FF6乙
524 :
510:2008/01/24(木) 01:57:51 ID:etvkTfxd0
じゃあ、
>>522の言葉に甘えさせてもらって、
試しに序章前半部分を投下してみる。
前にも書いたけど、色々脚色しているのであしからず。
言い忘れてたけど、FF6乙です。
525 :
510:2008/01/24(木) 02:02:00 ID:etvkTfxd0
FF-X imitated 序章 忍び寄る影(1)
王都タイクーン。クロシア大陸南西部イスカ高原地帯に位置するタイクーン王国の首都で、
風のクリスタルの恩恵の下古くから栄えてきた歴史ある街である。
多くの店が立ち並ぶ市場は活気に満ち、
町のあちこちに建ち並ぶ巨大な風車が行き交う旅人の目を楽しませる。
町の上空では、獅子の体に鷲の頭と翼を持つ魔物、グリフォンに跨った竜騎士が治安に目を光らせ、
彼らの姿に気付いた子供たちが尊敬の眼差しで手を振り、歓声を上げる。
町の中心部にそびえるタイクーン城は、玉座がある主塔を中心に幾つもの尖塔がそそり建ち、
各塔の間には網の目の様に廊下が渡してある。
また、塔の頂上には全て踊場が設けてあり、
精鋭の竜騎士で構成された『蒼い翼』が一斉にそこから飛び立つ様は、
まさに圧巻の一言である。
526 :
510:2008/01/24(木) 02:07:15 ID:etvkTfxd0
FF-X imitated 序章 忍び寄る影(2)
そのタイクーン城のある一室で、今、重要な会議が開かれていた。
出席者は五人。さほど広くない部屋のほとんどを占領するように長机が置いてあり、
一番奥にこの国を治めるタイクーン王が、
その左右に相対する形で大臣、及び外交、軍事、諜報の責任者が並んでいる。
その中で、諜報部の長官が立ち上がって各国の調査結果を読み上げていた。
「―――以上のように、やはりウォルスでも異変が相次いでいるようです。」
その報告を聞きながら、タイクーン王は誰にも気付かれぬよう細く長い溜息をついた。
年の頃は五十の半ば程、竜騎士としても名を馳せるその身体つきはガッチリとしており、
年とともに刻まれた皺が精悍な顔立ちをよりいっそう威厳に満ちたものとしている。
しかし、ここ最近の心労の為か、眉間に刻まれたそれは他のどれよりも深かった。
「それで、カルナックは?」
「は。密偵達の情報によるとモンスターの増加等、やはり似たような異変が起こっているようです。
しかし、ここの所の不穏な動きは変わらず―――」
大臣達は深刻な表情で報告に聞き入っている。
ウォルスもカルナックも水や火のクリスタルを所持し、タイクーンと同じ様に古くから栄えてきた王国である。
そして今、同じような異変にみまわれている。
(分かりきった事だ。)
タイクーン王は心中でつぶやくと、机の中央に置いてある一通の手紙に目を落とした。
527 :
510:2008/01/24(木) 02:11:16 ID:etvkTfxd0
FF-X imitated 序章 忍び寄る影(3)
この手紙が届いたのは、もう二年も前の事になる。
差出人はシド・プリヴィア。世界最高の科学者であり、今起こっている問題を予言した人物。
そして、その原因となった装置を発明した人物でもある。
(いや………原因はクリスタルの力に頼り過ぎた我々の方だな。)
タイクーン王は自分の考えに一度かぶりを振ると、手紙の内容に思いを巡らせた。
そこには、このまま装置によってクリスタルの力を無理に引き出し続ければ、
やがてその力は衰え、最終的には砕け散ってしまうであろうと、
その過程で起こり得るあらゆる異変と共に簡潔な言葉で綴られていた。
手紙の届いた当時は、クリスタルの力は無限でありそんな事はありえない、
と誰もが一笑に付していた。
しかしここ最近の状況は、やはりシド博士が正しかったと証明している。
ふいにタイクーン王は立ち上がると、窓辺に近づいた。
タイクーン王の動きに気付いた長官が報告を止め、彼の主に目を向ける。
