ちょw 配管工ww
乙!
乙
前話:前スレ631-635
時間軸はFF7Disc1
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――一刻も早く楽になりたい――それは当初、私の心の多くを占めていた思いだった。
スカーレットから渡された写真に写っていた少女のことは、住民IDの管理データベースから知る
ことができた。また彼女の居場所も、ID検知システムを使えば大した労を費やすことなく割り出す
ことができた。私はそれを元に、示された住所へ向かった。
現在、彼女が保護されているのはミッドガル伍番街スラムの一角、かつて古代種の居住していた
一軒家だった。ネオ・ミッドガル計画と古代種の件について、私はこれまで直接関与する立場に
無かった事もあり、ここを訪れたのは今日が初めてだった。
そこで最初に目を引いたのは、大きな庭に咲くたくさんの花々だった。スラム街にあってこの光景は
珍しいと思わず庭先に回ると、久しぶりに踏みしめる土の感触に込み上げてくる不思議な感情が
あった。到着早々ここへ来た本来の目的をすっかり忘れ、よく手入れの行き届いた庭を見て回りながら、
ふと思った。
プレート上に建設された社宅区画には、庭はあっても土がない。
私は故郷から両親を呼び寄せていた。住み慣れた土地を離れる事にも、ふたりは「ご近所さんへの
挨拶」を心配する以外は特に何も言わず、七番街の社宅区画に用意した新居へと越して来たのだった。
これは後で聞いた話だったが、このとき母は大量の土を持ち込んで来たという。その話を今になって
ようやく理解した気がする、きっと母はこんな家に住みたかったのだろう。
母は優しい。けれど、とても正直な人だった。
「…………」
両親をミッドガルに招いた私に、何も告げなかったふたりの心情とその意味をよく理解している。
今すぐ応えることは出来ないものの、私なりに理解はしているつもりだった。いつか両親の思いに応え
ることが出来たら、それを手土産にして久しぶりに会いに行こうと思っていた。
庭隅で今にも開きそうな蕾を付けた花が目に留まり、いつしかその場に屈み込んで眺めていた。
何の気無しに葉に付いた虫を取りあげると、手のひらに乗せてみた。葉と同じような色味を帯びた虫は
私の手のひらの上から這い出ようと必死に移動する。端まで到達するのを見計らって、手を返す。
すると今度は手の甲を必死に進み始めた。
私の手のひらでも、この虫にとっては延々と続く世界に見えるのだろうか。二、三度そんな動作を
繰り返しながら、手の上を這い回る虫の姿をぼんやりと目で追っていた。そんなとき、不意に彼女の
言葉を思い出す。
――「しかもプレート下じゃあ逃げ惑う人々が虫けらみたいに潰されてるのよ? 最高ね」
私は急に恐ろしくなった。
急いで立ち上がると庭を離れ、いちど門から外へ出ると道端にしゃがんで手を差し出した。先程の
庭とは違い、痩せ衰えた大地の姿が目に飛び込んでくる。
「まだつぼみだし、種を落とすまで待っててくれな」
言い訳がましく声をかけながら、虫を手放した。こんな痩せた土壌に逃がしてやったところで、この
先に待つ餓死という結末だって想像が付くのに。
いや。
(この虫よりもこの都市が、……いっそ星が死ぬんが先かなあ?)
いずれにしても、自分の手でトドメを刺したくないだけなのだと言うことにも気付かされる。いいや、
もう気付いていたのだ、その現実から必死で目を逸らそうとしていた。スカーレットは既にそれも見抜い
ていた。だから彼女は言ったのだ「誰かを憎めば楽になる」と。
(七番街の人々を、殺したのは私なのだ)
「都市型兵器」。ミッドガルのことをそう評した彼女の言葉が頭をもたげる。
その重苦から逃れたいが為に、私はここへ来たのだと。改めてその現実と向き合う。私に逃げられる
場所など、もうどこにも無い事だって分かっている。
こんな事をしている姿を見られたら、とんでもない偽善者だと笑われるだろうな。そう思って自嘲めいた
笑みを浮かべると、私は再び門をくぐって玄関扉の前に立った。懐に入れた護身用の――スカーレット
の指摘どおり、形式に過ぎないのだけれど――拳銃に触れると、あいた方の手を玄関の戸に向けた。
(……ええと)
これまでに他企業や得意先などへの訪問は数え切れない件数をこなしてきた。仕事外にも上司や
部下、友人知人との付き合いで初対面の人と接する事それ自体には慣れていた。それに、交渉ごとに
も多少なりの自信はあるつもりだった。
けれど、さすがに人質を取るために訪問するのは今回が初めてだったから、話をどう切り出せば良い
ものかと頭を悩ませていたことが、玄関扉の前で立ち往生する最大の理由だった。
しかし、その戸惑いは思わぬ形で解消されることになる。
「いらっしゃい。……そろそろ、来る頃なんじゃないかと思ってね」
私が戸を叩くよりも先に内側から玄関戸が開かれた。思わぬ展開に、ノックしようと挙げた手を下ろす
ことも忘れ視線だけが先に室内へお邪魔する。扉を開いて出迎えてくれたのは、ほうきを片手に持った
初老のご婦人だった。髪を束ねて高い位置で結び、大きなエプロンを身に着けさらに腕まくりをした姿を
見れば、いかにも元気そうなおばちゃんと言ったところだ。
どことなく、本当にどことなくだが彼女に母の面影を見た気がする。
「エアリスも連れて行かれちまったしね、私らは用済みなんだろう? これでもエアリスの母、それに
元軍人の妻さ。あんた達のやり方ぐらいお見通しだよ」
呆気にとられたまま、私は発言するタイミングを完全に逸した。婦人は躊躇する様子もなく話を続ける。
「ところで自己紹介はないのかい? どうせあんたは私の事を知ってるんだろう?」
言われている通り、私は彼女のことも調べてきている。エアリス=ゲインズブールの養母・エルミナ=
ゲインズブール。報告によればエルミナ自身は古代種ではないそうだが、なるほど、歯に衣着せぬ
物言いなどは彼女に受け継がれている気がした。百戦錬磨のタークスでさえ手を焼く理由も少し分かる
気がする。
「あっ、ええと……申し遅れました。私は神羅カンパニー都市開発部門のリーブと申します」
お辞儀をしながら思わずそう名乗った後で、しまったと軽率な発言を悔いた。わざわざ自分から身分
を明かすこともないだろうに。
「へえ、タークスじゃないのかい? 意外だねえ」
「あなた方に危害を加える事が私の目的ではありませんので、その点はご安心下さい」
「ずいぶん物騒なモノを懐に忍ばせてるようだけど? そんなモノ持って言う言葉じゃないわねぇ」
彼女は私の顔を覗き込むようにして言う。
「お見通しですか」
すっかり相手のペースに乗せられてしまっている。しかしどうやら先方の言っていることは、あながち
嘘でも無さそうだ。彼女の読みは鋭く的確だった。
一方でこちらとしては余計な手順を省けて有り難い、隠す必要もなくなったので懐からそれを取り出す
と、私はこう続けた。
「話が早くて助かります。それでは用件から完結に申し上げます」
彼女たちはこの先に控える最も重要な“交渉”の切り札になる。用済みどころか、どうしても必要な
存在なのだ。こういったタイプとの交渉なら、単刀直入に本件を述べた方が効果的だと経験則で割り
出すと、言葉の先を続けた。
「あなた方にはこれから、私の人質になって頂きます」
ところが私に銃口を向けられていたはずのエルミナさんは、なぜか笑顔を浮かべていた。その態度が
気に掛かったのは確かだったが、今はそれよりも後に控えている交渉を成功させるために、最善を尽く
す以外に道はなかった。もしもここで断られた場合は――私が考えをめぐらせるよりも早く、返答の
言葉を耳にする。
「……いいさ。あんたの人質、だろう?」
「えっ?」
(エルミナさん、いくらなんでも答えを出すのが早過ぎやしませんか?)自分で押しかけておきながら、
そんな風に思う。しかも悪いことに、それがそのまま表情に表れていた様だった。
「自分で言い出しておいて、驚いてるんじゃないよ。『ここが危険だ』って忠告はとっくに受けてるし、
神羅が来るのも分かってた。だけどこうして残ってたのさ、私の意思でね。いいさ、私があんたの人質に
なるよ」
話が早くて助かるのは事実だが、先を読んで的確に発言する彼女の存在が少々厄介だとも思えた。
依然として会話の主導権は彼女に握られているという状況も覆せないでいる。
今回の交渉も、後に控えた交渉も、こちらが主導権を握り優位に立たなければ成立しない。なぜなら
それが、交渉と呼ぶには要求が一方的だと言うことを充分すぎるほど理解しているからだ。
「私の人質になっていただくのは、あなただけではありません」
意識的にゆっくりと言葉を発しながら、一歩進み出ると私は目の前にいた婦人を真っ直ぐ見つめた。
揺れてはいけない、絶対に悟られてはいけない。
(今さら躊躇うな)
「ここに、マリン=ウォーレスさんもいらっしゃいますね? ……彼女にも一緒に、人質になっていただきます」
顔から笑みが消え、婦人が一歩後ずさるのを目にしたとき、私はこの交渉が上手く行くことを確信した。
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・FF7Disc1蜜蜂の館よりもOn the Way to a Smileデンゼル編が基調になっている模様。
さすがに、あそこには住まない…よな。
・深夜のゴールドソーサーで起きた事件に至る経緯(似た話を見た事がある方は笑ってやって下さい)
・昨年はエレノアさんネタだったので、今年はエルミナさんとルヴィさんで…またも間に合いません
でしたが母の日に便乗してみた(つもり)。
・前話はこの辺www5f.biglobe.ne.jp/~AreaM/PiAftSt/LCFF7PiAftSt/FragmentOfMemory04.html
・こんなトンデモナイ設定の話ですが、良かったら是非どうぞ。(>>某427)ちょっと嬉しかったです。
・関係ありませんが、某兄弟は配管工だと言う事実を今知りましたwてっきりコインコレクターだtry
GJ一番乗り!
虫さん。。。 エレノアさんもエルミナさんも、リーブ母も、
強いカアチャン像で共通点が多いな。
(チラ裏---某427ですありがとう。どこで書いてもスレ違いなので、サイトに御邪魔させて頂きます)
乙!
GJ!
