1 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:
なにこの町。お店が開いてないわよ。
…ふーん。それはそうよね。
死んじゃったらお金も意味ないもんね。気持ちわかるかも。
みんな知らないしね・・・。
(つんつん)これが、
(ぐりぐりぐり)勇者だってこと。
それにしてもすごいなぁこの町。
家も丈夫そうだし壁に囲まれてるし。
これなら魔物も空気読んで入ってこないかもね!
あ、見て!立派な建物があるわよ。何かありそうね!
こんにちはー。おじいさん。何かちょうだい。
・・・あ、そうなの。その3つがないとゾーマの島には行けないんだ。
んー?太陽の石?
・・・あんたってホントに楽な仕事してるわねー。
あ、でもそれって勇者としての運命なのかも。
うん。あたしは信じるわよ。運命。
あんた勇者だから、テキトーにブラついてればゾーマのとこにたどり着くのよ。
それとね、この町に格闘場がある事も運命だと思うんだあたし。
うっわぁーすっごいわねー!
外はあんなに暗い町なのに!
ああんもう仕方ないわねー仕事もしないで賭け事だなんて。
よーし。さっそくチケット買いましょ!ね?いいんでしょ?
やっぱし何でも言ってみるものねー。
えーとねー。あたしはキャットフライ!
何でって倍率高いからに決まってるじゃない!
頼むわよー!
信じてるからねえー!
・・・今回は運が悪かったの。次は当てるから。
次はホイミスライムBを買うわ!これが当たれば問題ないんだし!
は?何よ。大丈夫!あの子にはホイミがあるんだから。
ほら始まる!がんばりなさいねー!!
*ホイミスライムBはホイミをとなえた!
*メタルスライムAのこうげき!
*メタルスライムBはメラをとなえた!
*ホイミスライムAのこうげき!
バカー!何やってるのー!!
*ホイミスライムAのこうげき!
*メタルスライムAはメラをとなえた!
*メタルスライムBのこうげき!
*ホイミスライムAをたおした!
*ホイミスライムBのこうげき!
・・・どきどき。
*メタルスライムBのこうげき!
*メタルスライムAのこうげき!
*メタルスライムBをたおした!
*ホイミスライムBはホイミをとなえた!
・・・がんばって!!
*ホイミスライムBのこうげき!
*メタルスライムAをたおした!
やったぁぁぁ!!!どう!?すっごいでしょー?
よーし!あたしはこんなもんじゃないって事、見せてあげるからね!
楽しかったぁ・・・。
もう思い残す事は何もない・・・。
お金もたくさん増えたわ。あたしのお陰で。
これだけあれば何か高い武器買えるわよ?
…は?水着?
何でそこで水着が出てくるの。家にあるじゃない。
てゆーかそんなの着て旅してたらあたし変態だし。
買ってもいいけど着るのはあんただからね。
こんにちは妖精さん。
うんありがと。じゃあね。
よーし!杖ももらったし。あとは聖なる守りだけ!
遊んで歩いてるようでなかなか順調ね。
てゆーか特に何もしてないのに持ち物ばっかり増えてくわ。
それで次はどうするの?
笛・・・?うんわかった。がんばって探すわ。
あのさ、さっき言ってた水着なんだけど。
かわいいやつだったらあたしも欲しいかも。
魔物がいなくなったら海で遊んだりしてみたいな。
たくさん更新されてたので読んできますた。
萌えすぎて死にそうです。
ト書き(?)無しだと後半終盤が辛いって事にようやく気付いた・・・orz
アレフガルド編は特にこれといったイベントもない
ただのアイテム探しゲームだから話が作りづらくてかなわん。
むしろ独創性が問われるのかもしれんですがこちとらヒーヒー言ってます。
ラストまでツンで走るわけにもいかないし。
改めて先行してるYANA氏のクオリティに脱毛してます。
サボってるわけでなく一応細々と書き貯めてますんで。
謹賀新スレ。
YANA氏も執筆さんも乙!!
キタ(゚∀゚)コレGJ
YANA氏乙!
そして執筆氏もエンジンかかってきたな
wktkwktk
久しぶりにPC開いたら書き込みができなくなっててびびった。
もうだいじょぶだけど。
また来週きます。
立ったか。両人乙!!!!
大言壮語とはこの事だぜ……orz
>>11 ドンマイ。期待してるぜ……それに一人じゃ逝かせはしないさ……
>>12 あんた……いい奴だな。
きっかけはどうあれ挑戦してみるよ。10レス以内の超短編を……。
>>13 ふん……別に、彼方の為に言った訳じゃないし、それに期待なんてしてないんだから……だ、だから、その時に私が彼方より少しでも面白ければ目立つだろうから……
もう、とにかく!頑張りなさいね!?
17 :
YANA:2006/09/05(火) 20:29:05 ID:7FayLJP90
>前スレ最後
すみません、そういう意図で喚き散らしたわけではねーです。
レゲーヲタとして、自己解決を目指す所存。
そして執筆さん空気読み杉www乙です!
以下回答。
>991
●アリス
身長…159cm B:90 W:59 H:85 (備考:今だ発育を続ける胸を憂えている)
●アレイ
身長…155cm B:75 W:56 H:76 (備考:以前は幼児体型にコンプレックスを持っていたが、今は別に気にしていないようだ)
●ライナー(通常時)
身長…169cm B:87 W:58 H:84 (備考:度重なる人体実験が、平時の彼女の体型に影響を与えていないとは言い切れない)
真剣に考えた俺キモスwwwww
>992
アリスが胸を弄られて一回、ゴドーが胸タイツ挟射一回、本番・タイツの局部に穴をあけて着たまま後背位で両者一回。
って何言わすのさ!ヽ( `Д´)ノ
一応質問貼っとく。
アレイに惚れた。
そしてゴドーと親方に殺意が沸いた。
つーかアリス90てwww
991 :名前が無い@ただの名無しのようだ [sage] :2006/09/04(月) 23:36:29 ID:nL7bXXIq0
いや、むしろその体型だからい(ry
つ[]<みんなのスリーサイズは?(男共は…どっちでもいいや)
992 :名前が無い@ただの名無しのようだ [sage] :2006/09/05(火) 00:15:57 ID:bcMVbP9t0
>>989 結局何回(ryしたんですか?
19 :
前スレ991:2006/09/06(水) 01:01:03 ID:dZqDzjpd0
やはり俺はアレイだな
そしていつか親方ぶっ殺してやる
ここは青少年にいい影響を与えるインターネットですね
アリスとライナーはお互いあと1cmずつ胸が小さくてもいいような気がしてきた
身長159のB90でさらにまだ成長の余地があるとすれば将来大きすぎて不格好になる可能性がある(奇乳?)
しかしライナーも87なのであまり下げすぎるのもいくない、というわけで1cmだけ減
でもライナーとの差が縮まるのも何となく浪漫が無いのでライナーも1cm減
何となく「80台と90台の壁」と「85と86の壁」にこだわりがある俺
テスト29点と30点の壁は果てしなく厚い
>>23 まて、よく考えろ、身長のほうだってまだ成長の余地が有るんだ、問題ないじゃないか
4月からまとめ更新されてないけど大丈夫かな…
31 :
YANA:2006/09/08(金) 01:30:39 ID:2xXmvSXQ0
保守
がてら
>>23をネタに一筆書こうかと思ったのだが、
三時間以上考えて出てくるのは起承転までで、結をまるで思いつかん。
………すいません、嘘つきました。思いつくけど、どう足掻いても18禁展開の呪縛から逃れられんのですよ。
盛ってないで本編書けやという主神ミトラ様の御意志かしら。
それはともかくとして、近い内にこのスレに新しい風が吹く予感。全てが上手くいけば。
まぁ…いずれ分かることだ( ´・ω・`)
それにしても、見切り魔王氏はどうしたのだろうか。
いつか氏のナナたんと内のアリスで乳比べをしたいものだな(最悪だ
もしかしてYANA氏にコネのある新人作家が降臨するのか?
YANA氏は前に2書きたいって言ってた気がするけど、それなのか?
見切り魔王ジラしちゃいやん。
37 :
見切り保守 米:2006/09/08(金) 23:09:17 ID:97QBNaV20
今日投下予定だったんですが、投下まではもう少し時間が掛かりそうです。
つうか、投下といっても1レス程度の内容なのですが。ホントごめんなさいorz
ほら、クリスタルタワー攻略に思ったより時間が掛かったり、女子プロの社長やってみたり、
年明けの試験に向けて勉強始めたりしてたら、遅くなっちゃって。
なんか気が付いたら前スレが埋まってるし、新スレが立ってるしで、前スレに記念カキコしておきたかったっ!
なんてミーハーなこと考えたりしてましたが。
まぁ、あれだ。そんなわけで此から更に投下間隔が空くと思いますが、その報告に来ただけでした。
なんかあれですね、おっぱいネタはやっぱり何処でも盛り上がりますね。おっぱい。
奇遇だな見切り社長。俺も女子プロの社長やってるぜ?おっぱい。
>>見切り氏
いつまででも待ってる
41 :
見切り魔王:2006/09/09(土) 21:08:10 ID:ZKFDrKmU0
[望郷の誘い]
「此は、なんだ――――」
漸く出た言葉が、其れだった。
有り得ない光景を確かめるために、視線を横に振る。
間違いなく、アレンにとって見覚えのある場所に他ならない。
今まで歩いてきた雪原が広がるはずの、背後を振り向く。
其処に広がるは、記憶に焼き付く何処までも広がる平原。
空から差す光は心に安堵感を与え、草原から漂う草の匂いは郷愁を誘い、人々の喧噪は其れを受け入れさせる。
見知らぬ場所に迷い込んだ異邦人のように、立ち尽くす彼を包むのは見知り過ぎている場所。
全てが記憶にある故郷と同じ。というより、記憶そのもの―――
「わんっ!」
下の方から何処かで聞いた覚えのある犬の声に、意識を引き戻される。
視線を下ろすと、あの人懐こい犬が足にじゃれついていた。
其れを全くおかしいとは思わず、なにもかもがおかしくないことに違和感を抱きながら犬を抱き上げる。
目線の高さまで抱え上げられた犬は、鼻息も荒く、興奮してアレンの顔を舐めてくる。
顔に与えられる刺激は、舌によるものに間違いない。ならば此は現実か。
此処に在る物、在る人、その全てが現実であるのならば。
天界に最も近いロンダルキアの地に、在るはずの無い彼の故郷、ローレシアが在った。
42 :
見切り魔王 米:2006/09/09(土) 21:22:26 ID:BklLMMk+0
さて、そんなわけで漸く突入したアレン編。
此だけ書くのに時間掛かり過ぎです、はい。
文体変えたら推敲に倍以上の時間が掛かってます。書くのにも時間掛かってるけどさ。
他の理由は昨日書き込みしたので省略。
>>38 女子プロの社長も良いけど、次は選手として参戦したいぜ?おっぱい。
>>42 いっそ社長をレスラーにしたらどうだろう?
これからも期待してるぜおっぱい。
44 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/09/10(日) 02:59:18 ID:TG+W4qUy0
ここは、読んでると自分も書きたくなってくるいいインターネッツですね
まとめから来ましたが、YANA氏のはもう完結してると思って読み始めたら、
まだ終わってなくて嬉しいやら焦れるやらw
他のまとめを読み進めつつ、気長に待ちます
執筆者の皆様、がんがってください
このスレって昼間は書き込んじゃいけませんみたいな空気ないか?w
単に昼間に人がいないだけでしょ。
VIPみたいに保守ばっかりしなくてもいいし。
47 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/09/11(月) 05:00:07 ID:soUMtkqL0
48 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/09/11(月) 22:44:18 ID:7jKwpziDO
ふと思ったんだけど、メラゾーマってゾーマを意識して名付けたんじゃねーの
絶対そうに決まってる
ダイの大冒険のハドラーは
「ハ」ーゴン
シ「ド」ウ
バ「ラ」モス
ゾ「ー」マ
に違いない
>>50 !!!!!!!!!
さぁその調子で賢者バージョンも書くんだ!!
こ の こ と だ っ た の か ?
>>50 絵はGJだけど、なんか自サイトの宣伝みたい…
しかも18禁サイトだったな。
まあ別に構わないと思うが…
56 :
YANA:2006/09/12(火) 10:23:04 ID:Y79TrPPM0
ようこそおいで下さいましたw
あ、先に言っておきますが、私はスレの存在と手段を説明しただけです。
だから、最初にアリスが描かれて一番驚いてる。それも私(ry
>>53 待った、公開手段に関して叩くなら私を叩いて下さい。
説明の際に
「適当なアップローダか、万一差し支えなければサイトに画像をうpしてURLを張る」
といったのは当方です。
そういう解釈を想定して説明しなかった私の配慮不足の責任です…申し訳ない。
57 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/09/12(火) 14:55:49 ID:UN4NhY6z0
>>47 え、嘘、書いていいの?w
ツンデレしばりか。。。ツンデレ好きだった昔を思い出してみよう
>53
向こうじゃなくてこっちのSS書きから宣伝に行った模様。
ってか無関係な個人サイトにスレの宣伝するかフツー。
59 :
53:2006/09/12(火) 22:33:52 ID:KY3vzfGP0
>>56 そうか、そういった流れがあったんですね
把握した
>>50の方の「誘っていただいた者〜」は意味が分からないうえに
何故2chにうpするのにろだに上げないで
わざわざ自サイト晒してるんだろうと思ってしまいました。
感じ悪い書き込み失礼致しました。
60 :
50:2006/09/13(水) 01:48:59 ID:4wCUSpH10
思いっきり間違った行動を取ってしまいましたorz
ど素人丸出しで申し訳ないです。
HPにあげた絵は消した方が良いかな…?
空気を乱してしまってごめんなさい。
暖かいご感想ありがとうございました。
しかしYANAさんだったとは。びっくりしました。
>>60 このスレが生きてる間だけでも残しておいてくんないかな。
まとめの中の人が更新しに戻ってきた時のために。
別にうp手段なんかどうでもいい。
肝心なのはあんたの絵がGJって事だけだ。しかも作者公認だし。
>>60 そんなことどうでもいいから、賢者アリスとかアレイとかも書いてください。
>>60 なんだか良く分からないけどモシャスを使うと効率良いみたいですよ
65 :
50:2006/09/14(木) 08:35:13 ID:U3oIyr8T0
ありがとうございます。
絵は、まとめサイトの方が戻られるまでウチに残しておきますね。
時間を見つけていろいろ描かせてもらいたいです。
モシャス…変身?
ゾーマは、資料無かったりして。
そういえばゾーマ戦やラダトームでの戦闘はまとめられてないのか。
保守
第七節「楽園を目指し戦士は駆ける」
〜ラダトーム・西門前〜
―――――――――――――――ドォンッ
「―――――――――は」
戦士は、突然の轟音に我に還る。
目の前に広がっているのは、立ち上る硝煙。
後方を振り返れば、そこには、自分達・騎士団の守るべきラダトームをグルリと囲む城壁と門。
そしてその城壁の袂に居並ぶ、数十門の大砲と砲手達。
…戦士は状況を整理する。
成る程。先ほどの轟音は、彼らの砲撃によるものか。そして、目の前の黒い煙幕は、その弾丸が着弾し、大地を削り取った土埃。
――――――ならば。その、巨大な硝煙が晴れた先にいる、ソレは―――。
オオオオオオォォォォォォッッッ!!
緑の大地を覆い尽くす、黒く、恐ろしく巨大なアメーバのような物体――――――否、それは、夥しい数の、魔物の群れ。
彼らは大砲の着弾に慄き、数瞬、その様相を慌しく乱していたようだ。
だが、そこには微塵の弱々しさもない。…知能持たぬ、魔物の軍勢とはそういうものだ。
魔物とは、魔王にとって捨て駒だ。そういう使い方をされている。
相手が人であれば、指揮系統が乱れた隙に指揮官を討ちに往く、或いは何らかの要因で戦意を喪失させることも可能だろう。
だが、魔物は違う。そもそも大砲の弾丸≠ニ存在意義を同じくする彼らに、そんな戦術は通用しない。
彼らにあるのは、「自分達の身を如何に有効に散らせるか」という、本能だけである。
戦士は、決して浅くない魔物との交戦経験によって、そのことをよく理解していた。
「………」
改めて、今度は自分の状態を確認する。
…右手に握られた長剣が、紫色の血に滑る。前方の地面に目をやれば、己が体の三倍はあろう有翼の獅子が、頭から尾の先まで真っ二つに両断され、息絶えていた。
はて。これは、私がやったのか。状況から考えて、それ以外ないが、だが…これは、私の剣ではない。
生憎、私は膂力に恵まれたほうではない。こんな、力任せの荒業を行う筈が、
―――――――――ズ
と。足元に、何かの感触。
戦士が何事かと視線を落とせば、そこには――――――、
「…そう、か」
ほんの数十秒前まで、人だったもの≠ェそこにいた。いや今は、あった、というべきか。
戦士―――『彼女』は、それで全てを思い出した。
ソレは。騎士団の長にして、彼女の師であった、中年の騎士であった。
…ああ、要するに。私は逆上して、つい、やってしまったわけか。
彼女は一人、昔、剣とは力が全てであると思い込んで振るい続け、そしてその中年の騎士に諌められたその剣技を、怒りに任せて再び振るってしまったことを他人事のように嘲笑した。
―――騎士はいつも豪放に笑い、時には鬼のように厳しく、女でありながら戦士を目指す彼女を鍛え抜いた。
その彼が、討たれた。たかが、徒党を組んだだけの魔物に。恐らくは…彼女の身を庇って。
騎士を討った魔物を切り伏せ、意識が飛んでいたのは恐らく一秒にも満たない空白だったろう。
だが、彼女は戦士でありながら、戦いの中で我を忘れ、あまつさえ戦いさえも忘れた。
それが彼女は、何よりも、腹立たしかった。
「副団長!ご無事ですか!?」
「…ああ、なんとかな」
部下の一人が、慌しく駆け寄ってくる。
彼女はそれを一瞥だけし、未だ己の前方―――7、80メートルというところか―――で荒れ狂っている、一面の魔物の群れを睨む。
僅かに燻っている硝煙が完全に晴れ、視界が確保されれば、彼らはすぐにでも侵攻を再開しよう。
「…団長が亡くなられた。以後の指揮は、私が執る」
「!それは…」
後から寄ってきた他の部下達も、彼女の言葉を聞くや、明らかな狼狽を見せる。
彼女は内心、己の不甲斐なさを呪った。
…そうだろう。私の実力は確かに騎士団でナンバー2だ。だが、戦力・指揮能力・人望…低いつもりはないが、団長に比べれば遥かに劣る。士気の低下は免れん、か。
「戦場での緊急処置である。不満はあろうが、辛抱してくれ」
兵達は彼女の言葉を聞き、慌てて落胆した態度を取り繕うが、彼女はそれを容認した。
そう、誰よりも。かの騎士の死で、戦況の圧倒的不利を確信したのは、彼女であったからだ。
―――否、そもそも。
この状況自体が、既に圧倒的不利であったのは、いうまでもないだろう。
突如としてこのラダトームに殺到した、史上最大の魔物の大軍勢。
そう、群れという言葉さえ生温い、まさしく、軍団。
草原を、森を、山々を埋め尽くす、数えることすら適わぬ数の魔物をたかだか数千足らずの戦力で退けようなど、到底無理な話だ。
今は亡き騎士団長が、皮肉っぽい笑顔を苦々しく歪め、数割の兵と僧侶達に北門の確保を、
騎士団の一部の手練れと半人前にも及ばない新兵達に東部の防衛を命じ、
残る騎士団の総力で、最重要防衛地点である西門の防衛に当たったのが、ほんの半刻前。
それが、ものの十数分でこの有様だ。
数千以上の戦力は瞬く間に数を減らし、いまや五百を割ろうとしている。
北と東の状況は分からないが、いずれもそう芳しいものではないだろう。
だが、かの団長を誰が責められよう。これは最早、襲撃ではない。災害だ。
他の誰が、どんな指示を出したところで、状況が変わる筈がない。敵を討ち滅ぼすことも、ましてや逃げることも能わず。
本来ならただ死を待つだけの災害≠ノ対し、戦意を失わず少しでも長く人々が生き延びられるよう命令を下した団長。
彼とて、恐怖がなかったはずがない。それでも、団長は戦った。
―――――――――そして。団長は、死んだ。
それを、彼女が許せる筈がなかった。
「―――陣を組みなおせ。四十秒で済ませよ、敵は我らより疾く来るぞ」
「は、はっ!」
「砲兵にも伝えろ。団長の弔い合戦だ、弾を残させるな。
狙いは防衛線の五間から十間先、撃ち漏らしは我らで倒す。それと―――」
最後に、付け加える。騎士達は固唾を飲んで、次の言葉を待つ。
「これが、おそらく最後の戦だ。死に様に、悔いは残すな。以上だ」
「「「………」」」
それは、遠まわしの、死の宣告。誰の目にも明らかな、敗北の宣言。
集まっていた部下達は静かに敬礼し、ある者は配置に戻り、ある者は後退し、居並ぶ大砲の元へ伝令に走った。
彼女は一つ呼吸をし、剣の血振りをする。
「…魔物どもめ。ラダトームの戦士の誇りを見せてやる」
罅(ひび)が入り、面積の半分が砕けた盾を投げ捨て、横たわる団長の盾を拾い上げる。
傷こそ多いものの、使用に支障が出るような損傷は皆無に等しい。
綺麗な盾だ、と嘆息し、柄を握り締める。瞬間、
―――――――――ガオンッッッッ
きっかり、四十秒後。黒煙が完全に晴れるや否やという絶妙のタイミングで、砲撃の轟音が上がる。
「団長。貴方の死、無駄にはしません。一体でも多くの魔物を道連れに、私もすぐに、そちらに」
グオオオオオォォォォォッッッ!!!
ワアアアァァァァァァッッッ!!
魔物の咆哮と、兵達の怒号が同時に響いた。
砲撃を受け、尚生き残った魔物たちが波となって巻き上がる硝煙を越えてくる。
目視―――凡そ、二百。予想より多い。だが、退けない。戦士の誇りに懸けて―――!
「――――――はぁぁぁぁっ!!」
等間隔で隊列を組む騎士達と共に駆け出す。
迫り来る魔物たちとの接触は間近。彼女の剣の切っ先が、先頭のダースリカントの喉を貫くのに、恐らくは二秒も掛かるまい。
「…!!」
だが。彼女は、本能で悟った。
今。その先に、進んでは、いけない。
――――――ズドオオオオォォォォンッッッッッ
―――――――――グガアアアアァァァァッッッ!!?
「く…!?」
――――――それは、巨石か、流星か。
数十の大砲の巻き上げた粉塵を、その一撃の更なる粉塵で以って塗り替える、凄まじい衝撃。
彼女は見た。己が太刀筋が、今まさに魔物の急所へと走ろうという、その瞬間。
密集する魔物の大群に、何か≠ェ飛来し、彼らを粉砕したのだ。
魔物たちはあまりの轟音に怯み、混乱した。
彼女は考察する。アレは、真上から『落下』したものではない。
粉塵の流れる角度、大地への激突が作り出した地面の痕跡、そして、一瞬視界の隅を掠めたソレの軌道。
結論付ける。間違いない、アレは―――私達の後方から飛来した―――。
「!」
攻撃を受けた魔物と共に、突然の事態に浮き足立つ騎士団。
だが彼女は、一足先に状況を整理し終え、後方に視線を投げかけた。
「――――――全滅覚悟、か。その意気や良し。だが、些か足りぬな」
騎士団の後ろ、凡そ10メートルの向こうに、男…一人の戦士が、そこにいた。
何故戦士と結論付けたか。
武を志す者なら誰もが羨もう、堂々たる体躯。鋼のような筋肉に、全身を防具で武装し、背には身長より巨大な斧。一切の淀みのない、強い瞳。
これが戦士でなければ、ラダトームの騎士団に戦士など一人もいはしない。
「苦戦しているようだな。助太刀する………むんっ!」
ぶん、と、男は右腕を力の限り振り上げた。手に握られているのは、男の豪腕ほどもあろうかという、鎖。
と。
ぐおんっ
「む…!」
「うわっ!!」
突如、背後で巨大な影が起き上がる。
騎士団と魔物の間に割って入り、大地にめり込み、今、戦士の呼びかけに呼応し粉塵の中から現れたソレは―――、
ズンッッッ
「ふむ…成る程」
――――――鉄球。黒い鋼の球体に、おぞましいほどの棘が無数に埋め込まれた、鎖つきの鉄塊。
だが、特筆すべきはその大きさ。男の体躯の、更に三倍以上はあろうかという体積。先ほどの破壊力を見るに、その重量は半端なものではなかろう。
男はそれを、片腕と鎖一本、いってみれば単純な腕力だけで、己の元に引き戻したのだった。
「――――――はっ」
男の尋常ならざる膂力を見せ付けられ、彼女は口元を引きつらせる。
なんという、出鱈目。あれが、人間か。
あそこまで扱えるのだ、先の一撃は、間違いなくあの男の振るった攻撃。
肉体の瞬発力は先天的に決まっていると聞いたことがあったが…いるものなのだな。『怪物』、というのは。
「…貴殿が長か」
男は、真っ直ぐに彼女の元へと歩み寄って、話し掛ける。鉄塊を置き去りに、鎖だけを握って。
彼女は、男の瞳を受け、簡潔に答える。
「………そうだ」
「これより、私も参戦する」
男の申し出も、簡潔であった。
…そうか。助太刀といったな。成る程、この男がいれば、或いは万が一にも、戦局も打開できるかも―――。
そこまで考えて。彼女は己の考えに虫唾が走り、かぶりを振った。
「申し出、感謝する。だが、貴公はラダトームの戦士ではなかろう。
いや、それどころか、アレフガルドの戦士でさえないはず。それだけの剛力、伝え聞かぬ筈がない」
「…如何にも。私は、地上の者だ」
地上、という言葉に、兵達が僅かざわめく。
彼女が背後に意識を向ければ、魔物達の喧騒が静まりかけている。問答は早々に済ませねばなるまい、と思考する。
「これは、我らラダトームの戦士の誇りを懸けた一戦である。申し訳ないが、貴公の助太刀を受け入れるわけにはいかぬ」
はっきりと。男の申し出を断った。周りの兵達がどよめくが、構っている暇はない。
「―――ふむ」
男は、その体躯に不釣合いな、理知的な物腰で一度目を閉じ、頷いた。
だが、すぐに片目だけ開き、眼下の女戦士の瞳を見据える。
「戦士の誇り。それを通すもよかろう。だが、それだけではあるまい」
「…どういう、意味だ」
怪訝そうに、彼女は微かに眉を顰めて男を睨む。
「その目に宿る憎しみ。――――――仇討ちか」
「っ!」
ぎりっ、と、反射的に歯を鳴らした。
何故。この男は、見抜いたというのか。いや、見抜かせたのは私の落ち度?
団長を殺され、今まで徹底して押し殺してきた感情が、知らず顔に出ていたとでも―――
「―――案ずることはない。貴殿の戦士としての心構え、決して恥ずべきものではない。今に至って尚、な」
問答で、顔を曇らす彼女に、男は再び目を閉じ、やがて体を魔物に向けて、構えをとる。
「だがな。私は知っているのだ。
かつて貴殿と同じ目をし、狭きに心奪われ、取り返しのつかぬ後悔を抱えようとした男を」
―――故に、私は。貴殿の憎しみを、理解した。
「―――――――――」
言葉に、詰まる。
戦士の目は、嘘をつかない。それはきっと、その男自身の、懺悔。
「貴殿らが玉砕し、それによって戦況が変わるなら、戦士としてそれ以上相応しい死に場所もない。
しかし、復讐心と誇りだけで死地を求めるのなら。今一度、貴殿らの背後に震える者達の事を、考えてやってくれないか」
鎖を握った右手が、再度振り上げられる。
「絶望に屈する前に。戦士の矜持を守る前に。
―――――――――護るべき者達の事。後悔する前に、もう一度だけ」
言葉の途中。男は、ふん、と力み、全身を撓(しな)らせて上半身を前傾させる。途端、
ブオンッッッッッ
ギャアアアアァァァァッッッ!!
「!!」
背後の鉄球と鎖が唸りを上げて、煙幕の向こうの魔物に突進し彼らを吹き飛ばしてゆく。
断末魔の叫びを上げ、魔物たちは取り戻しかけた正気を再び乱す。
「生憎だが。私は、目の前で人々が蹂躙される様を、黙ってみているつもりはない。
彼奴等とは勝手に戦わせてもらう。共闘を望まぬならそれでも構わん。私を邪魔者と断じ、後ろから討つもよし。
…じきに、魔物も煙幕に慣れて足止めできなくなる…私は往く。後の答えは、貴殿らで出すがよい」
云って。男は、鎖を引っ張り上げ、煙の向こうで荒れ狂う鉄球を引き戻す。
それで、終わり。
男は鉄球を手元に戻すと、後は一言の言葉も発せず、前方へと歩き出した。
困惑し、己を見送る彼女と騎士団を一瞥もせず。
男はただ、己が戦いを始めた。…一人の勇者との契りを、思い返しながら。
――――――闇の世界の戦士達よ。貴殿らの志は、誇るべきものだ。
しかし、願わくば。貴殿らが、その更に先にあるものに気づいてくれることを、私は…信じよう。
この世界の、明日のために。
エ デ ン ! エ デ ン !
78 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/09/15(金) 01:26:46 ID:iQTJd3R20
エデンキタ━━━━━━━━!!!!
破壊の鉄球かよ!!エデンすごろく場にでも行ってたのかwww
そいえば武器売ってたんだっけか?エデンの熱さは最高だ!!!
YANAさん、キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!
予告通りの展開ですね(・∀・)イイヨイイヨー
>>44 の者ですけど、この後感想の書き込みが続くでしょうから、
しばらく投下は遅らせますね。
80 :
YANA:2006/09/15(金) 02:12:06 ID:7DyAVsIp0
OK兄弟、まずは聞いてくれ。
実はエデンとの掛け合いをしてる女戦士は執筆直前まで実は男で、第七節はえれぇ男臭い話になる予定でした。
んが、どう構成を練っても上手く形になりそうにない。
途方にくれてスレッド検索でぷらぷらしてたら、巡回スレのアグ○アス萌えスレへと辿り着き、閃きました。
こ れ だ !
土壇場で性転換、そしたら空白だった骨子がガリガリ埋まっていき、誕生したのがツンデレ風堅物女戦士なのでした。
しかし第七節が難物であることに変わりはありません。ここさえ乗り切れば、あとは自分的に完結させたも同然(予定)なのですが。
しかし見切りレッスル氏不在がここまでスレのテンションに影響を与えるとは。
鈍足な俺を補ってスレを支えてくれていた氏には頭が下がりまつ。
OK兄弟、しかと聞き遂げた。
俺から伝える言葉は多くは無い、言うなればただ一つ……鉄球萌えGJ!
GB版バグ技と来て今度は破壊の鉄球ww
勇者の仲間達の間では世界の法則を打ち破るのがトレンドらしいw
とすると…ゾーマ様へのトドメは何だ…?
エデン!!!!!!!燃wえwたwぜw
破壊の鉄球反則過ぎwww
保守くらいしなさいよバカ!
あなたたちが頼りにならないから私がやってあげるわ。
べ、別にYANA氏にwktkしてるとかじゃないんだからっ!!////
素直になれよ。お前が心優しい奴って事はもうみんなわかってるんだ。
アグたん!アグたん!
あれ?
まとめサイト更新されてませんねえ・・。
人頼みなのは良くないとわかってますが神降臨を待つのみです。
更新されてました。
まとめの人ありがとう!いつもご苦労様です!
90 :
通りすがり:2006/09/16(土) 21:29:10 ID:rZjVkzsc0
私のようなものまでまとめに入れていただいて恐縮です…。
まとめの人超乙です!
ちゃんとイラストもまとめられ…ってアレ?サイトへのリンク?
92 :
44:2006/09/17(日) 15:30:39 ID:AftCtbTl0
そろそろ大丈夫かな?
>>44の者ですが、新参がいきなり投下して問題ないのか
不安ではありますが、ご機嫌伺いに短いのを書き込ませていただきます。
晩夏とはいえまだ強い日差しが、緑深い森に阻まれ優しい木漏れ日となって零れ落ちる。
大きく幾重にも張り出した枝葉を屋根替わりにした吹き抜けの店内で、木々の奏でる涼やかな葉音を右から左に流しながら、カウンターに肘をつき、手に顎を乗せて、凝っと木目に視線を落とす少女がひとり。
「なにボーッとしてるのよ」
突然、挑発的な口調で話しかけられて、カウンターの少女はびくっと顔を上げた。
「ああ、姫様。お早うございます」
「あきれた。もうお早うなんて時間じゃないわよ。とっくにお日様は、空の天辺を通り過ぎてるんだから」
姫様と呼ばれた少女は、大きく瞳を見開いて驚きの表情を作ってみせる。小柄で幼い彼女の、そんなちょっと大袈裟な仕草は、同種同性である少女から見ても愛らしい。
「あなた、最近いつもそんな調子よね」
「はぁ……そうでしょうか」
「……これだもんね」
盛大にため息をついた「姫様」は、一転して含み笑いを器用にも満面に浮かべた。
「あなたが何を考えてたのか、当ててあげましょうか」
「はい?」
「あれでしょ。またあのニンゲン達のこと、考えてたんでしょ」
自信たっぷりに、フフンと鼻を鳴らす。
そう、なのだろうか。何も考えずに、ただぼーっとしていただけなのだが、そう言われてみると、この森では本当に滅多に見ない種族の姿を、頭の片隅に思い浮かべていたような気もする。
「あたし、知ってるんだから。あなた、あのニンゲン達に物を売ったことあるでしょ」
「えっ……!?」
掟破り。まさか、気付かれていたなんて。
「あたし達が、あんなヘタクソな変化を見破れない訳ないのに、言い訳になるとでも思った?」
言葉とは裏腹に、「姫様」の口調に責める様子はなかった。
「安心して。お母様には、まだ話してないわ」
手を後ろに組み、「姫様」はくるっと踵を返す。
「でも、あんまりあいつらのことばっかり考えてたら、いまにお母様に言いつけちゃうから!」
エルフの女王にたったひとり残された幼い娘は、からかうようにそう言うと、軽快な足音を置き去りにしてつむじ風のように駆け去った。
94 :
44 エ2/4:2006/09/17(日) 15:32:08 ID:AftCtbTl0
森閑としたエルフの隠れ里に、ぽつりと建つ道具屋を任されたエルフの少女は思い出す。
あの日、ここを訪れた只でさえ稀有な客は、ほとんどあり得ないことに四人連れのニンゲンだった。
「うわー、可愛い〜。ほんっとにお人形さんみたいだね〜」
カウンターから身を乗り出して、こちらをまじまじと見つめてくるニンゲンの少女に、あの時はひどく冷たい視線を向けていただろうと思う。
今考えると、それまで接したことのない彼女の溌剌とした生気に圧倒されていたのだ。
「お前は、ここに来てからそればっかりだな。会うヤツ皆に、それ言って回るつもりなのかよ」
後から入ってきたニンゲンの男が、呆れ顔でそう口にしたのを覚えている。
「だって、ほら、すっごい可愛いよ。え〜と、なんだろ、髪の毛なんてするーってしてて、肌なんて、滅茶苦茶すべすべ!目も……深緑って言うのかな?すごい不思議な色合いでさ」
感心しきりに誉めそやす少女の隣りで、気の強そうなもう一人の少女が、何故か敵意を含んだ眼差しをこちらにくれては、ちらちらと後ろを気にしているのが目に入った。
「貧弱なボキャブラリーで無理して説明しなくても、見れば分かるわよ。それに、別に……そんな大したことないじゃない」
消え入りそうに尻つぼみになっていく台詞は、しかし語尾までしっかりと拾われていたようだ。
「え〜、そうなの?そりゃ、キミくらい可愛ければそういう風に思うのかも知れないけど」
「ばっ……そんなつもりで言ったんじゃないわよ」
気の強そうな少女は頬を赤らめて顔を伏せ、その様子に後ろの二人は顔を見合わせて苦笑した。
95 :
44 エ3/4:2006/09/17(日) 15:34:12 ID:AftCtbTl0
あの日から、どれくらい経っただろう。
エルフである彼女には、時間の概念が希薄だ。こうして道具屋のカウンターに身をあずけ、梢のささやきに耳を傾けていると今日が終わる。昨日もそうだったし、明日もきっとそうなのだ。
変わらない毎日。深い森に囲まれて過ぎ行くそれは、長寿であるエルフにとってとても自然で心地よい。
いつも表情豊かに、くるくると森の中を飛び回っている、あの微笑ましい小さな「姫様」でさえ、ニンゲンならばとっくに寿命が尽きるほどには生きている。
ニンゲンの目には少女にしか映らないらしい彼女は、さらにその倍以上の永きを、この時が止まったような場所で静かに過ごしてきたのだ。
ある一定の年齢に達すると殆ど変化しなくなる容姿は、エルフという存在を象徴している。友として共に生きる木々のように何百年も変わらずにそこに在る、それがエルフだ。
自分達のことを、そんな風に客観視するようになったのは、やはり彼らに出会ってからだったろうか。
−−「こんな森の奥に引っ込んでて、よく飽きないわね。つまんなくないの、あんた達。やることないでしょ?」
気の強そうな少女の言葉がリフレインして、彼女の唇を少しほころばせる。
最初は、何を言われているのかピンとこなかった。
飽きるとは、一体何に飽くのだろう。木々に囲まれた静かで優しく変わらない毎日の、何をつまらないと思えと言うのだろう。葉擦れの音に耳を傾けてまどろむ他に、やるべきこととは一体なんなのだろう。
永遠にも等しい時を生きる彼女には、理解できないその感情。退屈。
けれども、最近彼女は、それがほんの少しだけ分かったような気がしている。
今日は来なかったな。そろそろ、また来るかな。まだ来ないよね。もう来ないのかな。
一日の終わりに、店じまいをしながら頭の片隅でそう考えている自分を発見して、彼女はしばしば不意を突かれる。
ニンゲンとの対面という椿事は、必要なもので適度に満たされていた彼女の世界を刺激して、彼女の心に見知らぬ情動をもたらしたようだった。
まさか、自分が誰かの訪れを「待つ」ことがあるなんて。
でも−−
もう決して戻らない年長の「姫様」、ニンゲンの男と駆け落ちして身を投げたアンの気持ちが、今ならちょっとだけ理解できる気がした。
96 :
44 エ4/4:2006/09/17(日) 15:34:42 ID:AftCtbTl0
「ひぃっ!ニンゲンだわ!さらわれてしまうわ!」
あられもない叫び声が、今回もまた闖入者の来訪を告げる。
彼女は思わず苦笑した。あの子は、毎回同じように悲鳴をあげる。変わらないエルフの象徴のように。
対して、ニンゲン達は、まるで変化そのものだ。今日は昨日と違うことをしていないと「飽きて」しまうし「つまらない」。そして、明日「やること」がないのが我慢できないのだ。
時の流れにまつろわぬ彼女達エルフは、その変化にとてもついていけない。姿こそ似ているものの、彼らは全く異なる存在なのだ。
それは、絶望的な隔たり。お互いの距離が近ければ近いほど、間に深く深く陰をおとしたに違いない。
アンは−−今という瞬間を切り取ることでしか、その陰を掃えなかったのではないか。深い陰がさらに濃さを増して、お互いの姿が見えなくなってしまう前に。
そんな詮の無い想いを振り切るように、彼女はゆっくりと目を閉じた。
次に瞼を上げると、見知った四人組がこちらに歩いてくるのが見える。微かな、しかし変わらないものを見続けることに慣れた目には、はっきりと分かる相違を、今回もニンゲン達に見出して確信を深くする。
「やっほー、こんにちはー!また来たよー」
先頭の少女が、元気よく手を振ってくる。
彼らと出会って、気まぐれのように生まれた感情によって、よりはっきりと意識させられた埋めようのない溝。
時折里に顔を出す、ホビットの老人は賢者と言うべきだった。
だから、彼女は初めて出会った時と同じように、ニンゲン達にこういらえるのだ。
「にんげんには ものは うれませんわ。 おひきとりあそばせ」
97 :
44:2006/09/17(日) 15:35:45 ID:AftCtbTl0
最初、名前欄変えるの忘れた。。。orz
DQ3でツンといえば、まずエルフでしょ、ということで、こんな話にしてみました。
って、いかにもなツンデレじゃない上に、地味過ぎですね。
こういうスレでは、会話中心か、せめて一人称がいいんだろうとは思ったんですが、
地の文が長い三人称で恐縮です。
正直、上のだけを投下するのが恐ろしかったので、他のもちらっと書いてみました。
本編で書くつもりのなかった部分です。導入の導入、みたいな。
朝鳥達の鳴き声が、一日のはじまりを告げている。
「ん……」
アリアハン大陸南部に位置するアリアハン城。その城下町の一角に建つ、とある民家の二階の部屋。
カーテンの隙間から漏れる日差しを嫌うように、少女はベッドの上でもぞもぞと寝返りをうった。
窓の外では、もうかなり日が昇っていたが、身を起こす気配はまるでもない。幸せそうな顔をしてまどろんでいる。
「……なさい」
良い夢でも見ているのだろうか、にへらと笑みを浮かべた少女の頬は、次の瞬間物凄い力でぎゅうとつねり上げられた。
「ふぁ……っ?っふぇ、ひょ、ひたいひたいってば!!」
あまりの激痛に足をばたばたさせながら跳ね起きた少女の視線は、涼しげな微笑みと出会って凍りつく。
「お早う、マグナ。早く起きて仕度なさい」
「……」
マグナと呼ばれた少女は、無言のまま頬を押さえ、寝ぼけ眼に恨めしげな色を浮かべた。と、再び頬に手が伸びる。
「ちょっ、母さん分かった。起きます、起きますから。もう……毎朝、もうちょっとマシな起こし方ってないの?」
肩口まで伸びた髪に手を入れて、頭を掻きながら抗議する。
「なに言ってるの。あんたは、いくら呼んだって起きやしないじゃないの。こんな大切な日にまで寝坊するなんて、本当に呆れた子だわ」
「……大切な日?」
顔にうっすら笑みを貼りつけたまま、母親のまなじりがひくりと痙攣した。
「あ、うそ。はいはい、思い出しました」
「今日はあなたの16歳の誕生日。マグナがはじめてお城に行く日だったでしょ」
「そーでしたね、そういえば。そんなこともあったかな〜、なんて。あ、『思い出した』っていうのはウソです。忘れたことなんてありません。ホントにちゃんと覚えてましたから、だからもうつねららいれ……ほっへはほへはうっ!!」
「朝ごはんできてるから。早く仕度しておりてらっしゃい」
万力じみた強さで娘の頬をつねっていた手を離し、何事もなかったような顔をして母親が部屋から出ていくのを確認すると、マグナはいーっとドアに向かって歯を剥き出した。
その途端に蝶番がギィと鳴り、マグナは慌てて頭から毛布をかぶって身を守る。
しかし、母親は入って来なかった。どうやら、ドアがちゃんと閉められていなかっただけのようだ。
「ったくもぅ、脅かさないでよ」
赤くなった頬をさすり、ぶつくさとひとりごちながら、ベッドからおりてドアを閉める。
着ていた寝間着をするりと脱ぎ落とし、この日の為に用意された旅装を箪笥から引っ張り出した。
「とうとう、この日が来たわね……」
下着姿でしゃがみ込んだまま、くつくつと肩を振るわせる。顔にはにんまりと満面の笑み。
アリアハンの勇者オルテガの娘マグナは、どうやら母親が期待していない方向で、なにかを企んでいるようだった。
ところ変わって、アリアハン城の城門前。
すっかり旅支度を整えたマグナが、母親に連れられてやってきた。
「ここから真っ直ぐ行くとお城です」
「見れば分かるわよ」
母親の説明に、口の中で突っ込みを入れるマグナ。
「この日の為に、あなたを立派に育てたつもりです……なにか言った?」
「いいえ、お母様」
いい笑顔で即答。
じとっと睨みつける視線を、マグナは目配せで誘導する。周囲の人々がこちらを見ていることに気付いて、母親は軽くため息を吐いた。
今日、マグナが城にあがることは、アリアハンでは有名な話だ。中には、親子の顔を見知っていて、「ああ、そういえば今日があの」と見当をつけ、注目する者があっても不思議ではない。
とすれば、あまり無様な親子関係を見せる訳にもいかないだろう。なにしろこれは、「勇者が魔王退治へ出発する」絵なのだ。
「まったく、この子は外面ばっかりよくなって……まぁ、いいわ。王様にちゃんとご挨拶するのですよ」
「はい、お母様!」
相変わらずいい返事をするマグナに、うそくせーというジト目を向けていた母親は、やがて力なくかぶりを振るのだった。
「……さあ、いってらっしゃい」
「それでは、行ってまいります、お母様」
きびきびとした返事を残し、マグナは颯爽と城門へ向かう。その姿は、旅立ちにあたっての勇者の立ち振る舞いとして不足のあるものではなく、事実、遠巻きの見物人達は感心したように彼女を見送っていた。
そんな中で、彼女の母親だけが怪訝な表情を浮かべている。
てっきり、直前になって「行くのは嫌だ」とゴネ出すものだと予想していたのだ。我が子ながら、世間体を気にしただけでは、あそこまで素直になる筈がない。
「……まぁ、いいでしょ」
どの道、駄々をこねても無理矢理出立させるつもりだったのだ。余計な手間がかからずに済んだと思うことにしよう。
「ようやく、自分の使命に目覚めたのかしらね」
口に出してみても信じられなかったので、マグナの母親は腑に落ちない微妙な表情を崩さぬまま、後ろ髪を引かれる様子で我が家に向けて歩き出した。
その後姿は、厄介ごとを無事に終えてほっとしているようにも見えたし、幾分淋しそうにも見えたのだった。
101 :
44:2006/09/17(日) 15:39:42 ID:AftCtbTl0
書いてから気付きましたが、これだけだとまだ全然ツンデレじゃないような。
すみません><
スレ的に(゚听)イラネって空気になったら、さっさとおいとましますので、どうかご容赦を。
>>101 新星さん乙です!!
「まだ」って言う事はこれからツンデレ展開になると勝手に予想。
ってか女勇者がすでにツンデレ要素ありそうだ。
なので全然おkだと思いますよ。続き待ってます。
母親がツンなのか?そうなんだな!?
エルフのツンはそういう形のもアリなんだなぁ、と思いました。
恋愛のツンデレとは違うけど。
ツンデレは武闘家(男)希望。
もうパーティー全員ツンデレでいいよ
武闘家(女)こそツンの極み
107 :
44:2006/09/18(月) 02:04:50 ID:FX6M7gI+0
あ、よかった。書いても大丈夫な空気でしょうか?
>>102-106 レスありがとうございました。
ノーリアクションだったらどうしようかと思ってたのでw、嬉しかったです。
>>102 そうです、いちおう他の方との違いを出す為、女勇者にしまして、
まぁ、せっかく主役なので、そいつをツンデレにする予定です。
武闘家も出す予定なんですが、ちょっとツンデレにはほど遠いかなぁ。。。
パーティ全員ツンツンデレデレしてんのも面白そうですけどねw
メンバーのひとりは、ちょっとヘンなキャラに設定するつもりですので、
宜しければ続きも読んでやってください。
108 :
44:2006/09/18(月) 02:14:45 ID:FX6M7gI+0
>>103 母親は、オルテガとパーティ組んで旅をしてた時にツンデレだったと仮定(脳内設定)
エルフは、DQ3をプレイしてた時に、物を売ってくれなくてツンツンしてたのが
記憶に残ってたので、内心はちょいデレ(とも言えないけど)みたいのが書けるかな〜と。
>>108 よし、絶対に書き続けてくれ。
内容まったく関係ないけど提案がある。
44を踏んだのも何かの縁だし獅子とかシーザーとかの
コテでいっちゃいなよYOU!ずっと44なら締まりない気がするし。
遊び人(女)だったらどうしよう
111 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/09/19(火) 00:05:40 ID:ibmNhSAgO
記念真紀子
>>109 らいよんは、立派過ぎて恥ずかしいので、じゃあ、とりあえずCCで。
カーボンコピーか<突っ込み
ということで、プロローグを投下させていただきます。
お時間とお暇のある方は、宜しければ読んでやってくださいまし。
アドリブ自転車操業のライブ感覚をお楽しみいただければ、これ幸いに存じます。
勇者っているだろ?
かの有名なオルテガを筆頭に、アリアハン以外の大陸にも何人かいると聞く、いわゆるひとつのあの勇者。
彼らは、どうして勇者って呼ばれてるんだと思う?
その呼称は、俗に冒険者なんて言われている連中の「職業」とは訳が違う。
ルイーダの酒場に「勇者」で登録してるヤツなんていないし、何らかの認定方法が存在するという話も聞いたことがないから、多分、自称したところでどこからも文句は来ないんだろう。
だが、そこらの兄ちゃんが勇者を名乗ったところで、そいつ以外は誰もそう呼ばないに違いない。
思うに、普通の冒険者にはできないような偉業を達成した、または成し遂げようという志を持った人間が、自然に周りから「勇者」と呼ばれるのではないだろうか。
例えば、魔王を退治したりとか。
そう、英雄譚を紐解くまでも無く、勇者と言えば魔王退治。魔王退治と言えば勇者ってくらい、切っても切れない専売特許。
何故魔王を倒すのかと問われれば、そこに魔王がいるからだと答え、東に瀕死の魔王があれば、行ってにこやかに止めを刺し、西に征服疲れの魔王があれば、殺して重荷を下ろしてやる、そういうモノになりたがるのが勇者という人種ではなかろうか。
まだ冒険者を含む一部の人間しか知らないことだが、この世界には実際にバラモスという魔王がいる。わざわざ存在してくれているそいつを、葬らずにはいられない、それが勇者なんだと思っていた。
勇者は魔王を倒すもの。それがこの世界の常識であり、勇者の存在意義と言っても過言ではない筈だ。
だが−−
「あたし、魔王を退治しになんて行かないわよ」
俺が出会った勇者様は、あっさりとそう言ってのけたのだ。
自己紹介が遅れたが、俺の名はヴァイスという。次とか二番手とか、まぁ、そんな意味があるらしい。お察しの通り、次男だ。
ちなみに、長男の名前はエース。これが名前負けもいいところな兄貴なんだが、咎めるべきはロクに考えもせずに名づけた親の方だろう。
兄貴が家−−といっても、平凡な農家だが−−を継ぐ事が生まれた時から確定していたので、俺は追い出される前に実家を離れて冒険者になった。
なった時分は、今よりもっと若かったので、決まった作業を繰り返す類いの定職に就くことに魅力を感じられず、毎日バカやって暮らせそうな冒険者でいいか、みたいなノリで割りかし気楽に決めた。
人並み以上の体力は無い代わりに、そこそこ頭は回ると自負していたので、職業には魔法使いを選んだ。なにしろ、離れたところから攻撃できるのがいい。
大体、剣を振り回して魔物の頭を叩き潰すとか、マジ無理ですから。どこの野蛮人ですか、その人。ぐちゃっとかいう感触が手に残って、ヘンな悪夢に苛まれそうだ。
それに、前衛の戦士や武闘家が特攻するのに合わせて、「ゆけい、我が下僕共よ!」とか心の中で号令すると、ちょっといい気分に浸れるところもお奨めだ。
俺達冒険者は、アリアハンの城下町にあるルイーダの酒場に登録されている。そこで仲間を見つけてパーティを組み、退治した魔物の小片−−種族によって個別に設定されている特徴的な部位を持ち帰り、それに応じた報奨金を得る。
バラモスが出現してからこっち、世界中に現れた魔物への対抗策として、アリアハンが独自に作り上げたこのシステムは、なかなかどうして画期的なものだ。
より報奨金の高い強力な魔物を、冒険者達が優先的に狩り倒した結果、この大陸では物騒な魔物はほとんど姿を見かけなくなった。
アリアハンの成功を見て、参考にしようという動きが他の国にも出てきたらしく、噂によれば、今もどこかの国の視察団が訪れているという話だ。
ルイーダの酒場の創設には、あのオルテガが携わっていたという説もあるが、詳しいことは俺も知らない。
さて、そのルイーダの酒場で、最近たびたび話題にのぼる事がある。
いわく、あのオルテガの娘が、もうじき16歳になり、父親の後を追って魔王退治の旅に出るらしい。果たして彼女のパーティのメンバーに選ばれる冒険者は、一体誰だろうか。
勇者のパーティに参加するのは、冒険者にとって最上級の名誉と言っていい。
中には当然、俺しかいねぇだろ、みたいな顔してふんぞり返っているヤツもいる訳だが、ハン、ばかばかしいね。
名は体を現すとはよく言ったもんで、俺は奥ゆかしく控えめなタイプなのだ。
世界に平和を取り戻すだの、ご大層なことにはてんで興味がない。農家の次男坊に、民草の為に命がけで魔王と戦う義理もねぇしな。
そこそこの生活をそれなりに過ごせれば、満足なんです、自分。
という訳で、いよいよ勇者が出発する日である今日、ほとんどの冒険者が集まっている筈のルイーダの酒場に顔を出す気にもなれず、俺はちょっとした小遣い稼ぎに、城壁周辺に生息する弱い魔物を狩りに来ているのだった。
少し前まではパーティを組んでいたのだが、そいつらの余りのチンピラ振りに嫌気がさして袂を分かったので、現在はフリーの身だ。
魔法使いがひとりで狩りに出るなど、常識的にはあり得ない。だがまぁ、アリアハン城の周辺は特に弱い魔物しか出没しないから、問題ないだろうと踏んでのことだ。
なによりフリーになって最近、そこそこの生活すら危うい懐具合になってきたので、少しは無理をしてでも稼がないと、晩飯のメニューがまた粗食なっちまう。
ところが、本日の成果はまだナシ。
ホントに魔物が減ったよなぁ。城壁の中にいると「魔王ってナニ?食べれるの?」とか言いたくなるくらい平和だしなぁ。
正直、おまんまの食い上げになりつつあるので、アリアハンに倣った他国にルイーダの酒場と同様の施設が完成したら、冒険者達はそちらに移籍するようになるのかも知れない。
なんてことをぼんやり考えていると、西の城門の方からつぶやき声が近づいてくるのが聞こえた。
声の主は、少女だった。
乱れた髪や服の裾をしきりと気にして、ぱたぱたとはたいたり手で直したりしながら、街道をこちらに向かって歩いてくる。
「ホントもう、冗談じゃないわよ。見送り多過ぎだっての。もみくちゃにするからぐしゃぐしゃになっちゃったじゃない。どさくさに紛れてヘンなとこ触るヤツはいるし、も〜」
開けた街道を歩いている彼女の姿はこちらからよく見えるが、城壁と街道に挟まれた森の中にいる俺の存在に、向こうは気がついていないようだった。
「大体、あたしを拝んでどうしようってのよ。神様扱いするんなら、お供え物くらい持ってきさないよね」
少女の旅装には見覚えがあった。祭の時などに飾られる、勇者の絵のそれによく似ている。
ひょっとして、あれ、勇者か?
少女は相変わらず俺に気付く様子もなく、隠しから皮袋を取り出して覗き込んだ。
「さ〜て、幾ら入ってるのかな〜……って、なによこれ!50Gぉっ!?ちょっと、信じらんない。魔王を倒してやろうっていう勇者様に、王様が渡す金額なの、これ?ま、別に魔王は倒さないんだけど」
少女は立ち止まって、はぁ〜っと深くため息をついた。
「どんだけケチなのよ、あの王様。にしても、アテにしてたのに、困っちゃったなぁ……こうなったら、お城の宝物庫に忍び込んで−−」
俺がはっきりと聞いていたのは、そこまでだった。
上空から、大鴉が音も無く滑空してくるのが視界に入ったからだ。
狙いは少女。またしても気付いてない。クソ、やたら注意力が散漫な勇者様だな。
『メラ』
「きゃあっ!?」
俺の放った炎弾が、いきなり頭上で炸裂して、少女は悲鳴を上げた。
すぐ脇にぼとりと落ちた、こんがりローストの鶏肉から跳び離れ、腰の剣を抜こうとしてるのかなんなのか、わたわたとヘンな動きをする。
「大丈夫。もう死んでる……プッ」
せいぜい格好つけて登場しようとした俺は、彼女の慌てふためく様がツボに入って思わず吹き出してしまった。
118 :
CC ◆GxR634B49A :2006/09/19(火) 07:25:45 ID:+DtByHs3O
うはwwwなんか5回規制に引っかかって投下できません><
この前は平気だったのに??
いつ解除されるんだろ、これ
ブツ切れになっちゃうけど、携帯からだとキビしいので、また後でPCから試してみます
下生えを踏みしだいて街道へ出た俺を、少女は目を丸くして迎えた。
「……ずっと、そこに居たの?」
「まぁな」
大鴉の成れの果てに歩み寄って、嘴をもぐ。今日の晩飯代くらいにはなるかな。
「……なに笑ってるのよ」
照れ隠しのつもりか、少女はキッと俺を睨みつけてきた。
まぁ、顔立ちは整っていると言っていいだろう。美人というには歳が若すぎるが、あどけなさを残しているのが、逆にポイント高い。
旅装の上からも分かるすらっとした肢体は、色気はまだ無いがそれを補ってあまりある瑞々しい張りが……って、いやいや、何を考えてんだ俺は。
「いやぁ、別に笑ってませんよぉ」
いかん。いつもの癖で、つい馬鹿にしたような口調になっちまった。
「どこがよ!あのね、あんたなんかに助けてもらわなくても、ちゃんとあたしだって気付いてたんだから!余計なことしないでよ!」
「ああ、ゴメンゴメン」
ダメだ。これじゃ、神経を逆撫でするだけだ。
「ホントなんだから!母さんに嫌ってほどしごかれたから、剣にはちょっと自信あるんだからね!」
俺の返しもアレだが、どうやらコレは、相当な負けず嫌いだな。
「ああ、済まない。笑ったりして悪かったな」
こういうタイプには一番手っ取り早いことを経験上知っていたので、俺はできるだけまじめぶって、素直に謝罪の言葉を口にした。内心は、にやけ顔を堪えるのに必死だった訳だが。
案の定、効果はてきめんだった。
「わ、分かればいいのよ……まぁ、いちおうお礼は言っておいてあげる」
性格的に、謝意を表すことに慣れていないのだろう。頬を赤くして、目線をあらぬ方向に泳がす少女の様子は、ちょっと微笑ましかった。
「で、勇者様がお供も連れずに、なんで一人で旅立ってるんだ?」
俺は、さっきから気になっていたことを、少女に尋ねた。
「あ、やっぱり勇者って分かっちゃう?」
そりゃ、そんな勇者丸出しの格好をしてればな。
「なんでって言われてもね。元々、ひとりで行くつもりだったし」
「おいおい、パーティも組まないで魔王討伐に行くのかよ。そりゃ、ちょっと無茶じゃねぇのか?あ、剣に自信のある勇者様にとっては、そうでもないって訳か」
つい皮肉が出ちまうが、性格だから仕方がない。
「うるっさいわね。っていうか、その勇者様っての、止めてくれない。あたしは、マグナ。マグナって呼んで」
「はいよ。俺はヴァイスだ」
つられて律儀に自己紹介をする俺。可愛いよな。
「別に無茶じゃないわよ」
はい?
一瞬、話の繋がりを見失いかけたが、ああ、さっきの続きか。
「いやまぁ、別にひとりでいいなら構わないけどな。今頃ルイーダの酒場では、勇者のパーティに加わる栄誉にあずかろうってヤツらが、今や遅しと主役の登場を待ち侘びてる筈だからさ……」
「そういうあんたは、なんでルイーダの酒場じゃなくて、こんなトコにいるのよ。いちおう冒険者なんでしょ?」
「いや、俺は魔王退治の名声とか、あんま興味ねぇし……」
本人を目の前にしては、さしもの俺の歯切れも悪くなる。
「勇者のあたしにも、特に興味はなかった、と」
その通り。とは口に出さなかった。
「顔も知らなかったみたいだもんね。まぁ、そのくらいの方が、却って都合いいかな。魔王を倒しに行きましょう!なんて、下手に張り切られると困っちゃうしね……なにヘンな顔してんのよ」
どうやら、俺は怪訝な表情をしていたようだ。
目の前の勇者様が何をおっしゃっているのか、いまいち理解できないからなんだが。
「さっきの独り言、聞いてたんでしょ?あたし、魔王を退治しになんて行かないわよ。だから、ひとりで行くのは無茶じゃないの」
魔王をほったらかしにする勇者なんて、アリなのか?
きっぱりと魔王退治に向かわないことを宣言した勇者様は、絶句した農家の次男坊を置き去りにして、話を勝手にどんどん進めていくのだった。
「でも、あんたの言うことにも一理あるかな。アリアハンを出るまでだって魔物はうろうろしてるんだし、確かにひとりじゃ危ないかも。パーティって、普通は四人で組むんでしょ?あと二人、あんたみたいに都合のいい人が、どっかに落ちてるといいんだけど」
おい、ちょっと待て。絶句してる間に、俺は面子入り決定なのかよ。
「うん。だって、あたしが魔王退治に行くつもりがないこと知られちゃったし。ほっといて、ヘンな噂を流されても困るのよ。あたし、アリアハンでは完璧な勇者じゃなくちゃいけないから」
全然ハナシについていけないんですが。
「バカね。あたしが勇者やーめた、とか言ったら、どうなるか分かんないの?」
分からん。どうなるんだ。
「そりゃもう、知ってる人から知らない人まで、考え直せー、お前にしか出来ないんだー、って朝から晩まで物凄い勢いでつめよってくるんだから!?ホント凄いのよ!?あんなの、もうこりごり」
やたらと実感が篭もっていた。ああ、なるほど。経験済みな訳だ。
「逆に、あたしは当然、魔王退治に向かうもんだと周りに思わせておけば……そうね、ウチの父親知ってるでしょ?」
「オルテガ……さんだろ?」
まぁ、このアリアハンでは知らないヤツの方が少ないだろうな。間違いなく。
「そう。あの人、どっかの火山に落ちて死んだとか言われてるんだけど」
そいつは初耳だ。
「でも、ホントのところは良く分かってないの。だから、まだ魔王を倒す旅を、自分達の為に続けてくれているに違いない、みたいに信じ込んでる人も多いわ」
やけに他人行儀な口振りだったが、オルテガが出発した頃、マグナはまだホンの子供だった筈だ。ほとんど記憶もない肉親は、面識のない他人と大差ないということか。
「つまりね、皆が思い描くような完璧な勇者としてとにかく旅立って、アリアハンさえ出ちゃえばこっちのモンなのよ。後はあたしがどこで何をしてようと、今もマグナは一生懸命、世界の平和の為に頑張ってるに違いないって、勝手にそう思ってくれるんだから」
ははぁ。大体飲み込めてきた。
「反対に、万が一にも、魔王退治を放棄したなんてことが知れたら、旅立った先にも説得する為に人が差し向けられるに決まってる。それが母さんだったりしたら、もうサイアク」
マグナはぶるっと身を震わせた。どうやら、余程厳しい母親らしい。
「それがバレないように、あたしがどれだけ我慢して我慢して、今まで立派な勇者の卵を演じ続けてきたか、その苦労があんたに分かる?その何年分の苦労が、野放しにしたあんたがポロッと口を滑らせただけで、全部パーになっちゃうんだから!」
それは気の毒だな、と思わないでもない。これが、他人事だったらな。
「つまり、口止めじゃ不十分なの。あんたはあたしの目の届くところに置いておくか−−」
マグナは妙に据わった目で、腰の剣に手を伸ばした。
「ここで殺していくしかないんだけど、そっちの方がよかった?」
俺は、急いで首を左右に振ってみせた。
「そう。よかった。物分りが良くて助かるわ」
にっこりいい笑顔。
仮にも命の恩人を脅迫するとは、いい根性してやがる。
「それにしても、そんなに魔王退治に行きたくないモンなんだな」
「あったりまえじゃない!!」
何気なく感想を口にしたつもりが、物凄い剣幕で怒鳴られて、俺は慌てて言い繕う。
「いや、違くて。勇者って言ったら、魔王退治に出かけるもんだって思ってたからさ」
「それよ!」
どれよ?
「なんでこんなにか弱い女の子が、勇者の娘っていうだけの理由で、魔王を退治しに行くとか、みんな勝手に思い込んでるの!?」
その見解には一部に異論があったが、口には出さないでおいた。
「大体、なんではじめから、あたしが勇者って決まってるのよ!勇者って世襲なの?違うでしょ!ホント、いい迷惑。そもそも親子二代に渡って魔王退治を押し付けるって、どんだけ図々しいのよ、って話じゃない?ねぇ、そうでしょ?」
もしここに机があったら、確実に握りこぶしでドンドン叩いてる勢いだ。
「ああ、そうだよな。いやホント」
「心が篭もってない!」
「そんなことないって。言われてみれば、その通りだ。ホントにそう思うよ」
全然信じて無い目つきをするマグナ。人を信じられないって悲しいよな。
俺は必死に話題を逸らそうと頭を働かせる。
「あ〜、でもさ……」
「なによ」
「つまりその、魔王退治に行くんじゃなきゃ、アリアハンを出てなにするつもりなんだろうな〜、とか」
「それはもちろん、お……って、そんなこと、別にあんたに言う必要ないでしょ!」
何故か、恥ずかしそうに頬を紅潮させる。なんだ?
意外にも乙女趣味があって、お姫様になりたいとかなのか?残念ながら、それこそなろうと思ってなれるもんでもないぞ。
マグナは自分を落ち着かせるように、わざとらしい咳払いをひとつした。
「まぁ、とにかくそんな訳だから、最低でもアリアハンを出るまでは、ずっと一緒に居てね」
マグナの事情しか考慮されてない、ひどく自分勝手な言い草なんだが。
台詞だけなら、なんだかちょっとした愛の告白みたいで、悪い気分がしなかったのは、我ながら度し難い。
俺の表情で気付いたのか、マグナは再び顔を真っ赤にした。なんとも忙しいヤツだ。
「ちょっと、勘違いしないでよ!?そういうヘンな意味じゃないんだから!」
「ちょ、叩くな!分かってるって−−」
端から見たらじゃれあっているように見えたかも知れない俺達の耳に、小さく細い悲鳴が届いた。
以下、次回−−
長いよ!
その割りに、話転がってないよ!
あと、途中で取り乱してすみません。
この板に、連続で書き込んだことなかったもので。。。
連投規制は、だいたい100秒挟めば大丈夫だったはず。
勇者であることを否定するツンデレが如何にして魔王に立ち向かうか……楽しみにしてますよ。
と、プレッシャーをかけておこうw
>>126 あ、早速教えていただいてありがとうございます。
次から気をつけます。
いや、あの、ホント、バラモス倒せるんですかねw
そうかマグナはおうさまになりたいのか。
気になったので…
−− ←まいなすまいなす
── ←よこよこ
マグナがなりたいのはお嫁さんか
新手の書き手ktkr!
