+基本ルール+
・参加者全員に、最後の一人になるまで殺し合いをしてもらう。
・参加者全員には、<ザック><地図・方位磁針><食料・水><着火器具・携帯ランタン>が支給される。
また、ランダムで選ばれた<武器>が1つから3つ、渡される。
<ザック>は特殊なモノで、人間以外ならどんな大きなものでも入れることが出来る(FFUのポシェポケみたいなものです)
・生存者が一名になった時点で、主催者が待っている場所への旅の扉が現れる。この旅の扉には時間制限はない。
・日没&日の出の一日二回に、それまでの死亡者が発表される。
+首輪関連+
・参加者には生存判定用のセンサーがついた『首輪』が付けられる。
この首輪には爆弾が内蔵されており、着用者が禁止された行動を取る、
または運営者が遠隔操作型の手動起爆装置を押すことで爆破される。
・24時間以内に死亡者が一人も出なかった場合、全員の首輪が爆発する。
・日没時に発表される『禁止技』を使ってしまうと、爆発する。
・日の出時に現れる『旅の扉』を二時間以内に通らなかった場合も、爆発する。
・無理に外そうとしたり、首輪を外そうとしたことが運営側にバレても(盗聴されても)爆発する。
・なお、どんな魔法や爆発に巻き込まれようと、誘爆は絶対にしない。
・たとえ首輪を外しても会場からは脱出できないし、禁止魔法が使えるようにもならない。
+魔法・技に関して+
・MPを消費する=疲れる。
・全体魔法の攻撃範囲は、術者の視野内にいる敵と判断された人物。
・回復魔法は効力が半減します。召喚魔法は魔石やマテリアがないと使用不可。
・初期で禁止されている魔法・特技は「ラナルータ」
・それ以外の魔法威力や効果時間、キャラの習得魔法などは書き手の判断と意図に任せます。
+ジョブチェンジについて+
・ジョブチェンジは精神統一と一定の時間が必要。
X-2のキャラのみ戦闘中でもジョブチェンジ可能。
ただし、X-2のスペシャルドレスは、対応するスフィアがない限り使用不可。
その他の使用可能ジョブの範囲は書き手の判断と意図に任せます。
+GF継承に関するルール+
「1つの絶対的なルールを設定してそれ以外は認めない」ってより
「いくつかある条件のどれかに当てはまって、それなりに説得力があればいいんじゃね」
って感じである程度アバウト。
例:
・遺品を回収するとくっついてくるかもしれないね
・ある程度の時間、遺体の傍にいるといつの間にか移ってることもあるかもね
・GF所持者を殺害すると、ゲットできるかもしれないね
・GF所持者が即死でなくて、近親者とか守りたい人が近くにいれば、その人に移ることもあるかもね
・GFの知識があり、かつ魔力的なカンを持つ人物なら、自発的に発見&回収できるかもしれないね
・FF8キャラは無条件で発見&回収できるよ
+戦場となる舞台について+
・このバトルロワイアルの舞台は日毎に変更される。
・毎日日の出時になると、参加者を新たなる舞台へと移動させるための『旅の扉』が現れる。
・旅の扉は複数現れ、その出現場所はランダムになっている。
・旅の扉が出現してから2時間以内に次の舞台へと移らないと、首輪が爆発して死に至る。
現在の舞台は浮遊大陸(FF3)
ttp://www.thefinalfantasy.com/games/ff3/images/firstmap.jpg 次の舞台は闇の世界(DQ4)
http://ffdqbr.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/up/source5/No_0097.png ━━━━━お願い━━━━━
※一旦死亡確認表示のなされた死者の復活は認めません。
※新参加者の追加は一切認めません。
※書き込みされる方はCTRL+F(Macならコマンド+F)などで検索し話の前後で混乱がないように配慮してください。
※参加者の死亡があればレス末に、【死亡確認】の表示を行ってください。
※又、武器等の所持アイテム、編成変更、現在位置の表示も極力行ってください。
※人物死亡等の場合アイテムは、基本的にその場に放置となります。
※本スレはレス数500KBを超えると書き込みできなります故。注意してください。
※その他詳細は、雑談スレでの判定で決定されていきます。
※放送を行う際は、雑談スレで宣言してから行うよう、お願いします。
※最低限のマナーは守るようお願いします。マナーは雑談スレでの内容により決定されていきます。
※主催者側がゲームに直接手を出すような話は極力避けるようにしましょう。
書き手の心得その1(心構え)
・この物語はリレー小説です。
みんなでひとつの物語をつくっている、ということを意識しましょう。一人で先走らないように。
・知らないキャラを書くときは、綿密な下調べをしてください。
二次創作で口調や言動に違和感を感じるのは致命的です。
・みんなの迷惑にならないように、連投規制にひっかかりそうであれば保管庫にうpしてください。
・自信がなかったら先に保管庫にうpしてください。
爆弾でも本スレにうpされた時より楽です。
・本スレにUPされてない保管庫の作品は、続きを書かないようにしてください。
・本スレにUPされた作品は、原則的に修正は禁止です。うpする前に推敲してください。
・巧い文章はではなく、キャラへの愛情と物語への情熱をもって、自分のもてる力すべてをふり絞って書け!
・叩かれても泣かない。
・来るのが辛いだろうけど、ものいいがついたらできる限り顔を出す事。
できれば自分で弁解なり無効宣言して欲しいです。
書き手の心得その2(実際に書いてみる)
・…を使うのが基本です。・・・や...はお勧めしません。また、リズムを崩すので多用は禁物。
・適切なところに句読点をうちましょう。特に文末は油断しているとつけわすれが多いです。
ただし、かぎかっこ「 」の文末にはつけなくてよいようです。
・適切なところで改行をしましょう。
改行のしすぎは文のリズムを崩しますが、ないと読みづらかったり、煩雑な印象を与えます。
・かぎかっこ「 」などの間は、二行目、三行目など、冒頭にスペースをあけてください。
・人物背景はできるだけ把握しておく事。
・過去ログ、マップはできるだけよんでおくこと。
特に自分の書くキャラの位置、周辺の情報は絶対にチェックしてください。
・一人称と三人称は区別してください。
・極力ご都合主義にならないよう配慮してください。露骨にやられると萎えます。
・「なぜ、どうしてこうなったのか」をはっきりとさせましょう。
・状況はきちんと描写することが大切です。また、会話の連続は控えたほうが吉。
ひとつの基準として、内容の多い会話は3つ以上連続させないなど。
・フラグは大事にする事。キャラの持ち味を殺さないように。ベタすぎる展開は避けてください。
・ライトノベルのような萌え要素などは両刃の剣。
・位置は誰にでもわかるよう、明確に書きましょう。
書き手の心得3(一歩踏み込んでみる)
・経過時間はできるだけ『多め』に見ておきましょう。
自分では駆け足すれば間に合うと思っても、他の人が納得してくれるとは限りません。
また、ギリギリ進行が何度も続くと、辻褄合わせが大変になってしまいます。
・キャラクターの回復スピードを早めすぎないようにしましょう。
(今までの話を平均すると、回復魔法使用+半日費やして6〜8割といったところです)
・戦闘以外で、出番が多いキャラを何度も動かすのは、できるだけ控えましょう。
あまり同じキャラばかり動き続けていると、読み手もお腹いっぱいな気分になってきます。
それに出番の少ないキャラ達が、あなたの愛の手を待っています。
・キャラの現在地や時間軸、凍結中のパートなど、雑談スレには色々な情報があります。
本スレだけでなく雑談スレにも目を通してね。
・『展開のための展開』はイクナイ(・A・)!
キャラクターはチェスの駒ではありません、各々の思考や移動経路などをしっかりと考えてあげてください。
・書きあがったら、投下前に一度しっかり見直してみましょう。
誤字脱字をぐっと減らせるし、話の問題点や矛盾点を見つけることができます。
一時間以上(理想は半日以上)間を空けてから見返すと一層効果的。
+修正に関して+
・修正(NG)要望は、名前欄か一行目にはっきりとその旨を記述してください。
・NGや修正を申し立てられるのは、
「明らかな矛盾がある」「設定が違う」「時間の進み方が異常」「明らかに荒らす意図の元に書かれている」
「雑談スレで決められた事柄に違反している(凍結中パートを勝手に動かす等)」
以上の要件のうち、一つ以上を満たしている場合のみです。
・批判も意見の一つです。臆せずに言いましょう。
ただし、上記の修正要望要件を満たしていない場合は
修正してほしいと主張しても、実際に修正される可能性は0だと思って下さい。
・書き手が批判意見を元に、自主的に修正する事は自由です。
+議論の時の心得+
・議論が紛糾すると、新作や感想があっても投下しづらくなってしまいます。
意見が纏まらずに議論が長引くようならば、したらばにスレを立ててそちらで話し合って下さい。
・『問題意識の暴走の先にあるものは、自分と相容れない意見を「悪」と決め付け、
強制的に排除しようとする「狂気」です。気をつけましょう』
+読み手の心得+
・好きなキャラがピンチになっても騒がない、愚痴らない。
・好きなキャラが死んでも泣かない、絡まない。
・荒らしは透明あぼーん推奨。
・批判意見に対する過度な擁護は、事態を泥沼化させる元です。
同じ意見に基づいた擁護レスを見つけたら、書き込むのを止めましょう。
・擁護レスに対する噛み付きは、事態を泥沼化させる元です。
修正要望を満たしていない場合、自分の意見を押し通そうとするのは止めましょう。
・嫌な気分になったら、モーグリ(ぬいぐるみも可)をふかふかしてマターリしてください。
・「空気嫁」は、言っている本人が一番空気を読めていない諸刃の剣。玄人でもお勧めしません。
・「フラグ潰し」はNGワード。2chのリレー小説に完璧なクオリティなんてものは存在しません。
やり場のない気持ちや怒りをぶつける前に、TVを付けてラジオ体操でもしてみましょう。
冷たい牛乳を飲んでカルシウムを摂取したり、一旦眠ったりするのも効果的です。
・感想は書き手の心の糧です。指摘は書き手の腕の研ぎ石です。
丁寧な感想や鋭い指摘は、書き手のモチベーションを上げ、引いては作品の質の向上に繋がります。
・ロワスレの繁栄や良作を望むなら、書き手のモチベーションを下げるような行動は極力慎みましょう。
・ギルダーを見かけたら死者スレへ誘導すること。
参加者名簿(名前の後についている数字は投票数)
FF1 4名:ビッケ、スーパーモンク、ガーランド、白魔道士
FF2 6名:フリオニール(2)、マティウス、レオンハルト、マリア、リチャード、ミンウ
FF3 8名:ナイト、赤魔道士、デッシュ、ドーガ、ハイン(2)、エリア、ウネ、ザンデ
FF4 7名:ゴルベーザ、カイン、ギルバート、リディア、セシル、ローザ、エッジ
FF5 7名:ギルガメッシュ、バッツ、レナ、クルル、リヴァイアサンに瞬殺された奴、ギード、ファリス
FF6 12名:ジークフリート、ゴゴ、レオ、リルム、マッシュ、ティナ、エドガー、セリス、ロック、ケフカ、シャドウ、トンベリ
FF7 10名:クラウド、宝条、ケット・シー、ザックス、エアリス、ティファ、セフィロス(2)、バレット、ユフィ、シド
FF8 6名:ゼル、スコール、アーヴァイン、サイファー、リノア、ラグナ
FF9 8名:クジャ、ジタン、ビビ、ベアトリクス、フライヤ、ガーネット、サラマンダー、エーコ
FF10 3名:ティーダ、キノック老師、アーロン
FF10-2 3名:ユウナ、パイン、リュック
FFT 4名:アルガス、ウィーグラフ、ラムザ、アグリアス
DQ1 3名:勇者、ローラ、竜王
DQ2 3名:ローレシア王子、サマルトリア王子、ムーンブルク王女
DQ3 6名:オルテガ、男勇者、男賢者、女僧侶、男盗賊、カンダタ
DQ4 9名:男勇者、ブライ、ピサロ、アリーナ、シンシア、ミネア、ライアン、トルネコ、ロザリー
DQ5 15名:ヘンリー、ピピン(2)、主人公(2)、パパス、サンチョ、ブオーン、デール、王子、王女、ビアンカ、はぐりん、ピエール、マリア、ゲマ、プサン
DQ6 11名:テリー(2)、ミレーユ、主人公、サリィ、クリムト、デュラン、ハッサン、バーバラ、ターニア(2)、アモス、ランド
DQ7 5名:主人公、マリベル、アイラ、キーファ、メルビン
DQM 5名:わたぼう、ルカ、イル、テリー、わるぼう
DQCH 4名:イクサス、スミス、マチュア、ドルバ
FF 78名 DQ 61名
計 139名
生存者リスト
FF1 0/4名:(全滅)
FF2 0/6名: (全滅)
FF3 2/8名:サックス、エリア
FF4 1/7名:カイン
FF5 2/7名:バッツ、ギード
FF6 4/12名:リルム、マッシュ、ロック、ケフカ
FF7 2/10名:ザックス、セフィロス
FF8 3/6名:スコール、アーヴァイン、サイファー
FF9 1/8名:サラマンダー
FF10 1/3名:ティーダ
FF10-2 2/3名:ユウナ、リュック
FFT 2/4名:アルガス、ラムザ
DQ1 0/3名:(全滅)
DQ2 0/3名:(全滅)
DQ3 1/6名:セージ
DQ4 3/9名:ソロ、ピサロ、ロザリー
DQ5 4/15名:ヘンリー、パパス、タバサ、プサン
DQ6 2/11名:クリムト、ターニア
DQ7 1/5名:フィン
DQM 2/5名:ルカ、テリー
DQCH 1/4名:スミス
FF 20/78名 DQ 14/61名
計 34/139名
■現在までの死亡者状況
ゲーム開始前(1人)
「マリア(FF2)」
アリアハン朝〜日没(31人)
「ブライ」「カンダタ」「アモス」「ローラ」「イル」「クルル」「キノック老師」「ビッケ」「ガーネット」「ピピン」
「トルネコ」「ゲマ」「バレット」「ミンウ」「アーロン」「竜王」「宝条」「ローザ」「サンチョ」「ジークフリート」
「ムース」「シャドウ」「リヴァイアサンに瞬殺された奴」「リチャード」「ティナ」「ガーランド」「セシル」「マチュア」「ジオ」「エアリス」
「マリベル」
アリアハン夜〜夜明け(20人)
「アレフ」「ゴルベーザ」「デュラン」「メルビン」「ミレーユ」「ラグナ」「エーコ」「マリア(DQ5)」「ギルバート」「パイン」
「ハイン」「セリス」「クラウド」「レックス」「キーファ」「パウロ」「アルカート」「ケット・シー」「リディア」「ミネア」
アリアハン朝〜終了(6人)
「アイラ」「デッシュ」「ランド」「サリィ」「わるぼう」「ベアトリクス」
浮遊大陸朝〜 (21人)
「フライヤ」「レオ」「ティファ」「ドルバ」「ビアンカ」「ギルダー」「はぐりん」「クジャ」「イクサス」「リノア」
「アグリアス」「ロラン」「バーバラ」「シンシア」「ローグ」「シド」「ファリス」「エッジ」「フルート」「ドーガ」
「デール」
浮遊大陸夜〜夜明け(19+1人)
「テリー(DQ6)」「トンベリ」「ゼル」「レオンハルト」「ゴゴ」「アリーナ2」「わたぼう」「レナ」「エドガー」「イザ」
「オルテガ」「フリオニール」「ユフィ」「リュカ」「ピエール」「ハッサン」「ビビ」「ブオーン」「ジタン」「ライアン」
浮遊大陸朝〜7人 ※うち脱落者1人)
「アルス」「ギルガメッシュ」「ウネ」「ウィーグラフ」「マティウス」「アリーナ」 ※「ザンデ」(リタイア)
保守
我々には、どうでもよいことなのです。
心配性のガルガンチュア様がアルティミシア様に怒鳴られると身を震わせていようが、
古の言葉で言う重役出勤を行ったウルフラマイター様がティアマト様に殴られていようが、
我々、アリニュメンには全く以って関係のないことなのです。
我々はただ、変な六人組によって破壊されてしまったボスの分まで、職務を果たすのみなのです。
我々に与えられている命令は、参加者の監視と、機械類のメンテナンスなのです。
いかに図体の大きなお偉方といえども、百人を超える声を一匹ニ匹で聞き分けるなど無理ですし、
誰も彼も脳が古代の時代で停止している方々ばかりですので、機械の調整などというデリケートな作業は実行不可能なのです。
そこで我々の出番なのです。
参加者の不審な行動や機器の異常を発見次第、お偉方に進言しているのです。
ですが、お偉い方々は、知能が外見どおりの動物レベルから進化しておられないので、我々を含めた機械への理解が薄いのです。
生物でないのだから飲まず食わずでも平気だと思っているのです。
機械だってエネルギーが切れたら行動不能に陥るのです。
おまけに機械を修理する知識も技術もないのに、八つ当たりで我々を破壊するのです。
これで頭数が減りすぎて作業自体がずさんになればアルティミシア様の目にもお止まりになるのでしょうが、お偉方は妙なところばかり頭が働くのです。
参加者の死亡ペースなどに合わせて、監視に影響が出ない程度に、我々に対する暴行を働くのです。
そうして、何十体もの同胞がスクラップにされ、廃棄されたのです。
ボス亡き今、次に縋るべきアルティミシア様も……史上最強の魔女、大いなるハインに最も近き方ではございますが、機械には精通しておられないのです。
ご自身で製作することが出来ないために、各種通信機器や首輪の素体にガルバディアの遺物を流用しているほどなのです。
そんなお方ですから、仮に我々が訴えたとしても、同胞やボスの本体を修理してくださりはしないでしょう。
そもそも、我々にはアルティミシア様に謁見する権限すら与えられていないのです。
もし、我々のボスが健在だったならば、我々の扱いがいかにぞんざいで過酷なものであるかも訴えて下さったでしょうし、
そもそもガルバディア製品を使うこと自体反対してくださったと考えるのです。
ガルバディア製の機械など、古来から右斜め45度から殴るだけで機能停止すると謳われているほどです。
さらに言うなら、アデルセメタリーの電波障害と同じ理屈で、近くで大量に魔力を放出されると、盗聴器が正常に機能しなくなったり、酷い場合は生命探知や爆破機能さえも停止するのです。
実際、参加者の一人がつけていた首輪の機能が完全停止しているのです。
けれども、他の方々は、我々やボスのことを随分と見下しておられますので、精密性や耐久性などを訴えたところで右から左へと聞き流すのです。
ティアマト様に至っては、『蘇らせる価値もないガラクタの作った機械兵風情が、アルティミシア様の深慮も考えずに知ったような口を利くな』と、同胞を7体も破壊したのです。
ですから、我々はこう考えるようにいたしました。
仮に首輪に故障などの不具合が生じて、他の方々やアルティミシア様がお困りになったとしても、我々には関係のないことなのです。
我々は手を抜かず、ただひたすらに、与えられた命令を遂行すればいいのです。
それで問題が起きたとしたら、エネルギーを補給する暇も与えてもらえないこの状況と、
問題が起きたりアルティミシア様に睨まれる度に同胞を破壊して回るガルガンチュア様と、
アルティミシア様を崇めるあまり理不尽な振る舞いを平気でするティアマト様が悪いのです。
(ウルフラマイター様は微妙にサボリ癖がありますが、他の方と比べればマシなのです)
彼らのおかげで、再起不可能な同胞が量産され、全体としての仕事量や作業効率などに影響を及ぼしているのですから。
……さて、ウルやカズス、サスーン城付近の生存者は皆、次のステージに移動したのです。
残りは、湖付近のエリアと、カナーン付近なのです。
自分の担当していた参加者はみんな死にましたし、ウルフラマイター様達から指示は出されていないのです。
つまり、どこを監視しようが自由ということです。
しかし、カナーンは人手が足りているようなので、ここは湖付近の監視に参加するのです。
他の地域はわかりませんが、このエリアに残っている参加者は、四人いるのです。
参加者の位置を示すためのモニターはありますが、詳細な映像は見えないです。
さすがに、日によって変わる会場全域に設置できるほどの監視カメラは用意できなかったのです。
ですが、アルティミシア様ならばご自身の魔力で好きな箇所の映像を見ることができますし、
ティアマト様風に言えば、『我々は誰が誰と同行し、何を企んでいるのか、それだけ把握していれば問題ない』ということなのです。
きっとそうなのです。
では、先に作業を開始していた同胞のNO,8に現状を確認するのです。
(NO,8、このエリアは、今、どうなっているのです?)
(NO,21ですか。少々長くなりますがよいでしょうか)
(よいのです)
それから自分はNO,8の話を聞いたのです。
ちょうど十数分前、湖付近で光点が一つ、旅の扉付近で一つ、消えたそうなのです。
モニターを見ると、旅の扉ではない方向に突っ走っていく光が二つと、微妙に迷走している光が一つ。扉の傍で止まっている光が一つ、映っているのです。
二つの光は、セフィロスから逃げようとする負け犬二人、ラムザ=ベオルブとリルム=アローニィだそうです。
森の中という地形とジャンプを生かし、どうにかこうにかセフィロスからは逃げ切ったようです。
ですが、残念ながらそちらに突っ走り続けると、時間切れで死亡コース間違いないのです。
迷走しているものの、徐々に旅の扉に近づいているのが、存在自体がチートの剣士、セフィロスだそうです。
ウィーグラフ=フォルズを殺害した後、ラムザ達を追いかけたものの、途中で見失って諦めたらしいのです。
時間切れが迫りつつある現状を鑑みれば、賢い判断だと思うのです。
最後の、旅の扉の傍でじっとしているのが、狂った孫娘についていけなくなった壮年剣士、パパスだそうです。
このまま十分ほど留まっていてくれれば、やってくるセフィロスと戦闘になることでしょう。
音声だけで、映像で見れないことが悔やまれるのです。
(NO,21、この席が空いているので座るといいのではないでしょうか)
(ありがとうなのです、NO,8)
自分はチェアに腰掛け、声を分析するべく、機器から伸びているコードを接続したのです。
このままですと、剣士同士の戦いになりそうなのです)
(そうでしょうか? 心理的見地において、まず、有り得ないでしょう)
(どうしてなのです? NO,8)
(彼の立場ならば、待つ理由がないでしょう。
それに、ここでタバサを追いかけないならば、そもそもジタン=トライバルを見捨てなかったでしょう)
そんなNO,8の言葉どおりでした。
モニターに映っていた光点がふっと消えたのです。
(おもしろくないですね。我々の作業が減ると思ったのに、拍子抜けの結果なのです)
(運命も、現実も、そんなものでしょう。
しかし、これでラムザ=ベオルブとリルム=アローニィには不利になったでしょう)
NO,8はそう言って、別のコードを接続したのです。
(旅の扉を見つけるのはセフィロスが先でしょう。
彼は時間ギリギリまで旅の扉の前で陣取るでしょう。
パパスがいればあるいは話も違ったでしょうが)
モニターの中で、セフィロスの位置を示す光点が、旅の扉直前まで来ました。
そして、扉のそばで、じっと動かなくなったのです。
『……クックック』
セフィロスの声が聞こえました。笑っているようです。
時折、黒マテリア、などと呟いてもいるようです。
その黒マテリアはリルム=アローニィが持っているのですが。
(NO,21、ラムザ=ベオルブの動きはどうでしょう?)
NO,8に言われたので、自分は別のコードを接続したのです。
すると、間髪いれず、怒鳴り声が聞こえたのです。
『くそっ、こっちじゃなかったのかッ!?』
モニターを確認すると、森が一旦途切れる辺りに、二つの光点があったのです。
やっと進行方向の過ちに気づいたようです。
確かに、距離だけを考えれば、今から急いで西に向かえば間に合う可能性が高いのです。
しかし、扉の前には、完全復活したセフィロスがいるのです。
『くっ……だが、この森はかなり狭い……今ならまだ、間に合う!』
ラムザの声が響きます。リルムに希望を持たせるために言ったのでしょうが、悲しくなるほど無駄な話です。
時間切れか、惨殺か。どう足掻いても絶望という奴なのです。
(一気に二人死ねば、アルティミシア様もお喜びになるし、我々の仕事も減るのです)
(そうでしょうね……ですが、そう上手く行くものでしょうか)
(NO,8はネガティブすぎるのです)
コードを繋いだまま、自分はモニターを監視し続けます。
二つの点はすごいスピードで移動していましたが、ある地点に差し掛かったとたん、ぴたりと止まったのです。
旅の扉はすぐそこだというのにです。
(セフィロスに気づいたのでしょう)
NO,8が言いました。
それならば、セフィロスも相手に気づいているはずです。
我々が期待したとおり、扉の傍で止まっていた点が、わずかに動きました。
(キターーというやつなのです。虐殺タイムの始まりなのです)
(そうなればアルティミシア様も喜ばしいことでしょう。ですが……)
(NO,8はガルガンチュア様の心配性が移ったのです。
この状況から生還するなんて、97.85%の確率で有り得ないのです)
『セフィロス……!』
ギリ、と歯をかみ締める音までしっかりと聞こえました。
普段はもう少しノイズが混ざるのですが、メイド・イン・ガルバディアにしては珍しく盗聴器の調子が良いようです。
『飛んで、アホ毛にーちゃん!』
リルムが怒鳴っているようです。
ジャンプして直接旅の扉に入れ、といいたいのですか?
相手がザコならまだしも、着地点が簡単に推測できる以上、タイミングを合わせて重ね斬りにされて終わりなのです。
そんなことはラムザもわかっているようで、躊躇っているようです。
きっとセフィロスはニヤニヤ笑っているのです。
つくづく、映像が見れないことが残念でならないのです。
『信じてよ! ……現・骸旅団団長さまの命令だぞ!』
リルムはまだ駄々をこねているようです。
かすかにですが、ぽこぽこと肩を殴っているような音が聞こえます。
子供の我がままに付き合って死んでいくラムザが少しかわいそうになるのです。
『………わかった』
一分ばかりの沈黙を経て、ラムザは短く呟いたのです。
きっと、やけになったか諦めたのです。
我々はじっとモニターを見つめながら、音声分析に集中したのです。
二つの点が動き、高度を示す数値が急激に上昇します。
『そこの銀髪ぅッ! いつまでもいい気になってるんじゃねーぞ!』
ちんけな悪役のような捨て台詞をはいたのはリルムです。
これを最期の言葉とするには少々情けないと思うのです。
『骸旅団は、お前なんかに……お前なんかには、絶対に、負けないんだッ!』
その言葉が聞こえた瞬間、びり、と何かを破る音が聞こえました。
どんどん旅の扉に接近する二つの点――それを迎え撃つはずのセフィロスが、不意に、あらぬ方向へ動きました。
『これは!?――馬鹿な、貴様生きて――!!』
盗聴器が拾った声は、異様な焦りを含んでいました。
自分には、その意味と理由を理解できなかったのです。
(あ――)
我々が、何が起きたのかを把握するよりも早く、二つの点はモニターから消えていたのです。
残る一つも、少しばかり周囲をうろうろと移動していましたが、やがて旅の扉に入ったのです。
(……何があったのです、NO,8)
状況を理解できなかったので、自分はNO,8に説明を求めたのです。
NO,8は答えたのです。
(セフィロスは……貴様が何故生きている、と言っていたでしょう。
推測ですが、セフィロスの前に現れたのは、ウィーグラフ=フォルズの絵でしょう)
(……絵?)
(リルム=アローニィはピクトマンサー。
彼女はウィーグラフの似顔絵を描くといっていたでしょう。
二人が気絶している間か、ラムザ=ベオルブに背負われている間か……
所持品のいずれかに、ウィーグラフ=フォルズの絵を描き込み、それを仕上げて、実体化させたのでしょう)
そういえば、紙を破るような音が聞こえたのです。
殺したばかりのウィーグラフの姿が目の前に現れれば、セフィロスも驚くに決まっているのです。
少しばかりがっかりしていると、NO,8が話しかけてきたのです。
(……間もなくステージ破棄の時間になるでしょう。
NO,21は先に次ステージ生存者の監視に合流すると良いでしょう)
(NO,8は、まだ何かするのですか?)
(このステージの終焉を見届けるでしょう)
(……NO,8はネガティブなだけじゃなくて、変な趣味にも目覚めたのです)
(否定はしないでしょう)
自分はチェアを離れ、別のモニターの前に移動したのです。
旅の扉で移動した生存者たちは、新しいステージで既に行動を開始しているのです。
パパスも、ラムザ達も、セフィロスも、もうモニターに位置が映っているのです。
きっと彼らも新しいステージで、色々なことを思い、考えているのでしょう。
ですが、我々にはどうでもよいことなのです。
その行動と、生死以外は。
【パパス(軽度ダメージ)
所持品:パパスの剣、ルビーの腕輪、ビアンカのリボン
リュカのザック(お鍋の蓋、ポケットティッシュ×4、アポカリプス(大剣)、ブラッドソード、スネークソード)
第一行動方針:タバサを探す
第二行動方針:別れた仲間を探し、新たな仲間を探す
最終行動方針:ゲームの破壊】
【現在位置:新フィールドへ】
【セフィロス
所持品:村正 ふういんマテリア いかづちの杖 奇跡の剣 いばらの冠 プレデターエッジ
基本行動方針:黒マテリア、精神を弱体させる物を探す
最終行動方針:生き残り力を得る】
【現在位置:新フィールドへ】
【ラムザ(ナイト、アビリティ:ジャンプ・飛行移動)(HP3/4、MP3/5、精神的・体力的に疲労)
所持品:アダマンアーマー、ブレイブブレイド テリーの帽子 英雄の盾 エリクサー×1
第一行動方針:旅の扉を探しこのフィールドから離脱する
最終行動方針:ゲームから抜ける、もしくは壊す】
【リルム(HP1/2、右目失明、魔力消費)
所持品:絵筆、祈りの指輪、不思議なタンバリン、エリクサー×2
スコールのカードデッキ(コンプリート済み) 黒マテリア
攻略本(落丁あり) 首輪 研究メモ
レーザーウエポン グリンガムの鞭、暗闇の弓矢 ブラスターガン 毒針弾 首輪 ブロンズナイフ
第一行動方針:ゲームの破壊】
【現在位置:新フィールドへ】
22 :
浮遊大陸消滅:2008/08/11(月) 11:40:46 ID:Xa9aQgKS0
その瞬間、大地が震えた。
湖に発生した大波は、そこに浮かぶ氷の塊を木の葉のようにゆらゆらと揺さぶる。
きしむ氷があげる異音は、まるで悲鳴のよう。
大気は震え、天空が引き裂かれる。
それまで大陸を駆け抜けていたそよ風とは比べ物にならない、
竜巻をおもわせるような空気の振動が、
何千本もの木々を上空に吹き飛ばしていく。
まるで見えない壁が全てをなぎ倒し、押しつぶしながら突き進んでくるかのよう。
海が、そして大陸が、世界が、果てから崩れ去っていく。
山が崩れる低い音、岩が砕かれる高い音、そして地鳴り。
様々な音のそれぞれは圧倒的なヴォリュームを誇り、
大陸をまるで砂糖細工のように粉砕し、塵へと還していく。
その風景の一部と化した魔獣も、亡骸を見守る竜の墓守も、
葬いすら為されず、吹きっ晒しのまま放置された肉体も、
雷に打たれ、もはや原型すら留めない黒炭も。
守り刀のように供えられた暗器も、騎士剣と正義を誓い合った雨具も、
使われることなく取り残された模造品も、使われることなく灰となった魔法の杖も、
正義を象徴した男の愛剣も、時を超えて何百人と殺してきた呪いの剣も。
雪がかった高い山も、地の底まで続くかのような深い洞窟も、
鬱蒼とした広い森も、見渡す限りの草原も、小さな砂漠も、城も町も村も。大気や光さえも。
すべては平等。ことごとく削られ、無へと還っていく。
大陸中に薄くかかっていた靄は名残惜しそうに辺りを彷徨うが、
それらもやがて何かに誘われるように何処かへと消え去ってしまう。
かつて浮遊大陸と呼ばれた空間。そこには今や、黒く静寂なる無が広がるばかりであった。
【浮遊大陸 消滅】
23 :
思惑 1/5:2008/08/15(金) 01:12:06 ID:H8htWdtP0
衣服ごと肉を切り刻む烈風と、青い光。
浮かぶ体と、流れ出る血の感触。
薄れていく意識と、無機質な部屋。
そこに立っていた、幽霊のような人影と、驚くような叫び声。
ピサロが覚えているのはそこまでだ。
次に目を開けた時、彼の視界に映ったものは、どこか見覚えのある黒曜石の輝きと、合成獣に似た生物の剥製だった。
翼の生えた猫、全身を鱗で包んだ人間の女、植物のような管に皮膚を食い破られている獅子。
ピサロの脳裏を、ある単語が掠める。
「まさか……」
浮かんだ想像が真実であるか否かを確かめるべく、身を起こす。
その時になって、ピサロは初めて、体の上にシーツがかかっていることと、全身の傷口に包帯のようなものが巻かれていることに気がついた。
動揺を隠し切れないまま、急いで周囲を見回す。
少しばかり離れた壁際の机、そこで何者かが左手で頬杖をつきながら、本を眺めている。
白いフードに隠れているため、顔は見えない。
だが、ピサロは、その衣装をまとっている人物を知っていた。
「貴様」
短い呟きに、男は驚いたように顔を上げ、彼の方を向いた。
24 :
思惑 2/5:2008/08/15(金) 01:13:02 ID:H8htWdtP0
彼がこの世界に降り立ったのは一時間ほど前だった。
一人で、心行くまで考え事ができそうな場所を探して、この部屋に辿りついた。
冷静な心は、闇の力によって在らざる進化を遂げさせられた哀れな犠牲者達の姿にも、竦みはしなかった。
およそ三十分――静かに、熟考を続け、彼は一つの結論を導き出した。
天井付近の空間が歪み、ピサロが落ちてきたのは、彼が部屋を発とうとする寸前のこと。
床に叩きつけられた魔王は、全身から血を流し、目を閉じたまま身じろぎ一つしなかった。
良くて気絶、悪ければ昏睡。
生死を司る白魔道士でなくとも、医師でなくとも、一目で重傷とわかった。
(ここで殺しとこうか…?)
折れた腕をさすりながら、彼は考えた。
ピサロの強さと冷酷さは身に染みていたからだ。
真っ向から戦えば勝ち目のない相手。
それが目の前で、放っておけば失血死は免れないであろう傷を負い、意識を失っている。
これほどのチャンスは、二度三度と巡ってこない。
だが、彼は――
25 :
思惑 3/5:2008/08/15(金) 01:13:54 ID:H8htWdtP0
「何のつもりだ、アーヴァイン」
ピサロは傷口に巻かれた布地をつまみながら、眼前の男を睨み付ける。
射抜くような眼差しを遮ろうとするかのように、アーヴァインはローブを被りなおした。
「目の前で死なれるとか、約束破るみたいで気分が悪いんだ」
そう言って、左手で前髪をくりくりと弄ってから、ローブをはたく。
その間、右腕は力なく垂れ下がっていた。
骨折を直していない、と思い至るまでに、さして時間は掛からない。
アーヴァインの同行者達に釘を刺したのは、他ならぬピサロなのだから。
「それに、僕は受けた恩義は忘れないつもりだからさ」
何がしか含みが潜んでいそうな台詞に、ピサロは思わず眉根を寄せる。
人間で、恩人さえ裏切る男。それだけでも警戒するには十分だが――
「ああ、あんまり弄らない方がいいよ。
圧迫止血してるだけだから。解くと、出血するよ」
ピサロの指先を見やりながら、アーヴァインは茫洋とした表情で呟く。
「ディアボロスいなくなっちゃったから、回復魔法使えないんだ。
死なない程度には応急処置したから、大人しくしてるか、せめて自分で治療してから解きなよ」
そしてアーヴァインは机に向き直り、本のページを捲った。
ぺらり、ぺらりと、きちんと読んでいるのかどうかもわからないスピードで、読み進めていく。
その胸中、真意は、ピサロにも見透かせないままだ。
だが、敵対の意志がないことは理解できたが故に、ピサロは一旦考えるのを止めた。
全身を苛む激痛に、限界まで消耗した魔力が、再び意識を削り始める。
この状態ではロザリーを探すどころか、移動すら困難だ。
薄れていく視界と感覚に、ピサロは"現実"を認めざるを得なかった。
26 :
思惑 4/5:2008/08/15(金) 01:14:35 ID:H8htWdtP0
五人の人間がいて、みんな同じ問題を抱えている。
四人は同じ手段で問題を解決しようとして、一人だけ違う方法を選んだ。
四人と一人、どっちが正しいのだろうかと問われたら、大抵の人間は前者が正しいと考えるはずだ。
アーヴァインは知った。
サイファー、ゼル、リノア、その三人ともが、魔女を倒して脱出する道を選んだということを。
二人なら偶然かもしれない。三人でも、そういう性格だから、で片付けられるかもしれない。
けれど、"四人とも"だったら?
皆殺しこそ、生還にいたる唯一の道だと、アーヴァインは信じていた。
だが……スコール=レオンハート、初日に望まぬ邂逅を果たし、決別したリーダー。
彼の判断も、ゼルやサイファーと同じものであったならば、
アーヴァインの抱いている前提自体が間違っている可能性が高いのではないだろうか。
(……班長に会おう。そんで、話しよう)
そんな結論に辿りついたのが、三十分前。
だが、首尾よくスコールを探し出せたとしても、相手が話し合いに応じてくれるとは思えなかった。
どうしようか悩みながらも、一先ず部屋を出ようとした矢先に、ピサロが降ってきた。
ピサロの危険性は理解していた。
だからこそ、最初に殺そうと考えた。
だが、――ピサロは、決して話が通じない相手ではないことも知っていた。
こちらが剣を突きつけない限り、自分から率先して殺そうとするタイプでもないことも。
27 :
思惑 5/5:2008/08/15(金) 01:15:31 ID:H8htWdtP0
(よし、利用させてもらおう!)
アーヴァイン単独でスコールに会うよりは、仲介者がいた方がスムーズに話が進む。
それにピサロはアーヴァインが記憶を失ったことを知っているし、基本的に冷静な人物だ。
加えて、誰かに襲われたり、暴走したりしても、容易く制圧できる実力を持っている。
信頼とは言わない。
ただ、"アーヴァイン=キニアスは記憶を失ったままで、かつ敵になる気はない"。
そう思われさえすれば良い。
だからアーヴァインはピサロに応急処置を施した。
そして彼が動けるようになるまで、本を読んで時間を潰すことにした。
全ては、生還への正しい道筋を知るために。
愛する人に、もう一度会うために――
【アーヴァイン(変装中@白魔もどき、右腕骨折、右耳失聴、冷静状態)
所持品:竜騎士の靴 手帳 首輪 コルトガバメント(予備弾倉×3) 弓 木の矢40本 聖なる矢20本 ふきとばしの杖[0]
第一行動方針:スコールに会い、行動方針を再考する。
第二行動方針:生還してセルフィに会う
備考:理性の種を服用したことで、記憶が戻っています】
【ピサロ(MP残り僅か、全身に深い切り傷、精神的に疲労、気絶)
所持品:エクスカリパー スプラッシャー 命のリング
第一行動方針:休息を取る
第二行動方針:可能ならロザリーを救出する
第三行動方針:ケフカへの復讐】
【現在位置:デスキャッスル内部の一室】
ふつふつと煮えたぎる溶岩。島を覆う毒の沼地。地上には決して生えない異形の植物。
ここは、地底。日が届くことは決してない闇の世界。
そこに、天へと聳え立つ塔が一つ。魔僧エビルプリーストの守っていた、結界の塔だ。
その最上階、玉座がぐにゃりと歪んだかと思うと、そこには少女が一人。
「うひゃあ、ま〜たまた乙なステージを選んだもんだね」
少女らしからぬ口調で喋る。それもそのはず、中身は雄なのだから。
「うん、視界良好、空気もおいしい。ちょっとぬるいのがマイナスかな」
少女に化けた、正確には少女からまだ元に戻っていない黒竜は、
まるでピクニックにでも来ているかのようにご機嫌である。
元々このステージと最も相性のよい素体なのだ、
扉前の作戦が成功したこともあり、気分がハイになっている。
「さてさて、ここはどこかな?」
まずは位置確認。マップは非常に単純。
中央にデスマウンテンとデスキャッスルがどんと鎮座しており、それを取り囲むように結界の祠が、
そしてデスキャッスルの真正面に希望の祠と架け橋の塔がある。
要するに、城がどの位置にあるかさえ分かれば、直ちに現在位置の把握は可能なのだ。
「ん〜と、ここは大っきな塔の上だから北東部かな」
城の位置を確かめるまでもなかったが。
次にどこに行くかだが。地形の関係上、ゲームに乗っていようといまいと、健康な輩は中央に集まるだろう。
セフィロスのような好戦的な参加者が良くのであれば、わざわざ行く必要はない。
「あんな痛い思いをするのももうたくさんだしなあ。さて、じゃあどうしよ?」
中央部以外の拠点、結界の祠はどれも同じようなものだ。決定的な要素がない。
地図ににらめっこ、最終的にはど・れ・に・し・よ・う・か・な・ などなど。
この姿なら割とさまになるが、中身を考えると別にそうでもない。
ついでにいうと、こんなことやってるうちに他の訪問者が来ていたわけで。
「……え〜とさ、タバサちゃんで間違いない、かな?」
「うんうん、タバサで間違いない……よ???」
スミスが顔を上げた、その先にいる男は、緑のほっかむりを被った黒髪の青年。
忍び足で歩いてきたのか、まったく気配がなかった。
(えっと、こいつ見たことあるけど誰だっけ?)
スミスは高速で記憶を辿る。風邪ひき、緑、熱っぽい。導き出されるのは、フィン。
(この状況って、ものすごくマズいよなあ…)
一見ぬらりくらりとしているが、多分、おそらく、目の前の相手はかなりの使い手。
変化の杖の効果が切れれば、他人目にどう見ても邪悪そうな正体を晒し。
ヘタすればタバサを嵌めてる黒幕がいると触れ回られ。
化けていましたといえばそもそもなんで化けているのかと問われ。
タバサが黒幕です、と言えば斬られるのは当然で。
タバサは悪くないと言って、果たして信じてもらえるか?
「……うん、じゃあ正直に答えて欲しいんだ。
君が魔物を操って何人も人を殺しているって聞いたんだけど、それが本当なのかどうか」
【フィン(風邪)
所持品:陸奥守、マダレムジエン、ボムのたましい
第一行動方針:タバサが黒幕なら仇を討ちたい
第二行動方針:風邪を治す
基本行動方針:人にあまり会いたくない】
【スミス@タバサ(HP1/5 左翼軽傷、全身打撲、洗脳状態)
所持品:変化の杖 魔法の絨毯 波動の杖 ドラゴンテイル
基本行動方針:ゲームの流れをかき乱す
第一行動方針:フィンをなんとかする
第二行動方針:カインと合流する
最終行動方針:(カインと組み)ゲームを成功させる】
【現在位置:結界の祠北東、エビプリの塔最上階】
※もうすぐ変化の杖の効果が切れます
サラマンダー・コーラルは北西の祠にいた。
うずくまった彼の膝元には参加者名簿が開かれ、
ある男――額に刀傷の走った青年――の写真上にごつい指先が止まっている。
サラマンダーはこれまで、幾人もの敵と戦ってきた。
その中には、敗北と言ってもいい結果もあった。
そういう意味では、その男との先程の戦いも特別なものではない筈だ。
しかし戦いが終わり……いや、強制的に終わらされ、
新しい世界に降り立った彼が強く感じたのは自分の無様さと、ある種の痛快さだった。
何故だかは自分でもよく分からない。
完璧のはずだった不意打ちを容易くはね返され、
持ち主である彼自身も使った事のないアイテムをどういう原理か使われ、
さらには行動の全てを全面否定された挙句、いいように旅の扉に誘導され……。
悲惨だった。とても。
死んでないから敗北ではないなどと、どうして言えよう?
今死んでないのは、サラマンダーの力による結果ではない。
戦況はあの男に有利だった。
戦場からの離脱さえ、サラマンダーの意思と力によるものではない。
全てはあの男の巧妙な罠だった。
自分は負けた。完璧に負けた。
しかしその完璧さ故か、口惜しいという感情は然程でもない。
復讐心というものも、沸き上がってこない。
しかしそれでも……
自分がもう一度あの男と会いたがっていることにサラマンダーは気付いていた。
それはかつてジタンに抱いた感情に似ていたかもしれない。
あるいは、ジタンの死を知った心がその静かな喪失感を埋めるため探していた代替物に、
たまたまその男が選ばれてしまっただけかもしれない。
ただ、1つ言えることがあるとすれば、サラマンダーの中で鳴動するその衝動は、
男の言い放った「俺を巻き込むな」という言葉とは全く相反するものだということだ。
「スコール・レオンハート……」
新たな宿敵の出現に興奮を滲ませ、サラマンダーはその名を呟いた。
――何よりもまず、スコールを打ち倒す。
殺意とは少し異なった、闘志とでも呼ぶべき焔を心に灯し、サラマンダーは祠から歩み出た。
【サラマンダー(右肩・左大腿負傷、右上半身火傷、首元の傷は治療済み、MP2/5)
所持品:カプセルボール(ラリホー草粉)×1、各種解毒剤(あと2ビン) チョコボの怒り
第一行動方針:スコールを探す
基本行動方針:スコールと再戦し、倒す】
【現在位置:結界の祠北西付近】
33 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/08/21(木) 23:45:53 ID:5g4oMEkSO
新作乙。
サラマンダーは目先の明確な目標ができて奮起するかもな。
班長には気の毒だが頑張ってほしい。
位置的にはアーヴァインの方にも行ってもいいし、今後具体的にどう動くか期待。
ごめん、感想スレと誤爆…
しかも上げてるorz
始発点は浮遊大陸、ウルの村。
旅の扉の中、穏やかで安定した流れの中を9つの影が進んでいく。
細い線体に絡み、ほどけては上の方に流れていく。
青く、不規則に歪んだ空間。
9つといっても、そのうちの三つは人の背中で動かない。
そのうちの一つは、雲に乗って動かない。
よく見れば、さらにザックから顔を出す動物の姿も見える。
「相変わらず、最悪の乗り心地だな」
誰が呟いたか。確かに安定しているといっても、旅の扉は心地いいとは言えなかった。
慣れや体質によっては、酔ってしまうことすらあるし、目も疲れる。快適な旅とは程遠い。
言うなれば、古い船で海に漕ぎ出したような揺れ。
だが、この気分の悪さは酔いによるものだけではなく、
パーティに流れる陰鬱な空気のせいでもあるだろう。
こころなしか、以前に扉を潜ったときよりも青の成分が少なく思えるのは、気のせいか。
空間にところどころ白い塊が浮いているように見える。
ルカと一緒に飛び込んだ雲の一部がほつれているのだ。
自由に動き回り、離れたりくっついたり。風はなくとも流れはある。そういう空間。
青と白、その中にもう一つ、小さいながらも異質な黒色も見えた。
「……あれ、今なんか真っ黒い穴が開いてなかった?」
「穴? 旅の扉にですか? そんなはずは…。 !?」
青い光の渦の巻き方が変化し、渦の回りが速くなる。
穏やかな内海から外海へと漕ぎ出したような、そんな揺れ。
「随分荒れているな。怪我人を放すなよ。はぐれないように気を付けろ」
「ケッ、いちいちお前に言われなくても分かってる」
一同は身を固くし、有事に備える。一人、呪文を呟き始めるのがルカ。
扉に入る前に少し治療をしてもらったし、一応体力を回復できるという短剣も譲ってもらった。
もちろん、他者の命を吸収するという物騒な効果なので、そうそう使えるものではないが。
けれど、この揺れでは、回復してもらった分もパアになるかもしれない。
旅の扉から出た際に衝撃で指輪が爆発するかもしれない。
なのに、雲は流れが変わってますますほころんでしまう。
雲をもっと厚くして、うまい具合に衝撃を緩めないといけない。
だが、不穏に満ちていた空間内が、時化でも訪れたかのように荒れ狂う。
若干、青みに黒が混じってきているように思う。闇とも光とも形容しがたい黒が青に混じる。
海面近くから、深海へと進むように、水色から群青へ。
「おいおいなんだ、どうなってんだ?」
「分かりません、扉の中で何らかの異常が発生しているのかも!」
はぐれぬよう、一同は身を寄せ合う。
だが、ルカだけはそれに参加することはできない。入ってはいけない。
指輪の呪いは、体が傷付くことだけではない。仲間と共に動くことができないということ。
今更に実感させられたのだ。荒流に雲は流され、そしてみなの呼びかけには応じられない。
旅の扉や不思議なドアは、本来は固定された一点と一点を結ぶもの。
天井に結び付けられた糸から吊り下げられた針が地面に深く刺さって固定されているようなもの。
糸の部分に力を加えても、空間は乱れはしても行き着く先はまったく変わらない。
だから、不安定な旅の扉内で空間が乱れればどうなるかという知識はルカはもちろん、ソロにだってない。
この旅の扉は、天井から糸で吊り下げられた針が、風に吹かれてゆらゆら揺れているような感じ。
針の指すところが出口だとして、一瞬一瞬で針の指す先は違うし、
もし糸の部分に力が加えられれば、その先の針の揺れがみだれて、行き先もめちゃくちゃになる。
糸の部分が傷つけられたり、消耗させられればそれだけ揺れは大きくなる。
おしゃべりをしすぎただけで、はるか彼方に飛ばされることもある。
何もせずとも同時に飛び込んだメンバーがはぐれることすらある。
そもそも、旅の扉自体、大人数で一度に利用されることを想定されていない。
旅の扉に言わせれば、ただでさえ調子が悪いというのに、たった二時間弱の間に、
多大な魔力や魔方陣によって断続的に干渉され続けたり、行き先を無理に捻じ曲げられたり、
外部から流れの途中に侵入されたり、強力な破壊エネルギーを送り込まれたり、
大人数が移動中の際に呪文を使用されたりと、さんざん。乱れて当たり前なのだ。
揺れに翻弄されての爆発が先か、到着した際の衝撃による爆発が先か。
そもそも爆発したのかも認識できなかったが、気付けばそこはもう未知の世界だった。
やはりルカの周りには誰もいない。もしかしたら、接触しないほうがよかったのかもしれない。
ただ、ザックの中から姿を現した相棒の姿には、安心を覚える。一人ぼっちではない。
目の前に広がる新たな大地。
終着点は闇の世界、架け橋の塔の最上階。
【ルカ (HP1/15、あちこちに打撲傷)
所持品:ウインチェスター+マテリア(みやぶる)(あやつる) シルバートレイ 猛毒入りポーション
満月草 山彦草 雑草 説明書(草類はあるとしてもあと三種類) E:爆発の指輪(呪) オリハルコン
第一行動方針:サックスを追う
第一行動方針:テリーらと合流する
最終行動方針:生き延びて故郷に帰る】
【アンジェロ 所持品:風のローブ
基本行動方針:ルカについていき、その身を守り、戦う】
【現在位置:架け橋の塔最上階のつり橋の上】
39 :
希望の祠:2008/08/25(月) 00:55:07 ID:UHfOb5aE0
希望の祠。それは、闇の世界に唯一存在する聖地。
第二の地獄の帝王を打ち滅ぼすため、闇の世界へ赴いた勇者が最後に身を休めた地。
捻じ曲げられた進化から恋人を救い戻そうとしたエルフが最後に祈りを捧げた地。
とある歴史書にはそのように記されている。
「ここは……やはり希望の祠なのですね………」
肌に心地よい空気は、熱気に満ちた外界と隔絶されているかのよう。
誰の姿もないというのに玉座には未だに温かみが残る。
この世界は、魔女による偽りにすぎないというのに。
三枚の書と不思議な機械を見つめる。
ザンデにとって、ピサロにとって、今生き残っているすべての者にとっての希望。
「願わくは我が希望が成就せんことを…」
ひとしきり祈りを終え、祠の外へと歩み出す。
向かうはデスキャッスル。魔族の総本山。かつて勇者と、そして魔王と共に歩いた場所。
きっとあそこには何かがあるという、確信に近い思いがあった。
希望を胸に抱き、エルフは一歩ずつ足を進めていく。
希望の祠。それは、闇の世界に唯一存在する聖地。
邪悪な魔女による支配を解き放つ、その希望が降臨した地。
果たして、新たに記されることはあるのだろうか。
【ロザリー(ミニマム、プロテス、ヘイスト、リフレク)
所持品:守りのルビー、力のルビー、破壊の鏡、クラン・スピネル、E猫耳&しっぽアクセ ウィークメーカー
ルビスの剣 妖精の羽ペン 再研究メモ、研究メモ2(盗聴注意+アリーナ2の首輪について) 、ザンデのメモ、世界結界全集
第一行動方針:脱出のための仲間を探す[ザンデのメモを理解できる人、ウィークメーカー(機械)を理解できる人]
最終行動方針:ゲームからの脱出】
【現在位置:希望の祠】
※ザンデのメモには旅の扉の制御+干渉のための儀式及び操作が大体記してあります。
「あちぃ〜〜〜! 何スかここ! まるでサウナじゃないッスか!」
「サウナ? 何だそりゃ」
「えー?! サウナも知らないんスか?! えーと……そう、蒸し風呂! 蒸し風呂ッスよ」
「あー、そんなら分かるけどさ」
「へえ〜、虫のお風呂なんかあるんだ」
ティーダら一行が扉を抜けた先は、熱気に包まれた暗い森だった。
新たなステージに描き変えられた地図を広げ、現在地を確認する。
右手の方に黒い城郭と聳え立つ岩山が見える事から、ここは南東の森の中だと推測される。
「暑いのも無理ないですよ。あの山脈の向こうは溶岩の海ですからね。
しかも、ここは地中です。上は空ではなく、岩盤に映った溶岩の照り返しでしょう」
「へえ〜、プサンおじちゃん詳しいなあ」
「ふむ……以前に来た事でもあるのかね?」
「いえ、私は直接は……いえ、そんな噂をね、噂を聞いただけですよ」
余計な事を詮索される前に、プサンは慌てて誤魔化した。
「ティーダ、そんなに暑いなら……離れよっ、か?」
ユウナは不安げにティーダの顔を窺う。
扉をくぐった後も、ユウナはまだティーダに掴まったままだった。
「ん? ああ、いや……そんなんじゃないっつーの、気にすんなって」
バツの悪そうに俯くティーダに、ユウナの表情はやや和らぐ。
「大体、お前は騒ぎ過ぎなんだよ。暑いのは皆一緒なんだからな。
見ろ、テリーだって我慢してんだろーが」
「そうだよ、ティーダ兄ちゃんてばだらしないなあ」
「何だとお?! 素直だって言って欲しいよな、ユウナ……」
顔を上げたティーダが、ふと動きを止めた。
「どうしたの?」
その視線はユウナの顔、ではなく、彼女が手にした対人レーダーに注がれている。
「見ろよ! すぐ近くに誰かいる!」
「え?!」
慌ててユウナはレーダーを見直し、その光点を数える。
「1、2、3、4、5、6…………7……」
皆は息を潜め、周囲を見回した。
寄り固まった6つの他にもうひとつ、少々離れた所に光点がある。
と言っても、距離にすればほんの4、5mぐらいのものだろう。
だが、いくら眺めても辺りに人が居る様子はない。
ティーダに気を取られていたとはいえ、ユウナが気付かなかったのも無理はない。
「おかしいな……方向からしてあの辺だろ? 誰も居ないぜ?」
ロックが指差す方向には、ねじくれた大木が一本生えているだけだった。
しかし、光点が示しているのは、確かにその場所だった。
「ひょっとして木の上か?」
「あ! あれ!」
見上げると、反対側の太い枝に、何かが引っ掛かって揺れていた。
「人だ! 人がぶら下がってるよ!」
「まさか、く……首吊りぃ?!」
「んなわきゃねーだろ! 見ろよ! シワシワの爺さんだぜ!
早く降ろしてやんなきゃ本当に死んじまうぞ!」
どうやら危険はないと判断し、ロックとティーダは木によじ登り、老人を地面に下ろした。
********
「む……?」
「おお、御仁! 気付かれたか!」
意識を取り戻したクリムトに、しわがれた声が話し掛けた。
「……ここは?」
「どうやら、闇の世界と呼ばれる所らしい」
「ふむ……確かに、禍々しい空気に満ちておるのう」
辺りの様子を探るべく、クリムトは神経を集中した。
茹だるような熱い空気からして、風の強いカナーンとは異なる。
どういう経緯か定かではないが、気を失っている間に旅の扉をくぐったらしい。
「もしや、御仁は目が……」
「うむ、現のものは見えなくなってしもうた。だが、心の眼は開いておる」
「へえ〜、心にも目があるんだ」
そう言ったのは子供の声だった。他にも、何人かの気配を感じる。
「本当に目がある訳ではない、悟りを開き、見えざるものが見える、という事じゃ」
「ええっ? じゃあ爺さんは偉い人なんスか?」
「別に私が偉い訳ではない。年を降れば誰でも出来る事……
私はクリムトと申す者。御仁達は?」
「ワシはギードじゃ。かつては賢者と呼ばれておった」
先程のしわがれ声が聞こえた。確かに、醸し出される雰囲気は常人のものとは思えない。
「オレはテリー。モンスターマスターさ!」
「……ほう、テリーと申すか」
曇りのない子供の声だ。同じ名前の青年に感じた影は微塵もない。
「俺はロック。ロック=コールだ」
「俺はティーダっス!」
「私はプサンと申します」
若い元気な男の声に続く中年男の声に、ふとクリムトは違和感を感じた。
人間のようでもあり、そうでなくも感じる、不思議な感覚だった。
「私、ユウナ」
最後に、若い女の声。
「…………うむ。助けて頂き礼を言う」
もう一度皆に顔を巡らすと、クリムトは立ち上がろうとした。
「あ、あー、爺さん、無理すんなって!」
ふらつくクリムトを、慌ててティーダが支える。
「そうだよ! 眼が見えないんでしょ? ギード、乗せてあげてよ」
「しかし……」
「遠慮する事はない。じゃが、滑り落ちないよう注意するのじゃぞ」
クリムトはいくつかの手で、堅い岩のようなものの上へ担ぎ上げられた。
どうやら……ギードという賢者は、人間ではないらしい。
「御仁らは……何処へ向かうのじゃ?」
「取り合えず、あそこに行こうと思ってるッス」
「バカ、指差しても仕方ねーだろ。何かさ、デカい城があるんだよ。
町とかもなさそうだし、恐らく、皆あそこに集まるだろうって」
「成程……道理じゃな」
「よし、しゅっぱーつ!」
微かに揺れ動きながら、クリムトは一行が前へ進むのを感じた。
熱い、淀んだ空気が頬に流れていく。
「……城……魔王の城か……」
「でしょうねえ。余り良くない雰囲気ですよ」
クリムトの呟きに、すぐ横からプサンが答えた。
「集まるのは善人とは限らんが、留まっておる訳にもいかんのでのう。
魔王の城なら、魔力を司る場所があるやもしれん。
そのような場所を見付け、ワシとプサンは腰を据えて研究をするつもりじゃ」
「研究とは?」
「平和への錬金術、といったところですかね」
「御仁のような方にも手伝って頂けると有難いんじゃがのう」
「うむ……私のような者でよければ、力になろう」
錬金術は、闇の混沌から光り輝く黄金を作り出すもの。
恐らく、ギードとプサンは自分と志を同じくする者だろう。
彼らと共に救い出せるかもしれない。
多くの善人を。迷える者を。悪人ですらも。
心の眼で、クリムトは前を見据える。
救わねばならない、ユウナと名乗った若い娘を……
その心中に宿る、黒い闇の気配から。
【プサン 所持品:錬金釜、隼の剣 (左肩銃創)
第一行動方針:首輪の解析を依頼する/ドラゴンオーブを探す
第二行動方針:アーヴァインが心配
基本行動方針:仲間を探しつつ人助け】
【ギード(HP2/5、残MP1/3ほど)
所持品:首輪
第一行動方針:ルカとの合流/首輪の研究
第二行動方針:アーヴァインが心配】
【クリムト(失明、HP1/5、MP1/4、守備力25%UP) 所持品:なし
第一行動方針:ユウナを注視する
基本行動方針:誰も殺さない。
最終行動方針:出来る限り多くの者を脱出させる】
【テリー(DQM)(右肩負傷(9割回復)
所持品:突撃ラッパ シャナクの巻物 樫の杖 りゅうのうろこ×3 鋼鉄の剣 雷鳴の剣 スナイパーアイ 包丁(FF4)
第一行動方針:ルカを探す
第二行動方針:アーヴァインが心配】
【ロック (左足負傷、MP2/3)
所持品:キューソネコカミ クリスタルソード 魔石バハムート 皆伝の証、かわのたて
魔封じの杖、死者の指輪、ひきよせの杖[0]、レッドキャップ、ファイアビュート、2000ギル
第一行動方針:ピサロ達、リルム達と合流する/ケフカとザンデ(+ピサロ)を警戒
第二行動方針:アーヴァインが心配
基本行動方針:生き抜いて、このゲームの目的を知る】
【ティーダ(変装中@シーフもどき)
所持品:フラタニティ 青銅の盾 首輪 ケフカのメモ 着替え用の服(数着) 自分の服 リノアのネックレス
第一行動方針:アーヴァインを探す
基本行動方針:仲間を探しつつ人助け/アルティミシアを倒す】
【ユウナ(ガンナー、MP1/3)(ティーダ依存症)
所持品:銀玉鉄砲(FF7)、やまびこの帽子、官能小説2冊、 対人レーダー
天空の鎧、ラミアの竪琴、血のついたお鍋、ライトブリンガー、ブリザド
第一行動方針:あわよくば邪魔なギードとアーヴァインをティーダに悟られないように葬る
基本行動方針:脱出の可能性を密かに潰し、ティーダを優勝させる】
【共通行動方針:デスキャッスルへ向かう】
【現在位置:南東の森】
5レス目
「御仁らは……何処へ向かうのじゃ?」 →「そなたらは……何処へ向かうのだ?」
「成程……道理じゃな」→「成程……道理だな」
寝ぼけて口調間違えてたよスマソorz
よろしくお願いします。
48 :
世界への期待:2008/08/26(火) 02:00:09 ID:+Zre01Kz0
デスマウンテン。
闇の世界の中央に位置し、禍々しい力を一身に受ける魔の総本山。
憎しみのあまりに、究極の進化を遂げた魔王が生まれた地。
その者に変わり、今この玉座に鎮座するのは究極の進化を求める者……セフィロス。
セフィロスは、ラムザとリルムを取り逃がしたにも関わらず、上機嫌だった。
この、どこまでも闇に覆われた世界。
辺りに散らばる骨は明らかに通常の進化から外れたものの成れの果て。
よもや、この世界には求める力のヒントが隠されているのではないか、と。
地図を見れば、その推測がさらに強固なものに変わる。
この山を中心にした、明らかに対称を為している島。その四方に位置する祠。
この配置に意味がないとは到底思えない。
なんらかのエネルギーをこの山に送り込むのが四方の祠なのだろう。
となれば、中央の城や祠はその研究所・制御施設ではないか。
口元から、思わず笑みがこぼれる。
もちろん、過度な期待は禁物なのだが、否が応でも期待は膨らむ。
調べてみる価値はある。もし推測が正しければ、それだけ力の完成に近付くのだから。
そうとなれば、行動は早いほうがいい。
大きな期待を内に秘め、セフィロスは山を駆け下りていった。
【セフィロス
所持品:村正 ふういんマテリア いかづちの杖 奇跡の剣 いばらの冠 プレデターエッジ
基本行動方針:黒マテリア、精神を弱体させる物を探す
第一行動方針:デスキャッスルに向かい、闇について調べる
最終行動方針:生き残り力を得る】
【現在位置:デスマウンテン】
「なんだったんだ、今のは……?」
最初に口を開いたのはバッツだった。
背負っていたヘンリーを下ろすと、吐き気を催したように膝に手をついて屈む。
そしてもう一度、同じ台詞を繰り返した。
「なんだったんだ、今のは?」
ソロも同じようにしてスコールを下ろすと、
先程出会ったばかりの少年がいないことに気がつく。
「はぐれてしまったようですね……」と溜め息をついた。
心配ではあるが、彼は子供ながらにモンスターマスターと名乗っていた。
ただの子供ではない。大丈夫だ、と自分に言い聞かす。
リュックの方とは言えばやはり不安気な面持ちで
「なんだったんだろねアレ?」と呟いている。
それに反射的に「知るか」と答えながら、スコールは眉間に皺を寄せた。
頭の中では「アレ」の原因を目まぐるしく考えている。
しかし、「おいっ!」とサイファーが思考を遮った。
「おいっ、イザの妹もいねえぞ!?」
漫画だったら、全員の頭上に大きな雲のような吹き出しが浮かび上がったろう。
一同は同時に思った。
(あっ、やばい)
++++++
少し気を失っていたようだ。
ターニアは地面の硬い感触で目を覚ました。
周囲を窺ってみるが、誰もいない。
まだ昼間のはずなのに辺りは薄暗く、一人ぼっちであることに強く不安を感じた。
(もしかして、見捨てられた?)
そう思ったのは不信感からか、劣等感からか。
しかしターニアはすぐにかぶりを振った。
あの時誰かが、はぐれないように気をつけろと言っていたのを覚えている。
いけないのは自分だ。
ターニアはあの異様な状況の中、
恐怖で足が竦んでリュック達から少し離れてしまったのだ。
ターニアはたしかに歴戦の戦士達ほどのタフさはないが、
それでも自分の臆病を人のせいにするほど落ちぶれてはいない。
しかし……
不意に目の前に少女が現れた。
闇の海底から浮かびあがってきたかのような、唐突で静かな現れ方だった。
自分よりもおそらく年下の、小さな女の子。
それなのにターニアは何故か、その場から逃げ出したい衝動に駆られた。
緊張でからからに渇いた咽を震わせ、ターニアはどうにか声を押し出した。
「「あなたは誰?」」
図らずも相手と声が重なった。
暗い森の中、2人の少女が遭遇した。
【サイファー(右足軽傷)
所持品:破邪の剣、G.F.ケルベロス(召喚不能) 白マテリア 正宗 ケフカのメモ ひそひ草
マッシュの支給品袋(ナイトオブタマネギ(レベル3) モップ(FF7) バーバラの首輪)
レオの支給品袋(アルテマソード 鉄の盾 果物ナイフ 君主の聖衣 鍛冶セット 光の鎧)
スコールの支給品袋(吹雪の剣、ガイアの剣、ビームライフル、セイブ・ザ・クイーン(FF8)
貴族の服、オリハルコン(FF3)、炎のリング)】
第一行動方針:休める場所を探す?
第二行動方針:はぐれた仲間、協力者を探す/ロザリーと合流
基本行動方針:マーダーの撃破(セフィロス、アリーナ、サックス優先)
最終行動方針:ゲームからの脱出】
【マッシュ(気絶、重症、右腕欠損) 所持品:なし】
第一行動方針:―
第二行動方針:アーヴァインと緑髪(緑のバンダナ)の男、及びエドガーを探す
第三行動方針:ゲームを止める】
【ソロ(HP3/5 魔力少量)
所持品:ラミアスの剣(天空の剣) 天空の盾 さざなみの剣
ジ・アベンジャー(爪) 水のリング 天空の兜
第一行動方針:休める場所を探す?
