「あっしにはどうして迷っているのか分からねえでがすよ」
と、そこへヤンガスが話に入ってきた。
「ゼシカの姉ちゃんはいいとこのお嬢で、ククールは教会育ち、その前は箱入りのぼんぼんだ。兄貴は苦労な
さっているでがすが、それでも王宮暮らしで明日の生活があったでげしょう。あっしのように道端で寝て、明
日のことじゃねえ、今日一日どうやってやり過ごすかばかり考えてみなせえ。真人間になんてなろうったって
なれっこねえでがすよ。
政略結婚がなんだってんだ、その時がきたらそんなもんぶっちぎっちまえばいいんでがす」
「…そうだね」
一々重く心に響いた。ヤンガスが真っ当な生活がしたいと願ってきたことを知っていたから余計に。
「ヤンガスの言う通りだ。今は安心して帰っていける場所を作ってやることの方が先だと思う。先々のことは
その時が来たら考えればいい」
それこそ政略結婚をぶっちぎった僕が言うのも何だけど、考えたことを素直に言ったら皆頷いてくれた。ミー
ティアがゼシカに何か耳打ちする。と、ゼシカが大きく頷いた。
「今日連れて行くというのは忙しないし、先方の準備が整ってからの方がいいかな。お別れの会もしてやりた
いし」
「そうね。一月近くここに居たのですもの、何かしてあげたいわ。お父様も色々仰りながらもあの子をお気に
入りでしたもの」
ミーティアの何気ない一言に驚く。
「えっ、そうなの!?知らなかったよ。そんな素振り全然見せなかったしさ」
「お父様付きのメイドさんから聞いたのよ。『こっそりおもちゃを作らせておいででした』って」
それであの子の部屋の物がいつの間にか増えていたのか!
「あの子には妙に人好きするところがあるでげすしねえ。ドワーフ呼ばわりさえしなければ、でがすが」
ヤンガスが苦笑いした。
「確かにな。それに将来は間違いなく美女だ」
ククールがうんうんと頷く。その様が妙に気に障った。
「あ、そうそう。トロデーンではあの子、ククールの隠し子説と自分好みに育てるためにどこかから攫って来
た子って説のどっちかってことになってるから」
「何だそりゃ!」
「何それ!」
ちょっと苛めてやれ、と思って言ったことにゼシカまでが反応した。
「ちょっと、あんな小さい子にまで手を出すなんて、どういうこと?!信じられない、本当に見境なしね!」
「ぐ、ぐるじい…」
絞め殺さんばかりの勢いで喰ってかかっている。でも手加減しないと本当にまずいぞ。
「…放っておくでがす」
ぼそっとヤンガスが呟いた。
「そういえば毎度のことだしね」
旅の間何度も繰り返された光景を思い出し、気の抜けた返事をする。
「先に行きましょう。あんまりあの子を待たせてはかわいそう」
「そうだね」
三人で頷きあい、
「先行くからねー」
と喧嘩中の二人に向かって言うと(聞こえた風は全くなかった)、丘の上へと足を向けた。
しばらくは坂を上ることに専念していたが、不意にミーティアが口を開いた。
「あのね、エイト」
「何?」
ミーティアはせっせと足を運びつつ、息を整えながら思いがけないことを言った。
「昨日の孤児院のことだけれど、ククールさんに院長をお願いしてはどうかしら」
「え!」
「子供の気持ち、分かる方だと思うの。だって、似ていたとは言え初対面の子供が懐いた訳でしょう。それに
エイトの言うように言葉遣いがきちんとできる方ですもの。実際に子守をすることは近隣の子育てに慣れた方
を雇うとして」
「どうかな…」
突飛過ぎる提案に思えて首を捻ると、逆にヤンガスは深く頷いた。
「いや、案外上手く行くかも知れねえでがす。あっしには難しいことは分からねえが、すかした顔しやがる割
には面倒見はいい奴でげすよ」
「…そんなものなのかなあ」
他の人って色んな目線で人を見ているもんなんだなあ。かっこつけでちょっと間抜けで、熱血。そんな風にク
クールを見ていたから。
「おもしろいね、色んな考え方があって」
僕たちに気付いた子供が丘の上で手を振っている。
「行きましょう」
近付いていくと、駆けてきて僕の膝に抱きついた。
「ゼシカおねーたんは?」
もう懐いているようだ。
「向こうでお話ししているよ。呼びに行きたい?」
「うんっ!」
子供は元気いっぱいで答えて丘を下りかけたが、はたと立ち止まると戻ってきた。
「どうしたの?」
ぷうと頬を膨らませつつ、子供は答えた。
「…いいの。まってる」
何かあったのか?と振り返ったけど、立ち木の陰になってよく見えない。
「先に食べていましょう。話さなければならないことも多いでしょうし」
素知らぬ顔でそんな含みのあることを言われると気になるじゃないか。
「…何か隠してるでしょ」
「隠してなんかいないわ。ただ、先のことは分からないから言わないだけ」
「またそう思わせぶりなことを」