このスレは少数だけど気合の入った書き手ばかりでいいな
>>129 「だっしゅ」を変換しても出るよね。
というか、投下予告してもらえば間に誰か割って入ったら連投規制は
回避出来るんじゃなかったっけ?
………ふぇ?はーい、何ですか、ルイーダさーん。
トテトテ
ご用ですか?…あの、こちらの方は…
………ふえええぇぇぇぇっ!!ゆ、ゆゆゆ、勇者様ですかぁっ!?
一緒に冒険に?は、はい!よよ、喜んで!
…え、と…そんなわけで、これからよろしくお願いします!
………え?…チェンジ?
そ、そんなこといわないでくださ〜〜〜いっ!私、一生懸命がんばりますからっ!
………本当ですか!?ありがとうございます!
ガチャッ
…あの、他の方は連れて行かれないんですか?
………はあ。回復役が一人いればいい、ですか。お強いんですね♪
はい?私ですか?大丈夫ですよ、ちゃんと呪文も使えますから!
…はい♪しっかり役に立ってみせます!
・ ・ ・
ズシャーーーー
ふえっ!?モンスターですか!?
よ、よお〜〜〜し…たあああぁぁぁぁぁっ!!
ボカボカボカ
あうううう〜…いたいです…
パタン
・ ・ ・
………あう?…ここは?
…宿屋、ですか?………あ。
パカンッ
はうっ!ご、ごめんなさい…。
…え?何で怒られるかわかるか、ですか?………。
はい。私が、役立たずだからですよね。すみません…。
パカンッ
はううっ!えっ、違う?………えっと。
…回復役が、敵に突撃するな?…あ…そ、そうですよね。私が戦って、勝てるわけないですもんね。
それに、勇者さんは私に回復役を期待して誘って下さったわけですし…はい。反省します。
………え?………え…と。心配、して下さったんですか?
パカンッ
はうっ…すみません、調子に乗りました…。
ところで、ここ、アリアハンの宿屋ですよね?
勇者さんのお家はすぐお近くだと聞いていましたけれど…なぜこちらに?
………お母さんが…家に帰ると付き纏って鬱陶しい?………
!!だ、駄目ですっ、そんなのっ!!
えっ、と、勇者さんのお母さんも…その、勇者さんのこと心配してくれてるんです!
それに、勇者さんは、これから冒険に出て、たまにしか帰って来られなくなるんですから、
会える内に、お互い、いっぱいいっぱい優しくしないと、嘘です!
だから…だから、そんなの駄目なんですっ!!!………………あ
スッ
っ!
ビクッ
………ふぇ?
ナデナデ
…はぅ………勇者さん?
…びっくりした、ですか?………ごめんなさい。私、孤児でしたから…そういう話、見過ごせなくて…
ん………はうぅ。…ふぇ?気持ちいいのか、ですか?
はい〜、何だか、お父さんみたいで、あったかいです。っていっても、お父さん知りませんけどね。
…はい?明日は、家に帰られるんですか?はい、それがいいですよ♪
………あのですね、勇者さん………その、出来れば、時々、さっきみたいにナデナデしてくれると、私、もっと頑張りますよ♪
パカンッ
あぅっ!…すみませんでした…。
…え?…それに、万が一人に見られたら、変な誤解を受ける、です…か?………どういう意味ですか?
あ、ちょっと、寝ないで下さいよ〜、気になって私が眠れないじゃないですか〜!
〜 続かない 〜
136 :
YANA:2006/09/20(水) 00:25:16 ID:+Ke5VM/U0
ああ、それにしてもガチエロSSを書きたい…!(挨拶
本編中断して何を書いてんだ俺は(´・ω・`)
先日のアレから変な欲求が溜まって仕方がありません。誰だ、あんなもの書こうなんて云ったのは。
閑話休題。アリスワード完結前に一度は書いておきたかった、「ツンデレ×デレデレ」のカップリング。
構想・執筆合わせて一時間弱の単発ネタです。あとは勇×賢で一本やりたい。
尚、俺の3勇者はツンデレ一択です。他の女性キャラに変動はあってもこれだけは動きません(ぇー
因みにここだけの話、俺の構想にある続編2(いつになるかわかりませんがー)の骨子は既に半分以上決定しており、
そのコンセプトはアリスワードの「相互ツンデレ」に対し、上記のような「ツンデレ(主人公)×デレデレ(相手)」であるとかないとか。
>>136 書けばいいじゃない、エロパロ行けば何の問題も無いと思う
谺。縺ッ驕翫?ウ莠コ?シ育塙?シ峨′繧薙?ー繧九r譏ッ髱?
>>136 さあ、早くアリスワードと続編を書く作業に戻るんだ!
一瞬某所の新ジャンル「ふぇぇ」に目覚めたのかと思った
あ、YANAさんキテター
一瞬、なにがはじまったのかと思いましたw
レスつけてくれた皆様、ありがとうございました
――は知ってはいたんですが、あんまり気にしてませんでした(^_^;
すみません。次からそっちにしますね
規制回避は、他の方のお手を煩わせるのもなんですから、
こちらで注意しようと思います
折角YANAさんが投下してくださったので、ちょっと間隔をあけてから、
また投下させていただこうと思いますです
なにやら思ったより長くなりそうで申し訳ないんですが、
よろしければお付き合いいただけると幸いです
忙しくなる前に、なんとか一段落するところまで進めたい。。。
ヘ:::::::::;;: -‐''''""( )1
゙、::::::::-‐''""" ̄"'i
:V;;||:::: '~ニ=ッ, r='|
i!f !::::: ゙、i
i!ゝ!:::: ‐/リ
i::/:、 :::、 /''ii'V
 ̄ハ:::::\ "''il|バ''
諸葛亮 曰く
「はわわ、ご主人様、YANAさんまで来ちゃいました!」
>>144 アレイの笑い顔に惚れなおした
エデンカッコヨスwwwwwww
べ、べつに携帯で見れなくっても悔しくないんだからっ!!
流れるの早いよ…再うpきぼん!
148 :
144:2006/09/21(木) 23:27:40 ID:2LCMx/yf0
流れてる…どっかもう少し残るとこないですか?
149 :
144:2006/09/22(金) 00:14:27 ID:DzYbgBnW0
OK、保存した。
ニヤニヤが止まらねえっ!
( Д ) ゚ ゚
>>149 グ、グゥレイト…官能小説スレに持て余した性欲を叩きつけてる間にイカしたことになってるぜ!
エデンとアレイがイメージ以上にイメージ通りで額に変な汗かきましたぜ、旦那。
そして、ライナー…そうか、眼鏡の可能性は考えなかった。
俺の中のライナーは裸眼ですが、面白いのでそのアイデア、少し拝借しますね( ・∀・)〜♪
具現化、どうも、ありがとうございましたw
え〜、それでは失礼して、投下させていただきます。
今回は前回より長いです。恐縮です。
宜しければ、お時間のある時にでも読んでやってください。
俺は反射的に、微かな悲鳴が聞こえた方に顔を向けた。
すぐ近くって訳じゃなさそうだが、辛うじて声が届く程度の距離だ。
まぁ、放っておく訳にもいかないだろう。魔物が人を襲っているのだとしたら、今日の成果の上積みが期待できるし、上手くすれば謝礼も手に入るかも知れない。
今度は、マグナも気付いたようだ。
俺と目を合わせて、小さく頷く。
「こっちよ!」
確信に満ちて断言し、俺が見た方とは真逆に向かって走り出そうとする。
「いやいやいやいや、ちょっと待て」
「なによ、あんた、今の悲鳴が聞こえなかったの?」
聞こえたから言ってるんだが。
「逆だ、逆。大体、そっちはお前が今、通ってきた方だろうが」
「嘘よ。絶対、こっちから聞こえた!」
ラチあかねー。
「分かった。俺が間違ってたら、なんでもひとつ言うこと聞いてやるから、とにかく今はついこい」
こんな約束はしたくないんだが、なにしろ緊急事態だ。時間が惜しい。
俺が出血大サービスな提案をしてやったのに、マグナは不満げに唇を尖らせた。
「ついてこいって、なんか偉そう」
余計なトコに引っかかってんじゃねぇよ。
「いいから、急ぐぞ!こっちだ」
「……まぁ、そんなに自信があるんなら」
後ろでぶつくさ言うマグナ。
こいつ、絶対カンで断言してやがったな。
「でも、なんでも言うこと聞くって約束、忘れないでよね」
「分かった分かった。足音あんまり立てんなよ」
俺はマグナを従えて、再び森に分け入った。
地面に落ちた枝葉をなるべく踏まないように気をつけながら、悲鳴の発信源に向けて先を急ぐ。
道すらが、少々意外だったこともあり、小声で「人助けはするんだな」みたいな言葉をマグナに投げると、「当たり前じゃない」と呆れたように返された。
「魔王を退治するのと、困ってる人を助けるのは、全然別の問題だわ。あんただって、人助けくらいしたことあるでしょ。でも、魔王を倒しに行こうとは思わない。それと同じよ」
そりゃそうだな。まぁ、人並み程度の正義感は、普通に持ち合わせている訳だ。
離れているといっても、声の届く距離だ。ほどなくして、話し声や物音がはっきりと聞こえてきた。
「……っ!な――」
急に止まった俺の背中に鼻をぶつけ、文句を言いかけたマグナの口を掌で塞ぐ。
「近い。こっからは、物音を立てるな」
耳元で囁くと、マグナはくすぐったいような素振りを見せた。やっぱ、まだガキだな。
すぐそこの、森が少し開けた場所が目的地だった。
俺は上手い具合に身を隠せそうな繁みを見つけると、低く腰を落としてその陰に移動した。
ところどころを藪に遮られた視界に、見知った顔を確認して、ため息をつきたくなるのをなんとか我慢する。コメカミは押さえた。
話し声が聞こえた時から、嫌な予感はしてたんだよな。
そこには、先日まで俺と組んでいたチンピラ兄弟の姿があった。
今日という日にルイーダの酒場にも行かず、城外に出ていた物好きが、俺の他にもいたって訳だ。
まぁ、こいつらは間違っても、世の為人の為に魔王を退治しようなんてタマじゃねぇからな。どっちかと言えば、魔王の部下の方がお似合いだ。
冒険者なんざ、どいつもこいつもゴロツキと大差ないが、この兄弟はその中でも最悪の部類と言っていい。
それにしても、魔物に襲われている訳でもなさそうだし、こいつら一体何やってんだ?なんかモメてるみたいだが。
と、ゴリラのように大柄な兄貴の陰に隠れて、それまで見えなかった人影を認めた瞬間、俺はちょっと息を呑んだ。
「お願いします。止めてください」
涙声で必死に懇願しているのは、格好からしてどうやら僧侶と思しい少女だった。
はっきり言って――滅茶苦茶可愛い。ちょっと見たことがないくらいの美少女だ。なんだありゃ、あんな娘、ルイーダの酒場で見たことねぇぞ。
おそらく、歳はマグナと同じか少し下くらい。腰の上まで伸びた淡い金髪が、きらきらと輝いて見える。
しかし、まぁ、なんつー綺麗な顔をしてやがるんだ。泣き顔まで可愛い女なんて、そうそういるもんじゃないぞ。
俺が軽い思考停止状態に陥っている間にも、当然話は進んでいた。
「さっきから、なに分かんねぇことほざいてやがる、あァンッ?世の為人の為、魔物を退治するのが、俺たち冒険者の仕事ってモンだろうが」
甲高い声は、ネズミみたいな弟の方だ。相変わらず小せぇな。こいつらが実の兄弟だってのが、未だに信じられねぇよ。
「それとも何か?お前は、冒険者の分際で魔物の味方をしやがんのかッ!」
語気荒く怒鳴られて、少女はびくっと全身を竦ませた。
良く見ると、怯えで細かく全身が震えている。いかにも精一杯の勇気を振り絞ってチンピラ兄弟に歯向かってます、みたいな感じが超健気。
「そんなこと……でも、その子は……」
少女が見上げる視線の先、ゴリラ兄貴が掲げた右手には、ぐったりとしたスライムが握られていた。既にかなり痛めつけられている。
「その子は……人に慣れてるみたいでした。逃がしても誰かを襲ったりしないと思います。お願いですから、逃がしてあげてください」
スライムは、知られている限りもっとも弱い魔物だ。人に慣れるし愛嬌もあるので、最近では愛玩用に人間に飼われることすらある。
お前ら、今さらスライムなんて狩ってんじゃねぇよ。恥ずかしいヤツらだな。
>>152 さあ、早くエロパロ帰りのテクを披露するんだ!!
スライムを救出しようと、両手を上に差し伸べて、少女はぴょこんぴょこんとゴリラの周りを飛び跳ねる。
ヤバい、可愛すぎ。鼻血出そう。
しかし、さすがはゴリラ。人間の少女の可憐さは、ぜんぜん通じないらしかった。
「うざってぇ」
「あぅっ!」
バチン、と乾いた音が響き、弾き飛ばされるようにして少女は地面に転がった。ゴリラが腕力に任せて、空いた方の手で彼女を引っ叩いたのだ。
信じられん。あんな美少女に、なんでそんなヒドい仕打ちができるんだ?前からそうじゃないかと疑ってたが、やっぱりホモか?ホモ兄弟か?そうなんだな?よし、決定だ。
「う……止めて……ください。可哀想です……」
地に伏しながらも、懸命に顔を上げて哀願する少女。はられたところが、後で腫れないといいんだが。
「ちッ、気持ち悪ぃんだよ、手前ぇは」
そう吐き捨て、男色ゴリラは手近な木の幹にスライムを投げつけた。
どちゃっと鈍い音を立ててスライムは幹に貼りつき、ずるずると落ちていく。
「いやーっ!!」
「うるせぇッ!テメェは、大人しくホイミ唱えてりゃいいんだ、ボケが!」
あろうことか、男色ゴリラは、まだ地面に倒れたままの少女の腹を蹴り飛ばした。小柄でいかにも軽そうな少女は、二転三転して苦しそうに激しく咳き込む。
おい、手前ぇ。別に男色が悪いとは言わないが、いくら女に興味が無いからって、そりゃやり過ぎじゃねぇのか。
思わず俺が身を起こすより早く、繁みを掻き分けて飛び出す女がひとり。
やべぇ、こいつのことをすっかり忘れてた。
「ちょっと、あんた達!なんてことしてんのよ!」
繁みに引っかかった裾を引っ張りながら、マグナは大声で怒鳴った。あんまり格好はよくない。
「そこのゴリラとネズミ!あんた達のことよ!」
うん、やっぱりそう見えるよな。
きょとんとしているゴリラとネズミを、ようやく繁みから抜け出したマグナはびしぃっと指差した。
「冒険者の……いいえ、男の風上にもおけないってのは、あんた達のことだわ!お仕置きが必要ね!ちょっと懲らしめてやんなさい、ヴァイス!!」
威勢のいい口上を発して、マグナは後ろを振り返る。
悪いな。俺、もうそこには居ないんだ。つか、俺にやらせるつもりだったのかよ。
「え?あれ?ちょっとヴァイス?」
「ヴァイスだぁ?」
それまで呆気にとられていたゴリラは、俺の名前に反応して唸り声をあげた。手前に気安く、俺の名前を口にして欲しくねぇよ。
「そいつァまさか、あのクソったれのことじゃねぇだろうな?えぇッ、お嬢ちゃんよ?」
「あのって、どのよ」
「あのッつったら、いけ好かねぇにやけ顔のヴァイスに決まってんだろが。バカか、おめぇ」
馬鹿はお前だ。
「バカはあんたよ」
俺の述懐と、マグナの切り返しは、見事にハモった。
「そんな説明で、あんたが誰を思い浮かべてるかなんて、あたしに分かる訳ないでしょ。ちょっとは頭使いなさいよね」
「あぁッ!?口の減らねぇアマだな。なんなんだ、手前ぇは?いきなり出てきて、ナメた口ききやがって。喧嘩売ってんのか、コラ?」
「あら、今さら気付いたの?ホントに頭悪いのね」
売り言葉に買い言葉かよ。やっぱりこいつ、気が強いわ。
しかし、剣に自信があるって言葉が真実だとしても、流石にその体格差はキツくないか?
マグナの格好を見て、何者か分からない男色兄弟も、どうかと思うが――いや、無理か。学も常識も無いチンピラに、そんなの期待する方がおかしいな。
「止めとけよ。その人、勇者様だぜ」
もう目的の地点まで辿り着いていたので、俺は諭すように男色兄弟に声をかけた。
思いがけない方向からした声に、その場にいる全員が俺の方を振り向いた。
兄弟の注目がマグナに集まっている間に繁みを迂回した俺は、木の根元からスライムを拾い上げて状態を確認する。
よし、さすがは腐っても魔物だ。まだ生きてるな。
「兄貴、野郎だ!」
うるせぇ、ネズミ。お前のその甲高い声は、カンに障るんだよ。
「手前ぇ、ヴァイス。よくもおめおめと、その面ァ俺達の前に出しゃあがったな」
できれば俺も、一生出したくなかったんだが。
「この小娘が勇者だぁ?笑わせるぜ。手前ぇ、俺をバカにしてんのか」
「ちょっと!どういう意味よ!」
マグナの突っ込みを聞き流し、兄弟揃って憎々しげに俺を睨みつける。
さらにそれを無視して、俺はまだ苦しそうにムセている僧侶の美少女に歩み寄った。
「大丈夫かい?」
壊れ物を扱うように、そっと抱き起こす。軽っ。
「ほら、これ。まだ生きてるよ」
少女にスライムを手渡してやる。
すると、顔は苦悶に歪んだままだが、濡れた瞳にほんのり嬉しそうな色を浮かべて、少女は俺を見上げてきた。うわ、ちょっとヤバいです、コレ。なんかキました。
「ありがとう……ございます」
左手でスライムを愛しげに抱え、右手で俺の袖の辺りを握ってくる。小動物が甘噛みをするような、その絶妙な力加減に、俺は全身がゾクッとするのを覚えた。
野郎、こんないいコに、ひでぇ真似しやがって。男色兄弟、許すまじ。
俺は今、生まれて初めて、保護欲というものをひしひしと実感していた。
「手前ぇコラ、ヴァイス!聞いてんのか、この野郎!この火傷の恨み、忘れたたァ言わせねぇぞ」
ゴリラは、頬の辺りにできたひきつれを、これ見よがしに突き出してみせた。
フン。あの時は、僧侶が俺と結託してたからな。示し合わせて放置したんだよ。治癒が遅れて痕が残ったみたいだが、デカい図体して小せぇことを、いつまでもゴタゴタ言ってんじゃねぇよ。
「今までコソコソしてやがったのに、わざわざ俺達の前に面ァ出すたぁ、いよいよ覚悟しやがったんだな?そうじゃねぇなんて言いやがっても、こうなりゃ逃がしゃしねぇぞ。ここできっちり、落とし前をつけてもらおうじゃねぇか」
「そうしようぜ、兄貴」
とネズミ。ホントに太鼓持ちがよく似合う奴だよ、お前は。
「そっちのアマッ子も、勇者だかなんだか知らねぇが、邪魔するってぇなら容赦しねぇぞ。なぁに、俺様も鬼じゃねぇんだ。片腕落とすくらいで勘弁してやらぁ」
「そいつはありがたいな――なんて言うとでも思ってんのか?」
「いやいや、遠慮すんなよ」
にやにやしながら、ズラリとだんびらを抜くゴリラ兄貴。
くいっと袖を引かれて、俺は視線を落とした。心配そうに眉を寄せる少女に、精一杯優しく微笑みかける。
「大丈夫だよ。心配しないで」
今の自分の姿を傍から眺める、なんてことが可能だとしても、多分、恥ずかしさのあまり直視できないに違いない。
なに爽やかな笑顔とか作ってちゃってんの、俺。口調まで変わってるじゃねぇか。似合わねーっての。大体、大丈夫とか、勝算なんてまるで考えてない癖に、なに言ってんだ。
頭の隅っこの方で盛大に湧き起こる突っ込みを意識しつつも、とにかく俺は、彼女を安心させてやりたかったのだ。
「そいつと自分にホイミをかけて、後ろに退がっててくれるかな」
心配そうに幾度も振り向きながら少女が離れていくのを見届けると、俺はゴリラを目で牽制しつつ立ち上がった。
こちらも既に抜刀しているマグナが、構えた剣を兄弟に向けて摺り足でにじり寄ってくる。
「もう、なに勝手なことしてんのよ!さっきはいきなり居なくなってて、ホント焦ったんだからね!」
「済まん。悪かったよ」
「まぁ、もういいけど……こいつら、あんたの知り合いなの?」
「ああ、ちょっとな……」
うん?剣を持つ手が、微かに震えているように見える。こいつ、もしかして実戦は初めてなのか?
勝算がさらに低くなったかも知れないが、やり合わずに切り抜けられるような雰囲気では、既になくなっている。俺としても、片腕を失うのは御免だしな。
マグナは、どっちかと言えば俺のとばっちりを受ける格好だし、なるべく迷惑はかけたくない。
となれば、先手必勝。向こうも多少は俺の呪文を警戒しているのか、牽制し合ってる今がチャンスだ。
奴らの頭にある俺の呪文といえば、ゴリラに火傷を負わせたメラだろう。連発できるような代物じゃないから、奴らは俺が自分達を同時に攻撃できるとは思ってない筈だ。
だったら、手前ぇらの前じゃ唱えなかった呪文をくれてやる。
『ギラ』
呪文が発動して、炎壁が立ち昇る。
「ぐぁっちっ、てめぇ!クソッ、また火かよ!」
呪文は違うけどな。しばらく動けなくなる程度の火傷を負ってもらおうか。なに、一発じゃ死にやしねぇよ。
だが、炎に巻かれたのは、兄貴の方だけだった。
「ヒァッ!」
クソッ、さすがは盗賊。はしっこく外してやがる。
素早く炎壁を回り込んだネズミのナイフは、俺を切り裂く直前で金属音と共に弾かれた。
「剣にはちょっと自信があるって言ったでしょ!」
剣を振り切った体勢で、マグナは得意げな目をして俺を見た。
「ちッ」
攻撃をしくじったネズミは、一旦飛び離れる。
「あんたね、なんかするなら、合図くらい送りなさいよね」
「ああ、悪ぃ。次から気をつけるよ」
いや、ホント悪かった。正直、見くびってたよ。負けん気が強いだけあって、いざとなった時のクソ度胸と思い切りの良さは一級品みたいだな。
「次!デカいのが来るわよっ!」
「てめえぇッ!よくもぉッ!!」
またしても俺に焼かれることになったゴリラが、焦げた臭いを撒き散らしながら殺到する。
手前ぇは体力あり過ぎるんだよ。ケダモノらしく、火を畏れて引っ込んでりゃいいのに。
「死にやがれッ!!」
片腕で済ましてくれるんじゃなかったのかよ。
力任せに振り下ろされたゴリラの大剣が、ざっくりと地面に突き刺さる。頭に血が昇りまくっていたせいか、やたらと大振りだったので、どうにか俺達は左右に身を躱した。
「ふッ!」
すれ違い様に、マグナが鎧胸の辺りを剣の腹で叩く。わざわざ俺が言い含めるまでもなく、元から殺す気は無いようだ。
マグナの一撃で生まれた隙を、俺は見逃さなかった。
『ヒャド』
「ぐあッ!」
足元を凍りつかされて、前のめりに倒れるゴリラ。
「てめぇ、くそッ!この野郎!」
「暴れんなって。今、上半身の火傷も冷やしてやるからよ」
俺が、もう一度ヒャドを唱えようとした、その時――
「動くんじゃねェッ!」
ネズミ野郎の甲高い声が木霊した。
規制をニフラム
髪を乱暴に引っ掴み、ネズミ野郎は美少女僧侶のか細い首筋にナイフを当てていた。
「……最低」
マグナが呟くのが聞こえる。俺も全く同感だ。
それにしても、失敗だった。退がれじゃなくて、逃げろって伝えるべきだったな。
「なんのつもりだ?そのコは、お前らの仲間だろうが」
「うるせェッ!手前ぇらみたいな偽善者には、コイツが一番よく効くのは分かってんだぜ?」
自分でも思いがけないことに、言い返せなかった。普段の俺ならいざ知らず、今回ばかりは否定できない。
見ろよ、可哀想に。あんなに怯えちまって。
「でかしたぞ、弟よ!分かってんだろうな、ヴァイス。もう片腕じゃ済まねェぞ」
ゴリラは俄然勢い付いて、足元の氷を砕こうと暴れまくる。あの様子だと、すぐに自由になっちまいそうだ。
どうする。ネズミだけを、呪文で狙い撃てるか?
無理だ。それに、呪文が届く前に首を掻っ切るくらいのことは、すばしっこいネズミならやるだろう。
かといって、マグナの剣じゃもっと無理だ。駆け寄る前に、あの娘が殺されちまう。
駄目だ。どうにもならねぇ――
俺は、自分が自己犠牲の精神に溢れた男だなんて思ったことは、一度もない。どちらかと言えば、他人を犠牲にしてでも助かりたい方だ。それが、ついさっき見知ったばかりの他人なら、なおさらだ。
だから、自分の考えていることが信じられなかった。
我ながら、どうかしている。
しかし、気が付いた時には、俺の腹は決まっていた。
あの娘を見捨てるのは、俺には無理だ――
「分かったよ。好きにしろ」
「ちょっと、ヴァイス!?」
慌てた声を出すマグナに、俺は肩をすくめてみせる。
悪いな。お前の旅に付き合うのは、どうやら無理そうだ。でもまぁ、口封じの手間が省けたと思って諦めてくれ。
「ただし、約束しろ。そのコには、傷ひとつ付けるなよ。万が一にも傷つけて、跡が残ったりしたら承知しねぇぞ。女の子の傷跡は、手前ぇらボンクラ共のとは、訳が違うんだからな」
こんな気持ちは生まれて初めてで照れ臭いのだが、あの娘が傷つくことだけは我慢できない。自分がやられた方が万倍マシだ。
この時の俺は、心の底からそう思っていた。
ところが、俺の一世一代と言っていいくらい真剣な台詞は、何故か爆笑で迎えられた。
「やっぱりな。そんなこったろうと思ったぜ」
うるせぇ、笑ってんじゃねぇぞ、このゴリラ野郎。何がやっぱりだ。
「さんざ格好つけやがって、ざまァねぇな」
とネズミ。こいつら、何をゲラゲラ笑ってやがるんだ。そこまで俺の台詞は臭かったのか?
今さらのように、顔が熱くなるのを自覚する。
「ククク……気持ちよく騎士を気取ってるトコ悪いけどよ」
弄うような嫌らしい笑みを浮かべ、ネズミはさもおかしそうに続けた。
「こいつ、オトコだぜ」
俺は、何を言われているのか、さっぱり分からなかった。
もったいぶっといて、何を言ってやがるんだ、このネズミは。
「だったら、なんだってんだよ?」
大体、オトコって何だ?ネズミ語か?
なにをキョトンとしてやがんだ、この野郎。人間様に分かる言葉を話しやがれ。
「ハァ?だってお前、こいつのこと女だと思ってたんじゃねぇのかよ?」
何を、分かりきったことを。これ以上ないくらいの美少女じゃねぇか。
「それがどうした」
「いや、こいつはオトコだって言ってんだよ」
「だから、さっきからオトコってなん……」
……は?
え〜と、ちょっと待て。あれ?オトコって、人間の言葉だっけ?
そういえば、聞き覚えがあるような。でも、オトコって、何だ???
オとコ。おトこ。オトこ。おトコ。
オ ト コ
ネズミの発した言葉は、俺の頭の中で単なる音に分解されて意味を失った。真っ白になった意識の中で、必死にそれをかき集めると、徐々に再構築されていく。
ああ、なんだ。オトコって男か。俺とかネズミとかゴリラとかの性別。いや、あいつらは雄だっけ……って
「はあぁっ!?」
大声と共に脳みそがどっかに素っ飛んだように、俺の思考は停止した。
「おせっ」
と、ネズミに突っ込まれた屈辱にも、この時は気付いていなかった。
「ゲハハ。笑わせてくれるぜ。さてと、そんじゃお言葉に甘えて、手前ぇを好きにさせてもらうおうか。今さら止めたなんてのはナシだぜ、騎士様よ?」
バキン、と氷が割れ砕ける音がした。
嗜虐的な笑みを浮かべながら、のっそりと立ち上がるゴリラの姿を、俺はまるきり遠い世界の出来事のように見つめていた。
ゴリラを止めようとしたマグナが、横殴りの剣に弾き飛ばされるのが、ひどくゆっくりと見えた。
なんとか剣で受けてはいたが、踏ん張りきれずに地面に倒れ込む。
ザンッ、と枝が鳴る音を遠くに聞いた。
「まずは右腕だぁ!」
などと吼えながら、ゴリラが俺目掛けて剣を振り下ろす。
馬鹿か。その太刀筋は左腕だろ。
ほとんど他人事のようにそんなことを考えていた俺は、背後で着地音がした瞬間、斜めにぐいと腕を引かれて尻餅をついた。
「なんだぁっ?」
手応えなく、またしても大地を耕したゴリラが怪訝な声をあげる。
「避けないと、危ないよ?」
へたり込んでいる俺に、にこっと笑いながら手を差し伸べたのは、ひっつめ髪の少女だった。
……誰だ。
「キミは、あっち」
ぼんやりと手を握り返して立ち上がった俺は、勢い良く振り回されるようにしてマグナに向かって放られた。
「――きゃっ!ちょっと、どきなさいよ!」
つんのめってマグナに覆いかぶさった俺は、下でマグナが暴れるのも気付かずに、のろくさと後ろを振り返る。
少女――おそらく武闘家――は、すたすたと無造作にネズミの方に歩み寄っていた。
「なんなんだ、手前ぇは?どっから降ってきやがった!?」
「あそこ」
武闘家の少女は、張り出した枝のひとつを指差す。
「うるせぇッ!こっち来んじゃねぇよ!」
ネズミは突然の出来事に慌てたのか、僧侶の首に当てていたナイフを前に突き出して押し留めようとする。
次の瞬間、ナイフはネズミの手の内から消失していた。
「こんなの、人に向けちゃダメだよ」
指に挟んだナイフを、武闘家の少女はひらひらと振ってみせる。
なにが起こったのか分からないように、空になった自分の手と、いつの間にか少女の元に移動したナイフを、ネズミは呆然と見比べた。
「えい」
ネズミの手をチョップして、掴んでいた僧侶の髪を離させる。
「キミも、あっち」
とんっと背中を突いて、武闘家の少女は僧侶をこちらに押しやった。
「はい、返すよ」
なんだかエラく簡単に俺と僧侶を助け出した武闘家の少女は、ナイフの柄をネズミに向けて差し出した。
唖然としていたネズミは、引っ手繰るようにしてナイフを奪い返す。
「てめぇ……」
腰を落として低く構える。
眼前の少女に只ならぬものを感じているのか、目が完全に据わっていた。
それをまるで気にした風もなく、武闘家の少女はマグナに向かって手を振った。
「やあっ!キミが勇者ちゃんでしょ?ルイーダの酒場でいっくら待ってても来ないからさ〜。表に出て聞いてみたら、もう出発しちゃったって言われて。慌てて追いかけてきたんだよ!」
場の空気にそぐわぬ、底抜けに明るい声だった。
「いや〜、すぐ追いついてよかったよ〜。走ってたら、こっちから話し声が聞こえたからさ、もしかして、と思って。あ、ボク、リィナ!よろしくね!」
「てめぇ、ナメてんのかッ!」
激昂したネズミのナイフは、しかし空を切った。
リィナと名乗った少女が、そちらを意識していたとも見えないままに躱したのだ。
「てッ……てめぇッ!!」
ネズミは続けてナイフを振り回すが、リィナはひょいひょい避け続ける。それどころか、マグナの方を向いてネズミを指差し、明日の天気の話をするくらい気軽な調子で尋ねた。
「ねぇ。この人、大人しくしてもらっちゃっていいのかな?」
「もちろん!やっちゃいなさい!」
即答するマグナもマグナだが、聞いた途端にナイフを躱しざま、鳩尾に肘を入れてあっさりネズミを悶絶させるリィナも何者だ。
「なッ……なんなんだ、手前ぇはッ!なにしてやがんだ、この野郎ッ!」
弟が倒されたのを見て、激怒したゴリラ兄貴が剣を担いで突進する。
ついと前に出たリィナは、ゴリラの打ち込みを半身になって躱して懐に入り、胴丸にぴたりと手を添えた。
「ふん」
ドン、と地面を踏みしめる音がして、ゴリラは唐突に動きを止めた。見事に白目を剥いている。
リィナが手を離すと、ゴリラは支えを失ったように、ゆっくりと地面に崩れ落ちた。
「こっちの人も、倒しちゃってよかったんだよね?」
俺達の呆気にとられた表情を勘違いしたのか、リィナは胸の前でぱたぱたと両手を左右に振った。
「あ、大丈夫、死んでないよ?軽く透しただけから、ほっとけばその内、気がつくよ」
「あ、そう……」
毒気を抜かれたような顔をして、マグナはやっとのことでそう答えていた。
「それじゃ、そろそろ行きましょうか」
スライムが森に消えるのを見送って、マグナの号令一下、俺達は来た道を戻る。これから、ルイーダの酒場に向かうのだ。
――「ほら、これで四人揃ったじゃない」
とはマグナの言。
あの後、改めて自己紹介だのなんだのあってから、その場にいた四人がそのまま、栄えある勇者様ご一行に選出されたのだ。なんというか、なし崩し的に。
それならば、ルイーダの酒場にパーティ登録しておいた方が、余計な詮索を生まずに勇者を演じるのに都合がいいんじゃないかという俺の耳打ちに、マグナは少し躊躇いつつ頷いた。
一行の内訳は、マグナ、俺、リィナ、そして……あの美少女にしか見えない少年だった。
「え?キミ、男の子なの?」
少年の性別を聞かされると、リィナもびっくりして目を丸くしたものだ。
「へぇ〜、ちょっといい?」
そう言って、全身をぽんぽんとはたいたかと思うと、ぎゅっと抱きしめる。
「ホントだ。いや〜、すごいね。キミ、めちゃくちゃ可愛いね」
感心したように言われて、少年は恥ずかしいながらもちょっと嬉しそうに目を伏せた。
シェラールという本名ではなく、できればシェラと呼んでください。そう前置きしてから、少年は思いつめた顔をして、マグナに同行させて欲しいと頼み込んだ。
「生まれ変わりの秘法を伝える神殿が、他の大陸のどこかにあるらしいんです」
勇者であるマグナについて世界中を旅すれば、今は場所すら分からないその神殿にも、いつか辿り着けるかも知れない。そう考えているようだった。
容姿も内面も女のように生まれついたシェラは、子供の頃からずっとそのことで悩んでいたという。詳しくは語らなかったが、口振りから察するに色々とひどい仕打ちも受けたようだ。
すっと女になりたいと強く願っていたが、それは不可能だということも分かっていた。しかし、幾度か男の「振り」をしてみても、自分を無理矢理抑えつけるその生活は息苦しくて仕方が無い。
諦めきれずに、またすぐに女の姿に戻るという不安定な毎日を過ごしていたシェラは、今から一月ほど前に、とある占い師から不思議な神殿の話を伝え聞く。
「その人も、あまり詳しくは知らなくて、生まれ変わりといってもどういうものなのかは、良く分からないんですけど……」
もうじき訪れるであろう変声期を極度に懼れていたシェラは、人生をやり直すことができるという、その伝聞に一縷の望みをかけたのだ。
急いで必要な手続きを済ませると、自分を冒険者として登録した。魔物の跋扈する世界を、渡ることのできる力を得る為に。
ちなみに、ゴリラとネズミと組んだのは今日からで、冒険に出たのもこれが初めてだったらしい。いきなり、とんでもないのに当たっちまった訳だ。あいつら、僧侶を薬草代わりくらいにしか考えてないからな。
「そんな話、聞いたことないなぁ」
シェラの話を聞いて、リィナはぽつりとそう言ったが、マグナにとっては魔王退治以外の目的を持っている冒険者は大変に好都合だったので、同行はあっさりと認められた。
「全然お役に立てないかも知れませんが、一生懸命頑張ります。どうぞ、宜しくお願いします」
冒険者に成りたての自分が、まさか勇者のパーティに加われるなどとは夢にも思っていなかったシェラは、興奮に頬を紅潮させて頭を下げた。
よかったな。
シェラの肩をポンと叩いてそう言った俺だが、正直なところ、内心はかなり微妙な気分だった。
いや、そうじゃない。なんにも微妙じゃない。
確かに、嬉しそうに微笑み返してくるシェラは、とびきり可愛い。それは認める。だけど、これはだな、小動物の子供に対して覚えるのと同じ類いの感情なのだ。
うん、間違いない。
ほら、子猫とかって、殺人的に可愛いだろ?見てると、なんか胸の奥がムズムズしてくるような、あれと同じ感覚だ。
俺は、雨に打たれた子猫を拾ってミルクを飲ませてやるような男であり、拾う時は子猫の性別なんて気にしない。だから、別にシェラがどうだろうが、そういうのは全然関係ないのだ。
ただただ純粋に、俺が保護してやらないと、こいつは生きていけないんじゃないかっていう、そう、いわゆる博愛の精神?みたいなものを発揮しただけに過ぎない訳ですよ。
いや、ホント。女としてどうこうって感情は、微塵も無かったと断言できるね。だって、俺、年上好みだし。ガキには興味ねぇのよ、これマジで。
だからつまり、ジツは男色は俺の方でした〜、なんてオチではないのだ。
そこのところを、どうか、くれぐれもご了承いただきたい。
毎度長くてすみません><
いちおうプロローグは、これで終わりです。長すぎだろ!
それにしても、当初は男2人女2人にして、主人公が男の間をよろめく少女マンガ的展開を考えてた筈なのに、なんでこんなんなっちゃったかな。
いや、男2女2だけど。
ではでは、失礼致しました。
GJ。女装少年とはね。
>>152 おお、やっぱり452ってのはあなただったか、ここじゃスレ違いだけどGJ
>>172 GJ、プロローグだけでこれだけの量とは、続きが楽しみだ
あと、CCがチューリップクリスタルの略に思えて仕方がない
YANA氏おかえりー
なんか文章見ただけでわかるようになったとは個人的にオドロキですよ。
で、向こうの人が
むくっと勃ちあがり つれていってほしそうな めでみている
けど 誘導してよかかね?
176 :
YANA:2006/09/22(金) 17:23:54 ID:0LZfg+uf0
>>175 俺が許可するようなことじゃないんだろうけど、いいと思いますよ。
まぁ「ツンデレ勇者」でググれば一発なんだけれどもw
ちょい時間が無いので短めでスマソ。
>>173,174
あ、アリの方がいてよかったですw
書き続けても大丈夫っぽいですかね。
ググってみたら、チューリップクリスタルってナデシコですか?
全く憶えてなかったw
つ CCさくら
|彡サッ
179 :
144:2006/09/23(土) 00:59:17 ID:AVQ/JVt70
ゲェッ!?YANA氏!!!
とゆーことで作家さんから感想あって自分も脂汗かきました…
男ならボッ○してたぜ!!まぁ○ッキしてないけどなっ!!(舞い上がり気味)
すいません、眼鏡は勢いでやりました^^;
また、近い内に描かせてもらいたいと思います!!
ってかそんなに描いてもいいんだろうか?
>>175 むしろ俺をそちらへ誘導してもらえないだろうか
>180
エロパロ は 大人の時間 になってからYO。
182 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/09/23(土) 13:15:09 ID:pgsfa1eP0
下がりすぎ・・・。
CC氏はハルヒとか好きなんですかね?
183 :
CC ◆GxR634B49A :2006/09/23(土) 20:26:35 ID:QnXZJH5C0
どうも、カードキャプターです。いやいや、違くて。
>>182 特に嫌いではありませんが、どうしてでしょう?
文体に似通ったところがあったりしちゃってますか、もしかして><
昔からこんな書き方なので、自分では、影響受けてるつもりは全然なかったんですが。。。
突っ込み男の一人称だから、なんとなく似てしまうということで、どうかひとつ(^_^;
あとでまた、投下させていただこうかと思ってます。
今回は、あんなに長く筈。。。多分
ハルヒは一人称視点としては秀逸だからね。キョンもモロ突っ込み男だしw
楽しい一致ってことで楽しませてもらいますよ。
と、プレッシャーをかけておこうw
1.U Got The Look
ルイーダの酒場に戻ろうという俺の提案に、マグナが最初は渋ってみせたのは、二つの理由からだった。
ひとつは、街の人々に盛大に見送られてしまったので、こんなにすぐ戻るのが恥ずかしかったようだ。
そりゃ、もみくちゃにされて万歳三唱で送り出された勇者様が、ほんの数刻で戻ってきたら、見送ったヤツらも甲斐がないってモンだよな。
とはいえ、西門から入ってすぐ左に折れれば、住人の目に殆ど触れることなくルイーダの酒場まで辿り着けるので、こちらはさしたる問題ではない。
マグナが、あまり乗り気になれなかった、もうひとつの理由――
扉を開けた途端、店内の人間が一斉にこちらに顔を向ける。
むせかえるような人いきれ。
凄い人数だ。ルイーダの酒場に、こんなに客が入ってるのは初めて見た。座席がまるで足りておらず、ジョッキ片手に所在無く立っているヤツの方が多い。っていうか、店中ぎゅうぎゅう詰めじゃねぇか。
そいつらが全員、ようやく登場した主役に視線を注いでいた。
わずかな時間だけ静まり返った店内は、すぐにざわめきに支配される。おいアレか、だろカッコ見ろよ、まだガキじゃねぇか、だの、ひそひそ話す声があちこちから聞こえてくる。
いまだ歳若い勇者を出迎えたのは、敬うでもなく暖かくもない、ただただ好奇の目。まるきり見世物だ。
なるほどね。これは、結構キツい。少しでも気圧されたら、そこに敵意を感じ取ってしまいかねない雰囲気だ。マグナができれば避けたがったのも、分からないではない。
だが、道中で既に腹を据えていたのか、マグナは毅然と顔を上げ、興味本位の視線を跳ね返すように、堂々として店内に足を踏み入れた。おお、なんだか存外に勇者っぽいぞ。
その時、入り口近くのテーブルに、ひとりの男が飛び乗った。蹴飛ばされた食器が立てる、ガラガラガシャンという派手な音が、その場の注目を奪い取る。
仁王立ちしてマグナを見下ろし、男は馬鹿デカい声を張り上げた。
「待ちかねたぞ!貴様が、アリアハンの勇者か!」
俺に続いて入ってきたシェラの背中で、バタンと扉の閉まる音が、一瞬の静寂を縫うように響いた。
「ええ。アリアハンの勇者オルテガの娘、マグナと申します。あなたは?」
改めてマグナが名乗ったことで、再び沸き起こりかけたざわめきを掻き消すように、テーブル男は大音声で応じる。
「我が名は、サマンオサの誉れ高き勇者サイモンが一子、ファング!以後、見知りおき願おう!」
おいおい、こいつも勇者なのかよ。一日に二人も出くわすとは、勇者ってのは案外その辺にゴロゴロ転がってるモンなのか?
「それにしても、少しは名の知れたオルテガ殿の子と聞いて、どんな人物かとまみえるのを楽しみにしていたのだが……」
傲然と胸を反らし、腕組みなどしてやたら偉そうなテーブル男――ファングは、フンと鼻を鳴らした。
「まさか、このような年端もいかぬ平凡な娘御とはな――いや、失敬。別段、そこもとの落ち度と言うつもりはない。アリアハンが世界を治めていたのも、今は昔。凋落著しい辺境の田舎勇者に、こちらが勝手な期待をかけ過ぎたようだ。どうか許されよ」
本気で謝っているつもりなら、コイツはどうしようもない天然だ。ここがどこだか、分かって言ってんのか?
「なんだと、手前ぇコラ」
「どこの田舎モンか知らねぇが、世界の中心と言われた、このアリアハンの都で何をホザきやがる」
「誰が勇者だ、このボンクラが。ここじゃ、勇者といえばオルテガさんって決まってんだ。誰も手前ぇなんざ知らねぇんだよ」
元々、血の気の多い冒険者が集まっているのだ。その象徴とも言えるオルテガ、それに連なるマグナ、さらには自分達の国をコケにされて、黙っているほど大人しい連中ではない。
殺気立ってテーブルを取り囲む無頼共の中にひとり、ファングを制止しようとあわあわしている女が見えた。多分、連れだろう。苦労してそうだな。
物騒な怒号を全身に浴びながら、それでもなお、ファングは自信満々にふんぞり返り、ニヤリと楽しそうに唇を歪めた。
「フン、凡俗共が、本当のことを言われて腹を立てるのは、どこでも変わらんな!下がってろ、アメリア――文句があるなら、さっさとかかってこい、この腰抜け共!」
ハナから喧嘩を売るつもりだったとしか思えない。
ファングの啖呵を合図に、大乱闘が開始された。
「ほら、さっさと登録しちゃいましょ」
別段腹を立てた風でもなく、マグナがしれっと促したので、俺は少々虚を突かれた。
何か言いたげな俺の視線に気付いて、呆れたように肩を竦める。
「そりゃ、ちょっとは頭に来たけど……別に、どうでもいいもの。それに、バカの相手なんかしたら、こっちの程度が知れちゃうわ」
なるほど。勇者としての自分に、大したこだわりはないって訳か。
「それじゃ、早く行こう!」
先頭に立ったリィナの手が触れると、どういう理屈か密集している人垣がひょいひょいと割れていく。
後について行こうとした俺は、くいと背中を引かれてたたらを踏んだ。
ちなみに俺は、フード付き貫頭衣の腰をサッシュで締めるという、ごく標準的な魔法使いの格好をしている。別に規則がある訳ではないのだが、いわゆる業界標準というヤツだ。
その俺の貫頭衣を、店内に満ちた暴力的な空気に怯えたシェラが、ぎゅっとまるで命綱でも握るように掴んでいた。
仕方がないので、ポンと頭をひとつ叩いてやり、シェラを背後を隠しながらマグナ達の後を追う。どうも、ちょっと懐かれちまったかな?
ようやく乱闘の中心から離れて、カウンターまで辿り着いた俺は、聞き覚えのある声で呼び止められた。
「あら、やっぱりヴァイスじゃない」
そちらを見ると、カウンターに腰を下ろた美人が、軽くグラスを掲げていた。
「悪いけど、先に行っててくれ」
カウンターに身を寄せて道を空け、シェラに一声かける。
そんな、捨てられた子犬みたいな顔するなよ。すぐ行くからさ。
「よう」
カウンターの美女に歩み寄る。先日、俺と一緒にゴリラとネズミにお灸を据えた僧侶、ナターシャだ。
「あなた、今、勇者様と一緒に入って来たように見えたけど」
「まぁな」
「まさかとは思うけど、パーティに加わったなんて言わないわよね?」
「……残念ながら」
俺が口をへの字に曲げてみせると、ナターシャはプッと吹き出した。
「あなたが?勇者様のお供ですって?それ、どういう冗談なの?」
おかしそうにクスクス笑う。まぁ、自分でもそう思うよ。好きなだけ笑ってくれ。
「あぁ、おかしい」
ようやく笑い終えて息を整えると、くぃっと半分以上残っていたグラスを一息に空ける。相変わらずのうわばみ振りだな。この、破戒僧侶め。
既に相当酒が入っているらしく、ほんのり頬が上気している。かなり手の入った僧侶服のスリットから、組まれた脚が覗いていて、たまらなく色っぽい。うん、やっぱり俺は、こういう大人の女が好みだな。
「一緒に入ってきた四人が、勇者様ご一行って訳かしら」
「どうやら、そうらしいな」
ナターシャは、またクスッと笑う。
「なんてまぁ、可愛らしいパーティだこと。あれじゃあなた、ほとんど子守りじゃない」
否定はしない。
と、誰が投げたのか、乱闘の方から酒瓶が飛んできた。パシッとそれを受け止めて、ナターシャは空になったグラスに中身を注ぐ。
「にしても、なんなんだ、ありゃ?」
酒瓶やら皿が舞う乱闘の中心、気持ち良さそうに暴れているファングに目を向けながら、俺は尋ねるともなく聞いた。やたら偉そうなだけあって、阿呆みたいに強い。わんさか押し寄せるアリアハンの荒くれ共を千切っては投げ、ひとりで対等に渡り合っている。
「だから、サマンオサの勇者様でしょ。視察団についてきたらしいわよ」
ああ、そういえばそんな話もあったな。
乱闘に参加する為か、隣りのヤツが席を立ったので、少し腰を落ち着けようと座りかけた俺は、これでもかというくらい思い切り耳を引っ張り上げられた。
「ヴァ・イ・ス〜っ!あんたちょっと、何やってんのよ!」
「いてッ、痛ぇって!」
横目で見ると、マグナが目を吊り上げている。怖いよ、今のお前の顔。
「さっさと来なさいよねっ!登録が終わらないでしょ!?」
「分かったから離せ、痛ぇっ!」
「あら、残念。お忙しいみたいだから、また今度ね」
マグナを軽く値踏みするように眺め、ナターシャはクスリと妖艶に微笑んだ。頼むから、あんまり刺激しないでやってくれ。
「……ほらっ!早く来なさいよ!」
ことさらにそれを無視して、プイとそっぽを向いたマグナに耳を抓まれたまま、俺は奥のカウンターに引き摺られる。
優雅にグラスを傾け、手を振って見送るナターシャ。畜生、愉しんでやがる。
「そのコで全員かい?」
尋ねてきたのは、酒場の店主ルイーダその人だった。
「ええ、そうです。この馬鹿で最後」
いきなり馬鹿に格下げですか。
「貴方は確か、ヴァイス君だったかしらね?」
ルイーダは、手元の帳面をめくったり、なにやら記入をしたりしつつ、ちょっと顔を上げてこちらを見た。
驚いて、ぎこちなく頷き返す俺。まさか、こんな変哲も無い魔法使いの名前まで憶えているとは。
ひとしきりペンを走らせると、ルイーダは小さくため息を吐き、頬杖をついて感慨深げにマグナを見つめた。
「それにしても、ねぇ?ついこの前生まれたばっかりだと思ってた赤ん坊が、もう十六になっちゃったか。あたしも歳を取る筈だわ」
「そんな、全然。ルイーダさんはいつまでも若くてズルいって、ウチの母さん、よくこぼしてるんですから」
正確には知らないが、俺の母親とさして変わらない年齢だと聞く。ウェーブのかかった髪を派手なバンダナで抑えたルイーダは、確かにそんな歳には見えない。さすがに少々年上過ぎるが、俺から見ても十分に美人だった。
「あれ?もしかして、二人は知り合いなの?」
リィナが口を挟む。
「うん。時々、ウチに遊びに来てくれますよね」
「昔、このコの両親と一緒に、あちこち旅して回ってたから、その縁でね」
へぇ、そうなのか。
「ルイーダさん、今でもすっごく強いのよ。ここにいる連中なんて、全然相手にならないんだから」
よしとくれ、とルイーダは苦笑したが、オルテガと組んでいたなら頷ける話だ。荒っぽい冒険者共を、女だてらに束ねるなんて芸当は、そのくらいじゃないと勤まらないんだろう。
俺は、ちらりとマグナを盗み見る。
そんな人と親しいってんだから、やっぱり勇者の家系なんだな、こいつ。
「それじゃ、これで受け付けておくけど、う〜ん、ヴァイス君が一番の経験者で、他はほとんど初心者か。あなたが自分で考えて、いいと思って選んだんでしょうから、別に構わないけど……ホントに大丈夫?」
ふっくらした下唇にペンの尻を当て、どことなく不安そうに確認するルイーダ。
「うん、平気。心配しないで」
マグナは、きっぱりと頷いてみせた。まぁ、魔王を倒しに行く訳じゃないから、そりゃ平気だよな。
って、ちょっと待て。俺が一番の経験者だと?
明らかに俺より場数を踏んでいる筈のリィナを見ると、屈託の無い顔で小首を傾げられた。
後で聞いたところによれば、これまでルイーダの酒場には登録せず、独自に修行を積んでいたという。おいおい、ホントかよ。
まぁ、未登録だったのは間違いないだろう。リィナの実力なら、もっと冒険者として名が知れてていい筈だ。ところが、全く聞いたこともないからな。
それにしても、修行ってなんだ。武門の娘か。なんだか、捉えどころのないヤツだ。
パーティ登録を無事に済ませた俺達は、ルイーダの一喝で乱闘の収拾した一階を後にして、腹ごしらえをする為に二階に昇った。一階は主に酒を嗜む場所なので、つまみ程度の料理しか出さないのだ。
ちなみに、飯代は俺持ちだ。
「何でも言うこと聞くって、約束したでしょ?」
人差し指を俺の胸に突きつけて、上目遣いにそうのたまった勇者様は、前段の「俺が間違ってたら」という部分は、すっかり記憶から消してしまったらしい。
やれやれ、大鴉の報奨金は、これで殆どパーだよ。まったく、貧乏人にタカるなよな。
「ホントにそれだけでいいの?払いはコイツなんだから、遠慮しなくていいのよ?」
小さなサラダボウルだけを頼んで食み食みしつつ、シェラはふるふると首を横に振る。
「あ、そう。ならいいけど……」
マグナはかなり複雑な表情で、厚切り肉の載った自分のプレートに視線を落とした。
お前が少し遠慮すりゃ良かったんだ。今さら、残す気になったんじゃねぇだろうな。高いんだぞ、それ。責任取って、全部食え。
「スゴいね〜。ボクだったら、半刻しないで倒れる自信あるよ」
鶏の骨付き腿肉を噛み千切りながら、何の自慢かリィナが言ったりなんだりあってから――
「さて、これからどうするつもりなんだ?」
食後のお茶で一同が落ち着いたのを見計らって、俺はリーダーにそう尋ねた。
カップをカチャリと置いて、マグナは俺達を軽く見回す。
「最初にすることは、もう決まってるわ」
へぇ。てっきり行き当たりばったりかと思いきや、ちゃんと考えてたのか。
「盗賊バコタの鍵を、手に入れるわよ」
かつて、アリアハン城下を荒らしまわった盗賊バコタ。彼の手による特殊な鍵は、簡単な錠前を全て解いたという。
嫌な予感と共に、目の前の女が発した独り言が脳裏をよぎる。
『こうなったら、お城の宝物庫に忍び込んで――』
いや、まさかな。仮にも勇者様だぜ。
心の中で、そんなバカなと一笑に付し、俺はそれ以上考えないように努めた。
>>184 うっ、なるべく楽しんでいただけるように、できるだけ頑張ります(^_^;
は〜、これで、ようやく話が進みそう。
ゲーム内と動機は異なりながらも、なんとかイベントをクリアしていこうと思います。
ゲームを遊んで分かる範囲の知識しかない分際で、ゲーム内で語られなかったことを
ガンガン脳内補完しちゃってますが、笑って見逃していただければと。
ファングは、最初YANAさんに敬意を表して名前をお借りしようかと思ったんですが、
住人の人に殺されそうだったので、サイモン&ガーファンクルから取りました。
ファンクにして、プリンスみたいな容姿で宜しくお願い申し上げたりする案はボツにしました。
すいません、分かり難いですね。
ゲーム内では、アリアハンにサイモンの息子はもちろん出てきませんが、
ライバルみたいのがいた方がいいかな〜、と思ってスポット参戦させる予定です。
いきあたりばったりなので、どうなるか分かんないですけど。
>>192 リアルタイム遭遇だった、乙。
やっぱ酒場と言えば乱闘だよねw
むしろ某土曜の夜みたいにジョン・トラボルタよろしく人差し指を天に指しつつ腰振りながら登場したらそれはそれで(ry
とにかく続きが楽しみでしゅ、はい。
と、プレッシャーをかけておこうw
さ、一緒にガイキングの最終回を見ようぜ。
>>193 それ、ファンキーでいいかもw
そうそう、やっぱ酒場は乱闘でしょ〜荒くれ共の社交場だしw
って、ガイキングのリメイクって、こんな早朝にやってたのか
最終回だけ見てもアレだけど、テレビをつけてみたりw
195 :
182:2006/09/25(月) 02:19:13 ID:JUHb8d/O0
特に他意はありませんか、失礼しました。
いや、なーんか勇者のキャラといい話のつくりといいハルヒっぽい気がしたんですよね。
もし意識してらっしゃるなら・・・と思っただけです。
続き楽しみに待たせてもらいますね。
>>195 いえいえ、ツンデレ女主人公と突っ込み男ですもんね。
言われてみれば、連想されても無理ないかも。
違いを出す為に女勇者にしよう→ツンデレしばりだから、ツンデレだ
というところに、書き易いキャラを語り手に持ってきちゃったのが考え無しでした(^^ゞ
う〜ん、今さら登場人物を入れ替えるのもアレですよねぇ。
徐々に色も変わっていくと思いますので、今後ともお付き合いいただければと思います。
石もて追われないように、なんとか頑張ります。
197 :
50:2006/09/25(月) 18:15:14 ID:UGuiH3wK0
198 :
50:2006/09/25(月) 18:44:54 ID:UGuiH3wK0
まとめサイトに入れていただいて感謝!
リンクを張ってくださったのですね。
今回の絵、ウチのHPにも置いておりますので、
格納でもリンクでも、まとめ氏の好きな方で
入れていただけたら幸いです。
>>50 のアドレスの
20060911→20060925
に変えると見れます
199 :
YANA:2006/09/25(月) 23:42:04 ID:RC4CzQ180
どうも、本業がそろそろカツカツのYANAです。
>>197 どう見てもおっぱいです。本当におっぱい。
って、ガチでGJなんですがっ!
よもや本当に俺の寝言を形にして下さるとは…ありがとうございます!w
しかし、これでアリスワードのメインキャラで具現化されてないのがとうとうゴドーだけに。
本当に主人公の一人かあやつめwww
>>197 は、鼻血が止まらん…。GJ!!!
秘部かおっぱいをズームした奴挙手↓
201 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/09/26(火) 16:00:07 ID:Y6dIcuOlO
>>197にゾーマ様を描いて欲しい…
…ツンデレの
やべえめっさぱふぱふしてもらいてえ
>>197 ガ、ガーターベルトォォォォォォ
賢者アリスをヲカヅに3杯はいけそうだ…
GJ!!
ペロンてやったらボヨン…(*´Д`)ハァハァ
206 :
144:2006/09/27(水) 04:01:05 ID:TQIbF2Cp0
ttp://up.mugitya.com/img/Lv.1_up55742.jpg.html 自分の中でアリスは黒髪でした!
ってか魔法使い(♀)の服わからない&50さんが正式な衣装の描いてくれたんで自分は衣装かなり勝手に描きましたwww
ゴトーは一応基本に忠実に、でもちょっと自分の脳内ゴトーイメージ入れつつ。
(ゴトーは合理的っぽいんで肩でなく腰に剣差させたり)
賢者版、ってか50さんのあの乳は描けないっす自分には…゚・(ノД`)・゚・。
今度は小説内のシーンとか漫画っぽくしてみたいなーとか思ってたり…。
208 :
50:2006/09/29(金) 00:38:11 ID:HCB0NYWq0
>>144 ゴドーの目つきがクールですな!
アリスさん、めくってる姿が可愛らしい。
デザインを一から起こすとはグッジョブ!
>>YANA氏
おっぱい。おっぱいですとも!えぇ!
賢者絵、妄想爆発でやりすぎたかなぁと思ったのですが、
みなさん本当にありがとうございました。
>>208 アレイやライナーのことも忘れないでください。
2.Let's Go Crazy
アリアハン城下を後にして、実際に冒険をはじめて分かったことがいくつかある。
まず、マグナは思っていたよりも使える。魔物との戦闘に関して、最初の内こそ手際が悪かったものの、すぐに要領を覚えて急所や弱点を的確に衝くようになった。
前に言ってた母親の仕込みがよかったのもあるだろうし、元々頭の回転も悪くないのだろう。時折、無鉄砲な行動をとるところが玉に瑕だが。
リィナは、言わずもがなだ。アリアハン周辺の魔物などまるで相手にならないようで、戦闘中も鼻歌交じりのお気楽さ。武闘家としてどのくらいの実力を持っているのか、魔法使いの俺では底が全く読めない。つか、今すぐバラモスを倒しに行けるんじゃないのか、こいつは。
問題は、シェラだった。
冒険者連中が言うところの、『袋の中の薬草』を地で行っている。つまり、肝心な時に役に立たない。
いつも隅っこの方で震えているので、戦闘中のサポートはハナから期待できない。戦闘終了後に、べそをかいて謝りながらホイミをかけるのが、見慣れた風景になってきた。
もっとも、シェラのお荷物具合を考慮してなお余りあるリィナの活躍のお陰で、俺達は滅多に怪我を負うこともなかったのだが。
そんな調子で、さしたる苦労もなく俺達が目指しているのは、アリアハン城の西方の入り江に浮かぶ、ナジミの塔だった。
話は、数日前に遡る。
俺達は、盗賊の鍵を手に入れるというマグナの方針に従って、地下牢に囚われているバコタに話を聞く為に、アリアハン城へ向かった。
しかし、作った本人に聞くのが一番手っ取り早いという理屈は分からないでもないが、あまりにも短絡的過ぎやしないか。大体、城の中って、そんなにホイホイ入れるモンなのか?
俺の懸念も素知らぬ顔で、マグナは先頭切って巨大な城門に真っ直ぐ歩み寄る。
てっきり、脇に詰めた衛兵に誰何されると思ったのだが。
「これは、マグナ殿。アリアハンのお城へようこそ」
畏まって俺達を通してくれたのには、少々驚いた。
「なんの為に、あたしが苦労して勇者してきたと思ってんのよ」
得意げな口振りで、軽く肘打ちをされた。なるほど、アリアハン内で勇者として認知されておくのは、本心を隠す他にも、その方が何かと都合が良いという理由もあるらしい。
初めて足を踏み入れた城内の様子を、リィナやシェラは物珍しそうにきょろきょろと眺めていた。もちろん、俺もこれが初めてだったが、なんだかシャクに触るので、ぐっと我慢して何でもない顔をしてやった。
と、こっちを見るマグナの目が笑っていた。くそ、こんなガキに内心を見透かされるとは。
マグナの先導で、俺達は地下牢へ続く階段へと向かった。しかしまぁ、どこもかしこも豪華で見慣れない景色なので、いくつか角を折れただけで、自分が今どこに居るのかさっぱり分からなくなる。はぐれたら、いい歳して間違いなく迷子だな、これ。
気が付くと、それまでとは少々趣きの異なる、石壁が剥き出しの階段を、俺達は下りていた。
看守は多少渋ったが、便宜を図るよう言い含められているようで、勇者様に強く出られると断わる訳にいかなかったのだろう、俺達は地下牢に入ることを許可された。
パコタが捕らえられているのは、右手に並ぶ鉄格子の一番奥だ。
「お……女だぁ……」
鉄格子の間から伸びた囚人の手に、マグナはちょっとビビったように後退り、リィナはぱしりとその手をはたく。
シェラはひぃと喉の奥で悲鳴をあげて、俺にしがみ付いてきた。人目がある場所では、シェラは常に短めのマントについたフードをすっぽり被っているのだが、ここでは特に取らない方が良さそうだ。
こんなジメジメと暗い地下の牢屋に閉じ込められて、毎日無骨な看守くらいしか見ていない野郎には、目の毒以外の何者でもない。こういう手合いには、男か女かはあんまり関係ねぇしな。
「ここね」
やや早足で一番奥の牢屋に辿り着き、マグナは手にしたランプを掲げた。
奥の壁際、だらしなく投げ出された足元を、灯りがぼんやり照らし出す。
「あんたが、パコタ?」
人影がもぞりと動き、長い間喋っていなかったせいか、喉にからまるような声が応じる。
「ぁ……誰だ?俺の女が、このザマを笑いに来たにしちゃ……ずいぶん若ぇな」
「誰があんたの女よっ!?」
思わず大きな声を出したマグナは、ちらりと入り口の看守の方を気にしてから、改めて声を顰めて尋ねる。
「鍵のことを聞きにきたの。あんたの鍵は、今、どこにあるの?」
おいおい、なんつー直截的な聞き方だ。
案の定、暗闇の中でパコタは喉を鳴らした。
「クク……いきなり現れて、何を訳の分かんねぇことを……」
バコタは幾度か咳払いをして、ペッと痰を牢屋の床に吐き出した。
「……俺の鍵?何のことだか良く分からねぇが、たとえ分かったところで、そいつをお前さんに教えて、この俺に何の得があるってんだ?」
「いいから、大人しく教え――っ!!」
俺は、後ろからマグナの口を押さえた。モガモガ言ってるが、気にしない。お前は交渉が下手過ぎる。
「突然、済まねぇな。でも、あんたも近々勇者が魔王退治に出るって話は聞いたことあるだろ。見ての通り、この人が、その勇者様なんだ」
ヒュゥ、と小さな口笛が石造りの牢屋内に反響した。
痛ぇ。俺の手を噛むんじゃねぇよ、マグナ。
「俺ぁまたてっきり、仮装大会でもやってんのかと思ったぜ……で?その勇者様が、見っとも無くとっ捕まった哀れなコソ泥に、一体何の御用で」
「謙遜すんなよ。有名なあんたのことは、よく知ってるぜ。あんだけ派手にやらかしたんだ。どうせ死罪なんだろ?」
「ハッ。手前ぇらの知ったことかよ」
パコタは自嘲気味に吐き捨てる。
「俺達に協力すれば、恩赦を王様に掛け合ってやるよ」
抗議の声をあげようとするマグナの口を、俺は必死に押さえる。うるせぇ、黙ってろ。
「信じられねぇか?だが、勇者の魔王退治は、多分あんたが考えてるよりずっと、今のこの国にとっては重要な案件でね。お陰で俺達には、かなりの権限が与えられてるんだ」
まぁ、実際はどうだか知らないが。
「その証拠に、今もこうして立ち入り禁止の地下牢に、あんたに会いに来られてるだろ?その勇者様の役に立ったとなりゃ、特赦は無理でも減刑は決して不可能じゃないと思うぜ」
「……ちっ、何か勘違いしてやがるな。この俺様が、刑の執行まで、こんなところで大人しくしてると思ってやがんのか?」
「ふぅん。脱獄するから、俺達の世話は必要ないって訳か」
パコタは、答えなかった。
「……分かったよ。大泥棒と名高いあんただ。そいつは可能なんだろう。それじゃ、俺達は減刑を掛け合う代わりに、パコタが脱獄を企ててるから、見張りを増やした方がいいですよって忠告することにするわ」
俺は、腕の中で暴れるマグナを引き摺って、鉄格子の前から立ち去ろうとしてみせる。
「じゃあな。あんたが、またお天道様を仰げるように、祈ってるぜ」
製作者であるバコタにとって、また作ればいいだけの鍵が、それほど重要な物とは思えない。この程度の揺さぶりで充分と踏んだのだが。
果たして、パコタの忌々しげな声が、俺達を引き止めた。
「ちっ……わぁったよ。何に使うか知らねぇが、ンな大層なモンでもねぇ。くれてやるよ……くれてやるっつっても、俺が持ってる訳じゃねぇがな」
「どこにあるの!?」
緩めた俺の手を、マグナが乱暴に払い除ける。そんな怖い目して睨むなよ。上手くいっただろ?