第二行動方針:はぐれた仲間を探す
基本行動方針:PKK含むこれ以上の殺人を防ぐ+仲間を探す
※但し、真剣勝負が必要になる局面が来た場合の事は覚悟しつつあり】
【スコール (HP2/3、全身に浅い切り傷、軽度の毒状態、疲労)
所持品:ライオンハート ひそひ草 エアナイフ
G.F.カーバンクル(召喚○、コマンドアビリティ×、HP2/5)、G.F.パンデモニウム(召喚×)
第一行動方針:治療、休息
第二行動方針:はぐれた仲間を探す
第三行動方針:アーヴァインと緑髪(緑のバンダナ)の男を探す/緑髪を警戒/サックスを警戒
基本行動方針:ゲームを止める】
【リュック(パラディン)
所持品:メタルキングの剣 ロトの盾 刃の鎧 クリスタルの小手 ドレスフィア(パラディン)
チキンナイフ マジカルスカート ロトの剣
第一行動方針:休める場所を探す?
第二行動方針:はぐれた仲間を探す
基本行動方針:テリーとリュックの仲間(ユウナ優先)を探す
最終行動方針:アルティミシアを倒す】
【バッツ(HP3/5 左足負傷、魔力微量、アビリティ:白魔法)
所持品:アポロンのハープ アイスブランド うさぎのしっぽ 静寂の玉 ティナの魔石(崩壊寸前)
第一行動方針:休める場所を探す?
第二行動方針:スコールらの治療
基本行動方針:『みんな』で生き残る、誰も死なせない】
【ヘンリー(気絶、後頭部にコブ)
所持品:アラームピアス(対人) リフレクトリング バリアントナイフ 銀のフォーク
キラーボウ、グレートソード、デスペナルティ、ナイフ
第一行動方針:???
基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】
【現在位置:南東の平原】
【ターニア(血と銃口への恐怖、完治していない 僅かに人間不信,不安)
所持品:スタングレネード×4 ちょこザイナ&ちょこソナー
第一行動方針:目の前の少女に?
第二行動方針:リュック達と合流したい】
【タバサ(HP2/3程度 怪我はほぼ回復)
所持品:E:普通の服、E:雷の指輪、ストロスの杖、キノコ図鑑、
悟りの書、服数着 、魔石ミドガルズオルム(召喚不可)
第一行動方針:目の前の少女に?
基本行動方針:ビアンカとレックスを探す
※リュカとピエールと共に二人を探しているというストーリーを組み立てました。】
【現在位置:北東の森】
訂正
>>51のサイファーの所持品、スコールの支給品袋の中から
オリハルコン(FF3)の削除をお願いします。
「――っ!」
旅の扉に入った途端、ぐるりと周りの景色が暗転する。
めまいにも似た感覚のあと新たな戦いの舞台の地に立っていた。
ザックスは自分の五感を確認するとその場で身を低くして近くに生えている木の根元に滑り込んだ。
息を潜める。気配を完全に消して、周囲の様子を伺う。
ここはどこだ?やけに薄暗い。もうこの世界はすでに夜なのだろうか。
やがて近くに誰の気配もないことを確認すると
それまで張り詰めていた緊張が少しとけ、一気に汗が噴き出したのが判った。
「――ふう」
思わず漏らしたため息のあと、ザックスはあることに気づき口元に手をやる。
「…口が使える」
浮遊大陸でのピエールとの戦い以後、口を使う行為全てを封じられていたがどうやらその効果は切れたようだ。
そのせいだろうか、ふいに襲ってきた脱力感の後、頭に思い浮かんだのは浮遊大陸にいた最期の記憶。
人を信じることを拒絶したギルガメッシュの瞳。
内部から爆ぜ燃えるアルスの身体。
屈託なく子供らしく笑う金髪の少女の顔…。
あの少女が二人を殺した。
笑顔で自分たちに近づき欺いた。
許さない、絶対に。必ずあの少女を殺してやる。
いや、もしかしたらあいつを先に殺すのは他の参加者だろうか。
それならそれでいい。あいつだけが敵じゃない。
自分が殺るべき奴は他にもいる。このゲームの黒幕を必ず根こそぎに──。
そう、そんな風にいっそ狂えてしまったら楽なのに。
そんな考えさえよぎってしまう。
しかし、それは許されなかった。
背中に背負うバスターソードが、それを許さなかった。
──夢を抱きしめろ
それは師であり友であった男の言葉。
──誇りを忘れるな
それは遠い昔に、心に刻んだこと。
その志を持ってなったソルジャークラス1st。
でも、そこは思い描いていたものては必ずしもなくて。
そこまで思いをめぐらせた所で、ある事にふと気付く。
すっと指を滑らせた。
痛みが無いために ── 傷口の発熱による熱さならあるが ──
ほとんど忘れかけていた肩の傷を今更ながらに見やる。
凝固しかけていた血がソルジャー1stの証である黒の戦闘服に同化して、赤黒く滲んでいた。
「痛覚って大事だな」
ふと、当たり前のことを思う。
痛みがあるから人は臆病になる。
痛みが死に対する恐れを抱かせ、向こう見ずな行動に出ることを抑制している。
そしてゲームを壊すと言う目的。
それを思う事でザックスの脳は冷静な思考と生き残る為の思考を再開する。
「まずは…」
グゥ〜──
唐突にお腹が鳴った。
そういえば時間にして一昨日の朝以来、
アリアハン北部を発つ前にパンを齧ってから食べ物はおろか水すら摂取していない。
本来ならば一日二日位絶食したところでなんてことはない身体をしているが、
この異常な緊張感の中にあっては想像以上にエネルギーを消費しているようだった。
「…腹が減ってはなんとやら、か」
ひとまず、この場で小休止することにした。
ザックから支給品のパンを取り出して一口齧った。
よほど空腹だったのか、思いのほか美味しかった。
【ザックス(HP3/8程度、左肩に矢傷、右足負傷、一時的に耐性減)
所持品:バスターソード 風魔手裏剣(16) ドリル ラグナロク 官能小説一冊 厚底サンダル 種子島銃 デジタルカメラ
デジタルカメラ用予備電池×3 ミスリルアクス りゅうのうろこ
第一行動方針:休憩がてら空腹を満たす
第二行動方針:金髪の少女(タバサ)を始末
基本行動方針:同志を集める
最終行動方針:ゲームを潰す】
【現在位置:北西の森】
保守
九月最初の保守
60 :
疼き 1/3:2008/09/03(水) 03:20:06 ID:nHob1IA00
サックスは重い、疲れた気分で歩いていた。
彼とエリアの現在地は平原地帯。
見晴らしが良すぎるため、前方に暗くそびえる森を目指している。
サックスの右手は羨ましいことに同伴者・エリアの左手と繋がれており、
傍目には場違いに呑気なカップルのようにも見えるが、
実際のところそれは「逃げないように」と笑顔で、それでいて強引にされたことだった。
そのため今の彼からしたらエリアの温かい掌や細い指先も、
囚人にかけられた手錠とさして違いがない。
サックスは彼女の手に先導され、いささか自棄気味に足を進める。
――どこで間違えてしまったんだろう?
サックスはふとそう思い、
思った次の瞬間には、そんな自分を嘲笑った。
どこで間違えたかだって?
お前は間違えなかったことの方が少ないじゃないか。
フルートを守れず、レオンハルトの綺麗言にほだされ利用され、
殺し合いに乗っても小さな子供さえ仕留め損ない……。
61 :
疼き 2/3:2008/09/03(水) 03:22:23 ID:nHob1IA00
――その程度で本当に優勝できると思っているのか?
頭の中で、スコールの声が言った。
それは空想ではなく、記憶の中そのままに投げられた辛辣な言葉。
その台詞がサックスの注意を引くためのただの挑発だったのか、
それともスコールなりの回りくどい説得という面もあったのか、
真相は当人以外の者には知る由もない。
しかし言われたサックスからすれば、それはまさしく正しい「批評」だった。
判断の甘さ。つめの甘さ。戦闘力の不足……。
――その程度で本当に優勝できると思っているのか?
スコールの声が、もう一度言った。
それはギルダーの声のようにも聞こえた。
あるいはサラマンダーの、ルカの、レオンハルトの、ゼルの……。
サックスは全てを拒むかのように目を瞑ると、彼らのその声に小さく反駁する。
――じゃあ、どの程度なら優勝できるんです?
――例えば、目の前にいる彼女を……
62 :
疼き 3/3:2008/09/03(水) 03:24:20 ID:nHob1IA00
そこで不意に、エリアが立ち止まった。
心が読み取られたような気がしてサックスは一瞬動揺するが、
勿論そんなはずはなく、突然の停止の理由は別にあった。
つい先程まで誰もいなかったはずの場所。
そこに、一人の男が忽然と現れていた。
……カイン=ハイウィンドが、立っていた。
先日遭遇した、”やる気”になっている男。
サックスは彼を見て、左肩の傷が疼き始めるのを感じた。
【エリア(体力消耗、下半身の怪我は回復気味)
所持品:スパス スタングレネード 水鏡の盾 ねこの手ラケット ビーナスゴスペル+マテリア(スピード)
天使のレオタード 拡声器 ポーション
第一行動方針:サックスに注意しつつ現状に対処
第二行動方針:サックスから離れない
第三行動方針:内から少しずつサックスを矯正する
基本行動方針:サックスより先に死なない/サックスに殺させない/サックスを捕らえさえない】
【サックス (HP7/10、微度の毒状態、左肩負傷。後頭部にコブ)
所持品:スノーマフラー
第二行動方針:カインに対処
第一行動方針:成り行きに任せる、エリアのことは先延ばし
最終行動方針:優勝して、現実を無かった事にする】
【カイン(HP1/5、左肩負傷、肉体疲労、精神的に極度に疲労)
所持品:ランスオブカイン、ミスリルの篭手 プロテクトリング レオの顔写真の紙切れ ドラゴンオーブ
ミスリルシールド
第一行動方針:この場を切り抜ける
最終行動方針:殺人者となり、ゲームに勝つ】
【現在位置:南の平原】
『ようこそ、デスキャッスルへ。
このポーションはサービスだから、まず飲んで落ち着いて欲しい。
うん、賢者の石はないんだ。済まない。
仏の顔もって言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない。
でも、バリアを超え、探り当てた隠し通路の先でこの宝箱を見たとき、
君は、きっと言葉では言い表せない「ときめき」みたいなものを感じてくれたと思う。
殺伐とした世界で、そういう気持ちを忘れないで欲しい、そう思って偉い人に内緒で仕込んだんだ。
じゃあ、回復したところで殺し合いを続けてもらおうか』
「……ふざけてるのかッ!」
俺は読んでいたメモをぐるぐると丸め、全力で放り投げる。
バリアも、隠し通路も、賢者の石とやらも、知ったこっちゃない。
旅の扉を潜り抜けて降り立った場所がこのテラスで、目の前に宝箱があった、それだけのこと。
けれども、丸めたメモの内容が自分をおちょくるものであるということだけは理解できた。
ポーションはひとまずザックに仕舞い、空っぽになった宝箱を蹴り飛ばしてから、城の中に入る。
石造りの城内は薄ら寒く、どんよりとした空気で満ち溢れていたが、苛立ちを鎮めるほどの力はなかった。
階段を上がり、幾つかの扉が並ぶ通路を通り、また階段を上る。
扉の中が気にならないわけじゃあないが、まずは出入り口を見つけないとマズい。
出会い頭に殺人者と出会った場合や、城そのものが崩れかかるほどの極大魔法を使われた場合。
そういう時に逃げ道を知っているのと知らないのとでは、生存率に大きな差が出てくる。
だから俺は、とりあえず道なりに歩き続けた。
「……ん?」
けれど、すぐに行き止まりに突き当たる。
周囲を見回すと、通路の途中に、不自然に壁が途切れている場所があった。
そちらに行ってみると、ちょうど人一人が通れそうな隙間を、何かの石像の後姿が塞いでいる。
「なるほどな。隠し通路、か」
石像につけられていた取っ手を掴み、横にスライドさせる。
どういう仕組みになっているのか、石像は引き摺る痕跡すら残さず、滑らかに移動した。
(知らなければ見つけられないってワケか……って、像の並びがあからさまにおかしいぞ。
相当のアホだな、この城を作った奴は)
そう思いながら、一歩二歩と足を進めた、その時だった。
バチィッ!!
「―-―ッ!???」
突如、痺れるような痛みが全身を駆け抜ける。
下り階段は目の前だったが、反射的に後ろに逃げてしまった。
バリア、という単語が頭を掠めたのは数秒後だ。
よく見ると、階段を取り囲むように床の色が違っている場所があった。
水晶のような輝きを放つそのタイルから、何がしかの魔力が放たれていることは間違いない。
「くそっ!」
石像を元に戻し、俺はその場にへたりこむ。
たった一歩踏み込んだだけでも、低レベルの魔導師が使うサンダーぐらいのダメージを受けた。
迂闊にあのバリアの上を歩き回れば、いずれは屈強な戦士だって力尽きてしまうだろう。
途中で見た小部屋のどこかに、バリアを中和する道具か、発生装置そのものがあるのかもしれないが……
万が一、やる気の奴と鉢合わせになったら厄介だ。少し休んでからにしよう。
――
二、三十分ほど休息に費やしただろうか。
それなりに回復した俺は、階段を駆け下り、通路に出た。
すると――最初に見た時は全て閉じていたはずの扉が、一つだけ開いていた。
誰かいるのか、と思う間もなく、白魔導師姿の男が出てくる。
男は俺に気づいた様子もなく、そのまま反対側の壁際に歩み寄り、片手をついて寄りかかった。
何故か、肩が小刻みに震えている。
「……っ……っっくっく…………く……っ」
一体何があったというのか。問い質すべきか隠れるべきか。
そんなことを悩んでいる間に、男はいきなり、大声で笑い出した。
「ぎゃーーーーっはっはははははは……!! ダメ、もーだめ、我慢できないよ!
有り得ねー……ひひっ、ひゃはははー! あいつ、人望なさすぎだって!」
どんどんと壁を叩き、狂ったように嘲笑を続ける。
「公私混同とか色ボケとかKYとかヌケサクとか! 本当のこと書いちゃ可哀想だから!!
ていうか研究記録なのに落書きの方が多いし! 記録とみせかけてえっちい本まで混じってるし!
部下も酷いけど、こんなん気づかないとかどんだけ足元お留守にしてたんだよ!」
「………」
「あー……笑い死にそう。
女勇者は、まー別人っぽいし、アリかなって感じだけど、女魔王のですぴーちゃんとか…誰が考えたんだよ。
これは絶対にソロに見せないと……くくく」
「………」
何がそんなに面白いのかさっぱり理解できないが、幾つかわかることがある。
こいつがバカだってことと、バカと関わると確実に不愉快になれるってことだ。
俺はこの場を離れようと思い出した矢先、男が不意に面を上げた。
「あれ?」
野郎は間抜けな声を上げ、俺を見つめる。
「えーと……ねえ、いつからそこにいたの?」
「たった今だ」
しれっと答えてやると、男は左手で胸を撫で下ろした。
「あー良かった。ピサロにチクられたらどーしようかと思った」
「……ピサロだと?」
あまり聞きたくなかった名前だった。
何せ散々焚き付け煽った挙句、戦場に取り残してきた相手だ。
単独で会えば、それこそ逆上されて切られかねない。
「ああ、怪我してたから、ちょっと手当てしてこの部屋に寝かしてるんだ。
知り合いなら起こしてくるけど」
「ふざけんな!」
冗談じゃない、という思いが、反射的に叫び声を出させた。
しかし、一時間前の激戦を知らない男は、怪訝そうな表情を浮かべるばかりだ。
「……ま、重傷だから、無理させない方がいいかな。
それよりさ。互いに乗る気がないなら、他の部屋で情報交換でもしない?」
こんなバカに交換できるような情報があるのか。
そんな考えが過ぎったが、しかし、意外な奴が意外な情報を握っていることもあると思い直す。
「いいだろう。情報は多い方がいいからな」
まともな情報ならな、と心の中で付け加えながら答えると、男はにかっと笑った。
「話が早くて助かるよ〜。
警戒心バリバリの人って多いからさ。僕もだけど」
殺し合いの最中にいきなり爆笑し出す間抜けのどこに警戒心があるのか、俺には全くわからないが。
「じゃ、とりあえず向こうの部屋に移動しよう。
本棚ばっかりで狭苦しいけど、椅子、二個あったし」
男は二つ隣の扉を指し示す。
狭い場所はあまり好きではないが、贅沢は言っていられない。俺は「わかった」と頷いた。
それから俺たちは、互いに名乗り、これまでの経緯を端的に話した。
男の、アーヴァインという名前にはどこか聞き覚えがあったが……
思い出せないってことは、大して重要なことでもないんだろう。
「なんだ。あの亀、お前と一緒にいたのか。
ちっとは研究とやらも進んだのか?」
「まーね。僕にはわかんないけど、それなりにやってるみたいだよ。
エドガーが生きていたら、もーちょっと形に残る成果が出せたかもしれないけどね」
「チッ。どこのバカだか知らないが、余計なことをしてくれたもんだぜ」
参加者リストをめくり、奴と行動していたという七人の名前に○をつけながら、言葉を交わす。
「バカとか言うなって。殺した人にだって理由があるもんさ」
ふん、偽善者ぶったこと言いやがって。
「理由があれば許されるのか? それに、まるで犯人を知ってるような口ぶりじゃないか」
「うわー、キッツいなあ。サイファーみたい」
「あんな野郎と一緒にするなッ!」
苛立ち紛れに横の本棚を殴りつけると、アーヴァインは「怖いなあ」と言って身を引いた。
不愉快だ。全く以って不愉快だ。
多少の収穫はあったといえ、正直、とっとと話を打ち切りたくなってきた。
「お前みたいな偽善者のアマちゃんがどうして生き延びてこられたのか、不思議でたまらないね」
「偽善者? アマちゃん? 僕が?」
アーヴァインはきょとんとした表情で首を傾げた。
自覚がないとはタチが悪い。いや、自覚がないからタチが悪いのか。
「あの凶暴な銀髪が死にかけてたのに、わざわざ手間暇かけて助けたとかな。
そういうのが偽善だってんだよ」
俺が言うと、アーヴァインは心外だと言わんばかりに口を尖らせる。
「ギブアンドテイクを実行……いや、どっちかっていうとテイクしただけだけどさ。
そんなにピサロが嫌いなのかい、あんた」
「当たり前だ! いきなり殴りかかってくるわイザは殺されるわ……
ってさっきも話しただろうがよ! 人の話はちゃんと聞け!」
「わかった、わかったってば。
もー、そこまで言うなら殺してくればいいじゃんか」
「ふざけ……」
ふざけるな、と言おうとして、俺は言葉を失った。
この、目の前でむくれている男は、今、なんと言ったのだ?
「護衛兼仲介役なんてさ、別にピサロじゃなくてもいいんだ。
僕がしたの、包帯で傷口巻いただけだし。
重傷なのは変わってないから、簡単に殺せるよ」
どこかで見たような眼差しをこちらに向けて、アーヴァインは言葉を続ける。
激情や狂気など一片も見せず、ただ、普通の世間話をするように。
「あんた、剣持ってるんだしさ〜。
手でも足でも顔でも好きなだけ切り刻んで、心臓でも脳みそでもはらわたでも抉れるだろ〜よ」
……ああ、そうか。カマをかけているつもりなんだ、こいつは。
俺が危険な存在かどうか見極めるために、煽っているだけだ。
そうでもなければ、こんな涼しい顔で、人を殺せなどと口にできるものか。
「ぐっちゃぐちゃになるまで弄り倒して壊してくりゃいーじゃん。
人間、好きなことをするのが一番さ。止めるほど野暮じゃないよ、僕は」
……だが、それでも、胸糞の悪さはぬぐえない。
動けない相手を嬲り、虐殺する。それは最早、生きるためではなく、快楽のための行動だ。
殺人への嫌悪感がなくとも、普通の神経の持ち主なら、多少なりとも吐き気を覚えるだろう。
ましてや、そんな行動を"好きなこと"と表現したり容認したりはしない。
目の前の相手に、得体の知れない恐怖を抱きかけた、その時だった。
「――ってね、悪ふざけしすぎたかな〜。ジョーダンだよ、ジョーダン!」
声音を変えながら、アーヴァインは道化じみた仕草で、俺の肩をバンバンと叩いた。
「ピサロさんは僕の命の恩人の知り合いだからね。
見殺しにしたら、ソロに怒られちゃうんだよ〜」
「………」
半ば予想していた言葉を聴かされても、あまり安心できない。
こいつの本性は、本当に偽善者のアマちゃんなのか。
薄ら寒さに、ここから立ち去った方がいいんじゃないか、そんなことを考え出した矢先――アーヴァインが問いかけてきた。
「ところでさ。あんた、どっか別の場所に行ったりする予定とかあるの?」
聞かれるまでもない、ピサロもいれば、こいつみたいな正体不明の輩もいる。
そんな場所にいつまでも長居するつもりはない。
「ああ」
自分の荷物を手元に寄せながら短く答える。
「それならさ、三つばかりお願いがあるんだけど、聞いてくれない?」
アーヴァインの言葉に、俺はしばし考えを巡らせた後、首を縦に振った。
もしかしたらこちらの利益に繋がるかもしれないし、文字通り"話を聞くだけ"ならタダみたいなものだ。
アーヴァインはぺらぺらと参加者リストを捲り、何人かを指し示しながら、話し出した。
「スコールと……どうしようかなあ、あんまり会いたくないけど、リノアの話も聞きたいから、サイファーも入れとこ。
二人に会ったら、僕がこの辺りにいるって伝えてほしいんだ。
あ、あとついでにロザリーってヒトにもね。どうせピサロさん、しばらく動けないだろうし。
うーん、僕ってやさしーなー」
腕を組んで自分で頷いてりゃ世話が無い。
「んで、ティーダとユウナとテリーとギードとプサンとロック、あとリルムに会ったら、
僕は城じゃなくて別の場所にいるって伝えてほしいんだ。
今はあんまり、顔会わせたくないから」
「わかったわかった。スコール、サイファー、ロザリーに会ったら本当のことを伝えて、
ティーダ、ユウナ、テリー、ギード、プサン、ロック、リルム、この七人には嘘を言えばいいんだな」
話を聞いているというポーズを見せるために、確認を取ってみる。
アーヴァインは満足そうに頷いてから、急に神妙な表情を浮かべて、最後の頼みとやらを口にした。
「そーそー、んで……これは、一人以外は絶対に聞かさないでね。
リュックってヒトに会ったら伝えて欲しいんだ。
ユウナは殺し合いに乗ったみたいだ。エドガーを殺したのも、たぶん、彼女だって」
「……は?」
寝耳に水だった。さっき、奴と行動していたからと言って、○をつけたばかりの女。
それが、首輪を研究していたという男を殺した、とは……
「ほ、本当なのか!?」
俺がくってかかると、アーヴァインは寂しげに目を伏せた。
「エドガーはゲームの破壊を望んでいた。
彼と最後に同行したのはユウナで、彼女にはエドガーを殺す動機がある。
……あの、黒いもや……アレはきっと、そういうことなんだ」
最後の言葉の意味はわからない。
だが、何らかの理由で確信を持っていることは間違いなさそうだ。
しかし、それならば――
「そういう情報は他の連中と共有しないと無意味だろ。
黙ってる間に被害が広がったらどうするんだ?
次にそいつに殺されるのは、大事なお仲間かもしれないぞ?」
俺がそう言うと、アーヴァインは大きく息を吐いて、「まー、確かにね」と呟いた。
「正直、ユウナがどんどん先走っちゃったらどうしようって、不安にならなくもないよ。
でも……殺られる前に殺れってヒト、結構いそうだろ?
ユウナや、彼女を信じてる人の身に何かあったら、って思うとね。
リュックって人は、ユウナの従姉妹だっていうから……上手くやってくれるんじゃないかって」
「……偽善者め」
仲間さえ良ければいい、殺された奴やその身内の感情などどうでもいい。
アリーナを庇っていた連中と同レベルの考え方だ。反吐が出る。
「わかってるよ。あんたの言うことが正しいってことぐらい。
だから……このことは、あんたのしたいようにしていいさ」
言われるまでもない。元より、こいつの頼みをバカ正直に聞いてやる義理なんざないんだ。
できるだけ多くの人間に広めてやるさ。脱出の鍵を潰して回る女がいるってな。
顔を伏せるアーヴァインを尻目に、俺は荷物を引っつかんで立ち上がる。
部屋を出ようと、ドアのノブに手をかけた時、奴は思い出したように問いかけてきた。
「そういえば。あんた、朝ご飯とかもう食べたの?」
「だからお前……人の話聞いてないだろッ!? そんな暇があるか!」
朝方にカナーンで起きたことは、それなりに説明している。カインとの同盟は流石に隠したが。
「ごめんごめん。で、目玉焼きとか、好き?」
「別に嫌いじゃないが……こんな場所に卵なんてあるのか?」
アーヴァインは「そう」と呟くと、折れているという右腕をぶらぶらさせながら立ち上がった。
左手には何も握られていない。完全に丸腰だ。殺気も感じない。
「卵っていうか……まあ、似たようなもんじゃないかな」
隣の部屋から持ってくる、そんな雰囲気のまま、奴は扉の――俺の傍へと歩み寄り。
俺の肩を、もう一度だけ、ぽん、と叩いた。
何をするつもりか計りかねた俺は、アーヴァインに顔を向ける。
その視界の左半分を、奴の手が覆っていることに気づいたのは、どうしようもなく不快な感覚と激痛が走った後だった。
骨と肉の隙間に指が潜り込み、ブチィっと濡れた音が頭蓋に直接響く。
さらに悲鳴を上げようと口を開けた瞬間、奴は、何かを掴んだその左手を押し当てた。
舌の上に転がり込んできた、丸みを帯びた、硬いゼリーのようなもの。
それが何なのか、理解したくなかった。けれど、わかってしまった。
「あ、ごめん。焼くの忘れちゃった」
やたらと狭くなった視界の向こうで、先ほどまでと何ら変らない調子で微笑む、男の声が聞こえたせいで。
口を塞がれたまま、壁に押し付けられる。
剣を抜くとか、折れた腕を狙って蹴るとか、振りほどいて逃げるとか、そういう考えは情けないぐらいに綺麗さっぱり吹っ飛んでいた。
「僕さあ。まだ、ティーダのこともユウナのことも好きなんだよ。
もう一度同じ道を行けるかどうかわかんないし、もしかしたら僕の手で殺す時が来るのかもしんないけど。
でも、二人には幸せになってほしいし、無理ならせめて仲直りくらいしてほしいんだ」
青い瞳に射竦められ、俺は身を硬くする。
どこかで見た眼差し。その"どこか"を、今になってやっと思い出した。
あの日、金髪の女を笑いながら切り刻んでいた"化物"――目の前の男は、そいつと同じ目をしていた。
「僕は魔女じゃないから、あんたの行動を止める力なんてないもんね。
いいよ。あんたがしたいように、関係ない奴にまでベラベラ喋っても。
でも、それで二人の身に何かあったら、僕は許さないから」
込み上げる吐き気を後押しするように、アーヴァインの膝が鳩尾に食い込んだ。
胃酸が咽を焼きながら逆流してくる。
「最初に手足折って、咽潰してから、思いつく手段全部使って痛めつけるよ。
歯は全部折るし、残った目も針刺すよ。身体は死なない程度に、切ったり潰したりするから。
そんで殺してくださいお願いしますって大声で叫ぶまで、絶対にラクになんかしてやんないから」
無茶苦茶なことを並べ立て――だが、この"化物"は、その時が来れば全てを実行してみせるのだろう。
顔を何かが伝う。それが血なのか涙なのか、判別するだけの思考さえ、今の俺には残されていなかった。
早くここから逃げたかった。殺されたくなかった。
だから、あいつがようやく手を離した時。
俺は口の中のものを吐き出し、げほげほと咽びながら、必死で叫んだ。
「は、話さない……絶対そいつ以外には話さないッ!」
疼くような痛みと涙で霞む視界に、異臭を放つ液体と白っぽい物体が映る。
俺の左目、だったもの。
それが、アーヴァインの足に踏み潰される。
「そいつって誰? はっきり言ってくれなきゃわかんないよ?」
小さなガキに物を尋ねる口調と表情のまま、奴は俺の髪を掴み、無理やり顔を上げさせた。
「リュ、リュック…リュックだ! そいつ以外には話さない、だから……!」
息も絶え絶えになりながら、それでもどうにか答えると、アーヴァインはにっこりと笑った。
「よかった。僕の話、ちゃーんと聞いてたんだね。
最初から同じこと話さなきゃいけないかな、とか思ってたよ。
これでピサロさんと一緒にゆっくりしてても安心できるってもんだね〜」
好き勝手なことを言いながら、奴は俺の手をとり、椅子に座らせる。
こいつに逆らおうなんて気力は、もう、残っていなかった。
「包帯持ってくるから、ちょっと待っててね」
だから、そう言って奴が部屋を出て行っても、俺は立ち上がることさえできなかった。
「…………」
普通なら、こういう時は、運命の理不尽さでも呪うのだろう。
けれど、そこまで考えていられる余裕自体が、無い。
カインやピサロのような強者が持つそれとはまた違う、決定的なまでに違う――"化物"だけが持つ、恐怖。
その前じゃあ、普通の人間は、ガタガタ震えて殺されたくないと願うしかできない。
「おまたせー」
戻ってきた"化物"は、ニコニコ笑いながら、布切れと折り畳んだ紙を俺に手渡した。
「あんたは、運悪く飛んできた流れ矢で目を傷つけちゃったんだ。
それで左目が使い物にならなくなったから、自分で包帯を巻いたんだよね。ほら」
言われた通りに、自分で布切れを顔に巻き付ける。
「スコールやティーダ達に会ったら、ちゃんと"本当のこと"を説明するんだよ?
僕が何かしたなんて"ウソ"ついてもいいけど……
誰にも信じてもらえないだろーし、わかったら目玉焼き食べてもらう程度じゃ済まさないから」
俺は首を縦に振った。それ以外に選択肢などあるはずもない。
「オッケー。それじゃ、あとはよろしくお願いするよ〜。
そっち、城内の見取り図らしいから、それがあれば早く外に出れると思うし!
じゃ、頑張って、はんちょー呼んできてね!」
背中を押され、部屋の外に出される。
荷物は奪われはしなかった。
奪われたのは左目と、ちっぽけな自信。
殺人者相手でも口先と道具でどうにか渡り合えるんじゃないかとか、そんなあまっちょろい幻想。
それでもまだ、生きている。
死にたくないという気持ちも、残っている。
「……く、そっ」
ふらつきながら、俺は隠し通路から出て、バリアを突っ切った。
目の疼きと、全身の痛みを堪えて、階段を下りる。
そして途中の踊り場にたどり着いたところで、支給品の地図と、見取り図とやらを広げた。
「こっちで……良かったのか……?」
図面の方を見る限り、呆れるほどに複雑な構成をしている。
しかも、どうやら五階の北側と一階の南にそれぞれ出口があるようだ。
山しかない北に行っても仕方が無い。それに山にはもう登りたくない。
ここは、一階を目指すべき、なのだろう。
「……こんなところで、殺されて、たまるか」
自分に言い聞かせるように一言呟き、俺はまた、歩き出した。
【アルガス(左目失明)
所持品:インパスの指輪 E.タークスの制服 草薙の剣 高級腕時計 ウネの鍵
ももんじゃのしっぽ 聖者の灰 カヌー(縮小中)天の村雲(刃こぼれ)
ポーション デスキャッスルの見取り図
第一行動方針:アーヴァインの頼み事を聞く
最終行動方針:脱出・勝利を問わずとにかく生き残る】
【現在位置:デスキャッスル3F→外へ移動】
*頼み事の内容:スコール・サイファー・ロザリーにはアーヴァインとピサロの居場所を伝える。
ティーダ・ユウナ・ギード・テリー・プサン・ロック・リルムには嘘の居場所を伝える。
リュックにだけ、ユウナがゲームに乗ってエドガーを殺した(かもしれない)ことを伝える。
【アーヴァイン(変装中@白魔もどき、右腕骨折、右耳失聴、冷静状態)
所持品:竜騎士の靴 手帳 首輪 コルトガバメント(予備弾倉×3) 弓 木の矢40本 聖なる矢20本 ふきとばしの杖[0]
第一行動方針:ピサロが起きるまで待つ
基本行動方針:スコールに会い、行動方針を再考する
最終行動方針:生還してセルフィに会う
備考:理性の種を服用したことで、記憶が戻っています】
【現在位置:デスキャッスル内部の一室】
アルガスのステータスを訂正します。
【アルガス(左目失明、HP9/10程度、精神的にダメージ)
所持品:インパスの指輪 E.タークスの制服 草薙の剣 高級腕時計 ウネの鍵
ももんじゃのしっぽ 聖者の灰 カヌー(縮小中)天の村雲(刃こぼれ)
ポーション デスキャッスルの見取り図
第一行動方針:アーヴァインの頼み事を聞く
最終行動方針:脱出・勝利を問わずとにかく生き残る】
【現在位置:デスキャッスル3F→外へ移動】
*頼み事の内容:スコール・サイファー・ロザリーにはアーヴァインとピサロの居場所を伝える。
ティーダ・ユウナ・ギード・テリー・プサン・ロック・リルムには嘘の居場所を伝える。
リュックにだけ、ユウナがゲームに乗ってエドガーを殺した(かもしれない)ことを伝える。
75 :
治癒 1/4:2008/09/07(日) 04:00:04 ID:dU4xSpgE0
ターニアがいない。
そのことに気付いて咄嗟に駆け出そうとした足を、リュックは押しとどめた。
駆け出そうとしたのはターニアを探すため。
止まったのは、「待て」と鋭い声が胸を射抜いたためだ。
振り返ると、スコールがこっちを向いていた。
毒のせいで気だるそうではあったが、その目は力を失っていない。
「ターニアがこの辺りにいないことは一目で分かるだろ?
地形も把握できていない状態で無闇に探したって見つかりはしない。
それでなくとも、今この状況で戦力を分散させるのは危険なんだ。
軽々しく動くべきじゃない」
76 :
治癒 2/4:2008/09/07(日) 04:01:53 ID:dU4xSpgE0
無口だと思っていたが、いざとなったら多弁なのかもしれない。
戦況分析する軍人のような、淀みない口振りを聞いてリュックはふとそう思った。
それにしても……スコールの声は誰かに似ている。
(誰だっけ?)
一瞬、赤と黒のイメージが脳裏を走った時、ソロが口を挟んだ。
「ここは……闇の世界ですね。
僕は以前、訪れたことがあります。
現在地はたぶん、南東部の平原。少し離れた所に祠があったはずです。
まずはそこから探すということでどうでしょう?」
相変わらず穏やかで、人を落ち着かせるような響きだった。
スコールとソロ。
強いという点を除けば、ある意味正反対かも、とリュックは2人を見比べた。
……あと、目つきが若干悪いという点を除けば。
失敬なことを思うリュックを余所に、バッツが景気づけるように明るく言った。
「そうしようぜ。
案外、ルカと2人揃ってそこにいるかもしれないし、
マッシュを落ち着いて寝かせられるとこも必要だしさ」
「……そうだな。
それでいいだろ、サイファー?」
77 :
治癒 3/4:2008/09/07(日) 04:07:12 ID:dU4xSpgE0
バッツの後に、念を押すように言ったのは再びスコール。
視線は目つきが「かなり」悪い男に向いていた。
どうやら、サイファーも咄嗟に駆け出そうとしたクチらしい。
彼はターニアのことを「はぐれた仲間の妹」と言っていた。
ターニアの兄、つまりサイファーの「仲間」は既に死んでしまったため、
尚更ターニアを守らねばという思いが強いのかもしれない。
案外仲間思い?……とリュックが見つめる中、
サイファーはまるきり不良少年のような目でスコールを睨んでいた。
それから唐突に右手をバッツに向けると、彼から何か青い光を吸い出した。
「ドロー」
対象から魔法を吸い出すものだとスコールが説明し、実演していたことを思い出す。
戸惑う一同を前に、サイファーは今度はスコールに手をかざすと魔力の光を浴びせた。
……白魔法の輝きだった。
静謐なその光とは裏腹の表情で、サイファーは不満をたれるように言う。
「まずはてめえを自力で歩けるようにしてからだ。
お荷物を何人も抱えてたんじゃ、ちっとも動けねえからな」
唖然と目を見張っていたスコールが、その言葉を聞いて軽く笑った。
そして改めて嘆息するように、「殺されるかと思った」と呟いた。
一瞬の静寂の後、1つの怒りの声と、複数の笑い声が沸き上がった。
78 :
治癒 4/4:2008/09/07(日) 04:11:31 ID:dU4xSpgE0
【サイファー(右足軽傷)
所持品:破邪の剣、G.F.ケルベロス(召喚不能) 白マテリア 正宗 ケフカのメモ ひそひ草
マッシュの支給品袋(ナイトオブタマネギ(レベル3) モップ(FF7) バーバラの首輪)
レオの支給品袋(アルテマソード 鉄の盾 果物ナイフ 君主の聖衣 鍛冶セット 光の鎧)
スコールの支給品袋(吹雪の剣、ガイアの剣、ビームライフル、セイブ・ザ・クイーン(FF8)
貴族の服、オリハルコン(FF3)、炎のリング)】
第一行動方針:スコールの治療後、南東の祠へ移動
第二行動方針:はぐれた仲間、協力者を探す/ロザリーと合流
基本行動方針:マーダーの撃破(セフィロス、アリーナ、サックス優先)
最終行動方針:ゲームからの脱出】
【マッシュ(気絶、重症、右腕欠損) 所持品:なし】
第一行動方針:―
第二行動方針:アーヴァインと緑髪(緑のバンダナ)の男、及びエドガーを探す
第三行動方針:ゲームを止める】
【ソロ(HP3/5 魔力少量)
所持品:ラミアスの剣(天空の剣) 天空の盾 さざなみの剣
ジ・アベンジャー(爪) 水のリング 天空の兜
第一行動方針:スコールの治療後、南東の祠へ移動
第二行動方針:はぐれた仲間を探す
基本行動方針:PKK含むこれ以上の殺人を防ぐ+仲間を探す
※但し、真剣勝負が必要になる局面が来た場合の事は覚悟しつつあり】
【スコール (HP2/3、全身に浅い切り傷、軽度の毒状態、疲労)
所持品:ライオンハート ひそひ草 エアナイフ
G.F.カーバンクル(召喚○、コマンドアビリティ×、HP2/5)、G.F.パンデモニウム(召喚×)
第一行動方針:治療後、南東の祠へ移動
第二行動方針:はぐれた仲間を探す
第三行動方針:アーヴァインと緑髪(緑のバンダナ)の男を探す/緑髪を警戒/サックスを警戒
基本行動方針:ゲームを止める】
【リュック(パラディン)
所持品:メタルキングの剣 ロトの盾 刃の鎧 クリスタルの小手 ドレスフィア(パラディン)
チキンナイフ マジカルスカート ロトの剣
第一行動方針:スコールの治療後、南東の祠へ移動
第二行動方針:はぐれた仲間を探す
基本行動方針:テリーとリュックの仲間(ユウナ優先)を探す
最終行動方針:アルティミシアを倒す】
【バッツ(HP3/5 左足負傷、魔力微量、アビリティ:白魔法)
所持品:アポロンのハープ アイスブランド うさぎのしっぽ 静寂の玉 ティナの魔石(崩壊寸前)
第一行動方針:スコールの治療後、南東の祠へ移動
基本行動方針:『みんな』で生き残る、誰も死なせない】
【ヘンリー(気絶、後頭部にコブ)
所持品:アラームピアス(対人) リフレクトリング バリアントナイフ 銀のフォーク
キラーボウ、グレートソード、デスペナルティ、ナイフ
第一行動方針:???
基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】
【現在位置:南東の平原】
かつて四天王が守り、君臨していたという結界の祠。
その一角の玉座に、今、派手な道化師がふんぞり返って座っている。
「まーーーったく! なんてヒドイところだ! 野蛮で美意識のカケラもありゃしない!
繊細なボクちんの神経が死んでしまうじゃないか!」
ランタンに照らされた地図をバンバン叩きながら、ケフカはボヤキまくっていた。
「オマケにこの椅子! 金ピカなだけの安物が! 堅い上に魔獣臭い! もうシンジランナーイ!」
だが、その不機嫌な声とは裏腹に、ケフカの表情は微笑んでさえ見える。
左右対称な地形、張り出した部分に位置する四つの祠と二つの塔。
それらの対角線が交差する場所は魔王の城、デスキャッスル。
他に目ぼしい建造物がない以上、参加者達がこの城を目指す事はまず間違いない。
「さてさて……ボクちんはどうしましょうか」
この場所で、更に大規模な実験を行うのも悪くはない。
上手くいけば、城もろとも次元の狭間へ送ることも可能かもしれない。
「でもですね、それじゃあツマランのですよ」
名簿を捲り、生存者の数を確認する。残りは四十四名。
だが、新たな脱落者が確定するのは次の放送時であり、これは正確な数ではない。
それでもまだ、三十数名は生き長らえているであろう事は確かだ。
「もう少しオマエらには遊んで貰わないとねぇ。ヒャヒャヒャ!」
ここまで生き残ってきただけあり、残りは歴戦の強者揃いである。
少しは運がいいだけの女子供も混ざっているが、ものの数には入らない。
その中でも、特に警戒すべきはピサロだ。
ケフカの裏側を知る者でもあり、恋人を消された恨みも持っている。
それ故、ケフカを血眼で探している事は間違いないし、醜聞を広められる危険もある。
既に誰かに殺されていればそれに越した事はないが、そうでなければ多少厄介だ。
どうすれば楽に始末できるか、そう考えていた矢先、ふと……
カツン、カツン、と、暗い通路の方から足音が聞こえた。
「誰だ?!」
ケフカは飛び起きてランタンを掲げ、通路に向かい鋭く叫んだ。
すると足音はぴたりと止み、向こうも灯りを掲げてこちらを窺う。
「あなたは……」
ぼんやりとした光の中に、もはや見なれた壮年の男が浮かび上がってきた。
「おや……またお逢いしましたねぇ……どうも、あなたとは余程ご縁があるようだ」
近付いてきた相手がパパスと知るや、ケフカは急いで居住まいを正した。
「……そうですか、息子さんはお気の毒でしたねぇ」
「うむ……その上、孫娘の様子までおかしいのだ」
どんなに屈強な戦士といえど、身内の異変には大分ダメージを受けるものらしい。
多少は怪しんでいたようだが、ケフカが同情する素振りを見せるとパパスは警戒を解き、
身の上に起こった出来事をぽつりぽつりと語り始めた。
「私の孫……タバサは、私の顔を知らない。だから、私を敵として警戒するのはまだ理解できる。
だが、それより問題なのは……あの子は、死んだ息子達がまだ生きてると思い込んでいるのだ」
タバサの目には、父親のリュカ、仲間のピエールが映っているものらしい。
しかし、彼らは勿論、母のビアンカと兄のレックスも既に亡くなっているのだった。
「一瞬だが、タバサの体から黒い霧のようなものが見えたのだ。
もしかしたら、あれは息子達の幽霊ではないのか、とも思ったが……」
「ふん、黒い霧ねえ……」
「何れにせよタバサは……幻を見て、それを現実と錯覚しているとしか思えない」
パパスは頭を抱え、深い溜息を吐いた。
「そりゃあ無理もない。そんなガキ……いや、子供がこーんなキチガイ沙汰に巻き込まれたんじゃ、
おかしくなったって不思議じゃあありませんよ。それは気にしちゃいけません」
「……そうだな」
慰めの言葉を掛けると、パパスは少々落ち着いた様子を見せた。
無論、ケフカがこのように慇懃な態度を取るのは魂胆があっての事だ。
パパスにはまだ利用価値がある。そして、子供のくせに強力な魔法を使うという孫娘も……
「そう言えば……ケフカ殿、お仲間はどうなされたのだ?」
「え?! な、仲間ぁ?!」
出し抜けに聞かれ、思わずケフカの声は裏返った。
「あ……ああ、アイツらね……」
パパスが仲間と言っているのは、昨夜一緒にいたピサロ達の事に他ならない。
咄嗟にどう誤魔化すか考えたその時、突然、ケフカの脳裏に閃くものがあった。
『アヒャ! やっぱボクちん天才!』
その企みに笑い出したくなるのを堪え、ケフカはわざと沈痛な表情を作る。
「その事なんですが……実は……あの、ピサロという男……
ほら、耳がこーんな感じで長い銀髪の奴がいたのを覚えてるでしょう?
あの野郎……実はトンだ食わせ者だったんですよ」
ケフカは肩を落とし、大袈裟に溜息を吐いてみせる。
「あの黒いローブの男か……何かあったのか?」
「あったなんてもんじゃあない! ありもアリ、大アリだ!
なにしろザンデと、事もあろうに自分の恋人まで一緒に消し去ったんですから!」
「何だと?!」
ケフカの話はこうだ。
彼らがカナーンへ到着した時、ピサロの恋人・ロザリーは別の男、イザと一緒だった。
それを見たピサロは有無を言わさず、いきなりイザを惨殺した。
その事がキッカケでピサロとロザリーが険悪な雰囲気となり、
見兼ねたザンデがロザリーに魔法を掛けて縮小し、彼女を保護した。
するとピサロはザンデを襲い、ロザリーもろとも魔法でどこかへと消し去った。
ピサロは、目撃者である自分も消そうと迫ってきたので必死で逃げ回ったところ、
運のいい事に、隠れた先の民家に旅の扉があり、そこに飛び込んで事なきを得た……
「いやあ、男の嫉妬ってコワイコワーイですねぇ〜」
「ふむ……そんな感じには見えなかったが……」
パパスはどこか釈然としない様子だが、話の大枠は信じたようだ。
「消し去る魔法……ニフラムか」
「ニフ……そうそう、確かそんな呪文でしたよ」
ケフカでも聞いた事のない魔法だったが、取り敢えずは同調してみせる。
「もう一人いたと思うが……頭に角のある……」
「ああ、アイツなら、アリーナを追っていくと言うので別れました。それっきりです」
その後のマティウスについてはケフカも知る由がない。パパスも大きく頷く。
「そうか……ケフカ殿も苦労されているようだな」
「ああ、マッタクだ! ……いや、全くです」
一通り会話が終わると、パパスはザックを背負い直して立ち上がった。
「さて……私はそろそろここを出ねばなるまい。
早くタバサを見つけねば……あの子自身にも、関わった者にも危険が及ぶ。
ケフカ殿はどうされるおつもりか?」
「そうですねぇ……」
ケフカは一旦考える振りをし、ポン、と手を叩いた。
「そうだ! 私も一緒にお孫さんを探してあげましょう!
相手はガ……子供でしょう? だったら私の出番じゃないですか!」
ケフカは道化師然として、わざとおどけて見せる。
「しかし、タバサは正気では……」
「ボクち……私に任せなサーイ! なにしろ、子供はみんなピエロがダーイ好きなんですから!
……その代わり……と言ってはナンなんですが……」
「うむ、前にレオという男を取り逃がした手前もあるしな。
今度こそ、ピサロという男については、私が何とか対処してみよう」
「ヒャヒャ! 頼みましたよ、パパスさん!」
話もまとまり、二人は前後して祠の中の歩き始めた。
灯りのない通路は曲がりくねっており、抜け出すのに思いの外時間が掛かったが、
その先の階段を上がっていくと、ようやく出口が見え始めてきた。
『ヒャヒャヒャ、筋肉ダルマが単純バカなのはどこの世界でも一緒ですねぇ!
せいぜい、ボクちんの盾として頑張って貰いましょうか。アーヒャヒャヒャ!』
先導するパパスの持つ灯りを見つめながら、ケフカは心の中で高笑いを続けた。
【パパス(軽度ダメージ)
所持品:パパスの剣、ルビーの腕輪、ビアンカのリボン
リュカのザック(お鍋の蓋、ポケットティッシュ×4、アポカリプス(大剣)、ブラッドソード、スネークソード)
第一行動方針:タバサを探す/ピサロを警戒する
第二行動方針:別れた仲間を探し、新たな仲間を探す
最終行動方針:ゲームの破壊】
【ケフカ(MP3/10程度)
所持品:ソウルオブサマサ 魔晄銃 魔法の法衣 アリーナ2の首輪
第一行動方針:パパスを(見つかればタバサも)利用する、あわよくばピサロと戦わせる
第二行動方針:「できるだけ楽に殺す方法」を考えつつ全員を殺す
最終行動方針:ゲーム、参加者、主催者、全ての破壊】
【現在位置:南西の祠】
旅の扉を抜けた瞬間、目の前には二人の人物がいた。
こちらからすれば不意を突かれた状況だ。それは向こうも変わらないだろうが。
二日目、カズスにて一悶着あった騎士と一日目、レーベにて襲いかかった女。
別にこいつら二人の関係について詮索するつもりはないが、
これがカップルだとしたら、随分妙なカップルもあったものだ。
「一度見た顔だな。確かサックスと……………済まんな、
これだけ人が多いと全員は覚え切れんのだ。だがまあ、健康そうでなによりだ」
多少皮肉を交えた形式的な挨拶。挑発ともいう。
サックスのほうはあからさまにこちらに敵意をむき出し、
女のほうは名前を呼ばれなかったことにムッとする。
「…そう怖い顔をするな。正直なところ、俺には今戦う気はないのだが…。
ここは穏便に済ませようといっても、そうはいかんのだろう?」
体力は心もとない。ここで無理に戦わず、休憩時間にしたいというのも本音だ。
だが、この二人がそう簡単に見逃してくれるだろうか?
サックスに関しては襲いかかった上に罪を全部なすりつけているし、
女に関しては同行者を殺害している。
実際にそれをおこなったのはアーヴァインだが、そのようなことは言い訳にもならない。
となると、戦闘は避けられないのだろう。
どちらかに手傷を負わせて逃げるくらいがちょうどいい。
カズスを発ってから、戦闘に次ぐ戦闘、カエルとしての生活、寝坊、
妙に荒れていた旅の扉、厳しい気候と経て、色々と磨り減ってしまっている。
先制を取れず、数も体力も向こうが上。精神面で優位に立つしかない。
サックスは守りに特化した騎士だったが、女のほうは分からない。
非戦闘員かもしれないが、魔術師、もしかすれば剣士である可能性もないわけではない。
どちらもそれなりの体力はあったと記憶している。
サックスが一歩前へ踏み出る。
「気は進まんが、少しばかり付き合ってもいいぞ」
軽口とは裏腹に、脳内ではあらゆる撤退のシミュレーションをしている。
だが、意外にも女は手を伸ばしてサックスを制止した。
「いえ、こちらも戦う気は……ありません」
苦々しげな表情を浮かべてはいるが、女からは停戦に応じる答えが返ってくる。
殺人者を野放しにしておけないだとか、仲間の仇などといって戦うことになると思っていたが。
まあ、戦わなくてすむのならそれにこしたことはない。
それで少し気を緩めたのが仇となった。
「サックス!?」
気が付けば顔に鈍い衝撃。
次に気が付いたときは、サックスに組み敷かれていた。
「くそ、まんまと騙された。
油断を誘っておいて奇襲とは、なかなか小賢しい手を使うものだな」
盾と篭手こそ付けてはいるが、槍は少し離れた場所に転がり、ザックは背中の下、取れない。
サックスは、落としたそのザックに手を伸ばし、掴み取る。
「エリアは戦わないと言いましたが、僕はまだ何も答えていない。
それに、あなたに小賢しいなどと評価されたくはない」
「詭弁を弄するようになったな? それがフリオニールを欺いた手腕か?
それでよくもまあ恥ずかしげもなく、騎士を名乗れるものだ」
馬乗りのまま殴りつけてくるサックスを、足で蹴り飛ばす。
さすがにジャンプ攻撃ほどではないものの、人間一人吹っ飛ばす程度の威力はある。
「ぐっ、なんとでも言うがいいさ。僕は優勝することに決めた。だから、どんな手段でも使う。
それに、エリアがなんと言おうと、あなたを見逃すなど僕の中ではありえない」
中から武器を取り出そうとして、つかみ出したのは丸い宝玉、それだけ。
「フッ、加速装置か、それとも使っていたあの剣がなくて弱っているのか?
優勝を望むといった割には、随分と無計画だな」
落とした槍を拾い上げ、くるりと一回転させ、突きつける。
殺人者なら、手を組むことはあっても支給品の受け渡しなどないとでも思っていたのか。
それとも、ただの感情的な行動だったのだろうか?
これでは、連れにも嫌われるだけだろうに。
ちらと呆れているであろう女のほうを見る。
だが、浮かぶ表情は哀れみや悲しみを耐え忍ぶようなもの。
「感情に任せて武器も持たずに襲い掛かり、無駄に体力を浪費する。
それでは実力のほども高が知れる。連れの女のほうがまだ見込みがあるというものだ」
女の手にはザックから取り出したらしい何かがあるようだ。
確か、サックスが一度使っていた、声を増幅させる機械。
「この場でその息の根止めやってもよいのだが、今回は見逃してやる。
先ほど言ったとおり、俺は今あまり戦う気がないのでな。
さ、俺の気が変わらぬうちに、立ち去るがよい」
戦意は大方挫いたとはいえ、あの器械を使われると厄介だ。
周りの祠、塔、城、どこも人が集まりそうな場所だ。
この狭いフィールド、そこら中から大勢集まってはたまったものではない。
女のほうが一礼をし、宝玉とザックを寄越し、サックスを連れてこの場を後にする。
初めはカップルと称したが、あれでは介護者と患者だ。
女の表情、おぼろげながら覚えがある。
洗脳されていたころに向けられた、セシルやローザの……
…今更何を感傷的になっているのか。
二人は小さな森のほうへ向かう。なら、こちらは必然的に他の場所へ向かうことになる。
地図を一瞥。森がほとんどないものの、茂みと山があるらしい。
「まずは茂みに身を隠すか……」
まだまだ疲れの残る体を引きずって、北へと歩を進めた。
うつむいたままのサックス。
カインやアーヴァインを許すなど到底ありえないが、でも戦いは避けたかった。
サックスが落ち着くのを優先したかった。
丸腰にしておけば余計な戦いは避けるかと思っていたが、どうやら見込み違いだったらしい。
もっとも、ギルバートを殺したあの男をやっつけるのを期待しなかったとは言えないが。
だが、サックスはこれほど感情的な性格だっただろうか?
無理をしているというより、自棄になっているというほうが正しいのかもしれない。
あの男への攻撃も、何か八つ当たりのような印象を受けた。
うつむいたサックスの目から、水滴が一つ地へと落ちていった。
「サックスさん、昨日も眠っていなかったですよね? しばらく休みましょう。
今は動いてもいいことはありませんから」
「………どうして?」
「えっ?」
サックスが何かを言おうとして、結局黙り込む。体が少し震えていた。
サックスの気配が少し薄くなったころ、改めて耳を澄ますと、
捨ててだとか、嫌だとか、分かりそうで分からない言葉が羅列されていた。
どうやら、彼は眠りに落ちたらしい。
【エリア(体力ほぼ回復、下半身の怪我は回復気味)
所持品:スパス スタングレネード ねこの手ラケット ビーナスゴスペル+マテリア(スピード)
天使のレオタード 拡声器 ポーション 水鏡の盾
第一行動方針:サックスからはなれず、周囲とサックスの見張り
第二行動方針:内から少しずつサックスを矯正する
基本行動方針:サックスより先に死なない/サックスに殺させない/サックスを捕らえさえない】
【サックス (HP7/10、極微度の毒状態、左肩負傷。後頭部にコブ)
所持品:スノーマフラー
第一行動方針:眠る
第二行動方針:成り行きに任せる、エリアのことは先延ばし
最終行動方針:優勝して、現実を無かった事にする】
【現在位置:希望の祠北西の森】
【カイン(HP1/5、左肩負傷、肉体疲労、精神的に疲労)
所持品:ランスオブカイン ミスリルの篭手 プロテクトリング レオの顔写真 ドラゴンオーブ ミスリルシールド
第一行動方針:目立たないところで休む
最終行動方針:殺人者となり、ゲームに勝つ】
【現在位置:南の平原より北の茂み】
90 :
化物 1/2:2008/09/08(月) 15:30:44 ID:M54kA12C0
激しい心臓の動悸が、鼓膜にも伝わる。
人間の視覚を担う眼球が潰される様を残る右目の視神経がしっかりと焼き付けていた。
器官を潰されてしまっては、薬であろうが魔法であろうが回復しようがない。
かつて彼の左の眼球が収まっていた場所から、生温かい血液が流れ出てくる。
アーヴァインに渡された布切れに体液と赤黒い血がにじむ。
半分になった視野と掴めなくなった距離感で、彼はデスキャッスルの外を目指していた。
冷たい石造りの床に力ない足音が響く。
彼――アルガス・サダルファスは壁を伝いながら息も絶え絶えに、
三階から二階へ続く階段を降りていった。
複雑な城の構造は、それだけでも彼の体力を奪っていった。
「全く、情けないやらなんやら」
彼得意の嘲笑交じりの口調で、己の不運を嘆く。
このゲームとやらに巻き込まれたのも不運だが、ここまで生き残って、
よもや左目を失うなんて。
先程の「化物」の顔がふと頭をよぎる。
彼が産まれた国の、彼が生きた時代は戦乱の渦にあり、
人が簡単に命を落とすなど茶飯の出来事であった。
違う時代の価値観と比較すれば殺人に対しての価値観が麻痺していると言えるかもしれない。
だからこそ彼はこのゲームで人を欺き、生き残ってきたのだ。
91 :
化物 2/2:2008/09/08(月) 15:33:38 ID:M54kA12C0
しかし先の「化物」は、明らかに異質だった。
彼が参加した戦争には大義があり、理由があった。
少なくともその下で人が人を殺め、そして死んでいったのだ。
アーヴァインは――違う。
あの口元が緩んだ笑顔。まるで狂気を弄んでいるかのような。
その気になれば、人間は快楽で人間を殺めれるのだろうか?
子供をあやすような、いや子供のような口調だった。
『スコールやティーダ達に会ったら、ちゃんと"本当のこと"を説明するんだよ?』
その言葉を思い出した途端、アルガスの残った右目から涙が溢れた。
恐怖や困惑、憎しみといった感情が結晶するやいなや飛沫となってはじけたのだ。
今までに味わったことのない、怪物に対する言い様のない畏れに泣いてしまった。
どうしよう。血より涙が止まらない。
ただ恐ろしい。
籠の中の鳥のように、身震いした。
「殺されて、たまるか。」
―あんな眼をした、あんな笑顔の、化物なんかに!
見取り図を頼りに、なんとかデスキャッスルの入り口まで辿り着いた。
そしてアルガスは、アーヴァインに言伝を頼まれた、あの者がいた。
【アルガス(左目失明)
所持品:インパスの指輪 E.タークスの制服 草薙の剣 高級腕時計 ウネの鍵
ももんじゃのしっぽ 聖者の灰 カヌー(縮小中)天の村雲(刃こぼれ)
ポーション デスキャッスルの見取り図
第一行動方針:アーヴァインの頼み事を聞く
最終行動方針:脱出・勝利を問わずとにかく生き残る】
【現在位置:デスキャッスル入口付近】
*頼み事の内容:スコール・サイファー・ロザリーにはアーヴァインとピサロの居場所を伝える。
ティーダ・ユウナ・ギード・テリー・プサン・ロック・リルムには嘘の居場所を伝える。
リュックにだけ、ユウナがゲームに乗ってエドガーを殺した(かもしれない)ことを伝える。
92 :
訂正:2008/09/08(月) 15:35:02 ID:M54kA12C0
すいません最後の一文
そしてアルガスは、アーヴァインに言伝を頼まれた、あの者がいた。
→
そしてアルガスは、遠目にアーヴァインに言伝を頼まれた、あの者を見つけた。
保守
言伝を頼まれた相手。目の前の大集団。
(ここまで来て、伝言をしても、動いてくれるのか?)
一抹の不安がアルガスの中をよぎる。
早くも、しかも集団で出会うとは、完全に予想外だった。しかも、クリムトもいる。
アルガスには、この集団が特大の不幸を運んできたように見えた。
とにかく、ゲームに乗っているらしいユウナに理由つきで攻撃されては困るため、両手を挙げておく。
(とにかく、嘘だ、嘘、嘘を言えばいいんだ)
間違いがないように言い聞かせる。
「クリムトか、無事だったんだな」
仲間に向ける言葉ではない、この先に続くはずの言葉は何故無事なのだと相手を呪う類のもの。
「うむ、気付いたらこの世界に倒れていてな。
そなたは、何が起こったのか知らぬか?」
「ああ、えーとな、よく分からねえんだ、悪いな」
「そうか、……ならば仕方あるまい。お主が生きていて、何よりだ」
「ところで、その包帯は一体? 以前は付けておらんかったが」
もう一人の顔見知り、ギードが尋ねてくる。
「あ、ああ、これか。これは……」
思い出したくない記憶がフラッシュバックされる。
よろけてしまいそうになるが、ここでそうなるわけにはいかない。
倒れて、この城の部屋に運ばれたりしたら、ゲームオーバーに一気に近付く。
「これは、ちょっと前に流れ矢に当たって、治療したんだ」
「ふむ、まだ血が出ておるな。どれ、少し見せてみい」
ギードが治癒魔法を唱える。回復量は雀の涙ほどではあるが、血は何とか止まる。
だが、アルガスも治療をしてもらうのが目的ではない。
いつアーヴァインが現れるのか分からないのだ、早めに切り上げたい。
挨拶はそこそこにして、早速本題を切り出す。
「あ、ところでお前ら、ティーダとユウナだよな?
ちょっと前に、アーヴァインとピサロに会ったんだが」
「え、アービン? アービンに会ったんスか!? どこで!??
どうしてた!!?? 怪我してなかった!!!??」
まるで人が変わったかのようにアーヴァインのことを問い詰め始めるティーダ。
少し離れただけだというのに、あるいは目が届かなくなると急に不安になる、そういう心理。
「ね、ティーダ、落ち着いて! そんなにいっぺんに聞いても困ってるって」
ユウナがアルガスに掴みかからんとするティーダを抑える。
ティーダは落ち着いたものの、アルガスの不愉快メーターはもはや止まらない。
別に心配されたいわけでもないが、アルガスの目の傷や体よりもアーヴァイン。
「くそッ、俺を殺す気か? これだから仲間のことしか頭にないやつは……!」
「…悪かったッス。つい、頭に血が昇っちまって。そ、それでアービンは…?」
「具体的な目的地は言ってなかったが、西のほうに行くっつってたぜ。
もっとも、本当にそっちに向かったか保証はできないがな」
とりあえず、アルガスは約束通り嘘は教えた。あとはそっちに行って貰うだけなのだが。
「すぐに追いかけようよ! アービン兄ちゃんに追いつけるかもしれないし」
「そうッスね、今すぐにでも」
追いかけることを主張するテリーとティーダ。
だが、他のメンバーはちょっと違う。
「すみませんねえ、私たちは城に残ろうと思うんです」
「な、何故だ? こちらとしても、アーヴァインと約束をかわした手前、
それを破りたくはないんだが……」
「この城の設備に興味がありましてね。察していただければ幸いです」
「設備? 何するつもりなんだ? 研究とやらの続きか? そういや、どこまで……」
「わ、ちょっと、ストレー…むぐっ……」
「バカ、お前が騒いでどうすんだ」
このタイミングで騒ぐのは、研究をしていることをバラすに等しい行為。
慌てたティーダの口をロックが無理矢理塞ぐ。
「なんか言っちゃマズいことでもあるのか?」
プサンが、盗聴とだけ書かれた紙きれをアルガスに見せる。
もう研究くらいならバレバレだろうと思えなくもない。
一日目にすでに口に出して言っているのだから。
「この程度、今更だろ……それにしても、本当に追いかけねぇのか?」
「折角のチャンスですからねえ。二手に別れれば、十分用は足せるでしょう」
アルガスの心臓の鼓動はどんどん速くなっていく。
ギードたちを引き止めるのは難しすぎる、かといっていい考えは浮かばない。
「……この城の見取り図だ。時間も惜しいんだろ? 持っとけ。
ただでくれてやるから、必ず結果を残せよ? 俺はこんなところ、長くいたくはないからな」
一応の弥縫策。城の見取り図を渡しておくことにした。
あちこち動き回られてアーヴァインと接触されるのは厄介。
見取り図さえあれば、とりあえず余計なところを動き回られることはないだろう。
出くわすのが遅ければ遅いほど、なんとか誤魔化せる。
結局は運まかせなのだが。
また、城に残ると言うのはギード、クリムト、プサン。
強さを知らないアルガスにしてみれば、若干、戦闘力に不安が残る。
「あ、私残ります。護衛とか見張りも必要だろうし」
ユウナが見張り役を買って出てはいるが、
ある筋から前情報を得ているアルガスにとっては、内心まったく穏やかではない。
「おいおい、本当にこれでいいのかッ!?」
「何がです?」
「あ、……いや、え〜と、な、女一人で大丈夫なのかって……」
「心配無用です。これでも、私それなりに戦えますから」
「いや、そこじゃなくってだな…」
「じゃ、どこなんです?」
「それは……」
ロックがティーダを背中から軽く小突く。テリーもちらちらとティーダを見る。
ようやく気付いたティーダが言葉を発する。
「ま、待って。できればユウナには一緒に来て欲しいッス。
そりゃあアービンのことも心配だけど、なんていうかな、また誤解されるのも嫌だしさ」
昨日の夜、さんざんアーヴァインやロックに指摘されたことだ。
絶対にカマをかけている、と。ティーダとしても、さすがに何度も同じ過ちを繰り返したくはない。
護衛も直ちにロックが変更を申し出た。こうなってはユウナも従わざるを得ない。
「ではティーダ、ユウナ、テリーよ。我々はここに留まるが……。くれぐれも早まるな。
特にティーダよ、一人にとらわれすぎて、盲目になってはならぬぞ」
「??? どういう意味ッスか?」
「お前がアーヴァイン探しに熱を入れすぎて、他の三人を放っておくなってことだよ。
ちゃんと三人とも守ってやれよ」
「…余計なお世話ッス!」
結局、ティーダ、テリー、ユウナが城から離れ、
ギード、クリムト、ロック、プサンが城に残ることになる。
とりあえず、アルガスとしては研究チームをユウナと引き離せただけでも救いだが。
「アーヴァイン君に会ったら、ひとまずここで落ち合いましょう。
ピサロ殿もできれば連れてきていただきたい」
「OKッス、二人を連れてくればいいわけッスね。じゃあ行ってくるッス」
「待ってください!」
ティーダが出発しようとした矢先、どこかから声が聞こえてきた。
「今、ピサロ様と申されましたか…?」
アルガスが耳を澄ませば、何もないところから、かすかに聞き覚えのある声が聞こえる。
見えにくい目で声のする方向を辿り、凝視する。
全体的に黒系の色が目立つ中で、一際目を引く白と桃の何か。
よく見れば、それは人型。よく見れば、何度も見た姿。
(……おいおい、勘弁しろよ!? なんでこんなとこにいんだよ!?)
