ああコラ?」
……船長、これじゃどっちが海賊かわかりません。
「止しな! あん時はあたいらが弱かった、それだけだろ。ましてこっちが仕掛けたんだ、
これ以上恥をさらすんじゃないよ」
凛としたジュリーさんの声が、海賊たちの騒ぎを一瞬で鎮めた。
と、モネ船長が一歩前に出て、少し屈むようにしてジュリーさんの足下を見た。つられ
てよく見れば、長いマントの隙間から見える彼女の左足は、ひざから下が無く杖のような
棒状になっている。
「おめえ、その足はどうした」
「ああ、あの時やられた傷口から腐っちまってな」
「むぅ……そうか。俺もまさか、女とは思わなかったからな」
今度はモネ船長が黙り込んでしまった。いくら相手が海賊とはいえ、女の人を傷つけて
しまったのはバツが悪いのだろう。さっきまで威勢の良かったリリーシェ号の船員さんた
ちもなんだか勢いを無くしてしまって、妙な雰囲気になっている。
パンパン! と手を鳴らして、レイさんが間に立った。
「モネ船長、ジュリー、とりあえず過去のことはお互い様ということでいいかな?」
「あたいは最初からそう思ってるよ」
「まあ、お互い様だぁな……」
モネ船長もうなずいた。
「ではレッドオーブについてだが、確かにただでというのは申し訳ない。かと言って誰か
の命や、必要な路銀や船を差し出せと言われても請けかねる。普通に考えて我々にできる
ところで手を打ってはくれないだろうか。ただし我々は『勇者一行』だ。それなりの要求
には応えられると思うが」
さすがレイさん。どちらかというと話し合いが苦手そうな人たちばかりだから、こうやっ
て要点を整理して簡潔にしてあげるのは大事だよね。
最初に口を開いたのはジュリーさんだった。
「じゃあ、サマンオサをなんとかしてくれないか」
「サマンオサですか?」
エリスが聞き返すと、ジュリーさんは首をかしげた。
「おや、レイから聞いてないのかい。あの国は今ひどいことになってるんだよ。王様が急
に人が変わったみたいになっちまってさ。うちにも、あの国で生きられなくなって流れて
来たカタギの奴らがかなりいるんだ」
お陰で一度は壊滅しかけたジュリー海賊団が、数年で立ち直ることができたんだがね。
とちょっと皮肉っぽく笑ってから、彼女はまじめな顔になった。
「あたいらは陸(おか)のことに関わらない主義だが、あの国の変わり様は妙だ。魔物が
裏で手を引いてるんじゃないかと思ってる」
鋭いね。さすが女だてらに海賊のアタマは張ってない。
しかしまさか、ここでこの話が出るとは……。
「さっき言った通り今はカタギの連中が多いから、うちもあんまり斬った張ったはやらせ
たくないんだ。普段は漁をやって暮らしてるし、商い船の護衛もけっこういい金になる。
だけど海の魔物は日に日に凶暴になって、あたいらも困ってるんだ。魔王ってやつが元凶
で、それを倒そうとしてるあんた達が必要だと言うなら、レッドオーブだろうがなんだろ
うがくれてやるつもりでいたよ。このバカ共が騒いじまって、すまなかったね」
「ジュリー……」
呟いたモネ船長に、ジュリーさんはニッと格好良く笑って見せた。
「そのついででいいから、あたいの故郷をなんとかしてくれるとありがたい、って話さ」
◇
ジュリーさんからレッドオーブを受け取り、僕らはいったんリリーシェ号に戻った。
気持ち良くレッドオーブを渡してくれた彼女のためにも、できれば先にサマンオサの問
題を片付けてしまいたい。この海賊島にルーラできないことを考えると、あとからまた来
るのに、ジパング→最後の鍵→ロマリア北西のほこら(旅の扉)→サマンオサ北東のほこ
ら、とかなりの時間を待たせることになる。誠意を見せるためにも、できるならさっさと
取りかかった方がいい。
割り当ての船室にメンバーを集め、僕はテーブルにお手製の地図帳を広げた。
「話には聞いていたが、大したものだな。こっちがサマンオサの南の洞窟かい?」
レイさんが洞窟のマップが書かれた巻物を手に取った。僕がロマリアで王様やっていた
時に、羊皮紙より高価な紙を贅沢に使いまくって徹夜で書き起こしたものだ。
「うん、ここにいるメンバー以外には絶対に内緒にしてね」
「そうッスよレイさん。でないとまた勇者様がさらわれてしまうッス」
いけしゃーしゃーと述べるサミエルに、
「あなたが言う事ですか!」
とエリスとロダムが声をそろえてツッコミを入れた。彼が口を滑らせてくれたお陰で、
僕がカンダタにさらわれたのだから当然だ。
「確かに君のこの知識は、ちょっとでも腕に覚えがある者はノドから手が出るほど欲しが
るだろうね」
その通り。僕はこの世界の主要な建物や洞窟内のマップ、宝箱やトラップの位置をすべ
て記憶している。当然それを悪用しようとするやからも出てくる。
以前、エリスたちにロマリア国王の冠の奪還を頼んだ時。シャンパーニの塔でみんなが
あまりに早く最上階に到達したため、カンダタ一行は逃走の準備が間に合わずあえなく捕
まってしまった。なぜだぁ〜と嘆くカンダタに、うちのサミサミってばつい僕のことをしゃ
べってしまったのだ。
そこでカンダタは一計を案じ、バハラタで僕が一人になった隙を突いて拉致ってくれや
がったのである。本当にあの時は、エリスたちの到着があとちょっと遅かったら僕はどう
なっていたかわからない。ぶるるっ。
「まあそれは置いといて。国状を考えると、正規ルートでの入国は厳しいよね」
「それはジュリーさんが部下に抜け道を案内させるとおっしゃっておりましたな」
「船を隠すのに丁度いい入り江も、近くにあるそうッス」
ふむ、入国に関しては問題ないか。
――残る問題は1箇所。
「サマンオサの城の中で、この扉だけでいいんだ、なんとかならないかな」
最後の鍵が必要となる扉が、王の寝室までのルート上にひとつだけある。ここさえ通過
できれば、サマンオサ周りのイベントは今の時点でクリアできてしまうんだが……。
「この扉が開けられればいいんだね? ふむ、それくらいなら――」
レイさんが城内の見取り図を指差して言った。「東の勇者」と謳われたサイモンさんを
慕う人たちは今でもたくさんいる。うまく渡りをつければなんとかなるだろう、と。
「お願いします。僕らは先に、こっちの南の洞窟から『ラーの鏡』を取ってきますので、
レイさんは城内に忍び込むための算段を付けておいてください」
「了解。でもサマンオサ周辺は強いモンスターが多い。失礼を承知で言うが、君たちだけ
で大丈夫かい?」
む……痛いところを突かれたな。
「正直なところ、レイ殿には同行していただきたいですなあ」
ロダムも神妙にうなずく。時間をかけたくないから、できれば二手に分かれて同時進行
したいところなんだけど。
僕らが黙り込んでしまうと、レイさんが何か思いついたように、顔を上げた。
「それなら、私の代わりをサミエル君かロダム殿に頼めばいいんじゃないかな」
そう言って急に立ち上がると、黒衣のマントをひるがえして腰に差している剣をサヤご
と抜き出した。すらりとサヤから抜いて見せる。彼女が普段使っている背負いの長剣とは
別物で、特に凝った意匠でもない片刃の剣だ。
だが。
「……え?」
見た目は凡庸なその剣の――役割の、大きさは。
「まさかそれ、ガイアの剣じゃないの!?」
思わず叫んだ僕に、レイさんは感心したようにうなずいた。
「さすが、よく知ってるね。私が父から受け継いだ由緒ある名剣だよ。委任状の代わりに
コレを持っていってくれれば、私がいなくても信頼してもらえるだろう」
◇
「ごめん、ちょっと考えることができたんだ。少し一人にさせてね」
みんなに断って、僕は船内の自室に閉じこもった。ベッドに転がって目を閉じる。
参った。
まさかここで、あんなブッ飛んだショートカットが出てくるとは思わなかった。アレが
手に入るなら、まさにこれから行こうとしていたサマンオサも、グリンラッドのおじいさ
んところも、幽霊船も、湖の牢獄も、すべて無視してしまえる。
そもそも、サマンオサのイベントは「できるならすっ飛ばしたい」というのが僕の本音
だった。ここの中ボスであるボストロールを倒して得られるのは、実戦ではなんの役にも
立たない「変化の杖」。グリンラッドのおじいさんに「船乗りの骨」と交換してもらうた
めの引換券でしかない。だったら一人暮らしの寂しいスケベジジイを口八丁で丸め込んだ
方が早くね? とか密かに企んでいたのだ。
だけど――僕はジュリーさんにサマンオサのことを頼まれた。勇者として。
レイさんにだってこんなにお世話になっているんだから、湖の牢獄にいるサイモンさん
に再会させてあげたい。僕でなければ、彼女をそこへ導くことはできないのだから。
(悩む必要なんか無いだろ、まずはネクロゴンドに向かえ。レイというチートキャラがい
るうちに、一番の難関をさっさと攻略してしまうべきだ。そのあとジパングでオロチ退治
まで手伝ってもらえればしめたもの。使えるうちに使い倒しておけばいいじゃないか)
――頭の中で、もう一人の僕がそう囁く。
「どうしよう……」
枕にバフッと顔を埋めて、僕はしばらく悩んだ。
本日の投下はここまでです。
規制に引っかかったりしましたが、無事投下できました。
>>157様、ご心配いただいてすみません。
さて……次をゲームサイドにしようかリアルサイドにしようか悩んでいます。
進行具合によってどちらでもいい場合があるのですが、かえって迷ってしまいます。
乙!
うおぅ、なるほど〜
とんでもないショートカットだなw
165 :
157:2009/11/07(土) 22:56:22 ID:d0fthSsuO
>>163 いえいえ。
こちらこそ焦らせてしまったのなら申し訳ないです。
連載物語はある意味、投下前のさんざん悩んでいるときが華。
今後も自分のペースでお願いしますね。
うわわ、激ショートカットか・・・。
何か後でとんでもない悪影響が出るかもしれないし、できれば仁義を貫いてほしいかな。
もっとも、その悪影響も見てみたい気もするいぢわるな一読者でしたw
167 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/11/08(日) 13:07:17 ID:2Zbfyfw+O
乙です
タツミくんどうするんだぁ〜w
続きが両方とも気になるな…次はどっちサイドでっか?w
もしかして両方ともやるとな…
ageすみません
続き乙です
ガイアの剣がこんなところで出てきてしまうとは…
今までよどみなく進んできたタクミに、はじめて大きな迷いが生じましたね。大いに悩むタクミに期待
どちらを選ぶのか、それとも第3の選択肢があるのか、この先の展開が非常に楽しみです
ぬるぽ?
ぬるぽ。
絵板が消滅したようですが……。
絵板なおったみたいだね。
ログ消えなくて良かった。
176 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/11/16(月) 20:52:35 ID:PRTXjkd8O
今日はぬるぽしない
「僕があのときお前を信じていれば……許してくれ……」
猜疑心も疑心暗鬼も吹き飛ばしそうなほど美しい宝石をホフマン君に渡すと、彼はその場に崩れ落ちた。
どんなことが原因であれ、一度失ってしまった信頼はもう取り戻せない。
それならばいっそ、前を向こうと、ホフマン君は馬車と共に、私たちの砂漠越えの旅を手伝ってくれると言ってくれた。
私もホフマン君も、随分カンタンな手で騙されたものだ。
ホフマン君は裏切り小僧に攻撃された瞬間、友に裏切られたショックですぐに洞窟を出てしまったらしい。
でも、ちょっと工夫すればあんな小細工すぐに見抜けるのだ。
裏切り小僧を倒した私は洞窟の中を進み、やがてもう一人のソロと対面した。
武器を構える私とは裏腹に、ソロは口元を隠して後ずさった。
その一見無意味にもとれる行動に驚いていると、ソロはすぐに安堵の笑顔を浮かべて「良かった、本物だ」と、私の掌に書き綴った。
よくよく考えて見て欲しい。本物の私とソロは、会話による意思疎通がまったくできないのだ。
唇の動きを見えなくして何か言えば、聞こえているのが偽物で、聞こえないのが本物だということぐらいすぐにわかる。
逆もしかり。裏切り小僧が化けていたソロはあんなにスムーズに喋っていて、かつそれが私にも聞こえたのだ。
「なっさけないわねぇ、ホント。いいじゃないの、最後にはこうやってまた会えたんだから。いつまで落ち込んでるの」
御者台に座ってパトリシアの手綱を握るマーニャちゃんに叱責されつつも、私の自己嫌悪は晴れない。
だってだって! あんなにソロソロソロソロ言ってたのに、偽者か本物かも区別できないなんて、ありえないじゃない。
「人の心とは、それほど弱いものなんですよ。メイさんもあまり気にせずに。ねえ、ソロさん」
すっかり戦闘での武器さばきが板についたソロが、一番前で頷いた。穏やかな顔にほっとする。
「きっと、あの洞窟は人間の心の弱さを映し出していたんでしょうね。
他人から信じられる人間になるためには、日々善行を心がけることが不可欠ですから。無意識の中のやましい部分や、すぐに疑う弱さ。
これらを克服した者たちだけが、あの宝を手にする資格を持っていたんですよ、きっと」ミネアちゃんとホフマン君が続く。
カンカン照りの砂漠の陽光は、容赦なく私たちを痛めつける。きっとホフマン君の指示がないと、すぐに遭難するだろう。
いま彼が私たちと行動を共にしているのも、疲れたメンバーが休める馬車があるのも、すべてあの「信じる心」のおかげだ。
でも、こういう事例はこの世界だからこそ実現するのかもしれない。この、素朴で素直な世界だからこそ。
私の世界では、日夜どこでも、嘘と猜疑心が折り重なって渦巻いている。
息子や孫かと思って電話に出れば、口を揃えて「口座に金を振り込んでくれ」だもん。
信じるものがバカを見る。善行をするとソンをする。なんてばかばかしいことなんだろう。
「あっ、見えてきましたよ!あれがアネイルの町です!」
黄金の地平線に夕日が沈んでいくのが見える。その反対側、私たちの進行方向に、橙色に染まった街並みがあった。
砂漠から来た旅人を癒す街、アネイルだ。
上は
>>100-111の続きです。ごめんなさい。
宿に着くなり、私はベッドに倒れこんでしまった。この世界に来てから髪や爪が伸びないのと同じで日焼けもしないらしく、
体へのダメージはさほどないはずだった。でも、あの直射日光はこたえる。やっぱり、もう若くない。
「お辛いのでしたら、お休みになってくださいね。武器の手入れは私がしておきますから」
いいと言うのも聞かず、ミネアちゃんは自分のと私のホーリーランスを磨いてくれた。今は部屋に備え付けられていた本を読んでいる。
なんだろう。この娘、前よりも優しくなった気がする。別にあの洞窟を抜けたからってわけじゃないけど、
罪悪感を贖罪で浄化したいときの優しさっていうか。まあ、根は素直でいい子だから気にするほどでもない。
彼女の言葉に甘えて、ベッドにうつぶせになってうとうとし始めた頃。部屋のドアが勢いよく開き、
マーニャちゃんが飛び込んできた。
「メイ!この街、すっごーく広い温泉があるの!行こうよ!砂漠の疲れなんてぶっ飛ぶよ、きっと!」
……やだよ、めんどくさい。お風呂ならさっき宿の備え付けのに入ったもん。
「いいよ。ミネアちゃんと二人で行っといで。私は部屋に残ってるから」
「あら、よろしいんですか?この温泉、お肌にとても良いと聞いてます。日焼けにも効果があるみたいですよ?」
鼻の頭が日に焼けて痛いと言っていたミネアちゃんは、ちょっとわくわくした様子で椅子から腰を持ち上げた。
「それだけじゃないの!なんとね、この街の温泉、混浴なのよ!こーんーよーくっ!いい男、いないかしら〜」
「だったらなおさら行かない。いーから姉妹仲良く行ってらっしゃい。財布だのなんだのはここで見てるから。
あー、はいこれ。温泉から出たあとにジュースでも買いなさい」
小銭入れから五ゴールド銅貨を二枚、マーニャちゃんの手に握らせる。私が一向に起き上がらないのは不満そうだったが、
なんだかんだ言ってマーニャちゃんも可愛いね。「お小遣い」っていうのが嬉しいらしく、はしゃぎながらミネアちゃんの手を取った。
「じゃ、私たち行くね。あっ、お金、ありがとねー」
「行ってきます。何かお土産になるものがあったら買ってきますね」
「んー。いってらっしゃい」
パタン、とドアが閉まる音が、私を再び夢の世界へ誘い込む。
……と、外からマーニャちゃんたちの会話が聞こえてきた。
―――え?はい。これから行きますよ。あら、ソロさんも行きたいの?
―――
―――わかった。あがったら三人でジュース飲もうね。メイがお小遣いくれたから。え?ああ、部屋で寝てるって。
疲れたんじゃない?あ、公共のお風呂に入るときのマナーは守らなきゃダメよ?
だぁいじょうぶよ!このマーニャ様がしっかり教えてあげるから。
ベッドから体を起こす。コートを羽織る。タオルと石鹸(宿の備品)を持つ。部屋の鍵をポケットに入れる。
「あれ?」
「やっぱり私も行く」
……四つの黒曜石に「現金なヤツ(人)」という視線を浴びせかけられても、後悔はないっ!
ああ、腰にタオルを巻いた若々しいソロの肉体が眩しいっ……。
きれいについた筋肉とか、細すぎず太すぎもしない四肢なんて、まるで人間じゃなくて天使みたいだぁあああっ!
「メ〜イ。あんまりジロジロ見ないの」
「……スイマセン」
胸から下を隠すようにタオルを巻いた私だけど、本当に隠したいのは体じゃなくて、このニヤついた顔だよ、もう。
マーニャちゃんに倣ってかけ湯をして湯船に入るソロを、好色な女どもが品定めするような目で見ている。
イオで全員吹っ飛ばしてやりたいけど、私もそんな女どもの一員であることを考えたら、逆にマーニャちゃんからイオを唱えられそうだ。
「あら、ホフマンじゃないの。なーんでソロを置いて行っちゃうの!こらっ!」
「わーっ!?まままっまマーニャさんっ!?いやいや、だって、僕が部屋を出たときは、まだソロ君寝てたからー!」
マーニャちゃんの大きな胸を背中に押し付けられて羽交い絞めにされているホフマン君は、苦しそうだけど幸せそうだ。
あーあー……あんな純情そうな子にアレはキツイって。湯船から出られなくなったらどうするの……。
「や、やだ。ホフマンさんも来てただなんて……。恥ずかしいです……」
もじもじと広い湯船の隅っこに行ってしまったミネアちゃんを横目で見守りながら、どうしても視線はソロのほうへ行ってしまう。
―――メイさん。
「あいっ!?」いきなりソロが声をかけてくる。
―――ここ、泳いでもいいの?っていうか泳ぎたい!
「……ダメ。大人しく浸かってなさい」温泉で泳いで許されるのは小学校低学年までです。
しかしまあ、ミネアちゃんって、ソロに裸見られるのは恥ずかしくないのに、ホフマン君に見られるのは恥ずかしいのか。
これって脈あり? ……いや、違うな。ソロはまだ子供としか見てないだけか。ああ……なんて犯罪臭いの、私の恋心。
アホ臭いことを考えながら、ソロと二人でお湯につかる。心なしか、肌がツルツルしている気がしないでもない。
おじいさん相手にダイナマイトボディを見せ付けてご機嫌のマーニャちゃん、おばさんに温泉の効能を聞くミネアちゃんを
微笑ましく見ていると、やっとの思いで湯船のへりにたどり着いたホフマン君がぐったりと茹でダコ状態になっている。
「平和だなぁ……」
―――ねー。あ、ホフマンさん、鼻血。のぼせちゃった?
「うわっ」
笑ってしまうぐらい平和だ。ああ、こんな時間がいつまでも続けばいいのに―――。……と。
じゃぶん、じゃぶん、じゃぶん、じゃぶん……
ん? なんだろこの音。誰かが温泉の中をすごい脚力で歩いてくるような……。湯煙で見えないんだけど、……うわ。
「何よ何よあの女!」
「……姉さん、私、生まれて初めて女としての屈辱を味わったわ」
な、何があったんですか、あなたたち。
「あ、あの。どうしたのかな、二人とも。何をそんなに怒ってるの?」
声をかけた私をモンバーバラ姉妹が振り返る。眼光が怖い。ものすごく怖い。なんかとてつもなく屈辱的な敗戦のあとみたいな。
しいて例えるならWBCで韓国に負けたときのイチローのような、そんな顔だ。
「……姉さん!メイさんなら!」
「そうね!メイならイケる!イケるわっ!」
「行けるってどこに……わあっ、ちょっと!?」
右手をミネアちゃん、左手をマーニャちゃんにそれぞれ引っ張られる。ちょっと待って! ホント何なの!?
「ねえ、メイ。あそこらへんに座って待ってて。そして私たちの仇をとって!」
「お願いしますメイさん!あなたでダメなら私、服の中にスライムを詰め込みますから!」
鬼気迫る姉妹の迫力に負け、私は言いなりになって指定された場所に座ってお湯に浸かる。親の仇をとるのはあの娘たちだろうに。
岩場のようになっているところから、ひょこひょこと様子を伺うようにピンク色の頭が二つ見え隠れしている。あ、緑と金色も加わった。
「あら、こんばんは。今日は星がきれいな夜ね。おとなり、よろしくて?」
「え?ああ、どうぞ」
ハバリアのジルちゃんほどではないけど、まあそこそこ可愛い娘が突然話しかけてきた。
でもなんだろう。こんなこと思っちゃ悪いけど、どうも態度が横柄で癪に障る。
「さっきね、褐色の肌をした女のコが二人、私の胸を見るなり逃げて行っちゃったの。まあ、無理もないわよね。
あんな大きさじゃ。彼女たちの胸ってお父さん似なのかしらねー」
胸が父親に似るか普通!? いや似ないでしょ!? っていうか胸が親に似るってどういう状態のこと言うの!?
面積?! 胸毛?! それとも乳首の位置?!
「ねえ、あなたの胸は誰に似たの?やっぱりお父さん?それともおじいちゃんかし……ら……」
女の言葉が途中でつっかえる。……ははぁ、なるほど。そういうことか。そりゃあの二人も怒るわけだ。
いいこと教えてあげる。上には上がいるってこと。それから……。
「私は顔も体も母に似たんです。父にはまったく似てなくて。それであなたは?お父様?お爺様?それとも、叔父様似?」
「〜〜〜っ……!こ、今夜はこれで失礼するわ!あんまり長湯するとお肌がふやけちゃうし!」
お湯に脚をとられてよろめきながら、女は脱衣所に向かってしまった。
「フフフ。世の中、上には上がいるってことがわかったでしょ。それから、……巨乳は歳取ると、垂れるのよっ!覚えときなさい!」
若干、シャレにならない勝利の雄叫びを聞いたみんなが岩場の影からわらわらと現れた。
「も〜!さっすがメイ!大好きー♪」
「私、一生メイさんについていきます!」
―――何がすごいのかよくわかんないけど、とりあえずおめでとう!
「……ごめんなさい。僕もう、だめです……」
歓喜の宴は、ホフマン君が再び鼻血を拭いて倒れたことにより幕を閉じたのでした。
182 :
◆fzAHzgUpjU :2009/11/16(月) 23:01:50 ID:uUvz9TMw0 BE:1394303055-2BP(0)
Lv.17 メイ
HP:82/82 MP:73/73
E ホーリーランス
E 鉄の盾
E 革のコート(毛皮のコートの守備力-2)
E −
E 黄金の腕輪
はがねの剣
サングラス(壊れている)
戦闘呪文:ホイミ・ベホイミ・スカラ・メラ・ヒャド・イオ
戦闘特技:なぎ払い・連続魔法(黄金の腕輪の効果)・一閃突き
所持金:1233G
やっと規制が解除されました。
今回はドラクエらしい「健全なおいろけ」が出てればいいなと思います。
Rさん、投下乙でした。お誕生日おめでとうございました。
アネイルといえばこの名物(?)女がいましたね。忘れてた。
メイってそんなに巨乳なのか…www
乙です。
ドラクエの主人公はしゃべらないのがデフォ。
そして、ドラクエのお色気といえばpfpf
あと、避難所で出た話題は本スレに持ち込まない方がいいですよ。
乙です
前回が痛々しかったから、平和なじゃれあいを見ているとほっとしますね
いや、ある意味メイがいつもよりキケンに思えますがw
めるぽ
力゛ッ
前回<<128-136
【大賢者】
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
教授「――――――――。それで一昨日から帰ってないってよ・・・・・・。
お前のとこ、あいつから何か連絡ないか? 事務の話では、
今日も連絡が取れない場合は捜索願を出す、って親御さんは言ってるらしいぞ」
?「いやもう・・・・・・・メールしても返事なくて。体調不良だと思ってたんですけど」
教授「・・・・・・・・あのさ、ちょっと今、電話してみてくれないか?」
?「え? あ、はい。ええと・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・あー。電波が届かないところみたいです」
教授「んー・・・・・・心配だよー、ホント心配。なにがあったんだよー。
・・・・・・・・後でうちの研究室のメーリングに流すけどさ。
時間あったら、連絡取ってみてよ」
?「はい」
教授「それで悪いけどさ、午後の実験のTA、お前、代われるか?
俺、その時間さ、企業の人と打ち合わせなんだよ。
いつもあいつに任せてたからさー」
?「あーっと・・・・・・・・5時まででしたら。その後はちょっと、予定が」
教授「・・・・んー・・・・・・・わかった。頼むよ。
それじゃ・・・・・・・・・・・・・はい。これが実験の資料。やり方はわかるよな」
?「まぁ。実験やらせて、課題を来週までにレポートにまとめさせて・・・・・
あ、あと事前レポートの採点ですね」
教授「そうそ。まぁ採点は急がなくていいよ。あいつが帰ってきたら引き継ぎで。
エアコンの原理とかエンタルピとか、必要なことは最初に俺が話すから。
?「わかりました。・・・・・・・では、失礼します」
廊下を歩きながら、僕は考える。
・・・・・・・・・・・行方不明だって?
・・・・・・・・・最後に会ったのは、一昨日の夜、俺が帰るときだ。
実験室の施錠、あいつに任せて・・・・・・・・。
時間外申請は出してない。10時には警備員に帰されるはずだ。
実際、警備員が来たとき、既に部屋は施錠されてて、
次の朝、鍵はいつも通り、鍵ボックスに返却されてたらしいし。
こんな身近で・・・・・・・・・・・・・あーもー。実験に集中しよう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
?「それではー、今日からこちらのバッジをお付けくださいー」
僕「あ、え? これって・・・・・」
ここはギルドの受付。
受付嬢、アイロネートさんから、緑色の馬のような動物が描かれたバッジを貰う。
僕「・・・・・・・ひょっとして、バッジってどんなに経験積んでも付けます?」
アイ「そーですけどー・・・・・。あー、最初に説明しませんでしたっけー」
僕「たぶん」
アイ「ああー、すみませーん。
今度のはー、ギルドで仕事した回数が、100回までの方が付けるバッジですー」
僕「はぁ・・・・・・」
アイ「これより上のバッジももちろんありますよー。
ステップアップの証だと思ってくださーい」
ま、いいけど。
さて、今日は何の仕事にしようかな・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・これなんかいいな。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
その夜。宿の部屋にオキュロさんが来る。
なんと、調査の報告を明後日行うらしい。
アクデンさんと執務室で話すそうで、昼に兵がこちらに来るから、
予定を空けておいてほしいと言われた。
僕は二つ返事で承諾する。
誰かわかる人がいただろうか。
帰れる目処が立っただろうか。
僕は、久しぶりに高鳴る胸を抱え、眠りに就いた・・・・・・・・・・。
――――――――二日後。魔術課程実戦修練地区 総合舎 執務室―――――――――
扉を明けてもらうと目の前には、じゃばら腹のアクデンさん。
挨拶を済ませると、アクデンさんは、
人間が使うには大きすぎる執務机の椅子に、どっかと腰を下ろし、
僕に対し、横の大きなソファに腰を下ろすよう、促す。
そして僕は、今日までの報告を聞かされる。
史学課程の教職員も動員しながら・・・・・・・・・・・・・・未だ成果はないという。
・・・・・・・・・・・・・・・なんだ、そうか。
これを聞かされるために、僕はここへ来たのか・・・・・。
しかし、話はここで終わらなかった。
アクデ「そなたの体験と似たものなら、実は過去にもあるのだ」
僕はアクデンさんに、かつてこの世界で起きたという、三つの話を聞かされる。
一つ目は、城の人間が王様ごと一斉に消えたという、
北方の王国サントハイムで起こった、人体消失事件。
二つ目は、一つ目の事件より少し前、
北西の王国バトランドの片田舎で頻発した、子供の行方不明事件。
今では、この2つの事件は、当時地上に侵攻していた
ピサロの意向によるものと判明しているという。
行方不明となった者たちは、その後無事、戻ってきたそうだ。
そして三つ目。それは勇者一行に、そのピサロが加わった後のこと。
彼らは旅の途中、およそこの世と思えない、奇妙な世界を冒険したという。
そこで彼らは、奇妙な二匹の怪物と戦い、再び元の世界に戻ってきたとか。
この話以外にも、人が消えたという昔話は各地にあるそうだが、
所詮は昔話、創作や過度に誇張された物語ということらしい。
僕「えっと・・・・・・・じゃあなんで、さっきの三つの話は信憑性があるんです?
200年も昔のことなら、その話だって事実が脚色されていたり、
創作かもしれないじゃないですか」
アクデ「・・・・・・・確かに。遠き物語を紐解くと、多くの真実は遥か低俗なもの。
だがこの物語には、信ずるに足る根拠が存在する。それはつまり・・・・・・・・
この地上には今も、勇者の旅の真実を語る証人がおられる、ということだ。
かつて勇者の旅に同行した、仲間の一人が」
僕「・・・・・・・・・・・え?」
は?・・・・・・・どういうことだ?だって、200年・・・・・・・
僕「え、ええと、確認しますけど、その勇者っていう人の旅って、
ええと・・・・・・・200年も前の話なんですよね? 仲間の人って・・・・・え?」
アクデ「サントハイム王国におわす、200年の歳月を生きる大賢者、クリフト。
その方こそ、偉大な歴史の生き証人だ」
僕「・・・・・・はぁ!?」
アクデ「正確には230歳ほどだったか」
僕「それは・・・・・・・・失礼ですけど、狂言の可能性は?」
僕の世界でもたまにあるじゃないか。
出生記録が残っていない老人が、物珍しさを狙われ仕立て上げられることが。
確か前も、どこかの発展途上国であったはずだ。
アクデ「・・・・・・・なるほど。勇者に関することは、そなたにとって夢物語だろう。
だがあのお方は、断じて不埒(ふらち)な山師の輩ではない。
世界が彼の物語の証人だ。
畏敬の念を持たずには対峙できぬ、独特のオーラ。
性別・国・種族を問わず、あらゆる者が同じ想いを抱いている。
それに年齢のことなら、私も158歳。あの方とは100年以上の付き合いだ。
まぁ、魔物は大抵人間より長命であるし、
人の身にありながらあれほどの長命は、まさに奇跡だが」
僕「えっと・・・・・やっぱりその、クリフトっていう人、偉いんですよね?」
アクデ「当然! サントハイムの元国王でもあらせられるし、
彼の成した偉業、それは永遠に色褪せぬ伝説の一つだ。
アーシュ、本題に入ろう。
幸いあのお方は、近々、特使として我が国の慰霊祭にお越しになられる。
私はこの機に、そなたのことを彼に相談すべきと考えるのだが、如何か?
人類の宝とも称される博識と聡明な心には、国を跨ぐほどの価値がある」
僕「・・・・・・・・・・」
アクデ「国王陛下には私から事の経緯を説明する。
特使は通例、最初に謁見の間にお越しになり、国王陛下と挨拶を交わす。
王宮職員に混じり、そなたもその場に参列できるよう、手配しておこう。
そなたの事は、火急のため一両日中に伝令を出し、あちらへ速書を届ける。
こちらにお越しの際には、そなたもご歓談できるやもしれぬぞ」
――――――数日後。中央図書館16階「科学 第6書庫」――――――
白石造りで荘厳(そうごん)とした佇まいの、この図書館。
内部は、悠久の古臭がところどころに漂う、大小の書庫の集まりだ。
2つの棟の1階と10階にはそれぞれ、大広間があり、そこには
ギルドのそれが可愛く思えるほどの、広大で活気あふれる貸出・返却受付が構え、
新刊コーナーはもちろん、ソファ、長机と椅子が、いくつも置かれている。
僕は今、多くの科学書の中から、物理に関する書物をいくつか抜き出し、
机の上に積み上げている。今読んでいる本の題名は『近代科学対話』だ。
明日僕は、魔術地区と自然科学地区の職員、主に学者たちに対し、
僕の世界の基本的な科学理論を、説明することになっている。
本来なら今日までに、こっちの科学について理解するはずだったのだが、
結局何もしなかったため、今日は朝から、図書館に缶詰なのだ。
どの世界でも図書館のルールは一緒なのだろう。
『図書館の中ではお静かに!』
そんな貼り紙を、この部屋に来るまでに、
昇降機の中も含め、あちこちの壁で見かけた。
どうやら高い階層はあまり人気(にんき)がないようで、
ここは、ちょっとしたホールくらいの大きさなのに、
利用者は僕を含めて3人だけだ。
・・・・・・全ての無において、有は生成されず・・・・・・・・・ふーん。
基本的な法則は結構、あっちの世界と共通してるな・・・・・。
あ、でも、魔法があるし、根本が異なっているかも。うーん。
ざっと内容を理解した僕は、机に置いた本を元の場所へ戻す。
・・・・・・・・少しして僕は、『熱学の基礎』という本を手に
机に戻り、内容を確認する。
・・・・・・・・「熱素カロリックの原理」・・・・・・うーん。
「熱素の移動」・・・・・・熱素カロリックに質量はなく・・・・うーん。
どうしよう・・・・・・・明日はどこから説明を・・・・・・・うぅ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
翌日の夕方。
兵と共に馬に乗り、僕は宿屋を発つ。
大通りを城の方へ向かい・・・・・・・・商業・経済地区に面するところで左折する。
辺りには、以前セラウェさんに案内してもらった、学生会館、
第41、第48号研究棟。その他、立ち並ぶ建造物群。
ところどころ存在する、公園のような芝生の一角。
そのような場所で、ベンチや、あるいは地べたに座りこんでいる、
異様に背が低い者、尖った耳の者、尻尾の生えた者。
それら、かつて人間以外の種族と紹介された者を横目に・・・・・・・。
・・・・・いつしか周囲の様相は変化し、小山程度の林、
屋外に設置された、近世の色を感じさせない、何らかの装置群、
そして、建物が密集し立ち並ぶ一角が現れる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
王宮のような荘厳さを持つ施設と、シャープで実用的な施設。
それらが均整よく融合された風景。
この風景にはめ込まれた、校舎のような青色の建物の前に、僕らは降り立つ。
4階建て、ステンドグラスのような、様々な色彩を持つ窓がいくつも見え、
入口のプレートには、『第105号研究棟』と書かれている。
入ってすぐ左の受付で男性職員に案内が引き継がれ・・・・・・・・・・
そして僕は、彼の後ろを歩いていった。
――――――――第3号棟3階 第13講義室――――――――
長机がいくつも並ぶ、小さな会議室。
今ここでは、研究者同士の活発な議論はもちろん、僕への質疑も行われている。
これがいわゆる、学会にセンセーションが巻き起こった状態、か。
黒板に書いた僕の説明、基本的なことだが、わかってくれると嬉しい。
質疑自体は、皆この理論の初心者、高度なものはそれほどない。
問題は魔法エネルギー、魔力の概念だ。これらの理論を踏襲した質問には、
何も知らない僕は、ときどき答えに詰まってしまう。
?「魔法エネルギーの概念を持たない理論。斬新ですなぁ」
?「全てのエネルギーは保存されるという提案も、先進的だ」
?「問題は理論の普遍性だ。魔法力学を組み込めればよいのだが」
?「私は、熱の有無はエネルギー量の変化、という概念に驚きます。
知性体は万物の尺度である、とはよく言ったものですが、――――――」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
喧騒は未だ収まらず。
僕はたまらず、自分の椅子に腰を下ろす。
直後、どこからか軽やかな鐘の音が聞こえてくる。鐘の音が鳴り止むと、
僕の一番近くに座る、自然科学課程の総合担任、座長のバーズ先生が立ち上がる。
バーズ「えー、皆さん。本日は大変有意義な時間を過ごせたと思います。
もうお時間ですし、まぁ皆さん、この後ご予定もあるでしょう。
また次回、彼の発表を聞きにくるということで。
アーシュさん、いやー、今日は本当にありがとうございました。
久しぶりに、何も知らない自分に出会えましたよ。
今後も、短めで結構です、お願いできますか?」
僕「あ、はい」
バーズ「ではアーシュさん、後日、簡単で結構です。
書式は任せますから、本日の内容を文書で提出してもらえますか?