「ナジミの塔のてっぺんに住んでる、物好きなじじぃが持ってるよ」
「ナジミの塔?あんなところに、人が住んでるの?」
「ああ。珍しいお宝をしこたま溜め込んでるって聞いて忍び込んだんだが、逆にとっ捕まって七つ道具まで奪われちまった。みっともねぇ話だが、一筋縄じゃいかねぇじじぃだぜ。せいぜい気をつけな」
「フン。泥棒と一緒にしないでよ」
話は終わったというように、マグナは俺達を促して入り口に引き返す。
「邪魔したな。ここを出たら、ウマい飯でも食ってくれ」
俺は、1ゴールドを牢屋の中に指で弾いた。
王様に減刑を頼み込むなんて話、ハナからコイツも信じちゃいないだろうが、せめてもの礼の代わりだ。
そんな訳で、俺達は今、ナジミの塔を登っている。
かつて大航海時代には灯台として活躍したこの塔も、バラモスの登場と共に海に強力な魔物が出没するようになって、すっかり船の往来が途絶えてからは、単なる魔物の巣窟に成り果てている。
ナジミの塔の周辺は――バコタに聞いた爺さんは別にして――人が居住しておらず、立ち寄る冒険者も少ないので、まだ比較的魔物が多い。
故に、腕に覚えのあるパーティにとっては、ここに辿り着くまでの海底洞窟を含めて絶好の狩場になっていたりするのだが。
「ごめんなさい、無理です無理です、ごめんなさいごめんなさい」
しゃがみ込んでゴメンナサイを繰り返すシェラに、俺は途方に暮れて溜息を吐く。
もう何年も人の手が入っていないナジミの塔の内部は、それこそ荒れ放題だった。何階か登ると、俺達は崩れた壁に行く手を塞がれた。
「こっち、行けそうだよ〜」
リィナの言う通り、崩れた壁を抜けて、塔の外側に張り出した足場を伝って回り込めそうだった。ひょいひょい渡っていくリィナに続いて、マグナもおっかなびっくり足を踏み出したが、確かにシェラには少々酷な道かも知れない。
十分に人が通れる幅こそあるものの、手摺りもなにも無いのだ。ちょっと身を乗り出しただけで、遥か下の方に地面が覗ける。俺としても、こんなところを渡るのは、できれば御免被りたい。
その上、大鴉やら人面蝶やらが空を飛んで襲ってくるのだ。狭い足場でとんぼを切りつつ渡り合っているリィナは、頭のネジが何本か外れてるんじゃないのか、アレ。
「ほら、しっかりしなさい!おと……冒険者でしょ!」
一向にその場を動こうとしないシェラを、マグナが叱咤する。
へっぴり腰で、剣を魔物に向かってちょこちょこ突き出しながら言っても、あんまり説得力はないけどな。
どうにかこうにか宥めすかしたはいいものの、ぎゅっと目を瞑ったシェラに思い切り抱きつかれて、上手く歩けず一緒に落っこちそうになったりしながら、俺達はなんとか、あと少しで塔の天辺というところまで辿り着いた。
その辺の落ちていた材料を使って組んだと思しい、手作り感丸出しの梯子が、天井に開いた穴にかかっている。
あの後も、道なき道を何回か渡ってきたことを考えると、目的も無くこんなところまで登った冒険者がそういるとは思えない。狩りをするだけなら、下の階で充分な筈だ。
つまり、目の前の梯子は、この上に住んでる何者か――もしくは、あのバコタが作ったと考えて良さそうだ。
ニ、三度足をかけただけで梯子を昇り切ったリィナが、穴から顔を覗かせる。
「誰もいないよ〜。なんか、倉庫みたい?ヘンなのが、いっぱい置いてあるよ」
バコタの言ってた、爺さんのお宝か?
俺がぼけーっと上を向いていると、いきなりマグナにドンと背中を押された。
「早く昇んなさいよ」
なんなんだ。ずっと、リィナ、マグナ、シェラ、俺の順番で来てたじゃねぇか。
「いいから!」
ははぁ、なるほど。スカート穿いてる訳でもあるまいし、下からじっくり尻を仰ぎ見られるのが、そんなに嫌なモンかねぇ。
とは言わず、俺は大人しくリーダーの命令に従った。まぁ、あれで年頃の女の子だもんな、いちおう。
リィナの言葉通り、梯子を昇った部屋には、なんだかよく分からないモノがところ狭しと乱雑に積まれていた。埃まみれだが、ところによって最近ズラしたような跡がある。どうやら、人が住んでいるのは間違いなさそうだ。
「あれ、宝箱じゃない?」
最後に昇ってきたマグナが、部屋の隅に置かれたそれを目敏く発見する。
「鍵はかかってないみたいね……何が入ってるか、気にならない?」
「え、でも、ここのお爺さんの物じゃ……」
「いいのよ。こんなに苦労して来てあげたんだから、少しくらいご褒美がなきゃ割りに合わないもの」
シェラの制止も聞かず、宝箱に手をかけるマグナ。いや、お前、それはちょっと無防備過ぎ――
止めようとした時には、もう遅かった。
開くと同時に、ボフン、とか音がして、宝箱は大量の粉塵を撒き散らす。
「離れろ!」
袖で口を押さえながら叫ぶ。きらきらと極彩色に光る粉――それは、毒蛾の粉だった。
「息止めろ!吸うな!」
なんて言葉が間に合う筈もなく。
慌てて跳び退いたシェラを支えきれず、俺はそのまま押し倒された。痛ぇ。
下から抱き締められるような格好で俯いていたシェラは、ややあってゆっくりと顔をこちらに向けた。
フードがはだけて、顔にかかった淡い金髪の隙間から、潤んだ瞳を俺に向ける。
「また……ごめんなさい」
なんか、いきなりすんごい落ち込んでるんですけど。つか、顔近い顔近い。
「ご迷惑かけてばっかりで……私のこと、呆れてますよね」
そんな悲しそうな顔されて、はいそうですなんて言えるか。
「もう……嫌いになっちゃいましたよね?」
うわ馬鹿そんな上目遣いで見んな早くどけ。
「別にそんなことねぇって……ウヒ」
あ、ヤバい。俺も吸い込んでるわ、これ……ウハハ。
さすが戦闘中に使うだけあって効き早ぇウヒ言ってる場合かウヒハでもなんか魔物にくらった時と違うようなウヒあーもうよく分かんねぇ。
「キャハホントですかぁ!?嬉しいですぅっウフフ」
ウヒャいきなりハイんなって頬すりすりすんな柔っけぇな目ぇ回ってきた首にしがみ付くんじゃねぇ顔近い顔近いってウヒヒ。
「ちょっとぉ、あんたたちなにやってんのよぉ、アハハいやらしい」
うわヒヒヒお前もいきなり顔近ぇってウヒャそんなマジマジ覗きこむな。
「なぁによぉ、アハハいっつもシェラばっかり気にしちゃってぇ……やっぱりアハあんたそっちなんじゃないのぉアハハ」
そっちってなんだバカウヒこれは捨てられた子猫が死んじゃうからミルクやんなきゃウヒヒヒ。
「アハハなによぅあたしだって結構可愛いってアハよく言われるんだからねこのバカアハハバカバカバカアハハハハ」
うぐげふやめろバカ横腹殴んなてめ俺は鎧もなんもねぇんだぞうぐはゴホゲハ。
「だめぇっキャハハやめてくだいさいマグナさんヒドいことしないでウフフフフフ」
「アハハうるさいわねあんた達さっさと離れなさいよアハハいつまで抱き合ってんのよアハハハハ引っぺがすわよ」
ウハハバカお前マグナなに剣抜いてんだやめろバカウヒあ〜ヤバい危機感全然ウヒッねぇよウヒャヒャあれナニいきなりウヒヒぐたっとしてんだシェラもかよウヒヒ額に手当ててなにしようってはぐふ。
俺の意識は、いきなりそこで途絶えた。
「……ぅむ」
くぐもった声が、耳の奥を振るわせる。それが、自分の声だと気付くまで、しばらくかかった。
「おお、目が覚めおったか」
皺枯れた声のした方を見ようとして、俺はくらりと目眩を覚える。気分悪ぃ。二日酔い……じゃねぇが、すげぇ憂鬱な気分だ。
ようやく身を起こすと、重厚な机の向こうに爺さんが座っているのが見えた。その手前で、リィナが机に腰掛けて、なにやら一心不乱にいじくっている。
「……ふぁっ」
横を見ると、マグナがびくんと身を起こし、口元を手で押さえていた。反対側では、床に身を横たえたシェラがうぅ……とかうめきながら、力なく目をしばたたいている。
ここがどこで、自分が何をしていたのか、頭がぼんやりして考えがまとまらない。
「すまんのぅ。バコタとやらに開けられてから、鍵をかけるの忘れとったわ」
バコタ?なんか聞き覚えがある。バコタ――鍵――ナジミの塔――ああ。
ガチン、と音がして、手にした南京錠をリィナが爺さんに見せているのが目に入った。
「ホントだ、開いたよ!へぇ、面白いねぇ」
「随分時間がかかったのぅ。バコタとやらは、一瞬で解いてみせたモンじゃが」
「やり方教わった癖に、できなかった爺ちゃんに言われたくないよ――あ、おはよう!」
「お、おう」
やれやれ、思い出した。ここはナジミの塔で、あそこにいるのが塔の天辺に住んでるっていう変わり者の爺さんだ。
俺達が居るのは、さっきの倉庫じゃなかった。多分、書斎だろう。分厚い書物が詰まった本棚が、壁際にズラリと並んでいる。
「三人とも目が覚めたようじゃな。それにしても、盗人用の罠に引っかかるとは、少々意外じゃったわい」
そう、マグナの阿呆が考え無しに宝箱を開けたお陰で、トラップに引っかかって……その後のことは、よく思い出せない。
「あれは、その昔に頼まれて、毒蛾の粉を基本に自白剤を作ろうと儂が調合したものじゃが、妙に向精神効果まで強まってしまってな。失敗作じゃ。世に出す訳にもいかんで、ああして罠に仕込んでおいたんじゃが……なに、後遺症はないじゃろ。多分の」
爺さんが調合したのかよ。どうりで、魔物のそれとはちょっと違うと思ったが……ホントに後遺症とか大丈夫なんだろうな。
「お主が、勇者じゃな?」
気だるげに立ち上がったマグナに、爺さんが問いかける。
「お主が今日、ここを訪れることは、分かっておった」
なんだと?
俺は、へたり込んだシェラに手を貸して立たせてやりながら、マグナと爺さんを見比べた。
「どういうこと……ですか?」
「お主が欲しておるのは、儂がバコタから譲り受けた、この錠前外しじゃろ」
リィナが、手にした針金と、先に返しのついたアイスピックのような物をこちらに見せる。エラく想像と違うが、あれがバコタの鍵なのか。
「譲り受けたというか、捕らえたついでに取り上げたんじゃがな。どうも、珍しい物には目がないでいかん。とはいえ、儂にはどうやら扱えんでな。持っていくがよい。盗人の道具としては、なかなか画期的な発明じゃで、役に立つこともあろう」
「なんで知ってるの?」
マグナは、少し蒼褪めていた。
「ほっ?」
「なんで、あたしが今日ここに来るって知ってたの?なんで、あたしがバコタの鍵を欲しがってるって知ってるの?」
「お告げがの、あったんじゃよ」
ビクリ、とマグナが震えたように見えた。
「今日、ここを訪れるお主に、バコタの鍵を渡せというお告げがの」
「どんな!?その……誰が告げたの!?」
マグナは爺さんに詰め寄る。
自分の行動が予見されていたというのだ。そりゃ、ちょっとは薄気味悪いだろうが――なんだ?それだけじゃない、この切羽詰ったようなマグナの態度は?
「誰と言われてものぅ……あれは、確か女の声じゃった。それ以上のことは、夢うつつでよう分からんが……」
爺さんは、思い起こすように目を瞑る。
「儂も、こんなことは初めてで、最初はただの夢かとも思ったんじゃが、妙に確信めいたものがあってのぅ。実際にこうしてみれば、それは間違いではなかったという訳じゃ」
「……そう」
毒蛾の粉の影響が、まだ残っているせいばかりではないだろう。
視線を落として呟いたマグナは、目的だったバコタの鍵を手に入れて喜ぶどころか、この上なく不機嫌に俺の目に映った。
え〜、どうも失礼しました
>>201 短期間に根詰めすぎたのかなんなのか、ピタリと筆が止まっていたところ、
お陰様でなんとか進めることができました。感謝です。
楽しんでいただけているか甚だ不安な上に、そろそろ忙しくなりそうで
多少ペースが落ちるかと思いますが、なんとかあまり日を空けずに
投下させていただこうと考えてます。宜しくお付き合いくださいませ。
なんか違うドラクエ3やってるみたいで面白い。
考えてみたら、勇武僧魔 のベタなパーティではあるのなw
武闘家スキーな俺にとっちゃ、楽しみで仕方がない
ここは良スレっすね、いつも楽しみにしてます
勢いで書いた続きの推敲に手間取ってたり。ルビと傍点が欲しいです。
ゲーム内と本筋は変えないまま、なるべく違うアプローチをしたいと思ってるので、
なんか違う、みたいに感じていただけると嬉しいです。
あと、戦士じゃなくて武闘家にしたのは完全に趣味なので、
もうちょっと強い敵が出るようになったら、色々活躍すると思います。
ドラクエ3は、イベント毎にボスがいる訳じゃないので、ちょっと工夫しないとですね。
225 :
YANA:2006/10/02(月) 16:43:44 ID:sO+pYKTq0
どうも、皆さん乙です。
突然ですが、悲しいお報せがあります。
つい先日、俺のマシンがぶっ壊れました。
漸く本業の山場を越え、負い目なくクライマックスに入れるという矢先の出来事でした…。
とりあえず告知だけでもと外から書き込んでいますが、修理が完了するまで、
少なくとも向う一ヶ月は執筆も投下も出来そうにありません。
幸いにして各種データ自体は無事ですので、その点はご安心を。
一年前の、投下を始めた日までには終わらせたかったのですが、どうやら叶いそうもありません。
以降は年末を目処に、完結を合わせたい所存です。情けない限りです…。
声援を下さる皆さんや絵描きさん方には迷惑をかけどおしですが、どうか今しばらくお待ち下さい。
>>YANA氏
いつまでも待ってるぜ
227 :
50:2006/10/03(火) 01:30:56 ID:7heRPbTp0
>>YANA氏
パソコンは突然壊れますよね…
お待ちしております。
保守したほうがイイかな?
229 :
144:2006/10/05(木) 02:38:42 ID:O3uAR3yu0
3. Controversy
「へ〜、結構片付いてるねぇ」
「違うわよ。これは物が何もないって言うの」
ナジミの塔でバコタの鍵、というか錠前外しを手に入れた俺達は、アリアハン城下に戻っていた。
「食器とか、一組しかないですね。どうしましょうか」
「お客の分くらい、用意しときなさいよね。あ、でも誰も来ないか。あんた、友達少なそうだもんね」
ようやく多少はマシになってきたが、ナジミの塔の爺さんと話して以来、マグナはずっと不機嫌だ。
塔から出る時も、「ルーラくらい使えないの?ほんっとに役に立たないわね」などと無茶な文句を俺に言った。ルーラなんて使えたら、立派に上級魔法使いだっての。
「ベッドもひとつしかないよ。ちょっと狭いけど、みんなで一緒に寝る?」
「あり得ないこと言わないで。ひとりはソファーで寝るとして……あんたは、玄関か廊下で寝なさいよ」
結局、行きと同じく徒歩で数日かけて戻ってきた勇者様ご一行は、なぜか俺のウチに転がり込んでいたりする。もちろん持ち家じゃなく、安くて小汚い、単なる貸し部屋だ。
ナジミの塔への往復で、報奨金もそこそこ稼げたことだし、こんな一部屋しかないような俺のねぐらでなく、素直に宿屋に泊まればいいと思うんだが。
金がもったいないというのなら、せめてマグナの家でやっかいになりゃいいんだ。「マグナのお母さんに会ってみたい」とリィナも主張したことだし。だが、リーダーが「ぜぇったいにイヤ!」と言い張るので仕方が無い。
まぁ、マグナがこれからしようとしている話の内容が、俺の考えている通りだとしたら、おっかないお袋さんの耳に入る危険を回避する為に、自宅を避けたがるのも無理からぬことかも知れないが。
「食べ物の買い置きも、全然無いみたいですね。後で買出しに行かないと」
「ホントに、何もないのねぇ」
どうでもいいが、お前ら無遠慮に家捜ししてんじゃねーよ。まぁ、見られて困るような物は、何もないけどな。
「あ、ベッドに長い髪はっけーん」
おいおい、リィナ。お前はそういうキャラだったのか?
お前に睨まれる筋合いはねぇよ、マグナ。不機嫌の八つ当たりなら、そろそろいい加減にしてくれ。
「バコタの鍵は手に入れた。で、次はどうするんだ?」
放っておくとキリがないので、俺は家捜しを無理矢理打ち切らせて、テーブル――と言っても、備え付けの小さいサイドテーブルだが――の周りに全員を集合させた。
マグナがソファーに、リィナとシェラは並んでベッドの端に腰をかけ、何故か俺だけが壁に背をあずけて立っている。ここ、俺の部屋なんですけど。
「ん〜……そうねぇ」
マグナは、どう話を切り出そうか考えるように上を向いた。
「ヴァイスは知ってると思うけど……あの日、みんなと出会う前に、あたしは魔王退治に出発することを、王様に報告に行ったのね。で、王様は旅の支度金をくれたんだけど……」
マグナはドンとサイドテーブルを叩く。叩く物があってよかったな。部屋の持ち主に感謝しろよ。
「これがなんと、50Gよ、ごじゅうゴールド!?魔王を退治してやろうっていう勇者に、王様が渡す額じゃないと思わない?それっぽっちで、どうやって装備を整えて旅をしろっていうのよ!?」
やはり、俺が怖れていた通りの展開らしい。それにしても、他の二人にどう説明するのかと思っていたら。
「だから、足りない分はお城の宝物庫から、勝手にもらうことにします」
チョクだよ、チョク。マジか、こいつ。
「え……でも、それって泥棒なんじゃ……」
おずおずと、シェラが当たり前の反論を口にする。
ひょっとして、それが犯罪行為だと認識していないだけで、指摘されてはじめて気付いて、慌てて前言を翻すのではないか。そんな希望的観測も少しは抱いていたのだが、案の定、そうは問屋が卸さなかった。
「ううん、違うの。あのね、これは王様も承知の上のことなのよ。試練って言えばいいのかな」
はぁ?何を言い出すんだ、こいつは。
「気付かれないように宝物庫から持ち出した物は、もらっていい約束になってるの」
「へぇ。それで、バコタの鍵が必要だったんだ」
リィナの横槍に、マグナは頷いてみせる。
「そういうこと。最初から大金を渡すのは簡単だけど、勇者としてのあたしの能力とか機転を計る為の試験みたいなことをしたいらしいのよ。ホント回りくどいけど、実際にお金を出してくれる王様が、そう言うんじゃ仕方ないわ」
「そうだったんですか……ちょっとびっくりしちゃいました」
ホッと胸を撫で下ろすシェラに、マグナは人差し指を向けた。
「シェラには、特に重要な役をしてもらうから、そのつもりでね」
「え、ホントですか?はい、お役に立てるように頑張ります!」
嬉しそうな顔しちゃって、まぁ。
「ボクは〜?」
「リィナも、すっごく重要よ。なんたって、肝心の鍵開けを担当してもらうんだから。練習して、どんな鍵でも十数える間に開けられるようになってもらうわよ」
「りょうかい〜。まぁ、なんとかなると思うよ」
マグナは、ちらりと俺に目をくれた。
「あんたは、その他雑用」
いや、まぁそれは別にいいんだが。
「ちょっと、いいか?」
俺は、玄関の方に顎をしゃくってみせた。
「なによ」
「いいから、ちょっと来い」
会話の最中、なるべく俺と目を合わせないようにしていたから、察しはついているのだろう。俺が壁から身を離すと、嫌々ながらついてきた。
「悪いな。茶っ葉がまだ少し残ってる筈だから、お茶でも飲んで待っててくれ」
シェラとリィナに声をかけ、俺はマグナを連れて外に出た。
「で、なによ、話って」
玄関から少し離れて早速、マグナはそっぽを向いたまま聞いてきた。
夕暮れ過ぎた薄暗い路地を見回して、人が居ないことを確認してから詰問する。
「さっきの試練とかいうの、全部嘘だろ」
答えない。やっぱりな。
自分でも意識せず、俺は溜め息を吐いていた。
「あのな、王様がケチだってのは、俺も認めるよ。百歩譲って、勇者が魔王退治の為に必要だから、お宝をくすねるってんなら、まだいいとしよう」
良くねぇけどな。
「でもな、お前は魔王退治に行くつもりはないんだろ?勇者としての役目を果たすつもりがない訳だ。だったら、お前がしようとしてるのは、何の言い訳もできない、単なる犯罪行為だぞ。分かってんのか?」
俺は、常識やら正義感から、こんなことを言ってる訳じゃない。単に巻き添えでとっ捕まるのが嫌なのだ。
城の宝物庫を荒らしたら、勇者だろうがなんだろうが、只で済む筈がないのは分かりきっている。なんとか説得しないと、揃ってお縄頂戴なんてことになったら目も当てられない。
「それに、万が一捕まってみろ。今まで苦労して築き上げてきた、お前の勇者としての立場も台無しじゃねぇか。それだけは避けたいんじゃなかったのか?」
だんまりを決め込んで、全く反論してこないマグナの様子が不気味だが、多少は俺の言葉が利いているのだろうか。
「悪いこた言わねぇから、考え直せよ。旅の資金なら、そこそこ稼げただろ。まだ足りないってんなら、もう何回か狩りに出てもいいし――」
「……もういい」
「は?」
ムキになって言い返してくるかと思いきや、予想外に力無い声だった。
「もういい。あんたには頼まないから」
「いや、俺がどうとかじゃなくてだな……」
「結局、あんたも同じよね」
何が。
「だから、もういいってば。あたし達だけでやるから、あんたは勝手にすれば」
結局、最後まで俺と目を合わせようとしないまま、マグナは踵を返して部屋に戻っていった。
シェラとリィナを呼んで、二人を連れて立ち去ろうとする。
「おい、ちょっと待てよ。どこ行こうってんだよ?」
「もうあんたには関係ないでしょ!?」
それまでとは打って変わった、堪えていたものを吐き出すような、悲鳴じみた拒絶。
「え?なになに、どうしたの?」
振り向きもせず遠ざかるマグナに、リィナは小首を傾げながらついていく。
俺とマグナをきょろきょろ見比べて泣きそうな顔をしながら、一足遅れてシェラも後を追った。
ひとり取り残された俺はといえば、放心状態だ。
一体、なんなんだ。何いきなりキレてんだ。
お前の秘密を知った俺は、目の届くところに置いておくんじゃなかったのかよ。
訳分かんねぇ。勝手にしろよ、畜生。
カチャカチャと、食器の触れ合う音がする。
トタトタと、誰かが立てる足音が聞こえる。
自分の部屋ではついぞ聞き慣れない生活音で目を覚ました俺の鼻腔に、これまた嗅ぎ慣れない料理のいい匂いが漂い届く。
身を起こそうとして果たせず、半分眠りながら唸り声をあげた。頭の芯が重い。二日酔いという程じゃないが、昨日の酒が抜け切っていないらしい。我ながら、ここんとこ毎日飲みすぎたな。
「あ、ごめんなさい。起こしちゃいました?」
うつ伏せで枕に顔を埋めていた俺は、のろくさと声の方を向いて――硬直した。
あり得ない光景を目撃したからだ。
「ちょっと待ってくださいね。今、お水を持ってきますから」
トテトテと軽い足音が遠ざかる。
固まり続ける俺の前に、水の入ったコップが両手を添えて差し出された。
「はい。零さないように、気をつけてくださいね」
「……ああ」
やっとのことで身を起こし、こんなところに存在する筈の無いソレから、コップを受け取る。
ソレは、城を訪れた際に目にしたはしためと同じ格好――つまり、平たく言えば、メイド服を着ていた。
……なんで、ウチにいきなりメイドがいるんだ?
今までの冴えない人生は全部夢で、目を覚ましてみれば、本当の俺はメイドに囲まれるような左団扇の大金持ちだったとか。
そんな訳ねーよ。
寝惚け眼に映っているのは、相も変わらず貧乏臭い俺の部屋だし、メイド服の上に乗っているのは、数日振りに目にするシェラの顔だった。
「具合はどうですか。すごい顔してますよ?」
俺の顔を覗き込んで、クスッと笑う。
「いっぱい転がってたお酒の瓶とか、勝手に片付けちゃいましたけど……あれ、全部飲んだんですか?」
「……まぁな」
「あんまり飲み過ぎちゃダメですよ?お酒飲んで遅くまで寝てるなんて、飲んだくれの人みたいです。ほら、もうお昼過ぎてるんですから」
そう言って、シェラは薄っぺらいカーテンを引き開けた。
差し込む陽光に金髪が輝いて、まるで一枚の絵のようだ。って、何を恥ずかしいこと考えてんだ、俺は。まだ頭が起きてねぇな。
それにしても、なんというか、まぁ阿呆みたいにメイド服がよく似合っていた。ちょっとした犯罪だろ、これ。
まじまじと見つめる俺の視線を取り違えてか、シェラは慌てて言い繕う。
「あ、ごめんなさい。鍵が開いてたから、勝手にお邪魔しちゃいました。その……ご迷惑ですよね」
「いや、それは構わないけど……」
どうせ、盗まれるような物は置いてない。鍵なんてかけておくと、大層なお宝を隠し持ってるんじゃないかと、却って狙われちまうんだ、この辺じゃ。
「お前、その格好……」
「あ、これですか?」
シェラは顔を輝かせて、その場でくるっと回転してみせる。ふわりと舞い上がったスカートが、いい感じだ。
「可愛いですよね、これ。お城で見かけた時から、着てみたいなぁって思ってたんです」
「いや、そうじゃなくて……」
「……やっぱり、似合いませんか?」
「いやいや、似合ってる。すげぇ滅茶苦茶似合ってるよ」
嬉しそうに、両手で頬を包むシェラ。なんだ、この会話。
「いや、違くて。俺が聞きたいのはだな、なんでそんな格好をしてるのかってことなんだが」
「あ、今ですね、私、お城で住み込みで働いてるんですよ」
はぁ?
「そこで、え〜と、夜に兵隊さんがどういう風に見回りしてるかとか調べろって、マグナさんに言いつかって。あと、見回りの兵隊さんと、誰かひとり仲良くなっておけって言われました」
「……ちょっと待ってくれ」
俺はコップの水を飲み干して、眉間を強く抓んだ。しばらく目を瞑っていると、ようやく頭がゆっくりと回り出す。
つまり、シェラに内偵させてるってことか。そこまでやるとは、あのバカ本気だな。
「なるほど、事情はなんとなく分かった。でも、結構危ないんじゃねぇのか、それは。マグナに言われたからって、嫌だったら断ってもいいんだぞ?」
だが、覚えがないほどきっぱりとした表情で、シェラは首を横に振った。
「嫌じゃないです。私、嬉しいんです。お城の外では、皆さんの足を引っ張ってばっかりだったから。少しでも、こうしてお役に立てるのが、本当に嬉しくて」
俺は目を擦って、改めてシェラを見た。ほんの数日顔を合わせなかっただけだが、記憶とはまるで別人のように、おどおどとした様子が全くなくなっている。
他人に必要とされると、頑張れるしハリも出る。確かに、そういう部分もあるんだろうが、シェラの態度に変化をもたらしているのは、それだけではないように思えた。
適材適所というべきか。マグナの与えたメイドという役割が、この上なく性に合っていた、というのが大きいんじゃなかろうか。
このままメイドとして雇われていた方が幸せなんじゃないかと感じるほど、生き生きとして見える。メイド服も、異常に似合ってるしな。
でも――俺はちょっと気が重くなるのを覚える。
そういう訳にいかないんだよな、こいつの場合。短期間なら誤魔化せても、どうやったって、ずっとは無理だ。男と露見する時は必ず来るし、そうなればメイドは続けられまい。
本人が望んだとしても、周りが許さない。シェラの抱えるジレンマのほんの一部だけでも、はじめて実感を伴って理解できたような気がした。
そんな俺の内心など、知る由もなく。
「あ、そうそう、冷めない内に召し上がってくださいね。あんまり食欲ないかも知れませんけど、スープなら大丈夫かなと思って」
シェラはあくまでほがらかに、サイドテーブルに供されたスープとパンを示した。
まさか自分の部屋で、起き抜けに飯が食えるとは。有難く頂戴するとしよう。
だが、ウチにこんな食材は置いてなかった筈だが。
「いま、買出しの途中なんです。そこから、ちょっと材料を分けてもらっちゃいました。ナイショですよ?」
シェラは、いたずらっぽく唇に指を当てる。
う〜ん、メイド服効果も手伝って、やたら可愛いく見えるんですが。こいつの正体を知らなかったら、子供に興味のない俺でも、少々ヤバかったかも知れん。
しかも、俺が食べ終わる頃合を見計らって、お茶まで淹れてくれる。よく気がつくし、つくづくメイドがハマり役だ。
このまま、気の利くメイドに世話されながら金持ち気取りでくつろぐ案も、実に魅力的なのだが。
あまり先送りしても仕方が無いので、俺は渋々ながら切り出すことにした。
「で、なんだって、あいつ?」
俺の問いかけは全く通じなかったようで、シェラはきょとんとした。
「ん?マグナに言われて、俺の様子を見にきたんじゃないのか?」
「いいえ。ここ何日か、マグナさんには会ってませんよ。えと……何回も会ってるところを誰かに見られて、後で怪しまれると良くないから、必要な時以外は来るなって言われてますから」
「じゃあ、なんでウチに来たんだ?」
「え、あの、それは……」
シェラは、急に恥ずかしそうに俯いた。
「その……誰かに、この服着てるところを見て欲しくて……マグナさんには、絶対この格好では来るなって言われてるし、ヴァイスさんの様子も気になってたから……やっぱり、いけなかったですよね。ごめんなさい」
そーかそーか、とか言いながら、頭を撫でてやりたくなるのを、危うく堪える。
「いや、別に謝るこたないけどな。うん、よく似合ってるよ」
「ホントですか?嬉しいです……ヴァイスさんて、やっぱり優しい」
満点以上の花のような笑顔を向けられては、曖昧にだろうが微笑み返すしかない。
ここ何年か、相手にしてきたのは荒くれやらアバズレばっかりだったから、こいつと居ると、なんか調子狂うわ。
マグナとリィナが泊まっている宿屋の場所を言い置いて、買出しの大きな荷物を抱えたシェラがよたよたと去っていくと、俺の部屋は灯が消えたように静かになった。
常態に戻っただけなのに、どうしようもなくわびしさが倍増した部屋で、俺は再びベッドにごろりと転がった。
「――なにがあったか分かりませんけど、仲直りしてくださいね」
出掛けに遠慮がちに口にされた、シェラの台詞を思い起こす。
仲直りって言われてもな。向こうが勝手にキレただけだぜ。
マグナ達と別れてしばらくは、そんな風にしか考えられなかったが、さすがに頭ももう冷えた。
今は、なんでマグナがあんな態度を取ったのか、ある程度分かっているつもりだ。
あいつは直情径行のきらいこそあるものの、頭は悪くない。だから、理屈さえ説けば、城の宝物庫に忍び込むなんていう馬鹿げた真似は止めると、あの時の俺は考えていた。
『完璧な勇者じゃなくちゃいけないから』
自分でそう言っていた癖に、それをぶち壊しにし兼ねない危険を、頑なに犯そうとするマグナが理解できなかった。
あれから数日経って、俺はこう思うようになっている。あいつがやろうとしている暴挙は、行為それ自体よりも、もっと別のところに意義があるんじゃないかと。
思い返せば、俺が言い聞かせた程度のことは、マグナにも当然分かっていた筈だ。そもそも、城に盗みに入るなんて発想からして、最初は単なる思い付きに過ぎなかったのだと思う。
それが本気に変わったのは、おそらくナジミの塔の爺さんと話してからだ。
『勇者って世襲なの?違うでしょ!』
はじめて出会った時、マグナはそう言った。父親が勇者というだけで、自分は何ら特別な人間ではない。その想いは、マグナの拠り所だった筈なのだ。
ところが、ナジミの塔の爺さんは、お告げの話をマグナに聞かせた。ある特定の人物の行動を、間も無くまみえるまだ面識の無い第三者に予言するお告げなど、普通ではない。少なくとも下された時点で、その対象は普通とは言い難い。
お前は『勇者という特別な存在』だ。
まるでそう言われたように、マグナには感じられたのではないか。だから、ナジミの塔からこっち、ずっと不機嫌だったのではないか。
これまで常に、勇者たれと周り中から望まれて、マグナは生きてきた。
勇者として彼女を育てた母親、父親以上の活躍を求める王様、勝手な思い込みで無責任な期待をかける街の人々――己を取り囲み勇者という枠に嵌め込もうとする全て。
彼らは頭ごなしに決め付けているけれども、彼らと何ら変わりないごく普通の存在でしかない自分には、それに応える義理も責任もない。
マグナに辛うじて残された、か細く唯一の逃げ道。それすらも、塞がれたような気持ちに襲われたのではないか。
行き場を失ったマグナの感情は、多分、本人も気付かない内に凝り固まった。
思うに、マグナが冒そうとしているおよそ勇者らしからぬ暴挙は、勇者ではなく自分であり続ける為のせめてもの『抵抗』であり、それを許そうとしてくれなかった全てのものに対する、ちょっとした『しかえし』なのだ。子供じみていて、その分切実な。
そんなマグナの気持ちにも気付かずに、俺は小賢しい自己保身から駄目を押して、ますますあいつを追い詰めてしまった訳だ。
――なんてな。
そこまで考えて、俺は自嘲した。
あいつは、そんな風には考えていないだろう。
虫の居所が悪かったところに、俺に反対されたもんで、ただ単に意固地になっているだけだろ、どうせ。
まったく、考え過ぎるのは、俺の悪い癖だ。
シェラがカーテンを開けた窓から、外を眺めた。
まだ日が高い。暇だな。酒はシェラに止められたし、他にすることもない。仕方がないから、酒を抜くついでに、ちょっとその辺を散歩してくるかな。
別に、何も目的はないけどな。
あてどもなく街をぶらついた俺の足は、なんとなくシェラに教えられた宿屋に向いた。他に行く当てもなかったし、なんとなくだ。
帳場で適当なことを言って部屋を聞き出し、二階へ昇る。
何故か、俺は扉の前で深呼吸をした。別に、逡巡してる訳じゃないんだぜ。今すぐノックしてやるよ。ほら、した。な?別に、なんてことねぇよ。
「開いてるよ〜」
中から聞こえたのは、リィナの声だった。
……はい、開けた。もう、ホント速攻。
部屋には、リィナしか見当たらなかった。肩透かしをくらった気分に――なってない。なる理由がない。
「マグナなら、出かけてるよ」
なんも聞いてねぇし。
珍しく髪を下ろしたリィナは、ベッドの上でこちらも向かずに手元に集中していた。カチン、と音が鳴って、開錠されたそれをポイと放り、別の南京錠に手を伸ばす。リィナの周りには、十個以上の錠前が散らばっていた。
それにしても、なんつーカッコをしとるんだ、こいつは。上半身は、辛うじて短い肌着を身につけているものの、ヘソは丸出しだし、あぐらをかいた下半身は下着姿だ。少しは恥じらいを持ちたまへ、キミ。
よく見ると、そこら中に服やら下着やらが脱ぎ散らかしてある。こいつら、どっちも片付けのできない女か。
しばらく黙って突っ立っていると、またカチン、と音がした。別の錠前を手にとるリィナ。
「へぇ、結構早くなったじゃん」
「うん、まぁねぇ」
気の無いお返事。どうやら、相当集中しているらしい。
無言の刻が流れる。
カチン。次。
「今度のはまた、随分デカいな」
「うん、宝物庫の鍵が、ちょうどこんな感じらしいよ」
ガチン。今度は早い。
「早ぇな。もうバッチリじゃん」
「まぁ、何回も開けてるからね、これ。実際は違う鍵なんだし、もうちょっと練習しとかないと」
見たところ一番デカいその鍵を放り投げ、一息つくのか、リィナは両手を上げて伸びをした。
「ん〜〜〜っ」
ヤバいヤバい。下チチ見えるって。
それにしても、こいつ、こんなにデカかったか?
「ん?」
伸びの姿勢のまま、リィナはこちらに視線を向けた。
「ああ、いつもはサラシを巻いてるんだよ。結構立派に育っちゃったから、動く時は邪魔なんだよね」
いや、聞いてねぇし。
俺が内心で否定したにも関わらず、リィナはにへらっと笑って、肌着の襟をぐいと指で下げてみせた。谷間丸見えじゃないですか。
「へへ〜、ちょっと見てみる?」
瞬間的に引かれた顎は、四分の一くらいで止まった筈だ。
「……大人をからかうんじゃありません」
クール。俺、超クール。
「そだね。他の二人に怒られちゃうしね」
その理由はよく分からんが、ともあれリィナは襟元から指を離して鍵を片付けると、ベッドの上でストレッチを始めた。
「はー、つかれたー。ずっと同じ姿勢でやってたから、体固まっちゃったよ〜」
豊かな胸と、引き締まった腰と、健康的な素脚がぐねぐね動いて、なかなかの見物だ。いや、そうでなくて。
どうでもいいが、とんでもなく柔らけぇな、こいつ。左右の脚を完全に水平に開いて上半身をべったりシーツにつけたと思ったら、今度は仰向けになって脚を片方づつピンと伸ばしたまま、肩越しに爪先を頭の上につける。うん、いい眺めだ。いや、だから違くて。
全く思ってもいなかったが、もしかしたらこいつ、案外一番手強いのでは。
「今日は、髪をひっつめてないんだな」
「ほぇ?」
膝を交差させて、あり得ないくらい体を捻りながら、変な声を出すリィナ。
「そっちの方が、なんか大人っぽく見えるな。悪くないぜ」
ぴたりと動きを止めて、なんだか知らんが目を丸くして俺を見る。吃驚しているようにしか見えない。なんだ、この反応?
「いや、でも、ほら、普段は邪魔になっちゃうし」
急に頬に朱がさしたのを誤魔化すように、ストレッチを再開する。
目の前の俺ではない、他の誰かに対して照れたのだ。理由もなく、俺はそう直感した。
少々釈然としないが、これはいちおうポイントを取り返したと考えていいんだろうか。まぁ、からかわれっぱなしじゃ、年長者としてのコケンにかかわるからな。
「マグナは、どこ行ったんだ?」
柔軟を続けるリィナから、それとなく目を逸らし、大して気にもなっていなかったが、間を持たせるつもりで尋ねてみた。
「ん〜?知らない。特に何も言ってなかったなぁ」
「そっか」
だから、横目で見んなって、俺。こいつのことだから、絶対気付いてるに決まってるぞ。うわ、しかし、すげぇ体勢だな。おお〜、お前、ちょっとそれはヤバいって。うは、やっぱ胸でけぇ。
「あのさ〜」
「は?はい?」
やべぇ、声が裏返っちまった。
「キミの方がお兄さんなんだから、キミから仲直りしてあげなきゃダメだよ?」
少々おかしくなっていた俺のテンションは、リィナの台詞で急速に平静を取り戻した。こいつは、あんまりそういうことに口を挟まない奴かと思ってたんだが。
「……ああ、分かってるよ」
よく考えたら、あられもない姿で四つん這いになって背中を反らし爪先を頭につけたりしているリィナを、俺がぼけーっと眺めているこの状況は、いかにもマズい。こんな場面にマグナが帰ってきたら、話が一層こじれそうだ。
とりあえず、表に出るか。
その辺をぶらついて、飯でも食って帰ろう――
「あ、ちょっと待って。ボクも探しに行くよ。ずっと部屋の中に居たら、具合悪くなっちゃうしね」
だから、俺はまだ何とも言ってねぇっての。
下穿きだけはいて部屋から出ようとしたリィナに、上っ張りを羽織るように言い聞かせ、日が暮れたら再び宿屋で落ち合うように取り決めて、俺達は手分けしてマグナを探すことになった。
結果から言うと、夕暮れ時になってもマグナは見つからなかった。
途中で、エラく沢山集まっている野次馬の群れに出くわしたが、そこにもあいつはいなかった。なんでも、どっかの馬鹿が魔法の玉とやらを作るのに失敗して、爆発事故を起こしたのだそうだ。こんな街中で、そんな物騒な実験をするとは、どうかしてるぜ。
「お腹が空いたら、帰ってくるんじゃないかな」
宿屋に戻ると、やはり手ぶらで待っていたリィナが言った。確かに夕飯時だが、お前、犬猫じゃあるまいし。
俺は「また来るわ」と言い置いて、部屋には上がらずに、そのまま帰途についた。
それにしても、あのバカ、どこをほっつき歩いてやがるんだ。顔がそこそこ知れてる筈だから、あまり街中は出歩きたくないんじゃないかと思ってたんだが。
ウチに着く頃には、すっかり日が没していた。
この辺りは、貧乏人向けの適当な造りの貸し部屋が並んでいる。
井戸が遠かったり、なにかと不便なのだが、宿に泊まるよりは圧倒的に安いし、ルイーダの酒場で発行される証明書さえあれば、冒険で不在にした期間は国の援助で部屋代が割り引かれたりするので、ここを拠点にしている冒険者は多い。俺も、そのひとりって訳だ。
細い路地には街灯なんて贅沢な代物はもちろん立っておらず、左右の窓からぽつりぽつりと漏れる灯りだけが頼りだ。
自分の部屋を目前にして、俺はギクリと足を止めた。
扉の前に、黒い塊を見つけたからだ。誰かが蹲っている。スカート穿いてるから、女だろう。
怖ぇ。玄関口の暗がりに蹲る女というのは、男にとってちょっとした恐怖だ。こっぴどく騙した女に押しかけられるような非道は、身に覚えがないんだが。
足音で気付いてるだろうに、女は顔を上げようとしなかった。抱えた膝の間に顔を伏せて、凝っとしたまま動かない。
ん?あれ、ひょっとして、こいつ――
「マグナ……か?」
ゆっくりと上げられた顔には、待ち疲れが刻まれていた。
「……遅い」
低く掠れた声で言う。
「どこ……行ってたのよ」
いや、どこって言われましても。
「……どうせ、あの女とお酒でも飲んでたんでしょ」
あの女?ああ、ナターシャのことか?なるほど、今日の暇潰しには、そっちの方が良かったかも知れん。
「……帰る」
おい、いきなりかよ。
唐突に立ち上がり、脇を抜けて去ろうとしたマグナの手を、俺は思わず握っていた。
俯いたまま、こちらを向こうとしない。訳分かんねぇな。用事があって来たんじゃないのかよ。
『キミの方がお兄さんなんだから、キミから仲直りしてあげなきゃダメだよ?』
リィナの台詞が、脳裏に蘇る。
はいはい、分かってますよ。
「どこ行ってたっていうか……お前を、探してたんだ」
「……」
無言ですか。
なんなんだ、この状況は。なんで探してたの?とか聞けよ、頼むから。これ以上、俺から何を言やいいんだよ。
その場凌ぎじみた言葉しか、口から出てこない。
「まさか、俺んチの前で膝を抱えてたとはな。どうりで見つからねぇ訳だよ。いつから待ってたんだ?」
「……ちょっと前」
「ちょっと前って、どれくらい」
「……うるさいな。お昼過ぎくらいっ」
どうやら入れ違いだったらしい。
「ばっか、お前、アブねぇなぁ。この辺りはガラ悪ぃんだ。そんなカッコでしゃがみ込んでたら、攫われちまうぞ。俺の部屋、鍵かかってなかったろ?中で待ってりゃよかったんだ」
「……そんなの、知らないもん。別に……ったけど、平気だったもん……なんで、そんなことしか言えないの?」
あ、マズい。マグナから発散されている気配は、アレだ。泣く空気だ。悪かった悪かった、余計なこと言っちまったな、俺。
しかし――
「あんたこそ、お昼からずっとあたしを探してたの?バッカじゃないの?この広い街で、人ひとり探せると思ってんの?」
ようやく俺の方を向いたマグナの瞳には、涙などさっぱり浮かんでいなかった。
あれま。俺は、まだまだこいつを見損なっていたらしい。
「いや、お前、有名人だからさ。案外簡単に見つかるかな〜って……まぁ、でも」
「……なによ?」
「そこら辺うろついてても、誰もお前だって気付かないかもな、そのカッコじゃ」
見慣れた勇者の旅装ではなく、ブラウスにスカートというごく普通のいでたちだ。頭には、なにやら可愛い刺繍の入ったスカーフとか巻いていて、道ですれ違っても俺もすぐには気付かないかも知れない。
うん、まぁ、馬子にも衣装ってところか。
「あんたが知ってるカッコが特別で、こっちが普段着なのっ!!」
ですよね。そりゃそうだ。
「なんなのよ、もぉっ!!もっと他に言い方ないの!?似合うよとか、可愛いよとか!!」
「あ、ああ、良く似合ってて可愛いよ」
マグナはムキーッとなって、手足をじたばたさせた。
「なにそれ、そのまんまじゃない!!そんな、いかにも言わされてますみたいな言い方されて、嬉しいとでも思ってんの!?お世辞のひとつくらい、自分で考えなさいよ!!」
あーもーなんなんだよ、めんどくせーなーもー。
俺は掴んだままのマグナの手をたぐり、真面目ぶって軽く引き寄せた。
「ごめんな。お前のそういう格好見るの初めてだったから、ちょっと照れくさかったんだ。うん、すげぇ可愛い。びっくりした」
俺もよく言うよ。
「嘘ばっかり。適当なこと言って……離しなさいよ。そんなつもりじゃないんだから、気持ち悪いわね」
はいはい、仰せのままに。
ぐいと胸を押されて、俺はマグナから身を離した。
お互い、こんなどうでもいい話をするつもりじゃなかった筈だ。
「何か用なんだろ。上がって茶でも飲んでくか?」
「……いい。帰る」
またそれかよ。だから、お前は何をしに来たんだ。なに意地を張ってんだ。
『――なにがあったか分かりませんけど、仲直りしてくださいね』
心配そうなシェラの顔が、頭に浮かぶ。
分かった。分かってるよ。
「ちょっと待てって。俺がお前を探してたのは、その……謝ろうと思ってだな」
嘘だ。俺は、何も考えちゃいなかった。ついさっきまで、こんなことを言うつもりはなかったんだ。
「もう、考え直せとか、止めろとか言わねぇよ」
立ち去ろうとしていたマグナが、足を止めた。
言葉とは裏腹に、実際はまだ迷っている。だって、いいのかよ?本当は、止めるべきだろ。
だが、続く言葉は、思ったよりすんなりと出ていった。
「……俺も、手伝うよ」
返事がない。
膨らんでいく戸惑いに急かされるように、俺は口を開いたが、意味のある単語が出てこない。
「なぁ……その、なんだ。だから――」
「もうすぐ決行だからね。細かい打ち合わせするんだから、明日からあたし達が泊まってる宿屋に来なさいよ」
背中を向けたまま、マグナは早口でまくし立てた。
「……あいよ」
俺の返事に一拍遅れて、マグナは怪訝な面持ちで振り返る。
「あいよって、あたし達がどこの宿屋に泊まってるか、分かってんの?」
「知ってる。シェラに聞いた」
「ふーん……あっそ」
なんだ、その目は。俺は別に、なにも悪いことしてないぞ。
「明日は、あのコも抜け出して来る手筈になってるから、調度いいわ。お昼ぴったりに来なさい。遅れないでよね」
「了解、リーダー」
フン、と鼻を鳴らしたマグナは、何歩か進んで立ち止まる。
「大体、あんたは、アリアハンを出るまでは、あたしの目の届くところに居なきゃいけないんだから、あんまり勝手なことしないでよね!」
こちらを向いて、いーっと歯を剥き出す。ガキか。
ああ――俺は、はたと気付いた。
「送ろうか?」
「結構よっ!!」
力強く言い捨てて、大股でのしのしと去っていく。あんまりスカートで、そういう歩き方しない方がいいと思うぞ。
何故だかこみ上げた笑いを堪えきれずに、俺はバレないようにちょっと顔を背けて吹き出した。
この部屋、近い内に解約しないとな。
マグナが見えなくなるのを見送って、俺は自室の扉を引き開けた。
ヴァイスくんは、自分で言うより全然コゾーです。
またこんなに長くなっちゃいました。あっはっは。
普通に書くよりは、だいぶ端折ってる筈なんですが。恐縮です。
あと、144さんがちょうど絵をアップしたところだったのに、
なんかタイミング悪くてすみません><
CCさん乙です! いや〜リィナもおっぱい!おっぱい!ですね、さっそく妄想してしまいました
乙乙〜!!
文章上手いなぁ〜俺もそんくらい書けるようになりたい…
>>CC氏
乙です。
ヴァイスの自分への言い訳が面白すぎるw
リィナはもう・・・最高だwwwww
読んでくださった皆様、ありがとうございます
とりわけレスしてくださった方々に感謝を
レスがつくと、読んでくれてる人がいるんだなぁ、と思って、ちょっと安心しますw
それにしても、やっぱり、おっぱいは偉大なんだなぁw
次は、あまり日を置かずに投下できる予定ですので、どうぞ宜しくお付き合いくださいませ
>>253 YANA氏のPCがあぼんして見切り氏や執筆氏も行方不明な今、
おっぱいを書いてくれるあなたは貴重だ。
wktkしてるからがんばって。
255 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/10/07(土) 09:52:56 ID:vQgyt3/S0
age
保守
結局色々書き直しつつほしゅ
投下を期待しつつ保守
なんとしたことじゃ……。やっと平和がとりもどせると思ったのに……。
闇の世界が来るなど みなにどうしていえよう……。
○○○○よ 大魔王ゾーマのこと くれぐれも秘密にな……。
もうつかれた……。 さがってよいぞ……。
べ、別に倒して欲しいとかそういうのじゃないんだからねっ!///
うーん、デレじゃないな。
4. SO YOU WANNA BE A GANG STER
「遅い!!」
客室の扉を開いた俺を、いきなり文句が出迎えた。
マグナと和解した――と言っていいのかどうか分からないが――その翌日。
さんざん街中を探し歩いてくたびれていたので、昨日は酒も飲まずに早々と眠った俺は、今朝も早くに目が覚めて、指定に遅れることなく宿屋を訪ねた筈なのだが。
俺が抗議するまでもなく、正午を知らせる教会の鐘の音が、計ったように遠くで響いた。
ほら、な?時間ぴったりじゃねぇか。
「……シェラなんか、とっくに来てたんだからね」
それでも言い募るマグナ。タマには自分の間違いを、素直に認めたらどうだ。
「おみやげは〜」
ベッドで仰向けに寝転がって、顔だけこっちに向けながら、リィナが久し振りに会った親戚の子供のようなことを言った。
今日は、ちゃんと服を着ている。別に残念じゃねぇよ。サラシは巻いてないみたいだしな。服の上からでも、やっぱデケェ。
「ねぇよ、ンなもん」
「え〜。シェラちゃんは、クッキーいっぱい持ってきてくれたのに〜」
寝たままゴロゴロ転がって、ベッド脇のテーブルの上からクッキーを摘み取る。部屋に入った途端に漂った、甘ったるい匂いのモトは、それか。
「あ、でも、私も余ったのを持ってきただけですから」
済まなさそうに俺を見るシェラの台詞を聞き流し、リィナはパクリとクッキーを頬張る。
「自分で焼いたんだって。すごいよね〜」
「そんな、普通ですよ」
「そうなの?ボク、お菓子なんて作ったことないよ」
「あたしは……タマに焼いたりしたわよ、クッキーくらい」
よく聴き取れなかったが、おそらくマグナはそう呟いた。とても小さな声で。
「すっごいおいしいよ、これ。はい、あげる」
指に挟んだクッキーを、リィナは手首のスナップだけで俺に放った。危ね。目の前に迫ったそれを、咄嗟に掌で受ける。
「あー。そのまま口開ければ、ちゃんと入ったのに」
アホか。喉の奥に当たってムセるわ。うん、確かにうめぇな。
「はいはい、食べ物をおもちゃにしない」
パンパンとマグナが手を打った。お母さんか。
「それじゃ、打ち合わせをはじめるわよ」
そう言って、マグナは幾重にも折りたたまれた大きな紙を、ベッドの上に広げはじめた。
「お前、これ……」
城の見取り図じゃねぇか。どうやって手に入れたんだ。こんな重要な物、おいそれと城外の人間の手に渡るモンじゃねぇぞ。
そう言うと、マグナはなんでもないように答える。
「あたしが書いたのよ。王様に報告に行った時、お城の中で行けるところは全部回って憶えたから」
憶えたって、お前。そんな簡単に言うけどな――
「あたし、記憶力はいいのよ」
はぁ、そうですか。きっぱり言い切られて、なんだか反駁する気も失せてしまった。
そういえば、地下牢に俺達を案内した時も、全く迷う素振りを見せなかったな。よく考えたら、マグナも城に入ったのは、あの時で二回目か。どうやら、記憶力がいいのは定からしい。
「そんなこと、どうでもいいでしょ。じゃあ早速、シェラに首尾を報告してもらいましょうか。こっちに来て」
図面を広げたベッドの上で、マグナが手招きする。二つピッタリつけてあるので、そこそこ広い。というか、部屋の大半はベッドで占められているので、他に場所がないのだ。
いつの間にか、リィナは邪魔にならないように、テーブルを挟んで置かれた椅子の片方に移動していた。
「あ、はい。えっと……見回りは二人一組で、一刻置きに朝まで交代でするそうです。大体、一周するのに半刻くらいかかるって聞きました」
「ふぅん。じゃあ、上手く避ければ、短くても半刻以上は時間がある訳ね。充分だわ。どういう経路で回ってるかは、分かった?」
「あ、はい。大丈夫です」
「じゃあ、この見取り図の上で、指でなぞってみてくれる?」
「はい。えと、見回りの人の詰め所がここで……ここから、こう行って、ここでこっちに――」
シェラの説明を受けながら、マグナは図面に順路を書き込んでいく。
それを眺めつつ、ボリボリとクッキーを頬張るリィナ。余程気に入ったらしい。俺も、もう一ついただこう。
入り口の近くに突っ立ったままだった俺は、ベッドの脇に回り込んで、テーブルからクッキーを摘み上げた。
口に運びながら何気なくマグナ達の方を見て、この立ち位置が非常によろしいことに気が付く。
マグナは折り目の入った赤いスカート、シェラは清楚な白のワンピースという差こそあるものの、両方とも膝上くらいの丈なので、むこうを向いて四つん這いになっていると、なんというか、その、見えそうで見えないギリギリ感が、とても大変素晴らしい。
いや、見えてねぇよ。見えちゃダメなんだ、逆に。特に約一名は。
着衣の裾からすらりと伸びる脚を遡っても、肝心なところが隠されて見えない。そこから先は想像で補うしかない、そのもどかしさがいいんじゃねぇか。
その上マグナは、黒い長靴下を履いている。上も下も隠されることで、腿だけ出ている素足がやけに白く見えて、より一層に扇情的だ。
それにしても、ガキには興味のない俺をして、何故この感覚は、こうも男心を鷲掴みにするのだろう。
体が動くのに合わせてわずかに揺れる裾が、ギリギリ加減をことさらに強調して堪らない。
いっそのこと、無理矢理めくって中まで見てしまたい衝動に駆られるのを、懸命に我慢して堪えるこの感覚。
まだもうちょいイケる。そうだ、もう少し図面の上の方に手を伸ばすんだ。よーし、いいコだ。そのまま腰をさらに突き出せば、もっとギリギリ――いや待て、俺が視線を下げればいいんじゃないか?