GJ!続きまってるよ
保守
名作ぞろいの中恐縮ですが、投下させてください。
FF7 Disc1、ケット・シーがキーストーンをタークスに渡し、
スパイだとばれた直後の都市開発部門統括の話です。
◆ Lv.1/MrrYw さんが投下されたばかりのFragment of Memory 5と
時系列的につながってしまったのですが、全くの偶然です。
◆Lv.1/MrrYw さん本当に申し訳ありません。
伍番街の幹部用社宅エリアの一角で車を止め、彼は車のドアを開いた。
空を見上げると、無数の星が瞬いていた。
魔晄炉とビルのネオン、人々の暮らす灯りで、ミッドガルは夜も明るい。
星がこんなに綺麗に見えたのは、彼が思い出す限りではじめての事だった。
もう真夜中と言ってよい時間であるが、一室から明かりが漏れているのをみて、
彼は家のドアを開け、居間へと向かった。
「ずいぶん久しぶりのお帰りだね。」ソファに座る母が、読んでいた本から顔を上げて言った。
「ええ、壱番魔晄炉の事件以来、全く時間がありませんでしたから。」
元々、二人の故郷では、こんな口調でやり取りをした事は無かった。
両親を少しでも近くにとミッドガルに呼び寄せたが、物理的な距離は縮まっても、
二人の間の距離はもうすっかり開いてしまった、少なくとも彼はそう感じた。
勿論、自分が建設に深く関わったミッドガルを両親にみてもらいたいという気持ちも少なからずあったのだが、
プレート上層と下層の分離、ID検知システムによる住民の行動監視など、プレジデントによる支配政策は
とどまる所を知らず、彼自身、自問自答と葛藤を続けている都市である。母がこの家に越してきた時も、
息子が近くに呼び寄せてくれた事を喜んではいたものの、彼女はミッドガルについての感想を多くは語らなかった。
代わりに彼女は家中の壁紙やテキスタイルを花柄に変え、庭に土を入れ始めた。
彼がその時の事を思い出し花柄のカーテンに手をかけると、窓ガラスにビニールが張られているのに気がついた。
「窓ガラスが割れたんですか?」
「ああ、あんたが帰ってきたら直してもらおうと思ってたんだけどね。今はもう遅いからいいよ。
うるさくてあの子が起きちまう。」
「あの子?」
「実の息子が帰ってこないから、養子をもらったのさ。」母はにやりと笑って寝室のドアを静かに開けた。
暗闇の中で、まだ小さな男の子がぐっすりと眠っていた。
「七番外プレートの事故で、一人になっちまったらしい。」
母は小さな声で言うと、音を立てないように寝室のドアを閉めた。
壱番魔晄炉が爆破されて以来、彼は本当にここに帰る暇が全くないほど多忙だった。
しかし数日前、花の溢れる家からエルミナとマリンを連れ出してから、
彼は度々この花柄模様に囲まれて暮らす母の事を想った。
そして今夜、真夜中近くになってとうとう車を伍番街社宅エリアに向けて走らせた。
七番街プレート落下以来、伍番外社宅エリアの住民のほとんどは避難のためいなくなっていたが、
母がここに残っているはずだと、ID検知システムから検索を行うまでもなく彼は思っており、
そしてそれは正しかった。
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壱番魔晄炉の爆破、七番街プレートの落下、神羅のスパイ、セフィロス、古代種、アパランチ、
自分が建設に関わり、愛し、住民を幸せにしたいと願ったこのミッドガル・・・
・・・星を救うと見返りの無い旅を続けるクラウドたち。
これまで自分の中に存在したが、既に自分自身で決着をつけたつもりだった疑問、葛藤、全てが頭の中で
また暴れ始めていた。自分らしくもないと情けなさで一杯になって、彼はソファーに腰を下ろした。
「あんた、ずいぶん疲れてるね。」ティーカップを差し出しながら母が言った。
そうだ。簡単に言えば、彼は全てに疲れていて、彼自身、それを自覚していた。
「ミッドガルもあの会社も、いろいろ大変らしいからね。」
彼女はまるで人ごとのようにつぶやいてから、お茶をすすった。
彼はそれには直接答えなかったが、母もそれ以上何も言わなかった。
彼は努めて明るく振る舞い、寝室の少年の事や、プレート落下後のこの社宅街の事、
母の最近の生活などとりとめも無く話しているうちに、夜が白けてきた事に気がついた。
「すみません、もうこんな時間に…」
「いいさ、久しぶりなんだからね。」母はさして眠い様子も見せず、さらりと言った。
【朝になったら、「ボクら」は古代種の神殿へと向かう。】
彼は会社に戻らなければと立ち上がり、母に改めて礼を言って、ドアへと向かった。
車に乗り込み、ドアを閉めようとすると、見送りにと外まで出てきた母が別れの言葉の代わりに
たった一言、しかし力強く言った。
「あんたが、信じる道を進めばそれでいいのさ。」
彼は、母の顔を見上げて微笑み、車のエンジンをかけた。
母は見えなくなるまで手を振ってくれていた。
「自分の、信じる道を進めばそれでいい。」
朝日に目をしかめながら、彼は、つぶやいた。
今日は、古代種の神殿だ。
【決意】Fin
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・「On the Way to a Smileデンゼル編」がもとになっています。
・古代種の神殿へと向かう前の晩、実は母に会っていたリーブのお話。
・デンゼル編の母と息子の関係が悲しすぎたので、捏造してみました。
お目汚し大変失礼いたしました。
もう一つだけよけいな補足:
古代種の神殿でのケット・シーの行動は、中の人にとって大きな転換期だったと思っています。
神羅の人間として、当然迷いや葛藤があったと思うのですが、
その辺りをルヴィさんと絡めてみました。
では今度こそ失礼いたしました。
おつ
>>315-317 リーブ好きには嬉しい話です、少しは報われて欲しいです。ってその前にトリップがw
(以下、リーブ好きによる戯言ですが)
その後ルヴィさんも分かっていながら最期の時をミッドガルで迎える決意をしていたんですよね。
そう考えると
>>317で最後(に、結果的になってしまうのだとしても)彼を送り出す言葉が
「今度は帰る前に連絡を寄越してほしいね、そしたら美味しいきんぴらのひとつでも─」みたいな
ものだったら、たぶん涙腺が決壊してたと思う。
その4年後の「最後まで母に良くしてくれて」の台詞と併せて考えると…。
…これはどう考えても牛蒡フラグ。
デンゼル編ってのがよく出てくるのでやっと読んでみたんだが
そのあと各作品を読み直したら泣けた。GJ
>>315-317 と言う訳でやっと分かったんだが、これが親子の最後の対面か。
リーブ、きんぴら食べたかっただろうな(違う?)
おつおつ
イイヨイイヨー
※FF12本編終了後ヴァンとパンネロが空賊デビューした後のお話。
※オペラ座の花形女優、マリアを誘拐するというバルフレアからの予告状届き、
ミゲロさんに頼まれて警護を引き受けた二人のお話。
※FF6のセリスのオペラ座イベントが下敷きになってます。
※投稿人の書くパンネロはヴァンの事が放っておけないし大好きだけど、
バルフレアの事もちょっとだけ好きなのです。少女漫画風味でスマソ
>>9-18から続きます。
「それ」が突き破った舞台の破片が降り注ぐ中、
パンネロをかばって伏せていたヴァンは信じられない物を見た。
それは巨大な鞭(むち)の様な物で、目にもとまらぬ速さで伸びて来て、
気が付くともう、目の前に迫って来ていた。
ヴァンは咄嗟に両手剣を振るい、それをなぎ払った。
ヴァンに切られた「それ」の先端が舞台に転がった。
まだ生きているかの様に不気味にビチビチと跳ねている。
見ると、表面にはびっしりと吸盤の様な物で覆われていて、
手応えはぐにゃり、と柔らかかった。
ヴァンは「それ」をよく知っている様な気がするのに、
そのの巨大さから、「それ」がなんであるのかがすぐには思い付かない。
が、考えている先から第二波が頭上から襲って来る。
(なんだよ、コレ!!)
ヴァンは咄嗟に剣を頭上に掲げ、「それ」を受け止める。
と、「それ」はヴァンの剣にくるくると巻き付き、剣を取り上げようと強く引っ張る。
足は舞台の下の方から出ており、空いた穴にヴァンを引き込もうとしているのか。
腰を落とし、剣を奪われまいと踏ん張るヴァンの足が
ずるずると床を滑り舞台に空いた穴に少しずつ引き寄せられる。
「……くっ……!」
ヴァンの顔が歪む
一声吠えると、ヴァンは巻き付いたそれを振りほどき、
間髪を入れず上段から切り付け、「それ」を一気に断ち切った。
と、そのヴァンの脇をすり抜け、第三波がパンネロに襲いかかる。
身体を翻し、ヴァンが剣を伸ばすが、「それ」はスルリとヴァンの剣をかいくぐった。
しまった!と思った瞬間、今度は頭上から黒い塊が飛び降りて来て、
剣が閃き(ひらめき)、どう!という音とともに「それ」が切り落とされた。
「大丈夫か、ヴァン?」
「バッシュ!」
「その名で呼ばれるのは頂けんな。」
バッシュもパンネロを背にし、剣を構える。
「…アンタにしちゃあ、派手な登場だったから驚いただけだ。」
バッシュは思わずヴァンを見る。
(さっきから何を意地になっているのだ…?)