「あっしには」
と言い合う僕たちにヤンガスが割り込んできた。
「昼飯が旨そうだってことだけは分かるでがすよ」
「そうだったね。食べていようか」
「わーい、いただきまーしゅ!」
肉入りパイを一心に食べる子供は、とても幸せそうだ。あと数日、トロデーンで過ごしたら新しい明日が待っ
ていることなど知らずに。
繰り返される毎日は同じようでいて、一日として同じ日はない。少しずつ変わり、思いがけない明日を呼び寄
せることもある。大人でも子供でも、同じこと。その標を見失わず、進んで行くしかないのだろう。昨日を変
えたいというどうしようもない願いを持たずに済むように。
「あの計画さ」
小さな声で隣のミーティアに言った。
「絶対成功させようね」
「ええ。頑張りましょうね」
自信がある訳じゃない。新米王族として右往左往の毎日だ。だけど目標があって、助け合える仲間がいる。そ
して何よりミーティアが一緒にいてくれる。だから頑張っていけるんだ。自分の、そして皆の明日のために。
(終)
以上です
読んでくださった方、感想くださった方、ありがとうございました
喧嘩していて置いて行かれた二人とか、何で子供が戻ってきたのかについては
主姫スレの趣旨からは完全に外れるのでしかるべきところに投下します
乙
>>156 久々にこのスレ来てみたら感動大作が!
それぞれのキャラの価値観は違うけどそれをお互いに受け入れ共有し合っていく様が、仲間っていいなぁって思いました
皆が皆それぞれ平等に幸せになることは難しいけど、このエイト達なら本当の平和に導けると信じております
なんだか色々と考えさせられた気がします
乙でした!
GJ!
ゼシカ、ククール、子供の方は…まあなんとなく予想はつくw
保守
感想くださり、ありがとうございました
以下、ちょっとしたおまけです
以前気にされていた方がいらっしゃったので、ある錬金術士のその後の近況も
ちょっと書いてみました
「ところでさ」
のんびり食事をしている時にふと思い出し、ヤンガスに話しかけた。
「あの錬金術士、元気にやってる?」
「元気にやってるでがすよ。最近大分慣れたみてえで、『やっと金塊二個目取れた!』っ
て大喜びしてたでがす」
温かい南瓜のスープ(苦心して保温した状態で持ってきた)を飲みながらヤンガスが答え
る。
「そっか。それはよかった」
「最初はあんなひょろいうらなり、大丈夫かと思ったんでがすが、持ちこたえたでげすね
え。陽に焼けて、ちっとは見られるようになってきたでがす。おまけに持病だったらしい
頭痛と肩こりが治ったみてえで」
「あはは」
ヤンガスの言葉に笑う僕の横で、ミーティアが頚を傾げた。
「肩こりがなくなるの?じゃあミーティアも魔物狩りをすれば肩こりが治るのかしら?」
「ちょっ…ミーティア!そんな危ないことしちゃ駄目だって」
ミーティアはたまにずれたことを言うんだよな。いや、理論上は合っているのかもしれな
いんだけど、いきなり飛躍しすぎだろう。
「どうして?あの錬金術士さん、随分痩せていらしたわ。ミーティアにだってできるかも
しれないわ」
「あの人は元々、簡単な護身程度なら武器を使えるらしいんだ。推薦状にもそんなことが
書いてあった。
ミーティアは武器なんて使ったことないだろ。危ないよ」
「でも肩こりが治るのでしょ?」
言葉を尽くして諦めさせようとしたんだけど、ミーティアも引き下がらない。
「まあ女の人はどうしても肩こりしやすいって話でげすし、軽い運動でもすりゃあいいん
でねえかとおもうんでがすがねえ」
困っている僕にヤンガスが助け舟を出してくれた。
「軽い運動…」
「お父様のなさっているトロデーン第一体操かしら」
「まあ姫様はお忙しいでげしょうし、時々肩揉みでもするといいでがすよ。その、ドレスっ
ていうんでげすか、着ている服が重いって聞いたもんで」
「ああ、そうか」
言われてみればドレスって重い。豪華なものになると完全武装並みの重量になる。身体に
添うように作られているからそんなには重さを感じないって言ってたけど、実際には身体
で支えている訳だし。
「そりゃ肩も凝るわ…」
これからは毎晩ミーティアの肩を揉んでやろう、と心に決めたところでふと疑問が浮かん
だ。
「それにしてもよく知ってるね。そういうことはククールの得意分野のように思ってた」
途端にヤンガスが口篭る。
「いやその…まあ…ゲルダの奴がその…最近ドレスなんぞを着るようになって、そんなこ
とを愚痴たれていたもんで」
「ふーん、そうなんだ」
何だ、そういうことか。ちょっと気にしてたんだけど、仲良くやってるみたいでよかった
よ。でも、二人とも大人なんだし、実はあんまり心配はしていない。
「あっ!」
と言ってる端から丘の下の方で火柱が!