椅子の位置を確認する為に素早く首を巡らせると、リィナが目だけ俺の方に向けて、にへらと笑っているのが視界に入った。共犯者の目つきだ。お前も見てたんかい。
って、ばっか、違ぇよ。俺はここまで歩いてきて疲れたから、椅子に座りたいだけだっての。大体、なんでお前はスカートじゃねぇんだ。今の両膝を立てた姿勢じゃ、ギリギリとはいかないが、それはそれでまた――いやだから、そういうんじゃなくて。
素知らぬ顔で、椅子に座るのを止めてやった。
つか、なにやってんだ、俺は。
「ほい」
反省しつつも、ギリギリな眺めから目を逸らせずにいると、リィナが親指でクッキーを弾いた。俺の口に当たって床に落ちる。
正にその時、シェラの説明が終わったようで、マグナは四つん這いを止めてベッドの上で座り直した。何かに気付いたように、こちらを振り向く。
「おいおい、リィナ。クッキーは、自分で取るからいいってば」
その視線を避けるように、俺は床に落ちたクッキーを拾った。我ながら、口調がわざとらしい。
尻の下でスカートを押さえて、疑り深げに俺の様子を追うマグナ。その仕草でシェラも気付いたらしく、ぺたんと座った腿の間に両手を挟んで裾を押さえ、顔を赤くして俯いた。
結局、マグナは特に何も言及しないまま、シェラに向き直った。
「ありがと、よく調べたわね。すごいじゃない。もうちょっと時間がかかると思ってたんだけど」
危ねぇ。証拠不十分で、お咎めなしときた。お前、いい奴だな、リィナ。
「い、いえ……あ、はい。その、自分でもこっそり隠れて調べようとしたんですけど、全然できなくて。実は、仲良くなった人が、色々教えてくれたんです」
「あ、ちゃんと誰かと仲良くなったのね」
「はい。ペップさんていう若い男の人なんですけど、その人も割りと最近お城勤めになったそうなんです。慣れない苦労は良く分かるからって話かけてくれて、それで仲良くなりました。とっても親切で、私が聞いてないことまで、色々教えてくれるんですよ」
さもありなん。正体がバレない限り、シェラの前では大抵の男は親切な筈だ。
「これもペップさんに伺ったんですけど、見回りの他に、朝まで廊下にずっと立ってる見張りの人もいて、それは二人一組じゃなく一人だそうです。だから、この当番は淋しくて嫌いだって言ってました」
「当番ってことは、受け持ちを回してるのかしら」
「はい。今日はこの人がここの見張りで、この人とこの人は見回りで、この人は今日はお休み、とか毎日変わるそうです」
多過ぎる代名詞を補うように、シェラは身振り手振りを交えて説明した。
「もしかして、見張りがどこに立ってるかとかも、全部分かる?」
「あ、はい。聞いてます。そんなに多くないです。えっと、ここと、それからここと――」
一生懸命、記憶を辿りつつ図面を指し示すシェラを見ながら、俺はぼけーっと考える。
『いつもは、どんな風に見回りしてるんですか?』
『見張りの時は、ここで一晩中立ってるんですか?大変ですね』
最近、お城で働くようになったメイドさんに、そんなことを聞かれたペップくんは、どう思っただろう。どこから見ても犯罪なんかとは無縁の、可憐な極めつきの美少女に、だ。
このコ、俺に興味があるんだろうか。夜中にこっそり、人目を忍んで会いに来てくれるつもりだろうか。
顔も知らないそいつの胸の高鳴りが容易に想像できて、俺の胸はちょっと痛んだ。
ごめんな、ペップくん。お前さん、ジツはまんまと弄ばれてるんだ。
でも、お前が懸想している美少女は、ただ指示に従ってるだけなんだ。恨むんなら、作戦を考えた勇者様の方にしてやってくれ。
「そのペップって人が、次に宝物庫の見張りに立つ日は分かる?」
「はい。え〜と……」
シェラは頬に手を当てて考え込む。多分、ペップくんから聞いた持ち回りの予定を思い出しているのだろう。そんなことまで教えんなよ、ペップくん。何を期待してんのか、バレバレだぜ。
「……明後日ですね。一番近いのは」
「じゃあ、もうその日に決行しちゃいましょ。今日はただの中間報告のつもりだったんだけど、これだけ分かれば充分だわ。ホントによく調べてくれたわね、シェラ。毎日、ただ飲んだくれてた誰かさんとは大違い」
誉められて、シェラは嬉しそうな、だが微妙に複雑な顔をした。大量の酒瓶の話は、俺が来る前に伝わっていたらしい。俺だって、好きで飲んだくれてた訳じゃねぇや。
「シェラには当日、そのペップって人を誘い出して、見張りの場所から離してもらうから、そのつもりでね」
純情な男心を利用しようと言うマグナの表情に、悪びれたところは微塵もなかった。女は怖いよな、ペップくん。
「え、でも、どうやって……」
「それだけ仲良くなってれば、どうにでもなるわよ。ちょっとお話があるんです、とか言えばホイホイついてくるわ。男なんて、バカばっかりなんだから」
マグナはスカートの裾を押さえて、ちらと俺に目をくれた。まだ疑ってやがるな。
哀れな新米警備兵をどうやって引き留めておくか、マグナがシェラに吹き込んでいるのを横目に見ながら、俺は少々手持ち無沙汰だった。ずっと二人の間で会話が進んでるしな。
クッキー咀嚼機と化したリィナは、時折紅茶を口に運んでいればそれで満足そうだったが、俺はもう甘い物は充分だ。することもなく、部屋を見回すように視線を泳がせる。
「今日は、片付いてるじゃん」
無意識に呟いた俺は、ふと会話が途絶えたことに気がついた。
視線を感じて恐る恐るそちらを向くと、マグナが眉根を寄せて俺を睨んでいた。
「ちょっと……今、なんて言ったの?」
「え、いや、別に……」
「まさか、あんた昨日、ここに来たの?」
「うん、来たよー」
あっさり首肯するリィナ。いやいや、お前、空気読め。
「ちょっと、なんで入れたのよ!!あんな状態、見せないでよ!!」
「ごめん、気が付かなかったよ」
「ホントお願いよ……あんたも、女の子の部屋に、なに無遠慮に入ってんのよ。そこらをジロジロ見たんじゃないでしょうね!?」
いや、まぁ、転がってた下着なんかは見させてもらいましたがね。うへへ。
とか言う筈もなく。命は惜しいからな。
「いや、別に俺は何も……」
俺の言い訳を待たず、マグナは勢い良くリィナに視線を飛ばした。
「ちょっと待って……まさか、リィナ、あのカッコのままじゃなかったでしょうね!?」
「あのカッコっていうか、マグナが出ていった時のままだよ。ねー?」
だから、知らねぇって。にへとか笑いながら俺を見るんじゃねぇ、この破廉恥娘が。
で、マグナに睨まれるのは、何故か俺なんだよな。世界は理不尽で満ちてるぜ。
「……信じらんない。あのね、こんなのでも、いちおう男なのよ?なにかあったらどうするのよ」
まぁ、一応でしかないこんな男が、力ずくでリィナをどうにかできるとは思えないのですが。
揚げ足を取るような俺の卑屈な言い分に、身も蓋もなく「そうそう」とリィナも同調したが、マグナは何が気に食わないのか、「そういう問題じゃないでしょ!?」と一層キレた。
そんなマグナを、安心させて落ち着かせようとしたんだろうが。
「大丈夫だよ。おっぱい見せようとしたけど、ちゃんと断られたし。ね?ヴァイスくん、大人だもんね」
ちょ、おまっ。やっぱりお前は、いい奴なんかじゃねぇ。
「ふうぅ〜ん……あたしがあんたの部屋の前でずうぅ〜〜〜っと待ってた間、あんた達はそんなことしてたんだ?へえぇ〜〜〜ぇえ」
ああ、怖い。怖いですから。その、嵐の前の静けさみたいな、地獄の底から響いてくるような低い声は止めてください。
この後、マグナは親の敵みたいに俺を睨み倒しながら、猛烈な勢いで延々と文句を喚き散らし、シェラは口を押さえて目を丸くするだけだし、リィナは他人事のような顔をしてクッキーを頬張るだけだし、嵐が収まるまでしばらくかかった。
しかも結局、スカートの中覗いてたでしょ変態、とか言われてやんの。
やっぱり、悪事は必ず露見するよな。だから、城に盗みに入るなんて馬鹿な真似も止めようぜ。
とは、とても言う勇気がなかった。
そして、二日後。
マグナが考えた計画の中で、最も問題だったのは、城への侵入方法だった。
もちろん人目の多い昼間は避けて、決行は夜が深けてからだが、そんな時間に堂々と橋を渡って正門から入城する訳にはいかない。というか、泥棒に入ろうというのに、わざわざ門番の前を通る馬鹿はいない。
なので、城の周りをぐるりと囲むお堀をどうにか渡って忍び込む、という考えに自然と行き着く訳だが、マグマの提案したアイデアが、これまたふるっていた。
俺のヒャドで城濠の水を凍らせて橋を作り、その上を渡ろうというのだ。
アホか。荒唐無稽にも程があるわ。やくたいもない吟遊詩人の奏でる夢物語に影響され過ぎだっての。
まだ「普通に泳いで渡る」というリィナ案の方が、よほど現実的だ。マグナがそれを頑なに拒否したのは、あれはカナヅチだからだな、きっと。尤も、水が汚くて泳げたもんじゃないから、俺もこの案はお断りだ。
大体だな、お堀なんてモンは、そもそも侵入者を阻む為に存在してるんだ。当然、見張りもいるし、素人がそうホイホイ渡れてたまるか。
『じゃあ、どうするのよ。お城に忍び込めなきゃ、話が進まないじゃない』
ムクれるマグナに、俺は言ってやったものだ。
あのな、お前、自分が何者だか思い出せよ――
キィ、と蝶番の軋る音が聞こえた。
カーテン越しに微かに漏れる月明かりの他は、ほとんど真っ暗だった室内に、手持ちランプのぼんやりとした灯りがもたらされる。眩しい。
「今、見回りの人が出ていきました」
小さな声で囁いて、滑り込むように入室してきたのはシェラだった。
警備兵の詰め所にお茶を差し入れに行って、「自分の部屋」に戻ってきたのだ。
そう。俺達は今、住み込みで働く小間使いの為に、城内に用意された部屋の一室にいるのだ。
勇者であるマグナは、昼間ならば誰にも見咎められずに易々と入城できる。それは、バコタに話を聞きに来た折に証明済みだ。
ならば、素直に入れる時に入って、あとは夜までどこかで身を隠していればいいだけの話だ。城濠を渡る算段なんか、苦労して考える必要はねぇんだよ。
俺がそう言って聞かせると、マグナは拍子抜けした顔をした。
あのな、説明された後では阿呆みたいに簡単な話に思えるだろうが、お前の案を実行してたら、間違いなく城に忍び込む前にとっ捕まってたぞ。つか、その前に入れもしないで、あっさり計画が頓挫してたっての。
素直に、この逆転の発想に驚けよな。リィナやシェラは、ちゃんと感心してたぞ。
念の為、午前中に立っていた門番が、夕方には交代していたのは、昨日の内に確認してある。
つまり、今日の午前中に入城した俺達を見かけた門番は、もしそれを覚えていたとしても、きっと夕方に帰ったのだろうと考える筈だ。
それでなくとも、マグナには勇者の肩書きがある。まさか勇者が泥棒を働く訳がない、という先入観も手伝って、実際にお縄を頂戴しない限り、俺達が疑われる可能性はほとんど無いだろう。
シェラがすんなり雇われたことから分かるように、現在、城の小間使いが人手不足だったのも、俺達には都合が良かった。人数が多い時は、この決して広くない部屋も相部屋になるそうだが、今はシェラだけに割り当てられている。
お陰で、部屋に忍び込む時だけ誰にも見られないように気をつければ、後はのんびり待っていられたという訳だ。やたら暇だったが、食物庫あたりで小さくなって身を隠すよりは万倍マシだった。
シェラにしても、他人と同室にならずに済んだのは、正体を隠す上で運が良かったと言うべきだろう。
「ほら、そろそろ起きて」
「ん〜……あい」
マグナに腕を叩かれて、ベッドの上で身を起こしたリィナは、眠そうに目を擦る。こいつ、本気で眠ってたな。主が不在の部屋で物音を立てる訳にもいかず、寝るくらいしかすることがなかったとはいえ、図太い神経してやがる。
見回りに追いつかないように頃合を計って、俺達は泥棒の準備をはじめた。
顔に黒い布を巻きつけて、目と鼻だけ覗かせる。足には、底に厚手の布を重ねて音を吸収するようにした、お手製の黒い袋を履くという念の入れようだ。
最初から上下とも黒い服を身に着けていたので、全身すっかり黒づくめになった。
廊下に灯りのある箇所は限られているし、間隔も広い。充分に残された暗がりに身を潜めれば、黒づくめの俺達が発見される確率は非常に低い筈だ。つか、こんな格好までしたんだから、そう願いたい。
「それじゃ、行くわよ」
マグナの小声の号令一下、俺達は忍び足で部屋を出た。
手持ちランプの光が届かない程度に距離を置いて、俺達はシェラの後をつける。
泥棒とはおよそかけ離れた面子のせいか、それとも冗談みたいな黒づくめの格好のせいか。ついさっきまでは、これから盗みを働くのだという現実感がまるでなく、むしろ馬鹿馬鹿しいという感想が先に立っていたのだが。
昏い廊下を音を立てないように歩く内に、さすがに少し緊張してきた。
が、しばらく続くと、元から緊張感が足りない所為か、その状態にも慣れてしまう。
ぼうとしたランプの灯が左右に揺れて、床にうねうねと影を描き出す。踊る影を従えて、暗闇に向かって歩く小柄なメイド服の後姿は、一定のリズムを刻む足音と相俟って、どこか非現実的な――幻想的な気分を俺の裡に湧き起こさせる。
いかんいかん。いくら冗談みたいでも、これは現実なのだ。下手を打って捕まれば、実際に牢屋に入れられてしまうのだ。
俺は頭をひとつ振ると、改めて周囲の様子と己の足運びに意識を集中し直した。
シェラの報告は正確だったようで、見回りの兵士に出くわすこともなく、俺達は唯一の難関に差し掛かった。
宝物庫に辿り着くまでに、どう迂回しても避けることができない見張りが一人だけいたのだ。
ここを切り抜けられるかどうかは、シェラの手腕に託されている。細くて頼りないが、他にいい方法を思いつけなかった。
「おい!」
充分予期していただろうに、鋭く呼び止められて、シェラがびくりと跳び上がったのが見えた。多分、泣きそうな顔をしてるに違いないが、俺達の命運がかかってるんだ。なんとか踏ん張ってくれ。
「誰だ!そこで何をしている!?」
カツカツと足音を立てて近づいてきた年配の兵士の誰何は、急に猫なで声に変わった。
「ああ、なんだ君か。どうしたね。こんな時間に、うろうろしちゃいけないよ」
「え……あ、えと、その……」
頑張れ。頑張るんだ、シェラ。
「私……あの、ペップさんに、その……」
「ああ」
既にペップくんの懸想は城内の噂になっているのか、兵士のオヤジは全てを了解したように、ニヤリと下品な笑みを浮かべた。
「そういうことか。あいつも、大した果報者だなぁ」
ニヤニヤしながら、顎などさすって無遠慮にシェラをジロジロと見る。
口篭もっている間にも、シェラは言いつけ通り、オヤジがこちらに背を向けるように、ジリジリと立ち位置を変え続ける。エラいぞ、もうちょいだ。
「まぁ……本来は、あまりよろしくないんだがな」
「……そうですよね。すみません」
上から下までねめまわすオヤジの視線を避けるように、シェラはなるべく自然な風を装いながら、残りを一息に回り込んだ。
「まぁ、若い二人の為だ。少しは目を瞑ってやらんでもないが……」
よし、行ける。
振り向いたリィナに、俺とマグナは小さく頷いてみせた。
リィナを先頭に、足音を忍ばせて、できる限り暗がりを選んで素早く移動する。
「あいつも仕事中だからね。あんまりヘンなことをして、長居しちゃイカンぞ」
「は、はい、分かりました。ありがとうございます」
「とは言え、あの小僧じゃ、いたしてもあっちゅう間か」
がっはっは、とか一応抑えた笑い声をあげる。なんつーことを言っとんだ、このオヤジ。
幸いシェラには言葉の意味が通じなかったようで、特に何も反応せず、オヤジの肩越しにちらりと俺達の方を確認した。オッケーだ。よくやったぜ。
「あの……それじゃ、失礼します」
脇を抜けて立ち去ろうとしたシェラの尻を、オヤジはポンと叩いた。
「ひぁっ!」
「おう、頑張れよ」
なにを頑張るんだ。
ケツを触ったのを誤魔化す為の、何の意味もない掛け声から逃げるように、シェラは小走りにこちらに向かって駆けてきた。
追い越す時に、泣きそうな顔を俺達に向ける。どことなく、目つきが恨みがましい。呼吸もかなり乱れていて、相当な緊張を強いられたと思しかった。いやいや、お手柄だせ。
リィナにぐっと親指をあげられて、少し顔をほころばせたシェラと距離を置き、俺達はまたこそこそと後をつける。
間も無く、左に折れればすぐに宝物庫、という角までやってきた。
シェラの耳に顔を寄せて、マグナが布越しにくぐもった声で囁く。
「じゃあ、頼んだわよ」
「……はい」
心細そうな表情で、小さく頷くシェラ。
リィナも、口の辺りをもそもそ動かした。多分、頑張れとか何とか声に出さずに言ってるんだろうが、口も黒い布で隠してるから、伝わってないと思うぞ。
俺は、声をかける代わりに、軽く肩に手を置いた。健気に返された微笑みを目にして、俺は申し訳ない気分になる。こいつに頼り過ぎなんじゃねぇの、この作戦。
まぁ、言っても今更だし、今夜のキモはこれからだ。済まないけど、もうひと働き頼んだぜ。
廊下の角に身を隠し、下から四つん這いのリィナ、身を屈めたマグナ、それに覆い被さるような体勢の俺という順で、こっそり顔を覗かせてシェラを見送る。
どうも体をピッタリとつけ過ぎたようで、マグナに肘打ちを食らった。狭いんだから、しょうがねぇだろうが。こんな状態で、別にあったけぇなとか柔らけぇなとか、いちいち考えてねぇっての。
おどおどしたシェラの足取りが、意図せず躊躇っているみたいな空気を醸し出していて、いい按配だ。雰囲気作りが肝心だからな、この作戦。
ほどなく、右手に折れる角の直前で、シェラは足を止めた。すぐ横が、目的の宝物庫だ。
「誰だ?」
足音で察しをつけていたのだろう。問う声には、ある種の期待感が込められていた。
そのままシェラが動かずにいると、やがて角から兵士が姿を現した。
「あの……こんばんは」
「シェラさん……」
吃驚したように、シェラの名前を呼ぶ。どうやら噂のペップくんに間違いなさそうだ。
手持ちランプに照らされた、そこそこ育ちの良さそうな顔立ちは、かなり若い。せいぜい、マグナよりひとつふたつ上くらいなモンじゃなかろうか。
シェラは黙って俯きながらエプロンをいじくり、ペップくんもなにやら頭を掻いたりして、しばらく無言のお見合い状態が続いた。
自分から声をかけるべきだと勇気を振り絞るように口を開け、結局何も言わずにまた閉じる、という行動を繰り返すペップくん。
シェラは言われたことをこなすだけで、頭が一杯の筈だ。今、モジモジしてるのだって、「向こうから喋らせてやるのよ」というマグナの言いつけを忠実に守って、沈黙が居心地悪いからに過ぎない。
お前が想像してることは、単なる錯覚なんだ。二重の意味で。
だから、そんな逡巡は無意味だっての。さっさと話を切り出しやがれ。だらしねぇな、このペップ野郎は。
「……あの、ど、どうして、こんなところに?」
やっと声を出したと思ったら、どもってやんの。
「あ、はい。その……」
「い、いけませんよ、こんな時間に」
あ、弱ぇ。返事を待つのに耐え切れないで、誤魔化しやがった。
「……ごめんなさい」
「あ、いえ、別に咎めている訳では……その、こんな時間に、お一人じゃ危ないですから」
アホか。城の中なんて、これ以上安全な場所もないわ。
「それで……どうして、ここに?」
やっぱり、確認せずにはいられなかったらしい。
シェラは、ちらちらとペップくんを見上げながら、エプロンの裾をぎゅっと握った。
「その……お話ししたいことがあって……」
「ぼ、僕にですか?」
「……はい」
どうでもいいが、まるで何かを憚るようにペップくんが小声で喋るもんだから、シェラもつられて囁き声になって、聞き取り辛いことこの上ない。まぁ、別に会話を逐一耳に入れる必要はないんだが。
「な、なんで、こんな時間に、こんなところで?」
「その……他の人が居るところじゃ、話せないから」
シェラは一層下を向き、ペップくんはごくりと唾を飲み込んだ。
なんか、むず痒くなってきた。
「そ、それは、一体どういう――」
「あの」
シェラはペップくんの言葉を遮って、顔を上げた。
「は、はい」
「あの……よかったら、あちらの噴水のところでお話ししませんか?」
廊下の奥に、噴水があるのだ。さぁ、そこが周りを壁に囲まれていて、万が一誰かが来ても見られ難いことを思い出すんだ、ペップくん。
「いや、でも……自分は今、ここの見張りをしていますから」
ちっ、真面目な坊ちゃんだな。
「あの、ちょっとだけでいいんです。私、あの噴水の雰囲気がすごく好きで……あそこなら、上手にお話しできるかなって……」
咄嗟に考えたにしては、上手い流れだ。そうそう、こういう時、女の子には雰囲気が大切なんだぜ、ペップくん。
「駄目……ですか?」
シェラは、上目遣いでペップくんを見た。俺の想像だと、計画が成功するか否かの瀬戸際なので、不安で瞳が潤んでいる筈だ。これは、断われないだろ。
「わ、分かりました。ちょっとだけなら……」
計画通りにコトが運んで、ほっとしたのだろう。シェラは顔を明るくして、ペップくんの手をとった。
「ありがとうございます!……あっ」
慌てて手を離すシェラ。そりゃ、ペップくんでなくても誤解するわ。
「そ、それでは、参りましょうか」
ぎこちなく促すペップくん。ありゃ、想像が確信に変わったな。せめて短い間だけでも、いい夢を見るがいい。
二人が連れ立って廊下の奥に消えるのを待って、しばらくしてからリィナがふーっと息を吐き出した。
「なんか、ドキドキしたね」
そうか?俺は、むず痒さを堪えるのと、心の中で突っ込みを入れるので忙しいだけだったが。
「……ほら、急ぐわよ」
特に何もコメントを残さず、リーダーは小声で号令を発した。
こそこそと忍び足で宝物庫に向かう。傍から見たら、さぞかし間抜けな光景なんだろうな、これ。
「頼んだわよ、リィナ」
「まっかせて」
隠しからバコタの錠前外しを取り出し、宝物庫の扉についている大きな南京錠を外しにかかる。扉の脇には燭台が据え付けられており、その上で蝋燭が燃えているので、手元はそれなりに明るい。
さすがに十とはいかなかったが、三十は数えない内に、ガチンと音がした。見事な腕前だ。こいつ、盗人としてもやっていけるのでは。
「へへ〜。楽勝だね」
「ありがと、流石ね。それじゃ、入るわよ」
把手を握ったマグナが扉を押すと、ほとんど開けない内にガツンと何かに引っかかった。それ以上、動かない。
「え、なに?他に鍵なんて――」
いや、違う。これは、内側から閂かましてやがるんだ。って、ちょっと待て。内側からだと?
「何者だ!そこで何をしている!」
問う声は、扉の向こう側から聞こえてきた。つまり、宝物庫の中にも見張りがいたってことだ。
聞いてねぇよ。くそったれ、なんて念の入れようだ。
「逃げるぞ!」
駄目だこりゃ、失敗だ。向こうが一枚上手だわ。捕まる訳にはいかねぇし、ここは逃げの一手だろ。
「こっち!」
元来た道とは正反対の方向に、リィナが誘導する。お前、そっちは例の噴水があるだけで、行き止まりの筈だぞ。
だが、シェラの回収もある。迷っている暇はなかった。
「おい、ペップ!何をやっている!?何が起こってるんだ!」
扉を開けて、わざわざ賊を招き入れては元も子もないという判断だろう。今のところ、追ってくるのは怒鳴り声だけだが、いつ宝物庫の中の兵士が出てくるか分からない。近くの見張りも、おいおい駆けつける筈だ。
俺はマグナと目を合わせて、リィナの後に続いた。相談してる時間なんてありゃしねぇ。
リィナの駆け足は、恐ろしく速かった。あっという間に俺達を引き離し、向こう側に噴水のある壁を回り込む。
「なんだ、きさ……っ」
ペップくんの呻き声が聞こえた。
「シェラちゃん、お願い」
追いついた俺達の脇を抜けて、リィナは行き止まりの壁の方に走る。
ぐったりと横たわっているペップを引き剥がすと、怯えたシェラが胸元で手を組み合わせてガタガタ震えていた。メイド服のボタンがいくつか取れていて、スカートの裾が乱れている。
俺はペップの頭を強く叩いた。この野郎。坊ちゃんの癖して、いきなり襲いやがったな。これだから、女慣れしてない小僧は。
「大丈夫か?ほら、立てるか?」
手を差し伸べた俺ではなく、シェラはマグナにしがみついた。
まぁ、そうだよな。今のいまじゃ、男は怖いよな。でも、そんな怯えた目を向けられると、お兄さん傷ついちゃうな。
マグナは、シェラの頭を撫でながら抱き締める。
「うん、もう大丈夫よ。もう、怖くないから。こんなことさせちゃって、ごめんね」
一度でいいから、俺にもそんな風に優しく語りかけてみて欲しいもんだ。
「早く!こっちから逃げられるよ!」
リィナが壁の向こうで急かした。
「立てる?ごめんね、頑張ってくれたのに。失敗しちゃったの。早く逃げなきゃ」
「……はい」
マグナに寄りかかるようにして、シェラはよろよろと立ち上がった。今は手を出さない方がいいかとも思ったんだが、場合が場合だ。俺も横からシェラを支える。ビクッと震えたが、振り払われはしなかった。
できるだけ急いで声の方に向かうと、リィナが窓に向き合っているのが目に入った。
そうか、窓から逃げるつもりだったのか。でも、お前、そいつは嵌め殺しじゃないのか。
「ちょっと、リィナ!?」
「せぇの」
マグナの制止は間に合わず、リィナは手にしたデカい南京錠を思いっ切り窓に投げつけた。
派手な音がして、分厚い窓硝子が砕け散る。もう滅茶苦茶だ。
邪魔になりそうな硝子の破片を、窓枠からひょいひょい取り除いて、リィナは身軽に外に踊り出た。
「ガラスに気をつけてね」
そう言い捨てて、左手に走り去る。ここは確か、正門のすぐ近くだった筈だ。馬鹿、そっちには門番が詰めてる筈だぞ。
「なんだ!?何事だ!?」
「誰か、そこにいるのか……っ」
沸き起こった誰何の声はすぐに止み、代わりにドサリドサリと人が倒れる音がした。
俺達が窓から出た時には、すっかり全てが終わっていた。
「こっちこっち!」
城門の手前、その場で駆け足をしているリィナの足元には、兵士が二人転がっている。なんて手際の良さだ。どこの無法者ですか、あなたは。
「早く早く!」
呆気に取られていた俺達三人は、リィナの催促で我を取り戻した。そうだ、とにかく逃げなくては。まだかなり遠いが、宝物庫の辺りに警備兵が集まりつつある気配がする。
新たな衝撃が功を奏したのか、支えてやらなくてもシェラは自分で走れるようになっていた。
しかし、まさか堂々と――でもないが、橋を渡って城から出ることになるとはね。
あのままシェラの部屋に潜んだとしても、検分されてあっさり見つかっただろう。結果的には良かったのかも知れないが、無茶しやがるぜ、リィナのヤツ。
とりあえず俺達は、城の東側、教会の裏手の雑木林に身を隠した。この黒づくめの格好で街中に出ちゃ、却って目立っちまうからな。
リィナを除く三人は、ぜいぜいと荒く息を吐く。顔に巻いていた布は、息苦しかったので逃げる途中にはいだ。わき目もふらずに全力疾走してきたので、なかなか息が整わない。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ……アハッ、ハァッ……アハハッハァッ」
膝に手をついたまま、マグナがいきなり笑い出した。
「アハハ、ハァッ、アハ、もう……ハァッ……滅茶苦茶しないでよ、リィナ」
アハハハハ、とマグナは笑い続けた。俺もつられて笑い出す。ホント、無茶苦茶だぜ。
「大丈夫。顔は隠してたんだし、バレてないよ」
そういう問題じゃねぇよ、この無法者。
「アハッ……ハァッ……まぁ、もういいわ……助かったんだし。逆にお礼を言わないとね」
まぁ、そりゃそうなんだけど。
「いや〜、それにしても、見事に失敗しちゃったわね〜」
マグナは、またアハハと笑った。
「まさか、宝物庫の中にまで見張りを置いとくなんて、どんだけケチだってのよ、あの王様!」
「これから……どうするんですか?」
まだへたり込んで辛そうにしながら、シェラが顔を上げて尋ねた。
「ん〜……そうね。兵隊に見つかっても面倒だし……いいわ、このまま出発しちゃいましょ」
初めて目にするような、やたらスッキリした表情で、マグナは言った。
「出発って……旅にか?アリアハンを出るってことか?」
「そうよ。だって、もうここに用事ないもの。あれじゃ、さすがに諦めるしかないわ。明日から、警備はもっと厳しくなるでしょうしね」
宝物庫のお宝に、未練は全然無いように見えた。
いや、おそらく最初から、お宝自体に大した興味はなかったのだ。泥棒としては大失敗だったが、多分、成否の問題ではなく、マグナにとって今回の計画には、もうケリがついたのだ。
リィナの無法っぷりが、「一泡吹かせてやった」という感覚を、マグナに強く抱かせるのに一役買ったのかも知れない。
「とりあえず、レーベの村を目指しましょ。どうせ、通り道だしね」
まぁ、コトが済んだらすぐに出発するのは、当初の予定通りではある。必要な荷物は全部フクロに入ってるし、宿屋も俺の部屋も既に引き払ってあるし、このまま旅に出ても特に支障は無い。
ただ、ひとつだけ気になることがある。俺は、未だにしゃがみ込んでいるシェラに視線を落とした。
「でもな。あんな騒動があって、すぐにシェラが居なくなったら、疑われやしねぇかな」
「あ、それは大丈夫」
心配そうなシェラを安心させるように、マグナはにこっと微笑んだ。
「あの男にヒドいことされてショックだから辞めます、っていう書置きを、シェラの部屋に残しておいたから」
お前、いつの間に。
「どう言い訳してもどうせ無駄だから、嘘で全然良かったんだけど、まさかホントになっちゃうなんてね。ごめんね、シェラ。怖かったよね」
マグナは跪いて、ぎゅっとシェラを抱きしめた。
「はい……あ、いえ」
「ありがと。今回は、よく頑張ってくれたわ」
最初はおずおずと、やがて力一杯、シェラはマグナを抱き締め返した。
こいつ、はじめからペップを陥れるつもりだったのか。まぁ、あんなことがなければ、彼奴に同情してやらないでもないんだが、今となっては自業自得としか思えねぇな。
「さ、それじゃ急いで着替えて出発するわよ!あんたは、ず〜〜〜っとあっちで着替えなさいよね」
マグナは手を伸ばして、森の奥の方を指す。へいへい、分かってますよ。
こうして俺達、勇者様ご一行は、夜逃げ同然にアリアハンを後にしたのだった。
279 :
CC ◆GxR634B49A :2006/10/09(月) 04:09:40 ID:aZxDBxuc0
今回は、ギリギリ感で攻めてみました。いや、違くて。
マグナの記憶力がいいのは、勇者の「おぼえる」コマンドを受けてます。
時間の単位は分からなかったので、適当にボカしました。
フクロの扱いについては、おいおい作中で語る予定です。
あと、最初はまんまとお宝強奪に成功する予定だったんですが、
確認したら、盗賊の鍵じゃ宝物庫の扉を開けることができなかったので、
マグナ達には失敗してもらいました。あっはっは。
まぁ、主人公がいきなり犯罪をおかさずに済んだので、
結果的にはよかったかな、と思います。
アリアハン大陸を出るまでに、あと3、4回はかかるかなぁ。。。
乙でした!
次回もwktkしてまってるぜ!!
リアルタイムだった乙
乙ですCCさん! 前半の萌え所に、後半の潜入〜脱出〜旅立ちまでの流れがさすがです
椋鳥さん、ごめんパス忘れたんだけど・・・OTL
↑訂正します
おつ〜
マグナはもう好きなのか〜ちょっと早い気がするw
でも凄く萌えますな!
読んでくださった方、レスしてくださった方、どうもです〜
>>285 ん?まだマグナもヴァイスも、お互いのことは特になんとも思ってないと、
少なくとも本人達自身はそう考えている風にしてるつもりだったんですが、
どこら辺でそういう印象を持たれましたでしょうか。
今後の参考にさせていただきたいので、宜しければ
教えていただけると大変助かりますです。
もしかして、私がそういうつもりだっただけで、
皆さん同じような印象を持たれてるんでしょうか。
は、恥ずかしいw
いやー、マグナの可愛げがここまで全然出てないなぁ、
とか思ってて、次回でテコ入れしようとしてまして、
そこでもちょっとそれっぽいというだけに止めるつもりなんですが、
う〜ん、やめておいた方がいいかなぁ。。。
>>287 その辺は一方通行でいいでよ。気にしなくていいと思うでよ。
CCの表現がわからないっていう事じゃなくて、こう読み取ったっていう事だから。
読み手の解釈と書き手の意図するところは必ずしも一致するわけではないから、
とにかく書きたいように書くでよ。
スレ汚しすまないでよ。
天むすさんへ
>>296 しいて言うなら、ヴァイスとマグナのやり取りが(特にケンカのとこ)、互いに素直になれない二人のそれに見えるような…
あとリィナの気遣いも既にそれを前提にしてる気がする(プラスそれで楽しんでるw)
こんなとこかなぁ…でも恋愛経験少ないから、そう見えただけかもしれない(童貞乙w
ってかむしろそのやり取りが凄く好きなんだよなぁ
だからもっと見たいってのが本音なんです
混乱させてスマソ('A`)
>>288 ありがとうございます。
そうですそうです、一度投下した文章に関しては、もちろん
どのように受け取っていただいても全然おっけーなのです。
ただ、今の時点では早いなぁ、と私も思いますので、ちょっと伺っておきたくなったですよ。
まぁ、それで書き方が変わるかと言えば、多分変わらないんですけどw
>>290 全然スマソじゃないっすよ〜。ああいうの書いていただけると、
「ああ、こういう風に受け取る方もいるんだなぁ」と分かって、
大変ありがたいです。どうそ、またレスしてやってくださいまし。
もともと次回で、その辺りのことについても触れるつもりでしたので、
お楽しみいただけるように頑張りますです。
>>CC氏
乙であります。
>>262とかもう大好きwwwww
読んでておもしろいなぁ。続きwktk
>>290 キラーパス乙
>>296 その発想はなかったわwwwwww
>>296 ちょwwwwwwwwおまwwwwwwwwwww
ドラクエでツンデレといえば大抵の人はマリベルを一番に挙げると思うのだが、俺はムーンを推すね。
なぁ、ドラクエにおけるツンデレって何だと思う?
その時に登場人物を挙げるようじゃあまだまだツンデレを分かってないよ。
ドラクエ1番のツンデレはスライム。これしか無いね。
よく考えてみ?ツンデレのツンはあのツノに表れてると思わないか?
あの可愛さの中で、敵を攻撃し得る唯一の武器。それがあのツノな訳。
あのツノで体当たりをする事がスライムの存在証明と言ってもいいだろ?
けどあのツノはただのツノじゃない。ちゃんとデレがあるんだよ、デレが。
ツノと言えば尖ってるのを思い浮かべるだろ?ところがどうだ!スライムのツノは丸いんだよ!
尖ってる方が攻撃力があるに決まってるのに、スライムのツノは丸まってる。しかも柔らかいし、可愛い。
これがいっかくうさぎのツノやおおがらすのクチバシなんかとは違うトコロ。
ツンの中にもデレを忘れない。これがツンデレの極意。
それを1番体現してるのがスライムって訳さ。
だからスライムをつくったヤツはツンデレを良く分かってるんじゃないかな、うん。
15点
301 :
144:2006/10/11(水) 04:28:35 ID:37VDEk2K0
>>301 GJ!!!!!
アリスの「ふぅ・・・」に萌えたwwwww
>>301 狂おしいほどにGJ!!!
次回、個人的にはアレイが見たい・・・
304 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/10/11(水) 20:11:18 ID:jMAYyPjS0
305 :
見切り切腹:2006/10/11(水) 23:43:23 ID:T9ODfbh/0
城門をくぐり、城内へと足を踏み入れた。
「此処はローレシアのお城です」門兵がいつもの如くアレンを迎え入れる。
然し何時も思うのだが、此の国の王子に対してその台詞はいったいどうなのか。
せめて、お帰りなさいませ、の方が良いのではないか。
いや待て、どうせならむさ苦しい兵士ではなく侍女を置いて――――
まで考えてふと思う。もしかして自分の顔が民草に知られていないだけか………?
一つ溜息を吐いて気を取り直す。
確かに公の行事に顔を出したことはあまりないが。
これはやはり、無事にハーゴンを倒して国に戻ることが出来たら、もう少し積極的に表に出るべきか。
だが…………いや、今はそんなことを気にしている場合じゃない。
それよりも、確かにロンダルキアにいたはずが、今ローレシアにいる。
何故こんな事になったのか。其れを明らかにする方が先だ。
城内はあまりにもいつも通りで、人々の顔は、殆ど見知ったもの。
何か判るかと思い声をかけてみるが、帰ってくる返事も記憶にあるもの。
殊更変わった話が出てくるわけでもない。
まぁ然しだ。話の内容が殆ど同じなことは未だ許せても、
未だに武器や防具を装備してください!とか真剣な顔で云われるのはどうなのか。
武具を全て装備しているのは、一目見て直ぐに判ることだろうに。
兵士でありながら其れは職務怠慢を責めるべきか、心配してくれることに礼を云うべきなのか悩む。
結局の処、苦笑することしか出来なかったわけなのだが。
306 :
見切り切腹:2006/10/11(水) 23:44:08 ID:T9ODfbh/0
子供の泣き声に誘われるようにやってきた其処で、泣き声の主を見つけることは出来なかった。
隠れる場所など殆ど無いこの場所で、見失う筈はないのだけれど。
不思議に思いつつも、自然と壁に掛けられた絵を見上げる。
其処には、良く見知った二枚の肖像画が飾られていた。
肖像画を飾るなんて悪趣味だと父上に云った覚えがあるが、
「王は、例え悪趣味だろうとあらゆる方法で自らを誇示する必要があるのだ」と語っていたのを思い出す。
―――にしてもだ。今の姿とは似ても似つかぬ絵であることには問題はないのだろうか。
笑い話のネタには充分だろうが……。然し、もしかしたら、若い頃はこの絵の通りだったのかも知れない。
視線を横に移す。その先にあるのは今は亡きローレシア王妃の姿を描いたものだった。
物心付いた頃には亡くなっていたから、記憶なんてものは殆ど無い。
だが、優しげな微笑みがそうさせるのかは知らないが、何故かこの絵を観る度に心が落ち着く。
未だ幼かった頃、父王に叱られた後のことを思い出す。
そんなときは、此が母だと教えられた絵の前で、声を押し殺して泣いていた。
理由はよく覚えていない。
ただ、誰にも見られず、だけど心安らげる場所を探しただけだったのかも知れない。
それでも、其処は記憶にある、アレンにとっての母との想い出の場所だった。
307 :
見切り切腹:2006/10/11(水) 23:44:59 ID:T9ODfbh/0
この場面一度見たな。
目の前で、瞳を潤ませながら語る、良く知った宮女の言葉を聞きながら思う。
「―――身分違いの女の儚い女の想いなど……」
それ以上は言葉に詰まり語ることが出来ない。潤んだ目で暫く見つめると、女性は走り去っていった。
後ろ姿を目で追いながら、相変わらず良い尻してるな、などと妙に頭は冷静だ。
ああいうときは抱きしめるのが筋だが―――そういえば、前回はナナが不機嫌になっていた事を思い出す。
適当に答えていたらコナンに八つ当たりしていたが………
然し、あの質問に対して真面目に答えていたら、其れは其れで問題があっただろう。
と、其処でふと思い至る。もしかして、あれはヤキモチだったのか―――?
訊いてみたい気もするが、藪蛇を突くような真似もしたくない。
全ては無事に還ることが出来てから――――と、其れについては棚上げして、当面の問題を考える。
城内をまわってみても、此処は特に変わり映えすることがない、いつも通りのローレシア城だった。
だが、何がおかしいと云えば其れが一番おかしい。
自分が書いた手紙が届いていれば、城がこの様な状態にあるとは考えられない。
ならば此はどういう事だ。
「わんっ!」
犬の鳴き声がアレンを引き戻す。
視線を落とすと、其処には城下町で懐いてきた犬が見上げている。
付いてきていたのか。
尻尾を振り、アレンを見上げながら足下を一頻り駆け回ると、
興味を惹いたことに満足したかのように、駆け出した。
先を見る。なるほど、確かに其処に行けば、問題が解決する可能性は高いだろう。
アレンはゆっくりとした足取りで犬の後を追う。
その行く先には、謁見の間へと繋がる階段が在った。
はい、生きてました。
つうか、此だけ書くのにどれだけ時間掛かってるんだって話ですが。
言い訳をすれば、モニターの前が其れなりに忙しいって事と、書き慣れない文体に手間取ったということか。
つうか、書く度に自信を失うぜ?
んで、暫く投下できる気がしないので、もし待ってる人が未だいるなら、気長に待って貰えると嬉しいかも知れないです。
……………来年2月とkうわなんだおまえやめrfじゃいえあqwsでfrgtyふじこlp
>>見切り懺悔氏
乙乙!
アレン視点も良いもんですね。
ナナ視点にない真面目さがよくわかるwwwww
ゆっくり自分のペースで投下してくだされよ
べ、べつにアンタを待ってたわけじゃないんだからっ!!
見切りGJ氏乙
見切り氏乙です。ご無理なさらずに〜
明日あたり投下予定でしたが、ちょっと間をあけた方がいいかにゃ?
>>312 今はちょっと無理でちw
ほいでは、この後も特に問題なさそうなら、明日あたりに投下します〜
予定は未定ですがw
いましばしお待ちをほしゅ
315 :
144:2006/10/13(金) 03:03:28 ID:WAUvPe+O0
5. Under the Cherry Moon
ここで、俺達冒険者について、もう少し説明しておこう。
何度か触れたと思うが、冒険者と呼ばれる連中はルイーダの酒場に登録されている。だが、登録すれば誰でもなれる、という訳でもない。
冒険者になろうと思い立ったヤツは、まずその旨を申請し、講習を受ける必要がある。特例として、過去の実績などを鑑みて免除されるヤツもいるそうだが――勇者であるマグナは、特例中の特例だろう――大半はただの素人なので、これは当然の措置だ。
なんの技能も無いそこらの一般人が、いきなり冒険に出ても、あっという間に魔物に殺されちまうのが落ちだからな。
他の職業のことは良く知らないが、例えば剣士ならば基本的な剣術、盗賊ならばナイフの扱いや簡単なトラップの見分け方なんかを習うんじゃないだろうか。
その上で、規定の試験に合格して、はじめて冒険者として登録されるのだ。
試験は、講習のどの時点でも、そして何回でも受けられるが、いずれの職業でもおおよそ三十日以内にクリアできなければ、向いていないと判断されて強制的に辞めさせられる。ルイーダの酒場は、自殺志願者の請負所じゃないってことだ。
但し、また一から講習を受け直したり、別の職業に鞍替えして再挑戦することは可能だ。
めでたく登録を済ませた奴には、バラモスの名前が告げられる。どこかに魔物達のボスがいて、そいつが全ての元凶だという話は、そこらのガキでも知ってる公然の秘密なんだが、名前や居場所はほとんど知られていない。斯く言う俺も、その時にはじめて聞いた。
名前に加えて、おおよそ判明している棲家を教えるということは、はっきりとそう求められる訳じゃないが、「倒してくれたら嬉しいな」という含みだろう。
だが、冒険者なんてコスく小銭を稼いでは派手に遣い、またその日暮らしに戻るようなロクデナシばっかりで、あえて危険を冒して魔王退治に出掛けようなんて殊勝なヤツはひとりもいない。少なくとも、俺は耳にしたことがない。
国としても、あくまでアリアハンの治安回復が第一義と考えているらしいので、別に問題はないみたいだが。
まぁ、本気で期待されても困るんだけどな。
さて、以上は全ての職業に共通した話だが、呪文を扱う魔法使いと僧侶に関しては、事情が若干異なる。
俺は魔法使いではあるが、冒険者になるまでは魔法のマの字も知らなかったズブの素人だ。今も、単に職業として魔法使いをやっているに過ぎない。真理の探究とやらに血道をあげる本物の魔法使いは、もっと別にいる。
何も知らない素人が、少しばかり習ったくらいで、魔法を修めて使いこなすなんて芸当は不可能だ。そこで、魔法使いや僧侶を希望した者には、講習に先駆けてイニシエーションと呼ばれる儀式が施される。
正直なところ、俺もよく理解してないんだが、なんでもこの儀式は頭の中に呪文を構成する「すじみち」を刻むんだそうだ。そうして、本来積み重ねるべき知識と経験をちょろまかす――
俺が受講した時に講師を担当していた、いかにもやる気のない陰気な顧問魔法使いは、そう説明して、最後にこう付け加えた。
『貴様らの如き暗愚には、この程度の説明しか理解できまい』
こいつがまた、イヤな野郎で、一事が万事こんな調子だ。持ち回りで講師を勤めないと、国から研究費をもらえないらしく、嫌々やってるのが丸分かり。
講義の途中で何かにつけて嫌味を捻じ込むこの野郎には、ずいぶん辟易とさせられたものだ。何度ブン殴ってやろうと思ったか知れない。
それはともかく。
俺達に必要なのは、冒険で役立つ類いの即物的な効果を発揮する、剣士にとっての剣みたいな「道具」としての呪文だ。
だから魔法使いと言っても、俺達に扱える呪文は、簡素化形式化された技術――陰気な講師に言わせれば「芸事」――に過ぎない。魔法に精通している訳ではないので、応用も効かない。ただ、覚えた呪文を発動させることができるだけだ。
その大半は、本物の魔法使いにとってはどうでも良い、言わば彼らの研究の「おこぼれ」でしかない。これも、件の陰気野郎の言だ。わざと人をムカつかせてるとしか思えねぇよ。
ともあれ、「おこぼれ」と言えども魔法は魔法。普通の「道具」のように、ただ手に取れば使える、てなモンじゃない。呪文の単語を覚えたからといって、それを口にすれば使えるという性質のものではないのだ。
儀式で「すじみち」を刻んだだけじゃ使えない。講義で魔法の基礎を齧っただけでも使えない。受講者には魔法書が渡されるが、それを百読したとしても、使える保証はどこにもない。
実際に魔法を使うには、知識や訓練による経験がもちろん前提となるが、それよりもなによりも、なんて言えばいいのかな――そう、腑に落ちることが肝要なのだ。
俺自身、魔法を根底から理解してる訳じゃないから、どうも上手く説明できないのだが、何かのキッカケで、急に世の中の理を手に入れたような、唐突に目の前が開かれたような感覚を覚えた経験は、誰でも一度や二度はあるだろう。
後になってみれば、下らない錯覚に過ぎなかったとしても、その時ばかりは「ああ、なんだ、そういうことだったのか」と全てを理解したような感覚。
俺達が呪文を「覚える」時の感覚は、かなりそれに近い。突然――ストンと、腑に落ちるのだ。嫌味な講師は、それを「すじみちが通る」と称していた。それまで知識でしかなかった呪文が、そうしてやっと実際に使えるようになるのだ。
俺に関して言えば、魔法書を読み返したり頭の中で漠然と考えている時よりも、最も呪文というものに集中している戦闘中、または戦闘直後に「覚える」ことが多い。
今はまだ、いくつかの呪文しか扱えないが、いずれもっと高度な呪文も「覚える」筈だ。嫌味なあのバカは『その捉え方は誤解を招くだけだ』と吐き捨てたが、俺の考えでは、高度な呪文ほど「すじみち」が複雑でより深く、通すのが厄介なのだと思う。
呪文を唱える所要時間は殆ど一瞬でしかないが、集中してずっと何かを懸命に考え続けた時によく似た疲労を覚える。
頭のどこかにあるソレを、すじみちを頼りに奥まで探って引っこ抜く感覚だ。高度な呪文になるほど、より「奥」に意識を伸ばすように感じるので、あながち俺の考えも間違っていないと思うんだが。陰気な嫌味野郎には、せせら笑われたが。
あいつはその内、受講生の誰かに刺されて死ぬに違いない。
冒険者として登録されるには試験をクリアしなくてはならないという話をしたが、魔法使いの課題は『メラ』が使えるようになることだ。三十日ですじみちを通せなかった者は、それを消去された上で放り出される。
細かいことは知らないが、僧侶の場合もおおよそ同じような事情の筈だ。但し、魔法使いと異なり、知識に加えて信心や敬虔なんぞという曖昧な代物が重要になるらしい。
神様拝んでホイミを唱えられるなら、俺だっていくらでも拝むにやぶさかじゃないが、そういうことじゃないんだろうな。よく分からん。
もちろん、ここで言う僧侶も単なる職業で、教会に属する本物の僧侶とは違う。一般的に、単なる便利なホイミ役として扱われ易い僧侶に、あえてなろうとする人間に、信心深いようなタイプが多いというのは言えるかも知れないが。
とはいえ、ナターシャみたいなヤツもいるし、一方では本物の僧侶が還俗して冒険者になるケースもあると聞くから、それこそ十人十色だ。
さて、ここまでの話で大体察しがつくと思うが、魔法使いや僧侶の数は、他の職業と比べて圧倒的に少ない。理由は簡単。面倒臭いからだ。
冒険者じゃなければ犯罪者になったに決まってるアホ共には、何も考えずにだんびら振り回してりゃそれでいい剣士や、盗みの技術を磨ける盗賊なんかがお似合いだ。感心なことに奴ら自身もそう考えていて、わざわざしち面倒臭い職業など、好んで選ばない。
絶対数が少ないので、魔法使いや僧侶は引く手あまたの人気者だ。黙っていてもお呼びがかかるので、俺は自分からパーティの面子を募ったことがない。選り好みをしなければ、いつでも自分の都合が良い時に、どこかしらのパーティに潜り込めたからだ。
だが、さすがにあのゴリラとネズミの一件を経て、少しは慎重に選ばないとダメだな、と反省した。
それで、しばらく面子を見極めつつ、一人で狩りなどしていたのだが、そんな反省は結果的に無意味だった。
こうして、勇者様にとっ捕まって、強制的に連行された訳だから。
レーベの村までは、街道沿いの小さな町村をいくつか経由して、のんびり徒歩で行くと、およそひと月ほどの道程になる。強行軍なら、その半分ってところか。
俺達の場合は、二十日前後で到着した。そこそこ急いだ結果になったのは、途中の町や村で、多くて一泊しかしなかったからだ。これは、勇者の格好であまり人前に出たくないというマグナの都合が大きい。
ならば、別の旅装に変えればよさそうなものだが、そう単純にはいかなかったりする。アリアハンを出るまでは、退治するべき魔王の元を目指している姿を、勇者として目撃されておく必要があるからだ。
見られて人が集まってくるのは避けたいが、ある程度は人目に触れておかなくてはならない。その葛藤が、必要最低限だけ泊まるという判断を導き出したのだろう。ホントは、別に先を急ぐ旅でもないから、もっとゆっくり行けたんだけどな。
それでも、アリアハンを出てからこっち、マグナはとても上機嫌だった。まるで何かのくびきから開放されたような、という見方は俺の穿ち過ぎだろうか。
道中、「こっちを抜ければ全然近いじゃない!」と森を抜けようとした時も、そりゃ直線距離なら近いけどな、足場は悪いし、街道沿いより魔物は強いし、却って遅くなるから素直に道を歩こうぜ、という俺のダメ元の説得を、渋々とはいえ受け入れた。
まことに結構なことだが、聞き分けのいいマグナなんて、なにやら不気味でこっちの調子が狂っちまう。
俺達がこの村を目指していたのは、アリアハン大陸の東端にあると聞く「旅の扉」に向かう為だ。
海に強力な魔物が出るようになって船の往来が途絶えて以来、他の大陸に渡る方法は、ざっと三つしかない。
ひとつは、時折訪れる大船団に便乗させてもらう方法だ。今でも、船の行き来は皆無という訳ではなく、魔物に襲われても対抗できるような大船団が、年にニ、三度やってくる。
もうひとつは、ルーラの使える魔法使いに運んでもらう方法だ。国が互いに使節団を派遣する場合などは、目的地に飛ぶことのできる魔法使いをかき集めて、この方法をとる。
このふたつは、俺達には使えない。いや、それなりのツテが必要とはいえ、マグナは勇者だ。そこはなんとでもなるだろうから、正確には使わないと言うべきか。
マグナは、海を越えた自分の足取りを、アリアハンに残したくないのだ。いちいち厄介な御仁と言える。
なので、他の大陸に繋がっていると言われる「旅の扉」を勝手に越えるのが、俺達の取り得る唯一の方法だった。
旅の扉がある東に向かって、レーベから先にもう人の集落は無い。最後にこの村で、ニ、三日のんびり英気を養っても、バチは当たらないだろう。
久し振りのベッドで気持ちよく眠り、半分目が覚めてもウダウダ惰眠を貪っていた俺は、昼過ぎになってようやく起き出した。残念ながら、ひとり部屋だ。
ここのところすっかり定着している部屋割りに関して、俺はもっとモメるかと思っていた。いちおう男二人に女二人なんだから、同性同士で相部屋になるのが普通だろ?とはいえ、俺達の場合は、なんというか、なぁ?
いや、俺は別にいいんだけどさ、とか思っていたら、アリアハンを出て最初の町で宿を求めた時に、マグナがあっさり決めちまった。振り分けは三対一。もちろん、俺が一だ。つまり、マグナとリィナとシェラが同部屋だ。
最初の頃は、それでも色々と気にしていたようだが、どうも最近、マグナはシェラを完全に女の子として扱っているフシがある。一緒に風呂に入っても、おそらく恥ずかしがるとしたらシェラの方だろう。そのくらいの勢いだ。
同じ部屋で寝泊りする内に、なんか色々あったんだろうな。俺は知らないけどね。別に異存もねぇし。一人部屋でも、淋しくなんてないんだぜ。
部屋の前を通りかかると、マグナ達は既に出掛けたようだった。一瞬、忍び込んでやろうかと考えかけて、後が怖いので止めといた。
レーベは、のどかな田舎、そんな表現がぴったりくる村だった。
つまり、見るべき場所は、特にない。
適当にぷらぷらほっつき歩いていると、一体どういう話の流れか、自分の身長よりデカくて丸い岩を、リィナが押し転がしてる場面に出くわした。
その脇で、朴訥そうな男が目を丸くしている。
「こりゃ凄い。まさか、あんたみたいな娘っこに、この岩を動かされるとはなぁ」
「でも、これ、丸いからすぐ動いたよ」
「いやいや、謙遜せんでいいよ。自分が押しても引いても、ビクとも動かなかったんだから。その力は、その内きっと役に立つと思うよ」
「そっかな。へへ〜、ありがとう」
なにしとんだ、あいつは。
リィナは、ふと何かを思い出したように大岩を見上げた。
「……これなら、転がすより割った方が面白そうかも」
「は?割る?砕くってことかい?」
「どっちでもいいけど。やってみていいかな?」
「いいかなって言われても、道具がなんもないよ。家に帰れば、シャベルくらいならあるけどよ」
「ううん。道具なんて要らない。これで割るんだよ」
リィナが拳を握ってみせると、男はハハハと笑った。
「おんもしれぇこと言う娘っこだなぁ。いいよ、割れるもんならやってみな」
そいつの前で、軽々しくそういうこと言わない方がいいと思うぞ。いや、俺も無理だとは思うけどさ。
「うん。それじゃ」
リィナは、胸の前で拳頭を合わせて、深く息を吐き出した。
そのまま構えるともなく、右の拳を軽く岩に沿える。
「お、おい。本気なんかい。手ぇ痛めるから、やめときなって」
男の言葉は、既にリィナの耳には入っていないようだった。
わずかに腰を落とした瞬間、リィナの体がブレたように見えた。
「ふんっ」
ズンと重々しい音が響き、気のせいだと思うが地面が揺れた。
刹那遅れて、リィナの反対側の岩の表面がバカンと弾け飛ぶ。
「あれー?抜けちゃった」
首を捻りながら、リィナは岩を回り込んだ。残された光景を目にして、俺は息を飲む。
恐ろしいことに、拳を沿えていた部分が陥没して放射状にヒビが入っていた。踏み抜かれた地面に、くっきりと足跡が残されている。ホントに、お前は何者だ。
「はじめてやったから、コツが分かんないや。岩には岩の、か。簡単そうに見えたんだけどなぁ……」
男はぽかーんと口を開けて絶句していた。まぁ、気持ちは分かる。
「よう。なにしてんだ」
これ以上、妙な真似をやらかす前に、拾っておいた方が良さそうだ。
「あ、おはよー。ううん、別に何もしてないよ」
充分してるっての。もしかして、失敗だったから隠そうとしてるのか?
「他の二人は、どこ行ったんだ?」
「知らない。あ、やっぱ嘘。さっき、シェラちゃんが向こうに行くの見かけたよ」
リィナは北の方を指す。とりあえず、そっちに行ってみるか。
「じゃねー」
リィナが手を振ると、男はいまだに呆けて突っ立っていた。非常識なツレで申し訳ない。
しばらく連れ立って歩いていると、大きな二階建ての家の脇で、シェラが馬と戯れているのが見えた。さっきのトンデモ場面と違って、心が安らぐ絵になる光景だ。
向こうも俺達に気付いたらしく、小走りに駆けてきた。
「馬、好きなのか?」
「はい。動物、好きなんです」
息を弾ませながら、笑顔を浮かべる。
が、やっぱりどうも、前ほど俺に懐いてないような。以前より、微妙に距離が遠い気がする。いや、別にいいんだけどね。
リィナが、なにやら物欲しそうな目つきで、シェラと戯れていた馬を見た。
「あの馬、乗せてもらったらダメかな?」
「え、あの……あれは人の馬ですから、いけないと思いますけど」
「きっと、大丈夫だよ。ちょっとだけだから」
「え、あの、リィナさん?そんな、ダメですよ――あ、マグナさん」
リィナの手を引っ張って止めていたシェラは、向こうから歩いてくるマグナを見つけて、ほっとしたように名前を呼んだ。
期せずして集合しちまった。さして大きい村じゃないからな。
マグナは、まず俺に呆れ顔を向けた。
「あんた、やっと起きたの」
「ああ。ついさっきな」
「って、なにしてるの、シェラ?」
「リィナさんを止めてください〜」
「平気だってば。ほら、放し飼いだし」
「なに?ああ、あの馬に乗ろうとしてるの?やめときなさい、人の馬でしょ」
「え〜」
マグナはリィナを諌めると、村を見回すように視線を巡らした。
「それにしても、ほんっと何もないわね〜、この村」
まぁ、別に観光地じゃないからな。
「でも、のんびりするにはいいんじゃねぇか」
「まぁねぇ。だったら、せめて温泉くらい用意しときなさい、って言いたいところだけど」
ふむ。それは暗に、俺に覗けと言ってる訳だな。よし、心得た。機会があったら、任せとけ。
「温泉、いいよね〜」
「私、入ったことないです」
「ジツは、あたしも入ったのは小さい頃で、記憶はないんだけどね。気持ちいいって聞くから、どんなのかなって」
「すっごい気持ちいいよ〜。どっかそこら辺の山に湧いてないかな?見つけたら、入って背中の流しっこしようよ」
よし、やろうやろう。
「よく知らないけど、温泉で流しっこはないでしょ」
マグナが苦笑する。いいよ、お前は大人しくシェラと湯に浸かっとけ。俺が、リィナの背を流すから。うん、完璧な配置だな。後は、体の前というか胸の辺りに、間違えて手を滑らせてやるだけだ。
感触を先取りしてじんわりとむず痒くなった掌を見つめていると――
「見かけん顔だね。あんた、旅人かい」
突然、背後から皺枯れた声をかけられて、俺はビクッと首を竦めた。
振り向くと、皺くちゃで腰の曲がった婆さんが、俺を見上げていた。
「あ、ああ、うん。まぁな」
ビビらすな、この枯れ木婆ぁ。
「どっから来んさった」
「アリアハンよ」
マグナが答えたが、婆さんノーリアクション。凝っと俺を見上げている。気色ばむマグナ。
「耳が遠いのかな?」
大声を出そうと息を吸い込むリィナを、俺は手で制した。
元が田舎者の俺には、なんとなく分かる。一行に男が含まれている場合、自分が話しをする相手はそいつだと決め込む習性が、田舎の古い人間――特に偏屈な婆さんにはあるのだ。男が複数居た場合は、最も年長者がそれにあたる。
俺とて若造だが、他の三人はさらに若いので、子供としか見られていないのだろう。婆さんにとって、子供はそこらを駆けずり回るものであって、話しをする相手ではない。
仕方なく、口を開く。つか、なんで俺を睨むんだ、マグナ。
「アリアハンだよ」
「アリアハンから来んさったか」
皺の間から目を覗かせて、老婆はギロリと俺を睨んだ。なんか怖ぇよ、この婆さん。
「まさか、あんたも魔法の玉さ探りに来たんじゃあるめいな」
魔法の玉?
どこかで聞いた気がする。ああ、アリアハン城下で爆発事故を起こしたとかいう物騒な代物か。
「いや、違うけど」
「嘘こくでねぇぞ。ほんなら、なんで館さ向こうとるんじゃ。あすこさ住んどるロクデナシの爺ぃに会いに来んさったんじゃろが」
老婆は、道の先の二階家を指差した。よく見ると、玄関の脇に魔法協会の印がかかっている。こんな田舎にも支部があるんだな。
「来んさっても無駄じゃぞ。あのヤドロク、扉に鍵かけよってからに、だぁれも入れんようになってしもた。妾がいくら呼びよっても、ちぃとも出てきようとせんのじゃ、あんたらじゃ無理、無理」
「はぁ。それはどうも、ご親切に」
皮肉が通じてるとも思えないが。なんなんだ、この婆さんは。
「あんたも旅人なんぞとやさぐれたことばっかしてねぇで、さっさとクニさけぇるこったな。どっか遠くの知らねぇ土地さ逃げようだなんぞと、けしからんこと企むでねぇだぞ。ヒトは、生まれた土地で自分の分さ弁えて生きてくのが、いっとう幸せなんだ」
言いたいことだけ勝手に言うと、老婆はさっさと立ち去っていった。
「なによ、あれ」
マグナが顔を顰める。
「なんだか、少し怖い感じのお婆さんでしたね」
とシェラ。
「さっすがヴァイスくん。お婆ちゃんにもモテモテだね!」
そりゃ嫌味か、リィナ。
それにしても、魔法の玉か。結構な威力みたいだし、なんかの役に立つかもな。
爆発事故のことを話すと、他の三人も噂で聞いた様子だった。
「多分、あそこにいるのは、その魔法の玉を研究してる魔法使いなんだろ。強い魔物が出た時の対抗手段になるかも知れねぇし、話を聞いといて損はないかもな。鍵がかかってるとか言ってたが――」
「開ける?」
リィナは隠しからバコタの錠前外しを取り出した。持ち歩いてんのかよ。
「いいから、仕舞いなさい。勝手に鍵を開けて、他人の家に入っていいわけないでしょ」
マグナにあっさり却下された。何故か、身も蓋も無いことを言われたような気がする。
「大体、いつ暴発するか分からないようなもの、危なっかしくて持ち歩けないわよ。それより、そろそろお昼にしない?お腹空いちゃった。ヴァイスも、まだでしょ?」
言われてみれば、何も食べずに出てきてしまった。リィナやシェラにも異存は無いようだ。
この村には、飲食店なんて気の利いたモノは存在しない。
他に選択肢もなく、宿屋に戻った俺達を、ちょっとした事件が待ち受けていた。
「え、あの真ん中の人なの?」
宿屋に入ると、帳場でおばさんと話していた少年、というか幼児が、ぱたぱたと駆け寄ってきた。
「こんにちわ」
ぺこりと頭を下げる。
「こんにちは。偉いね、ご挨拶できるんだ」
しゃがんで頭を撫でるシェラ。まぁ、挨拶ができないほど幼くはないと思うぞ。
くすぐったそうにしながら、少年は目を輝かせてマグナを見上げる。
「えっと……マグナさんは、勇者なんでしょ!?」
「え?」
帳場の向こうで、宿のおばさんが小さくお辞儀をするのが見えた。
今日のマグナは普段着だ。おばさんは昨日、宿に着いた際にマグナの勇者姿を見ているから、名前と共に少年に伝えたのだろう。
「……ええ、そうよ」
「マグナさんは……女の人?」
ちょっと間が空いた。俺は後ろに立っているので表情を窺えないが、ほぼ確実に、マグナの顔は引きつっている。
「……えぇえ。男の人にみえちゃうかしら?」
声が微妙に震えている。落ち着け。相手はガキだ。
「ううん。女の人に見える。すごいよね!女の人なのに、魔物をやっつけてるんでしょ!?」
「え、まぁ……」
戸惑った声を出す。こいつ、子供の相手は苦手そうだな。
「えらいなぁ。たくさん、たくさん、魔物をやっつけてね!」
「ありがと。うん、頑張るね」
優しく言って、子供の頭を撫でる。調子を取り戻して、勇者としての対応に切り替えたか。
「お願いね!絶対だよ!」
「うん、分かった。お姉ちゃん、頑張るから」
少年は、急に口を尖らせて、泣きそうな顔になった。
「ホントに……お願いだよ」
ヒックヒックとしゃくり上げる。
あらあらどうしたの、とか言いながら、マグナは軽く抱き締めて背中をポンポンと叩いた。
「あいつら……ボクの、お父さんとお母さんを……」
「……そっか」
この時点で、俺は漠然とした不安を覚えていた。
マグナはしゃがみ込んで、少年と指切りをする。
「はい、約束。きっと、お父さんとお母さんの敵を取ってあげるからね」
マグナが頭を撫でてやると、少年は泣きながらくしゃっと笑顔を浮かべた。
「うん……ありがとう……」
そして、さらに火がついたように泣き出してしまう。
「あぁもう、ほら、いい子いい子……シェラ、ちょっとこの子を落ち着かせてあげてくれる?」
「あ、はい。じゃあ、ぼく。あっちの椅子の方に行こうか」
「ボクも〜」
シェラとリィナは、子供を挟むようにして、帳場近くの椅子に連れていく。
立ち上がって、それを見送るマグナの背中に声をかけるのが、何故か躊躇われた。
お前、今、どんな顔してるんだ?
「……大丈夫か?」
思い切って肩を叩くと、平素と変わらない顔がこちらを向いた。
「ん?なにが?」
錯覚、だったのか。
「いや、だって……」
「ああ、あれ?あたし、子供って苦手なのよね。その点、シェラは得意そうじゃない?リィナもね。だから――」
「いや、そうじゃなくて」
「なんて顔してんのよ。あ――そういうことか。もしかして、心配してくれてるの?」
俺を見上げて、マグナはにや〜っと笑った。
「だって、そりゃ……」
「あたしが、その気も無いのにいたいけな子供に嘘ついて、罪の意識を感じてる、とか?」
俺が返答に窮していると、マグナは軽く胸を小突いてきた。
「心配してくれて、ありがと。お礼は言っとくけど、大丈夫よ。こんなの、あたしにとっては日常茶飯事のことなんだから。いちいち気にしてたら、身がもたないわ」
それは――そうなのだろう。
マグナは、さっきの少年と同じような言葉を、ずっと周囲の人間から聞かされ続けて、これまで生きてきたのだろうから。
「それに、まるきり嘘って訳でもないしね。ここに来るまでだって、魔物はたくさんたくさん倒してきたじゃない」
冗談めかした台詞。
考え過ぎ、か。俺の悪い癖だな。
マグナが気にしていないのなら、俺がヘンに心配しても、余計な負担になるだけだろう。
「泣き止んだみたいね。やっぱりシェラ、あやすの上手なんだ。なんかちょっと複雑かも」
また、笑った。
「さ、早くお昼食べましょ。あたし、もうお腹ぺこぺこなんだから」
「ジツは、俺もだ。朝からなんも食べてねぇや。そういや」
「あんたはぐーすか寝てたからでしょ。あたし達は、ちゃんと食べたわよ」
「なのに、もう腹が減ったのかよ」
「うるっさいわね。いいでしょ!育ち盛りなの!」
「そいつは結構だが、ちゃんと場所を選んで育てろよ」
俺が視線を落とすと、マグナは両腕で胸を隠した。
「ちょっと、どこ見て言ってんのよ!?変態。すけべ」
「いやいや、大事なことだぜ。ちょうど、身近にいい先生がいるじゃねぇか。どうすればあんなに大きく育つのか、いっちょ教えを……」
「言っとくけどね、リィナが大き過ぎるの!!あたしは普通!!」
「ボク?なにが〜?」
「なんでもないっ!!ほら、お昼にするわよ!」
プンスカ怒りながら、食堂の方に歩いていく。
平手打ちくらいは覚悟してたんだが、まぁ、こんなところか。
予定を繰り上げて、その日の内に俺達は出発した。
マグナに理由を尋ねると、「だって、見るトコなんにもないんだもん」とのことだ。
レーベの宿を出た時、力一杯手を振って見送る少年に、笑顔で手を振り返していたマグナは、その後も相変わらず明るかった。どことなく空元気のようにも感じられたが、それはやはり、俺の考え過ぎなのだろう。
魔物を撃退しつつ何日か歩くと、山岳地帯に差し掛かった。近頃は、この辺りまで遠征する冒険者も多いようで、思ったより強力な魔物と出くわさずに済んだのは幸いだった。むしろ山だけに、道行の方が苦労した。
ただ、ようやく山を越えて麓の森に一旦下りたところで、うっかりバブルスライムの群棲地帯に足を踏み入れてしまった時には、エラい目にあった。後から後から、リィナでも捌き切れない数のバブルスライムが、堰を切って溢れたように襲ってきたのだ。
この時ばかりは、シェラもひのきの棒を削り出した杖を必死に振り回したが、所詮は焼け石に水というか、全然無意味だった。全員毒をくらいながら、最後は命からがら逃げ出した。
お陰で毒消し草の残りが、かなり心もとなくなっちまった。早くシェラがキアリーを覚えてくれるといいんだが、まだもうしばらく先になりそうだな。
そして、森に入って三日目の夜――
半覚醒した俺は、パチパチと爆ぜる焚き火の音で目を覚まされた。
体の感じからすると、ほとんど眠っていない。なんで起きちまったかな。まぁ、元から眠りが浅いから、タマにこういうことはあるんだが。
夕方になって、少し森が開けた場所を見つけた俺達は、その辺りで拾ってきた椅子代わりの丸太で四角く囲んで、焚き火をおこした。
飯を食って夜になり、いつも通りに交代で火の番をすることにして、マグナ以外の三人が丸太を挟んで焚き火の反対側に身を横たえてから、多分いくらも経ってない。
一旦目が覚めてしまうと、疲れている分、却って眠れそうな気配が無かった。
俺から見て右手側、こっちに足を向けて寝ているリィナの、もうすっかり聞き慣れた鼾が聞こえる。寝息の延長のような可愛いものだが、このネタでからかうと、いつも飄々としているあいつにしては、珍しく少しムキになるので面白い。
左手側に頭が見えるシェラの方を覗くと、泥のように眠っていた。
『大丈夫です。歩くのは慣れてますから』
本人は気丈に言ったものの、特に山に入ってからはキツかっただろう。戦闘で役に立たない分、せめて足手まといにはなりたくないという気持ちは分かるが、ここのところ明らかに無理をしている。
どの道、火の番は無理だから、俺とマグナとリィナで回しているが――シェラは自分もやると言い張ったが、悪いけど任せらんねぇ――ひと晩寝ても、最近は疲労が抜け切っていないようだ。
地図の上では、もうひと山越せばあと一息の筈だ。正直、俺も疲れてるけど、なんとか頑張って乗り越えようぜ。
シェラの淡い金髪を軽く撫でようかと思い、起こしちゃ悪いのでやっぱり止めて、俺は焚き火の方を見た。
魔物にも、火はある程度有効だ。それでも襲ってくることはあるが、焚き火を絶やさずにおけば、その危険は随分と小さくなる。今も、薪の爆ぜる音の他は、夜行性の鳥の鳴く声や微風に揺れる梢の葉音、それとリィナの寝息くらいしか聞こえない。近くに魔物は居ないだろう。
焚き火越しに、丸太に腰掛けたマグナが見える――ん?寝てるのか?
マグナは、膝に肘をついて、組んだ両手を額に当てて身を屈めていた。
丸太を跨いで腰を下ろし、昼間の内に水筒に汲んでおいた水を、俺は足元のコップに注ぐ。
「まだ、交代の時間じゃないわよ」
二口ほど飲んだところで、顔を伏せたままマグナが囁いた。
「ああ。なんか知らんが、目が覚めちまった」
「……そう」
それきり黙り込む。
昼間とやけに様子が違うな。
何か声をかけるべきだろうかと思案しながら、しばらく揺れる炎を見つめていると、また不意にマグナが囁いた。
「ごめん……」
最初、マグナが何を言ってるのか分からなかった。
ちょっと待て。お前、今、ご免て言ったのか?
俺に対してそんな台詞、初めて聞いた気がするぞ。
つか、何が。
俺が目をパチクリさせていると――
「なんでもない……忘れて」
沈んだ声でそう言って、組んだ両手で額を軽くニ、三度打った。
いよいよ大丈夫じゃねぇな。
「どうした。なんかあったのか?」
我ながら、凄まじく気の利かない台詞を吐く。
「別に……」
短ぇ。取り付く島も無い。と思ったら。
「……ちょっと、落ち込んでるだけ」
落ち込んでるだけ、か。それにしても、随分と唐突に感じるが。
俺の怪訝な表情を、俯きながらちらりと見たのだろう。
「なによ。あたしが落ち込んでちゃ、そんなにおかしい?」
顔を上げて、少しだけいつもの口調で言った。
「いや、そういう訳じゃないけどな。ただ、落ち込む理由がよく分からん」
なんとなく想像はつくけどな。もしかしてこいつは、これまでの道中でも、火の番をしながらこんな風に落ち込んでいたのだろうか。
ややあって、マグナは小声で囁く。
「ずっと……こうなの。いつもは平気なんだけど、なんていうのかな……周期的に?すっごい落ち込んじゃう時があるの。もう、ずっとこう……」
月のモノか?