ヴァンは決してバッシュを見ようとはしない。
口をへの字に曲げ、正面を睨んでいる。余裕がまるで感じられない。
(いつものヴァンなら真っ先にパンネロを逃がすだろうに…)
バッシュは背後で舞台での緊張状態がとけぬまま、
今度は謎の物体の襲撃に石の様に固まり、動けずに居るパンネロに声を掛けた。
「パンネロ、逃げなさい。」
「でも……!」
ヴァンが振り返り、噛み付く様に怒鳴る。
「行けって言ってんだろ!武器も無いのに…!足手まといだ!」
「ヴァン!後ろ!」
「それ」は鞭の様にしなり、ヴァンに襲いかかった。
その身体に巻き付き、高々と持ち上げる。
床に叩き付けるつもりだ。
振りほどこうと暴れると、それはヴァンよりも強い力で締め付けて来る。
「ヴァン!」
下方でパンネロの悲鳴を聞きながら、ヴァンは奥歯を噛み締めた。
「くそ…っ!」
「ヴァン!」
バッシュは絶え間なく襲い来る攻撃を防ぐのに手一杯で、なす術もない。
ヴァンを抱えたそれが大きく振りかぶる様にしなる。
叩き付けられる…!思わず目を閉じた時、何かが「それ」にぶつかり、破裂した。
つん、と鼻をつく火薬の臭いが辺りに漂った。
戒めが解かれ、床に落ちたヴァンが顔を上げると、
柔らかい革に鮮やかな色とりどりの石がはめ込まれたサンダルと、
きちんと切りそろえられ、朱色に染められた足の爪、
白いドレスの裾、そしてエレガントなそれらに不似合いなハンディボム。
「あなたに聞きたい事はたくさんあるけど。」
頭上から冷たい声がする。
「まずは、あの蛸みたいな化け物を退治してからです。」
「タコぉ!?」
ヴァンは漸く「それ」の正体がなんなのか気付いた。
「あれ、タコかよ!」
合点がいき、思わず顔を上げると、そこにはアーシェが立っていて、
キリキリと眉を吊り上げてヴァンを見下ろしている。
パンネロは、と見回すと、ドレスの裾に躓いて転んだのだろう、そこをラーサーに助け起こされている。
無事な姿に安心しつつも、おもしろくない気持ちになる。
「どこを見ているの?」
アーシェがヴァンの目の前に、落とした両手剣を突き立てる。
ヴァンは更におもしろくない気分になり、落下して痛む身体をさすりながら立ち上げる。
「なんだよ、さっきからエラそうに。大体、おまえ、女王だろ?女王がこんな所に居ていいのかよ!」
「伏せて!」
咄嗟にヴァンがかがむと、アーシェは手に持ったブルカノ式を
肩の高さまで持ち上げると、腕を水平に払い、ハンディボムを放つ。
しなやかな腕から放たれた爆薬の塊をまともに喰らい、
ヴァンの背後に迫っていた蛸の足がバラバラに砕け散った。
砕け散った破片が頭にべっとりと張り付いたのを、ヴァンは慌てて指先で摘んで捨てる。
優雅な出で立ちと裏腹な凄惨な攻撃に、ヴァンが何か言ってやろうと口を開きかけるが、
アーシェに冷たく睨まれて肩を竦めるしかない。
「“あれ”はパンネロを狙っています。」
ヴァンの表情に緊張が戻る。
すかさず、両手剣を引き抜き、縦に振り回して構えた。
次々を襲って来る巨大な蛸の足を切り払いながら、ヴァンはダンチョーの話を思い出した。
「地下にでっかい湖があるって!」
「“これ”はそこから来たの?」
「たぶん!本体はそこだ!足だけ出して攻撃してくる!」
ヴァンがもう一度パンネロを探すと、ラーサーに手を引かれ、舞台裏へと走って行く後ろ姿が見えた。
ヴァンはホッとして…それでも、何故か胸がチリチリと痛んだが、
気を取り直して次々を襲い来る足を切り捨てて行く。
「キリがないわ!」
屈んで、火薬を弾込めしながらアーシェが叫ぶ。
「陛下、お下がり下さい!」
「バッシュ…」
戦闘の最中だと言うのに、アーシェは穏やかに微笑む。
「私がそうすると思うの?」
(じっとしておられぬお方だ…)
バッシュは苦笑いを浮かべ、また、懐かしい名前で呼ばれた事に戸惑う。
「…この場でその名は仰いますな。」
やっとそれだけ言うと、手を取ってアーシェを立たせた。
「策があります。」
「おとりが要るのね?」
バッシュが頷く。
「あの足をかいくぐって、私が本体に接近します。」
「援護します。ヴァンは?」
「我らの動きで察するでしょう。」
「そんな危ない橋、渡ることないよっ。」
突然の声に驚き、よく通るその声の方を見ると、そこには小柄な少女が立っていた。
金色のふわふわとした巻き毛が額にかかり、
その下には青く、大きな瞳が宝石の様に輝いている。
身体にぴったりとした大きく胸元の開いた丈の短い黒いジャケットを着て、
ハイウエストの裾がすとんと落ちるロングスカートは、薄い綿モスリンを
幾重にも重ねた鮮やかな赤、裾には砂漠の花の刺繍がほどこされている。
細い革ひものサンダルと、足の爪は金色にと色が揃えられている。
そして、頭の3倍はあるであろう、綿帽子の様な大きな赤い帽子を被っていた。
「さっきから見てるけど、あの兄ちゃん、危なっかしいんだもん。」
「あなた様は…」
アーシェもバッシュも、何故今日の賓客がこんな所に現れたのかと唖然としている。
不思議な事に、その少女が現れた途端、蛸の化け物の攻撃がにぶったので
二人が襲われる事はなかったが。
「アイツ、よく知ってるんだ。リルムの大好きな仲間が歌った時も邪魔しに来たんだもん。」
言いながら少女は、緑色の表紙のスケッチブックと、筆を取り出した。
開いたスケッチブックの上に少女がサラサラと筆を滑らせると、
化け物が悲鳴のような鳴き声を上げ、足という足がそれを阻止しようと
リルム目がけて一斉に襲いかかった。
得物を持った3人がそれを阻止している間に、「砂漠の王様の婚約者」は
スケッチブックに描いた絵を化け物に向かって高々と掲げた。
「さっさと地下に帰りな、オルトロス!アンタの居場所を
コロシアムのオーナーに言いつけられたくなければね!」
一際大きな悲鳴を上げると、オルトロスと呼ばれた蛸の様なそのモンスターは
舞台一面に這わせていた足を引っ込め、再び地下に潜っていった。
たったそれだけの事で静寂が戻り、何が起こったか分からず
ぽかんとする3人を見て、リルムはくすくすと笑う。
「ぷっ…あんた達の顔…」
「なんだよ、お前…いきなり現れて、生意気だぞ。」
ヴァンが喰ってかかるが、リルムも負けてはいない。
「へん!お仲間に助けてもらえないとなーんにも出来ないガキのくせに!
エラそうに言うなって!」
「お前だってガキだろ!」
子供同士のケンカにアーシェは呆れ、バッシュはやれやれと二人に割って入る。
「ヴァン、こちらは今日の主賓のお一人だ。遠い砂漠の国からお越し頂いたお方だ。
口を慎みなさい。」
「危ない所を助けて頂いたのに、失礼です。」
頭を下げるアーシェとバッシュに、リルムは居心地が悪そうに手をひらひらと振り、
「いいって、いいって!堅苦しいのは私も嫌いだし。それよりさ、この事は
エドガーにはナイショだよ。勝手に危ない事してとか、うるさいからさ。」
「そのエドガー様はどちらへ?」
「さあね。婚約者放ったらかしにして、どこへ行ってんだか…」
リルムは描いた絵のページをスケッチブックから切り取り、アーシェに渡した。
「これがアイツの正体。壁にでも貼っておけば、当分出て来ないよ。」
「リルム様、これは…」
「そこのジャッジマスターにもう一つの名前があるのを、私は誰にも言わない。
だから、そっちも詮索はなし。これは、その約束のしるし。」
アーシェは受け取った絵を受け取る。不格好で、間抜けな蛸の絵だ。
絵を描いた筆は、絵の具をつけた様子が全くなかった。
なのに、絵はちゃんと画用紙の上に描かれている。
それに、確かに自分もヴァンも、バッシュの名を呼んだ。
だが、聞こえる位置には誰も居なかったはずだ。
あのモンスターはこの絵と、目の前の少女を恐れていた。
(不思議なお方…)
だが、リルムの心遣いがアーシェには小気味好く思えた。
「感謝しますわ、リルム様。」
リルムは照れくさそうに笑う。
生意気そうだけど、チャーミングな笑顔だ。
「ジャッジ・ガブラス、リルム様をエドガー様の所へ。」
リルムは何か言いかけたが、すぐに諦めた様に小さく肩を竦め、
大人しくバッシュの後について、舞台を後にした。
その姿を見届けると、抜き足差し足でこの場を去ろうとするヴァンが目に入り、
アーシェはふぅ…とため息を一つ。
「どこに行くの、ヴァン!」
ヴァンが恐る恐る振り返る。
「聞きたい事があると言ったわね?」
アーシェの怒りの周波がぴりぴりと伝わって来る。
だが、ここで捕まっては…とヴァンは駆け出した。
「……!待ちなさい!」
「ごめん!アーシェ!」
ヴァンは客席に飛び降り、オーケストラピットの所にある柵を軽々と飛び越え、
出口に向かって走る。と、不意に前にがくん、とつんのめり、その場に倒れた。
アーシェは驚き、ドレスの裾を掴み、舞台から飛び降りてヴァンに駆け寄る。
「ヴァン!どうしたの!?」
抱え起こしてもヴァンは答えない。戦闘でのダメージかと身体を調べるが、
(どこも…怪我していない…)
改めてヴァンの顔を見ると、穏やかな呼吸だ。
(………眠って…いる……?)
そう言えば、この騒ぎに兵士が一人も出て来ない。
逃げ惑っていた観客の声も聞こえてこない。
(みんな眠っているの……?)
アーシェはヴァンの両手剣を持って立ち上がると、
バッシュとリルムが立ち去った方に駆け出した。
一方、パンネロを連れてその場を離れたラーサー。
舞台裏の階段を駆け下り、貴賓席横のロビーまで来て思わず足を止めた。
兵士や観客が皆、折り重なって倒れているのだ。
「ラーサー様、これは…」
怯えた様に周りを見渡すパンネロに、心配しないようにと微笑みかけ、
ラーサーは倒れた兵士に歩み寄った。
膝を屈め、倒れた兵士を調べてみると、外傷はない。
(これは……)
その時、ひどい睡魔がラーサーを襲った。
(しまった…!)
ラーサーは眠るまいと必死に頭を振るが、頭が異様に重く感じ、目を開けていられない。
堪えきれずにぐらりと身体を傾け、その場に倒れてしまう。
「ラーサー様!?」
異変を察したパンネロが駆け寄る。
「誰か…が…劇場…全体に……魔…法………」
目の前に大切な人がいて守らなければならないのに。
ラーサーは悔しさに唇を噛み締めるが、睡魔は圧倒的な力でラーサーの意識を奪おうとする。
「パンネロ…さん…逃げ………」
それだけを絞り出す様に言うと、ラーサーは意識を失った。
パンネロはラーサーの言葉のおかげで、辛うじて状況は理解出来たが、
なんとかしようにも、魔法を解除するアイテムすら持っていない。
「ラーサー様!どうしよう……!」
一体、何が起こったというのだろう。
パンネロは途方に暮れて、周りを見渡した。
賑やかだった劇場が、水を打ったようにしん…と静まり返って不気味だ。
そう言えば、劇場の方も静かだ。
(ヴァンは……みんなは!?)