「陛下、如何なさいましたか?」
その問いには答えず、タイクーン王は窓の外へ目を向けた。
眼下では、クリスタルが安置されている風の神殿から吹く風を受けた風車が、
黄昏の中で弱々しく廻っている。
528 :
510:2008/01/24(木) 02:14:40 ID:etvkTfxd0
FF-X imitated 序章 忍び寄る影(4)
しばし外を眺めていたタイクーン王はやがて、
そのままの姿勢で、静かに、確固たる意思を込めて言った。
「………装置を、停止する。」
大臣達の動揺が、背中越しにタイクーン王にも伝わってくる。
「し、しかし、それでは………」
「わかっておる。今の繁栄も増幅されたクリスタルのおかげだ。
だが…」
タイクーン王は振り返り、大臣達を見据えた。彼等は全員立ち上がっていた。
「クリスタルが砕けてしまっては元も子もあるまい。」
水を打ったような静寂が会議室を包む。
大臣達の沈痛な表情には、それぞれの苦悩が色濃く出ていた。
ややあって、外務長官が口を開いた。
「………他国は、納得するでしょうか?」
増幅されたクリスタルの力はタイクーン国内だけでなく、他の国家にも及んでいる。
裏を返せば、この国も他国のクリスタルの恩恵の下にあるという事になる。
「納得させる他、あるまい。」
五十年前まではクリスタルを巡って大きな戦乱がたびたび起こっていた。
その戦乱に終止符を打ったのがシド博士の発明品である。
それまでは、周辺のごく限られた地域にしか及ばなかったクリスタルの恩恵が、
この装置によって世界中に行き渡るようになったからだ。
しかしそれを停止したからといって、再び戦乱の世に逆戻りさせる事だけは防がねばならない。
タイクーン王は、それまでと違って力強い声で言った。
「ただ、カルナックの動きが気になる。
これまで以上に情報収集に力を入れて貰いたい。」
「かしこまりました。」
「大臣は、各国の執り得る―――」
「陛下ーーーー!!」
伝令の必死な叫び声に、指示が途切れる。
529 :
510:2008/01/24(木) 02:18:29 ID:etvkTfxd0
FF-X imitated 序章 忍び寄る影(5)
タイクーン王は事前に、この会議室には誰も近寄らぬよう厳命していた。
にも拘らず、伝令がここに来るという事は………
各々の頭に最悪の事態がよぎる。
「まさかクリスタルが…!?」
ざわめく大臣達を残してタイクーン王は廊下に出る。
既に伝令はすぐそこまで来ていた。
「へ…陛、下………!」
伝令はタイクーン王の目の前で立ち止まると、
ろくに息を整えぬまま搾り出すように言った。
「風の、神殿から、緊急の伝、令です!」
タイクーン王の体中に緊張が走る。
遅れて大臣達も部屋から出てきた。
「神殿が、モンスターの大群に、襲撃されています!
現在、神殿周囲に張り巡らせた風の結界の出力を上げる事で、
かろうじて防いでいるそうですが、早急なる救援を望む、と!」
タイクーン王は体に入った力が少し抜けるのを感じた。
(クリスタルはまだ砕けてはいない!
だが―――!)
結界の力の源は当然クリスタルだ。
この緊急事態にクリスタルへ掛かる負担はかなりのものとなる。
530 :
510:2008/01/24(木) 02:20:51 ID:etvkTfxd0
FF-X imitated 序章 忍び寄る影(6)
タイクーン王は会議に出席していた将軍を呼びつける。
「レオ将軍!!」
「は!」
背後に控えていたレオが姿勢を正す。
タイクーン王は窓へ少し目をやり、考える。
(一刻を争うが、既に日は暮れかけている。
夜間の飛行は危険な上、仮に着いたとしても着陸できぬ。)
タイクーン王は改めてレオを見据え、命令を下した。
「レオ、お前は準備が出来次第、第一、第二師団を率いて出撃し、
神殿の救援、及び近隣の町の警護に当たれ!
わしも明朝、夜が明け次第『蒼い翼』を率いて神殿へ向かう!
残りの兵には王都の守護に当たらせろ!」
「かしこまりました!
