保守
(これは、賭けだ)
立ち込める砂煙と、その奥から膨れ上がる殺気を前に、スコールは胸中で呟く。
殺人者に襲われたのは事実であるといえ、現状で援軍が必要かと言われれば、答えは否。
あらゆる面でアドバンテージはスコールにある。
だからこそ、この局面で援軍を頼むのは、賭けだった。
有利であるのに不利を演じて、仲間を死地に招いたと知れたら、他の人間はどう思うか。
万が一にも応援にやってきた仲間が敵の手にかかった場合、周囲はどう捉えるか。
そして何より、応援にやってくる人物は、"仲間"であるのか。
単純にサラマンダー一人を戦闘不能に追い込むだけなら、スコール一人で戦い続けた方が、事は容易く運ぶ。
だが、彼は賭けることを選び、そして賽を投げた。
もはや後に引くことはできない。
一瞬の思考を、ざり、と砂を蹴る音が中断する。
("最初のカード"は引き損ねたみたいだな)
投じた短剣がスコールの脳裏を過ぎるのと、地面すれすれの高さで焔色の髪が翻ったのは、同時。
(やはりそう来るか)
黒煙を切り裂きながら、四足獣さながらのスピードで迫り来るサラマンダーを、青い瞳は冷静に見据える。
(斬撃を潜り抜けるか片腕で受け止め、開いた手で鳩尾を狙う……
まともに食らえばおしまいだな)
瞬きする暇も無く、サラマンダーは眼前に迫っていた。
全ては三秒にも満たない。
スコールが剣を振り下ろす。
サラマンダーの足が地面を捉え、撓んだ筋肉がばねのごとく躍動する。
蒼く輝く刀身が左手で掴み止められたのは、脳裏に描いていた通り。
刃はがしりと固定され、トリガーを引き弾薬を炸裂させたところで、手の皮膚を浅く抉るのみに留まる。
同時に、行き場を無くしたエネルギーが反対側へ――反動となって、スコールの身体を押す。
愛剣から手を離すことに躊躇いは浮かばなかった。
勢いを利用して後ろに跳び退る、同時に、サラマンダーも溜めた力を解放して追いすがる。
胴体と拳、二つの距離は、縮まり、縮まり、縮まり――逃げ切れない。
抉るような、メイスの一撃に似た鈍痛が内臓を押しつぶし、一瞬、視界を白く染める。
だが、飛びそうになる意識の裏で、緑と真紅の輝きが閃いた。
カーバンクル、とスコールが気づく前に、体がひとりでに動き出す。
吹き飛ばされている姿勢から、右足と両腕で地面を突く。
ブレーキをかけるように、そして振り子のように腕と片足を軸にして回転し、
サラマンダーのこめかみに強烈な蹴りを叩きつける。
GFカーバンクルの能力、『カウンター』が発動したのだ。
予想外の一撃に、さしものサラマンダーも受身を取りきれず、ライオンハートを取り落とす。
その隙を見逃さず、スコールは再びドローを発動させた。
先刻同様、像から浮き上がる魔力の光に、サラマンダーは反射的に距離を取る。
「フレア!」
僅かに遅れて完成した爆発は、やはり虚空を抉るのみ。
それでも、スコールの思惑通り、ライオンハートを回収するだけの余裕を生み出した。
三度巻き起こった黒煙と砂埃に紛れ、地面に横たわっていた青い刀身を拾い上げる。
しかし、息をつく暇は無かった。
視界の端で銀光が煌く。
スコールの、傭兵としての経験が、咄嗟に身をひねりザックを前に突き出させた。
ざくり、と布地を切り裂いて短刀が突き立ったのは、その直後だ。
「返してくれるなんて親切だな」
皮肉交じりの言葉に、煙幕の向こうから返事は戻ってこない。
スコールは刺さったオルハリコンを引き抜き、懐に仕舞っていたひそひ草ともども、ザックに放り込む。
「ところであんた、そんなにバトルが好きか」
「……」
砂塵の中、どこか独り言めいた呟きに、サラマンダーは無言で頷く。
「俺の知り合いにもあんたみたいな奴がいる。
何かにつけて勝つことに拘るバトル野郎だ」
つきあってられない、というように、スコールは剣の腹で肩を叩いた。
「コンディションに戦闘能力……不意打ちが失敗した時点で、圧倒的不利なのはあんたの方。
だから最初に目くらましを仕掛けた。
打算で動ける奴なら、砂煙に乗じて退くことを選ぶだろうからな」
「生憎だが、そういう器用な生き方は俺の柄じゃない」
サラマンダーは口の端を歪めた。
誰かを思い浮かべているようにも見えるし、単に自嘲しているだけのようにも取れる、そんな微笑だ。
だが、スコールはせせら笑うように鼻を鳴らした。
「乗った奴と取引はしても、か」
その一言に、サラマンダーの眉がぴくりと跳ね上がる。
すう、と周囲の空気が冷たく、張り詰めていく。
かすかに吹いた風が黄土色の粒子をさらに巻き上げ、二人の周囲を帳のごとく包み込んでいく。
「……何が言いたい」
「殺人狂や戦闘狂は、他人との取引に応じたりしない。
勝って生き残りたい奴なら、負ける可能性が高い戦いには挑まない。
サックスが来るかもしれない?――いいや。周囲に人がいないことぐらい、確かめているはずだ。
相手は選ぶ、だが勝率は気にしない、そういう行動を取る奴の真意は一つ。
今どき映画でもやらないような、下らない男の下らないロマンチシズム」
目の前の相手から放たれる静かな殺気をものともせず、スコールは人差し指を突きつけた。
「迷惑だ。あんたの都合に俺を付き合わせるな。
死にたければ一人で勝手に死ね」
薄靄に包まれた大気が震え、僅かに遅れて風切る音が響いた。
激昂したサラマンダーの一撃は、音速を超え、スコールの胸を打ち抜いたのだ。
だが――そこに、手ごたえは、何故か無い。
「マヌーサという魔法を知ってるか?」
スコールの声が、サラマンダーの真横から響く。
「俺は、数時間前に知ったんだが……
本人が了承してくれたんで、少しドローさせてもらった」
呟いているのは、スコール一人。
しかし、サラマンダーの目には、二人分の像が映っていることだろう。
本物のスコールと、砂塵に紛れて立ち込めている紫色の霧が作り出した、幻のスコールが。
「馬鹿な……ッ」
サラマンダーが立ち尽くすのも当然。
スコールはフレア以外の魔法を唱えていないのだから。
ただでさえスコールの指摘と挑発に乱されていた心は、いつ術中に陥ったのかさえ分析できない。
「……ッツうぉおおおおおおおお!」
焦りと苛立ちに駆られるまま、闇雲に攻撃を仕掛けたところで、当たるはずもない。
それが混迷に拍車をかけ、冷静になることを忘れさせる。
「俺は約束をした」
既にサラマンダーから距離を取っていたスコールは、地面に剣を突きたてながら、ぽつりとこぼした。
「例外は、アルティミシアが相手の時だけだと」
その言葉の意味こそ知らずとも、余裕の現れと解釈したサラマンダーは、声の方角に飛び掛る。
スコールは剣のトリガーを引いた。
重なるように沸き起こる土埃、未だ消えぬ砂煙、魔力の霧。
全てが、サラマンダーの視界を遮る。
だが、研ぎ澄まされた聴覚は、正確に爆音の――スコールの位置を判断していた。
感情は大きく波立ち、けれど、スコールの言葉を止めるという意志はもはや鉄よりも固い。
故に、その一撃に迷いはない。
ひた走る。
引いた腕と拳に渾身の力を込め、そこにいるはずの男の命を刈り取るべく、突き進む――
その足が、不意に、宙を蹴った。
「望みもしないくせに仲間を殺すバカ野郎のために、約束を破る気はない。
だから――死にたければ勝手に死ね。俺を巻き込むな」
瞬間、サラマンダーの体は空に投げ出され、視界が一気に蒼一色に塗りつぶされる。
スコールの声が急激に遠ざかる。
旅の扉――
挑発も、幻覚も、煙幕も、全てはこの上に誘い込むための罠。
そのことに気づいた時には、新たなる世界への転送が始まっていた。
ふう、とスコールは息を吐く。
風は止み、砂は静かに舞っていた。
旅の扉は青く輝き、そこに人影はない。
パンデモニウムのさきがけとドロー。
カーバンクルのカウンターと、ST攻撃ジャンクション。
アビリティをフルに利用し、かつ運にも頼った結果の、勝利だ。
最も、理想としたプランは、最初の投げナイフでST攻撃を成功させそのまま旅の扉に誘導するというもの。
その点ボディーブローを一発もらってしまったので、
「計画通り……ではないな」
珍しい魔法だからとケチらないでそのまま使えば良かったか、と内心で一人ごちながら、
じくじくと痛む腹を押さえ、少し離れた場所まで歩く。
旅の扉から見える位置にいては、無関係な生存者や殺人者と出くわす可能性が高いからだ。
やがてスコールは、扉から数十メートルほど離れた位置にある、焼け落ちた家の影に腰を落ち着けた。
(ここからが問題か……)
スコールは考える。
先ほどのひそひ草で、誰がこちらに来るか。
まず、サイファーは有り得ない。危険人物を放置してのこのこやってくる監視者はいないからだ。
ヘンリーは集団のリーダー役、その割りに戦い慣れはしていない。
彼が行くなら、十中八九おせっかいなリュックが割り込んでくるだろう。
しかしリュックも、その気になれば回復魔法が使えるという。
となれば怪我人の多いパーティ、貴重な回復役に離れられては困ると考えるのが常識的な反応。
残るはサックスとバッツ。
消耗が激しいのはサックスの方だが、この村が故郷だと言っていたから、地理に関しては詳しいだろう。
それに、バッツは片足を負傷していた。
その点を引き合いに出せば、サックスが応援役に選ばれる可能性は、極めて高い。
では、サックスがこちらに来たとしよう。
サラマンダーを退けたことを知れば、手出しはしないだろうか?