きっと舞台に戻れば、ヴァンもアーシェも、バッシュも居る。
パンネロは藁にも縋る思いで立ち上がる。
と、信じられない人物がそこに居るのを見つけた。
「バルフレア…さん…?」
パンネロはホッとして、その場にへたり込んでしまった。
バルフレアも屈んで、パンネロの顔を覗き込む。
「大丈夫か?」
とにかく心細かった。
そこにバルフレアが現れ、気が緩んだのだ。
「バルフレアさん…ラーサー様が…ヴァンが……」
が、バルフレアは信じられない言葉を口にした。
「どうしてお嬢ちゃんは眠らないんだ?」
瞬間、パンネロの心臓が凍り付いた。
改めて周囲を見渡し、倒れてる人々やラーサーを見、最後にバルフレアを見た。
「まさか……」
バルフレアは否定しない。
がくがくと足が震えた。
立ち上がる事が出来ず、パンネロはへたり込んだまま必死で後ずさる。
バルフレアは眉を顰めた。
「そんなに怯えなくていい。手荒なマネはしない。」
差し伸べられた手を、パンネロは思わず払いのけた。
「…手厳しいな。」
バルフレアは大仰に肩を竦めてみせる。
「どっ…どうしてこんな事を?」
「どうして…ってもな…」
バルフレアはどこか不機嫌そうだ。
自分は嫌々やってきた、そう言いたげだ。
「せっかく予告状も出した事だしな。」
「嘘!だって、昨日は知らないって!あれはバッガモナンが……」
バルフレアは舌打ちをすると、面倒だとばかりにパンネロを肩に担ぎ上げた。
「やだ!私、ここに居る!」
「こっちはそうも言ってられないんでね。」
手足をバタバタさせるパンネロの腕に見慣れたアイテムが着けられている。
(リボンか…)
もしもの事を考え、ヴァンが着けさせたのだろう。
「お陰でこっちは一苦労だ。」
パンネロの耳に入らないように小声で愚痴る。
「ばかばか!こんな事するバルフレアさんなんて嫌い!」
「嫌われちゃあ困るな。」
子供の様に駄々をこねるパンネロを軽く流しながら、バルフレアは階段を下りる。
「嫌!ヴァンの所に連れてって!」
「今頃みんなおねんねさ。あんまり暴れると落ちるぞ…っと。」
バルフレアは歩みを止めた。
「みんな…ってワケじゃなさそうだな。」
階下に一人の男が立っていた。
「婚約者を探していたら、とんだ所でとんだ場面に遭遇してしまったな。」
それを聞いて、バルフレアが真っ先に思った事は、
(随分と気取った野郎だな……)
「バルフレアさん…」
パンネロが耳打ちをする。
「その方、砂漠の王様よ!」
バルフレアは改めて階下の人物を見下ろした。
長い金色の髪を青いリボンでまとめ、青いマントを羽織っている。
マントの縁には金色の房、腰には鮮やかな柄に砂漠の刺繍を重ねた豪奢なスカーフが巻いてある。
そして、これも婚約者と色を揃えたのだろう、金色の靴を履いていた。
(へぇ…これが噂の…フィガロ王エドガー…)
王族でありながら、機工師としての腕もなかなかのものと聞く。
「君が抱えてるのは、さっきラバナスタ中を魅了した麗しの歌姫ではないかい?」
エドガーは腰に差した剣に手をかける。
「見た所、そちらのレディは同行を嫌がっているように見受けられるが?」
歯の浮く様なエドガーの言い方に、バルフレアはなにやら既視感を覚え、著しく気分を害した。
「これはこれは、フィガロの国王陛下。」
負けじとバルフレアは芝居のかかった返答をする。
「17も年下の婚約者殿を放っておかれ、こんな所で何をしておいでで?」
「おかしな噂を聞いてね。」
エドガーはバルフレアの嫌みをさらりと流し、ゆっくりと階段を上り、二人の前に立った。
「昔、古い友人が、君と同じ様な騒ぎを起こしてね…当時と同じ様な手紙が届いたと。
それで気になってここに居た…というワケさ。」
言いながらスラリ、と剣を抜き、バルフレアの喉元に剣先を突きつける。
「嫌がる女性を無理矢理かどわかすとは、見過ごせないね。」
バルフレアは不機嫌そうに天井を仰ぎ見、パンネロは思いがけない助けのはずが、
バルフレアが剣を向けられた途端、オロオロと慌ててしまう。
「ち…違うんです、王様!」
「レディ、心配しなくてもいい。私がここを通さない。」
そう言われても…と、パンネロはますます慌てる。
ここから連れ出されるのは嫌だけど、バルフレアが捕まるのも嫌だ。
不意にバルフレアは抱えていたパンネロを下ろすと、肩を抱いて引き寄せた。
「彼女も言ってるように、こっちにも事情があってね。」
「事情?」
剣先を1ミリたりとも動かさず、エドガーが尋ねる。
「俺と彼女は実は将来を誓い合った仲でね。」
さすがのエドガーも、目を丸くして交互に二人を見つめる。
「鳥かごに捕われた小鳥を、空に返してやろうと参上したってワケさ。」
当のパンネロはと言うと、突然バルフレアと恋仲宣言をされ、
(もう…なにがなんだか分からない…)
と、軽い目眩を覚え、よろめいてバルフレアにもたれかかった。
エドガーにはそれが、パンネロがバルフレアにしがみついた様に見えた。
「レディ?この男の言う事は本当かい?」
本当かどうかはさて置き、ここで違うと言えばバルフレアが切られてしまう。
パンネロはこくこくと、何度も頷く。
「フィガロ王エドガーは粋なお方と聞いてるがねぇ…
人の恋路を邪魔するような野暮をするのかい?」
エドガーはまだ半信半疑のようだが、
「王様…お願いです、どうかここを通して下さい。」
というパンネロの一言が効いたのか、剣を収めた。
「レディ…本当にいいのかい?」
立ち去る二人の背中に、エドガーは思わず声を掛けた。
パンネロは思わず足を止めた。
「その男は…私にはどうも、君を泣かせる様な男に見えて仕方ないのだがね。」
バルフレアは「余計なお世話だ」と呟き、パンネロが返事をする前に手を引いて走り出した。
エドガーは走り去る二人の後ろ姿を見て、やれやれと大きなため息を吐いた。
結果的に自らの誘拐に手を貸してしまったパンネロだが、走っている内に
やはり何かおかしい、と気付き、同時に色々な感情が一度にこみ上げてきた。
中でも、一番にこみ上げて来たのは怒りで、
最も腹が立つのは自分の手を引いて走る、この男だ。
パンネロはと足を止めた。
不意に立ち止まったパンネロに、バルフレアが驚いて振り返る。
「どうした?お嬢ちゃん?」
「バルフレアさんのばかっ!私を連れて行く為にあんな嘘を吐いて…」
「どうした?何が気に入らない?」
「私の事、なんとも思ってないくせに、砂漠の王様にあんな言い方して…!」
「落ち着け、お嬢ちゃん。」
バルフレアはパンネロの両肩に手を置く。
涙を浮かべ口を噤んだパンネロを、バルフレアはさすがに無下には出来ず、
「悪かった。その場凌ぎとは言え…な。」
パンネロはまだ怒っている。唇を尖らせて尋ねる。
「…どうして私を連れて行くの?」
「フランが連れて来いと言ったからさ。」
パンネロの眉がキリキリと上がる。
「分かった!悪かった!」
つん、と横を向いてしまったパンネロの頬を両手で包み、正面を向かせると、
バルフレアは腰を屈め、パンネロの顔を覗き込む。
「いいか…?お嬢ちゃん。お嬢ちゃんは出会った相手の胸の中に花を咲かせる。
小さいが、黄色くて温かい花だ。俺はそれを摘み取る様な無粋なマネはしたくない。」
パンネロはじっとバルフレアを見つめる。
「うん?」
「ずるいわ、バルフレアさん…私が子供だと思って、どうとでも取れる様な言い方ばかり。」
「その割には“まんざらでもない”って顔をしてるが?」
バルフレアは手を離すと、右手を胸に当て恭しくパンネロにお辞儀をする。
「ラバナスタ中を瞬く間に虜にした愛らしい歌姫を盗みに参上つかまつりました。
どうぞこの哀れな空賊に盗まれてやって下さいませんか?」
芝居のかかった仕草と言い回しに、パンネロはとうとう吹き出した。
「いいわ…。」
バルフレアは満足げに頷くとパンネロに手を差し伸べる。
パンネロはその手を取って、バルフレアに続いて走り出した。
走りながら、どこかはしゃいだ口調で、
「ねぇ、あの王様、バルフレアさんにちょっと似てる。」
「どこがだ!?」
「バルフレアさん、嫌いだもんね。ああいうタイプ。」
バルフレア、答えない。
「自分に似てるから、嫌なんでしょ?」
「お喋りが過ぎると、その口を洗濯バサミで留めちまうぞ。」
二人の足音は徐々に遠のき、やがて、聞こえなくなった。
バッシュを追って、舞台裏にやって来たアーシェが見たものは、
壁にもたれかかるようにして眠るバッシュの姿だった。
リルムの姿が見えない…という事は、バッシュを運ぶこともままならず、
この場を立ち去り、エドガーの元に向かったのだろう。
「誰が…こんな事を…」
すると、遠くで足音が聞こえた。
アーシェは足音の方へと駆け出した。
通路に飛び出すと、走り去るパンネロと、
「バルフレア!?あなたなの!?」
バルフレアはほんの少しだけ顔を上げたが、アーシェには振り返ろうとしなかった。
アーシェは後を追う事も出来ず、何か言いたげに振り返るパンネロと
バルフレアの背中をただ見送る事しか出来なかった。
つづく。
ご無沙汰しております。
FF6に関する記述は色々と忘れかけているのでFF大辞典の
まとめサイト様を参考にさせていただきました。
リルムとエドガーは17歳違い…で良かったのかちょっと心配。
あと、投稿人、FF9を始めまして。
FF9やったら書きますよね、「どうか盗まれてやってください」って。
ですので、その辺のつっこみは、どうかご勘弁下さいませ。
339 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/05/26(月) 14:43:03 ID:rX7yxdfe0
乙
>>325-328 乙
しかしss投下スレは容量食うので前書きと後書きをどちらか一つにしてもらいたい
スレでの自分語りはほどほどに
乙!
いいじゃん別に。いっぱいになったら次スレ行けばいいだけの話
色んな作品が読みたい。んで「次スレ立てなきゃ!」って言えるぐらい繁盛するのは
むしろ喜ばしいことだと思うんだ。んだんだ。
>>325-337 やっぱリボンのヴァンGJ!! 前スレ325アイテム“装備”の伏線回収に感動した。
そしてこのシリーズ始まって以来、内心ちょっとした不安要素だったバルフレアとエドガーの
描き分けができてて素ん晴らしいです!そしてバルフレアの心理(同族嫌悪w)が笑える
且つ説得力抜群でw
あと
>>329、「名前」ネタの活かし方(戦闘時の描写)も上手い。やっぱリルム最高です!
17歳差で正解だと思う(サマサの問題発言が根拠)
余談ですが、「笑顔がとってもチャーミング」ってカイエンの形容として登場した気がするんだけど、
全員チャーミングで困るんだぜ?w(と、6信者が申しております)
うん、感想書けるスレも無くなっちゃったみたいだし、
感想書くのもビクビクしてたんだ。重いとか、スレ無駄遣いって言われるかなって。
でも職人さんの立場で考えたら感想があった方が嬉しいだろうし
何より自分だってここが繁盛するのは喜ばしい。
だから、自由にまったり書いていいと思うんだ。んだんだ。
前話:
>>304-308 ----------
ご婦人が私に何かを伝えようと口を開きかけた時、部屋の奥の階段から幼い女の子が顔を覗かせ
た。初対面ではあるが、ここへ来る前にスカーレットから渡された資料の中に、同じ顔を見ていた。
間違いない、彼女がマリン=ウォーレスだ。
「……おばちゃん?」不安げに揺れる声がご婦人に向けられた。その声にはっとした表情で振り返る
と、慌てて「ダメよマリンちゃん!」と言って部屋に戻るようにとジェスチャーで促す。先ほどの気丈な
応対ぶりから一転して、彼女の動揺が見て取れた。
少し気が引けるが、ここで心理的に優位に立つためにも私は敢えて言葉をかけた。
「やはり、彼女もこちらにいらっしゃいましたか」
「!!」
再び私の方を向き直ったご婦人の表情は険しかった。まるで私から幼子を庇うようにして立ち塞がる
と、声を潜めて、けれど強い口調で言い放つ。
「わたしゃ別に構わない。けど、あの子は関係ないだろう!?」
「たしかに関係ありません。ですが、それを言ったらあなただって無関係です」
「それじゃあ!」
「……あなた方は既に私の人質です、この状況で正論は通りませんよ」
反論はなかった。
ここで私は完全に優位に立ったと、そう思った。しかし、この状況は文字通り足下から揺らいだので
ある。
「おばちゃん」
ご婦人の後ろに隠れる様にして、しかし言いつけは守らなかったのか、先ほどの女の子がおずおずと
顔を覗かせる。
「このひと……」
いちど私の顔を見上げてから、けれどすぐさま俯いてしまった女の子が何かを言い終えるよりも先に、
ご婦人は私の右手を掴むとさらに声を小さくして言った。
「そんな物騒なモノ、子どもに見せるんじゃないよ!」もの凄い形相で睨まれながら、早口に捲し立て
られた。半ばご婦人の勢いに圧倒された感はあったが、その言葉には一理あると納得し、あわてて
銃を懐にしまう。そう、この子には何の罪もない、関係だってない。それは最初から分かっている。
私に言った直後、彼女はこちらに背を向け幼子から銃が見えないようにと立つ位置を僅かに変えて
いた。先ほどの応答も含めて、よく機転の利く女性だと感心させられる。
彼女の功労に敬意を表して、この日はいったん引き上げようと考えた。ご婦人の機転もさること
ながら、こちらの準備不足も明らかだった。
特に覚悟という心の準備が、まだ出来ていない。
「今日は唐突にお邪魔して申し訳ありませんでした。また近いうちに改めてお伺いします」
いったんここを離れることに不安はなかった。なぜなら彼女たちには行く当てがないからだ。仮に
逃げたとしてもミッドガル内であれば居場所の特定は容易だし、しばらくはID検知システムで監視して
おくのも良いだろう。
ひとつお辞儀をして玄関を出た私は、扉を閉めようと振り返った。その時に、視界の隅に思わぬ
光景を見た。
依然としてご婦人の後ろに隠れたままだったが、顔を覗かせていたマリン=ウォーレスが小さく手を
振っている。この状況から考えると、どうやら彼女は私に向けて手を振ってくれている様だ。
(……?)