直ちに準備いたします!!」
レオは深々と一礼すると、ようやく息を整えた伝令を連れて階下へ向けて走り出す。
それを一瞥して残る大臣達にも目を移す。
「時間がない、お前たちも準備を手伝うのだ!」
「は、はい!直ちに!」
この命令に、大臣達も慌ててレオ達の後を追っていった。
独り残ったタイクーン王は壁に拳を打ちつけ、
「クリスタルを守るために装置の停止を決定した矢先…
魔物からクリスタルを守るために装置に頼らなければならぬとは!!」
この皮肉な事態を苦々しく呪った。
531 :
510:2008/01/24(木) 02:26:40 ID:etvkTfxd0
前半はここまで。
後半はまだ執筆中なので、書きあがり次第ということで。
なお、地名、将軍、蒼い翼は捏造品であり、オリジナルには存在しません。
ティナが会議の場として利用されている広場に戻ると、
その片隅ではマッシュが黙々と倒立腕立て伏せを行っていた。
マッシュはティナの足音に気づくと、
倒立したまま動きを止めずに言った。
「ティナもやるか?」
マッシュの唐突な誘いに、ティナは慌てて首を振る。
「身体の鍛錬が精神の鍛錬に繋がる、ってのが俺の信条でね」
それだけ言うと、マッシュはまた腕立ての作業に戻る。
切れた息の狭間で数を数えながら、黙々と鍛錬を続けるその姿に、
ティナは声をかけるタイミングを完全に逃がしてしまった。
190センチの巨体が一定のリズムで上下するのをただ眺めていると、
マッシュは体格に似つかわしくない身軽な動きで、
くるりと起き上がった。
マッシュは全身を流れ落ちる汗をタオルで拭いながら、
ティナの目をじっと見つめる。
「俺にはどうするべきかなんてよくわからないけどさ、
昔から兄貴の言う事に間違いはなかった。俺の時の事を思い返してみても、
いつでも俺の事を思ってくれてたしな。
だから、ティナも信頼していいと思うぜ?」
マッシュの言葉に、今自分が考えていた事を見抜かれたようで、
ティナは驚いて目を瞬かせた。
「どうして、私がその事を考えているって…わかったの?」
そうティナがたずねると、マッシュは拍子抜けしたような表情になった。
それを見て、今度はティナが拍子抜けする番だった。
「わかってて言ってくれた…んじゃないの?」
マッシュは大げさに顔の前で片手を振ってみせる。
「まさか。俺は今思った事を口にしただけさ」
「そ、そうなの…」
ティナはあっけらかんとしているマッシュの言葉に、ほっと息を吐いた。
世界の命運さえ関わっている深刻な事態にもかかわらず、
まるでそれを感じさせないマッシュの態度は、
これから重荷を背負おうとしているティナにとって、
逆に心地よいものだった。
「おっと…俺がこんなこと言ってたなんて
兄貴には言っちゃだめだぜ。照れるからなー」
そう言って笑うマッシュの屈託のない笑顔に、
ティナは無意識のうちに自然と微笑んでいた。
そして同時に、自分の中で徐々に迷いが晴れてきているのを感じていた。
この人達のことを信じてみよう、そう小さく口ずさむと、
しっかりした足取りで、ティナはバナンの待つ入り口へと歩き始めた。
-
外に一歩でてみると、洞窟内とは違い、
溢れる陽光と爽やかな一陣の風がティナを包む。
思わずティナは眩しさに目を細めた。
「答えは出たのか?」
振り返ると、岩壁にもたれるようにして、バナンが待ち構えていた。
ティナはまっすぐにバナンを見つめ、大きく頷いた。
「そうか。では聞こう。
我々の最後の希望となってくれるか?」
バナンの言葉に、ティナは再び頷く。
その表情は凛として、決意がにじみ出ている。
「はい。私のこの力が役に立つのなら…。
でも…本当は、まだ少し怖い…」
表情とは裏腹に不安をのぞかせるティナの言葉に、バナンが応えるように頷く。
今や彼の双眸からは険しさが消え、優しさすら宿っていた。
「おぬしが不安な気持ちになるのも無理はない。
だが今は一人ではない。彼らの助けを借りれば、
自ずと道は開かれよう」
そう言うと、バナンは改めてティナの両肩に手をおいた。
「ティナよ、今のおぬしはいい目をしておる。
その目で全ての真実を見てきなさい。
儂にいい考えがあるんじゃ。とにかく皆を集めてくれんか」
ティナははい、と短く返事をすると、
皆のいる洞窟内へと走り出した。
きりがいい所で一旦切ります。
では。
乙
源氏の篭手もらわないとだめだよ
おいおい、リレー無視して最初から書き始めるのってアリなんか?
それまで書いてた人たちに対して敬意を払うべきじゃね?
今は見守ろうよ
>>FF6
乙!
ゲーム中では(ティナからしゃべりかけて始まる)台詞の遣り取りだけだけど、
会話の間に細かな動作が加えられたことで、各キャラクターの個性が良い具合に
表現されていて、読んでて楽しいです。
自分なら源氏の篭手ルートでリターナーの話も見てみたい気もするけど、
逆にこっちの方がまとまりがあって良いですね。
(ガントレットルートだとティナが挙動不審になる恐れがあるしw)
そうか?