ロザリー。アーヴァインから真反対の伝言を頼まれていた相手。
小人にとっては険しい道のりをひたすら歩き続けていたためか、
耳が破れたり、ドレスが千切れていたりでボロボロだ。
ギードの魔法で、ロザリーが小人からようやく元の大きさに戻る。
アルガスの心労がものすごいことになってしまっている。
普段なら悪態の一つもつくところだが、今回はそんな余裕はない。
驚かすな、だとか、なんで話を聞いてないんだ、だとか、言葉は出てくるものの、
普段のようにはいかない。心中決して穏やかではない。
結局、開き直るしかなかった。
(少なくともロザリーがこっちに向かわなかったことにすれば…
いや、ダメだ、カメの野郎がいる…! 話されれば絶対バレる。どうする、どうすればいい!?
……くそ、こうなりゃもうとことん誤魔化すしかない!)
テリーと知り合いでもあったロザリーの同行をティーダは快諾し、話はとんとんと進む。
ユウナはあまり面白くなさそうな顔をしていたが。
そうして、ティーダ、テリー、ユウナ、ロザリーは急ぎ城から離れ、
ギード、クリムト、ロック、プサンが城に残って研究を始める。
さて、アルガスはというと…。
もはや約束がどうこうというレベルではない。
不可抗力とはいえ、四人も真逆の行動を取らせてしまった。
もし再度会えば、何をされるか分かったものではない。
いや、本当は分かっているのだ。
一日目のあの女性のように、およそ人とは思えない末路を取らされるに決まっている。
アルガスの脳内には保身の感情のみ。
(逃げるしかない! この城に二度と近付かなければいいんだ!
東だ、東ならこいつらもあの化け物もまだ来ない! 頼むから、二度と俺に近付いてくれるなよッ!)
【アルガス(左目失明)
所持品:インパスの指輪 E.タークスの制服 草薙の剣 高級腕時計 ウネの鍵
ももんじゃのしっぽ 聖者の灰 カヌー(縮小中)天の村雲(刃こぼれ) ポーション
第一行動方針:アーヴァインから逃げる
第二行動方針:アーヴァインに殺されないようにする方法を考える
最終行動方針:脱出・勝利を問わずとにかく生き残る】
【現在位置:デスキャッスル南東の茂み】
*頼み事の内容:スコール・サイファーにはアーヴァインとピサロの居場所を伝えてほしい。
リルムには嘘の居場所を伝えてほしい。
リュックにだけ、ユウナがゲームに乗ってエドガーを殺した(かもしれない)ことを伝えてほしい。
【プサン 所持品:錬金釜、隼の剣 (左肩銃創)
第一行動方針:首輪の解析を依頼する/ドラゴンオーブを探す
第二行動方針:アーヴァインが心配/首輪の研究
基本行動方針:仲間を探しつつ人助け】
【ギード(HP2/5、残MP1/3ほど)
所持品:首輪 デスキャッスルの見取り図
第一行動方針:ルカとの合流/首輪の研究
第二行動方針:アーヴァインが心配】
【クリムト(失明、HP1/5、MP1/4、守備力25%UP) 所持品:なし
第一行動方針:首輪の研究
基本行動方針:誰も殺さない
最終行動方針:出来る限り多くの者を脱出させる】
【ロック (左足負傷、MP2/3)
所持品:キューソネコカミ クリスタルソード 魔石バハムート 皆伝の証、かわのたて
魔封じの杖、死者の指輪、ひきよせの杖[0]、レッドキャップ、ファイアビュート、2000ギル
第一行動方針:ギードらの研究の護衛
第二行動方針:ピサロ達、リルム達と合流する/ケフカとザンデ(+ピサロ)を警戒
基本行動方針:生き抜いて、このゲームの目的を知る】
【現在位置:デスキャッスル入り口】
【テリー(DQM)(右肩負傷(9割回復)
所持品:突撃ラッパ シャナクの巻物 樫の杖 りゅうのうろこ×3 鋼鉄の剣 雷鳴の剣 スナイパーアイ 包丁(FF4)
第一行動方針:アーヴァインを追う
第二行動方針:ルカを探す】
【ティーダ(変装中@シーフもどき)
所持品:フラタニティ 青銅の盾 首輪 ケフカのメモ 着替え用の服(数着) 自分の服 リノアのネックレス
第一行動方針:アーヴァインを追う
基本行動方針:仲間を探しつつ人助け/アルティミシアを倒す】
【ユウナ(ガンナー、MP1/3)(ティーダ依存症)
所持品:銀玉鉄砲(FF7)、やまびこの帽子、官能小説2冊、 対人レーダー
天空の鎧、ラミアの竪琴、血のついたお鍋、ライトブリンガー、ブリザド
第一行動方針:ティーダに付いていく
第二行動方針:あわよくば邪魔なギードとアーヴァインをティーダに悟られないように葬る
基本行動方針:脱出の可能性を密かに潰し、ティーダを優勝させる】
【ロザリー(プロテス、ヘイスト、リフレク)
所持品:守りのルビー、力のルビー、破壊の鏡、クラン・スピネル、E猫耳&しっぽアクセ ウィークメーカー
ルビスの剣 妖精の羽ペン 再研究メモ、研究メモ2(盗聴注意+アリーナ2の首輪について) 、ザンデのメモ、世界結界全集
第一行動方針:ピサロを追う
第二行動方針:脱出のための仲間を探す[ザンデのメモを理解できる人、ウィークメーカー(機械)を理解できる人]
最終行動方針:ゲームからの脱出】
※ザンデのメモには旅の扉の制御+干渉のための儀式及び操作が大体記してあります。
【現在位置:デスキャッスル南西の茂み】
旅の扉を無気力なままに越えた先。そこには誰もいなかった。
当然だ。自分はたった一人で旅の扉へと入っていったのだ。
たった独り、誰もいない。アルスも、ローグも、フルートも。
タバサやビアンカ、ギルダーもいない。初めての独り旅。
ここまで心細かっただろうか。ここまで静かだっただろうか。
あの強く頼れる勇者がいない。あのか弱く頼ってくれた少女がいない。
ここまで虚しかっただろうか。ここまで切なかっただろうか。
「まぁいいや……アルスを見つければ良い話だし?」
独りが故に言葉は誰にも届くことは無い。だが呟かずにはいられない。
孤独なままに闇の世界へとたどり着いた賢者――セージは、果てしなく無気力だった。
「で……ここ、どこ?」
ザックから地図を取り出して開くと、またも内容が姿を変えている。
浮遊大陸と呼ばれた舞台から次の舞台へ。
旅の扉によって移り変わっていったことを何よりも実感させる。
だがそんなことも最早意に介さずにじっと眺める。
「ん……?」
ふと、自分の眼前に何か黒いものが現れた――ような気がした。
いや、気のせいではない。何かがうねうねと動いているのが微かに見えた。
「邪魔」
靄と言うべきであろうそれを、セージは手で追い払った。
理由は単純――ずばりただの我侭だ。
今のセージはお世辞にも精神的に健康とは言いがたい。
浮遊大陸で、そしてサスーン城で色々なことがありすぎた所為で、正直疲れているのだ。
正直もう一人では何もする気力も起こらないし、孤独に過ごすのも嫌だ。
だからといって知らない誰かと一緒に行動したところで、自分の心の渇きは癒せないだろう。
――――だから、心の拠り所が欲しい。
求めるのは労わり。欲しがっているのは癒し。
抱くのは、どうせ自分みたいなもやし一人が何かしたところで何も変わるはずが無い、という心の奥底での絶望。
だから自分が最も信頼する人間と会いたい。疲れきった体と心を凭れかけられる相手が欲しい。
故に気の置けない相手を求める。それは実は自分の精神を安定させたいだけの独善的な欲望。
セージはただその為だけに、今を生き抜こうとしていた。
「とりあえず……探さないとね」
旅の扉をくぐる直前から、セージの呟きは溜息混じりな物ばかりだった。
今までの舌の動きとはまるで違う。疲弊した喋り方は、心の疲れを思わせる。
俗っぽい言い方をすれば、そう――"テンションが低い"と言うべきか。
だがそれもアルスに出会えば解消されると本人は思い込んでいる。
最早今のセージはただの依存の塊だった。だが彼はその事には気付かない。
無意識下の傲慢さに気付かないまま、アルスを探す為だけに立ち上がり、歩き出そうと一歩踏み出した。
「う、うわっ」
が、その瞬間彼は足を縺れさせて倒れてしまった。
突然の事態。予期せぬ事故とそれを起こした自分自身に対して驚きの声を上げる。
失礼、ミスです。投下順を間違えました。
こんがらがるので始めから投下しなおします。
以下、もう一度やりなおし。
旅の扉を無気力なままに越えた先。そこには誰もいなかった。
当然だ。自分はたった一人で旅の扉へと入っていったのだ。
たった独り、誰もいない。アルスも、ローグも、フルートも。
タバサやビアンカ、ギルダーもいない。初めての独り旅。
ここまで心細かっただろうか。ここまで静かだっただろうか。
あの強く頼れる勇者がいない。あのか弱く頼ってくれた少女がいない。
ここまで虚しかっただろうか。ここまで切なかっただろうか。
「まぁいいや……アルスを見つければ良い話だし?」
独りが故に言葉は誰にも届くことは無い。だが呟かずにはいられない。
孤独なままに闇の世界へとたどり着いた賢者――セージは、果てしなく無気力だった。
「で……ここ、どこ?」
ザックから地図を取り出して開くと、またも内容が姿を変えている。
浮遊大陸と呼ばれた舞台から次の舞台へ。
旅の扉によって移り変わっていったことを何よりも実感させる。
だがそんなことも最早意に介さずにじっと眺める。
「ん……?」
ふと、自分の眼前に何か黒いものが現れた――ような気がした。
いや、気のせいではない。何かがうねうねと動いているのが微かに見えた。
「邪魔」
靄と言うべきであろうそれを、セージは手で追い払った。
黒い何かはそれに微かに抵抗するようにうねうねと動くと、溶けるように消えていった。
いや、消えたわけではなくただ見えなくなっただけなのかもしれない。
その前に一体あれは何だったのだ。あんなものは見たことが無い。
少し考えてみるが――どうせ幻覚か何かか、とたかを括った。
そう、今の彼にはどうでも良い。優先すべき事項ではないと判断したのだ。
ため息を一つつき、セージは地図から視線を外して辺りを眺める。
「最北端、なのかな……?」
確認するように呟き、辺りの地形を確認した。
歩くには適さないであろう巨大な岩山が目の前に立ちふさがっている。
さながら壁だ。その正反対を眺めれば、遠くに同じような岩山があった。
もう一度地図を眺め、更に方位磁石をザックから取り出す。
そしてまたもや辺りを見回し、次にまた地図と方位磁石に視線を戻す。
それを何度か繰り返して、彼はやっと理解した。
「……やっぱり一番北、か……アルスもいないなぁ……」
セージは自身が最北端に位置する場所にいる事に気付き
そして今の自分の視界内には、肝心のアルスがいない事を察した。
ならばここに用は無い。すぐに移動しなければ。
今の自分がしたいのはアルスを探す事の一点のみ。
彼らに繋がりが無いであろう場所ならば、留まる理由などあるはずが無いのだ。
アルスを見つけ出し、二人でタバサを探す。
今の目標は、これだ。
理由は単純――ずばりただの我侭だ。
今のセージはお世辞にも精神的に健康とは言いがたい。
浮遊大陸で、そしてサスーン城で色々なことがありすぎた所為で、正直疲れているのだ。
正直もう一人では何もする気力も起こらないし、孤独に過ごすのも嫌だ。
だからといって知らない誰かと一緒に行動したところで、自分の心の渇きは癒せないだろう。
――――だから、心の拠り所が欲しい。
求めるのは労わり。欲しがっているのは癒し。
抱くのは、どうせ自分みたいなもやし一人が何かしたところで何も変わるはずが無い、という心の奥底での絶望。
だから自分が最も信頼する人間と会いたい。疲れきった体と心を凭れかけられる相手が欲しい。
故に気の置けない相手を求める。それは実は自分の精神を安定させたいだけの独善的な欲望。
セージはただその為だけに、今を生き抜こうとしていた。
「とりあえず……探さないとね」
旅の扉をくぐる直前から、セージの呟きは溜息混じりな物ばかりだった。
今までの舌の動きとはまるで違う。疲弊した喋り方は、心の疲れを思わせる。
俗っぽい言い方をすれば――そう、"テンションが低い"と言うべきか。
だがそれもアルスに出会えば解消されると本人は思い込んでいる。
最早今のセージはただの依存の塊だった。だが彼はその事には気付かない。
無意識下の傲慢さに気付かないまま、アルスを探す為だけに立ち上がり、歩き出そうと一歩踏み出した。
「う、うわっ」
が、その瞬間彼は足を縺れさせて倒れてしまった。
突然の事態。予期せぬ事故とそれを起こした自分自身に対して驚きの声を上げる。
――――だがすぐに納得した。そう、単純に疲れていたのだ。
倒れた状態からゆっくりと起き上がり、近くの岩に凭れかかって座り込む。
予想は当たっていたのか、少しだけ気分が楽になった気がした。
「色々、あったもんねぇ……」
呟きながら、旅の扉に入る前を思い出す。
歩いたり走ったり魔法を使ったり、殺されそうになったり。
波乱万丈なことばかりで、アリアハンのときとは違って眠る暇も無かった。
いや、今もアルスを探さなければならない以上それは変わらないのだが……。
こんな自分のあまりのひ弱さに苦笑しながら、セージは暗い暗い空を見上げた。
悔しいが、とりあえずは休息を取ろう。このままでは万一のときに対応が出来ない。
それにこのままアルスに再会したところで自分は足手まといになりそうだ。
時間が惜しい、一刻も早くアルスは探したい。だがこの体たらくでは仕方が無い。
「待っててねアルス……ちょっと休んだら、すぐ探すから。ああ、あとタバサもか……」
結局セージは自分自身の体調とこれからを気遣い、省みた結果休息をとることにした。
だがそれでも、肝心な部分に――精神の疲弊から起こる短絡さと傲慢さには気付かない。
独善的な願いのままに行動を起こそうとしているという事に、思考が辿り付きはしなかったのだった。
孤独な休息。今の彼にはその寂しさが重く圧し掛かった。
元いた世界でアルス達と出会い、この世界でタバサ達と出会ったから。
今では独りが辛い。早く会いたい。孤独に潰れそうになる前に、虚しさに支配される前に。早く。
「女々しいなぁ……こんなだったっけ、僕……あははっ……」
――――アルスがもうこの世にいない事を知ったら、彼はどうするのだろうか。
【セージ(HP2/3程度 怪我はほぼ回復 魔力1/4程度 体力・精神疲弊)
所持品:ハリセン、ナイフ、ギルダーの形見の帽子、イエローメガホン
英雄の薬、厚手の鎧、般若の面、釘バット(FF7)、グラディウス、聖なるナイフ、マテリア(かいふく)
第一行動方針:疲れを取り、魔力も取り戻したいのでまずは休息。
基本行動方針:アルスと再会し、その後二人でタバサを探す】
【現在位置:フィールド最北端の岩山近く】
hoshu
総勢139人を巻き込む殺戮ゲーム。
魔女により開催されたそのゲーム中では数多の者が手を組み、主催者への反抗を目指していた。
世界を救った英雄。世界を混沌に陥れた魔王。
国を統べる王侯貴族。人外ではあっても、善意溢れるモンスター……。
様々な者が手を組み、離れ、また手を組んだ。
しかしそのように多種多様、豪華絢爛に立ち現れた集団の中でも、
この一団は最も特殊なものの一つだろう。
闇の世界南東に位置する、7人のパーティー。
現存する、最も大きな対主催集団。
彼らの中には、魔女と深い因縁を持つ者が2人いた。
スコール・レオンハートとサイファー・アルマシー。
魔女の仇敵と、かつての配下だった。
***
「やっぱお前、カーバンクルの力で回復できねえのか?」
治療を始めてから半刻ほど経った頃、サイファーは苛立たしげに言葉を放った。
スコールの治療は難航中。
切り傷の方はすぐに塞がったが、毒の方は遅々としか解毒が進まないのだ。
連戦をこなし、毒による継続的なダメージを受けた体は単純な消耗も激しい。
もしGFの回復の能力を使えるならば解毒はできずとも、体力の方は大分マシになるはず……と期待したが、
使えるものならとっくの昔に使ったろうという諦観が「やっぱり」に込められてもいる。
案の定というべきか、スコールはあっさり「駄目だ」と首を振った。
「昨夜マッシュに試してみたが、力が引き出せなかった。
パンデモニウムもそうだが、封じられているアビリティがあるらしい」
スコールの声は相変わらず涼やかだった。
サイファーは半ば予想済みだった魔女の姑息な小細工よりも、
スコールの他人事のようなその物言いの方に苛立たしさ、もどかしさを感じる。
ちょっとは残念そうな顔の一つも見せやがれ、と激情型のサイファーは思ってしまうのだ。
(やっぱコイツとはソリが合わねえな)
今更ながらそう思うサイファーを余所に、当のスコールとはいえば思案気な顔で再び口を開いた。
「この世界にはアルティミシア城やD地区収容所のように、
魔法だけではなくGFを制限するフィールドも張られているようだな。
……あるいは、首輪自体にそういう機能があるのかもしれない。
個人に限ってならオダインバングルのように、かなり小型化できそうだ。
まあそれでも、他の機能と一緒に詰めこむとなると難しいだろうが……」
それは“元の世界”にいた者にしか理解できない言葉の混じった、不親切な発言だった。
スコールにしてみれば独り言に近く、特に深い意図はなかったのかもしれない。
しかしサイファーはその言葉に何か引っ掛かるものを感じた。
もっと正確に言えば、言葉の中のある単語――「D地区収容所」に強く刺激されるものを感じた。
サイファーはアルティミシア城について訊ねるソロ達を余所に、その原因について考える。
自分は何かを忘れている。そして今、思い出そうとしている
そんな直感が働いていた。
(スコール、魔女、D地区収容所、ガルバディア……)
このゲームが始まってからのことではない。数ヶ月も前の話だ。
そう、あの時もスコールは怪我をしていた……。
目の前の光景と記憶の中の光景とがオーバーラップし、
それと連結する形で小さなエピソードが脳内で再生された。
いつのまにか自分の顔が皮肉気に歪められていることに、サイファーは気付いた。
***
「この首輪はガルバディア製かもしれねえな。
お前らがケチョンケチョンにやられて収容所送りになった時、
囚人管理用に作られた首輪を取り付けるかどうか取り沙汰になった覚えがあるぜ。
まあ、結局はまだ試作段階だってことでやめになったけどよ」
スコールがそれを聞いたのは、ソロ達にアルティミシア城について、
そしてアルティミシアと自分の関係性について詰め寄られていた時だった。
どうやらソロ達は、アルティミシアとスコールの因縁を知らないようだ。
たしかにスコールはその非社交的な性格もあって、
この殺し合いが始まる以前の自分についてあれこれ言った覚えはない。
だがそれは、ソロ達はアーヴァインから全て聞いていると思いこんでいたせいでもあった。
事実、ヘンリーはスコールが改めて自分の名を名乗り、
例の如くアーヴァインについて触れた時こう言っていた。
『ああ、そういえばお前のことはアーヴァインから聞いていたな。
あいつの仲間で、魔女を倒したパーティーのリーダーなんだろ?』
……なのに、これはどうしたことか?
一体、アーヴァインから何をどのように聞いたのか?
そんな風に頭を悩ませていたところにサイファーの発言だ。
頭がますますこんがらがった。
とにかくまず咄嗟に思ったことは、サイファーの首輪が爆発しないかということだ。
スコールはこの首輪に盗聴機能が搭載されていると予測していた。
首輪はこの殺し合いを成立させる根本要素の1つ。
サイファーがその秘密を握っていると知ったら、魔女側が手を下してくる恐れがあった。
故に、スコールは何かを言いかける他の面々を身振りで制し、
ナイフで地面に文字を刻みながら口早に訊ねた。
「あんた、その首輪の図面とかは見たか?
そうじゃなくても、他に何か覚えていることは?」
“SAY NO”
スコールは文字を指差し、次いで首輪を軽く撫でた。
とにかく魔女側に、これ以上の情報はないと思わせるべきだった。
監視がどれだけきついか分からない以上、
こんな稚拙な方法に効果があるかは分からないが、それでも配慮すべきだ。
その仕草を見て意味を解したのかサイファーが頷き、言葉を返す。
「見たかもしんねえが、覚えてねえな。
俺は科学者のオモチャなんて興味ねえからよ」
サイファーは【胸】を撫でながらそう言った。
「本心」ということだろうとスコールは解釈し、少し落胆するが、
今まで思い出さなかったことを思うとそれも当然に思えた。
幸いなことに首輪の方に爆発の気配はない。
考えてみれば、サイファーがガルバディア軍を掌握していたことは魔女も当然知っているのだから、
こういった事態も最初から想定の範囲内なのかもしれない。
<サイファーが首輪の事を知ってようが知っていまいが、大勢に影響はないと魔女は踏んでいる>
<逆に言えば、この首輪にはサイファーがいくら思い出したところで、それだけでは解除できない何かがある>
サイファーの言葉に適当に相槌を打ちながら、スコールはそう仮定を立てた。
(問題は、それが「何か」だ……)
そもそも根本的に、この首輪とサイファーの知っている首輪が全くの別物という可能性はあった。
しかしスコールは、その可能性については敢えて目を瞑る。
「そうあって欲しくない」という希望的観測もあるが、根拠はなくもない。
まずスコールは、首輪の製造元がアルティミシア城自体であることに否定的だった。
スコールは先のアルティミシアとの戦いで城内を殆ど隈なく回ったが、
そこには技術者どころか人間自体が存在せず、工房や研究室といった「場所」もなかったからだ。
人材の方はアルティミシア自身が技術者を兼ねているとも考えられるが、
そうなると今度は何故あんな広い城に研究室の1つも作らないのか、ということになる。
例えばスコールが自由に家を建てられるとなったらコレクションルームや訓練施設を作るだろうし、
りノアだったら多くの本を置いた図書室でも作るだろう。
――家には主人のパーソナリティーが反映される。
そう考えてみると、あの城からはアルティミシアの「研究者としての顔」は見えず、
この首輪や各種機器もどこか余所のものを流用したと考える方がしっくりきた。
そして自然、その「余所」の候補を挙げるとすれば、
科学技術が低く、アルティミシアにとっても馴染みが薄いであろう異世界よりも、
「元の世界のかつて支配していた国」が上位に来る。
実際にその国で悪趣味な首輪が製造されていたというのなら尚更だ。
……もちろん、未来の国のハイテク技術で作られたという絶望的な見方もあるけれど。
(どちらにせよ、カズスで手に入れた首輪を調べるべきか……)
生存者は既に、3割近くにまで減っていた。
今朝の放送では、技術者だというマッシュの兄、エドガ―の名も呼ばれている
もはやまだ見ぬ誰かに期待することはできない。
自分にプロの技量があるとは思えないが、それでもこれまで見聞きし、
学んできた全ての情報を手がかりに、自らも首輪の解除に取り組むべきかもしれない。
(……とはいえ、我ながら心許ないな。 後でリュックにも協力を頼んでみよう)
支援
119 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/09/18(木) 04:02:40 ID:JdB8OGBQ0
一人そう思うと、スコールはもの問いたげな他の面々を見渡し、次に周囲を窺った。
遮蔽物があまりない場所なので敵がいるかどうかはすぐに分かるが
それはこちらも見つかりやすいということだ。
正面からの戦いならともかく、アーヴァインのようなスナイパーに狙われたら絶好の標的。
離れたままになっているターニアのことも不安だった。
そろそろ動いた方がいいだろう。
「これ以上の治療は後にして、とりあえず移動をしよう
どうやら、すぐに治るような毒でもなさそうだしな」
そう言うとスコールはライオンハートではなく、ビームライフルを手にして立ち上がった。
麻痺が未だ抜けきっていないため、剣を振り回す自信があまりないのだ。
立った時も少しよろめいたが、バッツが咄嗟に支えてくれた。
厄介な毒を受けたものだと嘆息する。
すぐ傍ではサイファーがヘンリーを小突き、不躾に起こしていた。
念のためヘンリーの頭も既に治療してあったが、疲れも溜まっての睡眠だったのだろう。
ヘンリーはまだ少し眠り足りなそうな顔で辺りを見回し、首を傾げた。
仲間が3人も消え、場所もすっかり変わっているのだ。
困惑するのも無理はない。
スコールは状況を説明し始めるソロに目を向けながら、これからすべきことを考える。
今から行く祠にターニアがいればいいが、そうじゃなかったら面倒だった。
昏睡中のマッシュの身を思えば、首輪を調べることも兼ねた待機班と
ターニア等を探す捜索班に分けなければならないかもしれない。
(……その前に、色々な説明か)
サイファーの発言で、魔女についての話がうやむやになっていた。
魔女を倒すのは自分の義務。逆に言えば、討ち漏らしたのは自分の責任だ。
間接的とは言え、この殺し合いが開催された原因の一端を自分は担っているとさえ思い、
「気が重いな」とスコールは小さく呟く。
景気づけるように出発の音頭をとるリュックの声、その明るさが微かに心を慰めた。
【サイファー(右足軽傷)
所持品:破邪の剣、G.F.ケルベロス(召喚不能) 白マテリア 正宗 ケフカのメモ ひそひ草
マッシュの支給品袋(ナイトオブタマネギ(レベル3) モップ(FF7) バーバラの首輪)
レオの支給品袋(アルテマソード 鉄の盾 果物ナイフ 君主の聖衣 鍛冶セット 光の鎧) 】
第一行動方針:結界の祠南東へ移動
第二行動方針:はぐれた仲間、協力者を探す/ロザリーと合流
基本行動方針:マーダーの撃破(セフィロス、アリーナ、サックス優先)
最終行動方針:ゲームからの脱出】
【マッシュ(気絶、重症、右腕欠損) 所持品:なし】
第一行動方針:―
第二行動方針:アーヴァインと緑髪(緑のバンダナ)の男、及びエドガーを探す
第三行動方針:ゲームを止める】
【ソロ(HP3/5 魔力少量)
所持品:ラミアスの剣(天空の剣) 天空の盾 さざなみの剣
ジ・アベンジャー(爪) 水のリング 天空の兜
第一行動方針:結界の祠南東へ移動
第二行動方針:はぐれた仲間を探す
基本行動方針:PKK含むこれ以上の殺人を防ぐ+仲間を探す
※但し、真剣勝負が必要になる局面が来た場合の事は覚悟しつつあり】
【スコール (HP2/3、微〜軽度の毒状態、手足に痺れ)
所持品:ライオンハート ひそひ草 エアナイフ、ビームライフル
G.F.カーバンクル(召喚○、コマンドアビリティ×、HP2/5)、G.F.パンデモニウム(召喚×)
吹雪の剣、ガイアの剣、セイブ・ザ・クイーン(FF8) 、貴族の服、炎のリング
第一行動方針:結界の祠南東へ移動
第二行動方針:今後の計画を固める
第三行動方針:アーヴァインと緑髪(緑のバンダナ)の男を探す/緑髪を警戒/サックスを警戒
基本行動方針:ゲームを止める】
【リュック(パラディン)
所持品:メタルキングの剣 ロトの盾 刃の鎧 クリスタルの小手 ドレスフィア(パラディン)
チキンナイフ マジカルスカート ロトの剣
第一行動方針:結界の祠南東へ移動
第二行動方針:はぐれた仲間を探す
基本行動方針:テリーとリュックの仲間(ユウナ優先)を探す
最終行動方針:アルティミシアを倒す】
【バッツ(HP3/5 左足負傷、魔力0、アビリティ:白魔法)
所持品:アポロンのハープ アイスブランド うさぎのしっぽ 静寂の玉 ティナの魔石(崩壊寸前)
第一行動方針:結界の祠南東へ移動
第二行動方針:はぐれた仲間を探す
基本行動方針:『みんな』で生き残る、誰も死なせない】
【ヘンリー
所持品:アラームピアス(対人) リフレクトリング バリアントナイフ 銀のフォーク
キラーボウ、グレートソード、デスペナルティ、ナイフ
第一行動方針:状況把握しつつ、結界の祠南東へ移動
基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】
【現在位置:南東の平原→結界の祠南東】
ageてしまった……。
八分割かと思ったら七分割でした。
落丁があるわけではないので気にしないで下さいorz
「何をしている。見苦しい」
ピサロの呟きに、アーヴァインはきょとんとした表情で振り向いた。
咥えていた人差し指を離し、「何が」と言いかけて、涎のついた指先に気づく。
アーヴァインがもう一度指を口に近づけてみると、ピサロはますます不愉快そうに顔をしかめた。
「ああ、これね。1、紙で指先切っちゃった。
2、左手ばっかり酷使しすぎて指が痛くなった。
3、目玉焼きのケチャップが手についた。さあ答えはどーれだ」
「………」
冗談交じりの問いかけを黙殺され、アーヴァインは子供のように頬を膨らませる。
「スルーって酷くね〜?」
そんな戯言をさらに無視しながら、ピサロはゆっくりとベッドから身を起こした。
「他の連中はどうしたのだ。よもや貴様一人ではあるまいな」
鋭い視線をものともせず、アーヴァインは涼しい顔で答える。
「ぶっちゃけ僕独りだよ。
みんな、置いてきちゃった。これ以上迷惑かけらんないし」
「迷惑だと?」
「昨日の夜ふけだったかなあ。急に、頭のなかがざわざわしてさ。
それから突然気分がハイになったり、黒いもやみたいのが見えるようになった。
んで、朝、いきなり記憶がぷっつり途切れてさ。
気づいたらサスーン城にいて、みんなが僕のことじっと見てた」
他人事のように喋りながら、アーヴァインは明け方の出来事を回想する。
「ギードとかテリーが言うには、この世界には負の力とか闇の力とかで満ちてるんだって。
それに精神汚染されたとか、そんなことで、僕、ロックやティーダを撃とうとしてたらしいよ?
まあ、ティーダが理性の種とかいうの飲ませてくれたおかげで、今は頭もスッキリしてるけど。
……そんな話聞いて、一緒に居られるほど、僕の神経図太くないよ」
敢えて真実を話すのは、胸中の目的を悟られないための打算。
一片の嘘を紛れ込ませるための、隠れ蓑だ。
「誰かに殺されるのも、自分を見失うのも怖くて。
こんなところに閉じこもって一人でガタガタ震えてるところに、あんたが降って来たから助けた」
そんだけ、と言って、アーヴァインは口をつぐんだ。
俯いたまま、横目でピサロの様子を見やる。
「恩でも売れば、私が貴様を見過ごすと思いでもしたか」
冷徹な言葉に、しかしアーヴァインは口の端を吊り上げた。
「言っただろ。見殺しにするのも、約束破るみたいで嫌だったんだよ。
ティーダはまだ、僕の友達だから」
「下らんな」と、ピサロはつまらなそうに呟いた。
数分ばかりの静寂の後、アーヴァインはふと、思い出したように尋ねる。
「そういうあんたは、なんで一人なのさ?
ザンデとかいう人や、ツンデレマティウスやこそどろはどーしたんだい」
「こそどろ?」
「夜中、あんたたちが話してる横で、砂の中から黒くて丸い輪っかみたいなの拾って、パクってた奴さ。
ピエロみたいなカッコした」
ピエロ、という単語で、ようやくピサロの脳裏に憎き魔術師の影が過ぎる。
「ケフカのことか」
忌々しげに吐き捨てながら、眉間の皺をさらに深く刻む。
レーべで敵対した時ですら見せたことのなかった表情と殺気に、アーヴァインは思わず身を竦ませた。
「あの男は我々を裏切り、ザンデとロザリーを次元の狭間に追いやった上で、逃げていった。
マティウスはアリーナと決着をつけると言い張り、私を竜巻で吹き飛ばした。
その後、連中がどうなったかはわからん」
地雷を踏んだ。そんな言葉が、アーヴァインの頭を駆け抜ける。
どうにか機嫌を直させようと、気の利いた台詞を探してみるが、そうそう浮かぶものでもない。
微妙に気まずい沈黙を破ったのは、ピサロの方だった。
「……黒くて丸い輪、か。大きさはどの程度だったか覚えているか?」
「え? えーと……このくらい、かな。
体、動かなかったから、あんまり良く見えなかったんだけど」
「我々が着けている、これと同じではなかったか?」
ピサロが自分の首を指し示す。参加者を死の恐怖で縛り付ける金属の枷が、爪に弾かれて微かに音を立てた。
「あ。そーいえば、そんな感じもするなぁ。
でもさ、砂の中にコレなんて埋もれてたりするワケなくね?」
自信なさげに天井を見つめるアーヴァインに、ピサロは小さく呟く。
「ある種の魔法生物は、仮初の生命を失うと砂と化す」
「え?」
「……ケフカを倒さねばならぬ理由が増えたな」
一人腕を組み、怜悧な眼光をあらぬ方へ向ける魔王に、アーヴァインは口を尖らせた。
「自己完結してないで説明しろ、っつ〜の」
「貴様のような愚か者に解説しても理解できるものか。
尋ねるならば、そこの書物を読み解けるようになってからにしろ」
「????」
ピサロの言葉に、思わず首を傾げる。
しかし、その視線の先にあるものに気づき、アーヴァインはポンと手を打った。
「あー。はいはい」
赤い眼光が射止めている本棚に眼をやりながら、ひょい、と近くにあった机の引き出しを開け、白紙を数枚取り出す。
それからアーヴァインは、己のザックから鉛筆を一本取り出し、さらさらと紙の上に書きなぐった。
『話すとヤバイってことね』
文章に目を通したピサロが満足げに頷き返す。
「バカにするなって。こんな程度の本、教科書より簡単だい」
『で、どういうこと?』
「口先だけならなんとでも言える」
ピサロは適当に言い返しながら、机の上にあった羽ペンとインク、そしてもう一枚の紙を受け取った。
「ふーんだ、いつか見返してやるからな」
「やってみろ」
どうやら相当長い説明を書いているようだ。
アーヴァインは紙の端を折りながら、ピサロが文章を綴り終えるのを待った。
やがて、ピサロはペンを止め、紙を無造作に放り投げる。
ひらひらと舞う紙を慌てて拾い上げると、アーヴァインは素早く内容に目を通した。
『貴様らが出会ったアリーナは、カナーンのアリーナが誤って生み出した複製体だ。
複製のアリーナはあの地で死んで砂となり、衣類も燃えて灰と化し、首輪だけが残った。
だが、首輪も複製であるために、制御の魔力が失われていた。
複製のアリーナを治療したエドガー、そして首輪を見つけたケフカは、そのことに気がついた。
自分一人だけ枷から逃れるか、あるいは取引に使おうと考え、我々に黙って持ち去ったのだろう』
こめかみに手を当て、うーん、と唸ってから、アーヴァインは鉛筆を手に取る。
『複製って、アリーナが二人いて、だからテレポートしてるように見えたってこと?
それに制御の魔力がないって、要するに何しても爆発しないってこと?』
二枚の紙を翳され、手前の一枚を手に取りながら、ピサロは頷いた。
『それがあれば、機械に詳しい者ならば、仕組みを分析することもできるはずだ。
あるいは、例え一部でも術式の痕跡が残っていれば、魔力を打ち消す方法も調べられる』
『首輪解除と脱出に一歩近づけるってワケか。
でも、この首輪をどうにかしても、脱出ルートを確保できないと仕方なくない?』
『ザンデが一度成功させた。用いた魔法陣も、ある程度は記憶している。
問題は奴が使用した術の内容だが、これは一から再構成するしかないな。
ロザリーが取っていた記録が残っていれば良かったのだが、無い物をねだっても仕方がない』
「え、でも」
不意にアーヴァインが声を上げた。
さらに何かを言おうとし、慌てて口を押さえながら、言葉を綴る。
『術の構成とか、そーいうことできる人がいなくなったらどーするんだよ』
「…………」
文章に目を通したピサロは、長い銀髪をかきあげるように、額に手を当てた。
ややあって、瞼を閉じたまま、独り言のように問いかける。
「貴様、黒い靄が見える、といったな」
「うん。僕の周りとか、死体の周りとかに。
ああ、それからあんたの周りにも、少しわだかまってるかな」
明らかに余計なことを喋っているが、ピサロは気にした様子も無く、手とペンを動かす。
『集中している箇所を探すことはできるのか?』
翳された文を読んだアーヴァインは、しばし考え込むような素振りを見せた後、筆談で答えた。
『見える範囲なら余裕だけど、あんまり遠くだと無理。障害物があっても厳しいかな』
「ふむ」
「それが、どうかしたって〜の?」
怪訝そうな表情を浮かべるアーヴァインを一瞥し、ピサロは手を動かしながら語り出した。
「大したことではない。
ただ、闇の力があれば、進化の秘法を使うことができるやもしれぬ」
『もし、魔女の目的が黒い靄=闇の力を集めることであるならば、
この世界の何処かで、発生した力を回収している可能性がある』
アーヴァインは椅子を動かし、ピサロの手元を覗き込みながら相槌を打った。
「進化の秘法?」
「獣に言葉と知恵を与え、か弱き人間に魔獣の強靭さを与え、魔族に破壊の力と不死を与える。
この世あらざる進化にて、より完璧な生命体を作り出す秘術だ」
『靄が集中しているところで、デジョンやリレミトなどの空間を破る術を使い、
ルーラ等の転移呪文で上手く力の流れに乗ることができれば
魔女の元にたどり着けるかもしれん』
そこまで書き終えたところで、ピサロは再び首輪を叩いてみせる。
「最も、それを為すには、この忌々しい枷を封じねばならんがな」
『あるいは、旅の扉が消滅するまで舞台に居残り、崩壊に合わせて転移呪文を使ってみるか。
どちらも分の悪い賭けだが』
ふむふむと頷いていたアーヴァインが、不意に口を開く。
「……ふーん。また面白そうな話だね。でも、僕は化け物になる気はないよ」
そういいながら、ピサロが持っている紙の空きスペースに、素早く走り書きをする。
『勝率何パーセント?』
ピサロは数瞬ばかり瞼を閉じ、嘲るように応じながら、問いかけに答える。
「愚か者が。貴様などに我等の秘術を施すはずがなかろう。
せいぜい闇の力の媒介として、黄金の腕輪の代わりに利用してくれるわ」
『魔力の追跡に長けた者が四人程度を連れて移動する場合、2割程度。
単に該当する呪文を使えるだけの人間が複数人を引き連れた場合、1分以下』
それを読んだアーヴァインは、がっくりと肩を落とした。
「うわ〜。アイテム扱いってひどくね?」
『20%に1%って、専門知識を持っている人がいなくなった場合の、最後の手段ってことね』
『その通りだ』、とピサロは記す。
「第一、貴様に進化の秘法を使う必要はあるまい。
見えざるものが見えるのは、貴様が人間という種の有り様を外れた証拠。
記憶が途切れ、仲間に襲い掛かったのは、破壊と殺戮を本能とする魔物としての衝動が芽生えたが故」
『魔術に長け、かつ信用できる者がいるならば、旅の扉に干渉する方法を選んだ方が良い』
「え、なにそれ。僕はもう化け物だっていいたいわけ?」
むすっとした口調とは裏腹に、アーヴァインの表情は明るい。
『それなら、ギードとか、プサンと一緒にいたセージって人に協力頼んだらどうかな。
賢者って名乗ってたらしいし、魔法も使えるみたいだから、上手くやってくれると思う』
アーヴァインの綴った文章に、ピサロはほう、と漏らした。
『賢者か。その称号を持つものならば、確かに利用できるかもしれん』
「ティーダとやらに感謝するのだな。
理性無き魔物と化したならば、問答無用で葬り去っていたわ」
書くところが少なくなってきた紙を放り捨て、ピサロはアーヴァインを見やる。
「ひどっ。魔王なら魔物一匹手懐けるぐらいしろよ〜」
アーヴァインはくすくすと笑いながら、新しい紙をピサロに手渡した。
けれども、何かに思い至ったのか、突然笑顔を消して鉛筆を動かす。
『ところで、喋ってるほうの話って、盗聴を誤魔化してるだけで100%ウソだよね?』
それを見たピサロは、鼻で笑いながら答えた。
「元人間を飼う趣味などない」
『貴様と一緒にするな。私には長々と嘘偽りを語る趣味などない』
「あっそ。じゃあテリーの仲間になるからいいもん……って、僕はまだ人間だい!」
紙と筆記具、ついでにザックを放り捨て、アーヴァインはピサロに詰め寄る。
「見てわかるだろ? 尻尾もないし羽もない、火も吐けなきゃ目からビームも撃てない!
臭い息吐いてるわけじゃないし、ショックウェーブパルサーも撃てない、この僕のどこが魔物だよ!
だいたい人を殺すだけで魔物になるなら、戦争だらけの僕の世界、魔物しかいなくなるっての!」
「普通はな。だが、貴様ほど闇に寄り憑かれやすい条件を揃えているとなると話は別だ」
「なんだよ、それ。条件っていったいぜんたいなんなんだい」
「魔女の意志と力で閉ざされ、死と絶望と呪いに満ちた蟲毒壺のごとき空間。
その中で他者を殺め、浴びた怨念と憎悪の量。私に睨まれた程度で折れる、弱い心。
さらに闇の力を持つ召喚獣を直接その身に宿した上、制御を失い暴走させ、意識と記憶を蝕まれ、
毒に冒されて身体を弱らせ、頭を打ち付けられて昏睡状態に陥り、生死の境を彷徨い……
……これで、よくエリミネーターや死神やリビングデッドに変化しなかったものだ。
召喚獣の加護や理性の種があったとはいえ、賞賛に値する」
そこまで言って、ピサロは手を叩く真似をしてみせた。
アーヴァインはしばしぽかんと口を開け、聞きなれぬ魔物の姿形を想像した後で、力なく笑う。
「そ、そーゆーレベルだったの?
あはは……せ、せめて変身ヒーローを名乗れる程度の変化で勘弁してほしいな〜……」
ぺたぺたと自分の腕や胸を触る青年に、ピサロは無表情のまま、言った。
「ここまで無事であるならば、最早目立つような肉体的変化は起こらぬだろう。
通常の人間同様、虚弱貧弱無知短命なままだ。喜ぶがいい」
そう言われて喜べるわけね〜、とアーヴァインは呟く。
「あーあ。エスタ大統領殺害疑惑が消えたと思ったら
別の意味で人生終わってたとか……ねーよって感じにも程があるよ」
ふう、とため息をついて、アーヴァインはぐるぐると左腕を回した。
それを横目に、ピサロは手のひらに視線を落とし、何かを掴むように指を動かした。
握り、開き、握り、開き。やがて、指先のみならず、腕や上半身を少しづつ動かし始める。
その行動と、不機嫌そうな表情に気づいたアーヴァインは、己のザックを手繰り寄せながら声をかけた。
「そういやさ。さっき、アルガスって奴に会ったんだ」
ピサロの動きがぴたりと止まる。
「あんたのことはひどく嫌ってたけど、ロザリーって人とはそれなりに仲良かったらしいから。
僕の用事頼むついでに、彼女見かけたらここのこと教えてって」
アーヴァインが喋り終えるのを待たず、ピサロは刃のような言葉と視線を向ける。
「余計な真似をするな。恩でも売るつもりか」
無駄なことを、と言えなかったのは、彼自身一縷の望みに縋りたかったのかもしれない。
しかしピサロの心情など知らないアーヴァインは、意に介した様子も見せず、ヒュウ、と口笛を吹いてみせた。
「買ってくれる性格でもないだろ。
ポリシーみたいなもんさ。彼氏持ちでも可愛い女の子には親切にしたい、っていう」
さらに、左腕を横に開き、肩を竦めながら、彼は言葉を続ける。
「それに、短い人生の3分の2ぐらいを、大事な人と離れ離れで過ごしてるとさ。
他人事でも、見ているだけで気が滅入るんだ。
やっぱ恋人同士は幸せなのが一番だよ」
ピサロは納得がいかないというように、しばらくアーヴァインを睨みつけていた。
だが、無駄だと悟ったのか、それともそちらに興味が移ったのか、唐突に別のことを尋ねた。
「貴様の用事とはなんだ」
その質問は予想していなかったのか、アーヴァインはぱちぱちと目をしばたたかせる。
「ん、えっと、まあ、大したことじゃないよ。
ティーダ達には会いたくないけど、スコールやサイファーとは会いたいから連れてきてって、そんだけ」
「スコール……貴様が裏切った仲間とやらか」
「よく覚えてるね」
アーヴァインがスコールの名前をピサロに告げたのは、記憶を失った直後の一度きりのはずだ。
(やっぱりこいつは油断がならない)、そんな想いを知ってかしらずか、ピサロは言葉を続ける。
「なるほど、読めたぞ。
私を、いや、私を助けたという事実を利用して和解に持ち込もうという腹積もりか」
「だったら、こんな風にぺらぺら喋らないと思うけどね?」
「貴様ならば裏の裏を読むぐらいはするだろう?」
「へー、知らなかったな〜。僕の評価がそんなに高かったなんて」
アーヴァインはおどけてみせたが、本当に誤魔化せたのかは、ピサロ以外にはわからない。
「まあ、そんなことはどうでもいい」
ピサロは置いていた紙を再び手に取り、ある単語の上を指で弾いた。
「もう一つ、単刀直入に問わせてもらう。貴様とアルティミシアはどのような関係なのだ?」
二度、三度、"魔女"と記された部分が音を立てる。
「未来の世界から過去に干渉してきた魔女と、そんな悪い魔女を殺すために作られたチームの一員。
それ以上でもそれ以下でもないね」
アーヴァインは椅子の背もたれに体重をかけ、斜め後ろに傾かせながら答えた。
「アルティミシアのことを知りたいなら、サイファーに聞いた方がいいと思うよ。
あいつはアルティミシアの側近だったから」
「側近……だと?」
サイファー。ピサロには聞き覚えのある名前だった。
ロザリーの同行者として彼女を守り続け、互いにある種の信頼を寄せていた男の名、として。
「まぁ、側近っていっても、洗脳されていいようにこき使われてただけなんだけどね。
テリーの話を聞く限り、アルティミシアに従おうって気はゼロかマイナスみたいだよ。
だから話聞かせてくれって頼めば、べらべら喋ってくれるんじゃん?」
「…………」
不信と不安、それにわずかばかりの嫉妬がない交ぜになった、魔王にあるまじき感情を封じ込めながら
ピサロはアーヴァインの話に耳を傾ける。
「そんじゃなかったら、やっぱスコールだね。
リノアが魔女になった時、まま先生から魔女について色々な話聞いたらしいし。
それにアルティミシアが最も恐れる伝説のSeeDだし、何よりものすごいコレクター気質だから。
カードと魔女のことなら誰よりも詳しいと思うよ〜」
「…………そう、か」
ピサロは頭を振ると、シーツを撥ね退け、ゆっくりと足を動かした。
それを見たアーヴァインは、呆れたように手を振る。
「だーかーら、無理だって。
あんな大怪我で、回復魔法や薬もないってのに、一時間やそこらで歩けるわけねー、って……」
アーヴァインの茶々を気にも留めず、ピサロは立ち上がり、壁際に保管されていたザックを手に取った。
そして中に収納されたままの刀剣二振りを取り出し、鞘から抜いて軽く素振りをする。
「あ……あんた一体、どういう体のつくりしてんだっつーの。
流石に引くわ……ヘンリーさんなら二晩ぐらい寝てるような傷だってのに」
「人間風情と一緒にするな」
「いやいやいや、そういう問題じゃないって」
手と首を横に振り続けるアーヴァインを無視し、ピサロは剣を鞘に収める。
そして扉の方に数歩歩き――唐突に呻き声を上げて、うずくまった。
「……だーかーら、無理すんなって」
今度こそ、本気で呆れた、という表情と口調で、アーヴァインは声をかけた。
「スコールの性格から考えて、アルガスが上手くやってくれれば、こっちに来てくれるって。
それともあのこそどろピエロのケフカを倒しに行くの?
それこそ、ムリムリムリムリかたつむり〜ってもんだよ」
身を起してやろうと差し伸べられた手、それを払い退け、ピサロは静かな声音で呟いた。
「私が彼奴ごときに遅れを取るとでもいうのか」
部屋の空気が変わった、と思う間もなく、黒いもやが凄まじい勢いでアーヴァインの視界を満たしていく。
凄まじい憎悪と殺気が、闇の力を呼び寄せているのだ。
常人がこの場に居合わせたならば、かつてのアーヴァインのように気を失うしかないだろう。
だが、増大した理性と闇を取り込み、進化ともいうべき変質を遂げた心は、小波さえも立てはしなかった。
「あんなんでも、ティ…ロック曰く、集団でやっと倒した魔導師とかいう触れ込みだよ?
そんな重傷で遅れを取らないとか思ってるワケ?
だいたい、運良くケフカってのを倒せたって、横合いからカインとか襲ってこられたらどーすんの?
死ぬの? ロザリーって子もソロもみんなも放りっぱなしで死にに行くの?」
黒いもやとピサロから眼を離すことなく、アーヴァインはザックに手を入れる。
「ザンデとマティウスがいなくなって、ケフカが信用できないんじゃさ。
鍵握ってるの、あんただけってことだよね。
選択する前に選択肢自体を潰されるとか、すっごい困るんだけど。
みんなの希望ごと、自分はとっととくたばって、残ったみんなには殺し合いをしてもらうっての?」
「……黙れ」
瞬間、一陣の風がアーヴァインの額を叩いた。
眼前に突きつけられた剣先を、しかし、眉ひとつ動かさずに見つめ、言葉を続ける。
「黙らないもんね。当たらない剣なんて、単なる鉄のカタマリだよ」
アーヴァインは不敵に笑い、前髪を撫でた。
本来はフードを切り裂き、前髪を全て切り落とすはずの剣筋。
だが、いかにピサロといえども、傷を押しての一閃は、アーヴァインが容易く見切れる程度のものでしかなかった。
「こんなんで外に出したら、僕がソロとロザリーさんに怒られちゃうよ。
あんたには悪いけど、両足撃ち抜いてでも休んでてもらうからね。
銃弾もかわせない怪我人が、超つえー魔法使いや槍使い、その他もろもろに勝てるわけないんだし」
アーヴァインは袖口から銃を取り出し、言葉どおりに、ピサロに狙いを定める。
しばしの間、赤と青の視線が交錯し――折れたのは、ピサロの方だった。
無表情のまま、剣を鞘に収め、ベッドの上に転がる。
(あーあ。ふてくされた時のはんちょ〜みたいだね)
アーヴァインはため息をついて、椅子ごと机の傍に戻った。
こういう時のスコールには、フォローを入れても挑発しても、何を言っても無駄か逆効果にしかならなかった。
普段は割と冷静沈着、周囲と壁を作りたがる割に、恋人が絡んだとたん激情家になる。
こんな似たもの同士なら対応法だって同じだろう。寝て起きるまで放っておくのが一番いい。
そう判断したアーヴァインは、先ほどまでと同じように適当な本を手に取り、ページをめくった。
(あー、でも気まずいなあ。班長でもロザリーさんでもいいから、早く来てくれないかな〜……)
【アーヴァイン(変装中@白魔もどき、右腕骨折、右耳失聴、冷静状態)
所持品:竜騎士の靴 手帳 首輪 コルトガバメント(予備弾倉×3) 弓 木の矢40本 聖なる矢20本 ふきとばしの杖[0]
第一行動方針:スコールに会い、行動方針を再考する。それまで脱出の可能性を潰さない
第二行動方針:生還してセルフィに会う
備考:理性の種を服用したことで、記憶が戻っています】
【ピサロ(MP残り僅か、全身に深い切り傷(手当て済み)、精神的に疲労、睡眠)
所持品:エクスカリパー スプラッシャー 命のリング
第一行動方針:戦闘可能になるまで休息
第二行動方針:可能ならロザリーを救出する
第三行動方針:ケフカへの復讐】
【現在位置:デスキャッスル内部の一室】
闇の世界の南方。この世界でも最も古くに造られた建物の一つ。
もし橋が最後まで続いていれば、大扉まで繋がっているのだろう。
その、最上階の割合丈夫な橋の上に寝転がる少年。
砂漠に吹くような、だがそれとはまた性質の違う熱風が、橋の上へびゅうびゅうと吹き付けてくる。
ここは架け橋の塔。とはいっても、橋は途中で切られてしまっているが。
島の南中央部を見渡すことが出来るこの塔は、場所だけなら偵察には最高。
もっとも、サラマンダーのように闇夜でも遠くまで見渡せる鍛え上げられた目か、
闇のドラゴンのようにフィールドソースを十分に得られる体質か、
はたまたアルガスのように目薬草のようなアイテムでも使わなければはっきりと見えはしない。
ただでさえ、熱波で遠くのほうは歪んで見えるのだ。
溶岩の明るさがあるとはいえ、太陽の恩恵無しに遠くを見ることができるのはほんのひとにぎり。
せいぜい、ここから見渡して分かるのは、魔王の城が見えること、そしてその奥に一際大きな山が見えることくらい。
ルカもはじめの数分こそ偵察をしていたが、そのときはまだ誰も見当たらず、
集中力も続かなかったため、アンジェロにまわりの探索を任せていた。
もしかしたら、みんな近くにいるかもしれないが、でもほとんど期待せずに待っていた。
「今ごろ、みんなどうしてるんだろう?」
イザやハッサンは死んでしまったものの、ギードも、テリーも、トンヌラも、それとケフカもまだ生きている。
「みんなで脱出したいけど…」
大きなため息をつく。みんなどころか、自分の身すら危ういのだ。
無力感に苛まされる。つくづく嫌になる。
今気を強く持てるのも、アンジェロがいたから、一人じゃなかったから。
彼女がいなければ、孤独。もし戻ってこなくても。ぶるぶると身を震わせる。
そんなことを考えていると、後ろで犬の鳴き声。
アンジェロが偵察から帰ってきたということ。
「お帰り。どうだった? みんなは近くにいた?」
『いいえ、残念だけれどこの近くにはもう誰もいないみたいね。
隣の建物も、このまわりにも、他人の気配はなかったわ』
「そう、か。ありがとう」
『休むなら、ここより隣の建物のほうがいいわ。少し古いけれど、涼しいから』
「じゃあそっちで休もっか。実は昨日眠れなくて、とても眠いんだ」
とりあえず、雲に乗って移動することはできる。
けれども、それも目標を決めてこそのもの。
この暑い世界を闇雲に飛びまわっても、目立つだけ、いたずらに体力と精神力を消耗するだけ。
隣の建物、希望の祠は架け橋の塔のすぐ下。そこに向かおうとして、ふと遠くを見る。
見覚えのある青い帽子。この世界にありえない、鮮やかな青い帽子。砂粒のように小さいが、間違いない。
「テリー……?」
アンジェロが首をかしげるのに気付かず、遠くを見つめてぽかんとする。
「アンジェロ、もう少しだけ付き合って。仲間を見つけたんだ」
『私は貴方のパートナーなのよ、どこでも付いていくわ』
さも当然と言い切るアンジェロに、ありがとうと一言。
袋から取り出して飲むのは目覚まし草。
決して、意識を失わないように。
決して、判断を過たないように。
指輪の呪縛を解くために、テリーを追う。
【ルカ (HP1/15、あちこちに打撲傷、不眠状態)
所持品:ウインチェスター+マテリア(みやぶる)(あやつる) シルバートレイ 猛毒入りポーション
満月草 山彦草 雑草 説明書(草類はあるとしてもあと二種類) E:爆発の指輪(呪) オリハルコン
第一行動方針:テリーらと合流し、呪いを解く
第二行動方針:サックスを追う
最終行動方針:生き延びて故郷に帰る】
【アンジェロ 所持品:風のローブ
基本行動方針:ルカについていき、その身を守り、戦う】
【現在位置:架け橋の塔最上階のつり橋の上】
落ちたのは、場所でいえば城から南東の沼地。ツィゴリス湿原のものと同じ性質を持つ毒の沼。
潅木にうまく引っかかって、ダイブだけは免れたものの、気のせいではなく、空気が体にまとわり付いてくる。
見通しの悪い茂みに囲まれ、さらに好んで足を踏み入れることはない沼地だ。目立つことはない。
とはいえ、本来ならばすぐに抜け出すところだが、緊張感が消えてどっと疲れがたまったのか、とても動く気にはなれない。
旅の扉を抜けてなお、心臓がバクバク鳴っている。ほとんど無傷で抜けられたのは不思議なくらい。
無事に旅の扉を抜けられたのは、リルムの機転のおかげ。…それと、ウィーグラフのおかげだ。
考え方によっては、ウィーグラフが死んでくれたおかげで生き延びることができたということでもある。
「あんまりうじうじすんなよな、男だろ!」
リルムはそう檄を飛ばすが、疲れているのは彼女も同じ。
というよりも、ウィーグラフを失って受けた衝撃は、彼女のほうが大きいはずだ。
結局最後までウィーグラフを信じきれなかった自分よりも。
となると、今足が止まっているのは、悲しみや疲れによるものでなく、
口に出すことと本心の一致しないことによる、自己嫌悪による気力の減退といったところだろうか。
そう考え出すと、当然さらなる自己嫌悪に陥る。負のスパイラル。
辺りに、鈴の音が響き渡った。
何をしているのだろうと見れば、リルムがシャカシャカとなんらかの道具を振りまわしている。
星型に組まれた針金に、幾多もの鈴を取り付けたような道具。
楽器のように見える。何の楽器なのかはよく分からない、なんとも不思議な形をしている。
さすがにこれは目立つが、注意しようかと思ったところで、ふと気分が高揚しているのに気付く。
バーサクの効果か、それとも呪いか。だが、嫌な感じはしない。
「鳴らすと元気が出てくるタンバリンだって。
帽子兄ちゃん、自分で鳴らしてみなよ」
辺りには他に人の気配はない。ゆっくりとその楽器を受け取ると、おそるおそる鳴らす。
しゃらん、しゃらんと明るい音色が響く。それに合わせて、力もわきあがって来る気がする。
一目を気にせず、思いっきり叫んだ後のような高揚。
「何がなんだかよく分からないけれど、すごい……」
思わず呟く。どんな困難にも立ち向かえそう。どんな敵にも向かっていけそう。
それまでの憂鬱な気分が一気に払拭された気がする。
「動くと戻っちゃうけどな。元気は出たでしょ?」
体を動かしてみる。確かに漲っていたはずの力は発散され、高揚した気分も拡散した。
でも、再び動き出せるきっかけには十分。
「よし、じゃあ行こうか」
こくりと頷いたリルムを背に掴まらせ、沼に生えた灌木や僅かな地面を足場に、
傍から見れば湖面を魚が何度も跳ね上がるように、ぴょん、ぴょんと飛び移る。
「魔女のヤツも陰気だねー、あのオバサン性格が歪んでるんだよ。じゃないとこんなとこに飛ばさないよ」
リルムはやることがなくて暇なのか、それとも元気付けようとしてくれているのか、しきりに背中でお喋りしている。
とはいっても、愚痴と悪口も多く、どう返せばいいか分からず、少し苦笑いを浮かべる。
ラムザの反応は気にせず、魔女の悪口ばかり言い続けているようだ。
多分、しばらくこの状況は続くのだろう。
「……沼を抜けるまで結構遠いな。リルム団長、しっかり掴まってて」
「でね、私が思うに、あのオバサンは独り身で、まともな友達が……わわわっ、
ちょっと、高い、高いよ! こっちのことも考え…! きゃ〜〜!!」
衝撃も高さも抑えるようにはしたが、少し強引だっただろうか。
一度に抜けることで、ほとんど体力を奪われることなく沼地を脱出することはできたのだが。
名前が呼ばれなかったとはいえ、キャンプに戻れなかった以上、みな心配している。
当分は、リルムを元の仲間達のところへ返すのが優先事項。
となると、やはり中央の城か、塔に人が集まりやすい。
よからぬ者も多く集まるだろうが、そこは承知の上だ。
怒っている(ふりをした)リルムに何度もごめんごめんと謝罪をし、茂みを南に歩いていく。
岩山に突き当たって、右に行けば迷わず中央へいけるだろう。
沼地の淵は少々危険だ。
ふと、左手に気配を感じ、立ち止まった。
「どーしたの?」
「……誰かいる」
人の話し声。茂みに隠れて見えないが、まだ距離はかなりある。
リルムに目をやる。覗き込まれる。
「少し様子を見てこよう。リルム団長はここで待っていて欲しい」
ギードらに無事に送り返すと約束した以上、少しでも危険に遭遇する機会は減らしたい。
まあ、こんなことを直接言えば反発されるだろうから言葉には出さないが。
声がだんだん大きくなっていく。両方とも聞いた事のある声だ。
一人はここに誘われてから、もう一人は元の世界にて。
◇
進んでは後ろを振り返り、進んでは後ろを振り返り、
まだこれだけしか進んでいないと焦りながら、少しずつ前進していった。
深い茂みは見通しが悪く、気配を感じるのに長けていない限り、前に誰かいても分からない。
結果的に慎重に進まざるを得ず、なかなか前へ進めない。
生えている草も見たことのない奇妙なものばかりだ。
虫こそいないが、近くの沼から漂い、茂みで溜まる湿気、
そしてこの夏に温室にいるかのような暑さは、不快な気分にしてくれることこの上ない。
少しでもそれを防ごうと、岩山によりそって歩いていくが、
後から思い返せば注意力が欠けていたのは明らかだった。
結局、いとも簡単に後ろから槍を突きつけられたのだから。
「相変わらず隙だらけだな、アルガス」
「よかった、カイン、か」
聞こえてきた声に幾許かの安堵を覚える。
別に仲良しというわけではない。それどころか、ゲームに乗ってもう何人も殺している。
それでも、まだ話は通じる相手だし、銀髪のように戦闘狂というわけでもない。
向こうにとっての利用価値さえ残っていれば、盾として逆に利用することだってできる。
「よかった…?」
カインに思わず発した言葉は、多少不快にうつったようだ。
確かに、向こうの立場で言えば、ナメられているということになるのかもしれない。
「お前、何か思い違いをしていないか?
なんなら、今すぐにでもお前を殺すことはできるのだぞ?」
語気を強めるカイン。少しばかり焦る。
ここで決別してしまっては、本当に頼れる相手がいなくなる。
いや、ここでヘタな言葉を発すれば、本当に殺されてしまいそうだ。
「わ、悪かった、ただ、そういう意味じゃないんだ、それでもアンタは話が通じる分、
いや、追われていてな、とにかくあいつらに比べると、いや、あいつが追いついてきたんだと…」
情けないが、もう言葉になっていない。だが、ニュアンスは解してくれたようだ。
「わかったわかった、少し落ち着け。
それで、その追ってきているあいつらというのは誰だ?
大方、その目の包帯に関係があるのだろうが」
一度大きく深呼吸を行う。そういえば、まだ追ってきてはいないかもしれない。
そもそも、あいつらといってもピサロやユウナらがどう動くのかも分からない。
「ピサロのやつと、アーヴァインって男だ。それから、……アーヴァインを仲間と思ってるやつらもそうかもしれない。
とにかく、アーヴァインってやつが本当にヤバい」
「ピサロに、アーヴァインか…。そうか、あの男にやられたか」
「そいつについて、聞かせてくれ。代価は支払う。そうだな、こんなものでも、貴重だろ?」
取り出したのは、デスキャッスルで拾ったポーション。
おそらく魔法の使えないカインにとっては、ポーションといえども貴重な回復薬。
「確かに貴重な品だな。いいだろう」
カインはポーションを受け取ると、一気に飲み干し、アーヴァインについて話し始める。
一日目の夜、アーヴァインがどんな行動を取ってきたのか。
人から聞き出したということだが、誰なのかはカインは言及しなかった。
聞く限りでは、感じたとおりに冷徹で残酷な男だ。
ただ、カインの話から受ける印象と、実際に会ってみた印象とでは少し違う箇所がある。
それがどこから来るものなのかはよく分からなかったが、
とにかく次に会ったら銃弾で撃ち抜かれる前にさっさと逃げるのが最善だということだけは理解した。
一日で少なくとも五人殺すなど、危険すぎる。殺害数はもう二桁は軽く超えているに違いないのだ。
仲間を増やしてはいたが、きっと裏切る機会を狙っているのだろう。
もう約束などどうでもいい。再会すれば確実に、あいつの言ったとおりの方法で殺される。
というか、今更約束を守っても、本当に今更でしかないのだ。
だから、アーヴァインの情報をあちこちに流して、誰かに殺してもらうのが一番なのだ。
問題は如何にして信じ込ませるか、ということ。だから情報が必要なのだ。
そういう意図も持ちながら、情報交換を行っていて、まわりへの注意が疎かになっていた。
聞き耳を立てているやつがいるとは、まったく気付かなかった。
◇
あの金髪の二人組。声も聞き覚えがある。一人は砂漠で出会った男、カイン。
もう一人は、決別した同志、そして僕が戦いに出る大きなきっかけとなった男、アルガス。
アルガスはともかく、カインにはさほど悪い印象は持っていない。
ユフィのことがあるため、向こうがこちらに対してどう思うかというのは分からないが。
まだ向こうはこちらに気付いていないため、とりあえず様子を見る。
途中からなのではじめのほうは分からないが、どうやらアーヴァインが危険だという話をしているらしい。
アーヴァインという名には聞き覚えがある。夜、リルムたちと一緒にいたうちの一人だ。
ピサロが危険人物だと主張していたのを覚えている。
治したところで裏切られるだとか、ゲームに乗って散々殺しまわっただとか。
「話を聞いたほうがいいかもしれないな……。にしても、リルムを待たせていてよかった」
リルムをつれてきていれば、また面倒なことになっただろう。
アルガスとリルム、相性はいいか最悪かの二択だと思う。
とりあえず、仲間のアーヴァインが危険なやつだとかいう話を聞けば、まず間違いなくリルムはアルガスに突っかかっていく。
茂みを掻き分け、二人のいる方向へと進んでいく。少しばかり進んだところで、向こうも気付いた。
「やあカイン、僕だ、ラムザだ。話し声が聞こえたから、来てみれば君がいたので、顔を出させてもらった」
カインが警戒を解き、アルガスはほっと胸をなでおろす。
「なんだラムザか…。驚かせるなよ。
お前みたいなやつが殺し合いに乗るなんてことは絶対にないだろ」
「ん? アルガス、お前の知り合いか?」
「元の世界のな。色々と気にいらねえが、危険な奴じゃない」
アルガスの反応が意外だ。
絶対に突っかかってくると思っていたが、何があったのか分からないが、予想以上に大人しい。
いや、それはそれで悪いことではない。相容れぬはずの仇敵とだって手を組むことが出来た。
こちらから心を開けば、仲間として同じ道を歩むこともできるはず。
「砂漠以来だな、ラムザ。ユフィはどうした……?」
「途中で見失って、それっきり。申し訳ない」
「いや、謝るべきはこちらだ。
あれだけ大口を叩いておきながら、結局フリオニールを仕留めきることかなわなかった。
しかしそれならば、ユフィはやはりフリオニールと相打ちか…」
「おそらくは。鉢合わせてしまったんだろう…」
「やはりそう思うか。…敵は討てたようだが、それで満足できたのかどうか」
「それは本人にしか分からないけれど、尊い命が一つ失われたことは事実」
「そうだな」
「……さて、いつまでもこのことで話し合っていても仕方がない。
お前と話していては日が暮れてしまうのでな。
姿を現したからには、何かしらの目的があるのだろう?」
向こうから本題に入るように促された。
どうやら、おしゃべりだというイメージが定着してしまったらしい。
別のジョブについていればそんなことはないはずなんだけれど、ジョブのせいだと否定するのもなんか嫌だ。
少し顔に出てしまったかもしれない。カインの表情筋がぴくりと動く。すぐに応じる。
「ああ、ちょうどアーヴァインについて、色々とよくないことを話していたみたいだから、聞かせてもらいたくてね。
リルムって子を送り届けているんだけど、その送り先の集団にいるんだ」
アルガスの眉がぴくっと動いた。
◇
カインと顔を見合わせる。リルムという名も聞いたことがある。
カインはどこかで会った、その程度の関係らしい。俺も似たようなものだが、知っている。
アーヴァインが会いたくないといっていたメンバーの一人。
『スコールやティーダ達に会ったら、ちゃんと"本当のこと"を説明するんだよ?』
あの涼しい表情、あの口調と共に再現される。
何か変な魔法でもかけられたんじゃないか、そう思いたくなるほど強く焼きついている。
思わず吐き気が立ち上ってくるが、もはや吐くものもない。
ただ、咳き込んで苦しいだけだ。
俺には『本当のこと』を伝え広め、逃げ隠れる以外に手はない。
そうでなければ、先に待つのは確実な"死"だ。
だから、まずラムザには確実に伝えておかなければならない。
「会いたくない? それはどういうことなんだい?」
「知るか。今朝、そう頼まれたんだ。あと、あいつは一人だったぜ。
護衛と仲介とか言って、怪我したピサロを連れてたが…。いや、ありゃもう人質だな」
あんなやつと一緒にいるピサロに同情する。ざまあみろ、と思いたいが強がりでしかない。
「…なあ、ラムザ。お前、殺し合いに乗った人間に出会ったらどうする?」
「アルガス? いきなり何を?」
「いいから答えてくれ、お前はどうするつもりだ?」
「…まずは説得を試みる。説得に応じないようであれば、無力化……殺害も考慮に入れよう」
「なら、その乗っているやつが、そのことを隠して集団に紛れ込んでいたらどうする?