――否。
一対一で、サラマンダーに全ての罪をなすりつけられる状況だ。
こちらのひそひ草を奪い、連絡手段を封じた上で、背後から切りかかってくる。
少なくともスコールがサックスの立場であるなら、そうする。
(……それはいい)
そう、ここにサックスがやってきて、襲い掛かってくること自体は、スコールの予想と計画の範疇だ。
今の状況とタイミング、周囲に隠れて誰かを殺すには絶好の機会。
それは逆に考えれば、本性を隠して集団に溶け込んでいる裏切り者を炙り出す、最大のチャンスということ。
サラマンダーの反応からも、サックスが仲間を捨て殺し合いに乗っていることはほぼ間違いない。
ここで尻尾を掴めなければ、油断しているところを攻撃されるばかりでなく、味方面して偽の情報を流すといった方法で、敵を増やされる可能性すらある。
ともかく、"援軍”が来る前に、サラマンダーを退けることには成功した。
これでサックス以外のメンバーが来ても、生命に関わるような事態は、まず起こらないだろう。
サックスが来て、そちらにかまけている間に復活したサラマンダーの攻撃を食らう、という事も防げる。
しかし、まだ最大の問題が残されている。
それは、サックスの真の狙いをどうやって他のメンバーに伝えるか、だ。
最も簡単なのは、もう一人援軍を呼んで、全ての目撃者に仕立て上げるという手。
だが、サックスやサラマンダー以外の殺人者が近辺に潜んでいるかもしれないということと、
重傷のマッシュ達や戦闘能力のないターニアの安全を考えると、その方法は選べない。
となればひそひ草をうまく使うしかないのだが、直接サックスの疑わしさを伝えても、逆にスコールがサックスを罠にかけていると邪推されたり、仲間割れを誘発しかねない。
サックス自身に、ひそひ草の前で本音を喋らせることが出来ればいいのだが、そんなことができるのは魔女しかいないだろう。
メンバーの待機場所からこの村までの距離、誰が行くのか話す時間、この場所を探す時間を考えると、"仲間"がスコールを見つけるまで、五分はかかるだろう。
言い換えれば、残された時は、もう1〜2分しかない。
(………)
賽は投げられた。
後戻りは、もうできない。
【スコール
所持品:ライオンハート ひそひ草 猛毒入りの水
G.F.カーバンクル(召喚○、コマンドアビリティ×、HP2/5)、G.F.パンデモニウム(召喚×)
第一行動方針:戦闘に備える
第二行動方針:旅の扉周辺の安全を確保
第三行動方針:アーヴァインと緑髪(緑のバンダナ)の男を探す/緑髪を警戒/サックスを警戒
基本行動方針:ゲームを止める】
【現在位置:ウルの村南部(旅の扉付近)】
【サラマンダー(右肩・左大腿負傷、右上半身火傷、首元軽傷、MP2/5)
所持品:カプセルボール(ラリホー草粉)×1、各種解毒剤(あと2ビン) チョコボの怒り
第一行動方針:???
基本行動方針:参加者を殺して勝ち残る?】
【現在位置:新フィールドへ】
419 :
修正:2008/03/29(土) 16:30:32 ID:tSZ54M4P0
2レス目:
スコールは刺さったオルハリコンを引き抜き、懐に仕舞っていたひそひ草ともども、ザックに放り込む。
↓
スコールは刺さったエアナイフを引き抜き、懐に仕舞っていたひそひ草ともども、ザックに放り込
状態表:
【スコール
所持品:ライオンハート ひそひ草 猛毒入りの水 エアナイフ
G.F.カーバンクル(召喚○、コマンドアビリティ×、HP2/5)、G.F.パンデモニウム(召喚×)
第一行動方針:戦闘に備える
第二行動方針:旅の扉周辺の安全を確保
第三行動方針:アーヴァインと緑髪(緑のバンダナ)の男を探す/緑髪を警戒/サックスを警戒
基本行動方針:ゲームを止める】
【現在位置:ウルの村南部(旅の扉付近)】
以上、修正します
保守!
421 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/04/01(火) 17:07:20 ID:z6cOwGL/O
保守
舞い始めた雪は、たちまちに吹雪の様相を示し白い障壁となって4人を二つに割った。
向こう側にアリーナとクリムト、そしてこちら側にウネとマティウス。
もはや老婆の姿ではなく異形を晒すウネはかろうじて人のものと思えるようなしゃがれ声の哄笑をあげたあと、
骨と皮のみに萎び凶器のように鋭い指で対戦相手に指名した黒いスーツを
文字通りに、指した。
呼応して吹き荒れ始めた局所的な吹雪――ウネの力――がマティウスに襲い掛かる。
白い欠片を乗せた身を切るような冷気が黒いスーツの上を霜、そして氷の結晶でデコレーションしていく。
マティウスの黒い姿はたちまちのうちに白く白く埋もれて消える。
白い障壁で区切られた冬の情景に現れた雪の塚は、しかし内側から破壊されることになる。
のたうつ蛇のような、白熱した帯が雪を水蒸気に帰しながら飛び出す。
あとに残る崩れた雪の塚から何もなかったかのように、鞭を振るうマティウスが悠然と姿を現した。
「貴様のくだらない目的などどうでもいいが……私は非常に機嫌が悪い。何故こう邪魔ばかり入る?
よかろう、その無謀な挑戦。自らの命で購うがいい!」
両手を広げ、威圧するようにウネの異形を見下して宣告する。自らの目的に立ちはだかる者への死を。
それはマティウスの原点としての、パラメキア皇帝としての恐るべき精神をまとった姿。
右手からダラリと下がっていたビームウィップに反動をつけて振りかざし
光を帯びた鞭を叩きつける!
先刻アリーナに対して振るった時はもはや人として到達可能な上限ギリギリに至った相手の能力により威力を十分に発揮できなかった。
鞭もまたそのうっぷんを晴らすかのように空気を引き裂きながらウネへ迫る。
対して、ウネは――かわさない。
どころか、動かない。回避行動一つ、身じろぎ一つしない。
炎が爆ぜるような弾けた音をたて、音速に達した鞭の先端がウネの肉を焼き、打ち据え、削る。
これにはマティウスも驚きをもって僅かに目を細めた。
再び、狂った老婆のような嗄れ声の哄笑が白い領域に響き渡る。
「ふぇふぇふぇ……いいねえ、これこそが命のやり取りって奴だねえ。
こうでなくちゃいけない、こうでなくちゃね……
さあ、呆けるんじゃない! 行くよ!」
手が止まっているマティウスに対してウネの反撃が始まる。
前と同じように吹き付ける冷たい風。それが今度は、渦を巻く。
前回はただ押し寄せただけだが、今回は一気に巻き起こった翻弄するような暴風へマティウスを飲み込んでいく。
吹雪+エアロガ、冷気と空力とが複合した冷気渦による圧搾!