地の文で説明しすぎ。
これじゃ会話が引き立たない
間違ってはないけど、なんでそんなに偉そうなんだ?
>540
ああ、じゃあもっと引き立つように書いてくださいどうぞどうぞ。ばーか。
喧嘩すんな保守
ほ
突然ですが、FF4のサブストーリーその2を投下します。
時系列は#0308 4章 4節 これから(28)と#309の間になります。
FINAL FANTASY IV SubStory 2 nao chora mais(1)
偽のバロン王との対決──そしてバロン王国の解放を明日に控えた日のこと。
セシルはヤンやテラと共に、城に入り込む手筈を相談していた。
地下水路の出口から玉座へ至る最短経路。シドが囚われているかもしれない地下牢の位置。
いざというとき、内側から門を開ける方法。万が一にもはぐれた場合の集合箇所。
大筋が決まった頃に、子供たちがいる台所から、何かを打ち付けるような音が聞こえたのだった。
「どうした!?」
兵士が踏み込んできたか、最悪魔物の襲撃かと、あわてて駆けつけたセシルたちの目の前で、激しい争いが繰り広げられていた。
──ただし、恐れていた状況ではなかったが。
「よくもやったな!」
「そっちこそ!」
ひっくり返った丸椅子の向こうで、半泣きのパロムとポロムが取っ組み合いを演じている。杖もロッドも放り出し、互いの髪や服を引っ張り合うのに夢中で、セシルたちには気付きもしない。
「よすんだ、ふたりとも!」
状況が飲み込めないまま、とにかく割って入るセシル。そこへ、
「あんちゃん!」
「セシルさん!」
この上なく切迫した顔の二人が詰め寄った。
「さきほどは申し訳ありません!
もう平気ですわ、今度からはちゃんとやりますから!」
「さっきのはなんだよ!
どうして普通のやつらまでやっつけちまうんだよ!?」
「……落ち着いてくれ、ふたりとも!」
セシルの左右から正反対のことを訴えて、困惑する彼を置きざりに、そっくり同じ顔を互いに突き合わせる。
言い争っているのは、多分……いや、間違いなく、昼間の戦いのことでだろう。
セシルらが、魔物ではない、同じ人間と命を奪い合う様に、二人はひどく動揺した。見境ない行動で、全員の危機を招くほどに。
四半日経った今もそれは尾を引いて、双子の意見を真っ二つに切り裂いていた。
FINAL FANTASY IV SubStory 2 nao chora mais(2)
「わがままばっかり言うんじゃないわよ!」
「勝手に決めるなよ!」
口論を再開したふたりを、テラとヤンが引き離す。それでも双子の興奮は覚めず、足をばたつかせて言い争いを続けた。
「セシルさんだって、やりたくてやったわけじゃないのはわかってるでしょ!!」
「やりたくないなら、やらなきゃ良かったじゃんか!」
「そんな虫のいいことできるわけないでしょ!!」
「じゃあ何のためにパラディンになったんだよ!!」
宙に抱え上げられながら、双子の喧嘩はなおも続く。
彼らなりに事実を受け止めようともがく子供らに、かけられる言葉をセシルは見つけだせなかった。
「わたしたち、セシルさんのお手伝いをするために来たんでしょ!?
邪魔しに来たんじゃないでしょ!」
ヤンの腕から解き放たれ、ポロムが床に飛び降りる。テラの戒めを振り切って、パロムがそれを迎え撃つ。
「そんなこと、言われなくてもわかってるよ!」「だったらちゃんとやりなさいよ!」「うるさいなぁ、ポロムにゃわかんねーよ!」
「……パロム!よせ!」
今はセシルにもいくらか状況が飲み込めた。だから彼は”パロムを”止めようとした。
「白魔道士のくせに!!」
彼は、言ってはならないことを言おうとしている。セシルにはそれがわかる。
「どうせポロムは、みんなにケアルするだけだもんな!
やっつけるのは、オイラたちなんだぞ!