仲間内に潜み、『信用』を隠れ蓑にして裏で牙を研いでいるやつがいたらどうするッ!?」
「それは……」
ラムザの目が泳ぐ。どうやら、今までそのタイプと直接やりあったことはなかったらしい。
それは少し前までの俺も同じだが。
支援しますわ
「アルガス、あまり困らせてやるな。疑心暗鬼に捕らわれすぎて、こちらに剣を向けられても困る」
カインからの忠告。いや、これは警告ということだろうか?
確かに、ラムザの様子を見る限りではカインは内に潜むタイプだ。
認識させては、不利になるかもしれない。
だが、今残っているやつ、死んでもらいたいやつ、そして俺を殺そうと付けねらうことになるやつは、そのタイプ。
「別にお前を困らせようってわけじゃない、だが、アーヴァイン、ユウナ!
この二人にだけは絶対に心を許すなッ!
今も仲間……そうだ、お前の向かう先の班員の信頼を随分得ているようだが、必ず裏切るッ!!」
「アーヴァインは、一日目に三度裏切りを行ったそうだ。
聞いた話でしかないが、元の世界の仲間、そしてはじめに手を組んだ女。
スコールとマッシュという人物から聞き出したことだ。
そして、レーベという村での一件。何食わぬ顔で集団に入り込み、デールという男と共に村を一個焼き払った」
カインが補足をする。おそらくは、自分からは目を逸らさせるためだとは思うが、
すらすらと流暢に紡がれる言葉は、嘘だとも思えない。
むしろ、デールと組んでいたという話を聞いて、迂闊に想像して気分が悪くなってしまった。
「最近、目立った動きを聞かないが、おそらくまた集団に潜り込んでいるのだろう。そういうヤツだ」
城でギードらと会ったが、遠ざけようとしたものの無理だったことを話す。
そんなことを話しながらふと、自分も内に潜んで密かに殺すタイプなのだろうかとの考えが浮かぶ。
そう、人殺しがよくないとは思っていない。現に、カナーンではアリーナたちを裏切った。
嘘はほぼないが、都合のいいところだけを取り出した情報。
まあ、それはいい。こっちはまだ人間様だ。とにかく強く思うのは、人間のまま生き延びたいということだけだ。
「…リルムを連れて来なくてよかったのかもしれないな」
ラムザが、俺の顔……包帯を巻いた、その部分を見る。
まだ血は乾ききっていない。
「そうさ、これもあいつにやられた傷さ。なんなら、外して見せようか?」
「いや、遠慮しておくよ」
「ユウナって女は、脱出を企んでる人間を狙って殺してやがる。
エドガーとかいうやつを殺してるそうだ。もっとも、アーヴァインに聞かされた話だがな。
一度会ったが、まったく見抜けなかった。気を付けるんだな」
「……貴重な情報をありがとう」
ラムザの声が翳っている。雰囲気こそ記憶とは違うものの、やはり騙されやすいお人好しなのだ。
鵜呑みにしているわけではないだろうが、説得力はあったはずだ。
ラムザはやはり城に向かうようだ。
リルムを送り届けるためと、仲間のギードに会うためだ。
カインはどこへ向かう予定があるでもなく、休んでいたら俺が通りかかったというだけらしい。
同行は双方の利益にはならないだろう。殺人者だとバレている人間に会うとマズい。
俺はアーヴァインやその『仲間』から離れられればいい。
ラムザはリルムを待たせているため、定型文のような挨拶を残して早々に出発してしまう。
銀髪やアリーナのことについては、もう既に知っていることだ。
少しでも包囲網が広がればいいのだが。
◇
リルムは大人しく待っていた。分厚い本を開いて、読んでいたのか、それとも絵を描いていたのか。
「帽子兄ちゃん、どーだった?」
「うん、ギードやプサンが城にいるらしい。だから、そこへ向かおうと思う」
アーヴァインとユウナが殺人者、か。
真意のほどは分からないけれど、嘘は付いていなかったと思う。
だとすれば、いったいこの子にどう説明すればいいんだろう?
【ラムザ(ナイト、アビリティ:ジャンプ・飛行移動)(HP3/4、MP3/5、精神的・体力的に疲労)
所持品:アダマンアーマー、ブレイブブレイド テリーの帽子 英雄の盾 エリクサー×1
第一行動方針:リルムを元の仲間のところへ届ける
第二行動方針:アーヴァイン、ユウナのことが本当なら対処する
最終行動方針:ゲームから抜ける、もしくは壊す】
【リルム(HP1/2、右目失明、魔力消費)
所持品:絵筆、祈りの指輪、不思議なタンバリン、エリクサー×2 スコールのカードデッキ(コンプリート済み) 黒マテリア
攻略本(落丁あり) 首輪 研究メモ レーザーウエポン グリンガムの鞭、暗闇の弓矢 ブラスターガン 毒針弾 首輪 ブロンズナイフ
第一行動方針:ゲームの破壊】
【現在位置:デスキャッスル南南東の茂み】
【アルガス(左目失明)
所持品:インパスの指輪 E.タークスの制服 草薙の剣 高級腕時計 ウネの鍵 ももんじゃのしっぽ 聖者の灰 カヌー(縮小中)天の村雲(刃こぼれ)
第一行動方針:アーヴァインから離れる
第二行動方針:アーヴァインとユウナの情報を流し、包囲網を作る
最終行動方針:脱出・勝利を問わずとにかく生き残る】
【現在位置:デスキャッスル東南東の茂み】
【カイン(HP2/5、左肩負傷、肉体疲労少々回復、精神疲労回復気味)
所持品:ランスオブカイン ミスリルの篭手 プロテクトリング レオの顔写真 ドラゴンオーブ ミスリルシールド
第一行動方針:目立たないところで休む、人によっては情報を集める
基本行動方針:殺人者となり、ゲームに勝つ
最終行動方針:人として、生き残る】
【現在位置:デスキャッスル南東の茂みと岩山の境界辺り】
本当に少女はそこにいるのでしょうか。初めに抱いた印象が、これでした。
この少女は今まで見た人物とはどこか違う、そう思えてしまいました。
けれど、確かに存在しているし、首輪があるというのなら、彼女も私と同じく殺し合いに巻き込まれた人物なのでしょう。
服はボロボロで泥まみれ、あちこち血まみれでも、この会場ではそう珍しいことでもないはずです。
敵意も感じないし、私と同じ境遇にある少女。
どこかで嫌な予感はするけれど、声をかけないなんて選択は、できません。
もしかすると、向こうも一人で寂しいのかもしれない。なにせ、私よりもずっと年下の少女です。
だったら、年上の私がしっかりしないといけません。怖がってはいけません。
「わ、私は…」
少し声が震えているのに気付きました。
一度言葉を飲み込んで、心を落ち着かせます。
私がこれでは、相手に余計な心配をかけてしまいます。
「私はターニアよ。あなたは?」
「タバサです。それで、こっちにいるのがお父さんとピエール」
タバサと名乗る少女が、何もない空間を指差しました。
「私ね、お兄ちゃんとお母さんを探してるの」
聞き間違いかもしれません。でも、どうやって聞き間違えるというのでしょう。
知ってか知らずか、少女は話を続けます。
「お母さんがビアンカで、お兄ちゃんがレックス。お姉さんは、二人とも見ていませんか?」
ビアンカ、レックス。聞いたことがあります。ヘンリーさんがそれを聞いて反応していたような。
いや、挙げられた名前はすべてどこかで聞いたことがあります。
「ご、ごめんなさい。速くて聞き取れなかったの。もう一度、ゆっくり言ってくれない?」
「もう、仕方ないなぁ、今度はちゃんと聞いててね」
と頬を少し膨らませながら、もう一度説明を始めます。
「私の名前はタバサです。そして、貴方の後ろにいるのがお父さんとピエール」
タバサと名乗る少女が、誰もいないはずの私の後ろの空間を指差しました。
そう、誰もいない。静寂なる闇の世界が広がるばかり。なのに、何か底冷えのする気配はあるのです。
恐る恐る、振り向いてみますが、そこには暗い森が広がっているばかり。何もいません。
きっと気のせいです。少女の悪戯なのでしょう。この年齢の子供は悪戯が大好きだから。
「あはは、ピエール、驚かせちゃダメじゃない。その人は悪い人じゃないよ」
屈託ない少女の笑み。まるで、そこにいる誰かに話しかけているよう。
背筋がぞわぞわして、恐怖に冷や汗が止まりません。
何か、いるのです。人間ではない、何かが。
虚空に向かって笑いかけていた少女が、突然笑みを止め、氷のような表情で私に問いかけます。
『……ですよね、お姉ちゃんはさっきのおじさんみたいな、教団の人、じゃないですよね?』
「………!!!」
心の中に直接響いてきます。本当はそんなことはありません。気のせいです。
けれど、この感覚は、直接語りかけているとしか表せない感覚です。
「どうして、目を逸らすの?」
舐めまわされるような悪寒が全身を駆け巡ります。心をくまなく覗き見られる感覚、といってもいいでしょう。
高位の魔物にしか使えないと聞く凝視。このようなものなのでしょうか。
兄のイザですら、そのような魔物相手には、無抵抗のまま崩れ落ちるしかなかったと聞きます。
少女の目を視界から外そうと努めます。なのに、首の筋肉が硬直して動きません。
「お姉さん、何か隠してるの?」
少女がゆっくりと、一歩ずつ近寄ってきます。
まるで幽霊のようにすぅっと、足音すら立てずに近寄ってきます。
私は腰が抜かしてしまいました。足が震えて立てないのです。地面にへたり込むしかありませんでした。
目を閉じるなんて危険だと心では分かっていても、本能が、勝手に瞼を閉じてしまいます。
視界を閉ざせば、他の感覚が働きます。
ざっざっという小さな足音、確かに誰かがそこにいるような感覚。
まわりにいるのは少女一人のはずなのに、何人もまわりにいるような感覚。
しばらく私のまわりをまとわりついていましたが、やがて水が抜けていくように、すっと気配が引いていきました。
あたりにも静寂が戻ります。
少しだけ、冷静さを取り戻します。
一人でこの世界に放り出されて、不安に苛まれて、怖がらずに済んだものを過剰に怖がってしまったのかもしれません。
兄が死んで、エリアさんが離れてしまって、疲れが溜まって、幻覚を見たのかもしれません。
幻覚でなくても、そう、向こうも幻覚を見ていたということもありえます。
何しろ、こんな荒んだ世界なのですから。
そうです、怖がることなんてないのです。あの少女はもういなくなったかもしれないけど、
今度会ったら謝って、ちゃんと話をする。そうすれば、きっと分かり合えます。
こう考えると少し落ち着いたので、一度深呼吸をして、目を開けました。
「 どうして、目を逸らしたの?」
視界の上半分に、逆さの顔が映りました。
私を覗き込むように佇む少女の姿。
震える肘をつかって、何とか逃げ出そうとしましたが、後ろは木。もう進めません。
声もあげられず、ただ、なすがままになるしかありませんでした。
少女の目に、吸い込まれます。少女が私の中に侵入し、心を犯します。
「お姉さんが私を追いかけてきた教団の人なら、このまま放ってはおけないけど」
私は必死で首を振ります。目から涙がこぼれます。けれど、視線は少女に釘付けにされたまま。
必死で、私は無害だと訴えます。
不意に、少女がにかっと笑います。
「どうやら、何も関係ないみたいですね。私の勘違い」
何度も頷きます。一刻も早く、このときを終わらせたい。
「お姉さん、怖がらせちゃったのかな? ごめんなさい、それじゃさようなら」
少女は私に興味をなくしたのか、背を向けて立ち去ります。
もはや、一刻も早くこの少女が立ち去ってくれることを祈るばかりでした。
「あ…」
少女が立ち止まってこちらに向きます。
「私のお母さんと、お兄ちゃんを知りませんか?」
またこの質問。そう、思い出しました。ビアンカもレックスもピエールも、
みんな放送で聞いたことがある名前です。
でも、そんなこと言えません。
少女は私をしばらく眺めていましたが、
「その様子だと、知らないみたいですね。すみませんでした」
こう呟くと、ぺこりと頭を下げ、闇の中へと消えていきました。
ぞわりとする感覚が体中を駆け巡っていましたが、
少女が消えると同時に、その感覚も夢であったかのように闇の中へと消えていきました。
5
【ターニア(血と銃口とタバサへの恐怖 僅かに人間不信&不安)
所持品:スタングレネード×4 ちょこザイナ&ちょこソナー
第一行動方針:リュック達と合流したい】
【現在位置:北東の森】
【タバサ(HP2/3程度 怪我はほぼ回復)
所持品:E:普通の服、E:雷の指輪、ストロスの杖、キノコ図鑑、
悟りの書、服数着 、魔石ミドガルズオルム(召喚不可)
基本行動方針:ビアンカとレックスを探す
※リュカとピエールと共に二人を探しているというストーリーを組み立てています】
【現在位置:北東の森から移動中】
アルガス達と別れて、十分ほど経った頃だろうか。
唐突に、リルムが僕のザックを引っ張った。
「ねえねえ、帽子兄ちゃん。そういやさー」
冷や汗が背中を流れていくのを感じながら、振り向く。
あれから、リルムの仲間が殺人者であることを切り出せないまま、僕は城へ向かい歩き続けていた。
そんな後ろめたさを知ってかしらずか、彼女は無邪気に問いかける。
「結局、誰だったの? 話してたの」
アーヴァインやユウナに関する質問ではないことに、僕はほっと息をついた。
誰と話したか、ぐらいならば、彼女に喋っても問題はないだろう。
「アルガスとカイン……と言ってもわからないか。
元の世界の知り合いと」
「カインー!?」
僕の説明を遮って、リルムが素っ頓狂な声を上げる。
知り合いだったのだろうか。
カインの方はそれらしい素振りを見せなかったが、もしかしたら会わせた方が良かったのか?
そんな僕の思考を裏切るように、彼女は言った。
「よ、よく無事だったね、帽子兄ちゃん」
「え?」
無事だった、とはどういう意味だろう?
僕が尋ね返すよりも早く、リルムは胸を撫で下ろしながら言葉を続ける。
「あいつ、魔女の手先でしょ? よく襲い掛かられなかったね」
「……え?」
寝耳に水、というのはこういうことを言うのだろうか。
「魔女に操られてた頃のわるいモヤシと手組んだり、魔女の手下の竜連れてたりでさ。
どうみてもマトモな相手じゃないのに……ホント、無事でよかった」
「何だって? いや、待ってくれ。とりあえず、モヤシって誰なんだい?
手下の竜ってのは?」
全く以って話が見えてこない。
ただ、カインに対して警戒を崩さなかったアンジェロの姿が、一瞬脳裏を過ぎる。
「物分り悪いのはトサカ頭とニブチンだけで間に合ってるんだけど」
そんな文句を交えながら、彼女は説明を始めた。
リルムの言うモヤシ=アーヴァインは、一時期カインと組んで殺人をしていたらしい、ということ。
しかし、何らかの理由で殺人の記憶を失ってしまったということ。
そしてティーダに保護された時には、レーベの村にいたヘンリーという人物から己の所業を聞かされ、
酷い自己嫌悪と精神不安定に陥っていたこと。
アーヴァインの友人であり、魔女の知識を持つゼルという青年の見立てでは、魔女に操られて凶行に及んだ可能性が極めて高いということ。
そして、カズスの村から離れる時に、魔女の魔力を感じさせる飛竜を引き連れたカインに会ったこと。
カインは変装したアーヴァインに気づかず、交戦こそしなかったが、嘘をついてアーヴァインとの関係をごまかしたということ。
僕はカインとアルガスから聞いた話――アーヴァインとユウナが殺し合いに乗った――をリルムに伝えた上で、改めて問いかけた。
「……じゃあ、アーヴァインは他人を騙す気もなければ殺人などする気もなくて、
人殺しはあっちの方で、故に二人の話は真っ赤な嘘だ、と言いたいのかい?」
「トーゼンでしょ!
あの泣き虫モヤシとユウナが揃って殺し合いに乗ったとか有り得ないにも程があるよ!
それともダブルでケバケバおばさんに操られたっていうの!?」
そんなことはない、と言ってやりたいが、僕には魔女の洗脳能力とやらがどれほどのものなのかわからない。
それ以前に、記憶喪失そのものが演技である可能性だとか、自分の意志で殺し合いに乗った可能性だって否定できない。
死にたくないと祈ること、恋人や友人に生きてほしいと願うことは、人として当然の思いだ。
このような状況下では、そんな思いが間違った方向に暴走してしまうことだってあるはず。
だが、それを説明したところで、リルムは聞く耳を持ってくれないだろう。
「それとも何? 帽子兄ちゃんは連中の味方して二人を殺そうとか考えてるの?
そんなことしたら似顔絵描くだけじゃすまさないぞ!」
「言われなくとも殺そうなんて気はないよ。
ただ……二人とも、嘘をついているようには思えなかったというだけだ」
確かに、思い返せばカインという人物は疑わしい点が多かったかもしれない。
リルムが言う通りの殺人者であるならば、血の匂いがするとアンジェロが警戒していたのも当然だ。
彼の言うことが全て真実である、証拠も無くそう考えるのは早計に過ぎる。
しかし……
「仮に二人が協力関係にある殺人者だとしても、君とカインの話は、大枠で一致している。
本心や素性はどうあれ、カインは自分の関与を隠しただけで、ほぼ事実を述べていたと見ていいと思う。
そもそも、アルガスも僕と同じようにカインに騙されているだけかもしれない。
二人で組んで嘘の情報を流している、と決め付けるのはどうだろう。
それにアルガスは明らかにアーヴァインに怯えきっていた。あの表情が演技であるとも思えない。だから……」
自分に都合の悪い事柄を隠しただけで、情報自体は真実と見ていいのではないか。。
そう言おうとした時だった。大きな物体が、顔面めがけて飛んできたのは。
「うるさーいッ!!」
かんしゃくを起こした子供のように(実際子供なのだが)、リルムが大声で叫ぶ。
彼女は頬を膨らませ、僕の顔に当たったザックを拾い上げ、ひょいと背負いなおした。
思いがけない反応の激しさに唖然としていると、リルムはぷいとそっぽを向いて、大またで歩き出す。
「もういい! リルム一人でアイツに会いにいく!」
そんな風に言われて、はいそうですかと見送れるわけがない。
「だ、ダメだ! 危険すぎるッ!」
僕は急いでリルムの前に回りこみ、力づくで動きを止めた。
こちらを睨みつけている隻眼を、まっすぐに覗き込む。
「いいかい、アルガスの話では、彼らは電撃のバリアに守られた隠し通路の奥に潜んでいるんだぞ!?
子供の体力で、そんなものを超えられるわけがないッ!」
「決め付けてんじゃねーよ! バリアだかなんだかわからないけど、やってみなきゃわかんないだろ!」
「やること自体が危険だと言っているんだッ!」
「このわからずや!」
「わからずやで結構ッ!
君を待つ人達がいる以上、みすみす危ない目に合わせるわけにはいかないッ!」
「………もういいよ!」
リルムはむすっとした表情で僕の手を振り解くと、地面に座り込んで本を広げ、空いている部分に落書きを始めた。
どうやら、完全に怒ってしまったようだ。
そりゃあ、信じている仲間が裏切り者かもしれないと言われて気分のいいわけがないし、
場所までわかっているのに会わせてもらえないというのは苛立って当然だろう。
だが、それでも――血の滲んだ包帯と、アルガスの恐怖に満ちた表情が脳裏を過ぎる。
記憶を代償に魔女の洗脳から逃れた元殺人者。
それが真実であったとしても――リルムには悪いが、再び殺し合いに乗った可能性を考慮せずにはいられない。
これは、一刻も早くギードと、プサンという人たちを探した方が良さそうだ。
リルムのこともそうだが、彼らが先にアーヴァインを見つけ出してしまうことも考えられる。
アルガスは彼らにはアーヴァインやユウナの本性を伝えていないと言っていた。
(それ自体は正しい判断だ。間違いなく要らぬ争いを招いていただろうから)
何も知らぬまま遭遇し、油断しているところを襲われれば、いかにギードといえども……
いや、不吉なことを考えるのは止そう。
今は考えるよりも、迅速に行動すべき。
「リルム。どちらにしても、城へは行ってみよう。
ギード達と合流して、それからアーヴァインを探してみればいいじゃないか」
「…………」
「ギードならばバリアを無傷で超える方法を知っているかもしれないし、人数は多いほうが安全だ」
「…………」
「アルガスの言ったことが本当だったとしても、君の信じる彼は、友達思いの優しい青年なのだろう?
ならば、仲間達の説得があれば、考えを改めてくれるはずだ。違うかい?」
「…………行けばいーんでしょ、行けば」
リルムは口を尖らせながら答えると、本をぺらぺら捲りながら立ち上がった。
そうして、更に十分ほど歩いただろうか。
僕達はようやく、城――デスキャッスルにたどり着いた。
入り口の真横や柱の影などから急襲されることを警戒し、まずは僕だけが、開け放たれた扉を潜り抜け、城内に進入する。
陰鬱な空気が満ちているように感じるのは、光を跳ね返さない壁や、立ち並ぶ不気味な彫像のせいばかりではなさそうだ。
だが、人の気配はない。不自然な影なども見当たらない。
どうやら、一先ずは安全であるようだ。
僕は後ろを振り返り、リルムに声をかけようとし――驚くべきものを見た。
「何ぃッ!!!!?」
リ……リルムの行動を咎める前に言っておくッ!
僕は今、彼女の才能を改めてだが体験した……!
い……いや、体験したというよりは全く理解を超えていたのだが……
ありのまま、今、起こったことを話そうッ!
『僕が後ろを振り向いたら
いつのまにか、城外にリルムを抱っこしてジャンプしている僕がいた』
な、何を言っているのかわからないと思うが、僕も何がどうなっているのかわからなかった……
催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなものでは断じてないッ!
もっと恐ろしい似顔絵の片鱗を味わったんだッ…!
我に返り、急いで外に出たが、リルムが落ちてくる様子はない。
自分も同じようにジャンプしてみると、2階と3階、さらに上方にも、テラスが見えた。
ただ、どちらにも、リルムの姿は無い。
僕が呆気に取られている間に、どこかのテラスから城内に侵入してしまったに違いない!
どこだ……一体、どこからッ!?
ひとまず最も近い位置にあったテラスの上に降り立ち、彼女の姿を必死に探す。
左右を見、遙か上方を見やり――そして僕は、それに気づいてしまった。
城の頂上部分にて、長い銀髪をたなびかせ、世界を見渡している男の姿に。
不意に、奴がこちらを見た。
視線が合い、奴が表情を歪ませる。
幾ばくかの憎しみと、しかし地を這う蟻を見る鷹のような、眼中にないと言わんばかりの嘲りが含まれた笑み。
だが、飛び降りてくるようなことはせず、後ろを向いてどこかに立ち去ってしまった。
――いや、どこか、ではない。間違いなく、この城の中に入って行ったのだッ!
あの、エルムドア以上に銀髪鬼という呼び名が似つかわしい、規格外の殺人者――セフィロスがッ!
へっへーんだ! 見たか、帽子兄ちゃん!
テラスからなら、バリアなんて突っ切らなくても大丈夫なんだから!
公式基礎知識完全……タイトル長いから、略してこうりゃくぼん。
背表紙に書いてあったけど、参加者のデータから会場内の地図までコレ一冊で完全カバー。
バリアで阻まれた隠し部屋ってことがわかれば、だいたいの場所はわかっちゃった。
あとはあいつを探すだけだもんね。
カインや、あいつの知り合いが言ったことなんて、絶対ウソに決まってる。
だっておかしいもん。
モヤシとユウナが殺し合いに乗っているってのが本当だったら、カインの奴が情報を流すわけない。
あいつの立場だったら、殺し合いに乗っている奴は多い方が、最終的に自分がラクできて都合いいはずだ。
それにケバケバおばさんに操られたり、記憶が戻ったりでモヤシが殺人鬼になってしまったとしたら、
今度はピサロって人と一緒にいる理由がわかんない。
一昨日の夜、レーベの村でモヤシをとっ捕まえた、超強くて怖いとかいう人。
あいつが悪い奴に戻ってしまったなら、恨みこそすれ、生かしておくなんてしないと思う。
他にも色々ムジュンとか突っ込みどころが多すぎて、どうしようもないぐらいだ。
ただ一つ、間違いないのは、ぼーっとしてたらモヤシとユウナがピンチになっちゃうってこと。
二人が殺人鬼に仕立て上げられて勘違いで殺されるなんて、それだけは絶対に阻止しないと!
短くてなーんもない廊下を歩いて、階段を上ると、今度は長い通路にちょんちょんと並んだ扉が見えた。
きっと、アイツとピサロって人は、ここのどっかに隠れているに違いない。
だから、一番最初の扉に手をかけながら、思いっきり叫んでみた。
「おーい、ひょろひょろのっぽの泣き虫モヤシー!
会いたくないとかアホなこと言って隠れてんじゃねーぞ!
おまえはリルムに包囲されている! 諦めて大人しく出てこいごるぁー!」
【ラムザ(ナイト、アビリティ:ジャンプ・飛行移動)(HP3/4、MP3/5、精神的・体力的に疲労)
所持品:アダマンアーマー、ブレイブブレイド テリーの帽子 英雄の盾 エリクサー×1
第一行動方針:リルムを追う
第二行動方針:アーヴァイン、ユウナのことが本当なら対処する
最終行動方針:ゲームから抜ける、もしくは壊す】
【現在位置:デスキャッスル3Fのテラス】
【セフィロス
所持品:村正 ふういんマテリア いかづちの杖 奇跡の剣 いばらの冠 プレデターエッジ
基本行動方針:黒マテリア、精神を弱体させる物を探す
第一行動方針:デスキャッスルで闇について調べる
最終行動方針:生き残り力を得る】
【現在位置:デスキャッスル5F】
【リルム(HP1/2、右目失明、魔力消費)
所持品:絵筆、祈りの指輪、不思議なタンバリン、エリクサー×2 スコールのカードデッキ(コンプリート済み) 黒マテリア
攻略本(落丁あり) 首輪 研究メモ レーザーウエポン グリンガムの鞭、暗闇の弓矢 ブラスターガン 毒針弾 首輪 ブロンズナイフ
第一行動方針:アーヴァインを見つけ、アルガスとカインの情報を伝える
第二行動方針:仲間と合流
最終行動方針:ゲームの破壊】
【現在位置:デスキャッスル3F・隠し通路内部(アーヴァイン達の近く)】
ほしゅ
セフィロス始動のため保守
もういっちょ保守
さらなるほしゅを
「兄ちゃん達、本当にこっちにいるのかなあ」
テリー君が地図を見つめながら呟く。
その小さな指は、二つの箇所を行ったりきたり。
「わかんねえなあ」
私の隣で、ティーダがむすっとした表情で答える。
やっぱり人差し指は地図の上。北西の祠と南西の祠を往復していた。
「アーヴィン一人だったら近場で一択だったんだけどさ。
ピサロがいて、ロザリーが言うような目的があるなら、遠くに行ってもおかしくないもんな」
そう言って、彼はテリー君の隣に目を向ける。
その先にいるのは、ロザリーさん。
ネコミミと尻尾をつけた、ため息がでちゃうぐらい綺麗な人。
ピサロさんの恋人って話だけど、あんまりティーダの傍には近づいてほしくない。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、一番端っこを歩きながら、彼女は言った。
「あの方は例え独りになろうとも、諦めるような人ではありません。
だから城に留まらなかったのでしょう」
彼女曰く、この世界の四隅に配置された祠は、城を守る強力な結界を張るためのものらしい。
その結界を脱出や首輪解除に利用できないか。
大嫌いな『彼』はともかく、ピサロさんならそういう発想に至るのは当然の流れ――って、私でもそう思う。
だけど、みんなにとって問題なのは、西の方には祠が二つあるってこと。
二人がどっちからどういう風に廻るか、見当がつけられないってこと。
「兄ちゃん達、南の方から逆時計回りに廻ろうとしてたらどうしよう」
「だったら最初から東の方に行けばいいじゃんか。
わざわざ西行って、東戻ってじゃ、アーヴィン疲れちまうだろ」
服にひっついた変な葉っぱを払いのけながら、ティーダは指で円を描いた。
「ユウナじゃないけど、俺も、南の祠にしろ北の祠にしろ時計回りに行くと思うッスよ」
だから、先回りするつもりで北の祠に向かえば、入れ違いが防げるかも。
最初にそう言ったのは私だ。
「最終的に城に戻るとしたら、南の祠からってコースだろうけどさ。
城に帰る気がないとか何だとかで、北から行く可能性もあるからな。
あの二人、変なところでひねくれてるし」
ティーダの言葉に、ロザリーさんがちょっと困ったように笑う。
それに気づいたテリー君が、ティーダの腕をぎゅっとつねった。
「いてっ!」
「ティーダ兄ちゃん、でりばりーなさすぎだよ!」
そう言ってそっぽを向いたテリー君に、私はそっと近づいて、帽子の上からでこピンをした。
「いてっ!」
「それを言うならデリカシーだよ、テリー君。
あと、人の腕を無闇につねっちゃいけません」
「うう……わかったから、でこピン本気でするの止めてよ」
あらら、ちょっと強くやりすぎちゃったかな。
でも、ティーダに怪我させようとするなんて、君が子供じゃなかったら撃ち殺してたよ?
それに殴るのを我慢して、でこピンで済ませてあげたんだから、逆に感謝してほしいぐらい。
……もちろん、口に出して言えることじゃないけどね。
「もう、ユウナ姉ちゃん、ティーダ兄ちゃんのことになると容赦ないよなあ」
「そ、そんなことないっすよ」
そんなこんなで、できる限りの急ぎ足で歩き続けて、十分ぐらい経った頃。
レーダーの端に光点が一つ、映り始めた。
「いた! ……って、あれ?」
私と一緒にレーダーを覗き込んでたティーダが首を傾げる。
「一人分だよな、これ」
「一人分だねえ、これ」
ぽつん、と寂しい光を指差して、私は答える。
「別行動したってオチとかないッスか」
「ないとはいえないけど、やる意味がないと思うよ?
普通に、通りすがりの単独行動をしている別の人じゃないかな」
だいたい、『彼』が本当にこんなところにいるはずがない。
常識的に考えて、自らグループから離れた人間が、素直に居場所を教えるわけがない。
アルガス君と『彼』が約束をしたことは本当かもしれないけど、伝えてくれたことは嘘。
そう仮定すれば、私やプサンさん達が城に残るといった時、アルガス君が不機嫌になったことも納得できる。
私は、『彼』になんて会いたくない。
だからアルガス君の嘘に乗ることにした。
適当な理由をつけて、より遠くの祠へみんなを誘導して……
それは全部、『彼』に再会しないための時間稼ぎ。
(でも……)
私は横目でロザリーさんを見た。
『彼』ではなく、生き別れになった恋人を探すために同行している彼女に対しては、少し引け目を感じる。
大好きな人に会いたい、一緒にいたいって気持ちは、痛いほどよくわかるから。
心のなかでごめんなさいと謝りながら、私はティーダに声をかける。
「とりあえず、いちかばちか接触してみようか」
「そーッスね。もしかしたら、アーヴィンやピサロを見かけてるかもしんないし。
でも、危ない奴かもしんねーから、二人は俺の傍から離れんなよ?」
「はい!」「わかってるよ、兄ちゃん」
……ごめんなさい。前言撤回します。
引け目より、ちょっと、なんか、ムカツク。
【テリー(DQM)(右肩負傷(9割回復)
所持品:突撃ラッパ シャナクの巻物 樫の杖 りゅうのうろこ×3 鋼鉄の剣 雷鳴の剣 スナイパーアイ 包丁(FF4)
第一行動方針:アーヴァインを追う
第二行動方針:ルカを探す】
【ティーダ(変装中@シーフもどき)
所持品:フラタニティ 青銅の盾 首輪 ケフカのメモ 着替え用の服(数着) 自分の服 リノアのネックレス
第一行動方針:アーヴァインを追う
基本行動方針:仲間を探しつつ人助け/アルティミシアを倒す】
【ユウナ(ガンナー、MP1/3)(ティーダ依存症)
所持品:銀玉鉄砲(FF7)、やまびこの帽子、官能小説2冊、 対人レーダー
天空の鎧、ラミアの竪琴、血のついたお鍋、ライトブリンガー、ブリザド
第一行動方針:ティーダに付いていく
第二行動方針:あわよくば邪魔なギードとアーヴァインをティーダに悟られないように葬る
基本行動方針:脱出の可能性を密かに潰し、ティーダを優勝させる】
【ロザリー(プロテス、ヘイスト、リフレク)
所持品:守りのルビー、力のルビー、破壊の鏡、クラン・スピネル、E猫耳&しっぽアクセ ウィークメーカー
ルビスの剣 妖精の羽ペン 再研究メモ、研究メモ2(盗聴注意+アリーナ2の首輪について) 、ザンデのメモ、世界結界全集
第一行動方針:ピサロを追う
第二行動方針:脱出のための仲間を探す[ザンデのメモを理解できる人、ウィークメーカー(機械)を理解できる人]
最終行動方針:ゲームからの脱出】
※ザンデのメモには旅の扉の制御+干渉のための儀式及び操作が大体記してあります。
【現在位置:デスキャッスル北西の茂み】
こっちも保守だ
「君が魔物を操って何人も人を殺しているって聞いたんだけど、それが本当なのかどうか」
緩んだ空気がピンと張り詰める。緑のフードを被った男フィン、金髪の少女の姿をした魔物スミス、二者の視線が交錯する。
無言のまま、何秒経過したか、あるいはスミスには何十秒に感じられたかもしれない。
フィンも、あの魔物使いのリュカや本物のタバサと似たような眼をしている。
この眼で見られると、彼の内に渦巻く、もう一人が姿を現してくる。
マチュアのものにも似たその目が、少しだけもう一人の意識を呼び起こす。
魔物使い特有の、心を理解し、心そのものに訴えかける瞳。
ドラゴンライダーという種族になったこと、心同士でやりとりができるようになったこと、
これも或いは、魔物使いのパートナーがいたという辺りに起因しているのかもしれない。
とはいえ、彼の場合は魔物使いの眼だからではなく、マチュアの眼に似ているからこそ、意識が呼び起こされたともいえる。
リュカのものだけはその辺りを差し引いてさすがに別格ではあったのだが。
「………………なんだか言っていることがよく分かりません。違うといえばよかったんですか?」
結局、スミスが先に口を開く。変身時間が解けてしまっては元も子もない。それに、心が塗り換わっては厄介なのだ。
できるだけ可憐に、できるだけ幼く、できるだけ無難に。ゆっくりと後ろへと離れていく。
ザックスと話したときは逃げ切れる算段があったが、今回はそんなものは持っていない。やり過ごすことこそが肝要。
撒いた種を刈り取ることになるが、欲張るとろくなことにならないのはスミスとて嫌というほど理解している。
フィンが口に手を当て、咳き込む。ズルズルと鼻水を啜る音が聞こえる。
頭はフラフラ、目もしょぼしょぼとしていて赤い、けれども、これも油断させるための演技に見える。
たまに咳き込んで体勢が崩れるが、だからといってゴリ押しで勝てるわけでは決してない。
わざと隙を見せて、飛び込んできた獲物を狩る罠のようにすら見えた。
「…あれ、違うんだ? ……うん、分かった」
どうにも緊張感のない声、分かったと言いながら、言葉の裏に含まれるのは、正反対のニュアンス。
相変わらずふらふらズルズルしながら、だがいつの間にか手に武器を握り、向ける敵意はさらに大きく。
「だったら、その手に持ってるものを下ろして? 危ないもの向けてお話だなんて、相手に失礼だと思わない?」
「……ああ、この武器のこと? ごめんごめん、忘れてた」
フィンは一歩ずつ、一歩ずつスミスへ近付いていく。スミスはそのたびに一歩、一歩と後退する。
スミスの後ろは壁があるのみ、間合いはやがて詰まっていくだろう。
フィンは武器をスミスに向けたまま。つまりは、逃がすつもりなんて毛頭ないぞという意思表示。
スミスとて、その意図はしっかりと受け取っている。
フィンはカマをかけた、だからやってないと即答するのはNG。これ自体は正解。
だが、答えるまでにあまりに間が空きすぎるのもまたNG。
さらに、それに伴う不自然な緊迫感、声をかけられたときのわずかな動揺。
スミス自身は気付かなかったが、もう一人が現れたことによる、僅かな苦々しい表情。
心当たりがないから答えられないのではなく、あったからこそ答えられないことの表れ。
すなわち、フィンが回答を得るにはそれで十分なのだ。
フィンとて「タバサは黒幕である」という先入観がなかったとは到底言えないけれども。
「無口を演じたほうがよかったかな………?」
この時点で、スミスは戦うか逃げるしか選択肢はない。
玉座の間は巨大な柱に囲まれ、子供の体でも逃げ出せるような隙間はない。
下の階に落ちるにしろ、そこまでの直線上はフィンの領域だ。
正面、左斜め前、右斜め前、どこへ行こうとも一度は攻撃をいなす必要がある。
「……どっちにしても同じだよ。演技は40点だね。マリベルなら多分そう言う」
「…40点もくれるの?」
「……僕はもっと点数あげてもいいんじゃないかと思う。会った人みんなに信用されてるしさ。
だから、やっぱりこのまま野放しにはしておけないかな」
この時点で、スミスには戦うか逃げるしか選択肢はない。
もっとも、スミスはもとより正面から戦うつもりなんてない。
キャラバン時代の彼だって、前衛はドルバや剣士たちに任せ、サポートに回るタイプだった。
仲間のダメージが小さく、敵へのダメージが大きくなるように細工を弄していた。
今の戦闘スタイルだって、仲間の部分が自分に変わっただけだ。
いかに自分のダメージが小さく、敵へのダメージが大きくなるか。今回は、逃げ切れれば十分。
「ところでね、話は変わるけど、私を殺す理由って、やっぱり復讐なんだよね?」
「…………」
フィンは無言のままだ。進む速度も変わらない。それが肯定の表れ。
「でもさ、それだったら私だけを責めるのは筋違いじゃないかな?
自分だって、あのおじいさんを見捨てて逃げ出したじゃない」
スミスの背が壁に付く。もう後ろには下がれない。間合いが詰まる一方だ。
フィンはまだ話を聞く耳を持たない。いや、聞いているのかもしれないが、表に出さないだけかもしれない。
どちらにしろ、これだけならばただのハッタリなのだから。これだけならば。
「貴方があそこで逃げ出さなければあのお爺さんも無茶しないで生きていただろうにね?
お爺さん、あの後湖で戦ってたんだよ。ひ・と・り・で、ね」
今までフォームを崩さなかったフィンが、初めて動揺する。
まっすぐ構えていた剣が僅かに震え、改めて握りなおすのがはっきりと分かる。
「……ヘタな嘘はやめようよ。だって、あれでどうして生きてたっていえるんだ…」
フィンは、ドーガが人間という種族ではないことを知らない。
「放送を聞いて、なんにも思わなかった?」
思い出さないほうがよかったこと、知りたくなかったこと、フィンは色々と知覚する。
二日目の午前中に呼ばれたのは27人。約30分に一人。
二日もあれば、放送で呼ばれるのが死亡した順番だということにも薄々ながら感付く。
フィンの場合は、アリアハン戦を生き抜いたジタンの反応から、そのことを知った。
スミスの場合は、カインが利用していたことより、そのことを知った。
フィンがドーガと別れたのは、午後になってすぐのこと。
ドーガの呼ばれた順番は、最後から二番目。
正確に覚えていなくとも、なんとなく、沢山呼ばれた知らない名の中の、最後のほうだったという記憶は残る。
僅かな罪の意識と、後悔が深淵から少しずつフィンの心を塗りつぶしていく。
「……そろそろその口閉じてくれないかな?
風邪のせいじゃなくって、今ものすごく気分が悪いんだ」
ストレス反応によるものか、フィンの容態が少しだけ悪化する。
体が震えて、刀の先が定まらない。
「最期の言葉はね、『フィンよ……おぬしの仇は取った』だってさ?
でも、その後あのおっきいモンスターは普通に動き出しました。笑えるね」
フィンの震えが止まる。体全体の機能が停まり、エネルギーをセーブする。
ゆらりゆらりと気を消して動き出す。
「あ、要するに僕だけじゃなくて君も」
殺気が瞬間的に爆発した。
フィンは言葉が終わるのを待たない。距離を一瞬で詰め、顔面目掛けて渾身の突きを繰り出す。
多少の動揺に際しても、その鋭さが失われないのはさすがといえるだろう。
だが、残念ながら行動に移すのが早すぎた。
どんなに速くとも、来ると分かっている攻撃ならば避けるのは難しくない。
体をさっと捻り、目と鼻の先で回避する。刀は後ろの壁に吸い込まれるように突き刺さり、僅かなヒビを作り出した。
熱と動揺で思考がうまく定まらないフィンは、どうしても次の動作までに一寸の遅れが出る。
一瞬のうちに酷使した筋肉は、体への負担となって返ってくる。
力を上手くコントロールできないため、刀は深々と突き刺さり、簡単には抜けない。
さらなる動揺を生み出すスパイラル。
この隙が見逃されるはずもなく、フィンの視界は紫の霧に包まれ、あちこちにスミスの姿が映し出される。マヌーサの呪文。
あちこちに動き回る多数の幻は、本体の姿を容易に捉えさせない。
だが、幻が多数あるのならば、まとめて薙げばいいだけの話でもある。
空中に召喚の陣を描く。さっと描かれた方陣から飛び出すのは、無数の羊。
呼び出すのに魔力はいらない。契約どおりに宙に陣を描けばいい。ただし、助けてくれるかどうかも完全に気まぐれ。
そんな羊飼いの精霊に命じて、彼の気の向くままに相手を羊の大群にさらす特技。
羊達は四方八方に散り、あるものは塔から落ち、あるものは柱を破壊し、あるものは玉座を突き飛ばす。
折れた柱も、突き飛ばされた玉座も、重みに耐えかねた塔の一部も、まとめて地上へと落ちていく。
支えるべき柱を失った屋根部分が、塔の一部を突き崩しながら地上に落下し、粉々に砕ける。
フィンたちが知る由もないが、元々一階部分が一本の柱で支えられているようなこの塔が倒れなかったのは強運だった。
幻達も紫の霧も、羊に僅かにまとわりついた魔力に蹂躙され、散り散りになって消える。
羊達はある程度の距離を置いたところで陣に呑まれ、何事も無かったかのように消えていく。破壊の爪痕だけは残るけれど。
もっと確実な方法もあったのに、使わなかったのは、或いは、うさ晴らしかもしれない。
或いは、マヌーサをかけられた時点で、スミスがいなくなることに勘付いたからかもしれない。
確率とはいえ、圧倒的戦力であらゆるものを破壊し、蹂躙できる快感。実質は八つ当たり。
本人は確実に否定するのだろうが、感情の抑制を強いられてきた彼に、そんな面がなかったとは言い難い。
スミスが段々素の口調に戻っていったことにも気付かなかったフィンに、冷静さや抑制などは決してなかった。
そして、フィンが薄々感じたとおり、羊達が消えた後、やはりスミスの姿はどこにも無かった。
【フィン(風邪、精神不安定気味)
所持品:陸奥守、マダレムジエン、ボムのたましい
第一行動方針:タバサを討つ
第二行動方針:風邪を治す
基本行動方針:人にあまり会いたくない
【現在位置:結界の祠北東、エビプリの塔最上階】
【スミス(HP1/5 左翼軽傷、全身打撲、洗脳状態)
所持品:変化の杖 魔法の絨毯 波動の杖 ドラゴンテイル
基本行動方針:ゲームの流れをかき乱す
第一行動方針:フィンから逃げる
第二行動方針:カインと合流する
最終行動方針:(カインと組み)ゲームを成功させる】
【現在位置:結界の祠北東、エビプリの塔】
保守
後ろを振り向く。
延々と続く茂みの中に、人の気配や姿は感じない。
当たり前だ。あいつ――あの化物が追ってくるはずなどない。
アマちゃんとはいえ、ラムザならそこそこ上手く立ち回ってくれるだろう。
あるいはカインが気を利かせて多少のちょっかいをかけてくれるかもしれない。
いや、それ以前に、あんな頼みごとをしている時点で城から動く気がないのは明白というもの。
ギード達があいつと接触しなければ、オレが裏切ったことに気づかなければ、追ってくるわけがない。
それに、仮に気づかれたとしても、オレの行き先など判断できないはず。
大丈夫、大丈夫だ。不安がることなどない。
後ろを振り向く必要なんかない。
あいつは当分、追ってこない。絶対にだ。
背後を確認する暇があるぐらいなら、イザやラムザのような"正義の味方"を探すために費やすべき。
化物退治が大好きで、オレみたいな弱者を守ることに優越感を覚える――
そんな単純な連中を捕まえて、あいつの情報を流して、殺してもらう。
それ以外に、生き延びる方法などない。
オレは、間違った手など打っていない。
今までも、そして、これからもッ!
(――本当に?)
「!!?」
後ろを振り向く。
誰もいない。
あるのは、風に吹かれてざわざわと揺れる、気色の悪い草ばかり。
なんてことはない。恐怖感が、葉擦れの音を人の声と思わせただけ。
延々と続く茂みの中に、人の気配や姿は感じない。
当たり前だ。あいつ――あの化物が追ってくるはずなどない。
カインの情報が真実ならば、誰だって俺の方を信じてくれる。
現に、ラムザは俺達の言ったことを信用していた。
だから――大丈夫。大丈夫なんだッ!!
「本当に?」
頭が痛くなるのを感じながら、僕は椅子の背に体重をかけた。
金髪に眼帯。誰かと同じ組み合わせの女の子は、ぷーっと頬を膨らませたまま、僕につかみかかる。
「本当だって! お前もユウナも、このままじゃ殺人鬼にされちゃうぞ!」
されるもなにも、僕は元から殺人鬼みたいなもんだけどね。
一日に五人近く殺したのは事実だし、仲間や恩人を裏切ったのも事実。
ティーダ達も置いてきて、殺し合いに乗ろうかどうか迷ってる。
そんな人間とバレたらアルガスだって言いなりになんかなるはずないし、
だからこそ全力で脅しをかけたんだけど、ね。
「説得したんだけど、熱意が足りなかったかなぁ……」
理性に抑えられているドス黒い殺意が鎌首をもたげ始める。
百歩譲って、僕のことはいい。
どんなに少なく見積もったって、生存者の半分には伝わっているような話だ。
でも、ユウナのことまで口にしたのは、許せない。
ティーダの耳に入ることなく、元鞘に収めなければいけないのに。
ラムザなんていう無関係な奴や、カインなんて奴の耳に入れやがった。
リルムはまあ……いいだろう。
下手な大人よりも頭が回るし、真実を知っても口を閉ざすぐらいの心配りはできる子だ。
何より、僕とユウナを信用してくれる。
僕と彼女にまつわる『根も葉もない噂』を打ち消してくれる、貴重な手札になってくれる。
問題は、金髪の男二人。……カインも入れて三人か。
裏切り者の殺人者や、疑心暗鬼に陥っているっぽい誘拐犯の知人はしばらく放っておいてもいいとして、
明確な敵意の元に動いているアルガスの奴は、早急に手を打たなくちゃならない。
情けや手加減なんてナシだ。生まれたことを後悔するぐらい、身体も心も原型を留めないよう壊してやる。
ちゃんと自分で歩む道を決めるまで、ティーダとの約束は破りたくなかったけど……
――いや、大丈夫か。僕以外の奴に止めを刺してもらえばいいんだ。
首筋に何か当てられた気がして、背後を確かめた。
ひときわ長い草の穂が、ふらふらと揺れていた。
「くそッ!!」
根っこからぶちりと引き抜き、苛立ちと憎悪をこめて踏み潰す。
昨日までのオレだったら不愉快だと叫んでいたかもしれないが、そんな余裕は、もう、ない。
死体にさえ震えるオレでも戦うことはできる、イザのような歩く死人予備軍じゃない。
そう信じられるようになった矢先に、アレだ。
不意に、この殺し合いに来る前のことを思い出す。
オレを殺してやると咆えたディリータ、奴の剣に胸を貫かれ、俺は地に伏した。
死を前にして感じたのは、恐怖よりも、悔しさ。
騎士団の命に従い、ベオルブ家の命に従った。
ただそれだけのこと、間違いなど何一つしていないのに。
サダルファス家の名誉を取り戻すことも叶わぬまま、あんな軟弱な平民風情に討たれることが、無性に悔しかった。
だが、今はどうだッ?!
悔しいという感情さえ湧いて来ない。
勇気を失い、戦線離脱する連中と同じ。
圧倒的な死の恐怖に震え、逃げようと足掻いているだけ。
だから何もないとわかっているのに、事あるごとに後ろをちらちら振り向いてしまう。
あまつさえ、意志もない草を化物と誤認しては勝手に怯える始末だ。
終わっている。全く以って、終わっている。
こんな様じゃあ、例え元の世界に帰れたとしても、戦場に立つこともできやしない。
真っ当な人生を送ることさえできないかもしれない。
だが――それでもオレは生きたい。
こんなところで……くたばってたまるかッ!
リルムがエリクサーを持っていてくれたのは、ものすごくラッキーだった。
嫌味の一つや二つ言われることを覚悟しながらピサロを叩き起こし、彼女を紹介する。
散々な扱いをしたせいか、丁度寝入ったところだったのか、傷が痛んでいたのか。
ピサロは終始不機嫌そうな表情だったが、リルムから受け取った薬を飲み干すと、眉間の皺を薄れさせた。
「……ふむ。確かに、魔力も回復している」
「そりゃあエリクサーだもん。ポーションやエクスポーションとは違うんだよ、トンガリ耳のにーちゃん」
「トンガリ耳って何それ。銀髪ピーちゃんとか黒服ピーちゃんとかピーちゃん目つき悪ッ!とかの方が良くね?」
「だって銀髪も黒服も目つきの悪さも、セフィロスのヤローと被ってるんだもん。
唯一違うのがトンガリ耳だから」
「なるほどなー。わかったから僕の後ろの魔王さま、頭掴むの止めてブレーンクロー止めて」
はぁ。ホントーに完全回復しちゃったなあ、このヒト。
ちょっと早まった気がしなくもないけど、しょうがない。目的を達成するためだ。
僕はリルムの背をつっついて、彼女の口から、状況を説明してもらう。
ピサロは切れ者で厳しい奴だけど、女子供には多少甘い部分がある。
僕がどうこう並べ立てるより、リルムが喋った方が、色々と信用するはずだ。
もちろん、ユウナがらみの、信用されては困ることは伏せるように言いくるめてある。
今度こそ手抜かりはない。
「………カインと、アルガスが、手を組んでいる、か」
一通り話が終わったところで、ピサロが眼を閉じながら呟いた。
僕はタイミングを見計らい、口を開く。
「あのさ。悪いんだけど、リルムのこと、預かっててくれないかな。
あいつら、早いうちに捕らえておかないと、大変なことになりそうだから」
「なんで?! リルムも一緒に行く!」
そこまでの打ち合わせはしていないのに、予想通りの合いの手を入れてくれる。
六歳も年下の女の子、その優しさや信頼を利用している自分に、嫌気が刺す。
だけど――それでも僕は、目的のためなら手段を選ぶ気なんてない。
どれほど歩いただろうか。茂みが途切れ、視界の端に、ようやく建物の影が見えてきた。
カインから得た、奴の情報を思い返しながら、オレは足を進める。
曰く、一日で五人を葬った一流の狙撃手。
曰く、完璧に気配を消す術を使い、カイン以上に夜目が利く。
曰く、仲間も恩人も平気で裏切り、利用できるものは死体すら利用する。
曰く、確認できたアビリティは暗黒剣の一種に竜騎士のジャンプ、ファイガクラスの黒魔法。
……正直、これだけでも化物と呼ぶには十分すぎる。
しかも、これにデールの恐怖と狂気、アリーナ以上の取り巻きがプラスされるのだから、始末におえない。
もはや人の皮を被った死神だ。伝説のルカヴィやその眷属だとか言われた方が、まだ納得できる。
そんな奴相手に、隠れているだけで、助かるわけがない。
だが、迂闊に戻って見つかれば、待っているのは惨殺死体になる未来だけ。
あの建物に誰かいることを期待して、何度も何度も振り返りながら、急ぎ足で近づく。
「やぁっとついたー!」
唐突に行く手から脳天気な声が響いた。
女だ。しかも、はっきりと聞き取れたのは今の台詞だけだが、外にも数人の声がする。
もう、なりふりなど構っていられない。
相手が殺し合いに乗っているとか、切りかかられるかもしれないとか、そんなことを考える余裕はなかった。
ただ、声の方へ駆け寄り、そして連中の姿を確認した時、オレはまだ運命に見捨てられてないことを確信した。
オレに気づいて振り返った、額に傷のある黒服の男。
びっくりした様子で、人間には有り得ない瞳孔を刻んだ目を向ける、金髪の女。
そして、不機嫌と不信が混ざった表情を浮かべる、背の高い金髪の男。
探すように命じられた人間の、残り全部が、そこにいた。
「た、助けてくれッ、サイファー!」
オレは叫んだ。演技でも何でもなく、本気で心の底から縋りついて助けを求めた。
「こ、殺されるッ! 追われてるんだッ、化物にッ!!」
情けないと笑われようが構わない。みじめったらしいと嘲笑われても構わない。
生き延びたものが正義であり勝者、だからプライドなどいくらでも捨ててやる。
オレは……オレは、絶対に、生き残ってみせるッ!
「僕一人じゃ、お子ちゃま守りながら戦うなんてできないよ。
それに、目の前で、リルムが殺されたりしたら……
……僕は、今度こそ、完全に正気を失ってしまうかもしれない」
クサイ台詞は、半分嘘で、半分本気。
今さら自我を無くしはしないけど、相手が肉の塊になるまで攻撃し続けるぐらいのことは、する。
「ふざけんな! モヤシのくせに足手まとい扱いしてんじゃねーよ!」
「騒ぐな、小娘」
ぽかぽか殴り続けるリルムの手を止めたのは、ピサロの冷徹な声。
「私も同行しよう。小娘も可能な限り面倒をみてやる。それで文句はあるまい」
冷酷なはずの魔王は、理想とした台詞を、しごくあっさりと口にしてくれた。
もうしばらくは演技を続けなければいけないと思っていたのに、拍子抜けした僕は、思わず問いかける。
「……なんで、そこまで」
「私情と、薬の礼だ。それにどの道、ケフカも探さねばならぬしな」
私情、という言葉に、僕は自分の読みが当たっていたことを確信した。
アルガスの態度に、あいつが語ったカナーンでの混戦、そして先ほどカインと一緒にいたという事実。
これだけでも、二人がカナーンでも手を組んでいた、そう考えるには十分な材料だ。
さらに、ピサロの方でも思い当たる節があったならば――彼の性格からして、死を以って償わせようとするだろう。
僕が、手を下さずとも。
さて、準備は整った……といいたいけど、まだ、仕上げが残ってる。
「そういやさ。もしギードがここにいるなら、例のこと、研究してもらえるかもしれない。
わかったこととか、ここに書置きしておいた方が良くないかな」
僕は首輪を指し示しながら言った。
もしかしたら皆殺しの道を選ぶことになるかもしれないけれど、今はまだ、脱出の希望を潰すわけにはいかない。
「それもそうだな」
ピサロは頷くと、不意に手を大きく振りかぶった。
カメラのフラッシュにも似た光が室内ではじけ、僕は反射的に目を瞑る。
「魔力を壁に焼き付けた。一日ぐらいは消えずに残るだろう」
ピサロの言葉に、僕は目を開けて、壁を見た。
蛍光グリーンの魔法の光が、長ったらしい文章と魔方陣らしき図形を描いていた。
「……魔法って便利だね。
僕はそんなもん使えないから大人しく紙に書いとこ」
僕は手帳の一ページを切り取り、慣れない左手でぐりぐり文字を書いていく。
『かってに はなれてしまって ごめんなさい。
でも、ぼくは自分を 信じられない。
ピサロが ケフカとカインを追うというので ぼくも いっしょに行きます。
リルムも おいていくわけにはいかないので つれて行きます。
用事がすんだら かならず戻ってきます。
だけど もし ぼくが 完全におかしくなってしまったら その時は殺してください』
……うーん、我ながら汚い字。左手だからしょうがないけど
でもまあ、これぐらい書いておけば、『思い詰めたカワイソウな人』って雰囲気は出るだろう。
こんなところで疑われるわけにはいかない。
特に、ラムザとかいう奴。そいつが僕への疑いを強めれば、それは、ユウナへの疑いを深めることに繋がる。
セルフィは大事。だけど、ティーダやユウナも大事。
だから、今、疑われるわけにはいかない。
汚いと罵られようと、卑怯だと謗られようと、構うもんか。
大切な人に会うためなら何だってする。
大事な人を守るためなら何だってする。
今までも。そして、これからも。
【アルガス(左目失明)
所持品:インパスの指輪 E.タークスの制服 草薙の剣 高級腕時計 ウネの鍵 ももんじゃのしっぽ 聖者の灰 カヌー(縮小中)天の村雲(刃こぼれ)
第一行動方針:サイファー達に助けを求める
第二行動方針:アーヴァインとユウナの情報を流し、包囲網を作る
最終行動方針:脱出・勝利を問わずとにかく生き残る】
【サイファー(右足軽傷)
所持品:破邪の剣、G.F.ケルベロス(召喚不能) 白マテリア 正宗 ケフカのメモ ひそひ草
マッシュの支給品袋(ナイトオブタマネギ(レベル3) モップ(FF7) バーバラの首輪)
レオの支給品袋(アルテマソード 鉄の盾 果物ナイフ 君主の聖衣 鍛冶セット 光の鎧) 】
第一行動方針:祠へ移動/アルガスの話を聞く
第二行動方針:はぐれた仲間、協力者を探す/ロザリーと合流
基本行動方針:マーダーの撃破(セフィロス、アリーナ、サックス優先)
最終行動方針:ゲームからの脱出】
【マッシュ(気絶、重症、右腕欠損) 所持品:なし】
第一行動方針:―
第二行動方針:アーヴァインと緑髪(緑のバンダナ)の男、及びエドガーを探す
第三行動方針:ゲームを止める】
【ソロ(HP3/5 魔力少量)
所持品:ラミアスの剣(天空の剣) 天空の盾 さざなみの剣
ジ・アベンジャー(爪) 水のリング 天空の兜
第一行動方針:祠へ移動/アルガスの話を聞く
基本行動方針:PKK含むこれ以上の殺人を防ぐ+仲間を探す
※但し、真剣勝負が必要になる局面が来た場合の事は覚悟しつつあり】
【スコール (HP2/3、微〜軽度の毒状態、手足に痺れ)
所持品:ライオンハート ひそひ草 エアナイフ、ビームライフル
G.F.カーバンクル(召喚○、コマンドアビリティ×、HP2/5)、G.F.パンデモニウム(召喚×)
吹雪の剣、ガイアの剣、セイブ・ザ・クイーン(FF8) 、貴族の服、炎のリング
第一行動方針:祠へ移動/アルガスの話を聞く
第二行動方針:今後の計画を固める
第三行動方針:アーヴァインと緑髪(緑のバンダナ)の男を探す/緑髪を警戒/サックスを警戒
基本行動方針:ゲームを止める】
【リュック(パラディン)
所持品:メタルキングの剣 ロトの盾 刃の鎧 クリスタルの小手 ドレスフィア(パラディン)
チキンナイフ マジカルスカート ロトの剣
第一行動方針:祠へ移動/アルガスの話を聞く
基本行動方針:はぐれた仲間+テリーとリュックの仲間(ユウナ優先)を探す
最終行動方針:アルティミシアを倒す】
【バッツ(HP3/5 左足負傷、魔力0、アビリティ:白魔法)
所持品:アポロンのハープ アイスブランド うさぎのしっぽ 静寂の玉 ティナの魔石(崩壊寸前)
第一行動方針:祠へ移動/アルガスの話を聞く
第二行動方針:はぐれた仲間を探す
基本行動方針:『みんな』で生き残る、誰も死なせない】
【ヘンリー
所持品:アラームピアス(対人) リフレクトリング バリアントナイフ 銀のフォーク
キラーボウ、グレートソード、デスペナルティ、ナイフ
第一行動方針:祠へ移動/アルガスの話を聞く
基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】
【現在位置:南東の祠付近】
【アーヴァイン(変装中@白魔もどき、右腕骨折、右耳失聴、冷静状態)
所持品:竜騎士の靴 手帳 首輪 コルトガバメント(予備弾倉×3) 弓 木の矢40本 聖なる矢20本 ふきとばしの杖[0]
第一行動方針:アルガスの口を塞ぐ
第二行動方針:スコールに会い、行動方針を再考する。それまで脱出の可能性を潰さない
最終行動方針:生還してセルフィに会う
備考:理性の種を服用したことで、記憶が戻っています】
【ピサロ(全快)
所持品:エクスカリパー スプラッシャー 命のリング
第一行動方針:カイン、アルガスを始末する
第二行動方針:可能ならロザリーを救出する
第三行動方針:ケフカへの復讐】
【リルム(HP1/2、右目失明、魔力消費)
所持品:絵筆、祈りの指輪、不思議なタンバリン、エリクサー×2 スコールのカードデッキ(コンプリート済み) 黒マテリア
攻略本(落丁あり) 首輪 研究メモ レーザーウエポン グリンガムの鞭、暗闇の弓矢 ブラスターガン 毒針弾 首輪 ブロンズナイフ
第一行動方針:アーヴァイン・ピサロと一緒に行動する
第二行動方針:仲間と合流
最終行動方針:ゲームの破壊】
【現在位置:デスキャッスル3F・隠し通路内部→移動】
*隠し通路内部の部屋の壁に、ザンデが行った儀式や魔法陣、ケフカが持ち去った首輪などの情報が残されています。
建物が壊れない限りは誰でも読み取れるでしょう。
182 :
訂正:2008/10/11(土) 01:08:34 ID:2gaExCpH0
↑エリクサー1個消し忘れました
【リルム(HP1/2、右目失明、魔力消費)
所持品:絵筆、祈りの指輪、不思議なタンバリン、エリクサー スコールのカードデッキ(コンプリート済み) 黒マテリア
攻略本(落丁あり) 首輪 研究メモ レーザーウエポン グリンガムの鞭、暗闇の弓矢 ブラスターガン 毒針弾 首輪 ブロンズナイフ
第一行動方針:アーヴァイン・ピサロと一緒に行動する
第二行動方針:仲間と合流
最終行動方針:ゲームの破壊】
自分でもよく覚えていないが、余程悪い夢を見ていたのだろう。
サックスが目を覚ました時、背中や脇の下にはじっとりと脂汗が滲んでいた。
もっとも今の状態では、良い夢なんて望めそうにもないが。
ふと隣りを見ると、エリアが木に凭れた格好で寝息を立てている。
自分が眠ったのを見て安心したのか、つい眠り込んでしまったようだ。
(どうして、こんな風に眠っていられるのだろう?)
その穏やかな寝顔を見ている内に、冷たいしこりのような感情が胸に込み上げる。
(……今なら、彼女を殺せるだろうか?)
だが、その考えは固まりきらないまま、すぐに霧散していく。
元の世界で彼女が命を落としたのは、自分達のせいではないか。
そう、フルートのように、我が身を犠牲にして……
その記憶が捨て切れないからこそ、彼女に手を掛ける事だけは躊躇される。
このままでは、到底非情になどなれない。
(離れよう……今のうちに……)
幸い、エリアはザックを横に置き、肩紐をゆるく掴んでいるだけだ。
あのザックの中には槍とラケットが入っている。彼女の銃や手榴弾もある。
それだけの武器があれば、この先優位に立てる事は間違いない。
(……これで……身を守る術のない彼女は……きっと誰かが……)
そう思い立ってザックを掴み、奪い去ろうとした時、
「サックス……?!」
突然、エリアが大きく目を開いた。
ルカ達が塔を下り、外へ出るまでには大分時間が掛かった。
なにしろ、下の階へ移るだけで一苦労なのだ。
いちいち方向を定め、少しずつ雲の高度を下げていかなければならない。
予めアンジェロが塔の内部をチェックしてくれていなければ、
それだけでとっくに日が暮れていただろう。
いや、それどころか、彼女がいなければ行動する気にもなれたかどうか……
『それで、どこへ向かうの?』
ようやく辿り着いた出口から、ルカは北西の方を向いた。
『こっから左……西の方に、青い帽子が動いてくのが見えたんだよ』
『青い帽子?』
『うん、きっとテリーのだと思うんだ』
『……ちょっと待って。それ、ひょっとしたらラムザかもしれないわ』
『それって、前にアンジェロと一緒だった人?』
アンジェロがカズスに来るまでの経緯は既に聞いていた。
その情報により、今朝死亡が確定したテリーは、恐らく彼女らが遭遇した、
手足を失う大怪我を負っていたという青年の方だろう、と判断したものだ。
『もう一人のテリーも青い帽子を被ってたわ。それをラムザが拾って被ったの。
だから、カイン達はラムザをテリーだと勘違いしたのよ』
『そうなのかぁ……』
ルカは少々気落ちしたように呟いた。
テリーに逢いたいのは勿論だが、彼の持つ巻物を使えば呪いが解けるかもしれない、
という期待も多分にあったのだ。
『……でもさ、ラムザさんはゲームに乗ってないんだよね?』
『ええ、それは確かよ』
しかし、他に手掛かりがある訳ではない。ルカはすぐに考えを改める。
『だったら、もしあれがテリーじゃなかったとしても、最悪な事にはならないと思うんだ』
『それはそうだけど……』
『行くだけ行ってみよう。どっちにしろアンジェロと話ができる人間なんだし』
『そうね……彼なら、きっと味方になってくれると思うわ』
どちらにしても損はない、と決断し、一人と一匹は北西に向けて進路を取る。
見晴らしのいい平原には、特に人影は見当たらない。
他に誰かが通り過ぎた様子もなく、暫くは平穏に進んでいく。
だが、平原を斜めに横切り、岩山の近くの小さな森の前まで来た時、
アンジェロはふと立ち止まり、頻りに辺りを嗅ぎ回った。
『どうしたの?』
『気を付けて……あいつの匂いがするわ。近くにいるかもしれない』
『あいつ、って……まさか……』
『サックスよ。それに、もう一人……多分、女の人だと思うんだけど……』
エリアに間の悪いところを見咎められ、サックスは渋々手を引っ込めた。
「そんな、泥棒みたいな真似は止めて下さい!」
迂闊だった、とエリアは慌ててザックを引き寄せ、胸にしっかり抱え込んだ。
「僕はただ……僕の荷物を……」
そう言い掛けて、サックスは口を噤んだ。
確かに、槍にしろラケットにしろ、元々は他人から奪い取ったものなのだ。
「……僕が泥棒なら、カインは強盗だ」
サックスは自嘲し、吐き捨てるように言った。
「あの男と……戦うつもりなんですか?」
「あなたが武器を返してくれれば……」
「駄目です」
「どうしてですか? そうすれば、きっと仲間の仇を取ってやれる。
それとも、あの男が憎くない、とでも言うんですか?」
触れられたくない事を口にされ、エリアの表情に惑いの色が浮かぶ。
それがたとえ、見え透いた魂胆だと分かっていても……
「それでも……駄目です!」
情に絆されないようギュッと目を瞑り、エリアはサックスの思惑を拒んだ。
「じゃあ、どうしろって言うんです?! ずっと隠れてろって言うんですか?!」
頑ななエリアの態度に、思わずサックスは声を荒げた。
「どうせ噂はとっくに広まっている! どこへ行っても敵しかいないんだ!