まだ幼い彼女のことだ、状況が理解できずに私のことを来客と勘違いしているのだろう。逆にこちら
としては、そのまま来客と思われていた方が都合は良い。
私は静かに扉を閉めて、伍番街スラムの一軒家を後にした。
***
それからさほど日を置かず、私は再びこの家を訪れる機会を得た。
ゴールドソーサーでの作戦決行が深夜だった事もあって、二度目の訪問は夜も遅い時刻になって
しまった。申し訳ないと思いながらも玄関戸を叩くが、しばらく待っても応答はない。部屋の灯りは付い
ているから、どうやら寝ているところをお邪魔しなくて済みそうだと言うことに、内心で安堵する。
とは言え就寝前に戸締まりするのは当然だし、すでに一度「人質にします」と公言している以上、
好きこのんで扉を開けてもらえるとも思えない。
(さて、どうしましょう)
ごく一般的な民家の、それも見たところ古いタイプの錠だったから、恐らく私一人でも破錠は可能
だろう。どちらかというと可能か否かと言うことより、泥棒のまねごとをするのに対して躊躇していた
のだが、考えてみれば人質を取っている時点で明らかに泥棒よりもタチが悪い。
こうして、自分の行動について妥当な評価を見出して肩を落とした私の耳に、扉の内側から金属音が
聞こえた。どうやら中から解錠してくれた様だ。さらにチェーンロックもせずに出てきたのは、この家の
主たるご婦人だった。
「……ずいぶん遅かったわねえ」
「すみません、色々と手続に手間取りまして」
「どうぞ」
初めてここを訪れた時と比べると、幾分か警戒心もなくご婦人はそう言って私を通してくれた。
彼女のご厚意に甘えながらも、後ろ手にドアのロックを掛ける事だけはしておいた。前回とは違い、
今晩は門の外に万が一の事態に備えて見張りが付いている。
本来私の管轄外とはいえ、取り扱う性質だけに今回の作戦の失敗は許されなかった。つまるところ
外の見張りは、私が失敗した時のために会社がかけた保険だった。彼らが宅内に踏み込んでくれば
荒事は避けられない、そうなれば彼女たちの安全を保障しきれなくなる。誰に偽善者と罵られても
構わないが、最悪の事態だけは回避しなければならない。
彼女たちを人質に取った私が果たすべき、それは最低限の責任でもある。
リビングに通されると、飾られたたくさんの生花が出迎えてくれた。室内の花はそれだけではなく、
至る所に花形をあしらった内装にも目を引かれる。庭先だけでなく室内の装飾品にまで一貫した
コンセプトが感じられる。
「あの子……エアリスが好きでね」
心なしか嬉しそうに、エルミナさんは教えてくれた。
「こちらのお庭も拝見させて頂きました。正直言って驚きましたよ、ミッドガルでこれだけの花が咲くのも
珍しいですからね。何より花壇の手入れが行き届いている」闇に沈む庭を背景に、窓に映った自身の
姿を見つめながらそう呟くと、今度は少し淋しげな声で答えてくれた。
「あの子が連れて行かれてからは、マリンちゃんが世話してるよ」
「そうですか」
実はこのとき、失礼ながらも私は話半分に窓の外を見つめていた。部屋には照明がある以上、外か
らは簡単に室内の様子をうかがい知ることができる。それに、当初の予定では庭にも見張りが配置さ
れていたはずだ。この状況ではヘタに動けない。彼女たちには今回……今晩だけ辛抱してもらおう。
今夜の作戦が上手く行けば、なにも問題はないはずだ。
いつの間にか声が聞こえなくなったことに気が付いて室内に意識を戻すと、さり気ない動作でエルミナ
さんは窓際に歩み寄っていた。恐らく彼女は私の視線を追っていたのだろう。カーテンを閉めた窓を
背に振り返ると、私を見つめて静かに告げる。
「さて、あんたが今日ここへ来たのには理由があるね?」
それは私の行動から、起きている事態を推測しての言動だと分かった。本当に機転の利く人だと
思った。そう言えば初めて会った日、彼女の夫は軍人と言っていたか? だとすれば合点が行く。
「……はい」
壁掛け時計と腕時計を交互に見て、現在の時刻を確認する。作戦決行まではまだ少しばかり猶予が
あった。
「まあ座ったら?」と椅子を勧められたものの、その申し出は丁重にお断りしておいた。のんびり構えて
いられるほど余裕はなかったからだ。時間的にと言うよりは、どちらかというと精神的な面の方が大きい。
そんな私を意に介さずに、キッチンからカップを持ってくると私の立つ目の前のテーブルに置いた。
立ち上る湯気と共に、上品な香りが漂い始める。
「気の利いた物は出せないわよ」
その言葉に驚いて、置かれたカップを改めて見つめた。これでは本当に来客扱いだ。
「あ、あの」
「心配しなくても、一服盛ろうなんて事はしないわよ」
言われて初めてその発想を思いつくが、よくよく冷静になって考えてみれば、さらりと恐ろしい事を口に
している。もちろん、そこを指摘する余裕も無く。
「いえそうではなくて」否定するだけで精一杯だった。
「信じるも信じないも自由だけどね」そう言って彼女はカップに口を付けた。
ここまで言われてしまうと、飲むしかない。訪問先でせっかく出して貰ったものに少しも口を付けない
というのも、そもそもマナー違反だ。
「…………」
手にしたカップから伝わる温もりに、どこか懐かしさを感じた。仕事の合間に飲むものとは違って――
こうして味わう暇がないというせいもあるのだろうが――温度ではなく温もりを感じた。
それから口にした紅茶の味が、ひどく美味しいと思った。詳しくはないが、ハーブティーの一種だろうか?
「とても美味しいです」
「そうかい、それは良かった」
感想とお礼を述べてから、カップを置くと改めて現状について問う。問わずにはいられなかった。
「あの、おもてなしは光栄なんですが、私は来客ではありませんし……」
その言葉にご婦人は大きな溜め息を吐くと、「せっかく人質になったってのに、その気が全然しない
からねえ」と呆れたように笑った。
「……はあ」
やっぱり演出が足りないのだろうか? などと見当違いなことを考えていた私に、今度こそ呆れ声で
こう告げられた。
「『おじさんは悪い人じゃない』ってね、あの子が言うのさ。子どもに見破られるぐらいなんだから、この
仕事、あんたに向いてないわね」
その指摘には苦笑するより他になかった。確かに向いてない、と自分でも思うのだから。
――「誰かを憎めば楽になる」スカーレットはそう言った。
確かにそうかも知れないと、私も最初は思っていた。
「私だってだてに歳は取ってないさ、なんとなく事情は察していたよ。
大体あんたみたいな顔をした人間が、戦場(いくさば)を経験してるとは思えない」
――けれど。
「事情を話してもらえないのかい? マリンちゃんの安全を約束してくれるなら、私も協力するよ」
――だとすれば私は一体、誰を憎めばいいだろう?
エルミナさんは真っ直ぐに私を見上げてそう申し出てくれた。また、彼女の言葉が駆け引きを前提と
しているのではなく、真剣に向き合って出された提案なのだとも分かる。
彼女の経緯を考えれば、神羅に敵対的であってもおかしくはない。それでも、こうして彼女は私を
招き入れた。ただ機転が利くだけではなくて、親身になって私や事態と向き合おうとする。だから厄介
だと思ったのだ。
「申し訳ありませんが……それは、できません」
「そうかい」エルミナさんはそれ以上なにも訊こうとはしなかった。
いっそのこと、ここに至るまでの自分の行い全てを否定してくれた方が楽だったのに、と思う。七番街
プレート爆破の事から――それこそ、歩んできた全てをうち明ければ、望み通りの言葉が返ってくる
のかも知れないと、そんな考えが頭をよぎった。
しかし全容を語る訳にはいかない。もちろん、古代種の育ての親にあたる立場にあったエルミナさん
には、語らずともある程度の背景は見えていたはずである。だからこそ、自分の口から全てを話す
わけには行かなかった。
「でもねえ、無理はしちゃいけないよ。あんた今、かなり無理をしてるんじゃないのかい?」
その言葉を聞いて、はっとした。そう、彼女を厄介に感じる本当の理由に思い至ったからだ。だとしたら、
彼女を憎めるはずはない。
「余計なご心配を……おかけして、すみません」
情けなくも声がうわずったのは、自覚してしまった故の事だった。しかし、お陰で漸く結論も出た。
私は、今になって神羅カンパニーの社員である事を放棄するわけにはいかない。
――「誰かを憎めば楽になる」悔しいがスカーレット、君の言うことは正しかった。
どうやら私は……。
懐から拳銃を取り出す。それを“人質”に向ける事を躊躇いはしなかった。
「それからエルミナさん。申し訳ありませんが、今は立場をわきまえて頂けますか?」
――私を憎むことで楽になれそうだ。
----------
・Disc1のデートイベント(エアリスorティファorユフィorバレット)以外で、
神羅への好感度も設定してこんなイベント見れたら良いな、などと本気で思っている。
リメイクやるならこう言うところにも焦点を当t(ry。
・書き手は年中無休24時間リーブ祭実施中…のわりに明るい話が書けないんだうわn
乙!
やっぱり自分自身を憎んじゃったか…
おつおつ!
乙です!
前半の怒っていたエルミナさんと、後半の穏やかなエルミナさんの対比に
「お母さん」という人たちの懐の広さと強さをまざまざと感じました。
それがリーブには辛いという皮肉がとても切ない。
手を振るマリンの無邪気さも、リーブにとっては刃なんですね。
ほ
関連:
>>345-351 (FF7Disc1/エルミナの話から)
----------
“彼”がこの家を訪れるのは、今日が三度目だった。
あの晩、通話先とは少し揉めたようだったけれど、彼の意図するとおりの取引ができた様子だった。
わたしが理由を聞いても答えてくれなかった。そりゃあそうよね。聞けたところで何かが変わった訳でも
ないだろうしね。結局わたし達は大人しく彼の“人質”でいる事ぐらいしか協力はできなかった。
交渉さえ終われば、わたし達を人質としておく必要はなくなった。そんな主旨のことを告げてから、
彼は別れ際に一連の非礼を詫びてくれた。最初から最後までやっている事と言っている事がちぐはぐ
で、そうとう無理をしている事が見え見えなのよ。
この間ここへ来たマリンちゃんの父親の方が、その点よっぽどしっかりしてるわよ。
だからこそ彼は、もう二度とここへ来ることはないと思った。
だけどわたしは、待っていたんだよ。
***
玄関を出ようとした彼の背中に声をかけた。振り返るとは思っていなかったし、現に振り返りはしな
かった。恐らく振り返る必要がない、とでも思っていたんだろうね。さっき彼は「“人質”の役目はここで
終わり」だと言っていた。
だけどね、巻き込まれた側のこっちはまだ終わっちゃいないんだよ。あなたがここを出る前に、
言っておきたい事がある。
「……昔ね」
彼の背中に向けて、世間話でも始める様にして切り出した。
「戦地で夫が死んだときに、神羅は紙切れ一枚しか寄越してこなかった」
当時、エアリスの言葉を信じられずにいた私にとって、神羅から送られてきた夫の死亡通知は、
ただの紙切れではなくなった。
すべての命が“この星”に還るのだと、まだ幼いエアリスは言った――それでも夫は星に還る前に、
この家に帰って来てくれた事を、私に教えてくれたのもエアリスだった。彼女の言葉がなければ、
わたしは今なお何も知らないまま、信じられないままにその通知を受け取ることになっただろう。
「『夫は死にました』、紙にはそれだけが書かれてた。簡単なもんさ」もう少し形式で飾られた文章
だったと思うけどね、そんなものはどうでも良い事だから忘れちまったよ。今ならこうして言い切る
ことだってできるけどね、そりゃあ当時はショックだったさ。
その言葉に思わず振り返ったリーブの顔には、大きく戸惑っていますと書いてあった。私は今、
どんな顔をしてるだろうね? ちょっと不安に思ったけど、話を止める気はなかったわ。
「そりゃあ神羅にとっては、紙切れと同じ程度なのかも知れないけどね」
ああもう酷い顔しないで。今さっきまで“人質”取って交渉するような周到な男のする顔じゃないわよ、
見てるこっちが情けなくなる。だけどこの人、絶対に視線を逸らす事はしない。だから根の部分には
強い意思を持ってるんだろうね。でもそのぐらいでなくちゃ、人質になった張り合いってもんが無いわよ。
「あの時もこうして、ここで夫を見送った。確かに夫は軍人だったし、戦地へ向かったのも知ってた。
だけど帰ってくると信じて待ってるより他に方法がないじゃないか? だからずっと待ってたのさ。
それなのに、私のところへ帰ってきたのは紙切れ一枚だよ」
ひどい話だと思わないかい? そう問い掛けた。わたしも視線は逸らさなかった。
彼はなにも答えられなかった――長らく続いたウータイとの交戦で双方の兵士、一般市民を問わず
多くの犠牲が出たのは周知の事実だった。私にとって最愛の夫を死に追いやったのは誰でもない
戦争だった。そして、神羅だってそれに荷担していた事になる――あんたの事だから、そんなことを
考えていたんでしょうねえ?