ひとに全部やらせといて、自分だけいい子ぶるなよ!」
『ありがとうローザ。だが僕は暗黒騎士』
丸く見開かれたポロムの目に透明な粒が盛り上がる。それがこぼれるより早く、彼女は爆発した。
「パロムのばかぁぁぁっ!」
ほとんど体格の変わらぬ双子の弟を突き飛ばし、引きとめようと伸ばしたヤンの手をすり抜け、突進するポロム。流しの脇の勝手口に体当たりすると、もとから半開きの扉はあっさりと彼女の通行を許可した。
「言い過ぎじゃ、馬鹿者」
尻餅をついたパロムが、テラの拳骨を喰らっている。代わりにセシルがポロムを追った。
──ボクハアンコクキシ
手を汚すことのない君とは違う──
FINAL FANTASY IV SubStory 2 nao chora mais(3) "白"
シドの屋敷はバロンのはずれ、高台のほとんどを占めている。四方は急激な崖となって落ち込み、さながらさながら天然の物見櫓だ。
ぐるりと周囲を囲んだ塀、その内側にわずかばかりの緑が配され、真上から降り注ぐ陽の恵みを受けている。
ポロムの姿を求め、セシルは心持ちゆっくりとした足取りで、草の上に残る新しい踏み分け跡を追った。
「服が汚れるよ」
「セシルさん……」
蓋をした井戸の上で、幼い白魔道士は膝を抱えていた。間の抜けた呼びかけに反応し、涙で汚れた顔を向ける。
セシルは彼女のそばの地面に腰を下ろし、今しがた通ってきた道を眺めた。
つられたか、ポロムも同じ方に目を向ける。塀に沿って続く茂みは、あまり手入れが行き届かず、方々に枝を伸ばしていた。
追いかけてきたは良いものの、慰めの言葉はまだ見つからない。
セシルは黙ってポロムの頭を撫で、髪に絡んだ葉を取り去った。
「……わたし」
頼りない声でポロムが話し出す。
「まちがったこと言ってません。
パロムはずるいです。
いっつも好き勝手して、いっつも魔法を使いたがってるくせに」
か細い声が、次第に刺々しくなっていく。拗ねたような言葉も瞳も、セシルのほうを向いてはいない。
「あんなの、ただのわがままです。
そんなのいつものことだけど、でも、こんどは遊びじゃないのに。
ちゃんとしないと、また迷惑かけちゃうのに。
それなのに、人の気も知らないで……!」
「怒ってるのかい?」
「違います!」
怒ってるだろう、とは言わず、セシルは明るい栗色の頭を自分のほうへ引き寄せた。
セシルの手を嫌がるように、ポロムは激しく首を振って逃れ──そうかと思えば、逆に腕にしがみつく。
「パロムなんか……パロムなんか……」
いつものポロムらしくない、そしていかにも子供らしい糾弾に、すすり上げる音が混じりだし、やがて完全な嗚咽に取って代わられた。
FINAL FANTASY IV SubStory 2 nao chora mais(4) "白"
ポロムは嘘をついている。
温みを帯びた髪を撫でながら、ぼんやりとセシルは思う。
パロムが、迷いもせず他人を傷つける姿など、彼女が見たがるはずがない。
ただ責任感から、自らの半身に戦いを強いているのだろうか。
それとも。
『あなたはそんな人じゃないわ』
弟のそんな姿を、思い描くことさえ出来ないのだろうか。
絶対の信頼を尊いと感じながら、それは今のパロムにとって、救いにはならないだろうこともセシルにはわかっていた。
魔法がいかに容易く人を傷つけるか、邪悪ならざるものの命をも、容赦なく奪ってしまいかねないものなのか、幼い天才黒魔道士は、見せ付けられたばかりなのだ。
強大な力が落とす影に怯えるあまり、彼自身が持つ光さえ見失ってしまっている。
そして自分を信じられなければ、大きすぎる信頼は逆に、とらえどころのない、薄っぺらなものに思えてしまうものなのだ。
ついこの間までのセシル自身が、まさにそうだったように。
パロムは彼よりずっと聡い。そしておそらく、ずっと強い。ポロムの存在が、あの子にとってどれほど大きな支えとなるか、じきに理解するだろう。
けれどポロムもまた幼い。たとえ一時のことにせよ、自分の好意が届かないことで、傷つかずに済むほど大人ではない。
ならば、今のセシルにしてやれることは──
「ポロム、掴まって」
セシルはポロムを抱き上げ、肩の上に乗せた。
戸惑っていた小さな手が、しっかりと首に回されるのを待って、敷地を囲む塀に歩み寄る。
子供の目線では気づかない。壁の先に待つのは、どこまでも広く、大きな空。
「どうだい?」
「……すごいです」
肩の上で、ポロムが身を乗り出す。セシルの口元にも笑みが浮かんだ。
FINAL FANTASY IV SubStory 2 nao chora mais(5) "白"
もう何年前になるのか。おそらく、カインたちと知り合う前なのだろうが。少年とも呼べない年齢のセシルを担ぎ上げ、若き日のシドはまっすぐに指を突き出したのだった。