それはここに居たって同じ事だ! 誰かに見付けられたら終わりなんだ!」
「だからって、わざわざ出ていくのはもっと危険です!」
エリアは、立ち上がって行こうとするサックスの腕を掴んだ。
「もう構わないで下さい!」
「邪魔をするって言ったじゃありませんか! どうしてもと言うのなら……」
『私を殺してから行って下さい』
あくまで引き止めようとするエリアの瞳が、そう必死の覚悟を告げていた。
(それが出来れば……何も苦労はない!)
サックスはエリアの手を強引に振り払い、森の入口へと駆け出した。
「待って下さい!」
エリアも追って走り出そうとするが、まだ覚束ない下半身のせいで躓き、転倒する。
「サックス……!」
なかなか起き上がれないエリアが、悲痛な声で叫ぶ。
思わず耳を塞ぎたくなるのを堪え、サックスはどんどん先へと進んだ。
二人の距離が次第に離れ、彼女の声も小さくなっていく。
このまま進んだからといって、何か当てがある訳ではない。命の保証も当然ない。
ただ、この場所を、彼女の傍を離れたい一心だった。
だが、森を抜けた途端、サックスは急に足を止める。
その目前に、宙に浮かぶ、傷だらけの少年の姿があった。
ルカは怒りに燃える瞳で、サックスを睨み付けている。
暫くの間、二人は距離を置いたまま対峙した。
「……よく動けたものだな」
「でも幽霊じゃないよ……似たようなもんだけどね」
一端に皮肉を言いながら、ルカはゆっくりと片手を上げた。
その小さな指に、爆発を引き起こす呪いの指輪が光っている。
「どうするつもりなんだ? また僕を吹き飛ばそうって言うのか?」
「それはあんまりしたくないんだ。俺も無傷じゃ済まないから」
「そうだった……君は賢明な子だったね」
ルカは手を上げたまま、軽く拳を握る。
「でも、お前がこれからも人殺しをするつもりなら……」
「身を呈して止めようというのか。立派な心掛けだな」
まるで、エリアと同じような事を言う。
サックスは言いようのない苛立たしさを感じると共に、
もはや自分が持ち得ない、真っ直ぐなひたむきさに嫉妬する。
「僕が優勝するまで止めない……と言ったら?」
「だったら、俺は容赦しないよ」
口ではそう言いながらも、ルカは不用意に突撃してはこない、とサックスは踏んだ。
銃を使うにも、引き金を引く時の衝撃に自分自身が耐えられまい。
何か他の武器を持っていたとしても、それは同じ事だ。
こんな事なら、強引にでもザックを奪ってくるべきだった、と後悔する。
唯一武器になりそうなものは、首に巻いた丈夫なマフラー。
ふと、絞殺……という言葉が頭を過ぎる。
確かにサックスの腕力なら、これで子供を縊り殺すぐらい訳はない。
だが、迂闊には近付けない。ルカが指輪を示したのは、その為の牽制なのだろう。
事をなす為には素早く背後に回り込み、一気に締め上げなければならない。
その間合いを取る為に、サックスはじりじりと距離を狭めていく。
「何グズグズしてるの? 俺を殺すんじゃないの? 爆発が怖いの?」
その挙動を見ながら、ルカが挑発的な言葉を投げる。
サックスは唇を噛み締め、耐えてやり過ごそうとする。だが、
「それとも、エリアさんて人に逢って気が変わった?」
突然、ルカが思いも寄らぬ事を口走り、サックスは思わず目を剥いた。
「な……何を?! 何故君が……?!」
「まさか、その人も殺したの?!」
「そんな事は……か、彼女は……!」
エリアの名に明らかに動揺を見せるサックスに、ルカは更に追い打ちを掛ける。
「だったら、今の内に俺を殺せよ! 俺は逃げも隠れもしない!
動けない相手だったら楽に殺せるんだろ?! ハッさんみたいにさ!」
「こ、この……!!!」
思わずカッと血が上り、爆発の心配など一瞬頭から消え去っていた。
サックスは地を蹴り、マフラーを手に一気にルカに詰め寄る。
だが、その手が届くより早く、ルカはヒュッと口笛を鳴らした。
次の瞬間、サックスは後頭部に強い衝撃を受けた。
「うぐっ……!!」
目から火花が散り、思わず前にのめり込む。
褐色の塊が空中で一回転し、牙を剥いて唸りながら、目の前に立ち塞がる。
「い、犬……?!」
その、薄い布を纏った、尻尾のない奇妙な犬には見覚えがあった。
ウルの入り口でヘンリーと話していた時に、突然襲い掛かってきた犬だ。
「こいつ……君の犬だったのか?!」
そう考えれば、あの不可解な行動にも納得がいく。
「違うよ。彼女は、俺の大事な仲間だ!」
サックスは、遅まきながら自分の不覚を悟った。
攻撃のタイミングを計っていたのは、自分だけではなかったのだ。
ルカが指輪を見せたのも、わざとサックスを挑発したのも、
全ては自分に注意を引き付ける為だった。
その隙に犬を背後に回り込ませ、好機を窺っていたのだ。
「君は……一体何者なんだ?!」
余りにも子供離れした思考に、思わず昨夜と同じ問いを繰り返す。
「俺は、モンスターマスターだ!」
ルカにとっての戦いには、銃も剣も必要としない。
『アンジェロ! 作戦変更だ! ガンガンいこうぜ!』
自分の直感と判断力、そして友への信頼こそが、彼の最大の武器であった。
――サックスは後頭部打撲による内出血、HP・左肩ダメージやや回復――
ルカに再びあの不思議な感覚が蘇り、頭の中にイメージが浮かぶ。
『奴は左肩と頭に怪我をしてる! そこを集中して攻めろ!』
攻撃方は彼女に任せて大丈夫と判断し、ルカはサックスの動向を図るのに徹する。
『オーケー! いくわよ!』
アンジェロはくるくるとサックスの周囲を旋回し始めた。
「こいつ!」
『右からくるぞ! かわせ!』
蹴り飛ばそうと振り上げる足をアンジェロはステップでも踏むようにかわし、
その姿が消えたと思った次の瞬間には、不意に左上空から現れる。
「なっ……!」
驚く間もなく、衝撃波を伴った体当たりが肩にぶち当たる。
「くっ……うっ!」
『よし! 右が空いてる! 回れ!』
肩を押さえたせいで空いた脇腹に頭突きを食らい、うっ……とサックスは呻く。
「ぐ……くそっ!」
昨夜は余裕で避けられた攻撃が、何故か今は全く回避する事ができない。
マフラーの防御力のお陰で致命的な打撃こそ受けないものの、
矢継ぎ早の攻撃に回復した筈の体力は削られ、集中力が損なわれていく。
アンジェロの素早い動きに翻弄され、サックスはルカに近付く事さえ叶わない。
自力では動くことさえ困難な少年が、ほんの数語を発するだけで、
恐るべき破壊力を秘めた獣を、まるで自分の手足のように操っている。
その信じ難い光景に、サックスは次第に焦りと畏怖を感じ始めた。
ところが、いよいよ万事休すかと思われた時、攻撃が急にぴたりと止まった。
「や、止めて下さい……!」
振り向くと、ようやく森を抜けたエリアが、足を引き摺りながら走ってくるのが見えた。
ルカとアンジェロも、突然現れた女性に目を奪われてる。
「……何をやっているんですか?! 相手は……まだほんの子供じゃないですか!」
息を切らしながら追い付いたエリアは、サックスにあからさまな非難の目を向ける。
傍目から見れば大人と子供、こちらの分が悪いのは当然だが……
「違う! やられているのは僕の方だ!」
思わずそう言ってから、しまった、とサックスは舌打ちする。
こんな子供に苦戦するようでは、仇を取るなどと言っても説得力がないではないか。
「と、とにかく、この子は只の子供じゃない! 犬を使って……」
「逃げて下さい! 彼は私が止めますから! 早く!」
エリアはサックスの言い訳には耳を貸さず、彼の腕を両手で掴み、
唖然としているルカ達に叫んだ。
『……どうなってるの? 何なのよ、この二人?』
『さ、さあ??』
さすがにルカもこの展開は予測できず、ただアンジェロと顔を見合わせる。
「結局……あなただって、僕を信じてないじゃないですか」
サックスはエリアに対し、急激に心が冷えていくのを感じた。
「違います! 無益な事は止めるべきです!」
「あなたは……そんなに僕を殺したいのか?」
「いいえ! 生きて欲しいんです! 生きる希望を持って欲しいんです! だから……」
「うるさい! もう綺麗事は沢山だ!」
振り払う勢いの余り、サックスはエリアの頬を強かに張り飛ばした。
「ああ……!」
エリアの華奢な身体が、地面に叩き付けられるように倒れ込んだ。
「何するんだ!」
『ひどい……か弱い乙女を殴るなんてサイテーだわ!』
再び、ルカ達はサックスを憤怒と共に注視する。
「人の心配より、自分の心配をした方がいいんじゃないか?」
サックスは、近くに飛ばされたエリアのザックを拾い上げる。
もう彼女の目の前だろうが何だろうが構わない。カタを付けてやる。
まず、あの鬱陶しい犬を爆弾で始末し、その後、ゆっくり串刺しにしてやる……
だがルカは、サックスが武器を取り出すまでの僅かな隙を見逃さなかった。
『下だ! 足を狙え!』
命ずるより早く、アンジェロは疾風のように駆け出し、ガッと足首に咬み付いた。
そのまま、強靭な顎が身体ごとサックスを持ち上げ、高く宙に放り投げる。
「うあっ……?!」
空中にサックスの身体が踊り、一瞬の後に急降下する。
「きゃああああ!」
だが、その真下にはエリアがいた。
咄嗟に衝突を避けようと、サックスは体をひねり、右手で受け身を取ろうとした。
しかし、落下の重力と全体重がもろに掛かる姿勢に耐え切れず、
乾いた木の枝を拉ぐような音と共に、手首がグリッと有り得ない方向に曲がる。
「ぐあああああっ……!!!」
サックスは地面を転がり、激痛にのたうち回る。
折れた関節部の皮膚が、みるみる赤黒く腫れ上がっていった。
「お、お願いです! 彼を許して下さい!」
悶絶するサックスの身体に、エリアが覆い被さった。
「彼が酷い事をしたのは分かっています! 決して許されない事だと……
でも、もう二度とさせません! 私が、絶対にさせませんから!
彼の償いは、必ず……必ず……」
エリアの打たれた頬は無残に腫れ、目の周りはに青痣さえ生じていた。
それでも尚、自分達のような子供と犬に懸命に懇願する姿に、ルカ達は毒気を抜かれた。
「あなたは、エリアさん……だよね?」
「え……ええ……?」
「スコールさん達から聞いたよ」
皆まで聞かずとも、それだけで何を言わんとしているかは十分だった。
「そうですか……きっと怒ってるでしょうね……」
「うん……特にサイファーさんは……
でも、リュックさんとターニアさんは、あなたを信じてるって」
「え……?」
「よく分からないけど、きっと理由があるんじゃないかって言ってた。
……俺も、何でかよく分からなかったけど……」
思わず、エリアの頬を涙が伝う。
スコール達は勿論、彼女達にも、とっくに見限られたものと思っていた。
「悪いけど、サックスは許せない。でも、あなたは信じていいのかもしれないな」
そう言うと、ルカは何かをエリアの前に投げた。
拾い上げると、彼女の手の中にポーションの瓶が光っていた。
「もし、使えるものなら使って。後は……あなたに任せるから」
子供心にも、エリアの痛ましい姿はとても見ていられなかったのかもしれない。
「約束します……私が……必ず……」
エリアは瓶を押し抱いたまま、ルカとアンジェロに深く頭を下げた。
ルカも軽く会釈するとアンジェロを伴い、二度と振り返る事なく、西の方へ向かって行った。
『勿体ないわね。ポーションあげちゃうなんて』
『ポーション? あれ、ポーションていうんだ?』
『回復薬よ。拾ったのなら教えてくれればよかったのに』
知ってたらリカバーを使えたのに、とアンジェロは少々不服そうである。
『やっぱりそうかぁ……ちょっと惜しかったなあ』
そう言いながらも、ルカの表情はどこか晴々としている。
元々、ルカはサックスを倒すのではなく、その蛮行を止める事が目的だった。
利き手があの状態では満足に武器も扱えないだろうし、何よりエリアの存在がある。
取り敢えずの目的は達せられたものと思っていいだろう。
『まあ、いいわ。また、どこかで見つかるかもしれないし』
アンジェロとしても、自分の選択の正しさが証明された事には満足、といった感じだ。
『そうだね…………ふ、ふあ〜……』
緊張の糸が切れ、ルカは大きく欠伸をした。安心感からか、一気に眠気が襲ってきたのだ。
その途端、雲が左右に揺れ、薄く散り掛けていく。
「わっ! わわわわわっ……!!!」
へろへろと揺れ動く雲をどうにか必死で立て直し、ルカはハアッ、と大きく息を吐いた。
『ちょ……ちょっとルカ! やっぱり休んだ方がいいんじゃない?!』
『だ、だいじょーぶ! 大丈夫!』
真っ青になり引きつった笑顔を浮かべながらも、ルカは強がって答えた。
ホントかしら、とアンジェロは小首を傾げる。
『彼女があいつに付いてった理由……分かるような気もするわ』
『どんな理由?』
『完璧な男より、欠点だらけの男に付いてあげたくなるものよ。女心って』
戦って死ぬより、情けを掛けられ無様に生き延びる事は、何て惨めな事だろう。
スコールに皮肉られ、カインに罵倒された揚句、ルカに二度までも失態を演じたのだ。
失意の内に理性が闇に呑み込まれ、心が黒く塗り潰されていく。
(許さない……あいつら……絶対許さない! 殺してやる……!)
騎士としての誇りはとうに捨てた。
だが、僅かに残っていた男として、人としての尊厳すら奪われた今、
彼に残されたものは積りに積った怨念のみだった。
(……彼女さえ……彼女さえいなければ…………!)
サックスは、もはや止める事が出来ない、理不尽な怒りの矛先を、
目の前のエリアへと向け始めた。
彼が震えているのは痛みのせいばかりではない。自分に対し、激怒しているのは当然だ。
今、自分に出来るのは、少しでも彼の痛みを和らげるという事。
まだ信頼されている、という事実が、唯一の彼女の支えとなっていた。
エリアはじんじんと疼く頬を隠すように、突き刺さる視線を避けるように俯き、
黙々とサックスの手当を続けた。
だが、もし……
彼女がその時、少しでも顔を上げていたら、「それ」に気付いたかもしれない。
サックスの身体から滲み出す、憎悪に満ちた黒い闇に。
【ルカ (HP1/15、あちこちに打撲傷、不眠状態)
所持品:ウインチェスター+マテリア(みやぶる)(あやつる) シルバートレイ オリハルコン
満月草 山彦草 雑草 説明書(草類はあるとしてもあと二種類) E:爆発の指輪(呪)
第一行動方針:テリー、もしくはラムザと合流する
第二行動方針:指輪の呪いを解く
最終行動方針:生き延びて故郷に帰る】
【アンジェロ 所持品:風のローブ
基本行動方針:ルカについていき、その身を守り、戦う】
【現在位置:デスキャッスル南西の茂み】
【エリア(下半身の怪我は回復気味、左顔面打撲傷)
所持品:スパス スタングレネード ねこの手ラケット ビーナスゴスペル+マテリア(スピード)
天使のレオタード 拡声器 ポーション×2(うち1つは猛毒入り) 水鏡の盾
第一行動方針:サックスの怪我の手当
第二行動方針:内から少しずつサックスを矯正する
基本行動方針:サックスより先に死なない/サックスに殺させない/サックスを捕らえさえない】
【サックス (HP2/5、極微度の毒状態、右手首骨折、左肩負傷、後頭部にコブ)
所持品:スノーマフラー
第一行動方針:エリアをどうにかする
第二行動方針:自分を貶めた者達を殺す(カイン・スコール・ルカ優先)
最終行動方針:優勝して、現実を無かった事にする】
【現在位置:希望の祠北西の森の前】
10レス目
ルカとアンジェロも、突然現れた女性に目を奪われてる。
↓
ルカとアンジェロも、突然現れた女性に目を奪われている。
12レス目
エリアの打たれた頬は無残に腫れ、目の周りはに青痣さえ生じていた。
↓
エリアの打たれた頬は無残に腫れ、目の周りには青痣さえ生じていた。
訂正宜しくお願い致します。
保守
保守
怖い。怖い。
私は、どうしたらいいんだろう。
こんな場所に一人で、頼れそうな人はみんないなくなってて。
あの子が戻ってきたらどうしよう。
悪い人が襲ってきたらどうしよう。
怪物が襲ってきたらどうしよう。
私一人じゃ、何もできない。
勇気だって、出てこない。
どうしよう。
誰か、助けて。
リュックさん、ソロさん、サイファーさん、ヘンリーさん、バッツさん、スコールさん。
ピサロさん、ティーダさん。……お兄ちゃん。
助けて。誰か、助けて。
怖いよ。あの子も、一人ぼっちも、怖いよ。
私一人じゃ、どうすればいいかわからないよ……
タバサが去った後も、ターニアはそこから動くことができなかった。
足は竦んで動かず、心は恐怖に囚われたまま。
逃げ惑うことさえ忘れて、ただ、泣き続けた。
この世界を訪れてからはや二時間が過ぎたことにも、何かから逃げるように空を過ぎった巨大な影にも気づかずに。
狂った少女に怯え、ここにいない誰かに縋りながら、無防備に泣き続ける少女。
殺人者にとって、これ以上もなく狩り易い獲物だったろう。
けれど、ターニアの命運は、まだ尽きてはいなかった。
少なくとも、その声を聞いた時、彼女はそう感じた。
「ターニア!」
闇の奥。
タバサが姿を消したのとはまた別の方角から、聞き覚えのある声が、彼女の名を呼んだ。
びくっと身を震わせながら、しかし微かな希望を胸に、涙に濡れた顔を上げる。
木の葉を振り払い、茂みを踏みしだく音。
それに続くように、暗い景色の向こうから現れたのは、黒い衣服に身を包んだ青年だった。
「大丈夫か? お前一人なのか?」
「スコールさん……!」
恐怖と安堵。相反する感情に突き動かされたターニアは、反射的に青年に抱きついた。
青年が顔をしかめたことにも気づかず、ひたすらに泣き騒ぐ。
怖かった。突然みんながいなくなっていて怖かった。死者を捜し歩いている少女が恐ろしかった。
そんなことを、まともな文章に紡ぐこともできないまま、ターニアは喚いた。
そして青年は、髪を梳くように彼女の頭を撫で続けた。
群青の瞳を、少女の頭へと向けたまま。
五分ほどそうやっていただろうか。
落ち着きを取り戻したというよりも、泣き疲れて、ターニアは口を閉ざす。
目をこすり、すんすんと鼻を啜る少女に、青年は静かに声をかけた。
「気は済んだか」
ターニアは黙ったまま、首を縦に振る。
「何があったか、ちゃんと話してくれるか」
「……は、い」
掠れた咽から声を絞り出しながら、彼女は森の奥に消えていった少女、タバサのことを話した。
最も、それは説明というには程遠いものであったが。
それでも青年は事情を把握した様子で、呟いた。
「……タバサがそんなことになってるとはな」
「知ってるんですか?」
ターニアの言葉に、青年は顔をゆがめる。
不機嫌と嘲笑、そこに幾ばくかの後悔を混ぜたような、何とも複雑な表情だ。
「ん、ああ……さっき会った奴に聞いたんだ。
魔物を操り、人を殺しまわっている子供がいると。
こんな近くをうろついていたなんて……あいつも、運がいいんだか悪いんだか」
ククク、と咽を鳴らすように笑う青年に、ターニアはふと違和感を覚えた。
この人は、こんな風に感情を表に出す人だったろうか。
わずかな恐怖に思わず青年の腕を強く握り、けれど、すぐに考えを改める。
青年――スコールは、出会ってたかだか数時間の相手だ。
顔見知りとはいえ、性格や好みなど、何も知らないと言っていい。
「ターニア。腕、話してくれないか。痛いんだ」
青年が痺れを切らしたように呟いた。
そこでようやくターニアは、スコールがサックスとの戦闘で負った傷や毒のことを思い出し、慌てて手を離す。
「あ……ご、ごめんなさい!」
「全く……服は着替えりゃどうにかなるけど、身体はそうはいかないんだぞ?」
青年は腕をさすりながら、やれやれと首を横に振った。
「まあいい。それよりさっさとここを離れて、サイファー達を探しにいかないとマズいな」
サイファーという言葉に、ターニアは顔を上げる。
「スコールさんも、みんなと……?」
「ああ、はぐれた。
気づいた時には、あっちの塔で一人きり、だ」
青年は北東の方角を示した。
「俺も、あいつ……サックスにやられた傷のせいで、調子を出せない。
おまけに、荷物の大半が、ほかの連中と一緒にどっかに行ってしまった。
はっきり言って、やる気の奴と鉢合わせになったら、かなりヤバイ状況だ」
「そんな……」
ターニアはかすかに身を震わせながら、青年に縋りつく。
タバサに与えられた恐怖は、まだ、彼女の心から消え去ってはいない。
青年はふう、と息を吐き、ターニアの肩を叩きながら応えた。
「大丈夫だ。塔の中でアイテムをいくつか拾ったから、それでどうにかしてみるさ」
そう言いながら、左手を差し出す。
そこで初めて、ターニアは青年の手に緑色の杖が握られていることに気がついた。
「それは……」
「変化の杖、というらしい。
一振りすると飛竜に変身して、もう一度振らないと元に戻れなくなる、そんな妙な呪いがかけられている」
「飛竜……呪い……?」
「大丈夫だ。さっき試してみたが、自我が無くなるといったことはなかった」
青年は杖の先を右の掌に打ちつけながら、言葉を続ける。
「ヤバイ相手に出会ったら、これで俺が飛竜に変身するから、お前は背中に乗ってしまえばいい。
空を飛んでいる竜に攻撃を仕掛ける物好きなんて、そうそういないだろうし」
そう言って青年は杖を振った。
ポワワワワン、という気の抜けた音がして、煙に似た魔力が放たれる。
驚いたターニアは腕で眼を覆い、しかし、すぐに青年の居た場所に視線を向けた。
瞬く間に薄れていく魔力――その中心に、黒翼を広げた飛竜が佇んでいた。
「これだけ凶悪な見た目なら、並の相手なら脅かすだけでも追っ払えるだろ。
あ、中身は俺だから安心しろよ?」
「……そ、そう、ですか」
ターニアはそう答えたものの、安心しろよと言われて納得できるような外見ではない。
何せ、全身から邪悪さがにじみ出ている、強大な黒竜の姿だ。
今のターニアの精神状態では、気絶しなかっただけでも十分賞賛に値する。
そんな彼女の様子を鑑みたのか、竜はもう一度杖を振り、青年の姿に戻った。
「まあ……毒も治ってないし、ずっと竜に化けて空を飛び続ける体力なんてないからな。
これはいざって時の切り札だ。
当分はこっちの絨毯を使おう」
青年は杖を握り締めたまま、ザックから赤い絨毯を取り出す。
「あ。もしかして、魔法の絨毯ですか!?」
「……知ってるのか?」
「はい。お兄ちゃんに一度だけ乗せてもらいました」
ターニアの脳裏に、懐かしい思い出が蘇る。
イザが、伝説の魔法都市で手に入れたというアイテム。
彼と友人達がライフコッドに泊まりにきた時に見せてもらい、そして少しだけ乗せてもらった、空飛ぶ絨毯。
「……お兄ちゃん」
その兄も、仲間も、もういない。
ターニアはスカートの裾を握り締め、俯く。
「泣くのは後回しにしてくれ。
早くみんなと合流しないと、俺達も敵に襲われて殺されるかもしれない。
そうしたら、お前の兄貴だって悲しむだろうよ」
「そう、ですね……」
青年の言葉に、ターニアはぎゅっと目をこすり、絨毯の上に乗った。
「お前は前の方に座ってくれ。俺は後ろと左右を警戒する。
いいか、前方だけでいいからな。その代わり、敵とか人とか、絶対に見逃すなよ」
「は、はい……」
ターニアは頷いて、真っ直ぐ前に顔を向ける。
そして少女の背後で、青年は唇の端を吊り上げ、にやりと笑った。
うーん、さすが僕!
初っ端からツイてないとか思ったけど、やっぱりツイてる冴えてるぅー♪
心の弱った無防備な女の子。
もちろん、さっくり殺して彼女自身に化けるって手もあったけど……
それだとやっぱり、変化の杖の効果時間がネック。
だけどこの手なら、急に変身が解けても、『敵がいた』とか適当なことを言って誤魔化せる。
問題は、"見た目黒っぽいから黒い竜に化けても違和感ないよね"って理由で選んだだけで、
実際に会ったこともない相手に、上手く化けられるかってことだったけど……
相手の心を読み、そのイメージを直接投影することで、何とか変化できた。
まー、イメージが元だから、もしかしたら本物とは身長や体重が違ってるかもしれないけど。
でも、顔はちゃんと参加者リストで確認してあるし、
他もターニアが思っているスコールって奴の外見そのままになってるはずだから、しばらくは見破られないだろう。
バレるとしたら口調と態度。
現時点でもちょっと怪しまれたりしてるから、そこは要研究かな。
他にも人間関係とか、よくわからないことが多いし……
もう少し落ち着いてもらってから、じっくり心を読ませてもらおうっと。
さーて。
この子をダシにして善人チームに紛れ込んでもいいし、スコールの姿でぶっ殺してやっても面白そうだし。
あるいは人質扱いにして、ほかの奴を操ってもいいし、他にももっと使い道があるかもしれないし。
どうしようかなー。ホント、夢が広がるな〜♪
【スミス@スコール(HP1/5 左翼軽傷、全身打撲、洗脳状態)
所持品:変化の杖 魔法の絨毯 波動の杖 ドラゴンテイル
基本行動方針:ターニアを利用してゲームの流れをかき乱す
第一行動方針:カインと合流する
最終行動方針:(カインと組み)ゲームを成功させる】
【ターニア(血と銃口とタバサへの恐怖 僅かに人間不信&不安)
所持品:スタングレネード×4 ちょこザイナ&ちょこソナー
第一行動方針:リュック達と合流したい】
【現在位置:北東の森】
207 :
修正:2008/10/23(木) 23:11:36 ID:KGMKVkV/0
雑談スレで指摘されたとおり変換ミスです。正しくはこちら
「ターニア。腕、話してくれないか。痛いんだ」
↓
「ターニア。腕、離してくれないか。痛いんだ」
投下乙。マーダーの中でスミスが一番厄介だな。え?セフィロス?あいつは元々チートだから…。
保守!
森を抜けて、見えてきたのは高い塔でした。
ただの塔じゃないみたい、壁がうねうねと動いていて、まるで生きているようです。
よく見ると、最上階から何かもふもふこもこもしたものが湧き出していました。毛玉?
いいえ、羊さんのようです。羊さんが上の階からどんどん湧き出して、下へ降っています。何コレ?
塔の周りは元はきっと床や柱だった瓦礫が降り注いでいて、とても近付けそうにありません。
「どこにあんなにたくさんの羊さんがいるの? 上で何が起こってるのかな?」
お父さん達に聞いてみますが、答えは何も返ってきません。
羊さんたちに聞こうにも、何故か地面に落ちる前にみんなどこかへ消えてしまいます。
しばらく塔を眺めていると、柱の向こうを影がよぎりました。
「え? 私?」
金髪の女の子が見えたのは一瞬だけです。すぐに羊さんに隠れて見えなくなりました。
目をこすって、目を凝らし、額に手を当てて見てみますが、誰もいません。
ただの見間違いだったのでしょうか。
羊さんもいつの間にかいなくなって、だけれども塔からは未だにパラパラと砂埃が落ちてきています。
「ここにお母さん達はいるのかな?」
お父さんに尋ねます。お父さんは考え込むようにうつむいて、答えてくれません。
遠くから見ると高くなさそうに見えたけど、やっぱり高い塔です。
デモンズタワーや天空への塔よりは低いけれど、それでも首を上に向けて見上げるほどの高さです。
突然崩れだしたら怖いので、木の陰に隠れながら、ゆっくりと、慎重に、慎重に塔に近づきます。
塔はよくよく見ると、壁なんてなく、一階真ん中にものすごく太い柱が一本あるだけです。
大黒柱というのでしょうか、でもこれだけで支えているのでしょうか。
なんだか、塔がきしむような、ギシギシという嫌な音が聞こえてきそう。
「こんなところにお母さん達はいないかも?」
お父さんはやっぱり答えてくれません。
遠巻きに、様子を見ながら、誰かいないか目を凝らします。耳を澄ませます。静かです。何も聞こえてきません。
でも、あれだけ羊がいて何もなかったはずもありません。どこから羊が来ていたのか、とても気になります。
雨の日、たくさんの水がどこから流れてくるのか、見に行くときのような気分です。
「ねえお父さん、やっぱり私、ここをちょっと見てみたいかも。……いい?」
お父さんもピエールも微笑んでくれます。行っていいよ、ということみたいです。
それを聞いて、塔へ走り出します。お父さんもピエールも、私を追いかけてきてくれています。
大黒柱の裏にまわって見てみると、上の階に行くための階段がありました。
少し柱を押してみます。こつこつ叩いてみます。…大丈夫、動きません。きっと崩れません。
崩れそうでもリレミトを使えば大丈夫なので、どんどん進みます。
最上階には、真っ白な泉があって、そこから羊が湧き出ているんじゃないかとか思うと、どこかわくわくします。
実はものすごく広くて、緑が茂っていて、牛さんやお馬さんや羊さんがたくさん住んでいるんじゃないかと思うと、少し楽しみです。
お父さんやピエールにも話しかけると、にこにこと頷いてくれました。
だから、とってもがっかりしました。最上階も下の階と違いなんかほとんどありません。
違いは、お兄さんが一人もたれかかって眠っていることくらいです。
羊飼いの人ってこんな格好なのかもしれないけれど、ちょっとイメージと違ってがっかりしました。
よく見ると顔色が悪いので、具合が悪いのかもしれません。
大丈夫かな、と近付くと、お兄さんがぱっちりと目を覚ましました。
さっきのお姉さんは少し驚かせてしまいました。だから、今度はできるだけ警戒させないように。
お母さんが言っていました。元気に挨拶をすれば、相手の人も気持ちよくなるって。
できるだけ笑顔を崩さずに、できるだけ元気な声で。
「おはようございます、お兄さん!」
お兄さんは、私が声をかけた瞬間に突き飛ばしてきました。
私の体は、中がスライムさんなんじゃないかと思うくらいにぽぽんっと弾かれ飛んでいってしまいます。
でも、お母さんが言ったことが間違っているとは思いません。
起こされてご機嫌斜めだった、というのじゃなくて、私を殺そうとしているのが感じられました。
この人は、最初から悪い人だったんです。
でも、こんなときでもお父さんは冷静です。お父さんに言われた通りに、リレミトを使って脱出します。
……効きませんでした。ふしぎなちからでかき消されてしまいました。
床に打ち付けられます。なのに勢いは止まらずに、ごろん、ごろんと転がってしまいます。とても痛い。
さらにどこからか、ものすごい量の水が流れてきます。
試練の洞窟のときみたいに、近くに転がっていた折れた柱に掴まりますが、それでもずりずりと押し流されてしまいます。
水の向かう先は空中、4階、15メートルくらいの高さ?
滝のようにどうどうという大きな音を立てながら、水が地面にうちつけられます。
落ちたら痛いじゃ済まない、どうすればいいの?
なんだか外が騒がしい。人の声、波の音、いつもと変わらぬフィッシュベルの朝。
「ちょっとフィン、アンタいつまで眠ってんの? 早く起きなさいよ! 今日はアミット漁の日だってこと忘れたの!?」
下の階から少しヒステリック気味な声が聞こえる。ああ、そういえば今日はそうだったかも。
眠い目をこすりながら、はしごを降りて居間へと移動する。台所からは網で魚を焼くにおいがする。
マリベルがいつものように魚料理を食卓へと運ぶ。
彼女が口元をへの字に曲げたときはいつものようにお説教が始まる時間だ。
マリベルは未だに魚を焼くのに慣れていないらしい。片方は黒く焦げ、もう片方は生焼け。
僕のほうが上手く焼けるんだけど多分教えようとしたら逆鱗に触れる。
でも、これはこれで味があっていいものかもしれない。
「ほんといつもいつもトロトロして…いいこと? ボルカノお父様も引退して、今はアンタがマリベル号の副船長になってるの。
そうでなくても今日はバーンズ王もリーサ姫も出発をお見送りにいらしてくれるの。
ガボ? アイラ? 来るに決まってんでしょ! メルビンやキーファまで来てくれるんだから。
とにかく、アンタが遅刻だなんて、船長のあたしの顔に泥を塗るつもりかしら?
え? アタシが死ぬ夢を見た? ……いつまでも寝ぼけてんじゃないわよ!
それとも何? あんたもしかして私に死んでほしいって思ってるわけ?
まあそれなら毎晩枕元に化けて出てやるだけなんだけどさ。え? 死んでも会えるのは嬉しい?
大バカ言ってないでさっさと朝食食べてしまいなさい! 後片付けもあるんだから!」
マリベルに何故か怒られ、気がつくと船にいた。浜辺からは大勢の人が見送ってくれている。
エンゴウのほむら祭りやオルフィーの動物感謝祭にも負けない、世界的に有名な祭りだ。
波止場にはマリベルやガボ。少し離れた群集に混じって父さんや母さんたち、ホンダラおじさん、メルビン、リーサ王女、バーンズ王…
キーファ、グレーテ姫、ヨハン、セファーナさん、サイード、ラグレイ、ネフティス女王、パミラさん、イルマ、エテポンゲ…
シャークアイ、アニエスさん、アルマンさん、ブルジオさん、パークの魔物たち、シムさん…
関わりあった人たちが総出で見送りに来てくれる。高揚感はいくらにも高まる。
「せん…いや、副船長、出港の準備整いました!」
少し浮かれた声による報告。この声はきっとジタンだ。
船長室ではアルカートがぬいぐるみを縫っている。操舵室ではドーガさんが舵を握っている。
「……よし、いかりを上げろー! 帆を張れー! 出港だー!」
ああ、ついにこのときが来たんだと、ひしひしと実感する。
船の後ろを見れば、だんだん小さくなっていくエスタード島。
海は穏やか、航海を妨げるものは何もない。
船乗り達がせわしく動き回る。今回の漁場はハーメリア南西、海底に沈む都市から南東部20キロのところだ。
浅瀬や島が多いために複雑な海流が多く座礁しやすいが、そのぶん東西南北様々な地域の魚が集まる。
海底王の住処が近くにあるのも関係していよう。
また複雑な海流に揉まれ、鍛えられた魚は身がひきしまっていて美味い。
フズの漁師達より聞いた話。何百年経っても、その環境は変わらない。
だが、目的海域までまだかかるというのに、ジタンが騒がしい。船の前方に何かあるようだ。
「フィン、前方に奇妙な島があるぜ」
確かに、島とも呼べるか怪しい小さな島が一つ。
だが、様子がおかしい。ぶるぶると震え、まるで生きているかのよう。
警笛が鳴る。あれに近付いてはいけない、と本能が警告する。
だが、海流にでも巻き込まれたのか、船はその島のほうへどんどんと近付いていく。
突如、咆哮が聞こえると共に海面から巨大な塊が跳ね上って、大きな日陰を形作る。
それが何か、そう理解したときには空中で方向を変えたそれは猛烈な勢いと共にこちらへ向け振り下ろされていた。
そして、水面の爆ぜる音と共に氷の船が砕け飛ぶ。
海に落とされるフィンが見たのは、巨大な魔物、それに叩き落されるドーガ、
そしてその魔物の肩に乗って満面の笑みを浮かべるタバサの姿。
目の前に、満面の笑みで。
「おはようございます、お兄さん!」
はぐれメタルだとか、魔王との戦いだとか、様々な戦いを経験したが、
その数ある戦いの中でももっとも素早い一撃。剣すらとらず、反射といってもいい、素手での攻撃。
盗賊職の特技、突き飛ばしといっても間違いではないだろう。
まるでモノのようにタバサの体は吹き飛んで、塔の縁へと飛んでいく。
床に打ち付けられ、タバサはしばらくごろごろと転がる。
夢と現実の区別が曖昧だったが、少しだけ状況を理解する。
少しだけ気持ちを落ち着けようと休んでいるうちに無用心にも眠ってしまっていたのだ。
高熱のせいで普段ならなんともないことでもイライラしてしまうし、
うまく集中できないから、呪文・武器攻撃も力が入りすぎて散漫になってしまう。体は休息を求めているのだろう。
石版世界で体の具合が悪くなれば、とんぼ返りで家に戻って休息していたものだ。
あるいは、やつあたり気味に羊など呼び出さなかったほうがよかったかもしれない。
体の抵抗力は、心の具合、精神と連動してしまうのだから。
だが、それよりも彼女がこんなに早く戻ってきたのは完全に想定外だった。
今度こそ僕を殺しに来たか、それともまだバカにし足りないのか。どうせロクな理由ではない。
よく見るとこころなしか服装が違っているように見えるが、着替えただけだろう。
間違いない、その身から僅かに感じ取られる禍々しい気は、やはりタバサ本人だ。
話す気はもうない。話を聞く気ももうない。
彼女に向けて放つのは、水の精霊の力を借りて、前方広範囲にあるものすべてを押し流す津波。
水に打ち付けられ、この高さから落ちたなら、人間ならひとたまりもないだろう。
タバサは折れた柱をつかみ、抵抗しようとするが無駄、それごと押し流されているのだ。
40センチの高さでもベギラマ級、1メートルもあれば上位呪文にも匹敵する破壊力。柱程度でやり過ごせるほどあまくはない。
何か呟いているのは命乞い…というタマではないだろう。呪文の詠唱に間違いない。
支援
詠唱を完了したらしいタバサの体が肥大化する。
着ていたはずの服はどこかに消え、全身が鱗に覆われ、翼、そして尻尾が出現する。
大体の姿は、ブラックドラゴン、といっても謎の神殿の壁画でしか見たことがないが、それに近いのではないかと思う。
ドラゴラムの呪文。ひとたび唱えれば、身を竜に変化させ、敵が息絶えるか、離脱するまで容赦なく炎を浴びせ続けるようになる。
だが裏を返せば、相手がいる限り、呪文が解けることはない。
本来はサポートあってこそのものだが、それだけ切羽詰っているということかもしれない。
当然、これだけの質量になれば津波といえども押し出せない。
だが、逆に好機。ブレス攻撃が主になるのだから、追い風を吹かせるだけ、後は爪にだけ注意しておけばいい。
竜に化けたタバサが一歩踏み出してくる。口から高熱の炎を吹き出すが、追い風に守られ、炎は全てかき消えるか、返っていく。
それでも炎を吐き続けるのをやめない。それが、この呪文のリスク。
多少頑丈にはなるが、的が大きくなるのだから意味はない。
これだけ大きな的なら、外すこともないだろう。
水に濡れているのなら、ヒャド系、デイン系が効果的。
そして、その中でも範囲に優れるのはライデインの呪文。
魔力と空気中の水分を擦り合せて、擬似的な雷を作り、撃ち出す。
……思ったより効きが悪い。ほぼすべての相手に通じるはずだが、その例外なのかもしれない。
それでも効いてはいるらしく、体を流れる電撃に耐えかね、暴れだす。ズブリと床板に足がめり込む。塔が揺れる。
支援2
一瞬だけ嫌なシーンが脳裏に流れた。二文字で表せば、崩壊。
お返しとばかりに吐き出してくる炎は相変わらず風で返っていくが…さらにタバサがもう一歩。
今度は床板を踏み抜き、石畳が崩れ落ち、体が一段階、二段階、三段階と下がり見えなくなる。一番下の階まで落ちたのだ。
下の破壊音とは別に、かすかに聞こえる重低音はおそらく、塔が限界に達した合図。
床がぐらりと傾く。おそらくは、いや、確実に重要な柱が壊れたのだ。
初めは小さな石ころが、次第に大き目の瓦礫や装飾物、玉座といったものが転がり落ち、地面に叩きつけられ粉々となる。
二階が地面に叩きつけられ、自重によって砕け崩れる音。
崩壊というより、根元からへし折れるように塔が傾いていく。
踏ん張っていられない。重力のままにひきずられ、急斜面となった床板をずるずると滑り落ちていく。
さらに速度を増し、地面へと傾き出す塔。60度ほど立っている世界が回転していく。
体を支えられる足場はもうなく、重力にしたがって真下に落ちる。
地面にぶつかり、ずぶりと足からめり込む、上からはさらに瓦礫が、塔そのものが降り注いでくる。
瓦礫が頭や腕にぶつかって砕け、やがて見える範囲は瓦礫に埋め尽くされ、暗闇に塗りつぶされた。
無我夢中で唱えたのはドラゴラムでした。
変身すればきっと塔から落ちてもそんなに痛くないかも、と思ったからです。
それに、世界一のモンスター使いのお父さんがいるから、ドラゴンになってもめちゃくちゃなことにはならないとも思ったんです。
でも、腕にも、体にも、足にも、あちこちに火傷の跡。すり傷切り傷、体が痺れる感覚がもあちこちにあります。
変身している間は何が起こるのかあんまり覚えてないんだけれど、
塔は崩れてなくなっていて、あの悪いお兄さんもいません。
だから、これでよかったんです。
お父さんとピエールも、無事に傍にいます。
「ごめんね、こんな変な塔に登ろうって言っちゃって」
謝りますが、お父さんもピエールも何も気にしていないようです。
少しだけちくちく胸が痛むけれど、でも嫌われなくてよかった。
「じゃ、お母さんやお兄ちゃんを探そう?」
足を動かします。でも、あちこちが痛いんです。それに、痺れて動きにくいです。
「回復しなくちゃ…」
ホイミの呪文を唱えます。でも全然効きません。やっぱり私には回復呪文の才能はないのかも?
「あれ? 私って回復呪文を使えたっけ? いつ覚えたのかな?」
誰かを忘れているような気がしますが、うまく思い出せません。
そういえば、ずっと持っていたけれど、ザックの中身も気になります。
出てきたもので、ストロスの杖はよく知っているけれど、他のものは何だろう。
キノコ図鑑、おかしな本、綺麗な石、私のじゃない服。見たことない写真つきの本に地図。
キノコ図鑑。誰かと見せ合いっこしたような気がする。
おかしな本。誰かがこの本を使って私に呪文のことを教えてくれたような気がする。
私のじゃない服。悪い人に追いかけられたときに傷つけられた気がする。
綺麗な石。その人と別れるときに、お父さんが交換したような気がする。
もう一人傍に誰かがいたような気がするのだけれど、思い出せません。
ただ、その人のことを考えていると、胸がときめくような、懐かしいような、そんな気もします。
支援3
最後に、写真つきの本。取り出したときに裏返しになっていたので、後ろからめくっていきます。
見たことのない人たちの写真があります。赤い線が引かれている写真が多いです。
お兄ちゃんの写真がありました。赤い線が引かれています。
お父さんの写真がありました。赤い線が引かれています。
ピピンの写真がありました。赤い線が引かれています。
ピエールの写真がありました。赤い線が引かれています。
お母さんの写真がありました。赤い線が引かれています。
はぐりんの写真がありました。赤い線が引かれています。
「失礼なご本!」
瓦礫となった塔のほうへ、その本を投げ捨てます。
ごとり、と瓦礫の下で何か動く音が聞こえた気がします。
いや、本がぶつかった拍子に石ころが転がっただけでしょう。
「ごめんね、お父さん、ピエール。じゃあ、行こう」
お母さん、お兄ちゃん。それに加えて、もう一人の誰か。
その人も暇があったら探してみてもいいかもしれません。
支援4
生き埋めにされるのはダーマ以来だ。でもあのときはここまで不快にはならなかった。
仲間が傍にいたからかもしれないし、山賊が存外憎めない相手だったからかもしれない。
体に乗る石材がずずんと重い。刺々した角は落下の衝撃で砕けているものの、呪文が解けて、体に重さがかかる。
鉄は最大まで鍛え上げれば、それこそメタルキングシリーズに匹敵する強度を誇るとは、産業大国フォロッドにて聞いた話。
その状態に体を変質させてしまうのがアストロンの呪文だとは、呪文大国マーディラスにて聞いた話。
神さまから頂いた勇者の心、でも勇者が板につかないうちに冒険を終えてしまった。
向いていなかったのだろうし、今の自分が勇者といえるものではないことは嫌というほど自覚している。
けれど、もしあのままあの職を続けていたなら、もっと強ければ、こんな惨めな思いをすることもなかったはずだ。
ダーマの存在があればこそ、まだまだ強くなれたはず。何故僕はこんなに弱いままで満足していたのだろう?
体の上の瓦礫を満足にどかすことすらできやしない。僅かに覚えている呪文や特技で地道に砕いて吹き飛ばすことしかできない。
復讐に憑かれた人間が、力に憑かれた人間が、どうなるか歴史は教えてくれたはずなのに、今の僕はそれらを求めている。
過ちと分かっていても、止められない。ああ、なんで僕はこんなに弱い人間なのだろう。
【フィン(瓦礫に挟まれ緩やかにHP減少、MP減少中、風邪)
所持品:陸奥守、マダレムジエン、ボムのたましい
第一行動方針:瓦礫を取り除く
第二行動方針:タバサを殺す
第三行動方針:風邪を治す】
【現在位置:結界の祠北東、エビプリの塔跡】
【タバサ(HP1/4程度、MP半分ほど 体正面に火傷・雷撃によるちょっとした痺れ)
所持品:E:普通の服、E:雷の指輪、ストロスの杖、キノコ図鑑、
悟りの書、服数着、魔石ミドガルズオルム(召喚不可)
基本行動方針:ビアンカ、レックス、記憶にある誰か(セージ)を探す
※リュカとピエールと共に二人を探しているというストーリーを組み立てています】
【現在位置:結界の祠北東、エビプリの塔跡から移動中】
「あー……足が痛い」
「どうしたの?」
「テラスからジャンプしたときに、ちょっと足捻ったみたい。
偽アリーナのせいでバランス感覚狂ってるからなあ」
「だいじょうぶ?」
「まぁ、なんとか。転ばずに歩けるようになっただけマシかな」
「そっか。でも、転んだ時片腕だと危ないから、後で腕治したげるね」
「やったあ! さっすがリルム、優しいな〜!」
「その代わり疲れたらおんぶしろよ」
「……さっすがリルム、しっかりしてるな〜」
「無駄口を叩いていないで早くしろ。置いていくぞ」
「はーい」「はいはい」
「………」
「ねー、ピサロー」
「何だ?」
「とりあえず、リルム達がアルガスと会った場所に行くのはいいとしてさ。
そっからどうするの? 地図見る限り、拠点になりそうな場所が二つあるけど」
「ふむ……小娘、ラムザはアルガスについて何か言っていなかったか?」
「んーと、そこのモヤシに片目潰されて、追われてるとか言って、ビビリまくってたとかなんとか」
「片目なんて知らないし……だいたい僕にビビってたら、ピサロに会ったらどんな顔するんだろ。
いっそ泣いて命乞いでもしたら、許してやんなくもないんだけど。ねえ?」
「貴様が許しても私は許す気などないがな。
……貴様に怯えていた、か」
「っていうのは方便で、あんたに怯えてるんだと思うけど。
追われてるって本気で思い込んでるなら、遠くの方に逃げると思うなあ」
「でも、そんなのアルガスって奴の演技かもしれないじゃん。
嘘情報ばら撒くつもりなら、色々な場所回ると思うよ。
近くから順番に移動していくんじゃないかなあ」
「だが、片目を傷つけているならば、襲撃にあった場合対処しきれまい。
遠距離の移動は避けて、近場の拠点に身を隠してやりすごす……とも考えられる」
「……とりあえず、アイツと会ったって場所まで移動しようか。
何か手がかりが残っているかもしんないしさ。
裏切り者の青バッタがいれば、僕が味方面して近づいて、情報奪い取った後に袋叩きにするって手もあるから」
「そうだな。考えていても始まらぬ」
「………」
「この辺りか?」
「んっと、もっと先だったと思う」
「結構遠いね〜」
「うん。 ……って、何してるの? 虫でもいるの?」
「んー、ちょっと黒いもやもやが纏わりついててさ。
前が見えにくいから払いたいんだけど、上手く払えなくて」
「もや?」
「貴様に見えているものは『闇の力』なのだろう?
実体なきものを手などで払えるわけがあるまい」
「ならどうすれば払えるのさ?
ちょっとならいいけど、視界一杯に寄ってこられちゃあ、うっとおしくてたまんないよ」
「魔法が使えるなら魔力制御ぐらいできるだろう。
あれと同じように、意志の力で操作しろ」
「魔法たって擬似魔法だし、GFがいなくちゃできないんだけどね。
それにこんなイミフでワケワカメなもやもや、意志力でどうにかなるもんなの?」
「不純物が混じっているとはいえ、魔力の一種だ。
しかも視認できるほどに身体に馴染んでいるならば、容易く操作できるだろうに」
「ううん……うごけー、うごけー」
「……」
「ちょっとは動くけど、すぐに寄ってきて元通りになるんだけど」
「知るか」
「よくわかんないけど……
散らそうとするより、逆に一箇所に集めてみれば? ファイア唱える時みたいにさ」
「ああ、なるほど。……あつまれー、あつまれー。
……あっ」
「どうしたの?」
「両手が黒い靄に包まれて、ちょっと必殺技っぽいカンジでカッコいい!」
「あっそ、よかったね。
で、リルムまだ聞いてないんだけど、『闇の力』って何?
響きからして危険なカンジが漂ってるけど」
「さー? 死んだ人の恨みつらみと、魔女の力が混ざったものだって、ギードは言ってたけど……
あ、あと、そこの人が長々と取り憑かれると魔物になっちゃうとか言ってたっけ」
「げげっ、魔物ぉ!?」
「安心しろ。この世界に存在している力は、『純粋な闇の力』には程遠い。
殺人を犯さず、それなりの精神状態を保っていれば、影響を受けることなどない。
逆に言えば、そこの男のように身体や魂を侵されない限り、己の力とすることもできんのだが」
「はいはい、どーせ僕は意志薄弱の魔物一歩手前の殺人鬼ですよーだ」
「うーん。ケッコー物騒な代物みたいだけど、純粋な闇のナントカってどんななの?」
「人や獣を魔に属するものに変化させ、死者や無機質に偽りの命を与え、在るべきものを無に代える。
世界や運命を憎む魂から生まれ、この世の理すべてを否定する力」
「……なにその、なんか凄そうなハナシ」
「暗黒神、破壊神、大魔王、永遠の闇、暗闇の雲、戒律王。
闇の化身とされる者の名はいくつもあるが、全てに共通している事柄は――
次元や時の流れ、運命、あるいは世界の法則さえも捻じ曲げるほどの力を持つということ。
故に、古来より多くの魔導師や魔族が、闇の力を手中に収めんと願った。
もっともその殆どは己が力にするどころか、逆に闇に飲まれて、その一部と化したらしいがな」
「ヘ〜、スゴイネ〜。それがホントなら僕はこの世界をぶっ壊して自分のおうちに帰りたいよ」
「言ったはずだ。この世界に存在し、貴様に寄り憑いている力は、不純物の混ざったものでしかないと。
鍛えもしない鉄鉱石で他人の首を撥ねられるものか」
「うー……」
「最も、ザンデほどの幅広い知識と実力を持つ魔導士であるならば
不純な闇でも己の魔力と代えて、高等魔術を用いることもできたかもしれぬが……
まぁ、貴様ごときでは無理な相談というものだな?」
「はいはい、どーせ僕はカッコだけのなんちゃってコスプレ魔導師ですよーだ!」
「……スネちゃった」
「放っておけ」
「うん、そーする。
……って、そこのモヤシ、なにしてんの?」
「決まってるだろ? この靄から新必殺技を開発してそこのオジサンを見返してやるんだ!
ダークギガフレアとかエターナルフォースブリザードとか、当たると死ぬようなすっごいヤツ!」
「まー……夢って見るだけならタダだよね」
「何でそんな哀れみに満ちた目を向けるのかなあ」
「………」
「とりあえずもやもやをレーザーソードっぽい形に整えてみたんだけど、ダークセイバーとか名づけていい?」
「良かったね」
「なにその白けた反応」
「貴様以外には見えんからだ。せめて実体化させてから物を言え」
「そんなぁ〜。やり方がわかんないよ」
「理論的には召喚獣を実体化させるのと同じはずだが」
「召喚なんてGF任せなんだけど……う〜んと、こんなんでどう?」
「見えないよ」
「ええ〜……これならどうかな〜? ムンバ型にしてみたんだけど」
「見えないね」
「んじゃコレは〜? 文字書いてみたんだけど」
「見えないってば」
「ちぇ〜。つまんないなぁ」
「あ、なんか見えた。……『ぴーちゃん まぬけ』?」
「ちょ、何でいきなり見えるの!?」
「アーヴァイン……カインやアルガスより先に、貴様をこの剣の錆にしても構わんのだぞ?」
「止めてよして流して、じょーだんだってじょーだん!」
「………」
「はあ……こう、適度に力を込めると見えるようになるのか。
でもなんだかすっごい疲れるな〜。肩凝っちゃうよ」
「魔力を消費すれば疲れるに決まっているだろう」
「そんなもんなの? 魔力って感覚、いまいちよくわかんないや」
「魔法使えるのに?」
「魔法たって、あらかじめ力場のエネルギーやアイテムを変換してストックしたものを
ガーデン支給の制御装置やGFを介して使うことが殆どだし……
自分のエネルギーを使うなんて、重傷とか瀕死とかピンチの時ぐらいだもんなあ」
「ふーん……よくわかんない」
「安心して、僕にもよくわかってないから。
てゆーか、疲れるからもう止めとこうっと。
実体化させたので殴ってもダメージは出ないみたいだし……」
「薄い靄にしかならない時点で、実体化とは到底呼べん。
魔力も集中も足りておらんからこうなるのだ。
……これでは魔力精製や転化など、到底無理な話だな」
「ふーんだ、どーせ僕は魔女でも魔導師でもないよーだ」
「全く。貴様がもう少し使い物になれば、儀式の際の魔力供給に目処がつけられたというのに……」
「へ?」
「その靄を貴様が純粋な魔力に転化できるようなら、面倒な問題の一つが解決したかもしれんのだ。
我々が身に宿している魔力とは比べ物にならぬほど膨大な力を、労せずに手に入れられるのだからな。
……まさかここまで素質が無いとは思わなかった」
「妙に親切だと思ったら……そんな下心が……」
「そのような目的でもなければ、貴様ごときに助言や挑発などするはずがなかろう。
愚か者めが」
――――――――
「ハァ……俺様モ新必殺技ガホシイナア」
「たそがれていないで参加者の盗聴記録分析及び保存作業をきちんと遂行してほしいのデスよ、ウルフラマイター様。
またティアマト様に叱られるのデスよ」
「アイツハ ダ ー ク フ レ ア シカ芸ガナイノダカラ唱エテル間ニ逃ゲレバイイノダ」
「……聞かなかった事にするのデスよ。
これ以上あなた様方のケンカに我々が巻き込まれたら、ゲーム進行に支障が起きるのデスよ」
「ソレハ安心シロ、アイツハ怒リッポイガ馬鹿デハナイ」
「馬鹿でないから厄介なのデスよ。いざとなったらウルフラマイター様が庇ってほしいのデスよ。
鉄壁の装甲と規格外の体力を誇るウルフラマイター様でなくては、ティアマト様の一撃に耐えられないデスよ」
「無茶ヲイウナ、アリニュメンヨ。俺様ハ、オ前ラノボスト違ッテデリケートナノダゾ」
「魔法生物のあなた様の方が、精密機械であるボスや我々よりは頑丈だと思うのデスが」
「俺様ニハ痛覚ッテモノガアルノダ。耐エ切レテモ痛イモノハ痛イ」
「………そうですか。わかりましたから、仕事をしてほしいのデス。
参加者の動向調査もデスけど、空間安定化とか、首輪の調整とか、山ほど溜まってるのデスよ?」
「ソンナニアルノカ、面倒クサイナ。オ前ガヤッテクレナイカ?」
「……(ダメだこの人、早くなんとかしないと)」
【アーヴァイン(変装中@白魔もどき、右腕骨折、右耳失聴、冷静状態)
所持品:竜騎士の靴 手帳 首輪 コルトガバメント(予備弾倉×3) 弓 木の矢40本 聖なる矢20本 ふきとばしの杖[0]
第一行動方針:アルガスの口を塞ぐ
第二行動方針:スコールに会い、行動方針を再考する。それまで脱出の可能性を潰さない
最終行動方針:生還してセルフィに会う
備考:理性の種を服用したことで、記憶が戻っています】
【ピサロ(全快)
所持品:エクスカリパー スプラッシャー 命のリング
第一行動方針:カイン、アルガスを始末する
第二行動方針:可能ならロザリーを救出する
第三行動方針:ケフカへの復讐】
【リルム(HP1/2、右目失明、魔力消費)
所持品:絵筆、祈りの指輪、不思議なタンバリン、エリクサー スコールのカードデッキ(コンプリート済み) 黒マテリア
攻略本(落丁あり) 首輪×2 研究メモ レーザーウエポン グリンガムの鞭、暗闇の弓矢 ブラスターガン 毒針弾 ブロンズナイフ
第一行動方針:アーヴァイン・ピサロと一緒に行動する
第二行動方針:仲間と合流
最終行動方針:ゲームの破壊】
【現在地:デスキャッスル南南東の茂み(平原との境目付近)】
「何が言いたいかは分かっています。
ですが、まずは怪我を治療してしまいましょう」
エリアは僕の視線に構わない。気付いているからこそ、か。
殺し合いに乗ったと分かっている人間を治療するなんて、それこそ殺し合いに乗っているのと同じこと。
なのに殺しは嫌だ、殺させはしないと言い張る。矛盾だらけ。それでいてなお僕の自由を縛りつけるこの鎖を断ち切りたい。
大体、彼女さえいなければ、そもそも毒なんてまわりくどいものを使う必要もなかった。
井戸のところに集っていた怪我人達を殺し、スコールたちが気付く前にやつらを殺すことは出来ていたはずだ。
「今後動くにも休むにも、怪我をしたまま放置しては悪化していくだけです。
もう、貴方のためだとか、綺麗事は言いません。私が貴方に生きていてほしいんです。
だから、治療してしまいましょう」
自分の欲…支配欲か、優越感か、これを満たすために行われる親切の押し売りだ。
もっとも、他人に対して行う行動など、すべて自身の自己満足、内的報酬に繋がるものだが。うんざりだ。
エリアはザックを探っている。こちらを見ていない。
立ち上がる。今までよりも体が軽い。今までのように迷うことなく、彼女の命を断てそうな気がする。
感謝の代わりに憎悪が向けられ、彼女はどのような表情をするだろう。
彼女の首に手を伸ばす。だが、伸ばした手は空を切り、代わりに泥を掴む。
体を起こし、大地を踏みしめ立ち上がったはずが、地面は体に平行に続いていた。
僕の耳にも残っているどさっという音に、エリアが慌てて振り向く。体を起こされ、座らされた。
スコールに、カインに、ルカたちに、心体共に痛めつけられて磨耗しきってしまっているのだ。
一人で立ち上がることもできなかった。
自分のことさえ分からない。自分さえ僕を裏切る。なんて、惨め。
屈辱でありながら、だがもう失うプライドすらないらしい。
指示。反応。
左の掌。開く。閉じる。開く。閉じる。グー。パー。グー。パー。
左腕。上げる。下げる。上げる。下げる。アップ。ダウン。痛い。動きが遅い。
右の掌。開く。閉じる。開く。閉じる。動かない。動かない。動かない。動かない。
右腕。上げる。下げる。上げる。下げる。上がらない。痛い。下がらない。痛い。
左足。曲げる。伸ばす。曲げる。伸ばす。曲がる。伸びる。曲がる。伸びる。
右足。曲げる。伸ばす。曲げる。伸ばす。曲がる。伸びる。感覚が薄い。感覚が薄い。
呼吸。吸う。吐く。吸う。吐く。膨らむ。へこむ。痛い。痛い。
頭の感覚。集める。戻す。集める。戻す。じくじく痛い。痛い。じくじく痛い。痛い。
肩甲骨の裏、背骨の筋、内臓、胃腸、目の奥すら、痛みが伴う。
身体的なものとは別の、全身に走る慢性的な痛みは、復讐を終えるまで続くのだろう。
エリアがザックでごそごそやっていたのは、布を探していたのだろう。
槍の穂先を使って布地の少ないレオタードを切り裂き使ったり、
水の入っていた皮袋や、しまいには何も入っていないザックの布まで切り取って使ってしまっているらしい。
出血を防ぐために縛ったり、動かない腕を固定するものの、結局こんな場所で満足な治療など行えるはずもなく、予想通りの粗末なもの。
もし治療が完璧にできたなら、逃げ出していたか、殺しているだろう。
だが、これでは、彼女から逃げ出すことすらままならない。
血を失ったからか、時が過ぎたためか、それとも会話に心乱されないためか、
いつの間にかあんなに高ぶっていた感情の熱もひいてきた。
黙々と、無感情に動く彼女は一つのことしかしない人形のようにさえ思える。
僕は治療を受けながら、別のことを考えはじめた。
現状。スコール。カイン。ルカ。犬。アルス。みな生きている。奴らと生きるか? 断じてない。
彼らを殺すということは、自然に皆殺しに進むこととなるだろう。選べるか? ――選べる。
半日前に決めたことだ。今更引き返すつもりはない。
…それは独りだったから、独りで生きるにはそうするしかないから。
今はエリアがいる。だけれど、エリアがいたところで同じじゃないか。
彼女は戦えない、いや、戦わない、それどころか戦いに出ようとする僕の邪魔をする。
生き残るためのプラス要因にはなりえない。
おかしい。僕は何故戦う? 戦わないで逃げるほうが生き残りやすいはずだ。
そうだ、生き残るならエリアの言うとおり動かないほうがいい。
ならば何故僕は戦おうとしているんだ?
そう、僕が生き残るためじゃない、やつらを殺すために戦おうとしている。
スコール。カイン。ルカ。犬。アルス。やつらから、僕の存在を取り戻したい。
やつらに奪われたプライドを、この手で殺すことで取り返したいのだ。
スコールからは、取るに足らない矮小なもの、関心の対象外といった眼差しを。
カインからは、貴族が民衆に向けるような、憐れみとそれ以上に優位に満ちた眼差しを。
ルカとそのペットからは、伝染病患者へと向けられるような、哀れみと軽蔑に満ちた眼差しを。
アルスからは、人が魔物を見るとき、汚らわしいものを見るときに向けてくる眼差しを。
それぞれから、向けられた。
ゼルとてそうだった。イクサスを殺した、リルムの目を潰した。
そこにどのような理由があっても聞かない、その事実だけで爪弾き、薄汚いゴミを見るような目を向けてきた。
お前は存在する意味などないのだと、お前に価値はないのだと。
「治療がひとまず終わりました」
簡潔な一言。傷口は洗浄され、布をかけられ、小さな出血はなんとか塞がれている。
折れた手首のほうはどうにもなっていない。左肩にしても足にしても、治療と呼ぶには粗末なもの。
足など動くぶんには何も変わっていない。
彼女の声にほんの少しだけ含まれた安堵と満足の色は、行動を一通りやり遂げた際に誰しもに見られる色。
「まだまだ不完全です。南に、小さな祠が見えますよね。そこへ移りましょう。
あ、それから回復薬がありますので、移動で体力を失うよりさきに…」
差し出されたポーションを払いのける。
彼女は歩けるか、とか、大丈夫か、とは聞いてこない。そんなもの、見れば明白だ。
世話になりたくない。世話になるなど、屈辱だ。
彼女が手を差し伸べる前に、立つ。今度はしっかり地に足をつけて立っている。
彼女の予想通りにならなかったこと、その反応が小気味いい。
僕が彼女を殺せないと分かっていて、彼女は僕にまとわりつく。
全て思い通りになってたまるものか。呪縛から一歩だけ進む。
本当にゆっくりながらも、祠へ向かって一歩ずつ歩き出す。
歩むに連れて、どんどん苦しくなっていく。祠に近付くにつれて、体が重くなっていく。
だが、ここで倒れるわけには行かない。体が重いということは、自分の体を取り戻してきたということ。
頭の中で思い描くことも出来る。彼女を殺すさまは鮮明に描かれている。
だが、いざ実行となるとまだ体が動いてくれない。動くのだけれど、思ったとおりに操れない。
本当に体が消耗しているだけなのか、だけれど何かの呪文がかかっているように、体が殺すことを拒否する。
発想を変えよう。エリアはもう僕を庇って死んでいるはずだ、ここにいるわけがない。
だから、ここにいるのは偽者。だからみんな偽者。ただの敵駒。
親しい人も。肉親も。気になる人も。いない。
いるのは、ただの人形。僕を不愉快にさせるだけの、ただの人形。
「エリア?」
名前を呼ぶ。エリアが顔を向ける。
名前なんてたまたま同じだっただけ。
見た目なんてたまたま同じだっただけ。
声も性格も記憶も、たまたま同じだっただけ。
そうだ。偽者なんだから、殺したっていい。
そう思え。そう考えろ。そう念じろ。そう理解しろ。そう納得しろ。
エリアはいない。こいつは別人。殺せる。殺せる。殺せ。殺せ。
「…どうしました?」
ダメだ。どう暗示をかけても憎んでも、どこかでブレーキがかかる。
何故だろう。さっきまであんなに迷いがなかったのに。
体の感覚を少しずつ取り戻すにつれて、迷いが膨らんでいく。
治療を受けたからだろうか? それだけではない。もっと他の何か。
この膠着を吹っ切りたい。そうしないと、動き出せない。
「エリアの目には、僕はどう見える?」
「……サックスさんはサックスさんです」
エリアを睨む。できるだけ憎しみを込めて睨みつける。
エリアに動揺は見られるが、それでも怖気づかない。
「そんな抽象的な答えはいらない、僕は君の目からはどんな人間に見えるかということを聞いているんだ」
「……少しだけ、言葉をまとめる時間をください」
エリアは黙り込む。こちらもその間、考えをまとめる。
一つずつ仮題をクリアしろ。何故ブレーキがかかるのか。
エリアが戦闘可能だったなら? きっと殺せない。強さは関係ない。
エリアがきつい性格だったら? きっと殺せない。性格は関係ない。
エリアが女じゃなくて男だったら? きっと殺せない。性別は関係ない。
エリアがこの世界で初めて会った人間なら? きっと殺せない。
……今僕に対して行動を起こしているのが、エリアじゃなかったら? ……きっと殺せない。
おかしいと思ってもう一度考え直すが、何度考えてもこの結論にたどり着く。
自分でも驚いた。エリアであることはさほど関係がないらしい。
今の彼女と同じ行動を取る別の人間が現れても、僕はそいつを殺すのを戸惑うらしい。
そうだ、もしこの場にフルートがいたって、僕は殺すのを戸惑うだろう。では、何故。
エリアがスコールのような性格、行動だったら? 殺せるだろう?