「……すみませんでした」
その言葉、言うと思ったよ。ああもう、さっきからどうしてこう……。
「あんたに謝ってほしくて話したんじゃないよ、謝られたって夫が帰ってくる訳じゃないからね」
今度こそなにも返す言葉が見つからないと言った表情のまま、彼はその場に立ち尽くしている。
溜め息を吐いてから「分かってないねぇ」と呟く。きっとこの言葉も、彼は違う意味に捉えているん
だろうけどね。だから「分かってない」って言ってるのさ。
「私はね、ここで夫を送り出した時と同じ思いをするのはご免だって言いたいのさ。
あの子に無事に帰ってきて欲しい。……それに、あんたにもね」
だからまた顔を見せに来なさいね。私が言いたかったのはこれだけなんだよ。
エアリスだけじゃない、マリンちゃんの父親にも、あんたにも、みんな無事に帰ってきて欲しいんだよ。
――あんたらに分かるかい?
待っている時間がどれほど長く、どれだけつらいのか。
だから、必ず帰ってらっしゃいよ。
「まだしばらくは、ここにいるわよ。どうせ行く場所もないしね」
この晩、わたしはそう言って彼の背中を見送った。
***
こんな状況でも待っていた甲斐はあったわね。玄関戸を開けて、家の前に佇む彼の姿を目にした
とき、そう思ったのよ。ところで少し窶れたように見えるけど、あんた大丈夫かい? やっぱりそうとう
無理してるんだろう?
「あら久しぶり、ずいぶん遅かったじゃないの」
さあ入りなさいと招き入れようとしたけれど、首を横に振ってから彼は言ったわ。
「どうぞお構いなく。それに時間もありません、私が今回こちらへお伺いしたのは……」その先の
言葉が続かなかった。
その表情を見ればね、誰だってある程度は察するわよ。だから黙って“あなたからの”言葉を待った
の。意地が悪いって? だけど、そのぐらいの意地悪をしても罰は当たらないだろ。
彼の表情は硬かった。どうせ「これは彼女たちを人質に取った私が果たすべき、責任の範疇だ」
なんてことを考えてるんだろうね。つくづく難儀な性格をしてると思うよ。
こう思うのは変なのかも知れないけどね、今日あなたがここへ来てくれて嬉しかったよ。
彼がこれから告げようとしている話は、多分わたしの希望を否定するものでしかないだろう。少なく
とも明るい話題でないのは確かだね。話す前からそんな表情してるんだから。
「エアリスさんの事で、お伝えしなければならない事があります。今日は、その為に伺いました」
わたしの後ろ――部屋の奥の階段からマリンちゃんの声が聞こえてきた。「あ、おひげのおじちゃん!
いらっしゃい」手を振る彼女に応えるべく、それでも彼はぎこちないながらも笑顔を向けていた。
それを見て、性根の優しい人なんだろうと思った。
彼は逸らしていた視線を戻してから、じっとこちらを見ているだけで何も言わなかった。言えなかった
んだろうね。
言葉を待つわたしの方の心境はまるで、刑の執行を待つ死刑囚のようだったわ。「生きた心地が
しない」ってまさにこう言うときに使う言葉なのね。いくら歳を重ねたと言っても、こんな気持ちを味わう
のはいやなものよ? だから堪えきれずに言葉の先を促そうとしたの、でもその必要はなかったわ。
「北方大陸、忘らるる都という場所でエアリスさんは亡くなりました。ご遺体はクラウドさんら同行する
仲間達の手で現地に水葬されました」
――ああ、やっぱりそうだったのね。
確証はないけど気付いてしまった。彼がなぜここを訪れたのか、そして告げようとしている事実を。
だけどね、あの子が死ぬなんてやっぱり信じられなかった。
明日になったらひょっこり帰ってくるんじゃないか? そう思った、思いたかったわ。だけど、あなたの
顔を見たらそれが現実なんだと思い知らされた。
あなたは残酷ね。
だけど、誰よりも優しいのね。
あの子の死を知らせるだけなら、手紙にでも書いて寄越せば済む話。だけどあなたはそうしなかった。
命は紙切れみたいに軽くない。それを、あなたはよく知っている。だから来てくれたのよね?
私が泣いたのは、あの子を失った悲しみだけじゃない。
あなたがこうして戻ってきてくれた事に、感謝しているの。
――ありがとう。
それをうまく伝えられなくて、ごめんなさいね。
─Fragment of Memories[Elmina]<終>─
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・Disc1エルミナの回想場面(エアリスと出会う経緯)がFF7に傾倒し始めたキッカケだった。
エルミナさん大好きです。
・Disc2ブーゲンハーゲン同行直後のハイウインド内、ケット・シーの台詞
(「エアリスさんが亡くなってしまった事をエルミナさんに伝えた」という主旨)は、
上述の伏線があって読むととても深いな〜なんて思う。という事で書いた話。
・書いておいてなんですが「エルミナ」の綴り間違ってたらごめんなさい。
・ラストダンジョンとは直接の関係はありません。(だからMemories)保守のお供に。
。・ ゜。 。゜。
。・ ゜。 。゜ ・。
。・ ゜。 。゜ ・。
。・ ゜。 。゜ ・。
。・ ゜。 。゜ ・。
・。 。・
∴ ・(ノД`)・ ∴
GJ!
おつおつ
乙
ほ
【The Way We Were】
ミッドガルが大きな都市として繁栄していた頃、私は神羅カンパニーでも少し特殊な課のリーダーとなった。
神羅を捨て、名前も生きた証も消して去って行った尊敬する方の後任としてだった。その後、ジェノバ戦役に
よってミッドガルと神羅が崩壊し・・・
-----この辺りの事を実際に体験した人間は、もう多くは残っていないだろう。
おそらくこの手記を読む人々の親やそれ以上の世代が実際に体験した惨劇であり、今では既にこの星の歴史の
一部となってしまった、昔のはなしだ-----
・・・ライフストリーム、星自身が救ったこの世の中は、しかし混沌に
包まれた。統治する者も、傷ついた住民を助ける組織や軍隊も、無くなってしまった。それまでは神羅が
行っていた全てがいわば一夜にして無くなり、人々は混沌の中に放り出されたのである。
そんな中で、住民を少しでも避難させ、どうにか生き抜いてもらおうという、通常ならば誰しもが
あきらめるような大仕事を、ミッドガル崩壊直前から一人ではじめ、その後は自らの資産で残った
神羅関係者や各地からのボランティアを集め、各地の復興活動を行う組織にまでしてしまった男がいた。
リーブ・トゥエスティ。
ミッドガル崩壊前からそのあとまで、私自身、立場上、直接ではないにしろ、
接する事は多々合った人物である。
この手記では、神羅カンパニーとミッドガル崩壊後の彼の活動を中心に、あの頃の出来事を書き留めて
いきたいと思う。私が彼の活動をみる事が出来る立場にあったと言うのもあるが、あの時代の出来事は、
彼なしでは語れないからだ。もちろん、私自身は彼に直接協力し、肩を並べて何かをするような立場では
なかったので、あくまで、旧総務部調査課リーダーであったの私の目を通した、あの時代の記録である。
ジェノバ戦役については多くの本にも書かれ、研究がなされているので、
私がその内容をここでまた詳しく述べる必要は無いだろう。
その頃、私自身は総務部調査課のリーダーとして働き、神羅カンパニーが名実共に崩壊してからは、
元神羅カンパニーの新社長であったルーファウスのもとに私を含めたメンバーが集まった。
元々私達の任務は神羅カンパニーでも特殊なものであったが、神羅崩壊後は、
体に障害を残したルーファウスを絶対的な存在として、彼の命で任務を行うという更に特殊なものになっていった。
言ってしまえば、神羅カンパニーでも、神羅と言う組織が無くなったあとも、私達は任務をこなす役割としての
存在だった。
だが、彼は違った。
彼は、自分の信じる道を自ら進んでいった。
彼も、神羅カンパニー勤務時代は、都市開発部門統括として「任務」を行っていたのだ。
しかし、ジェノバ戦役で彼はスパイとなり、我々とは袂を分かつ所謂「ジェノバ戦役の英雄」たちと
行動をともにしているうちに、彼の中で、確かに何かが変わっていったのだろう。
今の私にはそう思える。
彼は、メテオ災害から住民を守るため、社長以下トップを失ってカオスと化した神羅組織をどうにかまとめ、
まず住民を避難させた。それでも彼一人が人を集めて行う活動では限界がある。
その後ライフストリームがメテオを消し去り、ミッドガルが名実共に廃墟となった時には、
数えきれないほどの被害者が出た。
ライフストリームの影響を強く受けたものは黒い膿を出して死に、町には死体があふれた
(後に、ライフストリームに混じっていたセフィロスの思念体の影響である事が分かったが、
その当時、人々は理由も治療法も分からない黒い病気に打ちのめされていた)。
それでも、彼はあきらめなかった。
資材を投じて自ら人員を集め、世界再生機構と言う組織を発足させ、本格的に各地の復興に乗り出した。
この当時の彼の活動で、いくつか興味深いはなしが残っている。
当時の記録映像から、そのまま抜粋してみよう。
----------------
【歴史の中のミッドガル・・いやWRO】
FF7以外の作品が読みたい方々、本当に申し訳ありません。
某リーダーが後世に残した手記ですが、このあとから当時のリアルな会話等が出てきて
少し読みやすくなると思います。ちゃんといろんなキャラも出したいと思っております。
でもつまんなそう!って意見が多いようでしたらここでストップしますです・・
>>369 乙
だけどあとがきのラスト1行が誘い受けくさくてウザs
書き手は多少の叩きは気にせず、スレの内容に沿った自分の書きたいものを書いていいと思う。
まあ今までのこのスレの流れからして『つまんなそう』というレスがくるとは思えないんだが……。
キツイこと書いたけど作品は面白かったよ。
FF7エンディング辺り
>>315-317 決意1
>>367-369 The Way We Were とつながっています。
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【決意2、或は歴史に残らなかった小さな出来事】
「おっちゃーん、こっちおわったよー。撤収して、みんな戻るからー」
通話口から、元気なユフィの声が、廃墟と化したミッドガルに響き渡った。
「ええ、では皆さん先にプレート下の駅方面に向かってください。
プレート上はもう危険です。私もあとから合流します」
リーブは、それだけ言うと避難や警備作業に当たっていた数人にいくつか指示を出し、一人歩き出した。
「統括!」そう呼びかけたのは、リーブの呼びかけによる住民の避難作業を手伝っていた元神羅兵だった。
「どこへ行くんですか!我々もプレートからはなれないと危険です」
リーブは短く振り返り「すぐに戻りますので、皆さんは先に下に向かってください」とだけ言い残して
瓦礫の先に消えていった。
-----------
この日。運命の日。
星が自分を救うために放ったライフストリームは、地上に生きる人々にとっては恐れる白い奔流となり、
ミッドガルを文字通り飲み込んだ。セフィロスはジェノバとともに大空洞に沈み、リーブの相棒である猫や
仲間たちは、空からその光景をみていた。
全てが終わったはずだった。?