『ほれっ、いつまでもぐずぐずいうとるんでない。
陛下のような、強いナイトになるんじゃろ?』
なぜ泣いていたのか、そもそもなぜこの家にいたのか。そうしたことは忘れても、あの日自分を支えていた腕と肩の頼もしさを、セシルは今も覚えている。
そしてこの空の広さも──世界の果てまでやってこいと、手招きしていた真夏の雲も。
「わかる気がします」
突然、肩の上でポロムが言い出す。
「このまま飛んでいきたいって、飛んでいける気がするって……
この家にお住まいの人が、飛空挺をつくったのって、私、すごく分かる気がします」
「……ああ、そうだね」
生気に満ちた声が、過去に引き込まれかけていた心を、現在へと呼び戻した。
ポロムの瞳は、彼の頭上を通り越し、地平線を見つめている。
きっと以前のセシルもそうだったのだろう。おそらくはシドも。誰かの肩の上で、涙を拭い一心に彼方を眺めたことがあるのだ。
北から東にかけて、ハーヴィーの森に生い茂る木々が風に梢をきらめかせる。
西は一面マディン草原が広がり、そのむこう、雲と地面が接する際で気まぐれに光るのは、大河イストリーの支流のひとつだ。
流れる雲。遥か高みで輝く太陽。ひっそりと白く浮かんだ半欠けの月。
国や人が変わり果てても、バロンの自然はなお美しい。
世代をさかのぼり、ずっと昔から、子供たちは空に呼ばれていた。
「ここで待ってても良いんだよ」
思いもかけない言葉が、ごく自然に、セシルの口をついて出る。
「辛いなら、無理に戦わなくていいんだよ。
君たちには本当に助けられたし、頼りにもしてた。
来てくれて嬉しかったけど……」
僕らだけで何とかするよ。そう告げる間にも、首まわりをつかんだポロムの手に力が入る。
セシルは膝を曲げ、彼女に降りるよう促した。
FINAL FANTASY IV SubStory 2 nao chora mais(6) "白"
地面に降りたポロムと、セシルは改めて向かい合った。膝を突き、目の高さを合わせる。
「わたしたち、お役に立てませんか?」
「いいや。
君たちの実力は何度も見せてもらったし……敵の実態が、まるでわかってないからね。
本当のところを言うと、戦力はあればあるほどいいんだ。
でも」
一呼吸おいて、セシルは、彼の考えうる最悪の想像を、包み隠さず打ち明けた。
「僕らが戦う相手が、魔物だけとは限らない。
もしかしたら、兵士でもない女性や老人を、傷つけてしまうかもしれない。
……もちろん、僕らが全滅する可能性もある」
無論、そんな事態はなんとしても避けたい。それでも、起きた場合を考えることが今は必要だ。
ひとつの言葉が放たれるたび、ポロムは小さくうなずいた。
すべてを語りつくした後、言われたことを噛み締めるようにじっとうつむいて、それからぎゅっと拳を握った。
悩み迷うというより、それは、己の内なる誰かの声に、耳を澄ませているようだった。
だとすれば、彼女を導く声の主は誰だろう。ミシディアの長老だろうか。それともポロム自身だろうか。
あるいは──いつもいつも彼女を振り回し、引きずって、否応無しに行き先を定めてしまう、双子の弟なのだろうか。
「パロムのことは、あいつに決めさせます。
わたしも、おともさせてください」
「……ありがとう」
幼いなりの決意を秘めた姿に、リディアの面影が重なった。波間に消えた、小さな笑顔。
「大丈夫です。長老がおっしゃっていました。
セシルさんがパラディンになれたのは、何か大きな使命を果たすためだろうって。
だから、きっと全部うまくいきます」
気楽にさえ響く言葉は、自らに言い聞かせるためか、セシルの不安を透かし見たか。
力強く頷く彼女は、既にいつものしっかり者の顔をしていた。
FINAL FANTASY IV SubStory 2 nao chora mais(7) "白"
「もどろう。みんな待ってるよ」
セシルは立ち上がり、膝の土を払ってポロムに手を差し出す。
応じようとした手が途中で引かれ、いぶかしむセシルに、彼女ははにかみながら申し出た。
「あの、もう一度、お外を見せていただけませんか?」
「お安い御用さ」
再びポロムを肩に乗せ、鳥たちが囀る中、セシルは風景を一つ一つ指差して、それらが持つ名前や主な動植物などを異国から来た少女に教えた。
目の前の戦いを忘れ、待ち受ける運命を知らず。
ほんの僅かな時間だけ、ふたりは他愛無い話を楽しんだ。
以上です。
もともとは本編に組み込む予定でさわりだけ振っていたんですが
もたもたしてるうちに話が進んでしまって、半端になってたエピソードです。
個人的に気になってたんで、勝手ながら補完させていただきました。
一応、パロム編も準備しています。
>FF6
バナンがすごく貫禄ありますね。ゲームだとひたすら天に祈ってたのにw
国王としての打算と、誠実さが同居しているエドガーもカコイイ!