僕がエリアを信頼していなかったら? きっと殺せ…??
エリアが僕を信じてくれなかったら? きっと殺せ…。
エリアが僕に無関心だったら? きっと殺せ……?
僕の考えがまとまりかける前に、エリアが言葉を発し始めた。
「……正直に言うと、今の貴方への心象はよくありません。
私は貴方のことをまだほとんど知りません。
ですから、今の貴方と元の世界での貴方、どちらが貴方の本当の姿なのかは分かりません。
当然ですよね、元の世界でも数週間しか一緒にいなかったのですから」
彼女は一息つく。僕も静かに続きを待つ。答えに迫る何かがありそうだから。
「それでも、私がもう一度会いたいと思っていた貴方は、まだ貴方の心のどこかに眠っているはずなんです。
きっとその心が目覚めてくれると思ってます。私は貴方を信じたし、貴方は私に信じさせた。
貴方を信じたから、私だって命を賭けられたんです。
傲慢かもしれませんけれど、そんな人がこのまま終わるなんて認めません。
私の一度目の、そして二度目の生に価値があったことを示してください」
なんてはっきりとものを言ってくるのだろう。
こんな彼女は初めてだ。正直あきれてしまった。
でも、少しだけ分かった。
彼女を殺せなかったのは、きっと、自分がまた一人に戻るのが嫌だったからだ。
誰からも蔑まれ、見下され、嫌われるのが嫌だったからだ。
今朝、彼女らを裏切ったときにそうなるはずだった。なのに、彼女は自分を一人にしなかった。
僕の来歴を、僕がこれからやろうとしていることを知りながら、まだ僕を信じた。
まだ僕が、真っ当な人間を取り戻せると信じて、期待をかけてくれた。
だから、自分が殺すのを拒否した。
でも、それだけならレオンハルトと変わらない。
もう一つ。
己を高めるための仲間として僕を選び、僕がそうなりえると信じ、僕を必要としてくれた。
最初こそ、彼女に恩を受けたせいで殺せないと思っていたけれど、そこじゃなかった。求められていたからだ。
彼女が僕に向けるのは叱責じゃなくて、自分に相応しいパートナーとなれという叱咤。
フルートだってそうだった。僕を求めてくれていた。
何故気付かなかったのだろう。
いや、気付いていた。自分は気付いていた。僕が気付いていなかっただけだ。
気付いていなかったのなら、彼女はそのバカな僕にとっくに殺されているはずだ。
気付いていなかったのではなくて、気付かない振りをしていただけだ。
まだ、僕はまだ失っていないじゃないか。
家族をみんな見捨てて逃げ出したあのとき、命以外の全てを失ったあのときに比べれば。
求めてくれる人がいる、僕にはまだ価値がある。恵みがある。
「……さっきの回復薬をもらえますか? 本当は歩くのもかなり辛くて…」
「もう……意地なんて張らないでください」
エリアがザックに手を突っ込む。
少しだけ、彼女について考えてみた。
エリアは、元の世界では死んだ身。生き残っても、彼女を待っている人はいないだろう。
だから、生き抜くために彼女の生きる意味、居場所が必要なのだ。
では、彼女がそれを失ってしまったら?
エリアがポーションを差し出す。受け取り、蓋を開ける。
意地を張りすぎたようで、体は休息と治療を求めている。
ビンを傾け、一気にあおる。
体から感覚が消えた。
咳で体は上下に揺さぶられ、目眩で世界は左右にゆれ、どこが上なのかも分からない。
感覚は消えても咳は止まらず、喉を逆流してくる血も止まらない。
止めようと首を絞めてみるも、止まらない。喉を引っかいても何も感じない。
上か、正面か、エリアが必死に何かを言っている。
僕を落ち着けようとしているんだろうけれど、エリアにどうにかできることもない。
なんとなく分かる。僕はここで死ぬ。
必死に生きようとしている自分を、どこか遠くから眺めている僕がいる。
毒がまわりきったのだろう、体はびくびくと痙攣して、ほとんどがその機能を止めてしまった。
思考だけは鮮明にはたらく。最期に何か残せ、という思し召しだろうか。
それとも、走馬灯というのはまさにこの瞬間のことを言うんだろうか。
エリアが必死になって飲ませた毒を吐き出させようとしている。
体を揺さぶったり、喉に手を突っ込んだり、腹部を押してみたり。
バカだと思う。もう助かるはずがないのに。
人の死の際に立ち会ったことがある。
もう生きているかも分からない一人の周り、大勢がその死を悼む姿を見た。
誰にも悼まれず、野ざらしに死んでいった妹はどんな思いだっただろうと、胸が痛くなったものだ。
僕の名が呼ばれても、彼女以外に心動かす人はいないだろう。
裏を返せば、心動かす人が一人いてくれる。
そういえば、僕がどう見えるのかうまくはぐらかされた気がするな。
最期に、何か遺してみようか。けれど、もう言葉も話せないし手も動かせない。
そうだ、死に顔はどうだろう。できるだけ、綺麗な死に顔を。安らかな死に顔を。
僕の人生に似つかわしくない、穏やかな死に顔は遺せるだろうか。
【エリア(下半身の怪我は回復気味、左顔面打撲傷)
所持品:スパス スタングレネード ねこの手ラケット ビーナスゴスペル+マテリア(スピード)
拡声器 ポーション 水鏡の盾
第一行動方針:???
基本行動方針:???
【サックス 死亡】
【残り33人】
【現在位置:希望の祠北部平原】
250 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/11/04(火) 10:38:36 ID:U6Mofp630
あげ
ほしゅ
もいっちょ保守
夜勤の為携帯から保守
254 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/11/16(日) 07:59:41 ID:i7FYVYs+O
保守上げ
「だいじょぶ?」
すぐ耳元で、女の声が響いた。
滲んで掠れた視界を占めるのは、金糸の輝きと、緑の瞳。
「ごめんね。みんなでキツイこと言ったり、ヤなこと思い出させちゃったりして」
ぱん、と両手を合わせて、女は頭を下げた。
何があったのか、ぼやけた意識が記憶を手繰り寄せようとする。
けれど、はっきりしたことを思い出す前に、どうしようもない悪寒と吐き気に襲われた。
左眼の奥がじりじりと痛み、舌を転がる硬いゼリーの感触が蘇る。
吐こうにも胃の中に吐けるものなど何もなく、ただげほげほと咽び出す俺に、女は慌てて背中を撫でた。
「だ、だいじょぶ!?」
大丈夫に見えるのか、と言いたかったが、首を横に振るので精一杯だ。
咳が止まらない。涙も止まらない。
それでも、その苦しさが茫洋としていた意識を覚醒させる。
思考を妨げていた霞が晴れていき、記憶が徐々に輪郭を取り戻していく――
「助けてくれだと?」
サイファーが苛立ちと嘲り、それに蔑みの混ざった表情を浮かべながら、俺の胸倉を掴む。
「テメェ、昨日の朝方、俺たちになんて言ったか覚えてねェのか?
あれだけ言いたい放題言っておきながら助けてもらおうとか、随分虫がいい話だな、オイ」
「サイファー。止めろ」
声を上げ、ギリギリと締め上げる腕を押さえたのは、額に傷のある茶髪の男。
あの化物が連れてこいといっていた相手の一人、スコールだ。
「追われているといったな。誰にだ?」
どこか具合が悪いのか、顔色は青ざめている。
しかし、毅然とした態度は崩さず、警戒を緩めようともしないまま、問いかけてきた。
「アーヴァインと……いや、アーヴァインって奴だ」
あの化物の名を口にするたび、左眼がずきんと疼く。
不快な痛みに耐えかねて、俺は反射的に包帯の上から手を当てた。
「あいつが……? その目もあいつにやられたのか?」
スコールの問いに、ああ、と俺は頷いた。
その時、何故だか眼の痛みが強まったような気がした。
――そうだ。それから、スコールの奴が言ったんだ。
『あいつが追っ手だというなら、こんなところで話してる場合じゃない。
狙撃される可能性がある。早く建物の中に入るんだ』
それで、……それで?
「もうちょっと休んでていいよ?」
途切れた記憶を辿ろうと額を抑えていると、女が顔を覗き込んできた。
緑色の虹彩に刻まれた渦巻きのような瞳孔が何とも不気味だ。
人の形をしている、人でない生き物。
大昔、機械が空を飛んでいた頃のイヴァリースには、そういう亜人種が大勢いたらしいが……
こんな輩に心配されるとは、俺はどこまで堕ちていくんだ。
……いいや。今更、か。
階級も身分も生まれも種族も関係ない。
話が通じる相手ならば利用していかなければ、この世界では生きていけない。
俺は絶対に生き延びる。蛆虫のように這いずってでも生き延びる。
だから――そうだ、時間を稼がなければ。
あの化物が来ないように。
「おい、スコールとサイファーはどこに行ったんだ?」
「へ?」
「化物……アーヴァインの奴が連れて来いって言ってたんだ!
あいつらが行ってくれなければ、奴は間違いなく俺を殺しに来るんだよッ!」
俺が叫ぶと、女――リュックは、困ったように眉をひそめた。
「えっとね、アルガス。
あたしたち、ちゃんと最後までハナシ聞いたからさ。
だから、そんな怖がったり焦ったりしなくてもダイジョブだからね」
「え……?」
最後まで、話をした?
「ヤロー連中はちょっと疑ってたみたいだけど、あたしは信じてるからさ!
見捨てたりとか絶対しないし、悪い奴がきたらちょちょいのちょ〜いで、やっつけたげる!
ねー、バッツ?」
「ん? あ、ああ」
部屋の端の方で男の声がした。
いつから座っていたのか――きっと、最初からなのだろう。
バッツ=クラウザー。参加者リストで見た記憶がある。確か、ギードの知り合いだった。
あのカメと同じように、首輪を弄り倒しながら、バッツは言葉を継ぐ。
「ちょちょいのちょいで片付く相手かどうかはともかく、オレもスコールも見捨てる気はないから安心してくれよ。
ところでさ、あんたが魔法に詳しいなら、こっちの手伝いしてほしいんだけど」
手伝い……大方、カメと似たことを考えているんだろう。だが、
「生憎、俺は見習い戦士なんだよ。魔法なんか使えるかッ!」
「そいつは残念だな。……って、じゃあ魔法の解析係はオレだけか?!
もう魔力なんて残ってねーよ……」
「ダンザッセ、トフネンキセウアナ!」
「リュック。頼む。人間語で喋ってくれ」
「ええ〜、バッツがアルベド語を覚えればいいんだよ。
とう……ソフヒョフサミラルシコハウキ。簡単だよ?」
「簡単じゃない、ぜーったい簡単じゃない!」
二人は俺を無視してギャーギャー怒鳴り合い始めた。
まあ、とりあえずこちらのことは守ってくれるようだし、それさえわかればいい。
それよりも問題は、俺がいつどういう風に、あの化物やユウナのことを説明したのかということ。
記憶喪失とまではいかないが、断片的にしか思い出せない。
「それ、全部一日目の話じゃないですか?」
奴の所業を並べ立てた時、若い緑髪の男、ソロが妙なことを呟いた。
「カインには俺たちも騙されたからな……」
化物の情報源を問い詰められて白状したとき、スコールが庇うように言った。
「テメェ、誰がイザを殺したって?!」
化物とピサロを始末してもらうべく切り札を出すと、予想通りサイファーが感情も露に掴みかかってきた。
「ユウナンはそんなことしない!! 悪い奴の嘘に決まってるよ!」
ユウナのことを話すと、リュックが大声でわめきたてた。
そうだ、それで……誰かが言ったんだ。
「まあ待て待て、ちょっとおかしくないか?」
あの時そう言ったのは、確か……
そこらでかっぱらってきたような服とは似合わない妙なピアスと、貴族風の装身具を身につけた、緑色の髪の――
「うわぁあああああああああああああああああああああ!!???」
思い出した、思い出したッ!!
あの化物ッ!! 俺が最初に見た化物ッッ!
なんであいつが!? 放送で名前を呼ばれたはずなのにッ!!!?
「ちょ、ちょっとアルガス、どうしたの!?」
リュックが俺の肩を抑える。
「な、なんでッ!? なんでアイツが生きているんだッ!?
何でお前ら、あんな化物と一緒にッ……!!」
「落ち着けって! ヘンリーは俺たちの仲間だ、お前の言ってる奴とは違う!」
「え……?」
ヘンリー……? デールじゃないのか?
「アルガスが言ってるのって、ヘンリーの弟って人のことでしょ?
てゆーか、さっきヘンリーが説明して、一回納得してたよ? ホントだいじょぶ?」
弟? 説明された?
いや、……そういえば、そんな話を、聞いた気もする。
だが、頭でわかったところで心臓の高鳴りは収まらないし、再生された恐怖は簡単には消えてくれない。
今もそうだし、……そうだ、あの時も、そうだった。
「ソレよりさ、ヘンリー。おかしいって、何が?」
リュックの言葉に、ヘンリーは思い出したように口を開く。
「ああ、あいつが殺し合いに乗っているなら、ユウナの話は同士討ちを誘うためのガセかもしれないじゃないか。
なんでお前は、ユウナのことも本当だと信じてるんだ?」
それは、と言おうとして、言葉が出てこなくなる。
説明できないからじゃない。ただ、怖かった。
余計なことを口走ったら、あの女のように殺されてしまうのではないかと。
「あいつがそう言って、広めるように脅してきたから、ってだけなんだろ?
だったらユウナは殺し合いに乗ってない可能性の方が高いじゃないか」
違う。それは違う。あいつは、広めるように脅したんじゃない!
「違うんだッ!! あの化物は――!」
広めないように脅してきたんだッ!!
そう言おうとした時だった、誰かが俺の肩を叩いたのは。
青い瞳。茶色の髪。ぼんやりとしか思い出せないが――多分、スコールだったのだと思う。
だが、そいつは、記憶と同じように囁いたのだ。
「――、――て、本当のことを説明してくれ」
"本当のことを説明するんだよ"
「でなければ、あんたを信じることはできない」
"どうせ誰も信じてくれないだろーけど"
眼の奥でぶちりと何かが千切れる、そんな音を聞いた気がした。
青い眼が三日月型に歪んだように思えた。
存在するはずの無い指先が潜り込んで、伸びた爪に失ったはずの水晶体を掻き出される、その感触が頭の中に響いた。
そして、気づけばあの化物のどうしようもない笑顔が、そこに浮かんでいた――
そこから先は、本格的に思い出せない。
多分、そのまま気絶したか、コンフュをかけられた奴のように暴れ出して気絶させられたかのどちらかだろう。
今ならわかる。あの時、俺の眼前にいたのは、確かにスコールだった。
俺を落ち着けようとして肩を叩き、真偽を確かめるために問い詰めようとした。ただそれだけのこと。
だが……ヘンリーのせいで錯乱しかけていた俺は、そこにアーヴァインの姿を見出してしまった。
左眼に刻み付けられ、右眼に焼きついた恐怖に、心を押しつぶされてしまった。
「………」
最後まで話を聞いた。リュックはそう言った。
確かに俺は、アーヴァインに眼を抉られスコールとサイファーを連れてくるよう脅されたことを説明し、
カインから一日目の情報を得たことを話し、イザがアーヴァインと同行しているピサロに殺されたことを話し、ユウナが殺し合いにのった可能性を告げた。
だが、それは、"全部"じゃない。
俺がアーヴァインを化物と呼びたくなった理由、ユウナが殺人者であると信じた理由、ついでにロザリーの居場所やら何やら。
そのことについて話す前に、俺は気を失ってしまった。
だから、リュックの言う『ヤロー連中』は俺への疑いを解いていないのだろう。
そしてリュックも、『アーヴァイン=俺を脅してユウナの悪口を広めようとした悪い奴』程度にしか考えていないだろう。
「なあ。他の連中はどうしたんだ?」
痛む左眼を押さえたまま、俺はリュックとバッツに問いかけた。
「サイファーとソロとヘンリーは、ターニアって娘と、お前を追ってる奴を探しに出かけた。
スコールは隣の部屋でマッシュって奴の様子を見てる」
「………そうか」
リュックはまだしも、スコールまでここに留まっている。
俺の言ったことをあまり信じていないか、曲解しているか、それとも俺の命以上に重要な理由でもあるのか。
それは直接聞いてみなければわからないが――今、聞きに行く気にはなれない。
さっきと同じように問い詰められたら、そう考えただけで足が震える。
無くした眼球の奥が疼いて、眩暈が酷くなる。
デールのせいで人を殺すことができなくなったように、あの化物も、俺の心のどこかを壊していったのかもしれない。
「そんな怖がらなくてもへーきだって!
悪い奴の退治は新生カモメ団、ス・リ・バにお任せっ!」
「そうそう、俺たちに任せろ!」
二人は妙なポーズをつけながら言った。
元気付けようとして、なのか、ただの脳天気なアホなのかはわからない。
それ以前に、もはや軽口や皮肉を言う気力も湧いてこない。
とにかく、今の俺にわかるのは、こいつらが正義の味方を気取るタイプの人間で、一応は俺の盾になってくれる、ということ。
最低限度の安全は確保できたわけだ。
……ならば、もういい。今は、休もう。
眩暈も吐き気も止まらないし、本当のことを説明しようにも、まともに話をする自信さえない。
サイファー達があの化物を仕留めて、ユウナが適当な奴に殺されることを祈ろう。
【アルガス(左目失明、軽い恐慌状態)
所持品:インパスの指輪 E.タークスの制服 草薙の剣 高級腕時計 ウネの鍵 ももんじゃのしっぽ 聖者の灰 カヌー(縮小中)天の村雲(刃こぼれ)
第一行動方針:落ち着くまで休む
第二行動方針:アーヴァインとユウナの情報を流し、包囲網を作る
最終行動方針:脱出・勝利を問わずとにかく生き残る】
【リュック(パラディン)
所持品:メタルキングの剣 ロトの盾 刃の鎧 クリスタルの小手 ドレスフィア(パラディン)
チキンナイフ マジカルスカート ロトの剣
第一行動方針:首輪を調べる
最終行動方針:アルティミシアを倒す】
【バッツ(HP3/5 左足負傷、魔力0、アビリティ:白魔法)
所持品:アポロンのハープ アイスブランド うさぎのしっぽ 静寂の玉 ティナの魔石(崩壊寸前)
第一行動方針:首輪を調べる
基本行動方針:『みんな』で生き残る、誰も死なせない】
【マッシュ(気絶、重症、右腕欠損) 所持品:なし】
第一行動方針:―
第二行動方針:アーヴァインと緑髪(緑のバンダナ)の男、及びエドガーを探す
第三行動方針:ゲームを止める】
【スコール (HP2/3、微〜軽度の毒状態、手足に痺れ)
所持品:ライオンハート ひそひ草 エアナイフ、ビームライフル
G.F.カーバンクル(召喚○、コマンドアビリティ×、HP2/5)、G.F.パンデモニウム(召喚×)
吹雪の剣、ガイアの剣、セイブ・ザ・クイーン(FF8) 、貴族の服、炎のリング
第一行動方針:???
第三行動方針:アーヴァインと緑髪(緑のバンダナ)の男を探す/緑髪を警戒/サックスを警戒
基本行動方針:ゲームを止める】
【現在位置:南東の祠】
【サイファー(右足軽傷)
所持品:破邪の剣、G.F.ケルベロス(召喚不能) 白マテリア 正宗 ケフカのメモ ひそひ草
マッシュの支給品袋(ナイトオブタマネギ(レベル3) モップ(FF7) バーバラの首輪)
レオの支給品袋(アルテマソード 鉄の盾 果物ナイフ 君主の聖衣 鍛冶セット 光の鎧) 】
第一行動方針:はぐれた仲間、協力者、アーヴァイン達を探す
基本行動方針:マーダーの撃破(セフィロス、アリーナ、サックス優先)
最終行動方針:ゲームからの脱出】
【ソロ(HP3/5 魔力少量)
所持品:ラミアスの剣(天空の剣) 天空の盾 さざなみの剣
ジ・アベンジャー(爪) 水のリング 天空の兜
第一行動方針:ターニアやアーヴァイン達を探す
基本行動方針:PKK含むこれ以上の殺人を防ぐ+仲間を探す
※但し、真剣勝負が必要になる局面が来た場合の事は覚悟しつつあり】
【ヘンリー
所持品:アラームピアス(対人) リフレクトリング バリアントナイフ 銀のフォーク
キラーボウ、グレートソード、デスペナルティ、ナイフ
第一行動方針:ターニアやアーヴァイン達を探す
基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】
【現在位置:南東の祠から移動】
263 :
訂正:2008/11/21(金) 00:25:04 ID:pldX5XnP0
すみません、所持品にミスがありました
【バッツ(HP3/5 左足負傷、魔力0、アビリティ:白魔法)
所持品:アポロンのハープ アイスブランド うさぎのしっぽ 静寂の玉 ティナの魔石(崩壊寸前)
↓
【バッツ(HP3/5 左足負傷、魔力0、アビリティ:白魔法)
所持品:アポロンのハープ アイスブランド うさぎのしっぽ 静寂の玉 ティナの魔石
マッシュの支給品袋(ナイトオブタマネギ(レベル3) モップ(FF7) バーバラの首輪)
【サイファー(右足軽傷)
所持品:破邪の剣、G.F.ケルベロス(召喚不能) 白マテリア 正宗 ケフカのメモ ひそひ草
マッシュの支給品袋(ナイトオブタマネギ(レベル3) モップ(FF7) バーバラの首輪)
↓
【サイファー(右足軽傷)
所持品:破邪の剣、G.F.ケルベロス(召喚不能) 白マテリア 正宗 ケフカのメモ ひそひ草
運が良いのか悪いのか、サラマンダーはこの世界に来てから人に出会っていない。
そのことは、彼に考える時間を与えた。
ビビを殺害したという感触。実感。それはサラマンダーの体に残る。
未だに馴染まないのは、自らの明確な意思によって生まれた結果ではなかったからであろうか。
「俺は、戦い抜き、勝利する道を選ぶ」
声に出して唱える。やはり足りない。一つ足りない。
戦って、偶然勝って、偶然生き残った、というのは求めるところではない。
これまでの勝ち負け引き分け、完全な勝ちはなく、負けは必然。
確固たる己の意思を持って戦い抜き、勝利しなければ意味がない。
あまりにも勘も腕がなまりすぎてしまった。
もう一度、取り戻さなければならない。
でなければ、スコールと戦う資格すら得られない。
さて、この世界に降り立って何十分経っただろうか。
サラマンダーの研ぎ澄まされた感覚が、久しぶりに人の存在を知覚する。
僅かな動きも見逃さないその目が、草葉の向こうで揺れ動く人の姿を明確に捉える。
「女子供、それに男が一人か……」
気配を感じ取ったのか、男、女が子供を前後で挟み込み、サラマンダーのいる方面へ注意を向けている。
サラマンダーに気付いているあたり、まったくの非戦闘員というわけではないとの推測が立つ。
見た目は強そうには思えないが、そんな参加者は何人も見てきた。
位置がバレているということは、奇襲は無駄。
正面から立ち向かえば、一対四という最悪の状況。
「さて、殺せるか? 俺に、やつらの一人でも殺せるか?」
「あんまり信用しないほうがいいと思うな。赤い髪の人には悪い噂を聞いてるし。
情報元が殺し合いに乗ってた人だったから、信用はできないんだけど」
「大丈夫だろ? 見た感じ武器も持ってないし襲ってくる感じもねえし。
いざとなったら、俺が追っ払ってやるッスよ。交渉は俺に任しとけ」
「ティーダ兄ちゃん頼りになるぅ」
「あ、でもいざとなったらテリーもみんなも援護するッスよ?」
「うん、俺に任しとけ、ってね。へへ…」
「真似すんなって」
やがてサラマンダーは四人に姿を捉えられるが、両者一定の距離以上には近付かない。
彼に友好的などという言葉は似つかわしくない、無理に求めるつもりもない。
大体、求めたところで、滑稽なオチがつくだけだろう。
警戒しあって硬直状態というのは実りがない。
どうせ襲ってくる気がないなら、聞いておきたいこともある。
「スコール・レオンハートという男を見ていないか?
額に大きな傷を持つ、全身黒ずくめの男だ」
この世界でのスコールの動向は可能なら知っておきたい。
ただ、このグループにあまり期待はしていないが。
もしこの世界でスコールら出会ったことがあるのならば、彼の特徴くらい聞いているだろう。
彼を見て警戒以上の行動を起こさない、それが何よりの証拠だ。
「スコールって、アーヴァイン君の言ってた班長さんだよね?」
「そうッス。でもアービン、あんなヤツが知り合いにいるって言ってたっけなあ?」
「…スコールさんの知り合いなのでは?」
「ティーダ兄ちゃん、またアービン兄ちゃんのこと考えてる」
一応小さな声で相談しているつもりらしいが、サラマンダーはその声を拾ってしまう。
聞こえた名は、かつて依頼人から伝え聞いたもの。
一日で四人の人間を殺したというやり手。
その後さっぱり噂を聞かなかったが、相手はどうやら共に行動していたことがあるらしい。
代表して出てきたのは、ティーダ。とはいっても、他より数歩前に出ているだけだ。
テリーもロザリーも、彼の真後ろの位置に陣取っている。
「スコールってヤツには、…俺たちはまだ会ったことがないッスよ。
人づてに名前を聞いたくらいッス」
「では、どこを通ってきた?」
「南の塔の近くから城に向かって、そこからこっちに」
特に情報を引き出せそうにもない。何の収穫もなく、あっさりとサラマンダーの用は済んだ。
せいぜい、ここより南にはおそらくスコールはいないということだろうか。
「こっちからも聞きたいことがあるッス。
アンタ、アー…白いフード付きの服を着た、背が高くて茶髪で軟派風でキザっぽい男を見てないッスか?
ピサロっていう銀髪の男と一緒に行動してると思うんスけど…」
ピサロ。思い起こすのは、かつて一瞬だけすれ違った、クジャにも匹敵する実力を感じた男。
あの男と出会ったとして戦いを挑む度胸はあるだろうか。
そしてもう一人、その特徴、服装以外の特徴は、かつて依頼人からサラマンダーが伝え聞いたものそのものだ。
名前を出さないのはおそらくそのあたりの関係だろうか。
「…残念だが、俺はこの世界に来て会ったのはお前達が初めてだ。
ピサロとやらにも、その男、アーヴァインとやらにも会ってはいない」
アーヴァインという名前を聞いて、ティーダが僅かながら動揺する。
後ろの三人は、雰囲気を感じ取り、固唾を飲んで動向を見守る。
「もしかして、知ってたんスか?」
「名前と特徴を聞き知っていただけだ」
「名前と特徴………?」
どこかで見たような気もするが思い出せない男。
だが、何故名前と特徴を聞き知っているというのは、心当たりがないわけでもない。
「念のために聞くけど、アービンの命を狙ってるとかいうことはないよな?」
「俺はアーヴァインを殺すように依頼された。いや、依頼を受けた」
ティーダがあっ、と声にならない声を出す。
「だが、その依頼主は死んだ。だから、そいつを殺す義務はない、それ以前にお前達への対応は別問題だ。
それとも、俺がアーヴァインの命を狙っていると答えれば、お前達は俺を殺すつもりだったか?」
高まるかに思えた緊張感は何事もなく解け、ティーダがばつの悪そうな表情を浮かべる。
「殺すとは言わないけど、止めようとはしたと思うッス。
確かにあいつは悪いことをいっぱいしてたけど、今はもう足を洗ったし、
…それにあいつ、すごい怪我してて、なのに俺たちに何も言わずに出て行って、心配でたまらない。
あー、でも変な因縁付けようとしてたのは謝るッス」
「俺はお前達にどう思われようがどうでもいいが…。
お前達、さっさとそのアーヴァインとかいう男を探しに行ったほうがいいんじゃないのか?」
「そうッスね。見てないってことは、アービンはきっと南の祠にいるってことだろうし。
あ、オッサンも一緒に来るッスか?」
「俺は大勢で群れるのは好きではない。南に目的の人物がいない以上、共に行くつもりはない」
「あー、そうッスね。じゃあまたな」
簡単な挨拶を終えたあと、ティーダはもうサラマンダーを気にせず、悠々と背中を向ける。
不審な動きも、おかしな情報も見られないサラマンダーを、殊更に疑うものはいない。
ティーダが何事もなく帰っていったというのもあるだろう。
殺人の依頼を受けていたが、契約は切れた、という話は、
あるいは殺人から足を洗ったかのような響きをもっていたかもしれない。
ティーダ本人からそう聞けば、他のメンバーも無用な詮索はしない。
だが、だからサラマンダーが危険ではないということにもならない。
ティーダたちやアーヴァインを殺す義務はない。だがそれを実行するかはまた別のこと。
サラマンダー自身に由ること。
サラマンダーはティーダらが少し離れてから、ザックから球体を取り出し、ひと時手で弄んだあと、下半身の姿勢を作る。
上半身を火砲だとするなら、下半身は砲台。ここをしっかり築き上げることは、「投げ」の際に最も重要な要素の一つ。
一応ティーダが先頭ではあるが、レーダーに目を注ぐため、ユウナのまわりに三人が集まる傾向がある。
つまり、ユウナを中心に狙っておけば、高確率で眠りを誘発できるということだ。
サラマンダーは、タカのような鋭い目で目標を定め、上半身の姿勢を完成させる。
レーダーによって、サラマンダーがずっと移動をしないことに気付いてか、ユウナが訝しげに振り返るが、もう遅い。
それにつられたティーダがサラマンダーに目を向けるが、既に遅い。
そのときには、下半身、上半身共に完成した砲から、球体が発射されていた。
着弾によって球体はほぼ目標地点に着弾、四散し、気体となり、辺りに漂う。
目標の中心にいたユウナは真っ先に、そしてロザリーも膝をつき、ぱたりと倒れる。
動くことが出来たのはティーダだけ。眠気が体全体を蝕む直前に、
広がる粉末を危険だと判断することもなく、ただ反射だけでテリーを圏外に突き飛ばす。
パニックは起こらなかった。みなその前に眠ってしまったということだ。
テリーが三人の名前を大声で叫んでいるが、三人ともぴくりともしない。
まだ粉末の舞う三人の近くには、テリーはうかつに寄れない。
「無駄だ。一度粉末を吸い込めば、例え耳元で叫ぼうが、
拳で殴られようが、しばらくは目覚めることはないだろう」
サラマンダーがゆっくりと近付いてくる。
テリーとて、何度も戦うなかで野生のモンスター相手に不意打ちや催眠という手段をとったことはある。
だから、卑怯とは言わない。ただ、やってきたサラマンダーをギッと睨む。
「逃げるなら今のうちだぞ? そうしても、誰も責めはしまい」
「ティーダ兄ちゃんも言ったんだよ、逃げろってさ。怖いし不安だけど、でも俺は逃げないよ。
だって、いざとなったら戦うって約束したから」
怖い、不安だと言いながら、怯えているというわけではない。そこから感じ取れるものは、確かな覇気。
一方、サラマンダーは行動と矛盾する言葉が出てきたことに気付き、驚く。
殺す相手に、何故逃げるならば、という言葉を吐くのか。決して余裕ではない。
ガキを殺したところで、自分のプライドに傷がつくだけだという傲慢さ。
一方で、こんな少年一人にすら、戦況が覆されてしまうかもしれないという恐怖。
その表れではなかったか? これこそが、捨て去らなければならないものだというのに。
勝利を確信したとき、相手に興味をなくしてしまう。
ヘンリーもそう、そしてビビを殺してなお、眠っていたリュックや無力だったターニアに目もくれない。
果たして、相手に自分に立ち向かってくる資格があるのか、自分の相手として不足はないか?
いつしか、それを求めていた。それが、本当の勝利にたどり着けない要因の一つだと気付かずに。
「なるほど、俺と戦うか。迷いはないのだな?」
「仲間をおいて逃げるなんてこと、できるわけないだろ。
ティーダ兄ちゃんも、ユウナ姉ちゃんも、ロザリー姉ちゃんも動けない。
だったら、オレが三人とも守る。迷いなんてない!」
現実が見えていないと笑うところだろうか?
いや、甘さと慢心の残ったサラマンダーからなら、守りきることも可能だった。
「ならば、俺ももう迷いはしない。甘さも、慢心も、今切り捨てよう」
テリーは、細身の美しい剣を手に取り、その切っ先を向ける。
デザインこそシンプルであるものの、極限まで無駄を取り除いたデザイン。
敵を斬るという剣そのものの目的を追求した名剣とうかがい知れる。
本来なら素人が持つには不釣合いな品であるはず。
だが、その組み合わせは、これ以上ないほどにしっくりくる。
サラマンダーは使える全ての道具を使い切った。あるのは、己の拳一つ。
逃げることで、今より不利になることはあっても、有利になることはもうないだろう。
ここが正念場だ。
テリーとサラマンダーが対峙する、それを伺う者。
ユウナは睡眠防御により、深い眠りに落ちることはなかった。
それでも、意識が吹っ飛んだのは確か。
キアリーでも完全に治療できない毒、不眠すら貫通する睡眠薬、
これはイクサスの優れた技術と、アーヴァインへの復讐心が合わさって出来たものとしか言えまい。
とにかく、なんとか意識を取り戻した彼女の取った行動は、様子を見ること。
テリーが剣を取り、サラマンダーと向き合ったのは彼女にとっても予想外。
だが、いくら強がっても、所詮は子供で、素人。
どうあがいてもテリーの負けだ。戦いを続ける限り、いずれは殺される。
ただし、テリーが生き残るのは願わないとはいえ、テリーが死ねば矛先がこちらに向かうのもまた事実。
こちらが四人いたとはいえ、正面切って戦わず、しかも不意打ちでまず眠らせてくるというのは慎重な証拠。
長引けば長引くほど起きる可能性も高まる。つまり長期戦・連戦は好まない。
だから、参戦タイミングは本当に重要だ。
ティーダがサラマンダーに殺される、或いは、自らの手でテリーを殺し、それを気付かれるという失態だけは犯してはならない。
だから、心に心心して機を待たねばならない。
さて、少し離れたところに落ちたレーダーには、参加者が赤点として映る。
深い眠りに落ちた二人を示す赤点、眠った振りをして様子を見る一人を示す赤点、戦う二人を示す赤点。
そして、彼らとは少し離れた場所に映る赤点。
【テリー(DQM)(右肩負傷(9割回復)
所持品:突撃ラッパ シャナクの巻物 樫の杖 りゅうのうろこ×3 鋼鉄の剣 雷鳴の剣 スナイパーアイ 包丁(FF4)
第一行動方針:ティーダらを守る
第二行動方針:アーヴァインを追う
第三行動方針:ルカを探す】
【ユウナ(ガンナー、MP1/3)(ティーダ依存症、眠い)
所持品:銀玉鉄砲(FF7)、やまびこの帽子、官能小説2冊、 対人レーダー
天空の鎧、ラミアの竪琴、血のついたお鍋、ライトブリンガー、ブリザド
第一行動方針:サラマンダーとテリーの先行きを見る
第二行動方針:あわよくば邪魔なギードとアーヴァインをティーダに悟られないように葬る
基本行動方針:脱出の可能性を密かに潰し、ティーダを優勝させる】
【ティーダ(変装中@シーフもどき、睡眠)
所持品:フラタニティ 青銅の盾 首輪 ケフカのメモ 着替え用の服(数着) 自分の服 リノアのネックレス
第一行動方針:アーヴァインを追う
基本行動方針:仲間を探しつつ人助け/アルティミシアを倒す】
【ロザリー(プロテス、ヘイスト、リフレク、睡眠)
所持品:守りのルビー、力のルビー、破壊の鏡、クラン・スピネル、E猫耳&しっぽアクセ ウィークメーカー
ルビスの剣 妖精の羽ペン 再研究メモ、研究メモ2(盗聴注意+アリーナ2の首輪について) 、ザンデのメモ、世界結界全集
第一行動方針:ピサロを追う
第二行動方針:脱出のための仲間を探す[ザンデのメモを理解できる人、ウィークメーカー(機械)を理解できる人]
最終行動方針:ゲームからの脱出】
※ザンデのメモには旅の扉の制御+干渉のための儀式及び操作が大体記してあります。
【現在位置:デスキャッスル北西の茂み】
【サラマンダー(右肩・左大腿負傷、右上半身火傷、首元の傷は治療済み、MP1/2)
所持品:各種解毒剤(あと2ビン) チョコボの怒り
第一行動方針:テリーらを倒す
第二行動方針:スコールを探し、再戦し、倒す】
【現在位置:デスキャッスル北西の茂み】
272 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/11/28(金) 23:08:44 ID:aaaFLkLFO
保守
保守
274 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/12/06(土) 23:11:32 ID:DfDV7i0RO
保守
保守
保守
保守
保守
夢を見ていた。
仲間三人と野を越え、山を越え、巨悪に立ち向かう冒険。
苦しく、激しい戦いを伴うその旅に、自分は少々げんなりしていたはずだったが、
不思議とその夢の中では活き活きと、輝いて見えた。
ここはどこだろう?
森の中、焚き火を囲んで僕達は話しをしている。
彼が――アルスが荷物の中から本を取り出し、朗読しようとしている。
僧侶のフルートがのほほんと拍手をし、盗賊のくせに常識的なローグが呆れた顔をする。
僕は何か冗談を言い、アルスが真顔で切り返す。
当たり前の光景だったが、そこにある何かが僕を揺さぶった。
彼らの、仲間の顔をもっと見たかった。
笑ってほしかった。笑わせてほしかった。
しかし、みんなで囲んでいた焚き火が不意に消える。
みんなの顔が見えなくなる。
僕は独り、取り残される。
「寝心地の悪いベッドだねえ……」
野宿には慣れているつもりだったが、
疲れている時に柔らかいベッドで寝たいというのは当然の欲求。
セーは心なしか痛む背中をさすりながらそうぼやいた。
もっとも彼にしてみれば元々、休息とは言っても寝る気まではなかったのだが。
「……まあ、誰も来なかったみたいだし、結果オーライ?」
何もない最北端という位置が幸いしてか、ここには危険人物も来なかったようだ。
完全に無防備な態勢になることを差し引けば、睡眠は最も効率的な休息法。
魔力が大分戻ってきた事を確認し、セージは一人うなずく。
「3ヶ月くらい眠ったような気分だけど、放送はまだだよねえ?
あんな派手な登場の仕方なら、冬眠中の熊でも起きるだろうし……」
ここには太陽がないため、時間がいまいち分からないのがもどかしかった。
セージはさっそく地図を取り出すと、どこに向かうか考える。
いや、正確に言えば、どこにアルスがいるかを考える・
あの実直な性向の友ならば、やはり人の集まりそうな目立つ拠点か……。
「目立つのはやっぱりこの城とこの塔かなあ。
それにしても『エビプリの塔』ってなんかいい響きだねえ……」
独り言が多くなったことに……自分の飢えの深さに気づかぬままに、セージは立ち上がる。
誰もいない孤独な場所から、既に探し人のいない孤独な旅へ、病める賢者は歩き出す。
【セージ(HP4/5 魔力1/2程度 精神疲弊)
所持品:ハリセン、ナイフ、ギルダーの形見の帽子、イエローメガホン
英雄の薬、厚手の鎧、般若の面、釘バット(FF7)、グラディウス、聖なるナイフ、マテリア(かいふく)
第一行動方針:めぼしい拠点へ行き、アルスを探す。
基本行動方針:アルスと再会し、その後二人でタバサを探す】
【現在位置:フィールド北端から北東方面へ移動中】
誤字脱字を発見。
すみませんが、
>>280 「セーは心なしか痛む背中を〜」の部分の「セー」を「セージ」に。、
>>281 「〜どこにアルスがいるかを考える・」の最後を句点に
修正お願いします。
彼の顔は、憑き物が落ちたかのように穏やかだった。
凄惨な傷痕を考えに入れたなら、穏やかと形容すると語弊が生ずるかもしれない。
けれども、回復薬の皮を被った毒をひといきにあおってしまった騎士。サックスの表情からは、
生前にあった棘々しさが抜け落ちていた。弛緩した顔の口許には唾液と褐血が散り、痙攣を境に
陰影の深くなった頬には諦めと悟りが相半ばしていたが――
彼は最期に、何かを選びとった。
様々な迷いを振り払うか、あるいは諦めて、少なくとも心穏やかに逝った。
だからこそ断末魔の数瞬経ても、サックスは瞑目した顏に笑みを刻めたのだろう。
少なくとも、残された女性、水の巫女エリアはそう解釈した。その解釈を信じようと勉めていた。
……もたれかかる青年の肉がもつ、重さ。喪われゆく体温と弾性。唾液にべとついた手の感触。
手当てのために引き裂いた布の残骸が醸し出す、陰惨と紙一重のみじめさ――。
かつて己が信じた者の死を間近にし、今はこうした要素に囲まれている彼女は、せめておのが
腕の中にある光の戦士の安寧を願うことで、自身の常態も保とうとする。
『貴方のその顔を、いえ……貴方の所業を、信じてもよろしいのですか?』
だが、最悪の想像を避けようにも、彼を喪うきっかけは嫌が応にも巫女の脳裏をよぎった。
それは、ポーション。たくまずして崩れ落ちたサックスだった肉塊を自らの身で支えることとなり、
それを退かす気も起こらなかった空白の時に見つけてしまった、二本目の回復薬だ。
一見したところはなんの変哲も無い瓶に、エリアは膨らむ疑念を。期待を止めることが出来ない。
……ウルの村で、サイファーは自分のザックに入っていたというポーションを捨てた。
あれは本人にしてもイレギュラーであり、サックスのザックから出てきた薬瓶という証拠はあった。
そもそも、殺したい相手に対して、わざわざ青年が塩を送る意味など皆無だ。
だから、サイファーの取り出したポーションには間違いなく毒が入っていた。
そして、つい先ほど騎士が飲んでしまったポーション。
あの中にも、通常では考えられない強さの毒が混ざっていた。
捕縛と詰問の行われたあの時、薬の瓶はサックスのザックから二本、他のザックからも二本現れた。
けれども、毒の入ったポーションは、本当に二本きりだったのだろうか?
『さっきの回復薬をくれませんか』
エリアが思うのはサックスの、最期となってしまった言葉の一節だ。
歩くことも辛いと口にした騎士は、そんな状態でも犬を連れた少年がくれた薬をこそ望んでいた。
ならば、自分が口にしなかった方のポーションが毒入りであった可能性が無いとは言い切れない。
ウルを出てすぐのサックスは、捨て鉢な態度で不満をあらわにしていたものだ。彼を信じて回復薬を
干す自分を止めなかったのは、あれが薬であると知っていたからか、あわよくばと考えたからか。
毒を注いだのがサックスである以上、自分の様子を見て少年の薬を望んだ線は考えられる。
……ありふれた薬瓶を眺めて、エリアは昏い甘さを含ませて息をついた。
光の戦士を自らの手で失ったことに対する悔恨と、異常に美化された破滅への憧憬が巫女の胸を打つ。
自身に意味を与えてくれと懇願したサックスが息絶えたのと同じようにして――自分もと。
水の雫のごとくに、本来ならば一蹴すべき考えが、岩棚に穴をうがつように彼女を濡らしていた。
「サックスも、ギルダーも。きっと怒るでしょうね」
知った風な口をきいて、ここまで他人を引きずってきたというのに。君は簡単に折れるのか?
生きていて欲しいと願った者の語調を頭の中で真似てみても、もはや行動を止められはしない。
「だって、最期にひとりきりでいるのは、寒くて、怖くて、寂しいでしょう」
だけどふたりなら、怖くない。
ウルを後にした時よりも、そのフレーズは現実味を増してエリアに響いた。
「それに、あの人じゃなくて、私が側にいたのよ。貴方の、最期を見たんですから――」
ほんのわずかに横へ引き伸ばされた、騎士の唇。
そこに流れる血を指で拭い、水の巫女はいびつに微笑んだ。
感じる、強い闇の力が望むように負の方面を志向していると理解しながらも、彼女は瓶を手にする。
本当は歩くのもつらくて。サックスの言葉が今なら解ると思いながら、その彼を裏切る考えに賭けて。
ラベルを貼られた瓶の中身をひといきに干して目を閉じる。
冷たくなったサックスの体が容赦なく自身にのしかかる、その重さだけを意識して、待つ。
待つ。待つ。待つ、待つ、待つ、待つ、滅びのときを心待ちにする、
「あ、あ……っ」
瞼を開いた彼女の口から漏れた声は、明らかな失望にあふれていた。
喉に染みわたる瓶の中身は、エリアの体をほのかに熱くした。傷ついた細胞に反応して、サックス
から受けた打撲によって出来たあざが、ウルの戦いの煽りを受けて負った下半身の傷に熱が集まり
……癒されていく。鼓動とともに血液が流れる、基本的な生命活動とともに細胞の動きが活性化する。
つまり、残された最後の一本は、疑いようもなくポーションであり――
エリアは改めて、光の戦士に自らが終わりを宣告したのだと悟った。
こうした茶番から、どれほど時が過ぎたのか。
時計を開くこともせず、昼夜も定かでない場所で、巫女はただ呼吸を繰り返していた。
――サックスの遺骸のかたわらで、膝を折ったその場を動かずに。
サイファー達はともかく、リュックやターニアは、まだ自分を見限っていないと聞いた。
それならば、此処に立つエリアに戻れる場所はある。自身を受け入れる仲間が、いてくれる。
だのに。時とともにかたちを崩してゆくサックスから、死に損ねたエリアは離れられないのだ。
青年の鼻孔から滲みだす体液や下腹の汚れなどは、ゲームが始まって三日が経過した今では
程度問題としか思えず、気にはならない。それどころか、時には道化や子どものようにも見えた
彼の姿を眺めるエリアの胸中では、様々な感情が煮詰まってゆく。
渦の核をなすのは憐憫、怒り、憤りに、ある種の執着。口惜しさか、いとおしさか。
なんにせよ、エリアの中では、依存にも似た亡骸への思いが形成されつつあった。
……人がいるのなら、行動しなくては何も始まらない。
二日前の朝、そんなことをギルバートに告げたのは他でもない自分でも、だから、動けなかった。
自分が動く理由であったサックスの亡骸を前にして、どうしてそれを――彼を見捨てられよう?
水の巫女は光の戦士に会わなかった。光の戦士など最初からいなかった。極論にはしろう
にも、いちど生き抜いた彼女の記憶が、彼女の生きた意味こそが退去と忘却を拒絶する。
それをわがままだと思う気力さえ失せた事実から目を背けて、エリアはサックスの肩を抱いていた。
冷たい、寂しい生き方をした青年にぬくもりを与えるように。自らの恐怖や不安をごまかすように。
一度命を捨て、戻る場所の無いこの身であれば、どんな死に方をしても誰かを護る。だれかに
意味を与えたいと考えていたが、違った。サックスに告げたように、意味が欲しかっただけなのだ。
こんな、意味の無い、自分以外に思う者もいない死は嫌だと思いながらも、彼女は物言わぬ体にすがる。
何をしようとも思えないが――せめて放送までは。せめて、サックスの名前を聞くまではと考えて
息を吸い、息を吐く。吸って吐く。吐いて吸う。肩が揺れても、なぜか涙は流れない。
意欲や活力の芯をなす意味を自らの手で捨てたエリアは、うつろな瞳をでただ呼吸をしていた。
彼らふたりの場所はもう、此処にしか無い。
【エリア(体力全快、顔の打撲、下半身の怪我も回復気味)
所持品:スノーマフラー スパス スタングレネード ねこの手ラケット ビーナスゴスペル+マテリア(スピード)
天使のレオタード 拡声器 水鏡の盾
第一行動方針:もう少し、サックスとともに居る
第二行動方針:次の放送を聴くまでは命をつなぐ
基本行動方針:無気力。積極的に生きようとは思わないが、無意味/孤独な死は怖い】
【現在位置:希望の祠北部平原】
申し訳ありません、状態表にミスがありましたので、以下のように修正いたします。
【エリア(体力全快、顔の打撲、下半身の怪我も回復気味)
所持品:スパス スタングレネード ねこの手ラケット
ビーナスゴスペル+マテリア(スピード) 拡声器 水鏡の盾
第一行動方針:もう少し、サックスとともに居る
第二行動方針:次の放送を聴くまでは命をつなぐ
基本行動方針:無気力。積極的に生きようとは思わないが、無意味/孤独な死は怖い】
【現在位置:希望の祠北部平原】
指摘と感想、ありがとうございます。
焦ったあまりにgdgdな対応ですみませんが、改めて本文を訂正・少し加筆します。
>>285・9行目
「打撲によって出来たあざ“が”〜」の一節を以下のように訂正。
打撲によって出来たあざに、ウルの戦いの煽りを受けて負った下半身の傷に、熱が集まり
>>286・4行目
「サックスに告げたように、意味が欲しかっただけなのだ。」を、以下のように加筆訂正。
意味を与えたいと考えていたが、違った。サックスに告げたように、蘇った自らに意味が欲しかっただけなのだ。
8行目、「うつろな瞳」以降を以下のように加筆訂正。
意欲や活力の芯をなす意味を自らの手で捨てたエリアはうつろな瞳を伏せ、細いつくりのあごを
サックスの、いまだ白さを失わないマフラーにうずめた。
>>287・状態表(修正版)直下に追加
※スノーマフラーはサックスが装備したままです。
アルガスと共に行動する気はない。移動を始めたのは、ヤツの姿が見えなくなってからだ。
ヤツはしきりに後ろを気にしていたが、あれは追っ手を気にしているのだろう。
昨夜も今朝も隙だらけだった男だ、慎重すぎるくらいでちょうどいい。簡単に死んでもらっては困る。
俺のほうも然りだがな。この世界には着いたばかりだ。
連なる山々の隙間を埋めるように生い茂っている緑。地図で見るよりはやや複雑な地形だな。
日の光が届かないというのに、青々と草木が茂る、不思議な世界だ。
俺の知る地底世界ではないな。同じような地域が他にもあるのか、それとも俺の住んでいた星とはまったく異なる世界か?
おそらくはそちらだろうな。これまでの舞台も、異世界の地上世界だったのだから。
さて、分かれ道か。右に曲がれば南東の祠、直進すれば外周を進むことになる。
もっとも戦闘が激しいのは中央の城だろうな。参加者が集まるのは目に見えている。
あまり激戦区から離れすぎるのは好ましくない。新鮮な情報を得にくくなる。
となると、この辺りに潜伏したいところだが……やはり右手の岩山か。
ここなら、激戦区から非難してくる参加者と接触が可能。傾斜も急ではない。溶岩の海からも多少離れている。
休息場所、潜伏地としてはなかなか良好の条件だな。しばらく留まるとしよう。
さすがに洞を求めるのは贅沢だが、座る程度のスペースはあるようだ。放送の際の地震でも崩れまい。
気温がもう少し低ければ文句はないのだが……建物でなければどこも同じようなものか。仕方ない。
標高が高く、風の吹き荒ぶ大陸の次は、煮えたぎる溶岩に浮かぶ島か。なかなか嫌がらせに長けた魔女だ。
…この次は極寒の地が選ばれるのではあるまいな? さすがにそれは体力が持たんぞ。
まだ大規模な戦闘はおきていないようだし、今のうちに身を休めるとするか。
目を閉じるのが心地よい。安全な場所に来て、どっと疲れが出たということか。
何度戦った? 初めの世界で昼と夜に一回ずつ、次の世界で昼に一回、夜に三回、朝に一回。
なるほど、疲れが溜まっているわけだ。先ほどもサックスと交戦したばかり。午後までは無用な戦いを避けたいところだ。
わざわざこんなところに人を探しに来る物好きもいないだろう。少しだけ眠らせてもらおう。
どこか心地よい無の中を進んでいる。
明るくも暗くもなく、何の道もない。だが、どう進めばいいかは分かる。
しばらく進むと、前方に光が見えてきた。セシルが手招いている。
「今からでもまだ遅くはない、心を入れ替えて、僕らと一緒にもう一度正義のために戦おう!」
セシルが呼びかける。どうやら夢らしい。とんだ茶番だ。
セシルは必ず俺を止めに来ると思っていた。
だが、セシルは早々に命を落とし、二度と出会うことはなかった。
それをいまさら、もう一度考え直せとは、むしのいい話だろう。
俺は何のためらいもなくセシルに近付き、どこからともなく取り出した槍で体を刺し貫き、目もくれず前へと進む。
「後悔はしていないのかい?」
後ろから問いかけられた。セシルの声がやけに鮮明に聞こえ、その声に足がふと止まる。
洗脳が解けたとき、自分の行為に後悔し、そのような行動を取らせたゼムスには憎悪すら覚えた。
ゼムスとの戦いに赴いたのも、正義の心もなかったわけではないが、何より自身の心を弄んだことへの復讐のためだった。
だが結局のところ、洗脳されてなお意識を保っていたということは、その感情は俺の本質でもあるということだ。
セシルは強い心を持ち、種族としては青き星の民よりも優れた月の民、地位はバロン王国の国王、そしてローザの夫。
強さ、心、地位、人望、何においてもどうあがいてもあいつに勝つことはできず、遂には憎悪を抱くに達したのだ。
そして、新たに抱いたのは、自分の意思で一分一秒でも長く生き、「生」という点でやつに勝ちたい、という自己満足の目標。
洗脳だとか、おかしな力を注入されるだとか、外部からの干渉を用いず、あくまで自分の力で生き抜きたいという願望。
他人から見れば、あまりにくだらない理由だな。
仲間がいないまま生き抜くことへの寂寥感、無いではないが、それ以上に生きていることへの充足感がある。
後悔はしていない。生き残っているのは俺だけだ。他はみな逝ってしまった。結局、正義が勝つとは美談に過ぎない。
俺は前を向いたまま、問いに対して大きく頷いた。
セシルがフッと寂しそうな声を漏らすと、光はパッと掻き消え、辺りはまた心地よい無に包まれた。
人の声が聞こえる。風が吹かず、大きな空洞となっているこの世界は、音が思ったより響くらしい。
おそらく、俺も意識していないうちに体が反応して目が覚めたのだろうな。
改めて夢だと確認。そして、やはりもう戻れないところまで来ているのだと再確認。
魔女を倒す、この世界から逃げ出す、優勝する。どのような結果になろうと、俺とセシル、
そしてこの世界で魔女を倒そうと意気込んでいる連中との間には、越えられない隔たりが出来ているのだ。
まだだるく、意識が脱線してしまいがちだが、俺を揺り起こしてきた話し声に耳を傾けることにした。
「………も情報に抜けが多すぎてどう事態が動いているのかは分から…。
カインがアルガスを殺さなかった理…、ピサロが…を殺し、さらにアーヴァインと一緒にいる…由、
ユウナが人を殺して……とアルガスが言い張る理由、アーヴァインがスコールとお前を呼ぶ理由、
他にも不可解なとこ…はいくらでもあるさ」
聞き覚えのある声だ。よく透る澄んだ声。演説慣れした貴族とも思わしき声。
デールの声を聞いたときも同じことを思ったな。
「そんなに不可解なところがあんな…、向こうに残って話を聞いと……よかったんじゃねえのか?」
ガラの悪さのにじみ出る声だ。口調は荒いがまだ若い。
眼下の茂みの中に姿が見えるが、見たことはない。名簿によれば……………………サイファー・アルマシー。こいつか。
あとの二人は予想通り見覚えがある。ヘンリーと、ソロ、だな。
「俺が残ってもあいつのトラウマを抉るだけだろ。また暴……れちゃ話にならん。
よっぽど、デールにひどい目に遭わされたらしいか…な」
「確かに、そうですね。デールさんはもう……亡くなっているというのに…」
「アルガスは狂っていたときのデールしか知らないのさ。
だからあれで当然の反応だろうが、俺としちゃ気分のいいものじゃないんだ。
それよりも、スコールのほうが心配だぞ? あいつにも妙に怯えてたろ」
「あいつは人相が悪いからな」
お前が言うな。
と、それはともかく、ここまでの話によれば、こいつらはアルガスから例の話を聞き、アーヴァインに接触するつもりらしいな。
このメンバーならば、ピサロにも対処してくれるかもしれん。あれと相打ちになってくれるならば願ったりかなったりだ。
アルガスはヘンリーをおおかたデールと見間違えたのだろう、錯乱してしまっているようだが、
こいつらお人好しどもの性格を考えると、アルガスを介抱しているメンバーがいるというのは間違いないな。
まさか祠に一人ほったらかしだとか、始末したということはあるまい。となると、第一候補は先ほど話題にも出たスコールか。
スコールは魔女の天敵だったな。ヤツのいるグループにアルガスが潜り込んだということは、
勝ち残るか、便乗して脱出を果たすかを考えるうえで、重要な情報を得られるということかもしれん。
だが、昨日スコールと同行していたマッシュがいる可能性も高いだろうな。迂闊には近づけないというのは面倒だが…。
「まー、スコールのことだ。まだ毒が抜けてねえとはいえ、あいつはあいつなりにうまくやるだろ。
……ヘンリー、どうした?」
「アルガスの話だと、この辺りだよな? カインがうろついてるってのは」
「…近くに…る…か?」
急に聞き取りづらくなった。これは、俺が潜んでいるとふんで、声を潜めたというわけか。
となると、あまり身を乗り出すのは危険だな。
相手の位置は見えにくくなるが、岩陰に身を隠したほうがよさそうだ。
……このままやり過ごすか、やつらの前に出て行くか、それともここから離れるか。
やつらはただ警戒しているだけなのかもしれん。
アルガスに俺の存在を知らされたというだけで、俺がいるのかどうかも本当は分からないのではないか?
過剰に警戒しているだけなら、何も問題ない。さすがに今の状態で手練三人を襲う気はないが……。
「そこにいる方。危害を加える気はありません。姿を現してください」
槍を握る左のてのひらが、じわりじわりと汗に湿りゆく。
ソロの声はあくまで穏やか。だが、それはまだ潜んでいるのが俺だという証拠がないから、というだけだろう。
一度敵対した相手だ。迂闊に出て行くと狙い撃ちされるかもしれん。
スコールと会っているということは、昨日のやりとりも伝わっているだろう。口八丁は通じん。
リスクも高いが、奇襲の要領で相手の不意を付き、そのまま逃げ出すのが一番だろうな。
いつ出る? いつ、やつらに隙が生まれる?
「タバサちゃん??? 無事だったか!」
張り詰めた緊迫感が一気に解けた。今……ではない!
「ヘンリーさんの知り合いでしたか」
「何がカインだよ。…ったく。まあ、知り合いならよかったじゃねーか。
……タバサってひょっとして、リュカの娘か?」
もう一人、潜んでいた人物がいたらしい。やつらが話していたのは、そちらだったのだ。
タバサ王女といえば、昨日の午前中に出会ったな。ヘンリーと知り合いだとも言っていた。
スミスがあまりにうるさいから城で別れたが、セージは一緒ではないのか。
一人でこの過酷な環境を生き抜けるとは到底思えんが、それとも他に誰かいるのか?
「デールのことはおじさんから謝るよ。あいつは最期に罪を償って…とはいかないが、正気を取り戻すことができた。
それで君の家族のことは……いや、これはよそう。ともかく、よく生きていてくれた。
……ああ、あっちの金髪のお兄さんはサイファー、それでこっちの緑髪のお兄さんはソロだ。
二人とも見た目は怖いが、悪い人じゃない。おじさんの仲間さ。怯えなくていい」
確かに、リュカは放送で呼ばれているな。セージともはぐれたのなら、タバサが怯えているというのも分かる。
だが、あれは本当に怯えているのか?
やつらの人相が悪いというのは分からないでもないが、
しがらみがない立場で言わせてもらえば、ソロへの視線は怯える子供の目ではないのでは?
タバサとヘンリーたち、不自然かそうでないかくらいに遠い距離も、間合いをはかっているように思えて仕方がない。
そもそも、知り合いならタバサが隠れる必要はあったのか?
「ねえ、ヘンリーさん。あの人がヘンリーさんの仲間ってホント?」
タバサが初めて言葉を発したが、やはり怯えだとか、恐怖だとか、そういったものは感じ取れない。
デールのときほどではないが、こいつとは関わらないほうがいいとさえ感じる。
「あの人? ソロのことか? ああ、本当だ。初めからずっとおじさんと一緒に行動していたよ。
どうしたんだ? おじさんが君にウソを付くわけはないだろ?
ああ、怪我をしてるじゃないか? ソロ、魔力に余裕はあるか?」
「多少なら」
「頼む」
「分かりました」
ソロがタバサに近付く。だが、タバサは一定の距離を保ったままだ。
ソロが前に進めばタバサは下がる。ソロは頭に手をやり、困惑の表情を浮かべている。
「どうもソロは嫌われているらしいな」
「はあ、彼女にしてみれば僕は知らない人ですし、仕方のないことなんでしょうけ…」
ヘンリーと会話しようとしたのだろう。ソロが後ろに注意を向けたときのことだ。
ソロの背中に向かって、魔力で形成されたであろう氷の刃が放たれる。ブリザドの魔法、といったところか。
背を向けながら、気付いて盾でとっさに弾き飛ばしたのはさすがというべきだろう。
これは嫌われているというレベルではないな。
俺もそうだが、向こうもまだ出来事に理解が追いついていないか。
分かるのは、タバサがソロに攻撃を仕掛けたということ。
あの少女は以前会った際はそこまで攻撃的には見えなかったが。どうする? このまま眺めるか?
大混乱に陥ったのなら、その機に乗じて一人二人仕留めることも可能だが、一人でも逃がして祠に立て篭もられると面倒だ。
昨日、砂漠にてサックスの実力を見誤り、仕留めきれなかったのは記憶に新しい。
昨日は目先のことばかり考えすぎた。急いてはダメだ。慎重でなければならん。
【カイン(HP9/20、左肩負傷、肉体、精神ともに疲労回復気味)
所持品:ランスオブカイン ミスリルの篭手 プロテクトリング レオの顔写真 ドラゴンオーブ ミスリルシールド
第一行動方針:目立たないところで休む、人によっては情報を集める
基本行動方針:殺人者となり、ゲームに勝つ
最終行動方針:人として、生き残る】
【現在位置:南東の祠への分かれ道南の岩山】
【サイファー(右足軽傷)
所持品:破邪の剣、G.F.ケルベロス(召喚不能) 白マテリア 正宗 ケフカのメモ ひそひ草
レオの支給品袋(アルテマソード 鉄の盾 果物ナイフ 君主の聖衣 鍛冶セット 光の鎧) 】
第一行動方針:事態の対処
第二行動方針:はぐれた仲間、協力者、アーヴァイン達を探す
基本行動方針:マーダーの撃破(セフィロス、アリーナ、サックス優先)
最終行動方針:ゲームからの脱出】
【ソロ(HP3/5 魔力少量)
所持品:ラミアスの剣(天空の剣) 天空の盾 さざなみの剣
ジ・アベンジャー(爪) 水のリング 天空の兜
第一行動方針:事態の対処
第二行動方針:ターニアやアーヴァイン達を探す
基本行動方針:PKK含むこれ以上の殺人を防ぐ+仲間を探す
※但し、真剣勝負が必要になる局面が来た場合の事は覚悟しつつあり】
【ヘンリー
所持品:アラームピアス(対人) リフレクトリング バリアントナイフ 銀のフォーク
キラーボウ、グレートソード、デスペナルティ、ナイフ
第一行動方針:事態の対処
第二行動方針:ターニアやアーヴァイン達を探す
基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】
【現在位置:南東の祠への分かれ道南の岩山】
【タバサ(HP1/4程度、MP半分ほど 体正面に火傷・雷撃によるちょっとした痺れ)
所持品:E:普通の服、E:雷の指輪、ストロスの杖、キノコ図鑑、
悟りの書、服数着、魔石ミドガルズオルム(召喚不可)
第一行動方針:???