とは口に出せなかった。そんな雰囲気じゃねぇよ。
「アリアハンのお城を出た時は、今までにないくらい凄い気分がよくて、もう大丈夫かなって思ってたんだけど……やっぱり、駄目。ひとりになると、駄目みたい。考えちゃって……」
おいおい、どうしたんだ、マグナ。そんな頼りなげな様子じゃ、その……普通の女の子みたいに見えるぞ。
「ねぇ……そっちに行っていい?」
気を落ち着かせようとして、ちょうど口に含んでいた水を噴き出しそうになった。声を立てないように堪えたので、フゴッとか変な音と共に鼻から水が滴る。
「ばっ……!ちょっと、違うわよ!あんまり大きい声で喋ってたら、二人を起こしちゃうでしょ!?隣りだったら、小さい声で話せるからってだけで、なんにもヘンな意味じゃないんだから!……もう、いい!」
囁き声でそう怒鳴り、頬杖をついてそっぽを向くマグナ。
どうやら、今のはマグナと付き合っていく上で、とても大事な話のようだ。いや、付き合うといっても交際という意味じゃなくてだな、とにかくそう思った俺は、鼻の下をぬぐいながら立ち上がった。どうにも様にならないが。
焚き火を回り込んで、そっぽを向いた視線上、マグナの隣りに腰を下ろす。
「なによ」
「なにが?」
マグナは、ぷーっと頬を膨らませる。こういうトコはガキだな。
「もう、いいってば。喋る気分じゃなくなった」
「……そっか。まぁ、もしまたその気になったら、話せよ。交代の時間まで、ここに居るからさ」
小声で言って、俺はまたぼんやりと焚き火を眺めた。
刻々と姿を変え続ける炎の踊りにもやがて飽きて、頭上を見上げる。
快晴だ。
充分に開けた森の合間から覗く、満天の星空。
夜空に浮かぶ数え切れない星々を見つめていると、距離感を喪失する。
すぐ手を伸ばせば届くような、どこまで伸ばしても届かないような――
「さっきね……」
焚き火に薪を放りながら、マグナが口を開いた。
「ごめん、って言ったでしょ?」
「ああ」
「あれ、言おうと思って言ったんじゃないの。悪いけど、多分ヴァイスに言った訳でもなくて、つい口をついたっていうか……タマにね、そういう気分になるの」
「うん」
「ごめんなさいごめんなさいって、いろんなことに、全部すっごく申し訳ない気分になって……落ち込むの」
「……ああ」
「だって、そうだよね。あたし、勝手なことばっかりしてるから。お城に泥棒に入ったのだって、ヴァイスにあんなに止められたのに。結局、シェラにもあんなに危ないことさせて、あのペップって人だって、あたしがあんなこと考えなければ、あんなことしなかった筈でしょ」
「まぁ、どうかな」
「なんで、あんなにムキになってたんだろ……あたしのすることは、全部ぜんぶ自分勝手なの。だって、そう言われたもん。いっつも人に迷惑かけてばっかり。期待には、なにひとつ応える気も無いクセに、迷惑だけは、いろんな人にかけてるの……」
「……」
やっぱり、その辺りか。
「あたし、何やってんだろ。このままでいいのかな?あたし……」
マグナは、少しつまった。
「みんな、あんなに期待してるのに。勇者様勇者様って、すっごい期待してるの。魔王を倒して平和を取り戻すの。あたし、勇者なんだって」
マグナは、泣き笑いのような表情をした。
「だけど、あたしは勇者じゃない。勇者はあたしの父親で、あたしは勇者なんかじゃない。魔王なんて、倒せないよ。怖いの。だって、当たり前でしょ?
誰に聞いたって立派としか言わないあの人だって、倒せなかったのよ!?あたしなんかに、倒せる訳ないじゃない。無駄死にするだけよ」
「……かもな」
「ううん、違うの。魔王が怖いんじゃないの。もちろん死ぬのは怖いけど、それとも違う。だって、小さい頃は、魔王も死ぬことも、よく分かってなかったから。
ただ、みんながあたしのことを、あたしのことなのに、勝手に勇者って決め付けるのが我慢できなかった。他人に、自分のことを決められるのが嫌だったの」
「うん」
「でも今は、死ぬのが怖い。そうしなさいってみんなに言われるままに流されて、勇者として魔王に挑んで、それであっさり死んじゃうのが怖いの」
「そうか」
「だって、それのどこにあたしがいるの?そのあっさり死んじゃう勇者は、みんなが欲しがってる勇者で、あたしじゃない。ねぇ、あたしの人生なのに、あたしがどこにもいないまま終わっちゃうんだよ?」
「……」
「あたしは嫌よ、そんなの。でもね、そう言うと、みんな怒るの。なんてとんでもないヒドいことを言うんだって。お前にしかできないことなんだって……嘘ばっかり。みんなは、あたしじゃなくたって、とにかくそれが誰だって勇者さえいれば、それでいいくせに」
「かもな」
「……ううん。やっぱり、あたしはヒドいんだよ。嘘をついてるのは、みんなじゃなくって、あたしだもん」
マグナは、ちょっと頭を振った。
「ホントに嫌。嘘なんて言いたくないのに。でも、嘘をつかなきゃ許してくれないの。そんなの嫌って、勇者としてあっさり死んじゃうなんて嫌って言っても、誰も許してくれない。嘘をつきたくなくて黙っててもダメ。うんって言いなさいって、すごい責められるの」
「ああ」
「だから、あたしは嘘をついたわ。ぜんぜん守る気がない約束も、平気でできちゃうの。ヒドいよね。泣いて頼んでる子供に、嘘をついてもへっちゃらになっちゃった。ホント最低。最悪。自分が嫌になる。でも……だって、他にどうしろって言うのよ!?」
矢張り――日常茶飯事の出来事は、その場ですぐに解消されることもなく、全てマグナの中に溜め込まれてきたのだ。
「ねぇ、これでいいの?このままでいいの、あたし?勇者なのに、魔王を倒そうともしないで、知らん振りして……誰も知らないところに逃げようとして……このままでいいのかな?あたし、ホントにこのままでいいの?」
マグナが、俺の横顔を見つめているのが、視界の端に見えた。
これまでの人生で何度、同じような自問自答を繰り返してきたのだろうか。
俺は――答えられなかった。
『いいんじゃないか?』
そう口に出そうとして、いざとなったらマグナが溜め込んできた想いの量に気圧されて、軽々しくそんな言葉を吐いていいのかなどと余計なことを考えて――何も言えなかった。
マグナの抱えるジレンマについて、それなりに想像がついていた筈なのに。俺に出来るのは、せいぜい話を聞いてやることだけだ。そんな風に簡単に捉えて、何も真面目に考えていなかった。応える言葉のひとつも持っていない。俺は――莫迦だ。
また、考え過ぎている。『いいんだよ』と口にするには、マグナが吐露した想いと同じ量の覚悟が必要だなどと。小賢しい。
言いたいなら、言えばいいんだ。
良いとも悪いとも言えないのに、ただ黙っていることにも耐えられず。
俺は、マグナを抱き締めた。
後ろめたさが胸を満たす。
これは単なる――卑劣な誤魔化しだ。
俺の内心など、筒抜けなのだろう。当たり前だ。マグナは何もせず、ただ俺が抱き締めるに任せた。
浅はかな己れを糊塗するように、俺はさらに強くマグナを抱き締める――本当に度し難い。
「……くるしい」
「あ、ああ、すまん」
俺は、慌てて腕を解いた。
マグナが、凝っと俺の目を見つめている。
俺は―――目を逸らさずにいるのが、精一杯だった。
「……いいに決まってるわ」
軽く息を整え、ついと視線を焚き火に戻して、マグナはまた薪を放りながら言った。
「ずっと考えて、それでいいと自分で思って、ずっとそうしてきたんだから、いいに決まってるじゃない」
俺の返事など、最初から諦めていたように――これでは、自問自答と何も変わらない。
「大体、なんなのよ。あいつら、勇者っていえば超人か何かと勘違いしてんのよ。こんなか弱い女の子をつかまえてさ。魔王を滅ぼしたいなら、自分でやったらいいじゃない」
マグナは、ほとんどいつもの調子に戻っていた。
「まったくな」
「でしょ!?ほんっと、いい迷惑!こんな女の子に全部責任押し付けて、のうのうと暮らしていられる神経が理解できないわ。王様とかも、勝手に軍隊でもなんでも送って、ちゃっちゃと魔王くらい倒したらいいのよ。ふんぞり返ってるだけで、自分じゃなにもしない癖に」
幾度かのその試みが、全て失敗に終わったことを知りつつ、軽口に迎合してほっとする――俺は、最悪だ。
「ホント、そうだよな」
「そうよ、勝手にしたらいいのよ。自分達で。あたしは、知らない!」
マグナは立ち上がり、ん〜っと伸びをした。
こちらを振り向いて、にこっと笑う。
「聞いてくれて、ありがと。ちょっとスッキリした」
後ろめたさが冷たく胃に落ちる。
「まぁ、愚痴くらいなら、いつでも聞いてやるよ」
それすら、ロクに出来なかった役立たずの台詞じゃないな。
「うん、また言っちゃうかも。こんなこと、ヴァイスにしか話せないしね」
俺は、息を飲んだ。
「って、違うから。そういうんじゃないんだからね?この話は、あんたしか知らないから、それだけで――」
「ああ、分かってるよ」
そう、分かってる。
マグナにとって、俺は特別なのだ。
ただし、特別なのは俺「だから」、ではないけれど。
あの時、はじめて出会った時、森にいたのが俺ではなくリィナだったら、リィナがこうしてマグナの話を聞いただろう。シェラでも、他の誰でも同じことだ。
マグナには、ひた隠してきた内心を打ち明けることのできる相手が必要だった。もう、ずっと前から。
必要だったし、マグナ自身も欲していた筈だ。そうでなければ、出会ったあの時、不用意な独り言を俺に聞かれて、もっと狼狽した筈なのだ。ずっと秘めていた内心を知られて、もっと慌てなくてはおかしいのだ。
だが、マグナは大した逡巡もなく、俺を道連れにした。
あの時から、今日の話相手は俺に決まっていたのだ。たとえ、それがたまたまだったとしても、他の誰でも構わなかったとしても、ともかく今この時、マグナにとって俺は特別だった。
それなのに、これまで幾度と無く繰り返されてきたであろう自問自答と、全く同じことをさせてしまった。いつもと同じ結論を自分で導いて、マグナは己を立て直した。
俺は、なにもしなかった。
何も出来ずに、こんな様を晒している。
このまま、何も応える言葉を持たないままで、いい訳がない。
これからも、こいつと共に行くつもりがあるのなら――
「すごい星空ね」
マグナは、再び腰を下ろした。
さっきまでより、少し近かった。
服越しに感じるマグナは、普通の女の子と変わらない。細くて、小さくて、暖かかった。
「ああ。しばらくは晴れが続きそうだな」
「助かるわ。雨なんて降ったら、ここの地面なんてドロドロになっちゃいそうだもん」
「っても、またすぐ山越えだからな。山の天気は変わりやすいぜ」
「……あんたって、すぐそういうこと言うわよね」
「心配性なもんで。誰かさんが猪突猛進だから、バランス取れていいだろ」
「……誰が何ですって?」
「お前が、いのしし」
「そのまま言う、普通?大体、心配性も度が過ぎるとね、下手な考え休むに似たりなの。あんたのはソレ」
「よく分かってんじゃん」
「……なに急に素直になってんのよ。気持ち悪い」
「気持ち悪いって。そういう言い方は、お前、人を傷つけるぞ?」
「嘘ばっかり。いっつも適当に聞き流してる癖に」
「……まぁ、雨が降らないに越したことはないよな」
「なに話を逸らしてんのよ」
「いや、戻したんだ」
「……ほら、そんなことばっかり」
「いやいや、だって雨なんて降ったら、特にシェラなんか一層ツラくなっちまうだろ。あいつもう、かなり限界だぜ」
「ふ〜ん……優しいんだ」
「今ごろ気付いたのかよ」
「……あのね、意味が違うの!ホント、適当なことばっかり。もう馬鹿馬鹿しいったら」
ハァ、とマグナは溜息を吐く。
そして俺達は、隣り合って座ったまま、しばらく星空を仰ぎ続けた。
この空は、どこまでも続いている。魔王バラモスも、同じ空の下――
いつか俺はマグナの話相手を、まともに勤めるようになるのだろうか。
「なぁ」
「……ん〜?」
「周りに俺しかいない時は、ぶっちゃけていいんだぜ。色々と、さ」
「……ぅん」
「今度はちゃんと話し相手になるよ。いつでも」
「ん……ありがと」
返事にやや遅れて、マグナの頭がこつんと俺の肩に乗せられた。
すーすーという寝息が聞こえる。
起こさないように気をつけながら横を向くと、そこには歳相応の、まだ幼い寝顔があった。
交代まで、もう少し時間はあるけど、しょうがねぇな。
俺はそっと足元の薪を拾い、踊り続ける炎に向かって放り投げた。
う〜ん、前回、規制回避のコツを掴んだと思ったのに、
今回はやたらひっかかってしまいました。
もしリアルタイムで遭遇してしまった場合、1時間くらいほったらかしに
していただけると、多分投下が終了すると思います。長いよw
今回は、前半の説明部分が長くて申し訳ないです。
ヴァイスくんも、前半喋り過ぎて死にそうだにゃー、と申しております。
後半も、マグナに勝手に喋らせたら、長くなってしまいましたが。
魔法のくだりは、特になにかをパクッた訳ではありませんが、
ゲームの設定を小説に取り込むのが目的なので、
ありきたりではあったりします。
さすがにそろそろ働かないとヤバいのでw ちょっとペースが
落ちるでしょうが、なんとか週間くらいで投下したいなぁ、と思ってます。
宜しければ、今後ともお付き合いくださいませ。
GJ!!やっぱ16歳の女の子なんだねえ。
CCさんGjです! こまかい設定やマグナの心の動きとか、こうゆう作風好きです
>>315 燃えた。俺のささやかな願いを聞いてくれてありがとう!!
GJ!!
わーい、感想ありがとうございます。
レスポンスがあると嬉しくてやる気になるし、
なにより、ほっと胸を撫で下ろせますw
いつも投下後って落ち着かないもので(汗
>>344 ツンデレ抜きにしてもクオリティ高いですよ!
次の投下も心待ちにしてます
>>CC氏
乙です。
毎度GJ!!!
いやホント好きだわ。
ヴァイスの妄想wktk
>>144氏
315もGJ!
シビレました
レスありがとうございます。ホントに励みになります
ロマリアとそのイベントでちょっと思いついたやり方を、早く書きたくて仕方ないほしゅ
それに期待保守
期待して待ってます保守
できれば明日か明後日に投下したいけど無理っぽいかもほしゅ
351 :
144:2006/10/17(火) 02:29:52 ID:4luVGpmu0
>>351 動きのある絵がカコイイ!!
また漫画かいてくださいwww
>>351 このライナー見て僧侶の服ってエロいなと改めて思った。
俺もまた漫画がみたいな。
マグナ一行の絵も見たいな!
エロいやつ!
もうちょい保守
他の人の絵みてると描きたくなってきますよねw
6. Exodus
「……やっと着いた〜」
「……」
「……」
「……」
リィナ以外は無言のまま、俺達は「再び」レーベの村に足を踏み入れた。
全員、ボロボロだ。
身なりもそうだが、それ以上に疲れ切っている。
リィナですらも、若干足元が覚束ない。なにしろ、途中からほとんどシェラを背負って来たからな。
『大丈夫だいじょぶ。人をしょうのにもコツがあってね、疲れない方法があるんだよ!』
とか言って、ひたすら遠慮するシェラを強引におぶっていたが、さすがにコツでなんとかなる道程じゃねぇよ。
なにしろ、行きで多少は勝手が分かってたとはいえ、往路の半分ちょいの日数で山越え谷越え戻ってきたからな。強行軍もいいところだ。
村に入った俺達は、真っ直ぐに例の魔法の玉を研究している爺さんの館に向かった。
「……リィナ」
「あい〜……」
力無いマグナの呼びかけに応じて、錠前外しを手にしたリィナが扉に取り付く。
「おめぇ達、そこでなにさしてんだ!」
振り向くと、見覚えのある枯れ木のような婆さんが、どこからともなく現れて俺達を睨んでいた。
「いいから。続けて」
マグナは抑揚の無い声で、リィナを促す。
「なに人ン家さ、勝手に入ろうとしてんだ!けしからんわっぱ共が!」
婆さんは、手にした杖で地面を打った。
「おめぇ達、やっぱし魔法の玉さつこうて、どっか他所の土地さ行こうだなんぞと企んでただな!?この親不孝モンめらが!」
婆さん、あんたにも言い分はあるんだろうが、今は止めといた方がいいと思うぞ。
「うるっさいわね……」
なにしろ、そうケンケン怒鳴られると、今は俺でさえイラっとくるんだ。
こいつが大人しくしてる訳ねぇよ。
「なんじゃ!?なんぞと言わしゃったか、このめわっぱが!」
「うっさいって言ってんのよ!ちょっと黙んなさいよっ!!」
「なっ……」
叱られた子供が反抗するなど、婆さんの常識の範疇には無いことなんだろう。
未知の生物でも見るような目を向けられたマグナは、構わずにまくし立てた。
「大体ね、ここにいるのは、どうせあんたの旦那さんなんでしょ!?生まれた土地とかなんとか回りくどいこと言ってないで、行かせたくないなら、あんたが自分でちゃんと繋ぎ止めておきなさいよっ!!」
「開いたよ〜」
リィナの報告を受けたマグナは、フンっと荒く鼻息を吐いて、もう老婆には目もくれず、そのままズカズカと中に入り込んだ。
婆さんは、杖を握り締めてわなわなと震えていた。悪いな、こいつ今、ちょー機嫌悪いんだ。そんで、俺も取り成すだけの元気がねぇんだわ、これが。
くたびれ切って蹲っていたシェラに手を貸して、俺はマグナの後を追った。
無遠慮に家捜しをして、一階には誰も居ないと知れると、マグナは二階へ続く階段をドカドカ上がる。残った最後の体力を、やけくそに使ってやがるな。俺もヤボ用を済ませてから、急いで上へついてあがった。
二階には、大きな部屋がひとつあるだけだった。
マグナが扉をバンっと勢い良く開くと、表の婆さんよりは皺の目立たない、立派な顎鬚の爺さんが、目を丸くしてこちらを向いた。いや、どうも、お邪魔してます。
「な、なんじゃね、君達は」
枯れ木婆さんよりも、ずっと物腰は柔らかい。だが、マグナはお構いなしだ。
「魔法の玉を出しなさい」
「は?なんじゃね、君達は」
爺さんは、同じ問いを繰り返した。
まぁ、いきなり図々しく飛び込んで来た見知らぬ人間に、突然そんな要求されても、それしか言い様がないよな。
こいつも、自分を取り繕う体力が残ってないんだ。申し訳ないが、できれば大目に見てやってくれ。
「いいから、魔法の玉を出しなさい」
目を白黒させていた爺さんは、それでもマグナの格好に気付いたようだ。
「ああ、あんたは勇者様かね、ひょっとして。それで、旅の扉を渡る為に、儂の元へ……」
「そんなこといいから。とにかく、魔法の玉をちょうだい。早く」
「あ、ああ。都の魔法教会から、勇者様が出立したという知らせは受けとりますよ。もしや、儂の元を訪れることもあろうかと思っとりましたが……」
「早く」
「お、おお、そうじゃな」
爺さんは、乱雑に物が積まれた大きな机から球状の物体を取り上げて、こちらに歩み寄った。
「この魔法の玉はじゃな、ごく簡単に説明しますと、爆発にわずかに遅れてルーラの効力を……」
「その説明は、もう聞いたから。早く、ください」
「お、おお、そうじゃったか」
いちおう開発者なんだからさ、爺さんの見せ場を奪ってやるなよ。とは言えなかった。怖くて。
受け取ってはじめて、本人は無意識なんだろうがずっと仏頂面だったマグナは、にこっと爺さんに微笑みかけた。
爺さんも、それでようやく一息つけたようだ。
「その魔法の玉は、まだ起爆に難がありましてな。装置は用意しとりませんので、封印の壁に向かって投げつけるのがよろしかろう。一定以上の衝撃で起爆する筈ですじゃ」
「分かりました。ありがとうございます」
「いやなに、儂も若い頃には広い世界に憧れて旅の扉を越えようと、こんな研究を重ねてきましたがの。もういい歳じゃ。今さら、ここを出ていこうなんぞとは思っとりません。それよりも、儂の研究が勇者様のお役に立てるなら――」
ふと、爺さんはマグナ越しに何かを見た。
振り返ると、皺くちゃの老婆が、杖を支えに扉の脇に立っていた。
「婆さん……」
「お前さん、いま言いよったことは本当かい……」
信じられぬという口振りの老婆に、爺さんは自嘲っぽく笑いかけた。
「ああ、本当だとも。儂もすっかり歳を取った。勝手ばかりをしてすまんかったが、最後に篭って急いだお陰で、こうして魔法の玉もそれなりに納得のいくものが間に合った」
少し照れくさそうにあらぬ方を見て、顎鬚を撫でる。
「もうこれ以上、ここに閉じこもる必要もない……じゃからの、お前さえよければ、また一緒に……」
「おぉ……おぅ……」
婆さんは、よたよたと爺さんに歩み寄る。
思いがけずに展開された、ちょっといい話に心動かされた様子もなく。
「じゃあ、もらっていくわね。どうもありがとう、お爺さん」
マグナはさっさと部屋を後にした。
ちらと振り返ると、爺さんと婆さんが寄り添っているのが見えた。
二人は幼馴染。若い時分に遠い異国に憧れた爺さんは、引き止める婆さんを振り切って、都に魔法修行に出てしまった。
それでも、この地で凝っと待ち続けた婆さんは、何年も経ってようやく故郷に帰ってきた爺さんと、めでたく結ばれた。
ところが、爺さんの心は異国に飛んだまま。旅の扉を越える為の研究に精を出し、婆さんはまるでほったらかし。
せっかく添い遂げたというのに、婆さんはずっとひとりぼっち。徐々に偏屈になり、寂しさを紛らわせるかのように、周りに当り散らしてしまう毎日を送っていた。
だが今、待ち続けた甲斐あって、ようやく婆さんの想いが報われようとしているのだ。
みたいな。
そんな感動の物語なのかも知れないが、ちょっと間が悪かったな。この手の話に弱そうなシェラですら、虚ろな目を向けただけだ。くたびれ過ぎて、みんな不感症になってるわ、これ。
俺達に祝福されようとも思ってないだろうから、別にいいよな。まぁ、仲良く達者に暮らしてくれ。
館を出て、玄関のステップを下りたところで、マグナはそのまま崩れるように地面に倒れ込んだ。
突っ込む元気がないどころか、俺も壁に身をあずけて座り込む。シェラも、隣りにへたり込んだ。
マグナは、寝返りを打って大の字に寝転がると、魔法の玉を手にしたままやけっぱちな大声をあげた。
「あーーーもうイヤーーーーーッ!!また同じ道戻るなんてイヤーーーーーーッ!!嫌なの!!嫌ったらイヤッ!!あーーーーーもうっ!!」
駄々っ子か。せめて、その大股開きでスカートを穿いてくれてたら、俺の一部は自動的に元気になったかも知れないが。って、いやいや。疲労で下らないことしか考えられなくなってるな。
まぁ、要するに、こいつは性格的に後戻りが大嫌いなのだ。
特に今回は、後戻りの見本市に出品できそうな、そりゃもう見事な後戻りだったからな。
さらに加えて、嫌なことはなるたけさっさと済ませてしまいたいタイプときてる。
マグナ自身が無理強いした訳ではないのだが、みんながそれを察して足を早めた結果、無茶な速度で復路を踏破して疲労困憊となってしまった訳なのだった。
マグナは顔だけ上げて、ジロリとこちらをねめつけた。俺、何も言ってないよ?
「なによぉっ!!どうせ、あの時素直に話を聞いておけばよかったんだ、とか思ってるんでしょっ!!分かってるんだからね!!はいはい、どうせあたしが悪いですよ。全部あたしのせいですよーだ。フンッ、なにさ!!文句があるなら言ったらいいじゃない!!」
マズい、本格的に壊れかけてやがる。
「とにかく、宿屋さんに行って休みませんか?」
弱々しい声で、シェラが提案した。「そんなことないですよ」みたいな台詞を言わないなんて、珍しい。誰が悪いとかどうでもいいから、一刻も早く横になりたいようだ。
「そだね。ボクもベッドで眠りたいよ。気持ちいいだろうなぁ……」
なんか、うっとりしているリィナ。いや、お前はホントよく頑張ったよ。
「そうね、早くいきましょ……ほら、いつまでしゃがみ込んでんのよ」
自分だけさっさと立ち上がったマグナが、俺を叱咤した。あのな。
ふらふらになりながら宿屋に着くと、あの子供にまた出迎えられた。どうやら、ここで預かっているらしい。孤児だもんな。
魔物をいっぱい倒した?とかいう無邪気な問いかけに、そりゃもうチョーいっぱい倒したわよオホホ、とかなげやりな返事をするマグナ。多分、自分でも何言ってるか分かってねぇな、ありゃ。
帳場で鍵を受け取ると、シェラとリィナを連れて、マグナは足を引き摺りながら部屋に消えた。あの様子じゃ、全員ベッドに即バタンキューだな。
俺も、視界がぐるぐる回りはじめていた。受け取った記憶の無い鍵を握り締めて、ようやく部屋に辿り着くと、ベッドに倒れ込む寸前で意識が途絶えた。
ここで、話はかなり前に遡る。
まぁ、その、なんだ。あの夜を経て、俺とマグナの関係が変わったかと言えば――
ひとことで言って、相変わらずだった。
いや、交代の時間ぴったりにリィナが起きた時にも、まだマグナは俺に寄りかかって眠っていたから、「あららー?お邪魔しちゃったかな?」と言わんばかりにニヤニヤされたりはしたが、それはともかく。
翌朝起きたら、マグナは全く何もなかったようなケロっとした顔をして、「あ、おはよ」といつものように声をかけてきた。
なんか顔合わせずれぇ、酒飲んでぶっちゃけ話した次の朝っていうか――てなことを、少し前から目が覚めていたのに、寝た振りをしてウダウダ考えていた俺が、馬鹿みたいだ。
強いて言えば、それからしばらくの間は、マグナの俺への当たりが心なし良くなったように感じられたが、それも気のせいかも知れない。
残念至極なことに温泉は見つからないまま、最後のひと山を越した俺達を待ち受けていたのは、だだっ広い湿原地帯だった。
これがまた、大変歩き難い。
てっきりマグナは、歩き難いだの、靴がぐしょぐしょになるだのと不満を言いまくるかと思ったら、「ごめんね、あたしに付き合わせたばっかりに、大変ところばっかり歩かせちゃって」と逆に俺達を気遣ってきた。
おもに気を遣われたシェラは、どこから見ても限界だったが、「そんな。私の方こそ無理言って連れてきてもらったのに、足手まといになってばかりですみません」と恐縮しつつも元気づけられたようで、頑張って歩き続けた。
なにやら思うところもあるんだろうが、殊勝なマグナなんて、なんか調子狂うぜ。
その後も、蛙の化け物だのバブルスライムだのに悩まされながら進んだはいいものの、目標物もなくただ平坦に広がる湿原に、もちろん方角は逐一確認しているのだが、本当に正しい方へ向かっているのか不安になりかけた頃。
「なんか、岩みたいのが見える」
リィナが遠くをすがめつつ、そう報告した。
ちなみに、俺がそれを目視できたのは、まだ斜めに見えていた太陽が沈みはじめた頃だった。こいつは、恐ろしく目も良いようだ。
ともあれ、岩場があるのはありがたい。こんな湿原じゃ、キャンプを張るにも苦労するからな。灌木がちょろちょろと生えているので、かき集めればなんとかひと晩くらいは焚き火も持つだろう。早く、靴やら服を乾かしたいぜ。
ところが、実際に近づいてみると、それは単なる岩場ではなかった。
立って入れるくらい大きな横穴が開いていて、中はずいぶん広そうだ。ひと晩の宿を求めるには、ますます好都合な話ではあるのだが、どうやら何かが棲んでるみたいな跡がある。
真っ当な人間が住んでいるなら結構なんだが、言うまでもなくマトモな人間はこんな処で暮らさない。山賊だか盗賊が、人も通らないような場所を根城にしてるとは思わないが、知能の高い魔物が潜んでいる可能性もある。
「すいませーん、泊めてくださーい」
止める暇もなく、リィナが奥に向かって呼びかけた。だからお前は、ちょっとは考えてから行動に移せっての。
果たして、奥から姿を見せたのは、魔法使いの格好をした爺さんだった。
こういう結果オーライが続くから、いつまで経っても学習しねぇんだな、こいつは。とか思ってたら、中にいるのは人間がひとりだけだということは、リィナには気配で感じ取れていたそうだ。はいはい、どうせそうでしょうよ。
「なんじゃ、こんなところを訪ねよるとは、物好きな奴らじゃの」
呆れた口振りながらも、爺さんは俺達を奥に通してくれた。
洞窟の中には案外ちゃんとした部屋がしつらえてあり、外から見るよりもさらに広かった。というか、広すぎた。
魔法の研究の為に、こんな辺鄙な土地で隠棲しているという爺さんだから、なんらかの魔法の力が作用しているのだろう。しがない職業魔法使いの俺には、どういう仕組みか、さっぱり見当もつかないけどな。
「なんとお主ら、旅の扉を目指しておるのか」
ひと晩の宿を提供してもらうにあたり、これまでのいきさつを簡単に、しかも都合の悪い部分をはしょって説明し終えると、爺さんは哀れむような目を俺達に向けた。
「一体、普通の人間がこんなところまで、わざわざ何をしに来よったんじゃと思えば、そういうことかい。しかし、可哀想じゃがの、あそこは封じられて誰も使えんようになっとる筈なんじゃが」
「封じられてるって、魔法かなにかで?」
眉根を寄せてマグナが問うと、爺さんは遠い記憶を呼び起こすような仕草をした。
「そうじゃのぅ。分厚い石壁で道を塞いだ上に、魔法を無効化する封印が施してあった筈じゃ。洞窟じゃで、爆弾なんぞで無理に壁を壊そうものなら崩落の危険もあろう。さりとて魔法でどうする訳にもいかぬ、というような仕掛けだった筈じゃ」
「そんな……」
よりによって、やっと目的地のすぐ近くまで来たところで、そんな話を聞かされて、マグナは軽く握った拳を口元に当てて、爪ではなく指を噛んだ。あんまり強く噛み過ぎるなよ。
しかし、俺もこれはショックだった。ここまで来といて、そりゃないだろ。見ろよ、シェラなんて可哀想に、元々くたびれ切ってたのに、ぐんにゃり背中を丸めて俯いちまった。
事情が分かっているのかいないのか、こんな時でも他人事みたいな面をしていられるのは、リィナくらいなものだ。
「どうにか……なんとかならないんですか?何か方法は?」
爺さんに尋ねても、捗々しい答えを期待できるとは思っていないだろう。それでも、マグナは問わずにはいられないようだった。
「はてさて、そう言われてものぅ……」
例の陰険講師の薫陶を受けたお陰で、本物の魔法使いというのは嫌味で陰気な連中ばかりなのかと偏見を抱いていたのだが、爺さんは俺達の為に、なにか妙案はないものかと真剣に考えてくれた。歳を経ると丸くもなるのかね。
祈るようにそれを見つめるマグナの表情にも、さすがに諦めが浮かびかけた時――
「おお、そうじゃ。なんじゃったかの……レーベの村に住んどる、なんとかいう魔法使いが、旅の扉を越える為に、封印の壁をどうにか取り除く研究をしておると、いつか聞いたことがあるぞ。確か、魔法の玉とか言うたか」
「……魔法の玉」
マグナは、ちょっとイヤそうな顔をした。まさか、ここでその名前が出てくるとはな。
「ちょっといいか」
俺は口を挟んだ。
「なんじゃね」
「その魔法の玉の研究をしてるヤツは、アリアハンの都にも居たみたいでな。ついこの前、ずいぶんな爆発事故を起こしたんだ。そんな爆弾みたいなモンで壁を吹き飛ばして大丈夫なのか?その方法じゃ崩落の危険があるって言ったのは、爺さんだぜ」
俺の疑問に、爺さんは頷いた。
「まぁ、もっともな心配じゃな。しかし、その都の研究者とやらは、おそらくまだまだ完成の域に達してはおらなんだじゃろう。儂が聞いた話によれば、その魔法の玉とやらの原理はじゃな――と、お主らに細かな魔法の話をしても詮無きことよな」
うん、簡単に説明してくれると助かる。
爺さんが、ごく掻い摘んで教えてくれたところによれば。
爆発によって壁を崩して結界を物理的に無効化した瞬間に、さらに内に仕込まれた物質が魔法を発動して、爆発ごと瓦礫をその場から転移させてしまう代物だそうだ。
俺の知識では、中にキメラの翼みたいな物が埋め込まれているのかな、程度の想像しかできない。いや、転移といってもルーラそのものではないらしいんだが。
嫌味な講師が『貴様ら大道芸人には無理な話だが』とムカつく前置きをして語ったところによれば、相性の良い物質に魔法を仕込むことは不可能ではない。
ホイミの効果を持つ薬草や、キアリーの効果を持つ毒消し草が、その証拠だ。『ことわりを封じる』とか言ってやがったか。
ともあれ、タイミングや仕込みが悪いと、魔法の玉は単なる爆弾でしかない。アリアハンでの事故は、そうして起こったのだろう。
「とはいえ、もう幾年前に聞いた話か……ここのところ、儂は都の協会ともロクに連絡を取っておらんでな。完成したかどうかも分からんのじゃが」
爺さんはそう締め括ったが、他に当てもないのだ。あの山を再び越えるのかと思うとうんざりするが、レーベに戻るしかない。
また「なんでルーラを使えないのよ!」とか無茶な文句を言われても困るので、実はキメラの翼を買っておいたのだが、残念ながら今回は使えない。
扱う機会のない一般人の中には、手に持って羽ばたくと空が飛べるとか勘違いしているヤツも多いが――なにを隠そう、俺がそう思っていた――キメラの翼はルーラを発動する道具だ。
ルーラは、目的地にいる魔道士に先導、というか引っ張ってもらわないと、ジゲンの迷い子とやらになってしまい、どこに行き着くか分からないのだそうだ。
つまり、飛べる先は、実際に訪れたことがあり、且つ、その地にある魔法協会の契約印に触れて契約を済ませた町だけ。脳の波長を記録しておかないと、先導役の魔法使いが識別できないから、とか陰険クソ講師は講釈をたれてやがったな。
つまり、俺達がキメラの翼を使っても、結局レーベの魔法協会は訪ねていないので、今はアリアハンにしか飛べないのだ。尤も、訪ねていたら魔法の玉を手に入れていたかも知れず、だったらレーベに戻る必要も無い訳だが。
だからあの時、鍵を開けて勝手に入りゃ良かったんだ。と言うつもりはなかった。マグナの判断は言いたかないが常識的だったし、魔法の玉が必要だなんて、あの時点では俺も思っていなかったからな。
それに「お前のせいだ」なんて言おうものなら、せっかくここまで上機嫌だったマグナが、ヘソを曲げることは確実だ。俺としては、それだけは避けたい。
だがしかし。
「……このまま、旅の扉に行ってみない?」
マグナは、予想外のことをのたまった。
え〜と、お爺さんの話を聞いてらっしゃいましたか、マグナさん?
旅の扉は、入り口で厳重に封印されていて、魔法の玉がないとそれを壊せないんですよ?
おそるおそる進言すると、マグナは唇を尖らせた。
「あんたこそ、ちゃんと聞いてたの?お爺さんの話は、何年も前の単なる又聞きで、しかも完成してるかどうかも分からないって言うじゃない。そんな不確かな情報で、やっとここまで来たのに、今さら戻りたくないの!」
いや、戻りたくないとおっしゃられましてもね?
「じゃあ、封印はどうするんだよ?」
「魔法が効かないってだけで、要は石壁をどうにかできればいいんでしょ。リィナ、なんとかならない?」
唐突に話を振られたリィナは、きょとんと自分を指差した。
「ボク?ん〜、どうだろ。見てみないと分かんないけど」
レーベの村で岩を砕けなかったのが悔しかったのか、リィナは道中で手頃な岩を見つける度に試し割りをして、呆れたことに幾日もかからずに出来るようになっていた。
とはいえ、お前、ここは否定しておけよ。
「ほら、実際に見てみないと、何もはじまんないわよ。とにかく決めた!このまま行くから!いいわね!?」
「うん、別にいいよ〜」
「私も、マグナさんにお任せします」
そうなんだよな。リィナは考えなしだし、シェラは同行させてもらってることに恩を感じてるから反対する訳ないんだし、この中でマグナを諌めるとしたら、俺しかいない訳だ。
だが、俺の説得を先回りするように、マグナは有無を言わせぬ目つきで睨みつけてきた。
「い・い・わ・ね、ヴァイス?」
ムキになってやがる。ここしばらくの、聞き分けのいいお前はどこに行っちまったんだ。
やっぱ人間、そんな簡単に変わるもんじゃねぇよな。
不幸中の幸いというべきか、旅の扉を奥深くに秘めた「いざないの洞窟」は、爺さんのねぐらから二日とかからない距離だった。
レーベで俺の提案を自分が却下したからこそ、こんな状況に陥っているのだということを、マグナは必要以上に自覚していた。
明らかに、そのせいで意固地になっているマグナに追い立てられるようにして、俺達は砂丘を越え、森を越えて「いざないの洞窟」に辿り着いた。
問題の石壁は、入ってすぐ左手にあった。壁一面に上下の矢印を重ね合わせたような大きな図形が描かれており、両脇に得体の知れない像が安置してあるという怪しさだ。これが封印の壁に間違いないだろう。
「う〜ん、これはちょっと、難しいかも」
石壁に触れて、拳骨でコツコツ叩いたりしてから、リィナは腕組みをした。
「すっごい分厚いよ、これ。硬そうだし。それに、あんまり思いっ切りやったら、洞窟が崩れたりしないかな?」
生身でそこまでできたら、逆に凄いと思うが、こいつの場合はやり兼ねないからな。
「そう……ゴメンね、なんか無理言っちゃったみたいで」
さすがにマグナが萎れていると、リィナは図形の真ん中あたりに拳を添えた。
「まぁ、軽くやるだけやってみるよ」
「え、おい」
「ふんっ」
ドン、という音と共に、床が微かに震えた。パラパラと、細かい岩の破片が天井から降ってくる。
バカお前、ちょっとはもったいつけろっていうか、心の準備くらいさせろ。生き埋めになったらどうすんだ。
「やっぱり、軽くじゃ無理みたい」
石壁の表面には、わずかに亀裂が入っただけだった。それでも、大したモンだと思うが。
「ありがと。もういいわ……なによぅ」
さて、どうするんだと視線を向けると、マグナは頬を膨らませた。
「いや、なにも?」
「フン、あんたの言いたいことなんて、分かってるんだから。いいもん、あたしこの前、あんたがまだ覚えてないルーラを覚えたんだからね。それでレーベまで戻れば、文句ないでしょ!?」
そうなのだ。意外なことに、マグナは魔法が使えるのだ。それも、魔法使いと僧侶の呪文を織り交ぜて。本人は記憶にないというから、勇者としての英才教育の一環として、幼少の頃にイニシエーションを受けていたのだろうか。
だが、実際には扱えない。マグナが戦闘中にはじめて唱えたメラが、俺目掛けて飛んできた時に、命にかかわるので強引に説き伏せて禁止した。
基本的な知識が足りない所為もあるんだろうが、それよりも資質の問題が大きい気がしてならない。こいつはおそらく――そんな言葉があるか知らないが――「魔法オンチ」なのだ。
ルーラなんて唱えさせたら、どこに飛ばされるか分かったモンじゃない。その提案は、是非とも遠慮させていただこう。
お前は魔法オンチだから止めろ、なんて言ってもさらにムクれるだけなので、ルーラには契約が必要だからレーベには飛べないことを理路整然と説明すると、マグナはどうしていいか分からないようなふくれっ面を浮かべた。
まぁ、どっちにしろムクれるんだ、これが。
「じゃあなに?歩いて戻らなきゃいけないっていうの!?」
まるで俺が悪いみたいに言わないでくれ。
この後、ひとりで戻って魔法の玉取ってくるから、みんなはここで待ってて、とか無茶なことを言い出したマグナをなんとか宥め、後戻りが大嫌いなこいつに急かされるようにして、くたくたになりながら俺達はレーベに舞い戻ったのだった。
そして俺達は、魔法の玉を手に入れて、再び「いざないの洞窟」にやってきた。
ずいぶんな遠回りをしたような気がするが、それは言うまい。
封印された壁の前に行くと、今回の道すがらでも、また宿を世話してくれたほこらの爺さんが待っていた。あれ?いつの間に先回りされたんだ?
異常な健脚で砂丘や森を疾走する爺さんを思い浮かべて、吹き出しそうになる。よく分からんが、どの道なんかの魔法を使って来たんだろう。
「あれ、爺ちゃん。わざわざ見送りにきてくれたの?」
「うむ。魔法の玉は持っておるな?」
「ええ。おととい見せたじゃない」
「そうじゃった、そうじゃった。どうも歳をとると記憶がのぅ……まぁ、ええわい。ならば、魔法の玉で封印を解くがよい」
「言われなくたって、そのつもりよ」
マグナは魔法の玉を取り出して、リィナに手渡した。
「お願いしていい?リィナの方が、こういうの得意そうだから」
「りょうか〜い。それじゃ、行くよー」
「いやいやいや、待て待て待て。近いって近いって。できるだけ離れろ。俺達もだ」
俺は慌ててリィナを一旦止めて、全員を反対側の壁に寄せた。広間のようになっていて、かなり距離はあるが、理屈通りに魔法の玉が機能せずに暴発したら、ただでは済まないだろう。
ホントに崩落とか大丈夫なのか?なんて思いが、今さらのように脳裏をよぎったが、それを口にする暇もなく。
「せぇの」
リィナは魔法の玉を、封印の壁に向かって思いっ切り投げつけた。
見事に奇妙な図形のど真ん中に命中した魔法の玉は、一瞬遅れて爆発して轟音と共に壁を砕く。
破片や衝撃波を予感して俺は身構えたが、次の瞬間、瓦礫は爆発ごと跡形も無く消し飛んでいた。
おお、やるじゃん、レーベの爺さん。
頭上でかすかな地鳴りがした。どうやら上空に抜けたらしい。
「大丈夫。成功よ」
しゃがみ込んで両耳を押さえていたシェラの肩を、マグナは叩いた。
「いや〜、落盤が起きたらどうしようと思って、ヒヤヒヤしたよ」
とリィナ。嘘つけ。
封印の壁が取り除かれた先には、奥へと通じる道が続いていた。
「どうやら上手くいったようじゃな。お主らには、これを渡しておこう」
爺さんは、懐から羊皮紙を取り出してマグナに渡した。
「これって……世界地図!?」
「そうじゃ。この地の旅の扉は、ロマリア城の南へと繋がっておる。向こうに着いたら、まずは北を目指すがよい」
「分かったわ。色々ありがとう」
「いやなに。さて、これでお主はいよいよ、アリアハンを後にすることと相成った訳じゃが……何か、言い残しておくことはないかの?」
爺さんに言われて、マグナはきょとんとした。
「いいえ?別に?」
「……そうじゃな。若いお主には、前だけ向いておるのが似合っとるじゃろう。それでは、行くがよい。旅の無事を祈っておるぞ。達者でな」
「ありがと。お爺さんも元気でね。それじゃ、行きましょうか」
爺さんの言葉通り、マグナはそれ以上振り返ることもなく、前だけを向いて通路の奥へと歩き去る。リィナとシェラも、それに続いた。
後を追おうとした俺を、爺さんが手招きした。
「こちらに」
通路から死角になる位置、不気味な像の傍らまで呼び寄せる。
「なんだよ、爺さん……っ!?」
いつの間にか、爺さんが大人の女に変化していた。歳はいってるが、かなりの美人だ。じゃなくて、これはもしかして、話だけは聞いたことのある超高等魔法のモシャスで、爺さんに化けてたのか!?
「アレの母です」
「へっ!?」
アレって……マグナのことだよな。言われてみれば、顔の造りはさほどでもないが、どことなく雰囲気に通じるものがある。
「なんで、こんなところに……」
「古い友人――あなた方がお会いしたほこらの老人が、知らせてくれたのです。そんなことより――」
「ヴァイスー!!なにやってんのよ!!」
通路の奥から、マグナが俺を呼ぶ声がした。
「ああ、時間が無いわ。ひとつだけ」
「見送りに来たんじゃないんですか。会っていけば……」
「いいえ、いいんです」
複雑な表情を見て、なんとなく俺は察した。色々と、訳アリそうな親子だからな。
マグナの母親は、凝っと俺の目を見つめた。焚き火の夜を思い出す。目元はそっくりだな。
「あの子のこと、どうか、よろしく、お願いします」
「ヴァイスってば!!」
応える前に、また俺を呼ぶ声がして、マグナの母親は目配せをした。
俺は返事もそこそこに、とりあえず頷いてみせて、通路の奥へと急いだ。
頼む、か。リィナあたりに言っといた方が良かったんじゃないのか。俺なんかに頼んじゃっていいのかよ。
ひと言しか口に出来なかった分、『よろしく』に色々な意味が込められていたように思えて、正直なところ荷がかち過ぎな気がするぜ。
「なにやってたのよ。まさか、今さら怖気づいたんじゃないでしょうね」
追いついた俺を、マグナは腰に手を当てて上目遣いに見上げた。
ま、できる限りのことはするけどさ。一番お兄さんですしね。
「いや、悪い。ちょっと、魔法のことについて爺さんに質問してたんだ」
「こんな時に?まぁ、いいけど。ほら、行くわよ」
マグナは、前を向いて階段を下りていく。
俺は、一度だけ振り向いたが、老人の姿もお袋さんの姿も、そこには見えなかった。
四方を石造りの壁に囲まれた通路は、まるで迷路のようだった。
「もう、また行き止まりなの!?」
ようやくアリアハンを脱出できるのに、お預けをくらったような状態で、マグナはかなりイライラきている。
時折現れる魔物を撃退しながらしばらく進むと、先頭で手持ちランプを持っていたリィナが、突然立ち止まった。
「えっ」
「きゃ」
「おっ」
玉突きのように、全員が前につんのめる。
「おとと」
リィナの姿が消えた。
振り向いてシェラの手を掴みきれずに、マグナも消える。
引っ張られてたたらを踏んだシェラが居なくなると、支えを失った俺も堪え切れなかった。
浮遊感は一瞬だった。
落とし穴だ。
「うげっ」
「いたっ!!」
俺の身長よりちょっと高いくらいだろうか。あまり深くなくて幸いだった。誰かの上に落ちたこともあり、ほとんど痛くない。
すぐ横に灯りを感じてそちら見ると、リィナがシェラを抱えて立っていた。落ちてくるところを受け止めたらしい。
てことは、俺の下に居るのはマグナか。
「いったぁ〜……ちょっと、早くどきなさいよっ!!」
「ああ、悪ぃ」
ふにょ。
身を起こそうとした俺の右手に、柔らかい感触。
「ふぃっ」
ヘンな声を出すマグナ。俺は分からないフリして、ちょっとまさぐってやった。
「ふぁっ……って、ちょっと、なにやってんのよっ!!」
「へ?なにが?」
すっ呆ける俺。
「なにがって!!今、あたしの……っ!!」
立ち上がりながら、マグナは口篭る。
「……わざとじゃないでしょうね?」
「だから、何が?」
右手が胸のところにあったのは偶然だが、どけなかったのは、もちろんわざとだ。
というか、手が離れなかった。いやほら、宜しくお願いされたモンだから、発育具合も確認しとくべきかな、とか。
こんなことがお袋さんに知られたら、速攻で後悔されちまうな。うん、ちょっと反省しよう。だけど、仰向けてアレってことは、思ってたよりはあるじゃないか。
「ゴメン。ボクの後にすぐ落ちてきたから、マグナは間に合わなかったよ」
「すみません、私だけ」
何故かリィナにつられて謝るシェラ。いいフォローになると踏んで、俺は畳み掛けた。
「悪いな。俺も避けられればよかったんだけど、咄嗟のことでさ。上に落ちたのは謝るよ」
それ以外については、知らん振りを決め込む。いや、反省はしてますとも。
「……まぁ、過ぎたことはもういいわ。ほら、行くわよ!」
少し赤らんだ顔を、俺からプイと背けてマグナは先を促した。
ヘンな目で見んなよ、リィナ。いいから、偶然ってことにしとけ。
さんざん迷った挙句、俺達はようやく旅の扉らしき場所に辿り着いた。
扉とは言うものの、それは青い光の膜が薄くかかった深い縦穴にしか見えない。
ひょっとして、ここに飛び込めって言うのかよ。底が見えないぞ。平気なのか、これ?
と思っていたら。
「おっさきー」
「きゃあああぁぁっ!!」
リィナがシェラの手を引いて、あっさり穴に跳び込んだ。
「ホント、躊躇うとか全然ないのね、リィナは」
マグナは苦笑した。俺もまったく同感だ。
二人の姿は、すぐに見えなくなった。無事にロマリアに着いたんだろうか。
「さて、いよいよアリアハンともおさらばって訳だが、何か言い残しておくことは?」
なんとなく、俺は聞いてみた。
「なによ、あんたまで。別に、なにもないわよ」
「なら、いいけどさ」
しかし実際は、マグナの表情には軽い戸惑いが浮かんでいた。
「なにも無いっていうか……やっと、の筈なんだけど……ううん、だからなのかな。まだ、実感が湧かないっていうのが、ホントのところ」
まぁ、そうかもな。
「強いて言えば、せいせいするってトコだけど……そっか。うん」
なにやらひとつ頷いて、マグナは大きく息を吸い込んだ。
「二度と戻って来るかーーーっ!!バーーーーーーーーーーーーーーーカッ!!」
アリアハン中に響き渡るようなその大声は、通路に反響して、しばらく木霊した。
子供っぽい捨て台詞に、俺は思わず笑いを誘われる。
「ははっ」
「あー、スッキリした。それじゃ、行きましょうか」
言葉とは裏腹に、マグナの瞳は少し憂いを帯びて見えた。一人にした方がいいかな。
「じゃあ、先に行くぜ」
深い穴に身を躍らせて、青い光の膜を越える直前。
「……行ってきます」
そう呟く声が聞こえた気がした。
液化した全身をぐねぐねと掻き回されるような、最悪の眩暈よりもさらに最低な、なんとも言えない気持ちの悪い感覚に翻弄された俺は、気がつくと石造りの床の上に立っていた。
「……気持ち悪い」
いつの間にやら、隣りでマグナが口元を手で押さえている。
シェラは床にへたり込んでいて、そしてリィナさえも若干蒼褪めた顔をしていた。
ほとんど時間は経っていないように感じるが、ここはもう、ロマリアなんだろうか。
気持ち悪がっていても何も分からないので、俺達は目の前の扉を開いて階段を上り、外に出た。
「あれ?なんだか、あったかくないですか?」
シェラと同様に、俺も最初に感じたのは気温の変化だった。魔法の玉の件でドタバタしている間に、そろそろ肌寒い季節になっていたのだが、ここは春先のように暖かい。
「あっちとこっちじゃ、季節が逆なんだって」
意外なことに、答えたのはリィナだった。
「え?なんでですか?」
「え〜と……よく分かんない」
おいおい。
でも、それが本当だとしたら、ここではこれから夏が来るのか。薄着の季節だな。いや、別になんでもない。
「それに、なんで昼間なの?あたし達が洞窟に入ったのは夕方だったから、もう真夜中の筈でしょ?」
マグナの疑問はもっともだ。俺もそれ、言おうと思ってたのに。
「もしかして、場所だけじゃなくて時間も超えちゃったとか?」
「いや、そうじゃなくって、なんて言ったっけな……とにかく、ズレてても半日くらいの筈だよ」
「そうなの?なんだか、よく分かんないけど」
リィナの話で分かれって方が無理だ。全然、説明になってないからな。
「まぁ、いいわ。もう来ちゃったんだし、考えてどうにかなるようなことでもないし」
マグナは、果てしなく続く平原の先を見た。
「ロマリアのお城は、北の方って言ってたわね。とにかく、そっちに向かってみましょ」
半日ほど歩いたところで、例によってリィナが真っ先に声をあげた。
「あ、遠くにお城みたいのが見えるよ」
だから、見えねぇって。
「ん?誰かが魔物に襲われてる」
そちらは、俺にも辛うじて見えた。遠くで、なにやらごちゃごちゃ動いている。
足を速めて近づくと、どうやら襲われているというよりは、魔物と戦っているらしかった。
ただし、戦い方が物凄く素人臭い。外見からすると冒険者っぽいが、ロマリアにもそろそろ導入されたのか。確か、アリアハンに視察団を派遣したのも、ロマリアが一番早かった筈だ。
襲われ――もとい、戦っているのは三人。お、いい女がいる。メラを唱えてることからすると、魔法使いみたいだな。
「助けよう!」
すっ飛んでいきかけたリィナの肩を、俺は掴んで止めた。
まぁ待て。いつもお前ばっかりにいい格好はさせてらんねぇからな。タマには、俺にも格好つけさせろ。覚えたての呪文を見せてやるぜ。
「おい、魔物から離れてろ!」
俺が大声で呼びかけると、連中はこちらに気が付いた。
「早く離れろ!こっちに来い!」
わずかな逡巡の後、走り寄ってくる。
よし、こんだけ離れりゃ充分だろ。
『イオ』
閃光と爆発が、その場にいた全ての魔物を包み込む。
風が爆煙を吹き流した後には、焼け焦げた魔物共の残骸。
一掃だ。
どうよ、この威力?
「凄い……はじめて見た」
魔法使いのいい女が、小さく呟いたのが聞こえた。
ちょっとカッコいいんじゃねぇの、俺?
「大丈夫?怪我はない?」
よく見ると、このパーティには僧侶がいなかった。
って、なんでお前がでしゃばんだ、マグナ。
「そんなにヒドくはないけど、みんな……」
「みたいね。シェラ、お願い」
「あ、はい」
シェラは、全員にかいがいしくホイミをかけてやる。戦士と武闘家らしき男二人は、シェラに手当てされてぽわ〜っとなっていた。うんうん、可愛いだろ、ウチのシェラは。でも、惚れるなよ。
ちょうどシェラがホイミをかけ終えた頃に、遠くで叫ぶ声がした。
「おーい、みんなぁ!助けを呼んできただぞ〜!!」
城の方角から、馬に乗った鎧兜が数騎、駆け寄ってくるのが見えた。大声をあげたのは、先頭の馬に相乗りしている、商人風の男のようだ。
俺達の前で制止した騎馬から、その商人風の男が飛び降りる。
「ありゃ、もうやっつけちまっただか」
「ええ。この人達がね」
この人、と言って欲しいね。
「ありゃりゃ、無駄足踏ませちまっただな。あいすんません」
商人風の男は、相乗りしていた騎士に頭を下げた。
壮年の偉丈夫といった趣きだ。そういや、ロマリアは強力な騎士団がいるお陰で、割りと治安がいいんだっけか。
「それは構わんが、だから素人の冒険者風情に魔物討伐など無理だと言うのだ。我ら騎士団に任せておけばよいものを、まったくあの国王ときたら酔狂で困る。今からでも遅くはない。お主らも、職を考え直した方がよいぞ」
偉そうに説教をたれた騎士は、馬の上から俺達を睥睨して怪訝な表情を浮かべた。
「なんだ、この汚い連中は」
汚いって。そりゃ確かに、服とかかなりボロボロだけどよ。
マグナの眉がひくりと吊り上った。あ、ヤバい。
「どうもぉ。その素人の冒険者風情でございますぅ。それで騎士様は、どうしてこちらへ?まさか、この人達を助けにカッコ良く登場したつもりが、しがない冒険者風情に先を越されてた、なぁんて間抜けなことはおっしゃいませんよねぇ?」
「なんだ、この娘は」
偉丈夫は顔を顰めた。
「お主らが、あれをやったと言うのか」
背後の、魔物の残骸を振り返る。
「ええ、そうですの。ウチのヴァイスが。一撃で」
俺の腕に手を絡めて、オホホとでも笑いそうな口調で自慢するマグナ。うん、ちょっと肘の上に胸が当たってる。
「それが本当ならば、大したものだが……お主ら、見かけん顔だな。私も時間のある時は、平素から城の周辺を見回っておるが、あのようなことができる冒険者も、お主らのことも、ついぞ見聞きしたことがないぞ」
「あなた達、もしかしてアリアハンの冒険者じゃないの?」
いい女が尋ねてきた。
「うん、そうだよー」
あっさりリィナに肯定されて、マグナはやや慌てた。しょうがねぇ、フォローしとくか。
「ちょっと出稼ぎにね。最近、アリアハンは魔物が少なくてな」
「やっぱり。どうりで、強い訳だわ」
アリアハンは、冒険者に関しては先進国だ。こいつらを見る限り、ここの連中は、まだまだ経験が足りないようだから、俺の魔法はずいぶん強力に映っただろう。
「その方ら、アリアハンから来たと申すのは本当か」
「え、ええ。その、ルーラでぴゅーっと」
なるたけ素性を隠すつもりか、身振りを交えて、あわあわしながら言い繕うマグナ。ちょっと面白いが、ボロが出るからあんまり喋んない方がいいぞ。
幸いなことに、勇者の旅装はここでは知られていないらしく、特に気付かれた様子はなかった。
「ふむ。その若さで冒険者など、あまり感心せんが、まぁそれはよかろう。歓迎はせんが、滞在は許可してやる。なんでも構わんが、この地で問題を起こしてくれるなよ」
そう言い捨てて、偉丈夫は馬首を巡らせる。
「戻るぞ!」
お供の騎士達を引き連れて、偉丈夫は颯爽と駆け去っていった。
残されたマグナは、うぅ〜とか唸りながら、俺の腕をぎゅっと握り締める。痛いって。
「ムカつくぅ〜。なんなのよ、アレ!」
「申し訳ない」
何故か謝ったのは、戦士の男だった。
「騎士団は、冒険者制度の導入に最後まで反対してましたからね。自分達がないがしろにされた気がして、面白くないのでしょう」
冒険者にしては人の良さそうな顔をしている。若いな。俺と同じくらいか。
「でも、私たちはちゃんと感謝してるから。本当に、危ないところを助けてくれてありがとう」
いい女が後を継ぐ。いやなに、うへへ。あ、痛ぇ。
「なにデレデレしてんのよ」
マグナが顔を少し背けて、俺の腕を抓りながらボソリと呟いた。デレデレなんてしてねぇっての。むしろ、キリッとしてるだろ?だから、痛ぇってば。
そんな水面下のやり取りに気付いた風もなく、気の良さそうな戦士が俺達に話しかける。
「皆さんは、こちらははじめてですか?」
ルーラで来たって話を信じてるなら、その質問はねぇだろ。気付けよ。
「ええ、まぁ」
マグナも、頷いちゃってるし。
「じゃあ、せめてものお礼に、僕らに案内させてくださいよ。組合所にもお連れしたいし」
「そうね。お願いします。あと、安くていい宿とか、どこか紹介してもらえるかしら?」
「任せてください!とっておきの宿にご案内しますよ!」
「ご飯がおいしいところがいい〜」
これはリィナ。
「もちろん!ロマリア料理もはじめてですか?きっとお気に召すと思うなぁ」
「私は、早くベッドで休みたいです……なんだか、眠くて」
シェラはこしこしと目を擦った。
そういや、疲れてる上に、半日前まで真夜中だったんだもんな。てことは、本当は今は明け方か。いや、ここじゃ夕方だけどさ。くそ、ややこしいな。
「お疲れですか。それはいけない、早くまいりましょう」
そんな訳で俺達は、偶然出会ったロマリアの冒険者に連れられて、城下町を目指した。
よく考えるまでもなく、俺もアリアハン大陸を出たのは初めてなんだよな。さて、この先いったい、どんな展開が待ち受けているのやら。
まぁ、全部マグナ次第なんだけどな。
380 :
CC ◆GxR634B49A :2006/10/19(木) 06:29:09 ID:YkNQYSug0
今回は、なんだかモロにつなぎの話になってしまいました。
もうちょいあっさりか丁寧か、どっちかにするべきか少し悩んだんですが、
次の展開に気を奪われてしまいました(汗
次回からは、しばらくちょっと派手なお話になると思います。
またお付き合いいただけると嬉しいです。
寝る前にチェックしたら来てたよ! CCさん乙です!
なんだか伏線らしきものもありサブキャラの活躍もありと世界観が形成されていくなぁ…と思ってたら繋ぎですかコレ。
ちょっと派手な話がどこまでのクオリティになるのかある意味恐ろしかったりw
>>380 質・量・投下ペース、すべてが素晴らしくGJです!
派手な展開期待して待ってます
楽しんでいただけている方がいらして、ホント嬉しくて胸を撫で下ろします。
なにやら次回以降の展開に気が行き過ぎちゃってまして、
毎度とはいえ今回は特に練りが足りなかったとゆうか。。。
いや、元々このペースで練るもへったくれもないんですがwww
毎回書き終わる頃に次回のネタを思いつくとゆう自転車操業でもですね、
その内書きたいシーンというのか、そろそろいくつか出てきてまして、
あと2、3回で最初のそれに辿り着く予定なのです。
楽しみにしていただけると、ちょー嬉しいです。
期待をなるべく裏切らないようにw 頑張りますから〜
とりあえずおっぱいおっぱい
次回さらに長くなっちゃうかも。いろんな意味ですいません保守
ok 待ってるから頑張ってけれ!
楽しみに保守
君の瞳に保守
7. Ice Cream Castle
ロマリアの冒険者達が情報交換や報奨金の受け取りに集う場所は、ルイーダの酒場のようなざっくばらんな店ではなく、本当にただの事務所といった殺風景な建物だった。
ちったぁルイーダ姐さんみたいな洒落っ気が欲しいね、と思いきや、組合所を酒場にするなど不謹慎だという騎士団の意向が働いたらしい。そういやあの偉丈夫も、かなりお堅そうだったからな。
ありがたいことに、アリアハンで狩った魔物の分も換金してもらえた。
「生きたままだったら、もっと高値で引き取れたんですけどね」
顔の細工は普通なのに、何故かそれなりに可愛く見える換金係の女の子は、金を数えながらよく分からないことを言った。生きたままってどういうことだ。カサ張ってしょうがないから、多くても一度に数匹しか持って帰れねぇだろ、それじゃ。
なんにせよ、ロマリアに冒険者制度が導入されていたのは、俺達にとって運が良かった。これで、当面の収入源は確保できた訳だからな。
元々、路銀は底をついていなかった上に、当分は稼ぎの心配をしなくてもいいくらい、さらに潤った筈なのだが。
「はい、ヴァイスの分」
財布の紐を握っているマグナは、全財産を十分割して、その一割づつを俺達に渡した。
おいおい、四半づつ寄越せとは言わないが、もうちょっと色をつけてくれてもいいんじゃねぇのか?
そう抗議すると、残りの六割は、今後に備えて蓄えておくのだと返された。こいつ、案外しっかりしてやがる。
その後、人の良い剣士に宿屋へ案内してもらい、気を抜くと落ちそうになる瞼と格闘しながら、なんとか飯を食べ終えた俺達は、まだ夜も深けたばかりだというのに早々に部屋に引き上げた。
本当だったら、今は昼間の筈だから、つまり徹夜をしたようなもんだ。爆睡しそうな予感があるので、これだけ早く床についても、朝まで目が覚めることはなさそうだ。こっちの時間に体を慣らすには、結果的に好都合だったかもな。
みたいなことをぼんやりと考えている内に、俺はいつしか眠りに落ちていた。
明けて翌日。
朝どころか昼過ぎまで惰眠を貪ってから、俺はのろくさと起き出した。どれ、今日はロマリアの様子を窺いがてら、簡単に観光でもしてみるかな。
マグナ達の部屋の扉をノックすると、当たり前のように返事がなかった。とっくに出掛けたらしい。子供はみんな、元気だね。
一階に下りて遅い朝飯兼昼飯を胃に入れると、俺はあてどもなく城下町の散策を開始した。
ロマリアは、適当に眺めているだけでも、ずいぶん活気のある街と知れた。騎士団が引き締めている成果か、治安が悪い様子もなく、みんな生き生きと働いている。
彼らのような仕事を嫌って、やくざな商売に身をやつしているロクデナシとしては、なにやら肩身が狭くて「ご苦労様です」なんて、嫌味のひとつも心の中で吐きたくなるね。
まぁ、いい街なんじゃねぇの。新しい建物も多くて、古い歴史のある国の筈なのに若々しい印象を受けるしな。
目抜き通りと思しき喧騒に身を浸して、ぶらぶらほっつき歩いていると、いきなりガキが正面からぶつかってきた。
「いってぇな!気ぃつけろ、バーカ!」
憎まれ口を叩いて、駆け去ろうとしたガキの動きが止まった。
うん、俺の銭入れは、革紐で腰にくくりつけてあるから盗めないぞ。いくら治安が良さそうに見えても、やっぱ掏摸くらいはいるもんだな。
「ちぇっ、なんでぇ。おのぼりさんにしては、シメてやがんな」
悪びれた様子もなく、ガキは銭袋を放って寄越した。
「おのぼりさんかよ。そんな風に見えるのか?」
受けた銭袋の重みを確認する。よし、中身も抜かれてないな。
「だって、あんた、ここのモンじゃねぇだろ?」
ガキは頭の後ろで手を組んで、ジロジロと俺を値踏みした。
「分かるのか?」
「丸分かり。服がダセェもん」
マジか。いちおう俺も、今日は普段着なんですが。
「俺みたいな連中に目ぇつけられたくなかったら、もーちょいマシなカッコした方がいいぜ」
生意気に言い捨てて、ガキは雑踏に紛れ去った。
そうか。この街じゃ、俺は浮いてるのか。
それが本当なら、ガキの言うことにも一理ある。
俺は、ちょうど傍らに建っていた服飾店に入って――肝を冷やした。
どうやら女性専用の店らしく、置いてあるのはぴらぴらした女物ばかりだし、どこを見回しても女しかいない。香水だか白粉だかの匂いもキツくて、まるで別世界だ。
お、下着もあるじゃねぇか。すげぇ量だな。思わずそちらに向かいかけたところで、店員らしき派手な女が近寄ってきたのを発見して、俺は逃げるように店を後にした。
よく見ると、そんな店がそこら中にあるのだった。今度は、男物が置かれた気軽そうな店を慎重に選んで入り、適当な服を見繕って宿屋に戻った。
そうこうしている内に、夕暮れ時が近づいていた。ちょっと早いが、行ってみるか。
俺は新しい服に着替えて、昨日知り合った魔法使いのいい女が勧めてくれた賭博場へと足を運んだ。
地下に造られた賭博場は、照明もほどよく薄暗く、酒や煙管や香水の匂いの充満した、どこか退廃的な雰囲気を漂わせていた。昼間の街中が表の顔なら、こっちは裏の顔といったところか。いい感じじゃねぇの。
タマには子守から解放されて、大人の時間を満喫したところで、誰に文句を言われる筋合いでもねぇよな。
壁際にずらり並んだテーブルゲームは、俺の知らないものばかりで、ルールが分からないとカモにされそうだった。
ひやかしながらぶらついていると、変なおっさんが妙な節回しでドラ声をあげているのに出くわした。
「はいはい、そこ行くシケた顔したお兄ちゃん。もうすぐ手に汗握る魔物同士の賭け試合がはじまるよ。黙って買えばピタリと当たる。おいらの予想さえ聞けば、そのシケた面もご満悦になること間違いなしだ」
全面がガラス張りされた、店の中央にある半地下の空間は、どうやら格闘場らしい。生きたまま魔物を捕らえた方が高額だと、冒険者の組合所で言われたのは、つまりここで戦わせる為か。
ふぅん、これだったら、俺にも当てられそうかな。
金を取るというので予想を断ると、「おいおい、そんなシケた性根じゃ当たるモンも当たらねぇやな」と悪態を吐かれた。ナメんなよ、こちとら魔物に関しちゃ一家言ある冒険者だぜ。
賭札の売り場に行くと、次の対戦はフロッガーと人面蝶、それにバブルスライムという面子だった。まぁ、この中ならフロッガーだろ。あの蛙の化け物は、案外手強いからな。
配当が二倍しかつかないのが多少気にかかったが、結局、俺はフロッガーを選んだ。我ながら手堅いぜ。こういうのって、性格出るよな。マグナだったら、配当十倍の人面蝶を買ったに違いない。
試合開始まで、まだ少し時間があるようだった。酒を飲みながらガラス越しに観戦できるみたいなので、俺は空いたテーブルを探して格闘場の周りをうろついた。
「あら、ヴァイスさん」
いたいた。
期待していた通りに、例のいい女が向こうのテーブルで手を振っているのが見えた。
「よう、寄らせてもらったぜ」
俺を誘っといて、自分もここに居るってことは、こりゃ先まで期待できるかな。
「ここ、いいかい」
「もちろん。どうぞ、座って」
いい女は、嫣然と微笑んだ。
茶色がかった長い髪を後ろでまとめて、造花だと思うが花をあしらっている。ワンピースというか、体にフィットした簡素なドレスの胸元が大きく開いていて、谷間をばっちり拝めた。
マグナ以上、リィナ未満ってところか。いやはや、丁度いい大きさだ。何に丁度いいかは置いとくとして。
それにしても、ホントにいい女だな。張り出した腰つきの色っぽさときたら、文句のつけようがねぇよ。昼間の街中でも、これほどいい女にはほとんどお目にかからなかったぞ。なんでこんな女が、冒険者なんかやってんだ?