なるべく急ぎで。ほんの2、3部で結構です」
僕「え・・・・・はい。わかりました」
もちろん手書きですよね。
そして・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・後日。
両側を見物人で埋め尽くされた大通りの中。
青・緑・黄・白、鮮やかな衣装を身に纏うサントハイムの一行が、
動物を駆使し、人の歩みを少々超えた速さで行進する。
一行の真ん中、一際大きな動物イャーヌの背には、豪華な天蓋が見え・・・・・・・・・。
一行は入口から途切れることなく続き、いよいよ王宮に迫ってくる。
非野蛮な騒々しさを作り出す見物人の、密集した顔・顔・顔。
それがあの大きなイャーヌの進行に合わせ、まるでドミノ倒しのように動く。
空の目で見れば、小さな粒々が揺れ動いているように思われるだろう・・・・・。
いよいよ一行の先頭が、開け放たれた城の大扉の前に着くと、
彼らは横に散開し、後続が先頭に着くと、彼らも続々と散開し始め・・・・・
人々は、あの絢爛(けんらん)豪華な一頭が、
扉の前で止まるのを、今か今かと待ち・・・・・
全体が止まり
そこから、緑の神々しい衣装を身に纏った、
若き日の精悍(せいかん)さを彷彿とさせる面長の顔立ちの、
白髪の老人が降り立つ。
大扉の両端から行列に向かって並び立つ、何十人もの宮廷騎士の列の間、
その中央にて待機していた上級兵が頭を垂れ跪き、
老人と後ろに従う従者の者達に対し、この世界における最上級の敬礼の意を示す。
そして一行は、格調高く歩を進める上級兵を先頭に、
1階の中央庭園を闊歩(かっぽ)し・・・・
2階の階段室にて、最敬礼で迎える階段の衛兵の横を通過し・・・―――――――
―――――――僕の目線の先、勲章を肩に携えた兵士を先頭に、
緑の服の老人と、老人の従者らしき四人が、謁見の間に現れる。
そこから、先頭の兵士だけが、王様の前へ進み出て、
これ以上張れないほどに張られた胸を、いっそう硬くする。
?「サントハイム王国王立魔法学校、ユネストロ・ユカローテの学長にして、
偉大なる賢者の称号を冠する、
クリフト=サルムント猊(げい)下の、御成りにございます」
厳格で悠々とした宣言の後、勲章の兵士は、
赤絨毯で向かい合う兵士隊の、最前列に加わる。
それを見届け、後続に控えていた五人が歩き出す。
あの人が・・・・・・・・・大賢者クリフト。
僕は目を奪われてしまっていた。
僕の目線は、前方へ歩を進める彼を迎える、斜めの位置。
ふと、こちらに向く老人の視線が、僕のそれと重なる。
それは、必然性など感じられない、ただの出来事であり、
一瞬の後、視線ははずれ・・・・・・・・・
老人は止まった。
シルバ「此度もレオ王国に御来訪いただきましたこと、
全国民の代表として、深い感謝の意を表明致します」
クリフ「こちらこそ、貴国より御誘いいただき、深く感謝致しております」
アーシュとクリフト。
後に歴史に名を刻む、二人の男が、このとき初めて出会いました。
アーシュ
HP 14/14
MP 0/0
<どうぐ>携帯(F900i) E:エリモスの服 ルテールの靴
クリフト
HP 716/716
MP 670/670
<どうぐ>E:学長のローブ
<呪文>ホイミ べホイミ べホマ ベホマラー ザオラル ザオリク ザオリーマ
ベギラマ イオラ バギ バギマ バギクロス ザキ ザラキ ザラキーマ
スカラ スクルト キアリー マホカンタ マホトーン マヌーサ フバーハ
<とくぎ>ゾンビ斬り なぎ払い マヒャド斬り いなずま斬り いてつくはどう
アーシュさんは、TAをするくらいですから、優秀な学生さんだったんでしょうね。
熱力学関係の研究室でしょうか。
一方でこの世界ではまだ熱素が信じられているというのですから、アーシュさんの知識はこの世界の科学の発展にものすごく貢献するでしょうね。
そうきたかっ!といい意味で期待を裏切られました。
冒険をして魔王を倒すのではなく、学術の分野でこの世界に貢献するとは。
今後の展開が楽しみです^^
書き忘れましたが、保管庫も更新しております。
ご確認ください。
>>196 ひさびさのレス、ありがとうございます。
乙でした!
クリフト、こんなに偉くなるとはwww
カロリック!すごい世界だ…
現実世界でもカロリック説やフロギストン説は100年以上にわたり信じられていたらしいですけれど。
ところで、導かれし八人のうちで生き残っているのはクリフトだけなのでしょうか?
姫のいないクリフト…どんな人生を歩んでいることやら。
早速修正
誤
第3号棟
正
第105号棟
>>199 保管庫に記載している各種紹介で我慢してください
オエビにグロ写真(当方にとっては、ですが)が張られてます。
管理人さん何とかしてぇ〜
ほしゅ
使い古された言葉で形容するのならば、それは大地の怒り。
いや、喉元までこみ上げた怒りの感情を辛うじて抑えている状態…
そう表現したほうが正しいのだろう。
人が隠そうと思っても隠しきれない怒りの感情にも似た白い噴煙は
遠く岩山を隔てたサラボナの街に八つ当たりのように日がな吹きつけ、
時折、大地の下から唸り声のように響く低い流動音に人々は畏怖する。
人はおろか、野生動物の姿さえ滅多に見かけない 通称『死の火山』
そのような物騒な通り名をつけられたこの山に進んで足を踏み入れる人間。
その原動力は物欲か…愛欲か…権威欲か…
時に欲は人を動かす原動力となり、時には人を破滅させる地雷ともなる。
それはまさに、人の内に眠る火山の鳴動によって突き動かされるかの如く。
彼らの中にもまた、流動するマグマの如き『欲望』が渦巻いているのだろう。
◇
―聞いたかい?ルドマンさんの娘さんの婿選びの話なんだけどさ―
―聞いたともさ。あの火山の奥から指輪を持って来いって話だろ?―
―無茶な話だよねえ。殆どの男が逃げ帰ったらしいじゃないのさ―
―当り前だよ。あんな所から小さな指輪を探し出して来いだなんてさ―
―ほんと。命がいくつあっても足りないって話だわ―
―こりゃ、娘さんはしばらく結婚できないかもねえ―
―娘さんを手放したくないからって無理難題をふっ掛けてるって話もあるけどね―
―そりゃあるかもね。あはははは―
サラボナの街は例の婿候補選定試験の話題で持ちきりだ
娯楽の少ない地方であることに加え、話題の主の片割れは地方の有力者。
降って湧いたような大イベントに、町中の人々が興味津津と言った所か。
そして、話題のもう一方の片割れであるサトチーはと言うと
普段通りに武器や道具屋を物色して旅の準備をしている。
「なあ、サトチーよぉ。俺達も急いで火山に行かなくってもいいのか?」
防具屋の店先でゲレゲレにシルクハットを試着させていたサトチーに声をかける。
急ぎすぎるのもアレだが、悠長なサトチーを見ていると俺の方が焦ってしまう。
「聞いた所によると、あの山には強力な魔物が生息しているらしいからね。
出来る限りの対策をして入念に準備してから向かわないと危険だと思うんだ」
「そりゃわかるけどさ。他の誰かがリングを持って帰っちまったらどうすんよ?」
「それは多分大丈夫だと思うよ。殆どの参加者が逃げ帰ってるらしいし…
でも、まだ帰って来ない参加者の安否も気になるからね。
奥までは入り込んでいないとは思うけど、そう時間を空けるわけにもいかない。
今日一日で準備を万全に整えて、明日の日の出とともに出発しよう」
なるほどね、一見すると呑気に街の人と世間話をしているように見えるが
火山の内部の情報を入手して対策を練っているってわけか。
それに、逃げ帰ってきた参加者の人数を把握して猶予時間の計算にも余念がない。
全部計算づくって事か。サトチー…恐ろしい子!!
その日は一日かけて街を回り、全員の装備品を新調。
「はい、これはイサミの分」
「え、俺にも?」
「鉄の胸あてもだいぶ傷がついてるからね。万が一があってからじゃ遅いよ。
イサミは重装備で固めるよりも、先手必勝の戦闘スタイルみたいだから、
鋼の鎧や鉄の胸あてよりも軽装の方が戦いやすいんじゃないかな」
俺用にも身かわしの服ってヒラヒラした素材の服を買ってもらったが、
見た目に反して動きやすく、何よりも軽いのがありがたい。
そして、もっとありがたいのが俺自身も気づかなかった戦闘スタイルを
サトチーが理解してこの防具を選んでくれた事。
「それじゃあ、準備も終わったしここからは自由行動。
ただし、明日の朝は早いから今日はみんな早めに寝る事。
そして、羽目を外して街の人に迷惑をかけない事。いいね?」
日はまだようやく西の山に足をつけたくらいの時間。
サトチーから告げられた余暇の時間をピエールは宿の部屋で剣の手入れに費やし、
ゲレゲレはサトチーにブラッシングをしてもらいながら喉を鳴らし、
スミスとブラウンはロビーで紅茶(片方はミルク)を嗜み、思い思いに過ごす。
さて、俺はどうするか。
部屋に荷物を置き、ふらりと宿を出た俺の目に飛び込んできた酒場の看板。
ポケットに手を突っ込み、そう額は多くないが小遣いには十分なゴールドを確認。
―深酒しなければ大丈夫だよな
時間が早いせいか、店内に客は俺一人で酒場特有の騒がしさは感じられない。
少しばかり静かすぎる気もするが、たまにはこんな酒もいいのかもしれない。
久々の酒。そもそもアルコールには強い方ではなかった…様な気がする。
ゆっくりと酒の香りを喉に流し込み、ゆっくりとグラスをテーブルに置くと、
溶けかかった氷がカラン…と心地よい音をたてた。
マスターと一言二言の会話を交わす…落ち着いたマスターの声が聞こえる。
目の前にあるグラスにそっと触れてみる…冷たく湿った質感を感じる。
グラスの中身を喉に落としてみる…舌と鼻に、そして胃の辺りに一瞬の高揚感を覚える。
俺の世界とは異なる世界。手を伸ばせば容易に触れる事ができる異世界。
始まりはとても歪で、一刻も早く自分の世界に帰る事だけを考えていた。
ただ、手を伸ばした先にあった世界は心地よく俺を抱擁し、俺もそれを受け入れた。
始まりは船の中、その前は電車の中で…
グラスと氷が店内に配置されたランプの光を優しく乱反射する。
ランプの炎の揺らめきに同調して透明な影が震える。
グラスを取り、少なくなった中身を一気にあおる。
ふぅ…と、小さく漏らした吐息が冷えたグラスを薄く曇らせた。
「つまらない飲み方してるわね。お酒ってのはもっと楽しく飲むものじゃないの?」
すぐ横からかけられた声に吐息が逆流する。
いつの間にか隣の席に座っていた女。
―確か…ルドマンさんの家にいた派手女…デボラって言ったかな…
風呂上がりなのだろうか、特徴的に巻き上げられていた黒髪は後ろで束ねられ、
派手な衣服も寝間着(それでもパジャマにしちゃ派手だが)にショールという佇まい。
それでも化粧をバッチリ決めているのは女のプライドってやつかねぇ。
その高圧的な目が値踏みするように俺を眺め…
「何ボンヤリしてるの?私の美貌にうっとりするのも男なら当然の反応だけど、
それよりも先にこんな美人が隣に座ったのよ。男ならさっさと奢るものでしょ?
まぁ、あんたみたいな貧相な男に最高級の葡萄酒を奢らせるのも酷だし、
あんたと同じ安酒で勘弁してあげるわ」
一気にまくし立てて勝手に酒を注文しやがる。なんて女だ。
「何か用か?美人さんは家で最高級の葡萄酒でも嗜んでる方がいいんじゃないのか?」
「あいつがここに他の人間を連れてきたのは初めてだからね。
ちょっと興味を持っただけよ。変な期待してたんでしょうけど残念ね。
…あらやだ、ひどい香りのお酒。これで楽しめるなんて経済的でいいわね」
あからさまに不機嫌に言い放った俺の皮肉を意にも介さない。
マイペースな女だな。コレ系は何を言っても無駄だろう。
『あんた達は絶対に二つのリングを持ち帰ってくる。私が保証する』
何の根拠もない、何の保証もないはずのその言葉に感じられた力。
やってやるよ…違うな。やれるに決まってる。
開け放たれた扉から入り込む冷たい夜風に煽られたランプの炎がゆらり。
その小さな炎は一際大きな光を放ちながら沈黙を守り通していた。
イサミ LV 17
職業:異邦人
HP:80/80
MP:15/15
装備:E天空の剣 E鉄の胸当て
持ち物:カバン(ガム他)
呪文・特技:岩石落とし(未完成) 安らぎの歌 足払い ―――
〜〜〜〜〜
出立前夜。そろそろフラグを貼って剥がして…の作業を開始しますよ。
>>203-207 乙です
そろそろ続きを待ちわびていたところでしたw
デボラさんキターと思いきや、イサミとの意味深な絡み…
嫁選びがどうなるか今から楽しみです
「ほらよ。そのひどい香りの安酒をもう一杯奢ってやるよ」
「あら?意外と物分かりがいいじゃない。尽くす男は嫌いじゃないわよ」
「ところで、サトチーは前にもこの街に来たことがあるのか?」
文句を言いながらも一気に飲み干して空っぽになったグラスを取り、
新しく頼んだ酒を目の前に置いてやる。
「…そうだったわね。この街に来たのは初めてだったわね。私の勘違いよ」
気丈そうな瞳が一瞬緩み、じわりと滲む。
デボラは一気にグラスを傾け、中身を飲み干して顔を背ける。
「?…どうした?」
「常に代わりが用意されている女の気持ちって…あんたにわかる?」
顔を背けたまんま、小さな小さな声でデボラが問いかける。
小さく震える背中は、まさに女性のそれで…
「あんた達は絶対に二つのリングを持ち帰ってくる。私が保証するわ。
その夜にまたここであんたに奢らせてあげるわ。忘れたら許さないわよ」
振り向いた瞳に元の気丈で高圧的な光を灯し、店を走り去るデボラ。
扉を開け放ったまま、走り去る背中は数秒も待たずに夜の闇に溶けた。
『デボラのあんな姿、ここで長く店主をやってますが初めて見ましたよ。
こりゃあ明日あたり死の火山が噴火するかな?』
愉快そうにマスターが話すが、頭に入らない。
激しく上下するテンションに置き去りにされて、酔いもすっかり醒めちまった。
リングを持ち帰った夜にまたこの店で…か。
それは一方的に押し付けられた約束だが、胸の奥に強烈なインパクトを残す。
うわああぁぁぁぁ
そう言えば、燈火の時に妙に短いと思ったら…
1レス抜かして投下していたことに今気付きました。
>206と207の間に>209が入ります。
これじゃあ意味深じゃなくって意味不明な絡みになっちまうよorz
ちょっと死の火山に逝ってきます…
/^死^\ λ...
いや、もうほんとスレ汚し失礼しました。
乙です
デボラは何かを知ってそうな気配で、いろんなフラグがびんびんですな
>ちょっと死の火山に逝ってきます…
指輪をとったら帰ってきてね
乙でした!
死火山なら何も怖くないんだけどねw
うおー!やっぱデボラには第四の壁見えてる!
フラグ回収発言にwktkが止まりませんです
投下乙でした
死の火山行かれるなら つ【トラマナ】
アルス「ちーっす」
タクミ「どうもー。ついにStageも20の大台に乗りましたね」
アルス「なげぇ……。もうちょい短くできないもんかね」
タクミ「実はすでにStage27まで、だいたい書き上がっていたりします」
アルス「マジで?」
タクミ「だけど途中途中の繋ぎがイマイチで何度も書き直してるそうです」
アルス「だからもっと練り込んでから書き始めろとあれほど」
タクミ「いったいこの話いつ終わるんだろうね〜。それでは恒例サンクスコール!」
タクミ「
>>164様、とんでもないのが来ちゃいましたよ。僕も悩むなぁ」
アルス「
>>165様、規制も楽しむ派なので大丈夫っす。他所で遊んでましたんで。
温かい言葉ありがとうです。ただRの自己ペースに合わせるといつ終わるのやら」
タクミ「
>>166様、今までのことを考えると、どんな影響が出るかわからないのが厄介ですよね。
このラッキーアイテムに飛びつくか、仁義を取るか、さて……」
アルス「
>>167様、『このショートカットどうするんだ?』のお声が多かったので、
今回は引き続きゲームサイドになりました。俺の方はこのStageの後半です」
タクミ「
>>169様、いや〜なんだかんだでここまでもけっこう悩みまくりでしたよ。
まあ常識に囚われない自由な発想が勝利の鍵かな〜とか考えてますが」
アルス「
>>175様、メ欄でこっそりお祝いのお言葉ありがとう!」
タクミ「
>>182メイ様、ちょwwだぶるすらいむwwwまた鼻血が……ゲロゲロゲロ」
アルス「だから自分の血ぃ見て吐くな。本スレまで汚すんじゃない。
改めてメイ様、投下乙であります! そしてR宛の乙&バスデ祝辞、感謝っす!」
アルス「ところで俺、さっきからなんか違和感があるんだよな」
タクミ「なにが?」
アルス「なにって言われてもハッキリわからんのだが……」
タクミ「←コレ?」
アルス「あーーー!!! それだ! 名前! タ『ク』ミって誰だ!?」
タクミ「最近そう呼ばれること多いから、読者様的にこっちの方がいいのかなって」
アルス「まだダーマ神殿にも行ってないんだから改名できないだろうが」
タツミ「覚えにくい名前ですみません。僕の名前は、タ『ツ』ミ であります。
漢字だと十二支の『辰』と『巳』で『辰巳』なんでわかりやすいかと思うんですが」
アルス「そういやお前の本名って『三津原辰巳』だったっけ」
タツミ「物語が一人称で書かれてる上、僕は仲間にも役職名で呼ばせてるからね。
本文中で僕の名前が出てくる機会が少ないから印象が薄いのかも」
アルス「なにか覚えやすい方法はないのか?」
タツミ「僕が女の子で『初美ちゃん』とかだったら、上から読んでもミツハラハツミ、
下から読んでもミツハラハツミ、とかって覚えやすいかもだけど」
アルス「そんなこと言ったら次からハツミって呼ばれるぞお前」
アルス・タツミ『それでは本編スタートです!』
【Stage.20 最大効率優先主義】
[1]〜[3] ゲームサイド
Prev
>>159-162 ----------------- GAME SIDE -----------------
「ふんふ〜んふふ〜ん♪ ふんふ〜ふふふ〜ん♪ ふふ〜んふふ〜ふんふ〜んふ〜ん♪」
……街のテーマ、かな。
レイさんは上機嫌で僕の前を歩いている。僕と二人っきりでネクロゴンド行きが決まっ
てからずっとこんな調子だ。声が洞窟内に反響して魔物に位置を知られるから普通は静か
に歩くものだけど、この「東の二代目」にとっては高難度のネクロゴンドも大したことは
ないらしい。
「いやぁしかし、ガイアの剣がまさか火山爆発を引き起こすことは思わなかったな」
代々伝わる由緒ある名剣、とか言ってたのにも関わらず、躊躇なくポイッと火口に放り
込んだ当の本人は、あっけらかんと振り返って笑った。
「でも本当に良かったのレイさん。お父さんも大事にしてた剣なんでしょ?」
「なあに、戦闘には使えないお飾りの剣だったからね。役に立ったならなによりだよ」
そう言って、陰から飛び出してきたライオンヘッドを一刀のもとに両断した。続いて到
着した地獄の騎士の団体様を、素早く持ち替えたドラゴンテイルで片付ける。僕が血に弱
いことを知っているので、魔物の死体を遠くにはじき飛ばしてなるべく僕の目に触れない
ようにする、という余裕までカマしているんだから、もはや言葉もない。
強い。っていうか強すぎる。本当にチートキャラだな。
「それに、君とデートできると思えば剣の一本や二本、安いものだよ。はっはっは」
そうか彼女にとってはデート感覚なのか。ここまでの道程に点々と横たわっている魔物
さんたちは、あの世で号泣していることだろう。
今回のこのぶっ飛んだショートカットについて。
読者様にもいろいろとご心配いただいたんですが、必ずしもすべてのイベントを「僕」
が引き受ける必要はないんじゃないか? と思い当たったことで解決いたしました。
ヒントは例のカンダタがらみの話。ロマリアの「金の冠」のイベントは、僕が指示を出
しただけでちゃんと進行したわけで(あの時、もしかしたら主人公である僕が出向かない
と先に進まないかも、とちょっと不安だった)、だったら他人でも条件が揃えばイベント
はこなせるということだ。僕には頼れる仲間たちがいるんだから、あれこれ一人で悩むよ
り素直に相談してみることにしたのだ。
「んじゃ、俺がレイさんの代わりにサマンオサに行って来るッスよ。別にそのガイアの剣
を持ってかなきゃダメってことはないッスもんね?」
「その間に、私とエリスがラーの鏡を取ってきましょう。実は先ほどモネ船長がいらっ
しゃって、手伝いたいとおっしゃいまして。確かにこのあたりのモンスターは強いようで
すが、人数を集めれば難しくはないでしょう」
「レイ様と勇者様だけというのは……。でもレイ様の大切な剣を使わせていただくことに
なりますし……ううっ……し、仕方ありません! でも決して妙な気は起こさないでくだ
さいね!? シルバーオーブを持ち帰ることに専念してくださいね!? きちんとお約束して
いただけるなら、私も私の責務をまっとういたしますわ」
とまあ、あれよあれよと決まってしまったのである。戦力的には僕なんかいてもいなく
てもいいわけで、サマンオサ周りのイベントは今、エリスら3人とモネ船長たちが、ジュ
リーさんの助けを借りつつ進めている。そっちは丸々彼らに任せて、僕はレイさんとネク
ロゴンドへシルバーオーブを取りに来たのだった。
レイさんが細い行き当たりの通路の奥から、金色に輝くギサギサの剣を持ってきた。
「ふむ、なかなかの業物(わざもの)だね。これもサミエル君に良さそうだ」
道具として使うとイオラの効果を発揮する「稲妻の剣」に違いない。さっきも『刃の鎧』
拾ったし、考えてみればサミサミばっかりいいお土産に当たってるな。エリスやロダムに
もなにか持ち帰りたいところだけど、あいにくこのルートに魔法使いや僧侶が装備できそ
うな物は落ちていない。
帰りにちょっと寄り道してなにか買って帰ろうかな〜、と僕がブツブツ呟いていると、
レイさんが苦笑した。
「おいおい、別れる前にかなりの軍資金を渡してきただろう?」
「うん、サマンオサは品揃えがいいって聞いたからね」
頼りになるレイさんを僕が取ってしまったから、ボストロール討伐には現時点での最高
装備で臨んでもらいたい。好きに使っていいよ、と数万ゴールドを預けてきている。
「でもほら、それとこれとは別でしょ。公平にしないと」
「君が無事に帰るだけで彼らは大喜びしてくれるよ。リーダーが仲間への公平さを考える
のは当然だが、君はちょっと気を遣い過ぎだ」
顔を上げると、レイさんは相変わらずのニコニコ顔で僕を見ている。
「君がワケあって仲間たちに一線を引いてるのは知ってるが、向こうはそれを寂しく感じ
てるんじゃないかな」
「……そんなことはないと思うけど」
確かに僕はみんなと少し距離を置いている。でも他人行儀に思われないよう、僕なりに
努力はしているつもりだ。
あの時……アリアハン国王に刑に処せられそうになった時、みんなに心配をかけて、エ
リスのこともすごく泣かせてしまったから。僕だって反省したから、今回のこともみんな
に包み隠さず相談したのだ。
が、レイさんは軽く肩をすくめるだけで、納得はしてくれなかった。
「なあ青少年。この際はっきり言うが、彼らに関係があることを隠し立てしてるのは良く
ないぞ。まして本当に隠しておくべきか、それとも伝えるべきか、君自身もどこかで迷っ
てないか? 彼らもそれを察知して君との距離を感じるんだろう」
うっ、さすがレイさん、言葉は優しいけどシビアなとこ突いてくるな。
「一人で抱え込んでも悪い方にしかいかないものだ、まずは誰かに相談することだよ。ど
うだ、私に言ってみなよ。第三者として客観的に判断してあげよう」
「ごめんレイさん、それは言えないよ」
僕がみんなに言えない秘密。
それは、アルスが自ら望んでこの世界を捨てた、ということ。
真実を知ればきっとエリスたちは傷つくし、その他の人間も「世界を捨てて逃げた勇者」
なんてレッテルを彼に張るだろう。黙っていることで僕に不信感を持たれようがなんだろ
うが、「なぜ勇者アルスと僕が交換されたか」という一点において、僕は最後まで「わか
りません」で押し通すつもりだ。
「しかし秘密を一人で抱えてるのはつらいだろう?」
レイさんが近づいてきて僕の肩に手を置いた。慈悲の光を湛えたグレイの瞳が僕を間近
で見つめる。
「思い切ってこのオネーサンに素直に言ってごらん。ん?」
「いや、でも……」
「もちろん、君がどうしても知られたくないと言うなら私も口裏を合わせるが」
ずずいと顔が近づいてきた。
「ほら、協力者がいた方がなにかあった時に君も安心だろう」
さらに顔が近づいてきた。
「あ、あの」
いつの間にか僕は洞窟の壁面まで追い詰めらていた。レイさんますます顔が近い。
「……あんまり頑固だと、私も少ぉし意地になっちゃうなぁ」
「ほひっ!?」
僕の胸のあたりをレイさんの手がなぜ回している。ちょwwセクハラwwww
「レレレレイさん、こんなところで、そういうのはちょっと……」
「こんなところって?」
「ひやっ!?」
耳元にふーっと息を吹きかけられて背筋がゾゾっとした。
「いくらなんでも難関ネクロゴンドの洞窟の最深部で油断しすぎでしょー!?」
「油断はしてないよ、モンスターなんかに君を食わせたりしないさ」
「まずあんたに食われかけてるっつーの!!」
ヤバイヤバイヤバイ、この人思ってた以上に変態だ! さっきから妙に絡んできてウゼェ
なこいつとか思ってたけどコレが狙いか。
だけど僕のわがままに付き合ってもらってる手前あんまり邪険にできない、っつーかこ
んな危険極まりないトコにひとりで放り出されたら生きて戻れないので抵抗しーづーらー
いー。どーする、どーする僕!?
英雄色を好むとはよく言ったもんだ。レイさんこういうのはマジで困りますぅ〜!
――と、レイさんの手が止まった。僕の胸を指先で押して首をかしげる。
「なんだこれ?」
プヨン、プヨン。
次の瞬間、僕の胸元からヘニョがにょっと顔を出した。そういや出がけのバタバタして
る時に僕についてくるってきかなかったから、ここに押し込んできたんだっけ。
ヘニョは、あのウルウルのつぶらな瞳でレイさんをじっと見つめている。
「そうかヘニョ君だったか。すまないが、ちょっと席を外してくれないかな」
ヘニョはつぶらな瞳でレイさんをじっと見つめている。
「あー、わかるかな、少しの間だけ離れていてもらいたいんだが」
ヘニョはじっと見つめている。
「えーと、あのねヘニョ君……」
見つめている。
「………」
「――――――――先を急ごうか」
レイさんはガクーッと肩を落として、すごすごと僕から離れた。
一級討伐士レイチェル=サイモン、スライムに敗北。
短いですが、本日はここまでです。
続きは後日投下いたします。
激ショートカット、さくっと活用しちゃいました。
レイさんwww
ひとまずヘニョGJ!
おお、投下あったのか!
乙!
イベント同時進行www
ショートカット乙w
レイさんに食われるなら、それもいいかも。
って、18禁になってしまうw
>さっきから妙に絡んできてウゼェなこいつとか思ってたけど
って、前半のマジメな会話の頃から秘かにそう思ってたんかいw
タツミ意外と腹黒?ww
アルス「ちーっす」
タツミ「どうもー。前回はあやうくレイさんに食われかけました」
アルス「今度の作戦ちょっと早まったんじゃないか?」
タツミ「ショートカットの弊害ってもしやコレか!? って焦ったよ」
アルス「全年齢対象の板なんだからほどほどにしてくれよ。それではサンクスコール!」
タツミ「
>>219様、ほんとヘニョ連れてきて正解でした。
あのウルウルの眼差しには一級討伐士も勝てなかったようです」
アルス「
>>220様、イベントの同時進行ができるなんて俺は知らなかったよ。
くそ、知ってりゃ俺もループ時代にもっと楽できたのに」
タツミ「
>>221様、まあ確かにレイさんなら……っていやいや、それはダメですよ。
ドラクエは小学生でも楽しめる健全なファンタジーゲームですからね!」
アルス「この話自体、込み入りすぎてて小学生には向かないと思うが……」
タツミ「
>>222様ってば、僕のどこが腹黒なんですか〜。
こんな純真で正直なやつ、そうそういないですよ?」
アルス「純真で正直なやつは自分で言わんだろ」
アルス・タツミ『それでは前回からの続き、スタートです!』
続・【Stage.20 最大効率優先主義】
[4]〜[8] ゲームサイド
Prev
>>215-217 ----------------- GAME SIDE -----------------
洞窟を抜けると、うすい青空の下に半砂漠化した丘陵地帯が広がっていた。枯れかかっ
たブッシュが点在する他は、生き物の影ひとつ見あたらない寂しい風景だ。丘陵地帯の向
こうには大きな川が流れていて、対岸には、薄い霧がかかっていてよくわからないが、岩
山に囲まれた奥にうっすらと城の尖塔らしきものが見える。
――ああそうか、あれはバラモス城だ。
アルスと同じく、この物語の壮大な無限ループを知ってしまった魔王の居城。ランシー
ルで勇者試験を受けた時に石の人面を通して会話して以来、向こうからの接触は無いけれ
ど……。
(バラモスのおじちゃん、あれから元気でやってるのかなー)
「おい青少年、あまり私から離れないでくれ」
少し先の方で、レイさんが手招きしている。
「あ、ごめんなさーい」
僕もレイさんの後に続いて埃っぽい丘を北東に向かって歩く。規格外の一級討伐士に恐
れをなしたのか魔物の影も無く、僕らはやがて森に囲まれた祠(ほこら)へと辿り着いた。
祠に入ると奥に壮年の男がひとりいた。ボロボロの身なりで、今にも壊れそうな椅子に
疲れ切った様子で腰掛けていたが、僕らの姿を認めるとまろぶように走り寄ってきた。
「まさか、まさかここまで辿り着く人間がいようとは!」
涙にむせびながら、彼はしっかりと胸に抱え込んでいた麻袋から、銀色に煌めく竜珠の
像を取り出した。
受け取ったそれは、間違いない、シルバーオーブだ。この空間のどこもかしこも壊れ、
すすけ、埃が積もって淀んでいるのに、ただひとつそのオーブだけが最後の希望のように
美しく磨き上げられ、光を放っている。ジュリーさんに譲られたレッドオーブよりもずっ
しり手に重く感じるのは、きっと気のせいじゃないよね。
「ご身分のある方とお見受けするが」
レイさんがひざをついて、今にも崩れ落ちそうな彼を支えて言った。
「ここで、何があったのです?」
「突然だったのだ」
彼ははらはらと涙を流しながら、その惨劇を語った。
元々この大陸はひとつの国家が治めていたが、突如、強力なモンスターの大群が襲って
きて、あっという間に壊滅状態に追い込まれてしまったこと。彼はその国の将軍という立
場の人間だったが、王の密命で国宝のシルバーオーブを守るため、最後の聖域であったこ
の祠にオーブを持って逃げ込んだこと。以来十数年、たったひとりで生き延び続けてきた
こと。そして伝説に語り継がれる勇者の降臨を、ひたすら待ち続けていたこと――。
振り絞るように言葉を紡ぐ彼の背後には、手作りらしい墓が並んでいる。彼が貫き通し
た覚悟の深さに、僕はたまらなくなって……レイさんをジトーっと睨んでしまった。黒衣
の剣士は気まずそうに目を逸らしている。
だーからイチャコラしてる場合じゃないって言ったでしょうが。「伝説の勇者」の実体
がこんなんだなんて、このおじさんには口が裂けても言えないよ。
「ピキー?」
胸元でヘニョが鳴いた。うちのヘニョは滅多に声を出さないので、僕は少し驚いた。
「どうやらヘニョ君は気付いたみたいだね」
レイさんが立ち上がって僕の方に戻ってきた。というか、将軍と名乗った男から目を逸
らさずに、後ろ向きのまま距離を取ったのだ。
そして剣を抜いた。
この時点で僕も悟った。
バラモスが現れ、国が滅ぼされてからすでに十年以上も経過している。その間ろくな食
べ物も無く、強力な魔物が徘徊する荒れたこの土地で、たったひとりで生き抜くことなど
果たして可能だろうか。
『ここまで辿り着く人間がいようとは』と彼は言った。そんな人間は、それこそバラモス
にとって脅威となりうる存在だろう。ならばシルバーオーブをエサとして、逆に……。
将軍の両腕が大きくいびつに伸びた。背中からコウモリの翼のようなものが生え始め、
あらゆる筋肉が盛り上がり、衣服を押し破って膨らんでいく。
「ああ」
将軍は自分の腕を見下ろし、なにかを思い出したような顔をした。それから、
「済まぬ……世話をかける」
小さくつぶやいて、頭を下げた。
レイさんが床を蹴った。次の瞬間には彼の首は宙を飛んでいた。魔物へと変身しかけて
いた胴体がドスンと音を立てて倒れ、その肉体は瞬く間に砂となって崩れていく。やがて
一粒残らず風に流されるように消えてしまった。
チャキ、と剣をしまう音で僕は我に返った。レイさんは笑っている。ニコニコといつも
の笑顔だった。
「早く帰ろう。サマンオサ組がどうなったか心配だしね」
でも急ぐと言った割りには、レイさんは祠を出てもすぐにルーラせず歩き出した。彼女
の後ろを黙ってついて行くと、祠からそれほど離れないうちに川が見えてきた。対岸には
ここからでもうっすらと魔王城を望める。あの将軍のおじさんも、かつては華やかであっ
たろう王城の成れの果てをここから眺めていたのかな。
「勇者なんかやってると、ああいうのはよくあるんだ」
レイさんが言った。
「だから私は、どちらかというと人間に肩入れしてしまうんだよ」
まるで自分は人間じゃないような言い方が少し気になったけど、僕はやっぱり黙ってい
た。レイさんくらい強くなると、そういう気分になるのかもしれない。弱さゆえに群れる
のがヒトであるなら、強さとは異端であることだ。
この世界での「最強」は間違いなくレイさんだろう。
だから、世界にひとり。
レイさんが僕に執着する理由が、なんとなくわかったような気がした。
◇
ヴヴヴヴヴ……! ヴヴヴヴヴ……!
いきなりポケットの中で携帯が震えた。え、アルス? しばらくは連絡できないって言っ
てなかったっけ。だから僕は、レイさんと二人っきりのミッションをさっさと終わらせよ
うと思ったのに。ほら、少人数での行動だと携帯のことがバレ易くなるし。
レイさんは不思議そうな顔で僕を見下ろしている。いくらマナーモードにしていたって、
こんな密着状態じゃバレるに決まっt……密着状態!? うわこのエロ勇者、いつの間にか
僕の肩を抱こうとしてやがった! まったく油断も隙もねえな。いや、今はそれどころじゃ
ない。
「レイさん、あの、えーとですね」
どーする、どーする僕!? と焦っていたら、レイさんの方からヒョイっと両手を挙げて
後ろに下がってくれた。
「どうぞ。私は向こうに行ってるよ」
「あ、ありがと」
レイさんってたまに物わかりが良過ぎてちょっと反応に困る。勇者って人種はみんなひ
とクセもふたクセもあって、なかなか付き合うのは難しい。
……え? 僕? 僕はごく普通の善良な人間ですよ、ええ。
携帯を開けてみると、僕の古くさい携帯のモノクロ液晶画面には「ARS」と表示され
ていた。なんだろう、急用だろうか。しつこく鳴り続けている携帯の通話ボタンを押して
耳に当てる。
『なんだ、繋がっちゃったよ。まだギブアップしてないとは、大したものです』
――誰だこいつ。
聞いたことのない声。大人びた柔らかい口調だが、声音は僕と同じくらいの少年ぽいか
な。聴力にそれほど自信は無いから、確信は持てないけど……。
『初めまして、あなたがタツミ君ですね?』
「えーと、どなたさま……?」
彼は僕の問いかけを無視して話し続けた。
『なるほど、確かに声もそっくりだ。相互置換現象にはPCとPLの姿がそっくりになる
ケースと、まったく違う姿になるケースの2パターンに分かれるんですが、相似のケース
は声まで同じになるんですね。でもタツミ君自身は、そこまで似てるとは思わなかったで
しょう?』
「……まあ、自分の声を自分で聞くと違和感があるって言うからね。で、君は誰?」
『ここではショウと呼ばれてます。どうぞよろしく』
ショウ? 誰だっけ。なんか番外じゃしょっちゅう話題に出てるんで読者の皆様も勘違
いされている方が多いのではと思いますが、実は本編では、僕は彼のことをまったく知り
ません。アルスってば教えてくれないんだもーん。
というわけで、僕は不審に思いつつ質問を重ねた。
「ここでは、って言ったね。別のどこかじゃ名前が違うってこと? もしかして君もこっ
ちの人間なのかな」
『ふふ、鋭いですね、この国のガキなんてぼんやりしてるヤツばかりかと思ってましたが。
となると中身も似たのかな? アルス君のあの回転の良さも納得できましたよ』
なんか嫌味だなー。僕についてはともかく、こいつうちの勇者君についてもなんか言い
やがったか?
「ショウ君ったっけ? この携帯の持ち主はどうしたの」
『さあ、僕が聞きたいくらいですよ。この携帯、落ちてたのを拾っただけですから。あな
たの方こそアルス君からなにか聞いてないんですか? 妙に仲いいみたいじゃないですか』
トゲトゲしい言い方に、こっちもイラついてきた。さっきからなんなんだこのガキ。
「悪いけど君に教える気にはなれないよ。どうにも敵意を感じるんだけど、僕の勘違いじゃ
ないよね? 正直、うちの勇者君にも近づいて欲しくないな。なんの用?」
『用? 用ねえ……考えてみれば、僕としてはあなたに用があるのかもしれませんね』
妙な言い回しでひとり納得すると、ショウと名乗ったその少年は急に声のトーンを落と
して、そしてとんでもないことを僕に告げた。
『わかってないようだから教えてあげますが、その「うちの勇者君」とやらが無限ループ
で何年も苦しむことになったのは、あなたのせいなんですよ、タツミ君』
「…………え?」
『あなたの存在が、アルス君を散々苦しめ続けてきたんですよ。もう一度言いますよ?
あ な た が 無限ループの原因なんです。だから、あなたのその薄っぺらいくだらな
い人生と名前くらい、アルス君に譲るのは当然なんですよ。わかりますか?』
どうやら僕は弾劾されているらしい。
むしろ断罪と言うべきか。
罪。
僕の。
……………………………………………………………………………………僕の、せいで?