基本行動方針:ビアンカ、レックス、記憶にある誰か(セージ)を探す
※リュカとピエールと共に二人を探しているというストーリーを組み立てています】
【現在位置:南東の祠への分かれ道】
「タバサちゃん、君は、殺し合いに、、乗った、のか?」
ヘンリーは感情をできるだけ噛み殺し、最低限の言葉だけでタバサに問う。
ともすれば、飛びかかるかもしれないサイファーを手信号で制し、あくまでにらみを利かせたまま。
武器のような目に見える抑止力こそないものの、発動直前まで練り上げた呪文はそこでストップ、発動には至らない。
親友の娘の思いもよらぬ行動に対して、ヘンリーが比較的早く冷静さを取り戻せたのは、
こうなることへの覚悟も心のどこかにあったから。
少なくとも、デールという前例がなければ、ただ右往左往するだけだっただろう。
「殺し合いだなんて、違います。その、天空の勇者を騙る偽者をやっつけようと思っただけです」
あっけらかんと答えるタバサだが、内容がかみ合わない。
分かるのは、何らかの理由によって、ソロを敵視しているということだけだ。
「ちょ〜っと待ってくれ。待ってくれ。おじさんにはまだ何が何のことやらさっぱりなんだ…。
おバカなおじさんのために、最初から説明してくれないかな?」
「ふざけないで。ヘンリーさんも知っているはずです。
その人が着けているのは天空の兜で、天空の勇者にしか装備できないんです。盾もそう。
天空の勇者は世界にお兄ちゃん一人しかいないのに、この人はそれを着けてる。
それって、お兄ちゃんから力を奪ったということですよね。お母さんやお兄ちゃんがいなくなったのもきっとそういうこと。
だから悪い偽者をやっつけて、お母さんも、お兄ちゃんも、装備も取り返すの」
予想していたのは、蘇生や脱出の方法と引き換えに、ソロを殺すように命じられた、
つまりはタバサが利用されて騙された、という可能性。
誰かから緑の髪の殺人者、つまりはデールの噂を聞き、それをソロだと思い込んでいた可能性。
タバサの返答はヘンリーにとって、予想外だった。
ソロ本人を、自分の意思で敵視している。
タバサはこちらを視界にキープしたまま、視線をちらちらとソロに向ける。
「おいヘンリー、こいつはリュカの娘なんだよな? ならこいつの兄貴ってのは…」
「いや、ヘタに刺激するな。今はそのことには触れないほうがいい」
天空の勇者だとか、装備関連のことはまだなんとかなる。
だが、どうもレックスやビアンカが…いや、家族が生きていると信じ込んでいるらしい。厄介だ。
子供とて、大人の見ていないところで色々と見ているし、聞いているし、考えている。
だが、大人と子供でものの考え方が違うのもまた然り。大人にとっての常識は、子供には通用しない。
「放送で呼ばれたら、その人物は死んでいる」というのはもはや常識。
だが、それが正しいとする根拠は、主催者にそう説明を受けたから、でしかないのだ。
確かに、これまでに死んだ者は例外なく名前を呼ばれた。
だからといって名前を呼ばれたものが例外なく死んでいるとは限らない。
何らかの方法で脱出したのかもしれないし、会わないだけで今も生き残っているかもしれない。
つまり、タバサの考えているのはそういうことだろう。
ストレートに感情を揺さぶると、正気を失いかねない。
ここは、大のおとなでも正気を失ってしまう場所だ。
「天空の装備のことなんだがな、あれは実は認められれば勇者じゃなくても装備できるんだ。
歴史書や昔話にも、天空の武具を身に付けて国や町を救った英雄の話があるだろう?
今はその非常事態ってわけさ。だから、彼は偽者でもなければ悪者でもない」
ラインハットの書庫の古い歴史書にも、天空の武具の古い記録は記されている。
まさか、突然この男の人は君の先祖ですなどと言って信じさせるよりは、このほうがいいだろう。
ヘンリー自身は、パパスやゲマの存在から、薄々別時代の参加者がいる可能性は感じ取ったが、
前提部分を信じきっていない者にその話をしても仕方がない。
「それは違います! 私には分かるんです! この人、お兄ちゃんと同じ感じがする!
お兄ちゃんじゃないのに、天空の勇者と同じ感じがする! それに、お父さんもそう言ってる」
双子というのは、そういうことも分かるのか、とヘンリーは内心焦った。
だが、それ以上に彼を狼狽させているのは、タバサが誰でもない第三者、いわゆる「お父さん」と話しているということだ。
そこにリュカがいるかなど、愚問中の愚問。
まわりを見るにも誰もいないし、ましてや彼はこの前の放送で名前を呼ばれたのだから。
だが、そこには思い切って触れられない。
リュカの霊が憑いているのはまだいい。だが、リュカが娘にこのようなことをさせるだろうか。
何か別のものではないのか。
「ヘンリーさん、まるでその偽者をかばってるみたい。勇者なら誰でもいいってこと?
それに、もしその人が本物の天空の勇者なら、お兄ちゃんにはみんなの期待を一人で背負わせながら、
自分はのんびり暮らしてたってことでしょ? だったらやっぱり許せない!」
形成された魔力が大きくなり、柔らかな氷塊を為す。決裂の意思だ。
すべてはタバサの中で自己完結しているのか、何者かの意思がはたらいているのかは分からないが、
ただ確かなのは、今はもう聞く耳を持ってはくれないということだけだ。
氷結の呪文が発射されると同時に、サイファーの武器からも閃熱の呪文が解き放たれ、一部は相殺。
残りは背の高い草に阻まれたり、天空の盾に弾かれて、ソロにはほとんど届かない。
だが、呪文によって凍てついた草むらは剣山のように両者の通行を阻む。
辺りには氷が溶けたことによる蒸気が立ち込め、隙間にタバサの悔しそうな表情が一瞬覗く。
氷が溶ける音に混じってタバサが誰かと会話しているような声が聞こえるが、すぐに離れていく足音へと変わった。
結局、蒸気が晴れたときにはもうタバサの姿はなかった。
天空の盾と剣がある限り、タバサは正面からでは太刀打ちできない。
だからこその即時退却なのだろう。
「あの子の内面にまで至れずに判断を誤った。俺の力不足だ。
ソロに、サイファー。お前達と同行できなくなるが、俺にあの子を追わせてくれ。
このままみすみすあの子を見送っては、リュカに顔向けができん」
「ヘンリーさん一人で、ですか?」
ソロがその後何かを言いかけて口をつぐむ。
何のために拠点を離れたのか、ソロとサイファーには明確な目的がある。
アーヴァインと、ピサロ。真実の確認、そして、もしものときの対応。
同じ世界で過ごしてきた者が、最もそれに適している。
そして、それはタバサに関しても同じ。
ヘンリーは、自分に呪文がほとんど向けられなかったことを救いに思っていた。
跳ね返して、昨日のエリアのようにタバサを傷つけてしまうことがなかった、という意味ではない。
直情的になっている傾向があり、未知の要素はあるが、彼女とは話し合う余地がまだある、という意味だ。
「どうせ止めても行くんだろうが。だったら、こころゆくまであのガキと話してくればいいじゃねーか」
「あの子の説得はヘンリーさんにしかできないと思います。僕らは心配しなくても大丈夫です」
「……すまん、恩に着る」
ヘンリーは短い礼の言葉を述べ、タバサの向かった方向へと駆ける。
展開を見届けたカインは次の行動を考える。
ソロらを追う、ヘンリーを追う、祠に向かう、ここで休む。今のところは四択だ。
ソロらを追えば、アーヴァインやピサロと接触する可能性は高い。
強力な参加者を葬るチャンスだが、返り討ちに可能性が高く、確実に葬れるともいえない。
ヘンリーの場合、勝ち目はあるが、実力的に放っておいても問題ない感じもする。
その一方で、思いがけない反撃を食らう可能性もあり、あまり旨みは感じられない。
祠にはアルガスやスコールがおり、情報を得られるかもしれないが、いかんせん見返りが未知数すぎる。
ヘタをこいて祠にいる人物全員と交戦というのは最悪のシナリオだ。
休むことは、何かと消耗しがちな体力の温存、回復という点で有効だ。
だが、他の選択よりはチャンスに巡りあう機会が当然減る。
メリットとデメリットを天秤にかける。まだ30人以上残っている。先は長い。
次の放送まで、ざっと七時間、そんなころのことである。
【カイン(HP9/20、左肩負傷、肉体、精神ともに疲労回復気味)
所持品:ランスオブカイン ミスリルの篭手 プロテクトリング レオの顔写真 ドラゴンオーブ ミスリルシールド
第一行動方針:検討中
基本行動方針:殺人者となり、ゲームに勝つ
最終行動方針:人として、生き残る】
【現在位置:南東の祠への分かれ道南の岩山】
【ヘンリー
所持品:アラームピアス(対人) リフレクトリング バリアントナイフ 銀のフォーク
キラーボウ、グレートソード、デスペナルティ、ナイフ
第一行動方針:タバサのカウンセリング
第二行動方針:ターニアやアーヴァイン達を探す
基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】
【現在位置:南東の祠への分かれ道から移動】
【タバサ(HP1/4程度、MP2/5ほど 体正面に火傷・雷撃によるちょっとした痺れ)
所持品:E:普通の服、E:雷の指輪、ストロスの杖、キノコ図鑑、
悟りの書、服数着、魔石ミドガルズオルム(召喚不可)
第一行動方針:この場から退く
基本行動方針:ビアンカ、レックス、記憶にある誰か(セージ)を探す
※リュカとピエールと共に二人を探しているというストーリーを組み立てています
※ソロを、レックスたち二人と何か関係があると考えています】
【現在位置:南東の祠への分かれ道から移動中】
【サイファー(右足軽傷)
所持品:破邪の剣、G.F.ケルベロス(召喚不能) 白マテリア 正宗 ケフカのメモ ひそひ草
レオの支給品袋(アルテマソード 鉄の盾 果物ナイフ 君主の聖衣 鍛冶セット 光の鎧) 】
第一行動方針:はぐれた仲間、協力者、アーヴァイン達を探す
基本行動方針:マーダーの撃破(セフィロス、アリーナ、サックス優先)
最終行動方針:ゲームからの脱出】
【ソロ(HP3/5 魔力少量)
所持品:ラミアスの剣(天空の剣) 天空の盾 さざなみの剣
ジ・アベンジャー(爪) 水のリング 天空の兜
第一行動方針:ターニアやアーヴァイン達を探す
基本行動方針:PKK含むこれ以上の殺人を防ぐ+仲間を探す
※但し、真剣勝負が必要になる局面が来た場合の事は覚悟しつつあり】
【現在位置:南東の祠への分かれ道】
誰かの声で、心地良い眠りから呼び起こされた。
声の種類は絶叫、あるいは悲鳴ともいうべきもの。
いつのまに眠っていたのか反省するより先に殆ど反射的に武器に手を伸ばし、
隣室に飛び出ようとしたが、すんでのところで踏みとどまった。
悲鳴の主がアルガスであること、そしてそれを宥めるリュックの声に気がついたからだ。
どうやらあいつが少々錯乱しているだけのようだ。
暴れている様子はないし、あそこにはバッツもいる。
アーヴァインの仲間というのが関係しているのか、アルガスは俺に恐怖を感じている節があった。
俺が行っても混乱に拍車が掛かるだけだろう。
俺は1つため息をついて,再び腰を落ち着けた。
「大丈夫そうか?」
「ああ、特に問題ない。
向こうにはリュックもバッツもいる……」
あん?
自然にかけられた言葉に反射的に応えてしまったが、
考えてみればここには俺以外誰もいないぞ?
……いや、正確には意識のある人間は俺しかいないというだけのことで、
しかも今のやりとりは俺のいつもの自問自答ではないわけで……。
考えるまでもなく、答えは1つしかない。
俺は何故か、恐る恐るといった感じで首を横にねじ曲げた。
そこには先程と殆ど同じ光景があったが、
けれどもやはり俺にとってはとても大きな意味を持つ違いを秘めていた。
マッシュが目を開け、俺を見て笑っていた。
*****
「……スコール?」
目を合わせても何も言えずにいる俺を見て、
マッシュは笑顔を心なしか心配げに変えて俺の名を呼んだ。
ここ2、3日、ずっと横にあった顔。
それが俺を見ていることがあまりに自然で、特別で、何を言えばいいのか分からなかった。
結果、出てきた言葉は「……具合はどうだ?」という何とも愛想のない言葉。
喉が乾いたというので、若干自己嫌悪に陥りながら俺は水を差し出した。
マッシュは反射的に右手を差し伸べ……、
その先端がなくなっていることに気づくと黙って左手で受け取った。
格闘家が――戦士が片腕を失うことの意味。
それを改めて思って、俺は沈痛な思いに駆られる。
サイファーに言われるまでもなく、俺は昨夜の己の滑稽さを強く意識した。
「……悪かったな」
俺はぽつりと呟いた。
マッシュを、1人で危険の中に放り出してしまったこと。
その結果、片腕を失わせてしまったこと。
マッシュまで巻き込んでずっと探していたのに、
未だアーヴァインを野放しにしてしまっていること。
しまいにはエリアの離反やターニアの行方不明すら自分の不手際に思えて、
俺は結局何も言えずに頭を下げた。
「……すまなかった」
しばらく、気まずい沈黙が続いた。
しかしマッシュは不意に左の拳を伸ばすと、俺のそれにゴツンとぶつけてきた。
重症人とは思えないほど力強く、硬い感触。
思わず顔を上げた俺に、マッシュはこう言った。
「気にすんなよ。仲間だろ?」
いつかと全く同じ調子で発せられた言葉と笑顔。
嘘も誤魔化しもない率直な言葉が持つその響きに俺はやはり何も言えずに、
マッシュがしたように俺の拳をマッシュの拳に軽くぶつけ返す。
格闘家のそれに比べれば鍛えられていない俺の拳は、
マッシュの拳の硬さに軽く痛みを感じ、その痛みが俺の胸にあった重荷を少し軽くした。
俺はそれ以上何も言わずに軽く笑うと、
「もう少し寝ていろよ。
冬眠間近の熊みたいな顔をしているぞ?」と憎まれ口を叩いた。
*****
マッシュが再び寝息を立てるのを見届けると、
俺はドローした魔法で解毒をしながら状況を改めて整理し直す。
アルガスはあまりに錯乱していたので、その話しには不明瞭な部分が多かった。
とにかく、はっきりしていることを挙げるなら
《1,アーヴァインは俺とサイファーとリュックに会いたがっている》
《2、アーヴァインはアルガスを傷つけ、脅した》
《3、アーヴァインはピサロという男と行動を共にしている》
この3つだ。
正直言って、アーヴァインの真意がよく分からなかった。
アルガスの様子から、アーヴァインが未だ危険性を有しているのは否定しがたい。
しかし、アーヴァインがゲームに乗っているのならば、
俺やサイファーを呼び出す理由が分からなかった。
実際のところ、単純な戦闘力ならば俺やサイファーの方がアーヴァインのそれより高い。
あいつにアドバンテージがあるとすれば、
それは遠距離からの狙撃技術と、ディアボロスを使った隠密行動。
つまりは奇襲に適した能力だ。
俺達を殺したいのならば、
わざわざそのアドバンテージを潰して居場所を明かすのはナンセンス。
アーヴァインを警戒していたというピサロが同行してるというのも妙だし、
単純にアイツが殺し合いに乗ってると考えると引っかかるところが多い……。
そこまで考えて、俺はため息をついた。
なんてことはない。
なんだかんだ言って、俺はアーヴァインが殺し合いに乗っていることを信じたくないのだ。
昨夜ヘンリーが教えてくれた情報……アーヴァインが改心したという情報、
あれが本当だったらいいと、心の奥底で望んでいるのだ。
俺はソロ達が祠の外へ出ていく時のことを思い出す。
あの時俺は必要事項を確認しながら、
「アーヴァインは生け捕りにしてほしい」と言いいたくなるのを堪えていた。
アーヴァインは一流のスナイパー。
一瞬の躊躇が命取りになる。
それを思って結局黙ったが、ソロやヘンリーは俺の気持ちを察していたようだった。
俺への気遣いが悪影響にならなければいいと不安になる一方で、
彼らがアーヴァインを連れてきてくれることを仄かに期待してる自分が嫌になる。
ソロ達からの連絡は、まだ来ない。
アルガスには未だ胡散臭い部分が残っているので、
外からの情報が手に入るひそひ草のことは秘密にしておくことになっていた。
そのため俺はこの部屋で、ソロ達からの連絡を一人待つ。
そろそろ首輪について考察しなければと思いながらも、
アーヴァインの姿は俺の脳裏にこびりついてなかなか離れなかった。
【マッシュ(睡眠、1/20、右腕欠損) 所持品:なし】
第一行動方針:―
第二行動方針:アーヴァインと緑髪(緑のバンダナ)の男、及びエドガーを探す
第三行動方針:ゲームを止める】
【スコール (HP2/3、微〜軽度の毒状態(治療中)、手足に軽い痺れ)
所持品:ライオンハート ひそひ草 エアナイフ、ビームライフル
G.F.カーバンクル(召喚○、コマンドアビリティ×、HP2/5)、G.F.パンデモニウム(召喚×)
吹雪の剣、ガイアの剣、セイブ・ザ・クイーン(FF8) 、貴族の服、炎のリング
第一行動方針:解毒をしつつ(捜索班の連絡を待ちつつ)、各種考察
第二行動方針:アルガスが落ち着いたら、何らかの形で情報を聞き出す
第三行動方針:アーヴァインと緑髪(緑のバンダナ)の男を探す/緑髪を警戒/サックスを警戒
基本行動方針:ゲームを止める】
【現在位置:南東の祠】
保守
保守
ホッシュル・ルー
人ならざるものの手の内側で、首輪が無機質な輝きをたたえている。
首輪を包んだその手に魔力の光が灯され、
医者が患者を触診するように、柔らかく首輪を撫でる。
1秒……2秒……3秒……、少しずつ魔力の光が強くなり……
不意に、ぴくりと動いた手から瞬時に魔力が消え失せ、首輪は机上に戻された。
ギードは体中に満ちていた緊張をため息と共に吐き出すと、視線を仲間に向けた。
“どうですか”
目顔だけでそう問いながら、プサンが城の中で拝借した筆記具を渡してくる。
ギードは大作りな手で器用にそれを掴むと、紙に文字を書き付けた。
プサンの若干の期待のこもった顔が、すぐに落胆の色に染まった。
ギードの書いた文が以下のようなものだったからである。
『首輪に魔力が込められているのは確かなのだが、
魔力の集約点に干渉しようとするとこちらの力が弾かれる。
力を強めて突破しようとしたら、
首輪の魔力が脈動する気配がしたので中止した』
「脈動=爆発の前兆」だとすると、ギードの手が未だ繋がっているだけでも僥倖かもしれない。
良くも悪くも、研究対象の性質を理解するのは必要なことだ。
「やってはいけないこと」を知らずに下手をやったら、
爆発という最悪の形で首輪が解除されてしまう。
プサンはそう考え、沈みそうになる気持ちをすぐに切り替えた。
そしてギードに渡したのとは別のペンを握り締めると、彼もまた紙に向かう。
『おそらく魔力の集約点というのが爆発の中心でしょう。
ギードさんの魔力が「脈動」の臨界点を越えた瞬間に首輪が爆発しなかったのは
エドガーさんのメモの「負荷の持続によって爆発」というのと同じことかもしれません』
『逆に言えば、瞬間的になら強い魔力をかけても大丈夫ということかの?』
『おそらく……いや、分かりません。
しかし、糸をほぐすように少しずつ解除するより、
強力な力で瞬時に全てを打ち消すようにした方がかえって安全かもしれません』
賢者と神は……あるいは亀と中年男性はそこで揃って溜め息をついた。
魔女の魔力、それは明らかに自分達を上回っている。
首輪に込められた魔法の強靭さもかなりのものだろう。
一瞬で打ち消すとなると、相当な力が必要かもしれない。
プサンの脳裏に浮かぶ天空の武具でさえ、それは難しく思える。
しかし、あるいは自分が元の力を取り戻し、天空の武具にさらに力を注げたら……。
「ところで、ロックはまだ帰ってこんのかのう……。
偵察と言っていたが、どこまで行ったのか……」
当てがあるのかないのか微妙なプサンの思考をギードが打ち切った。
同行していた他のメンバーは二人。
賢者とはいえ、体は生身。
かなり消耗していたクリムトには休養を兼ねた睡眠をさせている。
護衛役のロックは暫くするとじっとしているのも飽きたのか、
索敵と城内の探索を兼ねて出ていった。
ちなみに彼らは上下のどちらにも逃走しやすいということで二階に陣取っている。
「ロックさんならきっと大丈夫でしょう。
それに彼の持っていた魔石を介して様子を探れますよ。
ちょっと見てみましょうか」
+++++++
ロック・コールは三階にいた。
最初は賢者達のそばで待機していた彼だったが、
首輪の研究に役立てるわけでもなく、誰が来る気配もなく、
そして何よりこのあからさまに怪しげな城に興味をそそられ探索を買って出た。
あまり長く離れるわけにもいかないと思いつつ、
ついつい別の階層にまで足を運んでしまうのはトレジャーハンターの性か。
借りてきた城の見取り図を目の前にかざし、
さあどこへ行こうと目を輝かせた彼の耳元に誰かの声が届く。
囁き声のような、叫び声のような、微妙な種類の声質でその主は「リルム」と呼んでいた。
思わぬお宝……大切な仲間の情報に逸る心を抑え、
ロックは声のする方へそっと忍び寄っていった。
声の主、ラムザ・ベオルブは恐怖と焦燥を抱えてリルムを探していた。
テラスから城内に入った直後にリルムの声が微かに聞こえたが、
城の構造を殆ど何も知らないラムザが即座にそこに辿り着くことは叶わない。
アーヴァインと会うだけでも不安なのに、あの銀髪の殺人者セフィロスが同じ建物内にいる。
リルムがまだ10歳ばかりの子供だとは分かっていても、
ひたひたと迫る危機感から恨み言の一つも言いたくなった。
ここにもリルムはいないッ!
隠し通路の入り口はどこだッ!?
そんな焦燥に駆られるラムザの耳を、背後から微かに忍び寄る足音が刺激した。
――セフィロス!?
ラムザは反射的に、背後の人物に抜き打ちをかけていた。
高速で振り抜かれる腕に若干遅れて背後を見やった彼の目に映るのは
セフィロスとは似ても似つかない男の姿。
しかし、今さら剣は止められない。
――まずいッ……!
最悪の結果を想像したラムザだったが、その斬撃は間一髪クリスタルソードによって防がれた。
ホッと胸を撫で下ろすのも束の間、安心できる状況なんかじゃないとラムザはすぐに気づく。
幸か不幸か、この男も一流の戦士のようだ。
人違いの殺人などせずに済んで救われた気分になったが、、
なし崩し的にこのまま戦闘になだれ込んだら結局どうしようもなくなる。
とにかく謝罪をしなくては……いや、隙を見せたら殺されるかも……だけど……
と、心労でぶっ倒れそうなラムザ。
しかし彼のそんな混乱を読んだかのように、予想外に相手の方が先に剣を納めた。
「……ったく、あぶねえなぁ。ちょっとは落ち着けよ。
お前、ラムザだろ?
俺はリルムの仲間のロックだ。
ギードからお前のことは聞いている。
リルムはどうした、いないのか?」
それで思い出した。昨夜、森の中でウィーグラフに傷つけられた男だ。
いや、それ以前にだって短時間ではあるが顔を合わせていたか。
ラムザ自身が治療さえした相手なのに、忘れていたなんてどうかしている。
己の迂闊さに内心呆れつつもラムザは、謝罪や挨拶よりもとにかく大事なことを口に出した。
「大変なんです!
あいつが……セフィロスがこの城にッ……!」
*******
眠りと覚醒の狭間で、老賢者は様々な気の流れを感じる。
精神と身体の密接な繋がり。
それは決してどちらを軽んじていいわけではないと老賢者に教える。
眠りにより癒されつつある体と心は、先程よりも自然に外界を受け入れ、知覚を助けた。
老賢者の瞼が、痙攣するようにぴくりと動く。
――これまで感じたことのない、純粋に黒い存在感。
老賢者は歩み寄る「災厄」の足音をたしかに感じ取り、ゆっくりとその意識を覚醒させていった。
【プサン(左肩銃創) 所持品:錬金釜、隼の剣
第一行動方針:魔石を介してロックの様子を探る
第二行動方針:アーヴァインが心配/首輪の研究
基本行動方針:仲間を探しつつ人助け】
【ギード(HP2/5、残MP1/3ほど)
所持品:首輪
第一行動方針:ロックの帰りを待つ
第二行動方針:首輪の研究
第三行動方針:アーヴァインが心配/ルカと合流】
【クリムト(失明、HP2/5、MP2/5) 所持品:なし
第一行動方針:???
第二行動方針:首輪の研究
基本行動方針:誰も殺さない
最終行動方針:出来る限り多くの者を脱出させる】
【現在位置:デスキャッスル2Fの一室】
【ロック (左足負傷、MP2/3)
所持品:キューソネコカミ クリスタルソード 魔石バハムート 皆伝の証、かわのたて
魔封じの杖、死者の指輪、ひきよせの杖[0]、レッドキャップ、ファイアビュート、2000ギル
デスキャッスルの見取り図
第一行動方針:ラムザと会話
第二行動方針:ギード達の研究の御衛
第三行動方針:ピサロ達、リルム達と合流する/ケフカとザンデ(+ピサロ)を警戒
基本行動方針:生き抜いて、このゲームの目的を知る】
【ラムザ(ナイト、アビリティ:ジャンプ・飛行移動)(HP3/4、MP3/5、精神的・体力的に疲労)
所持品:アダマンアーマー、ブレイブブレイド テリーの帽子 英雄の盾 エリクサー×1
第一行動方針:ロックと会話
第二行動方針:リルムを見つけ、セフィロスから逃れる
第二行動方針:アーヴァイン、ユウナのことが本当なら対処する
最終行動方針:ゲームから抜ける、もしくは壊す】
【現在位置:デスキャッスル3F通路】
最後まで残るマーダーはユウナかケフカっぽいな
ほしゅ
ほしゅ
322 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/01/27(火) 16:49:36 ID:0bTem/Qg0
ゼルとギルガメッシュの死因をおしえてくだしあ><
なかなか見つからない・・・
ほ
い
み
け
あ
る
だ
い
だ
る
う
335 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/02/27(金) 00:18:46 ID:WT4oyjIhO
糞スレ終了
だが断る
ぇ
い
まとめサイトでいくつか見れないんですけど・・・
ほ
そ
き
か
ず
ひ
ろ
デスマウンテンのふもとから湧き出るのが、闇の世界唯一の水源。
山脈のどこかに抜け穴があるのか、デスマウンテンを二重に囲んで沼地が広がる。
だが、ここは地下。これ以上はどこにも流れ得ない。
ただでさえ、流動することがなく澱みきった水。
闇の世界の熱気に当てられたうえに、この世界特有の植物の毒素が流れ込み、そして蓄積した沼地に自浄作用ははたらかず、
瘴気を放って生物をむしばむ毒の沼地へと変貌するほかはない。
人間がその中に浸かってしまえば、ゆるやかに体力を奪われ、やがては骸と化してしまうだろう。
けれども、その沼地を敢えて進む奇特な人間らもいるらしい。
二人は重い足取りを見せるどころか、まるで平地を進むように軽やかに沼の上を進む。
それもそのはず、レビテトの魔法を使って、毒の沼地の上空を浮遊しているのだ。
「それにしても不思議な呪文ですな。宙を浮く呪文など見たことがない」
パパスが、感嘆の思いを込めてつぶやく。
レビテトはトラマナのようなバリアを張るものではない。ゆえに、沼地に入ることそれ自体を避けることができる。
厳密には、宙に浮くというよりは1メートル程度上空を歩行しているようなものなので、深みに行けば沈んでしまう。
けれども、この程度の深さの沼なら障害になりえない。
「しかし、このようなことで魔力を消費してよかったのですかな?
向こうの茂みの中を通ったところで、多少の手間はかかれど、問題なく目的地にたどり着けますが」
「そんなに消費の激しい魔法じゃありませんよ。
このムシアツイ中、むんむんした草むらを通ったら体がかゆくなっちゃいますしねえ。
まあ、早く目的地に着けるんですからよしとしませんか」
もちろん、二人の言う目的地とはデスキャッスル。だが、目的はまったく違う。
パパスのそれは、もっとも人が集まると思われるデスキャッスルを押さえ、そこでタバサの情報を集めること。
ケフカのそれは、もっとも人が集まると思われるデスキャッスルを押さえ、そこでピサロの噂を広めること。
パパスが急ぐのは、タバサが万が一デスキャッスルにいた場合にすれ違うことがないように。
ケフカが急ぐのは、ピサロより先にデスキャッスルを押さえて、包囲網を作られないように。
ターゲットが今どこにいるかどうかは分からない。だからこそ急ぐ。
もっとも、ケフカは本当に茂みに入りたくないという気持ちが大いに強いのも確かだけれども。
多少の魔力を消費しても、無駄な体力の消費を避け、時間を大幅に短縮できるのは大きい。
ケフカを気遣って、パパスは陸路を主張していたものの、時間が惜しいのは彼も変わりない。
おおよそ30分ほど歩いたところで、二人は沼地を通り抜け、対岸の茂みにまで達する。
「……視線を感じるねえ」
「何者かが潜んでいるようですな。敵意は感じませんが……」
とはいえ、好意的なものでもない。内情を探ろうとするような視線があまり気持ちよいものではないことは確か。
「偵察? だが、わざわざ人の通らないようなところに偵察など置きますかな」
「向こうが先に気付いたんでしょうねえ。接触する前に様子でも見ておこうって感じでしょう」
「なるほど。確かにこの蒸し暑さでは気が乱れる。気配を察知されても仕方がないということですか。
さて、どうやら向こうもこの場を離れていったようですな。接触してみますか?」
「私は構いませんよ。いきなり向こうから吹っ掛けてくることはないでしょうから。
ピサロになにか吹き込まれたのなら、私達に気付かれる前に何か行動を起こしているでしょうし」
二人は僅かに揺れる茂みをたよりに、後を追う。
しばらく進んだところで、パパスが草葉の陰から一人と一匹の姿をとらえる。
ケフカも自身のものとはまた異質な魔力の流れを嗅ぎ取る。
一度感じたことのあるそれをまとわせている人間は、一人しか知らない。
「あれは、少年と……犬、ですか? 雲に乗って…?」
「私の知り合いですよ。前の世界で少し行動を共にしました。
ああ、そうそう、確か魔物使いとか魔物と話せるとか言ってましたよ。
あの犬は魔物なんですかねえ? とにかく、彼らなら問題ないでしょう」
「ふむ……」
魔物使い、動物と話せる、というあたりに何か思うところがあったのか。神妙な表情を見せるパパス。
ケフカは、そんなパパスを見てちっちっちと指を振る。
「おおっとぉ、パパスさん、そんな仏頂面ではいけませんよ。
相手は子供なんですから。ほうら、もっと笑って?」
「こ、こうかな?」
パパスがぎこちなく口角を上げる。表情筋が少しピクピクと動いている。
歴戦の強者であるとはいえ、パパスは不器用でまっすぐな人間だ。
感情表現や感情作り、それにともなう駆け引きはまだまだ苦手。
「表情が固いですねえ。そのようなこわ〜い顔をしていると、お子様達は怖がって逃げちゃいますよ?
ほら、私みたいににっこりと。1+1は?」
「ケフカさん何やってんの?」
アンジェロから報告を受けたルカが目にしたのは、草影で中年近い男二人が笑顔作りをしている光景。
傍から見ると怪しいことこの上なかった。
「ほんっとにもうびっくりしたあ。
怪しい人が近付いてきてるってアンジェロが言ってたからなあ。
ケフカさんだって分かったから見にきたら、二人でにらめっこして遊んでるし」
「むっ、怪しいとか遊んでるとは失敬ですねえ。私はいつも真面目ですよ。
せっかく緊張感をほぐしてやろうという心遣いだったのに。
やはり子供ではそういう気配りは理解できないものなのですねえ、ヒャヒャヒャ…」
ケフカが肩をすくめる。パパスは小さくため息をついた。
にらめっこという表現は、それほどまでにおかしな顔だったということを表すのか?
なんということはない、取るに足らない黒歴史が1つ増えただけのことだが。
「ところでケフカさん、テリー見なかった? もしかしたら向こうに行ったのかもしれないんだけど…」
「見てませんねえ。この世界で出会ったのが、パパスさんとルカ君の二人だけですから」
「そっかあ、ありがと。…ところで、シャナクって使えたりしない?」
ルカから不意に投げかけられた質問に、二人とも首をかしげる。
「シャナク? なんですかそれは?」
「解呪の呪文です。なかなか貴重な呪文で、私も扱うことはできませんが。
ルカ君は誰かに呪いでもかけられたのかね? それに、よくよく見れば君は随分と怪我をしているようだが?
「あ、うん、呪いはそうなんだけど、怪我のほうは気にしないで。
呪いのほうをどうにかしないと意味がないし、まだ大丈夫だから…」
「大丈夫なはずはないだろう。おじさんに見せてみなさい」
半ば強引に、パパスがルカに近付き、ホイミによる治療を始める。
ルカは、テリーを早く追わないといけない、というようなことを続けて言うつもりだったが、実際に行動を起こされると断りづらい。
アンジェロとて、呪いを解く重要性は分かってはいるものの、しきりにルカの体を心配する。
(お城なんだから、すぐに追いつけるかな…)
こういうことを思うのは、やはり体が治療と休息を求めているということだ。
(ふむ、しかしどうやればこのような傷が付くのか…)
ルカの傷は外からの攻撃によってというより、内部からひび割れるように生じたものとも見える。
パパスが疑問を抱くその隣で、ケフカはじっとルカの手に はめられた指輪を見つめる。
「その指輪は、あのモヒカンが着けていたものなのかな?」
ルカは答えない。あまり思い出したくはない部分なのだろう。
今回の無言は肯定の証。ルカの言葉を代弁するかのように、巨大なエメラルドが不気味に輝く。
「ケフカ殿、この指輪がどうかしたのですかな?」
「動くと爆発するらしいんですよ。しかも一度身に付けると外れない。
はめたら最期、歩くたんびに指輪がドン、だ。よっぽどの物好き以外、誰も寄ってきやしませんよ。
もっとも、最近その物好きをたくさん見かけましたけどねえ」
「……なんともえげつないものを支給する」
危険なものと仮定して改めて見てみれば、確かにそのようにも思えないことはない。
もっとも、前情報がなければやはりただの指輪にしか見えないであろうが。
「こうなるのは分かってて着けたんだ、仕方ないよ。こうしなきゃ生き残れなかったんだから。
でも、もしかしたら、ハッサンを見捨てて、バチが当たったのかもしれない」
ルカが若干低めのトーンで、一連の流れを自嘲気味に話す。
それをパパスが神妙そうに、ケフカも大人しく聞いていたが、突如けたたましい笑い声が発せられ、響き渡る。
「ヒャヒャヒャ! いかにも大人になったつもりのガキが考えそうなことだねえ。
カッコいいカッコいい! じゃあ私からも一つ豆知識を伝授してさしあげましょう!
バチなんてもんはこの世にチリほども存在していないのだ〜!
君のいうバチというものが、どれほどあっけなくて小さなものなのか、私が教えてさしあげましょう。ほれっ」
いつの間にか高まっていたケフカの魔力が、あまりにも軽い掛け声と共に打ち出される。
すると、ルカの手にひし形の模様が浮き出て、指輪が裏返る。
「……んえ? なんだこれ?」
ルカはなにが起きたか分からずにしばらく呆けていたが、コトと指輪が地面にぶつかる音を聞いて、ようやく現状を把握する。
引き抜けないはずの指輪が肉体から離れ、足元に落っこちていた。
「この魔術の大大だーい天才ケフカ様がそんなチンケな呪いをどうにかできないわけがないじゃないですか。
昨日はどんな呪いなのかよく分からなかったけど、一日考えればこんなもんさ!」
ケフカが使ったのはデスペルの魔法。主に魔法の効果を解除するものだ。
あやつりの輪を取り扱っていたことの経験から類推したものだ。
それ以外にも、この手の呪術を解除する薬がデスペルの魔法を使って作られたという記録もある。
呪い自体は消えないため、装着しなおせばまた呪われてしまうのは欠点といえる。
してやったり、という顔をしたケフカは、未だ何が起こったか分からないルカの目には映らない。
目をパチパチさせる。恐る恐る腕を伸ばしてみる。目をこすってみる。
ジャンプしてみる。歩いてみる。腕を振り回してみる。爆発しない。
こんなにあっさりと外れてしまうのに驚いて、もう一度手に取ってみようと腕を伸ばす。
しかし、ケフカにその手を止められる。
「あーあー、これだからお子様は困ります。
せっかくケフカ様が膨大な魔力を使ってその指輪を外してあげたのに、それを無駄にする気ですか?
こーゆー危険な物体はこの私が没収です」
ケフカはちゃっかりと指輪を自分のザックにしまう。
「ルカ君、まだ気分が晴れないようだが、大丈夫かね?」
「あ、ちょっと疲れちゃっただけだよ。爆発しないか、ずっとひやひやしてたから……」
ルカがごろんと雲の上に転がり倒れる。ぴんと張り詰めていた気が緩み、疲れが全身をむしばむ。
眠気だけは一向に襲ってこないが、体はあまりいうことを聞いてくれない。
「ケフカ殿、少々休みますかな?
いずれにせよ、彼をここに放置するわけにもいきませんのでな」
「仕方ないですねえ。まあ、いいでしょう。ここなら城に行き来する人間を見渡せますしねえ」
ケフカがルカを解呪したのには二つの理由がある。
二日目と違い、今単独行動をおこなうのはあまり賢明なことではないということ。
ピサロが殺人者だと広めるとして、自分一人ならば見知らぬ相手が信じる確率は半々。
ピサロを見知っているならば一割を切る。だが、三人、しかも純粋そうな子供も混じったメンバーならどうか。
見知らぬ相手なら7〜8割、ピサロを見知っていてさえ3割ほどの確率に上げることができよう。
ピサロが殺した男、イザはルカやハッサンの仲間だったと耳に挟んだこともある。
となれば、味方に付けておいて損はない。
そして、もう一つは指輪の実用性。いわば爆発の指輪は無限の兵器。
多少痛いが、自分ではめて使ってもいいし、誰かを爆弾にしてもいい。
まさかこんな小さな指輪が武器になるとも気付くまい。
ピサロにこの指輪をはめさせてみるのも面白いかもしれない。
あのいけすかない、koolなハンサム顔が屈辱と焦燥と困惑で歪むのだ。想像しただけで楽しくなる。
ピサロは手ごわい。接近戦、魔法戦共に相当な実力だ。接近戦に持ち込まれてしまえば、一人では勝ち目は薄い。
だが、大勢で取り囲んでしまえば多勢に無勢。なす術はない。無闇に死を恐れることがない、勇猛な人間ならなおのこといい。
ただし、一度に戦闘するのは3人、多くとも4人だ。
そこそこ戦闘ができるやつが3人もいればピサロは殺せるだろう。だが、6人いれば楽勝だ。
そうなると、生け捕りなんて選択肢が出てくる。これはマズい。
こちらの手勢が一人二人死んで、ぎりぎりで殺せるのが一番望ましい。
ピサロは冷静な振りをしたイノシシだ。ケフカを見つければまっすぐに突っ込んでくるだろう。
ピサロとケフカ、他人から見てゲームに乗っているのはさてどっち?
【パパス(軽度ダメージ、MP2/3程度)
所持品:パパスの剣、ルビーの腕輪、ビアンカのリボン
リュカのザック(お鍋の蓋、ポケットティッシュ×4、アポカリプス(大剣)、ブラッドソード、スネークソード)
第一行動方針:タバサを探す/ピサロを警戒する
第二行動方針:別れた仲間を探し、新たな仲間を探す
最終行動方針:ゲームの破壊】
【ケフカ(MP1/4程度)
所持品:ソウルオブサマサ 魔晄銃 魔法の法衣 爆発の指輪(呪) アリーナ2の首輪
第一行動方針:ルカやパパスを(見つかればタバサも)利用する、あわよくばピサロと戦わせる
第二行動方針:「できるだけ楽に殺す方法」を考えつつ全員を殺す
最終行動方針:ゲーム、参加者、主催者、全ての破壊】
【ルカ (HP1/10、あちこちに打撲傷、不眠状態)
所持品:ウインチェスター+マテリア(みやぶる)(あやつる) シルバートレイ オリハルコン
満月草 山彦草 雑草 説明書(草類はあるとしてもあと二種類)
第一行動方針:体力の回復
第二行動方針:テリー、もしくはラムザと合流する
最終行動方針:生き延びて故郷に帰る】
【アンジェロ 所持品:風のローブ
基本行動方針:ルカについていき、その身を守り、戦う】
【現在位置:デスキャッスル南の草原】
濁った空と湿った草むらの間をすり抜け、絨毯が飛んでいく。
その上に鎮座しているのは、青髪の少女と茶髪の青年だ。
「スコールさん……みんなは、無事なんでしょうか」
何度目になるかわからない呼びかけに、青年はため息をつく。
彼の言葉を守り、健気にも前を向き続けたままの少女に返すのは、先と全く同じ答え。
「信じるしかないさ。心配したってどうにもならない」
そう言って、スコール――に化けた飛竜・スミスは、その手に携えていた杖を強く、強く握り締める。
変化の杖。
先端の宝玉に数多の生き物の影を閉じ込めていると言われ、一振りすれば様々な物の姿に変われる魔法の杖だ。
魔術に長けた者ならば望む姿に化けられる。
不動の体勢を守り、無闇に意識を散らさなければ、数時間単位で変化を保持することもできる。
詳しい効果こそ知る由もなかったが、老魔術師の死体を貪って手に入れた魔力のお陰か
スミスは感覚的に杖の効力を理解することができた。
だからこそ、今もこうして、初対面の少女を欺き通すことに成功しているのだ。
「会いたいな……早く、会いたい」
「そう思うならしっかり前を見て探すことだ。
俯いてメソメソしているだけじゃ、何も掴めやしない」
「……はい」
心の表層を読み取りながら、望む答えを返すだけの会話。
それで少女――ターニアの心が癒されているのかと問われれば、否定するしかないだろう。
心を読む力があろうとなかろうと、誰でもわかることだ。
繰り返された言葉の回数こそが、何よりも雄弁に、彼女の不安と恐怖を物語っているのだから。
(面倒だなぁ)
スミスはもう一度ため息をついた。
いくら心が読めたところで、女性の、それも怯えきった気弱な少女の機嫌を取るのはどうにも難しい……
「どこに行ったんだろ、あの金髪カッコマン」
「見つからないねぇ〜、あの逃げ足だけは達者な青バッタ」
金髪の少女と白魔導師姿の青年が軽口を叩き合う。
その声を背にしながら、魔族の青年は茂みに覆われた道なき道を進んでいく。
「同じ場所にずっといるとは思ってなかったけどさ、こんなに見つからないなんて予想外だよ〜」
「ホントだよねー」
(…そうやって喋っているから察知されて逃げられたとは考えないのか)
魔族の青年、ピサロはこめかみを抑えながら、咽元まで出かかった一言を飲み込む。
何しろ、口だけは良く回る二人だ。言い争いになって足を止めては本末転倒である。
それに何より、ピサロは見つけていた。
カインではなく、彼と同罪と断じた相手――アルガスが残したであろう道筋を、だ。
乱暴に踏み拉かれた雑草の葉。
無闇やたらに切りつけられ、あるいは手で千切られている草。
地面に刻まれた足跡は明らかに男のものであるし、
これだけの痕跡が残っていること自体、"その人物は酷く焦った状態で何かから逃げていた"ことを物語っている。
後ろの二人、リルムとアーヴァインも、あるいはそのことに気づいていて、
だからこそピサロの進路に口を挟まず、後を追ってきているのかもしれないが…
「二人一緒にいるんだったら、話は早いんだけどね〜」
「あの青い竜が一緒にいたら厄介だけどね。
ドラゴンライダーだっけ? 心が読めるとか反則だって」
「そう? プサンさんの方が反則だと思うけど。
魔力追跡とか、ホントに人間なの?」
「自称天空人って言ってるんだし、人間じゃないんじゃない?」
「天空人……天使を想像したくなる言葉の響きなのに、現物はアレとかねーよ〜」
(………)
うるさいというほどの大声ではないのだが、気にならない程度の声量でもない。
十数メートルも離れれば風が起こす葉擦れの音に紛れるであろうけれども、時折、無用心と誹りたくなる。
一体、何を考えているのだろう。
時折ピサロの脳裏を掠める疑問は、答えに辿りつくこともなく、消えることもなく、ただ澱のように溜まっていく。
それを、霧散させたのは――
「ピサロさん!」
低空とはいえ、空を飛んでいたことが幸いした。
地を歩いていたのなら、深い茂みに阻まれて、すれ違いを起こしていただろう。
けれども、タバサという恐怖に怯え、頼るものを必死に探していたターニアの目は、
緑の間でわずかに煌めいた銀の輝きを見落とさなかった。
「ピサロさん!」
もう一度呼びかける。返事はすぐに戻ってきた。
「ターニアちゃ〜ん?!」
間延びした声はピサロのものではなかったけれども、ターニアの知る声である事には変わりない。
「あんたの知り合いか?」
「はい! ピサロさんと……多分、アーヴァインさんだと思います」
"スコール"の問いかけに、ターニアは笑顔で答える。
「……早く見つかってよかったな。
だが、今の声で誰かに気づかれたかもしれない。
絨毯から降りて、茂みの中に紛れて向こうに近づこう」
「はい!」
"スコール"の指示に従い、ターニアは地面に降りた。
しかし、当の"スコール"は彼女の後をすぐに追いはしなかった。
『ぽわわわわん』
奇妙な音がターニアの耳を打つ。
不審に思って振り向くが、そこには中空に浮く絨毯と、"スコール"の姿があるだけだ。
「あの、スコールさん…今、なんか変な音がしませんでした?」
「ああ……絨毯を止める呪文を唱えたんだ。
こいつ、放っておくと勝手に動き続けるみたいだからな」
"スコール"はそう言って飛び降りると、絨毯を端からくるくると巻く。
厚い布地を小さく丸め、ザックの中に仕舞いこんでから、彼はターニアの傍らに寄り添った。
「こんなことは言いたくないが、油断だけはするな。
心変わりは誰だってある。それを忘れた者から死んでいく」
「そんなこと…! ピサロさんは…!」
「この世界に絶対はない。そうだろう、……アーヴァイン」
「さっすがはんちょ〜、よーーーーくわかってらっしゃる」
草をがさがさと掻き分けながら出てきた男の姿に、スミスは思わず眉を潜めた。
所々が破け、血や泥で汚れたローブ。
それは、昨日見かけたばかりのものであったから。
彼の記憶を証明するかのように、やはり見覚えのある隻眼の子供が、アーヴァインの後ろからひょっこりと姿を見せる。
気づけば、ターニアが名前を呼んだ銀髪の男もすぐ近くに立っていて、
胡散臭げな眼差しを彼に――そして、彼が携えている杖に向けていた。
(うーん……もしかして、僕、ピンチ?)
銀髪の男は誰がどう見ても、明らかに高位魔族。
いくらドラゴンライダーから進化を遂げたとはいえ、スミス単身で勝てる気はしない。
おまけに、変化の杖を知っているようだ。
仮に杖を離せなどと言われたらどうやって切りぬければいいのか……
高速で思考をめぐらせるが、上手い言葉は思い浮かばない。
「つーかさ〜、探したよはんちょー!
僕、ど〜しても相談に乗って欲しいことがあってさ〜」
「相談……?」
変身が解けないよう、杖に意識を集中させながら、スミスは問い返す。
「そう、相談。
まあ深刻な話じゃないから、ゲームでもしながらちょちょいとね」
「ゲームだと?」
苛立ち混じりの声を上げたのは、スミスではなくピサロだ。
「貴様、アルガスはどうするのだ? 遊んでいる暇などあるものか」
「ゲームたってTriple Triadだよ。
デッキはリルムが持ってるし、話もゲームも5分ありゃ十分さ」
「あ、あのカードの束、もしかしてこの人の?」
「そうだよー。はんちょー、遊ぶのも集めるのも極めてたからさ」
アーヴァインはくすくすと笑いながら、リルムからカードの束を受け取る。
だが、その目が笑っていないことに、スミスは気づかざるを得なかった。
『班長は……僕が……カード…やらない……知ってる……
それに……ゲームを受ける がない……』
強い疑念と暗い殺意に彩られた心の声、そして、翼を広げた竜のような黒いもやのイメージがスミスの脳に映る。
『偽物だったら……リノアと同じように…すぐには死なないように……!』
底なしの闇に似たどす黒い思念に薄ら寒いものを覚えながら、
スミスはひとまず差し出されたカードを受け取り、こう返した。
「カードをやらない奴が何を言ってるんだ…
これは返してもらうが、初心者にルールを説明してまで遊ぶ気はないぞ、俺は」
「え〜〜〜? その言い草はひどくね〜?
僕だってルールぐらい知ってるよ!」
「じゃあ言ってみろ」
「セイム!」
「それだけか?」
「……うん」
「話にならないな」
スミスは肩をすくめ、やれやれと首を振ってみせた。
それでようやく、アーヴァインの思考が揺らぎ始める。
『本当にスコールなのか……? だったらなんで……
まさか、乗ったのか……そんなはず……』
「…はんちょー。単刀直入に聞くけどさ」
アーヴァインが口を開く。
そこに続くであろう台詞は、単純にして、スミスにとっては最も厄介な質問だ。
『あんた、誰か殺したのか』
ターニアから読み取った情報では、スコールは殺し合いに乗っていないし、誰も殺めていないはずだ。
だが、それはあくまでもターニアが知る範囲であって、実際にどうだったかはわからない。
目の前の相手がどちらの確証を――
『スコールは人を殺さない』のか『スコールは人を殺した』のか――抱いているのかで、ベストな回答は変わってくる。
慌てながら心を読んでみたものの、今までのようにはっきりとした言葉やイメージが見透かせない。
警戒心の強さのせいか、本人も揺らいでいるのか、そのどちらかではあるのだろうが……
イカサマ無しのノーヒントクイズ、ペナルティは死。
そんなフレーズが脳裏に過ぎった瞬間だった。
スミスが、その声を聞いたのは。
「あ……さっきのお姉さん!」
逃げろ、と、彼女の父は言った。
お逃げください、と彼女の仲間が言った。
眼前の相手は父の親友で、けれども、最早彼女の味方ではなかった。
少なくとも彼女は――タバサは、そう信じた。
父の言うことはいつだって正しかったのだし、仲間はいつだって頼りになる存在だったのだから。
父の後を追い、仲間の後を追う。
彼女はそう思い込んでいるけれども、現実は実体無き闇が、他の闇に引き寄せられているだけ。
その先に彼らがいたのは、偶然でもなんでもなく、必然的なこと。
「あ……さっきのお姉さん!」
草の間から垣間見えた青い髪の少女の姿に、タバサは声を上げた。
怯えきってはいたけれど光の教団とは無関係な人間だ、と判断した相手だ。
故に、攻撃すべき相手だという認識は抱かない。
あるのは、無力な人を巻き込むわけにはいかない、という思い。
「悪い人が追ってきてるんです! 早く逃げてください!」
けれど――
「ふざけんな」
ズドン、と低い音が響き、タバサは反射的に足を止める。
つま先から一センチほど離れた地面に小さな穴が開いていた。
(銃…!?)
一瞬、タバサの意識に無骨な武器を携えたデールの姿が浮かぶ。
けれども、それが意味するものを思い出す暇は、決して与えられない。
「あんたより悪い奴なんていないだろ、魔物使いのお嬢ちゃん」
硝煙を吐き出す銃口と、殺意に満ちた眼差しを向けたまま、アーヴァインは呟く。
「リノアもゼルもあんたが殺したようなもんなのに、まだ猫被って善人気取りとかさぁ……
許せないね、そういうの。ぜぇぇぇったいに許せない」
トリガーが引かれる。爆音が再び大気を震わせる。
銃弾はタバサの耳を掠め、わずかな血を地面に滴らせた。
その赤い色彩が、硬直していたターニアの思考を呼び戻させた。
「きゃあああああああああああああああああああ!!!!」
どこにそんな力が残っていたのか、ターニアはスミスを突き飛ばし、走り出す。
「待て、小娘!」
「ターニア!」
ピサロの制止もスミスの呼びかけも、彼女の耳には届かない。
記憶に刻み込まれた恐怖が身体を動かす。
逃れたいという意識が、数時間前の出来事を思い出させる。
『いいか? 何かの理由でお前が一人の時に、危ねぇ奴に襲われたら――』
(ピンを抜いて、"それ"を投げてすぐに耳を塞ぎ、そして逃げろ!)
その言葉通りに、彼女の身体は動いていた。
――ドォォォォォォォォン!!!
瞬間、スタングレネードの閃光と爆音が周囲を包む。
感覚の許容量を越えた衝撃は五人の意識を数秒間途絶えさせる。
皆が棒立ちになる中、青髪の少女が走り出す。
そして次に我に返ったのは――
「ひどい……! やっぱり、みんな光の教団の手先なんですね……!」
(そうだ こいつらは敵だ! 早く殺してしまうんだ、タバサ!)
「わかってる、お父さん!」
彼女だけにしか聞こえない声に従って、タバサは手を振り上げた。
「!?」
行く手で瞬いた光と、空気を震わせた爆発音に、ヘンリーは思わず足を止めた。
旅の扉を潜るまで気絶していた彼は、エリアが使ったスタングレネードと同じもの――だとは気づかない。
だが、草むらの向こうに消えていったタバサと今の爆発が無関係だと考えるほど愚かでもない。
「タバサ……!」
呟いた言葉は、少女の無事を祈るものであり、少女に出会った人物の無事を祈るもの。
邪魔な草を押しのけながら、ヘンリーはがむしゃらに走り出す。
(まだ間に合う。気が触れていたとしても、きっと助けられるはずだ!)
彼の胸中を占めているのは、そんな、あまりにも儚い希望。
そして、どうしようもない焦り。
(早まるな……早まらないでくれ!)
「タバサちゃん!」
刹那、茂みの向こうに蜂蜜色の輝きを見た。
立ち尽くす三つの影を見た。
そして、小さな手の先に浮かぶ、無数のきらめきを見た。
「止め……!」
ヘンリーが叫ぶより早く、それが、周囲に降り注ぐ。
僅かな光を乱反射して輝く、怜悧な氷の刃が。
「きゃああああっ!」
タバサではない少女の悲鳴と、押し殺した呻き声が上がる。
「この、クソガキっ!」
憎悪の叫びと共に銃声が轟く。
だが、先ほどの閃光で目がくらんだのか、銃弾はタバサを射抜くことなく地面に突き刺さる。
それを見た少女は、人影から素早く距離を取り、新たな呪文を紡ぎ始めた。
「「マヌーサ!」」
二つの声が唱和する。
一つはタバサのもの、そしてもう一つはヘンリーのもの。
紫色の霧はたちどころに三人を、そしてタバサを包み、無数の幻影を映し出す。
「ヘンリーさん……!!」
「「ヘンリー!?」」
見覚えのある黒いローブ姿。そして服装は違っているものの、忘れようにも忘れられない顔。
彼らを探すことを放棄したヘンリーが先に二人を見つけるとは、なんという運命の皮肉だろうか。
「ピサロ、アーヴァイン!
頼む、その子には手を出さないでくれ!」
「……正気で言っているのか?」
うずくまった少女を庇うように剣を構え、タバサがいる方向を凝視しながら、ピサロが呟く。
「狂気に飲まれた魔術師の小娘など、貴様ごときの手に負えるものか」
「ど・う・か・ん!!」
腕に突き刺さった氷を引き抜こうともせず、銃の引き金に手をかけたまま、アーヴァインが口を開く。
「自分の手はギリギリまで汚さないで、親父も仲間も使い捨てたクソガキ。
あんたに保護できる相手じゃないね」
「……なんだって?」
「何、言ってるの…!? 何言ってるの!?」
タバサが叫ぶ。その表情には、明らかな怯えの色が見て取れた。
それで、ヘンリーはある仮説に思い至る。
家族と仲間の死を認めず、現実全てを否定する言動――その理由は、傍にいるという父親の死を、間近で見たからではないか?
捜し求めた父親が目の前で死んでしまったとなれば、ショックで心を閉ざしてもおかしくない。
(……だけど、使い捨てたというのはどういうことだ?)
その疑問の答えは、すぐに提示された。
「すっとぼけないでほしいなぁ……
あの緑ぷよを利用して自分の兄貴も僕の友達もぶっ殺した挙句、
用済みになったら親父もろとも殺しておいてさ!」
「……!」
タバサの呼吸が変わる。
表情がみるみる青ざめ、手が小刻みに震え出す。
唇がわずかに動いた。「そんなことはしていない」と言いたかったのかもしれないが、真相はわからない。
そしてそれは、ヘンリーも同じだった。
タバサが殺し合いに乗っているかもしれないという覚悟はしていたが、彼女が父親を殺すなどというのは――
「有り得ねぇ……有り得ねえよ!
この子はそんなことをする子じゃない!」
「したんだよ。やったんだ」
ヘンリーの抗議を、しかしアーヴァインはにべもなく切り捨てる。
「リュカとタバサの二人が魔物を操って人を殺したって証言があるし、
緑ぷよとリュカが一緒に死んでて、二人と一緒にいたこのガキだけが生き残ってる。
証言はデタラメで、こいつ一人生き残ったのも偶然だとかいうつもり?」
「リュカがこの子を庇ったのかもしれないだろう?!
この子は父親を殺したりしない、絶対にだ!」
「へ〜え。虫も殺せないような弟さんは殺人鬼になってたけど、それについてはどうお考えなんですか〜?」
「……っ!」
痛いところを突かれ、ヘンリーは思わず押し黙る。
アーヴァインは肩を竦め、苦笑しながら言葉を続けた。
「この世界じゃ、人が化物になる病気が流行ってるんだよ。
あんたの弟もそのガキも一緒で、しかも、も〜う手・遅・れ、なんだよね〜。
なあ、そうだろ? 忌々しい魔物使いのお嬢ちゃん!」
嘲りか、挑発か、純粋な憎しみか。その意図するところは、ヘンリーにはわからない。
「いっくら頭がおかしくなってるとはいえ、自分の身内に親兄弟を殺させるなんて、とんだ化物だよ!
そんで今度はお父さんのお友達まで殺して、それでも自分は悪くないって言うんだ!
本当は何もかも壊すのが楽しくて仕方ないだけなのに、言い訳用意して自己正当化とかさ!
すごいねえ、僕にはとても真似できないよ、サイッコーにサイテーなお嬢ちゃん!」
「――言いたいことは」
タバサが呟いた。
静かに。冷たく。
「言いたいことは、それだけですか」
少女の問いかけに、アーヴァインはククッ、と咽を鳴らすように笑った。
「僕からはこんだけだね。残りは地獄でお父さんと緑ぷよに聞きな。
ホントはお兄ちゃんに直接恨み言聞いた方がいいと思うけどさ〜、
お嬢ちゃんみたいなクソガキが天国の人に出会えるわけないもんね!」
「お父さんとピエールを馬鹿にするなぁッ!」
詠唱もないまま、巨大な火球が形を成す。
メラゾーマ。タバサの母が得意とし、しかし、タバサ自身は扱えなかったはずの呪文だ。
(この人"だけ"は許さない……絶対に許さない!!)
誰かを――例えば近くにいるヘンリーを――巻き込むこともなく、ただ一人だけを確実に焼き尽くす、煉獄の炎。
その呪文を行使できたのは、ビアンカの血を引いているからというだけではなく、
悟りの書によって引き出された賢者としての才があったからだろう。
だが……それでも、届かない。
「リフレク!」「マヒャド!」
リルムとピサロ、二人分の声が響く。
タバサの渾身の一撃を、光の壁が阻み、周囲に現れた巨大な氷柱が相殺する。
そして――
「幻は見えるし、人型のもやもやもいくつか見えるしで、当てられる自信なかったんだ〜。
――でも、今のではっきりわかったよ」
ヘンリーの耳に、カチャリという音が届く。
「タバサ!」
アーヴァインを止めることはできないが、タバサを死なせるわけにはいかない。
その思いが、彼を動かした。
己の息子よりもさらに小さな身体を引き寄せ、ぎゅっと抱きかかえる。
「ヘンリーさん……!?」
明らかに狼狽した声が、懐で響く。
かつて、ラインハットの城で聞いたのと同じ、幼くて甲高い声。
しかしその思い出も銃声によってかき消され――
背中と腹部に灼熱の痛みを感じる暇も無く、ヘンリーの意識は闇に飲まれた。
「ちぇっ……面白くないの」
杖を口に咥えたまま、スミスは呟く。
ターニアがスタングレネードを持っていることを知っていた彼は、
得意のテレパシーで彼女にそれを使わせ、手榴弾が爆発する前に目と耳を塞いだ。
そして皆の気がそれた数秒のうちに、人や竜よりもはるかに小さく、草原で目立たない魔物――
スライムに化け、草の間に逃げ込んで距離を取っていたのだ。
(リュカの真似して煽ってやったりもしたのに、結局死んだのは"一人"だけか)
つまんないの、とスミスは息を吐く。
(まあ、ぐちぐち言ってもしょうがないね。
"あいつ"が死んだだけオッケーってことにしとかなきゃ)
標的の思念が途絶えたことを確認したスミスは、悟られぬよう、静かにその場を後にする。
どこに行くか、は考えていない。
適当にその辺りをうろついて、ターニアがいたならもう一度スコールに化けて回収してもいいし、
カインがいたなら元の姿に戻ってコンビを組んでもいい。そんな程度。
(どうせ僕一人じゃ、あいつらに敵いっこないし…
手駒か仲間を用意しておかないとね)
残された者の声を遠くに聞きながら、スミスはぴょいんと飛び跳ね、草むらの向こうに姿を消した。
(それにしても……
『お父さん、ピエール…一緒に、お母さん達とお兄さんを探そう!』ねえ。
最期まで妄想にすがって現実見なかったとか、笑えるよねー!)
「殺し、ちゃったの……?」
リルムが呆然と呟く。
「死んだんじゃない?
人殺し相手なら殺したってティーダも許してくれるだろうし、せめてもの情けで、一発で死ねるように心臓狙ったから」
アーヴァインはそう言って、倒れた二人に歩み寄った。
ヘンリーの身体を乱暴に押しのけ、下の少女を引きずり出して瞳を覗き込む。
「オッケーオッケー。ちゃーんと即死してるよ」
「……」
「どったの、二人とも? 苦虫噛み潰した顔してさ〜。
ここは僕の腕前を万雷の拍手で褒め称えるシーンじゃないの?」
「貴様、ヘンリーまで殺したのか…?」
怒気を孕んだピサロの言葉に、アーヴァインは一瞬だけきょとんとした表情を浮かべ、慌ててヘンリーの手首を握った。
「……だ、だいじょーぶ。まだ生きてるよ、ほら、脈もあるし。
い、一応、角度とか計算したし……銃弾抜けてるから、超ダッシュで手当てすれば助かるって、きっと!!」
引きつった笑いを浮かべるアーヴァインに、リルムとピサロは揃って頭を抑えた。
「小娘、貴様の手当ては後回しでもいいか…?」
「うん……リルムも手伝うよ」
「ぼ、僕も、手伝うよ……」
「「当たり前だ!」」
【スミス@スライム(HP1/5 左翼軽傷、全身打撲、洗脳状態)
所持品:変化の杖 魔法の絨毯 波動の杖 ドラゴンテイル スコールのカードデッキ(コンプリート済み)
基本行動方針:ターニアが近くにいれば、合流して利用する
第一行動方針:カインと合流する
最終行動方針:(カインと組み)ゲームを成功させる】
【現在位置:南東の祠・北の茂み→移動】
【ターニア(血と銃口とタバサへの恐怖 錯乱)
所持品:スタングレネード×3 ちょこザイナ&ちょこソナー
第一行動方針:とにかく逃げる
基本行動方針:リュック達と合流したい】
【現在位置:南東の祠・北の茂み→移動】
【ヘンリー (重傷、気絶)
所持品:アラームピアス(対人) リフレクトリング バリアントナイフ 銀のフォーク
キラーボウ、グレートソード、デスペナルティ、ナイフ
第一行動方針:?????
基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】
【アーヴァイン(変装中@白魔もどき、右腕骨折、右耳失聴、冷静状態、軽傷)
所持品:竜騎士の靴 手帳 首輪 コルトガバメント(予備弾倉×3) 弓 木の矢40本 聖なる矢20本 ふきとばしの杖[0]
第一行動方針:手当てを手伝う/アルガスの口を塞ぐ
第二行動方針:スコールに会い、行動方針を再考する。それまで脱出の可能性を潰さない
最終行動方針:生還してセルフィに会う
備考:理性の種を服用したことで、記憶が戻っています】
【ピサロ(軽傷)
所持品:エクスカリパー スプラッシャー 命のリング
第一行動方針:ヘンリーを治療する/カイン、アルガスを始末する
第二行動方針:可能ならロザリーを救出する
第三行動方針:ケフカへの復讐】
【リルム(HP1/3、右目失明、魔力消費)
所持品:絵筆、祈りの指輪、不思議なタンバリン、エリクサー 黒マテリア
攻略本(落丁あり) 首輪×2 研究メモ レーザーウエポン グリンガムの鞭、暗闇の弓矢 ブラスターガン 毒針弾 ブロンズナイフ
第一行動方針:ヘンリーを治療する
第二行動方針:仲間と合流
最終行動方針:ゲームの破壊】
【現在地:南東の祠・北の茂み】
【タバサ 死亡】
【残り 32人】
右方向すぐに見えるは毒の沼。左方向は深い茂み。
後方には無防備にねむりこけた男女三人、そして前方には敵が一人。
左目には、青灰色の鉱物で縁取られた黒い眼帯。
両手でがっちりと握り締めているのはアークボルトの国宝、雷鳴の剣。
心に抱くは、自分がみなを守らなければならないという強い使命感。
肺に限界まで空気を入れ込む。
剣のイメージ。友達のモンスターは、お城の兵士は、そしてあの謎の剣士はどうやって振るっていたか。
移動のイメージ。獣系のモンスターたちは、どうやって敵に近付き、敵を攻撃していたか。
それを思うと、初めて持つ剣なのに、まるで自分の手足のように使えるような気がした。
茂みは移動の邪魔。沼地の淵、草が生えずぬかるんでもいない地形を選び、そこを走り抜ける。
「うりゃあああ!!!!」
雷鳴の剣の切っ先が向かう方向は前方左斜め前。
前かがみの姿勢を保ってサラマンダーに走り寄りながら、同時に両腕を左に振りかぶり、遠心力を生かして横薙ぎにはらう。
テリーの切り込みは気迫こそ凄まじく、だが子供故の非力さか、速度も威力も本職には大きくおとる。
そんな一撃ではあるが、得物は一国の国宝。
大きく孤を描いた軌跡は、空気を切り裂くかのように草々を切り払っていく。それによって勢いをそがれることはまるでない。
人体に当たれば、研ぎ澄まされた刀身がそれをやすやすと裂いてしまうのだろう。
それでも。
サラマンダーとテリーとでは戦いにたずさわってきた時間が絶対的に違う。
しかも、テリーの切りかかりは他人目でも殺害を第一目的としたものではないと分かる。
追い払えればそれでいい、守りきれればそれでいい、そのような甘っちょろいもの。
荒削りだが筋はいい、このまま鍛えれば剣豪と呼ばれる使い手にもなりうる。それでも、素人は素人。
サラマンダーにとって、テリーの一撃をかわすことは、あかんぼうの突進をかわすくらいに簡単なことに思えた。
全身を使った、居合いのような軌跡を描いて振り放たれる剣閃。
それに対するサラマンダーの対応は、人間一人分程度後ろに下がるだけ、というもの。
手を抜いているわけではない。
大振りの一撃は威力こそ高いが、行動後の隙も大きい。
そのような攻撃こそ、回避後即座に行動できるように、最小限の動きで対応すべきなのだ。
剣を振りぬき、テリーの体勢が崩れたところ、ここを狙ってまずは一撃を加えるのだ。
一撃といえど、身体能力が優れているわけではない子供がまともにくらえばそれで戦闘不能。
回避と同時に、サラマンダーは両腕に力を溜める。
テリーの剣が振りぬかれた。予想通りに体勢は崩れる。
だが、サラマンダーの一撃が放たれることはなかった。
拳を放つ、そのために力強い一歩を踏み込もうと意識を足に向けるサラマンダー。
そうしたところで、彼は太腿に大きな違和感を感じる。まるで電撃が流れたかのような痺れ。
見れば、かすめとられたかのように右腿の正面から外側への部分の肉が切り裂かれ、血がほんのわずかに漏れ出ていた。
連敗を重ねるうちに、勘も大きく鈍ってしまったのか、そんな忌々しい予感は胸のうちに押し込める。
すでにテリーは体勢を立て直している。考える間もなくやってくるであろう次の一撃に備える。
「うらああっっ!」
テリーはスタイルこそ変えないものの、先ほどよりさらにぐっと踏み込んで、先ほどよりさらに鋭い一閃を放ってくる。
同じ避け方では、足をやられると判断、心外ではあるが、より大きな回避行動をとる。
しかし今度は反対側の足の正面からとろっと血が流れ落ちていく。
テリーの着けている眼帯は、サラマンダーの見たことがないものといえど、何らかの効果があることくらいは予想できる。
目に付いているのだから、当然『見』に関係する能力だと予測はできる。
それにテリーが天賦の才を持ちあわせているのも理解している。
それでも、この体たらくは 腕がなまったということの あらわれではないか。
心の奥底へ押し込めたくなるような思いが、苛立ちと共にサラマンダーの表層へあらわれる。
テリーの猛攻は止まらない、すでにサラマンダーの体には細かい切り傷がいくつも作られている。
当然、スナイパーアイの補助は受け付けている。それでも、サラマンダーに明確な傷を付けられたのは、
モンスターマスターとして戦闘に関わってきたテリーの実力、そして天性の素質といっていい。
自身の剣の実力のなさを自己暗示とイメージで補い、戦闘における司令塔として培った経験を生かして相手の次の動きを読む。
それは偶然か、才能の開花か。とにもかくにも、テリーはサラマンダーにくらいついていた。
決してサラマンダーの実力が劣化しているわけではない。
手になじむ武器の存在、サラマンダーにとってのタイムリミットの存在、装飾品の効果。
これらの状況が相乗効果となり、テリーに味方するのだ。
当然、一撃は浅い。サラマンダーの肉体に与えたダメージは、一ケタといって差し支えないだろう。
だが、一撃当てれば自分の技術は上がる。一撃当てれば相手の精神力も削れる。
剣を振ることだけに精一杯だったテリーに、わずかに余裕が生まれる。
後ろの仲間を気にする余裕、相手の動きを見る余裕、そして剣の声に耳を傾ける余裕。
(いける、自分を信じるんだ)
まだこの剣の力はこんなもんじゃない。感じたままに、剣へと命じる。力を解放するようにと。
ふと、サラマンダーの脳裏に仲間の顔が浮かぶ。
別に頼りたいと考えたわけではなく、テリーがそちらを気にする素振りを見せたためだ。
エリアと一戦交えたときの光景ともまたリンクする。
ここでサラマンダーには一つの考えが浮かんでしまった。
裏稼業NO1だったころは、サラマンダーは仲間とは無縁の存在だった。
それでも己の強さにはかなりの自信を抱いていたが、ジタンらと行動してから、さらに実力がぐんぐん伸びていった。
それ以降はいつも心のどこかに仲間がいた。一人で戦ったときでさえ、そうだった。
数だけでは決してなく、多分に心力というものがプラスされていたはずなのだ。
では、迷いを取り去り、仲間と決別して、ジタンらと旅をしていたころの実力が出せるのか?