「あら、早速、ロマリア仕立ての服を着てるのね。似合ってるわよ」
「そうか?適当に買ったんだけどな」
なんだかよく分からない幾何学模様の開襟シャツと黒っぽい下穿きという格好だ。どうやらお世辞臭いが、誉められて悪い気はしない。
「けど、あんたほどじゃないさ。よく似合ってる。やっぱ美人は、なに着ても似合うね」
誉め返したつもりが、いい女は軽く苦笑を浮かべた。
「ありがとう。でも、なに着ても、なんて言っちゃダメよ」
ありゃ、そうですか。別に、どうでもいい、みたいなつもりで言ったんじゃないんだけどな。
減点をはぐらかそうと、俺は給仕を呼び止めて、いい女と同じ酒を頼んだ。ロマリアの銘柄なんて知らねぇし、注文でもたついたらカッコ悪いだろ。
すぐに届けられた酒は、なんだか甘ったるい味がした。女向けか。失敗の上塗りかね、こりゃ。
「ところで、冒険者になってどれくらい経つんだ?」
素知らぬ顔で話を変えてやった。真っ先に思いついた共通の話題がこれだったので、色気がないのは大目に見てくれ。
「まだ、ひと月ちょっとってところよ。冒険者制度自体が、ほんの数ヶ月前にはじまったばかりだしね」
「どうりで……」
「なぁに?」
迂闊なことを言いかけて口篭った俺を、いい女は頬杖をつきながら眺めた。
「……いや、戦い方が素人臭い訳だな、と思ってね」
大丈夫そうだと踏んで、俺は正直な感想を述べた。
「ふふ、ヒドいのね。そりゃあ、あなた達から見れば、そうなんでしょうけど」
「でも、アリアハン城周辺の魔物は、もっと弱っちいからな。はじめて冒険に出るヤツでも、経験を積み易いんだが、ここは魔物もそこそこ強いから、苦労するだろ」
「そうね。まだまだ、ちょっと戦う度に逃げ戻るような有様よ、お陰様で。昨日も、あなたが助けてくれなかったら、本当に危なかったわ。改めてお礼を言うわね」
「いやなに。別に大したことじゃねぇさ」
そろそろ色気のある方向へ、話を持っていこうとしたのだが。
「あ、はじまるみたいよ」
魔物同士の賭け試合が始まろうととしていた。そういや、すっかり忘れてた。
「どのコに賭けたの?」
いい女が尋ねてきた。フロッガーだと答えると、あら堅いのね、と笑われた。どうせなら、違う場面で言われたい台詞だ。もとい、いい女はバブルスライムに賭けていた。
試合が開始されて間も無く、人面蝶がマヌーサ効果を持つ鱗粉をフロッガーに振りかけた。ちょっ、お前、なにやってんだ。
当たりさえすれば、人面蝶もバブルスライムもほとんど一撃の筈なんだが、フロッガーはあらぬ方を攻撃するばかり。その間にバブルスライムは人面蝶を倒し、続いてフロッガーに狙いを定めた。
そしてついに、一度も有効な打撃を敵に与えることなく、フロッガーは地に頽れたのだった。
おいおい。
「残念でした」
からかうように言って、いい女は自分の掛札をひらひらさせた。これで三連勝だそうだ。性格的に賭け事には向いてないのかもな、俺。
「もうひと勝負してみる?」
「……いや、止めとくよ」
「あら、浮かない顔ね。外れたのが、そんなにショックだった?こんなの、時の運じゃない」
というか、見ていて思ったんだが。
「外れたのは、別にいいんだけどさ。なんていうか、魔物とはいえ殺し合いをさせてるトコを、酒を飲みながら見物するなんて、あんまりいい趣味とは思えなくてね」
「へぇ。そんな風に考えたことなかったな。皆、魔物にはヒドい目に遭わされてるし、だから、この見世物も、ここでは人気あるのよ。あなただって、日頃から魔物の相手をしてるでしょうに、ずいぶん優しいことを言うのね」
「優しいってのは、どうかな」
俺にとって、魔物とはこちらの命を狙って襲い来るものであって、それがこんな風に単なる人間の賭け事の道具として扱われているのを見るのは、なんとなく複雑な心境だった。
お前が普段から苦労している相手など、実際はそれほど大したモノではないんだぞ、と見せ付けられた気分だ。
「ガキ臭い感傷だよ。それだけ、この国の連中が逞しいってことなんだろうさ」
「そうね。ちょっと子供っぽいかもね」
いい女は、くすりと笑って俺の頬に手を伸ばした。
「でも、嫌いじゃないわよ、そういうの」
おや?こいつは、棚からボタ餅ってヤツですか、ひょっとして。
「それとも、アリアハンの男は、みんなそうなのかしら?」
「……いや、変わりモンってのは、どこにでも居るもんだろ」
「かしらね。じゃあ、魔物の殺し合いがお気に召さない変わり者さんは、この後どうするつもりなの?」
どうやら、ある程度は向こうもそのつもりだったみたいだな。
河岸を変えてお互いのことをもっと分かり合うってのはどうだい、ってのは、冗談めかして言っても臭過ぎるか、などと俺が言葉を選んでいると、いきなり邪魔者が闖入した。
「やぁ、スティア。スティアじゃないか」
いい女を快活な口調で呼んだのは、身形の良い優男だった。年の頃なら、俺より五から十歳ほど上だろうか。
そうそう、スティアだ。いい女の名前。ジツはうっかり忘れてて、どうやって聞き出そうかと悩んでたんだ。
「いつもに増して美しいのは、どうした訳だろう。おや、キミが着ているそれは、ドルジラの最新作だね。うん、思った通りよく似合う。はじめて目にした時に、真っ先にキミの姿を思い浮かべたボクのセンスも、まんざら捨てたものではないね」
喋りながらつかつか歩み寄ってきた優男は、スティアの手を取って甲にくちづけをした。
なんだ、こいつ。どっかの金持ちのボンボンか。柔らかそうな金髪の巻き毛が鬱陶しいぜ。
「私なんかをおだてても、なにも出ませんわよ、ロラン様」
まんざらでもなさそうに微笑むスティア。
ロランとかいう優男は、目の辺りを手で覆って大袈裟に首を振った。
「ああ、ロラン『様』だなんて言い方はよしておくれよ、スティア。キミとの間に、壁を感じてせつなくなってしまうよ」
「でしたら、どのようにお呼びすればよろしいかしら?」
「以前のように、ただロランと、どうか呼び捨てておくれ」
「分かりましたわ、ロラン。本当はとんでもないことだけれど、他ならぬ貴方がおっしゃるのだから、大丈夫よね」
「もちろんだとも。誰にも文句は言わせないよ。ボクらの仲を引き裂こうだなんて不埒者は、この手でもって取り除いてお目にかけるさ」
ちなみに俺は、二人のやり取りをぼけーっと間抜け面で見守っていたりする。だって、口を挟める雰囲気じゃねぇんだもん。
「それにしても、こちらではずいぶんとお見限りでしたわね、ロラン」
ロランとやらは、大仰に肩を竦めてみせた。
「キミも知っての通り、ウチにはうるさ方が多くてね。しかも、少々厄介な問題が持ち上がってしまったものだから、お陰で遊びもままならないよ。ボクから遊びを取ったら何も残らないという事実を、ウチの連中はどうしても理解してくれないんだ。息苦しくて仕方ないよ」
「相変わらずお忙しそうですわね。こんなところで油を売っていらして、大丈夫なのかしら」
「キミに気遣ってもらえるとは、望外の極みだね。だが、心配はご無用さ。後のことは、全て爺に任せてきたからね」
「また押しつけていらしたのね。遊びもままならないだなんて、よくおっしゃいますこと。考えをまとめる為の気分転換だと、素直にお伝えになればよろしいのに」
「まったく、キミには敵わないな。誰よりもボクを理解してくれていることに、ボクはこの上ない感謝を捧げるべきなんだろうね」
それにしても、よく口の回る野郎だった。だが不思議と、いわゆる女ったらしという印象は受けない。
それはおそらく、ロランの語っている全てが中身の無い軽口で、本気で口説こうとしている台詞がひとつも無いことが、初対面の俺にすら感じ取れるくらいあからさまだからだろう。
どっちかと言えば、コイツはそう、お調子者だ。
「ところでスティア、こちらは?」
今さら俺の存在に気付いたように、ロランは問いかけた。
「ああ、紹介が遅れてごめんなさい。こちらはヴァイスさん。アリアハンの冒険者なのよ、彼」
「へぇ、君がそうなのか。これは奇遇だな……ああ、いや、アリアハンの人に会うのは、冒険者制度の導入を手伝いに、顧問として幾人か来てくれた時以来だよ」
ロランは俺に向かって右手を差し出しながら、にこやかに笑った。言いたかないが、様になってやがる。
こんなにちゃんとした握手なんて、どれくらい振りだろう。もしかしたら、生まれてはじめてかも知れない。
「どうも、ヴァイスです」
なんだか自分の声が、ヒドく野暮ったく耳に届いた。
「ロランです。よろしく、ヴァイス君。どうだい、ロマリアの女性は美しいだろう」
キラリと歯でも光りそうな、いい笑顔を向けてくる。
「はぁ、まぁ、そうですね」
さっぱり冴えない返事をする俺。なんか、軽く落ち込んできた。
「だろう?ロマリアの女性は、元から美しいのはもちろんだが、さらに自分に磨きをかけることに余念がないからね。こちらにおわします美の女神のように」
今度は、スティアに微笑みかける。いや、まぁ、スティアがいい女だってのは異論を待たないところだけどさ、なんかムカつくぞ、こいつ。
「彼女達をもっと輝かせる為に、この国は世界でも最高の服飾師や美容師を集めているのさ」
ロランは、まるで自分の手柄のような口振りで言った。こいつは、呉服屋の坊ちゃんかなにかだろうか。
「美女は、国の宝だよ。その場に居るだけで、男達のやる気を際限なく引き出してくれる。いや、もちろん彼女はお飾りなどではなく、その美しさに似合わぬ有能な冒険者であることは言うまでもないけどね」
「さあ、それは、どうでしょう」
スティアは、苦笑を浮かべた。
「つい昨日も、魔物に襲われて危なかったんですのよ。こちらのヴァイスさんが助けてくれなかったら、今こうして貴方とお話しすることもできなかったんじゃないかしら」
「おお、それはそれは。国の宝の窮地を救ってくれたことに、お礼を言わなくてはならないな。スティアが居ない世界など、ボクには想像もできないからね。いや、本当に感謝するよ」
あんたにお礼を言われる筋合いはねぇよ。
とは言わず、俺はいやなにとか漏らしながら、曖昧に頷いていた。なんか圧倒されてんな、俺。
「それで、ロマリアにはいつまで滞在いただける予定なのかな?」
「いや、それは俺が決めることじゃねぇから……ウチのリーダー次第だな」
「あの、ちょっと気の強そうな女の子ね」
スティアの言葉に、ロランは反応を示した。
「おや、君がリーダーじゃないのか。女の子とは、珍しいね」
「ええ。それどころか、彼以外の三人は、どのコもとっても可愛らしい女の子ですのよ」
まぁ、あえて訂正する必要もないか。
「へぇ、それは羨ましいね。是非とも、その子達にもお目にかかりたいな。どの道しばらくは、ここに滞在するんだろう?」
「そりゃ、まぁ……」
「では、その間は、どうかロマリアでの生活を楽しんでくれたまえ。ここは、いい国だよ」
来た時と同じくマイペースで立ち去ったと思ったら、別のテーブルに寄って「ああ、クラウディア。久し振りに見るキミは眩し過ぎて、ボクはとても目を開けていられないよ」とか、ロランがほざいているのが聞こえた。
「なんだ、ありゃ」
ポツリと漏らすと、スティアはくつくつと喉を鳴らした。
「久し振りにお会いしたけど、相変わらずだわ。お元気そうでなにより」
「いったい何モンなんだ、あいつは?」
スティアは顎に指を当てて、少し視線をさまよわせた。
「ん〜、そうねぇ……今のやりとりの後じゃ、私からはちょっと言い難いなぁ。あなた、ヨソの人だから」
訝る俺に向かって、その内分かるんじゃないかしら、とスティアは告げた。
あんなヤツ、別にどうでもいいけどな。
「それより、この後どうするの?」
俺の目を見つめて、スティアが尋ねた。
結局、俺はそのまま宿屋に戻ってきた。
なんていうか、すっかり毒気を抜かれてしまって、スティアとどうこうする気になれなかったのだ。あのロランとかいうお調子者さえ現れなきゃ、今頃はよろしくやってたと思うんだけどな。
まだ宵も浅いので、晩飯でも食おうと一階の酒場兼食堂に行くと、よく見知った先客が待っていた。
「あ、ヴァイスさん、こっちです」
シェラの呼びかけに軽く手を上げて応え、四人掛けのテーブルの空いた席に腰を下ろす。
「またあんた、部屋でゴロゴロしてたの?」
と聞いてきたのは、もちろんマグナだ。
「いや、適当にぶらぶらしてた」
俺は、あまりあからさまにならないように気をつけながら、マグナとシェラに目をやった。
二人とも、見たことのない格好をしている。
マグナは体の線がくっきりと出る袖なしの服を着ていて、胸の膨らみが本来以上に強調されて見えた。座った時にちらりと目に入ったが、エラく丈の短いスカートを穿いてやがる。
シェラは、もう少しゆったりとしたフリル付きのワンピースを身に纏い、肩に薄いショールをかけていた。
どうしてどうして、ウチの娘共も負けてないじゃねぇの。
「それ、今日買ってきたのか?」
注文を済ませてから、なんとなく聞いてみると、シェラが大いに反応した。
「そうなんです!ここ、もうすっごい可愛いお洋服が沢山あって、アリアハンには無いお化粧品とかもいっぱいあって、マグナさんと一緒にすごいお店を回っちゃいました!どうですか、これ?」
「あ、ああ。よく似合ってるよ」
二人とも……ダメだ。考えても、ロランみたいな台詞は思い浮かばねぇ。つか、浮かんだところで、こっ恥ずかしくて口にできないから、別に構わないんだけどな。
シェラはかなり興奮している様子だった。俺のなおざりな誉め方でも、身をよじって喜んでいる。
一方のマグナは、ジトーっとした目つきで俺を眺めた。
「ヴァイスもそれ、ここで買ったの?」
「ん?ああ、まぁな。なんか、おかしいか?」
「おかしいって言うか、なんかね〜……まるで、どっかのチンピラみたいよ」
「そうですね。ヴァイスさんには、もうちょっとちゃんとした服の方が似合うと思います」
うは、二人揃ってダメ出しされた。うるせーよ、柄の悪い冒険者連中との付き合いが長ぇから、自然とセンスも引っ張られちまったんだよ。
てことは、スティアのあれも、やっぱりお世辞だったのか。ちょっと落ち込むぜ。
「明日はあんたも、あたし達に付き合う?もうちょっとマシな服を見立ててあげるわよ」
「って、お前ら、まだ買うつもりなのか?」
マグナは呆れた目つきで俺を見た。
「当たり前じゃない。今日は様子見で、結局一着しか買わなかったんだから、どうやって着回せっていうのよ」
知らねーよ、そんなこと。
「でも、お前ら確か、アリアハンから服を沢山持ってきてただろ」
それを着回せばいいじゃねぇか。
ところが、マグナは処置なしといった按配で首を振って溜め息を吐いた。
「ぶらぶらしてたんなら、街の人が着てる服を見て気付かなかったの?」
「なにが?」
「あのね、こことアリアハンとじゃ、流行どころか服の基本の形からして全然違うの。そりゃ、お気に入りも持ってきた中にはあるけど、ここで着るにはちょっとね」
そんなモンかねぇ。確かに、ここの方が垢抜けてる感じはするけどさ。
「まぁ、よかったらついてくれば?それと、明日こそリィナを連れていかなきゃね」
「もちろんです!」
シェラが、聞いたこともないような決然とした口調で宣言した。
「あの素材で、いつも道着ばっかり着てるなんて、とてもとても許せません!明日はもう、いろんな服を試着してもらっちゃいますから!」
シェラは、イシシシみたいな、何かを企んでいる風の悪そうな表情をふざけて浮かべた。ああ、お前、そんな顔もできたんだな。なんだか、娘の知らない一面をはじめて目にした父親みたいな気分だぜ。
噂をすれば影、と言うが。
その着たきり雀が、いつもの格好で食堂に入ってきて、俺達を見つけるなり声をかけた。
「あ、いたいた。あのねー、なんだか王様がボク達に会いたいから、明日にでもお城に来いってさ」
はぁ?いきなり何を言ってるんだ、こいつは?
リィナの言ったことは、どうやら冗談ではなかったらしく、翌日城に上がった俺達は、門前払いを食らうこともなく丁重に通された。
左右に尖塔を配した城は、現在も改修の真っ只中のようで、街中の建物によく見かけた華美で繊細な新しい部分と、質実剛健といった趣きの古い造りが入り混じっていた。
「申し訳ありませんが、こちらでしばらくお待ち下さい」
控えの間まで俺達を案内したメイド服が、頭を下げてそう告げた。
アリアハンのそれよりも凝っているのに、すっきりとして見える。シェラが、物欲しそうな目をしてメイド服を見送った。着てみたいとか思ってるんだろうな。
普通がどうなのかも知らないが、ここの城では控えの間と言っても、やたら広くて豪華だった。
びっくりするほどケツが沈み込むソファーに腰を下ろして、マグナが誰にとも無く呟く。
「ロマリアの王様が、一体なんの用なの?」
勇者絡みの話をされるのではないかと、危惧しているみたいだった。
答えるべきはリィナだろうが、例によって何も知らないとのたまいやがった。たまたま冒険者の組合所に居たところに騎士がやってきて、要件だけ告げて帰ってしまったらしい。
それほど待たされることもなく、さっきのメイド服が俺達を呼びに戻ってきた。
後について歩くと、天井の高さに圧倒される。どうして城ってのは、こう闇雲にデカいのかね。いや、他にはアリアハンの城しか知らないけどさ。
ほどなく目の前に現れた両開きの扉を、左右に控えた侍従が厳かに押し開けた。
おそらく謁見の間と思しき室内は、バカみたいに奥行きがあった。はるか先の方に、何人か人影が佇んでいるのが目に入ったが、それ以外は誰も見当たらない。どうやら、人払いがされているようだ。だだっ広いので、異様にガランとして映る。
背後で扉の閉まる音を聞きつつ、赤い絨毯の上を進み、ある程度近づいたところで俺は気がついた。
おいおい、あの階段の上にいるのは、ひょっとして。
「やぁ、わざわざお呼び立てして申し訳ない」
玉座から立ち上がって、昨夜目にしたばかりの朗らかな笑みを浮かべたのは、誰あろうロランだった。
「ああ、畏まらなくて結構ですよ。こちらの都合でお越しいただいた訳ですから」
膝をついたマグナに倣おうとした俺達に、ロランはにこやかに語りかけた。
「はじめまして、アリアハンの冒険者諸君。ロマリア国王のロムルスです」
ん?ロランてのはあだ名か何かなのか?
「こちらは、騎士団長のマルクス卿」
ロランは、こちらから見て左隣りの騎士を示した。おととい会った偉丈夫じゃねぇか。
「それから、大臣のセネカです」
右側には、立派な正装のカクシャクとした爺さんが立っていた。
「アリアハンの冒険者、マグナと申します」
マグナは、偽名を使わなかった。まぁ、正解だろうな。シェラとリィナの手前もあるし、慣れないことをしてもボロを出しそうだからな、こいつの場合。
続いて、俺達がたどたどしく名乗るのを待って、ロランはマグナに向かって微笑みかけた。
「それにしても、話には聞いていたけれど、これは可憐だ。失礼ながら、とても冒険者とはお見受けしませんね」
なんと返事をしたら良いか分からなかったのだろう。マグナは一度開いた口を閉じて、身形を気にする素振りをした。
ちなみにマグナは、ここに来る前に大急ぎで新たに調達した、昨日よりは肌の露出が少ない服を身に着けている。なにしろあのスカートじゃ、膝をついただけで中が見えちまいそうだからな。
さらにべんちゃらを言い募ろうとしたロランの横で、偉丈夫――マルクスが咳払いをした。
「宜しいですかな、陛下」
「ああ、そうだね。頼むよ」
ロランが促すと、マルクスはもうひとつ咳払いをして、口を開いた。
「その方らに参じてもらったのは、他でもない。とある罪人を、早急に捕らえて欲しいのだ」
「あたし達に、ですか?」
「そうだ」
重々しく頷いてみせてから、マルクスはぶつぶつと小声でひとりごちる。
「まったく、このような折にこそ、ファング殿さえいらっしゃれば、このような者達に頼む必要もないのだが……」
ファングって、サマンオサの勇者とか言ってた、あの偉そうな喧嘩好きのことか?
あいつ、結構有名人なんだな。
「失礼だよ、マルクス」
ロランが窘めるも、マルクスはまだ不満気な様子だった。
「しかし、陛下。西方の魔物討伐に際して彼が見せた、まことに見事な手際は憶えておいででしょう」
「でも、彼は今ここには居ないんだ。それに、私はあの人は苦手だよ」
「しかしですな、この様な何処の馬の骨とも……」
「マルクス」
ロランに強い調子で名前を呼ばれて、マルクスはまた咳払いをした。
「失敬つかまつった。えぇと、それでだな……そう、罪人の名はカンダタと申す。捕らえた賊の一味によれば、これより北に上ったカザーブ以西のシャンパーニの塔とやらを根城にしておるらしい。速やかにこれを捕らえ、彼奴の奪いし物を取り戻すのが、お主らの使命だ」
「使命って言われても……」
あんた達に命令される義理も筋合いも無い、と言いた気なマグナに、ロランは取り成すように語りかける。
「もちろん、これは命令ではなく、お願いです。報酬も、きちんと用意させていただきますよ」
マグナの顔つきが、心なし変わって見えた。金で釣られるヤツじゃないと思うんだが。
「その盗まれた物って、何なんですか?」
「それは……」
言い淀んだ偉丈夫の後を受けて、ロランが続けた。
「お願いしようと言っているのに、そんなことを隠しても仕方ないだろう。やっぱり、私が話すことにするよ――いちおうご内密に願いたいのですが、恥ずかしながら、王位継承の証たる『金の冠』を盗まれてしまいましてね」
とんでもないことを、ロランはさらりと話した。エラくお軽い王様もいたもんだ。
「陛下!」
「まぁ、いいからいいから。それで、そのカンダタ一味というのが、なかなか手強い奴等でしてね。本来ならば、我が国の冒険者に頼むべきなんでしょうが、まだまだ経験が不足していて、どうにも心許ない。
どうしたものかと悩んでいた折に、あなた方のご活躍を知らされましてね。アリアハンの冒険者であれば、彼奴らに遅れを取ることもないだろうと考えて、こうしてお越しいただいた次第です」
「……もうひとつ、いいですか?」
マグナは用心深い目をして、ロランを見上げた。
「どうぞ。なんなりと」
マグナの強い視線を涼しい顔で受け止めて、ロランは凝っと見つめ返した。その瞳には、なんというか、とても興味深そうな色が浮かんでいる。
そういえば、ロランは俺達には一瞥をくれただけで、ずっとマグナだけを見ているような気がする。昨日顔を合わせてるってのに、俺なんかは完全に無視されてるもんな。
「どうして、あたし達なんですか?いえ、ロマリアの冒険者には荷が重いというお話は伺いましたけど、強力な騎士団がいらっしゃるじゃありませんか。なのに、あたし達に頼むのは、何か特別な理由でもあるんですか?」
「ご尤もな質問です。実はですね……」
「陛下!!」
それまで無言だった爺さんが、はじめて声をあげた。
「それ以上は――」
「いいんだよ、爺。こちらはお願いする立場なんだ。隠し事をしてちゃ、信頼関係を築くこともできないだろう。ですよね?」
マグナは、小さく頷いた。
「お聞かせいただけないのなら、お受けできません」
「ほらね」
「しかし……」
「しかしもかかしも無いんだよ。もしかしたらご存知かも知れませんが、我が国と隣国のポルトガは、昔から犬猿の仲でしてね。ずっと小競り合いを続けてきた間柄なのです」
「はじめて知りました」
「そうですか。アリアハンからいらしたばかりでは、それも当然なのかな。いや、私の代になってからは小競り合いも収まった……というか、国交を断ちましてね。現在は、おいそれと人の行き来が出来ないように処置してあるのです」
「はぁ」
マグナは、いまいち要領を得ない返事をした。
「おお、これは申し訳ない。まだ回りくどかったようだ。では、結論から申し上げましょう。つまりですね、こちらの騎士団長や爺は、今回の件がポルトガの陰謀ではないかと懸念しているのですよ」
「もし、その危惧が当たっているとしたら、犬猿の仲とはいえ、血統的には親戚筋ですからね。色々と面倒なことになるかも知れない。あなた方が存じ上げたところで、あまり意味はありませんので、詳しくは申しませんが。
人の往来を絶っているとは言い条絶対ではありませんし、それにポルトガには船舶もあります。不測の事態に備えて、今は騎士団を動かしたくないというのが、こちらの都合なのです。そこで、あなた方にお願いさせていただこうと考えた次第でして」
「そういうことですか」
勇者絡みの話ではなくて、マグナはほっとした様子だった。
「お受けしていただけますか?」
「それは……」
マグナは、ちらりと俺達の方を見た。そうだな、ちょっと相談する時間が欲しい。
俺は、小さくかぶりを振ってみせた。
「少し、考える時間をいただけますか?」
「それは、いかん!早急にと申したで――」
「おお、もちろんですとも。ずいぶんとぶしつけなお願いですからね。できればお早めに返事をいただきたいが、今すぐにとは申しません」
ロランは騎士団長を制して、安心させるようにマグナに微笑みかけた。
「ありがとうございます。それでは、宿に戻って皆と相談をしてから、明日にでもまた伺うという運びで宜しいでしょうか」
「もちろん結構ですとも。なんでしたら――いや是非とも、今日のところは我が城にご滞在ください。ご相談がまとまり次第、お伝えいただければ、こちらとしても助かります」
「いえ、でも、あの、荷物とかありますし」
「必要な物は、全てこちらで揃えさせていただきますよ。お持ち物で何かご入用があるようでしたら、宿を教えていただければ、人をやらせますが」
「いえ、それは遠慮します」
マグナは慌てて断った。どうせまた、部屋の中はとっ散らかっているんだろう。
「分かりました。一泊だけなら、特に必要な物はないです」
「ならば、決まりだ。そうそう、お受けいただけるかどうかに関わらず、宿の代金はこちらで持たせていただきますよ。突然お呼び立てした、せめてもの罪滅ぼしです」
ロランはにっこりと、彼の年齢や立場ではあり得ないような無邪気な笑みを、マグナに向けた。
「それでは、今夜一晩はゆっくりとおくつろぎください。後ほど、晩餐をご一緒させていただければと思います」
「素敵な王様でしたね〜」
控えの間に戻されて、少し待つように告げたメイド服が立ち去ると、早々にシェラが口を開いた。
いやいや、あのな、あいつの実態は、単なるお調子者の優男だぜ。
「ボク、王様っていったら、お爺ちゃんばっかりなのかと思ってたよ」
とリィナ。
「あ、私もです。お歳を召した方ばかりでなく、あんなに若い王様もいらっしゃるんですね。王様とは思えないほど気さくな感じで、びっくりしました」
「そうね、素敵かどうかはともかく、王様らしくないのは確かね。他に王様なんて、ひとりしか知らないけど」
マグナは、あまり興味が無さそうな口振りだ。
「そんなことより、どうする、あの話?」
「ボクは、どっちでもいいよ〜」
「私も、マグナさんにお任せします」
まぁ、いつも通りの展開だ。
マグナも予期していたように俺を見た。
「そうだな……元々は、これからどうするつもりだったんだ?」
「この話が無かったらってこと?そうねぇ……この街、案外住み易そうだから、しばらく腰を落ち着けて、シェラが探してる神殿の話を、誰か知ってる人がいないか聞いてみようと思ってたんだけど」
「え?そ、そんな、いいですよ、私のことなんて、旅のついでで」
「だって、他に目的も……じゃなくて、今のところ、これといった当てがないってだけで、ついでと言えばついでなんだから、別にシェラは気にしなくていいの」
ふぅん。シェラの探し物が見つかるまでは、旅を続けるつもりはあるって訳か。俺も、それには異存ねぇな。
「でも、う〜ん、どうしようかな……」
マグナは言葉を濁した。
まさかとは思うが。
「もしかして、報酬に惹かれてるのか?」
さっきの様子を思い出して問うと、マグナはやや拗ねた顔をした。
「そんなんじゃないけど。ただ、なんか沢山くれそうだったから、そしたらいっぱい買い物ができるかな、ってちょっと思っただけ」
「おいおい、金ならかなり貯まった筈だろ」
「あれじゃ、全然足りないの!リィナの分だって、色々買わなきゃいけないのに」
「ボク?何か買ってくれるの?」
いかん、話が横に逸れそうだ。
「まぁ、待てよ。それは置いといてだな、正直言って、俺はこの話を受けるのはどうかと思うぜ。どうにもキナ臭ぇ。宮廷の陰謀なんかに巻き込まれた日にゃ、どんな厄介事を背負わされるか分かったモンじゃねぇぞ」
「それは、あたしだって分かってるけど……」
そこで、扉をノックする音がして、数人のメイド服が迎えに現れた。
どうやら一人づつ別々に部屋が用意されているらしく、俺達は順番に連れ出された。
「いいわ、また後で話しましょ。今すぐ決めなくてもいいって、言ってくれたことだしね」
最後に残されたマグナの台詞を背中に聞いて、俺は控えの間を後にした。
俺にあてがわれた部屋は、この城の中ではごく小さい部類なんだろうが、充分に広くて豪華だった。アリアハンで俺が借りていた部屋など三、四個は入りそうだ。調度品から装飾品から、どこもかしこも金がかかっていて、却って落ち着かない気分になる。
俺を案内して、そのまま下がろうとした年配のメイド服に、マグナの部屋の場所を尋ねた。
晩餐をご一緒しましょう、とか言ってやがったからな。その席で、依頼を受けるか否か返事を求められるだろうから、それまでに方針を決めておいた方がいい。
マグナの部屋までは、距離はあったが一本道だったので迷わずに済んだ。
目隠しをされていた訳でもないのに、景色が見慣れないからどこも同じように思えて、自分が城のどの辺りにいるのか、さっぱり分かんねぇ。柱や壁の新しさから、辛うじてここは増築された部分だろうな、というのが判断できる程度だ。
ノックをしても、返事がなかった。念の為に確かめてみると、あっさりと扉が開く。
入ってすぐには誰も居なかったが、本来は侍従が控えて応対をするような、ちょっとした小部屋になっており、さらに奥へと続く扉が見える。俺にあてがわれたよりも、ずっと高級な部屋のようだ。
奥の扉をノックしても返事がなかったので、再び開けてたじろいだ。
俺の部屋の三倍はあろうかという広さで、先程の部屋が庶民のそれに思えるくらいアホほど豪奢な内装だった。
物珍しさに惹かれて、毛の長い絨毯に足を取られながら、思わず中に入る。
うはー、天蓋付きのベッドなんて、はじめてお目にかかったぜ。うお、布団も超ふかふかじゃん。くそ、ロランの野郎、ずいぶんとまた差をつけてくれやがったな。
マグナより先にベッドに寝っ転がってやろうかと考えていると、話し声が近付いてくるのが耳に届いた。
「おや?おい、誰か居ないのか?おかしいな……申し訳ないね。後で、すぐに人をやらせるよ」
「どうぞ、お気遣いなく」
入ってきたのは、マグナとロランだった。
俺は――何故か、ベッドの陰に身を隠した。後で考えると、別に隠れる必要なんてなかった筈なんだが、この時は反射的にそうしてしまったのだ。
強いて言えば、黙って入った後ろめたさがそうさせたんだろう。
「っ……なにこれ」
「お気に召していただけたかな」
「……こんなに凄い部屋だなんて、思ってもいませんでした。これじゃ、ひとりで使うのがもったいないみたい」
「もったいないか。それはいいね」
謁見の時とは違い、ロランはすっかり馴れ馴れしい調子でハハハと笑った。なにがハハハだ。
「まだ、お受けすると決めた訳でもないのに……」
「いやいや、この程度のことで負い目を感じさせて受けてもらおうだなんて、そんな卑怯なことは考えてないよ。あなたは、ボクのお客様だからね。それなりの歓待をさせてもらわないと、こちらの気が済まないというだけさ」
「でも、豪華過ぎて、ちょっと落ち着かないかも知れません」
俺と同じ感想を漏らすマグナ。そうだよな。こんなトコ、俺達庶民には落ち着かねぇよな。
「すぐに慣れるよ。どうか、我が家と思ってくつろいで欲しいな」
こんな我が家は、世界中探したってどこにもねぇよ。
「はぁ。じゃあ、折角ですから遠慮なく。わざわざご案内いただいて、ありがとうございました、えっと……ロムルス様」
「ああ、そんな呼び方はよしておくれよ。他の人ならいざ知らず、キミとの間にだけは壁を作りたくないんだ」
このバカ、また同じこと言ってやがる。
「と言われても、国王陛下に対して、そんな訳には……」
「いやいや、今この場においては、ボクとキミは国王と冒険者ではなく、ただの対等な男と女さ」
マグナが吐いた小さな溜め息が、俺まで届いた。仮にも国王に向かって、失礼なヤツだ。もっとやってやれ。
「では、なんとお呼びすれば?」
「親しい人は皆、ロランと呼び捨ててくれるよ。ひとりの人間として知り合いと接する時は、国王という肩書きをなるべく忘れていたいからね。ちょっと異国風のあだ名で呼んでもらってるんだ。それから、敬語も止めて欲しいな。普段のキミを知りたいからね」
「……分かったわ、ロラン。これでいい?あたしも敬語は苦手だからありがたいけど、後で怒っても知らないから」
「おお、怒るだなんて、とんでもないよ。うん、普通に喋った方が、さらにもっと、ぐっと素敵だ。それではボクも、失礼してマグナと呼ばせてもらって構わないだろうか?」
「……どうぞ、お好きに。ホントに変わった王様なのね」
マグナは、ちょっと笑った。呆れてるんだろう。
「全く、おっしゃる通りでね。実際、ボクほど王様なんかに向かない人間はいないと思うよ。キミが代わりに女王様になってくれたら、その方がきっと皆も喜ぶくらいさ」
マグナが女王様ね。まぁ、確かにちょっと、似合ってるかも知れんが。
「そう言う割りには、街にはずいぶん活気があるみたいだけど。ロランが上手くやってるからじゃないの?」
「ボクの代になって、政のやり方を色々と変えたのは事実だね。ボクは民に、もっと色々な仕事を与えてやりたいんだ。民の元気は、国の元気だ。元気な国には、隣国はもちろんのこと、魔王とてもおいそれと手は出せないだろう?」
へぇ。こいつ、少しは物を考えてるんだな。
「冒険者制度の導入も、その一環てわけ?」
「そうだね。それに、国王なんてのは、これでなにかと不便なものでね。何をするにも手続き手続き。面倒で仕方がない。それで、もうちょっと自由に動かせる手勢が欲しかったのもあるかな。我が国の誇る騎士団の存在には、もちろん感謝しているけどね」
「ああ、あの堅そうな団長さんの。ロランの性格だと、反りが合わないんじゃないの?」
多分、マグナは顔を顰めてみせたのだろう。
「キミに失礼を働いたことは謝るけれど、どうかそんなに嫌わないでやって欲しいな。彼は、いい男だよ。うるさく言うのが自分の役割だと、割り切ってるのさ。彼は大人だからね」
「ふぅん」
マグナの気の無い返事に慌てたように、ロランは話題を変えた。
「活気があると言ってくれたけど、どうだい、ロマリアは気に入ってもらえたかい?」
「ええ、まぁ……そうね」
「良かった、嬉しいよ。その服もロマリア製だね。それもドルジラの作品だ」
「それ『も』?」
「ああ、いや、こっちの話。すごく素敵だ。あらん限りの言葉を尽くして誉めたいところだけど、キミの素晴らしさに見合う言葉が見つからないよ」
「よく言うわ――ああ、ごめんなさい。でも、ホントに、おかしな王様ね。誰にでも、そんなこと言ってそう」
てんで相手にしていないように、マグナは呆れて言ったのだが。
「そんなことはない!」
ロランは唐突に、語気を強めた。
「ああ、ごめん、大きな声を出したりして。謝るよ。でも、ボクはこの通りお調子者だからね。いつもは適当な誉め言葉がペラペラと口をついて出るんだ。でも、今はさっぱり出てこない。それは、キミが本当に素敵だからだよ」
確かに、スティアにおべんちゃらを遣っていた時よりは、今の言葉には真に迫る様子があった。
って、おいおい、ちょっと待て。このバカ、まさか本気なんじゃねぇだろうな。
「ちょっと大袈裟だけど、そんな風に言われたの、はじめてかも。お世辞でも、いちおうお礼は言っておくべきなのかな」
「お世辞だなんて、とんでもないよ。ボクは本気で言っているんだ。ああ、どう言えば信じてもらえるだろうか」
「いきなり、そんなこと言われてもねぇ……だって、ついさっき会ったばかりじゃない」
「時間なんて、全然問題じゃないよ。ボクは、キミを見た瞬間にひと目で分かったよ。キミは、何も感じなかったかい?」
「感じるって、何を?」
「ボクらが、どこか似ているってことさ。ボクは、即座に理解したよ。運命的な出会いと言っていい。まるで、分かたれた魂の半身を見出したような感動を覚えたのは、ボクだけだろうか」
「はぁ」
大仰な台詞に、マグナはまた呆れたような溜め息を吐く。
「キミは、本当のボクを理解してくれる。そして、僭越なことを言わせてもらえれば、ボクもキミを本当に理解できる。ボクらは、共に分かり合えるんだ」
「はぁ?」
マグナは、素っ頓狂な声をあげた。
このバカ、相手がまだたった十六歳の少女でしかないって、分かってやってんのか?そういう戯言は、付き合ってくれる大人の女だけにしておけよ。
「ボクはね、なりたくて国王になった訳じゃないんだよ」
お調子者の乗りが影を潜めて、やたら真面目な声音でロランは告白した。
「国王なんて、自分には似合わないって言っただろう?あれは、本心さ。ボクは、もっと自分の思うままに、色々なことをしてみたかった」
「ふぅん……そうなんだ」
「でもね、生まれた時から国王になることが定められていた。嫌だなんて言ったところで、誰もまともに取り合ってくれないさ。お戯れを、とか言われて、それでお仕舞いだよ。
それでも言い募ろうものなら、殿下は国を治めるということを、どう考えていらっしゃるのですか!なんて叱られるんだ」
「……そう」
「毎日毎日、国王という象徴を求める人々に囲まれて、追い立てられるように責務を果たして、もううんざりだ。そりゃ、ちょくちょく抜け出して城下に遊びにいったりはするけどね。それくらいはさせてもらわないと、息が詰まって死んでしまうよ」
ロランは、どこかで聞いたような告白を続ける。
「ボクが色々と前例のない執政を行なっているのは、言ってみれば本来やりたかった事の代償行為みたいなものでね。それが、たまたま上手くいってしまったものだから、ボクが国王の座を本気で疎んじているだなんて、決して誰も信じてくれないのさ」
「……そうでしょうね」
「でも、キミをひと目見た瞬間に、直感したんだ。キミだけは、ボクを理解してくれる。どうしてそう思ったのかは、自分でも分からない。でも、そんな理由なんてどうだっていいんだ。
誰も、分かろうともしてくれなかった自分を、理解してくれる人が、すぐ目の前にいる。それが、どれほど素晴らしいことか分かるかい?」
「って言われても……まぁ、分からなくはないけど、あたしはそんなんじゃ……」
マグナに先を継がせまいとするように、ロランは被せるように言葉を続ける。
「だろう?これでもボクは、人を見る目には自信があるんだ。大勢、人を見てきたからね。そのボクが直感したんだ。ボクにとっての理由なんて、それだけで充分さ。キミには、キミにだけは分かる筈なんだ。ボクにとってキミは、そう、特別なんだ」
「……やめてよ」
マグナの声は、弱々しかった。
「……ごめん、自分のことばかり喋り過ぎてしまったね。でも、出会って間も無いのに、こんな内心まで喋ったのは、キミがはじめてだよ」
お前が勝手にペラペラ喋ったんだろうが。
「そうだね、いきなり直感だなんだと言われたところで、信じられる訳がないよね。ごめんよ、キミを困らせるつもりはないんだ。でも、ボクが本気だということだけは、分かって欲しい」
「それは、分かったけど……でも、あたしには何もできないわよ」
「そんなことはないさ」
やけに自信あり気に、ロランは断言した。
「あっ」
マグナの小さな叫び声を耳にして、俺は堪らずにベッドのふちから顔を覗かせた。天蓋から垂れた薄絹越しに、ロランに抱き寄せられたマグナが目に入る。
「こうやって、傍にいるだけで、ボクの心臓は破裂しそうなくらい高鳴っているのに。何もできないだなんて、とんでもないよ」
「ちょ……っと、そういう意味じゃ……」
「本当はね、さっきボクがごちゃごちゃ言った御託なんて、どうでもいいんだ。要するに、ボクはひと目で、キミにイカレてしまったんだよ。ボクがキミを求める理由なんて、キミがマグナだから、ただそれだけで充分なんだ」
「あたしが……だから」
突破口を見つけたみたいに、ロランはさらに言い募る。
「そう、キミは素敵だよ、マグナ。ボクは国王で、キミは一介の冒険者だと、人は言うかも知れない。いや、人がなんと言おうと構わないけれど、キミ自身も、ボクはキミのことをなにも知らないじゃないかと思っているかも知れない」
「だって……それは」
「でもね、そんなことは関係がないんだ。確かに、キミがこれまでにどんなことを経験してきたのか、それはボクには分からない。魔法使いじゃないからね」
俺は、魔法使いだぜ。とか、ちゃかしてる場合じゃねぇな。
「だけど、それは謂わば、後から身に纏った服みたいなものでしかないよ。そうじゃなくて、ボクが惹かれているのはね、マグナ、その服の下で息づいている、裸の、キミという存在そのものなんだ」
「……」
「だからね、マグナ。キミがどういう立場の何をしてきた人かなんてことは、キミがキミであることに比べれば、ボクにとってはそれほど重要じゃないんだよ。
ボクは裸のキミそのものに惹かれているし、キミにも剥き出しのボクを感じて欲しいと願って、こうして気持ちを包み隠さずに話している」
「……」
「もちろん、キミの着ている服のことも知りたいけれどもね。それは、お互いにゆっくり分かり合っていけばいいことさ」
「……」
黙したままのマグナが『女の顔』をしているように見えて――俺は何故か、ギクリとした。
もちろん、見間違いに決まっているのだが。薄絹のせいで見え難いからな。
「本当は、キミをカンダタのところなんかに行かせたくないよ。そんな危険なことは、させたくない。でもね、ボクの言葉など一片も信じてもらえずに、キミはふらりと立ち去ってしまうかも知れない。それが、いちばん怖ろしいんだ」
「それは……」
「だからね、ボクはあえてキミに頼むよ。折角こうして巡り会えたキミとの関係が、あっさりと閉ざされてしまわないように。その意味では、卑怯者と謗られても仕方ないね。甘んじて受けよう」
手前勝手な世迷言をほざきながら、ロランはマグナのおとがいに指をかけた。
「けれども、待つ身は辛いものさ。ボクの本気を少しでも分かってもらえたなら、キミが居ない間にボクが不安でおかしくなってしまわないように、縋ることのできる確かな証を、ほんの少しだけ与えておくれ……」
「えっ……」
ロランは、マグナに顔を寄せる。
「目を閉じて、マグナ。キミは本当に素敵だ。他の誰とも違う、特別な……」
「い……やっ!!」
ビクリ、とマグナがロランの胸の辺りを押し返すのが、はっきりと見えた。
あれ?視界を覆ってた薄絹は、どこに行ったんだ?
「……ヴァイス?」
マグナが、こちらを向いて呆然と呟いた。
目をぱちくりとさせている。
俺は――いつの間にやら、思わずベッドの陰から飛び出していた。
「ヴァ・イ・スぅ〜〜〜……あんた、そんなとこで何やってんのよっ!!」
ロランのかいなを乱暴に振り払い、マグナは俺を睨みつけた。よかった、いつものあいつだ。いや、よかったってなんだ。
「え〜と、その、依頼をどうするのか相談に来たっていうか……」
「それが、なんで盗み聞きしてんのよっ!!隠れる必要ないじゃない!!」
「いや、俺もそう思うんだけど、なんか知らんが、体が勝手に動いたっていうか……」
「うるさい!!もう、いいから出てって!!二人とも、出てって!!」
マグナの剣幕を目の当たりにしても、ロランは涼しい顔を崩さなかった。
「相談をしにきたというなら、丁度いい。出て行く前に、依頼の返事を聞かせてもらえないかな。それを聞くまでは、ボクはここから出ていくつもりはないよ」
「あ〜もう、うるさーーーいっ!!分かったわよ!!受ければいいんでしょ、受ければ!!これでいい!?ほら、じゃあさっさと出てってよっ!!」
ちょっ、おい、お前そんなやけっぱちな。
そんな反論をする暇とてもなく。俺とロランは、マグナに押されるようにして、廊下まで追い出された。
猛烈な勢いで、扉がバンと音を立てて閉まる。
「やれやれ、折角人払いをしておいたのに、まさか君が潜んでいたとはね」
ロランは、俺に目をやって肩を竦めた。この野郎、いけしゃあしゃあと。誰も控えてなかったのは、手前ぇの指示だったのかよ。
「それにしても、思った以上に抵抗されてしまったなぁ。特別という言葉がマズかったみたいだけれど、やっぱり彼女は、勇者としての自分を嫌っているのかい?」
こいつ。
「どうりで、ここに来るまでに、それとなく話を振ってもはぐらかされる訳だね。だからこそ、あんな話の組み立てにしたんだけれど」
分かってやってたのかよ。
「おや?まさか、彼女が勇者だということに、僕が気付いていないとでも?見損なってもらっては困るね。アリアハンにも、人はやっているよ。女の子の勇者が出立したという報告は受けているさ」
「だから……マグナが勇者と知ってたから、俺達を呼んだのか?」
「やっぱりそうか。確信はしていたけどね」
あ、しまった。この野郎、カマかけやがったな。
「いやいや、君達を呼んだのは偶然だよ。君達が勇者様ご一行だということは、他の連中は気付いていない。特にマルクスなんかは、君達の第一印象が悪かったみたいでね。夢にも思ってないさ」
そうだろうな。汚い連中とか言われた上に、マグナのあの態度じゃな。
「迂闊なことに、そんな何ヶ月も前の細かい報告のことは、僕もすっかり忘れていてね。幸い、今のロマリアは磐石だから、魔物の脅威も然程ではない。お陰で、誰もそんな報告はいちいち憶えていないと思うよ。僕以外はね。
その僕にしても、実際に会うまでは想像もしていなかった。でも、ひと目見ただけで分かったよ。あんなコは、他にはいない」
ロランは、また自信たっぷりに断言してみせた。
「君の仲間達は、君を除いてみんな興味深そうだが――」
大きなお世話だ。
「それでも、マグナは特別だよ。彼女の内面から溢れ出ているそれに、君は気付いていないのかい?彼女自身が望むと望まざると、アリアハンでもずいぶんと人々を惹きつけていた筈だよ。なぜなら、彼女は特別だからね」
自分も特別だから分かる。とでも言いたげな口振りだな。
悪いが、俺はそうは思わねぇ。あいつは、そんなんじゃねぇんだ。ただの、どこにでもいる普通の――
「あらぁ、こんなところにいらっしゃいましたの、お兄様」
やや視線を落として歯噛みしていた俺は――なんで歯噛みなんかしてんだ、俺は――絡みつくような女の声に顔を上げた。
やたらゴテゴテした立派なナリの神経質そうな男と並んで、バカみたいに凝ったびらびらしたドレスを纏った女が、大勢のメイド服を引き連れて立っていた。
ロランが、国王として許されるギリギリの線に挑戦しているような軽装だったから、ことさらに二人の派手さが際立って映る。
「ずいぶんお探ししましたのよ、お兄様」
「ああ、それは済まないね、カデニア。私に何か用かい」
「伺いましたぞ、陛下!」
神経質そうな男が、顔に似合わぬ野太い声を発した。
「やぁ、従兄弟殿。はて、なにを怒っているのかな」
「『はて、なにを』では御座いませんぞ!こともあろうに『金の冠』を、賊に奪われたそうですな!またそのような大事の折にまで、王としての責務をセネカに任せ切り、城下に戯れに参ったとか。陛下は国王としてのお立場を、一体どのように考えておられるのか!」
ガミガミ言われて、ロランはうんざりとした顔をした。
「ああ、ガリウス。そなたに話を通すのが遅れたのは謝るよ」
「そのような繰言を申しておるのではないのです!『金の冠』の奪還という大儀この上なき任を、アリアハンからやって来た下賎な冒険者風情に任せるお積もりとは、まさか真ではありますまいな!」
「あらぁ、ガリウスったら。そんな失礼な言い方ってないわ。アリアハンは素敵なところと伺いますもの。きっと、その方々も、心の美しい信ずるに足る人物に違いありませんわ。そうですわよねぇ、お兄様」
全く心が篭もっていない、完璧な嫌味だ。
ふわふわの羽毛が飾られた扇子で口元を隠し、カデニアとかいう高慢そうな女はニヤニヤとロランを眺めた。
ロランは、隠す様子もなく嘆息する。
「ああ、ガリウス。その通りだよ。ちょうど今、色良い返事をもらったところでね」
「何をお考えになっておるのですか!いやしくも大ロマリアをあずかる陛下のご判断とは、到底承服いたし兼ねますぞ!」
「その辺りのことは、マルクスにでも聞いておくれよ。私は彼らの進言を聞いて、最も適切だと思う判断を下したまでさ」
「ですから、そのご判断がどうかと申して上げておるのです!」
「もう決めたことだよ、ガリウス。そんなに私のやり方が気に食わないのなら、カデニアを娶ってそなたが国王になったらいいじゃないか、婚約者殿。私はいつでも、喜んで玉座を譲るよ」
「あらぁ、お兄様ったら。またそんなお戯れを。出来もしないことを、おっしゃるものではありませんわ」
「まったくですな。陛下も、お人が悪いにも程がありましょうぞ」
「なぜ出来ないと決め付けるんだい?父上にでも相談してみたらいいじゃないか」
「もぅ、何をおっしゃいますの、お兄様ったら。本当に仕様の無いお方。お兄様を玉座にお据えになった方こそ、他ならぬそのお父様じゃありませんの」
なんだか良く分からないが、ロランにも色々あるらしい。
「お話になりませんな。気分がすぐれぬので、失礼させて戴く。下賎の者にお任せになるのも宜しいが、もしも『金の冠』が戻らぬようであれば、陛下の責は決して軽くはないことを心しておくのですな!」
「あらぁ、お待ちになって、ガリウス。それでは失礼いたしますわ、お兄様」
勝手に現れて難癖をつけておいて、逆にプリプリと怒りながらガリウスとやらは退場した。
カデニアとかいう女も、いわくありげな流し目をロランにくれると、大量のメイド服を引き連れて後を追う。
二人とも、俺のことなど道端の石ころほどにも気にかけていなかったようで、最後までこちらを見ようともしなかった。まぁ、ホントの王族ってのは、こんなモンかもな。ロランの方がおかしいんだ。
「みっともないところを見せてしまったね」
世界が違い過ぎて、いまいちピンと来ねぇから、まぁ気にすんな。
「こんな調子だから、ボクにはよき理解者が必要なのさ」
ロランは肩を竦めた。
確かに、国王ってのも色々大変なんだろう。それは、分からないでもないが――
やっぱり、こいつはマグナとは違う。
多分こいつは、口で言うほど国王としての自分を嫌ってる訳じゃない。ロラン自身の言い草じゃないが、俺はそう直感していた。
コイツがやりたかった事というのは、おそらく国王としての立場無くしては、おいそれと成し得ないものばかりだろう。そして、コイツは自分でも、それを重々に承知しているのだ。
権力財力だけは自由にしたいだなんて、まるでガキの我が侭だぜ。いくら王様とは言え、苦労や責任って名前の租税くらいは、きちんと納めていただきたいね。
それが嫌なら全てを投げ打って、裸一貫でイチからやり直すべきだ。マグナが、そうしようとしてるみたいにな。
――ああ、でも、そういやあいつも、アリアハンでは勇者を利用してたっけか。けど、あいつはしたくてそうしてた訳じゃねぇからな。とにかくコイツは、マグナとは似ても似つかねぇよ。
それはともかく。
「悪いけどさ、さっき聞いちまった話も含めて、あんた、本気で言ってるのか?本気でマグナのことを――」
「もちろんだとも。それなりに修辞は凝らしたけれど、さっき彼女の前で口にした言葉に偽りはないよ。僕は、彼女に大変な興味を抱いている」
「けど、あいつはまだ、あんたから見りゃほんの子供だろ」
「子供?彼女が?」
ロランは、薄く笑った。
「そんなこと、それこそ関係ないよ。大体それは、君がそう思い込みたいだけじゃないのかい?」
なにを訳の分かんねぇことを。
「とにかく、僕は僕なりに本気だからね。だから、彼女の傍に、君みたいな男が居るのは面白くないな。悪いけど、ちょっとイジワルをさせてもらうよ」
言い返す隙を与えず、ロランは軽く俺の肩を叩いて立ち去った。
やれやれ、この展開は、一体なんだってんだ。
なんか、ロマリアに来てからこっち、調子が狂いっぱなしな気がするぜ。
晩餐会の間中、マグナはずっとムスっとしていた。
なんとか機嫌を取ろうと一方的に語りかけるロランの様子を、いい気味だと眺めていたら、マグナにギロリと睨まれた。そういや、俺も他人事じゃないんだった。
マグナとシェラは、用意されたドレスを身に纏っていた。マグナが赤で、シェラが白だ。二人ともよく似合ってるし、シェラは嬉しそうだったが、マグナの方は仏頂面で台無しにしていた。
俺も、柄にもなく立派な礼服に着替えている。はじめて着たぜ、こんなの。窮屈でしょうがねぇよ。
リィナだけが、いつもと同じ格好で豪勢な料理をがっついていた。場からは極めて浮いてたが、なんか、ほっとさせられるぜ。
ロクでもない情熱が小さな実を結んだのか、ロランの語りかけに最後の方はマグナも簡単な返事をするようになっていたが、それでも微妙な空気のまま晩餐が終わると、俺達はまた別々に部屋に案内された。
前回と違う部屋に連れていかれたので、さっきのおばさんではなく、線の細い黒髪美人のメイド服にそれを告げると、「お部屋をお取替えするように申し付かっております」と返された。
俺が通されたのは、マグナのそれとタメ張るくらいに上等な部屋だった。あの野郎、こんなことで俺が懐柔されるだなんぞと考えているとも思えないが。
「ご用の際には、いつでもお呼びください。夜通しこちらに控えさせていただきますので」
なんてことを黒髪美人が言うもんだから、いつもの調子を取り戻そうとして下品な冗談を言ったら、「お望みでしたら、夜伽のお相手も申し付かっております」と真顔で言われた。
頷きかけて、危うく踏み止まる。なるほど、イジワルってのはこれのことか。お相手してもらったら、自動的にマグナに伝わるって寸法だ。
甘いぜ、ロラン。お前は、何か勘違いをしている。俺とマグナは、別にそういう間柄じゃないからな。俺が女関係であいつに遠慮する謂れなんか、何ひとつないんだぜ。
と思ったんだが、なんていうか、そういう気分になれそうもなかったので、丁重にお断りした。おかしいな。俺は、据え膳を食わないような男じゃなかった筈なんだが。
扉の向こうで一晩中、凝っと美人が控えているかと思うと気になって、どうにも寝付けそうになかった。だって、ほっそりしてる割りに、出るトコは出てんだぜ。
普段からあんな美人を見飽きてる癖に、あのアホも、なんでわざわざマグナなんかに粉かけやがったのやら。タマには、毛色の違うおぼこ娘をつまみたくでもなったのかね。
そっと扉を開けると、ホントに起きてやんの。
今にも夜伽の相手をしてくれそうな雰囲気だったので、俺は慌てて、もう用は無いから眠ってくれるように言い置いて、アホみたいに豪華なベッドに身を投げて、やけくそ気味に目を瞑った。
ちょっと――いや、かなり、もったいなかったかも知れない。
翌日、一刻も早く『金の冠』を取り戻すように急かされた俺達の前に現れたのは――
「カザーブまで道案内をするように頼まれたの。よろしくね」
スティアは、そう言って俺に片目を閉じてみせた。
なるほど、そういうことか。思ったよりやるじゃねぇかよ、ロラン。
まぁ別に、マグナの視線なんて気にならないけどね、いやホントに。
423 :
CC ◆GxR634B49A :2006/10/24(火) 09:57:45 ID:uty6qiNh0
ということで、ロマリアの国王を若返らせてしまいましたw
いや、爺さんのままだと、アリアハンとほとんど変わらなくなっちゃうので、
ゲーム内での外見は記号なことだし、このくらいはアリだろうと考えまして。
アホがベラベラ喋るもんだから、もー長くてすいません。
次は元のノリに近くなると思います。
次々回に待ち受ける予定のシーンに向けて、頑張ろう。
引き続きお楽しみいただければ幸いです。
CCさん乙です! 今回も面白かったですこれからスティラが入る事によるマグナ・ヴァイスの変化が楽しみです
乙!いいな〜いいな〜大人な会話羨ましいなぁ〜
何かリィナって賭け事上手そうなイメージがある
でも当てた事に満足して景品には興味ないみたいな
CCレモン乙!
うーんやっぱり 白クン イイネ!
こー、なんつんだろ水面下のツンデレがなんともいえぬ!ww
427 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/10/24(火) 22:44:09 ID:UyAgruhP0
411 名前:名無しくん、、、好きです。。。[sage] 投稿日:2006/10/19(木) 01:43:13 ID:2ywLs9YO
ツンデレは、
ツンツンした態度と照れ
だから「ツン・デレ」なんだからな
覚えとけよ
「後デレデレ」 なんてのは、釣りな解釈だからな
長い!!
のに面白い。飛ばそうと思わない。
しーしー氏、ホントに乙です
朝見たら思いっきり投下中で困ったw
またのんびり頑張ってくだせぇ
やたらなげぇー!!GJ!!
そういや見切りドプュ氏は元気なのかな。
今回も読んでいただけた方がいらして、ほっと一息です。
ありがとうございます。
スティア達は、ホントにちょい役のつもりだったんですけどね〜。
次回もそれなりに活躍しそうな雲行きです。
リィナの賭け事は、そんな気もするですね。実際書いてみないと分からないですが。
>>427 これは、戒めなのだろうかw 気をつけますね。
でも、物語としては、最後にデレないとカタルシスが足りないようにも思います。
そう考えると、本来やっぱりツンデレは脇役属性なんですかね〜。
ウチの最後がどうなるかは、まだ全然決めてませんがw
やっぱり長かったですよね。すみません(汗
お読みいただいて感謝です。
毎度長くて申し訳ありませんが、減らそうとしてた煙草の本数が、
逆に三倍になるくらいには頑張ってますのでw 敬遠されている方も、
もしお時間とお気が向いたら、ご一読いただけたら嬉しいです。
アホが歯の浮く言葉をベラベラ喋るせいで長いの何の…が、不思議と退屈にならないのは文章力の成せる業か。
しかも単なるアホ王かと思いきやしっかり策士。なんかかっこいいぞこの野郎w
個人的には滅び行く世界で微かな希望を信じつづけたラルスさんがどんなキャラになるのか見てみたいけど
勇者がゾーマ様どころかバラモス様を倒しに行かないって言っちゃってるからなぁ…
原作があるはずなのにどこへ行くのか分からない展開。果たしてどうなるやら…楽しみにしてます。
しーしーさんよ
>>427はあちこちのツンデレを扱ってるスレに張られまくってるしょーもないコピペだからスルーでおk
コピペ了解。私もどこに行くのか分からないままw 近々投下予定ほしゅ
定義がはっきりしねー言葉だからな
長い付き合いで仲が良くなっただとか
普段無愛想な奴がたまたま機嫌良くて態度も良かっただとか
強気もクールビューティーも照れ屋もなんでもかんでもツンデレツンデレ
素クールって言葉ができる前は綾波までツンデレ扱いする奴とかいたし
それとも多少似ているたくさんのものをまとめて呼ぶ言葉なのか
435 :
144:2006/10/27(金) 04:26:30 ID:6g3zTi7v0
>>435 基本パステルカラーでピザカバなバラモス様にあのイメージをどう反映するのかと思いましたが
ちゃんと雰囲気が出てるじゃないですか!GJ!