『おっと、もう行かなきゃ。またすぐ連絡するつもりですが、そちらとは時間の経過が違
うんでしばらくあとになっちゃうと思います。それまでに僕が言ったことをよく考えてお
いてくださいね。では』
ップ ツー ツー……
携帯は一方的に切られ、僕の意識は殺風景な荒野に放り出された。目の前には濁った水
の流れる大河と、その向こうにバラモス城。乾いた風が僕の身体をなぜていく。
それまで大人しくしていたヘニョが、胸元から這い出して足下に飛び降りた。
「いや……うん。大丈夫。思ったより平気みたい」
自分でもワケのわからないことを呟きながら、僕はヘニョを抱き上げた。
「大丈夫だよヘニョ、なんでもないから」
ヤだな、仮にも勇者なのに、またスライムに心配されちゃってるよ。
「おーい、終わったかい?」
振り向くとだいぶ離れたところからレイさんが手を振っていた。まるで子供みたいに両
手を振り回してるのがおかしくて思わず笑ってしまう。
「はい、オッケーで〜す!」
僕も両手で大きくマルを作ると、レイさんが走って戻ってきた。そろそろ本当に帰らな
いと日が暮れてしまう。レイさんは慣れた様子でササッと地面に魔法陣を描くと、ルーラ
の詠唱を始めた。
まずはサマンオサに戻ってみんなと合流。サマンオサの国王が無事に政権を取り戻して
いたら、東の海岸にいるスー族のおじいさんの町作りを手伝ってあげるようお願いして、
イエローオーブのフラグを立ててからジパングへ。北の浅瀬はそのあとかな。
当初の予定からはだいぶ狂っちゃったけど、まあ順調だろう。
うん、順調だ。
妙な横槍を入れられたくらいで動揺してる場合じゃない。
あの将軍のおじさんの、潔い最期を思い出す。
しっかりしろ、僕。
とっくに覚悟は決めてるだろう?
本日はここまでです。
次はリアルサイドの予定です。
さて、大事な携帯ほっぽり出して、
アルスは何をやってるんでしょうね。
執筆&投下おつかれさまでした。
将軍、散り際もかっこいいですね。シルバーオーブに込められた思いの重さに、じわ〜っときてしまいました。
体を魔物に乗っ取られていたとはいえ、一目で見抜いて一撃で首を飛ばすほどの実力者(勇者は本当は違うけど)にオーブを渡すことができて、将軍の魂も救われた・・・ならよいのですが。
レイさんって、まさか・・・。
いえ、そんなはずないですよね。
今回のループでのバラモスさんはどう出るのでしょうか・・・。今後の展開も楽しみです。
乙!
ショウはPLに敵意持ってるよな。
同じPC仲間のアルス相手のときと態度が全然違うw
乙でした!
リアルで読んでたのに恒例のdion軍規制の真っ最中だった
もうアルスは忘れてたw
―火星を夢見る眠り―
いつの頃だったか、自分の夢が他人と異なるものだと言うことを知った。
自分は眠ると必ず夢を見て、その夢はいつも同じものだった。
他の人間もそう言うものだと思っていたが、どうやら違っていたらしい。
同じ夢と言ってもまったく同じことが起きるのではない。
その夢は他人の日常を繰り返していると言えないいのだろうか。
夢の中でもうひとつの人生を歩んでいるようなものだ。
夢の中の自分は、どこか西洋の城のようなところで働いていた。
周りの人間も外国人のような風貌をしている。
その城での自分は黒髪の少年だった。
黒い髪をしているが日本人ではないようだった。
言葉が通じるのは夢の中のご都合主義なのだろう。そう思っていた。
ある日、ひとつのゲームと出会った。
こちらは夢ではなく現実世界の話である。
ドラゴンクエストエイトというゲームだった。
どこか夢の中で見た光景と似ていたのが興味を持った理由だった。
そのゲームは、夢と似ているどころではなかった。
ゲームの中に夢の中の世界があった。
主人公は、夢の中の自分が成長した姿だった。
名前も住んでいた場所も周りの人も全く同じだった。
夢の中の自分が城の兵士となり世界中を旅して世界を救う物語。
それがドラゴンクエストエイトだった。
これは夢の中の自分に将来起こることなのだろうか。
現実の時間の経過とともに夢の中の少年は青年となっていった。
ゲームで見た物語が始まる時が近づいていた。
邪悪な道化師ドルマゲスによって暗黒神を封じた杖が奪われる。
城が呪われ、人が呪われ、物語が始まるのだ。
盗賊ヤンガスを仲間にしてトラペッタ付近の広場で休みを取る。
ここがゲームの開始地点だ。
見当たらない姫を捜すと、草むらからスライムが三匹飛び出してくる。
実戦は初めてだが兵士としての訓練は受けている。何の問題もない。
剣で切りつけるとスライムははじけて消えた。
化け物になり果てた王と馬の姿に変えられた姫を連れて町へ向かう。
トラペッタの町から煙が立ち上がっている。ここまではゲームの通りだ。
この先何が起きるか分かっている自分の存在。
それがこの物語をどう変えていくのか楽しみでもあった。
この町でやるべきことはマスター・ライラスを捜すこと。
しかし、偉大な魔法使いはこの世のものではなくなっている。
弟子であるドルマゲスによって命を奪われ家を燃やされているのだ。
ゲームの中ではそうなっていたのだ。
だが、マスター・ライラスは生きていた。
>>231 自分のPLが、ミーティアのエロ同人読んでハァハァしてるような腐れヲタだったからね…
そんなやつにループの苦しみを与えられて、恨みに思わないはずがない
「マスター・ライラスの家で火事が起きるって予言した人がいるんだ。」
町の人の話では、予言のおかげでマスター・ライラスは助かったのだという。
「その予言をしたのは誰なのですか?」
町の人間から情報を集める。
ゲームと状況が異なっているので普通に話を聞くしかない。
「ユリマちゃんだよ。さすが占い師ルイネロの娘だね。」
どうやら彼女がマスター・ライラスに助言したらしい。
家は燃やされてしまったが命だけは助かったそうだ。
マスター・ライラスはどこにいるのか。
質問をしようと口を開いたとき、別の声がその言葉を遮った。
「た、大変だ! 怪物が! 町の中に怪物が入り込んで!」
怪物が現れたという騒ぎで話しどころではなくなった。
ドルマゲスが戻ってきたのだろうか?
町の広場へと急ぐ。
そこにいたのはトロデ王だった。
「ああ、こんなイベントあったな。」
拍子抜けしてしまった。
王は人々から石を投げつけられており、姫がかばうように前へ進み出た。
確か、王と姫を連れて町の外へと逃げるんだったはずだ。
そう思って声をかけようとしたとき、またしても言葉を遮られることになった。
ドラゴンクエストの主人公はしゃべらないものだが、その仕様のせいではあるまいな。
「何をしている! その方に石を投げるのを止めぬか!」
一人の老人が町人の行為を諌める。
ゲームではこんな展開ではなかったはずだ。この老人は何者なのだろうか。
「そのものは怪物などではない! 姿形にとらわれて本質を見失ってはならぬぞ!」
「しかし、マスター・ライラス……」
誰かがそう言った。なるほど。この老人がマスター・ライラスなのか。
トロデ王の正体を見抜くあたり只者ではないと思っていたのだ。いや、マジで。
「言い訳はよい。旅のお方、町のものに代わって謝ろう。すまなかった」
「これもドルマゲスのせいじゃ。話から察するにお主がマスター・ライラスじゃな。」
「いかにも私はマスター・ライラスと呼ばれている者だ。」
老人が答える。
ゲームの中では確認することはできなかったが威厳のある老人だ。
「我々はお主に会いに来たのじゃ。ドルマゲスの情報が欲しくての。」
「ドルマゲス! 師匠である私の命を奪おうとした不届き者だ。」
ここでドルマゲスの情報が手に入るのか。
ゲームとはイベントも変わることになるのかもしれない。
「ドルマゲスがどこに行ったのか分からぬか?」
「すまないが私にも見当がつかない。だが、知ることができるかもしれぬ。」
「本当か? して、どうやて?」
マスター・ライラスとトロデ王は勝手に話を進めて行く。
「この街にはルイネロという高名な占い師がいる。彼に訊けば、あるいは。」
「占い師とな。」
トロデ王は怪しがっている。
「力は本物だ。娘の方はわたしの身の危険をも察知したのだからな。」
「その娘であるユリマという少女が火事を予言していたという話でしたね。」
ようやく口をはさむことができた。
「うむ。そのおかげでドルマゲスに警戒することができた。」
「予言の通り家は燃やされてしまったようですが?」
「家は燃やされたが命だけは助かった。忠告がなければ生きてはいられなかっただろう。」
マスター・ライラスが助かったのはユリマのおかげということで間違いなさそうだ。
トロデ王もその話を聞き占い師の力を信じる気になった。
ユリマを訪ねて話を聞くことにした。
「あなたの助言でマスター・ライラスが助かったそうですね。」
「はい。何度も同じ夢を見て、まるでホラーでした。」
ユリマは語る。
「あなたがドルマゲスの行方を占ってくれるわけにはいかないのでしょうか?」
「私に父のような力はありません。その父も水晶玉をなくして力を発揮できないのです。」
「水晶玉ですか。」
「お願いです。水晶玉を取ってきてはくださいませんか。」
結局このイベントをこなさなければならないのか。
あっさり水晶玉を手に入れた。
ルイネロが占いをし、次の目的地が決まる。
多少の違いはあるものの、おおよそゲームと同じ展開である。
ただ一つの違いはマスター・ライラスが生きているということだ。
しかし、この違いはこの物語において大きな違いを生むことになる。
今夜はここで宿屋に泊り、出発は明朝ということになった。
続きが気になることろだが、休まないわけにはいかない。
ゲームでは宿屋なんて一瞬だが今はそうはいかない。
眠ることでこの楽しいゲームの夢から下らない現実の世界へ戻るのだ。
―続く―
新作乙
まさかライラス生存バージョンがあろうとは…。
新作ktkr!
楽しみにしてます
わわわ、これは楽しみといわざるをえないでしょう^^
執筆&投下お疲れさまでした。
>>233-238 ―水星にてマヌーサ―
つまらない一日を終えて眠りに就く。
これからは楽しい夢の続きの始まりだ。
トラペッタの宿屋で目を覚ます。
次の目的地はリーザス村だ。
村へはすぐにたどり着くことができた。
リーザス村に入るとガキンチョ2匹が戦いを挑んできた。
かかってくるということはやられる覚悟もできているのだろう。
子供たちに世間の厳しさを教えてやろう。
そんなことを思ったが、戦いは始まる前に中断された。
ゲームの通りだから分かっていたことではあるのだが。
ゲームと異なるところもあった。
町の人の話では、サーベルトが行方不明になっていると言うことだった。
ゲームではすでに死亡していることになっているキャラクターだ。
この村にはもう一人重要なキャラクターがいる。ゼシカだ。
仲間になるキャラクターだ。早めに接触を図っておこう。
文字通り接触したいところだが、それは自重しなければなるまい。
すでにゲームで体験したことがあるので、やるべきことは分かっている。
ゼシカの家に行きトーポを使いゼシカの部屋をあさる。
書置きをガキどもに見せて、ゼシカが塔へ行ったことを分からせる。
ゼシカの部屋の前にいたガキを1匹連れてリーザスの塔へ。
塔の入口の開け方を知っているのは村人だけなのだ。
もっともゲームをプレイした人間を除けばの話だ。
開け方を知っていればガキを連れてくる必要はないことなのだ。
しかし、あえてゲーム攻略の手順に従うことにした。
ここがゲームの世界ならば、すべてがフラグによって管理されているはずだ。
主人公である自分の行動に対してフラグが発生する。
ゲームのシナリオ通りに進めば何も問題は起きないはずだ。
しかし、予想外の行動は重大なバグを発生させる危険がある。
望むべき未来のために、余計なことはしない方がいいだろう。
この世界での行動は極力ゲームの通りにすべきなのだ。
もうすぐ塔の頂上に着く。ここでゼシカとの対面だ。
残念ながらこのゲームにおいて彼女と恋愛フラグが立つことはない。
パートナーが選べるのはドラクエファイブだけだ。
ぷるぷる。僕はスライムじゃないよ。
それがゼシカを見たときの第一印象だった。
あれは絶対に悪いスライムではない。
いや、このさい悪いスライムでもいい。
問答無用でスカウト確定だ。
それだけ魅力的なモンスターなのだ。
複雑な塔を登り終えた先にリーザス像があり、そこでそんなモンスターと遭遇した。
おっぱいは、じゃなくてゼシカは兄を返せとばかりに火炎呪文を放ってくる。
こちらの正体も知らないで魔法を放つとは乱暴な女だ。
いや、知っていても呪文は放ってきたかもしれないけど。
ゼシカの魔法がリーザス像に引火した。
その魔力に反応していか、リーザス像は幻影を見せ始めた。
あたりは幻に包まれる。
シーザス像に歩み寄るサーベルト。そこにドルマゲスが現れる。
ドルマゲスは杖を操り、サーベルトの体を貫く。
いま、この場でその光景が起こっているような、リアルな幻だった。
幻影は消え、あたりは元の景色に戻る。
「兄さん……」
ゼシカはその眼に涙を浮かべていた。
最愛の兄の無残な姿を見せられたのだ。この反応は無理もない。
「落ち着くなさいゼシカ。」
リーザス像がゼシカに語りかけてくる。
「あれはただの幻。あなたの兄サーベルトは生きています。」
「本当なの?」
ゼシカが叫ぶ。
「今のものと同じ幻をドルマゲスに見せ、サーベルトを死んだと思わせたのです。」
リーザス像が衝撃の告白をする。
「なぜそんなことをしたの?」
ゼシカはリーザス像の言葉を信じていいか迷っているようだった。
「ドルマゲスの狙いはサーベルトの命。目的を果たしたと思わせ追い払ったのです。」
「それなら兄さんはどこにいるの?」
「ここにいる」
我々の後ろから誰かが声をかける。
振り向いた先にいたのはサーベルトだった。
「ドルマゲスと対決し怪我を負ったのは事実だ。だからこの塔に隠れ体を癒していた。」
「兄さん……」
ゼシカはサーベルトの胸にしがみつき泣き始めた。
絶対、胸が当たってるよな、あれ。
深手を負ったサーベルトを連れてリーザス村に戻る。
サーベルトが帰ってきたことに村人は歓喜している。
ドルマゲスから受けた怪我は命に影響するものではなかったそうだ。
これもリーザス像のおかげということだろうか。
兄の敵を討つ必要のなくなったゼシカはどういう行動をとるだろうか。
普通に考えれば今まで通りの生活を続けることだろう。
結論からいえば、ゼシカはドルマゲスを追うと言いだした。
再び兄の命を狙うと考え、先手を打とうと言うのだ。
ゼシカは家を飛び出してしまった。
ゲームと同じ展開だ。
ポルトリンク港町でゼシカと再会する。
海の魔物が邪魔をして船が出せないと言うのだ。
オセアーノンを倒し、ゼシカが仲間になる。
このあたりのイベントはゲームと同じようだ。
ゲームと違うところは七賢者の末裔が生き残っていることだけだ。
それは、このゲームにおいて決定的にストーリーに影響することなのだが。
あたらなる大陸の船着き場で宿を取る。
楽しい夢は中断され、再びつまらない現実へと戻ることになる。
目を覚ました場所は病院のベットの上。
現実世界での自分はずっとこの病院に入院している。
病室から出ることなく病院の個室で過ごす退屈な日々。
できることといえばゲームくらいのものだ。
こんなところで生きていることを感じることはない。
自分にとっては夢の世界こそが現実なのだ。
だからこそ、あの世界では望むべき未来を手に入れたいのだ。
―続く―
>>242-247 ―海王星で混乱する―
マイエラ修道院は荘厳な雰囲気で佇んでいた。
聖騎士団はむかつく奴らだった。
マルチェロもゲームの通り気障な奴だ。
とりあえずこれ以上はやることがないので先に進む。
ドニの町でククールに出会う。
奴はカードでイカサマをして喧嘩に巻き込まれる。
そのごたごたの中、ゼシカが聖騎士団の指輪を受け取った。
こんなものいらないと指輪を返しに修道院まで戻ることになる。
修道院の拷問室でククールがマルチェロに謹慎を言い渡されていた。
「聖騎士団が酒場で賭博行為をしていたとなれば罰を与えないわけにはいかない。」
ゲームでは嫌味を言っていたはずだが、目の前の光景はいたって普通だった。
むしろマルチェロにはククールを庇おうとしているようにすら見える。
その場を離れて修道院の中で情報収集をすることにした。
オディロ院長のもとにドルマゲスが向かったという情報を得た。
ククールから情報を得て旧修道院跡を通り抜けて院長の元へ向かう。
ドルマゲスは退散していたが、マルチェロに賊と間違われてしまうことになった。
オディロ院長が我々を信用してくれたにもかかわらずマルチェロは納得しなかった。
別室でマルチェロに問い詰められる。そこにトロデ王も連行されてくる。
怪物の姿をしているトロデ王の仲間だと知れたことで、ますます容疑は深まった。
そのタイミングでククールが来た。
マルチェロはククールに指輪を見せろと言い出す。
ゲームでのククールは、盗まれたと言ってごまかしたはずだ。
そうしなければ賊の仲間だと思われてしまうから仕方なくなのだが。
「指輪はその旅人達に預けたものです。」
ククールはそう答えた。
マルチェロの性格を考えれば、ククールを賊の仲間と考えるだろう。
もし、ククールまで一緒に牢屋入りしたら誰が助けてくれると言うのか。
しかし、マルチェロの反応は違った。
「それじゃ、この人たちはクーちゃんのお友達だったんだ。」
マルチェロの口からそんな言葉が出た。
くーちゃんというのは……
「あ、ククールだからクーちゃんなのか。」
思わずそんな声をあげてしまった。
「お前兄貴からちゃん付けで呼ばれているのか?」
その質問にククールは静かにうなずいた。
想像してほしい。あの顔で弟をちゃん付けして呼ぶマルチェロを。
はっきり言ってキモイ。
今までのやりとりを見て判断すればマルチェロとククールはゲームほど仲が悪くない。
しかし、それがククールにとっていいことなのか疑ってしまうほどキモイ。
あの悪人面にクーちゃんと呼ばれるより嫌味を言われた方がましかもしれない。
そんなことを思ってしまうほどのインパクトがあったのだ。
「院長の家から火の手が上がっているぞ!」
そう叫びながら聖騎士団の一人が部屋に飛び込んできた。
その言葉を聞いてその場にいた一同は院長の家へと急ぐ。
院長の元へ向かう橋は燃え上がっていた。
火をあげる橋を渡りオディロ院長の元へと走った。
院長の前にドルマゲスがいた。
「オディロ院長には指一本触れさせんぞ!」
マルチェロが叫ぶがドルマゲスによって壁に叩きつけられてしまう。
「兄貴!」
マルチェロに駆け寄ろうとしたククールも壁まで弾き飛ばされた。
どこかで何かが壊れる音がした……気がした。
苦しむククールを見てマルチェロがキレた。
「クーちゃんになにしとんじゃこのボケ!」
そこにはM字の鬼がいた。
マルチェロパンチがドルマゲスに炸裂する。
ドルマゲスはマルチェロに恐れをなし、しっぽを巻いて逃げて行った。
マルチェロの活躍によってオディロ院長の命は救われた。
ドルマゲスの後を追うべく修道院を旅立とうとしたときククールに呼び止められた。
「俺も連れて行ってくれないか?」
ククールが旅に同行させてほしいと言ってきた。
「どうして仲間になりたいんだ?」
「オディロ院長を狙った賊を捕らえる。それが理由だ。」
しかし、それだけが目的だとは思えなかった。
「ひょっとしてあの兄貴の元を離れたいんじゃないのか?」
ククールは何も言わなかったが表情を見る限り図星だったのだろう。
マルチェロはククールの申し出を聞くと、ひどく驚いていた。
「クーちゃんが行くなら俺も付いていく!」
しまいにはそんなことを言いだした。
弟思いの兄じゃないか。キモイけど。
「再びドルマゲスがオディロ院長を狙う可能性があるから残ってくれ。」
そう言ってなんとかマルチェロを説得する。
修道院を経つとき、涙を流しながら手を振りマルチェロが見送っていた。
クーちゃんの旅の無事を祈っているよき兄の姿だった。キモイけど。
「旅先でばったり出くわすこともあるかもな。」
俺の予言にククールは怯えていた。
残念ながらゲームのストーリー通りならまた出てくるぞ。
川沿いの教会でククールの身の上話を聞くことになる。
当初マルチェロはククールを目の敵にしていたそうだ。
それが、ある日、あんなことになってしまったらしい。
ククールにとってそれが幸か不幸かは分からない。
このマルチェロの境遇に同情してしまう。
親に見放されて田舎の病院に閉じ込められているこの身の上と重なるのだ。
ある地方の名士がよその女に産ませた子供。それが自分だ。
マルチェロと違い、生まれたときから疎まれていた。
それでも母が子を産んだのは金蔓になると考えたからだろう。
口止め料と交換に父に引き取られた。
生まれつき病弱だったこともあり、世間から隠すように入院させられている。
それが自分だ。
いつしか眠りに落ち、そんな現実の世界へと戻っていった。
―毒を食らわば金星―
ここからしばらくはゲームと変わらない展開が続く。
船を入手するまでの旅は特筆すべき点はない。
この間、ゼシカが兄の様子を知るためにリーザス村に寄るよう催促してきた。
ククールの方はマイエラ修道院に寄ってくれと言うことはなかった。
次にゲームとの相違があったのはベルガラックだった。
カジノのオーナーであるギャリングの邸宅に賊が侵入したそうだ。
本来ならばここでギャリングは殺されていたはずである。
しかし、予想通りと言うべきか、ギャリングは生きていた。
「ギャリングさんの二人のお子さんが追っ払ったんですよ。」
町の人はそう語る。
二人のお子さんとはフォーグとユッケのことだろう。
「フォーグ様が敵の攻撃を引き受け、ユッケ様が賊を攻めたのです。」
「兄と妹が協力して戦ったのか?」
ククールが尋ねる。
「はい。無敵の男と言われたギャリング様を彷彿とさせる戦いでした。」
「ギャリングと言うのはカジノのオーナーの?」
「いえ、ご先祖様の方です。おそるべき技と強運の持ち主だったそうですよ。」
確かフォーグとユッケはギャリングと血縁ではなかったはずだ。
しかし、町の人にとってそんなことは関係ないようだ。
酒場のマスターからドルマゲスの情報を手に入れた。
ドルマゲスが向かったと言う闇の遺跡を目的地に定めた。
闇の遺跡にはギャリングの部下の他、フォーグとユッケもいた。
「あなたたちがドルマゲスを追い払ったの?」
ゼシカがギャリングの子供である二人に訊く。
「ああ、俺たちの敵じゃなかったけどな。」
「兄さんはあいつの攻撃を避けていただけじゃないの。」
「俺が囮になったおかげでお前は攻撃に集中できたんだろ。」
「そうだけどさ。私ばかり戦っていたみたいで、なんだか締まらなかったわよ。」
二人とも腕に覚えがあるようだった。
この様子では護衛のイベントは発生しないかもしれない。
「それで、お前たちもドルマゲスを倒しに来たのか?」
フォーグがこちらに質問をぶつけてきた。
ドルマゲスが人々を襲っていると言う事情を話す。
「ふーん。あちこちで同じようなことがあったわけか。」
「危ない奴みたいだからさっさとぶっ倒しましょう。」
「そうしたいのは山々だけど、遺跡に入れないことには仕方ない。」
「サザンビークにあるという魔法の鏡を使えば入れるかもしれないのに。」
俺たちに取りに行けと言わんばかりの説明台詞だ。
もちろん我々が取りに行くことになるわけだが。
サザンビーク城で鏡を手に入れる交換条件としてピザのお守を頼まれる。
ピザはゲームと同じように他人を苛立たせる才能には恵まれているようだ。
さらにこのピザ、ゲームじゃわからなかったことだが、変な臭いまでする。
姫君が馬の姿のまま戻れなかったとしても、これに嫁ぐことだけはやめるべきだ。
王家の試練はアルゴンハートを取ってくること。
アルゴリザードの背後から忍び寄る必要がある。
大人しい魔物に音もたてず近づき脅すことが王の資格であるらしい。
民衆から税金を搾り取るための訓練なのだろうか。
試練を終えて魔法の鏡を手に入れる。しかし魔力がなかった。
西の森の老人から魔力の取り戻し方を聞き、実践する。
魔力を取り戻した鏡を持って、再び闇の遺跡へ。
いよいよドルマゲスと対戦だ。
ドルマゲス戦は楽勝だった。
フォーグとユッケが協力してくれたためだ。この二人はやたらと強かった。
倒された後もドルマゲスは消滅しなかった。
七賢者に封印された力が解放されなかったためだろうか。
「こいつ、どうする?」
フォーグがユッケに訊く。
「道化師ならカジノで働かせればいいんじゃない。」
ドルマゲスは七賢者の末裔を一人も片づけることができなかった。
カジノで一生ただ働きさせられるのだろうか。
トロデ王はドルマゲスを倒したのに呪いが解けないことを訝しがっている。
「杖はどうした?」
「あの杖ならユッケが拾ったわよ。カジノの景品にするって言っていたわ。」
ゼシカが答える。
フォーグとユッケは遺跡から去っていた。
とにかく全員満身創痍だったためそれ以上の追及はできなかった。
なんとかサザンビークで宿をとることにした。
ここで現実へと戻る。
現実に戻り、殺風景な病室にいた。
病室でやることと言えば限られていた。趣味は二つあった。
その一つはゲームだ。
入院するに当たり金だけは用意されてあった。その金でゲームを買った。
自分がドラゴンクエストエイトの夢を見ていることを知った。
そのあとドラゴンクエストシリーズはすべてやっていた。
もう一つは盗聴。それが病室でできる趣味だった。
機材は数少ない外出機会にゲームとともに買いそろえたものだ。
それをこの病院内のいたるところに仕掛け、音を拾っていた。
自分が外界と接触するのはゲームとこの音だけなのだ。
その音を聞くと病院にはいろんな人間が来ることが分かる。
かつて火事に巻き込まれた兄弟が運ばれてきたことがあった。
二人とも助かったのだが、兄は弟を庇い回復が遅れたそうだ。
どこか胡散臭いと思ってしまうのは、自分に兄弟がいないそせいだろうか。
兄弟がいないと言ったが、正確にはいるかどうかすら知らないだけだ。
家のことなんて何も知らない。知るすべがないのだ。
思い起こせばドラゴンクエストには兄弟が多い。
サーベルトとゼシカ。マルチェロとククール。フォーグとユッケ。
彼らにはゲームと違うところがあった。
ゲームの彼らと夢の中の彼ら、どちらが本当の姿なのだろう。
彼らの姿をきちんと見ていたのか分からない。
自分の家族への思いが、彼らを歪めてしまうのだ。
―続く―
記念ぬるぽ
記念がっ
「もし目が覚めたらDQ世界の宿屋だったら 絵板」の管理人さんへ。
また猥褻な写真と猥褻なメッセージが貼られていますので、
一刻も早い削除をお願いいたします。
猥褻写真が貼られてから削除されるまで
いささか時間が掛かっているきらいがありますので、
こまめな巡回もお願いいたします。
↑のタイトルの「管理」の字についたクォートマークは何なんだ……?
>>257 久々に来たがもう8か
相変わらず最高に面白いぜ
>>261 ひろゆきがいた頃に管理人のふりする奴が多かったので名乗れないようにした名残
260だが、そういうことか。(
>>263について)
そして削除乙です。
>>248-257 ―土星のマホトーン―
ゼシカが消えた。
「どこに行ったか心当たりはないのか?」
「ベルガラックに行って戻ってきてから様子がおかしかったでガス。」
ヤンガスが質問に答えた。
サザンピークにククールを残し、ベルガラックへ行き情報を集める。
そこで、カジノの景品になっていた杖をゼシカが取ったことが分かった。
ルーレットで大当たりして手に入れたようだ。
サザンビークに戻る。
ククールが、ゼシカは北へ行ったという話を聞いていた。
ゼシカを捜すために北へ向かうことになった。
サザンピークの北にはリブルアーチの町があった。
そこで女性が暴れていると言う話を聞く。
ハワードの屋敷に行くと、ゼシカがハワードと対峙しているところだった。
ゼシカは何もしないままどこかに去ってしまう。
騒ぎが収まったことでチェルスの様子を知ることができた。
町の人間が話を聞く限り、みんなチェルスに同情的だった。
ゲームと同じように何か酷いことをされているのだろうか。
そんな心配をしていた。
ハワードがチェルスにしていることは、想像を絶するものだった。
「おー、チェルス。わしの可愛いチェルス。」
ハワードがチェルスにハグをして、さらに頬ずりまでしていた。
「なんですか、あれは?」
屋敷の人間に尋ねる。
「ハワードさまはなぜかチェルスを気にいっていて、よくああしているのです。」
あんなおっさんに抱きつかれても嬉しいことはない。
なるほど、町の人間がチェルスに同情するわけだ。
その壊れたハワードにクラン・スピネルを取ってくるように依頼された。
幸いハワードは、チェルス以外に対しては普通の態度だった。
ライドンの塔を攻略する。
クラン・スピネルはリーザス像に使用されたと言う情報を手に入れた。
リーザス像はサーベルトを救ったリーザスの塔の上にあるあれだ。
その像の元へ行くと、像はクラン・スピネルを託してきた。
「婚約指輪だと思って気楽に持っていってください。」
リーザス像は趣味の悪い冗談を言ってきた。
リブルアーチに戻ると、人が犬の餌を食べる姿を見ることになった。
「ハワード様! それはレオパルドの餌です!」
「チェルスの手料理が美味しそうだったものだからつい。」
ハワードが犬の餌を食べているところだった。
ゲームでむかつく人間は、この世界では気持ち悪くなってしまっているようだ。
うーうー唸っているのはレオパルドかそれともハワードか、よくわからない。
ハワードにクラン・スピネルを渡すと今度は世界結界全集を要求してきた。
チェルス以外への態度はあまりいいとは言えないがハグされるよりはましだ。
ハワードの前に現れた呪われたゼシカとの対決に勝利する。
呪いの解けたゼシカは暗黒神ラプソーンと七賢者のことを話し出す。
杖こそが元凶であるとゼシカは言う。
「その杖はどこに行ったんだ?」
屋敷の外に出ると、チェルスがレオパルドに襲われているところだった。
「何しとるんじゃこのボケ犬!」
ハワードは強力な魔法でレオパルドに攻撃する。
なんかこれと同じような光景をどこかで見た気がするが、どこだっけ。
なぜかククールが何かを思い出したように震えている。これは放っておこう。
レオパルドはチェルスにとどめを刺すことなく去っていった。
ちなみにチェルスが賢者の末裔であるとハワードが気づいたようだ。
だが、気が付いた前と後でハワードの態度が変わることはなかった。
「もったいないからレオパルドの餌は食べてしまおう。」
ハワードは犬の餌を食らっている。
態度はむしろ前よりひどくなった気もする。
ハワードがゼシカの力を引き出す。
そのときハワードから呪術の講義を受けた。
「呪術とは人の想いを形にする術だ。」
「想いですか。」
「そして、人を呪うと言うことは自分の身も危険にさらすものだ。」
「自分自身も?」
「呪術と言うものはな、自分に跳ね返ってくるものなのだ。」
「跳ね返ってくるとはどういう意味なのですか?」
「呪いにより不幸に見舞われた者は呪った相手を恨む。その想いが呪いになる。」
「それが、呪いが跳ね返ると言うことですか。」
人を呪わば穴二つというわけか。
誰かを殺そうとするなら自分も覚悟をしなくてはならない。
穴二つとは、呪う相手と自分の墓穴のことなのだ。
「こうして呪いを繰り返すことで、呪いはより大きな呪いになっていく。」
大きな呪いという言葉に思わず息をのんだ。
「その大きな呪いとはどんな力なのでしょうか?」
「たとえば、そうだな、異なる世界から悪魔を呼び出すような力だ。」
「それが大きな呪い……」
「あるいは人の運命を変えてしまうような呪いも作り出すことができよう。」
「それは、人の命を奪うと言う意味ですか。」
「逆に死ぬべき運命だったものを助けることもできるかもしれぬ。」
「それが、呪いなのですか?」
「ああ。ひょっとしたら、それは悪魔を呼ぶより大きな力かもしれない。」
呪術の専門家が言うには人の運命を変えるのは恐ろしい力が必要なのだ。
しかし、彼の言葉に納得できないことがあった。
「人を助けるのが呪いなのでしょうか?」
「恨みや妬みだけが呪いではない。相手の幸せを願うこともまた呪術の力だ。」
「誰かの幸せを願うことが呪いだと?」
「むしろそれこそが呪術の正しい形なのかもしれん。みなが相手の幸せを願うことが。」
ハワードに自分の現実を見せてやりたかった。
親から見放され、他人と接することもほとんどない現実。
こんな人間が他人の幸せを願うことがあるのだろうか。
できることと言えば、妬むことや羨むことくらいだ。
―木星から出た猛毒―
レオパルドを追って雪の中へ。
洞窟を越えたところで雪崩に遭遇する。
あらかじめ分かっていたことだが雪に埋もれるのは想像以上につらい。
体の周りにのしかかってくる雪は、やがてその冷たさを感じることさえも奪う。
息をするのも苦しい。だが、やがてその思考も停止した。
目を覚ましたのはメディばあさんの家ではなかった。病院のベッドだ。
あの世界で眠りに落ちると、どこであってもここに戻されてしまう。
ドラゴンクエストで死ぬと教会に戻される現象を連想してしまっていた。
妙に眼が冴えてしまい、すぐには眠れそうにない。
こちらで眠れないと言うことはゲームでは目が覚めないということになる。
ゲームの自分は雪に埋もれて昏睡していると言うことだろう。
病院の、しかも夜中にやれることなんて何もない。
いや、そもそもこの世界で自分にできることがどれくらいあるのだろうか。
自由に外へ出ることもできない
本当に現実はつまらないことこの上ない。
ゲームの世界でメディばあさんに助けられるまで眠れないのだろう。
メディばあさんとその息子グラッドは薬学の知識をもつ親子だ。
息子はその知識を人助けのために使おうと町へ出たのだ。
そういえば、昔、担当医に尋ねたことがある。
先生はどうして医者になろうと思ったのかと。
「医者という職業は人の命を救うことができるからだよ」
先生はそう答えた。
「多くの人を助けたいならこんな田舎じゃなく都会の病院に行けばいいのに」
「ここだからこそ味わえることもある。友野さんを覚えてるかな?」
「理香お姉さんでしょ」
昔この病院に入院していた女の子だ。
「そう、理香ちゃん。彼女が結婚するんだって話を聞いたよ。」
「へえ、そうなんだ」
「田舎だからこそ、そう言う情報も入ってくる」
「それがここだから味わえることなの?」
「そう。健康になった患者さんが元気に生活していることを感じることができるんだ」
偉そうなことを言っていても本心はどうなのか分かったもんじゃない。
そして、それを本人に向かって言ってしまった。
「確かに、先生は偉そうに見えるかもしれない。でもね、それは必要なことなんだ」
「必要なこと?」
「医者なんてものはちょっと偉そうな方がありがたみが増すからね」
「なんだよ、それ」
この人はありがたみが増すから偉そうにしてるのか。
「患者さんは命を預けてくる。信頼に足る人物に見せなきゃ安心できないんだ」
「だから偉そうにしてるっていうの」
「頼りがいのある人に見てもらいたいだけで偉そうにしているつもりはないんだけどね」
そう言って先生は困ったように笑った。
眠れないとくだらないことを考えてしまう。
それでも何とか眠りに落ちることができた。
メディばあさんの家で目を覚ました。
その後オークニスへ行きばあさんの息子であるグラッドと会う。
オークニスでグラッドの話を聞いた後、再びばあさんの元へ戻る。
すると、メディばあさんの家の周りを狼が囲っていた。
狼を倒し遺跡でばあさんを見つける。
爆発音がして外に出るとレオパルドがグラッドを人質に取っていた。
「息子の命を助けたければその身を差出せ。」
レオパルドはばあさんにそんなことを言う。
「そんなことをしちゃいけない!」
グラッドが抵抗を試みるがうまくいかなかった。
レオパルドがグラッドの頭を踏みつける。
すると、グラッドは苦しみ出した。
そうかと思うとグラッドは動かなくなった。
「死んじゃったの?」
ゼシカがそうつぶやく。
ピクリとも動かないグラッド。
泣き崩れるメディばあさん。
「く、くそ!」
人質を失ったことでレオパルドはメディばあさんに飛びかかってきた。
それを狙い澄ましたかのように迎撃する。
奴の狙いがメディばあさんだと言うことが分かっていれば予想はできることだ。
あらかじめ戦闘態勢に入っておくことができた。
仲間たちはグラッドを見て動揺していしまっているようでキョトンとしている。
レオパルドも最初の攻撃に失敗し、攻めあぐねているようだった。
その膠着状態を破ったのは……グラッドだった。
突然起き上がったグラッドがレオパルドにヌーク草をぶつけたのだ。
不意打ちを食らってレオパルドは戦意を消失したようで、そのまま逃げて行った。
「あんた、生きていたのかい!」
メディばあさんは幽霊でも見るような目つきでグラッドに接する。
「ああ、人質にされるくらいならと思って、とっさに死んだふりをした。」
「この馬鹿息子! 親を心配させるんじゃないよ!」
そう言いつつもメディばあさんは息子が生きていたことを喜んでいるようだった。
親子の情と言うものは兄弟の情以上に想像がつかない。
自分が親に捨てられたも同然であるためだろう。
田舎の病院に閉じ込めて、見舞いにすら来たことがない。
誰だってそんな現実に見切りをつけてゲームで生きる道を選ぶだろう。
―天王星で麻痺する―
サヴェッラ大聖堂に来た。
ここにはマルチェロがいるはず。ククールの反応が楽しみだ。
「クーちゃーん!」
手を振りながらエレベーターみたいのを下りてくるM。
他人のふりをしようとするククール。
「どうしてあなたがこんなところに?」
マルチェロに訊いてみた。
「オディロ院長から法皇様の護衛を頼まれたのさ。」
次に襲われるのは法王だ。なかなか勘が鋭いじゃないか、オディロ院長。
「法皇様のほうをうまく守ってくれってな。」
勘じゃなくって駄洒落が言いたかっただけかよ。
その場はそれで大聖堂を後にした。
ここにいるからいつでも会いに来てねと言っているマルチェロを残して。
ククールはさっきからひとことも言葉を発してない。
かける言葉もない。
なんだかんだあってレティシアへ。妖魔ゲモンを倒すため山頂を目指す。
ゲモンをあっさり打ち倒す。奴は最期にレティスの卵を割ろうとするはずだ。
だが、その前に、ゲモンにとどめを刺した。
やるということが分かっていればたやすいことだった。
「あなたのおかげで私の卵を無事に取り戻すことができました。感謝します。」
いつの間にか、レティスが目の前にいた。
ふと、思った。自分は想定外の行動をしたのではないだろうか、と。
ここで神鳥のたましいを手に入れなくてはならないのだ。
ゲームの進行に支障をきたすはずなのに、なぜこんなことをしたのだろう。
これでバグが発生するのではないだろうか。
「お礼に私の魂の一部を貸しましょう。これを使えば自由に空を飛ぶことができます。」
レティスがそう申し出た。
心配は杞憂に終わったようだ。これで空を自由に飛ぶことができる。
ゲームと違うことがあっても、どこかでつじつまを合わせるものなのかもしれない。
レティスに乗り三角谷へ行き暗黒大樹の葉を手に入れる。
海図に現れた魔犬を追い大聖堂へ。法皇は気絶しているようだ。
そこで魔犬レオパルドと戦闘になる。
難なく打ち倒す。賢者の力を得ていないせいか、死にはしなかった。
レオパルドを退治すると騒ぎになった。
法皇様の護衛たちから濡れ衣を着せられる。法王様の命を狙ったという嫌疑だ。
「クーちゃんがそんなことするはずないじゃないか!」
マルチェロが庇ってくれるのが心強い。キモイけど。
「失礼ながらマルチェロどの。」
護衛の一人が口を出してくる。
「庇いだてすると貴殿のがこの者たちを手引きしたと疑うしかありませんぞ?」
周りのやつらもそうだそうだとはやしたてる。
ゲームと同ように、マルチェロはこいつらから嫌われているようだ。
「何事だ?」
「二ノ大司教!」
大司教までおいでなすった。見た目からして小物だ。
「マルチェロが犬とごろつきを使って法皇様の命を狙っていたのです。」
護衛の連中の中でそれは確定事項になっているようだ。
「なぜそう思うのだ?」
「誰かが手引きしなければこの館に侵入できるはずがありません。」
そりゃ、犬や人が空を飛ぶとは思わないだろうからな。
「ふむ。マルチェロが法皇様の命を狙う動機はあるのか?」
「それは、奴が次期法皇の座を狙って……」
「護衛の任についていつも法皇様のおそばにいた者がそんな回りくどい方法をとるか?」
「自分が怪しまれないように回りくどい方法を取ったのでしょう。」
「マルチェロは法皇様の護衛に失敗したら責任を取る立場なんだぞ?」
「そうか。法皇様をお助けすることで信頼を得ようと言うのは狙いなのでしょう。」
「ならば、護衛の任についていた誰にでも動機はあったわけだな。」
ニノ大司教は論破していく。
「犬やこのものたちをマルチェロ手引きしたと思った理由はなんだ?」
「マルチェロがとそのごろつきがここで親しげに話していました。」
あくまでマルチェロから一方的に話しかけてきたんだけどな。
「犯人ならばこんなところで賊と親しげに話したりしないはずだ。」
そりゃもっともだな。
「そもそも、本当にこの者たちが法皇様を狙っていたのか?」
「この者たちがこの館にいること自体何よりの証拠です。」
「法皇様が襲われたのを見たわけではないのだな?」
「いえ、黒い犬が法皇様を襲っていました!」
「それは犬の話だな。この者たちが法皇様を襲っているのを見た者はいるか?」
ニノ大司教の言葉に答える者はいなかった。
「しかし、この館に侵入した罪は問わねばなりません。」
「マルチェロの知り合いなのだろう。知人を訪ねることに問題はないと思うがね?」
ニノ大司教の説得で濡れ衣は晴れた。
煉獄島に行かずに済んだのは幸いだった。
しかし、この先どうなってしまうのだろうか。
七賢者の末裔がそろいもそろって生きているのだ。
これ以上ストーリーが進まないのではないだろうか。
―続く―
ニノ大司教カッコえぇぇぇ!!!