顔を、いや呼吸を守るために腕を交差させた覇道の皇帝を冷たい嵐が押し込んでいく。
だが――この程度で封殺されるマティウスか? 無論そんなことはない。
十数秒間の冷たい嵐の猛威は、呪文詠唱を数秒の高度集中で代用して放たれたフレアーによりその勢いを削がれる。
魔法一撃で周囲から攻め来る冷気を一掃して自分の領域を取り戻したマティウスはその目に炎を湛え、
ウネの魔力の限りに押し寄せてくる冷気渦へと白熱するビームウィップを振るっていく。
空中でその先端が炸裂音の絶唱を繰り返すたびに迫る冷気渦は断ち割られ掻き乱され消えうせる。
一進一退、いや、数進数退。
冷たい冬の力とのたうつ白熱の帯の終わりなき激突。
終わりなき――ように見えたこの勝負。
この勝負は、ウネの負けだった。
押し寄せ続けていた冷気渦が唐突に数を減らし、その最後の一つがマティウスに断ち割られる。
先に限界に達したのはウネの魔法力、
そしてその当然の帰結としてそれまで冷気渦を打ち消すために振るわれていた鞭が身まで届く。
ウネの冷たい嵐に対してマティウスの打ち据える嵐!
打ち据え、打ち据え、打ち据えて、削る、削る、削る!
棒のような肉片が打ち据えられた勢いでウネの体から弾け飛んだ。
地面に転がったそれはよく見れば腕だ。
今度こそ終焉――マティウスの勝利――まで休みなく続くかと思われた鞭の嵐はしかし思わぬ邪魔に遭う。
ウネが弱ったためか、いくらか勢いを弱めた白い障壁を貫いて
真空の刃が横合いからビームウィップの動きを妨げたのだ。
戦闘の当事者たる二人には馴染みのないその呪文は、バギクロス。
かすかに自分の名前を呼ぶアリーナの叫びがウネの耳に届いた。
「は…………余計な……真似を。まだ死力には遠いさね…………
撃ち残しゃ……しないよ……」
あちこちが削れ抉れもうどこが口か、目か、人に若干似た形状の肉塊としか識別できないウネが発した
力ない声はマティウスにさえ届かなかっただろう。
けれど、邪魔が入り中断した攻撃を再開すべく振るった一撃はもう動けないだろうウネの身には届かない。
力を取り戻した、いやむしろいっそう増した吹雪の風によって動きを逸らされたためだ。
ウネとマティウスを取り巻く白い障壁は死にゆくウネの狂気の如く吠え荒ぶ。
囲まれた領域に満ちる異常な魔法力にマティウスが気付いたのと、
正真正銘に全力を傾けた最期となるだろうウネの反撃が開始されたのは、同時だった。
白い漏斗のような渦がマティウスの頭上から真っ直ぐに黒スーツの姿を呑みこんで行く。
それは、極低温の竜巻――吹雪+トルネド!
ホワイトアウトの世界から鞭が振るわれ、風の壁を僅かに突き抜けてもがく手のように揺らぐがすぐに竜巻に消える。
「……流儀にゃ反するが……まだ二人いるんだ。おまけを……つけてあげよう」
動いて初めて手なのだとわかる肉が動き、ウネの身体の下にあったザックから何かを取り出して竜巻へと投げ込む。
それは、本来ならば別に支給されている大型マシンガンのための予備弾倉。
しかし今それは竜巻に投げ込まれ弾倉としてのまとまりをバラバラにされ、
空気の流れに高速度を与えられた渦の中の弾丸として――飲み込まれた犠牲者に襲い掛かる。
再び、下手に竜巻に抵抗した鞭の引き起こす乱流は今度は竜巻の中を流れる弾丸の動きをも掻き乱し、
方向を僅かに変えられた弾丸は互いにぶつかり合ったり気流の境界を滑るなどして
やがて風の壁から内側へと撃ち出されてマティウスを傷つける。
身を凍らせ、拘束し、引き裂く冷気の竜巻に銃弾の雨!
そこは、零下の墓標――あがきもがく鞭すら見えなくなり、風の咆哮以外は何もなくなる。
マティウスの死でもって終焉する冬の嵐の情景。
***
分断する白い障壁の、ウネ達からすれば向こう側。
何とかこの冷気の壁を突破すべく方策を探っていたアリーナとクリムトは数分の無駄な足掻きの後、
ようやく障壁の僅かに弱くなった部分をバギクロスをもって突き破ることに成功した。
「ウネーーーーッ! だいじょうぶーーーーっ!?」
できた裂け目からアリーナが覗いた向こう側はほとんど白でよくわからなかったが、
とりあえず思いっきり呼びかける。
しかし再び力を増した白い障壁――吹雪の勢いに遮られ、
さらに結果として苦労してようやく破った壁も元通りになってしまった。
迷いなく飛び込むべきだった、と悔やんだアリーナはその思考どおり壁へと突っ込もうと動き出し
クリムトにその腕を引かれてつんのめる。
と、今まで何の音も通さなかった吹雪の壁を越えて吹き荒ぶ轟音が響きだす。
「上だ、天を見よ」
「上?」
のけぞるように壁沿いに目線を上げ、その上を見るとそこには伸びる灰色の腕――竜巻。
どちらが仕掛けたかはわからないが、大技。
勝負を決めるには十分。
アリーナは首を戻すと、慌てたようにクリムトの腕を引っ張る。
「ねえっ、どうしよっ!? 向こう側どうなるの?
もう一度なんとかできない!?」
「……難しい。私にも風は『視えて』はいるのだ。だが……今の風は先刻より思いが深い。
同じようにはいかない」
クリムトは思慮深げにかぶりを振り、微かに顔をしかめる。
賢者といえど一を聞いて十を知る如くなんでもわかる訳ではない。
障壁のこちら側にいたままでは決して二人の戦いを止めることなどは不可能だ。
クリムトがどうしても自らの目的を貫徹したいならば行く以外の選択肢は、無い。
そして例えば、大きく体力を削られることを承知すれば吹雪の壁を抜けることもできるかもしれない。
けれど、クリムトに『視える』吹雪の中の重い思いはその簡単な割り切りを惑わせる。
覚悟に割って入るには、釣りあうだけのものをぶつけなければならない。
だが、自らの思いが――いや存在そのものが、この重さに釣りあうだろうか?
「ねえ聞いてるの、クリムト?
全力で飛び込めば多分あれくらい突破できるって思うの。サポートお願いできる?」
ばっさりと、あっさりと。
アリーナは軽々とクリムトの迷いを超越してそう言った。
それは、本当のところ相手のことを深く考えない、単純かつ強力に自分を押し通す発想だ。
けれど、けれども。
「ねえ、聞いてないの?
さっきみたいにバギクロスで、破らなくてもいいから弱めてくれればきっといけるよ」
行けたところで覚悟を決めた相手をどう説得するかなど考えていまい。
考えが足りない、と言えば簡単だ。
けれどクリムト自身に問うたところで、解は出てこない。
ほんの少しも、いくらか考えるのも同じく答えられぬなら考えの足りなさでは五十歩百歩だ。
と、パチン、と乾いた音を立ててクリムトの(目の無い)眼前でアリーナの拳と掌が打ちつけられる。
「諦めるのは死ぬより後にすることよ!
だからお願い。何もできないでいるなんて、いるなんて……ダメだって」
「死より前に諦念無し……か」
吹き荒ぶ音の流れが、無情に過ぎていく時の経過を教える。
何もしない、できないか、何かをやってみるか。その二択ならば間違いなく後者だ。
ここにいたり、賢者クリムトは覚悟を決めた――
もっと言えばアリーナの無理無謀な流れに巻き込まれることを許容した。
マジックバリアとフバーハの補助を受け、アリーナは挑む白い壁をぐっと睨みつける。
これからあの壁を貫いて、内側に飛び込んで、それから――とにかく何とかしてみる。
クリムトのバギクロスで吹雪の勢いを弱め、その箇所を槍のような突撃でぶち抜く。それが作戦。
白の輝きと灰色のくすみが絶えず模様を変え続ける白い障壁をじっと見つめる。
壁を、破る。
思いだすはサントハイム、冒険の原点も壁を破ることから始まった。
あの頃、壁の向こうには自由と解放感があった。じゃあこの壁の向こうには?
傷付いた身体の感覚を入念に確かめ、どういう動きで最大限の威力を出すかを確かめる。
集中、集中、集中、そして、合図のバギクロス!