・ ・ ・
ゴドーはアレイの鍛冶場を後にし、今のアレイバークの鍛冶場の倉庫に通される。
職人の多くは建物を別にした、離れた作業場に集合して仕事をしており、今この場いるのは彼と、彼を案内した親方だけである。
「…さてと。何から話したもんかな」
どっか、と壁際に放置されている木箱に腰掛け、親方はゴドーにも席を勧める。
だが、ゴドーは無言で、首を横に振った。
「…嫌われたもんだな。その様子じゃ、アレイがどんな目に遭ったか、もう知ってるってか」
「…はい」
「タメ口でいいぜ。こちとら、育ちはいい方じゃねぇ、そっちのが気が楽だ」
「…わかった。じゃあ、話があるなら、早く済ませてくれ。生憎と、俺は長いことあんたと一緒にいるつもりはねぇ」
彼を知る人間が見れば、何事かと狼狽するだろうほど、隠そうともしない嫌悪。
だが、親方はそれに対し、全く動じなず、ただ溜息をついて苦々しい顔をする。
「まぁ…わかっちゃいたけどよ。じじいから聞いてるよ、おめぇ、最初にアレイをここに連れて来た仲間なんだろ?」
「ああ」
「憎いだろうな。俺が」
「………ああ」
アレイが望めば、殴り倒していたかもしれない。
自分が勇者でなければ―――――――――或いは、殺していたかもしれない。
大切な仲間を。少年時代を共に過ごし、勇者となってからも愛する少女と三人で旅した友を。経緯はどうあれ、汚された。
それを、許せる筈がない。
「そうかい。なら、仕方ねぇ。煮るなり焼くなり好きにしてくれ」
「?」
親方の、あまりにも意外な態度に、ゴドーは一瞬呆気にとられる。
よく伸びた白髭を弄りながら、彼は但し、と付け加える。
「好きにしてくれてかまわねぇが―――その代わり。俺の話を、最後まで、聞いてくれ」
親方の視線を受け、ゴドーは緊張を取り戻す。
無言で愛想もないが、その態度には、真剣さが窺えた。彼は、親方の言葉に一欠片の偽りでも見逃すまいと、構えた。
「ありがとよ。おめぇがアレイの仲間なら、この町の馴れ初めは省いていいだろ」
ゴドーは、無言で以って肯定した。
「………俺はよ。この町に来る随分前から、息子と二人だった。俺が馬鹿みてぇに刀鍛冶にのめり込んでたら、
かかぁの奴がいつの間にか病気にやられて、手遅れなとこまでいっちまってて…あとは物心もつかねぇガキを遺してポックリさ。
それからは、息子を連れて二人旅だ。ふらふらとあちこち放浪してよ」
「………」
それは、男の半生の話だった。これが、どう彼とアレイに結びつくのか。
ゴドーはただ、男の言葉に耳を傾けた。
「そんなある日だよ。大陸のはずれに、新しい町が出来たって話を耳にしたのは。
俺は息子を連れて、どんなもんかと見物に行った。…最初見た時ァ、そりゃあ驚いたさ。
まだまだ、今のアレイバークに比べりゃずっと小さかったけどよ。
何しろそこは、ほんの半年前に訪れたばっかりの草原だったんだ。そこにいつの間にか、曲りなりにも町らしい集まりが出来てた。
で、創設者が誰か見に行ったら、まだ二十歳にも届いてねぇお嬢ちゃんじゃねぇか。ありゃあ、二度驚いたぜ」
皮肉っぽく、かつての日々を語る親方は、どこか楽しそうだった。
「腐っても、物作りを生業にしてた俺だ。ここが随分気に入ってよ、すぐに住みついちまった。
アレイは俺の昔取った杵柄を高く買ってくれたし、でかくなった息子も新しい家とダチに、嬉しそうにはしゃいでたさ。
…やっぱり、あのくれぇの年の子供に、旅は辛かったんだろな」
と。親方の顔に、影が差した。
彼は口ぶりを重くし、一呼吸置いてから、再び語りだした。
「…そんで。順風満帆な発展をしてたこの町で。アレが起きたんだ」
「アレイの、圧政か」
ん、と、視線を自分に向けようともしないゴドーの言葉を肯定する。
「おめぇにゃ分からんかもしれんが…一時期は本当に酷かったんだぜ?何しろ、町の実権は全部アレイのモンだ。
やりすぎな産業開発、それを維持するための、真っ当な生活も出来ねぇような重税、職人の酷使…
ああ、過労でぶっ倒れたウチの若いのを、あっさりクビにしたこともあった。
日増しに俺らの鬱憤は溜まっていって、あとは知っての通り…革命さ」
「一応、訊くけどさ。話し合いの道はなかったのか」
初めて、チラリと視線を親方に移すゴドー。
親方はやはり、重々しく続けた。
「…アレイには人間の血が通ってない=cあん時の俺達の間で、合言葉みたいになってた台詞だよ。
そりゃ、俺らだって最初は直談判しに行ったりしたぜ。だがあいつは聞く耳持たなかった。
『これは必ず将来町のためになる。だから今は辛抱して』…ってな。現場の酷さを知らねぇ奴の台詞だぜ、ありゃあ」
ふぅ、と一つ溜息をつき、当時を思い返す親方。
そして、突然、彼の声色が変わった。
「――――――もう一度、確認するぜ。この話の後、俺はどうなってもかまわねぇ。だが、その代わり、必ず最後まで聞いてくれ」
覚悟。数分先に、己が死さえも予見した口振り。
それを、ゴドーは、
「………約束する。あんたの話は、必ず、最後まで、聞き届ける」
一語ずつ、はっきりと復唱し、誓った。
親方は僅か、頬を緩めて、ソレを語り始めた。
「単刀直入に云うが――――――あいつを、アレイをやっちまおうって話にしたのは、俺だ」
一瞬、ピクン、とゴドーの肩が震える。
表面上は平静を装っているが、その内面に怒りが震えているのが、親方にも分かった。
だから、目の前の少年が早く楽になれるように。語気を早めた。
「最初は憂さ晴らしに、職場でアレイの陰口を叩いてただけだったんだ。
それがいつからか鍛冶場の他の奴らにも流行っちまってよ…だんだん、その内容もイカレた方に悪化した。
話だけならよかった。だが………俺の鍛冶場だけじゃねぇ、他の商会の連中も、建築の組合の連中も、
俺らみたいに、アレイへの不満が限界に来てた。だから、」
「あいつへの不満をおおっぴらに出来るあんたに、革命の相談を持ち掛けた、か」
「………おう」
ゴドーの言葉を、目を閉じ、苦々しく首肯する。
「今でも思い出せらぁ。決行は、相談されたすぐ翌日。警備の交代に半刻の隙がある早朝。
アレイが賢い奴だってのは知ってたからな、日が昇れば、俺らのちょっとした変化でもあいつは見逃さなかっただろう。
そのために、反撃の余地も鎮圧の準備も与えずに、一晩でことを終えた。そして―――」
「――――――」
ぎりり。ゴドーの左の二の腕に、右手の指が深々と食い込む。
衣服に覆われて露出こそしていないが、その肉からは既に赤味が引いていた。
…親方が「ソレ」を語っている間中、彼は走り出しそうになる己が拳を、冷徹に繋ぎ止める。
「―――驚いたぜ。まさか、本当に人間の血が通ってねぇとは、思わなかった。
何しろ、拘束してからその日の日没まで、俺を初め、他の債務者や首にされた怪我人、何十人って人間に犯されたって言うのに。
アレイは最初から最後まで、その気味の悪い笑いを一度だって崩しやしなかったんだ」
そうだろう。当時の彼女であれば、例え世界中の人間で壊しにかかっても、絶対に泣かすことも、怒らせることもできなかったに違いない。
だって、その時の彼女は――――――とっくに、どうしようもないほど壊れていたのだから。
「俺らの仕事も大分楽になって、平和にはなったな。その理由を、ガキどもは不思議に思ってたようだったが、話せるわけもねぇ。
牢獄にゃ警備をつけて、大人は誰でも好きにヤれるように、子供は絶対にいれねぇようにしてた………が。
何ヶ月か後、アレイ派の人間はみんな町から叩き出して、次の町長をどうしようかって話になってる時のことだった」
親方は徐に、割れた腹筋が剥き出しの腹を傷跡だらけの大きな手で摩り始めた。
「――――――俺のガキがさ。俺が仕事から帰るなり、俺の腹を殴りつけやがったんだ。
泣き喚いて、怒鳴り散らしながら、俺に似もせず死んだかかぁの面影ばっかり受け継いで弱気で俺の言いなりになるだけだったガキが。
どうして、どうして、って俺に向かって吠えやがった。
いい気分で帰ってきたとこに水を差された俺ァ、ついカッとなって息子を殴り飛ばした。
だがあいつは、また殴りかかってきた。こんなことは初めてだったから、聞いたんだ。何があったのか―――」
・ ・ ・
「おい、どうしたってんだ!落ち着きやがれ!」
「うるさい!とうちゃんなんか…父ちゃんなんか…!グスッ!」
「?…」
「町のはずれに行ってきたよ!そしたら、アレイがっ!」
「!!…ちっ、見やがったのか。警備のやつめ」
「わぁぁぁぁぁっ!!」
バキッ、ガラガシャンッッ
「っ…!」
「いいか、馬鹿野郎。俺らだって、あんなことはしたかァなかったんだ。おめぇだって知ってるだろ、あの時、町がどうなってたか。
誰かがああしなけりゃいけなかったんだよっ!!」
「そんなわけないっ!!だって、父ちゃんいってたじゃないか!この町は、アレイバークは最高だって、あの時!!」
「あン時とは事情が変わったんだよッ!俺たちが助かるのに、あれ以外に手なんざなかった!!」
「助かる?!どうやって!?」
「以前のアレイバークを取り戻してだよっ!決まってンだろ!」
「嘘だッッッ!!!」
「!!」
「じゃあ、父ちゃんが、父ちゃんたちが取り戻そうとしたアレイバーク≠ヘ、誰が創ったモノなんだよっ!!!」
「っ!?」
「僕は憶えてる!父ちゃんや、他の人たちや、勿論僕たちだって、こんな素晴らしい町を作ってくれたアレイに感謝してた!
なのに、父ちゃんたちはその気持ちを忘れて、アレイにあんなことをするのっ!?」
「………」
「そんな父ちゃんなんか…父ちゃんじゃないッッッ!!!」
ボスッッ
「ぐ…」
「はぁ…はぁ…グスンッ…ワアアァァァァンッ」
・ ・ ・
「………」
「ガキにいわれてよ。気づいたんだ。俺たちが懐かしんで、安らいで、必死に取り戻そうとした記憶の中のアレイバークの生活は、
それさえもアレイのおかげだったってことを…!それを忘れて、俺たちゃ何を先走ってたんだろうな…」
いつしか親方は、両手で顔を覆い、懺悔をするように言葉を漏らす。
「…んで、一睡もしないでガキを寝かしつけて、次の日鍛冶場に出たらみーんな同じ顔してんだ。他の商会や組合の連中もだ。
空元気でからかってやろうとしたら、その前にいわれたよ。『親方もですか』…ってな」
全てを聞くまでもない。おそらくは、子供を持ち、革命に参加した殆どの大人たちは、親方と同じ体験をしたのだろう。
子供の連帯感は強い。仮に牢に忍び込み、アレイの惨状を目にしたのが少数の子供だったとしても、その話は瞬く間に町を駆け巡っただろう。
「その日を境に、アレイの監禁から数ヵ月、ようやく和解派も出始めた。あいつをそろそろ解放してもいいんじゃないかって
話になり始めた矢先だったんだがよ。俺の頭をソレが掠めた」
そう。それが、彼女の願い。
ゴドーとアリスの戦いの直後から、ずっとアレイが衛兵に懇願し続け、そして親方が歯牙にもかけずに無視し続けていた、決意。
刀工の、鍛錬。
「解放する前に、あいつがどういうつもりでソレを願い出たのか知りたかった俺は、革命以来初めてアレイの顔を見に行った。
すると、どうだ。あいつは俺の顔を見るなり、必死に叫びやがったんだ」
『お願いします!私に、剣を打たせてください!』
「…あいつの顔からは、以前の張り付いたお面みてぇな笑いは消えてた。
そこにあったのは、俺たちと同じように、懸命に生きようとする一人の人間の顔だけだった」
一度、すぅ、と深呼吸し、親方は話しにケリ≠つける。
「そいつを見て、決めたんだ。あいつは自身の力で、何かを見つけようと、戦おうとしてる。
だから俺たちはそれに答えよう、あいつが何かに辿り着くまで、決して手を貸さず、見守ろうってな―――」
「………」
ゴドーは微動だにせず、最後の言葉を待つ。
親方もそれを察し、けじめをつける。
「―――悪かったな。むかっ腹の立つ話を聞かせてよ。
俺の話はこれで終わりだ。ここには誰もいねぇ、好きなようにしてくれ」
満足げに笑い、四肢を投げ出して後ろの壁に背中を預ける親方。
それを、ゴドーは。一言で制した。
「―――――――――おっさん。歯ァ食い縛りな」
「―――?」
――――――バキンッッッッ
「ぐ…!!」
文字通り、横殴りに、ゴドーの拳が親方の左頬に叩き込まれ、彼は木箱から弾き飛ばされて石造りの床に投出される。
うめく親方に、ゴドーは尚も、有無を言わせぬ命を告げる。
「今のは、アリスの―――仲間の分だ。…立ちな。まだ終わってねぇ」
「ん…おう」
――――――ゴッッッ
起き上がるや否や、二発目の鉄拳を見舞う。
再度、親方は地に這い蹲る。
「こいつは俺の分だ」
「………何だよ。終わりか?殺さなくて、いいのかよ」
仰向けになったまま口元に血を滲ませながら、親方はゴドーに問う。
すると、彼はさも心外だといわんばかりに眉間に皺を寄せる。
「馬鹿言うな。俺が殺すつもりで殴ってるとでも思ってたのか」
釣られて、親方も眉を顰める。一体、どういうことか、と。
ゴドーはそれに応えるために、ゆっくりと語りだす。
「…あんたが俺にそれを話すってことはさ。あんたは俺や仲間に、罪の意識があったってことだろ。
犯した罪は、償いによって許されなければならない。誰かが叱って、許してやらないといけない。
じゃないと、罪を犯した奴は、ずっと罪を背負ったままだ。だから、俺は―――あんたを許すために、あんたを殴った」
「!………」
安らげる幸せをくれた恩人を、自らの手で汚した。この身の命が危険に晒され、正当防衛と言い張ることもできるだろう。
だが、自分は、それを後悔した。幼い子供たちに、その罪に気づかされた。
許される罪ではないと思っていた。取り返しのつかないことをしたと涙した。死ぬ以外では償われないと決め付けた。
だが―――目の前の少年は、それを、許すといった。
それが、この壮年の職人の心を、どれほど救ったか―――。
「死んで楽になろうとなんか、するんじゃねぇ。あんたには生きて、アレイの戦いを見届ける義務がある。
これはもう、あいつだけの戦いじゃないんだ。あんたも、俺も、あいつも、皆で勝たなけりゃいけない戦いなんだよ」
死んで、楽に。
そう。その通りだ。それは逃げでしかない。彼女が自分に、戦いの審判を任せた。
ならば、いまここで自分が死ぬのは、逃げ以外の何物でもない―――!
「本当に、俺を殺さなくて、いいんだな」
「…正直、さっきまで殺意がなかったっていえば嘘になる。でもあんたも今まで苦しんで、戦ってたって事がわかった」
目を閉じ、迷いなく、数分過去の自分との決別を語り、言葉を紡ぐ。
「―――だから、いらない。あんたの命なんか。戦ってる人間なんか殺しても、後味悪いだけだ」
ぷい、と、拗ねた悪餓鬼の様に視線を逸らすゴドー。
それが、この少年なりの優しさなのだと、親方は髭に隠れた口元を緩ませる。
「…ほら。ぼさっとしてねぇで、起きやがれ。次はあんたの番だ」
と。ゴドーは未だ地に背中を預ける親方を叱咤する。
意味がわからず目を丸くする親方に、彼ははぁ、と一つ溜息をついて恥ずかしそうに視線を逸らす。
「いいから、俺を殴れって言ってるんだよ。俺はあんたに手を出すなってアレイに言われてる。
あんたたちを殺そうとした仲間も、ぶん殴ってまで止めた。でも、何であれ俺はあんたを殴った。約束を、破ったんだ」
漸く、ゴドーの意図を理解し、親方はふ、と微笑む。そして―――、
―――ドガンッッッ
倉庫に、乾いた打撲音が響いた。
「…はぁ。よし、けじめはつけたぜ。俺は行くよ、時間があんまりないんでな」
「待ちな、坊主」
床に転がった荷物を背負いながら出口に向かうゴドーを、親方が呼び止める。
「何だよ。…ああ、もしかして、アレイの分もほしいのか?
悪いが、そいつはあいつ本人にいってくれ。流石にそこまで勝手はできねぇよ」
「ちげぇよ。まぁ、見てくれって」
面倒くさそうに振り返る彼に、親方はニヤニヤと笑いながら歩き出す。
先には倉庫の中心、何やら大きな布を被せられた巨大な―――バラモスの体ほどはあろうか―――塊。
親方は笑いながら、その布を、引っ張る。
バサァッ
「…これは?」
現れたのは、山のような金属の塊の数々。そのどれもが、用途も素材も皆目見当もつかない無秩序な物質の群体。
「うちの鍛冶場も含めた、武器開発連合の一部の変人どもが、ちょっと前に立ち上げた計画があってな。
それ単体で、生きているものなら、それこそ神様や魔王だって破壊できうる武器を作ろうっていうコンセプトの下、推進された。
だが、出来上がってくるのはどれも癖が強くて、とてもまともな人間の扱えるもんじゃねぇ代物ばっかりだ。
計画は三ヶ月ほどで頓挫したが、何しろ使いこなせれば神殺しだってやりかねない化け物兵装の集まりだ、処分するにも手に余ってな、
こうして倉庫で埃をかぶってるってわけよ。…所詮、人間の力じゃこれが限界ってことかね」
心底、呆れたように過去の計画を語る親方は、ボリボリと頭を掻きながら説明の最後に愚痴を加える。
「ふぅん…で、それをどうしろっていうんだ?」
「坊主たちで使ってくれねぇか?」
突然の提案に、一瞬ゴドーは呆ける。
「持ってみればわかるが、どれもこれも武器として何か≠ェ致命的に欠けてるブツばかりだ。
ソレが何かはわからんが…込められた魂≠ヘ本物だぜ!?俺が保証する。おめぇや、その仲間なら使いこなせる気がするんだ」
「…つってもな」
魔物の牙を彷彿させる爪、黒く禍々しい装飾のサーベル、死を連想させる邪気を帯びた槍。
成る程。常軌を逸した邪気と狂気。とてもじゃないが、このままで人間の扱えるものじゃない。
「詳しいことは訊かねぇが、おめぇやアレイが何かヤバい奴らと戦おうとしてるっていうことは分かる。
こいつらが、何かの役に立てばと思ったんだが…」
「…ん」
その気持ちは、嬉しいが…こうも人間という生き物とそぐわないモノばかりで、は―――?
「どうかしたかい?」
じゃらり。ゴドーの手から、物々しい鎖のような物体が零れ落ちる。
ソレが目に映った瞬間に、彼は違和感に気づいた。その鉄の塊だけは邪気も、狂気もこもっていなかった。
「こいつは?」
ジロリ、と脇の親方に説明を求める。
「そいつは破壊の鉄球≠チていってな、威力は申し分ねぇが重量の問題だけはどうしても俺たちじゃ解決できなかった失敗作だよ。
大の男が十人がかりでやっとこさ持ち上がる化け物鉄球だ。そいつはやめときなって」
「………いや。こいつがいい」
ニヤリ。不敵に笑い、ゴドーは手に残った鎖を床に落とす。
「お、おいおい、本気か?」
「ああ。こいつを使えそうな男に、一人心当たりがある。
―――ありがとう、おっさん。使わせてもらうぜ。悪いが、一週間以内にそいつを外に引っ張り出しておいてくれ」
礼を述べ、踵を返すゴドー。それを、親方はもう止めなかった。
「ん…そこまでいうならわかったぜ。…坊主」
「ゴドーだ。俺の名は」
嬉しそうに。ゴドーは協力者≠ノ名を名乗った。
「ゴドー。勝って来いよ」
彼はもう振り返らず、親方の激励にただ手を振って応えて倉庫と、アレイバークを後にした。
447 :
YANA:2006/10/27(金) 23:45:05 ID:aku7iEht0
人造の神域兵装「破壊の鉄球(劣化版)」
人の力で神の領域に挑むも、それはおっそろしいほど使い手を選ぶ誰かさん専用装備になってしまったのでした。
というわけで、帰還!!
つってもこの子(PC)、返ってきても頻繁に電源が勝手に落ちたり入ったりするのは変わらんのね。
書きながら冷や冷やです。もう五年近く使ってるからなぁ(;´∀`)
>144氏
ご ち そ う さ ま !
俺がいない間に、色々がんばって下さってたようで、言葉もありませんぜ。
てかマンボウwwwwwバルスwwww
>>383 >投下ペース
>投下ペース
>投下ペース
||
∧||∧
( / ⌒ヽ
| | |
∪ / ノ
| ||
∪∪
;
-━━-
CC氏の凄まじい執筆速度に目を疑います…状況描写ありで、下手すると最終節前の俺より早いのではなかろうかと。
生憎、今の俺にはあまりに時間がないので読めんのですが、てめぇの仕事をきっちり終わらせたらゆっくり拝読させていただきますぜ。
お帰りなさい
YANA氏、お帰りなさいませ〜。
PCは、まだ不調ですか。小まめに保存してくださいね。
私の投下ペースのことは無視してくだされw
う〜ん、144氏と妙に投下の気が合うなぁ、と思ったら、YANA氏とも合ってしまうとわw
ちょっと引っ込んで、先を書き進めときますです。
魔獣の爪、地獄のサーベル、デーモンスピア…か。
YANA氏が復活した…
GJです
破壊の鉄球誕生秘話ですか…。
大魔王の手によりアレフガルドは闇に包まれ、人間達はその生きる道に恐怖し、絶望した。
その大魔王の緻密で、かつ純粋な野望は…王者の剣、隼の剣(GB版)、破壊の鉄球…
全て他ならぬ人間達の生み出したものによって滅ぼされていくのですね…。
とにかく復活おめ!
おかえり、超GJです。
アレイがカワイソス(;ω;)泣けた。
読んでたらアソコが痛い…グスン
ぼちぼち大丈夫かな?
wktk
あ、すみません、まだ数時間後になると思います(汗
誰も気にしてないって?w
>>456 気にしまくりwwwww
数時間後か・・・早起きするかなw
「そうなら最初からそう言いなさいよねっ!!
レスまでして損したじゃない!」
「wktkしてたくせに」
「なっ…! 別に楽しみになんてしてないんだからっ!!」
459 :
144:2006/10/29(日) 01:48:52 ID:lz/ONGdg0
YANA氏帰還乙であります!!
今回はYANA氏投稿とニアピンでしたかww
破壊の鉄球にはそんなバックボーンがあったのか〜
エデンスゴロクしてたわけじゃなかったんすねwww
今後の展開にwktkwktk!!
8. Sister
翌日、ロランは俺達の前に姿を現さなかった。
騎士団長のマルクスに発破をかけられて城を後にした俺達は、カザーブ村までの道案内を用意したという言葉を受けて、冒険者の組合所に顔を出した。
「やぁ、みなさん!お早うございます!」
やたらハキハキした挨拶を投げてきたのは、人のいい剣士だ。
「もしかして、道案内って、あんたらかよ」
「そうよ。カザーブまで道案内をするように頼まれたの。よろしくね」
スティアが、俺に片目を閉じてみせた。
やれやれ、こういうことか。まぁ、顔見知りって言い訳は立つけどな、ロランさんよぉ。
ウチの連中の方を窺うと、シェラは『ああこの前の』と思い出したような顔をして、リィナは『ふぅ〜ん?』みたいな視線を俺にくれた。スティアのウィンクを見てやがったな。
マグナは――なんだか、らしくもなく、今朝からずっとボーっとしていた。
「我々では頼りないかも知れませんが、案内させてもうらうことになりました。どうか、よろしくお願いします!」
「え?ああ、はい、こちらこそ」
何かの宣誓みたいな、人のいい剣士のむやみにデカい声にも、どこか上の空だ。
まさかとは思うが、ロランのバカに夜討ち朝駆けで迫られてたんじゃねぇだろうな。
「おい、大丈夫か?もしかして、寝不足かよ」
俺の耳打ちにも、反応が遅れた。
「……へ?あ、ううん。ごめん、大丈夫。ちょっと疲れちゃって」
疲れたってどういうことだよ。
「……ロランの相手をしたせいか?」
「うん、そう」
あっさり頷かれて、多分、俺は硬直したと思う。
「晩餐の後もあたしの部屋に来てベラベラ喋るし、今朝だって出掛けにわざわざ顔を見せて、またなんだかんだ喋っていったのよ。ホント、あれで王様なんて務まるのかしら。悪い人じゃないんだけど、話相手としては疲れるわ――って、あんた、なんか勘違いしてない?」
「へっ!?いや、なにも?あぁ、そうだなぁ、あいつと話してると疲れるよな。うん、分かる分かる」
「あんたも話したの?ああ、あたしが追い出した後か――って、大体、あんたねぇ、晩餐会の間中、あたしが助けてって何回もあんたの方見て、目も合ったのに、なんで無視したのよ!」
ああ、なんだ。あれは俺を睨んでたんじゃなくて、助け舟が欲しかったのか。もうちょい分かり易い目つきをしろよ。
俺は、思わず頬を緩めてほっと――した訳じゃなくて、なんていうか。
まぁ、あれだ。マグナが誰か男とそういうコトをいたしてる場面なんて、ちょっと想像つかねぇだろ?そういうアレだよ、コレは。
「あら、ロランのお話?」
スティアが、俺とマグナを覗き込んできた。
「ええ、まぁ。えっと……」
「スティアよ、マグナちゃん」
ちゃん付けされて、マグナはカチンときた顔をした。
「スティア……『さん』も、ロランとお知り合いなんですか?」
さん、の前には、おば、がつくことを言外にちらつかせたマグナの挑発を、スティアはさらりと無視してみせた。
「そうね。お会いしたなら分かると思うけど、あの方、ほら、ああいう人だから」
「……よく分かります」
「マグナちゃん、とっても『可愛らしい』から、気をつけてね。あの方、歳とか関係ないから。見境ないのよ」
「……そうですか?そうでもないと思いますけど」
おや?
「あらあら、ダメよ、騙されちゃ。あの方、ホントに口だけはお上手なんだから。マグナちゃんは、まだ若いから、そういうのはちょっと分からないかな」
「バカにしないで。本気で言ってるか、そうじゃないかくらいは分かるわよ!」
なんでお前が、あのアホの弁護をしてるんだ。
「あらぁ。もしかして、本気で何か言われちゃった?あの方ときたら、まったくもう――」
「別に!なにも言われてないわよ!大体、そんなこと、あんたには関係ないでしょっ!?ほら、急いで取り戻せって言われてるんだから、行くわよ!全員、さっさと表に出る!」
地団太を踏むように、マグナはドカドカと組合所を後にした。
「ふふ、可愛いわねぇ――あら、そんなに心配そうな顔しなくても、大丈夫よ。別にとって食べたりしないから」
スティアは、俺に流し目をくれる。
「心配性なお兄さんって心境かしら。なんだか、思ってたより楽しくなりそうだわ。改めて、よろしくね」
「あ、ああ」
俺はぎこちなく頷き返した。
まったく、言い得て妙だよ。願わくば、心配性のお兄さんに、これ以上の厄介事を持ち込まないで欲しいね。
ひとまず俺達が目指しているカザーブという村は、どうやらとんでもない山奥にあるらしい。途中、知っていなければ気付かないような道も通るので、案内なんてのが必要だそうだ。
ロマリアの冒険者の実力では、単独で赴くのは自殺行為に等しく、普通は隊商の護衛役として、いくつかのパーティが合同で向かうのだという。
尤も、スティア達は結成してまだ間も無いので、護衛を務めたことはないそうだが。それじゃ意味ねぇじゃん。道知らねぇだろうが。ロランのアホが、これじゃ単なるいやがらせじゃねぇか。
まぁ、仲間のひとりの商人が、冒険者になる前に何回か訪れたという話なので、せいぜい遭難しないことだけでもお願いしたいね。
なにしろこいつら、戦闘ではさっぱり役に立たねぇからな。
魔物は、かなり手強くなっていた。中でも群れで襲ってくる腐りかけた狼の動く屍体と、中身ががらんどうの鎧の化物が厄介だ。特に鎧の方は、なんらかの魔力の影響で動いているのか、魔法が効き辛いからやり難くてしょうがねぇ。
ヘタに前に出られると、逆に庇ったりなんだりの手間が増えるだけなので、基本的にスティア達には大人しく見物してもらっている。こいつらでも倒せそうな魔物を選んで、タマに回してやる程度のことはするけどな。
総勢八人もいるのに、僧侶が一人しかいないので、誰かが負傷した時に回復できなくなっては大変だ。なんぞと、もっともらしい理由をつけて、シェラも観戦組に入ってもらってる。
以前よりは幾分マシになって、隅っこでガタガタ震えているだけではなく、ある程度自分で逃げ惑うことを憶えたが、却って危なっかしい場面も多いからな。
それに、アリアハンの冒険者様が、戦闘中にホイミも唱えられないってんじゃ、ちょっとコケンに係わるだろ。見物してもらっておくに越したことはない。
わざと獲物をこちらに追い込んで、俺とマグナに経験を積ませようとするくらい余裕のあるリィナがいれば、いくら魔物が強くなったとはいえ、そうそう重傷までは負うこともねぇしな。
そんな訳で、自然と観戦組との付き合いが増えたシェラに、身の程知らずにも粉をかけてやがんのが、人のいい剣士と小太りの商人だ。
ちなみに、剣士の方はアルブスという名前で、皆にはアルと呼ばれている。
商人はルールスと言うそうだ。まぁ、野郎の名前なんて、どうでもいいんだが。
「オラの名前には、『いなかもの』って意味があるだで、いつも名乗るのが恥ずかしいだ」
と小太りのルールスはのたまいやがった。お前、そのまんまじゃねぇか。
残る野郎の武闘家バルブスは、リィナと一緒にいるのが多く目についた。どうやら、色々教わろうという腹積もりらしい。
レベルが違い過ぎて、参考にはならねぇと思うが、無口なこいつは、リィナに出された無茶な課題を黙々とこなして、タマにぶっ倒れたりしてたので、根性だけはあるようだ。このまま続ければ、案外早い時期に使い物になるかも知れねぇな。
こいつはこいつで、名前に「どもり野郎」という意味があるらしく、時おり口を開けば律儀にどもってみせた。
アルブスにしても「明るい」という由来があるそうで、ホント、こいつらの親の先見の明に感心するよ。
マグナは、どうにもスティアと反りが合わないようだった。
というか、事ある毎に俺にちょっかいをかけてくるスティアが、からかって楽しんでいるようなフシがある。
「ねぇ、ヴァイス、こっちに来て」
日暮れ時に野営の準備をしていると、妙になまめかしい口調で俺を呼んだりするのだ。
ジロリとこちらを見遣るマグナに、「私達は薪を拾ってくるわ。ああ、先にリーダーに報告するべきだったわね。ごめんなさい、マグナちゃん」とか、含み笑いをしながら言っちゃうんだ、これが。
「あ、そう。勝手に行けば」
マグナの声が、また怖ろしく冷たいんだわ。
で、俺の手を引いて森に分け入ったと見せかけて、スティアは木の陰からマグナの様子を窺ったりする訳だ。
「ほら、あんなに気のない素振りをしたクセに、そわそわしちゃって。気にしてる気にしてる。ああ、マグナちゃんったら、ホントに可愛いわ」
とても嬉しそうに言う。
「また、そんな顔して。可愛い妹がイジワルされるのが、そんなに嫌?」
「そんなんじゃねぇけど」
「だって、マグナちゃんったら、苛めた時の反応が、もう精一杯無理してて、ホントに可愛いんですもの」
そうか、身悶えするほど気に入ってるのか。まぁ、嫌われるよりは結構なことだ。
「あなたの目には、私はヒドい女に映ってるのかしら」
「いや、いい女に映ってるよ」
「ふふ、気持ちが篭もってなくても嬉しいわ」
敵わねぇな。
「ねぇ、薪拾いなんて、ちょっとくらい遅れても大丈夫よ」
マグナ達とは全然違う、熟した豊満な肉体を俺にピッタリくっつけて、木の幹に押し付けたりするのだ。
それでまぁ、なんというか、ほんの少しだけいかがわしい事とかして、いや、ホントにほんのちょっとだけだぞ。服もはだけてないし、却って欲求不満になるというか、そもそも俺は野外はあんまり、いやそのなんだ。
俺が超人的な精神力を発揮して――精神力が重要な魔法使いの経験も伊達じゃないね――そこそこで切り上げ、マジメに薪を拾って野営地に戻る、みたいなことが、もう何度もある訳だった。
戻ったら戻ったで、マグナはブスーっとしてるし、バルブスはリィナを背中に乗っけて腕立て伏せをしてたらしいが見事に潰れてるし、アルとルールスは料理の仕度をするシェラになにくれと構ってるしで、なんだかやたら賑やかな一行なのだった。
魔物もそこそこ強くて、道も険しい割りに、緊張感がまるでない。
ヘンな意味での緊張感なら、俺の周囲に漂ってるけどな。
「肝試しをしない?」
日数自体は結構かかった筈なんだが、ワイワイガヤガヤやってる内に、いつの間にやらカザーブの村に辿り着いていた。何はともあれ、道に迷わなくて良かったぜ。
場所は宿屋の食堂。全員で食卓を囲んで晩飯を食い終わった頃合に、俺の隣りに座ったスティアが、唐突にそんな子供っぽいことを提案した。
「さっき、宿の人に聞いたのよ。ここの墓地……出るんですって」
スティアはふざけて、おどろおどろしい表情を作ってみせた。
「はぁ?何言ってんの?」
俺の正面でマグナが顔を顰めると、スティアはにんまりと笑う。
「あらら、怖いの、マグナちゃん?ひょっとして、お化けとか苦手だった?」
「は?バカ言わないでよ。なんで、あたしがお化けなんか。じゃなくて、そんなことをする為に、ここまで来たんじゃないでしょ?まったく、何考えてんのよ」
「あらぁ、意外だわ〜。ロランのお願いを、マグナちゃんがそこまで真剣に考えてたなんて。マグナちゃんは照れ屋さんだもの、きっと何も言わないでしょうから、後で私から伝えておくわね。あの方、きっとお喜びになるわよ〜」
「ばっ……いい加減にしてよっ!!そんなんじゃないんだったらっ!!」
「あらあら、じゃあ、やっぱりお化けが怖いのね」
「怖くないっ!!」
「そんなにムキにならなくてもいいのよ。却ってみんなに、怪しまれちゃうんだから。ねぇ?」
俺に振んな。
「……あんたの口車なんかに、乗らないんだから」
「そうね、それがいいわ。ごめんね、マグナちゃん。誰にだって、怖いものはあるわよね」
「だから、怖くないって言ってるでしょっ!?」
「じゃあ、やってみる?」
「……」
マグナは買い言葉を発しそうになった口を、力づくで強引に閉じた。意地でもスティアの思い通りになるまいと、唇を尖らせてそっぽを向く。
いっつも、俺がこの二人の傍らで脂汗流してるんですけど。他のお前ら全員、他人事みたいな顔してないで、タマには助けろよ。
ダメか。リィナなんか、なんのつもりか目を輝かせて二人のやり取りを見守ってるもんな。
「は〜い、やりたい人〜」
スティアは、他の連中に挙手を求めた。
「やるやるー」
真っ先に手を上げたのがリィナだ。
空気を読まないこいつのせいで、他のヤツらもなんとなく手を上げる。シェラは、リィナに腕を掴まれて、無理矢理上げさせられていたが。
「ほら、ヴァイスも」
スティアも、俺の手を握って持ち上げた。しかも、指の間に指を絡ませた恋人同士がするような握り方だ。うは、怖くて正面見れねぇよ。
「あらぁ、マグナちゃん以外は、みんな賛成みたいねぇ」
「……勝手にやれば。あたしはやらないから」
俺は下を向いてるので表情を窺えないが、とんでもなく不機嫌な口振りだ。
「ダメよ、そんな勝手なこと言っちゃ。多数決で決まった事じゃない」
「いつ多数決になったのよっ!!」
バン。
「あ、みんな、手を下ろしていいわよ」
俺の手は、下ろした後も、机の上で握られたままなんですが。
「だって、皆やりたいって言ってるのに、リーダーだけが反対するなんて、それってどうなのかしら。それに、マグナちゃんがいないと、ひとり余っちゃうわよ」
「はぁ?」
「せっかく、男と女がちょうど四人づつなんですもの。ペアを組んで行くに決まってるじゃない」
言われてみれば、そうだな。とか納得する俺。
「それに、私達はここまでしかお付き合いできないけど、マグナちゃん達には、これから大変な任務が待ってるんじゃない。最後に少しくらい、羽を伸ばして仲間と楽しく過ごして、緊張をほぐす時間を作ってあげるのも、リーダーとしての役割なんじゃないかしら」
ここから先は、道を知ってる訳でなし、スティア達は単なるお荷物以外の何者でもなくなってしまうので、何日か後に来る隊商と一緒に帰る予定なのだ。
一転して、スティアはしんみりとした口調になったりするのだった。
「それにね、なんだか嫌われちゃったみたいだけど、私はマグナちゃんのこと大好きよ。私達にも、あなた達とのいい思い出を残してもらえないかしら。ね、お願い」
「……分かったわよ。やればいいんでしょ、やれば」
きゅっと握る手に力が込められたのでそちらを向くと、スティアが俯いて、してやったりみたいな笑みを浮かべていた。
やれやれ、俺を巻き込むなよ。という内心を忖度した訳でもないんだろうが、スティアはやっと俺の手を離した。
「ありがとう、マグナちゃん。じゃあ、リーダーの許可も出たことだし、ペアを決めましょうか」
いつ作ったのやら、隠しを探ったスティアの両手には、紙で作られたクジが握られていた。
マメな女だな。
「はい、ヴァイスから」
そう言って、右手のクジを差し出す。
「ちょっと待って!」
「ん?マグナちゃん、どうかした?」
「言いだしっぺが作ったクジなんて、不正の疑いがあるわ。ちょっと見せなさい」
スティアは、慌ててクジを後ろ手に隠した。不正アリアリかよ。
「あらあら、マグナちゃんったら、疑り深いわねぇ。それじゃあ、どうするの?」
「ヴァイス。紙とペンを借りてきなさい」
有無を言わさぬ命令口調だ。はいはい、仰せのままに。
「あんたは、ここにいなさい」
再び俺の手を握って、一緒に立ち上がったスティアを、マグナはギロリと睨みつけた。ふぅ、とかワザとらしい溜め息をついて、大人しく着席するスティア。
帳場で紙とペンを借りて戻ると、マグナは縦に四本線を引き、体で隠しながらいくつか横棒を加えた。なるほどアミダか。
「女はこっち。男はそっち。好きなところに名前を書きなさい。作った本人だから、あたしは最後でいいわ」
名前が記入できるように両端だけ折り返して、横棒が引かれた真ん中の部分は伏せて見えないようにしてある。まぁ、これなら公平かな。
結局、スティアはアルと組まされて、つまらなそうな顔を隠さなかった。あの、その人、一応あんた方のリーダーさんなんですが。
上手くいったのは、リィナとブルブスの武闘家ペアくらいか。小太りルールスと不機嫌絶頂のマグナのペアは、一体どんなことになるのやら、ある意味覗き見たいような気がするが。
俺は、シェラと組むことになった。ちょうど良かったかな。
ついさっきアミダに名前を書く時も、はじめて会った頃みたいにおどおどしてたし、二、三日前から少し様子がおかしいのが気になっていた。
墓地の入り口は教会の中だが、さすがに肝試しなんぞをする為に、どやどやお邪魔する訳にもいかない。そこで俺達は、勝手に柵を乗り越えて入ることにした。
「は〜い。じゃあ、ぐる〜っと一周してきてね〜」
あからさまにやる気を無くしているスティアのなげやりな言葉に促されて、一番手の武闘家ペアが楽々と柵を越えた。
しばらくして、ブルブスの悲鳴が一度だけ小さく聞こえると、シェラはビクッと震えて俺の服を強く掴んだ。
やがて、ブルブスを引き摺るようにして戻ってきたリィナは、怖がるどころか逆に嬉しそうだった。
「いたいた!いたよ、幽霊!あのね――」
「そこまで!種明かししちゃったら、面白くないでしょ?」
「あ、そっか」
唇にスティアの人差し指を突きつけられて、リィナは指で頭を掻いた。
「ゆ、幽霊が相手でも、し、師匠は、や、やっぱり凄いッス」
幾分は蒼褪めた顔をしたブルブスが、そんな事をどもっていた。また何か、リィナがやらかしやがったな。
「そっかな?ん〜、鉄の爪かぁ。あった方がいいのかなぁ。でも、エモノは、あんまり好きじゃないんだよね」
「し、師匠には、ひ、必要ないッスよ」
「やっぱり?」
えへへ〜、とか照れ笑いをするリィナ。また軽い師匠だな、おい。
二番手は、スティアとアルだった。ほどなく戻ってきたスティアはあらぬ方を向いていて、アルは気まずそうな愛想笑いを浮かべていた。ずいぶん早かったが、こいつら、ちゃんと回ってきたんだろうな?
次が、俺とシェラだ。
シェラは柵を越える前から、はっきりと分かるくらい震えていた。
「そんなに怖がってもらえるなんて、発案者冥利につきるけどね。大丈夫、シェラちゃん?」
「は、はい。だ、大丈夫です」
全然、大丈夫じゃなさそうだ。
スティアは、シェラの頭を抱いて、自分の胸に埋めてやった。羨ましい。
「心配しないで。怖いお化けが出ても、頼りになるヴァイスお兄さんがやっつけてくれるから。ね?」
シェラの体をぐいと俺に押しつけて、片目を閉じてみせる。
「さ、いってらっしゃい」
そうして、柵を越える時にシェラがコケたりしながら、俺達は墓地に足を踏み入れたのだった。
「怖かったら、俺にしがみついてていいからな」
「は、はい」
言うまでもなくしがみついているシェラを連れて、俺はあいつらに声が届かない辺りまで歩くと、手近な植え込みの前を手で示した。
「ちょっと、座るか」
「ふぇ?」
へっぴり腰で、泣きそうになっている。
さんざん道中で、動く鎧やら腐った狼だの、よっぽど恐ろしいものを目の当たりにしてきてるのに、幽霊くらいでここまで怖いモンなのかね。まぁ、シェラは魔物と出くわした時も、軒並み怖がってるから仕方ないか。
実際に幽霊に出てこられて、卒倒でもされたら困るので、最初から真面目に一周する気はなかった。それよりも、ちょっと話をしておきたい。
「ほら」
先に座って隣りの土を叩くと、シェラはおずおずと腰を下ろした。
「大丈夫だよ。魔物に比べりゃ、幽霊なんてヘでもねぇ。もし出てきやがったら、俺が魔法で追い払ってやるよ」
俺はシェラの肩に手を回して、ぎゅっと抱き寄せた。
それで少しは安心してくれたのか、シェラは俺を見上げて健気に微笑んだ。
まー、可愛らしいこと。
でも、その瞳の奥には、やっぱりなんだか淋しげな色が浮かんでいるのを確認する。
さて、どうやって切り出したモンかな。
「シェラはさ、誰か好きなヤツっているのか?」
「え?」
どうにも上手い導入を思いつかずに、俺はそんなことを尋ねた。
「あ、はい。今は、マグナさんが好きです」
お、マジか。でも、なんかあっさりし過ぎてんな。
「あと、もちろんリィナさんも。私、ひとりっ子でしたから、お姉さんができたみたいで嬉しいです」
月明りの下で、今日一番の笑顔を浮かべる。
って、おい、ちょっと待て、お前、ひとりっ子だったのかよ。てことは、長男だろ?そりゃ、余計に苦労しただろうなぁ。
長男ってのは、その家の様々な役割やら責任を押し付けられる。いや、それを負って当然だと、周り中から見做されるものだ。
俺は次男坊だからな。元々家を継ぐ人間じゃなかったから、ないがしろにされて多少は面白くない思いもしたが、面倒事を一手に引き受けて、黙々と愚直にコナしてくれた兄貴には、正直感謝している。
その長男にしてコレじゃあ、周りからの当たりは、俺が思っていた以上にキツかっただろうな。
いやいや。俺が聞きたかったのは、そういうことじゃないんだった。
「あと……ヴァイスさんも」
シェラの話には、まだ続きがあった。
「お、俺もか。嬉しいね。最近、避けられてんのかと思ってたぜ」
「そんなこと!……その、私の方こそ、ご迷惑かなって」
「なんで?別にそんなことねぇよ」
俺のなんてことない返事に、シェラは膝を抱えてちょっと顔を伏せた。
「やっぱり、ヴァイスさんは優しいです」
「そうか?」
自分では、そんなつもりはないんだが。
「はじめて会った時……助けてくれた時、あの人達が私のことを教えても、『それがどうした』って言ってくれて……とっても嬉しかった」
ああ、そうだっけ。そんなことも言い……ましたか?
表情に出てしまったのだろう。シェラはくすりと笑った。
「何かの間違いだったとしても、凄く嬉しかった。そんな風に言ってもらったこと、ほとんどないから。それに、ヴァイスさんはその後も、全然普通に接してくれて……だから……」
マズいね、どうも。こんなに感謝してくれてたのに、俺はその一言を覚えてもいなかったって訳ですよ。ヒドい奴だな、俺って。
「……頼りになる、お兄ちゃんみたいな感じです」
微笑むシェラの表情は、やっぱりどこか淋しげだ。
まぁ、そう言ってくれるのは嬉しいが、要するに俺もマグナもリィナも、家族みたいなモンってことだろ?
俺が聞きたかったのは、そういうことじゃねぇんだよなぁ。
「え〜と、その、さ、シェラは、その、男と女の、どっちが好きなんだ?」
俺は、そんなことを口走ってしまったのだ――アホ丸出しに。
「えっ……」
シェラは深く俯いて、少しの間身を固めた。
「どうして……そんなこと聞くんですか?」
「いや、ここんトコ、なんか様子がおかしかったからさ。連中――アルだのルールスだのと、何かあったのかな、と思ってさ」
「ああ、なんだ。別に何もないですよ。ただ、私は男だって、伝えただけです。いつも元々、隠してる訳じゃないですから」
ヒドくあっさりとした調子で、シェラは答えた。
そう、そこまでは想像がついていた。だから、恋愛対象としては女が好きなら、別にそれで愛想を尽かされたとしても、あまり傷つくこともないのかな、などと間の抜けたことを考えていたのだ、この時の俺は。
「あの人達は、いい人達ですよ。急に怒鳴ったりぶったり、突然威張ってヘンなことしようとしたりはしませんでしたから。少し、態度が変わっただけです」
平然と言い切るシェラの言葉を耳にして、俺は何故だか背筋がうっすら寒くなるのを覚えた。
全く知らないこいつが、その言葉の奥にいた気がして。
「騙してたつもりはないんですけど、いきなり勘違いだって言われたら、やっぱり困っちゃいますよね。それが普通みたいです。仕方ないです」
「悪ぃ……ヘンなこと聞いたな」
「え?ぜんぜん平気ですよ?慣れてますから、こういうこと」
あまりにも普段通りの口振りに、阿呆な俺はシェラの言葉をほぼ額面通りに――そうだろうな。そんな風に受け取ってしまったのだ。
俺はせめて、シェラの表情を見ておくべきだった。だが、どうしようもない阿呆は足先の地面に視線を落とすばかりで、この時のシェラがどんな顔をしていたかは、結局分からないままだ。
「心配してくれてたんですね。嬉しいです」
逆に、気遣われちまった。
「私、まだ好きとか嫌いとか、よく分かりません」
阿呆がやっとそちらを向くと、シェラは星を見上げていた。
「多分、本当に人を好きになったことって、まだないと思うんです。私がこんなだから、怖がってるっていうのもあるかも知れないですけど……だから、男の人と女の人、どっちを好きなのかも、分からないです」
「そっか」
「でも、どちらかと言えば、女の人の方が好きかも知れません。話も合うし、柔らかくて暖かくて、一緒にいると安心します。男の人は、乱暴な人が多くて、ちょっと怖いです」
「そっか。そうだよな、バカが多いもんな」
「あ、でも、ヴァイスさんは別ですよ?ヴァイスさんみたいな人は、あんまりいません」
俺は、思わず笑った。
「やっぱ、俺って変わりモンなのかな」
「もちろん、そうですよ」
シェラは誉めるように断言してくれたが、この時の俺は、つまるところ他の奴らとなんら変わりがなかったのだ。ロランの言い草じゃないが、俺が気にしていたのはせいぜいシェラの服装くらいで、その下の裸のコイツなんて見ようともしていなかったのだから。
「私、ヴァイスさんと、それにマグナさん、リィナさん。みなさんと、ご一緒させていただけて、ほんとに良かったと思ってます。すごくすごく幸運だったなぁ、って思います」
「そっか。そいつは良かった」
「だから、もっと皆さんのお役に立たなきゃいけないのに……いつもご迷惑ばっかりかけて、本当に申し訳ないです」
「まぁ、出来ることからやってきゃいいさ。はじめの頃よりゃ、ずいぶんマシになってきたぜ」
なんておためごかしを、俺は言ったのだった。
「そうでしょうか。全然お力になれてない癖に、最近の私は、なんだか調子に乗ってました。このままじゃ、一緒に連れてってもらう資格なんか無いです」
一緒に行く資格、ね。
「もっともっとちゃんとしないと。こんな幽霊なんて、怖がってる場合じゃないですよね!」
シェラは、力を込めて立ち上がった。
「行きましょう、ヴァイスさん!一周すればいいんですよね?」
俺に、手を差し伸べる。
その手を握ったまま、俺達は墓地巡りを再開した。
勇ましく決意したはいいが、何歩も歩かない内に、やっぱりまた震えだしたシェラを哀れんで見逃してくれたのか、リィナの見たという幽霊は現れなかった。
そして阿呆は、自分が振った話が、何も解決していない事にすら気付かないのだった。
「見た見た?幽霊!?」
開始地点に戻ると、リィナが身を乗り出して尋ねてきた。
「いや、残念ながら、お目にかからなかったぜ」
応えながら、安堵で崩れそうになるシェラを支えてやる。
「あれー?ホントに?おかしいな、勝負しようと思ってぶったり蹴ったりしたから、怒って消えちゃったのかな?」
なんてことしてんだ、お前は。
「じゃあ、行きましょうか」
いよいよ、大トリのマグナ達の出番がやってきた。
マグナはにこやかに、ルールスに笑いかけていた。やると決めたからには、仏頂面をしたまんまじゃ申し訳ないと思ったんだろう。こいつ、意外に常識的で、人に気を遣ったりもするからな。俺にはほとんど遣わねぇけど。
普段は気の強いあいつが、ジツはお化けが苦手、みたいなノリも含めて、どんな展開になるものやら、この組の成り行きは楽しみにしていたのだが。
「別に、なんにも出なかったわよ」
マグナはケロリとした顔をして戻ってきた。なんだよ、つまんねぇ。スティアとのアレは、前フリじゃなかったのかよ。
「でも、夜の墓地って、やっぱり気持ち悪いだな」
ルールスの方が、よっぽど怖がってんじゃねぇか。
そんなこんなで、やや企画倒れの感が否めないまま、第一回合同肝試し大会はお開きとなった。
いや、別に二回目はねぇよ。
部屋戻った俺がベッドに寝転がっていると、コンコンと扉がノックされた。
今回もひとり部屋だ。あの男連中と相部屋になったところで面白くもねぇし、ひとりでゆっくりくつろいだ方がマシだからな。
「開いてるよ」
声をかけると、薄く扉を開いてスティアが滑り込んできた。予想してたけどな。
「ごめんなさい、明日はもう出発なのに。まだ大丈夫?」
「ああ。問題ねぇよ」
スティアは着替えていなかった。色っぽい格好をしてくるかと思ってたのに、ちょっとアテが外れたな。
身を起こしてベッドのふちに腰掛けると、寄り添うように隣りに座って、スティアは俺の体に、なまめかしく手を這わせてきた。
「ねぇ……」
「ああ」
しばらく体をまさぐると、スティアはふふと含み笑いをして、俺の肩に顎を乗せた。
「やっぱり、そういう気にはならないのね。ロランに誘惑するように言われたんだけどな」
そうだろうな。
「あの方の思い通りになるのが、気に食わないの?でも、はっきり言われた訳じゃないし、私だって、言われたからこうしてる訳でもないのよ?」
「そうかもな」
「……もう、そんなにあの子達が大事?」
「どうだろ。俺にも、よく分かんね」
本当に、何をカッコつけてるんだろうな、俺は。こんないい女をすぐ横にして。本気で自分でも分かんねぇよ。
「ま、私もちゃんと誘惑してたとは言えないけどね。マグナちゃんったら、あんまり可愛いんですもの。そっちに構い過ぎちゃったわ」
さばさばした口調で言って、スティアはちょっと伸びをした。
「それで、俺も助かったよ」
その分、脂汗を搾り取られたが。
「ふふ、なんだか不思議」
「なにが?」
「あなたみたいな人が、あのコ達に付き合ってるのが」
どういう意味だ、そりゃ。
「だって、あのリィナってコは、ここに来るまでだけでも充分わかったわよ。あんなに凄いコですもの、何かやることがあるんでしょう」
「かもな。俺も知らねぇけど」
そう、俺はリィナのことも知らない。当たり前のような顔をして、気付いたら面子に加わっていたので、つい深く追求することもなかったのだが――
いや、違うな。俺達は、少なくとも俺は多分、追及することでリィナがふいと姿を眩ましてしまうことを怖れたのだ。そういう飄々としたこだわらなさ、みたいな部分が、あいつにはある。
実際、あいつが居なかったら、ここまでの旅はこれほど順調ではなかった筈だ。
いつか、はっきりさせる時が来るんだろうな。
「それに、シェラちゃん。あれも凄いコだわ。私ですら、しばらく気がつかなかったわよ」
てことは、今は気付いてんのか。
「彼女――って言うわね。彼女も、何か目的を持っているのは分かるわ。想像もつくしね」
「生まれ変わりの神殿のことを、何か知ってるのか!?」
勢い込んだ俺を、スティアは優しく押し返した。
「ごめんなさい。何のことだか分からないわ。でも、生まれ変わりってことは、やっぱりそうなのね」
「ああ。神殿については、俺達にもさっぱりだけどな。全然、見当もついてねぇよ」
「そう。私も人の話に気をつけておくわね。何か分かったら教えるから、また、会いに来てくれる?」
「ああ、そうだな。そうするよ」
お互いに、この場限りと承知した上での台詞。
「それから、マグナちゃん。あのコに関しては、何も言うことないわよね。なんたって、勇者様ですもの」
「お前……」
「安心して。ウチの連中は、何も知らないわ。言うつもりもないしね。知ってるのは、私とロランだけよ」
ロランとの関係や、それに関係があるだろう、冒険者なんて職業に就いた理由。聞こうと思っていたことはいくつかあるが、今この場で出す話題じゃない気がした。
まぁ、縁があれば、いつか聞く機会もあるだろうさ。
「マグナちゃんは、マジメな子ね。さんざん苛めちゃったけど、私はあのコが好きよ。ちょっとイジワルな気分になったのは、あなたが悪いんだから」
「俺のせいかよ」
「そうよぉ。だって、あなたったら、全然なびいてくれないんですもの。私は、そんなに魅力がない?ちょっと、自信無くしちゃうなぁ」
「いやいや、魅力の塊ですとも。ホントに、いい女だと思うよ」
「ふふ、ありがと……あ、そうか。そういうことか」
スティアは、なにやら勝手に納得した。
「お互いに、こうやって弁えて付き合えばいい私と、そうじゃないあの子達の差ってことなのかな」
「なんのことやら、さっぱり分からないね」
敵わねぇな、こいつ。
「ん〜、その辺りなのかなぁ」
「なにが?」
「さっき言ったこと。だって、別に誰かに手を出してる訳でもないんでしょう?」
とんでもないこと言うな。
「なんていうのかな……あなただけ、目的っていうか、意志が感じられないのよね。あなたが、あの子達と一緒に行く理由が見えないの。だから、不思議だったのよ」
「それは……そうかもな」
やれやれ、女ってのは本当に、見ないでいいトコばっかりよく見てやがる。
「でも、なんとなく分かったわ。要するに、『ほっとけない』のね。お兄ちゃんとしては」
「かもな。うん、それでいいよ」
「やっぱり、そういう言い方をするのね、私には」
「何をおっしゃいますやら。俺は、元々こんなだよ」
「でしょうね。残念。『こんな』じゃない子達に、先に会っちゃったってことか」
こだわるね。
俺は、少し仕返しをしたくなった。
「そう言うスティアも、こんなところに俺と居ていいのかよ」
「どうして?もちろん、構わないわよ」
「アルは、何も言わないのか?」
スティアは、一瞬きょとんとした後、声をあげて笑い出した。
「やだ、そんな風に思ってたの?あり得ないわよ。なんで私が――」
「ああ、分かってるよ、お前とアルが『イイ』仲じゃないなんてことは。あんな朴念仁には、もったいねぇしな」
スティアは、まだ笑い続けている。
「けど、お前にとっての『こんな』じゃない奴は、案外あいつなんじゃねぇのか」
スティアの笑い声は、少しづつ小さくなった。
「あー、おかし……あんまりヘンなこと言うから、なんだか気分が削がれちゃったわ」
「そう、それ。その感じ。俺にもよく分かるよ」
俺は、ちゃんとニヤリと出来たと思う。
そんな俺を見て小さく溜め息を吐くと、スティアは一旦後ろに体重を預けて勢い良く立ち上がった。
「分かったわ。退散します。カンダタ一味は、結構強いらしいわよ。気をつけてね」
「ああ、ありが……」
素直にお礼を言おうとした俺の口は、スティアの唇で塞がれた。
う、やべ、やっぱコイツうめぇ。
かなりねっぷりと口の中を弄ってから、ようやく身を離して、スティアはちろりと唇を舐めた。
「もうひとつ、イジワルしちゃおうかな」
「どうぞ。この際もう、なんなりと」
「あなた、今のままじゃ、いつか行き詰るわよ。お兄ちゃん、ってだけじゃね」
スティアは嫣然と微笑んで、小さく手を振って出ていった。
全く、どうにも敵わねぇよ。
俺は、乱暴にベッドに身を投げて、うつ伏せたままジタバタ暴れた。
……あーくそ、なにやってんだ俺は!
あんないい女とひとつ部屋に居て、何もしないで、どうでもいい話をしただけなんて、ホントあり得ねぇよ。ちょっと前の俺なら、割り切ってよろしくやってた筈だろ?なのに、なんで帰しちゃってんの、このバカは?
うわー、惜しいことした。マジで、考えらんねぇ。アホです、アホ。あの躰を、じっくり味わい尽くせたんだぜ?一遍死んだくらいじゃ、どうにもならねぇくらいのアホさ加減だろ、これ。
ひと頻り身悶えて虚しくなった俺は、寝返りを打って仰向けになった。
あ〜あ、ホント、なにやってんだろね、俺は。
すげー溜まってるクセに、似合いもしない格好をつけちゃって、まぁ。
やれやれ、こんなに何度も据え膳を食いっぱぐれてきたんだ。とりあえず、その行き詰るってトコまでは、トコトン付き合ってやろうじゃねぇの。
そっから先は、それからのことだ。
どうせ俺が考えたところで、下手な考え休むに似たりらしいからな。
翌朝、俺達を見送ったスティアは、俺が思っていた通りの顔をしていた。
おそらく、向こうも同じだろう。全く、安心するね。
「ほら!行くわよ、ヴァイス」
マグナに耳を引っ張られながら、次第に小さくなり行くスティアに向かって、俺は片目を閉じてみせた。
478 :
CC ◆GxR634B49A :2006/10/29(日) 04:12:36 ID:tyqMB31g0
肝試しなのに、ムフフイベントじゃなくてすみません><
今回は、どこかで必要な中休み的なアレでした。
いやー、昨日、勢いで次回も書いてしまった上にお仕事もしたので、今フラフラですw
まぁ、好きでやってることですので、完全に自業自得なんですが(汗
でも、昨日は書いててちょー楽しかった〜
まだ全然下書き状態なので、後で読み返して落ち込むんだと思いますが、
書いてた時の感覚が少しでも伝わるように、頑張って直しますです。
やっぱり、ノリで書ける部分ていいですねぇ。
この小説では初めてだったから、すげー発散できますたw
そいでは、また数日後に〜。
乙ですよー
4位からリアルでみてた
×4位から
○4レス目くらいから
いかん、所々でハァハァしちまう。
僕はリィナちゃん!!(AA略
(・∀・)ニヤニヤしてるのがイイw
う〜ん、困ったぞ、テンションが戻らない保守
ど、どうしたの。困ったことがあるなら私にそうd…
べ、別にあなたが心配ってわけじゃないんだからね!!
続きが読みたいだけなんだから!!
なんとか書けたから、そろそろ投下しようかな。
べ、別にお前の為じゃないからな!
オレが書きたかったから、書いたんだ。
か、勘違いすんなよ!
(ありがとう、元気出たよ)
9. Thieves In the Temple
カザーブの村を出発してから、マグナは目に見えて機嫌を直していた。
「あ〜、やっぱりこの四人の方が、気を遣わなくていいから、楽で落ち着くわ」
そんなようなことを、一、二度口にした。
ただ、スティア達と過ごした短い日々は、全員に多少なりとも影響を残したようだった。
シェラは肩の荷が下りたみたいな雰囲気だったが、ひとりで食事の仕度をする姿はポツンとして見えた。リィナも、「ちゃんと言ったことやってるかなぁ」と、ブルブスのことをそれなりに気にかけているらしい。
そして、マグナは――
「ヴァイス、薪を拾ってきて」
野営の準備に、いつものようにつっけんどんに命令したと思ったら。
「……あ、待って。あたしも行くわ。リィナは、焚き火の準備をお願い」
「はいよー。ごゆっくり〜」
「え、あの、暗くならない内に戻ってくださいね」
珍しく、一緒について来ることがあった。
その割りに、何を言うでもなく黙々と薪を拾い集めるだけだったりする。
「ねぇ、ヴァイス」
何かを期待していた訳でもないのに、背中越しに突然話しかけられて、俺はややうろたえた。
いやいや、マグナがスティアみたいなことする筈ねぇから。落ち着けよ、俺。
「あー?」
返事がぶっきらぼうになったりして。
「やっぱり、あたしって……」
「なんだよ?」
「……ううん。なんでもない」
なんか言い辛そうに口をつぐんだりするのだ。
「途中で止めんなよ。気になるだろ」
俺は、何を気にしているのか。
「……うるさいな。いいでしょ。男のクセに、いちいち細かいこと気にしないでよ」
なんだそりゃ。お前が言い出したんじゃねぇか。
「ったく、可愛くねぇなぁ」
「っ……どうせ可愛くないわよ。悪かったわね!ほら、ちゃんと拾ったの!?暗くならない内に、さっさと戻るわよ!!」
なんて、いきなり怒り出しやがる。
年頃の娘は、色々と難しいね。まったく。
シャンパーニの塔は、あちこち崩れかけのヒドく古ぼけた塔だった。
遠い昔に、この地で暮らしていた部族が、なんらかの儀式に使う為に建立したそうだが、それもカザーブの村で人づてに聞いた話なので、本当かどうかは分からない。
ともあれ、今は盗賊共の根城になっている訳だ。
さすがに魔法使いみたいな変わり者じゃなく、普通の連中が現役で住んでいるだけあって、ボロボロではあるが、ナジミの塔の時のように通路が塞がれていたり、階段が崩れていたりということは無かった。
魔物共はしっかり住み着いてやがるけどな。退治しとけよ、暮らし難いだろ。
連中に代わって掃除してやるのはシャクだったが、襲ってくるもんだからしょうがねぇ。俺達は魔物を退けながら、『金の冠』を求めて上を目指した。
多分、連中のねぐらは最上階だろう。馬鹿となんとやらは高い処が好きって言うしな。
しかし、この程度の魔物は苦にしないくらいの強さを、カンダタ共は持ち合わせてるって訳か。いちおう、気を引き締めておいた方がよさそうだ。
塔は、上に向かってすぼまっていく段々の構造になっていた。空中に向かって柵も何も無い剥き出しの、その段々の部分も通ったが、幅が広いこともあり、シェラは座り込んで駄々をこねたりしなかった。
怖いんだろうが、口を真一文字に結んで数歩先の床だけを見つめ、弱音を吐かずに足を前に出す。よしよし、エラいぞ。
やがて俺達は石造りの階段を上って、頂上付近と思しき広々と開けた空間に出た。
中央に、三階建てくらいのさらに小さな塔が建っている。
「どうやら、ここっぽいな」
「そうね」
俺の当て推量に、マグナも同意した。
「みんな、準備はいい?」
「いいよー」
「あいよ」
「が、頑張ります!」
そんなに緊張しなくていいんだぞ、シェラ。いくら強いと言ったところで、所詮、相手は盗賊風情だ。俺達が、おいそれと遅れをとるとは思えねぇよ。
その時、右手で扉がバタンと閉まる音がした。
思わず身構えたものの、誰も姿を現さない。どうやら、中央の小塔を挟んで反対側に向かったようだ。
「誰か出て行ったってことは、中の人数が少なくなったってことだよな」
俺は、声を潜めて囁いた。
「行きましょう」
マグナは頷き、俺達はリィナを先頭にして足音を忍ばせた。
小塔の扉には、特に鍵はかけられていなかった。まぁ、盗賊の根城だしな。こんなところまで、何かを奪いにくる奴なんざ、俺達くらいのモンだろ。
「この階には、誰もいないみたいだよ」
扉を薄く開けて中に滑り込んだリィナに続くと、奥の階段の方から下品な笑声やがなり声が響いてきた。
「上の階には、何人か溜まってやがんな」
俺の聞こえるか聞こえないかの囁きを、唇に人差し指を当てて制し、リィナは階段の横手を示した。そこに隠れろってことか。
俺達が身を潜めるのを待って、リィナは上階を窺いながら階段を数段上った。おいおい、あんまり無茶すんなよ。まぁ、お前には無茶じゃないのかも知れないが。
「そぅいやぁ、親分はぁ、どこぉ行ったんだぁ?」
呂律が回っていないので、実際には親分がほやふんになっていたが、そんなような声が聞こえた。酒をしこたま喰らってやがるなら、やり易いな。
俺は、隣りで震えるシェラの肩に手を置いた。心配すんな。この分なら、お前は何にもしなくて済みそうだぜ。
「例のバケモンに呼び出されて、さっき出てっただろうが。手前ぇ、どうせ吐いちまうんだから、もう飲むんじゃねぇよ、もったいねぇ」
ちぇっ、シャッキリしてる奴もいやがんのか。だが――
「さっき出てったのが、カンダタみたいね」
マグナの耳打ちに、小さく頷く。残ってるのが雑魚ばかりなら、ありがたい話だ。
「うるへーよ。こんな女もぉいねぇシケたトコでぇ、他にぃ何やれってんだぁ。親分もぉ、なんだってぇこんなとこをぉ、アジトにぃしてんだよぉ、くそったれぇ」
この台詞に、俺は内心で安堵した。半ば覚悟はしてたんだが、攫われた女が犯されてる場面なんざ、こいつらには見せたくねぇからな。
まぁ、攫ってきたところで、こんな魔物の巣窟じゃ、ここまで連れてくる途中でやられちまうだろうけど。もしかしたら、そういう女もいたかも知れないな――
胸糞悪い想像しちまったぜ、畜生。
「うるせぇな。どうせまた近い内に街襲うんだ。そん時、好きなだけヤリまくりゃいいだろうが」
「けっ、分かってぇねぇなぁ。俺ぁ、今ぁヤリてぇんだよぉ」
「知るかよ。おい、どこ行きやがる、この下呂助」
「うるへー。しょんべんだよぉ!塔の端っこに立ってすっと、気持ちぃいいんだぁぜぇ」
「ちっ、手前ぇなんざ、そのまま落ちてくたばりやがれ」
リィナが階段を飛び降りて、俺達の横に隠れた。
いかにも盗賊といった風情の小汚い野郎が、千鳥足で階段を下りてくる。
よたよたと扉に向かう野郎の背後に、リィナは音も無く忍び寄り、首筋に手刀を叩き込んだ。
床に頽れる寸前でリィナが引っ張り上げると、野郎はボトボト下呂を吐き出した。下呂助の名に恥じねぇ野郎だな。
「うわ、汚なっ」
バカ、お前が声あげてどうすんだ、リィナ。
「あ?なにやってんだ、下呂助。そこらに吐きまくるんじゃねぇぞ、馬鹿野郎」
やべぇ、上のヤツが気付きやがった。
「ヴァイスくん、魔法はナシね!」
言うが早いが下呂助を放り出し、リィナは水切り石のような勢いですっ飛んだ。
「な、なんだ、てめ……っ」
階段を数段とばしで駆け上がり、姿を現した盗賊に肩から体ごと突っ込んでぶっ倒す。
「なんだ、うるせぇ……あぁっ?」
「おんなぁ?」
「なんだ手前ぇ、コラ」
盗賊共がざわめくのが聞こえる。
「あたし達も、行くわよ!」
あいよ。
マグナについて、シェラの手を引きながら階段を上る。
上の階にいた盗賊は、全部で七、八人だろうか。
塔に残っていた連中は、元からリィナの敵じゃない上に、不意をつかれて武器すら持っていない。恐慌状態に陥った奴らをリィナが制圧するには、然程の時間は要らなかった。
最初から、こうやって突っ込んでも問題無かったかもな、これなら。
マグナも、剣の腹で頭をぶっ叩いて、一人二人倒していた。そうだな。こんな連中でも、いちおう種類で言えば人間だ。お前が斬る必要はねぇよ。
魔法を使うなと言われたので、今回の俺はシェラと一緒に観戦組だ。いやぁ、楽して申し訳ない。
「これで全部?」
「ああ。誰も下りてこねぇトコ見ると、どうやらそうらしいな」
反対側の壁際にある、上へと続く階段を見ながら、俺はマグナに答えた。
「ここには、何かを隠しておく場所なんて無さそうね」
「それじゃ、上を探してみますか」
いくつかのテーブルと、酒樽、酒瓶、それと汚ぇゴロツキくらいしか見当たらない部屋に用はねぇ。俺達は、さらに奥の階段を上がった。
「そういや、なんで魔法はダメだったんだ?」
「だって、あんまりうるさくすると、外に出てった人達が戻ってきて面倒だよ」
というのが、リィナの返事だった。やっぱ、そういうことか。いちおう、考えてんだな。
最上階には、いかにもな宝箱があったが、今度は鍵がかかっていた。
「リィナ、お願い」
「お任せ〜」
隠しからバコタの錠前外しを取り出して、軽いノリで鍵を開ける。俺、さっきから見てるだけで、何もしてねぇな。シェラの気持ちが、少し分かるぜ。
宝箱の中には、立派な金銀財宝がきらめいていたが、肝心な冠らしきお宝は見当たらない。
「ないね」
「ないな」
意味のない会話を繰り広げる、リィナと俺。
「さっき出ていったのが、カンダタなのよね?持ってったのかしら」
「としか思えねぇが……他に、隠す場所も無さそうだしな」
まさか、すっかり気に入って、常にかぶってる訳でもあるまいが。
「追っかける?」
「うん……」
リィナの問いかけに曖昧に頷いたマグナは、名残惜しそうに宝箱の財宝――金貨や宝石、それに貴金属品なんかに視線を落とした。
「やめとけよ。汚ぇお宝だぜ」
「うん、そうだよね」
「この分も、ロランからふんだくってやりゃいいんだよ」
「そうね。そうするわ」
マグナは、ちょっと笑った。
しかし実際は、追うまでもなかった。
小塔を出て、下に降りる階段のところまで戻った辺りで、角の向こうから話声が聞こえたのだ。
何処か外に出掛けた訳じゃなかったのか。探す手間が省けたぜ。
『ナニユエ 金ノ冠ヲ ぽるとが王ニ渡サヌ』
「えっ!?」
「なに、これ?」
シェラとマグナがきょろきょろとしたが、それも無理はない。なんだ、この気味の悪ぃ声は。
大声でもないのに、この声量で角の向こうから届く筈がないのに、すぐ傍らで喋ったみたいにはっきりと聞こえた。
「いやね、だから何度も言わせんじゃねぇよ、魔物の旦那。こちとら、このカンムリを手に入れる為に、とんでもなく危ねぇ橋を渡ったんだ。もうちっとイロをつけてくんねぇかと、相談してるんじゃねぇかよ」
馬鹿デカいドラ声が、辛うじて届く距離だってのに。
『知ラヌ 貴様ノ望ムダケ 既ニ与エタ』
この気味の悪ぃ声は、頭の中で響いてるとでもいうのかよ。
「分かんねぇ野郎だな。だから、それじゃ足りねぇってんだろ。大体、魔物の旦那が金持ったところで、しょうがあんめぇよ。せいぜい俺達が使ってやろうってんだから、寄越せるだけ寄越しゃあがれ。それ以上ぐだぐだホザきやがると、カンムリを売っぱらっちまうぞ!?」
このドラ声がカンダタか?こいつ、まさか魔物とツルんでやがったのか!?