相変わらずのハイクオリティで面白い!
後半、夢も現実もどうなるのか楽しみだ。
あと、冥王星はもう惑星じゃないんだなと改めてしみじみしてしまった
M字のくーちゃん呼ばわり癖になるなw
杖持った時の変化が楽しみだ
ぬるぽ揚げ
ガッ下げ
>>265-276 ―地球へ呪い込めて―
暗黒神ラプソーンが復活した。
法皇の館での騒ぎの後のことから順を追って説明しよう。
自体が落ち着いた後、レオパルドが法皇を襲ったのは杖のせいだと説明した。
「これのことか?」
話を聞いてマルチェロが杖を拾った。
「こんな危険なものをクーちゃんに渡すわけにはいかない。」
マルチェロはかたくなに杖を渡そうとしなかった。
マルチェロは、ゲームと同じように呪いの力に負けることはなかった。
しかし、それは杖の策略でもあった。
杖は、マルチェロが聖地ゴルドに行く時を待っていたのだ。
念のため聖地ゴルドにいる人を非難させてからマルチェロとともにそこへ向かった。
そこで杖は本性を現した。
杖はただ七賢者の末裔を殺し損ねたわけではなかった。
彼らに接触し、ある術をかけていたのだ。
その術とは一時的に七賢者の末裔をこの世界から消すこと。
七賢者の血筋が存在する限り暗黒神は復活できない。
だから彼らを一時的にこの世界から消すことで封印を解く条件をそろえたのだ。
彼らを殺せなかったときの保険だったらしい。
とにかくこれで暗黒神復活の条件が整った。
あとはゲームと同じように、我々が暗黒神を倒すだけだった。
オーブではなく七賢者の末裔を集めて協力してもらった。
一時的にこの世界から消されていた彼らは戻ってきていたのだ。
我々の完全勝利だった。暗黒神もゲームのストーリーから逃れることはできない。
ゲームのクリア時、レティスが心に話しかけてきた。
「これであなたが二つの世界を行き来することもなくなります。」
「どう言う意味だ?」
「あなたが二つの世界を行き来していたのは暗黒神の影響だったのです。」
つまり、暗黒神亡き今元に戻らなければならないというわけか。
「これからどうなるんだ?」
「私があなたの魂を分けて、それぞれの世界のあなたに戻します。」
レティスの話では、魂を分けるとはコピーを取るようなものらしい。
「この世界で暮らすか、元の世界で暮らすか。あなたが選びなさい。」
選んだ方の世界にオリジナルの自分の魂を、もう片方にコピーを入れるのだ。
この選択によって、二重生活は終わりを迎える。
何となくこうなる気はしていた。
……だから、あらかじめ準備をしていた。
そのために説明しなければならないことがある。
ゲームとストーリーが変わってしまったのはなぜか。
どうして、七賢者の末裔が生き残ったのかということだ。
それは、俺が呪いをかけたからだ。
ドラクエエイトの夢を見ていることを知って、思ったことがあった。
この未来を変えたい。ドラゴンクエストエイトのストーリーを変えたい。と。
主人公の目の前でみすみす七賢者の末裔を死なせてしまうことが許せなかった。
しかし、未来を知っているだけではその運命を回避することはできなかった。
死すべき者の運命を変えるのはすさまじい力が必要だった。
しかし、俺にはその力を手に入れる手段があった。
呪いだ。
呪いはかけた者に跳ね返ってくる。だから扱うことが難しい。
だが、俺に呪いは効かないのだ。
この体質を利用して強力な呪いを研究し作りだした。
呪いを重ね、より大きな呪いを増幅させたのだ。
七賢者の末裔はドラクエエイトのストーリーで死ぬことが必要とされている。
その運命を変えるには強力な呪いが必要だった。
ハワードが言うように異世界から誰かを招き入れるよりも強力な呪いが。
物語上、死が避けられない者の運命を変える呪い。
その呪いを作る方法を思い付いた。
死すべき運命の物語に別の物語を上書きすればよいのではないか。
何かの物語を媒体として、呪いを作る。その呪いを七賢者の末裔に掛ければいい。
いや、七賢者の末裔は暗黒神を封じる呪いが掛けられている。
呪いを重ねることはできない。ならば七賢者の末裔の周りにいる人間を呪おう。
呪いの媒体となる物語はどうしようか。呪いは思い入れが強いほど強力になる。
ふと、思いついたことがあった。
ドラクエエイト以前に七つのドラクエがある。
奇しくも七賢者の末裔と同じ数だ。
ドラクエには思い入れがある。これを利用できないものか。そう思った。
それから自分の思い入れがある人間をドラクエ世界に送り込む呪いを作り出した。
ドラクエ世界の夢を見る自分だからこそできたのか、それは分からない。
とにかくこの呪いを元に、七賢者の末裔の運命を変える呪いを作り出すことにした。
ドラクエの世界に人を送り込むことで生まれる、物語と言う名の呪いを。
呪いよりも思い入れのある人間を捜す方に苦労した。
なにしろほとんど病院から出られない身だ。
病院内を盗聴し、呪いに適した人間を捜した。
最初に呪いを使ったのは俺がまだ子供のころだ。
呪ったのは交通事故で死にかけている男だった。助からないことは明白だった。
ずっと後になるが、彼はデイトレーダーをやっているらしいことを知った。
呪いは思い入れの力だ。彼に思い入れがなければ呪うことはできない。
両親が彼のそばで泣いていた。それがうらやましかった。
自分の親は、きっと自分が死んでも泣かないと思ったからだ。
死にかけているから実験に失敗したとしても影響はないと思った。
彼にはドラクエスリーの世界に行ってもらった。
彼はそこで主人公の勇者となり、世界を救った。
現実世界の生まれ変わりと言うことになっていた。
彼がゲームをクリアしたとき予想外のことが起きた。
俺は武闘家の男も同じ世界に送り込んでいたのだ。
後で分かったことだが、勇者の彼と同じように交通事故に遭った人物だった。
しかし、二人を送り込んだことは必然だったのかもしれない。
デイトレーダーとはギャンブラーのようなものだ。
ギャンブラーと武闘家。この二つは無敵の男ギャリングを連想させた。
ドラクエスリーからギャンブラーと武闘家の物語と言う呪いが出来上がった。
この呪いをフォーグとユッケにかけた。そして末裔のギャリングを守らせた。
新しい物語はドラクエエイトのストーリーを変えて、ギャリングは生き残った。
ついでにドルマゲスも生き残ったようだが奴の生き死にはストーリーに関係ない。
フォーグとユッケはしっかり呪いにかかっていることが確認できた。
ユッケは杖を拾っている。カジノに運ぶ時だ。その時、彼女は杖に呪われなかった。
俺の呪いにかかっていたからだ。呪いは重ならないのだ。
次に現実世界で呪ったのは可憐な少女だった。
彼女はこの病院に入院していたことがあり、その後もよく訪れていた。
少し年上の彼女に、俺は惚れていたのだと思う。それが思い入れだ。
俺は彼女をドラクエファイブの世界に送った。
長い年月にわたる物語によって彼女を占有していられる気がした。
しかし、予想に反して彼女は物語の途中で帰ってきてしまった。
その世界に送り込まれたのが呪いによるものだと判明し、呪いを解かれたのだ。
結果的には呪いを手に入れることができた。
彼女は魔物使いとして主人公を師と仰いでいた。師を慕う弟子の物語と言う呪いだ。
その呪いをハワードにかけた。
これは失敗だと思っている。恋した少女をあんなおっさんに使うべきではなかった。
結果的にハワードは師の子孫であるチェルスを慕い守った。
たが、どこかずれてしまったのだ。物語が中途半端で呪いが不完全だったせいだろうか。
呪いに失敗したことで、もう少し呪いの研究を重ねることにした。
簡単に呪いが解けないようにするためには呪いを解く方法を用意すればよかった。
そうすることで決まった方法以外では解けなくなるのだ。
そこで、ゲームをクリアすることで呪いが解けることにした。
この研究のため、次の呪いをかけるまで時間が開くことになる。
次に呪ったのは主婦だった。消防士の夫が死に精神的に参って来院したようだ。
彼女は、息子が消防士になりたいと言って悩んでいた。
こんな母親が欲しいと思った。それが彼女を呪うための思い入れだ。
医師は気分転換のために彼女に海外旅行を勧めた。
海外に行くことが治療となるならゲームの世界に行くのも問題あるまい。
彼女にはドラクエツーの世界に行ってもらうことにした。
火事を恐れる女の物語。その呪いはユリマに使った。
そして、期待通りマスター・ライラスの命を救った。
病院にいた女性が電話をかけていた。
妊娠が発覚したことの報告だった。
体調が悪く病院に来て妊娠が発覚したらしい。
電話の相手は弟だったようだ。
その弟は姉の子供にトンヌラと名付けてはどうだろうと言った。
俺と話が合いそうだと思った。友達になりたいと思った。
そして、呪いをかけた。彼はドラクエフォーの世界に送った。
結果的に彼は幻の村を作りシンシアを救った。
方法こそ違うが自分と似たようなことをやってのけた。やはり彼とは気が合いそうだ。
シンシアは最後に復活した姿があった。
物語上死ぬ運命が確定していたわけではないからあんな方法でも救えたのだろう。
幻により人を救う物語。彼の呪いはリーザス像に使った。
リーザス像は彼と同じように幻を見せてサーベルトの死を回避した。
そういえば、彼はあの可憐な少女と結婚したらしい。
リーザスはクラン・スピネルを渡す時こう言っていた。
「婚約指輪だと思って気楽に持っていってください。」
渡す相手はハワード。あの少女の呪いをかけたあいつだ。
現実世界で呪いの元となった二人の影響だろうか。まったく趣味の悪い冗談だ。
ドラクエワンの世界に行ってもらったのは俺の担当医だった。
こうやって人のために働きたいと思った。それが思い入れだ。
疲れているようだったので旅行代わりにプレゼントしてあげたのだ。
ドラクエ世界に行った彼はひどく錯乱しているようだった。
最後まであれがドッキリだと思っていたのではないだろうか。
ドッキリだと思い冒険した物語。その呪いはグラッドに使った。
医師と薬剤師という、人を救いたいという想いが共通していたからだ。
彼は死んだふりをするというドッキリを使い、メディばあさんを救う。
ゲームで先生の本性を知った。普段はえらぶっているがだらしないものだ。
しかし、その後の会話で頼りになる先生を演じていたことも知った。
小学校のときの担任だった男が来院した。心臓の検査で病院に来ていたらしい。
ほとんど学校には行かなかった俺のことをいろいろ気にかけてくれていた人だ。
この人のもとでもっと勉強してみたいと思った。それが思い入れだ。
先生にはドラクエシックスの世界へ行ってもらうことにした。
ここでも先生は迷える生徒を正しき道へ導いた。
検査の結果、先生は心臓に問題はなかったらしい。
それなのに彼はゲームの世界で心臓が悪いふりをするという嘘を吐いた。
得体のしれない薬を飲むという体を張って、他人を冷静にさせたのだ。
とにかくそれで、推理をすることで人を正しき道へ導く物語となった。
この呪いをニノ大司教にかけた。
結果的に俺たちの濡れ衣を晴らし、法皇の命を救うことになった。
ニノ大司教はのちに法皇を継承することになる。
法の道を目指し挫折した先生の呪いをかけたニノ大司教。
彼が法皇と呼ばれるようになるのはちょっとした皮肉かもしれない。
火事に巻き込まれた兄弟が運ばれて来た。兄は弟を庇ったと言う話だった。
こんな兄が欲しいと思った。それが思い入れとなり、呪いに変わった。
彼らには最期に残ったドラクエセブンを担当してもらった。
ここで予想外のことが起こった。
兄がキーファとして、弟が主人公としてその世界に現れたのだ。
途中離脱するキーファはゲームをクリアすると言う条件を満たさない。
つまり現実世界に戻ることができないのだ。
解決策を捜し、キャラバンハートと言うゲームを見つけた。
これでキーファが主人公であり、ゲームをクリアできる。
その世界に転送し、これで呪いを解ける条件を満たした。
ここに来て自分でも知らなかった呪いの法則に気がついた。
自分がこうなりたいと思った相手は主人公なるのではないだろうか。
両親の愛を欲しい、こんな仕事をしたい。こんな弟になりたい。
そう思った言相手は主人公になり、それ以外はそのまま送り込まれるのだ。
兄は弟につられてキーファになってしまったのだと思った。
しかし、心のどこかにこんな兄になりたいという思いがあったのかもしれない。
彼が主人公となる物語が存在したため兄はキーファになったのではないだろうか。
とにかく、強い兄弟の絆の物語という呪いが手に入った。
これをマルチェロとククールに使った。
予想外の事態のため呪いが安定しなかったのかもしれない。
そのせいかマルチェロが壊れたのだろうか。
ともあれ呪い自体は機能してオディロ院長を救った。
杖を拾ったマルチェロが呪われなかったのはこの呪いにかかっているせいだ。
「こうして、俺の計画は成就されたわけだ」
そうつぶやいた。
俺は選択を迫られた。
ゲームの世界に残るか、現実の世界にとどまるか。
考えるまでもない。今まで何のためにこんな苦労をしてきたのか。
そう思っていた。
だが、俺は現実に戻った。
現実世界には俺に影響を与えた人間がいるからだろうか。
一時に気の迷いでとんでもない選択をしてしまったのかもしれない。
いや、そんな理由じゃつまらない。
そうだ。あっちの世界に残ってはドラクエができないじゃないか。
だから俺はこっちの世界を選んだ。そんな理由で十分だ。
とにかく、これで俺のゲームは終わりだ。
これからは現実で暮らすことにする。
なんの面白みもない現実。それでもしがみついてやるさ。
―完―
―冥王星死を超えて―
神鳥レティスは子供とともに大空を飛んでいた。
レティスは思う。
こうしてわが子と一緒に飛ぶことをどれだけ夢見たことだろうか。
何とかして死の運命を追ったわが子を助け出そうと思った。
そのために、呪いを使うことにした。
空間を超えることができる私だからこそできる呪いだ。
暗黒神ラプソーンを倒すことになる龍の子に呪いをかけた。
異世界の人間の意識を潜り込ませる呪いだ。
彼らの魂は融合し、眠るたびに意識が行き来するようになった。
異世界の意識が強かったのか、こちらの世界を夢だと解釈したようだ。
この男は呪いにより人々を救って行った。
私がこっそり手助けすることで呪いを完成させたのだ。
人を異世界から招き入れる呪い、運命を変える呪いと。
呪いにより人を救う物語。これがわが子を救う呪いとなった。
彼は自分が何かの呪いに掛けられていることを理解していたようだ。
それが私によるものだとは気が付かなかったようだが。
彼はきっと向こうの世界で新しい生き方を見つけることだろう。
それにしても不思議なものだ。
私が異世界から人を招き入れる呪い。
これを思い付いたのは私がラーミアと呼ばれていたときだ。
私を目覚めさせた勇者。彼が私の背中に乗っているときのことだ。
彼は自分が異世界から来たのだと言った。
そこから異世界から人を招くことで呪いをつくることを思いついたのだ。
しかし彼もまた、龍の子により招き入れられた者のようだ。
結局どこが始まりあったのかは私にも分からない。
すべては運命だったのか。
いや、これは運命と言うより宿命だったと言うべきかもしれない。
命が宿ると書いて宿命。
死ぬべき運命のものが生き、生きるものが別の者の生き方を変える。
それは、すべて宿命だったのかもしれない。
冒険の書シリーズはこれでおしまいです。
ドラクエ9が発売されていますがこれ以上続けるのは蛇足でしょう。
他の作者の方と話のネタがかぶるなどのハプニングはありましたが
その辺は大目に見ていただけると幸いです。
物語を完結させることができたのも読者のみなさんの応援や
他の作者の皆様がスレを支えてくれたおかげだと思っています。
短編を連ねて一つの物語を作っていくと言うのは初めての試みでした。
期待されていたことに応えられたかどうかわかりませんが、
精いっぱいやれたと思っています。
それでも、読み返すと書きなおしたい個所は山ほどあるのですが。
ちなみに新シリーズは考えておりません。
と言うかこれ以上のものを書けと言われても無理です。
これで卒業と考えてください。
長い間お付き合いいただき本当にありがとうございました。
長い間お疲れ様でした。冒険の書シリーズは毎回感動させられました。
各ストーリーの繋がりが本当に凄いね。
しかしM字の存在感がやばいw
>>291 お疲れさまでした。
以前は短編も書かれてましたよね?
あなたの文章好きです。
シリーズでなくても構いませんから
ぜひまた何か書いてくださると嬉しいです。
>>291 素晴らしかったです!もう言葉に出来ません…!
お疲れ様でした、本当に面白いシリーズでした!
>>291 もう終わり、だと…。
嘘だと言ってくれ…。
全てのシリーズが見事に繋がった素晴らしい作品に拍手。
伏線の張り方や叙述トリック、意外性のあるオチとか毎回ほんと面白かった。
俺が堀井なら10のシナリオはアンタに任せるところだよ。
卒業とか言わずに是非短編とか書いてくれ。頼む。
┏━━━━━┓
┃ |> はい ┃
┃ いいえ .┃
┗━━━━━┛
>>291 すごい
月並みな言葉しか言えないけど本当にすごい
ありがとう。この作品が読めて良かった
>>291 長期間お疲れ様でした。未プレイ作品もありますが、毎回楽しく拝見させていただきました。
(中でも一番印象的だったのはキーファの件でした。)感想が上手く書けないのでROM専でしたが、
とにかくありがとう。
>>295 それ、「いいえ」を選ぶと「そんな、ひどい。卒業とか言わずに(ry」ってなるんだな!w
前回
>>188-196 【クリフトの話】
―――――――――――ある兵士の手記―――――――――――
今日、城内に勤める仲間から妙な話を聞かされた。
なんでも最近、異界から来たとかいう人間が一人、王様にお目通りしたとか。
しかもどうやら、結構信用できる人物として扱われているという。
笑わせるぜまったく!
去年だったか、未来を占うとかいうあこぎな占い師が来たことがあった。
あの男は結局王様に会えず、そのままどこか行っちまった。
かつてクリフト様が体験したという、異世界の冒険。
あれくらいのもんだ。信じるに足る話は。
今回の奴もどうせ、あの話を利用したうざったい山師なんじゃないか。
―――――――――自然科学課程総合担任 バーズの日記――――――――
あぁ!今こそまさに、科学史上に残る時代なのだろう!
アーシュ君のいくつかの論文が示すもの。なんと驚くべきことか。
異界の住人。私は納得だ。未だに誰も、これらの理論を理解できない。
その先見性と合理性は、彼の世界の成熟度を示している。
私は、いや我々は、自らの身の程を知るべきだ。
彼の世界には魔法が無いという。おそらくその結果、
この種の知識が大きな進歩を遂げたのだろう。
天文学の雄(ゆう)、我が盟友ラパも、私と同じ感想を述べている。
皆の意見が整い次第、彼の理論の検証実験を進めるべきだ。
検証といえば、彼は面白いことを話していた。
「科学理論とは反証可能性を持つのです」、と。
「理論の基礎となる科学的前提の検証は、どこまで進めても完全にはなり得ません。
どの時点で前提を認めるかは、“まずこの前提は正しい”という、
検証者の主観的な意思によるしかないのです」
これが彼の言い分だ。
一連の定義は、我々が求める『完全無欠な理論』の存在の否定を意味する。
彼は、「これはあくまで自分の世界での考え方」とフォローしてくれたが、
この話は少なくとも私の価値観に、影響を与えるだろう。
先に述べたが、彼の理論には魔法関連の理論が一切組み込まれていない。
そこは彼も私たちも、おおいに気にしている。
だが、もし彼が説明したモノ、例えば「ヒコウキ」や「デンチ」、
「熱機関」、「冷凍機関」なるものが実現できるのなら、
それこそは、異世界の魔法ではないだろうか。
―――――――――アクデンの執務室内別室 応接室――――――――――
クリフ「君が・・・・・・・・アーシュ君だね」
窓の下に置かれたサイドボードの上には、小さな花瓶に添えられた色豊かな花々と
一見すると骨董品のような陶器が置かれ、別の窓からは光の筋が、
中央の机と、その前後を挟む大きなソファに投げかけられている。
アクデンさんの執務室の中にある、大きな扉。
その先こそ、僕が今いるこの部屋。後ろの執務室に負けず劣らず大きな応接間。
そしてソファの傍らには、昨日、謁見の間にて賢者と紹介された、かの人の立ち姿。
僕「はい! はじめまして」
クリフ「話は伺いました。大変な日々を過ごしているそうで」
僕「な、なんとかなっています」
信じてくれているのか?僕のことを。
アクデ「お待たせ致しました。どうぞお座りになられてください」
クリフ「お手間を取らせてすみません。では、失礼します」
僕もアクデンさんに促され、クリフトさんの真向かいに座り・・・・・
僕の隣に、アクデンさんが座る。
クリフ「先生、私主導で話を進めていいですか?」
アクデ「ええ、もちろんでございます。猊下たってのご希望でありますゆえ」
クリフ「ありがとうございます。ではアーシュ君。いくつか質問よろしいですか?」
僕「は、はい」
僕は、ガチガチに緊張しながら、
ときにはアクデンさんのフォローも交えつつ、自分の思いや立場を説明する。
携帯を見せると、クリフトさんは興味津々で触ってくる。
・・・・・・・・・・・・話が一段落し、場が少し弛緩する。
するとクリフトさんは、改まってソファに座りなおし、再び僕に顔を向ける。
クリフ「・・・・・・・・アーシュ君、ちょっといいかな」
僕「はい。なんでs・・・・・ぉお!」
クリフトさんの手から、おぼろげな、青か緑色の光が滲(にじ)み出し・・・・・・
その手が少し振られ、僕は頭上に暖かさを感じ・・・・・
目の前に、いや、頭から、薄緑色の膜のようなものが下りてくる。
僕「あ・・・・・・・・・これ、は・・・・・・・・」
すぐに膜は消え去ってしまう。
クリフ「傷を癒す呪文、ホイミです。どう感じますか?」
僕「ホイ・・・ミ?・・・・・ええと、頭が暖かくなって・・・・・
そういえば、なんだか体がスッキリしたように思えます」
クリフ「薬草の話を君から聞いて、興味が湧きましてね。
生まれた世界がどこであれ、魔法の効果は無関係なようですね」
僕「それは・・・・・・・僕のこと、信じていただけるということですか?」
クリフ「残念なことに、今の私もアクデン先生同様、解決の道は示せません。
ただ、私なりに協力させていただきましょう」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
アーシュが執務室を後にし、応接室には再び二人が残る。
アクデ「どうですか、先生」
クリフ「・・・・・・・・・・・・・ちょっと失礼しますよ」
クリフトは再びソファに腰を下ろす。
彼は目線を、ベージュの石が敷き詰められた床に落とし・・・・・・
意味も無く、指先を様々に動かし始める。
クリフ「アクデン君・・・・君は、現代の魔導師、
魔法使いと聞くと、誰が思い浮かびます?
私のことは忘れて」
意表を突く質問に、アクデンはしばし言葉を失う。
アクデ「は・・・・そうですな・・・・・・・・・。では僭越(せんえつ)ながら。
まずは我が国の誇る、“ホーリィ・ウィッチ”ダムリエン。
次に、先生の弟子の一人、寡黙のダグファ殿。
ガーデンブルグの稀代の天才、“魔老”イレイノン卿。あとは・・・・・
若くして既にエンドール中に名の轟く、“魔法公女”シスタニア嬢。
同じくエンドールの“大魔道”パコン、と。この辺りでしょうか」
クリフ「・・・・・・・・・・・・・」
アクデ「あの、先生。今のは・・・・一体どういう・・・・」
クリフ「・・・・私も概ね、その方々の名が浮かびます。
ただ、今の私にはもう一人、気になる方がいるのです」
アクデ「?・・・・・」
クリフ「・・・・・・ガーデンブルグのハルサという魔導師、知っていますか?」
アクデ「ハル・・・サ・・・・・・・・いえ、すみません」
クリフ「ああ、いえ、知らないのも無理ありません。
あの国の地方の領主に仕える一介の魔導師で、それほど名も通っていません。
君が先ほど述べた方々には、実力では及ばない・・・・・はずです」
アクデ「?・・・・・はず・・・・・というのは」
クリフ「最近、妙な噂を聞いたのです。
・・・・・魔導師ハルサは別世界の魔法を操る、という噂を」
アクデ「!!・・・・・それは・・・・・」
クリフ「噂によると、夜に山で剣の稽古をしていた一人の兵が、
立ち入り禁止である領有地に入り込んだ際、そのハルサを見つけたそうです。
思わず隠れたその兵は、ハルサが見たことも無いような呪文を出すのを見た、と」
アクデ「・・・んむぅ・・・・・」
クリフ「ただの噂です。数ある与太話の一つと認識して結構。事実かどうかはわからない。
でも、最近ごく一部からそう認識され始めた人物、ということなのです。
普段の彼は、魔法のレパートリーも多くない、
至って普通の魔導師らしいのです。2、3年前でしたか・・・・・
あの国で私も彼と話しました。噂を聞き思い出したのですが、普通の大人でした」
アクデ「先生がおっしゃりたいのは・・・・」
クリフ「・・・・・・・アーシュ君・・・・・異世界から来訪者。
君の話は信じます。でもそれは、信憑性の無いとされている一つの噂を
無視できなくなる、ということになる。
ガーデンブルグとの関係は良好ですが、自国領の防衛にも関わる方々について、
噂を元に立ち入った話を求めるのは、難しいでしょう」
アクデ「魔導師・・・・ハルサ・・・・」
クリフ「今では祝福されし者たちとも称される私たち一行の、旅の途中。異世界で
相見(あいまみ)えた二匹の不思議な魔物、怪力のチキーラと魔法のエッグラ。
彼らは少なくとも、この世界の呪文と技の使い手でした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
短くない時間、二人は沈黙し・・・・・・・その空気を破ったのは、特使であった。
クリフ「アクデン君。彼、アーシュ君だけど、私の国に連れ帰っていいかな?」
アクデ「な!・・・・・んですと・・・」
クリフ「もちろん、本人や陛下の了解があってこそ。
私は明日、コーミズに出発します。各地へ巡幸の後、
ここに再び戻ってくるのは一ヶ月以上先のこと。
そのとき、もし彼の意思が私へ、・・・・この国の外へ向いているのなら、
・・・・・・・・・・・」
アクデ「・・・・・・・・驚きました。先生、今日会ったばかりの者に、なぜそう拘るのですか?」
クリフ「・・・・・・・・・そうですね。確かに、私のわがままかもしれませんね」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・その夜。
ダシュ「なんと・・・・・・・・思い切ったご提案というか・・・・・」
シルバ「アクデン先生もなかなか戸惑っておられた。・・・・・・・・大臣、
私は、彼のために良かれと思うことはすべきだと考えている」
ダシュ「アーシュへの連絡は、既に?」
シルバ「まだだ。大臣の考えを聞きたくてな。
それに私は明日、あちらに向かう。引き継がなければ」
ダシュ「・・・・・・・・今、自然科学の学者の間では、彼の話題で持ちきりだとか。
今後もぜひ彼の知識を享受願いたい、との声もあるそうです」
シルバ「アクデン先生からも伺った。そちら程ではないが、魔術課程も同様らしい」
ダシュ「・・・・・・・・・わかりました。陛下のご意向を尊重致します。
ただ、魔導師のことは伏せておきましょう」
――――――――――翌日 謁見の間―――――――――――
僕「・・・・・サント・・・・ハイム・・・・・北の国・・・・・」
ダシュ「猊下はしばらく、我が国に滞在なされる。そしてお帰りの際には、
再びこちらにお戻りになられる。そのときまでに決めてほしい。
連絡は私かアクデン先生のところで構わぬ。陛下はこれから数日忙しい。
時間が合わなければ、部下の者に言伝(ことづて)を頼めばよい」
僕「・・・・・・・・・わかりました」
シルバ「頼むぞ。・・・・・・・ところでアーシュ、どうだろう。
突然だがこの際だ。名前に姓を貰いたくないかね?」
僕「? どういうことですか?」
ダシュ「この国は何年か前に、平民でも姓を名乗れるようになったのだ。
陛下の政策の一つだ。登録所で申請手続きが必要だがな。
そこでは、希望者が望めば苗字の選定もしてくれる」
そういえば・・・・今まで出会った人はほとんど、名前しか名乗ってなかったな。
姓・・・・・名前を決める・・・・・・・なんだかゲームの主人公みたいだぞ。
僕「そうですね・・・・興味あります・・・・・・・あ、でも、
もし僕がこの国を離れたりしたら・・・・あと、
僕はこの国の生まれではないですし・・・・・・・・・大丈夫ですか?
ダシュ「そなたは特別だ。本来なら身分を示すものが要るが、それは私が保証しよう。
後で私の部屋の受付で紹介状を受け取るがよい。登録所まで部下に送らせようか?」
僕「あ、いえ。場所さえ教えていただければ結構です。ありがとうございます」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
?「なんだぁ、小僧ぉ・・・・・この俺になにか用であるのかぁ?」
僕「いいいいいえ、なんでもないです! いやホント!」
?「ちょっとサイップ、覗き込むのやめなよー。この人びっくりしてるよー。
ホントすみませーん、驚かせちゃって」
僕「!・・・・・・・・そ、その姿h」
サイッ「あいあいわかったよぉ、モキィ。行くぞぉ」
ドシン、ドシンと、腰巻き一枚の体を揺らした青の巨人と一緒に、
彼より頭十個は背が低い、小柄な若い女性が一人立ち去ってゆく。
・・・・・・・思わず見上げて固まっちゃったよ。あれか・・・・・巨人の魔物って。
そういえば、巨人の出入りする地区もあるって聞いたな。
それとあの女性・・・・・・・真っ白な肌。耳が横に尖っていて、瞳も真っ赤で・・・・・
あれこそ話に聞いていた、エルフっていう種族だ! 初めて見たぞ。
・・・・・・・そうだ、登録所探すんだった!
・・・・・・ええと、・・・・・・あー、あそこに見えるのが中央図書館で・・・・・・
それでここか。この道をこっちで・・・・・・・・・・・・・・・あった!
広い通りの右手に『総合市政所 第18分館』と縦看板が見える。
王宮関連地区の一角。僕の目指す場所は見つかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
?「それでは、決まりましたらまたいらしてください」
僕「はい。ありがとうございます」
天井から吊るされた看板には『氏名登録受付所』の文字。
担当の女性といろいろ話した結果、僕は、
何冊もある候補の一覧カタログを参考に、自分で考えることにする。
最初、彼女が僕の希望に沿い、カタログからいくつか書き出してくれたが、
どれもピンとこなかった。
僕がそこに書き記されたものを参考に自分で考えてみると、
それは有名な家柄のもので使えません、と言われてしまった。
受付の横には閲覧室という、カタログを見るために使える部屋が設けてある。
・・・・・・・・僕は、そこに入っていった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・宿屋のトーヤ。
トーヤ「苗字?そんなもん、俺は興味ないねぇ」
僕「そうですか・・・・・・」
僕は食堂で夕食を食べつつ、宿屋の主人トーヤさんと話している。
トーヤ「確かに便利にはなるだろうよ。
アンとかレオンとか、同じ名前の奴は結構いる。
『何とか屋のレオン』ってな具合に説明しなくちゃならねぇしな。
ただ、それに慣れきった奴も多いのさ。俺もその一人だ。
若いもんらは結構申請してるようだけどなぁ」
―――――――――十日後 コーミズ村の外れ 慰霊碑前―――――――――
マーニャ・ミネア姉妹の生まれた村、コーミズ。
その近くに建立された大きな慰霊碑。二人を讃える碑文が刻まれている。
村には前日までに、国内をルーラで結べる神官により、数多の関係者が集っている。
しかし、規模の大きなクリフト一行だけは、イャーヌで進むしかない。
無論そのために、サントハイム有数の移動速度を誇る、この動物が使われている。
野鳥の囀(さえず)りは小さく響き、吹き抜けのテント内には
参列者たちが黙したまま、椅子に座っている。
彼らの護衛はその外にて、護衛の任に当たるか、粗相の無い程度に休んでいる。
・・・・慰霊祭は、レオ王国の誇る大神父による祈りの儀で始まった。
その後、シルバーレオが石碑前に佇み、古式に則り、短い言葉の後に黙祷を行う。
国王が席に戻り、次に慰霊碑前に跪いたのは、かの大賢者クリフト。
静かに左右の指を組み、偉大なる姉妹の名が刻まれた石碑に向かい、黙祷を行う。
・・・・やがて、クリフトは静かに立ち上がる。再び指を組み、小さく体を屈ませ、
最後の祈りを行い・・・・・・・ゆっくりと振り返り、しずしずと来た道を戻ってゆく。
・・・・・・・・続いて神父・神官など、後続の参列者たちが黙祷を捧げ・・・・・・・・・
その中にはもちろん、アクデンやベリアルンの姿も見受けられる。
・・・・・・2時間に及んだ慰霊祭は、何事も無く終了した。
――――――――――数日後 謁見の間――――――――――
バーズ「陛下! ご帰還、お持ち申しておりました!
アーシュ殿がサントハイムに行くというのは、誠ですか!?」
シルバ「・・・・・・・・耳が早いですな、先生。仰りたいことはわかる。
しかしこれは、昨日、彼が決めたこと。
私は、本人のためにも善き選択であろうと考えている」
バーズ「・・・・・ええ、わかっております!
しかし陛下! 彼の知識は、私たちより数百年・・・・・・・いや、
千年先を進むものかもしれません。陛下もご覧になられたと伺っております!
あの奇妙な光沢を放つ持ち物を! あれが今のわが国で作れましょうか!
彼を今この国から手放すのは、実に惜しいことではないでしょうか!」
シルバ「私も同様のことをアクデン先生から伺っている。しかし先生、お忘れか?