真っ直ぐ突撃すること以外は痛みや迷いをすべて置き去りにしアリーナは加速する。
地面を踏む足に力を込め、身体を沈め、槍先となる右足を蹴り上げてそこから……突っ込む。
フバーハの守りはあっても骨に染む冷たさがまとい来る、はずがそれが来ない。
風上となる側にかばうように躍る影が見えた。
誰かなど確認する余裕はどこにもないが、間違いなくそれはクリムト以外にはありえまい。
呪文によって励起される火炎の光と熱が目の端にかすかに入りこんだあと、
僅かな平和な時を空けてついに吹雪の威力がアリーナを襲い始める。
小さくクリムトにありがとうを捧げてそれも置いていく。
ここからは一人の力で突き抜けるだけだ。
完全に視界がホワイトアウトする数秒を足からミサイルのように飛びぬけ、そしてついに。
障壁の内側へと、突破する――
マティウスが竜巻に飲み込まれて数分後――
ウネの魔法力が尽きたか、少なくとも幾許下の勝利の予感に集中が緩んだか。
白く吹き荒び渦巻く零下の墓標はその拘束を緩め嵐が解けていく。
だが、現れたのは崩れ落ちたマティウスの姿ではなく。
穴が開き傷付いた黒いスーツをまとい直立不動のまま瞑想するようにしっかりと立っている様。
「……竜巻か。派手は派手、大技は大技、だが私への止めとしては誤った選択であったな。
死力を尽くした攻撃、認めよう。確かに恐るべきものであった。
そして要らぬことまで思い出させてくれたものだ。
甘い……たつまきを操る力ならば私にも……ある!」
カッと闘志に燃える眼が見開かれ、光を失っていたビームウィップが熱を取り戻す。
だが自分に向けられた敵意の姿をウネはもう見てはいない。
ただ敗北の確信と、奥義を完成させるための最後の一手のことだけがそこに残っている。
やがて白熱の帯が空気を切り裂き、止めの一撃がウネを打ち据える。
それを見ることなく肌で感じながらウネは高められた戦いのエネルギーが一点に集束するのを感じていた。
マティウスにすれば、それは予想外以外の何ものでもない。
白い障壁を貫いて現れたアリーナ、その奇襲突撃を側面から受け、胴へとミサイルの如き蹴りが突き刺さる!
流石のマティウスもくの字に身体を折り、たたらを踏んで後退する。
踏みとどまろうと力を込めた足が脱力する。
確かにたつまきを操る力を持ってトルネドに抵抗したとはいえそれは精神と身体双方を削られる時間だったのだ。
外見にはあまり出さずとも浴び続けた冷気は確実にマティウスの体力を奪い取っていた。
膝を、つく。
身体が、重い。
それでも、再び仇敵の姿を眼にしたことが、その一撃を受けたことがマティウスに活を入れる。
腕を挙げ鞭をかざし、波打つように一振り。
ウネに駆け寄ろうとするアリーナの背中目掛けてビームウィップで打ち据えんとする。
まるで重力が増したかのようにマティウスの上に重さがのしかかり、そこで意識が断ち切られる。
それはパラメキア皇帝にとって屈辱、しかしそれすら感じる前に思考を刈り取られ、気絶に追い込まれる。
真っ白から色を取り戻した目が最初に見たものは、マティウスが振るう光の帯がウネを打ち据える光景だった。
アリーナにはそこで迷いはない。
吹雪を突破した勢いそのままに、一歩だけ地面を中継して飛び蹴りを繰り出す。
文句なしの一撃がマティウスの黒スーツの腹部に突き刺さり、ふらふらとマティウスが下がっていく。
その動きを見届けず、アリーナはウネのほうへと向きを変えた。
もうなんだかよくわからない塊っぽい姿に変貌しているがアリーナは頓着しない。
「ウネっ、大丈夫なの!?」
「……………………」
ぼそぼそと、何かが答えた気がしてアリーナはウネへと駆け寄ろうと進む。
その背を、マティウスの意地の一撃が打ち据える。
完全にほかに気を取られ油断していたところへの痛烈な一発。
無理やりに肺から吐き出される息。重さを増す身体。意識が、霞む。
もとよりダメージを押して動いているのはアリーナも同じ。
むしろより限界に近いのはアリーナの側だ。
重力に引かれ、物理法則に従いついにウネまで後数歩といったところで地面へと倒れ伏す。
伸ばした手は――動かせない、届かない。
「……光…………鍵、を……」
倒れたアリーナへとウネの側からも(もうなんだか分からないが)きっと腕が伸ばされる。
宙へと伸びたそれはほんのわずかだけその位置を保ち、崩壊するように力を失った。
その掌からかつて癒しの杖だった柄を持ち、純粋に実体のない淡い光の身を持つ鍵が、零れ落ちる。
***
「ふん。何にもないじゃないか! こいつら、本気でバカか?」
あたりの肉片に触れないように淡い光を湛える鍵をつまみ上げながらこの死闘最後の登場人物――アルガスが愚痴をこぼす。
マティウス、ウネ、アリーナ、そしてクリムトと今この4人の中に動いている人物はいない。
だがただ傍観していただけという最も薄い関わりながらもアルガスもまた死闘を眺めていたのだ。
アリーナ対マティウス、ウネの乱入、吹雪の出現、突っ込むアリーナ、
そしてウネが崩れ落ちて白い障壁が消滅してようやく、アルガスは戦闘の終結を知った。
荒れ果てた戦場を、アルガスはいたって冷淡に、そして相変わらず、漁る。
それはアルガスが生き残るための重要な、そして勝ち抜くための紛れなき原点。
倒れたアリーナの脇腹を起きない程度に、しかし痛みが残る程度に靴先でせこく蹴る。
「しけてるな。ホントによ!」
妙に目立つ怪しい光る鍵以外はウネ(らしい怪物)もアリーナも何も持っていない。
毒づきながら、警戒しながら今度は黒いスーツの男に近づく。
流石のアルガスも怖いのか、及び腰。
けれどそこにはマティウスが振るっていたあの光る鞭が取り落とされて転がっている。
戦場漁りの身としては行かない訳にはいかない。
思い切って小走りに駆け寄り、引っ手繰るようにしてそれを手に収めると大急ぎで引き返す。
わずかにクリムトが身体を震わせるのが見えた。動き出しそうだ。
別に自分の行為を悪いなどとは思わないが、あまり目に付きたくないのも事実ではある。
「人様に迷惑かける前にお前ら全員ここで一緒に朽ち果てちまえ!」
願望混じりの罵り言葉を浴びせかけ、アルガスは踵を返してカナーンの町中へと姿を消していく。
とにかく探すのは、旅の扉――こんなところで朽ち果てるのはまっぴらだ。
……そして冬は、終わる。希望の春は、どこだろうか?
【マティウス(MP 1/5程度、気絶中)
所持品:E:男性用スーツ(タークスの制服、結構ボロボロに) ソードブレイカー 鋼の剣
第一行動方針:アリーナを討つ
第二行動方針:アリーナ(2)を見つけ出し、ゴゴの仇を討つ
基本行動方針:アルティミシアを止める
最終行動方針:何故自分が蘇ったのかをアルティミシアに尋ねる
備考:非好戦的だが都合の悪い相手は殺す】
【アリーナ (左肩・右腕・右足怪我、腹部・背部負傷、気絶中)
所持品:無し
第一行動方針:―
基本二行動方針:アリーナ2を止める(殺す)】
【クリムト(失明、HP2/5、MP消費) 所持品:なし
第一行動方針:戦闘の停止、平和的終了
基本行動方針:誰も殺さない。
最終行動方針:出来る限り多くの者を脱出させる】
【現在位置:カナーンの町・シドの屋敷跡】
【アルガス
所持品:インパスの指輪 E.タークスの制服 草薙の剣 高級腕時計 ビームウィップ ウネの鍵
第一行動方針:旅の扉を発見して次のフィールドへ
最終行動方針:脱出・勝利を問わずとにかく生き残る】
【現在地:カナーンの町】
【ウネ 死亡】
【残り37名】
※癒しの杖(破損)→ウネの鍵に変化。魔力(例えば封印とか)に対して干渉が可能です。
マシンガン用予備弾倉×3は使い切りました。
村の南側の方から爆発音が聞こえた。恐らくフレアらしき魔法。
『不意打ちを食らった。赤髪の男だ。応援を1人頼む』
ひそひ草からはそう聞こえた。昏睡しているマッシュ以外には聞こえただろう。
それに反応してか、バッツもハープを弾くのは辞めた。
サックスにとって、またとないチャンスだった。
…ここで僕が行けば、サラマンダーと協力しスコールを倒すことができる。
あいつは僕のことをまさかマーダーだとは思っていないだろうし、不意打ちをかけられるだろう。
そもそも2対1なんだから負ける訳がない。大丈夫だ。
――しかし、怪我を負っている身体で何て言い出せばいいのか…。
下手に言い出すと、怪しまれるかもしれない。
特にさっきからこっちを監視しているように見ているあの金髪の男――サイファーには要注意だな。
どうもいいアイデアが浮かびそうにもない。
やはり、僕は謀略というのか行動の計算というのか、こういうのはどうにも苦手みたいだ。
今日で2度目になる言葉に、サックスは溜め息が出そうになった。
サックスがどうやって話を切り出すかを考えている間に誰かが声を発した。
「……誰が行くんですか?」
ようやく泣き止んだターニアの近くにいるエリアが言った。
「あの野郎のことだ。怪我人や戦いに馴れていない奴に来て貰おう何て思ってないだろ。
そうなると、戦闘に馴れていて、戦いに負傷のある怪我をしていない人……になるな」
(まあ、ほぼ確実にサックスが名乗り出るだろうが。その時は適当なことを言って違う人に行かせるか)
――チャンスだ。これで僕が名乗り出れば……
サックスは、そう思って声を出そうとした瞬間。
「俺が行く」
「…ヘンリーさん?」
先程、眠りから覚めたソロが首を傾ける。予想外の名乗り者に、全員がヘンリーの方を見る。
――どうして、この村にいる人達は僕の邪魔ばかりするんだ。
サックスは心の中でそう呟いた。しかし、このチャンスを逃さないとして、サックスは反論を試みた。
「いえ、僕が行…」
「恐らく赤髪の男は俺に襲い掛かってきた男だ。
そいつが今スコールと戦っているのは、俺が倒さなかったからだ。
…それとあいつには、スコールには助けてもらった恩がある」
見事に無視された。今ここで騒動を起こしてやろうかと思ったけど辞めた。
「で…でも、ヘンリーはあんまり戦いに馴れてないじゃん?