全てが始まるはずだった。
しかし、ミッドガルに残って、テレビ等生き残ったあらゆるメディアや人力を使い住民の避難活動を
行っていたリーブが実際に目にしたものは、「ミッドガルの終わり」だった。
人々が集い、物が集まり、繁栄したミッドガルと言う都市は、単なる廃墟となった。
神羅カンパニーと言う組織が消えてしまった今、白い蛇が暴れたあとのミッドガルで、
人々がすがる事の出来るものは何も無かった。プレート下に逃げ遅れた者達は、何時間もかけて
線路を歩いて地面へと降りていった。途中で力つきるもの、自らの足で大地を踏みしめてすぐに
息絶えるものも沢山いた。
リーブは避難活動と同時に、食料や水等の緊急物資の準備を少しずつ始めていたが、
彼と彼が集めた神羅社員の残り有志だけでは、何より絶対数が足りていなかった。
メテオ消滅後24時間で、彼らが避難や食料等の物資援助を行った人数の何十倍もの人々が、
そのまま力つきていった。
-----------
リーブは瓦礫の山を越えながら進んでいたので、歩いても歩いても目的地に近づいているとは
到底感じられなかった。彼自身、避難や救出活動、避難物資の調達等で、体力はほとんど限界まできていた。
それに、一刻も早く自分もプレート下の物たちと合流して、物資の調達などの活動を引き続き行わなければ
ならない。それでも、彼はミッドガルを出る前に、どうしてもそこへ向かわなければならなかった。
夜が白んできた。ふと振り向くと、神羅カンパニー本社であったビルが、煌めいていた。
しかし、それは今となってはただの残骸に過ぎなかった。崩れた家の上に慎重に登ってみると、
朝日を受けて輝く、【廃墟ミッドガル】の全景が見えた。
「・・・」
リーブには、何も言う事ができなかった。
彼が建設に携わり、住民を守り、愛した都市が、巨大な死の廃墟となって目の前に横たわっていた。
朝の光が一日の始まりを告げていたが、この廃墟ではもう時間は流れていないようだった。
彼には、ただそれを呆然と眺める事しか出来なかった。
しばらくして我にかえり、目指す場所へと足を速めた。
その家は、廃墟の中で同様に崩れていたが、確かにそこにあった。慎重に家の中に潜り込むと、
先日訪れた時に割れていたガラス窓の部分を中心に、家具や物が散乱していた。
人がいる気配はなかった。(母とあの子は・・・)わずかな希望だけを頼りに、彼は家中を探しまわった。
倒れた家具の下も調べてみた。探索がキッチンにさしかかった時、彼は割れたキッチンの窓の向こう、
バックヤードに土が盛られているのを見つけた。
「・・・あれは」
リーブは裏庭に出て、盛られた土をみた。まだ新しく、表面も乾いていなかった。
認めたくない事実。その意味を正しく理解した時、彼は盛り土の横に力なく腰を下ろした。
彼には、分かっていた。母がここを離れないであろう事が。
(それでも、それでも)彼はとどめなく溢れ出す涙を拭うことも忘れていた。
(それでも、母は「いや大変だったねぇ。あんたが割れたガラスちゃんと直してくれないから、
こんなになっちゃったよ。次はちゃんとやっておくれよ」なんて言いながら
飄々と出てきてくれるんやないかって、そう、信じとったんや!そう、願っとったんや!!)
--------------
少し日が高くなってきたようだ。一刻も早くプレート下に行って住民救済措置の続きを行わなければならない。
しかし、彼は盛られた土の横に力なく腰をかけたまま、下を向いていた。
いつ涙が乾いたのかも分からない。どのくらい時間が経ったのかも分からない。自分が何を想って、
何を考えているのかも、もはや分からなかった。
(神羅もミッドガルも消滅した。母も、ミッドガルとともに眠りについた。
あの子・・プレート落下で孤児になったって子はどうしたんやろう。一緒にここに眠っとるんやろか。
都市も、住民らも沢山力つきていったのに、ボクは目の前でそれをみながら何もできへんかった。
終わり、終わりなんや。こっから始まりなんてもうあらへんのや。全部終わったんや。)
また涙が溢れ出してきた。
呆然と顔を上げると、キッチンの外に、ティーカップの破片が見えた。
(そうや、あの夜、お茶入れてくれたんやったな。あのカップで)
目を閉じると、ティーカップからの熱い湯気と、母お得意の花とハーブミックスのお茶の香りが漂ってきた。
「!!!」
はっと我にかえってリーブは顔を上げた。
(お茶飲んで、話して、それから・・・そうや、あの人は言ったんや)
「 あんたも、あんたが、信じる道を進めばそれでいいのさ」
(そうや、そうなんや)
彼は立ち上がった。
(あの人は、そう言ったんや)
まだ自分にはやるべき事が沢山残っている。ミッドガルは無くなったが、途方に暮れていく宛も無い人々が
山ほどいるのだ。この24時間で、彼は救済措置において自分が出来る事の少なさを痛感していた。
とにかくこの混乱した状態をどうにかするために、人員が必要だ。
「そや、自暴自棄になってる時間なんかあらへん」
リーブは家の中に戻り、残骸の中から母がいつも飾っていた造花を何本か探し出し、庭の土の前に差した。
(ボクはまだ生きて、ここにいる。やらなきゃいけない事があるんや。そう、信じる道を進ませてもらうで)
「ごめん、そして、ありがとな」
----決意2、或は歴史に残らなかった小さな出来事 Fin------
・お言葉に甘えて、うだうだ言わずに信じる物を投下させて頂くぜ。
・歴史シリーズは続くけど、「親不孝者!」リーブ小説はこれでおしまい。後悔してないんだぜ。
誤字脱字が沢山ありましたorz
○私財×資材
○とめどなく×とどめなく
「全てが終わったはずだった。?」←この?いらない
etc....次からは精進します。お目汚し失礼いたしました。
GJ!
>>367-369 ルーファウス陣営から見たWROというのは興味深い考察テーマですね!
AC、DC本編中では彼らの意図という面には殆ど触れられていないので、読み手として
今後の展開がまったく想像付かないという意味でも期待sage。
(個人的に、そもそもACで「セフィロスの影響の調査」っていう名目でジェノバの首を
持って来るって行動も、WROの立場からするとちょっと不可解なんですよね。仮にその
目的が神羅の復権であったとしても、いまいち何の役に立つのか…ってまさか恐怖政ry)
それにしても、語り手として位置的にツォンさんはオイシイなと、これを読んで気付いたw
>>371-375 ・゚・(⊃Д`)・゚・
自らの所業に気付いた親不孝者は、気付かない親不孝者よりも不幸だと思います。
以前に自分も言われた事ですが、誤変換程度の訂正はひとまずスルーで良いかも知れません。
(まとめる時にでもコッソリ訂正)みなさん分かった上で読んでくれてるのでw
自分の場合はコッソリどころかゴッソリ訂正してる場合もあったりなかったりいやすんません。
前話:
>>293-296 ----------
それは今日、セブンスヘブン開店前2人目の来客を告げる鈴の音を聞いたデンゼルが「まただよ?」
と、あきれ顔になりながらも、階段を降りてカウンターへ向かった後の出来事だった。
***
「そろそろ、お話ししておかなければいけませんね」
唐突にリーブが告げると、バレットは「何をだ?」と言わんばかりに視線を向けた。
「皆さんをここへお呼びした本当の理由です」
無表情で淡々と語られる言葉の中に、バレットは引っかかりを感じて問い返す。
「『お呼びした』ってお前……」
「そうです、ここへ皆さんをお呼びしたのはリーブ……つまり我々“人形”を配備した張本人です」
建物へ入る前にヴィンセントが指摘した「設計者自らが閉じ込められた、という話はどう聞いても
不自然だ」というのは、どうやら当たっていたようだ。
「なんだよ、わざわざこんな面倒な事しなくても、普通に呼んでくれりゃあ来てやるってのによ」
「確かにそうですね」
にこりともせず同意して、リーブは話の先をこう続けた。
「ですが、ただお呼び立てした場合、まず皆さんは自分達が招集される理由を尋ねるでしょう。しかし
それでは私の方の都合が悪かったんですよ」
「なんでだよ?」
どうせお前のことだから何か頼み事があるんだろう、そんなことぐらいお見通しだぜ? とバレットが
茶化すように応じると、やはり笑顔もなくリーブは頷いた。
「性質上、多少の困難と危険を伴う依頼になる事が予想されたからです」皆さんのことですから、きっと
私から話せば引き受けてもらえるでしょうが、そう言うわけにはいかなかったと話すリーブに、バレット
は「今さら水くさいぜ」と豪快に笑った。
「皆さんが考えているほど簡単な内容ではないんです。ですからまずは、こうして皆さんの力量と意思
を確かめさせて頂きたかった。先ほどの発言もこの意図があっての事でしたが、どちらにしても非礼を
お詫びします」
そんなことは気にしちゃいない。笑顔を消したバレットが首を振る。
「それよりなんだ? まるで俺達の腕試しでもしてるみたいな言い方だな」
「その通りです」
即答したリーブの態度が、バレットにはどうしても解せなかった。
6年前の旅の間はもちろん、メテオ災害後もたびたび協力して難局を乗り越えてきた。今さらそんな
俺達の何を試すって言うんだ? そんなに信用がないのか?
バレットが憤りにも似た疑問を口にする前に、リーブはそれを否定した。
「もちろんこれは皆さん自身と、力を信用しているからこその依頼です」
「だったらよ……!」
「話はまだ続きます」窘められてバレットが肩を落とす。大人しくなったところを見計らってリーブはこう
続けた「この施設には『インスパイア』という能力が安置されています。我々はそれが持ち出される、
あるいは外部に漏れる事を防ぐために配備されているのです」
「いんすぱいあ?」
聞き慣れない単語に素っ頓狂な声をあげるバレットを無視し、さらに話は続いた。
「この施設の最深部、そこにインスパイアは安置されています」
「だからインスパイアって……」
「私からの依頼は、そこに安置されている物の破壊です」
「分かった、やってやるからそのインスパイアってのは何なんだよ」
まあなんだ、ゲームで言えばダンジョンの奥にいるボスを倒して目的を果たせってヤツだな?