彼はこの国の者ではない。途方も無い旅の果て、我が国に迷い込んだのだ。
私は、我々の都合で彼の行く手を阻むことを、善しと考えない」
バーズ「・・・・・・しかし・・・・・・・」
ダシュ「先生、彼は旅人なのです。ここに少々留まっていたために、
我々はその部分を見誤っていたのではないでしょうか」
バーズ「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
アクデ「いきなり陛下の御前に行かなくとも・・・・・・気持ちはわかりますよ、先生」
バーズ「・・・・・・・・・・心配なのです」
アクデ「都合がつけばまたこちらを訪れる、と話していましたし。
それに、今後は文通を続けるということじゃないですか」
バーズ「・・・・・・・・・・・」
―――――――――数日後 城内 内務大臣執務室―――――――――
ダシュ「そうか、そのままの名で行くか。良いものが無かったのかね?」
僕「そうですね・・・・・・・・時間もちょっと足りなくて」
嘘だ。僕には、どうにも踏ん切りがつかなかった。
今の名前はあんなに躊躇無く決めたのに。
かつてのあの僕は、なんだったのだろうか。
ダシュ「まぁ、またの機会でもよかろう。
猊下は後十日ほどでこちらにお戻りになられる。
船団の停泊するハバリアまで、我が方でそなたを送ろう。
あちら方面は初めてであろう? 景色を目に焼き付けておくといい」
僕「わかりました。いつもサポートしていただき、ありがとうございます」
――――――――十数日後 港町ハバリア 第三港―――――――
目に余るほど巨大なサントハイム王国船団の、第2号艇の甲板。
威容さに圧倒され、僕は船の縁(へり)に手を乗せつつ、潮の臭い漂う中、
船や港で動き回る人や、空や前方の町並みを、ただ眺めている。
・・・・・・どうやら荷物の積み込みも終わり、出港準備は整いつつあるようだ。
なんでも、バーズさんは最初、僕の出国に反対していたそうだ。
最終的に、僕に文通の意思があることで妥協し、矛を収めたらしい。
僕の知識が軍事転用される可能性を気にしていたとか。
軍事転用なんてそんな心配・・・・・・・・いや、・・・・・・・まぁ大丈夫さ、きっと。
?「名残惜しいかね」
僕「あ、いえ。そういうのではないです」
青のローブを纏(まと)う初老の男性から声が掛かる。
?「はじめまして。クリフトの弟子のゾクといいます」
僕「あ、・・・・はい!はじめまして。クリフト先生のお招きで、
この度サントハイムに同行することになった、アーシュと申します。
どうぞよろしくお願い致します。・・・・・・・・ん?」
ゾク「? なにか?」
あれ?・・・・この人は・・・・・・・・・・・・・
僕「あの・・・クリフト先生が王様に挨拶に訪れたとき、
先生の後ろにいませんでしたか?」
ゾク「えぇ、もちろん。・・・・・そうか、あの場にいたのか」
?「あぁ、ゾク先生! すみません。ちょっとよろしいですか?」
ゾク「ん? ああ、わかった。ではアーシュ君、失礼するよ」
僕「あ、はい。それでは」
男の人に促され、ゾクさんは船室に入ってゆく。そして、・・・・・
船員「錨(いかり)をあげーーーい」
ダシュムさんが言ってたっけ。君は旅人のようだ、って。
僕にはよくわからないけど。
でもそうだな、今、僕は旅人なんだ。この世界を訪れた。
僕は僕、アーシュ。今はただ、ただそれだけだ。
漕ぎ出すと表現するにはあまりにも不釣合いな、重々しい大船団の出航。
その片隅に、僕の姿は溶け込んでいった。
アーシュ
HP 14/14
MP 0/0
<どうぐ>携帯(F900i) E:エリモスの服 ルテールの靴
サイップ
HP 388/388
MP 10/10
<どうぐ>E:皮のこしまき
<とくぎ>せいけん突き きあいため ばくれつけん 痛恨の一撃
ゾク
HP 158/158
MP 148/148
<どうぐ>E:まほうの法衣
<呪文>ホイミ ベホイミ ザオラル ヒャダルコ ヒャダイン ピオリム ルーラ
<とくぎ>せいけん突き 岩石落とし かまいたち ばくれつけん うみどりの目
あけましておめでとうございます。
大晦日に投下とは、お疲れ様でした。
ついに舞台は次の大陸へ。
はるか未来の知識を持つ彼がこの世界にどんな影響を与えるのか。
アーシュの今後がますます気になりますね。
アルス「新年あけまして」
タツミ「おめでとうございます!」
アルス「みなさま、去年はお世話になりました。本年もよろしくお願いいたします」
タツミ「さて、まずはあの方へのお祝いを。ちょっと遅くなりましたが……」
アルス・タツミ『【冒険の書シリーズ】完結、おめでとうございまーす!』
タツミ「いやー、感動のフィナーレでしたね! 本当に素晴らしいの一言です」
アルス「最後は読んでて鳥肌が立ちました。リアルタイムに読めたのは幸せでした」
アルス・タツミ『ありがとうございました! そしてお疲れ様でした!』
タツミ「僕らも負けないように頑張らないとね〜」
アルス「っていうか、うちはもう少しサクサク進めるべきじゃね?
前にも聞いたが、いったいうちはいつ終わるんだよ」
タツミ「物語の構想自体は最後までできてるんだけど、まだ3分の1らしいからね」
アルス「ってことは、あと5年以上かかる計算になるぞ?」
タツミ「そ、そんなにはかからないと思うけど……あはは。
さあ! 新年1発目のサンクスコール、行ってみよー!」
タツミ「
>>230様、丁寧な感想ありがとうございます。
あの将軍のおじさんに安心してもらえるよう、僕も気合い入れなきゃ」
アルス「しかし、レイのセリフもちょっと意味深だったよな」
タツミ「そーかな。あの人間離れした強さを身近に感じてる僕からすると、
ああいうセリフも出てくるだろうなって普通に思ったけど」
アルス「
>>231様、確かにショウに関してはPLに敵意を持ってる感じだな」
タツミ「本編での接触は今回が初めてだったけど、正直、僕あの人苦手だなー」
アルス「
>>232様……って俺、忘れられてたんすかー!!??」
タツミ「あはははは! ざまぁwwwww」
アルス「うるせー! 前回のリアルサイドから時間も経ってるし、だからきっと、仕方ないっつーか、ねぇ?」
タツミ「はいはい。ということで、今回はStage.20.5としまして、
いったんこれまでのストーリーの総集編をご用意いたしました」
アルス「各Stageを簡単に紹介するので、今後の参考にしてください」
タツミ「思いっっきりネタバレのオンパレードなので、まだ読んでいない方はご注意くださいね」
アルス・タツミ『それでは総集編、まずは【Stage.1〜10】スタートです!』
※ 他レスへのアンカーがあり、且つ内容がアンカー先への返答のみと判断される場合、
読者同士の会話に割り込まない配慮としてコール致しませんのでご了承ください。
【Stage.20.5 総集編(前編)】
[Stage.1〜10]
Prev
>>224-228 ■登場人物詳細・用語解説は下記をご参照ください。
[PC版ガイド]
ttp://dqinn.roiex.net/user-dwarf/novels/IFDQR/PC-GUIDE/PC-guide00.shtml [MB版ガイド]
ttp://dqinn.roiex.net/user-dwarf/novels/IFDQR/MOBILE-GUIDE/IFDQ_Rg00.html
【ゲームサイドとは?】
タツミ視点で語られるDQ3のゲーム世界でのストーリー。
現実世界とは時間の流れが大きく異なり、約5倍の速さで時が進んでいく。ただし携帯
電話で通話している間だけはスピードが同期する。本来は言葉や文字も通じないはずだが、
タツミには日本語として認識できるので意志の疎通は問題ない。またスタート地点となる
アリアハンはこれから初夏を迎える季節だが、南半球に位置するため夏冬が日本とは逆で、
暦の上では10月下旬である。通貨の単位はお馴染みの「ゴールド」、実は銀貨や銅貨も使
用されている。
【リアルサイドとは?】
アルス視点で語られる現実世界でのストーリー。現在は春休み真っ直中。
舞台は割と大きな都市で、電車や地下鉄が通っており、中央区のオフィス街には次々と
高層ビルが建てられている。が、急速に発展している反面、繁華街の治安の悪化が懸念さ
れている。三津原辰巳の住むマンションは中心部からやや外れたベッドタウンに位置する
が、駅やコンビニが近いので住みやすい。同区内に県内トップクラスの進学校があり、タ
ツミもそこの生徒である。
【アルスとタツミの「勝負」とは?】
ゲームのキャラクター(以下PC)とそのプレイヤー(以下PL)が入れ替わり、PL
がそのゲームをクリアすると元に戻れるというルール。ただしPLが一時でもクリアを諦
めた時点で二度と元に戻れなくなってしまう。互いに干渉できるのは携帯の通話だけであ
るが、PCが故意に嘘の情報を教えてPLを妨害することは許されない。だがそもそも、
不慣れなゲーム世界でいきなり「魔王討伐」といった重責を背負わされるPLにとっては
最初から非常に不利な勝負である。
アルス本人も、平和な日本で生まれ育ったタツミがクリアできるとは思っていなかった。
しかし彼の予想を裏切り、タツミは並み外れた記憶力と話術を駆使し、驚異的なスピード
でゲームを進めている。
<あらすじ>
■Stage.1 エスケープ
【ゲームサイド】タツミ視点
ある春休みの真夜中、SFC版のDQ3を再プレイしていた三津原辰巳(みつはらたつみ)
は、神竜を倒した直後、突然ゲームの世界に引きずり込まれてしまった。そこで出会った
のは自分とそっくりな容姿をしたDQ3の主人公・勇者アルスその人。
アルスはタツミに「勇者をやってみないか?」と笑顔で問いかけてきた。あまり気は進
まなかったが断り切れずしぶしぶ承諾したタツミは、アルスの代わりに勇者となり、アリ
アハンの旅立ちの朝からゲームを進めることになる。
現実から持ち込めたのはメール機能さえ付いていない旧式の携帯のみ。それは、タツミ
の身代わりとして現実世界に出て行ったアルスとの唯一の通信手段であり、互いに不慣れ
な生活についてアドバイス(ナビ)をするために使われるはずだった。だが、いよいよ旅
立ち直前となり、さっそく携帯でアルスを呼び出したタツミは、彼にはタツミを手助けす
る気など最初から無かったことを知る。
【リアルサイド】アルス視点
アルスはすでに勇者として魔王討伐の使命を何度も果たしており、自分の宿命の過酷さ
にほとほと嫌気が差していた。しかも彼だけがなぜか冒険中によく「夢」という形で現実
世界を見ており、その平和で短調な生活に強い憧れを抱いていたのである。
プレイヤーであるタツミが4周目に神竜を倒したまさにその瞬間、アルスはタツミと入
れ替わる形で、現実世界へ行くという願いが叶えられることになった。彼は迷うことなく
タツミにすべてを押しつけ、「夢」に見ていた異世界へと逃げ出したのだった。
■Stage.2 ラムと偽牛乳
【ゲームサイド】タツミ視点
アルスのナビがあてにできないことを知ったタツミは、仲間を集める為にひとまずルイー
ダの酒場に向かった。しかしガラの悪い男3人組に絡まれてしまう。タツミは国王から贈
られた支度金すべてを掛け金にラム酒の飲み比べを挑み、あっさり勝利する。そしてルイー
ダが隠し持っていた高レベル冒険者リストから、レベル10以上の3人の仲間を選び出した。
その中には、アルスのかつての恋人であったエリスも含まれていた。
【リアルサイド】アルス視点
タツミに勇者の重責を押しつけて現実世界に出てきたアルスは、タツミのフリをしつつ
マンションの外に散策に出る。現実の見慣れない景観に興味を示しつつ、まずはコンビニ
に買い物に行くことにした。目的は大好物の牛乳。本来は胃腸が弱くて乳製品を採るとす
ぐに腹を壊してしまうが、現実の牛乳なら飲めるのではと考えたのだ。が、結局は現実の
牛乳も腹には良くないことが判明し悲嘆に暮れるアルス。しかしついでに買った豆乳は飲
んでも平気であり、しかもそのあまりのうまさに感激する。その喜びをタツミに携帯でま
くし立てたところ、呆れた相手にガチャ切りされてしまうのだった。
■Stage.3 リサーチ
【ゲームサイド】タツミ視点
魔法使いのエリス、戦士のサミエル、僧侶のロダムを仲間にしたタツミは、すでにレベ
ル14の実力を持つエリスのルーラで、一気にロマリアに到着した。彼はその足で地下のモ
ンスター格闘場に赴き、プレイ時に得たモンスターの知識と持ち前の頭脳であっという間
に大金を稼ぎ出す。タツミは仲間にその金で傭兵を雇ってシャンパーニ攻略&金の冠奪還
を任せると、単身ロマリア城に登城し国王に謁見した。
お世辞を並べてすっかり気に入られたタツミは、この世界の知識を一気に得るため、ロ
マリア城にある豊富な蔵書を見せてくれるよう願い出る。彼は分厚い本も一瞬で読破でき
る「速読術(ラピッド・リーディング)」と、見た物を写真のように記憶できる「直観像
記憶力」を持っており、それがこの世界における「思い出す」に相当する能力でもあった。
【リアルサイド】アルス視点
タツミに携帯をガチャ切りされたアルスは、直後、タツミのガールフレンドである「片
岡百合子(カタオカユリコ)」とばったり出会ってしまう。自分はタツミだと正体を偽り
つつ、「学校に忘れ物を取りに行くから付き合って欲しい」という彼女の頼みを聞き、彼
女らが通う高校まで同行することにした。そして校内のパソコンルームからインターネッ
トを使って現実世界におけるドラクエ3の情報を調べたアルスは、「売上本数」「システ
ム」といった現実的な記述を目にし、自分がただのゲームの1キャラクターに過ぎないと
いう事実をあらためて痛感するのだった。
■Stage.4 ミイラ男と星空と(前編)
【ゲームサイド】タツミ視点
従来のシナリオ通りロマリアの国王となったタツミは、国王権限を最大に行使し、ポル
トガとの国境の祠を開くよう命じ、また各国に親書を送るなど今後の旅の便宜を図るべく
寝る間も惜しんで手を回す。だが前国王の父親が本気でタツミをロマリアの王に据えよう
と話を持ちかけてきたため、仲間をつれて逃げるようにロマリアを出立したのだった。
次の目的地アッサラームを目指す途中、とうとう魔物との戦闘を経験することになる。
実は重度の血液恐怖症を抱えるタツミは、血しぶきが飛ぶようなリアルな戦いを目の当た
りにするたびに、ひどい精神的苦痛を感じて具合が悪くなってしまう。だが彼はそれを必
死に押し殺し、なんでもない風を装って旅を続けるのだった。
【リアルサイド】アルス視点
DQ3の情報を調べ、学校の前でユリコと別れることになったアルス。だが、てっきりタ
ツミの恋人だと思い込んでいた片岡百合子が、実はそれほど親しくない間柄だと知る。ア
ルスは冒険中に「夢」という形で現実のタツミの生活を知ったのだが、その情報と実際の
状況が違っていたことに一抹の不安を覚える。
ひとまずマンションに帰ろうとしたアルスは、途中で同じくタツミの友人である「戸田
和弘(トダカズヒロ)」と出会う。彼に誘われるままゲーセンに入り、持ち前の運動神経
を活かしてガンシューティングで簡単にハイスコアを叩き出すアルス。そこにタツミから
着信が入った。「ゾンビ系モンスターの攻略法をナビして欲しい」という。つい意地悪な
回答をした途端、怒ったタツミに切電されてしまう。
尋常ではない様子に、アルスはゲームの進行具合を確かめるため急いで家に戻ろうとす
るが、今度は「夢」でも見覚えのない不良3人組に絡まれてしまう。どうやらタツミの知
り合いらしいのだが、一見おとなしい印象の自分のプレイヤーが、なぜこんなガラの悪い
連中と付き合いがあるのかと、ますます不安を募らせるアルスだった。
■Stage.5 ミイラ男と星空と(中編)
【ゲームサイド】タツミ視点
ロマリアからアッサラームに向かう途中のタツミ一行の前に、ロマリア国王の父親から
使者が寄越された。なんでも、以前ロマリア国王がイシスから親善の証として贈られた魔
法の鍵の複製を壊してしまい、長らく隠蔽していたのだという。ところがタツミがポルト
ガとの関所の開門を命じたためにその事実が発覚し、ロマリア国王は追及を逃れるために
鍵破壊を勇者一行の仕業と公表したのだ。身に覚えのない罪の責任を取らざる得なくなっ
たタツミ一行は、ピラミッドに本物の魔法の鍵を取りに行くことにした。
ところがピラミッドの中は本来のゲーム仕様からかけ離れた危険度で、図らずもチーム
が分断されてしまう。エリスと二人ピラミッドの地下に落ちてしまったタツミは、携帯で
アルスに助けを求めたが、やはりまともな答えを返してはもらえなかった。なんとか自力
での脱出を試みるが、魔法の使えない地下からの脱出は極めて困難だった。
【リアルサイド】アルス視点
不良3人組に襲われたアルスだったが、ゲームキャラが持つ強力なパワーで簡単にねじ
伏せた。だが駆けつけたカズヒロに「手を出すな」と止められ、そのまま逃走することに
なった。タツミは成績の優秀さから奨学金を得て通学していたが、過去に起こした不祥事
のせいで、あと一度でも問題を起こすと奨学金が取り消される身の上だという。学校に通
えなくなるので、理由いかんに関わらず警察沙汰は避けなければならないのだ。
アルスの記憶では、タツミは学業の成績も平凡な人間だったはずだ。不審に思いカズヒ
ロに尋ねると、タツミは並外れた記憶力を有する天才児だという。混乱するアルスを置い
て、カズヒロはエージの囮役を買って出てどこかに行ってしまう。一人取り残されたアル
スは帰り道がわからなくなり、夜の街を徘徊することになってしまった。
そこに一人の少年が声をかけてくる。ショウと名乗ったその少年は、アルスと同じくゲー
ムから現実世界へとやって来た人間だった。
■Stage.6 ミイラ男と星空と(後編)
【ゲームサイド】タツミ視点
ピラミッド地下から脱出するために、タツミは不本意ながらケガで身動きが取れないエ
リスを囮にして一人地上へと逃げ出した。そこで魔法の鍵を得ていたサミエルたちと合流
し、エリス救出を命じる。
二人がピラミッドの内部へと消えたのを見送ってから、タツミはロクなナビをしてくれ
ないアルスに文句を言うため、再び彼の携帯に電話をかけた。
【リアルサイド】アルス視点
ショウの導きでようやく家に帰り着いたアルスは、ゲーム画面の中のタツミが夜のピラ
ミッドの前に一人でいることを確認する。途端に携帯が鳴り、出てみると、タツミはエリ
スを置いて自分だけが逃げ出してしまったことに、ひどく落ち込んでいるのだった。アル
スにも過去に似たような経験があり、その時のことを思い出してつい慰めの言葉をかけて
しまう。
スモッグに汚れた薄明るい夜空を眺めながら、アルスもまた悩む。彼も決してタツミを
憎んでいるわけではない。勇者の身代わりとしてプレイヤーを犠牲にすることに、アルス
も本心では迷っているのだった。
■Stage.7 SAKURA MEMORY -Part.1-
【リアルサイド】アルス視点
現実世界で二日目を迎えたアルスは、朝早くからユリコに電話で叩き起こされた。アル
スをタツミだと思いこんでいる彼女は、出不精のタツミを家から引っ張り出すつもりで花
見に誘ってきたのだ。本物ののタツミに一応の許可をもらい、アルスは彼女と、同じく彼
女に強引に誘われてきたカズヒロと共に、生まれて初めての電車で「サクラ坂台」という
場所に向かう。満開の桜が見事な山で市民の憩いの場となっており、三人もフリスビーに
興じてしばらく楽しんでいた。
と、フリスビーが飛んでいった先に一人の男が立っていた。黒いレザースーツに身をつ
つみ、20台前半と思われるその男は、いきなりアルスに襲いかかってきた。その男の名は
アレフといい、彼もまたゲームから現実世界に出てきたキャラクターだった。
アルスは一般人を巻き込まないよう山林の奥に誘い込むが、まともな武器が無いため徐々
に追い詰められていく。そこへユリコが飛び込んできてしまった。標的をユリコに定めた
アレフは、しかしユリコにあっけなく返り討ちにされてしまう。実は彼女は、格闘技に精
通しかなりの腕前を持っていたのだ。
ユリコの無事が確認できた直後、闘いの中で力を使い果たしたアルスは意識を失ってし
まう。そしてまた、この少年がタツミとは別人であることにユリコも気付くのだった。
■Stage.8 新しいお友達
【ゲームサイド】タツミ視点
アルスが大変なことになっているなど露知らず、タツミはポルトガ国王から贈与された
美しい帆船・リリーシェ号に乗り、次の目的地エジンベアに向けた航海を満喫していた。
だが船室で魔物が出たという騒ぎが起きる。教会で洗礼を受けていない魔物を船に乗せ
るのは不吉であるとされ、それが弱小のスライムと判明しても船員たちは許しはしなかっ
た。初めて間近で見るスライムの愛らしさにすっかり虜にされたタツミは、必死に助けよ
うとする。そこへ神父の経験もあるロダムがやって来て洗礼役を引き受けてくれたため、
スライムは無事乗船を許可されたのだった。
こうしてスライム「ヘニョ」が、タツミ一行の仲間に加わることになった。
■Stage.9 仮免勇者と彷徨勇者
【ゲームサイド】タツミ視点
ヘニョ事件が落ち着き、引き続きエンジンベアに向かう航海中、タツミはロダムから、
アルスがまだ「勇者試験」に合格していないことを聞かされる。この世界における勇者と
は正式名称を「一級討伐士」と言い、アリアハン国王が発足した「世界退魔機構」の定め
る特別な資格保持者を差す。しかし入れ替わる前のアルスはまだ仮免の身だったため、こ
のままでは勇者としての資格を失うことになる。それは魔王討伐の旅をする上で大きなハ
ンデとなるらしい。アルスがそんな大事なことまで自分に黙っていたことに怒りを覚えた
タツミは、すぐに携帯で彼に連絡を取った。ところが、電話に出たのはユリコだった。
【リアルサイド】アルス視点
アレフとの戦いで意識を失ったアルスは、ユリコの屋敷で目を醒ました。そこに、タツ
ミを嫌っているユリコの父親が乗り込んできて、娘を危険に巻き込んだ彼を厳しく責めた。
この頑固な父親が障壁となってタツミはユリコと付き合えないのだろう、と察したアルス
は、(交換ゲームのことはとりあえずとして)タツミの為に一肌脱いでやろうと、娘同様
に武術に精通する彼女の父親に真剣勝負を挑んだ。
■Stage.10 事情それぞれ
【ゲームサイド】タツミ視点
勇者試験の会場があるランシールに向かうため、タツミたちは一旦アリアハンに帰国す
る。そこでタツミは久しぶりにアルスの実母サヤと会った。サヤはタツミの正体を知って
おり、その上、素性の知れないタツミが実の息子アルスの後釜に座っているにも関わらず
彼に優しく接してくれる。だがアリアハン国王はタツミこそがアルスを行方不明に追いや
り、勇者の座を奪おうとしている不貞の輩ではないかと疑い、憎々しく思っていた。国王
はサヤに、タツミを拷問でもかけてアルスの居所を吐かせるべきだと告げる。それはあま
りに無体だと止めるサヤ。二人が言い争っている現場に偶然立ち会ったタツミは、自分は
アルスを連れ戻すために旅をしていること、そのためには勇者でなければならないという
ことを説明する。国王は、次の勇者試験で必ず合格すること、万が一不合格だった場合は
重刑に処するというのを条件に、その場を引いたのだった。
【リアルサイド】アルス視点
ユリコの父親と真剣勝負をすることになったアルスは、免許皆伝の腕前を持つという片
岡氏に、多少は手こずったものの快勝を収めた。それを機にすっかり仲良くなり、晩酌を
振る舞われる。片岡氏曰く、以前のタツミは生きた屍のような目をした人間だったという。
そういうキャラだっけ? と不審に思うアルスに、ユリコもまた思いがけない話を打ち明
けてきた。数ヶ月前に告白をして彼に振られた上、その断りの理由が「自分が両親も含め
て何人も殺してる人間だから」というのだ。
その時になって初めて、アルスはタツミの両親が死んでいたことを知る。現在同居して
いるのも母親ではなく、母方の伯母だという。以前から「夢」で見知っていた設定とまる
で違う現実に、アルスはますます混乱するのだった。
タツミ「以上、【Stage.1〜10】を駆け足で紹介してみました!」
アルス「あのさぁ……ぶっちゃけいろいろハショり過ぎてね? ワンセンテンスが長くてなんか読みにくいし」
タツミ「言うなよ、ただでさえうちの作者はクドくてダラダラと長文になりがちだもの、
なんとか要点を整理して簡潔にしようと頑張ったけど、結果はこんなもんでしょ」
アルス「まあ今回はあくまで『一度は本文を読んだことがある人』向けの企画だからな、
なんとなく思い出してくれればおkってことなんだが」
タツミ「っていうかコレ、元は作者が伏線整理のために作ったメモ書きだからねー」
アルス「思いっ切り流用じゃねえか!」
タツミ「細かいこと気にしたら負けだよ」
タツミ「次回は総集編(後編)、【Stage.11〜20】をざっとまとめてみます」
アルス「ちょっとした息抜きにお楽しみいただければ幸いです。それでは」
----------------------------
本日はここまで。
ところで、この作品にタイトルを付けようと思い立ちましたが、
一晩考えてもなにも浮かんできませんでした。
今でもコレ関連のフォルダ名は「DQ3のやつ(仮)」となっていますorz
正月特番キタwww
ラム酒の飲み比べとか懐かしいな
乙〜。話の流れ忘れかけてたから、総集編ありがたいわ
保守
>>178-182の続き
「知らない」
他人事のように答えた私を、姉妹と二人の青年はぽかんとした顔で見ていた。
正確には、「知らない」というより「よくわからない」のだ。何がって?
「私が生まれたときにはもう墓の下にいたよ。何度か参ったことがある」
というのも、話は南の町へ向かう途中、ミネアちゃんがこんなことを聞いてきたことに遡る。
「メイさんのお父様って、どんな方なんですか?」
「昨日それが気になって、さっき二人で話してたのよね。
アネイルの温泉で言ってたけど、メイってお母さん似なんでしょ?お父さんはどんな人なの?」
そこで私は一言、ただ簡潔に「知らない」と答えたのだ。
「ああ、別にそんな顔しなくていいよ。魔物に殺されたわけでも女に刺されたわけでもないから。
単純に、私が母親の胎内にいたころに病気で死んだの。写真でしかみたことないから、ホントによく知らない」
社会人二年目までは母親と一緒に暮らしていたけど、その母親も社会人三年目に入る春に急性心不全で死んだ。
つくづく私は周囲の長命というものには恵まれていないらしく、逆にその人たちの命を吸って生きてるんじゃないかとも思う。
「……ごめんなさい」
こうやって、ミネアちゃんは一人勝手にドツボにはまるからずるい。別に気にしてないっての。
「いや、気にしてないからそんなしょげないでよ。いい男だったってことは死んだ母親からも聞いてるし、自慢ではあるんだー。
生きてた頃は小さな酒場のバーテンダーやっててね。口ひげが似合う優しそうな人だったよ」
「ふーん。いいなぁ。酒場やってたなら、毎日飽きるほど飲んでも怒られなさそうだし」
「姉さん!」「マーニャさん!」焦るミネアちゃんとホフマン君だけど、知らない人のことをどう言われたって、ねえ。
「あははは!それ私も思った!」だから私はただこんな風に返すのだ。
こんな話をしているとき、ソロはどうしているかというと、特に当たり障りのない存在になりきっている。
自分の親を思い出すわけでもなく、話の中に食い込んでくるわけでもない。
港町コナンベリーへ続く大草原の中に同化するように、緑の髪をなびかせて一緒に歩いているだけだ。
私の生まれ育った地域では離婚で片親の子どもなんて数え切れないほどいた。
私たちの街に生きる人は誰もが皆、複雑な家庭が多いことを知っていたから、それこそ片親だから〜なんて差別もないし、
「両親」というもののありがたさを噛み締めるように暮らしていた。本当にタチが悪いのは、そういう一般的に観て
「よくないもの(この場合は片親という家庭環境)」が身近であることに慣れていない「普通の・もしくは良い環境」しか知らない連中、
そして、「よくない環境」に甘んじてそれを武器にする、私たちとは一緒にしてほしくない同類たちだ。
「会いたいと思ったこともなければ見守ってて欲しいとも思ってないし、本当に気にしないで。
父親がいない分、母親が頑張ってくれたから。恩返しできないまま死なれちゃったけど、
いつまでも親の顔しないで女や男のままでいられるよりはよっぽど私にとっては良かったから」
天涯孤独、なんていうつもりはなかった。頼ろうと思えば頼れる親戚だっていないわけじゃない。
両親ともに愛し合い、両家の家族親族の同意のもと結婚して、私が生まれたのだ。親戚とは年賀状のやり取りぐらいはしている。
疎遠といえば確かにそうかもしれない。でも私はどうしても、自分が孤独であるなんて思いたくないのだ。
現代人はみんな視野が狭い。血のつながりも近隣住民とのつながりも職場でのつながりも何もないという人以外、
どこかで誰かとつながっている。ひとりぼっちじゃないのにみんなで「淋しい」と言い合うのが流行りなのだ。
だから私は孤独じゃない。それに今は―――。
「ちょっと!ぼーっと突っ立ってないでメイも攻撃ぐらいしなさいよ!」
「メイさーん!僕ちょっとケガしちゃったんですけどー!ホイミプリーズ〜!」
「ぼんやりしていると、魔物に殴られますよ!」
ほら、独りじゃない。
「ごめーん!ホイミ!」
ホフマン君にホイミをかけ、軽快とはいえないステップを踏み、アローインプの群れをヤリでなぎ払う。
炎と風が傷に追い討ちをかけて、黄土色の頭巾の切れ端や燃えカスがふわりふわりと流れていった。
―――次の街には「おんせん」あるかな。
さまよう鎧に殴られた拍子に転んで出来たかすり傷を舐めてソロが言う。
見なさいよ。何もかも亡くした悲しみに打ちひしがれるでもなく、ソロはこんなにも世間知らずに前を向いている。
私が孤独だなんて言ったらそれこそ本物のバカだ。
「コナンベリーは港町ですからね。温泉がなくても、きれいな海が見られますよ」
―――うみ?
「しょっぱい水がたくさん溜まってるところですよ。砂の大地に波が寄せては帰っていって、遠くに行けば行くほど深くなります。
いま僕達が立っている大地……大陸のつなぎ目は、たいてい川か海に仕切られているんですよ。
ああ、それと海は船を使って移動します。帆という大きな布を張って、それで風を受けて動力にするんです。
魚もたくさんいますよー」
―――魚がいるんだ。アユとかウグイとかもいる?
「いえ、そういう川魚は川にしかいないんですよ。しょっぱい水の中じゃ、アユやウグイは生きられませんから。
その代わり、イワシの大群とか、クジラというとてつもなく大きな生き物がいて―――」
海というものを語るにも、ソロには説明がいる。山奥の森と険しい地形に囲まれた場所から出たことのない彼は、
海水に見たされた海というものすら知らない。ホフマン君は飽きることなく、嫌な顔ひとつせずにソロに世界を語ってみせた。
同行してからの見事な戦いぶりを見ても、いろいろな大地を冒険してきたのだろう。
「……あら?」
ミネアちゃんが足を止めた。遠くを見る顔が見る見るうちに険しいものになっていく。
「どうしたの?ミネア?ミネア?」
昼だというのに、西の空が暗い。黒い太陽が昇っているようだ。あれは……―――?
「大灯台の闇は順調に燃え続けています。船も先日から二艘、沈んでおります」
「そうか、ご苦労。下がれ」
魔族の居城の一室に、エビルプリーストはいた。部屋の中に直射日光は一切入って来ず、壁と言う壁を暗幕で覆い隠している。
羊皮紙の巻物や金縁の本、無数の生物の骨、ガラス、陶器、木、様々なもので作られた器。
それらが散乱した机に、老いた魔術師は向かっていた。
黒大理石のテーブルの上に、ガラスで出来た球形の入れ物が鎮座している。
中には空色の液体が入っており、無数の黒い粒が尾をなして泳ぎ回っていた。
側近が下がった後、エビルプリーストはガラスの球体の中に真珠大の小さな白い粒を落とした。
黒い粒は堕ちてきた白い粒にこぞって群がり始めた。空色の液体がわずかに波打つ。
やがて、白い粒の中にはたった一つの黒い粒が飲み込まれていった。
その途端、ガラスの球体の中の水分がすべて蒸発した。じゅうじゅうと音を立てて中のものを微塵も残さず散った「いのち」は、
エビルプリーストの鼻や口から空気に混じって入り込み、むせ返りたくなるような不快感をもたらす。
「……あれだけの『いのち』を吸っても、まだ足りぬか。絶対的な力不足とでも言いたいわけだな。面白くもない」
部屋の隅にうず高く積まれた骨の山に、ガラスの球体を投げ捨てる。木箱の中に整列して入っている新しい球体を取り出すと、
エビルプリーストは暗幕に包まれた部屋の中で最も暗い場所にある壷の中にオリハルコン製の柄杓を差し入れた。
「やはり進化の秘法には黄金の腕輪が必要か。あの小娘め。地獄に送るだけではまだ飽きたらぬか」
呟いてから、ふと、エビルプリーストは胸がざわめくほどの失態に気づく。
「―――勇者を仕留めたとき、あの小娘は死んだのか?そうならばなぜ、その時に黄金の腕輪が手に入らぬ?」
黄金の腕輪を持った女はキングレオから脱出後、ジプシーの女たちと行動していたことは知っている。
その後、いにしえの魔法「バシルーラ」の反応を観察隊が察知したという情報も得た。
今は死んでいると言っても過言ではないバシルーラの着地座標は術者でも指定することができないことも熟知している。
ましてや、術者はまだ魔力が完全に覚醒していない人間ふぜいだ。着地座標を異世界にできるわけもない。
ルーラに似た魔法の匂いがこの居城から北西にある山奥で感じられたと観察隊がいうのだから、あの小娘が生きているとすれば、
勇者を隠していたあの小さな村落に留まっていたとしか考えようがないのだ。
「……神の因子か!あの小娘はまだ生きている!!」
眼球の毛細血管が角膜に浮かび上がった。拳で机を叩きつけると、上に載っていたものがあらゆる方向に散乱した。
どのぐらいそうして自分の愚かさを責めていただろうか。一昼夜か、それとも三日三晩か。
歯を食いしばって進化の秘法の研究を続行しようとした瞬間、側近が血相を変えて飛び込んできた。
「エ、エビルプリースト様!大変でございます!だ、だ、大灯台が突破されました!勇者です!勇者が生きていたのです!
ハバリアから亡命したジプシーの姉妹も一緒でした!それと、鬼神のごとく強い女が」
エビルプリーストが椅子から立ち上がるのと側近の首が飛ぶのは、同時だった。
323 :
◆fzAHzgUpjU :2010/01/21(木) 00:03:50 ID:bedCPUCc0 BE:1171214273-2BP(0)
Lv.17 メイ
HP:82/82 MP:73/73
E はがねの剣
E 鉄の盾
E 革のコート(毛皮のコートの守備力-2)
E 金の髪飾り
E 黄金の腕輪
ホーリーランス
サングラス(壊れている)
戦闘呪文:ホイミ・ベホイミ・スカラ・メラ・ヒャド・イオ
戦闘特技:なぎ払い・連続魔法(黄金の腕輪の効果)・一閃突き
所持金:688G
マーニャ「どうもー、ドードードリーです」
メイ「読者の皆さん、この話の作者、ちょっと太りましたよね」
マーニャ「……えー、皆さんぜんぜん興味ないと思うんですけれども」
メイ「カァーッ( ゚△゚)>」
マーニャ「えー、ねぇ。今日も頑張って漫才やっていきたいと思うんですけど、最近あたし、父親についていろいろ考えてまして」
メイ「詳しく聞かせろよ!」バシッ
マーニャ「えー、言われないでも詳しく話すつもりなんですけれども」メイ「ウイ」
マーニャ「あたしのお父さんっていうと、有名な錬金術士であるエドガンなんですけれども、歳はまあ〜40過ぎたぐらいでね」
メイ「メイは18歳以上のオッサンには興味ねーよ!」バシッ!
マーニャ「ショタコンじゃねぇかよ気持ちわりーな!(ベチッ)大体あんたソロ見て普段なに考えてんのよ」
メイ「(;゚∀゚)ハアハア」
マーニャ「だから気持ちわりーんだよ!(ベチッ)絶対こいつストーリー進んだら未成年淫行で捕まってるし。
えー、でね。もしもお父さんにもう一回会えたら、今度はちゃんと親孝行したいと思うんですが、
みなさんはどんな親孝行してますか?」
メイ「こいつらが親孝行なんてしてるわけねーだろ!」バシッ
マーニャ「決め付けんじゃねーよ!(ベチッ)謝んなさいよホントにもう」
メイ「ごめんネw」
マーニャ「えー、謝ったら許してやって欲しいんですけれどm」 メイ「だがそこのモニタの前にいるお前m9(゚д゚)はどー見てm」
マーニャ「指を指すんじゃないよ指を!(ベチッ)……で、ですね。あたしはやっぱりお父さんに肩もみをしてあげたいと思うんですけd」
メイ「オッサン揉むなら少年を揉めよ!」バシッ
マーニャ「だから気持ちわりーって言ってんだろさっきから!(ベチッ)大体あんた少年のどこ揉むつもりよ!?」
メイ「○○○(ピーッ)だよ!」バシッ
マーニャ「完全に変態じゃないのよ!(ベチッ)あんた女版変態仮面か。
えー、それで揉んであげながら『お父さん、ありがとう』って言って、日頃の感謝の気持ちを言葉にs」
メイ「おい、私は変態仮面なのか?」
マーニャ「そこもう終わったわよ!(ベチッ)あんたメイでしょうが」
メイ「メイか〜……orz」
マーニャ「なんで嫌がるのよ!?」
メイ「だってあいつ未成年の男の子ばっかり追っかけてて気持ち悪いじゃん」マーニャ「わかってんのかよ!(ベチッ)」
マーニャ「あーもう!アンタのせいで漫才台無しじゃないのよ!もうアンタなんか棺桶入ったまま全クリされちゃえばいいんだ!」
メイ「おいお前それ本気で言ってんのか?」マーニャ「ちょっと本気よこのド変態!いーかげんにしろ!」
メイ・マーニャ「どうも、ありがとうございましたー!」
投下乙です!