あたしも戦ってみて判ったけど、あの赤髪の男――サラマンダーは結構強いよ?」
「そうだが……ここにいる人でまったく怪我をしていないのは俺とリュックだけだ。
お前は回復が使えるから、ここに居た方がいいだろ?
それに、あまり慣れたくないが、この二日間で戦いにも慣れたさ」
(サックスには行かせるわけにはいけない。スコールと会ったらすぐ戦闘だ。
リュックに行かせたら、回復魔法を使う人が居なくなる……
そして他の人は、戦闘に負傷のある怪我をしているか……こいつもこう言ってんだ。行かせても大丈夫か)
「判った。てめえが行って来い」
サイファーがそう言うと、周りの人もヘンリーが行くことに承諾した。
「……気をつけて行ってください。危なくなったらすぐにスコールさんのひそひ草で連絡をするか、戻ってきてくださいね」
そのエリアの発言にヘンリーは頷くと、自分のザックを持って村の南側の方に走っていった。
ヘンリーが行った後、思いついたようにサイファーがエリアに話しかけた。
「…おい、エリア」
「どうしたんですか、サイファーさん」
「お前の持っているひそひ草を俺に渡せ」
「どうしてですか?」
「あの野郎から連絡があって会話をしなくてはいけない場合、顔が知れている俺が持っていたほうがいいと思ってな」
「……そうですね。はい、どうぞ」
エリアはサイファーにひそひ草を渡した。
――完全にチャンスを逃した……やはり、考えすぎたのが原因か。
この状況で、最も怪しまれずにこいつらを殺すにはどうすればいいか…。
いや、殺す時点で怪しまれずも何もないか……いい案は何も思い浮かびそうにない。
とりあえず、あのスコールと会話する恐れのあるひそひ草を奪うか。でもどうやって奪えば……
……もう、深く考えるのはよそう。考えるよりも先に行動だ。
そう思いながら、サックスは立ち上がった。
「……おい、サックス何処へ行く気だ?」
「ヘンリーさんが心配なので、僕も追いかけます」
「スコールの野郎は、『応援を一人頼む』って言ってただろ」
「少ない人数よりは、多い人数の方がいいに決まってるじゃないですか」
「……そもそもあいつは、人に助けを求めるってタイプじゃねえんだよ。
そのあいつが応援を頼んだってことは、何か考えがあるってことだ。
好けねえ野郎だが、頭だけは一流だ。だから従…」
「……サイファーさん。すみません」
「?………ぐっ!」
そう言ってサックスはサイファーの腹を殴り、手に持っていたひそひ草を奪い村の南部に走っていってしまった。
「ま、待てサックス……」
「サイファーさん大丈夫ですか?」
エリアとリュックが傍によってきた。
「あたし……サックスを追う。捕まえてちゃんと訳を聞いてくる!」
「おい!待て!てめえまで行ったら、回復を使うやつが……」
サイファーの言葉も聞かずに、リュックも行ってしまった。
「くそっ!どいつもこいつも俺の言うことを聞かないで……」
「サイファーさん……。サックスとリュックさんなら大丈夫ですよ。
それに、二人とも戦闘に馴れているって言ったのはサイファーさんじゃないですか」
「リュックはともかく、サックスだから言ってるんだ」
「?それってどういう意味ですか?」
サイファーは、言うべきかどうか悩んだが、話をきりだした。
「あいつは…サックスはこのゲームにのっているかもしれないって言ってんだよ!」
「まさか!サックスに限ってそんなことは…」
「お前はさっきのサックスの行動を見てなかったのか?
さっきだけじゃねえ。あいつの行動は怪しいものばかりだっただろ!」
「さっきのは…きっと何かの間違いです!きっとサックスにも何か考えがあって……
それにサックスは元の世界では……」
「世界を救ったいい人でした。…とでも言いたいのか?
このゲームで知り合いだったら信用ができるなんて保障はどこにもねえんだ!」
「でも……」
村の西部には怒声が響いていた。
そして村の南部からは、さっきと同じ爆発音が聞こえた。
サックスは、草原が見えなくなったあたりで立ち止まり考え事をしていた。
――計画通り……とまではいかないが、何とか行くことができた。
あれだとサイファー以外にも怪しまれるかもしれないが、どうせ殺してしまうのだ、関係ない。
問題はエリアも殺すかどうかだが。…もちろんいいアイデアは思い浮かびそうにない。
……さっきも思ったが、やはり考えるよりも先に行動だ。
今は、スコールとヘンリーを殺すことだけを考えればいい。その後のことは後々考えよう。
そう思って、サックスは武器と盾を手に取り、走りだした。
サラマンダーは、もうこの世界にいないということも知らずに……
【ヘンリー 所持品:アラームピアス(対人) リフレクトリング バリアントナイフ 銀のフォーク
キラーボウ、グレートソード、デスペナルティ、ナイフ
第一行動方針:スコールのところに向かう
基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】
【サックス (HP2/3、微度の毒状態、左肩負傷)
所持品:水鏡の盾 スノーマフラー ひそひ草 ビーナスゴスペル+マテリア(スピード) ねこの手ラケット 拡声器
第一行動方針:スコール・ヘンリーを殺す
第二行動方針:タイミングを待ってウルの村にいるメンバーを殺す(エリアも?)
最終行動方針:優勝して、現実を無かった事にする】
【リュック(パラディン)
所持品:メタルキングの剣 ロトの盾 刃の鎧 クリスタルの小手 ドレスフィア(パラディン)
チキンナイフ マジカルスカート ロトの剣
第一行動方針:サックスを追い、サイファーを殴った理由を聞く
基本行動方針:テリーとリュックの仲間(ユウナ優先)を探す
最終行動方針:アルティミシアを倒す】
【現在位置:ウルの村西の草原(ブオーンが丘そば)→ウルの南側】
【ターニア(血への恐怖を若干克服。完治はしていない)
所持品:スタングレネード×4 ちょこザイナ&ちょこソナー
第一行動方針:スコール達を待つ】
【エリア(体力消耗、下半身を動かしづらい)
所持品:スパス スタングレネード×2
第一行動方針:サイファーと喧嘩
第二行動方針:スコール達を待つ
基本行動方針:仲間と一緒に行動】
【バッツ(HP3/5 左足負傷、魔力0、アビリティ:うたう)
所持品:アポロンのハープ アイスブランド うさぎのしっぽ 静寂の玉 ティナの魔石(崩壊寸前)
第一行動方針:スコール達を待つ
基本行動方針:『みんな』で生き残る、誰も死なせない】
【サイファー(右足軽傷)
所持品:破邪の剣、G.F.ケルベロス(召喚不能) 白マテリア 正宗 天使のレオタード ケフカのメモ、猛毒入りポーション
マッシュの支給品袋(ナイトオブタマネギ(レベル3) モップ(FF7) バーバラの首輪)
レオの支給品袋(アルテマソード 鉄の盾 果物ナイフ 君主の聖衣 鍛冶セット 光の鎧)
スコールの支給品袋(吹雪の剣、ガイアの剣、ビームライフル、セイブ・ザ・クイーン(FF8)
貴族の服、オリハルコン(FF3)、炎のリング)】
第一行動方針:エリアと喧嘩
第二行動方針:ポーションの始末を考える
第三行動方針:協力者を探す/ロザリーと合流
基本行動方針:マーダーの撃破(セフィロス、アリーナ、サックス優先)
最終行動方針:ゲームからの脱出】
【ソロ(HP3/5 魔力微量)
所持品:ラミアスの剣(天空の剣) 天空の盾 さざなみの剣
ジ・アベンジャー(爪) 水のリング 天空の兜
第一行動方針:スコール達を待つ
基本行動方針:PKK含むこれ以上の殺人を防ぐ+仲間を探す
※但し、真剣勝負が必要になる局面が来た場合の事は覚悟しつつあり】
【マッシュ(重症、右腕欠損) 所持品:なし】
第一行動方針:―
第二行動方針:アーヴァインと緑髪(緑のバンダナ)の男、及びエドガーを探す
第三行動方針:ゲームを止める】
共通行動方針:スコール達が帰ってきたら旅の扉に向かう。
【現在位置:ウルの村西の草原(ブオーンが丘そば)】
※サックスは、少し立ち止まっていましたが、スピードのマテリアのおかげで他の二人よりも速いので、行った順番にスコールの元に着きます。
保守
保守…かな。
――不意打ちを受けた。赤髪の男だ。応援を一人頼む――
エリアを相手に口喧嘩をしながらもサイファーの頭に巡るのは、スコールのこの言葉だった。
どうしても抜けない棘のようにそれはちくちくと存在を主張し、サイファーを苛立たせる。
そう、一昔前まではスコール当人がそうであったように、だ。
棘はサイファーの眉間の皺を更に深くさせ、エリアを怯ませる。
どうせならばと怪しいポーションの存在まで暴露した辺りで少しずつ口撃は身を潜め、ソロ達から困惑した目が向けられる。
しかしそのことに気付かないほどにサイファーは物思いに沈み始めていた。
……もしかしたらあれは他の誰でもなく、自分に宛てられたメッセージだったのではないか?