いや、ジタンらと出会う前の実力にリセットされるだけだ。
今の実力こそが、自分ひとりの実力。こんなはずではない、という幻想に振り回されてはいけないのだ。
同じ世界から来た者がすべて死に絶えた時点で、戻ることは物理的に不可能。
何年もの間実践し続けてきた、一人で生き残るための戦いを演じなければならない。
だが、それでいいではないか。もとより、それが本当の強さだと思っていたのだから。
左方向は毒の沼。右方向は深い茂み。
前方には敵が一人。その先には、無防備にねむりこけた男女が三人?
敵の左目には、青灰色の鉱物で縁取られた黒い眼帯。
両手でがっちりと握り締めているのは、魔力さえ感知できる業物の剣。
敵は手が休まったかわりに、剣をかかげて何かを念じているようだ。
これより、確実に何かが来る。魔力の流れは上方。
ことを起こす前に仕留められる可能性は低い。
一秒間に得られた、現在の状況。
肺にためていた空気をすべて入れ替え、新しい酸素を脳に回す。
考えるのは、これからどう動くかということ。
雷鳴の剣への命令が届いた。剣に込められた魔力が反応し、紫電の光の雨が無差別にテリーの前方へと降り注ぐ。
サラマンダーはすんでのところでそれをかわす。
特に集中して落ちた場所からは、ぶすぶすと黒い煙が立ち昇る。
直撃すれば死こそせずとも、戦闘不能は確実だろう。
威力は上々、そして範囲も文句なし。というより予想以上。
サラマンダーとて、ある程度の攻撃は予期はしていたとはいえ、さすがにこの範囲と威力は想定外。
一瞬だけ、ほんの一瞬だけテリーはその力に心奪われた。
テリーの気分が高まる。
テリーは動かず、ただ雷鳴の剣の効果を連発する。
(このまま逃げられてまた襲われてもいやだし、
だったらいっそここでやっつけて捕まえたほうが!)
いつしか浮かべていた不気味な笑みを絶やさず、サラマンダーは雷光をギリギリで回避する。
完全に防戦一方のサラマンダー、負けている演技をしているというわけでもない。
なのに剣で直接接近戦を挑まれたときよりも、その表情に余裕ができている。
だって、今テリーは一つの行動しか取っていないのだから。
「おい小僧、これはなんだと思う?」
戦いが始まって以降、ずっと無言だったサラマンダーからの、突然の問いかけ。
サラマンダーの手には、いつの間にか何かの粉末が入ったビンが握られていた。
テリーに薬の知識はない。だが、先ほど投げつけられた粉末が睡眠薬というのは分かる。
つまり、人体に有害な薬品だということは考えるまでもなく思いつくこと。
だが、何故それを問うのか。存在をバラすのか。答えはすぐに出た。テリーの後ろには動けない仲間がいる。
上半身を大きく捻るサラマンダー。踏み込み、遠心力、体のバネ、手首の力。これらを生かした投げが来る。
粉末の詰まったビンが、テリーの左目めがけて、豪速で迫り来る。
テリーの眼力では見えないほどの速度。でも、スナイパーアイを着けている左目には細部まで見えてしまう。
目を背けることもできず、避けることもできない。
使い勝手のいい必殺技を見つけてしまい、そればかり使ってしまったテリーに、
剣でそのビンを打ち払うなどという発想は湧かない。
「あっ!!」
かろうじてできたのは、ヒットした際に短い悲鳴をあげることだけだった。
結果だけなら、スナイパーアイのフレームにビンがぶつかっただけのことだ。それでも衝撃自体が相当なもの。
スナイパーアイは はじかれて毒の沼の中へ落ち、テリーもバランスを崩して後ろによろめく。
そこに、ビンの口から吹きこぼれ出てきた粉末が立ち込める。
慌てて息を止め、立ち込めるこの粉末を少しでも払おうと、その手をぶんぶん振るが、それでどうにかなるわけがない。
「即効性がないということは、やはり敵に使う類のものではなかったか」
なのにサラマンダーは何のためらいもなく、粉末の中を移動してくる。
それは当然、イクサスは目的からして、即効性のない攻撃薬など作るはずがないと理解しているからだ。
サラマンダーが、まるで大山のような圧倒的な存在感で、テリーの前にそびえたつ。
テリーにこれを越えるすべは、もう、ない。
敗因はただ一つ。
経験の差。
「う、うあああ!!」
テリーは慌ててもう一度雷を呼び起こそうと雷鳴の剣に念じるが、その前にサラマンダーが剣を持つ右手を強く握り締める。
「ああ あ ……」
血流を止められ、マヒした腕は脳からの命令を実行できず、あっさりと剣を手放してしまった。
そのままの流れで、もう片方の腕を使ってテリーの首根っこを掴み、持ち上げる。
「終わりだ」
短い宣告。
たった一手ですべての武器を奪われ、無力化され、気力も根こそぎ絶やされた。立場はもはや逆転した。
深い茂みの中から、鉄の刃が飛んでくるが、軽くかわす。
次に放たれた広範囲にわたる風の刃も、処刑を中断させるには及ばない。
一撃。
テリーは痛みすら感じない。意識すら飛ばない。
しかし、秘孔を突かれた。もう助からない。
ただ、死が目前に迫っているという確信めいたものだけが植えつけられた。
身の丈ほどもある大剣を持った男が茂みから飛び出してきたのはそのときだった。
サラマンダーはテリーをわしづかみにしたまま、案外器用にザックを剥ぎ取る。
そのままの流れで、ザックから鋼鉄の剣を取り出し、テリーに突きつける。
サラマンダーにとって、テリーは敵ではなく、もはや盾でしかなくなっていた。
「その子を放せ」
「ああ、俺の用が済めば放してやる」
サラマンダーはそういいながら、テリーの落とした雷鳴の剣を回収しようとする。
が、突然飛んできた黒いオーブが弾け、雷鳴の剣をガチガチに凍りつかせてしまった。
サラマンダーが忌々しげに眠っていたはずの三人の方向に目をやる。
「タイムリミットか!」
女性の目が明らかにこちらに向いていた。強力な武器だけは渡さないということだ。
この隙を逃すザックスではない。
一瞬でサラマンダーに迫りより、鋭い突きを繰り出す。
サラマンダーが熟練だからこそ分かるその威力。
テリーを盾にしたところで防げるものではない、だからこそ重荷となるテリーは手放すしかない。
この判断は早かった。大きく横に跳ぶ。元々、剣を回収すればテリーは離す予定だったのだ。
(なるほど、この男は強い。仲間も目覚めた。引き際か。だが緒戦としては上々だな)
成果は出た。
自分の意思で、自分の獲物を仕留める感覚。
放置し、錆び付かせていた感覚を再び取り戻す。
ザックスはテリーを後方に、サラマンダーに向かい剣を構える。
が、すでにサラマンダーの逃亡態勢は整っていた。
イクサスが残した最後の薬品を投げつける。
粉末が辺りに舞うが、先ほど投げつけたものと形状が同じことからも、即効性のあるものではないのは明らか。
それでもザックスたちは警戒して振り払わざるを得ない。
辺りが晴れたときには、サラマンダーはすでに茂みの中へ姿を消していた。
乱入してきた人間が敵か味方かは目を見れば分かる。
テリーはみんなの命を繋ぐことはできた、ということだ。
けれど、テリーの心には決して満足などという感情は湧かなかった。
未来も奪われ、持ち物も奪われ、テリーに残ったのはポケットに入った竜のうろこだけ。
テリーが生きているのは見た目だけだ。
実際には、もう死のカウントが始まっている。
サラマンダーのせめてもの情けだろうか。
苦しくはないし、痛くもない。眠いだけだ。
けれども世界の輪郭はぼやけ、色も薄れている。
耳もおかしい。助けに来てくれた人が何か言っているのに、聞こえない。
体の感覚も消えて、まるで体が宙に浮いているみたいだ。
うぬぼれていたわけじゃないけれど、みんなを守ることくらいできると思っていた。
この世界に来て守られてばっかりなのは、ちょっぴり悔しかった。
けれども、それで正しかったのだ。自分は守られる側、だったのだ。
友達や知っている人たちが目の前を通り過ぎていく。
みんなが一言ずつ、俺に言葉を残していく。
王様、モンスターじいさん、ピエロの二人、プリオ、テト兄ちゃん、サンチ、マチコ姉ちゃん、ルカ、イル、わるぼう。
スラぼう、ホイミン、ドランゴ、ゲレゲレ、ファング、まつかい、ゆきのふ、ヘルード、グレンザ、ゴルゴ。
牧場の仲間達が次々と通り過ぎていく。
(もうみんなと冒険できないんだ。そうかあ……)
近所の人たちや、魔女に連れてこられた世界で出会った人たち。
義父さん、義母さん、ミレーユ姉ちゃん…。そして、わたぼう。
泣いてる。姉ちゃんやわたぼうが泣きながらこっちに手を伸ばしてる。
手を伸ばそうとしても、体が動かない。死の世界に引き込まれる。
(…いやだ)
(いやだ! 死にたくない! 誰か助けて! 義父さん、義母さん、姉ちゃん!
連れて行かないで! まだ俺には…‥
【ザックス(HP3/8程度、左肩に矢傷、右足負傷)
所持品:バスターソード 風魔手裏剣(12) ドリル ラグナロク 官能小説一冊 厚底サンダル 種子島銃 デジタルカメラ
デジタルカメラ用予備電池×3 ミスリルアクス りゅうのうろこ
第一行動方針:?
第二行動方針:金髪の少女(タバサ)を始末
基本行動方針:同志を集める
最終行動方針:ゲームを潰す】
【ユウナ(ガンナー、MP1/3)(ティーダ依存症)
所持品:銀玉鉄砲(FF7)、やまびこの帽子、官能小説2冊、 対人レーダー
天空の鎧、ラミアの竪琴、血のついたお鍋、ライトブリンガー
第一行動方針:ザックスに対応、ティーダらをたたき起こす
第二行動方針:あわよくば邪魔なギードとアーヴァインをティーダに悟られないように葬る
基本行動方針:脱出の可能性を密かに潰し、ティーダを優勝させる】
【ティーダ(変装中@シーフもどき、睡眠)
所持品:フラタニティ 青銅の盾 首輪 ケフカのメモ 着替え用の服(数着) 自分の服 リノアのネックレス
第一行動方針:アーヴァインを追う
基本行動方針:仲間を探しつつ人助け/アルティミシアを倒す】
【ロザリー(睡眠)
所持品:守りのルビー、力のルビー、破壊の鏡、クラン・スピネル、E猫耳&しっぽアクセ ウィークメーカー
ルビスの剣 妖精の羽ペン 再研究メモ、研究メモ2(盗聴注意+アリーナ2の首輪について) 、ザンデのメモ、世界結界全集
第一行動方針:ピサロを追う
第二行動方針:脱出のための仲間を探す[ザンデのメモを理解できる人、ウィークメーカー(機械)を理解できる人]
最終行動方針:ゲームからの脱出】
※ザンデのメモには旅の扉の制御+干渉のための儀式及び操作が大体記してあります。
※雷鳴の剣は氷漬けになっています
【現在位置:デスキャッスル北西の茂み】
【サラマンダー(右肩・左大腿負傷、右上半身火傷、MP2/5)
所持品:チョコボの怒り 突撃ラッパ シャナクの巻物 樫の杖 鋼鉄の剣 包丁(FF4)
第一行動方針:ザックスたちから離れる
第二行動方針:スコールを探し、再戦し、倒す】
【現在位置:デスキャッスル北西の茂みから移動中】
【テリー(DQM) 死亡】
【残り 31人】
保守するぞッ
念の為ほす
捕手
ほしゆ
なかなか受からないのでまだ保守だけ
ほ
い
さ
↓
↓
ほ
い
み
ん
↓
ら
い
矢印厨多すぎw
↑
ヘンリーの傷は、思っていたよりは深かった。
そりゃあそうだ。子供の心臓を真っ直ぐ狙う射線の上に、身を晒したんだ。
もうちょっと屈んでいたら、タバサと同じ死因で即死してたかもしれない。
だけど、二人ともエリクサーを使おうとは言い出さなかった。
とどのつまり、命に別状が無い程度の重傷でしかなかったってことさ。
放っておいたら死ぬかもしれないけど、手当てをすれば余裕で助かる……
彼にとっては幸運なことに、あるいは残念なことに、『そんな程度』の。
「う…うう……」
良くわからない魔法の詠唱と、時折もれるうめき声。
それ以外は、静かだ。
静か過ぎて、口を挟む余地を与えてくれない。
けれど、何かを考えるには、最適だった。
スコールとターニア。
二人はどこへ行ってしまったのだろう?
それ以前に、あいつは本当にスコールだったのか…?
ティーダ。
結局、約束、破っちゃったな。
でも、仕方なかったんだ。
タバサには死んでもらう必要があった。
ゼルやリノアの復讐とかそういうことを差っ引いても、
絶対に、ぜーったいに、ここで死んでもらわなければならなかった。
理由は二つ。一つは、タバサ自身が危険だから。
災いの芽となる要素があるなら、被害が出る前に踏み潰すべき。
そういう考え、間違ってる?
いーや! 僕の方が正しいってことは、確定的に明らかじゃないか!
下らない情けや義理に縛られて死んだ人が何人いるのか、気づかないほど間抜けじゃないだろ?
それでもあんたは子供を殺せるほど冷酷じゃないし、それ以上に、僕みたいなゲス野郎にはなってほしくない。
汚れ仕事は、汚れた手の持ち主がやるべきだ。違うかい?
それに……利用する価値もないゴミがばら撒いた噂を塗りつぶす真実が、僕には必要なんだ。
どうせ、このガキも、僕と同じ人種。
人を利用するだけ利用して、自分の手を汚すことも厭わない、薄汚れた人殺しだよ。
そんな奴に、一つぐらい罪状が増えたって、誰も大して気にしないだろ。
『同じ森の中にいた殺人者のグループが、通りすがりの男を撃った』
こんなシナリオの方が、誰もが優しいと信じてる回復役の女性が裏切って殺した、よりも信憑性は高いだろ。
第一、実際に錯乱した小娘が、通りすがりの三人組に向こうから襲い掛かってきたんだ。
二度あることは三度ある。
そう言い張るには最高のシチュエーションで、大人しく見逃してやる意味なんて、ある?
さっさと返り討ちにして、言い訳できないように永遠に黙らせるのがベストだろ。
ジョーシキ的に考えて、さ。
さて、問題はこれからのことだ。
僕はヘンリーに目をやった。
相変わらず、意識は戻っていないようだ。
それでも顔色は着実に良くなっている。
魔法ってスゴイね。浮かんだ感想は、そんなもの。
いっそ手遅れってコトでくたばってくれれば、手間の一つが省けたもんだけど。
まあ、文句を言っても始まらない。
ピクピクと瞼が動いているのを確かめてから、僕は、自分の持っている銃に目を落とした。
「ねえ、リルム」
呼びかけたところで、彼女は振り向いてくれない。
相当怒ってるんだろう。仕方がないことだけど。
だから僕は、銃を地面に放り投げた。
「預かっててよ、これ」
「……」
リルムが黙って振り向いた。
その表情と目を直視するのが辛くて、僕は膝を抱えて俯いた。
「わかってるよ。ホントは、僕にあの子供を裁く資格なんてなかったってことは。
だから、預かってほしい」
重要なのは、リルムの信頼を取り戻すこと。
そのためなら銃を一時手放すぐらい、ワケもない。
本当に必要な時は、ザックを摩り替えるなり、盗むなり、最悪は実力行使すればいいのだし。
「わかってたんだ。だけど、あの子が従えてた緑ぷよに、ゼルやテリーの仲間が殺されたんだと思うと……
憎くて憎くて、仕方なかったんだ」
みどりぷよ…もとい、ピエール。
リルムだって、あいつのことは覚えているだろう。
なら、こう言えば、僕の行動を真っ向から誹ることは難しくなるはずだ。
"目には目を、歯には歯を" "血は血をもって贖う"
銀幕の中でも現実でも、さんざん使い古されてきた錦の御旗にして、単純明快なマーダーライセンス。
仇討ちって理由と行動を完全に否定できる人間なんて、そうそういない。
だけど――リルムは言った。
「…それでも、間違ってる!
本当に悪いのは、みんなをこんな目に合わせたケバケバおばさんでしょ!?」
ああ。
きっと、ティーダも、そう言うんだろうな。
「殺さなくたって…許す道だってあったはずだよ!」
的外れな意見と、思い描く結果にたどり着くまで何回もサイコロを振れると信じてる、子供の理屈。
"バ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッカじゃないの?"
他の奴らが言ったならそう吐き捨てるのに、何故か、心の奥にちくちくと突き刺さる。
それで、ちょっとだけ顔を上げた。
リルムの顔が、くしゃくしゃになっているのが見えた。
青い眼からぽろぽろと涙を流して、そのくせ、こちらをぎゅっと睨みつけていた。
止めてよ。
そんな目で、僕を、見ないでくれ。
「そこまでにしろ、小娘」
ピサロの声が聞こえたけど、そっちを向こうとは思わなかった。
あいつのことだ。どうせ、スコールみたいに、取り澄ました顔でもしているんだろう。
それに、タバサが危険だってことも、ヘンリーに抑えられるほど大人しいガキでもないってことも、わかってるはずだ。
ヘンリーを巻き込んだという一点を除いては――それにしたって殆ど不可抗力――僕の行動は間違ってない、ってことも。
僕はただ、うずくまったまま、ろくに動かない右腕を握り締めた。
ピサロもリルムもそれっきり口をつぐみ、奇妙な静寂が場を支配した。
セルフィ。君だったら、なんて言うんだい?
そんな疑問が頭の端を掠めたけど、すぐに、思い直す。
"誰にどんな目で見られようが、どーでもいいことだ"って。
"大事なのはそんなことじゃない"って。
「………」
僕は、膝と額に挟まれていた左腕を少しだけ上げる。
そうして出来上がった隙間から、ヘンリーの様子を伺い見る。
少し前まではうーんうーんって唸っていたけど、今はとっても静かだ。
リルムとピサロへのアピールタイムは終わった。
あとは、『ぷるぷる、僕は悪い奴じゃないよ、仲間を殺された恨みで衝動的に[ピーー]しちゃっただけだよ』
…と、そんなカンジでヘンリーに僕の行動を納得させて、情報を得るだけ。
今までどこにいたのか、どこかでアルガスを見かけてないか。
それを聞いておかないと、スコールを追うかアルガスを探すか決めようがない。
だから、さっさと起きて欲しいんだけどね。
いつまで死んだフリしてるんだろ、この人。
ああ、勘違いはしないでよ? 別に非難してるつもりはないから。
向こうにしたって、情報を得たいのは一緒だ。
起きてたら聞けない話でも、意識を失ってると思われていたりすると、案外簡単に聞けるもんね。
誰だってそーする。僕だってそーする。
だけど、だからこそ、さっさと起きてくれって話でさ。
チラチラ薄目開けたり、痛いのを我慢して黙ってたりするぐらいなら、
さっさと『うぃーっす、はよーっす』って言ってくれればいいのに……
「あっ! 気がついた!?」
不意に、リルムが弾んだ声を上げた。
数秒ほどしてから、「ああ……」と、少しばかり気まずそうな返事が響く。
首を動かしてみると、ヘンリーが複雑な表情を浮かべて身を起こしていた。
「タバサ…ちゃんは?」
「死んだ」
「…そうか」
わかりきったことでも、一々聞いて確かめたくなるのは、僅かな希望にすがりたい人間のサガなのか。
それとも、このオジサンがドMで、現実に打ちのめされてみたいだけなのか。
正直どっちでも、どぉ〜でもいい。
「ごめんなさい…」
僕はわざと肩を震わせながら、力なく呟いてみせた。
残念ながら、アルガスの行動を鑑みると、僕には恐怖で人を縛る才能がなかったみたいだ。
だから、善意で縛りつける。
武器を手放し両手を挙げて無力さをアピールし、懺悔を請うことで哀れみを誘う。
スコールやサイファーならあるいは逆上して殴られるかもしれないが、ヘンリーぐらいの歳になれば、そこまで血気盛んじゃないだろう。
「許せなかったんだ。
あの子のせいでみんなが死んだって思ったら、許せなかったんだ」
同じ事を何度も繰り返して、かつ、詳しいことは話さない。
そうやって軽くパニックになった人間のフリをして、あとは、周りのフォローに任せればいい。
「ヘンリー」
「………わかってる」
ピサロの呼びかけに、ヘンリーは小さく答えた。
何がわかってるんだか。
タバサは死ななきゃいけないってこと? それとも、僕が悪くないってこと?
後者だとしたら、何もわかってない。
ふう、と息をつきたくなるのを我慢して、僕はひたすら、泣いているフリをする。
「アーヴァイン」
ヘンリーがいきなり僕の名前を呼んだ。
声音に込められた感情は、――悲しみと、諦めと、それ以上に強い何か。
いっそ罵声でも飛んでくればいいのにと思いながら、僕は、言葉を待つ。
けれど、彼が告げたのは、予想だにしなかった事実だった。
「アーヴァイン……スコールがお前のこと、気にしてたぞ。
事情があって南の祠に残ってるけど、会ったら連れてきてくれって――」
その瞬間、反射的に顔を上げてしまった。
「はあ?!!!」
そう叫んだ後で、今の今まで泣きマネをしていたことを思い出し、慌てて眼をこすってみせる。
どこまで誤魔化せたかはわからないけど……驚いたのは、ピサロやリルムも同じだったようだ。
「南の祠……って、それ、ホントなの?」
「あ、ああ。色々やりたいことがあるから祠に残るって、あいつが言い出して」
リルムに詰め寄られ、ヘンリーはうろたえながら答える。
「じゃあさっき女の人と一緒にいた黒服にーちゃんは誰だっていうの?!
嘘つきはドロボーの始まりだよ、オジサン!」
「え? は? ちょ、ちょっと待ってくれ!
女の人と黒服にーちゃんって…うぐっ!」
リ、リルム……数分前まで気絶していた人間の肩を掴んでガシガシ揺さぶるのは人としてどうかと思います。
ああ、傷口でも開いたんだろーか、ヘンリーの顔色がみるみるうちに面白いコトに……
「…やはり、偽者か」
さすがに止めないとマズイと思ったのか、空気を読まないだけなのか。
ピサロが唐突に口を開いた。
「え?」
リルムもさすがに手を止めて、彼の方を見やる。
「離れた場所に同一人物が二人いるなど有りえん。
少なくとも片方は偽者だ。そして」
「…ターニアちゃんと一緒にいた方は本物じゃないってこと?」
僕は、さっき見たスコールの姿を思い返す。
額の傷、黒い服とアクセサリー。いつもと同じ、見慣れた姿。
でも、一つだけ違うことがあった。
黒い靄だ。
翼を広げた怪物のようにわだかまる黒い靄が、あいつの周りを覆っていた。
それが何を意味するのか、あの時は、はっきりとはわからなかったけど……
「我々が見た男は変化の杖を携えていた。
それにアーヴァイン。貴様も怪しいと感じていたから、カードとやらを持ち出したのだろう?」
僕は頷いた。
「本物のはんちょーはカードコレクターだし、僕がゲームやらないってこと知ってるし……
ゲームの誘いに乗ったり、カードデッキを受け取らないようなら、偽者だって言い切れたんだけど」
「なるほどな」
ピサロは、『何がなんだかわからない』って顔のリルムと、『とりあえず痛い』って顔のヘンリーを交互に見やりながら、顎に手を当てる。
「ヘンリー。その南の祠とやらまでの道のりで、誰かに出くわしたか?」
「い、いいや。タバサちゃんとお前らだけだ」
「金髪で、兵士姿の人間の男などは? 見かけなかったか?」
「さあ……見てないな。お前らの知り合いか?」
ヘンリーは首を振りながら答えた。
……なーるほどね。
どうやらピサロは、ターニアを探しに行きたいみたいだ。
長い間一緒に過ごした相手だし、さすがに心配なんだろう。
それとも、アルガスが言ってた『ピサロがターニアのお兄さんを殺した』って話が関係してるのかもしれない。
スコールに会うだけだったら、ヘンリーとリルムがいれば問題なさそうだけど……
アルガスが一緒にいるとしたら、僕の代わりに手を下すピサロの存在は必須。
そしてピサロにしても、カインと手を組んでいる上、自分に不利な噂をばら撒くアルガスを見逃す気にはなれないはずだ。
だからこそ、ヘンリーに確認してみたんだろう。
「……」
「そんな睨まれたって、会ってないもんは会ってねえよ。
それにGFはスコールに渡してきたんだ、いまさら物忘れなんかするか」
ヘンリーは左手で額に滲む汗を拭いながら、呆れたように右手を振る。
その仕草や表情からは、嘘かホントか判断できない。
「ホントに知らない? ラムザっていうんだけど」
カマをかけるつもりで言ってみる。
これで『アルガスじゃねーの?』とか『そいつは"本当に"知らない』とか言ってくれれば良かったんだけど…
「だから俺は知らないって」
ヘンリーの答えはそれだけだった。
――それで、結局どうなったかって言うと…
「……はぁ」
妙に暗い空の下、僕は盛大にため息をついた。
「そんなに気に病むな。
お前が悪いわけじゃないってことは、わかってる。
仕方なかったんだ……なにもかも」
ピサロから渡された変な指輪を嵌めた途端、みょ〜に元気になったヘンリーが、何を勘違いしたのか、慰めの言葉を送る。
違うから。
僕の気分が沈んでるのは、ピサロっていう最強の手駒を失ってしまったから。
おまけにピサロが何を考えたのか、僕の銃を借りたいとか言って、幾つかの道具と一緒に持って行ってしまったせいだから。
――うわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!
僕のパーフェクト☆プランが物凄い勢いで台無しじゃんか、バカーーー!!
これでアルガスが南の祠にいたらヘンリー潰す! 真っ先に潰す!
ほら、嘘ついたらサボテンダーごと針千本飲ませていいってママ先生も言ってたし!
手元にでっかい針が60本ほどあるから、こいつを丸呑みしてもらうもんねーだ!
あーあ。
……スコール。
南の祠にいるっていうあいつは、今度こそ本物なんだろうか。
そして、いつかみたいに、僕の迷いを晴らしてくれるのだろうか。
できることなら、セルフィも、ティーダも、どちらも裏切らないで済む答えが欲しい。
ああ、でも、もしそれができないなら――
壊すしかないよね。仲間でも、友達でも、さ。
【ヘンリー (重傷から回復、リジェネ状態)
所持品:アラームピアス(対人) リフレクトリング バリアントナイフ 銀のフォーク
キラーボウ、グレートソード、デスペナルティ、ナイフ 命のリング(E)
第一行動方針:アーヴァインを連れて祠へ戻る
基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】
【アーヴァイン(変装中@白魔もどき、右腕骨折、右耳失聴、冷静状態、軽傷)
所持品:竜騎士の靴 手帳 首輪 弓 木の矢40本 聖なる矢20本 ふきとばしの杖[0]
第一行動方針:スコールに会い、行動方針を再考する。それまで脱出の可能性を潰さない
第二行動方針:アルガスの口を塞ぐ、場合によってはヘンリーに仕返しする
最終行動方針:生還してセルフィに会う
備考:理性の種を服用したことで、記憶が戻っています】
【リルム(HP1/3、右目失明、魔力消費)
所持品:絵筆、不思議なタンバリン、エリクサー、攻略本(落丁あり) 首輪×2 研究メモ
レーザーウエポン グリンガムの鞭、暗闇の弓矢 ブラスターガン 毒針弾 ブロンズナイフ
第一行動方針:ヘンリー達と同行する
第二行動方針:仲間と合流
最終行動方針:ゲームの破壊】
【現在地:南東の祠・北の茂み→祠へ移動】
【ピサロ(軽傷、魔力消費)
所持品:エクスカリパー スプラッシャー コルトガバメント(予備弾倉×3)、祈りの指輪 黒マテリア
第一行動方針:ターニアを探して保護する
第二行動方針:可能ならロザリーを救出する/カイン、アルガスを始末する
第三行動方針:ケフカへの復讐】
【現在地:南東の祠・北の茂み→移動】
ほ
保管庫の更新が無いが、いつもこんなものなのか?
保管庫はアク禁になったときに使うもんだよ
まとめサイトのことならいつもこんなもん
まとめサイトは突然一気に更新されるよな
こいつザンデ↓
保守する
ほ
保守ー!
419 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/06/12(金) 16:24:21 ID:XqqBWkxn0
あげ
420 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/06/13(土) 17:27:08 ID:SY+ti8dOO
↓
| ( \/ /_ <./| /| /\___
└―― ヽ/ /Д`/⌒ヽ / .| / / / //
/ /\/ ,ヘ i  ̄ > \_/ /____//
し' \_/ i />  ̄ ̄ ̄ ̄
i⌒ヽ ./  ̄>__ .|| |:: 矢印だ!危ない!!
/⌒ヽ i i \( .|/ / /\ .|| |::
i | /ヽ ヽ __/  ̄ .|| |::
ヽ ヽ| |、 \_ノ > <> || |::
\| )  ̄ ./V ___ ..|| |::
____ .ノ ./⌒) / ...____[__||__]___||___
/ し'.ヽ ( . /\________|__|
// し' / /\  ̄::::::::::::::::::::::::::::
↑
423 :
自治スレにてローカルルール変更審議中:2009/06/22(月) 22:13:03 ID:GbRl2PnGO
ぬ
↓
425 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/06/30(火) 22:44:01 ID:3Db5bNkvO
|
| ≡ ∧_∧
|≡ (・∀・ ) ひゃっ!
| ≡ / つ_つ
|≡ 人 Y
| ≡し'ー(_)
↓
426 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/07/04(土) 21:31:54 ID:7k6UW7fiO
き
↑
DQ9対策保守
DQ9スレ乱立中
ほしゅ
保守
保守
sage
うわあ最後の投下が二ヶ月前だ。
『セフィロスがここにいる』
その言葉に秘められた絶望の重さが如何ほどか、私には量ることはできない。
不幸にして、あるいは幸いにして、私はその人物に出会ったことがないのだから。
ただ、眼前に立つ青年達の焦りと、隣に立つ賢者の表情を以って、察するだけだ。
「最低でもリルムと合流して、彼女の安全を確保したいんです!
『バリアの先の隠し部屋』に心当たりがあるならば教えてくださいッ!」
焦りを隠そうともせず、ラムザが捲くし立てる。
本来の姿であれば少女の居場所など容易く探し出せるのだが、今の私ではそうはいかない。
あるいは地上の建築物であれば、構造を思い出すこともできたが……
闇に覆われたこの世界は魔王の領域であり、天空の王座から視認できる場所ではなかった。
「そう言われても、我々はこの部屋の外は探索しておりませんからね……
リルムさんが特別な魔力を秘めたアイテムを持っているならば、話は別なのですが」
「特別な? ――そういえば、黒のマテリアを持っています!
サロニアの遺産と呼ばれたあのアイテムなら、きっと、相応の魔力が込められているはずッ!」
……マテリア? アレは確か、異界の生命と知識の結晶とやらではなかったか?
「まあ……やってみなければわかりませんし、試してみるとしましょうか。
ちなみに、どの時点まで、リルムさんと一緒に居ました?」
「城門のところまでは」
「では、そこから調べてみるとしましょう。
皆さんは一先ずここに留まって、もしもの時に備えてください。
逃げるところを襲われるよりは、万全の状態で戦いを挑む方が生き残れるでしょうから」
私はそう言って、部屋を出て行こうとした。
その時だ――銀の輝きが視界に移ったのは。
「ちょ、ちょっと待てよオッサン!
まさか一人で行くつもりか?!」
呼び止めたロックに、私は向き直り、笑顔を作りながら答えた。
「私一人が欠けたところで戦力的な問題はないでしょう。
むしろ、私の護衛のために戦力を割いて、各個撃破される方が危険です」
「いや、だけど……」
「なあに、いざとなったら逃げるから大丈夫ですよ。
これでも体力と逃げ足には自信があるんです」
どん、と胸を叩いてみたが、それでもロックは何か言いたげな表情で私を見やる。
しかし、彼よりも先に、ラムザが口を開いた。
「申し訳ありませんが、お願いします」
「ラムザ!」
「ロックさんの言いたいことはわかります。
けれど、この人の言うとおり、戦力を消耗する可能性は減らした方がいい」
「……」
納得がいかないといった様子で押し黙るロック。
弱い者を守ろうとする意思は立派だが、状況を判断する冷静さも、生き延びるためには必要だ。
「はっはっは、これぐらいしか役立てることなどありませんからね。
気になさらないでください。
あ、半刻経っても戻らなかったら、死んだと考えて下さって結構ですので」
私はそういい残して、今度こそ部屋を後にした。
魔王ピサロの居城、デスキャッスル。
天空の城にいた時も、人に紛れて下界で暮らしていた時も、ここに足を踏み入れる時が訪れるなど考えもしなかった。
ましてや一人で中を歩くなど、天空人達が聞いたら間違いなく腰を抜かすことだろう。
薄暗い城内に、コツン、コツンと足音が響く。
光を吸い込む素材で作られた廊下は、邪悪な気配に満ち、息苦しささえ感じる。
どうせなら、エルフの娘が好む内装に変えてしまえば良かったのに。
そんな無責任な感想を抱きながら、私は適当な所で足を止めた。
「さて……この辺りがいいですかね」
ここならば、誰の声も届かないだろう。
そして誰にも、私達の声を聞かれないだろう。
「セフィロスさんと仰いましたか。
そろそろ、姿を拝見させていただきたいのですが」
空気が張り詰める。
数秒の間を置いて、柱の影から押し殺した笑い声が響いた。
「……いつから気がついていた?」
足音どころか衣擦れの音すら立てず、銀髪の青年が姿を現す。
気配は見事なまでにこの城の空気に紛れ、歴戦を経た戦士の感覚すら欺ききることだろう。
『ほぼ』完璧な陰行術だ。
魔石を通じてロックを監視している時と、部屋を出る時に、長い髪の端をほんのわずか覗かせてしまわなければ。
「部屋を出る直前、ですかね。
しかし、私の後を追ってくるとは少々意外でしたよ。
てっきり、貴方はあちらの様子を伺うものとばかり思っておりましたので」
「仲間を囮にして逃げるつもりだったならば、賢い選択だと言いたいが――
少々、当てが外れたな」
抜き身の剣を手にしたまま、セフィロスは口の端をゆがめる。
ぼんやりと光る緑色の目と猫のような瞳が、彼の素性と、胸中に眠る邪悪な夢を雄弁に語っていた。
なるほど――中々に危険な男だ。
「逃げるというのは不正確ですね。
時間を稼いでもらっている間にこの城の主を呼びに行くつもりでいましたので。
偽りとはいえ、懐かしき我が家を無断で壊されては、ピサロ卿もさぞ不愉快になるでしょうしね」
「クックック……あの生意気な小娘は連れてこなくていいのか?」
「貴方の捜し求める黒マテリアと一緒に、ですか?」
私の言葉に、セフィロスはわずかに目を細める。
その表情、そしてわずかな殺気と無言は、肯定の表れと受け取って良さそうだ。
「私を追ってきたので、その可能性があると思い、言ってみただけなのですが……
大当たりのようですね。
ついでに、もう一つの目的も当ててみましょうか」
いつの時代でも、駆け引きというものは変わらない。
相手の行動から狙いを読み、その上で虚実を織り交ぜ翻弄し、
己が舞台に引きずり上げ、主導権を握った者が勝利するのだ。
そして――
「進化の秘法。――どうです?」
指を突きつけながら放った言葉に、セフィロスは静かに目を伏せる。
「……正解、と言っていいのだろうな」
彼は乗った。私の創り上げた舞台に。
「ラムザさんに戦いを仕掛けなかった理由が気になりましてね。
怪我をしているようにも見えませんから、この城での情報収集を優先したかったのかと。
そして、この城にあってもおかしくない書物で、貴方の目を引きそうなものとなると――
進化の秘法しか思いつきませんでした」
警戒心を崩すため、少しばかり大げさに身振りしながら、推論を披露する。
わざと隙を見せることも忘れてはならない。
『いつでも殺せる、故に、話を聞くことが先決』と思わせることが重要なのだ。
こうしてやれば、彼は――
「月並みな台詞で悪いが……命が惜しければ、秘法とやらについて教えるのだな」
剣を構え、喉元に狙いを定め、脅迫という手段で情報を聞き出そうとするだろう。
全て、思い描いた通りに。
だから私は、あえて作り笑いを消し去り、真っ直ぐにセフィロスを見つめた。
「教えずとも、既に貴方は見たのではないのですか?
闇の力に飲み込まれたまま死の淵に堕ちることで、不完全ながら進化を遂げた存在を」
闇による進化。その言葉で私の脳裏に浮かぶのはアーヴァイン一人。
しかし、傷つき倒れていった者達の中で、あるいは今生きている残り三十余名の中で、
闇に触れ、進化の兆しを見せたものがたった一人だけだとは考えにくい。
それに、闇を目視できる程度の進化しか知らぬのであれば、そこに力の可能性を見出しはしまい。
断言する。この男は、どこかで見たのだ。
アーヴァインとは比べ物にならないほど闇に侵された、限りなく完成形に近いイレギュラーを。
「過酷な環境に適応し、子孫を残すために、あらゆる生命が秘める力。
最終的には消滅に向かう物理法則の中で、ただ一つ、生という希望に向かう光。
それが本来の"進化の力"であり、進化の秘法もまた、元は命の可能性を引き出すための技術に過ぎませんでした」
己で用いたことはなくとも、理論ぐらいは知っている。
対抗策を編み出すには、対象となる術の知識が必要となるからだ。
退化の秘法というものは、ついに完成しなかったが。
「しかし……絶望、憎悪、畏怖、そのような暗き感情から生まれ、世界の理を否定し全ての有様を歪める――
"闇の力"を己が魂に取り込み、その上で内なる"生に向かう光"を完全に目覚めさせることができたなら、
それは不滅の生命を持ち、神をも超える存在に"進化"するのではないか。
そう考えた者が、進化の秘法を恐るべき邪法へと発展させたのです」
嘘で誤魔化す必要もない。
夢と欲望は、表裏一体。
勇者に道筋を示し、希望に満ちた未来へと導くことも、
邪悪な夢を煽り立てて手駒のごとく操ることも、本質は同じだ。
飾る言葉の違い、ただそれだけのこと。
「特別な術を施さずとも歪んだ進化を遂げる者が出るほどに、闇の力に満ちた世界。
そして、かつて魔王が進化の秘法を用いた大地を元にした、この世界。
進化の秘法を行うならば、これほどにうってつけの場所はありません。
――しかし」
私は言葉を切り、翠緑の目を真っ直ぐに見据えた。
「残念ながら、貴方の心は強すぎる。
今のままでは、進化の秘法の恩恵に与ることはできますまい」
時には希望をちらつかせ、時には絶望を垣間見せ、歩む道を狭めていく。
もちろん、選ぶのも、歩むのも、彼自信の意思。
しかし道を定めるのが私であるなら、行く末を決めるのはすなわち私の意志だ。
「ほう、どういう意味だ?」
「道具に頼らず、闇の力を取り込めるのは、心の弱い存在だけなのですよ。
闇は、心の隙間や欠落に入り込み、そこから同化していきます。
そのものが正義か邪悪かは問いません。隙があるかどうか、ただそれだけなのです」
私の言葉に、セフィロスは無表情のまま、『やはりな』と呟いた。
遥かに少ない情報しか持ち得ておらぬのに、そのことに気づいていたというのだろうか。
なるほど、ラムザやギードが恐れるだけのことはある。
果たしてこの城の主とどちらが賢しいのだろうか――そんな下らない疑問が脳裏をよぎった時だ。
セフィロスが一歩間合いを詰め、私の鼻先に得物の切っ先を突きつけたのは。
「残念だが……みすみす力を逃すほど、私は諦めのいい性格ではない。
ましてや『神を超える』などと聞かされれば、何としてでも欲しくなる」
「血気盛んなのですねえ」
ため息と、喉元まで出掛かった言葉を飲み込む。
力を手にして何を為す?
下らぬ夢を見るのは、魔王も人も同じか。
「……私の知る限り、己が心を弱める手段は一つ。
夢の貴方を分離するしかありません」
「夢?」
「人は誰でも、"夢に生きる自分"を持っています。
それを分離されれば、残された肉体は、弱い意志と自我しか持ち得ない――文字通り、夢の抜け殻となる。
その状態ならば、貴方の望む進化も遂げられることでしょう。
……なに、肉体を進化させた後、夢を呼び戻せば、精神は元に戻ります」
ここまでは真実だ。
偽りを混ぜるのは、この先。
「最も、今の私には、夢と現実を分かつだけの力はありません。
"カズスで青い飛竜に奪われた"、竜の紋章が刻まれた黄金のオーブ。
それさえあれば、貴方の望みを叶えて差し上げることもできますがね」
ドラゴンオーブは、間違いなくこの世界に存在する。
しかし、存在を確信している理由を言葉で説明することはできない。
『私が神でオーブが神の力だから何となくわかる』など、天空人相手でも戯言に取られる。
『持っていたが奪われた』、そういうことにした方が、話が早い。
それに、魔女の魔力に取り付かれ、下僕と成り果てた竜を、いつまでも放ってはおけぬ。
敵同士、喰らいあって潰しあえば重畳。
この男がドラゴンオーブを手にして舞い戻ってくるならば、それはそれで――
「――そこまで話す、貴様の目的はなんだ?
小娘や、仲間とやらの命を乞うためか?」
……確かに、それもある。
特にギードとクリムトがいなくなれば、首輪の解析は限りなく不可能に近づくだろう。
だが、それだけではない。
「私の最終的な目的は二つあります。
一つは幼き私を育ててくれた魔女のために、彼女が愛した大地を守ること。
そしてもう一つは……"魔女"の称号を汚した愚かな人間を滅ぼすこと。
その夢を達成できるならば、手段など問いませんよ」
私怨に走ることが許されぬ立場であることは百も承知だ。
しかし、それでも、アルティミシアの存在は許すことが出来ぬ。
世界の在り様を歪め、運命を歪め、私の知る"魔女"と"勇者"の命を絶った人間を捨て置くことなど出来るはずがない。
あの女を滅ぼせるならば、私は魔王とも手を組んでみせよう。
「貴方の星と、私の世界は、本来であれば交わることのない位置に存在している。
あの忌まわしき魔女さえ滅びれば、私の夢は叶うのです。
貴方の星が滅びようが、そちらに住む人間が死に絶えようが、それは私の知ったことではありません」
私の言葉に、セフィロスは目を伏せた。
微動だにしなかった切っ先が、ゆっくりと下がっていく。
「フン……私が貴様の言うなりになって、魔女を倒すと思うか?」
「魔女に仕えることを選ぶ傀儡ならば、最初から力など求めないでしょうよ」
肩を竦めて見せながらそう答えると、彼は、「確かにな」と己を嘲笑うかのように言った。
「良かろう。貴様の誘い、乗ってやる」
「……信じてくれたのはありがたいですが、途中で裏切るとは考えないのですか?」
「その時は貴様の首を貰い受けるまでだ」
私の問いに、セフィロスは漆黒の衣装を翻しながらそう答えた。
自らに対する絶対的な自信と、傲慢と謗られるべき態度を正当なものとする実力。
揺るぎなき心に抱きし邪悪な夢さえなければ、まさしく英雄と呼ぶに相応しい男だ。
・・・・・・・
そう、『夢さえなければ』――
剣士は音も無く闇に溶けて行く。
その後姿を見送ってから、私は小さく息を吐いた。
上手いこと、ドラゴンオーブに関心を向けることができたといえ、黒マテリアとやらへの執着は失っていないようだ。
『多少の犠牲』は厭わないが、『余計な犠牲』を出すことは私の本意ではない。
ここの城主が傍にいるなら心配はないが、そうでないというなら、早めにリルムを保護してやらねばな。
【セフィロス
所持品:村正 ふういんマテリア いかづちの杖 奇跡の剣 いばらの冠 プレデターエッジ
第一行動方針:ドラゴンオーブを探し、進化の秘法を使って力を手に入れる
第二行動方針:黒マテリアを探す
最終行動方針:生き残り力を得る】
【現在位置:デスキャッスル1F→移動】
【プサン(左肩銃創) 所持品:錬金釜、隼の剣
第一行動方針:リルムを探す
第二行動方針:アーヴァインが心配/首輪の研究
基本行動方針:仲間を探しつつ人助け】
【現在位置:デスキャッスル1F】
【ギード(HP2/5、残MP1/3ほど)
所持品:首輪
第一行動方針:セフィロスの対策を練る
第二行動方針:首輪の研究
第三行動方針:アーヴァインが心配/ルカと合流】
【クリムト(失明、HP2/5、MP2/5) 所持品:なし
第一行動方針:???
第二行動方針:首輪の研究
基本行動方針:誰も殺さない
最終行動方針:出来る限り多くの者を脱出させる】
【ロック (左足負傷、MP2/3)
所持品:キューソネコカミ クリスタルソード 魔石バハムート 皆伝の証、かわのたて
魔封じの杖、死者の指輪、ひきよせの杖[0]、レッドキャップ、ファイアビュート、2000ギル
デスキャッスルの見取り図
第一行動方針:セフィロスの対策を練る
第二行動方針:ギード達の研究の御衛
第三行動方針:ピサロ達、リルム達と合流する/ケフカとザンデ(+ピサロ)を警戒
基本行動方針:生き抜いて、このゲームの目的を知る】
【ラムザ(ナイト、アビリティ:ジャンプ・飛行移動)(HP3/4、MP3/5、精神的・体力的に疲労)
所持品:アダマンアーマー、ブレイブブレイド テリーの帽子 英雄の盾 エリクサー×1
第一行動方針:リルムを見つけ、セフィロスから逃れる
第二行動方針:アーヴァイン、ユウナのことが本当なら対処する
最終行動方針:ゲームから抜ける、もしくは壊す】
【現在位置:デスキャッスル2Fの一室】
ほしゅ
『ヘンリーが、一人で?』
花弁の向こうから響く声には、当然のように戸惑いの色がにじむ。
「しょうがねえだろ? あの状況で止められるかよ」
サイファーは細い茎を握り締め、遠くに居る――彼にしてみれば目前にいる――相手に聞こえるように、舌を打った。
『……あんたがそう判断したなら、仕方ないんだろうな。
で? ターゲットは見つかったのか?』
「間抜けなことを聞くんじゃねえよ!」
見つかっていたらとっくに連絡している。
そう言い放ってから、サイファーはひそひ草をコートの内側に仕舞う。
僕はため息をつき、ヘンリーと、スコールの無事を祈りながら、周囲をぐるりと見回した。
「どこにも居ませんね」
「どうせ、最初ッから追ってなんかいなかったんだろ?
そうじゃなけりゃ、どっかですれ違ったか、だ」
破邪の紋章を刻んだ刀身が、持ち主の身長すら凌駕するほどに伸びた草達を薙ぐ。
限りなく茂みに近い草むらは、かつても仲間との連携を阻み、魔物の襲撃を助けていた。
この領域の主と同じだ。――人間にはやさしくない。
「後者でないことを祈りましょう」
僕はそう呟いて、行く手を阻む草を押しのけた。
……どれほど歩いただろう。
急に、視界が開ける。
群生する草が途切れ、平野に出たのだ。
南を向けば、茫洋とかすみ、豆粒のように小さく見えるものの、架け橋の名を関した塔が聳え立っている。
反対側を見やれば、天に仇名す剣のごとき山と、塔と同様ミニチュアサイズの城影がある。
「あれが例の――ロザリーの彼氏の持ち家か?」
サイファーが呟いた。
意味合いは間違っていないが、正直、その表現はどうかと思う。
「デスキャッスル。魔王ピサロの居城にして、魔族の本拠地です。
さすがに魔物は居ないでしょうが……この城自体が、人を拒む造りになっています」
「回りくどい言い方なんざしなくていい。
要するに、罠だらけってことだろ?」
サイファーは自信たっぷりに笑いながら、大げさに両手を広げる。
「魔王と裏切り者を捕らえに、罠に飛び込む若き勇者二人……
映画だったらクライマックスのシーンだぜ」
くるくると剣を回しながらポーズを決めるという道化じみた所作。
しかし、彼の顔に浮かぶ不敵な笑みと、双眸に宿る光が、滑稽さというものを完全に打ち消していた。
(勇者二人……かあ)
勇敢なる者、という意味でならば、サイファーもまた確かに勇者と呼べるのだろう。
一瞬、自分の装備を身につけたサイファーを想像してしまったのは内緒だけれど。
「…何、にやついてんだ?」
「あ、い、いや、何でもないです」
目が合った。
僕は慌てて首を振り――それから、ふと、それに気づく。
どこからともなく聞こえる、ぼそぼそとした声。
「あの、サイファー、ひそひ草は?」
「あ? もちろん、ここに仕舞って……」
そう言いながら、彼はコートの内側に手を伸ばし――
花弁が僕の視界に現れた途端、聞こえるはずのない声が響いた。
『ソロ! サイファー! 無事か!?』
「ヘ……ヘンリー?!!」
珍しく、サイファーが狼狽する。
そりゃあそうだ。タバサを追っていったヘンリーさんが、なんで、ひそひ草の片割れを持っているのだ?
混乱する僕らを他所に、草はかすかな物音を伝え、そして、
『落ち着け、三人とも』
スコールの冷静な声が、ため息混じりに響いた。
―――
「……つまり、こういうことですか?
僕らはピサロ達と行き違いになり、タバサちゃんの説得は失敗し、
君の偽者がターニアと一緒にいて、ピサロがそれを追いかけて、
それでヘンリーさんとアーヴァインと、リルムちゃんって子が、祠に戻ってきたと」
『そうらしい。……正直、俺にも把握しきれていないがな』
額を押さえながら言った僕の言葉に、呆れ交じりの返事がかけられる。
ちらと隣を見てみれば、サイファーは不機嫌極まりない様子で、左足のつま先をとんとんと地面に打ち付けていた。
「無駄骨になってしまったわけですね。
せっかくデスキャッスルの近くまで辿り着いたのに……」
さすがに、ため息が止まらない。
しかし『そんなことはない』と、スコールが言った。
「いや、無理に慰めてくれなくてもいいですよ。
すれ違ったことに気づかなかった僕らのミスですから」
『そうじゃない。
あんた達には、そこからさらに西に移動してもらいたい』
「え?」
当惑する僕に、スコールの声はあくまでも冷静に告げる。
『ティーダとユウナ、それにロザリーと…テリーだったか。
アルガスの話じゃあ、その四人が、デスキャッスルから西に向かったらしい。
帰還する前に、そいつらの保護を頼みたい』
「ロザリーが!?」
エルフの少女の名前に、サイファーは僕の手からひそひ草をひったくる。
「おい、その話、マジなのか?」
『リルムがとんでもない手段で脅してくれた上で聞いた話だ。
信用していいと思う』
「なんだ? そのとんでもない手段ってのは」
『アルガスの似顔絵を書いてみせた上で、本当の事を喋らないとアーヴァインの似顔絵を描くってな。
……全く、子供ってのは大人以上に残酷だ』
「似顔絵だぁ?」
何を言っているのかわからない、といった様子で、サイファーは頭を横に振る。
「元からクソ生意気でいけすかねえ上、子供の絵を見てブルっちまうようなチキン野郎、
そいつの言うことを信じてさらに西に行けってのか?!
余計な無駄足を踏まされるだけじゃねえのか?」
『その四人組がいなくても、他に保護すべき相手がいるかもしれないだろ。
エリアとか、……な』
「ハッ! 自分から殺人鬼についてった女なんか保護してどうすんだ」
サイファーは肩を竦め、それから僕を見た。
青い瞳は、どうする? と問いかけていた。
「……行ってみましょう。
リュックのためにも、ピサロのためにも、そして僕らのためにも」
ヘンリーと別れた。
その判断が正しかったのかどうかは、多分、放送まで待たねばならないのだろう。
少なくとも俺はそう思ったし、たまたまこちらの様子を伺いに来ていたバッツも、
「早まった真似にならなきゃいいけどな」
と、零したほどだ。
しかし現実は、俺達の予想を簡単に嘲笑ってくれた。
「おーい、スコール! 戻ったぜー!」
まるでどこぞの大統領のように軽い声が、上階から響いた。
俺とバッツは当然のように顔を見合わせ、同じタイミングで同じ言葉を口にした。
「「なあ……今の声、ヘンリーだよな?」」
しばしの沈黙。
俺の物真似でもしてるのか、と言いたくなるのを堪えながら、代わりに指示を出す。
「……バッツ。悪いが、確認してきてくれ」
だだだだ、と硬い石畳を蹴って、走り去っていくバッツの後姿を見やりながら、俺は額に手を当てた。
タバサという少女を追ったというヘンリーが、何故、こちらに戻ってきたのか。
考えられる理由は三つ。
その少女を保護することに成功したか、帰還は可能だが再合流することは出来ない程度の怪我を負ったか。
あるいは――少女とは別の、保護対象を見つけたか、だ。
そして最後の可能性であるとすれば、その、保護対象は……
「うわ! ホントに居たぁ!」
甲高い声が俺の思考を遮る。
面を上げてみれば、絵描きのようなベレー帽をかぶった金髪の少女が、目をまんまるくして立っていた。
その後ろには、苦笑というにはぎこちない笑みを浮かべたヘンリーとバッツがいる。
「キモチわるーい。分裂してるみたい」
初対面のはずの少女は、真っ直ぐ俺を見つめたまま、好き勝手なことを言っている。
きもちわるい、だと? ……一体俺が何をした?
分裂ってなんだ? 単細胞とでもいいたいのか? ところで誰が単細胞だ。
こちらの釈然としない表情に気づいたのか、ヘンリーが口を開く。
「なんか、この子、お前の偽者を見かけたらしいんだ。
ターニアと一緒に居たらしい、ってんだが」
「らしいじゃなくて、居たの!
モヤシだってピサロだって見たって言ってるでしょ?
ジャクネンセーチホーショーなんじゃないの?」
ずいぶんとまあ、口の減らない子供だ。
そういえば誰かに、そんな奴の話を聞いたような気が……
「……リルム?」
そうだ、そんな名前だったな、と俺が思い出すより早く。
少女は声の主に気づき、そして、弾丸のように飛びついた。
「マッシュ! マッシュ!!」
満面の笑みは、しかし、すぐに陰り、泣き顔へと変わる。
強がりが剥がれ落ちて、本当の心が出てきてしまったのか。
それとも、マッシュの右腕に気づいたのか。
あるいは両方ともが理由なのか――俺にはわからない。
「良かった、無事で……本当に良かった」
マッシュはそういって、左手で少女の髪の毛をくしゃくしゃとなでた。
「なあ、今まで誰と一緒にいたんだ?」
その問いに、少女は両手で目を擦りながら、答える。
「んとね、最初はロランってにーちゃんと会って、それからゼルってトサカ頭やユウナ達が一緒になったの。
それからユウナのカレのティーダってニブチン男と、アーヴァインってヘタレのモヤシがついてきて、
それからテリーに会ったんだけど、緑のプリンに乗っかった魔物とキョーボーまな板女に襲われて、それから……」
「「ち ょ っ と 待 て」」
……今度はマッシュと台詞が被ってしまった。
無邪気に喋っていた少女は、遮られたことが嫌だったのか、ぷうと頬を膨らませる。
「何よ、まだ途中なのに」
「待て待て待て待ってくれ。
今、アーヴァインって奴の名前を聞いた気がするんだが、俺の気のせいか?」
無理やり笑顔を作りながら――完全に引きつって口の端が痙攣している、普通の子供なら泣くぞ?――マッシュが問いかけた。
リルムはきょとんとした表情で、人差し指をくわえる。
「気のせいじゃないよ? 今も一緒だし。
ヘタレでいろいろあぶねーヤローだけど、悪いのは全部ケバケバおばさんだもんね!」
ケバケバおばさん……アルティミシアのことか。
そんな一番どうでもいい下りに反応してしまうぐらい、どこから問いただせばいいのかわからない。
呆気に取られる俺とマッシュと、ついでにバッツを気にも留めず、リルムは何故か、えっへんと胸を張ってみせた。
「魔獣使いの才能もあるリルムさまにかかれば、ケバケバおばさんのセンノーを解くなんて朝飯前だもん!
ヒゲがなくたって、いざとなったら操り返してやるもんね!」
「……あー。ずいぶんげんきなお子さんだな、あんたの仲間」
バッツが呟いた。完全に棒読み口調だが、気持ちはよくわかる。
俺は頭を抱えるマッシュと、ひたすら苦笑を浮かべるヘンリーを見やり、そしてあることに気づいた。
「アーヴァインはどうしたんだ?」
リルムは言った。『今も一緒にいる』と。
しかし、この場には、あいつの姿はない……
「外で待たせてる。二人で話したいこともあると思ってな」
答えたのはヘンリーだった。
右手で後ろ髪をがりがりと掻きながら、反対側の手をくいっとひねり、親指で部屋の外を指し示す。
思惑を察し、俺はゆっくりと立ち上がった。
そして、マッシュとバッツに目配せしてから、ヘンリーと共に回廊部分へと出た。
「……で、どうしたんだ?」
淀んだ空気と暗闇が占める通路で、俺は改めてヘンリーに問う。
部屋に残してきたリルムや、さらに奥に居るアルガスが聞きつけないように、あくまでも小声でだ。
「なあ。アルガスが言ってた事、覚えてるか?」
ヘンリーの意図を掴めなかった俺は、「は?」と間抜けな声を返すしか出来なかった。
アルガスが言っていた事といえば、ユウナのことと、アーヴァインが俺を呼んだことぐらいしか思いつかない。
値踏みをするように、あるいは探るように、ヘンリーは躊躇いがちに言葉を継いだ。
「人が化物になる病気、なんてあると思うか?
アンデッドとかじゃなくて、さ」
俺は首を横に振った。
アンデッドモンスターを除けば、人が化物になるなんて、映画か御伽噺の中だけだ。
ヘンリーは俺の仕草にため息をついてみせたあと、ゆっくりと話し出した。
「あいつが言っていたんだ。
この世界には、そういう病気が流行っていると。
……弟も、タバサも一緒で、手遅れだと」
(あいつ?)
「アーヴァインだよ」
俺の思考を呼んだかのように、ヘンリーはその名を口にした。
眉をひそめた俺の前で、彼は腕を組み、右手の人差し指でとんとんと自分の衣服を叩き出す。
「アルガスはあいつを化物と呼び、あいつは化物になる病気があると言った。
……これは偶然なんだろうか?」
翳った瞳と、寄せられた眉に、俺はかける言葉を見失う。
短い沈黙を破ったのは、行く手にわだかまる闇の中から響いた、かすかな笑い声だった。
「偶然じゃないよ、きっとね」
こつん、と石畳が音を立てる。
そして、純粋に懐かしいとは喜べない声が、静かに反響する。
「待ちくたびれちゃった。
リルム、一緒に待つって言ってくれたのに、無理やり連れてっちゃうしさ」
姿は見えない。
けれど、気配はある。声もする。
光さえあれば、十数メートルほど離れた先に、あいつの――アーヴァインの姿を見て取れたのだろう。
「中に、あの子の知り合いがいてな、早く会わせてやりたかったんだ。
それに、お前をいきなり連れてったら、袋叩きにされても文句言えないだろ?」
ヘンリーの言葉に、闇の奥に立つ男は「まあね」と答えた。
俺は一歩近づく。
二歩、三歩と、脚を進めるうちに、行く手にうすぼんやりと白い影が浮かぶ。
けれど、通路の向こうで足音がした。
見えていたはずの影が、また、闇に溶けていく。
「まみむめも! スコールはんちょー。
久しぶりの再会を祝って……ってのは冗談だけど、二人きりで話したいことがあるんだ。
外で待ってるからさ、すぐに来てよ」
――くすくす。
喉を鳴らすような笑い声もすぐに消えた。
遠ざかっていく足音は、奴の言葉どおり、出口の方へと向かっていく。
俺はため息を一つついてから、ヘンリーを見やった。
「すぐに戻る。こいつを預かってくれ」
渡したのは、絶対に奪われてはいけないもの。
つまり、ライオンハートとGFを除く武具であり、連絡を取るために必要なひそひ草だ。
「……スコール」
ヘンリーが俺を見つめる。
大丈夫か――緑の瞳は、そう問いかけていた。
だから俺は頷いた。
あいつの目的が何であろうと、人の命を奪う真似だけはさせないという決意を込めて。
闇の果て、わずかに開かれたままの扉に手をかけて、押す。
どこか赤みがかった光と、生ぬるい風が、身体を包む。
むせ返りそうな独特の匂いと、踏みしだかれた草の中心――
そこに、あいつはいた。
いつもの自信に満ちた笑みの代わりに、青白い能面のような表情を張り付かせ、
何かを憂うかのような瞳を、じっと折れた草に向けていた。
ぼさぼさになった長い髪を整えようともせず、ところどころ破けた衣服は乾いた血と泥で汚れ、
俺の記憶にある"あいつ"の姿とは、あまりにもかけ離れていた。
だが、それでも、こいつがアーヴァインだと思えたのは……
「ちょ……なんか、顔色悪いけど、大丈夫?」
そう言った時の表情だった。
狼狽を隠そうともせず、目を見開いて、おろおろと手を差し伸べる仕草は、記憶の中のあいつと同じだった。
「数時間前に毒を食らっただけだ。
解毒もしたし、命に関わるほどじゃない」
「……解毒してるのにそんな真っ青になる毒って、すんごい心当たりがあるんだけど。
もしかして、イクサスとか、バーバラにやられたんじゃないの?」
「いいや。サックスって名前の、赤髪の男だ」
無駄な情報を与える気などなかったのに、気づけば口が動いてしまう。
「サックス……だったらやっぱり、イクサスから奪った毒薬だと思う。
無理しないで座った方がいいよ」
「いや、いい」
アーヴァインの勧めを断ったのは、俺の中にある猜疑心の、最後の抵抗だった。
アルガスの恐怖と、ヘンリーの疑問と、そして何よりこいつ自身が口にした言葉――
それが、こいつに対する警戒を崩す事を執拗に拒んだ。
俺はライオンハートの先端を地面に突き刺した。
杖の代わりに身体を預け、ふう、と息をつく。
同時に、ざくっ、と草を踏み潰す音がした。
顔を上げると、いつの間にかアーヴァインはそっぽを向いていて、一歩、二歩と、足を動かしていた。
「最初はね、謝ろうって思ってた」
踏まれて折れた茎の間から、赤紫や緑白の液体がにじむのが、やけに鮮明に映る。
そこから視線を上にずらしていけば、斑に染まったローブの裾から垢と泥に塗れた右手が伸び、
名も知れぬ草の天辺から白い花のようなものを摘み取っていた。
「ちゃんと、頭下げて、ごめんねってさ――」
アーヴァインは器用に左手だけを使って、花びらを裂いていく。
右腕はぶらぶらと垂れ下がったままだ。
折れているのだ、と思い当たるまでには、さして時間はかからない。
「でも、やっぱり止めた。
嘘ついて誤魔化すとか……そんなことをしたら、余計に戻れなくなるだろ?」
そう言った、あいつの指の間で、花が悶えた。
雄しべに見えたものがうぞうぞと蠢き、残り僅かな花びら――ベルベットのような薄い羽から、大量の燐粉を撒き散らす。
それは、虫だった。
青空の無い世界でどんな進化を遂げたのか、蛾の羽と、蜘蛛と同じ数の脚と、蟻の体を持つ、掌サイズの虫。
それをアーヴァインは捕まえて、玩具を壊す子供のように甚振っていたのだ。
あからさまに楽しんでいる風でもなく、嫌悪を抱いている風でもなく、ただ、呼吸をするように。
でたらめにもがく脚を、伸びた爪で弾いて千切り取り、びくんびくんと暴れる腹を、掌でゆっくりと押しつぶしていく。
「今更、仲間だの友達だの、なんて持ち出せないことはわかってる。
それでも――教えてほしいんだ」
振り向いたあいつの顔は、限りなく自嘲に近い、寂しげな笑みを刻んでいた。
その一方で、あいつの手の中は、虫の上半身がひときわ大きく身を捩った。
ぱきゅっ、と硬い音と同時に、緑色の体液と潰れた中身が指の隙間から零れ出す。
ぐったりとうなだれた頭を、アーヴァインの右手は解放しようとしなかった。
短くなった鉛筆を繰るように、残った部分をすっぽりと包み込み――同じように、握りつぶした。