☆
t
前回
>>298-306 【安窓】
歴史、魂。
それは、かつて生きた姿の幻影なのだろうか。
物にはやがて、魂が宿るという。
それは、そのものの存在だけでなく、
それが与えるものにも魂を込めるのかもしれない。
遥か昔、地上を歩くものがその地に棲み付く前より、その風景は存在した。
その中心には、短い丈の草花をまとい、木立がところどころに見える、
奥に延びるなだらかな平地があった。
草原と言えるこの地には、野生の四肢の動物たちや
草の根の辺りを小さく歩き回る虫が、その姿を晒していた。
そしてときに、この中に魔物の姿が紛れることもあった。
ある日、そこに窓が置かれた。
この地に育つ木々から作り出された枠に縁取られた、粗末な安窓。
平地の上に、東からわずかに南東へ向いた窓。
この地に居を構えるべく移ってきた人々が作り出したものだった。
彼らは古代の牧歌的な信念を持ち合わせていた。
周辺の木々、草、動物たちと共生し、
家族や仲間の安全を願う意志がそこにはあった。
窓はその地の風景を切り取った。
まず、黄色い葉と深緑の幹の小ぶりなカラニナの木々が、すぐ隣にあった。
そして南のさらに向こうには、大樹イガングゥの青白い鮮やかな葉と、
その樹を中心としてまばらに建つ簡素な住居が見えた。
それはまさに、産声を上げんとする、人々の営みであった。
窓の外に人家は建ち続け、やがてひとつの集落となった。
開拓者の声と声に紛れ、遠くの平野には、魔物の蠢(うごめ)く姿が見えていた。
大樹の葉は風の日に往々と揺れた。その地に生まれた子供らに、
あたかも風が葉の色に染まったかのように錯覚させた。
明るいカラニナの葉傘の下は、夏になると、狭くも生命の憩いの場となった。
東の彼方、三つこぶ丘の縁からは、毎朝仄(ほの)赤い太陽が現れた。
西の彼方、時折鳥が飛び立ち群れる森に太陽が沈む頃には、
南の地平線、平野の動物たちの群れ、その背の向こうに、
薄赤い景色に紛れ、忘却色の月が浮かんでいた。
人々は、ときにその安窓のこちら側から、
ときに地平線彼方の群れる動物の中から、
ときに魔物との出会いを警戒しながら、
その風景の中に日々自分を溶け込ませた。
移り変わる建物や人々と共に、その安窓も新たに作り出された。
それは、たとえあの窓とは違えども、
魂とも言える佇まいは確かにあの窓であり、風景を切り取り続けた。
この地が村となった頃、窓の向かいに一軒の家が建てられた。
やがて育った家の娘は、村の男の一人に恋するようになった。
日夜、空に向かい物思いに耽(ふけ)る彼女の横顔が、窓の先にあった。
そして、二人の家が窓の遠くに構えられた。
時が経ち彼らの子らは、ある者は村に留まり、ある者は村を離れた。
彼らの血脈が受け継がれる様を、窓は確かに捉えていた。
時が流れ、窓はそこにあった。
風景が、人が、そして窓自身が幾度も移り変わろうとも、
窓は常にそこにあった。
旅の中継地としてこの地が名を馳せ始めた頃。
東からの太陽は、近くに建った石の塔で広く隠された。
商人や工人の奏でる喧騒の中にあって、
いつしかその窓は、町の後ろ姿を見ることが多くなった。
しばらくして、窓の隣に酒場ができた。
毎夜そこから溢れ出る、魔物を相手に一旗挙げんとする者どもの声。
下卑た叫び声とも呻き声ともとれる声らが四方八方へ飛び散り、
・・・・・・・・・・・・それは、安窓にぶつかってきていた。
路地の闇には、もはやただ隙間を縫うだけのカラニナの木々が在った。
やがて、この地にただ在った彼方の大樹イガングゥは、
栄える町に求められる木材として、町の人間に切り倒された。
暗黒時代。窓からの景色は、ある種の隆盛を迎えた。
家から、町から、勇み飛び出る人々。心弱く孤立する人々。
絶望に沈む多くの人々。退廃した世に、生ける死人として野望を求め
寄せては消える波の運命を持つ冒険者たち。
彼らを目当てに戦闘品を売買する商人や工人。
彼らとともに、遠き地について幻想じみた噂を語る旅人。
宿と酒場が、血と泥にまみれる硬貨を介して栄えていた。
町は彼らの町として、あらゆるものを取り込んでいった。
町の中には、ときに魔物の脅威が及ぶこともあった。
やがて暗黒の影は去り、魔物どもはその勢力を減らした。
彼らはかつてのように、町の外で蠢(うごめ)いていた。
結束し在った町は流転した。
在りし日の輝く戦いの記憶。孤立した世界に身を委ねていた記憶。
町の栄華は、かつての世界の流れの中にあった。
人は消えゆき、消えゆき、消えゆき、その流れは消えなかった。
町の賑わう様がかつてのように蘇ることはなく、
丘の彼方、あるいは森の彼方へと移っていった。
もはや窓の外には、残酷なまでに遅々とした衰退が進んでいた。
町はやがて村となった。影の多くは窓の先から失われた。
村はやがて集落と果てた。あの、初め在ったような集落へと。
その頃になると、窓の向かいには、何も建たなくなった。
東の彼方、三つこぶ丘の縁からは、毎朝仄(ほの)赤い太陽が現れた。
西の彼方、時折鳥が飛び立ち群れる森に太陽が沈む頃。
南の地平線、平野の動物たちの群れ、その背の向こうに、
薄赤い景色に紛れ、忘却色の月がまだ浮かんでいた。
やがて、最後の人々がカラニナの木々に見送られ、この地を去った。
広場に打ち棄てられた、染みにくすんだ布切れ。
どこか建物の外壁から崩れ落ちた掲示板。
町の防護壁を担っていた、くず折れた石片の山。
陰気な一角の、苔にまみれ崩れ落ちた墓碑群。
かつて狭い路地のあった裸の地に埋もれかけた、子供の玩具。
人々の過去が、吹き荒む風に飛ぶ枯れ草の中にあった。
そして、この地を横切る動物や虫、魔物、空を舞う生命のあらゆるものが、
町のあらゆる残骸の上で留まり、走り、潜り、かじりつき、
もはやこの地の在った記憶が消え去った頃、
残骸の中にあったこの窓は、ついに木々の骸と化し、地に伏した。
数え切れぬほどの陽(ひ)と灯(ひ)の螺旋が巡った頃、
一人の太夫とその一行が、この荒れ地を横目に見つつ通り過ぎた。
大半が風化し尽くしたその地について、誰にも浮かぶものはなかった。
そこにはただ、無言のものが在った。
幻影は、そのものの意識がなくともありえるのだろうか。
ここに、ある安窓の物語は終わる。
こういう風景的な描写大好きだわ
保守
ぬるぽ
がっ
ども、GEMAです。
今回は死の火山突入からお付き合いよろしくお願いします。
LoadData >203-209
山間を吹き抜ける硫黄臭い風は、早朝の隙間を涼やかに吹き抜け、
この地に住む全ての者に新しい太陽の誕生を告げて回る。
それは、誰にでも平等に約束された平和な時間。
自然を敬い、尊ぶ者はこの一時に人を超越した存在の慈愛を覚え、日々の活力と成す。
そう、そこに在るのは人を超越した存在。
その身を軽くよじるだけで、その背に乗る大地も海も簡単に砕け散る。
それは、誰にでも平等に約束された試練。
慈愛と同時に与えられる逃れられない破壊。
だからこそ人々はそれらを敬い、尊び、同時に畏怖を忘れる事はない。
◇
あちぃ…
俺達が死の火山に足を踏み入れたのは、まだ西の空が仄暗い時間。
朝の冷気を含んだ風に少しばかり肩を震わせていたのは確かだが、
何もここまで暖房完備する必要はねぇだろ。
隆起した溶岩と、浸食されて崩れ落ちた岩盤によって形成された足場はひどく脆く、
一歩ごとにパラパラとその一部が礫となって崩れ落ちる。
だが、崩れ落ちた礫が岩の地面に叩きつけられる音は聞こえない。
足場の下は一面、煮えたぎるマグマだから。
ふつふつと、赤とも橙ともつかない色で不気味に沸き立つマグマは
その臭気と熱気の腕を伸ばし、俺達の全身を撫で回す。
それは、俺達を焦熱地獄へと誘う死神の手。
「死の火山って言うだけあるなあ。こりゃ歩くだけでもしんどいわ」
サトチーも俺も既に汗だく。
感覚のないスミスも熱気で腐敗が進んでいるのか、体からヤバい色の汁を流し、
その動きはいつも以上にぎくしゃくとしてぎこちないものになっており、
分厚い毛皮に覆われたゲレゲレにとってはこの暑さは特に堪えるのだろう。
半開きの口から舌を出して息を荒げている。
「予想以上に厳しい環境だね。ブラウンとピエールは大丈夫かい?」
―☆☆!!―
「はい。私の体は熱に多少の耐性がありますのでこの程度でしたら問題ありません。
ブラウン殿は天性の体力がありますので戦闘には差し障りないかと思われます」
「それじゃあ、ゲレゲレとスミスを馬車で少し休ませよう」
「…すまぬな…さすがに関節の辺りが腐ると行動に支障をきたす…」
「後でくっつけるから、腐り落ちた部位は拾い集めておくんだよ」
幾多の魔物を斬り捨ててきた熟練の冒険者でも、洞窟の魔物には警戒心を抱く。
人間の生活域とはかけ離れた劣悪な環境。悪い視界と足場の中での戦闘。
そして、それらの不慣れな要素の中で戦わなければならない精神的圧迫感。
対して洞窟に居を構える魔物は、前述の全ての生命活動を拒絶するような環境に
その身体を適応させ、この地に迷い込む不幸な生命を糧にして生き延びてきた存在。
本能で地の利を理解し、全ての死角から探索者の喉元を狙う。
やがて、その圧力が脆弱な人間の脆弱な精神を叩き潰した時が終着点。
魔物達の晩餐が終われば、そこに残るモノは何もない。
生命の欠片も、強い意志の輝きも、斃れた冒険者を称える墓標も、
勝ち負けもそこには存在しない。
強いて言うなら、死んだ者が敗北者と言う事になるのだろうか。
ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる魔物達の狂声。
こちらに目もくれず、洞窟の隅の一カ所に固まって何かを取り囲む魔物の群れ。
俺には魔物の声を理解できないが、その声の主が強い興奮状態なのが分かる。
何に興奮する?怒りではなく…恐怖でもなく……歓喜?
そして、この状況で魔物達が歓喜する対象は…
「バギマ!!」
俺が一つの答えに行き着く直前、サトチーの放つ旋風が群れの一部を吹き飛ばす。
でかい象の魔物と灰色の体を流動させる魔物、そして山羊面の悪魔がこちらを振り向く。
その目に浮かぶのは、大事な時間を邪魔された事に対する憤怒の色一色。
「奥に人が倒れてる。助けるよ!」
食事の時間を邪魔されて怒り狂った象が火山全体を揺らすような雄叫びを上げる。
それが戦闘開始の合図となった。
「ピエールはマドルーパーを、僕はホースデビルを止める。
イサミとブラウンはダークマンモスを抑えるんだ!!」
「委細承知!」
「オッケー!デッカイのは引き受けた」
―!!!―
ホースデビルがその禍々しい翼を広げ、両の拳を振り下ろす。
不意打ちにも似た動きだが、その行動に冷静に対処している男が一人。
「スカラ!!」
魔力によって不可視の障壁を形成し、振り下ろされた鉄拳をサトチーが受け止める。
希望を粉砕する悪魔の剛腕と、絶望を切り開くサトチーの剣がぶつかり合う。
「言葉は通じるみたいだね。このまま退いてはくれないか?」
「フン。人間の感性という奴か…」
拳と刃が交差する合間に交わされる悪魔と人の言葉。
互いの攻撃がぶつかり合うように、その意志も真っ向からぶつかり合い火花を散らす。
「お互い無駄に命を散らす事は避けたいとは思わないか?」
「貴様が生命とやらを重んじるように、我々は個の力を何よりも重んじる。
弱者は強者の血肉となり、力に優れた者のみが生きる。それが我等の生き方だ。
貴様の理想を否定するような無粋な真似はせぬが、我々と相成れる事などないわ」
ホースデビルが吠え、その掌に轟々と唸りを上げる火球が生み出される。
放たれた火球はサトチーの位置とは全く別の方向に向かい、
その軌道上に飛び出したサトチーにメラミが直撃した。
―え?なんでサトチーが燃えているんだ?
メラミの軌道を追ったその先、サトチーとは別の人の姿。
サトチーではなく、倒れ伏して動かない身体に向けて放たれたメラミ。
そして、それを庇ったサトチー。
歯を食いしばり、全身からブスブスと煙を上げながらも剣を構え立ちはだかる。
「矛盾…生命を重んじる貴様が自身の生命を投げ出す事に矛盾を感じぬのか?
強者である筈の貴様が弱者を庇い傷を負うのはただの傲慢だとは思わぬのか?」
目を細め語りかけるホースデビルの仕草は一見すると紳士的にも見えるが、
その掌には二発目の火球が生み出され、耳障りな産声を上げている。
「僕は…あの日、こうして父さんに救われた…」
仁王立ちの姿勢のまま、べホイミで回復する事もせずに動かないサトチー。
ぽつり…ぽつり…と紡がれる言葉に思わずホースデビルも聞き入る。
「僕は…まだ父さんの背中しか見ていない。僕はまだあの背中に追い付けていない…
僕にはまだ全てを守る事は出来ない…でも…僕はそれでも目の前の誰かを守りたい」
サトチーの瞳が、ホースデビルを真正面に捉える。
それは対峙する掌に生み出された火球を映し出し、なおも激しい炎を湛えた瞳。
「君の価値観からしたら傲慢で矛盾した行為に見えるかもしれない…
けれど、これが僕の生き方。そして、これは父さんが僕に示してくれた道。
父さんの遺した道を護る為に…この傲慢と矛盾に満ちた剣で君を…討つ!」
サトチーが父の名を冠した剣を青眼に構え、ホースデビルもそれに応えるかのように
掌の火球を握りつぶし、両の拳を目の前で打ち鳴らす。
「自らの矛盾を受け入れるか…それで良い。その力で貴様の意志を証明して見せろ」
一瞬の間。そして、地を蹴ったのは双方同時。
「そぉい!」
―!!〜!―
突然足元に衝撃が走り、突進に入っていた巨象は体勢を大きく崩す。
踏ん張れば体勢を立て直せる。丸太のような象の前足が地を捉えようと足掻く。
その足は大地に到達する前に小さな異物によって遮られた。
足払いを仕掛けた俺の背後から巨象の足元に飛び込んだ小さな影。
ブラウンが小さな体をフルに使って巨象の体躯を投げ飛ばす。
「悪りぃね。俺はアイツみたいに誰でも彼でも救えるほど広い心は持ってないんだ」
―命が終わる瞬間の叫び…何回聞いても慣れないものだね。
煮えたぎるマグマの海に投げ落とされた巨体が沈み、全身を焼かれる断末魔が響き渡る。
矛盾した話だが、俺の中には自分で呟いた冷徹な言葉とは全く別の感情が満ちていた。
前半は火山のトラウマ、ホースデビル戦です。
仲間にならないモンスターの思想をちょっと語らせてみました。
乙!
DQ5やってだいぶ時間たってるからてっきりホースデビルも仲間になるのかと思った
GEMAさま
投下乙です!
349 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2010/03/08(月) 21:46:59 ID:AQVTTne10
面接官「特技はイオナズンとありますが?」
学生 「はい。イオナズンです。」
面接官「イオナズンとは何のことですか?」
学生 「魔法です。」
面接官「え、魔法?」
学生 「はい。魔法です。敵全員に大ダメージを与えます。」
面接官「・・・で、そのイオナズンは当社において働くうえで何のメリットがあるとお考えですか?」
学生 「はい。敵が襲って来ても守れます。」
面接官「いや、当社には襲ってくるような輩はいません。それに人に危害を加えるのは犯罪ですよね。」
学生 「でも、警察にも勝てますよ。」
面接官「いや、勝つとかそういう問題じゃなくてですね・・・」
学生 「敵全員に100以上与えるんですよ。」
面接官「ふざけないでください。それに100って何ですか。だいたい・・・」
学生 「100ヒットポイントです。HPとも書きます。ヒットポイントというのは・・・」
面接官「聞いてません。帰って下さい。」
学生 「あれあれ?怒らせていいんですか?使いますよ。イオナズン。」
面接官「いいですよ。使って下さい。イオナズンとやらを。それで満足したら帰って下さい。」
学生 「運がよかったな。今日はMPが足りないみたいだ。」
面接官「帰れよ。」
つ魔法の聖水
保守
ほしゅ
ぬるぽ
がっ!
2の世界の気候ってどんな感じかな?ロンダルキアだけはわかるんだが。
ベラヌール→地中海性気候
デルコンダル→熱帯
ローレシア、サマルトリア、ムーンブルク→温帯(日本みたい)
のイメージ
ローレシアまでは同意。でも残り2つは緯度(あくまで画面上の座標での話)から
冷帯と熱帯だと思うけど・・・。
とりあえず、ぱふぱふしてもらいに行くドラクエ世界のぱふぱふは無料だし
1はガチぱふぱふ
勇者に殺されないの前提だったら、どのキャラになりたい?
俺はハーゴン。
魔王になってニート生活を送りたい…
憧れるわ
浅田魔王
ぬるぽ
どんな飯が出てくるんだろう?Vなら分かるが。ローレシアなんかは地理的に
食材が豊富そうだし、文明も発達してるだろうから豪華そうな気がする。
たまに鍵付ドアの宿屋あるよな?
もし目が覚めた場所がそこならいきなり詰みだ
>>364 大声出せば宿屋の主人があけてくれる筈。
今年はいつまでたっても寒いけど、Vのホビットの宿屋とかムオルみたいな寒冷地
の暖房や防寒はどうなってんだろうね?堀井さんはそこまでは考えてないかな?
リアル世界のムオル近辺(サハやチュクチのあたり)では
床に敷物を厚く敷くことで防寒しているようだね。
中国東北部や朝鮮半島のオンドルは日本でも知られているけれど、あれでは防寒性が低そう。
ロシア極東部ではがっつり建物を固めて、層状ガラスを窓に入れたりしている。
つまりヨーロッパの手法をそのまま持ち込んできている。
コケや干草を床下に敷いて断熱材とする手法は、世界の寒冷地域で広く見られるよ。
365です。大変勉強になりました。
もょもとはローレシア語なんだと妄想。
「もょ」という発音は日本語にはないけどローレシアの人々は普通に発音できる。
と、小学生の頃「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の
「フュ」を発音できなかったことを思い出してそう考えてみた。
>>366 そういう生活感のある話、今後の展開を補完する資料に使えそうだ。
>>367 昨夜はお楽しみでしたねと言えるくらいの壁の薄さ。
それがドラクエ世界の宿屋なのです。
ところでいつごろここでDQ9のネタは解禁になるんだろう
リッカの宿屋とか話を始めるのに良さげなんだが
配信が終わる7月かな
>>362 がっ
>>370 初代宿屋スレ立てるまでに発売されたドラクエで、最も新しいのは、ドラクエ[の11月30日。
宿屋スレは3月に立てられ、16日頃に最初の[ネタが投下された。
X、YはDS版が出ているが、自分はどちらも持ってない
Yの変更点の有無も知らないし、
XはDS発売前に初投下されたが、後にDSで追加キャラ出たこともあり複雑なので無視する。
WのDS版は対した変更はないと踏んで無視!顔が追加されただけだよね?
以上より、ちゃんと比較できるのは2004年11月30日発売のドラクエ[。
発売後約4ヶ月で投下。
\は2009年7月11日に発売
ホントならもう投下していい頃かな。
でも配信って何?
それが終わるのっていつなんだろう?
372 :
371:2010/04/19(月) 03:58:47 ID:Rz8DOy1sO
見返したら最初のほうわかりにくいな。
[発売は2004年11月30日で投下は2005年3月16日。
で約四ヶ月のブランクってことね。
前回
>>329-332 【剣と魔法の研究院】
―――――――――――忘れ去られし賢人の書――――――――――
ときに、近し数千年の私の心象たるや穏やかになったと感じるものがある。
燃えゆる魂の決意をしたあの日から、私は世のあらゆる常識を凌駕せんとし、
ただただ静かな恐れと怒りの壁を越え、歩み続けてきたのではなかったか。
我らの周囲に広がるもの。
群れる木の中を小さく横切る、木の実を咥(くわ)えた四足の動物。
木の枝に留まりそれを見下ろす、小刻みに頭を回し小さな眼を輝かせる小鳥。
足に触れる緑の草と茶色の土に、我々以外の足跡が刻まれることは久しくなく、
小さき風のみが、一片普遍の俗世界から時折流れ込む。
夜には、人格なき大自然の有象無象の音が私に、誰も知るはずのない、
形も定かならぬ太古からの自然の言語を紡(つむ)がせる。
その幻景はまさに、人々の最後の願い、心地穏やかにするものであり、
数千年の古来より円環のように巡り続けている。
日々の変化が無と変わり果てたのはいつからか。
私のささやかな同居人たる彼は、もはやあのような魔物の姿であるので、
ほんの2、300年ほどでも誰もこの地に迷い込まないと、
私は、自分がこの惑星に生き残った最後の人間のような思いを抱くのである。
――――――――――サントハイム船団 第二号艇―――――――――
商人「本当に・・・ありがとうございました。
護衛の方がどんどん倒されて・・・・・・怖くて怖くて」
・・・・・・・・・目の前で見たことを何と言えばいいのか、
太陽が南の天頂に届く頃、見張りの一人が遠くに船を二隻発見し・・・・・
やがてそれらは、民間船とそれに襲い掛かる海賊船と判明する!
船員1「三つ目の髑髏の旗! 見覚えのないものです!」
船長「記憶に残らん程度なら問題ない・・・・。
現場に最も近い本艇で撃退任務に当たる! 全艇に通達!
先生、『うみどりの目』を使ってもらってよろしいですか?」
ゾク「ええ、もちろん。
我らもゆくぞ!」
「「「はい!!」」」
ゾクさんに従っている何人かの、魔導師という人たちが応える。
僕は、うみどりの目、という初めて聞く言葉を頭で反芻(はんすう)するが、
すぐに他の人と共に、船内に通じる扉の方へ避難誘導させられる。
船員「ご婦人方にはあまり見せるもんじゃあありませんので。
呼ぶまで下の船室に居てくださいな。まぁ、すぐに終わります。
部屋で待つ時間より歩いている時間のほうが長いかもしれませんよ」
バンダナを巻いた精悍(せいかん)な海の男の不器用な言葉を受け、
僕らの間にはクスクスとした笑いが漏れる。
僕は、さっきから気になっていたあの言葉の意味を知るため、
近くの壁に寄りかかっている、剣を腰に差し薄い鎧を着た兵士さんに聞いてみる。
僕「あの、すみません。『うみどりの目』って何のことかわかります?」
近衛兵「ん? ああ。あれは海の男の職人技だよ。
まるで空高く飛ぶ海鳥の目のように、遠くの情景を見極める技だとか。
実際どんな風に見えるのか、僕には見当も付かないけど。
今回も大方、海賊共の陣容を確認するために使ったんだろうさ。
・・・・・・さ、君も早く降りるんだ」
その説明に小さな驚きの声を上げながら、僕は皆に続き扉の中に入る。
そして最後に振り返ったとき、僕は確かに見た。
ゾク「バギマを!」
魔導師「はっ!」
ゴゥ、という音と共に突如発生した竜巻。すぐさまその旋風に飛び乗り、
潮の香りが辺りに舞う中、商船の方へ大空高く舞い上がるゾクさんを。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
海賊たちへの追撃は行われなかった。
残った二隻の船は、商船の修繕とけが人の治療のため、一時停泊することになる。
さらに船長同士の話し合いで、目的港が同じ方角であることが判明し、
この第二号艇が途中まで同行することが決まる。
商人2「そいつはうちの人気商品。頭痛腰痛をばーんと治すパデキアの軟膏さ。
ここはひとつ、今回のお礼にどーんと半額にしとくよ。
ささ、買った買った!」
商人4「如何ですか、そこの御方。
今は亡き魔法使いエゼボの著書、『魔道詩篇』の写本。
その弟子イェノックの著書の写本もありますぞ。
双方、ここいらではなかなかお目にかかれない品ですじゃ。
今なら・・・・・・・・どうじゃろ。揃ってこれくらいのお値段では」
商人3「おやおやお嬢さん。お首元が寂しいようですねぇ。
どうです?こちらの蒼く煌(きらめ)くパニア石の首飾り。
この波のような紋様と輝き。メロワの町原産ならではのモノですよ。
今なら特別価格、おひとつたったの980G! ぜひこの機会に!」
商売チャンスを逃さない彼らに敬服すべきだろうか。
両船の側面に架けられた平板の足場を介して、皆が行き来し、
ガヤガヤとした二つの主甲板は、ちょっとした見世物市となっている。
第二号艇の主甲板の上、上甲板の一角では、
両船の船長さんとゾクさんが全体を見ながら、何か話しているようだ。
ゾク「・・・・・・・・・・・・・・・・。
近年の貿易発展は、人々の暮らしに様々なものを与えています。
その想いは決して―――――・・・・・・・・・・・・・」
出航の知らせが巡ると、皆は各々の船に戻ってゆき・・・・・
やがて、蝶の翅(はね)ように整然と並ぶ櫂が動き出し、
船は、先を往く船団に向け走り出した。
―――――――――――アーシュの日記――――――――――
蜃気楼のように朧気(おぼろげ)な遠い山の稜線が見え始めた。
湿気の篭(こも)る海の生活も、あと少しで終わる。
今日の昼から夕方にかけて、海鳥の群れが、
船を先導するように周りを飛び回っていた。
彼らの目に、暇を持て余す僕の姿はどう映っていたのだろうか。
知れば知るほど、魔法というものは摩訶不思議なものだ。
夜、甲板の火種が枯れたときに見た、魔導師の人の指先に灯された小火球。
メラという、炎の魔法の一種だという。
その炎を初めて見たときの驚きといったら、まるで生きた赤い人魂が、
この世界の理を理解しきれない僕の頭の中を、夜の帳の力を用いて煌々と照らし、
さらに強く圧迫してきたかのようだった。
夜は、どこでも同じ思いを僕に抱かせる。
野営の人たちの押しころした声。灯りに群がる羽虫の音。
その周りは、月光の下に清澄の波間が支配する世界。
さらに寝床に就けば、日中僕を包む、世界に麻痺した感覚は失われてゆき、
僕は自分を、さながら孤独の城の主のように感じてしまう。
体をスッポリと包み込むふかふかの掛け布団。
滑らか、堅固な木で組まれた、軋(きし)むことのない床や天井。
それらは、客人として扱われる身分を痛く感じさせる。
噴出す様々な思いが自分の内部に戻って交じり合い、
枕元の携帯に視線を合わせなくなる頃には、
周りはゆっくりと温まってゆき、僕の意識は途切れてゆくのだ。
あの世界と同じ暗闇へと。
――――――――――数日後――――――――――
南からの季節風が潮を吹きつけるカルカ海港。
目の前には、賢者一行を人目見ようと裏路地や屋根の上にまで溢れた老若男女と、
彼らを押し戻すように適所に置かれた警備兵、そして、その中に隠れてしまった、
港の主役であるはずの海の男の三者が作り出す、人垣の大通りが広がっている。
やがてクリフトさんが船から姿を現すと、歓声は一際大きくなり・・・・・・
巨躯の動物の背に乗る彼が人垣を進むに従い、歓声の渦は移りゆく。
兵士「アーシュ殿、我らが責任を持って宿までお送り致しますぞ」
僕は一行から離れ、サランという城下町へ向かうことになった。
―――――三日後 魔法学校本校 研究院地区 学長執務室―――――
・・・・・・・・・・――――それは、暖かな朝に始まった。
職員「学長、書簡が届いております」
部屋を訪れた男は、机の書類から目を離しこちらを見るクリフトに、
両手に携えた茶色い書簡を見せる。
クリフ「ああ・・・・誰からです?」
職員「ラジィ=モモドーラ様とハロシュ様の連名でして、
急報の印が刻印されておりますが・・・・・」
クリフトは差し出された書簡を受け取り、先方の印を確認する。
クリフ「・・・・確かに。どうもありがとう」
職員「では、これにて失礼致します」
クリフトは机の引出しからナイフを取り出し、丁寧な手つきで書簡の封を切る。
扉が閉められた頃には、彼の手には紐で束にされた数枚の紙が握られていた。
紐は解かれ、魔導師と歴史学者のサインが記された文言が読み進められてゆく。
彼の目が動きを止めるまで、そう長い時間はかからなかった。
――――――――――同日 学長執務室―――――――――
クリフ「ああ、呼び出して悪いね」
一日の講義も大方終わりを迎え、太陽の残光が注ぐ中、
ようやく研究機関としての姿を見せ始めた魔法学校。
畏(かしこ)まった調度品揃う学長室に、彼の一番弟子ダグファが入る。
年齢の割に皺(しわ)の少ないその顔には、
見当の付かない戸惑いの色が浮き出ている。
ダグフ「こんな時間になりすみません。お話があるとか」
クリフトが応え、執務机から近くのソファに座りなおすと、
それに合わせてダグファも、失礼します、と言い対面に座る。
クリフ「二人にも後で伝えるけど、今は時間が合わなくてね。
僕が話す前に簡単に伝えてくれると助かるんだが。
・・・・・実は今朝、ラジィ先生とハロシュ先生から、ある重要な知らせが届いた。
あの王国の無名叙事詩・・・・・・その一冊が完全に解読された、と」
ダグフ「!!」
無名叙事詩の解読。それが意味することは、あまりにも、重い。
無名叙事詩といえば、無名書、無名稀覯(きこう)本とも称され、
ある共通の特徴を持ち世界中に散在する、謎多き希少書の通称。
その特徴とは即ち、未だ解読の進まない古代アルテリア語で書かれており、
書名や著者名すらほとんど明らかでないということ。
そしてこれこそ、無名と冠される由来なのである。
辛うじて意味の推測できる書中の挿絵より、
それらは歴史書や魔道書の類とされている。
このため、今に至るまで多くの魔法使い、あるいは歴史学者が、
秘められた古の知識を明らかにすべく努力してきたのだ。
クリフ「驚くのはそれだけじゃない。さらに――――・・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
部屋の中にぼそぼそと響く二人の会話。
一方はただただ淡々と話し、一方は耳を傾けながら、ときに二、三の言葉を返す。
やがてその顔にまた、驚きの様が見受けられ・・・・・
ダグフ「・・・・・・・・」
クリフ「さっき見せたとおり、具体的なことは手紙では伏せられています。
ただ、その差し迫った文言から鑑(かんが)みるに、
先方の提案どおり早急に彼らと会い、かつ適切な時期まで、
これは内密にして然るべきでしょう」
ダグフ「・・・・・・・・・」
クリフ「すぐに予定を調整します。
できれば君たちも再び来てほしい。
彼らの待つ、レオ王国へ」
―――――――――三日後 城下町サラン 宿屋――――――――
尖塔の背には月が輝き、開け放たれた窓の外には、酒場からの声と、
その背景に溶け込んだ、名も知らない虫の鳴き声が響き渡っている。
そして、そんな情景を巡り巡ってきたであろう衣のような風が、
窓の傍の机に座る僕の横顔に、ときおりふわりと触れてくる。
レオ王国とテララテパ海を挟むここサントハイム王国は、クリフトさんのお膝元だ。
あの学園都市の、威容を誇る建造物の多さと区画整理された様と比べると
ここ城下町サランは、上下左右にうねる通りが何本も走り、城に近づくにつれ
高貴な様式の建物が多く立ち並ぶ、まさに城下の群像を垣間見ることができる。
カーブした石段の上の住宅街。二階の物干し竿から服を取り込むブロンドの女性。
すすけた茶色い石造りの集会所。裏の小庭から見下ろせる城下の建物。
町の外、横に平らに伸びる林の先から突き出た、クリフトさんの治める魔法学校。
石段の根元から伸びる平坦な石畳通り。幌(ほろ)を張る平屋の果物屋や魚屋。
ギルドのバイトのだみ声と客のざわめき。日陰の路地にいるのは、
地べたに座る骨董屋や古本屋や、値切り交渉をする帽子を被った老人。
大通りの交差点に広がる円形の広場。
ベンチに座る恋人たちや、周辺の原っぱで遊ぶ子供たち。
彼らをもてなす、動物による移動式の菓子屋やアクセサリー屋。
大通りの先に見えてくる貴族の屋敷と大庭園。正門に佇む守衛たち。
大きな建物の壁に刻み込まれた、王家の紋章や、流れる描法による何らかの紋様。
そして天を射す数々の尖塔が彩る光景は、空に伸びる人的意志を示すように・・・・。
城を照らす雲間の光。城から伸びるその陰影が包む、城下の影の美しさ。
それを城のテラスから臨み、さらにそこに、ティール国王謁見のため
城を訪れたときに見た、城下の大小様々な鐘の音が響き渡る奇跡、
それを再び見れば、僕は本当の町の生き様を知ることになるだろう。
そして僕はそのとき、思うはずだ。
この世界を発つその日まで、一目でも多く世界の有様を見、掴み取ろう、と。
夜の帳の下では決して見えないものを。
――――――――――さらに二日後――――――――――
城下町から馬車で三十分ほど。
林の先の開かれた平野に入口が広がるのは、魔法学校ユネストロ・ユカローテ。
別名、『剣と魔法の研究院』というそうだ。
ここに来たのは、クリフトさんとゾクさんに会うため。
僕は、さっき降り出した弱々しい雨が足元の縞々の縁石に染み込む中、
降車場で見取図を確認し、青々とした緑がそこかしこに満ちる中を進んでゆく。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
女性「どうぞソファに掛けお待ちになってください。
すぐ先生がお越しになると思います」
赤い、レンガのような石で組み上げられた四角形の建物の中。
学長室に残された僕は周りを見渡す。
格調高い本棚が、右手の壁に沿い二本据え付けてあり、
・・・・・・どうやら、日光に直接当たらないよう考慮された配置のようだ。
そして左の壁には一面、世界地図らしき図面が貼り付けてある。
・・・・・・・・トスッ。
その瞬間、何か小さな物音が聞こえた。
何事かと辺りを歩き回ると・・・・・本棚の前の床に、
本が、背表紙を上にして開いたまま、床に落ちている。
赤いハードカバーの所々が剥げ、白地が浮き出た分厚い本。
背表紙と、表紙の上部に辛うじて題名らしき文字があるものの、
それはこれまでの人生で、そしてこの世界でもまったく知らない、奇妙な書体だ。
どうやらさっきの物音は、この本が床に落ちた音らしい。
拾い上げると、中の紙のざらざらとした感触が指先に伝わる。
僕はその本を、傍の机にそっと置き、開かれたページをぼんやりと眺める。
そこは何度も見返された箇所らしく、開き癖が付いているようだ。
・・・・・・・・・・あれ?この部分、なんだか見覚えがあるぞ?
この図は、ええと・・・・。記号が違うけど、たぶん・・・・。
・・・・・・・・・・・ギィ・・・・。
そのとき、後ろの扉が開き、茶色のローブを羽織ったゾクさんが入ってくる。
ゾク「遅れてすまんね。先生も少ししたら来るんだが」
僕は挨拶を返し、本棚から落ちた本のことを伝える。
ゾク「これか。・・・・・・・ありがとう。棚に戻してくれるかい」
僕「わかりました。・・・・・でもこれ、いい本ですよね。
言葉は僕にはわからないですけど、中身は理解しやすそうですし」
ゾク「!?・・・・理解しやすい?」
僕「ええ。絵や式だけで内容がわかる本はいい本って言いますから。
うちの国はそういう本が少なくて、羨ましいです。
それに中身だって・・・・・まさかここで見覚えのあるものに出会えるなんて思
ゾク「ち、ちょっと!・・・・君はこの本に・・・・この書の中身がわかるのかい!?」
僕「ぇ・・・・ええと、恐らくです。
このグラフとか・・・・・あ、これなんて解析式に似てますし。
で、こっちのも・・・・・・・・。
似たものをよく見ていたので、ちょっと頭に浮かんで・・・・・
・・・・・・・・・え?あれ?」
ゾク「・・・・・・・・・・・」
・・・・・・・雨は、上がっていた。
アーシュ
HP 14/14
MP 0/0
<どうぐ>携帯(F900i) E:カトゥナ皮の服 ルテールの靴
執筆&投下お疲れさまでした。
今回も楽しめました^^
アーシュさんが見た本も無名叙事詩なのかもしれませんね。
教科書の類かな・・・?
それもこちら側の世界の化学か物理の・・・?
#01 異邦人、異邦人、聴こえるか?
【0】
Rex
Rex tremendae majestatis,
Qui salvandos salvas gratis,
Salva me, fons pieatis.