ふとそう思ったのは、駆けていくサックスの後ろ姿と、「赤髪の男」というスコールの言葉が脳裏で重なった時だ。
現在生き残っている者の4分の1近くが既にウルにいることを考えると、
スコールと交戦中の赤髪のマーダーがサラマンダー以外である可能性は低い。
そしてスコールは赤髪のマーダーの存在も、その名がサラマンダーであることも元から知っている。
あの性格ならば、名簿で顔も当然確認してるだろう。
この錯綜した状況で正確な情報はなにより大事。
にも関わらず、スコールは何故「赤髪の男」などという曖昧な言葉を使ったのか?
もしやあれは、自分に対する一種の暗号だったのではないか?
思えば、サックスの危険性を示唆する時にもスコールは同じ言葉を使った。
「赤髪の男」は自分とスコールの間では、サラマンダーとサックスの二人を示すキーワードだったのだ。
……とすると、スコールはあの応援要請で何を狙ったのだろう?
素直に受け取るならば、スコールは現在危機にあり、応援を必要としている。
しかしマーダーである恐れの強いサックスに来られても困るので、改めて自分にサックスを抑えるように頼んだというところか。
だが……
そもそもスコールは本当に危機にあるのだろうか?
奇襲の原則は一撃必殺だ。
不意を討ち、一気に流れに乗って波状攻撃を仕掛ける。
そこには草を取り出してくっちゃべってる猶予など本来全く無い。
にも関わらず、スコールはやけに気の利いた応援要請を寄越してきた……。
そこで気になるのがスコールからの連絡の直前に聞こえたあの爆音。
できるだけ静かに、確実に殺したいはずのサラマンダーの立場を思えば、あれはスコールが起こしたた可能性の方が高いだろう。
あの規模の爆発ならばそれに紛れて逃げるのも可能に思えるが、現実にはスコールは応援を求め、抗戦する意思を示した。
そして先程も二度目の爆音が聞こえ、戦闘が終わっていないことが裏打ちされた。
そこから導かれる仮説は2つ。
1つはスコールは脚を負傷し、逃げきることが不可能な状況にあるという考え。
そしてもう1つは……スコールは戦闘をエサにサックスを誘い出し、その真意を試そうとしているという考え。
そこまで考えて、サイファーは思わず舌打ちをして地面を蹴りつけた。
黙りこくっていたサイファーの突然の動きにエリアとターニアが肩を震わせるが、もちろんそんなことは気にしない。
スコールの真意がどうあるにせよ、現状がスコールの想定外に動いていることは間違いなかった。
サックスが出て行き、事情を全く知らない仲間が二人も出て行った。
あまつさえ、重要な連絡手段であるひそひ草まで奪われてしまった
完全に自分の失態だ。
本来ならば一刻も早くサックス達に追いつき、自分自身で名誉挽回するところだが……。
ターニアを見た。今はもういない、イルの妹だ。
次にエリアを見、傷つき眠っているマッシュを見た。
自分までもがここを離れるわけには、いかない。
手薄になったこの場を守り、スコール達の帰りを待つ。
そこにはロマンもヒロイズムも何もなく、ある種の責任だけがあった。
慣れない荷物を背負い、サイファーは重い気分で空を見る。
水色が、どこまでも広がっていた。
【ターニア(血への恐怖を若干克服。完治はしていない)
所持品:スタングレネード×4 ちょこザイナ&ちょこソナー
第一行動方針:スコール達を待つ】
【エリア(体力消耗、下半身を動かしづらい)
所持品:スパス スタングレネード×2
第一行動方針:スコール達を待つ
基本行動方針:仲間と一緒に行動】
【バッツ(HP3/5 左足負傷、魔力0、アビリティ:うたう)
所持品:アポロンのハープ アイスブランド うさぎのしっぽ 静寂の玉 ティナの魔石(崩壊寸前)
第一行動方針:スコール達を待つ
基本行動方針:『みんな』で生き残る、誰も死なせない】
【サイファー(右足軽傷)
所持品:破邪の剣、G.F.ケルベロス(召喚不能) 白マテリア 正宗 天使のレオタード ケフカのメモ、猛毒入りポーション
マッシュの支給品袋(ナイトオブタマネギ(レベル3) モップ(FF7) バーバラの首輪)
レオの支給品袋(アルテマソード 鉄の盾 果物ナイフ 君主の聖衣 鍛冶セット 光の鎧)
スコールの支給品袋(吹雪の剣、ガイアの剣、ビームライフル、セイブ・ザ・クイーン(FF8)
貴族の服、オリハルコン(FF3)、炎のリング)】
第一行動方針:スコール達を待つ
第二行動方針:ポーションの始末を考える
第三行動方針:協力者を探す/ロザリーと合流
基本行動方針:マーダーの撃破(セフィロス、アリーナ、サックス優先)
最終行動方針:ゲームからの脱出】
【ソロ(HP3/5 魔力微量)
所持品:ラミアスの剣(天空の剣) 天空の盾 さざなみの剣
ジ・アベンジャー(爪) 水のリング 天空の兜
第一行動方針:スコール達を待つ
基本行動方針:PKK含むこれ以上の殺人を防ぐ+仲間を探す
※但し、真剣勝負が必要になる局面が来た場合の事は覚悟しつつあり】
【マッシュ(重症、右腕欠損) 所持品:なし】
第一行動方針:―
第二行動方針:アーヴァインと緑髪(緑のバンダナ)の男、及びエドガーを探す
第三行動方針:ゲームを止める】
共通行動方針:スコール達が帰ってきたら旅の扉に向かう。
共通了解: サックスの危険性についての多少の留意(エリア以外)
【現在位置:ウルの村西の草原(ブオーンが丘そば)】
3レス目修正。
ターニアを見た。今はもういない、イルの妹だ。
↓
ターニアを見た。今はもういない、イザの妹だ。
お願いします。
保守
それは、禍々しい死の悪夢だった。
剣が、槍が、銃弾が、魔の光が――次々に襲い掛かってくる。
胸が貫かれ、頭が潰れ、撃ち抜かれた身体を、心臓を砕かれる。
自分の知る顔が紅く血に染まり、断末魔の悲鳴を上げる。
やめろ! やめろ……もうやめてくれ!
何度も叫ぼうとするが、声が出ない。指一本動かない。
ただ……見る事しかできない。
血塗れの腕が全身に纏わり付き、耐え難い恐怖がルカを襲う。
その痛みが、悲しみが、怒りが……身体を、魂を引き裂こうとする。
諦めろ……俺に何ができるというんだ……
動けもしない……戦う術も持たない俺が…たった一人で何ができる……
苦痛に疲れ果て、耳の奥でもう一人の自分が囁く。
息ができない。胸が詰まる。幾度となく気が遠くなる。
諦めれば楽になる……何もできないなら…いっそ……
どす黒い闇の中に、意識が呑み込まれていく。
引きずり込まれる……
そう思った……その時……
――ルカ――
誰かが、自分の名を呼んだ。
――ルカ――――ルカ――――――ルカ――――――
何度も、何度も、呼ぶ声が聞こえる。
誰かが…呼んでる……俺を待ってる…………
俺は……一人じゃない……!