明るい体育会系のマッシュと好対照。
>FF5 imitated
さりげなく、風のクリスタルが砕ける伏線を敷いてるのがうまい!
そして、レオ将軍と『蒼い翼』ににやり。
>クロシア大陸南西部イスカ高原地帯
このへんの地名はオリジナルですか?
556 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/12(火) 21:14:43 ID:hf9M4iAPO
うほっ、乙
なんか夫婦みたいな感じだなw
でも本当にありそうな衝突で面白い
久しぶりで待ちわびたぜ〜
GJ!
面白かった。パロム編も楽しみにしてます!
hoshu
ほ
561 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/03/03(月) 23:14:22 ID:oa5MTznOO
し
ゅ
メンバーをホールに集めると、
バナンはゆっくりと階段を下り、全員の顔を見渡した。
テーブルの方へ一歩足を踏み出したところで、顔をしかめる。
「誰じゃ?こんな所にごみを捨てたのは…」
バナンはぶつぶつ言いながら足元の紙くずを丸めてくずかごへ放った。
ティナがぎくりと肩を震わせたのには気づかず、
バナンはふんと鼻を鳴らした後、改めて口を開いた。
「さて……。
帝国が魔導の力を用い、戦争を始めたのは皆も知っての通りだ。
だがガストラがどうやって魔導の力を復活させたか?…ポイントはそこだ」
ガストラの言葉を受けてエドガーが口を開いた。
「ロックに調べてもらったんだが、ガストラは世界中の学者を集めて、
幻獣の研究を始めたらしい。
こんな北方の雪山の事まで調べ上げるとは、
帝国の幻獣へ執念は並外れている」
「つまり、魔導の力と幻獣に何か関係があるということ…?」
ティナは、エドガーとロックの表情を伺うように、順番に見比べた。
そういうこと、とロックが頷きながら付け加えた。
「魔導、そして幻獣。
この二つの言葉で思い出される事は一つしかない」
バナンの言葉に、エドガーは眉をひそめた。
「もしや……」
「その通り。魔大戦じゃ」
"魔大戦"との言葉に、リターナーの面々からは、
おお、とかまさか、といった声が上がる。
「枕元でばあちゃんが話してくれたのは…本当の話だったのか?」
「魔大戦の存在自体はな。フィガロにもいくつか古い文献は残っているが、
その詳細に関するものはほぼ失われている。
文字通り魔大戦が全てを焼き尽くしたというわけだ」
エドガーの答えに、ロックはお手上げとばかりに両手を広げ、肩をすくめた。
「しかしバナン様、またその時の悲劇が繰り返されるというのですか?」
バナンはふむ、と呟き、腕を組んだ。
「わからん。そもそもがもう千年も前の話じゃ。
それに歴史学者によっても諸説あるからのう。
一説よると幻獣から力を取り出して、人間に注入させたとのことだが…」
「それが魔導の…力?」
ティナの声音は不安に満ちている。
眉間に深い皺を刻んだまま、エドガーはしばらく沈黙していたが、
やがて顔をあげてバナンを見据えた。
「…だとすれば、帝国に立ち向かうには、
こちらも魔導の力を手に入れるしかないのでは?」
「ならん!それではまた魔大戦と同じ間違いを犯す事になってしまう」
バナンは初めて声を張り上げた。
「では、どうしろと?」
エドガーの問いにバナンは腕組みをし、答える代わりに、
まじまじとティナを見つめた。
「幻獣と話ができないかと考えているのだが、どうだ?」
「話をする?幻獣と!?」
ティナが答えるより早く、エドガーが口を開く。
バナンの予想外の提案に再び場が騒然となる。
バナンは周囲の動揺をよそに、再び話し始めた。
「危険だが…もう一度ティナと反応させれば、幻獣が目覚めるかもしれない」
「幻獣は…本当に意思の疎通を図る事のできる存在なのでしょうか?」
「エドガーの疑問はもっともだ。確証は何もない。