×◆×◇×◆×
【1】
見る者が見れば、あの花を桜か、はたまた桃かと思うのだろうか。
花柄こそ短く、樹に沿うように咲いているものの、端に切れ込みの入った五弁はうす桃色をしている。つつ
じを思わせて鮮やかな色彩でふちどられた輪郭は鮮明であるくせに、どこかつかみどころがない。それでいて、
花粉をつけたしべは夕暮れどきの空にも埋もれぬほど華やいでいるのだ。先ごろ降った雨を受けて花弁に生じ
た黒ずみや、透きとおった筋の表情も、なるほど、桜や桃の仲間と言われるに相応である。
そして、いま。花を散らした枝からは、冬に落とした葉がふたたび生まれつつある。残っている花も、散糸
のごとき雨にさえたわんで崩れるだろう。花との別れを惜しむまもなく、黒く感ぜられるほど青い葉を陽にさ
らした樹は実をつける。夏を前にして割れる果肉こそ食用には不適だが、核となる仁そのものと、仁からとれ
る油脂の用途は、街に集う人々の口を湿すにとどまらないはずだ。
かつて海路を渡ってきたという街路樹を眺めつつ、青年は書物で上澄みをさらっただけの知識をもてあそん
でいた。それこそ、街路樹がこれからつける実――アーモンドとおぼしき堅果の深煎りにも似た色をした髪を
垂らしてなおも秀でて見える額が、眉のうごきに伴ってわずかに平らかなものとなる。彫りの深く、頬骨から
あごにかけた曲線が目立つ顔のなかでもいっとう整い、怜悧さすら醸す鼻筋。その末端からすこしばかり間を
離したくちびるさえ、我が身の夢想にほころべば愛嬌であった。局所的な採寸が不完全であればこそ、体つき
に合わせて仕立てられた白い立て襟をまとう青年の顔から、ひととき清冽なまでのとげとげしさが失せる。つ
つましくも気取って微笑んだ自身に対してか、彼がはにかんで机上に視線を落とせば、頬に落ちたまつ毛の影
の刻んだ青みが、肉は薄くとも骨組みの太い男性の体躯に柔和なものさえ匂いたたせた。
まったく。所在なく立っているだけにしては嫌気がさすほどのめぐりの良さに、青年は妙な居心地の悪さを
覚える。意図して行ったものではない打算のもつあざとさが嫌になる。あざとさや打算が嫌になる程度には若
い我が身を嫌悪する。嫌悪の根にある種の優越の気配を感じてしまえば、もうなにも言えなくなってしまう。
言語化のできない窮屈さをまえに、出来ることは嘆息くらいだが、いま肩を落とすことはかなわない。
すぼめた口許から少しく息を抜きつつ伸びをしたそのときに、旅装の男がひとり、街路を折れてきたのだ。
近くの村からやって来た者か、あるいは山師のたぐいか。綿の入って分厚いマントは、染め抜かれた紫紺の
有する重さとあいまって、青年の目にはずいぶんとくたびれて見えた。ごつごつしていても人好きのしそうな
顔の、陽と酒に焼けた頬の赤みが布のもたつきに引っ張られ、濁った印象を受けるのが“もったいない”。
「部屋は空いてるかい?」
初対面であることを忘れさせるほどに陽気な声とともに、岩を切り出したような相好が崩れた。それを目に
した青年は、心の底からそう感じたのだ。初対面の人間にずうずうしいことを考えさせてしまう男の無防備さ
が、いやに構えていた胸を衝くほどにまぶしかった。この男のことがうらやましいとまで思わされた。
けれども、これは。いまの自分が向かっているのは仕事なのだ。
仕事。脅迫じみた一語をもって絶やさない微笑の裏で、めまぐるしく頭を回転させていたがために。
「ええ。いらっしゃいませ、温めます――か」
無意識に連ねてしまった言に対して、青年こそが目を白黒とさせていた。
おかしなことというより、“言ってはならないこと”を言ったとばかりに片手が挙がるも、口をふさげば客
への礼を失すると気付き、中途で動きが止まる。何をやっているんだお前は。問題を解決するまえに胸中で繰
り返される言葉の調子は青年自身を打ち据えるように強く、たくまずして涙袋に力が入りかけた。
そうした緊張こそが、問題を解決していくための能動性を青年から失わせしめると分かっていてもだ。
一瞬の無言を経て高まった不安に、けわしさを隠しきれなくなりそうな口角がかすかに吊り上がる。
「確かに冷えるな。ホット・ワインの一杯もあれば、あとで部屋に運んでおくれ」
追い詰められた者に特有の痙攣的な動作を、笑いと見られる男は真から善良だった。
彼の善良こそが、青年には救いにして、彼我の相違を痛感させるものに他ならなかった。
マグをつかむように片手を持ち上げる男の仕草を見てい青年の裡で、混乱の度合いが深まっていく。
どうしよう。どうしたらいい。どうすれば、どう答えれば、俺は間違っていないのか――。
すでに懊悩ですらない、子どもじみた思考の円環は、肩を叩く堅い手のひらに吹き払われるまで続いた。
「承知いたしました。夕食のほうはいかがなさいます? 今日は良い野菜が入りまして」
「そうさな。酒はともかく、部屋代とは別にとるのかい?」
「商売ですからね。いえ、代金はまとめておりますから、食事が要らないのでしたら安くしますよ」
手の持ち主は、この場所の――宿の主人たる男だった。
青年がちらと見やった指は、恰幅のよい体格の裏を示してひび割れている。
「しかし、こんな匂いの隣で冷たい肉をしがむわけにもいくまい」
主人と打ち解けたというよりも、互いのために上手く誘導されてやったようにも思える男が笑う。
水に泳ぐ魚を思わせるやりとりを聞きながら、動揺を払った青年は彼の言葉に心中で同意した。
簡易な食堂も兼ねる宿の書きつけによれば、今日の献立は黒パンに、早成りの葉菜とチーズのサラダ。そし
て、バターで炒めた香味野菜を焦がさずに仕上げる、鶏の《白い煮込み》だ。胡椒ではなく香草や丁子、八角
を浸けた酒などで引き締めた野菜の匂いが、胸で浅く呼吸する青年の鼻孔をくすぐった。野菜のもつ甘味のせ
いか、普通に食べればかたく、苦味を覚えるパンとて、あの煮込みにひたして食べれば妙にひなびて郷愁を誘
う……いまは裏方にこもって調理を行っている双子の片割れは、今日も良い腕をしているようだ。
主人とひとしきり笑いあった男はというと、黒塗りの木板を見て「ほう」と息を吐いている。
ろう石で書かれた献立の、最後の一節に目を向けているのだと、動転していた青年にもよく分かった。
「ここは、甘いものも出すのかい」
「こいつが教会づきで菓子を作ってましてね。天火もありますから、いっそ好きにやらせてみようと」
主人の手が頭にうつった。いささか乱暴に髪をかきまわされる。
「他のお客様も夕食なんだ。お前ならやれるな」
疑問の欠片もないささやきに対して、青年は二度三度とうなずく。
そうして、気を入れ替えるように底の厚い靴のかかとを揃え、客人へ一礼した。
お手並みを拝見――とでも言いたげな男に対して、青年は胸に当てた左手でもってさり気なく動悸を抑える。
それでも、礼から転じて裏方へときびすをかえせば、このひととき、体が軽くなるような心地がした。
菓子。白ワインとクリームを使った煮込みと、赤いワインに合う菓子。そんな菓子を作ること。
右も左もわからなかった者に、主人が好きに、自由にやらせてくれていること。
緊張の糸が切れ、呼吸が常態に戻っても、青年の胸はべつの痛みを訴えた。
×◆×◇×◆×
【2】
宿の調理場では、娘がひとり、寸胴を前に玉杓子を構えていた。
きつくひっつめにした黒い髪と相まって、煮込みの様子を見るさまはどこか勇ましい。
「ジジ、片手鍋とボウルをふたつずつ。泡立て器と木べらも借りるよ」
「かまわないけど、フィズ、発音が違う。それじゃ兄さんだわ」
熱伝導のよい銅の鍋を受け取りながら、フィズと呼ばれた青年は眉をひそめた。母音のはっきりとした発音
に原因があるか、生活に慣れてきた今となっても、指摘されなかった日をとっさには思い出せない。
「――妹のほうのジジ」
考えあぐねた末の答えを聞いて、ジジはのどの奥で笑った。そばかすの散ったほほが、かまどの熱を受けて
上気している。健康的であり娘らしさでもある薔薇色と、それを浮かべた皮膚の白さは、堅果にも似て黄色み
を帯びたフィズの血色とは別種のものだった。そばかすは仕方ないとしても、そこには日焼けのあとも簡単に
残るまい。乾いた空気に乗って近づく夏の気配を前にしても、なんとはなしに信じられる。
「服がしわになってるけど、また何か失敗したのかしら」
昼下がりに焼いて、冷ましておいたビスキュイ――
卵黄と卵白を別に泡立て、アーモンドの風味を極力引き出せるようにした生地が、ココットの中で揺れた。
「いや……なんで、分かったの?」
このまま握りつぶさなかったことを幸いに思う反面、恥ずかしさに指先がふるえる。
先ほどの、街路樹を眺めてのひとり芝居やら、応対における失態を見られたわけではない。それが分かって
いるからこそ、青年にはこの娘の慧眼がなんともいえず恐ろしかった。
しかして恐ろしいと思われた娘の側は、青年が動揺する理由をかけらも理解できないらしい。
「だって、あなたが分かりやすいんだもの。黙ってれば見られる顔だし、けっこう器用なくせに、いざ失敗す
るとなかなか立ち直れなくなる。そういうのって傍から見ててもあからさまで、ちょっと面白いから」
つまりは“フィズ自身が隙だらけであるから読みやすいのだ”と言いつつ、寸胴を火から下ろす。
毒舌をとばす間でも、つばは飛ばさないように。仕事をこなして料理の味を損なうことがないように。
ジジは体の横に配置した皿へ鶏肉と根菜を盛り付け、しずかにソースを流していく。サラダのドレッシング
となるワインビネガーとオリーブ油、すりおろした玉ねぎに香草を合わせた液体は、小さな器に添えていた。
「でも、そういうのは分かってても言わないでくれよ」
「あら。先に訊いたのはそっちでしょう? それに、ほら」
瞬間。おおげさに肩を下げて嘆息したフィズの視界をジジの手が独占する。
父のそれと同じく、あかぎれにひび割れた人差し指がつついたのは、フィズの眉間だった。
「しわが伸びた」
「……ありがとうよ」
遠まわしだが妙に素直なジジの気遣いかたは、青年にとっては親しい。
もういちど胸もとの布をつかんでひと呼吸おき、改めて、小麦粉や牛乳、卵といった材料を揃えていく。
ふたつの片手鍋の中には、それぞれ砂糖と水、牛乳を注ぎ入れ、まずは牛乳の方をとろ火にかける。昨夜の
うちに水を含ませた刷毛で掃除し、よく乾かしておいた木のボウルには卵黄と砂糖が、銅のそれには卵白を入
れた。冷えていた方が泡立ちやすくなる後者には、水を含ませて絞った布巾を底に噛ませておく。
計量と手順の確認が終わるがはやいか、フィズは泡立て器で卵黄を手早く、丁寧にすり混ぜていった。手が
早くなければ外気に触れた卵もへたってしまうが、だからといって荒い仕事をしてしまえば、その行いは口当
たりか外見(そとみ)か、どこかに必ずあらわれてしまうものだからだ。一考すれば矛盾しているとしか思え
ないふたつの要素を前にすればこそ、対立する概念の穴を全力でつき、ベストをつくそうという気にもなる。
作業の合間に、木べらで混ぜていた牛乳が沸騰するかどうかというところで火から下ろした。ジジが手ずか
ら縫い上げた鍋敷きに移す動作に続けて、ボウルには小麦粉を散らし入れ、だまも粘りも出ないように混ぜる。
白っぽくなった卵黄へ糖蜜から作った酒を垂らし、温かい牛乳を少しずつ注いで、注ぐたびに溶き伸ばす。
……金がなくとも手間をかければ、料理は旨いものが作れる。ジジや婦人たちのように、ありふれた材料を
風土になじんだやり方で調理して、人の口をよろこばせるというのも素晴らしいことだと思う。けれど自分は、
料理ではだめなのだ。料理では、自分はこんなふうに作ろうとは思えない。牛乳の入っていた鍋と泡立て器を
手早く洗う。手間をかけていいとなれば、それこそクリームがだれるまで何も、何も出来ないだろうから。馬
毛の漉し器にとおした生地を鍋に流して煮る。最後は木べらから泡立て器に持ち替え、一気に煮上げてやる。
糖蜜から作ったラムが匂いたち、砂糖の甘さと卵黄のコクを引き立てる《クレーム・パティシエール》――
カスタードをボウルに移したフィズは、きつく絞った布巾をクリームにかけて、口の端から息を抜いた。
「……あれ? もう行ったのか?」
濃密な闘いの数瞬、彼は皿を携えたジジが給仕に向かったことにすら気付けなかった。
いつものこととはいえ、あの少女は、先刻、がむしゃらに動いていた自分をどう見たのか。
そんなことを、いまのフィズは考えない。考えることすらもったいない。
すでに、もう一方の片手鍋――メレンゲに使う砂糖と水を入れたものを火にかけているのだ。銅のボウルに
入れていた卵白を泡立てながら木べらを使って、焦がさないように鍋の底をさらう。温度計のような高級品は
ここにはないが、糸をひくようになったのを見計らって、ボウルの端からシロップを流し入れた。そのまま、
人肌に近い温度になるまで手を動かす。ボウルの縁に沿うようにして丸く、大きく。しっかりと熱を入れたら、
傾けたボウルへ叩きつけるように激しく混ぜる。卵白につやが生まれ、泡立て器を持ち上げればきめ細かな泡
で角が立てば完璧だ。まだ熱のとれていないクレーム・パティシエールにメレンゲを加えて、木べらでもって
切るように混ぜあわせてやる。それこそがフィズの頭のなかにあった《クレーム・シブースト》――
軽くやわらかなクリームを受け止めるものは、ココット型に敷いてあるビスキュイだ。
先日、堅果から粉に砕いてもらったために、生地に混ぜ込んだアーモンドの香りは失われていない。
生地で作った土手のなかばまでクリームを流し入れ、いまが最も美味しい時期となるいちごを丸ごと据える。
そうして、ココットの天辺までクリームを詰めた。表面に焼いたパレットナイフをあててもよかったが、同じ
いちごをワインと砂糖で煮詰めたナパージュを刷毛で塗りつけることを選んだ。
黒ぶどうから作られた赤ワインの強さと合うものは、赤い果実がもつ酸味の他にないと、フィズは信じる。
直径にして6センチほどの器を満たすものに、青年はいまの彼がもてる思考や情感、技術のすべてを賭けた。
……すべてを賭けても、報われるかどうかは分からないというのに。
そんな考えが浮かんだのは、夕食を終えてくつろぐ客に、この小品を出したときである。
「すげえじゃねえか、坊主」
呆れるほどになにも考えていなかった青年は、自分を呼んだ男の賛辞にどう応じるべきか分からなかった。
卵と、砂糖と、水と、果物と。どこにでもある材料を、どうやればここまで旨くできるのか。
黙っていれば、菓子を作っている最中に思い浮かべていたことが、そのままフィズ自身に返ってくる。
「記録どおりに作れば、誰にでも出来るものですよ」
「それでもよ。若いのにこれだけ出来りゃ、職人として十分やっていけるだろうさ」
木のマグに注がれたホット・ワインを脇に、小さな木さじを指先でつまむ彼は、他者の微笑を誘う見た目よ
り器用にクリームとビスキュイをすくう。塩か、あるいは木の枝で磨いているのか。存外に白く、健康そうに
並んだ歯と、いちごの赤みが好対照をなしている。どんなに壮麗な見目の菓子より、その菓子を生き生きと口
にできる人間のほうがどれだけ美しいものか――本人すら意図しない居ずまいで表されてしまった。
どうして普通に生きていて、こんなにも輝けるのか。どこにでもいる人間が、どう生きていればこんなにも
良い人になれるのか。質問に質問で返せない。主人のような技巧も、割り切るだけの勢いも、青年にはない。
「それに、私はもう、二十二になるんですから」
彼に出来ることといえば、ただ、くちびるに微笑を浮かべること。
微笑みながら、何度目になるか分からない余人の勘違いを糺してやることくらいであった。
×◆×◇×◆×
【3】
この街の夜は早い。
街路の可視性を高めるため、そして、魔物よけのために、各所にろうそくが立てられてはいる。それでも、
強い光に慣れていた青年にとっても住民にとっても、夜は作業をするによい環境であるとは言えなかった。
だからこそ、深夜までだらだらと仕事をするような者は真面目、あるいは不器用だと評されこそすれ、褒め
られることはけっしてない。学者のような人種は別だが、あれでは早晩目を悪くしてしまう。菓子を作るにし
ても、暗闇のなかでぼやを出したり、皿を割るようなドジをやらかすわけにはいかない。
ゆえに、人々にならってひととおりの仕事を切り上げたフィズは、暖炉の残り湯を使って体を拭いていた。
「それで、言われたのかい? 男でも、その年なら所帯を持つべきだ、かぁ」
彼の隣では、同じように汗を落としている少年がしなやかな筋肉のついた腕を伸ばした。
暖炉の持ち主の、息子。「兄のほうのジジ」の友達は、友達のところの養子にも変わらず接してくれる。
「でも、俺もそう思うかな。教会の前に住んでるひとたちだって、十六で一緒になったっていうからさ」
赤ん坊が出来たときには、ふたりともほんとうに幸せそうだった。少年の言葉を受けて、フィズが思い返す
のは教会のミサで顔を合わせる夫婦と、彼らの娘の姿だ。おしゃまで利発な印象を抱いたが、蜜蝋の副産物で
ある蜂蜜で作った菓子をほおばりすぎて、はちきれそうになった頬のほうが、彼の記憶には鮮やかだ。
結婚願望はとくにないのだが――傍から見る分には、ああいう子なら育てたいと思えなくもない。
「でもきみはお菓子に夢中で、赤い顔して黙ってたって?」
「いいさ、アルス。笑いたかったら遠慮せずに笑ってくれ」
年かさの男の声を受けた少年は、ごめんのひと言も言わずに裸の腹を抱えた。天を衝くかと思わせるほどに
逆立った黒髪が薄闇のなかでもふるえる様子が見えるものの、これ以上男の裸を見たいとも思わない。
ただ、相手が遠慮せずに笑ってくれたからこそ、フィズの胸の内はすっきりとしていた。
いくら格好をつけて、外見を取り繕っても、これでは残念としか言いようがないのも事実だ。
ひとしきり続いたアルスの笑いがおさまるにつれ、どうして、彼はこんなふうにいられるのかとも思う。
「なんつーか、さ。とてもじゃないが、俺には世界を守ったりなんか出来ないな」
異邦人を受け入れて、別け隔てなく付き合えるほどの博愛主義者。あるいは、すべてのものを平等に愛する
しかない、すなわち誰かを愛するということも出来ない冷血漢。勇者オルテガの息子と呼ばれ、勇者としての
未来を期待される少年にいずれがあてはまるのかは、彼と付き合いはじめて間もない青年に量れるわけもない。
夕方の男といい、容易には量りきれないからこそ、遠すぎるからこそ羨望を覚えるのかもしれなかった。
アルスに言ったとおり、いざ自分が勇者になったとしても、世界を守るほどの意地が出せないことも理解し
ている。父の死を、母や祖父の期待を背負えている時点で、この少年はすでにして勇者だとも思える。
《地球のへそ》があるくせに、地球のどこにも存在しない、アリアハンという大陸の城下街。近くて遠い冬
の街で倒れてしまった自分に、ただひとり躊躇なく手を伸ばせた彼は、きっと根っから勇者なのだ。
その手で剣を振るうだけではなく、他人を掬い上げて、掬ったものを抱えるだけの力を有しているのだ。
「……そうだな。とてもじゃないけど、俺にはお菓子なんか作ったり出来ないよ」
来年には成人するのだという彼の笑みには、およそ十五の少年と思えないものがにじんでいた。
すぐさま解け消えた感情の発露。そこにこもったのは諧謔か自嘲か、それとも寂寥だろうか。故郷で触れな
かったということはないというのに、どうにも、他人の思っていることが読みきれない。
その一因は、外国では口を隠さずはっきりと笑うことが良いと言われるような文化の違い、なのだろうか?
よくあるひと言で片付けようにも、嫌悪の根は深かった。自分を助けたときにみせたアルスの真剣な目や、
宿屋の主人や家族の厚意を踏みにじり、それこそ、彼のおこないを《よくあるもの》におとしめていく――
彼らそのものを無遠慮に踏みにじってしまうような感覚を覚えてしまうのだ。
洗いざらしの長袖シャツを頭からかぶり、貫頭衣に似た麻の半袖を重ねる動作で、青年は思考の澱を払う。
そこにアルスもつづいて、ようやく、男ふたりの身づくろいが終わった。
「生き返ったよ」頭だけは洗えなかったが、それでもフィズの声は明るい。「夏になれば水浴びかな」
「ああ。川から水を引く必要もあまりないし、おおっぴらに水を使えるのは暑くなってからさ」
そろそろ草木染めが始まる頃だ。言いながら帯を締めたアルスは、机上に載っているものに目をやった。
「これ、食べてもいいかい」
アリアハンの宿屋で使っている、樫のプレートである。艶出しのなされている台にふたつ並んだ陶製のココ
ットは、今晩フィズが作ったデザート――ビスキュイを土台に置いた、いちごのシブーストだ。
「もちろん。妹のほうのジジも、兄さんをよろしくってさ」
「マメだなあ、あの子も。そんなの、いちいち気にしなくていいのにな」
暖炉の残り火のもとに、器の片方を手にした少年がやってきた。
木さじを繰る前にまぶたを細めて、ナパージュに隠れたいちごの香りを鼻先でたしかめる。
艶出しに使った液体の糖度は、およそ57パーセント。あるいはそれ以上。高価すぎるゼラチンの力を借りず、
砂糖と果物のペクチンだけで表面を固めたために、砂糖の占める割合はジュレほどに大きくなっていた。
「すごいね。ちゃんといちごの匂いがする」
だからこそ、フィズには少年の評価が嬉しい。材料がなんであろうと、作る側がきちんと仕事をしていれば、
先に素材の味が出るものだからだ。クリームに糖蜜の酒を使っていようと、それは変わらない。まだ熱の残っ
ていたクリームがいちごの香りを開かせたあとに、素材のなかでつなぎを務める砂糖の甘さがやってくる。果
物や堅果がビスキュイの中で活きる。そうなるように、青年は頭の中で完成図を組んでいた。
単純に甘さを感じさせたいのなら、砂糖だけ舐めさせればいい。果物の良さなど、そのままかじれば十分に
伝わる。どうして作るのか、どうして熱を入れるのか。加工に意味をもたせることこそが、作る側の義務だ。
そこをいくと、生地にはまずアーモンドが入り、甘味は蜂蜜のそれを主体としていた土地に暮らす者には、
これでもまだ、前に出る甘さが足りないのではないかと思ったものだが――
この少年は優しい。勇気がある以前に、ほんとうに優しい。作り手の真意を汲んだ感想を言えるカンの良さ
は、「妹のほうのジジ」がもつそれとはまた違った怖さがある。
「そう言ってもらえると、少しは自信が湧いてくるんだがね……」
けれど、アルスからプレートにひとつ残った菓子に視線を外したフィズは、望外の喜びを振り捨てた。
甘い。アルスは優しいが、甘いのだ。今まで、彼にきつい評価を戴いたことは一度たりとてない。
「仕方がないよ。アルメルは――フィズのだけじゃなくて、甘いのが苦手だから」
すべてをひとりで抱え込んでしまう勇者候補は、二階に続く階段を振り見る。調理器具の手入れを終えたと
きには灯っていたはずの明かりは、当然ながら見えない。門の前にたいまつがあっても、目が慣れていても、
青年にはまだ足りない。見たいものは、そんなものではないのだから。
「あの子も旅に出るんだろ。勉強するにも、甘いものは悪くないんだけどな」
「本当にね」
アルスが立ち上がる。戸棚から持ち出していたさじを白砂でかるく擦る音が、フィズの耳にも入った。
器をそのままに中座するわけにもいかずに座っていると、板を張りの床から背筋に寒気がはいあがってくる。
「……湯冷めか。やっぱりまだ、夜は寒いよ」
水気混じりのくしゃみについて何か言われるまでに、青年は手の甲で鼻の下を擦った。
×◆×◇×◆×
【4】
宿屋の主人とともに使っている一室で、フィズは天井を見上げていた。
教会で修練を重ねている「兄のほうのジジ」。少し前に宿を出た少年の代わりに、彼はいま、ここにいる。
「最後の一個、なんだよなぁ……」
夜闇に慣れた視界のなかで、しわくちゃの袋が星明かりを照り返した。ビニールの、ちゃちなつくりをした
包装の中に入っているのは《フレーズ・タガダ》と呼ばれる菓子だ。人工着色料のそれらしい、どぎついピン
ク色――いちどで覚えられる色味のとおりに、いちご味をしたマシュマログミ。乾燥剤も地面に落としてしま
った今となっては、夏になれば溶けてしまうだろう。頼りない……けれども大事な、駄菓子である。
主人のいびきの影で、何度か大きく呼気を押し出していたフィズは、目をつぶって菓子をつまんだ。
ふるえる五指から霧のように噴き出していた汗が、柔らかい生地に吸い込まれるのが分かる。
それでも。コンフィズリー(砂糖菓子)と呼ばれるとおり、フレーズ・タガダは甘かった。
甘くて、甘くて、香料のそれと分かるいちごが鮮やかに鼻へと抜けていく。
その味で思い出すのは、故郷のことではなく――
教会のミサ。正確には、天火や広い調理台を備えた教会の一室だった。
アーモンドの花が咲く前だったか。意識を取り戻したあと、主人からミサの概要を聞いたそのときに、青年
は「そこしかない」と真から感じたものだ。だから、果実酒の造成が終わったとき、余った卵黄でなにか作ろ
うとしていた婦人たちを押しのけて調理場に向かわせてもらった。《そうでありますように》。彼の知る教会
と同一であった結びの句を知っていたことで、神父様が女性たちの抗議を止めに入ってくれた。
だが、その時に作った菓子は「最悪」の一語につきた。
調理台の上に載っている材料から選んだのは、フレジエである。
《ジェノワーズ・オ・ダマンド》――全卵を泡立て、アーモンドパウダーを混ぜて作るケーキ生地に旬であ
ったいちごとクリームを挟んだ「いちごのショートケーキ」に近いものを選んで、作った。
失敗だと思った要因も含めて、その時のことはよく覚えている。
まず、クリームの選択がいけなかった。バターと砂糖、卵をすり混ぜ泡立てて作る《クレーム・オ・ブール》。
バタークリームとカスタードを合わせて使うのが、フレジエの基本である。バタークリームは概して重いと思
われがちだが、カスタードと合わせた《クレーム・ムースリーヌ》はなめらかで、口当たりがよい。
だのに、クリームの特性を活かせなかった。活かす前に、使おうとも思えなかったのだ。
温めた牛乳を突き棒で撹拌しただけの、生白い色をしたバター。
そして、故郷では考えられないほどに香り高い果物。
見た目からして旨いと思えない素材と、宝物のようにも思えた素材を並べて見た自分は、だから、間違えた。
果実酒の澱を取り去るために使った卵白と、卵黄の数が合わないことを気にも留めることもなく、フィズ自身
だけが惚れ込んだいちごを活かすためだけに、《クレーム・シブースト》を選んだのだ。
それも、クレーム・パティシエールに泡立てた生クリームではなく、不足であるとされていた卵白から作る
メレンゲを混ぜ込んだものを、これしかないと決めつけて、ジェノワーズに挟んでみせた――。
結局、あの時は作業における手の早さと、アーモンドパウダーの混ざって重い生地の、ともすればぼそぼそ
としてしまう食感を埋めるクリームの出来で、直截な非難だけは避けられた。
しかして、ミサとは名ばかりの集会が終わって言われた言葉は、フィズの胸になおも深々と刺さっている。
(“自分が楽しいだけで作ってたでしょ”、だって――)
少女の言葉が正鵠を射ていたからこそ、なにも反論出来なかった。
余った卵黄をどうするかと考えて、結局は婦人の知恵を頼った自分も情けなかった。
だからこそ、今日は同じクリームを使って、いちごを巧く扱おうとした。そう考えて、素材を活かすことが
できた。ワインを望んだ客の口にも合うような、香りの工夫も凝らすことができた。
それは、嬉しい。ただ生地をいじることが楽しい自分でも、それは、とても嬉しく思われることだ。
「だけど、最初に失敗したら……ホントに失敗、なんだよなぁ」
改めてフィズが言及するまでもなく、いちど失った信頼を取り戻すことは難しい。
そして、この世界では異邦人にすぎない彼に出来ることは、あまりに少ない。
だからこそ、ルールがあることにも気付けないときに失した点が、非常に大きく思われる。
アルメル。
勇者アルスの、双子の妹。
彼女の、とげしかなかった言葉をもう一度思い返して、フィズはまぶたを閉じた。
靴こそ慣れたものだとはいえ、ほとんど一日立ち続けた足は鉛のようなのだ。
それに――次のミサの日までに――なにか――彼女を喜ばせるようなものを――
考えなくてはならない。
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以上、初めて投下させていただきました。
ふと再プレイしたら、やっぱりいいなあ……と思ったDQ3の短編連作です。
製菓の部分は、本気で志している方が見れば穴を潰しきれていない印象を受けると思われますが――
雰囲気づくりに重きを置くことで、なんとか見られるレベルになっていれば幸いです。
保守だけでごめんよ
……予想はついてたんで、べつに謝ることはないかと。
全五話の初手で突き放すのを選んだのに、文章力で引き込めなかった自分が悪い。
書きたい主題がなきゃ書きませんが、望まれないものでスレ容量を圧迫するのも
イヤなんで、素直に消えときます。レスやまとめなどの収録も不要です。
ごめんね、お菓子はすごくおいしそうで、食べたくなっちゃうし、宿屋の客の男も(男だけど)とっても魅力的でした。
あえて言うと、描写が緻密なのはいいのだけど、ちょっと地の文がもの長くて、イメージがすんなり頭に入ってこなかった。
3/9以降の調理の描写はスピード感があって読みやすかったけど1/9〜2/9あたりがね。
俺の想像力や活字への抵抗力の不足が原因なので作者さんの責ではないんだけど、なんて感想かいていいかわからなかった。
誰も無反応だったことで作者さんの気力を削いでしまったのだったらすいません・・・。
ずっと書き込みたかったが携帯もプロバイダも規制で書き込めませんでした.
自分は小説の体裁について偉そうなこといえる立場にないですが、結構好きな話でしたよ.
では
>>393 感想もらえてない作品なんて他にもある。
最近投下も減って過疎ってるし、誰が悪いとかじゃないけど
それくらいで拗ねたような捨て台詞残していくのって正直どうかと思うわ。
俺は、オリジナル要素が強すぎてあんまり読めなかった。
もうちょっとDQらしさを大切にしてほしい。
・・・保守いたしますの
保守ですの・・・
保守なの〜
保守
朝起きたら、俺は見知らぬ店の店員をしていた。
よくあるベッドで目を覚ますとかじゃなくて、起きたら店の番をしていた。
しかも、銃刀法違反になりそうなものばかり扱っている店だ。
刃渡り80cmくらいあるんじゃないかというくらい長い剣や、金属でできたハンマーまである。
いくらなんでも日本で堂々とこんな危ないものを売っていたら、お巡りさんのお世話になってしまう。
警察が怖いので客がいない今のうちに逃げようとしたが、案の定客が来た。
こんな店に来るのだから、あっち方面の方々しかいらっしゃらないだろう。
俺はとりあえずいらっしゃいませと言い、こいつをやり過ごしてから逃げることにした。
しかしこの客、なんとも悪趣味だ。ピンクの鎧を着ている。こんな893初めて見たぞ・・・
ピンク鎧は棚に並べられた武器をじっと見ている。何もしゃべらない。
気まずすぎる。下手に「この剣はどうですか?特攻するのに最適ですぜ!」などと声をかけようものなら隠し持ってるチャカで消されかねないから何も言えない。
5分くらいこの沈黙が続いたあと、ピンク鎧は「これをくれ」と言って鎖がついた鎌を持ってきた。
ああ・・・これで殺してまわるんだ・・・と思ったが、今はそんなときじゃない。
値段を知らなくてあせったが、ピンク鎧が鎌と一緒に金を出してきたので金を受け取ってその場はなんとかなった。
そして俺はピンク鎧が出て行ったのを確認すると、ダッシュで逃げだした。
店の奥から何か聞こえたような気がしたが、もちろん無視した。
しかし、店から出て唖然とした。
そこには大きな城があり、槍をもった門番らしき人もいる。城下町には金髪の人や、鎧を着てる人がたくさんいた。
ここは日本じゃなかったのか・・・
言葉が通じなかったらと思ったが勇気を出してその辺の人に話しかけたら、言葉が通じた。よかった。
その人によると、ここはバトランドというところらしい。ヨーロッパか?だけどヨーロッパで日本語が通じるわけがないか・・・。
それ以前にこんな街中でそこらじゅうに武器を持った奴がいるなんて、こんなところには怖くていられないので、町から出ることにした。
一歩外へ出ると、一面緑だった。
まじかよ・・・なんかショックだったので戻ろうとしたら、目の前に巨大なミミズがいた。
アナコンダくらいのでかさで、余裕からか笑ってやがる。俺はミミズが大嫌いなんだ。
逃げようとしたが、腰が抜けてしまって動けない。ああ、襲ってきた・・・
もうだめだと思ったその時、ミミズが真っ二つになった。
そして苦しそうにうねっていたがやがて動かなくなった。
見たことあるピンクの鎧が鎌からミミズの体液を拭いながら大丈夫かと聞いてきたが、あまりのショックで何も言えなかった。
なんかピンク鎧が丸腰で出るとはどういうことだとか怒っていたような気がするが、覚えていない。
気付いたころには、元の店に帰ってきていた。ピンクもいなくなっていた。
今では立派なバトランドの武器屋です。目標はトルネコです。帰りたいです。
皆が戻ってきてくれるよう保守
頑張れ新米武器屋
いやトルネコを目標にするのなら既に新米レベルではないな。
トルネコを目標にする意味が、その商才か財産か、はたまた腹のサイズかリア充度のどれであるかは問題だが。
山海堂の店員乙(ぉぃ
がんばれ〜
>>401>>402 初心に帰れて、しかも面白かったです
単発かもしれませんが、ありがとうございました!
タツミ「……――というわけで、2人はその薄暗い森をさまようことになったんだ」
アルス「そ、それで……?」
タツミ「しばらく行くと急に生暖かい風が吹いてきて、2人は背後に異様な気配を感じた。
振り向くとそこには、ゆらゆらした黒い影が今にも掴みかかろうと手を伸ばしていて……!」
アルス「うわー! それ絶対あやしい影だろ!? あやしい影なんだな!?