その思いが、ルカの正気を呼び覚ました。
「…い……いやだ……死ぬもんか!」
喉から絞り出すように、掠れた声でルカは叫んだ。
「ぜ…絶対に死ぬもんか……みんなの為にも……俺は死なない!
どんなに…辛くたって…苦しくたって……俺は生きる…生きるんだ!」
身の震えを堪え、目の前の悪夢と対峙する。
「……消えろ…消えろ! 幻め! 俺は…もう迷わない!
俺は……俺は…………絶対に諦めない!!」
突然、闇に亀裂が入り、ガラスのように砕け散る。
幾筋もの光の束がルカに差し込み、潮が引くように縛めが消えていく。
闇の欠片は、いつしか純白の羽根となって降り注ぐ。
白い光の中に……背に翼をはためかせ、長い髪を靡かせた人影が浮かぶ。
「…………天使?」
ルカの呼び掛けに、「天使」は悪戯っぽく、それでいて淋しそうに微笑み、
やがて宙に溶けるように消えていった。
全力で駆け続けた足は鉛のように重く、肺は今にも焼けそうに熱かった。
だが、アンジェロは留まる事なく進み続けた。
森へ入ってから程なく、アンジェロの鼻は尋常ではない異臭を捉えていた。
この近くで何か異変――恐らくは戦闘――があった事だけは間違いない。
キナ臭い、焼け焦げたような匂い、それに混じる血の匂いが、段々と濃くなっていく。
それが、自分の知る人物のものである事を……人間の数万倍もの嗅覚が、嫌と言う程伝えてくる。
『ハッサン……!』
この様子では、ハッサンの命はもう絶望的かもしれない、とアンジェロの本能が告げていた。
そして、恐らくはルカも無事ではいまい、とも。
『…ルカ……ルカ! 答えて! ルカ……!』
何度となく、心の中で叫び続けたが、ルカの返事はない。
『……お願い…答えてルカ……! ……ハッサン……!』
それでも、呼び続けずにはいられなかった。
そうしていなければ、絶望感で押し潰されそうだった。
『……ルカ……ハッサン…………』
極度の緊張と疲労に足元がふらつき、今にも崩れ落ちそうになった時……
ふと、風向きが変わった。
風は、異臭の中に混じる、微かなルカの存在を伝えてくる。
『……ルカ!』
アンジェロは力を振り絞り、懸命に匂いの糸を手繰っていった。
やがてアンジェロは、倒れた木々の間に横たわっているルカの姿を見つけた。
『ルカ!』
アンジェロは倒木をくぐり抜け、ルカの傍まで駆け寄った。
顔の近くに耳を寄せると呼吸音がし、胸のあたりが微かに上下している。
生きている。
『よかった……』
顔や手足に細かい傷はあるが、特に大きな外傷はない。
しかし油断はできない。骨折したり頭を打ったりしているかもしれない。
アンジェロは鼻面をルカの体に押し付け、異常はないか探った。
腕から手の甲をまさぐった時、ふと……こつん、と固い違和感を感じた。
それは、ルカの素朴で小さな手には不似合いな、大きな宝石を嵌め込んだ指輪だった。
『…………指輪?』
アンジェロの脳裏に不吉なものが過る。
ルカは指輪なんかしていなかった。指輪……指輪をしていたのは…………
それに思い至った時、アンジェロの総身の毛が逆立ち、咄嗟に後ろへ飛び退いていた。
『何故?! どうして……ルカがこんな物を?!』
紛れもなく、ハッサンを苦しめていた呪いの指輪だった。
その指輪が外れる時、それは、呪いが解けるか、指ごと切り離すか、もしくは……
あちこちの木の幹に、異臭を放つ、どす黒い、べたべたしたものがこびり着いている。
変色した人間の血脂……焼けた肉片……無残な死の痕跡……
『……ハッサン…………!!』
アンジェロは目眩を覚えてうずくまり、震えながら低く呻いた。
『……アン…ジェ…………アンジェ…ロ……?』
不意に「声」が聞こえ、アンジェロはハッとルカの方を見た。
いつの間にか、ルカが目を覚ましていた。
『……ルカ』
『どうして……君は…スコールさんの所に行ったんじゃ……』
ルカは首だけをこちらへ向け、不思議そうな顔をしている。
『……スコールには会ったわ』
『だったら……何で……』
ウルへ向かったスコールには、緑髪の男――ヘンリーを見張れ、と言われていた。
だが、アンジェロはそれを守らず、スコールが戻るのを待てなかった。
それは……
『ウルの近くであの男と……サックスと会ったの』
『サックス……?!』
『ええ……あの男から血の匂いが…ハッサンの匂いがしたわ』
『…………』
ルカは唇を噛み締め、瞳を伏せた。
『やっぱり……そうなのね?! ハッサンを殺したのは……
あなたをこんな目に合わせたのは……サックスという男なのね?!』
『…………』
暫し、沈黙があった。
だが、やがてルカは、決心したように口を開いた。
『そうだよ……ハッさんを殺したのは…サックスだ……
けど……そうさせてしまったのは…俺なんだ……俺のせいなんだ……』
453 :
Guardian Angel 6/12:2008/04/10(木) 03:07:20 ID:yFejSYuQ0
ルカは包み隠さず、アンジェロと別れた後の事を話した。
『……全て自分のおかげだって…自分が操ってんだって…思い上がる事……
モンスターマスターが…一番しちゃいけない事なんだ……なのに……』
ハッサンとの口論、後悔、そして死の爆発。
追ってきたサックスとの死闘、窮地を救った不思議なイメージ、
何故、指輪が自分の指にあるのかも……
ルカが現在もなお生きているのは、この指輪のおかげだった。
そして、跡形もなく吹き飛んだハッサンが、唯一残した形見もこの指輪だけだった。
『……皮肉ね』
その代償に、ルカは常に死と紙一重の場所に居なければならない。
考え方によっては、大怪我を負うよりも酷い状態なのかもしれない。
『サックスは…素知らぬ顔でウルへ行ったわ……あそこがあいつの故郷だって……』
今度は、アンジェロがスコールに会った後の事を語った。
スコールとエリアのひそひ草での対話、そこから知ったウルの惨状、
目覚めたヘンリーと、サックスの会話……
『……サックスは…まだ繰り返すつもりなんだ……』
――確かに俺はこの男を殺そうとした。だが、それはこいつが殺人者だからだ――
――仲間のフリをして、隙を見て怪我をさせたり、子供を一人刺し殺したそうだな――
――仲間を装う殺人者はタチが悪い。ヘタに関係を持つとここぞというときに裏切られる――
そう言って、カインはサックスを殺そうとした。
自分達を騙していたと分かった以上、今更カインの事を信用する事はできないが、
あれは本当の事を言っていたのだ、と確信せざるを得ない。
あの時、自分がカインを止めていなければ、後々の悲劇は食い止められたかもしれない。
だが、目の前で人が殺されるのを、平然と見ていられただろうか……
『ウルへ行かなきゃ……』
『……行ってどうするの? 見つかったら今度こそ終わりなのよ?!』
『でも……カズスへは戻れない…………あいつの槍を見ただろ?』
『ええ、あの奇妙な槍ね』
『あいつは…武器なんか持ってなかった……全部取り上げられてたんだ……
それに……あの変な槍を持っていたのは…確かもう一人の……』
『フリオニール…………じゃあ、あいつはカイン達も欺いたって事?!』
ルカは微かに頷いた。
サックスという男は、思った以上に策士かもしれない、とアンジェロは内心呆れ返った。
『だから…あいつを止めなきゃ……今度はウルのみんなが危ない……
……俺は…あいつが許せない……ハッさんを殺したからってだけじゃない……
自分が不幸だからって…他人も不幸にしていいはずなんかないんだ……!』
『あなた…まさか、あいつと刺し違えるつもりなの?!』
ルカは、今度は首を横に振った。
『俺は死なない……あいつを殺すつもりはない……動けなくするだけでいいんだ……
あいつを倒しても…仇を討った事にはならない……倒さなきゃいけないのは……
……………………?!』
突如、木々がザワザワと揺れ、ゴゴゴゴゴと地鳴りが響いた。
『夜明けが……!』
見上げた空は、朝焼けに血のように紅く染まっていた。
「くっ……う!」
躍動する地面の上で、ルカの身体が壊れた人形のように跳ねる。
『ルカ!』
『……大丈夫……だから…もっと離れて!』
覚悟はできていた。だが、何が爆発を誘うか分らない。
それにアンジェロを巻き込む訳にはいかなかった。
アンジェロは言われるままに、更に二、三歩飛び下がる。
――二度目の夜明けだ……――
暁の空に、死を告げる魔女の姿が浮かぶ。
『アルティミシア……!』
アンジェロが牙を剥き、憎悪の唸りを上げる。
ルカは目を見張り、拳を精一杯握り締めた。
――『テリー』――
一瞬、高鳴る鼓動が凍りつく。
いや、テリーは二人いる。俺の知ってる方とは限らないじゃないか……
でも……まさか……でも……そうだとしたら………………
――『わたぼう』――『イザ』―――
何で君までいなくなるんだ……おかしいよ……こんなのおかしいよ……
どうして……仲間と一緒じゃなかったの? また会うんじゃなかったの?