「やっぱり、カンダタが持ってるみたいね」
マグナが小声で囁く。
となると、やり合ってふんだくるしかなさそうだ。向こうが俺達の存在に気付く前に、不意打ちでも喰らわせてやりたいところだが、さて。
『ヨカロウ ナラバ 冠ヲ無事ぽるとがニ届ケタ後ニ 既ニ与エタ分ト同ジダケヤロウ』
「お、そうこなくちゃな。旦那も、人間様の駆け引きってモンが分かってきたじゃねぇか」
『知ラヌ ダガ 金ガ欲シイノナラ 気ヲツケルコトダ』
「あぁ?なんにでぇ?」
『冠ヲ 奪オウトシテイル者ガ スグ側ニイル』
「なんだと!?」
畜生、さすがはヘンな風に喋る魔物。お見通しって訳かよ。
「どうする。一旦、身を隠して機を窺うか?」
「でも、ボク達のことはもう知られちゃったし、備えられた方が厄介かも。今なら、まだ五分五分だよ」
リィナの指摘に、マグナは指を噛んだ。
「そうね……それに、ポルトガに届けるとか言ってたわね。逃がしちゃったら、そんなトコまで追いかけてらんないし。いいわ、やるわよ!」
了解、リーダー。
「その前に、シェラちゃんは階段の下に隠れて」
リィナの言葉に、シェラは目を丸くした。
「そんな、嫌です!お役に立てないかも知れないですけど、ちゃんとホイミくらい唱えますから!」
「ダメ。死んじゃうから」
リィナの口から初めて聞く声音だった。
「そんなに――ヤバそうなの?」
マグナが唾を飲む。
「ううん。念のためだよ」
リィナはいつもの口調に戻っていたが、マグナもシェラの方を向いて、諭すように呼びかける。
「シェラ――」
「いや、嫌です!私も――」
「ごめん。時間無い」
リィナは手刀でシェラの細い首筋をトンと叩いた。
「ん?」
くたりと崩れ落ちたシェラの首筋を、さらに打とうとするリィナ。
「バカ、それ以上はやめとけよ」
「来るわよ!早く!」
マグナに急かされて、慌ててシェラを数段下りたところに寝かせて戻ると、角から数人の人間が姿を現した。
「へっ、変態……」
マグナの漏らした呟きが、緊張感を台無しにする。
手下と思しき三人の鎧姿を引き連れているのは、小さい布切れで局部を隠し、後はマントと目出帽だけを身につけた、筋肉ムキムキの怪人だった。うん、こりゃ確かに変態だわ。
そして、頭の上にちょこんと載せられた、それだけ不釣合いな輝きを放つ金色の冠。この馬鹿、ホントにかぶってやがったよ。
「おいおい、ホントにネズミが這入り込んでんじゃねぇか。あの馬鹿野郎共は、何してやがんだ?」
「やられちまったんじゃねぇですか?そういやさっき、なんかドタバタ聞こえやしたぜ。連中が、また騒いでるだけかと思ってやしたが――」
「馬鹿言うんじゃねぇよ、ニック。このお嬢ちゃん方がやったってのか?」
グハハハ、とカンダタは笑った。
「まぁ、もしそいつが本当だったら、そんな役立たず共に用はねぇ。俺様自ら、後でくびり殺してやらぁ」
『今度ハ 言イツケヲ守ルノダナ』
「おう、分かってらぁ、魔物の旦那!そっちこそ、約束忘れんじゃねぇぞ!」
カンダタは、背後を振り仰いだ。
つられて上を見ると――フードつきのマントが宙に浮いていた。あれが、気持ち悪ぃ声の主か。
マントの裾を上空の風にはためかせ、フードの奥に光るはふたつの点。
それが俺を見据えた気がして、ゾッとした。すげぇイヤな感じだ。得体が知れない。俺が今まで目にしてきた、どんな魔物とも違う。
『……』
と、その姿が見る間に掻き消えた。
最後に、なんて言いやがった?ニキル?
ともあれ、あの魔物まで相手をせずに済んで、俺は密かに胸を撫で下ろしていた。
これで、この場に居るのは全て人間だ。まぁ、なんとかなんだろ。
「マグナとヴァイスくんは、二人で変態さんをお願い。後は、ボクが引き受けるから」
「分かったわ」
「了解だ」
リィナがそう判断したってことは、あの怪人は俺とマグナでどうにか退治できるんだな。
よし、いっちょやってやるか。
「ようよう、お嬢ちゃん方。この『金の冠』を盗もうってなぁ、ホントウかい。あの優男の国王に泣きつかれたってトコだろうが、なんにしろ盗みはイケねぇよ、お袋さんに教わらなかったか?しかも、盗人から盗むなんてなぁ、これ以上悪いこたぁねぇってなハナシだ」
変態カンダタは、まだ油断し切っているようだ。こっちの面子の見た目からして、無理もないけどな。
「こいつぁ、大人しく帰す訳にゃあいかねぇなぁ。お嬢ちゃん方にゃあ、ちょいとばっかり躾が要るみてぇだ」
ウチの娘共を、ジロジロ見るんじゃねぇよ、変態。
「なぁに、殺しゃしねぇよ。このアジトじゃ貴重な女が、手前ぇからノコノコおいでなすったんだ。ちと小便臭ぇが、おぼこの方が仕込み甲斐があるってなモンよ。鎖で繋いで、ちょいと輪姦してやりゃあ、二度とこんな事をしでかそうだなんぞと思わなくなるだろうぜ」
「下種……」
マグナは、これ以上ないくらい顔を顰めた。阿呆が、手前ぇなんぞにそんな真似、させると思ってんのか。
「おっと、そこの兄ちゃんはダメだ。要らねぇからぶっ殺すぜ。おう、お嬢ちゃん方をヤリながら、その目の前でぶっ殺すなんてなぁ、いい趣向じゃねぇかよ。どうでぇ、お前ぇら!」
そりゃいいゲヒャヒャとか、子分共が太鼓を持つ。
こいつら、ぶっ殺す。
「いいから、さっさとかかって来なさいよ、この変態!あんたの相手は、あたしがしてあげるから、ありがたく思いなさい」
いやおい、マグナ。その啖呵はどうかと思うぞ。
一瞬呆気に取られた変態共は、案の定爆笑した。
「お、お頭、ご指名ですぜ」
「あのお嬢ちゃんじゃあ、お頭のはちぃっとばっかしデカ過ぎるんじゃねぇですかい」
「なに言ってやがる。こいつぁ、断る訳にゃあいかねぇよ。泣いて許してっても、ぶっ壊れるまでお相手してもらわにゃあ」
「そんじゃ、俺達はあっちの娘でまとめて我慢しまさぁ」
阿呆共が。あの世で手前ぇの品性を悔やみやがれ。
「マグナ、行くぞ」
小さく頷いたのを確認して、俺は呪文を唱えた。
『イオ』
変態共を包み込むように、光が炸裂する。
「ぐあっ」
「野郎、魔法使いかっ」
カッコ見て気付け、ボンクラ共。
「ぬがあぁっ!!」
爆煙も晴れない内に、変態カンダタが飛び出してくる。
だが、もうマグナが詰めてるぜ。
「せぁっ!!」
マグナの打ち込みを、カンダタはゴツい斧で受けた。背中に隠してやがったのか。
構わず、マグナは全力で打ち込みを続ける。どう見たって、マグナのが小回りは効くからな。防戦一方でも、全てを防げるモンじゃねぇ。目論見通り、いくつか喰らってやがる。
「お頭!」
ドン。
駆け寄ろうとした子分が、デカいハンマーでぶん殴られたように弾き飛ばされた。悪ぃが、そこは通行止めだ。
岩をも砕く一撃で子分の一人を打ち倒したリィナは、次の獲物に狙いを移す。
一方、マグナは打ち込みを止めて、大きく後ろに退がった。
「逃がすか、このクソガキがぁっ!」
ばぁか、逃げたんじゃねぇよ。
『ベギラマ』
「ぐあっちぃっ!!」
ギラに三倍する炎壁が、変態の身を焦がす。
いっつも、マグナは俺と組んで戦ってるからな。どれ位でこっちの準備が整うか、もうばっちり分かってんのさ。
俺が呪文を用意している間は全力で攻め立てて、呪文が発動する直前で離れてマグナが息を整えるって連携を繰り返せば、手前ぇに出来ることは何も残ってねぇんだよ、このクソ変態野郎。
リィナは、既に二人目を倒していた。
三人目の顔面に放った蹴りが――躱された!?
上体を反らしたまま、軽々と振り回された剣が、リィナの躰を薙ぐ。
と見えたが、リィナは蹴りの勢いのまま独楽のように宙空で回転して斬撃をすり抜け、逆の足の踵が子分の顔面に吸い込まれる。
だが、その蹴りすら躱されていた。回りながら着地したリィナは、すぐに後方に跳び退って、一旦距離を置く。
「とと……」
子分の方も、何歩か後ろにたたらを踏んだ。
「ニィーーーック!!手前ぇ、そっちは抑えやがれよっ!!」
再びマグナに攻め立てられながら、カンダタが怒鳴った。
なんだ、このニックって野郎は。今の動き。リィナとタメ張るなんて、信じらんねぇ。こいつの方が、カンダタよりよっぽど強そうじゃねぇか。
マグナが跳び離れた。
『ベギラマ』
「ぐぁっっそ、またかよ!ニィック!!さっさと片付けて、こっちを手伝いやがれっ!!」
手前ぇこそ、さっさとくたばりやがれ。考えたこともねぇが、リィナの方に援護が必要になるかも知れねぇ。
「はいよ、お頭サン……」
ニックは、呟いた。鎧を纏っているが、兜はかぶっていない。やけに細長く精悍な顔立ちは、もはやどう見てもそこらのゴロツキのそれじゃなかった。
一瞬でリィナとの距離を詰める。鎧つけてんじゃねぇのかよ、お前。
しかも、打ち込みの速度が尋常じゃねぇ。
半身になって躱したリィナを追って、剣が地面を打たずに跳ね上がる。
前屈みになって空を斬らせたリィナが伸び上がっての顎への掌底は、またも顔を仰け反らせて外される。
リィナは、そのまま踏み込んだ。
ドン。
掌底を打った腕の肘が、胸鎧に叩き込まれる。
「ちっ」
後ろに弾けながらニックが振った剣は、リィナの頭のわずかに上を掠めていった。体勢が崩れてなきゃ、首が飛んでたぜ。こいつ、斬り返しが速過ぎる。
「やるもんだな……少し、面白くなってきた」
ニックは、無防備に剣をだらりと下げて、片手を首に当ててコキコキと鳴らした。ダメージねぇのかよ、手前ぇは。
カンダタの方は、もう少しでケリがつきそうだ。
『ベギラマ』
マグナが離れたのを見計らって、呪文を発動する。そろそろくたばれ、変態。
リィナは、ちょっと覚えがないほど真剣な顔をして――愉しそうに見えた。
「凄いね。なんで、そんなに速く動けんの?」
「ああ、こりゃ鎧が薄いんだ。動きが制限されんように、内側を削っりあちこち詰めたり、色々手を加えてある」
「ふぅん。なるほど……ねっ!!」
今度は、リィナが一瞬で間合いを潰した。
狙い済まして突き出された剣が、空気を割る。
「なにっ!?」
リィナは、とんぼを切ってニックを跳び越えていた。
空中で躰を捻り、着地と同時にニックの背中に拳を叩き込む。
「はあぁっ!」
「ちぃっ!!」
異常な反応。ニックは、振り返り様に剣を薙ぎ払った。
リィナの拳は、ニックに届いていなかった。
ニックの剣もまた、リィナの道着の合わせを掠めただけだ。
踏み込めなかったのだ。危ねぇ、両断されたかと思ったぜ。
「ぐぁっ、くそっ、ニィック!ニイィーーーック!!」
マグナに攻め立てられて満身創痍のカンダタが、ニックの名を叫んだ。
「呼んでるよ?」
「……フン。知ったことか」
リィナとニックは、牽制し合いながら、お互いにニヤリと笑った。
こいつ、単なる子分じゃねぇな、どう考えても。
あんたが知らないってんなら、じゃあ、こっちも遠慮なく。
『ベギラマ』
「ぐあっ!!くっそ、ちくしょうっ!!ウゼェ!!うぜええぇぇっ!!」
いいからくたばれよ、変態。手前ぇがウチの娘共に吐やがった、クソ汚ぇ台詞は忘れてねぇぜ。
「手前ぇからだっ!!手前ぇからブチ殺してやるっ!!」
炎壁が収まるのを待たず、火達磨になりながら、カンダタは突進した。俺目掛けて。
立ちはだかろうとしたマグナが、力任せに振り回された斧を剣で受けて弾き飛ばされる。
あ、ヤベェかも、これ。瀕死と思って油断した。
迂闊な。
ダメだ、呪文はまだ無理だ。
どうする。
どうするって。
俺、魔法使いだぜ。
逃げるしかねぇよ。
そう思い至った時には、既にカンダタは目前に迫っていた。
今から逃げても、振り向いて走り始めたところで、背中に斧を突き立てられる。
あ、ヤベェ。
おれ、死ぬわ、これ――
あっさりと確信された、絶対的な死の予感。
そこから先は、時間が異様にゆっくり流れた。
色のない風景。どこを取っても、何の変哲もない、つまんねぇ場面の連続。
走馬灯。
こんな商売やってるんだ。ジツは、見るのは初めてじゃない。
けど、何回見ても、面白くもねぇ景色だな、俺の走馬灯ってヤツは。
まぁ、農家の次男坊の人生なんて、こんなモンだよ。色褪せて、下らない、いつ終わってもいいような。
悪ぃな、マグナ。今度こそ、これ以上付き合ってやれそうもねぇや。
――と
圧倒的な色の奔流が、俺を包んだ。
これは、マグナと出会ってからの記憶。
はは、なんだよ。俺の走馬灯にも、ちゃんと色がつくんじゃん。
そうか。
そうかよ。
駄目だ、死ねねぇ。死にたくねぇ。
せめて身を躱そうとして、斜め後ろに倒れ込んだ俺の躰を追って、アホみたいにゴツい斧の切っ先が迫る。
おい、止めてくれよ。俺、死ねねぇんだよ。あいつらに、トコトン付き合うって決めたんだからさぁ、行き詰るまでは。
それにしても、こんなにデカい斧振り回す怪人と、マグナはやり合ってたのか。あんな細っけぇ腕でよ。大したもんだ。
その点、俺はダメダメだな。女の子にばっか前衛やらしちまって、手前ぇじゃ剣も握れやしねぇ。いざ、敵に迫られたら、このザマだ。お姫様みたいに護られてなきゃ、何もできゃしねぇんだ。
全く、サイアクだぜ、魔法使いなんてモンはよ。
守ってやりたいヤツらに、護られなきゃならねぇなんて、男として泣けてくるぜ、ホント。
斧の切っ先が、俺の胸の真ん中辺りに潜り込んだ。
不思議と、痛くねぇ。
まぁ、走馬灯見るような状態だからな。きっと、正気じゃねぇんだ。
斧が、俺の躰を切り裂いていく。
ぱっくり割れた断面から、肉やら骨がはっきり見える。気持ち悪ぃ。自分の内側なんて、見るモンじゃねぇな。
ああ、こりゃ死んだわ。この分なら、正気に戻っても、すぐ死ぬな。痛みを感じるのも、一瞬だろ。
死にたかねぇけどさ。
こりゃ無理だ。
じゃあな、シェラ。女になれるといいな。
リィナ。手前ぇは、そのニックとやらにちゃんと勝ちやがれ。
それから、マグナ――達者でな。
もうすぐ正常な意識が戻る感覚がある。痛ぇだろうなぁ。ま、一瞬か。
くそ、死にたくねぇよ――
『ベホイミ』
その呪文を叫んだのは。
リィナだった。
見る間に、俺の傷が塞がっていく。
「阿呆が」
呪文を唱えた隙を、ニックが見逃す筈がなかった。
俺にベホイミをかけながら牽制に放った離れ業の拳を楽々と躱し、リィナの胴を薙ぐ。
馬鹿野郎、リィナ、手前ぇが斬られてどうするんだ。
ああ、死ぬ、死んじまう。リィナが――
胴体を真っ二つにされたと見えた刹那。
『フンハッ!!』
リィナの腹に食い込んだ剣が、裂帛の気合いと共に「弾き返されて」いた。
リィナの胴体は――大丈夫だ、分かれてねぇ。繋がってやがる。
俺はそこでようやく地面に肩からぶっ倒れて――ついでに頭をしこたま打った。痛ぇ。
時間が急速に元の流れを取り戻す。
「うがああぁああぁっ!!」
俺の目の前で、カンダタが叫び声を上げて仰け反り倒れた。背後から、マグナが斬りつけたのだ。怪人の頭から落ち転がった『金の冠』を拾い上げる。
リィナは、胴体を切り離されこそしなかったものの、がっくりと膝をついた。
勝利を確信したか、ニックはゆっくりと剣を振りかぶる。
ヤベェ。呪文。俺。まだ。
くそっ、根性見せろ!!
『ホイミ』
俺じゃねぇ。当然だ。じゃあ、誰が。
四つん這いになって階段から姿を現し、シェラがホイミを唱えていた。
思えばこれが、初めて戦闘中に唱えたホイミだった。
「あああああぁぁっ!!!」
リィナ身を起こし、地を踏みしめた。
唐突に現れたシェラに、わずかに気を奪われたニックの腹に両掌を沿える。
いけ、ぶちカマせっ!!
「ああっ!!」
ズン。
いつも以上に力強い音が、地面と空気を振るわせる。
くの字になって、床と平行にふっ飛ばされたニックは――倒れることなく両足で着地した。
畜生、なんだってんだ、コイツは。
「うぐあぁっ、痛ぇっ、いってえええぇえぇぇっ!!」
斬撃を喰らった背中に手を回しながら、カンダタはマグナに後ろを見せて逃げ惑った。呆れたタフな野郎だな。
「ちきしょおっ、まだ仲間がいやがったのかっ!!くそっ、痛えぇっ!!しかも、僧侶だとぉっ!?くそったれ、ニック、ここはひとまずズラかるぞっ!!」
「魔物の旦那の言いつけは、どうするんで?」
ニックは、子分の口調に戻って尋ねた。
「知るかっ!!ンなこたぁ、命あっての物種だろうがっ!!」
そう怒鳴ると、カンダタは塔の端から宙に身を躍らせた。
って、飛び降り自殺かよ。
「ニイィーーーック!!早くきやがれっ!!」
下の方から、叫び声が聞こえる。
ああ、そういや、この塔は段々になってたな。一階分、飛び降りただけかよ。
「フン。役立たずの阿呆が。野の破落戸など、所詮この程度か」
ニックは吐き捨てて、リィナに視線を戻した。
「最後のは、なかなかヒヤリとさせられたぞ。自ら跳んで抜かなければ、危なかった。呪文如きで俺の斬撃から回復しよう筈もないが、よく立ち上がったものだ」
ご満悦だったのは、ここまでだ。
鋭い視線に、俺達全員が射竦められる。
リィナを庇おうと、剣を構え直したマグナの躰も硬直した。
「だが、なんだアレは!?巫山戯るなよ。貴様、その才を無駄にしおって……あの屑共を護る為に覚えたか」
あの屑共って、もしかして俺達のことか、この野郎。
あ、いや、スイマセン。せっかく命拾いしたばっかりなんで、睨まないでください。
「下らん。実に興醒めだ。懐かしい体捌きを見たかと思えば、とんだ肩透かしだ」
ニックは、嘆息しつつ首を振る。
つか、あんた結構喋るのね。
「ニイィーーーック!!なにやってやがんだ!!早くこっちに来て、俺を守れっ!!」
また、カンダタのドラ声が下から響いた。
ニックは、舌打ちをする。
「まぁ、いい。ただちに貴様ら全員を殺すことは容易いが……俺の剣を弾いた易筋の業。あれに免じて預けておこう。興醒めとはいえ、最近にしてはそれなりに愉しめた」
背中を向けて遠ざかりながら、ニックは言い捨てる。
「だが、覚えておけ。貴様のような阿呆は、どれだけ功を積んでも俺には及ばぬ。次に出会うことがあれば、それが貴様の命日と心するがいい」
ニックは無造作に宙に足を踏み出して、落ちて消えた。
「おお、なにやってやがった!!ほれ、早く俺を魔物から守れ!!」
カンダタのドラ声が小さくなっていく。
ニックが姿を消すのを待っていたように。
どさり。と、リィナが地に倒れ伏した。
『リィナ!』
俺達は同時に叫んで、這うようにして駆け寄った。
「ごめん……負けちゃった」
「バカ!いいのよ、生きてるんだから!」
「それに、負けてねぇよ。引き分けだ」
こんな時まで、笑おうとしやがる。
「ちょっと、眠るよ……次は、勝つ……か……ら……」
俺は慌てて、目を瞑ったリィナの胸に耳を押し当てた。
よし、心臓は動いてる。
寝息も聞こえる。
ホントに眠っただけか。
やれやれ、良かったぜ。
だが、道着の腹に血が滲んでいる。よく真っ二つにされなかったな、こいつ。
『ホイミ』
その傷口に手を押し当てて、シェラがホイミを唱える。
そこからの、シェラの取り乱し振りはヒドかった。
「だって、私のせいです。私がちゃんとしてないから――いやです、リィナさん、目を覚ましてください。もう傷は治ってるんですよ!?なんで起きないの!?なんで!?」
寝てるだけだと言い聞かせても、自分のせいだと泣き喚いて聞かず、無茶な間隔でホイミを唱え続けてぶっ倒れた。
いやまぁ、悪いけどシェラ。お前がちゃんとしてても、多分、結果は変わらなかったよ。
「さて、どうするか。真っ直ぐロマリアに飛ぶ予定だったけどさ、リィナの療養には、カザーブの方が静かでいいかも知れねぇな」
俺は、既にルーラを覚えている。魔法教会にも顔を出しておいたから、どっちにもバッチリ飛べるぜ。これで俺も、晴れていっぱしの魔法使いの仲間入りって訳だ。
「ヴァイスは……?」
見ると、マグナが両手で口元を押さえて、泣きそうな顔をして俺を見上げていた。
「ヴァイスは大丈夫なの?あたし、死んじゃったかと思った……ヴァイスは、もう大丈夫なの?」
「ああ。大事ねぇよ。リィナのお陰でな。ほら」
俺は、胸を叩いてみせた。
いてて。
ジツは、さっきから痛くてしょうがねぇんだ。
傷は治った筈なんだが、完治には程遠いらしくてな。
まぁ、俺は後で薬草でも呑んどきゃ済みそうだから、どうってことねぇさ。
マグナは、俺に体を預けてきた。
「良かった……死んじゃったら、どうしようかと思った……ふたりも……目の前が真っ暗になって……もうヤダよ、こんなの……あたし……」
「大丈夫だ。全員生きてる。『金の冠』も取り戻した。俺達の完勝だよ。とりあえず、ルーラでカザーブに戻って、リィナをベッドに寝かせてやろうぜ。な?」
マグナを抱き締めて、軽く背中を叩いてやった。
俺の腕の中で、マグナは小さく頷く。
「うん……ヴァイスに任せる」
おやまぁ、素直だこと。
ずっとこんな調子なら、可愛くていいんだけどな。でもまぁ、それじゃマグナらしくねぇか。
マグナの体は、細かく震えていた。
そうだな。俺達ここまで、ちょっと順調に来過ぎたかも知れねぇよ。
ホントにギリギリの命懸けの戦闘って、ここまで無かったもんな。特にマグナは、生まれて初めてだろ。怖くなっても仕方ねぇよな。
しかし、初めて命を落としかけた戦闘の相手が、魔物じゃなくて人間だってのも、なんだか皮肉なハナシだね。
俺は、マグナの頭を撫でてやりながら、リィナとシェラの側に寄ってルーラを唱えた。
リアルタイムGJ!
505 :
CC ◆GxR634B49A :2006/11/01(水) 03:30:21 ID:IkDLIX8a0
どうですか、こんな展開。
すいません、私、こんなベタなの大好きなんですw
ドラクエ3って、あんだけボス戦が少ないのに、
それを感じさせないんだから、ホントによく出来たゲームですよね。
当作では、ハッタリを効かせる為に、できるだけ矛盾しないようにしながら
ゲームの行間に陰謀だのなんだの押し込んでいく予定ですので、
どうかよろしくご了承くださいませ。
いや〜、念願の格闘シーンが、ようやくちょっと書けましたw
あ、そうそう、ザオリク系の生き返りは、普通はあり得ない、
ちょっと特殊な扱いにさせてもらおうと思います。
そうホイホイ生き返られるとアレなのでw
世界観変わっちゃいますしね。
・ ・ ・
―――――――――ドシンッッッ
ゴドーが話を終えると同時に、石柱ほどもあろうかという巨木が倒壊する。否、倒壊される。
戦士・エデンの規格外の握力で形成された、鉄拳という表現すら生易しい剛拳が、自身の胴回りの数倍はあろうかという大樹に打ち込まれたそのままの状態で停止している。
「相変わらず、無茶苦茶だな」
ゴドーは呆れ半分の苦笑いを薄く浮かべ、衝撃でずり落ちた体を岩に座り直させる。
それに対し、エデンは眦一つ微動だにせず、むん、と呼吸をして拳を引く。
「意外だな。あんたが体術まで体得してたとは」
「―――まさか。こんなものは、精神の鍛錬の副産物に過ぎぬよ。
どんな技術であれ、その神意の領域には固有の呼吸≠ニいうものがある。
私の場合、目標とした精神に伴う呼吸がたまたま格闘のそれであったというだけの話だ」
息一つ乱さず、正中線を保ったまま離れてみていたゴドーの下へと歩み寄る。
ゴドーは満足げに頷いて、傍らの水袋をエデンに放った。
…かつて、魔物によって悪政を敷かれた大国・サマンオサ。
エデンの仇敵である、王に化けた魔物が倒された後、彼は一人この国に残り、己が性根を一から叩き直すことを望んだ。
町から離れた、木々が生い茂る山へと篭り、武装を捨てての練磨である。彼が如何に恵まれた膂力を持つとはいえ、今まで数多の武器を振るって戦ってきた者が、素手での戦闘という未知の領域に踏み込んだ。
そして、元々戦闘のセンスに優れた彼は、ものの数ヶ月である種の到達点に辿り着きつつある。
だが―――そんな小手先の技術は、彼の欲するところではない。
彼が望むは、闘士の心。何ものにも屈せず、いつ、何と、何のために闘う≠ゥを、迷いなく見極めるための、清水の如き精神。
それを、今、彼は掴みかけている。
「俺の話は終わりだ。あんたの力を借りたい。頼めるか」
水袋の口を絞り、直立不動で目を閉じて黙っているエデンに、再度要点を告げる。
と。
「ゴドー殿。話は分かった。だが、今一度、私の役目をはっきりさせておいてくれないか」
エデンは片目だけ半開きにし、柄にもなく、苦々しく問うた。
それに疑問をもつこともなく、ゴドーは言われたとおりにソレを復唱する。
「ああ。もう一度言う。
…これから五日後、闇の世界のある町で魔物との大戦争が起こる。あんたには、町の西門の守りに加勢してほしい。
それで―――もし、戦いがそれで終わったら。すぐにこいつを使って地上に帰るんだ」
エデンに、キメラの翼を差し出しながら付け加える。
「…ゾーマが死んだら、もう地上には帰れなくなる、地上への道が塞がる前に、急いでやってくれよ」
「………」
ゴドーに差し出された白色の羽毛を受け取りながら、両目を半開きにして重々しく考え込む。
彼はエデンのそんな顔を不思議そうに眺めながら、反応を待つ。
だが、答えは、彼の予想よりずっと早く、返ってきた。
「―――地上に帰る、か…。ゴドー殿」
呟く様に、ゴドーの言葉を唱える。そして、今度は両目をしっかりと見開き、彼を正面に見据え、語り始める。
「他ならぬ貴殿の頼み、私には断る理由は有り得ない。だが、一つだけ問わせてほしい。
…この身の命は、既に貴殿に一度救われたもの。この国の未来も、我が悲願の達成も、貴殿の尽力があってこそのものだ」
「?…??」
突然、眉を顰め感情を露にするエデンに、ゴドーは狼狽する。
「ずっと、願っていた。貴殿に、あの日の恩を返したいと。そのためなら、私は命など、少しも惜しくない。
だというのに、貴殿は、自身が地の底の世界に挑み、一命を懸けてそこに残り、諸悪の根源を打ち倒そうというのに、
私には、のうのうと、故郷であるこの地上に帰れという…!!」
激昂し、最後の言葉を紡がんとするエデンの双眸から、大粒の涙が零れ落ちる。
「何故ッ…!何故、一言ッッ!!俺の為に死ね≠ニ、そう命じてくれないのだッッッ!ゴドー殿!!」
吐き出された激情の叫びが、山の草木を震わせて静寂を生み出す。
…それは、エデンが渇望し、漸くにして巡って来た、恩義の返礼の機会。
その戦いの場が絶望的であればあるほど、勝ち目が薄ければ薄いほど、彼は力強い闘志を燃やすだろう。
生きて帰れる保障など微塵もない、その戦いを、かの勇者に任せてもらえるのだ、と。
だが――――――ゴドーは、自分に帰れ≠ニいったのだ。
やっと、己が命を以って応えられると歓喜したというのに。
かの恩人と同じ大地に骨を埋められることを誇れると打ち震えたのに。
なのに――――――!
「何故って?当たり前だろ。死なれちゃ、困るからだよ」
そう―――苦悩する戦士の疑問に、それが当然とばかりに、ゴドーは平然と答えて返した。
「は――――――?」
「確かに、あんたに向かってもらう場所は、どうしようもなく勝ち目のない死地かもしれない。
けど、それはあんたに死にに行けって言ってるんじゃねぇ、あんたなら戦い抜けると、生き残れると信じてるから頼んでるんだ」
「だが…しかし、それでも……っ」
尚も詰め寄るエデンを制し、続ける。
「…エデン。俺はさ、別に、あんただけにこういうわけじゃない。他の二人の協力者にも、同じ事を頼む。何故だか分かるか?」
「………」
優しく、強く微笑むゴドーに向かい、エデンは言葉に詰まる。
それを認め、ゴドーは拳を作って、真意を伝える。
「俺とアリスは、ゾーマに勝っても負けても、地上には…故郷には、帰って来られねぇ。もう、地上では生きられないんだ。
だから、あんたたちにこの地上を任せたい。あんたたちが望むように、好きなように、俺たちの生まれたこの世界を生きてほしい。
あんたたちが帰ってくれるから、俺は安心してアレフガルドに残れるんだよ。
だから――――――生きろ。あんたはこの世界で、力の限り生きてくれ」
………ああ。そうか。自分は、なんて浅はかだったのだろう。
戦士として、闘士としての誇りと意地。戦うことへの不屈の魂。
その高みへと挑むばかりに、私は、大切なことを忘れていた。
戦士である前に。闘士である前に。私は一人の、人間≠ネのだということを。
戦士が何故戦場を望むのか?それは、その戦いの先に生≠ェあるからだ。
生への渇望。それは最も原始的な、人が、否、生物が望んでやまない使命そのもの。
恩義の為、徒に死を望み、生きることを放棄した者は―――戦士はおろか、人ですらない。
私は…危うく、また道を踏み外すところであったのだ。
「………」
エデンは、もう、死にたいとはいわなかった。
そして、最後の疑問を口にする。
「…ゴドー殿。最後に一つだけ問いたい。貴殿の軌跡、この地上には如何にして伝えるつもりなのだ?」
当然の疑問だ。
彼は、二度と戻れぬ世界へと残るという。ならば、彼の勇者としての偉業と覚悟を、誰かがこの地上に伝えねばならない。
それを、どのようにして行うのかを、彼は―――、
「――――――要らない。俺のことは、何も伝えなくていい」
ただの一言で、否定してのけた。
「本気なのか」
「うん。というか寧ろ、何もいわないでくれ。他の奴らにも、そう頼んである」
苦笑しながら、ゴドーは念を押して、自分のことを一切語らぬよう釘をさした。
そして、穏やかな口調で、己が胸中を語る。
「俺さ。これでも、有名な勇者の息子なんだ。今、勇者をやってるのだって、親父の称号を受け継いでのものだ。
でも、それは俺が望んだことじゃない。周りが勝手に、俺に期待して、親父の代わりを望んで、英雄を欲しがっただけなんだよ。
けど、それじゃ駄目なんだ。勇者って、きっと、そんな風にして作るもんじゃねぇと思う。
誰かが自分の意思で、世界を変えよう、救おうって願って、そうして生まれねぇと…それは多分、偽者だ。
だから…俺みたいな作られた勇者≠ェ、英雄として伝えられちゃいけないんだ。じゃないと―――」
懐かしむように。ゴドーは頬を綻ばせながら、言葉を締める。
「――――――あんなに辛い思いを、また誰かがすることになっちまうかも、知れない」
…その言葉が。どれほどの悲しみと期待と重圧の末に紡ぎ出されたモノであったか。
エデンは今、初めて知る。目の前の、年若い勇者の馴れ初めを。
父に憧れ、目標とした自身と正反対。望まぬうちに、父の全てを背負わされたという、少年。
その苦痛を、彼が全て理解できるはずもなかったが、ほんの僅かながらとはいえ悟り、視線を地に落とす。
「悪いな。こいつに関しては、単なる俺の我侭だよ。別に無理矢理強制するつもりはねぇ。
…ああ、それに、こういっちゃなんだけど、今の俺は自分で望んで勇者をやってるんだ。
いつからかはもう忘れたけどさ。性分なのかな…なんか、駄目だっ。もうやめられねぇよ」
自嘲気味に、頭を掻きながら照れ隠しをするゴドー。
それを、エデンは、
「―――承知。貴殿の願い、聞き届けよう。
この身に九十九の矢が刺さろうと、私は貴殿のことを終生語らぬと誓う」
一切の予断を挟ませず、一刀両断した。
その凛とした一言に、ゴドーは数瞬だけ呆けたが、すぐに元の微笑を取り戻し、作り上げた拳を突き出す。
「…ああ。ありがとう」
「こちらこそ。よくぞ、私に話してくれた」
次いでエデンも、彼より二回りほど大きな巨拳を突き合わせて答えた。
・ ・ ・
「なぁ。エデン」
荷物をまとめ、下山の準備を始めるエデンをわき目に、問い掛ける。
彼も、先ほどまでと一転し、ゴドーが何かを話しあぐねているのを読み取っていたので、そのまま聞き続ける。
「あんた…親父が死んだって分かった時、どんな気分だった?」
「―――?」
ゴドーらしくもない。遠く山々を眺めながら、無表情で続ける。
エデンは、自身が初めて目にする彼の一面に、僅か動揺する。
「…さてな。彼奴の口から直接親父の死を聞くまでもなく、薄々覚悟していた事態だったのでな。
それほど驚いた覚えはないが」
「ああ、いや、そうじゃなくてさ」
思索しながら口にした答えは、どうやらゴドーの求めた方向性を有しなかったらしい。
尚も視線をエデンに向けず、彼は否定する。
「やっぱり…悲しかったり、悔しかったりしたのかな、って」
「………どうなのだろうな。
親父が勇者であり、己が戦士を志した時、既に自他の万の死に様は受け入れていた。
故に今更、自分は勿論、親父がどのような死に方をしたとて、それに対し特別な感情を抱くようなことはない」
「…そうか」
理路整然と。脱ぎ捨てていた防具を身につけながら語るエデンを見て、少し寂しそうに肩を落とし、応える。
だが、
「―――はずだったのだがな。人の情とはまこと、不思議なものだ。
泣かぬ悔やまぬと決めたつもりでも、どうあっても無力感だけは拭いきれなんだよ」
父が別れを告げたあの時。
自分が父と肩を並べて戦えるほどの力を持っていれば。
無理をしてでも、父の戦いに同行していれば。
父の死が父自身の覚悟の末のモノである以上、そこに後悔も虚無も有り得ない。
だが、どうしても。自身の内側より出でる無力の念からだけは、逃げることはできない。
なぜならそれは。他ならぬ『自分自身』に起因するのだから、と。
エデンは最後に、人の業の片鱗を付け加えた。
「――――――ふ」
ゴドーは忍び、静かに笑う。
ああ、そうか。やはり≠ゥ。
自分が、変わった、変わったとは思っていたが、どうあってもこの欠陥だけは、変わることはなかったらしい。
「ゴドー殿?」
考え込むように、内心で自嘲するゴドーを見透かしたように、エデンが手を止めて呼びかける。
だが、ゴドーは驚かない。彼であれば、きっと自分の不審を見抜くだろうと予想していたから。
「エデン。この前、俺の親父が死んだよ」
「…何?」
よっ、と体を撓らせて反動で立ち上がりながら、徐に独白する。
「ゾーマの島に、生身で渡ろうとして海の藻屑になったそうだ。それを下の町で知ったのが大体、一ヶ月くらい前。
でもさ。おかしいだろ。あんたがいったように、自分自身に起因する感情からは、どうやっても逃げられねぇって。
確かに、俺もそういう経験はある。勇者として生きてきて、色んな現実を見てきた。
それを現実として受け入れるのとは別のところで、無力感を味わってる俺がいた。
…うん、そう。大抵の不幸には、俺だって悔しさを噛み締めてきたよ」
そこで、一度。ゴドーはぐっと目を閉じ、俯いて、その虚無の思いを搾りだした。
「――――――だけどさ。親父のそんな死に様を知った時だけは。俺は、何も感じなかったんだ」
あの日あの場所で、アリスと出会い、彼の世界は変わっていった。
人々に期待された義務としての勇者の役目は、自身の確かな意思によるものに変わったし。
―――彼の人生を狂わせた原因、あれほど憎かった実父への憎悪も、いつしか薄らいでいった。
…にもかかわらず。彼は、父の死を悲しむことが、出来なかった。
エデンの言が正しければ、如何に父が死と隣り合わせの道を歩んでいたとはいえ、その現実を受け入れることと、父の死を悲しみ悔やむことはまったく別の次元の話であるはず。
自分はまだ、心の奥底では父オルテガを憎悪している―――?
死んでしまえばよかったと、思っていた―――?
父の死に、涙の一つも流せない。
ゴドーは一人、エデンの言葉を反芻し、自身の人としての欠陥を呪う、が―――、
「―――否。それは違うぞ、ゴドー殿」
「え…?」
全てを見透かしたように、エデンが笑う。
ゴドーは顔をあげて、思慮深さを窺わせる、片目を半開きにした彼のお決まりのスタイルを目にする。
「訊くが、ゴドー殿。貴殿の親父殿の亡骸は上がったのか?」
「…いや」
「死の瞬間は目撃されたのか?」
「………いや。そういう話は、聞かねぇ」
二度の問答の後、エデンはふむ、と顎に手を当て、口元を歪める。
「だろうな。ならば話は早い。案ずることはない、ゴドー殿。
――――――貴殿は単に、親父殿の死を信じていない≠フだ」
………………は。
思いがけない結論に、ゴドーは声を上げることさえ忘れた。
「我が目が節穴でなければ、ゴドー殿は闘争心が強い。
そして、その貴殿が自身で著名な勇者であると称する親父殿を、超えたいと思わぬはずがない。
子が親に挑むは人の常故なれば。貴殿は、己が挑む親父殿が、荒波如きで死ぬはずがないと信じているのだよ」
…俺が、親父を、信じている?
―――は、笑わせるな………といいたいが。成る程、それならば、説明がつく。
真に俺が親父を憎んでいるのなら、悲哀の代わりに歓喜が沸いてくるはず。
だが、それすらもない、本物の無。父の死、という情報そのものに、この身が全く取りあっていなかった。
それが最も自然な解釈。
自身に押し付けられた呪い。その原因に対する憎悪が消え、残ったのは対抗心。
勇者としてではない、人の子として。偉大なる勇者といわれた、オルテガを、この身が超える。
それを望むことは――――――は、は。何だ、何のことはない。これは、まるで、
「――――――親子じゃ、ねぇか」
知らず。その言葉が口をついて出ていた。
引きつった笑いを浮かべ、その事実に気づいたゴドーは、肩を落とし、空を仰いだ。
エデンは空しく自嘲する彼を認めると、最後に一度だけ、付け加えた。
「…最後まで、信じてやればいい。子が父を信じること。そこにはきっと、嘘はないはずだ。
貴殿が親父殿をどう思っているかにかかわらず、な」
ともすれば、偽善以下の気休めに聞こえかねない、当たり前の親子の関係を味わった者の人生観。
ゴドーの空虚な心にその言葉が響いた瞬間―――。
――――――バチンッッッ
放たれた彼の拳が、エデンの掌に打ち込まれていた。
「――――――ありがとう。参考になったよ、地獄に落ちろ、幸せ者め」
「――――――御免蒙る。私は冥府に逝くとも戦士。煉獄で己が罪≠ニ戦い続けると決めている」
お互い、何かに満足したようにニヤリと笑って離れ、背を向け合う。
荷物もまとめ終わり、ゴドーもエデンも、後は歩き出すだけである。
「じゃあな。手筈通りに」
「御意に。必ず」
もう、言葉は要らない。
先にゴドーの気配が消えた。雑草生い茂る土壌に、数瞬だけ不自然な輪が残った。
「…さて」
エデンは、ゴドーに聞かされた役目を反芻する。
…戦士である自分にとっては、些か不慣れな役回りではあるが。それが戦い≠ナあるのなら、逃げるわけにはゆかない。
面白い。今の私が目指す境地ならば、それぐらいの無理を通さねば辿り着けぬやも知れぬ。
ああ、そういえば、無粋と思ってアリス殿の不在に関して言及しなかったが―――やれやれ。
私も存外に野暮らしい。どうやら、聞かなかったことを、少し後悔しているようだ。いかんいかん、集中せねば。
…うむ。目標の領域までは、あと一歩から半歩といったところか。残りの詰めは、実戦で補うとしよう。
私は修験僧ではない。戦士が精進を望むなら、実戦を置いて他はないのだから―――。
517 :
YANA:2006/11/01(水) 04:32:13 ID:EwPnf58I0
スレ開いたまんま書き続けて、数時間後そのまま投下してニアミスした俺氏ね(挨拶
つーわけでCC氏すんません、空気読めない子でorz
被らなかったのが不幸中の幸い。
はい、というわけで、CC氏がベタだベタだ仰ってますが、
ベタを通り越してバカ一な展開を目指す俺が来ました。ヴァー。
そろそろゴドーが目指す世界救済の手段の全貌が見えてきたと思います。
人によってはもう全部読めてると思いますがー。
次回投稿で、第七節は終了ですね。残るは三節。
第九節以降は、俺としてはイタイの承知でBGM指定までしたい所存。
だがとりあえず、今は目の前の課題を片付けていきます。ほいでは ノシ
もうね、今から大学行くかって時にね
新作が投下されてるのを見つけちゃったらね
読 む し か な い じ ゃ な い か ! !
GJ!!
GJ
久しぶりに来たらいっぱい投下されてた!
CCさん、YANAさんGJです!!
CCさん、ベタな展開大好物ですw続き楽しみにしてます
521 :
144:2006/11/01(水) 22:06:24 ID:FaQxC1zq0
チョwwwww投下遭遇ktkr!!!
もりあがってきたぜー!!!戦闘シーンは想像かきたてられてたまらん!!!
キャラが喋る!動く!!闘う!!!リィナ最高!!!!
自分の中でキャラが固まるのはいつも戦闘シーンだ!!!!
熱かったです!!CCさん乙!!!
って書き込みをリアル遭遇でしようと思ったら蹴られたので保存して、
貼ろうとして来たらYANAさんの投稿まで!!もう少し起きてれば…orz
次は合戦場のエデンにチョーwktk!!!
>>CC氏
GJ!!!
まさかのリィナのベホイミ・・・。
つおいと思ったら転職してたのか。
むむむ、ますます気になる
皆頑張ったよね。
なんかしらんが涙が出そうだ・・・w
>>YANA氏
GJ!!!
エデンカコイイ!!
通じ合ってる感が最高!
あ〜もうたまらんwwwww
さて、そろそろ500KB制限にかかりそうかな?
523 :
144:2006/11/02(木) 05:39:37 ID:OprUQdgz0
いや〜、ちょっと今回は特に反応が気になっていたので、
楽しんでいただけた方がいらして、いつも以上に嬉しいです。
ドラクエ3ってボス戦少ないので、次はどうやって格闘シーンを
捻じ込もうかと頭を悩ませていたりw
とりあえず、次回は9話とは全然違う、ヴァイスくんご乱心話に
なっちゃいそうなんですが、う〜ん。
そうそう、500KB制限がそろそろですよね。
今、dat見てみたら、475KBもありました。
すいません、私がアホみたいに投下しちゃったもので(汗
いつもは、適当にどなたかがスレ立ててらしたんでしょうか?
私がするべきなんでしょうけど、スレ立てたことないので(汗
お願いできると大変助かります。勝手言ってすみません><
525 :
484:2006/11/02(木) 12:53:07 ID:9jefBkv/0
>CC
元気がでてよかったじゃないの。
肩肘張る必要はないんだからね?
ダイレクトに感想とかが返ってくるから怖いかもしれんけど
少なくとも今まで投下されたものを見て、
wktkしながら待っている人がいるんだから
自分のペースでやっていけばいいのよ。
先は長いんだから。
…柄にもなく語っちゃったじゃないの。もう。
そうそう、あなたも私もここにいる人も同じドラクエ好きなんだから、
それは忘れないで、ね?
勇者が一度に二人も光臨した!!
容量制限にかかった事ってあったっけ?
527 :
YANA:2006/11/03(金) 02:52:33 ID:1mp+shVH0
>>527 渡辺さん……もとい、ドラクエ4のあの人ですね!
>527
あんたねー、なにいきなりスレタイ長くしてんの?
そんなの入りきるわけないじゃな・・・ちょ、ちょっと!
そこまで落ち込んだ顔することないでしょっ!?
・・・もっと別の案、みんなで考えればいいだけよ。
で。
板設定上スレタイは半角48文字までみたい。
よって残念ながら、YANA氏のだと半ばで切らなきゃ収まらないかと。
「ドラクエ3 〜そしてツンデレへ〜 Level6」(空白や英数字は全て半角)と、これで既に
37文字あるので、現状の形式ではあまり前後に余裕がないなあ。
ドラゴンクエストZ 人類への逆襲と報われし乙武
1 :カタワカタワカタワ :佐賀暦2006年,2006/11/04(佐賀県と談合) 00:05:40.28 ID:75pjeeZp0
元スレ
http://news18.2ch.net/test/read.cgi/news7/1162550512/l50 ドラゴンクエストZ 人類への逆襲と報われし乙武
『ドラゴンクエストZ 人類への逆襲と報われし乙武』(-ゼット じんるいへのぎゃくしゅうとむくわれしおとたけ)は、
スクウェア・エニックスよりプレイステーション5で発売されたゲームソフト。ジャンルはRPG。堀井雄二の遺作となった作品。
概要
ドラゴンクエストシリーズの最終作であり、2026年1月発売。監修はドラゴンクエストシリーズを手がけた故・堀井雄二と、
『五体不満足』『大富豪・乙武洋匡』などの著書で有名な乙武洋匡が担当。登場キャラのZ武は乙武氏の自らの半生をモデルにしている。
ドラゴンクエストZ はドラゴンクエストVの正統な続編で、後のドラゴンクエストYへと続く。
ツンデレクエスト3 とかにすれば空くっちゃ空くが今のが語呂も語感も良いなぁ
ドラクエでひっかからないしやっぱ今のまんまかなぁ
制限があるなら、スレタイはLevel6にするだけで良いのでは保守
533 :
YANA:2006/11/04(土) 23:18:31 ID:t4oDVCsO0
>>529 うん、俺もハナから入りきるとは思ってなかったぜwww
一度やってみたかっただけです。許せw
>>531 「ツンドラクエスト3」ならドラクエで引っかかるんじゃねーかとか馬鹿なこと考えた俺はどうすれば(ry
ドラクエではあるがツンデレじゃないし使い物にならんね。
>144氏
うはwアリスがだんだんイロモノになってくw
参考までに、俺のゴドーのイメージはシリアスからデフォルメ化ギャグまでこなす
某長飛丸みたいな便利キャラです。
もしヤツの堅いイメージを極力崩さぬようにされているなら、遠慮は要りません、
ジャンジャン馬鹿やらせてかまいませんw
俺もスレタイは今のままで充分だと思ってる
535 :
144:2006/11/05(日) 04:22:03 ID:4TSyYcBa0
>>YANA氏
ゴドーそこまでキャラ崩して良かったんすねwww
実は釣り回想シーン(マンボウの辺り)は1ページとろうか迷って、
「いや、ここはなるたけシリアスにいこう!!」としたんですがある意味失敗でしたw
もっと釣り吉っぽくしたかったのが本音でしたwww
スレタイはドラクエとツンデレでひっかかる名前であればいい、と思うにょろ…
ツンデレで検索してる俺としてはツンデレでひっかかればおk
量がアホみたいに多くて、
もしまとめていただけるとしても大変申し訳ないのと、
自分でまとめを管理すれば、単行本化作業のように
おかしい部分を後で直せるという姑息な考えからw、
私がCCとして投下した分のまとめを作ってみました。
http://www.geocities.jp/tunderedq3cc/ 宜しければ、スレ立てした時に、こちらのURLも記述していただけると助かります。
また、万が一まとめの方で私の分も個別にまとめていただけるような場合は、
こちらのURLにリンクしていただければ充分です。
以上、宜しくお願い致します。って、ビジネスメールかw
投下途中で制限に引っかかっちゃったら誘導もできないので、いずれ投下する前に試しに立ててみましょうかな保守
>>539 ありがとうございます!!
アホほど消費しておいて、立ててもらっちゃってすみません><
清書がさっぱりうまくいきません誘導保守
542 :
YANA:2006/11/10(金) 00:30:13 ID:b720aMew0
これはいかんね。
執筆さん、見切りアッー!氏の両名が行方不明、CC氏が不調、俺の相棒はへそ曲がり。
あんまり話が進んでないのでないかもわかりませんが、
また質問でもあればネタバレにならない範囲で答えますぜ。
若しくは埋め埋め。じゃなきゃ向こうが落ちる( つД`)
>>542 じゃあ、お言葉に甘えて……ドラクエで初めてデータが消えた時と、初めて全滅して王様とか神父とかにふがいないって言われた時、どう思った?
……えっと、破壊の鉄球モドキは本物とどれくらい差異があるんですか?
>>CC氏
いつも楽しみにしてます。不調からの脱出に応援が役立てば良いのですが。
CC氏が作品投下されてから、このスレを覘く機会が確実に増えた人もいますよー。
私には良質な感想を書ける文才が無いので、その分気持ちだけでも伝わればと。wktk。
…にしても、CC氏って、「ししし」ってなっちゃうから一瞬躊躇した^^;
>>YANA氏
エデンのスペックとか聞いてみたいっす。
アリス達は前に書いてあったけど、男性陣って確かまだ未公表ですよね。
ゴツトツコツとかを超えてくれるのかなぁ?w
>>544 ありがとうございます〜
めちゃくちゃ嬉しいです
しししw
そのご期待を裏切ってしまうかも知れないのが恐ろしいですが、
書き直すとしたら一ヶ月くらい間を置かないとどうにもならなそうなので、
もう投下してしまおうと思います
本来は、そんな時間かけるような回でもなかったんですが。。。
こっちだと、途中で切れちゃうかも知れないので、
新スレの方に投下しますね〜
埋めついでに質問
最悪のオチって何だったんですか?
>>546 ベッドに漂うマグナの残り香で、ヴァイスくん自家発電w
サイアクだwwwww
548 :
YANA:2006/11/10(金) 23:35:28 ID:b720aMew0
付き合ってくれてありがd。
>>543 最初にデータが消えた時は覚えてませんがー…ダチと一つのソフトを掛け持ちでやってて、
データが消えるたびに責任の擦り付け合いをしてました( ノ∀`)ワカカッタ
王様や神父の無責任発言に関しては特に何も感じませんでした。
それより闘争心が勝って、「次はどうやって戦おう」という気持ちで一杯で。
試行錯誤が大好きな人間なので、失敗することは別に苦じゃないのです。
破壊の鉄球(レプリカ)は、オリジナルの破壊力を再現するために、
他のあらゆる要素を度外視して作り上げた試作品なので、重量という大問題を除けば
基本的に二つの間に大差はありません。
じゃあご存知、パーティキャラの凡そ半分が装備でき且つ反則的な威力を誇るオリジナル破壊の鉄球は、
重量の問題をどうやって解決しているのか(又は解決したのになぜあの破壊力を出せるのか)。
それに関しては、その内神竜編で明らかになるカポネ。
>>544 ●エデン
身長…191cm 体重…166`
どっかで見たスペックだと思いませんか。そう、某喧嘩師さんです。
エデンの戦闘面での骨子が「武を志した花○薫」というコンセプトだったので、
俺の中の彼のスタイルはまんま旦那です。
ついでに
●ゴドー
身長…170cm 体重…76`
比較的平均的なウェイトのゴドー。
体格にも際立って恵まれず、与えられた天性は桁外れのタフネスのみ。
あとチラシの裏ですがこの男、ゾーマ戦後に本当の成長期を迎えて急激に身長が伸び、
百戦錬磨の威圧感と相俟ってどこのボスキャラですかっていう風格を身に付けます。
>>548 ヒャッホーイ、質問に答えてくれて感謝感激水の羽衣です。
550 :
144:2006/11/11(土) 00:52:52 ID:1lv85ciM0
ってかちょっと聞いてみたかった疑問なんですが、もう埋めムードなんで聞いてみます。
3の主人公って何年くらい旅してたと思います?
自分の脳内では16→20くらいまでの四年間くらいかなーと思ってるんですが。
CC氏、書込み乙でした!
喜んでもらえればこちらも喜びます!(なんのこっちゃ)
期待以上の展開だったっす。wktkした甲斐があった…。
にしても次男坊、最悪の展開になんなくてよかったw
YANA氏、ゴドーまで書いてくださるとは!
エデンすごすwwスデゴロの境地にも達してそうw
そのヘビーウェイトからのレプリカ攻撃、想像を絶しますね。
ゴドーはほぼ脳内イメージどおりだったのでなんか嬉しいなぁ。
風格と威圧感溢れる偉丈夫、うーん成長後も凄まじそう。
お二人のレスに感謝しながら埋め埋め。
バラモスまでで一年いかないぐらいなイメージ
YANA氏でもCC氏でもないが答えてみた
>>552 氏に一票
ごく個人的に、マグナにはバラモスに辿り着くまで16歳でいて欲しいのでw
でも、普通に考えると、あの世界で1年で色んなトコをぐるぐる回ったりとか、
ちょっと無理があるんですよね。。。ウチもジツは既に数ヶ月経過してるし
ところどころ誤魔化して書くかも知れませんが、お目こぼし下さい(^^ゞ
私もYANA氏じゃないけど答えてみました
バラモスまで三年でゾーマぶっ倒すのに一年かな。
だから144氏と同じ。
理由はそれで丁度二十歳になるから。
少年は世界を知り大人になる、みたいなw
いつもドラクエやってクリアした後主人公達はこの後どうするんだろうって思うけど、
世界中を知り尽くして、誰よりも強くなってしまったらその先ってつまんなさそうだよな。
やっぱり3〜4年ぐらいじゃないかな。
マップ上ではすぐかもしれんが、現実ではイタリアとポルトガル間でも徒歩なら相当かかるし。
>>554 案外普通に暮らしてたり。
それまでの生活が異常すぎるし。
>>554 >クリアした後主人公達はこの後どうするんだろうって思う
狡兎死して、良狗煮らる…
平和な世の中に英雄は要らないとばかりに、暗殺される可能性が十分にある。
まぁ、時の権力者達が聖人君子だったら、
恩賞として適当な領地、爵位、当たり障りの無い役職を与えるだけで、
その後の暗殺はやめとくだろうけどな。
557 :
YANA:2006/11/11(土) 19:26:03 ID:MZk8tQsj0
ええい、まだだ!まだ(電源)落ちるな!頼むから!!( つД`)
>>550 ぶっちゃけそれくらいか、或いはそれ以上掛かってると見て間違いないでしょう。
そもそも、途中で町発展イベントがある時点で、五、六年くらいは掛からないと不自然ですし。
その問題を解決し、且つアレイの能力の異常性を示すために、
アリスワードでは極めて短期間でバークが発展しています。
又、アリスワードは「てめぇら大人は元服そこそこのガキに世界の命運任せて何しとんじゃゴルァ!」
という、古き良きドラクエの世界観へのアンチテーゼが込められているので、
成るべくゴドーが成人を迎える前に事を終えたかったが為に、二年間という過密スケジュールと相成りますた。
>>557 >「てめぇら大人は元服そこそこのガキに世界の命運任せて何しとんじゃゴルァ!」
>という、古き良きドラクエの世界観へのアンチテーゼ
ガキに世界の命運を任せるのは、何もドラクエに限らず、
子供向けの作品全体に言える事。
むしろ、おっさんに任せている作品の方が稀。
たしか西遊記が17年くらいだったと思うので、まールーラがあるとは言え、
ゲーム的にでなく普通に考えたら5年以上はかかるかもですね(もっとか)。
ウチは実際は20話目あたりで1年経過する予定ですが、
ホントはもっとかかるだろうなぁ、と思ったり思わなかったり。
560 :
144:2006/11/12(日) 02:54:13 ID:K+vvG/f/0
意外に返答あって嬉しいwwwそうかーゴドーは二年かー。
でもそうなると主人公達って破竹の勢いで撃破してったんだなー。オルテガ立場ナス…
>クリアした後主人公達はこの後どうするんだろうって思う
コレって皆思うんですねーwドラモン+なんかの2の主人公みたいなのは寂しすぎるし…
無責任に棍棒と50G押し付けて冒険に出した王様よりは確実に人気あるでしょうしww
人知れずどこかで静かに暮らすのがいいのかもしれない…
3に限れば後の初代ローレシア王で確定なんじゃない?
あ、ごめん何か勘違いしてた
1の主人公だね>ローレシア王
ここの文読んでるとドラクエをやりたくなるけど
いざ初めからやると案外めんどくさいから困るwww
ここの小説の主人公の設定を脳内変換してプレイしたらなんだか世界が変わったw
>>560 ガリバルディみたいな英雄その後が一番幸せなのかもしれんね。
>>561 一応2の主人公もローレシア王にはなったんだがなぁ…ロラン(DQM+)…。
妄想はやはり3が一番浮かびやすいな
ドラクエで唯一仲間キャラに設定がないからだろうな
>>566 確かにそうですよね。わたしも次にやるんだったら3だと、ネタを寝かせていますし。
……あれ、そういう話は2を終わらせてからしようね、という天の声が聞こえるようですにょ。
早くハーゴン倒したいにょー、もうちょっと待っててにょー。
然し真面目な話。YANA氏やCC氏の作品に目を通すと、やる気が出るのと同時に自信が打ち砕かれる気がするのは気のせいか。
つうか、わたしに自信なんてもんがあったのか。あの程度の文で。其れこそ自信過剰だろう。ゴミ虫の癖に。
そんなゴミ虫は、地面を這い蹲ってるのがお似合いだわよっ!(ビシッ!バシッ!)
そんなわけで、埋めがてらに記念カキコ♥
>>567 そ、そうよ! アンタはゴミ虫なのよっ! だから、私の下をはいずりなさい!
(誰にもあなたを分けてあげないんだから……)
まぁ、小ネタはさておき俺は見切り既婚氏好きだぜ?
第一スタイルが違うからなぁ
見切り氏だって同じように凄いって事を知ってるぜ
4書いてた時の最後のところ(デスピサロ倒すとこ)、凄かった
別人かと思ったよw
ただ執筆氏の形式は省略と想像をいかに促せるかっていうものだから、詳細に描写するものとの比較はできないと思うよ
もちろんどっちも凄い事にはかわりないけど
570 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/14(火) 18:37:49 ID:A3Pr2KHhO
あげげ
何だここw
ちょっとROMるわ
ROMっても返事がない・・・次スレが立ってるようだ
このスレを捨てるなんてとんでもない!
>>573 ログ保存しておけばいいでよ。
埋めついでに独り言。
7で書こうっておもってたけど書くところが少ないというかなんというか…。
会話システムあるから独自に描くのは難しいね。
なら俺は1だッ!
ってか1でツンデレどうすんのwww
>>579 見切り氏がかつて見事なツンデレを書いたジャマイカ!
今気付いた。別に男主人公の話だろうが女に変えちまえば問題ない。
あと4KB
いま3やってるけど全滅したときアリアハン王は
「そなたの父オルテガの名を汚さぬようにな」
って言うのな
ゴドーがキレるのも無理ないな…
埋めるまで魔法しりとりしようぜ
メラゾーマ
マダンテ
テラブレイク
ククール
ルーラ
ラダトーム
ムオル
ルイーダ
ダースリカント
トルネコ
コーラルレイン
うはwww紅茶吹いてキーボードがぶっ壊れたwwwww
複数台あるからいいっちゃいいけど、書く時メインのがwww
紅茶噴いた理由kwsk
今書いてる12話が理由だったらいいんだけど、要するに湯気でムセたw
普通過ぎwwwww
598 :
YANA:2006/11/23(木) 20:45:44 ID:aGQ1ac0x0
>>594 ,.へ
___ ム i
「 ヒ_i〉 ゝ 〈
ト ノ iニ(()
i { ____ | ヽ
i i /__, , ‐-\ i }
| i /(●) ( ● )\ {、 λ
ト−┤. / (__人__) \ ,ノ  ̄ ,!
i ゝ、_ | ´ ̄` | ,. '´ハ ,!
. ヽ、 `` 、,__\ /" \ ヽ/
\ノ ノ ハ ̄r/:::r―--―/::7 ノ /
ヽ. ヽ::〈; . '::. :' |::/ / ,. "
`ー 、 \ヽ::. ;:::|/ r'"
/ ̄二二二二二二二二二二二二二二二二ヽ
| 答 | ンポポソォン │|
\_二二二二二二二二二二二二二二二二ノ
何をやっとるんだあんたは
って鳥つけてないから偽者か
600 :
miki:2006/11/23(木) 21:28:28 ID:6B9qihq20
YANA氏の鶏なんてあったっけ?
見切り莫迦が「生存報告以外に記念カキコしたいけど、ネタがない。初夜の感想をt」とか云いだしやがりました。
全くそんなこと頼むくらいなら、ちゃんとやることやれって話よ。現実逃避にだって限度があるわ。
じゃあ本編進めろって云ったら、「判ってるけどやるべきことに気を取られて集中できないんだ」って。
仕方ないから、イオナズンを三発ほど喰らわせておいたけど。未だ生きてるのね。
塵虫のくせに見かけによらずしぶといんだから。
………わたしを置いていったくせに頼み事なんて、なに考えてるんだろ。
し、然もよりによって、ななな、なにを書かせるつもりなのよっ!
そういうのは、秘めておくのが華ってものじゃないの!?
……最初の記憶を形ある物として留めておけば、何かの役に立つって―――
一体何の役に立つのよっ!?アンタが(*´Д`)ハァハァする役に立つだけでしょっ!バカッ!!!
……………………………ああいうときのちゅーって、なんか少し違うわよね。
って、そんなに経験あるわけじゃないけどっ!
なんかもう頭の中がぐっちゃぐちゃで、心臓はバクバクいって。
変な高揚感と、現実味を欠いた景色の中で、自分を保つので精一杯だったなぁ。
全身の血が沸騰したみたいになっちゃって、変な気分になっちゃったし。
心拍数上がりすぎて、あのまま死んじゃうかと思ったんだけどね。
きっ!?きききき期待なんてするわけないじゃないっ!!