しかも中身がトロル級の反則な強敵とかなんだろ!? ヤバイって、マジ怖ぇよ!」
タツミ「あ、いや、それは人間の幽霊だったんだけどね」
アルス「なんだ。ならそいつに道を聞けば森を抜けられそうだな。良かった良かった」
タツミ「でもあの、その人はあんまりいい幽霊じゃなくて、人魂とかも飛んでて……」
アルス「ああ! 炎タイプの亡霊か。あいつら『なにも聞こえぬ』とか『メラメラ』とか、まともに話せないのが多いからなぁ」
タツミ「えーと」
アルス「わかった。ようやく道が聞けるかと安心したのに、そいつがロクに話もできない亡霊で、
結局宝箱ひとつ取れずに入り口まで戻っちゃいましたって、そういう話なんだろ」
タツミ「……」
アルス「おもしろかったけど、オチがちょっと弱いな」
タツミ「うん。ごめんね」
アルス「なんでそんなつまんなそうな顔してんだよ。
ところで、さっきからなんかカメラ回ってないか?」
タツミ「ええ? うわ、もう始まってるじゃないか! 早く言ってよ!」
アルス「ちーっす」
タツミ「どうもー。みなさんお久しぶりです。総集編の間は撮影が無いんでつい雑談に興じてしまいました、すみません」
アルス「それではさっそくサンクスコール行きまーす」
タツミ「
>>317様、はい、まさに正月特番のつもりで組んだ企画でした。
僕も振り返ってみて懐かしく思いましたよー」
アルス「でも実際はゲーム内時間で1ヶ月も経ってないんだよな。俺なんかまだ現実生活3日目だし」
タツミ「大丈夫、ドラクエ関連の大ヒット作『ダ○の大冒険』だって、
初巻〜最終巻まで、作中じゃわずか3ヶ月ちょっとの話だし」
アルス「マジで!!??」
タツミ「
>>318様、作者本人もたまに流れ忘れて読み直してたりします」
アルス「ダメじゃん」
アルス・タツミ『それでは総集編(後編)【Stage.11〜20】スタートです!』
タツミ「ここまでのお話しすべてネタバレしてますので、まだ読んでいない方はご注意ください」
【Stage.20.5 総集編(後編)】
[Stage.11〜20]
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>>308-316 ■登場人物・用語解説は下記をご参照ください。
[PC版ガイド]
ttp://dqinn.roiex.net/user-dwarf/novels/IFDQR/PC-GUIDE/PC-guide00.shtml [MB版ガイド]
ttp://dqinn.roiex.net/user-dwarf/novels/IFDQR/MOBILE-GUIDE/IFDQ_Rg00.html
■Stage.11 勇者試験(前編)
【ゲームサイド】タツミ視点
勇者試験の内容は、ランシールの神殿奥にある洞窟を単独で探索し、最深部に収められ
ているブルーオーブを取ってくるというものだった。試験当日、受付に向かったタツミ
たちは一級討伐士「レイ・サイモン」と出会う。「東の二代目」の異名を持つレイもま
た、資格更新試験を受けるためにランシールを訪れていた。ランシールの勇者試験は一
日に1名までしか受けることが出来ず、レイもまた期限が今日までだという。
常に世界中を飛び回っている一級討伐士同士で試験がバッティングするという前代未聞
のできごとに神殿側も混乱し、世界退魔機構の本部に判断を仰いだ。ところが本部が出
した結論は、二人の一級討伐士に同時に試験を受けさせ、より優秀な成績を出した方を
合格にするというものだった。貴重な人材である一級討伐士をまるで潰し合わせるかの
ような方針に怒りを覚えるエリスたちだったが、タツミは洞窟内では監視がつかないこ
とを逆手に取り、互いに協力し合おうとレイに提案する。レイはタツミの案に乗り、二
人で洞窟探索に向かうことになった。
■Stage.12 リアルバトル
【リアルサイド】アルス視点
勇者試験のことをタツミに知らせるのをすっかり忘れていたアルス。だが自分と同等の
実力を持つレイがタツミに同行することがわかり、ひとまず安心した彼はその後の経緯
もモニターごしに大人しく見守ることにした。
そこにタツミの伯母が帰宅する。夜の仕事をしている彼女とは今までほとんど顔を合わ
せなかったのだが、その日は勤め先でボヤ騒ぎがあって休みになったという。アルスは
ひとり気まずく思いながらも、なんとかタツミ役を演じる。
と、玄関のチャイムが鳴り、玄関先に謎のダンボール箱が置き去りにされていた。中に
は猫の死骸が詰められており、それを見て恐慌状態に陥った伯母は、アルス相手に「出
て行け!」「疫病神!」などと罵声を浴びせる。あまりの剣幕にアルスが途方に暮れて
いると、そこへショウが訪ねてきた。彼がうまく伯母の気持ちを静めてくれたお陰で、
ひとまずその場は収まった。
「夢」で把握していたタツミの生活と「現実」とがあまりに違っており、アルスは悩ん
だ末ショウにタツミの過去を調べてほしいと頼んだ。
■Stage.13 勇者試験(後編)
【ゲームサイド】タツミ視点
レイと二人で勇者試験に臨んだタツミは、地下二階で突然大量の魔物に襲われる。桁違
いの強さを持つレイのお陰で難を切り抜けることが出来たが、その過程でレイがタツミの
血液恐怖症をロダムから聞いて知っていたことが判明する。気遣ってくれるレイにタツミ
は、自分の記憶力の良さが仇となり精神が不安定になりやすいことと、その切っ掛けが血
を見ることだという話をする。
洞窟探索を続ける途中、タツミはレイが気付かないうちにスカイドラゴンにさらわれて
しまう。そして連れて行かれた先で、石の人面越しに魔王バラモスと対面する。バラモス
はタツミに、このDQ3の世界そのものが「ゲーム」であるがゆえに壮大な無限ループになっ
ていること、その事実にアルスが気付き悩んでいたことを告げた。
バラモスとの対面後、タツミはレイに勇者試験の合格を譲ってしまう。この世界そのも
のが無限ループである、という根本的な大問題を前に、勇者試験の合否などどうでも良く
なっていたのだ。
■Stage.14 Cursing My Dear
【リアルサイド】アルス視点
4度――タツミが暇潰しにDQ3をプレイした回数の分だけ、アルスは魔王討伐の旅を繰
り返していた。アルスはタツミに、なぜか自分だけが前回の冒険の記憶を引き継いでおり、
父の死や地下世界の取り残されるエンディングなど、どんなにあがいても変更できないス
トーリーをなんども体験しなければならないことに気が狂いそうになっていたと告げる。
携帯ごしにじっと耳を傾けていたタツミは、「だからといってプレイヤーを巻き込むの
は単なる八つ当たりだ」とアルスを冷たく突き放すのだった。
■Stage.15 喧嘩と恋とエトセトラ(前編)
【ゲームサイド】タツミ視点
アルスとの対話を打ち切ったタツミは、彼の話から、アルスが自分の本当の現実をまる
でわかっていなかったのだという事実を知った。アルスがうらやましがっている「三津原
辰巳」という少年の生活は、実はタツミが理想として描いていたただの妄想であって、本
来の自分の姿とはかけ離れたものだった。
しかしもともと自分の暗い過去をアルスに知られたくなかったタツミは、その方が都合
がいいと割り切る。そして一人でアリアハン王の元に向かうことにした。勇者試験に落ち
た以上、約束通り厳刑を受けなければならない。それもタツミの計算の内であり、彼を
「アルスに成り代わろうとしている不貞の輩」と思いこんでいるアリアハン王のうっとう
しい干渉を打ち切るため、これで決着をつけるつもりでいたのだ。
だがいよいよ刑が執行される寸前で、刑場に思いがけない人物が飛び込んできた。
■Stage.16 喧嘩と恋とエトセトラ(後編)
【ゲームサイド】タツミ視点
刑場に駆けつけたのはエリスたち仲間3人と、「東の二代目」レイだった。驚いている
アリアハン王らに、レイは堂々とタツミの無実を訴える。自分が代わりに刑を受けてもい
いとまで言い切るレイにタツミも慌てるが、レイはタツミに「惚れているからだ」と突然
の告白をし、その場は騒然となった。そこでレイが実は女性であったことが判明したり、
そのままタツミのパーティに加わることになったりと騒ぎは続き、うやむやのうちに刑の
執行は取りやめになってしまった。
■Stage.17 うちの勇者様
【ゲームサイド】サミエル、エリス、ロダム、それぞれの視点
アリアハン王は恩赦と引き替えにすべて説明しろとタツミに命令する。タツミは城の一
室を借りると、皆の前で自分は別の世界に住む人間でアルスと入れ替わりでこちらに来た
ということや、ルビスの使命を受けたというのも魔王が裏で手を引いているというのもデ
タラメで、実際はなぜ入れ替わったのか理由はわからないと告白する。ただ「向こうの世
界」は魔物もいない平和な世界なので、アルスに身の危険はほとんど無いと語った。一応
の納得を見せた王から正式に許可をもらい、タツミ一行は旅を続けることになった。
その夜、ルイーダの酒場で新たにパーティに加わったレイの歓迎会が行われた。ふと宴
席から姿を消したタツミを探して外に出たロダムは、スライムのヘニョを抱えて涼んでい
るタツミを見つけて話しかける。本当はまだ隠していることがあるのでは? と問うロダ
ムに、タツミは謎の言葉を返す。
それは、自分は「誰か」とゲームで競っていること。そして、彼自身が元の世界に帰る
ことを拒否すれば、彼の負けとなってしまうという内容だった。
この世界で自分たちと楽しく過ごすことが、逆に勝負の上で不利になるという話に、ロ
ダムはひとり胸を痛めるのだった。
■Stage.18 SAKURA MEMORY -Part2-
【リアルサイド】アルス視点
タツミに「こんなゲームは一方的な八つ当たりだ」と強く責められたアルスだったが、
その言葉が決して彼の本意ではないことに、アルスも最初から気付いていた。だからこそ
タツミの真意がわからず混乱する。とりあえず彼の願い通りTVを消し、その夜は大人しく
眠りに就いた。
翌朝ユリコから電話があり、アルスに前もって頼まれていたものが見つかったので渡す
ついでにデートはどうか?と誘われる。ユリコの案内で街の中心部へと向かったアルスは、
地下鉄や巨大なミラービルなどに驚いたりしつつ、駅前のファーストフード店に入った。
そこで彼女から「住み込みOKの働き口」の資料を受け取る。現実で生活していくにあた
り自分でも勤まりそうな就職口の斡旋をユリコに頼んでいたのである。
そこにショウから「アレフが逃走した」という電話が入る。だがショウにはアレフと交
戦したことを一切語っていないことから、ショウが自分を監視していたことが明白となっ
た。指示に従う気はないと断り、アルスはユリコには違う電話だと嘘を重ね、そのままデー
トを続ける。映画やショッピングなどしてつかの間の平和を楽しんでいたアルスだったが、
今度はユリコの携帯にカズヒロから連絡が入る。カズヒロはなぜかタツミがアルスと入れ
替わっていることを知っており、どうも様子がおかしい。その電話が切れた直後、今度は
アルスの携帯が鳴った。相手はカズヒロの番号からだったが、出たのはアレフだった。
■Stage.19 望むか、臨むか
【リアルサイド】アルス視点
アレフがカズヒロを誘拐したらしい。驚愕する二人の元にショウが現れる。ショウの現
実の親が警察関係者であることを知っているアルスは、この件はそのままショウに任せる
ことにした。「助けに行ってくれないの?」と問うユリコにアルスは「自分はただの子供
だ」と冷たく突き放す。ユリコは納得いかない様子だったが、ショウが予め連絡していた
片岡家の迎えの車が来ると、素直に帰って行った。
アルスもショウの組織で保護されることになった。そちらに移動する前にタツミのマン
ションに寄って欲しいと頼む。マンションに戻ったアルスは、ショウを玄関の前に待たせ
たままタツミの自室で彼に電話する。電話に出たタツミに、なぜタツミが自分を恨まない
のかわからない、と疑問をぶつける。プレイヤーを犠牲にしたことや、その上で現実の人
間として生活していくことに悩んでいることを言外に読み取ったタツミは、だがあっさり
と「やっちゃったもんや仕方ないんだから、グダグダ考えてないで好きしなよ」と彼を肯
定した。その言葉で吹っ切れたアルスは、マンションのベランダからこっそり出てショウ
から離れ、ひとりアレフの元に向かう決意をする。
【ゲームサイド】タツミ視点
アルスから意外な弱音を聞き、少し言い過ぎたかと反省するタツミ。アルスにぶつけた
言葉のほとんどは本音ではなく、単にしばらくの間モニタリングさせないために心理操作
だった。
タツミたち一行は今、女海賊ジュリーの本拠地に来ており、レッドオーブを譲ってもら
うよう交渉中だった。タツミたちの乗る船リリーシェ号の船長が過去にジュリーと交戦し
たことがあり、最初はぶつかり合う寸前だったが、ジュリーの母国サマンオサの異変をな
んとかしてくれるなら、という条件でレッドオーブを渡してもらう。すぐにもサマンオサ
問題を片付けるべく、最後の鍵が無い現状でイベントをこなせないか思索するタツミ。レ
イの協力でそれは実現できそうだったが、その話し合いの過程で、なんとレイがガイアの
剣を所持していることが判明する。
■Stage.20 最大効率優先主義
【ゲームサイド】タツミ視点
効率良くイベントをこなすため、タツミはチームを二分し同時進行することにする。サ
マンオサ周辺の問題をエリスたちに任せ、自分はレイと二人でネクロゴンドへシルバーオー
ブを取りに行くことにした。レイのずば抜けた戦闘力であっという間にネクロゴンド奥の
祠に辿り着いたタツミたちは、そこでひとり生き残っていた男から、この地にはかつて一
つの王国がありバラモス襲撃により滅んでしまったことを聞かされる。そしてその国の将
軍であった男もまた、自身の知らないうちに勇者をおびき寄せる罠として魔物化させられ
ていたのだった。レイが男の首をはね、勝負は一瞬で決した。タツミに「勇者なんかやっ
てると、ああいうのはよくあるんだ」と語る。
そこに電話がかかってくる。レイから離れ出てみると、相手は知らない少年だった。
「ショウ」と名乗った少年は、アルスが無限ループで苦しむハメになったのはタツミのせ
いだ、と彼を糾弾する。そのことに少なからずショックを受けたタツミだったが、しっか
りしろと自分に言い聞かせるのだった。
タツミ「以上、【Stage.11〜20】をざっくり紹介いたしました!」
アルス「こうして並べてみると、やっぱりゲームサイドは話の進み方が早いな」
タツミ「仕方ないんじゃない? 現実とゲームでは時間の流れが5倍くらい違うみたいだし」
アルス「あ、基準あったのか」
タツミ「作者も時系列を合わせるためにしょっちゅう電卓たたいてたよ」
アルス「小説書くのに電卓たたくって変わってるよな……」
タツミ「次回からは本編です。まずはリアルサイドだね。アレフとの対決!」
アルス「現実の人間がゲームに入り込んでしまう、ってのは割と多いと思うが、
ゲームの人間が現実に来た時にどうなるかっていうのはあんまり無いと思う」
タツミ「能力も抑制され呪文も使えない勇者が、さてどんな戦いを見せるのか」
アルス「請う、ご期待!」
----------------------------
本日はここまで。
すっかりご無沙汰してしまいました。
またこれから少しずつ本編を進めていきたいと思います。
よろしくお願いいたします。
ビアンカが宿屋のおかみさんで俺歓喜
何泊もしちゃう
保守
お、久々に来たらR氏が! まとめ乙です。
しかしもうStage.20か。早いものですなあ。
保守
保守
ほっしゅ
ぬるぽ
ほしゅ
ほしゅ
ほしゅ
ほしゅ
保守
前回
>>373-381 【古えの賢者トートの功績とその事実】
かつてこの世を地獄に貶(おとし)めた魔物の長、エスターク。
『大魔王』『地獄の帝王』『天を堕とす破壊の神』。
彼が、己が力を以って建立したエスターク帝国。
それは、今は海原が広がるばかりのテララテパの地にて、
霞に隠れた大山脈の中腹に存在した。
最古の人間の歴史は、その帝国の中に。
忌むべき繁栄は、千年の永きに亘ったという。
人間、ドワーフ、エルフ、その他の種族。
奴隷集めの魔物に怯える彼らが暮らすのは、
地の底より日々滾々(こんこん)と吹き出す魔業に覆われた、退廃の世。
ごつごつと黄色がかった岩肌の影。がさがさと音が立つ丈の長い草の群れ。
暗い露が滴(したた)り羽虫が飛び交う、深き森の道。
波間に垣間見える毒々しい不定の何か。
留まるも同じ、逃げるも同じ。
親は己が子の誕生に喜ぶことなく、
いずれ失望の眼差しをその身に宿すであろう、哀れな赤子に涙を流した。
その世界に現れた、四人の英雄。
極大の魔術。愕亜の剣戟。
共に戦う者たちが次々と倒れるも、
その死を乗り越え、幾千、幾万の同志たちが、さらに激しい戦いを繰り広げる。
戦乱の果て。ついに大魔王は封印された。
方々へ散る魔物、解放される奴隷。
何者も去った帝国は、広大な大地諸共、海へ没したという。
エスターク大戦。
それは、あらゆる種族の中に息づく物語となる。
クリフ「伝説と神話の狭間の戦い。この際、詳しい解説を省きましょう.
君が見たあの書物は、大戦で唯一生き残った英雄、
賢者トートの著書とされる未解明の書なのです」
ここは、剣と魔法の研究院の応接室。
クリフトさんと、『ペトロ』と呼んでください、と自己紹介された、
ぺトランセルさんという女性のお弟子さん。
僕は二人と、机を挟み互いにソファに座っている。
ペトロ「我が師のレオ王国での呼び名、覚えておられますこと?」
・・・・ええと、謁見の間では確か・・・・『偉大なる賢者の称号を冠する』って
クリフ「そうです。私は『賢者の証』を持っているのです」
クリフトさんは、首に掛けていたお守りらしき物体を机に置く。
それは、手に握り込むことのできるくらいの、白い小さな塊。
歪んだ丸みと突起を持つ武骨な形状だが、特に意匠は施されていないようで、
銀色の鎖らしきものが、塊に開いた穴を貫通し、輪となっている。
クリフ「この物体が何なのか、見当は付きますか?」
これは・・・・・・・石?
どこにでも転がっていそうな・・・・・・・・何か特別なもの?
石・・・・・・鎖・・・・・記念・・・お守り?
うーーーん。
僕はふと目線をあげる。
そこには・・・・壁に飾られた、角のある動物の頭骨。
・・・・もしかして・・・・・・骨?
僕の言葉を聞き、二人の顔に驚きが満ちる。
クリフ「ご賢察のとおりです。これは骨。
大魔王エスタークの骨と言われています」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
それは、エスターク封印の際、傷ついたそのから崩れ落ちたとされるもの。
トートが持ち帰り、以後、歴代の認められた賢者にだけ、
国を越え継承されてきたという。
クリフ「朧げな伝承、古書の幻想的な記述の中にしか見えない、失われた世界。
それは、魔導師、神官、歴史学者、
そして、彼らへと連なる代々の師を惹きつけてきました」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
サントハイムの港から北西に航路を取り見えてくるのは、
乱れる風と波が造成した、入り組んだ海岸線。
その中の比較的大きな湾内に、海の流れを受け止めるよう置かれた港。
ドックから街道へ進み、町のレンガの壁を越える。
海から吹きつける風にそよぐ、鮮やかな緑の平原の向こう。
尾根に茶色の木々、頂には雪の積もる、尖った灰色の山々。
行く手を幾度も阻む緩やかな河川。ところどころ足の沈み込む、色褪せた湿地帯。
古き時代にこの地で栄えた小さな文明の記憶は、
今はもう、葦の垂れる水面の奥深く、崩れ淀む堆積物の中にしかない。
やがて湿地の中に見え始める、茶土と小石の群れ。
湿地帯を抜け、川沿いに十日ほど進めば、そこには、
背後の山からの巨大な滝が作り出す鮮やかな虹の下、
大地へ流れ出る水路と、水路を塞ぐ大きな鉄柵をいくつも備えた、
円を囲む、青レンガの分厚い壁が見えてくる。
鉄柵の中へ進むと、そこにあるのは、
水路が網の目のように交差し、ボートや船の行き交う、水上都市。
そして、中心部の一際太い水路、くさりかたびらの騎士が守る
鉄柵の先にあるのは、吹き抜けの大きな船着場。
敷設された階段を上り、赤、青、緑の色鮮やかなビロードを纏う
貴族風の面々が闊歩する広間や廊下をいくつも通り抜け、
銀の甲冑に身を包む兵士に守られた金縁の赤い扉を開ければ、
そこはこの国の長、フェリコ国王の居室。
今まさにそこは、修羅場と化していた・・・・・。
フェリ「断じて容認できぬ! わが国を侮辱する気なのか、『あれ』は!!」
若き日の海戦でいかなる敵も唸らせた、太く響く国王の怒号。
その逸話を伝え聞く臣下の一人が、慌ててなだめすかす。
?「海は我らの宝。その支配こそ、わが国が先頭に立ってこそのもの。
それを・・・・あのとき余があの女王の説得に折れてしまったばかりに・・・・・
海賊共など、今にして思えば、我らだけでどうにでもなっていたこと。
南の国にこれほどまでに海の支配を握られてしまっては、どうにもならぬわ!」
?「では先方への返答はやはり・・・・・」
?「認めぬぞこんなもの!
世界最大の海洋にまで進出を許せば、海洋国家たる我が国の沽券に係わる!!
・・・・・・ええい、この手紙も捨てよ!
こんなもの、近くにあるだけで・・・・・・・ぬうぅぅ・・・・・・」
縮こまりつつ手紙を受け取り、部屋を後にする者たち。
後には、赤ら顔で鼻息荒くする国王が一人、残る。
ここは、王の居城フォーンティーユ有する、王都アクアロッズ
そしてこの国こそ、世の海賊共の最大の脅威、
勇猛果敢な海軍有する、海洋国家スタンシアラ王国である。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
大陸北部を東西に走る、未だ未踏破の大山脈。
麓の空では、巨大な翼を持つ竜などの空の魔物が飛び回る。
荒野の旅人が進む、薄茶色に変色した土の道。
それは、何百年も前から先人たちが歩き続けてきた証。
その上空を横切るのもまた、太古からの竜たち。
彼らが目指す先は、大陸東方の小さな山の麓、三方を森に囲まれた巨大都市。
突き出た塔の最上階の踊り場に、翼をたたみ降り立つ竜たち。
吹き上がる塵が落ち着く頃、竜の体躯は塔の中へと消えてゆく。
その光景を望む部屋のひとつに、その場所はあった。
金縁の刺繍が施された絨毯と、天蓋付きの大きなベッド。
その部屋に立つ、四人。
かの大賢者クリフトの動向を伝えている、赤毛の魔女、ラジィ。
右隣には、青マント、四角く整った髭と鋭い目を備えた長躯の男、ガシェ外交大臣。
さらにその右隣には、禿げ上がった頭頂部の下に柔和な顔を持つ、イコル商工大臣。
そして三人と対峙する、部屋の主、シルバーレオ国王。
魔女との話が終わると、王は視線を残りの二人に移す。
シルバ「さて、ガシェ、イコル。
先刻の件、覚悟はしているつもりだ。初手は如何であったか?」
ガシェ「陛下や我々の推察どおりでございます。
国王陛下からは、妥協の余地無しと、つき返されました」
シルバ「・・・・・・・・・・・では、あちらの国で王と交渉可能な者は?」
イコル「側近の一人と接触できました。
王の信頼もあり、耳を貸すやもしれません。
ただ、こちらも条件は厳しいです。
中間利得額は当方と2倍近く開きがあり、交渉の余地は無し。
巡航路、及び取扱商品の件は――――・・・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
?「銀の王の仲介の意義は大きいはず・・・・・・」
?「近年の海の様相からして、この結果も予見できた。
スタンシアラの戦士殿は猪突猛進のお人柄。こうなると一筋縄ではゆかぬぞ」
?「パデキアの生産技術研究が、ようやく実を結ぶときが来たのだ。
未来は新たな航路の中にある。この巡航船事業、なんとしても・・・・」
地平線の彼方にぼんやりと山が見えるだけの、草原の牧草地。
浅い窪地であるこの地にあるのは、背の低い小屋と
大小のテントの群れが形作る、巨大な集落。
その集落の中心にて、周囲の建物を見下ろすように建つ、灰色の建物。
その一室で今、この大国各地の酋長やその代行者が、一同に介している。
世界最大の版図を誇る大国。
その首都、ルルソでの会合は、常に重大な意味を持つもの。
そう、ここは、農業大国にして秘薬パデキアの唯一の里、ソレッタ国である。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
領主「おお 青の蠍の魔導師 プトマ よ。
そなたに 北の山の野盗 コルトバ一味 の討伐を命ずる。
我らが民に 平穏の日々を!」
プトマ「はっ! お任せください。
クレック ハルサ アン ゆくぞ」
「「「はい! お師匠様!」」」
緑のローブ中の顔に刻まれた、深い皺。
樫の杖を携えた白髪の魔導師、プトマと三名の弟子が、
天窓からの陽光の映える謁見の間を後にする。
ガーデンブルグ北東、森と山の領地。領主プリスケルの土地にて名を馳せる、
今は亡きガーデンブルグの大魔導師、スヴァトの弟子、プトマ。
そのスヴァトをも凌ぐ実力と云われた者こそ、
過去数十年、ガーデンブルグ最強の魔術師と称されてきた、魔老イレイノン。
魔導師としての名声を得た彼らは、この国の男の憧れ。
この国の女の夢は、力強い戦士になること。
男の夢は、徳高い魔導師になること。
この異風な価値観の誕生は、導かれし者クリフトの存在無しには語れない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
大臣「此度の民からの献上品は以上でございます。」
国王「うむ」
大臣「・・・・・皆の者。此度も素晴らしき一品ばかりであったこと、感謝する。
下がってよいぞ」
謁見の間で平伏していた民の一団は、今一度頭を床に付ける。
やがて、兵士の合図に合わせて皆が立ち上がり、謁見の間を後にする。
扉が閉まるのを見とどける国王と大臣。
すぐに大臣が、国王に話しかける。
大臣「本日の謁見は以上でございます。
既に夜の帳も下り始めております。お部屋に戻られますか?」
国王「そうだな・・・・・・王子を、アレックスを我が部屋へ呼べ。話があると」
大臣「はい。畏まりました」
世界の娯楽の中心にして東西の分け目であるコロシアムを有するのは、
もはや世界の中心ではくなった大国、エンドール王国。
現存する王家の中で最古に興った旧エンドール王家と、
今は亡き北の王国、ボンモール王家の流れを汲む、現在のエンドール王家。
その血筋には野心溢れる者が多いが・・・・・
現王フレアネス十世に、それはまず当てはまらない。
しかしこの世には存在するのだ。先祖返りというものも。
――――――――――サントハイム王国―――――――――
?「生きた火だよ。揺れる様を心に思い浮かべてみて」
先ほどから静かに心を落ち着かせ、目を瞑っている僕。
その正面で僕を見守るのは、クリフトさんの末弟、バル君。
魔法、呪文、魔術。
様々な呼称を持つこの世界の不思議な技法。
それを習得できる才能が備わっているかどうかは、本来、
その人から感じ取れるオーラのようなもので判別できるそうだ。
しかしクリフトさんいわく、僕のオーラは、
これまで全く見たことのない、意味不明、異質なものらしい。
ならば、と紹介された呪文の訓練。
僕が勧められたのは、イメージと実物をリンクさせることから始める、
『転写法』という教育手法。
静かな部屋で時間をかけて小さな炎を頭に浮かべ、
次にそれを、スケッチとして繰り返し絵におこす。
自分の中の肖像と完全一致するまで、何度も、何度も。
炎のイメージを用いるのは、誰でも一度は見たことがあるから。
絵の優劣に関係なく、イメージと絵の一致が本人の中で起これば、
そのイメージには、本人にしか判らない独特の変化、
たとえば発光のようなものが起きるらしい。
時間・・・・・・。
あの日からどれくらいだろう。僕がここの世界に来てから。
すぐに戻れそうにはないと、僕は感じ始めている。
夜、静かに襲いかかる衝動。
日中、ふと頭をよぎり延々と巡る、思考の光線。
僕は、静かに狂える自分を抑えているのかもしれない。
あの、悪夢のような思考が巡った日。
初めてこの世界の住人、ジークさんに会った日。
その思考の行く先の代替として、僕は今、
この呪文訓練に精を出しているのだろうか。
・・・・・・・・・・うーん。ただの絵にしかみえないけどなあ。
―――――とある街 ファン・モール学園 魔術課程分校―――――
街の郊外に建つ赤レンガの建物。
その内、一つの部屋に集っている、クリフトと三名の弟子。
応接間にて、レオ王国の二人の著名人と顔を合わせた彼ら。
首を反らし天井を見上げ、腕を組むクリフト。
クリフトの斜め向かいに座り、頭を抱えて俯いているゾク。
窓辺から階下の庭園を見下ろすダグファ。
足元のサンダルに視線を落とし、当てもなくゆっくり歩き回るペトロ。
クリフ「・・・・・・・・・・・」
ペトロ「ちょっと・・・・・・・お手洗い、行ってきます」
ふらふらとした足取りで、ペトロが扉に向かう。
ゾク「では私も」
二人が扉から出ると、クリフトは俯きながら片手を額に当て考え込む。
先ほどから風に押されカタカタと鳴っている窓。
ふいに一段と強い風が当たってガタッっと鳴り、
後にはその音が、途切れることなく続いてゆく。
ダグフ「風が強くなってきました。雨も降りそうです」
クリフ「そうか。・・・・・・・・・皆には、もう少し休んでもらおうか」
ダグフ「・・・・・・・」
ダグファが部屋を出ると、扉の両脇に控えるのは二人の衛兵。
ダグフ「・・・・・・もう暫く部屋に残ることになった。
従者たちを中へ。できれば食事の手配も頼みたい」
兵士「はっ! 直ちに!」
二人は互いに頷き合い、そして、
面長の精悍な顔つきの兵が一人、足早に去っていった。
クリフ「天は・・・・・天に座すあの方は、このことを知っていたのだろうか」
彼の独り言は、知る者だけが知る困惑を語っていた。
―――――数日後 ガーデンブルグ北東 プリスケル領―――――
北の山から戻り、城勤め生活に戻ったプトマのその弟子たち。
ある日、領主からプトマに宛てた手紙が、彼らの居住区に届く。
一人読んだプトマは、その日の夕食時、三人の弟子を前に語り出す。
プトマ「近々この辺りに、御忍びでクリフト様がお越しになさるそうじゃ。
急な話だがの。また、北の洞穴の書庫を視察したいとか。
世界最多の無名書を持つ我が国へとは・・・・・初心に帰られたのかの。
あるいは・・・・・・三年前こちらで見つかった無名書のことかの。
当時、わが国の精鋭たちがあらかた調べつくしたものじゃがな。
年老いても持つそのお心、いやはや、見習いたいの」
ハルサ「・・・・・・・・・・」
首元まで伸びた黒髪が光るその顔は、師匠の話を聞き、
他の二人に合わせるように、戸惑いの面を浮かべていた。
―――――――――――魔界―――――――――
かつて魔物が地上に侵攻した際、輝いていた、地下深くに広がる世界。
美しき赤の海。
海の波間から空中へ、地上の海より雄々しい海竜の群れが
頭を突き出し動き回る姿が見受けられる。
赤き海に照らされた、赤き大地。
大陸北のキングキャッスルの上空には、魔族の王ピサロが作った光球が浮かび、
その白光の下で緑の大地が、地上と変わらず育つ。
「きゅーほー!きゅーほー!」
大陸南部。魔物の集落の上空に、北の空から、
小さな悪魔ミニデーモンが、声を張り上げ近づいてくる。
「・・・・ミニモン? ロザリー様御付きの従者が何の用だ?」
「おい、まさか・・・・・」
やがて集落の広場に、息を切らせた緑の体が舞い降りる。
その只ならぬ様子に、のそりのそりと集まる魔物ら。
何事か聞く声、いつもどおり彼をからかう粗野な声。
ゼェ、ゼェと、頭を垂れ、肩を揺らす彼に向くのは、地上と変わらぬもの。
やがて、疲れきった彼の口がようやく開く。
ミニモ「急報だ!
我等の王ピサロ様が、お亡くなりになられた!」
アーシュ
HP 14/14
MP 0/0
<どうぐ>携帯(F900i) E:カトゥナ皮の服 ルテールの靴 はね帽子
5月に、初投稿から1年を迎えました。
最初のような投稿ペースは難しくなってきましたが、
気持ちは今も変わりません。
これからも、よろしくお願いします。
物語に影響する誤表記を発見したので訂正しておきます.
誤
?「海は我ら〜
?「認めぬぞこんな〜
正
フェリ「海は我ら〜
フェリ「認めぬぞこんな〜
それでは.
連投失礼します.
また訂正です.
>>427 誤
それは、エスターク封印の際、傷ついたそのから崩れ落ちたとされるもの。
正
それは、エスターク封印の際、傷ついたその肉体から崩れ落ちたとされるもの。
投下乙です。もう一年過ぎてたなんて、早いものですね。
世界各国の変遷がおもしろいですね。ボンモール無くなったのか。
魔界を平定する要になっていただろうピサロが亡くなり、一気に波乱のヨカーン。
ほしゅ
保守る
おお、鯖移転できづかなかった(汗
投下乙でございます。
一気に話が広がりましたね。
アーシュさんが魔法を使えるようになるか、北の洞穴の書庫にかかわるのか、楽しみです。
北の洞穴に行けば例の本の中身も、明かされてくるのでしょうね。
そしてピサロの訃報、この世界はどうなってしまうんでしょうね。
投稿ペースおちるとのことですが、無理せず次回作を執筆してくださいませ。
保守
ほしゅ
おお!やっとdion軍に書き込みのお許しが!
修士さん乙でした!
生々しい話になってきて面白いですよ!!
>>443 dionおめでとう!
俺もしばらく前までdionを使っていたからその気持ちが良くわかるぜ!
(もちろん、回線を変えたのは2chのためではないわけだが)
書き手さんたちまだかな…
携帯の規制も解除されたようですし、読者の皆々様が少しでも再び訪れてくれると嬉しいですね
といってもディープな話題は避難所ですが
どっちの掲示板も興味持ってみてますよー
446 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2010/09/16(木) 14:30:05 ID:k2vA4DnJO
俺がドラクエの世界に行ったら…
・とりあえずミルドラースを倒してフローラとともに王になる。
・国の領土の拡大。
・警察と官僚システムの確立
・教育、学校システムの確立
・日本語を公用語化
・理系教育推進によって電気を作る。
・寿司、ラーメン等の食品関連の外食産業を確立
・よって経済を抜本的に改革。
・医療制度施行
某やる夫のように荷馬車で交易も楽しそうだ
一度でいいからスライムを頭に乗っけてみたい
>>448 どこかのサイトで
「パッフィーちゃん(DQ8のパフパフ娘)のぱふぱふはお湯の詰まった水風船のよう」
というのを実践してみせてたのがあったなぁ。
要するに風船にお湯を入れてお乳になぞらえていたわけだが。
それを真似てみる手もなくもないよ。
いや、高速道路の風圧で体験するといいらしいぞ
>>450 一度試してみたけど感触は硬めだね
蒸かしていない肉まんって感じ
時速60Kmがいい。
それ以上の速度を出したから感触が硬くなったのだろう。
ちなみに巨乳で水風船みたいに柔らかいと歳をとってから垂れるらしい。
肉まんくらいの硬さでちょうどいい。
風圧で試すってのがよくわからんのだが、車の窓から手を出して水風船を掴むのか?
自分の二の腕とか太ももの内側とかの柔らかい部分を触れば近い感触なのでは?
>>453 いや、窓から手を出して風を掴む(というか手のひらに風を当てる)んだ。
またはオープンカーに乗って試してみるとか。
良い子は真似しちゃいけない手段です。
誰か、どのくらいの速さがちょうどいいのか計算して答えを載せてくれ。
【かの森から】
ある朝男は目覚めた。深い森の中で。
そこは、見覚えのない場所だった。
男は恐怖に駆られながらも、自分の足でその地を抜け出す。
森を抜け、川の水で渇きを潤し、そして男が目にしたものは・・・・・。
【誰かいませんか?】
眼前に広がる世界には、誰も、何もいなかった。
誰かいませんか?、と男は、足を棒にしながら歩きつづける。
川に沿い平野を進み、眼前の丘を越えると、そこには・・・・・・。
【お世話になります】
ようやく出会えた一人の男は、旅の商人ジーク=カナッサだった。
ジークと男は打ち解けてゆくが、ジークの話を聞くうちに、
男は何かがおかしいと感じてゆく。
最後に、ジークの口から衝撃の事実が漏れると、
男の思考は混乱の極みに達し・・・・・・・一つの結論を得るのであった。
【あいつ】
世界が変わってしまった。
ここは異世界の国、レオ王国。
アーシュと名乗った男は、国王に会うため、ジークの旅に同行し、
そして寝床の中で、昨日までの日々に思いを馳せる。
幾日にもわたる旅路で二人は様々な人々に出会い・・・・・・
やがて彼らがたどり着いたのは、かくも巨大な都市であった。
【レオ王国国王 シルバーレオ】
国王に謁見するため、城に赴くことになったアーシュとジーク。
オキュロ小隊長の一行と共に、広がる街を駆けキングレオ城に着く。
玉座に座す国王シルバーレオへ、アーシュは自らの身上を述べ、
やがてアーシュらはその場を後にするが・・・・・・。
【宿屋と、酒場と、】
オキュロに連れられ宿を借りるジークとアーシュ。
落ち着いてからアーシュは、ジークと共に町に赴く。
そこには、己の世界と一線を画するものが並び溢れていた。
そして翌日、オキュロに連れられアーシュが『学校』で見たものは・・・・。
【世界最大教育機関】
応接室でアーシュの前に現れたのは、人間ではなかった。
その悪魔の容姿を持つ生き物は、自らを魔物の一人アクデンと名乗る。
彼とその部下のセラウェが明かしたのは、この都市の全貌と、
およそファンタジーとしか思えない、勇者とキングレオ国王の物語。
ここは国家人材養成舎ファン・モール学園。世界最大の教育機関であった。
【ワークギルド】
どうやらこの都市には、ワークギルドという、仕事の紹介所があるらしい。
大臣と国王の助言を参考に、アーシュはそこで仕事を探す。
一方その頃王国議会の一室では、アーシュと
彼の目覚めたミルウッドの森について、会合が開かれていた。
【現地からの報告】
また森へ。アーシュは国の兵士たちと共に、自らの原点に赴く。
幾日もの探索の結果得られたものとは・・・・・・・・・。
アーシュに同行した兵たちが帰還し国王へ報告を済ませていると、
一人の海兵が謁見の間に入ってくる。
その海兵が語ったこと。それは、彼の部隊が王国北方の
テララテパ海で遭遇した海賊船についての、不穏な何かであった。
【大賢者】
アーシュの知識は、この世界にとっては未知のもの。
彼は己の知識について、興味を持つ者たちに語ることになる。
そんな折に彼はアクデンから、この世に生きる伝説の賢者の話を聞く。
その名はクリフト。彼は勇者の旅に同行した『導かれし者』だった。
そして数日後。この国に伝説が舞い降りた。
【クリフトの話】
大賢者クリフトとアーシュの邂逅(かいこう)。
アーシュは緊張しつつも、アクデンを伴いクリフトに自らのことを語る。
やがてアーシュがその場を立ち去ると、クリフトは唐突にアクデンに、
ガーデンブルグの魔導師、ハルサの謎について語る。
そしてクリフトから、衝撃の提案がなされ・・・・・・・・。
【安窓】
これは、かつて存在した安窓にまつわる物語。
もはや語る者いない。
しかしここでは、それを紡ぎ出すことができる。
かつてその安窓の景色の中に、世界の動乱は切り取られていた。
【剣と魔法の研究院】
クリフトと共に、彼の母国サントハイムに渡ったアーシュ。
しかしその直後、レオ王国からクリフトに対し、
古の書『無名叙事詩』に関する重大な要件が伝えられる。
クリフトの弟子をはじめ、一部の者に動揺が走る最中、
アーシュは偶然にもその類の書を読む。
そこに彼は、己の見慣れたものが記されているような気がした。
【古えの賢者トートの功績とその事実】
古の世界に興った戦い。エスターク大戦。
その戦で活躍した賢者トートが後世に遺したものは、
偉大な伝承だけではなかった。
時同じくして世界各地では、様々なことが起こっていた。
スタンシアラ王国の王フェリコは、ある案件に怒りを露わにし、
レオ王国では、国王にスタンシアラの様子が伝えられていた。
ソレッタ国の会議では、国の未来について話し合われ、
エンドール王国では、王に何やら思うところがあるらしく、
サントハイム王国では、アーシュが魔術の訓練を受けはじめていた。
そしてガーデンブルグ王国では、ハルサの下にある知らせが届いていた。
目を覚ますと、俺は見知らぬベッドの上で寝ていた。
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\ おはよう。もう朝ですよ。今日はとても大切な日。 . /
\あなたが初めてお城に行く日だったでしょ。 /
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| 〃( つ つ | J('ヮ`)し
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おまけに見知らぬ女がわけのわからないことを言っている。
俺を誰かと間違えているのだろうか。
ここはどこであの女は誰なのか。
昨日は飲み過ぎて何があったのかまるで覚えていない。
俺が何を言っても女は取り合ってくれない。
この状況を打開するためには王様とやらに会うしかないのか。
目の前の女より王様の方が話が分かる人であることを祈るのみだ。
俺は女が導くまま見慣れぬ街を進んだ。
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田 田 | | | l l:ロ:::ロ:::ロ:::||E E E|日||ヨl旦 l l | | | 田 田
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田 田 | | | | l―, ,―l | | | | 田 田
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田 田 | | __― ,/' ゙、 ―__ | | 田 田
| .... 一 / ∧∧ ヽ ー- |
- ―  ̄ ,, - ''" J( 'ー`)し (,,゚Д゚) `゙''- ,,  ̄ ― -
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,, し`J
城の前で女からここからは一人で行くように言われた。
俺はこの女に騙されているのだろうか。
騙すにしてももっともっともらしいやり方がありそうなものだ。
女の言う通りに進むと確かに王様がいた。
そして俺はそこで真実を知ることになる。
|| ̄ ̄ ̄||
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 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| し`J
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彼女はこの世界を救った勇者の母親だった。
だが世界を救った後勇者は姿を消した。
死んだのか、行方をくらましたのかは分からない。
戻ってくるはずの息子を失い、彼女の心は壊れてしまった。
壊れた勇者の母は息子を求めていた。
時々俺のような酔っ払いを自分の息子だと思い込んで拾ってくる。
なぜか女の記憶は息子が旅立った日で止まっているらしかった。
だから、息子が旅立った日を再現するのだと言うことだった。
世界が平和になり俺のような人間でも旅ができるようになった。
簡単にアリアハンまで訪れることができるようになった。
世界中のだれもが世界が平和になったことをを感じていた。
しかし、勇者の母には彼女が望んだ平和は訪れなかった。
彼女の息子は帰って来なかったのだから。
勇者の母の平和とは息子と過ごした日々のことだったであろう。
彼女は息子との最後の思い出を繰り返しているのかもしれない。
俺は世界を救った勇者を生んだ国を後にした。
世界でただ一人、この平和を享受できない人間を残して。
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_________]皿皿[-∧-∧、
/三三三三三三∧_/\_|,,|「|,,,|「|ミ^!、
__| ̄田 ̄田 / ̄ ̄Π . ∩ |'|「|'''|「|||:ll;|
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/_| ロ ロ 「 ̄ ̄ ̄ | | 田 |「| 田 田 |「|[[[[|
|ll.|ロ ロ,/| l⌒l.l⌒l.| | |「| |「|ミミミミミ
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(,,゚Д゚)
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し`J
fin
AAネタとは新鮮でした。乙です!
うは・・・勇者ママン・・・><
オルテガに続き、勇者まで失ったんだもんなぁ・・・。
ファミコン版では勇者母があまりに可哀想すぎるから、オレは神龍に生き返らせてもらった
オルテガがアリアハンに帰ることのできたスーファミ版が好きだ
おお。ネタかと思ったら欝落ちでビックリ。
ショートものもいいね。
おお、これは面白い!
そのまま、息子がわりに、勇者母とずっとアリアハンでくらしてもいいんだぜ?