―――――『ハッサン』―――――
覚悟はできていた。できていたが……
その痛みに、悲しみに、怒りに……身体の震えが止まらない。
だめだ! 耐えろ! 耐えるんだ! 負けるもんか! お前なんかに……!
ルカは懸命に歯を食い縛り、魔女の顔を睨み付けた。
『ゼル……ですって?! リノアとスコールだけじゃなかったの?!』
知る人の名に、アンジェロも少なからず衝撃を受けていた。
だとすれば、他にも、アーヴァインや…あまり会いたくはないが…サイファーも……
『あの女、一体何を企んでるの……?』
ただの復讐にしては手が込み過ぎている。
それだけなら、ルカ達のような別の世界の人間を巻き込む必要はない筈だ。
恐らく、そうしなければならない理由があるに違いない。
『どうせ、ロクな理由じゃないでしょうね』
それを確かめ、阻止するために、再びアルティミシアに相対せねばならないだろう。
勿論、アンジェロにとっては、リノアの仇を取りたい、という願いが大部分を占めている。
でも、今のままでは駄目。例え辿り着いても、スコール達の足手纏いになる……
……アンジェロは、ルカの方を見た。
ルカは、もう泣いてはいなかった。
魔女が消えた後も、強い眼差しで上空を見据えていた。
それは、ほんの半日前に見た、ただ嘆き悲しむだけの子供ではなかった。
その姿が、アンジェロを突き動かす。
『急ごう…時間がない……』
やがて、ルカは静かに念じ始めた。
徐々に綿のような雲がルカの身体を覆い、少しづつ宙に浮き始める。
『待って! その前に……あなたにお願いがあるの』
アンジェロは、肚を決めた。
いや、スコールの言い付けに背いた時点で、既に定まっていた事なのかもしれない。
『私を、あなたの「仲間」にしてちょうだい!』
『え……?』
突然のアンジェロの言葉に、ルカは戸惑った。
アンジェロがただの犬ではない、不思議な力を持っている事は分かっていた。
魔物には獣系のものも多い。仲間にする事には何ら支障はない。ただ……
モンスターマスターの仲間になるという事――
それは、能力は勿論、場合によっては命すら委ねる事を意味する。
『アンジェロ…それは……俺が君のマスターになるって事だよ?! それを分かって……』
『ええ。分かってて言ってるのよ!』
アンジェロの澄んだ瞳に迷いはなかった。
ルカから聞いた話を総合すると、モンスターマスターとは魔物の力を引き出し、
自由自在に使いこなす能力を持つ者の事だという。
自分は魔物ではないが、それに類する力は持っている。
リノアと全く同じとはいかなくても、ルカといれば今よりずっとマシに戦えるだろう。
少なくとも、サックス如きに引けを取ることはない筈だ。
『私があなたの手足になる! あなたの代わりに戦う! だから、私を導いてよ、ルカ!』
アンジェロは、ルカの能力に賭けた。
『……アンジェロ』
アンジェロは、亡くなった主人を深く愛している。それは痛い程に伝わってくる。
その絆は、飼主とペットという関係を遥かに超えたものだろう。
しかし、それを抑えてまで、身動き一つさえ困難な自分に付いていこうと言う。
『分かったよ…君を仲間にする……俺に力を貸してくれ「アンジェロ」』
その気持ちに応え、彼女の全てに責任を持つ事。
それがルカの使命だった。
『じゃあ…これを……君にあげるべきだと思うんだ』
ルカは慎重にザックを引き上げ、慎重に中を探った。
慎重に何かを掴み出し、そっと雲の端に置いた。
『なに?』
アンジェロは恐る恐る近付き、雲の上を覗いた。
褐色の丸い形の物がちょこんと乗っている。
『スタミナの種だよ…………本物の』
『え? そんな……あなたこそ使うべきじゃ……』
『俺は…少し寝たから大丈夫……君の方が疲れてるだろ? お食べよ』
『でも……』
『マスターの命令は……』
『……はいはい』
アンジェロはしぶしぶ、雲ごとがぶりと種に齧り付いた。
次の瞬間、うっ、と顰めたような奇妙な表情をする。
『美味しくない?』
『……ドッグフードの方が…よっぽどマシだわ』
こんなに不味いものも珍しい。
だが、こんなに嬉しいものも滅多になかった。
重く感じていた身体が少し軽くなる。また、走って行けそうだった。
『行きましょう、ルカ』
『うん……あいつは…もう扉を見つけたかもしれない……俺達も扉を探そう……
でも油断するな……作戦は…いつでも「いのちだいじに」だ!』
『分かったわ。付いてきて!』
ルカに先導して、アンジェロは走り始めた。なるべく直進できる進路を選ぶ。
その後を、滑るようにルカの雲が追う。
他人を乗せるのではなく、自分が乗るのだからある程度の加減は効く。
だが、少しでも無理をしようと焦ると、身体の節々に痛みが走る。
ルカは思わず、抱えたザックと、懐に入れたウインチェスターを握り締めた。
……ふと、その指に光る指輪が目に入る。絶望と希望が交差する光。
ハッさん、それでも俺は生きるよ。
もし、テリーがいなくなっていたら尚更……生き残らなきゃならない。
俺は、生きて必ずマルタに戻る。今よりも強くなって、絶対に星降りの大会で優勝する。
そして願うんだ。みんなが生き返って、元の世界で暮らせるように。
それまで待っててよ。その時は、ちゃんと謝るから……
『もうすぐ森を出るわ! あとちょっとの辛抱よ!』
アンジェロの纏った薄いローブが、風を孕んで大きく翻る。
まるで、羽ばたく天使の翼のように。
【ルカ (HP1/20以下、全身に打撲傷)
所持品:ウインチェスター+マテリア(みやぶる)(あやつる) シルバートレイ
満月草 山彦草 雑草 説明書(草類はあるとしてもあと三種類)
E:爆発の指輪(呪)
第一行動方針:ウルへ向かい、旅の扉を探す
第二行動方針:サックスの後を追う
最終行動方針:生き延びて故郷に帰る】
【アンジェロ
所持品:風のローブ
第一行動方針:ルカと共にウルへ向かう
基本行動方針:ルカの身を守り、戦う】
【現在位置:ウル南の森→ウル南方の草原地帯へ】
※ルカはトンベリ=トンヌラだと認識していません。
460 :
変更するレス:
+ジョブチェンジについて+
・ジョブチェンジは精神統一と一定の時間が必要。
X-2のキャラのみ戦闘中でもジョブチェンジ可能。
ただし、X-2のスペシャルドレスは、対応するスフィアがない限り使用不可。
その他の使用可能ジョブの範囲は書き手の判断と意図に任せます。
+GF継承に関するルール+
「1つの絶対的なルールを設定してそれ以外は認めない」ってより
「いくつかある条件のどれかに当てはまって、それなりに説得力があればいいんじゃね」
って感じである程度アバウト。
例:
・遺品を回収するとくっついてくるかもしれないね
・ある程度の時間、遺体の傍にいるといつの間にか移ってることもあるかもね
・GF所持者を殺害すると、ゲットできるかもしれないね
・GF所持者が即死でなくて、近親者とか守りたい人が近くにいれば、その人に移ることもあるかもね
・GFの知識があり、かつ魔力的なカンを持つ人物なら、自発的に発見&回収できるかもしれないね
・FF8キャラは無条件で発見&回収できるよ
+戦場となる舞台について+
・このバトルロワイアルの舞台は日毎に変更される。
・毎日日の出時になると、参加者を新たなる舞台へと移動させるための『旅の扉』が現れる。
・旅の扉は複数現れ、その出現場所はランダムになっている。
・旅の扉が出現してから2時間以内に次の舞台へと移らないと、首輪が爆発して死に至る。
現在の舞台は浮遊大陸(FF3)
ttp://www.thefinalfantasy.com/games/ff3/images/firstmap.jpg 次の舞台は闇の世界(DQ4)
http://ffdqbr.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/up/source5/No_0097.png