「わあっ、しゅごい!」
子供は手を打って喜んでいるけど、あれはまずい。
「ゼシカさんたら、少しは手加減なさったらよろしいのに」
なんてこと、おっとり言ってる場合かい。
「行くぞ、ヤンガス!」
ああもう、ククールも命知らずなんだから。
「合点でがす!」
(終)
乙保守
保守
保守
何かネタは無い物か…orz
俺も無いから文句は言えない…orz
保守
168 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2010/03/22(月) 23:14:57 ID:kNbZuY5E0
保守
ごめんageちゃった
保守
保守
保守
保守
だれもいなーい
みんな6の方に行ってしまったのだろうか
保守
保守
ククゼシスレのお花見のSSの主姫がかわいかったwラブラブだ
昨日ちょっとやり直してみた
どこ歩いてもついて来るミー様には頭が下がります
保守
保守れば
保守っとこう
長期規制→やっと解除→あっという間に、また規制
なんて仕打ちを受けると
黙々と馬車を引いて、泉でちょっと話して、またすぐ馬に
そんな姫の気持ちがちょっと分かる。かも…?
今更だけれどこのスレは何もSS専用ではないんだよね。
つまり二人への愛も語りたい放題語ってもいいんだよね。
もしチャゴス王子が、主人公に勝るとも劣らない麗しのルックスと
逞しい身体とまともな人格とを有していたら
ミーティアはサザンビークに嫁いだだろうか……。
チャゴスのデブなところは許せる。
しかしあのふしだらな性格は許せん。
>>184 チャゴスがどんな人物だったとしても、姫と主人公が先に出会った時点で勝ち目はない気が…
ずっと一緒だった幼馴染と見知らぬフィアンセじゃ前者の方が印象深いよな
ただ自分よりも頼りになりそうなチャゴス(仮)を見て、「やっぱり嫁いだ方が幸せなんだろうな」と悩む主人公
姫様カナヅチって言ってたけれどトロデーン周辺でどこか泳げそうなところってどこだろう。
ポルトリンクの辺りか?
トロデーン城のすぐ南に泉があったよ
泉で水浴びか・・・みなぎってきた
実際に姫とその家臣の恋ってのはあるのかね? たとえあったとしても実りはしないだろーけど
その反動か、二次元では騎士と姫は王道だよな
騎士と姫は見かけるけど、エイトは兵士だからね。
兵士と姫は珍しいかも。近衛だからヒラではないだろうけど
テンプレ
ストリートチルドレン→小間使い→一般兵→近衛兵→近衛隊長
テンプレなんだw
王道でいけばエイトじゃなくククールとミーティアだったのか
想像すると面白いな
ミーティア姫はドラクエで一番のヒロインですな
エンディングはドラクエ史上最高だよ
どのエンディングも好きだけれど8はその中でも一番好き
初回と真エンディングの絵を完全に変えてくれたらもっとよかった
保守
199 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2010/06/27(日) 08:08:30 ID:JZCRcwSvO
age
しかし、ss職人さんもいなくなってしまったなぁ。
ここのssはレベル高かった。
また見たいなと。
これはひどい過疎
201 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2010/07/19(月) 13:36:29 ID:4xixE2GG0
保守
幼馴染み萌え