分かった分かったと頷くバレットには最初、回答の声は聞き取れなかった。
「リーブの事です」
ダンジョンと言えばやっぱり手強いボスだよな。うんうん。テレビゲームとか俺もやったぜ……。で、
何だっけ? 自分で話を振っておきながら、すでにバレットは話の方向性を見失っていた。
「この施設の最深部に安置されている、インスパイアを破壊して欲しいのです」
それでインスパイアってのは何だ? 新しい兵器の名前か? それにしちゃあ迫力に欠ける名前だ
よな。もうちょっとこう、強そうな名前を付けたらどうなんだ? すっかり自分の世界に浸っている
バレットに、根気強くと言うよりは事務的に言葉が繰り返される。
「インスパイアとはリーブ自身の能力を指した言葉です。つまり我々は、インスパイアの持ち主である
リーブを破壊してほしいと、皆さんに依頼したいのです」
じゃあ何だ? 要するにインスパイアっていう力を持ってるリーブを倒せば良いんだな? ……んっ?!
そこで漸くバレットは我に返る。
「ってお前、ちょっと待てよ……それってのはつまり……」
先に続く言葉を口にするのが躊躇われた。けれどここまで来たら確かめないわけにはいかない。
「俺達の手で、リーブを倒せって事なのか?」違う。これはゲームではない。それにさっきから聞いて
いて何かが変、というよりも歪んでいる気がした。
「お前は、俺達にリーブを殺せって言いたいのか?」
人形は、黙って頷く。返す言葉を見つけられず呆然とリーブを見つめていたバレットに、止めを刺す
ようにして最後に告げた。「皆さんを信頼しているからこその依頼です」
***
ちょうど同じ頃、本部施設内の最上層では、バレットと同じ様な表情をして頭を振っているユフィの
姿があった。
「『インスパイア能力そのものを安置』って……ごめん、おっちゃん。言ってる意味が分かんないよ」
困った表情のユフィに言葉を向けられて、どう説明したら良いものかと思案をめぐらせた結果、
リーブは次のように語った。
「ケット・シーをご存知ですね?」
当然とユフィは大きく頷く。それは6年前も旅を共にした――愛くるしくてちょっと憎たらしいネコの
ぬいぐるみ――いろいろな意味で忘れるわけがない。
「ケット・シーはリーブによって操作されていた『ぬいぐるみ』です」
それも知ってるよとユフィは続けて頷いた。「あの時おっちゃんは、神羅ビルからぬいぐるみを動か
してたんだよね」密かに北の大空洞で、ケット・シーのそんな境遇を羨ましいと思ったのは、ここだけ
の話。
「そうです。そして、それこそがインスパイア能力なのです」
その言葉にユフィは一瞬目を丸くした。ケット・シーはリモコンか何かで動いていると思っていたから
だ。そんなユフィの考えをリーブはやんわりと否定する。
「PHSも繋がらない地下の大空洞、潜水艇でなければ辿り着けない海の深淵、……それに大気圏外
の宇宙空間でさえも、ケット・シーの動作を保証できる通信技術はありません。残念ながらリモコンの
信号を受信できる環境は限られていますからね」
旅の当時、PHS――携帯通信機として仲間達の連絡用に用いられた物で、正式名称『パーティー
編成システム』の略称だった事は今さら説明するまでもない――では、確かに繋がらない場所もあっ
た。しかも肝心なときに限って繋がらなかったりするのでイライラしたりと、その事はユフィも実感とし
てよく知っている。確かにこうして考えると、ケット・シーが動かなくなりそうな場所も出てくるはずだが、
そんな場面は見たことがない。どんな場所にいても、常にケット・シーは仲間達のそばで愛くるしく振る
舞っていた。
でも一応、リモコンでの操作も可能なんですよとリーブが蛇足を加えるが、ユフィは聞いちゃいな
かった。ここぞとばかりに考えられる可能性を片っ端から聞く勢いで声をあげる。
「じゃあ、じゃあさマテリアは?!」
操作と言えば、『あやつる』マテリアだ。我ながら妙案! と得意げな表情を作るが、それもリーブに
よって否定される。
「インスパイアというのは、無機物……そうですね、分かり易く言えば“生物ではない物を操る力”です」
それは『あやつる』マテリアを使用した時と似ていると思われるかも知れませんが、現象としては全く
異なるのだと続けた。
その言葉に無言でユフィが頷くと、リーブの話はさらに続く。
「マテリアでは操れる対象が生物――こちらに敵意を持って動作する機械類なども含み、意思(プロ
グラム)を持って行動するもの――である事に対して、インスパイアで操れるのは無機物――意思を
持たない非生物――のみです。そして『あやつる』のマテリアでは実現できない一番の特徴は、操った
対象を自らの記憶媒体として意識下に置くことができる、というものなんです」
ここでユフィはちょっとぎこちない動作で頷いた、話が進むにつれて理解が追いつかなくなっている
気がする。それを表情から察して、リーブは話の後半にこう付け加えた。
「ケット・シーが体験したことを、私も共有しているんです。でなければ、状況に応じて的確な操作を
実現することは不可能ですからね」
つまりケット・シーに見た物、聞こえた音、感触などあらゆる感覚を共有することができる。もちろん、
痛覚も共有しているので戦闘中にケット・シーがダメージを被った場合、それはリーブにも少なからず
影響を与える事になる。
「ただ、操作している機体と完全に同調している訳ではありませんので、ケット・シーが動けなくなった
場合でも私は動く事ができるんですよ。それ以前に、機体との共有を切断することの方が多いです
けどね」
「ええと、つまり“おっちゃんの分身”?」そういえば忍術にも『分身の術』ってあるけど、たぶんあれは
相手の目を眩まして矛先を分散させるってだけで、自分という個体が増えるわけじゃないんだよね。と
ユフィなりの解釈を交えながら話を理解しようと懸命だった。
「そうですね。記憶や感覚を共有する、インスパイアで操った物は文字通り“分身”になります。私が
リーブの分身であるように」
それから「話を戻しましょうか」と言ってリーブはこう告げる。
「先ほど申し上げた“この星にとって害をなす存在”が、他でもないインスパイアなのです。
W.R.Oとしては、彼を見過ごしておくわけには行かないんですよ」
そしてこの作戦には、みなさんの協力が不可欠なのだと語るリーブに、表情はなかった。
***
『皆さんを信用しているからこその依頼です』
端末に繋がれ机の上に座っていたケット・シーは、そこからマリンを見上げていた。スピーカーを通し
て彼らの声を聞いたマリンは、バレットと同じように言葉を失ったまま唇を噛みしめ、今にもこぼれ落ち
そうな程たくさんの涙を浮かべて、それでも泣くのを堪えて立っている。何もできない悔しさや、大切な
人が自ら死を選んだ事を告げられた悲しさ、そして怒りにも似た疑問――胸の奥から湧き出る多くの
感情にマリンは戸惑いながらも、泣くことだけはするまいと必死で涙を堪えていた。
ここで自分が泣けば隣にいるケット・シーが困るだけだろうと、心優しいマリンのことだろうから、きっと
そう思っているに違いない。目の前に佇む健気な少女に、ケット・シーは申し出た。
『……なあ、マリンちゃん』
呼びかけに顔だけを向けるが、返事はしなかった。声を出せば口から感情があふれ出してしまいそう
だったのだろう。ケット・シーは両手を広げてマリンを促す。ためらいがちに差し出されたマリンの手を
握ると、さらにこう続けた。
『1つだけ、頼まれてくれへんかな?』
マリンは声を出さずに頷いた。
『あんな……。見ての通りボク、ぬいぐるみやねん』
今さらそんなことを言わなくても分かってるよと言いたげに、マリンはもう一度頷く。
『ボクの中には相性占いから高度なデータ処理までこなせる、高性能マシンが入ってるねん。しかも
マリンちゃんと同じ様に、怒ったり笑ったりもできるんや』
そう言ってケット・シーは背中に繋がれたコードを示すと、それを見たマリンはうんと頷く。
『せやけどな、ボクにも出来へん事があんねん。だからマリンちゃん、頼まれてくれへんか?』
それは何? と尋ねるようにマリンは首を傾げてみせた。
ケット・シーはほんの少し考えてから、ちょっと困ったような声色になってこう続ける。
『どないに悲しい思うても、ボク泣けへんねん。ぬいぐるみやから涙腺っちゅー機能が無いねん。
せやからボクの分も……ついででエエんやけど、一緒に泣いといてくれへんか?』
無理して涙を堪えることはない、泣きたいときは泣けばいい。泣けないボクなんかより、その方がどれ
だけ立派な事か。どれだけ大切なことか。それはぬいぐるみであるケット・シーの機能限界であり願い
だった。
言外に含まれたケット・シーの意図を汲んだマリンの頬を、一筋の涙が伝う。
『おおきにマリンちゃん。でもホンマに、ついででエエねん。無理せんといてな?』
差し出されたマリンの手を、ケット・シーは両方の手で包み込むように握りしめた。ふわりとした感触は、
いたわりの言葉と共にマリンに伝わる。
ケット・シーだって誰かが泣いてる顔を見たい訳じゃない、だけど涙を堪えている顔よりは、ずっと良い
と思った。
『ボクの胸で思いっきり泣いたらエエで!
……って、すんませんボクのサイズがもうちょい大きければ、マリンちゃんをこう、ぎゅ〜って抱きしめ
られたんやケドなぁ〜』
おしい事したなぁ、と戯けたようにしてケット・シーが言うと、マリンは涙で頬を濡らしながら笑顔を作る。
それからこう言った。
「しょうがないな、それも私が代わってあげるね」
涙を流せないケット・シーの代わりに泣くことも、抱きしめてあげる事も。
「……ありがとう」
マリンの言葉は、やがて嗚咽に消えた。頬を流れる涙を拭うこともせずに、ただただ静かに泣いていた。
彼女の腕に抱かれる中で、ケット・シーは考える。
――きっと涙は、悲しいから流れるんじゃない。
怒りに打ち震えたときに流れるもんでもない。
(マリンちゃん、しんどい思いさせてしもてすんません。ボクは……)
――きっと。
心が傷ついたときに流す、血のような物なんだと思った。
(ボクには流せる血も涙も……何もないんや……)
――おかげでボクが、所詮は作りモンやったって事に改めて気ィ付いたんや。
本物ちゃうで? "本物みたいに精巧な"作りモンなんや。
せや、作りモンには作りモンにしか出来ん事があんねん。
(せやからマリンちゃん、次は泣かんでもエエからな。泣かんといてな? やっぱ泣かれるんはイヤやし。
しかもボクが泣かした言うたら、デンゼルにエライ怒られてまう、そら勘弁や〜)
ケット・シーが結論にいたって顔を上げると、部屋の入り口に立った彼らと目があった。
----------
・229に来てようやくこの話の本題というか、インスパイア勝手解釈祭り実施中です。
インスパイアの操作対象は「無機物=非生物」、これは今作での解釈でありFF7作中での正確な解釈は
…こっちが聞きたいですw
・解説やらこれまでの伏線っぽい違和感の説明やらができてれば良いなと思ってるけど、実は微妙w
・諸事情あって次の投下まで時間が空いたら申し訳ないです。
乙!
GJ!
質問
ここって恋する小説じゃなきゃダメなの?
恋してない小説もあうわ何をすr(ry
他の小説スレが無くなっちゃったからなー。
俺は何でも喜んで読む!
書き手は一人でも多い方が楽しいよ!
>The...決意2、ラストダンジョンの方々
何なんだ久しぶりに来たら、朝からみんなして泣かせやがって…
リーブ頑張れ、ツォン期待sage、ケットもマリンもみんな頑張れ!!!
おつおつ!
乙
ほ
ぼ
ま
り
ん
実
は
携
帯