だが、ティナならば可能かもしれない。
危険な賭けだ、といわれればそれまでだが…」
バナンの口調は歯切れが悪い。険しい表情のまま大きく息を吐きだすと、
続けて言った。
「いずれにせよ…それを実現させるにはティナの協力が必要だ」
自然と全員の視線がティナに注がれる。
ティナは突然の注目に戸惑ってか、青ざめた顔色で忙しく瞼を瞬かせた。
そんな様子を見かねたロックはそっとティナの側に回ると、
その肩に手をかけた。
「ティナ」
そう言ってからロックはティナにだけ聞こえるよう声をひそめた。
「断ったっていいんだぜ?」
何度目だろうか、また脈打つように痛み始めたこめかみを、
ティナはそっと押さえた。数日前にまみえた、
幻獣の不思議な光に包まれた時の感覚を思い出していた。
(あの時は嫌な感じはしなかった。
もしかしたら本当に話すことができるかもしれない…)
ティナはロックにむかって薄く微笑むと、言った。
「やってみましょう」
その時、入り口付近から重量のある物体が床にぶつかったような、
鈍い音が皆の耳に届いた。
「何じゃ?今の物音は…」
反射的に全員が入り口へと向かう。
そこには背中に酷い傷を負った見張りの兵士が倒れていた。
荒い息をつきながら、懸命に身を起こそうとしている。
「た、大変です!バナン様。サウスフィガロ、が…」
「おい!何があったんじゃ!?」
駆け寄ったバナンが抱き起こすと、兵士は苦痛に顔をゆがませながらも、
顔を上げた。
「帝国が、こちらにむかっています。サウスフィガロは恐らく…」
「気づかれたか…作戦を急がなくてはならん!」
バナンは舌打ちし、エドガーを振り仰いだ。エドガーは黙って一度頷く。
「ロック!」
エドガーの声にロックが弾かれたように立ち上がる。
「わかってる。サウスフィガロで内部から敵を足止めするんだろ?」
「お前の特技を見込んでのことだ、頼んだぞ!」
エドガーは手元に置かれていた短剣をロックへと放った。
それを空中で受け止めて腰のベルトに収めると、
階段を数段下りた所でロックはティナの方を振り返った。
「ティナ!俺が戻るまで大人しく待ってなよ。
特に、手が早いので有名などこかの王様には気をつけろよ」
「ロック!一言多いぞ、お前は…!」
エドガーが蹴る真似をすると、ロックは軽く笑いながら、
じゃあな、といって素早く身を翻した。出口へと姿が消えるのを見送りながら、
マッシュは半ば呆れたように付け加えた。
「兄貴…まだそのクセ直ってないのかい?」
-
負傷した兵士の応急手当を手早く終え、バナンは立ち上がった。
「こっちはどうする?」
一気に慌しさを増した状況においても、
エドガーの態度はあくまで平静を保っている。
「ロックが足止めをかけているうちに、
レテ川を抜けてナルシェに逃げるのがいいでしょう。
炭鉱で見つかった幻獣の事も気にかかります」
「うむ。では裏口にイカダを用意させよう。
少々危険だが、他に手もあるまい」
バナンはすぐ後ろの兵士に指示を出すと、
自身も小走りで裏口へと駆け出した。
未だ状況がよく飲み込めず、呆然と立ち尽くしているティナの背中を、
エドガーは押し出すように軽く叩いた。
「ここは危険だ。一緒にナルシェへ向かおう。
自分の力を知るいいチャンスになるかもしれんぞ」
ティナは頷き、手渡された長剣を決意と共にしっかりと握り締める。
と同時に、バナンの号令が室内に響き渡った。
「皆グズグズするな!すぐナルシェへ向かうぞ!」
2ヶ月ほど経っていて今更ですが、
レス下さった方ありがとうございます。
喜んだり反省したりしてます。
では。
otu
おっつー
571 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/03/13(木) 15:53:14 ID:V3C0e1GL0
ここだけは落としちゃならん!
6の人乙。